ロクでなしとチート主人公 (graphite)
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第一巻 ロクでなしとチート主人公
プロローグ


アルザーノ魔術学院────

ここアルザーノ帝国でも有数の魔術学院に俺、ナハト=リュンヌは通っている。最もこの名は本名ではなく、仮の名前であり今の容姿も魔術によって偽装した偽りの姿である。

 

そして、本当の名はナハト=イグナイト。そして、若くして軍に所属している。その本来の容姿は家系特有のきれいな赤髪の少年だ。現在はとある事情.........言うまでもなく任務で今は唯一の家族である姉さんと軍上層部の支援のもと名を変え、また現在の容姿も顔の造形、髪色も銀髪に変え軍に与えられたある任務のためこの学院に通っている。まぁ軍でも顔を隠してるから外道魔術師たちには”無貌の月”だとか言われてたりする。

 

まぁ学院に通うのは、任務なわけだが案外悪くない。むしろ楽しく思っていたりする。きっと姉さんは普通の男の子として学院で暮らしてほしいとも思っていたんだろう。あの人は不器用だけど凄く優しい尊敬する姉だ。まぁ少しいきすぎなところもあるがそれは置いておくとしてそろそろかな?

 

 

「お~い!ナハト~!」

 

「ん?おはよシスティーナ。ルミアはまだなのか?」

 

「おはようナハト。ルミアならもう少しで来ると思うわ」

 

彼女はシスティーナ=フィーベル。うちのクラスではトップクラスの成績を誇る才女だ。まじめすぎるがゆえに要領が悪いこともあるが優しい女の子だ。まぁ最初見たときは自身の知り合いに似ていてかなり驚いたりした。根本は似てても性格は真逆だから余計にだった。

 

「そうか。それじゃもう少し待ちだな」

 

「えぇそうね。そう言えば今日って非常勤講師の人がくるってアルフォネア教授が言ってたわね。どんな人かしら。フューイ先生ほどじゃないにしろ少しでもいい教師ならいいのだけれど」

 

「そういえばそうだな。案外フューイ先生以上の人だったりしてな」

 

実を言えば誰が来るかは知っている。もと俺の同僚の人でとても正義感が強く姉さんとよくケンカしていたあの人。でもあの人は大丈夫なのだろうか。あの人の正義感は俺からしたらすごく眩しくて憧れていたけれどもある事件がきっかけで軍を抜けてしまった。確かにあの人なら魔術を教えることに関してはたぐいまれなものを持っていると思う。俺も結構世話になったりしていた。けれどあの人が負った心の傷はとても深い。

 

「ナハト?なんか急に黙り込んじゃったけど大丈夫なの?」

 

「ん?あぁ大丈夫さ。そろそろルミアも来るんじゃないか?」

 

俺はどうやら少し考えに集中しすぎたようだ。それから少し他愛ない世間話をしているともう一人の待ち人が来た。

 

「二人とも待たせてごめんね?」

 

「大丈夫だよルミア。まだ時間には余裕があるしな」

 

「えぇ大丈夫よルミア。でももう少し朝に強くなれるようにしないとね?」

 

「ありがとう二人とも。それじゃ遅刻したらいけないから行こうか?」

 

彼女はルミア=ティンジェル。彼女も同じクラスでとても人当たりのいい聖女のような女の子。まぁ彼女に言ったらそんなことないと照れながら否定してしまうだろうがクラスではほとんどのものからそう思われているほどに彼女の人気は高い。そして彼女を守ることが俺の任務でもあるわけだ。理由は彼女の秘密にあるが.................そのことはまた今度でいいだろう

 

「えぇそうね。行きましょうか」

 

「あぁ、そうだな」

 

俺達はいつも通り三人で学校に通っていいた。二人とは全学年の後期に編入してきた時からの付き合いである。護衛任務のため接触してみたらいつの間にかほとんどの時間を彼女たちと過ごすようになっていた。任務の都合上はいいのだがクラス内外問わず男からの目線が鬱陶しい。彼女たちの容姿からしてみれば当然なのだがもう少し控えて欲しいのが本音だ。

 

俺達はたわいない話をしながらいつも通り通学しているとある噴水広場にさしかかると一人の青年が鬼のような顔をして爆走してきた。

 

ん?もしかしてあの人......................

 

俺がその人の正体を考察していると、二人にぶつかりそうだったので反射的に走ってきた人を体術で投げ飛ばしてしまった。

 

「あっ、やっべ。」

 

「のわぁぁぁぁぁ」

 

 

バッシャァーーーーン!

 

投げられた男は野太い声を上げながら噴水に着水した。

 

「ちょ!ナハトまずいんじゃ............」

 

「つい反射的に。取り敢えず少し様子見に行ってくる」

 

俺は噴水に急いで向かうとそれに続いて2人も来たようだ。

 

「すいません。咄嗟に投げてしまって。平気ですか?」

 

「私からも友人のナハト君がすいません!」

 

俺は投げてしまった青年に謝罪する。それに続いてルミアまでもが謝っていた。わざわざルミアにまで謝らせて申し訳ないと思いながら青年の顔を確認するとやはりその青年は俺の頭に思い浮かんだその人であった。

 

「フッ大丈夫さ少年少女たちよ。何しっかり謝罪してくれたんだ許さないわけがないだろ?でもこれからは飛び出さないように気を付けるんだぞ?」

 

あんたがぶつかってきて俺が投げ飛ばしたんだけどなと俺は心の中で突っ込んでいた。二人もなんとも微妙な表情を浮かべていると.................

 

「ん?どっかでお前............」

 

そう言いながらルミアに顔を寄せ至近距離から見つめると次々と体のあっちこちを見た後さらにボディタッチまでしている。いやあんたそれセクハラだし。姉さん見てたら間違えなく焼かれてるぞマジで?まぁあの人もあの時一緒に来たからどこか記憶に引っかかっているんだろう。

 

まぁ、そんなことをすればシスティーナが黙っているはずもなく。

 

 

「何気安く触ってんのよぉ!」

 

システィーナが罵倒と同時に黒魔術《ゲイル・ブロウ》を発動させ吹き飛ばす。今回はさすがに擁護することもできず俺達は放置して学院へと向かった。

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

俺達は学院につくと数名のクラスメイトと話し手から席につき授業の準備をして噂の非常勤講師を待っているわけだが…………

 

 

 

「遅い!もうとっくに授業時間過ぎてるのに、来ないじゃない!!!」

 

 

本日二回目のシスティーナの大声だが確かに遅いなあの人。いくらあんなのくらったとはいえあの人ならぴんぴんしてくるだろうに。

 

「まあまあ落ち着こうよ、もしかしたら何か理由があるのかもしれないし…..」

 

「まぁ確かに遅いがルミアの言う通り落ち着きなよシスティーナ」

 

俺達が荒ぶるシスティーナをなだめていると

 

「2人は甘すぎなのよ!真に優秀な人なら不測の事態にも対応できなきゃダメなのよ!」

 

「そうかな・・・・」

 

 

まぁシスティーナの言うことは一理ある。というか俺は.................俺達は修羅場を乗り越えるために常にそれをしてきたしもっともなのだが

 

「そう怒っても仕方ないだろ?とりあえずやれることやっとこうぜ?」

 

「うっ!まぁそうね、ぐちぐち言っても仕方ないし勉強するわ。でも文句の一言二言言わないと気が済まないけど」

 

そうして俺達は自習の準備を始める。と言っても俺からしてみればここで学ぶことはすでにほとんど学び終えているので結構つまらない。まぁ普段は手を抜いて軍のものだと思われないようそこそこ優秀な生徒を演じているので一応今の範囲の復習をする。そうしているとすぐに待ち人は来た

 

「わりぃ、遅刻したわ~」

 

何ともやる気のない、そして謝る気もない謝罪だ。彼の事情から仕方ないといえるが。

 

「やっと来たわね!非常勤講師。最初の授業から送れるなんて…どんな神経して.........」

 

システィーナは入ってきた青年を見ると驚愕の表情を浮かべる

 

「あ、貴方朝にルミアにセクハラまがいの事をしてきた...........」

 

「......いいえ、人違いです」

 

「あなたのような人がそういてたまるものですか!」

 

「違いますぅ。人違いですぅ。」

 

 

それからまた少し言い合ったのちに落ち着きまずは彼の自己紹介を聞いた。名前はグレン=レーダス。俺は知っているがな。取り敢えず授業についてどうするのかという話になった

 

 

するとグレンさんは、.................いやグレン先生は黒板にでかでかと自習と書いていて理由は眠いからと言い寝てしまった。それからもシスティーナは噛みついていくが一向に相手をせずにいた。それは数日間にわたっていた。その間俺はというとルミアと一緒に教え合っていた。一応手抜きの成績がばれない程度の範囲で教えているのだがどこかルミアには俺の事がばれているように感じることがある。どこまでばれているかは疑問だが何故かすべてばれているような気がしてならない。まぁばれていたところで大きな支障があるわけでもないのでいいかと思うことにした。ルミアの性格からその疑問を他人に打ち明けるとは思えないしな。そんな感じで数日過ごしていると遂に事件が起きた。

 

「あ、あの先生。ここのルーン語の翻訳が分からなくて」

 

気弱な少女リンの先生に対する質問がきっかけだった。それの対応として先生が対応する前にシスティーナが口をはさむ。

 

「無駄よ、リン。その男には魔術の崇高さも偉大さも理解してないんだから、その男に教えてもらうことはないわ」

 

その言葉にリンは困惑の表情を浮かべる。彼女は気弱ながら先生の援護のために声をかけたのだろう。だが先生は俺以外予想だにしないことに珍しく反応する。俺はまずった、止めればよかったと思いながらもここの生徒にはいい薬かと思い放置することにした。

 

「魔術ってそんな崇高で偉大なもんかね?」

 

その言葉に俺以外の生徒は黙りきる。まぁ”こっちの世界”を知らない彼ら彼女らからしてみれば当然か。

 

そのあとシスティーナは即座に反論した。魔術とは世界の真理を追究する学問だと。対して、グレン先生は他者に還元できないものは趣味であると。どちらも極端であるものの間違いではない。

 

だがここでグレン先生は追い打ちをかけるように口を開く

 

「嘘だよ魔術は役に立っているさ...............................人殺しにな!!!」

 

 

最後の部分を顔をゆがめさせながら強調しながら全員に向けて言葉の刃を放つ。奇妙な圧を感じたのか生徒たちは圧され気味になる。それから魔術がいかに戦いにおいて有利に立てるかという生々しい話を生徒にする。さすがに十分かと思いとめようとするがその前にシスティーナが我慢できず先生の頬を平手打ちし教室を出て行ってしまった。

 

「ルミア。システィーナを頼む。俺もあとから向かうから」

 

「もとからそのつもりだからいいけど、ナハト君はどうするの?」

 

「大したことはないけど少し行っとくべきことがあるからさ」

 

そういうとルミアは疑問な表情を浮かべながらもわかったといいシスティーナを追いかける。少し遅れて先生も空気に耐えられなかったのか退出していく。そのあと誰かはわからないが愚痴をこぼす。

 

「...................なんだよアイツ。頭おかしいだろ」

 

そういうとほかのやつらも同調し始めていた。そこで俺は口を開いた

 

「まぁ先生の言い分は正しいぞ?確かに極端ではあるけど」

 

「はぁ!?お前何言ってんだよそんなわけ................」

 

「”そんなわけない。”なんて言えないだろ?なぜなら事実だからさ。魔術以上に戦場で猛威を振るうものはない」

 

「だけど、それでも.....................」

 

「それでもシスティーナの言う通り光の部分もある。まぁシスティーナもクラスのみんなもいささか行き過ぎたところがあるが正しいと思うぞ俺は?」

 

「ならナハトは何が言いたいんだよ?」

 

「別にただ魔術はあくまで一つの力、手段と言いたいのさ。そこに善悪や意志などないただの”もの”だってね。肝心なのは力を振るう本人ってこと。あの人は魔術関係で苦しいことをたくさん経験しすぎてひねくれたんだろうさ。まぁ、みんなにとってもいい薬になっただろう?」

 

そう言って俺は教室を出てシスティーナを追いかけに行った。教室に残された生徒たちはナハトの言葉を反芻しながら思考の海へおぼれていきお通夜雰囲気になっていた。

 

 

それから俺はシスティーナのもとへ行き、さっきクラスで言ったことと同じことを伝えた。するとより落ち込みそうになりルミアが俺の手の甲をつねっていた。痛いですよルミアさん?それと俺の話はまだ終わってないですしシスティーナをいじめるつもりはないですよ?

 

「ルミアさん?誤解するようなこと言ったのとタイミングが悪いことは謝るからちょっと待ってくれ。......なぁシスティーナいつか話してくれたじゃないか。どうして魔術を勉強するのかを。おじい様とお約束なんだろ?そのために魔術は必要なら他人の言うことなんて気にしなくていい。別にその魔術の使い方は悪なんかじゃない。それにもしシスティーナが道を間違えそうになったら俺とルミアが止めるさ」

 

俺がそうシスティーナに伝えると「ごめんね?」と少し申し訳なさつつあざとくウインクしながら手を放すルミア。俺も軍人とはいえ年頃なので少しドキマギしつつも大丈夫だとポーカーフェイスで伝える。

 

「そうだよシスティ!元気出して?」

 

「そうね.............そうよね、ありがとう二人とも。」

 

「気にするな俺達親友だろ?」

 

そう言って俺達は笑いながら昼の時間までさぼって談笑していた。

 

 

夕方、俺達の下校時間になるとルミアが俺に声をかけてきた。なんでも「方陣構築の復習手伝ってくれないかな?」とのことだった。俺は一応彼女の護衛なので彼女が学院から離れないのなら残るつもりだった問題ないことを伝えると嬉しそうにはにかみ「着いてきて」と上機嫌で移動開始した。

 

 

場所は変わり実験室。意外なことにルミアはやんちゃさんでカギをこっそり盗んできていた。

 

「内緒だよ?」

 

そう言ってウインクする彼女はあざとくもありながら魅力的だと思った。まぁ例のごとく俺は軍人だ。例えドキマギしても顔には出さずに笑いながら

 

「あぁ、二人だけの秘密だな?」

 

そういうと何故かルミアが顔を赤らめていた。なぜだかわからずいたのでルミアにどうしたか聞くと「だ、大丈夫だよ?」と言ったのでこれ以上は詮索しないようにした。

 

(うぅ~ナハト君のばか////二人の秘密だなんて..........)

 

そんルミアの心情はいざ知らず教科書を取り出してルミアに渡すとルミアは方陣構築を始める。しかしうまく発動せず俺の貸した教科書とにらめっこしておりその姿はとても微笑ましかった。そろそろ教えてあげようとすると人が近づいてくる気配を察知した。これはきっと.........

 

 

「おーい実験室の個人使用は禁止だぞ?」

 

グレン先生登場だ。俺は気が付いていたけどルミアは気づいていなかったので驚いた様子だった。

 

「すいません先生。すぐに片づけますから。」

 

だが先生は..........

 

「いいよ続けな。ここまでやったんだ勿体ねぇ」

 

「でもうまく起動させられなくて.........」

 

しょんぼりしながら答えていると先生が

 

「バーカ。水銀が足りてないだけだよ。てかそこのお前は気づいてたんじゃねぇのかよ?」

 

「えっ!?」

 

「先生が来てなかったら言うつもりでしたよ。すぐに言ってもルミアのためになりませんしね。あとは悩んでるルミアの姿があまりにも微笑ましくてついね」

 

そう言って俺はいたずらっぽく笑みを浮かべ行った。するとルミアは少し赤面しつつ「ナハト君酷い」というのでいたずらしたことを謝る。

 

「イチャイチャすんな。ほれこれでいいだろ。やってみろ」

 

その言葉にさっきよりもルミアは顔を赤らめている。そこまで俺とそうみられるのは嫌なのかとルミアからしたら見当違いなことを考えている俺。するとルミアは深呼吸して詠唱を始めた。

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ》」

 

 

すると今度はうまく起動した。ただの実験室が神秘的な輝きがともる。

 

「わぁ!とてもきれい!」

 

俺も思っていたよりもきれいだったので少し見入っていた

 

そんな俺達をどこか冷めたようで眩しいものを見るようにグレン先生が見て

 

 

----------------------------------------------------------------------------

 

俺達はそのまま先生と一緒に帰ることになった。ルミアの要望である。俺としても別に断る理由もないし了承して夕日の中三人で帰宅していた。

 

「先生ってホントは魔術好きですよね?」

 

「はっ?ありえねぇよ、俺は魔術が大っ嫌いだ」

 

「でも先生あの時の表情、私にはそうは思えませんでした」

 

「.........まぁ、いい。それにしたってお前らは何でそうやって真面目に勉強するんだ?」

 

「俺は特にこれといったものはないですね。ここには姉の勧めで入っただけですし」

 

「なんだお前シスコンか?」

 

先生がそうからかうように突っ込んでくる

 

「さぁ?どうでしょうか。少なくとも俺のただ一人の家族ですからね。そうかもしませんね」

 

「ねぇ?からかっているのにそんな重い返ししないで!いや俺が悪いけどさ!」

 

「すいません先生。悪ノリしすぎました。本当の事ですけど気にしないでください。今はとても充実しているので」

 

「..........そうかよ。んでお前は?」

 

やっぱり優しいなこの人。いつもこの人は顔に出てるから考えが分かりやすい

 

「恩返ししたい人たちがいるんです.................」

 

「ほぉ~恩返しか...............って何だそりゃ?」

 

「三年前、私の家の都合上追放されてシスティ.........フィーベル家に居候することになったころに悪い魔術師たちにさらわれ殺されそうになったんです。その時私は追放されたこともあり不安定でなんで、なんで私ばかりこんな目にと思っていたんです。そんなこと思いながら怯えている私を助けてくれた人たちがいたんです。一人は大人の人で、もう一人はローブで分からなかったんですけど多分私とおんなじくらいの年齢だったと思います。それで私は思ったんです。今度は私がその人たちを救う番だって。人が魔術で道を踏み外したりしないようにって、そうしていけばいつかあの暗闇の中で泣くことしかできなかった私を助けてくれた人たちにお礼を言える日がくるんじゃないかって...........そう思ったんです」

 

「.................見かけによらず、随分ハードな人生送ってんのな」

 

「俺もさすがにびっくりだな。まるでどこぞの小説みたいだ」

 

まぁその二人とはここにいる二人なんだけどな。てかルミア俺だってもしかして気付いてんのか?あのローブ結構強めの認識阻害かかってるはずだけど。可能性があるとしたら声でばれたか?

 

 

 

俺達はそのあとシスティーナの事情を伝えておいた。この人もこの人なりの事情はあるのは俺は知っているけどいい加減立ち直ってほしいものだ。あの人からたまに愚痴に付き合わされるのもそうだが、あの人も相当負い目を感じいていたしな。それに俺もこの人の事は尊敬していたしこのままでいるのも正直きついものがある。そう思いながら俺は帰路につくのであった。

 

 

 

そして後日彼は覚醒する。

 

 

 




ロクアカの番外編の最新刊が出た勢いのまま書いてしまいました。SAO同様更新は気分次第です。最後に設定だけはって終わります。


本名:ナハト・イグナイト
学院にいるとき:ナハト・リュンヌ
軍名:フレイ・モーネ

帝国軍特務分室執行官ナンバー18月のフレイ・モーネとして名前を偽り腹違いの姉のイブと同時期に特務分室に入る。名前を偽っているのはイグナイト家から忌み子とされ殺されかけていたところをイブとバナードが助け後に名を変え、幸いにも魔術と剣や武術の腕がたつことから特務分室に入室させることで守った。魔術に関してはイブとアルベルトの指導で近接魔術戦、遠距離魔術戦は二人に次ぐほどの実力を持つ。年はルミアと同じなのでルミアと同じクラスに編入させルミアを守る任務を与えられている。本名を知っている人は女王陛下や特務室メンバー、セリカでのちの話によってルミアやシスティーナも知ることになる。普段任務中や軍で行動中は認識阻害のかかったフード付きローブを纏っているため外道魔術師からは「無貌の月」とも呼ばれ恐れられている。

ヒロインはルミアとイブです。ルミアは昔グレンが助けていたところをナハトが助けたことにします。イブに関しては腹違いの弟で元々ブラコン気味だったのもあり徐々に成長したナハトにひかれ惚れてしまう予定です。と言ってもこれから帰るかもしれません。セラは生存します。


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彼の覚醒と不穏な影

すみません。ロクアカ好きなんです。多分もう一話更新します。さすがその次はありふれやります


「昨日は........その...........すまなかった。俺は魔術が大嫌いだが...........その、言い過ぎたつうか........まぁすまんかった」

 

 

今日もいつも通り三人で登校してきたらグレン先生が開口一番システィーナに謝罪してきたのだ。クラスの全員もあまりの光景に開いた口が塞がらないでいた。だがこれで終わらずさらにグレンは予想外な発言をする

 

 

「さて、それじゃ~授業を始める」

 

正直これには俺も驚きだ。謝罪したとはいえ授業までするつもりになるとは思いもしていなかったからだ。

 

「あ~授業を始める前にお前らに言いたいことがある」

 

生徒たちは何だと聞き入るといきなり.............

 

「お前等ってホント馬鹿だよな」

 

いきなりの暴言だった。これにはクラスの全員が何言ってんだと言い返す。いやまぁ確かにあんた賢いのは知ってるけど言い方あるだろう?なぜ煽りから入る?自分が少しでも憧れていた人の不器用さにあきれているとシスティーナに次ぐ成績のギイブル「《ショック・ボルト》程度の一説詠唱もできないくせに」といった。他にも「《ショック・ボルト》なんてとっくに究めましたわ」とウェンディというドジっ子で話あるものの優秀な生徒である彼女が馬鹿にしたように言う。

 

大体なぜグレン先生が一説詠唱ができないことを知っているかというとここまでの数日間に一度システィーナと決闘をしていたのだがその時にできないことがクラス全員に知られてしまった。まぁ、先生が”その気”ならシスティーナは何もできずに負けていただろうけどな。

 

「それを言われると耳が痛い。俺は男に生まれたくせに魔力操作と略式詠唱のセンスがなくてね.........だが、誰だか知らないが《ショック・ボルト》程度って言ったか?やっぱ馬鹿だわ。自分で証明してやがんの」

 

「まぁ今回はその《ショック・ボルト》について話してやる。お前らのレベルならちょうどいいだろ」

 

この発言に対してまた反論が出るがそんなのいざ知らず黒板に詠唱を書き綴る。

 

「はいは~い、これが、黒魔《ショック・ボルト》の呪文書でーす。ご覧下さい、なんか思春期の恥ずかしい詩みたいな文章や、数式や幾何学図形がルーン語でみっしり書いてありますね~、これ魔術式って言います。」

 

そしてそのまま生徒たちを無視しながら話を進める

 

「さて、基本的な詠唱はこの通り《雷精よ・紫電の衝撃以って・打ち倒せ》ですが、まぁ略式詠唱できるやつは《雷精よ》の一節で発動させられまーす。.........では問題だ」

 

「《雷精よ・紫電の・衝撃以って・打ち倒せ》こうして四節にするとどうなると思う」

 

その発言にクラスメイト全員が黙り込む。まぁこれが分かる奴はいないんじゃないか?そう思っているとギイブルとウェンディが反論するが..........

 

 

「そんなものまともに起動しませんよ。何らかの形で失敗します」

 

「バーカ、そんなんわかってんだよ。完成された術式をわざと崩してんだから当然だ。俺が聞きたいのはその何らかの形がどういったものなのかだ」

 

「なッ!」

 

「そんなのランダムに決まってますわ!」

 

「ランダム?笑わせるなよ。こんな簡単な術式捕まえてきてランダムとか。他にわかる奴いねーのか?お前ら極めたんじゃねぇのか?」

 

そう言われて全員黙りこける

 

「はぁ~仕方ない答え合わせだ。おい!確かナハトだったか?答えてみろ」

 

えっ?俺ですか?まぁ、これくらい余裕ですけど............

 

「先生なんで俺なんですか?」

 

「セリカからこれぐらい簡単にできると聞いている。大体最初からお前わかってんだろ?だったら答えろや」

 

あぁ~あの人か。あの人ならそうゆうこと言いそうだな~てか俺あんま目立ちたくないんだが?

 

「はぁ~わかりましたよ。答えは”右に曲がる”です」

 

「フッ、正解だ。《雷精よ・紫電の・衝撃以って・打ち倒せ》」

 

そう言って先生は詠唱すると俺の答えた通りの軌道をたどって発動された。

 

「そんじゃ、さらに区切って5節にするとどうなる?」

 

「射程が3分の1になる」

 

「正解だ。なら一部を消したら?」

 

「威力が大幅に落ちる」

 

「正解」

 

俺は先生に聞かれたことを寸分たがわず答える。そんなやり取りをしている俺達の事をみんなは何なんだと意味が分からないという風に見ていた。当然だろう彼らからすれば自分たちに見えない”何か”を二人は見ていると感じているからだ。

 

「さて、とまぁ極めったていうならこいつくらいできないとな?」

 

その発言にクラスメイトは全員黙り切ってしまう。

 

「いいか魔術ってのは超高度な自己暗示だ。.........たかが言葉にそんな力あるのかと言いたげだなぁお前等。そんならいっちょ実験だ」

 

「おい!ルミアだったな?ナハトがお前に惚れってるってさ。それもゾッコンで一日も早く付き合いたいだってさ」

 

「えっ///////////////」ボンッ

 

「んなッ!せ、先生何言ってんだよ!」

 

そう言われたルミアは突然顔を真っ赤に染めていた。

 

「ハ~い皆さん注目。今彼女の顔はリンゴのように真っ赤になりましたね?見事言葉ごときが彼女の表層意識に影響をもたらしました。これが魔術の基本だ。意識のきかない深層意識なんていう必要もないだろ?」

 

「まぁこれが理解できれば........ん~そうだなぁ《まぁ・とにかく・痺れろ》」

 

とても詠唱とは思えないふざけたもので発動した《ショック・ボルト》。そのことにクラスの全員が驚愕の表情を浮かべる。

 

「これくらいの改変は簡単にできるようになる。ほれお前もやってみろ」

 

そう言って先生は俺に向かってふわりと教科書を投げるので

 

「《吹っ飛べ》」

 

すると《ゲイル・ブロウ》が発動し結構な勢いで先生の頬を掠め教科書が飛んでいく。

 

「..........なぁ今俺狙ってなかったか?」

 

「いやですね先生。ちゃんと当たらないようにギリギリを狙って飛ばしましたよ?」

 

さっきのルミアの件が少々癇に障ったのであえてあてずに掠めるギリギリを狙って俺は魔術行使をした。

 

「お、おう。.......つーわけで今日は《ショック・ボルト》を使って術式構造と呪文のド基礎を教えてやる。興味ないやつは寝てな」

 

とはいうものの子の授業で寝るやつは誰一人としていないだろうことは簡単に予想出来ることだった。

 

 

それからというものグレン先生の評価はうなぎのぼりで先生の授業を受けに立ってまで聞きに来るものまでいた。だからこそテロリストたちの手が迫っているとはつゆ知らずにいた。

 

 

 

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「遅い!..............遅すぎるわ!最近頑張っていると思えばすぐこれよ!」

 

今日は俺達のクラスは前任のヒューイ先生によって授業が遅れている俺達2組は休日も学校である。だがここ最近にしては珍しく遅刻しているグレン先生にシスティーナは怒り心頭の様子だ。

 

「まぁまぁ落ち着いてシスティ。」

 

そう言ってなだめるルミア。

 

「まさか、今日を休校日と勘違いしているんじゃ.........」

 

「まさか..............いくら何でも..........ないよね?」

 

ルミアも否定しきれず苦笑いだ。まぁ恐らくそれだろうな。俺がそう思っていると.............

 

ッ!

 

マズイ奴らが来たか。このまま教室にいたら拘束される。一度トイレに行くふりして教室を抜け出し各個撃破するしかないか。ルミアを少々危険にさらしてしまうがやるしかない。というかこれ以外で全員無事に助かるすべはない

 

「悪い。俺少し席を外すよ」

 

「ちょっ!ナハト!一応今は授業中よ!どこ行こうってのよ」

 

「少しトイレだよ。大丈夫だって。すぐ戻るから」

 

「.......ねぇナハト君何かあるの?」

 

この子勘よすぎじゃありませんか?あと少しで表情に出そうだったな

 

「何かってなんだよルミア。大丈夫だって、ほんの少し席外すだけだから。な?」

 

「う、うんならいいんだけど........」

 

「それじゃ、行ってくるわ」

 

「早く戻ってくるのよ?」

 

「了解」

 

俺はそれに短く答えて教室を出ると、すぐに別の教室に入り隠蔽の魔術をかけて奴らが来るのに対して備える。とにかく今できる準備をしないとな。まずは姉さんに報告して誰か人を呼べるようにするのと一応の判断を仰いでおくべきだろう。

 

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ナハトが席を立ってからルミアは自分のノートの上にいつの間にか紙切れがあるのを見つけた。さっきまでなかったはずと思い不思議に思いそれを見るとナハトの字でこう書かれていた。

 

『少し危険な目に合わせてしまうかも入れない。本当にごめん!でも必ずルミアは俺が守る”約束”だ』

 

その置手紙を見てルミアは自分のいやな予感があたっているのを確信する。さっきナハトの表情がほんの一瞬だけ鋭くなったのをルミアは見逃していなかった。そして、ルミアは彼が”あの人”なんだと半ば確信に近いものを抱いていた。いや、この場で確信に変わった。だからこそ、危険な目というのは正直怖いけど........それ以上にルミアはときめいてしまっていた。何せ意中の相手から必ず守ると直接じゃないにしろ言われたのだ。そして何より”約束”という文字が書かれているのがよりルミアの胸をより高鳴らせる。

 

(ほんとずるいなぁ~ナハト君は.........それにあなたも覚えていてくれたんだ/////)

 

ルミアにとってかけがえのない約束。それを覚えていてくれて..........なおかつその約束を守ってきてくれていたんだと思うと嬉しくてたまらなかった。

 

「?ルミア?少し顔紅いけど大丈夫?」

 

ナハトの置手紙のせいでルミアは顔が無意識に赤くなっているのだ。しかしそんなこと親友とはいえ恥ずかしいので誤魔化す。

 

「な、何でもないよ?」

 

「なんで疑問形なのかしら」

 

「き、気にしないで。大丈夫だから。ね?」

 

「ルミアがそういうならいいけど...........」

 

そんな話をしながら二人は自習をしていると教室の扉が開かれた。システィーナ含むクラスメイトは先程外に出たナハトかあるいはグレンかと思った。しかし、教室に入ってきたのはチンピラ風の男とダークコートを着た男の二人組だった

 

 

 

 



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”月”の力

突如現れた謎の二組に困惑する生徒たち。そんな中すぐに立ち直ったのはシスティーナだった。

 

「ちょ、ちょっとあなた達!ここかは関係者以外立ち入り禁止なはずよ!だいたいあなた達何者よ?ことと次第によっては.........」

 

そう言いシスティーナは左手を構える。するとそんなの構わないというようにチンピラ風の男が.........

 

 

「俺達?俺達はいわゆるテロリストだよ.....《ズドン》」

 

「えっ?」

 

男は恐ろしく短い呪文で魔術を行使したしかもそれは《ショック・ボルト》ではなくて...........

 

「うそ?.........今の《ライトニング・ピアス》?」

 

「へぇ~これ知ってんだすごいねぇ~まだ知らないはずなんだけど。 それで信じてもらえたかな?」

 

今の出来事で数名の生徒が怯え悲鳴を上げ始める。すると、鬱陶しそうに.............

 

「うるせ~よガキども《ズドン》《ズドン》《ズドン》《ズドン》」

 

天井に向けまたも恐ろしく短い呪文で発動される軍用魔術を見てようやく静まり返る。

 

「うんうんいい子だからそのまま大人しくな~」

 

そう恐怖を植え付けることを楽しんでいるチンピラ風の男をダークコートの男が注意する

 

「よせ。俺達の仕事を忘れるな」

 

その男は短く言うとチンピラ風の男も渋々という様子で引き下がる。

 

「我々の目的はルミア=ティンジェルの身柄の確保だ。」

 

そうして男は鋭い目をルミアに向ける。すさまじい眼光にほかの生徒は怯えている中ルミアだけは怯えていなかった。

 

「ほぅ.............まぁ、いい。ご同行願えるかなルミア嬢?」

 

「.........拒否権はないのですよね。いいですよ、貴方についていきます」

 

「ダメよルミア!」

 

「大丈夫だよシスティ。先生と彼が助けてくれるから」

 

そう言ってルミアはダークコートの男に連れ去られてしまい教室に残された生徒はみな拘束され何もできない状況に追い込まれた。だがそれだけでは終わらなかった。あのチンピラ風の男がシスティーナの事を連れ去ってしまったのだ。他の生徒たちはどうすればいいのかわからず、何もできないままそこにいることしかできなかった。

 

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俺は教室にひそかに残しておいた使い魔越しに様子を覗いていた。ルミアが敵の一人に連れ去られるのは想定内だ。相手がルミアを連れ立っているところを強襲してルミアを奪還し下手人を始末する予定だったがまさかシスティーナの方もさらわれるとは思っていなかった。

 

(チッ!まずったな............ルミアを連れていく男は正直かなりの腕だ。倒せるとは思うが時間がかかるかだろう。そうするとシスティーナの身が危ない...........予定変更だ。しばらくすれば先生も来るだろうし、あの人が今どこまで戦えるかわからないけど先生と.........グレンさんと協力すれば問題ない)

 

俺はすぐに方針を決めシスティーナのさらわれた部屋に向かう

 

 

そして部屋の前にたどり着くと俺は呪文を唱え愛剣を呼び出す

 

「《我・空間の支配者なり・次元の扉よ開きたまえ》」

 

すると魔方陣から黒い剣と白い剣そしてそれぞれの鞘と剣帯が出てくる。ちなみに魔術は時空間系の魔術で離れたところにある物体を呼び寄せるものである。またこの二振りの剣は姉さんからもらった干将莫邪を限りなく再現したレプリカだそうだ。レプリカと言ってもとても素晴らしい剣でとても手になじむし切れ味も耐久性も抜群にいい。それらをすぐさま装備して準備をと整え扉を蹴破る。そしてそこには、服をはだけさせられて涙を流すシスティーナとそれを見て楽しそうにする外道がいた。

 

「なんだ小僧........さっきいなかった奴か。」

 

そう言って俺を睨む外道。どうやら邪魔をされて怒り心頭のようだ。

 

「おい外道。彼女から離れろ。」

 

「プっ、アハハハハハハハ!何ヒーロー気取ってんだよ?状況わかってるの?」

 

俺は頭にきていた。当然だ親友をこんな目に合わせたんだ。

 

「うるさい下衆が。いいから離れろよ三下。」

 

「アァん?調子乗ってんじゃねぇぞガキが!」

 

そういい男は左手を構える。さっきも教室でやっていた《ライトニング・ピアス》だろう

 

「ダメ!!ナハト!!逃げてぇ!!!」

 

システィーナはナハトが殺されると思い大きな声で叫ぶ

 

「遅せぇよ!!《ズドン》」

 

放たれた《ライトニング・ピアス》は俺に向かい直線で進んでくる。システィーナは俺が撃たれる瞬間を想像し目をつぶる。打った本人は殺したと確信して歪んだ笑みを浮かべる。

 

 

だがこの場で誰も想像しないことが起きる。それは...............

 

キィイイイイン!  バコンッ!

 

「は?」

 

「え?」

 

 

俺は剣で《ライトニング・ピアス》を剣で弾いた。

 

 

「ナッ!あり得ねぇ!《ライトニング・ピアス》だぞ!?なんで目でおえんだよ!?」

 

「なんか自信あるみたいだけどあんたのそれは詠唱技術こそ凄いが速さや威力は大したことない。本来の《ライトニング・ピアス》よりも落ちてるから簡単に叩き落せる」

 

「嘘だ!偶然に決まってやがる!!これなら《ズドドドドドン》」

 

5発同時に俺に襲い掛かってくるしかし................

 

キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キンッ!

 

バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

 

俺は双剣を正確に振るい悉くを叩き落す。

 

「はぁ~だからあんたのそれは遅すぎんだよ。いくらやっても同じさ」

 

「クッソありえねぇ」

 

「まぁ、いい。お手本を見せてやる。《雷帝よー踊れ》」

 

 

俺が2節で発動させた《ライトニング・ピアス》は五条の閃光が男のものとは比べ物にならないほど高速で空中を翔け男の体を掠める

 

 

「わかったか?これが《ライトニング・ピアス》だ。今はわざと外した。降伏するなら今のうちだぞ?」

 

システィーナは思わず見入っていたナハトのあまりにも卓越した魔術行使に。恐ろしく高精度で冷酷無慈悲に穿つ死の矢だがその閃光の輝きは美しくすらあった

 

「クッソ!まだだ。《ズドドドドドドドドドドン》」

 

男は自身にできる最大数の《ライトニング・ピアース》を放とうとする。しかし、その魔法陣は硝子の破砕音のような音ともに突如砕けたのだ。

 

「な、なにが《ズドン》《ズドン》《ズドン》《ズドン》《ズドン》」

 

何度やっても魔術を使うことができない。男が混乱していると..............

 

「ずいぶん遅かったですね先生」

 

「悪かったな」

 

そう言いながらグレン先生は遅れながら到着した。

 

「おいてめぇか?このふざけた状況になってる原因はおめぇなのか?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

そう言いながら先生はポケットの中から先生の代名詞である”愚者のアルカナ”が取り出される。

 

「俺はこのカードに書かれている術式を読み解くことで、俺を中心とした一定量域内における魔術発動を完全封殺することができる。これが俺の固有魔術《愚者の世界》だ」

 

「まぁこれを使っている間は先生も魔術使えないけどね。」

 

「「へ?」」

 

ここに来て初めてシスティーナと外道の反応がはもった。

 

「プっ、馬鹿じゃねぇの?魔術師が自分の魔術まで封じてどうすんだよ」

 

そんなこと言っている男だがどうやら理解していないようだ。今の状況を。

 

俺は思いっきり踏み込むと一瞬で男の目の前に迫っておりそして、全力の拳をたたき込んみそのまま先生の方に蹴り飛ばすと男は腹を抑えうずくまる。

 

「グハァッ!魔術師が格闘戦を挑むだと?」

 

「あのなぁ~こんな術使ううんだ、近接戦闘できないわけないだろうが。」

 

俺が蹴り飛ばした相手を先生は悠々と投げ飛ばし壁にのめり込んでいた。

 

そしてそのまま先生がとどめを刺し相手を無力化することに成功。無事にシスティーナを助けることができた。

 

「大丈夫かシスティーナ?それとこれはおとっけ」

 

そう言って俺はシスティーナに上着を渡して着せた。目のやり場に困るし、本人も見られたくないだろうしな。そんなやり取りしていると先生はセリカさんと連絡を取り合っているようでそれが終わって俺達は状況のすり合わせをした。

 

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「そういえばナハト。お前なんで俺の固有魔術知ってんだよ?というかお前何もんだ?」

 

そう言って嘘は許さないといった風に俺を見つめてくる。疑がっているのもあるが先生として純粋に心配してくれているのだろう。

 

「それはですね.......って!先生後ろ!」

 

俺は突如先生の後ろに現れたボーン・ゴーレム斬り合い、俺が相手を切り伏せ二人を下がらせる

 

「おいおい、コイツ等竜の牙を使ってる最高の代物じゃねえか!」

 

「先生ここじゃじり貧だ!あの男は見捨てて通路に!」

 

「あぁ!こうなったらついてこい白猫」

 

 

そう言って俺達は通路に出て走り出す。それを追いかけるゴーレム達。

 

「おいナハトお前アイツら粉みじんに消し飛ばせるか?」

 

「できなくもないけど俺がやると必要以上に被害が出そうなので先生に頼みます。これ使ってください」

 

俺はポケットからとあるものを取り出し先生に渡す。

 

「おいこれは!」

 

俺が渡したのは先生がとある魔術を使うための触媒だ。

 

「お前あれやれって...........鬼か?」

 

先生にやらせようとしてる魔術はとんでもなく燃費の悪い魔術だ。だが相手が竜牙兵ならそれが一番有効打になる。

 

「この場だったら最適解の魔術じゃないですか?」

 

「はぁ~わかったよ。おい白猫。お前は先に行ってお得意の《ゲイル・ブロウ》を即興改変で広範囲に持続的に続くように改変しろ。節構成はなるべく三節にしてくれ。ナハトと俺は白猫が改変できるまでの時間稼ぎだ」

 

「わかりました」

 

「了解です先生」

 

俺達は各々のすべき最善を尽くしていく。敵が多いうえ、先生はブランクがあるせいでやや動きのキレがないので必死にカバーしながら時間を稼ぐ

 

(数が多すぎる!それにさすがに頑丈だなコイツ)

 

(チッ!体が追い付かねぇ。ナハトに負担がかけまくってんな俺)

 

俺と先生は永遠とも思えるほど相手を抑え込んでると............

 

「二人とも!完成しました!」

 

ようやくだ!

 

「何節だ?」

 

「3節です!」

 

「よし!俺の合図で詠唱を開始しろ」

 

俺達はぎりぎりまでゴーレムを惹きつけながら下がる。そして...............

 

「今だ!」

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》!」

 

 

 

システィーナの即興改変が炸裂し、ゴーレムたちの足を止めたかのように見えた。しかし、そんなことはなく徐々に俺達の元へ歩み続ける。 

 

 

「ごめんなさい二人とも完全には...........」

 

「いや十分だよシスティーナ。ですよね?先生」

 

「あぁ、白猫よくやった。 褒美にいいもん見せてやる」

 

そう言い先生は俺の渡した触媒を指で跳ね上げキャッチしそのまま構え詠唱を開始する。

 

「《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・-」

 

「これってアルフォネア教授の!?」

 

「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・ー」

 

「《はるかな虚無の果てに》!ええい!吹っ飛べ有象無象!黒魔改《イクスティンクション・レイ》」

 

「す、凄い.......こんな呪文を先生が.......」

 

「かなりのオーバーキルだが、俺がアイツらを殲滅するにはこれしか........がはっ...........」

 

 

マナ欠乏症の症状だ。触媒を使ってもすこぶる魔力を食うから当然の事だろう。

 

「先生お疲れさまです。これ使ってください」

 

そう言って俺の魔力石を渡す

 

「あぁ.....お前のせいでくたくただ。だが、ほんとにいいのか?」

 

「いいですよ。最初からこのつもりでしたから。ここでゆっくり休んでください。」

 

「馬鹿..........早く移動するぞ。すぐに敵が来るぞ」

 

「先生それならもう来てるんで問題ないですよ?ほら」

 

俺が指をさした先には5本の浮遊した剣を輝かせながら油断なくこちらを見据える男がいた。

 

「まさか《イクスティンクション・レイ》を使えたとは。三流魔術師と侮っていたか。そっちの男子生徒も相当な手練れのようだ」

 

「さて先生とシスティーナは後ろに下がっててください。危ないから突っ込んでこないでくださいね?」

 

「馬鹿!1人は無理だ!俺も.........グッ」

 

先生は先程の魔術行使で消耗していて立ち上がることさえ困難だ

 

「ふむ、いいのか?私と一対一ということになるが」

 

「えぇ、そのほうが戦いやすいですから」

 

「そうか、ならばその判断後悔させてくれる!」

 

「そっくりそのまま返します!」

 

 

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俺と奴の戦闘は激戦を極めていた。剣戟、魔術戦どれもがすさまじい高度な駆け引きの上で俺達はしのぎ合う。奴の浮遊する剣5本の剣を確実に対処しながら俺は観察を続ける。

 

(5本中三本が自動、二本が手動か。そして本人自身も相当の使い手であり、魔術の技量も高いか...........)

 

(学生によもやここまで捌かれるとは。しかもコイツ徐々に俺の操作する剣の動きを読み切られつつあるとなると少しまずいな)

 

「お前本当にただの学生か?」

 

男は剣を操作ながら涼しい顔で問いかける。それに対して俺も涼しい顔で答える

 

「さて?どうでしょうね。」

 

二人の戦いを見ている先生とシスティーナは次元が違うと感じていた。

 

(アイツが強いのは分かったが、まさかここまでとは........ほんと何もんだアイツ?)

 

(ナハトがあんなに戦えるなんて全然知らなかった。いったいナハトは.......)

 

この場にいる全員がナハトが何もなのかと怪訝に思う。学生でここまでの戦闘能力、もはや歴戦の戦士と言っても過言ではないとこの場にいるものは思っていた。

 

「《雷帝よー踊れ》」

 

俺は全ての剣をさばきながら、左の剣を逆手に持ち替えしてに指を向け魔術を行使する。5条の閃光はそれぞれを剣で防がれる。しかし、剣の動きが一度止まったのでそのまま距離を詰めると.....

 

 

「甘いぞ!《吠えよ・炎獅子》!」

 

広範囲に広がる火炎弾。普通に考えれば大ダメージは免れない。先生たちもまずいと思っただろう。しかしナハトはここでの《ブレイズ・バースト》は予想通りで..............

 

「ここ!《断空》」

 

俺は剣に付与しある魔術を起動させる。この魔術は空間切断で空間ごと断ち切るもので俺はそれを使い黒魔《ブレイズ・バースト》を切り裂きそのまま攻撃に移ろうとするが剣が飛んできたので回避して残りを弾き相手に《ゲイル・ブロウ》を使い自身と相手との間にかなりの距離をとる。

 

(コイツ俺に《ブレイズ・バースト》使わせて目くらましにするのが目的か。気づくのが遅かったらまずかったな...........)

 

 

テロリストの男はナハトの策にはまりかけていたことによってより警戒レベルを引き上げた

 

 

(さすがに狙いが甘かった。だが..........お次で落とす!)

 

 

お互いの間に流れる空気が、また変質する。この場にいる全員が理解する。次の一合で勝敗が決すると.........

 

 

張り詰めた空気、その空気がはじけたように錯覚すると同時に二人は動き出す。男の方は5本すべての剣をナハトに向け放つそれに対しナハトは思いっきり剣を男にむけ投擲する。しかし男は訝しみながらもそれらをたやすくかわされる。そして、ナハトはすぐさま切り替え左手を構える。

 

 

「《無の弾丸よ・悉く・ゼロに帰せ》《穿て(アインツ)》《穿て(ツヴァイ)》《穿て(ドライ)》《穿て(フィーア)》《穿て(ヒュンフ)》」

 

黒魔改《ディスペル・バレット》ディスペル・フォースを弾丸として改変したもので射程と弾速は《ライトニング・ピアス》と遜色のない。ナハトが放った弾丸は全て剣にぶつかり剣は全て地面に落ちる。俺はその瞬間またとある魔術の詠唱をしながら走り出す。

 

「《千の雷よ・千の鳥よ・鋭く囀れ》」

 

ナハトは左手を右手にそえ唱えながら駆けていると、ナハトの右腕はまばゆい程の白雷が纏われている

 

男は一瞬だけ動揺するもすぐに立て直す。

 

(むっ!.....馬鹿め、彼我の距離なら剣を起動させるほうがはやい!)

 

そして男は剣の軌道のため詠唱を開始しようと口を開いたその瞬間.......

 

グサッ! グサッ!

 

「ガアッ!何が.......これは!?奴の剣だと。」

 

ナハトはわざわざ剣を動かす魔術の起動の方が明らかに早いであろう程の距離をとった。正直起動のための詠唱がどれほどかはわからなかったが、あからさまに距離あれば起動することを選択すると予想した。そういうように男は剣の起動をしようとするように仕向けれたのだ。そしてさらにナハトは派手な魔術を使用することで剣から意識を離す事で背中に対する警戒を薄くさせた。

 

そして背中に剣を受けたことで男は詠唱をやめた上に剣に気を取られたそこまで気がそらされればナハトが懐に入るまで十分で.........

 

「ハァアアアア!」

 

 

「しまッ..........「ズシャッ!」.......ゴッフ!ガッハ!」

 

 

ナハトの雷によって強化された抜き手が男の胸を貫き心臓を穿っていた。

 

 

「思い出した........ぞ。......お前.....その剣........その魔術......無貌の......」

 

 

男は最後に俺の事をつぶやきながら命を絶った。

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

俺は男の血を魔術でキレイに落として先生たちの元に戻る。

 

「ひやひやさせやがった全く。まぁ~よくやったお疲れさん。それとお前にあんなことさせて悪かった」

 

「気にしないでください先生。これが俺の仕事ですから」

 

「これが仕事.....................って、お前もしかして!」

 

「その話はあとで。すぐにルミアのところに向かいましょう」

 

「ルミアの場所が分かるのナハト!?」

 

「あいつら転送方陣で逃げるつもりだ」

 

俺は相手の作戦を説明する。そもそもなぜ相手の作戦を知っているのかというと姉さんが教えてくれたのだ。ただ姉さんにも予想外だったのはあいつらの作戦実行が思っていたよりもはやかったことだ。それはおそらく入ってきた魔術講師のグレン先生がただの三流と判断したからだろう。

 

 

「成程な................お前がどこでそれを聞いたか本当に後で説明してくれんだよな?」

 

「先生しつこいですよ?ちゃんと説明しますから」

 

何度も念を押すように確認をとる先生。そしてシスティーナは..........

 

「ねぇ、ナハト私も.........」

 

「ごめんシスティーナ。悪いけど待っていて欲しい。確証はないけどトラップがあるかもしれないから危険だ」

 

そう言って説明すると渋々といった風に頷き納得する。

 

「先生には申し訳ないけど来てもらっていいですか?」

 

「当たり前だ。生徒だけに行かせるか」

 

そうして俺達はシスティーナを近くの教室に移動させ転送方陣のある馬鹿高い塔に向かう

 

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「やっぱいるよなそりゃ.............」

 

俺達は物陰から糖を確認する。塔の目の前にはやはりというかトラップ..........というより番人として相当数ゴーレムがいる。

 

「どうすんだナハト。強引に突破もできなくもないだろうが............」

 

「いえ、俺の魔術で半数程度数は数を減らします。それだけ減れば十分でしょう」

 

そう言い俺は《ラピッド・ストーム》で上空に飛び、さらに呪文の詠唱を開始する

 

「《紅蓮の竜よ・猛き咆哮以って・蹂躙せよ》」

 

黒魔改《ドラゴニック・フレア》この魔術は《ブレイズ・バースト》を元とし改変した魔術。《ブレイズ・バースト》なんて軽く上回る火力の魔術。竜のブレスのような超高熱の炎を超極太の光線として放つ技。開けた場所じゃないとあまりの熱量で他の物に引火して危険な魔術。そしてグレンはそのすさまじい熱量に驚愕する。

 

俺は宣言通り扉に近いものから半数ほど減らしたのを確認すると.............

 

「先生!急ぎますよ!」

 

「お、おう!(なんつう熱量だよ.........と言うかこれほどの火の魔術まるで......)」

 

俺達はそのまま全力で塔に走り込んでいく

 

 

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俺達は最上階にたどり着くとその扉を蹴破りなかに突入する

 

 

「ルミア!」

 

「ナハト君! グレン先生!」

 

よかった怪我はしていないみたいだ...........さて奥にはあの人がいるが..............

 

「さて、黒幕さん.........いえ、ヒューイ先生。ルミアを返してください」

 

「なっ!おいヒューイってまさか..........」

 

そうすると影になった場所からヒューイ先生が出てくる。

 

「流石ですねナハト君。もっとも君の事はついぞよくわからなかったのですがね。それとそれはできない相談ですね。」

 

「それもそうですか。まぁ俺に関する情報はかなり偽装してますからね。それよりもコレどういうつもりですか?」

 

「へぇ、気づいているんですね。」

 

そういいヒューイ先生は白魔儀《サクリファイス》について今から自身のやろうとすること、自身の役目について説明していく。

 

「なら解呪するまでですね。先生も手伝ってください。ん?先生?」

 

すると先生は焦ったような顔を浮かべる。

 

「スマン。《愚者の世界》使ってます。」

 

マジですか...............いや魔力的に余裕ありますけど時間が足りるかは正直怖いんですが............

 

「先生......まぁいいです。別の方法を使うんで。」

 

「別の方法だ?どうするんだよ《イレイズ》以外じゃどうしようも........」

 

「まぁ見ててください。あと数分で解けるでしょう?」

 

俺はそう言い先生より前に出る。

 

「ルミア。約束通り必ず助ける。それと俺の秘密みせてあげるよ」

 

「うん!」

 

そういうとヒューイ先生が

 

「どうするんですか?あなたならおわかりでしょうが私を殺すのはなしですよ?」

 

「当然です。だからこの方陣焼ききってしまおうと思いまして」

 

「「え?」」

 

ヒューイ先生とグレン先生は一体何を?という顔を浮かべ、ルミアは信じ切った目を向けてくる。

 

(ルミアさん。そんな目を向けられるとなんだかこそばゆいんですが?)

 

すると先生が《愚者の世界》の効力が切れたことを俺に伝えた。さてやりますか。俺は左手を方陣に触れさせ魔術を起動させる

 

「フゥ~《煉獄の焔よ・万象焼き尽くし・すべて無に帰せ》」

 

俺が呪文を唱えると黒い炎が左手から流れ出る。それが術式を包み込む。これは俺の隠している異能と掛け合わせたほとんど固有魔術と言ってもいい《獄炎》である。特徴は燃えついたものを灰にするまで焼き尽くす。たとえそれが魔術だろうが何だろうとだ。またこの炎は決して消すことのできない炎で例外として術者にしか消せないのである。

 

俺の《獄炎》が術式全てを焼き尽くしたのを確認すると炎消す。すぐにルミアに駆け寄り無事を確認すると突然ルミアが抱き着いてきた。

 

「る、ルミアさん!?」

 

「ありがとう。ありがとう。ナハト君!」

 

「あーーールミアが無事でよかったよ..............」

 

そう言ってルミアの頭をなでる。するとルミアはさらに顔を緩めさらに強く抱きしめてくる。いや待って!当たってますよ!あなたの柔らかいものが当たってますよ!するとヒューイ先生が...........

 

 

「いい雰囲気のところ申し訳ないが何をしたのですか?」

 

ルミアはヒューイ先生が言葉を発したことで自分のした大胆な行動に恥ずかしさを自覚しつつも離れられなかった。

 

(うぅ~恥ずかしい//////////でも離れるのはなんかもったいないような..........)

 

俺はそんなこを考えてるルミアはとつゆ知らずそのまま質問に答える。先生もどうやら興味があるようだ。

 

「簡単に言っていしまえば異能を加えた固有魔術に近いものですよ」

 

すると先生は目を見開いた。

 

「は?異能だと?いったいどんな......」

 

「詳しくはわからないんですけど俺が魔術で火とか雷とか諸々出すと全部黒くなるんですよ。むかしは制御できなかったんですが今ではこの通り使いこなせてる。しかも強烈な副次効果をもってね。だから俺はこれを《黒化》って呼んでる」

 

これが俺が家を追放された理由。黒い炎なんぞ不気味で仕方ないうえどう考えても異能だと考えられたからだ。それでも姉さんは何一つ態度を変えず優しく接してくれたのがうれしかったと、関係ないことを考えていると腕の中のルミアが小さく呟く。

 

「私と同じなんだ........」

 

 

俺の異能について説明し終えると今度はヒューイ先生が俺達に問いかける。

 

「僕は、どうすれば良かったんでしょうか?」

 

すると答えたのはグレン先生だった。

 

「知らねぇよ。同情はするが、自分で道を選ばなかったお前が悪いんだ。自分のしりぬぐいくらい自分でしろ。」

 

「手厳しいですね。でもそうですね、もっと早くにあなたに会いたかった」

 

「.............歯食いしばれよ!」

 

そう言って先生は拳をヒューイ先生に叩き込みこの事件の幕を引いたのであった。

 

 

 

 

 

 



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その後の二人と彼のこれから 

ヒューイ先生が気絶し先生が拘束を終え事件は終わった。その後色々事情聴取とかあるだろうけどひとまずは無事解決だろう。

 

「フゥ~これで拘束完了として、ナハトお前の事聞いていいか?」

 

「えぇ、多分人が来るまでまだしばらくあるはずなのでいいですよ」

 

そう俺は了承の旨を伝える。

 

「ならまずはお前軍人か?」

 

「えぇ、先生もよく知っているとこ所属です」

 

「てことは特務分室か」

 

「はい。特務分室執行官ナンバー18月のフレイ=モーナです。久しぶりですねグレンさん?」

 

「なるほどな.........その剣技にその魔術ならそうなんだろうな」

 

「だいたい気づくの遅くないですか?ここまで手の内みせれば気づきますよ普通?」

 

「そりゃそうだが、お前の顔なんて一度も見たことないからわかるか!」

 

そう俺は普段軍にいるときはどこにいてもローブを羽織って誰にも顔を見せなかった。

 

「まぁ、グレンさんだけ何故かタイミング悪く一度も顔合わせしてないですね。」

 

「おい今俺だけって.................もしかしてほかのやつは............」

 

「えぇ、知ってますよ。さらに言えば本名と本来の容姿もね」

 

「はぁ?今のそれも偽装なのか?」

 

そう言って驚く先生。ここにいる二人は信用できるので見せることにした。その前に.............

 

「ルミア悪いけど離れてもらってもいいかな?」

 

そうルミアはいまだに俺に抱き着いた状況である。俺も頭ずっと撫でっぱなしだったわけだが

 

「あ........うん、わかった」

 

そんな切なそうな声上げないでねルミアさん?勘違いしちゃうから!?

 

「ごめんねルミアこれで........」

 

すると一瞬だけ俺が光ると顔の造形も変わり、髪色が銀から赤に変わる。

 

「改めて自己紹介です。ナハト=イグナイトです。どうぞよろしく。まぁ家名だけしか隠してないんですけどね?」

 

「お前イグナイトって............姉ってまさか!?」

 

「イヴ姉さんですよ。ここまで言えばわかると思うんですが情報源は姉さんです。」

 

「成程なそれでそこまでの情報を.............これは単純な興味だがあれほどの火の魔術が使えるからってわけじゃねぇが《眷属秘術(シークレット)》も使えるか?」

 

「先生《眷属秘術(シークレット)》何ですか?」

 

「あぁ《眷属秘術(シークレット)》ってのは固有魔術の一種で、血中マナ特性(=魔力特性)を術式に組み込む魔術で、一代限りの固有魔術とは違い、その血族が先祖代々受け継ぎ発展させることが可能なもだ」

 

「で、どうなんだナハト?」

 

「勿論使えますよ。まぁ任務では基本使わないようにしてますけどね。」

 

「だろうな。使えば一発でお前がイグナイト家のものだってわかるからな」

 

「あとお前どうしてここにいるんだ?イヴのやつがお前みたいに超優秀なのをここによこすなんて普通あり得ないぞ?」

 

そう姉さんははたから見れば効率主義者で必要とあらば仲間を切り捨てると思われがちなので先生の疑問はもっともだろう

 

「あぁ、それなら女王陛下の勅命ですよ?だから姉さんも俺にこっちによこすことを許可してくれたみたいです。まぁ姉さんはホントのところは俺に学生としての生活もしてほしかったんでしょう」

 

その発言に二人は目を見開き驚く。何より一番驚いているのはルミアだろう。

 

「女王の勅命!?それなら当たり前か。てかイヴに限ってそんなこと考えるのか?」

 

「あの人は不器用なだけですよ。さてそろそろ外に出ませんか?」

 

そういうとそれもそうだなと言い先生はヒューイ先生を担いで一足先に部屋を出た。よって部屋には俺とルミアが残されるわけで............

 

「あ~ルミアさっきの事は本当な?女王陛下はルミアを守るために俺をここに送ったのは」

 

「そっか...........そう、だったんだ」

 

ルミアは女王陛下の娘だ。なぜそんな高貴な身分の方がこんなところに通っているかというと簡単に言えば俺と同じようなものだ。彼女もまた異能の持ち主で「感応増幅者」ということを聞いている。だが女王陛下はルミアの事を心から愛している。なのでわざわざフィーベル家に引き取ってもらえるように裏で手をまわしていたりする。またあの日の事も俺はグレン先生と一緒に女王陛下に呼び出され涙ながらに娘を頼むといわれたのだ。

 

「それとなルミア、実はこの任務女王陛下に頼まれたってのは半分嘘なんだ」

 

「えっ?」

 

「この任務を俺に勅命してもらうように女王陛下に頼んだんだよ。まぁあの方も最初からそのつもりだったみたいで無駄だったけどな」

 

流石に姉さんに頼んでもあの人にも立場がある。いくら何でも難しいだろう。だから姉さんには悪いけどご本人に頼むことにしたのだ。まぁどっちに頼んでも結果は同じだったきもするから必要はなかっ気もするけど。

 

「それって!」

 

ルミアは俺の言葉に驚き、そして嬉しそうにしながらこちらを見つめる。

 

「”約束”だろ?」

 

俺は笑いかけながらそう言って立ち上がりルミアに手を差し伸べる。具体的なことは言わない。けれど二人にはそれで十分伝わる。

 

するとルミアは手を握ったので立たせてあげると花が咲き綻ぶような笑顔で言う

 

 

「うん!ありがとうナハト君!」

 

 

その時の彼女の笑顔は俺が知っている彼女の笑顔の中で一番の笑顔で思わず俺も見惚れてしまい、その時の俺は多分顔が赤くなっていたと思う。

 

 

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一応その後の話をしておこうと思う。俺達はすぐに塔を降りてそのまま、まずはシスティーナのもとに向かいシスティーナにも同じ事を話した。その後は教室に向かいみんなに事件解決したことのみ伝え秘密は伏せて説明した。すると姉さんの手配した兵が来たので俺は魔術で特務分室のコートなどを取り出して事後処理を済ませた。

 

そうして俺達は事情聴取の後に解放され普段の日常に戻っていった。ちなみにグレン先生はそのまま正式に講師となることを選択。たまにシスティーナと飽きもせず言い合いをしているのを俺とルミアがなだめたり時には微笑みながら見守るのがいつものことになっていた。

 

これからも事件に巻き込まれるだろうけどこうして過ごすために戦うのは悪くないと俺は思う。それに楽しみなのがもうすぐ彼女がこちらに来るということだ。きっと先生とシスティーナは驚くだろうと考えながら俺は彼女らのもとに歩み寄るのであった

 

 




すいませんロクアカが好きで1巻の内容すべて書き終えたので本当に次こそはありふれ書くと思います(多分)。ありふれは次は無双戦なので少し悩んでますが今週中には上げるようにします。


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第二巻 魔術競技祭編
新しい先生と魔術競技祭


 

俺達は学院にテロリストが来るという大事件を乗り越え普段の学生生活に戻っていた。テロリストたちは天の智慧研究会という帝国創立以来のテロリスト集団で何故か執拗にルミアを狙っている。実際事件が終わってもずさんながらルミアの殺害あるいは捕縛を狙ったのかは知らないが何人もの外道魔術師がフェジテに入り込んできている。まぁそれらは俺が難なく処理しているわけだが、あいつらは本当に一体何が目的なのだろうか。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「ねぇナハト。今日って確かグレン先生の補佐として新しい先生が来るんだっけ?」

 

とある日の朝俺はいつも通り三人で登校していた。するとシスティーナは今日から来るという先生の補佐に興味があるようだ。もともと俺は姉さんから聞いていたのだがこの間正式にクラスに連絡があったのだ。

 

「ん?あぁ、そうだぞ。システィーナにとってはいい師になるかもな」

 

「?どうしてシスティにとっていい師になると思うのナハト君?」

 

「その人俺の知り合いなんだけど風の魔術のスペシャリストだからシスティーナににとってはいい体験とかできると思ったからさ。」

 

「ナハトの知り合いってことはやっぱり軍関係の人なの?」

 

システィーナの疑問はもっともだろう。この間の件があったのでサポートに誰か人員を増やしたと考えたのだろう。

 

「ん~まぁ確かに元軍関係の人だよ。今は訳あって激しい魔術行使ができなくてやめちゃったけど」

 

「だから新しい護衛ってわけじゃないよ。一応は軍のつてでのサポート要員になってるけど」

 

「そうなのね。それにしてもナハトがそれだけ言う人楽しみだな~どんな人だろ?せめてグレン先生みたいな人じゃないといいけど」

 

「もう、システィったら」

 

「ハハ、確かにあの人が二人いるのは面倒だね」

 

「ナハト君まで」

 

そうやって俺達はいつも通り他愛ない会話を続け学院への道を歩んでいく

 

 

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「さ~て、諸君!新しい先生の紹介だ!男子共大いに喜べ!美人の先生だぞ?」

 

俺達は普通にHRを過ごしていると「新しい先生連れてきたぞ~」とセリカさんが突然教室にきて取り仕切り始めたのだ。グレン先生も最初は抵抗したのだがお師匠様に敵うわけもなくすぐさま撃沈し教室の隅からハイテンションなセリカさんを見ている。というか、セリカさんきっとあの人が来ることグレン先生に言ってないんだろうな。まぁ俺もサプライズの意味を含め言ってないけど。

 

そしてクラスの男子共はセリカさんの言葉でそれはそれは騒がしいほど盛り上がっている。反対に女子の目はすさまじいほどに冷たい。

 

「さて、いよいよ登場してもらおうか!入ってきていいぞ~」

 

すると扉を開けて入ってきたのは、美しい銀髪をなびかせたきれいな女性だった。教卓まで来た彼女はこちらを向くとクラスの男子共は「おぉぉ~」と声を漏らしていた。わからなくもない彼女は確かにきれいだからな。そう思っていると自己紹介が始まった。

 

「初めまして皆さん!今日からグレン君の補佐として就任したセラ=シルヴァースです!グレン君より教えられることは少ないかもしれないけどいっぱい頼ってくださいね?」

 

「「「「「おおおぉぉぉぉ!すんげぇ美人来たあぁぁぁぁ!」」」」」

 

「お、おい待て!何でここに白犬がいんだよ!」

 

「むぅ!また私の事白犬って! それとなぜここにいるかと言えば採用試験に受かったからです!」ドヤッ

 

「んなッ!?」

 

「それにしてもみんな元気だね~これからよろしくね!」

 

気さくなセラさん......ではなくてセラ先生に男子のみなさんは「よろしく~」だとかなんだとか騒ぎ散らしている。女子はその様子を汚物でも見るかのように見ているが、彼女の魅力的な容姿に目を引かれている女子生徒も多い。

 

そんな様子を見ながらルミアがシスティーナに話しかける

 

「すごい人気だね。それにしてもシスティに凄い似てるね。」

 

「え、えぇ自分でも驚きだわ.....」

 

システィーナは自覚があるようで自分とそっくりな容姿のセラ先生を見て驚いている様子。ホント二人はそっくりだよな~最初システィーナ見たとき一瞬セラさんかと思ったからな。

 

「あ!それと、これからもいろいろよろしくね”ナー君”!」

 

 

 

 

  ”ピシッ”

 

 

 

 

セラさん..............セラ先生のその発言で一瞬にしてクラス全体が静まり返る

 

「っちょ、セラ先生学校でその呼び方は...............」

 

俺が咄嗟に慌てて立ち上がりながら声を上げる。その呼び方は普段の呼び方でまさか学校で呼ばれるとは微塵も思っていなかった。

 

「えぇ~いつもは何にも言わないじゃない!それといつも通り私の事は”セラねぇ”でいいんだよ♪」

 

「「「「「セラねぇだと? おいナハトお前どういうことだ!!」」」」」

 

あぁ、もうめんどくさいなお前等!?

 

「かなり昔からの付き合いなんだよセラ「セラねぇ」先生とは。俺の姉の知り合いでよくしてもらってたから今でもたまに一緒に遊びに行ったりするんだよ。あとセラ「セラねぇ」先生、呼び方いつものじゃないとだめですか?」

 

俺がセラ先生と呼ぶのがどんだけやなんですか?

 

「いつも通り接して欲しいな。それとも、もしかしてお姉ちゃんナー君に嫌われることしたかなぁ?」ウルウル

 

くッ!卑怯な!涙目でそういわれると断れない..............

 

「わ、わかった。これからよろしくセラねぇ」

 

「うん!よろしくナー君!よしよーし」

 

そう言って俺の前まで来ると頭をなで始める。セラねぇは俺に会うたびにいつも頭をなでてくる。振り払うのは簡単なのだがそれとなく前に「恥ずかしいからやめにしません?」と聞いたらそれはそれは取り乱してさっきと同じことを聞いてきたのでもうあきらめている。実際恥ずかしいけどなんか落ち着くというか、なんだかんだ気に入っている自分がいるのは秘密だ。

 

「「「「「頭なでなでだと!羨ましいぞナハトぉぉぉぉぉ!」」」」」

 

ホントうるせぇよお前等!?いや俺が悪いのか?

 

満足したのか前に戻っていくセラねぇ。できれば人前でこれをやるのはやめて欲しいと思う。そうして俺は席に着いたのだが............

 

「........」ジトー

 

ルミアさん?そんなジト目で見ないでください。あれですこれは姉弟とのやり取りであって決していやらしいものではないのでそのジト目やめていただけませんか?

 

後さりげなく袖口を握ってるのかわいいですね。

 

「る、ルミアなんか怒ってる?」

 

「................ツーン」

 

ツーンって......こういう時はどうするのが正解なのだろう?全く持ってわからん............

 

「え、えっと、ん~そうだ! 俺が何でもするから許してほしいなぁ~なんて?。」

 

「! フフッ、それなら許してあげる♪」

 

こちらに目を合わせ彼女は悪戯ぽっく言う。やれやれどんなことを頼まれるのやら。

 

俺はルミアから何を頼まれるか思いはせながら騒がしいHRは終わり今日の最初の授業が始まった。

 

 

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午前の授業が終わり、昼の時間になった。俺はいつもルミアとシスティーナと一緒に昼食を学食で食べる。最近ではグレン先生も一緒に食べている。ちなみに俺は自作の弁当だ。昔、あらゆる潜入任務に対応できるようにとアルベルトさんに仕込まれたのだ。あの人めちゃくちゃ料理上手いんだよなぁ~

 

さてそんなことを考えていると食堂についた。今日はセラねぇも一緒でセラねぇは周りをきょろきょろしている。セラねぇにはどうやら物珍しいようだ。俺は注文の必要がないのでいつも通り席を取りに行く。今日はグレン先生も一緒だからそこそこ広い席を見つけ陣取る。そうしてしばらくすると全員揃い食事を始める。

 

ちなみに席順はグレン先生とセラねぇが隣同士で机をはさみ俺、ルミア、システィーナの順番だ。

 

「それにしてもやっぱりナー君のお弁当おいしそうだね?一口頂戴?」

 

「セラねぇの料理の方が好きだけどな俺。これでいいセラねぇ?」

 

そう言って俺はおかずの一つをセラねぇのお皿にのせる。

 

「ありがとうナー君! じゃ~今度はお姉ちゃんがお弁当作ってきてあげるね!」

 

そんな会話しているとグレン先生が

 

「お前らホント昔から仲いいよな。そう言えばなんで白犬は姉貴面してるんだ?」

 

「そうですね私も気になります」

 

ルミアが先生に続き興味を持ち、ルミアも同じことをセラねぇに聞く。

 

「ん~なんでだろう?なんていううか出来のいい子だけど、どこか危なっかしくてかまってあげたくなるんだよね。それになんだかんだ甘やかしてあげると嬉しそうにしているのがかわいいからかな?」

 

ウッ.........ばれてるのか.......

 

俺は結構昔からセラねぇに弱い。セラねぇに甘やかされるのは恥ずかしくもあるが嬉しくもあるのだが、俺は隠せていたと思っていたが隠せていなかったみたいだ。

 

「ほぅ~お前は案外甘えん坊なんだなナハト」(・∀・)ニヤニヤ

 

うぜぇなこの人!

 

「先生、焼かれるのと灰にされるのどちらがお好みですか?」

 

俺は姉さんのようにすごみながら聞くと、「.......すいません」と言い口を閉じた。

 

 

「そういえば午後魔術競技祭の選手決めするんだっけ?」

 

俺は前学年の後期からこちらに来たのであまり詳しくは知らないが、昨日の帰りシスティーナが張り切っていたのを思い出す。

 

「そうよ。そう言えばナハトは魔術競技祭何か出たいものとかある?」

 

「ん~特にこれっていたものはなかったかな。ルミアはどうなんだ?」

 

「私もあんまりないかな」

 

「二人らしいけど今年はみんなで出たいから何か考えておいてよね」

 

俺達にそういったシスティーナは今度は先生たちの方に話を振る

 

「そういえば先生とセラ先生は午後参加しますか?」

 

システィーナが午後の参加種目決めに参加するかグレン先生とセラねぇに聞く。

 

「俺は競技祭なんてどうでもいいから任すわ。それよりも金がなくて飢えそうだ............」

 

「少しはしっかりしてくださいよ…………セラ先生は?」

 

グレン先生はただいま金欠でセラねぇの料理を少し分けてもらってるのである

 

「私は他の教師の人とかにあいさつ回りがあるからそのあとに行くね」

 

「わかりました。それと先生はもっとセラ先生を見習ってまじめに働いたらどうですか?」

 

「けっ!やなこった。さぼれるならさぼるわ!というか午後は学園長に給料の前借できるように交渉せねばならんのだよ。」

 

そこからはいつも通り二人は言い争いを始める。そんな様子を見ながら俺達は食事を進める。それにしても給料の前借なんてできるのか?

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「変身の競技に出たい人はいますか?」

 

俺達は昼食の後、先のシスティーナが言った通り選手決めを始めるもののなかなかうまくいってない。ルミアも呼び掛けるもみんなどこかしり込みしている。理由はおそらく女王陛下が来るとのことだからだろう。そして遂にギイブルが「お情けで全員参加にしようとするからこうなる」といい。成績優秀者だけで出ればいいとシスティーナに反論。その物言いにシスティーナが反発しようとするが.................

 

「話は聞かせてもらった!このグレン大先生に任せな!」

 

「ややこしいのが来た..............」

 

システィーナの愚痴はもっともだ。といううかアンタどうでもいいとか言ってたはずだがなぜ...................もしかしてお金絡みか?

 

「おい白猫競技リストかせ。いいかお前等、俺が全力でお前らを勝たせてやる。お遊びなしで優勝を狙うぞ。」

 

「さてまずは一番得点の高い『決闘戦』は白猫、ギイブル、カッシュだ」

 

『決闘戦』は三対三の団体戦で各クラス三人の上位成績者を出すのだがクラスメイトはみなカッシュのところにウエンディが入ると思っていただろう。ウェンディ本人も自分が選ばれると思っていたため困惑している。

 

「そんで『暗号の早解き』はウエンディ一択だな。『精神防御』はルミア以外あり得ねぇな。『バトルロイヤル』はナハトだな。それで他のは..................」

 

そう言ってクラス全員をそれぞれ適したものに振り分けていく。ホントこの人は人としてあれなとこあるけど教師が似合うな。

 

「さてこれで全部だな。なんか質問なる奴いるか?」

 

すると納得いってないのが一人いる。そうウェンディだ

 

「なぜわたくしが『決闘戦』から外されているのですか!納得いきませんわ!」

 

「だってお前使える呪文の数とか魔術知識とかすごいけどドジだし、呪文偶に噛むし。だから状況判断と運動神経のいいカッシュにした。ナハトでもよかったんだが『バトルロイヤル』ならナハトが出れば一位確定だからそうした。てかこの学院の奴じゃ誰もナハトには勝てんし。それとウェンディ。お前の《リード・ランゲージ》の腕前なら『暗号早解き』はお前の独壇場だろ?そういうわけで頼む」

 

「そ、そういわれては仕方がありません」

 

俺としてはあんまり目立ちすぎるのは避けたいが今更の気もするしまぁ何とかなるだろう。それからも先生はそれぞれの種目に選んだ理由を丁寧に説明していく。途中でセラねぇも来たので先生が突然やる気を出したのが気になっていたので知っているか聞くとどうやら特別褒賞があるらしい。そのため先生はやる気を出したんじゃないかとのことだった。あまりにも予想通りだな.............

 

そうして一通り説明するとまたもやギイブルが反論する。このクラス全員で出る編成ではなくクラス成績上位者で固めることを提唱した。恐らく先生は知らなかったようですぐに変えようとするがそれよりも早くシスティーナがギイブルに反論し、ギイブルもそれ以上は反論することをやめたのでクラス全員で出ることになった。

 

その時システィーナは笑顔で期待していますと先生に言っていたが先生の反応はどこかおかしい。まぁ事情を知っている俺と勘のいいルミアはかみ合っていないなぁ~という感想を抱いていた。

 

 

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それから俺達は練習を始めることになった。先生もこうなってしまった以上は腹をくくったようでしっかり指導するつもりのようだ。俺達はさっそく練習のため外に行こうとすると教室を出る直前に先生に引き留められる。

 

「おいナハト。お前は決闘戦のメンバーの面倒見てやれ。やり方は基本的にお前に任せる」

 

「別にいいですけど。いいんですか?生活費かかってるんですよね?」

 

「なんで知ってんだよ...........まぁ、いい。お前ならそっちのプロなんだから大丈夫だろ」

 

「わかりました。セラねぇ借りていいですか?システィーナはセラねぇの方が適任だと思うので」

 

「あぁ、構わない。俺もそう思ってたしな」

 

了承を得たのでとりあえず俺は『決闘戦』のメンバーをどう面倒見るかを考えながら先生と練習場所に、受かっていると何やら口論のようなものが聞こえたので俺と先生は急いで向かう。するとそこではカッシュと他のクラスの生徒が言い争いをしていた。

 

「お前等に組の連中が大瀬で群れて迷惑なんだよ!これから俺達が練習するんだからお前たちはどっか行け!」

 

「何だと!?てめぇ!!」

 

「はい、ストップー」

 

「落ち着けカッシュ」

 

カッシュが相手につかみかかろうとするので俺がカッシュを先生が他クラスの生徒を羽交い絞めで止める。そうして俺と先生ははようやく他クラスの奴が一組の生徒だと襟章でわかる。

 

「くだらないことで喧嘩なんてするなよ。お前等一組の生徒だな?」

 

先生は一組の生徒に質問をする

 

「はい.........一組の生徒です。その......ハーレイ先生に場所をとっておくように言われたので」

 

俺と先生はあたりを見渡すと確かにこちらが場所をとりすぎだなと感じた。

 

「悪かったな。俺達が場所をとりすぎていて。全体的に端によらせるからそれでいいか?」

 

「はい。開けてもらえるならそれで..........」

 

すると一人の講師がやってくる。正直面倒なのが来たなぁ~なんて思った。なぜなら.........

 

「おい!何をしているクライス!場所をとっておけと言ったのにどこも開いてないじゃないか!」

 

ハーレイ=アストレイ。若くして第五階梯に至った優秀な講師。だが、下位成績者にはぞんざいに扱い発言も厳しいことが多いため好き嫌い別れる講師だ。この人は昔気質の魔術師で正直俺はこの人が嫌いだ。この人を見ていると姉さんを苦しめる”アイツ”を思い出してはらわたが煮えくり返りそうになる。

 

そんな負の感情を抱いているとルミアが心配した表情で話しかけてくる。

 

「ねぇナハト君。大丈夫?なんだかすごく怒っているみたいだけど...........」

 

「ッ!大丈夫だよルミア何ともないから心配ないよ?」

 

どうやら表に出てしまっていたみたいだ。情けない........そう思っているとルミアが俺の右手を両手で包み込むようにし、俺を正面から見つめて声をかけてくる。

 

「私もナハト君の見方だから。私になにができるかわからないけど私を頼ってね?」

 

優しい微笑みでそう言われて、手を握られた俺は自身の中にあった怒りは静まって落ち着くと同時に少し気恥しくなったので空いた手で頬を掻きながら

 

「ありがとうルミア。頼りにしているよ」

 

そのような会話をしている時、グレン先生とハーレイ先生は口論の最中だった。ハーレイ先生はこの場所全て明け渡せと横暴な発言に対しグレン先生が反発しているようだ。終いにはグレン先生とハーレイ先生がいきなり給料三か月分をかけるなどと発言し始めたところでシスティーナがうまく仲裁し、この場は解決した。

 

そもそもグレン先生そんなこと言って大丈夫なのかよ............

 

 

こうして俺達の魔術競技祭のための練習が始まるのであった。

 

 

 




今回は競技祭前までを書きました。そして原作死亡キャラであるセラを登場させてみました!セラは結構好きなので生存で行きます。そしてセラはヒロインではなくてオリ主にとって世話焼きのお姉さんというポジションでこれからの物語を進めていきます。キャラはプリコネのシズルみたいな感じにあえてキャラ崩壊させています。正直セラは世話焼きと原作でもなっているのでせっかくなのでそうしてみました。


あれ?でもどちらかというとグラブルのナルメアっぽい気がするような.............


ありふれの方はやってますがもう少しかかりそうなのでこっちを先にしました。明日には出すと思います。


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準備と彼女の想い

俺は先生から決闘戦のメンバーの事を任されたのでとりあえずセラねぇ含め呼び出し方針を決めることにした。

 

「さてとりあえず今後の事決めたいからまずはどれくらい戦えるのか見たいから模擬戦をしようと思う。軍用魔術以外なら特に制約なかったよなシスティーナ?」

 

「えぇ、サブストと同じよ」

 

「そっか了解。順番はカッシュ、ギイブル、システィーナの順な。あとこの順番で本番も戦うことになると思うけどいいよな?」

 

そういうと全員納得しているようなので早速始めることにする。

 

 

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結果は当然だが俺の全勝だ。まぁ軍人の俺が手加減しているとはいえ学生に負けたらそれはそれで問題だしな。

 

「さてと取り敢えずはなんとなくだが特徴は分かった。まずは、カッシュだが自分でもわかっていると思うがほかの二人ほど魔術の知識も技量も高くないから純粋な魔術戦になるとほとんどの場合で負ける」

 

「あぁ、俺もわかってる。だけどどうすんだよ?」

 

「簡単だ。とにかく防御して一瞬のスキを突くカウンターを覚えればいい。《フィジカルアップ》や《トライレジスト》だけしっかりして耐えて耐えて耐え抜いてカウンターで決めるスタイルの練習をこれからみっちり仕込む方針で行くがいいか?」

 

「あぁ、わかった。頼むナハト」

 

取り敢えずはカッシュはこれから模擬戦でとにかく追い込んでタイミングなどを掴ませればいいな。

 

「次にギイブルだが。ギイブルはシスティーナと同等の魔術の知識に技量はあるが判断が遅いのが難点だな。これからは持てるカードを適切かつ迅速に切れるようにするために俺がいろんなバリエーションの敵役をやるから判断力を上げられるように練習だな」

 

「フン。指図されるのは気に食わないが了解した」

 

やや嫌そうにしているも問題ないと判断し、次にシスティーナについて伝える。

 

「システィーナは知識も技量もギイブルと同じで申し分ない。あとはもっと駆け引きを身に着けることかな。悪くわないけどもっとうまくできるようになれば勝率はぐんっと上がると思う。まぁ基本はセラねぇに仕込んでもらうつもりだから俺との模擬戦とかではその復習と実戦経験を積む形で行こうと思う。」

 

「わかった。セラ先生よろしくお願いします。」

 

「うん!よろしくねシスティーナさん!」

 

そうして俺達は方針を決め練習を開始する。カッシュはとことん追い込み体で覚えるようにし、ギイブルには絡め手や正攻法など俺が思いつく範囲の戦法で戦い経験値を積ませ、判断力を鍛えていく。システィーナはセラねぇの指導の下着々と戦い方を学び俺との模擬戦で発揮していく。正直システィーナは別格だ。最近グレン先生と特訓しているのを見かけたがそのおかげなのか拙いところもあるがそれでも学生レベルならすさまじい技量だ。なぜ見かけたかって?俺だってトレーニングは欠かさないからたまたま走り込み中に見かけたのさ。そんなことはいいとして全員呑み込みがいいのですぐに良くなっていく。これなら本番も結果を残せるだろう。

 

 

 

俺達二組の生徒は、一日一日を大事にして練習に精を出し、遂に魔術競技祭開催日前日の練習が終わった。決闘戦のメンバーの仕上がりは上々といえるレベルになった。これなら高確率で一位をとれるだろう。

 

 

 

そして俺はもう一つ危惧していることについて先生たちに伝えることにした。あえて前日のこのタイミングでグレン先生とセラねぇを呼び出した。もし早めに伝えていたら先生たちにいらない気苦労をかけるかもしれないと思ったからだ。

 

 

「んで話ってなんだナハト?」

 

そう聞いてくるグレン先生。続いてセラねぇも聞いてくる。

 

「これはナハト=リュンヌとしてではなく軍人フレイ=モーネとして話します」

 

俺がそういうと二人とも真剣な顔になり続きを促す。

 

「ここ最近王室親衛隊の動きが活発になってきています。今回女王陛下がおいでになることのようですがそうなると当然彼らも来ます。彼らの動きに一応注意しておいてください。最近なにかと帝国内部で嫌な噂を耳にしますので」

 

「お前は...........いや、お前等はもしかしたら奴等......天の智慧研究会が関与しているかもしれないと考えているのか?」

 

「憶測の域を出ませんがそうです。俺も注意していますが万が一の時は軍属でも何でもないのに申し訳ないですがグレン先生よろしく頼みます。セラねぇは無理はしないで生徒たちの安全に気を配ってくれるだけでいいからお願いできるかな?」

 

俺がそう言うとためらいもせず二人は頷いてくれた。当日は姉さんも特務分室から二人よこすと聞いている。一人はアルベルトさんで頼りになるのだがもう一人がなぁ................強いことには変わりないけど不安な要素が沢山ありすぎる。

 

 

そうして明日の事に思いはせながらついに、前日の夜は更けていくのであった。

 

 

 

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場所は変わってシスティーナ邸。そこのバルコニーでルミアは過去に思いはせていた。

 

何度も何度も思い返してしまうあの日の思い出。辛くて、苦しくて、悲しくて仕方ない思い出。それでも彼女にとっては救いでもある思い出。

 

 

「うぅ..............お母さん...........見捨てないで..........なんで私ばかり...........」

 

 

私、ルミアは異能を持って生まれたことで愛する母親から家を追放された。幼い私にとって..........いや幼い以前に一人の人としてとてつもない絶望感を植え付けられた私は、のちにフィーベル家に引き取られた。当時はだれもかれもも信用できふさぎ込んでいて今ではとても仲のいいシスティとさえ仲はお世辞にもいいとは言えなかった。

 

そんなある日、引き取られてまだ日の立たないうちに私は連れ去られてしまった。精神的に弱っていたところにこんな事件が起きて私はもう限界だった。連れ去られてからとめどなく流れる涙。もうだめなのか、こんなところで死んでしまうのかと恐怖と絶望感でいっぱいいっぱいだった。

 

 

「うぅ.........グスッ.......どうして......私ばかり.....こんなめにあうのぉ。誰かぁ.....助けてよぅ........」

 

 

そんなネガティブになっていたところに現れた二人がいた。一人は青年で髪を後ろで結った男の人だった。もう一人はフード付きローブを纏った人だ。なぜか顔が見えなかったが後で男の人だと分かった。背丈は少年というべきもので青年に比べ低く、その限りでは自分と近い年の人なのかと感じた。

 

 

その人たちの助けがあって悪い魔術師たちの手から逃れるも悪い魔術師は諦めず何度も何度も襲い掛かってくるのだ。二人は私をかばいながら移動し、そのたびに何度も何度も二人は彼らを殺していく。私はひどく恐怖した。怖くて怖くてたまらず大声で泣くことしかできなかった。

 

 

私が泣いてしまい隠れながらの移動が難しくなり、二人は迎え撃つことになってしまった。もう一人の青年が一人で敵をひきつけつつ、もう一人の少年が私を守ってくれていた。でも私はさっきの光景と今の相手があきらめずに何度も襲い掛かってくる状況に耐えられず泣き止むことができずにいた。

 

 

泣き止まない私を少年は必死に守ってくれた。次々襲い来る悪い魔術師を泣き続ける私をかばいながら少年は剣と魔術をもって殺し続けていた。少年はあまりにもしつこい襲撃に疲労を感じさせつつも何度も退けてくれた。

 

そうして少しの間身を隠せそうな場所を見つけた少年は私をその場所に移動させ話しかけてきたのだ。

 

「ごめんね。いやなことたくさん見せてしまって。でも、絶対君のことを守るから」

 

少年は泣き続ける私を勇気づけ泣き止まそうとしていたのだろう。でも私は信じられなかった。信じたらきっと最後には裏切られる。

 

「嘘.............みんな私を見捨てる..........グスッ......あなたも最後には............」

 

私は「あなたも最後には私を見捨てる」と言おうとした。しかし、いうことができなかった。なぜなら少年は私をやさしく抱きしめたのだ。

 

「見捨てられるのは怖いよね。わかるよ。俺もそうだったから。でも、きっと君のほうがずっと苦しんだよね。ずっと痛いんだよね。だからね、俺は君を絶対に見捨てない。誰が敵に回ろうと...........たとえ世界が敵だったとしても俺ががすべてのことから君を守るよ。約束だ。」

 

そう言って私は抱きしめられていた。あの時の私はだれも信じられなかった。けど彼だけはなぜか無性に信じられた。そして少年は私を抱きしめながら頭をなでながらまた言葉を紡ぐ。

 

「だから俺を信じてくれないか?君が俺のことを信じてくれるならどこまでだって戦って見せる。いや、どこまでだって戦える。たとえ腕がもげて、足が砕けたとしてもね。だから、俺が約束を守ること信じてくれないかな?そうすればこんな窮地簡単に突破して、君を絶対に助けるからさ。」

 

そんな言葉を受けた私は心の底からこの人は信じられると思った。単純かもしれない。けれど彼の温かさややさしさは本物だと私の勘が告げていた。だから...................

 

 

「グスッ............わかった。私はあなたのことを信じる。約束だよ?だから...........お願い。私を助けて?」

 

 

そういった直後に私たちを探す悪い魔術師たちの声が聞こえた。私がビックと反応すると私を落ち着けさせるように「大丈夫だよ」と優しく囁いた。そして彼が私を放して立ち上がる。思わず私は少年のローブの裾をつかんでしまう。少年はその私の手を両手で包みながら顔の見えないフード越しに目を合わせて........

 

 

「大丈夫。約束はちゃんと守る。だから待っていてくれるかな?すぐにあいつらを倒して、すぐに君を迎えに行くから。ちゃんと君を守るから。だから信じてくれるかな?」

 

 

私は頷くとローブの裾から手を離した。少年は私の頭をひとなでしてから「行ってくる」といい戦いに向かった。それから彼は言った通りすぐに悪い魔術師たちを倒して私の元に戻ってきた。そのまま少年は私をお姫様抱っこしながら移動を開始した。お姫様抱っこは少し恥ずかしかったけどうれしくもあった。まるで少年が私を包み込んで守ってくれているみたいだから。

 

 

その後、もう一人の青年と無事合流し、私はフィーベル家に無事送り届けられた。精一杯の感謝を告げると少年は「これからも約束は守るよ」といい帰ってしまった。

 

 

 

 

そうして今でも私はこの時のことを鮮明に思い出せる。この時の思い出は辛く、悲しい想いと同時に暖かい想いも思い起こされる大切な思い出だ。そして”彼”はその約束を今でも守ろうとしてくれている。最初彼がこの学校に来たときは何となくこの人の雰囲気身に覚えがあると思った。でも、接していくうちに彼があの時の少年だと確信していた。ちょっとしたやさしさや温かさあの時の少年と同じで彼は私が気づいてないと持っているかもしれないが私は気づいてしまった。そしたら私は無意識にいつも彼のことを目で追っている。なぜなら私はあの時からずっと.......

 

 

「好きだよナハト君。」

 

 

私は想いをそのまま言葉に出していた。言葉にすると恥ずかしくて仕方なく顔が熱い。でも不快感はなくむしろ幸福感に包まれているようだ。いつか必ず伝えたいこの想い。でも今だけは胸の内で大切に育みたい。

 

 

そんなことを考えていると後ろから.................

 

 

「ルミア~そろそろ部屋に入りましょ。風邪をひいてしまうわ」

 

 

私の大切な大親友のシスティが私に声をかけてくる。だから私は.............

 

 

 

「うん!すぐ戻るよシスティ。」

 

 

私は振り向き笑顔でシスティにこたえる。

 

 

明日のことはあの人が来るから少し不安なこともある。けれど(ナハト君)がいる。親友(システィ)がいる。だから大丈夫。いつも通り楽しい日常がきっとあるから..............

 

 

 

 

 

 

 




すいませんしばらくこっちがメインになると思います。理由は単純にこっちのほうが書きたいからです。ロクアカは面白いのでアニメ二期やってほしいです。


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祭りの開催

魔術競技祭当日。俺達二組は開催までクラス全員の起用という手法から「やる気ないクラス」と他クラスの生徒並び学院教師陣は評価してきたわけだがふたを開けると....................

 

 

「先頭集団が最終コーナーに差し掛かった!な、なんと!ここで二組のロット君が追い上げる!そして、そして二組のロット君がそのまま抜いたぁぁぁぁぁぁ!まさかの二組が三位だぁぁぁ!!」

 

 

二人で一人のチームを作り敷地内に設置されたコースを一周ごとにタッチしながら何度も回る”飛行競争”の競技。序盤は先頭集団に話されていたものの安定的なペースで飛び続けて三位をキープ。これには会場は大盛り上がりだ。今年のダークフォースだなんて声も聞こえてくる。そしてペース配分に重きを置けとアドバイスしたグレン先生は....................

 

「(うそぉん)」

 

まるで信じられないといった顔だった。いや先生がそんな顔してどうするんですか..........

 

「先生の指示ですよね?こうなるってわかってたんですね!」

 

システィーナは想像以上の結果をたたき出すことになったであろう先生の采配に感心しているのか先生をキラキラした目で見ている。まぁ、先生はまさかここまでうまくいくなんて思ってないんだろうけど。

 

「お、おう!当然だろ?体力勝負となる”飛行競争”において重要なのはペース配分というのは当然だからな。ペースさえしっかり守ってれば相手が簡単に自滅してくれると思っていたがあまりにも簡単な采配だったな!ㇵッハッハッハッ」

 

当然のごとく強がる先生。だけど冷や汗流れてるの見えてるんだよなぁ。そして、先生のその言葉に触発された生徒たちは先生についていけば勝てると信じ切る始末。先生内心「そんなハードル上げないでぇ」とか思ってそうだな。

 

 

だが案外それは事実だったりする。続く競技”魔術狙撃”のセシル、”暗号解読”のウェンディの活躍によりさらに総合成績を上げていく。

 

「だが、どうにも他クラスとの地力の差がなぁ~」

 

そうだ。善戦してるとはいえグレン先生の言う通り地力の差でどうしてもあと一歩順位が上がりにくい。そしてそうこうしていると俺の出る”バトルロワイアル”が近づいてきた。あまり目立つことはするのはよくないんだろうがとにかくいい流れをつなげるためにも確実に勝たないとな。

 

「おい、ナハト!次はお前だろ?大丈夫だとは思っているがしっかり一位とって来いよ?」

 

「安心してくださいよ先生。しっかり一位とってくるんで待っててください」

 

俺はそう言って応援席から席を外し通路に出る。あんまあり目立つのはよくないんだけど今更の気もするししっかりやらないとな。

 

俺はこれからの試合のことを考えていると通路の途中にルミアがいた。

 

「ルミアこんなとこで何してるんだ?」

 

「ナハト君を待ってたんだよ。ナハト君に言いたいことがあってね」

 

「俺に言いたいこと?何かあったのか?」

 

俺が心配になりそう聞くと首を横に振り俺を見つめる

 

「ナハト君のこと応援したかったの。頑張ってねナハト君!ナハト君が勝つこと私”信じてる”から!」

 

「!」

 

”信じてる”か...............そういえばあの時の”約束”の時も同じようなことがあったっけ

 

「あぁ、ありがとうルミア!ちゃんと一位とって戻ってくるからな」

 

俺はそう言うとお互い笑いあって競技の準備のため別れた。

 

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「さぁ、今からの競技は”バトルロワイアル”だ!各クラスから一人を選出し最後の一人になるまで争う競技!注目は一組ハインケル君と二組ナハト君でしょうか。ハインケル君は決闘戦にも選ばれており学年でもトップレベルの成績を誇ります。対してナハト君は成績は優秀ではあるもののハインケル君ほどではないのですが、彼のクラスは二組とのことです!今大会ダークフォースの二組の送り込んだナハト君がどのような展開を引き出すのか注目です!これは面白い試合になりそうだ!!」

 

 

(まぁ、成績は手抜きしてるしその評価は妥当だな。とりあえずスタート位置は自由だから真ん中行きますかね)

 

 

俺は競技前の前評判を軽く聞き流してスタート位置に向かう。普通なら真ん中なんて良い的になるが俺からしてみれば都合がいい。

 

 

「全選手位置についたようですがナハト君はわざわざ真ん中にいるようです。あれでは他のクラスから格好の的になるが何かの作戦か?」

 

俺のそのスタート位置に他クラスや観客からふざけているのかと怪訝に思われているようだ。それらを適当に無視しているとそろそろ始まるようだ。

 

「それでは競技を開始したいと思います。...................競技、始め!!」

 

その合図の瞬間。俺を取り囲んでいる他クラスの生徒が俺めがけて魔術の詠唱を開始する。予想通り全員が俺狙いのようだ。だから.............

 

「《疾風よ》」

 

俺は短く一説で唱えた《ラピッド・ストリーム》で上空に回避する。すると先ほどまで自身にいたところに他クラスの放った魔術がぶつかり合っていた。中心にいたのは上空に回避するため。そして他クラスを補足しやすいと考えたためだ。

 

俺はそのまま上空で態勢を整えて魔術を発動させる

 

「《雷精よー踊れ》」

 

俺は自分以外の他クラス五人に目掛けすぐさま放射線状に《ショック・ボルト》を放つ。五つの閃光はそのまま他クラスに襲い掛かる。だが、おそらくこれだけじゃ《エアスクリーン》やその他魔術などで対応され仕留めきれないだろう。だから俺はここでもう一つ手を打つ。

 

「《狂い咲け》」

 

俺が追加でそう詠唱すると各クラスが対抗するために術を唱えている目の前で《ショック・ボルト》が大きくはじける。

 

 

「「「なッ!?」」」

 

突如大きく弾けたことによる音と閃光によって他クラスの奴らは驚き詠唱を途中でやめてしまう。それだけ隙ができれば十分で、俺は空中から着地するまでの間に詠唱を完成させ、着地と同時に魔術のトリガーを引く。

 

「《風よ・風よ・吹き荒れろ》」

 

俺は《ゲイル・ブロウ》の即興改変の黒魔改《ストーム・ブロウ》で俺を中心として全方位に風が吹き出し先ほどの隙のせいで次の魔術を唱える余裕のない他クラスの連中はみな吹き飛ばされ全員壁際まで飛ばされたことにより俺の勝利が確定した。これが俺が中心を陣取ったもう一つの理由で一発で確実に全クラスまとめて場外にするための行為だった。

 

 

「試合終了!!勝者二組のナハト君だぁぁぁ!試合時間はわずか一分にも満たない一瞬で全員を場外に吹き飛ばしての勝利だぁぁ!」

 

 

そのコールに会場全体は大いに盛り上がる。二組の応援席を見上げるとクラスの奴らも大騒ぎだ。まぁ先生たちは勝利を信じてくれていたようで当然だといわんばかりの表情を浮かべていた。

 

そしてルミアも笑顔で俺に手を振っていた。

 

だから俺も笑顔で手を振りそれにこたえる。

 

(ちゃんと勝って来たぞ。信じてくれた通りにな)

 

俺はそのまますぐに自身のクラスの応援席に戻った。

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------

 

 

俺が応援席に戻るとクラスの男子どもにもみくちゃにされた。うれしいのは分かったからもう少し落ち着いてくれと俺が思いながら過ごしていると落ち着き次の競技にみな注目する。次はルミアの精神防御か.........まぁ、順当にいけばルミアの一位が確定だろうな。ただ、《マインド・ブレイク》すら使われるという競技に参加させるってのは思うところはあるけどな。

 

そんなことを考えているとシスティーナが心配そうにグレン先生に声をかける。

 

「ねぇ、先生。今からでもルミアを変えませんか?さすがにあの競技は危険ですよ。」

 

するとギイブルも口を開く。ただ、彼は別に彼女を心配してのことではなく………

 

「確かに彼女をここで使うのは合理的ですね。彼女は白魔術には秀でてますが黒魔術はそうでもない。ここで彼女を切り捨てるのは合理的ですね。」

 

その言葉にシスティーナはさらに不安になる。だが............

 

「大丈夫だよシスティーナ。それとギイブルも勘違いしてるみたいだな。この競技はルミアの勝ちだよ。そうですよねグレン先生?」

 

「どういうことですか?」

 

俺の発言にシスティーナはどういうことかと先生に聞く。ギイブルも何を言っているんだという表情をしているものの先生のほうを向く。

 

「ナハトの言うとおりだ。《マインド・アップ》ってのは素の精神力を強化する魔術だ。要するにルミアみたいに肝が据わったやつにはめちゃくちゃ効果あるんだよ。それにアイツの肝が据わってるのは親友のお前が一番知ってるだろ?」

 

そう先生がシスティーナに聞くとシスティーナは笑顔を浮かべ頷いていた。最後には親友としてルミアを信じることにするようだ。

 

(まぁ、俺も心配で競技前に変わろうか聞きに行ったりしてたんだけどな)

 

 

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<回想>

 

俺は競技を終えた後次の競技に出るルミアに声をかけに来ていた。いや正確には変わらないかと聞きに来たのだ。

 

「あ!ナハト君お疲れ様!それに一位おめでとう!」

 

「ありがとうルミア。ルミアの応援のおかげだよ。それにルミアが信じてくれたわけだしね」

 

そう言うとルミアは照れたように笑い「どういたしまして」といった。

 

「なぁルミア..................次の競技俺と変わらないか?さすがにあの競技は危険すぎる気が.............」

 

「フフッ。大丈夫だよナハト君?私もねクラスのために頑張りたいんだ。それにね...............」

 

そう言って途中で区切ると俺に一歩近づいて俺を上目遣いに見上げるてくる。あまりにも至近距離なせいで心臓が何だかうるさいような気がする。

 

「ナハト君に私のいい所見せたいんだ。だから応援してくれないかな?」

 

笑顔でそう言う彼女を見て俺は.........

 

「(あぁ、これは止められないや)わかった。危ないと思ったらすぐに助ける。だからがんばれルミア!応援してる」

 

そう言って俺はそのまま当然の流れのごとく無意識に彼女の頭手を置きやさしくなでる..........

 

「ってごめん!勝手に頭なでて!そ、それじゃあ応援してるから頑張れよルミア?」

 

そのまま俺はそそくさその場を離れる。さすがにこのままいるのはなんか憚れる気がしたからだ。

 

 

 

 

 

 

そうしてナハトが離れた後。ルミアは頭を両手でおさえ、顔を真っ赤に染めてその場に座り込んでいた

 

(うぅ~私が攻めたつもりなのにやり返されちゃった///////)

 

ルミアはチャンスと思い狙ってナハトとの距離を詰めて意識させようとしたのだ。(ある意味では成功している)だが、その後の頭なでなでの思わぬカウンター攻撃により撃沈したのだ。だが..........

 

(でもナハト君のなでなで気持ちよかったなぁ~......が、がんばったらまたしてくれるかな?/////)

 

当然満更でもないうえ、がぜんやる気が出たルミアがいたのだった。

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

さっきまでのことを思い返していると競技の準備が整い説明っが始まろうとしていた。

 

「ただいまより精神防御の競技を開始したいと思います。今年も第六階梯のツェスト男爵にお願いいたします!」

 

「さて、さっそく競技を開始しよう。私の華麗な魔技にどこまで耐えられるかな?」

 

 

そう言って競技が始まる。いきなり《マインド・ブレイク》を使うわけではなく、まずは《スリープ・サウンド》などから始まっていく。それでも《マインド・アップ》を唱えた終えている生徒の一部が魔術にかかり寝ていく。

 

 

「昨年覇者のジャイル君がいますからね。恐らくは選手の温存のためでしょう。そんな中、二組のルミアちゃんがどこまで耐えられるか期待ですね男爵」

 

「そうだな….....可憐な少女がどれだけ精神操作呪文に耐えられるか.........いたいけな少女の心をどのように汚染しつくしてやるか実に楽しみだ!!」

 

そういい視線を向けられたルミアは顔を少し引きつらせ後ずさっていた

 

「少しは自重しやがれエロ男爵!!!」

 

司会者の突っ込みと会場にいるすべての人間が汚らわしいものを見る目で競技を見ている中、二組の応援席では..........

 

「おいナハト落ち着けって!!」

 

俺、ナハトはグレン先生とセラねぇとシスティーナに取り押さえられていた。

 

「は・な・せ!!これじゃあの汚物を処せない!!」

 

俺は両手に取り出した獲物を持ち斬り込もうとしていた

 

「クッソ!こっちは三人がかりなのになんつう力してやがんだよ!」

 

「抑えてー!ナーくん!!」

 

「落ち着くのよナハト!こんなとこじゃダメ!せめて闇討ちじゃないと!」

 

若干一名ナハトの味方がいるような気もするが三人は必死にナハトを押さえつける。

 

 

そうやって騒いでいるといつの間にか残りはルミアと五組のジャイルだけになっていた。

 

「だがジャイルってのも半端ないなぁ~正直ルミアに任せとけば余裕だと思ったが...............おい!いい加減落ち着いたかナハト!万が一は分かってるだろ?」

 

「えぇ、確実に首を取りますよ。確実にね?」

 

「ちげぇよ!だから.................」

 

「冗談ですよ。いえ、これ以上あれな発言するなら”アレ”使って痛めつけるのもやぶさかではないですが、ルミアとはちゃんと約束しているので危なくなったらすぐに向かいますよ」

 

「わかってるのはいいんだが................たかが〆る程度にお前”アレ”使う気なのかよ...........」

 

「ナーくんったら............」

 

「?あれって何ですか先生?」

 

「ん?あ~それは......っと今は試合だ。そろそろ佳境だろうしな」

 

先生は俺の”切り札”の一つについて言いかけるが試合の意識を戻す。その時ちょうど試合会場では《マインド・ブレイク》に入ろうとしていた。

 

ここで少し《マインド・ブレイク》についての説明が入った。長々いうのもアレなので簡単に言えば精神操作系の魔術で一番やばい術だ。決まってしまえば一瞬で廃人と化してしまうレベルのものだ。俺と先生も慎重にルミアの状態を見極めようと集中して試合中のルミアを見つめる。

 

----------------------------------------------------------------------------

 

 

試合は進み何度も《マインド・ブレイク》が使われるなか二人は耐え抜いていく

 

そんなルミアを見たジャイルは感心したように声をかける。

 

「女のくせになかなかやるじゃねぇか」

 

素直な賞賛だった。それに対してルミアも笑いながら「そうかな?」と答える。

 

「だがそろそろ限界なんじゃねぇか?棄権したらどうだ。」

 

「あははは......そうだねそろそろ限界かも。でも頑張りたいんだ!先生がみんなで勝とうって言ったんだ。だから私も頑張らないと。」

 

「それにいいとこ見せたいから」ボソッ

 

ルミアが自身の想いをジャイルに伝える。ただ、最後のは完全に無意識につぶやいてしまいる。それをジャイルだけが聞き取れていて................

 

「ハンっ.....なるほど男か?」

 

「えっ.....//////もしかして今口に出てた?/////」

 

ルミアは否定するものの完全にそうだとジャイルはほとんどそうだろうと確信していた。というよりもそもそも試合前のルミアとナハトのやり取りをたまたま見かけているので聞くまでもなく確信していたりする。

 

だが、そのあとも何ラウンドも試合は続いていく。

 

そうしてついに......................

 

「っぁ.................!」

 

「あああぁぁぁっと!ついにルミアちゃんがふらついて膝をついてしまった!!!」

 

「やめるかね?」

 

そう変........ではなくツェスト男爵は問いかけルミアはそれに大丈夫だと答えようとするが...............

 

「棄権だ!二組はここで棄権する」

 

そうグレン先生は大きな声で告げる。その傍らルミアをナハトとシスティーナが介抱しようとする。

 

「先生、ナハト君、システィまだ私は................」

 

「十分だルミア。だから無理しないでくれ。これ以上は危険だ。約束しただろ?危なくなったら助けるって。」

 

「そうよ。凄いわルミア!あなたはすごく頑張ったの!かっこよかったわルミア!」

 

俺とシスティーナはルミアを称える。ルミアはジャイルに勝てなかったのが悔しいかもしれない。でもルミアの頑張りは称賛されるべきものだ。だから俺たちはルミアをこれ以上無理をさせるわけにはいかない。

 

「そういうこった。だからルミアお疲れさん。それとすまなかったなこんなきつい競技に参加させちまって。まさかこいつみたいなやつがいるなんて思いもしなかったぜ」

 

そういうとちょうど勝者であるジャイロに会場すべての目が行く。だが俺は少し違和感を感じた。

 

「あれ?なんかジャイルの様子変じゃないですか?」

 

なんというか生気がないというか、心ここにあらずといううか、堂々としているようで何かが欠けているように見えた俺は思わず声を上げる。

 

そうして司会者がジャイルを確認すると.............

 

「な、なんと!ジャイル君が立ったまま気絶しているぅぅぅ!!!えーこの場合はどうするべきでしょうか男爵?」

 

「う~む。.............棄権したとはいえこのラウンドを耐えられなかったジャイル君の負け、対して耐えることはできたルミア君が勝ちだろうな。」

 

そう男爵が宣言した瞬間。会場は割れんばかりの歓声が包み込む。

 

「凄いわルミア!!大勝利よ!!」

 

「やったなルミア!!」

 

俺とシスティーナは親友の勝利に大喜びしていると遅れながらルミアも自分の勝ちだと理解して

 

「やった................やったよふたりともぉぉ!!」

 

そう言ってルミアは俺とシスティーナに抱き着いてきた。

 

「「ちょ、ちょっとルミア!?」」

 

俺たちはたじろぐも今回頑張ったのはルミアなので俺とシスティーナは顔を見合わせ「まぁ、これくらいはね?」と目で会話しそのままルミアに抱きしめられた状態で落ち着くのを待つことにした。そして、落ち着くまでの間は俺がルミアの頭をなでシスティーナが背中をさすり続けることになった。

 

 

(ホント、ルミアはすごい子だ。)

 

 

ルミアの印象をまた一つ改めることになる午前の部は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

だが、この競技祭はこのまま平和に終わることはなかった。

 

 

 

 

俺たちがルミアたちと一緒にいる傍らで

 

 

 

 

ことは進んでいるのであった

 

 

 

 

 

 

 





次回はついに特務分室の二人の登場です。そして今回少しだけ触れたナハトの切り札ですが今回の事件解決のカギにするつもりです。まぁ、お分かりの方が多いと思うのでぶっちゃければナハトの固有魔術なのですがとある作品の弟思いの兄が使っていたものを参考にしたものにする予定です。ぶっちゃけその作品に出てくる技は結構好きなのでこの作品でも既に一度だけその作品を参考にしたものと言うかそのものを使用していたりします。今後もほかにも使う予定です。

次回はどこまで行くかわかりませんが、いつもこの駄作を評価してくれている少数の方々に感謝を!







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陛下と王室親衛隊の暴走

ルミアの大活躍で終えた午前の部。今からの時間は休憩時間なので普段よりも多めに作ってきた弁当を持ちルミアたちに合流するとそこにはシスティーナとセラねぇ............そして、ルミアが二人いた。

 

「や、やだ.....わ、私が二人もいるぅ~」

 

やけに焦ったように答える一人のルミア。あぁ~なるほどね、今の反応でわかったわ.............このルミアはグレン先生だ。いや、マジで何やってんだよあんた?

 

「これはびっくりだなぁ~(棒)。........ところで先生。先生用に”肉”を使った”ガッツリめ”の弁当用意したんですけどいりますか?」

 

俺は先生が飢えてて大変そうだな~と思ったので祭りの日くらいはと本当に作ってきていたその弁当箱を目の前に出すと................

 

「え!マジですか!あなたは神でしたか!さっすがナハト!頼りになるぜ!サンキ...........」

 

ルミアが.........いや、ルミアに化けている先生が肉という誘惑に負け、素を完全に表に出してすでに持っていた弁当箱を一旦地面に置き、俺の弁当に手を伸ばそうとしていると................

 

「《力よ・無に帰せ》」

 

システィーナが【ディスペル・フォース】を唱えると化けの皮は剥がれ完全にグレン先生の姿になる。その先生はというと笑顔で硬直すると足元に置いた弁当箱をシスティーナに返し何事もなかったように立ち去ろうとしているところを................

 

「《このぉ・お馬鹿あぁぁぁぁ》!」

 

システィーナは即座にお得意の【ゲイル・ブロウ】で先生を吹き飛ばす

 

あの人は...............まったく。黙って待ってればちゃんと用意された飯にありつけたのに。

 

俺はそう思いながら芝生に用意しておいたシートをひきそこで俺たちは楽しく食事を始めるのであった。

 

 

--------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

「あぁ............人としてどんどん落ちぶれていってる気がするぜ..........」

 

やつれた顔でシロッテの枝を咥えながら黄昏るグレンはそうぼやきながらベンチに座っていた。すると、そこに人の気配が近づいてくるのをグレンは感じた。

 

「ここにいたんですね先生。」

 

「先生に差し入れ持ってきましたよ?」

 

俺とルミアは自分たちの分の食事を終えるとグレン先生を探していた。

 

「どうしたんだ..............お前ら。今俺は腹が減ってて............」

 

「知ってますよ。だからさっきも言いましたが先生用に作った昼食渡しに来たんですよ」

 

「私も持ってきたので良ければどうぞ」

 

「お前らは、マジもんの神様であられますか?!すまんがありがてぇ。早速いただくぜ!」

 

そう言って俺とルミアの渡したものを勢いよくがっつく。

 

「久しぶりの肉たまんねぇ~さすがナハトの飯はうまい。それとルミアがくれたこのサンドイッチもうまいなぁ~これはルミアが作ったのか?」

 

俺はアルベルトさんの指導の下あらゆる場面に備え料理の練習もしたりしていたのでその時に何回か先生にもふるまったことがあるので俺が料理が得意なのも知っている。なので先生の興味はルミアの持ってきたサンドイッチにいった。

 

「違いますよ。私不器用なので料理できないんですよ。そのサンドイッチは、ある少女が普段お世話になっている男性に渡そうとしたんです。でも素直じゃないその子は渡しそびれちゃったみたいで捨てようとしていたのをもったいないからと言って私が受け取ったんです。」

 

「ほ~ん。てことは俺は残飯処理かよ。まぁ、うまい飯食えたからよかったけど。それにしたってその女子は気の毒なこったな」

 

そのグレン先生の発言に俺とルミアは顔を見合わせ苦笑いする。

 

「さて、これでしばらくは大丈夫だな。ありがとな二人とも。ナハトのもうまかったぞ。」

 

俺たちはどういたしましてと答える。そうして俺たちは上機嫌な先生と一緒に戻ろうとすると先生の背後から誰か来るのに気づき見るとそこには...........

 

「あら?そこの方はナハトとグレンですよね?少しよろしいでしょうか?」

 

俺は突如現れた落ち着いた声の主の女性に驚く。すると先生が..........

 

「いやいやよろしくありませーん。俺今ちょー忙しんで...............」

 

「ちょっ!!先生まずいですって!!」

 

俺はあまりにも目の前の女性に対する先生の適当な態度に驚きながら指摘する。先生も最初は背を向けていたものの適当なこと言いながら振り向き、声をかけてきた女性のことをしっかり認識すると..................

 

 

「って!女王陛下あぁぁぁぁぁぁ!?」

 

先生はさっきの態度から一転し、俺と同じようにすぐさま片膝をつき首を垂れる。

 

俺たちの目の前に現れた女性はアルザーノ帝国女王アリシア七世その人であった。

 

「お久しぶりですね二人とも。それと今日の私は帝国女王ではなく帝国一市民、アリシアなのです。ですから、お二人とも顔を上げて立ってくださいませんか?」

 

陛下にそう言われては俺たちもそれに従うしかないので俺たちは顔を上げ立ち上がる。

 

「そ、それでは、失礼します。」

 

「わかりました。失礼いたします。」

 

俺と先生は恐る恐る顔を上げ立ち上がる。

 

「一年ぶりですね、二人とも。お元気でしたか?」

 

「は、はい。この通り、陛下もお変わりないようで。」

 

「はい、陛下。今の生活を楽しませていただいております。”任務”についてもつつがなく勤めております。」

 

俺のその言葉に微笑み嬉しそうにする陛下。

 

「ナハトは学生生活を楽しんでくれているようで私もうれしいです。”任務”についてはあなたのことを信用しているので心配はしていませんが、これからもどうかよろしくお願いします」

 

「はい。この命に代えても遂行させていただきます」

 

俺のその返答にうれしそうにうなずき「お体を大切にしてくださいね」と陛下は答える。次に陛下はグレン先生に向き直る。

 

「グレン...........なたにはずっと謝りたかった。あのような不名誉な形で帝国宮廷魔導師団を除隊させてしまって。セラにも伝えてください。申し訳なかったと。彼女も私のせいで魔術行使が...............」

 

陛下はそういいながら先生に頭を下げる。グレン先生はその陛下の発言に口をはさむ

 

「いやいや、陛下がこんな社会不適合者に頭下げちゃ駄目ですって!俺はただ仕事に嫌気がさし辞めただけのゴミくずなんで!それにセラの件に関したってあの時の俺がに責任があるので。」

 

「陛下。失礼を承知で発言させていただきますがあの事件では陛下もグレン先生も全く悪くはありません。すべてはイグナイト家当主とその当主を止めることのできなかった不甲斐ない自分の責任です。どうか陛下は気にしないでください。」

 

俺たちは頭を下げる陛下に慌てながら頭を上げてもらおうと必死になる。セラねぇも陛下に謝れたとあってはさすがに申し訳なくなると思う。大体あの事件は俺の言葉通りすべては”あの男”と俺が不甲斐なかったせいだ。そのせいでセラねぇは魔術行使に悪い影響が残り、姉さんもセラねぇとはそれなりに親しかったのでその件含め家の重圧に板挟みにされてさらに苦しめることになってしまった。俺に力がないから親しい人たちを傷つた。俺がもっと................

 

 

俺はそんな無限に続くような負の考えを振り払い最初から気になっていたことを聞く

 

 

「ところで陛下。どのようなご用向きでこちらにいらしたのですか?」

 

 

すると陛下は視線を俺の横にいるルミアに移す

 

「お久しぶりですねエルミアナ。」

 

 

「ぇ……」

 

陛下の発言に戸惑うルミア。当然だろう、彼女からしてみればいまだに信じられない光景なのだから。

 

「元気でしたか?見ない間にずいぶんと綺麗になりましたね。フィーベル家の皆様とはどうですか?食事はしっかりとっていますか?」

 

「あ、えっ...............その……」

 

「ナハトとはうまくやっているかしら?彼にいっぱい甘えて意識してもらえるようにするといいわよ。殿方は女性に甘えられると意識するそうなので。私もそうやって旦那を射止めたのですから。あなたもナハトがとられるのは嫌でしょ?」

 

陛下はいったい何をルミアに吹き込んでるんですか.............というかあまりよろしいとは言えない状況だな。ルミアは陛下に言葉をかけられてから困惑してどうすればいいかわからないようだし、対して陛下は本当に久しぶりに会う娘に喜びを隠せずに一方的になってしまってる。いや、もしかすると距離感をつかみかねているのかもしれない。長く会わなかった娘との再会。別れは最悪なせいでどうするのが正しいのかわからないで思いつく限りの話題を出しているのかもしれない。

 

 

「あぁ、夢のようだわ。またあなたとこうして..........」

 

陛下はそのままルミアに触れようと手を伸ばそうとする。しかし……

 

「お言葉ですが陛下。陛下は失礼ながら勘違いをされていると思います。」

 

「「「ッ!」」」

 

ルミアは逃げるように片膝をつき首を垂れる。ルミアもパニックになっておりその状態で出た答えがこの行為だった。

 

「私はルミア=ティンジェルと申します。恐らく陛下は三年前にご崩御なされたエルミアナ王女殿下と間違えられていいるかと。」

 

ルミアの明確な拒絶。きっと本心ではないにしろ心のどこかで抱えていた思いでもあるんだろう。

 

「................そうね。あの子は..........エルミアナは流行り病で三年前に亡くなったのでしたね..........私ったらどうしてこんな間違いをしてしまったのでしょうね。」

 

「ごめんなさいね不愉快な思いをさせてしまって」

 

「いえ、私のような民草にお声をかけていただき感謝の言葉もありません。..................それでは失礼します。」

 

 

ルミアはそのまますぐにどこかへ走って行ってしまった。俺と先生はその様子を困惑した表情で見ていることしかできなかった。陛下はとても哀しそうで公開しているような表情を浮かべている。

 

 

「..............グレンにナハト、あの子を...........ルミアをよろしくお願いしますね?そしてナハト...............あなたがあの子を護り、支え、そして願わくば幸せを与えてあげてください。」

 

「お任せください陛下」

 

とグレン先生はかしこまりながら伝える。

 

「承知しました陛下。彼女との”約束”たがえないことをここに今一度誓います。陛下のお言葉もしかとゆめ忘れず、持てる力の限り尽くします。」

 

俺には陛下のお願いを断る気は毛頭ない。あの日、あの瞬間に俺はすべてを敵に回そうと護ると約束したのだ。

 

そして陛下は俺たちの答えを聞くと帰っていった。俺たちは陛下の帰っていく様子をやるせなく見ているとしばらくしてそのまま会話はせずに応援席に戻った。一応懸念事項もあるためルミアを探しに行くか悩んだがやめることにした。ルミアも一人の時間が今は欲しいと思ったからだ。会場にはすでに使い魔を放っているので問題ないいだろう。

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

俺たちが応援席に戻ってくるとそこには案の定ルミアの姿はなかった。一応使い魔にはルミアの捜索もさせているのですぐに居場所がわかるだろう。少ししたら行くことにしようと思っていると午後からの競技が始まる。俺はその競技を見ているとシスティーナに声をかけられて席を外した。

 

 

「ねぇ、ナハト。ルミアを見かけなかったかしら?あの子がさぼるとは思えないし何かあったのか心配で......」

 

本気でルミアのことを心配しているようだ。俺は少し考えてからシスティーナにもさっきのことを伝えてた。システィーナもルミアの事情を知る一人だからこそ伝えるべきだろう。

 

「実はさっきのことなんだが.......................」

 

俺はさっきまでのことを話すとシスティーナはより心配そうな表情を浮かべていた。

 

「そんな顔しなくても大丈夫だシスティーナ。こんな時はだれだって一人になりたいだろうし、一人で考える時間は必要だろ?それにもうそろそろ使い魔がルミアを見つけるだろし、そうしたら俺も行くからさ。」

 

そこまで伝えるとシスティーナは少しは安心したようで任せると言ってくれた。だが、まだやはり表情に影があるな..........どうしようかなと思うといい案が思いついた。

 

「そういえばシスティーナの作ったサンドイッチだが先生絶賛してたぜ?直接聞いてみたらどうだ?」

 

俺はそういたずらぽっく笑いながらシスティーナに言うと顔を赤くしてシスティーナが照れている。

 

「そ、そう///なら後で先生にも直接............って聞けるか!!////」

 

「ハハッ。まぁ、よかったんじゃないか?喜んでもらえたわけだし。」

 

俺はその様子を見て笑い、そのまま俺はルミアを探しに行くことにした。ちなみにこの後なんだかんだでシスティーナは先生から感想を直接聞けたそうだ。

 

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俺は外に出たらちょうどその時に使い魔がルミアを見つけたようでその場所に向かうとベンチに腰を掛けて何かを見ているルミアがいた。

 

「何を見ているんだルミア?」

 

俺が聞くとすぐにルミアは答えてくれた

 

「ナハト君.............これはロケット・ペンダントだよ。この中にはだれか大切な肖像があったはずなんだけどいつの間にかなくなっちゃったんだ。」

 

そういうルミアの表情は笑みを浮かべているもののとても寂しそうだった。

 

「これ自体に価値があるわけじゃないの………こんなものを今でも大切にしてるのはやっぱり変だよね?」

 

「変じゃないさ。ルミアが大切だと思うならそれには絶対に価値がある。だから絶対に変なんかじゃないよ。」

 

俺がそう言うと「ありがとう」とルミアが言う。

 

「..............なぁ、ルミア。俺は仕事柄王宮に行くことが多くてな。要人警護とかとある人に剣を教えてもらったりとかしてたからそのとき、よく陛下とは会うことが多かったんだ。」

 

俺のいきなりの独自に驚くルミア。それでもルミアは聞き入るようにこちらを見ている。

 

「その時、陛下はいつも同じロケットペンダントをしていた。むしろしてない日なんてないんじゃないかとすら思った。だから俺はある日そのことを陛下に聞いてみたんだ。すると陛下はすごく大切なものだと教えてくれた。その時の陛下はとても優しい表情だったけどすごく何かを後悔しているようだった。」

 

「それって....................」

 

俺がそう伝えるとルミアはしばらく無言で何を言うかを考えているようだ。だから俺はそのままルミアが何かを言うまで無言で待ち続ける。ルミアがどんな答えを出そうとそれに沿えるようにありたいと俺は考えていた。

 

そうしてしばらく無言のまま二人でいるとルミアが口を開く。

 

「………ナハト君にとって私はどんな子かな?」

 

「誰よりも優しく、そしてかわいいどこにでもいる普通の女の子かな?ただ、ちょっと我慢しすぎに感じて支えてあげないとって思わされる子ってのが俺にとってのルミアという女の子だな。」

 

「そっか............ありがとうナハト君。...........まずは私の今までのこと聞いてくれるかな?」

 

お礼を言った後ルミアは少し考えてたのちに自分の話を聞いてほしいといった。

 

「あぁ、聞くよ。聞かせてルミア?」

 

俺はルミアを見てしっかりとそう答えた。そうしてルミアは今までの生い立ちを話していく。かつての幸せな日常を、楽しかった思い出を。そして、辛く悲しい思い出のすべてを俺に話してくれた。

 

俺が話を聞き終えるとルミアは少しづつだが自分の考えを言葉にする。

 

「今話しててね..............私やっぱり陛下のこと怒っているんだと思う。必要なことだっていうのもわかっているの。でも.............それでもね、許せないと思っているんだと思う。..............でも、またお母さんって呼びたい。抱きしめてもらいたい。お話だってしたい。でも...............」

 

そこでルミアはいったん言葉を区切る。思い悩んでいるようだ。

 

「でもね、お母さんって呼んじゃったらシスティののご両親に申し訳なくって.........裏切ってるみたいな気がして..........…私どうしたいのかわからないんだ」

 

 

俺はそのまま目を伏せるルミアにアドバイスになるかわからないが自身の持論を伝える。

 

「これは俺の持論だけど俺は行動を起こすことが重要なんだと思う。人はだれしも行動しないといけないとなるとどうすべきか悩んでしまうのは当然なんだ。そして、そこから行動を起こそうとするのが難しい。なぜなら、リスクや不利益を被る可能性におびえてしまうから。100%成功させられるとは限らないし、この世に絶対はない。だけどね、行動を起こさなかったら0のままなんだ。不安があってもいい。でも、意思と考えだけは持たないといけないんだ。常に考え続け、もがいてそのうえで自分の意志でつかみ取った行動の結果ならきっと間違っていたとしても後悔があっても納得はできると思う。」

 

これはグレン先生とアルベルトさんの二人を見ていたことによって得た持論だ。グレン先生は救える限りのすべてを救おうとしていた。対してアルベルトさんは9を確実に救うため1を冷酷に切り捨てることができた。でも、俺は二人は違うようで根本は同じだと思う。アルベルトさんは限りなく多くの9を救おうと最善を尽くす。そのための行動をアルベルトさんは決して惜しまない。グレン先生だって身を削ったって全てを救おうとするための行動は惜しまない。あの二人は本当に誰かを救うために全力なれる優しい人たちで、そのために行動を起こし、そのための行いの一切を惜しまない。あの二人はきっと確かな意思と考えを持って動いているんだと俺は二人の背中から感じた。だから俺もそうであろうと今までやってきた。

 

「...........私あの人と話してみる。まだ何を話したいかわからないけど、とにかく話したいの。辛かったことうれしかったことも今言ったこと以外も全部を伝えたい。でもね..........怖いんだ。あの人が私を追放したとき凄い冷たい目をしていた。……またあの目を向けられると思うと........すごく怖い。」

 

 

そこでルミアは一度区切り自身を落ち着かせるよう深呼吸するとまた話し始める。

 

 

「だからね......ナハト君もその時一緒にいてほしいの。私の隣で支えてほしいの。..........いいかな?」

 

「いいよ。俺もルミアと一緒に行くよ。何があっても俺はルミアの味方だ。”約束”だろ?」

 

「! うん!ありがとうナハト君!」

 

 

俺たちの間に弛緩した雰囲気が漂う中、そこに招かれざる客が来る。

 

「!まさか本当に動くとはな.........」

 

「そこの貴様がルミア=ティンジェルで間違えないな?」

 

そう聞いてきたのは王室親衛隊の一人だった。その問いかけてきた本人の後ろには4人んお親衛隊の者たちがいる。

 

「え、えぇ、私がルミアですけど?」

 

そういうとその場にいる王室親衛隊が剣を抜き、ルミアに剣を向ける。

 

「………どういうつもりだ?剣を抜くなんて穏便じゃない。」

 

俺が少し怒気を含めそう問うと親衛隊が答える。

 

「ルミア=ティンジェルにはアリシア七世陛下を暗殺しようと企む国家転覆罪がかけられている。発見次第その場で即手打ちにせよとの女王陛下の勅命である!」

 

「………ぇ?」

 

ルミアはあまりの状況に理解が追い付かないようだ。俺はなぜこんなことをと思索する。

 

(は?こいつら何を馬鹿なことを?陛下が万が一にもそんなこと言うはずはない................だとしたら言わされているのか?一体誰に、そして理由は?なんにせよここは時間稼ぎしつつ離脱の備えをすべきだ)

 

俺はその瞬間ポケットにのなかのあるもの(・・・・)に触れる

 

「その話は信じがたいな。令状もなしにそんなこと信じることなんてできないぞ?」

 

「貴様は黙っていろ!!貴様もこの娘と同様に処刑するぞ!!」

 

俺はここでルミアが前に出ようとしているのを察知する。大方自分がこのままやつらの言い分を認めて俺を助けようと考えているんだろう。だけど.....

 

俺はルミアを手で制しながら後ろにかばうようにしながらルミアに話しかける。

 

「ルミアは後ろにいて。俺は大丈夫だから..........な?」

 

「ナハト君........で、でも........」

 

「俺を信じてくれないか?」

 

「う、うん。」

 

そのやり取りの後俺はもう一度相手を正面から見据え思いっきり煽る。

 

「話にならないな。令状すら出せないくせに図星突かれたら逆上か?」

 

「貴様!........どうやら痛い目見ないと分からないようだな!」

 

「さ~?できるもんならやってみれば?」

 

そして、そのままそのまま親衛隊の奴は剣を振り上げ俺に振り下ろす。

 

俺はそれをただ見ているだけ。

 

 

 

躱さずにそのまま...................

 

 

ザシュッ!  ドッパァ!!

 

 

ナハトの首は飛びその場にすさまじい量の鮮血が吹き出した。

 

 

吹き出した血はルミアにもかかり、そこでようやく現実のことだと理解する

 

「..............ぇ?」

 

 

 

ルミアはその光景に呆然としてしまった。あの凄腕のナハトが全くの抵抗もせずに首を斬られその命を散らす光景はあまりにも現実離れしすぎた光景だ。しかしながら先の光景がスローモーションでフラッシュバックし続ける。最初は声が出なかった。だが、何度もフラッシュバックを繰り返し現実と理解する。すると一度現実だと理解してしまえば..............

 

 

「う、嘘……だよね?ナハト君が死ぬわけ........ないよね?..........え..........いや..........こんなの......」

 

そしてそのままルミアは憔悴しきった顔で瞳からとめっどなく涙があふれる

 

「ふん!馬鹿なガキだ歯向かわなければいいものを。さぁ、お前はこっちこい!」

 

ナハトの首を斬った男はそのままルミアを無理やり立たせて引っ張っていく。ルミアはもう一切の抵抗する気力もなく唯々涙を流しながら連れられて行く。もうその目は焦点があっていなかった。そして、それに続きほかの奴らもそこを立ち去った。

 

 

 

 

 

 

その場に残されたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大量の鮮血をまき散らしたナハトの首が飛んだ死体...........................ではなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お勤めご苦労様~」

 

 

 

 

五体満足(・・・・)のナハトとルミア(・・・)がその場にいた

 

 

 

 




次回は競技祭終了まで行きたいと思います。今回最後に使ったのは前回も言ってたナハトの切り札です。と言っても今回は本来の力ではなくあくまで簡易的な発動で本来の力は普通にチートです。次回以降うまくつなげられるようにしたいです。


最後に、この駄文を読んでくださり本当にありがとうございます!


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切り札

「ね、ねぇナハト君さっきのはどうゆうことなの?」

 

ルミアは王室親衛隊が俺を斬り、自身を連れ去っていくような(・・・)やり取りを見ていていたため困惑しているようだ。ルミアからすれば王室親衛隊が一人芝居しているようにしか見えないので不思議に思っても仕方ないだろう。

 

 

「俺の固有魔術(オリジナル)だよ。詳しいことを説明してる時間はないから簡単に言うと幻術を使って認識操作したんだよ。と言っても本来の力の半分も使ってないからそのうち勝手にとけちゃうと思うからやることやって今のうちにこの場を離れるよ。」

 

俺はアルベルトさんに直通の通信機で連絡する。

 

「こちら月です。襲撃にあいましたが一応退けました。状況のすり合わせがしたいので会場を一旦離れて合流しませんか?......................はい................そうですか...........わかりましたすぐに向かいます」

 

俺は連絡を終えるとルミアに顔を向け話しかける。

 

「ルミア悪いけど一緒についてきてもらっていいかな?これからどうするにせよルミアを放ってはおけないから」

 

「大丈夫だけど............本当にいいのかな?」

 

「当たり前だろ?俺がルミアを護る。たとえ誰が敵であろうとだ。」

 

そう言いルミアを落ち着かせた俺はルミアをお姫様抱っこしそのまま《ラピッド・ストーム》を使い移動を開始した。まずはアルベルトさんと合流するのが先決だ。対策や作戦は状況がわかってから考えるしかない。

 

 

------------------------------------------------------------------

 

 

「ここだな..................二人はと............」

 

 

俺はあれから数分移動すると合流地点に到着した。現在位置は会場から距離のある暗い路地裏。ここなら隠れるのにちょうどいいと思っていると曲がり角から鷹のように鋭い目の青年と眠たげな眼の少女が来た。

 

「アルベルトさん、お久しぶりです。リィエルも久しぶり。」

 

「あぁ、久しいなナハト..............いやこの場はフレイと呼ぶべきだな」

 

「ん。久しぶりナハト。グレンはいないの?」

 

「グレン先生は呼んでないから来ないよ。」

 

先生連れてきたらリィエルが何するかわかったもんじゃないしな。俺たちは軽く挨拶を済ませ俺はルミアに彼らのことを話す。

 

「ルミアこの二人は俺の同僚でこちらの男性がアルベルトさん。こっちの女の子がリィエルだ。二人とも頼りになる味方だ。」

 

「私はルミア=ティンジェルです。よろしくお願いします。アルベルトさん、リィエルさん」

 

お互い軽く自己紹介を済ませて早速本題に入る。

 

「アルベルトさん。向こうはどうやらルミアの殺害を目論んでるようですが陛下は今どんな状況ですか?」

 

「陛下は今親衛隊の先鋭が隙間なく取り囲んで身柄をおさえている状態だ。さらにあの場にいる元世界のセリカ=アルフォネア女史は動く様子を見せないというのが妙だな。」

 

「そうですね。その状況であの人が動かないというのはおかしいですよね。セリカさんは陛下と仲もいいうえこの状況に気づかないほど鈍い人じゃないですしね。」

 

俺は現在の状況を整理する。どうにかセリカさんに連絡できれば何かヒントが得られるかもしれないんだが.............っているじゃん!セリカさんと連絡取れる人が。

 

「アルベルトさん。今からグレン先生に連絡していったんセリカさんに連絡してもらうのはどうでしょうか?」

 

「フム..................多少のリスクはあるが今はそれにかけるしかないだろう。どちらにせよ判断材料が少なすぎる。」

 

 

俺はグレン先生の通信機にかけるとすぐに出てくれた。俺はそれから用件だけ伝えると一旦先生は通信を切ってセリカさんにかけてくれた。少しすると着信がありでると..............

 

『セリカの奴だが「私は何もできない」だと。あとは俺かお前にしか状況は打破できないだってさ。』

 

「俺と先生だけ?..................ひとまずありがとうございます。また何かあったら連絡します。」

 

俺は先生との連絡を切るとアルベルトさんたちにも今の話を説明する。するとそれぞれがその言葉の真意を思索し始める。

 

(俺と先生だけが状況を打破できる、か..................俺と先生じゃきれる手札の数は俺のほうが多いから先生にしかできないことを考えるべきだろう。そのうえで先生にしかできないことと言えば固有魔術(オリジナル)だな..............”愚者の世界”はあらゆる魔術の発動の完全封殺。てことは何らかの魔術が発動する前ってことだ。そのうえで王室親衛隊が動く理由は陛下に関係があるだろう………つまりはその魔術は陛下を対象にされている。なのに術者を特定しそいつの命を狙うではなくルミアを殺そうとする............待てよ....…確かにそれなら俺の固有魔術でもどうにかなる。)

 

 

「アルベルトさん。下手人は条件発動式の呪殺具を使用するつもりなんじゃないでしょうか?」

 

「フレイもそう思うか。恐らく呪いの発動条件は第三者への密告、呪殺具を外すこと、あとは時間制限あたりだろう。そして解除条件はエルミアナ王女の殺害だろうな。」

 

「じ、じゃあ私が死なないと..............陛下が..............」

 

ルミアは俺たちの推測に顔を青ざめる。いくら自分を捨てたとは言え自身の母の命がかかっているのだから当然だろう。でも、ここまで相手の手段が割れれば手の打ちようはある。

 

「大丈夫だルミア。ちゃんと手はある。ルミアも陛下..........いやルミアのお母さんも俺たちが助けるから安心してくれ」

 

「その様子だと策はあるんだな?」

 

アルベルトさんはその鋭い目を俺に向け問いかける。

 

「えぇ、ただ難ありの作戦になりますけどね」

 

俺はアルベルトさんに作戦を伝える。アルベルトさんも確かに少し問題のある作戦だがこれならば確実に陛下の前にノーマークでたどり着けるので了承し細かい打ち合わせをするとそれぞれの最善を尽くすために行動を開始した。

 

 

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場所は変わり魔術競技祭会場。ここに一人の女子生徒システィーナは自身の二人の友人に思いはせる。ナハトからルミアが本当の母親に会って不安定だと聞き心配していたがナハトが探しに行くからと安心はしていたのだが二人とも帰ってくる様子がなく気がかりで仕方ない。しかも、ついさっき先生には連絡が来たみたいだけど先生の様子がおかしいから余計不安だ。

 

そんな不安で悶々としていると........................

 

 

「まさかお前が本当に教師をしているてとはなグレン。」

 

その声に二組の生徒含む先生たちは振り返ると鋭い目つきの青年と眠たげな顔をする少女がいた。

 

「ゲッ!な、なんでおめぇらがいるんだよアルベルト!リィエル!」

 

「フンッ、偶々こちらに用事があったからついでに勝手に職場をやめたお前を一発殴ろうと思ってな。セラは元気にしているようで何よりだ。」

 

「久しぶりだねアルベルト君!アルベルト君も元気そうでよかった。リィエルも元気にしてた?」

 

すると眠たげにしている少女は静かに答える。

 

「ん。私は元気。」

 

そう答えるリィエルを慈しむように微笑みかけるセラ。

 

「.............グレン。お前を殴るのはまた今度にするとしてお前の生徒たちに差し入れだ。元同僚が迷惑をかけているだろうからな」

 

そういうとアルベルトはいくつかの軽くつまめるものと飲み物を運び込んできた。

 

「不穏な言葉が聞こえたが今は聞かなかったことにしてやるよ。てか、お前は俺の母親か!」

 

「貴様の母親などまっぴらごめんだ。だが、今まで誰がお前の尻拭いをしてきたと思っている?」

 

アルベルトはその鋭い目を細め冷ややかに言い放つ。

 

「グっ..............言い返せねぇ...............」

 

そしてグレンは思い当たる節しかなく完全に黙らされた。

 

「もう!いつも二人とも言い争いして!」

 

そんな二人の間に入って仲裁するセラ。かつての職場をほうふつとさせるやり取りにグレンは内心懐かしいと同時に後悔や申し訳なさを覚える。

 

「..............俺たちはしばらく会場内にいる。またなグレン」

 

「ん。またねグレン。」

 

アルベルトはそういってグレンの横を通り過ぎていく。それに続きリィエルも立ち去った。

 

その場に残された生徒たちは差し入れに飛びつきうれしそうにしている。だがグレンは何か(・・)を握りしめた様子でそのままポケットに手を突っ込んだ。その時のグレンの表情はとても真剣なものでそれに気づいたものはいなかった。

 

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

 

その後の競技はアルベルトたちが運んできてくれた差し入れのおかげもあったのか午前の流れのまま順調に二組は成績を伸ばし続け、ついに一番得点の高い『決闘戦』の時間になった。

 

「もう!グレン君、遅いよ!!競技始まっちゃうよ!」

 

「仕方ないだろこいつにつかまってたんだから...............」

 

そういうグレンの隣にはリィエルがいた。

 

「あれ?リィエル?アルベルト君とは一緒じゃないの?」

 

「ん。グレンがいたからついてきた。」

 

「え?り、リィエルそんなことしていいの?」

 

「?なんでダメなのセラ?」

 

「いや、だって..............」

 

セラは前日ナハトから聞かされていたためリィエルがいる意味を理解しているからこそ困惑していた。それと同時にどこかこうなる気はしていたとも思っていた。

 

「セラ。諦めろ………こいつはこうゆうやつだ。どうせアルベルトの奴もすぐに気づいてこっちに来るだろ」

 

グレンの言うことはもっともだった。こんな状況でアルベルトが来ないわけないと思ったのでそのまま放置することにした。

 

 

そんなやり取りをしていると競技が始まった。三人の生徒たちと彼らを指導したナハトのことを信頼して競技に注目していた。

 

 

 

 

----------------------------------------------------------------------------

 

 

競技は進み遂に決勝戦まで来ていた。勿論2組は順調に勝ち進み決勝まで順調にコマを進めていた。そしてその相手はハーレイ率いる一組の生徒だ。そして現在の総合順位は一位が一組、二位が二組でこの勝敗が総合優勝を決める戦いなのでお互いのクラスの生徒や会場の者たちのボルテージは否応に高まる。

 

 

「それにしてもあいつらの動きすごくよくなってたな。」

 

「そうだね。三人とも戦い方がどんどんうまくなっていくからびっくりしたもん」

 

グレンとセラの二人は自身らの生徒の成長に感心していた。カッシュはここまでの勝率はそこそこなものの粘り強さとナハト仕込みのカウンター戦法がはまっていたようで期待以上の働きをしていた。彼は今後集団戦などではとても頼りになりそうだ。そして、二組が誇る二人の秀才、システィーナとギイブル。もともと彼女らは非凡な才を持っており当然期待はしていたが予想以上に戦い方が巧くなっていた。二人の勝率は今のところ10割で負けなしでここまで来ている。

 

 

そんな彼らはクラスの期待を背負った決勝戦が始まった。決勝戦、まずは先鋒のカッシュの戦いは、持ち前の判断力とナハトにしごかれて磨きのかかった耐久力を駆使した持久戦で善戦するも惜しくも惜敗。続く中堅戦もカッシュの時と同様試合はやや長引き持久戦になるも一組の生徒が疲れを見せその隙を逃さずギイブルが【コール・エレメンタル】を使い召喚したアース・エレメンタルが相手を拘束し、相手の投了宣言により勝敗が決まり一勝一敗で大将戦が始まろうとしていた。

 

「僕がタイに戻してあげたんだから無駄にしないでくれよ?」

 

「はぁ~貴方っていう人は..............」

 

ギイブルのとげのある物言いにため息をつきながらフィールドに向かうシスティーナ。

 

「お~い!白猫頼むぞ!俺の給料三か月分お前に託したぞ!」

 

フィールドに向かうシスティーナに残念なことを言いながら声援を送るグレン。

 

(まったくあのバカ教師は.....................でも、普段たくさん教えてもらってるんだから勝たないと!)

 

 

システィーナは気合を入れ一組のハインケルと向き合う。【バトルロワイアル】ではナハトに瞬殺されていたものの学年ではトップクラスに優秀な相手だと自身に言い聞かせながら相手を油断なく観察する。

 

 

そして審判が試合開始を宣言する。

 

 

「大将戦..................始め!!」

 

 

その宣言と同時に二人は動き始める。ハインケルの呪文をシスティーナは完ぺきに対処しその後ハインケルに対しシスティーナが攻撃を仕掛けるもののハインケルもそれを冷静に対処する。二人の技量は互角で、これから繰り広げられるであろう戦いに会場のテンションは今日一に盛り上がる。

 

そのままお互い互角の打ち合いをするにつれ観客の歓声は大きくなる。そろそろお互いの魔力残量が心もとなくなるとこで遂にシスティーナが動く。

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》!」

 

「な、なんだこの呪文は!?」

 

ハインケルは覚えのない呪文に驚き体制を崩す。システィーナはここまで温存しておいた切り札である【ゲイル・ブロウ】の即興改変である【ストーム・ウォール】を放つ。そしてそのままシスティーナは冷静に体制を崩したハインケルに向け................

 

「そこっ!《大いなる風よ》!」

 

お得意の【ゲイル・ブロウ】で態勢を崩し隙を見せたハインケルを打ち据える。

 

二つの呪文による風圧でハインケルは場外にはじき出され勝敗が決した。会場はこの瞬間割れんばかりの歓声をシスティーナに送り勝利を称える。二組の生徒たちは全員でつかみ取った総合優勝の確定に観客に負けないほどのテンションで盛り上がる。そしてそのまま生徒たちは応援席を飛び出しシスティーナの胴上げが始まった。

 

 

その様子をグレンは嬉しそうにみているとすぐさま顔を引き締める。

 

「ここからだな」ボソッ

 

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魔術競技祭の閉会式及び表彰式が始まった。表彰台には女王陛下であるアリシア、王室親衛隊隊長ゼーロス、そして唯一の第七階梯に至った魔術師セリカがいる。

 

「それでは、今大会で優秀な成績を収めたクラスに女王陛下から勲章が下賜されます。二組の代表者は登壇してください」

 

盛大な拍手の元その言葉通りに表彰台に来たのはグレンとリィエルだった。グレンはともかくリィエルが登壇したことに二組の生徒は困惑する。

 

「貴方は........リィエル?どうして................」

 

その様子を見ていたセリカはすべてを察したように不敵な笑みを浮かべ呟く。

 

「.........来たか」

 

「さてさてさーて、この騒ぎをそろそろ終わらせましょうか」

 

グレンはそう陛下に言うとその姿を霞がかかったようにゆがめる。隣にいるリィエルも同様に。そして、現れた姿は...........昼から帰ってきていなかったナハトとルミアだった。

 

そしてすぐさま.............

 

「セリカさんお願いします!」

 

ナハトがそうセリカにいうとセリカはナハトたちを囲むように結界を作り出す。

 

「さすがセリカさんですね。ありがとうございます。これで心置きなくことを終わらせられそうです。」

 

「気にするな。ところでナハト、グレンはどうしたんだ?」

 

「グレン先生ならトイレにいてもらってます。途中で自分と入れ替わってもらったので」

 

俺たちの作戦はまずは俺たちがアルベルトさんたちに【セルフ・イリュージョン】で変装し会場内に戻る。その間、アルベルトさんたちは俺たちに変装してもらい囮になってもらった。そして会場に戻ってきたら今度はグレン先生と接触し入れ替わる。別に入れ替わらなくてもよかったんだがグレン先生がいるのにアルベルトさんとして自分が表彰台に上がるのはおかしいかなと思ったので変わってもらった。この作戦は二組が優勝してくれないと実行できなかったがクラスのみんなが頑張ってくれたおかげでここまでこれたんで本当に感謝しかない。

 

「ナハト。お前には悪いがここは引いてくれ。ひかぬというなら相手がお前でも私はお前を斬るぞ!」

 

「師匠、俺にも護るべきものがあります。そのためなら俺もたとえ師匠が相手でも容赦すつもりはありません。しかし、今回はその必要もないです。もうじきすべてが終わるので。」

 

ゼーロスさんは俺が姉さんとバーナードさんにかくまわれてからよく剣の手ほどきをしてくれたので俺はいつも師匠と呼んでいた。向こうも今回の任務のことを知っているので今の変装しているときの姿を知っている。

 

「.................どういうことだ?」

 

油断なくこちらをにらみつけ殺気を放つ師匠を前に俺は冷静に言葉を紡ぐ。

 

「それはですね..................こういうことですよ」

 

 

俺はポケットから一枚のアルカナ................月のアルカナを取り出す。

 

 

「《術式完全起動》!【奇術師の世界・幻月】!」

 

俺はアルカナを掲げそう叫ぶとカードはまばゆい光を放つ。あまりの光量にその場にいる全員が目をふさぐ。

 

 

そして、光が収まり何が起こったのかその場いるセリカさん以外の人が周りを観察する。だが、そこは先と変わらない光景のままだった。

 

 

「なんだ?..............不発か?」

 

師匠は俺が使おうとした魔術が不発に終わったと思っているのだろう。なにせ何も変化してないよう(・・・・・・・・)に見えるからだ。

 

 

「師匠はどうやら不発だったと勘違いしているみたいですがちゃんと自分の固有魔術(オリジナル)は起動していますよ」

 

その発言の意図がわからない師匠だったが少しして自身の体がおかしいことに気づく。

 

「!なぜだ?体が動かないだと!?」

 

「師匠は動けないようにしました。師匠は今少し冷静じゃないので動かれる不都合なのですいません。」

 

俺のその言葉に支障は目を見開き戦慄しているようだ。

 

「さて、陛下いまその物騒な・・・ネックレスをお外ししますね?」

 

「ッ!やめろ!!ナハト!!それだけはやめるんだ!!!」

 

俺の発言に慌てふためく師匠。必死に動かすことのできない自身の体を動かそうと鬼の形相を浮かべている。

 

俺は激昂する師匠を傍目に指を鳴らすと陛下の首にあるネックレスは音を立て割れそのまま地面に落ち、黒い瘴気のようなものを上げそのまま砂のように崩れなくなった。

 

「なッ!ナハト貴様ぁぁぁあ!」

 

師匠は親の仇を見るような目で俺を見にらみつけ叫ぶ。陛下が死んだと勘違いしているんだろう。

 

「師匠落ち着いてください。そしてよく見てください。」

 

そういうと師匠は陛下のほうを見るとそこには陛下が普通に立っていた。

 

「は?.....へ、陛下御無事なんですか?」

 

「えぇ、ゼーロス。私は無事です。大丈夫ですから落ち着いてください。」

 

そう言って微笑みかける陛下。その様子を見て呆然とする師匠がそこにいた。

 

「ありがとうございますナハト。あなたのおかげで助かりました。」

 

「いえ、当然のことをしたまでですよ陛下。そして陛下がご無事で何よりですよ。」

 

「ナハト...................いった何をしたんだ?」

 

俺の固有魔術(オリジナル)を知っているセリカさんはともかくそれ以外の人は俺がその説明をするのに興味があるのかこちらにじーっと視線を向けてくる。

 

「自分はこのカードに書き込んだ術式を読み取り、起動させることであらゆる存在を幻術世界におとしこむことができるんです。これが自分の固有魔術【奇術師の世界・幻月】。自分という奇術師がすべてを欺き、敵を支配するための魔術。この幻術世界でできることは時間や法則、かけた人の記憶やこの世界での体その他”すべて”を支配することができます。また、ここで起きたことは現実でも反映され、例えばここでの痛みは本物ですし、ここでの死は現実での死を意味します。それと先程陛下のネックレスを壊しましたが現実の陛下のネックレスも効力を失った状態で壊れています」

 

逃走する際にも使ったが普通の幻術と同じような使い方もできるが、本来の使い方が今回の形だ。まぁ、俺自身や師匠たちを幻術世界に招く必要もないが念のため全員招待した。俺自身の知りうる限りでは自分で言うのもアレだがおそらく最強幻術だと思っている。これだけ強力な技なので当然だがリスクもある。この世界は術をかけている人やこれまでかけた人、物の記録の蓄積を基に世界を構築しているのだがその情報を処理するのに脳に大きな負担をかけている。大部分は術式で機械的に処理しているもののそれでもすさまじいほどの情報を処理しなくてはいけないので脳にかかる負担はすさまじい。なのでこの魔術は維持できるのが限界30分である。それ以上は脳の負担で逆に俺が死ぬか記憶や脳に障害が残ってしまう。実際今も頭痛がするのを顔に出さないようにしている。またこの魔術を起動させるとこの魔術を解いてからその後数十分は魔術が使えなくなるというデメリットもある。ただし、逃走の際は本来の形での発動はしていないためノーリスクで通常の幻術をかけることができる。

 

 

俺はデメリットを伏せた説明を終えると陛下に声をかける。

 

「陛下、今のこの世界1分は現実ではコンマ1秒にも満たないんです。せっかくですからご自身の思うままにしてみてはいかがでしょうか?」

 

そう言うと陛下は驚いた表情をするもすぐに涙を浮かべながら微笑みルミアに駆け寄り抱きしめた。

 

「え?」

 

ルミアは突然の出来事にとても驚いているようだ。だが陛下はそれに気づいてない様でルミアを抱きしめてルミアに語り掛ける。

 

「ごめんなさいエルミアナ...............あなたに沢山辛い思いを..............寂しい思いをさせてごめんなさい。母親失格でごめんなさい.................でも...............それでも私はあなたを心の底から愛しているわ」

 

陛下は涙を流しながらルミアを力一杯抱きしめ謝罪をし、愛していると伝える。陛下もルミアを愛しているからこそとてもつらかったのだろう。国を取るか愛娘を取るかでどれほどの葛藤をしたのか俺には想像もできないがそれでもそれがとても苦しいのはこの光景を見ていればわかる。だからと言ってルミアが苦しかったのも事実であるわけでこの世界というのはつくづくままならないものだ。

 

そしてルミアも理解が追い付き、陛下に言われた言葉をどうとらえてたのかは俺にはわからない。いやこの世界でなら俺は知ることができるがそんなことする必要もない。なぜなら、そんなことをしなくても涙を流しながらではあるがどこか幸せそうに陛下を抱きしめ、「お母さん」と呼んでいるルミアを見ていればわかる。ルミアもまた陛下を………いや、実の母を愛していることを。

 

その二人の親子の美しい光景を俺たちはは優しい微笑みを浮かべ暖かく見守る。そして、その光景がこの事件が無事に解決できた何よりもの証左であるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





これで魔術競技祭編終了です。次回は後日談と後は二組の生徒たちの打ち上げの話を書こうかなと思います。また、今回使ったナハトの固有魔術はナルトのうちはイタチの瞳術である月読をモデルにしました。(そのままですが)正直もっと攻撃的なものとかにしようかと思っていたのですが月のタロットカードの意味は欺瞞とか幻惑といったものなのでやはりここは幻術系統のものにしました。また原作のあの”月”とも後々絡ませていきたいとも思っています。(そこまで書くかわかりません)


今回も駄作ですがここまで読んでくださり本当にありがとうございます!










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祭りの終幕

 

 

俺たちは無事今回の陛下とルミアに迫った危険の排除に成功した。その後、簡単な事情聴衆があったのでそれを終え聴衆の前に聞いていた今回の魔術競技祭の打ち上げ会場にルミアと待っていてくれたグレン先生にセラねぇと一緒に向かっていた。

 

 

「にしてもお前らは災難だったな。せっかくのイベントなのに面倒ごとに巻き込まれて。」

 

「まぁ、そうかもしれないですけどいつものことじゃないですか」

 

グレン先生は俺に災難だったなと言うが特務分室に入ってからと言えば災難続きであるためある意味では日常のことだと考えていた。

 

「でも先生。ルミアもちゃんと話せたので災難というのも違う気がしませんか?」

 

「フッ、違いねぇな」

 

「そうだね!何がともあれルミアちゃんは陛下とお話しできる機会ができてよかったね!」

 

俺がそう言うとグレン先生もセラねぇも同意してくれる。

 

「うん。いろいろとありがとうナハト君。先生たちも迷惑かけたのにありがとうございます。」

 

「どういたしましてルミア。」

 

「ガキがいっちょ前に何言ってんだよ。生徒は先生に迷惑かければいいんだよ」

 

「気にしないでルミアちゃん!これが私たちのお仕事だから」

 

俺たちはそんな会話をしながら歩いている。ルミアも前を向いて楽しそうにしているとルミアは不意に真剣な表情になり昔のことについて話し始める。

 

「ねぇ、ナハト君。”あの時”助けてくれたのってナハト君とグレン先生なんだよね?」

 

”あの時”というのはおそらくルミアがさらわれた時のことだろう。

 

「そうだよ。あの時のことがどうかしたのか?」

 

一応お互いに”あの時”のことを認知しているが一体どうしたんだろうからと不思議に思っているとその疑問にこたえるかのようにルミアが話始める。

 

「改めてお礼が言いたいの。あの時の君がかけてくれた言葉、温かさのおかげで私は今まで頑張ってこれた。うんうん、これからも頑張れる。でも、私が君とした約束はきっと君の負担になるのと思うの。申し訳ない気持ちがある。..............けどね、私それ以上にうれしいんだ。あの時私は味方してくれる人なんて誰もいないと思っていたから君が守ってくれて..................すべてから守ってくれるって言ってくれてすごくうれしかった。だから、ありがとうナハト君!そして、貴方の負担になってしまってごめんなさい。」

 

 

 

ルミア...............そんなことを考えていたのか。いや、俺も同じこと考えたことがあったな。俺も姉さんに負担をかけているんじゃないかって不安になっていたな。今だってそう思う。それで一回そのこと言ったら思いっきり平手打ちくらったけ。

 

俺は過去のルミアと自分を重ね合わせ、昔ことに思いはせていた。

 

---------------------------------------------------------------

 

~数年前~

 

『姉さん、俺.........姉さんに迷惑ばっかかけているよね?ごめんなさい.............俺のせいで姉さんにばかり嫌な思いさせて。本来は俺が背負うはずのものだったのに...............俺のことはもうどうでも.........』

 

 

俺の生家は帝国でも有数の貴族であるイグナイト家だった。そして、俺は男として生まれてきたから当然次期当主の後継ぎと期待されていた。だけど、俺は異能のせいで家の者から殺さることが決定され、その場をたまたま姉さんが聞いてしまい、姉さんが知り合いだったバナードさんにその場での話と俺のことを頼み込んで俺が失踪したことにしてもらった。その結果姉さんはイグナイト家の後継ぎになるためにとてもつらく厳しい目にあった。日に日に優しかった姉さんが俺以外に冷たくあたるようになっていた。そしてついに、俺にばれないように隠れて涙を流している姉さんを見てしまい、俺は思わず姉さんにそう言ってしまった。

 

俺が申し訳なくなってそう言って姉さんに頭を下げて謝っていた。大好きな優しい姉さんの負担になるぐらいだったらと思い『俺のことはもうどうでもいいから』と伝えようとするとその発言の途中で姉さんは俯きながら俺の頬を平手で打った。

 

 

''パッンッ!!''

 

 

『えっ………』

 

 

 

俺は叩かれて呆然としながら姉さんのほうを見ると涙を流していた。俺はなぜ姉さんが涙を流しているのかわからなかった。でも、またこの人を苦しめてしまったんだと思うと叩かれた痛みよりも後悔とやるせなさで一杯になっていると姉さんが俺をやさしく胸に抱きしめ頭に手を置いて撫でてくれた。

 

 

『馬鹿..............私は貴方が大切だから助けるの。どんなに大変で辛くても貴方が............私の弟が愛おしいから助けるの。だから貴方は自分のことなんかどうでもいいなんて言わないで。.............私はねナハト、貴方が無事でいてくれれば本当にそれだけでいいの。貴方が元気でいてくれるのが何よりも幸せなの。だから私はイグナイト家の人間として頑張れるの。』

 

 

俺はその言葉に涙がボロボロととめどなく流れていた。俺は姉さんに”大切”と”愛おしい”と、そう言ってもらえてうれしくて仕方がなかった。そして、姉さんの想いを知って自分の失言を後悔していた。

 

『ありがとう............グスッ.....姉さん。............いつも.......本当にありがとう.......グスッ......俺も姉さんが大好きで、大切だから..........いつか必ず..........姉さんを助ける!』

 

俺はそれからも嗚咽交じりに”ありがとう”を精一杯伝え続けた。そして、いつか姉さんを俺が助けると姉さんに..........この時の想いにかけて誓った。そう俺が言い切ると姉さんはそのまま俺が泣き止むまでずっと抱きしめ頭を撫でてくれた。

 

『................えぇ、どういたしましてナハト。そして、私を好きと.........大切と言ってくれてありがとう。』

 

 

それから俺は今まで以上に魔術や剣術に武術の鍛錬に精を出すようになった。勉強だって頑張った。いつになるかわからないけど姉さんを助けられるように少しでも助けられるようにと思いながら一生懸命努力した。

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

そんな昔の俺のことを考えていると自然と俺は隣にいるルミアの手を握り話し始めていた。

 

「俺もさルミアと同じで異能のせいで家から殺されることになっていた。それを姉さんが先んじて助けてくれたんだ。でも、そのせいで俺は姉さんに負担をかけていんじゃないか不安になり、ある日それを伝えて『俺のことはどうでもいいから』と伝えようとしたらぶたれてな。『あなたが大切だから頑張れる』そう言われたんだ。」

 

「そう..........なんだ」

 

「だから今のルミアの気持ちもわかる。でもね………俺もルミアが”大切”だから守るんだ。最初は同情からだったかもしれない。だけど今は確実に違う。ルミアが俺にとって”大切な人”だから助けるんだ。辛くても大変だろうとルミアを俺が守りたいから守る。だからルミアが負い目を感じることはないよ。俺を頼ってくれると嬉しいな」

 

俺はそういってルミアを見て笑いかけた。俺も昔は同じ事を考えていたから何とも言えないけど今なら姉さんの想いもよくわかる。謝ってほしいから守るんじゃなく、”守りたいから守る”ということが。

 

「////////////.........ありがとうナハト君。そうだよね..........謝るよりこういう時は”ありがとう”だよね。」

 

なぜかルミアは顔を少し赤くしながらそう言った。ん~?俺なんか変なこと言った...............な。普通にこれってシスコンですよと風潮してるみたいだな。そりゃキモイよな.................

 

 

(手...............繋いでる////////////こ、恋人つなぎにしてもいいかな?)

 

 

お互い全く反対のことを考えながら打ち上げ会場の場所に向かって夜道を歩いていくのであった。

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

あれから少し歩くと目的地に着き、店の中に入ったのはいいんだが........................どういう状況コレ?

 

 

俺たちは目の前に広がる状況に困惑していたなぜなら........................

 

 

 

「「「「いえぇぇぇぃい!!!!」」」」

 

クラスメイトが顔を赤くしながらグラスをもってハイテンションでどんちゃん騒ぎをしているからだ。

 

 

いや、祝勝会なんだしハイテンションでもおかしくないだろうが絶対におかしいい。だってあのギイブルもハイテンションなんだぞ?まるでこれじゃあ酔っぱらっているみたいな.......................

 

そんなことを考えているとよく知った顔が俺に飛びついて絡んできた。

 

「ナハトぉ~今回もぉ~ナハトがルミアを助けてくれたんでしょ~やっぱりさすがよねナハトはぁ~かっこよかったわよ~」

 

なんか酒臭い.....................間違いないなコレ、クラスの奴全員酒飲んでやがる。いや、法的に問題はないけどどんだけ飲んだんだよこいつら...............

 

「し、システィ!?」

 

このシスティーナの様子にはルミアも大変驚いているようだ。

 

「ふっふーナハトにはぁ~特別にぃ~ルミアを娶る権利を上げま~す!あっ、私ももらってくれてもいいのよぉ~?アハハハハハハハハハ」

 

「わぁ~それは嬉しいな。でも、その前にいったん落ち着いてね?ほら水を飲んで」

 

システィーナって酔うと面倒なんだな..................てかその発言は淑女としてどうなんですかね?

 

「ち、ちょ...システィ!!//////////それにナハト君もデレデレしたら駄目だよ!///////」

(わ、私を娶れるの嬉しいんだ////////)

 

「えっ!?えっと、ごめんルミア」

 

ルミアは照れたようにそう言った。俺はそれにどうすればいいかわからずとりあえず謝ると、抱き着いてきているシスティーナをルミアと一緒に近くの席まで連れていき座らせ水を飲ませた。

 

俺はあまりにもカオスな状況に頭をおさえながら先生にどうするか聞いてみた。

 

「先生これどうするんですか..................って先生どうしたんですか?」

 

 

先生は地面に転がっていたみんなが飲んだであろう空き瓶を見て顔を青ざめていた。セラねぇもそんな先生に同情したような表情を浮かべていた。俺は空き瓶なんか眺めてどうしてその表情と不思議に思っていたがその瓶のラベルに見覚えがある気がした。

 

「コレ、〝リュ=サフィーレ〟なんだけど........................しかもこんなにも沢山そこら辺に転がってるし.............」

 

 

「リ、〝リュ=サフィーレ〟!?道理で見覚えあると思ったらまさか〝リュ=サフィーレ〟ですか!?ちょ、先生これ絶対にまずいんじゃ................」

 

〝リュ=サフィーレ〟は簡単に言ってしまえば超がつく高級ワインである。この地面に転がってる分だけ見ても先生がかけで手に入れたハー何とか先生の三か月分の給料+報奨金はそこにつくレベルだろうに...............俺は任務とかでこういうものの知識を身に着けているので見覚えがある便だとは思ったがまさかこんな高級ワインだったとは思いもしなかった。

 

 

「俺の.................給料3ヶ月分が......................」

 

 

俺とセラねぇはそんな先生にしばらくの間昼は用意してあげることとを約束していた。だってこれはあまりにも先生が不憫すぎる.............................

 

------------------------------------------------------------------------

 

それから俺たちは手分けして生徒たちのお世話を済ませると状況が状況なだけに気疲れしていたのか俺は置いてあったグラスを持ち中身を確認せずに飲んだ。普段ならしないが俺は飲んでから後悔する。なぜなら.............

 

(!?コレお酒じゃん!閉まった確認し忘れて飲んじまった..........意識が......遠のいて.............)

 

 

         ドサッ!!

 

 

「あれ?なんか大きな音が.......................えっ、ナハト君!?」

 

ルミアはクラスメイトの世話が終わったので戻ってくるとそこでグラス片手に倒れているナハトがいて大声を上げてその場に駆け寄ると、ルミアの声を聞きつけグレンたちも戻ってきた。

 

「どうしたルミア……ってナハト!?おい、大丈夫か?」

 

「ナーくん!?.............ってもしかしてこのグラス.............あ~、ナーくんうっかりしてお酒飲んじゃったのね」

 

「ん?セラどうゆうことだ?」

 

「ナーくんすっごいお酒弱いの。少しだけなら甘えん坊になって私やイヴに甘えてくるんだけど、でも今回グラス一杯飲んでるからしばらく起きないかも。」

 

実は昔、甘えてくるのナハトがかわいくてセラとイヴはわざとナハトにお酒の入ったものとかを食べさせようとしていたこともあったりする。

 

「要するに酒に弱いのかこいつ.................確かにイヴの奴も弱くて雰囲気とかで酔える奴だったもんな~」

 

「セラ先生大丈夫なんですか?」

 

「ん~とりあえず移動させないといけないかな。でも帰るまでに目を覚まさないだろうな~」

 

「あ!私も手伝います!」

 

 

そういってセラとルミアはナハトを支えながら休ませられそうな場所に運んだ。セラ先生はそのまま少しグレン先生と飲むようで離れていったので残されたのはルミアと寝ているナハトだけになった。

 

 

ルミアは寝ているナハトの隣に寄り添うように座った。普段ならできないが寝ているからこそ取れる大胆な行動にルミアは少しずるをしているような罪悪感を感じつつもナハトの温度を感じて緊張していた。

 

 

(卑怯かもだけどこうしてると安心する...........でも、すごい心臓が鳴ってる//////////)

 

赤らめた顔をしながらルミアはそのままナハトの顔を見つめる。今の姿は変装の姿だけどその姿も魅力的に見えてしまうのは惚れた弱みだろう。勿論、一度だけ見た赤髪の本当の素顔もかっこいいと思っているあたりルミアは本当にナハトに意識させられぱなっしだ。向こうもこちらが攻めると少しは照れた様子を見せることもあるがそんなことはほとんどなく、まるで意識されていないようで少し傷つくなと思っていた。

 

 

だから..............

 

 

「どうしたら貴方は私を意識してくれますか?」

 

 

(なんて................何言ってるんだろ私////////////)

 

 

そんな独り言にルミアは何を言っているんだと恥ずかしがっていると..............

 

 

「...................ルミア............す.............き……だぞ...........」

 

 

「へ?///////////お、お、お、お、起きてるのナハト君!?//////////」

 

途切れ途切れそんなことを言うナハトにまさかさっきの独り言聞こえていたのか?今言ったことは本当のことなのか?とルミアはいろんなことを妄想して困惑しながらナハトの様子をうかがうと...............

 

 

「」スースー

 

 

「寝てる............また、ナハト君は...........本当にずるい////////」

 

 

ナハトに対して意識してもらおうと少し攻めたりしても今みたいにすぐに自分に返ってきて自分のほうがどうしようもなく魅了されてばかりで本当にずるい。

 

 

「...................今日のことも、あの時のことも、本当にありがとうナハト君。」

 

 

ルミアはそう感謝を伝えナハトの手を握りそのままナハトの肩に頭を乗せ寄りかかる。今の寝ているナハトにならずるいけど”好き”の二文字を言える。でも、それだけは言わない。なぜなら...............

 

 

(”好き”はちゃんと面と向かって言いたいなナハト君。……できればナハト君に言ってほしいけど////////)

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてルミアはナハトに寄り添いながらやわらかい微笑みを浮かべながらこれからに思いはせる。

 

 

 

 

隣のナハトもどこか幸せそうで、二人から出る雰囲気はまるで優しく照らす木漏れ日のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回はリィエルの登場とその日常です。もしかしたら追想日誌にある話を書くかもしれませんけど予定ではリィエル登場予定です。追想日誌に出てくる話は面白いものも、シリアスなものもどれも好きな話なのでできればいつか書きたいと思います。特に変態男爵、オーウェル、セリカが絡んでくる話は毎回面白すぎですよね?



今回もこの駄作をここまで読んでくださりありがとうございました!!







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第三巻&第四巻 遠征学修偏
編入生襲来


 

 

魔術競技祭を終えた俺たちは普段の日常に帰ってきていた。ただ、それも今日までだろう。なぜなら.............

 

 

「ねぇ、確か今日編入生が来るのよね?」

 

そう聞いてきたのはシスティーナだった。俺は今、いつも通りルミアとシスティーナ、グレン先生にセラねぇたちと一緒に学校に向かう途中であり先日教えられた編入生に関しての話題が上がった。

 

「あぁ。それにしたって急だし変な時期だよなぁ~」

 

グレン先生は急な通達に違和感を感じるも大した警戒はしていないようだった。

 

「ねぇ、ナハト君。もしかして今回くる子って軍に何か関係あるのかな?」

 

流石はルミアというべきか勘が鋭い。

 

「えっ!そうなのナハト?」

 

「そうなのナーくん??」

 

「まぁ、それが一番しっくりくるな。」

 

そのルミアの俺への問いかけに、システィーナ、セラねぇ、グレン先生が俺の返答に注目している。

 

「正解。なんでも護衛の人員増やすんだとさ。」

 

姉さんが自ぜ円に俺に伝えていてくれていたので今回も誰が来るか知っている。まぁ、大抵のことなら俺一人でも手が回るし問題ないのだが人員が増えるのはありがたいことではある。................そう、本来ならありがたいんだけど、正直その追加人員がうれしくない。ぶっちゃけ姉さんに少し文句が言いたくなるくらいには問題の多いやつなんだよなぁ~

 

「んで、誰が来るんだよ?どうせ特務分室(アイツら)のだれかだろうが」

 

グレン先生はだれが来るのか聞いてくる。多分先生はクリストフさんあたりが来ると考えているだろう。俺はあの人とは年も近いからよくオフの時はいろいろ遊んだりとプライベートの付き合いもよくある人だ。グレン先生のことも結構尊敬していたりと総じていい人だ。だが今回くるのは彼ではなく〝彼女〟だ。

 

「それはですね............って、来たみたいですよ先生」

 

俺はそう言い後ろから走ってくる一人の”大剣”を持った小柄な女子生徒を指さす。先生は一瞬呆けているとその女子生徒は瞬く間に距離を詰める。そして...................

 

 

 

 

       ブンッ!!!

 

 

 

「どわっ!?って、お前!リィエル!?なに..........しやがる.....んだよッ!」

 

 

リィエルと呼ばれた少女は体を弓のようにしならせ叩き割るように大剣を振るった。先生は野太い声を上げながらぎりぎりのところで白刃取りを成功させ倒れこんでいた。ちなみにルミアたちは危ないので下がらせておいた。

 

「会いたかったグレン」

 

そんな抑揚の薄い声でグレン先生にそう伝えるリィエル。するとようやく剣を振りぬいた状態を解いて下がるとグレン先生も立ち上がりリィエルにどうゆうことだと詰め寄る。

 

「おいてめぇ!リィエル!何のつもりでこんな............」

 

「アルベルトが昔の戦友?にあうときの挨拶はこうするべきだと教えてくれた」

 

「あの野郎..........俺のことどんだけ嫌いなんだよ!」

 

俺たちはそんなやり取りをしている二人に近づき俺とセラねぇはリィエルに挨拶する。

 

「やぁ、リィエル。この間ぶりだな」

 

「久しぶりだねリィエル!」

 

「ん。セラは久しぶり」

 

俺たちは軽くリィエルのことをこの場で知らない唯一のシスティーナに紹介して学校に向かう。さて、この先何が起こるだろうか...................

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------

 

 

俺たちは学校につき今からリィエルの自己紹介が始まるわけだができるかなリィエル............基本無口だし、軍でも会話するとこなんてあんま見たことないから不安で仕方ない。大体なんで護衛任務にリィエルよこすかなぁ~リィエルは敵を殲滅するのには向いているがこういった任務はてんで向かないし、これから先のことを思うと思いやられる。しかも、さっきどんな任務できてるかわかっているか心配だから聞いたら「グレンの護衛。ナハトがルミアを護る。そう聞いた。」うーん、あなたもルミア護衛任務の人員ですよ?ほんとなんでこんなずさんな護衛を......................って、もしかして囮か?

 

俺はそんなこと考えているとクラス(主に男子)が大騒ぎで喜んでる。まぁ、リィエルは黙ってればお人形みたいで見た目は普通にかわいいからな........................ただ、やることなすことがあれなんだよなぁ~

 

 

「えぇ~今日からお前らと一緒に過ごすことになったリィエル=レイフォードだ。仲良くしてやってくれ。」

 

 

グレン先生は名前だけ紹介するとクラスの反応は...................

 

 

「このクラスの女子は総じてレベルが高いな!!」

「俺、無派閥だったけどリィエルちゃん派になるぜ!!」

「「「「「俺も!!!!!」」」」」

「フッ、俺はウェンディ様しか目にないぜ!」

 

と、欲が出まくる男子たち。

 

「髪綺麗~」

「お人形さんみたい!!」

「「「可愛い~!」」」

 

と、女子はそのリィエルの容姿に注目していた。

 

 

そんな様子を片目にため息をつくグレン先生はリィエルに自己紹介をするように促す。

 

「ほれ、お前からも自己紹介しろ」

 

 

クラスの皆はリィエルがどんなことを話すのか後興味津々の様子である。だが……

 

「ん。私はリィエル=レイフォード」

 

 

 

 

「「「「.....................」」」」

 

 

 

 

全員黙った。あまりにも短いその自己紹介?にみんな微妙な顔をして口を閉じていた。

 

「............おい、俺が名前言ったからそれ以外話せよ......」

 

グレン先生は頭をおさえながらそうリィエルにもう一度やり直しを要求した。

 

「ん。私の名前はリィエル=レイフォード。帝国宮廷魔術師団、特務分室所属。コードネームは『戦車』、今回の任務は.....................」

 

「「ちょっと待ててぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」

 

俺と先生は同時に大きな声を上げリィエルにその先は言わせまいと止めに入る。すると先生はそのまま一度リィエルを教室の外に連れて行った。

 

「セラねぇ..............これ大丈夫なのかな?」

 

「あははは................リィエルらしいと言えばらしいんだけど..........」

 

「姉さんもしかしてリィエルのお世話を俺たちにさせるためじゃないよな?」

 

「さ、さすがにイヴでもそれはないんじゃない............かな?」

 

俺は正直リィエルを囮に本命はアルベルトさんあたりの遠距離からの護衛かと思っていたが単におお世話係を言い渡された感が否めないような気がしていた。まぁ、もしそうなら全面的にグレン先生に押し付けよう。

 

 

俺はこれからのリィエルに関して起こる面倒事はグレン先生に押し付けようかと思案しているとリィエルたちは戻ってきて恐らくはグレン先生が仕込んだと思われる自己紹介をしてとりあえずは終わり、先生が気を利かせクラスメイトに質問はないかと聞くとウェンディが手を挙げて質問をした。

 

 

「貴方はイテリア地方から来たとおしゃっていたのですがご家族の方々はどうしていらっしゃるのですか?」

 

「家族...........」

 

感情の起伏が乏しいリィエルが珍しく動揺しているのがうかがえる。この質問はまずいな……一応彼女の〝素性〟は姉さんから聞いている。もっとも先生とアルベルトさんがリィエルに関する情報を偽装してるから先生は俺が素性を知っているとは思っていないだろうが。

 

「兄さんが.............いた......」

 

そのままリィエルに質問をしようとするウエンディえを遮るようにグレン先生が声を上げる。

 

「あー悪いんだがこいつに家族のことは聞いてやらないで欲しい。今こいつ身寄りがないんだ。それで察してくれねぇか?」

 

それを聞いたウエンディは申し訳なさそうな表情を浮かべリィエルに謝罪する。リィエルも問題ないと答えるがわずかに震えているのがわかる。

 

クラスの雰囲気が重くなったところで今度はカッシュが空気を変えようと別の質問を投げかける。

 

「リィエルちゃんとグレン先生ってどういう関係なの?知り合いっぽいし仲よさげだし教えてほしいなぁ~」

 

この質問はクラスの男子生徒たちの相違でもある質問だろう。勿論俺は除くではあるもののリィエルにお近づきになりたい男子どもはリィエルの回答に興味津々だ。

 

「私とグレンの関係?そんなの決まってる。グレンは私のすべて。私はグレンのために生きると決めた。」

 

「リィエル!?ちょっ、お前!?」

 

リィエルの爆弾発言により男子どもは血の涙を流しながら大きな声で嘆き始める。てかお前らうるさい。ホントうるさい!!そしてそんな男子たちを小声で罵りながら冷めた目で男子を見る女子生徒たち。教室内は混沌としていてる。

俺とルミア、セラねぇにシスティーナは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

リィエルは一人訳が分からず小首をかしげ眠たげな眼をグレン先生に向けていた。

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------

 

 

場所は変わり授業が始まり俺たちは外に来ていた。魔術の実践授業のためである。外での活動で少しでもリィエルがなじめればとグレン先生は思っているのだろうがリィエルってそういえば呪文とか使ってるとこ見たことないような………

 

 

そんなことを考えているとシスティーナの番になった。

 

「《雷精の紫電よ》!」

 

システィーナの放った【ショック・ボルト】は二百メートル離れたゴーレムについている的を撃ちぬく。

 

「凄い!システィ!!6発全部命中だよ!」

 

「えぇ、やったわルミア!」

 

もともとセンスのあったシスティーナだが最近は本当に成長速度が著しい。グレン先生と特訓しているのは知っているが相当頑張っているんだろう。ちなみに、同じく優秀なギイブルもすべて命中させており、ウエンディは惜しくも一発外し五発命中、システィーナのことを自分のことのように喜ぶルミアは三発の命中だった。

 

「次、ナハト。お前は全弾命中以外不合格な。」

 

「横暴ですね先生」

 

「うるせぇ!お前なら余裕なくせに」

 

まぁ、先生の言う通りこの程度の距離なら造作もない。

 

 

「《雷精よー駆け巡れ》」

 

 

俺が構えた左手から6発分の【ショック・ボルト】が同時に放たれる。競技祭の時と同じような使い方でアルベルトさんから教わった【七星剣】と呼ばれている技術の応用だ。さすがにアルベルトさんほどの超高精度の精密さはないものの二百メートル程度なら何も難しくない。そして、俺の放ったものはすべて的に同時に着弾した。

 

「これでいいですよね先生?」

 

「あぁ、相変わらずの腕だなお前」

 

「どうもです。それに師匠達の教えがいいので」

 

俺は先生のその言葉にそう返した。俺の魔術の師は姉さんとアルベルトさんという魔術戦において帝国トップ3に入れるような超天才魔術師に指導されているからな~しかも、たまにセリカさんにも手ほどきされていたしそう考えてみれば俺の教育環境はとんでもないな。

 

「次、リィエル。お前の出番だぞ!」

 

俺が場に元の場に戻ると次のリィエルが呼ばれていた。

 

「いいか?同じ的は狙うなよ?一つの的につき撃てるのは一回だからな?」

 

「わかった。攻性呪文であの的を壊せばいい。そうでしょ?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「ん。任せて。」

 

グレン先生は心配なのだろうかリィエルに今回のルールの確認をした。また、クラスメイト達はリィエルがどれほどの魔術の技量があるか興味があるようで注目していた。かく言う俺も興味があった。リィエルと組むのは相性上少なかったが呪文を使った場面は見たことない気がするので興味がある。

 

「ねぇ、ナハト君。リィエルはどれくらい当てられると思う?」

 

「そうね私も気になるわナハト」

 

ルミアとシスティーナも興味があるので以前から面識のある俺に聞いてきた。

 

「ん~それが俺リィエルと組むこと少なかったしよくわからないんだよな~そのうえリィエルが呪文使ってるのって見たことない気がするんだよね」

 

「もしかしてそれって................」

 

「まぁ、あんまりいい結果とはいえないかもね。」

 

俺たちはそんなことを話していると始まるようなので俺たちもリィエルに注目した。

 

「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

 

リィエルが放った【ショック・ボルト】そのまま的に........................とはいかず大きくそれて離れて場所に着弾した。

 

 

「「「.....................」」」

 

 

微妙な空気のままリィエルは淡々と次々と【ショック・ボルト】を放ち続けた。だがそれもすべて当たらず、そのまま遂に残り一発のみとなっていた。俺と先生はよくこれで生き残れてきたものだとある意味感心していた。そんなことを考えているとリィエルは先生のほうに振り返りグレン先生に問いかける。

 

「ねぇ、これって【ショック・ボルト】じゃないとダメ?」

 

「いやダメってことはないがほかの呪文じゃまともに届かないぞ?」

 

「.........なら、呪文は何でもいい?」

 

「まぁ、一応そうだが軍用魔術は禁止だぞ?」

 

「大丈夫。私の得意魔術は軍用魔術じゃないから」

 

クラスメイトの皆は単に緊張しているだけだと思いリィエルを全員で応援していた。だが俺はリィエルが言ったことについて考えていた。

 

(リィエルの得意魔術は錬金術による高速錬成............ってまさかアイツ!?)

 

俺はリィエルがしようとしてることに気づいたので急いで止めようと動こうとしたが一歩遅くて..........

 

 

「《万象に希う・我が腕手に・十字の剣を》」

 

リィエルは俺の予想通りに剣を錬成し構える。その様子に先生も遅れながら何をしようとしているか察し止めようとする。しかし.........................

 

 

「いいいやああああぁぁぁぁ!!!!」

 

大きな声を上げ地面をけり上げ上に飛び、小さな体を弓なりにそらせ大剣を思いっきりゴーレムにぶん投げる。そして投げられた剣はしっかり命中し、ゴーレムは的もろともに大破しリィエルはご満悦の様子でグレンに「どう?」と聞いている。リィエル曰く錬金術で錬成した剣での投擲なら攻性呪文だそうだが俺と先生は声を大にしてその解釈は間違っていると伝えたい。

 

 

------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

そんなこともありリィエルに対するイメージが一気に変わりみんなリィエルを「なんか危ない子」等と編入生としては致命的な印象を植え付けてしまった。しかもリィエルは感情表現が淡白で、みんなは話しかけずらそうにしている。そのうえ自身もそのことを気にせず一人で当然のごとくぼ~としているのでただ時間だけが過ぎ昼の時間が来た。

 

 

「(仕方ないフォローするしかないな)ルミア、システィーナ。二人でリィエルに声をかけて昼食三人で食べてきなよ。俺はやらないといけないことあるから気にしないでいいから」

 

「!わかった。任せてナハト君」

 

ルミアの様子から察するに俺がしようとしていることをわかってくれたみたいだ。システィーナも同様で了解してくれたようなのでリィエルの下に向かって行った。その後少しやり取りをして三人が教室を出ていくのを見届けた後俺はカッシュに声をかけた。

 

「おいカッシュ。今から食堂にリィエル行くからクラスの男子と女子複数人連れて行ってくれ。飯でも食いながら話せば少しは打ち解けられるだろ?」

 

俺がそう提案するとクラスのムードメーカであるカッシュは「それもそうだな」と言い複数人に声をかけて向かっていった。俺も遅れて後に続き様子だけ見に行くことにした。心配ないだろうが何かあったときは責任は俺が負うべきだしな。そう思い俺が教室を出るとグレン先生とセラねぇもいてどうやら俺と同じことを考えていたようで一緒に様子を見に行った。

 

 

 

そうして俺たちは遅れて食堂につき入り口から様子を見るとリィエルの表情こそあまり変化は見れないがルミアたちとクラスメイトとそれなりにうまく打ち解けられているようで、周りにいる人たちは笑顔で話していた。俺とグレン先生にセラねぇは顔を見合わせ微笑みその場を離れ違う場所で昼食をとることにした。俺たちからすればきっとリィエルは妹みたいな存在なのでうまくできているみたいで安心した。特にグレン先生はそのようで、わかりやすく安堵の表情を浮かべていた。

 

 

色々と欠けていることの多いリィエルだが案外今回の任務はリィエルにはいい経験かもしれないなと思いながらこれからの慌ただしくなるであろう日常に思いはせるのであった。

 

 

 

 






次回は水着回ですかね?あと最近もうシスティーナもヒロイン追加しちゃおうかなと思い始めていたりするんですよね。一応はルミアをメインヒロインにして姉であるイヴもブラコンこじらせてヒロインにしようかと思っているんですがもしかしたらシスティーナも追加するかもしれません。正直その可能性は低いですがもしかしたら追加します。



今回もこの駄作をここまで読んでくださりありがとうございました。



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懸念事項

 

 

 

リィエルが学院に来てから約一週間たった。リィエルは自分から話すことこそ少ないがそれでもうまくやれているようで基本は俺たちと行動することも多いがそれ以外でもほかのクラスメイトともかかわりを持っているようで当初の不安ほど憂慮するほどでもなかったかと一安心して過ごせた。そうして過ごしていくうちにちょうど『遠征学修』という行事が来た。現在俺たちも目的地に向け移動中なのだが、これは生徒にどこの魔術研究所に行きたいかなどを調査されてそこに向かって現地で学ぶというものだが、実際当然ではあるが学院側が最終的に決めるので完全に運である。

 

 

「なぁ、セシル、ナハト。俺白金魔導研究所よりもカンターレの軍事魔導研究所が見たかったぜ。」

 

「仕方ないよカッシュ。僕だってイテリアの魔導工学研究所のほうがよかったんだぞ?」

 

「ん~俺は正直どこでもよかったから何とも。しいて言うならセシルと同じで魔導工学研究所のほうが興味あるかな?って程度だし」

 

俺はクラスの男子とのかかわりはそれほど多いわけではなかった。基本的にはルミアたちといることも多いし休日もたまにルミアたちの勉強に付き合ったり遊んだりまたは自室にこもるか王都に戻って手の足りない特務分室の事務作業をしたりとなんだかんだで同性の友達と話すことがあまりなかった。だが競技祭のおかげで俺に話しかける奴らも増えたうえ実際に鍛えていたカッシュとそのカッシュの親友であるセシルとはよく話すようになった。

 

「まっ、仕方ないんじゃないか?そもそも行先決めるなんて完全に運次第だし」

 

俺がそう言うとそうだなと頷き二人ともそれなら調査なんて取らないほうがいいのにねと言い出した。そのまま他愛ない話でもしようとしていると。

 

 

「フッ、甘いな生徒たちよ」

 

「「「「???」」」」

(あっ、またロクでもないこと言いそうだなこの人......)

 

クラスの男子たちはグレン先生が不敵な笑みを浮かべそう言い放ったので興味を持ちそちらに視線を向ける。俺は今度は何をしでかすのだろうと思っているとまたグレン先生はまた意味ありげなことを言い放つ。

 

 

「お前らは別の研究所がよかったなんて考えているだろうが、断言するぞ。お前らは幸運だと。幸運の女神さまは俺たちを見捨てていなかったと」

 

「先生いったい何を?」

 

「お前ら、白金魔導研究所があるのはどこか思い出してみろ」

 

白金魔導研究所は文字通り白金魔術の研究所である。そもそも白金魔術というのは白魔術と錬金術を利用して生命神秘のに関する研究を行う複合術である。その研究所には大量の綺麗で上質な水が欠かせない。そのことから白金魔導研究所は地脈的にサイネリア島というところにあるわけだが................あぁ、成程。先生の言いたいことがわかったわ。だってサイネリア島は..........

 

「リゾートビーチとしても有名な所だ!?」

 

誰かは分からなかったがそういったのが聞こえた。そうなのである。サイネリア島はリゾートビーチとしてとても有名でもあるのだ。そこから導き出されるのは................

 

「ようやく気付いたかお前ら!さらにこの遠征学修では自由時間が多く取られている。時期は少しはやいが海水浴は十分に可能!!さーらーに、このクラスはやたらレベルの高い女子が揃ってる!あとは.........言わなくてもわかるよな?」

 

「「「「..............先生」」」」

(お前ら女子に全部筒抜け名のわかってる?)

 

「お前ら後は黙ってついてこい!!お前らに楽園(エデン)を見せてやる」

 

「「「「はい!!」」」」

 

ここに男子生徒とグレン先生との間に下心にまみれた友情が築かれた。

 

「バカしかいないのこのクラスは..........少しは蔑んだ目で見ているナハトを見習ってほしいわ」

 

「ははは」

 

システィーナはその様子を呆れたように罵倒し、ルミアは苦笑いを浮かべている。そしてルミアはシスティーナの口から出たナハト本人に顔を向けると..............

 

「?(何か考え事かな?)」

 

先程までナハトもシスティーナ同様呆れたように男子たちを見ていたが何やら真剣な様子で思案するように変わっていた。だが、ナハトには軍のこともありやや気になるが自身もこの遠征学修が楽しみであるため気づけば頭の中から消えていた。

 

 

---------------------------------------------------------------------------------------

 

 

俺は先生たちが騒いでいるときに姉に聞かされている白金魔導研究所のきな臭いことについて考えていた。俺は姉さんと定期的に連絡.................いや毎日連絡とってるのだがその時は事務的な連絡もするが普通の姉弟の会話もしたりするのだが出発の前日の会話は前者だった。

 

『こんばんわ姉さん。今日は何か仕事関係あるの?』

 

『こんばんわナハト。えぇ、少しね。あとは、その............リィエルは大丈夫かしら?』

 

『正直最初は姉さんの正気を疑ったけどそれなりにうまくやってるよ。それにしてもなんでリィエルだったのさ?」

 

『それは上からの指示だからしかたないわよ。それよりも確か貴方達遠征学修で目的地が白金魔導研究所なのよね?』

 

『そうだけど............もしかして何かあるの?』

 

『あそこの所長のバークスが天の智慧研究会と接触した報告があるのよ』

 

『そういえばあそこってあんまり言うわさ聞かないよね』

 

『そうね、気を付けてねナハト。向こうは貴方の護衛しているエルミアナ王女のことも知っているわ。あとは貴方の素性ももしかしたら知られているかもしれないわ。その時は貴方も狙われる可能性が出てくるから何度も言うけど気を付けて』

 

俺のことは正直、天の智慧研究会や〝アイツ〟にもばれているかもしれない。そのことについて俺と姉さんはたいして問題視していない。天の智慧研究会にばれるのは想定の範囲内で、あいつらは実態が謎すぎるうえつい先日までエレノア=シャーレットが帝国内部の深くまで潜入しているのが露呈しているのだ。そして気に食わないが〝アイツ〟の情報量も侮れないのでばれている可能性が高い。ただ、いまばれているとしてもさほど問題でもない。ばれているなら当然俺の固有魔術(オリジナル)のことも知っているだろうから簡単には手を出してこないだろう。

 

『わかった。俺が狙われるとしたら大方異能というよりも俺の魔力特性かな?異能も実態不明のレアもんだろうけど............俺の特性なら〝アレ〟も再現できる可能性があるしね』

 

『そうね。貴方の異能も目を見張るものがあるでしょうけど本命は間違いなく魔力特性。〝アレ〟の完成を目論んでいるのではという話も聞くわ。貴方もそうだけど〝リィエル〟にも気をつけなさい。...........もしもの時は彼女を殺しても構わないわ。』

 

リィエルは〝アレ〟の今のところでは唯一の完成体。もしもの場合は殺してでも相手に手札が増えることを阻止しろということか。

 

『ごめんなさい。ナハト。貴方にこんなことを頼むことになって本当に申し訳ないわ。』

 

『気にしないで姉さん。あくまで〝もしも〟の話でしょ?だったらどうにかすればいいだけだしいつも俺たちはそうしてきたんだし慣れてるよ。』

 

『ありがとうナハト。貴方のことは信じているけどちゃんと無事に帰ってくるのよ?』

 

『大丈夫だよ姉さん。俺は姉さんの弟なんだからさ!お土産でも期待して待ってよ。』

 

『そうね。貴方は私の弟だものね。ならあなたからのお土産期待して待っているわ。』

 

俺たちはそれから少し他愛ない話をしてから明日に備え寝ることになった。

 

俺はその前日の夜の会話を思い出して今回起こるかもしれないことについて考えていた。何が起こるかというのは正直全くわからない。確かバークスはきな臭いうわさで〝アレ〟に興味があるのは聞いているがどこまで本当かわからない。少なくともこちらの内情のある程度は知られていると考えたうえで対応するしかない。

 

(せめてみんなを巻き込まず俺だけでも対処可能ならいいんだけどな......)

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------

 

 

俺たちはしばらくしてサイネリア島に向かうための港町であるシーホークに着き班ごとと自由行動の時間になった。クラスメイトは昼食やお土産の購入などを集合時間まで楽しんでいた。そして集合時間になったが.......

 

「遅い!もう集合時間すぎているじゃない!!あいつはどこほっつきまわってるのよ!」

 

「まぁまぁシスティ。まだ五分しかたってないし、出発まで時間あるからさ........」

 

「そういう問題じゃないわよ。決められた時間に来ないのが問題なのよ」

 

グレンは集合時間になってもその場に来ていなかった。大方時間も確認せず適当に過ごしているんだがそこは問題じゃない。問題なのはリィエルだ。

 

「リィエル。グレン先生を探しに行くのはだめだぞ?さすがにここじゃ人が多すぎるから」

 

「でも.............」

 

「大丈夫だよ。もしもの時は俺が魔術で探せばいいだけだし。な?」

 

リィエルを何とか説得しているがこのままじゃリィエルも動き出し始めない。リィエルを止めるのは骨が折れるからなるべく早く帰ってきてほしいものだ。

 

「へ~いそこのお嬢さん達?可愛いね!ちょっといいかな~?」

 

そんな声がルミアたちの後ろからかけられた。その軽薄そうな声の持ち主のほうを振り向くと気取ったポーズをとった藍色がかった黒髪の青年がいた。シルクハットに色付き眼鏡、ステッキといかにも軟派師ですと言わんばかりの見た目だった。

 

「(!)俺の親友に手を出さないでくれますか?俺たちは遠征学修なので狙うならほかの人にしたらどうですか?」

 

俺はこの人が誰だかわかっているがあえて接触してきたということはグレン先生含めて用事があるのだろう。だから俺はルミアたちをかばうように前に出た。

 

「邪魔だよ君~?僕は後ろのかわいこちゃんに用があるんだけど~」

 

「へ~そうなんですか。それで用とは?」

 

「なんで君が聞くのかな~?僕は………」

 

「はーいストップな。」

 

青年の言葉を遮るようにグレン先生が割り込んできた。俺はグレン先生に視線を送り先生もそれに小さく頷くとその青年の首根っこをつかむ。

 

「お前!何してるんだよ?!邪魔しないでくれ!!」

 

「はいは~い。俺たちがく・わ・し・く聞いてやるから安心しろ」

 

「そうですよ。それじゃルミアたちはここで待ってくれ。すぐ終わらせるから」

 

そうして先生と俺はクラスのこと含めて頼むと伝えた後に人の少ないところまでその男を連れていく。

 

 

 

 

俺たちは青年を人気のないとこまで連れてきたところで俺は防音結界の魔術の発動をする。

 

「ち、ちょっと!こ、こんなところで僕をどうする気だ~!暴力だけはやめてくれよ?!痛いのだけはいやだよおおおぉぉぉ!!」

 

「………もういいって。ナハトも防音結界張ってるしな。アルベルト」

 

 

グレン先生がそう言うとその青年は瞬時に姿を変え帝国宮廷魔導師団エースの星のアルベルトその人になる。

 

「久しいなグレン。ナハトも先の事件以来だな」

 

「お久しぶりですアルベルトさん。あの時来てくれたのがアルベルトさんで助かりました。」

 

「俺は任された任務を全うしたまでだ。もっともお前だけでもどうにかなったかもしれんがな」

 

アルベルトさんはややグレン先生に挨拶だけ少しだけ冷たい気がしたがそのままいつもの冷静な声であいさつを続けた。その俺たちの様子を先生は頭を抱えてみていた。

 

「なんだグレン?」

 

「いや、お前が任務のためとあらばどんな役も演じ切るのは知っていたが久しぶりに見るとそのギャップがな............」

 

「フンッ。惰弱だな。精神修行が足りていない。ナハトを見習え。」

 

「(お前のその変わりよう見たらだれでもそうなるわ!てかなんでナハトの奴は平然としてんだよ........)」

 

ナハトが平然な理由は単純に同じことができるうえそれを教えたのもアルベルトであるためだ。教えられていれば当然何回も見ていたので慣れてしまった。いい精神修行だったなと今になって思っているとグレン先生がアルベルトさんに話しかける。

 

「今のお前の姿でようやく納得したわ。アイツ......リィエルは囮だな?」

 

「ご名答だ。もっともナハトは当日にすぐさま気づいていたようだがな。わかりやすい杜撰な護衛がつくことで仕掛ける側も杜撰になると期待したものだ。王女の護衛の本命は俺だ。軍でも上層部の一部しか知らない極秘任務だ。」

 

「リィエルをよこした日にはついに特務分室の頭おかしくなったかと思ったぜ。(てか、お前と言いナハトと言い過剰戦力すぎね?)」

 

「それでアルベルトさん。アルベルトさんが誰にも知られないようにするのが今回の任務の最も重要な点だというのが容易に予想できる中、わざわざ自分たちに接触してきたのはどうしてですか?」

 

俺の問いかけに少しの間沈黙するとその問いかけに答える。

 

 

「リィエルには気をつけろ」

 

アルベルトのその鋭い視線に黙り込むグレン先生。そしてグレン先生はその真意を確かめるべくアルベルトさんに問いかける。

 

「はぁ?リィエルに気をつけろだ?そんなもんいつもアイツが暴走しないように..............」

 

「そういう意味ではない。リィエル.............あいつは危険だ。その危険性はお前と俺だけが...........いや、あの女とナハトも知っているのだろう。」

 

(流石アルベルトさん。どこかで姉さんが勘づいて知ったことに気づいたのか)

 

「は?なんであれをアイツとナハトが............いや、それはいい。そのことは昔のことだぜ?リィエルはリィエルだ。今は特務分室の暴走脳筋娘のリィエルだ!」

 

「そう思いたいだけだろ?俺は今でもあいつを処分か封印すべきだと考えている。現にナハトも昨日言われたんじゃないのか?」

 

先生はアルベルトさんのその発言ににつかみかかろうとするがアルベルトさんの最後の俺への問いかけに思いとどまり俺のほうを向きグレン先生が問いかける。

 

「おいナハト。アルベルトの言った意味もしかして..................」

 

「...............〝万が一の場合〟はリィエルを殺せとの任務を受けてます。言っておきますが〝万が一の場合〝は俺は躊躇はしませんよ?」

 

当然だが俺は殺すことはしたくない。リィエルにも情はあるし、妹がいたらこんな感じなのかと思ったこともある。だが俺は軍人であり、何よりルミアを護ることが何よりも大切なことだ。必要なら手にかけることに今更躊躇いもない。

 

「ッ!何言ってるかわかってるのかお前!?あの女ッ!前から気に食わなかったが.............」

 

「やめろグレン。この場においていっていいことと悪いこともわからんか戯け。」

 

アルベルトさんはどうやら先生が俺の前で姉さんの悪口を言おうとしているのを俺に気遣って止めてくれたのだろう。

 

「ッ.............すまねぇナハト。お前の唯一信用できる家族の悪口言って。」

 

「気にしなくていいですよ。それとわざわざありがとうございますアルベルトさん。先生その代わりと言ってはあれですけど、今回〝もしも〟の時が起きたら最後まで俺のことだけ恨んでください。俺はそれだけ最低なことをするんですから覚悟なんてとっくにできてますから」

 

俺はそう先生に微笑みながら言うと先生は悔しそうに顔をゆがめる。本当に優しい人だなと改めて思ってると突然先生は俺の頭に手を乗せガシガシと雑に撫でてくる。

 

「ち、ちょっと先生?何してるんですか?」

 

「...........馬鹿言うな。たとえそうなっても俺はお前の教師でお前は俺の生徒だ。教師が生徒を..........お前を憎んだりしない。憎むとしても無力な俺自身だ。どうせ俺の工作がどっかでミスってたんだろからお前にも余計なこと背負わせてるんだしな。」

 

「............ありがとうございます。ホント、〝グレンさん〟は〝先生〟が似合いますね?」

 

その俺の言葉に「そうかよ」と適当に答えるグレン先生。その様子を見ていたアルベルトさんはは最後にと忠告を伝えた。

 

「ナハトがしっかりしてくれていて助かる。だがナハト、お前も標的にされかねないことを忘れるなよ?そしてグレン。忠告はしたからな?もしもの時はお前がナハトの足を引っ張らないことを祈るばかりだ。」

 

 

そう冷たく言い放ちアルベルトさんは去って言った。

 

 

「ナハトも狙われるかもしれないって...............お前の魔力特性か?」

 

「えぇ、姉さんがもしかしたらと言ってました。確かに俺ならうまくいけば完成させられるかもしれませんね?」

 

「確かにお前のその魔力特性ならそうかもな...........」

 

「安心してくださいよ?別に俺個人としてはあれを完成させるつもりなんてないですから。あんな外道の魔術あっちゃいけない。...............【Project Revive Life】通称【Re-L計画】なんてね」

 

「は~やっぱりほんとに全部知られてんのか...............マジで当時の俺何やってんだよ.........」

 

俺がそう言うと先生は頭を抱え嘆く。

 

「まぁ、知っているからこそできる対応もあると思いますよ?とにかく今はどうするべきかですよ。夜に宿で対策をできるだけ考えませんか先生。」

 

「そうだな。リィエルのため..............そしてお前にも最悪の手を使わせないために!」

 

(ホント優しすぎるんだよなグレン先生は...........軍人にはホント向いてない。今の教師ってのが似合いすぎるのもあるんだろうけど)

 

俺たちは今後すべきこと、今後起きうるであろうことを念頭に置き今回の遠征学修を対価なく無事に終えられるようにと考えながら船場に戻っていった。

 

 




次回は普通に水着での日常回の予定です。楽しい水着回にできるようにしたいです。後アルベルトですが自分結構好きなキャラなんですよね。グレン先生みたいに優しく熱い男性キャラも好きですがアルベルトみたいに冷静沈着で実は優しい人、いい人であるもののいざとなったら非情に徹しきれるキャラもいいと思うんです。でもアルベルトの過去を知ってるとアルベルトにもちゃんと報われて救われてほしいですね。

今回もこの駄作を見てくださりありがとうございました!



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楽園と地獄

 

 

俺とグレン先生は不安を抱えるもそのことはお構いなく時間は進みもうすぐサイネリア島というとこまで来ている船旅の途中だった。

 

「わぁ~綺麗な景色!システィ、リィエル、ナハト君もこっちこっち!」

 

ルミアが綺麗な船から見える景色に珍しく興奮して俺たちを呼ぶ。

 

「えぇ、今行くわルミア!ほらリィエルもナハトも行くわよ!」

 

「ん」

「今行くよ二人とも」

 

そしてシスティーナもそれにつられてなのかテンションが高くはやはり古墳気味に俺とリィエルを呼ぶので俺たちも呼ばれた方向に行く。

 

「ね?三人とも綺麗じゃない?」

 

「そうね。本当にきれいな景色だわ」

 

「私はよくわからないけど。嫌いじゃない」

 

「あぁ、これはいい景色だな」

 

俺たちはそれぞれの歓声で目の前に広がる景色を楽しんでいる。今くらいは三人と一緒に楽しんでおかないとな。そう思っていると後ろで.................

 

「おええぇぇぇぇぇぇぇぇ....................」

 

「ぐ、グレン君、大丈夫?」

 

グレン先生は船酔いでグロッキーのようでセラねぇに介護されえている。酔い止め飲んでこなかったのかな先生は?

 

「はぁ~もう!台無しよ..............」

 

「「あははは.........」」

 

「?」

 

俺とルミアは苦笑いするしかなくシスティーナは景色を見るのを邪魔されているのが気に食わないのか呆れているようだ。リィエルと言えば前なら「グレンが苦しんでる。この船のせい?ならこの船を斬る」ぐらいは言いそうだったが少しは成長したのか首をひねってどうしたの?といった感じのままでいる。

 

「まぁ、こればっかりは責めても仕方ないさ。誰にでも弱点とかあるだろ?」

 

「............まぁ、それもそうだけどせめてトイレとかで一人でしてほしいわ」

 

「違いないな」

 

そう俺はシスティーナと話しているとルミアが...........

 

「ねぇナハト君も弱点というか苦手なこととかあるの?」

 

「俺か~ここだけの話俺の父親がこの世で最も苦手で嫌いだな。後はアルコールにめっぽう弱いのと犬が苦手なんだ俺。」

 

俺が父親が嫌いというとやや顔を曇るがそのあとの言葉ですぐに笑みを浮かべた。

 

「お酒が弱いのは知ってたけど犬もダメなんだナハト君」

 

「あぁ、昔噛まれたことがあって痛くはなかったけどそれ以来ね............俺が唯一恐怖を感じるのは犬だな。あれは恐ろしいよ...........ホントに」

 

俺がそうやや遠い目をしているとシスティーナがからかうように言ってくる

 

「意外ねナハトにそんな弱点があるなんて」

 

「いやいや、あれは怖くない?めっちゃ怖いよね?俺走り込み中とかたまに見かけると反射的に逃げるし」

 

俺のその発言にルミアは笑いながら

 

「ふふふ、ナハト君いつも冷静でかっこいいけどそんな可愛い面もあるんだね」

 

俺はその言葉に照れながら頬を指でポリポリ掻きながら言葉を返す。

 

「俺は別にかっこよくはない..........と言うかあれはホント無理なんだよ!」

 

「(わ、私何言ってるのよ////)そ、そうだね誰にでも無理なことはあるよね!うん!」

 

ルミアは自身の言ったことを自覚し照れながら必死に言葉を紡ぎごまかす。それに気づいているシスティーナは

 

「あら~ルミアはどうして慌ているのかしら?」

 

「し、システィ!?私はあわててなんかいないよ?」

 

「ルミア顔が赤い..........風邪?」

 

「り、リィエルまで!?」

 

リィエルだけ若干違う気もするがそうルミアに詰め寄る。そんな会話をしていると船はようやくサイネリア島に着いた。

 

 

-----------------------------------------------------------------

 

船から降りる頃はちょうど夕方でその時の景色と言えばそれはもう大変綺麗だった。俺たちはその景色を少しの間味わうと今日はすぐに宿に向かって移動を開始した。そんな道中でもくだらない話をして先生はシスティーナに説教されたりといつも通りの感じで歩いていると宿に着き各自の部屋にわかれた。ちなみに俺の部屋は...................

 

「お前俺と同室なのかよ?」

 

「えぇ、何でも一人多いからという理由でそうなりました。今後を考えればむしろ好都合じゃないですか?」

 

「それもそうか............」

 

そうして俺たちは考えうる相手の取る手段について考えていた。情報源は主に俺になるがそんなに多くの情報は入ってきていない。隠すのもそれなりにうまいのもあるが恐らく帝国内部に協力者が入り込んでいるんだろう。だがそんなことよりも今取れる手段と現状の確認が何よりなのでそのことについて話し合いを俺と先生は続けた。

 

 

 

 

-同時刻-

 

 

「ナハトがいれば完璧だが仕方ない。と言うかアイツは多分とめてくるから言わないのが正解だな」

 

「まぁ、確かにナハトはルミアちゃんやシスティーナたちと仲いいから止めてきそうだよね」

 

「まぁ、そんなことはいいとしていくぞ皆!」

 

「「「おう!」」」

 

カッシュを先頭に男子たちはとある目的のため行動を開始した。

 

 

目的はもちろん女子の部屋に行くこと。せめて一夜くらいは可愛い女の子たちと遊んですごしたいという年頃の男の子特有の考えからだった。

 

 

カッシュは作戦は完璧でだれもばれずうまくいくと信じていた。だが、しかし

 

 

「ぐ、グレン先生!?」

 

グレン先生が腕を組み進路の先に堂々と立っていた。

 

「お、おいカッシュ。なんでだ.......この時間に先生はここには来ないはずじゃなかったんじゃないのか?」

 

「そ、そのはずだ。なんで..........」

 

男子生徒たちはありえないという風に言いあいどうするべきか考えていると.........

 

「お前らもうわかっているから出て来いよ」

 

そう言われて生徒達は出るしかないかと思い出てくると先生がなぜここに来たか説明する。

 

「なんでって顔だなお前ら.........だがな、甘いんだよお前ら。甘すぎる!!この程度の浅知恵なんてお見通しだ!大体俺だってお前らと同じ立場なら今晩!この時間!このルート!で女の子たちに会いに行くに決まってんだろうがぁぁぁ!」

 

「「「ですよねぇぇぇぇぇ~」」」

 

「まぁ、そういうこった。おとなしく部屋に戻れよ?一応規則だからな」

 

だがここにいる男たちは諦めない。彼らの心はただ一つ!楽園(エデン)にたどり着く!それだけが彼ら動かし、彼らはその道に立ちふさがる先生に向け左手を構える。

 

「お前ら............『覚悟』を決めた人間なんだな...........」

 

「先生!俺は悲しい!先生だってこっち側のはずだった!!なのに...........なのに............なんで止めるんだ!どうしてこんな風に戦わなくてはいけないんだ!!」

 

「わかってる........わかってるよ............だが!だがな!もう無理なんだ!俺は魔術学院と言う牢獄に捕らわれた奴隷.............俺が今回こんな作戦に参加したと知られたら...........俺が学院に給料を支払うことになっちまう」

 

(ツッコミ不在でお送りいたしております)

 

「先生..............どうしても退かない...........ですよね?」

 

「あぁ」

 

しばらくの間静かなにらみ合いが続く(ツッコミ不在以下略)

 

「みんな!先生を越え、俺たちの『楽園』にたどり着くぞ!!!」

 

「立場さえ............時代さえ違えば俺も同じ『楽園』を目指す同志だったはずなのにな.......」

 

そのやり取りを皮切りについに戦いの火蓋が切って落とされる!

 

「行くぞ皆ぁぁぁぁ!」

 

「こい!教師に勝てないこと............教えてやるぜ!!」

 

 

そんな馬鹿vs馬鹿の戦いが開幕したところを見ているものがいたそれは.............

 

 

「ホント男ってバカばっかり.........」

 

「あはは.........」

 

「耳が痛いがそうだよなホント」

 

「「えっ!?」」

 

風呂上がりに涼みに来たシスティーナとルミアはバルコニーに出ていたためその戦いを偶然目撃し呆れてみていると屋根から突然声がしたので見上げるとそこには腰かけているナハトがいた。

 

「なんでナハトがここにいるのよ?あなたもしかして...........」

 

「カッシュたちとは別の理由だよ先生に頼まれてここに来たんだ。もしもの時はどうにかしろってさ」

 

システィーナとルミアは年頃の同じクラスの男子にネグリジェ姿を見られ少し恥ずかしい反面自身の親友がそこに交じってないことに少し安心していた。

 

「本当は二人のその可愛い姿を見に来たのもあるっていたらどうする?」

 

いたずらっぽく笑いながらそう聞くナハトにルミアとシスィテーナは狼狽しながら答える。

 

「ふぇ!?///な、何言ってるのナハト君!?そ、その、可愛いって言ってくれて凄くうれしい////じゃなくて...えっと.......」

「そ、そうよ!////何言ってるのよ........嬉しくないわけでもないけどそういうのはルミアだけに//////////............ってそうじゃなくてー!!」

 

そんな割とガチっぽい照れた反応に俺は思いっきり笑いながら答える。

 

「あははははは!二人とも慌てすぎだって。冗談だよ。似合ってるのは本当だけどそんな理由じゃなくて本当にもしもに備えてだから安心してよ」

 

「揶揄ったわね~!降りてきなさい!〆てあげるわ!!」

 

(似合ってるのは本当/////)

 

「ごめんごめん二人とも。あとシスティーナ〆られたくないし俺が下りて行ったらダメだろ」

 

俺たちはそんなこと話しているとリィエルとセラねぇもこちらに来た。

 

「こんばんわリィエル、セラねぇ。一応言っとくけどリィエルは手を出しちゃだめだぞ?」

 

「ん。わかってる。カッシュ達から悪い感情を感じない。それにグレン楽しそう」

 

「そっか............まぁ、最近はあんな感じだよ。リィエルもそのうち一緒に騒いだり遊んだりできるさ。と言うか明日にはできるんじゃないか?」

 

俺は一応必要ないかもしれないがそう言っておいた。どこかリィエルはグレン先生に依存しているとこがあるように思ったからだ。

 

「本当はナーくんはここにいちゃ駄目じゃないのかな~?」

 

「セラねぇもわかってるでしょ?俺がそんなことすると思う?」

 

「ふふ、全然しないと思っているよ。だってナーくんそんなことしないのなんて昔から知ってるんだから」

 

「それはありがとうセラねぇ。そうだ!みんなでお菓子でも食べないか?いくつか町で買ってきたんだけどせっかくだしさ」

 

俺は隣に置いておいた袋からいくつかのお菓子を出して勧める。するとみんな食べると言ってお菓子を分け渡す。部屋で作っておいた紅茶と珈琲も出して綺麗な星空の下でティーブレイクと洒落込んだ。

 

しばらくお菓子を食べながら談笑を楽しんでいると、戦いが終わったのを確認したので部屋に戻ることにした。

 

「終わったみたいだし俺も部屋に戻るよ。余ったお菓子と開けてないやつは部屋の女子たちと食べていいよ。」

 

俺はそう言ってお菓子をルミアたちに渡し戻ることを伝える。

 

「えっ!いいのこのお菓子?ナハト君が買ったものだよね?」

 

俺がお菓子を渡すとルミアとシスティーナ、セラねぇも本当にいいのか聞いてくる。

 

「いいのいいの気にしないでよルミア。もともとこうやってあげるつもりだったしね」

 

「ありがとうナハト君」

 

「どういたしまして。それじゃ~お休み。みんな」

 

俺はそう言って屋根を飛び降り男子生徒たちを回収するためにその場に向かった。あまりにも身軽なその身のこなしにルミアとシスティーナの二人は驚いていた。そこへ扉が開き後ろを見るとウエンディがいた。

 

「あら、皆さんこんなとこにいたんですの?探したのですよ?」

 

「あっ!ウエンディ!どうしたの?」

 

「これから私たちの部屋で集まってカードゲームでもしようと思いまして。セラ先生もどうですか?」

 

「ん~私はいいよ。少し片づけないといけない仕事もあるんだ。ごめんね?」

 

「いえ!お仕事なら仕方ありませんわ。頑張ってくださいセラ先生。」

 

「ありがとう。ウエンディちゃん」

 

そう言ってあんまり遅くならないようにとだけ言い残しセラ先生は去っていった。

 

「お三方は参加しますわよね?もちろんコイバナもしますわよ!」

 

「「え?」」

「?」

 

「ルミアはナハトのことを洗いざらい話してもらいますわ!システィーナはナハトとグレン先生のどちらに気があるのか聞かなくてはなりませんしね!」

 

ウエンディもなんだかんだでかなりお決り的なことを楽しみにする娘のようでルミアとシスティーナは顔を引きつらせている。

 

「ルミアがナハトを慕っているのは見ていれば簡単にわかりますが、システィーナは一緒にいるのは多いですが微妙なとこと考えていますわ。私としてはどちらかと言うと先生のほうに気があると踏んでいますわ!」

 

「ち、ちょっと待って!本当にわかってるのウエンディ?わ、私が....そ、そのナハト君が好き........だってこと////」

 

「「むしろなんでわかんないと思うのかしら?」」

 

ウエンディとシスティーナははもりながらそう言い放つ。そもそも学院ではルミアの好きな人はナハトであるという噂はほとんどのものに知られている。そのうえルミアがナハトといる光景を見たものは全員ルミアがわかりやすく雰囲気が変わるので完全にその噂は真実だと知れ渡っている。おそらくルミアの好意に気づいていないのはナハト本人だけであろう。

 

「そ、そんな~うぅ////」

 

ルミアが照れて顔を手で押さえしゃがみこんでいると今度はシスティーナに矛先が向かう。

 

「それにシスティーナのほうも気になりますわ!貴方はナハトとも仲が良く、ルミア同様に一緒にいることが多いですがあなたは先生とも仲いいですわよね?どちらが本命なのか気になりますわ!」

 

システィーナの場合はウエンディの言う通り噂は二分しておりどちらが本命かという話が噂になっている。システィーナが基本的に男性と話しているのはその二人が多く確実にどちらかだと踏んでいるものが多くいるためそういった噂が流れていた。

 

「し、システィはどっちが好きなのかな?」

 

「る、ルミアまで!?」

 

ルミアは自身の噂は知らないがその噂は聞いているため自身の親友がライバルなのかしっかり確認しようと思っていた。

 

「ねぇ、その話私も参加していいの?」

 

ここで助け舟?になったのは意外な存在であるリィエルであった。

 

「えぇ、もちろんですわ!リィエルには先生のことを聞きたいですしね!」

 

「わかった。グレンのことは任せて!」

 

リィエルはそのまま乗り気のようでウエンディと一緒に部屋に向かい始める。

 

「さぁ!お二方も!お慕いする殿方について洗いざらいはいてもらいますわよ!」

 

そのウエンディに勘弁してくださいという表情をしながらもついていくルミアとシスティーナであった。

 

 

その後彼女らの楽しい夜はあっという間に過ぎ去っていくのであった。

 

 






すいません水着回の前にこの話はさむの忘れていたので今回は水着回前です。ナハトを鈍感系にするつもりはなかったんですが、ナハトは幼いころから軍にいることも考慮すればこんな感じかなと思いこうすることにしました。そして、システィーナをヒロイン枠にするか悩みどこです。あの小説書きの趣味があると正直恋愛系のことは書きたいなと思うんですよね。ただ、ルミアが絶対でルミアだけで後はイヴだけでいいとも思っています。中途半端なままにしてもいいですが一応アンケートとってみようかなと思います。必ずアンケート通りするかはわからないですが参考にしてみようと思います。


今回もここまでこの駄作を読んでくださりありがとうございました!







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魅惑の水着!

 

 

 

サイネリア島に来て二日目の今日は一日自由行動となっている。と言ってもクラスのみんなが来るのは同じ場所で、太陽照り付けるビーチである。それにしてもいい景色だ。澄み切った雲一つない青空に太陽の光を反射して輝く海といい眺めているだけでも満足だ。だがそれは俺と一部のものだけで大多数は.....................

 

「え、『楽園(エデン)』はここにあったのか!?」

 

と言いながら男子たちの眺める先にいるのは多種多様の綺麗な水着に身を包んだ女子生徒達だった。昨日と言い今のと言いうちのクラスは平常運転のようだ。

 

「焦らずとも『楽園』は俺たちの前に現れることを伝えたかったんですね.......先生!」

 

「俺たちが間違っていました先生!」

 

「ありがとう先生...........どうかあの世で俺たちのことを温かく見守っていてください.......」

 

そんな馬鹿な茶番劇をしていると勝手に殺されたことになってるグレン先生が口をはさむ。

 

「いや俺生きてるからね?なに勝手に殺してるの?」

 

先生はそうやや気怠そうに言い放つ。その様子から恐らく昨日の傷が痛むのだろう。

 

「たっく.............お前ら全力でやりやがって......おかげでまだ体が痛いんだぞ?」

 

「「「ははは..........すいません」」」

 

流石に生徒達もやりすぎを自覚しているのか素直に謝罪する。まぁ、俺も見ていたから知ってるけど確かにあれはひどい仕打ちだったな~助ければよかったんじゃないかって?だってルミアたちとのお茶会が楽しかったから仕方ない。

 

「まぁいい。今日は一日自由にしていいから思いっきり遊んで来い。俺はここで寝る」

 

「「「「「はい!わかりました!先生!」」」」」

 

そう大声で男子たちは答え走り去っていった。先生は「大きな声は傷に響くんだよ.........」と愚痴るといまだに居座る二人の男子生徒に声をかける。

 

「んで.........お前らはいかねぇのか?」

 

そう聞いたグレンの視線の先には制服のまま魔術の教科書を読んでいるギイブルと上にラッシュガードを着ているが一応水着は着用しているナハトがくつろいでいた。

 

「当然です。僕たちは別にここに遊びに来たわけではないので」

 

「俺は別に行ってもよかったんですけどこうしてぼ~っとしているのもいいな~って思うんで今しばらくはこうしてゆっくりしてます」

 

グレン先生はそれらの回答に「そうかよ」と短く答え自身もその場で寝始めようとしていた。グレン自身も自由にしろと言った手前わざわざ遊びに行って来いというつもりもないし、ナハトの言うとおりここでゆっくりするのもなかなかよさそうだと納得しているため同じようにグレン先生自身もゆっくりしようと思って目を閉じる。するとその時、誰かが走ってきた。

 

「あっ!ナハト君~!グレン先生~!」

 

「「ん~?」」

 

二人とも声の主のほうに振り向くと分かっていたがそこにはルミアがいた。後ろからリィエルの手を引きこちらに駆け寄ってくるシスティーナがいて、さらにその少し後ろにゆっくりこちらに歩いてくるセラねぇの姿を確認できた。

 

「どうしたのルミア?もしかして何かあった?」

 

「少し休憩しよと思ってナハト君たち探してたんだ。それとね、ナハト君に水着見てもらいたくて来たの!それで...........その、この水着どう..........かな?////」

 

そう言ってルミアは目の前でくるりと回って水着姿を見せてくれた。ルミアの水着は水色と白のボーダーのビキニタイプの水着だった。そのかわいらしい行動も相まってよりルミアの魅力を引き立てていて、とても魅力的だと思ったため心から思ったことを伝えた。

 

「ルミアによく似合っていてとても可愛いよ!わざわざ水着見せてくれてありがとうルミア!」

 

「えへへへ//////ありがとうナハト君!すごくうれしいな//////」

 

ルミアはやや頬を赤くしながらほめてくれたことが本当にうれしくてはにかんでいた。すると後ろからやってきたシスティーナとセラねぇが俺にからかうように声をかけてきた。

 

「あら?ナハト、私には何もないのかしら?」

 

「そうだよナーくん。お姉さんに何か言ってくれてもいいんじゃないかな?」

 

「システィーナもセラねぇもよく似合っているよ。二人ともセンスがいいね」

 

二人の水着はとてもセンスが良く、システィーナは白をベースとした花柄の入ったビキニで腰にパレオを巻いておりとても上品感じだ。セラねぇも同じタイプではあるもののパープルの柄なしのもので大人の女性の印象を受ける。二人とも自身の魅力を引き立てるものできれいだと素直に感じた。

 

「ありがとうナハト。似合ってるならよかったわ」

 

「ふふ、お口が上手になっちゃってナーくんったら~でもうれしかったからありがとうね!」

 

「どういたしまして。ほら先生もルミアたちに何か言ったらどうですか?」

 

俺がそう言うと同時にまだ褒められていないリィエルが前に来ていかにもグレン先生に褒め欲しそうにしながらグレン先生をじーっと見続けている。リィエルの水着はいわゆるスク水なのだがなんというかリィエルらしいうえ、よく似合っているんじゃないだろうか。そして俺がルミアたちを褒めていたのもあり流石の先生も意図を理解したようで口を開く。

 

「あ~その.........なんだ、白犬たちもよく似合ってんじゃねぇか?リィエルもお前らしくてよく似合ってると思うぜ?」

 

そうグレン先生が言うとやや満足そうな表情になるリィエル。

 

「ん。そう?じゃあ、しばらくこの姿のままでいる」

 

「「それは絶対やめなさい」」

 

俺と先生はそのあり得ない発言に口をそろえて異を唱える。うれしいのは分かったけどまさかここまでのことを言い放つとは正直思っていなかった。そんな俺たちのやり取りを見てシスティーナたちは若干あきれたような、それでいてとても愉快そうに笑っていた。

 

そうしてしばらくその場で他愛ない話をしているとルミアがどうやらクラスメイト達でバレーボールをするから俺たちも参加しないかと提案してくれた。せっかくのルミアの提案だし断る理由もないので俺は快諾した。ただ先生はやや乗り気ではなかったものの最終的に折れて参加することになったわけだが..........

 

 

 

 

 

 

 

「おらぁぁあ!!かかってこいやぁぁぁああ!!ゴラァァァア!!」

 

 

大きな声を上げ威圧するように叫ぶグレン先生がいた。そう、渋っていたくせにこの教師とんでもないほどやる気である。またナハトは............

 

 

「そ~れ!」

 

 

ナハトは魔術によって強化されたスパイクを素の身体能力だけでいとも簡単に拾い上げ完璧なトスを上げる。そのナハトの姿にクラスメイトは戦慄した。いくら学生が使う魔術とはいえ魔術によって強化されたスパイクを魔術を使っていない状態で簡単に拾って見せるナハトはクラスメイトには異常者にしか見えなかった。だがナハトからしてみれば自身が軍人でもあるうえ基本戦闘スタイルが剣と魔術の複合による近接戦闘を主にしているからこそこの程度の強化されたスパイクを捌くのは造作もないことだった。

 

そしてその完璧なトスを受けた先生はまるでお手本のようなきれいなフォームで相手に魔術行使の隙を与えずにボールを相手コートに鋭く打ち込む。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

その瞬間審判をしていたルミアが俺たち先生チームの勝利を宣言した。

 

 

「げ、ゲームセット。先生チームの勝利です!」

 

「「いいぇぇぇぇえええい!」」

 

俺と先生はハイタッチを交わし勝利を祝す。ナハトはともかくとして渋っていた人が一番乗り気で楽しんでいるうえそのチームが勢いよく勝ち続ける様にクラスメイト達は苦笑するしかなかった。

 

「渋ってたくせに一番楽しんでっるじゃないあの人は...............それにしてもナハトがあそこまでテンション高いのは珍しいわね」

 

システィーナは二人の様子を呆れた想いと珍しいものを見たなと思っていると無意識にそう呟いていた。

 

「ふふ、こうやってるとなんだかほほえましいよね?でもやっぱりナハト君凄くかっこよかったよね!レシーブもしたり先生みたいに凄いスパイク打って何本も決めていたしね!」

 

ルミアがやや興奮気味にそうシスティーナに話しかける。ナハトは持ち前の運動神経で試合中にグレン以上の高速スパイクを見せたり鋭く変化する高速変化スパイクなどを使って得点の山を築いたり、いろんなところに打ち込まれるボールを確実に拾い続けたりと活躍し続けていたのでルミアにはそれが自分のことのようにうれしくて仕方ないようだった。

 

「そうね、確かにナハトも先生もカッコよかった...................って違う!私は何言ってるのよ!?///////」

 

システィーナは前日のコイバナ時に自分が二人のうちのどちらかを意識しているのではと思わされたことでで、今の発言で昨日のこともあり激しく取り乱していた。そんな様子をルミアは優しいまなざしで見守る。ただ、ルミアの本心は............

 

(もしも、システィがナハト君のこと好きだとしても絶対に譲らないんだから/////)

 

ルミアがたとえ相手が親友でもこの想いは負けないとひそかにそんな思いを抱いていると、先のルミア達の発言を聞いていた男子たちは嫉妬心から『絶対に先生チームを負かしてやる!』と思い様々なチームが何度も挑み続けた。しかし、挑んだチームの悉くが返り討ちにあい敗北と言う屈辱を味わっていた。ちなみに先生チームのメンバーはグレン先生、ナハト、ギイブルと魔術も運動もできる死角のないチームだ。その強すぎるチームに対して嫉妬心から男子たちはとある刺客を送り込むことにした。そのメンツは.............

 

 

「ふふふ、お手柔らかにお願いしますね?」

「グレン君!ナーくん!負けないんだから!」

「グレンとナハトが相手............負けない」

 

 

まずは一人目がテレサ。彼女は一見おっとりしているので脅威でないように見えるがそうではない。彼女は二組の中で特に白魔【サイ・テレキネシス】などのサイキック系に白魔術の腕前が高いためそれによる防衛で得点を取るのが困難だ。

 

続いて二人目はセラねぇ。セラねぇはある事件のせいで激しい魔術行使ができなくなってしまったが彼女自身の身体能力の高さや、今使える程度の風系の魔術でも十分脅威だろう。

 

最後に三人目はリィエルだ。言うまでもないがシンプルに身体能力が総じて化け物じみている。実際ナハトと身体能力の比較をすれば俊敏さこそナハトが勝つかもしれないがそれ以外ではリィエルのほうがやや上だろうと予想される。そのためこの試合での一番の脅威だ。

 

 

俺たちのチームは相手のそんなメンツを見て軽く顔をひきつらせた。

 

「マジもんの強敵じゃねぇかよ...........リィエルに関しては俺たち死なないよね?」

「なぁナハト。僕の記憶が間違ってなければテレサが止められなかったボールはなかった気がするんだが?」

「あぁ、テレサがいるときそのチームの失点は必ずゼロだったぞ。しかもセラねぇもいるから本気でやばいよあのチーム」

 

俺たちはそんなことをぼやきながらコートで準備する。だが口でこそ俺たちはこういっているものの勿論負ける気はない。俺たちは一度気合を入れなおして試合が始まった。

 

 

試合が始まって序盤、ギイブルが相手からの放たれた攻撃を危なげなく拾い完璧なトスを上げる。

 

「ナハト!」

 

「ナイス!オラッ!!」

 

俺はここまで一度も使っていなかった最速で鋭く変化するスパイクをコートの隅ギリギリを狙い叩き込む。

 

(これなら初見だろ?)

 

俺たちはその瞬間まずは1点と思って信じていた。まだ見せていない所見のものだし、現にテレサも術が間に合っていないようだったのでこれには先生チームの誰しもが『とった』思っていた。だが.....................

 

「《疾ッ》!!」

 

「「「.......は?」」」

 

セラねぇが【ラピッド・ストリーム】で恐ろしいほどの素早さで俺のスパイクの落下地点にたどり着いて決まったと思った俺のスパイクを拾い上げた。

 

先生チームの誰しもが決めたと思っていたからこそ、ここで一瞬の隙ができてしまった。今相手取っているチーム以外なら問題はなかっただろう。だが、相手は今日一の強敵でその一瞬の隙を逃すはずはなく..................

 

「えい」

 

 

いかにもやる気がなっさそうな声とともに殺人級の弾丸スパイクが俺たちのコートに突き刺さった。俺たちはあまりの光景に試合開始前の時同様呆然としながら顔をひつらせる。

 

「ねぇ、これどうすんの?いやマジで何なのアレ?」

 

「なんで所見のはずなのにアレを完璧に対応するの?」

 

俺と先生は相手の異常性に戦慄する。速攻すれば驚異的な素早さでセラねぇに拾われ、逆に速攻せず、フェイントをかけてもテレサに完璧に拾われる。そしてそのうえリィエルの驚異的な身体能力から放たれる団がスパイク。アレ?なんかこれ詰んでない?

 

「クッ!................負けるのは気に入らない!!ナハト!君なら彼女のスパイク拾えるな?」

 

だが、ここで絶対に諦めないのが負けず嫌いのギイブルだ。そして、ナハトやグレン先生もここまで来たら勝ちたいと思っているので.................

 

「任せろ!完璧に全てのボール拾ってやるさ!先生!しっかり点稼いでくださいよ!!」

 

「へっ!任せな!!行くぞお前らァ!!」

 

俺たちはさらに気合を入れ中盤戦に突入した。こちらのサーブが始まった。当然向こうは危なげなくそれテレサが拾い、セラねぇが高くトスを上げる。リィエルもスパイクの態勢に入ろうとする。

 

(来る!)

 

俺はリィエルから放たれるだろう弾丸スパイクを見切り対応しきるためにボールに集中する。そしてついに..........

 

「えい」

 

放たれた弾丸スパイク。本当になぜこれほどの威力が出るのかと聞きたいほどなのだが今回はしっかり見切れてる。だから...................

 

「ッ.......オラッ!!」

 

落下地点に一切の迷いなく入り両腕でしっかりと受け止める。腕にものすごい衝撃を感じながらも俺はボールしっかり上に拾い上げる。

 

(むっちゃ腕痺れるんですけど!?)

 

あげられたボールはギイブルが拾ってトスを上げ、先生のやや前方の頭上のベストな位置にボールが行く。それを見て先生はにやりと笑いながらすぐに走り出しスパイクを打ち込む態勢に入る。

 

「先生!」

「ナイス!うおぉぉりゃゃゃああああああ!!!!」

 

先生が野太い雄叫びを上げながら腕を振りぬくと遂に俺たちの攻撃が相手コートに突き刺さる。

 

「ナイスレシーブナハト!ギイブルも最高のトスだぜ!」

 

「まだ一点返しただけです。ナハト次は俺も手を貸すからここからは点をやらないぞ?」

 

「あぁ、頼むわギイブル。このままの勢いで勝つぞ!!」

 

 

俺たちはそのまま試合続行する。両者ともに一向にひかず一進一退の攻防をしていた。誰もが手に汗握る白熱した試合。終盤相手のサーブ。リィエルのサーブの番でリィエルがボールを頭上に投げジャンプサーブの態勢に入る。俺達はそのサーブを確実に拾うべく集中していると.................

 

 

 

   

    〝ビュンッ!!〟

 

 

 

 

 

突然、突風が吹き砂が巻き上げられる。俺たちは砂が目に入らないようにしながら相手から目を離さないようにしているとリィエルは運悪く目に入ったようで...........

 

「うぅ........えい」

 

砂が目に入った状態でサーブを打ったためリィエルが珍しく軌道がずれたようだ。このままなら外れるな~と俺は考えているととんでもないことに気づいた。ただ、外すだけならよかったのだが、運悪く周囲で応援している生徒のほうに飛んでいったのだ。しかもその軌道上にはルミアがいた。

 

「え?」

 

ルミアはリィエルの弾丸サーブがこちらに来ると思っていなかったので突然のことで体が硬直してしまって動けなかった。ルミア自身当たってしまうと思い恐怖により目を閉じてしまっていた。周りの誰もがまずいと思ってあたる瞬間を想像し目をつぶったり悲鳴を上げている。

 

 

「クッ!間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

俺は早くに気づいていたのですぐさま全力で地面を蹴り自身の最速でルミアとボールの間に入ろうと必死になって駆け込む。誰もがルミアの無事を祈るしかない中、当たるか当たらないかと言うところで俺が飛び込む。〝間に合った!〟そう思っていると、俺が砂浜にルミアともに砂浜に倒れこむと同時に背後でボールが着弾したため大きな音ともに砂煙が舞い上がった。

 

 

 

何とかルミアに当たらずに済んだと胸をなでおろしながらルミアにけががないか確認のため声をかける。

 

「だ、大丈夫かルミア............ってあれ?(目の前が真っ暗だな.......それになんかしゃべりにくい?)」

 

砂煙の中ほかの生徒がルミアの無事を確認できていないでいる中、念のためルミアの無事を確認しようと思うと、なぜか俺の視界が真っ暗なうえ声が出しにくかった。そしてさらになんというか......

 

 

(なんかすごく柔らかい..........)

 

 

俺は自分の顔が何か覚えのない柔らかいものに包まれているのを感じて一体何なんだと不思議に思っていると自分の上のほうからルミアの声が聞こえた。

 

 

「え、えっと/////その...............ありがとうナハト君//////.......おかげで無事だよ。」

 

俺はその言葉によかったと思い安堵したのもつかの間。ルミアによって俺が今いかにまずい状態にあるのかを伝えられる。

 

 

 

 

 

 

「ただね...........その....ね?わ、私の..........む、胸の上から顔を離してもらっていいかな?//////」

 

 

 

 

 

 

 

(............................今ルミアなんて言った?今ルミアが俺の顔がルミアの胸の上にあるって言った?えっ、まままま待って!///////今俺が感じてるこのやわらかいものはルミアの胸!?//////////)

 

俺は混乱していたが、ルミアの胸に顔を埋めていることを理解したのですぐさま起き上がった。するとそこには顔を赤くして恥ずかしそうにするルミアがいた。ヤバいと思い、すぐさま謝罪しようと思っていると背後からすさまじい殺気と嫉妬の波動を感じた。

 

 

「おいナハトおめぇールミアちゃん助けたかのように見せてそれが目的か……オイ?」

「何堪能してんだよ!このエセイケメンやろが!!俺と変われ!!!」

 

「「「そうだそうだ」」」」

 

「た、堪能なんてしてねぇよ!!!!/////」

 

馬鹿な男子たちはそうくだらないことをのたまっているがそれどころじゃない。第一それはそれはどうでもいい。一番キツイのは俺のことを冷え切った目でゴミのようなものを見る女子生徒達だった。

 

「サイテー」

「変態」

「ゴミ」

「屑」

 

「「「〇ね!!」」」

 

(男子はいいとして女子の冷め切った目と否定できない罵倒がなかなかに心に刺さるな...........いや、事実俺が事故とはいえ最低なことしているんだけどね?)

 

だが何よりまずするべきなのはルミアへの謝罪だ。俺はすぐにルミアに向き直るとそこにはいまだに顔を赤くして恥ずかしそうにしているルミアがいた。

 

「え、えっと......まずは本当にゴメン!嫁入り前の女の子にこんなことして嫌だったよね?ルミアが望むなら何でもするから虫のいい話かもしれないが許してほしい!」

 

俺がそう頭を下げて誠心誠意謝る。ルミアは立ち上がると頭を上げてといった。

 

「えっと、すごく恥ずかしかったけどナハト君のおかげでけがもなかったから怒ってないよ?むしろ助けてくれてありがとうナハト君!/////」

 

俺がそう言ってくれたことに一安心していると...................

 

「あっ!そういえばナハト君何でも言うこと聞いてくれるんだよね?」

 

ルミアはまだ少し顔が赤いものの、いたずらっぽく笑いながらさっき俺が言ったことの確認を取る。

 

「そりゃさすがに悪いことしたと思ってるし何でも聞くよ?早速何かあるの?」

 

「そっか........じゃあ帰ったら一緒に二人で遊びに行こうね?それが私からのお願いだよ!ダメ.....かな?」

 

そうやってかわいらしく上目遣いで聞いてくるルミア。俺はダメなわけないのだが、そんなことでいいのかと思いルミアに聞いた。

 

「そんなことでいいのか?俺は別に全然かまわないけど」

 

「ホント!?やったぁ!楽しみにしてるねナハト君!」

 

ルミアは俺が了承するととても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。まるで花が咲き誇るような笑顔に見惚れていると背後から嫉妬の混じった濃い殺気を感じた。

 

俺は背後を振り返ると先程まで冷めた目で見ていた女子たちは一変してほほえましいものを見るように変わっていたが男子生徒たちは先程よりも濃い嫉妬交じりの殺気を向けていた。

 

「おいおいナハトさんよ~なに勝手抜け駆けしてんだぁ?ンん?」

「覚悟できてんだろうな~オイ!」

「リア充許さない。リア充滅ぶべし。慈悲はない!!」

 

〝「「「ぶち殺してやる!!」」」〟

 

男子生徒の大半が殺気立った目を俺に向け、そのまま男子生徒たちは俺に向かって魔術を放ち始めるので俺は即座にその場から離脱し走り出す。

 

「「「待てやゴラァァァァァ!!!!!」」」

 

「いや、魔術使うなよ!?危ないだろ!」

 

「「「知るか!!てか当たれ!!」」」

 

「理不尽だなオイ!?」

 

そこからバレーボールは中断され俺対クラスの男子生徒達での鬼ごっこが開始された。男子生徒たちは集団で俺に何のためらいもなく魔術行使してくるあたり本当に理不尽である。まぁ、最終的にはこっちも実力行使で数分で全員黙らせたけど。

 

 

 

そんな男子たちのやり取りの傍ら.........

 

「ナハト君と二人でデート..........やった!////」ボソッ

 

ルミアは取り付けたナハトとのデートを楽しみでとても上機嫌の様子であった。

 

 

 

 

 

 

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俺たちはその後俺が気絶させたさせた男子生徒を放置して存分に楽しんだ。俺も海を十分に楽しんだ後いつものようにルミア達と一緒に街などに出て過ごした。十分遊んだら料理が得意な女子生徒たちと全員で手分けしてバーベキューの準備に入った。と言ってもバーベキューなんて大した料理スキルもいらないため大人数でやったのですぐに準備が完了した。

 

準備が完了し、肉や野菜、海鮮などを焼いていると気絶させた男子たちも匂いにつられ起き始めた。その後全員起きたことを確認してみんなで夕焼け色に染まる空の下バーベキューを楽しんだ。それからしばらくして俺たちは片づけをすまし引き上げ宿に帰った。楽しい時間は本当に過ぎ去るのが早いち今日はつくづくそう思わされてた。

 

 

 

「ほ~!さすがの景色だな.......」

 

深夜人気のない砂浜にグレンが一人でいた。そのグレンの片手には小さめのブランデーボトルが握られており、この夜空に輝く星々とそれを反射させて幻想的な雰囲気を醸し出す大海原の絶景を肴に晩酌をして気持ちよく寝る目論見できていいた。普段のグレンなら景色を楽しむなんてことはしないだろうがサイネリア島のこの絶景はグレンをそうさせるだけには十分すぎるほどのものだった。

 

グレンはそのままちびちびと酒を飲んでいると誰かが近づいてくるのに気づいたのでそちらに顔を向けた。

 

「こんばんわ先生。絶景を肴に晩酌ですか?」

 

「ナハトか...........生徒は寝る時間だぞ?」

 

「先生もそれブーメランじゃないですか?」

 

「知らんな.........俺は規則に縛られん」

 

まったくこの人らしいと思いながら俺も目の前の絶景を見ながら屋台で買ってきたフルーツジュースを片手に幻想的な景色を眺める。

 

「こうして景色を眺めながらゆっくりすることなんてそうそうできませんしいいものですね」

 

「あぁ.......違いねぇな」

 

野郎二人で景色を楽しんでいると別のところから複数の気配を感じる。

 

「ちょっとルミア!?やっぱり不味いわよ!」

 

「すぐ戻れば大丈夫だよ!ほら、早く早く!それに絶対綺麗だから」

 

「あーもう!ルミアったら待ちなさいよ~」

 

よく知った二人の女子生徒のルミアとシスティーナ。そして..........

 

「これからどうするの?」

 

「みんなで夜の海を見るの!今日は月が綺麗だからきっとすごい綺麗だと思うよ!」

 

リィエルの三人だった。ルミアはあれで結構やんちゃなんだよな~と思って俺は見ていた。三人はどうやら少し離れた場所にいる俺と先生には気づいていないようだった。

 

「わぁ!凄い綺麗!」

 

「本当ね.........月もきれいだけど星も凄いわ!」

 

「ね?来てよかったでしょ?」

 

「そ、それは確かに...........でも、それとこれは話が別よ!部屋を抜け出して海を見ようだなんて!」

 

真面目なシスティーナは規則を破っていることに怒っているようだがルミアはそれを穏やかに笑いながら聞き流していた。

 

「そんなこと言いながらシスティもついてきたじゃない。なんだかんだ言いつつ見たかったんじゃない?」

 

「うっ.............はぁ~そうね、ルミアの言う通りかもしれないわね」

 

「でしょでしょ?」

 

「まったくルミアは見かけによらずやんちゃなんだから..........」

 

「ははは....……ごめんねシスティ?」

 

いたずらっぽく笑いながら謝るルミア。するとルミアはいまだに一言も話さないリィエルに気づきどうしたのか尋ねる。

 

「リィエル?やっぱり退屈だった.......かな?」

 

「.............」

 

リィエルがその問いかけにも答えず少しの間無言でその場に立ち尽くしているのでルミアは不安になってきているとリィエルから意外な反応が返ってきた。

 

「そんなこと..........ない」

 

「リィエル?」

 

リィエルは今自分が感じていることを表現するための言葉を模索する。うまく言えなくてもどかしそうにしながらリィエルは呟き始める。

 

「こんなの.........初めて.......よくわからないけど..........」

 

 

 

「この景色は.........................飽きない」

 

そう言い切ったリィエルは珍しくその眠たげの目を見開き眼前の光景を焼き付けているようだった。

 

そのリィエルの様子にルミアは安堵し、そしてうれしそうにはにかんだ。

 

「私ねリィエルとお友達になれてうれしいんだ!」

 

「.....ともだち?」

 

リィエルは戸惑ったように硬直している。

 

「ルミアと私が......友達?」

 

「うん!それにシスティだってそうだよ!」

 

「よくわからない............でも嫌じゃない」

 

そこまで言い切ってくれたのがうれしかったのかルミアはそのまま靴と靴下を脱ぎ海に入る。可愛いのにやんちゃであるルミアはそのままシスティーナとリィエルに向かって海水をすくってかける。そんなルミアに触発され二人も交じって水の掛け合いが始まり三人ともどんどんびしょ濡れになっていく。

 

「まったく.........しょうがない連中だな~」

 

「いいじゃないですか三人とも楽しそうですし」

 

そんなことを二人で話していると先生が両手で長方形の小窓を作り、その小窓越しに三人のたわむれる光景を見る。

 

「射影機でも持ってくりゃよかったかなぁ~」

 

「重いですよ........でも、わかる気がします」

 

確かにこの光景は残してあげたくなるほ素晴らしい光景と言える。俺たちはしばらくそれぞれの飲み物を楽しみながら景色と目の前で戯れる少女たちを眺める。

 

「さてと.........俺はそろそろ戻りますね。」

 

「ん?いいのかお前も混ざらなくて?」

 

「俺があそこに入っていくのは野暮ってものですよ。一応何かあったら連絡してください」

 

「そうかよ。ま、わかったよ......んじゃーな」

 

俺は最後にもう一度だけ三人笑いながら楽しく戯れる様子を目に焼き付け宿への帰路につくのであった。

 

 

 





今回は水着回なので、少しラッキースケベに挑戦してみましたが難しいですね。それとルミアとのデートですがこの遠征学修偏と天使の塵編の間に挟む予定です。完全オリジナルのデート回にするか追想日誌のほうでの話を参考にしたものにするかは未定ですがデート回をはさむことは確定です。またシスティーナのヒロイン追加に関するアンケートですがPixivとハーメルンあわせてみると今のところは追加するのほうが優勢です。まだしばらく確定させないので答えてもらえると幸いです。


また最近とてもうれしいコメントを頂きました!コメントをくださった方には本当に感謝しています!自己満足の作品ですが楽しんでもらえるようこれからも頑張りたいと思ってます。今回も読んでくださりありがとうございました!








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不安定な戦車 

 

 

 

俺は三人少女が戯れるのを少しの間見届けた後に宿に戻った。と言っても帰ってすぐ寝ることはせず、先生やルミアたちが帰ってくることを確認のために屋上に腰かけ月を見上げていた。

 

 

(にしてもアイツ等はなんでルミアをあそこまで執拗に狙うんだ?)

 

俺はそれが当初から不思議で仕方ない。確かにルミアは元王女であるため非常に高度な政治カードになるかもしれないがそれにしたってアイツ等がそこまで必死に動くほどのものでもないと思う。なら自ずと異能関係かとは思うがそれにしたっておかしい。確かに異能は珍しいがいないわけではない。俺の異能はどの書籍にも記述されてないものだが、ルミアの感応増幅はそれなりにいる。それだけ見れば狙われるなら俺であるべきだ。

 

(ルミアには何か別のものがあるのか?)

 

そうなるとルミアには何か別の〝特別な何か〟があると考えるのが自然だ。だが一体それはなんだ?

 

俺はやつらの狙いを考察するがいくつかの推論が出てもそれを裏付けるだけのものがないので無駄かと思っているとしたから話声が聞こえた。自分としたことが考えに集中しすぎたなと思うとすぐに下を覗くとそこではリィエルと先生が何やら言い合いをしていた。俺は止めに入ろうと思い立ちあがるが少し遅くて.............

 

 

「うるさい!うるさい!うるさい!みんな......嫌い..............大っ嫌い!!」

 

リィエルが珍しく大きな声を上げそう言ってどこかに走り去っていった。俺はその場に立ち尽くす先生の隣に降りて話しかける。

 

「何言ったんですか先生?リィエルがあそこまでになるのは相当じゃないですか?」

 

「..........ナハト、か............あいつに俺をもう兄の代わりにするな、お前の意志で自分の幸せのために生きろって言ったらこうなっちまった」

 

「............先生は間違ったことは言ってないですよ。ただもう少し言い方はあったと思います。確かにリィエルは先生に依存してますがそれだけじゃないと思いますよ」

 

リィエルは先生に依存している。いや、もっとひどくてそれは執着ともいえるかもしれない。でも確かなのはリィエルは何もそれだけじゃないということだ。心のどこか深くで依存ではなくグレン先生だから大切だという思いがあると俺は思っている。

 

「.............そうだな。明日もう一回話してみるとするかね」

 

そう言って俺たちは今はリィエルを一人にしてあげたほうがいいと思い部屋に戻ることにした。

 

 

 

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次の日、研究所見学の日のため俺たちは舗装されていない山道を歩いていた。

 

白金魔術研究所は上質できれいな水が大量に必要なため森林の深くにある。そのため歩きにくい道を歩いて行かないといけないので体力のない女子生徒や男子生徒の一部は肩で息をしており、とてもしんどそうにしていた。なので軍属で現役の俺や田舎暮らしをしていたカッシュなどが生徒たちの荷物を手分けして持ったりしていた。

 

「二人とも大丈夫か?荷物預かろうか?」

 

俺はそうルミアとシスティーナに声をかける。

 

「えっと...........ごめん、頼めるかなナハト君」

 

「問題ないよ。システィーナは大丈夫か?」

 

「えぇ、私は大丈夫。無理そうならお願いするわね」

 

「了解。無理するなよ?」

 

俺はそう言ってルミアから預かった荷物を肩にかける。

 

「でもナハト君凄いね?やっぱり鍛えてるから?」

 

「まぁ、それなりには鍛えてるよ。俺は魔術よりも剣のほうが得意だしね」

 

俺は今でこそ魔術併用型の近接戦闘スタイルだが最初はそうはいかなかった。軍に入って初期のほうは魔術の技量はレベルが低く、基本剣での近接戦闘をしていた。大体軍に入った初期は姉さんと組んでの任務ばかりだったので俺が前に出て姉さんがそれを支援と言う形で魔術を使う機会自体が少なかった。それから少しして魔術のほうも徐々に腕が上がって一人での任務や別の人との任務も増えて言った感じだ。

 

「貴方魔術もできるじゃない............私、貴方見てると自信なくすわよ.......」

 

「そういうけど才能ならシスティーナのほうが俺より数段上だよ?システィーナは鍛えればそれこそ俺なんか魔術戦じゃかなわないレベルになれると思うよ?」

 

これは本当だ。彼女の才能は俺が見てきた魔術師の中でもトップクラスの原石だ。鍛えれば間違いなく大きく化ける。俺の中にはその予感があった。もしかしたら俺の使える眷属秘術の風版を開発できるかもしれないとすら思う。

 

「えっ!?そうなのナハト君?やっぱりすごいねシスティ!」

 

「な、なに言ってるのよナハト!?わ、私が貴方よりも才能があるなんて......」

 

「本当だぞ?冗談抜きでシスティーナは十分俺以上のものを持ってるよ」

 

俺がシスティーナより上であれるのは特殊な魔力特性による固有魔術に眷属秘術と実戦経験の差だ。通常の魔術戦なら俺を越えることなんてシスティーナなら十分に可能だ。

 

「まっ、今は自信ないかもだけど本当だから記憶の片隅にでもおいておいてよ」

 

俺はそう言ってまた辛そうな生徒を見かけたのでそっちに行くと伝え二人から離れていった。

 

「ふふ、よかったねシスティ褒められて?」

 

「うぅ~なんか納得できないけどそうね........」

 

そう話しているとふと思い出したかのようにシスティーナは話し始める。

 

「そいえばすごいと言えばリィエルもじゃない?」

 

そう言って二人は後ろを向くとナハト同様息一つ乱さず、汗もかいてない様子で淡々と歩くリィエルがいた。

 

「でも、リィエルが無事そうでよかった.......朝起きたらいなかったんだもん......」

 

「あんまり勝手なことしちゃだめよ?そんなことばかりしてるとグレン先生みたいな人になっちゃうんだから!」

 

「................」

 

その言葉に無言のリィエルに怪訝そうな表情を浮かべる二人。どうしたのだろうと考えていると..........

 

「......ッ!」

 

リィエルが舗装されていない道に足を取られ体制を崩す。リィエルにしては珍しいミスにルミアは自分が疲れているのも忘れ駆け寄る。だが...........

 

「リィエル!大「触らないで!!」.......えっ、..........り、リィエル?」

 

リィエルが大きな声で差し出したルミアの手を振り払い拒絶する。その様子に前日まで仲良かった三人なだけに周りのクラスメイトも驚いて足を止める。

 

「ち、ちょっと待ってリィエル。何があったのか知らないけど今のは酷くない?ルミアはリィエルを心配して.........」

 

システィーナが諭すようにリィエルにそう言う。だが...........

 

「うるさい........うるさいうるさいうるさい!」

 

「私にかかわらないで!!私は..........あなたたちが大っ嫌い!」

 

「えっ.....................まっ」

 

そう言ってリィエルは先に行ってしまった。システィーナは再度話しかけようとするもルミアに止められる。

 

「システィ待って!今はそっとしてあげよ。ね?」

 

システィーナはそうルミアに言われてリィエルを追いかけるのをやめた。だが二人はあまりにも突然なリィエルの拒絶にどうしてこうなったのだろうと考えていた。そして考えれば考えるほど悪い方向へ行きそうになっていると............

 

「すまねぇな............二人とも」

 

そう言って二人の後ろからグレン先生が声をかけた。その発言にシスティーナはまたあなたが余計なことをと思い、問い詰めよろうとしたがグレン先生の表情を見てとどまった。その時の表情は見たことないぐらい後悔の色をにじみだしていたからだ。

 

「まずは二人に礼が言いたい。.............よくここまでアイツの相手をしてくれて本当にありがとう」

 

そう言いグレン先生は先に行ってしまったリィエルを後悔した目で見ながら続ける。

 

「そしてもう一度..........謝らせてほしい。俺が不用意なことを言ったがためにこうなってしまったことを」

 

「あいつはな、まだ子供なんだよ。特殊すぎる生い立ちがゆえにまだ精神的には本当に小さい子供と同じくらいなんだ..............」

 

そこでいったんグレン先生は区切る。やや言葉を探すようにするがすぐに話始める。

 

「ただな...........できることならあいつに愛想をつかさないでほしい。俺も何とかしてみようと思うが俺だけじゃ無理かもしれない..........だから頼めるか?」

 

そう言ったグレン線背に二人は「「任せてください」」と言った。二人もリィエルと関わった時間は短いが心からリィエルを友人だと思っているからだ。その二人の返事にグレン先生は「ありがとうな」と感謝を伝えた。

 

 

------------------------------------------------------------------

 

 

あれからしばらく歩くと遂に白金魔術研究所にたどり着いた。つかれた生徒たちは日陰に座り込んでだるそうに休んでいると研究所から一人の初老の男が歩いてきた。

 

「ようこそアルザーノ帝国魔術学院の皆様。遠路はるばるご苦労様です。」

 

「私はここの研究所所長を務めさせてもらっていますバークス=ブラウモンです。」

 

俺はこの男を見て何んともまぁ薄い仮面だと思った。いかにも好々爺としているが、俺からしてみれば隠しきれない薄汚い本性が見えるので吐き気すら催すように感じた。

 

(バークス=ブラウモン.........こいつは間違いなく黒だな........それに....)

 

バークスは先生とあいさつを終えるとちらりとルミアに視線を向けたのを俺は見逃さなかった。その時の視線はとても冷たく、この男は極度の異能嫌いだということがわかった。俺はルミアをさりげなく背にかばうように立ちばれないように睨みを利かす。

 

 

それから二組はバークスに研究所内を説明も受けながら回る。研究所内は確かにすごいもので俺も見入るものがあるが敵地でもあると思い警戒を怠らないようにして回っていた。生徒達も普段見ることのできない神秘的な光景に心奪われているようで当初は文句を言っていた生徒も満足そうにしている。

 

 

そんな中システィーナがつぶやいた『Project:Revive Life』についてグレン先生とバークスの解説や議論なども聞いたりした。確かにあの魔術は白金魔術の分野にあたるだろう。その時、俺のほうを一瞬だけ見たのでこいつは俺のことを知っているうえ『Project:Revive Life』の完成または運用が目的なのかとも思った。

 

 

それからもいろいろと案内され見学は終了した。俺たちは研究所から戻るとまた自由時間となり、みな複数のグループに分かれ行動を始めた。ルミアはその中で一人でいるリィエルに声を掛けるもまた拒絶されてしまった。それに見かねたグレン先生が叱ろうとする。だがリィエルはそれさえも跳ねのけて無言のままその場からどこかに走って行ってしまった。

 

 

「チッ!................あのバカ........すまないルミア」

 

「いえ気にしないでください先生。それよりもリィエルのこと追いかけてあげてください」

 

そうルミアはグレン先生に頼んだ。そしてそのままルミアは俺に向き直り........

 

「ナハト君も先生を手伝ってあげて。先生も一人じゃ大変だと思うから。いいかな?」

 

俺と先生はそれを引き受け手分けして探すことになった。

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------

 

厄介なことになった..................

 

俺は先生と手分けしてリィエルの捜索をしているわけだが森ではアルベルトさんがあのエレノア=シャーレットと交戦開始し、グレン先生もリィエルの発見に成功し今リィエルに何とか説得しようとしている。だがその近くに一人、天の智慧研究会のものがいる。

 

(............アルベルトさんなら大丈夫。なら、相手の実力がわからないうえ不安定なリィエルを抱えている先生のほうに向かうべきだな)

 

俺はアルベルトさんなら問題ないと判断し、すぐさまリィエルと先生がいる海に向かい走り出す。幸いそれほど距離もないから【疾風脚】でいけば数分とかからないだろう。なんにせよエレノア=シャーレットが動き出した以上ことが進んでいる証拠だ。

 

そして俺はすぐにたどり着く。だが......................

 

(なんでリィエルが剣を先生に構え.................まさか!?)

 

たどり着くと臨戦態勢に入って愚者のアルカナを掲げる先生。そして後ろには今にも剣を先生に向け振るおうとしているリィエルがいた。瞬時に俺はリィエルが理由までは分からないが寝返ったのだということを悟る。

 

(チッ!先生が気づいてない!クッソ!!間に合えぇぇ!)

 

「行くぞリィエル俺と....「先生!!」…は?」

 

俺が咄嗟に【疾風脚】で一気に距離を詰め先生を突き飛ばす。幸い【愚者の世界】の有効圏外だったから先生がさされる前に間に合う。だが、俺は自身は別だ。俺はギリギリのため急所を避けるのが限界でどうにか鳩尾に大剣がぶっ刺さるのは回避できたが...........

 

「グっ!?」

 

俺はリィエルの大剣により右胸を貫かれる。俺は激痛に耐えながらリィエルに蹴りを入れ距離を取らせる。右側の肺が貫かれ呼吸が苦しいうえあまりの激痛に気を失いそうだ。

 

「ナハト!?」

 

先生はすぐに何が起きたか理解し、俺の名を大きな声で叫ぶ。

 

「先生…ゴッフ。ここは一旦引きますよ」

 

俺は血を吐きながらそれだけ言うと閃光石を取り出し目くらましをする。先生は一応俺の意図を理解してくれたようで俺を抱え近くの茂みにすぐさま身をひそめる。そのまま俺たちは茂みからどこかに...........いや、十中八九ルミアのもとに向かっていった。先生はすぐにリィエルたちが離れていくのを確認すると.....

 

「おい!ナハト大丈夫か今すぐ治療を........」

 

先生は【愚者の世界】で治癒魔術が使えないことに慌てながらもとにかく止血の用意をしようとするだが........

 

「俺のことは....いいですから。...今すぐに宿に行きます..........ルミアが危ない..........」

 

俺はこの場においての次善の選択としてグレン先生をルミアのもとに向かわせようと考えそう伝える。

 

「馬鹿野郎!!今お前を放置したらお前が死ぬぞ!!」

 

「急所は外しました.........すぐに動けます。」

 

「つべこべうるせぇ!!ならお前を抱えていく!!気をしっかり持てよ!!」

 

「そんなことしたら遅く...............は~、わかりました..........頼みます」

 

 

俺はこのままじゃそれこそ時間の無駄だと思い先生にそう頼んで運んでもらうことにした。傷は深いがある程度治療すれば痛みを我慢すれば問題なく戦えるだろうと冷静に考える。自身の判断が甘かったことを内省するが今は反省よりも次の行動が重要だ。

 

俺は先生の背中で激痛に苛まれながらすぐさま次にとるべきことを考えることに集中するのであった。

 

 





今回はここまでです。次回は本来ならキスが入りますがそれはなしにする予定です。理由は二つあり、ここでシスティーナがグレンにせよナハトにせよキスしてはどちらかのヒロイン確定になってしまう気がするからです。もう少しそれは先延ばししたいので今回はその予定です。そしてこれが一番の理由なのですが、ナハトのファーストの相手はルミアであるべきと思っているのも大きいです。

今回もここまで読んでくださりありがとうございました!



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愚者の叫び 

 

 

「待ってろナハト!もう着くからな!」

 

「.............はい..............でも大声は傷に響くんで控えてくださいね?」

 

俺は先生に抱えられながら宿屋に目指す。恐らくはもうルミアは連れ去られているだろう。アルベルトさんが今どんな動きをしているだろうかと考えながら俺は先生に運ばれる。

 

「着いた!......ってアルベルト!?」

 

「遅かったなグレン...............ナハトの状態は?」

 

「アルベルトさんこっちに来てましたか....................右の肺の状態が怖いですが、ある程度治療さえしてもらえば戦えます.............すいません足引っ張ってしまって......」

 

「構わん.............俺もまんまと相手の術中にはまったいたからな。すぐに治療するぞ」

 

アルベルトさんを先頭に俺はグレン先生に抱えられた状態で宿に入る。複数の生徒に俺が大量の血を流がしてぐったりしているところを見られ軽く混乱が起きたもののすぐに先生が治療するからと言うと落ち着いたっ様子だ。

 

--------------------------------------------------------------------

 

 

「ここだな............」

 

アルベルトさんはとある部屋の扉の前でそう呟くとその扉を開けて入っていく。俺はぼんやりと確かこの部屋はルミアたちの部屋だったなと考えていた。

 

「邪魔するぞ..........お前がシスティーナ=フィーベルだな?俺は帝国宮廷魔導士のアルベルト=フレイザーだ。緊急のためお前にも協力を要請する」

 

俺はアルベルトさんがそう言う中部屋の様子を見る。その部屋の様子は酷く荒らされており誰のものかわからないが血が付着しており俺は少しばかり焦燥感を感じる。そんな中先生はアルベルトさんから俺をベッドに移せと言われ俺は寝かされる。そしてその様子を見たシスティーナは............

 

「うそ.........でしょ............大丈夫なのナハト!?ねぇナハトってば!!」

 

システィーナは血で汚れた制服といまだに流れる血を見て大きな声でナハトの名を叫びかけよる。あまりの光景にシスティーナはパニック状態で涙を流している。

 

「泣くなよ...…システィーナ。別に死にやしないからさ.......な?」

 

俺はそういうシスティーナに血で汚れていない右手で頭を撫でる。ただけがは右側なので結構痛む。

 

「フィーベル..........今のこいつは驚異的な生命力で意識を保っている状態だが放置すれば命に危険があるのには変わりない」

 

「え?...........ナハト........死なないって...........」

 

システィーナはアルベルトさんが言っていることとナハトが言ったことと違い呆然とする。

 

「アルベルトさん?別に...........そこまでじゃないですよ?治癒魔術で............」

 

「強がるな戯け。...........すぐには死なんだろうが激痛で意識が朦朧としていることぐらいわかる」

 

アルベルトさんの言うことは正しい。正直今すぐどうこうはないとは思うが意識があまりはっきりしない。

 

「フィーベルお前に協力を要請する。グレンじゃ使い物にならんからな」

 

「ちょっと待ておい!俺そいつらの教師だぞ?」

 

「教師が生徒に守られてどうする戯け...........まぁ、いい。お前は外で索敵していろ。万が一攻めてこられてはかなわん」

 

グレン先生はそう言われて一瞬不貞腐れるも事実で言い返しようのないためそのままいう通りに席を外す。

 

「待ってください!アルベルトさん!!私なんかじゃ..............そうだ!セラ先生を呼びましょう!セラ先生なら............」

 

「無理だ。今からやることの負担にセラの体はもう耐えられる体でない」

 

アルベルトの言う通りセラは完全に魔術が使えないわけではないが昔のようにはできない。アルベルトは白魔儀【トランスファー・ライフ】をするつもりだ。この魔術は大きなけがを負った際生命力を譲渡して治療する魔術だ。ナハトは幸い急所を外しているため生命力を増幅させ譲渡する白魔儀【リヴァイヴァー】を使うほどではない。だが、【リヴァイヴァー】ほどではないが莫大な魔力を使うことは変わりなく、これをセラがやろうとすればセラはその魔力消費に耐えられず命の危険だ。だが、アルベルト一人では不可能なため潜在的な魔力量の多いシスティーナと二人で行おうということだった。

 

「で、でも...............」

 

だがシスティーナはいまだに躊躇している。システィーナは先程リィエルがルミアをさらっていったとき何もできなかったのが事もあり完全に自信を喪失していた。

 

「............システィーナ午前中言ったこと覚えてる?」

 

「え?」

 

「システィーナなら大丈夫だぞ?システィーナは俺よりすごい才能を持ってる。だから自身もちなよ..........な?」

 

俺はもう一度手をシスティーナの頭に乗せ励ます。そしてついに.........

 

「ナハト..............うん!わかった!アルベルトさん私は何をすればいいですか?」

 

アルベルトはシスティーナの覚悟が決まったのを確認するとすぐに今から行う【トランスファー・ライフ】のやり方を手短に説明し準備を始める。システィーナにも指示を出し手早く進めすぐさま儀式が行われる。

 

(お願い!うまくいって!!!)

 

システィーナは強く儀式の成功を祈る。

 

そして、俺は儀式が始まるのを確認するとそこで意識が途切れた。

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

 

「うぅ~.............痛い、けどこれなら問題ない........か」

 

「目が覚めたようだな」

 

俺は胸にまかれた包帯の上から傷のある部分をさすり傷の具合を確認した。さすがに痛むがこれなら剣も振れるし問題なく戦えるだろう。すると窓辺のほうからアルベルトさんの声が聞こえた。

 

「すいませんどのくらい寝てましたか?」

 

「数分だ............お前と言いグレンと言いお前らの生命力には驚かされる」

 

「そうですか................ルミアの場所わかりますか?」

 

「問題ない。エレノア=シャーレットに隠密性の高い魔力発信を付呪した。大方エルミアナ王女のものは使えんだろうからな」

 

俺はそう言われたので念のため探ってみる。だが予想通り......

 

「はい。探ってみたけどダメでした」

 

俺は護衛の都合上ルミアに魔力発信を付呪していた(ストーカーじゃないからね?)。だが、さすがに連中がつぶしており追えなかった。

 

俺はすぐにでも救出に向かえるよう魔術で特務分室の礼装といつものフード付きローブ、双剣を呼び出し着替えていると......

 

「アルベルト来たぞ...........って起きたかナハト」

 

グレン先生が部屋に来た。多分先生は治療を終えたアルベルトさんが呼んだのだろう。

 

「すまねぇ............俺のせいでけがさせちまった」

 

先生がそう言い、とても申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「気にしないでください先生。俺体は頑丈なので」

 

俺はそう先生に言う。それでも申し訳なさそうにしているがひとまずは納得したようで「そうか。すまねぇな」ともう一度謝りこの件は終わった。

 

そして少しして俺が完全に装備を整え終えた。そして俺とアルベルトさんは現状の確認と作戦を考え始める。

 

「アルベルトさん恐らく敵は白金魔導研究所......またはその付近にいますよね?」

 

「あぁ、エレノア=シャーレットに付呪したものはそこから反応を示している」

 

「そうですよね..............となると大きな障害はエレノア=シャーレットですかね。」

 

「そうだろうな。付け加えて言えば寝返ったリィエル。そして、バークスは合成獣の研究もしていると聞く。ならばそれも相手は使ってくるかもしれない」

 

俺たちがそう話していると............

 

「待ってくれ!リィエルはまだどうにかできる!!あいつが相手側なんて決めつけるのは早いだろ!!」

 

だがそんなグレンの提言にアルベルトは..........

 

「俺とナハトの任務は王女の護衛だ。そして今から俺とナハトは王女の奪還に向かう。その際リィエルが敵対する可能性がある。こうなっては俺も容赦はしない。やつを排除..........いや、言い方がぬるかったな。奴を殺す」

 

「待て俺も行く!俺が奴を正して連れ戻す!..........それが俺が二年前アイツを拾った責任だ」

 

「いまさら聞くのかお前の言葉を?」

 

「聞かせる!無理やりでも聞せんだよ!!」

 

その様子を俺は黙って見つめる。そしてアルベルトさんはそのグレン先生の訴えに鼻を鳴らす。

 

「お前が帝国宮廷魔導師団を去った理由は大体見当がついてる。お前は現実を理解しながら同時に理想も捨てきれず時に敵にすら手を指し伸ばす真性の甘ったれだ。お前があの世界で破綻するのは分かり切ってた」

 

「そ........それは..........すまないと思って」

 

「勘違いするなグレン。別に俺はそんなお前を否定などできないししない。お前みたいな魔術師が一人位いてもいい。早々に見切りをつけた俺にはお前の生き方が疎ましく思う反面、眩しくすら思う」

 

そう、誰もが先生の理想を笑い、蔑んだ。そして今でも悪く言う人はいる。だけど、俺やアルベルトさんはその理想を笑うつもりもましてや否定する気はない。俺もアルベルトさん同様にいつからか必要のためなら切り捨てることを覚えた。多分それは軍人として至極当然なのだろう。だからこそ本当に先生のそれは眩しくあこがれさえ抱いた。

 

「だが............お前は逃げた」

 

一瞬置きアルベルトさんは鋭い目を向けそう言い放つ。

 

「お前の身勝手な都合で、今まで共に戦ってきた戦友を見捨てて逃げた。何の相談なしにだ。今回のリィエルの裏切りも間接的にはお前が逃げたことが原因だろう。そんなお前に俺の戦闘方針を変えさせる権利があると?今更リィエルを救う資格があるのか?答えろグレン=レーダス!」

 

「権利も資格なんてねぇよ!あぁ、そうだよド正論だよド畜生が!これは俺の我がままだ!それが嫌だってんなら殴るなり殺すなりしやがれ!俺はそれでもリィエルを助ける!!」

 

「話にならんな餓鬼かお前は」

 

「餓鬼でいい.........だがな!あいつは..........リィエルは俺の生徒だ!!」

 

 

その強く言い切ったグレン先生を鋭く見据えるアルベルトさん。しばらくの間、両者は沈黙を貫く。そして........

 

「なるほど、お前は変わらんな。心を叩き折られ少しマシになったかと思えば、本質は何も変わなかったということか。まったくもって忌々しい」

 

「は??」

 

「しかしだからこそ............俺はお前に〝期待するのだろう〟」

 

そういうが同時にアルベルトさんはグレン先生に向け拳を振るう。

 

「グアァ!?」

 

(わ~痛そう........)

 

「俺に何も言わず去った落とし前はこれで勘弁してやる。後これをくれてやる」

 

そう冷たく言い放つとアルベルトさんはグレン先生の足元にあるものを放りつける。それは........

 

「お前........コレ」

 

先生に投げつけられたものは先生が軍属時代の愛銃である『魔銃ペネトレイター』だった。グレン先生はアルベルトさんの真意がわからず視線を向けると........

 

「条件は二つだ。一つ、俺はあくまで王女救出を優先させてもらう。二つ、状況がリィエル排除を背ざる負えない状況になれば俺はためらいなくリィエルを殺す。文句は受け付けん。以上の二点について俺の邪魔しない限りリィエルに関してはお前に任せる」

 

「お前.........」

 

今まで黙っていたが俺もここで口を開く。

 

「先生俺も概ね同じです。俺にとっての最優先事項はルミアの無事です。ですが、ルミアはリィエルも助けてほしいと言うでしょう。だからリィエルのことは頼みますよ?ぶっちゃけリィエルを殺すのは俺もいやですしね」

 

俺もアルベルトさんも率先してリィエルを手にかけたいわけではない。俺もリィエルと仕事をすること自体は少なかったが任務のない日は二人で訓練したりすることもあったため情もある。アルベルトさんも根はやさしい人なのでリィエルのことはよく気にかけていた。

 

俺たちは最後の確認をしっかりすると部屋を出る。ただ俺はその前に疲れて寝ているシスティーナに一言感謝を伝える。

 

「ありがとうなシスティーナ。お前のおかげで助かった」

 

すると、システィーナは眠りが浅かったのかはたまた偶然なのかは分からないが呟く。

 

「ナハト.........お願い..........二人を..」

 

俺は予備のローブを魔術で取り出しシスティーナにかける。

 

「あぁ、任せろ。すぐに終わらせる」

 

そう言って俺は先に出た先生達を追うべく窓から飛び降り夜の街をかけていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり白金魔導研究所地下。

 

そこには本性を現し薄汚い笑みを浮かべ何かを操作しているバークスがいる。そして、ルミアは縛られたうえで『Project : Revive Life』の完成のため異能を無理やり行使されている。そのためルミアの体は悲鳴を上げているもののルミアは気丈にふるまい弱みを見せまいとしている。

 

そしてそんな様子を見ているリィエルは自身の腕を力一杯握りしめ顔をそらしていた。

 

「大丈夫かいリィエル?」

 

そんなリィエルに青い髪の〝リィエルの兄〟が声を掛ける。

 

「............大丈夫」

 

そんなやり取りをしている二人を見ているバークスは不満そうな声で文句を言い始める。

 

「まったく.........あのナハト=リュンヌ...........いやナハト=イグナイトだったか?アイツを殺しおって.......奴の魔力特性や詳細が一切わかってないうえ既存の資料にはない奴の異能はいい研究材料になると思っていたのだがな......」

 

 

バークスらは逃げたナハトのことをあれだけの負傷ならば死んだだろうと思い殺したことになっている。

 

 

だが...........

 

(ナハト君は死んでない.............絶対に私を........うんうん、リィエルだって助けてくれる!だから信じて耐えないと!)

 

ルミアはナハトが死んでいないことを信じていた。彼は強い。それこそ誰も彼を殺すことなんてできないと思うくらいにはルミアはナハトを信じていた。

 

 

(ナハト君は私の............想い人だから。あの日助けてくれた私の『英雄』だから)

 

 

だから...........お願い!たすけてナハト君!!

 

 

 





次回からようやく戦闘に入ります。今回は少し簡略化したとこもありますが主にグレンとアルベルトのやり取りメインでした。自分は腐っているわけではないですがグレンとアルベルトの関係は好きです。あの二人って喧嘩をたくさんするけど根本が似通っているからなんだかんだ相性がよくて二人の活躍するシーンとかはすごくかっこいいからアニメでもっと見たかったですよね。


今回もここまで読んでくださりありがとうございました。また、お気に入り登録をしてくださる皆様本当にありがとうございます!








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月の怒り

 

 

俺らリはすぐに森を駆け抜けある場所に来ていた。

 

「おいアルベルトここでいいのか?」

 

「あぁ、ここでリィエルを見失った。恐らくこの先に奴らの根城があるのだろう」

 

アルベルトさんはエレノア=シャーレットだけでなく俺が刺された後遠見の魔術で追跡していたがこのポイントで見失ったらしい。その場所と言うのが.....................

 

「湖ですか................となると地下につながってるんでしょうね。」

 

そう湖の前に来ているのである。すると俺がそう言うとアルベルトさんは一足早く【エア・スクリーン】で空気を周囲に纏い湖に飛び込む。俺と先生も魔術を使った後アルベルトさんの続いて飛び込む。

 

潜ってからわかるが不自然な水の流れをしている場所がある。それに気づいた俺たちはそちらに向かって泳いでいくと不自然な横穴がありそこをくぐり移動してしばらくすると............

 

 

「当たりだな........」

 

先生がそう言いながら陸地に上がる。俺たちは横穴をくぐっていくとそれなりの広さの池のようなところに出た。陸上もそれなりに広く、先に奥は少し暗いが一本道があるのがわかる。

 

アルベルトさんは手早く使い魔を出してまずは進路を把握しようとした瞬間..............

 

「まずはこいつを.........来たな」

 

「そうですね.................俺がやるのでお二人は下がっていてください」

 

そう言うと先生も遅れながらも気配に気づいた。アルベルトさんと先生は俺が言ったように数歩後ろに下がり待機する。するとその瞬間大きな揺れを感じる。揺れは下から感じ、恐らく出てくる場所は................

 

そう考えていると大きな水柱を上げ池のような場所から飛び出てきたのは左右二対の立派なハサミに鋭い足が5本ある横長のカニのようなものだった。これがバークスの研究である合成魔獣(キメラ)か................

 

そんなことを考えているとそれは俺を敵対者と認識したのか大きなハサミを振り上げ今にも俺を叩き潰そうとしている。だが.....................

 

「《紅蓮の暴竜よ・大いなる逆鱗もって・悉く消し飛ばせ》」

 

俺が今使用した魔術は黒魔改【ドラゴン・ボルケイノ】。俺が以前先生に見せた【ドラゴン・フレア】を軽く超える超超極太の赤い炎の熱線。尋常じゃない熱量を持ったそれは敵を灰一つ残さずに焼き尽くす。

 

「雑魚いなコイツ...............終わりましたお二人とも」

 

「成程............任務に出てからも腕は衰えてないようで安心だナハト」

 

「お、おう..............お疲れさん」

 

アルベルトさんは俺の魔術を見てそう冷静に感想述べるのに対し先生はどこか呆然としているようだがどうでもいいだろうと思い、とにかく今は早く向かうことに頭を切り替える。

 

(前見たやつよりもスゲェ..............あれもだったが今のはとりわけ尋常じゃねぇ。それこそ【イクスティンクション・レイ】にだって引けを取らないんじゃ...........)

 

グレンは自身生徒であるナハトの強さを改めて再認識する。ナハトが放った魔術の威力は自身放て得る最高火力に匹敵するようなものだと考えて戦慄する。

 

(頼りにはなるが教師として立つ瀬がねぇな)

 

そんなことを考え歩き始めると..................

 

「今度は団体様ですか...............」

 

そう俺がつぶやくと次から次へとわらわら出てくる出てくる。先と同じものから進路の先から歩み寄るものと、数は十を超えるだろうか。

 

全員が臨戦態勢をとる。

俺は今度は双剣に手をかけ、アルベルトさんは左手を構え油断なく見据える。

そして、先生も銃を構えいつでも対応できるように構える。

 

それぞれ敵を突破しようとそなえる俺達。

こんなものは前哨戦だ。俺たちの目的はその先だ。

俺達に止まっている猶予はない。

 

 

 

-------------------------------------------------------

 

 

「止まりませんわね?」

 

エレノアはバークスにナハトらの蹂躙劇の感想を皮肉気な笑みを浮かべそう伝える。

 

「クソ!......アイツ等め!!」

 

バークスは自身の作品ならば止められると過信していた。その結果は侵入してきた三人にまるで作品はただの木偶人形と言わんばかりに軽く殲滅されていく。

 

(流石帝国の《星》と《月》と言ったところでしょうか。そしてかの《愚者》も。この三人に付け入る隙が見えませんわ)

 

帝国のエースたる《星》のアルベルトと元《愚者》のグレンの二人の抜群のコンビネーションに加え、アルベルトにすら引けを取らない魔術センスに爆発的な火力、帝国内でもトップクラスの剣技による近接戦闘能力を誇る《月》のフレイ改めナハト=イグナイト。その三者はあまりにも強すぎた。

 

「特にあのナハト=イグナイトめ!!儂の合成魔獣(キメラ)が雑魚だと!!特殊な魔力特性に異能を持っているからと思えば許さんぞ帝国の犬め!!」

 

(ナハト様の評価は間違っていないのでしょうが彼が強すぎますわね...........それにしてもそろそろ潮時でしょうか............)

 

エレノアは冷めたようにバークスの怒号を聞き流していた。もっともエレノアからしてみればバークスなんてどうだっていいのだ。『Project : Revive Life』さえ完成してしまえばあとはどうでもいい。

 

「こうなったらわしの最高傑作を送り込んでやる!!これで葬り去ってくれるわ!!」

 

バークスは負けるはずがないと嬉々とした表情で状況を見守っているがそれに対しエレノアは「無理でしょうね」と心のなかで呟く。エレノアはその勘を信じて疑わなかった。そして、しばらくしてそれは現実のものとなる..................

 

「なッ!.......【イクスティンクション・レイ】だと!?あれはセリカ=アルフォネアとかいう阿婆擦れの固有魔術オリジナルではないのか!?」

 

グレンが放った【イクスティンクション・レイ】はバークス渾身の最高傑作をなぎ倒す。バークスの最高傑作と言うのは宝石の合成魔獣キメラのことでそれはほとんどの攻性呪文が効かず皮膚はとてつもなく固い。だからナハトに取っては相性がいいとは言えない。勿論ナハトにはあの固有魔術があるため一人でも突破可能だろうが。ただ、流石に【イクスティンクション・レイ】の前には無力だった。

 

「ッく!……なぜこうもうまくいかん!こうなったらエレノア殿!我々であ奴らを駆逐しますぞ!!」

 

バークスは最高傑作とやらが倒され怒り心頭のようで自ら出るという。またエレノアにも戦えと言い始める。エレノアは少し考えこむ。

 

(正直戦いたくない方たちですわね...........ですがここで断るのは無理でしょうね。それにナハト様には個人的に用がありますしここは乗りましょうか)

 

「わかりました。申し訳ないですが先に向かってもらってもよろしいですか?少々準備がありますので」

 

そういうとバークスはすぐに出ていった。バークスにできるのはよくて足止め。ナハトは王女のことを大切に思っているのは知っているためアルベルトらを残して一人でも突破してくるだろうと予測した。なのでエレノアはわざと遅れていくことを選択。最も一番の理由はバークスと二人でもあの三人をまとめて相手などしたくないからだ。

 

 

-------------------------------------------------------

 

 

「あれ?もう打ち止めですかね?」

 

俺たちは最後に倒した宝石の合成魔獣キメラの後しばらく先に進んでも何も出てこなかった。

 

「のようだな...............となるとエレノアあたりが来るかもしれん」

 

そうやって次ぎ来るであろう敵に警戒しながら進むと先程とは毛色の違う場所に来た。アルベルトさんたちもどういう場所か気になり軽く探るように周りをうかがう。すると気づいてしまったのだ。ここがどれほど醜いことをされている場所なのかを。

 

「な、なんだよコレ!?アイツはどこまで………!」

 

先生が叫ぶその先にあるものを見た俺とアルベルトさんもあまりの光景に息をのむ。そこにあったのは生きた人からとったと思われる脳髄があった。それも一つだけじゃなく複数個もそれらはあり、ガラスの筒のようなものに入れられて保管されている。それらの近くにはどれにも『感応増幅』『発火』『発電』など異能の持ち主のものだということがわかった。あの時バークスがルミアに向けた視線から予想はしていたがまさかここまでだとは思っていなかった。

 

(胸糞悪いことこの上ない!!早くルミアのとこに行かないと!!)

 

俺はもしものことを考えてしまいはらわたが煮えくり返りそうになりつつも、努めて冷静を保つ。

 

「おい!こっち来てくれ!」

 

グレン先生がそう叫ぶので俺とアルベルトさんは向かう。するとそこには四肢を切り離されそこに様々なチューブを植えつかされた年端も行かない少女がいた。彼女は生きているようだがその表現は的確ではないだろう。正確には『無理やり生かされている』と表現するべくものだった。

 

「まだこの子なら.......」

 

先生はそういうが俺とアルベルトさんは助からないと伝えた。ここから出してしまっては最後、この子はどのみち生きてはいられないだろう。

 

「..................アルベルトさん聖句を。俺がやります」

 

「...................あぁ」

 

俺がそう言うとアルベルトさんは成句を唱え始める俺はその傍ら小さな声で呪文を唱える。

 

「《聖なる送り火よ・我は希う・幸福と健やかなる来世を・彼らを導き給え・正しく幸せの楽園へ》」

 

そすると俺は今までとは違うすべてを消し炭にする炎ではなく、暖かく包み込む赤い炎を周りの脳髄の入ったケースや目の前の少女を包み込ませる。この魔術は黒魔改【聖炎の導き】これは高位司祭などが使う【セイント・ファイア】を改変させ痛みなく生者を天へ送るための祈りを込めた魔術。アルベルトさんに勧められ司祭の勉強をしていた時に作り出したものでこれは主にこういった場面で使ってきた。思えばこういった機会に多く出くわす仕事だったからなんだろう。俺はこういった場面でそのたびに自分だけ生きていることに罪悪感を感じつつもそうしてきた。

 

(ごめんな………助けられなくて..........俺は幸せに生きてきてごめんな。.............でも俺にはやることがある。果たさなくてはいけない約束がある。だから、すまない.............せめて、祈ることだけは許してくれ)

 

俺はそう心の中で思いながら炎を操り彼らを送る。そして終わったのを確認すると三人の間には少しの間沈黙が流れる。

 

「........すまねぇナハト。お前にこんなことさせて」

 

「いいんです。これは俺がするべきことなんだと思ってますから」

 

俺も異能の持ち主。だからこそ俺が彼らの後悔も苦しみも背負わなくてはいけない。

 

俺たちがそろそろ向かおうと思っていると...................

 

 

「貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!大切な研究資料に何してくれている!!」

 

「バークスか..........」

 

俺は怒気を隠しこんだ冷たい声でそう呟く。

 

「お前がナハト=イグナイトとかいう餓鬼だな!よくも研究資料を!!」

 

「知るか屑。それで………お前は何をお思ってこんなことしたんだ?一応聞いといてやるよ」

 

「生意気な小僧め!!フンッ、そんなの決まっておるだろう?偉大なる魔術師たる私に役に立つんだぞ?そうなればこれは必然の行い!!研究資料達には感謝してほしいものだな!!」

 

グレン先生もアルベルトさんも鋭い視線を向け今にも殺さんとする。そして.................

 

「そうか........ならお前...............

 

 

 

 

 

 

    ―殺していいんだよな―」

 

 

 

 

バークスはナハトにそう言われ数歩下がった。

バークスは今まで殺してきたのは無力な異能者たちだった。

だがナハトは違う。ナハトが殺して聞いたのは凶悪なテロリスト達。

明確な敵意をもってかかってくるものを相手に戦ってきたのだ。

バークスなんかのちゃちな殺気とはわけが違う。

 

(クッソ!この餓鬼がどこまでも!!)

 

「いいか?んじゃお前を殺させてもらう。《煉獄の―......」

 

俺が呪文を唱えようと左手を突き出すだが...............

 

「止せ............................俺がやる」

 

俺の左腕をつかみ静止したのはアルベルトさんだった。

 

「お前の気持ちもわかるが冷静になれ。お前のすべきことはなんだ?」

 

俺はそうアルベルトさんに諭される。そうだ俺がするべきなのはここでこの男を殺すことではない。ルミアを助けることだ。どうやら怒りをコントロールできていると思っていたが出来ていなかったようだ。

 

「すいません冷静さを欠いてました.............アルベルトさん頼みます」

 

「任せろ...............最も怒っているのはお前だけではない。お前の怒りは俺が預かろう..............行け!」

 

そう言われて俺とグレン先生は走り出す。

 

「馬鹿め!!」

 

俺たちが無防備に走りこんでくる様にバークスは下卑た笑みでそう言い放つ。なら俺はあえてこう言わせてもらおう〝お前のほうこそ馬鹿だろ?〟と。

 

「《気高く吠えろ・炎獅子》」

 

「馬鹿め【ブレイズ・バースト】とは............何!?」

 

バークスは見方すら巻き込むであろう【ブレイズ・バースト】に嘲笑する。だが、アルベルトさんによって放たれたそれはすさまじい魔力制御により俺たちにあたることなくただの目くらましとなり俺たちは先へ急ぐ。

 

 

-------------------------------------------------------------------

 

 

俺たちは全力でかけていく。早くルミアのもとにたどり着こうとの一心に走り続ける。

 

「!止まってください先生」

 

「一体どうした............」

 

俺が先生を制止して臨戦態勢に入る。先生も気配を感じ取り同じく戦闘態勢に入る。

 

(誰だ?リィエルか?それとも.............)

 

「うふふふ、流石でございますわ《月》のフレイ=モーネ様.............いえ、ナハト=イグナイト様。それに元《愚者》のグレン様も」

 

「エレノア=シャーレットか................で、俺たちは貴方の相手をすれば?」

 

俺がそう問いかけるとエレノアは不気味な笑みを深める。

 

「いえ、私はナハト様に用があります。グレン様はどうぞお通りください」

 

「俺か.....................先生先に行ってください」

 

「は?ここは二人で奴を...........」

 

「ルミアを頼みます」

 

俺がそう先生の目を正面から見て強く頼み込む。

 

「............わかった。危なくなったら連絡しろ」

 

先生は納得してくれたようでそれだけ言い残すと先に行った。

 

「さて、俺に用と言うのは勧誘ですか?」

 

「えぇ、貴方のその実力、そして何より貴方様のその特異な異能に、神のごとく魔力特性(パーソナリティ)『万象の支配・創造』をぜひ我が研究会に来てもらい役立ててもらいたく。地位も第三団『天』(ヘヴンンス・オーダー)に近い第二団『地位』(ポータルス・オーダー)を約束いたしますわ」

 

俺の魔力特性(パーソナリティ)は『万象の支配・創造』と言うエレノアの言う通り神のごとく魔力特性(パーソナリティ)だ。俺はこの世界のありとあらゆる理に介入・支配が可能なためこれによりアルベルトさんのような魔術制御も可能であり、固有魔術である【奇術師の世界・幻月】の支配力もこれに依存する。だがそれ以上に破格なのは『創造』である。たとえこの世界にない理や物質の錬成、はたまた世界すら作り出すことができるであろうものだ。勿論それを生み出すのはとても難しいが可能であることには変わらない。またこれがあれば俺一人だって『Project : Revive Life』必要な三要素を編み出し完成させられることも不可能ではないだろう。

 

「お断りですね。と言ううか論外なんですよ。俺はこの力を振るうのは大切なものを護るため。そしてお前らを倒すためだ」

 

「そうですか............それはとても残念です」

 

「だが、俺も貴方に聞きたいことがある」

 

「はて?なんでしょうか?私に答えられる範囲であればお答えしましょう」

 

「貴方...............いったい〝何者〟ですか?」

 

「.............................」

 

「貴方とアルベルトさんの戦いは少し見ていました。だから問いたい。貴方は何者か」

 

その戦いのさなかエレノアは何回も致命傷を負っているはずだ。少ししか見てないがそれでも数回はあった。なのにへでもないように戦い、気づけば再生している。明らかに異常だ。

 

「ふふふ、残念ですがそれはお答えできませんわ。淑女に秘密はつきものですわ。それに女性の秘密を暴こうとは感心いたしませんわ」

 

そうおかしそうに笑うエレノア

 

「それもそうですね.................それじゃ始めますか」

 

俺がそう言った瞬間俺とエレノア=シャーレットを包み込むように周囲に赤い炎と黒い炎がほとばしる

 

「!(すでに領域指定を.............私との会話は時間稼ぎでしたか。やはり相手はせざるおえませんか......)」

 

「簡単に逃さない。ここであんたを殺す」

 

ナハトの眷属秘術(シークレット)【第七園】が一帯を包み込む。さらに異能の力でもある《獄炎》交じりでもある特典付きでだ。

 

「俺はこれを基本使わないことがポリシーだけど正直もう本名もある程度知れ渡っているだろうし問題も今となっては特にない..................

 

 

だから存分に振るわせてもらう!」

 

俺は赤い炎を左手の剣に、黒い炎を右の剣に纏わせそう宣言する。

 

そして..........

 

「私、殿方に尽くすのが大好きですの。精一杯ご奉仕させていただきますわ!」

 

「貴方は美人でもタイプじゃないのでお断りします。その代わりあんたを骨の髄まで焼き尽くす!」

 

 

ここに死霊魔術師と月との戦いの火蓋が切って落とされたのであった

 

 

 





今回はここまでです。ナハトのチート魔力特性を公開しました。なんというかかなりチートでいささか不安ですがとりあえずはいいということにします。戦闘シーンはもっと先まで行きたかったのですが長くなりすぎるのでここまでにします。次回はエレノア対ナハトの決着まで書きたいと思っています。


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月vs死霊魔術師、動き出す『運命』

 

(本当に冗談がキツイお方ですわね..................)

 

エレノアはナハトとの戦いが始めってからエレノアはずっと劣勢だった。

 

ナハトは眷属秘術(シークレット)【第七園】により指定した領域内における炎熱系魔術の起動を省略できるため無詠唱で一撃一撃が必殺である超火力の炎熱系魔術を放つことができる。

 

「《いでよ赤き獣の王よ》!」

 

エレノアはナハトに【ブレイズ・バースト】を放つもナハトはB級軍用魔術の【プロミネンス・ピラー】で防ぐ。普通ならやや過剰防御ではあるが、ナハトはそのまま【プロミネンス・ピラー】を茨に形を改変させ余剰分の威力をすべて攻撃に返還させる。そして無数の炎の茨が全方位からが一点めがけてエレノアに襲いかかる。

 

「ッく!《疾風よ》!」

 

無数の茨が襲い来る寸前で【ラピッド・ストリーム】による【疾風脚】で緊急回避するも全方位から襲い来るそれに完全には回避できず右脇腹、左肩、右腿を穿たれる。エレノアは着地すると右腿をやられたせいで動きを止めてしまう。そしてそんな隙を近接戦闘の得意なナハトが見逃すわけなく.................

 

「【絶影・神千斬り】!!」

 

ナハトは高速でそのまま詰め寄り漆黒の炎纏う右手の剣と紅蓮の炎纏う左手の剣でエレノアを斬りつける。エレノアは体にクロスの斬撃を刻まれその時に両の腕と胴体を切断される。ナハトはそのままエレノアを完全に消し飛ばそうと《獄炎》を熱線にし放つ。だが気づくとそこには斬ったはずのエレノアの体はなくエレノアの使役する下僕どもだった。少し離れたところを見ると斬撃の傷が再生しているエレノアがいた。

 

(本当に厄介ですわ............ナハト様は無傷でこれまで私は何度もやられている。イグナイト家の秘術に剣術、自身の異能を掛け合わせた異常な火力.............私のこの体に刻まれた黒炎は再生しても消える様子がないですし………切除するしかないですね)

 

エレノアは少し考え黒炎で燃えている部分を自ら抉り取り対処する。その傷もすぐに再生されていく。

 

(確かに《獄炎》は対処するなら燃えている部分を切除するのが手っ取り早いがそれをやる奴なんているとは思わなかったな)

 

そもそも《獄炎》を使って生きて逃げられたっことは今までなかったのでやや驚いていた。確かに対処する方法が皆無と言うわけではない。考えられるもので今エレノアがしたように燃えた部分の切除、または封印術による封印。

 

(それにしてもこの人全然死なないな...........もう5~6回殺してる気がするんだけどな。致命傷に至ってはもう十回は負わせたはずなのに......薬ではないだろうし、異能か固有魔術か?)

 

薬ならここまで血を流せば薬の成分が抜け出して効果が効かなくなっているはずだ。だとすれば考えうる可能性は異能か固有魔術だろう。

 

ナハトがエレノアの不死性を考察しているとエレノアが何かの詠唱を開始する

 

「《おいでませ》-《嗚呼・おいでませ》ー《おいでませ》」

 

「《夜霊の呼び声に・応じませ》-《応じませ》ー《応じませ》」

 

燃え狂う足元に開かれる奈落のごとく闇深い門。溢れ出る瘴気。門より出は無数の人影。むせかえるほどの死臭。ナハトの周囲に現れたのは新たなエレノアの下僕たち。それはとどまることはないかと思わされるほどに出てくる。

 

「《彼の血が肉が・汝らを慰みたもう・潤したもう》ー《いざ・いざ・召され》!!」

 

エレノアがそう唱え終えると一斉に津波のごとく屍肉の敵が押し寄せる。だがナハトはそれを見ても一切慌てずに詠唱を開始する。

 

「《真なる業火よ・我は原初の炎の担い手・原初の焔をここに灯そう》」

 

ナハトが唱え終えた次の瞬間。ナハトの周囲の地面は広がるように炎の海へと変る。いや、それは正しくない。もはやそれは地面を焼き、大気をも焼き、海すら消し飛ばすただの破壊の波動。何もかもを灰燼に還していく様子は、まさに始まりの大地のごとく周囲を塗り替えていく。エレノアの呼び出した下僕は存在したのが嘘のように焼き消される。

 

ナハトの固有魔術(オリジナル)原初の焔(ゼロ・フレア)】。ナハトが誇る最高火力の魔術。【第七園】を使用したときに限り使用できる超高火力広域殲滅魔術。【第七園】起動状態でも詠唱なしでは発動できないうえ、魔力の消費も尋常じゃない。一度使ってしまえば周囲は焼け野原どころではなく全て無になるほどの火力。これは《獄炎》も掛け合わせているためどんな防御も貫通し消し去る。

 

 

(これは...............まさかここまでとは........)

 

もはやエレノアは呆然としていた。最初から殺すつもりはなくダメージさえ与えられれば良しと考えていた。だが結果は大幅に想定と違い怪我を負わせることなどできず悉くを焼き尽くされていた。

 

「本当に嫌に………グッ....肺が!?」

 

エレノアは嫌になる戦力差に愚痴をこぼすと肺が焼けるように痛む。いや実際に焼けているのだろう。

 

「………」

 

ナハトは何かを口元に何か取り付け冷静にこちらをにらんでいた。

 

(まさか.........少し息を吸うだけで肺が...........いえ、肺だけじゃないそれ以外の内臓までもが焼けていく!)

 

この魔術が発する熱量は尋常がないのが術者のデメリットだ。いくら術者であるナハトも自身の周囲の熱操作しても独自の酸素マスクを咥えてなければ息を吸うことさえできない。ならば当然ナハトの中心以外ならば息を吸ったら瞬間からすぐに内臓から焼かれ死に至る。

 

(これでも再生するか..............だが塵すらも残さず消し飛ばせばどうだ?)

 

エレノアは苦悶の表情を浮かべ口元をおさえ徐々に下がっていく。だがナハトはそれを許さない。

 

(後ろからも炎が不味いですわね......このままでは......)

 

原初の焔(ゼロ・フレア)】の赤黒い業火がエレノアを焼き尽くそうと周囲から詰め寄っていく。

 

(これでどうだ!!)

 

俺は自身の最高火力たる業火でエレノアを仕留めたと確信したその瞬間。

 

 

    〝パリーン!!〟

 

 

ガラスの破砕音のような音とともにナハトの起動していた【第七園】含む【原初の焔(ゼロ・フレア)】までがすべて破壊された。

 

「は?」

 

俺は突然のことに素っ頓狂な声を出していた。自分で解除したわけではなく誰かが(・・・)何らかの手段で破壊してきたのだとすぐに理解すると周囲を見渡す。

 

「誰だ!?姿を現せ!!」

 

すると足音がコツコツと聞こえ人影が歩み寄ってくる。

 

「凄いね君は.............まさかエレノアを追い込むなんて」

 

そういったのはとんがり帽子をかぶった少年だ。帽子が目深かにかぶられて顔が見えないが声は少年のそれだと感じた。

 

「何者だ?どうやって俺の魔術を?」

 

俺がそう問いかけると意外なとこから答えが言われる。

 

「〝大導師様〟、お助けくださりありがとうございます。」

 

「気にしないでエレノア。君に死なれるのは困るからね」

 

エレノアが言った言葉の意味を理解した俺は驚愕のあまり呆然とする。

 

(こ、この少年が............大導師.....だと?なんでこんなとこ...........いや、それどころじゃ.......)

 

俺は目の前の少年が俺の発動させた魔術を停止させた手法は分からない。だけどわかることは相手は格上............いや、そんな言葉じゃ言い表せない。

 

「ナハトだったね?そう警戒しなくても何もしないよ。ただ、うちのエレノアが危なそうだったから手を出させてもらったのさ。そして君に贈り物があってね」

 

俺は混乱しているが努めて冷静なふりをして対応する。

 

「優しい上司ですね?それで自分が貴方を攻撃しないとでも思っていますか?」

 

俺はそう言いながら【奇術師の世界・幻月】の発動のため懐から月のアルカナを取り出す。幻術にかけてさえしまえばあとは記憶を漁り放題なうえ、こちらが相手の命を握れる。だが.................

 

「ありがとう。でも無駄だよ?」

 

俺はカードの術式を読み取り発動させようと思ったができなかった。

 

「...........は~、やっぱりだめですか.............まぁ、無防備で出てくるわけないですよね」

 

「ふふ、話を聞いてくれるかい?」

 

「聞きますよ。と言ううか聞かざるおえないでしょうに.............」

 

「さてまずはもう一度称賛を。よくエレノアをここまで追い込んだね。並大抵のことではないよ」

 

「それはどうも。で、さっき言っていた贈り物と言うのは?」

 

「うん、そっちが本題なんだけど.............これを君に渡すよ」

 

そう言って大導師を名乗る少年は懐から一本の夜空のような濃紺の小さな〝鍵〟を掌の上に乗せ差し出す。

 

「鍵?なんの鍵ですこれ?」

 

「それは悪いけどいえない。ただ言えるのは君の内なるものを開放するもの(・・・・・・・・・・・・)とだけ伝えておこうか」

 

「どういうことだ?」

 

「いつか.............うん、いつかきっとわかるよ。それよりルミアのとこに向かったらどうだい?僕たちはこのまま帰らせてもらうからさ」

 

俺は少し黙考する。ここで黙っていかせるべきかここで仕留めるべきか。だが...............

 

「(仕留めるのは無理だな............)なら先に行かせてもらう」

 

「うん。またどこかで」

 

俺はそのまま大導師とエレノアを放置して走り出す。

 

(今度会うときは仕留める………精々首洗って待ってろ!!)

 

 

俺は内心今度こそはと思いながらもらった鍵を懐に忍ばせすぐにルミアを助けるために向かう。

 

 

 

 

 

この〝鍵〟が................この〝出会い〟が、どんな『運命』にナハトを導くのか誰にもわからなかった。

 

 

 

 






今回はここまでです!もう少し進んませたかったのですがこれ以上は長くなりそうだし次回以降が切り悪くなりそうなのでここまでです。自分で書いててあれですがナハトが強すぎて正直エレノア殺しちゃいそうでひやひやしながら書いてました。ここでエレノア退場はさせられませんからね。また今回注目は原作でも有名なあの鍵をナハトも持つことにしました。これをうまく使って話を盛り上げられるようにしますのでこれからも楽しんでもらえば幸いです。

あと、大導師に今回やったようなことが本当にできるかはわからないですがこれぐらいできるでしょうと言うことでお許しください。


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真実 

 

 

ナハトがエレノアとの戦闘を開始したころ....................

 

 

「うおおぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁ!!」

 

大きな声とともにグレンは最奥の研究室の扉を蹴り飛ばして開く

 

「さて、そろそろ馬鹿騒ぎは終いにしようぜ?」

 

「グレン先生!」

 

「ッ!.................グレン」

 

「なに!」

 

グレンはその場にいるすべてのものから注目を浴びる

 

「悪いなルミア。ナハトはじきに来る。後は任せな」

 

「おい手前ぇだな?随分と酷えコーディネートをルミアにしてくれたなオイ!!」

 

大きな声でそう言い睨むグレンにその場にいたリィエルの兄を名乗る男にリィエルは気圧される。

 

(てかこれ見てナハトの奴ブチギレしないよな?)

 

グレンはやや内心で少し違った意味で不安を感じていた。さっさとどうにかして上着着せないと..............

 

「さてリィエルの説教は後として、てめぇにまずは鉄拳制裁だ。よくも俺の生徒に手ぇ出しやがって覚悟できてんだろうな?」

 

「ど、どうしてここに!?バークスとエレノアは!」

 

「バークスはいけ好かねぇ相棒が相手してる。エレノアに関しちゃ..............まぁ、ご愁傷さまだな」

 

グレンはナハトが恐らく眷属秘術まで使ってガチで殺しに行っているだろうからマジで敵ながら同情する。それほどまでに眷属秘術とナハトの組み合わせは驚異的だということが容易に予想できるからだ。

 

「さてさっそくお前を..................リィエル、そこに立つ意味わかってのか?」

 

グレンが一歩歩みだすとその前にリィエルが立ちふさがる。

 

「グレン...........これ以上兄さんに近づかないで」

 

「マジでやんのか?おいたが過ぎやしねぇかリィエル?」

 

「なんとでも言って..............私は兄さんのために戦う」

 

「思い出せ!お前の兄貴はもう死んだ!!現実を見ろ!!」

 

「うるさいうるさいうるさい!!!!」

 

(チッ............やっぱ聞く耳もたねぇか...........力づくしかないか..........でもな~やだな~リィエルとタイマンって。死なないよな俺?)

 

ナハトとリィエルの模擬戦の戦績はナハトが勝利率10割をキープしているが、グレンはリィエルに対して勝率は3割............いや1割あればいいほうだ。

 

(は~でもやるしかねぇ..........相性はとことん最悪だが覚悟決めろグレン=レーダス)

 

グレンは嫌になる差に態度と裏腹、気弱になるがすぐに切り替え覚悟をきめる。リィエル連れ戻して、ルミア救出して全員笑ってハーピーエンドを迎えてやると、かつて捨てたはずの正義の味方は立ち上がる。

 

「こいよリィエル。終わったら『お尻ぺんぺんの刑』だ!」

 

「グレン!」

 

それが戦いの始まりの合図だった。リィエルはそのまますでに錬成している大剣を振りかぶりグレン目掛け一直線に襲い掛かる。

 

対するグレンは拳法の構えを取り迎え撃つ。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

リィエルが大きな声を上げながら弓なりに体をそらせ剣を振り下ろす。

 

「チィ!!!」

 

グレンは体を捻り回避する。体のギリギリを掠めるソレは当たったらひとたまりもないと再確認させられる。

 

「おらぁぁぁぁあああ!」

 

グレンは回避してから鋭く振り込む。そのままこぶしを振りぬこうとするがそれは空を切る。何が起こったと一瞬考えるがすぐさまリィエルが上空に飛んでいた。

 

そのままリィエルはすぐに着地すると怒涛の連撃を開始する。

 

(やっぱ白兵戦は分が悪すぎる!マジでナハト早く来ねぇかなぁ~)

 

リィエルの剣は変則的で型破りなのだ。

リィエルの剣技は邪道の極致ではあるものの、恐ろしく速く強い。

 

なら、ナハトはと言うと我流の剣技に既存の剣技を掛け合わせ状況に合わせた変幻自在の剣技。リィエルにはない技の巧さと鋭さで敵を斬りこむのがナハトの剣術。

 

どちらも強いことに変わりない別観点から驚異的な強さに至る二人の剣士。だが今はリィエルだ。普通ならグレンでは対応はできない。だがグレンはその技を、その恐ろしさを知っている。だから紙一重の回避が可能なのだ。

 

(もうほんといやだ~いい加減早くナハト来てよぅ~)

 

内心泣き言言いながらも躱していくグレン。

 

グレンは決して強くない。ナハトやアルベルト、目の前のリィエルとは違って〝圧倒的な力〟で一方的な蹂躙ができない。だからそんなグレンは兎に角『巧い』のだ。軍では見る目のない馬鹿どもはグレンを嘲笑うものが多くいた。だが、特務分室の誰しもが認めるほどにグレンは戦闘技巧者だ。だからこそここまでリィエルから長らく逃げられているが...................

 

(これじゃまずもたない...............なら)

 

グレンは腰にしまっていた銃を取り出し構える。

 

「!」

 

それを見たリィエルは即座に反応を見せすぐに後退する。それと同時にグレンは引き金を引く。だが相手は《戦車》のリィエル=レイフォード。ただの銃撃などたやすく回避される。

 

(ですよね~仕留める気で打ったて当たらないだろうに仕留めるつもりがなければそうなりますよねそりゃ)

 

まったく当たらずに無駄に弾がなくなっていく様にグレンはどうするかと本格的にヤバいと思いながら考えをめぐらす。と言ってもグレンが戦うには相性の悪いリィエルにあまりいい案は思いつかない。精々可能性があるとすれば失敗覚悟の大博打。

 

「(もうイチかバチかやるしかねぇ)おいリィエルそんな必死に戦ってよっぽど兄貴が大切なんだな?」

 

グレンは足を止め銃口をリィエルに向ける。グレンはこうすればリィエルも動きを止めると考えていたが予想通りだと思いながらあえて煽るように言葉をかける。

 

「......何が言いたいの」

 

するとリィエルは言葉にやや怒気を混ぜながらグレンに真意を問う。

 

「(のったな)いや、妹にそこまで言わせる兄貴だ、さぞ素晴らしい方なんだと思ってな?」

 

「………」

 

「それでぜひともお近づきになりたくてな?手始めに兄貴の名前教えてくれねぇか?」

 

「名前?」

 

「なんだ?いえねぇのか?大切な兄貴なんだろ?答えてくれりゃあ俺はこの件から引いてやるよ」

 

「名前.........名前..........アレ?なんで........わからない...........どうして?」

 

グレンは心が痛むがこれしかないとさらに言葉を畳みかける。

 

「なんだ忘れたのか?大切な兄貴の名をか?いくら馬鹿なお前でもそれはねぇよな?」

 

「違う!ちがう...............名前は.............名前は..........うぅ、頭が痛い...........なんで」

 

片手を剣から離し頭を抑えながら思い出そうと必死に考える。

 

「兄さん...........兄さんの名前は何?」

 

ここでリィエルはグレンから意識を外し、兄に意識を向ける。兄は必死でリィエルにそんなことはどうでもいいからグレンを殺せという。だがこうなってしまえばリィエルはもう動けない。そこがリィエルの歪さが故の弱点だ。

 

グレンは銃を天に掲げ口元を隠し詠唱を開始する。

 

「《---------・----------》」

 

リィエルはその様子を先程までとは違いやや呆然とした様子でその様子を眺める。

 

そして、グレンは銃をリィエルに向けるようにする。反射的にリィエルは剣を盾にし構える。だが............

 

(アレ?なんで..............)

 

いつまでたっても放たれない弾丸に不思議に思ってると............

 

「あぅ!」

 

リィエルの額にグレンの銃が当たる。グレンは銃を撃つように見せかけ銃を投げつけたのだ。その隙にグレンは詰め寄りリィエルを押し倒す。

 

「-------・理の天秤は右舷に傾くべし》」

 

黒魔【グラビティ・コントロール】。自身または触れている対象にかかる重力を操作する魔術。それをグレンはなけなしの魔力でリィエルにかける。

 

「ふぅ~分が悪い賭けだがうまくいって安心安心っと」

 

「う、動けない!」

 

「無駄だリィエル。お前を抑えているのは重力だ。人の体の構造上重力には勝てねぇ。大人しくしてろお前にとって結構重要な話だからよく聞きな」

 

 

ここで兄が...............

 

「リィエルに............僕の妹に何をする!!」

 

だがグレンはそれに対し大声で怒鳴りつける。

 

「うるせぇパチモンが!お前は兄貴と言ってるくせにこいつを〝リィエル〟と呼んでる時点で偽物なんだよ!!!」

 

そう言いグレンは走り出しモノリスに向かい銃を乱射し破壊する。そのまま詰め寄りグレンは拳を偽物にふるう。

 

そのままグレンは『Project : Revive Life』の真実.......................『シオン』と『イルシア』の哀しい兄弟の運命を語る。その話を聞いたリィエルはようやく違和感がなくなる。だがそれと同時に自分がどうしようもなく愚かで、歪な存在だと感じていた。さらに................

 

「そのガラクタの記憶はこちらの都合のいいように改変しといたがやっぱりガラクタはガラクタだったか.......」

 

 

『ガラクタ』.............今のリィエルに重く突き刺さるその言葉にさらにリィエルは思い詰める。

 

そこでグレンがキレて【ライトニング・ピアス】を偽物............いや、シオンとイルシアを殺し全てを自分のものにしようとした屑野郎ライネルに向けて放つ。

 

 

だが.....................

 

「な?馬鹿な!儀式が完成していただと!?」

 

グレンの前に立ちはだかるのはリィエルと全く同じ顔をした存在がライネルを護ったのだ。グレンはありえないと思っていた。『Project : Revive Life』を完成させられるであろう人物はそれこそナハトだけだと考えていたからだ。

 

「できないとでも思っていたか?言っておくが今回は完璧だぞ?無駄な感情は排除してただリィエルのすさまじい戦闘能力だけを継承させたものだ!俺の思い通りに動く俺だけの操り人形だ!!これからこれはいくらでも作れる。なぜならルミアとかいう便利な〝道具〟があるからなぁ!!」

 

 

 

 

だが、ライネルはここで一つの大きな過ちを起こした。それは言ってはならないことを〝絶対に聞かれてはいけない相手〟に聞かれたことだ。

 

 

 

三人の偽物のリィエルが動き出す。

 

 

 

だが....................

 

 

 

ここで一つの影が部屋に踏み込む

 

 

 

 

 

そして....................

 

 

 

 

 

 

「【紫電一閃】」

 

 

 

 

 

 

影が神速をもって三人のリィエルを斬り伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

「ルミア待たせてごめんな」

 

 

ここでナハトが合流。ルミアにかけた声色はとても優しかった。

 

だが、ナハトから発せられるオーラはまるで噴火直前の火山のそれだった。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「ナハト君!」

 

 

「悪いなルミア遅くなった.............で、」

 

 

ナハトはルミアの声に応えるとすぐに驚愕の表情を浮かべるライネルに顔を向ける。

 

「あんた..................覚悟はできてるよな?」

 

この場に重く酷く冷たい空気が支配する。軍属のリィエルや元軍属のグレンもあまりの重く濃密な殺気に体が震えるのを錯覚するほどだった。

 

「な、な、な、な、な、な、な、なんであんなにも簡単に............」

 

当然そんな殺気を直に浴びるライネルは体を情けなくガクガクと震わせていた

 

「.........だってアレ、リィエルの100倍は弱いぞ。さっき使った技だってリィエルなら本能で対応しきるぞ?」

 

(馬鹿言え............その技はリィエルだって無理だろうに)

 

グレンはナハトの【紫電一閃】をそう評価した。

 

【紫電一閃】はまさに神速の剣技であり、力強い踏み込みから一気に加速し剣を振るうその剣筋は目視を許さない。なので見ることができるものは光に反射した剣の輝きのみだけだ。そして【紫電一閃】は魔術なしの純粋の剣技で、あの双紫電ゼーロスも最速の剣技と評価する技なのだ。

 

 

「嘘だ!!完璧なはずだ!!そこのガラクタより.............」

 

その言葉をライネルは最後まで言い切ることはできなかった。なぜならそうい掛けた瞬間ナハトは左手に握っていた剣を目視できないほどのスピードでライネルの顔すれすれに投げつける。そして剣が大きな音を立ててモノリスに突き刺さるさまを見たライネルは腰を抜かしいて尻をつく。

 

「ルミアのこと道具扱いまでしたうえ...........リィエルがガラクタだと?お前大概にしとけよ?俺はルミアを道具と言った時点でお前にかける慈悲は一切ないが、そのうえでそんなことまで言うってことは死より辛い苦痛を味わう覚悟ができてるってことなんだな?」

 

俺は腰を抜かすライネルに剣に《獄炎》を纏わせ切っ先を向ける。

 

「ヒィツ!!や、やめてくれ!いやだ!殺さないでくれ!!!」

 

「俺は言ったはずだ。かける慈悲はないと...........精々地獄で懺悔しろ屑」

 

俺はそう言い剣を逆手に持ち替え振り下ろすために構える。

 

「ルミア...........目をつぶっていてくれ。すぐ終わらせるから」

 

(この雰囲気...........三年前よりもずっと.....)

 

ルミアはこれから起こることを想像して目をつぶる。その瞬間................

 

「じゃあな屑」

 

俺はその言葉の後、勢いよく逆手に握った《獄炎》纏う剣を振り下ろしライネルを殺

 

 

 

 

 

 

さずにライネルのギリギリに突き刺す。

 

 

「………へ?」

 

力なくそう変な声を出すライネル俺は冷たく睨む

 

「本当ならここで殺していた......................確実にな。だが、感謝しな。あんたの相手は俺じゃない」

 

俺がそう言い半歩左にそれると後ろから.....................

 

「俺の生徒に手ぇ出してんじゃねぇ!!!」

 

グレン先生の強力な拳が叩き込まれライネルは少し吹き飛びそのまま意識を失った。

 

「ったく.............てかお前マジでアイツ嬲り殺しにするかと思ったぞ」

 

「本音言えばそうしたかったですが、後味最悪でしょ?それにそんなとこルミアには見せたくないですしね」

 

「そうか..............」

 

俺はその反応だけ聞いてすぐさまルミアのいる場所に移動した。

 

「よっと!悪いなルミア本当に待たせて。今はなすからな..........」

 

俺はそう言って剣でルミアをつないでいたものを剣を鋭く横薙ぎさせ切り裂き開放する。そしてすぐに俺が着ている礼装を羽織らせる。誰がしたかは知らないがルミアの下着が見えていたのでそうした。

 

するとルミアは後ろにいた俺のほうに振り向きいきおいよく抱き着いてきた。

 

「ありがとう...........ありがとうナハト君。ずっと助けてくれるって信じてたよ」

 

俺は若干たじろぐもすぐに立て直し俺も抱きしめ返す。そして例によって頭に手を置き撫で始める。

 

「そっか...........どういたしましてルミア。遅くなって本当にごめんな」

 

 

そうしてついに俺たちは長い夜を終えられそうだった。

 

 

 





今回はここまでです。恐らく次回で遠征学修偏は終了です。前回と今回、これまでを見て気づく人多くいると思いますが自分はメリオダスが好きなんです。獄炎とか初めて見たときとか脳が震えましたし、特に初めて見た神千斬りなんてもうかっこよすぎて感動しました。今回出てきた【紫電一閃】もゼルドリスの精神世界で使ったメリオダスの技です。七つの大罪は大好きな作品なのでそれだけにあの.............おっと、これ以上は言わないほうがいいですね。また新しくアニメも放送決定なのでとても楽しみですね!今後もしかしたらメリオダスの神千斬りとエリザベスの付呪・聖櫃の合技・神喰いをナハトとルミアで再現させるかもしれません。てかやりたいですw


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安らぎとこれから

 

 

 

「あ!そういえばリィエルは..............」

 

ルミアは抱き着くのをやめ、思い出したかのようにナハトに問いかける。

 

「リィエルなら先生が今はなしてるとこだよ。ルミアも終わってから話すといいよ。俺も少し言っとかなきゃだしな」

 

俺はそう言ってトントンと指で右の胸元を叩く。別に刺されたのは自分から間に入っていったわけだから大して気にしていないため冗談めかして言う。

 

「あ................そういえばナハト君大丈夫なの!リィエルの剣に血が凄いついててそれをナハト君の血だって言ってたからすごいけがしてるんじゃ...........」

 

そう言って俺の体にペタペタと触り無事を確認するルミア

 

「大げさだな~大丈夫だよ、俺の体は結構丈夫なんだぞ?」

 

「でも................」

 

「そんなことよりもルミアこそ怪我してないようだけど体に異常はないか?」

 

俺はルミアが無理に異能を使わされていたことによる負担に心配になる。

 

「そんなことって............もう、私は大丈夫だよ。ナハト君は少しは自分の心配してね?私ナハト君のこと信じてたけど心配で仕方なかったんだから」

 

そう言われては弱る。ここは素直に謝っておくべきか...........

 

「心配かけてすまなかったルミア。今度から気を付ける」

 

そう言うとルミアは「そうしてね」と念押しするので「あぁ」と答え頷く。すると先生たちは話が終わったようなのでルミアを抱え降りて先生たちのもとに行く。

 

「ルミア、ナハト酷いことしてごめんなさい。許してもらえないかもしれないけどごめんなさい」

 

「気にしないでリィエル!また一緒に遊ぼ!友達として、ね?」

 

「気にすんな俺達は友達だろ?それにまたこれからも馬鹿やって先生困らせて先生の生活費蝕んでいけばいいさ、な?」

 

「おい待て!ナハト馬鹿なこと吹き込むな冗談抜きで俺が死ぬ!!」

 

「大丈夫ですよ先生。先生の生命力はゴキブリ並みなんですから」

 

「いや俺人として生きたいんですよ?ホント変なこと吹き込むのやめてもらえます?」

 

そうやって俺たちはいつもと変わらないくだらないやり取りをして笑いあいながら宿に帰っていくのであった。

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

あの後宿に戻るため息と同じ道を行くとアルベルトさんがおり当然ではあるがバークスは始末されていた。そして戻ると生徒たちは全員起きて待っていたようで全員心配そうな顔を安堵の表情に変えて迎え入れてくれた。何か聞かれるかと思っていたがシスティーナやセラねぇがみんなを説得してくれたらしく何も聞かず無事を祝われた。リィエルはシスティーナにもきちんと謝るとシスティーナは一発ビンタを決めるとすぐに抱きしめ無事でよかったとルミアとともに帰ってきたことを涙ながらに喜んでいた。

 

 

 

「まったくもう二人とも無茶が過ぎるよ?」

 

「返す言葉もねぇがこれは俺がやるべきことだったんだ」

 

「それはゴメンセラねぇ。」

 

俺とグレン先生は少し離れたところからセラねぇと一緒に生徒たちのやり取りを見ながらそう話していた。

 

「全く二人ともしょうがないんだから~これからはこういうこと控えてよね?」

 

「まぁ、そうそうこんなこともう起きないだろし大丈夫だろ」

 

「俺は仕事柄絶対はないけど注意はするよ」

 

そう言い俺たちは生徒たちを見て微笑みながら見守ると俺はアルベルトさんに報告のためにその場を離れた。

 

 

「アルベルトさん大切な報告があります」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

俺はそれから今回のエレノアとの戦闘とその時の起きた出来事を話していく。

 

「まさか、あの〝大導師〟自ら現れエレノアを助けにくるとはな............」

 

「はい。まったくの予想外の出来事でした。ただ逆に言えばエレノアの立場はそれなりに高いこともはっきりしました。俺の勧誘にもかなり高位の地位を用意できるほどには彼女は組織の中枢にいますね。しかも、大導師に至っては俺の魔術の発動及び起動済み魔術に干渉する〝何か〟と言い油断ならない相手です」

 

グレン先生の【愚者の世界】とは別の何か...........それこそ世界に干渉する何かが大導師にはあるのかもしれない。だとしたら俺の魔力特性で何らかの対策は立てられるかもしれない。

 

「相変わらず奴らの底が知れないな..........わかった。このことは俺から報告しておく。他にはないか?」

 

「特にはないですね..........研究所のほうはどうしますか?」

 

「研究所に関してはことらで処理をしておくから気にしなくていい。お前は体を休めるといい。怪我と言い、【原初の焔(ゼロ・フレア)】まで使用したのなら体の疲労は相当だろ」

 

怪我のほうも実を言えば傷口は開いていて結構痛むし、【原初の焔(ゼロ・フレア)】で相当魔力使ってかなりしんどいので本当にありがたい

 

「ありがとうございます。それではお任せしますね」

 

 

そう伝えるとアルベルトさんは立ち去って行った。恐らくはこれからの事後捜査や帝国宮廷魔導師団の手配をしに行くのだろう。

 

 

(ごめんなさいアルベルトさん。実はもう一つだけ言ってないことがあるんです)

 

 

俺はアルベルトさんの背中を見ながら懐にしまっていた〝鍵〟を取り出す。

 

このことを姉さんやアルベルトさんに話してそれ相応の解析あるいは廃棄するべきなのだろうが俺はなぜかこの〝鍵〟のことを言い出せなかった。もらったときは何も感じなかったが、今になって俺はこの〝鍵〟を〝持ってなければいけない〟気がしてならない。使い方もわかるようでわからないといった不思議な感じなのになぜか手放してはいけないという使命感のようなものにかられる。

 

(内なるものを開放する..........か。一体何だっていうんだか............)

 

そんなことを考えていると.........................

 

『------------------------------------------------。』

 

 

「え?」

 

俺はどこか聞いたことのあるような声が聞こえたのであたりを見回した。だが、周囲にはやはり誰もいなく自分の勘違いかと思いながらみんなのもとに戻っていった。

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

俺たちは事件もあり今日の研修はなくなったため、今日もビーチに来てバレーなどをして遊んでいる。俺はさすがに疲れたのでみんなが楽しそうに遊んでいるさまを見ながらのんびりしていた。

 

 

「ナハト君!」

 

「ルミアか...........向こうでで遊んでたんじゃないのか?」

 

ルミアは俺が木に寄りかかってのんびりしているとこちらに走り寄ってきて隣に座った。

 

「疲れたからちょっと休憩だよ。ナハト君はやっぱり疲れてるからここにいるんだよね?」

 

確かに今日も暑いからなと俺はルミアの言葉に納得する。

 

「あぁ、俺も今回はちょっと魔力使いすぎて疲れたからな。それにこうやってみんなが楽しくやってるのを見るのも悪くないしな」

 

「確かにこうしてみてるのもいいね」

 

そう言って俺たちはリィエルが殺人スパイクを打ったり、それを見て笑ったり悲鳴を上げたりと和やかに楽しむ二組の生徒たちを見ていた。

 

「ナハト君。今回も私を.............リィエルを助けてくれてありがとうね」

 

「どういたしましてルミア。ルミアが信じてくれたからだよ」

 

「ふふ、そうかな?でもそうだったらいいな.............」

 

「そうに決まってるさ。現に俺が戦えているのが証拠さ」

 

俺はそう言ってルミアに笑いかけるとルミアも同じように微笑む。

 

「ねぇ、ナハト君。少しの間肩貸してもらっていいかな?」

 

「?別に行けど」

 

俺がそいうとルミアは俺に体を寄せ頭を俺の肩に預け寄り添う。ルミアは水着なため俺は若干内心慌てていた。

 

「る、ルミア?どうしたんだ?」

 

「なんだか今はこうしてゆっくりしていたいなぁ~って思ったんだ。いやかな?」

 

「.............いやなんかじゃないさ。そうだな今はこうしてゆっくりするか」

 

俺は少し心の内では慌てていたもののすぐにそれはなくなりむしろ穏やかな心地になっていた。今はこうしてルミアに寄りかかれながら、心地いい潮風にあおられてのんびりするのは心安らぐことだとすら思っていた。

 

(守れてよかった………でも..........)

 

今回、俺は怪我を負ったうえ敵の首魁を取り逃がすことになった。どちらも仕方ないで流すことはできるのかもしれない。だが果たして本当に仕方ないことなのだろうか........................

 

 

(強くならないとな..............今以上に)

 

 

俺はそう考えながら大導師に対する対策も踏まえある固有魔術の構想を練っていた。俺の魔力特性をもってすればあの謎の力にだって対応できるはずだ。いや、できないとダメなんだ。できなきゃ大切なものを失う。

 

 

(でも今は............今くらいはこうしてゆっくりしていてもいいよな?)

 

 

 

それからも俺はルミアとしばらく寄り添ったまま心地いい潮風を感じながらゆっくりする。

 

 

 

 

まるで、その安らぎの時を強く記憶に刻み込むように。

 

 

 

 





今回は短めですがここまでです。次回は予告通り約束のデート回です。どんなデート回にするかはまだ少し悩んでますがいい話になるように頑張ります。その話をはさんだ後、天使の塵編に入りたいと思います。今回最後にまたナハトが固有魔術を作るといってますがこれもかなりチート魔術になる予定です。この固有魔術は遺跡調査のアイツとの戦闘で初披露にする予定なので楽しみにしてもらえたら幸いです。


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幕間の物語1
のんびりデート


 

 

俺たちは遠征学修を終えてフェジテ帰ってきた。いろいろあったが楽しく過ごせたともいえるだろう。さてそんな俺ナハト=イグナイト改めナハト=リュンヌだが今はいつもの通学路の途中である噴水にて人を待っている。

 

 

「ナハト君~!」

 

ルミアが手を振りながらこちらに駆け寄ってくる

 

「おはよう、ルミア」

 

「おはようナハト君。待たせちゃったかな?」

 

「いや待ってないよ。俺もついさっき(30分前)来たばっかりだから」

 

今は集合時間の10分前だからそんなに気にしなくてもいいと思うのだがルミアらしいといえばルミアらしい気づかいだな。

 

「まぁ、それより服よく似合ってるね。上品でとても綺麗だよ」

 

俺は笑顔でそう心から思った感想をルミアに述べる。

 

「そ、そうかな?/////うれしいな、ありがとうナハト君!」

 

ルミアの今着ている服はネイビーの半袖のリブニットに、ボトムにラベンダーのプリーツスカートといった普段よりも大人っぽく可愛いというよりも上品できれいな印象を受ける。

 

ちなみにナハトは白い無地の半袖シャツの上に黒色の薄手の黒いコーチシャツに下にベージュのパンツである。いたって無難な服装である。

 

「どういたしまして。さて今日はどうしよっか?ルミアはどこか行きたいとこあるかな?」

 

本当なら前日に予定を決めとくべきだったのだがその話はせずに今日は来たのでルミアに聞いてみる。一応いくつかは考えてきたけどルミアが行きたくないとこに行っても仕方ないし聞いてみた。

 

「ん~絶対に行きたいってとこはないかな?しいて言えば雑貨屋さんとかで色々見てみたいかな?ナハト君はどこか行きたいとこある?」

 

「いや、俺も特にあるわけじゃないしとりあえず雑貨屋さん行ってみるか」

 

「そうだね」

 

そう言って俺たちは二人で特に目的を決めるわけではなく、のんびり気分に任せて街に出るのであった

 

 

 

--------------------------------------------------------

 

 

「ここのお店に入ろっかナハト君」

 

「おう。いい感じのお店だな~」

 

俺とルミアはシックな雰囲気な雑貨屋さんに入った。こういった雰囲気の場所は好みだ。俺のの行きつけのおいしいコーヒーを出すカフェの雰囲気に似ていて居心地がいい。

 

 

ナハトは休日一人で過ごすときは少し狭い通りにあるカフェに入り浸ってそこで書類整理や課題などをしたりすることもある。ナハトは珈琲が好きなため色々とおいしい店を捜し歩くのが趣味の一つでもあるのだ。

 

 

「それでルミア何が見たいの?」

 

「やっぱりアクセサリーかな?ナハト君は何か見たいものある?」

 

「俺か............そうだな~うちで飲むときの珈琲カップを新調しようかなって感じかな」

 

「そういえば珈琲好きだもんねナハト君。それにナハト君が入れた珈琲もおいしいし」

 

「確かルミアにも飲んでもらったことあったな」

 

「うん。あのときの珈琲おいしかったからまた飲ませてね?」

 

「なら今度うち来なよ?この間のは家で淹れてきたのをボトルに入れてきたのだけど今度は淹れたて飲ませてあげるからさ」

 

「え?(さらりとお家に誘われちゃった!?/////)う、うん今度お邪魔してもいいかな?」

 

「いいよ。おいしい珈琲淹れるから楽しみにしててくれ」

 

ナハトは無意識にルミアを自身のうちに誘うという普通では考えられないことをしていた。しかもナハトの家には当然だが親がいるわけではないので必然的に年の近い男女が二人っきりで屋根の下で過ごすことを意味するのだ。

 

(ナハト君の家って間違いなく親とかよく話してくれる仲のいいお姉さんとかいないよね?間違いなく二人っきり............////////////)

 

ルミアはそのことを考えており、自分はすぐに快諾したがこれはやや...............いや、かなり早計ではと考えていた。勿論嫌というわけではなくむしろ行きたい気持ちが勝っているわけだがそれでも恥じらいの感情が湧き出る。

 

「これなんかいいな...................ルミア?どうしたんだ?」

 

ナハトはちょうど目の前にあったカップを見て吟味していたところでルミアがやや俯き加減に黙り込んでるのに気づく

 

「え?う、ううん何もないよ?うん、大丈夫だよ?」

 

「なぜ疑問形....................あっ、これペアカップか」

 

そう言うナハトの手元を見るとナハトがいいなといったものはペアカップでブルースターの花模様のカップとエボルブルスの花柄のカップのペアカップでどちらも白をベースにした青い花柄にとても優美なカップだった。

 

「凄い綺麗だね。でもどうするのナハト君?」

 

「ん~俺は基本的に一人暮らしだし一つあればそれで....................いや、やっぱり買おう」

 

「どうして?」

 

「片方をルミア用にすればいいからだよ。だってルミアが珈琲飲みに来るときもう一つ必要だろ?」

 

「えっ、わざわざ買わなくてもナハト君のお家にあるほかのコップでもいいんだよ?」

 

「珈琲ってカップが味にもかかわってくるんだよ。だからこのカップのほうで飲んだほうが楽しめるしこっちのほうがルミアに似合うしな」

 

そう言ってルミアにナハトはエボルブルスのカップを見せる。そしてまた「うん、やっぱりルミアに似合う」とナハトは満足げに言う。

 

「そこまで言うならいいかなナハト君?」

 

「そんな気にしなくていいんだよルミア。俺が買いたいから買うんだから。それよりルミアのアクセサリー見に行かないか?」

 

「ありがとうナハト君。アクセサリーは向こうだね行こうか」

 

 

 

そう言って広くはないお店の中を移動する。少し歩いた先にアクセサリーを扱う場所がある。

 

「わ~いろんなものがある!あっ!こっちのやつ可愛いな~」

 

ルミアもやはり年ごろな女の子なのでアクセサリーを見てとても楽しそうにしていた。

 

(普段はもっと落ち着いた感じだから珍しい..............こともないか。ルミアって結構やんちゃだし)

 

ルミアはこれで結構やんちゃだ。でもそんなルミアがとてもルミアらしいし、見ているとほほえましく思う。

 

「あっ、これナハト君に似合うかも!」

 

俺がほほえましいルミアの様子を見てると、俺に似合うというアクセサリーを見つけたようでそれを手に取り見せてくれる。

 

「これはネックレスか...........へ~結構いいなコレ」

 

ルミアの見せてくれたネックレスは月のデザインがされたネックレスで、落ち着いた感じでとても綺麗だった。

 

「あっ!これの色違いもあるよ!」

 

俺に見せてくれたネックレスは中心の紺色の水晶のようなものを銀の三日月が包むようにしているのに対し、もう一つのものは中心がルミアの綺麗な髪色と同じものだった。

 

「他にも結構あるな~青に赤にピンクに白に黒でもルミアにはルミアの綺麗な髪色と同じそれが似合ってると思うよ?」

 

「そ、そうかな?................そうだ!これ二つとも私買ってくるね!それで一緒に着けようよ!」

 

「いや俺が払うよ?それなりにするでしょそれ?」

 

これだけ綺麗なものだ。少しばかり値が張ると思い俺はそう聞く。

 

「ふふ、大丈夫だよ。そんなに高くないし私がナハト君にプレゼントしたいんだ。それに、今まで色々助けてもらったしお礼と思って受け取ってくれないかな?」

 

「そうか..............ならもらおうかな。ありがとうルミア。大切にするよ」

 

「うん!どういたしましてナハト君」

 

いい笑顔でそう言うルミアを見てこうして一緒に買い物できてよかったなと俺は思っていた。その後、俺たちはそれからお互いのものを会計してもらい店を出た。その際に「仲のいいカップルだな」と言われ店主がからかいながらおまけだといいいくらか値引きしてくれた。

 

その店主の発言でルミアが赤面して恥ずかしそうにしてたのが結構可愛かったと思ったのは俺だけの秘密だ。

 

 

--------------------------------------------------------------------

 

 

「え、えっとこれからどうしよっか?」

 

先程の店主の発言のせいでまだ若干ぎこちないルミアがナハトにそう問いかける。

 

「ん~11時30分か.............この時間ならどこかでお昼でも食べに行くか」

 

「それもそうだね。移動していたらちょうどいい時間になると思うし」

 

「それじゃあ、何か食べたいものとかあるルミア?」

 

「そうだな~パスタが食べたいかな?」

 

「パスタね...................そういえば最近できたおいしいパスタ屋さんがあるって聞いたことあるしそこ行かないか?ここからそう遠くないはずだし」

 

「あっ!私も聞いたことがある。クラスでも噂になってたもんね」

 

「確かに話してるやついたな。それじゃあ行こうかルミア」

 

そうして俺たちは噂のパスタ屋さんに向かい足を進めた

 

 

 

 

 

 

 

「すぐに座れてよかったな。正直混んでてすぐには座れないかと思ってた」

 

「うん私も。美味しいって噂だからね。さてどれにしようかな~」

 

ルミアは評判のパスタがどれほどのものかと楽しそうにメニューに目を向ける。俺もおいしいものを食べるのは好きなのでどれにしようかとメニューに視線を落とした。

 

「よし!私はこの濃厚チーズカルボナーラにしようかな。ナハト君はどうする?」

 

「俺は.............生ハムのジェノベーゼパスタにしようかな。他は何か頼む?」

 

「ん~サラダおいしそうだからサラダ頼もうかな?」

 

そうルミアが言うので俺もサラダのところを見るとおいしそうだったので俺も頼むことにして店員さんを呼びメニューを伝え料理が来るのを待つことにした。

 

「そういえばナハト君って料理上手だよね?」

 

「まぁ、得意ではあるけどどうしたの?」

 

「私も女子だからさ、システィみたいに上手になりたいなぁ~って思ってね、ナハト君はどんな風に練習したのか聞きたくて」

 

(本当はナハト君に何か作ってあげたいなぁ~なんて////)

 

「練習か.............アルベルトさん覚えてる?アルベルトさんにいかなる任務でもこなせるようにってアルベルトさんに教えてもらったり、近場の料理店で教えてもらったり、あとはセラねぇにも教えてもらったな」

 

「アルベルトさん料理もできるの?」

 

「あの人はむしろできないことを探すほうが難しい人だよ。基本的になんでも高レベルでできるからね」

 

「やっぱりすごい人だね。セラ先生も料理上手なんだ」

 

「セラねぇの料理おいしいから今度食べさせてもらいなよ」

 

「今度頼んでみよっかな..........ってあれ?ナハト君のお姉さんは上手じゃないの?」

 

ルミアはここでナハトの姉のことが出てこないのに違和感を覚えたのでナハトに聞いてみた。ナハトは姉とかなり仲がいいようだからそれだけ弟のことを大切にしているのなら手料理を沢山ふるまっているのではと思ったためである。

 

「あ~姉さんは料理するのとかは好きだけど、その................味が追い付いてないんだ」

 

「それってつまり.....................」

 

「うん、そういうこと。向こうにいるときは基本姉と一緒に暮らしてたから俺が料理をいつも担当してたのも上手くなった要因かもな」

 

ナハトの姉イヴはメシマズなのである。ナハトの言う通り作ること自体好きだし趣味の一つではあるのだがなぜかおいしくない。

 

「ルミアが上手くなりたいならやっぱり人に教えてもらってやるのがいいと思うよ?俺も協力するしシスティーナとかにも教えてもらったらいいんじゃないか?」

 

「そうしてみるね。まずはシスティとお母様に聞いてみる。ナハト君も教えてね?」

 

「あぁ、全然いいぞ.............お!来たみたいだ」

 

他愛ない話をしていたら料理が届けられたので食事をすることにした。

 

俺もルミアも評判通りの美味しそうなパスタに表情を緩め、食事の挨拶をするとすぐに食べ始めた。俺が頼んだジェノベーゼも香りがとてもよく評判通りの味にフォークが止まらないでいた。ルミアも似たようなもので満足げな表情を浮かべカルボーナーラを食べていく。取り皿をもらいお互いの料理をシェアしたりとおいしい料理を二人で満足いくまで楽しんだ。

 

「おいしかったな」

 

「うん、そうだね。評判通りの味だった。それとお代払ってくれてありがとうねナハト君」

 

「気にしなくていいよ。こういう時は男が払うもんだろ?」

 

「ふふ、でも今度は私が払うね。なんかこのままじゃ私がしてもらってばかりで申し訳ないからね」

 

「そうかな?まぁ、ルミアがそう言うなら楽しみにしておくよ」

 

「でもこれからどうしよっか?」

 

「ん~カフェでデザートでも食べながらのんびりするとか?」

 

「そうだね。デザートとかは頼まなかったからカフェに行こうか」

 

「それじゃあ少し歩くけどおすすめの隠れ家的な行きつけのカフェがあるからそこに行く?」

 

「うん、そこに行こうか。ナハト君のおすすめなら楽しみだな~」

 

「珈琲もおいしいけどケーキとかスイーツも結構いけるから期待しててくれ」

 

 

----------------------------------------------------------------

 

 

俺はルミアを連れたって細く暗めの裏路地を歩いていた。この絵面だけだとなんか俺が不味いことしてるみたいだな..............

 

「ねぇ、ナハト君のおすすめの店ってどんな店なの?」

 

「そうだな~さっき言ったように珈琲やケーキに軽食とか総じておいしいお店だな。一番気に入ってるのは雰囲気だな」

 

「雰囲気?」

 

「あぁ、午前に行った雑貨屋さんに似た雰囲気であそこでゆっくり過ごすのは結構おすすめだな。あっでもルミア一人で来ようと思ったらだめだぞ?」

 

「?どうして?」

 

「さすがにこの路地裏を通るのに女の子一人は危険だしな。一応この辺通るやつはそのカフェ目当てのやつだけだけど万がい一チンピラがいないことも限らないからな。もし来たかったらリィエル連れて一緒に来るか俺と一緒に行くようにしてくれ。まぁ、薦めといてあれだけどな」

 

「確かにここ薄暗いもんね.............心配してくれてありがとうねナハト君」

 

「どういたしまして。ルミアにけがしてほしくないから当然さ」

 

(またそうゆうことをさらりと////)

 

ルミアはそう言うちょっとした気づかいが本当にうれしくて同時にずるいなと思いながらナハトに連れられ歩いていた。

 

少し二人が歩くとそこに看板が見えた。ナハトがここだよと言いルミアは一緒にお店に入った。

 

「いらっしゃい..............おや、ナハト君か毎度ありがとう。今日は一人じゃないんだね?」

 

すると感じのいい初老の男のマスターがナハトを迎える

 

「こんにちわマスター。あぁ、今日は学院の友人と来たんだ。ここのメニューはどれも絶品だからぜひとも食べてもらいたくてね」

 

「それは嬉しいこと言ってくれるねぇ。ささお嬢さんもこちらのカウンター席に」

 

「ありがとうございます」

 

マスターは俺がいつも座ってるカウンター席の隣えと案内した。俺もそのまま一緒にいつものとこ理に座った。

 

「ナハト君はいつものブレンドだよね?お嬢さんはゆっくり選ぶといい」

 

「今日はそれとチーズケーキをお願いします」

 

「ありがとうございます。ナハト君のおすすめは何かな?」

 

「そうだな~ルミアにはカフェオレがいいんじゃないかな?後は俺が頼んだチーズケーキもいいけどカフェオレならバームクーヘンが相性がいいと思うよ」

 

「そっか..............うん。私はカフェオレとバームクーヘンをお願いします」

 

「わかりました。少しお待ちくっださいね」

 

そう言うとマスターは珈琲を淹れる準備に入る。この準備しているのを見ながら珈琲の香りを楽しむのもかなり好きだ。お店が暇なときはマスターに美味しい珈琲の淹れ方やおすすめの豆などを聞いたりすることもあるくらいだ。

 

「わ~珈琲のすごくいい香りだねナハト君!」

 

「そうだよな。この香りにこの店の雰囲気といい落ち着けるいい場所だろ?」

 

「ふふ、ナハト君のお気に入りのお店なのもうなずけるね」

 

俺たちはそれから特に会話をせずに珈琲の香りと店の雰囲気を楽しみながら頼んだものが出されるのを楽しみに待っていた。

 

 

 

 

「はい、ブレンドにチーズケーキとカフェオレにバームクーヘンだよ」

 

「ありがとうございますマスター」

 

「ありがとうございます!わ~やっぱりいい香り!それにバームクーヘンもおいしそう!」

 

「実際に美味しいから食べてみなよ」

 

俺がそう言うとフォークでバームクーヘンを切り出し上品に食べるルミア。

 

「!ホントだ!凄くおいしいよこのバームクーヘン!ふんわりしっとりしててやわらかくて本当に美味しい!」

 

「だろ?ここのお菓子はどれも本当にうまいんだぜ。カフェオレもおいしいから飲んでみなよ」

 

「うん...........................あっ、カフェオレも凄くおいしい!ナハト君の言う通りバームクーヘンによく合うね」

 

満足そうにカフェオレとバームクーヘンを交互に楽しむルミア。

 

「お嬢さんに満足してもらえてよかったよ」

 

「とても美味しいですマスターさん」

 

マスターもルミアがとてもおいしそうにしているのを見て柔らかい表情を浮かべながらルミアのことを見ていた。そして俺もいつものブレンドを飲みながらルミアが気に入ってくれてよかったなと思いながら楽しんでいた。

 

「ねぇ、ナハト君............その、ナハト君のチーズケーキ少し食べたいんだけどいいかな?//////」

 

俺は珈琲を飲みながらチーズ―ケーキを少しずつ食べているとルミアが恥ずかしそうにしながら聞いてきた。

 

「別にいいぞ?そんじゃマスターに新しいフォークを.............」

 

「え、えっと..........あ~ん////////」

 

「へ?」

 

ルミアが顔を赤くしてあ~んと言ってくるがこれはそういうことなのか?いや待ってくださいこのままあげたら間接キスだし、それ以前にマスターが.................

 

「.......」 

 

いい笑顔でマスターは無言でサムズアップしていた。何してんですかマスター?あなたそんなキャラじゃないでしょ?

 

 

「あ、あ~ん////////////////」

 

 

だがルミアはその間もずっと目を閉じて口を開けて待っている。

 

(マジでやるの?俺もそれなりに照れるんですけど?)

 

だが、ここまで待たれていてはやらないのもそれはそれで罪悪感がある...............

 

「(やるしか.............ないよな)あ、あ~ん////」

 

俺は自分のフォークでチーズケーキをルミアの口に運ぶ。

 

「あはは、すごくおいしかったけどそれ以上に恥ずかしいね//////////」

 

「そ、そうか//////............コホン!ここのチーズケーキ凄くおいしいだろ?このオリジナルブレンド似合うからよく頼むんだ」

 

俺は気を紛らわせるためにそう咳払いしてから伝えた。まさかこんなことをやることになるとは………って俺まだこれからチーズケーキ食うんだけどこれ使っていいのかな?

 

「ね、ねぇナハト君。私のバームクーヘンあげるね。ほ、ほら!あ~ん//////」

 

(what?俺もやるの?)

 

俺がこのフォークをどうするかと考えていると今度はルミアがバームクーヘンを差し出してきた。

 

「ほ、ほらナハト君!食べてくれないかな?」

 

ルミアは恥ずかしそうにしながらその目にやや不安そうな色を浮かべ俺にそう言う。ルミアのそんな表情に俺はめっぽう弱いなと思いつつ受け入れることにした。

 

(え~い!もう、どうとでもなりやがれ!////)

 

「あ、あ~ん////////」

 

俺はルミアにバームクーヘンを食べさせてもらったわけだが流石に同世代の女の子にこんな風に食べさせてもらうのは恥ずかしくておいしいはずなのにあまり味を感じることができなかった。

 

「ど、どうだった?」

 

「う、うん、やっぱりおいしいな」

 

マスターはそんな俺たちのやり取りを見てさっきからずっと優しげな笑顔を浮かべ黙ってそのやり取りを見ていた。

 

(青春だね~)

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、お互い珈琲のお替りをしてマスターを交えて世間話をしながら長い時間ゆっくりした。学院でのことや普段の私生活などどれも本当に他愛ない話だったがそれでもすごく楽しく至福の時間だった。俺たちはそのあと会計を済ませてまた来ますと伝え外に出ると日が傾き始めていた。

 

 

「結構長い時間いたんだな」

 

「そうだね。空がもう赤くなってきてる」

 

「それじゃ早く大通り出るか。ここ暗くなると歩くの大変だからな」

 

そう言って俺たちは歩き出そうとするとルミアが俺の手を突然握ったのだ。

 

「え?る、ルミア?」

 

「そのね............手つないで歩きたいな~って思って........ダメかな?」

 

(あ~んもしちゃったし..........か、か、間接キスもしちゃったし//////////...............これくらいしてもいいよね?//////////)

 

ルミアは今日という二人っきりの絶好の機会に少しでもナハトにアタックしよと思い普段より積極的に動いていたのだがただまだ手をつなぐことだけできなかったのだ。

 

「いいけど...........ルミアはいいのか?」

 

「ナハト君とだから繋ぎたい...................んだよ?////////」

 

そういうルミアは夕焼け色の空よりも赤く頬を染めていた。多分俺も今は顔が赤くなってると思う。それに理由は分からないが心臓がうるさい。

 

「そ、そうか..............う、うん!いいぞ?暗くなったら危険だしな!うん!」

 

俺はそう言いながらルミアの手をしっかり握る。若干..............いや、大分態度がおかしいが問題ないだろう。うん、大丈夫だ問題ない。

 

「そ、そうだね///////////////」

 

(ナハト君の手大きいな~それにこうして握られてるとすごく幸せだなぁ/////////」

 

「ッ!?///////」

 

ルミアは心中で考えていたことがうれしすぎるあまりつい口に出していたのだ。ルミアはそれに気づいていなかったが隣で手をつなぐナハトにはしっかり聞こえていた。

 

(なんだ?この気持ち..........顔が熱い、心臓がうるさい............でも嫌じゃない)

 

ナハトは軍で過ごした時間が長いためリィエルほどではないが悪意に敏感ではあるものの好意に対して鈍いのだ。勿論ナハト自身に誰かを愛する感情がないわけでもない。だが、ナハトが抱いたことのある愛するという感情はイヴに対する家族愛やシスティーナたちやグレンなどに抱く親愛しか経験がないため一人の異性として愛するという感情にはとことん鈍感なのだ。そもそもナハトは軍にいる以上そういう関係はあまりよくないものととらえていた節もあるのかもしれない。

 

 

(なんだなんだ?今日ルミアなんかいつもと違うような?なんていうかいつもよりも可愛い?)

 

 

 

「ね、ねえナハト君。今日すごく楽しかったよ!また一緒にお出かけしようね!」

 

顔を赤くしながらそう笑いかけるルミア。ナハトもルミアの言う今日という日が凄く楽しくて仕方なかった。ルミアの言う通りできることならまた一緒に出掛けたいと思っていた。

 

 

「あぁ、俺も楽しかったよルミア。また出かけような」

 

 

 

 

そうしてまた二人は歩き始めた。二人ともまだ慣れないことで顔が赤いがお互いそれに築くことはなく夕暮れ時の空の下仲睦まじくゆっくりと二人でいる時間を楽しむように帰路につくのであった。

 

 

 

 




今回は少し長いですがデート回でした。デート回というのは考えるのがすごく大変でした。何せ自分は女性のファッションは勿論のことメンズファッションにも詳しくないうえ彼女いない歴=年齢の童貞野郎なのでデートすらしたことがありません。なのでこんな感じに過ごせたら楽しいかな~というのを詰め込んでみました。いたって無難なデートだとは思いますがナハトたちのことも考えるとこういった無難な感じでマイペースで楽しむのが一番しっくりくると思ったので楽しんでもらえたら幸いです。


今回もここまで読んでくださりありがとうございました!またお気に入り登録、評価、コメントをくださりありがとうございます!





おまけ

ブルースター花言葉:信じ合う心、幸福の愛

エボルブルス:ふたりの絆、溢れる思い

二人にはこんな感じの花言葉が似合うと思ってこの花を選びました。



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第五巻 天使の塵編
不穏な影と特別講師 


 

 

 

夜の闇に包まれるフェジテの裏路地、そこでは非日常が繰り広げられていた。

 

「シッ!!」

 

 

暗闇の中、暴れる相手に双剣を振るうものがいる。その者の周辺には斬死体、焼死体等の屍がたくさん転がっており、周囲は血で汚れている。

 

 

「もう100人目か..........」

 

 

倒れたのを見届けそう呟くは先程まで双剣を振るい続けていた宮廷魔導師団特務分室《月》のフレイ=モーネ...........改めナハトだった。

 

 

天使の塵(エンジェル・ダスト)末期中毒者.................か」

 

 

ここ最近、一年前帝都を恐怖で震わせたそれがまたばらまかれ罪のない一般市民がこうして暴徒になってあぼれている。そしてナハト達特務分室はそれの対応に追われていた。ナハトは普段学院もあるためこうして夜に討伐に参加していた。

 

 

「最悪の気分だ...................」

 

ナハトは軍人である以上人を殺すという行為に対して免疫がある。だが今回は話が別だ。一年前もそうだが今殺してきたものは全員罪なき一般市民だ。気分が悪くて当然だ。

 

ナハトはこの魔薬の製法は完全に消されているのに何故今になってまたこれが出てきたのかと最初こそ疑問を抱いていたがそれはすぐに消えた。なぜならこんなものが作れる〝男〟に心当たりがあるからだ。だが、それでその推理があっていてほしくないとナハトは思っている。

 

 

(十中八九奴が生きていたということか................クソッタレが)

 

 

「こちら月です。指定ポイントで対象らの掃討に成功しました。..............はい............はい........わかりました。片付き次第きりあげます」

 

ナハトは通信で報告を入れると殺した市民たちの火葬と現場の処理をしてその場を立ち去って行った。

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「............ト君?.........ハト君!........ナハト君ってば!」

 

 

「うぉ!?ルミアどうした?」

 

俺たちは普段通り学院に向かう途中で突然ルミアが俺のことを大きめの声で呼ぶため少し驚いていた。

 

「さっきから話しかけていたのに反応なかったから.........何か悩んでるように見えたけど大丈夫ナハト君?」

 

「あ~ごめん、最近新しい固有魔術作ろうと思ってそれの術式のことで悩んでたんだ。ごめんなルミア心配かけて」

 

半分本当であるが半分嘘である。悩んでいるのは最近夜な夜な掃討している天使の塵の末期中毒者の対処........いや根本的な解決策について考えていた。だが根本的な解決には情報が足りない。

 

「固有魔術って................つくづくナハトは飛びぬけてると思わされるわ...............」

 

そうシスティーナは言うがそんなことは実はない。

 

「そうでもないぞシスティーナ。先生の授業をしっかり来てるならシスティーナでも少し頑張ればできると思うぞ?」

 

「まぁ、先生の授業でもそんなこと言ってたけど実用的なものを作れるかと言われたら難しいわよ」

 

「でもナハト君。どんな術を作ろうとしてるの?」

 

「ん~一応コンセプトはあるけどまだうまくまとまってないからできてから教えるよ」

 

俺たちがそんなことを話しているとリィエルやグレン先生にセラねぇと合流し一緒にいつも通りの顔ぶれで学院に向かっていた

 

 

 

「ん?何の馬車だあれ?」

 

俺たちがいつも通り学院に来ると見慣れない馬車が止まっていた。その見慣れないものにグレン先生が疑問の声を上げる。

 

「装飾からするに学院のお客さんじゃないですか?」

 

自分達には直接関わりがないだろうと思いながらそのまま門をくぐろうとしていると馬車の客室の扉が開きそこから一人の男性が出てきた。

 

「まさかこの学院について早々、真っ先に君にあえるとは..............これは運命を感じてしまうかな」

 

そう言って歩み寄ってくる男性はグレン先生よりもやや年上に見える金髪長身のイケメンだった。そして、その男の視線はシスティーナに向いてることからシスティーナの知り合いかと考えていた。

 

そしてその推測は当たっていたようでその男はシスティーナのほうに近づいていく。

 

「久しぶりですねシスティーナ。見ないうちに随分と魅力的な女性になりましたね」

 

「あ、貴方は..........」

 

ただシスティーナは見覚えはあるもののなかなか名前が思い出せず混乱しているようだった。ナハトも少しこの男には〝興味〟があったので助け舟を出すことにした。

 

「すいません。自分はシスティーナの友人のナハト=リュンヌですが貴方の名前をうかがってもよろしいですか?」

 

「おっと失礼。挨拶が遅れましたね。私はレオス=クライトスです。この度、この学院に招かれた特別講師で………彼女の、システィーナの婚約者、ですかね」

 

 

 

 

「「「「「ええええええええええ!!!!!」」」」」

 

 

ここは門前で多くの生徒がこの光景を目の当たりにしちょっとした騒ぎになってしまった。

 

 

「ち、ちょっとレオス!貴方こんなところで何言ってるのよ!?」

 

「そうつれないことを言わないでください。事実、私たちはお互いの両親が決めた許嫁同士ではありませんか」

 

この爆弾発言によりさらにあたりは騒がしくなっていく。流石にシスティーナが可哀そうなので口をはさむことにした。

 

「レオスさん。貴方がたの関係に口をはさむ気はありませんがここでその発言はいささかシスティーナに対する配慮が欠けているのではありませんか?」

 

「な、ナハト」

 

「そうですね.............私としたことが配慮に欠けていましたね。すいませんシスティーナ。.........そういえばあなたがあのナハト君ですね?」

 

 

そうシスティーナに謝罪するレオス。一応これでフォローはいいかと考えていた。だがその後の質問の真意がわからないので聞いてみた。

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「私が講師を務めるクライトス学院でもグレン=レーダスさんのことは噂になっているんですよ。なんでも非常に面白い魔術理論の授業を行う講師に、それ完璧に理解しなおかつ実践に活かし競技祭で素晴らしい成績を残した生徒がいる........なんて噂を」

 

「そうですか......」

 

(どうにもこの男きな臭い............いくら特別講師にしたってクライトス家の御曹司とは大物すぎやしないか?この時期に、この違和感..................もしかして奴の差し金か?システィーナの婚約者でもあるってのが余計に怪しさがあるな.......)

 

 

ナハトはレオスに対して警戒心を強く抱いていた。だがその警戒心を悟られないように相手をうかがっていると複数の講師陣が騒ぎを聞きつけ生徒たちの統率を取り騒ぎは静まりそれぞれの教室に分かれていった。

 

 

レオスもレオスで学長室に案内されていったのでナハトはこのことは後でもう一度しっかり考えようとルミアたちと教室に向かって歩いて行った

 

 

 

----------------------------------------------------------

 

 

 

昼の時間を終えると噂のレオス先生による講義だ。期待値は高く、多くの生徒や時間の空いた講師陣が聞きに来ていた。俺もルミアやシスティーナにグレン先生とセラねぇ、そしていまいち聞いてないように見えるリィエルといういつもの顔ぶれで聞いていた。そしてそれを聞いた俺たちの評価は.................

 

 

「完璧ですね先生?」

 

「そうだな...........軍の一般魔導兵ですら半分は理解していない理論を、そいつらよりも基礎のできたない生徒たちに完璧に理解させちまいやがった..........」

 

「先生できますか?」

 

「無理だな。俺はセリカに習ったことや自身の経験を教えてるだけし、軍用魔術専門ってわけじゃないからどう頑張っても難しくなっちまう」

 

 

だが俺は.............先生もこの授業が気に食わない。この授業はいかに効率的に破壊、殺戮に変換できるかという部分をうまく隠して伝えてるものなのだ。確かに力は必要となる部分があるのが世の常でもある。しかし、こんなことを血なまぐさい現実から目をそらして教えるというのは違う気もしていた。

 

「気を付けないとですね。先生が常々言ってる力の意味と使い方を考えろ、力に使われるなという言葉の意味が今はよくわかります」

 

「大丈夫だよルミア。最低限うちのクラスでそういう馬鹿な間違えをする奴はいないさ。ねぇ、凄腕教師のグレン先生?」

 

「うるせぇ................まぁ、そうだといいな」

 

俺が最後揶揄うようにいってしまったがやや照れているようでそっぽを向くグレン先生。そんな様子をルミアと俺とセラねぇは苦笑いしていた。そんなさなかレオスは生徒たちがこぞって質問してきたのに答え終えたようでシスティーナのほうに歩み寄ってきた。

 

「やぁ、システィーナ。私の講義聞きに来てくれたんですね」

 

「え、えぇ………とてもいい講義だったわ………正直、文句のつけどころがなかったわ」

 

「そうですか........それはよかったです」

 

(なんかこの二人の温度差がなぁ~あとはレオスがやけにシスティーナに固執しすぎな気がする)

 

俺はレオスが奴とつながっている可能性を考慮したうえで警戒しながら観察をする。ルミアとセラねぇは何か違和感があるのかシスティーナとレオスのやりとりを心配そうに見ている。グレン先生はあまり関わりたくないようで素知らぬふりだ。リィエルに至っては眠たそうにしている。

 

「システィーナ少し外を歩きませんか?あなたと話したいことがあります」

 

「い、今じゃないとダメなのかしら」

 

「別に今でなくても構いません........ですが、いずれ話さなくてはいけないことです」

 

システィーナは少しうなりながら考えこむ。システィーナからしてみればレオスが話したいことについての内容に心当たりがある。システィーナは悩んだ末..................

 

「ごめんルミアちょっと行ってくるわね?」

 

「う、うん」

 

ここで逃げても仕方ないと判断したシスティーナはついていくことにしたようだ。そのままシスティーナはレオスに連れられ外に向かっていった。

 

「にしても物好きがいるもんだなぁ~」

 

グレン先生がそう言うがシスティーナはちゃんと魅力的な女性だろうと思う。

 

「そう思うのは先生が無駄にシスティーナを怒らせるからですよ」

 

「うん、私もグレン君が悪いと思うな」

 

「おいお前ら俺がなしたって...............そうですね、俺が悪いですね」

 

そう言うほうを向くと呆れた目で自分を見るナハトとセラの目にグレンはいくらかの心当たりもあるので何も言い返せなくなった。

 

「あ、あの先生それにナハト君も.............お願いがあるんですけど―」

 

 

俺たちはルミアのお願いとは何かと聞き入ることになった。そしてその願いとは........................

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~なんで俺が他人の恋路なんか覗かなきゃならんのか...............」

 

まぁ、簡単に言えば先生の言う通りでルミアの頼みはシスティーナたちのことを覗くこと。よく言えば見守るということにはなるが、ルミアはシスティーナのことが心配で後をつけることの協力を俺たちに頼んだのだ。

 

「じゃあ先生は向こうでセラねぇとイチャイチャしていたらどうですか?」

 

「ち、ちょっ!ナハトお前何言ってんだよ!?////」

 

「そ、そうだよ!ナーくん急にそんなこと言わないでよ!?/////」

 

ぶっちゃけこの二人は両思いなのは間違いない。だが、お互い一年前の件があるのか遠慮してそういう関係になろうとしないのだ。確かにあの件はそれだけのことをお互いの心に残しただろうが個人的には二人にはくっついてもらって幸せになるほうが二人のためになると俺は考えていた。

 

(まぁ、下世話な話か..................でも、いい加減くっつけって思うんだよな)

 

ナハトにとってグレンは普段はあれだがここぞというときに頼りになる兄貴分のようなものだし、セラのことは当然もう一人の姉のように思っているのでそう考えるのも当然だろう。

 

「あはは..............ごめんなさい先生ついてきてもらって。でも、どうしても心配で..........」

 

ルミアはそんなやり取りをする俺達に苦笑を浮かべながら先生に謝罪する。

 

「コホン.............まぁ、親友に変な虫がつくかもしれないとなれば心配にもなるだろうが.............悪いな、俺他人のこういうのに興味ないんだ」

 

(前もこんなことに似たようなことが...............)

 

 

 

 

「システィーナ.............私と結婚してください」

 

 

 

様子を見ていると遂にレオスが切り出した。ストレートなプロポーズにどうなるとその場にいるものが注目する。そう〝誰もが〟だ........................

 

 

「おっとぉ!?あの男やるなぁ~!いきなり結婚申し込みやがった!さぁさぁ、俄然盛り上がってまいりましたよ~!!」

 

(あぁ、遠征学修の時のバレーと同じだ................)

 

あの時のバレーボール同様なんだかんだ一番乗り気になるのがこの男グレン=レーダスである。

 

「もう、グレン君ったら.......................」

 

「ん。グレンが一番乗り気」

 

「「あはははは............」」

 

リィエルはいつも通りとしてセラは呆れており、ナハトとルミアは苦笑いを浮かべていた。

 

「で、ルミアはレオスのことどう思ってるんだ?俺もどうにもレオスのことは信用ならない気がしてならないけど」

 

「え?お前そんなこと思ってるか?アイツなら別に信頼できる男だと思うが...........」

 

「なんていうか嘘くさいんですよね..................やけにシスティーナに固執しすぎな気もするし、それにあの―いえ、なんでもありません。とにかくなんか違和感が凄くて気持ち悪いんですよ」

 

「私もナハト君と同じかな..............嫌な予感するんです」

 

そういうルミアに注目する一同。そして、またルミアは話始める。

 

「えっとごめんなさい............でも、遠征学修のバークスさんみたいに..........なんかこう嫌な感じがして」

 

ルミアの勘は馬鹿にならない。そのルミアが言うのなら俺も本格的に警戒するべきだと思った。

 

(少しアイツの身辺調査してみるかな................)

 

ナハトは今後の動く方針を固めつつ、目の前で起こっていることに注意を向けた。

 

 

 

 

「ごめんなさい。私は貴方のその申し出に答えられないわ」

 

この場にいるだれもが予想した解答。システィーナがこのプロポーズに応えることはないとここにいる者たちは心のどこかで想像していただろう。

 

「貴方のことは嫌いではないわ..............むしろ好ましく思うわ。でも、...............私はまだ誰とも結婚するつもりないわ」

 

そこまで言い切りシスティーナは空を見上げる。その先には天空に浮かぶ城がある。

 

「私、お祖父様と約束したの。メルガリウスの天空城の謎を解くって、お祖父さまが憧れた城にいつかたどり着くって。そのために、私は魔術の勉強を頑張らなくてはいけない。........正直に言って今はだれとも家庭を築くつもりはないの...............だから」

 

しばらくの無言。そして少ししてレオスは口を開く...............

 

 

「あははは、相変わらずですね。貴方はまだそんなこと言ってるのですか?」

 

(は?今こいつ〝そんなこと〟って言ったか?)

 

ナハトはレオスが言ったことにイラつきを覚えた。当然だ、親友の夢をそんなことと言ったのだ腹が立っても仕方ない。

 

「魔導考古学............古代文明の謎を解き明かし、古代の魔術を現代に再現させることを狙いとする分野。しかし、それをなせたものは一人としていない。無意味で不可能なことなんですよ?システィーナ、貴方はそろそろ現実を直視しなくてはなりません。悲しいことですが..............」

 

レオスの物言いは心配してのものだろう。だが、ナハトにとってそれはまるで自分が心配していることが都合のいい理由にしか聞こえない。

 

「貴方のお祖父様...........レドルフ殿も魔導考古学に傾倒さえしなければ、もっと多大な功績を魔術史に残していたでしょうに...................私は貴方にレドルフ殿のように同じ過ちを繰り返してほしくないのですよ」

 

「ッ!」

 

その言葉にシスティーナはギリっと拳を力一杯握りしめている。

 

 

 

 

「あぁ~ありゃ駄目だ...........あれじゃ完全に白猫は靡かねぇな~」

 

グレンはそう呆れ切った様子でレオスのことを見ていた。

 

「....................」

 

「ナハト君?」

 

ナハトは黙り切っているがレオスを見る目はとても厳しいもので怒っているようだがどこか相手を探るようでもあり違和感を覚えた。

 

(...........無駄に否定するようなこと言ってる気がする。一体なぜ?)

 

 

「レオス............貴方に譲れないものがあるように私にも譲れない夢があるの。そう言われて簡単に夢を諦められないわ」

 

「貴方はレドルフ殿に勝てるのですか?」

 

「ッ!」

 

その問いかけはシスティーナもずっと抱いていた不安だ。

 

レドルフ=フィーベル。第六階梯にいたりし稀代の天才魔術師で魔導考古学に傾倒しなければセリカと同じ第七階梯に至れたとも言われていた程だった。

 

システィーナも学べば学ぶほど祖父の偉大さに痛感する。そのたびに先のレオスの問いが頭をよぎる。なるべく考えないようにしていたことをレオスに直接抉られてしまったのだ。

 

「システィーナ私は貴方に..........................」

 

レオスが何かを言おうとしていた。だがその乱入者はその先を語ることを許さなかった。

 

 

 

「その辺にしてください。大切な親友とその大切な夢………そして彼女が心より尊敬している人を否定するのはいい加減にしてください」

 

 

「な、ナハト!?どうしてここに........」

 

「ごめんシスティーナ。少し心配だからついてきたんだ...............それで、システィーナに聞くけどシスティーナの夢はレオス先生に説得された程度で諦められるのか?自分が尊敬している人に勝てないかもしれないからって夢を諦めてしまえるほどのものなのか?」

 

「そんなわけない!!私はお祖父様との約束でもあるけれど何より私がそれを望んでるの!だからお祖父様を越えないといけないのなら絶対に越えて夢を叶えてみせるわ!!」

 

「うん。それでこそシスティーナだ。なら別に何言われようと気にするな。自分がしたいようにすればいいんだ」

 

ナハトはそうシスティーナを激励すると次にレオスのほうを見る。

 

「レオス先生後をつけてきたのは謝ります。ですが、あの言い方はないと思います。自分からしてみれば貴方の言い分は貴方が心配していることを盾にして言いくるめようとしか聞こえません」

 

「それに...............〝わざと〟じゃないですか?わざとシスティーナを追い詰めるように言いませんでしたか?」

 

ナハトの違和感。それはどこかわざとらしさを感じていたことだ。レオスはどう見てもシスティーナに好意はある。なのにわざわざ嫌われるようなことを言いそこまで追い詰める必要はないと感じたのが違和感だ。

 

「謝罪は聞き入れますが、〝わざと〟とはいささか邪推が過ぎませんか?ですがそれよりもあなたには一切関係なくないですか?これはクライトス家とフィーベル家の問題です。部外者は黙ってくれませんか?」

 

まぁ、確かにそれは正論だ。もし俺がちゃんとイグナイト家としてここにいれば向こうを黙らせることなんて簡単だろうがあいにくと失踪...............というか死亡者扱いだろうからそれはできない。というかあの家の名前を使いたくはない。

 

さてどうしたものか..............一層のこと固有魔術でも使っちまおうかと考えていると..........................

 

「関係あるわ.................」

 

システィーナが何か思いついたのか口を開く。

 

「ナハトは関係あるわ」

 

「それはどういうことですかシスティーナ?」

 

 

システィーナは何かを決意するようにしてまっすぐレオスを見てこう言い放った。

 

「だって私.............ナハトと将来を誓い合った恋人同士だもの!(ごめんなさいルミア!!)」

 

「へ?」

 

ここで流石のレオスも驚愕の表情に顔を歪める。

 

 

(あ.........あ~そういうことね...........)

 

ナハトはシスティーナの意図を理解した。確かにそれなら何とかなるかもしれんが嫌な予感がしてならない。

 

「私はもうナハト以外の人とは考えられないの。隠していてごめんなさいレオス............だから貴方とは.......」

 

俺もここでうまく口裏を合わせようと発言しようとするがナハトの嫌な予感がここで的中した。何が起こったかというとそれは..................

 

 

 

「ハハハハハハハ!残念だったなレオスさんよぉ?長年想い続けていた女が実はもう別の男のもんだったとはさ!ねぇ、今どんな気持ち?ねぇ、ねぇ?お・し・え・て・くれよレオスさんよぉ?」

 

ここで空気を読みすぎた男がさらに乱入する。そうグレンである。ニタニタ笑いの表情に、この発言無駄に悪役ぶっての登場にナハトは内心頭を抱えていた。何もそこまでする必要はないだろうに...............

 

「う、嘘だ!こんな生意気な大人にもなっていない彼に.............」

 

「嘘じゃねぇぜ?事実こいつらは恋人のABCだってすでに済ませてるらしいぜ?昨日だってナハトのベッドで..........................

 

 

「「《いい加減・にしろ》!!!」」

 

システィーナとナハトは余計なことを言い出す前にグレンを【ゲイル・ブロウ】を二人でかます。恋人のABCなんてやってるわけないし、そこまで捏造しなくても十分だ。

 

 

「私達はそんなことしてないわよ!精々ネグリジェ姿を見られ、頭を撫でられたりした程度の事しか.........」

 

「待ってシスティーナ?それも言わなくていいよね?」

 

しかもそれルミアもいたし、頭を撫でたことに関しては....................うん、ルミアにもしてたし問題ない...........よね?

 

「???いったい貴方たちはどこまで………いや、それより.........二人が交際してるのは本当なんですか?」

 

レオスは信じられないあるいは交際自体が嘘なのかと思い始めているようだ。ここで、嘘だとばれるのはさすがに不味いと感じたナハトは一芝居打つことにした。

 

(システィーナ..............あとで謝るから許してくれ.........)

 

俺は慌てて混乱しているシスティーナの肩を抱き寄せ自分にピッタリ寄せた。

 

「レオス先生、隠していて申し訳ないですが彼女とは真剣にお付き合いをさせてもらっています。どうしても信じられないというならそれでもかまいません。ですが、自分の最愛の彼女の夢をこれ以上汚すというのであればシスティーナの彼氏として許せません」

 

 

(な、な、な、ナハト!?/////最愛の彼女...........ってバカ!ナハトにはルミアがいてルミアもナハトの事が........でも、うれしかったのも事実で...........いやいや、どうして私うれしいと思ってるのよ!?///////)

 

 

システィーナはナハトの言いっぷりに内心ものすごくときめいているものの、親友の想い人であるわけで自分がそういう感情を抱くのに申し訳ないけどやっぱりうれしいと複雑な乙女心で人生最大レベルにに混乱していた。

 

 

(いいなぁ...............システィ。私もナハト君にそんなこと言われたい////////)

 

 

ルミアはルミアで演技だと分かっているものの羨ましくて仕方なかった。

 

 

「許せないですか.............許せないというならどうするというのですか?この結婚は両家の同意のうえでのことです。覆せると本当に思いますか?」

 

正直それが気にかかっている。システィーナの父親は子煩悩であることはシスティーナとルミアから聞いている。そのことは俺が知ってるくらいだからレオスだって知っていても当然だ。その子煩悩な親が果たして娘の嫌がる結婚をさせるだろうか。

 

 

よって、ナハトはこの状況下でレオスとの縁談をなしにする方法を三つ導き出す。一つ、システィーナの家族にシスティーナの想いを伝える。これが恐らく一番確実かつ円満になかったことにできる。二つ、この場で決闘を申し込みそのうえ勝利..............いや引き分けにしてうやむやにする。だが、レオスはまるで俺に決闘を挑ませようとしているようにすら感じるため判断に悩むとこである。三つ、幻術で万事解決。これは流石に倫理的に問題があるの気がするで却下ではあるが一番手っ取り早いし、レオスから情報を引き出すなら一番だ。

 

(模擬戦ならレオス相手に負けることはないだろう。だがそれ以外の決闘を吹っかけてくる可能性がある以上決断は難しいな..............)

 

ナハトがどうするべきかと悩んでいた。普通の模擬戦なら現役の軍人であるナハトのほうが強いだろう。なので、上手くやれば引き分けに持っていくこともできるだろう。だが、こちらから挑んだら相手の有利な条件での決闘になるだろうことは想像に難くない。そうなれば、どこまで勝敗をコントロールできるかわからないためリスクが前者よりも高い。

 

 

だが、ナハトはここは一つ向こうの思惑に乗って様子を窺うのも手であろうという考えにたどり着く。

 

 

「思いますよ...............こうすればいいだけですから」

 

そう言いナハトは手袋を投げつける。

 

「決闘ですか..............確かにあなたが勝てば覆せるでしょうね」

 

レオスは不敵な笑みを浮かべてこちらを見据える。その様子にまるで想定通りと言った雰囲気を感じるのでやはり狙っていたのかと勘繰るナハト。

 

「ま、待ってナハト!ナハトが凄い強いのは知ってるけど相手はレオスなのよ!」

 

「心配しなくても大丈夫だよシスティーナ。〝サシの模擬戦なら〟俺が絶対に勝つ。まぁ、レオス先生は〝サシの模擬戦〟なんていう〝圧倒的〟に〝勝率の低い〟選択なんてしないで自分が有利な方法に〝逃げる〟だろうけど」

 

「ッ!言ってくれますね!だったら....................いえ、決闘についての日時などは追って話し合いましょう。貴方の吠え面を見るのを楽しみにしてますよ」

 

ナハトはあえて煽って冷静さを奪い自分が有利なサシの模擬戦に持ち込もうと試してみたがさすがにそこまでは都合よくいかなかった。

 

そしてレオスが去っていったのを見届けるとシスティーナが詰め寄ってくる。

 

「ちょっとナハトいいの?このままじゃレオスが有利の決闘になるけど.............」

 

聡いシスティーナは俺があえて煽った意味を理解しての問いかけだろう。

 

「まぁ、それは最初から想定内だな。でもそこは重要じゃないだろ?重要なのはシスティーナが嫌な思いをしないことだ。有利不利なんて関係ない、親友が困ってるなら助けるのが友人ってもんだろ?」

 

「ナハト...........」

 

「まぁ、うまくやるからシスティーナ心配しなくていいさ」

 

「ありがとうナハト。ナハトが言ってくれたこととてもうれしかったわ」

 

「どういたしまして」

 

後はどんな決闘になるかだな。正直レオスが有利な決闘戦についてあまり検討がついてない。どちらにせようまくやってレオスのことを探らせてもらうしかないな。奴とつながってる、つながってないにしろルミアの勘や違和感もあるし確実に見極めなくては。

 

 

ナハトは一人考え事をしながら隠れていたルミアたちのもとにシスティーナと一緒に戻っていくのであった。

 

 

 






今回から天使の塵編です。この話はグレンがメインになる話でもあるので展開を考えるのが難しいです。システィーナもどちら側のヒロインに位置付けるかで結構悩みます。現状は正直グレンはセラ一択であることやアンケートの結果を見たりして、ナハトに寄せるつもりではあります。難しいですがうまくまとめられるようにしたいと思います。この回を書き終えれば個人的にかなり書きたい遺跡調査編が書けるので頑張ります。


今回もここもここまで呼んでくださりありがとうございました。そして、いつもコメント、お気に入り登録、評価してくださりありがとうございます。







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魔導兵団戦

 

 

ナハトとレオスが決闘することになった後日、レオスが決闘の内容を通達した。それは..............

 

「魔導兵団戦ね...............まぁ、実戦なわけだしどうとでもなるか」

 

「さすがにナハトでも難しいんじゃ............」

 

魔導兵団戦。要はクラス対抗の集団戦であるということだ。これはレオスの専門分野でもあるためこれで挑んできたのだろう。そのためシスティーナは流石に不利すぎるとレオスに抗議したが俺は別にそこまで不利に感じていないし、決闘を挑んだのは俺である以上決闘の内容の決定権はレオスにあるためシスティーナの抗議を止め承諾した。

 

「大丈夫だよシスティーナ。相手がプロならまだしも学生相手なら俺一人でもどうにかできる。ただ問題は...............」

 

ナハトは一対一が好みの戦い方ではあるが、同時に多対一も得意である。剣だけならともかくとして魔術オンリーの戦いであればナハトのスタイルはややセリカに似通っているところがあるため広範囲を一人でカバーすることにたけている。そのため、ナハトにとってただの学生が一斉にかかってこようと使える魔術に制限があっても大した不利も感じない。ただ、不安があるとすればそれは.......................

 

「よーしお前ら!ナハトが勝って逆の玉の輿になるためにお前らに魔術兵団戦の特別講義をするぞ!!!」

 

「「「「「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

「これが問題だな........................」

 

「................そうね」

 

クラスメイトがいささか非協力的なことである。まぁ、当然といえば当然である。個人の問題をクラスに持ってきて巻き込むなという話だ。そのうえグレン先生のこの発言だ、反対があって当然だ。

 

「まぁ、さっきも言ったけど最悪は一人でもどうにかなるだろうからどうにかするさ。だからそうシスティーナは心配しなくていいよ」

 

「うん、ありがとうナハト..............でも、逆玉なんてまさか狙ってないわよね?」

 

「アレ?もしかして疑われてる?そんなわけないだろ?純粋にシスティーナのためを思って.............」

 

「ふふ、冗談よ冗談。ナハトがそんなこと考えないことくらいわかってるわ」

 

「そうか、それはありがとう。でもこれどうしたもんか...............」

 

わーわーぎゃぎゃ騒いでるクラスメイトと先生を見て頭をおさえる俺とシスティーナ。そんな風に見ていると...................

 

「はぁ~、別にシスティーナとナハトのいく末に興味はありませんがどうせ無駄ですよ?」

 

毎度のごとくギイブルが冷たくそう言い放つ。それによっていったんクラスメイトは静かになる。

 

「このクラスで使い物になるのは僕とシスティーナ、ウエンディとかの魔術師だけですよ。そして、いくらナハトが戦闘力で飛びぬけていても戦力差的に勝ち目なんてないですよ」

 

(ごめん.............一人でも余裕なんだよな俺)

 

ギイブルはなんだかんだで競技祭でのこともありナハトのことを評価しているようだが、ナハトの本来の戦闘能力を知らないため仕方ないだろう。だが、ギイブルの言うことは事実でもある。全員が同じ条件下での戦いであるため上位の成績者との差が競技祭の時以上に明確になってしまう。

 

だが、そんなギイブルの発言をグレンがぶった切る。

 

「ばーか。このクラスで使いもんになる奴なんてそれこそナハトしかいねぇーよ。というかお前みたいなやつが一番使えん」

 

「なッ!」

 

この発言にクラス全員がどよめく。ギイブルはシスティーナに次ぐ成績の持ち主だ。その彼が一番使えないということが意味が分からずナハトを除く全員が困惑する。

 

「さて、さっそく魔導兵団戦............戦場における魔術師の戦い方、心得とかを教えようと思うが..........最初にまず、多分お前らは盛大に勘違いしている」

 

そう一度言葉を区切り肩を竦ませるグレン

 

「魔術師の中に.................英雄はいない」

 

 

その宣言が特別講義の始まりだった..................

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

兵団戦当日。俺たちは午後から演習場に来ていた。

 

俺たちはその場に来ていた監督役の先生のハーレイに今回のルール説明を受けた後それぞれのクラスに分かれて配置につく。その間にわざわざレオスが宣戦布告しに来ていたが俺と先生が狙ってるのは勝ちではなく引き分けだ。引き分けならシスティーナ自身の意思が尊重されるのでこれが一番最高の結果なためだ。

 

 

 

 

 

「うわぁ.............カッシュどうしよう?」

 

「結構な数が来たぞ」

 

演習が始まり場面はまず動いたのはカッシュを先頭にロットとカイ達がいる中央平原ルート。グレンはまず中央平原ルートに12人、北西の森に8人、東の丘に2人進軍させた。残りはすべて拠点待機させる形をとった。積極的に進軍させず様子見をするように図った。

 

だがレオスにしてみればこれは下策で、先につぶしてしまえばあとは簡単に対処できると考えたのでグレンの戦力を上回る数を平原に進軍させた。

 

「まぁ、先生やナハトの言うとおりにやれば大丈夫だろ。別に命がとられるってわけでもないしな」

 

そう言いカッシュはいつも通りの笑みを浮かべていた。そして生徒たちは先週のグレンの抗議を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いか?魔術を導入した戦術とかってのはそれ以前の兵法の常識が通じねえんだ」

 

グレンは魔術の戦場に英雄がいないといった後にそう続けた。

 

今までの兵法が通じない.............それは当然である。ちょっと魔術で火や雷を起こせばそれだけで馬は恐れて騎兵は機能しないし、簡単な対抗魔術で弓兵の攻撃も防げる。そして密集陣形を取るなら広範囲破壊呪文であっけなく全滅まで追い込める。それほどまでに魔術による戦術への影響はすさまじい。

 

「いいか?基本的に魔術戦においては2つのレンジがある。『近距離戦』と『遠距離戦』だ。『近距離戦』は相手を目視できる距離で呪文を打ち合う最前線で戦うレンジ。『遠距離戦』は相手を目視できないところから超長距離射程魔術で『近距離戦』に従事する魔導兵を援護するレンジだ」

 

 

特務分室では遠距離戦ができるのはアルベルトとナハトだ。ナハトもアルベルトの指導もあり遠距離戦もできるがアルベルトほどの精度ではないため基本的には近距離戦担当である。そもそもナハトが好む戦闘スタイルも遠距離からの狙撃ではなく、剣と魔術を組み合わせた火力特化型のスタイルだ。二刀流も手数が多いのと、魔術を組み合わせたときの破壊力が高いために選んだスタイルである。

 

 

「そして『近距離戦』で重要なのは一戦術単位(ワンユニット)だ。基本的には三人一組(スリーマンセル)が基本だがこれはプロが長い年月をかけて初めてできるものだ。このクラスで唯一形にできるとしたらナハト、ルミア、白猫だろうがナハトと白猫を組ませるのはもったいないから却下だ」

 

「ではどうすればいいんですか?まさかとは思いますが個人で戦えと?」

 

「なわけないだろ。個人でどうにかできるとしたらナハトかリィエルだけだ。最もリィエルは攻撃させられんが...............今はそれはいい。単純な話、三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)が無理なら.....................」

 

 

 

 

 

 

 

二人一組(エレメント)一戦術単位(ワンユニット)にすりゃいいんだよ」

 

 

 

 

 

 

「《雷精の紫電よ》」

「《大いなる風よ》」

「《白き冬の嵐よ》」

 

 

 

「「「「《大気の壁よ》」」」」

 

レオス陣営が放つ魔術をグレン陣営の生徒が対抗呪文で防ぎ

 

「「「「《雷精の紫電よ》」」」」

 

対抗呪文の裏で待機していた生徒がカッシュを先頭に攻性呪文を唱え攻撃をする

 

 

普通に考えれば戦力差で不利になるグレン陣営だが現状は拮抗していた。確かに統計的に見れば三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)が優れた戦績を残しているのは紛れもない事実だ。だが、それはプロの魔術師が長い鍛錬の末やるからである。今回は素人のの生徒がやるため前衛、後衛、後衛支援と言った複雑な三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)よりも攻撃と防御の役割をわかりやすく二分する二人一組(エレメント)一戦術単位(ワンユニット)のほうが生徒たちは分かりやすくやりやすいのだ。そのため連携の練度に不足があるとはいえレオス陣営に戦力差があるにもかかわらず互角の戦いができているのである。

 

 

「よし、残りの奴らで森と平原の援護に行け。レオスの奴はこの状況に対応できてねえ!この機を逃すな!」

 

 

そしてグレンは残しておいた生徒たちをここぞとばかりに出張らせる。

 

 

------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

勢いづくグレン陣営と反対にレオスは表情を苦々しく歪めていた。

 

「クッ!やられました..........まさかこんな大胆な手法で来るとは.........丘の拠点制圧はどうなっていますか?敵は二人だったはずです。まだ制圧できていないんですか?」

 

 

レオスは各部隊の隊長役に持たせている通信魔導器で連絡を取る。だが.................

 

 

「そ、それが................!」

 

「どうしたんですか?」

 

慌てるような声に疑問を覚えもう一度問う。すると帰ってきた返答は.........

 

「すいません無理です!!丘の拠点制圧は僕たちじゃ絶対に無理です!!」

 

「!?どういうことですか!敵は二人だけなのでしょう?」

 

「その二人が化け物すぎて不可能なんです!」

 

 

そういう隊長役の生徒はその先にいる丘の二人の敵兵に視線を移す。

 

 

「化け物か............失礼な奴らだが..........まぁ、間違ってないのか?」

 

「ん。でも不服。私とナハトは同じ人間」

 

そう迫ってくる敵が何でもないように会話するナハトとリィエルがそこにいた。

 

「「「「「《雷精の紫電よ》」」」」」

 

一戦術単位ワンユニットも組まず全員で呪文を放つも丘にいるナハトとリィエルは何でもないように簡単にかわしていた。

 

「《雷精よ―舞え》・《囲え》」

 

ナハトの呪文で15本の紫電が放たれ、追加詠唱により相手を囲むような檻のようになる。ナハトはあえて相手にあてず周りを取り囲むようにして逃げられないようにするためと戦意を折りに行くためにわざとえげつない立ち回りをしていた。しかも時たま様子を見て生徒を刈り取っていく様はまるで魔王のようだとレオス陣営の生徒は感じていた。

 

 

リィエルはリィエルで眠たげな眼をしているがすべての攻撃をナハト同様余裕に躱しているうえ、一切攻撃しないため不気味に思っていた。実際のところはリィエルが攻撃しないのはリィエルにこの場での攻撃手段がないからである。

 

 

「クッ!ナハト=リュンヌは丘にいましたか!..............ですが丘にいるならこちらには簡単に..................」

 

そうぼやいた直後紫電がレオスの頬掠めた。威力こそ【ショック・ボルト】のそれに見えたが一体どこからとレオスは考えていると通信機から自陣の隊長役の生徒ではない生徒の声が聞こえた。

 

『贈り物には気づきましたかレオス先生?』

 

「ナハトさん..........今の攻撃は貴方が?」

 

『えぇ、そうですよ。一応言っときますが軍用魔術ではなくて即興改変で射程距離を伸ばした【ショック・ボルト】なので安心してください』

 

「それは分かりましたがあなたがこうして話しているということは隊長は................いえ、そこの部隊は全滅ですか?」

 

『隊長は倒しましたが部隊は全滅させてないですよ。撤退されるのは面倒なんで隊長は倒させてもらいましたがそれ以外は足止めしてますよ』

 

「わざわざ足止めですか................随分となめているんですね」

 

『これも作戦なので.....................それではまた試合後に』

 

それを最後に不快な音の後通信機の反応はなくなった。ナハトは作戦漏洩は本当の戦ではないためフェアじゃないと思い通信機を破壊したのだ。

 

「やってくれましたね!ナハト=リュンヌ!」

 

ナハトは現状の距離からでも十分に攻撃可能であるということを念頭に置きながら怒りで一杯な心を落ち着かせレオスは次の策を考えるため考えをめぐらす。

 

 

 

 

 

 

「どれくらい殺った?」

 

 

グレンは一旦現状の確認のため各隊の通信機につなげる。

 

『こちら平原。五人討ち取りました。こっちは二人やられましたけど................』

『こちら森。三人撃破。被害はゼロです』

 

カッシュとギイブルの報告を受け継ぎはナハトと思い問いかける

 

「丘のほうはどうだナハト」

 

『こっちは4人撃破ですね。状況に応じて即時狩れるように部隊丸ごと足止めしてます』

 

「............今、お前部隊丸ごとって言ったか?」

 

『はい。即興改変で【ショック・ボルト】を檻のようにして逃げられないようにしてます。何人か殺っときますか?』

 

「(こいつ鬼畜だろ........)まだいい、損耗次第ではそこから削る人数指示するからそれまで待機な」

 

『了解です』

 

 

(にしてもナハトの奴やり方がえげつないな...............いや、まぁこっちがやりやすくていいがそれにしてもなぁ................さてこれからどうするかね~丘と平原はおそらく大丈夫だろうがそうなると森が決戦の舞台か)

 

 

グレンはあんまりなナハトの立ち振る舞いに若干引くもやりやすいから良しとし、森へ生徒たちを進軍させる。グレンが囮に出ることも考えたが部隊丸ごと抑えているナハトがいれば必要数刈り取ることもできるので指示に専念することにした。

 

しかし、やはり平均的に見た実力差で分の悪い二組が少しずつであるが倒されていく。やむ負えないと判断したグレンはナハトに連絡する。

 

「おいナハト。とりあえず3人だけ落としといてくれ」

 

『了解です...........《雷精よ》「「「うわぁぁぁ!!」」」終わりましたよ先生』

 

「おう。とりあえずはこれで様子見すれば.............」

 

そう話しているとここで..................

 

 

「そこまでだ!両陣営損耗率80%を超えたためルールに従い...........この勝負引き分けとする!」

 

魔術により拡声されたハーレイの若干苛立ち交じりの声が響き渡り勝負の終了と結果が告げられた。

 

 

その後2組の生徒たちはやられた生徒達とも合流し話し合っていた。するとそこでカッシュがシスティーナのことはどうなるのかと疑問に思いナハトに問いかける。

 

「なぁナハト引き分けちまったがどうするんだよ?」

 

「ん?そんなのシスティーナの意思を..............」

 

『システィーナの意思を尊重する』と言いかけた俺はその先を言う前にある人物の大声で遮られた。

 

「貴方達!なんですかその体たらくは!!」

 

そう生徒たちを叱責するのは指揮官であるレオスだった。

 

「あの無様な戦いはなんですか!貴方たちがもっと私の指示通りにきちんと従い、作戦を遂行していれば...........」

 

「そこまで言うのは見当違いじゃないですか?貴方なら兵の失態は指揮官の責任であることくらいわかるでしょ?」

 

ナハトはレオスのあんまりな言い方にやや苛立ちを覚えながら冷静に声を掛ける。だが..........

 

 

「うるさい!!貴方ごときが私に意見するな!!」

 

(なんだこの豹変ぶり?あまりに不自然すぎる................それに顔色も悪い.....................ッ!まさかこいつアレを!?)

 

ナハトはレオスの豹変ぶりに奴とのつながりもあるかもしれないということも交えた末に心当たりを見出す。だがその見出した可能性は残酷なものだ。

 

「再戦です!貴方にシスティーナは渡せない!!」

 

「...............本気ですか?まるでシスティーナをもののように言いますね貴方?」

 

「うるさい!!システィーナに魔導考古学を諦めさせて、私の妻にするまで.........」

 

「わかりました...............と、言いたいですが〝今〟のあなたと決闘はしたくありません」

 

「なんですって?」

 

毅然とそう言い張るナハトにさらに怒りを宿した目で睨みながら問いただすレオス

 

「この場で決闘を飲んでもシスティーナが悲しむだけです。システィーナはモノじゃない。一人の女性だ。そんなことも理解できていない貴方と決闘する意味がありません」

 

「ナハト.....................」

 

システィーナはナハトの言葉にうれしく思っていた。自分のことを一番に考え大切にしてくれるナハトに対して感謝しかない反面レオスの態度には猛烈な違和感を感じていた。

 

「そうですよレオス先生これは流石に...........」

「うん。これはちょっとないよな...........」

 

生徒達もナハトの言い分に賛成のようで口々にレオスのことを批判する。

 

だが実際ナハトはどうすべきか悩んでいた。システィーナのことを思えばここで決闘をするのは避けたい反面レオスはこのまま黙って帰らないだろうことは分かってる。

 

「受けろなさい!今の私では意味がない?そんなもの貴方には関係ない!!私が..........」

 

まだも納得しないレオスはナハトの制服の襟元を両手で締め上げ無理やり顔を寄せ睨みつけながらそう言い放った。

 

「ッ!?ナハト!」

 

普段のレオスからは考えられない行為にシスティーナはすぐにナハトを助けようと駆け寄るがそれをナハトは涼しい顔のまま手で制する。

 

「貴方はシスティーナが今どんな表情で貴方を見てるかちゃんと見てますか?いえ、それ以前に決闘前もですがシスティーナの表情ちゃんと見ましたか?」

 

 

「システィーナ顔ですって?そんなもの............ッ!」

 

そう言われたレオスは怪訝な表情を浮かべシスティーナの顔を見た。だが、その瞬間レオスは息をのんだ。なぜならシスティーナの表情はとても自分を憐れむように悲しげでいて、また自分に向け怒りを向けているようだったのだ。

 

「レオス辞めて..............これ以上...............私に、貴方を嫌いにならせないで」

 

「わ、私は...........貴方が.............」

 

「レオス先生。正直にいます。俺はシスティーナと付き合ってません。ですが、貴方よりも彼女のことをしっかり見ていると思います。これ以上はシスティーナを傷つけるだけです。もうやめにしましょう。俺と先生は今回狙って引き分けにしました。どういう意味か貴方にはわかりますか?」

 

「................システィーナの意思を尊重するため」

 

「そうです。貴方は今冷静じゃない。今日は一度帰って後日改めてシスティーナとよく話してください」

 

ナハトがそう告げるとレオスは動揺しているようだがナハトの言い分がもっともだと思ったのかしばらく無後の後こういった。

 

「.............................帰ります」

 

 

哀愁漂うレオスの背中を見てナハトは自分の言った嘘に大きな後悔を感じていた。なぜなら後日はおそらくレオスにはない。ナハトが至った心当たりがもし当たっていたら絶対に訪れないためだ。

 

「.............さて、みんな嘘ついててごめんな?とりあえずもう帰ろうぜ」

 

そうナハトが言うと「まぁ、気にすんなと」とカッシュがいい、みんなは帰りの馬車の場所に戻っていった。レオスは個人できたため別方向に行ってしまったことが生徒たちは気になっているようだがすぐにそれを忘れ帰るために足を進めた。

 

だがナハトはここで帰るために歩いて行かずルミアに声を掛けていた

 

「そうだ、ルミア悪いけどシスティーナのこと頼むな?このあと少し用事があるから一人で帰るからみんなにはそう言っておいてくれ」

 

「え?でもここからフェジテまで距離あるよ?」

 

「大丈夫だよ。ただ、そっちに戻るのに時間がかかるかもだからその間はリィエルと先生を頼ってくれ」

 

「................危険なことしない?」

 

(やっぱりこんな言い方したらルミアには今からちょっと危険な橋渡ろうとしているのに気づかれちゃうよな...........)

 

ナハトはこれからとある奴にあいに行くつもりだ。さっきまでの推測があっているのならおそらくこの場に奴は来ている。最も俺が今から行くのは〝読まれている〟だろうが。

 

「危険じゃないとは言い切れない..................でも、ちゃんと戻ってくる。絶対だ」

 

「仕方ないなぁ~ナハト君は................ちゃんと帰ってきてね?」

 

「あぁ、行ってくるルミア」

 

「うん、行ってらっしゃいナハト君」

(このやり取り............なんだか夫婦みたいだなぁ)

 

 

そう言ってナハトとルミアは微笑みあった後、ナハトはレオスの後追って歩いて行った。

 

 

 

 

 

願わくばこれで事態が収束するようにとナハトは思っていた。

 

 

 

 

 

 

だが、後日ナハトは帰ってこず、システィーナはあそこまで嫌がっていたのにも関わらずレオスと結婚することになっていた。

 

 

 

 

 






今回はここまでです。正直かなり無理やり感がありますがこういった感じにまとめてみました。もう少しセラをうまくからませていきたいのですが難しくて出すことができてないんですよね。もしかしたらセラは触らずに終わってしまうかもしれませんがうまくこの天使の塵編を面白くできるように頑張ります。


今回もここまで読んでくださりありがとうございました!お気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます!本当に励みになるでこれからもどうかよろしくお願いします!



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嗤う狂人

 

 

―これはシスティーナが結婚を決めた前日の話だ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レオス先生随分と顔色よくなりましたね?」

 

そう言う先には馬車から出てきたレオスがいた。先程までは顔色も悪かったのに今では普通になっていた。

 

「おやナハトさんですか..............ですが、剣をもってそこまで殺気を向けてくるとは穏やかではありませんね?」

 

そう、レオスの言う通りナハトはその手に双剣を握り臨戦態勢だあるのだ。

 

「そうですね............でも、いい加減茶番はやめにしましょうレオス先生...............いえ、《正義》のジャティス=ロウファン」

 

そう言うと目の前にいるレオスはらしくない狂気的な笑い声を上げながら姿を歪めると現れたのはレオスとは別の風貌の青年だった。

 

「いやいや流石だねぇナハト..............最初から疑っていたね?」

 

現れたのは一年前たった一人で帝都を恐怖に陥れ、特務分室に大きなダメージを与えた錬金術の天才ジャティス=ロウファンだ。一年前死んだはずだが予想通り何らかの手で偽装して今ここに立っていた。

 

「それは貴方の固有魔術でもわかってたんじゃないですか?そもそもここに来ることだって読んでいたはずだ」

 

「ククッ、あぁそうだとも。勿論〝読んでいた〟さ」

 

「さて、ならお話はやめて始めましょうか............」

 

「一年でどこまで成長したか見てあげるよナハト!!!」

 

 

その瞬間ナハトはためらいなく領域指定を済ませてある眷属秘術【第七園】を自身の異能とのかけ合わせの《獄炎》ともに起動させるジャティスもお得意の人口精霊(タルパ)を召喚し笑いながら迎え撃った。

 

 

 

------------------------------------------------------------------------

 

 

「アハハハハハハハハ!!素晴らしいよナハト!さすがの実力だ!!」

 

ジャティスはそう狂気的に笑い声を上げながらナハトを称賛する。その中でもジャティスは人口精霊(タルパ)召喚し続けナハトにけしかける。

 

「『どうもです先輩』とでもいえばいいですか?」

 

ナハトは冷静にそう返しながら迫りくる人口精霊(タルパ)を魔術や剣技を駆使し縦横無尽に動き回りながらに次々となぎ倒していく。だが、冷静な反面ジャティスの流石の技量に内心ではやや戦慄していた。

 

(チッ!気に食わないが本当に強いんだよなこの人!)

 

ジャティスはなかなかナハトに懐に入りこませるだけの隙は見せず、絶妙なタイミングで人口精霊(タルパ)をけしかけうまく距離を保っていた。また、ナハトの魔術も完璧に対処してノーダメージで戦い続けるあたり腐っても元執行官NO,11《正義》として多くの戦果を挙げてきたことだけのことはある。

 

 

「ッ!神千斬り!」

 

ナハトは捌き続けていると〝見えない何か〟を感じ取りそこに得意技である神千斬りを放つ。すると何もない場所を獄炎が焼く。

 

「へぇ..........【見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】を対処されるとは............それは〝読めなかった〟」

 

見えざる神の剣(スコトーマ・セイバー)】質量ゼロ不可視の刃をジャティスの謎の固有魔術で相手の行動を予測して罠を張り相手を嵌め殺すものをナハトは鍛えられた戦闘勘で察知し迷いなく神千斬りで対処した。

 

「見えない刃..................ホント貴方に相性のいい最高の技ですね」

 

「お褒めいただき光栄だよナハト。だが、まさかこれを対処されるとはねぇ、流石は音に名高き《月》だ」

 

ジャティスは表情こそ笑みを浮かべているものの油断なくナハトを見る。ナハトも同様に周囲への警戒を常に怠らずどんな場面にも対応できるようにしている。

 

(正直まだ開始早々に使いたくないが【原初の焔(ゼロ・フレア)】で広範囲をカバーしつつ火力に特化して押し切りに行くのがベストか...........防戦に回ったらこっちが不利だ)

 

「《真なる業火よ・我は原初の炎の担い手・原初の焔をここに灯そう》」

 

ナハトの周囲の紅蓮の炎と漆黒の炎が混じり赤黒い炎が形成され圧倒的熱量がナハトの領域内にすさまじい勢いで広がる。ジャティスも表情を鋭くし、地面に立っているが危険と判断し人口精霊(タルパ)を使い上空に避難するも超高熱によるダメージで内臓が少し焼かれる。だが、流石というべきかジャティスはすぐさまに魔術で対応しているようだった。

 

「クッ...........コホッ………まさかここまでの火力の魔術とはねぇ.........」

(さすがにこの火力にこの範囲............不味いね)

 

そしてナハトは剣に赤黒い炎を纏いつつ業火をジャティスめがけて放ちながら足元に集めた炎を爆発させた勢いと純粋な脚力で空中に駆け上がり斬りかかる。

 

(紫電一閃・焔)

 

ジャティスは放たれた業火を人口精霊(タルパ)をうまく使い辛くも回避するもやはり暴力的な熱量で自身の服の端や皮膚を焼き焦がす。そしてナハトの超高速剣技が来ることを察知し行動予測で回避に入るだが...............

 

 

(クッ!腕が………!)

 

空中であるとはいえナハト最速の剣技を行動予測するもあまりの速さに完全には回避しきれず腕を斬り飛ばされる。すかさずナハトは追撃しようとするが人口精霊(タルパ)の猛攻で追撃に移れず迫りくる人口精霊(タルパ)対処して着地した。

 

 

(まさか一年でこれほどまで技が洗練されているとは本当に〝読めなかった〟..........だが、これは〝読んでいた〟よ)

 

ジャティスは圧倒的不利であるはずなのにいまだに狂気的かつ不敵な笑みを浮かべている

 

そんなジャティスをナハトは油断なく見据えていると新たな人の気配がした。

 

(!人の気配もしかして奴の仲間か.............いや違うこの気配は!?)

 

「ククク、流石に気づいたようだねぇ、ここに来た人は誰なのか........」

 

「何でこんなに燃えて.................ってこれナーくんの魔術だ!?」

 

その場に現れたのはセラだった。ナハトはルミアにみんなには心配せず帰るように伝えたのに何故と考えていた。

 

だが、その回答は簡単で事前にジャティスはレオスに指示させセラに魔導兵団戦後この場に来るようにしたためである。さらに、ナハトが残ることをジャティスは読んでいたためナハトが残るというならルミアに先に戻っていてと言われていてもナハトの面倒を見たがるセラなら確実に残ると踏んでのジャティスの保険であった。

 

 

そしてさらに.......................

 

「これはどうするかな?」

 

ジャティスはいやらしい笑みを浮かべながら視線をセラから少し外れたとこに向ける。そこには..........

 

(ナッ!?天使の塵(エンジェル・ダスト)末期中毒者だと!?)

 

そこには武器を持たされた末期中毒者がいた。ナハトはすぐさまそこに向け走り出す。

 

「セラねぇ!!伏せて!!!」

 

「えっ!ッ!?」

 

セラは一瞬驚くもすぐにナハトの言う通りにするとすぐ目の前にまで迫る末期中毒者がいた。セラはやられると思った瞬間...............

 

    

       〝ゴウッ!!〟

 

 

剣は間に合わないと判断したナハトは業火を細く収束させて放ち中毒者を焼き倒す。

 

「さすがだねぇナハト。まぁ、助けられることは〝読んでいた〟けど」

 

そう言うジャティスはすでに【第七園】の領域外に出ていた。

 

「あれはジャティス!?」

 

セラも驚愕と怒りを浮かべそう奴の名を叫ぶ。

 

「やぁセラ相変わらず元気そうだね?」

 

セラねぇを死の寸前まで追いやった諸悪の根源が何をと思っていると尋常じゃない数の気配を察知した

 

「ッ!なんだこの数................まさか!?」

 

ナハトはすぐにでもセラをその場からの離脱させようと考えていたが下手に逃がすことができなくなってしまったなぜなら...............

 

「危なかったよ。もし...........あとほんの少しでもセラが来るの遅かったら僕の敗北は90%を越えていた」

 

その言葉と同時に森からぞろぞろと末期中毒者が出てくる。それも10や20なんかじゃない。何百単位..............いやもしくはそれ以上かもしれない。

 

「君の相手は流石に骨が折れる.............彼らが来るまでの時間稼ぎだったというわけさ」

 

 

「この数..........お前どれだけの人を!!」

 

ただの足止めのためだけに沢山の罪のない人々を巻き込んだことにナハトは怒りを隠さずに沿うジャティスに言い放つ。

 

「仕方のない犠牲さ。僕が正義を執行するための必要なことなんだ」

 

何でもないように、それが当然であるように言い放つジャティス。知ってはいたが想像以上の狂人だ。

 

「流石にこの数相手では、いくら君でも僕は追えない。しかもさっきの魔術は相当の魔力を消費するうえ、君の最強幻術の射程距離は長くないからね」

 

そう、ナハトの固有魔術【奇術師の世界・幻月】を掛けられる射程はそれほど長くない。さらに一度に五人までにしかかけられないのである。なのでジャティスを狙ってかけることも末期中毒者に対しても有効手段にならない。さらに原初の焔(ゼロ・フレア)でかなりの魔力消費をしたため幻術どころかその他の魔術を振るえるほどの魔力の余裕もない。

 

 

「それじゃあ僕はこれでおさらばさせてもらうね。グレンの代わりに君はセラをちゃんと守り切れるかな?」

 

そう言ってジャティスが歩き去っていくのと同時に末期中毒者たちが勢いよく襲い掛かってくる。いくらナハトが多対一を得意としていたとしてもあまりの数に、無理な魔術行使ができないセラを護りながら切り抜けるのはかなり絶望的といえる。だが、自身のもう一人の姉でもあり兄貴分でもあるグレンの大切な人を二度と傷つけさせやしないと闘志をたぎらせるナハト。

 

 

「クッ!セラねぇは無理に魔術を使わないで俺のそばから離れないで!!」

 

ナハトは両手の剣を今一度強く握りなおし油断なく構える。ここからナハトの死闘が始まるのであった。

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------

 

 

 

時と場は変わり、システィーナは一人学院のバルコニーで夜空に浮かぶ月を見ていた。今日のレオスの豹変に追いついていなかったため一人になりたかったのである。何が彼をあそこまでしたのかとずっと考えていた。

 

 

「なに一人こんなとこにいんだよ白猫」

 

「先生..............」

 

そこにグレンが歩み寄ってきた。

 

「どうして先生が.......」

 

「ルミアに頼まれたんだよ。ナハトの奴がなんか用があるとかで行けないから代わりに様子を見てきてくれってな」

 

「そうですか................先生はなんであそこまでレオスが私にこだわるかわかりますか?」

 

こんなこと聞いても仕方ないのは知っていた。でも今のシスティーナは聞かずにはいられなかった。

 

「知るかそんなもん。ぶっちゃっけ俺はやつの正気を疑うレベルだ」

 

いつもの調子でそう言うグレン先生にシスティーナは気分が落ち込んでるはずなのにいつものようにムキになって食い掛る。

 

「なんですって!!聞いた私が悪いですが、仮にも教師なら少しは真面目に.............」

 

「そういうすぐかみついてくるところとか特にだ................だが、奴はお前のことがどうしようもなく好きなんだろな。だからその想いがいき過ぎちまうんだろうな」

 

「~!はぁ~そうなんですかね............」

 

突然の真面目な切り返しに少し詰まるもため息を吐きそう返す。システィーナ自身異性を好くというのがまだよくわかっていない。自身の親友であるルミアはナハトに思いを寄せていることは分かるがそれがどういうものなのかはきちんと理解できていない。

 

「身近で言えばルミアがいい例えだろ?ルミアの奴ナハトといると明らかに普段とテンションが違うぞ?」

 

そう、ルミアはナハトといると普段に増して雰囲気がとても明るくなるのだ。それを見ている周りの男子どもはかなわぬ恋だと涙を流し続けているらしい。

 

「確かに変わりますね...........すごくわかりやすく」

 

「あれで気づいてないの本人だけだろ...........鈍感だよなぁ~アイツ」

 

(あなたがそれを言えるんですか唐変木...........)

 

システィーナは内心でグレンに突っ込んでいた。

 

「!そういえばもう一人あいつといると態度が変わる奴がいるな」

 

グレンはそう言ってシスティーナを見てニヤニヤしている

 

「誰ですか?セラ先生ですか?」

 

「ばーかアイツのは唯の姉と弟のそれだ。お前だよ白猫...........お前もなんだかんだナハトといるとき明るいもんな?」

 

「え/////////?」

 

「その感じじゃ自覚ねぇか...........お前あいつといるといつも以上に笑顔でいることが多いんだぞ?」

 

そう言われてもシスティーナ自身に心当たりは全くなかった。だけどそう言われて納得する自分もいるのも事実だった。

 

「要はその無意識の想いや普段から思ってることがいき過ぎちまったのが今回のレオスの件ってことだろうな。ナハトの言う通り冷静にお互い話し合うといいだろうな」

 

何となく今ならシスティーナはグレンの言葉を理解できた気がしていた。そんなシスティーナはなんだかんだでアドバイスをくれたグレンに感謝を伝えようとすると...................

 

 

「実に卑怯な男ですねグレン=レーダスさん。婚約者を差し置いてほかの男性を紹介するとは」

 

「レオス................」

 

そこに薄ら寒い笑みを浮かべて歩んできたのはレオスだった。

 

「私は軍用魔術の研究に携わるうえで軍の機密情報に多少触れていましてね..........................知っているんですよ、過去に貴方がしてきたことを.........ねぇ、《愚者》のグレンさん?」

 

そう言い放つレオスを鋭く睨みつけるグレン。システィーナは普段とは違うグレンの様子に少しおびえていた。

 

「貴方は本来こんな日向の世界にいる資格はない人間だ。その血塗られた手で生徒たちに何を教えるつもりですか?」

 

「黙れ.............それ以上言うなら問答無用でお前を潰す」

 

グレンはレオスをにらみつけてそう冷たく言い放つ。だが当のレオスはその余裕そうな表情を変えずに続ける。

 

「フッ、貴方にはもっとふさわしい場所と立場があるでしょう?帰ってきなさい元帝国宮廷魔導師団特務分室執行官NO.0《愚者》のグレン=レーダスさん」

 

 

「警告はしたぞ!!」

 

そう言って一旦距離を取りグレンは愚者のアルカナを引き抜き【愚者の世界】を起動させ帝国式軍隊格闘術で殴り掛かる。だが.......................

 

「フッ、暴力はいけませんね」

 

そう余裕な笑みを浮かべながらグレンと同様に帝国式軍隊格闘術で応戦し............

 

「グハッ!?」

 

「グレン先生!!」

 

殴り飛ばされたのはグレンのほうだった。そのグレンを見たあシスティーナは悲痛そうな声を上げ心配しているとレオスは人口精霊タルパを出す。

 

「な!?人口精霊(タルパ)だと!?グアッ!!」

 

人口精霊(タルパ)は魔術でない以上【愚者の世界】は効かず一方的にグレンはやられてしまう。

 

「知ってますよ貴方がこんなものではないことを............」

 

グレンを見下すレオス。そのレオスはとても狂気的で明らかにシスティーナの知っているレオスではなかった。

 

「.................」

 

グレンは落としてしまったアルカナを拾いそのまま無言で傷口を抑えながら去っていった

 

「先生!」

 

そしてそんなグレンをシスティーナは追いかけようとした。しかしそれはレオスが腕をつかんだせいでできなかった。

 

「れ、レオス?は、放して!」

 

システィーナは明らかにおかしいレオスに恐怖を抱いたためややパニック気味に大きな声でそう言った。だが.................

 

「うるさいぞ小娘..........二度と表を歩けない顔にしてやろうか?」

 

「ぇ?」

 

レオスはまさしく鬼の形相というべき表情でシスティーナに凄んだ。そのため先程からの状況に呑み込めていないシスティーナはか細い声を上げ委縮しきっていた。

 

「さて、話がありますシスティーナ。私と結婚してください」

 

「!?」

 

先程までの恐ろしい顔から一転普段の表情になりそう言い放つレオス。また、システィーナは困惑のあまり声を出すことができなかった。

 

「あぁ、ちなみにあなたには拒否権はありませんよ?

 

 

 

 

例えばそう.....................

 

 

 

 

貴方の親友ルミア=ティンジェルの素性と能力.............リィエル=レイフォード秘密とかね?」

 

 

「なんで........」

 

「あとはナハト=リュンヌ..............いえナハト=イグナイトのことや元《女帝》セラ=シルヴァースに元《愚者》のグレン=レーダスと言いこの学院には隠し事をしている人たちが多すぎる」

 

 

システィーナはレオスから出てくる極秘の情報がスラスラと出てくることにもはや絶句するしかなかった。この男は敵なのではという考えがよぎるもレオスの異常な雰囲気がシスティーナを完全に委縮させていた。

 

 

「わかってもらえたと思いますがあなたは私と結婚するしかないんですよ。よろしいですねシスティーナ?」

 

 

「..........ぅ、ん」

 

頷くことしかシスティーナにはできなかった。自身な大切なもの..............それを護るために彼女は恐怖とともに感情を押し殺しレオスに従うことを選んだのであった。

 

 

 

 

 

そして後日、そんなシスティーナがレオスの求婚を受けたことが学院に知れ渡った。そうなると当然レオスに挑んだナハトについても注目されるがその日ナハトは学院に現れることはなかった。

 

 

また、それはグレンとセラも同じで二組の生徒は不可解なその三人の失踪に言いようのない不安感を感じていた。

 

 

だが、ただ二人の少女たちだけはいなくなった三人のことを信じて待っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 





今回はナハトvsジャティス戦を入れてみました。それにしてもジャティスの狂気的な口調を書くのは難しいですね。もっと小説読んで勉強しなくては............さて、天使の塵編も終盤に差し掛かってきてあと2~3話で終わると思います。これからの話も楽しんでもらえるように頑張りますのでどうかよろしくお願いします。



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対策

 

 

 

システィーナがレオスの求婚に答えたことが学院中に知られた日の昼、ルミアとリィエルは学院に来ない三人の話を中庭でしていた

 

 

「ナハト君に先生たち何があったのかな..............」

 

「ん。グレンたち心配...............それにシスティーナが変」

 

「うん............なんだか無理やりいうこと聞かされてるみたい..........」

 

2人だけで話しているもどうして今の現状に至ったのかわからなかった。ただ、一つ言えるのは一連の異変はすべてレオスが来てから起こっているということだけだ。

 

「................ルミア。グレンとナハトとセラに会いに行こう」

 

リィエルは自分が3人のように賢くないのを理解しているからこそまずは理由を知ってそうな3人に話を直接聞いたほうがいいと判断したのだ。

 

「うん..............今はそれしかないよね」

 

「ん。今から行く」

 

「え!?まだ学校終わってないよ?」

 

「?早くいったほうがいいと思ったけど..............変?」

 

リィエルは思い立ったが吉日と言うかのようにすぐさま行動に移そうとする。だがルミアもどちらにせよこのままでは授業にろくに集中できないと思ったので............

 

「あはは..........でも、そうだね行こうかリィエル」

 

そう言って二人は昼からの授業に出ることなく学院外に駆け出して行った...............

 

 

 

-----------------------------------------------------------------

 

 

ルミアたちはまずナハトの家に向かいそれからグレンの内に向かう予定だったのだがナハトの家にはだれもいなかった。そのため今はグレン宅の前に来ていた。

 

 

「ナハト君いなかったけど大丈夫かな....................」

 

「ナハトはすごく強い。だから大丈夫」

 

そして二人はグレンの家の呼び鈴を鳴らそうとしたとき....................

 

 

「あれ?ルミアちゃんにリィエル?こんな時間にどうしたの?」

 

 

そう言って後ろから声を掛けてきたのは副担任であるセラだった。そしてそのセラが肩を貸している相手が............

 

 

「セラ先生実は..................って、ナハト君!?」

 

 

ナハトはセラに肩を貸してもらいながらそこにいた。しかも見れば体中に血がべっとりついているうえ、マナ欠乏症の症状が出ているため顔色も悪くぐったりしていた。

 

 

「..............ん?ルミアにリィエルか.............何かあったのか?」

 

「何かあったじゃないよ!?大丈夫なのナハト君!!」

 

ルミアは顔色を変えすぐさまナハトに駆け寄り傷の具合をよく確認する。制服はいたるところ焦げていたり切れていたりとボロボロだ。そのため無数の傷口があるが幸いなことにどれもほとんど深くはない。

 

「ははは.................ちょっと大変な目にあってね..........とにかくまずはグレン先生にも伝えないといけないことが...............」

 

そう顔は笑っているもののどう見ても無理しているのがわかりルミアは表情をより悲痛なものにしていると.............

 

 

「おい...........人んちの前で..........って、ルミアにリィエルそれに白犬まで...........ん?ナハト!?お前ボロボロじゃねぇか!?」

 

 

そう言って出てきたのはグレンで目の前の状況に驚いている様子だった。

 

「すいません先生あげてもらってもいいですか?」

 

ナハトがそう言うとすぐにグレンはセラと変わりナハトを抱え家に入っていく。ルミア達もそれに続いてグレンの家へ上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで...............ナハトお前がそこまでボロボロになるとは何があったんだ?」

 

家に上がりナハトはプロ顔負けの医療呪文の使い手のルミアとセラによって手当をされベッドのある一室に寝かされながらグレンにそう問われる。

 

「覚悟して聞いてくださいよ先生。先生にとって嫌な思い出に触れることになりますから」

 

「?あぁ、わかった。聞かせろ」

 

天使の塵(エンジェル・ダスト)末期中毒者500人くらい相手にしてきました」

 

「!?天使の塵(エンジェル・ダスト)だと............てか500だと!?いや、それよりあれの製法はもう既に.........」

 

ルミアも一年前の有名な事件な事だけに天使の塵(エンジェル・ダスト)ときいて目を見開いて驚いていた。リィエルは軍人として関わっていたのにもかかわらずよくわかってないようだが..........

 

「そう消されています。でも、忘れてはいけないのはその製法を頭で覚えていて尚且つ作れる人がいることです。先生もよく知っているやつですよ」

 

「作れるやつ........................まさか!?」

 

グレンは思い当たる男の顔を脳裏に浮かべ驚愕と怒りの混じった声を上げた。

 

「えぇ、ジャティスですよ」

 

「なんでアイツが...............あいつは俺が!」

 

「魔術師にとって死を偽装する手なんていくらでもありますよ..........それに俺は昨日実際に対峙しました」

 

「なに!どういうことだ?」

 

それからナハトはレオスの事を踏まえジャティスとの戦闘と自分がボロボロになった経緯まで話す。

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------

 

<回想>

 

ナハトは昨日、ジャティスと交戦後、約500人の末期中毒者相手にセラをかばいながら戦った。

 

「ハアァッ!!」

 

「ぎゃあああぁぁぁ!」

 

(チッ!こっちから切り込むわけにはいかないのが辛いな)

 

ナハトはセラを傷つけさせないためセラを自身の間合いの中に入れておかないといけないためこちらからは動けず、向かってくる相手を倒し続けないといけなかった。だが当然相手は複数で同時に襲い掛かってくれば............

 

「!(捌けない)クッ!......オラァッ!」

 

末期中毒者は理性はなく獣のように襲い来る。ナハトはこちらにかみつこうとしてくる相手に自身の腕にかみつかせて防ぎ、そのまま振り払いまとめて複数の末期中毒者たちを吹き飛ばす。

 

「ナーくん!!」

 

「大丈夫セラねぇ............かすり傷だ」

 

(だがこのままじゃじり貧だ...........魔力は心もとないが魔術も使わないと防げない)

 

だが流石にそれだけでは数が多すぎるためカバーしきれないのでナハトは尽きかけの魔力を使い魔術を行使する。

 

「《紅蓮の獅子よ・荒れ狂え》」

 

二節で唱えられた【ブレイズ・バースト】は照準を定めずに5発の火炎弾を放ち末期中毒者の大群に突き刺さりこれで数十人は削る。

 

「《深紅の茨よ・刺し狂え》」

 

着弾して燃える炎を固有魔術【操火:フレイム・ソーン】で複数の茨にして末期中毒者を穿つ。【操火】はナハトの魔力特性を生かして火の形をいろんなものに変え、操作することのできる固有魔術。

 

だが、末期中毒者は生半可な攻撃にひるむことがないのが厄介な点でもある。火におびえず突っ込んでくる末期中毒者がいる。

 

「チッ!《爆炎纏え》」

 

黒魔改【クイック・フレア】は至近距離に迫った相手を剣や拳などに爆炎を付与して弾き飛ばす魔術。今回は剣に付与しての発動で斬撃とともに炎がはじけ相手は吹き飛ばされる。

 

(思っていた以上にヤバいな...........)

 

倒しても倒しても湧いて出てくる末期中毒者。さらに相手はひるむことは絶対ないため生半可な攻撃では止まらないという点で万全の状態でないナハトをじわりじわりと苦しませる。

 

だが、諦めるわけにはいかない。ルミアとちゃんと帰ると約束した。セラねぇを守り切ると決意した。

 

 

だから.............................

 

 

「はぁ、はぁ................あんたらには悪いとは思うが、譲れないもんがある。だから............」

 

 

 

息を大きく吸い込み末期中毒者をにらみつけ...........

 

 

「〝かかってこい!上等だ!全員まとめて返り討ちにしてやる!!〟」

 

 

 

右手の剣を向け大声でそう宣言した

 

 

 

それからも何度もかすり傷や体を盾に攻撃を受けたりして怪我をするも、持てる技を使い文字通り死力を尽くし戦い続け気づけば夜が明けていた。500人くらいとは言ったが実際はもっと多かったのかもしれないと思うくらいには長い戦いだった。

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「............とまぁこんな感じですよ」

 

「もう流石としか思えねぇよ..............」

 

ナハトが今回の戦闘のことを話し終えるとグレンはそう感想をこぼした。

 

「それよりグレン先生気を付けてください。近いうち必ず先生に対してジャティスは仕掛けてきますよ。アイツは先生に異常な執着がありますから」

 

ナハトがわざわざ自分の家でなくボロボロの状態でここに連れてきてもらった理由はそれを伝えるためだった。

 

すると話を聞いていたルミアが.....................

 

 

「ナハト君の言う通りなら学院にいるレオス先生は...............」

 

ナハトは話の途中レオスは天使の塵を投与され続け死んだことを告げた。だからこそ学院にいるレオスは十中八九...........

 

「学院にレオスが?なら間違いなくそいつはジャティスだろうな」

 

「な!?不味いじゃねぇかそれ!!」

 

慌てるグレン。昨日戦っているからこそすぐにでも向かおうとするが................

 

「今行ってもダメですグレン先生」

 

「何ってんだ!!あいつがどんな奴かお前も知ってるだろ!?」

 

「だからですよ.............おそらく高確率で今は動かない。先生に異常にこだわっているやつなら先生に時間を与えるはずです」

 

「時間を?なんでだ?」

 

「今の先生じゃ確実に負けて死ぬからですよ」

 

そう、〝今〟のままでは絶対に勝てないしジャティスはおそらく〝愚者のグレン〟と戦うことを望んでいる。だから先生が準備を整えるまでの時間はあるはずだ。

 

「................そうだな今の俺じゃ勝てねぇ。確実に死ぬだろうな」

 

「だから先生は準備に努めてください。一部の魔道具は俺のものを渡すのでそれ以外の準備を」

 

「そうだな..............昔に戻るみたいで嫌だがそうは言ってられねぇな」

 

「グレン君.....................」

 

セラはグレンが昔に戻るみたいだと言うと悲痛そうな顔になる。当然だろう、自身の大切な人が最も苦しんで忌み嫌うことをしなくてはいけないからだ。ナハトだってできればさせたくないが今の状態では時間までに回復が間に合う確証はない。

 

「ルミア、レオスは何か今後の予定みたいなのについて話してなかったか?」

 

「それならシスティの結婚式のことを話していたよ。多分ナハト君の話の通りならそこが期限なんじゃないかな?」

 

「システィーナの...................ってまさかアイツ........はぁ~ここまでのこだわりようかよ..........」

 

ナハトはシスティーナにやたらこだわっていた理由が今になってようやくわかった。

 

「ん?どうしたんだナハト?」

 

「先生。奴は一年前の再現をしたうえで先生と事を構える気ですよ」

 

「再現だと?どういうことだ?」

 

「システィーナはセラねぇの代役ってことですよ。今回こっちは相手が結婚式に動くと読むことジャティスは確実に読んでいます。そのうえで先生は登場してシスティーナを連れたって式場を後にすると考えるはずです。そこで奴は末期中毒者を送り込み先生もろともシスティーナを襲わせて一年前先生がセラねぇを守りながら戦ったあの時を再現して先生を少しでも《愚者》のグレンとして完成させ舞台に上げさせるつもりだと思います」

 

「なら白猫はおいていけば.............」

 

「それをするとシスティーナを人質にするか式場のなかでドンパチすることになりますよ。そんなことになれば先生は満足に戦えないです。それに人質と言いましたがジャティスは先生とさえ戦えればシスティーナが死のうがどうでもいいと考えているはずです。連れて行かないほうが余計に危険だと思います」

 

そう、置いていけばシスティーナは確実にジャティスの手の中で助けるのが余計に困難だ。だが、連れていけばうまいタイミングで逃がすことも可能だとナハトは考えるためグレンに置いていくのは得策でないと伝える。

 

「クソ!どっちにしろ奴の思うつぼかよ...................」

 

「俺も今は回復に努めつつ特務分室に応援を求めます。ただ、何とか間に合うか間に合わないかギリギリのところになると思いますが.........」

 

「しないよりましか...................わかった、そっちはお前に頼むから俺はさっそく準備はいる。詳細は終わってから詰めるぞ」

 

「はい、先生」

 

そう言うとグレンは素材の買い出しのために部屋を出る。

 

「セラねぇはことが終わるまでグレン先生の家にいて。万が一セラねぇも狙われたら大変だから」

 

「わかった。それじゃあナーくんもここでお姉さんがお世話してあげるね!」

 

「お手柔らかにお願いします。ルミアは何かあったら逐次教えてくれ。ただ無理に行動は起こそうとしないでくれ」

 

「わかった................でもナハト君も今はしっかり休んでね?きっとシスティの結婚式には万全でなくても動くんでしょ?」

 

俺は当然万全でなくても無理をしてでも動くつもりでいた。だがやはりと言うべきかルミアにはあっさりばれていた。

 

「心配かけてごめんなルミア。でも、システィーナは大切な親友だから」

 

「ふふ、わかってるよ。だから無理しないでとは言わない。でも、生きてちゃんと帰ってきてね」

 

「あぁ、当然だ..............リィエルは俺がいない間ルミアの事...........クラスの皆のことを守ってくれ」

 

今まで一切会話に参加せず集中して聞いていたリィエルに話しかける

 

「ん。まかせて、私が守る」

 

リィエルは任せろと言葉だけじゃなくその表情にも力強い意志が宿っているように見えた。それを見て本当に大きく成長したなと感慨深く感じていた。

 

それからしばらくは雑談した後ナハトは疲れから眠ってしまった。

 

その日は結局ルミア達も先生の家に泊まっていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その際、夜ルミアが勢いに任せナハトと添い寝したのは................多分秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こんな機会ないし..........せ、せっかくだしいいよね?..................うん、何もしないし大丈夫だよね?////////)

 

 

 

その夜、ルミアはそれはそれは幸せな気分で寝ることができたとか。

 

 

 

 

 

 

 






今回はここまでです。次回はジャティス戦まで行く予定です。上手くいけば次回で天使の塵編は完結すると思います。でなくても恐らく後二話以内には終わると思います。それとシスティーナのヒロイン追加ですがアンケート見た限りでは微妙ではありますが賛成優勢なのでナハト側のヒロインにしますが、ハーレムエンドにはするつもりはないです。イヴもヒロインにする予定ですがあくまでサブでいくつもりです。(SAOのキリトのような感じです)ただ、その二人に関しては番外編か何かで二人がメインの回もかくつもりではあります。イヴに関してはルミアの次に好きなヒロインなので特に書きたいと思っています。


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銀の少女は彼を光に導く

 

 

 

「よし............準備は完璧だな」

 

グレンは自室で今日実行する作戦のための準備の確認を済ませていると

 

コンコン

 

「はいよ~」

 

「先生準備は整いましたか?」

 

そう言って部屋に入ってきたのは特務分室の礼装を身にまとい、その上からローブを羽織ってる仕事姿のナハトだった。

 

「お前はその恰好なんだな」

 

「えぇ、恐らく奴は先生が作戦通りに動いたら式場にも末期中毒者を送り込んでくると思います。だからそれの対応を特務分室でやります。終わり次第援護に向かいます」

 

「なるべく早くきてくれよ?ブランク以前に憎たらしいが奴は強いからな」

 

「わかってます。ここの安全も確実に確保したいので少ししてから俺も式場に向かいます」

 

グレンが住むアルフォネア邸にセラを残していく予定であるナハトは準備期間のうち回復に専念する以外に屋敷全体にトラップを仕掛け難攻不落の要塞にしていた。今日はすべての罠の確認を念入りにしていくために遅れてナハトとしてではなく《月》のフレイとして式場に向かう予定だ。

 

「それじゃ俺は準備が終わったから行くな」

 

「わかりました。最後に一ついいですか?」

 

「なんだ?」

 

ナハトは真剣な表情でグレンの目を真正面からみて次の言葉をかけた。

 

「死なないでくださいよ。貴方は〝俺達の〟恩師なんですから」

 

そう..............貴方はもう《愚者》のグレン=レーダスじゃない。貴方は《魔術講師》のグレン=レーダスだ。過去は消して消えない。それでもこの人が《愚者》として生きなくていいのはわかる。この人は《教師》だ。これからは《教師》として眩しいこの光の世界にいるべき人なんだ。

 

「死なねぇよ。俺のしぶとさはお前も知ってるだろ」

 

「そうですねゴキブリ並み...............それ以上ですもんね」

 

「ひでぇ例えだな」

 

そんなやり取りをしていつも通り笑いあうとグレンは式場に向かうため歩き出す。そしてすれ違いざまにお互い手を掲げ………

 

 

       〝パンッ!!〟

 

 

乾いた音のが響くとグレンはそのまま何も言わず、こちらを振り返ることなく静かに歩んでいくのであった。

 

 

(俺は〝こちら側〟だから.............貴方の事本当に尊敬してるんですよ?)

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

式場では二組の生徒たちがシスティーナ側の参列者席に座りこれまでの異常に怪しんでいた

 

 

「グレン先生はともかくとしてセラ先生とナハトがいないのはおかしくね?」

「そうだよな.........グレン先生はともかくあの二人に限って変だよな」

「そうですわ!システィーナも何を聞いても答えませんし………何かあったとしか....................」

 

若干グレンが無慈悲にディスられているが不安に感じる生徒が大多数でこれから始まる式に集中できていない様子だった。

 

生徒たちがひそひそ話していると式の始まる合図の鐘がなり、花婿姿のレオスと花嫁姿のシスティーナが現れ祭壇の前まで歩いていく。

 

「レオス=クライトス。汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、共に支えあい、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「誓います」

 

「システィーナ=フィーベル。汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、共に支えあい、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?」

 

「..............誓います」

 

システィーナはレオスと違い躊躇いがちにぼそりと宣誓する。

 

「今日と言う佳き日に、大いなる主と、愛する隣人..........................

 

 

司祭が最後の祝詞に入る途中、ここで彼は現れる。

 

「その結婚意義ありだあぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

式場の扉をけ破り現れたのはグレンだった。

 

そしてグレンは大きく振りかぶり手に握ったけむり玉を投げ込むと煙が式場を包み込む。その煙はとても濃く張れるまでにかなりの時間がかかる。そして、その瞬間その場にいるものはシスティーナの姿が消えているのを確認すると二組の生徒は事態はつかみ切れていないが大きな歓声を上げていた。

 

 

だが、レオスもいなくなっておりその代わりに.........................

 

 

 

「ぐおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

レオス側にいた参列者たちと外から入ってくる大量の天使の塵エンジェル・ダスト末期中毒者たちが雄叫びを上げ襲い掛かろうとしていた

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------

 

 

グレンはとっくに式場を後にしたとき式場は混乱の渦に包まれていた

 

 

「な、なんだよこいつら?」

 

生徒たちは異常な人間たちに恐怖を覚え震えていた。そんなみんなを背にかばいながらリィエルが隠す爪(ハイドゥン・クロウ)で作り出した大剣を構えいつでも迎え撃てるという状態で睨みつけていると..............

 

 

    〝パリーンッ!!〟

 

天井を突き破り複数の影が式場に飛び込む。

 

そのうちのフード付きローブの者が呪文を唱える

 

 

「《紅蓮の竜よ・猛き咆哮もって・蹂躙せよ》」

 

 

黒魔改【ドラゴニック・フレア】竜のブレスのごとく熱線が迫りくる末期中毒者を焼き尽くす。

 

 

「す、すげぇ!なんだあの火力………」

 

生徒のうち誰かがそう呟くのが聞こえた。そんな風に呆然としている生徒達にアルベルト達は軽く挨拶をする。

 

 

「俺はアルベルト=フレイザーだ。帝国宮廷魔導士の一人でお前たちの味方だ」

 

「僕も同じくクリストフ=フラウルです」

 

「儂はバーナード=ジェスタじゃ」

 

そして.....................

 

「俺はフレイ=モーネです。皆さんはここは自分たちにまかせて外に逃げてください。リィエルみんなを頼む」

 

ナハトは正体を明かさずクラスメイトにそう言うとリィエルに指示を出す

 

「ん。任せて.............みんな行って!」

 

 

リィエルはみんなを外に誘導して逃がす。みんなが走り去っていく中ルミアと目が合う。

 

 

(頑張ってねナハト君)

 

本当にそう思ってるかわからないがナハトは多分ルミアがそう思っていることを確信していた。だからナハトは小さくうなずき返した。

 

 

「さて、全員避難できたようだなナー坊よ」

 

「翁、任務中にその呼び方はダメだ」

 

アルベルトがそう言うと変わらない軽い調子でバナードは謝罪する

 

「おっと!そうだったな、悪かったなフー坊よ」

 

「いいですよ。それよりもバナードさん敵が来ますよ?クリストフさんどれくらい来ましたか?」

 

ナハトはそれよりも現状の敵だと考え既に索敵結界を張っているだろうクリストフに尋ねる

 

「すぐに200人の末期中毒者が来るよ。」

 

「200かい...........かぁ~面倒だのぉ」

 

「翁文句を言うな。............構えろ、来るぞ」

 

バナードがめんどくさいと思うのを隠さずそうぼやくとすぐにアルベルトが注意をする。そしてそのあとすぐに末期中毒者が来た

 

「「「「あぁぁぁぁぁぁぁ」」」」

 

 

 

「さて皆さんいきましょう」

 

ナハトがそう言うと各々戦闘態勢に入るのであった

 

 

 

------------------------------------------------------------------

 

 

 

ナハト達が戦闘を開始してしばらく、そのころグレンはシスティーナの手を引き迫りくる追手............末期中毒者達から逃げていた。

 

グレンは連れ去ってすぐにシスティーナに何があったか聞いてると予想通りではあるものの末期中毒者の追撃が始まりシスティーナをかばいながら苦しい逃走劇をしていた。

 

 

「チッ!《駆けよ風・-》」

 

俊敏な動きで襲い来る中毒者たち。だが、グレンはある程度油断していたことであるため呪文を唱えながら飛び上がり襲い来る中毒者を蹴り飛ばす。

 

「《駆けて抜けよ・-》」

 

さらに襲い来る中毒者に仕込んでおいた鋼線で足をからめとりそのまま壁に投げ飛ばす

 

「《打ち据えよ》!」

 

完成した【ゲイル・ブロウ】で複数の中毒者を吹き飛ばしシスティーナを守り切る

 

「悪い..........行くぞ白猫」

 

 

グレンはシスティーナに謝罪するとまた手を引いて逃げ始める。しのいだばかりなのにまだ近くから中毒者たちのうめき声がするからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、先の戦闘からすぐにまた多くの中毒者たちが迫ってきており迎撃せざるおえない状況に陥った。

 

「オラッ!」

 

グレンは多くの魔導器を使い必死にシスティーナを守り切る。中毒者は皆グレンではなくシスティーナを執拗に狙って襲い来る。

 

(怖い.............怖いよ..............ごめんなさい先生)

 

システィーナは守られてばかりの現状と〝グレンに恐怖を抱いてる事〟ことに対し心の中で謝罪していた。だが、それも無理はない話だ。グレンは今昔の感覚を取り戻していってるため普段のグレンの様子とは全く違うものだ。システィーナも自分を守ってくれるためと言うのは分かってはいてもシスティーナ良くも悪くも〝普通の女の子〟だ。こんな状況下でおびえるなと言うのは無理な話だろう。

 

 

だが、システィーナが恐怖に捕らわれていること。グレンの余裕の無さが二人との間に心理的な距離と物理的な距離を作ってしまった。

 

 

(しまった!前に出過ぎた!!)

 

 

2人との間に大きな距離ができてしまいシスティーナを狙って5人の中毒者が素早い動きで襲い掛かる。

 

(あ................)

 

システィーナは恐怖で魔術の起動も逃げることもできずに固まってしまう。グレンも距離が空きすぎたため〝殺さず〟の対処は無理と考え国区の表情で魔銃を引き抜きうとうとしたその瞬間............

 

 

「《深紅の竜よ・ー》」

 

〝ヒュンッ!〟   〝グサッ!!グサッ!!〟

 

 

詠唱の声と黒と白の夫婦剣が鋭い風切り音とともにいち早く迫りくる中毒者二人の急所に突き刺さり、勢いのまま二人を吹き飛ばすと............

 

 

 

「《ー・我が敵を喰らえ》」

 

 

赤い炎の竜が大きく口を開け残りの中毒者に食らいつきながらそのまま壁に突き刺さし焼き消す

 

 

「無事かシスティーナ!!」

 

そう言って後ろからフードをめくりながら駆け寄ってきたのはナハトだった。ナハトは二人を見た瞬間に距離があって先生じゃギリギリだと判断したのですぐに剣を投擲し、【操火:炎竜の顎】で迎撃したのだ。【炎竜の顎】のメリットは射程が長く、軌道を自由に変えられるため利便性の高い技だ。

 

 

だが、安全を確認したいのはやまやまだが建物の上からまた多くのものがとびかかってくる。

 

「クッ!《紅蓮の竜よ・蹂躙せよ》!」

 

黒魔改【ドラゴニック・フレア】を二節で詠唱し左手を大きく振り払うようにして全方位に高火力の熱線で消し飛ばす。

 

「ぁ、あぁ...............」

 

「ごめんシスティーナ!.............先生走って!!」

 

この場にとどまるのはまずいと判断したナハトは投擲した剣を死体から引き抜きグレンに声を掛けてシスティーナの手を引き走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして開けた場所にたどり着いた。予想通りならここが決戦場だ。

 

 

「すまないナハト...........」

 

グレンは同級生の前でナハトに殺しをさせたことに謝る。

 

「気にしないでください。必要なことですから」

 

ナハトは何でもないようにそう言い切る。あの場での最善はそうすることだった。確かにナハトの実力をもってすれば〝殺さずに〟と言うのも可能だったかもしれない。だがそれでは確実ではない。だからこそ必要だったとナハトは言い切る。確実を取るために当然だとナハトは思っていた。そう、〝この時〟までは..........

 

 

ナハトは確実を取るため当然とは考えているが流石にクラスメイトの前でしたことは謝るべきだと思いシスティーナにけががないか尋ねることをついでに近寄る。

 

 

「ごめんな気分の悪いもの見せて。怪我とかは...........」

 

 

そう言い手を伸ばす..............だが

 

 

「ッ!?嫌!さ、触らないで!?」

 

「!」「ッ!」

 

システィーナはナハトが近寄ると震えながら一歩後ろに避けるように逃げた。

だが、すぐに自分の行動を理解してシスティーナは謝る。

 

「あ...................ご、ごめんナハト...............」

 

システィーナは泣きそうな............いや、涙を流しながらそう謝っていた。自分でも助けてくれるためにしたこととわかっているのに、感謝するべきなのに自分が避けてしまったことに後悔しながらシスティーナは謝る。

 

 

「ごめん.................俺のことそりゃ怖いよな。システィーナは気にしなくていいよ。悪いのは俺だから」

 

「ぁ..........」

 

 

ナハトはフードをかぶり顔を見せないようにして背を向けた。人殺しの顔など見たくないと考えたからだ。ナハトはもう殺すことにためらいはない。嫌悪感を抱いても必要だとなれば躊躇いはない。初めからナハトは分かっていたのだ自分が汚れた殺人者なのだと。ナハトはルミア達と楽しく過ごしている内に〝自分がここにいていいのか〟と考えたこともあった。でも、楽しかった...............楽しすぎたのだ。だからこそ、〝こういうこと〟になるまでずっと具体的なことを考えていなかった。

 

 

(俺は...........未熟だな。ここまで怯えさせたんだ責任を取らないとな.....)

 

俺は決戦を前にした先生のもとの歩み寄り声を掛ける

 

「先生...........これを切り抜けたらシスティーナたちのこと頼みますね?」

 

「何を言って............まるでいなくなるみたいな..........」

 

「俺はこの事件解決後皆から〝俺の記憶を消して〟裏から守ることにします」

 

ナハトは責任を取るため固有魔術で一人一人から俺の記憶を完全に消すことにした。今になってようやく考え付いたこと。そもそもの話学生として任務につかずとも遠距離からでもできたことをしなかったのが悪かったのだ。

 

「何言ってんだ!そんなこと!」

 

「最初からわかってたんです。俺が学生するには汚れすぎてるって」

 

そう、いくらルミアがそのことを気にするそぶりがなかったからってそのことに甘えすぎていた。

 

ナハトは表情が見えないもののシスティーナのほうを見てから歪な........壊れそうな雰囲気で口を開く。

 

「俺は先生と違って偽りばかりで............根っからの〝殺人者〟ですから」

 

ナハトは本当の顔すら使わず、こうして隠してきたのだ。とんだ卑怯者だと考えていた。

 

「............!」

 

(いくら...............いくらこいつが俺より強くて、大人っぽくて、尋常じゃない数と状況の修羅場くぐってきたとはいえ俺はなんてことを!年相応なことして楽しんでたやつを俺はッ!?)

 

 

グレンはナハト過去を聞いたからこそ余計に後悔した。ナハトは自分よりも若くして特務分室に入った。それも9歳という幼少期ともいえるほどの年齢でだ。そのころからナハトは生きるためとはいえ悪い魔術師を殺してきたり、それに加担してきた。それがどれほど幼いナハトを歪めたのか想像に難くない。だがそれでも学院でのナハトは楽しそうだった。自身の弟のようにも思っていたからこそグレンもうれしかった。なのにこんなことになってしまってと考えていた。

 

「優しい先生は気にするなと言っても気にするでしょう............だから先生も消しておきますから」

 

「馬鹿なこと言うな!それにまさかお前ルミアからも消す気か!!」

 

「............そうですね。消しますよ、こんな殺人者なんて知らないほうが幸せですよ...........きっと」

 

ナハトはそう言ってるがグレンは息をのんだ。なぜなら...................

 

(お前..........今自分がどんな雰囲気かわかるか?)

 

 

 

 

 

(今のお前は................物凄く『辛そう』だぞ.......)

 

 

 

 

 

 

グレンから見たナハトはとても今までに一度も見たことない弱弱しい姿に見えた。泣いているようにすら見えた。だがナハトは苦しいことは自覚していてもその理由は今のナハトには分からなかった。

 

グレンがナハトにどう声を掛けようか悩んでいると............

 

 

「いやぁ、見事だよグレン。よくその小娘を守ってここまでたどり着いたね?まぁ、ナハトがいたことも大きいけど」

 

狂人は笑いながらそう言って現れた。そう笑ってだ。とても歪な笑みで、目の前のグレンたちをぎらついた目で見て笑ってる姿は狂人と言う言葉がとても似あうものだった。

 

「このあいだぶりですね............ジャティス」

 

「あぁ、ナハトか。よくあの状況でセラを守り抜きその程度のけがで潜り抜けたね。正直今日は動けないと思っていたのに〝読めなかった〟よ」

 

「生憎と頑丈な体なのでね」

 

ナハトがジャティスと言いあっていると...............

 

 

「てめぇ!今回のレオスの件と言い俺が目的なんだろ!!」

 

「あぁ、そうだとも!もっともナハトがそれにたどり着き君に教えたみたいだけど」

 

そう当然だというように言い切るジャティスにグレンの怒りは高まる

 

「本当に苦労したよ。君を引き出すためにレオスを使ったのにその時点でナハトが疑って出てくるから参ったよ。ナハトは特務分室の中でも特に厄介だからね............500人相手に魔力尽きかけでロクな戦闘ができないセラを守りながらなら殺せなくても動けなくなるくらいの消耗はしてくれると〝読んだ〟のにこの場まで出てくるから本当に肝が冷えるよ」

 

 

「お前.........どうしてそこまで俺にこだわる!!」

 

グレンは自分の生徒たちに余計なことを背負わせる羽目になった原因に激昂する

 

「正義のためだよ」

 

「は?」

 

「君たちは知らないだろうけどこの国はあってはいけないんだよ。邪悪な意思のもとに作り上げられた魔国」

 

ジャティスはいきなり語りだすためその場にいた三人は呆気にとられる。だがそんなことをお構いなしに語り続ける。

 

「僕はこの世界の真実を知った。本当の悪が何なのか気づいてしまったのさ!それを見て見ぬふりをするなど僕の正義が許さない!故に!一年前、僕は正義を執行したんだ。この機に道上げ、与する偽善者どもを根絶やしにするために動いた。だが!そんな僕の前に君が立ちふさがった!僕の正義が君の正義に負けたのだ!」

 

ジャティスは演技っがかった様子でそう熱く語る。その様子はまさしく演者が物語に入り込んでるようだがいってる意味が分からないものが多かった。

 

 

「僕の正義が《愚者》の正義に負けていいはずがない!だからこれは君への挑戦だ。どちらの正義が勝っているかを決める....ね」

 

「いてぇよお前..................」

 

「先生大分好かれてるみたいでよかったですね」

 

「よくねぇよ!勘弁してくれマジで.........」

 

そう言って俺は剣を引き抜き臨戦態勢を取ろうとすると..................

 

 

「ナハト.......お前は手を出すな」

 

グレンはナハトの前に出るとそう言った

 

「何言ってるんですか?先生一人じゃ不利すぎですよ?」

 

この間は追い込んだとはいえ彼は本当に強い。前回のだってもしかしたら負けていたっておかしくないのだ。ナハトがいても確実に勝てるという保証はないのに何故と考えていた。

 

 

「アイツの狙いは俺だ。なら俺一人でやって白猫を安全に逃がすのが得策だ」

 

「それはそうですが.............」

 

グレンは表情の見えないナハトのほうに振り返りナハトの顔を正面から見つめながら短く..........

 

「頼む」

 

強い意志のこもった目でそう言った。流石にそう言われてはナハトも納得しざる負えなかった

 

「............わかりました。でも、逃がしたらすぐに向かいます」

 

「それでいい..............白猫悪いな。ナハトとここから去れ」

 

「え?」

 

「おいジャティス!お前の目当ては俺なんだろ?ならナハトとシスティーナは関係ないな?」

 

「そうだねぇ、ナハトはいてもいいけどいないほうが君と戦うのに盛り上がっていい。それにそこの小娘はもう邪魔だしね。....................早急に消えてほしいくらいだ」

 

 

ジャティスはそう言って冷たい視線をシスティーナに飛ばす。その視線を受けたシスティーナは顔を青ざめて後退する。そんな視線の間にナハトがかばうように入り込む。

 

「用がないならそんな目を彼女に向けるな」

 

「くくく、すまないねぇグレンと戦えると思うと昂ってしまってね?」

 

その言葉を聞いた後ナハトはシスティーナに一回手を伸ばしそれを一度引っ込め躊躇う様子を見せるがどうせ後で記憶を消すのだと自分に言い聞かせシスティーナの手を取った。

 

「先生..........俺が来るまで持ちこたえてくださいよ」

 

「無茶言うな.......................だが、まぁ〝生徒〟の言うことだ。できるだけ聞いてやるよ」

 

それだけ聞いたらナハトはシスティーナを連れ走り出す。

 

 

 

「さぁ始めようかグレン?」

 

「.......あぁ、このクソッタレが!!」

 

 

そう言って二人の死闘の幕が開かれるのであった

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

ナハトはシスティーナを連れて走り続けた。目指すのはアルフォネア邸だ。自分で大量に仕掛けた罠のあるあそこなら最も安全だろうと判断したのだ。そう考えながら走り続けているとシスティーナが辛そうにしているのがわかる。すぐにナハトは立ち止まりシスティーナを気遣うようにうかがう。

 

 

「ごめんシスティーナ大丈夫か?無理なら抱えるが..........」

 

ナハトはそう言ったものの自分の手を見て果たしてそれは俺がしていいことなのかと考えていた。いや、そもそも俺と二人でいるのさえ彼女を傷つけているのではと思っていた。

 

「俺が怖いのは分かる.............でも、無理はしないで俺を利用してほしい。辛いなら言ってくれれば君を抱えて逃げるから」

 

 

システィーナは話しかけても何も返さず黙り込んでいた。ナハトはどうするべきかと悩んでいると.........

 

 

「ごめん................ごめんねナハト私.................」

 

システィーナの口から謝罪の言葉が出てきた。

 

足手まといなこと。親友なのに................自分のことを大切な親友だと思っていてくれたのに避けてしまったことを謝る。システィーナは恐怖と罪悪感に苛まれた末の純粋な謝罪だった

 

「いいんだよ、俺が悪いんだから。だからシスティーナは俺の事なんてさっぱり忘れればいい。今日が終われば楽しい日々に戻れるから..............」

 

そう言い一度区切るナハト。するとフードをめくりシスティーナと正面から向き合い話続ける

 

「だから今だけは.............最後にもう一度だけ信じてくれないかな?どんなことになっても君を守るから。俺は君の親友だったんだから」

 

そう言って微笑みかけるナハトを見てなんでそこまで戦えるかと思った。どうしてそんなに苦しそうにしてるのに守るといってくれるのかと思った。だから、システィーナは無意識のうちに聞いていた..........

 

 

「どうして...............拒絶したのに................そんなに苦しそうなのに.............どうして...........」

 

 

「大切だからかな」

 

だが、ナハトは気づいていないがそれだけじゃない。ナハトは恐怖してるからこそ助けることに執着している。

 

 

ナハトは大切に思う人に非常に義理堅くなる。それは自分が捨てられるのが無意識に怖がっているからだ。かつて家から追放された時のことが気にしていないようで無意識化でトラウマになってしまっているのだ。自分が守れば相手は離れていかないと心のどこかで思い続けているからこそナハトは今ほどに歪んでいるのだ。その結果自分の意思で守りたいと思ったルミアの時の想いさえ忘れ行きついたのはシスティーナや辻褄合わせにみんなの記憶を消そうとしているのだ。記憶さえ消せば嫌われたことさえなかったことにできるとどこかで思っているからだろう。

 

 

「それだけなの?本当にただそれだけで...........拒絶した私を助けるの?」

 

「それだけ...............じゃないかもな。わかんないや。でも守らないとって思うんだ」

 

システィーナはそういうナハトを見て微笑んでいるが何となくナハトが苦しんでいるというよりも何かに怯え、歪んでしまっているように見えた。そしてそれには既視感もある気がした。だから...............

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナハトは...............もしかして嫌わるのが怖いの?」

 

システィーナは思いついたようにナハトの心の奥底に抱えているものを直感で探り当てる。ナハトは守ることや大切にすることに普段から固執していたように思い至った。システィーナも最初は違和感を感じたが、ただ人がいいと思っていた。でも、そうじゃないと今わかった気がした。

 

 

「え?」

 

「ナハトはルミアによく似ている。だから何となくそう思ったの」

 

ルミアもいい子であろうとしているとシスティーナは感じていた。勿論彼女は元から優しい子なんだというのは分かっている。だが、それだけでもないのは付き合いが長いシスティーナは感じていた。それと似たものをナハトに感じたのだ。

 

「そうか...........多分........いや、間違いなく言う通りだと思う.....」

 

 

だがそれに気づいてしまったシスティーナは余計に罪悪感を感じた。あの強くたくましいナハトがここまでおかしくなってしまうことを自分がしたのだと思い自己嫌悪に陥っていると...............

 

 

 

 

「例えそうでも俺は...........自分が嫌われたくないだけだとしても..............システィーナを守りたい。嫌われるよりも...............システィーナが...............ルミアが............大切な人たちが傷つくほうが嫌だから」

 

ナハトは己が恐れているのを理解してそのうえでそう宣言した。純粋に心から何のしがらみなく守りたいのだとそう宣言したのだ。

 

(そっか............嫌われたくなくても怖くても大切だからナハトは戦うのね私は..............)

 

システィーナはその時グレンから聞いた言葉を思い返していた。

 

それは朝稽古をつけてもらっていたある日「どうして恐怖を感じず先生は戦えるのか?」と聞いた時のことだった。前の学院のテロ事件で先生とナハトは怯えずに戦っていた。先生は傷だって負っていたのにもかかわらずなのにだ。だが帰ってきたのは予想に反し「自分も戦うのは怖いという」回答だった。

 

それに続きグレンは自分の経験の基づく持論を語ってくれた。

 

そしてその中でも『自分がなぜ力を手に入れたのか。自分にとって何が大切なのか』と言うフレーズが今のシスティーナの頭によぎる

 

 

(何のため............私もルミアを......大切な親友を守りたいと考えたから)

 

そう、親友である彼女が大切だから守りたくて力を欲し、手に入れたのだ

 

(私が大切なのはルミアがいてリィエルやナハトや先生方がいて、みんなで笑いあう日常)

 

そういつも通り楽しく過ごす日常が何よりも大切なのだ。だが、このまま逃げたらどうなる?

 

ナハトはいなくなり、先生もいないそんな世界。考えただけで寂しくて.................何よりも恐ろしく感じた。それこそあのジャティスの冷たい視線よりもずっと怖い。

 

(嫌だ!ナハトが...........グレン先生がいないなんて嫌だ!絶対に嫌なんだ!!)

 

「ナハト..............私決めたわ」

 

「システィーナ?」

 

 

「私先生を助けに行くわ!何ができるか...........いえ、何もできないかもしれないけど...........でも、先生があの人に殺されるのは嫌なの!」

 

「そうか...............わかった。行こう先生を助けに」

 

ナハトは一瞬驚いたが彼女の決意の固さを見て先生の救援に向かうために歩き出した。すると.........

 

 

「ナハトもいなくならないでね!」

 

「え?」

 

「私やみんなの記憶を消していなくなろうとしてるんでしょ?私はそんなの嫌なの。それに私やルミアのこと守りたいんでしょ?ならずっとそばにいて守ってよ。..................記憶を消して、なかったことにしていなくなるなんて言わないでよ............私も貴方が本当に大切なのよ.............お願いよ、私のそばからいなくならないで」

 

システィなは最初は気丈に振舞っていたものの最後になるにつれ涙をこぼしながらそう言い切った

 

 

(あぁ、ほんと俺って未熟者だな。大切な〝親友〟泣かして………)

 

 

ナハトは自己嫌悪しながらも決意を決めたようで歩み寄る。そして、先程まで手を伸ばすことを躊躇っていたが今度はためらわずシスティーナの頭に手を乗せた。そして....................

 

 

「わかった。俺が近くで守り続けるよ。いなくなったりしない。〝三人〟で帰ろう」

 

 

システィーナはナハトの言葉に涙をぬぐい笑顔で頷いた。それを見たナハトも微笑み軽くシスティーナの頭を撫でると先に歩き始めた。

 

システィーナはナハト本来の温かさに触れ安心し、ナハトの背を追うように歩き始めるのであった。

 

 

 

 






長くなりましたが今回はここまでです。今回はナハトの歪さをテーマにしました。この話はなくてもよかったのですがナハトがただ強い主人公っていうのもそれはそれで何か違うと思ったのでそうしました。普通に考えて幼い子が親から追われることになればどれだけ姉に愛されても傷は残りますよね?それに幼いころから人を殺すことを生業にしていればと思えばなおさらですよね。この話はルミアでもよかったのかもしれませんがリゼロのスバルとエミリア、スバルとレムの関係を意識しつつ、システィーナが普通の女の子であることから彼女が適任だと思いました。さて、あと一話か二話で天使の塵編は終わるので最後までしっかり頑張ります!



そして、今回もここまで読んでくださりありがとうございました。また、いつもコメント、お気に入り登録、評価をしてくださりありがとうございます!



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〝三人〟の戦い

 

 

 

「はぁ............はぁ...........クソッ」

 

息を荒げながら膝をつくグレン。そんなグレンの視線の先には五体満足で何の消耗のないジャティスがいた

 

 

「.......勝負あったねグレン」

 

 

グレンはあらゆる魔道具や巧みな戦闘で健闘したが、最後には圧倒的な差の前に膝をつき憎しみのこもった目でジャティスを睨みつけることしかできない状況にまで追い込まれていた。

 

「惜しいな..........もし君が『イヴ・カイズルの玉薬』を入手するかナハトと組んでいればまた違った結果になっただろうに。まぁ、前者は軍属でない君には無理か」

 

憎たらしいがグレンはそのジャティスの発言を正論だと認めざるおえなかった。ジャティスの言う通りあの玉薬かナハトがいれば確かに結果は違っていただろうと考えていた。

 

「だが、この勝負は僕の勝ちだ!魔導士として全力の君を.........ついに僕の正義が打倒したんだ!やはり『禁忌教典(アカシックレコード)』を手にする資格が僕にはあるんだ!グレンと言う選ばれた人間を倒したんだから!」

 

グレンが絶望していると反対にジャティスは歓喜していた。それはもうこれ以上ないくらいに騒いでいるのだ。その上、自分と言う三流魔術師風情に勝って何がうれしいのか、そしてジャティスの意味不明な発言など理解に苦しむ。だがもうそれは今となってはどうでもいいことだった。

 

「ガタガタうるせぇよ..............殺るならとっとと殺れよ」

 

「あぁ、勿論さ!だが、ずっと待ち焦がれた勝利に、つい浮かれてしまう僕の気持ちも理解してほしい」

 

そしてジャティスは穏やかな笑みで続ける

 

「安心してくれグレン。君は苦しませずに一瞬で殺す。それが、かつて僕の正義を脅かした唯一無二の人間に対する最大限の敬意と礼儀だ.......」

 

「フンッ.......ありがとよ地獄に落ちやがれ」

 

「それと、ナハトやシスティーナにセラは殺さない。ただ、歯向かってきたらその限りではないけど」

 

「そうかよ」

 

するとジャティスは指を鳴らすと自信を囲んでいた人口精霊タルパ【彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・銃刑】の銃口をグレンに突きつけ引き金が引かれようとしているその時........

 

 

「神千斬り!!」

 

「《集え暴風・戦槌となりて・打ち据えよ》!」

 

 

 

「何ッ!?」

 

彼の得意技である黒い獄炎の斬撃が高速で放たれ、さらにそこに追撃が放たれる。

 

ジャティスは咄嗟のことで新たに自身の盾である【彼女の御使い(ハーズ・ライト)】の展開が間に合わず、現在展開している人口精霊タルパで防ぐ。だが、火と非常に相性の良い風の破城槌が突き刺さることでさらに獄炎の火力が跳ね上がり、ジャティスはたまらず吹き飛ばされそのまま獄炎が雷鳴にも劣らない轟音を上げ弾ける。

 

 

漆黒の獄炎の使い手はどこを探しても〝1人〟しかいない。だからこそグレンは一人の正体は分かる。そしてジャティスも『彼が戻る』ことは想定内だった。だが、『〝彼らが〟戻ってくる』のは想定外だった。そんな風の魔術を使ったものは...................

 

 

 

「よく燃えるな~やっぱシスティーナ(の魔術)と相性いいな俺」

 

「あ、相性がいいなんてそんな///////////」

 

そこには呑気にそういう右手の剣を肩に乗せているナハトと火の魔術と風の魔術との相性の事を誤解して赤面している〝システィーナ〟だった

 

彼と彼女はグレンをかばうように前に立ち燃え上がる黒炎を見ていた。その二人の背中は先程立ち去った時と違いより一層たくましい背中だった。

 

「なっ!..........なんでお前らがここにいるんだよ!?おい、ナハト!お前に白猫は任したって言っただろう!それが何で二人でここにいる!ここは白猫がいていい世界なのはお前もわかって............」

 

いくらたくましい背中だと感じてもグレンはそんなことよりもなぜこんなことになっているのかと二人に激昂する。だが..........

 

「そうですね..........私がいていい世界ではないです」

 

グレンの言葉を遮ったのはだれよりも怯えていたはずのシスティーナだった。

 

「でも...........ナハトや貴方がいていい世界でもない」

 

「!?」

 

「先生さっきの俺はどうかしてたからさっき言ったこと撤回します..............ちゃんと〝三人〟で帰りますよ先生」

 

「ナハト............お前.........」

 

「そうです、私達は貴方を連れ戻しに来ました」

 

グレンは二人の発言に呆気に取られていた。でも............

 

 

「いやおかしいだろ!?俺は...........白猫、俺はお前を.........学院の奴らをだましてたんだぞ!」

 

「何言ってるんですか先生?そんなこと言ったら先生以上に俺は皆をだましてますよ?まぁ、俺も人のこと言えないですがシスティーナがいなくなったら悲しいっていうので居なくなれなくなりましたよ」

 

ナハトがそう自分とグレンに向け呆れたように笑う。本当のことを皆に言えないのは罪悪感を感じる。だが、まだそれを言うべきじゃない。

 

「お前..............」

 

「先生私今すごく怖いんです。でも、それはあの男の事じゃなくてナハトや先生が居なくなった世界を想像したからなんです。普段はロクでなしのくせに..........こういう人知れないところで傷ついて、私たちを守ってくれて...........。でも、今回のことで分かったんです!私たちの日常の中にグレン先生が.............貴方がいるんです!」

 

その心からのシスティーナの叫びをグレンは黙って耳を傾ける。そしてそれはナハトも同じだ。

 

「私は今の先生も肯定するわ!だから...........だから、帰ってきて先生!私たちに............もっといろんなこと................教えてよ〝先生〟!」

 

「今回は俺も先生と同じようなもんなんで後で一緒に怒られましょう.........セラねぇに」

 

「白猫...............ナハト.........」

 

決意のこもった瞳のシスティーナに普段通りに戻った..............いや、より一層頼りになる顔つきになったナハトを見てグレンは次第に憑き物が取れたように穏やかな表情になる。

 

するとその時だった............

 

 

「やれやれ..............」

 

天使の肩に手をかけ黒炎を割って出てきたジャティスはグレンたちの数十メートル前に降り立った

 

「折れた左足と右腕をつなげるのに.............さらに火傷と黒炎の対処に少し時間がかかってしまったよ.............」

 

静かにしていたジャティスはどうやら治療に専念していたようで礼装の端々は焼け焦げているが大きなけがの対処は済んだようだった

 

「ジャティスさんでしたっけ?貴方との確執は少し聞いたことがあります。ですが、もう二人にかかわらないでください。貴方と先生たちが住んでる世界は違うんです」

 

涙をぬぐいそまま睨みつけたシスティーナはジャティスにそう言い放った

 

「は?君は何言ってるんだい?」

 

「要は関わるなってことですよ。まぁ、この後はアンタは俺たちに捕まって一緒会うことなんてなくなるでしょうけど」

 

「君たち二人はこちら側に決まっているだろ!?君は二人について何も知らないから.............」

 

ジャティスは反論しようとするも………

 

「うるさいです!黙ってください!」

 

システィーナはそれを許さない。大きな声ではっきりとジャティスの言葉を遮る。

 

「正直二人が昔何をしてきたか............今何をしているかなんてどうでもいいです。大切なのは二人はこちら側の人間で、私たちの先生で、私の大切な〝親友〟です!」

 

「………ッ!」

 

システィーナのことを今まで大して歯牙にもかけない様にしていたジャティスが初めて苛立ちのようなものを感じさせた

 

「..........ウザいね君。容姿だけでなく性格までセラに似てるなんて」

 

「私とセラ先生が?」

 

「アンタにしては気づくの遅かったな?鈍ったんじゃないか先輩?」

 

システィーナはジャティスの言葉に困惑してるがナハトはそんなこととっくに知っている。だからこそナハトは皮肉一杯にジャティスを煽る。

 

「なんだとナハト!..............だが、君の言うことは聞けない!グレンは僕の最大の宿敵なんだ!グレンを倒すことで僕の正義は............」

 

「くだらないな」

 

ナハトはジャティスが大声で話している途中で口をはさみバッサリその発言を切り捨てる。

 

「............なんだと?」

 

「俺とグレン先生が本気で100回戦えば99回は俺が確実に勝つ。グレン先生はそのたった一回を〝最初〟に引き出すことのできる特別な人で俺も尊敬はする」

 

「そうだとも!グレンは特別な人間だ!だからこそ僕は.............」

 

だが.............

 

「でも普通にやれば瞬殺がいいとこだ。何ならハンデを付けたって秒殺できるくらいには先生は滅茶苦茶ひ弱だ。.......................そういえば、よく考えればあの人よく生きて特務分室辞められたな............まぁ、それはいいとしてそんな相手に二回目で挑んで何の意味がある?天才って呼ばれてきたアンタも馬鹿になったのか?お前はもう絶対にその正義とやらを掲げられないんだよ」

 

ナハトの言うことは事実でグレンは100回中99回負ける戦で最初に1回の勝利をもぎ取る男と言われてきたのだ。だからこそ、そんな魔導士であるグレンをナハトは尊敬もしていた。だが普通にやりあえばナハトの言う通り一瞬で倒すことのできる相手でもあるのだ。

 

だがナハトのグレンがひ弱だと愚弄したこ、自身の正義を愚弄したことがジャティスの怒りに触れる

 

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!僕の正義を...........僕の認めたグレンを馬鹿にするというのか!!!」

 

 

怒り狂ったジャティスはそのままナハトに向かってたくさんの天使たちで攻撃を仕掛けるが...............

 

 

「《付呪(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)》.......神千斬り・乱舞!」

 

ナハトは冷静に腰に吊っている鞘からもう一本の剣を引き抜き双剣に獄炎を付与するとまるで美しい演武のように周囲に獄炎の斬撃で襲い来るすべての天使を焼き斬る。

 

「どうしたんです?冷静さにかけてるんじゃないですか?」

 

攻撃なんてなかったかのようにナハトはジャティスに声を掛ける

 

「ック!何が何でも君を殺すよナハト!..........それに僕に口答えしようとした君もだ!」

 

「ひっ........」

 

システィーナはジャティスに殺気を向けられ怯えたような声を出すだが............

 

「させるかよ.....」

 

グレンが二人の前にかばうように立った

 

「お前ら馬鹿だなぁ...........あいつに喧嘩なんて売って...........地獄まで追って来るぞアイツ」

 

「うぅ.....」

 

「まぁ、別にここで倒しちゃえば問題なんて何もないじゃないですか」

 

「間違っちゃいねぇが..........滅茶苦茶だなオイ...........」

 

グレンはナハトの言葉に確かに間違ってはいないがため息をつきたい思いになっていた。そしてグレンはそのまま着ていた学院のコートを脱ぎ、余っていた魔道具をその場に投げ捨てた。

 

「...........何のつもりだグレン?」

 

グレンのその行動に眉を顰めるジャティス

 

「あん?もういらねんだよこれ。こんなもん使ってもついてこられるのはナハトだけだしな」

 

そう言い終えるとグレンはすべての装備を脱ぎ終えた。そして拳と手を打ち鳴らすと

 

「お前の相手なんざ拳闘コレで充分なんだよ」

 

「な!?ダメだ!それじゃあ意味がない!魔導士として本気の君を倒してこそ僕の正義は.................」

 

喚くジャティスを無視しグレンはナハトとシスティーナのほうに振り向き告げる

 

「白猫、ナハト三人一組(スリーマンセル)戦術単位(ワンユニット)だ。前衛は俺、後衛は白猫、遊撃にナハトだ」

 

「!」

 

「妥当ですね.........わかりました」

 

ナハトはそう言って左の剣だけしまい、左手を開けるとグレンの右隣に立つ。

 

「白猫。お前はお前が思っている以上に強くなってる。一対一の魔術戦は無理でも前衛の援護に専念すれば通用する」

 

「それに俺もいるからね。システィーナがしたいようにするといい。完璧に二人に合わせるからさ」

 

そう二人から言葉を受けたシスティーナは..............

 

「わかりました!先生、ナハト................三人で帰りましょう!」

 

そう言ってグレンの左隣に立つ。これで三人が同じ位置に並んだ。

 

「おうよ!頼りにしてるぜ〝システィーナ〟」

 

「やっとちゃんと名前で呼んでくれたわね」

 

三人は笑いあいそして顔を引き締めジャティスを睨みつける。

 

「君の正義はそんな子供に頼るものじゃないはずだ!もっと特別な..........」

 

「いちいちうるせぇ~よ。行くぞお前ら!」

 

グレンがそう返すと三人はそろって走り出す。

 

「システィーナ=フィーベル!僕とグレンの神聖な戦いを穢した魔女め!!」

 

ジャティスは叫びながら【彼女の御使い(ハーズ・レフト)】を無数に展開するとそれらを一斉にシスティーナに襲い掛からせる。だが.............

 

「《集え暴風・散弾(・・)となりて・打ち据えよ》!」

 

システィーナは頭上の襲い来る【彼女の御使い(ハーズ・レフト)】に対して黒魔【ブラスト・ブロウ】を放つ。だがそれは通常のそれと違い、空気の破城槌がいきなり弾け無数の弾丸となって拡散し【彼女の御使い(ハーズ・レフト)】を打ち砕く。

 

「な!?風の攻性呪文(アサルト・スペル)の即興改変だと!」

 

風の魔術は元来弱いといわれる。その理由は操作しなければならないパラメータが多すぎて炎熱や冷気や電撃などの単純なエネルギー調整で事足りるものに比べ威力が出ないのである。

 

だが、それこそ風の魔術の強い点の裏返しである。操作するパラメータが多いならばそれだけ改変のバリエーションは無限大と言うことだ。術者のセンスと技量次第でどんな状況にでも対応できる抜群の応用力を発揮できる。

 

「小癪な!」

 

だがジャティスはすぐさま切り替え【彼女の御使いハーズ・エンジェル・火刑】を展開し炎の翼はためかせ渦巻く炎で三人を焼き尽くさんとするが...................

 

「《獄炎竜よ・万象焼き焦がし・その咆哮を轟かせろ》!」

 

ナハトの固有魔術【ドラゴニック・インフェルノ】。獄炎の咆哮は放たれた炎をもろとも天使までもまとめて焼き尽くす。この場において最強の炎熱系の魔術の使い手はナハトだ。そのナハトを前に放たれる炎などちゃちなものでしかない。

 

 

「馬鹿な!?」

 

「《焔と光よ灯せ》!」

 

「何これ!でもサンキュー!」

 

ナハトは続けざまにさらに魔術を使う。【ウエポン・エンチャント】を改変させ炎をグレンの拳に付与し合わせて強化もする。そのままグレンは足を止めずにジャティスに殴り掛かる。

 

そのジャティスは防ぐために【彼女に怒り(ハーズ・レイジ)】を顕現させる。だが...........

 

 

「《集え大気・集いて固めよ・圧搾せよ》!」

 

システィーナが発動させた呪文により【彼女に怒り(ハーズ・レイジ)】を大量の空気が囲むと圧縮する。するとその中で爆破するが、グレンにはそれは届かない。空気の塊を作る黒魔【エア・ブロック】。システィーナの即興改変魔術だ。

 

「なんと!?」

 

「よそ見してんじゃねぇ!!!」

 

炎纏う拳がジャティスの頬を掠め肌を焼く

 

「クッ」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 

さらに追撃をと迫りくるグレンに後退して距離を取ろうとするジャティス。だが...............

 

「ガアッ!?............何!?」

 

 

ジャティスは体に痛みとしびれを感じその個所を見ると腕と脇腹に噛みつく雷の狼がいた。そしてそれは弾けるとジャティスを痺れさせ動くことを許さない。

 

「あぁぁぁ...........クッ........」

(こんなことできるのは.................)

 

ジャティスは感電し、動けずに今の攻撃をについて考察する。そして当然、痺れて動けないでいるその隙をグレンは逃さない。

 

 

「オラッ!!!」

 

「ガハッ.............!?」

 

炎の拳はジャティスの腹に突き刺さりそのまま勢いよく吹き飛ばされる。

 

だが、ジャティスは流石の腕前で展開させていた天使で受け身を取り態勢を整える。

 

「ぐっ.............はぁ、はぁ............完璧なタイミング、より効果的な結果を出すための援護をするかナハト.............やっぱり君は本当に厄介だ………」

 

「お前マジでスゲェのな.............いや知ってたけどホント規格外だよなお前......アルベルトと組んでるときみてぇにやりやすいし。てかあの狼のやつなんだよチートかよ」

 

「やっぱり凄いなぁナハトは...........タイミングも技の精度も高い..............どれだけの研鑽を.........」

 

 

ナハト以外の三人は口をそろえ称賛する。因みにナハトの使った魔術は黒魔改【ライトニング・ウルフ】。〝自動追尾型〟の魔術なうえ簡単な命令も聞く戦える使い魔のようなもの。

 

「やっぱネックなのは威力だよな....................」

 

ナハトは称賛を受けているものの最後の魔術で仕留めきれなかったのが気にかかっていた。【ライトニング・ウルフ】が自動追尾であることや簡単な命令も聞くというチート仕様の魔術だがその分威力がやや落ちる。それでも普通なら十分に意識を奪い去るあるいは感電死させるほどの威力は出るし狼の牙と爪は十分に鋭く相手に突き刺さる。だが改善しなくてはと考えていた。

 

 

「グレンと組んだナハトが厄介であることは十分に考えられたがここまでとはね...............それに彼女の技量がここまでだったとはね」

 

「当たり前だ俺が鍛えてる生徒だ。強くなってもらわなきゃ困るってもんだ」

 

「評価を改めよう................グレン一人ではなく、君たち三人を倒すことで僕の正義はより更なる高みに至れる!」

 

すると叫んだジャティスは懐か疑似霊素粒子粉末パラ・エテリオンパウダーを取り出し大量にばらまく。今までにないその量に大技が来るということがわかる。

 

「させるかよ!!」

 

グレンもそれを察知したため走り出しやられる前にとどめを刺そうとするがジャティスはやめない。恐らくグレンが来るまでに完成させ決める腹積もりだろう。

 

「来い!僕の奥底に眠る正義の具現!僕だけの神よ!正義の神よオォ!!」

 

粉が徐々に光だしその姿を形どっていく。

 

ジャティスの深層意識の奥底に眠るもっと強大で偉大な存在が今ここに降臨しようとしていた。

 

 

具現(コール)人工聖霊(イド)正義の女神(レディ・ジャスティス)・ユースティア】」

 

ジャティス単独による、神の概念定義具現召喚。突き抜けた妄想の極致。これはもう錬金術【人口精霊(タルパ)】なんてもので片付けられるものではなく奇跡そのもの。

 

人が立ち向かうには強大すぎるその存在が現れようとしたその時だった

 

「《大いなる息吹(・・)よ》!」

 

「《大いなる黒き息吹(・・・・)よ》!」

 

2人の【ゲイル・ブロウ】の即興改変。システィーナのそれはただ突風を局地的に発生させるもので攻撃力は皆無だ。ナハトのそれもその〝風自体には〟攻撃力はない。だが………

 

 

「何!?」

 

ジャティス渾身の人工聖霊(イド)正義の女神(レディ・ジャスティス)・ユースティア】はその姿を歪め薄れさせていく。二人の放った突風が粉末を流し顕現を阻害するさらに......

 

「クソ............何故だうまく顕現できだと!?ッ!......ガハッ!ゴホッ!………何が起き......まさか!?」

 

ジャティスは失った分の粉をまき散らしても形を復元できなくなっているうえ自身も血を吐いていた。

 

(ナハトめ…!一体何を!?)

 

意味の分からない現象に一瞬戸惑うもすぐにナハトの仕業だということは分かったが何が起こっているかはわからなかった。

 

 

「どうだ?効くだろソレ?」

 

 

ナハトの異能を掛け合わせた黒い風の副次効果は万象を蝕み、腐らせ、爛れさせる〝瘴気〟だ。黒い風は瘴気を乗せて吹き、その瘴気に触れたものを蝕んでじわりじわりダメージを与えていくのだ。ジャティスが上手く具現化できなくなっているのは瘴気により粉を撒いたところからダメにさせていってるからである。

 

 

だが、当然瘴気がそのままそこにとどまるのは一時的だ。風が吹けば瘴気は押し流される。ナハトが意図的にそれをまき散らした状態にしない限り永遠ではない。

 

 

 

それでもジャティスにとっては致命的だ。なぜなら.......................

 

 

 

 

2人を信じて走り続けたグレンがいるからだ

 

 

 

 

「これで...........終わりだぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

そう叫びながら放たれた渾身の拳はジャティスの顔面を捉える。

 

 

そしてそのすさまじい勢いの拳を受けたジャティスは大きく吹き飛ばされてその先の建物の壁を貫通し十字の骨組みに体をのめりこませ止まった。まるでそれは十字架に張り付けられているようだった

 

「はぁ.......はぁ………はぁ...........へっ、いい様じゃねぇか」

 

 

その様子を見たグレンは笑みを浮かべ一息をつく。

 

 

「「先生!」」

 

そこにシスティーナとナハトが駆け寄る。

 

 

「倒したの?」

 

「いや多分まだだな..................あれで倒れてくれるほど甘い相手じゃない」

 

「あぁ、アイツがこれでおとなしくなるようなタマじゃない………ほれ見やがれ」

 

 

そう言ってナハトとグレンが警戒しているとジャティスはよろよろと人口精霊タルパの肩を借りて立ち上がった。

 

 

「ゲホッ.............まさかここまで君たちがやるとは思わなかった」

 

そういうジャティスはなぜか上機嫌そうであった

 

「立ったてことはまだやるんだろ?いいぜ、とことん相手してやるよ」

 

ナハトもグレンもそれぞれの構えを取り臨戦状態になるが................

 

 

「いや、もういい.............僕の負けだ」

 

「は?」

 

突然敗北宣言をするジャティスに意味が分からないように呆気に取られているとジャティスはさらに続ける。

 

「僕の正義の象徴たる秘術.......人工聖霊(イド)正義の女神(レディ・ジャスティス)・ユースティア】が打ち破られたんだ。今回は素直に引くことにするよ」

 

 

たった一回自身の術を破られただけで引き下がると言い出すのだ。どこまでも本当に度し難い相手だ。だが.................

 

 

「それで俺が逃がすとでも?俺は宮廷魔導士団の人間だ。アンタを捕らえてアンタが何を知ったか調べさせてもらう」

 

「あぁ、お前は調査されその後は封印刑にでも処されやがれ」

 

 

ナハトとグレンはここでジャティスを捕らえようとお互いに武器と拳を構える。

 

 

「くく、確かにこの状況っで君たち二人の相手をしたら僕は確実に捕まるね.........だけど」

 

そういうジャティスに斬りかかろうとしていると何かが倒れるような音が後ろか聞こえた。それにナハトとグレンは同時に振りかえるとそこにはシスティーナが顔色悪く倒れていた。

 

「な!?システィーナ!」

 

「チッ!そういうことかよ!」

 

ナハトがすぐにシスティーナに駆け寄るとグレンは鋭くジャティスを睨みつける

 

「彼女はもう限界だ............そんな彼女のいる状態で二人はまともに戦えるかな?」

 

そう、もしジャティスがそのシスティーナをうまく利用した立ち回りをしたらいくら消耗しているとはいえ厄介だ。ここは大人しくいかせるしかない。

 

「くく、わかってくれたようだね。それではまただ三人とも!今度は僕の正義が君達を打ち倒そう」

 

 

そう言ってジャティスは悠々と逃げていった。

 

 

「はぁ~もうくんなってんだよ.............どっかで勝手にくたばりやがれ......まったく」

 

「ははは、違いないですよね..............お疲れ様システィーナ。大丈夫か?」

 

グレンのそのジャティスに対する物言いにナハトは同意の意を示しながら倒れこんでいるシスティーナをおんぶしていた

 

「ありがとうナハト..........でも本当にもう無理。いろいろなもの削ったような感じがするわ」

 

「本当にお疲れ様..............それと本当にいろいろとありがとうシスティーナ」

 

「あぁ、俺からも助かった。ありがとうな白猫」

 

「ナハトはいいですが先生が素直なのは変な感じですね..............まぁ、素直に受け取っておきますけど」

 

「ひでぇな~」

 

そんないつもと変わらない会話の後システィーナは疲れ切った様で寝てしまった。無理もないこれだけの経験をしたんだ相当な負担だったはずだ。すると必然的に二人だけの会話になる。

 

 

「............なぁ、ナハト俺はこのままこいつらと一緒にいていいのか?」

 

「俺に聞きます?俺なんて先生の倍はヤバいやつですよ?」

 

偽名と言い殺してきた数と言い、倍と言うのがおこがましいくらいには先生よりひどいと思う

 

「うっ..........だってお前なんつーか吹っ切れたようにしてるからさ」

 

「そうですね..............システィーナの言葉で俺はすごく救われたと思います。だからですよきっと」

 

こんな歪な存在を認め確かな光を見せてくれたからナハトは今自分を持っていられると感じていた

 

「そうか..............で、俺の質問の回答は?」

 

「そんなの先生の俺みたいな奴が必要だって言われたんですよ?それにこうしてシスティーナがここにいるのが何よりもその答えなんじゃないですか?」

 

「..............そうだな」

 

 

そのままナハトとグレンは無言で歩いていた。その二人の顔はどちらも穏やかで、二人の先には暗い闇はなく眩しく光輝く未知の未来だった。

 

 

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後日この事件が完全に解決された後調査の結果被害者の数は1,000人以上にも及んだ。ナハトの足止めにはその半分は割かれていたことを知ったグレンは改めてナハトがチート野郎だと再確認したらしい。

 

その後いろいろな人間の話し合いの結果本来の事実とは異なる形で大々的に発表され幕を下ろした。

 

 

因みに帰ってきたグレンとナハトはすべてを聞いたセラにこってりと一日中怒られた。特にナハトがしようとしていた記憶消去のことやグレンが無理したことには涙ながらにも怒られ二人は本当に申し訳ないと思いながら謝罪しこれからはちゃんと相談することを約束し必死に謝った。

 

 

だが、ナハトの場合それで終わりではなかった。ある日学院にいる際にシスティーナがナハトのしようとしていたことをルミアにうっかり漏らしてしまったのだ。

 

 

「ねぇ、ナハト君?.........システィが言ってたことどう言うことかな?かな?」

 

「あ、えっと............そのなんといいますか...........あの時の自分はどうかしていましたと申しますか..............」ダラダラ

 

 

(システィーナどうすればいいのコレ!?ルミア笑ってるけどなんかオーラが凄いよ!!)

 

助けを求めナハトはシスティーナのほうを見るが..........

 

「........」フイッ

 

目をそらした。システィーナはあの時のナハトが居なくなっていくと思ってとても怖かったのだ。怒られて当然だと思った。ただ、一番は見たことないほど本気で怒っている親友が怖いのだ。

 

(待ってください!俺が悪いですが助けてくれ後生だから!!!)

 

すると遂にルミアは冷たい笑顔でナハト手首をつかみどこかに連れていく。

 

「(え?何この力?離せないんですけど!何されるの俺!?)本当すみませんでした!!!だか...........」

 

ナハトはそう言い切る前にルミアが空き教室に連れ込んでいき扉を閉じてしまったことでシスティーナはその先は何が起こるのかはわからなかった。

 

「...........自業自得よ馬鹿」

 

 

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ナハトとルミアの2人だけの教室。そこでナハトは護衛対象にびくびくと怯えていた

 

(勿論俺が悪いですよ?全面的に.......でも、俺何されるの!?とにかく土下座して...........)

 

 

ナハトの謝罪方法がややグレンに似てきているのはきっと気のせいじゃないだろうが今はそれよりも謝罪と彼女のご機嫌取りが重要だ。ここまで彼女を怒らせているんだ。それにきっと大切な彼女を傷つけてしまっただろう。だからこそ早急に.............

 

「え?」

 

ナハトが必死に思考をめぐらせているとルミアが一歩ナハトに近づきsのまま突然抱きしめたのだ

 

「る、ルミア?」

 

「私はナハト君を絶対に嫌いになったりなんかしないよ。たとえ何があってもそれは変わらないの。昔ナハト君が私に言ってくれたことを私も同じことをナハト君に想っているの」

 

「ルミア...................」

 

「不安なら私に頼って。また不安になったらこうして抱きしめてナハト君を安心させせてあげる。私が昔君にされて凄く安心したことなんだよ?......だからね、何があってもそばを離れないで...........ずっと私のそばにいて」

 

確かに今抱きしめられてとても暖かくて安心する。ナハトは初めて会ったその日ルミアを抱きしめ励ました。それが今逆に自分にされているとは思ってもいないなかったと考えていた。

 

(あの日..........ひどく怯えてすぐにも壊れてしまいそうな少女がこんなに強くなっていたんだな............)

 

「なぁ、ルミア........」

 

「どうしたのナハト君?」

 

「もう少しこのままでいいかな?どうしてかわからないけどルミアと離れたくない」

 

「うん..........いいよ。私もまだナハト君と離れたくないから」

 

 

2人はどのくらい抱きしめあっていたかわからない。でも、とても長い時間二人はそのままでいた。

 

 

 

以外に寂しがりな似た者同士の二人はお互いの温かさに安心して穏やかな表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

きっと、遠くない日のいつの日か

 

 

 

二人が本当に報われ心の底から幸せに笑いあう日が来ることを..........................

 

 

 

 

 






今回で天使の塵編完結です。前回まではホントはナハトのこの記憶操作を目論んだことはルミアには知らせないつもりでしたがやっぱりルミアにも知ってもらうことにしました。等身大の彼と彼女であってほしいと考えたからです。さて、次回からは遺跡調査編です。この話と言えばセリカの過去の伏線にアイツとの戦いがとても見所ですよね!そんな魅力的な話を楽しんでもらえるよう頑張ります。


最後に今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、いつもコメント、お気に入り登録、いいねをしてくださりありがとうございます!







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第六巻 遺跡調査編
グレンのクビ?


 

 

「はぁ~~~~....................」

 

「まぁまぁ、システィそんな気を落とさないで」

 

「そうだな、まだこれからもあるんだしな.............って言っても簡単じゃないか」

 

 

俺たちはジャティス騒動が片付くと尊きいつもの〝日常〟に帰ってきた。そんなある日システィーナは気を落としたようにため息をついていた。

 

 

「ルミア、ナハト………システィーナおかしい。何かあったの?」

 

眠たげな表情をしながらナハトとルミアが励ましているところにリィエルが心配してやってきた

 

「あぁ、簡単に言えば遺跡調査隊に入るための論文の選考で落選したんだよ」

 

 

学院の教授フォーゼル=ルフォイが新たに見つけた遺跡に学院関係者からメンバーを募るために論文による選考が課されたのだ。システィーナはそれを一生懸命に頑張ったのだが.................

 

 

「うぅ..........二人が慰めてくれるのは感謝してるのだけど..........それでも、女だからとか若すぎるとか何よ!えぇ、実力だってそりゃナハトや先生みたいにはいかないけど.............でも女は関係ないじゃないの!!もう!!」

 

「あははは..............」

 

そう、教授はシスティーナが女であること、若すぎること、位階が低いこと、生意気であること..........そのことからロクに論文も読んでもらえずに落とされたのだ。

 

「まぁ、確かに流石に男尊女卑が過ぎるが今回発見された遺跡は確か難易度B++だろ?システィーナが実力不足とまではいわないがそれなりに危険だしな」

 

「うん、まだシスティは第二階梯(デュオデ)でしょ?この学年なら十分にすごいけど慣例に照らし合わせれば選ばれるのは第三階梯(トレデ)以上でしょ?それにまだシスティにはそんな危険な場所に行ってほしくないな.................」

 

「うぅ.............そういわれると反論できない................」

 

遺跡の調査難易度はS、A、B、C、D、E、Fの七段階ある。それをさらに細分化して21段階評価あるのだが今回はB++級だ。滅茶苦茶危険と言うわけでもないがよく整備された調査隊でもたまに死人が出るくらいには危険なのだ

 

「まぁ、確かに今回は残念だったかもだけどいつか実力で行けるさ。何なら俺が護衛として一緒にいてあげるからさ」

 

「うぅ..........ありがとうナハト」

 

落ち込んでるシスティーナの頭を撫でていると徐々に元気を取り戻しつつあるようだった。それだけ見ているとなんだか先生の言う通り猫に見えてくる。

 

 

「むっ..........あっ!そういえばナハト君の位階ってどれくらいなの?」

 

若干少し不機嫌そうにするとルミアは気になったようでナハトに問いかける。

 

「ん?俺は第五階梯(クインデ)だよ」

 

「「え?」」

 

位階は7段階ある。第7階梯は唯一無二の有名な《灰燼の魔女》あるいは元《世界》のセリカ=アルフォネアだ。また第6階梯は学院で言えば変態男爵ツェスト=ル=ノワールだ。そしてこの年齢でナハトはあの若くして第五階梯に至った天才ハーレイと同じ位階だというのだ。

 

「まって!え?ナハト第五階梯(クインデ)なの?」

 

「あぁ、ただ表向きはシスティーナと同じ第二階梯(デュオデ)になってるけどね」

 

改めて自分の親友はすさまじいと思うシスティーナとルミアだった。

 

ただここだけの話イヴはナハトのことをあの幻術も踏まえれば第6階梯に届きうるのではと考えてたりするので相当異常であることに違いない

 

「まぁ、俺が言うのもアレかもだけど位階なんて大したものじゃないさ。それこそグレン先生なんかがいい証拠だしな」

 

そう、グレンは第三階梯と言う魔術師としては三流もいいとこだ。それでもナハトに負けないくらいの戦果を挙げるくらいには活躍と言うのはおかしいかもしれないが結果を出しているのだ。要は単純にその人次第と言うべきなのだ。

 

「それにシスティーナも風の魔術だけの縛りでの模擬戦なら多分そろそろいい線いくと思うよ」

 

「え?そうなのナハト君?すごいよシスティ!」

 

「え!ちょ、ルミア!?」

 

ナハトがシスティーナをそう評価すると自分の事のように喜びシスティーナに抱き着くルミア。システィーナは困惑するがナハトの言ったことは間違いではない。ナハトは確かに経験や研鑽を年齢に対して尋常じゃないほど踏んできた。だからこそいえるのがシスティーナほどにうまく風の魔術を使える相手がどれほど少ないかもわかるのだ。

 

「システィーナは着実に力をつけている。それは俺が保証する。だから焦らずゆっくりやってこうな?」

 

ジャティス事件以来システィーナの朝練につき居あうようになったナハトがそう言う。当初からそのことを知っていたものの余り戦わせたくない思いからナハトは口を出さなかったが、あの死闘を見ていたら気が変わったのだ。

 

「うんそうだよシスティ!ゆっくりしっかり力を付けていこう!」

 

「私はよくわからないけど................システィーナなら大丈夫」

 

 

3人がそれぞれ口をそろえシスティーナを認め励ます

 

 

「本当にありがとう3人とも」

 

 

それにシスティーナは笑顔で答え次こそは頑張るというように決意していると................

 

 

 

「あ~少しいいかお前ら?」

 

教室にそう言いながら入ってきたのはグレンだった。そしてその後ろから何やらやれやれといった感じでついてくるセラがいた。

 

(セラねぇのあの顔...............また何かやらかしたのか先生は?)

 

「実はな..........とある遺跡の調査を学院から依頼されてな?引く受けることになったからお前らの中から特別に連れてこうと思ってな」

 

(ふむ.....................結構面白そうな話ではあるがセラねぇが何に呆れてるかわからないな)

 

ナハトはそれなりに興味を感じていた。ナハトは結構多趣味である。その理由はアルベルトに師事しいろんな技術を習得したことに由来する。最近では料理や珈琲を淹れることなどだが少し前はシスティーナほどではないが古代文明の調査資料なども読んでいたこともあったり、東国の忍術なるものを参考にした実際に戦闘でも使える改変魔術を作るなどしたりするほどには多趣味なのだ。

 

「でだな..........場所は『タウムの天文神殿』に行こうと思う」

 

(ん~と、たしかF級の安全な遺跡か。まぁ、うちのクラスから募るんだから当然だな。確か展望台が有名な以外は特に何もなかったような................アレ?でもなんか興味深い文献があったような........)

 

ナハトは有名な『タウムの天文神殿』についての考察をしていると.................

 

「た、『タウムの天文神殿』ですって!?」

 

システィーナが大きな声でグレンの発言に激しく反応を示した。

 

「のわぁ!?ど、どうしたんだよ白猫?」

 

突然の大声に少しグレンは驚くとシスティーナに何がそこまでと言うように問いかける。

 

「あ、すいません何でもないです」

 

大声を出してしまったのが恥ずかしいのか赤面しながら先生の話の続きを待つことにしたシスティーナ

 

 

「そうか.............とりあえずさっきも言ったがうちのクラスから希望者を募ろうと思う。定員はとりあえず9人くらいだな。全員連れていきたいがすまねぇな」

 

 

そう伝えるとクラスメイトが騒ぎ立てる

 

「丁度いいじゃないかシスティーナ」

 

「そうだよシスティ!危険度も低いしシスティーナにうってつけだね!」

 

「え、えぇ.......そうね......これはチャンスだわ」

 

そしてシスティーナは立候補しようとするが.................

 

 

「やれやれ...............噂は本当だったということですね先生」

 

そう言ってセラと同じようにあきれ顔で声を上げたのはギイブルだった

 

「?なぁ、ギイブルその噂ってなんだ?」

 

ナハトは気になったのでそのままギイブルに聞いた。すると帰ってきたのは二人が呆れるのに納得のいく理由だった。

 

「あぁ、この学院の魔術講師には魔術研究の定期報告論文があるのはナハトも知ってると思うが先生はそれをロクに執筆してなかったんだよ。だから遺跡調査でもすればクビを免れるといったような条件を飲んだんだろうと思ったんだよ」

 

(あ~そりゃ二人とも呆れるわな...........)

 

「「「クビ!?」」」

 

クラスメイトはそのギイブルの推論に驚愕し先生のほうにマジか?と言う目を向ける。

 

 

「合点がいった..............セラねぇ、ギイブルが言ったこと正解だよね?」

 

するとセラはどうこたえるか少し悩んだ後............

 

「うん..............正解だよ。まったくグレン君は仕方ないんだから.............」

 

 

((((あっ、本当なんだ...............))))

 

 

ナハトは最初からセラの様子が変だったためある程度の事は想定していたがそれ以外の生徒たちは信じられないものを見たように呆れていた。

 

「フッ....................................お願いします!どうかこのゴミ屑で哀れな俺に力を貸してくださいぃぃぃ!!」

 

 

(あんた凄いよ........教師のプライドもないんだな............)

 

不敵に笑ったかと思えばそこには教師が生徒に対して土下座するというありえない状況が起こっていた。もうそのプライドを一切感じさせない行為に生徒たち一同は擁護できないでいた。

 

(まぁ、それでも流石に辞められるのは困るか.............)

 

ナハトはそう考えると席を立ちあがる。するとルミアとリィエルも同じように立ち上がったので俺たちは仕方ないといった風に笑みを交換すると先生に歩み寄る。

 

「先生顔を上げてください」

 

「ルミア............それにナハトにリィエル............」

 

「その遺跡調査私にも参加させてください」

 

「まぁ、興味もあるし....何より先生に辞められるのは困りますからね」

 

「ん。私はグレンの剣。それにルミアも行くなら私も行く」

 

「お、お前ら..............」

 

グレンは内心感無量だった

 

「先生のお役に立てるかわかりませんが頑張りますね?」

 

「役に立たないなんてことはねぇよ。ルミアのの得意とする法医呪文ヒーラー・スペルは野外に出るなら必須技能だ。生徒で組むならルミアには絶対に来てもらいたいぐらいだったから助かる。今回はそれほど危険じゃねぇがリィエルもナハトも戦闘力あるからな.............ホント助かるぜ」

 

「ん。私頑張る」

 

「今度からはなしにしてくださいよ?何かある度に一番大変なのはセラねぇなんですから」

 

3人の参加表明にやっぱりなと言う雰囲気になるクラス。だがここで声を上げないシスティーナに不思議に思ったナハトがを掛けに行く

 

「システィーナも行くだろ?どうしたんだ?」

 

「え、えぇ............そうなのだけれど............」

 

「?」

 

どうしたものかとナハトが考えていると別の生徒が声を上げる

 

「やれやれ、仕方ないですね。グレン先生の将来はどうでもいいですが..........野外の探索の参加経験は実戦と同じくらい有利になりますからね。参加してあげますよ」

 

(しまったーーーーーーーーーーー!先に言われちゃった!!)

 

システィーナは諸事情あり『タウムの天文神殿』にどうしても行きたい理由があるのだがプライドと性格が相まって素直に行きたいと声を上げられなかった。そのためにギイブルの様に仕方ないからと言う体でいこうとしていたのだが先に言われてしまった。

 

そんなこんなで考えていると次なる者の声が上がる

 

「はいはい!俺とセシルも連れて行ってください!」

 

「僕は将来学者になりたいので興味があるんです!連れて行ってください!」

 

「ん?おう、いいぞー」

 

カッシュとセシルも参加を表明するこれで残り定員3人

 

「あ、あの............せ、先生..........私も........」

「ふふふ、私にも参加させてくださいな、先生?」

 

そう言って次に声を上げたのは内気なリンと妖艶に微笑むテレサだった

 

「ん?テレサは分かるがリンもか?.........意外だな、生粋のインドア派だと思ってたんだが.......」

 

「わ、私は.............その............先生にはまだ........先生でいてほしくて...........その、私じゃ役立たずかもしれませんが.............力になりたくて..............」

 

内気だが心根の優しいリンが詰まりながらではあるが思いの丈をグレンに伝える

 

「そうか...........ありがとうなリン。俺からも頼む」

(クッ!................素直にそう言えるリンが羨ましい...........)

 

グレンもそんな優しいリンに穏やかな表情で頼むと伝える。

 

「ところで先生?遺跡調査に必要な物資は私の実家であるレイディ商会から融通していただけませんか?.....もちろん採算度外視で何処よりもお安く(・・・・・・・・・・・・・・)いたしますわ。同行する私もそのほうが安心しますし、何よりそのほうが先生のためですもの.............うふふふ」

 

 

クラスメイトにはテレサが聖母の微笑みのように見えるのだがナハトには別のものに見えていた

 

(あれは商人の目だな.................)

 

「なぁ、テレサよ?どこでこの調査に予算で落ちないことどこで知ったんだ?」

 

「ふふふ.........はて?何のことでしょうか?」

 

すっとぼけるテレサだが間違いなくそれをわかったうえでの発言なのだろう。商人と言うものはどこで何を聞いてるかわからないから恐ろしい。

 

「協力者からの破格の条件での申し出に断りずらいこの状況...........てかお前そうやって学院とのコネ作って取引実績を作るのが理由だな?末恐ろしい奴め...........」

 

「あらあら...........どうでしょうかね?」

 

「なんにせよ助かるのは事実だ.............よろしく頼む」

 

(うっ.............そういう目的と理由がある子が羨ましい)

 

だがもう定員が残り一人ここで遂になりふり構っていられないとシスティーナは決意する。

 

(もう後がない!ここで!!)

 

決意を決めたシスティーナが手を上げようとするが........................

 

 

「あぁ~実は最後の一人なんだが実はもう決めてんだわ」

 

(え?)

 

システィーナは軽く絶望した。自分が手を上げるのが遅かったばかりにと悔やんでいると

 

「その一人はだな................」

 

そう言って先生はシスティーナのほうに歩いてくる。

 

システィーナはなんだかんだで自分を必要としてくれることを喜んで胸を高鳴らせ承諾する心づもりでいる

 

 

だが...................

 

 

(ん?あれ?)

 

 

グレンはシスティーナのほうには歩いてきていたがその隣をいき過ぎて後ろの席に座る一人の女子生徒に頭を下げ頼み込む

 

「頼むウエンディ!お前にこの遺跡調査に参加してほしい!」

 

その相手はウエンディだった。

 

「なんでこの高貴な私がそんな辺鄙な場所に赴かねばいけなくて?」

 

そう不機嫌そうに答えるのでシスティーナはまだ希望があると期待をするのだが...............

 

「お前には遺跡の碑文の解読を頼みたい。ひょっとしたら今までと違う新たな解釈がわかるかもしれない。暗号解読系魔術のに関して天才的なお前の力が必要なんだ頼む!」

 

「................」

 

その懇願にまだ答えずにいるウエンディ。無理もない。彼女は生粋の貴族であるためこういうことは人一倍嫌いなのだろう

 

「頼む!何があっても絶対に危険な目にあわせない!ナハトもリィエルもいるから万が一もないはずだ!もしもの時はナハトが絶対にお前を守るから頼む!着いてきてくれないか?」

 

(俺が守ることは確定なんですね..........もう少し自分が頑張る姿勢だしてくださいよ)

 

ナハトは当然何かあれば自分がいの一番に前に出て戦うつもりである。何せこの中なら一番場慣れしてる上、戦闘に関してはプロだ。仮に正体がばれることになろうと全力で守る気ではあるがもう少し自分で守るという気概を見せてもらいたいものだ

 

「はぁ~仕方ありませんわね..................時に見聞を広めるのも民草の上に立つものである貴族の務め。時に赤き血の求めに応じるのも青き血たる者の責務.............気が進みませんが参加してあげますわ」

 

「よっしゃー!サンキューウエンディちゃん!」

 

渋々であるものの承諾してくれたことによりテンション高く叫びながら喜ぶグレン。だがそれとは反対に一人意気消沈としている人物がいる。

 

 

 

「....................................」

 

 

 

システィーナである。それはもう凄まじい落ち込み様で完全に思考が停止している。

 

(なんでシスティーナは....................もしかして単に素直になれなかったのか?)

 

 

ナハトもルミア達クラスメイトもあのシスティーナが参加しないことに不思議がっていた。そんな中ナハトはシスティーナの性格からして素直に言えなかったことが原因なのかと考えつく。

 

 

(まったくシスティーナは.............でもまぁ、そんあとこもシスティーナらしいか)

 

そんなことを思いながら苦笑するナハト

 

「そんじゃこれでメンバーは揃ったし説明は後日また.............」

 

グレンはこれでよしと考え教壇に戻り説明に入ろうとしたところで............

 

「先生。遺跡調査ならシスティーナも連れていくべきですよ。魔導考古学に関して一番の知識を持つのは間違いなくシスティーナです。護衛が問題ならリィエルもいますしそれだけで今回なら過剰ですよね?それにお金が問題なら一人二人くらいなら余裕で払いますよ?」

 

ぶっちゃければグレンと違い浪費癖のないナハトは軍での給料で今回の遠征費など余裕で出せるぐらいには金銭面に余裕がある。

 

「いや俺も流石に生徒に金は...................(でも、ナハトは俺より金がありそうだしいいのか?」

 

ただいま絶賛お財布事情がひもじいいグレンは一人二人ぶんはお金が浮くかもと心の声が漏れだす

 

「口に出てるよグレン君。さすがにそれは最低だよ?」

 

セラがジト目で考えていたことが口に出ていたことを窘める

 

「はぁ~別に俺はいいですけどほかの奴らには徴収しないでくださいよ?俺も一応システィーナを定員オーバーの状況で勧誘してるのでそれくらいは必要だと思うので出しますが」

 

「お、おう.................さすがの俺もどうかと思うから出さなくていい」

 

セラねぇのジト目が効いたのかはたまた流石に常識的に考えて問題があると感じたのか流石に自分が出すといった

 

「な、ナハトわざわざお金までそんな............................」

 

「いいのいいの、別に金ならあるし.............何より行きたいんでしょシスティーナ?」

 

「ナハト..............」

 

システィーナは感無量と言った感じでナハトの事を見ていた

 

(((クッ!............カッコいいなオイ!)))

 

流石の紳士的なナハトに男子の一部は普段学院のマドンナであるルミアとイチャコラ?してるナハトに対し認めざるおえないと感じていた。

 

 

「で?先生システィーナの参加認めてくれますか?もし何か問題あれば大抵の事なら解決しますよ?」

 

「はぁ~ナハトの言い分も最もか.................おい白猫。お前を調査隊のメンバーのリーダーに任命する。役に立たなかったらお前らまとめて単位を.......................

 

素直にものを頼めないひねくれたグレンは単位を盾にして頼もうとするが...................

 

 

 

 

 

 

 

「グレン君?いい加減にしよっか?ね?」

 

 

とてもいい笑みを浮かべているがとても怒っていますという雰囲気をしたセラねぇがグレン先生に凄んでいた。

 

(うん.............あれはすごく怖い。クラスメイトの大半怯えてるし.............)

 

余りの圧にナハト含め全員が大なり小なりセラに恐怖を抱く。そしてその圧が直接向けられているグレンは当然.............

 

 

 

「.........はい。すいませんでした」ガクブル

 

 

冷や汗を流しつつ震えながらセラねぇに敬語で謝罪するグレン先生がいた。

 

なんにせよこれでシスティーナも遺跡調査に参加ができるようになったからよかっただろう。

 

 

「よかったなこれで行けるぞシスティーナ?」

 

「うん良かったねシスティ!これで一緒に行けるよ」

 

「ん。よくわからないけど良かったシスティーナ」

 

ルミアは嬉しそうにいつも通りシスティーナに抱き着きリィルも心なしかうれしそうな表情を浮かべている

 

「え、えぇ.......そうね。ありがとうナハト」

 

「気にしなくていいよ。行くならみんなでいくほうが楽しいだろ?」

 

 

こうして俺たちは遺跡調査に赴くことになるわけだが................

 

 

 

この時の俺は思いもしなかった

 

 

 

 

まさか2度と使うことはないだろう思っていた〝固有魔術(禁呪)〟を使うことになるとは

 

 

 

 

 

 

 

 






今回はここまでです。今回から遺跡調査編に入ります!予告通りナハトはこの遺跡調査編で対大導師用に開発した新たな固有魔術そして、もう一つの以前から持っていたナハトの最後の切り札を使ってもらう予定です。勿論まだ〝鍵〟のこともありますがそれはもう少し先のお話で解禁予定です。今回は特に白熱したバトルになるように頑張るのでよろしくお願いします。


今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、お気に入り登録、コメント、評価をしてくださりありがとうございます!







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チートな二人と親子の絆

 

 

 

 

 

遺跡探索のメンバーを決めて早一週間。その間に探索組はグレン先生による野外活動についてのあれやこれやを詰め込まれた。なぜか俺も教える側になったのはいいが、グレン先生より俺のほうがみんなに教えていた気がする。まぁ、それがセラねぇにばれて怒られてたしそこまで気にすることではないからいいだろう。

 

 

さてそんなことを考えてる俺ナハトはと言うとまさに今現在遺跡に向けて走る馬車の二階でルミアとシスティーナと景色を見ている

 

 

「風が気持ちいわね二人とも!」

 

「そうだねシスティ!」

 

「あぁ、それに景色も悪くないな」

 

俺たちの目の前には大自然の景色が広がっていた。フェジテは都会のためなかなかこういった自然に触れる機会は少ない。そのためかなり貴重な体験と言える。

 

 

「全く...............こんなにいい景色なのに先生たちは..............」

 

そう言ってあきれられている先生たちは下で玩具のメダルで賭け事をして遊んでいた。

 

ついさっき軽く見た感じ先生は大人げなくバナードさん仕込みのイカサマをしてるようだが豪運のテレサに負けまくっているようだ。ギイブルも持ち前の思考力を発揮させようとしているようだが全く歯がったっていないようだ。

 

(アレはテレサの運がよすぎるのもあるけど、表情を読んだり場の空気を把握するのがうますぎるんだろうな)

 

確かに運がいいのは確かだがそれ以上に何かがあるんだろうと考察していた。

 

「まぁ、そう言ってあげるなよ。これもこれで楽しみ方の一つだろ?」

 

「そうかもしれないけど...............これを見るともったいないって思っちゃうわよ」

 

「ふふふ、システィの気持ちはわかるよ!これは確かに見ないともったいないよね!」

 

「まぁ、確かにこんな景色普段は見れないよな..............ん?」

 

システィーナの意見に同意しているとふと違和感を感じて記憶の中の地図を思い出し周囲の地形と照らし合わせるために周囲に気を配る

 

 

「?どうしたのナハト君?」

 

「ちょっと待ってくれ.................アレが...........ここで........それで......」

 

「ナハト?ぼそぼそ呟いてどうしたの?」

 

ルミア達はナハトが突然ぼそぼそ呟きながら少しの間周囲を見渡しているので何がどうしたかと思っていると........

 

「やっぱり..........予定の進路と違う」

 

「「え?」」

 

ナハトは些細な景色の変化と記憶の地形図を頼りに進路が変更されていることに気づく。なぜこんなことになっているのだと考えていると........................

 

「! チッ!動くのが遅れた!」

 

ナハトは舌打ちをしてすぐさま時空間魔術で愛剣を取り出す。それと同時に遅れながらシスティーナも何かが近づく気配を察知する。

 

「何?.............何か来る?」

 

「え?二人とも一体............」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」」

 

ルミアが何か言いかけた瞬間下からウエンディだと思われる大きな悲鳴が聞こえる。

 

「ルミアはすぐにリィエルに声を掛けていつでも戦えるように準備させて。システィーナは皆に注意を促して無理に前に出ず自衛に専念して」

 

それだけナハトは矢次に指示を出すと二階から飛び降りていった。システィーナはもルミアも緊急時なのは分かったが何があったのかと思いナハトが飛び降りた先を見ると...............

 

 

「し、シャドウ・ウルフ!?」

 

 

ルミアよりもシスティーナがいち早く襲撃者の正体を理解する。数は数十体の群れで馬車の周囲を囲むように獲物を見る目でこちらに睨みを利かせていた。すぐに不味い状況と理解した二人はナハトの言う通りに動き始めた。

 

「な、なんなんだアイツ!」

 

「あ...........ぅ.........魔獣........」

 

「どうして..........わたくしが........こんな目に........」

 

皆一様に普段見るはずのない魔物に怯えていた。当然である、ほとんどの生徒が温室育ちで実戦経験やまたはそれを見たことあるものはいない。だが、ここでこの魔獣に対して恐怖を抱くというのは非常に不味い。

 

 

「みんな恐怖を感じちゃダメ!」

 

システィーナは急いで駆け付けそう言った。だが、目の前の生徒たちを見て遅かったと気づく。

 

(シャドウ・ウルフは『恐怖察知』の能力が..............このままじゃ皆が!)

 

シャドウ・ウルフは魔獣と知られているのだが魔獣と普通の獣は別物である。何が違うと聞かれれば簡単な話魔獣には特別な能力があるのだ。今回シャドウ・ウルフが有しているのは『恐怖察知』と言うもので自身に対して恐怖しているかどうかで狙っていい標的なのか定める能力だ。これだけなら大したことないのではと思うかもしれない。だが、シャドウ・ウルフは一度標的を定めると勇猛果敢になってどんな攻撃にもひるまずに向かってくる習性がある。これがあるため恐怖を感じてしまうと非常に危険なのである。

 

 

「ルミア!リィエルは?」

 

「ダメ!寝ちゃってて起きない!」

 

(ってことは戦えるのはナハトだけ..............ナハトなら一人でも.......ダメだ!..........みんなを守りながらじゃ........それなら私も加勢して...........)

 

ナハトがいくら強いとはいえこの状況下では厳しいものがあると考えていた。ナハト自身も何人かが恐怖に怯えていることに気づいてるため無闇に攻めに出れない為やりにくいと感じていた。システィーナは恐怖を理性で抑え立ち向かうしかないのではと考えていた。

 

 

だが、システィーナは忘れていた。この場に戦えるのはナハトだけではないことを..........

 

 

「おい!犬っころども!!俺の生徒に手を出そうとはいい度胸じゃねぇか!」

 

そう勇んで派手に表れてきたのはグレンだった。

 

(そうだわ!グレン先生も戦える!)

 

これならいけるとシスティーナは考えていた。

 

 

 

 

 

 

だが........................

 

 

 

 

 

「お前らは俺が直々に倒してやるぜ!トオゥッ!!」

 

グレンは掛け声とともに馬車から前方宙返りにひねり三回と言う非常に無駄な演出を加え馬車の外に華麗に降り立ったかのように思えたが...........................

 

 

 

 

 

 

     〝ゴキッ!!!〟

 

 

「「「................................」」」

 

 

生々しい音とともに着地したグレン、そしてその場にいる者全員が無言でしばらくそのままでいた

 

 

そして..............

 

 

 

 

 

「い.................痛ぇぇええええええ!?足挫いちまったぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

(あの大馬鹿ヒモ先生が!!何やってんだよあんた!?)

 

ナハトは心の中で普段の三倍くらいは強めに突っ込む

 

するとシャドウ・ウルフの群れは絶好のカモが来たといわんばかりに瞳をギラつかせグレン目掛けて一斉に襲い掛かる。

 

「大変!先生が!?」

 

ルミアが悲鳴じみた声を上げる。だが、ナハトはこの間合いなら間に合うと確信していた。

 

ただ、一つ上げるとすればこのわざわざ面倒ごとを増やしたグレンのこと果たして助けるべきなのかは甚だ疑問だった

 

 

「フッ!!」

 

ナハトが短く鋭い声とともに動き出すと同時、ルミアとシスティーナの後方から一つの影が飛び出し二人にとって聞きなれない詠唱を始める

 

「《罪深き我・逢魔の黄昏に・汝を偲ぶ》」

 

 

「「「ぎゃんッ!」」」

 

 

ナハトと突然飛び出した影が襲い掛かってきた魔獣を一太刀のもとに斬り捨てる

 

斬られたシャドウ・ウルフは鮮血をまき散らし勢いのまま弾け飛んでいく様を見ながらナハトはもう一人の正体を見抜く。何せあの白魔改【ロード・エクスペリエンス】を使える者に心当たりは〝一人〟しかいない

 

 

 

(あの二人ともすごい剣技!..........でも、一体あのあの御者さん何者?)

 

システィーナは突然すさまじい剣技で切り倒した御者に対して何者だと怪しむ。また、剣技もすさまじいが何より御者が握っている剣に注目した。システィーナの素人目で見ても美しく、そして業物であることがわかる。素材も最高級品である魔法金属『真銀(ミスリル)』製の剣。なぜこれほどのものを御者が持っているが不思議で仕方なかったが今はとても頼りになることは確かだった

 

「.............何だお前いたのかよ(・・・・・・・・・)

 

誰なのかわかったグレンは頭を掻きながらそうぼやく

 

「ちぇ...........俺の出番ないじゃねぇか............おいナハト。あとはお前ら二人に任した」

 

この人(・・・)だけで十分な気がしますが了解です」

 

 

すると御者とナハトは視線を交わすとすぐに視線を戻し敵を見据える。

 

そして視線を戻してすぐ二人の姿は一瞬にして消える

 

「「「「ギャンッ!?!?」」」」

 

すると次にナハト達の姿を捕らえたときには斬り終えた姿を背に、数体のシャドウ・ウルフは息絶えていた。

 

するとそのまますぐさま二人はさらにスピードを上げ掃討していく

 

システィーナたちは目の前で何が起こっているかわからなかった。ナハトの姿はしっかりではないが鋭く光る剣光とともに確認できるが御者に関してはあのナハトを上回るスピードで掃討していっている。

 

2人がすさまじいスピードで倒していくためシャドウ・ウルフは単独では敵わないと察知したのか連携して二人を取り囲む。だが二人ともそれがどうしたといわんばかりの冷静さのままで相手を見据えている

 

 

「あの御者さん..........あのナハトよりも強い..................」

 

システィーナの信じられないという感想に訳知りのグレンが返答する

 

「そりゃさすがにあのナハトでも分が悪いさ...............」

 

「先生あの剣士のこと知ってるんですか?」

 

「あぁ、嫌になるほどな..........それと言っとくがあれは剣技なんかじゃねぇぞ?」

 

「え?剣技じゃない?」

 

「あぁ、アレは白魔改【ロード・エクスペリエンス】。物品に蓄積された思念・記憶情報を読み取り自身へ一時的に憑依させる魔術だ」

 

グレンはそのまま二人の蹂躙劇を見ながら淡々と語っていく

 

「あの剣は、かつて帝国最強と謳われたの女の生前の愛剣なんだそうだ。あの剣に宿る記憶を読み取りあの剣本来の主の技を一時的に借りてるのさ」

 

「な、そんな滅茶苦茶な!」

 

「今のアイツに勝てる奴はいないな............(まぁ、ナハトが後数年したらどうなるかはわからんが)」

 

すると二人を取り囲んでいたシャドウ・ウルフは残すところ二頭のみとなっていた。そして当の本人たちはと言うと............

 

「さてナハトどちらが早いか勝負しようじゃないか?」

 

「本気ですか?勝てる気がしませんが?」

 

「魔術使えばいい勝負になるだろ?」

 

「そうですかね?..........でもまぁ、かの帝国最強の剣士にどこまで届くか興味ありますし乗りますよ」

 

「フッ、そう来なくっちゃな」

 

2人は突然勝負しようなんて言い出すくらいの余裕溢れた会話をし始めていた。そして勝負することが確定したナハトは突然左手に握っていた剣を空中に高く放り投げるとをシャドウ・ウルフに左手を翳し右手の剣を限界まで引き絞り突きの構えを取る。

 

対して御者もナハトが構えたのを確認すると腰を据え敵に対して油断なく構える。するとナハトが呪文の詠唱を開始する。

 

「《千の雷よ・千の鳥よ・鋭く囀れ》」

 

するとナハトが詠唱し終えると甲高い鳥の囀りの如く、ナハトの右手から白雷の弾ける音がする。システィーナは学院に来たテロリストを倒すのに使った魔術だと思い出していた。

 

ナハトが呪文を完成させると二人は視線を交わしタイミングを計る

 

 

二人と二頭の間に一瞬の静けさが訪れる

 

 

 

 

 

そして................

 

 

 

「セリャアァァ!!!」

「フンッ!!」

 

 

二人がそれぞれの掛け声の下同時に動く。

 

 

ナハトは白雷を弾けさせながら白い流星の如く剣閃で敵を貫かんと駆ける

 

 

それに対して御者は今までで最速の斬り込みで銀の剣閃を引きながら一直線に駆ける

 

 

 

 

 

魔獣も襲い掛からんと構えていたが二人のあまりの速さに何もできず硬直し

 

 

 

そして.......................

 

 

 

          〝ドパッ!〟〝ドパッ!〟

 

 

 

 

一切の反応することを許さずに攻撃された魔獣は悲鳴すら上げることもできず、鮮血があふれる音だけを残し絶命した

 

 

 

「ふぅ~いやぁ~負けるかと思ったぞナハト?」

 

「やっぱり凄すぎますよ『エリエーテ』さん。今のならいけると思ったんですけど...............」

 

どうやら勝負に勝ったのは御者のほうだったようだが最後のはシスティーナたちは完全に見ることのできない領域での勝負だった。

 

ナハトは悔しそうにそう言いながら技を出す前に放り投げた剣はナハトが立っているその場に落ちてきたのを空中でつかみ取り二振りについた血を払うとを腰に吊った鞘におとしこんでいた

 

セリカ(・・・)さん助かりましたありがとうございます」

 

ナハトがそう言うと御者はローブを取って姿を見せる。

 

その姿はとても美しく誰もが見惚れてしまうような美貌の持ち主だが、その美貌はどこか言葉にしがたい異様な雰囲気すら感じさせる麗しい女性の姿だった。 

 

そして、そんな女性の姿は当然皆誰しもが知る唯一の第七階梯セリカ=アルフォネアその人だった。

 

「どういたしまして。お前の動きとその魔術素晴らしかったよ」

 

「ありがとうございます」

 

二人が何でもないような会話をしているが................

 

「「「あ、アルフォネア教授!?」」」

 

ナハトとグレン以外は正体に気づいたのがフードを外した今だったので予想外の人物の登場にとても驚いていた

 

「やぁ諸君!元気にしてるか?」

 

屈託なく朗らかに笑いながらそうセリカは生徒たちに向け手を振る

 

「セリカお前どうしてついてきたんだよ?」

 

機嫌よさそうにするセリカにグレンこの場にいるすべての者の意見を代弁するようにが訝しみながら尋ねる。

 

「ふっ、な~に暇だったから自慢の息子の教え子の様子でも見に来ようと思ったまでさ」

 

「いやお前それ嘘だろ!?それだけならその〝剣〟持ってこなくていいだろ?」

 

なおも食い掛るグレンにのらりくらりとかわすセリカ

 

「だーかーら気まぐれさ.............それより諸君すまなかったな。近道をしようと思ったがそのせいで怖がらせてしまったな」

 

セリカは流石に申し訳ないことをしたため生徒たちにしっかりを謝罪をした。するとすぐにセリカさんは「さっさと行くぞグレン」と言うとそのまま一人で馬車へ何にもなかったように乗り込んだ。

 

「たっく................アイツは本当に仕方ねぇやつだなぁ」

 

そう言い頭ガシガシと掻くともうどうとでもなれと言わんばかりにグレンは戻っていくので生徒達もそれに続いていく。だが、ナハト以外はセリカの前と言うせいかやや緊張した様子で馬車に戻っていった

 

 

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セリカさんが加わってからのだが馬車の空気はどうにも重たい。

 

皆セリカさんに対して委縮してしまっているのだ。確かにみんなの気持ちもわからなくはない。絶世の美女ともいうべき容姿なのにもかかわらず、かつて戦略兵器扱いされた《灰燼の魔女》と恐れられるほどの圧倒的戦闘力を誇るのだ。この場にいる全員がかかっても勝てることのできない絶対的強者であるためリンの様に怯えてしまうのは分からなくはない。だが、この人はかなりフランクで話しやすい人なんだけどな..........

 

「あ、あのアルフォネア教授聞いてもいいですか?」

 

「ん?フィーベルか。なんだ?」

 

「え、えっと先程の戦闘何故魔術を使わなかったんですか?アルフォネア教授なら魔術を使ったほうが簡単に倒せますよね?」

 

「........?いや、あの位置で私が攻性呪文(アサルト・スペル)ぶっぱなしたら地形も霊脈(レイライン)も変わっちゃうだろうし..............何よりお前ら巻き込んじゃうし」

 

その言葉にみんながぞっとしていた。

 

すると.................

 

「そうですよね~使うとしても俺も【千鳥】くらいしかみんなを巻き込まずに使える魔術ないですし。ただ、あれも一対一特化だから結局魔術なしのほうが早いんですよね~」

 

「そ。ナハトは近接戦闘に特化した魔術があるからまだしも本来なら私もナハトもあの場なら攻性呪文(アサルト・スペル)まき散らすほうが好みだからな~」

 

「お、おう............ところでナハトその【千鳥】ってのはさっきの奴だよな?」

 

カッシュが先程の魔術について聞いてくる

 

「あぁ、そうだぞカッシュ。俺が改変させて作った魔術だ。と言っても魔術っていうのも変な技だけどな」

 

「ナハトのあの技は見たことがあるけどなんで変な技なの?」

 

すると一度見たことのあるシスティーナが妙な言い回しに疑問に持つ

 

「だってアレ雷で強化しただけのただの突きだし。何なら誰でもやろうと思えばできるぞ?おススメはしないけど」

 

「見たとこ凄く強力な技みたいだけどなんでお勧めしないの?」

 

するとルミアがそう問いかける。それに答えたのはナハトでなくセリカだった

 

「だからさ。アレは隙が大きすぎるからカウンターに対処できる腕と目がないと逆に絶好の的になるからさ」

 

「そ、だから一対一特化型の魔術なんだ。アレを当てるためには無理やり隙を作るかのろまな相手じゃないと危なくて使えたもんじゃない.............」

 

(((ならなんで作った................)))

 

「それはそうとセリカさんなんかもう少し面白い話してあげたらどうです?きっと皆セリカさんのお話聞きたいでしょうに」

 

「ん~面白いか...............なら邪神共ぶっ飛ばした時の話はどうだ?」

 

(((なぜそれがおもしろいと思った!!)))

 

「あ~あの話ですか。結構為になりますよね!」

 

(((何のためになるんだよ!?)))

 

「だろ?あ~でもみんなには刺激強くないか?」

 

「あ~確かに.............ホント面白いのに..............」

 

(((二人が凄く怖いんですけど!?)))

 

「さて、おふざけはほどほどにしてグレン先生の幼少期の話とかはどうですか?さすがに軍時代あの時のことは言うべきじゃないにしろそれ以外の話なら皆も楽しめるんじゃないですか?」

 

「はははは、確かにおふざけはここまでとしておこう。それにいいアイディアだナハト。聞いて驚け諸君!あれでグレンは幼少期はそれはそれは可愛かったんだぞ?」

 

(((やっぱりこの人グレン先生の師匠だ..............と言うかナハトはふざけないで!!!)))

 

 

生徒たちはここまで心の内での反応することにやや疲労を感じるもグレン先生の過去に興味があるため耳を傾けた。そんな生徒たちを見ながら慈しむような笑みを浮かべセリカさんは話始めるのであった

 

 

 

 

話の最初はまずはグレン先生が宮廷魔導師団に所属していた頃のセリカさんに任務の時に拾われたことからだった

 

そこから最初のうちはグレンに世話されていたとか、拳闘や魔術を教えたことだったり、はたまた『メルガリウスの魔法使い』の〝正義の魔法使い〟にあこがれていたことなどを話していった。本当にその思い出が大切なんだと感じさせる声音で語り続ける。

 

するとセリカさんはおもむろに紅い石のペンダントを取り出す

 

「これはグレンが私の誕生日にと言って、私が教えた錬金術で作った赤魔晶石だ。こんなのもらっても困るのにな..........だが、これをもらった瞬間のは私は.........」

 

そう言ってとても大切そうに握りしめ胸に抱く。生徒たちは皆本当に先生の事が大切なんだと思い心が温まるのを感じた。

 

「それからのことはアイツの名誉のために伏せさせてもらうが..........ちょっと不幸なことが重なってしまってな............それから何事もやる気をなくしてしまったようになってそれが長く続いた............」

 

(すいませんセリカさん......................俺が力不足なせいであの人を............)

 

ナハトにとってもそれには思うところがある。自分がもっと強ければと後悔した出来事でもある

 

 

「だから今アイツがバカやってられるのはお前らのおかげなんだ。私がどうやってもアイツをあんな風にしてやれなかった............本当にありがとう」

 

 

皆の心にその言葉が響いた。いや響かないわけがないのだ。あの優しく温かい表情で話した後でのお礼なのだから。

 

それからはセリカさんは話は終わりと言ったように今回自身で持ってきたグレン先生との思い出の一つである『メルガリウスの魔法使い』に視線を落とした。

 

それからはまだぎこちない部分はあるもののセリカさんに話しかけて談笑したりと最初とは見違えるほどに空気が明るくなった

 

 

 

 

 

 

 

「よかったですね皆セリカさんと仲良さそうで」

 

 

そう言って御者をするグレンに話しかけるナハト

 

「................別に俺は気にしてなかったしーアイツは傍若無人で破天荒で我儘で悪戯好きで嘘かホントかわからないこと言うし破天荒な奴だけど...............それだけの奴じゃねぇんだ」

 

グレンは何かを隠すように言い訳を言うときみたいに口を開く

 

「(照れてるんだな...........)そうですね.............セリカさんいい人ですよね」

 

そう言うとナハトはそのままグレンの隣に座った

 

「..........たまに..........たまに優しい時もあるし、赤の他人の俺に拳闘や魔術を教えてくれて..........女手一つで母親代わりに俺のことを育ててくれた奴だから..........感謝してるんだ」

 

「.............」

 

「もし、俺を拾ってくれたのがセリカじゃなかったらとっくに家を出ていってただろうさ.......」

 

それはすごくわかる気がした。だって.............

 

「俺も...........俺にも先生の気持ちわかる気がします..............もし俺の姉さんが...........イヴ姉さんじゃなかったらとっくに自殺してた気がします」

 

「そうか..............」

 

(そして...........もう一人。俺とイヴ姉さんにいつも優しさと温かさを向けてくれた〝リディア姉さん〟にも本当に感謝しかない)

 

 

ナハトには〝本当の姉〟は二人いる。一人はもう会うことのできない人だが厳しいあの家で彼女にどれほど救われたか...........

 

 

だからこそ俺はいつの日か

 

 

 

 

 

絶対に

 

 

 

 

 

                        〝イグナイト家を潰す〟

 

 

 

 






今回はここまでです。今回は少しの戦闘シーンとセリカの親子の絆の描写です。今回ナハトに使ってもらった【千鳥】ですがあの有名作品ナルトのサスケやカカシが使う忍術です。詠唱からしてわかりやすいですよね?それにしてもやっぱり【千鳥】って名前からしてすべてがかっこいいですよね!特にサスケが中忍試験で我愛羅に対して使ったときとか滅茶苦茶かっこよくて好きなシーンの一つです。


さて今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、お気に入り登録、コメント、評価をくださり本当にありがとうございます!



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調査開始と異形の少女

 

 

 

「ちょっと!!!聞いてませんわ!!ここは安全な遺跡ではないですの!!!」

 

 

前日遺跡前に到着し、一晩野宿すると今日から遺跡内部の探索を始めたのだが.....................

 

 

「いいからさっさと撃て!次来たぞ!!」

 

「今回はこんなことばかりですわーーーー!!!!!」

 

(元気だな~)

 

俺ことナハトはそんな暢気な感想を胸に抱いてる今この頃

 

ただいま絶賛皆さん必死に遺跡内にいる異形の者と応戦していた

 

「え、えっと《我は射手・原初の力よ・-》」

 

「ま、ま、《魔弾ーー》」

 

と言ううのも今回の遺跡はF級の遺跡にも関わらず長年手が入っていなかったため狂霊が沸きに沸いていた。正直言って雑魚であるため俺やリィエルがしっかり対応すれば数分とかからないうちに大軍を掃討できるだろうがセリカさんが..............

 

 

『せっかくだし、ナハトとリィエルはフォローだけにしてお前たちだけで極力あれを倒してこい』

 

 

と言ったため、俺とリィエルはうち漏らしを魔術を付呪した剣を使ったりして援護するだけしかせずに、大きな悲鳴を上げるウエンディ達が主に倒している

 

だがそんな生徒たちの中でひときわすさまじい成長を見せるものがいる

 

 

「《魔弾よ(アインツ)》!《続く第二射(ツヴァイ)》!《更なる第三射(ドライ)》!」

 

 

今までみんなが慌てながらも使っていた黒魔【マジック・バレット】を矢継ぎ早に連唱(ラピッド・ファイア)するのはクラス一の秀才システィーナだ。

 

彼女のセンスにはもともと目を見張るものがあったが朝練や前回の事件での経験でより磨きがかかっている。まだまだ精神的には甘いところはあるがそれでもすさまじい成長だ。

 

そしてそんなシスティーナに触発されギイブルやシスティーナをライバル視するウエンディをはじめ他の生徒達もペースを上げて倒していった。それからは俺やリィエルの出番は一気に減っていった

 

 

そして最終的に少しするとすべての狂霊達は倒すことができた

 

「うっ...........勝てた.........のか?」

 

「あっはっはっ!お前たち上出来だ。やるじゃんお前ら!」

 

 

すべて倒し終えると後方で見守っていたセリカさんが愉快そうに笑いながら称賛する

 

「たっく.............ナハトやリィエルに手出しさせないでやらせようとか、お前無茶言うなよ.............」

 

「「お前(先生)は過保護すぎるんだよ(すぎですよ)」

 

グレン先生がため息をつきながらそう言うので俺とセリカさんはそろってそう返した。

 

確かに俺やリィエルあるいはセリカさんが手を出せば一瞬だがそれでは折角実戦経験を詰める機会が台無しだ。相手も雑魚だし、怪我しそうならすぐに出られるようにセリカさんも俺も備えていた。

 

「お前らなぁ...........」

 

「私とナハトがいるんだ。怪我しそうならすぐにフォローできる。自慢の息子の生徒達ならこれくらいできて当然だろ?」

 

「そうだが.........」

 

「先生の気持ちもわからなくないですがせっかくの機会ですしね。何事も経験するのが大切ですよ」

 

「お前らホント、スタンス似てるよな..........マジで.........」

 

 

グレン先生は少し疲れたように俺とセリカさんを見る。それに対して俺は『セリカさんほどぶっ飛んだスペックはしていないのだが........』と思いながら歩いているとまた大群が迫ってくる気配を察知する。

 

 

「また団体様が来たみたいだな」

 

「よーし!システィーナ、ギイブル!誰が多く倒せるか競争しようぜ」

 

 

生徒たちは先程とは違い自身がついたのか競争しようとし始める。すると...........

 

 

「まぁ、待てお前ら。お前らはいったん休憩だ。さっきから連戦だからあんまり無理するとマナ欠乏症になるぞ?」

 

そう言ってセリカさんは生徒たちの前に歩み出る

 

「え、えっと、でも結構な数ですよ?さすがに私たちも...................」

 

今来た敵の数はシスティーナの言う通りかなり多い。だからこそ自分も戦ったほうがと提案する。だが........

 

「フッ、なーにあの程度造作もない。だが、まだ全然余力を残しているやつがいるからな。そいつに力を借りよう...................お~いナハト!お前も来てくれ」

 

するとセリカさんは大きな声で俺の名前を呼ぶ。すぐに俺はセリカさんのとこまで駆けていく。

 

「わかりました..............それで俺はどの程度やればいいですか?」

 

「私とお前で半分ずつだ。やれるな?」

 

「半分ですね............はい、問題なくやれますよ」

 

「よし!さてお前ら、今から私とナハトで手本を見せてやる。こういうう場合はだな............」

 

そう言ってセリカさんは沢山いる敵の方を見据える。それに倣って俺も振り返る。

 

 

そして俺達は二人同時に指を鳴らすと..............

 

 

「「「「............は?」」」」

 

「まぁ、そうだとは思ったがアホかよあいつら...........」

 

 

ナハト達の周りには数十発の【マジック・バレット】が出現する

 

 

「行け!」

「それ!」

 

2人がそう言うと一斉にその弾丸は放たれ流星群の如く狂霊達を蹂躙していく

 

そして二人は殲滅できたのを確認すると、生徒たちのほうを振り向くといい笑顔でこう言い放つ

 

「「とまぁ........こうゆう風にやるんだ。わかったか?」」

 

「「「「そんなの出来るか!!!!」」」」

 

 

と言う、返答が返ってきたのであった。解せぬ.........

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

それからそのまま俺達は時たま湧いてくる狂霊を相手しながら遺跡内を進んでいた

 

「先生。ちょうどこの先に第一祭儀場があります」

 

「了解」

 

この遺跡はすでに探索されつくしている遺跡なので当然地図は作られている。そのためその地図に従って進んできたところでシスティーナが目的地に近づいたと報告する。

 

グレン先生ははまず入り口から中の様子を軽く探る。すると奥にはかなり広めの広場があることがわかった。

 

「何もないとは思うが一応俺とナハトで中の安全を確認してくる。セリカとリィエルは白猫たちを頼んだぞ」

 

「ほぉ~生徒たちのために体張るとは中々カッコいいじゃないか?」

 

セリカさんはグレン先生が言ったことにニヤニヤと悪戯ぽっく笑いながら揶揄う

 

「うるせぇ..........!////それより頼んだぞ。ナハトついてきてくれ」

 

「了解です」

 

そして俺は剣を、先生は銃を構えて念のためしっかり警戒は怠らず祭儀場へと踏み込んでいく。

 

2人が入っていくと視界の先に広がったのはドーム状の高い天井を持つ大部屋だった。

 

壁と床、天井には占星術で言うホロスコープにも似た奇妙な文様が刻み込まれており、恐らく黄道や白道、太陽や月、惑星、星々などを意味する意匠や石像が散見される。まるでこの空間そのものが象徴的に宇宙空間を顕わしているかのようだ。

 

部屋の中央には直方体に切り出した意思を複雑に積んで組まれた、不思議な祭壇。そして、その頂点には御神体と思しき神像が設置されている。

 

双子の天使が向かい合って絡み合うような、そんな御神体の名は..............

 

「..............天空の双生児(タウム)、か」

 

星辰崇拝の最高神格である天空の双生児(タウム)。空の象徴である。

 

「確か古代人は空にビビってたんだっけ?わけわかんねぇ~な昔の奴らってのは...............」

 

「〝そういうものだった〟そう捉えとけば今はいいんじゃないんですか?」

 

そんな風に二人は会話しながら周囲に異常はないかを探る

 

 

だが、突如二人は異常を察知する

 

ぞくり、と二人の背中を駆けあがる氷の刃の感触

 

心臓を絞るような緊張感を二人は感じながら振り向く

 

「誰だ!!」

 

二人はそれぞれ銃と剣を構えるとそこには先程までいなかったはずの少女が一人、神像の足元に立っていた

 

燃え尽きた灰のように白い髪、暗くよどんだ赤珊瑚色の瞳。身に纏う極薄の衣。

 

そして目をひくのは背中の羽だ。いや、それも正確ではないのかもしれない。何かが複雑に複合しような歪な翼のような何か。

 

 

そちらを警戒しているとその少女が遂に口を開く............

 

 

『そう警戒しないでくれる?別に攻撃なんてしないわよ』

 

そう言いながら少女は二人に歩み寄ってくる。

 

『..............久しぶりね(・・・・・)グレン(・・・)そして(ナハト)

 

グレンは内心凄まじいほどに動揺していたそれに対してナハトは.............

 

「..................もしかして俺は君に〝会ったことがある〟のか?」

 

先程までの緊張感は不思議と解けていた

 

そしてどこか確信に近いようなそんな問いが自然と口から出ていた。

 

『........貴方もしかして..........そう、〝ソレ〟を持っているということは〝彼〟ともう会ったのね.........』

 

「一体何のことなんだ?」

 

『............まだ時じゃないわ。貴方が〝ソレ〟を使うには早い。貴方に〝声〟が聞こえたらその時は.........』

 

(〝声〟?どういうことだ?まったく意味が分からない...........)

 

『いえ、なんでもないわ...........それじゃあまた会いましょう二人とも?』

 

そう言うと陽炎の如く消えてしまい先程までの異常な空気も霧散していた

 

(彼女のあの容姿まるで..................いやそれよりも.......)

 

 

「先生!大丈夫ですか?先生!」

 

ナハトは普通に会話に集中していたがグレンは異様な雰囲気を醸し出す彼女に飲まれ呆然と立ち尽くしていたのだ。そのためナハトはグレンの体をゆすりながら大きな声で名前を呼ぶ

 

「はっ!......奴はどうした?」

 

「意味深なこと話すだけ話して消えていきました」

 

「そうか............なぁ、まさかと思うが知り合いか?」

 

「いえ...........違う...........はずなんですが...........」

 

ナハトは明確に違うとなぜか言えなかった。もしかすると彼女の容姿が自分のよく知る者に似ている.............いや、あれはもはや〝同じ〟と言うべきだ。だからなのかもしれないが知らないと明確な確信を持って言えないのかもしれないでいた。

 

 

 

それからセリカさんたちが俺の大声を聞きつけて中に駆け寄ってきた。俺達は何もなかったと伝えたが念のため俺は索敵結界を張るも何も反応がなかった

 

それからはそれぞれで内部の調査を始めたのだがナハトはそれよりも先のことがづっときになって頭から離れないでいた。

 

(本当に彼女は幻なのか?.............それに〝ソレ〟って一体何だ?)

 

ナハトは今自分が持っているものについて考える

 

(〝ソレ〟ってことは今持ってるてことだよな?今持ってるのは剣にカッシュと手分けして持ってる物資.........後はルミアからもらったネックレスをつけてるのと..................)

 

ナハトは以前にもらったネックレスを毎日つけていた。勿論壊れないように何重にも魔術で保護をかけているため【イクスティンクション・レイ】か【原初の焔ゼロ・フレア】の直撃でもないと壊せないくらいには強固だ

 

(他と言えば家の鍵ぐらい................って、そうだ!あの〝鍵〟だ!そういえばいつも手放せなくて今も持ってた!)

 

ナハトは少女が言っていたのは大導師から貰った鍵のことではないかと考え着く

 

(てことは〝彼〟は大導師の事か?だが〝声〟ってなんだ?確か大導師は内なるものを開放するためのものだとか言ってたな...................)

 

 

異形の少女がさしているのは〝鍵〟なのではと言う推論には至ったものの具体的なことは何もわからないでいた。

 

 

「おいナハト!ボーとしてないでさっさとお前も手伝ってくれ!」

 

 

ナハトが長考しているとグレンが手伝えと急かしてきた

 

(どんなに考えても今は無駄なんだろうな.......)

 

「わかりました!今行きます!」

 

 

 

 

こうしてナハトも本格的な調査に加わるのであった。

 

 

 

 

それでもまだ心の内は消化しきれない疑問で一杯なのであった

 

 

 

 

 






今回はここまでです。いや~はやくあの戦闘を書きたくてどんどん書いてしまいました。今回は遂にナムルスが初登場です。ナムルスと言えばあのルミアの体を使って普段の生活を体験するという話の時とても普段と違いかわいらしかったですよね。あの話もいつか書いてみたいです。

後この遺跡調査編中か終わった後くらいに番外編でクリスマスのお話が入るかもしれません。ルミアだけでなくシスティーナや本編に本格的には登場していないイヴなどの話もかけたらなぁなんて思ってます。もしかしたら書けないかもしれないですが一応今のところでは書く予定です

それでは今回もここまで読んでくださりありがとうございました。また、お気に入り登録、コメント、評価をしてくださりありがとうございました。







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星の回廊

 

 

 

 

 

 

不思議な空間だ

 

 

夜空に浮かぶ銀光を輝かせる大きな満月と色とりどりに輝く星々

 

 

そして足元は沈むことのない海のような水面

 

 

そして、それは星の海とも表現できるようなもので、

星屑が夜空と同じように溢れ返りそうだった

 

 

すると〝声〟が聞こえた

 

 

不思議な〝声〟だ

 

 

 

 

どこかで聞いたことがあるようでないようなそんな〝声〟

 

 

 

――(お前)はどうなりたい?

 

 

強くなりたい。大切な人を...................

 

 

大切な人たちが悲しまなくていいように守ることのできる強さが欲しい

 

 

――では(お前)にとって強さとはなんだ?

 

 

太陽みたいな力。先を照らす力の事.................

 

 

多分一般的にはそうなんだと思う

 

 

でも俺は少し違う気がする

 

 

〝夜〟のように優しく包み込むようなそんな力だと思う

 

 

――どうしてそう思う?

 

 

〝月〟が優しい幻想を届けて

 

 

〝星〟が人々をまるで悪いものから守るように照らすから

 

 

そして、そのすべてを〝夜の闇〟が生み出す

 

 

俺はそういう〝夜〟のように強くなりたい

 

 

 

――そうか......................

 

 

 

 

『やはり(お前)(お前)だよ.......(ナハト)

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「ん................あれ?俺何か変なこと話してたような.................」

 

 

ナハトが目を擦りながらふと目を覚ますとそこはテントの中で両隣にクラス内でも特に話すカッシュとセシルが寝ており少し離れたところにギイブルと先生が寝ていた。

 

(ん~なんか変に目が覚めたな..............)

 

 

ナハトは先程の夢のことを思い出そうとしても靄がかかったように思い出せないでいた。誰かとただ不思議な場所で会話していただけのような気もするしはたまた独り言だった気もするせいで妙な気分で少し落ち着かないでいた。

 

 

(なんだか気味悪いな............まぁ、いっか。顔でも洗いに行くか.................)

 

 

 

こうしてナハトは近くの川辺に向けて歩き出す

 

 

 

濃紺の〝鍵〟を無意識に握りしめて.........................

 

 

 

これがナハトの遺跡調査6日目の朝だった

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

 

6日目はとうとう遺跡最深部にある大天象儀場プラネタリウムに来ていた

 

 

綺麗に磨き抜かれた半球状の大部屋の真ん中には謎の巨大な魔導装置が鎮座し、その傍らには黒い石板のようなモノリスが立っている。

 

 

この魔導装置は天象儀(プラネタリウム)装置。これは古代魔術(エイシャント)が生み出した産物で一種の魔法装置(アーティファクト)である。仕組みとしては光の魔術で半球状の部屋に星空を投射するようだがそれ以外は全くの謎だ。

 

 

「私は見たことないが随分すごいらしいぞグレン?」

 

「あ...あぁ、そうなのか?」

 

セリカさんはグレン先生にそう言う。セリカさんはいつも通りなのだが先生はなぜか様子がおかしい

 

(昨日の覗き騒動での傷が痛むのか?)

 

 

前日の深夜に俺やカッシュ達は男子用のテントで軽く遺跡内の考察について話していた時グレン先生は風呂に行ってくるといいテントを出ていったのだ。

 

それ自体は別に何の問題もなかったのだ。グレン先生はここまで資料をまとめたりと忙しくセリカさんが見つけた天然温泉に入れていなかったのだ。因みに前日にはカッシュが覗くとか言い出したのを聞いたのでルミアたちが見られる前に〆ていたりする。

 

そして俺達はそれからも意見交換に集中していたためある集団が温泉に向かうことに気づかなかった。そしてしばらくするといい時間だしねるかと言うところで二つの悲鳴が聞こえた。

 

一つは女性の声で、一つは野太い男の声

 

もうお分かりだろうが先生は事故で女子を覗いてしまったのだ。まぁ、対処の使用はいくらでもあったの事なので先生にも幾分かの非はあるだろうがそれでも相当きつく〆られたらしい

 

 

「先生様子が変ですが昨日の傷が痛むんですか?」

 

俺は何かあっては遅いと思い直接聞いてみた

 

「いや、そりゃ痛むがそうじゃねぇんだ」

 

「?そうなんですか?では、他に何かあったんですか?言いたくないなら別にいいですが」

 

「...............悪いな少し話せねぇや。まぁ、特に何かあるわけじゃないが心配してくれたのにすまんな」

 

「いいですよ。一応何かあったらいけないと思っただけですから」

 

そうやって俺が先生と会話していると........

 

「あの先生?折角『タウムの天文神殿』に来たんですから天象儀(プラネタリウム)装置で星を見てみませんか?」

 

そう提案してきたのはシスティーナだった

 

「はぁ?星空ぁ?めんどくせぇなぁ~................」

 

グレンは昨日のこともあり少し身構えながら心底だるそうにそう言う

 

「まぁまぁ、そう言わずにいいんじゃないですか?相当綺麗だということですし」

 

ナハトはシスティーナの援護をするようにそうグレンに伝える

 

「お願いします!私はどうしてもここの天象儀(プラネタリウム)装置を見てみたかったんです!」

 

とても必死に頼み込むシスティーナ。あまりにも真摯な姿はまるで星を見ること以外に何かほかの目的があるのかと思うほどだった

 

 

 

するとそれに援護したのはセリカだった

 

 

「まぁいいじゃないか。ここの数少ない名物なんだからな」

 

そう言われるとようやく仕方ないという感じではあるが天象儀(プラネタリウム)装置をいじり始める

 

 

そして、次の瞬間世界がかわる

 

 

「「「「「...............!?」」」」」

 

空間内に映し出される色とりどりに輝く無数の星と惑星。そして銀に輝く月。

圧倒的な臨場感と迫力に一同は押し黙る。

 

ただ..................

 

 

(あれ?なんだか既視感があるような..........ないような?)

 

ナハトはそれを見て既視感があるような気がしていた。

 

(でもまぁ、星空なんて別にほかでも見たことあるしそう言うことだろう)

 

だが、どこかで見た星空に気っと似ているだけとすぐにそう感じたのは頭から抜け落ちていた

 

 

そしてしばらく皆それを眺めるとセリカさんがそろそろ作業しようという声がかかり各々の担当に分かれ作業に入った

 

 

 

 

-----------------------------------------------------

 

しばらく各々が調査に専念していると..............

 

「アルフォネア教授!少しいいですか?」

 

「ん?システィーナ。どうしたんだ?」

 

「その..........お願いがあります。」

 

システィーナは思い詰めたようにそうセリカに懇願する

 

「どうか...........あの天象儀(プラネタリウム)装置をもう一度調べてもらえませんか?」

 

 

 

システィーナが今回この調査にこだわりを持った理由

 

 

それは亡き祖父との会話と遺作である『考察:タウムの天文神殿の時空間転移魔術について』のことである。

 

ナハトがここに来る前にも気がかりであった論文と言うのもこれであり、今回ここにグレンが来ることになった要因でもあるものだ。

 

この論文は当然学術的価値が評価されるものだが..........何か決定的な一手にかけるのである。

 

だが第七階梯に至った唯一のセリカなら何か見つけられるのではと思いシスティーナはセリカに懇願したのだ。

 

 

「............分かった。調べてみよう。だが、あまり期待するなよ?」

 

そういうとセリカは件の天象儀(プラネタリウム)装置の解析に入る

 

(もしこれで何か見つかれば.............それに先駆けたお祖父様の研究は全部、再評価される.........大いなる先見の目を有した、偉大なる魔術師として...........ッ!)

 

 

システィーナの祖父、レドルフ=フィーベルは偉大で天才的な魔術師である。

だが、晩年レドルフの論文は学会内でそれほど高い評価をされなくなってきている。

それはひとえに決定的となるものに欠けるからである。

 

だがそれはシスティーナにとって許し難いことだった。

尊敬する祖父が過小評価されるのは我慢ならないのだ。

 

 

(アルフォネア教授なら...............ひょっとして.........)

 

淡い期待をしながら毛㏍が出るまで待機するシスティーナ

 

そして小一時間ほど経つとセリカは立ち上がる

 

「...................ダメだな」

 

そう言って申し訳ないように謝るセリカ

 

「私もできる限り念入りに調べたんだがわかったのは天象儀(プラネタリウム)装置としての機能だけだった。......................それ以外は何も見つからなかった」

 

「そ、そうですか..........」

 

 

システィーナはあのセリカでさえなにも見つけることができなかったということから尊敬する祖父が間違っていたんだと理解してしまった。勿論そんなわけないと言いたい。だが..............

 

 

(あのアルフォネア教授でも...................それに...........)

 

 

悔しいのだ。セリカに何もかもが負けていることが。

祖父の正しさを自分で証明できずセリカに頼らざるおえない自分が悔しい

 

そして何よりナハトが自分のことを魔導考古学の専門家として頼ってくれたのに今回なんの役に立てていないことが悔しいのだ。

 

そしてそのナハトは一人でどんどんと調査を進めていっているのだ。偶に聞いてくれることもあったのだがほとんど全てを一人でどうにかしてしまっている。ナハトの過去は知ってるからこそきっと一人でできることを増やしていったからこその賜物だというのは頭では理解している。それでも悔しくて仕方ないのだ

 

(悔しいな..........何もかもあの二人に勝てないなんて...............)

 

すると....................

 

 

「システィーナ?どうしたんだそんな悲しそうな顔して?」

 

するとちょうど劣等感を感じていた相手に声を掛けられる。そのため少しだけ素っ気なくなってしまう

 

「ナハト............ごめんなさい何でもないの.........」

 

「....................」

 

そしてナハトは少し無言で考えると

 

そっと手を頭に乗せ優しく撫でる

 

「え?ナハト?」

 

「システィーナがどうしたのかは俺は分からないけど..............こうすると落ち着くだろ?俺も姉さんにやられるとすごい落ち着くんだよ..............まぁ、この年でこんなこと言うのは恥ずかしいけど」

 

ナハトが癖のようになってしまうのは二人の姉の影響である。自分がそれで落ち着くために無意識化でルミアやシスティーナにしてしまったりすることがあるのだ。

 

(あぁ、ほんと情けないな...........先まで悔しくて仕方なかったのに............こうされてうれしく感じちゃってる)

 

システィーナは悔しくて仕方なかったのに徐々に心がうれしさで満ちていく。

 

「も、もういいわ//////////そ、その、ありがとうナハト」

 

すっかりさっきまでの悔しさはなくなり嬉しさと気恥ずかしさで一杯になっていた。

 

「そっか...........それじゃ向こうでやらないといけないことあるから行くよ」

 

そう言ってグレン先生がいるほうにナハトは行ってしまった

 

(ホント敵わないな......................)

 

システィーナは先程とは違う感情でそんなことを考えているとふと一つだけ二人に一矢報いる方法を思いついた。

 

そしてそれを伝えるため彼女はある人物のほうへ駆けていった

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------

 

 

 

「にしてもホントなんもねぇな.......................」

 

グレンはこれまでの調査結果を簡単にまとめた手帳をぱらぱらとみてそう呟いていた

 

「まぁ、それでもやりつくした感はあるな」

 

するとセリカがそれに対して言葉を返す

 

「そうですね...................これだけ調べてないとすると本当に何もないんでしょうね」

 

そう言って近くで作業していたナハトが返す

 

「まぁ、これだけ調べれば学院のやつも『何もなかった』って納得するだろ................それにしてもあいつらには感謝しないとな」

 

グレンはこれなら十分だろうと結論づける。そして、その結論を出すのに至った協力してくれた生徒たちに感謝を抱いていた

 

 

 

すると突然今までに聞きなれない音がする

 

 

 

「お、おいなんだ!?ナハト何が起きてる?」

 

するとグレンは索敵結界やらなんやらを張っているナハトに問いかける

 

「わ、わかりません。特に害をなすようなことは感じないですが.................って!先生!天象儀(プラネタリウム)装置が!!」

 

ナハトの結界などはすべてクリストフのものを参考にしていることをグレンは知っている。だからこそ害がないことを信じる。だがそれ以上に今は天象儀(プラネタリウム)装置に注目する

 

 

 

(何だアレ!?.............さっきはあんな動きしてなかったじゃねぇか!?)

 

呆気にとられる一同の前で天象儀(プラネタリウム)装置のアームが先程と同じように星空を投射する。

そしてそれは徐々に加速しながら回転していきやがてすべての星々が狂ったように暴走回転し、銀線となって無数の同心円を描き――

やがて動きを止めていくと星が消える――

 

「何!?」

 

すると北側に蒼い光で三次元的に掃射された『扉』が出現していた。その『扉』の先がどこの空間につながっているかわからないがそれが異様であることは確かだ

 

そしてそれを発現させたのは..................

 

 

 

「う、嘘............ホントに?」

 

天象儀(プラネタリウム)装置側に驚愕の表情を浮かべ呆気を足られているシスティーナとルミアがいた。つまるところ彼女たちがこの事態を引き起こしたということだ。だがそれは.....................

 

 

「先生おかしいですよ.........こんなのありえない」

 

「あ、あぁ..................あのセリカが調べて何もないといったのをあの二人が何故.............」

 

 

ナハトとグレンはありえないはずの事態にどうしてかと理由を探る。資料にもこんな現象を起こす術式がないことは証明されている。

 

そしてついに二人は思い至る何が要因なのかを.................

 

「先生もしかしてルミアの.............」

 

「十中八九そうだろう.............だが、それでも一体あれは.........」

 

そんなことを考えていると生徒たちは裏腹に盛り上がっていく。

 

そしてもう一人..................セリカはと言うと..................

 

 

 

「ほ、星の............回廊..........そうだ!《星の回廊(・・・・)》だ!」

 

 

すると後ろにいたセリカが血走った眼と息を荒げさせてその『扉』を《星の回廊》と呼び見ていた

 

そしてそのセリカの顔色はとても悪く、冷や汗を大量に浮かべている

 

 

「せ、セリカさん!?大丈夫ですか?」

 

「お、おい!どうしたってんだ!?それに《星の回廊》って一体何なんだよ?」

 

ナハトとグレンは心配して駆け寄ろうとする。だが、

 

 

そんな二人をセリカはふらふらとかわして扉に吸い込まれるように歩いていく

 

 

 

〝『駄目だ!!彼女(・・)をその先に行かせるな!!!』〟

 

 

(え?誰が.............?)

 

 

するとナハトに突然何かを警告する〝声〟を聞く。だがそんなことを発する人はその場には見当たらない

 

 

だが、そんなことよりもと思いセリカのほうを向くナハト

 

 

そこでその警告の意味を察する

 

 

 

 

なぜなら..................

 

 

 

 

セリカは得体のし知れない『扉』の先に向かおうとしているからだ

 

 

「なっ!?..........セリカさん!!」

 

「おい待て!セリカ行くな!!」

 

グレンとナハトはセリカを止めに手を伸ばすだが....................

 

 

「...........ッ!」

 

 

セリカはそのまま突如勢いよく走り始めた。

 

ナハトが謎の警告通りすぐに動けば間に合ったが〝声〟に気を取られ反応に遅れた。

 

そしてグレンもまさかそんな得体のしれない場所に突き進むなど想定外なため遅れる。

 

 

2人が遅れた結果......................

 

 

 

セリカは『扉』の先へはいって行ってしまった

 

 

「「なッ......!?」」

 

 

グレンとナハトはすぐに連れ戻せば何とかと思い自身らも入ろうと走り始める。

だが、直前で非情にも『扉』は消えてしまいそこには何もなくなってしまった。

 

 

 

「セリカ..............セリカああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

そしてその場に響いたのは彼女の息子であるグレンの大きな叫び声だった

 

 

 

 

 

 

(クッ........!俺があの〝声〟通りに動けばあるいは..........だが一体あれは.........?)

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

 

ナハト達は緊急事態なため野営場に戻った。その道中誰もがみな意気消沈としていた。

 

 

そして戻るとすぐにグレンはシスティーナ、ルミア、リィエル、ナハト以外の生徒たちを無理やり別のテントに待機するように伝えあの天象儀(プラネタリウム)装置を起動させた二人に話を聞くため別のテントに集まった。

 

 

「助かるナハト」

 

ナハトは念入りに音声遮断結界を張る。万が一にもここからの話を聞かれるのはまずいからである

 

「いえ..............準備はできました先生」

 

「あぁ..................それで説明してくれるか?」

 

「はい...............」

 

 

 

それからシスティーナとルミアによって何があったかの説明を受ける。それはナハトとグレンが考えていた推論通りルミアの異能によってアシストを受けたシスティーナがもう一度天象儀(プラネタリウム)装置を調べたら別の〝何か〟を見つけ相談する前に誤ってその〝何か〟を起動させてしまったようだった

 

 

 

だがそうなるとルミアの異能は......................

 

 

「先生やっぱりルミアの異能は〝『感応増幅能力』〟なんてものじゃない。もっと別の凄まじい何かですよ」

 

「え.........?」

 

「あぁ、俺も前々からおかしいと思っていた............ルミアお前の異能は恐らく『感応増幅能力』とは別物だ」

 

 

そう言われるルミアはどういうことか全くわからないと言う様子だった。

 

遠征学修の時何故か(・・・)ルミアの異能の力を持って【Project : Revive Life】が完成した。それは普通に考えありえないのである。『感応増幅能力』と言うのは本来触れた相手の魔力を一時的に増幅させ、その結果使われる魔術が強化されるのだ。だからナハトの特殊な魔力特性ならまだしも、ルミアを術式の一部として【Project : Revive Life】が完成するなんて〝ありえない〟のだ。

 

 

「ごめんなさい先生私のせいで.............アルフォネア教授が..................」

 

「違うよシスティ.............私が何の相談もなくやったから..............」

 

2人は涙を浮かべ取り返しのつかないことをしてしまったと落ち込んでいる

 

「大丈夫二人のせいじゃない..............コレハオレノセイデモアルンダカラ」

 

ナハトはぼそりと何かをつぶやき二人の頭を撫で落ち着かせる

 

 

「先生............俺とセリカさんを助けに行きますよ」

 

「は?馬鹿言うな!行くなら俺一人が................」

 

ナハトはセリカ救出を提案し、二人で行こうと伝える。だがグレンにとってナハトがいくら自分より強いとはいえ〝生徒〟だ。容認できず反対しようとするが.................

 

「先生がもし戦闘しざるおえない場合になったらどうするんですか?先生はそこまで強くないうえ継続戦闘能力も特務分室一ないといっても言いはずですよ。そんな先生一人で本当にセリカさんを助けられますか?」

 

「そ、それは................だ、だが.........!」

 

グレンもナハトの言い分が正論なのはわかっている。それでも................

 

「まだいいと言わないんですね................ならはっきり言います」

 

「え........」

 

するとナハトは一旦息を吸うと先程よりも強い視線をグレンに向ける

 

「犬死がお望みですか?」

 

「ッ...........!」

 

「先生一人じゃ最悪セリカさん共々犬死ですよ。それに俺は先生が心配するほどやわじゃない」

 

(そうだ.............確かにナハトの言う通りだ............だが.....!)

 

それでもグレンは思い悩む。どうするべきか激しく悩む。

 

「なら軍人として命令しましょうか?それとも幻術かけられたいですか?」

 

ナハトはもうなりふり構うもんかとここぞというばかりに畳みかける。

 

「俺一人で行ってもいいんですよ?本来俺と先生が組むには少し相性が悪いです。俺一人のほうがかなり戦いやすいのは分かりますよね?それでも俺は先生と行くことを提案してるんです。その意味わかりますか?」

 

そう、ナハトの戦闘スタイルはセリカに似たところがある。そのためグレンと組むのは少しどころか非常に相性が悪い。それにかかわらずグレンと行こうとする理由。それは................

 

 

「俺一人じゃセリカさんを助けられる可能性は恐らくそんなに高くないからですよ」

 

「ッ.............!」

 

そう、ナハトをもってしてもどうなるかわからない。むしろ助けられない可能性のほうが限りなく高いのだ

 

「だからこそメインは俺が............そして支援をグレン先生がしてください。そうすれば少しは確立があがるはずです」

 

そう、それでも少しなのだ。未知の領域に踏み込むのだから当然でもある。勿論より確率を上げる方法はある。だがそれはナハトはしたくないと考えている

 

「................すまないナハト..............力を貸してくれ」

 

すると苦渋の決断と言ったようにグレンは頷く

 

「そんな申し訳ないようにしないでください。俺は軍人ですから当然のことなんですよ」

 

そう伝えるとナハトは振り返りルミア達に指示を出す。

 

「ルミア達は『扉』の開閉を頼む。一日に.............そうだな三回開閉をしてくれ。明日の朝に一回、昼に一回、そして最後に夜に一回。それでもし俺と先生が帰てこなかったらフェジテに帰ってくれ。リィエルはみんなを守ってくれ」

 

「待って私たちも.............「ダメだ!」...........ナハト.........」

 

システィーナ達もついていこうとするがナハトが遮る

 

「今回は危険すぎる。俺も先生もどれほど余裕があるかわからない。リィエルがいてもだめかもしれない。だからシスティーナたちを連れてはいけないんだ」

 

 

 

だが〝彼女〟だけは絶対に(・・・)食い下がらない

 

 

 

「ねぇ、ナハト君。................ナハト君は確立を上げる方法まだあるよね?」

 

「これが最善だ。これ以上は........「嘘だよね」...........ルミア..........」

 

ルミアは俺に嘘をついているという。彼女の言うことは正しい。どうしてわかるのかはさておきそれでもその方法だけは取りたくない。なぜなら...............

 

「ナハト君は私達三人がついてきたらもっと高くなると思っているよね?私の法医呪文(ヒーラー・スペル)、システィの魔術と知識、リィエルの剣................きっとそれがあればなんとかなる可能性があるってわかってるんでしょ?」

 

「ナハト..............お前..............」

 

グレン先生も俺の考えていたこと気づいたようだ。ルミアの言う通り真っ先に思いついたことがそれである。どう考えても俺と先生だけでは戦力が不安だし治癒魔術は俺も先生も得意ではないから怪我を負えばたまらない。知識だってきっと足りない。彼女たちがいればかなり整った形で立ち向かえる。そして彼女たちはそれぞれ強い。だからこそ連れていけばとは思う。だが...........

 

「ダメだ................ルミアを..........システィーナを守れる保証がない。多分グレン先生を守るのもままならないかもしれない。だから..................」

 

彼女たちが傷つくならそのすべてを俺が背負う。大切な誰かが傷つくのは許容できない。あの時の姉さんの涙やセラねぇが傷ついたあの時みたいに大切な誰かがもう苦しむのは見たくない。だから................

 

 

「『誰が敵に回ろうと...........たとえ世界が敵だったとしても俺ががすべてのことから君を守るよ。』」

 

「ッ!」

 

ナハトはあの時約束したときのその言葉をそのままルミアに言われた

 

「あの約束は嘘だったの?そうじゃないよね?ナハト君はいつも頑張ってその約束を守り続けてくれた。.................なら私がどこにいたって守って見せてよ(・・・・・・・・・・・・・・・・)ナハト君!私はナハト君の事ずっと昔から.............今でも〝信じてる〟よ!」

 

そしてそのままルミアは俺の方に歩いてくると両手を握る

 

「だからね...........ナハト君を信じる私を〝信じて〟欲しいな。それにナハト君は私が信じてくれたら〝どこまででも戦える〟んでしょ?ならナハト君は大丈夫。君は皆を守れるよ」

 

 

そうだあの〝約束〟は嘘なんかじゃない。嘘にしてたまるものか。たとえ自分がどんなに汚れ偽り塗れの屑だとしてもその〝約束〟だけは――

 

 

俺の希望で..............そして彼女は俺の光なのだから――

 

 

 

 

 

「..................そうだな、ルミアが信じてくれると言ってくれるだけで俺は不思議と力が湧いてくる。誰かが信じてくれるというだけで本当に――なぁ、ルミアいいかな?」

 

「何かなナハト君」

 

そう言うといつものように微笑み俺を見てくれる彼女がいる

 

「着いてきてほしい。.............ルミアがいないとダメなんだ」

 

「うん!どこまででも!」

 

そう言うと夏に咲き誇る向日葵がようなそんな眩しい笑顔を向けてくれる

 

「...............システィーナ、リィエル。お願いだ..............俺に手を貸してほしい」

 

ナハトはそうして腹をくくってシスティーナたちに頼み込む

 

「...............えぇ、良いわよ。そもそも最初から私を頼って欲しいわ............それにねナハト?私は守られてるだけの女の子じゃないのよ?貴方の背中は私が守るわ」

 

そう言いながら胸を張りながらいつものように強気で言い放つシスティーナ

 

「ん。ナハトは強いけど私が手伝う。それに私は皆が大切だから」

 

リィエルは今までそんなこと言うはずなかったのにそう言った。本当に大きく成長したと思っていた。

 

 

 

「先生」

 

「.................なんだ?」

 

「危険は承知です...............ですが彼女たちと俺達でセリカさんの救出に行きましょう。彼女たちがいいれば高い確率で..................いえ、〝絶対に〟みんな無事で帰ってこれます!」

 

「.................」

 

ナハトが強くそうグレンに向かって訴えるとグレンはナハトの覚悟を探るように見返し

 

 

 

そして...................

 

 

「はぁ~~~気は乗らない..................だがナハトの言う通りだろう.................お前ら..........俺に力を貸してくれ!あんなことしでかす奴でも................俺にとって唯一の..............母親なんだ。だから絶対に助けたい。......生きて〝六人〟で帰るぞ!」

 

 

「「「「はい!!(ん!)」」」」

 

 

するとそれぞれの準備に取り掛かる。

 

 

今から行くのは未開の地。各々が相応の覚悟して準備する

 

 

 

 

 

(それにしても気づいてのかねぇ~............)

 

 

グレンがそう考えて見つめる先にはナハトが諸々の魔道具を時空間魔術で取り出してシスティーナたちに使えそうなものや治療薬なんかをルミアと二人で手分けして手際よく整理している様子だった

 

 

 

(お前らのあの言葉.............〝プロポーズ〟そのものだぜ?)

 

 

 

 





今回はここまでです。次回はようやくあの場所にたどり着き奴と邂逅する...............そんなとこまで書きたいなと思います。今回は少しだけ鍵関係のことを書きましたが予定では炎の船編までは使いません。炎の船編も本当に好きな話で、グレンのあの固有魔術やそれに関する昔話、アルベルトの圧倒的な狙撃センスと言い本当に魅力的な話ですよね!


今回もここまで読んでくださりありがとうございます!またお気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます









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「過去」と『邂逅』

 

俺達は準備を整えると再び大天象儀(プラネタリウム)場に来ていた。

 

他の生徒達にも5人で救出に向かうと伝え、もしも翌日中にまでに戻らなければ帰るようにとも伝えておいた

 

 

「よし、お前ら行くぞ」

 

グレンはシスティーナの証言通りルミアの異能のアシストを受けて黒魔【ファンクション・アナライズ】を起動させ『扉』を出現させた。

 

「「「「はい!!(ん!)」」」」

 

 

それぞれが返事をするとセリカが言った《星の回廊》に足を踏み入れる

 

 

 

少しすると5人は《星の回廊》を抜ける。するとその先の光景に呆然とする。

 

出た先には大天象儀(プラネタリウム)場と同じような小型のモノリスはあり一応戻ることは可能だと分かる。だが、そんなことよりも目の前に広がる光景に驚かされる。なぜなら.................

 

 

「ひっ..............!」

 

 

床には無数の干からびてミイラ化した遺体が転がっているのだ。

 

それを見たシスティーナは思わずナハトの腕にしがみついて小さく悲鳴を漏らす

 

「大丈夫だよシスティーナ。大丈夫だから」

 

ナハトは怯えるシスティーナを落ち着かせるように優しい声音で勇気づける

 

だがそんなナハトもこれほどの惨劇を見るのは数少ない。あまり気分がいいとは言えないがそれでも冷静に遺体の検分をする。

 

(この特徴的な恰好...............随分時間は立ってるみたいだけど全員魔術師なのか?)

 

ナハトは遺体の衣装と杖などのことから導き出す。そしてグレンも同様のことを考えていた。そして..............

 

 

(この遺体の損傷具合..............餓死とかそういうのじゃなくて明らかに何か害されたことが死因だろうな.........だとしたらこの先それをした何者か...........あるいは罠があると想定したほうがいいな)

 

 

遺体はどれも外的損傷がひどいのだ。焼け焦げていたり、部位欠損していたりと酷い有様なのだ。だからこそ、その原因がこの先にいる可能性も考慮しナハトはより警戒を強める。

 

「先生行きましょう」

 

「あぁ.........」

 

そう言って俺達は移動を開始した。先頭には俺とグレン先生、殿にリィエルそして中衛にシスティーナとルミアと言う形で歩いていく。

 

俺と先生がそれぞれ指先に灯した魔術の光を頼りに罠などに注意して歩みを進める。

 

 

「「........!?」」

 

前方で音がしたため全員反応する。俺と先生が慎重に光で照らすとそこには曲がり角から這い出てくる長い金髪の女性の姿だった。

 

「セリカか!?おい、どうした?しっかり...............」

 

グレンはそれをこの場の空気によりロクに確認せず焦ってセリカだと思い駆け寄ろうとする。だが...........

 

 

「先生!ダメだ!!それはセリカさんじゃない!!!」

 

ナハトはすぐに忠告する。だがグレンはもう既に近くに行ってしまった。グレンもしまったと足を止める

 

(セリカじゃねぇ!.............それにコイツ左腕が..............)

 

 

そうグレンはその女性に左腕がないことに気づく。

さらにそれだけでなく女性には下半身もなく、干からびた臓腑を引きずっていた。

そして女性は目の前のグレンたちに気づくと長い髪の下から憎らし気にグレンたちを見て石のように固まってしまったグレンに掴みかかる。

 

 

(しまった...........ッ!早く抜け出さないと.............ってコイツなんて力して...ッ!?)

 

グレンは女性とは思えない膂力に押さえつけられ抜け出せなくなる

 

 

   〝ずるりッ.........〟

 

 

気味の悪い何かがひきずられるような音が聞こえる。するとその瞬間.............

 

 

「――ッ!?いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

悲鳴を上げたのはシスティーナだった。システィーナの足元にあったミイラがシスティーナの足をつかむとすぐにそれは背中に組み付く。

 

 

システィーナはその嫌悪感抱かせる見た目に完全に怯え切ってしまい冷静さを失う。それにより繊細なコントロールが要求される魔術講師は不可能となる

 

 

そしてそれを機に床のいたるところに転がっていたミイラたちがよろよろと一斉に動き始める。

 

リィエルも対抗しようと事前に錬成しておいた剣で立ち向かおうとする。

 

「グレンから離れて..............ッ!」

 

だが、その瞬間、先んじて不意に伸びた無数の腕にリィエルも取り押さえられる

 

「は、放して................い、痛い....!」

 

凄まじい膂力にリィエルの体は悲鳴を上げる。リィエルも痛みで顔を歪める

 

その場の三人が一気に戦えなくなり絶望が場を支配したかのように思われる

 

 

 

 

 

だが、〝彼〟と〝彼女〟は違う

 

 

「《光在れ・穢れを払いたまえ・清め給え》」

 

そしてルミアは凛とした声音で一切の怯えも感じさせずに高らかと祓魔の呪文――【ピュアリファイ・ライト】の詠唱を謳う。

 

すると周囲に神々し輝きが周囲を包む。それにより周囲の屍たちはすべて目をそらして苦しみ始める

 

(ルミア!?.....この状況下で詠唱だと!)

 

グレンはこの凄惨な状況下で詠唱をするルミアに驚愕する

 

ルミアが安心して詠唱できるのはナハトがいるからだ。ナハトが必ずどうにかしてくれると信じているからこそ何に怯えることなく詠唱をすることができる。

 

そしてそのナハトは...........

 

「《付呪(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)》...........紫電一閃・獄乱」

 

ナハトは両手の双剣に獄炎を纏わせると周囲の大量に溢れる屍やシスティーナたちを抑え込む者らをを神速の剣技で斬り刻む

 

(す、すげぇ............なんて速さだ.............)

 

グレンはナハトの余りの高速剣技に驚愕する。行きの道中でも見たが改めて至近距離で見ると如何にすさまじいかを再認識させられる

 

ナハトも同様にルミアがこの状況で一切の動揺もなく詠唱をできると確信したため確実な隙ができるこの瞬間を信じていたのだ

 

「ルミア!」

 

するとナハトはルミアの名前を呼ぶとルミアはそれだけで意図を理解したのかある魔術の詠唱を開始する

 

「うん!《聖なる輝きよ・女神の慈悲の力以って・亡き者らに安らぎを》」

 

するとルミアの左手から聖なる輝きが灯る。そしてそれはナハトの獄炎纏う双剣に向かい放たれ纏いつく

 

「これでも喰らえ!合技【神喰い】!!」

 

ナハトが両の剣を左右に大きく振るい、獄炎と聖なる輝き纏う刃が周囲の屍らをまとめて一掃する

 

するとその一撃ですべての屍は相当され辺りにはそれらの体から出てきた瘴気と黒煙だけが残り静寂が訪れる

 

「た、倒したのか...........?」

 

グレンはやや戸惑いながらそう言う

 

「えぇ、ルミアのおかげで何とか...........ありがとうなルミア」

 

「ふふ、ナハト君がいてくれたから私も安心できたよ?ありがとうね」

 

(こいつら.............一緒に戦うのなんて始めてだろうになんてコンビネーションだよ)

 

グレンが二人の即席なはずのコンビネーションに戦慄と呆れのようなものを感じていた

 

「さて、みんな大丈夫か?」

 

「え、えぇ.............ありがとう助かったわナハト、ルミア」

 

「ん。ありがとう二人とも」

 

ナハトが状況確認すると戸惑いながらもシスティーナが礼を言い、リィエルは何もなかったかのように礼を言う

 

「だが、それにしてもルミアのそれって【聖櫃(アーク)】だよな?どこでそんな超高等魔術を?」

 

聖櫃(アーク)】は超高等聖属性魔術。光の粒子で分解する魔術なのだが余りの習得難易度でまともに使える者など見たことがないのだ。

 

「これはナハト君に教えてもらったんです」

 

「ナハトが?」

 

「はい。俺は相性がよくないので全く使えないんですけど呪文と知識くらいは知っていたので興味を持ったルミアに試しに少し教えたらすぐにできるようになっちゃったんですよね」

 

「はあぁぁ!?す、すぐにだと!?一体どのくらいでだ?」

 

「それがその.................教えたそのそばで使えてました」

 

「...................まじ?」

 

「マジです.............」

 

あの時は本当に驚いた。偶々ルミアが俺に使えない魔術があるのか聞いてきたときに教えたのだが、その時いきなりルミアが「ダメもとでお遊び感覚で試してみない?」と言いうので俺も無理だろうなと思いつつもやってもらうことにしたらまさかの一発でできてしまったのだ。その時はもうあまりの衝撃に絶句するしかなかった

 

「あはは................なんかこの魔術凄い難しいんでしたっけ?」

 

そう言って少し戸惑った笑みを浮かべるルミア。ルミアからすれば簡単に出来てしまい難しいというのが理解できない為である

 

「凄いってレベルじゃねぇけどな.................」

 

グレンは自身の教え子の凄まじい才覚にもはや言葉が見つからなかった。

 

「さて、お話はこれくらいにして............これ多分ですけどセリカさんの足跡じゃないですか?」

 

ナハトは先程動き回っているときに見つけた足跡に指をさす

 

「確かにそれぽっいな..........よし!これを辿っていこう」

 

そうして俺達はセリカさんのものらしき足跡をたどって歩み始めるのであった

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》今よルミア!」

 

「うん!《聖なる輝きよ・女神の慈悲の力以って・亡き者らに安らぎを》」

 

 

先程の戦闘から少ししてまたしても亡者たちが俺たちに襲い掛かってくるが、リィエルの剣、システィーナの魔術、ルミアの超高等魔術により次々と撃退していく

 

 

「ほんと..........スゲェなこいつら............」

 

ルミアの胆力はすさまじく、たとえ死が眼前に迫ろうと冷静に乱れることなく詠唱することのできる強靭な精神力。

 

システィーナは精神面こそもろいものの状況に応じた呪文行使といいさすがのセンスを感じられる

 

そして何よりもリィエルの成長幅がすさまじい。かつてのリィエルならただ突っ込むことしかしなかったのに今は連携を意識しているようでグレンたちと足並みをそろえて戦っている。

 

 

だが、当然一人大きく飛び抜けているものがいる

 

「《雷帝よ――踊れ》」

 

正確無慈悲に放たれる五条の閃光がシスティーナ達の死角から襲い来る亡者の急所を穿ち無力化していく。そしてそれだけでなく................

 

「《気高く吠えろ・炎獅子》」

 

超精密制御された【ブレイズ・バースト】でシスティーナたちを巻き込まずに多くの亡者を焼き払う

 

 

(完璧なフォロー、その上での超絶技巧による大量殲滅..................まるではセリカとアルベルトを足して二で割ったみたいだな)

 

 

その視線の先にはその完成された戦闘がさも当然といった様子でいるナハトの姿だった。

 

あのロクでなしのグレンも目の前で繰り広げられる生徒達によるすさまじい戦闘に自身も負けていられないという思いすら湧きあがらせていた

 

 

 

それからもここにきてどれくらい経ったかわからないくらい歩いていると突然低い地鳴りのような誰かが戦っている戦闘音が聞こえる。

 

そしてそんな地鳴りのような戦闘音をさせる人なんて一人しかいない

 

「先生!」

 

「あぁ、違いないだろうな............急ぐぞ」

 

ナハトが確認を取るとグレンも確信したようで先を急ぐ。それに後ろからシスティーナたちがついていった先には大きな部屋がありそして眼下には無数の亡者相手に破壊の限りを尽くすセリカがいた。

 

 

「《失せろ(・・・)》」

 

 

そのたった一言が紡がれると【プラズマ・カノン】、【フリージング・ヘル】、【インフェルノ・フレア】の上位B級軍用攻性呪文(アサルト・スペル)三重唱(トリプル・スペル)で三つ同時に放たれる。これこそがセリカ=アルフォネアを第七階梯たらしめる絶技

 

「す、すごい.............」

 

「これがアルフォネア教授の戦い............」

 

「...............」

 

システィーナ達はそれぞれ息をのんでその戦いを見つめ

 

「これが第七階梯................」

 

魔術戦において自身のスタイルを突き詰めた至高の領域である眼前のセリカの戦いに食いつくように見いるナハト

 

だが........................

 

 

(確かにすごいけど.................何かに焦ってる?それに――)

 

ナハトは眼前の戦いを見て二つ不思議に思ったことがある。それはセリカの焦り、そしてもう一つは............

 

 

(なんであの亡者はセリカさんをあそこまで目の敵にするんだ?)

 

 

亡者たちはここまで来るまで戦ってきたがどれもものすごく誰かを憎んでいるようだった。そして今はその憎しみはセリカに向けられている。

 

何があそこまでの憎悪を生み出しているのかわからない

 

ナハトは隣にいるグレンの表情を見て同じことを考えていることを察する。

 

そしてそんなことを考えていると遂に眼前の戦いは終結に向かう

 

「虚無への片道切符だ。受け取れ、有象無象」

 

すると突然部屋全体に奈落の闇が形成される。

 

(これは..............【ゲヘナ・ゲート】)

 

ナハトは使われた魔術の正体を見抜く。

 

【ゲヘナ・ゲート】、霊的存在を問答無用に虚無に引きずり落とす魔術。元は不死者への対抗手段として考案されたものだがそのコンセプトがあまりにも外道なために禁呪とされた魔術

 

 

亡者たちも「助けて」とか「嫌だ」とか叫ぶもすぐさま引き込まれ虚無に飲まれる

 

 

そうして一通りの戦闘を終えたことを確認するとグレンたちはセリカに駆け寄っていく

 

「セリカ!」

 

「.........お前たちか」

 

疲れているのかのろのろとした緩慢な動きでこちらに振り向くセリカ

 

「どうして............ここに?」

 

「そりゃこっちのセリフだ!一体どういうつもりでこんなとこに一人で来たんだ!」

 

そう言って肉親であるグレンがセリカの胸倉をつかみ叫ぶ

 

「俺は別に心配してないけど生徒たちが心配だから来たんだよ!お・れ・は!心配してないけどな!」

 

「こういう時くらい素直になってくださいよ.......」

 

「あははは.............」

 

いつものようにひねくれているグレンに呆れるナハトとシスティーナ。そしてそれを見て苦笑するルミアといつものような風景である。

 

「ったく。さっさと帰るぞ」

 

そう言ってグレンは起こっているようだが内心無事のセリカを見て安心していると.............

 

「なぁ、聞いてくれよグレン!ついに..........やっと...........やっと、見つけたんだ!」

 

突然そう明るい声で話始めるセリカ

 

「はぁ?何を見つけたんだよ」

 

すぐにでも戻りたいと思うグレンは嫌な顔を浮かべ問いかける

 

「私の失われた過去の手がかりだよ!」

 

「.........何?」

 

グレンは予想外な答えに固まる。それにお構いなしにそのままセリカは語り始める。

 

「思い出したんだよ!あの『タウムの天文神殿』最深部.........大天象儀(プラネタリウム)場で、あの光の扉が出現した時..........ほんの少しだけ思い出した.......」

 

セリカはグレンに詰め寄り上気した顔のまま続ける

 

「私は昔あの《星の回廊》を行き来したことがあるんだ!間違いない!何となく覚えているんだ!」

 

セリカはこの四百年ついぞ何もわからなかったのにこんなこと初めてだとはしゃぐ。そしてさらに両手を広げくるりと回って見せる。

 

「それに、ここがどこかわかるかグレン?」

 

「は?どっかの『塔』じゃねぇのか?」

 

ここに来る途中空が見えたのだ。だが、別にそんなことどうでもいいだろうとグレンは思っていると予想外の答えが教えられる

 

「ふふん、ここはな?アルザーノ帝国魔術学院の地下迷宮なんだ」

 

「なッ!?」

 

その言葉にありえないと思い脳の処理がここにいるセリカ以外の者は追い付かないでいた

 

「しかもここは地下89階..........黒魔【コーディネート・ディテクション】で調べたから間違いない!」

 

「わかるか!今まで私が越えられなかった地下10階から49階までの《愚者の試練》と名付けられている階層を優に超えているんだ!」

 

「地下49階.................あの忌々しい《愚者の試練》さえ突破すればこちらのもんだ!喜べグレン!私はついに地下迷宮の謎を解き明かしたぞ!」

 

セリカがここまで興奮するのは無理のないことなのだ。それはなぜなら何度も挑み続けてもついぞ《愚者の試練》を越えられたことがないからである

 

 

 

「やっぱり私の過去は...............失われた使命は.............私の不老の謎は........この地下迷宮にあったんだ。............『声』の通りだ」

 

(〝声〟だって?...............もしかして俺にも何か関係が.........?)

 

ナハトにもその〝声〟とやらについて興味がある。あの時の少女の言葉、そしてここに来る以前のあの警告。もしかしてそれの謎がわかるのかと思うが一体何が何やらわからない

 

 

だが..................

 

 

「何となく覚えてる。そうだ.............あの『門』だ」

 

この大広間の先にある大きな『門』に手を伸ばし歩き始める

 

だがその手を............

 

「ダメだ」

 

グレンがその手を取り今度こそ引き留める

 

「.................グレン?」

 

「なんでこの先にお前の過去があると思うのかわからねぇ、だがな..............」

 

そこでいったん一区切ると、グレンはしっかり今一度セリカの目見てはっきり伝える

 

「恐らくだがお前の過去ってのはロクなもんじゃないと思う。ここまで来るときにあった亡者共は皆何かを強く憎悪していた。そして今ようやくその対象を俺とナハトは理解した。.............お前だよセリカ。さっきの戦闘見て確信した」

 

「ッ........!」

 

「だが、そんなことどうでもいいんだ。ここの奴らがどんだけお前を憎んでようとお前は俺の家族なんだ。だから.............なぁ、もう昔の事なんて良いじゃねぇか。俺は変わらずお前のことを大切な家族と思ってる。帰ろうぜセリカ?」

 

「い、嫌だ..............それじゃあ..........私はいつまでも一人...........ッ!」

 

普段とは違う弱った態度でそう言うとグレン先生の手を振り払いセリカさんは駆けだす

 

「あっ........おい!待てよセリカ!」

 

 

セリカは『門』に向かい走る

 

「《其は節理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・----・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ》!」

 

セリカは四百年『内なる声』に使命を果たせと言われたあの日から............

 

それを何かを知るために渾身の【イクスティンクション・レイ】を放つ。

 

全て消し去る光線が『門』に直撃する

 

 

だが...................

 

 

「なんで...........なんで壊れないんだよ!!これじゃあ門の向こうに行けないじゃないか!!」

 

 

『門』は傷一つなくそこにそびえたつ

 

 

「お前としたことがらしくねぇ...................霊素皮膜処理(エテリオ・コーティング)を忘れたか?古代人の被造物は何人も破壊できねぇよ」

 

『門』に血を滲ませながら叩き付けるセリカの手をグレンはつかむ

 

「離せ!離せよグレン!」

 

血の付いた拳でまだ『門』を叩こうと駄々をこねるセリカ

 

「諦めろ、一体何が不満なんだ、セリカ?」

 

それを『門』に押さえつけ諭すようにグレンは問いかけるがセリカは俯き何も言わない

 

 

すると突然..................

 

 

『その尊き門に触るな、下郎共』

 

地獄の底から響くような声が広間に朗々と響き渡る

 

 

 

愚者(・・)門番(・・)がこの門、潜る事、能わず。地の民(・・・)天人(・・)』のみ能う。――汝らにその資格なし』

 

 

そいつはこの大広間の.............闘技場の中央に突如として現れた。

緋色のローブを纏った謎の存在だ。そのローブは丈長で、フードの中はナハトの認識阻害のローブ同様に表情はうかがえず、新円の闇を湛えている

 

そして何より放たれる闇色の霊気(オーラ)

 

「ひっ..........!?」

 

「な、ナハト君...........!あの人!」

 

「.......................」

 

システィーナもルミアも魔人の異常性を肌で感じ取る。あのリィエルでさえ警戒心を向きだ際にして深く構える。だがその剣先はぶれていた

 

 

だがナハトは無表情で魔人を見据えている。グレンも警戒しているのか圧されているのか全くうかがわせないる。

 

 

(あいつは拙い!マズ過ぎる!!)

 

あまたの強敵を屠ってきたグレンだからこその勘。今目の前にいる相手は間違いなく圧倒的強者でまるで自分達では敵わないように感じさせる圧倒的な格差を感じる

 

 

「...........はっ..........誰だお前.............?」

 

しかしセリカだけは違った。

 

目の前の存在がどういうものなのかわかっていないようだった

 

執着するものを前に冷静さを欠いているようだ

 

「まぁ、いい。どうやら話が通じるようだしな.......おい、お前この門の開け方を知ってるな?知ってるなら教えろ。じゃないなら吹き飛ばす」

 

『.......貴女は.......』

 

すると魔人もセリカを認識すると突然その異様な雰囲気が緩まる

 

『ついに戻られたか、(セリカ)よ。我が主に相応しき者よ』

 

「は.........?」

 

突然名を呼ばれたセリカは困惑する

 

『だが.....嘗ての貴女とはからは想像もできないほどの凋落ぶり...........今の貴女にこの門を潜る資格なし.........故に、早々にお引き取り願おう』

 

「何を言っている!?お前は私を知っているのか!?」

 

『去れ。今の汝に用無し』

 

そのまま魔人はセリカを無視するとグレンたちのほうに向きなおるすると魔人はいつの間にか両手に二仏の刀を構えている。

 

左手は赤の魔刀、右手には漆黒の魔刀を握りどちらも禍々しく、そして業物だと分かる

 

『愚者の民よ。この聖域に足を踏み入れ、無事に帰れると思わないことだ...............汝等は、我が双刀の錆と為れ。亡者と化してこの《嘆きの塔》を永久に彷徨うといい』

 

明確な殺意と殺気をこちらに向ける

 

「ひっ.................!?」

 

完全に怯え切ってるシスティーナはナハトにしがみつく

 

「うぅ...............ぁあ...................」

 

あのルミアでさえ顔を青ざめナハトの服の端を握りしめる

 

「はぁーーーはぁーーーーはぁーーーー」

 

そしてリィエルでさえも過呼吸気味になっている

 

(冗談じゃねぇ........付き合ってられるか!)

 

グレンはかなうわけないと即時撤退を選択する

 

だが..................

 

 

「おい...........人の話聞けよ」

 

腹の虫が悪いセリカは状況がわかっていない。そのため魔人を睨みつける

 

「もういい................話す気がないのなら強引に聞き出すまでだ!」

 

「ば、馬鹿!やめろセリカ!!!」

 

セリカはそのままグレンの制止を聞かずに魔人へと魔術を放つ

黒魔【プロミネンス・ピラー】

深紅に輝く超高熱の紅炎が、天を焼く巨大な火柱が魔人を包み込む

 

 

『まるで児戯』

 

魔人が左手の魔刀を振るうと炎が掻き消える

 

『そのような愚者の牙(・・・・)に頼むとは...何たる惰弱。汝が誇る王者の剣(・・・・)はどうした?かつての汝はもう死んだか?』

 

 

(あいつ今何をした!?セリカの魔術を掻き消しただと!?)

 

 

グレンが驚くのも当然である

【プロミネンス・ピラー】はB級軍用攻性呪文(アサルト・スペル)だ。現代魔術においてはB級以上は打ち消す(バニッシュ)することは不可能なのである

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

だが冷静さを欠いているセリカはそれに気づかず、【ロード・エクスペリエンス】を使い真銀(ミスリル)の剣で斬りかかる。今のセリカは一時的に《剣の姫》と謳われた大英雄の剣技を宿し無双の剣士となっていた。そのセリカに近接戦闘で敵う相手はいないはずなのだ。

 

 

だが..................

 

 

『借り物の技と剣で粋がるな――恥を知れ!!』

 

魔人も左手の魔刀を振り抜きながら踏み込む

 

 

キィィィィイイイン!!!

 

甲高い音共に剣と刀は噛みあい、両者はすれ違う

 

 

「なっ...........!?」

 

 

そう驚愕したのはセリカだった。そのセリカからは割きほどまで感じられた最強剣士の風格は失われていた

 

 

「な、なんで私の魔術が解呪(ディスペル)され.............い、今何された?」

 

『我が左の紅き魔刀は魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)..........そのようなこざかしい術我には効かん』

 

魔人は振り返りセリカに朗々と告げる

 

『我は、その真なる主に敬意を表する。今の一合で理解した。その剣............今は亡き見知らぬ愚者の子よよ...........人の身でよく、ここまで練り上げた』

 

 

すると魔人はここにはいない誰かに祈りを捧げるように刀で円を描く

 

『天位の御座にある我と言えど、畏敬の念を言あ抱かずにはいられない..........』

 

そして魔人は狼狽えるセリカに対し双刀を向ける

 

『其れが故に、その冒涜を許せぬ(セリカ)よ!.......汝はどこまで堕ちた!我は汝に対する失望と憤怒を抑えきれぬ...........!』

 

「クソ........《雷光神の戦槌よ》!」

 

セリカは咄嗟に飛び下がり左手を向け【プラズマ・カノン】を放つ

 

『やはり児戯』

 

するとまた魔人は左の刀を振り抜き術を掻き消す

 

その刹那、残像すら映らないほどの速さで姿を掻き消す

 

すると次に現れたのはセリカの背後へ回り込んでいた。

 

そのまま、魔人は右の刀を振り下ろす

 

 

「チィ.........!」

 

 

それをセリカは寸前のところで転がりながら躱したように見えた。だがよく見ると微かに背中に切り傷が見られる

 

 

すると...............

 

 

「ぁあ......................」

 

 

突如セリカの体が横に倒れる。

 

その時のセリカは全身からまるで魂が抜かれるような感覚を覚えた。それからセリカは何度も体を起こそうとするもなぜか体に力が入らない。

 

『我が右の黒き魔刀は魂喰らい(ソル・ルート)...........我が刃に触れた汝はおしまいだ』

 

無防備に倒れこんでいるセリカに対し魔人はその右の刀を首に添える

 

「ぁ..........あぁ..............」

 

首筋に触れる冷たい感覚におののくセリカ

指一本を動かすことさえ苦労するセリカにもはや為す術はない

 

『見込み外れか...........今の汝に我の主たる資格なし...........神妙に逝ね』

 

そのまま魔人は大きく右手の剣を振りかぶる

 

その様子をセリカはただ茫然と眺める

 

終わる..............

 

それはずっとセリカが望んできたことでもあった

 

だが、今のセリカの中にある感情は......もっとグレンといたい

グレンともっと............もっと、笑いあっていたい 

 

そう、それすなわち.................

 

「死にたく、ない..............」

 

だがそれに対する魔人は一言

 

『いと卑し』

 

そのまま無慈悲に振り上げられた魔刀が振り下ろされようとしてる瞬間.............

 

 

魔人にも劣らないスピードで駆ける一人の剣士がいた

 

 

「シィッ!!!」

 

『ッ!』

 

ナハトである。

 

ナハトはそのまま右手の剣で振り下ろされる剣を切り上げる。

そして流れるようにそのまま左手の剣で魔人の心臓があるであろう位置につきを放つ

 

『ぬっ...!』

 

だが、魔人の超人的な反射神経で刀の側面でナハトの突きを受け止める

 

そしてそこまではナハトも想定内だ。ナハトはすぐに左手の剣を手放し、鋭くかいくぐるように魔人の懐に入り込む

 

『!?』

 

魔人もまさか剣を手放すことは予想外なため一瞬反応が遅れる。

 

そしてその一瞬は彼等の剣戟にとって命取りである

 

「セリャアァァ!!!」

 

下から入り込んだナハトは右手の剣で全力の右下からの斬り上げを深々と魔人の体に叩き込む

 

そして今度は手放して落ちてくる剣を逆手でつかみ取るとそのままさらに追撃として振り抜く

 

『グっ!.........ふっ!』

 

だが、左の剣の一撃は魔人が後ろに引いたため空を切る

 

『愚者の子よ.........素晴らしき剣技と策略だ.........その剣技あの剣も持ち主にも劣らないだろう』

 

やっぱり(・・・・)死なないか...........」

 

 

ナハトの今の一撃は確実に魔人の急所を切り裂いた。にもかかわらず倒れない。だが、ナハトにとってそれは想定内なのだ............

 

そしてナハトは今の攻防で確信する。魔人の正体を.............あの二振りの刀とこの不死性.......それに該当する存在は一つしかない

 

(信じられないけどこいつは恐らく............)

 

『これほどの才を持つ愚者の子を殺すのは忍びない............だが、逃がすわけにはいかぬ!ここで逝ね!』

 

『《■■■■■――》』

 

魔人がそう言うと何やら聞きなれない言語で呪文を唱え始める

すると魔人の頭上に太陽の如く大きな球体が形成される

 

 

「う、嘘だろ..........いったいどこからこんな魔力を....!?」

 

グレンはあまりにもばかげた光景に狼狽する。だが................

 

「先生!!動かないでください!!」

 

するとナハトは

 

〝懐から月のアルカナ〟を取り出す

 

(アイツ魔術に幻術を!?)

 

グレンはナハトが固有魔術【奇術師の世界・幻月】を使用すると考えた

幻月なら確かに魔術にさえも掛けることは可能

 

 

だが、ナハトは別の〝固有魔術〟を使用するつもりでいた

 

『《■■■■》逝ね』

 

「《第二術式(・・・・)・――」

 

ナハトが起動させようとした直前世界がモノクロに移り変わる

 

すると自分たち以外のすべてが停止する

 

「《・起......って、へ?」

 

ナハトは意味が分からなくて途中で詠唱を中断すると周りをキョロキョロと確認する。

 

すると..................

 

『...........貴方達こっちよ。早く来なさい』

 

その声の主はなんと初日に出会った異形の少女だったのだ

 

『この状態は長くは保たないわ。急いでこの場を離れるわよ』

 

 

なぜ今になって?とか一体どうやって?と言う疑問はあるがそんなことよりも彼女の言葉に従いグレンがセリカを担ぐのを確認すると全員でその場を離脱した

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------

 

 

 

『私はそうね.............、今はナムルスとでも名乗っておくわ』

 

 

ナハト達を窮地から助け出したルミアによく似た容姿の少女はナムルスと名乗った

彼女は遺跡探索初日にナハトとグレンが出会った少女である

 

先程のすべて止まった世界はいつの間にか解けており、今は暗闇の中をナムルスを先頭とし、その隣に明かりをともすナハト。そして、その後ろにセリカを背負うグレンにシスティーナやルミアそして殿にリィエルと言う陣形で先に進む

 

しばらく歩いているとナムルスの隣にいるナハトが問いかける

 

「えっと、ナムルスさん?聞きたいことがあるんだけどいいですか?」

 

『別に敬語じゃなくていいわ。貴方に敬語を使われるのは変な気分だし』

 

「そうか...........わかった。それでいいか?」

 

『私が答えられることは答えるわ』

 

「それじゃあ、まずどうして俺たちを助けたんだ?」

 

『.............』

 

無言............つまりそれは答えられないのか。だが正直それをこたえられない理由がいまいちわからない

 

「答えられないわけか..............なら、ナムルスってどういう存在なんだ?」

 

『そうね.........私は世界各地の遺跡に通う霊脈(レイライン)に縋りつく残留思念みたいなものよ。肉体を失って久しいわね。だから、この姿は実体のようで実体じゃないの。まぁ、幻覚のようなものと思えばいいわ』

 

「なるほどね............何となく理解した。........ってあ!遅くなったけど皆を助けてくれてありがとうナムルス」

 

『別に私がしたかったからしただけよ..............それにどうやら貴方にはアレを対処する術があるようだし』

 

「それでも感謝してるんだ。ありがとうな」

 

『.........ホント貴方は変わらないわね』

 

「?」

 

また意味深なことを言ってると考えているとそれからも会話が続く

 

『それで..........貴方はあの魔人の正体の答え合わせがしたいんじゃないかしら?』

 

「気づいていたのか..............俺ってそんなにばれやすいのかなぁ..........」

 

ルミアと言いなぜこんなにも考えていることがばれるのか不思議でならない。それなりにポーカーフェイスは得意なつもりだというのに不思議だ。

 

『さぁね?それよりも貴方の推測だけど当たっているわよ(・・・・・・・・)

 

「やっぱりそうか...................」

 

『後この先に広めの地下庭園があるわ............やるんでしょ?』

 

「あぁ、でもほんと全部筒抜けみたいだな」

 

『..........正直貴方が戦うことはやめて欲しいと思うわ。でも止めても無駄なのでしょう?』

 

ナムルスは今まで何かに絶望したような、そんな暗い表情のままだったのだが一瞬だけ何かを憂うように見えた気がした

 

「.............誰かがやらなきゃ逃げることもままらないだろ?それにこの中なら俺が一番適任だ」

 

『.................知ってるわよ。そんなこと........貴方なんかよりもずっと..........』

 

(?どういう意味だ............でも今はそれどころじゃないか............)

 

「なんかすまないな。悪いけど彼女たちを頼むな?」

 

『いいわよ。でも彼らの説得は貴方がしなさい』

 

「当然。そこまで面倒は駆けさせないさ」

 

すると歩いていくとその途中で先頭にいる俺が止まる。すると当然後続のグレン先生達も足を止める

 

「?どうしたナハト。急がねぇと追いつかれるぞ?」

 

先程までの会話は距離が少しあってどうやら聞こえていなかったようでグレンはナハトに問いかける。

するとナハトは振り返るとグレンの目をしっかり見て口を開く。

 

「先生.................ルミア達を頼みます」

 

「は?.......................お前まさか!?」

 

グレンはその簡潔な頼みの真意がわからず、一瞬呆けるもすぐにナハトがやろうとすることを察し血相を変える

 

そしてグレンの予想通りの言葉をナハトは続ける

 

「俺が奴を倒します。最悪倒せなくても逃げるだけの十分な時間は稼ぎます」

 

「馬鹿なこと言うな!セリカでさえやられたんだぞ!?いくらお前でもアイツ相手じゃ勝てないぞ!!」

 

「ここで誰かがやらなきゃみんな仲良く死ぬのがオチです。それにその状態のセリカさんを抱えた今の状況で本当に奴から逃げられると.............あるいは迎撃ができるとまさか本気で思ってませんよね?」

 

「ッ........!」

 

ナハトはどこまでも冷静だった。自分でも不思議なくらいに冷静であり、だからこそこのままのペースでいけば確実に追いつかれ、ロクな対抗もできずその時点で終わりなのを否応なく理解してしまう。

 

「別に死ぬつもりは微塵もないです。言葉通り奴を倒す気でいきます。まぁ、倒すのが無理なら限界まで時間稼いでしこたま魔術でもぶつけた隙にでも離脱しますよ」

 

ナハトがそうグレンに伝えるとその後ろから一人駆け寄ってくる

 

「ナハト君...............行かないで..........」

 

ルミアはナハト手をつかんで行かせないと離さない。ルミアも誰かが足止めする必要性は分かっている。だが、それでもナハトにそれを押し付けたくなかった

 

「ルミア..............ごめんな心配かけるけど俺じゃなきゃダメなんだ.........」

 

「やだ............このまま皆で行こうよ.............」

 

ルミアは子供のように駄々をこねナハトを止める

 

「..................................じゃあルミアこれ預かってくれないか?」

 

少し考えこむとナハトはルミアに捕まれていない空いている手で器用に首にかけているネックレスを取り外すとルミアに差し出す

 

「これって.............」

 

「あぁ、ルミアがくれた物。.................大切な宝物だ。だからちゃんとそれを取りに戻るからさ信じて待っててくれないか?」

 

もらって以来ずっと着けていたそれをナハトはルミアに託す。それはまるで自分が戻ってくるための道しるべとでも言うように――

 

するとルミアは少し黙り込むと――

 

「............これからいうこと約束して」

 

「あぁ」

 

「...............死なないで」

 

「あぁ、勿論」

 

(死ぬ気なんて毛頭ないし、こんなとこで死んでたまるものか)

 

「.............大怪我しないで」

 

「うっ、それは...........まぁ、あれだ善処する」

 

(生きて帰るから怪我は..........その........大目に見てもらいたいかな)

 

「............無茶しないで」

 

「あーそれもちょっと状況次第と言いますか..........」

 

(心配かけるの心苦しいけど本当に多めに見てくれませんか?)

 

「.............最後に.........帰ってきたらもう離れないで..........」

 

 

 

「ずっと隣にいて..............ナハト君がいないのは............すごく寂しい」

 

 

(あぁ、きっと俺も――いや...........俺でよければいくらでも.................)

 

「あぁ、わかった約束だ」

 

そしてそう言うとルミアは手を離す

 

それを見てナハトは...............

 

「行ってくるなルミア」

 

 

それに対してルミアは................

 

 

「いってらっしゃいナハト君................頑張ってね!」

 

 

その時のルミアの笑顔は

 

 

 

悲しそうで

 

 

 

辛そうで

 

 

 

 

不安で

 

 

 

 

 

それでも心から信じている

 

 

 

 

 

そんな感情を全部ごちゃ混ぜにした笑顔だった

 

 

 

ナハトはそんなルミアに頭をひとなでする振り返ることなく先に向かっていった

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------

 

――地下庭園――

 

 

 

グレンたちが先を急ぐさなか

 

 

 

2人の双剣士が相対する

 

『...........たった一人で残るとは潔し..........だが、簡単に勝てると思わないことだ』

 

 

「あぁ、当然だ...........そんなこと言われなくたって分かってる。だけどな..............」

 

 

 

 

一人の少年は廃れた庭園に立つ。

 

相対するは圧倒的霊気(オーラ)を放つ絶対強者である魔人

 

 

 

 

普通に考えれば生存は絶望的

 

 

勝てるわけのない勝負

 

 

 

 

だが少年はそれでも相対する

 

 

 

なぜなら...............

 

 

 

「こっちは沢山の大切な約束を背負ってる。だから..................一切負ける気がしねぇ」

 

 

『そうか.............〝強き〟愚者の子よ...........汝の名はなんだ』

 

 

魔人は名を問う。自身の前に立つ強者の名を

 

 

「ナハトだ.............姓はあるがそんなものどうでもいいだろ?ここにいるのは唯の〝ナハト〟だ」

 

 

『ふふふ、そうか..................ナハト。我に勇ましく挑んだその名を我は一生忘れないだろう』

 

 

魔人は愉快そうに笑みをこぼす

 

 

「アンタに覚えてもらえて光栄だよ........〝《魔煌刃将》アール=カーン〟」

 

 

『我が真名を知っているかナハト..........いいだろう、かかってくるがいい!死力を尽くし、見事我が命最後まで奪い去って見せよ!!』

 

 

「アンタの残りの〝5つの命〟俺が刈り取ってやる!!」

 

そこからもはや会話などいらない................

 

 

 

 

ただ、ひたすらに己と言う〝刃〟を交えるのみ

 

 

 

 

 






今回は長くなりましたが次回丸々一話ナハトvs魔人がやりたいので少し駆け足で進めました。あぁ.....それにしても想定以上に長かった............途中集中切れてて変なこと書いてて読みにくくなってしまったかもしれませんが楽しんでもらえればいいなと思います。あとやってみたかったルミアとナハトの合技も入れてみました。今度放映されるアニメで見れるの楽しみですよね?


今回もここまで読んでくださりありがとうございます!また、いつもブックマーク、コメント、いいねをしてくださりありがとうございます!!




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死闘と禁呪

 

 

 

薄暗い地下庭園に甲高い金属音が響く――

 

 

 

「フッ!」

 

『ぬんッ!』

 

 

ナハトと魔人は同時のタイミングで踏み込むと一瞬のうちに刃を五度重ねる

 

(なんて速さだ..........それに重い!)

 

ナハトは紫電一閃で自身の純粋な最速剣技を放ったにもかかわらず、魔人はそれを冷静に対処して見せる。

 

『素晴らしき剣技だ!………その剣技至高の領域に近い』

 

ナハトと魔人は鍔迫り合いになる。お互い押し込もうとするもパワーでは魔人のほうが有利だ

 

ナハトは力勝負では太刀打ちできないと分かると相手のパワーを利用し後ろに飛ぶ

 

そしてそのまま着地した勢いを殺さずすぐに一直線に最短距離を駆け抜ける

 

「ハアァァァ!!!」

 

魔人はナハトがまっすぐ突っ込んでくるのを悠然と構えるとその軌道上に斬撃を重ねる

 

『甘い!』

 

(まだ......引き付けろ限界まで!)

 

ナハトは頭上から振り下ろされる必殺の威力を伴った刃が首に触れるか触れないかと言うとこまで引き付ける

 

 

(ここッ!)

 

 

ナハトは驚異的な集中力と動体視力で擦れ擦れで回避する。

 

数本の髪が刃に引き抜かれるような感覚を感じるも狙い通り魔人とほぼゼロ距離と言えるほどの至近距離まで入り込むことに成功する

 

ナハトがその距離感を狙った理由は自身と相手の獲物のリーチにある。

 

魔人の武器の刀はナハトの干将莫邪に比べ長い。そのためゼロ距離に近い距離ならば干将莫邪での連撃を防ぎにくくなると踏んだのである

 

(成功はしたが死ぬかと思ったぞッ!)

 

ナハトはほぼ密接してる状態で双剣を振るう

 

「シッ!」

 

『....むッ!』

 

斬り上げ、斬り下ろし、突き、袈裟斬りと次々と止まらずに斬撃をつなげながら絶対に距離を取らせまいと死の恐怖を感じながらも果敢に攻める

 

『.........クッ!』

 

魔人も近すぎる距離の中流石の技量で凌いでいくも戦いずらそうな小さな呻きを上げる

 

(もっと............もっと速く!もっと鋭く!)

 

対するナハトはさらに連撃の速度が上がる。ナハトはかつてない程のトランス状態に入っているため本来の技量以上の剣撃を繰り出していく

 

対する魔人も簡単にはナハトの刃を通らせない。間合いはとてもやりにくい状態にあるにかかわらずもナハトの連撃についていく

 

(この間合いでも殺りきれないのかよ......ッ!)

 

ナハトの連撃は速度や鋭さはどんどんギア上げされているのにもかかわらず魔人の凶刃が服を掠めやや引き裂かれる

 

(まだだ..........まだ速くなれる!)

 

ナハトは体を掠める魔人の刃に恐怖を覚えるもそれ以上に剣速を緩めないで上げていく

 

今のナハトの状態はまさに人剣一体。どれほど恐怖を感じようとただ相手を斬り伏せようとする研ぎ澄まされた刃

 

 

だが.................

 

 

「....ぐぁ!?」

 

ナハトは剣による攻撃に集中しすぎたため魔人の蹴りに対応が遅れて間合いから弾き出されてしまう

 

 

(いてぇ..............しかしこれでやれないと〝アレ〟でまず一つ取りに行くしかないか......)

 

ナハトは戦闘開始前に考えていた一つの策をきることにする。

 

『本当に素晴らしい剣技だ...........その若さでその剣技に至るだけにどれほどの研鑽を積んだか想像に難くない...............ナハト......汝に我の最大限の敬意を送ろう.............』

 

「アンタにそう言ってもらえて正直嬉しいと思う............だけどアンタ強すぎだろ」

 

『そうか...........だが、ナハトよこの程度では我が命奪えないと知れ!』

 

そう言った魔人から高速で踏み込み瞬時に剣の間合いに入り込んでくる

 

「チィッ!」

 

ナハトはその高速の踏み込みから放たれる刃を辛くも捌く。だがそれでは当然終わることなく魔人のラッシュが始まる

 

『ぬぉッ!!』

 

魔人は先程のお返し..........あるいは手本だというようにその恐ろしく洗練された剣技でナハトを攻め立てる

 

(ヤバいヤバい!!)

 

ナハトは非常に不味いと思いながら防戦一方となってしまう。

 

捌けど捌けど降り注ぐ刃の雨...........ナハトは兎に角魔人の右手の刀の直撃だけ必死に避けながらさばいていくと左手の刀に対しての対応が必然的に甘くなる

 

(いっ!.........これ以上やられるとマジで直撃しかねない)

 

左の刀が何度かナハトの体を掠めいくらかダメージを負う。ナハトは強引に距離を取ることを選択する

 

「《紅蓮の獅子よ》!」

 

ナハトは自身にもダメージ覚悟のうえで魔人との間合いの中心に向け【ブレイズ・バースト】を放ち爆発の勢いで一気に距離を取る

 

(コホッ...............何とか距離は取れたな........)

 

やや頬と腕が火傷したが何とか距離が取れた以上〝策〟をきれる

 

ナハトは着地と同時に直線的にではなく円を描くように魔人に駆け寄っていく

 

魔人は攻めに出る出なく迎撃を選択したようで双刀を構え油断なくナハトを睨む

 

ナハトは一定の間彼我の距離間を窺うと、急に方向転換し一直線に突っ込んでいく

 

「《雷帝よ――踊り狂え》」

 

ナハトは詠唱を完成させると同時に左の剣を投擲する

 

『いと小賢し!』

 

ナハトは5発の【ライトニング・ピアス】一直線な軌道、大きく曲線を描く軌道のものとバラバラの軌道で襲い掛かるよううに即興改変する。

 

魔人はそんな軌道を描くものを左の刀を指先で器用に回転させ盾のようにし全て打ち消す(バニッシュ)

 

そして遅れて襲い来るナハトの剣を右手の刀で上にはね上げる

 

「《付呪(エンチャント)》・獄炎(ヘルブレイズ)》!」

 

ナハトが右手の剣に獄炎を纏わせただひたすら直線的に突き進む

 

『二度はない!!』

 

魔人はまた愚策にもナハトが懐に入り込んでくると考える

 

そして先程の時よりも恐ろしく速い斬撃がナハトに迫る

 

(よく見ろ...................見極めろ!)

 

 

 

魔人はこの時先程と同じ策と考えていた。

 

さらにナハトが獄炎を纏わせたことで今回は一撃で命を奪いに来ると考えた。

 

だからこそナハトのことを所詮は若さゆえにこの程度かと内心で見切りをつけかけていた。

 

 

 

 

『逝ね!』

 

魔人は自身の凶刃でナハトを真っ二つに引き裂いたと確信した

 

 

だが.............

 

 

   

    〝ガキィーン!!!〟

 

 

魔人の刀はナハトを捉えず、地面に打ち付けられていた(・・・・・・・・・・・・)

 

 

『何ッ!?』

 

完全にとらえたと確信していた

 

だからこそ魔人はここで明確な隙を見せる

 

 

「神千斬り!!」

 

 

すると魔人の頭上(・・)からナハトの声が聞こえると渾身の一撃が魔人を襲う

 

 

 

       〝ズガアァァァンッ!!!!!〟

 

 

 

雷鳴にも似た轟音が響き渡ると魔人は衝撃で吹き飛んでいく

 

 

『ぐっ!!.........何故?我の刀は確実に............』

 

 

今のはナハトの時空間魔術【飛雷神】。かつて読んだ東国の資料に記されていた〝黄色の閃光〟と恐れられた伝説の忍が使っていたとされているものをナハトが自身の魔力特性で時空間法則を自身の都合に合わせ創造・支配することで再現した魔術

 

高速でも神速でもなく本当に一瞬の移動.............まさしく〝閃光〟

 

『もしや瞬間移動の類か..............』

 

(流石は鋭い.........わかっていたが二回目はないな)

 

ナハトは戦い終盤に本来はこの策を使いたかった。これを見せては武器の投擲や不自然な行為は当然警戒されるため二度は使えないからである

 

(アイツに直接マーキングするのも一手だがばれるだろうな..........)

 

ナハトは考えていた策の一つを想定よりも早い段階できらざる負えなくなってしまったことに苦々しく思う

 

『何にせよ見事な一撃だ!..........だが、これならばどうだ!《■■■■・――》』

 

すると魔人はナハト達が最初逃げたときと同じ太陽のような巨大な灼熱の火球を出現させる

 

 

ナハトは懐から〝月のアルカナ〟を取り出す

 

(さて、実戦は初になるがうまくいってくれよ?)

 

アルカナを口にくわえた状態でナハトも術式の読み取りと展開を始める

 

「《第二術式(・・・・)・起動開始》」

 

そう唱えた瞬間ナハトを中心として青い波動のようなものが一瞬放たれる

 

『《――・■■■■》これで終わりだ........血沸き肉踊る素晴らしき戦いだった!逝ね!』

 

 

 

ナハトに目掛け巨大な火球が沈み始める...............

 

 

 

 

 

だが、〝途中で停止する〟

 

 

 

『なッ!?』

 

 

そして次の瞬間、巨大な火球は膨張し弾けると炎の雨の如く庭園内に降り注ぐ

 

 

魔人は想定外の事態に一瞬呆けるとすぐさま左の魔刀で対処し始める

 

 

そして、そこに..................

 

 

「ハアァァァッ!!」

 

 

ナハトは炎の雨を〝受けず〟に降り続ける中一直線に駆けよってくる

 

 

『!?』

 

 

魔人はそのナハトの様子を見て驚愕する。なぜならナハトへと降り注ぐ炎の雨は悉くが軌道を変え〝逸れて〟いくのである

 

魔人は驚愕を禁じ得ないもののすぐに炎の雨とナハトの追撃への対処を始める

 

『ぐ.....ぬッ!』

 

だが、流石の魔人と言えど双方を完璧に対処することは難しく................

 

 

「紫電一閃!!!」

 

 

ナハトは魔人が一瞬............ほんの一瞬見せた隙を逃さず刃を届かせる

 

『ぐぁ............』

 

 

そして刃が届くと丁度炎の雨が降り注ぐのが止まる

 

ナハトは深追いせず仕切りなおすために後ろへ飛び距離を取る

 

 

『今の技は................』

 

 

ナハトが今使ったのは固有魔術(オリジナル)【奇術師の世界・月鏡】。対大導師用に作り出した新しい固有魔術。自身に向けられた物理的干渉を除くあらゆる(・・・・)干渉の支配権を奪い取る魔術。物理的干渉以外なら異能だろうと別の〝何か〟だろうとだろうと理論上は無効化することのできる最強の防御。

 

 

「俺にしかできない裏技だ。要するに俺にはそういうのは無意味ってことだ」

 

この魔術のデメリットは一度使用すると効力は15分で再使用まで5分必要になることと魔力消費がやや大きいことである。幻月よりは消費は少ないとはいえ燃費はそれほど良くない。

 

(これなら奴の魔刀の効果も受けない)

 

15分間に限り魔刀の効果も理論上なら受けないはずだ。なのでわざと右の魔刀を受けその隙にと言う策もありだが..................

 

(まだ奴の命は三つある............消耗は避けるべきか)

 

ここまでで何とか二度奴を殺したがまだ三回殺さなくてはいけない。わざと傷を負って一度殺せてもそれ以降が続かなくなる

 

 

『............剣技と言い愚者の牙と言い見事と言う言葉に尽きる。我相手によくぞ二度命を奪った。我は汝を見くびっていたようだ。その事に対する非礼を深く詫びよう。なればこそ!我も本気で汝..............ナハトの命奪いに参ろう!!』

 

 

魔人の霊気(オーラ)がまた一層高まる

 

まさしくその山のような圧力にナハトは額に冷や汗を流す。

 

(マジでこれはキツイな..........だけど.......)

 

 

『.............最後に.........帰ってきたらもう離れないで..........』

 

 

『ずっと隣にいて..............ナハト君がいないのは............すごく寂しい』

 

 

ルミアを守ると...........隣にいると約束した

 

――だから!

 

「上等だ!......俺が勝つ!!!」

 

 

------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

剣を交えてどれほどの時が立っただろうか

 

 

 

数分かはたまた数時間か..................

 

 

 

わからない

 

 

 

 

だが............

 

 

「ゼリャアアァァァァァァッ!!!!!!!」

 

 

ナハトは大きな雄叫びを上げながら魔人に対して双剣を振るう

 

『................』

 

必死な形相で斬りかかるナハトに対し魔人はどこまで冷静で焦りを見せずにさばききる

 

(焦るな!!考えろ!見ろ!)

 

ナハトは疲労一杯になりながらも必死に食らいつき続ける

 

ナハトは二度魔人の命を奪うまでは順調だった。確かに早々に策は切らされたもののそれでも互角に戦えていた

 

 

だが、魔人の霊気(オーラ)が高まった後から攻めても防がれ、攻められれば何度も攻撃が体を掠める

 

魔術や持ちうる技術で対処していくも集中力も体力も魔力も限界に近かった

 

 

そしてついに............

 

 

「ハアァァァァッ!!」

 

『甘い!』

 

ナハトが斬りかかると躱されそしてついにもろに左の魔刀の刃がナハトの腹を捉える

 

「!?ガハッ!!」

 

勢いのままナハトは吹き飛ばされ止まると夥しい程の血を流し膝をつく

 

(痛ッ!!!焼けるようだ!!!)

 

「はぁーーーーはぁーーーー..........ゴフッ」

 

ナハトは血を吐きながらも魔人を睨み続ける

 

『........致命傷だ。もしあと数年汝にあれば我と同等かそれ以上となっていただろう........』

 

魔人はゆっくりと歩み寄ってくる

 

その足音はまるで死が迫る音そのものの様だった

 

(クソッ!............ここまで........か)

 

血がとめどなく流れる中

 

 

詰みなのだと..................ナハトは己の命を諦めかけていた

 

 

 

 

そして、死が迫っているせいかどんどん思考の海に沈んでいく...........

 

 

 

 

悔しくて仕方ない

 

                

 

 

申し訳なくて仕方ない

 

 

              

 

 

 

 

 

でも、仕方ないのかもしれない

 

 

 

俺は人だ

 

 

どうやっても人の枠は超えられないんだ

 

 

〝諦めるのか?〟

 

 

(致命傷を負い、疲労も大きい.......)

 

 

〝絶望的と言うわけか?〟

 

 

(そうだ絶望的だ.......)

 

 

〝だからなんだ?〟

 

 

(だからって........そう言われても......もう.........)

 

 

〝お前にとって『約束』と言うのはその程度なのか?〟

 

 

(守りたい.........絶対にそれだけは守りたい.........だが――)

 

 

〝だが、なんだ?大切なら足掻け、藻搔け、何が何でも守り抜け!〟

 

 

(....................)

 

 

〝今までの(お前)はどうしてきた?その『約束』のために必死でやってきたのではないのか?〟

 

 

〝ただひたすら愚直に突き進んだのではないか?ならまだ立てる〟

 

 

〝立って、前を向け!剣を握り、歯を食い縛り、醜くても抗え!〟

 

 

(お前)はまだ戦える〟

 

 

 

 

そうだ.................諦めるなよ俺

 

 

 

倒すといったのは俺だ

 

 

 

帰るといったのは俺だ

 

 

 

隣にいるといったのは俺だ

 

 

 

 

まだ〝最後の切り札〟があるじゃないか

 

 

 

 

 

 

諦めない

 

 

 

 

 

 

 

 

すると世界が変わる

 

 

 

世界が変わると目に入ったのは魔人だ

 

 

 

 

目の前には右手の剣を高らかに構える魔人がいる

 

 

 

『さらばナハトよ...............我の一生において最高と言うべき戦いだった』

 

 

振り下ろされる魔刀。魔人はもうナハトがあきらめていると思い込んでいた。

 

 

 

だが............

 

 

    〝ギャリイィーン!!!〟

 

 

クロスにして構えた双剣でしっかりと受け止めるナハトがいた

 

 

 

そして.................

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

傷口が痛むのも構わずに大きな声を上げながら力一杯振り絞り魔人の刀を弾く

 

 

魔人は勢いのまま後ろに後退する

 

 

『............往生際が悪し!晩節を汚すな、ナハトよ!』

 

 

魔人は怒気を含めてそう言い放つ

 

 

「悪いな..........やっぱそんな簡単に死ねないんだよ俺」

 

『その傷でどうなるというのだ?』

 

そう、ナハトの腹からはおぞましい程の血の量がとめどなく流れ出ているのだ。どう考えてもこのままでは長くは持たない

 

だが..................

 

「...........1分だ」

 

『何?』

 

「お前を俺が倒すまでの時間だ。1分でケリをつけると言っている」

 

『!.................ッッ!?』

 

 

魔人は最初自信を舐めているのかと怒りを感じた。

だが、それは一瞬。ナハトから発せられる謎の圧に気圧される

 

 

そしてナハトはそれに構わず自身の〝最後の切り札〟

 

 

 

固有魔術(禁呪)〟の詠唱に入る

 

 

「《黒々たる煉獄の焔よ・――》」

 

 

ナハトの周囲に黒炎がうねりを上げて力強く巻き上がる

 

 

「《猛々しき千の雷よ・――》」

 

 

ナハトの周囲をさらに白雷が激しく弾ける音をたてて巻き上がる

 

 

「《我が身獄炎で焼き焦がし・――》」

 

 

「《我が身雷鳴の如く疾く激しく・――》」

 

 

獄炎と白雷はそのままナハトを包み込む

 

 

「《我が敵を薙ぎ払う・黒き閃光となり給え》!!」

 

 

獄炎と白雷は中心に吸収されるように圧縮する。そして――

 

 

 

獄炎と白雷が晴れるとそこには

 

 

 

 

体を黒く輝かせ、獄炎と黒い雷を迸らせるナハトがいた

 

 

 

『............それが切り札か………』

 

 

ナハトの〝最後の切り札〟にして〝禁呪〟である固有魔術(オリジナル)【黒天大壮】。人にかかっているあらゆる制限を意図的に外し、獄炎と雷の力で肉体を本当の意味で限界まで活性化させる技。雷速と炎の破壊力を兼ね備えた究極の奥義。

 

 

そして禁呪足らしめる理由は単純明快。尋常じゃないほどに体に負担がかかるからである。使用中は常に激しい痛みが体を蝕み、たとえナハトが万全の状態でもたったの三分弱しか使えない。それ以上使えば二度と動けない体になるか最悪死に至るほどに危険な魔術。

 

 

そして今回は疲労の大きさや傷の具合といい消耗の具合からして1分持てばいいところ

 

 

『来い!すべてを出し切るがいい!!』

 

その瞬間、ナハトの体がぶれたように消える

 

 

 

 

そして..............

 

 

『ガァッ!?』

 

 

魔人はナハトの動きを〝運良く〟反応できた。

 

何とか刀で受け止めることにに成功する

 

だが、凄まじい速さと強化されたパワーはまるで巨人の一撃のようで魔人は弾丸の如く吹き飛ばされる

 

 

そして黒い閃光は一瞬にしてその吹き飛んでいく魔人の後ろを取る

 

 

今回、魔人はナハトの動きを〝追えなかった〟

 

ナハトは弾丸の如く吹き飛んできた魔人の背中を取ると背中に剣を叩き込み、深々と切り裂く

 

『ぐぁ..........がぁッ!』

 

攻撃を受けて始めて魔人はナハトが後ろを取ったということを理解した

 

 

魔人の命はこれで残り2つ

 

深々とした一撃のため勢いで逆側に飛ばされるも何とか魔人は踏みとどまる

 

だがすぐに黒い閃光や休まずに襲い来る

 

『ぬッ!?』

 

少しだけ目の慣れた魔人は辛くもナハトの攻撃を防ぐ

 

だが序盤までのナハトとは一撃の重さが違うため受けるごとに体が後ろへと押し込まれていく

 

そしてすぐさままた黒い閃光は駆ける

 

一閃

 

魔人は押し込まれる

 

二閃

 

魔人は弾き飛ばされかけるもギリギリ踏みとどまる

 

三閃

 

遂に体が宙に浮く

 

『ガァ.....ッ!(拙い!)』

 

三閃目にして遂に魔人の体が耐え切れずに浮いてしまう

 

そしてそこからナハトは蹴り上げ魔人をさらに空中へと上げる

 

だが、ナハトの動きが一瞬止まる

 

(ぐぁっ!?体がッ!........だが!!)

 

痛みに悲鳴を上げるのを無視してナハト地面を蹴り上げると黒木流星の如く追撃に入る

 

魔人は宙に浮いた状態でナハトの攻撃を迎撃に入る

 

『ぬぁ....!』

 

だが、足場がなくなったため魔人は斬撃の威力を削ることが上手くままならない

 

その上この時点において速さとパワーもナハトが上回る

 

ナハトはこの庭園のすべてを足場にして空中に浮いた魔人に対して流星群の如く斬撃を浴びせ続ける

 

 

(一気に押し切る!)

 

 

この勝負で勝敗を分けるのはお互いの我慢強さである

 

魔人は強力な一撃一撃をどうにかと言ったようだがさすがの腕前で凌ぎ続ける

だが衝撃がすさまじいために腕と刀にかかる負担から何度も受け続けることは不可能だ

 

 

そしてナハトは残り時間がある

どれだけ速く重く鋭い一撃を叩き込もうと抗いようのない制限時間がある

だからこそ焦りとの戦いになる。焦せらずにただひたすらに獰猛に命を狙い続ける

 

 

残り15秒

 

 

(まだだ!.............まだ、上がる!)

 

 

痛む体に鞭を打ち続けさらにナハトは急加速する

 

 

 

残り10秒

 

 

(焦るな...........もっとだ...........もっと上げろ!)

 

 

ナハトは腹にできた傷だけじゃなく、目や鼻や口はたまた爪の内側から、血を滴らせながらもさらにギアを上げる

 

 

 

残り5秒

 

遂に魔人の防御を崩し魔人を地面に叩きつける

 

 

残り4秒

 

魔人はバウンドし少し滑ると膝をついて止まる

 

 

残り3秒

 

ナハトはすべてを出し切るように地面を蹴る

 

 

残り2秒

 

ナハトの刃が魔人を深々と切り裂く

 

残り魔人の命は1つ

 

 

 

 

残り1秒

 

 

ナハトはもはやボロボロとなった体で最後の一撃を振り上げる

 

 

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

この死闘の勝者は..........................

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁーーーーはぁーーーー我の勝ちだ』

 

 

 

肩で呼吸する魔人アール=カーンだった

 

 

 

ナハトは最後の一撃を叩き込もうとすると同時にとうとう時間切れとなり一気に力が体から抜けうつぶせに倒れこんだ

 

 

「ガハッ!ガハッ!.......ゴフッ!!」

 

 

ナハトは勢いよく吐血していた。

 

既に倒れこんだ所は血の海のようになっておりナハトは文字通り虫の息と言った感じで倒れこんでいた

 

 

(意識がもう.........俺は負けた...........のか?)

 

 

ナハトは出血が多すぎて意識が薄れてきていた。実際に戦っている最中も目が眩んでおり、ただの本能で喰らいついていたのだ

 

 

 

『はぁーーーーはぁーーーー我をここまで追いやったのは........汝で3人目(・・・)だ......ナハトよ..........此度の戦いは.............至高の戦いと間違いなく言える.........ここで殺すというのが本当に惜しい.......』

 

 

魔人も息が途切れ途切れとなった状態でナハトを称賛する

 

 

もし、ナハトにあと数秒あれば結果はまた違ったものだったかもしれない

 

 

 

『だが、我は門番...............故に!汝を排除する!さらばだナハトよ!我ができる最大限の敬意を汝に送ろう!』

 

 

魔人はそう言って刀を高らかと掲げる

 

 

 

(こうなったら..........最後の悪足搔きを........)

 

 

ナハトはすでに領域指定は済ませておいた眷属秘術(シークレット)の起動を試みる

 

 

ナハトは自身の魂を燃やす眷属秘術(シークレット)大終炎(フィーニス)】の起動に入ろうとしていた

 

 

魔術じゃ殺しきれない可能性のほうが高い

 

 

 

だがそれでもせめて................

 

 

約束が果たせなくても

 

 

 

 

〝彼女〟だけは守りたい

 

 

 

 

その瞬間――

 

 

 

 

 

「《猛き雷帝よ・極光の閃槍以って・刺し穿て》ッ!《穿て(ツヴァイ)》ッ!《穿て(ドライ)》ッ!」

 

 

紫電の輝きが薄暗い空間を駆け抜けナハトと魔人の間に突き刺さる

 

すると2つの人影がナハトの前に立つ

 

 

「おいてめぇ.......俺の生徒に手ぇ出しやがって覚悟できてんだろうな?」

 

 

一人は拳を合わせて気合を入れる青年

 

もう一人は美しい真銀(ミスリル)の剣を握る小柄の少女

 

 

 

そして............

 

「ナハト!?大変!ルミアはやく!!」

 

美しい銀の髪をなびかせる少女

 

「ナハト君!?酷い...........すぐに治療しないと!」

 

金髪の心から守りたいと思った少女

 

 

 

そう、この場に現れたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで............来ちゃいますかね.......グレン先生、リィエル..........システィーナ..........」

 

 

 

 

そして..................

 

 

 

 

「............ルミア..............」

 

 

 

 

ナハトの壮絶な死闘の行く末は4人に託されるのであった

 

 

 

 

 





今回はここまでです!いやぁ~書ききりました。今回は特に書きたかった話と言うのもあり大変でしたが楽しくもありました。さて今回使った月鏡もかなりのチートなうえ飛雷神といいチート三昧でしたね。そして禁呪【黒天大壮】これはUQホルダーの雷天大壮をアレンジしたものです。雷天大壮って響きからしてカッコいいし使った時の姿もカッコいいしで好きなんですよね~今回それを書いたのですが高速戦闘と言うのは書きにくくて大変でちゃちになってしまいました。


後予告していたクリスマス関連の話はこの遺跡調査編の後にしようと思います


今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、お気に入り登録、コメント、評価をしてくださりりありがとうございます!









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死闘の行く末

 

 

 

 

「なんで............来ちゃいますかね.......グレン先生、リィエル..........システィーナ.............ルミア..............」

 

 

ナハトは魔術の反動と血を流し過ぎたことにより意識が朦朧としていた。それでも今ここに来た4人のことがわからないわけがなかった

 

 

「ばーか。生徒を見捨てる教師がいるかよ」

 

「ん。ナハトを助けに来た」

 

「言ったでしょう?私があなたの背中を守るって」

 

 

グレン先生、リィエル、システィーナがうつぶせで倒れこんでいる俺にそう言葉をかける

 

 

そして..............

 

 

「無茶しないでって言った.............こんなにボロボロになるまで............バカ.........」

 

 

血だらけになっている俺の手をためらいなく握りながら涙ながらにそう言うルミア

 

「あはは......ごめんな?ルミアの隣に............何が何でも戻りたくて..........な」

 

「もう、そんなこと言われたらうれしくて怒れないよ............」

 

俺たちがそうやって話していると...............

 

 

 

 

 

『さて、別れの挨拶は済んだか愚者の子らよ』

 

 

魔人は律義にも待っていたようで俺たちに声を掛ける

 

 

「悪いなアール=カーン(・・・・・・)

 

グレンは魔人の名を................お伽話に出てくる強敵の名を口に出す

(気づいたのか............だからここに...........)

 

グレンたちが戻ってこれたのは相手のことを理解した。つまりは策があるからこそということもあるのだろうとナハトは推測した

 

『..........』

 

「お前は不死なんかじゃねぇ、最初にナハトが殺したことで今のアンタの残り命は5つだろ?もしくはもっと少ねぇか?」

(反応を見せてくれ...........奴がアール=カーンだという証拠を!)

 

グレンにとってこれははったりだ。何一つ確証はなくただ相手の握る魔刀と不自然な不死性から導き出した答えだ

 

だがここで答えを知る者が一人いる

 

「先生.............奴の残り命は.....1つです」

 

ナハトである。ナハトは魔人がアール=カーンだと本人に確認を取っている

 

「...............は?」

 

「アイツを.............さっきまでに4度殺しました............」

 

『如何にも!我こそはアール=カーン。我はナハトに五度殺された.............更に言えばもしナハトにあと数秒あれば我は完全に殺されていただろう』

 

そう言う魔人を前にグレンはちらりとボロボロとなっているナハトを見る

 

(こいつ単騎でアイツを五回も殺したってのか?てか倒しきりかけたとか..........もう既にセリカに届きつ足るだろこいつ............)

 

グレンはナハトの底知れなさに戦慄するもそれ以上の収穫を感じた

 

(なんにせよこれで奴がアール=カーンと言うことがわかった...........それに残り命1つこれなら可能性はある)

 

「白猫、ルミア!ナハトを連れて下がれ。白猫はその後作戦通り援護を、ルミアはナハトをできるだけ回復してやれ」

 

グレンが二人に指示を出すと二人はナハトの体を支えて庭園のテラスのほうへ連れて下がっていく

 

そしてグレンは二人がナハトを連れて位置がついたのを確認すると拳を構える

 

リィエルも普段の錬金術による剣ではなく真銀(ミスリル)の剣を構える

 

 

「さて待たせたな..........行くぜ!お前を俺たちがぶっ倒してやる!!」

 

「ん!」

 

グレンは右から、リィエルは左から駆け出す

 

 

『来い!!愚者の子らよ!』

 

 

ナハトから引き継いだグレンたちの最後の戦いが今始まる

 

 

------------------------------------------------------------

 

 

 

『グっ!』

 

「はっ!忌々しそうだな、やりにくそうだな!おい!」

 

戦いが始まるとグレンは右の魔刀を、リィエルが左の魔刀を相手取るような立ち位置で攻め立てる

 

これがグレンたちが考えてきた魔人と事を構えるうえでの最低条件である

 

アール=カーンにはとある逸話がある。それは、アール=カーンの強力な魔刀は『夜天の乙女』から授かったとされており、右手の魔刀魂喰らい(ソ・ルート)と左の魔刀魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)はそれぞれが〝決まった手〟に持たないと効力を発揮しないのだ

 

 

 

グレンの拳は事前にルミアの異能のブーストと魔術により強化済みだ。だがこの強化された拳は左の魔刀に少しでも触れれば一瞬で無効化されてしまう。そして、リィエルも右の魔刀を相手するには手数が少し足らず、少しでくらえばそれでおしまいだ

 

だからこそ、二つの拳を持って手数の多いグレンが傷さえ追わなければ問題ない右の魔刀を相手取り、触れれば魔力が消される左の魔刀を普段の錬金術による剣でなくセリカから借り受けた剣で斬りかかる

 

「オラオラ!持ち替えて見やがれ!」

 

『............』

 

持ち替えてしまえば一瞬で終わらせることのできる攻防。だが、魔人は持ち替えないうえ苛立も感じさせることから逸話は本当だと確信する

 

だがそれでもまだ魔人から明確な隙を奪うことには至らない。やり難い筈のこの状況下でも当然のごとく捌かれていく

 

そして...........

 

「ガァッ!?」

「あぐっ!?」

 

魔人は冷静にグレンに蹴りを、リィエルを刀の柄でリィエルを殴りつけた。二人の追撃の一瞬ともいえない隙に2人を間合いの外にはじき出す

 

2人には白魔【ボディ・アップ】により体を頑丈にして物理体制を上げたにもかかわらずそれを貫通するほどの攻撃力。それにより痛みにうずくまる二人に向け魔人は追撃しようとする

 

だが、そこに.................

 

「《猛き雷帝よ・極光の閃槍以って・刺し穿て》!《穿て(ツヴァイ)》《穿て(ドライ)》!」

 

システィーナによる魔術によって魔人は足を止める

 

『いと小賢し!』

 

三条の閃光は頭上から降り注ぎ、初撃を躱された後はすべて魔人の左の魔刀により悉く打ち消される

 

システィーナはテラスの位置に陣取り援護に徹するために【ボディ・アップ】の設定を筋力や体力の上昇は切り捨て、動体視力や反射神経を高めていた

 

そして、システィーナが作ったその隙に...............

 

「先生、リィエル《慈愛の天使よ・遠き彼の地に・汝の威光を》!」

 

白魔【ライフ・ウェイブ】、遠距離に治癒魔術を飛ばす高等法医呪文(ヒーラー・スペル)だ。癒しの波動がグレンたちを包み癒す

 

「悪い、助かった!!!」

 

「ん。行ける」

 

二人は再び立ち上がり二人の電光石火の如く連続攻撃で魔人を攻め立てる

 

だが.................

 

魔人は余裕の雰囲気のままだった。残り1つの命だというのにもかかわらず焦りは一切なくただ冷静にグレンたちの攻撃をいなし続ける

 

『ふむ...........愚者共も中々やる.........だが!』

 

 

 

 

 

『この程度ではまだ足りぬ!!!』

 

 

そう言うと魔人は双刀を大きく横薙ぎするとすさまじいい衝撃波が発生しグレンとリィエルはたまらず吹き飛ばされる

 

 

「うそ...........だろ?」

 

「いたい.............」

 

吹き飛ばされた二人は庭園の壁に打ち付けられ苦悶と驚愕の表情を浮かべる

 

たった一振りでいとも簡単に戦況が覆される

 

 

『汝等も確かにやる...........だが、ナハトほどではない』

 

 

魔人は元来、戦いを楽しむ質である。だが、先程のナハトとの戦闘により目の前のグレンたちに対しても一切の油断をしない

 

 

そして何より魔人の残り命は〝1つ〟であることにある

 

(そうか...........こいつは追い込まれてから強いんだったな......クソッ!)

 

ナハトが下手に残り1つまで追い込んだことがアダとなってしまっているのだ

 

 

だが、グレンは引けない。生徒の命がかかっているからだ

 

 

(上等だ..............意地でも喰らいついてやる!!)

 

痛みを感じながらよろよろと立ち上がるグレン。そして、リィエルも自分の守りたいもののために立ち上がる

 

 

『..........まだ立つか』

 

「あぁ.............やってやんよこんクソ魔人が!」

 

 

グレンは決意を込めた視線を魔人に送る

 

 

だが、その戦闘の行く末は.................................

 

 

 

 

---------------------------------------------------

 

 

 

「ここはどこだ?」

 

ナハトが立っているのは銀色に輝くの大きな月と数多の星浮かぶ夜空の下だった

 

そして何より不思議なのは足元だ。海のように水面の様なのにもかかわらず沈まないし、その上足元も夜空と同じような星屑で溢れそうになっている

 

「さっきまで朦朧とする中で先生たちの戦闘を............」

 

ナハトはルミアから応急処置を受けた後、セリカの隣で横にされていた。そんな中ずっと下で行われている戦闘に気をかけていたというのにどうしてこんな変なとこに自分はと不思議で仕方なかった

 

『ここは(お前)の世界だ』

 

「へ?」

 

振り返るとそこにはの自身と背丈は同じくらいで夜空と同じ濃紺のロングコートを身に纏い顔を仮面で隠した燃える炎のように赤い髪の少年がいた

 

『こうして直接会うのは初めてだな』

 

「?会ったことはないけど関わりがあるみたいな言い方だな」

 

変な言い回しに疑問に思うナハトが少年に問いかける

 

『〝声〟は聞こえてただろ?』

 

「もしかしてあの声か?」

 

『あぁ、そうだ』

 

「だが一体どうして俺がここに?」

 

(お前)が〝鍵〟を手に入れたこと。そしてナムルスだったか?彼女と接触したことの影響だろうな』

 

「それが何故..............いやそんなことよりも先生たちは?」

 

そうだ、〝鍵〟やこの変な世界にいることは気になるがそれよりも先生たち............ルミア達のことが重要だ

 

『まだ戦闘中だが...........あまり戦況はよくないな』

 

「なッ!?なら早く俺を..............」

 

その言葉にあわてたナハトはすぐに自分を戻すようにと声を上げようとするだが............

 

『怪我人が戻ってどうなる?もうロクに体も動かせないんだろ?』

 

そう、ナハトの体は酷い状況だ。いくら応急処置を受けたとはいえ、腹は大きく裂かれ、体中は無数の切り傷を刻まれ挙句の果てには魔術の反動で体中のいたるところにガタが来ている。これ以上動けば体のどこかに障害が残るかもしれない

 

だが................

 

 

「それでも...............それでもッ!俺は戦う!奴を倒すといったのは俺だ!なら最後まで................」

 

ナハトが少年に決意を表明しようとする。だがその少年は................

 

『ぷっ.................あはははははははは』

 

 

突如目の前の少年は腹を抱えて笑い出した

 

 

『いや~煽れば俺も戦うと言い出すとは思っていたが..........ホント(お前)は馬鹿だな』

 

「は?」

 

いきなり煽ってきた挙句馬鹿呼ばわりされて苛立つナハト

 

(お前)をここに呼んだのは確かに呼びだすことが可能になったからでもあるがそれだけじゃあない』

 

そこで目の前の少年は一度区切ると真剣な雰囲気でこちらを見る

 

『力を貸してやるためだ。と言っても雀の涙ほどのことくらいしかできないけどな』

 

「力を?」

 

『あぁ、あのままじゃ十中八九皆死ぬ。だから(お前)がとどめをさせ。もう一度【黒天大壮】による大技でな』

 

「いや戦うといったはいいがもうあれは流石に使えないぞ?」

 

そう戦うのはいいがこんな状態の今では【黒天大壮】の発動すらロクにできない。そんな状態で大技などもってのほかだ

 

『だから力貸すって言っただろ?(お前)が力を貸せば一定時間内に限り負担を帳消しにしてやれる。それに使うのに十分な回復もしてやる』

 

「.................時間は?」

 

『回復もしてやるから悪いが五秒だ...........だが、大技のタメには足りるだろ?』

 

【黒天大壮】での大技は最高火力である【原初の焔(ゼロ・フレア)】に迫る火力の技だが.............

 

「足りるだろってかなりギリギリじゃん」

 

『仕方ないだろ?文句言うな...........で、作戦だが(セリカ)が隙を作ってくれるだろうからその隙に大技をぶつけろ』

 

「待ってくれ!セリカさんは今の状況じゃ魔術は...............」

 

魂喰らい(ソ・ルート)による攻撃を受けた状態での魔術行使は非常に危険だ。そのためナハトは無茶なことだと焦る

 

『慌てるな.........向こうには向こうで...........いや、なんでもない。兎に角心配はいらないから信じろ』

 

「.............はぁ~あって初めての奴信じろとか滅茶苦茶だな」

 

『何言ってんだ(お前)も同じことルミアにやっただろ?』

 

「うぅ..........ってなんでお前がそれを?」

 

『あぁ~それはそうだな.............ってそれよりいだろ別に。やるのかこの作戦?』

 

「はぁ~わかった..............どっちにせよそれしかないんだろ?」

 

あからさまに話をそらそうとする目の前のやつに呆れるも今はそんなことよりもと切り替える

 

『了解。術の発動は俺がしてやるからお前はただ技を確実に当てることだけ考えろ、いいな?』

 

「わかった。頼むぞ...............ってそういやお前の名前はなんだよ?」

 

そう言えばまだ名前を聞いていなかった

 

『名前か..........そうだな今は〝夜〟とでも名乗っておくかな』

 

「今はって...........まぁ、いい頼んだぞ〝夜〟」

 

『あぁ、任せとけ。ちゃんとやれよ?(お前)

 

 

そう言うと月と星々が眩い光を放つ

 

 

そして世界からナハトは去っていた

 

 

 

 

 

 

『さて、いるんだろナムルス?』

 

 

少年がそう言うと一人の少女が姿を現す

 

 

『貴方ねぇ......彼に無茶させ過ぎじゃないかしら?』

 

呆れたようにそう言うナムルス。それに少年は笑いながら答える

 

『そう言うなよ。そうでもしないと危ないだろ?それに(アイツ)ならどちらにせよそうしていただろうし』

 

『はぁ~本当に〝貴方〟と言う人は馬鹿ね』

 

2人の少年少女は星空の下これからの戦いの行く末に想い馳せるのであった.................

 

 

---------------------------------------------------------------

 

 

 

(ここは元の場所か..........)

 

ナハトが意識を取り戻すと元の世界だと理解する

 

(体が少し楽だな.............これなら何とかなる)

 

そしてナハトは体を起こすと眼下の景色が目に入る。そこでは................

 

 

 

 

「がっ!?」

 

「あぅッ!?」

 

 

グレンとリィエルがボロボロの状態で吹き飛ばされていた

 

 

そして..................

 

「はぁーーーーはぁーーーー」

 

「こほっ、ごほっ!..............な、何なのよアイツ!?」

 

システィーナとルミアは傷こそないがマナ欠乏症なりかけの状態で顔色も悪く息を荒げていた

 

 

『よくここまで持ちこたえたな愚者の民よ..............それに敬意を表し、痛み亡き死を汝らに!』

 

 

魔人は.............アール=カーンはそう言うとあの巨大な火球の魔術の詠唱に入る

 

 

(皆!?..............落ち着け.......〝夜〟が言う通り俺は隙を待て)

 

ナハトはすぐにでも割って入ろうとするがすぐに冷静さを取り戻す

 

そしてそのナハトは静かに腰を据え構え大技の準備に入る

 

(〝夜〟頼むぞッ!)

 

ナハトがそう念じると突如ひとりでに獄炎と白雷があたりに巻き上がりつつあった

 

そしてそれを確認したナハトはちらりとセリカのほうを確認するとセリカが〝懐中時計〟を片手に立ち上がろうとしていることがわかる

 

(まさかあの魔術を?)

 

ナハトはセリカが使おうとしている大魔術について察する。

 

するとセリカもナハトに気づいたようでこちらを見る。するとセリカはいつものようにニカッと笑みを浮かべると相手を見据える

 

 

そしてそんなセリカ少し物思いにふける

 

(〝後悔する〟か......................)

 

 

それはナムルスがセリカに投げかけた言葉だった

 

 

『貴方が今その術を使ったらどうなるかわかるでしょ!?今は逃げて!幸い貴方のすぐ後ろには階段につながる通路があるわ。残り少ない私の力を使えばあなた一人ならどうにか............』

 

『貴方には、何よりも大切な使命があるでしょう?魔術なしで一体どうするのよ!?』

 

セリカは先程までの不思議な出来事を思い出す

 

不思議な場所で息子の生徒に似た別の誰かから必死にそう説得されていた

 

とても必死にそう言われた

 

彼女の言う通り今からする魔術を使えばきっと魔術師として取り返しのつかないことになるだろう

 

だが、その説得を聞かずとも自分がとる行動など最初から決まっていた

 

それは当然..............

 

 

 

 

 

 

 

 

(後悔はするだろう............でも私にとっての一番はグレンだ!!)

 

グレンを助けること................それは、使命だとか魔術だとかなんかよりも大切なこと

 

セリカにとって家族が...........グレンが大切なのだ

 

セリカにとってそれだけは何があってもは絶対に揺るがない

 

そしてセリカはついに起動させる

 

固有魔術(オリジナル)【私の世界】起動!」

 

 

セリカは『ラ=ティリカの時計』のスイッチを押す

 

  カチッ!!

 

音が鳴る.............そして世界が止まる

 

今いる世界は色を失い、それに応じて魔人もグレンたちも色を失う。

全てが色褪せ静止するモノクロの世界を作り上げるこの固有魔術こそセリカを第七階梯に押し上げた究極の秘術

 

固有魔術【私の世界】................時間停止魔術だった

 

だが、ここで一人だけ........〝セリカ以外〟で一人だけ色を失わずにいるものがいる

 

 

(これが時間停止魔術.............って夜は俺の固有魔術まで使用してんのか)

 

 

そうナハトである。夜が事前にナハトに【奇術師の世界・月鏡】を施し、時間停止の干渉を無効化していたためナハトは動くことができる

 

(それより俺の出番か.............)

 

 

そう考えた瞬間先程から巻き上がっていた獄炎と白雷はナハトを中心として収縮されいく

 

そしてついにナハトの体は【黒天大壮】発動により黒く輝く姿になる

 

(さっきまでと違って体が痛くない..........反動の帳消しはマジだったのか)

 

ナハトは反動がないことに少しだけ驚く。だが、すぐにそれを振り払う

そしてナハトは左の剣を肩に抱えるようにし右の剣を左の脇腹に添えるように構える

 

すると同時にナハトの体がより激しく輝き獄炎と黒雷が吹き荒れる

 

 

まるで今のナハトの周囲のそれは春に舞う桜吹雪のようでいて、夜空に流れる流星群にも似たものを感じさせる

 

 

ナハトは少しの間そのまま停止する。

 

 

獄炎と白雷が一層激しさを増したその瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「獄天・夜桜!!!」

 

 

〝ズガガガアアァァァァァァン!!!!!!!〟

 

 

 

 

 

ナハトが技名を叫ぶと同時に耳を劈くほどの轟音が響く

 

 

そして技を放った本人である黒き閃光は魔人の後ろで剣を振り切った状態になっていた

 

 

 

 

 

そしてセリカの術が解けると..............................

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

グレンは自分目を疑う光景が眼前に広がっていた

 

それは...............

 

 

『何ッ!?』

 

魔人の体は心臓の位置から下が急に綺麗に抉り取られたようになり、肩から上しか残っていなかった。そして魔人の足元に転がる二振りの魔刀も切っ先を残してすべて綺麗になくなっていた

 

また、意識が切れたためか魔人が発動させようとしていた魔術は停止し魔力が霧散した

 

 

 

 

ドサッ!

 

そして驚愕に支配される中、魔人の後ろで何かが倒れる音が聞こえる

 

「ゴホッ..........はぁーーはぁーー」

 

ナハトだった。ナハトは力尽きたように双剣を手放し、仰向けに倒れこんでいた

 

「は?ナハトがこれをやった........のか?」

 

グレンは眼前に突如として現れ倒れたナハト見て今の現象はナハトが引き起こしたのだと考えるが、どういいうことかわからないでいた。

 

今の技はナハトの【黒天大壮】使用時にできる大技【獄天・夜桜】。【原初の焔(ゼロ・フレア)】が最高火力の技ならば【獄天・夜桜】はナハト最速の技である。相手へとただただ一直線に突き進み、千を裕に越える無数の斬撃をほぼ同時に相手へ叩き込む技。そのために魔人は抉り取られたように...............いや、切り刻まれた結果肩から上しかない状態になったのだ

 

 

『よもや6度もナハトに奪われることになるとは..............』

 

 

だが、ナハトが何故この技を先程に使わなかったか。それはタメがいるの事もあるがそれ以上に一度使うだけでもかなりの消耗をするためだ。今だけ【黒天大壮】の反動は夜のおかげで帳消しにされているからこそ放てる大技。もし夜の力なしならば、体にかかる多大な負担でナハトはその場で死んでいただろう。

 

 

『この身は、本体の影(・・・・)にすぎぬとはいえ.............愚者の牙に下されるとはな』

 

魔人の体はもはや頭を残して一部しかなく、そしてその体もまるで消滅するように黒い靄が少しずつ湧き出ていた

 

『最後に(セリカ)の力添えがあったとは言え............見事だ!よくぞ我を殺しきった愚者の民草らよ!汝らに最大限の称賛を送ろう!』

 

 

すると、黒い靄が出る量が増大し本当に消えるといったところで魔人はナハトに言葉を贈る

 

『ナハトよ、汝との戦いとても楽しく有意義であった!いずれまた剣を交えよう!尊き《門》の向こうにて我は待っている!では、さらば!』

 

そして魔人は最後にそう言い残すと消えていった

 

 

「勝った............のか?」

 

グレンがそう呟くと..............

 

「ゴホッゴホッ!..............えぇ、そう.........みたいですよ」

 

仰向けになっているナハトがそう返した

 

「それよりも先生。セリカさんのほうに行ってあげてください................セリカさんは相当無茶してますから」

 

「お前も同じようなもんだろうが................まぁ、わかったよ」

 

 

こうして漸くこの壮大な死闘が終結したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

それからはグレンは満身創痍のセリカを抱え歩き始める

 

 

そして同じく満身創痍のナハトはと言うと................

 

「ねぇ、リィエル?」

 

「何?ナハト」

 

「その男として...........女子におんぶされるのは結構来るものが............」

 

 

そうリィエルにおんぶされているのだが、さすがにこれは精神的に来るものがある

 

 

「?よくわからないけど心配しないで。ナハトは私が運ぶ」

 

(君が俺よりも素の筋力あるから心配はしてないけどそれとは別に心がね..........)

 

「...........なぁ、システィーナ【ゲイル・ブロウ】で吹き飛ばして運んでもらっても?」

 

ナハトは自分でも馬鹿なこと言っている自覚はあるがそれでも頼んでいた

 

「何言ってるのよ..............大人しく悶えながら運ばれるといいわ」

 

 

その言葉通りナハトはクラスメイトと合流するまでそうやってリィエルにおぶられて運ばれることになった

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして野営地に帰ってくるとみんなは笑顔で迎えてくれた。その上すでに帰りの支度を済ませていたようでそのまま俺達はフェジテに帰ることができた

 

そして帰りの馬車の中で遺跡内では簡単な応急処置しかできていなかったうえ、その後動いたせいで再び開いた傷口もあり横に寝た状態でルミアに治療を受けていた

 

 

「..............ごめんルミア。俺凄い心配かけたよな」

 

するとルミアは涙をこぼし始めた

 

「本当だよ..............すごく怖かった。ナハト君が戦いに行ったのも..............ナハト君が大怪我で倒れているのも..............本当に怖くて仕方なかったんだよ..........グスッ」

 

 

そう泣きながらルミアは包帯で巻かれている右手をやさしく握る。

 

「もし..............もし.............ナハト君が死んじゃったらと思うと本当に怖くて..............信じていても.............ナハト君が血だらけなの見て................本当に...............」

 

 

「ルミア..................本当にごめん。でも、俺はここにいるからさ。ちゃんとルミアのそばにいるから」

 

ナハトは左手をルミアの目元にぎこちなく持ち上げると優しくルミアの涙をぬぐう

 

「グスッ...........うん............ナハト君がいるの安心する............だからもう私から離れないで............私ナハト君がいないとダメなの」

 

「あぁ、わかったちゃんとそばで俺が君を守る.............俺もルミアがいないと嫌だから」

 

 

あの時、初めてナハトとルミアが出会い約束したあの日からそれは変わらない

 

 

 

 

ルミアにとってもナハトにとってもお互いが光であり希望なのだ

 

 

 

 

共依存ともその両者の関係は取れるかもしれない

 

 

 

 

だが、きっとそんな簡単な言葉では表せないし違うと思う

 

 

 

 

 

何故なら二人はこんなにもお互いを大切に〝想っている〟のだから

 

 

 

 

 






これにて遺跡探索編は終了です。次回は終わってしまったクリスマスに関連する短編を予定しています。年末年始は実家に帰るのでどれくらいかけるかわかりませんがとりあえず年内にはクリスマス関連の短編は出したいと思います


また、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!そしていつもブックマーク、コメント、いいねをしてくださりありがとうございます!




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幕間の物語2 クリスマス
とある姉弟のクリスマス


新年あけましておめでとうございます!そして投稿が遅くなりすいません!木曜中にシスティーナとルミアのクリスマス回を上げる予定です。クリスマス編第一弾としてまずはイヴのお話です。イヴの本編本格参加までもう少しなので頑張って今年も進めていきたいと思います


 

 

 

 

 

 

粉雪がしんしんと降り注ぐ季節。外は白銀に彩られるなか反対に綺麗な紅い髪の女性は暖かい部屋の窓から外を見ていた

 

 

「今日はクリスマスだったわね.................」

 

 

帝都にある一部屋でイヴは外の通りから聞こえる笑い声を聞きながらある年のクリスマスの思い出を思い返していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~まったく................書類の整理といい、無能な室長共といい今日も散々だわ................」

 

忌々し気に表情を浮かべたイヴは今日も今日とて軍で忙しく働いていた。そして今はその帰りで一人で寒い夜空の下を愚痴をこぼして歩いていた

 

「早く帰ってナハトの美味しいご飯が食べたいわ...................」

 

イヴはナハトと今は同居しており、偶々今日はナハトが非番なためナハトのことだからすでに料理の支度を済ませてくれるだろうと考えていた

 

(それにしても今日は交際している男女が多くいるわね.........今日は何かあったかしら?)

 

そう思うイヴの周りには手をつないだり、腕を組んだり親しい男女の間柄であることが伺える者たちが多くいた。イヴはあまりの激務ゆえに今日がクリスマスと言うことが頭になかった。そもそも軍人である彼女からすれば無縁の行事でもあるため当然と言えば当然かもしれない

 

(ナハトもいずれ好きな女性なんかできてあんな風に..............)

 

イヴは将来自身の弟であるナハトもこんな風に仲睦まじく女性と過ごすのだろうかと考えていた

 

イヴは身内贔屓なしにしてもナハトはかなりカッコいい容姿をしていると思っているし、性格も優しく真面目できっと交際する女性はさぞ幸せだろうと思っていた。だが、自分のことを姉と慕い、支えそばにいつもいてくれる最愛の弟が自分から離れていくことを考えるとどこか寂しく切ない気がしていた

 

 

(ナハトのはできればずっと一緒にいて欲しいけどそれは私の我が儘よね..............)

 

 

可愛いらしく自分の後ろをついてきていた頃の姿や今のたくましく頼りになる姿を思い返しながら歩いているとすぐにナハトの待つ家までついていた

 

 

「ただいま、今帰ったわナハト」

 

玄関を開け着込んでいたコートと防寒具を外し玄関にあるコート掛けに身に着けていた防寒具らをかけていると.............

 

 

「お帰り姉さん。今日もお疲れ様」

 

 

エプロン姿のナハトが室内のキッチンからねぎらいの言葉を掛けながら歩いてきた

 

 

「ありがとう..............今日も無能な室長たちの後始末で忙しくて.........」

 

「そっか.............非番だったけど読んでくれたら手伝ったのに」

 

「そんなことできないわよ。昨日まであなたは遠方での任務に従事していて疲れているでしょうし、それでなくてもかなりの量の書類整理を任せたりしていたんだから」

 

ナハトが非番な理由は数週間にわたり遠方で反政府組織などの調査・討伐の任務に出払っていたためである。そして昨日の昼頃に帝都に戻るとそのまま手つかずにたまっていた書類の整理までしたため流石に休ませる必要があると判断したイヴが非番にしたのだ

 

「それでも姉さんが心配だよ?すぐ無理するんだから」

 

そう言って二人は廊下を歩きだしリビングに向かっていく

 

「大丈夫よ。しっかり体には気を使っているわ」

 

「それならいいけど..............そうだ姉さん。お風呂もう沸いてるけどご飯の前に先に入る?」

 

「そうね.............外も寒かったし疲れたから先はいるわ。ナハトはどうするのかしら?」

 

「俺は作った料理の盛り付けとかスープを温めなおしてくるよ。姉さんはゆっくり休んで」

 

「それじゃあそうさせてもらうわ」

 

そう言ってイヴは自室に着替えを取りに戻っていく。ナハトもリビングに併設するキッチンに戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヴが長風呂から上がり、幾分か疲れが取れてリビングに向かうと卓上には豪華な料理が並んでいた

 

 

「あっ、姉さん丁度いいタイミングだね。料理は全部出そろったから座ろ」

 

するとナハトが両手に白い湯気を上げるポトフを持ってキッチンから出てきた

 

「今日は随分と豪華ね...........何かあったかしら?」

 

「そりゃ一応クリスマスだしね。非番だったし少し張り切ってみたよ」

 

「クリスマス..................そういえば今日だったわね、すっかり忘れていたわ」

 

そう言ってナハトがポトフを置くとイヴは改めて卓上に並ぶ料理を見ていた

 

卓上にはローストビーフとそれに一緒に盛られた色とりどりサラダ、小さく切られたパンにチーズがいい感じに焦げて食欲をそそるにおいを醸し出すグラタンとどれもすべておいしそうで美しく盛り付けされていた

 

すると卓上に置かれた瓶とグラスに目が留まる

 

「ナハトこれワインかしら?」

 

「あ~違うよそれはぶどうジュースだよ。おいしくて評判のを買ってきたんだ。姉さんも俺もお酒に弱いから気分くらいはと思ってね」

 

「ふふ、そうね。確かにこれだけの料理なのに美味しい飲み物がないと味気ないわよね」

 

「食後にはケーキもあるから楽しみにしていて............さて、スープが覚めちゃうから食べよう姉さん?」

 

「そうね、冷めたらもったいないもの。早速食べましょうか」

 

イヴがそう言うと二人はそれぞれ席に着くと食事の挨拶をし、豪華な料理に舌鼓を打つ。

 

「「いただきます」」

 

イヴはまず最初に目についたとても美味しそうなローストビーフを口に運ぶ

 

「このローストビーフやわらかくて美味しいわね。お肉もいいものなんでしょうけど焼き加減も抜群だわ」

 

「お肉屋さんでいつもは買わない高めのお肉にしたからね、姉さんに喜んでもらえてよかったよ」

 

「それにしてもあなたの料理本当に美味しいわよね...............私としては少し微妙な気分だわ」

 

イヴは作るのは好きでも美味しいものが何故かできないメシマズである。姉として弟であるナハトに何か食べさせてあげたいと思い練習しているが今だに成果はなかった

 

「あははは、なら今度一緒に何かお菓子でも作る?」

 

「..........普通はそれを提案するのは逆じゃないかしら?」

 

「別にいいんじゃない?それに料理ならアルベルトさんのほうが俺よりおいしいよ?」

 

「私からすればどっちもどっちもよ...............でも、私はナハトの料理のほうが好きよ?」

 

「そうなの?」

 

「えぇ、だって私の大切な弟が作ったものよ?好きじゃないわけないでしょ?」

 

「そっか..............ありがとう姉さん、すごくうれしいよ」

 

それからも二人は笑みを浮かべ、仕事の事や昔の思い出話などいろいろな話をしながら食事を進めていた

 

きっと軍の者は今のイヴを見ればとても驚くほどにイヴの表情は普段の張りつめた鋭さは抜け、穏やかで幸せな笑みを浮かべて聖夜の晩餐を楽しむ姿がそこにはあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケーキもおいしかったわ。素敵な食事を準備してくれて本当にありがとうナハト」

 

「どういたしまして姉さん。喜んでもらえて俺もよかったよ」

 

 

2人はナハトの手作りのケーキを食べ終えるとケーキを出すときにナハトが淹れた珈琲を飲みながらのんびりとしていた

 

 

「さて、姉さんクリスマスと言えば何か足りないと思わない?」

 

「足りないもの?そんなものあったかしら?」

 

ナハトは突然イヴにそんな問いを投げかける。イヴはその問いを受け何のことだろうか考えていると.............

 

 

「それはこれだよ」

 

 

そう言うとナハトはどこからか取り出したラッピングされた箱をイヴに差し出す

 

 

「メリークリスマス姉さん!いろいろと姉さんにお世話になってきてるからそのお礼の意味を込めてプレゼントだよ」

 

「クリスマスプレゼント.................ごめんなさいナハト。貴方がくれるのはすごくうれしいんだけど私は何も用意してないわ」

 

イヴは弟から送ってもらったプレゼントがうれしくないわけがなかった。だがそれと同じくらい自分がプレゼントを用意できなかったことを悔やんだ

 

「気にしなくていいよ?俺が姉さんに渡したかったんだからさ。それに姉さんは忙しかったんだし、気にしないで」

 

「で、でも.............私は貴方の姉なのよ?だから...........」

 

「いいのいいの。それに姉さんにはもうプレゼント貰ってるからさ」

 

「え?」

 

「だって俺の料理褒めてくれただろ?それにすごく幸せそうな笑顔を見せてくれたし、俺はそれだけで本当に嬉しかったし充分なんだ」

 

「ナハト..................」

 

「それにこうして二人で過ごす時間も俺にとっては最高のプレゼントなんだ。だから姉さんは気にしなくていいんだ」

 

 

そう言うナハトの笑顔は一寸の曇りもなく晴れやかだった。その表情を見ればナハトの言うことは本当だと分かるし、イヴだって嬉しくなる

 

 

「そう................私も同じ気持ちよ。ありがとう.............本当にこんな素晴らしい時間を私にくれてありがとうナハト」

 

 

 

2人はそれからもゆっくりと幸せをかみしめながら二人だけの時間を楽しんだ

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------------

 

 

 

イヴはそんなナハトとの幸せな時間を思い出し穏やかな表情を浮かべ置いてあるサルビアの花を模したブローチの目をやる。そのブローチこそナハトがイヴに送ったプレゼントである。

 

 

(花言葉は尊敬..............そして家族愛)

 

 

ナハトのことだから意図していたのかもしれないその花言葉のこと考えそれを見ると弟が愛おしくてたまらない

 

 

「愛しているわ............ナハト」

 

 

その言葉に含まれる愛しているというイヴの感情の中に姉弟としての愛情だけでなくもしかしたら...............

 

 

 

なんて思わせるほどにイヴの表情は穏やかで、誰もが見惚れるほどに美しかった

 

 

 

 

 

 



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システィーナとクリスマスイヴそして.......

 

 

12月24日クリスマスイヴにナハトは噴水広場で一人立っていると..............

 

 

「お~い!ナハト~!」

 

「ん?」

 

待ち合わせをしていたシスティーナがナハトの名前を叫びながら駆け寄ってくる

 

「ふ~.............お待たせナハト。待たせたかしら?」

 

「いや、俺も来たばっかりだぞ」

 

白色のよく似合う厚手のコートを着込んだシスティーナとナハトはデートの鉄板のようなやり取りをする

 

「それにしてもまだ時間あるのにわざわざ走ってこなくてもよかったんじゃないか?」

 

「うっ............それはその少し浮かれていたというかなんというか..........////」

 

システィーナは珍しくはしゃいでいたことを自覚し少し照れくさそうにコートと同色のマフラーを少し持ち上げ赤く上気した頬を隠すようにする

 

「珍しいな..............さて、外にいても寒いしさっさと目的地に行くか」

 

「そうね、早速だけどいきましょうか!」

 

ナハトがそう言うと二人は仲良く隣に並び歩き始める

 

今日ナハトがシスティーナとこうして待ち合わせをして外出したあのには理由がある

 

1つは丁度システィーナと最近話した書店が併設した落ち着いた雰囲気のカフェが開店したためである。ナハトは趣味でカフェ巡りや読書もするので興味深いと思っていてそれはシスティーナも同じだったために2人で行くことにした。そしてもう一つは..................

 

「でも以外ねナハトが私を誘うなんて」

 

「ん?そうかな?」

 

「だってナハトなら普通ルミアを誘うと思ったもの」

 

システィーナはルミアがナハトのことを好いているのも知っているし、ナハトが少なからずルミアに特別な感情を抱いているのも見ていればわかる。だからこそ今日ここに来るのは少し申し訳なくもあったが少し期待してしまう自分がいるのも事実だったりする

 

「そうかな?まぁ、それはともかくとして今日はシスティーナじゃないとダメなんだよ」

 

「ふえぇ!?//////な、なに言ってるのよナハト!/////////ワタシジャナイトダメダナンテ.....ソンナ」

 

「?顔赤いけど大丈夫か?」

 

ナハトは自分の発言が勘違いを生むようなものだと自覚していなかった。そのため突然顔を赤らめ慌てふためくシスティーナが不思議でならなかった

 

「だ、だ、だ、大丈夫よ!////心配しなくても平気よ?」

 

「?そうか?何かあったらすぐ言ってくれよ?」

 

(も、も、も、もしかして今日ナハトから...........ダメよ!ダメに決まってるはシスティーナ!ナハトにはルミアが..........あぁ~でももしそうなったら私は////////)

 

システィーナはあんなことやこんなことを妄想して顔を赤らめたり慌てふためき動揺したりと胸中とても穏やかとは言えない状況だった

 

そんな様子を見ているナハトは本当にどうしたんだろうと自身が原因であるという自覚はないままに不思議に思ってそのまま二人で歩いているのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く歩くと二人は目的地にたどり着く。そのころにはシスティーナも落ち着きを取り戻していたが内心ではまだまだ期待と動揺があった

 

 

「ここだな.............さて、さっそく入ろうぜ」

 

「そうね..........どんなカフェなのか楽しみだわ」

 

 

ナハトが店の扉を開け入っていく落ち着いた雰囲気に合う内装のカフェと書店があり静謐な空間がそこには広がっていた

 

2人はまずは手ごろな本を探すために書店に向かう

 

「思った以上に結構数があるわね」

 

「確かにカフェ併設だからあんまりないかと思ったけど想像以上だね」

 

併設された書店なだけに本の数はそれほどでもないかと思っていたが想像以上の数が供えられた恩田名を目の当たりにし感嘆する

 

「さて...................書籍の数に注目するのもいいけど読みたい本探そうぜ?」

 

「そうね..........これだけあれば普段読まない作品とかありそうだし楽しみだわ」

 

2人はそれぞれ思い思いに本を選び始める。その二人の表情はワクワクしているような感じで目を輝かせて沢山の本の棚に並べられている書店に没頭するのであった

 

 

 

 

 

「さて、俺はこれにするか...............」

 

 

ナハトがとったのは短編の小説だった。あらすじはよくある推理小説で一人の奇術を使う怪盗に探偵の少年が挑むというものだった

 

「ナハトは決まったかしら?」

 

「ん?システィーナか..........そっちも決まったみたいだな」

 

「えぇ、ナハトはどんなのにしたのかしら?」

 

「推理小説だよ。システィーナは?」

 

「私はね学園での...............じゃなくて、私も同じようなものよ」

 

「?学園ものじゃないのか?」

 

「え、えぇ、そうよ..............推理小説よ!うん、断じて学園ものじゃないわよ!」

 

「お、おう......(何に慌ててるんだ?)」

 

因みにシスティーナのとったものは学園恋愛もので主人公の女の子が親友の想い人に恋をするといったものであった。何となく既視感のあるようなないような関係図の作品を思わずシスティーナは手に取っていた。だからこそ何故かシスティーナはナハトに本当のことを言えなかった

 

「ま、まぁ..........本を買ってカフェのほうに行こうぜ」

 

ナハトはやや困惑しながらもシスティーナを連れて支払いに向かう

 

(言えるわけないわ............まるで私がナハトを意識してるみたいじゃないの/////)

 

 

システィーナが内心でそう言い訳をしながらナハトの後ろに続きカフェへ移動するのであった

 

 

 

 

 

 

「さて、本も買ったしなに頼もうかな~」

 

ナハト達は本の購入を済ませるとカフェの一席に座る。そして席においてあるカフェのメニュー表に視線を落とし楽しそうにしながらナハトは注文を決めようとする

 

「そうね、お菓子とかもおいしいって評判だったし楽しみね」

 

システィーナもそれは同じでどれにしようかと心躍らせてメニューを見ていた

 

「ん~飲み物はオリジナルブレンドかな...........それで後は..........よし、この日替わりサンドイッチにしようかな」

 

「そうね...........私は紅茶にシュークリームにしようかしら」

 

2人はメニューを決めると店員を呼んで注文を伝えると買った本を取り出した

 

「さて、さっそく買った本でも読んで待とうかしら」

 

「そうだね。せっかくだしここでゆっくり楽しもう............と言いたいところだけど少し待ってくれないか?」

 

「ナハト?」

 

ナハトはここで一度待ったをかけるとナハトは自身の肩掛けのカバンの中から放送された小袋を取り出す

 

「さて、今日システィーナを呼んだ理由なんだけどね............」

 

(えっ...........それってもしかして..........///////)

 

システィーナは集合した時のやり取りを思い出して顔を赤くする。システィーナは期待してはいけないと思いつつも期待感を抑えられずナハトの次の言葉を待つ。そしてついに..............

 

 

「システィーナ誕生日おめでとう!」

 

 

「へ?」

 

 

システィーナは鳩が豆鉄砲を食ったように呆気にとられる

 

 

「システィーナの誕生日って確か今日だろ?クリスマスイヴだからクリスマスプレゼントと一緒に誕生日プレゼントを贈ろうと思ったんだけど.................って、どうしたんだシスティーナ?もしかして日にち違ったか?」

 

ナハトはシスティーナが考えていたことなど知るはずもなく呆けているシスティーナを見て間違えたかと不安になる

 

(そうよね........鈍感なナハトにそんな浮ついた話期待した私あおかしいのよ.........って来たいなんてしてないわよ私!?////////)

 

「え、えっと合っているわよ?ただ少し驚いちゃって..........」

 

「そうかならサプライズ成功でいいかな?そうだこれ早速開けてみるといいよ」

 

ナハトは袋を差し出すとシスティーナに開けてみるといいと勧める

 

「プレゼントありがとうナハト。お言葉に甘えて早速開けさせてもらうわね」

 

システィーナは丁寧に包装された袋を開けて中に入っているものを取り出す

 

「わぁ~綺麗な栞ね!それにこのブックカバーも素敵なデザインだわ!」

 

三種類の花のデザインが施された栞と小さな小鳥と花びらで彩られた可愛いらしいデザインのブックカバーが入っていた

 

「帝都の方で有名な手芸屋の人と知り合いで作ってもらったんだ」

 

ナハトはつい最近帝都に仕事で短い間赴いていた。その時に偶々知り合うことになったその手芸屋に注文しておいたのだ

 

「有名なって...........これ高かったんじゃ.........」

 

システィーナは見るからによく作りこまれたそれを見て高額なものなのではないかと少し申し訳なくなる。

 

「別に大した金額じゃないし気にしなくていいよ?こういうこと言わないほうがいいかもだけど知り合いだからって安くしてもらってるしね」

 

その手芸屋は気前のいいひとで何か買うといつもおまけだとか割引だとかしてくれるのだ。正直申し訳なく思う気もするが純粋な好意であるため受け取らざる負えないのだ

 

「そうなのね...........」

 

「それに喜んでくれるならそれが一番だからお金なんて気にしないでいいんだぞ?」

 

そう言われたシスティーナは気恥しさを感じるがそれ以上にこんな素敵なプレゼントをもらったことがうれしくてたまらなかった

 

「本当にありがとうナハト!大切に使うわね!」

 

「喜んでもらえて何よりだよ」

 

嬉しそうにはにかむシスティーナを見てナハトは満足そうに笑みを浮かべる。

 

それからシスティーナはブックカバーを早速買ったばかりの本に使い頼んだメニューが来るのをナハトと二人読書しながら待った

 

 

そして、注文したそれぞれのものを楽しみながら二人はまた穏やかな雰囲気を湛えたまま読書にふけるのであった

 

 

 

 



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Sweet X’mas

 

 

 

 

(楽しみ過ぎて早く来すぎちゃった.........)

 

ルミアは冬の寒空の下、クリスマスにナハトから誘われ街に遊びに...........デートに行くことになっていた

 

そしてそんなルミアはクリスマスと言うこともありわざわざ誘ってくれたことに期待と喜びで待ち合わせのなんと二時間前に待ち合わせ場所に来ていた

 

(早く来すぎて引かれるかな...........で、でも今日誘ってきたナハト君だし..........クリスマスだししょうがないよね//////)

 

ルミアはあまりに早く来すぎたことにひかれないか心配になるもののクリスマスのせいと言うことにしておこうと心の中で言い訳を始めていると...........

 

 

「あれ?ルミアもう来てたのか?」

 

そう言って歩いてきたのは待ち人であるナハトだった

 

「あっ、こんにちわナハト君...........って集合時間の大分前だよ?」

 

ルミアもその発言はブーメランではあるものの、ルミアがついてから数十分でこの場に現れたことが予想外なため気づけばナハトに聞いていた

 

「いや、ルミアもだいぶ早いんじゃないか?」

 

「えっ////////////だって......それはその........楽しみだったんだもん//////」

 

照れたようにもじもじとしながらそう言うルミアの姿にナハトは............

 

「............そ、そうか。なら仕方ないよな(なんかいつにもまして可愛い気がするなルミア///」

 

ナハトは思わず無意識に見惚れてしまった事を誤魔化す様に若干視線を泳がせ頬をポリポリと掻きながら若干頬を赤くし返答する

 

だが、同様のせいか最後の部分はナハトは心の中で思ったことが思わず口からこぼれていた

 

(ふぇっ!?//////い、今可愛いって..........///////////も、もう一回言ってくれないかな//////)

 

ルミアは思わぬナハトの発言に顔をリンゴのように赤く染め、冬の寒さなんて嘘みたいに感じるほど火照っているのを感じる

 

「そ、そ、そうだよね?/////で、で、でもナハト君も凄く速いよね?」

 

ルミアは恥ずかしさと嬉しさがごっちゃになってうまく言葉が紡げずにつまりつまりでナハトにも早すぎではないかと尋ねる

 

「えっ............あ~そのなんだ........誘っといてあれだが俺もルミアと遊ぶの楽しみで気づいたら家出てここに来てたんだ」

 

ナハトは基本的に約束の時間の一時間から三十分前には着くようにしている。だからこそ今日のナハトはかなり浮かれていたのだと言えるだろう

 

「そ、そっか///////なんだかそう言ってもらえると嬉しいね?/////」

 

「そ、そうだな..........俺もそのルミアが楽しみにしてくれてるって知って嬉しかった////」

 

2人して顔を赤くして俯きがちになっている姿はさながら初々しいカップルと言うべきものだった。

 

 

そして、そんな様子を見かける周囲の人々はみなこう思った

 

 

 

(((こっちが恥ずかしいわ!!!)))

 

 

 

余りの二人の初々しさに寧ろ当人達よりも自分たちのほうがよっぽど恥ずかしいのではと考えるまでに至っていた

 

 

そんな周囲の人たちはよそにナハト達は早速、遊び(デート)を始めようとしていた

 

「えっと.........早いけど行こうか?」

 

「う、うん!そうだね......それで、そのね....お願いがあるんだけど........./////」

 

またもルミアは照れ臭そうにして俯きがちに何かを提案しようとする

 

「?どうしたんだルミア?」

 

ナハトはそんなルミアの様子を不思議そうに見る。そして意を決したルミアは顔を上げナハトに提案する

 

「その前のデー........お出かけの時の帰るときと同じように......手をつないでほしいなって.......ダメ、かな?///」

 

「え?///」

 

ルミアの思わぬ提案にナハトも気恥ずかしさと驚きと言い表せないなにかを感じる

 

「そ、そのね..........あのとき凄い安心して.......その.........嬉しくてね?////できれば今日はずっとしてほしいな~なんて////」

 

(そう言えば前も....../////)

 

ナハトは以前のお出かけのことを思い出しその時と同じ熱と鼓動の煩ささを感じる

 

「え、えっと........なんだ......俺もあの時嬉しかったんだと思う////だから..........今日はそうしよう」

 

そう言ってナハトは意を決したように自らルミアの手を取る

 

「あっ............ふふふ、すごくうれしいな////」

 

(今日のルミアなんかヤバい!何がヤバいかわからないけど頭がおかしくなりそうだ.....)

 

ルミアがとてもうれしそうに赤くなった顔のまま花が咲き綻ぶような笑顔を見てさらにナハトは自分の思考がまとまらなくなっていた

 

「...............//////行こうか」

 

 

ナハトは何とかそれだけ言うとルミアと一緒に手を取り合いながら街に繰り出した

 

 

 

 

 

 

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ナハトとルミアの最初の予定は二人でクリスマスプレゼントを買うことだった。そんな二人が訪れた場所は時計専門店だった

 

 

「へ~時計も結構な種類があるもんだな.............」

 

ナハトは店内に並べられている時計を見てどれがルミアにあうかと探していた

 

「うん、こんなにあるとさすがに悩むよね」

 

ルミアもナハト同様に店内の時計を見て同じ感想を抱く

 

「そう言えば時計を贈りあわないかって提案したのはルミアだったけど時計が欲しかったのか?」

 

「えっ!............えっと、そのそれは//////(言えるわけないよ//////だって時計を贈ることの意味は........)」

 

ナハトは大した意味はないがふと時計を贈りあおうと提案した理由が気になりルミアに聞くとなぜかルミアが突然動揺を見せる

 

「?ルミアどうしたんだ?」

 

「う、ううん何でもないよ?その.........ほら!ネックレスはこの前買ったよね?だから今度は時計がいいかな~って」

 

「成程ね~確かにそれなら時計がしっくりくるかも。マグカップもあの時買ったし、贈り物的には時計がいいか」

 

ナハトはまたそれからなんでもなかったように視線を綺麗に陳列されている時計に移した

 

(危なかった~だって時計を贈る意味は貴方と〝同じ時間を共有したい〟だもん。そんなの恥ずかしくて言えないよ/////)

 

ルミアは時計を贈る意味を知ったうえでの提案だったのだがさすがにこれを言うのは告白同然なため憚れる。どうせ告白するならもっとムードのある場面でしたいし、ルミア的にはやっぱりナハトから告白されたいのも大きい

 

ルミアはそんなことを考えながらナハトと同じように陳列された時計を見てふと一つ目をひかれるものがあった

 

「あっ...........これナハト君の好みかも」

 

そう言って手に取ったのはスケルトン懐中時計だった。スケルトン懐中時計はむき出しになった歯車部などが見えることができ、その歯車部の造形美を楽しむことのできるそれはナハトが好みそうだとルミアは感じたのだ

 

「うん...........これが一番ナハト君らしいかな」

 

ルミアは手に取った懐中時計に決めるとナハトのほうを見るとナハトも決まった様だった

 

「よし!ルミアならこれが一番いいな...........ん?ルミアも決まったのか?」

 

「うん、ナハト君も決まったみたいだね」

 

「あぁ、それじゃあ早速会計済ませるか」

 

2人は選んだものをもって会計に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は会計を済ませて外に出ると早速それぞれ買ったものを交換する

 

「早速だけど.........はい、ルミア。メリークリスマス」

 

そう言ってナハトが渡したのはルミア同様に懐中時計でルミアが選んだものとは違って上蓋があり、その上蓋には薔薇の花の精巧で上品な飾りつけがされていた

 

「わぁ~綺麗な薔薇だね!ありがとう凄く嬉しいよナハト君!」

 

「どういたしまして。喜んでもらえてよかったよ」

 

ナハトも喜んでくれたのがうれしかったため自然と笑みを浮かべていた

 

「それじゃあ私からも渡すね。はい!メリークリスマスナハト君!」

 

「へ~すごいなコレ!なんか落ち着いててカッコいいな~」

 

ナハトは満足そうに目を輝かせてルミアが渡した懐中時計を見ていた

 

「ふふ、なんだかそれを見た時ナハト君の好みっぽいな~って思ったんだ。それにどことなくナハト君に似てる気がしたんだ」

 

「俺に?」

 

「うん、いつもナハト君は落ち着いててカッコいいからね!」

 

「!そ、そうか//////」

 

ルミアはどこか誇らしげにそう伝えてくる様子にナハトは褒められて照れる子供のように嬉しさもあり恥ずかしくもあるような感じになっていた。

 

(正直に言うのは少し恥ずかしかったけどナハト君が照れてるの可愛いな)

 

ルミアは攻めた発言に若干の恥じらいは感じるもナハトの様子を見て満足していた。ここ最近のナハトは明らかにルミアに対しての感情が幾分か豊かと言うか振れ幅が大きくなってきていた。ルミアにもそれはよくわかるくらいにだ。ナハトの本心こそわからないがこういった反応を見せてくれることはルミアも意識してくれているのかと感じ嬉しくもあるのだ

 

「さて!結構時間かかったしお昼行こうか!」

 

ルミアはナハトの手を引きそう提案する。ナハトは照れているところに突然のことだったので若干慌てるも笑みを浮かべまた二人で歩き始めたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は昼食を済ませるとナハトが予定していた歌劇団のクリスマス公演を楽しんだ。出演者の歌と演技には2人して魅入られ最高の公演を見ることができ満足だった。そして二人は公演の満足感のままこれまたナハトが予約していた店に入り二人で感想を語り合いながら頼んだ美味しいクリスマス限定の料理に舌鼓をうち至福のひと時を過ごすと辺りはすっかり真っ暗になっていた

 

 

 

「今日は誘ってくれてありがとうナハト君!すっごく楽しかったよ!」

 

ルミアはナハトと手をつなぎ歩きながら冬空下で眩い笑顔でナハトにそう伝える

 

「それはよかったよ。俺も凄く楽しかった。本当に忘れられないくらいに」

 

そしてナハトも大げさともいえる言い方の通り本当に満足感あふれる表情で伝える

 

だが、ナハトにはまだ一つルミアにまだ贈れていないプレゼントがあった

 

(多分もう少しかな..........)

 

「なぁ、ルミア少し公園に行かないか?」

 

「?いいけど何かあるの?」

 

ルミアはナハトの突然の提案に疑問の表情を浮かべる

 

「ん~なんというかもう少し一緒にいたいかな~って」

 

「え/////え、えっと.........その.........分かった////////」

(もしかして告白されるんじゃ...........って、違うよね/////でも........)

 

ナハトの言い回しにルミアはもしかしてと勘繰り期待してしまう。なんにせよナハトの言うことは本心だし、ルミアもまだ帰りたくないと思っていたりするのでナハトの提案を受け入れた。

 

 

それから少し歩くと公園につく

 

ナハトはルミアを連れ公園の広場まで行くとベンチがあり、そこに座ろうとナハトは提案し二人はそこに腰掛ける

 

「少しの間ここにいることにいることになると思うからこれ」

 

ナハトは長めのマフラーをカバンから取り出しルミアに渡す

 

「ありがとうナハト君。あっ、でもナハト君はいいの?」

 

「俺は大丈夫だからルミアが使いなよ」

 

ルミアは手渡されたそれをまじまじと見る

 

(結構長いよねこれ.........これならできる.........かな?でも、恥ずかしいし/////)

 

まじまじとマフラーを見ているルミアをナハトは不思議そうに見ていた。

 

「ルミア?」

 

(いやでも...........やっぱりあれは憧れるし.......うん!もうやっちゃえ!/////)

 

ルミアは長いマフラーを自分にまくと余った分をナハトに差し出す

 

「そ、その...............これ長いから一緒に巻かないかな?////」

 

「え?////い、いやでも流石に2人で使うには短いだろ?」

 

ナハトが渡したマフラーは長めではあるものの流石に2人で使う想定はしない為無理ではないかと伝える。最も単にナハトが恥ずかしかったというのもある

 

「だ、大丈夫だよ!/////だってこうすれば.............」

 

ルミアはそのままナハトとの間を一気に詰めて肩と肩がピッタリ触れて寄り添うようにする

 

「る、る、ルミア!?/////」

 

ナハトもそのルミアの大胆な行動に驚きと恥ずかしさで動揺する

 

「こ、これなら...........その.......二人で使えるし.........何よりもっと暖かいよね?/////」

 

ルミアは顔を赤くしながらも言い切る。ルミアはマフラーを二人で巻いて寄り添うというベタな恋人同士のシチュエーションに憧れがあった。なのでこの機会にと勇気を振り絞って提案する

 

(うっ////..........恥ずかしいけどルミアの頼みはなんでか断れないんだよなぁ)

 

対するナハトは恥ずかしさを感じるもルミアのお願いと言うのにめっぽう弱い。だから...........

 

「お、おう........確かに暖かい.......えっと、なんていうか........このままがいい////」

 

「そ、そっか////////うん......私もこうしてると幸せだな........」

 

ルミアはそう言うとそのままナハトの肩に頭を乗せて完全に寄り添う。対するナハトはもう頭が完全に回らくこのままがいいなどと言ってしまう始末だった

 

そうしてしばらく二人は何も語らずただお互いの存在と温かさを感じて過ごす。そしてついにナハトが待っていたものが来る

 

「..........あっ、雪だ」

 

ルミアがふと顔に冷たい何かが触れたと思うとそれはしんしんと降り始めた雪だった

 

「ホワイトクリスマスだな.............さて、ようやく降ってくれたな」

 

ナハトが待っていたものは雪だった。ナハトは今日雪が降ると魔術で観測していた。そのためあるものをルミアに見せることをもう一つのプレゼントにしようと思ったのだ

 

「ルミア。俺からもう一つのクリスマスプレゼントを贈るよ」

 

「プレゼント?」

 

「見てて.......《我は奇術師・我は万象に彩を与える者・我が幻想以って・白銀の輝きを・鮮やかに染め上げろ》」

 

ナハトは魔術の詠唱すると足元に大きな魔術方陣ができる。するとそれが光を放つと..............

 

「わぁ~!!凄い綺麗!!!」

 

ルミアは声を上げて目の前に広がる壮麗な景色に目を奪われる

 

ナハトの魔術により雪が色とりどりに輝きまるで夜空の星々の中に吸い込まれたかのように感じさせられる。更にそれだけでなく雪が集まり様々な雪の結晶や花や鳥、蝶や様々な形を等を作り出して幻想的な情景を作り出していた

 

この魔術はナハトが編み出した黒魔改【スノウ・イリュージョン】。雪と可視光を利用して幻を作る魔術でナハトは戦闘用に天候を活かしたものができないかと開発していた結果できたもの。だが結局最終的には幻月があれば大抵はどうにかなるのでお蔵入りになった魔術。

 

「綺麗だろ?雪が降ってるとき限定の魔術なんだ」

 

「うん!本当に綺麗だよナハト君!」

 

ルミアは目を輝かせて景色に見入る様子はまるで子供がはしゃいでいるようだった。そんな風に喜んでいる様子を見ているナハトは魔術の成り立ち関係なしにこの魔術を作ることができてよかったと感じていた

 

そして数十分ほどすると幻想的な景色が薄れていき最後にはただ静かにしんしんと降る雪だけになっていた

 

「これが俺がルミアに見せたかった............贈りたかったクリスマスプレゼントだよ」

 

「ありがとうナハト君!本当に..........本当にこんなきれいな風景を見せてくれてありがとう」

 

ルミアは最初に見せてくれた花が咲き綻ぶような笑顔でナハトに感謝を伝える。ナハトもその笑顔を向けてくれることが嬉しくて満たされるように感じた

 

「ねぇ、ナハト君?」

 

「ん?どうしたんだルミア?もう一度見たいのか?」

 

「うんうん。もう一度見たいのは確かなんだけどそうじゃなくてね..........もう少しこのまま..........今度はただを降るのを少し眺めていたいなぁ~って」

 

そう言ってまたルミアは頭をナハトの肩に添え寄り添うと今度はそれだけでなく、ナハトの手を自らを取り恋人繋ぎをする

 

「こうしてね............寄り添って、手を繋いでると凄く幸せで安心するの。だから今日はずっと幸せだったんだ。だからもうしばらくこうしていたいな」

 

そのルミアの言葉と同じことをナハトも抱いていた。確かに恥ずかしかったり驚いたりとしたこともある。だがそれ以上にルミアと同じように幸福感を感じていた。だからこそナハトの答えはすでに決まっている

 

「俺も...........俺もルミアと同じなんだ。こうしてると幸せなんだ...........なんだかこのままずっとこうしていたいくらいに.........」

 

 

 

 

そのまま二人はしばらくの間寄り添って座っていた

 

 

 

 

似た者同士の二人だからこその平穏と心地い静寂

 

 

 

 

こうして二人のクリスマスは幕を下ろすのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






改めてもう一度新年あけましておめでとうございます!そして投稿が遅くなり本当にすいません!理由としては実家で書く時間が取れなかったこと。もう一つは完全私的ですがSwitchを買って少しはまってしまいましてゲームしてました。本当にすいません!


そしてもう一つお知らせがあります。それは今月の投稿ペースなのですが少し落ちる可能性があります。理由はテストが近づいてくるため勉強しなくてはいけないからです。一応目標は一週間に二~三話は更新する予定ですがもしかしたら一話も更新できないときもあるかもしれません。ですがクオリティを落とさずに皆さんに楽しんでもらえるよう頑張りますので今後もよろしくお願いします!


また今回もここまで読んでくださりありがとうございます!またいつもお気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます!



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第七巻 社交舞踏会編
舞踏会の準備とその裏側


 

 

「本当にごめん!ルミア、リィエル......」

 

「もう......気にしなくていいのに」

 

「ん、平気」

 

システィーナが突然二人に謝る理由。それは三日後に迫った『社交舞踏会』の準備の事だった。システィーナはリゼと言う生徒会長の先輩と懇意にしておりよく手伝いをしていた一環で今回の準備に一般生徒側の代表として生徒会や実行委員などの橋渡しとなり忙しく働いていた。そんな忙しそうにする親友を見てほっておけなかった二人が手伝いを申し上げたのだが、システィーナにとってはそれが負担なのではと思っていた。

 

「私がしたかったことだし........それにこうしてるのも結構楽しいんだよ?」

 

「ん、私も楽しい」

 

そんな二人に..............

 

「なんて良い子たちなの...........」

 

システィーナは感激したような様子で二人を見ていると.................

 

「失礼。ルミアさん少しお話してもいいですか?」

 

「.....はい」

 

三人のところに一人のおしゃれした如何にも女慣れしたボンボンと分かる男子生徒がルミアに向けて声を掛けてきた

 

「はぁ........また(・・)だわ..............」

 

ルミアは小鳥のように首をかしげるのに対しシスティーナは露骨に呆れたようにする。リィエルはいつものように眠たげにして頭の上にはてなマークを浮かべているようだった。

 

「ルミアさん...........あの男....いえ、次の『社交舞踏会』のダンス・コンペに誰かと参加される予定はありませんか?」

 

「ええと........今のところはその予定はないですけど.....」

 

「そうですか........あなたほどの女性が参加されないなんて勿体ない」

 

そう言うとその男子生徒はにこりと笑いかける。そして..............

 

「もしよかったら..........僕とペアで――

 

男子生徒がそう言いかけた瞬間だった

 

 

「お~い、ルミア!」

 

 

そう言って駆け寄ってきたのは丁度先日まで遺跡探索の事件の怪我と禁呪の反動により治療院に入院していたナハトだった

 

 

「あっ!ナハト君!もう体大丈夫なの?」

 

「えっ?ち、ちょっと!?」

 

 

ルミアは目の前の男子生徒に目もくれず、すぐにナハトに駆け寄っていくと体のことを心配して問いかける。放置された男子生徒は周りから憐みの視線を向けられていた。

 

 

「平気平気。まぁ、まだ多少本調子ではないけど」

 

「そっか..........無理しないでよ?何かあったら言ってね?私が力になるから」

 

「あぁ、頼りにしてるよルミア............そういえば、ルミア誰かと話してなかった?」

 

「...........あっ!忘れてた.....」

 

ナハトがルミアに尋ねるとルミアは素で男子生徒のことを忘れていた。その発言にもう周りは男子生徒に心の底から同情していた。

 

「ご、ごめんなさい!えっと、お話と言うのは...........」

 

ルミアは謝罪をいれて先程まで話しかけていた男子生徒に話しかけるが.......

 

「..........いいんだ。なんでもない.......」

 

その男子生徒はそれだけ言うと肩を落としたように歩いて行ってしまった

 

「久しぶりねナハト」

 

「ん、久しぶり」

 

男子生徒が寂しげに立ち去るとシスティーナもリィエルも久々に学院であったナハトに声を掛ける

 

「あぁ、久しぶり.........っていうほどにも感じないな。二人ともお見舞いにたくさん来てくれたし」

 

「ふふ、確かにそうね.......でも、そこにいるルミアほどではないわね」

 

システィーナはからかうような笑みを浮かべそう言うとルミアは顔を少し赤くする

 

「も、もうシスティ!///だって........寂し.....って、システィだって同じくらい来てよね!?」

 

ルミアはナハトが入院してから一日も欠かさずにナハトとこに訪れていた。だが、それはシスティーナもほぼ同じだった

 

「うぅ..........そ、それは...私だってナハトの事が......って、違うんだからね!?////」

 

お互いが顔を赤くして照れたようにしている様子を見て周りの奴らはナハトのことを羨ましいと思う反面敵わないと思っていた。

 

 

 

その当のナハトは.............

 

 

「あ、あのナハト先輩!//////」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「私とその..............ダンス・コンペ出てくれませんか!/////」

 

ナハトはルミア達が言いあってる傍らでリィエルとそれを見ていると後輩の女子生徒がナハトを誘っていた。そしてそれは一人だけじゃなくその女子生徒の後ろにも複数の女子生徒が控えていた

 

「あ~ごめんな?俺実は一緒に踊りたい人がいるんだ」

 

「そ、そうですか............」

 

ナハトの答えに見るからに落ち込むその女の子にナハトはバツが悪くなり頭に手を乗せる

 

「また機会があったら踊ってあげるから元気出してくれ、な?」

 

「!///////は、はぃ//////////」

 

女子生徒は顔を真っ赤にしてその場を走って立ち去って行った。

 

実はナハトはルミアと噂されているがそれでもかなりモテるのである。特に後輩の女子生徒から人気が高く、お兄ちゃんのように優しくしてくれると後輩たちのなかではもっぱらの噂となっている

 

だがそんなナハトに踊りたいと言わせる女性がいるのだ。それは勿論..............

 

 

 

「ねぇ、ナハト君?少し軽薄すぎるんじゃないかな?」

 

「る、ルミアさん?何か怒ってます?」

 

ルミアにナハト気圧されていると...................

 

「そ、そうよ!軽薄だわナハト!///」

 

システィーナも顔を少し赤くして機嫌悪そうにナハトを指摘する

 

「システィーナまで怒ってるのか?まぁ、確かに軽薄だったかもな.............もしかしてあの子嫌気がさして走って行っちゃたのかな?」

 

((絶対違うと思う..........))

 

2人して目の前の鈍感なナハトに呆れていた。二人ともナハトがモテることは〝よく〟知っているため呆れていると先程のナハトの断り文句が気にかかった

 

「そう言えばナハト君ダンス・コンペに一緒に出たい人がいるの?」

 

ルミアがそれをナハトに聞くと帰ってきた答えは............

 

「あぁ、俺はルミアと出たいと思ってる」

 

「え?」

 

ルミアは最初断るための方便だと思っていたため予想外なことに驚いていた

 

「ルミアがもし踊る人がいないなら.............いや、いたとしても俺を選んでもらう。俺がルミアに『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着せてあげる」

 

「な、ナハト君.......?」

 

ルミアは普段とは違った強引なナハトに戸惑い、後ろに下がる。それに続いてナハトも迫ってくるためとうとうルミアは壁際まで追い詰められる。

 

 

「ち、ちょっとナハト?そんな無理やり誘うのは...............」

 

システィーナも普段と違うナハトに戸惑いながらルミアを助けようと思うがナハトの雰囲気にそれ以上口をはさめなかった

 

(ナハト.........なんだか少し怒ってる?)

 

システィーナがナハトに違和感を感じているとルミアは横にずれて逃げようとする。だがそれをナハトは両腕を壁につけルミアの退路を塞いでいた。

 

「逃がさないよ?」

 

そう言ってナハトは顔を近づけあと少しで触れてしまうのではと言ううところまで行くと近づけるのをやめる

 

「俺以外の男にルミアは渡さない。俺がルミアをエスコートする。必ずルミアに『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』着せると約束する。.............俺を〝信じて〟欲しい」

 

ルミアも当然ナハトと踊りたいという気持ちがなかったわけじゃない。だが、入院中ナハトはだれとも踊る気が無い様だったうえ、親友であるシスティーナもナハトに少なからず気があることを感じていた。だからこそルミアはナハトと踊りたいという思いを封印していた。

 

だが、『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』にはある有名な話がある。その逸話もあるうえにナハトからの熱烈な言葉にルミアはもう冷静ではいられず...........

 

こくん、っとルミアは気づけば首を縦に振っていた

 

遂に学園最強のガードを誇ることで有名なルミア=ティンジェルが攻略されたのだった

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!壁ドンかよぉおおおおおおお!!」

 

「ルミアちゃんはそういう手に弱かったのかぁぁぁぁ!!」

 

ルミア自身が頷いたことに驚く暇もなく準備中の会場にいた男子生徒はみな地涙を流して絶叫していた

 

「ありがとうルミア。さっきルミアに確認せずに申請だしちゃって焦ってたんだよね。受け入れてくれて助かったよ」

 

ルミアの頭をやさしく撫でるナハトにルミアはもう何がなんやらと言った状態で、ナハトに頭を撫でられることを喜ぶべきかグレンのような発言をするところに突っ込めばいいのかわからなかった

 

「ちょっとナハト!?なんでそんなに無理やりルミアと?もしかして......〝あの〟ジンクスを信じて..........」

 

「ん?確かジンクスって『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着て踊ったペアは幸せに結ばれるってやつか?それなら信じてるといううか単に確率が高いものとして思っているけど?」

 

「じゃ、じゃあどうして...........?」

 

「そりゃ単純にルミアと踊りたいのとさっきも言ったけど俺以外の男にルミアを渡したくないからかな?」

 

「そ、それって........(もしかしてナハトはルミアの事......)」

 

システィーナはナハトもルミアも互いのことを特別想っていることは分かっている。だけどそれを最近素直に認められなくなっている気がしていた。

 

「な、ナハト君みんながいる前でそんなこと............//////」

 

ルミアはまるでナハトが独占欲を出してくれているみたいで恥ずかしい反面嬉しいような気持だった

 

「ん?......まぁ、何にせよルミアが頷いてくれて本当によかった。ありがとうなルミア」

 

「う、うん(アレ?今一瞬だけナハト君の様子が........)」

 

ナハトはルミアが受け入れてくれたことに安堵しながら先程の............半刻前の出来事に思い馳せていた

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------

 

 

「おい、ナハト。一体どこ行くってんだよ.............」

 

最近ついに学院から給料をもらうのではなく払うことになってしまっているグレンが退院したことの報告に来たナハトに連れられて院内を歩いていた。するとナハトは裏庭で突然歩くのをやめると..........

 

「来たかナハト、グレン」

 

そこに立っていたのは鷹の目の男アルベルトだった

 

「お待たせしましたアルベルトさん」

 

「なんでてめぇがいんだよ.............」

 

グレンは忌々し気にそうアルベルトに向けて発言すると..........

 

「先生........最初にすいませんでした」

 

「は!?一体何で――」

 

グレンは自分に向けて突然頭を下げてくるナハトに驚きながらその真意を確かめようとしていると.......

 

「ご苦労様ナハト。私の駒を呼んできてくれて」

 

そう高慢に言う一人の紅い髪の美しい女性がこちらに歩いてきた

 

「ッ!てめぇはッ!?」

 

「久しぶりねグレン。会えて嬉しいわ」

 

「はっ!俺は嬉しくなんかねぇ.........《魔術師》のイヴ!」

 

その場に現れたのは美しい美貌を持ちながらも帝国でも屈指の魔術の腕を持つ特務分室室長である執行官No ,1《魔術師》のイヴ=イグナイト。ナハトの腹違いの姉であり、イグナイト家が代々受け継ぐの二つ名《紅焔公(ロードスカーレット)》を拝したイグナイト家の魔術師だ。

 

「あら?つれないわね。昔は随分と世話をしてあげたのに」

 

「忘れたとは言わせねぇ!ナハトの援護がなけりゃセラは死んでたんだぞ!お前が俺らを囮にしたからセラは魔術師として.............あいつがかなえようとしていた夢が叶えられなくなったんだぞ!」

 

「それがどうしたのかしら?」

 

怒り狂いそうになるグレンと対照的にイヴはどこまでも冷静かつ冷酷であった

 

「確かにアレは私の采配ミスだったのは認めるわ。そのせいでセラと言う優秀な駒が再起不能になってしまったもの。でもそれは果たして私だけの責任かしら?その場にいた貴方が守れなかったのも責任の一端があるんじゃないかしら?それなのに責任転嫁して女々しくないかしら?」

 

激しくなりそうな言い争いが始まろうとしたところで..............

 

室長(・・)........ここまでにしておきましょう。本題についてはやく話すべきです。グレンさん(・・・・・)も落ち着いてください。ここで言い争ってもセラさん(・・・・)が悲しむだけです」

 

仕事モードのナハト..........いや、《月》のフレイが二人を止める

 

「..........そうね、フレイ(・・・)。貴方の言う通りだわ」

 

そう言うと先程までのグレンの怒りなどどうでもいいように話を始める

 

「さて結論から言ってしまえば、この度、学院で開催される『社交舞踏会』で天の智慧研究会が王女の暗殺を目論んでいるわ。だからそれを私たち特務分室で秘かに迎え撃つわ」

 

「なッ!?」

 

グレンが驚くのも無理はない。そのことがわかっているのなら『社交舞踏会』を中止にしてしまえばいい。そうすれば被害はなくすことができるかもしれない。逆に言えば中止にせずにやれば一歩間違えれば大きな被害を起こす可能性を孕んでいる。

 

「馬鹿か!!そんなもん『社交舞踏会』を「中止にはしないわ」........なんだと?」

 

「今回の敵組織の仕掛けは、急進派の中核――第二団(アデプタス)地位(オーダー)》が直接動いてくるわ。これは、その敵を捕らえ、敵組織のしっぽをつかむ絶好の機会.......逃す手はないわよね?」

 

「何言ってんだ!一手でも間違えたらどれだけの被害が出ると思ってるんだ!?それなのに中止せずに作戦遂行なんて正気の沙汰じゃねぇ!!」

 

グレンの言うことは正しい。大人数が集まる中こちらが作戦をミスしたり敵が自暴自棄に暴れたりしたらどれ程の被害が出るか想像に難くない。だが...............

 

「..........それがどうしたのかしら?」

 

イヴはグレンの主張をそう冷酷に切り捨てる

 

「は?........お前ッ!?」

 

「はぁ~まだこと重大さを理解してないみたいね..................いい?長い歴史の中、常に社会の裏側で暗躍し続けてきた最悪のテロリスト集団、天の智慧研究会..........表向きは『優れた魔術師による世界支配』と言う思想を掲げているけど..............彼らがもっと大きくて、より最悪なものを狙ってるのは、諸状況により間違いないわ。そして、件の組織の目的について唯一明らかになっている言葉は..........禁忌教典(アカシックレコード)

 

「あぁ、そうだなっ!それがどうした!?」

 

「ごく最近、かの組織はその動きを変えたわ。何が切っ掛けとなったかは調査中だけれど..........その裏で秘かに推し進められていた禁忌教典(アカシックレコード)とやらに関わる計画のフェーズが次の段階に移ったのは間違いないわね。このまま連中の思惑通りに事が運べば、確実に取り返しのつかない事態になる。情報が欲しい.........最早、私たちに一刻の猶予もないの」

 

「それで学院の『社交舞踏会』を釣り堀に、ルミアを撒き餌ににするってのかッ!?連中の尻尾を掴むただそれだけのために!?........チッ、おい!ナハト!お前もなんか言えよ?お前だってこんな作戦反対だろ!?」

 

グレンはここまで聞いて怒りで冷静じゃない中一つだけ解せないこと。ナハトがこの作戦に反論しないのに気づいた。声を荒げながらグレンはナハトに問う。だが...........

 

「............やるしかないんですよグレンさん」

 

「なッ!?何言ってんだ!?お前にとってルミアは........学院の奴らは大切じゃないのか!?」

 

「...............リィエル」

 

ナハトは全く感情を窺わせない表情のままそうぼそりと呟く

 

「は?」

 

「グレンさん.........何で俺がリィエルの素性を知ってるか忘れましたか?」

 

「ッ!まさかッ!?」

 

「ふふ、ねぇグレン?随分とリィエルは人間らしくなったわね?作られた人形の癖に(・・・・・・・・・)

 

「てめぇッ!」

 

グレンは鬼の形相で睨みつける。そう、イヴは知っているのだグレンとアルベルトが偽装したリィルの素性の詳細を。だからこそそれを盾に使う

 

「理解してくれたかしら?最もこの作戦は政府も軍も認可しているの。最後まで難色を示していた女王陛下も最終的には了承...............ふふふふ、賢明なお方で助かったわ」

 

イヴの如何にも『そうなることがわかっていた』という笑みにグレンは1つの確信を抱く

 

「テメェ..........ッ!?陛下に何しやがった!!」

 

イグナイト家は帝国で知らぬ者はいないであろう程の大家。帝国古参の貴族であり数多くの優秀な魔術師を輩出した帝国魔導武門の棟梁。その当主は帝国最高決定機関である円卓にも席を置き、その発言力は非常に大きい。その家の力を使えば...............

 

昔っから、やたら小癪な権謀術数にたけたテメェの事だッ!裏で手をまわして女王陛下が盾に首を振らざる負えない状況を作ったなッ!」

 

 

イヴはその問いに応じず唯含んだ笑みを浮かべるだけ。だがそれは間違いなく肯定ととれる

 

「おい!アルベルトにナハト!お前ら本当にいいのか!?こんな作戦本当にやる気かッ!?」

 

「..........納得はしていない。だが、作戦の有益性は認めている。ならば遂行するだけだ」

 

「..........やりますよ」

 

2人は少し間があくも作戦の遂行することを決めていた

 

「そうかよ..........見損なったよクソが。特にナハト..........テメェだけは納得しねぇと思ってたのにな!」

 

「................」

 

ナハトはその言葉をただ感情を失った機械のように聞いていた。流石のグレンもいい加減にナハトの様子がおかしいことに気づく

 

(........まて.........アイツがルミアを利用することにブチギレてないは変じゃねぇか?)

 

今までのことを思い返してもナハトがルミアを撒き餌にすることに賛成なんてするはずがないのに今回黙り切っているのは明らかにおかしい。普段ならそこで冷静になれたグレンだが目の前には軍時代から目の敵にしていたイヴがいるため冷静さを欠いていた

 

「もういい............テメェら軍の思惑なんて知らねぇ。今から俺が学院に掛け合って――」

 

「あら?これは国家機密(トップシークレット)よ?外部に漏らすなら私は貴方を始末しなくてはいけないわ」

 

「........お前この距離で俺に勝てると思ってるのか」

 

遂にグレンが懐のアルカナを取り出し一触即発の状態になる。だが.........

 

「はぁ~私の二つ名忘れたかしら..........」

 

イヴがそう呆れたように言った瞬間。うなりを上げて紅蓮の炎が周囲を囲む

 

(しまったッ!眷属秘術(シークレット)【第七園】!?もうここはイヴの領域か!)

 

ナハトも使うイグナイト家の秘術眷属秘術(シークレット)【第七園】。指定領域内における炎熱系魔術の起動『五工程(クイント・アクション)』をナハトの固有魔術【原初の焔(ゼロ・フレア)】を除きすべて省略することのできる図抜けた物。つまりは詠唱なしで領域内に限り炎を自在に操ることができるものである。

 

更にもう既に魔術として成立している【第七園】はグレンの【愚者の世界】では打ち消すことができない為グレンは仕掛ける以前にすでに勝負は決していた。

 

だが、この【第七園】を打ち消せるものが一人だけいる

 

「室長消していいですよね?」

 

「フレイ..............聞く前に消さないでくれるかしら?」

 

同じ血族である《月》のフレイ...........ナハトだった。ナハトは展開されてすぐにその【第七園】を自身の発動させた【第七園】に切り替えさせるとすぐに炎を消した

 

「一瞬見せれば十分ですよね?それより早く作戦を説明するべきでは?」

 

「それもそうね.........では、今回の作戦の説明をするわ。まずは王女の護衛に関して――」

 

ここから最初にまず伝えられたのはルミアの護衛について。当然相手がルミアを狙うのならば一人は確実にルミアの護衛に付きっきりの護衛が必要となる。それは当然相手に不自然さを感じさせるものであってはいけない。だからこそナハトはルミアとペアになる必要があった。ナハトと言うイヴの駒の中でアルベルトと同等かそれ以上の戦力を誇る彼を付きっきりにしておけば敵も簡単には突破できないからだ。その後は細かい説明が入りまた後日にも集まることを決めるとイヴはそのまま立ち去った。するとそのまますぐにナハトも何も言わずにその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

ナハトが何も言わないことをグレンは訝しみとめに入ろうとするが........................

 

 

「グレン」

 

「あん?なんだ..........言っとくがが今お前は俺の中で評価だだ堕ちだからな?」

 

グレンは忌々し気にそう言ってアルベルトのほうを振り返る。するとその瞬間...........

 

「ッ!グハッ!?............てめぇ何しやがる!!」

 

アルベルトはグレンの頬を殴り飛ばしたのだ。グレンは痛みを感じながら怒気のこもった目で突然殴りかかってきたアルベルトを睨みつける。だがアルベルトは鋭い双眸に呆れを感じさせながらグレンを見下していた

 

「貴様はナハトの教師じゃないのか?」

 

「は?んなもん当たり前だろ!だったらそれと何が......」

 

グレンは今の行動に何が関係あると膝まついたまま問いかけようとすると途中でアルベルトが遮りさらに言葉を重ねる

 

「まだわからんか戯け。ナハトが立っていた場所をよく見ろ」

 

「は?...........なんだこれ..........ってまさかアイツの血か!?」

 

ナハトが立っていた場所には赤いしみができていた。間違いなく何かの塗料と言うには違いすぎるそれにグレンはどういうことだと頭を悩ます。

 

「ナハトはこの作戦を一番遂行したくないはずだ。それにもかかわらず遂行しようとするのはなぜか考えろ」

 

「そんなもんわかるわけ..............」

 

「ふん!それでよくナハトの教師と言えたな。いいか?奴にとって自身より絶対的に大切と言える人物は俺の知る限り二人だ。それは王女とイヴだ。そしてイヴもナハトのことを大層大事にしている」

 

未だグレンは分からないようで口を開かずにアルベルトの言葉の続きを待つ

 

「そのイヴがわざわざ弟に嫌われることをするのか?そしてそれを聡明であるナハトが気づかないと思うか?」

 

「何を..............まさかッ!」

 

ようやくグレンは気が付く。ナハトの話を聞く限りイヴは相当なブラコンだ。そんな奴が何故わざわざナハトに嫌われかねないことをするのか。それは恐らくこの作戦を遂行させようとするイグナイト家から強制されているのだと考えられる。そしてナハトもそれに気づかないほど鈍くはない。

 

「奴らの生家は相当面倒な家だ。今回の作戦に何かあればイヴは相当苦しい思いをするだろうな。そしてそれをナハトは容認できるわけがない。だが、王女を撒き餌にすることも同じだ」

 

ナハトにとってルミアはかけがえのない存在だ。ナハトがルミアを見捨てるなどと言うところをグレンは想像すらできない。逆にどれほど傷つこうと必死で彼女を救う姿しか思い浮かばないのだ

 

「だからこそナハトは今回の作戦しかないのだ。イヴと王女の両方を傷つけない為に秘密裏に遂行するこれしか選びようがないのだ」

 

「.......................」

 

グレンは己の失言に悔いるしかなかった。この作戦を遂行する者の中で苦しむのは自身の唯一の家族と大切な人を天秤にかけなくてはいけないナハトだ。ナハトにとってどちらも捨てる選択肢がない以上作戦を誰にもバレずに一つの失敗もなく遂行するしかないのだ

 

「ようやく理解したか...........俺はこの作戦に従う外道だ。そしてそれを命令する上も外道だ。俺達を罵るのは構わない。そもそもナハトも覚悟の上だろう.............だがな、事情が推察できるだけの状況でナハトを罵るのならお前は唯の餓鬼だ」

 

(そうだ..........少し考えればナハトがおかしいことにも気づけたはずだなのに俺は..........)

 

「...........俺は行く。後はナハトと話すといい」

 

そう素っ気なく言うとアルベルトは踵を返して立ち去って行った

 

 

 

 

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ナハトは一人先程の作戦を聞かされすぐにルミアとダンス・コンペに出るための申請を通したあと一人で立っていた

 

 

(わかってる.............俺は最低だ。大切だと思ってる人を..........人たちを危険にさらすんだ。でも.........)

 

ナハトはこの作戦をすることを決めた自分自身を嫌悪する。ルミアもイヴも両方捨てきれない半端者の自分のせいで多くの人の命を掛けなくてはいけなくなっているのだ。

 

だがそれ以上に...........自分に向ける嫌悪以上にこの作戦を立案し実行させようとする政府上層部........ひいては姉にこんな作戦を強いる自身の生家であるイグナイト家に怒りを抱かずにはいられなかった

 

(上等だ..........《月》の恐ろしさを教え込んでやるッ!)

 

 

 

 

こうして帝国の先鋭が集まる特務分室と最悪のテロリスト集団天の智慧研究会が相対する波乱の舞踏会が始まろうとしていた

 

 

 

 





いよいよ今回から第七巻の内容を始めたいと思います!この第七巻と言えば初めてアルベルト以外の特務分室メンバーの明確な戦闘やキャラの特徴が描かれていて魅力的なキャラが一気に増えた印象があります。特にここからのイヴの人気ぶりと言えばすごいですよね。自分は勿論イヴも好きですが普段は好々爺としながらも戦いでは物凄く頼りになるバーナードや意外な一面を見せたクリストフも好きでロクアカのキャラは本当に魅力的でいいですよね!そんな魅力的なキャラとナハトが上手くからめる話にできるよう頑張るので楽しんでもらえると嬉しいです。

今回もここまで読んでくださりありがとうございました!またお気に入り登録、評価、コメントをくださり本当にありがとうございます!




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直前の決意

 

学園の聖天使ルミアがナハトとペアになった後日。二人はコンペに備えて練習するために中庭に訪れていた。

 

 

「ねぇ、ナハト。大丈夫だとは思うけど今回のダンスはシルフ・ワルツよ?凄く自信一杯なみたいだけど...........」

 

どこか歯切れの悪さを感じるシスティーナがナハトに詰め寄る。システィーナが言うシルフ・ワルツはとある遊牧民族の伝統的な戦舞踏を元にされたものでそれを宮廷用に優雅さが出るよう改変を加えたものなのだが一般的にこれはかなり難易度高いダンスなのだ。

 

「あ~それならぶっちゃけなんも問題ないよ?昔しこたま教え込まれたから............」

 

「え、えっと.........そうなの?」

 

突然ナハトが遠い目をするのでシスティーナは呆気に取られていた

 

「あぁ、セラねぇにそれはもう振り回されたよ...............」

 

「セラ先生に?」

 

ルミアは小鳥のように首をかしげる

 

「そ、元々シルフ・ワルツってのはセラねぇのところの部族の古来より伝えてきた戦舞踏でな。それで偶々舞踏会に潜入する任務があってその時にグレン先生と当時これでもかと言うほどに教え込まれたから学生レベルならまず負けない自信はあるぞ」

 

あの時の練習は本当に苦しかった。グレン先生と変わりばんこでひたすらに振り回され気持ち悪くなるまで酔うことの繰り返す生き地獄を味わったあの練習は過去一キツイ修練と言えるだろう。そもそもセラねぇの三半規管が異常だと俺は思う。

 

「そっかセラ先生は南原出身の方だったんだ」

 

「あぁ、だから原点から仕込まれた俺や先生からすればシルフ・ワルツなら大して問題ない。だから必要なのは俺とルミアの呼吸を合わせることだけだな」

 

「そうなんだ..........私ナハト君の足引っ張らないように頑張るね?」

 

「まぁ、正直俺とルミアならそれほど息が合わないってことはないと思うから気楽にやろう。どうせなら楽しくやろうぜ?」

 

昨日はルミアも戸惑いがあったがなんだかんだで笑みを浮かべてナハトと頑張ろうとしている姿を見ているシスティーナは少し複雑な気分だった。

 

そもそもシスティーナは本当にナハトのダンスの技量を心配していたわけではなかった。ナハトの戦闘をそばで見てきたシスティーナからすれば彼の踊るように剣を振るう姿を見ればダンスができないわけがないのは分かっていた。

 

ではなぜついてきたのか?それはシスティーナもわからなかった。ただ何故かルミアとナハトの様子を見てると胸がざわつく気がしてならなく気がつけばついてきていたのだった

 

(むぅ~何よ私だってダンスはそれなりに.............って私はなんで張り合おうとして.......)

 

内心で葛藤するシスティーナによく知る一人の小柄な少女の姿を思い浮かべる。

 

(........アレ?彼女ならもしかして.............そうよ!その手があったわ!)

 

システィーナは何やら思いつくと二人に声を掛けてある人物を探しに駆け出して行った。

 

 

まさか、この時点で彼女たちが最大の障壁になるとはナハトは思いもしてなかった

 

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 

 

その深夜、グレンとナハトは夜の街を歩いていた。理由は単純で作戦についての概要を伝えるためにイヴが二人を呼び出し、その集合地に向かうためであるからだ。

 

「なぁ、ナハト」

 

「?どうしたんですか先生?そんな申し訳なそうにして」

 

グレンが声に申し訳なさを含ませて話を切り出し始める

 

「あの時.......イヴが俺に作戦を言いに来た時お前に酷いこと言ってすまんかった。俺もなんだ............お前と似たような境遇とまで言わんがセリカと..........まぁ、白犬に置き換えてみればお前と同じことを選んでたと思う」

 

グレンにとって唯一と言える家族であるセリカ、かけがえのないセラと言う存在はそれぞれナハトではイヴとルミアに置き換えられる。それを思えば自分はなんてひどいことを自分よりも年下の子供相手に言ったのだろうとアルベルトに気づかされてから後悔していた。

 

「あははは、先生そんなこと気にしてたんですか?」

 

「笑うな!てかそんなことなんて.........」

 

「いいんです。先生が言ったのは間違いじゃない。俺は二人のためだけに多くの命を賭けるんです。それを外道と言わずなんて言いますか?」

 

「だが........ッ!」

 

「それにですよ先生............俺は微塵も失敗するつもりはないです。完璧に..........いえ、それ以上の結果で教え込んでやりますよ」

 

「お前..........」

 

そう言うナハトからは一切の圧力は感じ取れなかった。だがそれはまるで深く深海の如く研ぎ澄まされた怒りのようでグレンは背筋が凍るような感覚を抱く

 

「...............さっ、早くいきましょう。姉さんを待たせたら怒られますよ?」

 

ナハトが一瞬で普段の状態になったのをグレンが感じ取る。その一瞬の切り替えに年下の子供に恐怖すら感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

グレンたちがしばらく歩いていくと倉庫街についた。二人は指定された倉庫内を進むと複数の気配を感じ取る。そこにいた者たちとは..............

 

「よう!グレ坊、ナー坊!」

 

そんな陽気な声で迎え入れたのは好々爺とした大柄の男だった。大柄の筋骨隆々の男は老人でありながらその顔からは若々しい精気を感じさせる。

 

「ひっさしぶりじゃのう!ナー坊はこの間ぶりじゃが...........グレ坊は元気にしとったかの?ん?」

 

「この前ぶりですねバーナードさん」

 

「..........じじぃ......《隠者》のバーナードアンタは相変わらずそうだな......」

 

グレンは気まずそうに対応するそのものは特務分室執行官No,9《隠者》のバーナード=ジェスター。特務分室古参の魔導士であり三流のグレンを鍛え上げたものでありナハトの祖父のような存在だ。

 

「この前ぶりだねナハト。それと、ご健勝のようで何よりですグレン先輩」

 

木箱に座り薄く笑いかける少年は大人びているがその実ナハトとほぼ同世代である。そしてその少年は執行官No,5《法皇》のクリストフ=フラウル。結界系魔術では帝国内で並ぶ者はいないとされるほどでナハトともよく組むことは多く二人でかなり大暴れして裏の世界では名を轟かせたりしていた

 

「クリストフ...........お前も来てたのか」

 

「この間ぶりクリストフ。そっちは元気にしてたか?」

 

「うん、それなりにやってるよ。入院してたって聞いたけど体のほうは大丈夫?」

 

「もう大丈夫だぜ。作戦には支障はないさ」

 

2人とも同世代なだけあってかなり仲が良くこうしてフランクに語り合えるほどの間柄だった。

 

「........グレン遅い」

 

「フン........」

 

床に座るはじゃじゃ馬な《戦車》のリィエル。そして不機嫌そうに鼻を鳴らすは特務分室のエースが一人《星》のアルベルト。誰をとってもグレンとは浅からぬ縁のある者たちばかりでグレンは先程と同様に気まずくてならなかった。

 

 

「............先輩、今回の一件本当にすいません。ナハトも不快な思いをさせてすまない」

 

「あぁ、すまん、グレ坊、ナー坊。あんな無茶な作戦が上から降りてくるとはなんて.........わしらも信じられんくらいじゃ。ホント、軍上層部は何を考えているのやら.........」

 

2人は話し終えると申し訳なさそうに二人に謝る

 

「謝ることないですよ。俺も軍の人間なんですよ?なら作戦は遂行はしなくてはいけない。不快だろうとやり遂げるしかないんです」

 

「ナハト...........でも流石に先輩は別ですよ。もう軍を退役しているのに特例条項で引っ張り出すなんて.......」

 

「じゃが、今は人手不足すぎてのぅ.............グレ坊すまんが儂らに今回ばかりは手を貸してくれんかの?」

 

「先生俺からも............軍の問題にまた巻き込んでしまってすいません。でもこうなった以上は先生の力もきっと必要になると思います。都合がいいですがどうかお願いします」

 

ナハトも今度はバーナードたちのほうに回りグレンに頭を下げる

 

「........あんたらは.....勝手に軍を抜けた俺を、怒ってないのか?」

 

グレンは驚いた表情を浮かべるとそれだけ尋ねる

 

「.........まぁ、そのことに関してはしっかりアル坊が儂らの分までしっかり落とし前付けてくれたようだしのう?」

 

バーナードはにやりと笑いながら自分の顎を拳でトントンと叩いていた

 

「強いて言わせてもらうなら.......確かに辛いことがあって、まだ若いお前さんには仕方ないこともあったじゃろうが............一人で抱えてつぶれる前に、一言愚痴ってほしかったわい。それは皆が思ってるさ」

 

「他の特務分室のメンバーはいまだに先輩のことを悪く言う人がいます。正直に言えば、僕も先輩に対して物申したいことが、ないわけではありません。ですが先輩は.........僕らと一緒に数々の修羅場を潜り続けた仲間ですから。誰かを守るため、誰よりも身を粉にしていた........あの先輩を信じています」

 

「俺も二人とほとんど同じです。先生はずっと俺が尊敬してきたままですよ。軍にいたときも今もそれは同じです。俺はこの中でも若くまだ拙いから先生やみんなの背中を誰よりも見てきました。そんな俺が言うんですからこの場でそのことを責める人はいませんよ」

 

 

「お前ら............そう、か..........その........なんだ.......本当にすまなかった」

 

 

グレンは何も言わず去った最低なことをしたことに改めて罪悪感を感じた。あんなことがあっても自分のことを仲間だと尊敬していると言ってくれる三人の言葉をかみしめてると...........

 

 

「旧友を温めるのはそのくらいにして本題に入りましょうか」

 

奥のほうに座って一部始終を見ていたイヴがそう声を掛ける

 

「まず今回の任務概要の確認から。端的に言えば、今回の任務内容は、明後日に行われるアルザーノ帝国魔術学院の社交舞踏会に乗じて、王女の暗殺を狙う敵組織の企てを阻止し、逆に連中の首謀者を生け捕りにする――以上よ」

 

ナハトは無茶な作戦だと思う。そして同時にいくら何でもらしくないとも思う。確かにこれはあの家がゴリ押そうとした作戦かもしれないが何かが欠けている気がした。

 

「待て、相手がなりふり構わず自爆テロなり特攻なりしたらどうする?流石に守り切れんだろ」

 

グレンが食い下がる。だがその可能性はないと言える。

 

「先生、たぶん今回に限ってそういうことはしてこないと思います。今回の敵組織は一部の急進派が出張ってくるからです」

 

「えぇ、ナハトの言う通りよ。今回は一部の急進派の先走り.........下手人が明らかになってしまう手段は選べば急進派全体が組織の方針を無視したことになり粛清されるでしょうから今回は暗殺にこだわってくると確信できるわ」

 

だからこそのこの作戦。遠慮なく学院を釣り堀にして無関係な人々を手を出せないことをいい事に作戦ができるということだが敵だってそれは承知のはず。一体、敵はどんな手段を用いるのだろうか............

 

「敵戦力数と情報は?」

 

「私が入手した情報では、4人よ。第二団(アデプタス)地位(オーダー)》が一人と第一団(ポータルス)(オーダー)》が三人よ。私達七名で十二分に対処可能よ」

 

数的優位は明らかに上。更にこちらが今回投入する戦力は帝国トップクラスと言っても過言ではない。

 

「続けるけど今回最も警戒しなくてはいけないのは当然第二団(アデプタス)地位(オーダー)》の首謀者。二つ名と名前は《魔の右手》のザイードよ

 

「マジかいな...........あの《魔の右手》相手とは........やれやれ、厄介じゃのう」

 

「確かに今回のケースで暗殺となれば出張るだろうと思ってましたけど厄介ですね.........」

 

バーナードやナハトそれぞれがその相手に同じように厄介だという印象を抱く。そしてナハトが今回のケースで出張ってくると予想していた理由はその特徴的な暗殺スタイルにある。

 

「そう、《魔の右手》が得意とするのは多人数が集まる場での暗殺よ。誰にも気づかれず何度も繰り返してきたうえ殺害方法もバラバラ。そして一番厄介なのはどうして誰も気づかずに暗殺できているかわからないことだわ」

 

イヴが如何に相手が厄介な存在化を確かめるように説明する。こちらの戦力は過剰ともいえるかもしれない。だが、得体のしれない相手に不安が残る。

 

だが、ナハトやイヴには暗殺に対して絶対的なカードがあるからかイヴは自信ありげに続ける

 

眷属秘術(シークレット)【イーラの炎】。一定領域内の人間の負の感情――特に、殺意・悪意を炎の揺らめきとして可視化し、察知・特定する索敵魔術。誰かを害するときに殺意や悪意を抱かずにそれを実行に移せる人間はこの世にいないわ。それはどれだけ暗殺に長けた者もそう。だからこの魔術ともう一つ眷属秘術(シークレット)【第七園】を多重起動(マルチ・タスク)して、あらかじめ会場内に仕掛けるわ。そうすれば仕掛け人が王女を害そうとした瞬間すぐに私の炎が確実に生け捕りにすることが可能よ」

 

本当に可能なのかと疑問を感じる作戦だが、それができることをグレンやアルベルト達、そして何よりナハトが可能であることを知っている。

 

イヴがこの魔術で幾度も暗殺を防いできた事実とナハトも同じことができるからこそ勝算のある作戦だと理解する。だがナハトには先程からどこかかけているこの情報に不安が募る

 

(まるで姉さんの独り相撲みたいな作戦...........どう考えてもイグナイト家の功績優先の作戦指示に思える。それになぜ俺にも万が一の備えとして【イーラの炎】を伏せさせないんだ?)

 

【イーラの炎】の展開して感知することに意識を割く必要があるのは事実でもナハトにだってイヴにも負けないくらいの技量はあるためダンスしながらでも索敵に限れば十分に可能だ。ナハトは当日万全を期すためのある魔術の準備をしているが、その指示が出ることを予想していたためおかしいと感じていた

 

そんな風にナハトはイヴが様々な場合の対策と命令を告げていくのを聞きながら考え続けるのであった

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------

 

 

 

ナハトはルミアとダンスの練習とある魔術の準備をしているとあっという間に当日が来た

 

(何とか魔術は間に合ったけどまだ魔力効率がな......コレ維持すんのしんどいな..........)

 

ナハトは更衣室からスーツを着込み出てくると内心魔力がごっそり持っていかれえている魔術の行使にしんどさを感じて出てくると丁度グレンがナハトと同様にスーツを着て立っていた

 

「どうです先生、怪しい人いました?」

 

「ん?ナハトか..........いや、こうも人がいると分かんねぇ」

 

「まぁ、そうですよね.....................」

 

そう返してナハトもグレンの隣に並ぶとグレンはナハトの方を急にまじまじと見始める

 

「なんですか先生?まさかと話思いますがそっちの気が?」

 

「あるか!!そうじゃなくてお前意外と似合ってんだなそれ」

 

「そうですか?まぁ、それはどうもです。てっきり先生にそっちの気があるのか心配したじゃないですか~」

 

「やめてよ!?俺の変な噂がまた広がるじゃん!?」

 

2人は普段のコントじみたやり取りをするとどちらも合図なく真面目なく表情に変わる

 

「.......アルベルトさんたちの準備は大丈夫みたいですよ」

 

「そうか.........アイツがいることの安心感はあるが本当に大丈夫なのか?」

 

「一応俺も個人で仕込みはしてますが何とも.........ただ考えて分かったのはのは姉さんが........いや、イグナイト家が功績を欲しっていることくらいですかね」

 

「お前らの家か........いったいどうしてそこまで功績にこだわる?十分に大家じゃないか.........」

 

(イグナイト家は帝国内で最近力を伸ばし続けてる。まるでクーデターでも目論んでるみたいだ..........)

 

「家のことはあまりいうわさを聞きませんね..........でも姉さんは本来こんなことしなくてよかった」

 

ナハトはその目に悔しさと怒りを感じさせるように会場の天井を見上げる

 

「俺はイグナイト家の次期当主候補として驚異的な魔力特性(パーソナリティ)もあり期待されていました。だけど、いかんせん若いからリディア姉さんが自分の代わりに家の仕事について学んでる中イヴ姉さんに教えてくれた眷属秘術(シークレット)を偶々幼くして成功させたとき天才的と言われると同時に俺の異能が発覚しました」

 

「万象の支配・創造.........黒い炎か..........」

 

異質な異能と神の如く魔力特性(パーソナリティ)に天才的なセンス。それらを持って生まれたが故の複雑な事情。それらを子に対する愛情以前に天秤にかける醜い大人達に囲まれたナハトの境遇は想像することすら嫌悪してしまう。

 

「はい..........それから家は相当揉めたみたいです。俺と言う存在を秘匿し家の利益を求めるか、はたまたなかったものとして消し去るか。そしてそんな大人たちのやり取りを...........揉めあいをイヴ姉さんとリディア姉さんは偶々知ってしまった。自分が魔術を教えたことが切っ掛けだったとイヴ姉さんは後悔していました。それからは俺は処分されることが決定し、その前にイヴ姉さんにリディア姉さんとバーナードさんの助けもあって死んだことにして失踪しました」

 

「................」

 

「そしてリディア姉さんが家を継ぐことが確定したのですがまたも悲劇が起こりました。ある事件でリディア姉さんは魔術能力を完全に失いそのまま行方知れずになりました。そしてその時になって俺が生きていればと言う話も上がったそうですが最後にはイヴ姉さんが家を継ぐために厳しく育てられました」

 

グレンはその複雑な事情をただ黙って聞いた。少し知っていることもあったがそれでもここまで詳しく知ることは今回が初めてだった。

 

「姉さんにこんなこと言ってるのバレたら怒られますが..........二人の姉がこんなにも苦しむことになったのは俺の責任です。..............俺が無力なガキだったから姉さんだけじゃなく先生やセラねぇまでも苦しめた」

 

「お前........だが、俺もセラもそんなこと.........」

 

グレンはナハトにそんなことないと言おうとした。だがそれをナハトはさえぎった。

 

「事実なんですよ。..............けど先生、いくら俺がどれだけの迷惑をかけてきて、方々から恨まれるべき存在でも...........もう俺はイグナイト家を生家とも思えないし.............許せない」

 

そこまで言い切るとナハトはグレンの前に出る

 

「長くなりましたが言いたいことは1つです。...........姉さんの事見捨てないで上げてください。先生からすればいけ好かないかもしれないですが本当はすごく優しいんです。自慢の姉なんです」

 

そこまで言いきるナハトはグレンに笑いかける。その笑みには様々な意味が込められてる気がした。

 

「..........まぁ、普段世話になってるシスコンなお前の頼みだ。少しは聞いてやるよ」

 

 

お互い笑みを浮かべ交わすとそのまま二人は歩き始めた

 

 

「あと先生一ついいですか?」

 

「あん?なんだよ?」

 

「俺はルミアを守る事。そして姉さんを苦しめないことが最優先です。でもね先生.........俺はだからと言ってそれ以外を捨てる気は毛頭ないです。絶対に誰の犠牲もなく切り抜けますよ。なので頼りにしています先生」

 

「はん!当然だ!気張れよナハト」

 

 

 

 

 

2人は決意を新たにこの無茶な作戦に臨むのであった

 

 

 

 





今回は作戦入る直前までです。次回はできればアルベルト達が戦闘に入るところくらいまでは書きたいと思います。ナハトの仕込んだ作戦も次回判明させる予定です。ぶっちゃけそこまで派手なものではなくシンプルだけれども脅威になるというのをテーマにしています。次回以降も楽しみにしてもらえると嬉しいです。

そして今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、お気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます!




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月の道

 

 

ナハトとグレンが語り合うと二人は少し移動してクラスメイトが多くいる場に来ていた。ナハトは任務で社交界に出ることもあったため煌びやかなこの空間も慣れていた。だが、いつもは偽りの仮面を深くかぶり堅苦しさを感じていたがこうしてクラスメイトの顔を見るとどこか安心する気がしていた。

 

 

だが同時に申し訳なさと絶対に成功させなくてはいけない使命感を抱く

 

 

そんな感情を胸中に抱きながらペアのルミアはまだかと待っていた。今の彼女の近くにはリィエルもいるはずなので心配はないがそれでも傍にいたかった。

 

 

「お待たせ、ナハト君!」

 

後ろから普段から聞きなれた彼女がの声がするほうに振り向くと言葉を失った

 

「........................!」

 

これまでのナハトが知る限り最も美しく、今までの社交界で見たこともない程の美女がそこに現れたからである。

 

淡い桃色のドレスに身を纏い、普段とは違い丁寧意に結い上げられる髪に薄く施された化粧、控えめに飾り付けられたアクセサリーを身に着けたその姿はルミアと言う少女の威力を最大限引き出すものだった。

 

そして、普段のかわいらしさとは逆に今はとても気品あふれる大人の女性の雰囲気を醸し出すルミアにナハトの視線は完全に釘付けだった。

 

「ふふふ、どうしたのナハト君?そんな風に固まちゃって」

 

口に手を当てくすくすと笑う彼女にナハトはもう魅了されっぱなしだった

 

「い、いや........その.....ルミアが綺麗すぎて///////なんか..........その......うん.....見惚れてた////」

 

あのナハトが言葉を詰まらせまくりながら赤面した手で隠すようにして感想を言う。ルミアも少しそのナハトの姿に照れる気持ちもあるが今まで以上の反応にそれ以上に嬉しくて仕方がなかった。

 

「そっか.......ふふ、凄く嬉しいな!ありがとう、ナハト君!」

 

ナハトはさらにそういうルミアの満面な笑みを見て普段なら抑えられる顔の紅潮は抑えきれず、耳まで赤くしていた。

 

「//////////////」

 

黙って皿に顔を赤くするナハトにさらに満足そうにするルミア。ルミアはそのままナハトの腕を取り上目づかいで............

 

「今日はエスコートよろしくね?」

 

可愛らしくそういう姿にナハトは遂にキャパオーバー気味になりそうになるも何とか冷静さを取り戻す

 

「......おう。任せとけ!ルミアに必ず妖精の羽衣(ローベ・デ・ラフェ)を着せてあげる」

 

(まぁ、俺がルミアの妖精の羽衣(ローベ・デ・ラフェ)見たいからと言うのもあるけどな)

 

「うん!頑張ろうねナハト君!」

 

そうルミアが伝えると近くの人だかりのほうにシスティーナがいることを伝えられた。二人はそちらに行くことを決め歩いていくと人ごみの中から見えたのはドレスを纏い美しい姿のシスティーナと男装がよく似合う人形のような〝少女〟がいた。

 

 

「.........なぁ、アレってリィエルだよね?」

 

「ふふ、そうだよ。ナハト君も驚いた?」

 

ナハトは視線の先で男装するリィエルを見て頭が痛くなる。姉さんが何も言ってこない当たり許可はもらっているのだろうが仮にも護衛任務を与えられているのだからそんなことしてないで警戒していてほしい。

 

(まぁ、戦力的に言えば過剰ではあるが...........)

 

ナハトは不安を感じつつもシスティーナのほうへ向かった

 

「やぁ、システィーナ。そのドレス姿よく似合ってて綺麗だよ」

 

ナハトは当然の如く容姿を褒めることを忘れずにシスティーナに声を掛ける

 

「そ、そうかしら//////////ま、まぁ、ありがとうナハト...........」

 

システィーナは褒められたことを恥ずかしそうにしているとすぐに切り替えナハトに指をさし宣言する

 

「それより勝負よナハト!」

 

「へ?」

 

「私の親友を選んだんだから、私は貴方に負けないわ!絶対に勝って妖精の羽衣(ローベ・デ・ラフェ)を着るんだから!」

 

そう宣戦布告するシスティーナにどう返そうかと考えていると.........

 

「........私達だって負けないよシスティ!ナハト君が私に絶対妖精の羽衣(ローベ・デ・ラフェ)を着せてくれるんだから!」

 

ルミアは笑顔で見せつけるように腕を組んでいたナハトにさらに密着する。ナハトはその距離感の近さと柔らかさに意識されてシスティーナに何と言おうか考えてたのかわからなくなってしまった

 

「む、むむむむむむぅ~~~~~」

 

頬を膨らませ不機嫌そうになるシスティーナ

 

「な、なによ!いいわ!私、絶対!負けないんだから!」

 

「ふふっ、こっちこそ!」

 

それだけルミアが伝えるとシスティーナたちはナハトが何も言う前に行ってしまった。

 

「......ねぇ、ナハト君。私今すごくドキドキしているんだ」

 

「(緊張しているのか?)俺もかな........ルミアが本当に綺麗だから」

 

ナハトは落ち着いたとはいえそれでもルミアの綺麗さにやられやはり少しおかしくなっているようで言おうとしていたことと思っていたことが反対になっていた

 

「えへへ、そう言ってもらえて凄く嬉しいな」

 

「ん?あれ.......もしかして口に出てた?」

 

「うん。今日はいつもよりナハト君が褒めてくれて嬉しいな」

 

「////////仕方ないだろ...........本当にルミアが綺麗すぎて.......俺なんかおかしいんだ////」

 

「そっか........うん........ナハト君がそう思ってくれることが何よりも嬉しいよ」

 

二人の間に甘い空気が満ちる。しばらく二人は黙ってお互いの存在を刻みつけるようにしているとルミアがつぶやくように話始める

 

「私ね......今日と言う日がすごく楽しみだったんだ。この学院の社交舞踏会で妖精の羽衣(ローベ・デ・ラフェ)を目指して、素敵な誰かと踊ることが、子供のころからの私の夢で...........でも、普通じゃない私と親しくなったら、きっといつか不幸にしちゃうから..........どうしても、あのジンクスが怖くて..........」

 

ルミアは優しい。それはだれもが認めることでナハトもそれはよく知っている。だからこそ彼女が感じる恐怖。でも....................

 

「大丈夫俺も普通じゃないからさ」

 

「え?」

 

「俺は異能も持ってるし、魔力特性(パーソナリティ)に至ってはもう常軌を逸してるしな。まぁ、今はそんなことなんてどうでもいいんだ」

 

ナハトは一度そこで区切ると隣にいるルミアに視線を合わせてつづきを話す

 

「俺はジンクスどうとか関係なしにルミアが大切だ。ルミアを幸せにしたいし、俺は不幸になんてならない。それにな........俺ってルミアがいてくれるだけで普段の何倍も強くなれるんだぜ?」

 

そうしてナハトはルミアの頭に手を乗せ撫でながら朗らかな笑みを浮かべる。ルミアは知っている。ナハトが自分のためにどこまでも..........本当にどこまでも強く戦うことを。傷だらけになっても最後まで諦めないことを。そのことが申し訳なく思うことがあったりしたけど...............どうしようもなくかっこよくて..........

 

 

(あぁ..........ダメだなぁ..........私はやっぱりナハト君のことが........)

 

自身の親友も彼のことを意識しつつあることは感じていた。だからこそ申し訳なくはあるもののそれでもこの想いを認めるしかなかった。いや、認めさせられていた。

 

 

(やるしかない.........俺ならできるはずだ........彼女も姉さんも皆も俺が守り切る)

 

 

ナハトはもう一度決意した。必ずこの煌びやかな表舞台の裏側で進む陰謀を防いでみせると..........

 

 

 

------------------------------------------------------------------------

 

 

『紳士淑女の皆様。お待たせしました。それでは今より、魔術学院社交舞踏会伝統のダンス・コンペ、その第一回戦を開始いたします。ご参加資格のお持ちの方は――』

 

 

少しの食事をとると会長であるリズのアナウンスにより遂にダンス・コンペが始まろうとしていた。

 

ダンス・コンペは予選が三回、本線が三回で、三十分ないし一時間ごとに一戦ずつ順番に行われていく。参加方法は基本的には事前に申請しなくてはいけないが当日気の合ったもの同士で出ることもできる。他校の者がこれにあたる。

 

予選はサバイバル形式で複数のカップルが同時に踊り、既定のチェック数をカップルにつける。そのチェック数が多い順にカップルが選出され次の予選へ進むことができる。

 

本選は三組のカップルが踊り審査員が様々な観点から芸術点をつけ最も高い得点を得たカップルが次へと駒を進めることのできるトーナメント形式だ。

 

こうして勝ち進み、二組のカップルでの決勝戦で勝った者のカップルの女性が妖精の羽衣(ローベ・デ・ラフェ)を着る権利を獲得することができる。そして最後のフィナーレ・ダンスを会場全員の前で踊ることとなる。

 

そして今まさに予選の一回戦をナハトやシスティーナ、ほかの生徒たちが挑んでいった。

 

その結果は...............

 

 

「とりあえずは突破だな」

 

「うん!やったね、ナハト君!」

 

ナハトとルミアのペア、システィーナとリィエルのペアはこれを難なく突破する。ナハトは思っていた以上に周りの技量が高くて驚くがこれなら本選には確実に進めるという自信はあった。

 

因みにだが他の二組の生徒も出ている者もいて、突破したものもちらほらいる。ただ、ウェンディは普段通りうっかりを発動し最後の最後でミスをして予選敗退して騒いでいた。

 

(どこ行ってもうちのクラスは賑やかだな..........)

 

そんな賑やかなクラスが好きなナハトはそんな感想を心の内に抱いていると一人の少年が近づいてきた

 

(この男...........間違いないな........)

 

「..........失礼。第一回戦、拝見させていただきました。御二方、とても素晴らしいダンスでしたね?」

 

ナハトとルミアがいるところに近づいてきた男はそう声を掛ける。ナハトは気取らせないように相手の一挙一投足に気を配る

 

「今年は全体的にレベルが高いと思っていますが、その中でもお二人は頭一つ抜きんでてると思います。いやはや.......お見事です」

 

優しそうな見た目の男はナハトやルミアと同年代の少年と思わせる。

 

(仮面かぶってるなコイツ.........それに近づき方も気配が感じにくかったから違いない)

 

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私はカイト=エイリースと申します。クライスト校から招待され参りました。よろしければお二人の名前を伺っても?」

 

学生証を見せながらそう挨拶する相手にルミアは当然警戒はしていない。だがナハトはいつでも目の前の少年を制圧できるようにしていた。

 

「あはは、ありがとうございます。私は二年次生ルミア=ティンジェルですといいます」

 

そしてナハトはルミアにも悟らせないように普段道理に挨拶する

 

「自分はナハト=リュンヌです。お褒めいただき光栄です」

 

ナハトが名前を名乗った瞬間相手の眉がわずかにピクリと動いたのをナハトは見逃さない。確信しているナハトはこの至近距離で負けることはない為、イヴにこのまま制圧するか聞こうと考えていた。

 

すると、ナハトの持っていた通信魔術用の宝石から、イヴからの通信が入る。

 

『そうよ、その少年が《魔の右手》よナハト』

 

表情には出さずにその言葉を受け止める

 

『このタイミングで何故?仕込みか何かの彼の可能性は?』

 

『おそらく私たちに対する宣戦布告でしょうね..........確かにナハトの言う可能性はあるかもしれないけど貴方の前でそんなことをする馬鹿なら私たちが出張ってないもの』

 

『.......どうする?この間合いなら誰にもばれずに制圧するのはそう難しくないけど』

 

ナハトなら相手を一瞬で意識を刈り取ることも可能だろう。何せナハトが最も得意とするレンジ内に敵はいるこの場ならナハトが負ける条件を探すほうが難しい

 

『そうね.....確かに貴方ならできるかもしれないけど今はまだ駄目よ。ここはあえて泳がせて王女の暗殺に動こうとした瞬間私の炎で仕留めるわ。私の守りならそれができる。貴方もわかるわね?』

 

『........分かった。でもいざとなれば奴を殺すことも念頭に置いてすぐにでも動くよ?』

 

『貴方なら殺さずともできると信じてるけど.........そうね、いざと言うときは私も彼を焼き尽くすわ』

 

そうしてナハトは通信を終えようとする瞬間.........

 

『........ごめんなさい、ナハト』

 

(え?)

 

ナハトが通信を切る瞬間。イヴが申し訳なさそうにナハトに謝罪の言葉を告げた。その真意こそわからない。だが.........

 

(姉さんは俺にこんな作戦を強いることが辛くないはずがない。..........許さない)

 

改めて敵と.............そしてあの男に対する怒りを自覚する。だが今はそんなことに気をかける余裕はない

 

「それでは、ルミアさん。コンペが終わった後に、どうか一度だけ、僕のダンス相手を務めていただけませんか?今宵の思い出として.......ね?」

 

目の前の《魔の右手》が丁度ルミアに誘いかけているところでナハトは注意を戻す

 

そして.........

 

「あ、はい。普通に.........「申し訳ない。それはできない」........ナハト君?」

 

ナハトがその提案に承諾する前にナハトが口をはさむ

 

「..........何故でしょうかナハトさん?」

 

「彼女は今晩自分が貸し切りました。彼女を他の男性になんてエスコートさせません。彼女に相応しい男は自分以外にいない」

 

(ふぇぇ/////ナハト君!?)

 

ルミアに対して独占欲を抱いているような発言にルミアは内心動揺する

 

「それはどうですかね?.......万が一にもあなた方が敗退すれえばその限りではないですよね?」

 

「敗退なんてしませんよ。彼女と自分なら負ける通りがない」

 

ナハトは最後まで堂々と言い切る。敗退すれば会場にいる限り、原則他者からのダンスの誘いを断ることはできないのだ。だからこそナハトは勝ち続けなくてはいけない。

 

そんな堂々とするナハトに不敵な笑みを浮かべるカイトは..........

 

「そうですか.......では、コンペ頑張ってくださいナハトさん。心から応援しています」

 

カイトは...........《魔の右手》のザイードは右手(・・)をナハトに差し出す

 

(!)

 

《魔の右手》..............何故そう呼ばれているかわからないがその右手を握る事は確かにそれなりのリスクはあるのかもしれない。だが.............

 

「えぇ、先の宣言通り負けませんよ。優勝するので申し訳ないですがルミアとのダンスは諦めてください。《魔の右手(・・・・)》」

 

発音はせずに口の動きでそれを表現して普段通りの笑みを向ける

 

「迷わず.......それもすぐに僕の『右手』を取りますか..........素晴らしい度胸だ。気に入りましたよ《()》」

 

ナハトと同じくナハトの通り名である月と口の形で表現する。

 

ナハトの普段通りの笑みを浮かべているものの二人の間には冷たく張り詰めた空気を錯覚する。そんな様子を見つめるルミアは何を想っているのだろうか..............

 

 

 

 

 

 

 

その頃、学院会館の屋根の上で帝国宮廷魔導師団の礼装に身を包んだ男性が三人立っていた。

 

そう、バーナード、アルベルト、クリストフだ

 

「ナー坊たちは大丈夫かのぉ...........良いなぁ、若くてピチピチな女の子たちと一緒にいおって良いなぁ........なぁ、儂も中にいっちゃダメ?」

 

「まじめにやれ翁.........ナハトなら大丈夫だろ。仮にも我らが室長にグレンやリィエルもいる。それに奴自身も強い」

 

「うーむ......そうは言ってもの...........」

 

バーナードがうなり声を上げながらそうぼやいていると..........

 

「「「バーナードさんらしいですね」」」

 

そう言ってどこからともなく聞こえた三人分の声にその場にいる全員が身構える。

 

だが、その三人の姿は..............

 

「ナハトだよね?............なんでここに.........いや、そもそも何で三人(・・)もいるのかな?」

 

唖然としながら質問するクリストフと同じ礼装を纏い、その上にトレードマークにもなっているローブを羽織ったナハトが三人(・・)もいた。その光景に流石のアルベルトも予想外で目を普段よりも見開いているようだった

 

「すいません驚かせてしまって。これは俺の固有魔術(オリジナル)【ホロウ・パレード】です」

 

「.............なんじゃ?その魔術は」

 

いち早く冷静さを取り戻したバーナードが最初にそう質問する

 

「簡単に行ってしまえば実像分身ですね。世界に記録された過去の自分を〝今に在る〟と幻術をかけてこの場に複製してとどまらせる魔術です」

 

「「は?」」

 

簡単にナハトは言ってのけるがこんな常識外れのことナハトにしかできない。つまりナハトはたった人で世界と言うとても大きな存在に介入しているのだ

 

「...........ナハト。その魔術....デメリットがないわけがない。デメリットはなんだ?」

 

世界に介入する魔術だ。それ相応の危険性だってあるはずだ。それにいち早く気づいたアルベルトは真剣な目でナハトを見る

 

「まず一つは尋常じゃないほど魔力が食いますね。突貫工事で製作期間ほぼ二日で作ったんでそれも相当..........もう一つは一歩間違えれば存在と記憶とともにナハトと言う人間が世界から排除される危険があるくらいですかね」

 

世界に複数のナハトがる時点で異常事態なのをナハトは常に絶え間なく幻術で認識をそらし続けることで分身を現界させ続けることができる。だが、それも少しでも匙加減を間違えれば異物が世界に介入していることを世界が認識し存在を消されかねないリスクを孕ませる。まるで、そこ深い渓谷をか細いワイヤーの上を歩くように繊細な魔術行使。

 

「戯け...............すぐに解術しろ。そんな危険な魔術使う必要はない」

 

アルベルトは怒気を感じさせる声でナハトにそう告げる。アルベルトにとっても自身弟分のように当たるナハトにそんな危険な魔術を行使させることが許せない

 

「そうだよ!ナハト考え直して!いくらなんでもその魔術は拙い!!」

 

「ナー坊焦り過ぎじゃ!よく考え直すんじゃ!!」

 

それに続きクリストフ、バーナードも制止しようと声を上げる。だが............

 

「そうですね............確かにリスクはかなり大きいです。ですけど...........いい加減もう俺も我慢の限界なんですよ。姉をいいように使い...........ルミアをいいように使い...........そろそろわからせてやらないとと思いまして」

 

ナハトにとってのこの魔術は警告の意味がこめられている。

 

この場に現れたナハトにそれぞれ仮にA , B , Cと仮称したとしよう。例えばAがまず月鏡を起動したとする。するとAのナハトだけじゃなく、本体や他のナハトにも月鏡の効力は行き届く。だが、発動したのはAのためA〝だけ〟が5分間の月鏡の再発動間隔が課せられそれ以外のナハトには課せられず効力を失った傍からすぐに月鏡を使用できる。つまるところナハトには物理的な攻撃手段しか通じなくなるわけだがこれは大きな意味を持つ。

 

そう、魔導戦力が基本の国家戦力に対し非常に有効であるのだ。魔術が効かない以上ナハト相手に..........魔術師相手に一般の兵士が挑まなくてはいけないのと同義であるわけなのだ。魔術師と兵士相手の戦いなど火を見るより明らかに勝敗が決する。

 

つまるところナハトは国を落とすことも可能だと思わせることが目的なわけだ。それも敵だけじゃなく軍上層部にも知らしめる気なのだ。『自分の裁量次第でどうなるかわかるよな?』と脅すために。

 

勿論魔力と言う絶対的な限界はある。だがそれでも脅威であることを認識させるには十分な魔術と言えるだろう

 

「...............まったく.........お前と言いグレンと言い呆れたやつだ」

 

やがてナハトの覚悟を受け止めアルベルトが呆れたようにそう言った

 

「もう...........本当に当然のように無理するよねナハトは...........」

 

「ホントじゃい...........見とるこっちは冷や冷やするわい」

 

クリストフもバーナードもナハトが止められないこと、そしてナハトの怒りがどれほどのものかを理解すればもう止めることなんてできなかった

 

「ごめんなさい皆さん。心配をかけているのは分かります。..............でも、その上で一つだけお願いしてもいいですか?」

 

ナハトは自分がどれ程危険な道を選択しているか理解しているからこそ謝罪する。そして続いてお願いがあると申し出る。勿論断られればそれまでだ。でも......それでも聞いて欲しい願いだった。

 

「.............大方、王女とイヴにこの魔術のデメリット、そして行使した本来の理由を言うな..........そう言いたいのだろ?」

 

ナハトの願いに了承する前にアルベルトは先んじてその内容を察し、ナハトに問いかける。

 

「あはは...........やっぱわかりますよね?そうですアルベルトさんの言う通りです。このことは二人には言わないでください。きっと二人が知ったら悲しむと思います。............これは俺の醜い我儘なので........」

 

するとそう伝えるとしばらく三人は沈黙する。そして................

 

「..............いいだろう」

 

遂にアルベルトはそれを了承する

 

「ありがと.........「ただし条件がある」..........条件ですか?」

 

ナハトがお礼を言いかけるところでアルベルトは口をはさみ条件があると突きつける

 

「己を最後まで貫け...........折れることは断じて許さん。それだけ守るなら黙ってやる」

 

「そうだね...........うん、そこまでするなら最後まで絶対走り続けないとダメだよナハト?」

 

「そうじゃ!男が一度決めたことを諦めるなど許さん!王女とイヴちゃんを守り切るんじゃ!」

 

三人はナハトにただ折れるなと............進み続けろと言う。間違っていても決めたことを曲げるなとナハトを鼓舞する。ナハトはそんな三人の言葉に胸に刻み込め

 

「はい!俺は絶対に折れません!何があっても前に............自分の信じた道を進みます!」

 

 

 

三人の前でナハトがまた一つ決意する

 

 

 

もうナハトには...........いや、もとよりナハトに引き返す道はない

 

 

 

 

 

 

大切な親友(システィーナ)

 

 

ただ、唯一の家族(イヴ)

 

 

大切な.......守ると誓った少女(ルミア)

 

 

 

大切な仲間達を

 

 

 

己が大切と定めたすべてを守るため進む

 

 

 

 

 

 

こうして、また一つナハトの物語が動き出すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。次回は特務分室VS天の智慧研究会です。そしてその戦闘の場には原作と違い分身ではあるもののナハトも参戦するのでそれぞれの掛け合いとナハトの強さをうまく書けるよう頑張りたいと思います!そして今回出てきた固有魔術ですが七つの大罪メリオダスの神器である魔剣ロストヴェインの実像分身がモチーフになっています。ナハトの固有魔術と実像分身の組み合あわせってメリオダスの 全反撃(フルカウンター)張りにめちゃ相性よくない?と思ったのでこうしました。やっぱり七つの大罪、特にメリオダスは大好きなのでどうしてもよってしまうんですよねw



今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、いつもお気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます!


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特務分室vs天の智慧研究会

 

「.............何故三人もいるのかしらナハト」

 

「何でって...........何となく増えてみた?」

 

ナハトがアルベルトら三人の前で決意を新たにしているとその場に会場内を担当しているイヴが訪れた。そしてそのイヴは目の前にいる弟が何故か三人もいることに頭を抱えていた。

 

(何となくってこの子は.........いつも突拍子ないことを平然と............)

 

 

自身の弟の異常さに呆れながらも今はそれどころではないと切り替える

 

「はぁ~クリストフ..........そろそろじゃなくて?」

 

イヴがクリストフにそう尋ねる。すると.................

 

「え?........あっ、はい!今来ました!結界に反応があります!」

 

「............おおっとぉう、ついにわしらの出番かいな!?」

 

「...............」

 

三人+αの間の空気は重く張り詰めたものに変わる

 

「敵影、三。座標などの敵に関する情報は――ここに」

 

クリストフが握りしめていた魔晶石を親指ではじき、他の者に渡す。

結界から得られた情報が記録されており、それらをナハトらはすぐさま表層意識野に高速展開するとすぐさま状況を把握する

 

「さて、私が差配してあげるわ。《星》は北の敵を、《隠者》は西の敵を、《法皇》は東の敵をそれぞれ対処しなさい。当然三人の《月》は各戦場に分かれなさい。貴方たちならやれるわよね?」

 

イヴの指示を受けるとそれぞれが立ち上がり戦場へ向かおうとする

 

「はぁ~せめて敵が美人の女の子じゃと良いんだが.............」

 

「バーナードさん.........どうせ倒すんですからそんなこと言わないでまじめにやりましょ?」

 

「ふん!ナー坊は今頃アリシアちゃんの娘とキャッキャしてるからいいだろうが儂は寂しんじゃ!」

 

バーナードがナハトに食い掛るが、それでも顔だけは真剣そのものだ

 

「........死ぬなよ」

 

アルベルトが一瞥もせずそう言うのが合図だったかのようにそれぞれが指示通りの場所に移動を開始した

 

 

 

 

 

 

 

アルザーノ魔術学院敷地内、東の薬草園付近。

 

クリストフとナハトの最高の盾と最高の剣が戦うフィールド

 

そこに現れたのは肉感的なドレスに身を包んだ少女が楽しげに散歩をするように学院会館のほうへ歩みを進めてきていた。彼女はかなり高揚しているのと対照に彼女の周囲の気温は異様に低い。口からは白い息が零れ、歩くときに踏まれた薬草が一瞬にして凍り付いたりとどこか不思議だった。

 

 

「あら.........可愛い坊や達の登場みたい」

 

「ここから先は僕らが通しません」

 

「そういうことなんでさっさとやられてくれません?」

 

クリストフとナハトが凛とした表情で少女を見据える

 

「おいでませ《法皇》さん♪《月》さん♪今宵は貴方がたがダンスの相手を務めてくれるのね!あぁ、素敵、最高だわ!」

 

そう言って少女が妖しく微笑むとクリストフやナハトの周囲の気温が異様なほど下がる。そして、彼女の周囲に吹雪が渦巻き、地面をぱきぱきと凍らせつつある。だが――

 

 

ゴウッ!!

 

 

黒い炎が一瞬でその場の気温を上げ吹雪すらも焼き消す

 

 

 

「氷ね..............運ないねアンタ。俺たちにアンタは絶対に勝てない。まぁ、それでも俺達を凍らせられるもんならやってみるといいさ..........その代わり、俺が悉くを焼き尽くしてやる」

 

ナハトは剣の切っ先を向けると剣から黒い炎を迸らせながらそう告げる

 

「えぇ、貴方に万に一つの勝機はない。天の智慧研究会第一団(ポータルス)(オーダー)》.........《冬の女王》グレイシア」

 

そしてクリストフも同様に堂々としたたずまいで早々に勝利宣言する

 

「ッ!.........これはこれは手厳しいですわ♪でも........私があなたたちのすべてを氷漬けにして一生目で愛でてあげるわ♪」

 

 

こうして、剣と盾の圧倒的有利な戦闘が始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

「だぁああああああああああああああああ―――ッ!」

 

 

「うるさいですよバーナードさん!もうさっさと立ち直ってくださいよ」

 

バーナードが頭を掻きむしりながら大声で吠えるのをナハトが止めようとするは学院敷地内、西の庭園。

 

「なぁんで、儂の相手はおまえみたいなやつなんじゃあぁぁぁああああああああ!!!」

 

「うるさいですってばホント!いい加減にしてくださいって!」

 

「だってぇぇぇぇ!東なら見た目だけは可愛いギャルとたたかえたのにぃぃぃぃぃぃ!なんで儂はお前みたいなガチ無知相手しなくちゃならんのじゃあああああああ!!」

 

ナハトがいい加減呆れてきたがこれでも世話になった恩人であり戦いを教えてくれた人でもあるわけで内心微妙な気持ちを抱きながらもとりあえず自分だけは相手を見据える

 

(姉さんがバーナードさんをこっちに寄越したってことはクリストフじゃ相性が悪いってことか)

 

「.......我は貴様らと相見えることができて僥倖だ《隠者》のバーナード............いや、元帝国宮廷魔導師団特務分室執行官No , 8《剛毅》のバーナード。そして万能と謳われる〝無貌の月〟あるいは〝完全なる奇術師(パーフェクト・イリュージョン)〟.........執行官No,18《月》のフレイ」

 

「.........ったく、いつの話じゃ、それ..........」

 

「............」

 

ナハトは無貌の月の他に剣技と魔術によるオールレンジで戦える万能さとありとあらゆる戦闘スタイルの外道魔術師を翻弄するその戦いぶりに完全なる奇術師(パーフェクト・イリュージョン)と呼ばれ恐れられていた。

 

そしてバーナード。かつてのコードネーム《剛毅》と言うワードが出た瞬間苦々しい表情を浮かべる

 

「貴様の魔闘術(ブラック・アーツ)を極限まで極めたという伝説.............そして《月》の恐ろしさ、それは裏の世界で知らぬ者はいない」

 

魔闘術(ブラック・アーツ)。拳や脚に魔術をのせインパクト時に相手の体内でその魔力を直接爆発させるという魔術と格闘術を組み合わせた異色の近接戦闘術。

 

「........さて、どう戦いますバーナードさん?多分アイツ魔闘術(ブラック・アーツ)使いですよ」

 

「ご明察.........ここであったが百年目だ。伝説に名高き貴様の魔闘術(ブラック・アーツ)。そして音に名高き《月》のフレイ。貴様らには我が求道の糧になってもらう!《破》ァッ!」

 

そう言うと目の前の敵は短い呪文とともに拳に刻まれたルーンが輝きだすと電撃が迸る

 

「....うげぇ.......その様じゃの、さて......どうしたものかの~」

 

「天の智慧研究会、第一団(ポータルス)(オーダー)》............《咆哮》のゼト――参るッ!」

 

「.......バーナードさん俺が出ます」

 

「ん、任せたぞ~儂は大人しく見物でもしとくわい」

 

そう言うとナハトは前に出ると双剣を構える

 

「........《月》のフレイ。アンタを切り倒してやるよ.....《付呪(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)》」

 

ナハトは右手に獄炎左手には白銀に輝く冷気を纏わせる

 

ナハトの得意属性は炎、雷そして.........冷気。セラに仕込まれた風、そして基本的にどの属性も不得手はないナハトだが特にその三属性がとりわけ強力無比だ。

 

更に、一見相性が悪そうである獄炎と氷の相性はナハトが使う中でも最も相性がよく攻撃的だ

 

獄炎はすべてを焼き尽くす特性に加え熱エネルギーを高め、氷は周囲の熱をとめどなく奪いすべてを凍り尽くそうと白銀の輝きを強める。お互いがお互いを高めあうその力は術者すらも危険にさらすほどなのだ

 

その証拠にナハトの礼装の左肩から下が白く凍り付くようになり、礼装の右肩から下は焼け焦げ素肌がさらされていた

 

自身にもダメージすらあるものの【黒天大壮】を除けばナハトの超攻撃特化スタイル。ナハトはそれを使うべき相手だと判断を下した

 

 

 

そして、雷光の纏った拳と万象焼き尽くす獄炎と絶対零度の冷気纏う双剣がぶつかり合うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくくっ........貴方達はアルベルト=フレイザーさん、フレイ=モーネさん....ですね?」

 

鬱蒼と生い茂る森の中。

 

アルベルトとナハト(フレイ)の前に現れた青年は慇懃に一礼した。

 

「初めまして。私の名前はヴァイス=サーナス。天の智慧研究会第一団(ポータルス)(オーダー)》です。以後お見知りおきを............と言っても貴方がたには最後になるわけですがね」

 

(........なんか決めてるとこ悪いけど俺分身体だから死んだとこで本体になんも影響ないんだよなコレ)

 

ナハトは空気を読んでその発言だけはしないもののアルベルトとナハトの目の前でそう言う相手はよっぽどの馬鹿か..............もしくは――

 

「いやぁ、貴方がたの噂と武勇はかねがね聞いておりますよ。実に光栄です、貴方がたのような帝国の二大エースともいえる英傑に、直にお目にかかれるなんて...........」

 

だが対するアルベルトは無言でたかのように鋭い双眸でヴァイスと名乗った青年ではなくその隣に佇むものに注がれている。それはナハトも同様だ

 

「おや?これが気になりますか?」

 

ヴァイスの隣に佇む化け物

 

見た目は人型だが背丈も肩幅も優に人の二、三倍はある。全身筋骨隆々で、肌の色は漆黒。頭にはひねくれた角が生えており、背中には異形の翼が生えていた。

 

「ふふ、これは『悪魔』ですよ」

 

「.........貴様、悪魔召喚士か」

 

「ご名答。こいつは私が召喚した『悪魔』、上級の悪魔なんですよ」

 

悪魔

 

人の共通深層意識下で広く認知・共有された強大な概念存在の中でも、疫病・自然災害・負の感情といった人の様々な忌避や禁忌、恐怖が宗教や信仰と結びついて擬人化し概念を得たもの。人の『意識の帳』の向こう側にある『ここではない、どこでもない場所』『魔界』に住む。造形には多種多様な所説や解釈がある。

 

人間の手では倒せない強大な存在として定義され、現世の理に依る物理的な攻撃や魔術はほぼ通じないという律法が存在するが、より上位の概念には逆らえないという律法もまた存在する。

 

そのため、悪魔召喚術者は悪魔祓い対策として真名を隠すのが基本。強力な悪魔を召喚・維持するためには多くの人間の魂を生贄として捧げる必要があるが、感応する【適合者】の魂を使うことで生贄の数を減らすことができる。

 

「あっはははは!さて、《星》のアルベルトさん、《月》のフレイさん、噂によるとお二人は随分とお強いようだ............人間を相手するならね?だが、人間が忌避する恐怖の具現...........悪魔が相手ならどうでしょうかね?くっくくくくくっ!」

 

結論から言えば敵うわけがないのだ

 

最初から人の敵わない脅威として『悪魔』は定義されている

 

「...《狂騒伯爵》ナルキス」

 

ナハトはぼそりと呟くようにそう言う

 

「その悪魔の真名は三十六悪魔将の一翼《狂騒伯爵》ナルキス。六魔王の1柱《黒剣の魔王》メイヴィスの黒剣死騎士団を率いる軍団長――その分霊。主君たるメイヴィス名の下に、終末の戦場を首なし馬の戦車で駆けては狂騒のラッパを吹き、この世全てを屍山血河の戦闘地獄に塗り替える、戦いの狂奔を司る悪魔」

 

ナハトが真名を看破すると、続いてアルベルトがその悪魔の詳細を言い当てる

 

「へぇ?貴方がたは魔術師の癖に随分と神学に詳しいんですね?いえ、この場合は悪魔学とでもいうべきでしょうか?とにかく、悪魔にはその造形に多種多様な諸説と解釈が存在するのにも拘らず、私の悪魔の真名を一目で看破したのは貴方がたが初めてですよ」

 

「だが、無意味です!悪魔の真名は完全に私が掌握している!貴方がたごときに勝てるわけ...........」

 

だがその時アルベルトは斬りつける様な眼差しで、アルベルトは淡々と問を投げる。

 

「..........何人、犠牲にした?」

 

「はい?」

 

「その上級悪魔をこの世界に受肉させるには大量の人魂が必要な筈だ。俺達はそのために何人犠牲にしてるか聞いてるんだよ外道が」

 

ナハトは怒気を隠さずにそう言い放つ。それはアルベルトも同じで邪悪に対する激しい憎悪を向ける。

 

「悪魔召喚士と言うだけで、俺が貴様にかける慈悲はない。かかってこい、外道。戦闘と言うものを教えてやる」

 

そのアルベルトの物言い、そしてナハトの向ける殺気に

 

「あっはははは!まさかアルベルトさんは冗談もうまかったとわ!」

 

そしてそんなヴァイスの頬を雷閃と漆黒の熱線が掠める

 

「殺してあげますよ、《星》のアルベルトさん、《月》のフレイさん!」

 

こうして、人間VS悪魔の戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に勝敗が決しようとしていたのはやはりと言うべきかナハト、クリストフの戦場だった

 

 

台地は凍り付き、吹雪を荒ぶり、幾つもの氷柱が天に向かってそびえたつ。そんな氷結地獄――――

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて状況には一ミリもなっていなかった

 

「ッ!《冬の悪魔が振るう剣よ》!」

 

「フッ!」

 

グレイシアは氷の剣を作り出しナハトに向けて放つ。だが、ナハトにはそれをノーダメージで獄炎纏わせた剣で叩き落していく

 

グレイシアは戦いが始まってからと言うもの終始押され続けていた。

 

それも当然で、ナハトの獄炎による完璧な氷結対策に加えクリストフの防御が加わりグレイシアにはナハトらに対して有効な打点がないのだ

 

 

彼女の全身には『死の冬の刻印』という魔導刻印が施されており魔力を疾走させることで彼女の周囲の気温は際限なく下がり続けるというものなのだが...............

 

(私の冬が効かない!?)

 

グレイシアの攻撃は有効な打点にならず、対してナハトの攻撃は彼女の攻撃もろとも彼女自身を焼き消しかねない程だった。そのためグレイシアの体にはいくつもの火傷ができていた

 

「ふん.........あんたの冬なんて大したことないな。所詮はかなり狭い領域でしか猛威は振るわない。もっともその狭い領域でも俺の獄炎には勝てないようだが」

 

ナハトは全くの無傷の様子で淡々とそこにある事実を突きつける

 

これはナハトがひたすらに獄炎をまき散らす戦い方、そしてナハトを援護する裏でクリストフが張った解析結界から得られた結論。

 

ナハトとクリストフが強力なコンビである理由は剣と盾どちらも最高と謳われるほどの技量を持っているからだけではない。クリストフが相手の攻撃を防ぐだけでなく相手戦力を正確に解析し、その得られた結果をもとに最高の結果をたたき出すことができるナハトがいるからなのだ。

 

「それにあなたの攻撃はフレイの獄炎で半減..........もしくはもっと落ちているため僕の防御結界で防ぐのも容易。それに貴方の冷却スピードはフレイが使う本物の冷気には及ばない」

 

ナハトの魔力特性(パーソナリティ)上あらゆるパラメータ操作に関してはお手の物。分子の運動を完全に支配することのできるナハトによる絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)》は一瞬で分子の運動を0にする。

 

「..............」

 

グレイシアはもう絶句するほかなかった。そもそもの話イヴがこちらにナハトをよこした時点でグレイシアに1ミリたりとも勝機はなかったのだ

 

「さて.............もうあなたは用済みだ《獄炎竜よ・万象焼き焦がし・その咆哮を轟かせろ》」

 

ナハトが呪文を詠唱すると固有魔術【ドラゴニック・インフェルノ】がうなりを上げてグレイシアに迫る。そして...............

 

 

「これで制圧完了........お疲れフレイ」

 

クリストフがグレイシアの反応がなくなったのを確認するとフレイに労いの言葉をかける

 

「そっちこそクリストフがいると守りを意識しなくていいから戦いやすくて助かるよ」

 

グレイシアを塵一つ残さず消し去ったナハトはそう言ってお互いを称えあうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカンッ!!ドカンッ!!ドカンッ!!

 

 

別の戦場では激しい轟音を起こしながら二人のエースが戦っていた

 

 

「《紅蓮の竜よ・猛き咆哮以って・蹂躙せよ》!」

 

ナハトの極太の熱線がヴァイスに向け放たれる。普通の敵ならばこれをまともに正面から受ければ確実に焼き消すことができるだろう。だが............

 

「そんなもの効かない効かない効かないぃぃぃぃぃ!」

 

ヴァイスは叫び声は森の中に木霊する。

悪魔を盾にすることで、ナハトの攻撃を防ぎ一直線に突っ込む。

 

「.......《雷光の戦神よ・其は猛き憤怒と槌を振るい・遍くすべてを滅ぼさん》」

 

アルベルトはそれを読んでいたためヴァイスの頭上を取ると上から悪魔ごと飲み込むように【プラズマ・カノン】を叩き込む

 

だが................

 

「ひゃはははははははははは!」

 

だが悪魔相手には効果なく、アルベルトのほうに向け跳ね返る

 

「《第二術式・起動開始》」

 

その間にナハトは躍り出たかと思うとナハトは月鏡を起動させ【ライトニング・カノン】の支配権を無理やり奪い極太の雷撃を無数の針状に変え降り注がせる。

 

数の暴力で攻め立てるも悪魔はそれらを防ぎ続ける

 

悪魔には『炎熱』『電撃』『冷気』と言った基本の三属性エネルギーは効かない。概念的なものの悪魔には通用しない為それらが得意なアルベルトには相性が良くない。

 

そう〝アルベルト〟にはだ

 

「これでわかったでしょう!?私と貴方たちでは格が違うんですよぉぉ!」

 

アルベルトやナハトは先の攻撃から森の奥へと移動をしていた

 

ヴァイスもそれを追い森の奥へ二人がいるであろう場所に移動を開始する

 

そして――

 

 

「おや?おやおや?遂に観念しましたか!アルベルト=フレイザー、フレイ=リュンヌ!」

 

ヴァイスの目の前にいるのは、これまでの戦闘の余波で広く十字架型に焼け焦げた場所の中心に腕を組んで待っているアルベルトとその隣に立つナハトがいた。

 

「貴方たちでは悪魔に勝てないこと........ようやくわかったのですね!」

 

「そうだな。〝俺では〟貴様の悪魔を殺しきる手段はない」

 

アルベルトは淡々と〝自分には〟と告げる

 

「あっはははははは!そうでしょう!私の悪魔は最強なんですよ!」

 

そしてそんなアルベルトと対照的にヴァイス勝ちを確信したように笑う

 

「じゃあ、貴方の魂をいただきましょうか!いやぁ、楽しみだなぁ!貴方がたほどの魂を喰らえば私の悪魔はどれほど強くなれるのかなぁ!?」

 

 

 

「やれッ!汝が主、ヴァイス=ザーナスが真名を持って命ずるッ!《狂騒伯爵》ナルキス!その二人の魂を喰らえ!!」

 

そう命じられた悪魔は猛然と二人に襲い掛かる。その速さは彼の魔人には及ばなくても十分に驚異的な速さだった。だが、アルベルトとナハトの二人は無言のまま避ける素振りを見せずただそこに悠然とたたずむ

 

「今の俺にはその悪魔を殺しきるすべはない........だから虎の威を借りることにした」

 

2人めがけて振り下ろされようとする悪魔の拳

 

しかし、それは二人に触れる寸前でぴたりと止まった

 

「な、何をやっているッ!?殺せ!ナルキス!汝が主の真名を以って命ずる!《狂騒伯爵》ナルキス!奴を殺せ!」

 

「ふん!悪魔召喚士の癖に、悪魔学に疎いと見える。.............俺たちが今立っている場所をよく見てみろ」

 

アルベルトにそう告げられようやく理解するヴァイス

 

「十字架に焼き焦げた.......いや、まさか!?」

 

焼き焦げた十字架は東西南北にそれぞれの方向に大きく伸びていた。

 

「上空から見れば『極北を指す《黒い剣》』に見えるだろうな。これが何を意味するくらいはわかるだろう?」

 

「こ..........《黒剣の魔王》メイヴぇスのシンボル!?《狂騒伯爵》ナルキスの真なる主君の........?!」

 

「確かに物理的な攻撃や魔術は概念存在である『悪魔』にほとんど通じない........だが、概念はより強い概念に敗れ去る............それがルールだ」

 

『黒い剣』の中心に立つとは真なる主君の名代を意味する。下僕が主君の名代を害すことは不可能。そして..............

 

「さて.........最後にもう一つだけ教えてやろう。確かに原則『悪魔』を殺す手段は限られる。だが、不可能ではない(・・・・・・・)

 

「何を言って..........」

 

そう、アルベルトには悪魔を殺しきる手段はない。

 

だが、ナハトには――

 

「時間稼ぎありがとうございます。完成しましたよ........〝悪魔殺しの魔術〟が」

 

「.............は?」

 

ヴァイスはナハトが言った言葉の意味が理解できなかった。〝悪魔を殺す〟そんなこと不可能と信じて疑わなかったからだ

 

「《我が剣は聖なる刃・邪悪を滅す聖剣なり・我が聖なる剣閃以って魔を払わん》」

 

 

ナハトが呪文を唱えるとナハトの握った双剣は眩い輝きを放ち悪魔の身の丈以上の刃を作り出す。そしてナハトは両の剣合わせると頭上に掲げそのまま悪魔に叩き込む。そして...............

 

 

「なん..........だと.......ッ!悪魔が〝殺された〟..........だと!?」

 

 

悪魔は光の刃に切り裂かれるとその存在を光の粒子に変えそのまま天に向かって登っていった

 

 

固有魔術(オリジナル)【破魔の聖剣】。ナハトが即席で作り上げた固有魔術。ナハトは戦闘開始時点で『悪魔』を殺す手段がない。ならばどうすればいいか...........その結論はいたってシンプル。〝悪魔を殺せる独自(・・)の法則を生み出せばいい〟と言う結論に至った。そのためナハトは戦いながら新たな固有魔術を作り上げていた。

 

ナハトの魔力特性(パーソナリティ).........万象の支配・創造があるからこそできる『なければ作ればいい』という常軌を逸した力業

 

「さて、アンタの下僕とやらは品切れか?まぁ、いくら出そうが結果は同じだがそろそろ報いを受けてもらおうか」

 

そう、もういくら悪魔を出そうと悪魔殺しの魔術を完成した目の前のナハトがいる以上勝機はゼロ。通常の魔術戦で二人にかなうわけもない

 

「クッ!《我・希うは―――》」

 

ヴァイスは往生際悪くその目に憎悪をたぎらせ魔術の呪文の詠唱に入るが―――

 

「―――遅い」

 

だが、その刹那アルベルトの左手の指が霞むように旋回。

 

予唱呪文(ストック・スペル)時間差起動(ディレイ・ブースト)され、その指先から鼻垂れた雷閃が暗闇を一閃する。

 

その神速の一閃はヴァイスの脳天を貫き刹那のうちに絶命させる

 

「状況終了...........ですね」

 

「あぁ、お前が居なかったらもう少し時間がかかっただろう」

 

(ナハトが居なければもう少し手古摺っただろう..........悪魔召喚士か)

 

アルベルトは倒れ伏したヴァイスの死体を勘定のない視線で一瞥しそんなことを考えていた

 

(ナハトがいなければ所詮はその程度か........ダメだな.........この程度の力では足りない。あの男に届くはずがあるまい.........)

 

アルベルトの胸中は状況終了の達成感などではない。激しい憎悪と力への渇望

 

僧服姿の初老の男に対する憎悪を意識しながらもすぐに切り替えるとアルベルトはナハトと共に踵を返し歩き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアァァァァァッ!!!」

 

「シッ!!」

 

大きな雄叫びを上げるゼトに対しナハトは鋭く気合の籠った言葉を漏らすとゼトの強力な拳を持ち前の剣技でいなし絶対氷結の刃を叩き込もうとする

 

「! フッ!」

 

それをゼトがすかさず距離を取り回避する。だが、白銀の一閃は簡単には回避を許さない。絶対零度の冷気がゼトの体に細く縦一文字に凍り付いたように凍らせる。

 

かれこれ戦闘が始まってからというものナハトの強力な冷気と熱によりゼトの体には凍傷や火傷などが至る所にできていた。今もナハトが攻撃をいなした際に拳に火傷が増えていた。

 

(攻撃をするこちら側が自傷覚悟というわけか............)

 

この状態のナハトに対しての近接攻撃は常に自身の命の危機をさらすもの。ゼトは攻めきれずに歯噛みする

 

(動きは見切れたし、撤退されるのも面倒だしもっと攻めに出るか)

 

ナハト基本的に緊急を要さず、一対一の場合はなるべく相手の手札を引き出してから攻めに転じるのだ。だからこそここまでほぼカウンターによった受けの戦いをしてきたが撤退されては後が面倒と考え攻めに移る

 

「!クッ.....!」

 

ナハトは一気に距離を詰めると怒涛の勢いで双剣を振るう。ゼトは先程までとは違うナハトの剣戟に面を喰らいつつも辛くも捌き続ける

 

獄炎と白銀の冷気が織りなす黒き剣閃と白銀の剣閃は美しさすらある。だが、美しい花には棘があるというもの............一撃一撃がどれも死をもたらす剣閃。

 

悉く焼き尽くす炎と悉くを凍り漬かせる氷、相いれない二つのはずのそれは異常な相性を顕わし、死の淵まで相手を追い込む

 

ゼトはそれを腕を盾にし防ぎ、拳で攻撃しどうにか完全に防戦にならないように立ちまわるも明らかにギアを上げたナハトの連撃スピードのじわりじわりと遅れを見せていた

 

(ここまでの技量とは....ッ!魔術士だからと侮ったかッ!)

 

ナハトの止まることのない高速連撃にゼトは相手の力量を見誤ったと己の判断に恥じていた。だが、ゼトとてこうもやられてるわけにはいかないとどうにか一撃いれればまだ勝機があると信じ防ぎ続ける。

 

 

だが、それはナハトも想定内で―――

 

 

 

 

(! ここだッ!)

 

ナハトがわずかに距離を開けたところでゼトはすぐに腕を引き絞り強力な一撃を決めるの備えをする。ナハトの高速攻撃の肝は絶妙な間合いコントロールでゼトが攻撃に転じにくし自身の持ち味を最大限発揮することにある。だからこそ一瞬、ほんの一瞬でも間合いがわずかにでも空けばゼトにチャンスがある。

 

 

だが、ゼトは防戦に回りナハトに圧倒されたことでそれがナハトの罠と気づくのが遅れた

 

「かかったな」ボソッ

 

(ッ!しまったッ!)

 

ナハトはゼト同様に間合いをわずか開けた隙に技の構えを取っていた。ナハトはあえて間合いを取り相手に大技を出させるようにし、その隙に自身も強力な技を叩き込む腹積もりでいたのだ

 

そして、何よりこの場において〝速さ〟でナハトが負けるわけがない

 

 

「氷魔・神千斬り!」

 

 

絶対氷結の刃と万象焼き尽くす獄炎の刃がゼトに向け放たれる。

 

白銀と漆黒の刃が放たれ轟音と共にゼトが吹き飛ばされると獄炎と氷がそのゼトを追うように後引き黒い炎と白銀に輝く氷があたり熱気と冷気が同時に周囲を支配する

 

「お!決まったかのフー坊よ」

 

すると本当に大人しく観戦していたバーナードが声を上げ確認する

 

だが................

 

 

 

「...........ダメですね、咄嗟に腕一本犠牲に回避されたみたいです」

 

ナハトが技を放つ瞬間、ゼトは放とうとしていた一撃をナハト本人ではなくナハトの剣に合わせることで致命傷をギリギリのところで回避し、腕一本を犠牲に派手に獄炎と氷が広がる隙に撤退したようだった。

 

そのため煙が晴れた先には獄炎と氷がゼトのものと思しき腕を囲っていた

 

「脳筋野郎だと思っていましたが存外頭が回るようですね..............これは油断しましたね」

 

ナハトは確実に仕留めらると踏んでいた。といううのも相手の見た目と言うわけではないがあのタイプの手合いは戦いで果てるなら本望といった人種と考えていたためあの場で離脱される可能性は低いと感じていた

 

絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)まで使って仕留められなかったことがないからって驕ってしまうとは自分もまだまだですね」

 

ナハトの獄炎と絶対氷結の組み合わせを前に生き延びられたものはこれが初めてだった。片方だけならまだしも両方使って逃げられるというのは今までになかったため慢心があったと言わざる負えない

 

「まぁ、どちらにせよ病み上がりの戦闘と考えれば流石なもんじゃよ」

 

バーナードはそんなナハトにそう声尾をかけ背中を叩くと一足先に歩き出す

 

(失敗は許されない任務でこの様とは........自分に呆れる。もっと強くならないとな)

 

 

 

ナハトは自身のミスを恥じる。だが今はその事よりもルミアの無事とイヴの心を守ることが優先だ。やってしまったものは仕方ない。ならばそれに即した最善を尽くそうと切り替えるナハトだった

 

 

 

 

 




今回は特務分室の面々と天の智慧研究会の衝突ですが................うん、ナハト強すぎ。ほとんどどこもナハトの力の誇示になってしまった。最初はもう少し連携を考えてたのにナハトが前で過ぎになってしまった........で、でもまだ特務分室の出る話は沢山あるし大丈夫!.........なはずです。個人的に特務分室の面々は好きなので活躍させていきたいと思うので頑張ります!また、先日ダンまちのssも始めたので予定は交互に投稿するかこちらが二話更新したら向こう一話更新くらいに考えています。勿論今までと変わらずこちらの作品も全力で取り組むのでよろしくお願いします。ありふれの方はやめるつもりはないですがもうしばらく練りこんでから投稿します。



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敵からの助言

 

各場所での戦闘が終了したころ。分身ではない本体のナハトはというと.......

 

(アイツ等~遠慮なく戦いやがったからに~)

 

会場ではナハトとルミアのペアがトップで本選出場を決めたところと同時期であった

 

分身のナハトの魔力は本体であるナハトがすべて賄っているのだ。そのため三人の同時戦闘の魔力を賄っているせいで内心しんどさMAXだった。

 

「?ナハト君どうしたの?少し顔色悪いけど.....」

 

「(やべッ!)大丈夫だよ........ただ、システィーナ達と同点での本選出場となるときついものがあるな~って」

 

ナハトは努めて元気なふりをする。ぶっちゃけすぐにでも寝込みたいところだがそういうわけにはいかない。意志を強く持っておかなくてはいけない

 

「..........うん。やっぱりさすがだよねシスティ達」

 

「だな、こりゃ俺も少し舐めてたよ..........気合い入れなおさないとな」

 

「うん!頑張ろうナハト君!私に『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』着させてね?」

 

「あぁ、任せろ。絶対にルミアに着せると約束する」

 

2人でまた決意を新たにしていると.........

 

「ふふ、どう?私たちもやるでしょ?」

 

「ん。私たち負けない」

 

どや顔をしてシスティーナとリィエルが来た

 

「いや、ホント強すぎ..........こりゃ、うかうかしてられない」

 

ナハトは内心かなりしんどいのは当然として焦りを感じていた。このまま優勝まで行けばルミアの安全はほぼ確保されると言える。だが、もしこの本選で決勝前にシスティーナのペアと同じグループになれば負ける気は当然ないが確実に勝てるという自信もない。もし負ければルミアに他の男どもが殺到するのは目に見えてる。

 

「ふふ~ん!このまま今年の『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』は私のものかしら?」

 

そう言って得意げなシスティーナはナハトに煽るとそれに反応したのは始まる前と同じくルミアだった

 

「それは違うよシスティ」

 

そう言ってルミアはあの時と同じようにナハトの腕を取るとぎゅっと抱き着き悪戯っぽく笑みを浮かべる

 

「だって私とナハト君が負けるわけないもん!だって私達息ピッタリなんだから!ね?ナハト君」

 

ナハトはそのルミアの満面の笑みを見て少し見惚れて..........

 

「あ.....あぁ、さっきも言ったけど必ず俺がルミアに『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』着せてあげるよ」

 

「うん、信じてるよナハト君。一緒にがんばろ!」

 

そう言って更に見せつけるようにナハトと密着するルミア。今日のルミアは結構テンションが高い。きっと会場の雰囲気にあてられてるんだろうか

 

「むむむ、むむぅぅ~~~~!何よ!私だって負けないんだからね?」

 

「ふふ、こっちこそ!」

 

仲良く火花散らす二人の傍らにナハトは

 

(それにしても盛り上がり凄いなぁ~..........だが、ザイードはいつ仕掛ける気なんだ?会場外は一人を除き仕留めきったが何故ザイード以外が出張ってくる必要があった?囮か?だとしたら何か仕掛けを済ませてるのか?.........いや、向こうも俺と言う存在に加え姉さんの目を盗んで怪しい行動なんてできるわけがない.......クソ、上手くまとまらない)

 

ナハトが相手の行動の裏を読もうと思考を巡らせていると緊急事態に気が付く

 

そう、隣にルミアがいない(・・・・・・・・・)ことに

 

「ッ!ルミア.........ルミアはどこに!」

 

ナハトはすぐに会場内を探そうと走りだそうとすると―――

 

「ご安心を、ナハト様」

 

ナハトの腕をそっと引く一人の淑女がいた。彼女は

 

「!エレノア!?何故........いや、今は貴方に構ってる時間は......」

 

「安心してください、《魔の右手》がこの機を狙うことは決してありませんわ」

 

ナハトを止めたのはあの帝国内部に入り込み長らくその正体を悟らせなかった天の智慧研究会第二団(アデプタス)地位(オーダー)》エレノア=シャーレット。

 

「..........何故そう言い切れる?第一何故お前らの仲間の作戦を漏らそうとするお前の発言を信じなくてはいけない?」

 

「確かにそうですわね.........でも、貴方様ならお分かりですよね?この間合いでは私では貴方様にはどうあがいても勝てないことを........それでどうか信じてはもらえないでしょうか?」

 

確かにこの間合いならたとえエレノアが暗器などを所持していてもナハトなら負けないだろう。そういう意味ではエレノアは今命がけで自身と接触していると言える

 

「...........分かった。だが用もなく貴方が危険を冒してまで接触するとは思えない。用件はなんだ?」

 

「ふふふ、まずは信じていただけたようで安心ですわ。用ですが.......そうですね、せっかくなので踊りながらというのはどうでしょう?」

 

ナハトは少し考えるが今この場で打てる手は限られる。ならばここは提案に乗るのもまた一つだろう。それに.......

 

(さっきから姉さんに連絡がつかない。恐らくは手を打たれてるか.......わずかでも情報を引き出せる可能性に賭けるしかない)

 

「ふふふ、貴方様のお姉さまにも連絡は着きませんでしょ?何か別のことに夢中なのかもしれませんわね?グレン様や王女様には少しの間貴方様から離れるように人払いの暗示を掛けさせてもらいました。この空隙の間付き合ってもらえませんか?」

 

姉さんが気になるが今は目の前の彼女の技量を流石と言うしかない

 

隠形と偽装、人の心の隙間をつくのは長年陛下の側近で密偵をしていただけのことはある。これに関してはセリカを超える魔術師と言えるだろう

 

「わかった........踊ろう。気は乗らないが」

 

ナハトがそう言うとエレノアは手を差し出すのでその手を取りナハトのリードでエレノアとのダンスが始まる

 

「それで、一体用件は?」

 

ナハトは早速その話題を切り出す。それに対しエレノアは妖しい笑みを深めて答える

 

「ふふ、貴方方がザイードの手のひらで踊らされているのでそれがおかしくて、一つ助言を」

 

「.......助言だと?」

 

「えぇ、私もとしても王女を今殺されるのは少々計画が狂うのです。ですから聡明な貴方様にに助言をと思いまして」

 

そのまま二人は踊り、ナハトは踊りの振り付けでエレノアを抱き寄せる

 

「つまりザイードは姉さんを出し抜いての暗殺が可能と言いたいのか?姉さんの支配領域は完璧なはずだ」

 

「えぇ、本当に完璧ですわ。ですが完璧だから故に気づかないのです。このままいけば『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』が王女の美しい死に装束になるでしょう」

 

冷酷に淡々とエレノアがそう言った

 

(優勝しなければいけないんじゃないのか............いや、もしくはそのどちらかでもいいのか?だが『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着て踊るのは大勢の目の前だ。その中でも暗殺が可能という事か?)

 

ナハトはその言葉の意味を考え相手の手段を想定するもわからないでいた

 

「ふふふ、それではナハト様。助言ですわ。王女の命運を握るもの、それは......『目で見れば概ね五つの階段であり、目を瞑れば概ね八つの階段であります。沿って走れば、その幽玄なる威容に、人は大きく感情を揺さぶられることでしょう』......さてその心は?」

 

「.......どういう意味だ?」

 

「ご活躍期待していますわナハト様。ナハト様ならこの答えに辿り着けると思います。何かと察しがいい(・・・・・)貴方様なら、きっと」

 

 

言うだけ言うと彼女はそのまま人混みに消えていった。流石に追うわけにも行かないのでそのまま立ち去るのを見届けた

 

(目で見れば5つ階段.......目を瞑れば8つ階段........そして感情を揺さぶる.........なんだ?何かが引っかかるような.........)

 

ナハトはこの空間にあるものでエレノアが与えた助言に沿うものを考察するがあと少しで出そうな解答に頭を悩ます。

 

(それに何故『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』が死に装束になるんだ?右手で触れることが必ずしもの要因ではないと言う事か?だとしたらなぜ〝魔の右手〟なんだ?)

 

ナハトは助言と彼の異名も踏まえてその手段を考察する。

 

(まず間違いなく魔術を使ってるのは確かだろう.........死因はバラバラ、だけどその数ある中で物理的な手段で大人数のいる中で暗殺を可能にする魔術..........だとしたら恐らく魔術の系統は幻術やそれに近いもの..........周囲の認識か自身と凶器に対するそれを操作してその隙に殺すってのが今考えられる一番現実的な魔術を用いた場合の手段だが........術を掛ける手段がわからない)

 

ナハトは推測で魔術の系統を絞り込みそれで可能な方法を探る。だがそれでもいろいろな課題や現実性などを前にアレでもないこれでもないと考えては否定するを繰り返す

 

(もしだ..........もし俺がこの空間で暗殺する術を使うとして違和感なくできるとしたらどうやる?ダンスに誘う?食事を進める?もしくわ.............)

 

ナハトが考えこんでいると明るい声でナハトを呼ぶ声が聞こえる

 

「ナハト君!お待たせ、ご飯食べよ?」

 

ルミアが料理をのせたお皿を持ってこちらに歩いてきた

 

「ほら、飲み物もあるわよナハト」

 

「ん。苺タルトナハトの分も持ってきた」

 

システィーナが飲み物、リィエルは自分の好みではあるもののデザートを持ってきてくれた

 

「......ありがとう三人とも。いただくよ」

 

ナハトは三人から受け取り三人で食事を始める

 

そんな中、先程つながらなかったイヴにナハトは連絡を試みる

 

『姉さん、今大丈夫?』

 

『問題ないわ。どうかしたかしら?』

 

『さっきエレノアが俺に接触してきた』

 

『エレノア?あのエレノア=シャーレットかしら?......私のところには何も反応はなかったわよ?』

 

『やっぱり対策されていたみたいだね........それで奴はこのままいくとルミアが殺されると言った。姉さんを疑うわけじゃないけど問題は起きていな?』

 

『安心なさい。問題は何一つないわ。それより聞いてナハト。あともう少しですべてが終わるの。すべて私の思い通りに..........ね?』

 

ナハトの言葉を聞いても揺らがないイヴの自信

 

信頼を置く姉の言葉に普段なら頼もしく聞こえるはずのそれが何故か今のナハトには不安で仕方なかった

 

 

 

 




今回はここまでです。そろそろこの社交舞踏会編も終わりが見えてきましたね?終わりが見えてきたということで次は聖リリィ魔術女学院のお話が近づいてきましたね。あの話はグレン女体化という最高のネタもあったりと面白いですよね!そしてお察しの通り本作品もナハトが............なんてことがあると思うので残り僅かの社交舞踏会編も次回の聖リリィ魔術女学院編も楽しみにしていただけると嬉しいです!

そして今回もここまで読んでくださりありがとうございます!また、コメントやブックマーク、いいねをしてくださり本当にありがとうございます!


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彼と彼女の苦悩

ナハトとイヴが連絡を取り合って少しした頃

 

 

(ふふ、今頃イヴ=イグナイトは僕を見失って泡を食っているだろう.....)

 

イヴの【イーラの炎】と魔術的監視の支配領域から抜け出したザイードは来賓客用に用意された宿泊部屋にやってきていた。

 

ここまではザイードの目論見通り。強いて予想外なことを上げるならば外の三人のそれぞれの戦場に今回最も脅威になるであろう《月》がいたことだ。いかなる手を弄して三つの戦場並びに会場内にいるのかは知らないが我々の動向に気づいていない様子から計画に支障はないだろう。

 

部屋には人払いと認識操作の結界が張られている

 

その室内には一人の初老の男がいた

 

「来たか..........」

 

「ええ、来ましたよ。それでは早速行動を..............」

 

ザイードが不敵な笑みを浮かべその男に近づこうとした瞬間

 

虚空に亀裂が入る

 

それからガラスが砕けるような破砕音が響くと一部の空間が壊れる

 

そこから出てきたのは............

 

「ついに尻尾を顕わしたわね!」

 

「なッ............!?」

 

「あ、貴女は..........ッ!?」

 

壊れた空間から優雅に着地したのはここにはたどり着けないはずだったイヴだった

 

予想外の人物の登場にザイードともう一人の男は驚愕故に凍り付く

 

「お初にお目にかかるわ。以後お見知りおきを《魔の右手》のザイード。そして貴方が黒幕だったのね.............今回の王女暗殺計画の真の首謀者、ローレン=タルタロス教授!」

 

イヴ指した男の正体......

それは、魔術学院の教授にして学奏クラブ顧問を務めるローレンスだった

 

「ふふ、三人の外道魔導士で外から圧迫を掛ければ私を抜け出せると思ったの?でも残念ね私の最愛の弟(可愛くて優秀な部下)の力を甘く見ないで欲しいわ!」

 

若干ブラコンが入り気味だが勝ち誇ったイヴからは自信溢れる笑みがこぼれ、眼前の二人を見下す

 

「.........小癪なッ!ザイード!」

 

「はっ.......!」

 

ローレンスの指示を受けザイードは床を蹴りイヴに掴みかかろうとする

 

その《魔の右手》をイヴに伸ばすが―――

 

「この距離で私を殺りたかったらリィエルか―――」

 

その刹那、嘲笑するイヴの周りに炎が渦巻き、帯状になってうねり

 

最愛の弟(フレイ)くらい速くなってくれないとね!.......まぁ、彼の域には貴方程度じゃ生まれ変わっても無理ね」*ブラコンこじらせてます

 

イヴの炎がザイードを瞬時に拘束する

 

「~~~~~ッ!~~~~~ッ!~~~~~ッ!」

 

黒魔【フレイム・バインド】身を焼き焦がす苦痛はそのままに、肉体そのものには全くダメージを与えずに、火傷の一つもなく敵を拘束・無力化する拷問用の術。

 

「..........それにしても貴方、凄く遅いわね。素人みたいだわ」

 

声なき悲鳴を上げ、芋虫のようにのたうち回るザイードにローレンスは一歩......また一歩と慄きイヴから後ずさる

 

「あら?逃がすわけないでしょ?貴方も大人しく捕まってもらうわ」

 

再び【フレイム・バインド】を起動させザイードと同じように拘束する

 

その後二人をイヴは呪詛の込められた鎖で縛り上げ、その上から白魔【スリープ・サウンド】で眠らせた。鎖につながれている彼らはどうあがこうと魔術講師は不可能。更に部屋にかけられていた人払いと認識操作の結界はすでに解呪済み。この瞬間を持ってイヴの勝利が確定した

 

「ふふ.........ふふふ.....やったわ!」

 

イヴは喜びが抑えられないといった様子で顔をほころばせる。

 

天の智慧研究会の第二団(アデプタス)・《地位(オーダー)》である中核の二人を無傷で確保したのだ。当然これは大戦果と言える

 

「これで、あの子を.......それにお父様だって..........んんっ!気を引き締めなさい私。最後まで油断禁物よ」

 

気を引締めなおすと早速イヴは宝石を耳に当て通信魔術を起動させる

 

「......もしもし、聞こえるかしら?こちら《魔術師》のイヴよ。実はね.......」

 

イヴは宝石型通信魔導器を通じてナハトやグレン達に情報を伝え次の指示を淡々と飛ばしていく

 

「ふぅ......これで良し、と」

 

一仕事終えたイヴは室内を見渡す

 

次の段階に移行するまで時間が空くためどうしたものかと見回すと、ふとあるものに気づく

 

「........あら、この曲は...」

 

室内に微かに流れていた音楽。それに気づいたイヴは発信源である蓄音機に近づく

 

「何かと思えば『交響曲シルフィード』...........下の会場で演奏しているのと全く同じ楽譜の演奏を録音したものね.........」

 

優雅さと民族的な子気味良さを兼ね備えたその曲は、実に耳心地が良かった。通常のそれにさりげない編曲(・・)が施されているのも中々だ。

 

「まぁ、この部屋に敵組織に関するほかの手がかりがないか調べるついでに音楽鑑賞と言うのも悪くないわね.........」

 

そうイヴは独りごち、ザイードたちが拠点にしたこの部屋を慎重に物色し始める

 

「うん..........魔力痕跡は........魔術罠(マジック・トラップ)の類はないようね........でもここは油断せず、慎重に.........用心はし過ぎるにこしたことはないからね........」

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「わぁああああああああ!!!!」

 

 

イヴがザイードを捕らえたころ下の会場では丁度本選準決勝が行われていた。ナハトとルミアのペア、システィーナとリィエルのペアどちらも当然ここまで勝ち上がってきた。

 

そしてこの準決勝も―――

 

「やったね!ナハト君!」

 

「あぁ、お疲れ様ルミア」

 

心の底から笑みを浮かべ楽しそうなルミアに逸れにやさしい笑みで答えるナハト

 

当然というか必然と言うべきかナハト達は決勝戦への切符を手にしていた

 

そしてまた彼女たちも―――

 

「どうやら二人とは決勝で雌雄を決めることになったわね」

 

「ん」

 

やる気に満ち溢れるシスティーナと相変わらず眠たげなリィエルのペアもまた決勝への切符を勝ち取った

 

この二組はどちらもグループをトップで勝ち上がっての決勝のため会場もどちらが勝つのかと注目の的である。

 

「ルミアも『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を目指して一生懸命頑張ってきたんでしょうけど.......でも、ここまで来たら手加減はしないわ!私、全力で優勝を目指すんだから!」

 

「うん、わかってるよシスティ。私だって負けないよ?『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着て素敵な殿方と踊るのが、私の子供のころからの夢だもの!」

 

「ま、まぁ、ナハトは.....誠実で真面目で素敵な男の子だと思うけど.....って何言ってるのよ~私ぃーー/////////!?」

 

「ふふ......遠慮せず本気で来てね?......じゃないと私がナハト君をとっちゃうかも?ほら?『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を勝ち取った男女は........?」

 

悪戯ぽっくも不敵に笑うルミアにシスティーナは慌てる

 

「う具ググ......なんでそこでナハトが出てくるかわからないけど......わからないけどね!?......そこまで言うなら、正々堂々戦うわよ!どっちが勝っても恨みっこなしよ!」

 

「うん!もちろんだよシスティ!」

 

決勝を前に熱い火花燃やすルミアとシスティーナ

 

「..................」

 

(まだわからない.......あのヒントの意味するところは......)

 

ナハトは時間ができればすかさず思考を《魔の右手》の作戦を考察する。だがナハトをもってしても正解に辿り着けない。

 

「よう、なんだ?もてる男は疲れるってか?」

 

「おめでとうナハト君!」

 

思考を巡らすところにやってきたのはセラねぇとグレン先生だった

 

「ありがとうセラねぇ。そして先生はどうしてそうひねくれてますかねぇ~」

 

この瞬間僅かにでもナハトは警戒を怠ってはいない。常に周囲に怪しい人物や気配がないかを探ってる。

 

「そう言えばセラねぇ。今回使われてる『交響曲シルフィード』ちょっと編曲されてるよね?」

 

「そう言えばそうだね........それも中々いい編曲だよね~」

 

「確かに.....でも、俺は原曲のほうが............」

 

ダンスの師である彼女との些細な会話ここでナハトが脳裏にある言葉がちらつく

 

『目で見れば概ね五つの階段であり、目を瞑れば概ね八つの階段』

 

そうエレノアの言葉だ。ナハト今なぜ脳裏にちらついたのかを考察するためにセラに対する返答を前に黙りこける

 

「ナーくん?」

 

(あれ?今何か.......五つ........八つ........目でみる..........目をつむる......ッ!まさか!?いや、できるのか?.....いや、可能だ.......理論はこれで通ってる..........なら後は.........)

 

「ナーくん?ナーくんんってば!」

 

ナハトが一人黙り込んで思考におぼれているとセラが大きな声で呼びナハトの意識は戻される

 

「はっ!」

 

「も~どうしたの?ナー「セラねぇ!頼みがある!グレン先生にも!」.......ナーくん?」

 

切羽詰まった様子のナハトにセラとグレンは両者ともに心配げな表情になる

 

「セラねぇは今すぐリゼ会長のとこに向かって今回の曲の編曲された部分を調べてきて。それとリゼ会長にはどこかの部屋に精神強化の魔術をして籠ってもらうように伝えて」

 

「えっ!?なんで......ッ!う、うん。わかった!」

 

ナハトの真剣な表情を見てか戸惑うもすぐに動きだすセラ

 

「お、おい!一体「グレン先生は今から言う事をアルベルトさんに報告してください」.....お前まさかッ!?」

 

ナハトは真剣な表情で口を開く

 

「敵の暗殺手段の算段がつきました。急がないと対応が困難になります」

 

こうしてナハトはグレンに伝言を託して来るべき事態に備えるのであった

 

(だが問題はタイミングだ..........どこで仕掛けるのがベストだ?)

 

 

 

 

-------------------------------------------

 

 

ナハトは決勝直前にセラから聞いた情報を聞いて推測が確信へと変わっていた

 

(まさかこんな方法だったとはな........)

 

そして直ぐにセラねぇにはリゼ会長にするように言った指示をして別室に移ってもらった

 

また、アルベルトさんたちには決勝終了と同時に中に突入してもらい奴を拘束する算段を付けた。念のために万が一に備えてクリストフとバーナードさんには退路の確保をさせている。

 

(問題はリィエルとシスティーナに伝えてないこと。そして何よりルミアにも............)

 

ルミアの今までの楽しげな姿を見ていたナハトはとてもつらかった。ここでいえば確実に彼女は自分に責任があると思い込んでしまうだろう。だがそれは言わなかったとしても同じ。敵の手段がまさかあんなものでなければ秘密裏に処理できたかもしれない。

 

だが、ナハトやほかのメンバーがイヴに連絡がつかない(・・・・・・・)以上すぐにでも解決に動くべきだ

 

(クソッ!結局ルミアを...........)

 

「ナハト君?どうしたの?」

 

「ッ!.........大丈夫だよ。ちょっと緊張してさ」

 

「..........そっか。実は私もなんだ」

 

2人は決勝前のわずかな時間語り合う

 

「でもね..........何も心配してないんだ.........どうしてだと思う?」

 

そう言うルミアの顔は少し悪戯ぽっくまるで『分らないでしょ?』と言いたげな顔だった

 

まぁ、実際のとこはそうなのだが.........

 

「.........楽しいから?」

 

何とか絞り出した解答に彼女は笑みをこぼす

 

「ふふふ........違うよ?正解はね..........」

 

ルミアはそう区切ると俺の手を取った

 

「ナハト君がそばにいるからだよ!ナハト君がいれば何も怖くない...........ナハト君がいれば私は何があっても大丈夫なんだ!」

 

そう言ってそのままナハトと距離を詰めナハトを抱擁する

 

「どう?ナハト君も.........私がいると安心できる?」

 

きっと彼女は俺が何か隠してることを気づいている............気づいたうえで何も聞かず俺を信じてくれる

 

そんな彼女に俺はどうするのことが正解なんだろうか...............いや、はなから間違っているのかもしれない

 

でも、せめて―――

 

 

彼女の信用には答えなくてはいけない

 

「あぁ、俺もルミアがいてくれるだけで安心する........もう大丈夫だルミア。決勝、楽しもう。そして..........」

 

「「絶対に勝とう!!」」

 

最後の決意表明の瞬間二人の声が重なる

 

その事を二人で笑うとすぐにナハトは手を差し出す

 

舞台へ美しい彼女をエスコートする時間が来たのだ

 

ルミアはその手を取る

 

 

舞台の終幕はすぐそこに迫ってきた

 

 

 

 

-------------------------------------------------

 

 

(..........気づいてるよナハト君だからゴメンね..........あと少しだけ私の我儘に付き合って)

 

 

彼が今日だけでなくこの日を迎えるまで陰ながら何かを考えこむ姿を目にしていた

 

きっとまた私が関係しているんだとすぐにそう感じた

 

でも彼が守ってくれる。その甘美な響きが私を惑わせる

 

彼が守ってくれるのがうれしくてたまらない

 

彼が味方でいてくれるのがとても幸せだ

 

 

 

でも、彼は傷つく。なんでもないと言って私が大切と言って傷ついていく。

 

それは辛くてたまらない。だから親友のことを好きになって欲しいと思ったこともあった

 

 

 

でも、やっぱりどうしようもなく彼が好きだ

 

だから―――

 

 

まだ、彼との思い出が欲しい

 

 

彼が傷つき取り返しがつかなく前に彼とできるだけたくさんの思い出を作り

 

 

そして―――

 

 

 

取り返しがつかなくなる前に私は消えよう

 

 

 

だからお願いせめて今日だけは.......................

 

 

 

 




今回はここまでです。ナハトとルミアそれぞれの苦悩の答えが幸せな未来であってほしいと思う回でした。自分で書いてて辛くなってきます。原作とは違い早い段階で気づき、早い段階で話が動くことになります。それを踏まえたシナリオができればと思っていますが、展開は原作通りの可能性も大いにあります。だとしても読者様に楽しんでもらえるよう自身もこの物語にのめりこめるように執筆しますので次回も楽しみにしていてもらえると嬉しいです!

では、今回もここまで読んでくださりありがとうございました!また、お気に入り登録やコメント、評価をしてくださりありがとうございます!


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終幕の時、そして彼は彼女を想う

 

 

 

一同が固唾を飲んで最後の踊り手たちを見る中。

楽奏団の指揮者が情熱的に指揮棒を振り上げ―――

ダンスコンペ最後の演奏が落ち着いた調子で始まった。

交響曲シルフィード第六番。それに合わせるはシルフ・ワルツの6番

 

ナハトとルミア、システィーナとリィエルが一礼する

そっと、お互いが組み合って静かに踊り始める

 

シルフィードの6番は最初は穏やかな前奏から始まり、後半に移行するに従い、劇場時な調子に盛り上がっていく曲だ。

 

ナハト達が最初、緩やかな動作で舞うように踊りつつ―――

やがて局の調子が上がっていくにつれ、徐々に激しく、華麗に、熱っぽく。

 

ナハトとルミアが

 

システィーナとリィエルが

 

踊る、踊る、踊る―――

瞬き一つできない観客たちからため息が漏れる―――

 

 

 

 

優雅にステップを踏み、テンポよくシャッセを刻む

 

ナハトとルミアは心通わせ真剣に........ひりついたこの緊張感さえも楽しむように踊り続ける

 

(彼女は心の底から『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を着て俺と踊ることを望んでる)

 

ナハトは彼女の望みを心の底から叶えてあげたいと思う

また、何より彼女の『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』姿を見たい

 

でも、それは叶えられるかは今となっては定かではない.............

 

それでも........例えそうであっても彼女の命には代えられない

 

そう決意したのはナハト自身

 

だからこそここで決めると決意したはずのナハト

 

だが、その心情は彼女の心情を考えたら今にも揺らぎそうだった

 

(昔の俺ならきっとこんなこと考えもしなかっただろうな..........)

 

嘗ての..........ルミアと出会う前の自分なら効率だけを考え作戦を遂行しただろう

それはナハトにとって望ましい変化だったのかはわからない

 

だが、確実に言えるのは彼女に対しての罪悪感

 

そして―――

 

(彼女が心の底から大切だと言う事.........)

 

勿論姉であるイヴもナハトにとって大切な存在だ。

そして、親友であるシスティーナにリィエル、セラねぇ、グレン先生、クラスの皆や特務分室のメンバーも同じく大切な存在

 

 

 

だが、ナハトにとってルミアは気づけば特別になっていた

 

 

 

そんなもの、もう答えは出ているようなものだった

 

 

時に、恥ずかしさを感じ

時に、幸福感を感じ

 

 

そして時に、彼女がいないことに寂しさを感じる

 

大切だから...........もう彼女に抱いている感情はその程度じゃないのだろう

 

きっとその感情に正しく名前を付けるとしたらそれは―――

 

 

 

 

 

ナハトが想いを巡らせるさなかも時は刻々と進むのであった

 

 

---------------------------------------------

 

 

 

 

踊る、踊る、踊る.............

誰もが固唾を飲んで見守る中彼らは踊る

 

熱く、激しく、優雅に、彼らは踊る

ふわり、ふわりと曲に合わせて彼らは踊る

 

そして

 

嵐のような盛り上がりから一転

 

森に眠る静けさの余韻を残して、楽曲が終了する

 

それに合わせてナハトとルミア、システィーナとリィエルが優雅にフィニッシュを決める

 

 

ナハト達の演舞が終えると会場は水を打った静寂さに包まれる

 

だが誰かが、ぱちん..........それに続くようにまた一つぱちんと思い出したように手を打ち鳴らす。それは凄まじい勢いで会場全体に伝わる

 

「「「わぁあああああああああーーーーー!!!!」」」

 

それからはまるで嵐の如く拍手と歓声が会場内に響き渡る

 

それは間違いなく今夜の社交舞踏会一の盛り上がりだった

 

システィーナ達も達成感からか顔が綻ぶ

 

だが、その次の瞬間――

 

 

 

〝パリーン!!!!〟

 

黒い3つの影が会場の窓を割って乱入した

 

 

乱入した影は凄まじい速さで走り

 

その三人は〝指揮者〟に対して囲うように剣を向ける

 

「「「動くな《魔の右手》不審な真似したらお前を斬る」」」

 

舞台の終幕が下ろされようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場内は突如として現れた瓜二つの三人の剣士の登場に騒然となる。事情を知る者を除けばどう考えても三人の剣士のほうが怪しいに決まってる

 

指揮者は戸惑った風に言う

 

「な、何のつもりだ!こんなこと........」

 

「シラを切るつもりか?お前の【魔曲】については調べがついてる。編曲した楽譜を知人に調べてもらったが明らかにおかしかった。聞いただけじゃわからなかったが編曲されてる部分を事細かに調べればそこに魔術的意図がある事見破るなんて簡単だ」

 

「だから一体何を............」

 

確信しているナハトを前にとぼける指揮者。だが..........

 

「なら、その指揮棒をよこせよ」

 

「ッ!」

 

指揮者の顔はここで引き攣る

 

「別に何にもないなら調べさせてもらってもいいだろ?.........まぁ、結論を言ってしまえばその指揮棒を右手(・・)で指揮することで楽奏団を無意識に特殊な演奏法のいる【魔曲】の演奏をさせてるんだろ?」

 

この事件、そして目の前の指揮者がザイードである証拠は何よりも指揮棒の特殊さが示す。普通の指揮棒でないことは調べればすぐにわかることだ。そのため目の前の指揮者は手放すことはできないだろう

 

そも【魔曲】とは、音の高低.......つまりは音楽に変換した魔術式で他人を掌握する古代魔術(エインシャント)。しかも古代魔術(エインシャント)なら近代魔術(モダン)の感知には引っかからないため気づく術は少ない

 

「で?反論はあるか?何もないってならその指揮棒を渡してもらおうか。まぁ、渡せないのなら.......わかるだろ?」

 

「..........フッフフフ、見破ったことは褒めてあげましょう!だが!」

 

指揮者態度を激変させふてぶてしい笑みを浮かべる。まるでこの事態を読んでいたかのように

 

「貴方の大切なお姉さんがどうなってもいいんですか?私が命令すれば........」

 

ザイードにとっての手札。それはイヴの存在だ。

 

敵も馬鹿ではない。イヴそしてフレイの両者の存在は敵にとっても大きな障害だ。だからこそ彼らのつながりを調べ万が一に備えイヴの身柄を得ていたのだ

 

 

だが..............

 

「甘いな........俺がいつ分身が3人(・・)しかいないって言った?」

 

「どういう........はッ!?まさか......ッ!?」

 

「実害がなくても俺の姉さんに手を出したんだ.........お前は俺の逆鱗に触れてんだよ」

 

そう、すでにイヴはザイードの手の内にないナハトがすでに救出済みだ

今頃保護して部屋で寝ているのではないだろうか

 

そもそもナハトは初めから分身を〝5人〟用意していた

 

3人は敵の排除、1人はイヴの監視と護衛

 

 

そしてもう1人は............

 

「クッ!だがお前が取り逃がしたゼトが........「悪いがそいつならもう殺した」.......なんだとッ!?」

 

「悪いな簡単に逃がしてやるつもりは微塵もないんだわ」

 

 

そう言うナハトは5人目のナハトの記憶を思い出していた

 

 

 

----------------------------------------------------

 

 

「ゼェーーーゼェーーーー................」

 

肩で息をして森にいたのは先程の戦闘で辛くも片腕を犠牲に離脱に成功したゼトだった

 

(あと一瞬..........ほんの僅かでもずれていれば我は間違いなく―――)

 

先程の戦闘はゼトの経験上、最も死を間近に感じた激闘だった

 

万象焼き尽くす獄炎に悉くを凍り尽くす絶対零度の冷気

 

今思い返してもゼトは震え上がる何かを感じる

 

(だが、作戦通り..........確かにあの勝負を最後まで続けられなかったのは悔やまれるが)

 

ゼト自身も撤退は望んでの事じゃない。ただ作戦だからと仕方なく引き下がったまで。最も引き下がらなくては死んでいたわけだが

 

 

そんなことを考えゼトは暗い森の中を歩く

 

 

歩く

 

..............無心に

 

 

歩く

 

 

.............静かに

 

 

歩く

 

............最早目的もなく

 

 

歩く

 

 

.............ただ、光ない闇に向け足を進める

 

 

 

まるで自ら森の深淵に向かうようにただ暗闇の底へ向け歩いていく

 

 

 

 

「まぁ、いくら強い相手でもこれの前には無力だったな?」

 

固有魔術【奇術師の世界・幻月】。ナハトが誇る最強幻術

 

虚ろ気な表情で〝幻術の世界〟の深淵の先に歩いていくゼトの様子を見るのは月のアルカナを手にしたナハトだった

 

ナハトは取り逃がした瞬間万が一に備えて待機させていたもう1人の分身にゼトの捜索並びに処理をさせていたのだ。元々戦闘中に各戦場のナハトは必ず敵に対して隠密性の高い魔力発信をつけていた。それはひとえに万が一取り逃しても追えるようにと最悪を見越してのナハトの行動だった

 

そしてナハトはゼトを幻術で搦めとり

 

奴の精神を無限の闇に取り込み

 

安全確実に奴を殺した

 

 

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

ゼトを既に殺されたことを知ったザイードは呆然としていた

 

「もうお前は詰んでるんだよ..............チェック・メイトだ《魔の右手》」

 

「...............」

 

そう、ザイードの手札はもはやない。この距離でまさかナハトが魔曲を使わせることを許すはずがない。それに...............

 

「あぁ、もし逃げても狙撃されておしまいだから大人しくここでつかまるのが一番平和だと思うぜ?」

 

アルベルトがすでに会場内に入って必中距離にいる。また5人目のナハトもザイードを補足済み

 

「どうするザイード?大人しく捕まる気になったか?」

 

「.....................クソ.......」

 

そしてザイードは指揮棒を手放したことを確認するとナハトはザイードを拘束しそのままその身柄を連行した

 

こうして舞踏会の裏側で進められていた騒動は犠牲者ゼロで幕を下ろした

 

代償として社交舞踏会もまた突然ながらここで幕を下ろすことになったのだった

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------

 

 

 

学院のバルコニーに一人月を見上げる少女がいた

 

そこに一人の少年が訪れる

 

「ここにいたかルミア」

 

「ナハト君.......................」

 

そうルミアは一人月を見上げ悲しげな表情を浮かべていた

 

「ルミア本当にすまなかった。楽しみにしていた社交舞踏会を滅茶苦茶にして...............」

 

「うんうん。いいの...........だってまた私の為だったんでしょ?」

 

「..........実は違うんだ...........ルミアの為だけじゃないんだ」

 

「私の為だけじゃない?」

 

「ルミアを傷つくところをただ見たくなかった..........自分が大切だと思った人が傷つくのが見たくなかった.........そんな俺の自己満足.........なのに最後には結局ルミアの心を傷つけた。だからごめん」

 

私の隣に立ち彼はそう言った

月明かりに照らされる彼の横顔には自分を責めるような顔だった

 

「でもそれは..........私が.................」

 

ルミアは私がいるからと言いおうとした

私がいるせいで背負わせてしまった背負う必要もない責任

 

本来彼が感じなくてもいい責任を彼に背負わせたことに罪悪感を感じる

 

だが、それは言えなかった

なぜなら..............

 

 

「ルミアのせいなんかじゃない..........絶対に違う。.........それだけは言わせない」

 

ナハトはルミアを自身の胸に抱き寄せたのだ

 

力一杯ナハトは抱きしめて続ける

 

「これは俺が望んだ末の結果なんだ..........俺が勝手に背負った責任だ.......だからルミアは少しだって悪くない。」

 

「ナハト君...................」

 

 

 

今日は最後にはだれも傷つかなかった...........でも今度はわからない

 

 

だから離れないとと思った..........でも、彼の言葉が私を惑わせる

 

 

「ルミアはきっと自分を責める。..........他人や........俺が自分のしがらみで巻き込まれるのが耐えられないんだろ?.........俺も同じだった...........でも違うんだよ。いないほうがいい人間なんてこの世界にいるはずがないんだ.............だって、俺はルミアにいて欲しい。俺だけじゃない。システィーナだってリィエルだって先生だってクラスの皆だってそうだ」

 

多くの人の為、数多の外道の命を刈り取り続けた少年

 

そんな彼の言う事は偽善でしかないのかもしれない

 

それでも............いや、だからこそ命の意味を知っている

 

殺してきたものがいるから今の彼がある

 

守ってきたものがいるから今の彼がある

 

どんな命もすべてが今を生きるすべての者に還元されている

 

「だからルミア............気にするなとは言わない。でも.............もっと我儘になっていいんだ。ルミアはもっと自分の望むままにしていいんだ。何度だって言う。俺はルミアの味方だ........たとえすべてを敵にしても君を守る。それがルミアに重いと思われても..............負担になるって言われても俺は.............ルミアだから守る。ルミアじゃなきゃいけないんだ」

 

(もう.........抑えられないよ........そんな風に言われたら。もうナハト君への想い抑えきれない)

 

二人は抱き合ったままお互いを見つめあう

 

月明かりは幻想的に彼らを照らす

 

二人の瞳は様々な感情を見せる

 

でも.............

 

今二人の瞳にはお互いしか映っていない

 

お互いが、お互いをどうしようもないほど欲してる

 

 

幻想的な光が、お互いの心を溶かしていく

 

そして、生まれた熱が二人を酔わせる

 

 

ただ二人はそれに従い

 

 

そのまま二人の顔は少しずつ近づいて―――

 

 

 

 

 

「お待たせ~ナーくん!ルミアちゃん!」

「来たわよナハト、ルミア」

「ん。お待たせ」

「ったく.......何で俺だけ荷物もたされてんだよ.......クソ重いし........」

 

 

突然の来訪者達にお互い突き放し大きな声を上げて驚く

 

 

「どわぁぁぁぁ!」「きゃぁぁぁぁあ!」

 

 

「わあっ!?びっくりした~二人とも大きな声上げるから驚いたよ~」

 

「なんだよお前ら............てか、呼んだのはナハトだろ?ルミアはまだしもなんでお前が驚いてんだよ..........」

 

セラとグレンが頭の上に疑問符を浮かべそう問いかける

 

「い、いや~あれですよ..........そう!......つかれたな~って話しててリラックスしてたからつい.......だから何にもないですよ?」

 

「そ、そうなんです!な、ナハト君の言う通りでダンス・コンペ大変だったよねって話してたんですよ!ですので何にもしてませんよ?ホントですよ?」

 

必死な二人の何でもないですよアピールにより疑問を深めていた

 

「お、おう..........まぁ、ナハトの言う通りほれ会場から持ってこれるだけお菓子に飲み物持ってきてやったぞ」

 

「あっ!ありがとうございます。じゃあ早速並べましょう」

 

ナハトはグレンから預かった菓子や飲み物が入ったものを並べていく

 

「これナハト君が頼んだの?」

 

ルミアはそんな様子を見てシスティーナに問いかける

 

「えぇ、最後にルミアと踊れなかったからせめて何も考えずに楽しい思い出を作ろうってね.........まったく、ナハト達のペアが勝ったかどうかなんてわからない癖に勝った気になって.......」

 

「そう........だったんだ.......」

 

「ねぇ、ルミア。ルミアは初めて私に譲れないって.......そうやって向かい合ってくれたでしょ?」

 

「え?」

 

「私はねそれが嬉しかった..........だって貴女いつも私に一歩引いてそれで満足しちゃうもの」

 

「そんなこと.............」

 

「あるわよ.......私は貴女の家族よ?わからないわけないわ」

 

「................」

 

「ルミアは私の大切な親友で家族なの...........だから今日みたいに向かい合ってほしかったの」

 

「システィ...........」

 

「で~も...........私が譲れないものができた時..........それがルミアと同じだった時はまたこうして真剣に勝負しましょ?向かい合って欲しいって言ったけど負けてあげるつもりはないわ!私が絶対勝つんだから覚悟しなさいルミア!」

 

(ナハト君の言う通りだ........私も我が儘言っていいんだね.....我が儘でいいんだね)

 

システィーナの笑顔とナハトのさっきまでの言葉を思い出して救われた気がした

 

今でも私はいるべきなんじゃないかと思う

 

私の存在がいつか皆に災厄をもたらす

 

だから多分消えることはないだろう

 

でも..............

 

 

 

「ふふ.......それってナハト君の事?それなら私もシスティに絶対負けられないね?」

 

「なッ!?////////ど、どうしてそこでナハトが出てくるのよ!?/////////」

 

「ふふ、なんでだろうね?」

 

 

今はまだ..........ここにいたい

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナハトが暗闇の中一人帰路についていた

 

ナハトの企画したちょっとした宴会みたいなものはルミアも皆も笑顔で楽しんでいたから成功と言えるだろう。

 

(今回の5人分身...........かなりしんどかったな.........)

 

分身の維持にそれぞれの戦闘の魔力供給と尋常じゃないことをしてのけたナハトの疲労度はすさまじい

 

だが...............

 

 

(この程度じゃだめだ...........この程度じゃ魔人に勝てない)

 

ナハトはこの戦力では満足しなかった

 

ナハトが求めるのはあの遺跡調査でナハト達を苦しめた魔人と単騎で渡り合える力

 

単騎で渡り合い打倒し得る力が必要だ

 

 

 

 

 

 

だが、それよりも...............

 

 

(俺...........ルミアに何しようとしてたんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!)

 

ナハトの頭には強くなることそして月明かりの下ルミアと抱き合いそして―――

 

「ばかばかばかばかばか!俺の馬鹿野郎!何考えてんの?死ぬの?」

 

ナハトは突然声を上げると、蹲ったり、頭を抱えたりと言った奇行をする

 

 

 

 

「はぁ.......はぁ.......はぁ...........」

 

 

暫くため込んだものを開放すると肩で息をしながら落ち着きを取り戻した

 

 

(もう認めるしかないよな..............)

 

 

そう、今までルミアを守ってきたのは大切だから

 

 

ルミアだから守ってきた

 

 

それはなぜか?

 

 

友情か?

 

 

それとも同情か?約束だからか?

 

 

多分どれも〝正しかった〟

 

 

 

でも、もうそれは適切ではない

 

 

 

 

 

 

そう、ナハトは..............

 

 

 

 

(ルミアが好きだ..........だから守りたい............だから隣にいたい)

 

 

 

一人の女性としてルミアを愛してるから

 

 

だから守りたくて、離れたくなくて..........彼女の笑顔を見たい

 

 

 

だから強くなりたい。彼女に幸せになって欲しいから

 

 

 

 

 

 

 

(にしてもまぁ..........自覚したら今までの行動全部が恥ずかしくてたまんねぇ..........俺やっぱ馬鹿じゃない?)

 

 

 

 

 

2人の両片想いは、まだまだ前途多難だ.............

 

 

 

 




これで社交舞踏会編終了です。ナハトが先に気づかせたせいでナハトの無双によりあっさりとザイードに何一つ見せ場なく終わってしまいました。ですがその分ナハトのルミアに対する想いについて書きました。ナハトがついにルミアに対しての想いを自覚してこれからどうなるのか?今後の二人を楽しみにしていただけると嬉しいです


それでは今回もまたここまで読んでくださりありがとうございました!そして、お気に入り登録、コメント、評価をしてくださりありがとうございます!


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幕間の物語3 バレンタイン
彼と彼女達の恋路


 

 

 

 

 

「ねぇ、ナハト君呼び出してどうしたの?」

 

「そうよナハト。大切な話って何なのよ?」

 

校舎裏、ナハトは二人の女子生徒を呼び出した

 

みなまで言わずともお分かりだと思うがルミアとシスティーナだった

 

「あぁ、非常に大切な話だ...........それは............」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セラねぇとグレン先生のバレンタイン計画についてだ!」

 

この男、遂にしびれを切らして行動を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

話は数日前にさかのぼる

 

 

 

「ナーくん聞いてよ~またグレン君がね!~~~」

 

(まただよ............セラねぇの愚痴兼惚気話.........)

 

 

彼女が学院講師になってから彼女の家は先生の住むアルフォネア邸に程近いのだ

 

その為、朝は先生を起こし、夕食はセラねぇが作るというものがお約束のようになってきているようだった。別にそれ自体はいいことであるし問題はないのだが、その度に先生が何かやらかしセラねぇの愚痴から始まり「そう言うとこは、私がどうにかしてあげないとね!」と惚気につながる

 

確かに聞いてる分に少々の気恥ずかしさを感じるだけと言ってしまえばそれまでだが問題はグレン先生だ

 

 

 

 

「おいナハト!聞いてくれよ白犬がな~~~」

 

(はいはい...........多分もうセラねぇから聞いた話なんだろうなぁ......)

 

グレン先生も同じく自分の考えと少しずれたことがあると逐一俺に報告してくるのだ。いくら俺がセラねぇと仲いいからって俺に言う必要があるものなのか...........

 

だが、それだけならまだよかったのだ。問題は........

 

「あっ、そうだお前!ルミアとはどうなんだよ?それか白猫か?いいね~もてる男は?そんで最近はなんかねぇのか?ん?言ってみ言ってみ?」

 

愚痴から揶揄うまでがワンセット。実に腹立たしい.........ちょっと前までなら俺も耐えれた。..........まぁ、先生に超が3つくらいつく見た目は美味しそうな激辛弁当を1週間渡し続ける位のちょっとした意趣返しはしたりしたが耐えた。うん、俺我慢したえらい。

 

問題は最近だ.............

 

「おいおい~最近あからさまにルミア意識してるなお前?あれか!惚れたか?惚れたんだな!いや~いいねぇ面白くなってきたぜ!告白はまだか?告るなら俺も呼べよ?おい、聞いてるかナハト?」

 

この男自分に対する好意に鈍感なくせして他人の好意には鋭い。(*お前もな!)自分が悪いのかもしれないが腹立たしいことこの上ない。極めつけはなぜ........その、ルミアへのこここここ、告白にアンタを呼ばなきゃならん!////.........オホン!とにかく我慢の限界だ。

 

 

 

だからいい機会と言うことでセラねぇには悪いがバレンタイン関係でゆするネタを数個は確保していじり倒してやる!あとはいい加減付き合ってください!どうぞ末永く幸せになりやがれコンチクショウ!!

 

 

(あぁ、でも付き合えば二人の惚気にもっと付き合わないといけないのかな...........)

 

 

 

 

 

とまぁ、一部隠してその事を二人に伝えた

 

 

 

 

「あははは...........それはナハト君の気持ちもわかるかな?」

 

「そ、そうね.............同情するわナハト」

 

「いやまぁ.........二人とも俺にとって大切な義姉と義兄みたいなものだから聞いてて嬉しくないわけじゃないんだけど...........同じ話聞かされるのはお腹いっぱいだし、グレン先生の揶揄いがいい加減ウザい」

 

そう別に聞かされるのが嫌とは言わない。だが、先生アンタはやり過ぎた

 

「というわけで生憎俺はこういうものに疎いのでアドバイスをいただきたく思いまして...........お願いだ二人とも!ささやかな俺の反撃に協力してほしい!あわよくば二人に幸せになってもらい、先生だけいじり倒して悶えさせたい!」

 

「あははは...........どうするシスティ?私は協力してもいいかなって思うけど」

 

「う~ん...........そうね、良いわよナハト協力するわ!」

 

「ありがとう二人とも!よろしく頼む!」

 

こうして3人によるバレンタイン逆襲作戦が決行されることが決まったのだった

 

 

 

 

「ねぇ、ナハト君。なんでリィエルを呼ばなかったの?」

 

「作戦漏洩の危険性が.........」

 

「あ~....................」

 

(ごめんリィエル!苺タルト今度買ってあげるから!)

 

その頃..........

 

「........?なんだか今誰か苺タルトを買ってくれる人ができた気がする」

 

リィエルは直感で誰かが苺タルトを買ってくれる者の存在を察知するのだった

 

 

 

 

 

 

作戦決行が決まったわけだったのだが.........

 

「それでナハト。貴方はどうするつもりなのかしら?」

 

「............................」フイッ

 

ナハトは黙って顔を背ける

 

「あははは........何も考えてないんだね?」

 

「ぶっちゃけあの鈍感をどうやったら照れさせられるか皆目見当がつかないんだよな~」

 

(ナハト君もだけど...........)

(ナハトもよ.............)

 

ルミアとシスティーナの二人は内心お前もだとジト目でナハトを見る

 

「どうしたんだ二人とも?」

 

「あはは..........何でもないよ?」

 

「貴方も大概グレン先生に似てるわよね..........」

 

「え?俺システィーナにろくでなしと思われてた!?結構ショックなんだけど...........」

 

(あはは.....そう言うとこだよ?ナハト君)

 

そう、多少なりセラの好意に気づいてもらわねばどうしようもない。だが、グレンは鈍感だ。唐変木だ。(ナハトも)そのためどうすればいいのか全く思いつかなかった

 

「でもこれってセラ先生にも言わないと難しいんじゃない?」

 

「そこなんだよな~ぶっちゃけ先生はいいとしてセラねぇには迷惑かけたくないし.........」

 

「相当イライラが溜まってるのね...........」

 

「最初は俺が固有魔術(幻月)をちょっと改変させてお互い想ってることがわかるようにしようかな~って思ったけど流石にやり過ぎだしね」

 

「それはそうよ......でも、片方だけ......先生の方だけ筒抜けにすればいいんじゃないかしら?」

 

システィーナは両方だから問題があるのではと提案するが...........

 

「まぁ、セラねぇは論外としてもそれもヤバいんだよなぁ~だって考えてみ?先生の思考なんて筒抜けにしたら修羅場だぜ?」

 

あの人は非常時以外ロクでなしだ。そんな人の思考を筒抜けにしたら万が一があるため恐ろしくてできやしない

 

「否定できないとこが辛いね..........でもどうしよっか?」

 

3人を悩ますは主にグレンの存在だ。鈍感だけでなくろくでなしと来てるから質が悪い。打つ手がかなり限られてくるから本当に大変だ

 

暫く、考えをまとめるために3人の間に沈黙が流れる

 

その沈黙を破ったのはルミアだった

 

 

 

「やっぱり場の雰囲気を演出するしかないんじゃないかな?」

 

「と言ううと?」

 

「ナハト君がクリスマスの時に見せてくれた魔術で不自然に思われない程度に演出するのはどうかな?」

 

「確かに..........それしかないな.........幾つかバリエーションはあるし不可能ではないか」

 

「そうね........それくらいしかないわよね。セラ先生に言わなくてもいいかしら?」

 

「ん~そこが本気で悩みどこなんだよなぁ.......セラねぇなら間違いなくチョコは作るし渡すまではするのは確実だと思うけどお互いちょっと事情があるから踏み込まない気がするんだよね.........」

 

そう、ネックになるのは一年前の事件。グレンにしろセラにしろお互いに一歩進んだ関係になるのに躊躇いがあるのだ。もっとも両想いなのは確実ではあるのだが...........

 

「事情?」

 

ルミアとシスティーナはこの件について深くは知らない。だからこその疑問だろう

 

「あ~この件は少し先生達のデリケートな問題だから俺が言っていいものじゃないと思うんだ。すまない」

 

それだけ言うとある程度の事の悲惨さは察したのか二人はこれ以上聞かなくなった

 

「さて、お互いが踏み込みにくいとなるとルミアの言う通り雰囲気だよな~人って案外そう言うのに流されやすいし」

 

例えばあの月明かりの夜だって俺とルミアが...............

 

「.......///////あくまで一般論!一般論だからな!俺の経験論じゃなくてな!?」

 

「ど、どうしたのよナハト?顔を赤くして必死に..........ねぇ、ルミア?」

 

「えっ/////う、うん何でもないよ?ナハト君の言う通り一般論だよね!/////////」

 

(なんでこの二人は動揺してるのかしら?)

 

この二人あの夜のことを思い出して隠そうと必死だ。ナハトに至ってはもうボロが出ているような始末

 

「そ、それより具体的にはどんな風に雰囲気を演出するかだ」

 

「そうね.........明らかに作為的だと問題だし難しいわよね........」

 

「ねぇ、ナハト君。ここまで考えてきたけど渡す場所と時間はわかってるの?」

 

「そこなんだよな............結局それがわからないとどうしようもないんだよな~知りようはいくらでもあるけどぶっちゃけほぼその手段全部犯罪じみた方法だし.........セラねぇに聞くしかないかな~」

 

魔術を使えば盗聴は容易くできるしナハトなら幻術で思考の読み取りや記憶の読み取りも可能だ。だが、普通にそれらを行うのは良心が痛む。

 

3人が頭を悩ませてると.................

 

 

「私がどうしたのナーくん?」

 

「いや、セラねぇが.........って、セラねぇ!?」

 

「探したよナーくん........ってどうしたのそんな驚いて?」

 

校舎裏に来たのは丁度話していた本人であるセラだった

 

「い、いや何でもないけど..........セラねぇはどうしてここに?」

 

「ナーくんこそルミアちゃん達連れ込んで何してるの?お姉ちゃんもしかしてお邪魔だったかな?」

 

悪戯ぽっく笑うセラねぇにどうしたものかと考えるナハト

 

(どうする?もうここで聞いちゃうか?別に聞いても変に疑われることはないと思うし......問題はないはず、だよな?)

 

刹那の間に思考を巡らせナハトは最善と思われる道筋を立てる

 

「大したことは話してないよセラねぇ。ただ、ちょっと二人に相談してたんだ」

 

「そうなの?どんな事相談してたのかな?お姉ちゃんも聞くよ?」

 

「じゃあセラねぇにも聞きたいんだけど、もうすぐバレンタインだよね?」

 

「うん、今年もナーくんにグレン君、後はクラスの男の子たちにも渡そうかな~って思ってるよ。それがどうしたのかな?」

 

(これでまずわかってはいたけどグレン先生に対して贈ることが確実になった。次は........)

 

「最近本で読んだけどバレンタインって男性から女性に物を贈ることもあるって知ってさ。イヴ姉さんに何か贈ろうかな~って思って二人に相談してたんだ。セラねぇだったら.........そうだねグレン先生にどんなふうに送られると嬉しいかな?さっきシスティーナに俺が先生に似てるって言われたから参考にしたくて」

 

ナハトはこの際もうセラからグレンの形にこだわらず逆もありなのではと言う考えに至る。それならば容易に聞き出せると判断した

 

「あはははナーくんとグレン君ってそんなに似てるかな~ふふふ、でも変に意地っ張りなとことかすぐ無茶するのは似てるかも............う~ん、そうだね.......私はどんな形であれグレン君からだったら嬉しいかな?イヴもきっとナーくんからの贈り物なら何でも嬉しいと思うよ?」

 

(クッ............分かっていたがセラねぇはこうもっと何かないのか....)

 

「そっか...........でもセラねぇ何か欲しいものとかないの?」

 

「ん~特にこれと言ったものはないかな.........あっ、でもしいて言えばこの間ナーくんと出かけた時に見た髪飾りなんて可愛くてよかったな~」

 

数日前偶然町で出会わした時、暇だからと言う理由で付き合った買い物の事だろう

 

「この間見たやつね..........確かにいい感じだったね。うん、イヴ姉さんにも髪飾りにしようかな.....ありがとうセラねぇ参考になったよ」

 

「ふふ、どういたしまして。それじゃあ私の用も聞いてもらっていいかな?」

 

「うん、いいけどどうしたのセラねぇ?」

 

「実は私もバレンタインの事で聞きたくてね?グレン君が喜ぶ渡し方でどんな方法があるかな~って」

 

恥ずかしそうにはにかむセラを見てナハトはまさかここで最初の予定のセラからグレンの形も可能ではないかと考え始める

 

「(これは.......)そうだね~まずセラねぇはどうするつもりだったの?」

 

「えっと、ほら最近私グレン君に晩御飯作ってあげてるよね?だから夕食後に渡そうかな~って思ってたんだけどそれだけでいいのかな~って」

 

(家で渡すのか........そうなるとこちらの介入は難しいな。一応聞いてみるか)

 

「なら外の景色のいいところで渡すとかは?二人で出かけて食事でも楽しんで帰り際とかに渡せばいいんじゃないかな?ムードも出ると思うし」

 

「そ、それじゃあなんか告白するみたいじゃんナーくん!///////」

 

もっともそれはナハトも狙っての事ではあるが.......

 

(家まで入り込んで通い妻状態の人のセリフじゃないでしょ..........)

 

告白するよりもある意味ずっと難しいことを平然とやってのけてるのではとナハトは心の中で突っ込む

 

「でもセラねぇは俺に聞いてきたってことは少なからずそう言う想いはあるってことじゃないの?」

 

「そ、それは...........//////」

 

もじもじと照れながら悩むセラに対して三人は.............

 

 

 

 

 

(ナハト君これって........)

 

(あぁ、チャンスだ。どうにか踏み出させるぞ)

 

(そうね........どうしようかしら?)

 

 

 

三人はコソコソと話し合い方針を決めようと話し合う

 

そうしてると考えを先にまとめたのはセラだった

 

「.......ナーくんの言う通りだと......思う。ナーくんが私やグレン君に対して申し訳なく思ってるように私も二人に心配をかけて申し訳なく思ってる。でも.........いい加減に前に進まないといけないと思うの!」

 

「............そっか」

 

ナハトはセラがあの時のことを踏まえてそれでも前に進もうとする決意に胸を打たれる。ナハト自身セラやグレンに対して抱いてる心配や責任はきっと消えはしない。だからこそ当初の作戦云々なしに手伝いたいと思った

 

「ならなおさらデートに誘って告るべきなんじゃない?」

 

「ここここ、告る//////..........で、でも~」

 

「だってグレン先生だよ?直接的に言わなかったら絶対セラねぇの想い伝わらないよ?」

 

(ナハト君もね..........)

(ナハトもよ.............)

(ナーくんもだよね?隣にいる二人からの好意まったく気づいてないじゃん)

 

「あ、あれ?俺間違ったこと言ったかな?なんでみんな残念な人を見るような目で俺を見るの!?」

 

ナハトは自分を見る目が何か呆れられているように感じ心当たりがないため困惑していた

 

「.............ともかくセラ先生。ナハトの言う事は間違ってないと思います。〝彼も〟そうですが直接的に言わないとどうしようもないと思います」

 

「はい..........〝彼も〟ですけど先生も特に鈍感ですから。セラ先生から行くしかないんじゃないですか?」

 

「?????(〝彼〟って誰?てかなんで俺呆れられてるの?)」

 

「そうだね..........グレン君の鈍感さが弟君にも似ちゃってごめんね?」

 

「弟君って..........俺!?俺別に鈍感じゃないでしょ?グレン先生よりちゃんと人の機微には聡いって...........あ、あれ?なんでそんな呆れを通り越して哀れんだような目で見るの.............ほ、ほらセラねぇ俺よく敵の癖見抜くの得意だって知ってるよね?あっ、顔背けないで!」

 

ナハトが聡い人の機微は戦闘に直結する物や悪意などであってグレン同様に好意に鈍いことに自覚がない。特に異性からのものは顕著だ。そのため学院ではナハトの性格や容姿から後輩女子を中心としてモテるものの彼女の抱いてる感情の本質と言うものを全く理解していない

 

「なんなんだよ~............もういいや、それよりセラねぇの事だよ。結局どうするの?」

 

ナハトは無理やり話しの話題を戻しセラに問いかける

 

「そうだね..........セリカさんの家で渡すと毎年のことで流されそうだしナーくんの言う通りにしようかな」

 

「それがいいと思うよ。そうだ!俺セラねぇ達にピッタリな言い店知ってるよ。そこの店は.............」

 

 

ナハトはそれからおすすめのお店........と言うのもクリスマスにルミアと共に行った店のことを紹介し、その後にチョコを渡すのにちょうどいい景観の場所を伝えるとそこを使うと言って感謝の言葉を言ってセラは立ち去って行った

 

 

 

 

 

「よし、これで場所とタイミングは問題なくなった...........と言いたいところだけどやっぱりこのことはなかったことにしてもいいかな?」

 

ナハトは結局この作戦話にしようと提案する

 

「やっぱり下世話と言うかセラねぇに申し訳ないしね。揶揄うとしても後日の反応見てからにしようと思うんだ」

 

「揶揄うのは確定なんだね............ふふふ、でもそうだね。確かにあんなに真剣なのに水を差すのも悪いしね」

 

「そうね、グレン先生はともかくセラ先生があそこまで真剣だと申し訳ないわよね」

 

こうして三人は純粋なセラの決意を知り当日は二人にノータッチと言うことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ナハトに感謝の言葉を受けて別れた二人は..........

 

「でもよかったわねルミア。これで気兼ねなく貴方もバレンタインを楽しめるんじゃないかしら?」

 

元々当然ではあるがルミアもバレンタインのための準備を進めていた。だがそれは........

 

「ふふふ、でもそう言うシスティだって凄く真剣にチョコの練習してるの知ってるんだからね?」

 

「なっ/////////貴女だってしてるじゃない!だ、だから私だってしてもおかしくないでしょ!//////」

 

「そうだね。当日頑張ろうね!お互いに?」

 

(最近のルミア大分したたかになった気がするわ.................)

 

 

 

こうして、彼女たちのバレンタインが始まるのであった

 

 

 

 





今回はせっかくなのでバレンタイン関連の話にしました。本当は当日に出そうと思ってたのですがバイトが大変だったのと中々いい感じのシナリオが思いつかなかったので時間がかかってしまいました。今回だけでは長くなると思ったので次回までバレンタイン変を書いてから八巻の内容に進めたいと思います。

そして今回のメインカップルはナハト達ではなくグレンとセラです。グレンとセラと言うペアの話が見たいという声や自分自身セラがかなり好きなのもありどこまで二人の関係性が進ませるかはまだ少し悩んでますが楽しみにしてもらえると幸いです。

また今回もここまで読んでくださりありがとうございます。コメント、お気に入り登録、評価をしてくださり本当にありがとうございます。


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バレンタイン当日..........だが、やはり彼らは鈍感だ

 

 

バレンタイン当日

 

今日も今日とてナハトはルミア達と学院へ向かう

 

「けっ!町中が甘い雰囲気になりやがって.............」

 

そう愚痴をこぼしたのはグレン先生だった。グレン先生の言う通り確かに今日はいつもより男女カップルが多くいるうえちょっとした露店でもチョコが売られている

 

「みっともないですよ先生。貴方は学院の講師としての自覚を.............」

 

そんな様子にシスティーナはいつも通り説教をし始めようとしていた

 

「知るか!ただこう見せびらかすようにして馬鹿らしいって話だろうが」

 

「先生もしかして嫉妬ですか?」

 

ナハトは揶揄う様にそんなグレンにツッコミを入れる

 

「ち、ちげーし!俺嫉妬なんてしてねーし!リア充滅べばいいなんて思ってなんてねーし!」

 

((思ってるんだな.............))

 

その場にいた皆の心が一致した瞬間だった

 

「ねぇ、どうしてチョコがこんなに売られてるの?」

 

するとバレンタインをよくわかっていないリィエルがあたりの露店を見回し質問する

 

「今日はね大切な人にチョコと想いを贈る日なんだよ?だからチョコがこうしていっぱい売られているんだよ」

 

ルミアがざっくりとしたバレンタインの説明をするとリィエルは............

 

「大切...........わかった。ありがとうルミア。グレン、ちょっと待ってて」

 

それだけ言うとすぐにリィエルは露店の方に走っていく

 

「なんだアイツ急に?」

 

「...........分からないんですか?マジですか?」

 

「あん?どういう意味だよ?」

 

「いえ..........ホント鈍感な人だな~と思いまして」

 

このタイミングでのリィエルの行動なんてすぐにわかるようなものだというのにこの様子にナハトは心底鈍感な人だと呆れていると..................

 

「............貴方それブーメランよ?」

「...........人のこと言えるかなナハト君?」

「...........ナーくんも偉そうなこと言えないよ?」

 

「え?なんで!?てか俺は............」

 

ルミア達からすればそんなものグレンもナハトもどっちも同じようなもので自覚ないナハトにも呆れていた。ナハトが弁明しようとしていると..........

 

「グレンこれ」

 

「ん?これはチョコか」

 

リィエルが買ってきたチョコをグレン先生に差し出していた

 

「私はグレンが大切。だから受け取って欲しい」

 

「お、おう。ありがとうな、リィエル」

 

「ん.....」

 

グレン先生は一瞬驚いた表情を浮かべるとすぐに優しい笑みを浮かべ、リィエルの頭をやさしく撫でる。リィエルも僅かにではあるが気持ちよさそうに表情に満足げな様子を見せる

 

そんな様子を見ているナハト達は微笑ましいものを見るように歩いて学院へ向かった

 

 

------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「「「ナハト先輩!!」」」

 

学院についてすぐ、後輩の女子生徒らが待ち構えており全員が一斉にナハトを呼ぶため周りの視線が集まる

 

「お、おう...............どうしたんだこんな大人数?」

 

ナハトは周りの視線に辟易しながらも彼女らの数の多さに驚いていた

 

「え、えっと.........そのバレンタインのチョコです!/////////丹精込めて作ったので受け取ってください!////////」

 

「わ、私も真心こめて.......作ったので.........ど、どうぞ!///////」

 

「「「わ、私も!/////////」」」

 

後輩たちはこぞってナハトの下に集まって我先にとチョコを差し出していく

 

「わ、わかった!押さないでちゃんと並んで。ちゃんと貰うから、な?」

 

ナハトは笑顔でそう伝えると............

 

「「「は、はい........///////」」」

 

そのさわやかな笑みにやられた後輩女子たちは顔を赤くして大人しくなる。ナハトの質が悪いところはこういう無自覚なことをするからだろう

 

ナハトがすべてのチョコを一人一人丁寧に受け取っていると当然数が数なだけに目につくため学院の男子たちの目が痛かった

 

「クッソ!またアイツか..........」

「ルミアちゃんにシスティーナちゃん..........挙句はあのセラ先生も仲がいい」

「しかも二人に関しては完全に.............」

 

そんな男子どもが思うことは1つ――

 

「「「リア充死すべき!慈悲はない!!」」」

 

そんな男子たちと裏側、彼に想い寄せる彼女らは.......

 

「.........何よ、優しく笑いかけて.......ふん!」

 

「あれ?システィもしかして妬いてるの?」

 

「なッ!?///////や、妬いてなんか......って、なんでそうなるのよ!/////」

 

システィーナは不機嫌そうにそんなナハトの様子を見ているとルミアに揶揄われる

 

「そ、そういうルミアこそ...........面白くないんじゃないの?」

 

システィーナはお返しとばかりにルミアにそう問いかけるが...........

 

「なんで?だってナハト君別に彼女たちの事そう言う目で見てないよ?」

 

「え.......?」

 

「多分ナハト君からしたら彼女たちは唯の後輩か妹くらいにしか考えてないんじゃないかな?」

 

実際ルミアの予想は的を射ているのだ。ナハトからすれば偶々助けた彼女たちにお礼をされているくらいにしか思ってない為、彼女たちを恋愛対象の異性だとかは考えていないのだ。

 

「る、ルミア...........どうしてわかるのよ?」

 

その質問に...........

 

「だってナハト君の事だよ?わからないわけないよ」

 

そう笑う彼女は完全に女として勝てないと改めて思い知ったとシスティーナは語った

 

 

 

 

 

そんなやり取りを終えて教室内に入ると...........

 

「よう!ナハト.............って、お前その両手の袋はまさかッ...........」

 

ナハトに真っ先に声をかけてきたのはカッシュだったのだがそのカッシュはナハトが両手に持った袋を見て硬直する

 

「おはようカッシュ........ってどうしたんだ?そんな固まって」

 

「クッ..........わかっていたナハトがモテるなんてわかっていたさ!だが、悲しいぞ俺は!!」

 

「?俺がモテる?ないだろ~これ、大半が重いものを持ってるとことかを助けたりとかした子からだからお礼のつもりなんだと思うぞ。あと、カッシュ。そう言う邪推は彼女たちに悪いだろ?」

 

(((だからそれがモテてるってんだよ!!!)))

 

クラスの男子たちはお前真面目に言っているのかとナハトの正気を疑うものだった

 

だが、同時にだからこそこうモテるのだと言いようのない敗北感をかみしめる

 

「........お、おう。だが、ナハトよ..........お前それ全部食えんのか?」

 

「そこなんだよな~こんなに貰うのは初めてだしこの量じゃ全部食いきるのは何日かかりそうだよな」

 

「なら放課は毎時間チョコを食わねぇとな」

 

「............いや、家で食べるよ」

 

「そうなのか?まぁ、何にせよ俺もバレンタインのチョコ貰いたいぜ」

 

ナハトが放課中に食べない理由それは朝の登校中でのルミアとシスティーナとの会話にある

 

 

******

 

 

『ねぇ、ナハト君今日の事なんだけどいいかな?』

 

ルミアからのそんな切り出しに対してどうしたのか問いかけると

 

『多分ナハト君チョコ貰えると思うんだけどね、できればそれを食べるのは待って欲しいの』

 

『貰えるかどうかはわからないけど待つというとどのくらい?』

 

『それは私たちが言いていうまでよナハト』

 

そう言ってきたのはシスティーナだった

 

『それは別にいいけどなんでまた?』

 

『ふふふ、なんでだと思う?』

 

ルミアが余裕の笑みでナハトに問いかける

 

『何でって....................何で?』

 

ナハトは考えこんではみたが全く見当がつかず質問で返していた

 

『それは.........秘密だよナハト君!』

 

 

********

 

 

とルミアはナハトが見惚れるほどの笑顔でそう言った。ナハトも秘密なのであれば気にはなるがそれ以上は追及はせずに彼女たちの頼みと言うことで聞くことにした

 

勿論察しのいいものならばすぐにわかると思うが彼女たちは自分たちのチョコを最初に食べて欲しい.........ナハトの一番が欲しいという彼女たちの想いからなのだがナハトにはわかるわけもなかった

 

 

「よかったなカッシュ。それならすぐにかなうと思うぜ?」

 

ナハトはカッシュのチョコが欲しいという望みを叶うことを知っていた。何故なら..........

 

「お~い、お前ら席につけHR始めるぞ~」

 

そう言ってグレンが入ってくると後ろから........

 

「みんな~おはよう!」

 

そう言っていつも通り明るいセラねぇが後ろから袋を持って入ってきた

 

「さて、HR前にみんなにバレンタインチョコだよ!」

 

そうセラねぇが宣言した瞬間だった

 

「「「「お............おっしゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

クラスの男子たちの大きな声が教室内に響く。女子たちの目は男子の熱気とは真逆で冷めた目で見ていたがそれは関係ないというように男子は喜び狂っていた。

 

「ふふふ、みんな嬉しそうで私も嬉しいな~」

 

セラねぇはそれを微笑ましく見ていると「ひとり一個ね~」と言い配り始めていた。女子達ももらえておりセラねぇに感謝していた。男子の一部に至っては涙まで流してる始末

 

「はい、ナーくんもだよ。いつもお姉ちゃんを支えてくれてありがとう」

 

そう言ってセラねぇはまた頭を撫でてくる。やはりクラスメイトの前でやられるの恥ずかしい

 

「ど、どういたしましてセラねぇ」

 

一騒ぎの後グレン先生の口から連絡事項などについて教えられた後各々授業の準備をしていると.........

 

 

「ねぇ、グレン君ちょっといいかな?」

 

セラがグレンに話しかけていた

 

「あん?どうした白犬」

 

いつも通りグレンがそう聞き返すとセラはちらりと周りを見て見られてないことを確認すると..........

 

「夕食は外で......ふ、二人きり(・・)で食べよ?」

 

セラはグレンにぴったりくっつくと上目づかいで耳元で恥ずかしそうに伝えるだけ伝えると「わ、私授業の準備しないと!/////」と言い、すぐに離れて教室を出ていった

 

そして言われたグレンはと言うと..............

 

「..............」ボケー

 

何ともいえない表情で黙って突っ立ていた

 

 

----------------------------------------------------

 

 

 

なんやかんやでバレンタインと言えど通常の一日が過ぎる

 

リィエルがなんか壊したでグレン先生の財布が寂しくなったと

また聞いたりしたがこれもいつも通り...........

あの人そろそろ学院にお金を貰ってるんじゃなくて払ってるんじゃないか?

 

そんないつも通りの時間が過ぎ下校時刻になった

 

「ナハト君一緒に帰ろ?」

 

ナハトが帰る支度をしているとルミアがそう声を掛けてきた。後ろにはシスティーナがいるが少し様子がおかしかった

 

「それはいいけど.........どうしたんだシスティーナ?」

 

「ふぇっ!?な、何でもないわよ!/////気のせいじゃないかしら!/////////」

 

「お、おう..........分かったからそんな慌てるなって」

 

システィーナが突如取り乱すのでどういうことだと不思議だった

 

「ふふふ、行こう?ナハト君!」

 

そんな感じで三人が出ていくのを見ていたクラスメイトは...............

 

「アイツ等やっぱ仲いいよな..............」

「だよな.........しかもシスティーナに至ってはあの取り乱しよう」

「それに加えルミアちゃんの余裕ぶり........まるで正妻の振舞だぞあれ?」

 

そんな三人のいつも通りと言えばいつも通りだがこの後バレンタインと言う日にどのような時間が過ごすのかクラスメイト達は興味が煽られるが................

 

(((後でもつけたらナハトにばれそうだしなぁ............)))

 

ナハトの察知能力と言うべきそれは凄まじいことはクラスメイト周知の事。その上、下手に手を出せばしっぺ返しを食らいかねない。

 

そのため三人にノータッチなのが二組のスタイルだった

 

 

-----------------------------------------------------

 

 

 

そんなナハト達は今日は三人での下校だった

 

最近はグレン、セラ、リィエルも加わり大所帯で帰ることが多かった。

 

「ねぇ、ナハト君。公園よってこ?」

 

「ん?別に行けど何かあるのか?」

 

「貴方今日が何の日か忘れてないかしら.........」

 

そんなシスティーナの言葉に何の日も何もバレンタインだろと考えていた

 

(もしかしてチョコでもくれるのかな?だったら楽しみだな............)

 

そんなことを考えてそれなりの広さのある公園内に入っていった

 

公園内は意外にも人は少なく散歩に来ている御老人や遊びに来てた子供たちが帰ろうとしていた

 

そんな公園内は静けさもあり空を赤く染める夕暮れが映えていい雰囲気だった

 

ナハト達もそんな雰囲気を楽しみながら他愛ないい会話をしながら歩いていくと一本の大樹の下に来た

 

「さて、ナハト君。流石にどうしてここに来たくらいはわかるよね?」

 

「多分だけど.........バレンタインだよな?」

 

これで違ったら黒歴史もんだなとナハトは考えていた

 

「ふふふ、なんでそんなに不安そうなのかな?そうだよ。バレンタインだからだよナハト君」

 

「そ、そうよナハト!私とルミアが悪戯でこんなことしないわよ」

 

ルミアとシスティーナがそう言ってもらえて少しほっとしているとルミア達はそれぞれチョコを取り出す

 

「はい!ナハト君!いつもいつもありがとう!沢山練習したけど不器用だからシスティみたいにはできなかったけど..............私の想いを一杯込めたから喜んでもらえるといいな」

 

「は、はい!////その........ナハトにはいつも世話になったわね。朝練とか事件のときとか本当に........だから........その、私の感謝とナハトへの.........お、想いを込めたからありがたく食べなさいよね!///////」

 

ルミアのはハート形の箱を可愛らしくラッピングされていてシスティーナのものは縦長のシンプルな箱にシスティーナらしく綺麗に整ったラッピングがされていた。

 

ルミアは少し出来は不安だといったがルミアだからこそ相当練習したんだろうことがわかる。現に彼女の手には目立った傷こそ魔術で治癒させようだがほんの少し傷跡が残ってる。きっとギリギリまで頑張ってくれたんだろう。

 

システィーナは恥ずかしいのかつんけんした感じの態度だが最近の朝練の時少し眠たげな表情を見せていたので真面目な彼女の事だから料理が得意な彼女もまたルミアのように練習を重ねてくれたのだろう。

 

そんな二人のチョコを貰えることの嬉しさをかみしめながら................

 

「ありがとうルミア、システィーナ。本当に嬉しいよ。大切に味わって食べるよ」

 

そんなナハトの心からの笑みに2人も笑顔を浮かべる

 

「「どういたしまして!ナハト(君)!」」

 

2人はそう言うとナハトに今から食べて欲しいと言ったので食べさせてもらった

 

味は勿論............

 

「美味しいよ二人とも..........本当に美味しい。二人の気持ちが籠った温かい..........じゃないな......甘いチョコレートだよ」

 

セラねぇと姉さんには悪いけど今まで食べた中でも一番美味しくてもらえて嬉しいバレンタインのチョコだった

 

 

-------------------------------------------------------

 

 

ルミア達と別のところでまた彼女もバレンタインをしていた

 

「おい..............白犬マジでここはいるのか?」

 

「えっと........そう、なんだけど..............」

 

ナハトに進められた料亭に来ていたのだが、それがかなり外見の雅さからして高級料亭にしか見えないのだ

 

(ナーくんこんなとこにクリスマスに入ったの!?本気ィ~!?)

 

ナハトはアルベルトの下潜入調査のための料理や演技多岐にわたる技術習得の際に実際にその技術に触れることを重きを置いて二人で様々な場面を巡ったため高級料亭なんぞ腐るほど見ていた。そのためこのお店は一般にはお高めであるものの帝都の高級料亭に比べれば価格は高すぎるということはない。そしてルミアもまた元・王族の為この程度じゃ驚きもないためいいお店だ程度にしてみてなかった。

 

その結果がこれだ。ナハト達はどちらかと言えば富裕層によった庶民派だが、完全無欠な庶民派である二人はお店を前に大丈夫なのかと不安で仕方がなかった

 

「もう予約もしてあるし...........行こうグレン君!」

 

「おう.............でも、俺の財布が...................」

 

セラは腹を括り店に入るとグレンもまた悲壮な覚悟を決め店内に入っていった

 

 

 

2人は入ってから真っ先にメニュー表を頼もうとすると.............

 

「お客様はセラ=シルヴァース様とグレン=レーダス様ですよね?」

 

「はい、予約したものですがどうかされましたか?」

 

セラは店員のその問いかけにどんな意味があるのかと思い問いかける

 

「すでにナハト様からコースの指定を伺っております。ご存じではないのですか?」

 

「え?そうなんですか?」

 

「はい。ナハト様はうちの料理長と親しくされておりセラ様の名前で予約が入ったこのコースをと頼まれていました」

 

ナハトがクリスマスにこの店を選んだ理由がここの料理長とは帝都でナハトが料理の修行中に知り合いフェジテで店を出してることを知っていたためである。付き合いがあるために確かに一般的にはいささか高めでも高級料亭レベルをそのいささか高め程度で楽しめることを知っているためにルミアとのクリスマスの会食やセラに勧めたのだ

 

(確かにいい値段だけど、思っていた程じゃない。寧ろ大分安めかも...........)

 

セラとグレンはノクスに指定されたコースの詳細を見ると恐れていた程ではないことに安堵して料理を待つことにした

 

「焦ってたほどじゃなくてよかったねグレン君」

 

「あぁ、マジでよかったけど........俺これでも大分きついんだけど...........」

 

もっともナハトの指定コースと言うのはこの店の常連なら知ってる格安かつ最高値コースに劣らず美味しく食べられるもので初めての客ではそうは気づけないものなのだ。もしもナハトの指定がなければ二人はもう2,3割増しくらいには支払うことになっていただろう。

 

「もう.........グレン君はもう少しまっとうに働いたほうがいいんじゃないかな?」

 

「働いてるわ!不本意だがな..............だが、仕方ねぇだろ?リィエルの器物破損が俺の責任になるんだから..........」

 

「それでも余計な賭け試合とかしてるからそうなるんだよ?そうすれば多少はマシに生活できるのに.............」

 

「うぐっ.......」

 

確かにリィエルの器物破損被害による減給はある。だが、それでも最近は減っているしセラの言う通りにすれば確かにマシにはなるため何も言い返せなくなる

 

「お待たせしました」

 

そう言って店員は料理を運んできたため、その会話は打ち切られ二人は料理を楽しむのであった

 

 

***********

 

「美味しかったねグレン君!」

 

セラは食後にグレンと暗くなった街中を歩いていた。そんなセラは先程まで楽しんでいた料理についてグレンに話しかけていた。

 

「確かにな~さすがはナハトが使う店って言ったところか」

 

「そうだよね~でも、学生が使うのは普通にどうかと思うけど」

 

ナハトの特技の一つである料理は潜入調査を前提としたプロそのものの技術。アルベルトにも言えることだが、ナハトのおすすめと言うのならばそれがはずれがないのは間違いないことだと言う事だった。

 

「それはまぁ..............確かにませてるとは思うが付き合いのある人の店なら普通なんじゃね?」

 

「それも、そうかな?にしてもナーくんって大概人脈が広いよね」

 

「アルベルトとイヴの弟子なだけあるわな................」

 

アルベルトの万能性にイヴの知略とカリスマ性をスポンジの如く吸収したナハトの凄さに改めて驚きそして再認識していた。しかもそれを上手く掛け合わせ応用して更に幅を利かせていくから完全なる奇術師(パーフェクト・イリュージョン)とまで呼ばれたりしてるのだろう

 

「あの子もうセリカさんに勝てちゃうんじゃない?」

 

「流石にそれは...........いや、ありそうでなんかこわい」

 

いつか聞いたナハトの固有魔術(禁呪)である【黒天大壮】ならもしかしてそれもあり得るのではと考えてたりする。その他でも物理的攻撃以外に対して絶対の防御と言って過言ではない【月鏡】に強敵相手でも決まれば最後の幻術である【幻月】と言った強力な固有魔術もあるため真面目にワンチャンあるのではと思えてしまうあたり本当に我が生徒ながら恐ろしいとグレンは感じていた。

 

「ホント............ナーくんはどこを目指してるのかな」

 

「セラ.........」

 

そう言うセラの顔はどこか憂いがありグレンもそれにつられてしまう

 

現時点でもよほどの相手でもない限りナハトの敗北する姿などまるで思いつかない。彼の魔人相手にもボロボロになりつつも確実に追い詰めていたという戦績もある。それなのにまだナハトは力を求めているのだ。だからこそ心配にもなるだろう。

 

「なんかしんみりしちゃったね?でも、大丈夫だよね........だってナーくん私達よりもずっと強いもん」

 

「.............あぁ、そうだな。ホント、強過ぎるくらいだぜ」

 

グレンは言葉でこそそう言うもののナハトがナハトじゃなくなるようなそんな気がしていた。ナハト自身が望み深淵へ手に伸ばしていくようなそんな悪い予感が。

 

でも、口に出さなかった。何故なら口に出せばそれが現実になってしまう気がするからだ

 

「ねぇ、グレン君。こんな綺麗な夜なんだし少し散歩してこ?」

 

そう言って夕暮れ時ルミア達が来ていた公園に差し掛かったセラはグレンの手を引き入っていく

 

「あっ、おい!引っ張るなって!」

 

グレンは面倒くさそうにしながらもされるがままに引っ張られていった

 

そのまま完全に人気のない公園をセラが夜とは真逆と思えるほどの明るさでグレンの手を引きそれをめんどくさそうにしながらも全く拒絶するそぶりを見せずに付き合うグレンの構図ができていた。

 

それはまるでまだグレンが軍時代の時、厳しい軍務後に休暇を貰ったグレンを訓練場から無理やり引っ張り出して息抜きに引っ張り出した時の用だった。

 

そんな懐かしさをグレンとセラ両方共が感じていた

 

あの時のグレンは辛く暗い道を壊れるまで進むことしかできずにいた。とてもつらく封印して2度と思い出したくすらないと思ってしまうほどにグレンは追い込まれていた。

 

それでも、セラと過ごしたグレンのあの日々は辛いだけじゃなかった

 

だからあの事件で............彼女を傷つけたジャティスが

 

何より彼女だけの正義の味方になってもいいと思った自分が

 

憎く..........そして彼女に対して申し訳なかった

 

そんなグレンの想いはセラも同じようなものだった

 

自身の不注意で受けた傷が彼に大きな心の傷を与えた

 

親友だと思っている彼女の弟が必要のない責任感を背負わせた

 

2人に............何よりグレンに対してセラ本当に申し訳なく思っていた

 

そんな思いを胸中に抱きながら二人は夜の静けさに包まれた公園内を歩いていた

 

そして、二人が噴水広場まで来たところでセラはアレを渡すことを決める

 

「..........ねぇ、グレン君。今日は何の日でしょうか?」

 

答えなど誰でもわかってしまう問題にすらならない問題をセラはグレンに問う

 

「は?んなもんバレンタインだろ?ナハトの奴が大量に貰ってただろうが」

 

「うん............だからねコレ!グレン君!ハッピー・バレンタイン!」

 

そう言ってセラは綺麗にラッピングされた箱をグレンに渡す

 

「これを俺に........だよな?」

 

「もう、他に誰がいるのグレン君?」

 

「い、いや..........なんだ.........あれだ.........ありがとな//////////」

 

流石のグレンもこのタイミングで渡されると思っていなかったため照れているのか頭をガシガシと掻いていた

 

「ね、ねぇ..........私が今日.......どうして外食に誘ったと思う?」

 

「は?なんか理由でもあんのか?てっきり今日は夕食作るのがめんどいのかと思ってたが違うのか?」

 

セラのその問いかけに正気を疑うグレンの返しに鈍感すぎてセラは内心今の気持ちが冷めてしまいそうだった

 

(ナーくんでも流石に気づくと思うけど.........元祖・鈍感はこれだから.........)

 

仮にナハトでもこれだけお膳された状態でルミアなりシスティーナなりに同じ質問をされたらバレンタインに関わりがあることぐらいは察しが付くだろう

 

セラは切り替えると言葉を紡ぎ続ける

 

「あ、あのね...........今年は今までと違うバレンタインにしたかったの。だから外食に誘ったし..........ここでチョコを渡したの.........そ、それでね?ここまで言って........私がどんな想いか分からないグレン君?」

 

普通ならこれでセラがどんな想いでいるかくらい察しが付くだろう

 

ナハトだって気づく...........はずだ.........

 

だが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?知るかよそんなもん。てかまだ寒いんだし早く帰ろうぜ?」

 

この男超鈍感だ。更に雰囲気ぶち壊しの発言がさらりと出てくるあたりもう末期だ、救いようのないダメ男だ。

 

(嘘でしょ~~~~!!!なんでわからないのよ!!これならあのナーくんだって流石にわかると思うけどグレン君本気でわからないの!!??私、今の結構勇気出したのに!!グレン君のばかぁ//////もうこうなったら.........!)

 

セラがグレンに対して呆れと怒りそして羞恥心に身を震わせているとセラはここで大きく行動に出ることにした

 

セラがプルプルと震えてるのでグレンはセラも寒いのだろうと思いどうせもう貰うもんはもらったわけだし早く帰りたいな~なんてセラからすればバカみたいなことを考えもう一度セラにグレンは急かそうとした

 

「なぁ?お前も寒いから震えてんだろ?だからさっさと..............

 

 

その瞬間だった――

 

 

銀色に輝く美しい髪がそっと風に流れる

 

 

それはまるで妖精が舞うようで幻想的な風景だった

 

 

その美しい髪の持ち主と一人のどうしようもない青年の距離は接近し

 

 

二人の影は重なった

 

 

少しの間二人の影は重なったままどちらかともなく離れる

 

 

 

「............これが私の想い///////////私..........帰るね?」

 

それだけ言うと真っ赤な顔を俯かせ彼女は走って立ち去って行った

 

 

 

 

そして取り残された青年は.............

 

「ぇ...................」

 

彼女のぬくもりが残る唇に指を触れ呆然と立ち尽くしていた

 

 

 

 

 

 

 

後日、二人が顔を合わせると真っ赤になることを見たナハトがグレンをいじり倒したのは自然の摂理であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「はぁ~........ホント無能な室長共ときたら.........こっちだって人手が足りなくて大変だっていうのに余計な仕事増やさないでくれるかしら........全く.........」

 

イヴはそう愚痴りながら帝都にある自室へ帰る途中だった

 

だが、イヴの言う通り人手の足りないため今日もまた遅くまで書類整理に追われていたため深夜の帰宅になってしまった

 

「全く.......これでナハトがいてくれれば書類整理とかも多少は.......ダメね.....それじゃあナハトの負担が大きくなってしまうわ」

 

元々書類整理をさぼることもあるグレンやそもそも論外なリィエルはともかくとしてイヴにとってナハトがいないことによる仕事効率の低下は著しい。

 

だが、それでも自身の弟に負担をかけるの忍びないという姉心もあるわけで............イヴはせめてもっとバーナードがまじめに仕事をこなしてくれればと考えていた

 

(はぁ~ナハトに会いたい..........そうすれば少しわ.......)

 

イヴはナハトを見るだけでそこそこ回復できるくらいにはブラコンをこじらせている。そのため本気でそう考えていると.......

 

「あら?荷物ね...........誰から、ってナハトからじゃない」

 

丁度今考えていた相手からだったので一瞬で疲れが吹き飛んだ気がするイヴ(ブラコン)

 

すぐに部屋に入りその小箱を開けて中を確認すると..........

 

―親愛なるイヴ姉さんへ―

 

お仕事お疲れ様。きっと姉さんのことだから遅くまで仕事してたんでしょ?大変なのはわかるけど体は大切にしてね?さて、前書きはここまでとして今日はバレンタインだから俺から姉さんにプレゼントを贈ることにします。いつも姉さんにはいろいろと支えてもらってるし、ある国ではバレンタインで男性が女性に贈ることは珍しくないって本で読んだから感謝を伝えるいい機会と思いました。プレゼント喜んでくれると嬉しいです。

 

―ナハトより―

 

メッセージカードを読んでるだけでナハトからの気遣いに嬉しくてたまらなくなるイヴ。プレゼントはなんだろうとみてみると...........

 

「あら.............綺麗な髪飾りね。それにこれはチョコかしら?」

 

セラとの話であった髪飾りの別バージョンをナハトは用意するとそれだけじゃ味気ないと思い手作りのチョコを用意して同梱したのだ

 

イヴは髪飾りは後日つけるとしてナハトのチョコを食べようと綺麗に包まれた包装を広げると複数個のチョコがあり一つつまみ取り口に含む

 

「ふふふ.............私好みの甘さね。流石は私の弟..........本当にありがとうナハト」

 

先程までの仕事のストレスなんて軽く吹き飛ばされイヴは言葉にできない幸福感を感じながら彼女もまたバレンタインを楽しむのであった

 

 

 




今回はここまでです。バレンタイン編これにて終了です。バイトもあり中々いい感じにシナリオもまとまらず時間がかかってしまいましたが一応はいい落としどころになったんじゃないかなと思います。グレンとセラの二人をくっつけちゃってもよかったんですけど自覚させといて弄り回すのが面白いかもと思いこうさせてもらいました。一応今回のバレンタインのメインはグレンとセラの二人なのでナハト側のヒロインズはあっさりめにしました。勿論本編では遂に想いを自覚したナハトの件もあるのでナハトの恋愛事情も踏み込んだものが書けるよう頑張るのでこれからもよろしくお願いします!

また、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!コメント、お気に入り登録、評価をしてくださり本当にありがとうございます!


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第八巻 聖リリィ魔術女学院短期留学編
システィーナ壊れる?


 

 

通学前、いつもの集合場所

 

そこに一人の少女が歩いてくる

 

「お、おはよう!る、ルミア」

 

「う、うん..........おはようナハト君!」

 

今日は珍しくルミアとナハトの二人での通学なのだが..............

 

お互い視線を合わせず挨拶する二人

 

二人にしては珍しくぎこちなかった............

 

 

 

***************

 

 

 

今日はなぜ二人だけなのかと言うとリゼ会長の頼みでシスティーナが生徒会の手伝いで早く学院にいき、それにリィエルがついていったのだ。また、グレン先生とセラねぇも講師陣での会議みたいなのがあるらしく特に何もない二人がこうしていつも通りの時間に通学することになったのだ。

 

そう、なったのだが.............

 

「..................」

 

「..................」

 

二人にしては珍しく沈黙が流れる

 

二人ともが〝あの日〟の出来事のせいで意識してどうしていいかわからないのである

 

(どどど、どうしよう..........いつも私ナハト君と何話してたっけ?)

 

(おおお、落ち着け俺.........まずは何か話題を.......天気か?それともしりとり?)

 

特にナハトが酷い。ナハトは自分がルミアに惚れていることを自覚してから過去にしてきた自分の行いが馬鹿みたいに恥ずかしくて仕方なく酷く取り乱しているのだ。

 

「な、ナハト君!」

「る、ルミア!」

 

二人が同時に名前を呼び、今日初めて二人ともがお互いの顔を見る

 

そして............

 

「っフフフ.......あははは!」

「ッププ..........あははは~もう何やってんだろ俺達」

 

二人ともお互いの顔を見るとぎこちなくしていたのが馬鹿らしくなり吹き出してしまった

 

「ホントそうだよね.............さっ、行こう!ナハト君!」

 

ルミアはいつも通りの明るい笑顔を浮かべるとナハトに手を差し出す

 

そしてナハトは..............

 

「あぁ、行こうかルミア」

 

ナハトがルミアの手を取ると二人は隣に並んで歩いていく

 

二人は無意識のようだが手をつないで楽しそうに話しながら通学する

その様子はまるで――

 

 

-----------------------------------------------------------------

 

 

学院につくと掲示板の前にシスティーナがとても不安そうな表情を浮かべて立っていた

 

「おはようシスティーナ..........って、どうしたんだそんな浮かない顔して?」

 

ナハトの挨拶で二人に気づいたシスティーナはどこかすがるようにすら見えた

 

「あっ!ナハトにルミア!これを見て大変なの!リィエルが..........!」

 

ナハトとルミアは一体どうしたのだとシスティーナに言われた通り掲示されている一枚の張り紙を見るとそこには.....................

 

 

 

 

 

~緊急通知~

 

アルザーノ魔術学院 学院教育委員会

 

以下、一に該当する者を、二の通りの処分とすることを決定し、ここに通達する。

 

一. 対象者:リィエル=レイフォード

二. 処分内容:落第退学(、、、、)(今年度前期終了時点で上記の処分とす)

三. 処分理由:生徒に要求する一定水準の学力非所持、故の在籍資格失効

 

                     以上

 

ルミアはそれを見て「嘘........」と呆然とする

 

それに対してナハトはと言うと――

 

「成程............まぁ、たいしたことないな」

 

「待ってナハト!?大したことあるわよね!?」

 

ナハトは大したことないというためシスティーナが激しくそれに突っ込む声が木霊すのだった............

 

***********

 

「いいかシスティーナ?どうしてリィエルがこの学院に来たか考えてみなよ」

 

そうナハトは問いながらシスティーナとルミアと三人で教室に向かう

 

「どうして?..........それはルミアの......って、もしかして!」

 

「そう......(俺達)側が送り込んだリィエルがそう簡単に退学されたら困るんだよ。きっと救済処置くらいはあると思う」

 

そう、リィエルは軍からルミアの護衛の追加要因としてこの学院に来た人員なのだ。その人員をそうやすやす〝軍〟が退学させなんてしないだろう

 

(だが原因が原因だな..........軍のリィエルを無理やりこちらに寄越したことが気に食わない連中が動いたんだろう。大方、教導省........後は魔導省あたりが国軍省の息のかかったリィエルの排除に動いたってとこか)

 

ナハトはすぐにこの件の本質を見抜く。普通に考えて護衛人員であるリィエルを退学にするなんてありえないはずなのだ。だがそうなったということは裏でそうなるよう仕組んだものがいると言う事

 

ナハトは女王陛下とのつながりもある上、帝国でもそれなりに戦果を挙げている魔術師で有名でもあるため下手にナハト自身に手を出すことを恐れたのだろう。そもそもこの学院に入る際に編入試験だって受けているので文句をつけられないのもあるのだろう。

 

(まぁ、リィエルが成績が悪いことやこれまでの素行にもいくらか問題があるとこを付け込まれたか............ちょっと考えが甘かったかもな)

 

ナハト自身帝国内部の権力争いに関してよく考えてなかったということが今回の件を引き起こした一端でもあると内省する。

 

「まぁ、二人ともそんなに心配しなくてもいいよ。いざとなれば俺が偽装工作してどうにかするからさ」

 

ナハトがよほどの事でもない限り問題ないことを気づかせてもやはり心配そうな二人にそう声を掛ける

 

「そう.............って、それ犯罪じゃないわよね!?」

 

「ナハト君........あんまり無茶しないでね?」

 

「犯罪かそうじゃないかはともかくとして.........へましないし無理もしないから大丈夫」

 

(ルミアの悲しむ顔なんて見たくないからな」ボソッ

 

「ふぇっ!?/////////」

 

「.........むぅ」

 

ナハトの無意識にこぼした言葉に反応する少女二人

その変化を不思議に思いナハトが二人に尋ねる

 

「ん?どうしたルミア?それにシスティーナも......」

 

「う、ううん!何でもないよ?/////(不意打ちはずるいってばぁ~//////)」

 

「ふん!知らないわよ...........バカ///」

 

「?(なんで俺罵倒された?)」

 

ナハト自身この件に関しては軍から偽装工作を命じられることは十分にあり得ると考えていた。ナハトの幻術や偽装工作の腕も踏まえて人選的にはもってこいだろう。

 

紅くなるルミアとそのルミアを見てどこか不機嫌そうなシスティーナ

 

そんな二人に挟まれて歩いていると............

 

「おい!お前ら!リィエル見なかったか?」

 

真面目な表情を浮かべ走ってこちらに来たのはグレン先生だった

 

「おはようございます...........リィエルとは会ってませんけど何したんです?」

 

「俺が何かやった前提かよ............いや、そうなのかもしんないけど」

 

ナハト達はグレンに何があったのか聞いたところ学院長にリィエルの事について直談判していたところナハトの推測通りの説明を学院長から受けると救済措置がある事が伝えられたそうだ。だが、問題はその救済措置とグレン先生の配慮の足りなさだった。

 

 

 

「はぁ~...........先生、いいですか?リィエルはまだ精神的に幼いのに一人で留学することを仕方ないとはいえ頭ごなしで言えばそうなりますよ」

 

リィエルに対しての救済措置はなんと聖リリィ魔術女学院からの短期留学オファーを受けることだったのだ。しかもリィエルのことをこのタイミングで名指しでだ。

 

(不可解すぎる...........リィエルじゃなくてシスティーナみたいないわゆる優等生へのオファーならまだしも何故このタイミングでリィエルなんだ?)

 

ナハトがそんなことを考えているとグレンも頭が冷えて自分の非を理解した

 

「........はぁ、そりゃナハトの言う通りだわ.........後で謝んねぇとな」

 

「苺タルトをそうですね.............200位あればいいんじゃないですか?」

 

「お前は俺の財布殺す気か!?」

 

「先生の財布なんていつも瀕死ですよね?まぁ、そんなことはどうでもいいとしてリィエルのとこに行きますよ」

 

「どうでもよくないからな!?てか、お前........リィエルの場所わかるのか?」

 

「魔力発信をつけてあるんですよ............リィエルに暴走されたら探すの大変ですからね」

 

ナハトはこういう場合もあるだろうとリィエルに魔力発信をつけてあるのだ

 

リィエルは帝国宮廷魔導士団特務分室執行官NO,7《戦車》だ。

彼女の身体能力と何より恐るべきは生存能力だ。

何の補給なしに野生でも延々に生き延びることだって可能なのだ。

そんな彼女に逃げの一手にを取られてしまえばナハトとて捕まえるのは厳しい

 

そんな事態にならないのが一番だがなってしまった時に備えていた甲斐あり今は丁度ある場所ににとどまってることがわかる。

 

ナハトはその場所にグレン達と共に向かうのであった

 

 

------------------------------------------

 

「おい、ナハト。アイツがこんなとこにホントにいるのか?」

 

ナハトがグレンたちを連れて訪れたのは学院内にある礼拝施設.........いわゆるチャペルに来ていた。チャペル内の空気は非常に厳かで、長椅子には信心深い生徒たちが祈りをささげる姿がぽつぽつとあった。

 

「いますよ........あの人がもう捕まえてくれてるみたいですけど」

 

「は?どういうことだ?」

 

ナハトはそう呟くと数名の生徒たちが丁度説法を終えたため立ち去っていくのを確認すると牧師のほうに歩いていく

 

「お手数を掛けましたアルベルトさん」

 

「「「え!?」」」

 

ナハト以外の全員が目を見開いて驚くと目の前の牧師は牧師服を一瞬で脱ぎ捨てると帝国宮廷魔導師団の礼装に身を包んだアルベルトがそこにはいた

 

「今回のリィエルの件、お前とグレンがついていながらなんて様だ...........特にナハト。お前は学生生活にうつつを抜かし過ぎだ。それが悪いとは言わん。だが、何のためにお前はここにいるかそれだけは常に意識しておけ」

 

「はい..........すいませんでしたアルベルトさん」

 

ナハト自身アルベルトの言う通りそういった節があったのは間違いない。特に色恋沙汰の方面で色々と..........

 

「知ってたのかよ..............悪いな.............」

 

「だが、すぐにここに来たのは流石はナハトと言うべきか............少し、待ってろ」

 

アルベルトがこの短時間のうちにここへ来たのはだれでもないナハト自身の備えがあったためだと見抜いていた。備えを使った点に関しては問題ではあるがすぐに対応できたことにはアルベルトはナハトに対して一定の評価をすると祭壇の奥に向かっていく。ルミアとシスティーナがその光景を不思議そうに見ていると教壇裏からずるずるとアルベルトが何やら引き出している

 

 

「「「えぇぇーーーー!?」」」

 

ルミアとシスティーナは大きな声で驚く何故なら............

 

「んーーー!んーーー!」

 

リィエルが頭、胴、足を魔術的に拘束されてアルベルトの腕の先に、後ろ襟首をつかまれてぶら下がっているからだ

 

「リィエルを手際よく取り押さえるその手腕は流石、と言いたいが...........もうちょっとマシな監禁場所なかったの?元・司祭サマ。ちょっと神様に喧嘩売り過ぎじゃない?ナハトも何か言ってやれよ..........」

 

グレンはアルベルトに習い司祭の勉強をしたナハトにそう言うが二人は.............

 

「「信仰など、とうの昔に捨てた。それだけだ」」

 

(お前らマジで師弟だよな..........でもそれ司祭としてどうなんよ?)

 

グレンが呆れたようにツッコミしてそれに2人が返した後、アルベルトが指を鳴らすとリィエルにかけられた拘束魔術が解かれる

 

「...........それでは、皆で話をしよう。無論、リィエルの今後について、だ」

 

こうしてアルベルトの音頭の下、関係者たちの話し合いが始まる

 

「なぁ、軍上層部でに話を通して落第退学を握りつぶせないのか?てか、ナハトが記憶改竄なり偽装工作なりしちゃえば解決じゃね?」

 

「前者は不可能だな............敵対派閥が納得するはずがないからだ。奴らはリィエルの空いたところに自身らの息のかかったものを送り込む気だろう。後者に関しては不可能ではないだろうが........それは取るべきじゃないだろう」

 

アルベルトは冷静にグレンの意見に対して答える

 

「は?ナハトなら問題ねぇのはお前もわかってるだろ?なら一番率がたけぇ策じゃねぇのか?」

 

「だが、それは敵派閥も知るところだ。ナハト...........《月》のこと改竄力に対しては警戒してるだろう。現にナハトには何も干渉してこないのがいい証拠だ」

 

「確かに俺が出張るのも問題ですね...........いくら陛下と俺のつながりがあると言えど強硬策なんかに出でられては大変ですしね」

 

結局裏側からのグレーゾーンすれすれの工作なんかはあまり望ましくないという結論が出る。だがそうなると................

 

「結局のところ正面から正攻法でどうにかするしかありませんね」

 

「そう言う事になるな」

 

ナハトとアルベルトはそう結論づける。

 

「でもどうするんですか?リィエル一人では色々と難しいと思いますよ?」

 

世界初の『Project : Revive Life』の成功例でかつて天の智慧研究会の殺し屋だったイルシア=レイフォードの肉体と精神を複製して生み出された魔造人形。

 

この世に生を受けて日は浅く、その浅い日々のほとんどを戦いの中で過ごした彼女。そして複製元であるイルシア自身が通常の日常を生きていないことがリィエルの精神の幼さに由縁する。そんな彼女にとってグレンやルミア達は心の拠り所でもある。

 

その為極端なことを言えば、リィエルにとってこの短期留学は赤子に母親なしで一人で生きろというようなものなのだ。だからこそナハトはどうやって成功させるのかを恐らくすでに手はずを得ているであろうアルベルトに問う

 

「当然だな............だからこそお前たちにも聖リリィ魔術女学院に言ってもらう」

 

「成程..........護衛対処であるルミアがリィエルについていくと言うわけですね?何か間違ってる気がしますがそれが一番ですね」

 

護衛対象が護衛についていくなんてどうかしていると思うが護衛の効率的に考えれば上策だろう

 

「そう言う事だ。確かにナハトがいれば護衛などお釣りが出るほどに容易だが上層部としても元・王女の直近の護衛という特権(カード)は手放したくないというわけだ。故に今《隠者》の翁が工作を開始している。王女とフィーベルそしてナハト(・・・)にもじきに短期留学のオファーが来るだろう。今回俺はそれをお前達に伝えに来た」

 

(となると今回は遠距離狙撃での護衛に..........ん?今なんかアルベルトさんが凄いおかしなこと言わなかったか?)

 

ナハトは今回は遠距離護衛に徹するつもりでいたが何やらよからぬワードが言い渡された気がして恐る恐るアルベルトに問いただす

 

「..........アルベルトさん。一応確認ですけど俺は遠距離からの護衛でいいんですよね?万が一の時は魔導弓の遠距離狙撃でどうにかしろってやつですよね?」

 

魔導弓..........正式名称は魔導弓《月女神の覇弓(アルテミス)》ナハトが本気の遠距離狙撃を行う際の魔導器である。アルベルトがいざと言うときに使う魔杖《蒼の雷閃(ブルーライトニング)》のように放たれる魔術の極限までの増幅することのできるうえ、魔導弓には超高精度な標準補助が搭載されており、あらゆる状況を数値化し術式に組み込むことで必中の一矢を放つことのできる。

 

「魔導弓?ナハト君って剣以外にも使うの?」

 

ルミアやシスティーナからすればナハトが武器を使うという点だけで言えば剣以外の者はあまり見る機会はなかっただろ。だからこそ二人とも興味があるようだった。

 

「剣以外でも槍とか色々使えるけどどれも二流がいいとこだな。魔導弓は魔導器で俺が本気の遠距離狙撃するときに使うんだよ。俺じゃあ素の狙撃だとアルベルトさんには及ばないからね」

 

いくらナハトの魔術制御が優れていてもやはりアルベルトはそれを凌いでいく。条件さえ揃えば観測手なしの3000メトラ級狙撃さえ的中させるアルベルトに対し素の状態ならば2000メトラ程度が限界だが。魔導弓を使用すれば5000メトラをややそれを上回ることも可能なのだ

 

「だがこいつは魔導弓を使うことでアルベルト並みの狙撃能力を得ることができる。最もその魔導弓ってのはだれでも使えるって代物じゃねぇんだ。てか、あんなゲテモノ魔導器ナハトにしか使えねけどな」

 

「げ、ゲテモノ?どんな魔導器なのよ............」

 

グレンのその言葉に若干引き気味のシスティーナ

 

それにアルベルトが如何にゲテモノなのかを説明する

 

「ナハトの魔導弓には星霊の眼(ステラ・アイ)という魔法遺産(アーティファクト)が埋め込まれているのだがその魔法遺産(アーティファクト)は目標周囲、射線上、魔導弓周囲のありとあらゆる情報を無制限に取り入れるのだ。通常そんなもの使用すれば脳を情報量に圧迫され廃人になるところがいいところだがナハトの特殊な魔力特性(パーソナリティ)があって初めて制御を可能とするが故にグレンの言葉を借りればゲテモノと言うことになるのだ」

 

ナハトが得られた情報の悉く〝支配〟し狙撃に最適な数値を入力した魔術式を〝創造〟することにより無類の命中率と射程の長さを獲得することが可能となる。

 

「は、廃人って............ナハト君そんなの使って大丈夫なの!?」

 

ルミアは激しく心配するそぶりを見せナハトを至近距離から問い詰める

 

「お、落ち着いてルミア!俺からすればこれほど使いやすい魔導器はないくらいだし」

(ち、近いルミア//////////あっ、いい匂いが..........じゃなくて!?)

 

ナハトは内心で何かと戦いながら必死にルミアに問題ないことを伝える

 

ナハトの言う事は本心からであり、多少扱いの難しさこそあれど慣れればとても頼りになるので寧ろ狙撃がとてもしやすいのだ

 

ナハトの言葉を聞いて幾分か安心したようなルミア。その様子を見てアルベルトが話を続ける。

 

「話が脱線したが、俺は言ったはずだ。お前にも直にオファーが来るだろうと...........そしてグレン。お前も臨時講師としてのオファーが来ることになっている」

 

「は?俺とナハトは男だぞ?工作云々じゃどうしようもないだろうが?」

 

(なんだこれ............滅茶苦茶嫌な予感がする)

 

ナハトが嫌な予感をビシビシと感じこの場から離脱できないものかと考えていると

 

「案ずるなすでに手は打ってある」

 

その瞬間だった。大きな音を立ててチャペルの壁が外側から魔術で破壊されたのだ

 

その穴が開いた先にいたのは...............

 

「やぁ!みんなの大好きなセリカさんだぞ!」

 

つい最近学院に復帰した魔術学院教授にしてグレンの現師匠、そして彼女を語る上で欠かせない帝国最高峰の第七階梯(セプテンデ)――セリカ=アルフォネアの登場だった

 

「お前復帰早々何してんの!?今、神様に喧嘩売るのはやってるの?」

 

そのツッコミに対する答えは...........

 

「ん?そんなの..........なぁ、ナハト?」

 

ナハトと視線を交わし同じことを考えてるだろうと言わんばかりのセリカ。そして二人は同時に口を開く

 

「「神ごとき正面から潰してやる!!」」

 

最高の笑顔に加え二人は同時にサムズアップすると..........

 

「このクソチート野郎どもが!!!」

 

嘗て外宇宙の邪神殺しをしたセリカ。そして悪魔すら殺す法則を生み出し、セリカにすら届く...........いや、それを超える力を求めるナハトの言葉に対するグレンの大きなツッコミが木霊す

 

「いやぁ~だって私もう神一度殺してるし、ナハトなら神を殺すくらいの法則作り出しそうじゃん?なんなら楽しみくらいだね」

 

「そうですね神を殺す法則............挑戦してみたいものですね」

 

「..........狂ってやがるコイツ等」

 

グレンは疲れたように頭をおさえる様子にルミア達が同情の視線を向けているっと..........

 

「さて、おふざけはここまでとして話は聞かせてもらったぞ?まぁ、私に任しとけ」

 

そう言うとセリカは大股でグレンに近づくとその豊満な自分の胸の谷間から小瓶を取り出し、口に含むとグレンを両腕で抱きしめて拘束すると――

 

〝〝ズキューーーーン!!!!!〟〟

 

そんな効果音が聞こえるような濃厚なキスをした

 

「な、な、な、な、なな...........//////」

(うわぁーーこんなふうにキスするんだ.......私もナハト君と///////チラッチラッ)

(俺もルミアとあんな風になってたかも........って違う!//////そうじゃなくて多分逃げないとヤバい!!)

「?」

 

システィーナは赤面で恥ずかしそうにし、ナハトとルミアに至っては頭の片隅で妄想をし、よくわかってないリィエルは首をかしげるといった四者四様の反応を見せるかなグレンたちのキスは続く

 

そして遂にグレンが解放されると.........

 

「ぷはっ!..........お前俺に今何飲ませたんだよ!?」

 

「大丈夫大丈夫!痛くないからな~?《陰陽の理は我に在り・万物の創造主に弓引きて・其の躰を造り替えん》!」

 

セリカの詠唱が終わるとグレンの体からバチバチと紫電が弾け全身から煙が上がる。そして体中からめきめきと音もなっている。

 

(アルベルトさんの先の発言........セリカさんの協力.......まさかッ!これって.........)

 

ナハトが何となくではあるがアルベルトが言った手と言うことに察しが付く。だがだとすれば相当心にこたえる...........

 

「がぁあああああああああああ!」

 

その間グレンの体から煙は止めどなく出続け姿が見えなくなると、最後に大きな絶叫をする

 

そして煙から現れたグレンの姿は..............

 

「一体何なんだよ.........妙な悪戯はやめろってセリカ........」

 

そのグレンはいつもの姿と違い一部のものが凍り漬いたようになる

 

「なんだ?俺の顔に何かついてるのか?.......ん?俺の声ってこんなに高かったっけ?」

 

「あ、あの.............本当にグレン先生ですよね?」

 

「はぁ?そんなもん俺以外のだれに見えるって...............」

 

グレンがポンっと胸を叩くとグレンはいつもはない感覚に首をかしげる

 

「なんだ?」

 

グレンは自分の胸部に視線を落とすとセリカやルミアが持つようなあるはずのない山が二つある。

 

すなわちそれが意味することは..............

 

「ふむ.........俺の固有魔術(オリジナル)戦闘力測定眼(0・スカウター)】によると戦闘力はルミアと互角.........87ってとこか。いやぁ、我ながらいいものをおもちで..........って何――――ッ!!!!」

 

グレンは自分の胸を両手でつかみ上げるとそう絶叫する

 

「何じゃこりゃあぁぁぁぁぁぁ!?何で俺にこんなものがあぁぁぁぁ!?」

 

「ちょ、先生何揉んでるんですか!でも、あれ?.......この場合はいいのかしら!?」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!本来あるべきものがねぇぇぇぇ!!!セリカおま.......俺に何しやがった!?!?」

 

「変身魔術、白魔【セルフ・ポリモルフ】を応用してお前を女にした!」

 

混乱するシスティーナにあまりの出来事に絶叫するグレン

そんなグレンの問いに答えたセリカは笑いを必死にこらえている様だった

 

「良かったな!これでお前も聖リリィ魔術女学院の臨時講師として........ぷっ.....くくくっ.......お、おま.......中々の、美人じゃん............あはははははは!」

 

遂にセリカはグレンの頭からつま先まで見て大爆笑する

 

「協力、感謝する。元・特務分室の執行官NO,21《世界》のセリカ=アルフォネア女史」

 

「てめぇの差し金かアァァァ!!」

 

グレンがアルベルトの胸倉に掴みかかり吠える

 

「もとより上の作戦通りだ。お前は女性に変身してリィエルと共に聖リリィ魔術女学院に派遣される」

 

「ふざけんな!?何俺をナチュラルに巻き込んでやがるんだよ!!」

 

「因みにこの作戦の提案者は特務分室室長《魔術師》のイヴ=イグナイトだ」

 

「あの女~~~!!いつか絶対ぇ泣かす!!」

 

ギャーギャーと騒ぐグレンと素っ気なく返すアルベルト。

それはまるで男女の痴情のもつれにしか見えなかった............

 

そしてナハトはと言うと

 

(今のうちに逃げてしまおう.........)

 

自分もグレンのようにされると思いそそくさと今のうちにと気配を殺し、そろりそろりと移動を開始していると.........

 

〝ガシッ〟

 

肩を掴まれ先に行けなくなってしまった

 

そんなナハトは壊れた機械の如くぎぎぃっと首を回し振り返るといい笑顔のセリカがいた

 

「さて今度はナハトお前だ」

 

「................」ダラダラ

 

冷や汗が流れる感覚を覚えながら拙いと焦燥にかられる。だがナハトにはまだ手は残されている

 

(こ、こうなったら【飛来神】で........)

 

無詠唱でマーキングした場所に移動できるナハトだけの瞬間移動を使おうとするのだが..............

 

「あれ?飛べない?........まさかッ!?」

 

ナハトはなぜか魔術をきどすることができなかった。理由はすぐにわかる..........何せこんなことできるのはこの場に一人..........

 

「オイオイ!お前だけ逃がすと思うか?お、お前も大人しく女体になりやがれ!!」

 

グレンはもうやけくそだという様に愚者のアルカナを掲げそう言った

 

だが、ナハトとて簡単に認められるものではない。【セルフ・イリュージョン】ならまだしも女になるなんて嫌だからだ。

 

(なら、無理やり振り切って.........)

 

ナハトがセリカの腕を振り払い持ち前の俊敏さで逃げ切ろうと画策していると今度は両腕をよく知る二人に捕まれる

 

「.........聞いてもいいかなルミア、システィーナ?何故俺を捕まえるのかな?」

 

「あははは............少し見てみたいなぁ~なんて?」

「..........ルミアに同じく.......ぷぷっ」

 

二人が単に見たいと興味があるという理由でナハトの足止めをする。システィーナに至っては想像して笑いをこぼしている始末。流石に2人を振り払うわけにはいかないので諦めるしかないようだ

 

「はぁ~~~セリカさん、さっきの薬瓶ください。飲みますから」

 

(ルミアの目の前でセリカさんにあんな飲ませ方去れたら溜まったもんじゃない)

 

逃げられない以上ここは潔く飲んでしまうしかないとナハトはそう思いセリカに手を伸ばす

 

だが........

 

「ん~~それじゃあつまらないだろ?さて二人とも............これをナハトに飲ましてやりたくないか?」

 

「「えっ!?//////////」」

 

悪戯を思いついたような子供のようにセリカはルミアとシスティーナにそんな提案をしだす

 

「ちょっ!?」

 

「これがあればあつ~~~いキスを交わす大義名分ができるぞ?」

 

「何言ってるんですか!?」

 

ナハトは慌ててすぐに薬を奪おうとすると軽やかにそれを躱し続けるセリカ

 

その間二人はと言うと...............

 

(ナハト君とキス.........濃厚なキス.......したいかも//////うんうん.........凄くしたい//////で、でもでも.........初めては月明かりの下の夜に2人きりで.........//////.......ってそれってこの間の時と....カァッ////////)

 

(な、何で私が/////.......ま、まぁ?ナハトなら吝かでも無いって言うか........寧ろ良いなぁ........ってちがーう!!何考えてるのよ私は/////!?)

 

二人とも満更でもない...........何らいいかもなんて考えて赤面している

 

別にナハトとてルミアとのキスが嫌なわけではない。寧ろしたい気持ちもある。だが、もっと適した場面でしたいものだ

 

「クッ...........このッ!!」

 

ナハトが悪くないかもと考えながらも必死に追い回し遂に薬を回収してすぐに口に含んだ

 

(あっ..........)

(.................)

 

そして、ルミア達はどこか残念そうな表情を浮かべていた。そんなことは露知らず、ナハトは目でセリカに早くかけてくれと催促するとセリカはつまらなそうに魔術を掛ける

 

そうしてグレンと同じようになり出てきたナハトは...............

 

「コホッ...........これでいいですか?って、視線低くすぎない?」

 

ナハトの今の姿は身長が何故か縮んでおり、リィエルと同じくらいの背丈になっていたのだ

 

その上............

 

「てか胸が重い............」

 

その発言に若干一名がピッシッというような効果音と共に硬直する

 

そう、ナハトはリィエル並みの身長に加えルミア並みの豊のものを獲得しているのだ.........いわゆるトランジスタグラマーと言うやつになっているのだ

 

「お前.......イヴにそっくりだがなんて言うか.........可愛いな」

 

グレンがそう感想を零すようにナハトの今の顔立ちは変装が解け赤髪になっておりまさしくイヴのような容姿となっている。しかもその上イヴの綺麗な顔立ちを幾分か幼くしたようになり、美人と言うよりも可愛いが似合うような顔立ちになっていた

 

ナハトはまだ鏡を見ておらずどんな風貌なのか全くわからないでいると.........

 

「うわぁっ!?」

 

後ろから突如胸を鷲掴みされ変な大きな声を出してしまうナハト。鷲掴みにした張本人と言ううのは勿論.........

 

「うそ..........でしょ?男であるナハトにこうもあっさり負けた...............柔らかいし、形もいいし、凄く大きい..........ルミアと同じくらい...........」モミモミ

 

「ちょっ!........し、システィーナ..........やめっ!んっ!.......へ、変な感じするからやめてくれーーーー!」

 

「あははは..........男のグレン先生にもナハトにも負けて、胸が痛いなぁ.........あっ、ナハト達と違って痛む胸がないんだったわ.............こうしてれば私の胸も成長するかしら?」モミモミ

 

壊れたように延々とナハトの胸をもみ続けるシスティーナ。彼女の哀愁漂う姿に何と声を掛けていいかわからないグレン達。そんな当人であるナハトは背筋をぞわぞわと感じたことがない何かを感じながら必死に抵抗しようとしていた

 

 

「お願いだからやめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

「大きい胸いいなぁ.......」モミモミ

 

ナハトの...........いや、ナハトの声と言うよりイヴの声が幼くなったような感じの声音が学院中に木霊すのであった

 

 

 

 





今回はここまでです。八巻の最初の女体化回ですがいかがだったでしょうか?あの話を読んだ当初は本当に面白くて腹筋が崩壊するかと思いましたwしかも、グレン先生が無駄に美人なのがホントツボですよね。今回からの八巻の内容を面白かしくできるように頑張るので次回からもよろしくお願いします。

また、今回もここまで読んでくださりありがとうございます。そしてブックマーク、コメント、いいねをしてくださりありがとうございます。


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仲良し三人組

 

 

「お前ら...........一応そいつ男だぞ?」

 

グレンが呆れた表情を向ける先には銀髪の少女と金髪の少女は小柄な赤髪の少女(・・)を間に挟み手を握って如何にも仲良さげで、百合百合しい雰囲気を醸し出していた

 

「いいじゃないですか先生。今はイズ(・・)も女の子なんですから」

 

「そうですよ............これなら自然にくっつますしね」

 

そう言うと銀髪の少女と金髪の少女ははぴったりと赤髪少女にくっつく

 

赤髪の少女はと言うと.................

 

(あぁ......なんか違うよなコレ..........)

 

赤髪の少女〝イズ〟はそんなことをぼんやりと考えながら聖リリィ魔術女学院に行くため直通の鉄道列車が出る駅のホームにいた

 

 

******************

 

 

改めて赤髪の少女の名はイズ=ディストーレ。綺麗な赤髪を横にまとめサイドテールにしており、幼い顔つきに大人っぽさを醸しだたせている

 

ただ、性別は今でこそ〝女〟ではあるが元は〝男〟だ...............

 

そう、お察しの事だろうが彼女...........いや、彼の正体は〝ナハト〟だ

 

イズと言う偽名は姉のイヴからとり、ディストーレの姓はイヴの母型の姓を借りたものだ。いささか安直ではあるがよほどのことがない限りいくら赤髪のままとはいえイグナイト家とのつながりはわからないだろう

 

「二人とも私は一応グレン先生の言う通りなんだよ?流石にこの状況は...........」

 

イズ........ナハトは女性の振りをしながらそう二人に言うと.............

 

「もう!いいじゃない私達って親友、でしょ?ならこれくらい普通だわ」

 

「うん!イズは私たちの親友なんだからこうして仲良くしたくなるのは普通だよね?」

 

二人はそう言うとそのまま背丈の低くなったナハトにひしっと抱き着くと頬ずりし始める。二人ともナハトの女体化した姿が可愛らしくて若干元が男であることを忘れかけているようにも見える

 

「や、やめてよ//////二人とも!人目があるってばぁ////////」

 

ナハトは女体化の影響か何故か恥ずかしさを表に出しやすくなってしまっている。そのためこうして二人にくっつかれればすぐに赤面してしまう。それもまた二人を暴走させる要因でもあるのだろう。そんなナハトを見た二人は..................

 

「ふふふ..........赤くなっちゃってイズってば可愛いんだから」

 

「うんうん!イズってほんとかわいいなぁ。ほら~なでなで~」

 

「くすぐったいってルミアぁ//////////って、キャッ!?システィはどこ触ってるのよぉ~/////////」

 

ナハトはルミアを習いシスティーナのことを愛称で呼んでいるのだがその当人と言えば.............

 

「ふっふっふ...........いいではないか、いいではないか~.........って、アレ?どうしてだろう?幸せな感触なのに悲しくなってくる............そっか胸がないからか...........イズみたいに可愛くて胸も大きくなりたいなぁ.............グスッ.......」モミモミ

 

「もぅやめてぇえええ/////////////////!!!!!」

 

まるでナハトをペットか玩具の様に愛でる二人。あの帝国でも最強格に上がるであろう魔術師の威厳もくそも何もなくなっていた

 

しかもシスティーナに至っては勝手にナハトに宿った豊満な果実を揉んで勝手に悲しみに暮れているあたりもうカオスでしかない

 

「............お前らホントに大丈夫かよ」

 

そんな光景を端からリィエルと一緒に見ているグレンは呆れながらそんな感想を零していた

 

「.............ごめんグレン」

 

「.........んぁ?」

 

すると突如隣にいたリィエルは膝を抱えて俯いたままグレンに謝罪の言葉を口にしたのだ

 

「どうしたんだよそんなしょぼくれて?」

 

「だってみんなに迷惑かけてる...........ナハトも困ってる.......」

 

「いや、アレはなんというか.............白猫たちの暴走だからお前は関係ねぇよ」

 

いい意味でも悪い意味でも純粋すぎるリィエルはナハトの様子を見て自分のせいと勘違いしているようだった。だが、アレに関しては............ナハトが悪いのか?とにかくリィエルの責任ではないのは確かだ

 

「でも..............」

 

「いいんだよ誰にだって得意不得意がある。それはナハトや白猫みたいないわゆる天才型だってそうだ。それに元はと言えばお前の成績の悪さをどうにかしてやれなかった教師である俺やルミアの護衛任務を万全にこなさなくてはいけないナハトの責でもある。お前はそうだな........短期留学を楽しんでそれでちゃんと課題をこなせさえすればいいんだ」

 

グレンは俯いているリィエルにいつものように頭を力強く、それでいて優しく撫でる。そんなグレンの言葉を受けリィエルの表情に柔らかさが戻る。

 

「まぁ、そうだな............お前が自信を持てるように俺達の誰にも頼らずに友人の一人位作ってみろ。そうすりゃお前も自信が持てるし俺もアイツ等も少しは安心するだろうさ」

 

「友達...........私にできる?」

 

「出来るさ。こんな俺にだっているんだぜ?ならお前にできないわけがねぇ」

 

「ん.................」

 

 

漸く完全ではないがリィエルらしくなってきたことに安心するグレン。そして少し離れたところで騒いでいたナハト達もそんな様子を見て笑みを浮かべるのであった

 

 

***********

 

 

 

「はぁ.......はぁ..........//////////いいですか先生?列車の出発は11時ですから今からどこかウロチョロしないでくださいね?」

 

「わーってる.............てか、お前災難だったな」

 

「そう思うなら助けてくださいよ.............」

 

激しいスキンシップから解放されたナハトの頬はわずかに赤くなっており息も荒かった。ただ、解放されてもなお両手はがっちり二人に捕まれているあたり簡単には解放されていないようだ

 

「ねぇ、リィエル。あの制服を着ているのが今回行く聖リリィ魔術女学院の生徒よ」

 

するとナハトの手をがっちりつかんでる一人のシスティーナが制服を着ている集団の方を見てそう言った

 

「ん。皆楽しそう」

 

「あそこは基本全寮制の学院だけど短期休暇で帰省していた生徒が学院に帰るころじゃなかったかな?」

 

「そうよイズ。ちょうど学期の中間短期休暇だったみたいよ」

 

「二人とも詳しいね?」

 

「私は事前に色々と調べてきたからね。これくらいは出回ってる情報だから」

 

「私はウェンディから聞いたわ。あの子何人か知り合いが聖リリィ魔術女学院にいるらしいの」

 

そんなことを話していると、蒸気機関が汽笛を鳴らす。

黒鉄でできた重厚な造形に、頭部の煙突から大量の煙を吐き出す雄姿に、システィーナ達は圧倒されリィエルに至っては目を輝かせていた

 

「凄いわね........これは........」

 

「うん.............人は魔術に頼らなくてもここまでできるっていう叡智の結晶」

 

「かっこいい..........」

 

各々がそれぞれの感想を抱くそんなシスティーナ達。

すると....................

 

「「.........ッ!」」

 

リィエルとナハトはバッ!っと勢いよく振り向く。ナハトに至っては両隣の二人をかばうようにしていた。そんな二人の行動に三人は不思議そうにしていると............

 

「ひゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

突然振り向かれたことで、驚いたのか、少女は眼鏡をかけなおし硬直する。その少女は聖リリィ魔術女学院の制服を着ており、他の生徒達と同じように旅行鞄を肩にから下げていた

 

「ん......間違えた」

「そう..........だね」

 

二人はそのまま威圧を解くと少女のほうを向くのをやめる。そんなことを急にした二人に対しグレンは

 

「おい、お前ら!いきなりビビらせてどうするんだ!」

 

「............本気で言ってるなら相当鈍ってんますね先生。油断しすぎじゃないですか?」

 

「は?どういう..........ってそれより大丈夫かお前?」

 

「は、はい!大丈夫です!」

 

(あの女子生徒鍛えてる............見た感じだからわかんないけどどこかで似たような人を見たことがある気がする)

 

ナハトはグレンの注意に対して心底呆れたように返した。いくらなんでもあんなわかりやすい〝殺気〟にも気づかなくなったとなれば呆れるのも仕方ない。

 

そしてナハトはいまだに目の前の女子生徒に対しての警戒心は解いていない。ナハトの目算では近接戦闘のできるタイプの部類だと彼女を一瞥して判断する。今回の〝黒幕〟側かは別として無視できない存在だろう

 

「えっと.............初めまして。私エルザと言います。聖リリィ魔術女学院に通ってるのですが皆さんのことは見たことがなかったので声を掛けてみたのですが」

 

「そうだったのか.........俺達はな」

 

そうしてグレン達は自己紹介や目的などを彼女に話していく

 

「そうだったんですね!それでは、学院に着くまでご一緒してもよろしいですか?学院のこと色々とお教えできると思います」

 

「良いのか?悪いな」

 

エルザの提案と同時に、蒸気機関の汽笛が鳴る。どうやらそろそろ出発するようだ。グレンたちは乗り遅れるわけにはいかないのですぐに乗り込んでいく。

 

ナハトは一番最後に乗り込むのだが最後に周囲を一瞥した後もう一度エルザの背中を見る

 

(周囲にこちらを敵視する者はいないだろう..........だとすると殺気を向けたのは恐らく彼女。それも正確に言えば俺達にではなく〝リィエル〟に対してだった気がする)

 

ナハトはそんなことを考えながら事前にイヴから聞いた連絡について思いはせるのであった

 

**************

 

 

ナハトが女体化した日の夜。ナハトはイヴと情報の確認のために連絡を取った

 

『ナハト........いえ、イズだったかしら?』

 

そんな笑いをこらえるような声で通信機越しに聞いてくるのは勿論イヴだった

 

『姉さんの馬鹿.......俺が女になる必要あった?よく考えれば俺が普通に潜入するくらい造作もない気がするんだけど』

 

『そんなの私がおもしろくないじゃない...........さて、それはひとまず置いておくとして貴方は今回の件どう考えてるかしら?』

 

(面白いからと言い切ったな姉さん........)

 

試すように問いかけるイヴ。それに対して真剣な声でナハトは答える

 

『明らかにリィエルを狙った第三者の思惑........そうだね『蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)』あたりが【Project : Revive Life 】唯一の成功例を求めての行動じゃないか睨んでるよ』

 

蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)』とは都市伝説ともされているアルザーノ帝国魔導省の特別裏予算枠である、極秘魔術研究機関。これだけ聞けばさほど問題があるように思えないが彼の組織は天の智慧研究会とつながってるとされておりそれが原因で帝国側が出し抜かれているとも言われているいわば帝国の中に巣食う癌細胞のような存在。

 

『へぇ........流石はナハトね。私もそうじゃないか睨んでるわ。最近件の組織が動いているという噂も聞くしね........だとしたら貴方も狙われる可能性はなくもないだろうから気をつけなさい。まぁ、もっとも奴らごときが私の自慢の弟をどうこうできるとは思えないけれどね』

 

ナハトの魔力特性は研究者なら誰もが羨むだろう代物。だからこそ狙わねかねないだろう。と言ってもイヴはどうにかなるとは考えていないようだった

 

『それはありがとう.........まぁ、俺を狙ってくるってなら返り討ちにして情報を引き出すのに丁度いいでしょ?実体の分かってない組織の情報は欲しいところだし』

 

『えぇ、生きて捉えられれば最高ね。ただ、別にそこにこだわらなくていいわ。今回はその短期留学をこなすことだけ考えなさい。正直この件で得られる情報なんて知れているものだと思うわ』

 

『わかった姉さん。最善を尽くすよ』

 

『ふふふ。期待してるわよ。それじゃあおやすみなさいナハト』

 

『お休み姉さん』

 

 

 

****************

 

 

「イズ?早くしないと乗り遅れちゃうよ?」

 

ルミアの声で回想から意識を戻されるナハト。どうやら考えに集中しすぎたようだ

 

「今行くよルミア」

 

(何がともあれ俺も『蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)』の情報は欲しい。俺の予想だとあの男.........イグナイト家当主が何か繋がりがある気がしてならない)

 

ここ最近イグナイト家当主を支持するものが帝国内で増えている。それに対して陛下側を支援する人間が減ってきている現状だ。元々あの男は自分こそが王に相応しいとかそんな呆れた考えの持ち主だからこそ自ずと目指すところはわかってくる。

 

だが、それにしたって不自然なことも多くある。その一つが『蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)』との繋がりだ。あの男の背景を探ってるときに偶々見つけた臭い繋がり。今回の件も『蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)』を利用して【Project : Revive Life】を手に入れたいのではと考えてしまう

 

(まぁ、あの男が何考えているかなんて関係ない。姉さん達を苦しませたアイツだけは屈服させてやるさ.........)

 

 

こうして裏に渦巻く不自然な思惑の中、彼女たちの短期留学が始まるのであった

 

 





今回はここまでです!そして更新が遅くなり申し訳ありません!バイトがまたふざけたシフトのせいで大変で中々更新できませんでした。愚痴になりますが、自分は週3希望なのです。しかし、先週は週5だった上5連勤とかもあって「俺社員じゃないですけど?」と思わず言いたくなるレベルでした。店長が変わってから週3希望のシフトが守られたことがないような気がしてならないので今バイトをやめるか検討中です。てか、辞めたいですw

さて、愚痴はここまでとして今回は列車移動の前のエルザとの初対面となります。次回からはあの濃いキャラを登場させていくつもりです。この女学院編はコメディ要素ありで如何にもロクアカらしいお話ですが、このころからイグナイト家の思惑が見え隠れしていたのかなと思うと面白さだけでなく深く練られた素晴らしい作品だと改めて思わされました。そして今月にはルミアとグレンが出会ったあの日の話を収録された追想日誌が出ますね!ルミアがメインヒロインなこの作品でも絶対に書こうと考えているので楽しみにしていただけると幸いです

それでは今回もここまで読んでくださりありがとうございます!また、コメント、お気に入り登録、評価をしてくださり本当にありがとうございます!



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派閥と女の子の玩具

 

 

列車での移動が開始してしばらくのこと、状況はカオスだった

 

 

「イズさんは私達と一緒にお茶会するのですわ!貴女たちは引っ込んでくださいまし!」

 

「うるせぇ!イズはアタシ達と一緒に行くんだよ!引っ込んでやがれ!」

 

(もう嫌だよぉ...............)

 

イズ(ナハトは)両腕を金髪縦ロールお嬢様と制服を着崩しアクセサリーを身に着けたちゃらちゃらした女子生徒たちに引っ張られていた。その周囲にはその二人が従えているような女子生徒達もおり、彼女達もまたイズを引き込もうと躍起になっていた。

 

 

どうしてこんなことになったか、それは数刻前にさかのぼる..........

 

 

***************

 

 

列車内に入るとグレンやナハト達はその内装に感嘆のため息を零す。この列車は進行方向から左側に複数の個室があり右は通路と言う構造を取ったコンパ―トタイプと呼ばれるものだった。

 

だが、グレンたちが最初に入った車内は構造が違い、車両全体が一つの空間となっているオープンサロンタイプの車両だったのだ。そして通常通路のある右側にはカフェテーブルなどの調度品などがしつらえられておりお嬢様たちのちょっとした社交場となっていた。

 

「いやぁ...........流石はお嬢様用の列車だな..........こんな贅沢な使い方している列車他にねぇぞ?」

 

「そうですね。このような列車に乗れるなんて私達運がいいですね?」

 

そんな会話をグレンとイズ(ナハト)が話していると申し訳なさそうにするエルザ

 

「え、えっとレーン先生?大変言いにくいのですが..........」

 

グレンもナハト同様女体化するにあたっての偽名を考えてあり、それがレーン=グレダスだ。そしてグレンは申し訳なさそうにするエルザを見て首をかしげていると..........

 

「お待ちなさいそこの方々!!」

 

「ん?」

 

そんな声が響くとグレンたちの周囲を少女たちが取り囲む。

 

当然、全員が聖リリィ魔術女学院の制服に身を包んでおり良家出身者特有の居丈高なオーラ―を醸し出している。そしてその先頭に立つおそらく自分たちに声を掛けたであろう少女は特に高貴なお嬢様オーラを放って佇んでいる。

 

「あん........?なんだ、お前......?」

 

「見かけない顔ですわね貴女方...............って................」

 

グレン達を値踏みする彼女の視線はある一点で固まった。それは.............

 

「.......そ、そこの赤髪の貴女!お名前を聞いてよろしくて?」

 

「わ、私ですか?えっと..........イズ=ディストーレです。今回短期留学生として参りました」

 

イズが混乱しながら自己紹介をすると少女はずいっと前に出ると............

 

「決めましたわ.......イズさん!貴女、私達白百合会に参加しませんか!」

 

「え?」

 

「貴女ほど可憐な女性を私は知りませんわ!まずは是非とも私達と一緒にお茶でもいかがでしょうか?」

 

(名前も知らない相手にいきなりよくわからない会に参加しろと言われても困るんですが!?)

 

この時グレンはこの光景を見て思った.............イケメンは女になってもモテると言う事。そして、ギャップのせいか男の時よりも原著に現れるのだと言う事を。

 

(成程な........ルミア達が単にナハトのことが好きだからと言うわけじゃなく単純にコイツが可愛いからおかしいのか...........確かに、どう見ても可憐な美少女だもんな今のナハト)

 

そんなことをぼんやりと考えてる一方で当のナハトは..........

 

「ち、ちょっと待ってください!私、貴女の名前も知らないですし、その白百合会のこともわからないんですけど.........」

 

「これは!失礼いたしましたわ。貴女があまりにも可憐で礼を失していました......私はフランシーヌ=エカティーナですわ。そして白百合会というのは我が学園最大派閥ですわ。貴女に相応しい集いだと長である私が保証いたしますわ!」

 

興奮気味に誘い掛けるフランシーヌ。周りの少女たちもフランシーヌに同調し始め是非ともなどと言い勧誘し始める。ナハトは正直遠慮願いたいところだが、断って変な軋轢を生むのも好ましくない。どうにか言葉巧みに躱せないかその方法を模索していると...........

 

 

「何やってんだよ白百合の奴らはよぉ!そんなちび1人にやけに...........」

 

大きな声とともにこちらもまた多数の生徒を引き連れた少女が乱入する。

 

フランシーヌ達とは異なり、その集団の女子生徒たちは制服を微妙に着崩し流行のアクセサリーを身に着け髪を染めたちゃらちゃらしたような雰囲気を纏っていた。そしてそれを率いる生徒は腰まで届き黒髪に、切れ長の瞳が特徴的で、随分と男前な美少女だ。そしてそんな美少女はイズをちびと言ってその顔を見て固まった............

 

(あっ.........なんかもうこの後どうなるかわかった気がする.......)

 

イズは内心これからの展開を悟る。

 

「............なぁ、お前ウチの黒百合会に参加しないか?」

 

(まじか~)

 

またも目を付けられ派閥に勧誘される。イズもう何も考えたくない............

 

「悪いな~最初ちびって言っちまって。よく見れば滅茶苦茶可愛いじゃんかお前!気に入ったぜ!そんな堅苦しい自分勝手な奴らほっといてアタシ達と一緒に楽しもうぜ、な?」

 

「すいません.......私はイズ=ディストーレです。まずはお名前を聞いても?それと黒百合会と言うのはもしかして.........」

 

「お?名乗ってなかったなアタシはコレット=フリーダ。黒百合会ってのはアタシ達の派閥さ!気のいい奴らがいいからそっちの奴らよりも楽しめると思うぜ!」

 

そして同様にこちらの派閥の女子生徒達もコレットの勧誘に賛成のようでイズを引き入れようとする。

 

コレットも同様に気のよさそうな笑みを浮かべながらイズの左腕をつかむと強引にそのまま連れていこうとする。そんなところで.......

 

ガシッ!

 

「お待ちなさい、コレット!イズさんは私達と一緒にお茶をするんですわ!貴女達は引っ込んでくださいまし!」

 

右腕を今度はがっしりとフランシーヌがホールドするとコレットに噛みつく

 

「うるせぇ!イズはアタシ達と一緒に行くんだよ!引っ込んでやがれ!」

 

そしてコレットも掴むだけでなくフランシーヌ同様がっちりとホールドし、言い返すのだ

 

周囲の女子生徒達もお互いに掴みかからんとする状況でどう見ても地獄絵図になる一歩手前といった状況となっていた

 

 

**************

 

これが冒頭の状況になるまでの過程である。周りも今にも暴れだしそうでナハトも不用意な発言ができないうえ逃げるのも余り手荒な真似はしたくないためどうしようかと半ば思考を放棄しかけていた。

 

(もう嫌だよぉ...............姉さん助けてぇ)

 

帝国最強格の魔術師がこの様だ.........状況がどれ程の物か察していただきたい

 

するとそこで遂に二人の少女が動く..........

 

「待ちなさい!貴女達!」

 

凛と響く声に周囲の者たちは目を引かれるととそこには堂々とたたずむ銀髪の少女と金髪の少女がいた

 

(ルミア!システィーナ!助けてくれるんだな!)

 

二人を見たナハトはまるで救世主でも見るかのように目を輝かせる。二人はそんなさなか、渦中の中心たるナハトに向け踏み出しそして............

 

 

〝ヒシッ!〟

 

 

(ん~?なんで二人は俺に抱き着いてるのかな?助けに来てくれたんじゃ...........)

 

二人は同時にイズの正面と後ろから抱き着くとこう宣言する

 

「「イズは私たちのよ!引っ込みなさい!!」」

 

「「「「何ですって(何だと)~~!!!!」」」」

 

三つ巴の戦争の開始の合図かの如くその場にいる女学院の生徒たちが大きな声を上げルミア達に睨みを利かす。ルミア達がしたのは助けではなく火に大量の油を注ぐそんな行為だった。

 

「えっと........ルミア、システィ?」

 

「安心してね?イズは私たちがたくさん可愛がってあげるからね?」

 

「そうよ!私達大・親・友だものね!さぁ、一緒に生きましょ!」

 

(あらやだぁ~この子たち暴走してらっしゃる........どないしましょうか.....)

 

もうナハトの思考はかなり異常なとこまで来ているのか脳内の言葉使いがあからさまにおかしくなり始めていると........

 

「離しなさい貴女達!イズさんが困っているではないですか!」

 

「親友っていうくせして困らせてんだから笑えるぜ!フランシーヌもお前ら離れやがれよ!」

 

「「絶対いやっ!!」」

 

がっちり美少女四人に囲まれ密着されるという世の男子ならこの中で死んでもいいと言える状況でナハトは.........

 

(あぁ~.........柔らかい幸せ痛い痛い痛い痛い痛い×10.........)

 

幸福の倍くらい痛みを感じていた。その細腕のどこにそんな力があるのか不思議になるくらいの力で抱きしめられホールドされて体が痛みに軋む

 

グレンも男として羨ましい筈のナハトの状況にどこか恐怖を覚え身を震わせる。リィエルは頭をかしげ、エルザはあまりのカオスな状況に苦笑いを浮かべるのが限界だった。

 

ナハトはもう天に召されるのか.........そうくだらないことを考えていたが、まだ彼を神は見捨てていなかった

 

 

ガタンッ!!

 

 

列車が突如揺れる。風にあおられたか何があったか知らないがナハトに好機が訪れた。腕にしがみついてたフランシーヌたちは幸運にもバランスを崩しその手に入っていた力が緩む。

 

(チャンス!)

 

その瞬間、一瞬だけナハトから意識がそれた瞬間に自身にがっちり抱き着いて離れないルミアとシスティーナと共に【飛雷神】で移動する。

 

「あれ?イズさんはどこに?」

 

「イズがいねぇだと!?どこ行った!?」

 

周囲の女子生徒たちが探す中イズたちはと言うと.........

 

 

 

 

グレンの背後に気配を殺してルミア達と共にいた。

 

「........お前逃げだすだけに【飛雷神】使ったのか......てか俺にマーキングしてあったのか」

 

「仕方ないでしょ?それとマーキングしたのは先生が迷子になったら困るからですよ。文句ありますか?」

 

「.......お前と言いアルベルトと言いお前ら俺のおかんか?」

 

「前にも言いましたがそれは絶対に嫌です。エルザさん今のうちに自分たちが使える座席まで案内してもらえませんか?」

 

「ねぇ、酷くない?」

 

グレンのツッコミを無視してエルザに声を掛けるナハト。ここ最近ナハトのグレンに対する扱いがぞんざいになってきているのはきっと気のせいじゃない

 

「えっ?.......いつからそこに.......あっ、はい。わかりました」

 

ナハトのこの固有魔術を知るグレンはともかくエルザは突如自分たちの所に現れたイズに驚くも騒ぎにこれ以上巻き込まれたくないのかすぐにグレンたちを連れこの場を後にした。

 

 

因みに移動中はずっとルミアとシスティーナは離してくれませんでした。なんでも鼻の下を伸ばしていたからとの事.........

 

(伸ばしてないからね?俺が好きなのはあくまでルミアでルミアにくっつかれて大変幸せで.........心頭滅却心頭滅却煩悩退散煩悩退散ブツブツ...........)

 

これが今の月であった...........

 

************

 

 

「ねぇ、イズ。さっきの魔術よね?一体どんな魔術なのよ?」

 

三人掛けの席にナハトを中心に座りシスティーナが問いかける。

あの騒動から逃れたナハト達は後方車両に移るとようやく安息した時間を確保できた。まぁ、今だに両側を固められているが良しとしよう.........さて、今はシスティーナの質問か。ルミアも興味ありそうだしエルザは.........リィエルと話し込んでるみたいだし大丈夫かな?

 

「まず二人とも私の魔力特性(パーソナリティ)についてから話したほうがいいよね?」

 

「そう言えば聞いたことがなかったね。なんか随分珍しいものだっていうのは言ってたけど」

 

「そう言えばルミアとはそんな話したね.........私の魔力特性(パーソナリティ)は『万象の支配・創造』。この世の全てに作用することが可能で、未知の法則や自分だけの法則を造りだすことができるそんな魔力特性(パーソナリティ)なんだ」

 

「んなッ.........」

 

システィーナはあまり並外れたそれに絶句する

 

「言い忘れてたけどこのことはオフレコでお願い。一応機密情報だったりするから」

 

「..........なら言わないでよ」

 

ナハトに対してもうある程度驚きが振り切れたのかシスティーナが力なくぼやく

 

「説明に必要だからね.......さて、さっきの魔術の名称は【飛雷神】。時空間魔術で既存の時空間法則と私個人が編み出した独自の空間法則を掛け合わせているの。つまりはここで『創造』が必要になるの」

 

「でも何で法則を造ったの?」

 

ルミアがそう問いかける。確かに既存の法則があるならそれだけでいい筈と思うのは当然だろう

 

「それだと色々と問題があってね。既存の法則だけじゃ転移する速度や呪文の長さ時空間転移のリスクが大きくなるんだ。元々時空間魔術で人が移動するには相当な魔力操作と適正が必要なんだ」

 

「あ~そう言えば下手な時空間魔術で体がバラバラになった魔術の実験があったとか聞いたことがあるわね」

 

「そう.......安全性や利便性も踏まえてもどうしても独自の法則を生み出してやるのが手っ取り早かったんだ。もっともこの法則を生み出すというのもそう簡単にはいかなくてね.........この魔力特性(パーソナリティ)の活用はかなり苦労したんだ」

 

「相変わらずイズは凄いね!」

 

「.....////コホン!まぁ、これが大まかなこの魔術の裏側だね。効果自体は私が魔力を付加してマーキングした場所に私が直接あるいは間接的に触れているものを飛ばしたり私自身が移動することができるの。そして最大の特徴は無詠唱で使えること」

 

ルミアに褒められた嬉しさを誤魔化す様に咳払いして今度は効果についてまとめる

 

「無詠唱も凄いけど間接的にと言うとどう言う事かしら?」

 

「私の魔力の一部が物や人にくっついてればいいの。私の魔力が僅かにでも物体或いは人に残留していればそれを感知して触れてなくても意のままに飛ばせるんだ」

 

そんな固有魔術説明会をし終えて他愛ない会話をしていると、三人ともそれぞれの意味の疲れから寄り添いながら眠りについた。

 

 

そんな中、ナハトはこれからの短い新天地での生活の平穏を願うのだが.............

 

 

勿論叶うわけなどなかった

 

 

(いや、待って?超真面目なお願いだから叶ってよ!?)

 

 

 

 

 




今回はここまでです!すいません時間がかかりました!バイトの疲れで中々執筆が進まず、気晴らしによう実の方を書いたりしていたら遅くなってしまいました。バイトの方に関しては4月一杯で辞められるように店長に相談してみたいと思ってます。当初の予定よりも明らかに長い勤務時間をさせられているわけですし親にも心配かけてしまってますしね............良い人が多い分シフトを決めている店長には残念です。

さて、個人の愚痴はここまでとしてまたもナハトには女の子の玩具になってもらいました。いやぁ~自分は百合とか最初はあまり好みではなかったんですが最近は割とありなのでは?と思うようになってきているあたり昔野球の事しか考えてなかったのに人って変わるものだなと思わされてしまいます。ナハトの現在の容姿は書いた通りイヴの容姿を幼くした感じですね。イヴの妖艶さもいいですがそれを子供っぽくしたら絶対可愛いと思いませんか?そんな美少女がいたら周りが放っておかないのはもはやそれは自然の摂理!ナハトにはまだまだこの短期留学で沢山女子の玩具として活躍してもらうので良しなに。

そして実はなんですがここ最近液タブを購入してみました。実はデジタルイラストに挑戦してみたいと思いまして少しずつ練習をしていく予定です。上手くなったらこの作品の表紙絵やアール=カーン戦のイラストなんかも描いてみたかったりしています。絵をpixivの方に投稿するとしてもだいぶ先になるとは思いますが色々と挑戦していきたいなぁと考えているのでこれからもよろしくお願いします!

あとがきが長くなってしまいましたが今回もここまで読んでくださりありがとうございます。またいつもコメントやお気に入り登録、評価をしてくださり本当にありがとうございます!



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授業初日と模擬戦

 

 

ナハト達は駅に着くと駅前の来賓用の寄宿舎で一夜を過ごした。その時一緒の部屋で寝ようと提案するルミア達の対応に非常に苦労した。最も最終的にはナハトがスリープ・サウンドで二人を眠らせたわけだが...............

 

そんなこの短期留学が決まり女体化したナハトに平穏は中々訪れないながらも今日から聖リリィ魔術女学院へと通うため大通りをいつものように5人で歩いている。

 

「それにしても綺麗ね」

 

「そうだねシスティ」

 

二人はこの学園までの大通りのカフェやサロンなどの街並みを見てそう感想を零す。勿論どこも女性店員ばかりでまさしくお嬢様の為だけに作られた街となっている

 

「フェジテよりも.......お洒落?」

 

「うん.........敷地内にこんな街があるなんて」

 

「規模は小さいけど、お洒落で素敵だわ。私もこんな学園に通ってみたいなぁ...........」

 

あのリィエルでさえ物珍しく周りを見渡している。そしてシスティーナも上機嫌でそん街を見ながら自分もこんなところに通ってみたいと感想を零すのだが.............

 

「私は絶対通いたくないかな」

 

「全くだ」

 

ナハトとグレンはそうバッサリと切り捨てる

 

「街の雰囲気と先生が合わないのはわかるけど.........イズも?」

 

システィーナ達にとってナハトの答えは意外だったらしくどういうことか尋ねる

 

「この学院、周囲を深い森、湖、山に囲まれているでしょ?だから基本的にここに来るには列車しかないし逆もまた然り...............ここはつまり外界から完全に遮断された孤島ってことだよ?何がよくてここにいたいか私には申し訳ないけどわからないかな」

 

「それに付け加えればこの街並み..........どうもここにいる奴らのご機嫌取りにしか見えねぇしな」

 

その二人の言葉にハッとするシスティーナ。よく思い出せば先日の列車もここの生徒達で溢れ返っていたいたのだ。それもあまり長いといえない休暇だというのにもかかわらずだ

 

「昨日の派閥とかも今思えば必然だったのかもね............」

 

「..........」

 

ナハトのその言葉にどう返すべきかわからないまま5人学院本館につくとその足で学院長室に向かっていった

 

 

**********

 

 

「ようこそ。遠路はるばるわが校に来ていただきました皆さん」

 

学院長室に入るとそう言って迎え入れてきたのは40前後に見える人のよさそうな女性であった。彼女こそこの学院の学院長であるマリアンヌ。

 

「帝国が世界に誇る魔術の学び舎と名高いアルザーノ帝国魔術学院...........そのような所から優秀な生徒や優秀な講師の方をお招きでき光栄ですわ」

 

そうマリアンヌは嬉しそうににっこりと笑みを浮かべる。だが、ナハトにはどうにもうさん臭くてならない。そもそもリィエルを名指しと言う点だけで十二分にマリアンヌは警戒するに値するだろう

 

「一つお聞きしてもいいですか?マリアンヌ学院長」

 

「何でしょうか?」

 

「どうしてリィエルにオファーを出したのでしょうか?私それが気になってしまいまして」

 

笑みに疑念と警戒を隠してナハトはそう問いかける。確信を突く質問だが相手からすれば単に興味があるようにしか見えないほどにナハトの仮面は完璧だった。

 

「今回わが校がオファーを出して余所の魔術学院から短期留学生を特別に受け入れることにあたりその際にわが校の本部事務局教育支援部の事前調査によればリィエルさんはわが校に招くにふさわしい優秀な生徒と聞いていますが.........何か問題でも?」

 

「そうですか........そちらの本部事務局教育支援部の方々は大変優秀なのですね」

 

当たり障りなくナハトはそう返すが内心では..........

 

(いや、ありえないだろ?だってリィエルの素行の悪さや成績不振なんかなんて少し調べれば山のように出てくるはずだ..........それに俺を見て少し警戒してる。もしかして姉さんを知っているのか?)

 

今の容姿は確かに多少の差異はあれどイヴに似ている。そのため軍に関する何らかの情報を握っているかもしくは〝敵〟か..........

 

「レーン先生........大変申し上げにくいんですが——」

 

マリアンヌのそのやや歯切れの悪い切り出しから話された内容は今回グレン達が入るクラスについての大きな問題だった

 

簡単に要約してしまえば先日その存在を知った〝派閥〟の事であった。グレンたちの推測通り閉鎖的なこの学園故の派閥と言う特殊なグループの背景やそこに所属する生徒たちが帝国の上流貴族の子息であるせいで下手に学園が口出しできずにいると言う事の説明を受けた

 

説明を聞いただけでグレンとナハトは男子と言うのもあるからか「早く帰りたい」と強く内心でそんな後ろ向きな感情を抱いていた。だが作戦でもある上リィエルの進退にもかかわるため腹を括って今日から配属されるクラスへ赴いたわけなのだが.................

 

 

 

「イズさん!ささっこっちで一緒にお茶しましょ?私イズさんに色々聞きたいのですわ!」

 

「お~い!イズ!こっちでチェスとかやんねぇか?」

 

同じクラスにいはフランシーヌとコレットがいたのだ。そのためここ月組の教室に入った途端自己紹介する間もなく二人に両腕を引っ張られていた

 

(あぁ.............帰りたい)

 

ある意味モテモテなのかもしれないが二人ともかなり力があるのか結構腕が痛い。それに周りもその行動を助長するかのようにするため非常に荒れている

 

しかもこの月組の厄介な点は二つの派閥の最前線を張る面々が集まっていることにある。そのせいで余計イズの奪い合いにも熱が入っている

 

だが、それが月組の生徒〝だけ〟ならまだほんの少しだけましだった..........

 

「「イズから離れて!!!」」

 

例の如く、奇しくも列車の時と同じようにイズにがっちり抱き着くのはルミアとシスティーナだ。それがさらに彼女らの勧誘を激化させまたそれがルミア達のイズを取られまいとする思いを引き立たせる

 

(俺..........ちゃんと無事にフェジテに帰れるかな........)ギチギチ

 

四人の美少女にがっちりと囲まれているイズの体にはすさまじい程の負荷がかかっている。普通にものなら骨が砕けてしまっているのではと言う負荷にイズはもう抵抗する気力も意思もなくなってきていた。現にこの状況になってからイズは一言も言葉を発していなかった

 

「...........なぁ、授業したいんだが?」

 

普段ならその発言にシスティーナかナハトあたりが突っ込むのだろうがその声はむなしく響くだけで誰も聞いてすらいないようだった

 

だが、グレンとてこのまま放置するわけにはいかない。勿論それはナハトだって同じだ。何せ今回の短期留学はリィエルの進退だけにかかわらずルミアの護衛や帝国内部の不穏分子などへの影響も少なくない。グレンがナハトがもみくちゃにされている様を見ながら思考を巡らして..........

 

(...........!そうだ、この手ならいけるんじゃね?)

 

グレンはついにここで打開の一手になる可能性のある策を思いつく

 

「ちゅうも~~~~く!!!!!!」

 

教壇を壊さない程度の力で思いっきり叩くと大声を出して自身に注目を集める。あまりの大声と音に教室内の生徒は全員視線を向ける。一部生徒たちはその野蛮な振る舞いに忌々し気な目や声を上げているのをすべて無視してグレンは続ける

 

「お前らがそんなにイズと遊びたいのはわかった..........だがな!俺は教師だ!そしてお前らは生徒........つまり!授業時間は俺の話を聞きやがれ!!!」

 

またもやその発言にブーイングを受けるがまったくグレンは意に介さないで続ける

 

「だが、お前らが俺のことを気に入らないのも授業を聞く気も.........まぁ、見てればわかる。ここで一つお前らと俺とで賭けをしようじゃないか」

 

その発言の真意をコレットが問いただす

 

「賭けだぁ?何を賭けるってんだ?」

 

その問いに対し不敵な笑みを浮かべてグレンは自信満々に答える

 

「これからの俺が受け持つすべての授業の時間さ。俺が負けたらお前らの好きにすればいい。イズを取り合うのもな~~んにも関わらない」

 

「..........勝負の内容はなんですの?」

 

どこか勝ちを確信したような顔でフランシーヌが問いただすとフランシーヌたちからすれば予想外なことだった

 

「簡単さ。次の時間は確か『魔導戦教練』だろ?そこでお前ら月組全員でイズ相手に模擬戦で一撃でも入れられればこの賭けでのお前らの勝利条件だ。逆にお前ら全員イズにやられたら俺の言う事に従ってもらう」

 

「「「なッ!?」」」

 

イズの........ナハトの戦闘能力を知らないからこそ月組の生徒たちは何を言っているんだ?と意味が分からないような表情を浮かべる

 

「なんだ?ハンデが足りないってか?ならうちから来た白猫たちも貸し出してやるしイズにも模擬戦開始から三分間は攻撃禁止にしてやるよ」

 

「な、舐めてるんですの!?私たちをそこまで愚弄しますか!?」

 

「舐めてる?まさか!何ならハンデを十分以上にしてもいいぞ?」

 

だが、グレンやルミア達は知っている。そのハンデがあっても確実にナハトに一撃も与えられないどころかナハトがその気ならボーナスタイム後には秒で蹂躙されるであろうことを.............

 

だが、ここにいるお嬢様方はこれだけ煽られれば当然勝負に乗るは必然

 

「いいでしょう!イズさんには申し訳ないですが貴女みたいな野蛮な女性の鼻を明かしてやりますわ!」

 

「上等だ!!イズにはわりぃがてめェに吠えずらかかせてやるッ!」

 

「ㇵッハハハハハ!お前らこそ吠えずらかくのが今から楽しみだなぁ!!!」

 

グレンすればこれほど勝負が確定した賭けはないためゲスな笑みを浮かべ超・超・超上機嫌である。

 

その案に対するナハトはと言うと.............

 

(まぁ........そりゃ学生レベルなら先生の言う通り舐めプしても勝てるだろうけど面倒...........いや、もしかしてこれは圧倒的なまでに勝利を納めればこの状況もどうにかなるかも?よし!少しやる気が出たぞ!)

 

ナハトはここで一つこの〝天国(地獄)〟の打開案を思いつくわけだが——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然、このやる気が空回りするのは.........自明の理であった

 

(え!?まだ俺玩具にされるの!?)

 

*************

 

 

「そんじゃあルールの確認な?」

 

聖リリィ魔術女学院の敷地内にある運動場にて、『魔導戦教練』の授業が始まろうとしていた。ここでグレンがルールの確認を始める

 

「イズ対月組全生徒+白猫、ルミア、リィエルのバトルロワイヤル形式。方式は非殺傷系呪文によるサブスト。模擬剣、徒手空拳による近接戦もあり。降参、気絶、場外、致死判定を受けたものは脱落。加えてイズは三分間の間攻撃は禁止。リィエルは剣を使ってもいいが投擲だけはするなよ?危ないからな」

 

このルールを聞いて改めてナハトが警戒すべきは三人。勿論それはシスティーナ、ルミア、リィエルである。システィーナは言わずもながらルミアの支援、特に三分間こちらは防御しかできないのがリィエルに対しては痛手だ........まぁ、魔術は制限されてないし防ぐだけならどうとでもなるだろう

 

「あ、それともう一つ。この勝負、例え非殺傷系呪文であっても、炎熱系呪文のだけは使用禁止でお願いしますわ」

 

(おっと、俺の得意属性の使用制限が来たな.......まぁ、使う予定はなかったけど。それにしてもお嬢様だからか随分と甘いな)

 

炎熱系の非殺傷系呪文は確かに威力こそ他に比べれば高いがそれでも少々火傷する程度で済むし、法医呪文(ヒーラー・スペル)を使えば跡も残らず治療は可能だ。だが恐らく彼女らは一時的にでも肌が傷つくのが嫌なのだろう

 

そんな事をナハトが考えているとグレンも同じようなことを考えているのがわかるような表情を浮かべその提案を飲む

 

「まぁ最もお前らが僅かにでも勝てる可能性はないんだけどなぁ!!あーはっはっはっ!!!」

 

グレンはそう結論づけ高笑いを決め込む姿を見ているとナハトはこれは本当に勝ってもいいのだろうかと疑問を持ってしまうのは仕方のないことだろう

 

「はぁ...........先生の言い方はあれですけど遠慮せずかかってきてください」

 

「ほ、本当に一人でよろしいのですかイズさん?」

 

フランシーヌが少し困惑したように見えるがナハトからすれば全くの無用なことだ

 

「大丈夫です。お互い頑張りましょう?」

 

その言葉を聞くと月組の生徒達やルミア達も十数メートル程距離を取り準備する。

 

そんな中、ナハトの本来の実力を知る三人はと言うと............

 

「リィエル少しいかしら?」

 

「ん。どうしたのシスティーナ?」

 

「イズに【ショック・ボルト】とかって当てられると思う?」

 

そう、この模擬戦のナハトが絶対的に有利な理由の一つが軍用魔術との単純な速さの違いだ。何せシスティーナは目の前で【ライトニング・ピアス】を至近距離で叩き落しているのを知っているためそこが気になって仕方がない。

 

「無理。それに私でも当たらないし」

 

そしてリィエルもまたあの魔導兵団戦の時余裕綽々で回避していたため自分にできることの大抵はナハトにできることを知っている

 

「無理って..........そうなると風系統で範囲攻撃しかないわね」

 

「あははは........さっきまで私達ただの女の子としてイズと接してたけどコレどうしよっか?」

 

二人ともさっきまでさんざんに可愛がってきた相手がどういう存在か思い出していた。可愛い皮を被った猛獣.........いや、その表現すら生易しいのではと二人はここにきてようやく思い出していた

 

「と、とにかく!私たちは彼女たちがやられてから動きましょ。彼女達と束になってもかなわないなら私たちの連携でどうにかするわよ!」

 

数でかかっても勝てない。技量で勝負しようものならそれ以上の技量と実力で簡単にひねりつぶされる。ならば連携でどうにか抗うしかない.........そう考えるシスティーナではあるが

 

「そうだね.........私たちどれくらい持つかな?」

 

「イズが速攻したら多分数分........私でも10分は無理」

 

リィエルは幾度と模擬戦をしたためわかっている。ナハトには絶対に勝てないことを。リィエル自身パワーで勝ってるというのは自覚してるが速さでは勝てないし技巧で言えばもっと絶望的だ。

 

だがリィエルは数秒ではなく数分(・・)と言ったのだ。

 

「でも私達なら多分少しはやれると.........思う」

 

軍用魔術及び炎熱系魔術の禁止のルールからリィエルは直感でそう確信していた。そして何よりもリィエル自身がシスティーナ達を信頼しているからだ

 

「だから......頑張ろう」

 

「「えぇ!(うん!)」」

 

三人娘は気合を入れて絶望的な戦力差にあらがおうと意気込むのであった

 

その様子を見届けたグレンがイズと月組の生徒達が位置についたことを確認すると開始の合図を今しようとしていた

 

「よし!んじゃこれから模擬戦を始める。模擬戦...........開始!」

 

開始の合図と同時にまず動いたのはフランシーヌら『白百合会』の者達だった

 

「イズさんには申し訳ないですが一斉に行きますわ!《雷精よ》!」

 

「《雷精よ》!」

「《雷精よ》!」

「《雷精よ》!」

「《雷精よ》!」

 

同時に十数もの紫電がイズに襲い来るが——

 

「............」

 

涼しい笑みでイズはほぼ動かずにそのすべてを交わす。もしこの距離でイズ......ナハトに魔術を当てたいのならアルベルトクラスの魔術師でもなければ不可能である。そもそも軍用魔術でもない【ショック・ボルト】などナハトからすれば止まってるようにすら見える

 

「そんなッ!?全部躱された!?」

 

「フランシーヌさん達。闇雲に打つだけじゃだめだよ?ちゃんと連携して撃たなきゃ」

 

多少の援護と連携があれば確かにいくら遅くても当てる方法など五万とあるのは事実であり、ナハトとてそれは例外じゃない。用は工夫が大事と言うわけだ

 

最もナハトにその方法が思いつくかは別ではあるが........

 

「はっ!情けねぇな!」

 

そう言って走り寄っていくのはコレットだ。

 

「《白き氷精よ・我が掌の上で・踊れ》!」

 

コレットが短く唱えるとその拳には白い冷気が輝き渦巻いている。どうやら魔闘術(ブラック・アーツ)の真似事が彼女にはできる様ではあるが

 

「へぇ..........面白い」

 

イズは構えも取らずそうぼそりと呟きながらコレットの拳を簡単に躱していく。イズ相手に近接戦を挑むなら最低でもグレンレベルの腕.......いや、リィエルクラスでもなければまともにやりあう事さえできない

 

「当たんねぇ!」

 

「悪くはないけど雑かな?」

 

筋は確かに悪くない。だが、攻撃が単調で読みやすい。バーナードさんあたりに指導させたら化けるだろうなと思いながら躱していく。

 

すると後ろから一人気配を最小限にして襲い掛かる者がいた

 

「今の躱されますか.........マジですか?」

 

それはジニーと言う生徒だった。

 

彼女は二本の短剣と動きからして【フィジカル・ブースト】を施しているようだがナハトからすればまだ遅すぎる。ナハトは挟み撃ちの状況を一気に跳躍して逆にジニーの背後を取る

 

「動きはいいけどそれじゃダメかな」

 

気配を消すのではナハトやリィエルには通じない。ナハトなら圧倒的なまでの空間把握能力による敵の認知やリィエルの獣以上の勘で簡単に気づいてしまう。もし、それらをかいくぐりたいなら気配を消すのではなく偽るほうがまだ効果的だ

 

「私...........東方の『シノビ』の技を代々伝える里の出身で一族内ではまだ若輩とはいえ、技量に関しては、私もかなりの使い手だと自負していたのですが..........イズさん何者ですか貴女?まったく勝てる気がしないのですが」

 

「私は唯のイズ。さて、まだやれるよね?」

 

「..........三分間のハンデなんてハンデでも何でもなかったというわけですね」

 

ジニーは悟った。イズに対してはどんな攻撃をしてもすべて対処されると。だが、それでもその三分でどうにかしようと二刀で斬りかかる

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

怒涛の勢いで残像を残すように襲い掛かるだが、そのすべてをナハトは余裕を持って躱していく。ジニーも自身の攻撃が全く脅威になっていないことに歯噛みしながらも手足を止めずに斬りかかるが

 

「クッ.........!」

 

ジニーが躱されたところにすぐさま切り替えしジニー最速の突きを放つが..........

 

「ほいっ」

 

イズはそれを正面から三本指で剣先をつまむように防ぐ。ジニーは剣を引き抜こうとするもイズの見た目からは想像もできない力で万力の如くつかまれているため引き抜けないでいた。

 

「...........本職は剣士ですね。重心移動にその足さばきからしてそれも相当な腕の...........しかも、剣以外の武具の扱いにもそれなりに造詣がある万能手ですね?」

 

「えぇ、メインは双剣ですがそれ以外にも槍に戦斧にあとは弓や銃もいけるよ?」

 

そもそも武器なら一通り扱える。まぁ、剣と弓以外は三流がいいとこではあるが

 

「そうですか.........この今の一合で貴女なら何度私の首を落とせましたか?」

 

「多分7回は堅いんじゃないかな?リィエルでも3~4回は落とせると思うよ」

 

「ははは.......もう滅茶苦茶ですね」

 

「誉め言葉として受け取っておくよ」

 

「ならせめて少しでも貴女を本気にして見せますよ!」

 

掴まれた剣をすぐに離し、再びイズに襲い掛かる。そしてそれと同時にその他の月組の生徒もイズを包囲し攻撃を仕掛けたり動きを妨害させようと魔術を行使したりするのだが..............

 

「三分経過.......イズ!もういいぞ!!」

 

グレンが三分経過したことを告げた瞬間イズは詠唱を開始する

 

「《紫電の花よ・咲いて廻れ・花吹雪の如く》」

 

すると紫色の幾百もの花びらのようなものがイズの周囲を駆け巡る。

 

それはまるで本当の花吹雪の如く美しくはあるがグレンはそれの本当の威力と怖さを知っているためえげつない手段を選んだものだと呆れていた

 

これは黒魔改【ショック・ブルーム】。【ショック・ボルト】と【グラビティ・コントロール】の複合改変魔術であり花びらに模した紫電で広範囲攻撃と収束させての防御を可能とする攻防一体を体現した応用の幅が広い技である。

 

本来は黒魔改【ライトニング・ブルーム】と言う名称であり、名称通り花びらに模した紫電は小さく収束した【ライトニング・ピアス】である。そのため一つ一つの威力は簡単に鎧を貫くほどの威力を持ち、その防御力も今回の物に比べてはるかに高い。【ライトニング・ピアス】ほどの貫通力を誇る魔術が〝面〟で襲ってくると考えればその恐ろしさがよくわかるだろう。

 

月組の生徒たちは不穏な空気を感じ身構えていると左手を上げるイズ

 

「さて、悪いけどこれで終わりにするね?」

 

左手を上げ勢いよくイズが振り下ろした瞬間。イズの周囲を廻っていた花びらたちは一気にイズを取り巻く生徒達に襲い掛かる

 

「「た、《大気の壁よ》!」」

 

何人かはすぐに【エア・スクリーン】で防ごうと動くが............

 

「「って!キャッ!!」」

 

まるで生き物のようにその障壁をうねるように回避して生徒を雷撃で意識を奪う。この魔術はナハト自身が解除するまでその軌道の全てを完全にナハトが掌握しているのだ。だからこその攻防一体の魔術。一気にその花びらたちを収束させ堅牢な盾にしたり広範囲を一気に蹂躙りたりすることが可能なチート魔術

 

見る見るうちに月組の生徒たちは一人......また一人と倒れていく。フランシーヌもコレットも他の生徒達のように花吹雪に包まれたと思えば意識を失いその場にバタバタと倒れていった

 

「さて............これで残るはシスティーナ達だけだね?」

 

花びらを自身に纏わせてこちらを見据える彼女たちに視線を向ける

 

「わかってはいたけど........噓でしょ?あの人数を一瞬で......驚きを越してもう何も感じないわ.......」

 

「あははは........なんだかアルフォネア教授みたいだね?」

 

「ん........でも、ナハトが本気なら皆死んでた」

 

リィエルもナハトの今の魔術は知っているためそう感想を零す。

 

「さて、勿論ここでリタイア.......なんて真似はしないでしょ?」

 

「えぇ!貴女に一矢報いて見せるわ!行くわよ!ルミア!リィエル!」

 

ナハトは当然わかってるといわんばかりの様子でシスティーナに挑発的な目でそう投げかけると、システィーナも自身に最近から魔術の指導をしてくれてる相手に何とか目にもの見せてやると意気込んで親友に発破をかける

 

「うん!システィ!」

 

「ん!今日こそ勝つ!」

 

ルミアもらしくなく好戦的な目を浮かべリィエルも意気込み剣を構ええる。そしてナハトもまた時空間魔術で模擬剣を二本取り出し構えると............

 

「かかってきなよ......返り討ちにしてあげるわ」

 

不敵に口端に笑みを浮かべるそのイズの姿はまるでイヴ()の様だった

 

最初に仕掛けたのはリィエルだった

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

弓なりに体をそらせて躊躇いなくナハトに剣を叩き込みにかかるそれをナハトは軽やかに躱す

 

(うわぁ..........パワー上がってるじゃん)

 

地面を割らんばかりのその一撃にナハトは少々ぞっとする。だが、リィエル相手にそんなことを考えてる暇などない。そこからすぐさま大剣による怒涛のラッシュが始まる

 

「やああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ブンブン

 

「ふッ.........シッ!」

 

ナハトはそれをいなしたり躱したりしてやり過ごす。正面から受けては流石のナハトと言えどただでは済まないため最大限躱すことと流していくことを前提にリィエルと剣を交える

 

(にしてもまぁ.......リィエルの奴随分と強くなったもんだ。今もパワーで押し切ろうとしてるように見えるが俺に対する観察を怠ってないな)

 

そう、リィエルは唯のパワーによるゴリ押しではなく今彼女は自身の一投足にとても警戒しているのがよくわかる。確かにリィエルはそれを勘として感覚で今までもやってきたが今は理由をもってやっていると考えれば大きな成長と言えるだろう

 

だが、忘れてはいけない。相手はナハトだと言う事を.........

 

「!いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ナハトが視線を右に逸らし重心の移動の前触れを見せた瞬間。凄まじい反応速度で行動の先読みをしてすぐさまリィエルが攻撃に映るが.........

 

「シッ.........!!」

 

「うぁッ.......!」

 

ナハトはそこから恐ろしい程の速さで切り返しガラ空きになったリィエルの胴に蹴りを放つ。

 

ナハトのフェイク。戦闘における場運びはイヴやアルベルトそしてバーナード譲りのナハトにとって相手が警戒しているのならそれを逆手に取るなど造作もない

 

間合いから吹き飛ば素たリィエルに向け維持していた【ショック・ブルーム】を叩き込むが..........

 

「「《大気の壁よ》」」

 

システィーナ、ルミア両者によって完全にリィエルを覆うように【エア・スクリーン】が展開されその攻撃を防がれる。確かに防ぐなら二人で全方位を守るしかない上、ナハトの動きをある程度抑え込むことのできるリィエルの存在を欠くのは大きな痛手になるからこその判断だろう。実際ナハトもリィエルさえ倒せばある程度はやりやすくなると考えていた

 

「(なら今度は.......)《翡翠の花よ・咲いて廻れ・花吹雪の如く》」

 

ナハトは【ショック・ブルーム】を解除すると今度は翡翠の花吹雪を纏う。

 

「これならどうする?」

 

黒魔改【エア・ブルーム】。攻撃力自体はほぼないといっていいが花びら一つ一つが弾け突風を起こすそれは十二分に阻害目的を果たせる。ナハトはその隙を突く作戦だ

 

一気にそれらを後方に構えるシスティーナ達にに向け放つ

 

「《風よ・風よ・吹き荒れよ》!」

 

(それは.........俺の改変魔術.......)

 

同じ風の魔術なら風の魔術で相殺する。システィーナはナハトの詠唱と発動したものから攻撃の内容を瞬時に察するとシスティーナが選んだ手は競技祭でナハトの使っていた【ストーム・ブロウ】だ。広範囲に【ゲイル・ブロウ】に匹敵する風圧を中心から外側にぶつけるそれならルミアを守りつつ防げると判断したのだ。

 

「へぇ.......使えるとは思ってたけどあの時の改変魔術を使うなんてね」

 

「えぇ、攻撃を防ぐのにこれって便利だと思ったのよ.........それより足元注意よ?」

 

バンッ!!

 

突如ナハトの足元が輝くと衝撃波が発せられる。これはルミアがナハトとリィエルが攻防する間に仕掛けた【スタン・フロア】。リィエルは打ち負かされたようでいてその実役割を果たせていたわけだが...........

 

「あぁ.........システィーナもな?」

 

「ッ!《疾風よ》!」

 

バンッ!

 

ナハトは当然それすらも読んでいた。と言うのもリィエルの視線やルミアを隠すように位置どったシスティーナにナハトが何を考えているのかを推察していたのだ。だからこそナハトもいつの間にか同じものを仕掛けていた。

 

(バレていた!.........流石はナハトね.........でも、一体どのタイミングで?)

 

ルミアを咄嗟に抱え回避したシスティーナが内心で何処までも周到なナハトに戦慄する。因みに仕掛けたタイミングはリィエルと剣を交えた最初の時点だ。剣戟の音と警戒するリィエルの視線の誘導をして詠唱を気づかせなかったのだ

 

「悪くない作戦だよ........でも、私がルミアを無警戒にするわけがないでしょ?」

 

そう、ルミアに直接的な攻撃手段は少ない。そのため必然的に警戒度は下がるのは彼女を知っているものなら普通だろう。だが、だからこそ彼女のサポート系の魔術や罠に警戒するのが当然だとナハトは考えている。そのためナハトには通じなかった

 

「抜け目ないわね..........」

 

「(そうだ!)..........私のことみてくれてたんだねイズ?」

 

「へっ/////////いやそりゃ......どんな相手でも警戒は怠らないのが当然でしょ!」

 

「(ルミア?)」

 

突如ルミアが悪戯っ子のような笑みでイズを見るのでシスティーナは一瞬何かが引っ掛かるように思い考えこむと...............

 

「(あ!.......あるじゃない!イズの弱点!)」

 

この瞬間システィーナは雷に打たれるように脳裏にイズ(ナハト)の弱点を思い出す。最近になってやけにそれが原著に現れているのには何故かモヤモヤするがそれでもこれを活かさない手はない

 

「そうね........ルミアのことず・い・ぶ・ん・と気にかけてるみたいだしね?」

 

「えぇ!!??///////」

 

この女体ナハト改めイズは割りに表情に出やすい。そのため〝彼女〟の存在が有効になる

 

「ルミア!わかるわね?」

 

「勿論!システィ!」

 

その声と共になんとルミアが前に出ると立ったのなんとリィエルの〝前〟だった

 

(そう、ナハトの最大の弱点...........それはルミアには絶対に手を上げられないことよ!さっき攻撃もなぜか私には標準を合わせてる癖してルミアに標準は合わされていなかった!でも............腹が立つわね。何よ........そんなにルミアがいいわけ?...........ばかぁ)

 

そう、さっきのナハトが放った攻撃で実はシスティーナは不思議に思っていたのだがなぜか自分に向けられてはいるがルミアには向けられてはいなかったのだ。恐らくは無意識なのだろうが..........それでもこのシスティーナのモヤモヤとした想いは大きい。そのためか普段なら照れるところだが内心で少し不貞腐れていた。

 

「リィエル。私を盾にして」

 

「え..........ん、わかった」

 

リィエルはわけがわからないがそれでも彼女を信じているため何も言わずそこから動かない。そのためイズはと言うと..........

 

(ゲッ............俺がルミアに手を上げられないのがバレた!しかもルミアが上機嫌なのに対してシスティーナがスゲェ不機嫌そうなのが滅茶苦茶怖いんだが!)

 

「どうしたのかしらイズ?なんで攻めてこないのかしら?ねぇ?ナンデ?」

 

ふてくされすぎて若干システィーナがヤンデレ化しかけてるがそれは乙女心の表れである。なので可愛げがあるもの.............いや、それにナハトは普通に怯えていた

 

(ひぃえぇぇ............システィーナこわっ!いやなんでそんな機嫌悪いんだ?俺何かしたっけ............)←超鈍感

 

ナハトは若干下手打てば相当な目に遭わされるのではとびくびくもするが...........

 

(...........フッ、まぁ...........そこまでは読んでいる(・・・・・)わけだけどな。アイツの口癖だが.......)

 

「どうする?イズ?」

 

ルミアも自信ありげに見ているが残念だがもう既にチェックだ

 

「..............なぁ、東方に伝わる将棋って知ってるか?」

 

「ショウギ?」

 

「まぁ、チェスみたいなもので大まかなルールはチェスと同じなんだ」

 

「でもそれが一体..............?」

 

困惑する三人を気にせずナハトはそのまま続ける

 

「将棋には王手と言う言葉がある。チェスでいう所のチェックだ。じゃあここで問題だ。ならチェックメイトはどういうことだ?」

 

「へ?........どう言う事って...........それって勝てますよって宣言なんじゃ.........」

 

「惜しいな..........正解は——」

 

その瞬間。イズの体がぼやけ消え、次に現れたのは............

 

「〝討ち取った〟........つまりはもう既に勝っているという事さ」

 

「え?」

 

ルミアとリィエルの背後に剣を向けて構えていた

 

「なッ!?どうして!!」

 

「悪いね三人とも.......実はこの勝負端から私の勝ちが確定してるんだよ」

 

ナハトは三人に〝幻術〟をかけていた。と言ってもそれはそれほど強力ではない.........寧ろかなり弱いものだ。ナハトは最初の月組との混戦の中で使い魔を召喚してルミアとシスティーナの二人に遠隔で掛けておいたのだ。リィエルには警戒されるので蹴りをしたときに事前に靴に仕込んでいた術式を打ち込んでおいたのだ

 

幻術の効果は一瞬だけ特定の存在だけ視界に入らないようにするもの。それも本当に一瞬なためかけられたことも事前に気づくことのできないほどに小さな魔術。ほとんど手品みたいなものだ。その一瞬で気配を偽り瞬時に距離を詰め背後を取るのはナハトにとっては造作もない

 

「さて..........これで二人は戦場なら確実に戦死だね?」

 

ナハトは確かに破壊の権化ともいえるような魔術行使が得意でもあるがそれはあくまで成長した近年のナハトの場合だ。特務分室に入ったばかりの時はこういったバーナード仕込みの小手先のトリックと当時からそれなりの練度があった剣技による戦闘がメインだった。

 

時に大胆に、時に地味に動き、遍く者を翻弄する——だからこそナハトは〝奇術師〟なのだ

 

そして——

 

「ま、まだ!」

 

システィーナが左手を構え魔術行使をしようとするが.............

 

「キャッ!こ、これって結界!?」

 

「任意で発動する捕縛結界さ。システィーナが【ストーム・ブロウ】で俺の魔術を相殺してくれたから簡単にし込めたよ」

 

派手に風圧がぶつかり合ったおかげでそれをカモフラージュにしてナハトはシスティーナ達の動きを呼んで適切なポイントに罠を張っていたのだ。因みにこれはクリストフに教えてもらった結界魔術の応用である。流石に本家とまではいかないが相手を一時的にとどめられさえすれば結界ごと敵を倒せるナハトからすれな十分なものだった

 

「私がルミアを攻撃できないのはぶっちゃければシスティーナとルミアには9割がたバレると思っていた.............それをシスティーナが逆手に取ろうと考えるのもルミアが躊躇いなく自分を盾にすることも簡単に読めた。まぁ、私が三人にしたし賭けに気づけなかったのが敗因だね」

 

ナハトは三人よりもはるか先の手までを読みながら戦闘をしていた。これはアルベルトとイヴ譲りの謀略に知識・柔軟な思考に由来する。

 

ナハトのここまでの戦闘能力の基礎は全て特務分室のメンバーがもとになっているのだ。特務分室には分野ごとにありえないほどに尖った人材が多い。それは唯平均的に実力があるだけでは特務分室に回される仕事はこなせないからである。例外で言えば総じて能力がずば抜けているアルベルトやイヴだが、そんなある種の魔窟中にある尖ったものを手を変え品を変えて万能に生かすことのできるその才こそがナハトのある意味特務分室での〝尖った部分〟と言えるだろう。

 

「まぁ、読めなかったのはア何故かシスティーナが不機嫌なことだけだが.........俺何かした?」

 

「........私だって...........何でもない」プイッ

 

(え~.............)

 

顔を背けて拗ねてるシスティーナはなんだか子供みたいで可愛いがどうしたものだろうか...........

 

「イズ.........耳貸してくれるかな?」

 

「ルミア?わかった...........」

 

見かねたルミアは苦笑を浮かべながらイズにどうすればいいのか耳打ちをする

 

「.......を.....してあげれば大丈夫だよ」ゴニョゴニョ

 

「わかった」

 

そうしてナハトはシスティーナの方に歩いていくと顔を背けこちらを向かないシスティーナの頭に手をのせ優しく撫でる。今のナハトはシスティーナよりも背が低いため背伸びをして頭を撫でるその姿はどこか微笑ましくある

 

「えっと........私システィーナが何に怒ってるのかわからないけど........それでもごめん。なんか私こういうこと点で駄目みたいだから何かあるなら言って欲しいな」

 

「..........優しくして」

 

「えっと.........優しくしてるよね?」

 

「............ルミアと同じがいい」

 

「ルミアと?それなら何時もしてるよ?だってシスティーナは私にとって大切な人(親友)だから」

 

「.........ならいい。私も拗ねてごめんなさい」

 

こうして模擬戦は幕を占めるだが.........その数時間後に冷静になったシスティーナが赤面して慌てふためくのは別の話であった

 

(私のバカぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!///////////)

 

 

 

 

-------------------------------------------

 

おまけ

 

 

のびた月組の生徒が起きるまでの間の事。ナハトが運動所隅にある気にもたれかかって座っていると......

 

「ねぇ、イズ.........うんうんナハト君」

 

「どうしたのルミア?」

 

「システィを甘やかした分私もしてくれるよね?」

 

「へ?.........それってどういう.........」

 

「手握って良い?」

 

そのままルミアは指を絡めて手を握るとそのまま頭をイズの肩に乗せ寄り添いあいながら数十分そうして過ごすのであった

 

(ルミアが近い......ヤバい緊張する......../////////)

 

ちなみナハトはルミアに恋心を自覚してからはたじたじになる場が多々ありそれを感じてるルミアは少しづつ強かになってきていたりする

 

(照れてるみたい........ナハト君が私を意識してくれて嬉しいなぁ/////それに可愛い♪)

 

ルミアは少しの恥ずかしさとそれ以上の幸福感を感じていた。ナハトがどうして突然こうもわかりやすく照れるようになったのかルミアにはわからないけどどちらにせよルミにとってはチャンスである事には変わりない

 

(覚悟しててね?ナハト君!)

 

 

 






今回はここまでです。そして投稿が遅くなりすいません!大学が始まり授業も対面とオンラインの入れ替えなんかでドタバタしたりして中々まとまって書く時間が取れず遅くなりました。本当にすいません!さて今回は原作とは違いナハトvs皆と言う形を取りました。その上ルミア達とも戦わせてみるという展開もかいてみたりと少し改変してみました。ルミア達と言えばシスティーナは14巻からの魔術祭典編では他校や自校の選抜戦をしたりしますね。そこでナハトの扱いをどうするかが悩みどこだったりするんですよね~軍人なうえ軽く学生レベルなんて凌駕してるナハトを参加させるものかと言うのも難しいですよね........でも、ちょっとシスティーナとの一対一の模擬戦はかいてみたかったりするので悩みどこです

さて遅くなってしまいましたが今回もここまで読んでくださりありがとうございます!また、コメントやブックマークにいいねをしてくださりありがとうございます!


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ナハト「お家帰りたい.........」

 

圧倒的なまでの差を見せつけイズの勝利で終わった模擬戦.............

 

イズはその模擬戦で少しでも自分に恐怖を抱いてもらい節度ある距離を保てればと考えていた。なので結構見た目的にも技術的にもエゲつめな複合改変魔術【ショック・ブルーム】を使用した。

 

これで少しはと思っていたのに、だ.............

 

なのに、だ!

 

「お~い!イズ!私にあの花吹雪みてぇな魔術教えてくんねぇか?」

 

「イズさん。私にあのようなスマートな戦い方を教えていただけませんか?」

 

その後ろにはその二人の生徒たちが率いる派閥の生徒たちが多数集まっており目を輝かせてイズの言葉を待っている

 

そう、今日も今日とてイズはコレットとフランシーヌに両サイドをがっちりつかまれてます。大変柔らかく、その数十倍痛いです。

 

結果は御覧の通り、だ~れも避けてはくれませんでした。寧ろ余計気に入られました。もうヤダ.............だって、こうなると——

 

「イ~ズ~?」ダキッ

 

「鼻の下伸ばしちゃだめだよ?」ダキッ

 

ぬっと間に入ってさらにイズをがっちり拘束するものが現れる。言わずながシスティーナとルミアである

 

まるで夫の浮気現場を目撃して浮気相手や夫もろとも直接罰を下さんが如く二人は威圧的にイズとコレットらに牽制する。そうしてここからフランシーヌたちと喧嘩するまでがワンセット。いろんな意味で辛い...........

 

(おっかしいなぁ~あんだけ無双すれば絶対に怖がられるの間違いなしだと思ったのに、どうしてこうなったのさ?俺何処で間違えた?)

 

因みにだが授業自体はまともに受けるようになった。何でも俺の戦闘や先生の言葉に感化されたの事らしい。できれば怖がってもらえるともっと助かるのに...........

 

「おい!またアンタラかよ......アンタラは邪魔なんだどっか行ってくれ」

 

「コレットもですわ!イズさんが迷惑がってますわ!!」

 

「貴女もよ!!イズは私達といるの!!」

 

「行こう?イズ」

 

(俺の意思はどこにもないんだな........特務分室の執行官なんだけどなぁ)

 

特務分室は帝国の先鋭.......それも特に強い個性を持った者たちがひしめくのだ。その先鋭の一人がこの様だ。言ってしまえば無様この上ない。アルベルトにでも見られれば説教ものだ...........

 

(さて、この状況も解消したいがそれよりリィエルだ。アイツはどうかなと..........)

 

目下この状況はどうにかしたいのではあるが、それよりも重要なのはリィエルのこの短期留学の成否だ。そのために自身を取り合う彼女たちを尻目にリィエルの様子を窺う

 

「その本上下さかさまだよ?」

 

「.......気づかなかった」

 

「えぇ........それってちゃんと本読んでないんじゃ........」

 

「違う。ちゃんと本は読んでいた」

 

「じゃあ内容は理解できたの?」

 

エルザとリィエルがそんな感じで中々に微笑ましいやり取りしてるがリィエルをよく知る者からすれば聞くまでもない問だ。そんなもの...........

 

「全然わかんない。でも、なんか力がついた気がする」

 

リィエルはこと体を動かすことに関しては非常に物覚えがいい。それはつまりは体で覚えるというのが得意なのである。例えば直近で言うとダンスなんかもそうだろう。だが、勉学..........頭を使うことはその分感覚の差異からか苦手であるように見える。ナハト個人の見解だが直感的な部分に長けてるリィエルだからこそ考えをまとめそれを形としてなす勉強はめっぽう向かないのだろう

 

だが——

 

「ねぇ、リィエル。もし本当に頑張るつもりだったら私と一緒に勉強する?私がわかる範囲で教えてあげようか?」

 

「!」

 

エルザはそう屈託のない笑みでリィエルにそんなことを提案するのだった。これはある意味リィエルにとって勉強以上にいい影響を与えてくれるかもしれない提案だ。

 

だが、リィエルは悩んだ。かつて兄に依存していたが、今では少しは変われたと昔から知るグレンやナハトやセラはそう感じてるし、リィエル自身もそう思っている。だがそれはあくまで彼らにおんぶにだっこの状態ありきでの話だ。彼らがいるからクラスメイト達にも興味を持てたし、エルザの事も好意的に考えられている。

 

だが.............

 

『まぁ、そうだな............お前が自信を持てるように俺達の誰にも頼らずに友人の一人位作ってみろ。そうすりゃお前も自信が持てるし俺もアイツ等も少しは安心するだろうさ』

 

不意に出発するときにグレンに言われた言葉を思い出す。

 

そして——

 

「.........ん。わか.......った。勉強...........教えて?」

 

リィエルはいつものように無表情のように見えるが心臓はバクバクと鳴り緊張状態である。

 

「その...........よろしく。え、えっと......エル、ザ?」

 

「!」

 

子虫の羽音よりも小さな声でそうリィエルが頼み込んでくる様子にエルザは一瞬ぽかんッとするもすぐに満面の笑みを浮かべリィエルの手を握り「こちらこそ!」と答えていた

 

 

(なんだ........リィエルちゃんとやれてんじゃん)

 

そしてそんなリィエルの様子を見ていたナハトは安堵したように微笑みながらそう考えていた。もしもの時は自分でリィエルに勉強を教えるつもりでいたがあの様子では大丈夫だろう

 

(エルザに関してはまだ少し気になることはあるが............まぁ、〝今〟のリィエルなら大丈夫か)

 

ナハトはいまだにエルザの事を警戒しているがきっと今のリィエルなら問題ないと考える。勿論いざと言う場合にはすぐに動けるようには準備も警戒も怠らない

 

そう、怠らないのだが..............

 

「ちょっと!イズ聞いてるの!!イズは私達と一緒にいるわよね?」

 

「イズさん早くこちらへ。そのような野蛮な方々は放っておいて一緒にお茶をしながらご教授いただけませんか?」

 

「お前自分の事棚に上げてんじゃねぇよ!!テメェらのせいでイズが困ってるんだろうが!!」

 

「コレットさんもイズが困ってるから離れて?あとイズは鼻を伸ばしちゃだめだよ?」

 

この自身を取り合う4人の少女たちをどうにかしたい

 

字面だと男冥利に尽きるかもしれないが実際にあってみると分かるだろうが幸せどころか割と恐ろしくすらある

 

(早く男に戻りてぇ.........もう明日から分身に学校行かせようかな?)

 

分身を使ってサボるという若干グレンらしい思考なるナハトであった

 

 

**************

 

 

 

学校が終わった夜。ナハトは浴場に行かず手ごろな寮の庭のはずれに模擬剣をもって出てきていた

 

グレンは.........

 

『浴場に行ったら今なら女子生徒に背中流してもらえるかも!?』

 

とか言って行ったが俺からすればいつ体が戻るかわからない状況でそんなことできやしないし、ルミアに出くわして軽蔑されて嫌われたら嫌..........って、べべべべ別にルミアどうのじゃなくて人としてそれは犯罪と言うわけで決して好きだから嫌われたくないという気持ちも無きにしも非ずではあるが.............

 

(..........俺.........誰に言い訳してんだよ?.........さっさと剣振って忘れよう)

 

そんな事を内心で考えている自分に呆れつつルミアを完全に意識してしまってる自分が恥ずかしくなり剣を振り始める

 

ナハトにとって剣を振ることは鍛錬の意味もあるが精神統一や考え事をするのに思考がクリアになっていいという意味もある

 

剣を振りながら今回の裏側の事情なんかに思考を巡らしていると.........

 

「あれ?イズさん?」

 

「エルザ?」

 

後ろから刀を持って現れたのは昼間リィエルと一緒にいたエルザだった

 

「イズさん素振りですか?」

 

「えぇ、そう言うエルザも?」

 

「はい。日課なんです。それに剣を振ってると落ち着きますから」

 

「それは私も同じね」

 

そう笑みを交えて話しているとナハトは自然とエルザがもつ刀に目が行った。帝国で東洋の刀を使うものは珍しい。ナハト自身刀を使う者は一人しか知らない。

 

(確かサキョウさんも刀使ってたっけ。剣術とか少しだけ手ほどきされたからな............)

 

特務分室で剣を使うのは基本的にナハトともう1人、元・執行官No,10《運命の輪》サキョウ=スイゲツ=ヴィーリフだけであった。ナハトの基本的な剣技はゼーロスの教えがメインだが少なからず彼の教えも影響していたりする。もっともナハトの場合はいろんな剣技を複合させ自分がやりやすいようにしているためほぼ我流に近いわけであるが............

 

(確か二年前天の智慧研究会の掃除屋に奥さんと共に殺害されたんだよな...............って、ヴィーリフ?...........確かエルザの姓も.............あとでアルベルトさんか姉さんに調べてもらおう)

 

よくしてくれた人でもありその最後があまりにも酷く、当時は結構研究会に対して頭に来たと思い返してたところでふとエルザと姓名が同じことに気が付く。刀使いは珍しいので何か繋がりがあるかもしれないと心に留めていると..............

 

(なんか熱いな...........前にもこの感じあったような.............)

 

エルザと共に剣を振ってからそこまで時間がたっていないのに無性に熱く感じていると体の異変に気が付く

 

(あれ.....なんかメキメキ音がするって........まさか!?)

 

小さくメキメキと音が鳴り始めたところで事の重大さに気が付く

 

そう望んだとおり〝男に戻り〟つつあるのだ

 

こんなところで男に戻っては拙いと直ぐにナハトは行動する

 

「わ、私授業の課題するの忘れてたのを思い出したので先に戻りますね!」

 

「え?今日って課題なんて出て.....「そ、それじゃあまた明日!お休みなさい!!」........ってイズさん!?」

 

イズは適当に今考えた言い訳をしてそのまま鍛え抜かれた俊敏さで駆けていた。エルザはそんな様子に驚き呆然と立ち尽くすとしばらくしてとても真剣な..........それこそ執念すら感じられる表情で剣を振り始めるのであった

 

 

****************

 

ナハトは一旦部屋に戻ると直ぐに女体化が解けた。久しぶりの本来の身長に感動しつつも今はそれどころではないと言い聞かせ直ぐに【セルフ・イリュージョン】で先程までのイズの姿にすると浴場へ駆ける。

 

(多分先生も解けてるはずだから早く行ってフォローしないと!!!)

 

寮内を駆け抜け直ぐに浴場に辿り着き、風呂場に入った瞬間だった——

 

「《きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ》!!!!!」

 

「先s.....「ふべらっ!?」ちょ、まっ......ッ!?」

 

入った瞬間にすでに先生は男に戻っていると確認できるや否やシスティーナが悲鳴を呪文に改変させる無駄に高等なテクで放たれた【ゲイル・ブロウ】によって吹き飛ばされたグレン。そしてそれにナハトは突然の事で捌けずグレンと共に吹き飛ばされる

 

(もう嫌だ..........お家帰りたい..........)

 

この短期留学始まって何度思った事だろうか。ナハトはグレンの下敷きになりながらそんなことを考えずにはいられなかったのだった

 

 

 

 





すいません!遅くなってホントすいません!!今回はいつもより少し短めですがキリのいいところなのでここできらせてもらいます。さて、遂に来月待望のロクアカの画集が発売されますね!自分はゲーマーズの豪華版を既に予約してるのですが届くのが今から楽しみですね!それに加え新刊も確か6月に発売なのでそれを含め来月はロクアカの月ですね!

今回もここまで読んでくださりありがとうございます!またお気に入り登録、評価、コメントをしてくださりありがとうございます!次回以降はもう少し早く出せるよう頑張ります!



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〝夢〟

 

 

「次あんなことになったらサクッと重鎮共を洗脳してこの短期留学終わらせますからね?てか、していいですか?廃人にならないように気を付けるんで無理くり記憶いじってきていいですか?」

 

「マジで悪かったから許してくださいお願いします!!あと怖いこと言うのもマジで辞めてぇ!!!」

 

仁王立ちしてこれ見よがしに月のアルカナを見せつけるナハトの足元にはそれはそれはキレイな土下座をするグレンがいた。

 

この状況になったのはグレンが我欲に負け女風呂に入るという愚行を犯し、その上フォローに言ったナハトにまで少なからずとばっちりを受けた事にある。

 

そして何よりナハトのストレスが限界に近いこともある。いい加減この男は強硬手段で国ごと黙らせてやろうかと言う思考が浮かんできているあたり察していただきたい。

 

「.........はぁ、先生には帰ったら罰として真人間として一週間過ごしてもらいます。もし破ったらその場で先生に焼けるような痛みを味わえるような魔道具の作成もしておくので覚悟しておいてください」

 

「何その地獄みたいな魔道具!?お、お前ソレ絶対セラとか白猫に言うなよ!?罰ゲーム抜きに普段からつけられそうでスゲェ嫌なんですけど!!!」

 

「先生?まさか俺と対等に交渉できる立場にあるなんて思ってませんよね?」

 

「.........はい。軽率だった自分めが圧倒的に悪いです。いかようにもしてくださいナハト様」

 

教師と生徒...........その立場完全に逆転した光景の完成だった

 

「まぁ、このことはこれくらいにしてそれより魔術が解けてしまった以上先生の言い訳を考えなくてはいけません」

 

俺に関しては【ホロウ・パレード】の特性上過去の自分の分身を作りだせるので問題はないが先生は一度男性になったところを見られている以上早急に考えなくてはいけない。

 

「お前ってほんと便利な..........」

 

「それがウリですからね」

 

ナハトにとって万能さと言うのは一番のアピールポイントである。例えばだがアルベルトの様な類まれな狙撃能力はナハトにはないがそれに何とか比肩できるものを持つナハトの存在はアルベルト不在時でもナハトに任務を回すことで組織を......引いては多くの人々を助けることができるほので非常に貴重な人材と言えるだろう。ナハトがいるだけで空いた穴を何個も埋められることができるので今の人手不足な特務分室には欠かせない存在でもあるのだ。

 

「まぁ、過去の魔術の実験の後遺症で男性化してしまったとでもいえばいいですかね?」

 

「無理やりじゃねぇか?」

 

「なら一層の事グレン先生を見ただけでレーン先生に見えるようになる認識改変の魔術でも今から作って施しますか?」

 

「は?んなもん作れんのか?触られさえしなければそれでも...........」

 

ナハトの改めてずば抜けたその場で即席に固有魔術を作るとかいう荒業に呆れながらも頼もうとしてたところで...........

 

「ただ、即席で作ることになるので一生女の姿に見られることになるかもしれませんがいいですか?」

 

「さっきの適当な言い訳にしてください!!てか俺を実験道具にすんな!!」

 

即席で作るときは何らかのデメリットが大きく表れる場合があるのも事実。まぁ、そう言うケースが怒るのは確率で言えば2~30%くらいだろうか?

 

「ではそう言う事で。いやぁ~俺もこれであの地獄を分身に押し付けられるから最高ですよ全く」

 

「.........お前今見た事ねぇ位に生き生きしてんな」

 

こうして真夜中の会議は幕を下ろした

 

 

**************

 

 

「「ってことでよろしくな二人とも」」

 

朝早くにナハトはルミアとシスティーナを呼び出した。内容は昨日の事による今後の短期留学中の対応についてだ。リィエルは言わなくてもいいだろうと言う事と夜に使い魔でリィエルの様子を確認したところエルザと勉強してたので朝早くに連れてくるのは申し訳なかったからである

 

「相変わらずナハトって常識外ね.........」

 

「あははは.........ナハト君らしいけどもうなにも言葉が出てこないや」

 

実体を持った分身を作ったと言われればそう反応せざる負えない。何せ考え方を少し変えれば魔術で生命体........それも人間を生み出したも同然ともいえるからだ。錬金術なり何かを生成するとかいう魔術の枠を軽く超えている。

 

もっとも原理としては幻術に近いものであるためナハトの様な特殊な魔力特性があれば似たようなことはできるだろう。

 

「おい、オリジナル!お前俺に押し付けるとか卑怯だろ!?」コソコソ

 

「怒るなってイズちゃん?お前もわかってるだろう?こうするしかないって。精々楽しんで来いよ?」コソコソ

 

ナハトは分身体のイズ(ナハト)とコソコソとそう軽く言いあっていた。ナハト(本体)は大変生き生きしている

 

「お前ぇ~あとで覚悟しとけよ!!」コソコソ

 

「フンッ、お前なんぞ何かする前に消してくれるわい」コソコソ

 

「お前ホントこの数日間大変だったんだな...........」

 

グレンはそうぼそぼそと言いあうナハトを見てそんな感想を零した

 

「ねぇ、ナハト。このことも大切だけどリィエルは大丈夫かしら?昨日の騒ぎとかにも全然参加するそぶり見せないし..........」

 

システィーナは突如心配そうにそう話題を振る。ルミアも先生も心配げな表情を浮かべ先生は特に思いつめたようにしていた

 

「アイツの自主性を伸ばすために放置してたが......確かに少し放置が過ぎたかもしれねぇ.......」

 

だが、対してナハトは違った

 

「三人ともリィエルなら大丈夫だと思うぞ。なぁ、イズ?」

 

「えぇ、あの子エルザと昨晩遅くまで勉強していたし昨日の放課中なんかも同じように二人で勉強していたのを見たわ。成績どうのを抜きにすれば確実に成長しているわよあの子...........って、イズって呼ぶから咄嗟に姉さんぽくなっちまっただろうが!」

 

イズを演じるにあたって基本的には姉さんベースにしていたのだがはたから見ると結構面白いなコレ

 

「まぁ、そう言うわけだから適度にリィエルを支えてやろうぜ?」

 

それから三人の顔から憑き物が取れたように安堵したのを見届けると通信魔導器が振動したのに気が付き席を外した

 

 

 

『私よナハト』

 

「おはよう姉さん。早速で悪いけどどうだった?」

 

誰にも監視されていないように魔術も駆使して人気のない場所で通信している相手はイヴだった

 

『貴方の予想通り彼女は彼の子よ。それと彼を殺した下手人なんだけど確証はないけどもしかしたら——』

 

「!?」

 

イヴの口からまさか予想もしていない下手人の人物の名を告げられ息をのむ。

 

(姉さんは確証がないって言ったけど........この状況で........多分それは——)

 

『彼女に気をつけなさい。それと多分だけど今回の黒幕は..........』

 

それから少しの間詳細な情報を受け取り終えると通信を切った

 

(今回の件.........蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)かかわりは姉さんからの情報と推測からして間違いないだろう。上手くいけばあのクソ外道の繋がりも..........いや、それも重要だが今回はとにもかくにもリィエルの進退だ。それに奴の件は〝あの人(・・・)〟が..........)

 

ナハトは一人思考を続けているとあまりにも〝おかしな〟ことを考えているのに気が付いた

 

(〝あの人(・・・)〟..........って誰だ?俺の協力者なんて........)

 

心の内で『協力者はいない』と断じようとした時だった。ふと、誰かの顔が脳裏をよぎる。赤い髪の俺に幻術の手ほどきをしてくれた彼女は——

 

だが、その瞬間だった

 

「あがッ!?あ、頭がッ.........割れッ!!」

 

突如、ナハトを激しい頭痛が襲いあまりの痛みに頭をおさえ蹲る。肝心なことなのに〝何か〟に激しく拒まれるような不快感。しばらく痛みに呻いていると徐々にそれは引いていく

 

そして同時に

 

「あれ?今俺何考えてたんだっけ?」

 

ナハトは頭痛のおこる直前まで何かを思考していた気がするが全く思い出せなかった。そもそも徐々にその事さえ記憶から薄れていき.............

 

「?俺は一体どうしたんだ.......まぁ、いいか。どうせどうでもいい事だろうし」

 

こうしてナハトは今日も........今日は陰からルミア達の学園での生活を見守るのであった

 

 

 

-----------------------------------------------

 

 

????side

 

「あの子はホント凄いなぁ~あの子が自分で自分に縛りを使ってなきゃ何度私の事を思い出されたことか」

 

暗闇にひっそりとそう安堵の声を零す華奢に見える〝亜麻色〟の長髪の少女

 

『〝アリエス姉さん〟。〝アリエス姉さん〟の幻術ってやっぱりすごいけどその分少しの綻びで解けやすいからその点カバーするために俺の考えたこの魔術で俺を縛ってくれないか?俺もアイツは絶対に許せないし報いは受けさせないと気が済まないからやるなら完璧にやろ?』

 

「ホント......私じゃ〝あの子(ナハト)〟を完璧に欺けないなぁ」

 

〝彼女〟は〝彼〟と同じ目的を持つ協力者にして実の..........

 

「おい、イリア(・・・)何をしている?早く行くぞ」

 

「はい!イグナイト卿(・・・・・・)♪」

 

そこには巌の表情に顔の向こう傷のあの家(・・・)特有の赤毛の男がいた。そして彼女........イリア(・・・)はまるで彼を心から慕うかの様に後ろをついていく

 

『む、難しいな.......〝アリエス姉さん〟こんな難しいのにやっぱすごいや!』

 

『〝アリエス姉さん〟と一緒に作ったこの幻術凄いよコレ!!今日初めてバーナードさんに勝ったんだよ!!』

 

『〝アリエス姉さん〟!今日イヴ姉さんとね!』

 

圧倒的なまでに自分よりも才がありながら決してそれに驕ることなく全く才能の無かった自分を姉として慕ってくれてる少年の在りし日の言葉を思い出していた。

 

彼は才能に恵まれ過ぎたが故に私と似た末路に至りそうだった。でも彼はそうならずに少しだけ妬ましくもあった。でもそれでも彼はそことを聞いたにもかかわらず受け入れ姉と慕ってくれた。

 

『俺はリディア姉さんもイヴ姉さんもそしてアリエス姉さんもかけがえのない大切な家族なんだ。そりゃ当然イリア姉さんが俺を妬ましく思っても仕方いと思う。でも謝るのは多分違うから........アリエス姉さんもリディア姉さんやイヴ姉さん達と一緒にちゃんと笑いあえるように俺は強くなるよ!』

 

ナハトの今だけ忘れている夢の一つ.......それは自身が慕う姉と共にまた笑いあえる日々を取り戻すこと

 

ただ、イリアはもう知っている。それがもう叶わないことを

 

だからせめて——

 

(私とイヴ.......そしてナハトがまた幸せな家族として過ごせる日々を叶えるんだ!)

 

暗闇の中一縷の光を心に宿し彼女はまた闇を行くのであった

 

 

 

 





頑張りました!!乗ればハイペースで書けるものですねwそれだけに遅くなったことが本当に申し訳ない!

さて、今回はコメディの八巻にしては重めな回でしたね。イグナイト家の裏事情は原作読んでても「アゼルの奴め!!」みたいになりますよね。その分彼女、彼たちには頑張ってもらいます。イグナイト家姉妹弟が仲良くまた笑えるようなハッピーエンドを描けるよう頑張っていきたいと思います!それでは今回もここまで読んでくださりありがとうございます!また、お気に入り登録、評価、コメントをしてくださり本当にありがとうございます!


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『炎の記憶』と〝極〟

 

 

グレンとナハトの女体化が解けてからしばらく。

 

遂に........遂に!!ナハトの待ちわびた短期留学最終日が訪れた

 

「よよよ...........イズさんと共に学べる日が今日で最後だなんて悲しすぎますわ。嗚呼........このまま私達と共にここで学びませんか?レーン先生も我が学園で教鞭をこのまま振るっていただきたいですわ...........」

 

「イズ!先生!また絶対遊びに来いよ!!絶対だぞ??特にイズはかならずだからな!!な??」

 

これ見よがしにイズに(ついでにグレンに)絡むフランシーヌとコレット。そして例の如く二人はイズの左右をがっちりとそれは絶対に放さんと言う場様にがっちりと掴んでいる

 

「あ、貴女達ちぃぃぃぃぃぃ~~!!!」

 

「むむむむ...........!!!」

 

そしてまた、システィーナとルミアも例の如くそんな彼女たちを見て不服気に見ている。そもそも分身なのだからそこまで気にしなくていいのでは?と思われるだろうが実は現在のイズは本体のイズ(ナハト)だったりする。

 

数日間の間は分身に任せていたのだが最終日に分身と言うのはいかがなものかとルミア達に言われたのだ。ルミア達自身分身相手に絡んでいくのも正直不快ではあったがお別れ会まで偽物と言うのはほんの僅かだが少々かわいそうだと思いナハトに本人で出られないか頼み込んでいたのだ。

 

そして当然内心でまたあの地獄を味わうのはちょっと.........そう思っていたナハトは葛藤するもルミアのお願いと言うことで引き受ける以外なく、自力で白魔【セルフ・ポリモルフ】と固有魔術【ホロウ・パレード】を複合させて何とか一時的に女体化状態にしていた。

 

(.......精神的にはちょっとあれだがこうしてルミアが普段見せないような一面も見れてるわけだし役得と思っておきますか)

 

ナハトはそう思えば少しだけ.......ほんの少しだけ楽になる。その上、確かに彼女たちに偽物をあてがうのも申し訳ない気持ちもあったわけだが——

 

「あぁ.............もういっその事イズさん私の家に招いてもいいですか?そうですね..........イズさんは義姉か義妹どちらがお好みでしょうか?私個人としてはその.........義妹として可愛がってあげたいなぁ~//////なんて思うんですけど?」

 

「そ、そうかもな.......な、なぁ?アタシのこと.......お、お義姉ちゃんって呼んでみてくれないか?」

 

フランシーヌ達は完全に今のイズの可憐な容姿にやられている。口では義妹だの言ってるが内心同性婚もありなのではと考えていたり............

 

だが当然ここまですれば黙っているわけがない二人がいる

 

「あ、貴女達ねぇ!?イズが困ってるでしょ!!!」

 

「ふふふ........第一イズは私の.......コホン//////........二人ともくっつき過ぎじゃないかな?かな?」

 

 

システィーナとルミアが二人を強引に引きはがす。何やらルミアに関しては凄まじいことを言いそうではあったがナハトは聞いてない。...............ウソジャナイヨ?

 

「きぃっ~~~~~!!私とイズさんの逢瀬を邪魔しないでくださいまし!!!」

 

「おう!ルミアにシスティーナ!!帰る前に一勝負と行くかぁ!?」

 

実はこの四人。授業中や授業外の時間で幾度もなくイズ(ナハト)をかけて模擬戦をしていた。因みにだがどれもルミア達の勝利である。

 

「《第二術式・起動開始》」ボソッ

 

そしてイズはなれたものでこっそり月のアルカナを片手に【月鏡】を起動させ壮絶な魔術戦の余波を回避していた。

 

「おい!イズ俺も.......ってぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

そして近くにいたグレンもイズに助けを求めようとするが無慈悲かな........寸前で呪文の流れ弾を喰らうグレンであった(←ナハトのストレス発散の為の嫌がらせ)

 

「はぁ......ホント、コイツ等仲いいですよね」(´~`)モグモグ

 

「同意~」(´~`)モグモグ

 

実はだがイズがこの短期留学で最も仲が良くなった生徒は苦労人ジニーであり、二人はそんな様子を肴?に用意した食事をぱくついているのであった。

 

因みに仲良くなった理由は一緒に鍛錬したりお互い苦労を理解しあったからである

 

****************************

 

 

一方でその頃——

 

「お願い.....話を聞いて........エルザを傷つけたくないの」

 

エルザめがけて振るわれた剣を寸前のところで止められ瞳には涙を浮かべ懇願するリィエル。

 

二人は......いや、少なくともリィエルは今日まで大切な友人だと思っていた相手と殺し合いをしていた。そしてリィエルは殺意を向けられたエルザ相手にどうしても剣を振り下ろせずにいた。

 

だがそれはエルザにとって許し難いものだった。家族を殺した殺人者相手に...........自分が憎んだ相手に情けをかけられているのだ。一人の剣士として..........復讐者として屈辱的でしかなかった

 

そして何より彼女の忌むべき記憶........赤い炎と赤い血に染まった『炎の記憶』の中の彼女、イルシア(・・・・)は今と全く同じ状況で父を殺そうとしていたことを脳裏に思い出す

 

そして、それが彼女の怒りが再熱する

 

殺人者風情が涙を流すなど彼女には到底許せることではなかった

 

本当に泣きたいのは自分なのだ、と

 

「イルシアアアアアァァァァァァ!!!!」

 

リィエルが信じていた相手に激しい憎悪をぶつけられる

 

「ッ!?」

 

その裂帛の咆哮にあのリィエルが怯む

 

そして、復讐者の彼女の刃はリィエル(・・・・)に届く

 

リィエルはそのまま糸が切れたように体を沈める

 

この死合に勝ったのはエルザだった

 

ここから彼女の生活がもう一度再スタートできる........はずだった

 

「何で.........何でなのッ!?私は『炎の記憶』に打ち勝ったはずなのに何故ッ!?」

 

だというのに〝赤い〟リィエルの血を目に入れた時強烈な眩暈と吐き気に襲われる。彼女は震える体で子供の様に怯えたようになった体たらくのままいつもつけていた〝眼鏡〟を探す。

 

だが——

 

ガッシャ!!

 

「ご苦労様。エルザ」

 

そう言い卑しい笑みを浮かべ現れたのはマリアンヌと顔が見えないようにフードを被った誰か........だが、エルザにはなぜかそのローブの人間にだれかの面影を感じていた

 

「あらぁ?ごめんなさいねぇ?もうすっかり暗くて、うっかり貴女の眼鏡を踏んでしまったわ。...........やっぱり拙かったかしら?」

 

マリアンヌがそうぬけぬけと言いながらさらに会話を続けようとしてるところで...........

 

「「きゃあぁぁ!?」」

 

二人の女子生徒がその場に吹き飛ばされてきた

 

「......あらぁ?やっぱり学生程度じゃ貴方の相手は務まらないようね............」

 

エルザは暗闇の向こうから第三者が歩いてきているのに気が付く。そして現れたのはマリアンヌの隣にいるローブを纏ったものよりいくばくか背が低い同じようななり者だった

 

「ようやく尻尾を出したなマリアンヌ」

 

「私も会えて嬉しいわ。帝国宮廷魔導師団、特務分室執行官No,18《月》のフレイ=モーネ......あるいはこう呼ぶべきかしら........ナハト=イグナイト」

 

現れたのはナハトの分身だ。イヴから黒幕は恐らくマリアンヌである事、そしてエルザの過去を聞いてリィエルの復讐を目論んでる可能性を考慮して分身を備えさせておいたのだ

 

「《月》...............イグナイト......」

 

エルザはマリアンヌから出た言葉に耳を疑った。生前、父が勤めていた帝国軍の部署に《月》のコードネームを背負い自身よりも圧倒的に剣才を上と言わしめた私と同い年の少年。しかもその少年の生家があのイグナイト家だと言う事にも驚愕する

 

「........まぁ、知られてるとは思いましたよ。俺が聞きたいのはアンタが過去に所属していた蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)についてと俺のプロフィールを誰に........どこで知ったかだ」

 

「そうね.......イズが来た時から貴方が出張って来るんじゃないかと警戒はしていました。だって彼女似すぎですものねぇ?貴方の大切なお姉さんに...........さて、あなたの質問の答えは.............彼に勝ったら考えてあげますよ」

 

やはりマリアンヌは最初から俺の事を警戒していたらしい。

だが、そんな事よりも彼.........マリアンヌの隣にいる存在だ。

 

(手練れだな.........でもどこかで.....)

 

ナハトにとってもその相手にどこか既視感のあるように感じていた。ただ、現状まずわかるのは相手の立ち姿からにじみ出る手練れの気配。警戒心を高め剣を握る手に力を籠める。

 

タイミングを窺っているとそのローブ男はおもむろにローブを脱ぎ捨てた

 

その正体を知った時二人の少年少女は驚く

 

なぜなら.............

 

 

「サキョウさん!?..........まさかッ!?」

 

「お父.......さん?ど、どうしてお父さんは死んだはず.......」

 

そう、その正体は元《運命の輪》サキョウ=スイゲツ=ヴィーリフ。ナハトにとっては剣の手ほどきをしてくれた相手でもありエルザにとっては死んだ大切な家族

 

ナハトはこの状況でを成り立たせる唯一の手段を瞬時に理解する

 

「『Project : Revive Life』..........天の智慧研究会と繋がってるってのは本当みたいだな」

 

「私には少し彼の組織にパイプがあって彼を蘇らせてもらったのよ。貴方なら難なく倒してしまえるのでしょうけど............彼女はどうかしらね?」

 

マリアンヌはナハトの事を最大限警戒していた。そのため彼の組織に今回リィエルを手にし蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)で『Project : Revive Life』の研究で得られたものを提供する約束で協力を要請したところ受理され、こうして今この場にいる。

 

もっともナハトに勝てるとはマリアンヌは思っていない。何故ならマリアンヌも《月》がどれ程までに逸脱した存在かを裏で過ごしていたこともあり知っている。だが、足止めにはなる上彼女........エルザの存在が自身に仇なす存在への足かせになると踏んだのだ

 

「お父さん........お父さんなの........?」

 

ふらふらと不用意にエルザは一歩、また一歩と近づいていく。エルザにとって父親である彼の存在は大きく敵が戦力として呼び出したものだという思考が微塵もなくなっていた

 

「お父.......「シイッ!!」.........え?」

 

エルザが間合いに入った瞬間、エルザが全く反応できない速さによる抜刀術が放たれる。エルザは父親である彼が剣を向けたことに「何故?」と疑問に感じることしかできず、斬られそうになる瞬間に――

 

「セアァッ!!シッ!!」

 

ナハトが瞬時に間合いに入り込むと右手の剣で受け止めそのまま弾き上げ、流れるように左の剣で追撃をするも後ろに回避される

 

「エルザ。あの人は...........もうエルザの知っている親父さんじゃないんだ」

 

「う、嘘よ!!だってお父さんはあそこに........ッ!!」

 

そうエルザは悲鳴のような声で反論し、父のほうを向くが父の双眸には且つての温もりはなく、ただただ虚ろな目であった。それが否応なくナハトの言葉が事実であると知らしめていた。そのためエルザも悲痛な面持ちで反論の言葉が出てこなかった。

 

「.........エルザはそこで見ていてくれ。俺が決着をつける」

 

「だ、ダメっ!!お父さんを殺さないで!!お父さんを殺すというのならッ......!!」

 

エルザも頭では理解していても心では認められなかった。だが、そんな状態のエルザにナハトは努めて冷静に言葉を紡いでいく。

 

「..............俺を恨むなら好きにすればいい。でも...........サキョウさんを........エルザの親父さんを救うには今のあの人を殺してあげるしかない。もう一度奥さんの所に返してあげるのが俺たち残された者の責任なんじゃないか?」

 

「残された者の責任.............」

 

その言葉にエルザは急激に冷静さを取り戻していく。

 

「俺は俺のできること...........俺のすべきことをする。だから、エルザは最後まで親父さんを見届けてあげてくれ。.........例え今のサキョウさんが紛い物であっても」

 

ナハトは今一度、双剣をその責任を果たす思いを胸に握り直し構える

 

「お父さんを............お父さんを救ってください。お願い......しますッ!」

 

涙を流しながらエルザはナハトに頼み込む。

 

(もう父は――いない)

 

エルザにはそれが酷く惨い事実であり涙が止まらないほどに寂しい。

でも、だからと言って目をそらすわけにはいかない。

 

父の最後を見届ける.........それがエルザにできる最後の親孝行

 

そして遂にナハトとエルザの父、サキョウ=スイゲツ=ヴィーリフとの死合が始まった

 

 

********************

 

 

(魔術だけは絶対に使わない!!!)

 

双剣と打刀がぶつかり合う音が夜闇に響きっわたる中、ナハトは内心でそう決意していた

 

確かに手段を択ばず速攻でここを突破するのが一番だ。頭ではわかってる

 

だが、それで救える者は――いない

 

剣での真っ向勝負。正面から俺と言う剣士が彼の亡霊を打ち倒すことが()彼女(・・)にできるナハトの救いであり責任だ

 

二人の剣戟は恐ろしいまでに疾く、早く、速い。

 

サキョウの踏み込み、腰の回転、全身の発条、それらを鞘に滑らせながら伝えることで爆発的に加速する刃、生み出される魔速の斬撃はエルザのそれよりも洗練されており魔法の様な剣技にさしものナハトも攻めあぐねる。

 

ナハトも超人的な反応速度で防ぎながら卓越した剣技によって繰り出される怒涛の連撃で応戦するが相手が悪い。エルザ相手ならばそれで圧倒できただろうが相手はエルザの師でもある剣士だ。そう簡単にはいかない。

 

だが――

 

(やっぱり強い!だけど..........だけどッ!!アール=カーンの方がもっと強烈だった!!火のように苛烈で、どんな風よりも疾く、雷鳴よりも鋭かった!!)

 

そう、アール=カーンは眼前の剣士よりも遥かな高みにいた。なら、サキョウにはナハトは負けないし負けられない。

 

『ナハトよ、汝との戦いとても楽しく有意義であった!いずれまた剣を交えよう!尊き《門》の向こうにて我は待っている!では、さらば!』

 

あの時はマジかよと思った...........けど、同時に次は一人でも対等に――いや、彼の者を凌駕したいと思えた。なればこそ、ここで負けているわけにはいかない。

 

さらにナハトは加速する。

 

本能のままにひたすらに加速していく。

 

その視界に移るのは相手と何もかもが〝視える〟透き通った世界。

 

極限まで研ぎ澄まされた速さがナハトをさらに次のステージに押し上げる

 

そして、遂に決着の刻は来た――

 

 

 

「............〝終極ノ一閃〟」

 

 

 

その瞬間だった――

 

ナハトはその瞬間だけ【黒天大壮】にも劣らぬ速さに至り、その姿は霞の如く消え失せる

 

 

 

『魔速の剣戟に、〝神速〟をもって迎え撃つ』

 

否――

 

 

 

〝『神速を超越(・・)し、()に至りし剣閃にて斬り捨てる』〟

 

 

次に現れたナハトの立ち位置は気づけばサキョウの後ろに振り抜いた状態で立っていた

 

〝速さ〟の極みに至った剣閃は一切の目視、反応を許さずにサキョウのその体を分断し彼を地に堕とした

 

 

 

彼の借り物の命が尽きる最後の瞬間――

 

彼はその眼に成長した愛娘の姿を刻み込んでいた

 

そしてその愛娘もまた彼を瞳に刻み込み彼が逝くのを最後まで見届けるのであった

 

 

 






今回はここまでです。次回かその次くらいで第8巻の内容は終えられると思います。そすれば激動の9,10巻のお話に入れるので自分もとても楽しみです。ある程度の更新ペースを保てるよう頑張るのでこれからも楽しんでもらえれば幸いです。

それでは今回もここまで読んでくださりありがとうございます!お気に入り登録、コメント、評価をしてくださり本当にありがとうございます!



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リィエル救出作戦開始.........そして終了

 

 

ナハトはサキョウとの戦闘を終えるとエルザに真実を語り始めた

 

「エルザ。君はマリアンヌに多分だけどイルシアが名前を変えて学生やってるとか何とか言われたんじゃないかい?」

 

「はい........でも、今になって思えばそれは違うんですよね?」

 

エルザも今となって考えれば戦闘中にもリィエルが何かを伝えようと必死になっていたのを思い出す。そして、イルシアとの関係も妙な言い回しもしていたというのにも関わらず復讐に捕らわれていた自分が冷静になったとたんに後悔に苛まれていた。

 

「あぁ。リィエルはイルシアじゃない.........ただ、リィエルはイルシアを元に生まれた存在、『Project : Revive Life』唯一の成功例なんだ。だから容姿は瓜二つでも本質は全く違う別の存在なんだ」

 

この事実はきっとエルザに酷く重たくのしかかるだろう。だが、このことを隠すほうが余計彼女を苦しめる........そうナハトは考え伝えた

 

「.........でも.......でも何でマリアンヌは彼女を必要としたんですか?」

 

「アイツは蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)に所属していたんだ。アイツ等は『Project : Revive Life』を形にしたくて唯一の成功例であるリィエルを求めたんだろうな。最も既に天の智慧研究会はそれを形にしてたようだが」

 

マリアンヌの素性についてはイヴにエルザ周りの調査を依頼したことで分かったことである。まさかエルザの叔母とは思わなかったが調べてみるとかつて起きた蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)絡みの事件との不自然な符合が見つかりこの結論に至った。そこまで分かれば目的などは調べるまでもなくわかった。

 

また、サキョウの存在は『Project : Revive Life』なしには存在しえないのだから彼女の話を信じるのなら天の智慧研究会はもう既にそれを為し得る手段を手に入れたようだ。最も遠征学修の時を考えれば当然ともいえるだろう。

 

(ただ、確かにリィエルが必要なのかが不思議なんだよな...........マリアンヌが天の智慧研究会でのことを知らないだけかもしれないが狙うのはルミアでなくてリィエルなのが妙に引っ掛かるんだよな。考えすぎかもしれないがリィエルは他の成功例とは何か違うのか?)

 

確かに、リィエルは貴重な成功例ではある。だが、天の智慧研究会がその技術を確立させたのは恐らくルミアの異能?あってこそだ。繋がりのあるとされている蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)もそれを知らないわけはないだろう。にもかかわらずリィエルの存在で口利きさせてくれるのかは少し納得がいかない部分がある。勿論本当にすべて考えすぎかもしれないが少し気に留めておいたほうがいいかもしれない.........

 

「そう........だったんですね」

 

「後はマリアンヌに協力してる生徒もいるみたいだけど彼女たちは恐らくマリアンヌに蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)の構成員になれるよう口利きしてやるとでも言って唆したんだろう。こんな閉鎖的なとこにいるお嬢様なんてそう言ったオカルトじみた組織に興味がない筈がないしな」

 

ナハトはこの場に来るまでに不自然に周囲を警戒している生徒を片っ端から気絶させてきた。流石に女子生徒相手に記憶を覗き見るのは気を引けたのでしなかったがこの学院の立地なんかを考えたりすれば容易に推測は出来た。

 

そして恐らく、そろそろ先生たちも異変に気が付くか本体がここに先生たちを連れてくるだろう

 

そんな事を変えている度丁度いいタイミングで先生たちが訪れた

 

「エルザにナハト無事か!?」

 

「無事ですよ.........さて、役者も揃ったことですし反撃開始と行きますか」

 

 

*****************

 

 

ナハトはことのあらましをざっくり説明するとこれからの行動指針について伝え始める

 

「リィエルを攫ったマリアンヌは一部のここの生徒達と共に鉄道でこの閉鎖的空間から逃げるつもりのはずです。恐らく今頃鉄道は出発したばかりなので幸い今から追いかければ間に合います。俺一人で追う........そう言いたいところですが..........」

 

慢心しているわけではないがナハトは一人で十分対処可能だと考えているが当然——

 

「俺も行く!」

「私も行くわ!」

「リィエルを助けないと!」

 

わかっていたことだがグレン、システィーナ、ルミアの3人はそう言って聞かないだろう。

 

因みにだがリィエルが襲われた理由なんかは適当に魔力特性が目的だとか何とか言って誤魔化しながら伝えた。ナハトについてもこうなっては隠すのが難しいとイズの正体含めきな臭いうわさのあったここの調査に派遣された軍のものとあながち嘘ではない事情を説明したのだが............

 

「い、イズさんが...........お、男なんて..........うううううう、う、嘘です、わよね?」

 

「.........................」呆然

 

フランシーヌとコレットはこの様である。あまりの動揺振りに少しだけ罪悪感を感じてしまう。

 

「二人ともすいません。任務とはいえ騙してしまって..........ただ、とりあえずはそのことは後にい今からマリアンヌを追いたいと思います」

 

「だがナハト...........お前どうやって追いかける気だ?流石に白猫はまだ【疾風脚(シュトロム)】で人を抱えての移動は無理だろうしお前ひとりじゃ二人抱えるのはきついだろ?」

 

そう、間に合うためには【疾風脚(シュトロム)】での移動が必須である。

 

..........最も、〝人〟の足ならばだが

 

「空を飛んでいこうと思います」

 

「は..........?」

 

グレンは何を言っているんだコイツと言う顔で見てくるがナハトは至極真面目な話である。

 

「《いざ来たれし・翼持つ誇り高き風の朋友・我汝の契約を此処に果たせ》」

 

ナハトは不意に呪文の詠唱を開始し、右手で複雑な印を結びそのまま右手を地面につけるとその手から輝く魔力の線が縦横無尽に地面を走り五芒星の魔術法陣を形成する。

 

その法陣が虚空に『門』を開き、一騎の大鳥が翼をはためかせ現れる

 

美しい紅の飾り羽根に、飾り尾羽。流線的なフォルム、雄々しき翼。

 

そう................

 

「ふ、神鳳(フレスベルグ)!?」

 

「この子で追います。空戦型なので速さは折り紙付きです。軍の空戦型のだってコイツに勝てる奴なんてそうはいない凄い奴なんですよ」

 

そう誇らしげにナハトは首元をかきながら伝える神鳳(友達)はイヴが所持する神鳳(フレスベルグ)の弟であり、二人の神鳳(フレスベルグ)はどちらも発言の通り軍の空戦型なんて目じゃない程に速い。そしてナハトの方の神鳳(フレスベルグ)は通常よりも一回りほど大きいのが特徴的であり、その分パワーも段違いなのである。

 

「この子ならデメリットなしに5人は乗れます。十分ですよね?」

 

ナハト達が早速乗り込もうとしていると......

 

「待ってください!イズ.......いえ、ナハトさん。私も連れて行ってもらえないでしょうか!」

 

「アタシも頼む!イズ.....じゃなくてナハト!」

 

フランシーヌとコレットが同行を求める。正直言って許可できないところだが..........

 

「............グレン先生にその辺の判断は任せます」

 

「いいのか?」

 

「移動手段は別にこれだけってわけじゃないですし、何人来ようと戦闘に関しては俺がメイン張るのはほぼ確定事項のようなものですし学生相手なら確実に守り切れます。勿論学生以外の協力者なんかが居る可能性も考慮する必要がありますがその点は先生の判断次第で構いません」

 

グレンは腕を組み黙り込む

 

少し考えこむと厳かに口を開け二人に問う

 

「お前たちは..........『何者』だ」

 

(成程........)

 

ナハトはその真意を知り本当に小さく口端に笑みを浮かべた

 

そして彼女達に更に問いかける

 

「言ってみろ、フランシーヌ、コレット...............お前たちはいったい何者だ?ただの『魔術使い』か?それとも『魔術師』か?」

 

すると二人は顔を見合わせ――

 

「『魔術師』ですわ!」

「『魔術師』だぜ!」

 

二人は同時に力強い笑顔で答えるとグレンは満足したように口を開く

 

「よし!なら行くぞお前ら!リィエル助けえ、マリアンヌをボコって思春期こじらせちゃった痛い連中に、きっつーい教育をかましてやるぜっ!」

 

そう言ってグレンに神鳳(フレスベルグ)で二人と行くように頼むと俺はもう一人の女子生徒に声を掛けていた

 

「エルザ。君も来てくれ」

 

「でも..........私は..........」

 

エルザは勿論行こうと考えていた............のだが、先のナハトの戦闘とリィエルを誤解していたことにより少ししり込みをしていた

 

「.........これは対等な『魔術師』として君にお願いしている。俺は君の腕を見込んで頼んでいるんだ。それに何かあっても一人や二人.......何なら全員分のミスのなんて俺が完璧に支えてやる。それに助けたいだろ?リィエルの事」

 

ナハトの問いかけに少し悩み込むエルザ。だが、答えは単純だった

 

「助けたい..........もう、間違えたくない」

 

「そっか........それともう一つ」

 

「?」

 

「親父さんは俺が相手した剣士の中で間違いなく2番目に強かった.............1番は完全に人外過ぎてあれだけど間違いなく親父さんは最強と言って差し支えなかったぜ」

 

俺がそう言うとエルザは目から涙をこぼし力強くうなずいた。

 

そのままエルザはグレン達と共に学院から神鳳(フレスベルグ)で飛び立ったのだ

 

そしてその様子を見届けているとシスティーナが問いかける

 

「ナハト。私たちはどうやって追いつくのかしら?」

 

「山を最短ルートで抜ければ間に合う。事前に調べておいたから間違いない」

 

ナハトは事前にあらゆる事態を想定してこの隔離された学院からの脱出手段なんかを多岐にわたって用意していた。そのナハトからすれば一つ程度移動手段がないなんて屁でもなかった。

 

「なら、ナハトがルミアを抱えて【疾風脚(シュトロム)】で移動って感じかしら?」

 

システィーナはどうやら自力で行くつもりだがそれでは消耗が少し激しい

 

「いや。もう一体召喚する.........《いざ来たれし・大地を雷鳴の如く走駆する朋友・我汝の契約を此処に果たせ》」

 

またナハトが印を結び扉を開けるとそこから現れたのは通常の狼よりも一回りも二回りも大きい雷狼だった

 

「こいつは雷狼。俺達が【疾風脚(シュトロム)】で移動するよりも早い。特に森なんかだとシスティーナが【疾風脚(シュトロム)】で移動するのは結構集中力消耗するだろうからこっちで行こう」

 

森は足場が多い分逆にルート選択なんかで結構集中力が要求されるため疲労がたまりやすい。ナハト達特務分室メンバーはまだしもまだ学生のシスティーナには少しばかり厳しいものがある。

 

そうして俺、ルミア、システィーナの順で乗り込んだのだが........

 

(やばい.........ルミアに後ろから抱きしめられるとマジでヤバい////////)

 

背中にとても柔らかい感触が押し付けられこんな時だというのに無性に意識してしまう。これが惚れた弱みと言う奴だろうか。

 

「.........二人とも結構揺れるだろうからしっかり捕まってろよ」

 

「うん!」

「わかったわ!」

 

二人の確認をするとナハトは雷狼に指示を出し夜闇を駆けるのであった

 

 

(ナハト君が照れてる気がする..........嬉しいな♪)

 

 

*******************

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

森の木々をかき分け雷の如く大地を蹴り、走駆するはナハトの雷狼。凄まじい速さと勢いにシスティーナの悲鳴が木霊す

 

流石に空を飛ぶほうがショートカットになる分飛ばし気味になってしまっているので少し申し訳なくもあるが

 

「悪いシスティーナ!もうちょっと頑張ってくれ!」

 

「結構........速くて私も少し怖いかな?」

 

「ルミアもゴメンな」

 

「うんうん、むしろこうして抱き着けて嬉しい.....なんて////」

 

抱きしめる力を込められたことにより必然的に背中に伝わる感覚が強まりナハトの声が上ずる

 

「お、おう////////」

 

付き合うまで秒読みの男女かと言うやり取りに速さと揺れでおっかなびっくりなシスティーナもジト目で二人を見て露骨に機嫌を悪くする

 

「何よ......ルミアばっかりデレデレしちゃって......私だって........」

 

風切り音で掻き消されその独り言は誰にも聞かれてはいなかった。

 

そうこうしていると森が明け視界が一気に広がると鉄道を確認できる。どうやら事前調べ通りちゃんと間に合いそうだ

 

「二人とも。最後尾に乗り移るからそのつもりで。ルミアは俺が抱えて飛び移るからシスティーナは飛び乗る準備を」

 

「うん!」

「わかったわ!」

 

二人に指示を出し了承を得たのを確認しつつ鉄道に雷狼を合わせる。その途中で上空を確認すると神鳳(フレスベルグ)の姿を確認できたので先生に合図を送り神鳳(フレスベルグ)を飛び乗れる高さまで誘導してもらう。

 

限界まで雷狼を寄せたことを確認し飛び移るよう指示を出す

 

「システィーナは飛んで」

 

俺が合図を出すとシスティーナは危なげなく飛び乗る。まだ少しおっかなびっくりしてるところはあるのは否めないが着実にその才能に裏付けされた能力を伸ばしていっている。

 

「それじゃ少し失礼するぞルミア」

 

ナハトは揺れる背中の上で器用に立ち上がるとルミアの膝裏と肩に手を添えお姫様抱っこするとシスティーナと同じく一切の危なさげも感じさせずに乗り移る。先生たちも順番に乗り移ったのを確認し全員揃ったことを確認する。

 

「んで、ナハト。リィエルの位置は?」

 

当然わかってんだろと言わんばかりの問いかけだが実際にわかっている。

 

「それなら多分もうきますよ」

 

「は?」

 

そう怪訝そうにしていると.........

 

ドコンッ!!

 

少し後ろから鈍い音がしたと思うと天井に穴が開きそこから.........

 

「あれ?皆来てたんだ」

 

ひょこりと顔出すリィエルがいたのだった

 

「ほら、立派に一人で脱出してきましたよ」

 

リィエルは力業で戒めを強引に千切りこの場に出てきたのであった

 

後に語るのだがリィエルは縄抜けの魔術(物理)が使えるらしい

 

 

 

 

「なぁ.........俺ら助けに来た意味あったのか?」

 

グレンのそんな呆れた声と共にリィエル救出作戦.........改めマリアンヌとっ捕まえよう作戦が開始されるのであった

 

 




次回8巻の内容は最後となると思います!なるべく早く更新できるように頑張ります。

さて昨日発売のロクアカの画集は皆さんは購入されましたか?自分はゲーマーズで限定版を購入してちょうどこれをかいている途中できました。中はまだざっとしか目を通してませんがボリュームも内容も最高ですよね!タペストリーも早く飾りたいですし、夏発売の二巻目も楽しみです!買っていない方がいればぜひ購入して楽しんでほしいと思います。

もうすぐ激動の9,10巻の内容には入れますが原作通りルミアにとっても本作主人公ナハトにとっても大きなターニングポイントにもなる回になる予定なので自分自身でも書くのが楽しみですし、読んでくださる皆さんにも楽しみにしてもらえればうれしいです!これからも頑張るのでどうかよろしくお願いします!

また今回もここまで読んでくださり本当にありがとうございます!お気に入り登録、評価、コメントなど本当にありがとうございます!


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絶技

 

リィエル救出作戦を特に何もせず終えた俺達は次なる目的であるマリアンヌの捕縛に方針が移される

 

「.........んで肝心のマリアンヌの位置は?お前まさかもう狙撃で終わらせたとか言わねぇだろうな?」

 

「何を疑ってるんですか...........まだですよ。最前車両にいます。5両編成のうち最終車両でリィエルを拘束しておいてここから三両に約十人ずつ生徒を配置してるって感じですね」

 

ナハトがあまりにもさらさらと敵勢力を言い出すのでグレン以外なぜそうも簡単にわかっているんだよと言う表情であった。

 

「ね、ねぇ?ナハト君はなんでそこまで分かるの?」

 

「あぁ。学院に一人守りように残してきた分身に魔導弓使わせて補足させてるからさ。ルミア達にはいく前に説明しただろ?」

 

魔導弓は狙撃の精度を高めるために敵の補足には特に優れており、よっぽど高度な魔術阻害でもされていないなら敵の補足なんかも容易に行える。

 

「まぁ、狙撃してもいいけど........少し訳ありでな」

 

ナハトや特務分室としては蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)の内情なんかは知りたいうえ、ナハトは個人的にも情報が欲しい。狙撃で遠距離から仕留めては身柄確保が大変なうえそれを懸念した現役蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)なんかも潜んでる可能性も考慮すれば直接乗り込んで身柄確保するほうが断然に確実な手段と言える。他にも、もし戦闘になった場合もナハトの最も得意レンジで戦えるのも理由の一つである。

 

「?訳って何かあるの?」

 

「.......いや、忘れてくれ。それよりも流石に学生相手に狭い車内で三十人やり合うというのは面倒ですしある程度は黙らせますか」

 

そう言うとナハトはルミア達をその場にとどまらせ別の車両に飛び移ると左手をつけ詠唱を開始する

 

「《慈悲深き氷帝よ・白銀の輝き以って・凍り尽くせ》」

 

その瞬間、白銀の眩い輝きが放たれた途端に凄まじい冷気が一気に広がり学生が配備されている列車が白く凍り付き、窓ガラスを割り氷がせり出していた。

 

「よし.....さて先生、皆。取りこぼした連中を片っ端から制圧していきますよ」

 

「よしじゃなねぇよ!?おま、お前これやりすぎだろ!?」

 

呆然としているルミア達の中グレンはいきなりの広範囲高威力魔術の行使に激しく突っ込む。確かに見た目も派手で誰か死んでいてもおかしくないと思われる光景なだけにわからなくはないが......

 

「ちゃんと手加減はしてますよ。精々凍傷を負う程度には出力も抑えてます。ただ、その分範囲も抑えたので取りこぼしがいますが」

 

ナハトもその点に関しては細心の注意を払って使用している。そもそもナハトが本気なら何もかも文字通り凍り漬かせることが可能なため相当手加減していると言えるだろう

 

「だからって【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】はやりすぎだろ.........」

 

因みにナハトの現在使用した魔術は固有魔術【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】。圧倒的なまでの技範囲と氷結スピードで一気に大量の敵を仕留める魔術。更に凶悪なのが絶えず熱を奪い冷気を強める特性を付加されており、本来の出力で放てばたとえ魔術的な防御を施していても数分で凍死に至るほどの物騒な魔術である。最も今回は本来の威力の1~2割程度まで抑えたものであったりする。

 

「一々相手取るより格段にマシですよ............さて、早速中に入りますか」

 

ナハトはそのまま腰から剣を引き抜き凄まじい速さで振るい天井に切り刻み下に最初に降りて安全を確認しに行った

 

「.........マジでナハトの奴セリカ超えるんじゃねぇか?」

 

そうぼやきながらグレンが続き、そのぼやきに苦笑を浮かべるルミアとシスティーナが続いていく

 

「.......イズさん.......いえ、ナハト様........ここまでとは思いませんでした。何でしょうこの胸の高鳴りは/////////」

 

「す、スゲェ......なんだよあのカッコよさ.........なんかゾクゾクするし胸がうるせぇ///////////」

 

〇の顔をした二人も胸の動悸の速さに戸惑いながらついていく。

なんだかんだイズ.....ナハトの事を完全に受け入れたうえで気に入ってしまっている二人だった。

 

そして残された二人は........

 

「行こうエルザ」

 

リィエルは何でもないようにそうエルザに言うと自分もナハトの作った穴に入り込もうとしているところでエルザがリィエルの腕をつかみとめる。

 

「ごめん......ごめんんさいリィエル..........私貴方の事......」

 

涙を浮かべすがるように謝るエルザ。だがリィエルは........

 

「何で謝るの?」

 

「え?......だって私貴方を殺そうとしたのよ?うんうん.......それだけじゃない。実際に貴方を斬ってしまったのよ?どうしてそんな何でもないように..........」

 

エルザが興奮してそう問いかける。だがリィエルの答えはシンプルなものだった

 

「だって私たち〝友達〟........でしょ?前ルミアとシスティーナがナハトの事?で喧嘩?してたけど友達だからできるって言ってたけど...........違う?」

 

嘗て舞踏会の時に2人がナハトを取り合うようなやり取りを見てリィエルは『どうして喧嘩?........するの?』と聞いたことがあったのだ。その時二人は苦笑いを浮かべどうこたえたものか少し考えるとこう答えたのだ。

 

『それはね友達だから(よ)!』

 

と、言うものだった。リィエルは正直どうして友達だから喧嘩ができるのかはよくわからなかった。でも今ならわかる気がするのだ

 

「私とエルザは..........別の人間.........だからきっとわからないこともたくさんあるんだと.......思う。だからそれをわかるために喧嘩する.........多分ルミアとシスティーナもそうだったんだと思う.........うんうん私はそうだと思ってる」

 

リィエルはグレンやナハト達のいないところでもちゃんと前に一歩一歩確実に進んでいた。きっと一昔前の彼女ならこんなこと思い悩みすらしなかっただろう。でも、それは彼女が人として確かに歩みを進めてきた証..........これからもきっと戸惑うことも沢山あるだろう。それでもリィエルは着実にそれに立ち向かうだけの備えができ始めている。

 

「それと喧嘩は両成敗?だから私もごめんなさい。多分もっとエルザのこと気にかけてちゃんとお話しできていればよかったんだと思う...........だからごめんなさい」

 

そう頭を下げるリィエルに思わずエルザはそのリィエルの小柄な体を抱きしめすすり泣きながら謝り続ける

 

「ごめん!ごめんんさい!..........私も........私も!リィエルの事お友達と思ってたよ!だからごめん.....ごめんねリィエル!」

 

「ん...........私とエルザは友達......これからもよろしくね」

 

 

*************************

 

 

「すんげぇ光景だ事.........」

 

グレンがナハトの後に続き車内に入ると氷漬けにされた忌々しげな表情や驚愕の表情を浮かべた女子生徒の姿を見てそう感想を零した。更にご丁寧な事に全員が全員首から上がひょっこり出てるのだが絵面的にかなりシュールである。

 

「.........敵がナハト相手だと可哀そうに思えてくるわね」

 

「あははは..........」

 

システィーナに至ってはついに敵に同情する始末でありルミアも苦笑を浮かべている。

 

「.........大規模行使なのにもかかわらずここまで精密な操作.........本当になんてすばらしい殿方なのでしょうか////////」

 

「マジでスゲェ.........この圧倒的な風格って言うか........兎に角かっけぇ//////////」

 

もう完全に堕とされたような感じのフランシーヌコレットの二人。確かに目の前で同年代の少年がこれだけの圧巻の光景を繰り出していればほれないほうが難しいのかもしれない。

 

「全体の七割は制圧でてるので残りはフランシーヌさんとコレットさんに任せていいですか?」

 

ナハトは耳に着けてある通信魔導器から分身からの敵の状態について聞かされると二人にそう頼み込む。

 

「私達が..........ですか?」

 

「はい。残りの数とこの学院のレベルを踏まえて考えれば二人なら油断さえしなければ十二分に対応可能なはずです。勿論危険なら俺の分身が援護する手筈は出来ているので絶対にお二人に傷一つつけさせはしないと約束します」

 

ナハトとて分断すると護りにくくなるリスクを孕んでいるのは理解している。だが、今回に限れば遠距離支援の備えもある上相手は学生と言うことも考えればリスクを考えても問題ないと判断した。

 

「傷一つつけない......つまり俺が守ると言う事...........そんなこと言われては嬉しくなってしまいますわ////////」

 

「守ってくれるってのも..........悪くねぇもんだな///////////」

 

だが、二人の反応はナハトの想像していたものと全く違いどこか嬉しそうにしているので意味が分からなかった

 

「えっと..........取り合えず返事聞かせてもらって.........って、痛っ!?なんでシスティーナは俺の脛蹴ってるの!?後ルミアも無言で頬をつねるのはなんでさ!?」

 

「バカバカバカアァァァ!!!」

 

「ふふふふふふ..............」

 

罵倒しながらひたすら脛を蹴り続けるシスティーナに無言で笑みを浮かべてるのに目が据わっているせいで異様なオーラを醸し出してるルミアに何が何だかわからずテンパるナハト

 

「............意外と学習しねぇよなお前?」

 

こんな中だというのにゆるんでしまう空気にため息をつくグレン。少ししてリィエルたちが来たのでようやくシスティーナ達が冷静さを取り戻すとナハトの作戦通りに進めることが決定した。

 

(俺変なこと言ったかなぁ...........)←鈍感

 

 

**********************

 

 

(何故........どうしてうまくいかないッ!?どこで狂った..........ッ!)

 

マリアンヌは最前列で顔を赤くして発狂寸前と言った様子で状況を把握していた。

 

連れてきた生徒たちは所詮は学生と言うこともありもちろんそこまでの期待はしていなかった。だが、それにしたってまさか一瞬で7割弱を制圧されたのは想定外だった。だが、それ以上にあの馬の合わないフランシーヌとコレットが二人で協力して残りの生徒達を倒していくのはまるで質の悪い幻術でも見せられている気分だ。

 

いや..........これは想定外などではなくマリアンヌは見誤ったのだ。帝国最強格である《月》の実力。そして――

 

ドカッアアァァン!!!!

 

車両後方の扉が派手に吹き飛ばされマリアンヌの足元に落ちてきた。

 

「そうよ.........貴方達さえいなければッ!」

 

思えばあの二人だけは何が何でもこの学院に入れるべきではなかった。

 

赤髪の少女はどことなく軍の〝彼女〟に似ていることが妙に思い調べればあの裏社会の人間にとって悪魔にも等しい《月》だと言う事もわかっていた。彼も魔術師としては確かに三流ではあるが彼の元々の経歴からもわかる特異性を甘く見ていた。

 

「さて..........大人しくお縄についてもらおうか」

 

「バカ騒ぎはここまでだぜ?ババァ!!」

 

《月》のフレイ=モーネ(ナハト=イグナイト)と《魔術講師》グレン=レーダスがそれぞれ剣と拳を構える。その風格たるは勝敗はまるですでに決したと言わんばかりのものだった。

 

「6対1........ここまで近接戦闘に特化したメンバー相手にこのレンジで貴方に勝機はない。おとなしく投降しておいたほうが痛い目見ずに済むと思いますが?」

 

ナハトは投降することを勧める。何せこの場にはナハトは言わずもがなだが拳闘のグレンに《戦車》のリィエル、そしてエルザといいかなり近接に偏ったメンバーがそろっている。かくなる上はグレンの固有魔術(【愚者の世界】)までもがあれば魔術が封じられた相手に近接でナハト達が負ける道理など一ミリたりともない。

 

ナハトもこの時点で9割がた勝負は決まったものだと感じながら油断なく構えているとマリアンヌは不気味に笑う

 

「うふふふふ.........」

 

「...........」

 

ナハトは怪訝そうにしながらも警戒を強める。犯罪者もそうだが最後の最後..........完璧に仕留めるまで絶対に油断してはいけない。まだ何かあると考えナハトは備える

 

「いざと言うときの保険として用意してきたけど正解だったわねッ!!」

 

マリアンヌは腰に吊った古風な意匠の長剣を引き抜くその瞬間

 

豪ッ!剣から炎が噴き出しマリアンヌにの周囲を渦巻いた。間合い的にもまだ十数メトラほどあるにも拘らずその熱量はすさまじくグレン達の肌を熱く痺れさせる

 

「なッ!?今の炎魔術を起動した気配がなかったぞ!?元々そう言う機能を有した魔導器............いやちげぇ、魔導器を起動させた気配もなかった!」

 

そう、この近接戦闘力がこれでもかと言うくらいに充実した状況で【愚者の世界】有するグレンがその気配を見逃すなどありえない

 

「あの意匠..........まさかシスティーナあれって.......」

 

ナハトはそれに心当たりがあり、恐らくそれを自分よりもよく知っているであろう彼女に尋ねる

 

「え、えぇ......多分魔法遺産(アーティファクト)――炎の剣(フレイ・ヴート)

 

ナハトとシスティーナが古風な意匠からすぐさまその剣の正体を見抜く

 

「『メルガリウスの魔法使い』に登場する魔将星が一翼、炎魔帝将ヴィーア=ドォル..........彼が振るったとされる『百の炎』の一つ、炎の剣(フレイ・ヴート).......ッ!どうしてそんなものがこんなところにッ!?」

 

「あらあら.......どうやら古代マニアの方がいてくれたようで説明が省けたわねぇ.......まぁ、大体はそう言う事よ。この剣は炎を操る魔法遺産(アーティファクト)

 

マリアンヌは嗤いながら続ける

 

「私ね、蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)の『Project : Revive Life』の研究では、経験記憶・戦闘技術の復元・継承に関する術式の研究をやっていてね........その一環として、古代の英雄の戦闘技術なども現代に再現できないか......?みたいなこともやっていたわけ」

 

「まさかセリカさんの【ロード・エクスペリエンス】の応用.............待て......もしかしてお前たちの目的はまさかッ!?」

 

ナハトだけグレン達とは別の懸念に至りらしくもなく戦慄したような雰囲気を醸し出す。グレンも何にそこまで過敏になっているのかわからず怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「........流石は《月》ね。これは失敗したわ.........まぁ、それも関係ないわよね?だってこの剣があればあなただって殺せるのだしね」

 

マリアンヌはこの剣が魔将星が振るっただのと言う逸話は信じていない。だがそれでも名だたる英雄が振るったのだろうことはわかる。

 

だからこそこの状況で近接戦も可能だと断じ、自ら近接戦を仕掛ける

 

その姿は霞の如く掻き消え誰にも目視を許さないかのように思われた

 

だが――

 

「.......終極ノ一閃」

 

マリアンヌの姿が掻き消えた瞬間、それと同じくしてナハトの姿もかき消える。

 

次に現れた時マリアンヌの右腕は宙を舞っていた

 

「ぎゃぁああああ.....ッ!?!?ック.......!」

 

マリアンヌは腕を落とされ痛みに呻きながらもすぐさま下がりナハトから距離を取る

 

「成程.........確かに速い。けど、剣は軽すぎるし俺からすればまだ〝遅い〟」

 

この場においてナハトと対等に渡り合える剣士はもういないだろう。それこそ今ナハトはあのアール=カーン(魔人)の領域へ足をかけ始めているのだから当然ともいえるだろう

 

「サキョウさんには感謝しないとな.......あの人が俺をここまでに至らさせてくれた。お前はやることなすこと全て仇になってるんだよ」

 

「貴方.........本当に人間?」

 

マリアンヌにはもはやナハトが人には思えなくなっていた

 

「失礼な奴だな........まぁ、それよりも俄然お前を生け捕りにしなくちゃいけなくなったわけだが?」

 

ナハトは言外にその程度の再現レベルで近接戦において勝てるわけないと告げている。そしてマリアンヌも馬鹿ではないので悔しいがそれを内心認めていた。

 

「..........そうね、ならこれはどうかしらッ!!」

 

マリアンヌが剣を横薙ぎすると炎がうなりを上げ迫りくる。グレンやシスティーナも防御を試みようとするが...........

 

「《付呪(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)》.......神千斬り!」

 

ナハトにしか使えない全てを焼き尽くす獄炎をもって迎撃を選択する。凄まじいい熱量のぶつかり合いにグレン達は離れているのにも拘らず火傷しそうな程であった。

 

(相殺は出来る.........多分【絶対氷結(アブソリュート・フリーズ)】もこれなら効く.........だが、この狭い空間に加えあまり高威力の魔術の使用は列車が脱線しかねない)

 

剣技では確かにナハトが上だ。炎も相殺は可能。だが、肝心な攻め手に欠ける。確かに速さならナハトが格段に上ではあるがあの剣の炎を無作為に巻き散らかされては近づくのは不可能ではないが炎の対処をしながら攻撃もとなるといくらナハトでも厳しいだろう

 

(俺とリィエルが囮でエルザが攻撃.........援護に分身の狙撃と先生の銃撃そしてシスティーナの魔術。そこにルミアのバックアップが理想的なんだが.............)

 

ナハトは倒す算段を立てる。確かに狙撃ならとは思うがこの状況は正直魔導弓と相性が良くない。周囲の情報を無制限に取り込み続けるために炎が揺らめく少しの変化なんかも残さず観測してしまうが故にいくら魔導弓の性能を十全に使いこなせるナハトをもってしても確実な狙撃をするには悪条件すぎる。

 

だが、この算段には大きな抜け穴がある。それは...........

 

「はぁ.........はぁ........ぐっ.......あぁ.........!」

 

エルザが『炎の記憶(トラウマ)』のせいで脂汗を浮かべ蹲ってしまっている。ナハトは彼女を貴重な戦力としてここについてきてもらったが拙いことをしてしまったと後悔する

 

「ナハト........この状況、どうみる?」

 

「剣での勝負なら俺が上ですし炎も今の感じなら相殺は可能です。ただ、これ以上の火力になってくるとこの列車の中の狭い空間であることも考慮するとある程度の被弾は必至って言ったところですね」

 

「ネックになるのは炎か.........」

 

「そうですね..........【月鏡】を使って接近するか【黒天大壮】で無理矢理ってのがベストかもしれませんね」

 

ナハトが今攻撃を自身に集中させているからグレン達はさほど被害はないがナハトが攻勢に移ればグレン達に被害が出る可能性がある。【月鏡】もあくまでナハト自身にのみ対象なうえ、反射はまず車両の事も考えれば多用もできないし、消しても詠唱なしで炎が出せてしまう以上いたちごっこにしかならない。

 

「ナハトが攻撃に出るとその分耐久に難あり.........かと言ってお前の【黒天大壮(ソレ)】は反動がな......」

 

グレンとて最悪そうしなくてはいけないことは理解しているが【黒天大壮】の反動の重さは入院していたナハトを見ているので知っている。あのボロボロになる姿は痛ましく教師としてはそれをさせたくはない。

 

「こうなってはマリアンヌの生死は問わずに隙さえあれば確実に無力化することを前提でいきましょう」

 

ナハトとしては先の事もあり是が非でもマリアンヌがもつ情報は欲しいが背に腹は代えられない。最悪死人が出かねないのでとにかく無力化することだけ考えるしかない。

 

(隙は作ろうと思えば多少強引に作れる...........ただ、肝心の決め手がないのと後どれだけ車両がもつか........)

 

ナハトが攻撃を正面から獄炎で相殺しているから今はまださほど車両へのダメージは抑えられているが正直に言ってギリギリの所である。獄炎はナハトが消さない限り燃え続ける特性上下手に広範囲にばらまいては消す必要もあるためにこの混戦状況で下手な手間は増やすのは好ましくない。その上熱量が高まっていくというだけで集中力や体力はゴリゴリと削られていく。

 

「はぁ.......はぁ.........(いくら【トライ・レジスト】があっても熱量がヤバい!俺と先生にリィエルはよくてもシスティーナ達がいつミスするかわからない)」

 

ナハトは使う魔術の特性上熱にはかなりの耐性があるものの魔法遺産(アーティファクト)の想定以上の火力もあり熱量で汗が止まらない。ある程度システィーナ達も自力で凌いでもいるがこのままじゃミスが発生しかねない。

 

「あっはははははは!!ほらほらッ!!どうしたのよ!!さっきまで勢いがないじゃない《月》ィィィ!!!」

 

剣を振るい更に炎で攻め立てるマリアンヌ。その様子は完全に狂っており恐らくは本来の剣の持ち主である魔将星の記憶に引っ張られているのかもしれない。

 

「チィッ!!」

 

どうにかナハトが獄炎で防ぎ続けるも火力がさらに上がっているのが目に見える。獄炎での対処は可能だがこの膨れ上がった熱量的にも別の防御手段が必要かもしれない。

 

「おい、完全に狂ってやがるぞ!!どうするナハト!!」

 

「わかってます!こうなったら強引にでも止めます!!」

 

一か八かと言う様にナハトは獄炎を全身に纏い強引に魔法遺産(アーティファクト)の炎の壁を突破しようと構える。こんなことをすればナハトも当然無事じゃすまないがそうしなくては車両も危険なうえ、多くの人間の命が危ない。

 

だが.........

 

豪ッ!

 

(しまった!?)

 

ナハトが攻撃にシフトしたことにより防御の手を緩まった瞬間。まるで狙ったかのようにい後方にいるエルザに攻撃が迫る。

 

システィーナの魔術も丁度張り直すタイミングであり、グレンも距離があり間に合わない。そのうえナハトも魔術を行使しようにも位置が悪く魔術を使えばエルザを巻き込みかねない。

 

「エルザ!」

 

だが、リィエルが寸前のところで間に合い自身の体を盾にエルザを守る

 

リィエルが炎に包まれるがすぐさまシスティーナが障壁を張り直す

 

「《光輝く護りの障壁よ》!」

 

ナハトも先生もいったん下がるとナハトが立て直しの為にマリアンヌと自身らを分断する

 

「《気高き氷帝よ・白銀の絶壁以って・我が守護の力ここに示せ》!」

 

黒魔改【絶対氷壁(アブソリュート・ウォール)】。周囲の熱エネルギーを奪い炎に対して氷とは思えないほどの耐性を備えた防御魔術。勿論、限界はあるが少しの間は時間ができる。

 

「ルミア。時間がある今のうちにリィエルのケガを癒してくれ」

 

「わかった!」

 

リィエルはぴんぴんしてるようだが火傷がさすがに酷いため治療させる。その間に俺と先生は打開策を練る。

 

「先生。これ以上は拙いですよ..........何か策はありませんか?」

 

「お前がないなら俺にあるわけねぇだろ?申し訳ねぇ事だがお前だよりなんだからよ」

 

ナハトは自身が作り出した壁を見て思考を巡らせる。壁は至る所に亀裂が入り始めており予想通りそう長くはもたない。リィエルの治癒は間に合うだろうがだとしてもこのままただ隙を待ち続けるのは無理がある。

 

(狙撃さえできれば........)

 

現場環境が絶えず移り変わる中での魔導弓の狙撃は本当に向かない。下手に強引に打つのは言うまでもなく危険。かと言ってアルベルトならともかくナハトでは学院からこの動き続ける鉄道内の相手を素の魔術狙撃するのは至難の業。

 

(せめて何か目印でもあればある........いは.............いや、待てよ?目印ならある........そうなるとあとは俺次第。だが――)

 

マリアンヌの直接狙撃は不可能。でも、どうにかこの状況を打開出来うる可能性は見いだせたはいい。だが一手確実に足りない。

 

(先生でもリィエルでもこれは無理だ..........頼めるとしたらもう彼女しか.......)

 

この作戦は〝疾さ〟が必要だ。だが、それはリィエルじゃ心もとない。

 

「..........エルザ。お願いがある」

 

「ぇ............?」

 

弱々しくナハトの声に反応する。エルザはリィエルの事を心配そうに..........立てない自分の弱さに歯噛みしていたところに突然声を掛けられ不安げな顔で頭を上げる。

 

「俺が隙を作る。だから君がマリアンヌを止めて欲しい」

 

「な!?お前エルザの今の状況で何をッ!?」

 

そう声を上げた瞬間ナハトの作った壁が割れる

 

それと同時に炎が襲い来るのをナハトは――

 

「《第二術式・起動開始》!」

 

【月鏡】で炎の支配権を無理やり奪い打ち消す。ただ、【月鏡】で支配したものを操作するのにはそれに見合う魔力が随時消費される。反射するだけなら低コストだが支配して打ち消したり操作するのにはそう言うデメリットがあるためにナハトはここまで使ってこなかった。

 

「(やっぱり魔力消費が激しい)エルザ。俺は君に酷なことを言っている。確かにある程度の消耗をすれば俺が何とかできるかもしれない。だが、確実じゃない...........だけど君が立つというのなら誰も欠けることなくこの窮地を脱せられる」

 

【黒天大壮】は真に人間の限界を極めた魔術。高々、記憶を少し引き出した程度の相手に後れを取りはしない。だが、この閉鎖的空間で適度に手加減できるかと言われれば難しい。下手したら車両をぶった切ったり、脱線させて被害を大きくする可能性がある。

 

「.............」

 

「エルザ。あの女はサキョウさんを穢した。その技も矜持もだ.........俺もよくしてもらったから悔しいし許せない。だが、それはエルザの方がずっとそうだろ?」

 

「そ、それは..............」

 

記憶も感情も縛り、ただ道具として呼び戻された彼。それを穢されたと言わなかったら何と言う?エルザだって怒りはある。ない訳がない――だって、心の底から尊敬する相手なのだから

 

だが、しどろもどろになる。わかっていても怖くてどこもかしこも力が入らない。また俯きかけていると大きな声がそれをさせなかった。

 

「はっきりしろッ!エルザ=ヴィーリフ!!!お前は何のためにここに来た?リィエルを助けるためだろ?間違いないためだと言っただろッ!!なら、親父さんを穢したあの女に見せてやれ!!お前だけの正解を今此処で示せ!!」

 

ナハトは力強く 咤しがら獄炎で真っ赤な炎を焼き飛ばす。そうして見えたのは狂気的に笑うマリアンヌそして父を超えた剣士である彼の背中.......

 

(そうだ.........私は復讐の為に私利私欲で剣を振るった。でもそれは父の教えては全く違う.........間違ったもの。父は守るために剣を振れって言った。活かすために振れと言った!なら、私にとっての正解は!!)

 

彼の背中はまるで嘗て訓練の後に疲れた私を背負ってくれた父の背中にそっくりだった。確固たる信念を持ち、誰かの為に力振るう者の背中だ。そんな父の背中に憧れた..........そんな父のようになりたいと願い剣を振った。

 

(なんで..........何で忘れてたんだろう。私の原点を........)

 

震えながらも鞘を握る拳に力が入る。震える膝にも力が入る。

 

「そうだ.........私は父のようになりたい!もう、間違えない為にここに来たんだ!!」

 

(私にとっての正解........今は立つことだ。父のように人のために振るう剣を私が継ぐためにこんなところで...........違う、過去を清算するために!ここからもう一度始めるために!)

 

遂に、ふらつきながらもエルザは立つ。

 

「ナハトさん........私は..........何をすれば?」

 

エルザ不安げな足取りでナハトの隣に立つ。まだその顔には恐怖や色々なものを感じ取れるがそれでも心だけは復活していた

 

「ありがとうエルザ..........いいか?俺が必ず隙を作る。隙ができたと思った瞬間にエルザは最速でマリアンヌに一撃いれるんだ」

 

具体的なタイミングも告げず、ただ隙ができたら攻撃しろとナハトは無理難題じみたことを依頼する。だが、ナハトはそれができると確信しているからこそ彼女に頼む。

 

「わかりました。やって見せます」

 

ナハトはその答えを聞くと次にグレンとリィエルに指示を出す。

 

「先生とリィエルはエルザが攻撃したらすぐに追撃をいれる準備をしてください。システィーナとルミアは何でもいいから俺達が失敗した時に自分がベストだと思う援護ができるよう備えていてくれ」

 

「わかったが..........お前は随分とスパルタと言うかなんというか.........」

 

エルザを焚きつけたナハトにそんな感想を零しつつも構えるグレン。

 

「エルザなら出来る。私エルザを信じてる」

 

リィエルはエルザに激励を送る。その目には絶対的な信頼が読み取れる。

 

「えぇ。任せてリィエル」

 

全員がここで決めるという様に引き締めるとナハトは一歩前に出る。ナハトは隙を作ると言ったが下手こけばナハトは確実に死ぬ。求められるものはかなりシビアなもので、博打に近いがこれが一番率が高い策だ。

 

「《冷酷なる氷帝よ・彼の者の終焉を奏で・凍てつく死を馳走し給え》!!」

 

固有魔術【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】本来の力が今放たれ、瞬時に燃え盛っていた炎は凍り付き一時的にマリアンヌの攻撃を防ぐ。

 

だが、それだけでは足りない。直ぐにまた炎を繰り出されてしまう。

 

マリアンヌもすぐに炎を出そうとしたときだった。

 

パリィンッ!!

 

その瞬間、何処からともなく流星の如く紫電の矢が列車を悠々と貫きナハト(・・・)目掛けて飛来する。

 

ただ、一人を除いて反応すらできないそれは吸い込まれるように――

 

 

********************

 

女学院の敷地内で一番の高台で身の丈に迫る大きな弓を構える者がいる

 

そう、ナハトの分身だ。その分身は遥か先の線路を走る列車の内部を魔法遺産(アーティファクト)の能力を使い常に脳内に流れ込もうとする膨大な情報を捌きながら監視を怠らない。

 

フランシーヌらの援護を本体から頼まれていたがすることもなく制圧が完了し今は本体の援護の為に備えていた。

 

(炎のせいで情報量が多すぎて頭パンクしそうだな..........)

 

向こうが追い込まれつつあることは見ていればわかるので観察しながらどうしたものかと思案していると

 

『おい!俺が今から魔術使って強引に火消しするからそれと同時に俺を狙って狙撃しろ』

 

通信魔導器から本体の指示が飛ばされる。

 

『.......成程、了解した。しくじんなよ?(本体)?』

 

そして、自分の考えることと言うこともありすぐにその意図を理解する。

 

そう、理解はしたが...........

 

(我ながら馬鹿野郎か...........下手こいたら死ぬぞ?)

 

自分の事ながら呆れる。確かにできる出来ないで言えばできなくはないが普通にしくじる可能性が高いだろう。でも、逆でも間違いなくそうしてた思うのはやはり(本体)と言うべきで......

 

そう呆れていると動き出したのが見て取れる。直ぐに雑念を捨てただ狙撃だけに意識を回す

 

(周辺環境...........空間座標........よし、全部視えた........)

 

数値化されたありとあらゆる情報を瞬時に術式に組み込み詠唱する

 

「《天に輝ける星よ・月女神の祝福受けし我が双腕よ・遥か彼方の仇を討ち穿て》」

 

まるで短槍(ショートスピア)の様な雷閃が放たれ、紫電の流星は彼方の標的目掛け夜空を翔けていく

 

「後は任せたぞ」

 

 

*******************

 

 

「は..........?」

 

マリアンヌは狂っていた。マリアンヌは炎の剣(フレイ・ヴート)の使い手の記憶の残滓に引っ張られ完全に狂っていたのだ。

 

だが、そんなマリアンヌも目の前で起きたことに愕然とするしかなかった

 

何故なら、突如として飛来した何か(・・)はナハトに向けられていた筈なのに気がつけば何故(・・)か自身の握る炎の剣(フレイ・ヴート)を半ばからへし折ったのだ。

 

グレン達も一瞬何が起きたか理解が追い付かなかった。

 

グレン達が視たのはナハトが魔術を放ったと同時に飛来した何か(・・)がナハトを貫こうとし、すると今度は恐ろしい程の速さでナハトが剣を振り抜いたら炎の剣(フレイ・ヴート)音を立てて砕けた摩訶不思議な光景........

 

(アイツまさかッ!?)

 

戦闘に慣れたグレンがいち早く事の種に気が付く。だが、それはあまりにも信じ難く、それでいて戦慄すらしてしまうほどのものだった。

 

そう、ナハトは自身の分身に自身を狙撃させそれを無理矢理(・・・・)軌道修正し、剣を狙ってマリアンヌの攻撃手段を削いだのだ

 

(成功したが真面目に死ぬかと思った...........てか自分に殺されかけるとはまた新鮮な経験したもんだな俺)

 

ナハトはマリアンヌ及び炎の剣(フレイ・ヴート)は炎が取り巻き分身の狙撃は期待できないからこそ、ナハト自身に狙撃させて無理矢理軌道修正させるという手に出た。分身同士の位置は特殊なパスがつながっているために位置が簡単に把握できるという【ホロウ・パレード】の副次的な特性を生かした作戦。

 

ただ、これは出鱈目なことだった。何せ氷が邪魔で軌道が読めない事。それ故に、放たれた一矢の速さも相まって【月鏡】では実行出来ない事。その二点から至ったのは自力でどうにかするという普通は思いついても到底実行できるわけのない常軌を逸した行為。同じことはきっとできるものなどいないであろうナハトの絶技。

 

(ここまでお膳立てすれば後は彼女が決めてくれる..........頼んだぜ、エルザ)

 

ナハトは弾いた勢いで体勢を崩す中エルザに後を託した

 

 

********************

 

 

エルザは雑念を捨てる.............

 

タイミングは不明。でも、彼が詠唱を開始したと同時にエルザは既に瞳を静かに閉じ感覚を研ぎ澄ませる

 

(春風一刀流.......奥義........)

 

思い出すのは父の言葉

 

(直立不動から、左足を半歩引く........腰を柔らかく落とし.......身体は脱力.........刀の鞘は左手の小指と薬指で軽く握り、他は添えるだけ.......)

 

不思議と時の流れはゆっくりと感じる。その時の流れに沿い丁寧に積み重ねる。

 

(....柄にかける右手は女の肌を触るが如く優しく.........左足での踏み込みに備え、右足に発条を能くすべし.......体の重心は右足七の左足三とす.........)

 

ゆっくりと......父の言葉を思い返す。

 

(....背中は鞭と心得よ........全身のしなりを伝える柔らかな一本の鞭とすべし.......腰骨は弓の弦と知れ......全ての駆動を生み出す基なり)

 

一つ一つ丁寧に..........もう、エルザに外界の音は聞こえない

 

(鍔が額に来るよう、刀を掲げよ。刀の重みと、重の引理さえ、我が友とせよ........)

 

熱気が突如として冷気となる。だが、関係ない............

 

(.......胸一杯に、息を吸うべし........これは矢をつがえた弓の弦を引くに等しい行為である。二秒息を止め..........吐くと同時にすべてを放つべし)

 

再びここでエルザは目を静かに開ける...........

 

映りこんだ景色は白銀に染まった炎

 

何故か間の抜けたマリアンヌの顔

 

理解が追い付かない光景だ........

 

だが、理解する必要もない。ただ、この機を逃さなければいいのだ

 

折れた炎の剣(フレイ・ヴート)の剣先が地面に触れた

 

一気に息を吐く。そして、捉える――

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

気合の籠った叫びと共にはぜるかのようにエルザは動いた

左足で一歩踏み込む神速の推進力、腰骨の超速横回転、それらのベクトルの違う力をまとめ上げ、右腕へと伝える背骨のしなり。頭上に掲げる刀の鯉口を切り、刃を鞘で滑らせる。抜きざまに、右腕に伝えた力を使い、重力に従い刀を真っ直ぐ、撃ちおろす...........

 

それはナハトの至った〝速さ〟の極致たる『終極ノ一閃』とは違った絶技

 

『打刀』と呼ばれる剃刀のように薄く鋭い刀剣だからこそなせる技。どれほど剣技において優れていてもナハトにも真似できない技。

 

様々な体術・術理を尽くして、全身を余すことなく利用してひねり出した、常軌を逸した『刀』と『速度』。それらを物理的に全く減衰させることなく刀に乗せ、魔力で増幅(エンハンス)することでその鋭利なる斬撃は、空気を引き裂き、真空を生み、刀の間合いの外..........遠間を切り裂く風の刃と為るという。

 

剣の間合いを超える斬撃。通常の剣理に在り得ぬ、絶技。

 

東方剣術が一派、春風一刀流奥義..........『神風』、ここに開帳す。

 

 

「ぁあああああああああああ!!!!!」

 

 

ひゅぱッ!!

 

 

空気が鳴った

凍り漬いた床の一部が切り裂かれる

 

風の刃は遠間を翔け、マリアンヌの残された一本の片腕を斬り落とす

 

「おおぉぉぉぉぉ!!!!」

「いいやあぁぁぁ!!!!」

 

耐性を崩しているナハトと技と共にすべてを出し切ったエルザを置き去りウにグレンとリィエルが間合いを駆け抜け、二人の拳がマリアンヌに向け振り下ろされる。

 

二人の拳を受け、剣の記憶によって狂ったマリアンヌはついにここに沈むのであった

 

 

 







想像以上に長くなりましたがひとまず八巻通しての戦闘はこれにて終了です。次回は八巻のエピローグ的なものを書いて終わろうと思います。本当は今回で八巻を終わり切る予定でしたけど思ってた以上に長くなってしまいました。ぶっちゃけはやく9巻、10巻の内容書きたいのでしばらくロクアカメインになりそうですw

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一時の別れ、そして刻々と動き出す『運命』

 

「とりあえず一件落着.......か?」

 

グレンとリィエルがとどめを刺すとナハトが手際よく拘束を済ませる頃にはナハトの広域氷結による蒸気機関の停止により列車は止まり、夜の静けさが取り戻された。

 

「そうですね。取り合えずコイツの身柄はこっちで処理しておきます」

 

ナハトはマリアンヌに視線を向けあとは特務分室(こちら)の仕事とグレンに告げる

 

「......てかお前さ。なんで【操火】使わなかったんだ?アレ使ってれば何ともなかったんじゃねぇか?と言うかお前ひとりでもどうにかできただろ」

 

「【操火】も【月鏡】同様アレで結構魔力食うんですよ。それに一人ならどうにかできると言いますけど、最初から俺一人で来てるのならそうでしょうね」

 

ナハトはもしエルザが立てないというのならグレン達を逃がした後に広範囲魔術で強引に制圧するつもりでいた。力業だが向こうが力業で来るならそれを上回る暴力で蹂躙するのは脳筋であるものの手っ取り早い手段と言えるだろう。

 

「........だろうな。お前ひとりだったら列車の連結外して女学院生徒達を安全圏内に離脱させた後に広範囲魔術なりお得意の眷属秘術(シークレット)で逆に炎をねじ伏せてただろうからな。悪かったよ足引っ張て..........」

 

「別に足を引っ張られたとかそんなこと思ってませんよ。それはあくまで結果論ですしね。当初の想定なら近接主体のこのメンバーで悠々と制圧できるはずでしたしね」

 

狭い空間では必然的に魔術は他者に必要以上の被害を被る危険性があるためナハトは近接主体のこのメンバーで来たことを別段判断ミスをしたとは考えてない。寧ろ最善手だったとすら考えている。下手に魔術主体のメンバーだったら本当に誰か死人が出てもおかしくなかった。

 

「だよなぁ..........全く、予想外な代物引っ張り出してきやがってコイツ」

 

グレンはナハトが片手に持つ半ばから折れた魔法遺産(アーティファクト)に視線を向ける

 

「で、ソレ......どうすんだ?」

 

「そうですね..........ぶっちゃけ俺が適当に魔改造でもできたらいいんですが........」

 

ナハトが自身も魔力特性なりを使って武器の一つにくわえるか、または軍の専門に預けるか悩みどころだった。だが、個人的には前者........或いは完全破壊をしておきたい。

 

「魔改造って.......まぁ、どちらにせよ上層部に預けるってのは少し怖いよな..........」

 

ナハトとグレンが考慮するのは帝国内部に巣食う蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)の存在だ。ナハトはともかくグレンはその存在を都市伝説くらいにしか思っていなかったが今回の事で実在することがわかった以上帝国に持ち替えるのはそれはそれでまた新たな火種になりそうで怖いものがある。

 

「でも、これやっぱり普通の解析はできないですよ。これを改造する気ならそれ相応の魔術でも作る必要がありそうですね」

 

ナハトは回収してから軽く解析しようと試みたものの何もわからないというのがわかったことだった。本格的に扱おうというならそれ相応の準備をしなくてはならない。

 

「そりゃ流石に魔法遺産(アーティファクト)だしな」

 

「はい。まぁ、諸々のリスク考慮して壊そうと思います」

 

「それがいいさ。俺達が扱うには大それてるしな」

 

人が扱うにはあまりに高度な代物でもあり危険なものだ。ナハトも実際のところ使いこなせるのならとは考えるが獄炎があれば事足りると至り破壊を決断する。

 

「《付呪(エンチャント)獄炎(ヘルブレイズ)》........神千斬り」

 

ナハトは窓の外に炎の剣(フレイ・ヴート)を投げ捨てると、それ目掛けてすぐさまナハトを象徴すると言っても過言ではない獄炎の斬撃でそれを完全に破壊した。

 

「これでこの件は終了ですね。自分はこのあと軍の者と事後処理するので先生たちは分身が来たら先に帰ってください」

 

「まぁ、そっちの方は特務分室(お前ら)に任せる。何か申し訳ねぇがな」

 

「フッ、意外ですね?サボれてラッキーじゃないんですか?」

 

「馬鹿言え.........生徒に仕事を任せるのは流石に情けねぇって思っただけだよ」

 

この人は本当に教師になってしまったようだ。最初はあんなにも杜撰だったのに今からすれば考えられないくらい真面目に..........でもないか

 

「てかお前自分を狙撃するとかぶっ飛んだ事するよな。お前のあれって確か威力・速さ共にアルベルトの全力以上じゃなかったか?」

 

「アルベルトさんのと威力比べるなんてしたことないから知りませんけどアレ以外方法が思いつかなかったんだからしょうがないじゃないですか」

 

あの時のナハト狙撃の威力は掠っただけでもただでは済まない電圧なうえ、放たれる一矢は軽く音速にすら届く魔導弓での狙撃専用の魔術、黒魔改【彗星(カミエータ)】。黒魔【ライトニング・ピアス】を威力、射程、弾速、命中率を独自の改変で極限まで高めたものだ。ナハトは剣でうまく弾けたが、少しでも剣の扱いやタイミングなどにずれでもあれば余裕で剣をへし折りナハトを貫いていただろう貫通力を有している。

 

「お前ホントぶっ壊れてるよな...........」

 

「セリカさんほどじゃないですよ」

 

「..............アルベルトじみたこともできるお前ならあいつ超えそうで説得力皆無だぞ」

 

そうぼやきながらルミア達を引きつれて学院に戻る準備を見届けると気絶したマリアンヌに向き直る。

 

「さて、やることさっさと済ませるとしますか」

 

ナハトはマリアンヌの前に立つとアルカナを取り出し固有魔術を起動させる

 

「《第一術式・起動開始》」

 

その瞬間、閃光が放たれここにナハトが誇る最強幻術が起動する

 

ナハトの目的はマリアンヌがもっている情報だ。蒼天十字団(ヘブンスクロイツ)の情報は当然としてイグナイト家との繋がりの有無や考えたくないが彼女が所属していた組織の目的の確認だ。

 

(..........さて、俺の個人情報に関しての出どころは..........やっぱ天の智慧研究会か。まぁ、エレノアの事もあるしばれてないってのが無理な話か...........)

 

最初にまずは自身の情報の出どころに関して調べると組織の者と接触した時にその情報を得ていたことがわかる。エレノアはかつて陛下の側近として内部深くまで潜入していたっで別段驚きもなかった。

 

蒼天十字団(ヘブンスクロイツ)に関しては.........チッ、やっぱプロテクトがかかってやがる)

 

記憶を覗いていると干渉を阻む何かがある事を知覚する。下手に干渉をすれば少しの事でその記憶を破壊されかねないのでその仕掛けに触れないラインで微弱に張り巡らせた知覚能力で探りを入れてその存在を確認する。

 

【幻月】は確かに決まればほぼ勝ちと言っていいナハトの切り札だがこの幻術は必ずかけられるわけではない。下手な精神防御や阻害程度ならば貫通するがガチガチに精神防御をされては貫通することは出来ないのがネックである。勿論、それをかいくぐる方法なんかもあるにはあるが基本的には不可能に近い。

 

(このプロテクトは幻術内ってこともあるし解けるには解けるだろうが解けた瞬間から記憶が消えていく仕組みか............それにコイツはマリアンヌ自身が自白しようという意思を感知した瞬間から作用するあたり厄介だな)

 

精神内の記憶に対する魔術........この場合で言えば呪いと言うのがふさわしい気もするが厄介なものを仕込まれている。外道集団なだけにやることに躊躇いないのが本当に厄介だ.........

 

(幻術内なら何とか..............)

 

意識してこのナハトが統べる世界の権能を使いプロテクトを無効化してこじ開けようとしていると..........

 

ガラガラ...........

 

突如そんな音と共にげ袁術世界の一部が崩れていくのを確認する

 

(なッ!?幻術世界が崩壊し始めてるだと!?まさかこいつ干渉された傍から崩壊するように仕込まれて......ッ!?マリアンヌの霊魂から脳までが崩壊を始めてやがるだとッ!?)

 

ナハトは気が付かなかったことに疑問に覚えつつも残された時間でプロテクトを強引にこじ開け読み取れる情報だけを断面的にかき集めていく

 

ナハトが気が付かなかったのはプロテクトの奥深くにひっそりと隠すように術式を書き込んでいたからである。強い干渉がされると表の術式を起動させることを意識させて微弱な干渉では感知できない裏の本来の術式を隠すカモフラージュにまんまとナハトははめられたのだ。

 

と言ってもナハトもそれを警戒して慎重に対応していたがこれは施したものが上手だったという要因が大きいだろう。

 

(時間内に俺もこの術解かないと俺の精神も壊されちまう!)

 

この崩壊の質の悪いところは施された者とそれに介入したものまでも巻き込むところだ。勿論ナハトのように精神世界に直接侵入するようなやり口でもない限りそう被害を受けるわけがないのだがナハトあらすれば本当に厄介だ。

 

(クソ!こいつ等が狙ってることの情報は不十分だが仕方ない.........だがこの〝崩壊〟。こんな凶悪な術普通じゃない...........仕込める奴なんてアイツしか............まさかいアイツも蘇ってるってのか?あるいはジャティスのように生きているのか?)

 

情報を精査しつつナハトはかつて対峙した強敵を思い出していた。

 

勿論、精神内を覗かれまいとするための術はあるにはある。だが、何もかもこんな滅茶苦茶に壊す魔術の類はナハトの知識にはない。いや............あるにはあるのだ。そんな何もかもを壊すと言った破壊者を。

 

そいつの魔力特性は『万物の崩壊・絶滅』........あらゆるもの、それが魔術だろうが物質だろうが文字道理なんでも壊す様から二つ名は『破壊者(デストロイヤー)』ナハトがまだ《月》のコードネームを与えられたばかりの頃の一番手古摺った任務での討伐対象だ。

 

恐ろしい魔術もさることながら近接戦の腕..........特に剣技においてもまだだ発展途上だったナハトを苦しめた強敵...........あの固有魔術(禁呪)【黒天大壮】を作るきっかけになった相手でもある

 

(またアイツと戦うことになるかもしれないとはな...........)

 

ナハトはマリアンヌの記憶から少しの情報を持ち出すとすぐに術を解いて逃げ出すのであった

 

 

************************

 

 

ナハトはその後要請した宮廷魔導師団と協力し事態の収束と事後の処理を進めた。これはナハトが一度帝都に帰還してからの事だが帝国上層部、魔導省のトップクラスの高官たちに蒼天十字団(ヘブンス・クロイツ)の背後関係も問い詰めるも一切を否定。ナハトの情報もその背後関係を裏付けるものはなく足取りを終えずじまいだ。ナハトもそっちではなく目的を中心に記憶を探ったので時間があればと歯噛みする。

 

ナハトの独断で記憶を覗いたことは普通に考えれば早計だったと言われかねないが帝国内部でもナハト程に強力な世親への干渉をできる魔術師はいない為軍でもさほど問題にもならず終わった。ナハトもこれは正直何らかの処分は考えていたので胸をなでおろしたと後に語る。

 

ここまでは短期留学が終わってからの話だ。ここからは駅でのこの短期学園で出会った友人らとの別れの話を紡がせてもらう

 

 

 

 

 

 

「うぅ.........イズさん......いえ、ナハト様私寂しいですわ.......もう帰られてしまうなんて.......」

 

「な、なぁ.......イズ......じゃなくてナハト。お前らと会えてその..........良かったと思う。アタシのこと忘れるなよ?」

 

月組の生徒総出でナハト達の帰りを見送りに来た。勿論この時のナハトの姿はイズなのだがそれでも完全にフランシーヌやコレット......彼女らだけでなく月組の生徒達皆がナハトの事を男性と知っても一人の共に過ごした学友として騙されていたにも関わらず別れを惜しんでいた。

 

ナハトもそのことを嬉しく思っていた。仕事と言うこともあり周りを欺いているのは仕方ないとはいえナハトも罪悪感がない訳ではないのでこうしてもらえるのは素直に嬉しいのだが...........

 

「ふ、二人とも近い.........(ルミアとシスティーナの目がヤバい!!)」

 

男だともうバレてるはずなの距離感は変わらず.......いや、もっと近くなっているような気すらする。そしてそれに比例するかのように後ろにいるルミア達の視線が鋭さを増していっている。しかもルミアは笑っているのが余計に怖い............

 

その後またナハトを取り巻いてルミア達が最後の喧嘩をすると今度はフランシーヌとコレットが今度は自分たちがアルザーノ魔術学院に行きたいと言ってくれたりとなんだかんだありながらも四人は四人なりに親睦を深めることができたのだろ

 

「ナハトさん」

 

四人が言いあってる間こっそりと抜け出したところでエルザに声をかけられる

 

「エルザか。いいのかリィエルとの別れは?」

 

「はい。もう十分私の想いは伝えてきました」

 

「そっか」

 

彼女はこの事件で多くの事を受け止めただろう。それが彼女にとってどんな事をこれからもたらすかは他人であるナハトにはわからないが、それがいい物であってほしいと願うばかりだ。

 

「ナハトさん。改めて父を......私を救ってくださりありがとうございます。もしあの時あなたが 咤してくれなければ私は何も変われないまま父の教えに背き父の全てをないがしろにしてしまったと思います」

 

「感謝は受け取るけどそれは君自身が強かったからだ。俺が発破をけたとはいえ立ったのは君自身だからね」

 

「それでもありがとうございます」

 

そう言ってまた深々と頭を下げるエルザ。

 

「...........エルザ。君はこれからきっともっと強くなる。多分君ならサキョウさんが背負った《運命の輪》のコードネームを拝命することができると思う。俺個人としては俺達(特務分室)みたいな血生臭いところに来ることは勧めないが一人の軍人としては人手が足りない俺達(特務分室)に欲しい人材だ。きっといつか君に声がかかるだろう。上からだけど大切なことだから先人としてのアドバイスを一つだけ...........確かに俺達(特務分室)の部署は多くの命を助けることができる。でもそれと同じくらいに濃く血に染まることを覚悟してほしい」

 

彼女はきっと軍人になりたいのだと心のどこかで察していたからこそのナハトの言葉だ。そして彼女はきっと特務分室の扉をたたく気がしてならない。だが、特務分室はそんじょそこらと訳が違う。凄惨な現場やギリギリな死地を俺達(特務分室)何度も何度も直面することになる。精神に与える影響は多大なものだ。

 

だからこそ慎重に決めて欲しいとナハトは願う。生半可な覚悟では息もできないほどに苦しい場所だから........

 

「............私にはナハトさんや父がどんな経験をしてきたかまだ想像すらできません。でも私はナハトさんやリィエルの場所まで行きます。父を継ぐ思いもあります...........でもそれ以上に私がそうしたいと願っています。この剣で人を活かしたいと願っています」

 

「覚悟があるなら君と一緒に仕事できるのを楽しみにしてる。何せリィエルのストッパーはいてくれないと困るからな」

 

ナハトは最後にはそう冗談(6割がた本気を含む)のように伝えると二人でくすくすと笑いあう。

 

こうしてナハトの波乱な............

 

 

いや、リィエルの新たな成長のきっかけとなった短期留学は終わるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星が零れそうな夜空

 

星が溢れそうな星の海としか形容出来ない台地

 

そこに燃えるような赤髪(・・)の少年は一人白銀の輝きを放つ満月を見上げていた

 

「時は近い...........(ナハト)。お前がその()を使わなくてはならない時間はもう間もなくだ」

 

その少年の瞳に映るのは燃えるような赤髪(・・)の少年が二振りの直剣をもち金髪の少女を後ろにかばい戦う姿...........

 

その燃えるような赤髪(・・)の少年立つ地.............

 

 

いや、立つ世界(・・)は――

 

 

「月の幻影が守り、星の威光が敵を穿つ...........そして夜闇ががそのすべてを生み出す、か........(お前)はどうなる?俺のように諦めるか。それとも傲慢に.........何もかも選ぶか」

 

その少年は自身を諦めることで多くの者と誰よりも大切だった存在を守った。その結果大切な彼女彼女(・・)を悲しませるともしれずに.........

 

だが、()はどうなるのか?

 

自身のように諦めるのか

 

それとも完全無欠のハッピーエンドを求めるか

 

少年にはそれがわかるようでわからない..........でも、願うのならば........

 

本来(・・)感情は勿論、そこに肉体すらも得ないはずだった存在の少年の写し身のような彼に..........

 

少しで幸せで、望むような世界であるようにと世界の果てで祈るのであった

 

 

 





これにて八巻の内容終了です!本当に遅くなってすいません。他作品の方もなるべく早く更新できるよう頑張ります!おそらくこれが更新されたらルミアの誕生日短編も更新する予定です。その後から遂に激動の9~10巻のお話に入りたいと思います。早く書きたくて楽しみにしていたのでその意欲を全力でぶつけて楽しんでもらえる話にできるよう頑張りたいと思うのでどうかよろしくお願いします!

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幕間の物語4 誕生日
夜空の下で


 

 

「..........いや、流石になぁ」

 

とある家のリビング。そこは学生が一人暮らしするにはいささか広すぎるきらいがあるその家のリビングにしつらえられた机に置かれたあるものと睨めっこするナハト=リュンヌがいた。

 

時間は7月6日の夜23時。かれこれナハトは一時間ぐらいリビングでそれを眺めては唸っていた。

 

「今からは.........でも、一番を誰かに譲るのは.....嫌だ.....けど........」

 

恐らく察しのいい方々は気が付いているだろうがもう数時間すれば彼女.........そう、ナハトが好意を寄せている彼女、ルミア=ティンジェルの誕生日だ。

 

そしてナハトが何をそんなに迷っているのか.............もちろんプレゼントと言うわけではない。プレゼントに関してはこの男一か月前から備えていたのだ。今悩んでる理由それは――

 

「今から家に行くのは......どうよ?.........でもそれ俺普通にヤバい奴なんじゃ...........」

 

そう、悩んでいるのは渡すタイミングだ。明日はクラスメイト達とサプライズで誕生日会をする予定なのでそこで渡すのも一択なのだが........正直恥ずかしい。好きだと自覚してしまうと何故か無性に恥ずかしいのだ。そして何より誰よりも先に祝いたいとかいう意味のわからない意地みたいなものが生まれていた

 

(流石にシスティーナ達より早くってのは無理があるとしてもそれ以外では俺が........いやいや、普通に引かれないか?こんな夜中に行ったら引かれないか?)

 

*因みに当然だが二人とも〝まだ〟付き合っていない。重要なのでもう一度言うが〝まだ〟付き合っていない。

 

(でも、普通に今行ったら理由聞かれるよなぁ............ルミアって俺が嘘とか誤魔化そうとするとなぜかすぐに見破られるし..........成り行きで告るのは///////)

 

ナハトが告れば100%成功するのは明白だ。両片想いなので当然である。だが、いくら何でもムードに欠ける。それこそあの舞踏会の時の様な...........

 

(.............いや、待て!?俺なんであの舞踏会のこと思い出してるの!?アレは何かの気の迷い.......いや勿論したいと言えばそれは............って、そんなことは今どうでもいいんだよ!!)

 

いつかキス未遂の事を思い出し更にパニックになるナハト。こと戦闘においては帝国最強格なナハトは恋愛に関しては糞雑魚だ。それはもうスライムレベルで雑魚だ。

 

「どうすりゃいいんだよぉ.............」

 

広い家にそんな無様な帝国最強格(笑)の何とも情けない声が響くのであった

 

 

**********************

 

 

(明日......ナハト君は誕生日祝ってくれるかな?)

 

場所は変わってフィーベル邸。ベットの中で明日の誕生日に想い人がどんな言葉を、どんなプレゼントをくれるだろうかと胸を躍らす一人の恋する乙女がいた。

 

そう、ルミア=ティンジェル本人だ。彼女もまた明日のナハトの事に期待を寄せていた。

 

ルミアは最近ナハトが少し変わったことに気が付いていた。具体的にはルミアが少し距離を詰めると緊張している様子を見せるのだ。まるで照れているよう...........いや、きっと照れているのだとルミアは半ば確信に近いものを感じていた。

 

時期はあの舞踏会の時だ。あの時から少しルミア達の中でお互いに対する認識が変わったように思える。ルミアは勿論あの時からずっと慕っていたがもしかしたらナハトも.......なんて考えることが増えてきた。

 

(ナハト君..........)

 

ルミアはいつも夜になると思い出すあの日の記憶。至近距離から見た彼の顔。たとえその姿が偽りだったとしても彼の心が私にむいているなら何でもいい...........そんな思いを抱いてしまうくらいに強烈で鮮烈な記憶だ。

 

(あぁ........私って本当にナハト君が好きなんだなぁ.....///////)

 

彼に見て欲しい。彼に隣にいて欲しい。

 

叶うなら、彼にずっと守って欲しい..............

 

ルミアはナハトの事が本当に好きでたまらない。でも...........

 

(私がいるとナハト君はまた傷つくんだよね.........)

 

何時もナハトは何でもないという様に戦う。学院にテロリストが襲ってきたときも遠征学修の時も..........

 

そして、相手がどんな格上.......あの、魔人相手でも変わらなかった。

 

アール=カーンの時、ルミアは本当に怖かった。ナハトが戦う理由は約束と私たち皆を守るため。彼が本気で戦うのは守るためなのだ。

 

でも、それが怖いのだ。私を守ってくれる、私の味方でいてくれることがルミアにとって何よりも嬉しい事でもあり、同時に恐ろしい事でもあった。

 

ルミアを狙って何度も執拗にこれからも危険は迫ってくるだろう。それを何度も何度も彼はこれからも跳ねのけていく確信がある........けど、彼は怪我をするかもしれない。

 

ナハトは強い。ルミアにとってナハトはあの第七階梯(最強最高)の魔術師であるセリカ以上に強くて頼もしく思うのだ。彼が倒れるなんてありえない、彼が負けるなんてありえないと。

 

でも、彼も人間だ。アール=カーンとのことでそれを突きつけられた気がした。彼が........あの彼が血だまりの中倒れていたのだ。虫の息と言うにふさわしい姿で倒れていた。彼だって死ぬときは死ぬ.......何でそんな当たり前のことに気が付くことができなかったんだろうと思い知った。

 

(ナハト君が好き.............でも、この想いを持ち続けたら彼は.......嫌だなぁ........彼がいなくなってしまうのだけは嫌だ...........私がたとえどうなろうとナハト君が居なくなったりするのだけは嫌だ........)

 

もしもまた魔人のような強大な敵が訪れたとき彼はきっと臆せず立ち向かうだろう。彼に見捨てるという選択肢はもとよりないのだと分かってしまう。たとえその結果自身の命を捨てることになろうとも.............

 

想えば想うほど矛盾して彼と結ばれることやこのままでいるのが怖くて仕方ない。いっそ消えてしまったほうがずっといいのかもしれないと考えてしまう。

 

(でも......いや......だなぁ。ナハト君と離れ離れになるのは......いやだなぁ............私は悪い子だ)

 

でもナハトに会いたい、ナハトといたいという想いは消えることはない。寧ろ、日に日に強まっていってる気すらするのだ。決まってこういう事を考えているとどうしてもルミアはナハトに会いたくなり、ナハトに甘えたくなるのだ。

 

だからルミアはそんな自分に自己嫌悪するのだ。なんて嫌な子なんだろう、と。

 

ルミアは嫌な方向に行ってしまう思考を切り替えるようにもう寝ようと意識していると...........

 

コンコンコン..........

 

(窓に何かぶつかったのかな?)

 

突如子気味いい音が聞こえる。何かが窓を叩いた音だというのはわかったが何か風に飛ばされてきたのだろうとルミアは考える。だが..........

 

コンコンコン...........

 

(やっぱり気のせいじゃないよね?)

 

やはりまた子気味いい音が聞こえ、尚且つよく注意してみれば人の気配を感じるため窓の外から誰かがコンタクトを取ろうとしているいるだと理解する。悪意に敏感なリィエルが反応していない様子を見るに害意のある者ではないだろうが夜中と言うこともあり警戒する。

 

警戒しながら耳を澄ませていると途切れ途切れではあるが予想外な人物の声が聞こえてくる

 

「........寝てる........流石に......てか、見方に.........は普通に犯罪......いや住居に入ってる........アウトじゃね?」

 

(え?今の声って..........)

 

耳を澄ました状態でいると小さい声だがよく知った声が聞こえてきたことに内心驚く。わざわざこんな時間に彼が一体どうして?と言う疑問を抱きつつカーテンを開けるとそこには..........

 

「な、ナハト君?」

 

「あ........えっとこんばんわルミア」

 

自ら訪ねて来たというのに目を見開いているナハトがそこにいた

 

************************

 

 

ルミアは上着を羽織るとナハトがいるバルコニーに戻った。それからまずナハトに訪問の理由を聞くことにした

 

「えっと......こんばんわナハト君。でも、こんな時間にどうしたの?」

 

当然の質問なだけに直ぐ答えは返ってくるだろうと思った。だが、予想に反しナハトは少し何と言えばいいかと言う様に悩んでいるようだった

 

「あ~..........んっと........まぁ、なに?ルミアに会いたかっ........まぁ、うん。少しな?」

 

「私に会いたかった?」

 

「うぐっ///.........いやそうなんだけどなんて言うかな~」

 

そう思ってくれることは嬉しいが何かあったのか少し心配になる。続けて尋ねようとしたところでナハトは意を決したように口を開く

 

「ふぅ~...........ごめん。こんな夜中に迷惑だってわかってる。けど、やっぱり一番に祝いたくてな」

 

そう言ってナハトは持っていたラッピングされた箱をルミアに差し出す。ルミアも最初から何だろうと思っていたので何のことだろうかと考えているとナハトは訪問の目的である言葉をルミアに贈る

 

「誕生日おめでとうルミア。これ誕生日プレゼントなんだが......受け取ってくれると嬉しい」

 

「え......?」

 

確かにもう日をまたいでルミアの誕生日である7日だ。だが、まさか日が変わった直後に彼が直接その言葉を誰よりも早く伝えてくれるなんて思ってすらいないことで嬉しさと驚きで頭がいっぱいになる。

 

「あ、ありがとう////凄く嬉しいな。えっと.........開けてもいいかな?」

 

「どういたしまして。でも、それ手作りだからあんまできよくないかもだけど.........」

 

ナハトは少し恥ずかしそうにしながらそう返す。ルミアは手作りと言う言葉になんだろうと未だに整理できない感情に更にワクワクも加わった状態できれいに包装を解くと中から現れたのは..........

 

「綺麗.......これってハーバリウム?」

 

丸型の可愛らしいボトルに赤い薔薇やそれを引き立たせるようにビーズなんかもちりばめられておりとてもて素人が手作りしたとは思えないほどに綺麗だった。

 

「あぁ、何を贈ろうか悩んでな。どうせなら手造りでもしてみようかと思って.............まぁ、その手のプロに比べれば出来はあれだけどな」

 

知り合いの手芸店の人に注文すればよかったものを自分で教えてもらいながら作ったのだ。自作した理由はきっと大きな意味はない.........ただナハトがそうしたいと思ったからだ

 

(赤い薔薇.......もしかしてこれって........)

 

ルミアは嬉しい反面胸がうるさいくらいに早鐘をうつのがわかる。流石に赤い薔薇の花言葉を知らないルミアではない。ナハトだって当然知っているはず..........

 

ルミアは少し悩んで意を決して尋ねることにした。

 

「........ナハト君。その、ね?///////.....私にまだ言いたい事って.........ある?」

 

「............」

 

ルミアは〝その〟言葉が欲しいと思ってしまっていることに先の事もあって自己嫌悪する。だが、やはり感情なんてものはそう簡単に制せるものではなくどうしようもなく期待してしまう。

 

そして、ナハトはと言うと黙り込んで頬を赤くして期待するように見るルミアから視線を少し逸らす。

 

「..........まだ、言えない」

 

「え?」

 

そのまま照れているのを必死に隠そうとする子供のようにしながらナハトは続ける

 

「.........もう少しだけ待ってくれ。もう少ししたら..........必ず話す」

 

そう言うと後ろを向いて完全に顔をそらしてしまった。今のナハトの顔が見れないことに少し残念な気持ちになるルミア。だが、ルミアの目はナハトの真っ赤になった耳を見逃していなかった。ある意味それは答えともいえるものでルミアにはそれで十分だった。

 

「.....そっか。なら、待ってるからね?だからちゃんとナハト君から言ってね?」

 

ルミアは自分からは言わない。もう彼の心はわかった.............彼がそれをちゃんと伝えたいと思っていることもわかった。

 

後ろを向いて照れている姿を見せまいとしているナハトの背中にルミアはそっと抱き着く

 

その背中は本来の大きさ以上に大きく頼もしく感じた。本当に..........本当に大きくて暖かい背中だ。この背中がいつも私を守ってくれる。そう、思うと嬉しくもあり申し訳なくもあった。

 

そんな事を考えていると前に回されたルミアの手の上にそっとナハトが手を重ねる

 

「あぁ.........ちゃんと言う..........だから、ルミアも勝手にいなくならないでくれ」

 

まるで少し前の自分の考えを見透かされているようでドキッとする。どう答えるべきか........ルミアは悩んだ末に――

 

「.......うん。私はそばにいるよナハト君」

 

その言葉がルミア自身にも嘘か真かはわからない.........でも、今だけは間違いなく嘘ではない

 

少しの間二人はそのまま........

 

夜の静けさのなかお互いの存在を確かめるように重なり合っているのであった

 

 

 






ルミアの誕生日回です!!原作だとアルベルトの勘違いでギャグ回みたいな感じですが少し湿っぽいような内容になりました。時系列なんかは結構無視気味ですがお話の通り近々二人の関係は大きく進む予定なので楽しみにしてもらえると幸いです。ナハトと違い察しのいい読者の方々はおおよそどのタイミングで動くのかなんて察しがついてしまうでしょうがベタベタな展開が大好きな自分に付き合って楽しんでいただけると嬉しいです。

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第九巻&第十巻 フェジテ最悪の三日間、夜の覚醒
序章


 

彼は夜だ............

 

包み込むような優しさ

 

何人も掴むことの出来ない幻影のような守り

 

敵を徹底的に穿つ武力

 

そのすべてはまさしく夜と言うにふさわしい

 

そして彼は一人、星降る夜空の下に立っている

 

その背中は優しさに満ちていて、それと同じくらいに寂しさがある.............

 

彼の力は強力だ

 

でも何か致命的な何かを削ってそこに立っているように見える

 

けど彼の横顔はどこまでも穏やかで――

 

「大丈夫だよルミア........俺はもう絶対に負けない」

 

「ナハト君!!!」

 

*******************

 

フィーベル邸の一室いつの間にか寝ていた少女が目を覚ます

 

「........今のは.........夢?」

 

夜の世界ともいうべき場所で、ナハトが二振りの直剣を握り何か強大な敵と戦おうとする場面を見ていた気がする。

 

その、ナハトはまるで人ではなくなってしまったかのようで.........どこかあの魔人に似た雰囲気だった。それでも変わらずあの私にいつも向けてくれる優しい笑みがどこか壊れてしまったかのようで..........

 

「.........大丈夫だよね?ナハト君は強い.......から。大丈夫..........」

 

まるでそれはここにいないナハトに問いかけるようで、それでいて自分にもそう信じ込ませるような言葉だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しい........やるじゃないルミア!」

 

ルミアがどこか不吉な夢を見てしばらく、ルミアは夕食の準備をするとシスティーナとリィエルに振舞っていた。

 

「えへへ.......今日は自信があったんだ」

 

ルミア少し照れながら嬉しそうにそう答える。ルミアはここ最近料理の練習に励んでいた。色々と理由はあげれられるが一番の理由は後悔しない為だ。いつか来るその時に備えて..........

 

「これならナハトも喜ぶんじゃないかしら?」

 

「へ?あ、あははは......それはどう、かな?ナハト君って料理とかそう言うのも凄くうまいから自信なくて.......」

 

「そうね.......私もなんかナハトのあの腕前見てると自信なくすわ」

 

システィーナの料理の腕はそれなりのもので同年代からすれば比肩する者はいないだろう。だが、ナハトの場合は本格的な料亭への潜入も考慮した腕前と言うこともあり女子としてはその敗北感が悔しくてならないのが二人にとっての共通点である。

 

「ん。ナハトの料理どれもおいしい。けど、ルミアの料理も暖かくて美味しいから大丈夫」

 

だが、リィエルが意図せずそう励ますとルミアも嬉しそうに笑い「ありがとう」とお礼を口にする

 

「そう言えばナハトって確か今日の深夜こっちに戻ってくるんだったかしら?」

 

「そう言えば帝都の方でお仕事があるって言ってたよね。別にゆっくり戻ってきてもいいのに無理してないといいけど........」

 

ナハトは急遽入った連絡を受け一時帝都に戻り仕事をしに行っているため今日まで数日間学院を家庭の事情と伝えて休んでいたのだ。本来ナハトが戻るわけにはいかなかったのだがリィエルの存在もあるためにやむなくいくしかなくなったのである。

 

その瞬間だった.........

 

ガタンッ!!

 

リィエルが眠たげな表情を一変させ険しい表情で周囲を突如として警戒し始める

 

「り、リィエル?一体どうしたの?」

 

システィーナが戸惑いながら聞くとリィエルは答える

 

「多分..........

 

答えようとした瞬間、あたりにガラスが割れるような派手な音が反響し、同時に屋敷に働く何らかの力場が消失する。招かれざる客を阻むフィーベル邸の結界が破られたのだ

 

「えっ.......なに、これ.........?何が起きて............」

 

「多分敵が来た」

 

そうリィエルがつぶやくと床に手を付け高速錬成成術【隠す爪(ハイドウン・クロウ)】を発動し臨戦態勢に入る。対照的にシスティーナはガタガタと震える

 

「し、侵入者!?」

 

目的はまた違いなくルミアだろう。天の智慧研究会の連中がルミアを狙って仕掛けてきたのだとすぐに理解する。ナハトも先生もいない状況にシスティーナは恐怖で冷静さをやや欠いていた

 

「大丈夫。安心して.........私が行く」

 

システィーナの不安を振り払うようにリィエルがそう言うと食堂から出ていこうとする。

 

そんなリィエル一人で行こうとするのをルミアがすかさず声をかける

 

「待って!一人じゃ危険だよ!」

 

「そ、そうよ!ここは逃げたほうが.......」

 

リィエルの強さを理解している二人。だが、それでも危険を冒してほしくないと願い逃げの選択を促す。だが.........

 

「........だめ。この家の.........クリストフとナハトが張った結界を、こんな簡単に破れる奴は多分すごく賢いし、強い。.........逃げるのだけは絶対に無理だと思う」

 

あのリィエルの断言.......

 

ナハトとリィエルは共通して圧倒的なまでに抜きんでた戦闘センスを誇るが、リィエルはナハトのように知識量から導き出される予測した作戦行動などはできない。その反面ナハト以上のずば抜けた直感・戦闘勘は、小賢しい思考や小細工を凌駕する。リィエルのそれは逃げの選択だけは取るべきではないと告げていた。

 

「........迎え撃つしかない」

 

逃げることは不可能。迎撃するしかない。

 

「二人はここで待っていて」

 

「だ、だったら私も........二人でなら!」

 

システィーナは震える膝を抑え込みリィエルにそう言うが..........

 

「だめ。足手まとい」

 

それをバッサリとリィエルは切り捨てる

 

「システィーナがいたら邪魔になる。だから...........ナハトを呼んで。多分ナハトはこの事態も想定内だと思う。連絡さえつけばすぐにでも動いてくれるはず............ナハトがくれば大丈夫」

 

リィエルはナハトがただで留守にするとは考えていなかった。きっと何らかの備えがあると直感で感じていた。

 

「「.....ッ!」」

 

だが、リィエルが冷静にそこまで考えているは裏腹に二人はリィエルの剣を持つ手が震えていることに気が付く

 

(リィエルが震えるほどの相手だなんて...........その上直ぐにナハトを呼べだなんてどんな敵だって言うのよ)

 

システィーナはリィエルのその判断に戦慄する。

 

その事実に打ちひしがれていると二人に近づいてきたリィエルがぎゅっと抱きしめる

 

「大丈夫、二人は私が守るから」

 

そうぼそりと、いつも通りのリィエルのように二人に伝える。だがその言葉には確固たる意志を感じ取らせるだけのものがあった。

 

その姿を見届けるとすぐさまシスティーナはナハトに連絡を試みようとすると......

 

『みんな無事か!?』

 

システィーナが駆けるより先にナハトの方から連絡が繋がる。ナハトのその声の裏では戦闘をしているのか金属音などが耳に入る

 

「ナハト!?え、えぇ........今のところは。でも、リィエルが一人で侵入者を迎撃に出て.........」

 

『やっぱり仕掛けてきたか。分身をそっちに向かわせてるけど........もう後数分かかる。兎に角二人は.........あぁ、もうしつこい!《紅蓮の獅子よ》!!!悪い俺も足止めくらってるから合流は遅れる。けど!必ず助けるから兎に角二人とも無事でいてくれ』

 

苛立ちげに魔術の詠唱の声と矢次の指示で余計に困惑するシスティーナ。完全にナハトを封じに来てることで余計に危機感をあおられる、が..........

 

『システィーナ!君は強い!!怖くていい..........でも、意志だけは持っていてくれ!ルミアもシスティーナも俺が必ず何に変えても守る!!こっちは雑魚しかいないからなるべく早く俺も向かう!!』

 

ナハトはシスティーナが聡い事、それでいて繊細である事を見越して励ましの言葉を贈る。ある意味では己自身に課した誓約ともとれる。

 

「わ、わかったわ!ナハトも気を付けて!」

 

『あぁ!こっちもあと20もないからすぐ片付ける!!』

 

それだけ告げると遂にナハトの通信は切れるのであった

 

*******************

 

 

システィーナの連絡から数分前

 

軍上層部から突如として帝都に帰還命令が下され帝都付近に潜伏している天の智慧研究会の殲滅を命じられ数にして40人ほどの外道魔術師を一人で相手させられた。確かに相手の中には魔術師に対して厄介なものも交じっており近接戦に秀でている自身が呼ばれるのは納得できる反面、ナハトからすればあの程度倒せるように鍛えとけと思わされる任務でもあった。

 

「ったく..........最近の奴らは使えない奴ばっかかよ。あれくらいなら普通に俺じゃなくても他の所でも十分だろうが........」

 

確かにナハトは帝国の中でも抜きんでているがそれにしたって今回の敵は厄介な部分はあれど冷静に策を練るなりすれば余裕だろうと愚痴りながら帰路についていた

 

まだフェジテからは距離があり暗い夜道を歩きながら早く風呂にでも入りたいなどと考えながら歩いていると...........

 

「..........《紅蓮の獅子よ》!!」

 

ナハトは突如左手を頭上に掲げると【ブレイズ・バースト】を放つ。そこには不意打ちを試みた黒い影がおり、たまらずそのまま直撃し焼き消される。

 

「天の智慧研究会の掃除屋(スイーパー)か...........まだいるな」

 

そう思い周囲を警戒しつつ、暗視の魔術も使い襲撃に備えていると..........

 

「おい.............なんだこの数は.........100はいるぞ?」

 

何と驚くことに優に100もの気配を感じ取る。明らかに異常事態だ。数は多いがナハトが突破しきれない事はない.............だが、この様子からして明らかに待ち伏せていたのがわかる。

 

(まさか俺がフェジテを離れてるのを狙って動いたのか?)

 

それは危惧していた........分身の維持限界は戦闘を考慮しないで一日弱が限度。数日間の維持は魔力的にできないのである程度戦えるようにした使い魔をいくらかおいてきたが本格的に拙いかもしれない

 

(使い魔は.............チッ!反応がないってことは潰されていやがる..........流石に警戒されてたか)

 

使い魔の反応を探るための魔導器を確認すると何も反応を示さず最悪の事態が進んでいることを確認する。そして使い魔を潰されたと言う事は俺の分身の弱点なんかもある程度想定されることも考慮に入れなくてはいけない。

 

(とにかく今は分身を二体作って俺もここを何とか突破するしかないな)

 

「《我万物欺く者なり・眼前にて悉く世は歪む・嘗ての虚像・今此処に現世と結ぶ》」

 

固有魔術【ホロウ・パレード】が起動し魔術陣から光が実体を持った人の形を成し過去のナハトの分身が現れる。

 

「少々手荒に行くとしますか...........《紅蓮の竜よ・猛き咆哮以って・蹂躙せよ》!」

 

黒魔改【ドラゴニック・フレア】が一直線に放たれ射線上にいた掃除屋(スイーパー)もろとも効果力の炎が地面を抉り消し飛ばす

 

「行け!!」

 

二人の分身はその出来た穴を高速で駆けていく。だが、掃除屋(スイーパー)共もそれを阻止しようと動くが.........

 

「《雷帝よ――舞え》!!」

 

【ライトニングピアス】が6発放たれると正確無慈悲に阻止しようと動いた者らの急所を穿ち一撃で絶命させる。

 

「さて......まずは数を減らすとしよう」

 

追うのをやめてナハトに襲い掛かろうとする掃除屋(スイーパー)を見やり余裕の面構えでそう言うと詠唱を開始する

 

「《残忍なる氷帝よ・昏き深淵の闇を以って・悉く奪い尽くせ》」

 

闇色の氷結の波動があたりに広がり、触れたものは悉くを凍てつかせる。凍り付いたそばからそのすべては死滅していく様はさながら神話上の極寒の大地そのもの

 

黒魔改【黒氷帝(ダークネス・ゼロ)】。ナハトの異能と掛け合わせた冷気は文字通り全て(・・)を氷結する。霊魂だろうと何だろうとあらゆる全てを凍結させるのだ。実体のない霊体などにも有効打になり得る正真正銘の死の冷気。

 

捉えられた掃除屋(スイーパー)共は一瞬で精神の全てを凍結され活動の一切を停止する

 

「数はこれで60ちょいってとこか.........」

 

最初の【ドラゴニック・フレア】と今の魔術で全体の四割もを数分と経たずに殲滅せしめるナハトはまさしく敵にとっては絶望そのものと言っていいだろう

 

耳に通信魔導器を取り付けシスティーナに預けてる片方の魔導器に発信をかけながら剣を引き抜き構える。

 

(兎に角早急に殲滅する.............もしかしたら先生の方にも動きがあるかもしれないけどあっちはセリカさんもいるはずだし問題ない)

 

数を減らしつつ、システィーナへの連絡は着きひとまずの方針は伝え終えた。あとは兎に角俺もこいつら全員を対処するのみだ。

 

(あと20......一気に片付ける)

 

「《疾風よ》!!」

 

一気に20人全員をひきつけ上空に回避すると次なる魔術を唱える

 

「《紅蓮の暴竜よ・大いなる逆鱗もって・悉く消し飛ばせ》」

 

超超極太の赤い炎の熱線で一気にすべてを焼き払い完全に倒しきれたと確認する

 

「これで良し早く.....」

 

その瞬間視界の端に白い発光が見える.......

 

「ッ!?」

 

一瞬でそれはナハトの下まで延び、直撃する寸前のところで回避する。そしてその軌道上にある木がばらばらと崩れているところを見て今の攻撃をした相手を察する

 

「まさかそっちから会いに来るとはな..........『破壊者(デストロイヤー)』」

 

真っ白いまるで色が抜け落ちたような長髪の細身の青年が冷たい笑みを浮かべて現れる。その男の右手には細く薄い剣が握られている。

 

「久しぶり.........と、言う気はしないな。何せ貴様に殺されたのはまるで昨日の様だからな小僧」

 

「【Project : Revive Life】か.........それで過去の亡霊が俺に復讐しようってか?ジーク?」

 

眼前にいる真っ白な男こそナハトの一番最初の強敵であり、『破壊者(デストロイヤー)』の二つ名でおそれられた外道魔術師。名をジーク=へレス。

 

「フッ.......復讐なんて考えてなどいないさ。ただ命じられたままに遂行するだけ............まぁ、私に偶々勝って増長している餓鬼を懲らしめるくらいはしようとは思っているがな」

 

クールでありながら内には破壊衝動を飼っている狂人がジーク=へレスだ。嘗てその圧倒的なまでの破壊能力で小国を滅ぼしたとさえ言われ、組織の中でもかなりのやり手で多くの軍人が葬られた。それほどまでに驚異的な相手なのだ。

 

「増長ね.............なら試してみるか?言っとくがアンタが死んでる間俺が全く何も変わってないと思ってんなら............もう一度死ぬぞ?アンタ?」

 

俺は剣を握り直し睨みつける。

 

「フッ.....あの時の餓鬼が大きな口を叩くようになったものだ。良いだろう。見せてみろ..........今の貴様がどれほどのものか試してやる」

 

こうしてナハトはかつて超えた壁と再び夜闇の下対峙する

 

そして刻一刻と事態は〝最悪〟に向け動きつつたった

 

 

 





遂に原作9,10巻の内容に入りました!シリアスで緊張感あふれる戦闘が幾度もあるこの二巻を楽しんでもらえるようナハトにもグレンにも大暴れしてもらえるよう頑張りたいと思います!そして、ついにナハトについてもいろいろとある超激動の回にしたいと思っているので楽しみにしていただければ幸いです!もうすぐ夏休みに入るので恐らくかなり更新ペースを上げられえると思うので他作品などもいろいろと進めていけるよう頑張りますのでどうかこれからもよろしくお願いします!

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襲撃者

 

 

ナハトが強敵との戦闘を始める頃

 

リィエルもまた侵入者と会敵する........だが、そこにいたのは想定していた天の智慧研究会の者ではなく――

 

「なんで.......あなたが、ここに.......?」

 

「くっくっくっ......久しぶりだねぇ、リィエル=レイフォード....元気にしてたかい?」

 

その侵入者は小馬鹿にするように、低く、昏く、嗤う。

 

がしゃり、と。リィエルが大剣を深く低く構える音が、広間内に寒々しく響く。その極端な前傾姿勢はさながら獰猛な猛獣が獲物を狙う姿を想起させる

 

...........が、今だけはまるで野生の獣が追い込まれ最後の抵抗を試みるように見えてしまう

 

「おやおや随分と血の気が多い。僕は別に君と戦いに来たわけじゃないというのに.......」

 

リィエルから放たれる殺気、闘気などの凄まじいプレッシャーそれらをまるですべてがそよ風と言う様に意に介していない

 

「ここに..........何の用?」

 

「君の足りない脳でもそれくらいわかるだろう?........ルミア=ティンジェルだ。彼女の身柄を引き渡してもらいに来た」

 

「なら........斬るッ!!」

 

リィエルはさらに構えを深くする

 

「ルミアは渡さないッ!私が守るッ!」

 

彼我の戦力差はリィエルと彼では絶望的だ。ナハトがくれば逆転........いや、対等に持ち込めるだろう。だがあとどのくらいで来るかわからない以上、リィエルとて如何に無謀な事かわかっている。

 

だが、それでも引くわけにはいかない。今の彼女にとってここは........彼女たちは...........グレンと同じくらいかけがえのない物だから――

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

おどけている彼の敵に対して走駆を開始する。幾度となく左右にステップを踏みその姿を無数に残像させ肉薄していく。

 

そして、侵入者とぶつかる寸前。霞の如く彼女の姿は消え失せる

 

その刹那――

 

周囲の壁と天井を三度、四度解ける音が響き渡って........

 

不意に侵入者の死角、頭上後方からリィエルが弾丸のような速度で飛来し、侵入者に斬りかかる。

 

まるで冗談みたいなリィエルの三次元空間機動。通常なら瞬き一瞬のうちに死角である頭上後方から斬りかかられるなど予想も対応も不可能。必殺確定なのだが..........

 

「〝読んでいたよ〟」

「―――ッ!」

 

が、男はステッキに仕込まれた細剣を抜くとその剛剣を見もせずに受け流す。

 

そして..........

 

「......〝詰み(チェック)〟だ」

 

男が細剣を収める。するとリィエルの体は人たちも受けていないはずなのにも関わらず、全身に無数の斬痕が走り、血霞が派手に上がる

 

「どう........して?私は貴方の剣を喰らっていない......はず」

 

リィエルは理解不能な現象が身を襲う。信じられないことだ.........が、損傷は間違いなく現実のもので脱力したからだがそのまま崩れかける

 

「計算ではこれで戦闘不能だ............お休みリィエル。いい夢を」

 

侵入者はそのまま屋敷の奥へ消えようとしていると........

 

「うっ........ぐぅううううう............ッ!させないッ...........!!」

 

だがリィエルは歯を食いしばり倒れることを拒絶。意識を保つことに成功すると、全身を震わせ最後の力を振り絞り、大剣を握りしめ振り上げる

 

斬り刻まれたその体からは血が舞い、無理を重ね傷が広がる。だが、それに構わず彼女は全力を振り絞り諦めない.........

 

だが、無情にもそれは風切り音と共に打ち砕かれた

 

「君は誇っていい」

 

リィエルの顎にすさまじい速さと威力のカウンターの飛び膝蹴りが叩き込まれ遂にリィエルの体は地に伏せる

 

「それは〝読めなかった〟」

 

その声を最後に、心の中で愛しい者たちに謝罪の言葉を呟くと数々の外道魔術師を葬った《戦車》は意識を失うのであった

 

 

****************

 

 

「ルミア、大丈夫?顔色よくないわよ?」

 

「あ、..........うん......」

 

思いつめたように俯くルミアを気遣うシスティーナだが、ルミアは上の空だ。だが、それも無理はない。ここに来たものの目的は間違いなく彼女......ルミアなのだから。

 

彼女ほどやさしく思慮深い者に責任を感じるなと言うのが無理な話だろう。どうにか気を持たせるために何と言葉をかけるべきか思案していると..........

 

「いつか.......こんな日が来るとじゃないかって............思ってた」

 

「ルミア?」

 

不意にルミアがポツリと呟く

 

「でも..........私はこの優しい世界が好きで、いつも守ってくれるナハト君やシスティ、リィエルや先生たちに甘えてあと少しだけって先延ばしにしてた......」

 

「ッ!!」

 

「私.......とても狡くて、嫌な子だ.........私がいたらいつかこうなるってわかってたのに..........ごめんね、システィ..........やっぱり私がここにいるべきじゃ.......」

 

「ルミアッ!!」

 

システィーナは彼女の手を握り、いつになく悲壮な彼女を 咤するように名前を呼ぶ。

 

ここに〝彼〟がいないのなら親友の彼女を守るのは〝私〟の役目なのだと言わんばかりに力を込めて語りかける

 

「そんなこと言わないで!その先を言わないで!悪いのは貴女じゃない!悪いのは貴女を狙う悪い人だけよ!ナハトだって先生だってリィエルだってそう思ってる!勿論、私もよ。だから、それを間違っては駄目よ!」

 

「で、でも..........」

 

「大丈夫!大丈夫よ!リィエルの強さは知ってるでしょ?すぐに敵を倒して戻ってきてくれるわ!それにナハトだってすぐに来てくれるわ!あの、ナハトが誰にも負けるわけがないもの!」

 

ルミアはその言葉をかけてくれる親友の手を見る。その手は震えており彼女も不安で一杯なのだと分かる。だからルミアは無理に笑みを浮かべながら相槌を打つ。

 

「そう.....だよね?きっとリィエルが上手くやってくれるはず.........だよね。それにすぐにナハト君だって........」

 

こっ..........

 

すると靴音が、食堂の扉の向こう側から、小さく聞こえてきた。

 

「り、リィエル.......!?リィエルよねッ!?」

 

だが.........返事はない

 

こっ.....こっ......こっ靴音は淡々と食堂に近づいてくる

 

「リィエルなんでしょッ!?お願いッ!返事をして........ッ!?」

 

こっ.....こっ......こっ靴音は靴音は次第に大きくなりながら近づいてくる

 

そして.........

 

「あ..........う、嘘.........でしょ?」

 

それに気が付いてしまったシスティーナは顔を青ざめる。それはリィエルの足音などではなかった。リィエルの足音は小動物のようにもっと軽いのだ。

 

彼女が裏切り逃げるなどありえない..........それすなわち彼女が.........

 

狼狽する。あのリィエルが負けたのだ。ナハトにも勝るとも劣らないほどの彼女が侵入者に敗れたのだ。蹲って蓋をして逃げ出してしまいたい

 

けど...........

 

『システィーナなら大丈夫だぞ?システィーナは俺よりすごい才能を持ってる。だから自身もちなよ..........な?』

 

ナハトいつか自分に言った言葉を思い出す。

 

彼は私を信じてくれている。彼は私なら大丈夫だと信用してくれている。

 

彼が必ず守ってくれる。

 

(きっと、この敵には私はかなわない.........私一人じゃ太刀打ちできない.........でも!ナハトはッ!ナハトならどんな相手でも絶対にあきらめない!!なら私だって!!彼の親友として恥じないようにできることをしなくちゃ!!)

 

震える膝はそのままに........彼女は恐怖を抱えながら立つ

 

「下がって..........ルミア」

 

ルミアを背にかばい彼女は聞き取られないように詠唱を始める

 

「《集え暴風・――》」

 

こっ...........こっ...........こっ食堂に近づいてくる足音を頼りに丁寧にタイミングを計る

 

何時かナハトも早朝の鍛錬で言っていた。ここぞというタイミングを逃すな、と。どんなに高度に極められた技術も最後は繰り出すタイミングがすべてだと。最適なタイミングをすべてを以って逃すな、と。

 

(大丈夫.......私ならできる.........私ならできるのよッ!!)

 

「《――・戦槌となりて・――》」

 

音をたてぬよう制御し、魔力を練る。ゆっくりと丁寧に........

 

こっ..........がちゃ

 

ほんの僅かに扉が開く瞬間、隙間が見えた瞬間に――

 

「《――・打ち据えよ》ッッッ!!」

 

システィーナは力強く、呪文を唱えきる。至近距離から放たれたそれはまるで大砲のような爆音とともに扉の向こう側の襲撃者もろとも捉えたかのように思えた。

 

だが............

 

「ッ!?(居ないッ!?)」

 

扉の破片が零れ落ち、その先にいるであろう侵入者の姿はなく――

 

「.......〝読んでたよ〟」

 

襲撃者は軽く破片の山の上に降り立つ。その侵入者はその場で一瞬で天井まで跳躍しそのシスティーナの攻撃をやり過ごしていたのだ

 

「やれやれ、君と言いリィエルと言い随分会挨拶じゃないか」

 

燭台の揺れる明かりでその侵入者の男の正体がわかるとシスティーナは震えた声をのどから零す

 

一見するとその男の見た目は理知的な紳士そのもの。だが、その瞳にはどす黒い狂気を宿している。人でありながら、その『在り方』を完全に外した『外れた存在』。

 

「久しぶりだね。システィーナ=フィーベル。君に会えて嬉しいよ」

 

「じゃ、ジャティス=ロウファン..........ッ!?」

 

全くの想定外も良いところの相手だった。天の智慧研究会ならわかる.....が、彼はその件の組織を目の敵にしているのだ。そんな彼がどんな目的でと思案するうちにシスティーナはあの時の再戦.......すなわち自分が目的なのかと考える。

 

だが.........

 

「安心しなよ。今日の目的は君やグレン、ナハトじゃないよ...........僕が用があるのは彼女、ルミア=ティンジェルだ。いや、エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下..........身柄を預かりに来たよ」

 

(じゃ、じゃあナハトが襲撃されてるのは一体..........この人が天の智慧研究会と組むわけがないし.......でも、タイミングが出来すぎている.......)

 

システィーナは彼の登場とその目的でこの状況が混沌としてきているように思えた。それこそまるで複数の思惑が蠢いているようにすら思え、それらすべてがどこかで合致しているような不思議な感覚だ。

 

「ジャティスさんと、仰いましたよね?貴方の目的は.......一体何ですか?それにリィエルをどうしたんですか?............返答次第では........私、貴方を許しません」

 

凛然とそうルミアが問を投げる。その上あろうことか戦う魔術をほとんどしたない彼女が戦うための構えを見せたのだ

 

そんな、姿にジャティスは一瞬目を見張り.........

 

「くくく.........流石だね、ルミア=ティンジェル。........流石はあの方の血だ。いずれは根絶せねばならない、汚れた邪悪の血だが..........その気高さ、誇り高さには、敬意を表そう」

 

愉しそうに笑うと彼は居住まいを正して質問に返答する

 

「リィエル.......彼女には少し眠ってもらっている。彼女みたいに頭の足りない猪がいると話が進まない」

 

「.....ッ!?」

 

「それに目的は言ったよ、ルミア。僕と一緒に、来てもらう.........何、君に危害を加えるつもりはない......ただ君に協力してもらいたいことがあるんだ.......」

 

「協力........?」

 

彼の口から意外な言葉が出てルミアもシスティーナも硬直するしかなかった

 

「さぁ、来い、ルミア。君に拒否権は...........、..........おや?」

 

「.....させ........ないッ!ジャティス!!」

 

システィーナはルミアを庇う様に立ちふさがる

 

「ルミアは.......私が守るッ!!連れていかせるもんですかッ!!」

 

「し、システィ!だ、ダメだよ!」

 

「ルミアは下がってて!!!」

 

システィーナは恐怖と緊張に震えていた。その翠玉の瞳は今にも脆く崩れ落ちてしまいそうであった.........だが、大切な人を守ろうとする強い光が灯っていた

 

「............」

 

ジャティスはそんなシスティーナの瞳を、眩そうに見つめしばし黙り込むと.......

 

「くくく.........くははは...........はっはっはっ.......あっはははははははははは―――っ!」

 

やがて、肩を震わせ、嗤い始めた。

 

「何が.........おかしいのッ!?」

 

「いやぁ、何嬉しくってねぇ!?以前の君なら立ち向かうなんてできやしないナハトやグレンに縋りついて泣くだけのクソガキ同然だったろうにねッ!?成長したね、システィーナ=フィーベルッッッ!!!」

 

煽るようでいて心の底から賞賛と嬉しさを表すように笑みを浮かべるジャティス。その感情の高ぶり、またシスティーナもその歪んだ笑いと図星を突かれたように頭に血が上ったことで二人とも気が付かなかった。

 

 

〝彼〟の到着に...........

 

 

「うるさ「あぁ、彼女の成長が嬉しいのには同感だねクソッタレ」.........え?」

 

反論と共に詠唱しようと左手を掲げようとした直後、突如として聞こえた声。そしてその声の主はいきなり眼前に現れると神速の速さでジャティスとの間合いを詰める。ジャティスも冷静になりステッキの細剣を引き抜こうとするが........

 

パシッ!!

 

乾いた音共に遠く得弾き飛ばされると同時にジャティスの視界は急激に移り変わり、システィーナ達を見上げる視点へと変わる。すぐさま立ち上がろうとするが、頭を地面に押さえつけられ首元には剣があてがわれる。

 

「これは..........〝読めなかった〟」

 

「それは嬉しいね.......急いだかいがあるってものだ」

 

第三者の介入.........そう、彼は――

 

「「ナハト(君)ッ!?」

 

「二人とも待たせたね..........で、来てるのがまさかアンタだとは思いもしなかったよ」

 

ナハトが今にも下手なことをすれば問答無用で首をはねると言わんばかり眼光で睨みつける

 

「君もまた随分と成長したね...........少し前の君よりも飛躍的に速くなっている」

 

「お褒めにいただき光栄だ.......で?アンタは何でルミアの協力がいるんだ?あの組織相手なら別にアンタ一人でもどうこうできるだろう?」

 

「へぇ..........君は随分と僕の事を買ってくれてるみたいで先輩として嬉しいよ。でも君ならある程度は推測がついているんじゃないかい?」

 

「............ルミアの異能だな。恐らく何らかの大規模、或いは消耗の激しい魔術講師が前提になる事態が起きているってとこか?」

 

考えられるのはまずそれだけだ。もし仮にルミアをどうにかする気なら俺がいないときにどうこうしようなんてことをする奴じゃない。それこそルミアの生死をかけて殺試合をしようなどと提案するぐらいのことはするだろう。

 

そして何よりコイツは天の智慧研究会を毛嫌いしている。間違いなく奴らの思惑阻止に動くはずだ。そのためにルミアが必要と言うのならルミアの異能以外に目的は思いつかない。

 

「くくく.....流石はナハト。正解だ...........君にも協力を仰ぎたいところだが...........そう言うわけにはいかないだろ?何せいま君の本体は相当厄介な相手と戦闘中のようだし、今分身に割ける魔力は少ないだろうしね?」

 

「...........知ってるのか」

 

「あぁ、勿論。だが、戦闘を始めるのはもう少し後だと思っていたが........随分と派手に掃除屋(スイパー)どもを蹴散らしたみたいだね?」

 

「言っただろ?急いだ、と.........」

 

「くくく.......君は間違いなく帝国最速の男だよ。まぁ、でも流石に君も二人目は来れなかったみたいだねぇ?」

 

「そこまで知っているなら事前に誰か一人くらい相手してほしかったものだな............」

 

そう愚痴るナハトは少し前の事を思い出していた

 

 

*******************

 

 

フィーベル邸に辿り着く直前、フェジテへ続く街道の途中での出来事だった。

 

「どうやら相当俺をフェジテに入れたくないみたいだな」

 

フェジテが間近な街道の途中、そこに現れた三人の影とナハトの分身二人が相対する

 

「我が作品を愚弄した貴様は一生我が実験道具にさせてもらうぞッ!!」

「この拳で貴様を打ち砕く..........《破》ァッ!!!」

「今度こそ私の下僕の糧にしてあげますよッ!フレイ=モーネッ!!!」

 

合成獣(バークス)悪魔(ヴァイス)求道者(ゼト)...........何とも胸焼けしそうなほどに濃い面子だ

 

(二人作っといてよかったぞマジで..........)

 

もしここで二人作っていなかったら、こんな手は使えなかっただろう.......

 

「悪いが任せたぞ」

 

分身の一人がそう言うとその姿が掻き消える。

 

ナハトには時空間魔術がある。最初に使わなかった理由は単純に距離がありすぎたためである。距離があればあるほど消費魔力は比例するように吊り上がる。本体が厄介な相手と戦闘を開始している以上魔力の消耗は避けたかったためにこうして街に近づくまで温存していたのだ。

 

(幻術で一気にと行きたいが.......ゼトがいる以上警戒されてるよな.........)

 

切り札たる【幻月】はこの状況下では魔力消費もそうだが、精神防御を必ず突破するという特性は併せ持たない為に失敗したらしばらく魔術が使用できなくなるリスクもあるためにどうにか正攻法で打倒するしかないようだ

 

「一人で相手するのは面倒だが仕方ない..........相手してやる亡者共」

 

魔力消費は抑え気味にと行きたいが.......三人も相手どらなくてはいかない事。そして、悪魔は基本三属性魔術は効かず、バークスは薬で再生能力があると来た。どれも一人一人なら突破は確実にできるうえ、対策もあるが三人もいると大変厄介なうえに面倒だ

 

(仕掛けてきてるのは十中八九急進派...........それもこの規模且つこの本気度と言い、相当大物あたりが動いてるとみていいだろうな)

 

だが、やることはいつもと変わらない。

 

敵を倒し、必ず尊き日常を守り抜く。

 

剣を握る手に自然と力がこもり、戦いの火蓋が落とされるのであった

 

 

 




[newpage]

ナハトには今回馬車馬の如く働いてもらいます。最近はどこかへっぽこ気味だったのでカッコいい主人公に戻ってもらいましょうw

あと10日もあればロクアカの画集vol.2が発売されますね。皆さんはご予約されましたか?自分は前回同様ゲーマーズの豪華版を既に予約済みですw今回のはイヴのタペストリーみたいなので楽しみです!

さて、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!コメント、ブックマーク、いいねをしてくださりありがとうございます!


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第三団《天位》

 

「だぁぁぁぁ!!また負けたぁぁぁぁぁ!!」

 

グレンの叫び声が夜のアルフォネア邸に響き渡る。

 

グレンの目の前にあるテーブルにはティーセットと戦術盤(チェス)の一式がおかれており、それを見てグレンは頭を抱え、向かいに座るセリカは笑顔で賭けられていたリル金貨を自分の下にじゃらりと引き寄せる。

 

「全く.........お前ナハトのほうがやりがいあるぞ?もっと視野を広く、思考を読め」

 

「くそっ.........うるせぇ!もう一回だ!もう一回やるぞッ!」

 

きっとこの光景をセラが見ていたら頭をグレンとは別の意味で抱えるだろうことが容易に想像できる醜態だ。セリカもやれやれと言ったように駒を初期位置に揃えていく

 

その途中、カン、カン、カンと呼び鈴が打ち鳴らされる音が木霊す

 

「........客か?こんな時間に?」

 

「システィーナにナハトか?」

 

「白猫とナハト?なんでアイツらがこんな時間に........」

 

セリカは遠見の魔術で来訪者を確認すると真剣な表情で立ち上がる。見てそしてそのまま玄関に向かおうとする

 

「セリカ?」

 

「一緒に来てくれ.......様子がおかしい」

 

そんなセリカの背を追いグレンも玄関に向かっていく。そして二人が玄関を開けると冷え冷えした外気が入り込む。

 

「夜分遅くすいません.........ひとまず先生たちは無事でひとまず安心しました」

 

そんなナハトのどこか不穏な空気をにおわせる挨拶を受けると、まずは二人をアルフォネア邸に上げるのであった

 

 

 

 

「ジャティスの野郎に天の智慧研究会の襲撃だと!?」

 

「はい。ジャティスに関しては...........まぁ、業腹ですが今回に限っては信用して問題ないです。今はルミアと共にある事をしてもらっています。俺もここにシスティーナを送り届けたらジャティスが事前に調べたこの街に潜伏してる組織の奴らの討伐に向かいます」

 

「おま!?ルミアをアイツと二人にしてるのかッ!?」

 

「こっちも手が回らないんですよ.......本体含め俺は三人いますがそのうち二人が戦闘中でそれも厄介な相手共で避ける魔力がないから悔しいことにそうなってるんです......」

 

歯痒そうにするナハトを見て一体どんな相手と戦っているのか気になり問いかける

 

「一体お前の魔力がギリギリになるほどの相手って誰だよ?」

 

「まず、本体は『破壊者(デストロイヤー)』のジーク=へレス。もう一人の分身はバークス、ヴァイス、ゼトの三名です」

 

「んなッ!?お前あの『破壊者(デストロイヤー)』とやり合ってるだと!?それだけじゃなくあの三人も一人でか!?」

 

「仕方ないでしょう?恐らく奴らの目的は俺の自由を封じること.............言っておきますが恐らくですけどまだ来ているはずです。こっちの切り札でもあるセリカさんやグレン先生にも何か用意があると見たほうがいいです」

 

「大がかりだなクソッタレ!!」

 

グレンは机を拳で叩き悪態をつく。だが、それをしたいのは身動きがとりにくい状態のナハトだろう。

 

「だが、ナハト。そこまでしておいて敵は何を考えている?もう目的はあのジャティスとかいう小僧から聞かされているだろ?」

 

セリカが冷静に敵の狙いについて既に知っているであろうナハトに問いただす

 

「はい。いいですか?敵は各所に敷設された.........ッ!クソ!こっちにも来やがった!!セリカさん!!」

 

「わかっている!!」

 

グレンとシスティーナが気づくよりも早く何かに気が付いた二人が臨戦態勢を取り、セリカが結界を張ると視界が白い光に支配される

 

その発行が晴れると庭に隣接していた今が半壊し、吹き曝しとなっており庭は焦土と化していた。

 

「説明しようって時に邪魔しやがって!!」

 

そこに現れたのはナハトを道中で足止めしようとした者らと同じ装いの部隊——天の智慧研究会の暗殺部隊『掃除屋(スイパー)』共だった

 

「セリカさん」

 

「わかってる..........グレン。お前はシスティーナと地下の例の隠し通路を使って例の場所に行け。私とナハトで援護してやる」

 

「はぁ!?お前らはどうするんだよ!?」

 

「俺とセリカさんでコイツ等をもてなしますよ.....そこからは俺は別行動です」

 

「アホ!お前ら二人残しておめおめ尻尾巻いて逃げれるかよ!!お前ら二人とも長期戦は——」

 

ナハトは魔力の総量を削りに削っている。確かに戦闘する余力はかなりない。そしてセリカは以前の遺跡調査の件で長期戦は不可能となった.........だが

 

「バカ!身内の事となると、直ぐに冷静さを失う.......だからお前は三流なんだ」

 

「「「シャアァァ!!!!」」」

 

こちらの事情など知る由もないというように襲い来る三人の敵をナハトは冷静に切り捨てると.......

 

「可愛い息子とお話し中だ。少し、《待っていろ》」

 

ナハトが斬り伏せた傍から襲い来るそれらを見向きもせずに、そう呟くと床から突如出現した氷塊が掃除屋(スイパー)どもを飲み込む。

 

「ぶっちゃけ邪魔なんだよ。お前と共闘するのは相性が悪すぎる。そもそもお前は先手必勝の不意打ち屋だ。こういう対複数拠点防衛線には、役に立たん。その点近接も魔術もお前なんか目じゃない程に腕の立つナハトがいればコイツ等なら十分だ」

 

「ぐ.........」

 

「概ね俺もセリカさんと同意見です..............正直、先生たちを庇いながらは今の俺じゃ無理です。ここで先生とシスティーナに何かあったらそれこそ終わりです。二人とも頼りにしてるんですよ?」

 

「ナハト...............死ぬなよセリカ!ナハトも無茶すんなよ!!」

 

「ったく......誰に言ってるんだよ」

 

「無茶のしどころだと思いますが..........分かりましたよ」

 

ナハトとセリカのそんなやり取りの中、グレンが通路へとシスティーナの手を引き移動しようとすると.........

 

「シャアーーー!!」

 

掃除屋(スイパー)がグレンに襲い掛かろうと、獣のような動きでとびかかるが——

 

「引っ込んでろッ!」

 

既にその動きを予測していたナハトが先回りして叩ききる。するとそれが合図かのように、他の掃除屋(スイパー)共もとびかかる。

 

だが——

 

「おっと、残念。そっちは《行き止まり》だ」

 

セリカの指から放たれた稲妻がグレン達やナハトを避けて荒れ狂い、のたうち回る蛇の如く敵を蹂躙していく。

 

「まぁ、そう焦るなよ。折角お客様に紅茶を用意したんだ..........ゆっくり堪能していけよ——」

 

セリカがそう言い指を鳴らすと、轟っと唸りを上げセリカの左手から濃厚な紅蓮の炎が渦巻いて上がり、居間の中を炎の海へと帰る。

 

その光景に掃除屋(スイパー)達は恐怖を思い出したかのようにセリカから一歩引くと........

 

「そうですね。折角茶菓子もあるんですからここはゆっくりしていってもらいたいところですね——」

 

するとナハトが今度は掃除屋(スイパー)どもを挟み撃ちにするように獄炎の壁を作りだす。

 

「私達のおもてなしは.........少々熱いけどなッ!!」

 

二人の圧倒的な魔術師の威圧(プレッシャー)。さしもの殺すことだけの機械のような掃除屋(スイパー)共が鳴りを潜める中、地獄の蹂躙劇の幕が開こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

そこはまさしく地獄。

 

荒れ狂う紅蓮と漆黒、降り注ぐ紫電の雷、冷酷なまでに美しい白銀の輝き、そして夜には似つかわしい轟音。まるで死しかその場にはないような地獄絵図だった。

 

勿論、それは敵である掃除屋(スイパー)共が対象でそれらをまるで羽虫の如く蹂躙する二人にとってはその光景は「まぁ、こんなものか.........」レベルの無感動さなのだが........

 

「くそ......くそ..........ふざけんなよ..........、コイツ等..........この家はな、グレンとの思い出がたくさん詰まった大切な家なんだぞ..........それをボロボロにしやがって............ッ!!」

 

「........取り合えず敵正反応はゼロです(俺とセリカさんが大部分を破壊したんだけど..........指摘したら粉みじんにされかねないから黙っておこう)」

 

掃除屋(スイパー)からすれば理不尽な怒りをぶつけられ殲滅されてなお哀れとしか言えないが、敵の殲滅を終えた以上ナハトは当初の予定を、セリカはグレンを追おうとしていると..........

 

「「——ッ!?」」

 

突如二人の天井から槍の様に突き刺す殺気を感じ取ると二人は大きくその場から距離を取る。

 

刹那、舞い降りたそれがセリカたちが立っていた場所を刺し穿ち、爆砕させた

 

見ればそこには、巨大なクレータの中心で槍を突き刺す男が一人いた

 

(ほう?少しはデキルる奴がいるみたいだな...........)

 

セリカが内心で歯ごたえがありそうな敵に向け左手を構え、破壊的な威力の魔術を放とうとしていると——

 

「.........久しぶりだな(・・・・・・)、セリカ=アルフォネア.......」

 

不意に発せられたその言葉に——思わずセリカは呪文詠唱(スペリング)を、中断(キャンセル)してしまう。

 

「.....どうしたんですかセリカさん?」

 

ナハトは確実に相手が格上だと感じており視線を敵に向けたままセリカに何故詠唱をやめたのか問う。

 

「い、いや..........この声........どこかで.........」

 

(セリカさんの顔見知りなのか?..........にしてもこの敵ヤバいな.........アール=カーン程ではないだろうけど..........今回の黒幕か?)

 

ナハトは目の前の敵の風格を見て冷や汗が伝うのを感じる。確かにあの魔人程の脅威は感じない........感じはしないがまず間違いなく格上だ。

 

「ふっ.........こうして貴女と会うのは実に二百年ぶりだな.........」

 

(........二百年?二百年と言ったか?..........は?何を言っているんだコイツは?)

 

その言葉にナハトもセリカも眉を顰める。だが、ナハトはその言葉でなぜか言いようもない悪い予感がしてならない。まるで尋常じゃない存在が目の前にいるように感じてしまっているのだ。

 

丁度、上空の雲が裂け.........月光が淡くその場を照らす

 

闇の中からその男の様相が現れる。

 

その男は白鎧とローブを組み合わせた古風な騎士装束を纏う壮年の美丈夫だ。その武人然とした佇まい。右手に輝く槍、左手に十字架の印章が入った白き大楯。金獅子のような鬣のような紙を夜風に大全と靡かせるその姿に——セリカは確かに見覚えがあった。

 

「馬鹿な.......ッ!?なん.........で..........お前が......ッ!?」

 

セリカは叫ぶことしかできず、ナハトはどういうことだとより警戒を強める。そして次なるセリカが零した言葉にナハトは大きく驚く

 

「お前は、二百年前の魔導大戦で...........外宇宙の邪神共との戦いで...........ッ!?」

 

(二百年前の魔導大戦........だとッ!?その時のセリカさんの知り合いで......って、待てよ?あの槍........あの十字架の印章の盾.............まさかッ!?...........冗談だろ?アイツはまさか『六英雄』のッ!?)

 

ナハトが勝つ手セリカから聞いた話、残された文献の中からありえないその正体の推測を立てる。その男の正体は『六英雄』と謳われた、かつて邪神の眷属どもとの戦いで、人類の切り札として戦った者たちの一人の事ではないか、と。

 

《灰燼の魔女》セリカ=アルフォネア

《剣の姫》エリエーテ=ヘブン

《聖賢》ロイド=ホルスタイン

《戦天使》イシェル=クロイス

《銀狼》サラス=シルヴァース

 

そして――

 

「お前は.......死んだはず.........確かにあの戦いで......死んだはずだなんだッ!《鋼の騎士》ラザール=アスティール!」

 

『六英雄』はセリカを除き、あの大戦で散った故人なのだ。魂を削るような激闘の末、皆果てたにもかかわらずその男はそこにいた

 

(まさか..........もう〝アレ〟が?..........いや、無理だ........〝アレ〟を為すには決定的な要素が足りない...........あの要素だけは昨日今日.......いや、シオンでもなければ.......一体どうして?)

 

ナハトは以前の短期留学中に天の智慧研究会が〝ある〟事を目論んでいるのではと推測していた。それはあまりにも突拍子がない上、ナハトの神の如く魔力特性をもってしても不可能でないものの骨董無形な代物..........それを確実に為せるとすればただ一人、今は亡き天才シオン=レイフォードにしかなしえないだろう

 

「改めて自己紹介しようセリカ。今の私は、聖エリサレス教会の聖堂騎士団長ではない...........天の智慧研究会第三団(ヘヴンス)天位(オーダー)》のラザールだ」

 

「は?.......第三団(ヘヴンス)天位(オーダー)》だと?」

 

天の智慧研究会の第三団(ヘヴンス)天位(オーダー)》の存在はつい最近までナハトの勧誘の件がなければ本当に存在するとすら思われていなかった天の智慧研究会の最上位位階。

 

だが、その事も衝撃的なことだが何よりも.........

 

(クソッ!冗談じゃないぞ.........普通の第三団(ヘヴンス)天位(オーダー)》ならまだしも『六英雄』がここで出てくるのはいくらナハトといるとはいえ拙過ぎるッ!?)

 

そこら辺の強敵、或いは雑兵ならこの二人の脅威にはならない..........が、相手が悪すぎる。彼等が何故、『六英雄』と謳われているのか...........それはひとえに人の枠を超え彼らが『強いすぎる』のである。

 

「さぁ、始めよう。私は、貴女と一度全力で戦ってみたいと思っていたのだ」

 

「クソがッ!?」

 

不敵な笑みを浮かべるラザールに左手を構える。

 

何故、彼が生きているのか?

 

第三団(ヘヴンス)天位(オーダー)》がどうだとか..........

 

そんな無意味なことを考えている余裕はない。迷えばセリカとて殺され、ナハトもまた同じ。即ち、先手必勝!

 

()()()()()》ッッッ!!!」

 

セリカは【プラズマ・カノン】、【インフェルノ・フレア】、【フリージング・ヘル】の三つの高等呪文........それもB級攻性呪文(アサルトスペル)を同時に一言の改変で放つ。

 

三重唱(トリプ・スペル)

 

セリカをセリカたらしめる絶技。《灰燼の魔女》の体現............

 

極太の収束稲妻砲が、滾る灼熱業火が、絶対零度の凍気結界が、たちまちラザールを吞んでいく。並の魔術師ならば、それを何十回も吹き飛ばすほどの超絶威力

 

 

だが.............

 

「我が《鋼》の二つ名を忘れたか?セリカよ」

 

荒れ狂う破壊の中心に上がる、七色の極光。ラザールは、虹色の極光を放つ大楯を構え、その災禍に無傷でたたずんでいた

 

「くっ.........やはり『力天使の盾』の絶対防御は健在かッ!?」

 

『力天使の盾』はあらゆる物理的・魔術的エネルギーを吸収し100%の効率で光へと変換・拡散するという魔力場を展開するという加護があるのだ。ナハトの持つ固有魔術【奇術師の世界・月鏡】の完全上位互換に他ならない、まさしく絶対防御の名にふさわしい代物だ。

 

「今度はこちらから......「終極ノ一閃!!」

 

ナハトが神速の速さで双剣を振るう。速さの極致たるナハトの剣技に反応などできるはずもない...............だが!

 

「.......ほぅ、エリエーテと同等........中々の腕だが若すぎるな小僧」

 

「クッ......(..........これを防がれるか.......俺の最速が見切られるのかよ........)」

 

ラザールはなんとナハトのその剣技を確実に防いだのだ。堅いのならば疾さで凌駕しようという考え自体『六英雄』には甘いのだ。いくらナハトの剣が速さと言う極致に至ろうとまだ人類の究極である『六英雄』には及ばなかった

 

だが――

 

轟ッ!、と唸りを上げ紅蓮と漆黒の炎が巻き上がる。

 

魔力の消耗を抑えるためにできれば使いたくなかった眷属秘術(シークレット)【第七園】。だがそうこう言ってられる相手ではない。この男が十中八九今回の黒幕..........でなくても今回の最大の障壁なはずだ。ここで確実に殺す。

 

「《真なる業火よ・我は原初の炎の担い手・原初の焔をここに灯そう》ッ!」

 

それは遍く全てを焼き尽くす破壊の波動――

赤黒い猛々しくも冷酷なその破滅的な炎が瞬時に吹き荒れる

 

ナハト最高火力、固有魔術【原初の焔(ゼロ・フレア)】。勿論これ自体の直撃でラザールは仕留められないだろう.........だが、狙いは直撃による攻撃ではない

 

「甘く見られたものだ...........確かに素晴らしい火力だ。この大気をも焼く火力.......セリカにも引けを取らないだろう.........だが、私を........この盾を見くびり過ぎだ」

 

そう、確かにこれは魔術だ。直撃しても『力天使の盾』で確実に防げる。息を吸うだけで内臓を焼き尽くす暴力的な熱も物理的なエネルギーとして吸収されるのは想定内――

 

「《冷酷なる氷帝よ・彼の者の終焉を奏で・凍てつく死を馳走し給え》!!」

 

するとナハトは次なる魔術を放つ。今度は真逆ともいえる、分子運動を急激に減速・停止させ全てを凍てつかせる固有魔術【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】。圧倒的な冷気はたちまちラザールを包み込む。

 

が――

 

「成程........考えたものだ。急激に温めたものを今度は急激に冷やし、その温度変化で我が盾を壊そうとするとは......あの男の言う通り貴様は危険だ。だが、いま一度言おう。この盾を見くびり過ぎだ、と」

 

そう、ナハトははなからラザール自身ではなく盾の破壊を目論んでいた。あの盾がある限り、自身の最速を防がれた以上こちらの攻撃を当てるのは至難の技だ。だが生半可なことでは壊れることがないだろうことは容易に想像できる。そのため自然現象..........容易には逆らえない物理法則に頼ったのだが、失敗に終わった。

 

(成功するかは五分五分だったが........クソッタレが.......真面目にどうする?)

 

ナハトも確実ではないことは重々承知だった...........消耗は激しいが、これ以外の手段は思いつかなかった。だが、破壊が不可能だと決まったわけじゃない。物事には必ず、大小問わず弱点がある。

 

(長期戦だけは避けたいが.........そうも言えないか。どうにかこのとこをこの場で再起不能にしたいが..........)

 

ナハトは自信が誇る固有魔術でも特に殲滅に特化した二つが通じないことに焦燥は感じるものの冷静に勝機を窺う。

 

(まずはあの力場を崩すのが先決か?だがどうやって?物理的にも魔術的にもエネルギー変換率100%の代物をどう......................いや、まて。仕組みで言えば魔術に類するそれだ............【月鏡】を改変させる、もしくはセリカさんの...........)

 

『力天使の盾』の加護自体は魔術的な類のものに分類できる。例えそれがナハトの未知な法則が働いていても物理的な現象に関しては一切の効力を持たない【月鏡】と言えど介入の余地はある。

 

ナハトの【月鏡】や固有魔術は何かを大きくそぎ落とすことで、その分野を研ぎ澄まさせるいわば錬金術及び魔術の大原則である等価交換の法則をよく活用しているのだ。例えば【月鏡】は物理的な干渉に関して一切の効力を捨てる代わりに圧倒的なまでの魔術的要素への優先度を誇り、また【幻月】の支配能力は幻術の貫通性をギリギリまで下げつつ、発動後の魔術行使の制限と言う大きな代償を払うことで成り立たせている部分がある。

 

そして今回はもう一つ............ある金属の特性があればあの無敵を崩すことが可能になる

 

「セリカさん。あの盾........確かエネルギー変換の魔力場がタネでしたよね?あの剣を準備できますか?」

 

「流石ナハトだ........気が付くのが速い、が.........取りに行くのは骨が折れるな」

 

「ですよね.........そう簡単には余裕を与えてくれやしないでしょうね」

 

セリカがもつあの剣ならば確実に通る。だが、それを取りに行く隙などは与えてくれるはずもない。そして、いくらナハトと言えどその時間を今の状態で確実に稼げるとは限らない。何せナハトの体は——

 

(この分身体の維持が途切れかかってやがる.........本体の魔力をこっちに回せてない........恐らく本体の戦闘ともう一人に大部分を裂いてこっちの俺にはこれ以上割けないと見たほうがいいかもしれない)

 

ナハトのこの場にいる分身体の維持に揺らぎがあるのだ。僅かにだが体が重く、魔術の発動に若干のラグがある。本体が相手しているジーク。そして、もう一人の分身が相手している三人への戦闘に大きく裂いている分本体の魔力総量がかなり圧迫されている影響がこちら側の分身に影響が出てると見える。

 

(この分身は消えるのは前提と考えて相打ちでいいからどうにかコイツを封じたいところだな............)

 

ナハトがどうにか手段を模索するよりも先に、遂にラザールが動く

 

「久方ぶりに腕の立つ若者を見たものだ.........だが、今度こそこちらから行かせてもらおう」

 

ラザールが槍を掲げると凄まじい光を放ち、辺りを照らす。

 

ラザールの絶大なる法力が穂先から噴出し、それは巨大な光の槍を創出する。上空の雲を貫いて、天を衝くその様は、まるで光の塔のようなものだった。

 

「これが........法力剣(フォース・セイバー)ッ!?」

 

文献では見たことあるそれを実際に目の当たりにし、その威容を肌で感じるナハト。

 

「ちっ!猪口才な!《断絶せよ——》」

 

セリカが光の槍に向け左手を構え対抗呪文を唱えようとしたその瞬間.......

 

どくん...........不意に、不穏な眩暈と動悸を覚え

 

「——げほッ!?」

 

突如セリカは激しく吐血し、膝をつく。途端、全身に漲る力がまるで風船が縮むが如く虚脱感。

 

(馬鹿な!?もう、限界が来たのか!?クソ、ポンコツめ——ッ!)

 

セリカは先の遺跡調査で霊魂に大きなダメージを負い、長期戦は出来なくなってしまった。それでも本人はまだいけると思っていたが自身の今の限界を見誤っていたのだ。

 

「セリカさんッ!?..........ッ!」

 

ナハトもこのタイミングでセリカが倒れるのは想定外だった。..........いや、ナハトは絶対的な強さを誇るセリカを過信しすぎて最悪の想定を見誤っていた

 

「......〝真に、かくあれかし(ファー・ラン)〟」

 

そんな二人にラザールは情けも容赦もなく、聖句を唱え光の槍を振り落とす。まるで白亜の塔が、自分に向かって倒壊してくるような、そんな光景。

 

(クッ!.........)

 

二人の視界は真っ白に染まる。

 

奇しくも、それは、丁度日付が変わった直後の午前0時。

 

その日、アルフォネア邸はが真っ二つに割れ、世界から消滅した。

 

 

 





今回はここまでです。黒幕、ラザールの登場でしたが改めてこれを書くために小説なんかを見ててラザールの『力天使の盾』はチートもいいところですよね?あらゆるエネルギーを変換するとか普通じゃないですよ........まぁ、ナハトも大概な気がしますけどね

さて今日はロクアカの画集vol.2発売日ですね!早く家に届くのが楽しみで仕方ありません!正直昨日のバイトは今日のために頑張ったと言っても過言ではないですね!購入された方とはこの楽しみを共有したいものです。

では、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!コメント、お気に入り登録、評価をしてくださりありがとうございます!



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「グレン=レーダスは仕留め損ねた。だが、セリカ=アルフォネアとナハト=イグナイトの分身は始末した」

 

ラザールはアルフォネア邸から少し離れた小高い丘で待つ二人の男にそう告げる

 

「何者かによってルミア=ティンジェルがさらわれた以上あの二人...........引いては《月》は黙っていない。特に《月》と大陸最高峰の第七階梯(セプテンデ)はことの真意に気が付かないほど愚鈍ではない」

 

それに答えたのは二人の男の片割れ........ダークコートに身を包んだ男だった

 

「そうだな。現にあの《月》は足止めを用意してるにもかかわらず、分身とはいえここに辿り着いた..........その上少なからず厄介な置き土産まで残してくれた...........全く、油断ならない男だが........まぁ、所詮は若造だ。大したことはないだろう」

 

ナハトの残した使い魔........そのどれもが厄介極まりないものだった。【月鏡】の応用による魔術耐性の高い物や物理耐性に高いものなど、その始末にやや時間がかかりほんの僅かだがこちらの策の進みが遅くなった。そして、その僅かな時間でルミアが攫われ、且つナハトがフェジテに間に合ったのだ。

 

「さっすが、ラザールさん!あの阿婆擦れババァと糞生意気なガキがいなきゃこっちのもんだよなぁ!?ぎゃ、はははははははは」

 

ダークコートの男とは対照的にチンピラ風の男はもう大勢は決まったという様に馬鹿笑いを決め込む

 

「だが、ラザール..........お前はグレン=レーダスを逃がした。確かにあの二人は目立って脅威となりうるがあの男も何をしでかすかわからない。藪蛇にならなければいいがな」

 

確かに、あの時この男を殺したのはナハトだ.........だが、それはグレンが無能と言うわけではない。あの時、たかが三流と見くびっていたグレンは魔術師殺しと有名な《愚者》だ。ナハトでなくても戦っていたら見くびっていたあの時では果たして勝てだろうかと自問していた

 

「.........なんにせよ我々はここで『現状維持派』との戦いに勝利する。ルミア=ティンジェルを攫った下手人がいるが.........関係ない。遅かれ早かれ死ぬのだからな」

 

そのラザールの手には小さな『鍵』が握られているのであった

 

 

 

 

-----------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

場所は変わり、とある小部屋の中。そこに一人の少女と一人の青年が二人の最強を待っていた

 

「遅いですね.....アルフォネア教授とナハト..........」

 

重い沈黙に耐えかねたシスティーナがぼそりと呟く

 

ここは下水道の通路を決まった順序で通らないと辿り着けないように魔術的に仕込まれたいざと言うときのためにセリカが燃料や保存食を備えた秘密の場所だ。

 

「ひょっとしたら教授とナハト道に迷ってるんじゃ........」

 

向かい合わせに座ったグレンを気遣う様に続けるシスティーナ。だが............

 

「それはない..............そろそろ現実を見るべきだな」

 

そう呟くとグレンは立ち上がる

 

「姿を現さない。通信魔術にも出ない。何らかの手段による連絡もない............鼠の使い魔を送って見えたのはセリカとナハトのローブの端くれだけ──」

 

グレンは続けてセリカの生存は絶望的だと話そうとしていると.........

 

『随分と........らしくないですね...........もう少し身内を信じられないんですか?』

 

「え?ナハト!?」

 

システィーナのポケットにいつの間にか入っていた通信魔導器からナハトの声が流れる。ナハトに事前に渡されていた物とは別の物から聞こえたため一瞬戸惑うと同時に安堵する。

 

『はぁ.........はぁ..........先生が.........そんな調子で............どう、するんですか?』

 

「おい!ナハト!無事なのか!?」

 

『ギリギリ........ですけどね...........セリカさんは..........システィーナの家にリィエルと一緒に.........寝かしときました..........はぁ......はぁ.......』

 

明らかに息が荒い上、途切れ途切れだがセリカが無事なことを伝えるナハト。だが、それによってグレンの胸中には別の懸念も生まれる

 

「そうか.........だが、お前は?声音も悪いし、息遣いも荒い。大丈夫なのか?」

 

『悪いんですけど.........この俺の維持はもう........限界です..........しばらくは........援護できないと思ってください...........』

 

この通信魔導器越しのナハトの姿と言えば至る所汚れ、その存在がうたかたの夢の如く崩れかかっていた。最後、ラザールの一撃をどうにかセリカと共に直撃するギリギリの所で事前にシスティーナの家に施しておいたマーキングに【飛雷神】で飛び、自分たち自身の服の切れ端を残しやられた風を装った。

 

だが、分身の維持はとうに限界が来てしまった。その上魔力供給と維持を本体が放棄したのだ。

 

それはすなわち本体が追い込まれている........或いはもう一人の分身の方にかなりの魔力を回してるか、かなり本体からぶんどっている弊害だろう。そうなると分身が意図的に消えるか、時期消えるかのどちらかでそれをギリギリまで持ちこたえこうして連絡をしたのだ。

 

「ッ.............そうか............分かった。こっちは任せろ.........お前はお前の相手にあとは注力してくれ」

 

ナハトの援護が期待できないと知ってグレンが落胆してしまった事に嫌悪する。自分が守らなくちゃいけない生徒にも拘らず、その生徒の力を頼りにし過ぎてしまった自分の不甲斐なさに打ちひしがれる。

 

『........先生。ルミアとシスティーナの事............任せます。俺は先生の事尊敬してるんでそこのとこは心配してませんが...........まぁ、強いて言うならセラねぇ泣かすような事態になれば焼きますからね?』

 

どこまでも聡いナハトはそのグレンの心情を察したかのように普段通りにも近い会話でおどけて見せる

 

「..........ふん!ガキが変な気ぃ使ってんじゃねぇーよ。任せろ........お前もルミアとシスティーナを泣かすなよ?そん時は俺が鉄拳制裁してやる」

 

『当然.....です.............それじゃ別の人に代わります..........俺はしばらく連絡が取れなくなると思いますが........上手くやり............』

 

「はぁ?ほかの人だ?一体誰だ.........ナハト?」

 

ぷつりとその瞬間、ナハトの声が全く聞こえなくなると同時に何かが落ちる音が響く。不穏に思いつつ再度尋ねようとしたとき──

 

『くくく........やぁ、グレン?ご機嫌はいかがかな?』

 

「んなッ!?ジャティスッ!」

 

すると次の瞬間に聞こえてきたのはもう二度と聞きたくもないような相手の愉快そうな声だった。

 

その通信魔導器は事前にジャティスが仕込んだもの。ナハトは業腹だが、ルミアに着けておいた魔力発信を頼りにジャティスへ情報を共有するために動きそして..........

 

『くくく..........流石のナハトも本体じゃない上、制限もあれば限界みたいでねぇ?今丁度ルミアに看取られて逝ったよ。あぁ、彼女の無事が気になるかい?それなら...........』

 

そう、ナハトの分身はついに消えたのだ。そして、それをまるでナハトが死んだかのように言うジャティスにグレンは嫌気がさし、どろどろと黒い感情が沸くのを必死に抑え込んでいると..........

 

『ナハト君.........って、え!?せ、先生!?なんで............』

 

一瞬、グレンの耳にルミアの声が届くとそれは徐々にフェードアウトしていく。

 

『どうだい?少しは安心できたかな?まぁ、君もわかってるとは思うがここで僕もナハトを怒らせることはしたくない.........もし仮に単騎で彼を相手するなら相応の備えが必要だ。だから彼女に危害を加えないことは信じてくれたまえ』

 

「クッ..........はぁ......業腹だがそれに関しては嘘偽りねぇだろうから信じてやる。だが、どういうつもりだ?ナハトが今回に限ってはお前を信用してもいいと言ったのはそれだけの根拠があるんだろ?」

 

グレンとてもしも怒り狂ったナハトを相手にするとなればぞっとする............いや、相対した時点で数瞬と持たず殺される未来が見える。普段は優しく比較的温厚だが、イヴや大切な人々..........そして何よりルミアに関しての沸点は割りかし低く、怒りの度合いが比じゃないだろう。

 

『さて、時間が惜しい。話を進めよう............そうだな、グレン。君にはゲームをしてもらおう』

 

ゲームだとのたまうジャティスに再び怒りがこみ上げるも必死に飲み込みつつ答える

 

「..........従うしかねぇんだろ?早く言え.........その代わりもし、ルミアやナハト...........俺の大切なもんを害したら今度こそ確実に地獄に送ってやるッ!」

 

『いいねいいねッ!やっぱり君はそうでなくては!!..........さぁ、早速君にやってもらうのは──』

 

 

 

*************************

 

 

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 

巨大な拳が地面をたたく鈍い音がうっすらと明るくなった闇の中に響き渡る

 

(悪魔とバークスが鬱陶しい!........それに──)

 

「破ァァァァ!!!!!」

 

「シ.........ッ!!」

 

躱した瞬間必殺の威力のさらなる拳――ゼトの雷を纏う剛腕が迫る。ナハトはそれを冷静にいなしカウンターを入れゼトに距離を取らせる。

 

ナハトは今、フェジテに程近い道半ばで三人の外道と相対していた。この三人は一見してチームワークも糞もないのだが事の他に戦術がかみ合ってるせいで攻略が難しく非常に煩わしい。

 

そして特に取り分けて厄介なのは..........

 

(あの悪魔...........七つの大罪の『暴食』を冠したグラトニー。しかも厄介な能力『暴食』..........喰うことでその喰ったものの能力・耐性を得る...........得た能力の再現率は100%なうえ耐性も100%。しかも許容限界は底知れない以上許容限界攻めはまず不可能。そして生物なら喰った霊魂を取り込みさらに強化され、その相手を完全に模倣したうえ擬態まで完璧にできる...........どこまでの用意があるかはわからないが一番の脅威だ)

 

そう、この悪魔は一撃必殺で確実に殺すことが一番に思いつく攻略法なのだが、それを容易には許さない強力な能力を誇る。あの悪魔殺しの魔術も食われては耐性ができるためここぞというときまで使えない。

 

「あはははははは!!!どうです?どうですッ!?この悪魔は!!貴方にとって一番苦手なタイプでしょうッ!!その上この悪魔に貴方を食わせれば.............くっくくくく........あぁ、どれほど強くなることかッ!?」

 

(あぁ、そうだよクソッタレ..........どうしたものか)

 

そう、まさしくナハトの天敵と言えるものだ。単騎ならば多少の工夫でどうにかなるがゼトとバークスのダブルコンボで隙を作りにくいのが厄介だ。

 

(バークスの方はまだいい..........獄炎で回復限界まで追い詰めればいい。ゼトとヴァイスの悪魔が厄介だ)

 

バークスはかつてのように異能の力を使い再生能力などがあるがそれはさしてナハトに関してはそれほど脅威になり得ない。だが、ゼトと悪魔の存在があるせいで三人それぞれの厄介な点が浮き彫りになっているように思える

 

(この分身の後の事も本体の方の事も考えるな............街の方は.......ルミア達の方は今は先生を信じて託す!俺は俺がするべきことだけに今は意識を裂け...........相手の特性と自身の戦力すべてを活かせ)

 

確かに状況は悪い...........けど、この場の三人に対して必ず優位となるものは持っているのだ。ならばあとはパズルのように当てはめ、勝利を組み立てるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ..............あの時の貴様ならばその首、三度は落としていたが............未だ繋がっているとは感心」

 

「ふん..........舐めるなよ。もう一回直ぐにあの世に送ってやるよ」

 

林道の中。そこでは細く、薄く、身の丈程の長さの長剣を構える白い男と黒白の双剣に獄炎を纏わせた少年の二人の剣士が相対していた。

 

彼の剣はレイピアのようだが実際は東方の刀に近い。特有の技術からその剣によって放たれる斬撃は恐ろしい程の切断力を誇る。下手に受ければこちらの剣もろともナハトを切り捨てるほどだ。嘗てのナハトはこれによって剣ごと切り裂かれ深い傷を負ったことがあるため当然最大限の警戒をしていた。

 

「フッ..........そちらこそ舐めるなよ?もし、あの時の私がすべてだと思っているのならばそれこそ愚か極まりない」

 

この男は確かに今のナハトよりもまだ格段に腕が立たない頃倒した強敵だ。だが、正直な話ナハトがあの時倒せたのは偶然と言っていい。そのために今のナハトと言えど全く油断ならない相手である。

 

(そう........アイツは兎に角飛び抜けて強い。剣技で言えば師匠かそれ以上、ある意味では魔人よりも厄介な剣術だ............その上魔術の腕も一級レベルな上、奴の魔力特性を十全に生かした固有魔術は僅かにでも当たれば即死だ)

 

ジークの魔力特性(パーソナリティ)『万物の崩壊・絶滅』。有機物や無機物は勿論、魔術や霊魂なども崩壊・絶滅することができるという〝壊す〟ことに特化した特性だ。その特性を利用した魔術が当たればどうなるかなど説明するまでもないだろう。

 

ただ、もしジークが壊せないとすればそれは法則や世界の理だ。何せ法則なり理自体を壊せるのなら奴は自身の死を壊し、あの時倒れなかったはずだ。

 

だが、一つだけ............ジークのそれと似たような効果を持つ力をナハトは有している

 

(【黒天大壮】は元々ジークの固有魔術を相殺するための技だ..........獄炎なら同じ性質として相殺は可能だが、どちらにせよ厄介に変わりないし、二度も同じ手が通じる相手じゃない)

 

そう、ジークとの戦闘中にナハトが編み出した【黒天大壮】の原型は確かに身体能力を大幅に上昇させる技だが、本当の狙いは別にあった。それは自身を獄炎とほぼ同化させることでジークの破壊の魔術と獄炎のあらゆるものを焼き尽くすという性質をぶつけてその性質同士を相殺させることが目的だったのだ。それによりある程度の攻撃を気にせず特攻し不意を突いてナハトがジークを倒したのだ。

 

ナハトが対抗策を考える中ジークは魔術の詠唱を開始した

 

「《壊せ・壊せ・壊せ・破壊の極光よ・散弾となりと降り注げ》」

 

ナハトの頭上に大きな魔術陣ができるとそこから無数の白亜の極光が放たれる。数にしてそれは優に100を超えるそれは一撃でも喰らえば必殺のチート固有魔術だ。

 

「チィ........ッ!!」

 

ナハトは剣を振るい獄炎の斬撃で相殺しつつ距離を詰める。距離を取ればそれこそ魔術で蜂の巣にされかねない。ならばこそ近接して魔術ではなく剣での勝負に持ち込む

 

だが、それは勿論相手も承知の上。防がれること自体計算内であり、ナハトがこうすることも想定内だ

 

「シッ.........!!」

 

ジークは想定通り距離を詰めてきたナハトに対し鋭く一閃。その斬撃はあらゆる全てを切り裂く絶技。ナハトが速さと言う絶技に至ったというならジークは〝斬る〟ことの絶技に至っている。

 

(ここ..........ッ!)

 

正面から受ければ自身ごと切り捨てるその一閃をナハトはジークの剣の腹に自身の剣をぶつけ滑り上げさせ軌道をそらす。

 

そして、ナハトは二刀流だ。手数の多い利点を生かしそのまま攻撃に移るが.........

 

「馬鹿め」

 

だが、ジークは軌道をそらされ弾き上げられたにも拘らずそれを意にも介さない様子で既に斬撃を放ってきていた。タイミングは完璧で、恐ろしいことにナハトの攻撃よりも確実にジークの剣が届く華麗なカウンターだ。

 

だが、ナハトも抜け目なかった。

 

「──ッ!」

 

ナハトは剣を弾くと同時に自身の剣も上に投げ捨てていた。その投げ捨てた剣に、【飛雷神】で飛び緊急回避する。

 

そして──

 

「神千斬りッ!!」

 

渾身の一撃を放つ。ただ、この策には穴があり、剣を投げ捨てたことなど直ぐに気が付かれる。そこでナハトは重ねて一瞬だが微弱な幻術を使いあたかも剣を手放していないかのようにしていたためもあり警戒心を下げていた。

 

因みにだがナハトが幻術を賭けたのは剣を弾いた時だ。ナハトの腕なら剣戟音などの音や特定の所作に魔力を込めれば規模は限られるが幻術を起動させることは容易い、が──

 

「流石の腕だ...........あの時からそのちょこざな手管は見事なものだな」

 

白き極光を球状にして自身を囲い、獄炎を凌いだジークが冷たい笑みを浮かべ現れる。

 

相手はそんじょそこらにいる外道魔術師ではない。彼の者を正面から倒すことができるとすれば帝国内でも両手の数もいまい。

 

「だが褒めてやろう...........嘗て私と対峙した時とは飛躍的に成長しているのは確かだ。今のタイミングも幻術の使い方もより洗練されている。今ならばあの時よりも楽しめるというものだ」

 

「それはどうも..........だが、お生憎様だな。こっちは楽しませる気なんてさらさらない............押し通らせてもらうぞ亡霊」

 

二つの戦場でナハトの熾烈極まる戦いは更に加速する

 

この騒動の〝鍵〟は徐々にそろいつつあるのであった

 

 

 




ジーク=へレス
年齢28歳
魔力特性『万物の崩壊・絶滅』
容姿・特徴:長い白髪が特徴の超イケメン。声のイメージは櫻井さんでイケボ。
性格:冷静沈着で非常にクール。だが、魔力特性が内面の正確にも出てるかのように冷酷で残虐。壊すことに悦を感じる狂人

天の智慧研究会に所属しており、小国を滅ぼしたというほどの力を有している実力者。切断に恐ろしいまでに特化した剣術に圧倒的な破壊力と卓越した魔術の腕は当時ナハトが任務で会敵したことを聞いた時イヴが卒倒しかけるレベル。強さで分かりやすく言えば魔人より総合的に三段階ぐらいは弱いが弱体化したセリカを殺せるかもレベルには強い。ぶっちゃけかなりのチートキャラ


さて、今回はここまでです。今回出てきたオリ悪魔、並びにオリキャラはチートなナハトを苦しませるためのチートです。今回の章のナハトにはとことん苦難にぶつかっていってもらうためにナハト以外ならまるで瞬殺でもされそうな感じの敵を作ってみました。その分決着うなんかをどうするかとかが難しいですが、白熱した激戦を書けるよう頑張っていく所存ですのでどうかよろしくお願いします。

あ!あと皆さんは例のワクチンの接種はされてますでしょうか?自分はつい三日前に一回目の接種しましたがあれって結構ぐさりとさしてくるものなんですね。自分はまるでウマ娘の主治医の注射の様に思いましたw実際にあんな風にやられるとテイオーが悲鳴を上げるのも納得ですw副作用とかも怖いですが個人的には打つ方がいいのかな?って思ってます。勿論打たないのも一つで打たない人が差別されるべきではないですがなんにせよまた元の生活に戻れるよう個々人で頑張っていきたいですね。

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意地

 

(なーんで俺はこんなことしてるんだっけッ!?)

 

 

「いたぞ!こっちだッ!!」

「至急応援要請!見失うな!!」

 

 

グレンはフェジテの街で警備官と命がけの鬼ごっこをしているのであった

 

 

 

*******************

 

 

グレンがそんな事態になる前。早朝にジャティスはグレンの名義で市庁舎に帝国政府に対してのルミアの身代金要求、重ねて帝国政府に仇なすと言った内容の犯行声明を叩きつけたのだ。

 

「......お前まじで何してくれてるの?何?俺に恨みがあるわけ?」

 

警備員たちが厳戒態勢で哨戒している中、周りの警戒しながら通信魔導器越しに張本人に対し毒づく

 

『くっくく..........僕が私怨で動くという無駄極まりない事をしないのは君がよくわかってるんじゃないかい?まぁ、それはいいとしてナハトが僕を信じたように、この僕の指示は崇高なる目的のために必要なのさ。信じてくれ(トラスト・ミー)

 

何度も検問を越えながらグレンはことの真意について考察する。

 

ナハトがジャティス相手に簡単に信じることをしないのはグレンも同じなのでそのナハトが信じてもいいと言ったジャティスの指示に従うことに問題はないというのは納得は出来ないが、理解はできる。勿論、何か裏がある可能性が多分にあることは重々承知なのは当然としてこの行為...........そして今からの行動は明らかに自分を囮に使うような指示だ

 

(つまり裏でジャティスの野郎は何かをしようとしている...........それも周囲の警戒を俺に集めないといけないことから短時間でできることではない..........そして、何よりもルミアの存在..........)

 

グレンもまたナハトと同じようにルミアの存在が必須となる状況について考察するが皆目見当がつかなかった。恐らくナハトは既にわかっているようだったがグレンには流石に情報がなさ過ぎてたどり着けない

 

『先生..........そろそろです』

 

別の通信魔導器からナビを担当しているシスティーナが目的地に近づいたことを告げる

 

『さぁ、グレン。早速だが第一の課題だ』

 

「クソが..........。ほんと、マジで死ね。お前」

 

『おや?もしかして怖じ気づいたかい?困ったなぁ...........ナハトがいない以上君がやらないと何人死ぬことになるかな?』

 

「...........地獄に落ちろ」

 

まるで普段から事防衛にナハトに頼り切りな所を突かれたみたいでふつふつと自身の不甲斐なさと宿敵に対する怒りがこみあげてくる。確かにここ最近はナハトに頼りきりだったのは否めない............ナハトの腕はもはや帝国トップクラス...........それこそかつてセリカに与えられた執行官No,21《世界》の最強の称号(コードネーム)だって与えられてもおかしくないのだ。

 

(ナハトがいればなんて弱気な事考えるんじゃねぇぞ俺..........アイツは今全力で戦ってる。教師の俺が.........魔術師として先輩の俺が........そう易々と負けられるかよ!)

 

そう、今回は正真正銘グレンの意地の見せ所だ。ナハトは強いとはいえグレンからすれば子供だ。大人として、一人の魔術師としてこれくらいの盤面なぞ乗り越えてみせる!

 

「引き続きサポート頼む白猫」

 

『わかりました!先生も気を付けてください』

 

グレンはその声に応えるかのように行動を.........詠唱を開始した

 

「《紅蓮の獅子よ・憤怒のままに・吼え狂え》!」

 

黒魔【ブレイズ・バースト】は円弧を描き上空を翔けると広場中央の銅像に着弾する。そして大爆発と同時にそれは大破する。

 

「「「───ッ!?」」」

 

一体何事か、とその場の警備員や市民たちがその大破した象に視線を向ける。

 

そしてグレンはそんな大破した銅像の上に降り立ち、注目を集めたところで堂々と大きな声で叫ぶ

 

「ええと、確か.........〝やぁやぁ遠からんものは音に聞け、近くばよって目にも見よ!───〟.............うん、無理!ややこしい上長すぎるわ!?いいかお前ら!アレだアレ!要は俺に文句ある奴らまとめてかかってきやがれコンチクショウがああああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

事前にジャティスが用意していた警備隊の怒髪天をつく痛快で愉快な前口上があったのだがこれがまたややこしいわ長いわでグレンは最終的に諦め、半ばやけくそに即興改変で威力を大幅に削った【ブレイズ・バースト】で今一度警邏庁正面玄関口前に、放つ

 

「う、うわああああぁぁぁぁ!!!!」

「に、逃げろ!皆、逃げるんだああああああぁぁぁ!!!」

 

炸裂すると同時、蜘蛛の子散らすように市民が逃げていくそれが合図かのように冒頭のグレンの命がけの鬼ごっこが開始されたのだった

 

 

 

 

 

 

「何?今度は警邏庁に爆破テロだと!?下手人は件のグレン=レーダスだとッ!?」

 

ジャティスによって仕組まれたグレン捜索に奔走するエリート警備官、ユアン=べリス警邏正は、捜査本部からの通信魔術による入電に目をむくしかなかった

 

舐めたことをと愚痴りつつ、部下である警備官たちが義憤の籠った瞳でユアンに対し指示を求める

 

「是非もない、本部から要請が来ている!これから我々も、ホシの追跡に参加する!」

 

そしてユアンはッそれにこたえるように参加の意を示し、グレンを的確に追い詰めるべく、一通りの指示を飛ばす。

 

が、その一瞬だけユアンは口を薄く冷たく歪め言い放つ

 

「それと.......ホシへの第一級制圧対応を許可する」

 

「は?」

 

その指示に部下の警備官は何をと言う様に声を漏らす

 

第一級制圧対応............それは街中での抜剣及び発砲の許可

 

そう──

 

「あ、あの............ユアン警邏正.........その........」

「いくら凶悪犯相手とはいえ.........いきなり一級と言うのは........」

「市民に被害が出るかもしれませんし..........」

「それこそ現場の独断では........本部に問い合わせないと..........」

 

部下たちが口々に不安そうに零す

 

第一級制圧対応は剣及び銃の使用許可の通り犯人を殺さずに無力化するのではなく、殺害無力化(・・・・・)と言う意味だ。

 

常識的に考えてもいきなりすぎる指示だ。部下の言う通り現場の判断だけで決めるには周辺被害の想定もだがいささか度を過ぎている

 

が、ユアンは............

 

「もう一度言う..........」

 

ユアンはゆっくりと冷たく高圧的に、もう一度.......今度ははっきりと言い放つ

 

「第一級制圧対応を許可する。グレン=レーダスを、殺せ。..........《命令(オーダー)》だ」

 

「「「はい!了解いたしました!グレン=レーダスを始末します!!」」」

 

ユアンがもう一度指示をすると部下たちは一片の迷いも見せずその指示を受諾した

 

その部下たちの妙に統率のとれた動きはまるで非人間的(・・・・)な統一性があった。そしてそれはその場だけではなくフェジテ中の警備官が同じタイミングで、同じ統一感、同じ目的で動き始めるのであった

 

 

「さて.........グレン=レーダス。情報によれば君みたいな奴にはこういう手が一番効くだろ?くっくっくっ...........君がどこまでやれるか、お手並み拝見させてもらおう」

 

閑散とした路地裏

 

そのユアンの氷のように冷たい呟きを聞くものは誰もいなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、街道。激しい戦闘音が示すように激戦が繰り広げられていた。

 

(マジでコイツ等いい加減ウザいな!!)

 

グレンが鬼ごっこを開始したころ。ナハトの亡者共との戦いはさらに激化していた

 

「破アアアァァァッ!!!!

 

「チィ──ッ!!」

 

舌打ちをしながらもゼトが放つ轟拳を対処するナハト。だが、相手は彼一人ではなく...........

 

悪魔の純粋な膂力そして──

 

「(何か拙いッ!?)《第二術式・起動開始》!!」

 

『ウォオオオオオオ!!!!!!』

 

ナハトは直感で致命的な何かをするのではと言うのを察知し、咄嗟に懐からアルカナを取り出し口に咥え【月鏡】を起動させ、自身に向けられるあらゆる魔術的効果を無効化する

 

「へぇ、気が付きましたか?今のはザイードの【魔曲】ですが........どうやら防がれてしまいましたか」

 

(道理でいないと思ったら......相性の問題じゃなく生贄にしてやがったのかよッ!?)

 

ヴァイスは事前に自身と同じく復活されていたザイードを悪魔に捕食させその魔術を模倣していた。

 

ナハトもゼトとヴァイスの存在からあの件に関わっているザイードの存在を常に警戒していたが、さしものナハトもまさか悪魔の強化要因にされていたとは思っていなかった

 

「死ねぇぇ!!!クソ餓鬼ィィィィ!!!!!」

 

すると今度はバークスが襲ってくるので反撃はせず、一旦距離を取る

 

(ヤバいな..........ザイードの【魔曲】は厄介すぎるぞ?それに【月鏡】の効果時間内にどうにかしないと魔術が封じられちまう)

 

そう、本体が再発動までに要する間【月鏡】を使用していれば問題ないがこの状況で下手に連絡を取れば弱点を晒す様なもの。つまりは残り15分の間にこの三人をどうにか倒しきる或いは最低でも悪魔だけは処理しなくてはならない状況に陥ってしまう

 

(魔術なしじゃどう考えても突破は絶望的.............それに俺がやられでもしたら本体か街の方に行かれる...........そうなればもうどうしようもなくなっちまう..........)

 

そう、ここで倒す以外に活路はない。どうにか手傷を追わせて後を託すのではなく刺し違えてでもここで倒しきる必要性があるのだ...........

 

(相打ちでいい...........どうにか.........)

 

「くっくっくっ..........流石の貴方もそろそろ厳しいのでは?大人しく食われてみますか?」

 

(魔術の効き目は当然、物理攻撃も有効打にはならない................あれ?そう言えば食って耐性を得る、食って能力を得るって食ったそばから可能なのか?それに奴が現状有している耐性は?.........まだ試してないな...........)

 

ナハトは確かに食われることを最大限警戒していた。だが、よく考えてみればそれによって能力と耐性を得るまでの時間が不確定だ。情報が不十分にも拘らず相手の戦力を決めつけ策を練るのは下策だ。

 

(............もし、数秒でも間があるなら.............活路は、ある!)

 

いささか外道ともいえる方法だが一つの策をナハトは思いつく

 

ナハトは無言でそのまま左手の剣を腰の鞘に仕舞う。

 

「..........チッ........まぁ、いい。直ぐに悲鳴を上げさせてやるさ」

 

ナハトの態度が気に入らなかったのかヴァイスは悪態をつきつつ悪魔を構えさせる

 

それに伴いゼトもバークスも構える

 

そして──

 

「...........かかってこい返り討ちにしてやる」

 

その言葉と同時に両者は駆けだす

 

「《付呪(エンチャント)》・《獄炎(ヘルブレイズ)》」

 

ナハトは再度剣に獄炎を付与し斬り込むとやはりと言うべきか、ゼトと拳と剣を交える

 

「破ッ破ッ破ァァッ!!!」

 

「ッ.........!!」

 

ナハトが二刀ではなくなったところをゼトが連続で拳を叩き込み続ける。流石のナハトも手数の差の分だけやり難さを見せるものの流石の剣技でそれを対処していく

 

(やっぱ二刀じゃないとちょっとキツいな........)

 

「どうしたッ!なぜ二刀で来ないッ!我を舐めているのかッ!?」

 

「だったら.....使わせてみろよ」

 

激昂するゼトに対し、冷静にナハトは対処してると..............

 

「行け!!!」

 

ヴァイスの命令と共に巨大な拳が頭上から振り下ろされる。

 

ゼトもそれに気づくや否や忌々しげにだが後ろに飛び回避する。ナハトもまた同じく回避すると今度は悪魔によるラッシュが始まる。

 

ただ、大振りなためにナハトは小刻みに動きつつ回避し続けながら獄炎を浴びせ続けるが...........

 

「馬鹿め!!獄炎を食え!!グラトニー!!!」

 

ヴァイスの悪魔はすかさずナハトのみが扱える獄炎を喰らい、耐性と力を手にせんとする。

 

「癪だが邪魔はさせんぞ!!!」

 

するとそこにバークスが襲い掛かりナハトにそれを妨害させんと動く。

 

(バークスに関してはあれだ..............めっちゃ躱しやすくて助かるわ)

 

バークスは研究者なだけに戦闘のレベルが他二人のそれに比べ低いために回避もかなりゆとりがある、が..........

 

「オオォォ!!!!」

 

ゼトが素早く襲い掛かるためにゆとりがあっても油断は当然できない。すぐさまゼトの対応をしつつ、挟撃されないよう立ち回る

 

そうしていると............

 

「自身の力を喰らって死ねぇええええ!!!!!!!」

 

ヴァイスが叫ぶとまたもゼトの背後から悪魔が大きく口を開け、黒い炎を口元に灯してるのがわかった。そして................

 

『ウォオオオオオオ!!!!!!』

 

その咆哮と同時にナハトにしか扱えないはずのそれが熱線となりナハトを襲う。直撃の寸前でゼトは回避し、ナハトは............

 

「《残忍なる氷帝よ》!!」

 

黒い氷結がぶつかり、その炎を食い止める。何もかもを氷結させる冷気と何もかもを焼き尽くす炎のぶつかり合いの中ナハトは冷静に分析する

 

すると、悪魔はすぐさまナハトに向かい直進し、氷を嚙み砕きナハトを食らいつこうとする

 

ナハトは直ぐに後方に退避する、が──

 

「甘いッ!!!」

 

ヴァイスが狂気的に笑みを浮かべるとナハトの退避した先には悪魔の手が何故か地面から生えていた。よく見ると悪魔の右手が地面に埋まっていることから伸縮自在と言うわけなのだろう

 

が、それ以上に非常に拙いのはその手にも口がある事で、恐らくは体のどこにでも口を作れるのだろう

 

「《冷酷なる氷帝よ・彼の者の終焉を奏で・凍てつく死を馳走し給え》!!」

 

白銀の閃光を放つと、辺りを冷気が包み腕を地面から氷漬けにし、襲い掛かろうとしていた腕を止める、が...........

 

「あひゃひゃひゃ!!!氷は効きませんよッ!!」

 

元より悪魔相手に魔術の効き目が薄いこともあるが、先程ナハトの異能交じりの氷を食われたことでさらにそれが如実になったせいか直ぐに氷を意にせず襲い掛かろうとする

 

だが、一瞬でも凍り漬いたため、敏捷に優れたナハトは素早い動きで間合いから抜け出すことに成功する

 

(体感だが、思ったより模倣できるまでの時間は早い.......だが、仕込みは一応完了したな)

 

この攻防の中ナハトは策を仕掛けることができるかを確認するための仕込みを講じていた。おそらくそろそろ結果が測れるのだが..........

 

(................!フッ、これならやれるな)

 

内心ナハトは安堵する。どうやら考えていた策は出来そうだ。

 

「《ーーーーーーーー》」

 

口元を隠し、必要最低限の声音で詠唱でナハトはある術を仕込む。

 

(一気に決める!)

 

ナハトは一気に悪魔に向かって飛び出す

 

『ウォオオオオオオ!!!!!!』

 

雄叫びと同時に悪魔は獄炎と氷結を同時に広範囲に展開する

 

が、ナハトそのまま突っ込んでいく。悪魔のそれは自身の魔術のコピーであるために魔術と同義。ならば、【月鏡】による防御で十二分対応可能だ

 

「馬鹿め!!食ってしまえグラトニーィィィィ!!!!」

 

だが、悪魔もまた耐性をいいことにナハトに向かい突っ込んでくる。更にその上でナハトが回避できないようにゼトとバークスで包囲する。もっともナハトならば回避は可能..........が

 

「.....っくぅ.......ッ!」

 

何を思ったかナハトはそのまま気にせず突っ込むと自ら左手を悪魔の口元に伸ばし喰わせ、直ぐに左手を斬り落とすという意味の分からない行動をとる

 

「は..............?」

 

意味の分からない行動に場は白け、ヴァイスもなんのつもりかわからず素っ頓狂な声を零す。

 

そしてナハトは苦悶の表情で俯き膝をつくと、まるで時間が止まったかのようになる。

 

そんな中、ヴァイスは笑い始める

 

「くっくっくっ.........あは、あははははははは!今自分から食われに行きましたよねぇ!?なんですか!?諦めたんですか!?もしかして狂ってしまったんですかッ!?なんにせよあなたの一部分が手に入ればこの悪魔は神も同然!あひゃ.......あひゃひゃ!!どんな強さになったのか楽しみですねぇ!!??」

 

まるで願いが成就したでもいう様に大きな声で割り声を上げ始めるヴァイス。

 

だが、そもそもナハトが意味もなく、このような自殺行為をするだろうか?

 

当然、答えは..............

 

「馬鹿め!!どう考えても不自然だ!!!警戒を───『ウォオオオオオオ!!!!!!』ッ!!??」

 

ゼトはただひたすらにナハトを倒すと言う事に注力していた。それ故にナハトのとる一つ一つの行動に最大限の警戒をしていた。だからこそ声をあげるが..............遅すぎた。

 

完全に油断しきったヴァイスは自身の従えた悪魔に殴り殺される(・・・・)

 

「どういうことだッ!?奴の幻術か!?~~ッッ!!??くくく、来るな!!やめ........『ウォオオオオオオ!!!!!!』.......ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

その意味の分からない光景を見ると、バークスは取り乱す。だが、それがいけなかった。その一瞬の隙をついてすぐに悪魔はバークスにまで襲い掛かるとバークスを捕食し始める。

 

ヴァイスはナハトの〝魔力特性()〟を手にすることが目的になりつつあった。もしこれがただナハトを殺すという目的で、ゼトたちの意思が〝一つ〟ならナハトもこうもわかりやすいことはしないし、そもそも誰も引っ掛からない。

 

意思統一ができてないが故に、付け込む隙はあり

 

それ故に、均衡は些細なことで容易く崩れる

 

悍ましい音に不快感を覚えつつもゼトは膝をついたナハトを見やるが..........

 

「居ない!?しまッ.....「終極ノ一閃!!」........ぐぁ!?おの.........れ.......一体、何を........?」

 

ナハトからわずかに視線を外してしまったのがゼトの最大のミスだった。その隙に、一瞬で立て直し、最速の一閃を以ってゼトを屈服させる

 

ナハトは肩で息をしつつそのゼトの問いに答える

 

「はぁ..........はぁ...........悪魔(コイツ)が力と耐性の得るまでの時間を解析用の結界と奴自身が獄炎と氷に重ねて、幻術で偽装した魔道具を食わせて解析して有効打点をついたのさ」

 

ナハトは戦いのお途中から隠密性に優れた解析結界を展開しつつ、獄炎を食われた時にはその中に幻術で可視光をいじりつつ、【月鏡】の術式の要領で保護してた解析用の魔道具を口の中に投げ入れていた。それにより魔術の吸収にかかる時間を把握し、次に氷を食われた際にはその氷の中にも同じ手順で仕込んだ魔道具で耐性を探ったのだ。

 

因みにこの解析結界や魔道具はクリストフに教えてもらったりしたものである

 

「助かったぜ........この悪魔〝呪い〟に対しては全くの耐性がなかった」

 

「呪い.....だと?」

 

固有魔術(オリジナル)【カースド・ブラッド】。一定量の血肉を呪詛で満たし、それを取り込ませた対象のあらゆる支配権を奪う幻術に似た呪術だ」

 

そして悪魔に対して行使した魔術.........いや、〝呪術〟は固有魔術(オリジナル)【カースド・ブラッド】。相手の自由意思を殺し、自身の意のままに操るための呪詛を満たした体の一部を対象に取り込ませることが術の発動条件で、ナハトの『支配』能力に呪いの強制力を加えることで上位概念である悪魔さえも従わせる呪いの魔術だ。

 

また、今回あくまで呪いと言う形にこだわったのは、呪いと悪魔は共通して負の要素に通じるものがあるためである。要は『目には目を、歯には歯を』と言うわけだ。

 

「.........まぁ、これが今回の種だ。もう一度あの世に帰りな」

 

ナハトは最後にゼトにそう告げると悪魔に捕食させ、ゼトを始末すると最後には悪魔殺しの魔術で悪魔を消し、戦闘を終える

 

だが──

 

「..............やっぱそうなるよな?」

 

ナハトは自身の右手を見ると透明になりかけていた。呪いの発動の為にかなりの魔力と体に呪詛をため込むという自殺行為のせいで消耗を蓄積していき限界に到達したのだ。その結果、分身自体がそれに耐えきれず、消滅しかかっているのだ。

 

(もしこれを本体でやってたら..........まず間違いなく俺死んでるな..........)

 

そう、限界が来たのもあるが一番は本体なら死んでしまうような状態だからと言うのが大きいだろう。なにせ実体がもつが故に痛みがあり、それである程度察しが付く。

 

すると立つこともできなくなり、ナハトは崩れるようにそのまま地面に大の字に寝そべると空が目に入る

 

 

(..........もうこんなに明るくなってやがる..........本体と街の方は...........)

 

 

明るくなった蒼空を見上げるナハト

 

最後に分身はその後の事に想いを馳せ、砂塵と共に消え去るのであった

 

 

 

 





今回はここまでです。いささか主人公が使うには呪いと言うのは物騒ですがご容赦ください。正直敵を強くし過ぎたのと複数対一もあり、倒し方や戦闘描写が難しく雑になってしまったかもしれません。自分が書いてる作品はバトルものばかりなのでもっと複数対一の戦闘描写が上手くかける様いろんな作品を読み漁り、もっといい作品が書けるよう頑張りたいと思います!

さて、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!コメント、お気に入り登録、評価をしてくださりありがとううございます!




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奇術師vs破壊者

 

 

「..............」

「..............」

 

森の中...........二人の剣士はただ無言で剣を交え続けていた

 

その二人の剣戟は早く、速く、疾かった。

 

そこに介在の余地はなく、他者が入り込もうものなら刹那のうちに斬り刻まれるだろう超高度な剣戟の応酬を二人は涼しい顔でこなし続ける

 

(...........目が慣れてきたか............剣技に関しては私と同等レベルにはあるか.........)

 

(...........こいつの太刀筋も慣れてきた...........仕掛ける.........)

 

ナハトが経験してきた中でも三本の指に入る剣の勝負

 

勿論一番の苦戦を強いられたのは魔人。そして二番目は先のサキョウさん。そして今のは三番目...........二人は正面から斬り結べる分まだやりやすいがジークの剣は正面からまともに受けられない。斬撃の起動を正確かつ迅速に読み切り捌かなくてはナハトは今頃体のどこかとサヨナラしているだろう。

 

幾度も魔術や剣技の応酬で辺りの木々は切り倒され、焼き尽くされ、塵と化した戦場でここでは先にナハトが仕掛ける

 

「《偽典の導・真為る贋作・此処に在り》!」

 

ナハトが僅かに間合いを取った瞬間、三対の干将莫邪を投影魔術で作り出したそれを瞬時に投擲し、円弧を描きながら空を翔ける。それは寸分たがわず同じタイミングでジークを襲う

 

(計6本..........死角に加え、回避と剣で捌けない巧妙なタイミング........面白い.........)

 

ナハトの卓越した投擲技術で物理的な対処を不可能にさせ魔術による対処を強制させる。敢えて全方位に魔術で防がせるように仕組んだのは間違いなくジークの視界を塞ぐため........魔術で広範囲をカバーするデメリットでもある視界不良を狙っての一手だ

 

ならばこそだ...........

 

「《破滅の極光よ・輝け》」

 

ジークはどうせ視界が塞がれるならばと、高威力且つ広範囲魔術を展開し強引に辺り一帯を破壊の閃光で薙ぎ払う

 

ジークの魔術の強みは触れれば必殺な点に加え、光と言う性質上速さが強みだ。僅か一瞬で数十メトラ一帯をカバー可能であるため、ナハトに回避を許さず消し飛ばさんとするが.........

 

「ッ!(効いていない?いや、弾かれている?)」

 

ナハトは【月鏡】による魔術防御に重ね、獄炎を纏った状態で躊躇なく破滅の輝きを割って斬り込む

 

そして、二人は再び券を交えるかと思えば.............

 

(透き通った............幻術か.........)

 

が、それは幻で剣が空を切った。よく見渡すと辺り一帯をナハトが囲んでいる。一目ではどれも本物に見えるために無視はできず、恐らくは魔術を使った隙に幻影を作り出して攪乱して隙をつく策なのだろう。

 

本物がわからない以上、流石に厄介............なわけもなく

 

(猪口才な...........)

 

ジークがさらに魔力を込め魔術の威力を高めると幻は悉く消え去る。ジークの破壊の光は魔術さえも対象だ。この状態で幻術など無意味である。

 

(そして...........)

 

また、光を強めた時に見えた僅かな影をジークは見逃していなかった。魔術を消し飛ばした時に見えた影.........それはすなわち、実体の所在を示す記号である

 

鋭く踏み込み剣を振り下ろす、が────

 

(何?範囲外だと?)

 

ジークが踏み込んで切り裂いたと思えばそこにはナハトは居らず、そのうえ自身も魔術の効果範囲から出ていた。

 

ジークが今発動した魔術は発動した時点を中心として一定範囲を閃光で包むものだが、ジークの移動によって中心が移動するわけではない。その為、移動すれば抜け出すことは出来るわけだがジークがそれをど忘れするわけがない。

 

(幻術?だが..........)

 

ナハトが狙ったのは効果範囲から自身を引っ張り出すために自身に幻術を掛けたのかと考えるが、魔術で破壊した筈の幻術の可能性は考えにくい。否、ありえるわけがないのだ。ともすれば...........

 

(むっ?体が動かない.......だと?)

 

不意に体の自由が利かなくなり、足が何故か地中に埋もれ始めた。

 

その瞬間、頭上から獄炎を纏う刃を振りかぶるナハトが現れる。正面からもナハトが複数現れる。だが、それを全く意にも介さず薄く笑みを浮かべ呟く

 

「............よもや、端から幻術とはな」

 

その瞬間、世界の色は消え崩れ去る...........

 

そして、パズルのように組み立てられて現れた世界は色を取り戻し、現実にジークを結び付かせる

 

「......チッ」

 

すると目の前には〝月のアルカナ〟を片手に舌打ちをするナハトがいた

 

「一杯食わされたぞ..........私が幻術を掛けられたのを見逃すとはな........」

 

「今ので決めたと思ったんだがな.........」

 

ナハトは相手に幻術にかけられたという認識を与えずに、幻術を掛けるという超が三つつくような高等技術を行使してなおジークはそれを看破する。

 

「だが、失敗したな小僧.......貴様はそれを使ったらしばらく魔術は使えない」

 

そう、ジークはナハトの最強幻術の最大の弱点である数十分間魔術行使ができないことを知っている。嘗てナハトはこれをジークにかけたが、その際ジークの魔術で解呪されてしまったせいである。その間隔は幻術の起動時間に左右はされるが確実にあと十分は魔術を使えない事を既に知られてしまっている。

 

「確かにその幻術は私も一度破ったことがあるからと油断があったのは事実.......だが、まだまだ甘い」

 

同じ手を使う可能性は低いと考えていた分、ジークに油断があったのは事実でナハトもそれを見越してはいたが確実にピンチである

 

「さて..........年季の差と言うものを教授してやる小僧」

 

「...........」

 

魔術の封殺........その圧倒的なビハインドを背負ったナハトの顔には薄ら寒い笑み(・・)が浮かんでいるのであった

 

 

*************************

 

 

 

『第二の課題だ..........そうだねぇ.............君は〝僕がいいと言うまで、絶対に警備官に捕まるな〟.......これだ』

 

フェジテの街中でグレンは次なる課題を指示されるのだが........

 

「はぁ!?テメェがこの状況作り出しといて何言いやがる!!」

 

『手段は問わない。何だったら警備員を殺すのも、市民を人質に取るのも構わない。とはいえだ..............流石の君にも報酬がないのはかわいそうだからいいことを教えてあげよう』

 

「こんな時に何だってんだ!?」

 

グレンは街中をかき分けるように走りながら苛立ち交じりに問いただす

 

『くっくっくっ..........たった今ゼト、ヴァイス、バークスの三名はナハトが差し違えた結果斃れたよ。いやぁ、僕もあんな倒し方をするとは思わなかったからねぇ........良いものを見せてもらった』

 

「何ッ!?」

 

『君も生徒である彼に負けないよう頑張りたまえ』

 

確かにグレンにとって間違えなく吉報だ。だが、それと同時に腹が立って仕方ない。何せジャティスは知っていて何もしなかったのだ。ナハトにあてがわれた戦力を考えれば負担のほどを考えると怒りがわいてくるのは自然だった

 

「テメェ!?知っててナハトに全部押し付けやがって!!オメェならあの三人ならやれただろうがッ!?」

 

『おやおや..........僕を評価してくれてるみたいで嬉しいよグレン?でも、僕が動いているのはバレるのは色々と拙いんだよ。それに君もわかってるだろ?ナハトなら問題ないってね?』

 

そう.........問題はない筈なのだ。確かにグレンが心配するのも烏滸がましいのかもしれない。が、それでも教師としてそれを受け入れられるかは別だ。

 

『まぁ、確かにいささか大物が出張ってきている分悪いとは思っているさ..........くくくく..........でも、ね?僕はナハトの事を君の次ぐらいに気に入っているんだ。もし君がこの世にいなければきっと僕は彼に君と同じことをしただろう!』

 

まるで興奮するかのようにそう語り始めるジャティス

 

『彼は僕と対極にある〝悪〟だ!自身が守りたい者だけにすべてを捧げ、それ以外を冷酷に切り捨てる..........だからこそ強く、だからこそ斃れない!けどね?君と同じで彼は測れない(・・・・)んだよッ!!単純(シンプル)が故に測れるはずなのに測れない!!これがどれ程か──ッ!!君にはわかるかなグレンッ!!??』

 

そう、ナハトは大切な者の為に戦う。それ以外をナハトは冷酷に切り捨てられる。

 

故に〝悪〟

 

グレンのようにすべてを救う〝正義〟でなく、ジャティスの様に悪の根絶に殉ずる〝正義〟とは明確に相反する存在だ

 

(相変わらず意味わかんねぇ.........ナハトが悪だ?ンなわけあるかよ..........アイツは──)

 

『.........おっと、僕としたことがつい興奮して我を忘れてしまった。さて、グレン?ナハトの踏ん張りを無駄にしないよう今一度健闘を祈るよ』

 

その言葉を最後にジャティスの通信は一旦途絶する。忌々しい状況だが、ジャティスの言う通りナハトの奮戦に応えなくてはいけない

 

「白猫ッ!聞いてたな!?しばらく警備官と鬼ごっこだ!!ナビ頼むぞ!!」

 

『は、はいっ!!』

 

グレンはシスティーナにナビを頼みつつ街を走駆するのであった

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

「《破滅の極光よ・刺し穿て(アインツ)》《第二射(ツヴァイ)》《第三射(ドライ)》!」

 

奇しくもナハトはグレンと同じく、ジーク相手に時間稼ぎの鬼ごっこをしていた。

 

魔術が再度使えるようになるまでの時間、ナハトは森の遮蔽物を巧みに使い逃げ回り、時間稼ぎを選択する。

 

(..........一度当たったらおしまいの無理ゲー..........理不尽だよな、ホント..........)

 

時より、放たれる必殺の極光を躱しつつ身軽な動きで駆けまわる。ナハトからすれば足場が豊富で三次元機動で奇襲もしやすい森は戦いやすいフィールドではあるが、当たればそこで負け確定と言うのはいささか理不尽だ

 

腰のポーチから幾つもの小道具を取り出してはあたりに罠を敷設したり、投擲を繰り返してまともに捉えられぬよう工夫を凝らしていく

 

(バーナードさんにワイヤーの使い方教えてもらっといて正解だったな...........)

 

ナハトは木の枝を足場に駆け回りながら仕込んだ硬質ワイヤーを思いっきり引っ張ると、ジークの頭上の太い枝を斬り落とし妨害を仕掛ける。

 

「フンッ!」

 

だが、そんな木々をジークは己で斬り刻み処理し、ナハトを追いかけると...........

 

ヒュンッ...........

 

「ッ!!...........ッ!?」

 

今度は艶消しされた黒塗りのナイフがどこからともなく飛来する。しかもその投げナイフはその一投目のナイフの影を利用して更にもう一投あり、艶消しされた故に僅かに対応に送れたジークの肌を浅く斬る。

 

(まるで暗殺者(アサシン)だな............森に入って逃げ込んだのは時間稼ぎもあるが自身の得意なフィールドに持ち込むためか.............)

 

ここまでの技術のほとんどは《隠者》のバーナード仕込みの物である。

 

カツン........

 

(何か足に.........拙いッ!)

 

靴に何かあったと思うとすぐさま後ろ大きく飛ぶとその場で大爆発を起こす。

 

逃げつつも爆破(トラップ)を片手まで、しかもここまで用意周到に計算して配置する手腕にはさしものジークも森に安易に入り込んだのは失敗だったと感じ始める

 

「ッく...........これは........」

 

すると今度はいかにも毒々しい紫色の煙が後方から広がってきていた。厄介なことに毒ガスの準備までしていたことに内心で毒づきつつも口を覆い毒を吸い込まないように移動する。

 

(幻術発動から5分は経ったか........地の利を生かした器用な戦いと言いこうも遮蔽物があると厄介だな)

 

ワイヤートラップに爆破トラップ、果ては毒ガスと一つ一つは魔術師であれば対処するのはそれほど難しくはない。だが、複数を組み合わせたうえ超技巧を持つ相手のそれは魔術にも劣らない攻撃力を誇る。魔術が使えない時間をあの手この手で稼ぐだけでなく、攻撃的にこちらの命を刈り取ろうと動き続けるナハトに対して、現状の分の悪さを認めざるおえなかった。

 

(それに........そろそろ奴を見失いそうだ...........奴の位置が把握できなくなるのは状況を鑑みても絶対に避けるべきだろう.......)

 

故に、これ以上時間を与えるのは好ましくない..........

 

「..........いいだろう。最大火力で更地にしてくれる」

 

狂気的で愉快な笑みを浮かべるとジークは立ち止まり、魔術の詠唱を開始する

 

「《破壊の権化たる余が告げる・余が望むは終焉・万物の終焉なり・世界よ命じる・余の望む破滅を此処に顕現せよ》!!!」

 

その瞬間、眩い程の白亜の塔が森から天に聳え立つと、それは範囲を瞬時に広げ、辺りの森のすべてを包み込む。

 

 

 

 

 

そして────

 

 

 

 

 

「くっくくくくく.............久しく見る景色だ。これこそ私が求める景色..........嗚呼、なんて美しいッ!」

 

恍惚とした表情でジークが見渡す世界は正真正銘『無』であった

 

森に生けとし生けるありとあらゆる生命は死滅し、鬱蒼としていた森は見る影もなくなっていた

 

これこそジークを破壊者(デストロイヤー)たらしめる、小国を落とした大規模破壊魔術。嘗て小国を落としたというのは事実であり、噂などではなく彼にはそれだけの力を正しく有していた

 

固有魔術(オリジナル)【ルチーフェロ・ディストラクション】........我ながら素晴らしいものを生み出したものだ........くくくくく.........」

 

固有魔術(オリジナル)【ルチーフェロ・ディストラクション】........堕天使の破壊、ジークの容姿的にも彼にとてもふさわしいソレは時間にして数秒とかからず彼を中心とした半径5千メトラ一帯を悉くを破壊する災厄の魔術............たった一度の魔術で盤面をいともたやすくひっくり返す、現存する魔術でも最強クラスの魔術と言えるだろう。

 

「ですが...........私としたことが失敗しましたね。どうせならあの小僧には苦痛に歪ませてから壊そうと考えていたのですが..............残念」

 

そう、技の範囲・速さ。どれをとっても回避は許さない一瞬で、万物の命を刈り取る大魔術。もう既に更地となったここら一帯の様にナハトもまた塵すらも残さず消滅して綺麗さっぱり壊れてしまったようだ。

 

「さて........一応小僧を殺したら街に向かえと言われてますし、仕方ないですが行くとしますか」

 

ジークにとって重要なのは〝壊す〟こと。壊れた者らに一抹の興味もなかった。

 

揺ぎ無い一歩を踏み出し、街へ足を向けるジーク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが.................

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────ドスッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は.............?」

 

乾いた音がよく響く。何もないが故にその音はむなしい程によく響く。

 

ジークは視線を下げると、そこには黒い炎を纏った剣が心臓を差し穿っていた。

 

「...........チェックメイトだ。ジーク=へレス」

 

そして、その音を起こした人物の声もまた残酷なまでによく響く

 

「~~ッ!?ゴフッ........!?!?!?」

 

ジークは口から滝のように血を吐くと静かに地に伏した

 

ジークには何が起きたかわからなかった。悪い夢を見せられてる気分だった。

 

それだけジークにとってあの魔術は大きな存在であり、切り札でもあった。

 

「な............ぜ...............」

 

ジークは魔術を発動したあの瞬間、今度こそ幻術にかかっていたわけでもなければそもそもの話、【ルチーフェロ・ディストラクション】(アレ)は防御どころか回避も不可能なはずなのだ。

 

なのに何故、〝ナハト〟が自身を見下しているというのか?

 

「お前としたことがぬかったな?俺はあの時【幻月】を使っちゃいない。あの時アルカナを持ってたのはブラフだよ」

 

「!」

 

そう、あの時ナハトは確かにジークに幻術を掛けていた。それは紛う方なき事実だ。だが、事実としてナハトは一度も【幻月】を掛けたとは明言していない

 

「まぁ、幻術を掛けられた感覚もなく、それなりの規模の幻術を掛けられた直後にアルカナ(コレ)見れば単純だけど騙されるよな?」

 

そしてその上での逃げによる時間稼ぎとくれば魔術が使えないから対処のしようがないと判断させるには十分だった。

 

だが、それでも疑問が残る。ジークの魔術は確かにナハトを殺していた。破壊の光は確実受けていたはずだ。防ぐ方法などあるわけがない。

 

「あぁ、俺が生きてるのが不思議か?それこそ【奇術師の世界・幻月(コイツ)】の力だよ」

 

ジークとナハトにある差。それはお互いの魔術の有効範囲だ。ジークは万物を破壊できるが法則と世界の理は破壊できない。だが、ナハトの切り札である【奇術師の世界・幻月】は人も無機物も魔術だろうと何にでもかけることができる...........そう、〝世界〟にさえかけることは可能なのだ。

 

ナハトは世界の理に〝自身が消滅(・・)したら、自身の全てを再構築(・・・)する〟と言う理を世界の理に一時的ではあるが書き歪めたのだ。それにより一度消滅した肉体とその命を再構築し、ジークに止めを刺したのだ。

 

(この小僧...........狂っている..........ッ!?)

 

ジークはすべてを今際の際に察するとナハトに対してそんな感想を抱く。

 

当然と言えば当然だ。何せ、ナハトはこの作戦の通り自身が死ぬことを良しとしているからだ。成功はしたとはいえ、死ぬことを許容するなどどう考えても正気の沙汰ではない。

 

 

〝正しく、狂っている────〟

 

 

「貴..........様..........は.........正気.......じゃ.......な.............」

 

恐ろしいモノを見るようにそんなことを呟きながらジークは再び眠るのであった

 

そしてナハトはそれを見届けると────

 

「ゴフッ!!ガハッ!!!................はぁ........はぁ.......っくぅ.....」

 

ジークのすぐ横で激しく血を吐いて倒れ込む。

 

ナハトとていくら万能ともいえる【幻月】があったとはいえ、強引に世界の大原則ともいえる〝生と死〟の理を捻じ曲げたのだ。それによる消耗は想像を絶するもので、これまでにない程の虚脱感と不快感が襲う。ある意味、【黒天大壮】使用後よりも辛い

 

その上、分身が【原初の焔(ゼロ・フレア)】、【カースド・ブラッド】の魔力消耗の大きい魔術行使に加え、そもそもの分身自体を作り・維持すること自体の魔力消費が激しく、【幻月】を発動はおろか他の魔術も発動させることができるかどうかと言うくらいの状態だったのだ。

 

(最悪......霊魂.........エーテル体をセリカさんみたいにやってるかもな.........)

 

そんな状態での無茶を重ねるような魔術行使はナハトの体を文字通り削って行われたものだった。現に、あの魔刀に斬られたセリカほどではないが霊魂に僅かながら損傷がある。

 

セリカほどまで酷い状態にはならないだろうがそれでも無理をすればナハトの魔術師生命は確実に終わるのは確かだ

 

(流石に今動くのは..........拙い....か......先生............すいませ............ん)

 

ナハトは直ぐにでも動きたいのは山々だが、もう既に体の感覚はほぼなく、ただ意識が暗転していくのであった

 

 

 

 

〝──ったく.....しょうがねぇ奴だな(お前)は〟

 

 

それと同じくして、ナハトの懐にある〝鍵〟が仄かに輝きを放つのであった

 

 

 

 





今回はここまでです。ナハトへの刺客との戦闘は終えましたが、フェジテ最悪の三日間はまだまだ始まったばかりです。グレンもシスティーナもこれから見せ場がある分頑張っていきたいと思います!そして主人公であるナハトはかなりの消耗をしていますが、まだまだ働きます。なのでナハトの活躍をカッコよく描写できるよう頑張るので本作をこれからもよろしくお願います!

では、今回もここまで読んでくださりありがとうございます!お気に入り登録、コメント、評価をしてくださりありがとうございます!


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正義と英雄

 

『おい。起きろ~』ペチペチ

 

頬に衝撃を感じる。どこかで聞いたことのある声にナハトは自分がいつの間にか意識を失っていたことに気が付かされる。それと同時に──

 

「ハッ!早く街に...........ってアレ?ここって..........」

 

何故意識を失っていたのかと、自分のすべきことを思い出し、飛び起きる。だがそこは先程ジークとの戦ってできた更地ではなく〝夜〟と話した謎の空間だった

 

『よう?よく寝れたか?』

 

「夜............なんか用か?何となくだがお前ならもう今の状況わかってるんだろ?俺は........」

 

すると見下ろすようにするのは案の定仮面をつけた夜がいた。赤い髪と言い何と言うか既視感を感じさせられる。ただ、今回は直ぐにここから出せと言わんばかりに俺はおざなりに返すと............

 

『まぁ、待て。ここの時間の流れは少し変えてあるから向こうだとまだ(お前)が意識を失ってから10分程度しかたってない。ここではもう3時間くらいは過ぎてるけどな』

 

「..........つまりお前がどういうわけかこっちに呼んだおかげで時間のロスは最小限ってわけか」

 

『そう言う事。ついでに(お前)の魔力と馬鹿な魔術行使で損傷した霊魂はこっちで治療しておいてやった。魔力の方はまだ全快まではしてないが7割くらいは戻ってるはずだ』

 

「助かる。直ぐ、フェジテに飛ぶつもりだったからさ」

 

『どういたしまして。さて、さっそく戻してやると言いたいところだが.........その前に(お前)に聞かないといけないことがある』

 

そう言うと先程までの雰囲気から剣呑な雰囲気になる。それはまるで立ち合いの様でナハトは後方に飛び、腰にある愛剣に手を這わせる。

 

元々、ナハトはこの〝夜〟に対して当然警戒心がない訳じゃなかった。まるでどこか自身と似た雰囲気を感じるせいか気味が悪く、それでいて穏やかな物腰ではあるが自身よりもやり手であろう感じがしていた。だからかすぐにでも戦闘を考慮した姿勢を取ると............

 

『おい待て待て!戦うつもりなんてないって!確かに多少殺気は出したが俺の事警戒しすぎだろ?』

 

(まぁ、戦って勝てる相手じゃないだろうしな...........少し過敏に反応しすぎたか)

 

ここは相手の領域な上、恐らく正面切って戦っても勝てないのはナハトの魔術師として培われた勘が告げている。もう一度夜の前まで移動する

 

「ったく..........誤解するようなことするなよな?」

 

『はいはい........まぁ、聞きたい事っていてもそう堅苦しくはないさ。ただ.......』

 

夜は仮面をつけてるため表情はわからない。だが、数多の死線で培われてきたナハトの観察眼が夜が悲しみ、懐かしむような寂寥感を感じさせる雰囲気を感じ取る

 

(お前)は彼女の.........ルミアの為に死ねる(・・・)か?』

 

「は?いきなり何言ってるのお前?」

 

殺気を出してまでのその問いにも拘らず、重要性をまるで理解できずナハトは頭にはてなを浮かべ夜に真意を問う

 

『...........(お前)は遠くない未来..................世界を救うという使命(・・)に殉じなくてはならない。.......その過程で(お前)は自身の存在と大切な全て(ルミア達)を天秤にかけることになる...............その時、(お前)が自身を賭せば(お前)が守りたいものは守れるだろう。だが、代償として(お前)は確実に死ぬ(・・).......................いや、誰の記憶も記録からも抹消され、世界からも(お前)は排斥される。用はこの世に何一つ残さずお前は世界から消える。ただ一つの例外を除いて、な?』

 

「例外、ね............それがお前はルミアだと言いたいのか?ルミアだけがそうなったとしても俺を覚えていると?」

 

余りの真剣さに何故かナハトは納得し、そうなるのだろうと思ってしまった。

 

『あぁ...........彼女は.........いや、彼女()(お前)を必ず忘れない。他のみんなは忘れても彼女だけは覚えている。彼女だけは深い悲しみを.........心に傷を負うことになる。それが世界の仕組みだとしても彼女を傷つけるは(お前)だ。確かに(お前)が死ねば彼女は物理的な意味ならば救えるだろう。だが、彼女の心だけは決して救えない...........(お前)ならどうする?』

 

「...........」

 

ナハトはかつて魔人との戦いまでは自分が死んでも必ず助けると考えていた。今もきっとそうだというのは否定はしない。彼女は優しいからその事で傷つくなんて言われなくてもわかっている。

 

だが、否定はしない(・・・・・・)が、今は確実にそれが一番だとは思っていないし、〝今〟のナハトは───

 

「なら、俺の答えはこうだ。ルミアの為に(・・)世界()救ってやる。そこに俺の犠牲なんてなく、完全無欠のハッピーエンドにしてやる。それが俺の答えだ」

 

(お前).........意味わかってて言ってるのか?天秤にかけなくてはいけないと俺は言った。どっちかしか──「知るかよそんなもん」......何?』

 

ナハトは馬鹿なやつをたしなめるように言う夜に割って答える

 

「俺の魔力特性(パーソナリティ)は『万象の支配・創造』。俺の在り方がこれだ。なら、俺がそんな天秤..........いや、世界の仕組みなんて悉く支配(・・)して、俺が望むままに結末を創造(・・)してやる。ルミアを悲しませない為なら理想を理想のままに世界だろうと何だろうと救ってやる」

 

魔力特性(パーソナリティ)はその人の在り方を示す。なら、ナハトはそうあるべきであり、ナハト自身そうありたいと望んでいる。

 

ナハトの自惚れでなければきっとルミアは自分が死ねばとても悲しむだろう.........そうでなければかなり傷つくとかいうのが多分にあるのは事実だが間違っていないと思っている。それはあの魔人との戦闘で分かった

 

だから、理想を理想のままに...........ルミアが幸せになれるならその夢想を現実にする。ナハトにとってそれが自身の役割。惚れた相手を悲しませたくない一人の男の意地である。

 

勿論そこにナハト自身のエゴがあるわけだが..............

 

『聞くまでもなかった、か..........何となくそうじゃないかとは思っていた(お前)は馬鹿だからな........』

 

「俺はグレン先生の様に〝正義〟を張れる男じゃない。ジャティスの歪んだ〝正義〟の様にこの世すべての悪を根絶しようだなんてのも思わない...........俺は、『正義の味方(・・・・・)』には絶対になれない」

 

そう、ナハトは『正義の味方(・・・・・)』にだけは絶対になれなない。

 

『正義の味方』は公正なのだ。僅かな偏りもなく、平等に人々を救い、悪を決して許さない

 

だが、ナハトは公平に人を助けるかと言われればそうではない。

 

確かに、宮廷魔導士(仕事)として多くの人を救っているのは事実かもしれない。だが、それはあくまでイヴの為(・・・・)である。唯一の肉親にして最愛の姉であるイブの助けになりたいからと必死に仕事をこなしている。

 

この時点ですでに偏りが発生している。そして、それは今もだ。ナハトが今戦うのはイヴの為...........そして一人の女性として恋をしたルミアの為。更には親友であるシスティーナやリィエル、クラスメイト。そして恩師のグレンやセラなどの大切にしたいと思った存在の為

 

『正義の味方』だけにはなれない。けど────

 

「だが、惚れた相手の為に英雄(ヒーロー)くらいにはなってやる。彼女の英雄(ヒーロー)としてついでに世界を救ってやる」

 

英雄(ヒーロー)』は普通では到底できないような偉業を為す存在。『正義の味方』はイコール『英雄(ヒーロー)』でなければ逆も然り。

 

だが、偉業を起こすことで望む者すべて守れるならナハトはそれを為すだろう。現にナハトの特務分室での功績はイヴの役に立ちたいという想いが大部分だ。

 

だから、ナハトは『正義の味方』にはなれないが『英雄(ヒーロー)』のはなれるし、必要とあらば偉業を為すために尽くすだろう。

 

まさに傲岸不遜.........餓鬼の夢物語だ

 

どれほどの力がいるかなんてわかったものじゃない

 

でも、それでいい。何も行動しないで無理だと決めつけるのは〝賢者〟のすることだ。合理的に判断して行動する〝賢者〟になんてなろうとは思はない。

 

『ふっふふふふ..........あっはははははは!!ホトン馬鹿だ........(お前)は.........違うな、〝お前(・・)〟は大馬鹿だよ.........でも、そうか.........あぁ、大いに納得だよ..................そうだなお前はなれるだろうさ英雄(ヒーロー)に』

 

満足そうに、憑き物が剥がれたかのように笑い勝手に一人で納得する夜。正直ナハトからすればウザいが........まぁ、口に出したことで意思も堅くなったわけで悪いことではなかった..........と思う。

 

『俺が聞きたかったことは聞けた。ほら行ってこい』

 

「言われるまでもない」

 

するとすぐにナハトはその世界から消えた

 

 

ナハトは決して正義の味方だけにはなれない。でも、ナハトは────

 

 

 

同じ(・・)癖に.........俺と〝お前〟はこうも違うのか.......ふっ..........だから、か........だから、有り得ない(・・・・・)存在である〝お前〟が存在しているのかもな』

 

苦笑を零す夜。その背中は清々しさを感じさせるのであった。

 

 

**************

 

 

グレンはひたすら逃げる。フェジテの街を【フィジカル・ブースト】や持てる技術とシスティーナのナビを頼りにひたすらかける

 

「ちょっと、殺意高すぎだろおおおおぉぉぉぉぉ───ッ!」

 

グレンを追う警備官らは躊躇いなく細剣を振るい、グレンを切り殺そうとしてくるのに対し絶叫しながら躱し、タックルなどを使って道をこじ開けまたひたすら駆けるを繰り返していく

 

だが、その先には──

 

「構え!!」

 

「げぇ!?」

 

視線の先には数名の警備官が隊伍を組み、銃を構えているのを確認する。

 

パーカッション式回転弾倉拳銃(リボルバー)。グレンが扱う魔銃ペネトレイターよりは小型で小口径だが、人間相手なら殺傷性は十分。

 

それに加え遮蔽物はなく、狭い路地とくれば..........

 

「撃てぇ──ッ!!!」

 

号令と共に並んだ縦列が一斉に火を噴く。グレンに殺到する無数の火線。

 

「ちっくしょぉおおおおおお──っ!!」

 

グレンは咄嗟に飛び、左の壁を蹴って跳躍し、更に右の壁をけることでさらに高く跳躍を繰り返し、華麗な三角飛びで建物の屋上に乗り移りさらに逃げる

 

ただ、一流の魔術師なら銃など唯の玩具に過ぎない。勿論使い方によるところはあるが魔術師なら飛び道具に対してはほぼ無敵とさえいえるほどには対策のバリエーションはある。だが、グレンにとっては魔術師以上に唯の銃........それも数をそろえて構えられるのは非常に厄介なのだ

 

(先行きが見えない状況で、限られた魔力を無駄遣いするのは自殺行為だ.........俺にも白猫やナハト位の魔力容量(キャパシティ)があればなぁ..........)

 

ない物ねだりしても仕方ないためグレンは必至に頭を回転させる。

 

だが、それこそグレンと言う魔術師の真髄。足りない武力を補う頭脳、頭の回転スピードとここぞというときに効く起点の良さ。グレンは普段はロクでなしだがそこだけはナハトやセリカにだって劣らないどころか勝るとさえいえる《愚者》最大の武器だ。

 

だからこそグレンはある事に気が付く

 

〝やけに統率が取れすぎている、やけに指示が的確過ぎる〟という事だ

 

グレンは今バーナード仕込みの手管を利用して追跡を巻こうとしているのにも拘らず、警備官は不気味なほどの統率感でグレンに追いすがる。それこそ一つの生物の様で明らかに異常である。

 

(..........おかしい。こうも統率が取れてるのはおかしすぎやしねぇか?)

 

ここで仮に相手が『通常』の場合ならと、次の予想包囲網を割り出す。その結果──

 

(.......あの通りを右折した先は、白猫のナビ通り確かにクリアな筈だ.......)

 

普通ならばそれを疑う余地はない。だが.........

 

「白猫。お前さっきあの道を右折したら二区まで逃げ切れるって言ったよな?」

 

『え?あ、はい。誰もいないことは遠見の魔術で確認しました』

 

「もう一度、その先の状況を確かめてくれ。多分駄目だろうが..........」

 

『えっ?』

 

システィーナはその言葉に戸惑いながら確認すると.......

 

『せ、先生.......おっしゃる通りいつの間にか回り込まれています.......っ!あれ?でも、なんで?さっきまで確かに誰もいなかったはずなのに.........』

 

システィーナが慌てて別ルートを探すというのを聞き、グレンはやはりなと考えていた。

 

いくらグレンの情報があっても余りに統率が取れすぎている現状にある可能性が頭をよぎり、嫌な予感を覚えると........

 

『やぁ、グレン?苦戦しているみたいだね?』

 

ねっとりとまとわりつくような嫌な声。グレンはジャティスの声に再び顔を怒りにゆがめる。

 

『おやおや、情けないなぁ...........まぁ、確かに君からすればああいう連中を相手にするのは難しいだろうが............』

 

ジャティスだってグレンが苦手とする状況だというのは百も承知である。だが、別に苦手と言うだけでグレンが突破できないかどうかと言えばそうじゃない。

 

『君がその気(・・・)になれば.........勝るのは間違いなく君だ..........ほら、見知らぬ警備員の一人や二人ルミアの為にやってしまえばいい。遠慮する必要だがどこにある?邪魔ものは排除してしまえばいい.............さぁ........さぁ!............さぁッ!』

 

そう、確かにグレンがその気(・・・)になれば容易とは言わないが突破するのは十二分に可能だ。いくら苦手とする状況とはいえ、グレンにはそれだけの能力はある。

 

悪魔の誑かすその囁きにグレンは────

 

 

 

「黙れえええええええええぇぇぇぇ──っ!!!!」

 

 

 

僅かにも揺すぶられることなく、グレンはそれを突っぱねる

 

「誰がテメェ如きの思惑通りになるかよッ!?ごっちゃごちゃがっちゃがちゃ、うるっせぇっ!!!何度も言わせんな、黙ってろッ!!」

 

そうしてグレンは駆けながら、凄絶に笑い言った

 

「俺は堂々と胸を張って、ルミア(お姫様)悪魔(テメェ)の魔の手から救うんだよッ!ナハトがいねぇ今俺がアイツの大事なもんを全力で守るんだよッ!!あぁ、もうナハトがいなかったらルミア俺にベタぼれだったろうな!!ナハトにもルミアにももちろん白猫にも後ろ暗いもん背負わせることは死んでもできるかってんだよッ!!」

 

以前のジャティスの襲撃時や、社交舞踏会の時の轍は踏むまいと..........ナハトにグレンは笑ってこっち側()で胸を張っていて欲しいという願いがグレンをひたすら突き動かす

 

『────ッ!?』

 

「それよりもテメェは自分の心配しとけッ!テメェはこの俺が...........いや!ナハトと俺で直々にぶちのめして、泣かす!覚悟しろッッ!!」

 

暫くの間

 

言葉を失ったような雰囲気を通信魔導器越しに伝わる.........

 

『それでこそ君だ!!』

 

すると昇天したかのような歓喜の声が上がる

 

『やはり、僕の目に狂いはなかったッ!!そうだよッッ!!君はそうじゃないといけないんだッッ!!どんな困難を前にも君はそうじゃなくてはいけない!本当にすまない、君を試すような真似をしてしまって!あーはっははははは!』

 

「........もう、マジで何なのお前?死ねよ」

 

もう怒りなんて通り越して呆れるしかできないグレンがそうぼやくと、今度はシスティーナの逼迫した声が上がる

 

『せ、先生!大変です!いつの間にか囲まれてます!!』

 

「何だとッ!?」

 

『今、先生が居る場所に続く道すべてに警備官が先回りしてきています!』

 

「.......他には?続けて、俺を囲む警備官の配置を片っ端から教えてくれ」

 

システィーナはその言葉に答えるように必死に配置を告げている中、グレンはそれを脳内の地図にイメージしていく。そして疑念は確信へと変わる。

 

(どんなに指揮に優れたやつでも、埋められないタイムラグはある。.........それはイヴだって同じだ。警備員を見る限り自由意思のない傀儡......上層部の指揮官が部下に暗示を魔術をかけて追ってきてるってことか?ナハトかよ.........きつすぎね..........?)

 

特務分室で事暗示や幻術と言えばナハトが一番に上がる。それは勿論固有魔術もあるが掛ける方法やタイミングなどのそれが戦闘に特化されている上、当然ながらそのような手法を思いつく知識面でもそう言う分野では帝国でも群を抜いていると言えるだろう。

 

そしてそのナハトが相手に幻術にかけられた自覚なしにでもかけられることや、ある程度の規模で無意識化の意思統一も可能だと言っていたこともあり、考察に関しても疑う余地はない

 

『さて、それでは課題も佳境だ。君の啖呵に違いがないことを心から期待しているよ。じゃあね』

 

そうしてジャティスの通信が切れる。すると今度はシスティーナの焦燥と落胆の声が聞こえてくる

 

『せ、先生.........どうしよう..........このままじゃ.......』

 

「そうだな.........接敵は約三分後。その後は、後続になし崩し的に追いつかれ逮捕..........いや、逮捕で済めばいいが」

 

『ご、ごめんなさい.........私の力が足りないばかりに.........』

 

だが..........

 

「まだまだだな白猫」

 

グレンはにやりと笑みを浮かべそう言う

 

「この程度のピンチでもう音を上げるのか?ナハトならこの程度じゃ絶対に上げねぇぞ?それに、こんなの軍時代の俺からすればピンチのうちにも入らねぇぜ?」

 

『で、でも........遠見の魔術で何度も辺りを見渡しても逃げ場はもう..........それに、その辺りには隠れられるような場所も、下水道もありませんし.......』

 

「まぁ、ねぇわな」

 

さも当然だと言うようにグレンは答える。

狼狽しているシスティーナだが、グレンはどこまでも普段通りの様子で言う。

 

「なぁ、白猫。今から俺が言うものがこの一帯にあるか見てくれないか?まずは.......歩道橋に不自然に真新しい石畳がないか?特に交差点あたりに」

 

『石畳........?真新しい..........?』

 

「他には長方形の石で細長く舗装されてる道路とか赤くて丸い看板が残っている建物とか.............多分どれかは高確率であるはずなんだが..........あったら位置を教えてくれ」

 

『.......え、えっと?何ですか......ソレ?』

 

システィーナは困惑しながらもその指示に従い、グレンの言われた通りの物を探していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?グレン=レーダスを見失っただとッ!?」

 

フェジテ西地区某所。

人気のない住宅街で驚愕に震えた声が上がる。

 

その声を上げた人物はフェジテ警邏庁警備官、ユアン=ベリス警邏正でありグレンの制圧を指示していた本人であった。

 

何にそこまで驚愕したかと言えば、部下からの報告である。グレンを追跡していた部下が、逃げ場もなくなるよう完璧に包囲した中から忽然と姿を消したという報告が上がったのだ。

 

そして、そんなユアンは急いで地図を広げて自身の指示した配置に抜け穴がないか探る。万が一にもあの状況で取り逃がすなど想像もできない為、ユアンの理解が追い付かない。

 

「くっ............!ならば地下だ!《命令(オーダー)》だ!今すぐ周辺の下水道設備の入り口を徹底的に封鎖して────」

 

『し、しかし周囲には下水道に通じる入り口はありません!』

 

「なッ.......!?........チッ、ならばくまなく探せッ!!」

 

通信機越しに激を飛ばすような指示を入れて通信を切る

 

「.......クソ、隠形を重視して指揮に徹し、表立って動かなかったのが裏目に出たか?だが、しかし一体奴はどこへ..........?」

 

成功を信じて疑わなかった分狼狽しながらどこでミスをしたかと家庭を脳内で精査していると.......

 

かつん............

 

かつん.......かつん...........

 

昏い路地裏に靴音が響く

その音は確実に近づいており、ユアンは振り返る

 

「こんにちわ。ようやく見つけたよ、ユアン=べリス警邏正」

 

そこには山高帽とフロックコートを纏った奇妙な青年が姿を現した

 

「な、何者だ貴様ッ!?」

 

「フェジテ警邏庁に組織の内通者がいることはつかんでいたが.......その内通者が、暗示魔術で警邏庁の半数以上支配しつつあったことも」

 

青年はユアンを無視して続ける

 

「だが、誰が内通者かはつかめなかった..........君の暗示魔術と隠形は完璧すぎた........僕にそれを掴ませなかった手腕は称賛に値する」

 

「だが..........」

 

その青年は狂気的な笑みで顔をゆがませる

 

「驕ったな、ユアン。君は愚かにも暗示魔術を使い指示を出した(・・・・・・・・・・・・・).........それをやれば必ず警備隊の動きに不自然な動きが生まれる。なら、指揮系統を洗えば必ず支配元に辿り着ける........そう言う意味では君は《月》の恐ろしいまでの改竄力には遠く及ばない。こうなることは読んでいたよ(・・・・・・)天の智慧研究会ぃ......はは、はははは」

 

低く響く壊れた嗤い声。

その異様な圧力は暴力的なまでにユアンを殴りつける。

 

この男だけは拙いと第二団(アデプタス)地位(オーダー)》であるユアンをして、そう思わせる闇が、その青年から滲み出していた。

 

「何の事だ.....?天の智慧研究会?私は、警邏庁の.......」

 

「御託はいいよ、屑が。ただ、死ね。ゴミの様に」

 

ゆるりと左手を振りかざす青年───ジャティス。

 

「チッ........」

 

それを警戒して後ろに飛び、距離を取りつつ攻性呪文(アサルトスペル)を唱えようとしたユアン。しかし──

 

「ぎゃああああぁぁ」

 

突如、空間に盛大に咲いた血華。

ユアンの後方から隊伍を組んで飛んできた無数の天使たちが、その手に持つ槍でユアンの両腕両足を串刺しにし、地面に張り倒していた。そして、その槍には赤い稲妻が滾り、それが伝わってユアンの体を戒める

 

「ぎゃああぁぁぁぁ!なんだッ!?体が動かない.......ッ!?」

 

昆虫の標本の如く、地面に縫い付けられたユアンは悲鳴を上げる

 

「くっくっくっ.......人口精霊(タルパ)彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・磔刑》.......その槍に貫かれた気味の行動は魔術的に封殺された」

 

そしてジャティスは仕込みステッキから細剣を抜くと、冷酷にそれをユアンの眉間に突きつけ構える

 

「ひ、ひぃぃぃ!?た、助けてくれえぇぇぇ!い、命だけは..........」

 

「おや?なら、君は自分の罪を認め、懺悔し、悪事から足を洗うと..........誓えるかい?」

 

「ち、誓う!だから、命だけは.........!」

 

するとまたジャティスは笑い.........

 

「なら、僕の質問に正直に答えてくれたら救ってあげるよ」

 

「ほ、本当か!?」

 

「あぁ、では問おうか........二個目の『マナ活性供給式(ブーストサプライヤー)はどこだい?』

 

「──ッ!?」

 

ユアンの表情は真っ青になる。

 

「ここの区画は君だろ?いやぁ、参ったよ..........《月》がいてくれればまだやりようはあったんだけど........君の隠形は完璧すぎでねぇ............一個目は簡単だったんだけど二個目は中々見つからなくて」

 

「な........まさか貴様がッ!?」

 

するとざくり、とユアンの左目をジャティスの細剣が突き刺す

 

「ひぎゃああああああ!!!」

 

「早く答えてくれないかい?僕.......忙しいんだけど?」

 

 

 

 

「リントン公園の東側の藪の中に隠蔽をかけて隠してある.........そうだろ?」

 

 

 

ジャティスが尋問をしていると第三者の声が聞こえる。ジャティスとルミアが振り返るとそこには........

 

「へぇ............思ったよりも早く着いたね?ナハト」

「ナハト君!」

 

ナハトが音もたてずにそこには立っており、ジャティスはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべルミアはどこか安堵したようにナハトの名前を呼ぶ。

 

「事前にルミアに【飛雷神】のマーキングをしてたからな...........そいつの記憶を【幻月】を改変して記憶を読み取ったから間違いない」

 

ナハトは魔術で瞬間移動をした後、直ぐに【幻月】を限定的に使いデメリットが発動しないように記憶を読み取った。ジャティスは言うまでこのまま嬲るだろうことは想像できたため、ナハトはルミアにそう言う場面を見せるのを嫌い合理性には欠けるかもしれないが魔術を行使することを選択した。

 

「くっくく.......君の幻術ならば違いないだろうねぇ。いやはや、君なら手間もかからず情報が引き出せるから助かるよ」

 

「それはどうも.........それよりあまりルミアにこういうものを見せないでくれないか?貴方ならもっとやりようはあるだろ?」

 

「君も変わったねぇ?昔なら...........いや、辞めておこう。君の尊厳の為にも、ね?」

 

ジャティスが言わんことはわからないわけがない。恐らく昔の俺なら魔術を使わずに同じことをしたかもしれない。いや.........確実にしていただろう。

 

「はぁ..........この男は後で身柄はこっちで預かる。労力に見合う大した情報は得られないだろうが.........胸糞悪い光景を見せるよりはるかにマシだ」

 

「くくくく..........さて、ナハト。君には戻って来て早々だがまたもう一度今回はグレンと共に強敵の相手を頼みたい。グレンなら大丈夫だとは思うが相手が相手だからねぇ」

 

「..........わかった。誰が来てるかは知らんが倒さないと拙いんだろ?ルミアは悪いけどもうしばらくはこの人と行動してくれ.............ホントは俺が連れていきたいところだが...........」

 

恐らくは相手は相当な手練れだと予想できる。グレン先生は大物相手に強いが..........基本的には弱い。その上、相手が【Project : Revive Life】によって甦らされた相手ならば初見殺しの不意打ちを得意とするグレン先生を警戒していて当然だ。格上との戦闘も考慮するとルミアを強引に連れていくよりもまだジャティスといてもらう方が安心なのが理解はできるが納得はしがたいもがある。

 

「うんうん..........私は大丈夫だから。グレン先生を助けてあげて」

 

そしてルミアも今ナハトについていくのは自身が足手まといになることが想像できる。その為、ナハトを送り出す。

 

「さて、今回の件もこれから佳境だ.............気張ってくれよ?ナハト」

 

「言われるまでもない..........だが、あとで覚えとけよ?それとわかってるとは思うがもし、ルミアに何かあったらその時がお前の破滅だと思え」

 

「くっくく........まぁ、安心したまえ。ルミアには誓って手を出したりなどしない.........最も君がそれを許すわけがない。そうだろ?」

 

ナハトは調子よく言うジャティスをひと睨みするともう一度ルミアに声をかける。

 

「ルミアの事も先生もシスティーナ達も俺が守る。だからもう少しだけ待っててくれ........不安にさせてすまないな」

 

「平気だよ。私はナハト君の事を誰よりも信じてる..........だから頑張ってね?」

 

ナハトはルミアの言葉に笑みを零し、いつもの癖の様にルミアの頭に手を伸ばしたと思いきや、不意にとめる

 

(..........俺今までこれ素でやってたのか?馬鹿だろ?)

 

現在ナハトはルミアに対して恋心を自覚したせいか途端に今までの事が恥ずかしくなり、その行為を止める。そしてそのままばつが悪くなり自身の頬を掻こうと手を引っ込めようとすると..........

 

「る、ルミア?」

 

ルミアが引っ込めようとした手をグイっと引っ張るとそのまま自身の頭にのせる。ナハトはそのことに驚き戸惑う。

 

「撫でてくれていいんだよ?」

 

「........そ、そうか.........まぁ、アレだ......ルミアが不安にならないようにな?他意は..........ない」

 

「うん♪」

 

まるで見透かされたようなルミアの態度がこそばゆくなりながらもナハトは少しの間そうして今度こそ立ち去っていく。脇目で見たジャティスの顔がウザかったのでこの件の終わりにはその顔面に全力の拳を叩き込もうと心に決めるのであった。

 

 

こうしてまたこの事件.............ひいては舞台に立つ役者たちの運命の歯車は確かに動き続けていくのであった

 

 

 





今回はここまでです!ちょっと遅くなってすいません!これから大学も始まる上バイトも時間がの似てくるのでまたスローペースになりますが頑張って更新していく所存なのでよろしくお願いします!

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再びの激突

 

 

「ッチ...........あの狂人め」

 

フェジテ某所───

 

ナハトが遂にフェジテへとたどり着き、本格的に事態へと介入したことを察知した首謀者であるラザールは、ナハトの足止めに蘇らせた本命の駒であるジークが突破されたことに毒づく。

 

元より、バークス等は保険にもならないとは考えていた。〝月〟という存在は確かに現代(・・)においては脅威だ。バークスら程度では児戯にも等しいだろう。

 

(あの程度の小僧一人殺せんとはな...............)

 

だが、分身とはいえ相対したラザールからすればナハトはまだ青い。

 

確かに驚異的な剣技に魔術は後々、エリエーテやセリカの域へ到達するやもしれない。が、自身からすれば脅威でも何でもない。

 

そのラザールからすれば、ナハトを殺せなかったジークに関してははっきり言って失望する他ない

 

「やはりと言うべきか............《月》は侮れん」

 

ダークスーツの男が感情を伺わせない低い声で応える

 

今回の作戦でこの男だけが、《月》の始末は不可能だと考えていた。ラザールはジークを殺したのはあくまでその時の運、マグレだと考えていたようだが、この男だけは違う。

 

「確かに奴は現代では強者の部類だろう..........だが、あの程度二百年前ではあの程度雑兵だ。作戦のことだけを考えればいい」

 

「...........そうだといいがな」

 

 

 

*********************

 

 

『まさか今は使われていない..........旧下水道。こんなものがフェジテにあったなんて..........』

 

つい先ほどまで追い込まれていたグレンは落ち着いた様子でフェジテにある埋めきれなかった下水道を歩いていた。

 

フェジテは学院とともに街が発展していった背景があり、元々が片田舎だっただけに何度も何度も整備されていくうちに振るい下水道の埋め立てが追い付かずまれに残っているのだ。

 

システィーナは改めて自身の未熟さを痛感した。あの状況下で一手、二手..........その更に先を見据えていたグレンとその場その場で必死だった自身との差を。きっと、ナハトだって同じことをしたのだろう。

 

「............まっ、お前のサポートのおかげで助かったんだ。あんま気に病むな白猫」

 

グレンが通信魔導器越しにシスティーナの思考を感じ取りそう言葉を入れると、もう一つの通信魔導器から『ぱんぱん』と、柏手が聞こえる

 

『いやいや.........流石だよグレン。よくあの状況を切り抜けた』

 

グレンの神経を逆なでするその声は、ジャティスのものだ。忌々し気にグレンは対応する

 

「ちっ.......今はお前の相手をしてる時間は───」

 

『あぁ、第二の課題はクリアだ.........もう追手の心配はしなくていい』

 

「何?」

 

『せ、先生.......その人の言ってることは本当です。何故か警備官たちがその場で大気に..........一体何で?』

 

グレンはこの下水道に降りるのに使ったマンホールは魔術で隠蔽しているとはいえすぐにばれると警戒していたが、もう追手が来ないと告げられ訝しむ

 

彼女(・・)が来たからね...........まぁ、〝読んでいた〟よ』

 

「彼女?」

 

グレンはその言いまわしに更にいぶかしむが構わずジャティスは続ける。

 

『さて、もう少し君と談笑していたいところだが.........次の課題の時間が迫っている』

 

「何だよ次は」

 

『今から僕の指定する場所に急いで向かってくれ............非常に頼れる援軍もいるが、君〝達〟の命に関わる。頼む、時間がないんだ。場所は───』

 

(援軍?達?)

 

言葉の端々に違和感を覚えるが、ジャティスの只ならぬ様子にグレンは遺憾ながら従い、その場所へと急ぐのであった

 

 

 

 

 

「おい...ッ.........コレはッ!?」

 

グレンが下水道を抜け辿り着いたのは活気のない倉庫街だった。ジャティスの指定した倉庫の扉を開け、指示通りその場にあったカバンを開けるとそこにはグレンの怒りを駆るものばかりだった

 

『わかる!わかるよグレンッ!!君が怒るのはよぉ~~~くわかるよ!!』

 

どこか上機嫌そうに声を上げるジャティスのの声を無視して視線を木々付けにするのはカバンに仕舞い込まれた飛針や魔術が付呪されたナイフを始め、護符に巻物。そして拳銃の特殊弾頭に魔術火薬、更には強力な防御効果を持つ特務分室の魔術礼装。

 

そう、グレンにとっての暗黒面の象徴.............まさに負の遺産がそこで不躾に押し付けられていた

 

『僕も今の君にそれを押し付けるのは不本意なんだ..............だがすまない。そんな事を言っている場合ではない』

 

ドクン!

 

ドクン!ドクン!

 

グレンの心臓が突如跳ねた。それと同時に背筋を冷たい感覚が這い上がる

 

拙い

 

拙い

 

拙い

 

 

ナニカが...........来る

 

「ック!」

 

すぐにグレンはカバンに飛び掛かるようにして、用意されたそれらの装備を始めた。グレンの勘が今からここに来る相手は桁違いの相手だと告げている。今は兎に角ジャティスの言葉などどうでもよかった

 

『そうだ。それでいいグレン..........さっきも言ったがこれを押し付けるのは本当に不本意なんだ。でも彼はそんな生ぬるいことを言っていられる相手ではない』

 

「うるせぇッ!!!!少し黙ってろッッ!!!」

 

『宮廷魔導師団でも今の彼と真正面から勝ち得る者はそういないだろう...........可能性があるとすれば《(アルベルト)》と《(ナハト)》くらいだろうね.............まぁ、この僕とて正面からやり合うのはためらわれる相手だ』

 

『彼は強い───嘗てナハトが打破したのは、ナハト自身の強さにもあるが.............それは彼の準備不足とナハトの正体が知られてないが故の疑念があったからだ。心しろよ、グレン』

 

グレンがギリギリで準備をし終えて倉庫を飛び出すと、逆行をバックにして悠然とたたずむ存在がいた

 

 

忘れるわけがない

 

彼こそこの学院に講師として勤めて最初に立ちはだかった脅威───

 

「レイク=フォーエンハイム..............天の智慧研究会第二団《地位》───《竜帝》のレイク!生きていやがったのかッ!?」

 

「...........」

 

憮然と佇む、ダークスーツの男───レイク。グレンの切羽詰まる様子とは正反対に、冷たく、さながら魔王の様な威圧を放っている

 

『第三の課題だグレン』

 

ジャティスは告げる

 

『───生き残れ。───手段は問わない』

 

絶望的な戦いへと挑め、と

 

 

**************************

 

 

「なんであの男が!?」

 

グレンを様子を遠くから見守っていたシスティーナが信じられない光景を前に動揺を禁じ得ないでいた。

 

グレンの前に立ちはだかるのは、嘗てナハトによって心臓を一突きに穿たれた男...........確実にナハトがあの場で殺したレイクだ。あの一撃で死んでないわけがない.........何よりナハトが殺せていなかったことを見逃すと言った、軍人としてあるまじきミスをするはずがない。

 

 

ナハトがいない今、あの男は危険すぎる。システィーナは直ぐに遠見の魔術を解いて、黒魔《ラピッド・ストリーム》で援護に向かおうとしたその時だった

 

 

「よっとぉう!」

 

 

すると背後から軽薄な声が聞こえ振り返ると、又しても信じられない光景がそこにはあった

 

 

「う、嘘..........な、なんで?」

 

「ん?あっれぇーこの辺でグレンセンセの背後で糸引くやつがいるって思ったんだけど.............え?ひょっとしてまじでお前なの?うそーん!...........まっ、いっか。そっちの方が色々と美味しそうだしぃ」

 

システィーナの元に現れた男は、彼女にとって悪夢の象徴ともいえる相手

 

魔術の暗黒面を忘れようのない下卑た視線と共にシスティーナに刻み込んだ男

 

 

「ヒャッハ!よぅ!元気してたか?白猫ちゃん?」

 

「な、なんで............そ、そんな...........どう.....して」

 

ジン=ガニス

 

嘗ての敵が最悪の組み合わせで舞台へと上がるのであった

 

 

 

*********************

 

 

「なんでだ!?なんでテメェが生きてやがる!?あの時ナハトがお前を確実に殺した!!」

 

グレンが銃口をレイクに向け問いただす。

 

この相手はヤバい。嘗てナハトがさほどの苦労なく倒せたのはそれは偏に自身の正体や彼自身の準備不足だった否応なく肌身で感じる

 

「そんな些細な事はいいだろう............私は黄泉より舞い戻ってきた。貴様らを殺すためにな..........それが今お前の直視すべき現実だろ?」

 

「あぁ、ド正論ありがとよッ!畜生がッ!」

 

 

その瞬間───

 

「そうですよ先生..........今はコイツを全力で仕留めますよ」

 

漆の様に漆黒(・・)の焔が渦を巻いてレイクの頭上から降り注いだ

 

「成程.............こいつはジークにも劣らないヘビーな相手ですね先生」

 

グレンの後ろから悠然と歩み寄る一人の魔術師───

 

黒い炎、それを操るものはこの世でただ一人───

 

セリカの戦えない今、最高戦力筆頭である〝彼〟だ───

 

「ナハト!お前無事だったか!!」

 

「結構しんどかったですけどね」

 

ナハトがここで遂に戦線復帰する。

 

グレンが安堵する中、獄炎の竜巻を割って一人の男が現れナハトを睨みつける

 

「やはり来たか.............ナハト=イグナイト」

 

「久しぶりだなレイク=フォーエンハイム」

 

「こうしてお前とまた戦えるとはな.............僥倖と言うべきだろうな」

 

「彼の竜帝にそうまで言われるとは恐悦至極..............さて、随分と勝手してくれたみたいだな。ついてはその返礼として..........................もう一度殺してやるよ亡霊」

 

ルミアを、システィーナを......................リィエルやグレンにセリカ、自身の大切なモノに土足で踏み入った相手に対し冷たい声音でナハトは宣言する。

 

レイク=フォーエンハイム

 

嘗て倒した敵であり、本来あのようにあっさりと片が付くことがない相手

 

彼のフォーエンハイム家はナハトの生家イグナイト家とは異なり戦闘に直結する魔術はほぼない。ほとんどが『封印』に特化しているのだ

 

そして何故彼が〝竜帝〟と呼ばれるかは、彼の『封印』された《竜化の呪い(ドラゴナイズド)》にある。

 

彼の家は禁断の秘儀によってその血統に古き竜の力を取り入れることを成功させた。驚異的な能力を得られる代わり、いずれ人として姿や心を失い、暴虐の限りを尽くす存在に堕ちる.........彼らの家系はそんな逃れようのない代償を背負うことになった

 

だからこそ彼の家系は封印に特化してるのだ。《竜化の呪い(ドラゴナイズド)》の進行を遅らせる為に。そして今回肌身で感じるこの圧力───

 

「お前、今回は解いてきたんだな.........《竜化の呪い(ドラゴナイズド)》の」

 

「ふっ、流石に気が付くか............そうだ今回は三号ある【竜鎖封印式】の一号を解呪(ディスペル)してきた貴様らと戦うためにな」

 

グレンの確信した問いに不敵に答えるレイク

 

「一号でこの魔力...............流石にちょっとヘビーですね先生?」

 

「全くだ..........これで残り二号あるんだろ?」

 

「安心しろ。二号から三号の解呪にはそれなりの手間に触媒と時間がいる。この戦いにこれ以上の竜の力は振るわれることはない」

 

「ったく............今回も見くびってくれれば楽だったんだがな」

 

グレンはもはや驚愕を飛び越え呆れしかなかった。ナハトの方は表情からこれと言ったものは読めない。

 

「私は以前解呪をためらった。たかが学生............たかが三流魔術講師と侮った。そんな矮小な存在に己が命を費やす価値がないと判断した」

 

【竜鎖封印式】の解呪と再封印を繰り返すのは呪いの進行が加速度的に早まる。つまりそれは精神的寿命を縮めるのと同義だ。

 

「してやられたものだ。まさか学生の中に《月》がいるとは思わなかった。いや、完璧すぎる偽装だった。私達が気が付かなくても相手を考えれば納得もできる.............何より、その年齢で帝国でも最高峰の実力を有していたとはな。そしてグレン=レーダス.............かの《愚者》もそうだ。常にこちらの想定を超えてくる。全く予想ができない存在だ............だからこそ貴様らは命を費やしてでも相手をすべき相手だ」

 

静寂がこの倉庫街を支配する。

 

そして───

 

「先生................ちゃんと合わせてくださいよ」

 

「上等だ!そっちこそ情けねぇ戦闘すんじゃねぇぞ!!」

 

「来い!《■■■■■───》」

 

ナハトは剣を、グレンは銃を構える

 

そして、レイクはおおよそ人の物ではない、獣のような唸り声を上げると、いくつかの倉庫が爆炎と共に空へと舞いあがるのであった

 

 

************************

 

 

グレンとナハトの二人がレイクと激突を始めたその頃。

 

遠く離れた中央区の帝国歌劇場の屋根の上で───

 

 

「はぁー..............はぁー................ッ!」

 

システィーナは過呼吸気味になりながら青ざめた顔でジンを見据えていた

 

「ひゃっははは!それにしても、らっきーだなぁ、俺!あの時喰い損ねた白猫ちゃんをこんなところで捕まえられるなんてよぉ!!」

 

対してジンは予想外のご馳走を見つけたことで舌なめずりだ。

 

「こりゃ、今夜は猫のフルコースだなぁ!?ブチ嬲って、ブチ犯して、ブチ殺して、泣かせて、鳴かせて、啼かせてやるよ、ヒャハハハハハハハハハ───ッ!!」

 

「ひッ!?」

 

怖い

 

思わず涙が出てくる

 

身体が震える

 

何でこんな恐ろしい奴がここに?

 

なんで私の前に?

 

そんな弱気がシスティーナの中を急速に広がっていく。無理もない。いくら事件に巻き込まれがちとは言え、システィーナはナハトやルミアとは違う。殺そうとしてくる相手が日常的にいるような世界を文字通りに身を持って知ったばかりの普通の女の子なのだ。

 

だが───

 

(大丈夫............大丈夫よ、私..........気を強く持って..........ッ!身体は...........動くッ!思考は冷静...........だから───)

 

システィーナは深呼吸をし、手の甲で涙をぬぐう

 

弱気になったとしても、今までとは───違う

 

(だから..........呪文は唱えられるッ!)

 

そもそもだ。よくよく冷静になって観察してみればこの男からは、レイクやジャティス............そしてあのアール=カーン程の圧力は感じない。

 

強敵との出会い、そしてこういう時の為に鍛えてきた日々を振り返るシスティーナ。

 

自ずと自信を取り戻し、震えが止まる

 

『システィーナなら大丈夫だぞ?システィーナは俺よりすごい才能を持ってる。だから自信もちなよ..........な?』

 

ナハトの言葉を今一度思い返す

 

正直に言えばいつも過大評価が過ぎるとシスティーナは思っていた。目の前で固有魔術をバンバン作っては使いこなして、こちらが及びもつかない戦闘をする彼が自身よりも凄いというのは本当に皮肉にしか思えない。

 

けど..............知っている。ナハトはそういう嘘はつかない

 

自信を信じ切れなくても..........ナハトなら信じられる

 

その瞬間だった.............

 

「《深紅の竜よ・我が敵を貪り尽くせ》」

 

歌劇場の下から三つの炎でできた竜がジンへと大きく口を開け襲い掛かる

 

「《疾風よ》ッ!」

 

ジンはすぐさま陣は上空へと回避すると三体の竜は屋根へと突き刺さる

 

システィーナはこの魔術を知っている

 

この魔術は固有魔術【操火:炎竜の顎】───

 

つまりこれが示すのは───

 

「悪いシスティーナ。待たせたな」

 

「ナハト!」

 

疾風脚によってシスティーナの隣に降り立ったのはナハトだ。敵はまだ仕留めていないというのに、システィーナは信じられないほどに救われたように思えた。

 

「お前は.........あの時のクソ餓鬼ッ!!」

 

「あぁ、誰かと思ったらあの時のゴミが..........ぬるい射出速度の【ライトニング・ピアス】で威張ってたあの雑魚ね」

 

ナハトはジンをはっきりと雑魚と宣言する。その発言に当然ジンははらわたが煮えくり返るほどの憤怒する

 

「テメェ.............完全なる奇術師だかなんだが知らねぇが..........調子乗ってんじゃねぇぞッ!!クソ餓鬼ィィ!!」

 

「だから雑魚なんだよ.............まぁいい。先に行っとくがお前は秒で潰す。雑魚だが............俺の逆鱗に触れたんだ───覚悟しろ」

 

ナハトはジンを前にした瞬間からキレていた。当然だ。親友が怯えている.............そもそもジンがしたことをナハトも当然忘れていない。

 

此処から先は...........蹂躙だ

 

「さて、そう言うわけだからシスティーナは後ろにいてくれ」

 

ナハトはそう宣言して、システィーナに顔がローブの効果で見えないだろうが笑いかけ前に出る。ジンに対し凄んですぐに普通のナハトに戻ったこともシスティーナにとっては十分に驚きではあったがそれよりも.............

 

(.............これでいいの?システィーナ?)

 

確かに、ここから先はナハトの領分かもしれない。でも...........

 

───また(・・)、助けられるのだろうか?

 

───同じ(・・)相手に

 

───二度(・・)何もしないまま(、、、、、、、)

 

このままただ..........〝助けられるのか?〟

 

それでは.............

 

(昔と...........私は何にも変わってない)

 

(本当に.............本当にこれでいいの?システィーナ?)

 

いいわけ............

 

 

いいわけ...................

 

 

 

いいわけ───ない

 

「待ってナハト」

 

「システィーナ?」

 

「私に.............私にやらせて。私に戦わせて」

 

「!」

 

このままでいい訳がない。何のために力をつけて来たのか..............少なくともただ彼に縋って助けてもらうためだけではないのは確かだ。だからこそナハトに頼み込む

 

「..............ダメだ」

 

だが、ナハトは拒否した

 

「え?」

 

しかし───

 

「『私()』ならまだ(・・)駄目だ..........でも、『私達で(・・)』なら答えはYesだ」

 

「!」

 

「まぁ、はっきり言ってシスティーナならあの雑魚なら..........その恐怖を克服できているなら余裕だな。倒すまでの過程(・・)に限れば、だがな」

 

過程(・・)?」

 

「あぁ...........おっと、その前に───」

 

「馬鹿めッ!!」

 

ジンが油断しきっているであろうと大声を上げて飛び掛かって来るが...........

 

「《喰らえ・雷狼───戒めろ》」

「ッガァ!?う、動けねぇッ!!」

 

 

初めからわかり切っていたと黒魔改【ライトニング・ウルフ】を使い、放たれた雷の狼三体がジンに喰らいつき、戒める。

 

「さて、と.............本音を言えばなシスティーナ。俺はシスティーナを実戦で戦わせる気は..........少なくとも俺がいる場ではない」

 

「!」

 

「当然だ...........さっきも言った通り過程(・・)までならいいんだ。でも、実戦は倒したら終わりじゃない。相手を捕らえるか...............殺すかだ」

 

「ッ............」

 

ナハトが本音で戦わせたくないのは................システィーナに自身のようになってほしくないからだ。実戦においては極論を言えば結果は二つに一つ

 

 

───生きるか............死ぬか

 

「システィーナ。もうわかってると思うが..........俺は狂ってる。麻痺してる」

 

人を殺せる..........それは人として狂い、感覚が麻痺しているほかない。生きるか死ぬかにおいて、仕方ないと言えばそこまでかもしれない。だが、それでも───

 

「俺は異常者だ。こればかりは絶対に覆らない」

 

「そんなことッ!ナハトはいつもッ!!」

 

システィーナはナハトがまるで自分の目の前にいるあのジンと同じみたいな言い方に否定する。だが、結局のところナハトの言う事は正しい。殺した数、その時の心情.............ナハトとジンには上げれば上げるほど様々な差があるが、結局は同じなのだ

 

殺しをした。人を害した。どんな理由があれど、結局のところ人として破綻してしまっているのだ。だからこればかりはシスティーナが否定しようと第三者からすればナハトの言葉はほぼ正しいだろう。

 

「..........いいか?システィーナ。戦いは人を変える。傷つけられるよりも............傷つけることで人を変えると俺は思ってる。俺はシスティーナに変わってほしくない」

 

そう。確かに傷ついてトラウマを負うことで人は変わる。だが、それ以上に一度人を殺す............或いは傷つければもっと変わってしまう。ナハト自身がそうであるように。

 

「ナハト...............」

 

「でも、まぁ.............システィーナが変わりたいって思ってるのは知ってる。守られるだけの弱い自分でいたくないのもわかってる。ルミアを守れるようになりたい事も、だ。それは親友として尊重したいわけでな.............」

 

だけど、システィーナは自分を変えたいと思っている。それは間違った方向にと言うわけじゃないし、ナハトとて手助けもしたいし邪魔をしたいわけでもない。

 

「ナハト?」

 

「そうだな..............つまりなんだ..............システィーナは何があっても守る。優しいシスティーナでいられるようにするのが俺と言うわけで................自分でも何言ってんだかわからないが..................俺は───」

 

 

自分で思ってるよりもずっと

 

 

馬鹿で

 

 

餓鬼で

 

 

「俺は...........傲慢だからな。俺が大切にしたいと思った人の全てを守る。それが例え世界でも。そういうわけだ...........過保護だとは思うが俺がいる間くらいは守られてくれ。どうだ?呆れたか?」

 

「っ..............ホント..........これだからナハトは..........」

 

本当に傲慢で、本当に命がかかってるときは過保護過ぎるくらいで..........

 

自分が一番に戦おうとする姿はどうしようもなく頼もしくて.............

 

(ホント..........カッコいいな...........ナハトは)

 

敵を鋭く睨みつける姿。

 

激しくも流麗な剣技を振るう姿。

 

圧倒的なまでに卓越した魔術を振るう姿。

 

そのどれもがシスティーナがナハトをカッコいいと............憧れを抱かせ続けてきた。

 

だから............だからこそシスティーナは、わかってしまった。認めさせられてしまった。自身の想いを。否定してきた想いを受け入れるしかなかった。

 

(私はナハトのことが───..........うんうん。この先はこの騒動が終わってから..........ルミアに話してからだわ)

 

きっと届かない想いだろう。でも、負けない。その為にも今は前に───

 

「なら..............守られてあげる。今だけは.........貴方のお姫様にして頂戴。ナハト?」

 

「フッ..........仰せのままお姫様」

 

こうしてフェジテの二つの舞台での激闘が始まろうとするのであった

 

 






今回はここまでです。本当に更新がしばらく空いてしまってすいません!色々とやりたいことに手を出してしまったせいで遅くなりました!別にやめるつもりは本当にないのでゆっくり進めていきますのでこれからもよろしくお願いします!

では、今回もここまで読んでくださりありがとうございます。お気に入り登録、評価、コメントしてくださりありがとおうございます!


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