護廷一武道会 (あかのあーちゃー)
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開催

 

 ――ある日、誰かが言った。

 

 「十三隊で最強の隊長は総隊長。では、次に強い隊長は誰だろう?」

 

 

 ある者は隠密機動の長たる、最速の死神の名を挙げる。

 

 ある者は未だ誰にも底を見せない、天才の死神の名を挙げる。

 

 ある者は初代より名を連ねる、最古参の死神の名を挙げる。

 

 ある者は皆に慕われる、実績を重ね続けてきた死神の名を挙げる。

 

 ある者はとある貴族の家で歴代最強と謳われた、高貴な死神の名を挙げる。

 

 ある者は鉄笠で素顔を隠した、質実剛健たる死神の名を挙げる。

 

 ある者は普段は飄々としているも、眼力の鋭き死神の名を挙げる。

 

 ある者は誰よりも強い正義の心を持つ、盲目の死神の名を挙げる。

 

 ある者は史上最年少で就任した、神童の死神の名を挙げる。

 

 ある者は剣の頂の一人たる、荒くれ者の死神の名を挙げる。

 

 ある者は無限の手札を持つ、狂気に堕ちた死神の名を挙げる。

 

 ある者は病弱なれども、その霊圧量は随一たる死神の名を挙げる。

 

 

 嗚呼、知りたい。

 この十二の頂点たちで争ったのならば、一体誰が勝つと言うのだろうか。

 

 人間の知的欲求というのは時にどこまでも抑えきれなくなるものである。

 見てみたい。嗚呼、見てみたい。どこにでもいる、ごく普通のとある死神は、次第ににその欲求を抑えきれなくなってしまった。

 

 一体どのように戦うのだろう。あの卍解を、あの力を、あの技を如何にして破るというのだろう。あの人とあの人が戦えばどうだろうか。この人とこの人の戦いも見てみたい。

 

 そしてその死神は考えに考えた末、一つの結論に辿り着く。

 ――頭の中で考えていても何もわからない。実際に戦わせてみればわかるだろう。

 

 そして偶々、その死神は技術開発局に願望の実現を求めた。

 そして偶々、とある科学者は少しばかりの暇を持て余していた。

 

「面白いネ。丁度研究も一段落着いたことだし、君の望みを聞いてあげようじゃあないカ」

 

 とある科学者は自身の所持する隊長格たちの霊圧サンプルを用いて、とある実験装置を作成した。

 それは虚構の仮想世界を生み出し、その世界で超精度のシミュレーションを行って結果を示す装置である。

 

 とある死神と科学者は、出来上がった装置の示しだすシミュレーション結果を今か今かと待ち続ける。

 この装置が示すものは、十三隊の誰もが知りたがる情報。その死神にとっては金銀財宝にも匹敵するその情報を出ださんがために、科学者の作り出した装置は唸り声を上げながらシミュレーションを行う。

 

 ――そのシミュレーションの内容とは至極単純。お互いに全力を以って勝利を目指す、武道大会の開催である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは此処に、護廷一武道会の開催を宣言するっ!」

 

 護廷十三隊が総隊長、山本元柳斎重國がその杖を振り上げながら威厳の有る声で奇妙な宣言を行う。

 というのもここは涅マユリの生み出した仮想世界、シミュレーションの中。「十三隊の隊長同士で武道会を行う」という状況設定にこの場にいる誰一人とて疑問に思っていない。

 戦いに生命を捧げた更木剣八は勿論、戦いにあれほどまで忌避感を抱いていた東仙要ですらやる気を見せている。

 

 仮想世界に存在するは十三の死神。

 山本重國、砕蜂、市丸ギン、卯ノ花烈、藍染惣右介、朽木白哉、狛村左陣、京楽春水、東仙要、日番谷冬獅郎、更木剣八、涅マユリ、浮竹十四郎。

 護廷十三隊隊長、尸魂界における十三の頂点である。

 

「戦いにおける規則(ルール)は至極単純! お互いに十八尺(5メートル半)の間合いを取り、合図と共に試合開始!

 反則は無し! 一方が戦闘不能になるまで試合は継続される!」

 

 その言葉に怯む者はこの十三人の猛者の中には存在しない。

 己の魂たる斬魄刀を握りながら、ジッと総隊長の言葉に耳を傾ける。

 

「死者・負傷者共に試合の終了と同時に回復する故、気兼ねなく戦うが良い!」

 

 ひどく奇妙な話であるが、先刻と同様誰一人として状況に疑問を抱かない。

 ただ全力を出せるという環境に身を震わせるばかりである。

 

「それでは試合の組み合わせを発表する!」

 

 そう言って山本重國の後ろに唐突にモニターが現れ、一つの画像を映し出す。それはいわゆるトーナメント表、というものであった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「第1シード、京楽春水!」

 

「あれれ、僕がシードなのかい?」

 

 山本重國の言葉に驚いたように頭を掻く京楽。ヘラヘラと笑うその姿は強者揃いの隊長たちを差し置いて得たシードの座に似つかわしくないように思える。

 が、しかし。この男こそ優勝候補の一角。山本元柳斎重國に次ぐ強さを持つと、最も噂されている者である。それ故この場にて彼を軽く見る者など存在せず、京楽は軽い肩透かしを喰らった気分となるのであった。

 

「第2シード、浮竹十四郎!」

 

「いやあ、申し訳ない。一回戦はゆっくりと観戦させてもらおう」

 

 他の皆に頭を下げる浮竹。その腰の低さに反して、この男も相当な実力者である。

 京楽と同期である彼は、その病弱さが故にあまり戦いの場には出ないが、京楽春水に全く劣らぬ実力を持つという。無論、優勝候補の一人である。

 

「第3シード、涅マユリ!」

 

「アア、技術発展の礎となる被験者が一人減ってしまったネ」

 

 シード権を得たことを喜ぶどころか悲しむ涅マユリ。

 狂気の科学者である彼は、その発明品による変幻自在の戦い方を有する。どんな敵でも情報さえあれば対策してしまう彼ならば、もしかすると優勝すらも容易いことなのかもしれない。

 

「第4シード、卯ノ花烈!」

 

「了解致しました」

 

 ただ頭を下げてシードの座を受け入れる卯ノ花。

 初代十三隊の結成時以来、1000年の間隊長を務め続けている彼女は、経験という一点においてはこの場において最上位に位置するであろう。

 しかし彼女は救護班の長である。一体どれ程の戦闘能力を有するのか、全くの未知数。まさにダークホースと言うべき存在だ。

 

「第一回戦第一試合、日番谷冬獅郎 対 藍染惣右介!」

 

「おや、君が初戦の相手か。よろしく、日番谷隊長」

 

「ああ。負けねえぞ、藍染」

 

 共に水の系統に類する能力を使う者同士。特に幼き日番谷にとっては一度白黒つけたいと思っていた相手である。

 お互いに目を合わせたその間で、冷静な態度とは裏腹に熱い火花を散らしていた。

 

「第一回戦第二試合、狛村左陣 対 朽木白哉!」

 

「……ほう。兄が相手か」

 

「手加減はせぬぞ」

 

 片側は鉄笠と鎧に身を包み、素性を全く隠した謎多き男、狛村左陣。他方は尸魂界に名高い四大貴族の一、朽木家の現当主、朽木白哉。

 お互いに規律正しき死神の模範となる隊長である。その実力も疑う者はおらず、そう時間を置かずに始まるであろう戦いに期待が高まっていく。

 

「第一回戦第三試合、砕蜂 対 東仙要!」

 

「よろしく頼む。貴方の実力、見せていただこう」

 

「無論だ。隠密機動の長として、勝たせてもらう」

 

 盲目の男、東仙要。視覚という五感の一つを失っているにも関わらず隊長の座に就いているという時点でその実力の高さは窺い知れるというもの。

 また、対する砕蜂も鬼道衆・十三隊に並んで尸魂界における三大組織の一角を構成する隠密機動の頂点。その速さにおいては十三隊最速。白打においての戦闘でも彼女に優る者は存在しないといわれる。

 一体どのような技の応酬が繰り広げられるのか。両者の部下である隊員たちがこの場に存在すれば、この戦いを観戦できることに咽び泣いて喜んでいたことであろう。

 

「第一回戦第四試合、更木剣八 対 市丸ギン!」

 

「あらら。こら一回戦敗退になってしもたかなぁ」

 

「ぬかせ。俺ぁテメエといつか斬り合いたいって思ってたんだぜ」

 

 おどけたように軽口を叩く市丸ギンに、牙を剥いて市丸との激突を喜ぶ更木剣八。

 僅か一年で霊術院を卒業した天才であるギンの実力は最早言うまでもなく、斬術の頂点“剣八”の称号を有する更木剣八も又然り。

 天才と怪物。並び立つ両雄の決着が、遂にここに決まるのである。

 

 

 そしてここに全組み合わせが発表され、参加者は揃い立つ。

 司会を務める山本元柳斎重國は、十二の隊長たちの顔ぶれを眺めて、大きく息を吸う。

 

「それでは改めてもう一度……此処にっ、護廷一武道会の開催をっ、宣言する!!!」

 

 頂点達の戦いが、始まった。

 

 



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