メイドインアビス〜マイクラ探検隊〜 (食卓の英雄)
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深層二層の久遠語り
“アビス"
それは約1900年前にオルスカの孤島で発見された直径約1000メートルの人類最後の秘境と呼ばれる、未だ底知れぬ巨大な縦穴。
アビスは特異な生態系を持ち、また現世人類のそれを遙かに超える技術で造られた人工物である『遺物』を数多く眠らせている。
それ故に数多の探窟家達が命がけの危険と引き換えに、日々の糧や超常の「遺物」、そして未知へのロマンを求め、今日も奈落に挑み続けているのであった。
▼
“深界二層 : 誘いの森”
深度1350mから2600mの空間であり、一人前と呼ばれる蒼笛の探窟家から降りることの出来る階層。上昇負荷は重い吐き気と頭痛、末端の痺れなどである。
特徴としては鬱蒼と繁る森林が、ある場所からネズミ返しのように逆さまから生えるようになり、その形状から『逆さ森』と呼ばれている。二層の終わりには『
その中に一人、まだ幼く可愛らしい容姿のメイド服の人物(女とは言ってない)が居た。彼の名を『マルルク』。ここ監視基地に師であり、恩人でもある人物と共に暮らしている探窟家である。
「――ふう。こんな感じですかね?」
マルルクは今、この監視基地の備品整理をしていた。というのも他のみんながロクに地上に上がらずに色々と溜め込んでいるため、スペースの確保のために仕分けをしているのである。
そして今しがた終わったようで、その場に座り込み額に流れる汗を拭う。一息ついたその時、手を付けていない場所(というよりはつけなくてもいい場所)で何かがキラリと光った。
「あれは?」
マルルクとて蒼笛の探窟家。それがただの光でないことには気がついた。まさか原生生物では無いだろう。ではこの光は何か?
確かめたいが、それにより、自分に対処できないことだったらどうしよう、と知的好奇心と理性の狭間でマルルクの心は揺れ動いていた。そして幾ばくか考え込んだあと、
(これは『お師さま』に報告しよう。)
そう判断し、踵を返そうとして…背後から声が聞こえた
「おや、何をしているかと思えばサボリかい?マルルク」
声をかけたのは一人の女性だった。しかしその身長は2メートルを超え、黒い服装も相まってさながら巨大な影のようであった。頭髪は黒白で変わった髪型をしていて、とても印象に残る外見であった。彼女こそマルルクの師であり、5名しかいない白笛。つまり最高位の探窟家、
二つ名を『不動卿』『動かざるオーゼン』
外見こそ妙齢の美女だが、彼女が『白笛』の称号を得てから50年以上経過している事を考えると、アビスの神秘性の一端を伺えるだろう。
「それで?何をしていたんだい?」
黙っていたマルルクに顔を寄せるオーゼン。この巨躰には慣れたものだがここまで近づかれると流石のマルルクも圧を感じる。
「あの、あそこで何かが不自然に光っていて…。何だか分からないんですけど…お師さまに言おうと思って…」
その言葉にオーゼンはマルルクの指差した方向を見つめる。すると警戒心などまるで無いように歩いていくではないか。件の光の場所にたどり着いたお師さまは躊躇なく手を突っ込んだ。
「えっ」
そう声をあげたのは見守っていたマルルク。まさか正体を確かめもせずに触れようとするとは思いもしていなかったからだ。
実際、このアビスには触れるだけで危険な物がままある。それは原生生物然り遺物然り。訳のわからない、また見てもいない物に触れるのは探窟家として長生きは出来ないであろう。
そんな心配も余所に、オーゼンは手を伸ばして探っていく。そしてようやく見つけたのか、「よっ」という軽い掛け声と共に引っ張り出す。
「これは…また懐かしい物が出てきたものだね……」
オーゼンはそれを眺めて目を細める。それは手の平ほどの大きさで眩い星の様な、可憐な花の様な形状をしていた。中心から十字に伸びる黄色いライン、そして妖しくも幻想的な光を纏った、正にそれは『奈落の星』と形容するに相応しいだろう。
「あの…お師さまはそれを知っているんですか?」
師の見知ったもので且つ、その本人が危なげもなく触れていることから警戒を解いたマルルクは、その妖しい星への興味が沸々と湧いてきていた。その疑問に対してオーゼンは
「ンン、知りたいかい?」
「は、はい」
もったいぶる様に手の中の星を見せびらかし微笑うオーゼン。その笑みに一体なにが含まれているのか。それは当人にしか分からないだろう。
「これはネザースターと言ってね。…まあ、遺物みたいな物さ。アビス産じゃあないけどね。…といってもこれがあるからどうしたって訳でも無いんだが…。これ単体じゃあ何の役にも立たないよ。…一応、私がどれだけ殴ってもヒビすら入らない。後はどんな爆弾でも破壊できないって事かな。火で燃えるのに不思議だよねぇ」
「アビス産じゃない…ですか?」
基本、常識を超えた物質である遺物は謎の多いアビスでしか発見されないとしている。だからこそ他の国からも絶えず探窟家がやってきているのであり、それが他の場所でも取れるのなら?わざわざ危険を冒してアビスに挑む必要等無いではないか。
そう考えたマルルクに否定の言葉が掛けられる。
「そう。でも問題にはならないさ。大分前の事だからうろ覚えだだけど、何度行ってもあの場所に行けなかったからねえ。まあ、どのみちアビスに、それも5層は潜らなきゃあいけないから危険度は大して変わらないよ」
「?」
疑問符を浮かべるマルルク。アビス産ではないのにアビスに潜らなくてはいけない?行っても行けない…?…それはまるで―――
「まるで、他の世界にでも迷い込んだみたいだよねえ」
「実際、色々と向こうはおかしかったから、信じられない話では無い。何よりアビスなんて未知の塊があるのさ。なら、何かしらで何処かに繋がったって方が納得がいく」
やはり、という少しの納得。そして師の曖昧な言葉には驚いた。子供騙しを嫌う師からそんな夢物語の様な話を聞かされるとは思っていなかった。しかしそれが却って真実味を持たせている。
「あのぅ……それってどんなところだったんですか?」
遠慮がちに問うと、こちらを一瞥した後ポケットにその星をしまい歩き出す。
「あ、あの…」
「ついてきな。紅茶でも飲みながら話をしよう」
「は、はいっ」
先程の不安げな様子とは一転、顔を輝かせて師の後へと着いていくマルルクであった。
・・・
「さて、何処から話そうか…」
オーゼンは紅茶を一口含み、自らの記憶を遡りだす。
「まあ、最初からでいいか。お前もソッチの方がいいだろう?」
「はい。お師さまのこういった話を聞くのは中々無いので」
いかにも期待しています。という様なマルルク。それに対しオーゼンは口角を上げ、僅かに、それこそ本人すら気が付かないのではあろうかという程に僅かに優しい目をした。
「あれは…確か四十年程前だったかな。そう、まだお前が生まれてもいない頃さ。確か4層からの帰還中だったんだが――」
―――
「はあ、何で私が国の後始末なんて面倒くさい事やらなきゃいけないんだ。結局全滅した挙げ句遺物もない。骨折り損じゃないか」
当時、オーゼンは国からある依頼を受けていた。それは4層に送り出した国お抱えの探窟隊の救出、或いは遺物を持ち帰る事だった。しかしそれも先程声に出した様に、隊員は全員死亡。遺物も隊員達が使ったのか、原生生物に破壊されたのか、残骸しか見当たらなかった。本当ならバックレたいのだが、一応依頼な為、この結果を報告するつもりだった。
3層に上がった直後、ソレは現れた。
「グオアアァァァァッ!」
大きな口を持つ赤い蛇状の生き物、深層3層に生息する『ベニクチナワ』である。勿論、その程度で動じるオーゼンではない。やりようはどうにでもある。現に今オーゼンがいる横穴にはベニクチナワは入ることが出来ない。
淡々と進もうとするオーゼンだったが、きっと運が悪かったのだろう。
「グオォォ!」「グワァッ!」「グアアォォッ!」「グオァァッッ!」
「ベニクチナワの群れ…だと?」
そこには六匹ものベニクチナワが群れを成すように飛んでいたのだ。
否、奴らは協力しているのではない。争っているのだ。丁度いいエサを取られてたまるかといったように。
そしてこれまた運悪く、ベニクチナワ同士の争いにより、オーゼンのいる横穴が崩れてきてしまったのだ。
「チッ」
直ぐ様横穴を飛び出し、近くの突起に掴まる。他の横穴へと移ろうとするが、それを見逃すベニクチナワではない。突進してきたベニクチナワを避けるため、咄嗟に手を離す。そこからは一方的だった。
身動きの出来ない空中、それも何の用意も出来ていないのだ。待つのは死唯一である。オーゼンは抵抗した。それが功を奏し、捕食はされていない。だが跳ねる跳ねる。ベニクチナワに弾き飛ばされ、咥えられ、振り落とされ、さながらピンボールの様に宙を舞う。
「…っ笛が!」
主人よりも先に、首にかけていた白笛が地に落ちる。そこからはあっという間だった。元より4層近くで争っていた事により、跳ね飛ばされている間に3層と4層の境目に来てしまっていたのだ。
4層の負荷は全身に走る激痛と、穴という穴からの流血。オーゼンは何度もその呪いを受けてしまっていた。
「…っ!かっ…ぐぅっ……はっ…!」
ベニクチナワは現在、争いに夢中になり、こちらを気にかけてはいなかった。空中で行われていた取り合い。ソレがいなくなれば地に落ちるのは当然の事で――
――ドグシャッッ!
まるで果実を潰したような音を立てて落下した。
コツン
(あ…白笛…。ここに落ちていたのか。…もう、何の意味も無いけどね)
丁度、オーゼンの落ちた場所には紐が千切れて落ちた白笛が転がっていた。それを何とか手に納め、痛みと出血によって朦朧とした意識で考える。
(ここなら…誰かしらが見つけるだろう。私が死んだことは分かるわけだ。……4層で死んだなんて、白笛の癖に、とでも思われるのか…はたまた原因を調査するのか…まさかこんなところで死ぬとはね……)
(いや、これも私なら行けるという驕りが招いた事……。まったく…)
「度し難いねぇ…」
意識を失う直前、オーゼンが聞いたのはパリンッ!という硝子の割れる様な音だった。
はい。
いきなり過去を捏造する作者が通りますよ
オーゼンの口調難しい……難しくない?再現出来てるかな…?不安だ…。
これがボンドルドだったら簡単なのになあ…だってあの人、取り敢えず「おやおや」「○○は可愛いですね」「素晴らしい」を言わせとけばいいんでしょ?違う?そんなー(´・ω・`)
まあいいや。面白いと思ったら高評価とか…頂けちゃいます?(うざい)
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Welcome to Overworld
朝。それは危険なモンスター達はなりを潜め、動物が歩き、村人達が仕事をする時間帯。勿論、クラフター達にとっても心休まる時だ。…まあ、緑色のアイツは残っているが。
そんな平凡で気持ちの良い朝、小さな木の家にオーゼンはいた。
「…ここは…?」
本能がまだ眠りたいと言っているのを抑え、オーゼンは起き上がる。辺りを見回すと硝子のついた木の壁に、何かブロックの様なものに、机と椅子も一セットある。そして今まで自分が寝ていた赤いベッドと、その隣のこれまた赤いベッド。こぢんまりとしているが中々良いところではないか。
しかし、そんなことは問題ではない。何故ここにいるのか、それだけが今のオーゼンの心境であった。それもそうだろう。4層の上昇負荷により死んだと思っていたら木造の一軒家に居るのだから。それに、もし仮に生きたまま回収されたとしても、このような場所には運ばれないだろう。
それに…と窓を見る。家の外に広がっているのは緑緑とした草原。少し先に林があるのは分かる。当然のことながら、高くそびえ立つ天然の壁などどこにも見当たらない。
「どういう事だ…」
その事に呆然とするも、頭の中では至って冷静に事態を俯瞰する。
(…ここは、少なくともあの孤島じゃあ無い。だが誰が?何の為に?…瀕死の私を連れて来る場所ではない)
他の探窟家が発見して連れてきた?ならばオースの街でなければ可笑しい。ならば他国の者が連れ帰ったか?いや、それもナイだろう。仮にそうだとしてもこんな場所に放置する訳がない。
…やはり、未知の遺物、もしくはアビスの魔力によるものと考えた方がいい、か。
まあいい、ここがどこなのか。それが重要だ。とりあえず外へ出ようかと起き上がり―――
―――ふと、違和感に気がつく。
(何だ…?いつもより非力に感じる。以前感じていた頭部の違和感もない?それに、こうやって立つのが何故だが懐かしい気もするが…?)
そう、今のオーゼンには長く眠っていたからというには余りにも大きな変化が訪れていた。
(足が、治っている?間違いない、これは以前の私の足だ)
オーゼンはアビスの呪いにより、異形の足となっていたが、目に映るのは紛れもなく呪いにかかる前の人間の足だった。
まさか、と自らの姿を窓に映す。白黒の特徴的な髪型こそそのままだが、その髪型もどこか安定していないように見える。
オーゼンはその髪型の原因である捻れた頭皮へ手を掛け、そして確信する。
やはり、私の頭皮も正常だ。
(あれか。ここがあの世というやつか。想像とは大分違うが、穏やかさという点は同じだろう。これなら本来の私の体でもおかしくは無い)
呆気なかったと思う反面、少し疑問が湧いてくる。確かに体には何ら異常はない。むしろ健康体だ。だが、装備がボロボロのままというのは如何なものだろう。
何故体は正常なのに装備だけが消耗しているのだろう。それにより、もう一つの候補が浮き上がってくる。
「ふむ、まだ冥土には遠いということかな」
私は、生きている。これまでの人生でも数えるほどしか味わったことの無い感覚が湧き上がる。
そうして立ち尽くすこと十数秒、先のことまで思考を戻す。
「さて、ここは何処かな?少なくとも私が来たことのない地ではあるが…」
そうしてまだ使える装備のみを装備し、木のドアから出ようと歩く、が…
“ふらり”
「おっと…。……感覚のズレが激しいな」
既のところで持ち直す。しかし今ふらついたことにより何かチェストに小さくは無い傷をつけてしまった。
何故オーゼンがふらついたか。それはオーゼン自身万全ではないということもある。が、それは大した理由にはなりえない。
そもそも、オーゼンの怪力のカラクリは、肉体に一刺しすることで千人力を得るとされる一級遺物『千人楔』を埋め込むこと軽く80箇所。それにより常人にはなし得ない怪力無双として様々な伝説を打ち立てているのだ。
そして現在、オーゼンの身に起こる異常は“全て”治っている。それは良い効果も例外ではない。
彼女の腕に埋め込まれていた千人楔は全て体外へと排出されているのだ。それが何処に収納されているかは言うまでもない。
それにより、今までの力に慣れていたオーゼンとしてはやりにくいことこの上ない。
傷つけてしまったチェストに対し、この家主に申し訳なく思った所、不可解な現象が目の前で起こっていた。
「これは…傷が再生している…!?」
そうなると話は違う。腰につけているピッケルで壁を力強く殴る。するとどうだ、その壁の傷はあっという間に修復され、そこにはささくれすら見られない壁が佇んでいた。
「チッ面倒だ」
そう、このなんの変哲も無い家こそが遺物である可能性が出てきたのだ。むしろ、こんな不思議な物体など遺物でないほうがおかしい。そうだとすると今見ている景色すらまやかしかもしれない。千年楔の効果が無いのは痛いが無いものはねだれない。警戒態勢を崩さずにゆっくりと足を進め…
そしてドアは勢いよく開かれる。
勿論勝手に開いた訳ではない。開けた人物がいるのだ。
そいつは焦茶色の髪の毛、茶色がかった肌、青い瞳をしていて中々整った顔立ちで顎髭が少し目立つ。水色のシャツ、紺色のジーンズに、暗い灰色の靴を身に着けている。背丈もオーゼン程ではないが高いようで、180程だろうか。そんな謎の男は家に入り込むとどこからかジャガイモを取り出し、もしゃもしゃとあまり行儀が良いとはいえない音をたて貪り始めた。
「………何故ジャガイモ?」
呆気にとられたオーゼンが思わず呟いても仕方ないだろう。
そこから紆余曲折、言葉が通じない中何とか住居を勝ち取った不動卿の姿があった。尚、このときに初めて異世界だと分かったり、コミュニケーションの類いは割愛するとしよう。
■
私はスティーブ、クラフターである。といってもまだまだ初心者の域を出ないのだが…。
まあそんなことは置いておこう。ダイヤのクワくらい意味が無い。昨日、洞窟へ鉄を採掘しにいったときに世にも珍しい黒服白黒頭の村人モドキを発見したのだ。
地上への帰り道、急に頭上から降ってきてダメージ音を響かせるため驚いて治癒のポーションを投げてしまった。そうしてよく見ると人型mobであることに気づいた。
私はこれが村人というやつか!取り敢えず保護せねば!そう思い精錬した鉄インゴットからトロッコを作り、拠点まで運んだ次第である。
ベッドに近づけたらなんと勝手にベッドを使ったので大変驚いた。おかげでもう一つのベッドを作らなくてはいけなくなり、家が少し狭くなってしまった。
そして何故だが牛乳入りバケツがあげれた為使ってみるとどう使うのかは分からないが千人楔というアイテムをゲットした。見た事も聞いたことも無いからレア物かもしれないと思い、大切にチェストにしまっておく。
そこではたと、ある一つの疑問が湧き上がってくる。私は村を見かけたことはないが先輩曰く村人は禿頭のデカ過ぎる鼻の持ち主らしいが、それとは似ても似つかないだろう。そして周囲にドロップしていたこれまた見たことのない防具。
スティーブはようやくこれが村人では無いと気がつく。ならば他プレイヤーかと思うも、頭上にネームが表示されない。ふむ、となるとプレイヤーでもない。生憎、そこまで詳しいわけではないので取り敢えずこいつを村人モドキと言うことにする。
しかし知らないmobとは面白い。さて今日はどうするかと扉を開ける。
するとどうだ。村人モドキが起きているではないか!よし、今日はこの村人モドキのことについてだ!そうと決まれば色々と準備せねば。あ、間違ってゾンビのレアドロップ生のジャガイモを食べてしまった。あれが最後の一個だったのに…。これではジャガイモ畑はまだ先になりそうだ。まったく、私はパニックになるとよくアイテムを使ってしまう。反省反省。
今回はいわゆる出会い回のため、マイクラ要素は薄かったと思いますが、次回からはマイクラを強調していくので乞うご期待。(なんてすると期待を裏切られる可能性が高いのであー、ハイハイ程度の期待でお願いします)
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不動卿、はじめての一日
あ、因みにこれバージョンは結構前の奴なんで、二刀流とかありません。
取り敢えず、謎の男は敵ではない事が分かった。話す言語は本当に謎、いや、そもそも話していたかな…?まあいい。とにかくここは私の知る世界ではないのだ。まあ、アビスのことだ。どうせ帰還していない探窟家の方が多いのだから、こんなこともあるだろう。
因みに、謎の男はスティーブと言うらしい。彼に聞いたわけでも何でも無いが何故だか理解出来た。これも謎だ。
スティーブは、何故か私を見かけるとジャガイモを貪ったが、急いで家に入ると何故か私に様々な物を渡した。
大きなステーキ、パン、リンゴ、ニンジン。変わり種では小麦や石炭など。何故か宙に浮いた為に受け取らないと吸い込まれるように彼に回収された。……今どこにしまった?
だがこちらを歓迎しているらしく、大人しく彼の案内に従い周囲を見て回った。
見れば見るほど牧歌的で自然豊かな景色で、アビスに籠りがちだった私からすれば中々に癒やされた。
最初は牛の牧場。そこにはかつて見たこともある牛がのびのびと……などしておらず5メートル程の柵内にぎっしりと詰め込まれていた。これを見た瞬間は珍しく頭が真っ白になったものだ。囲っている木の柵は木材らしい柔らかさだったのだが、接合部などどこにも見当たらず、まるで彫りだして作られたもののようだったから驚いた。牛も牛でこの状態で生活出来ているのが謎で仕方ない。ここまで密集されていると目にも耳にも喧しくてしょうがない。
待った、何故小麦を与えるだけで一瞬で仔牛が産まれるんだ。そして仔牛はそれでいいのか。……いいらしい。
次は畑。こちらは先程のカオスに比べるとマトモだった。確かに範囲はそれほど広くは無かったが、これも一人暮らしであると考えればむしろ広い方だろう。
…成長速度には目をつむる。これでいて私の知るものと何の違いもないのが逆に恐ろしい。
収穫した小麦でパンを作っていたのだが、小麦3つを横に並べるとパンに変化した。……しっかり焼きたてのパンだった。
後は下に続く洞窟。今日は中には入らない様だが、こちらの方が私には馴染み深い。
家の周辺にあるものといえばそれ位で、他に目立つものは無かった。現在は溜まった疲れを落とす為に彼の家で寛がせてもらっている所だ。この椅子も見た目に反して座り心地は良かった。
備え付けられた窓から外を眺めると、例の彼が1メートル程のジャンプを繰り返しながら走り去っていった。膝も曲げずに疾走する姿はアビス産の原生生物を彷彿とさせた。
落ち着いて観察してみると中々いい家だと分かる。狭すぎず、最低限の生活器具は揃えてあり、簡素に纏まっている。そしてそんじょそこらの攻撃では壊れないのにもポイントが高い。この性質を使った装備なんかも探窟家としては欲しいかもしれない。
まあ、木造なのにあちこちに松明が乱立しているのはどうかと思うが。
さて私としては特段戻ろうとは考えていない。探窟家を目指した理由だって大したものでない上、何か心残りがあるわけでも無いし。未知ならここにも溢れているからね。
ポコッ
壁を突き破って家に入るのは如何なものかな?
「ああ、そういえば私の装備を知らないかい?まあ言葉は通じていないが……そうだねぇ」
軽く服などを指し示して伝えると、把握したのか、チェストから私の装備をポイポイと投げ渡してくる。
「重い」
今迄千人楔の力に頼った弊害か。いや、この装備はそもそもそちらの力に合わせて調整しているのだから今の私が身につけても重荷にしかならない。
まあアビスに潜るという訳でもない。早急に必要にらならないだろう。今は仕舞っておくと言うと、ベッドのそばに新たなチェストが置かれた。使えということらしい。……千人楔、あるのか。
軽く腹が空いてきた。どうやらいつの間にか昼時になっていたらしい。勝手に他人の家の食料を食い漁る、なんてことはしない。するとしても勝手知ったる仲間程度だ。…とはいってももう生き残ってる奴なんていないに等しいが。
するとこちらのチェストに何かしらを入れているらしい。離れた後に見ると、ステーキ、チキン、焼き豚から、先程のパンが入っていた。
「へえ、中々うまいじゃないか。調味料は入れないタイプなのかね」
声を掛けてみるが、やはり通じないらしい。私の方を向いたかと思うと家の壁を破壊し始めた。よく分からない行動だが、それは人の自……成程増築しているのか。
私がランチタイムを終える頃には、新たな部屋が一つ作られていた。急造だというのに周りと調和が取れている。
破壊だけなら、私達の様な分類にも出来るけど、ここまで素早くしっかりとした建築技術には正直目を見張るものがある。これなら深層でも快適な拠点が造れるかもしれない。
「おや、私の部屋かい?ありがたく……違う?」
問いただす間もなく、あっという間に内装は移動され、生活感の漂う一室になった。どうやら彼がこの部屋を使うらしい。私は客人の様な対応を取っているのだろう。
完成の舞なのか、ピョンピョンと跳ねながら腕を振り回し、首と腰も鬼の様に激しく動かしまくっている。
「…その首と腰はどうにかならないのかな」
暫くそうしていたかと思うと、急に何かに気づいたように焦り始め、外へと飛び出していく。
「どれ、何か面白いことでもないかねぇ」
ガチャリ、と後に続くと、家主と緑色の珍生物が追いかけっこをしていた。……何だコイツ。あ、爆発した。成程、そういう原生生物か。どうやらここにも脅威はあるらしい。
「大丈夫かい?」
爆発で出来た穴を覗きこむと、首をぐるんぐるんと振り回し、謎のアピールを繰り返していた。何を言いたいのか一向に理解できないが、ここまで動けるなら充分だろう。
ステーキは手づかみで食うもんじゃないだろ。
時は過ぎ、夜。今ある千人楔を全て刺し終えた頃にそれはやって来た。
『ア゛ー……ヴー』『カラコロカラコロ』
窓越しに人の影が見えると思ったら、弓を持った骸骨や、死体が闊歩していた。中には昼に見かけた緑の生物もいる。隣の彼は慣れているのか、特にリアクションも無く何かの台に色々な物を置いては回収しを繰り返していた。
「へえ…。私も不思議なことにかけては慣れているつもりだったけど、少し驚いた。何故死体が動いているんだ?アビスですら生物としての規格を外れたものは無かったというのに」
死に体でも生きているのは、寄生した虫が脳内麻薬を過剰分泌させ生命維持をしているから。どんなものでも透けてしまう生物は群体がアジの群れの様に大きく擬態していたから。奇形の生物は場に対応した進化によるもの。
全て、研究すれば何から何まで分かってしまうものばかりだ。しかしこれはどうだろう。死体も骸骨も、どうやって動いているのか。目に見えない生物が操っているのか?それにしては無駄な動きがある。さらには目を向けた先で現れる瞬間も捉えた。
周囲に何もない場所で、他の物体に何の影響も起こさないままそこに死体が出現した。謎だ。
そもそも死体が操られていると言うなら見渡す限りが死体で埋まり、地面から現れているとするなら家主の穴掘りで見つかっているだろう。昼には現れないのも面白い。
もう少し眺めていたい気もするが、家主が寝ろと急かすので仕方なく眠ることにした。……やわらかい。私が使っているのとは大違いだ。
朝方、目が覚めると死体共が燃えていた。どうやら日光に弱いらしい。全身が炎に包まれ、またたく間に消滅し、そこには宙に浮く肉が残された。オイ。そうはならないだろ。
そして骸骨は日陰に入ってしのいでいた。脳味噌が無い方が賢いというのはどういうことやら。
待った、家主。何を見つめて………流石にそれは私でも引く。
オーゼンが驚く箇所やその反応が全く分からない。正直リアクションと地の文ですごい推敲させられるわ
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