FPSできるからって現実で戦えるわけないじゃないですか (もさもさしてきた)
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#0 Good by my son.

 FPSというものが存在する。

 

 First Parson Shooter(一人称視点シューティングゲーム)、現実と似たような視点で銃をとり戦うゲームの種類のことだ。

 

 

 議論に出すまでもないと思うが、皆様はこのゲームが上手いければ現実の戦場で生き残れると思うだろうか? 

 

 俺の思う答えは圧倒的にNO。様々なFPSでアジアやワールドのランキングに乗り、日本国外の大会で賞金稼ぎをして生計を立てている俺だって、サバゲーに行けば何度もHITする。

 弾の貫通があり得ず、(トラップ)や近接戦闘も無し、装備は実際のものよりも圧倒的に軽く、長距離の兵站も存在せず、そして何よりも命を賭けないお遊びの戦いでコレなのだ。

 

 なんならFPSなんてのは死んで覚えるのが当然だ。どれだけテクニックがあっても、新たなゲームを始めれば武器の特性やマップの構造を頭に叩き込まなければいけない。現実ならばその情報量は何百倍にも膨れ上がるし、同じ地形で何度も戦うことも有り得ない。

 

 

 しかしまあ、偶にはいるものだ。YESの可能性を信じる馬鹿ってものが。

 

 

 

 例えば───

 

 

 

「君、今とっても不敬なこと考えてない?」

 

 

 

 ───目の前の神様とか。

 

 

「FPSできるからって現実で戦えるわけないじゃないですか。馬鹿なんですか?」

「あっ! 口に出したな! 心の中ならまだ許そうと思ってたのに、流石に面と向かって口に出されたら無理だぞ! 怒っちゃうぞ!」

「いくら見目麗しい戦神だとしてもその怒り方は気持ち悪いですよ。零落してください」

「とんでもないこと言うなキミ!?」

 

 

 さて、この神とやら似合ったのは体感時間で五分前。この謎空間に時間という概念が存在するのかは置いておこう。

 どうにも俺は死んだらしい。大会で優勝したと思ったら、帰りに寄ったレストランで銃乱射事件だ。頭を回して咄嗟に机を倒して盾にしては見たが、実弾がレストランの机なんかで防げるわけないよねってことでここにいる。

 ホント現実ってクソゲー。

 

 

「それでね、我々暇な神々の間では無駄な議論というものが流行っているんだ」

 

 

 何が『それでね』なのか。どこに『それ』があったのかは覚えていない。国語の成績は良かったので、多分この神の話し方がいけないんだと思う。

 

 

「聞こえてるからね〜。最近、人類は随分と進化して科学の時代を歩んでいるわけじゃない? そうなるとこっちも加護とか与える必要がなくなって暇になるのよ。故に、人類について無駄な議論が交わされ始めるわけ」

「議論……神様だったらわざわざ話し合わなくてもわかるものじゃないんですか?」

「いやいや、人の可能性だけは僕達では理解できないものだ。何せ、生まれたその時から与えられた役割として完成した存在だからね。戦神に勝利を齎す権能があるように、人間には成長という権能が与えられているんだよ」

「それで……俺は議論が行き詰まった先の実験台ということですか?」

「その通り!」

 

 

 何がその通りだ、神め。実験台として転生させられるよりも輪廻の中に戻してくれ。

 

 

「ちなみに、輪廻に従うと君の次の転生先はカマドウマだよ」

「あっ、実験台で転生させてくださいお願いします」

「話が早くて助かるね!」

 

 

 誰が好き好んで便所虫になってやるものか。

 

 

「じゃあこれから君を転生させるための手術を始めよう」

「手術?」

「ああ、手術だ。君の前世の器の形に沿って形成された魂を切り開いて、新たな器に入れられる状態に整える為にね。輪廻の中ならシステム的に行われることなんだけど、それを外れるのなら手作業でやる必要がある。……そしてどっちかっていうとこっちがメインなんだけど、君の思考をプレイヤーのように塗り替える」

「それはどういうことで?」

「簡単な話さ。戦闘中にまるでFPSをプレイしているような感覚になるよう改造するのさ。手足はコントローラーへ、視覚はスクリーンへ、聴覚はオーディオへ、痛みはシステム的なダメージへ、勿論体はゲームとは比較にならないくらい自由自在に動く。しかし自分の全てを駒のように把握できる。どうだい、この神ゲー。やってみたくならないかい?」

 

 

 不敵な笑みで俺を見つめる戦神。

 やってみたいかどうかなんて? 馬鹿なことを言うもんだ。そんな目に見えた地雷ゲー、答えは決まっているだろう。

 

 

「やらせろ」

 

 

 YESだよ。これだからゲーマーっていうのはクソバカなんだ。明らかなクソゲーでも、最初はちょっとだけ触れてみたくなってしまう。

 

 

「君ならそう言ってくれると思っていたよ! さあ、手術を始めようか!」

 

 

 戦神がそう言うと、死んだ時から着ていた俺の服が溶けるように消えていく。

 服の下から現れた真っ白に染まった肌が解けていき、白い糸が収縮や膨張を繰り返しながらもう一つの人型を創り出していくのだ。

 急に、目蓋に重りが乗ったような眠気に誘われて目を閉じてしまう。しかしなんだ、この感覚は嫌いじゃない。暖かい風呂に入るような、布団の中に潜り込むような、安心できる感覚だ。

 

 

 

 

 

 

「はい、終わったよ」

 

 

 戦神の声とともに目が覚める。

 感想としては……随分と背が低くなった。何もない空間ではあるが、先ほどまで同じ目線で話していた戦神の腹が目の前にあるくらいの高さだ。

 

 

「これは次の器に収まってどれくらいの姿なんです?」

「最盛期の姿だよ。その器が最も力を発揮できる歳のあるべき姿だ。背は高い方が良かった?」

「いや、前世じゃだいぶ高かったから低い方がメリハリがあっていい……ん? おい待ちやがれください。お前その手のひらにあるやつはなんですかコラ」

 

 

 戦神が持っているソレは、白く染まっていてわかりづらいが見紛うこともない。アレだ。

 

 

「余剰パーツかな?」

「よりにもよって人の息子余剰パーツ呼ばわりですか!? 返してください今なら遅くない!」

「ダメだよ。この子はもともと君が入るはずだったカマドウマにぶち込むんだ。輪廻の予定は当分虫だからその間に魂を育てて、人間にもするんだよ」

「え? 俺の息子カマドウマになるんですか? 知らぬ間に息子だけよそ様の便所にお邪魔するんですか? そして最後には俺の股座の息子がよそ様の家の息子か娘になるんですか?」

「うん!」

 

 

 力強く肯定する戦神。

 抗議のために口を開こうとしたその時、再び目蓋を叩き下ろされた。

 

 

 

 先に謝っておきます……俺の死に別れの息子と関わる皆さん……うちの愚息が粗相を犯したら申し訳ありません……!!




 みんなの身近にも彼の息子がいるかもしれないよって話。


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