腐り目、戦後の艦娘とともに (やっとぅー)
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「あれからもう3年、か…」

 

俺の名前は比企谷八幡。

ここは町から少し離れた場所にある神社。

俺はここに参拝に来る、かなりの頻度で。

というのも理由があるんだ。

 

――今から10年前、突如現れ人類を脅かした謎の生命体『深海棲艦』。

 

彼らは人類に襲い掛かり、瞬く間に世界を恐怖に陥れた。

当然化け物に為す術がない人類は大混乱。当時のことをはっきり覚えているわけじゃないが、もうパニックよパニック。

 

その後『艦娘』と呼ばれる人類の味方が現れ、艦娘(+人類)と深海棲艦の7年の総力戦が始まった。

戦争とはいえ、艦娘という存在が現れたのは深海棲艦に人類がかなり侵攻されてからというのもあり、少なくとも半分以上は防衛戦だった。

 

当然人類が受けたダメージは計り知れないものだった。

世界中のあちこちが壊滅状態。経済は戦争によって破綻寸前。人口の大幅減少。

特に日本はこの戦争の最前線となっていた。勿論千葉も例外ではない。俺としては両親を失ったことが一番のショックといえるだろう。

こればかりは運が悪かったとしかいえない。あちらさんが攻めた先が親の職場だっただけだ。当時は気が気ではなかったが。

 

最終的には艦娘+人類側が勢いを巻き返し敵を一掃、艦娘数名が犠牲となって深海棲艦を封印し、今に至るというわけだ。

 

そんなこんなで今は総部高校の二年生として平和に生活している。

1年目は問題なくボッチとしての誇りを胸に過ごせたんだが、二年生になって早速訳わからん部活に入れられて八幡大ピンチ!!

ま、それだけ平和ってこったな〜。太平洋側はやられてるところも多いとはいえ、最前線で戦力もあったから特別内陸に被害をうけたわけでもなかった。

 

っと、話が逸れたがこの神社には一つの艦模型が飾られている。

(義)姉によると、なんでも戦争を終わらせるにあたって自ら犠牲になった艦娘の一人が眠っているというのだ。

あんな地獄から人類を救ってくれたんだ。そうと言われればお参りしなくちゃいけないよな。実際に合格祈願して総武高校に入学できたし、ちゃんとした神社なんじゃねぇのってそこあんまり艦娘関係ないとか思わない。

 

まあそんな感じで参拝に来てるってワケだ。鳥居の柱近くを通り賽銭箱の前まで行く。

ちなみに真ん中は通っちゃダメらしいぞ、神様が通る道らしいからな。

 

「さあて、今日もお参りやっていきますか」

そういって拍手をしようとした瞬間――

 

 

 

バァン!

 

 

 

 

「な、なんだ!?うおっ!!」

突如雷が落ちて地面が揺れ始めた。

腕で頭を覆いヘルメットがわりにして、地面に伏せる。

これだけ揺れてちゃ動けないし、こうするしかできない。

 

少しそのまま待っていたが、幸い揺れはすぐに収まり、雷もどうやらあの一発だけのようだ。

 

「なんだよ急に雷なんか降りやがっ―――

 

塞いでいた腕を外し、神社の方を見て言葉を失う。

 

 

―――女の子が一人、倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見た感じ怪我なさそうだし、これなら救急車を呼ぶ必要もなさそうだな」

 

目の前で倒れていた女の子は俺の膝の上ですやすやと寝息を立てている。

膝なのは地面に寝かせるのもどうかと思ったからだ。決して変態とかそういうのではない。神に誓って!

 

「にしてもセーラー服か…。歳は同じか少し下、くらいか?一体どこから来たんだろうか」

 

きになることが出てくる出てくる。

だって雷と地震から出てきてんだぜ?カッコよすぎてこんなのに憧れてた中学の頃を思い出しちまったよ!

 

…ぐすん。

 

ま、まあ俺の黒歴史は置いておこう。そろそろお目覚めのようだ。

 

「……こ、ここは……」

「よう、大丈夫きゃ」

「……あなたは?」

「……比企谷八幡、だ。ここによく来るんだが、急に雷が降ったと思ったらお前が倒れていてな。こうして隣にいたってわけだ」

「こうして……?って、ええええええええ?!////」

 

起きたと思ったら急に距離を取られた。どうやらカッコつけて噛んだのは気づかれてないようで黒歴史を共有、なんてことにならなくて済んだ。

離れるってことはやっぱり目つき悪い??(多分)年下に不審者とか思われてたら八幡死んじゃうよ??

 

「って、大丈夫か?おーい、おーい!」

「////」

「…こりゃだめだ」

 

少女の前で手を振ったり、肩を叩いてみたが反応がない。

この子が再起動するまで、待つしかないか…。

あいつら、晩御飯遅れると怒るからなぁ……

 

少女(吹雪という名前らしい)が再起動するまでに30分もかかったとさ。



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「ほれ、これでも飲んで落ち着け」

「あ、ありがとうございます…」

 

30分程フリーズしてようやく動き出した少女、吹雪とベンチに座る。

勿論渡したのはマッ缶だ。あれだけ大規模な戦争があってもコイツだけ残っていれば生きていける。

そしてちびちびと飲み始める吹雪。可愛い。

 

「あ、甘い…。けど美味しいな」

「おお!マッ缶の素晴らしさがわかるか!!」

「ひゃいっ!」

 

おっと少しテンションが上がってしまったようだ。

でも仕方ないよね、マッ缶の素晴らしさがわかるってんだから。流石に気分が高揚します。

さて仕切り直してっと

 

「んんっ、ところで吹雪はなぜあんなところに?」

「えっと…私自身も詳しく覚えてないんですが、艦娘として深海棲艦を封印するために力を全て使って……」

「ん?艦娘?」

「はい、特型駆逐艦吹雪型一番艦、吹雪と申します!」

 

艦娘かぁ…。姉ちゃんが言ってたのは本当だったんだな…。

 

「なぁ吹雪」

「は、はい!…ってなんで手をと「吹雪たちのお陰で俺らは今こうして過ごしていられる。本当にありがとう…!」

「ッ!///い、いえ、これは私たちの使命ですので!!気にしないでください!!」

 

おっとまた暴走しかけたようだ。

てかさっき離れられたのにすぐ吹雪の手触るとか何やってんの?これは自業自得すぎて雪ノ下と由比ヶ浜に罵倒されて何も言えずに不登校になるまである。

不登校しちゃダメじゃん。もう専業主夫になるしかないじゃんってそれは結構アリだな。

 

取り敢えず話を進める為に吹雪から手を離して「あ…」……なんか寂しそうにみえるんだけど、うん。勘違いしちゃうからやめようね?

 

「あー、吹雪。お前はこれからどうするつもりだ?」

「どうするって、まずは鎮守府に帰りますよ?」

「実は終戦してから鎮守府の枠組は解体されていてな」

「あっ。……確かに終戦したんでしたね。そっか…」

 

そう言って吹雪は俯く。

しまった。流石に迂闊だった。決して敗戦したわけではないし、彼女の味方が轟沈したわけでもない。でも彼女の「居場所」は無くなってしまったのだ。

俺のような孤高のボッチなら居場所がなくなっても元から無いようなものだからいいけど、吹雪はきっとそうではないだろう。

こうなったらなんか気を紛らすような話をするしかない。

俯いている吹雪に話しかける。

 

「これは友達の友達の話なんだが…」

「…?」

「そいつが中学生の時にどうやら好きな女の子がいたらしくてな。いざ告白してみたものの返事はNOだった。それだけなら問題ないんだがな。とあることが起きてしまった。吹雪、なんだと思う?」

「わ、私ですか?!え、えっと〜…」

 

突然話を振られた吹雪はあたふたしながら考えてる。可愛い。

お兄ちゃんスキル発動しちゃうぞ?ん??

あ、雪ノ下さん通報しないでくださいごめんなさい俺が悪かったです。

っと吹雪頑張ってるけど、答えは出なさそうだな。

 

「正解は学校中に広まるってわけだ。俺も告白前はそこそこの友達もいたしそれなりの居場所があったが、告白後は友達もいなくなったし居場所もなくなったなぁ…。クソ、思い出したらむしゃくしゃしてきた。あの頃の俺を殴ってやりたい」

 

あーあ、なんで黒歴史なんてあるんだろうか。自業自得なんですけども。

 

「…ふふっ」

「ん?どうした」

「いえ、友達じゃなくて八幡さんの話だったんですね」

「ち、ちげえし。友達から聞いた話だから俺は関係ない」

「途中から『俺』になってましたよ」

「…」

 

…やっちまった。確かに途中から俺って言ってた気がするってか俺を殴りたいとか言ってたわ。バカなの?

 

「ま、まあ要は一度居場所を無くしたとしても、また新たに探せばいいだけだ。あの頃も友達がいなくなると同時に居場所も失ったが、ぼっちになってできた居場所もある。…勿論一人だが」

「だからお前も新しい居場所を探せばいい。幸い仲間は死んではないんだろ?元の居場所に戻ることだってできるかもしれない」

 

…言いたいことは言えたしいいか。無理矢理だったけど。

 

「…八幡さんは手伝ってくれますか?」

「おう俺だったら全然いいぞ。勿論出来ないこともあるが、できることがあるなら手伝う」

 

それを聞いた吹雪は笑顔でこう言った。

 

――私を八幡さんの家族にしてください!




この作品の八幡は原作よりは女の子へのスキンシップが多めです。
理由は次話あたりでわかってくるかも?
決して八幡のキャラが難しくて妥協してるわけではないです。決して。


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「八幡さん!八幡さん!!大丈夫ですか?!」

「ふ、吹雪…。俺のことは構うな…」

 

「ふふふふ…!」

 

「吹雪!!ここは俺が抑える!お前だけでも生き延びてくれ!!」

「くっ!…わかりました!八幡さんのことは忘れません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間前

 

「吹雪はこの辺りに来たことはあるか?」

「いえ、沿岸部にはよく深海棲艦の関係で訪れましたが、少し内陸の方はさっぱりです」

「そうか…まあこれからゆっくり覚えて行けばいいんじゃねぇの?」

 

お、お前も今日から家族なんだかりゃ、と照れながら言う男の人。

私の家族になった八幡さんです。初めての家族、そして新たな居場所。

勿論吹雪型というだけあって妹は沢山いるのですが、それとはまた別のつながり、暖かさを感じますね。

八幡さんは今顔を真っ赤にしてますね。

…大事なセリフで噛んだのは気づかなかったことにしておこうっと。

 

「そういえばあそこを出てから結構時間が経ちますね〜」

「俺の家はあっち方面ではないからな」

「家といえば、八幡さんの独断で私を受け入れて貰えるようになってますけど、ご両親はよろしいのでしょうか…」

 

そう言うと八幡さんは微妙な表情をする。

 

「…俺の親はもういないんだ」

「あ、す、すみません!」

「いや、どうせこの後すぐにわかることだったからさ。気にすんな」

「いえ、勿論迂闊に聞いてしまったのもありますが!私たち艦娘の使命は皆さんを守ることだったのに…」

 

そう、私たちは戦争に勝利したとはいえ決して無傷なんかではない。

家だったり、財産だったり、命だったり。

負けのような勝利。人間を守る為の艦娘なのに…。

無力さを痛感する。

 

その時頭に暖かい感触が。

…これは八幡さんの手?

見上げると八幡さんは撫でながら笑っていた。

 

「戦争なんてそんなもんだろ。親父とお袋は運が悪かっただけだ。そこまで気負わないでいいんだぞ」

「でも…」

「それこそ艦娘のおかげで小町は今生きている。吹雪が戦ってくれなきゃ今の生活はない」

「…そうですね。そういうことにしときます」

「おう、そうしろそうしろ」

 

そう言った八幡さんは撫でていた手を離して、先に進む。

…大事なセリフ噛む癖にこういうところはちゃんとしてる、ってずるいです。

そんな八幡さんだから受け入れて欲しかったんですけどね!

少し走って前に行ってしまった八幡さんに追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここが八幡さんの…」

 

なんだかんだ歩いていたら八幡さんのお家に着きました。

パッと見、豪邸ではないですがかなり敷地がありますね。お家も大きいし。

 

「ま、色々とあってな。ここを貸してもらっているんだ」

「そうなんですね!」

 

家の前に立ち少しじっくり見てみる。

神社から帰るとき周りの住宅街を見ましたが、住宅街にあった家は縦に長い造りをしているのに対して、この家は横に長い造りだ。

その造りのとおり、和風なお家。

正直長い時間和風な鎮守府で過ごしている私にとってはとても助かります。

 

「じゃあ俺は先に入ってるから。呼ぶまで待ってて貰ってもいいか?」

「あ、はい!」

 

ドアを開けてただいま〜と家の中に入っていく八幡さん。

神社からの帰り道で八幡さんは『小町』といっていましたが、どうやら八幡さんの妹だったようです。他にもお姉さんが2人いて今は4人で暮らしているんだとか。

とっても気になりましたが、八幡さんに「会った方がわかるだろ」と言われてまだお姉さんがいらっしゃる事しか知りません。

でも初対面なのに会った方がわかるというのもおかしいよね。

 

と、その時!

 

『は〜ちま〜ん!!!!!』

『ぎゃあああああああ!!!!』

 

家の中から八幡さんの悲鳴が!!家族として助けに行かないと!!

ドアを開けて右にある部屋に滑り込む。

中には倒れた八幡さんが!周りに誰もいないことを確認して近寄る。

 

「八幡さん!八幡さん!!大丈夫ですか?!」

「ふ、吹雪…。俺のことは構うな…」

倒れている八幡さんを見る。どうやら目立った傷はないみたい。よかった〜。

と安心するのも束の間。八幡さんの奥からフラフラと女性が現れる。

マズい。このままではやられちゃう!!

 

「八幡さん、逃げましょう!!」

「吹雪…。俺はもうダメだ…。お前だけでも逃げてくれ…」

 

「八幡さん!八幡さん!!大丈夫ですか?!」

「ふ、吹雪…。俺のことは構うな…」

 

「ふふふふ…!」

女性がこっちに来るっ!

 

「吹雪!!ここは俺が抑える!お前だけでも生き延びてくれ!!」

八幡さんは立ち上がり女性と向き合う。

私に選択肢など残されていない!

 

「くっ!…わかりました!」

まだ私が艦娘として深海棲艦と戦っていた時、提督はよく「少しでも被弾したらすぐに帰還すること」と言っていましたが、今こそその時です!!

全力で玄関に向かって走り、靴を履く。

よし!あとはドアを開けて走ればいいだけだ!!

八幡さんの思いを胸に!!なんとか私だけでも!

ドアを開ける!

 

「……」

「ッ!」

 

ドアを開けるまではよかった。しかし走ろうとしたら、目の前には別の女性が。こちらを見て笑いながら手をワキワキさせている。

 

もう、逃げることなどできない。

 

「あ、あぁ…」

「ひひひっ!撃てーーーーっ!!!」

 

「キャアァァァァァッ!!」

 

胸を揉まれました。

 




文字数稼ごうとすればするだけ駄文ができます。
ただでさえ駄文しかないのに…。


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「いやーごめんねー。つい魔が刺しちゃってさ」

「そんなに気にしてないので大丈夫です…」

「どうして八幡は帰りが遅かったのかしら?」

「本当だよごみいちゃん!連絡もなしに帰りが遅れるとか小町的にポイント低い!」

「えっとアレがアレしちゃったんだよな、多分」

 

あの後俺はなんとか姉の攻撃?を耐え切り、姉に玄関でセクハラを受けていた吹雪を助けた。

こうして今は居間で落ち着いているわけだが、俺と大井姉と小町。これに向かい会うように吹雪と北上姉が座っている。

ちなみに俺に襲いかかってきたのが大井姉で、セクハラは北上姉な。

 

「というか吹雪久しぶりだね。まーこんな再会だとは思ってなかったけどさ」

「はい!3年ぶりでしょうか?」

「確かに言われてみればそうね。久しぶり、吹雪」

「えっ北上姉と大井姉、吹雪と知り合いなのかよ」

「知り合いも何も、同じ鎮守府の所属だったよ。なんだかんだ長い付き合いだよねー」

 

なるほど。仲間、いやこの場合だと戦友か…。

って戦友とかカッコよすぎだろ。ま、まあ俺も戦友ぐらいいたけどな(スマホの中)

とそこで小町が吹雪に話しかける。

 

「吹雪さん、はじめまして!比企谷小町って言います!このごみいちゃんの妹です!」

「ちょっと、小町ちゃん?そんな言葉遣「お兄ちゃんは黙ってて!!」…はい」

「あはは…。小町ちゃん、よろしくおねがいします」

 

北上姉達と同僚だったこともあり、自己紹介はスムーズに終わった。

同時に俺の心もスムーズに破壊されたけどね。スムーズ過ぎて数年後には瓦割り並みにガラスのハート割られそう。

ちなみに俺のメンタルは瓦みたいに重なって保護されてません。メンブレ〜!

 

「自己紹介も終わったことだし、早速だけど吹雪はどうしてここに?」

「それはですね……」

 

大井姉の質問に対して神社での出来事を吹雪が話す。

艦娘に対して詳しくない小町はともかく、北上姉と大分姉は吹雪が封印の犠牲になっていたのは知っていたようだ。

ただ膝枕して貰ったとか撫でて貰ったとかに機嫌悪くならないで欲しいかな〜。吹雪も照れながら言わないで!

 

羞恥ゾーンが過ぎてようやく本題へ、居場所について語る吹雪に姉達も真剣に聞いている。確かに鎮守府がなくなって居場所を失ったのは全ての艦娘達に言えるわけだもんな。

 

「…ということがあって、お邪魔させて貰ってます」

「まあそんな感じだ。俺らと境遇も似てるし、俺は賛成だが」

「小町も賛成ー!」

「まーそうねー。私も賛成。むしろ賑やかになっていいんじゃない?ねー大井っち」

「私は北上さんと八幡が賛成ならそれでいいと思うわ。それに部屋は余ってるし問題ないしね」

「またまた大井っちそんなこと言ってー。艦娘の時は裏で吹雪のこと褒めてた癖にー。本当は嬉しいでしょ?」

「なっ、そんなわけないじゃない!北上さんも冗談がすぎるわよ!!」

「北上先輩、それ本当ですか!?詳しく聞きたいです!」

「おっいいねー。あれはねー…」

「うっ、、、はちまんこまちー」

((またはじまった…))

 

北上姉はニヤニヤとワルい笑みで、吹雪は真剣に嬉しそうに大井姉について話してる。

姉達のやりとりはいつものことだから気にしないが、吹雪……お前、真面目すぎて大井姉の最大の脅威になってるぞ…。

まあそれだけすぐに話に溶け込んでいるあたり、吹雪の人柄の良さが窺える。家族から『捻デレ』という変な造語をあてられる俺とは大違いである。

 

とはいえこれ以上放置してると大井姉が可哀想なので、小町と目を合わせる。

 

「まあまあ2人とも、その話は後にして、まずはこれからについて話しましょう?」

「特に吹雪はこれから大変だろうからな。今のうちにしっかり話し合った方がいい」

「そっちの方が大事だねー。じゃあ吹雪、この話は後でまた」

「わかりました!」

「この後もなのね……不幸だわ……」

 

大井姉、それ違う人のセリフだよ…。

 

「八幡さんの言う大変ってこれからの生活だとは思うんですが、今皆さんは何をしているんですか?」

「俺はそもそも一般人だからな。普通に高校生やってるよ」

「小町も同じく一般人なので、普通に中学生です!」

「私と大井っちも軍抜けてからは高校生だよねー」

「そうね。政府からの計らいで戦争に貢献した艦娘はある程度の要望が通るようになってるから、吹雪も申請すれば問題なく学生になれるはず。少なくとも生活金が貰えるからなんにしろ申請はするべきね」

「ちなみに吹雪の学力はどうなんだ?場合によっては中学生からがいいかもしれないが…」

「えーと、一応鎮守府で高校レベルの授業は受けていました!とは言っても軍と普通の高校は違うとは思いますが…」

「え、マジ?」

「本当だよー。私たちは吹雪よりも少し年上だから高校範囲は習い終わってそのまま大学でもよかったんだけど…。まあ八幡達と一緒に通いたかったのもあるしねー」

「普通に吹雪も総武高校に編入すればいいじゃない。不安要素がないならそれこそ2年生から始めてもいいんじゃないかしら。申請さえすれば問題ないと思うわ」

 

ちなみに北上姉と大井姉が高校3年生、俺が高校2年生、小町が中学生3年生だ。姉達は鎮守府で既に高校の学習をしていた為、今年は推薦を狙えるらしい。推薦落ちても普通に受験するなり、海軍の方からある程度の大学であれば入学できるとのこと。

海軍のバックアップ強すぎでしょ。

 

「うーん、折角だし八幡さんと同じ学年にします!学校なんて行けると思ってなかったなぁ」

 

キラキラした表情で話す吹雪。ついでに超真面目。独神(笑)からの呪いのメールがないと登校しようと思わない俺とは大違いだ。

 

「そうと決まればまずは海軍に連絡だねー」

「わかりました!!」

 

何はともあれ、これからより騒がしくなるのは明らかだ。もちろんいい意味でね。

楽しそうに話す4人を見て俺は自然と笑っていた。




一応吹雪は「比企谷吹雪」として編入させるつもりです。
そこで北上さんと大井っちはどうしようかなと。
今のところは「比企谷北上」と「比企谷大井」でいくつもりですが、
しっくりこないですね〜笑
どっちも名字っぽいから名前としてはなんとも言えない感じになってしまう…


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結局「北上」と「大井」だけにします。
変に名前つける方がかえって良くないですね。

今朝5000UA超えててびっくりしました!
皆さまありがとうございます!
拙作なのは変わりありませんが、少なくとも黒歴史にならないようにこれからも頑張ります。


あの日話し合った後に海軍に申請してみたところ、本当に迅速に対応が行われた。勿論総武への編入もだが、身の回りの物まで海軍、というより国から支援があった。

マジで頼めば何でも貰えるんじゃねってぐらい。

真面目な吹雪なので本当に必要不可欠な物しか望まなかったらしいが。

 

それはそうと吹雪自身の身の回りの準備も終わり、今日は総武高校の初登校日である。

学年は2年、クラスはF組!

…って俺のクラスじゃねぇか。

 

どうやら吹雪が元艦娘だと言うことは国から教師側には事前に伝えられており、平塚先生の「まだ一般人の生活になれない部分もあるため、兄のクラスに入れた方がよい」という発言によって決まったらしい。

平塚先生カッコいい!!けど「肝心の兄が一般人ではないから不安でもある」は八幡的にポイント低いかな~。否定できないけど。

 

それはともかく、今日は吹雪と一緒に登校した後に職員室により、先生から説明を受けるとのこと。

今は自転車で学校に向かっているところだ。俺が前で吹雪が後ろの2人乗り。いつもは小町を乗せていたが、小町は意外にあっさり譲ってくれた。

家から学校まではそう遠くないのでまあバレなきゃいいだろ。

それにしても家を出てから吹雪は俺の服をちょっと掴むだけ。そして無言。

入学式に事故って以来、これまで以上に気をつけて運転してはいるものの、予想外のこともあるので兄としてはしっかり捕まって貰いたいのだが。

 

「あー、吹雪」

「ひゃい!な、なんでございましょうか?!」

「落ち着け、色々とおかしい。俺にはわからないが学校が楽しみなんだろ?」

「そ、そういうことじゃないんだけど…」

「ん?何か言ったか?」

「い、いえ!何でもないです!それでどうかしましたか?八幡兄さん」

「あ、ああ。振り落とされたりしないようにもっとしっかり掴まってくれると助かるんだが…」

「わ、わかりました!」

「って、超痛え!!ギブギブ!!」

「わぁぁ!ごめんなさい!!」

「ップフフッ!お、お前少しは落ち着けよ…!」

「わ、笑わないでください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後学校に着いた俺は職員室に吹雪を案内した。

今頃平塚先生と今後について話しているのだろう。

俺は案内だけで良かったから教室にいる。

天使戸塚との挨拶を済ませ、絶賛寝たふりだ。どうせすぐHRが始まるだろ。

 

ガラッとドアが開き、先生が入ってくる。

 

「みんなおはよう。今日は新入生がくる」

 

ザワザワっと教室が騒がしくなる。

 

誰かな〜!

もしかしてイケメンだったり!?

可愛い子だといいなぁ

ハヤハチに新たな刺客?!

 

反応は様々だ。…最後のは聞かなかったことにしよう。

 

「入ってきていいぞ」

「はい!」

吹雪が教室に入り、教壇の上にたつ。

男子のテンションは上がっている。まあそうだよね吹雪可愛いし。

 

「比企谷吹雪です!訳あってこの時期の編入ですが、仲良くしてください!」

流石軍にいただけはあるのか、スラスラと自己紹介をやってのける。俺なんて毎回噛んでクラスの空気悪くするのに。

 

「比企谷はこのクラスの比企谷八幡の妹だ。よって比企谷八幡の隣に座ってもらう。HRは以上だ!」

 

あれ?ヒキガヤって他にいたっけ?なんて聞こえるが無視だ無視。

おれの隣に座った吹雪にクラスメイトが押しかける。暫くは近づかない方がいいな、と思っていると由比ヶ浜とエンジェル戸塚が近づいてくる。

 

「ヒッキーって小町ちゃん以外に妹さんいたんだねー。なんで教えてくれなかったの?」

「あ?知らん知らん」

「でもすごくいい子だよね。まだ話してないけど仲良くなりたいなぁ」

「そうだな!吹雪とはすぐ仲良くなれると思うから、俺とももっと仲良くしようぜ戸塚ぁ!」

「ちょっと!彩ちゃんとあたしの反応違くない?ヒッキーひどいし!」

「そりゃそうだ」

 

誰と比べてんだお前。戸塚だぞ?

 

「むー。後で話してもらうからね!」

「じゃあね八幡」

「おう、またな」

 

そう言って2人は席に戻っていく。

さて、1時間目の準備をしよう。

1時間目は、数学。

よし、寝よう。準備はいらない。

 

「いてっ」

 

寝ようとしたら横から小突かれた。吹雪、だと…?

 

「平塚先生に八幡兄さんは授業寝るから起こすよう言われちゃいました」

 

先生に言われたら仕方ないですよね、と言う吹雪。

くそ、やられた…。これで俺の睡眠時間は削られてしまう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数学の時間以外は特に問題もなく、放課後になった。

吹雪も午前は質問攻めだったが、午後になるにつれて収まっていった。

吹雪は平塚先生に呼ばれて職員室へ。俺はこれから部活だ。

 

「うーす」

「もーヒッキーおそーい!やっはろー!」

「こんにちは、比企谷くん」

 

奉仕部部長の雪ノ下と部員の由比ヶ浜だ。つい最近職場見学で一悶着あったものの、由比ヶ浜の誕生日にプレゼントしたりなどと徐々にいつも通りの調子に戻りつつある。

 

「そういえば、ゆきのんきいてよー。ヒッキー小町ちゃん以外にも妹がいて、今日編入してきたんだよ!」

「あら比企谷くん。誘拐は感心しないわね。小町さんだけじゃなくて他の子にも手を出すなんて…」

「勝手に人を誘拐犯扱いするな。小町にも吹雪にも手を出してないってか、それだとシスコンじゃなくて犯罪者じゃないか」

「最初からそうだと言っているのよ、犯罪谷くん」

「そのあだ名はストレートすぎる。しかも冤罪だし」

 

色々吹き込む由比ヶ浜と口が開けば罵倒の雪ノ下。やだこいつらまったく話聞いてくれない!

まあこんな会話ができるようになっただけ関係も戻りつつあるってことだな。べ、別に仲直りして嬉しい訳じゃないんだからねっ!

…うん、これは由比ヶ浜にキモいって言われるだけあるわ。

 

自己嫌悪に陥っていると、コンコンとノックされた。

 

「どうぞ」

 

部室のドアが開かれ、中に入ってきたのは吹雪だ。

恐らく平塚先生に奉仕部について言われたのだろう。

吹雪は俺含む3人の視線が一気に集まったことで少しビックリしているようだ。わたわたしてる。可愛い。

 

「おう、どうした吹雪。平塚先生との話は終わったのか?ほら、ここ座れ」

 

立たせているのも可哀想なので、いすを引っ張りだして俺の横におく。

吹雪はありがとうございますと言いながら座る。

反対側にいる2人の視線が痛いような気がするが、俺は気にしない。ハチマンマケナイ。

 

「はい、大体は朝のうちに教えて貰ったので、そこまで時間はかかりませんでした。ただ八幡兄さんが奉仕部で活動している、と教えていただいたのできてみました」

「やっぱあの人か…」

 

まあ帰りも自転車で一緒だからいいんだけどね。

俺と吹雪の会話を聞いていた雪ノ下が口を開く。

 

「あなたが吹雪さんね。私は奉仕部の部長の雪ノ下雪乃よ」

「教室でも話したけど改めて、由比ヶ浜結衣だよ!よろしくね!」

「あ、はい!比企谷吹雪です!八幡兄さんの妹です!」

「それにしても小町さん以外にも妹がいたなんて…」

「あ、妹とは言っても義理の、です!最近妹になりました」

 

吹雪ちゃん?ちょっと言い方気をつけようね。

 

「最近…?どういうことかしら誘拐谷くん?」

「あたしも教室で見ててすこしおかしいとは思っていたんだよね〜」

「わかった。しっかり話すから疑いはかけないでくれ」

 

まあこいつらには感づかれると思っていたからな。

軍、どちらかというと政府か。あちらからは吹雪が艦娘だったことは大々的に言わずに身内に話す程度であれば問題ないらしい。

ここで正直に話しておいた方がいいだろう。

そう思って隣にいる吹雪とアイコンタクトを取る。

 

「すまん、それについては話すつもりだったんだが、少し複雑な事情があってだな…」

「複雑って?」

「それはですね……」

 

吹雪が話始めた。自分が元艦娘だということ。

封印の犠牲となったが、解放されてそこで俺に出会ったこと。

艦娘であったことから、海軍に申請して総武高校に通うようになったこと。

余談だが北上姉と大井姉によると、深海棲艦がいなくなったことで艦娘達も「艦娘としての力」は失ってしまったようだ。何でも深海棲艦と艦娘は深い繋がりがあったのだとか。俺は戦争については部外者だから詳しくは知らないが。

少なくとも今一緒に生活してる元艦娘は人間化している、という解釈でいいらしい。

 

吹雪が話し合えると思った通り2人とも呆然としていた。

 

「そう…だったのね。ありがとう話してくれて」

「あたしは艦娘でも人間でも吹雪ちゃんの友達だからねっ!」

「ありがとうございます!」

 

うまくまとまったようでよかった。

それで、と吹雪が続ける。

 

「私もこの部活の雰囲気とか見て、入りたいな〜って思ったのでぜひ入部したいのですが…」

「えっ本当?!いいよいいよ!ゆきのんのいいよねっ?」

「ええ、入部を許可しましょう。ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

「ありがとうございます!」

 

これで奉仕部も4人か。どんどん賑やかになっていくことに本来なら嫌がるはずが、今はすこしワクワクしている自分がいる。

 

「ところで、吹雪さんから依頼とかはないかしら?」

「依頼ですか?うーん」

「例えば比企谷くんから襲われかけてるとか」

「おい」

「比企谷くんのあなたを見る目がすこし危険だわ。何かあったらいつでも言って頂戴。力になるわ」

「あたしも手伝うよ!まかせてね!」

 

何この団結力?やっぱり俺いらないんじゃね?今からでも退部届け出そうかな。

そういえばおれは強制入部だったか、オワタ。

 

「い、いえ八幡兄さんはそんなことしないですよ」

「あら、そうなの?」

「そらそうだろ。普通に考えて」

「ヒッキーは黙ってて!」

「はい」

「た、確かに突然撫でたりとかはありますけど…。それも私のことを妹として接してくれるから嬉しいですし…」

「……」

「……」

 

あれ?ちょっと吹雪さん?

 

「勿論まだ暮らし始めてから少ししか経ってないけど、得意な現代文や古文を教えてくれたり、八幡兄さんがとても優しいのは分かりますし、何なら結構いいなって思ったりして……って。あ」

「ちちち、違います!!決してそういうわけでは…」

 

ようやく止まった吹雪。だけどもう手遅れよ。

流石に向かいに座っている雪ノ下と由比ヶ浜の表情を見れば止まるよ。

だって口開けて言葉通りポカーンとしてるし。ちょっと顔が赤いのはわからないが。

由比ヶ浜が口を開く、由比ヶ浜の奇跡を信じるしかない。

 

「え、えーっと、なんだか告白みたいだね……」

「いやぁぁ!!ダメですぅぅ!!」

 

由比ヶ浜ーーーーー!!!!!

耐えかねた吹雪は出口へ一直線。戦場で鍛えられた体故なのか、めっちゃ早い。そのまま廊下を駆け抜けていく。

って一緒に来たから追いかけないとまずい!

 

未だにポカーンとしてる2人に声をかける。

「わりい!あいつと一緒に来たから俺も帰るわ!」

「え、ええ……」

「うん、じゃあねヒッキー」

 

確認が取れたのですぐさま追いかける。

 

ガラッ

 

「……由比ヶ浜さん」

「うん、ゆきのん」

「「……強敵ね(だね)」」

 

この2人はさらに強敵が2人いることを知らない。

 

ちなみに吹雪は駐輪場の隅で体育座りしてました。




ちなみに、吹雪と北上は特に好きな艦娘です
北上さん入れるとなると大井っち不可欠ですよね?そういうことです。

今後は俺ガイルのストーリー展開を沿っていく形になると思います。
当初の予定はもう少しほのぼのだったんですけど、少し路線変更しそうです。

また今のところはモチベあるのでほぼ毎日上げていますが、これからわからないです。頻度落ちたら察してください。許して。

余談ですが私は指定校推薦賛成です。
正確にはどっちでもいいのですが、高校がそこそこの進学校だったので、現役時代指定校が取れる成績を取るのはかなり大変だったと思います。(ちなみに作者は一浪中です。絶賛コロナでオンライン授業だったから浪人で正解って言い訳してます)


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「ん、もうこんな時間か」

 

時刻は23:30。

二週間後に期末テストを控えた俺は苦手な数学を勉強していた。

決して自分から進んで勉強しているわけではなく、何処ぞの女教師に数学の成績を指摘され、更には姉達にも聞かれてしまったのだ。

正直最初に指摘してきた平塚先生も悪いが、数学の成績は壊滅的なのは事実なんだよなぁ。当然反論などできるわけもなく、姉達(というか大井姉)にお説教されたというわけだ。

 

というか大井姉、普段はあれほどデレデレなのに怒るときは家族以外の他人に接している時みたいに超厳しいからめっっっちゃこわいんだよな。

怒る大井姉の隣でいつも通り飄々とした雰囲気を出しつつも見守ってくれる北上姉はまじで聖母。女神。

だって八幡のハートがブレイクした際には優しく「大丈夫。私も数学が1番苦手なんだよねぇ」「数学だけは満点とったことないし」とか言ってくれるし。

ってただの嫌味じゃねぇか。よくよく思い出せばニヤニヤしてたし。

前言撤回、俺の姉は鬼です。

 

そんなこんなで今回のテスト、特に数学は頑張らないといけないのだ。

ペンを机に置いてグーっと伸びをする。頑張った後の伸びはマジで気持ちがいい。

 

「マッ缶でも飲みに行くか」

 

まだ冷蔵庫に余りが入っていたはず。

ドアを開け、廊下にでる。

 

「…とても静かだ」

 

勉強に集中していたからか、周りが静かなのに気がつかなかった。

いや、これだと逆説的か。周りが静かだったから勉強に集中できたのかも知れない。

 

「大井姉達おきてるのか?」

 

居間は明かりがついていた。

流石にそろそろ日が変わるのもあって小町は勿論、吹雪ももう既に寝ているだろう。

起きているとしたら大井姉と北上姉だろう。大方俺と同じように試験勉強しているに違いない。

ガチャとドアを開ける。

 

案の定、居間では大井姉と北上姉が勉強していた。

 

「おー八幡。どうしたの?」

「勉強が一区切りついたからな。マッ缶飲みにきた」

「おーいいねぇ。私にも一本頂戴ー」

「はいよ」

 

冷蔵庫を確認するとちょうど2本あった。

ただストックがもう無いから、また通販で二箱くらい頼むまないとなぁ。

冷蔵庫から2本取り出し、1本を北上姉に渡す。

 

「ほい」

「ありがとね」

 

よいしょ、と俺も椅子に座る。

それに合わせて勉強していた大井姉もひと息つくのか、ペンを置いた。

 

「そういえば八幡」

「ん?」

「最近、吹雪はどう?私も北上さんも学年違うから様子はわからないのよね」

「特にこれといったことは。元々真面目だし勉強もできるから問題ないんじゃ無いか」

 

ついでに真面目だから俺が寝てると起こしてくれるのだが、そんなこと言ったら大井姉の目つきが怖くなるのでやめておく。

え?大井姉がツンツンしてないって?この人家族にはデレデレするからいいんだよ。

 

「まあ八幡みたいに成績が酷いわけじゃなければいいわ」

 

ヤバイ。数学の話題は避けなければ。俺が死ぬ。

 

「まあまあ大井っち。八幡と一緒の学年が良かったんでしょ?」

「ま、まぁそうだけど…」

 

照れながら正直に話す大井姉の隣で俺にウィンクしてくる北上姉。

あざといけどマジで助かった。北上姉神様。さっき鬼とか勝手に言ってごめんなさい。

 

「けど八幡、ブッキーのことはすこし気にかけてあげてね」

「問題ないから大丈夫だと思うが」

「そういうことじゃないんだよ。ねぇ大井っち」

「ええ、そうね」

「どういうことだ?」

 

初めての学校にしろ、授業態度は申し分ないしなにより真面目だから、俺より成績いいくらいだと思うが。

…自分で言っといて悲しくなってきた。

 

「まあこればっかりは八幡もわからないかなー」

「八幡、戦争が終わった時艦娘が力を失ったっていう話は覚えてるわね?」

「おう」

「私たちは力、燃料を必要としたり艤装を展開できたりするような力をなくしてしまった艦娘を『人化した』と捉えているの」

「『兵器』の艦娘ではなく、『生物』の人間になったってことだよ」

「基本的には戦争が終わると同時に艦娘は力を失って人化したんだけど、例外がいるわけなのよ。それが…」

「吹雪なわけか…」

「厳密にいえば、封印の犠牲になった艦娘だねー。ブッキーは燃料も必要ないし、艤装も展開できないって言っていたけど」

「どうにも私たちには人化したまた艦娘とは違和感を感じるのよね。こればっかりは論理的なものではなくて、勘のようなもので申し訳ないけど」

「…」

 

艦娘としての能力は失ったが、同じ人間にしては違和感を感じる、か。

 

「なんか人と艦娘のハーフみたいな感じだな」

「まあそんな感じ。ブッキーは今その状態にいるわけなんだよね」

「そうなっているのが問題ないのか、はたまた悪影響を及ぼすのかはわからないわ。そういう意味で1日を通して1番近くにいるであろうあなたに気にかけてもらいたいのよ」

「ブッキー自身が気づいているかもわからないしさ。少しでいいから見といてほしいな」

「わかった」

 

勿論、そう言われるのならより気にかけるだけだ。なんたって家族、だからな。

俺の答えに満足したのか2人とも笑っている。

とりあえずこの話はここで終わりのようだ。

手元にあるマッ缶をあおり、席を立とうとしたら大井姉が話しかけてくる。

 

「そういえば、八幡?数学の調子はどうかしら?」

 

げ。まずい。とりあえず話を反らして部屋に逃げよう。

 

「ま、まあまあかな。でも俺は日本男児としてまずは国語を」

「はちまん?」

「はい非常にヤバイですごめんなさい」

 

姉からは逃げられなかったよ(泣)

変わり身の早さに大井姉はため息をつき、北上姉はゲラゲラ笑ってる。

大井姉はともかくあのゲラゲラ笑ってるじょうろ雷巡は許さん。絶対許さないノートに書くことに決めた。

大井姉と北上姉はテーブルをトントンと軽くたたく。

 

「ほら、勉強道具持ってきなさい」

「え?」

「テストまであまり時間ないけど、ここはハイパー北上姉様に任せなさい!」

「ほらさっさと持ってくる!ダラダラしてると寝れないわよ!」

「わかったよ…」

 

ここまで来ちゃうともう逃げられない。

諦めて勉強道具を持ってこよう。幸い、この二人は教えるの超上手いからな。

自室に道具を取りに行くときの足取りはなぜかいつもより軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まあ取り敢えず今日はこんなものかしら」

「おわっだぁ~!!」

「八幡お疲れ様~。マッ缶飲む?」

「飲む」

「おっけー」

 

大井っちにしごかれてテーブルに突っ伏している我弟を横目に冷蔵庫を開ける。

ってマッ缶ないじゃん。

 

「マッ缶ないじゃん。八幡、どうする?」

「あー、そういやさっきので最後だったな」

「じゃあココアでもいれようかね~。大井っちも飲む?」

「北上さんのココア!!飲むわ!!」

「がってん承知ー」

 

コップ3つに牛乳を入れてレンジで温める。

大井っちはさっきまで八幡が解いていたプリントを丁寧に眺める。

学校だったり人前だったり、実は厳しい姿で有名な大井っちだが、その本質は全て優しさからあるのだ。

…カッコよく言っただけで本当はただのツンデレなんだけどねー。

 

「うん、この調子なら間に合いそうね」

 

アホ毛がぴくんっと反応して八幡が体を起こす。可愛い。

 

「お、マジ?」

「ええ。毎日一緒にやっていけば高得点間違いなしね」

「……」

 

ガックシ、とまたテーブルに突っ伏す八幡。

まーそんなに甘くないよねー。

と、牛乳が温まったのでココアの粉を入れてかき混ぜる。

 

「ほーい。北上様のココアだよー」

「あざす」

「ありがとう北上さん!」

 

3人でズズッとココアを飲む。

…最近は忙しかったからこういう時間取れなかったけど、やっぱり大事だね。

隣でココアを飲む大井っちも同じような顔をしている。

 

「あの、さ」

 

あちい、といいながらゆっくりココアを飲んでいた八幡が顔をあげる。

 

「なんだかんだ、ありがとな。北上姉と大井姉」

 

その顔は真っ赤になってはいたが、優しく微笑みながら八幡は言う。

 

「「っ///」」

 

たったそれだけで自分の顔が熱くなっていくのがわかる。理由は単純。

私は大井っちの方を向く。ちょうど大井っちもこっちを向いたようだ。

お互い顔が真っ赤なのをクスッと笑いながら頷く。

 

「「はちまーん!」」

 

「お、おい。やめろ!」

 

この可愛い弟。否、この男が大好きだからだ。

大井っちと二人で同時に抱きつく。

今艦娘の力はなくても数年前までずっと毎日鍛えていた身体。そう簡単に解かれる筈がない。

 

最近新たな家族も加わり、これから確実に忙しくなっていくだろう。

それでもこの暖かさは忘れないよう、私は大切に抱く。

 

この後八幡の悲鳴で目が覚めた小町ちゃんに3人こっぴどく怒られました。




最近吹雪ばかりでしたので、北上、大井とのお話にしました。
とはいえ吹雪が総武に編入するまでが終わったので、これからこの二人はどんどん登場させるつもりです。
なんたってこの二人もヒロインだからね。
次回は少し本編から離れたお話の予定です。
よろしくお願い致します。


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「うん、一旦休憩にしましょうか」

「でもいい感じだねー。大井っちと一緒に教えてるから、最強だよね!」

「だぁーー、終わったー!」

「八幡兄さんお疲れ様です」

「お兄ちゃん、ここ外だからあんまり目立つことして欲しくないかなーって」

 

あーマジで疲れた。疲れすぎて夏休み始まるまで寝れる。

期末試験はどうするって?知るかそんなもん。

今日は期末試験一週間前である。

当然一週間前になれば学校から勉強に集中しろとのことで、一般的な部活は部活動休止期間に入る。勿論奉仕部も例外でない。

普段なら家で勉強するが、愛する妹小町が折角だし外で勉強したいと申し出た為、比企谷家5人でサイゼに来ているわけだ。

サイゼ最強。でも混雑時は食事を終えたら次の人に譲ろうね。

 

小町は小町で中学の試験勉強。

俺と吹雪は姉から数学を教えてもらっている、といっても吹雪は数学の成績もいいので、俺がメインな訳だ。

とはいえ数週間前では一切わからなかった数字や記号、公式がようやく理解、応用までこぎつけたのでかなりの進歩と言えよう。俺すごい。

 

「じゃあちょっと飲み物淹れてくるねー」

「あっ!北上さん、私もいくわ!」

 

そう言ってドリンクバーに向かう北上姉とその腕に抱き付く大井姉。って百合百合すんじゃねぇ。

とはいえあの光景は今では見慣れたものだ。流石に外でやるとは思ってなかったけど。

雪ノ下と由比ヶ浜の友情のあるある意味じゃれあいとは異なり、姉たちのものはもっと深いものに感じるから変に口出せないんだよなぁ。

勿論由比ヶ浜と雪ノ下に口が出せる訳じゃないぞ?罵倒が返ってくるってわかってるからな。

罵倒がくるってわかっているのに口出しするほど俺はMじゃない。

 

…そういえば吹雪は同じ所属だったから何か理由を知ってたりするんじゃないか?

 

「なあ吹雪」

「?、なんでしょうか、八幡兄さん」

「あの二人って艦娘の時からあんな感じなのか?」

「あーそれ小町も気になります!あんなに堂々とやるものだから言うにも言えなくて」

「あーっとですね…」

「?」

 

吹雪が口ごもる。何か言いづらいことなのか?

よしっ、と気合いを入れた吹雪。え?何、そこまでしなきゃいけない感じなの??

 

「実はあの二人、同時に配属された訳ではなく大井先輩が先に、その1年後に北上先輩だったんですよ」

「「あー」」

 

小町とハモる。いや、だって、ねぇ?

 

「何かもう続き聞かなくてもわかるわ。どうせ大井姉が寂しさで最初からデレデレしてるから、北上姉も疑問に思わずここまで来ちゃった的な」

「まあ、そんな感じです」

 

小町と顔を見合わせてため息をつく。やはり兄妹だからかこういうところは息がピッタリだ。これは考えていることも同じだろう。多分。

 

((大井姉……))

 

あ、でもと吹雪が話を続ける。

 

「今の大井先輩は前ほど北上先輩にベッタリではないですよ?」

「え、アレで前よりマシなの?どんだけだったんだよ大井姉…」

「前は身近な人が北上先輩だけだったので。他にも姉妹艦は存在しますが、私たちの鎮守府には配属されなかったので…」

「なるほどなぁ。どうしたものか、毎回毎回ハグやらやられるこっちの身にもなってほしいが、そういう理由があるなら何もいえないしな」

「……多分それだけじゃないと思うんですけど」

「ん?なんか言ったか?」

「いえ、何でもありませんよ」

 

吹雪がなんか言っていたが聞こえなかったが、小町がにししーって笑ってたから大したことではないんだろう。あ、小町はチョップな。

 

「あいたっ!」

 

そんなことをしてるうちに2人が戻ってきた。

相変わらず百合百合な2人を見て安心してしまった俺も俺だが。

北上姉が席に座るなり、あ、そうそう、と俺に話しかける。

 

「そういえば、2人とも部活入っていたんだよね。最近どう?」

 

どうやら奉仕部についてのことのようだ。

そういえば部活については入った、と言った程度で詳しく話はしていなかったな。というよりわざわざ話すような出来事もなかったわけだが。

 

「どう、と言われてもなぁ」

「そう、ですね」

「何何?言いづらい事でもあったの?」

「事と場合によってはその部員の方に痛い目を見て貰う可能性があるわね」

 

こええよ!なんで何かやらかした前提になっていんだ!

吹雪なんかビクビクしてるぞ!

 

「いや、本当になにもないんだよ。な、吹雪」

「は、はい!やるとしても紅茶飲んだりお話ししたりとかですかね」

「へー、なんだー」

「興味なくしすぎだろ北上姉」

「あはは…って、八幡兄さんアレ…」

「ん?…げっ」

 

冷めてしまった北上姉に呆れていたら、吹雪が出入り口の方を指差す。

ってあれ雪ノ下と由比ヶ浜じゃねぇか!

ヤバイ、こんなところ見られたら終わるっ!

小町も吹雪も俺が何に怯えているのか分かってないだろうが、もう俺への罵倒と大井姉が出会うと碌なことにならないんだよ!

 

「あら?」

「あ、ヒッキーと吹雪ちゃんじゃん」

 

あちら側からも休憩している俺らのことに気がついたのか、こちらに近づいてくる。

ああ、南無三…。

 

「あら?こんなところで奇遇ね。比企谷君」

「お、おう。そうだな雪ノ下…」

「それに、吹雪さんと小町さんも一緒にいたのね」

「こんにちは、雪乃さん、結衣さん」

「お二人ともやっはろーです!!」

「やっはろー」

 

由比ヶ浜と小町の謎の挨拶は置いておき、ここまではまだ問題ない。

これからである。雪ノ下が俺らの向かい側を見る。

 

「あら、こちらは三年生の北上先輩と大井先輩ですか?」

「おっ、私たちのこと知っているんだー。雪ノ下さん」

「2人とも有名なんですよ!二年生でも人気高いです!」

「あら、そうなのね」

 

…今のところは至って普通だ。俺の考えすぎか?

というか2人が人気なのはまあ、当然だな。あのルックスと成績の良さがあるから自然と人が集まってもおかしくないレベル。

 

「それでおふたりはどうしてここに?」

「ん?普通に八幡達と勉強してるんだー」

「ねぇ比企谷くん」

「んだよ」

「いくら先輩達が美人だからって脅してまですることはないと思うのだけれど」

「…」

 

ほら始まったよ!!頭を抱えたくなるのを抑え、今すぐ帰りたい気持ちをグッと堪える。

…そういえば、小町と吹雪はどうしたのかと横を見る。

吹雪はこの後の流れを察したのか、ダラダラと冷や汗をかいている。

小町はいない。ハッと思いメールを見る。受信一件。差出人は小町。

 

『ごめーん!小町ちょぉっと用事思い出したので先抜けるねっ!☆』

 

小町ぃぃぃぃ!!!!!!

もう終わりだぁ…。

 

「ちょっといいかしら?」

「大井先輩、なんでしょうか」

「脅すって、八幡がそんなことをすると思っているのかしら?」

「そうですね。彼のような犯罪者のような眼をした人と学校でも美人で有名な先輩方がいればそのように思うのは当然だと思いますが」

 

マズい。遂に恐れていたことが起きてしまった。

それこそ、

 

『ブラコンVS毒舌(対八幡)』

 

雪ノ下と出会って数ヶ月経った今ではあの罵倒も少しは慣れてくるものだ。決してMではないが、俺と雪ノ下の関係を感じるには最もなものであり、心地よく感じる時もある。

もう一度言うが決してMではない。

 

そして雪ノ下は自分を偽らない。だから他の人がいるこの状況でもいつも通り接してきた。仮面を被らないのは彼女の強さでもあり弱さでもあるって今話すことでないな。

兎にも角にも彼女はあくまでいつも通り接してきたわけだ。

 

それに対する我らが姉、大井姉である。

こちらは説明は不要だ。

ブラコン。これだけでわかる。言葉って素晴らしい。

 

この2つがぶつかるとどうなるか。

 

「…それを本人の姉の前で言う意味、分かっているんでしょうね?」

 

百聞は一見に如かず、とこの場で使うのも楽観的かもしれないけど、概ねそんな感じ。

実際大井姉は言葉からもう戦闘態勢っていうのがわかる。

 

「姉…?詳しくはわかりませんが、私と比企谷君はいつもこのような感じなので口出ししないで頂きたいのですが」

「…」

「…」

「はいはい、そこまでだよー。大井っちも雪乃っちも」

 

……危なかったぁ。北上姉いなかったら今頃戦場になっていたぞ。

俺?俺はもちろんビクビクしてたよ。ついでに吹雪もビクビクしてたからお互いに寄り添っていた。というか死を覚悟してたまである。

 

後に吹雪はこう語ったという。

「深海棲艦との戦い以上に怖い戦いってあったんですね」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「じゃあヒッキーって今5人で暮らしてるんだ!」

「大井先輩と北上先輩が比企谷君のちゃんとした姉だったとは…。流石に失礼だったわ」

「血は繋がってないから、厳密には義姉だけどねー。それでも3年は一緒にいたから、こういうの聞いちゃうと思うところが大井っちにはあったんだろうねー」

「ゆきのん、素直じゃないからすぐ罵倒になっちゃうんです」

「あーわかるよ、その気持ち。大井っちも素直じゃないからさー」

「「ちょっと?!」」

 

あの後自己紹介を含めた事情説明をしたらしい。

つーか変わり身早いな。さっきまでバチバチの冷戦状態だったじゃないか。

 

俺と吹雪はのそのそと勉強を再開している。だからあいつらが何話しているかはしっかり聞いてないからわからん。

それにしても吹雪のこと、最初は真面目だし努力家だから物語の主人公かって思っていたが、こういう状況で目立たずに隅で勉強してるあたりなかなかやるじゃねえか。

うん!君ヒッキーの素質あるね!

 

「でも大井っちは私と八幡には素直なんだよねー」

「えっ、そうなんですか?」

「そうだよ。家だと八幡にベッタリだから。ね、大井っち」

「当たり前じゃない。私と北上さんの八幡なんだから」

「「えっ?!」」

「私たち八幡のこと大好きだからねー。ねー八幡?」

「お?」

 

なにかしら、今ちょうど難しいところやってるんだから話しかけないでほしいのだけれど(雪ノ下風)

 

「あーはいはいあいしてるぞ〜」

「「えぇぇっ!!」」

「ほ、ほら私たち相思相愛だからさー。困っちゃうよねー、なんて」

「は、はちまんわたしのことあいしてる…?」

「お、大井っち?!しっかりして!」

「ゆきのん…」

「ええ…。非常にまずいわね…」

 

 

「なぁ吹雪、ここってどうやるんだ?」

「ああ、この問題私も苦戦したんですよね。ここはですね………」




UA 10000突破していました!
ありがとうございます!
初めての感想も頂けてほくほく状態です。
引き続き頑張ります!


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あぁ、共通テスト嫌だなぁ


先日終業式が執り行われ、ようやく待ちに待った夏休みがやってきた。

ある者は部活に励み、ある者は勉強に励む。

そんな各々に自由が与えられる期間、それが夏休みである。

もちろん俺は高校生活の折り返しを向かえる時期にあり、一切勉強をしないわけにもいかない。

宿題は初めの1週間で終わらせた、とまではいかないが、既に大半を終わらせて今後少しずつ消化していく予定だ。

 

何の為に?それは愚問である。

残りの日を目一杯バカンス(家)で満喫する為だ。

自分の部屋にこもってクーラーをガンガンにつけ、冷たいマッカンを飲みながらゲームやアニメを消化する。まさに天国。ゴートゥーヘブン。

って死んじゃうのかよ。

 

ただ一つ、問題が生じてしまった。

先程俺は『ある者は部活に励み、ある者は勉強に励む』と言った。

そう。『部活』である。

基本的に夏休みの間、学校がなく校内からの依頼がない為部活は休みになっている。

 

が、外部から学校に来る依頼、この場合はボランティア募集と言ったところだが、この案件になると話は別である。

何が言いたいかというと夏休みにも部活とあう労働に参加しなければならない。いや、賃金は発生しないから労働ではなくただのボランティア。発生するとしても内申程度だろうが、俺は元々成績は悪くないし貰ってもあまり嬉しくない。

 

ボランティアの内容は小学生の林間学校の手伝いをするというものだ。しかも一泊二日。

俺のバカンス計画に多少ズレが生じてしまうが、これくらいなら問題ない。だってずっとゴロゴロしたいだけだから。

 

そして今回も平塚先生による圧力で強制参加である。

さっき夏休みには自由が与えられると言ったが、どうやらアレは嘘だったらしい。

てか、今回の件は「どうせ俺が来るの嫌がるから」という理由で当日騙して強引に連れて行く予定だったらしい。怖いわ。

それもこれも吹雪がドジって俺に話してしまったことで台無しになった訳だ。

 

え?断らなかったのかって?

そりゃもちろんバカンスの為、断ろうとした。

でもさ、吹雪が涙目で上目遣いで「私、楽しみだったんですよ…?戸塚君も来るのに」って言って、君たち断れるの??

俺は無理だったよ。

 

今日はそのボランティアに必要な物を揃える為に、吹雪と2人でららぽーとに向かっている途中だ。

本当は家族5人で行く予定だったのだが、小町の宿題の目処が立ってなく期末試験もちょーっとマズかった為姉2人がつきっきりしている状態だ。

…アイツ、本当に総武高校受かるのか?姉達がいるからそこまで心配していないが…。

 

吹雪の服装はジーパンに青い無地のTシャツ、その上に白いパーカーを着ている。

なんというか、いつも出かける度にコーディネートって言って俺を着せ替え人形にする小町や大井姉と違って凄く楽だわ。

確かに見た目も大事かも知れないが、やはり機能性が大事だと思う。

こんなこと言ったらアイツらに怒鳴られそうだが…。

 

『次は南船橋ー南船橋ー』

 

「そろそろ着く頃だな」

「はい!電車も混んでますし、早めに降りたいですね」

 

そう、電車がめっちゃ混んでる。

俺らは夏休みであるが、社会人からすればただの平日だ。

彼らは夏休みシーズンの中お盆頃に訪れる、たった数日の休みの為に今日も出勤しなければならない。

この時期から休みを貰える社会人は少ないだろう。

幸い深海棲艦による打撃の復興中で働き口は多いし、こんな中皆一生懸命働いているのだろう。

結果的に、電車が物凄く混んでしまうのだ。てか俺の後ろにいるであろうおっさん、鼻息荒いしちょっと臭う。勘弁してください。

 

プシュー、と聞き慣れた音とともにドアが開く。

電車が破裂するかのように人が動き、俺らも巻き込まれる。

っておい。さっきのおっさんめっちゃグイグイ来るんだが。

電車降りてすぐにこんな人波に揉まれると凄く酔いそうだ…。

隣で同じように押しつぶされて死にそうになっている吹雪に声をかける。

 

「吹雪、とりあえずこの人波から抜けないか…」

「八幡兄さん、助けてくださいー!」

 

人に押しつぶされて、そんな!ダメです!って言っている吹雪の手を掴み、人波から脱出する。

幸いエスカレーターを一直線の列だった為、横にズレれば意外にも簡単に抜けることができた。

 

今もなおエスカレーターにギュウギュウ詰になっているスーツ集団を見て一言。

 

社畜って嫌だなぁ。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

流石夏休みのショッピングモール。

まだ午前なのにこの時間からめちゃくちゃ混んでるが、電車で耐性がついていたのかスムーズに買い物ができたと思う。

 

「虫除けやムヒも買ったし、後はお菓子ですね!」

「あいつ、遠足じゃねえんだから…」

 

小町からのメモにある大量のお菓子の名前の羅列に若干引きつつもメモ通りカゴにお菓子を放り込んだり、

 

「やっぱサイゼは神」

「私は大井先輩のご飯が1番です!」

「いやまあ、それはそう」

 

吹雪にサイゼの素晴らしさをスピーチしたり、

 

「どっ、どうでしょう…?」

「ん?世界一可愛い」

「えっ???///」

 

洋服店で白いワンピースを試着してる吹雪を見て、「雪ノ下さんも大井姉も似合いそうだけど、性格が真っ黒だからやっぱりダメだな」とか思ったり、

 

「ここは俺に任せろ」

「はいっ!あのぬいぐるみをお願いします!」

「…よし!ここだ!」

「おぉー引っかかった!……あ」

「…」

「そ、そういう時もありますよね〜。なんちゃって」

「はちまんおうちかえる」

「ま、待ってください!!」

 

……新たな黒歴史が生まれたりした。

 

「とっても楽しかったです!!」

「そりゃ良かった」

 

時刻はもうすぐ午後4時。

夏だから日没はまだまだだが、そろそろ帰ってもいい頃だ。

吹雪は本当に満足しているようだった。

 

「そろそろいい時間だし、帰るか?」

「あの…一つだけいいですか?」

「おう」

「海に…海に行きたいです」

「海、か…」

「はい…」

 

先程とは打って変わって少し不安な表情をしている吹雪。

こいつら、艦娘にとっての海とはなんだったのだろうか。

3年前、姉達とであってからずっと考えていた。

吹雪はどんな考えを持っているのだろう、気になった。

そういえば、北上姉達が吹雪について言ってたな。海に行けば何か掴めるかもしれん。

 

「よし、まだ時間はある。行こうぜ」

「…はい!」

「ところで海とは言ってもどこに行くんだ?」

「えっと、南船橋も海に近いですが、東京湾側なので被害は少ない方です。……そうですね。九十九里浜とかどうでしょう」

「真逆じゃねぇか。でもまあ、日没までは時間があるからな」

「そうですね。行きましょう、八幡兄さん」

「ああ」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

南船橋から東に1時間半かけて九十九里浜までやってきた。

時刻は午後5時半。まだ明るい。

最寄りの駅から目的地まで歩きはじめ堤防へたどり着いた。

…やはり太平洋沿岸部はまだ他に比べると、ダメージが深い。

交戦中の流れ弾だろうが所々堤防に弾痕があったり、そのものが崩れたりしている。近隣の住宅も砲撃を受けていたのか、倒壊している場所もある。

今も高校生として普通に過ごしているから忘れかけていたが、この状態を見て今一度気が引き締められた気がした。

 

堤防を降り、ザッザッと砂浜を歩く。

 

「…」

「…」

 

吹雪は海が見えるようになってからずっと無言で海を見つめている。

いつも見ているような顔とは全くちがう、とても強い表情をしている。

それもそうだ。彼女達は命をかけてここで戦っていたのだから。

深海棲艦との戦闘を思い出しているのか、それとも艦娘としての思い出を振り返っているのか。それとも…

 

「…決して目を背けていた訳ではないんです」

「ああ」

「ただ封印から解放されて、今まで見てきたものは全て『守れたもの』だったんです。…こうして『守りきれなかったもの』を見るとですね…」

「ああ、そうだな」

 

そう言って吹雪の頭を撫でる。肩を震わせていた吹雪は嗚咽を漏らす。

本当なら、何か少しでも肩の荷が降りるような言葉をかけてやりたい。

「君が今生きているだけで十分だ」なんて言葉をかけられたら、とってもカッコいいお兄ちゃんだ。

でも俺はそんな言葉をかけられない。なぜなら俺も強いからだ。

だからこう言ってやるんだ。

 

「もっと自分が被害を受ければ、守れたものが増えたかもしれない」

「…え?」

「俺はぼっちなんだ。……ぼっちは強いんだぞ」

「…」

「正しいとか間違っているとかじゃないんだ。残酷なことに皆がハッピーより、誰か1人を悪にした方が効率がいい。そうだろ?」

「……ふふっ。そうですね」

 

泣き止んだ吹雪は顔を上げて、再び海を見つめる。

つられて俺も海を見つめる。もう少しで日が沈む。

段々と赤みがかっていく空。とても幻想的だ。

 

「八幡兄さんに会えて、よかったです。私、話したいことがあるんです」

「ああ、知ってた」

「それでは……ッ?!」

 

海からこちらに視線を戻そうとした吹雪が固まった。

 

「…これから話そうっていうのに、タイミングが悪いですね」

「何がどうしたっていうんだ」

「細かいことは後で話します。今は手短に話します」

「…わかった」

 

そう言うと吹雪は満足そうに頷いて、海を指さす。

 

「奴らが、来ます」

「奴らって……あ、アレはッ!」

「そう、深海棲艦です」

「この際、理由は聞かない。俺はどうすればいい?逃げて助けでも呼ぶか?」

「いえ、実は私にはまだ艦娘の力が残されています。でも半分人間でもあります。前のように自ら艤装を展開することができません」

「元より、私たちは自分だけでも十分戦えるのですが、一つの存在があるだけで更なるパワーアップができます」

「恐らくその条件を満たせば、私はまた艦娘として戦えるはずです」

 

そう言って吹雪は強気に微笑みながら俺に手を差し伸べる。

 

「八幡兄さん。私の『司令官』になっていただけませんか?」

 

俺はその姿に笑いながら手を掴む。

 

「俺たちは似てるからな。わかった」

 

その瞬間、吹雪の姿が変わった。

俺と吹雪が初めて出会った時に着ていたセーラー服。

前と違うのは背中に抱える鉄の塊、右手に持つ主砲、足にかかる魚雷。

『駆逐艦』吹雪である。

 

吹雪はこちらを見つめて微笑み、また海を見つめる。

そして、

 

「駆逐艦、吹雪!出撃します!!」

 

海へと飛び込んでいった。




先程、お気に入り100件になっていました。
ありがとうございます!
これから少しシリアスが増える予定です。
よろしくお願い致します。


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前回の続きです。


時刻は午後6時。太陽が沈むのもあと少しだろう。

段々と空だけではなく海も段々と赤みがかってくる。

 

そんな海の上で戦う、駆逐艦吹雪。

戦っているのは封印されたはずだった深海棲艦。

北上姉や大井姉によると、艦娘や深海棲艦については機密事項であることも多く、世に余り情報が出回らなかったとのこと。

ただ少しでもその様子を法に触れないように映したマスコミや、実際に襲撃を経験している俺は一般の人より少しだけ、わかる。

 

あれは確か……駆逐イ級だった気がする。それも3隻。

駆逐イ級自体はそこまで脅威では無いはずだが、3隻もいるのに対しこちらは吹雪ただ1人。

明らかに劣勢になると思っていたが……。

 

「ふっ…!」

「ギィィィィ!!」

「今だ!主砲撃てー!」

 

ドォン!

 

「ガァァァァァァッ!」

 

全然そんなことはなかった。流石は艦娘だ。

スケートのように滑らかに海上を滑って敵の攻撃を躱し、一瞬の隙をついて砲撃をする。

昔襲撃された際も艦娘との戦闘を見たが、あの時はもっと砲撃戦だった。インファイトで深海棲艦と人間離れした戦いをする吹雪を見て。

 

「すげぇ…」

 

どうやら声にも出てしまっていたようだ。

でも辺りには誰もいなそうだし……

 

「ふふん!わたしたちのふぶきはすごいんだ!」

「おそれをなすがよい!しんかいせいかんめ!」

「うおっ!なんだお前ら!」

 

気付いたら手の上とかにちっこい人の形をした生物がいた。

両手を腰に当てて、……多分さっきのセリフを聞くに胸を張っているのだろう。

ってそこのお前「おそれをなすがよい!」で俺を指差したよね?

俺、深海棲艦じゃないからね??

 

するとチビ達はビシッと俺に向かって敬礼をする。

てかさっきより数が増えてる。うじゃうじゃいすぎだよ。

 

「われわれは」

「ようせいです!」

「かんむすの」

「みかたー」

 

「じゃあアレはお前達が動かしてるってことでいいのか?」

そう言って吹雪の艤装を指さして見せる。

妖精達はうんうんと頷く。

 

「そうだぞ!」

「げんみつにいえばわたしたちとていとく」

「ふぶきのていとくはあなたです!」

 

なるほどなるほど。「司令官になってください」に応じたことで俺は吹雪の提督になったと言うことか。こいつらが見えるようになったのもその影響なのかもしれん。

 

「まあ、よろしく頼む」

 

「まかされたー」

「がってんしょうち」

「さすがにきぶんがこうようします」

「ていとくはたたかいのしじもだすよー」

 

「え?マジ?俺何もわからないんだけど」

 

俺海軍用語とか全く知らないんだけど。

やれやれー!はやくーなどとと妖精がうるさいのでとりあえず戦闘の様子を見る。

俺たちが話している間に一隻撃沈させ、2対1で交戦中の吹雪。

深海棲艦の駆逐艦は口内に主砲があり、その主砲で攻撃しているが吹雪は巧みに躱して次々とダメージを与えていく。

 

「いけっ!」

ドォン!

「ギッ!!」

「よし!まともに戦えるのはあと一隻!」

 

吹雪の攻撃が命中し、一隻が大破する。

…いやほんとに何もない。むしろ下手に突っ込まない方がいいまである。

とにかく、これで残り一隻と一騎討ちだ。

今の様子を見ていて吹雪の方が圧倒的に強い。素人目線だが、勝つのは時間の問題だろう。

 

「っ!」

 

と思っていたらあとさっき大破したイ級が沈みながらも吹雪に標準を当てているように見える。

吹雪は最後の駆逐艦に集中しているため気付いていない。

 

「吹雪!右後ろから攻撃来るぞ!!」

「!」

「ギギギ!!!」

 

思ったより簡単に指示、とは言えないかも知れないが、吹雪に気づかせることができた。

俺が言ったあとすぐに駆逐艦が発砲するが、不意打ちは失敗だ。

やろうと思えばできるもんだな、と思いながらなんとか間に合ったことに安堵する。そこ、ただ声出しただけとか言わない。

ボッチには声を出すのでさえ難しいんだよ。

 

「いっけぇぇー!!」

 

吹雪は不意打ち(失敗)を避け、大破艦には魚雷、もう一隻には主砲を浴びせる。今日一番とも言える直撃の爆発音が聞こえた。

流石にあの攻撃を喰らって仕舞えば、撃沈したに違いない。

 

…それにしても

 

これが、艦娘。

あの人間では手のつけようがなかった深海棲艦と渡り合った力。

 

「八幡兄さん!」

「おう、ふぶ…」

 

初めて体験することが多くて頭が混乱しかけたが、吹雪に呼ばれて彼女の方をみて返事をしようと思った時。声が止まってしまった。

 

時刻は恐らく6時半ごろ。

太陽が水平線に沈みかけ、空は赤く。

海に沈んでいく深海棲艦の血が広がって海は紅く。

俺の視界全体が一瞬真っ赤に染まったように見えた。

俺のような一般人が見ることができないような世界の残酷な一面。

 

しかし、彼女だけは違った。

吹雪は顔をこちらに向けて微笑んでいる。

 

声は届くが手はどれだけ伸ばして届かないだろう。

そんな感覚に胸が苦しくなるが、夕焼けの中の彼女の笑顔を見るだけで苦しさが麻痺する。

 

簡単に言えば彼女に見惚れていた。

奉仕部の部室で本を読む雪ノ下、人を想って泣きながら笑う由比ヶ浜。

彼女たちとも別次元にあるように感じてしまった。

 

「八幡兄さん!」

 

もう一度、吹雪は俺を呼ぶ。

今回も声は出なかったが、吹雪は水平線を指差し続ける。

 

「暁の水平線に勝利を刻みなさい!」

 

そういう彼女を見て、誰かに『今回ばかりは言い訳できないぞ』と言われてるような気がした。




まずはすみません。
…戦闘描写、マジで無理です。
書いててこんなに虚しくなるとは思っていませんでした()
今回ばかりは駄文でほんと申し訳ないっす。内容も超薄いし。

本当は9話はもう少し長めの予定でしたが、戦闘描写の拙さと区切りの問題で少し短いですがここで切らせていただきます。

…いやーマジで戦闘描写やべぇ

代わりに次回の内容はある程度決まっていますので、なるべく早く投稿できるように頑張ります。
というか、ある程度の流れは自分の中で決まっているので、あとはうまく文章でまとめられるかになりますね。はい。

…マジで戦闘びょ(ry


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10

先日はお見苦しい所を見せました。


ガタッガタッと電車に揺られながら、席に座ってすっかり暗くなった外を眺める。

九十九里浜を出た時は街頭もなく真っ暗だったが、徐々に住宅街の灯りが増えていき明るくなっていった。

電車には俺と吹雪、あと妖精達のみだ。

さっきまで幻想的な異世界に踏み込んだかのような感覚になり、電車もガラガラで外は真っ暗。

本当に異世界に来てしまったのでは、と思ったが住宅街が見えてくるにあたって安心するかのような、逆に残念に思っているような自分がいる。

 

深海棲艦を撃沈させた後、吹雪と合流し暫くはお互いに一言も話さずに砂浜に座って日が沈み行く様子を眺めていた。

日が沈みきって暗くなりそろそろ帰ろうかと考えていた頃、大井姉から心配の電話がきて急いで駅まで向かったわけだ。

3人には後で遅くなった理由を説明することにしている。

 

それはさておき、帰るまでにまずはやらなければならないことがある。

そう、吹雪が話すと言っていたものだ。

幸い、九十九里浜から家までは遠く時間がかかる。

 

封印されたはずの深海棲艦。

妖精という未知なる存在。

駆逐艦としての吹雪。

司令官という存在。

 

時間は十分ある。ゆっくり話そう、吹雪の方を見る。

すると吹雪もこちらを観ていたのか、ピタリと目が合う。

 

「…」

「…」

「…ふふっ」

「?なんだ?」

 

顔に変なものでもついているか、と顔をペタペタと触ってみるが、特になにもない。

…もしかして、遠回しに目のこと馬鹿にしてるのか?

吹雪はクスッと笑って続ける。

 

「いえ、考えることは同じですね」

「あぁ、そういう…」

「はい!」

 

何故か満足げに返事をする吹雪。

まあこいつは毒を一切吐かないからなー。それどころか心の内を暴露して自滅するタイプ。って思い出したら笑えてくる。

 

「ふっ」

「ふふっ。…それでは話しますね」

「おう」

 

なんとなく話がすれ違ってた気がするが、それはそれだ。

ここからは真面目な話。吹雪も真剣な顔で話を始める。

 

「最初に、八幡兄さんは深海棲艦が封印されていることは知っていますね?」

「おう」

「私はその封印の犠牲者です。厳密に言えば自分から申し出たので犠牲ではないんですが…。その人柱になった艦娘が解放されています」

「つまり、封印が解かれているということか…?そうすればさっきの深海棲艦の襲撃とも辻褄が合うな」

 

はい、と頷いて吹雪は続ける。

 

「少なくとも私はこうして人柱から解放されているので、封印は弱くなっていると思います。これから少しずつ深海棲艦が復活してくるかもしれません」

「なるほどな。一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「はい、なんでしょう」

「そもそもの話、何故海軍は封印することを選択したんだ?」

 

封印することで深海棲艦の脅威から逃れることはできるが、それも一時的に過ぎない筈だ。

どの辺りまで有利になって封印を選択したのかはわからないが、封印で抑えられる程の力しか敵が持っていないのだとしたら殲滅した方が良かったのではないのだろうか?

 

「理由はいくつかありますが、表向きの理由としてはなるべく早く戦争を終わらせたかったからです」

「それは殲滅にはかなりの時間がかかるということか?」

「はい。海での戦いとはいえ、世界の各地にダメージがありました。皆さんの不安もそうですし、早く建て直しを行いたかったのです。戦争を続ければ深海棲艦は絶滅出来たかもしれませんが、経済などへのダメージはより深刻になっていたと思います」

 

「更に言えば敵の主力は潰しきったので、残っていたのは残存勢力のみです。封印することで弱体化させることもできて、メリットの方が多かったのだと思います」

「そういうことだったのか。確かに戦争が長引がなかったからこそ今ここまで復興しているわけだ」

 

「先程表向き、と言いましたが、もう一つ大きな理由があるんです」

「とすると裏向き、あまり話されてない内容ってことか」

「はい。八幡兄さんは深海棲艦についてあまり詳しくないと思いますが、彼女らの内強い個体は人間や艦娘と同じような姿になるんです。簡潔にいうと、深海棲艦と艦娘の元は同じということです」

「となると艦娘は自分達と同じ存在とずっと戦っていたのか…」

「はい。実際は髪や目など結構変わるので全てが一緒ではないですよ!とはいえ、深海棲艦を倒した跡から艦娘が生まれたりすることもあるので、これは間違いないです」

 

「逆に言えば、艦娘が轟沈すると深海棲艦になるということです。多少なら犠牲も妥協して殲滅するべきでしたが、残念なことに当時の海軍も腐っていました。私の鎮守府はそんなことはありませんでしたが、劣悪な環境のブラック鎮守府や未熟な司令官が指揮をして沢山の艦娘が命を落としたりなど倒して倒されての均衡状態が崩れなかった」

「だから封印することで強制的に戦いを終わらせたってことか」

「封印することでこちらも犠牲は抑えることはできますし、封印された彼女達の力も削ることができました。これが封印に至った経緯です」

 

そう言って吹雪は一息つく。

なるほど、深海棲艦と艦娘が同じというのはビックリだ。

艦娘は深海棲艦との戦いで得られるが逆も然りということか。

少しでも犠牲を少なくする為に自分を使う…。

それこそ『最善』だ。とても共感できる。

 

「だが、吹雪が解放されたことによって再び復活しているということか」

「はい。ここからが本題なのですが…」

 

そこで急に吹雪は俺を見ながら俺の手を取る。

 

え?急にどうしたの?ドキッとしちゃってるんですけど!

俺の手を取る吹雪はめっちゃ真面目な表情してるからツッコミ出来ないし…。

 

「八幡兄さんには艦娘を率いることのできる司令官の素質があります。私たち艦娘は司令官と共にいることで力を発揮できます」

 

「私が解放されたことで深海棲艦もこれから少しずつ現れてきます。それこそ戦時中のような戦いにはなりませんが、私だけでは厳しい部分もあります」

 

「まだ色々な場所に人柱となった艦娘が眠っています。今度こそみんなで確かな平和を掴みたいです」

 

「八幡兄さん、みんなを守る為に力を貸してください!」

 

真っ直ぐに俺の目を見つめながら強く話す吹雪をみて、さっきまで少しおちゃらけていた自分が馬鹿らしくなった。俺としては当然OKだ。

 

「おう、いいぞ」

「あ、あれ?結構アッサリ…?」

「そりゃ、俺は浜辺で吹雪の手を取った時に司令官になったと思っていたからな。そのせいでこの妖精達も見えるのかは知らんが。てっきり吹雪もそうだと思っていたんだが」

「た、たしかに」

 

うん、やっぱりこの子ちょっと抜けてるね。

憎めないアホさだからタチが悪いけど。

 

「それに俺らは家族だろ?」

「…はい!」

 

真面目な顔だったが途端に顔を綻ばせる。

北上姉から駆逐艦は子供っぽいとは聞かされていたが、こういうところなのかもしれないな。

 

「ところで吹雪」

 

そう言って吹雪の顔をしっかり見つめる。吹雪は顔を紅く染めて「え?…え?」とか言ってるが気にしない。

未だに吹雪に掴まれている手を目の前に持っていった。

 

「そろそろ手を離してもいいんじゃないかなーって」

「…」

「…吹雪?」

「あっ///ごめんなさい!!」




すみません!遅くなりましたぁ!!
なかなか納得いくものにできず時間が過ぎて行きました…。
小説って難しいなぁ

小説描き始めてから気づいたことなんですが、ハーメルンって機能が多いですね。
誤字報告って機能素晴らしい。報告してくださった方ありがとうございます。
しっかり読んで頂けているととらえるとモチベ上がりますね!今後も頑張ります!


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