「「またいつか、雪の降る夜に」」 (青い灰)
しおりを挟む
プロローグ
これは『空の境界』の二次創作です。
「ぁ───」
掠れた声が、口から漏れた。
目の前に広がる惨状に、ただ釘付けになって。
家族が千切られ、擦り潰され、溶かされ、
グチャグチャの肉片になっている。
「まだ生き残りがいたか?
まぁ良い。腹の足しにはなるだろう」
そして、喰われた。
────────あら、珍しいわね。
声が、聞こえて。
俺は意識を取り戻す。
其処は何処でもない場所。
ただ、白い光に包まれている空間。
其処から先は無く、無論、前も在りはしない。
『こんにちは。
どうやって此処に来たの?興味深いわ』
その問いに、朧気な意識のまま俺は答える。
分からない、と。
『……………そう。貴方にも分からないのね。
1つ言うなら、貴方。生きてはいないわ。
生きているなら此処に来ることは出来ないから』
眼を開ける。
其処に居たのは────白い×××。
いや、これは………認識が、出来ない?
すると、××は眼を細め、
そして、美しく微笑んだ。
何か、可笑しかっただろうか?
『……………ふふ、ごめんなさい。
この場所について理解出来たの。
貴方が迷い込んだと思っていたけど、
どうやら迷い込んだのは私みたいね』
此処が何処なのか、分かるのか?
『えぇ。此処は貴方の夢。
その奥底………深層心理、とでも言うべき場所ね。
本来は貴方は認識出来ない場所』
なら、俺や君はどうして此処に?
『…………まるで尋問ね』
…………ごめん。
何も分からないから聞くしかなくて。
『ふふっ、ごめんなさい。少し揶揄っただけよ。
貴方が此処にいる理由は少し分からないけれど、
私は何処にでもいて、何処にもいないから』
……………?
ぼんやりだけど、分かった……と思う。
認識出来ないのもそのせいだったりするのか?
『えぇ、そうね。
あと貴方が此処にいる理由、推測は出来るわ。
──────貴方、死んだのね?』
あぁ、そうだった。
俺は確かに、喰い殺されたんだ。
あの化物に。
『へぇ、面白いわね』
……………不謹慎。
『ごめんなさいね、だけど、これは………』
その時だった。
真っ白な空間に割れた硝子のような亀裂が走る。
空間が軋み、崩れ落ち始める。
同時に意識が薄れ始めた。
『───あぁ、夢が覚めるのね』
夢が………死んだのに、どう目覚める………?
『安心して。少し
短い間だったけど、楽しかったわ』
待って、ほしい。
また、会えるのか?
『─────そうね、またいつか』
世界が崩壊する。
『雪の降る夜に』
「雪の………降る夜に………」
俺は、血の海にぼんやりと佇んでいた。
満月が空に浮かんでいる。
手に重みを感じて視線を下に向けると、
そこには白鞘に納められた長刀があった。
抜いてみるとその刀身は、まるで雪のようだった。
そして視線を落とし、
俺は肉塊となった家族を持ち上げる。
「埋めよう」
静かに、誰もいなくなった小さな集落を歩く。
その途中、空を飛ぶ鳥を見上げる。
──────線が、見えた。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
焔の少女 1
ちなみにですが型月シリーズのキャラは
あまり登場しないと思います。多分ですが
傷んだ赤色さんも出てこなあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
「────ぁ、ぐ」
シチューに浸したパンに噛み付く。
湯気を立てるほど熱を帯びたそれは
口内に入ると同時にシチューに入れていた
チーズの甘味を広がらせ、その熱で身体を暖める。
台所の鍋からの湯気が木造の家を温かくしているが
長春という名前に反して地獄のように寒い地域では
あまり意味がない。
ふと窓の外に眼を向けると、まだ雪が降っていた。
もう1ヶ月近く降り続いている。
「……………」
その光景を見ながら1年前の血と死体の海、
そして雪のような少女を思い出す。
惨劇は未だ鮮明だが、
対してあの少女はどこかぼんやりとしていて、
まるで霧がかかったかのように思い出せない。
………しかし、今年はまた一段と雪が早い。
暦を重ねるごとに秋という季節が短くなっている。
日本はまだ8月だった筈だ。
「…………いかん、積もる前に雪掻きをしないと」
パンを口に詰め込み、シチューを飲み干す。
木の皿をシンクに入れて水道を捻って水に浸け、
スコップを取りに部屋へ行こうとした時だ。
部屋にノックの音が響く。
そして、雪の上に何かが落ちたような音。
「?」
まさかこの雪の中、客人とは。
だがこんな山奥に一体なんの用だろうか。
遭難か、もしくは───
とにかく、入口へと向かって扉を開ける。
「………あ?」
燃えるような赤が視界の下で眼を引き、
視線は雪の上へと向かう。
そこに倒れていたのは、
眼を引いた赤髪の小さな少女だった。
「……………」
屈んで手を少女の口元へと当てる。
息は荒く、意識はないが先程まであったのだろう。
まだ頬は暖かい。
そして………問題が2つ。
1つ目だが、少女は全身を黒いマントで覆っている。
その脇腹の所が破れ、そこからの流血がある。
そして………2つ目。
彼女とマントを掴んで家の中へと投げ込む。
少々手荒いが、こればかりは仕方ない。
「厄介な土産を持ってきてくれたもんだな」
血の臭いに惹かれたか、
もしくはあの少女を餌として定めたか。
2匹の獣が、雪原の先………森の奥から姿を現す。
片方は2~3mはある黒い獅子、
片方は獅子と同じく大型の黒い狼だ。
白鞘から刀を抜き、右目の眼帯を外す。
随分と懐かしい感覚だ。
獣に合わせて『線』が視えてくる。
「────ッ!!」
「あぁ、来るのなら………殺すぞ」
刀を垂らし、疾走してくる狼を捉える。
黒狼は蛇行するように走り、
更に雪を巻き上げて撹乱しながら迫ってくる。
この獣たちが蠢く地で
生き残ることに特化した獣たちは
厄介なことにかなりの知能を得てしまう。
………だが、人の力を
理解しているワケではない。
────例えば、魔術だとか、この眼だとか。
ポケットの中から札を取り出し、
それを雪の煙幕へと投擲、右手の刀でそれを両断。
「〝風よ、吹き荒れろ〟」
瞬間、両断された札は竜巻となって
降り積もる雪ごと狼を大きく空へと打ち上げる。
そして2枚目の札を足元に叩きつけ、
竜巻に乗って飛び上がる。
「ふ───ッ!」
「───!?」
線をなぞるように、黒狼を斬る。
何の抵抗もなく、それはプツン、と
機械の電源を落とすように絶命した。
雪は霧散し、黒狼の死体と共に雪の上に着地する。
その様子を傍観するだけだった獅子へと
眼を向けるが、黒獅子はこちらへ背を向けて
森の奥へと消えていった。
野性の獣故に、生命の危機には敏感なのだろう。
「…ふ…ぅ………」
息を吐き、眼帯を付け直す。
それと同時に視えていた線は
右目の視界と共に消えてなくなった。
刀に付着した血を払い、鞘へと納める。
結局、刀を獣の血で汚し、札を2枚無駄にした。
無理に真っ向から戦えば怪我の危険もあるので
安全に殺すに越したことはないが。
とにかく、黒狼は食用にするとして……
家の中で死体が完成してしまっても困る。
魔獣と呼ばれる獣たちの血で
他の獣が寄ってくることはほとんどないので
黒狼は放置し、家へと戻る。
扉を閉め、投げた少女を探す。
壁に背を向けて少女は蹲っており、
その焦点の定まらない琥珀色の双眸が
こちらを見ていた。
目次 感想へのリンク しおりを挟む