日本国召喚 独立艦隊の奮闘 (yyyyyyyyyyyyyyyyyyy)
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序章
第1話 遭遇


ここは原作と何ら変わりありません。
飛ばしていただいても問題はないと思います。
日本は次回から登場させるつもりです。
よろしくお願いします。


ここは三大文明圏外から遠くはずれた、大東洋と呼ばれる海域。 

そこには、決して大きくはないが大陸があり、ロデニウスと呼ばれていた。

この大陸には、肥沃な土地を持つクワ・トイネ公国、砂漠が広がる貧しい国、クイラ王国、そして最も広い土地と人口を誇る覇権国家、ロウリア王国の3つの国がある。

 

近年、亜人排斥を唱えるロウリア王国が大陸の制圧を目論んでおり、平穏が崩れようとしていた。

 

 

中央暦1639年 1月24日午前八時ーーー

 

クワ・トイネ公国北東海域

 

この日はとても快晴だった。竜騎士マールパティマは、相棒のワイバーンとともに、警戒任務にあたっていた。だが、この方面は本当に何もなく、ただ海が続くエリアで、緊張が高まる隣国、ロウリア王国もこちらに姿を現す可能性は無いに等しい。空はいつもどおり静かだ。

 

 

今日も何事もなく帰還できそうだ。彼はそう思っていた。 ところが――。

 

     「ん?」

 

彼は向こう側の空になにかがいるのを見つけた。

 

だがここは辺境の海、そんなバカなと目を凝らす。しかし間違いなく何かが飛んでくる。

 

点のようだったそれは、段々と近づいてくるにつれ、

その姿が見えてきた。

 

「ワイバーンではない!?しかも羽ばたいていない」

 

彼はすぐに司令部に報告する。

 

「我未確認騎を発見、追跡し確認を行う」と。

 

未確認騎とすれ違う。

それは、ワイバーンよりも遙かに大きかった。

やはりその翼は羽ばたいておらず、4つの何かが猛烈な速度で回っているようだった。白い体に、赤い丸。

 

今までに見たことのないものだ。

愛騎を反転させ、追いかけようとするも、その騎はどんどんと離れていく。

生物として最速の235km/hを誇るワイバーンよりも速い。

 

信じられないことだった。

そもそもこの相手が生物なのかすら分からなかった。

彼は慌てて通信を入れる。

 

「司令部!!司令部!!!我未確認騎を追跡しようとするも追いつけず。未確認騎はマイハークの方へ向かったと思われる!警戒されたし」

 

報告を受けた司令部は大騒ぎになっていた。

ワイバーンよりも速い飛行物体が公国の都市マイハークに向かっているともなれば当然ではあるが。

 

万一攻撃されれば軍の威信に関わる。

何としてもそれは避けねばならない。

 

マイハークへの進入を阻止するため、ワイバーンが

次々と出撃する。

12騎のワイバーンは運良くその飛行物体と遭遇した。

撃墜のチャンスはすれ違う一瞬しかない。

 

「火炎弾の一斉射撃で撃墜するぞ!」と隊長が命じる。

 

ワイバーンの口に火が生まれていく。これをくらって落ちない飛竜はいない。

 

ところがその時、未確認騎は突如上昇を始めた。

 

猛烈な上昇速度で高度を上げていく。

 

すでに飛竜隊は最大高度4000mにあり、上がれない。

そのまま飛竜隊を置き去りにして、猛烈な速度でそれは

去っていった。

 

マイハーク防衛騎士団団長イーネは、空を睨んでいた。

聞けばこちらに向かっている飛行物体は飛竜よりも速く、見慣れない奇妙な姿をしているらしい。

しかし、相手は単騎であり、攻撃ではなく偵察の可能性

が高いと彼女は考えていた。

 

遠くの方から音が聞こえてきた。段々近づいてきている。腹に響く低くて恐ろしいような音だ。

 

やがてそれは姿を現した。見たことのない竜だ。

それは高度を落とし、旋回を始めた。

 

もはや領空侵犯は明らかだが、飛竜は遙か遠くにおり迎撃手段がない。

飛行物体は何度か旋回した後、満足したように北東へ

悠々と去っていった。 

 

クワ・トイネ公国議会 「蓮の庭園」

 

突然飛び込んできた前例のない事態に出席者達は皆頭を痛めていた。ただでさえロウリア王国との緊張状態にあるというのに、さらに訳の分からない事態だ。

 

「何か分かったことはあるか?」

  と、首相のカナタが問う。

 

情報分析部が手を挙げ、発言する。

 

「飛来した未確認騎は、第二文明圏の列強国、ムーの所有する飛行機械に似ています。ですが、未確認騎はムーのものよりも明らかに優速でした。

 

そもそも、ムーからここまではおよそ2万kmもはなれており、機体に描かれた模様もムーの物とは違いました。なのでムー国の飛行機械である可能性は低いと見ています。」

 

わかったことはこれくらいしかなく、まるで進まない。

 

 

その時、一人の若い外交官があわてた様子で部屋に駆け込んできた。何か緊急の用事だろう。

 

 「報告します!!!」

 

外交官が話し始める。内容は大まかにこうだ。

 

  ・今朝、公国領海に、超巨大船が現れた。

  ・巨大船には、日本という国の特使が乗っていた。

  ・日本国には、敵対の意志は無い。

  ・日本国は、突如この世界に転移してきた。

  ・それにより元の世界の周辺国との通信が途切れ、

   哨戒機による偵察を行った。その際、陸地を

   発見し、接近したが、それによって領空侵犯を

   してしまった。これについては深く謝罪する。

  ・公国との会談をしたい。

 

 ・・・といったものだ。

 

唐突すぎる展開、議会参加者の誰もが信じられないといった顔をしていた。そもそも国が転移するなど、現実だとは思えなかった。

 

しかし、列強国が持つような船や飛行機体らしきものを

所有しているのならば、日本の力は計り知れない。

 

そしてどうやら理性的な考えの国であるようなので、ひとまずその特使と会うことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

  




ありがとうございました。


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第2話 日本と転移

今回から独自設定の日本が登場します。
よろしくお願いします。


ある日、日本は異世界へ転移した。

もっとも、その日本は我々の知る歴史とは違った道を歩んできた。1941年に始まった太平洋戦争、日本軍ははじめこそアメリカを圧倒し戦いを有利に進めていたものの、ミッドウェー海戦で主力機動部隊を失い、太平洋での優位を失った。1944年からは大敗が続き、1945年5月には唯一の味方だったドイツまでもが降伏してしまった。

その頃には日本も既に虫の息といった有様だった。

 

七月末、旅順にて日本の最終兵器である超大和型戦艦、紀伊型がついに2隻完成した。2隻は沖縄を救い、アメリカに一矢報いる為、日本へ出港した。だが、この兵器はいささか完成が遅すぎた。8月1日、日本は無条件降伏。

戦争は終わってしまったのだ。ラジオから流れる玉音放送を聞いた乗員たちはあまりの悔しさに涙した。

 

日本はアメリカとの協議の結果、現状のすべての戦力の放棄を決定。日本海軍の残存艦艇は、復員輸送等に従事した後、その殆どが標的艦や解体され処分された。1946年には、「長門」ら僅かな艦艇と、連合国の旧型艦らが広島と長崎に落とされる予定だった原爆の標的として実験に使用された。日本では国民から愛されていた「長門」が最後に身代わりになって日本を守った、とまで言われた。

 

無傷のまま終戦を迎えた紀伊型2隻については、アメリカがその大きな戦力に注目し、賠償として譲り受けることとなった。米海軍の最強戦艦であるアイオワ級を大きく上回る性能を持つ紀伊型は、戦艦不要論が唱えられる中でもなお魅力的な代物だったのだ。アメリカに引き渡された紀伊型2隻はそれぞれ1943年に中止されたモンタナ級戦艦の代わりに、「モンタナ」「オハイオ」の名が与えられた。アメリカはこの2隻の為だけにパナマ運河を拡張したという。ちなみに海軍力が低かったソ連も戦勝国の権利として紀伊型を欲しがった。だが、日本の予想外の早期降伏により、北方四島への侵攻計画が頓挫し、結果的に対日戦に参加できなかったため、それは認められなかったという。

 

「モンタナ」「オハイオ」の2隻は、アイオワ級と共に朝鮮戦争や湾岸戦争等の数々の作戦に参加。対地攻撃や艦隊の護衛に従事し、特に対地攻撃においては51cm砲による圧倒的な破壊力を見せた。冷戦期では、ミサイルを多く積んだ艦として行動し、存在するだけでソ連の大きな脅威となった。

 

湾岸戦争が終わり、太平洋戦争の終戦から50年を経た1995年、その記念として紀伊型2隻は日本に返還された。海自編入にあたり、護衛艦「きい」「おわり」と改名された。また、「おわり」は日本唯一の空母に改造され、一方の「きい」は、記念艦として海自のイベントの目玉になり、稼働状態で保存されることとなった。2隻は日本の平和な海の象徴として愛されていた。

 

時代は21世紀に入ったが、紀伊型2隻はどちらも残されていた。ところが、日本近海においてタンカーや漁船が次々と行方不明になるという奇怪な事件が発生していた。遂には調査に乗り出した海上保安庁の巡視艇までも「未確認の生物らしき物を見つけた」という謎の通信を残し行方が分からなくなってしまった。

 

事態を重く見た政府は、調査と称して在日米軍艦隊と共同の調査隊を派遣した。ところが、信じられないことにその殆どが沈められ、帰ってきたのはわずかな数の船のみで、それらもひどく損傷していた。「航行中、人型をした謎の怪物が突然攻撃をしてきた。反撃を試みたが、こちらの攻撃が効いているようには見えず、一方的にやられた。」と報告が上がった。

 

日本政府はいよいよ事態が窮地に陥っている事を認識した。食料自給率が低く、海外からの資材を加工し、輸出して利益を出している日本にとって、物流の停滞は破滅を意味するだろう。飛行機など手段はないわけではないが、そちらも安全か分からない上流通量は大きく下がると見られる。だが自衛隊の攻撃が効かないとなると、もう打つ手はないと思われる。

 

だがそんな時、救世主が表れた。ある朝横須賀沖から正体不明の艦隊が接近してきた。もしやあの怪物の仲間なのではと、護衛艦が出動し接近を試みた。未確認艦隊に接近したとき、乗員はとても驚いた。そこには、遙か昔の時代に原爆によって沈んだ「長門」の姿があったのだ。長門の他にも、旧海軍の巡洋艦、駆逐艦の姿も見られた。護衛艦と横付けされた長門には、一人の女性が乗っていた。護衛艦の艦長が何者か尋ねると、彼女は自らを長門だと言った。彼女たちは自らを「艦娘」と称し、あの怪物――深海棲艦というらしい、を倒すために生まれた旧軍の艦船の生まれ変わりだというのだ。自衛官達は当初信じられないという様子だったが、その時襲ってきた深海棲艦達を長門は本当に倒してしまった。ありえないような話だが、もう頼れるのは彼女たちだけしかいない。日本の存亡は、彼女達に委ねられたのだった。

 

そして、艦娘達の要求により横須賀・呉・佐世保・舞鶴に本拠地として鎮守府が設置されることになった。また、各鎮守府には海自より選出された特別な資質を持つ四人の自衛官が艦娘達の指揮官、「提督」として就任した。

 

四人の提督達は優秀だった。四人とも同期で互いに仲が良く、作戦の立案など戦術面に長け、また艦娘達との距離感も程良く、彼女らを心身ともに支え上げた。艦娘達もそれに応えるように優秀な戦果を挙げ続けた。

 

そして8年後。今までにない強さを持つ深海棲艦をついに激戦の末、倒すことに成功した。すると途端に海は晴れ、祝福するかのように明るくなった。ついに勝った。それからは嘘のように海が静かになり、また物流を再開することが出来るようになった。深海棲艦の脅威は去ったのだった。

 

日本政府はこの8年間を、海外の支援や新たな節約政策によってどうにか切り抜けることができた。だが、平和が戻った海に、もう艦娘達の居場所は無くなってしまったのだった。政府は、彼女達の活躍に感謝し、終身の生活保障を決めた。また、海外艦達においては、要請があれば祖国に返し、記念艦として生活して貰う事となった。元提督達は自衛隊への再任用が決まっていた。

 

鎮守府での最後の夜、艦娘達と四人の提督は、それぞれの鎮守府を清掃し、最後にささやかな宴会を開いた。彼女らの引退を惜しむ声もあったが、もう海に脅威はいないのであった。彼女達は思い思いに話し込み、宴会は深夜まで続いた。明日には海外艦達も去ってしまう。寂しさを忘れるように飲み、明るい雰囲気のまま宴会は終了した。彼女達はそれぞれの部屋に戻り、床についた。

これで終わりだと思っていた。

 

 

だが次の日目を覚ますと、信じられない情報が入ってきた。

 

日本は、異世界に転移してしまったのだと―――

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
オリジナルは書くのが難しかったです。


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第3話 横須賀鎮守府

第2話の誤字報告ありがとうございます。
3話です。


 翌朝 早朝5時――― 横須賀鎮守府

 

「ううっ....寒。」

なんとも締まりのない、寝ぼけた声をあげ、一人の男がのっそりと布団から起きあがる。

この男が横須賀鎮守府提督、赤松一誠である。歳は32、身長179cmの健康な肉体を持ち、提督となってからも筋トレは欠かさない。本来ならこれから日課のランニングといったところだが、今日は違うらしい。制服に着替え顔を洗い、私室を出る。

 

向かった先は食堂だった。既に灯りがあり、先客がいるようだ。赤松がドアを開けると、そこには一人の女性がいた。軽空母「鳳翔」だ。彼女はこの横須賀鎮守府の最古参で、赤松とは長い付き合いだ。旧式空母なので艦娘の数がそろってからは戦場に立つこともあまりなく、他の艦娘達の世話係のようになっていた。横須賀の艦娘達にとって、彼女は母親のような存在だった。今日も早起きして朝食の準備をしている。

 

「おはようございます、鳳翔さん。何か手伝おうか?」と赤松が声をかける。

鳳翔も「おはようございます、大丈夫ですよ提督さん。お茶でもいかがですか?」と返す。

「ああ、いただくよ。」と、熱いお茶を受け取り、食堂のテレビをつける。ニュースは今日も取り留めのない報道をしている……はずだった。

 

画面には「緊急速報」のテロップが大きく上がり、いつもは笑顔のアナウンサーも緊張した面持ちでいる。「政府より重大な発表があるとのことです。官邸から中継します。」と告げられ、画面が変わった。少しすると、こころなしか強ばった顔の総理が登壇した。赤松は鳳翔に話しかける。

「鳳翔さん、何か起きたらしいぜ。総理が会見するとさ。」

 

「あら、一体何事でしょう。」

二人はテレビを見つめる。

 

「おはようございます。今集まられている報道の皆さん、そして中継でこの会見をご覧になられている国民の皆さん。どうか心してお聞きになるよう申し上げます。本日深夜0時頃、突然として周辺国との通信が途絶えました。同じく、インターネット上での海外にサーバーを持つサイトの閲覧なども不可能となっています。そして現在日本全土を囲むように巨大なもやがかかっていることも報告されております。これは通信途絶に関係しているかはまだ不明であり目下調査中です。政府はこの大規模通信障害を、サイバー攻撃の可能性があると見ています。さらに、日本に向かっていたタンカー等の船舶との連絡も途絶え、沖合に出ていた船も行方不明となっています。国民の皆様には本日はなるべく外出を控えるようお願いします。現在判明しているものはこれで全てです。情報が入り次第、迅速に通達します。以上です。」

 

画面は再びスタジオを映し、アナウンサーが話し始める。

 

「……聞いたかい鳳翔さん、なんだかすごいことになってるようだね。」

「そうですね……。少し不安です。」

食堂の窓を開け海をみると、本当に大きなもやが海にかかっている。水平線も見えない。

「こんなんじゃ海外艦を無事に返せなくなるぞ、それよりもしかすると行方不明船の捜索依頼がくるかもしれない……。いずれにせよ前向きに考えよう。最後にまた一働きできるかもしれない、とかね。」

 

その時、食堂の電話が鳴り出した。ここの電話は提督の執務室と繋がっている。重要な案件かもしれない。

 

「はい、こちらは横須賀鎮守府提督、赤松一誠であります。はい……。はい……。えっ!? …………。本当ですか!? …………。はい。了解しました。通達を出しておきます。はい、ありがとうございます、失礼します。」ガチャリ、と受話器を置いた。

 

 

「提督さん、どうされました?なにやら重大なご様子でしたが。」

「ああ、確かに重大な案件をお偉いさんから伝えられちゃったよ。詳しいことはファックスで送られてくるらしいから、ひとまず朝食にしてそれからみんなに話をするよ」

「ええ、そうですね……。ひとまず朝食にしましょう。みなさんもそろそろ起きてきますよ。」

 

時計はいつの間にか6時半をさしていた。横須賀鎮守府の起床時間だ。数分後、次々と艦娘達がやってきた。

「おはようございます、提督さん!」「司令官、おはよう」「おはよーていとくー」と様々なあいさつが飛び交う。

 

「よし、みんなおはよう。今日は本当なら昼前に解散のはずだったが、ちょいとばかり予定が変わりそうだ。朝食後に話があるから終わっても部屋に戻らないで食堂に残ってくれ。ひとまず食べよう。もしかしたらここで食事ができるのがこれで最後じゃあ無くなるかも知れないぞ」そう言って、ニヤリと笑った。

 

全員が席に座ったら、揃って食べ始める。基本的に食事は全員そろって食べるのがここ横須賀の唯一のルールだった。朝食をとっている間に流れていたニュースから、

艦娘たちも何か大変な事になっているのは察したようだ。

 

全員が食べ終わり、皿を下げ終えまた席に座る。赤松が前に立ち、話し始める。

 

「いいかみんな、よく聞いてくれ。ニュースで見た通り、日本は未曾有の事態にいまある。そして先程、また突拍子のない話を聞かされたよ。いいか?どうやら今、俺たちと日本は地球にいないらしい。」艦娘達の表情が驚愕に包まれる。赤松は続ける。「そんな顔をするなよ。これは冗談でも何でもないんだ。そりゃまあ俺だって信じがたいがね。もう少し詳しく話そう。地球にいないってのは、つまり日本がどこか別の世界にいるってことだ。で、政府からのファックスによると、本日早朝にいくつか哨戒機を飛ばしたらしい。それによると、朝鮮半島はもちろんユーラシア大陸も確認できなかったらしい。おまけに沖縄の下の方には見たことがない大陸を見つけたんだとさ。どうやら国らしきものがあるらしく、人もたくさんいたらしい。」やはり信じがたいようだ。

 

「そうそう、こんな物も送られてきたぞ。哨戒機の記録映像だ。」赤松はスマートフォンを取り出し、テレビと繋げる。画面にはどことなく中世の町並みを思わせる風景が広がる。そして―――

 

「あれはっ!?」誰かが叫んだ。

 

そこには竜らしき生き物が映っていた。しかも人を乗せているようだ。ドラゴンなどファンタジーの世界にしか存在しないはず、これはいったい―――

 

「驚いただろう?もちろん俺もさ。こんな映像を大真面目に渡してくるんだからなあ。だが、これは正式な映像記録だ。無碍にするわけにもいかん。そしてこの事態に対し、俺たちにもその内依頼が来るようだ。まあ調査とかの類だろうけどな。というわけで、鎮守府の解散は取りやめだ。俺たちは指示があるまで待機する。それまでは自由行動とする。他の鎮守府にも通知してある、以上だ。何かあれば連絡するから、各自好きにしていてくれ。ただし何かあったときに迅速に行動できるようにしておくこと、では解散。」

 

赤松がパンと手を鳴らすと、艦娘達がぞろぞろと部屋を出ていく。彼女たちの表情は当然ながら明るいとは言えなかった。どこか不安そうな顔だった。また働いて貰うことになるかもしれないので少し申し訳ない気持ちだったが、心のどこかで少年時代のような高揚感を赤松は感じていた。

 

一息つくと、のそのそと彼は執務室に戻っていった。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
次回は他の鎮守府について触れます。
お気に入り登録してくれた方々、誠にありがとうございます。これからも努力するつもりですので、どうかよろしくお願いします。


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第4話 呉鎮守府

4話です。 よろしくお願いします。


同日 朝七時半、広島県呉市―――

 

かつての軍港であり今では米海軍の艦艇も停泊している呉港、その海沿いに位置する呉鎮守府。もう明かりが灯っており、中からは忙しそうな声が聞こえてくる。

 

だが―――

 

その中の一室、執務室。その中にある小部屋は提督の寝室であり、誰かが書いたのだろう、「しれいのおへや」という紙がドアに貼られている。そしてその中からはぐおお、がおお、とまるで猛獣のようなうなり声、いやいびきが聞こえてくる。どうやら提督だけがまだ眠っているようだ。

 

廊下からパタパタと足音が聞こえ、幼い少女が執務室に入ってくる。寝室のドアを開け、提督に声をかける。日本海軍屈指の幸運艦として名を馳せた「雪風」である。「しれぇ、朝ですよ!起きてください!」体をゆさゆさと揺するが、特に反応もなく布団からは相変わらず幸せそうないびきが聞こえてくる。雪風は少し困った顔をして提督を起こそうとするがやっぱり反応がない。

 

「だめよ雪風ちゃん。そんなんじゃこいつはいつまでたっても起きないわ。」

そう言ってまた誰かが部屋に入ってきた。駆逐艦「曙」だ。

「曙ちゃん、いったいどうするのですか?」と雪風が聞くと、「こうするのよ」と言って、曙は何かを取り出し、枕元に置いた。

 

「これが最後のチャンスよ、今すぐ起きなさい」

  ぐおお……

「分かったわ、それが答えのようね。」

  ぐおお……

 

まるで返事のようないびきをする提督に雪風が苦笑いしていると、曙が何か渡してきた。耳栓だった。「それつけといて。」と言われる。雪風が不思議そうな顔をしつつも耳栓をつけると、曙も耳栓をつける。そして枕元の「何か」に手を伸ばす。次の瞬間、部屋のガラスがビリビリと揺れるほどの凄まじいクラクションの様な音が鳴った。

 

「わぁぁぁーーーーーーーっ!?」と情けない声を挙げて、ようやく起きた……のだが、ベッドから驚いて飛び出したせいで運悪く頭から落ち、ゴッという鈍い音が部屋に響く。

 

「ようやく起きたわね。まったくもう」曙がため息をつく。

「曙ちゃ~ん、もっと優しく起こしてよ~」と頭から落ちた体勢のまま、呉鎮守府提督、吉川晃輔が文句を言う。

 

「あんたが何しても起きないからこうしてるんじゃない!!むしろ感謝してほしいくらいだわ」

「わかったわかったありがとうよ、ところでそんなものどこで買ったんだ?」と曙が手に持つエアーホーンを指さす。

「通販よ。あなたを起こせるのならこれくらい安い出費よ。それと横須賀から手紙が来てる、重要な案件らしいわ」そう言って紙を渡す。

 

体を起こし、「横須賀から?なんだろう」といって紙を受け取る。手紙に目を通すうちに吉川の目の色が変わるのを曙は見逃さなかった。

 

紙から目を離し、吉川は言う。

「なるほど、こいつは確かに重大な案件だ。全くもって信じられん。ありがとうよ曙。」

 

曙はフンと鼻を鳴らすだけだ。朝に弱くなければ欠点なしの完璧な提督なのに……と小さな声でぼやく。まるで父親と反抗期の娘のような光景だ。相変わらずだな、と雪風は微笑む。だけどこのやりとりも今日で最後だ……。しかし大事な用事とはなんだろう。鎮守府の廃止が取りやめになったりしたら良いのにな……。

雪風がそんなことを考えていると、近づいてきた吉川が彼女を抱き上げて言う。

 

「まあ、とりあえず腹減ったし飯にしよう。曙、みんなを起こしてきてくれ。」

 

「とっくにみんな起きてるわよバカ!」

 

「そうかそうか。うちはみんな優秀な子達ばかりでいつも助かってるよ。」

 

吉川晃輔。呉鎮守府の提督になる前は海自でも屈指の男前として有名だった。187cmの長身に水球で鍛えた強靱な肉体を持つ。そのシルエットは遠くから見ると、まるで男子トイレのマークのような見事な逆三角形をしている。広島に生まれ広島市で育った生粋の広島っ子である。彼の祖父は広島市の中央で旅館を営んでいたため、原爆投下に巻き込まれた可能性もあった。そのため日本の降伏が遅れていたら自分は存在していないと思っている。そのせいか、広島に落とされるはずだった原爆を結果的に身代わりとして受けた「長門」を命の恩人としてとても尊敬しているらしい。

 

きゃっきゃっとはしゃぐ雪風を肩に乗せ、曙と一緒に部屋を出て食堂に向かって歩いていく。誰もいなくなった執務室の机には、四人の提督の着任時に撮影された集合写真が飾られていた。

 

 

 

同じ頃、佐世保鎮守府と舞鶴鎮守府でも同様の知らせが入ってきていた。佐世保の提督森高千鶴と、舞鶴の提督高橋京介も緊急事態に備え、動き出すのであった。

 

 

そして少し後、日本国政府は護衛艦「いずも」船上にて

クワ・トイネ公国と名乗る国家の艦隊に臨検を受ける。

会議の約束を取り付けた使節団は、無事日本に情報を持ち帰った。食料や物資の貯蓄が心許ない日本にとって、公国は助け船となるのだろうか。そんな不安を抱えながらも、日本は転移後初の外交に乗り出すのであった。

 

 




ありがとうございました。
次回は公国での会談について書くつもりです。


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第5話 会談と近づく戦争

第5話です。
次回が初めての戦争描写になります。
会談の会話などは省略しています。


翌日、 首相官邸―――

 

日本の現在の首相である増岡清司郎と各大臣が閣議を行っていた。議題は、クワ・トイネ公国との会談についてだ。政府は、日本の転移について今日、正式に発表することとしていた。それに加えて公国との会談についても述べるつもりだ。閣議は既に締めに入っていた。

 

「さて・・・と」増岡が話し始める。

 

「では、公国との会談で求めるのは、国交締結、食料・天然資源の輸入、通商条約の締結といったところか。こちらの見返りとしては技術の提供と行きたいが、どうやら公国の技術レベルは中世レベルのようだから、あまりにもホイホイ技術を売り渡すわけにもいかん。まあそれについては向こう側の要請を聞く形にしよう。派遣する船については、巡視船しきしまを、護衛にすずつきをつけよう。では、これで決定とする。」

 

解散となり、出席者たちが次々と部屋を出ていく。防衛大臣、川島雄一も退室しようとしたところ、総理に呼び止められた。ここ数日以内で空いている時はあるか?話がある、と。予定を伝えると、総理は頷き、川島は部屋を後にした。

 

 

同じ頃、クワ・トイネ公国 蓮の庭園―――

 

 

「日本国との会談には私も出席する」

 

首相カナタの言葉に全員が驚いていた。外務卿が声を荒らげる。

「お待ちください!我が国の領空を侵した国の使者などに、わざわざ首相が会われる必要はありません!!」

 

「落ち着かれよ。外務卿、貴方はこの会談の重要さが分かっていないようだ。私はこの会談にこそ我が国の存亡がかかっていると見ている。」

 

「どういうことですかな?首相」

 

「結論から言おう。日本と国交を結び、軍事支援の協定を結びたいと考えている。現在我が国とロウリア王国は緊張状態にある。ロウリア王国の思想からして戦争は避けられないのは明白だ。だが、我が国の軍事力はあまりにも貧弱であり、同盟国クイラ王国と合わせてもロウリアの足元にも及ばない。このまま何もしなければ我が国はさしたる抵抗もできず滅ぼされるだろう。」

 

「ふむ・・・なるほど、軍事支援ですか。確かに我が国ではロウリアに勝てないでしょう。しかし日本はそんなに強いのですかね?私はあの国について知らないことが多すぎます。」と軍務大臣が返す。

 

カナタは再び話し出す。

「確かに我々はまだ日本のことをほとんど知らない。だが、皆もあの竜を見ただろう?あれは我々の理解の及ばない、おそらく列強レベルの技術の産物だ。それに、彼らの特使を乗せた巨大な鉄船も、我らはもちろん、ロウリアにも作れないだろう。臨検隊は、見ただけで格の違いを感じたらしい。こんな物をどうやって沈めるのだ、と。にもかかわらず、彼らは他の文明国のように横柄な態度をとらなかったらしい。我が国が差し出せるのは食料くらいのものだが、我らと国民の命がかかっている。なんとしても日本からの支援を受けられるようにしなければならないのだ。」

 

「わかりました。今回の会談には首相も参加していただくことにします。」外務卿が納得したように言った。

 

「では、これで会議は終了だ。皆、明後日に向けて万全の状態に準備しておいてくれ。」カナタの鶴の一声で、公国も会談に向けて動き出すのであった。

 

 

 

そして二日後、迎えた会談の日―――

 

マイハークに来航したしきしまとすずつきを見て、カナタは思わず笑みを浮かべていた。見たこともない大きな船だ。しかも、鉄で出来ているようだ。彼にはどうやって浮かんでいるのかも分からないが、とても強そうに見えた。我が国の船ではおそらく手も足も出ないだろう。そんなことを考えていると、ノックが聞こえ、秘書が入ってくる。

 

「首相、まもなくお時間です。移動をお願いします。」

 

「わかった。」カナタは今までにない緊張と胸の高鳴りを抑えつつ、会議場に向かっていった。

 

 

 

―――結果としては、100%満足とはいかないまでも、おおよそカナタの望んだとおりに事は進んだ。国交の締結に始まり、日本への食料の輸出も決まった。その規模はカナタの予想を大きく上回るものであったが、元々家畜にも美味い食事を与えられるほどに余裕があったので、十分に許容範囲内であった。日本からは見返りとしてインフラの整備を申し出てきた。その内容はとても素晴らしく、最終的には公国の生活水準が第三文明圏を大きく上回ると予想されるほどだった。また、隣国であるクイラ王国とも公国の仲介により国交を締結した。当初クイラ王国は日本への見返りが何も無いと困っていたが、外交官がこぼした「燃える水」という言葉に日本の使者が食いつき調査を行ったところ、莫大な天然資源が存在していることが分かった。これには日本もクイラも大喜びで、双方に利のある会談となった。

 

だが、肝心の軍事支援について切り出したところ、日本の使者はあまり乗り気でないようだった。聞けば彼らは法により最低限の戦力しか持っていないらしい。だが、ここで諦めるわけにはいかない。なにしろこちらは国の存亡がかかっているのだ。ロウリア王国のことについて話すと、日本は本国で一度検討すると伝えてきた。公国の食料輸出が途絶えれば日本も仲良く共倒れになってしまうので、日本としても何もしないわけにはいかなかった。だが軽はずみに自衛隊を動かすと野党やら何やらが大騒ぎする。だが話が進まない内に、ロウリア王国は遂に行動に出てしまった。国境の町ギムが襲われ、大虐殺が行われたらしい。日本の慎重さが裏目に出てしまった。しかも今度はロウリア王国は海から攻めてくるらしい。悩みに悩んだ末、政府は暇を持て余していた鎮守府に援助を要請することとした。彼らは自衛隊ではないので動かしても問題ない、という何ともグレーな考えではあるのだが、なりふり構っていられない状態なのだ。

 

 

政府からの連絡を受けた鎮守府は少しだけ複雑な心境であった、なにしろ今度の相手は人間なのだから。

 

しかし同盟国を守らなければ結局犠牲はでてしまう。

 

ひとまず急な用件なので、ロデニウス大陸に最も近い佐世保鎮守府が今回の担当となり、臨時の派遣艦隊が編成された。戦艦「扶桑」を旗艦とする、戦艦3隻、巡洋艦6隻、駆逐艦6隻からなる艦隊は、異世界での初めての戦闘に向け、出港したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。


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第6話 出港

結局戦闘シーンまで書ききれませんでした。
第6話です。


鎮守府艦隊の派遣が決定される二日前――

 

防衛大臣の川島は、昼食後に予定が空いていたので、総理大臣と二人で話をしていた。

 

「鎮守府を政府直属でなくするとはどういう事ですか?彼らを見捨てるおつもりですか」と川島が言う。何と増岡首相は鎮守府を政府の機関から除外すると伝えてきたのだ。

 

転移前の、鎮守府は戦力だ、法律違反だという訳の分からない追求に対し、

「なぜそんな馬鹿馬鹿しい事を言えるのだ。今の日本が生きているのは彼らのおかげだと言うのが分からないのか。そんなに彼らの力を借りたくないのであれば、あなた方を海に放り込んで囮にでもすればいいのか」という川島の発言はあまりにも有名だ。彼は鎮守府への予算の大幅増加など数々の政策を実現させた恩人であった。自由な四人の提督達も彼には頭が上がらない。ちなみに、退役後の艦娘達の生活保障を決めたのも彼である。

 

 

増岡総理が返す。

「落ち着いてくれ防衛大臣。結論から言ったのが悪かったようだ。なぜそうするのかと言うとだね、彼らに働いてもらうために法の隙をつく必要があるからなんだ。」

 

「どういうことですか?」

 

「良いかい、今のまま鎮守府を国の所属としていると、彼らは国が保有する戦力に限りなく近い存在となってしまう。それでは自衛隊と同じで、無闇に動かすことはできない。だから彼らには一度独立して貰って、必要があれば国が雇う、いわば傭兵のような存在になって貰うんだ。クワ・トイネ公国からの情報によると、この世界は未だに昔のイギリスのような覇権国家が多く存在するようだ。望まない衝突が起きるかもしれん。そうした場合に彼らを臨時で雇い、動いて貰う、ということだ。海自はこれからは基本的に日本の領海を守る集団として、鎮守府は派遣艦隊として扱う。陸上戦力は現在のまま陸自に担当して貰うしかないのだがね。そのため、鎮守府は現在四つに分かれているが、これからは佐世保に集まって貰う。距離が大陸に最も近いからね。ひとまず佐世保の拡張工事をしてから、彼らに動いてもらおう。」

総理の意外な言葉に川島は驚いた。

 

「なるほど・・!!それなら法にも抵触せずに戦力を派遣できます。当然反対意見も出るとは思いますが、今までよりは格段にやりやすいですね。しかも彼らにもう一度仕事を与えられます。今はどうやら暇を持て余しているようですから、胸を張ってうれしい報告が出来ます。ありがとうございます。」

 

増岡も笑顔で、「ああ。彼らの力を無駄にするのもどうかと思うし、正直彼らも仕事を求めているだろう。さあ、早く彼らに教えてあげてくれ。」そう締めくくり、話は終了した。

 

 

 

 

 

そして、4月25日、艦隊派遣当日早朝、佐世保鎮守府――

 

港には黒煙を吐き、今まさに出港せんとする艦船達が並んでいた。いつ見ても壮観な光景だ。

 

「さあ、久しぶりの出撃だ!皆準備は出来ているか!」旗艦「扶桑」の艦橋で一人の男が通信機に叫ぶ。この男が佐世保の提督、森高千鶴である。彼はずっと再び海に出れるこの日を待ちわびていた。訓練ではない行動はおよそ半年ぶりだった。佐世保に艦隊派遣の指令が来たとき、彼と周囲の艦娘達は飛び上がって喜んだ。見た目こそ可憐な少女であっても、そこはやはり軍艦、戦いに餓えていたのだ。とはいっても、全ての艦船を出撃するわけにも行かないので、誰が行くか決めようとしたところ、全員が出撃を希望したので大変な騒ぎになった。埒が明かないので、仕方なくくじ引きで決めることになった。その結果決まった編成は以下の15隻である。

 

戦艦3隻

・扶桑(旗艦) ・リシュリュー ・武蔵

 

巡洋艦6隻

・羽黒 ・最上 ・加古 ・ザラ ・天龍 ・長良

 

駆逐艦6隻

・時雨 ・磯波 ・霞 ・吹雪 ・白露 ・満潮

 

 

実のところ、相手は小さな帆船であるとの情報もあり、派遣するのは戦艦だけでもよかったのだが、戦艦の援護と人員救助の為、結果的にこの編成となったのだ。

 

 

通信機から各々の返事が帰ってくる。どうやら全艦準備完了のようだ。

 

「よし、行くぞ!久しぶりに大暴れといこうじゃないか!全艦、抜錨!」

 

 「「「「「「「抜錨!!!!!」」」」」」」

 

声を揃え、錨が一斉に揚げられる。転移後の初めての戦闘だ。万が一にも負けるわけにはいかない。振り返ると、今回は留守番となった艦娘達が手を振っている。彼女たちの分まで頑張らねば。そんな思いを胸に、艦隊はマイハークに向かって舵を切った。

 

 

 

 

 

そして同日、クワ・トイネ公国マイハーク港―――

 

ついにロウリア王国が大艦隊を差し向けたとの情報が入った。その数は何と4000隻を超えるという。迎え撃つ公国海軍も、ここマイハークに艦船を集結させていた。その数はおよそ50隻、荷物の積み込みにかかっている。

 

「何とも壮観な光景だ」公国海軍提督、パンカーレは呟く。だが敵艦隊は4000隻を超えるという。彼の心は穏やかでなかった。軍事力にここまでの差があるとは思っていなかったのだ。味方は何人生き残れるのだろうか。日本国からも応援の艦隊が来るとの情報があったが、僅か15隻だそうだ。雀の涙のような戦力、彼らはやる気があるのだろうか。そんなことを一人考えていると、彼の側近である若手幹部、ブルーアイが走ってきた。何か連絡があるようだ。

 

「提督!本日早朝、日本から援軍が出港したようです。間もなく到着するとのこと。」

 

「了解した。しかしブルーアイよ、本当に行くのか?わざわざ優秀な部下を無駄に死なせたくないのだ。」

 

「はい、私は行きます。国の命運がかかっているこの戦いを見届ける使命が私にはあります。それに私はこの基地で一番泳ぎに自信があります。いざとなったら泳いででも帰ってきますよ。」

 

そう言ってブルーアイは笑いながら自分の腕をポンポンと叩く。

 

「すまない・・・・。頼んだぞ。」

「はっ!!」

 

すると、沖の方からボーという奇妙な音が聞こえてきた。

 

「何だ?」と誰かが言った。敵襲かもしれない。次々と人が集まり、港に目を向ける。すると、黒い煙が見えた。それはだんだんと近づいてきている。次第にその姿が明らかになると、信じられないことにそれは船であるようだった。

 

「なっ、なんという大きさだ!!!」

パンカーレは思わず叫ぶ。通信兵が走ってきた。

 

「伝令です!日本国の艦隊が到着しました!!!」

 

 

「おおお!!!」「すげえっ!!!」と次々に兵士達が叫ぶ。

そして艦隊のうち、一隻が港に入ってきた。そしてその中から、男性と女性が降りてくる。だがパンカーレは、まるで城塞のようなその船に釘付けになっていて対応に遅れてしまった。森高は少し苦笑いをして、パンカーレに声をかけた。

「初めまして、この度日本より助太刀に参りました。自分はこの艦隊の提督、森高千鶴と申します。そして、こちらは扶桑といいます。この船の艦長といったところです。」

「ご紹介にあずかりました、扶桑と申します。」二人は揃って一礼した。

 

パンカーレも少し慌てて、

「これは失礼した。私はパンカーレといいます。この基地の提督をしている者です。よろしくお願いします。」と返す。ブルーアイも自己紹介した。一通りの社交辞令を済ませた後、四人は基地に移動し明朝と予測される戦闘について話し込んだ。パンカーレとブルーアイは、久しぶりに安心して眠れたという。

 

 

そして、ロウリア王国艦隊もマイハークに近づいていた。日本の転移後初めての戦いは、すぐそこまでやってきているのであった

 

 

 

 

 

 

 




戦闘は次回からです。ありがとうございました。


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第7話 ロデニウス沖海戦

ついに戦争が始まります。今回は今までよりも長くなってしまいました。あと、全体的に扶桑、吹雪、霞以外の艦船の影が薄いです。

なお、本作での鎮守府の艦船は、全て自衛隊の協力の下近代化改修を受け非常に高性能なレーダーを装備した設定としています。ミサイルなどは現時点では搭載していませんが、近接信管と近代的な管制装備により高い対空防御力と射撃制度を持っています。戦艦の艦橋にはデフォルトでエレベーターがついていたりします。


そして迎えた翌朝、偵察隊のワイバーンがロウリア王国の大艦隊を発見したという報告が舞い込んだ。日本とクワ・トイネ公国の連合迎撃艦隊は、昨夜立てた作戦に従い、すぐに出撃した。もとよりロウリア王国艦隊の接近はある程度察知されていたので、いつでも出港できるように万全の状態でいたのだ。日本国艦隊が先頭に立ち、公国艦隊が後から援護する形だ。本来ならこのような作戦を援軍の分際で提案するのは気が引けるが、犠牲を出さないためにはこれが一番良い方法であったし、何より日本の軍艦に圧倒された公国艦隊の幹部達が何も言わなかったので、思いの外すんなり決定された。

 

 

観戦武官のブルーアイは、はやる気持ちを抑えつつ、旗艦の「扶桑」に乗り込んだ。

 

彼は艦橋を見上げて思わず「大きい....」とこぼした。こんなに高い建物は公国には存在しないだろう。我に返ると、そこには森高と扶桑が並んで待っていた。森高が声をかける。

「ようこそ『扶桑』へ、ブルーアイさん。歓迎いたします。では参りましょう。」そういって歩き出す。

「ブルーアイさん、どうぞこちらへ。」扶桑もブルーアイの手を取り、奧へと進んでゆく。

 

ブルーアイはとても驚いていた。このような美しい人は美男美女が多いと言われるエルフ族にもそういないだろう。だがなにより驚いたのは、こんなにも儚げな女性がこの要塞のような船の長を務めていることだ。他の船にも、同じように女性が乗っていたが、そのどれもが若く、小型艦には少女といっていいくらいの幼い女性が乗っていた。なぜそんな事をしているのか昨晩森高提督に質問してみたが、「申し訳ありませんがそれは軍事機密なので詳しくは教えられません。ですが、彼女たちしかあの船を動かすことができない、ということだけ伝えておきましょう。誤解しないでほしいのですが、彼女たちは自ら望んでここへ来ています。私は彼女たちの嫌がることは絶対にさせていません。それだけは知っておいて下さい。」と結局知ることは出来なかった。だが、彼の前を歩く扶桑の表情は明るく、嫌がっている素振りは微塵も感じられないので、ブルーアイはそれ以上気にしないようにした。

 

エレベーターに乗り込み、艦橋内戦闘指揮所に入る。ブルーアイはエレベーターにも驚いていたが、指揮所に入ってまた驚いた。見たことのない鉄で出来ているらしい何かが所狭しと並んでいる。改めて日本に援助を頼んで正解だったと感じる。この船が沈む所が全く想像できないのだ。ロウリア王国の艦船は数ではこちらを圧倒しているが、この船には手も足も出ずに海に没するだろう。

 

「ではブルーアイさん。観戦武官であるあなたに、特別に艦長席に座っていただきましょう。これであなたは、この船の一日艦長です。まあ、指示などは出せませんがね。」いたずらっぽく笑って森高はブルーアイを席に座らせる。なるべく彼の緊張を解こうとしてくれているのだ。感謝の言葉を延べ、席におそるおそる座る。

 

「では、準備はよろしいですか、艦長?」笑顔のままブルーアイに尋ねる。

 

「は、はいっ!大丈夫です!」と緊張で上擦った声を出してしまったことに、彼は自分でも分かるくらいに赤面していた。扶桑がくすり、と笑う。

 

「かしこまりました。」森高はそう言って、通信機を手に取る。一気に表情が変わり、今までの柔和なものから司令官としての威厳あるものに変わる。それと同時に艦橋内の空気も一変した。これが歴戦の軍人と言うものか。ブルーアイはごくりと生唾を飲み込む。

 

 

「では行くぞ!出港だ!全艦抜錨!!」すると、ガクンと船が揺れ、ゆっくりとこの巨大な船は動き出す。佐世保鎮守府所属、臨時迎撃艦隊は、同盟国を脅かそうとするロウリア王国を迎え撃つべく、その勇壮な姿を見せつけながら前進していった。

 

 

(凄い...!これほどの船が、風もないというのに我が国の船よりも速く進んでいる!)ブルーアイはいまだに夢のような不思議な気持ちだった。もう緊張は既に消え、高揚感が止まらなかった。彼の人生でもここまでの出来事は今まで間違いなく無かった。出港してしばらく経ち、艦隊は順調に進路を辿っていた。

 

「ブルーアイさん、ひとまず朝食にしませんか?接敵まではまだ時間がありますから。」そう声をかけられ彼が振り向くと、手にお盆を持った扶桑が立っていた。その後ろでは森高提督が何かを机に並べていた。そういえば早朝の出撃であったので、朝食をとっていなかった。思い出したかのように彼の腹の虫がぐう、と鳴く。

 

少し照れた顔をして

「いただきましょう。ありがとうございます。」と返事し、机に移動する。卓上にはお茶、お握りときゅうりの浅漬け、そして油揚げの味噌汁が並ぶ。どれもブルーアイにとっては見たこともない料理だったが、招かれている身として断るわけにもいかず、なによりいい匂いがしたのでおそるおそる口を付けた。

 

(美味しい...優しくて、何ともほっとする味だ)どうやら彼は、味噌汁がお気に召したようだ。鮭のおにぎりや漬け物も好評で、残らず食べてくれた。日本の二人は安心したそうだ。知らない料理に手をつけるには結構な度胸が必要である。完食してくれて良かった...と。

 

 

食事を終え、再びそれぞれの配置につく。あと一時間ほどで接敵するだろうと、偵察機の報告とレーダーによる追跡から推測されていた。ここで森高が通信機に向かって指示を出す。

 

「よし、吹雪と霞の2隻は艦隊より前進せよ」

 

すぐに返事が来る。

『吹雪了解しました』『霞了解』ブルーアイが外を見ていると、2隻の小型船が速度を上げ、前進していった。とはいっても、この艦隊の中では相対的に小さく見えるだけで、公国の軍船よりも遙かに大きい。そもそも公国に100mを超える大きさの船は無かった。森高提督によると、先に接敵し警告を行うらしい。撤退しなければ攻撃を開始する、と。

 

数十分後、分かれた2隻から通信が入った。『こちら吹雪、敵と遭遇しました』『こちら霞、同じく敵艦隊と遭遇したわ』「ご苦労、警告を出すから吹雪の拡声器と繋げてくれ」『了解、接続完了しました。』

 

 

森高はすうっと息を吸い込み、通信機に向けて話し始める。これが最後の警告だ。

 

「こちらは、日本国艦隊である、貴艦達はクワ・トイネ公国の領海に不法侵入している。すぐに引き返せ、さもなくば撃沈する。繰り返す、こちらは―――」

 

 

 

 

ロウリア王国海軍、提督シャークンは驚いていた。かつてない規模の4000隻を超える艦隊を率い、クワ・トイネ公国を滅ぼさんと意気込んでいたところ、向こう側からかなりの大きさの船が突如高速で接近してきたのだ。その船は速度を落とすと、こちらに話しかけてきた。貴艦は公国の領海を侵している、すぐに引き返せ、さもなくば沈める、と。警告と言う名の命令にロウリア兵達は怒り狂っていた。領海を越えていることなど分かり切っている、我々は戦争をするためにここにいるのだ。何様だか知らないが、たった2隻に何が出来るというのだ。「進路に変更なし。進軍を続けろ。」シャークンはそう命令し、艦隊も当然のようにそれに従った。彼らは助かる最後のチャンスを自ら破り捨てたのだ。

 

 

『敵艦転進せず、進撃を続けています』吹雪からの通信に、森高はため息をついた。本当はこうなることなど分かっていた。しかし、自分の命令で何の恨みもない人が死ぬのは気分の良いものではない。だがこれは戦争だ。ここで戦わなければ、同盟国の人々が結局死ぬ。それは絶対に避けねばならぬ。覚悟を決め、命令を下す。

 

「吹雪、霞は敵艦隊に対しゆっくりと退却しつつ砲撃、合流後は艦隊に加わり、攻撃に参加せよ。数十分後には我々も合流する。」

 

『吹雪了解、攻撃開始します』

『霞了解、攻撃開始』通信が切られる。こうしている間にも、多くの人々が命を落とすのだろう。艦隊は、ロウリアを迎撃すべく前進を続けるのだった。

 

 

 

そして吹雪、霞の2隻はロウリア艦隊に向けて砲撃を開始していた。軍艦としては比較的小口径である12.7cm砲での攻撃ではあるが、木造船に対しては十分すぎるほどの威力であった。煙を上げ、次々と帆船が爆発、為すすべもなく沈没していく。主砲の射程外にまで距離を広めた2隻はそのまま引き返していった。

 

提督シャークンは心が折れそうになっていた。敵の巨大船がバリスタの射程に入り次第、攻撃開始するよう命令していたが、その前に、バリスタの射程の遙か遠くで、敵艦は火を噴いた。「何事だ?」シャークンがそう呟いた途端、彼の隣を航行していた船が突然爆発した。あまりにもあっさりと軍船が沈み、彼も他の兵士達も驚きを隠せない。「何だ!何が起こった!」怒鳴ったところで誰も分からない。こうしている間にも次々と味方の船は沈んでいく。だが、その内に恐ろしい事実が判明した。敵艦が火を噴くと、その数十秒後に我らの船が爆発するのだ。つまりこれは敵の攻撃だということだ。このままだと全滅してしまう。そう判断したシャークンは、ワイバーンによる上空支援を要請した。ワイバーンは、船では落とすことが出来ないのが常識だ。だが、ワイバーン部隊が到着する前に、未知の巨大船はなぜか引き返していった。艦長が「魔石切れでしょうか。恐ろしい敵でした。」とまるで終わったかのようにいうが、シャークンはまだ敵の増援が来る可能性を捨てていなかった。「飛竜隊はそのまま上空にて警戒を続行せよ。」と命令した。すると数分後、味方のワイバーンが前方に島らしきものが見える、と報告してきた。シャークンは海図を広げ、首を傾げた。このあたりに島はなかったはずだ。

 

少しすると、確かに島のような物が見えてきた。双眼鏡をのぞき込んだシャークンは信じられない物を見た。それはあまりにも巨大な船だったのだ。先ほどの船が小舟に見えてしまうほど大きい。彼は大慌てで指示を出す。「何としてでも、あの巨大船を焼き払え!」と。指示を受けた飛竜隊は、未知の巨大船を沈めるべく飛んでいった。

 

 

「扶桑」艦橋内司令室―――

 

レーダーには、こちらに向かってくる影が映し出されていた。艦橋最上部に設置された望遠レンズにはワイバーンが捉えられていた。

それを見たブルーアイは青い顔をして森高に告げる。

 

「大変です!ワイバーンは炎を吐いて攻撃してきます。ですが、奴らは速すぎて船の装備では落とせません!あいつらは船を丸焼きにするつもりでしょう」

 

「なるほど、炎か...。それは困るな。よし、全艦対空戦闘用意!射程距離に入り次第全力を持って迎撃せよ。」『了解!』と返事が返ってくる。各艦の対空装備が仰角を上げ、空を睨む。

 

 

ロウリア王国飛竜隊所属の竜騎士アルゴは、未知の巨大船に向けて攻撃を開始しようとしていた。それは、まるで島のように巨大で、彼の見たことがない形をしていた。少し恐怖を感じるが、これほどの巨大な的、外しはしないだろう。隊長からの突撃命令が下る。ロウリア王国のワイバーン250騎が一斉に攻撃にはいる。ところがその時、敵船団が光ったかと思うと、彼の目の前に突如爆発が起きた。何が起きたのか気づく間もなく、竜騎士アルゴと相棒のワイバーンは一瞬で焼け焦げた肉塊と化した。その他の殆どのワイバーンも一撃で撃墜され、僅かな生き残りも雨のような対空機銃の弾幕に消えた。

 

 

(に...250騎のワイバーンがたった十数隻の船に全滅だと...!?)

 

シャークンは持っていた双眼鏡を取り落とした。飛竜はそもそも船の装備で撃ち落とせるものではないのだ。だというのに敵船は僅かな時間に全ての竜を撃墜してしまった。呆然としていると、敵巨大船が噴火のような火を噴き、悲鳴のような報告が入ってきた。「敵艦発砲っ!!」数十秒後、戦艦武蔵の放った46cm弾はロウリア艦隊のほぼ中央に着弾、中心地に近かった帆船は一瞬で消滅、その周りの船も衝撃によって起こった高波により転覆、または衝突して次々と沈んだ。武蔵はたった一回の砲撃で数百隻を葬ったのだ。

 

(駄目だ....どうあがこうと勝てる相手ではない。私は無能の提督としての烙印を押されるだろう、だがこれ以上兵士を無駄死にさせるわけにはいかない)

 

「通信士、全艦に告げよ。退却だ。」

「はっ。」

 

こうしている間にも味方の船は沈んでいく。船はすぐには動けないので、方向変換にも時間がかかるのだが、もちろん敵は待ってはくれない。シャークンの乗る船も転進し始めたその時、巡洋艦天龍の放った14cm弾が彼の船に直撃した。衝撃で船は大きく揺れ、彼は海に投げ出される。シャークンが海面に顔を出すと、火を噴いて沈んでゆく自分の乗艦と、退却していく生き残りの味方が見えた。敵は砲撃を止め、近づいてきた。彼は捕虜の一人として、日本に身を拘束されたのだった。

 

ここに、後にロデニウス沖海戦と呼ばれた戦いは終了した。結果はロウリア王国の惨敗で、対して日本とクワ・トイネ公国には被害はゼロ。一方的な戦いだった。

 

この戦いにより航空・海上戦力を大きく削られたロウリア王国軍は、しばらくの侵攻停止を余儀なくされた。これが幸いし、陸上自衛隊の派遣も間に合い、不安要素だった陸上での戦いにおいても非常に強力な味方が加わり、公国と日本は勝利を続けるのだった。

 

 

佐世保鎮守府所属艦隊は、大戦果と公国からの感謝を携え、無事に帰港した。この後鎮守府は本格的に独立軍としての整備を始める。

 

観戦武官のブルーアイは、戦後この戦いについてまとめた文章を書籍として発表。伝説の戦いのノンフィクションとして、ベストセラーになったという。

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。今回初めて5000字を超えました。読みにくいところもあるかもしれません。

ちなみに、本作に登場する四人の提督の内赤松を除く3人は、個人的に好きな昭和の歌手の名前をもじったものにしています。分かる人には簡単に分かるはず。


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第8話 鎮守府の引っ越し

8話です。


ロデニウス沖海戦からおよそ一ヶ月、陸上自衛隊は相変わらず勝利を重ね、ロウリア王国の敗戦はもはや誰の目にも明らかだった。一仕事終えた鎮守府は、佐世保に集合すべく準備を進めていた。佐世保鎮守府は、独立前の国の最後の仕事として、各施設の大規模な増設、港の拡張が行われ、以前とは見違えるような規模の施設になっていた。

 

 

 

そしてその頃、京都府舞鶴市―――

「今までどうもお世話になりました」

そう言って商店の主人に頭を下げる男は、舞鶴鎮守府提督の高橋京介だ。群馬県出身、高校時代は生粋の不良であり、自衛隊に入隊後もたびたび騒ぎを起こす問題児だったが、提督となってからはかつての上司が驚くほどの改善を見せた。人の上に立つ者としての自覚が芽生えたのかもしれない。そんな彼は今、異動にあたりこれまで世話になった近くの商店街の店をまわっていたのだった。

 

「あらあら、寂しくなるねぇ。まあ、あんたなら上手くやっていけるやろ。ほれ、これ持っていき。餞別や。」そういって女店主は彼に店の商品をいくつか渡す。

「ありがとうございます。失礼します。」それを受け取り、商店街を後にする。彼と付き添いの艦娘「霧島」の両手には溢れんばかりの荷物が抱えられていた。全て餞別として商店街の人々から頂いたものだ。

 

「こうしてみると、やはり寂しくなるなあ」

「そうですね。」

 

そんな事を言いながら、二人は鎮守府へ戻っていった。

 

 

 

翌日、全ての支度を終えた各鎮守府の提督と艦娘たちは、艤装である船体を収納し、政府がチャーターした貸し切りの飛行機に乗って長崎空港へと向かった。当初は宣伝も兼ねて艦隊を組み長崎へ向かうことも考えられたが、まだクイラ王国からの重油の輸入が本格的に始まっていないことと、速度が遅いため時間がかかることもあり、中止された。横須賀・舞鶴・呉の施設等は海上自衛隊に譲渡された。

 

 

 

そして佐世保鎮守府では、森高と艦娘たちが歓迎の準備をして待っていた。全ての鎮守府の面子が揃うと、「武蔵」が汽笛を鳴らし、出迎えの演奏が始まる。

 

四人の提督達は久しぶりの再会を喜んだ。彼らは偶然か必然か全員が同期であったため、とても仲が良かった。

また、艦娘達の多くも姉妹との久しぶりの再会を喜んでいた。宴会が開かれ、日付をまたぐ大騒ぎとなった。また、お忍びで川島防衛大臣も訪れ、鎮守府の独立を祝った。とはいっても、あくまでも政府の直属でなくなるだけで、運営資金の援助や資材の寄付などは続けられることとなっていた。実はかなりの酒好きである川島は、飲んだくれのポーラや隼鷹にも負けない飲みっぷりを見せ、周囲を驚かせてご機嫌で帰って行った。

 

 

以前と比べ圧倒的な規模になった鎮守府だが、ここからどんどんと愉快な仲間が増えることになる。だがそんなことは今の彼らには知る由もなかった。和やかな雰囲気の中、後にこの世界最高の戦力を持つことになる艦隊が今ここに産声をあげたのだった。

 

 

 

同日 ロウリア王国 首都ジン・ハーク―――

 

「ここのところ我が軍は負け続きだ。いったいどういうことだ?」

ロウリア国王、ハーク・ロウリア34世が将軍パタジンに問う。開戦当初は間違いなく勝てる戦と思われていたというのに、ロデニウス沖海戦に惨敗してからは全く勝てない状態が続いていた。

パタジンは心なしか震えた声で答える。

「はっ、報告によりますとクワ・トイネ公国、クイラ王国と同盟を結んだ日本国が参戦しているとのこと。」

 

「ん?日本国とやらは東方の新興国家と聞いているがどういうことか」

 

「実はロデニウス沖海戦で友軍を攻撃した謎の超巨大船は、事前に自らを日本国所属だと名乗りました。情報によるとその船には白地に赤い丸をあしらった旗を掲げており、また同じ紋章をつけた軍が次々とこちらを破っています。おそらくそれが日本とやらの国旗なのだと思われます」

「そうか...わかった、ご苦労。下がって良いぞ」

「はっ」

 

 

パタジンが退室し他に誰もいなくなった部屋で、ハーク・ロウリア34世はひとり頭を抱えていた。日本の力は彼の予想以上だったのだ。最初に日本が転移国家を自称していることを聞いたとき、彼はそんなおとぎ話を信じていなかった上に、蛮族の集まりの新興国家が小国である公国と組んだところでさしたる影響は無いだろうと思っていたのだ。だが報告により日本が転移国家であるという話が現実味を帯びてきた。日本はロウリアの技術では理解すらできない大型の鉄船を有し、飛竜より速く飛ぶ鉄竜をも持つという。もし本当ならばその力は列強に比肩するものだ。蛮族の新興国家にそんなものが作れるはずがない。講和という言葉が彼の脳裏に浮かぶが、ロウリア王国は現在、第三文明圏唯一の列強国であるパーパルディア皇国の支援を受けている。そんなことを言い出したら彼らの怒りを買うことは間違いない。

「もはや、止まることは出来ないのか...」彼の苦悩は続くのだった。

 

 

そして同じ頃 パーパルディア皇国第三外務局

 

「観戦武官とはまだ連絡がつかないのか!どうなっている!!」と上司が怒鳴る。第三外務局が支援を行っているロウリア王国に一人の武官を送り込んだのだが、その男はいつまでたっても帰ってこない上、連絡すら取れなくなっており完全に行方不明だった。部下が恐る恐る報告する。

 

「それが....。つい先ほど入った情報によるとこの間の海戦ではどうやらロウリア王国が敗れたそうです。しかもロウリア王国海軍は4000隻の内七割以上の艦船を一方的に沈められており、その中にはおそらく派遣した武官のヴァルハル様が乗った船も有りました」

 

この報告に上司は耳を疑う。

「そんなバカな。確かクワ・トイネ公国は大した軍事力もない弱小国だったはずだぞ、なぜ負けているのだ。」

 

部下は続ける。

「はい、それについてですが、どうやらクワ・トイネ公国と同盟を結んだ日本なる国が支援を行い、ロウリアを退けたようです。また、日本の使用している武器は第二文明圏の列強であるムー国の所有する機械と似た特徴があるらしく、現在目下調査中です」

 

「そうか...分かった」第三外務局は日本について少しずつ調査を始めるのであった。

 

 

 

その数日後、新製佐世保鎮守府ではとある事件が起きた。景気付けに久しぶりの建造を行ったところ、誰も見たことのない船が出てきたのだった。これ以降、何故かここのドックからは史実通りの実在した艦船に加え、建造が中止された船や計画だけに終わった未成艦が次々と産まれることになるのだった―――

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。次回は最初の未成艦が登場します。


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第9話 新しい仲間達

初めての建造です。ここから一気に船が増えます。なお、本作での建造は、ゲームとは違い建造完了までの時間は前もって分からない設定にしています。ですがほとんどは長くても三時間ほどで出てきます。


新しくなった佐世保鎮守府は、施設拡張に伴って建造や点検を行うドックも新しく作り直された。空母用が3つ、戦艦用が4つ、巡洋艦用が5つ、そして駆逐艦用が9つ用意されており、それぞれ400m、350m、260m、200mの長さがありそれぞれ、それ以下の全長の船ならば対応でき、必要であれば紀伊型の2隻も整備できる大規模な物だった。四人の提督は引っ越しの記念にと、景気付けの意味も込めて全ドックでの建造を行った。いつ完成するのかは誰にも分からないので、提督達は各自作業を進めながらその時を待っていた。だが事件は突然起きた。

 

 

突然、ドックの方から金属の軋む嫌な音が聞こえてきた。そして艦娘達の騒ぐ声が聞こえてきたので、提督達は急いでそちらに向かった。どうやら巡洋艦用ドックで何かが起きたようだ。屋根がひん曲がってしまっている。近づいてみると、何やらとんでもないことになっていた。鋭い艦首がドックの壁を完全に突き破ってしまっていたのだ。

 

これには色々な船を見てきた彼らも度肝を抜かれた。今回の建造の責任者である吉川が恐る恐るドックに入ると、そこには戦艦と見間違うほどの巨体が鎮座していた。見上げていると中からソ連海軍のものと思われる軍服を着た一人の女性が降りてくる。どうやら彼女がこの船の艦娘のようだ。

 

「やあ、初めまして。俺はここの提督の吉川晃輔という。君の名前を教えてくれるか?」

と吉川が尋ねると、嬉しそうな顔をして彼女は答える。

 

「これは提督殿、お初にお目にかかる。私は『スターリングラード』と申す。よろしく頼むぞ。」

 

吉川は首を傾げた。

(名前と服装からしてソ連の艦船で間違いないな。艦橋の形を見るに戦後の設計だろう。だが『スターリングラード』という名前もこの船も知らない。未成艦か?)

と思いつつも

「自己紹介ありがとう。こちらこそよろしく頼むぞ。しかし君は本当に巡洋艦なのか?この船体の大きさもさることながら、積んでいる砲は30cmをどう見ても超えている」と、主砲を指さしながら吉川は聞く。

 

「ああ、確かに私の主砲は305mmだ。だが、少なくとも私は重巡洋艦として設計・建造されたぞ。まあ、同志スターリンの死によって中止されてしまったが。」

 

(なるほど...これはいわゆる大型巡洋艦だな、後で調べておこう。)

そんなことを考えながら

「なるほどわかった。早速進水と行きたいところだが、君の船体が大きすぎてドックが壊れてしまった。とりあえず進水は修理と検査を終えてからにするよ。君はこれから多くの仲間達と過ごすことになる。これから鎮守府を案内しよう、ついてきてくれ。ああそうだ、ここにいる船の中にはかつての戦争で君達の敵だった国の子もいるんだ、だけどみんなそういうのは気にしていないから、わざと喧嘩をふっかけるようなことはやめてくれよ。」と軽口を叩く。

 

「はは、私は戦後の世代であるし、何より仲間が増えるのは嬉しいことだ。改めてよろしくお願いするぞ提督よ。」と元気な返事が返ってくる。

 

「ああ。こちらこそ頼むぞスターリングラード。」そう言い終えると二人はドックの外に出る。今日は快晴で、彼女は眩しそうに手を掲げる。

 

艦娘達が集まってきて

「しれぇ!その人はだれですか?」などと次々に声をかけてくる。戸惑いながらも笑顔を見せるスターリングラードに、吉川も喜んでいた。以前よりも大所帯になっとたといえ新しい仲間の加入は頼もしい限りだ。彼女ならすぐに馴染むことが出来そうだ。結局この日の内に全てのドックから無事に新しい仲間が誕生した。合計21隻の内、スターリングラードを含む8隻が史実では完成しなかった軍艦であった。一通りの調査をすると、今日仲間になった船は以下の通りだった。

 

航空母艦

・ヨークタウン(ヨークタウン級、アメリカ)

・ランドルフ(エセックス級、アメリカ)

・白龍(改大鳳型計画案、日本)

 

 

戦艦

・ミズーリ(アイオワ級、アメリカ)

・ガスコーニュ(ガスコーニュ級、フランス)

・モナーク(キング・ジョージ五世級戦艦案、イギリス)

・アルミランテ・ラトーレ(アルミランテ・ラトーレ級、チリ)

 

巡洋艦

・スターリングラード(82型巡洋艦、ソ連)

・コルベール(C611防空巡洋艦、フランス)

・アラスカ(アラスカ級大型巡洋艦、アメリカ)

・プエルトリコ(アラスカ級計画案CA2-D、アメリカ)

・アンリ4世(C993巡洋艦案、フランス)

 

駆逐艦

・ジョン・C・バトラー(ジョン・C・バトラー級、アメリカ)

・エレット(ベンハム級、アメリカ)

・エパーソン(ギアリング級、アメリカ)

・ル・ファンタスク(ル・ファンタスク級、フランス)

・ヴァルミ(ゲパール級、フランス)

・ベルサリエーレ(ソルダティ級、イタリア)

・疾風(疾風級設計案、日本)

・北風(改秋月型計画案、日本)

・デアリング(デアリング級、イギリス)

 

 

吉川が図書室の資料を漁って各艦の情報を調べると、比較的戦争後期の船が多く、強力な補強だということが分かった。スターリングラードに加え、プエルトリコももう少しでドックを破壊してしまいそうな大きさだった。スターリングラードは全長273m、満載排水量42300トン、そしてプエルトリコは全長248m、満載排水量は49000トンであり、やや幅が細いもののその規模は間違いなく超弩級戦艦レベルだ。どちらも主砲口径は305mmであり、少なくとも弩級戦艦程度の攻撃力があるのだろう。もうここまで来ると戦艦と巡洋艦の境界線が分からなくなってしまいそうだ。こんな物が実際に考えられていただなんて、彼女たちもある意味大鑑巨砲主義の申し子と言えるかもしれない。だが味方としては頼もしい仲間である。そう結論づけ、新たな艦娘達の着任式をすべく、部屋を後にした。

 

 

ひとまずこの建造を持ってしばらくは戦力の増強はしないつもりだった。重油の輸入が本格的に始まり資源には困っていなかったが、かといってこれ以上の戦力も今のところ必要なかったのだ。だが、不思議なことに毎晩資材を入れていないのに船が誕生し続け、朝起きると知らない艦娘が増えている、というおかしな事態になった。ついには元の2倍以上と見込まれる数になってしまった。これにより佐世保鎮守府は以前の拡張工事により各艦娘の部屋は無事確保できたが、食料の消費量が莫大な量になってしまった。元々大食いの割合が多い艦娘であるが、単純に数が増えたことでさらに凄いことになってしまった。四人の提督と艦娘達は、当番制で全員の料理を作るようになった。

 

このように飽和気味になってしまった戦力をどうするべきか困り果てていた提督達であったが、後の戦いにて彼女たちは必要な戦力になってゆく。だがそのことを彼らが知るのはまだ少し先の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アンリ4世は完全な架空艦なので、振られた番号は適当に割り振ったものです。これから出てくる架空艦にも適用すると思います。


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第10話 外交の飛躍と軍祭

ついに二桁になりました。よろしくお願いします。


その後、陸上自衛隊の侵攻によりあっさりと首都ジン=ハークに攻め込まれたロウリア王国は、さしたる反撃も出来ずに数時間後にはハーク・ロウリア34世が捕らわれた事により降伏した。ひとまず日本は最初の危機を乗り越えたのだった。

 

この話はすぐに周辺国に伝わり、誰もが驚いた。これにより日本という国の名は一気に知れ渡ることとなる。第三文明圏外の国々は、不定期で開催される「大東洋諸国会議」を行い、日本についてそれぞれの意見が述べられる。

 

「我々クワ・トイネ公国と、クイラ王国は最初に日本と国交を結びました。日本は資源を求めており、見返りとして技術の提供を申し出てきました。彼らの力は間違いなく列強レベルです。ですが、非常に理性的であり平和的な国家です。今回の我らへの軍事支援も、食料、資源の輸入が途絶えることを恐れたためだと思われます。ですが、日本と国交を結ぶことだけで彼らは技術を提供してくれますし、何より我らに危機があれば援助に駆けつけてくれます。」クワ・トイネ公国の外交官がそう告げる。

 

「トーパ王国です。日本が提供してくれる技術というのは、パーパルディア皇国と同じ様なものなのでしょうか?また、皇国のように圧力をかけ、奴隷の献上を迫るようなことは有りませんか?」

 

これに、今度はクイラ王国の外交官が答える。

 

「はい、前述した通り彼らはとても理性的であるので、我らに対しても対等に接してくれます。また、日本に奴隷はいません。彼らのもといた世界では、奴隷は非人道的で野蛮な文化として遙か昔に廃れたようです。そして、技術の面ですが、これは間違いなくパーパルディア皇国のものより上です。格が違います。もちろん我々も日本に対して見返りを支払っていますが、無理のない程度の量で済んでいます。それは日本と相談して決めることですね。」

 

これに各国の外交官達は驚いた顔をしていた。列強を越える技術などと彼らには想像もつかない。だが、長年にわたりパーパルディア皇国の圧政にうんざりしていた国も多かったため、日本との交流に興味を持ち出す国は多かった。

 

 

するとここで、フェン王国の代表が手を挙げた。

 

「我が国も現在日本との国交を結ぼうとしています。我が国は現在パーパルディア皇国と若干ながら緊張状態にあるため、軍事同盟を結ぼうと考えています。一週間後に我が国では軍祭が開かれるのはご存じですよね?そこで日本の軍船も派遣されるという話なので、参加される国の皆様方も見れますよ。」と話す。フェン王国の剣王シハンの直々の要請により、日本は軍艦を派遣することにしていたのだ。

 

「最後に、日本と国交を結びたい国の方に伝言です。我が国の仲介をはさめば国交を結ぶ前でも日本に使者を送ることが出来ます。いつでも受け付けていますので、まずは我が国の外交部にお越しください。」公国の使者がそう言い終えると、今回の会議は終了となった。この後、参加した全ての国が使者を送り、その技術に驚愕しつつも国交を結ぶことになるのだった。

 

 

そして一週間―――

フェン王国の都市アマノキで、軍祭が開かれていた。港には参加国の新鋭軍艦が軒を連ねる。その中にあってもひときわ目立つ黒光りする船が8隻。日本から派遣された戦艦達だ。金剛型4隻、長門型2隻、そしてダンケルク級2隻だ。このうちダンケルク級の2隻はまだ着任して日が浅く、慣熟訓練も兼ねて派遣されていた。

 

今回フェン王国からの「日本の武力を見せて欲しい」という要求に対し、有事でも無いのに護衛艦を派遣するのは難しく、なおかつ船体が大きく迫力で勝る戦艦を選んだ方が良いだろうという考えのもと佐世保から出向していた。そして外交官を乗せた巡視船いなさも来ていた。

 

アマノキ上空では、ガハラ神国風竜隊隊長のスサノウと彼の相棒の風竜が日本の戦艦を空から見下ろしていた。「眩しいな」と風竜が言う。

「ああ、確かに今日は快晴だ。」とスサノウが返すと、風竜が首を振る。

 

「いや違う。眩しいというのはあの船のことだ。とても強い光を放っている。人間には見えないだろうが、我ら風竜が遠くの仲間と意志疎通に使ったりする特殊な光と同じ物だろう。だがあの船が出している光は風竜のものよりも強力だ。恐らく我らよりも遠くが見えているのだろう。」

「ほう。そんなに凄いのかあの船は。」

「ああ。恐らく文献にある古の魔法帝国の魔導戦艦のようなものだろう。」

「本当か!それはすごいな。」話が弾む二人であった。

 

一方で旗艦「長門」の管制室でも、赤松が風竜の出しているレーダーのような光に驚いていた。もしかすると似たような能力を持つ生物やそれを基にした兵器を運用する国があるかもしれない。これは政府に報告すべき案件だと、記録を取ることにしたのだった。

 

 

―――「あれが日本の戦艦とかいう船か。まるで城が浮かんでいるようだ。周りの船が小さく見えるぞ」剣王シハンは思わず息をのむ。

 

隣に控える武将マグレブも、

「あのような船は見たことがありません。私は過去パーパルディア皇国に行ったことがありますが、あれは皇国の船よりも圧倒的に大きいです。」とつぶやく。今回日本の船は、力を見せるためフェン王国から提供された廃船15隻に攻撃を行うと決まっていた。

 

「おおっ、どうやら始まるようですぞ。」日本の力が今明かされる。

 

 

「よし、攻撃準備。目標はあの木造船団だ。照準開始せよ」

『了解』

 

各艦の砲がゆっくりと動きだし、目標を見据える。これでいつでも命令さえあれば砲撃できる状態だ。見学している各国の代表達も固唾をのんで見守る。

 

「なぜ動かない?まさかあの距離から攻撃するつもりか?」

「あれはもしや魔導砲では?だが遠すぎるぞ。」等と口々に感想を述べる。目標までの距離はおよそ6km程ある。だがその時、雷鳴のような轟音が鳴り響き、巨大船が火を噴いた。少しの間の後、一斉に放たれた64発の砲弾は目標船団を包み込むように着弾し、高波を立てた。数十秒後、海が再び静かになると、そこには船の姿は無く、残骸だけが海を漂っていた。

 

 

「これは....!!何と凄まじい。恐ろしいものだ。」

シハンの言葉に周囲の皆が頷く。

マグレブが「確かに恐ろしい力です。ですが味方となればこれ以上頼もしいものは有りませぬ。」と同意する。

 

「よし、すぐに日本と国交を結ぶぞ。日本の心証を悪くするわけにはいかん、パーパルディア皇国についても詳しく話そう。」

 

この後、日本とフェン王国は国交を結んだ。軍事協定の話を持ち出すと、はじめ日本は嫌な顔をしていたが、パーパルディア皇国の話を打ち明けると、納得したように頷いた。実は日本も皇国と関わりを持つべく外交官を派遣したが、治外法権を認めろなどという、そのあまりにも横柄かつ傲慢な態度に呆れていたのだ。恐らく皇国は近い内にまた侵攻を始めると思われていたため、日本は有事の際に援助することを決めたのだった。この話を聞きつけた大東洋諸国も同じように軍事協定を結ぶことに成功した。だがその頃、不穏な影がアマノキに向かっていた。それはパーパルディア皇国監察軍艦隊と、飛竜隊であった。監察軍は愚かにも皇国の寛大な提案を拒否した、フェン王国を罰するべく、懲罰攻撃に向かっていたのだった。これを探知した日本国艦隊とガハラ神国風竜隊は警戒態勢に移る。それは日本の転移後初となる大規模な戦争の引き金ともいえる事件となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでもいい設定ですが、今回のダンケルク級は希望者でのじゃんけんに勝ったので派遣されています。


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パーパルディア皇国編
第11話 望まぬ衝突


今回から新章に入ります。

評価9をつけてくれた護衛艦ゆきかぜ様、暖かい言葉をかけていただきありがとうございます。


フェン王国での軍祭が開かれる三週間ほど前、第二文明圏 レイフォル国 首都レイフォリア―――

 

「陛下!!ここはもうダメです!!早くお逃げください!!!」宰相が大声で叫ぶ。列強が一角、レイフォルの誇る美しい首都レイフォリアは火の海と化していた。

 

「何故だ...?何故、こんなことに...?列強たる我が国が、蛮族の新興国家に何故敗れるのだ..??」皇帝は壊れた人形のように自問自答を繰り返す。

 

「!!!陛下っ!!!城が崩れます!急いで避難を!!ああっ!!」側近が無理矢理皇帝を引っ張り出そうとしたその時、天井が音を立てて崩れ始める。

 

「陛下っお早く」運悪く側近の頭上から落ちた瓦礫が彼を潰してしまった。もう皇帝は動こうともしない。

 

「何故だ...何故なのだ...」その直後、城は完全に崩れ落ち、皇帝も城と運命を供にした。それにより、完全に指揮系統を失ったレイフォルは降伏した。

 

 

レイフォリア沖、グラ・バルカス帝国監査軍旗艦 戦艦「グレードアトラスター」

 

「撃ち方やめ、撃ち方やめ」

 

命令が下り、砲撃が止む。目標であるレイフォリアは原形を留めないほどに破壊されており、真っ赤な火が夜を照らす。

 

「もう、これで十分だろう。それにしても何とあっけない...。この程度で列強とは笑わせる。この世界もたかがしれているな。」艦長ラクスタルは双眼鏡から目を離し、そう呟く。

 

グラ・バルカス帝国、日本と同じく突然としてこの世界へ転移してきた。前世界ユグドで最強の国家であり、世界の支配までもう少しと言われていた。だがそれを前にして突然この世界へ転移してきた。当初は右も左も分からぬまま平和的な外交を行っていたものの、とある国に派遣した帝国の貴族が処刑されてしまったことにより一気に姿勢を変えた。そのパガンダ王国とかいうふざけた国を一瞬で滅ぼしたところ、その親玉らしい国、レイフォルも宣戦布告してきた。列強というから少しは骨のある相手かと思っていたが、最強の帝国軍からすれば羽虫のごとき弱軍だった。彼らを止められる存在はいないだろう。

 

「よし、本国へ帰還するぞ。任務完了だ」

 

ラクスタルはそう告げ、グレードアトラスターはその巨体を翻し去っていった。僅か5日で列強が滅ぼされたこのニュースは瞬く間に世界に広まり、たった一隻で首都を壊滅させたグレードアトラスターは生ける伝説となった。この事は日本の耳にも入ることになる。

 

 

そして時は戻り、フェン王国軍祭の日―――

 

「困ったことになった。レーダーが探知した飛竜だが、フェン王国によるとパーパルディア皇国のものである可能性が高い。しかも改良種だそうだ。対空戦闘用意」

赤松が命令し、艦隊に緊張が走る。

 

 

皇国監察軍飛竜隊は東洋派遣艦隊に先駆けて攻撃をしようとしていた。二手に分かれ、一組は町を襲い、もう一組は船を襲おうとしていた。

 

「ガハラ神国の風竜には構うな!俺たちはあの白い船を狙うぞ!降下開始!」隊長の号令にあわせ、飛竜隊は攻撃を開始する。

 

『提督!奴らはいなさに向かっているぞ!』

長門が叫ぶ。

 

「まだ撃つな!敵が発砲するまで待て!こちらから手を出すな!」

 

艦隊はいつでも撃てるように対空火器の照準を合わせる。

 

『敵機発砲!』ダンケルクが報告する。

 

「よし、対空機銃だけで反撃しろ!正当防衛射撃開始!」

 

8隻の戦艦からパッと光弾が放たれる。25mm機銃の弾はワイバーンロードの皮膚をいとも容易く貫通し、一瞬で全てたたき落とされた。

 

町を襲っていたワイバーンロードもこちらに向かってきたが、数十秒後には仲良く味方の後を追った。運良く相棒のワイバーンから落下し蜂の巣になる運命から逃れた竜騎士レクマイアを除き、全てその命を海に散らした。

 

 

「・・・・・・・・・・!!!!!!!」

 

その様子を見ていた者達はもはや言葉も出なかった。そもそも高速で空を飛び回るワイバーンは、二次元の動きしか出来ない船から落とすことは出来ない。いや、熟練の魔導術師による高位魔法や、列強神聖ミリシアル帝国の持つという対空魔光砲であれば落とせるかもしれないが、だからといって全滅などあり得ない話なのだ。

 

「な...何という力だ。パーパルディア皇国など比較にもならん。日本が味方で本当に良かった。」どこかの国の使者が呟くと、他の国の者達も頷く。我々はもしかすると、歴史が変わる瞬間を見たのかもしれない。これは驕り高ぶったパーパルディア皇国の終焉の始まりか、と―――

 

 

『目標全機撃墜確認しました。』

 

「了解。よくやってくれたな。幸い、いなさの被害は大したことないようだ。けが人が一人いるが急発進で転んだらしい。」

 

ダンケルク級2番艦ストラスブールの報告を赤松は聞いていた。ワイバーンの改良種といっても、飛行機に比べれば大したことのない速度だった。今のところ艦隊の脅威となる存在が表れない事に赤松は安堵していた。こうなってしまった以上、もはや皇国との戦争は避けられないだろう。メンツを潰された皇国が黙っているはずもない。

 

『提督、まだ敵艦隊がこちらに向かっています。迎撃に向かいましょう。フェン王国の水軍が既に向かっていますが、皇国は戦列艦を運用しているらしく、砲を持たない彼らだけでは勝てないと思われます。』

 

霧島からの通信に、赤松ははっと我に返る。

「そうだったな。よし、同盟国の危機は見逃せん。フェン王国水軍を援護するぞ!全艦出撃!」

 

佐世保鎮守府艦隊は、パーパルディア皇国監察軍を迎撃すべく、全艦出港した。

 

 

 

 

 

 

同時刻 アマノキ沖、パーパルディア皇国監察軍東洋艦隊司令、ポクトアールは不安に襲われていた。先行させたワイバーンロード部隊からの連絡が一切無く、こちらから呼びかけても反応は無い。どうやら全滅したようだ。だが、第三文明圏最強の練度を誇る皇国軍の飛竜が通信する間もなく全滅するとは考えにくい。唯一の脅威はガハラ神国の風竜隊だが、通信を送る間もなくやられるとは思えない。

 

(なにが起こっている...?何か恐ろしいものを感じる...この不安は何なのだ....)

 

「前方より敵艦隊!」

 

見張りが報告する。「どこの国だ!」

ポクトアールは気を取り直し、前を見据える。

「国旗を確認、フェン王国です!」

 

「戦闘態勢に入れ!」

 

(フェン王国の船は特に変わったところは見られないが、何か新兵器を持っているかもしれん)

 

「魔導砲の射程に入り次第一斉に砲撃せよ!」ポクトアールの指示により、フェン王国とパーパルディア皇国は戦闘に入ろうとしていた。ポクトアールの不安の正体は、すぐ近くまでやってきていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついにパーパルディアとグラ・バルカス帝国が出てきました。ありがとうございました。


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第12話 2度目の海戦と第二列強

「くっ...くそっ!!まさかこれほどの差があるとは!!」フェン王国水軍長クシラは叫ぶ。

パーパルディア皇国の戦列艦隊にフェン王国水軍はまるで歯が立たなかったのだ。

 

「これほどまでとは...これが列強かあっ!!ぐあっ!!!」

 

皇国戦列艦の砲弾が旗艦剣神に命中し、クシラは海に放り出された。

 

「畜生!!!このままではアマノキが!!!」その時、アマノキの方から巨大な影が近づいてくる。

 

「!?あれは!?日本の艦隊!!」クシラの心に希望が宿る。その後クシラと他の生き残り達は先行していたいなさに救助された。いなさはそのまま皇国艦隊に警告を始める。

 

『こちらは、日本国艦隊である。貴艦隊はフェン王国の領海を侵犯している。よって直ちに引き返せ、さもなくば撃沈する。繰り返す、こちら―――』

 

 

「なんだあの巨大船は!」

 

見張りが叫ぶとポクトアールも双眼鏡をのぞき込む。

 

(...!?あれは、魔導砲!?間違いない、飛竜隊を滅したのは奴らだ!)

 

「警告は無視し、進路そのまま!!魔導砲の射程に入った船から順に叩き潰せ!!」そう命令し、海を睨む。

 

(あれは...間違いなく皇国の最新鋭戦列艦よりも大きい...だが魔導砲の数は随分と少ないな...)そう考えていたとき、見張りが叫んだ。

 

「敵艦発砲!」

 

「何ぃっ!?遠すぎるぞ!」「威嚇射撃か?」

 

口々に皆が叫ぶ。まだこちら側の射程距離までかなりの開きがある。だがその時、空から風を切るような音が近づいてくるのをポクトアールは聞き逃さなかった。

 

「!全艦回避行動をとれ!」突然の指示にあわてて舵を切る。だが艦隊が動き出すその前に、「金剛」の放った356mm砲弾は彼らを襲った。とてつもない衝撃、直撃弾こそ無かったものの近くにいた戦列艦は高波にさらわれ転覆し、ポクトアールの乗る旗艦も大きく揺さぶられる。

 

(何という威力だ...!!!直撃でもないというのに戦列艦が沈められている!!)

 

「司令!!このままではこちらの射程距離に入る前に全滅します!!」艦長が悲痛な叫びをあげる。

 

「分かっている!全艦全速前進!!なんとしても敵を射程に捉えろ!!」風神の涙と呼ばれる魔導具を使用し、戦列艦隊は15ノットまで加速する。ポクトアールは本国に通信を入れる。

 

「こちら監察軍東洋艦隊!!未知の巨大船に攻撃を受けている!!敵艦はムー国の機械動力艦と類似しているが、白地に赤い丸の見たことがない国旗をつけている!!!!」そう言い終えたとき、彼の乗る80門級戦列艦ファーヘルは、「陸奥」の41cm砲弾により粉々に砕け散った。指揮官を失った東洋艦隊は、降伏する間もなく全滅した。

 

 

「すごい...列強の戦列艦がまるでゴミのようだ...」いなさから戦いを見ていたクシラはそう呟いた。ひとまずこれで危機は去った。彼と生き残りの部下達は無事に国へ送り届けられた。この出来事により日本は皇国への警戒を強めつつも、戦争を起こさないため現在皇国に駐留している外交官達に働いて貰うようにした。

 

 

一方、パーパルディア皇国第三外務局長であるカイオスは怒りに震えていた。未知の艦隊に監察軍艦隊が敗れたようなのだ。通信が途絶えていることから全滅と思われる。だが第三文明圏内外に皇国が勝てないほどの戦力を持つ国など存在しないはずだ。気を取り直し、彼はポクトアールからの通信にあった謎の艦隊の正体を掴むべく動き出すのだった。

 

 

 

そして、第二文明圏 ムー国某所

 

 

「うーん....」

一人の男が2枚の写真を見て唸っていた。彼はマイラス、統括軍所属情報通信部の情報分析課技術士官だ。彼の手にある写真にはそれぞれ一隻ずつ軍艦が写っていた。一方はレイフォリアで撮影されたグラ・バルカス帝国の戦艦グレードアトラスター、そしてもう一方はマイハークで撮影された日本の戦艦リシュリューであった。

 

(何という大きさだ...。恐らく全長は200mを超えている。これを動かすとなると出力も凄まじいものだろう。悔しいが恐らくこの2国は我らの技術を超えている!!)ムー国はこの世界の序列2位の列強国、そして唯一の科学文明国だ。だが、写真を見るにこの船も魔法ではなく科学の力で動いている。我が国の誇る最新鋭戦艦、「ラ・カサミ級」は、全長131m,基準排水量約15000tの船体を持ち、艦首と艦尾に装備された305mm連装砲と多数の副砲による高い攻撃力を誇る画期的な戦艦だった。だが、写真に写る2隻は見たところラ・カサミ級の全長の2倍近くありそうだった。

 

「グラ・バルカス帝国の戦艦は、とてつもない大きさの砲を乗せているな...恐らく40cmを超えているぞ。しかも9門、こちらの倍以上だ。」グラ・バルカス帝国はレイフォルを滅ぼした後、第二文明圏内外の国々に勢力を伸ばしていた。そのうちムーにも仕掛けてくるだろう。だがこの船はとても倒せそうにない。

 

「恐るべき相手だ。そして、こちらは...」もう一つの写真を手に取る。

「4連装砲..」ムーではラ・カサミ級で初めて連装砲を実用化していた。集弾性や弾詰まりなど問題も多く、やっとの思いで搭載にこぎつけたのだ。四連装砲などいつになったら実用化できるのか想像もつかない。しかも砲身が非常に長い。そしてその四連装砲を艦体前部に集中配置している。後部には副砲が3つあり、側面には対空装備と思われる小型砲と機銃が大量に並んでいた。

 

(成る程、前部に砲を置けば、弱点である舷側を敵に向けずに大火力で攻撃できるのか...面白い案だ。)「しかし...」彼には気になることがあった。現在ムーでは空母と艦載機も運用されているが、「ワイバーンや航空機では戦艦は沈められない」という考えが主流だった。しかし、ここ数年で航空機の性能は著しく上昇しており、いつかは戦艦を脅かす存在になるのではないかとマイラスは考えていたのだ。今見ていた2隻の戦艦はどちらも大量の対空砲と思われる装備を船体に乗せていた。明らかに航空機を脅威とした兵装であり、これはマイラスの考えを裏付けるものだった。彼は写真を封筒にしまい、昼食を取るため部屋を出た。

 

(日本国...興味のわく国だ。どうやら日本はグラ・バルカス帝国と違い平和的な国のようだ。いつか日本を見てみたいな...)日本のことが気になり始めるマイラスであった。

 

 




ありがとうございました。


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第13話  鎮守府の一日

今回は少し番外編っぽい内容かもしれません。


佐世保鎮守府―――

 

「よし、では次だ。入って良いぞ。」艦娘「那智」がそう言うと、部屋に見慣れない艦娘が4人入ってくる。「失礼しま~す」と、間延びした、何ともぼんやりとした雰囲気の一番艦らしき女性が答える。

 

 

「よし、座ってくれ。まず貴様らの名前、そして艦種を教えて貰う。」と那智が問う。今、佐世保では増えすぎた艦娘達の情報を一度整理するため、国を分けて同型艦に集まってもらい、面接のような形で聞き込みを行っていた。面接官には、四人の提督と真面目な性格の艦娘達が選ばれ交代制で数部屋に分かれて行っていた。那智はフランス艦の担当だ。

 

「はぁ~い、私たちはレピュブリク級戦艦で~す。私が一番艦のレピュブリクです」

 

「私は2番艦のシュフランだ。」

 

「3番艦デヴァスタシオンです」

 

「4番艦パトリーといいます。」

と、全員が自己紹介を終える。那智は手にしていた「ジェーン海軍年鑑」をパラパラと捲り、該当するページに目を向ける。

 

「うむ...1957年のフランス海軍最後の戦艦案か。鎮守府での生活で何か困っていることはあるか?」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ~。それよりも私たちは早く戦いたくてうずうずしますわぁ。」

どうやらなかなかの戦闘狂らしい。

 

「そうか、なら良かった。高性能な貴様達なら、戦闘でも重宝されるだろう。演習を怠るなよ。よし、これで終了だ。退室してかまわんぞ。」

そう告げると、彼女たちは部屋を出ていった。

 

一人になった所で、那智は一息つく。

 

「ふぅ、やっと終わったか。それにしても何という数の多さだ。これでは他の部屋の連中も苦労しているだろうな。」数十分後、書類の整理を終えた那智は今日の仕事が済んだので、自室へと戻っていった。

 

一方、ソ連艦担当の部屋でも、担当の高橋が呆れたような顔で、彼の前に座る2人を見つめていた。彼女達はレーニン級戦艦「レーニン」と「スターリン」だ。1930年代後半、ソ連の「大艦隊計画」の中の案の一つ、「プロイェークト21」にあたる。イギリスのネルソン級戦艦に影響を受けており、406mm砲を前方に9門集中配置しているのが特徴だ。

 

名前は当然ソ連の偉大な同志二人から取られている。本来ならばこの船が設計されたときに存命だったスターリンの名は付けられるはずもないが、新戦艦の名が敬愛するレーニンだと知ったスターリンが、2番艦の名前は自分の名前にしろと大騒ぎし、特例として決められたらしい。結局この戦艦は計画だけで終わってしまったのだが...。そしてスターリンのレーニン愛は、艦娘となってもなお受け継がれているようだ。スターリンはずっと姉レーニンの側にくっついて離れようとしない。

 

(はは...船の生まれ変わりが女の子で本当に良かった。もし男だったら今俺は怖いオッサンがくっついているところを見るハメになったかもしれない)

 

そんなことを高橋が思っていると、

「おいお前、今何を考えていた?レーニン姉様の下品な妄想をしていたら殺すぞ」とおっかない言葉をかけてくる。

 

もしそうだったら粛清されそうだ。一方でレーニンは由来の人物の史実を反映してか少し距離を置きたがっているようで、

 

「やめなさい。この方はあなたの上司なのよ。口に気をつけなさい。」といさめる。スターリンも姉には逆らえず、しゅんと肩をすくめた。

 

「よし、君たちのことは覚えたぞ。そのうち君たちにも出番が来るだろうから、よく訓練しておいてくれ。」そう告げると、

 

レーニンは「失礼します。」と頭を下げ出て行く。スターリンは何も言わなかったが、部屋を出ていった直後に大きな舌打ちが聞こえた。高橋は聞こえなかった事にし、作業を終わらせ執務室に戻った。

 

 

 

「入るぞ。」

 

高橋が部屋に戻ると、そこには既に二人の提督がおり、今日の書類を整理していた。

 

「やあお疲れ様、京介。どうだった?ソ連の連中は」赤松が声をかける。高橋が席に着くと、軽巡洋艦大井がお茶を持ってきてくれる。

 

「いやあ、中々パンチの強い奴らばかりだったよ。ソビエツキー・ソユーズ級に、それを発展させたクレムリン級と、すごい戦力だ。大和レベルだな。だが特に面白かったのはレーニン級の二人だな。妹のスターリンなんだが、姉にくっついて離れないんだよ。そんでこっちを睨み殺すってくらい威嚇してくるんだ。」

 

「ははは、そりゃ面白い。というかその名前で女の子の姿ってだけで面白いな。レーニンとスターリンだなんて。」

 

「その通りだな。にしてもあの姿、なんだか懐かしいと思ってたんだ。今思い出したよ。8年前、出会ったばかりの大井にそっくりだ。あの頃の大井ときたら、いつも北上さ」ゴッ「へぶっ」

 

高橋の話は途中で中断させられた。大井がお盆を手に彼の後ろに立っていた。

 

「高橋提督。もう結構ですよ?早く仕事をしてください」ニコニコとしているが、目が笑っていない。

 

「分かった分かった、悪かったって。」頭をポリポリと掻きながら高橋は謝る。

 

「そういえば千鶴はどこだ?まだおわっていないのか?」と高橋が聞くと、今度は吉川が答える。

 

「ああ、あいつならドックにいるよ。戦艦2隻の改修をするらしい。」

 

 

 

同時刻、戦艦用ドック

 

「こんなところでいいかい?」

と森高は二人の艦娘に改修設計図を見せる。彼女たちは出雲型戦艦「出雲」と「周防」だ。大和型戦艦案の内の一つ、41cm三連装砲を前方に集中配置した全長270m、排水量50000トンの物だ。何故か彼女たちの船体は草案の簡単な図をそのまま形にしたような状態で建造され、不格好で日本艦らしくない艦橋、スカスカの艦上構造物、明らかにおかしい対空機銃の配置など問題が山積みだった。一応公試をしてみたが、主砲の斉射時に対空機銃が爆風で全て壊れてしまった。こんなものを運用していたら主砲発射の度に機銃座の妖精が死んでしまう。これらを踏まえ、改装の必要有りとし、森高は考えた末、艦橋を大和と同じ物にし、対空兵装も大和に倣い舷側に合理的に大量配置することにした。これには二人も笑顔で頷いた。

 

「よし、これで改装を頼む。」とドック所属の妖精に設計図を渡す。そして二人に向き直り、

 

「改修にはおそらく一週間はかかるだろう。それまで演習は出来ないけど、適当に過ごしていてくれ。何か困った事があれば、周りにいる誰にでも相談していいからね。あと、君たちの船体を改修してくれる妖精達にもお礼を言っておくんだよ。」と森高が言うと、二人はこくこくと頷く。

 

「よし、いい子だ。」頭を軽く撫で、森高は執務室に戻っていった。

 

 

同日、川島防衛大臣宅―――

 

「こんなところかな」

 

そう呟き、彼は煙草に火を付ける。彼はずっと昔から「ピース」しか吸わない。終戦の翌年に発売されたこの煙草は、名前の通り日本の平和を祈って発売された。彼はもちろんこの煙草の味も好きだったし、何よりこの銘柄を吸うことは、防衛大臣としての彼のゲン担ぎでもあった。

 

 

ふうっ、と煙を吐き出し、彼はひとり思いにふける。フェン王国での一連のトラブル、相手は列強の一角、パーパルディア皇国だった。皇国は非常にプライドが高い国らしい。戦争を回避するのは難しいかもしれない。そこは現在皇国に滞在している外交官の朝田に託されていた。

 

それとはまた別件、鎮守府から艦娘が増えすぎて困っている、との報告があった。そして、皇国の脅威にさらされている国から、日本の軍隊を国においてほしい、という要請が来ていた。有事でもないのに自衛隊を派遣することは難しい。何より彼らは本来日本を守るための組織なのだ。そこで彼は思いついた。各国に小規模な港、そして住居を提供してもらい、艦娘を交代で派遣する、というものだ。

 

現在日本の力はいろいろな国から引く手あまたであり、双方に利のある考えと言えるだろう。これを聞いた諸国と鎮守府は承諾し、各国の港の整備が始まった。日本の建設会社も協力し、設営に携わる事になった。フェン王国での港の整備に派遣された人員の中には、高橋の兄も含まれていた。彼は建設会社の監督として、王国へと出張することになったのだ。フェン王国は、古き良き日本を思い出させる国だと言うこともあり、観光地として賑わいを見せていた。だがこれが、後の悲劇に繋がるとはこの時は誰も思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回登場したレピュブリク級戦艦は、本作二番目の完全な架空艦です。戦艦レピュブリクと調べれば画像を見ることができます。レーニン級戦艦は計画こそ存在しましたが、2番艦スターリンについては作者による完全なでっち上げのストーリーです。

戦艦出雲も、大和級の案の一つです。ネットで戦艦出雲と調べればそのおかしな姿を見ることが出来ます。改装後の姿は、「戦艦出雲 D船体」と調べれば見れます。改装後の姿は個人的にかなり好きです。



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第14話 ムーとの接触

更新少し遅くなりました。14話です。


10月6日  第二文明圏 ムー国―――

 

 

技術士官のマイラスは、外務省からの突然の呼び出しに困惑していた。しかも指定された場所は、空軍のアイナンク空港だった。この情報は彼を大いに困らせた。空港や航空会社を持つのは、ムー国と神聖ミリシアル帝国だけで、二国を上位列強たらしめる証の一つだ。

 

これまたムーの誇る最新の自動車に乗り込み、30分ほどかけて彼は空港に到着した。受付に話しかけ、案内された部屋で5分ほど待つ。カチャリ、とドアが開かれ、軍人らしき男一人と、外交用礼服をきた男が二人入ってくる。

 

「彼が技術士官のマイラス君です。この若さで第一種総合技将の資格を持っている優秀な士官です。」

 

「マイラスと申します。」外交官に挨拶する。

 

「まあ、ひとまず座ってくれたまえ。」

一同が着席し、話が始まる。

 

「さて、何から話したものか。マイラス君、今日君を呼びだしたのは、正体不明国家の正体を探ってほしいからなんだ。」

 

外交官の言葉に、マイラスはぴくりと反応する。彼には心当たりがあった。

 

「グラ・バルカス帝国の事でしょうか?」

 

ところが外交官の返答は違ったものだった。

 

「いや、違う。どうやら第三文明圏外の新興国のようなんだ。今日未明、大陸の東の海の方から港の海軍基地に謎の通信が入った。『ムー国と国交を結びたい。沖合で待っている。』と。大慌てで出港したんだ。すると、沖合にはとてつもない大きさの空母が一隻と、これまた巨大な戦艦が4隻。我らの戦艦の倍以上あったかもしれない。」

 

(...!もしや..)

 

「すいません、もしかするとその国は『日本』ではありませんか?」

 

外交官は驚いた顔をする。

「知っていたのか?」マイラスは答える。

 

「はい、以前ロウリア王国とクワ・トイネ公国との戦争について調べていたときに知った国名です。戦艦を持っていることも写真で把握しています。もしかすると、目撃された戦艦というのはこれですか?」

 

鞄からマイハークで撮影された「リシュリュー」の写真を取り出して外交官に見せる。だが彼は写真をのぞき込むと首を横に振った。

 

「いや。その船は三連装砲を三基装備していた。これとは違う。」

 

「何と...すごい国だ。」

 

「話を戻そう。向こうは空母を持っていたので会談場所をここアイナンク空港にした。当然のように彼らは承諾し、着陸許可を出した。そして空港で彼らの飛行機械を迎えたんだが、どうも不可思議な構造をしているんだ。しかも速度が160km/h程度で、先導した戦闘機が失速しそうだったんだが、その飛行機械は垂直に離着陸できるようだ。我が国の飛行機とは設計思想がまるで違うらしい。日本の技術は我が国以上の可能性が高い。一週間後に会談が行われるから、それまでに日本の大使を観光案内しつつ、探りを入れてくれ。」

 

「了解しました。」

 

「よし、よろしく頼むぞ。ああ、言い忘れていたが、日本の飛行機械は空港の東側に駐機されているから見ておいてくれ。」そう言うと外交官は立ち去り、マイラスも日本の飛行機械を見るべく部屋を出た。

 

 

そして数分後―――

 

 

「むむむむ...まるで分からない。そもそもこれを飛ばすにはかなり強力なエンジンが必要だ。プロペラと翼が一つにまとめられている...。何という技術だ。」

 

彼は冷や汗をかきながらヘリコプターの前に立ち尽くしていた。

 

 

しばらく間をおいて彼は応接室へと向かうが、その足取りは重い。日本のヘリコプターとかいう飛行機械は我が国の技術では作れないだろう。しかも彼らは巨大な空母と戦艦を運用できる富もあるに違いない。

 

「どうなることやら...」

 

彼はドアをノックし、部屋に入る。

 

 

「失礼します。今回日本の皆様を会談までの一週間ご案内させていただきます。技術士官のマイラスと申します。よろしくお願いします。」

 

マイラスが挨拶を終えると、日本の使者4人も立ち上がり、代表して一人が話し始める。

 

「日本国外務省の御園と申します。今回列強であるムー国を案内していただけるとのこと、誠にありがとうございます。よろしくお願いします。そしてこちらは手前から順に私の補佐の佐伯、派遣艦隊提督の吉川、その補佐のイントレピッドです。」

 

それに合わせ、全員が一礼する。とても丁寧な受け答えと、乱れのない服装から、彼らの規律の良さが見て取れた。彼らはすぐに出発出来るよう準備していたようだ。

 

「では、皆さん長旅でお疲れでしょうから、本格的な案内は明日からにしましょう。今日はこのアイナンク空港を案内してからホテルへご案内します。」

 

 

一同は部屋を出て、空港の格納庫に向かう。道中マイラスは質問を入れる。

 

「今回の艦隊に空母が含まれていると聞きましたが、日本も艦上で運用できる航空機を持っているのですか?」と。

 

これにはイントレピッドが答えた。

 

「はい、私たちは艦上戦闘機、爆撃機、攻撃機を運用しています。」

 

これを聞いたマイラスの頭には疑問符が浮かぶ。

 

(攻撃機とは何だ?爆撃機とは違うのか?)

それを聞こうとしたが、ちょうど倉庫に付くところだったのでやめた。時間はたっぷりあるのだ、慌てなくていい。

 

「なるほど、ありがとうございます。これが我が国の最新鋭戦闘機、マリンです。最高速度は時速380km、旋回性能はパーパルディア皇国のワイバーンロードを上回ります。」と説明する。マイラスは振り返り、日本の反応を伺う。

 

「複葉機ですか...白地に青いストライプ、とても美しい機体です。」

 

「ありがとうございます。ところで今、複葉機と仰られましたが、日本ではもしや単葉機を実用化しているのですか?」ムーでは単葉機の研究が進んでいるが、発動機の出力不足など課題が多く、実用化はまだ先になりそうだった。

 

 

「ええ、日本では殆どの飛行機が単葉です。」

 

「それは凄い。我が国では単葉機はまだ研究段階なのです。単葉機は複葉機よりも速度が向上していると考えられていますが、日本の戦闘機はどれくらいの速さで飛べるのですか?」

 

マイラスの質問に、日本の使者達はひそひそと小声で話している。なにか機密事項でもあるのだろうか。少しして、吉川が答える。

 

「日本の戦闘機は、レシプロエンジンであれば時速約800km、ジェットエンジンであればマッハ2.5、つまり音の速さの2.5倍の速度で飛行できます。」

 

 

 

「お、音速の2.5倍っ!!!!???」

 

マイラスは思わず一歩後ずさる。だが自分は列強たるムー国を代表してここにいる、恥を曝すわけにはいかない、そう自分を奮い立たせ質問する。

 

「すいません。ジェットエンジンとは何ですか?」

 

すると、やはり吉川が答える。軍事に関しては彼のフィールドだ。

 

「ジェットエンジンとは、レシプロエンジンに代わる航空機に適した小型の高出力エンジンです。機密もあるので、今ここでは詳しくお話しできませんが、国交を結べば、書店などで簡単な情報が手に入りますよ。」

 

 

「それは面白い。私個人としては是非貴国と国交を結びたいところです。そろそろホテルへ向かいましょう。皆さんこちらへ。」

 

倉庫から出て駐車場へ向かうが、ムーが誇る自動車を見た日本の使者達が何も言わなかったことから、マイラスはそれについて聞くのをやめた。どうせ彼らは車を持っているのだろう、聞いたところで虚しくなるだけだ。

 

2台に分かれ、マイラスは吉川とイントレピッドと同じ車に乗っていた。マイラスが話しかける。

 

「明日は我が国の歴史資料館を見学した後、軍港へ向かい、ムー海軍の軍艦を見ていただきたいと思います。」

 

「ほう、軍艦ですか。それは楽しみです。」と吉川が笑顔を見せる。

 

マイラスは吉川に聞きたいことがあった。懐から一枚の写真を取り出して見せる。

 

「この写真に写っている戦艦は、日本の物ですか?」と。

 

吉川は写真をのぞき込み、

 

「ああ、これはうちの戦艦です。名前はリシュリューといい、同型艦は合計3隻います。今は本国で待機しています。」と返す。

 

「おお、貴重な情報ありがとうございます。それとお願いなのですが、今ムーに来ている貴国の艦隊を見学することは出来ますか?私個人としてあなたの国の戦艦と空母にとても興味を引かれているのです。」とマイラスが聞く。

 

 

吉川とイントレピッドは顔を見合わせ、少し間をおいて頷いた。

 

 

「はい、大丈夫ですよ。ムー国を案内してくれるお礼に、私の艦隊をご案内しましょう。」

 

「本当ですか!ありがとうございます。では、明日の軍港見学後によろしくお願いします。」

 

「分かりました。こちらこそよろしくお願いします。」

 

数分後、一行を乗せた車はホテルに到着した。翌日、ムー歴史資料館にて、「ムー国も転移国家であり、転移前、日本は友好国の一つだった」という突拍子もない事実が判明する。その後、日本の使者一行は軍港に立ち寄り、戦艦ラ・カサミ等を視察する。

 

そして、マイラスの待ちかねた日本の艦隊見学となり、空母イントレピッド、そしてソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦四隻を大はしゃぎで見物した。マイラスには、自衛隊と彼ら独立軍の存在、そして日本の法律について教えた。艦娘の情報については、あまりにも非科学的であり不必要な混乱をもたらすとして、一旦見送られた。

 

結果として、転移前の友好国であったことなどが好意的に捉えられ、日本とムーは無事国交を締結する。後にこの2国はかなりの密接な関係を築くことになる。だが、戦争の暗雲は確実に日本に近づきつつあった。

 

 

 

 

 

時は進み11月18日  アルタラス王国 王都ル・ブリアス 王城―――

 

「ルミエス、今手配をしてきた。今夜中に王都から去れ」

 

国王ターラ14世の言葉に、娘のルミエスは混乱を隠せない。

 

「何故ですか?」

 

「パーパルディア皇国が我が国に宣戦布告してきた。この意味が分かるだろう?攻めてくるのは皇国の主力軍だ」

 

「そんな!民を捨てて王族が逃げるなどあってはいけません!」

 

「馬鹿者!敗れれば、我ら王族は全員処刑されるんだ。若いおまえは更に酷い目にあわされるかもしれないんだ!死んでしまっては何もかも終わりだ!生きていれば必ずチャンスが巡ってくる!」

 

「そんな...」

 

「すまん、これは王族としてではなく、父としての願いでもあるのだ。こんな私を許してくれ...」

 

「分かりました、お父様。指示に従います。」ルミエスは父の最後の願いを聞き入れる。

 

 

「すまない...こんな事になるのが分かっていたら、日本とすぐに国交を結んでいたというのに...船に乗ったら、南海海流に沿って進むんだ。今のロデニウス大陸は平和な大陸であるし、運が良ければ日本にたどり着くかも知れん」

 

アルタラス王国は今年の大東洋諸国会議に参加できず、それによって日本と国交を結べずにいた。

 

 

そしてこの日の夜、ルミエスを乗せた船は王都を去った。そして11月末、海賊に襲われていたところに駆けつけた巡視船しきしまに救助され、どうにか亡命に成功する。その一週間ほど前にアルタラス王国は皇国の攻撃を受け王は戦死。国土は皇国に占領された。ルミエスは王国の復活のため日本に援助を求めるのだった。

 




ありがとうございました。


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第15話 忍び寄る戦乱

今回は会談がメインです。よろしくお願いします。


パーパルディア皇国のもとに、少しずつ日本の情報が集まってきていた。まず国旗は白地に赤丸であること。ということは、フェン王国沖で監察軍艦隊を退けたのは日本軍の可能性が高い。だが、詳しい情報は謎のままだった。あまりにも早く全滅してしまい、生き残りもおらず、魔写をとる事も出来なかったのだ。

 

唯一の手がかりは、ポクトアールの通信だけだった。それによると敵はかなり巨大な船で、魔導砲と思しき装備をつけているようだ。だが、その砲門数は多くないらしい。そのため、大量の船で一斉に奇襲し、運良く攻撃に成功したのだろう、という結論になってしまった。そもそも文明圏外国の軍艦に魔導砲が搭載されているということすら半信半疑だった。そもそも、監察軍の戦列艦は旧式艦の寄せ集めであり、本国の軍に比べれば数も質も大きく劣る弱軍なのだ。負けたとしてもまぐれだろう。よって、

 

 

・文明圏外国の中では優れた軍事力を持っている。

 

・決してなめてはいけないが、皇国が勝てない相手ではない。

 

第一外務局は、そう結論づけた。

 

 

そしてパーパルディア皇国 皇都エストシラント 

 

 

皇帝ルディアスの住むパラディス城にて、帝前会議が行われていた。この会議にて、皇帝ルディアス直々の命令により、フェン王国への攻撃が決まった。皇国の提案を断り、生意気にも監察軍を一度退けている。

 

そもそも他国に理不尽極まりない要求をし、断られようものならすぐに軍を差し向けるのはここ十年程度、皇国の常套手段だった。それにこの命令には、日本と近づいた国は第三文明圏最強の国家たるパーパルディア皇国が直々に滅ぼす、というプロパガンダの意味も込められている。

 

このような政策は属領・属国全てを恐怖で支配している皇国からすれば当然のやり方であるが、日本人からすれば野蛮きわまりない、あまりにも非道で醜い政策だ。とても列強の一員とは思えないほどに。だがそんなことは関係ない。

 

そして、皇国軍最高指揮官アルデの了承により、フェン王国への侵攻が正式に決められた。

 

 

 

フェン王国 ニシノミヤコ 日本国派遣艦隊居留地建設現場―――

 

 

「おーい、今日はもう終わりにしよう。」

 

作業員に一人の男が声をかける。ここの作業統括責任者である、高橋信だ。現在佐世保にいる高橋京介の実の兄でもある。工事の進捗は極めて順調、一ヶ月後には完成する見込みだ。彼は仕事場を後にし、夕食を食べるため繁華街へと向かう。まるでタイムスリップしたかのような気分にさせてくれるこの国を彼は気に入っていた。最近では日本人の観光客も多く見かける。フェン王国の民は礼儀正しく誠実な性格の者が多く、両国の仲は良い。

 

 

信は暖簾をくぐり、時々利用する店に入る。

 

「よう兄ちゃん。噂で聞いたんだが、あんたあの工事現場の監督なんだって?知らなかったよ。」

 

気さくな主人が話しかけてくる。

 

信も「はい、実はそうなんですよ。後一ヶ月もすれば完成すると思います。」と笑顔を浮かべる。

 

料理をいくつか頼み、出された料理に舌鼓をうつ。決して派手さはないが、素朴なほっとする味だ。

 

料理を終えた主人がまた彼に声をかける。

 

「俺ぁこの間の軍祭であんたの国の船をみたよ。とんでもねぇ力だ、これでもうパーパルディアのクソッタレなんか怖くねえぜ」そういって豪快に笑う。

 

信は誇らしい気持ちになった。弟の艦隊がこの国を守ってくれる。そしてその準備をするのは自分なのだ。気分が良くなった彼は少しだけ酒を飲んで、宿舎へと帰って行った。

 

 

 

 

翌日、皇都エストシラント   第三外務局

 

 

 

日本国外務省職員である朝田、篠原と、第三外務局長カイオスとその部下達が会談を行っていた。今まで門前払いをくらってばかりだったというのに、突然局長との会談となった。朝田と篠原は若干面食らっていた。

 

カイオスが口を開く。

 

「本日はいかようで?日本の使者殿。」

 

「はい、私たちは不幸な行き違いから衝突してしまいました。して、関係修復と国交樹立の可能性を模索しに参りました。」

 

だが日本は、皇国の性質から戦争を回避するのはかなり難しいのではないのかと判断していた。それでも平和国家として、なるべく争いは避けたい。外交はもはや最後のチャンスだ。正当防衛とはいえ、日本は一度皇国軍と交戦してしまっている。

 

 

だがスタートダッシュは最悪だ。朝田の言葉にいきなり皇国の人間が噛みつく。

 

「何だとぉっ!!監察軍に攻撃を仕掛けておいてっ!!不幸な行き違い!!??ふざけているのかっ!!!」

 

だが朝田は怯まない。眉毛一つ動かさず、冷静に言葉を紡ぐ。

 

 

「先に攻撃を仕掛けて来たのはあなた方です。私たちは降りかかった危険を排除したのみです。そもそも文明国でありながら突然攻撃をしようとするから悪いのです。非はあなた達にあるのは明白です。」

 

「なんだとおっ!!!」男の目は血走っている。

 

 

カイオスが制し、話し始める。

 

「なるほど、関係修復ですか...。失礼ながら私を含む皇国民は、日本について殆ど知りません。それこそ名前だけ、という具合です。」

 

これに朝田は笑顔を見せ、鞄から紙を出して手渡す。

 

 

「今はこんな物しかありませんが、どうぞ。写真付きです。」レポートをカイオスに手渡す。

 

 

カイオスの目の色が変わる。そこには信じがたい情報が記されていた。国土面積は皇国よりも狭く、特筆すべき事はない。だが人口は一億二千万人とある。皇国の七千万人よりも多い。さらに驚くべき事が書かれていた。

 

カイオスは思わず聞く。

 

「失礼、朝田殿。転移とはどういう事か?」

 

だがこれが本当であれば、日本について今まで認知しておらず、最近になって突如現れたことも辻褄が合う。だからといってこのような神話のような話をはいそうですかと納得できるわけではない。

 

「原因については、目下調査中ですが、まだ分かっていません。最後にお願いなのですが、特使を日本に派遣していただきたいのです。皇国大使の目で、直に日本を感じていただきたいのです。」

 

 

血気盛んな部下を黙らせ、カイオスは考え込む。

 

「申し訳ありませんが、内部事情によりすぐには決められません。宿はこちらで手配しますので、二ヶ月ほど待っていただきたい。準備が整ったら手紙を出しますので、今日はひとまずお開きとさせて下さい。」

 

「なるほど...分かりました。」朝田も了承する。

 

「ふっ...。では、二ヶ月後が楽しみですな。」

 

カイオスは不気味な笑みを浮かべる。こうして、初めての会談は終了した。

 

 

 

「カイオス様、なぜあのような丁寧な対応を?文明圏外国など、いつも通り脅してしまえばよいのです。」

 

部下は少し不満げだ。カイオスは答える。

 

 

「ふふ...。私に少し考えがあってな。不満もあるだろうが、皇帝陛下のためだと思ってくれ。」部下はおとなしく従った。この国において皇帝は絶対なのだ。

 

 

 

それから2週間後、年が変わった1月18日―――

 

フェン王国より200km地点、そこにはとてつもない大艦隊が、東に向かって航行していた。パーパルディア皇国がついに動き出した。懲罰攻撃などという手ぬるいものではない。滅ぼすための艦隊だ。合計324隻の艦隊は、帆に風を受けつつフェン王国へと向かう。指揮官のシウスは海を睨む。前回は監察軍が破られている。油断してはいけない。彼は手をぐっと握った。フェン王国に危機が迫っていた。

 

 

 

東京 総理官邸―――

 

 

官邸は大騒ぎだった。人工衛星により、パーパルディア皇国からフェン王国に向かって大艦隊が向かっていることが分かった。フェン王国には日本人が多くいる、彼らを守らなければならない。だが、退去命令を出したところで向こうは電話もない国、情報が伝わる速度は遅い。フェン王国を守るための駐屯地は完成間近だった。だが、皇国の行動が予想よりも速かったため、現地にはまだ戦力はない。日本から船を出すには遅すぎ、飛行機は余裕が少なく、全員を救助するには心許ない。

 

 

「くそっ!!!」

 

川島は頭を抱える。こういった有事の際、いつもこの国は対応が遅すぎる。こうしている間にも皇国艦隊はフェン王国に近づいている。

 

 

危機はとうとう目の前まで来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。お兄さんの名前は、「まこと」と読みます。


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第16話 悲劇

今回は暗い内容です。


一月十八日、パーパルディア皇国皇軍は、ついにフェン王国の都市ニシノミヤコへの本格的な侵攻を開始した。将軍シウス率いる皇国軍を相手に、フェン王国軍は必死に抵抗した。だが、質でも数でも劣る王国は次第に兵士の数を減らし、ついにニシノミヤコは陥落した。

最終的に、フェン王国は兵士1000人が死亡、一方のパーパルディアは22人の犠牲にとどまった。

 

 

 

翌日――― パーパルディア皇国 第一外務局

 

日本国大使の朝田と篠原は、突然の出頭命令に困惑していた。そもそも対等な国と国との間で命令とは傲慢きわまりない。

 

第三外務局長カイオスは、皇帝の命令「蛮族に教育を行え」との指示を守らなかったとされ、日本との担当を外されていた。そのため、朝田と篠原は第一外務局に向かっていた。

 

「外交担当が変わったのはまだいい!だが命令とはどういうことだ」

 

朝田も篠原も不満げだ。この二人は皇国に来てからというものストレスがたまる出来事ばかりだ。

 

 

乗り心地の悪い馬車に揺られ、皇宮の門に到着した。第三外務局よりも遙かに格式の高そうな建物が見えてくる。朝田達は馬車から降り、入り口へと向かう。

 

門番に声をかけると、彼は確認に行き、少しして戻ってきた。

「どうぞ、お入りください。」

 

一礼して、二人は入室する。部屋には、一目でわかる程の豪奢な服を着た若い女性が座っていた。おそらく身分の高い者なのだろう。顔立ちは美しいが、その目は氷のように冷たく鋭い。

 

彼女は話し始める。

「パーパルディア皇国第一外務局のレミールだ。

 お前たち日本の外交担当だと思ってくれていい。」

 

「日本国外務省の朝田と篠原と申します。急な呼び出しでしたが、いったい何の用件でしょうか?」

 

「いや、今日はな...お前達に面白い物を見せてやろうと思ってな。」

そう言うと、使いの者が巨大な水晶のような物を持ってくる。

 

「これは、魔導通信を発展させ映像を付けたものだ。これを実用化しているのは我が国と神聖ミリシアル帝国くらいのものだ。」レミールは自慢げに語る。

 

だが朝田達は驚きもしない。大きいテレビのような物だろう。そんなものどこでも見れる。

 

「これを起動する前に、貴様達にチャンスをやろう」

そう言うとレミールは朝田に質の悪い紙を渡す。共通語で書かれたそれは、信じられない内容だった。

 

・日本国の王は皇国人とし、皇国から選ばれた者を置くこと

・日本国の法は皇国が監視し自由に改正できるものとする

・日本国は今後皇国の許可なしに新たな国と国交を結んではならない。

・パーパルディア皇国民は日本国民の生殺与奪の権利を有する。

等々・・・・これでは属国以下、植民地レベルだ。認められる訳がない。朝田は呆れて大きくため息をついた。

 

「どういうことですか?国交どころかこれでは植民地です。対等ではありません。」彼は抗議を行う。

 

 

「皇国の力を知らない者の愚かな発言だな。当初粋がっていた蛮族も我が皇都エストシラントを見れば力の差を理解するというのに、お前達は治外法権を認めないという。まるで列強国のような態度だ。この程度で済んでいることをありがたく思ってほしい位だ」

レミールは一度言葉を切る。

「では問おう。大人しく従うか、それとも滅びるか」

 

朝田はもう腹をくくっていた。本来はこれは国に一度持ち帰るべき案件だ。だが、日本の意志は殆ど既に決められていた。これ以上皇国の横暴に付き合ってまで弱腰の姿勢を続けて何になる。

 

「お断りします。我が国は皇国の植民地にされるつもりはありません。日本が望むのは対等な関係です」

 

 

レミールは悪魔のような笑みを浮かべる。

「そう言うと思ったぞ...愚かな蛮族どもめ。やはり教育が必要なようだな。これを見るがいい」

そう言って、指を鳴らす。すると、水晶に画質は粗いが映像が映し出される。そこには見慣れた服装の者達が首に縄をかけられ、一列に繋がれていた。日本人観光客と作業従事者だ。

 

「皇国軍は先日、フェン王国のニシノミヤコを占領した。こやつらは、スパイ容疑で拘束している。」

 

朝田は抗議する。

 

「日本人!?彼らはただの観光客だ、スパイな訳がないだろう!!非戦闘員に拘束するなどあってはならない!!即刻開放を要求する!!」

彼には焦りが見える。ニシノミヤコ陥落の情報は二人には伝わっていなかったのだ。完全に想定外の出来事だった。

 

これにレミールは激高する。

「蛮族ごときが私に要求するだと?立場をわきまえぬ愚か者が」通信用魔導具を手に取り、言い放つ。

 

 

 

       「・・・やれ」

 

「・・・まさか!!?」

 

朝田の目の前で悪夢のような映像が流れる。恐ろしい笑みを浮かべた男が、一人、また一人と日本人の首を切り落としていく。彼らの悲鳴はとても聞いていられない。地獄絵図だ。

 

「やめろぉっ!!!自分達が何をしているのかわかっているのかっ!!!今すぐやめさせろっっっ!!!」

 

朝田は掴みかからんばかりの勢いで叫ぶ。こうしている間にも次々と日本人は殺されていく。

 

 

レミールは恍惚の表情で告げる。

 

「ニシノミヤコには200人程度の日本人がいたが、首都アマノキにはどれくらいの日本人がいたか?そこにいる者共を救いたければ、アマノキが落ちるまでに皇国の要求を認めろ。最後の猶予だ、有り難く思え。それによってアマノキの日本人と、日本国の運命も決まるであろう。」

 

 

 

朝田は怒りで震える。

「ふざけるな!!!何の罪も無い日本人を殺した時点であなた達も、皇国の運命も決まった!!!今回の出来事は日本とその一億二千万人の国民を激怒させるだろう。私たちの国力を知らず、いや知ろうともしないでこんな愚かな行動に及んだ事すら信じられない!!こんな野蛮な列強国など見たことも聞いたこともないっ!!この首謀者には必ず償いを受けてもらう。日本の本当の実力を知ったときのあなたの顔を見るのが楽しみだ」

 

会談は終了した。皇国による虐殺は、政府に伝えられた。そして―――

 

 

 

同日、佐世保鎮守府

 

四人の提督と今日の秘書官達は、執務室で作業にあたっていた。高橋が水でも飲もうと席を立ったとき、部屋にあった電話機からファックスが送られてきているのに彼は気づいた。紙を取り、目を通す。どうやら皇国との交渉は失敗したようだ。ところが―――

 

 

「!?」

 

彼は恐ろしい物を見た。日本国大使が皇国の要求を拒否したところ、皇国の担当者は激高し、日本人捕虜を虐殺したそうだ。もう一枚の紙に、犠牲者の名前が記されているらしい。高橋は嫌な予感がしていた。ニシノミヤコ陥落の話は来ていたが、戦争をしていない国の非戦闘員を手に掛けることはないだろう、と思っていた。震える心をどうにか落ち着かせ、二枚目の紙に手を伸ばす。だが彼の希望は無惨にも打ち砕かれた。見てしまったのだ。

 

名簿の中の「高橋 信」の文字を―――

 

「あ....ああぁっ」

体はカタカタと震え、呼吸が乱れ始める。

 

「おい、どうした京介!」異変に気づいた森高が駆け寄ろうとした瞬間、高橋は叫んだ。

 

 

「っああああああっ!!!??嘘だぁーーーっ!!!」

 

そしてそのまま、糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちる。床にぶつかりそうになったところをすんでのところで森高が受け止めた。

 

「おい、どうした京介!!しっかりしろ!!!」

 

森高が必死に声をかけるが反応がない。彼は気絶してしまっていた。

 

「おい!これを見ろ!」

 

そう言って赤松がファックスを見せる。その場にいた全員が視線を向ける。

 

 

「!まさか!京介の兄さんが!!」

 

全員が理解した。日本国艦隊居留地建築責任者であり、高橋京介の兄である高橋信は殺されてしまったのだということを。

 

 

 

気絶した高橋をひとまず部屋に寝かせ、他の提督は政府への事実確認などをした。だがやはり彼の兄は殺されてしまったようだ。

 

 

夜になり、高橋は目を覚ましたが、部屋に閉じこもってしまっていた。彼に寄り添う者が必要だとして、最も長いつき合いの霧島が部屋に向かった。

 

 

「失礼します。」

 

部屋をノックし、返答があったので、彼女は部屋に入る。そこには頬を赤く腫らした高橋がいた。

 

「霧島...聞いてくれよ、悪い夢を見たんだ。」

 

うつろな目をして話す高橋を霧島は見つめ、一呼吸おいて伝える。

 

「高橋提督...それは、夢ではありません...」

 

高橋の動きがぴたりと止まり、ゆっくりと霧島に向き直る。

 

  「やめろよ...嘘だといってくれよ...霧島?」

 

彼の目から大粒の涙がこぼれる。彼が人前で涙を見せることは滅多にない。自衛隊の厳しい訓練で弱音一つあげなかった彼も、家族の死は耐えられなかったのだ。

 

 

「嘘ではありません...提督のお兄さまは、フェン王国で殺されてしまいました。」

 

霧島はゆっくりと告げる。これを伝えるだけでも彼女は怖かった。愛する提督の心が壊れてしまわないかと。

 

 

だが、涙を流しながらも少し彼は落ち着いたようだ。

 

 

「霧島...少し話を聞いてくれないか?」

 

 

「もちろんです、提督...」そう言って彼の隣に座る。

 

 

「ありがとうよ...おれの兄貴は―――」

 

そう言ってゆっくりと話し出す。自分の過去をあまり話さない高橋であったため、霧島は兄がいることしか知らなかった。

 

彼は、自分が中学生、兄が高校生の時に両親を交通事故で亡くしていた。買い物帰りの両親に、老人の運転する車が信号無視でぶつかったのだ。だが、その時に負ったけがが原因で裁判を前にその老人は死亡し、結局不起訴処分になった。両親を失った京介は深く傷つき、いつしか学校をさぼりがちになった。

 

 

成績の良かった兄の信は、弟を養うために大学進学を取り消し、建設会社へと就職した。彼らの祖父母が二人を引き取ることになり、働かなくてもよいと言ってくれたが、信は結局建設会社に入社した。

それを知った京介は高校卒業後、自衛隊に入隊した。

いつまでも兄と祖父母に負担をかける訳にはいかなかったのだ。そして現在に至る。

どれも霧島の知らないことだった。ここまで波瀾万丈の人生を歩んでいたなんて...。今の明るい姿からは想像もつかない。

 

 

「結局俺は...最後まで兄貴に謝れなかった。俺が学校をサボっていても、優しいあいつは俺をいつも慰めてくれた.....。俺は兄貴に迷惑をかけっぱなしで、謝ることすら出来なかった!!」

 

また声が上擦ってしまってきていた。

 

 

「国民を守るための自衛隊に入って、この立場まで来たというのに...俺は...俺はっ...家族一人の命さえ守れなかった!!」

 

霧島は思わず彼を抱きしめる。高橋も少し冷静になる。

 

「すまない、霧島...」

 

「いいんです、提督...いや、京介さん。すべて打ち明ければ、少しは楽になります。私はいつも隣にいます。」

 

「そうだった...俺には、まだ家族がいた...お前達だ。ありがとう霧島、だけど...」

 

「京介さん...家族を失う苦しみは私たちにも分かります。戦時中、私は姉妹の中で一番早く沈んでしまいました。この姿となってからは、誰も仲間を失っていませんが、そうなることを考えただけでも恐ろしいです。今は泣いたっていいんです。ゆっくりでいいんです。また、あなたは立ち上がって、私たちを引っ張ってくれますから」

 

 

そう言うと高橋は感極まったようにまた泣き出した。

 

「大丈夫...大丈夫ですよ、京介さん..私たちがいます」

 

 

そうして、その日の夜、高橋は霧島に抱かれたまま一晩中泣いた。

 

同じ日に、政府はこの虐殺事件を国民に発表した。

 

この出来事は、長年平和を保ち続けてきた日本と、

仲間の心を傷付けられた鎮守府を本気で怒らせる事になる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少しばかりありきたりかもしれませんが、話の転換点として暗い話にしています。
ありがとうございました。


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第17話 怒り

復活しましたが、スマホの状態が不安定なため更新遅めになるかもしれません。
それではよろしくお願いします。


翌朝 佐世保鎮守府

 

朝食を終えた後、大講堂に全ての艦娘達が集められていた。政府の発表を朝のニュースで見ていたので、なにか行動に出るのだろうと彼女たちは思っていた。

 

 

扉が開き、提督達が登壇する。だがそこに高橋の姿はなかった。

艦娘達が不思議に思っていると、吉川が話し出す。

 

 

「みんなもう知っていると思うが、パーパルディア皇国はニシノミヤコにいた日本人を虐殺した。

そして、その犠牲者には、高橋京介の兄である高橋信さんも含まれていた。」

 

「―――!?」

全員の表情が強ばる。何とひどい話だ。

部屋に殺気が充満していく。大切な仲間を傷付けられて黙っていられる筈もなかった。

 

 

「落ち着けお前ら。まずは犠牲になった方々の冥福をお祈りするぞ。」

 

吉川に合わせて、全員が黙祷する。

 

 

少しの沈黙の後、今度は赤松が口を開く。

「ニシノミヤコが陥落し、次は首都アマノキが狙われるだろう。政府は日本人と同盟国の危機を救うため、

パーパルディア皇国の排除を決めた。当然、俺たちにも仕事が来ている。陸上自衛隊が到着する前に、皇国の艦隊を全て沈めるぞ。

それと、防衛大臣からメッセージが届いている。

 

 

―――容赦はするな。責任は私たちが負う、とな。」

 

この言葉に全員が思わず武者震いしていた。政府のお墨付きだ。高橋提督の無念を晴らすことが出来る。

 

その時だった。扉を開け、高橋と霧島が入室してきた。

全員が驚いた顔をし、提督達が駆け寄る。

 

「京介!大丈夫なのか...?その..?」

 

大丈夫な訳がないだろう、大切な家族を失ったのだ。

だが高橋は、笑顔を見せて答える。

 

「ああ、大丈夫だ。昨日はすまなかった。それと..」

 

「何だ?」

 

「今回の作戦の指揮は俺に任せてほしい。

兄貴の弔い合戦だ」

 

「...よし、分かった。皇国の奴らに目に物見せてやれ」

 

こうして、今回の行動は高橋に委ねられる事となった。

 

同日、フェン王国を救うべく、佐世保鎮守府から大艦隊が出撃した。今までにない数の艦船が佐世保を出て行く。それは、高橋の怒りを体現しているかのようだ。

 

今回の編成は以下の通りだ。

 

戦艦

 

・霧島(金剛型、旗艦)

・大和型(大和、武蔵)

・出雲型(出雲)

・アイオワ級(アイオワ、ウィスコンシン)

・リシュリュー級(ジャン・バール)

・ガスコーニュ級(ガスコーニュ)

・クレムリン級(スラヴァ)

・レーニン級(レーニン、スターリン)

・キング・ジョージ五世級(ハウ)

・モナーク級(モナーク)

・ヴァンガード級(ヴァンガード) 計14隻

 

空母

・加賀型(加賀)

・赤城型(赤城)

・翔鶴型(翔鶴、瑞鶴)

・グラーフ・ツェッペリン級(グラーフ・ツェッペリン)               計5隻

 

 

巡洋艦

・妙高型(那智、足柄)

・高雄型(摩耶、鳥海)

・最上型(最上、三隈)

・アドミラル・ヒッパー級(アドミラル・ヒッパー)

・スターリングラード級(スターリングラード)

・アンリ四世級(アンリ四世)

・エミール・ベルタン級(エミール・ベルタン)

・ザラ級(ザラ、ポーラ)  計11隻

 

その他駆逐艦多数

 

 

 

戦艦だけでも14隻の戦力、過剰かもしれない。

だが誰もそんな事は言わない。仲間を傷つけた皇国に報復するのだ。

 

三人の提督達と今回出撃しない艦娘達は港から見送る。

その胸中は皆同じだ。高橋が怒りにかられて暴走するようなことがないかと。

(霧島...京介を頼んだぞ)

 

 

そう祈り、煙が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

一方、霧島 艦橋内

 

「京介さん...本当に大丈夫ですか?」

「ああ...かなり落ち着いたよ。無茶はしないさ」

そんな会話が交わされていた。

 

艦隊はフェン王国へと向かっていく。

 

 

 

 

その頃 フェン王国 アマノキ

 

 

「なに!!それは本当か!!」

 

剣王シハンは思わず立ち上がる。この時を待っていたのだ。

「はい!日本国が艦隊を派遣したと通知がありました!」部下が報告する。

 

 

「よし!!よし!!」シハンは思わず拳に力が入る。

フェン王国首脳達の気分はいつになく高揚していた。

 

 

同日  皇都エストシラント

 

日本と皇国は再び会談を行っていた。

 

「急な来訪だな。まあ、国の存亡がかかっているのだから当然か。」

 

レミールが嫌みな笑いを浮かべる。

 

朝田は、臆せず話す。

「今から伝える内容は、日本国政府の正式な決定です。私たちはパーパルディア皇国に対し、以下の要求を致します」そう言って、紙を渡す。

 

(譲歩を引き出すつもりか?小賢しいな)

だがその内容は彼女の予測と全く異なる物だった。

 

・皇国は、フェン王国から即時に兵を撤退させること

・虐殺に関与した者を日本に引き渡すこと

・日本とフェン王国に公式に謝罪と賠償を行うこと

・今回の虐殺に対し、日本人遺族に賠償を行うこと

・その金額は、被害者遺族に対し、一人当たり一億パソ

(皇国通貨)を金に換え、支払うこと

 

「何だ!?これは!!」レミールは思わず大声を上げる。

 

「これに従って戴けないのであれば、日本国は強制的にフェン王国から皇国軍を排除します。もちろんこれだけでは終わりません。そして、貴方にも虐殺の容疑がかかっていますので、引き渡しに応じてもらいます」

 

「・・やはり蛮族だな。皇帝陛下の御慈悲が分からぬとは。そこまでして滅びたいのか?」

 

「いえ、私たちは平和を愛しています。だからこそ、我らの平和を脅かす野蛮人には消えていただきます。」

 

「愚か者どもめ...」

 

日本国の意志は明確に伝えた。あとは()()の仕事だ。会談は終了した。

 

 

 

 

 

しばらく後、フェン王国まで200kmを切った。

 

高橋が空母部隊に告げる。準備は既に出来ていた。

 

     「・・・第一次攻撃隊発進」

 

これを受け、空母5隻から次々と飛行機が飛び去っていく。目的はニシノミヤコ沖の皇国竜母艦隊に一撃加えることだ。

100機を超える攻撃隊は、翼をはためかせ勇ましく飛んでいった。

 

 

少し後   ニシノミヤコ沖30km 竜母艦隊

 

この艦隊の副司令アルモスは、満足げに微笑んでいた。

彼の目の前には皇国の誇る技術の結晶、竜母が並ぶ。

 

彼は横に控える竜騎士長に話しかける。

 

「竜騎士長、やはり皇国軍の強さの秘訣はこの竜母にある。戦列艦も素晴らしいが、この竜母さえあればワイバーンによるアウトレンジ攻撃が出来る!結局制空権を取った側が制海権、制地権を手にするのだ」

 

「先進的な考え方であります!!」

 

「そして見よ!この最新鋭竜母、旗艦ミールを!!

戦列艦の砲撃にも耐える事が出来る装甲を施した美しい艦だ!!これこそ皇国の無敵の象徴だ!」

 

 

確かに先進的、優秀な考え方だ。だが彼らは知らない。

同じ戦略を持つ者達が今まさに向かっていることを。

 

   ウゥゥゥゥゥゥゥゥ―――!!!

 

恐怖を煽る、甲高い音が空から聞こえてくる。

 

「何だ!?」空を見上げると、何かが空から急降下してくる。音の正体はそれのようだ。

 

 

第一次攻撃隊の、空母グラーフ・ツェッペリン所属Ju87部隊は、少し先駆けて攻撃を行おうとしていた。

 

部隊長が命令する。「行くぞお前ら。叩き潰せ」と。

隊長機を戦闘に、13機の爆撃機が一斉に急降下を始める。聞く者に恐怖を与える音を発しながら・・・

 

 

「てっ...敵襲っ!!」見張り兵が叫ぶがもう遅い。

計13発の500kg爆弾が艦隊を襲う。

 

その内の一発が旗艦ミールに命中した。

いくら装甲を持たせたといっても、500kg爆弾は流石に想定していない。装甲を突き破り、大爆発を起こしてあっさりとミールは沈没した。

 

 

「ばっ、バカなっ!何が起きた!!」一瞬で十隻近くを沈没させられたことに理解が追いつかない。

 

――恐怖はそれだけに終わらなかった。

 

 

 

「敵機再び接近!!!」悲鳴のような報告が来る。

今度は先ほどの数を大きく上回る、おそらく100機近い敵機が急降下していた。完全な不意打ち、警戒の飛竜も飛ばしていなかった。抗う術は無い。

 

「くっ、くそぉっ!!こんな、こんなことが―――」

アルモスの悲痛な叫びは爆発音にかき消された。

100発以上の爆弾により為すすべもなく竜母艦隊は全滅した。

 

 

 

 

 

『あーあ、急降下爆撃隊が全部片づけちゃいましたよ。どうしましょう提督?』

九七艦攻隊長からの通信が入った。

高橋は厳しい表情を変えず返信する。

「ニシノミヤコ方面へ向かえ。皇国の戦列艦隊がいるはずだ。爆撃を行い帰還しろ」

『了解。ニシノミヤコへ向かいます』通信が切られる。

今回九七艦攻隊は魚雷ではなく爆弾を搭載している。

 

 

 

 

「俺たちもニシノミヤコに向かうぞ。全艦全速」

主力艦隊も同じく舵を切った。

 

 

 

 

同時刻、ニシノミヤコ近くに皇国の大艦隊は展開していた。その中でも一際大きい120門級戦列艦、パールに乗る将軍シウスは西を見たまま固まっていた。

少し前、竜母艦隊の方で凄まじい爆発音と、少し遅れて爆煙が上がるのを見ていた。

そしてその頃から、竜母艦隊と連絡が取れなくなっている。未知の敵による攻撃の可能性があるため、偵察の飛竜を向かわせ、艦隊も戦闘態勢に入っていた。

 

 

(もし竜母艦隊が全滅していたら...。)

彼の背に冷や汗が流れる。敵の正体は想像もつかない。

いや、そもそもここ第三文明圏最強である皇国艦隊が報告も出来ず全滅することなどありえるのか?

 

だがもう後には引けない。

誇り高き皇国軍に、敗北や撤退という言葉は無いのだ。

 

未知なる敵に備え、彼は行動に移る。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ついに陸上自衛隊もアマノキに出発し、日本人とフェン王国を守るべく準備を進めていた。

 

皇国軍も、既に陸戦隊をアマノキに差し向けており、戦いは間もなく始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第18話 報復のニシノミヤコ沖海戦

パーパルディア皇国 戦列艦隊

 

「哨戒中の飛竜が南に敵騎発見!!」見張りのワイバーンが高空を飛ぶ敵を見つけた。

 

「!来たか!!直援隊飛竜は直ちに目標に向かえ!他のワイバーンも準備でき次第離陸せよ!」陸上基地のワイバーン部隊に向かってシウスは指示を出す。既に警戒態勢に入っていたこともあり、基地から次々とワイバーンロードが飛び去っていった。

 

「頼むぞ...」シウスは一人呟いた。

 

 

数分後、空母より発艦した水平爆撃隊も、飛竜が近づいていることを確認していた。

直援の零戦が増槽を落とし、編隊から離れてゆく。

いくら金属製の九七艦攻でも、火に当てられて無傷で済むことは無い上に、ワイバーンロードは最高時速約350km/hと、艦攻とそこまでの速度の差はない。十分な脅威だ。

 

 

零戦隊は高空から太陽に隠れ、一斉に急降下を開始する。最初の一撃で仕留めるつもりだ。

夕立のような激しい弾幕が飛竜を襲う。

 

 

(何だ!!どこから攻撃が!!)皇国飛竜隊所属のとある竜騎士は混乱の最中にいた。突然彼の前を飛んでいた仲間達が次々とズタボロにされたのだ。隊長騎も落とされてしまい、編隊はバラバラだ。

 

 

必死に相棒を操り、彼は周りを見渡す。すると、白い奇妙な鉄竜が、味方の飛竜を今まさに落とそうと追いかけていた。こちらに向かってきている、絶好のチャンスだ。

 

急旋回し、凄まじい圧力に耐えながら、まさに一瞬敵機と自分が一直線に並んだ。彼にはまるで時間が止まったように見えた。

 

「くたばりやがれ!!!」

 

導力火炎弾を敵めがけて発射した。必中の距離だ、外しはしない。ところが―――

 

「!?消えた!?」

 

彼の視界から敵はいなくなっていた。

 

(どこだ!?どこにいる!??)

 

そして、後ろから恐ろしい音が聞こえてきた。彼が振り向くと、間違いなく倒した筈の敵機がそこにいた。

 

 

「そんな、そんなばかな―――!?」

それを言い切る前に、彼は7.7mm機銃によって愛機もろとも蜂の巣になった。最後に彼が見たものは、悠々と飛び去っていく敵機と、その尻尾に描かれた「EII-102」の番号だった。

 

 

『敵機全機撃墜しました』

 

僚機からの通信に、彼は頷く。最高の練度を誇る彼らにとって、こんなもの簡単すぎる任務だ。

「よくやった。引き続き味方を護衛し、敵基地への攻撃を行うぞ」

そう返信し、艦攻隊に戻っていった。

 

 

そして、艦攻隊は全機ニシノミヤコに突入した。上がってきた少しのワイバーンは一分もたたずに零戦隊に退けられた。

 

そして、九七艦攻隊は敵艦隊ではなく、地上の基地に向け爆撃を行った。水平爆撃は命中率がどうしても高くならないため、艦隊は狙わなかったのだ。攻撃を終えた艦攻隊は引き返し、零戦隊はアマノキに向かった皇国陸上戦力を叩くべく去っていった。

 

 

 

将軍シウスの心には怒りと恐怖が渦巻いていた。警戒に上げた飛竜はあっさりと全滅、少しして敵が空高く飛んできた。こちらに攻撃を仕掛けて来るものと思っていた。だが、あろうことか敵は艦隊を無視して陸上基地に攻撃した。完全にこちらを嘗めているとしか思えない行動、だが飛竜が全て落とされてしまっているので何も出来ない。あまりにも小賢しい行動に彼のイライラは限界だった。

 

 

その時だった。

 

「将軍!水平線の向こうに煙が。」副司令が報告する。

 

シウスが双眼鏡をのぞき込むと、確かに遠くに何本もの煙が見える。

 

「何だ?あれは」

少しして彼らはその正体を知った。それはとてつもない大きさの船だった。

「何だ!?とんでもない大きさだ!」副司令が叫ぶ。

 

 

一方でシウスは少し冷静だった。改めて敵艦を睨む。

「あれは...神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦?いや、まさか、それよりも大きい!?ということは!?」

 

あることに彼が気づいたとき、その巨大船は突如火を噴いた。シウスは大慌てで指示を出す。

 

「まずい、すぐに回避行動を取れ!!」

 

だが、部下達は楽観的な様子だ。

 

「どういうことです?まだ敵とは距離があります、届くわけがありません」これにシウスは思わず怒鳴る。

 

 

「馬鹿者っ!!あれは間違いなく神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦と同等、いやそれ以上かも知れない敵だ!ということは既に敵の射程に我々は入っている可能性があるのだ!!」

 

それに従い、ようやく艦隊が転進しようとしたその時、彼らのちょうど中央部にとてつもない高波が上がり、まるで紙屑のように皇国の戦列艦が宙を舞う。これを見て流石にシウス以外の者達も危機を理解した。

 

「まとまらず距離をとって敵艦隊に進め!!固まっていては敵の餌食だっ!!」

シウスは必死に指示を出すが、これで本当に勝てるのかは分からなかった。

 

 

日本国艦隊―――

『敵艦隊散開し、こちらに接近しています』

駆逐艦「磯波」から通信が入り、高橋は双眼鏡で前方を見据える。おそらく200隻近くの大艦隊だ。砲撃で複数が巻き込まれないように、距離を取っているのだろう。

 

 

「戦艦、巡洋艦全艦に告ぐ。敵艦隊に対し、全力砲撃で片づけろ。今からデータを送るから、各艦割り振られた目標に対し攻撃せよ。ただし―――

 

 

   敵旗艦とその横の2隻は残しておけ

 

 

この指示に艦娘達はよくわからないといった表情に一瞬なったが、直ぐにもとに戻った。何か考えあってのことだろうし、上官命令にけちをつけるなど御法度だ。

 

『『『『了解しました!!』』』』

と同時に返事をする。

 

「任せたぞ。射線に入った船から攻撃開始せよ」

そう言って通信を切った。

 

 

そうして、戦艦14隻、巡洋艦11隻、計25隻の軍艦達が砲撃を開始する。完全なアウトレンジ攻撃にパーパルディア皇国戦列艦隊は何の抵抗も出来ず次々にその数を減らしていった。そしてようやく魔導砲の射程内まで近づいた時、211隻いた艦隊は何と3隻にまで数を減らしていた。シウスの乗る旗艦パール、それと左右にいた100門級戦列艦インドラ、フィスタのみ健在だった。

 

 

 

「ぐっ……くそっ!!信じられない!」シウスは叫んだ。ついに艦隊は僅か3隻にまでその数を減らしてしまっていた。ここまでやられるとは思っていなかったのだ。だがついにこちらの魔導砲の範囲に敵を捉えた。

それと同時に敵の砲撃は止んでいた。弾切れだろうか。しかし敵に一矢報いる千載一遇のチャンスだ。彼は魔導通信具に大声で伝える。「全艦一番近くのあの船に砲撃、一隻だけでいい、確実に沈めろ!!」そして、三隻の戦列艦から160発の砲弾が放たれ、敵の巨大船に命中した。爆発が起き、煙に包まれる。

 

 

「よしっ!!やったぞ!!これで―――なにっ!?」一変して暗い空気に艦内は満たされる。煙が晴れると、そこには全く姿を変えない敵艦の姿があった。魔導砲の直撃を受けて被害が無いだなんて、こんな化け物を相手にどうしろというのだ。絶望に包まれた顔でシウスは戦艦「スラヴァ」を見上げていた。

 

 

霧島 艦橋内―――

 

『スラヴァ小破、戦闘に支障無し』

「よし、分かった。降伏勧告を出してくれ。」そう言って一度通信を切る。霧島は少し驚いた顔をしていた。

 

「おいおい霧島、何だよその顔は?」苦笑いをしながら高橋は話しかける。おそらく彼女は彼が敵を全滅させるまでやめないと思っていたのだろう。

「流石に日本の軍人としてこうしないわけにはいかないさ。さぁ、敵はどうするかな...」

 

 

 

シウスは悩んでいた。もう駄目だと思っていたその時、敵船から透き通った女性の声で降伏勧告が来たのだ。皇国の一員として降伏は憚られることだが、周りを見回すと兵士達の顔は皆青ざめていた。もはや戦意はゼロ、これ以上戦うのは不可能だ。何より彼も初めて明確な死を目の前にして怖くなってしまっていた。

 

 

「降伏しよう..指示通り、白旗を掲げよ。」彼はそう指示すると、がっくりとうなだれた。

 

降伏の意志を受け取った日本艦隊は、彼らを捕虜とし、無事に海戦を終了した。結果は、誰が見ても分かるとおり日本の圧勝だ。一応スラヴァが小破したものの、すぐ修理できる程度の軽傷だった。

 

 

 

そして、皇国陸上部隊も、零戦隊の機銃掃射により大きな被害を受け、ようやくたどり着いたアマノキでは陸上自衛隊により一瞬で全滅した。

 

 

こうして、フェン王国の脅威は無事に去ったのだった。

 

 

同じ頃、福岡空港に一機の双発機が着陸していた。そこから降りてきたのは今回観戦武官として派遣されていたマイラスとラッサンの二人だった。

 

 

「これは、なんともすごい所に来てしまったなあ」辺りを見回し、そんなことを言いながら二人は歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。悩んだ末シウス達は生き残ることになりました。


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第19話 皇国の驚愕

今回は戦闘描写無しです。


少し前パーパルディア皇国 皇都エストシラント

ムー国大使館

 

 

ムー国大使、ムーゲは尋ねる。「急な来訪ですが、いったいどうされました?」

 

相手の皇国第一外務局職員ニソールは答える。

「現在我が国とフェン王国は戦争状態に入っており、日本も参戦してくる可能性が有ります。」

 

「はい、存じております。我が国も非常に興味を持っております。」

 

「そうですか...ところで今回ムー国は観戦武官を日本に派遣したと聞きましたが、その真意を聞きに参った次第です。」

 

「まず、ムー国が今回日本に観戦武官を派遣したことは間違いありません。」

 

 

これに思わずニソールは姿勢を正す。事前に聞いていたと言うのに、改めて聞いても驚きの情報だ。

 

「理由をお伺いしても?」

 

 

「詳しいことは専門外ですので分かりませんが、我が国の軍部で分析を行った上、日本に観戦武官を送ることが妥当と判断しました。」

 

「貴国は今まで、勝つと判断した方にのみ武官を派遣してきました。ということは、まさか日本が勝つと予想されているのですか?」

 

「それについては申し訳ありませんが極秘ですので教えられません。ですが、ムー国はパーパルディア皇国に対し敵対の意志は一切ありません。」

 

 

「分かりました。」

 

 

「それと...これは国の意志ではなく、あくまでも私個人の発言なのですが...」

 

 

「?何でしょうか」

 

「パーパルディア皇国は、日本という国をよく分析した上で、勝てるといった結論に至ったからこそ日本人観光客を虐殺し、日本の逆鱗を叩き割る行為に出たと我が国は捉えています。

我が国が分析した結果ですが、ムーはとても同じ事は出来ません。

ムーは、日本に敵対できるほどの国力を持ち合わせてはおりません。

何度も申し上げるように、これはムーの正式意思ではなく、私の個人的な感想なのですが、私は貴国の勇気に敬意を払いたいと思います。」

 

「なっ!!!」ニソールの背中から汗がどっと噴き出す。会談は終了し、彼は早急に外務局に戻った。

そして、すぐに緊急報告書の作成に取り掛かった。

 

 

そしてまた時は戻り、福岡県福岡市博多区―――

 

艦船武官のラッサンとマイラスは博多駅で、案内の外務省職員と共に新幹線を待っていた。二人は日本に到着してからというもの、長旅で疲れた様子も見せずずうっと会話を続けていた。

「すごいぞラッサン、車がこんなにもたくさんある。」

「いやいやマイラス、こっちを見ろよ、凄いぞ。」

とこんな調子だ。案内役の小林は微笑ましいな、といった様子で見守っている。はしゃいでいるようでも、そこはやはり列強の代表、小林の邪魔をしたりしたりはせず節度のある行動をしていた。

 

 

数分後、滑り込むようにホームに車両がやってくる。またしても驚く二人を案内し、一行は長崎方面へと出発した。数回の乗り換えの後、マイラスとラッサンはようやく佐世保鎮守府の門の前に到着した。

 

 

小林が門番妖精に声をかけ、少しして戻ってくる。そして、二人に声をかける。

 

「私が案内するのはここまでです。もうすぐ佐世保の提督が出てくるので少し待ちましょう。」

 

数十秒後、門が開き一人の男が歩いてくる。そのシルエットにマイラスは見覚えがあった。その男、吉川は彼を見つけると歩幅を広げて、ずんずん近づいてきた。

 

「やあ、マイラスさんじゃないですか!お久しぶりですね。また会えて光栄です。そして、こちらの方は?」

 

「ムー国より観戦武官としてこの度派遣されたラッサンと申します。よろしくお願いします。」

 

「ここの提督をしています、吉川晃輔と申します。よろしくお願いします。小林さん、案内ありがとうございました。ここからは私たちにお任せを。」

 

「はい、吉川さん。よろしくお願いします。」

そう言って、小林は帰って行った。

 

 

「では、ここにいてもなんですし、中へ入りましょう。ちょうど昼ご飯の時間なんです、一緒にいかがですか?」すると待っていたかのように二人の腹が鳴った。そういえば日本に到着してから何も食べていなかったのだが、興奮で忘れていたのだ。

 

「はい、いただきましょう。」

「ではこちらへどうぞ。行きましょう。」

 

 

三人は建物の中へ入っていった。

 

 

 

 

再びパーパルディア皇国 皇都エストシラント―――

 

第一外務局長室では、今後の日本に対する措置について、軍の最高指揮官アルデを交えて話し合いが行われていた。

本来なら、文明圏外の蛮国程度に軍の最高指揮官や、皇族が介入するはずもないが、本件は皇帝陛下の関心が高く、失敗は許されないため、皇国幹部の関心も高くなっていた。

 

アルデが口を開く。

「間もなく皇国陸戦隊がフェン王国の首都アマノキを落とす頃ですね。レミール様、本当に現地の日本人観光客は殺処分してもよろしいのですか?」

 

「良い。今度はもっと多くの日本人を捕虜に出来るだろう。蛮族には、しっかりと教育をしなければ解らないようだ。ニシノミヤコの日本人は、少しばかり楽に殺しすぎた。

アルデよ、今度はもう少し苦しむようにやれ。」

 

「はい、かしこまりました。」

 

 

「で、その後の事だが…。」

 

その時、部屋の扉がノックされ、次長のハンスが入ってくる。

 

「会議中に失礼します!本会合に関係のあるものと思い、文書をお持ちしました。」

 

 

文書には「緊急調査報告書」と書かれていた。

 

ムー国が日本に武官を派遣した事についてだ。

 

その事について話し合っていたとき、またしても外務局の若手幹部が入室してくる。

 

「何だ!!」第一外務局長エルトが怒鳴る。

 

 

「たっ、大変です!フェン王国に派遣していた皇軍は、戦列艦隊、揚陸艦隊、補給艦隊、竜母艦隊、陸戦隊、すべて全滅、そして残ったニシノミヤコ守備隊は、日本国とフェン王国の連合軍に降伏したとの情報が入りました!!」

 

 

「なっ!!何っ!!そんなバカな!!何かの間違いではないのかっ!!」アルデは信じられないといった顔で詰め寄る。

 

 

 

文明圏外国家に対し、局地戦とはいえ敗れることの意味、そして危険性をレミールは十分理解していた。

 

 

「おのれぇっ!!蛮族め!!」

恐怖支配をしている属国に対し、宗主国が弱い姿を見せるとろくな事にはならない。これが恐怖支配の脆弱性である。

 

「殲滅戦だ!!ここまでコケにされて許してはおけん!!エルト!!準備をしておけ!!私は陛下に許可を戴きに行ってくる!!アルデにも伝えろ!!」

 

「はっ、はいっ!!」

 

 

 

そう言ってレミールは退室した。

 

 

その後、日本国に対し、皇国は宣戦布告と殲滅戦の開始を通知した。ついに本格的な戦争状態に入ったのだ。

 

 

結局、独自のルートによってある程度日本の情報を手に入れたカイオスのみが、秘密裏に日本との連絡をとり続ける事となった。

 

 

そして同日、神聖ミリシアル帝国で、フェン王国での皇国の敗北が大々的に報道された。帝国の民はひどく驚いた。まさか列強国が局地戦とはいえ敗れるとは全く思っていなかったのだ。

 

 

さらにこの放送はラジオとしてパーパルディア皇国の属領・属国の民にも一部届いていた。ちょうど少し前、アルタラス王国のルミエス王女による属国の独立を呼びかけるスピーチが来ていたが、殆どの者が無理だと思っていた。だが、日本国は本当に皇国を打ち破ってしまった。彼らのすさんだ心に、一筋の希望が宿る。

 

 

 

夜の佐世保鎮守府―――

 

 

三人の提督達とムーの二人は酒を酌み交わしていた。

 

「なんでここには女性ばかりしかいないのだと思っていましたが、そういうことだったのですか...信じられない話です。」マイラスがそうつぶやく。昼、彼らが見たのはたくさんの少女達だったのだ。吉川が丁寧に説明してくれたが、本当のことだとは思えない話だ。

 

「鳳翔さん...あなたもなんですよね?」ラッサンがそう聞くと、彼女は少し恥ずかしそうに頷いた。

 

「ええ、私も...空母鳳翔の艦娘です。」

 

「はは...本当に日本は不思議な国だなあ。女の子が船の化身だなんて。」

 

「我々も彼女たちに会ったばかりのときは同じ事を考えていましたよ。」

 

 

彼らの話が弾んでいる間にも、夜は更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話 マイラスとラッサンの鎮守府見学

少し番外編っぽいですね。

今回ムーの二人の案内係となった高雄と妙高は、前々話でフェン王国への艦隊に入っていたため修正しています。紛らわしいかもしれませんがよろしくお願いします。

また、原作よりもアルタラス王国での戦いが3ヶ月ほど早くなっています。


2月11日  翌朝  佐世保鎮守府――

 

 

「うーん...良い朝だ。」そういって布団から男が身を起こす。現在佐世保鎮守府に滞在しているマイラスだ。彼は今鎮守府の客人用の部屋に泊まっている。あくびをしながら立ち上がると、部屋の扉をノックする音がした。

 

 

「マイラスさん、もう起きておられますか?朝ご飯の時間ですので呼びに参りました。」と誰かの声がする。

「はい、さきほど起きました。少し待って下さい。」そう言ってマイラスが扉を開けると、そこには一人の女性が立っていた。比較的背が高く、ボブヘアーの真面目そうな印象を受ける女性が立っていた。何故かマイラスは少し背筋を伸ばす。

 

「おはようございます、マイラスさん。私は『高雄』と申します。今回あなたの案内係を担当させて頂きます。よろしくお願いします。」彼女はそう言って軽く頭を下げる。マイラスもはっとして挨拶を返した。

 

「おはようございます、こちらこそよろしくお願いします。ええと、あなたは...?」

「私は重巡洋艦の艦娘です。準備が出来ましたら食堂に参りましょう。」

 

数分後、着替えと洗顔をすませたマイラスは食堂へ向かっていた。

 

道中マイラスは考えていた。

(重巡洋艦・・・?我が国にも巡洋艦はあるが、区分分けが異なるのか?後で聞いてみよう。)

 

少し歩いて、食堂へと到着した。もう既にかなりの数の艦娘達でごった返している。ラッサンも既にいた。

 

 

鎮守府での食堂は基本的にセルフサービス式だ。数が多いため、こうした方が効率がよいのだ。

 

マイラスとラッサンも列に並び、食材を受け取っていく。

 

 

少し進むと厨房から二人に声をかける男がいる。今日の料理当番は森高のようだ。一つ一つ注文を受けてオムレツを作っている。

 

「おはようございます、マイラスさん、ラッサンさん。オムレツにチーズは入れますか?」とエプロン姿で聞いてくる。

 

「お願いします。」「私はそのままで。」とそれぞれが答えると、慣れた手つきで作ってくれた。思わず二人は感心しながらそれを受け取る。

 

 

今日は洋食の日で、各々のお盆にはパン、ベーコン、オムレツ、サラダ、スープといった定番の品が揃う。全員が揃ったので「いただきます」を言って食べ始める。

 

マイラスの隣には高雄が、その向かい側のラッサンの隣には彼の案内係の「妙高」が座っている。

 

 

食べながらマイラスは隣の高雄に尋ねる。

「高雄さん、我々はいつ戦いを見れるのですか?こんなことを聞くのは少し申し訳ないのですが、一応我らは観戦武官として今回派遣されているので、ずっとのんびりしているわけにもいかないのです。」

 

彼女は丁寧に教えてくれる。

「現在、日本は皇国に宣戦布告を受けています。なので、政府はまずアルタラス王国を奪還する事を考えています。ルミエス王女の要請もあり、またムー国の所有する空港を拠点として借りるためでもあります。」

 

一日前に日本はムー大使館から空港租借の許可を得ていた。

 

高雄は続ける。

「明日私たちはアルタラス王国へ出撃します。ですのでマイラスさんとラッサンさんはそれに同行していただく形になりますね。今日は昼過ぎ頃にフェン王国から派遣艦隊が帰ってくるので、それまでは自由に過ごしていてください。私たちに言ってくれれば、施設やこの町を案内しますよ。」

 

 

これにマイラスとラッサンは顔を見合わせる。

 

「では、施設の案内をお願いしても?」

「かしこまりました。朝食後準備が出来たらお呼びしますので部屋でお待ちください。」

 

 

 

そして朝食後、マイラスとラッサンはそれぞれ分かれて鎮守府内を歩いていた。

 

 

今は二人とも別々のドックを見学している。

 

マイラスは戦艦のドックにいた。

 

 

「大きい...外に停泊している戦艦も凄いが、これはそれより一回りも大きいぞ」

彼がため息をついていると、高雄が解説を入れてくれた。

 

「これは、この鎮守府の中で最大の戦艦、

『グローサー・クルフュルスト級』の2番艦である、

『プリンツ・アイテル・フリードリヒ』です。全長313m、排水量85000tの船体を持ちます。」

 

「凄い...ラ・カサミと並んだらまるで小舟に見えるだろうな。」

 

「確かラ・カサミとは、ムー国の最新戦艦でしたよね?」

 

「ええ、そうです。ですが...日本を見ていると自信を無くしてしまいそうです。」

 

 

「いえ、マイラスさん。ムーは凄い国です。魔法が主流の世界で、一国だけでここまで発展できていることが驚きです。私達は世界中で競争するように技術を発展させてきましたから...」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです。しかし、我々はより強力な戦艦を建造しなければなりません。グラ・バルカス帝国はそれほどの脅威なのです。」

 

「・・グラ・バルカス帝国は、私たち日本も脅威と見なしています。少なくとも我らと同レベルの戦艦を持っていることを確認しています。確かに新戦力の開発は必須でしょう。

・・・そろそろ昼ご飯の時間ですね。食後に見せたい物があるので、もう一度ここに戻ってきてもよろしいですか?」

 

 

「?はい、大丈夫です。」

 

 

 

 

―――そして昼食後、再びドックに戻ってくると、そこには吉川が待っていた。

 

「マイラスさん、ラッサンさん、待っていました。」

 

「いったい何でしょうか、吉川さん?」

 

ラッサンが尋ねると吉川はドックの鍵を開けながら説明する。

 

「グラ・バルカス帝国の脅威に備え、日本からムーへいくつかの技術提供が最近決まりました。これはその内の一つです。」

 

中に入り、部屋の電気をつける。そこに、一隻の戦艦が浮かび上がった。この鎮守府内では小さいかもしれないが、それでもラ・カサミより一回りは大きい。

 

「こっ、この戦艦は!?」マイラスが尋ねる。

 

 

「この船の名前は『ドレッドノート』。私たちの世界で、戦艦の常識を変えた非常に画期的な艦船です。我々は、技術提供の一環としてこの戦艦を提供します。もちろん、タダではありませんが。」

 

この言葉にマイラスとラッサンは思わず仰け反るような姿勢になる。

 

 

「おお..!これは凄いです!なんと頼もしい!」

 

「後日、我々がムー国まで送り届けるのでそれまでは気長に待っていてください。」

 

「中を見てもよろしいですか?」

 

「ええ、もちろんです。ご自由にどうぞ。妙高、高雄、俺は仕事があるからお二人を頼む。」

 

「「了解しました。」」

 

 

ムー国への技術提供の内、戦艦ドレッドノートの寄贈は比較的早期に決められていた。ムー国のラ・カサミ級戦艦は前弩級戦艦レベル、対してグラ・バルカス帝国は超弩級戦艦レベルの艦船を保有している事が分かった。そのため、まずは弩級戦艦を知ってもらうべく、ドレッドノートと「サウスカロライナ」級戦艦を一隻ずつ提供することになった。この二隻は、鎮守府特有の所謂「建造」とは違い、一から妖精達の手によって作られた。なので、この二つの船に艦娘はいない。その方がムーにとっても都合がよいためだ。

 

はしゃぐ二人の声を背に、吉川はドックを後にした。

 

 

 

そして執務室―――

 

彼が部屋に戻ると、そこにいた面々は、写真を机に広げてうなっていた。それは政府から提供されたグラ・バルカス帝国の写真だった。

 

 

「やっぱりこれ、どうみても大和だよなぁ」

 

「こっちは長門にしか見えない。いったいどうなっているんだ。何故似ているのかも謎だが、これじゃあムー国にいらん誤解をされてしまうかもしれない。」

 

「グラ・バルカス帝国とは、いずれぶつかる可能性が高い...そうしたら苦戦は免れないかもな。」

 

「ああ。戦列艦とは大違いだ。」

 

その時、執務室のドアが開き、艦娘「大淀」が入ってきた。

 

「みなさん、そろそろ高橋提督の艦隊が戻ってきますよ。迎えの準備をしましょう。」

 

「おお、そうだった。夜は宴会かな?大勝利だったらしいし」

 

「まあそれは京介次第だな」

 

口々に呟きながら、提督と艦娘達は部屋を出ていく。水平線の向こうにはもう艦隊の黒煙が見えていた。

 

 

 

そして、フェン王国派遣艦隊は全艦無事に帰港した。

 

霧島から降りてきた高橋は疲れていた様子だったが、その顔色が出港前より良くなっていたことに提督達は安心した。以前のようにはいかないまでも、ゆっくり立ち直ることができるだろう。

 

 

夜には宴会が開かれ、ムーの二人も巻き込んで勝利を祝った。主役の高橋が湿っぽい空気を好まないこともあり、賑やかな催しとなった。

 

 

翌日には森高率いる艦隊がアルタラス王国へ出撃するため、日付が変わる前にお開きとなった。

 

 

 

 

―――そしてしばらく後、フェン王国に日本国艦隊保留地がようやく完成した。そこには虐殺の犠牲者の慰霊碑も建立され、そこに訪れた艦娘達はまずそこに一礼するのが慣習となったという。二度と悲劇を繰り返さないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、アルタラス王国へ出発します。よろしくお願いします。


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第21話 アルタラスへ

今回登場する航空機はアメリカの物ですが、統一のため機体に日の丸が描かれています。


翌日―――

 

 

佐世保鎮守府は、アルタラス王国へ向けて今出撃しようとしていた。パーパルディア皇国による統治から王国を救い、空母が一隻しかない自衛隊の拠点となる空港を確保するためだ。

 

艦体からもうもうと黒煙を上げ、いつでも出港できる状態だ。

 

今回の指揮は森高千鶴提督であり、前回の出撃よりは劣るが、それでもかなりの迫力だ。ムー国の二人には説明したが、情報流出に配慮し、グラ・バルカス帝国との混同を避けるため、今回は日本海軍からは選ばれていない。

 

 

戦艦

 

アルザス級(アルザス、ノルマンディー、フランドル、ブルゴーニュ)

リヴェンジ級(レゾリューション)

オーディン級(オーディン、マルクグラーフ)

フリードリヒ・デア・グローセ級

(フリードリヒ・デア・グローセ)

 

              計8隻

 

航空母艦

 

エセックス級(エセックス、イントレピッド)

              

              計2隻

 

巡洋艦

 

アトランタ級(アトランタ、サンディエゴ、サンフアン)

クリーブランド級(クリーブランド、デンバー、バーミンガム)

              計6隻

 

駆逐艦

フレッチャー級10隻   

 

              合計25隻

 

 

今回の編成は見て分かる通り戦艦を中心としている。人工衛星からの写真により敵戦力及び統治機構は海岸沿いにあるため、それだけでも十分だからだ。そして今回は制圧のための人員を乗せたおおすみ型輸送艦とも合流する予定になっている。

 

まずは港にある敵海軍戦力を叩き、無力化した統治機構を抑える作戦だ。

 

「全艦抜錨!!」森高の合図で一斉に錨があげられ、艦の後部に白波が立つ。今回残る仲間達に見送られ、25隻の艦隊は出港した。

 

 

 

同日、グラ・バルカス帝国 某所 情報局

 

その部屋には機械が大量に並び、モールス信号に似た電子音が鳴っていた。そこではこのような会話がなされていた。

 

「どうだ、日本について何か情報が入ったか?」

 

「確たる証拠はありませんが、日本が我々と同程度の戦艦を持っている可能性は高いです。今まで入った情報によると、日本の軍船は山のように大きく、鉄で出来ており、巨大な魔導砲を持っていたとあります。これはグレートアトラスターがレイフォルを滅ぼしたときの各国の報道と酷似しています。」

 

 

「なるほど...写真は無いのか?伝聞だけでは何とも言えまい。」

 

「今のところはこれ位ですね。」部下はそう言って新聞を取り出す。ムーで発行された、フェン王国での皇国の惨敗についての記事だった。上司はそれを手に取り、じっくりと目を通す。見開きには艦攻の水平爆撃によって破壊された基地と、それについての説明があった。

 

 

「これは...爆撃の跡か!?」

 

「そうだと思われます。更に、ムーと日本が最近国交を結びましたが、その際に日本の特使が乗っていた船は巨大な空母であり、どうやら250m程あったと諜報部より情報がありました。」

 

「もしそれが本当ならばペガスス級空母と大差ないな。警戒すべきではあるが、やはり上層部に報告するには写真が欲しいところだ。」

 

「それについては、近々手に入る可能性が高いです。日本は現在パーパルディア皇国に宣戦布告されておりますが、恐らく日本が勝つでしょう。我々の見立てではそのうち皇国本土にもやってくるでしょう。既にスパイを忍ばせているため、その時に写真を撮れるかと。」

 

 

「そうか、分かった。ご苦労。」

 

「はい、ありがとうございます。私は用があるのでこれで失礼します。」

 

部下は退室した。

 

 

出港より数時間後、旗艦「アルザス」の艦内で、マイラス達が話していた。

 

 

「森高さん、今更なのですが、なぜ今回日本の軍艦を出撃させなかったのですか?私達はもう疑ってなどいませんよ。」

 

「はい、ムー国のお二人には説明をしましたのでもう大丈夫だと思っています。ですが、この戦争に興味を持ち始めている国が多くなってきており、我々の戦艦が目撃される事もあるでしょう。あらぬ疑いを国交もない国に持たれると、こちらとしても都合が悪いので...。」

 

「なるほど、失礼しました。」

 

 

「いえいえ、何でも聞いてくださって大丈夫ですよ。」

 

 

艦隊はアルタラス王国へと進む。

 

 

 

同じ頃  アルタラス王国 某所

 

「本当に今夜、日本軍がやってくるのだろうか」

アルタラス王国元軍団長ライアルは不安そうに呟いた。

一週間前、ルミエス王女から魔信が各国に発されており、彼らもそれを傍受していた。一見意味の分からない文章のようであるが、彼らは理解していた。

 

 

一週間後に備え準備をしておけ、と。

 

それが今日なのだ。

 

若い部下が声をかける。

「私たちの王女様と、王女様が見込まれた日本を信じましょう。」

 

 

 

同日、午後八時頃 アルタラス王国沖

 

 

パーパルディア皇国軍、アルタラス王国派遣部隊所属の竜騎士アビスは、北東方面の哨戒任務にあたっていた。

 

「今夜は少し寒いなあ。」

 

島国だったアルタラスはすでに皇国の支配下となり、目立った反乱も無い。

 

 北に500kmほどで祖国があり、南は海を挟んで文明レベルの低い蛮地、東南東にはロデニウス大陸となっており、旧ロウリア王国のように、覇権主義の国は付近に無い。

 

アルタラス王国の北東には海上に30門及び50門級戦列艦隊に約5隻の艦がいる。

 

パーパルディア皇国は、他国との戦闘状態である事が多く、基本的には平常時も有事も、軍の動きに大差は無い。

現在はフェン王国、そして日本国と戦争を行っているようだが、遠くでの出来事であり、いつものように今日の任務も終わる。

 

アビスはそう思っていた。

 

 

 

だが―――

 

「ん?」

雲の切れ目から何かが見えた気がした。彼は目を凝らす。すると、やはり白い波が立っているように見える。

 

彼は魔信具を取り、司令部に報告する。

 

「司令部、哨戒任務中艦隊と思しき影見ゆ。我接近し確認す。」

 

魔信を切り、高度を落とす。夜なので見えづらいが、段々とその姿が分かってきた。皇国の戦列艦より遙かに大きい鉄の船。噂に聞いていた日本軍だ。

 

「司令部!こちらアビス!にほ―――

 

報告しようとしたアビスの言葉はそこで途切れた。一斉に対空放火が彼とその相棒を襲い、一瞬で物言わぬ肉片にされたのだ。

 

彼はこの戦いの最初の戦死者となったのだった。

 

 

パーパルディア皇国アルタラス王国派遣部隊の戦列艦5隻は付近近海を哨戒活動中だった。

 

「何か見つけたか?」

 

艦長ダーズは通信員に尋ねる。

先ほど哨戒中の竜騎士が、何かを言いかけ、通信が途切れている。魔力探知レーダーからも反応が消えた。

竜騎士が消息を絶った場所は現在の艦の位置から近く、緊張が走る。

 

 

「前方に艦影確認!こちらに向かってくるぞ!」

 

水平線に城塞のような船が見え始める。

国籍不明船は、艦長ダーズの常識からかけ離れた船速でこちらに向かってくる。

 

彼は双眼鏡をのぞき込み、思わず息をのむ。

 

「まずい!!急いで退却!!」

 

この指示に不満そうな部下がいる。

「艦長、何故逃げるのですか!パーパルディア皇国軍の一員として恥ずかしくないのですか!」

 

これにダーズは怒った。

「この大馬鹿者が!!フェン王国で友軍の艦隊は300隻以上を日本軍に沈められているのだぞ!それも、敵に一切被害を与えられずにだ!!もはやこれは精神論でどうにかなることではない!!さっさと舵をきれっ!!」

 

部下達も彼の迫力に気圧されて指示に従う。

ところが、艦隊が動き出すより早く敵は動いた。

 

 

「!!敵艦発砲っ!!」

敵艦前方から煙が上がる。

 

「そんな、遠すぎるぞ!!」

 

 

慌てているその間にも、敵艦から煙が上がる。

その数8発。

 

艦長ダーズは、乗船する艦が僅かに揺れ動いたように感じた。次の瞬間、ダーズの乗艦する50門級戦列艦は大きな火柱と共に、海上から消えた。

 

 

アルザスの放った8発の砲弾は、パーパルディア皇国戦列艦の対魔弾鉄鋼式装甲をあっさりと貫き、弾薬室で爆発、海上の5隻は木っ端微塵に粉砕され、その姿を海に消した。

 

 

 

 

少し後 パーパルディア皇国 アルタラス王国派遣部隊

 

アルタラス王国を攻めていた皇軍は、王国を占領後、東を攻めるために転進した。現在は武装解除され、時々起こる小規模な反乱を鎮圧、統治するためだけの小規模の軍が残されている。

 

ル・ブリアスの軍港には戦列艦40隻、そして少し離れた所に陸軍の基地、人員およそ2千名とワイバーンロード20騎、そして首都から北へ約40kmの位置に人員2千名の陸軍基地がある。

 

陸軍大将であるリージャックは首都ル・ブリアスを基地から眺めていた。

 

傍らに立つ幹部と話をする。

 

「フェン王国に派遣していた我が軍は、全滅に近い被害を出したらしいな。いったい何があったのだろうか?」

 

「解りませぬ。皇軍が敗れたなど、今でも信じられません。敵は何千隻もの『数』で圧して攻撃してきたのではないのでしょうか?」

 

「いや、たとえ文明圏の国が何千、いや何万隻で、今回全滅した派遣軍にかかって行ったとしても、多少の被害と作戦の遅延は予想されるが、全滅はしない。今回の戦い、何かがおかしい。そんな気がするのだ。」

 

 

2人は基地に設置された建物の上から港を眺める。

 

見る者に威圧感を与える皇国の100門級戦列艦が誇らしげに停泊している。実に40隻、通常国と比べ、比類なき強さを誇る艦。

 

 

「なんとも、美しいな。」

陸軍大将リージャックは、艦に対し、素直な感想を述べる。

 

ところが―――

 

「ん!?」何か物が落ちてくるような音がする。

 

美しく、穏やかな風景、その風景は突如一変する。

眼前の100門級戦列艦スパールの艦底が少し動いたように見えた。

 

次の瞬間、戦列艦スパールは大きな火柱を上げ、艦を構成する部材と船員を巻き込みながら轟音と共に真っ二つに折れてその姿を消した。その隣に停泊していた戦列艦ベルズも巻き込まれ沈んでゆく。

 

 

「て……敵襲!!敵襲!!!!」

 

 

港に停泊中の戦列艦は1隻、また1隻と失われていく。

首都近郊の陸軍に敵襲の情報がいきわたり、戦いの準備を始めた頃にはすでに、港の船は全滅していた。

 

 

「な…なんという事だ!!」

 

 

陸軍は末端まで含め、全員が唖然とする。何が起こっているのかが誰にも解らない。

 

しかし、悲劇は彼らだけを見逃してはくれなかった。

基地の中心部が猛烈な火炎に包まれ、少し遅れて強烈な衝撃波がリージャックを襲う。

 

彼は無様に転げまわる。

 

空を見上げると、爆音と共に、考えられないくらいの速度で彼の上空を飛行機械が飛び去っていく。

その機体に描かれた日本の国旗を彼は見た。

 

「通信兵!!日本の飛行機械に襲撃を受けていると本国に伝えろぉっ!!」

必死に指示を出す。

 

「はっ!!」

 

 

通信兵は魔信器に向かい、走る。

彼がパーパルディア本国に魔信を送信した次の瞬間、基地にいた者たちは、猛烈な光と共に全員がこの世を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルタラス王国首都ル・ブリアスの港に停泊していたパーパルディア皇国の戦列艦隊は、佐世保鎮守府所属艦隊の砲撃により、全て撃沈された。

 

更に、エセックス級航空母艦2隻より飛び立ったドーントレス爆撃機の空爆により、首都ル・ブリアスの近郊の基地及び、首都から北に約40km地点にあったパーパルディア皇国の基地はほぼ無力化された。

 

攻撃の開始から20分以内に、アルタラス王国内のパーパルディア皇国軍は、その機能のほぼ全てを失った。

 

作戦を終えた航空機は1機の損失も出す事無く、母艦へ戻った。

 

 

アルタラス王国沖―――

 

「よし、俺たちの任務は完了だ。よくやってくれた。フレッチャーとキッドはおおすみを護衛してくれ。」

 

『了解しました』

 

通信を切り、森高は一息つく。

 

「ふう、こんなにもすんなり終わってしまうとは、戦艦はいなくても良かったかもな。」

 

これに艦娘「アルザス」が返す。

 

「いや、楽な任務とは言え初めての実戦を経験出来ただけでも嬉しいことだ。きっと仲間達もそう思っているぞ。」

 

「そうだな、そう考えるとするか。まあ皆お疲れさまだったな。」

 

その隣でマイラスもコメントする。

 

「いやあまさか、ここまであっさり終わるとは思っていませんでしたよ。日本の強さは身にしみてよく分かりましたが、これでは報告書の中身がスカスカになってしまいそうです。」

 

 

「ははは、それは申し訳ない。まあ、こちらからも報告書を出しますのでそれで勘弁してください。」

 

 

 

そして、軍事力のほとんどを失っていたパーパルディア皇国アルタラス統治機構は、自衛隊と一斉蜂起したアルタラス王国地下組織を前に降伏。

 

アルタラス王国は、ついに独立国としての姿を取り戻したのだった。

 

 

 

パーパルディア皇国は史上初めて属領を失った。

このニュースは世界中を駆けめぐり、またも各国を驚かせることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名前だけとはいえ今回初登場のオーディン級戦艦は、シャルンホルスト級戦艦の原案の一つです。


次回はコラムとして、登場する計画・架空・未成艦をまとめたページを作ろうかと考えています。


ありがとうございました。


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コラム 登場計画・未成・架空艦一覧

本作に登場する史実には出てこない艦艇の情報を軽く紹介します。詳細はネット等で。

登場すると言っても名前だけで台詞もない船も多いかも知れません...。ちょくちょく増えたり、いじくったりするかも。

また、架空艦等については作者がそれらしい名前を自分で付けているときもあります。中にはジョークでそれらしい意味をもつ艦名を付けたりもしています。

排水量や全長はだいたいの数字です。「約」がついた数字と思ってください。あくまでもこの世界での船なので、wowsや史実の登場艦船と全て同じ設定という訳ではありません。


日本

 

戦艦

 

・大和型戦艦四番艦 伊賀 

主砲に51cm連装砲三基六門を装備。

それ以外のスペックは大和、武蔵とおおよそ同じ。いわゆる111号艦。

 

・出雲型戦艦 出雲、周防

全長270m、排水量54000t。

 

大和型戦艦案の内の一つ。41cm三連装砲を前部に三基装備している。改装により建造当初の不格好な姿では無くなった。最高速度28kt。

 

 

・肥前型戦艦 肥前、石見 

全長252m、排水量58000t。

 

これも大和型の案の一つ。41cm三連装砲を前後に二基ずつ、計12門搭載。 

手数が多いが集弾性があまり良くないことが欠点。最高速度28kt。

 

 

紀伊型戦艦    紀伊

全長328m、満載排水量120400t。

 

鎮守府に所属しない、海上自衛隊唯一の戦艦。

大和を大きく上回る怪物。51cm三連装砲三基9門の暴力的な攻撃力と高い防御力を持ち間違いなく日本最強の戦艦。2番艦尾張は空母に改装された。現在はCIWSやトマホークミサイル等も多数搭載している。

異世界に転移してからは今のところ出番はないが、いつでも動ける状態ではある。

最高速度31kt。

 

 

 

空母

 

 

・白龍型航空母艦 白龍

全長285m,排水量62000t。

いわゆる改大鳳型。大鳳をより大きくし、搭載量も多くしたもの。最高速度32kt。

 

 

巡洋艦

 

・蔵王型重巡洋艦 蔵王、剣、真砂、黒金

全長218m、排水量19000t。

 

いわゆるマル六甲巡。203mm三連装砲を四基12門搭載。また、両弦に三基ずつ10cm連装両用砲を装備し、対空も優秀。最高速度36kt。

 

 

・吾妻型巡洋艦  吾妻、 吉野

全長248m、排水量43000t。

アメリカのアラスカ級大型巡洋艦に対抗して設計された案。大型巡洋艦全般に言えることだが、実際は巡洋戦艦といっても差し支えない。31cm三連装砲三基9門。吉野は準同型艦と言ったところで、魚雷を設置し装甲配置等に違いがある。二隻とも集弾性、弾速ともに優秀。ただし巡洋艦としては機動性は悪い。最高速度34kt。

 

 

駆逐艦

 

・疾風型駆逐艦 疾風

 

全長128m、排水量2700t。

五式127mm連装両用砲を3基装備。それまでの同サイズの砲に比べて速射性に優れる。最高速度37kt。

 

・北風型駆逐艦 北風、山月、早春、紅雲、初秋

 

全長136m、排水量3000t。

秋月型の改良型で、速度が上昇し、六連装魚雷発射管を装備している。

最高速度36kt。

 

・春雲型駆逐艦 春雲、霧霜、夜雲、八重雲、雪雲

 

全長154m、排水量3700t。

北風型を更に強化した防空駆逐艦。

10cm連装砲を5基10門装備し、砲火力が極めて高い。その分船体が大きく、旋回性能も悪い。

最高速度35kt。

 

アメリカ

 

戦艦

 

・モンタナ級戦艦 モンタナ、オハイオ、

メイン、ニューハンプシャー、ルイジアナ

 

全長281m、排水量63000t 

有名なアメリカの未成戦艦。406mm三連装砲を4基12門装備。ただしオハイオだけは457mm連装砲を4基装備している。最高速度28kt。

 

・ジョージア級戦艦 ジョージア、ミネソタ

 

全長253m、排水量47000t

アイオワ級の案の内の一つ。457mm連装砲を3基6門装備。最高速度33kt。

 

・フロリダ級戦艦 フロリダ、ヴァーモント

全長222m、排水量36000t

 

ノースカロライナ級戦艦の案の一つ。要はノースカロライナ級戦艦の主砲を356mm四連装砲に変えたもの。

最高速度27kt。

 

 

巡洋艦

 

 

・プエルトリコ級大型巡洋艦 プエルトリコ、

フィリピン、サモア

全長268m、排水量50000t

 

アラスカ級大型巡洋艦の案の一つ。アラスカより一回り大きく、305mm三連装砲を4基装備。だがこれだと建造コストがアイオワ級戦艦とほぼ同じになってしまうことが分かり中止。また、機動性が悪いと評されたアラスカより大きいため、こちらは輪をかけて機動性が劣悪。直進安定性は良好。最高速度33kt。

 

 

 

イギリス

戦艦

 

・モナーク級戦艦 モナーク、ブリタニア

全長230m、38000t

 

キング・ジョージ五世級戦艦の案の一つ。381mm三連装砲を3基と、かなりまともな砲配置をしている。それ以外はあまり変わらない。最高速度28kt。

 

・ライオン級戦艦 ライオン、テメレーア、ハンニバル、ゴライアス

全長238m、排水量43000t

 

モナーク級の発展型。主砲が406mm砲になり、攻撃力が上がっている。最高速度28kt。

 

 

・コンカラー級戦艦 コンカラー、サンダラー

全長272m、排水量61000t

 

ライオン級を更に発展。コンカラーは419mm三連装砲を、サンダラーは457mm連装砲をそれぞれ4基装備。

ボフォースを大量に搭載しているため近距離の対空が非常に強力。最高速度29.5kt。

 

巡洋艦

 

・マイノーター級軽巡洋艦 マイノーター、

トラファルガー、アポロ、コロッサス

 

全長200m、排水量14000t

 

イギリスが計画した防空巡洋艦。152mm連装両用砲5基10門。防空巡洋艦の名の通り対空性能が非常に高い。アメリカのウースター級にも引けを取らない。最高速度33.5kt。

 

 

ロシア

 

戦艦

 

・ポルタヴァ級戦艦 ポルタヴァ

 

全長245m、排水量37000t

ソ連の戦艦計画の内の一つ。356mm三連装砲を三基9門配置。ドイツのシャルンホルスト級戦艦等に対抗するために設計された。最高速度29kt。

 

・レーニン級戦艦 レーニン、スターリン

全長252m、排水量45000t

 

同じくソ連の戦艦計画の一つ。イギリスのネルソン級戦艦に似た、406mm三連装砲を前方に3基集中配置する方式を採用している。最高速度29kt。

 

 

・ソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦

        ソヴィエツキー・ソユーズ

        ソヴィエツカヤ・ウクライナ

        ソヴィエツカヤ・ベロルーシヤ

        ソヴィエツカヤ・ロシア

 

全長272m、排水量60000t

 

海軍力が不足していたソ連海軍により設計、建造された大型戦艦。だが独ソ戦争により建造は一度中止、結局再開はされないまま戦後解体された。406mm三連装砲を3基9門装備し、防御力にも優れる。最高速度28kt。

 

・クレムリン級戦艦 クレムリン、スラヴァ、

ペトログラード、ナヴァリン

 

全長292m、排水量75000t

 

佐世保鎮守府で二番目に大きい戦艦で、ソヴィエツキー・ソユーズ級戦艦の発展型。史実では戦争後期に設計されたが建造されなかった。機動性は船体の大きさもあり良くないが、防御力も高いので問題はない。457mm三連装砲を3基装備。最高速度30kt。

 

 

巡洋艦

 

・モスクヴァ級重巡洋艦 

モスクヴァ、ペトロハブロフスク、リガ

 

全長252m、排水量27000t

 

220mmという珍しい口径の三連装砲を3基搭載。非常に弾速が速い事が強み。細い船体だが敵重巡洋艦の砲弾を弾く装甲を有する。最高速度35kt。

 

 

・クロンシュタット級重巡洋艦 クロンシュタット、

セヴァストーポリ

 

全長273m、排水量39000t

 

305mm三連装砲を3基装備した、いわゆる大型巡洋艦。巡洋艦としては非常に強力だが、超弩級戦艦に対応出来るほどではない。機動性はこの艦種としては優秀。

最高速度33kt。

 

 

・スターリングラード級重巡洋艦 スターリングラード、イズメイル

 

全長273m、排水量37000t

 

クロンシュタットよりも軽量化し、細長い見た目になっている。主砲は同じで、対空火器に改良が加えられている。最高速度35kt。

 

 

・スモレンスク級軽巡洋艦 スモレンスク、ミールヌイ、パルラーダ、コトフスキー

 

全長179m、排水量9700t

 

軽装甲の防空巡洋艦。比較的小口径な130mm砲を変わった形の4連装砲合計4基にまとめ、対空能力が非常に高い。ただし装甲は薄い。最高速度35kt。

 

・アレクサンドル・ネフスキー級軽巡洋艦

 

         アレクサンドル・ネフスキー

         ドミートリィ・ドンスコイ

         ピョートル・バグラチオン

 

全長226m、排水量22000t

 

非常に近代的な艦影が特徴的な計画巡洋艦。4基装備している主砲の180mm連装砲は非常に装填が速く、砲戦にも対空にも優秀な性能を誇る。最大速度34kt。

 

 

 

 

ドイツ

 

戦艦

 

・オーディン級戦艦  オーディン、マルクグラーフ

全長243m、排水量40000t

 

シャルンホルスト級戦艦案の一つで、それよりも一回り大きい。戦艦としては比較的小型かつ高速、機動性に優れる。305mm三連装砲を3基、魚雷発射管も装備。

最高速度33kt。

 

・フリードリヒ・デア・グローセ級戦艦

      フリードリヒ・デア・グローセ

      グロース・ドイッチュラント

      ポンメルン

全長278m、63000t

H級戦艦案の一つで、ビスマルクを大きくしたような外観。420mm連装砲を4基、ポンメルンのみ380mm三連装砲を四基と魚雷を装備している。最高速度30kt。

 

 

・グローサー・クルフュルスト級戦艦

      グローサー・クルフュルスト

      プリンツ・アイテル・フリードリヒ

 

全長313m、排水量85000t。

佐世保鎮守府1の巨体を誇る戦艦。420mm三連装砲を4基持ち、多数の副砲と頑丈な船体もあって接近戦にめっぽう強い。当然ながら旋回性能は良くないが、最高速度は意外にも32kt。

 

 

巡洋艦

 

・ヒンデンブルク級重巡洋艦    

 

ヒンデンブルク、ザクセン

 

全長234m、排水量24000t

ドイツの巡洋艦の最終形態。203mm三連装砲を4基12門装備。片弦に8門ずつ魚雷発射管を持ち、装甲も優秀。そのかわり速度は遅めの32kt。

 

・ジークフリート級大型巡洋艦

 

ジークフリート、エギル、ヒルデブラント

 

全長239m、排水量32000t

 

巡洋艦でありながら38cm連装砲を3基装備。ただしエギルのみ305mm三連装砲となっている。頑丈な装甲と優秀な速度が売り。最高速度35kt。

 

 

 

航空母艦

 

 

・グラーフ・ツェッペリン級航空母艦

  

グラーフ・ツェッペリン、ペーター・シュトラッサー

 

全長262m,排水量35000t

 

かの有名なドイツの未成空母。説明省略。

 

 

 

・マックス・インメルマン級航空母艦

 

   マックス・インメルマン

   アウグスト・フォン・パーセバル

   マンフレート・フォン・リヒトホーフェン

 

全長278m,排水量55000t

 

H級戦艦を空母に改装する案。船体が大きいため搭載料に余裕がある。最大速度30kt。

 

 

 

フランス

 

戦艦

 

・リヨン級戦艦 

リヨン、リール、デュケーヌ、トゥールヴィル

 

全長195m、排水量23000t

 

第一次世界大戦期に設計された古い戦艦。特筆すべきはその砲門数で、340mm四連装砲を4基合計16門と最多である。多数の両用砲も持ち、対空防御もそこそこ。船体が小さいため機動性も優秀、欠点は防御力の低さ。

最高速度29kt。

 

 

・ガスコーニュ級戦艦 ガスコーニュ、シャンパーニュ

全長248m、排水量39000t

 

リシュリュー級戦艦の改造案。主砲を一基ずつ前後に装備している。ガスコーニュは380mm四連装砲、シャンパーニュは406mm三連装砲を装備。どちらも戦艦としては優秀な速度と機動性を誇るが、シャンパーニュは主砲の重さにより調節のため装甲が削られている。最高速度は戦艦としては最優秀クラスの34kt。

 

・アルザス級戦艦 アルザス、ノルマンディー、

フランドル、ブルゴーニュ

 

全長270m、排水量50000t

 

ガスコーニュ級を更に発展させ、380mm四連装砲を前方に1基追加しており手数が多い。引き続き優秀な速度と装甲を誇る。最高速度32kt。

 

 

・レピュブリク級戦艦 レピュブリク、シュフラン、

デヴァスタシオン、パトリー

全長288m、排水量64000t。

 

 

アルザス級から主砲を1基減らし、非常に強力な431mm四連装砲を2基装備。弾速が速く、徹甲弾の貫通力は大和並み。前級以上に対空を意識し、57mm機関砲が強力。ヘリポートも持っている。最高速度32kt。

 

 

巡洋艦

 

・アンリ四世級重巡洋艦 アンリ四世

            シャルル・マルテル

            サン・ルイ

 

 

全長230m、排水量22000t

 

大きめの船体に、重巡洋艦としては大口径の240mm三連装砲を3基装備。また、巡洋艦としては最高クラスの速さが自慢。最高速度39kt。

 

 

 

 

イタリア

 

戦艦

 

・クリストフォロ・コロンボ級戦艦

        クリストフォロ・コロンボ

        ダンテ・アリギエーリ

        サンドロ・ボッティチェリ

 

全長282m、排水量67000t

 

最近誕生した大型計画戦艦。381mm四連装砲を前後2基ずつ、合計16門装備。最高速度30kt。

 

 

巡洋艦 

 

・ヴェネツィア級重巡洋艦 ヴェネツィア、アマルフィ、フィレンツェ

 

全長232m、排水量27000t

大型の船体に、203mm三連装砲を5基15門装備した非常に攻撃的な重巡洋艦。優秀な装甲を持ち、大きな船体でありながら機動性と速度に優れる。 最高速度37kt。

 

 

 

 

 

 

 



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第22話 世界の驚愕

戦闘描写はありません。よろしくお願いします。


神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス とある酒場

 

 

今日も酒場では酔っ払いが話をしていた。

 

「おいおい、聞いたか?信じられねぇ。」

 

「ああ、聞いた!パーパルディア皇国が属領を1つ失ったらしいじゃねぇか!!」

 

「あの皇国が、第3文明圏の覇者が属領を失うとはな……。」

 

 

「しかも、またあの国が絡んでいるらしいぞ。」

 

 

「日本か?いったいどうなってるんだ」

 

 

酔っ払い達が騒いでいた時、一人の男が大声で突然話し始める。

「パーパルディア皇国は、日本に負けるぞ。奴らは喧嘩をふっかける相手を間違えた。

俺は日本に行った事がある!!」

 

この言葉に誰もが注目する。

 

「日本がロウリア王国を倒した後、俺はこの新興国は今後伸びてくると思い、何か交易は出来ないかと、あまり嵩張らないが各国に高く売れる、ムーの機械式の腕時計をもって日本に出かけた。

俺は第3文明圏ネーツ公国の出身で、日本とは国交を結んだばかりだったので、公国の許可証で何とか日本に入国出来る事になった。

日本人は、ムーの機械式時計を見たらさぞかし驚く事だろう、文明圏外国が列強の技術に触れたときの衝撃は相当なものだ、そう思っていたんだが……。

 

日本の玄関口、福岡市に着いた時、俺の考えていた新興国としての日本は、イメージが完全に間違っていた事を思い知らされた。

 

空に向かって伸びる巨大な建造物、そして街には、神聖ミリシアル帝国の魔導駆動車のようなもので溢れかえっていた。

道路の交差部も、立体的なものが多数あり、空にはムーの飛行機械をより大きく、速くしたようなものが飛び回っている。

しかも、そこは首都ではなく、一地方都市に過ぎないのだ。

信じられないかもしれないが、日本の国力は、俺が感じた限りでは神聖ミリシアル帝国をも凌駕するかもしれない!」

 

酒場は笑いに包まれる。

 

「はっはっは!!そんな訳ないだろう!!」

 

「おっさん酔いすぎだろ!!」

 

これにその商人は鞄から何かを取り出した。

 

「これを見てみろ!!」

 

酔っぱらい達がのぞき込む。

 

 

「魔写か?にしてもすごい都市だ」

 

 

「それは日本の地方都市、福岡市で俺が撮影したものだ。」

 

「何っ!!これが日本!?信じられん。」

 

「これで少しは分かっただろう?」

 

その時、酔っぱらいの集まりの中で、一人だけ雰囲気の違う男がその商人に声をかけた。

 

 

「失礼、それを私にも見せてくれないか?」

 

「ああ、もちろんだ。」彼が魔写を渡すと、彼は食い入るように見つめ、そして少しして商人に向き直る。

 

「この写真をいただけないか?」

 

これに商人は驚いた顔をする。

 

「まあ構わないが、あんた何者だ?」

 

「自己紹介をしていなかったな。私はザマス、帝国情報局の情報官だ。最近日本に関する情報を集めていたところだったんだ。」

 

「なるほど、情報局の方か。そんなら安心だ。ほら。」

 

そう言って魔写を手渡すと、彼は

「どうもありがとう。これはお礼です。」と言って、金を渡し酒場を出て行った。

 

再び酒場に活気が戻る。

 

「お偉いさんも日本が気になるんだなあ」

 

夜は更けていく。

 

 

トーパ王国 王都ベルゲン―――

 

 

 

「・・・本当なのか?その報告は」

国王トーパ16世は、部下からの報告の真偽を尋ねる。

 

 

 

「真にございます。

パーパルディア皇国に一時占領されていたアルタラス王国は、日本国の攻撃により在アルタラス皇国軍が全滅、統治機構は降伏し、アルタラス王国は、その統治権を奪い返しました。」

 

 

 

「しかし、アルタラス王国は、パーパルディア皇国の比較的近くにあったはず。 

皇国海軍はどうなっておるのだ?

そのままでは、アルタラスはすぐにやられるのではないのか?」

 

 

「その件につきましては、日本の基地がアルタラスに出来るまでの間、日本国の派遣艦隊が交代制でアルタラス海域で拠点防衛の警戒任務に就くそうです。

日本国によれば、パーパルディア皇国軍に対しては、それだけで十分との事です。」

 

 

「なっ、なんと。日本にとっては、あの列強パーパルディア皇国軍でさえ敵では無いというのか。」

 

 

「左様でございます。」

 

 

「うーむ、日本が味方で本当に良かった。これからも敵対するようなことが絶対に起きないようにせねばな。

よし、全軍に、日本の指定した海域及び空域には入らないように指示しろ!

民間船も入らぬよう、商船組合にも伝えておけ」

 

「はっ!」

 

トーパ王国の親日感情は高く、多くの国民が皇国の敗北を予想していた。

 

 

 

パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 

仕事終わりの休息中に突然呼び出されたレミールは機嫌最悪だった。早歩きで第一外務局へ向かう。

 

ドアを開けると、

中では、第1外務局長エルトをはじめ、幹部が顔をそろえ、そしてその全員の顔色が悪い。

レミールは皇族専用の席につく。

机上には、紙が数枚置かれていた。

 

 

「レミール様、まずは目をお通し下さい。」

彼女はレジュメに目を通す。

 

数秒後、その手は、怒りと衝撃のあまり、震え始める。

報告書には衝撃的な事実が記されていた。

 

「アルタラス統治機構陥落に関する報告書」とある。

 

 

「いったいこれはどういう事だ!!!」思わず怒鳴る。

 

パーパルディア皇国の歴史の中で、一度侵略し、統治した国が再独立、もしくは奪還された事は今まで1度も無かった。

 

「概要を説明いたします。」

 第1外務局長エルトが説明を始める。

 

 

「本日未明、在アルタラス皇軍は、日本国からの攻撃を受け全滅いたしました。

そして、それに呼応するかのように原住民の反乱が発生、皇国のアルタラス統治機構はこれに降伏しアルタラス王国は独立を宣言、王女ルミエスは皇国の他の属国に独立を呼びかけています。」

 

 

「何故だっ!!何故こうも皇国が文明圏外の蛮国ごときに連敗するのだ!!

皇軍は第3文明圏において無敵ではなかったのか!!」

 

 

レミールの甲高い怒声に耳を痛めつつも、エルトは続ける。

 

 

「今回、アルタラス王国の皇軍に対する攻撃に飛行機械が使用されていると魔信がありました。」

 

 

 

「何っ!飛行機械!?飛行機械だと!!それは・・。」

 

 

 

「はい、飛行機械を作れるのは、列強ムー国だけです。 ムーは、今まで自国の重要兵器を決して輸出してこなかった。しかし、今回日本に対しては、何故か輸出しています。日本の背後にはムーがいるのかもしれません」

 

「代理戦争か。小癪な!道理で日本の外交官が、戦争前に自信があった訳だ。真偽を確かめる。ムー大使を召喚しろ!!私が対応する。」

 

 

「はい!!」

 

 

会議は終了した。

 

 

第3外務局長 カイオス邸―――

 

「やはり、日本の力は皇国を上回るのか...このままでは皇国は滅ぼされてしまう!」

アルタラス陥落の知らせを受け、カイオスは祖国を救うべく一人動き出すのだった。

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国   パラディス城

 

 

 

皇帝ルディアスは、静かな怒りをもってその報告を聞いていた。

彼のの機嫌が悪い時に現われる癖を見て、担当者は震えながら報告を続ける。

 

「―――以上、アルタラス王国に進駐する皇国は、日本国による攻撃を受け全滅し、アルタラス王国統治機構は原住民に対し降伏しました。

そして、属領アルタラスは、王女ルミエスの宣言により、世界に向け、独立を宣言いたしました。これにより他の属領もざわつき始めています。」

 

 

属領・属国を恐怖で支配しているパーパルディア皇国にとって、今回の敗北は現在の体制を揺るがしかねない大事件だ。

 

 

「なんとしてでも、総力を挙げアルタラス王国を再制圧しろ!!独立を宣言した属領がどうなるかを他の属領に見せ付ける必要がある!!アルタラスを取り戻さないと、他の属領も蜂起し始めるぞ!!絶対にアルタラスを再占領するのだ!!!」

 

 

「はっ、はいっ!!」

 

皇帝ルディアスの指示により、パーパルディア皇国はアルタラス王国に再侵攻する事を決定したのだった。

 

 

 

 

佐世保鎮守府―――

 

 

ここでは現在、今後の作戦行動について会議が行われていた。三人の提督といくつかの艦娘が席に座り、ホワイトボードの前には赤松がいる。

 

 

「では、説明を開始する。」

 

プロジェクターに映像が写され、重要部はレーザーポインターを使用し、説明が進む。日本からは遠いが、アルタラス王国からは近いパーパルディア皇国、その皇都エストシラントとその周辺の地図が画面に表示される。

 

「アルタラス王国内の飛行場を改良し、我が国の基地が完成した後の話だが、自衛隊も本格参戦できるらしい。まああくまでも支援だから、主役はこちらだ。目一杯暴れてやろう。本題に入るぞ。

この位置に極めて大きな基地がある。

パーパルディア皇国は幸いな事に、街から少し離れた場所に大規模な要塞や基地を作る性質があるらしい。

武力を集中させすぎるのは、皇国が近代戦を行った事が無いからだと思われる。

同じようなサイズの基地は、パーパルディア皇国に3つあり、これらの部隊は、首都防衛の要となっているようだな。」

 

赤松は続ける。

 

 

「この基地には多数の航空戦力、ワイバーンも確認されている。

また、エストシラントの南方の港には、数百隻の戦列艦が停泊しており、正に第三文明圏の覇者にふさわしく、凄まじい戦力が存在するようだ。

港の船団に対しては、戦艦をメインとした遊撃艦隊を編成し、陸軍基地に対しては連山とB-29を大量に投入、無誘導爆弾を使用した大規模爆撃を行い、これを殲滅する。

そして、皇国周辺の陸軍基地を排除した後、爆撃隊は速やかに基地に帰還させる。次に東の工業都市、デュロの北にある陸軍基地に艦爆隊による攻撃を行う。

基地を滅した後は、デュロに多数ある皇国の武力を支える工場に艦砲射撃を行い、これを使用不能にする。」

 

「一般市民に被害が出たりしないか?」

森高が尋ねる。

 

「出ないとは言えないな。だが向こうも日本の一般市民を虐殺しているし、それよりもマシだろう。」

 

「そうだな。」

 

「ひとまず第一段階はこれで全てだ。皇都爆撃隊の指示は俺、デュロ攻撃艦隊は京介、留守番は千鶴に任せた。前回働いたばかりだしな。」

 

ここで吉川が立ち上がる。

「おい待て、俺は?」

 

これに高橋があきれた顔で言う。

「何言ってるんだ。お前は明後日ムーへ戦艦を送り届ける役目があるだろ」

 

 

これに吉川は顔を赤くした。

「あっ...いっけねえ、忘れてた。」

 

 

隣に座っていた艦娘「ミズーリ」が思わず笑い出す。

 

「しっかりしてくれよ、全く。ひとまず会議は終了だ。みんな準備しておいてくれよ。」

 

なんとも締まらない空気で解散となった。

 

 

二日後、吉川率いる艦隊は、今回ムーに供与する戦艦二隻を護衛し送り届ける為に第二文明圏へと出発した。

そしてその中には、日本の外交官も乗っていた。

これはなぜかというと、ついでに第二文明圏の国の一つ、イルネティア王国と国交を結ぶためでもある。王国は、ムーに仲介してもらい接触を求めてきたのだ。文明圏外の国とはいえ国交を結ぶことは日本からしても嬉しいことだ。

二つの大仕事を背負った艦隊は無事出港した。だが、この艦隊は少し後に思いがけないトラブルに巻き込まれる事になる。しかしそれは今のところ誰も知らないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第23話 イルネティア危機一髪 その1

長くなったのでたぶん二回に分けます。
オリジナル展開です。


数日後―――

 

「まだかなぁ」一人の男がそわそわと歩き回っている。ここはムー国海軍の最も大規模な軍港である。その男、マイラスは先ほどからずっとこんな調子だ。

 

後ろに控える部下があきれて言う。

「もう、マイラスさん。いつまでそうしているつもりですか。そんな事していたって日本が早く来る訳ではありませんよ。」

 

「いや、まあその通りなんだが、ずっと楽しみにしていたし...。」頭をかきつつ弁解する。

 

今日はムーとしても大事な日であり、海軍基地では軍楽隊が控えており、高級将校の顔もちらほら見かける。

 

その時、部下の通信機が音を立てた。彼は少し話をして、にっこりとマイラスに向き直る。

「マイラスさん、お待ちかねのお客様が来ましたよ。」

 

「なにっ!!どこだっ!!」

マイラスは海を睨む。

 

数十秒後、船の姿が海の向こうに見えてきた。

「来たあっ!!」年甲斐も無く大はしゃぎしている彼を苦い顔で見つめる部下も、心の中では気分が高揚してきていた。

 

そして、日本の艦隊はどんどんと近づいてくる。

数十分後、日本国艦隊の艦船は全て指定された場所へと入港し、錨を降ろして停泊した。

 

それに合わせ、歓迎の演奏が始まり、ムー海軍の兵士達もぞろぞろと集まってくる。

 

そして、一隻の戦艦からマイラスの見知った顔の男が出てきた。吉川も彼を見つけると笑顔で手を振る。

 

演奏も終わり、吉川も船から下りて挨拶に来た。

ここでマイラスの上官である一人の若い軍人が歩いてくる。

 

彼は吉川と向かい合い、自己紹介を始める。

「初めまして。私はレイモンド・シェーファーと申します。気軽にレイと呼んでください。

階級は大佐、今回の日本艦隊出迎えの責任者です。よろしくお願いします。」

 

吉川も返す。

「初めまして。こちらこそよろしくお願いします、

レイ大佐。私は吉川晃輔と申します。私達は特殊な軍に所属しているので、階級は原則としてありません。ですので、対等な相手として接していただければそれで結構です。」

 

「分かりました、そうさせて頂きます。さて、そろそろ本題に入りましょうか。」

 

「そうですね。ではご案内します。ついてきてください。」そう言って吉川は歩き出すと、後ろから何人も彼の後をついてくる。その顔は随分と楽しそうだ。

軍人魂が騒ぐのだろう。

 

戦艦の前に立ち、説明を始める。

 

「まず、これが戦艦『ドレッドノート』です。今回の供与・貸与艦についての詳細なスペックはこのノートにまとめてありますので、ご覧ください。」

 

受け取ったノートをレイ大佐は開き、思わずため息をもらす。

 

「おお...これは凄い...。まさに革命的だ。速度、火力、射程など数々の性能で今までの戦艦を上回るのか。」

 

「ただし、欠点もいくつかあります。それについても明記してあるので、よく確認しておいてください。」

 

また少し移動する。

「こちらは、もう一隻の供与艦、『サウスカロライナ』です。ドレッドノートと比べ、低速ですが合理的な砲配置をしており、バランスの良い艦ですね。つづきまして、貸与艦の説明に入ります。こちらへ。」

 

 

さらに進む。そこには先ほどの二隻よりも大きい戦艦が五隻並んでいた。

「この五隻の戦艦の名前は、手前から順に『エジンコート』『ヴァリアント』『ロイヤル・オーク』『レパルス』『フッド』と言います。『エジンコート』は弩級戦艦の最終形、『ヴァリアント』『ロイヤル・オーク』は超弩級戦艦、そして『レパルス』『フッド』は巡洋戦艦です。これらの戦艦は二年半ムー国に、技術研究の一環として貸与します。」

 

「おお..!大きい!!凄いぞ!!」歓声が飛び交う。

 

「これで今回の供与・貸与艦は全てですね。レイ大佐、注意事項なのですが、貸与艦の彼女達が嫌がることはしないようにお願いしますね。」レイに耳打ちする。

 

「ええ、当然しないように注意をはらいますが...そこまで気にすることなのですか?」彼は不思議そうな顔をして五人の艦娘たちを見つめる。

 

「気を付けてください..怒らせると誰も手をつけられませんので」吉川は真剣な表情で告げる。

 

「わっ、分かりました。細心の注意を心がけます。」

 

「是非お願いします。では、説明はこれで終わりです。もしよければ今停泊している軍艦をご案内しますよ。」

 

「よろしいのですか!?是非お願いします。」

二人とマイラスは船のタラップを上がっていった。

 

その後、吉川達はムーに一泊し、翌朝出港した。

ムーに残る艦娘達と別れ、艦隊はイルネティア王国へと向かう。

 

 

 

イルネティア王国 王城―――

 

「本日昼頃、日本の外交官を乗せた艦隊が来航します。」宰相が王に報告する。

 

国王は息を吐き、不安げな表情だ。

「そうか...間に合ってくれたか。しかし、彼らは我らの助け船となってくれるのだろうか...」

 

国王の表情はどこか影を落としたように暗い。

無理もないことだ、と宰相は思う。王国は今とある国に脅迫を受けていた。植民地化に応じろ、と。

二ヶ月以内に決めろと言い放ち、従わねば滅ぼすとまで言ってきた。当然そんな要求は呑めないし、呑む気もない。だが、あいつらの乗っていた船はとてつもなく大きく、まるで勝てる気がしない。彼らの最後の望みはパーパルディア皇国を退けたまだ見ぬ日本に託されていたのだ。

 

 

同じ頃、イルネティア王国沖―――

 

 

「なんだかなあ...」吉川は海を見ながら呟いた。

 

後ろから艦娘「ペトログラード」が少し心配そうに声をかける。

 

「どうしたんだコウスケ、ムーを出てからずっとそんな調子じゃあないか。」

 

彼は振り返り、

「いや、何というか、何かありそうな予感がするんだよ。そもそも向こうも文明圏外国とはいえ、ここまで遠く離れた国にいきなり接近してくるなんて、何か事情があるような気がするんだ。どうも怪しい。」とぼやく。

 

 

「そんなことを今考えていても仕様がないだろう。どうせ着いたら分かることだ。ほれ、紅茶を淹れてやったぞ、飲め。」彼女は吉川にロシア式の紅茶が入ったマグカップを渡す。

 

「おう、ありがとう。まあそうなんだよなぁ。しかしこの辺りも意外に冷えるんだな」マグカップのジャムを溶かしつつ、吉川は呟いた。

 

 

「うむ、そうだな。祖国ほどではないが確かに冷える」

 

二人並んで熱い紅茶を飲む。

「何事もなければいいが...」

 

艦隊はイルネティア王国に近づく。

 

 

数時間後―――

 

「陛下、日本の艦隊は無事到着しました。」

 

国王は、城から港を眺める。

「おお...あれは、この間の船より大きいのではないか?これは期待できるかもしれん」

 

彼らは会談の準備をすべく、部屋から去っていった。

 

 

そしてその頃、イルネティア王国に向かう一隻の巨大な船があった。

 

艦内で誰かが呟く。

「さて、イルネティア王国とやらは素直に応じるかな...それとも抵抗してくるか。どちらにせよ、あのような小国が我らを止められるはずもないが。」

 

不穏な影は王国に近づいてゆく。

 

 

 

 

さらに数時間後―――

 

会談は順調に進み、国交や通商条約の締結などが決まった。

 

(良かった...どうやら何事もなく終わりそうだ。)

吉川がそんな事を考えていたとき、イルネティア王国の担当者が突然切り出してきた。

「どうか...お願いがあります。我が国を滅亡の危機から救っていただきたいのです。」

 

いきなりの発言に、日本側は全員が目を白黒させる。

「それは、どういう事でしょうか。突然そのような事を言われましても困ります。」

 

 

「これは失礼しました。詳しく話しましょう。およそ二ヶ月ほど前のことです。―――その国、グラ・バルカス帝国は我が国にやってきました。」

 

「―――!」場の空気が変わる。

 

「知っているのですか?」イルネティア王国の外交官が尋ねる。

 

「はい。我々もかの国を脅威とみています。」

 

「なるほど。続きを説明します。帝国は我が国に――」

王国の外交官は、帝国の要求と威嚇について伝えた。そして、日本に助けてほしいと言うことも。

 

「・・・・・・・・・・」

日本側は険しい顔で押し黙ったままだ。そもそも現在日本は戦争状態にあり、更に敵を増やす事はなるべく避けたい。そもそも日本からすれば戦争をしている事自体がイレギュラーなのだ。

その上、パーパルディア皇国とは違い、グラ・バルカス帝国は戦艦を持っている。間違いなく皇国よりも手強い相手だ。

 

その様子を見て、王国側は焦りの表情を見せる。

「どうか!どうかお願いします!このままでは我々は滅ぼされてしまいます!」

 

「うーん...これはすぐにはとても決められない案件です...一度本国に持ち帰って...」

 

「そ、そんな!そうなってはもう遅いのです!あと一週間ほどで奴らは来てしまいます!」外交官は勢い余って立ち上がる。

 

その時、ノックもなしにドアが開かれ、若い職員が入ってきた。その額は汗に濡れ、肩で息をしている。

 

これに外交官が怒鳴る。

「おい!!今は大事な会談の最中だぞ!何の用件だ!」

 

「申し訳ありません!ですが、大変です!!!

奴らが...グラ・バルカス帝国の船が!!!!」

 

 

「何ぃっ!?早すぎるぞ!」

 

「本当です!!港に向かってきています!」

 

「なんということだ!!」

 

廊下を職員達が次々と通り過ぎていく。

蜂の巣をつついたかのような大騒ぎだ。

 

完全に流れにおいて行かれた日本側は呆然と様子を見ていた。少し間をおいて、吉川は大きなため息をついた。

 

「あーくそ、やっぱり何かあったか。」

諦めたように姿勢をだらんと崩す。

 

外交官の真壁も苦い顔をしている。間違いなく面倒ごとに放り込まれたのだ。彼の胃がキリキリと痛む。

「とりあえず、待機しておきましょう。必要あれば、不本意ですが仲裁に入る用意も」

そう言って座り、お茶を飲んだ。

 

 

 

一方、キルクルス港―――

 

「なっ...何だこの戦艦は」

「こっ、こちらよりも大きいのか!?」

艦橋では船員が慌てている。それは外交官ダラスと艦長ラクスタルも同じだ。帝国は完全にイルネティア王国をなめており、グレードアトラスター一隻で今回も十分だと思っていたのだ。ところが港には、明らかにこちらより大きい物も含め戦艦が八隻も停泊していた。

 

「まずいな...」ラクスタルは呟く。港だけでなく、沖合にも戦艦や巡洋艦と思われる軍艦の姿が見える。いくらなんでも一隻だけでは敵わないだろう。

その上こちらを囲むように停泊している二隻の戦艦はどうみてもグレードアトラスターと同等、つまり46センチクラスの主砲を装備している。これを喰らえばこちらもただでは済まないに違いない。

 

彼らは当然知らないが、今回派遣されている艦船は

クレムリン級二隻、レピュブリク級二隻、ライオン級二隻、レーニン級二隻の戦艦八隻と、プエルトリコ級大型巡洋艦三隻に、ブルックリン級軽巡洋艦三隻だった。

 

「艦長!!あの艦の国旗を確認しました!」

船員が連絡にやってくる。

「どこだ?」

 

「日本国です!!あの旗は日本のもので間違いありません!」

 

「やはりか...噂は、本当だったのか」

ラクスタルは情報局から、日本が同レベルの戦艦や空母を持っているかもしれないという話を聞いていた。これまで戦ってきた敵を見るに、信じづらい話であったし、何より距離が遠く離れているので、まさかこんなにも早く出くわすとは想定していなかったのだ。

 

 

ひとまずイルネティアにこれはどうした事か問い詰めるため、使節団は船を降りていった。

 

ラクスタルも艦橋から出て行こうとすると、部下が声をかけてくる。

「艦長、どこへ?」

「いやなに、外に出て写真を撮っておこうと思ってな。これはグラルークス陛下やカイザル大将に見せねばならん。」

そう言って、彼は甲板へと向かった。

 

 

 

一方、停泊している日本艦隊も、突如現れたグレードアトラスターに注目していた。

旗艦「ペトログラード」以外の艦娘達は艦内で待機している。そのため、通信で会話をして暇をつぶしていた。

 

会話の内容は当然、グレードアトラスターについてだ。

 

『何でここに大和さんがいるのかしらぁ?』

 

『いや、違うぞレピュブリク。見たことのない国旗を掲げている。あれは恐らく以前聞いた、グラ・バルカス帝国のグレードアトラスターとかいう戦艦だろう。』

 

『ということは敵?沈めていいの?』

 

『そんなわけが無いでしょう!』

女子達の雑談は盛り上がる。

 

 

そして帝国使節団は王城に入り、ついに日本とも接触することになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうなることやら...


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第24話 イルネティア危機一髪 その2

続きです。


その頃、ムー国 近海―――

 

 

 

「おおお、速い、速いぞっ!!」

 

巡洋戦艦「フッド」の甲板上で、マイラスがうれしそうに叫ぶ。部下が大慌てで彼を呼ぶ。

 

「マイラスさん!?そんなところにいたら落ちてしまいます!!すぐ戻ってきてください!!」

 

「いやあ、悪い悪い。つい夢中になってね。うわっ!」

 

大きな波があたり、マイラスはずぶ濡れになってしまった。もう少し大きい波だったら危ないところだった。

 

「長生きできませんよ...」

部下はあきれ顔だ。

 

現在、ムー海軍は日本国より提供された各艦の試運転を行っていた。どの艦も今までの戦艦を大きく上回る高性能だった。

 

 

「何ノット出ていた?」

 

「33.4ktですね。」

 

「何と..この巨体でラ・カサミの倍近く速いのか。」

 

世界最大級の巡洋戦艦の性能に驚くマイラスだった。

 

 

その後も、各種戦艦の試験が行われ、どれもムー海軍のこれまでの常識を打ち破る性能を見せた。

 

これを踏まえ、より優れた戦艦を建造すべくムーは心も新たに動き出すのだった。

 

 

 

イルネティア王国 王都キルクルス―――

 

三国の代表達はそれぞれ向かい合うように座っていた。

部屋にはぴりぴりとした空気が漂う。

 

 

帝国外交官のダラスは問う。

「これはどういうことですかな...イルネティア王国の外交官どの。未だに新しい国と国交を結ぶとは...

 

―――これはつまり、帝国の要求に逆らう、ということでよろしいので?」

 

口調こそ高圧的だが、彼も心中穏やかでない。

(くそっ...このままイルネティアを手に入れる手筈だったというのに、日本が邪魔だ)

 

イルネティアの外交官は若干怯えつつも答える。

「今回は日本国から国交締結の提案をしてきました。我が国としても断るのは無礼であり、受けるのは国家として当然のことです。」

 

これは嘘だ。だが本当のことを伝えると都合が悪いため、日本側の提案でこうすることにした。これは外交官真壁の提案だった。

 

「言い訳はよしていただこう。この行動、明らかに帝国への反抗を意味する。つまり、こちらの要求に応じない...滅ぼされたいということか」

 

 

「くっ....」イルネティアの外交官は怯む。やはり帝国は怖い。

 

ここで吉川が間にはいる。

「いずれにせよ日本とイルネティアは国交を結んだんだ。我々には同盟国を守る義務がある。」

 

「日本か...部外者が口を挟むな。これは帝国と王国との話だ」

 

「部外者ではない。我々の友好国に手を出すのはやめていただこう」

 

「何だと...調子に乗るなよ。小国が二つ手を組んだところで大したことはない。まとめて滅ぼしてやる」

ダラスが立ち上がる。

 

吉川も負けじと応戦する。

「少なくともあなたは現在の状況が見えていない。たった一隻では今の我々には勝てない。もしもこのまま攻撃を始めるつもりなら、あなた達には永遠に海の底で眠ってもらう」

 

「なんだとぉっ!!」ダラスは吉川に詰めより、彼の襟首をつかむ。

 

「ダラスさん!!落ち着いてください!!」

彼の部下らしい若い男が必死に制止する。だが彼はやめようともしない。

 

吉川はあくまで冷静だ。席を立ち、ダラスを上から強烈に睨みつける。

「彼の言うとおりだ、一度落ち着け。あなたは本当に現在の状況がわかっているのか。あなた達の戦艦は確かに強力だが、流石に我ら14隻に勝てはしない」

 

 

「くっ!!!」

ダラスは歯ぎしりする。立ち上がった吉川は思った以上に背が高く、凄まじい筋肉だ。彼自身の体格は決して貧弱ではないが、吉川相手には見劣りする。

 

 

「まずはこの手を離してもらおう。」

そう言うと吉川は自身の襟を掴んだままのダラスの腕をつかみ返す。

 

「ぐあっ!!!??離せっ!!」

吉川は静かにその手に力を込める。リンゴを片手で容易く粉々に砕ける彼の握力に、ダラスの顔は苦痛に歪む。

 

ようやくダラスの手が彼の襟から離れると、吉川も手を離した。

 

ダラスの顔は真っ赤だ。

「くそったれが!!帝国を敵に回したことを後悔させてやる!!」

そう言うが早いか、彼は部屋を出て行った。それに続き、帝国の使節団も慌てて彼の後を追った。

 

まるで嵐が過ぎ去ったような出来事だった。

 

 

静かになった部屋で、吉川は椅子に座るとふーっと息を吐く。そして、

「ペトログラード。一応警戒態勢に入れと留守番してる奴らに伝えといてくれ。撃たれたら撃ち返して良い。」

 

イルネティアの外交官が謝る。

「申し訳ない...まさかこんな事になるとは」

 

真壁は答える。

「気になさらないでください。あとは我々にお任せを。」

 

「すいません...よろしくお願いします。」

 

少しして、日本使節団も退出した。

 

 

戦艦「グレードアトラスター」内―――

 

「くそっ!!くそったれが!!!あんな艦隊など全て沈めてしまえ!!艦長!!攻撃だ!!攻撃しろ!!」

艦に戻ってからもダラスの癇癪は収まる様子がない。

 

一方で艦長ラクスタルは冷静だ。

「落ち着いてください。いま下手に攻撃を行えばこちらが負けてしまいます。一度本国に戻りましょう。今の我々では戦力が足りません。」

 

 

ラクスタルの説得により、帝国使節団は渋々帰国した。

 

この出来事により、帝国の警戒対象に日本が加わることになる。それも、神聖ミリシアル帝国以上の脅威としてだ。グラ・バルカス帝国は、神聖ミリシアル帝国が自国を上回る規模の戦艦や空母を保有していないことは確認していたが、日本の戦艦はグレードアトラスター以上の全長と同等クラスの砲を持つことから、最警戒対象としたのだ。

 

 

 

幸運なことに戦闘は起きず、日本の艦隊も無事に帰路についた。戦艦「ペトログラード」の中で、吉川はため息をもらす。

 

「あーあ、こんな面倒臭い事になるとわかってたんなら引き受けなきゃ良かった。」

 

 

「あれはどうしようもないよ、コウスケ。まさかあんなに短気だとは思っていなかったよ。お前は悪くないさ。とりあえず今は日本に帰ろう」

 

ペトログラードが励ます。

 

「そうだな、今はとにかく無事に帰ろう。佐世保についたら俺が奢ってやるから飲みに行こうぜ。」

 

「おっ、それはありがたい。いくらでも付き合ってやるぞ。」

 

「そうこなくっちゃ。にしても帝国のあいつ、随分と気が短いよなあ。あいつ、外交官に向いていないんじゃないか?」

 

「ははは、違いないな。もっとも今回はただ運が悪かっただけかもしれん」

 

艦隊は日本へと帰って行った。

 

 

 

数日後―――

 

グラ・バルカス帝国  帝都ラグナ

 

「ほう...これはすごいな」

一人の男がつぶやいた。その視線は一枚の写真に注がれている。それはイルネティア王国でラクスタルが撮影したものだ。そしてそれを興味深げに見ているその男こそ、「帝国の三将」の一人である、カイザル・ローランドだった。

 

彼とラクスタルは今、帝都のとある喫茶店で話をしていた。カイザルは別の写真に目を通す。

 

「うーむ、どれもこれも間違いなく我が国と同等かそれ以上の技術だ。全く、思いがけないところで強敵が現れたものだ。ラクスタル君、君は日本についてどう思う?」

 

「間違いなく現在分かっている中で最も警戒すべき相手です。今回私が目撃した戦艦は八隻、その内四隻はグレードアトラスターよりも大きかった。それに、そのような巨大戦艦を運用するのには我が国もそうであるように、かなりのコストがかかります。

 

そのような物をたかが国交締結のために何隻も運用するなど、なかなか考えられません。」

 

「ふむ。確かにそうだ。グレードアトラスター一隻だけでもかなり財政を圧迫するというのにな。」

 

「それと、この写真を見て分かるように、大量の対空装備が施されています。彼らも航空戦力をメインとしているのでしょう。ですが今回だけで八隻もの戦艦を派遣してきたというのならば、更に本国に主力が控えている可能性が高いです。」

 

カイザルはコーヒーを一口飲み、腕を組んだ。

 

「なるほど...よく考えているな。どうやら日本国は別の世界から転移してきたと主張しているらしい。つまり我々と同様、この世界ではイレギュラーな存在だ。ということは我々もそうだったように、日本もこの世界の水準とは隔絶した技術を持っているかもしれん。我々の常識で考えてはダメだな。」

 

「となると、帝国を上回る技術を持っている可能性も...」

 

「十分あり得るな。常識の範疇で捉えてはいけない。幸いだったのは日本は平和主義国家らしく、自身やその同盟国に手を出さなければ基本的に動かないらしい。イルネティア王国は諦めて賢明だったということだ。」

 

 

「ですが、日本はムーとも国交を結んでいます。ということはムーに手を出すと日本も..」

 

 

「参戦するかもしれない。これは皇帝陛下とも話し合ったが、一度作戦を見直す必要がある。」

 

「そうですね。油断は禁物です。」

 

「そろそろ出よう。今日は奢ろう、私が誘ったのだからね。それとラクスタル君、君は最近働きすぎだから、休暇を取っておいた。一度ゆっくり休みなさい。」

 

「ありがとうございます!」

 

会計をすませ、ラクスタルが礼を言うとカイザルは手を振って去っていった。

 

 

 

 

同じ頃、日本ではついに工業都市デュロを叩くための準備が始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだかグラ・バルカス帝国は原作よりまともになってしまいました。

ラクスタルさんとカイザルさんは個人的に好きなキャラクターです。


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第25話 GRAND SLAM!!!!!!

UAが一万を超えました。

そして、評価9を第一護衛隊群様に付けていただきました、ありがとうございます。

読んでくれている皆様も、是非お気軽に感想や評価をつけていただけると嬉しいです!

作者のモチベーション上昇に繋がるのでよろしくお願いします。




「―――なるほど、夜は皇帝は皇宮で休んでいるのですね?」

 

『その通りです。夜間は皇帝ルディアスは皇城から少し離れたところにある皇宮で休みます。』

 

「それは良いことを聞きました。民衆に被害を出さずに心を折ることが出来そうです。」

 

『いったい何をするつもりですか…恐ろしい予感がします。』

 

「お気になさらず。そしてカイオスさん、あなたがクーデターを起こすタイミングですが、我々が皇国の戦力を完全無力化し、民衆の不信感が募った頃合いを計って動いてください。こちらからも指示を出します。」

 

『分かりました。そして、講和についてですが...』

 

「講和?何を言っているのですか?無条件降伏以外は認めません。」

 

『そ、そんな!列強たる皇国が無条件降伏など、認められる物ではありません』

 

「まだそのような戯言を言える事には驚きました。我が国の国民を惨殺したあなた方をそもそも現時点で我々は国家とは認めていません。あなた達が降伏して初めて、日本はパーパルディア皇国を国として認めましょう。」

 

『わっ、分かりました。クーデターに成功したら、間違いなく降伏します。』

 

「賢明な判断です。もっともあなたが失敗すれば、今度こそ皇国は滅びます。頑張ってください。」

 

『はい...わかりました。失礼します。』

 

ブツッ、という無機質な音がして通信が切られる。

静かになった部屋で、カイオスは一人ため息をついた。

 

(日本の怒りがここまでだとは…だが、私が動かなければ皇国は滅ぼされる!もはや後戻りは出来ないのだ。)

 

 

 

翌日昼頃、エストシラント 第一外務局

 

 

 

皇族レミールは、第1外務局の小会議室で、第2文明圏列強ムーの大使を待っていた。

すでに事前情報として、ムー国政府が日本国とパーパルディア皇国が戦争状態に突入した事を理由として、パーパルディア皇国内のムー国民に対し、避難指示を出しており、国外へ退去するムーの民が港に長蛇の列を作っている。

 

ムー国大使のムーゲは予定が詰まっており、会談の開催は遅くなっていた。

 

ムーは日本に自国の兵器を輸出しているからこその避難指示と思われる。でなければ、列強と蛮国の戦争で列強側の国に対して避難指示が出る事は考えられない。

会議室には皇族レミールの他に、第1外務局長を筆頭とした幹部の面々が顔をそろえる。

 

そろそろ到着時間だ。

 

数分後、小会議室のドアがノックされる。

 

 

「ムー国大使の方が来られました。」

 

「どうぞ。」

 

重厚な扉を開け、ムー国大使ムーゲと職員3名の計4名が入室する。

 

「どうぞお座り下さい。」

 

案内に促され、ムー国大使一行は席につく。

 

 

ムーゲは思う。

 

おそらく今日自分たちがパーパルディア皇国に召喚された理由、日本と皇国の戦争により、本国から避難指示が出た件で、何故そんな事をするのか問われるのだろう。

ムーは皇国と敵対している訳でも無く、特に仲が良い訳でも無いが、大切な国交を有する国だ。

 

皇国も、さすがに日本の技術については気付いているだろうから、説明すれば解ってもらえるはず。いかに皇国のプライドを傷つける事無く、一時的とはいえ、ムー大使までもが本国に引き上げる事実を説明しなくてはならない。

 

だが、僅かに心に引っかかる事がある。皇国は日本に対し、殲滅戦を宣言してしまっている。日本の強さ、技術力の高さを上が認識していたら、こんな事を宣言するとは思えない。

 

考えたくも無いが、まさか皇国は日本の強さを認識していない可能性すらある。いや、それは流石に無いだろう。認識が無いならば、皇国が日本に連敗した説明がつくまい。

 

彼は皇国との会談を前に気を引き締める。

 

 

「それでは、会談を始めます。」

 

 

そして、進行係の言葉により、会議は開始された。

 

 

レミールが発言する。

 

 

「我が国が日本国と戦争状態に突入している事は、知ってのとおりだと思う。今回のムー国の一連の対応について説明を願いたい。」

 

 

 

彼女の問いに、ムーゲが対応する。

 

 

 

「はい、このたびパーパルディア皇国と、日本国が戦争状態に突入いたしました。今戦争は、激戦となる可能性があります。ムー国政府は、ムーの民の安全を確保するため、貴国からの避難指示を発令するに至りました。

 

今回の指示には、大使館の一時引き上げをも含みます。

この措置は、皇都にも被害が及ぶとの判断からなされています。」

 

この発言を受け、レミールの表情が曇る。

 

 

「いや、そんなことは聞いていません。調べはついています。本当の事を話してはもらえませぬか?」

 

 

「?」

レミールの発言が理解出来ずに、ムーゲは戸惑う。

 

 

「我々が日本国との戦闘の際、飛行機械を目撃しているのです。本当の事を話してください。」

 

 

「いったい何をおっしゃっているのか、理解出来ないのですが。」

 

「解らぬのか?これは、ムーもとんだ狸を送り込んで来たものだ。私は今、飛行機械を日本が使用しているのを目撃したと発言した。

 

飛行機械が作れるのは、あなた方ムーくらいのものだ。

あなた方ムーは、今まで決して輸出して来なかった武器を日本に輸出した。そして、今回の皇都からの自国民の引き上げ、これが何を意味しているのかは馬鹿でも解るだろう。

何故日本に兵器を輸出した!!そして何故我々の邪魔をするのだ!!!」

 

 

ムーゲは今にも襲い掛かってきそうなレミールの表情に萎縮すると同時にパーパルディア皇国のあまりにも斜め上の推論に戸惑う。

 

 

「あなた方は、何か重大な勘違いをしている。我々ムーは、日本に兵器を輸出などしていない。彼らは我々よりも機械文明が進んでいるのです。」

 

 

「文明圏外の蛮国が、第2文明圏の列強よりも、機械文明が進んでいる?そんな話が信じられるか!!」

 

 

「日本が転移国家という情報は、掴んでおられないのですか?」

 

 

レミールは過去に読んだ報告書の片隅に記載されていた文を思い出す。

しかし、彼女は現実主義者であり、そんな物語を本気になど出来なかった。

 

「転移国家だと?まさか貴国はそれを信じているのか?」

 

 

「信じています。我らと日本は元々同じ世界にあった国であることも確認しています。1万2千年前、当時王政でしたが、歴史書にはっきりと記録されています。

さらに、日本について調査した結果、我が国の元いた世界から転移した国家であり、1万2千年前の異世界での友好国です。」

 

ムーゲは鞄の中から写真を4枚取り出す。

 

「これを見てください。ムーと日本の戦艦と戦闘機の比較写真です。日本の戦艦は我らの2倍以上の全長を持つものが多数存在します。戦闘機ですが、ムーのマリンが翼を2枚というのに対し、日本の戦闘機は1枚です。これは我々は開発できていません。戦艦も同じく、ムーにこのような兵器は開発できません。」

 

「・・・・・・・・・!!?」

 

 

次に、超高層建築物が立ち並ぶ、見た事が無いほど栄えた街の写真を取り出す。

 

「これは、日本の首都、東京の写真です。日本は転移前、地震の多い国だった。これほどの高層建築物の全てが、強い地震が来てもビクともしません。」

 

パーパルディア皇国側の面々の顔色が一気に悪くなっていくのが解る。

 

ムーゲはさらに話を続ける。

 

「さらに、今回あなた方皇国軍が惨敗を重ねている日本の軍は、彼らにとって旧式な装備を使っている特殊な部隊なのです。日本本土には、彼らが自身を守るための別の軍がおり、その技術は最早我々も理解できません。その軍の持つ戦闘機は、音の速さの倍以上で飛ぶことが出来るそうです。

 

 

このように軍にしても、技術にしても、日本国は我々よりも遥かに強いし、先を進んでいるのです。

神聖ミリシアル帝国よりも上と言っても過言ではありません。

 

そんな国にあなた方は宣戦を布告し、かつ殲滅戦を宣言してしまいました。

殲滅戦を宣言しているということは、相手から殲滅される可能性も当然あります。

 

 

ムー政府は国民を守る義務があり、このままでは皇都エストシラントが灰燼に帰する可能性もあると判断し、ムー国政府はムーの民に、パーパルディア皇国からの国外退去命令を出したのです。

我々も間もなく引き上げます。

戦いの後、皇国がまだ残っていたら私はまた帰ってくるでしょう。

 

―――あなた方とまた会える事をお祈りいたします。」

 

 

 

あまりにも衝撃的な事実に、部屋は静まりかえる。そこにいた皇国の人間は誰もが俯いており、血の気が引いていた。

 

最悪の結果を残し、会議は終了した。

 

思い返せば、何度も何度も日本の国力に気付く機会はあった。しかし、その全てを無駄にしてしまった。

 

日本が自ら力を示さなかった事がもどかしい。

行った行為は消せず、失った時間はもう戻らない。

 

ムー国大使の言が正しかったとすれば、自分たちは超列強国相手に侮り、挑発し、そしてその国の民を殺してしまった。さらに、最悪な事に国の意思として殲滅戦を宣言してしまっている。

 

この日の会議は深夜にまで及んだ。

 

 

その夜に事件は起きた。

 

 

皇国の美しい都市、エストシラントに死神が近づいていた。

 

 

「あと30分ほどでエストシラント上空に到達します。」

 

「よし、始めるぞ。指示通り爆撃隊は分散しろ。それぞれの持ち場に着け」

赤松が無線を入れる。

 

 

『第一爆撃隊了解』

 

『第二爆撃隊了解』

 

 

それぞれ25機のB-29と連山爆撃機で構成されている。攻撃目標はエストシラントの陸軍基地、それを時間差で攻撃する事になっている。

 

そして赤松の乗る唯一のアブロ・ランカスター爆撃機は、それとは別のある目標を目指していた。B-29と連山はその姿を見せつけ、低空爆撃を行うために、高度を落としていったが、ランカスターだけは高度12,000mを保ったままだ。

 

 

 

飛行服を着た赤松は機内の乗組員達を激励する。

 

「よーしみんな、気合いを入れろ。これに成功すれば一気に皇国の気力を削げる。絶対に当てるぞ。

 

―――目標、パラディス城!!!」

 

「はい!!!」

 

 

 

そして、ついに爆撃隊はエストシラント上空に到達した。今夜は快晴、雲一つない。

 

 

先に突入したB-29と連山は低空を飛び、まるで悪魔のようなエンジン音を響かせ悠々と皇都を見下ろす。

 

これを聞いた皇都の一般市民や、第一外務局で会議をしていた面々、皇帝ルディアス、そして事前にこれを知らされていたカイオスと各国大使は外に出る。

 

 

「何だ!!何の音だ!!」

 

レミールは叫ぶ。

 

エルトが空を指さす。

 

「あっ!!!あれを!!!」

 

少しして第一外務局の上を航空機が通過する。その姿を彼らは目に焼き付けた。

 

 

月明かりに照らされ、その輪郭が浮かび上がる。

 

 

「まさか…日本の飛行機械!?いかん、あの方向には陸軍基地が!!」

 

彼らには何も出来ず、茫然と爆撃機隊を見送った。

 

 

そして爆撃機隊は陸軍基地に到達、一気に爆弾が落とされる。

 

 

いきなりの攻撃にワイバーンを上げる事も出来ず、為すすべもなく基地は火の海に包まれ、その戦力を失った。

 

 

 

―――「赤松提督、通信が入りました。成功です。」

 

「よし、後は俺たちの仕事だ。投下準備!」

 

「了解!!」

 

そう、赤松の乗るアブロ・ランカスターにはあの爆弾が載せられていた。世界最大級の通常爆弾である、

 

―――グランドスラムだ。

 

それも、最新鋭の技術によって命中率が大幅に上がった改良型だ。

 

 

「間もなく投下地点!!」

 

「よし!!必ず当てろ!!」

 

 

「到達しました!!投下っ!!!」

 

ガクンと機体が揺れ、一気に軽くなる。10tを超える爆弾の負荷はかなりの物だ。

 

投下された爆弾は一直線にパラディス城を目指す。

 

「当たってくれよ……!!」

 

赤松は一人祈った。

 

 

 

 

 

 

 

―――「き…基地が燃えている!!!そんな!!!」

 

アルデが悲鳴を上げる。最早陸軍基地は機能しないだろう。

 

誰もが泣きそうな顔をしている。

 

だが、満身創痍の彼らに次の悲劇が襲いかかった。そう、先ほど投下された「あれ」だ。

 

 

グランドスラムは最終的に音速を超え、皇城前の庭に深々と突き刺さった。

 

近くにいた兵士達は、数秒後地面が突然噴火のように盛り上がるのを見た。それが最後に見た景色だった。

 

 

ドッ―――

 

雷など比較にならない程の閃光と、少し遅れて大音声が鳴り響く。

 

辺りは昼間のように明るくなった。

 

皇都にいた誰もが目と耳を塞ぎ、その場にうずくまる。

 

 

数十秒後、恐る恐る目を開けると、そこにはパラディス城の姿は既に無く、地獄のような業火と立ち上る煙があった。

 

「パラディス城が!!!」

 

「何があった!!陛下は!?」

 

もう皇国民の心はボロボロだ。一瞬にして国の栄華の象徴を失ったのだから。

 

 

それは第一外務局にいた要人達も同じだった。

燃え盛る城を茫然と見つめる。

 

 

「城が…パラディス城が燃えている……」

 

レミールが動転したように走り出す。

 

「レミール様!?どちらへ!?」

 

「陛下の無事を確認に行く!!」

そう言うと彼女は去っていった。

 

残された面々は誰も、何も言わない。

 

エルトはがっくりとひざをついた。

「こんな…こんな相手にどうやって勝てばいいんだ?いや、そもそも我々は何と戦っているんだ?

 

―――一体なんなんだぁーーーーーっ!!!??」

 

彼の悲痛な叫びは外務局に響き渡った。

 

 

 

一方、レミールは皇宮へと到着した。建物は無傷のようだ。彼女は皇帝のもとへと走る。

 

「陛下っ!!ご無事でしたか!!」

 

ルディアスを抱きしめる。無事で良かった。だが彼の目は虚ろで、まるで生気を感じない。

 

「…陛下?どうしました?」

 

レミールの背に汗が流れる。

 

「―――すまない…レミール。今は一人にしてくれ……」

 

 

「!すいません…失礼します」

 

一人になった所で、ルディアスは頭を抱えた

 

「我々は何と戦っているのだ…??パーパルディア皇国は神の怒りに触れたのか??」

 

答える者はいない。

 

 

退出したレミールの足取りは重い。

 

(何故こんなことに……)

 

―――おまえのせいだ。

 

突然、そんな声が聞こえた気がした。はっとして周囲を見回す。

 

「誰だ!!無礼者め!!!」

 

だが、人の気配はない。

 

「気のせいか…?」

 

―――おまえのせいだ。

 

また、そう聞こえた。さっきよりもはっきりと。

 

「誰だ!!姿を見せろ!!」

 

やはり誰もいない。しかし声は聞こえる。よりはっきりと。

 

―――おまえのせいだ。おまえのせいだ。おまえのせいだ。

 

「ひいっ!!!わああーーーーっ!!?」

 

彼女は耳をふさぐと、一目散に自宅へ走っていった。

 

 

カイオスも、自宅の庭から燃える城を見ていた。

 

「なんと、ここまでするとは!!間違いない、日本は本気だ!!!」

 

恐怖に震える足を必死に動かし、部屋に戻っていった。

 

 

ムーゲも、大使館から見つめていた。

 

「これが、日本の怒りか…なんと恐ろしい。」

 

カメラを取り出し、燃えるエストシラントを写真に収めた。後にこの時撮影された写真は歴史の一面を飾る事になる。

 

 

エモール王国の使節団も、茫然と炎を眺めていた。

 

誰かが呟く。

「これを…本当に人間が?まるで神の雷だ。日本国…間違いなく魔帝に対抗する鍵となるだろう」

 

その時、何かが空から降ってきた。紙切れのようだ。

 

そこには世界共通語でこう書かれていた。

 

『我々は次に、デュロを攻撃する。それでも皇国が降伏しないというのなら、今度こそ我々は皇国を全力を以て滅ぼすだろう。  

皇国民の皆様には賢明な判断が求められている。

 

          日本国政府』

 

 

 

「よしみんな、帰投するぞ。作戦完了だ。」

 

赤松が通信を入れ、ビラを配り終えた爆撃機隊は日本へと戻っていった。

 

 

一晩かかっても火は消えず、煌々と夜を照らした。

 

 

翌日、世界中でこのことが報道され、誰もがかつてない衝撃を受けた。列強国の首都が攻撃されたので、無理のない事ではあるが。

 

とある国の新聞の見出しには、こう書かれていた。

 

 

『パーパルディア皇国は神の怒りに触れた』

 

 

 

 

 

  




連山とグランドスラムはぶっちゃけロマン兵器ですね。
威力は過剰かもしれませんが出したかったので使いました。


ありがとうございました。


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第26話 近づく大海戦

次回から海戦ですね。

あと一人で、評価バーに色が付くので、もしよければ投票してくださるとうれしいです。

よろしくお願いします。


翌日昼頃  皇都エストシラント

 

 

パラディス城と陸軍基地の火はようやく消し止められた。

 

皇都の誰もが寝ることも出来ず、やつれた顔をしている。たった一晩で皇国の象徴たるパラディス城が跡形も無くなってしまったのだ。

 

彼らは口々に呟く

 

「いったい何だったんだ...」と。

 

 

一方、皇宮では帝前会議が行われていた。

 

陸軍兵が報告する。

「昨夜、皇都陸軍基地は日本の飛行機械による攻撃を受け、大きな被害を出しました。これにより皇都防衛戦力は壊滅しました。また、これも日本によるものだと思われますが、突如パラディス城が大爆発を起こし破壊されました。」

 

 

ルディアスは頬杖をつきながら問う。

 

「ご苦労、座って良いぞ。―――アルデよ、皇軍の戦力は今どれほど残っている?」

 

「はい。今回想定外の爆撃により基地とワイバーン等は大きな被害を被りましたが、夜だった事もあり、兵士の死傷者は少なくとどまっています。海軍については主力戦力が残っているので、戦闘に支障はありません。」

 

「そうか……。それで、これからの展開は?日本をどう迎え撃つのだ?」

 

「はい。昨夜日本が空からばらまいた紙切れによると、日本は艦隊でデュロを襲うと予告しています。そのため、現在偵察の飛竜を多く飛ばし、沖合の監視にあたらせています。連絡が入り次第、即座に主力艦隊が出撃できる状態になっています。日本の艦隊を迎撃し、デュロを守ります。」

 

「わかった。ご苦労。」

 

「他に何か報告のある方はいらっしゃいますか?」

進行係が問うと、カイオスが手を挙げた。

 

「第三外務局より連絡です。アルタラス王国元王女ルミエスが蜂起を呼びかけており、属国・属領がざわついています。これに対し引き続き警戒を強めていきます。」

 

その時、ドアがノックされ、若い兵士が入ってきた。

 

「報告します!先ほどデュロ沖200km地点で偵察をしていた飛竜隊と艦隊の反応が突如消失しました!」

 

「!!!!!」

 

部屋に緊張が走る。ルディアスが命令する。

 

「アルデっ!!」

 

「はいっ!!分かっております!全艦隊の出撃をすぐにさせろ!!」

 

「はいっ!!」

 

兵士は通信を入れるために走っていった。

 

 

 

エストシラント海軍基地―――

 

 

皇都防衛の要ともいえるエストシラント南方の海軍基地、同基地には戦列艦がひしめき、皇国海軍主力といっても差し支えない。

基地の中にはパーパルディア皇国の海軍本部も設置され、多数の戦列艦の並ぶその姿は圧倒的の一言である。

 

 

 

海将バルスは、海軍本部の自室から外を眺める。

 

 

偵察に出ていた艦隊の反応が消失し、基地の海軍に全力出撃を命じた。

 

有事即応体制にあった戦列艦たちは、迅速に準備をしている。

 

 

万全の態勢で敵を迎え撃つ。

個艦同士の展開範囲を広くとり、かつ莫大な量をもって戦うことにより、長射程砲対策を行う。

 

本作戦に、海将バルスと皇国の頭脳マータルは、自信を見せる。

 

 

続々と港を出港する戦列艦、その一隻一隻が、この世界の平均的な戦船に比べ、圧倒的に強く、大きく、そして速い。

 

第3文明圏最強の海軍、列強パーパルディア皇国主力艦隊は、間もなく来るであろう日本海軍の攻撃に備え、彼らを滅するために出港準備を行うのだった。

 

 

 

その少し前 佐世保―――

 

 

当初はデュロを攻撃する艦隊のみの予定だったが、エストシラントに駐留する皇国主力海軍が出てくる可能性が高いため、もう一つの艦隊を編成した。

 

デュロ攻撃艦隊は森高による指揮、そして対皇国遊撃艦隊は高橋によるものとなっている。

 

大まかな編成は以下の通りだ。

 

・デュロ攻撃艦隊

 

指揮 森高千鶴 

 

旗艦 サラトガ

 

戦艦

 

ノースカロライナ級(ノースカロライナ、ワシントン)

 

フロリダ級(フロリダ)

 

サウスダコタ級(インディアナ、アラバマ)

 

ジョージア級(ジョージア)

 

リヨン級(リヨン、リール、デュケーヌ、トゥールヴィル)

                  計10隻

 

航空母艦

 

レキシントン級(レキシントン、サラトガ)

 

ヨークタウン級(ヨークタウン、ホーネット)

 

大鳳型(大鳳)

 

白龍型(白龍)

 

                  計6隻

 

 

巡洋艦

 

デモイン級(デモイン、セーラム)

 

ウースター級(ウースター、ロアノーク、ヴァレーオ、ゲイリー)

 

蔵王型(蔵王、剣、真砂、黒金)

 

                  計10隻

 

合計26隻

 

 

 

  

・対皇国遊撃艦隊

 

指揮 高橋京介

 

旗艦 大和

 

 

戦艦

 

大和型 (大和、武蔵、伊賀)

 

出雲型 (出雲、周防)

 

肥前型 (肥前、石見)

 

モンタナ級(モンタナ、オハイオ)

 

コンカラー級(コンカラー、サンダラー)

 

ポルタヴァ級 (ポルタヴァ)

 

フリードリヒ・デア・グローセ級 (グロース・ドイッチュラント、ポンメルン)

 

 

リシュリュー級(リシュリュー、ジャン・バール、クレマンソー)

 

ガスコーニュ級(ガスコーニュ、シャンパーニュ)

 

 

                合計20隻

 

 

「準備はいいか、大和」

艦橋内で高橋は隣に立つ「大和」に声をかける。

 

「はい、勿論です。京介さん」

 

フェン王国の戦いの後、四人の提督達を名前で呼ぶ艦娘が多くなった。以前のように「提督」や「司令官」だと紛らわしい、というのもあるが、やはりこれまで以上に彼らへの信頼感を増していることを表しているのだろう。

 

「頼もしいな。やはりお前は世界一の戦艦だ」

 

「いいえ...日本には紀伊がいますよ。それにこの鎮守府には私より大きい子達が何人もいます」

 

「紀伊は昔の戦争には間に合わなかった。他の奴らも前の世界では存在しない。実際に産まれて、あの戦争を戦ったことをお前は誇っていいんだ」

 

「はい...ありがとうございます。」

 

「話がそれたな。そろそろ時間だ。」

 

そう言うと高橋は通信機を手に取った。

 

「よしお前ら、先ほども確認したがもう一度言うぞ。俺達の仕事はエストシラントの敵主力艦隊を迎撃し、千鶴の艦隊をデュロまで無事に行かせる事だ。今回の作戦で皇国の心を完全に折り、降伏へ向かわせる。以上だ。

 

 

―――行くぞ。全艦抜錨」

 

 

彼の通信により一斉に錨が上げられ、山のような巨大戦艦達は少しずつ動き出す。

 

 

高橋率いる遊撃艦隊は、一足先に出港し、皇国主力艦隊を叩き潰すため出撃した。

 

戦艦だけを20隻の稀に見る編成、いかに攻撃力に特化しているか分かる。

 

戦艦「ポルタヴァ」を先頭に、エストシラントへ艦隊は向かう。

 

 

そして――

 

 

「行こう。これで決着を付けるんだ」

森高が通信を入れる。これを聞いた艦娘達は一時の沈黙の後、目を見開いた。これが最後の戦いだ。

 

「全艦抜錨」

 

もう一度通信を入れ、デュロ攻撃艦隊はゆっくりと出港した。

 

 

こちらは先に空母からの攻撃隊で陸軍基地を無力化し、反撃の芽を摘み取った上で、警告の後工場地帯に艦砲射撃を行う。

 

一応デュロにも戦列艦隊の姿は確認されていたため、迎撃のため戦艦や巡洋艦は多めに選ばれていた。

 

だがその中には今回が初陣となる艦も多く、慣熟訓練の意味も多少兼ねている。

 

つまりは彼らにとって皇国の軍など、その程度でしか無い脅威なのだ。

 

 

―――あまりにも、技術差がありすぎた。

 

旗艦「サラトガ」の艦橋内で、森高は明るいとは言えない表情で椅子に腰掛けていた。

 

彼は戦いの中で多少は感じる高揚感というものがいつの間にか失せていることに気づいていた。

 

これまでのあまりにも一方的な戦い、いや、戦いといっていいのかすら分からなくなるような結果ばかりだ。

 

そこにはかつての手に汗握るような激戦、命を張って指揮を執るような場面は皆無に等しい。

 

そもそもここまでやられておいて、何故皇国は降伏しない?いい加減、実力差には気づいているだろう。

 

行き過ぎたプライドと慢心というものはここまで人を狂わせるのだろうか。

 

そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。

 

「千鶴さん。戦いの前にそんな表情をされていると戦意に悪影響ですよ。」

 

艦娘の「サラトガ」だ。外国艦娘の中では古株で、森高の信頼も厚い。

 

「いや、すまない。実は―――」

 

彼は今考えていた事を話した。サラトガは少し目を閉じると、彼にもう一度向き直る。

 

 

「確かにそう考えてしまうのは今までを振り返れば無理もないかもしれません。ですが、今回それを終わらせる為に私たちは戦うのですよ。気合いを入れてください」

 

その言葉に森高ははっとしたような顔になる。

 

「その通りだな、ありがとうサラ。おかげで吹っ切れたよ。」

 

「それは良かったです、千鶴さん。」

 

「ああ。今回も無事に勝って、帰ろう。」

 

「そうですね、みんなで佐世保に帰りましょう。」

 

 

 

 

 

―――帰ったら、祝杯をあげよう。

 

そう約束して、二人と艦隊は舵を切った。

 

 

 

 

 

 

後に第三文明圏、いやこの世界全体でも指折りの大決戦となるエストシラント沖大海戦はすぐそこまで近づいて来ていたのだった。

 

 

 

 

 

           




ありがとうございました。

感想、評価をお待ちしています。


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第27話 エストシラント沖大海戦 その1

一日で投票数が増えていて驚きました。

みなさんありがとうございます。


パーパルディア皇国 皇都エストシラント 南方海域

 

 

高橋率いる遊撃艦隊は、波を裂きながら北進していた。

 

すでに敵の大船団はレーダー上に捉えられ、おそらくは敵の空母と思われる艦隊の位置も把握し、事前の人工衛星からの偵察により、敵海軍本部の位置もとっくのとうに判明している。

 

 

数時間前偵察と思われるワイバーンと数隻の艦隊をあっさりと撃破した。敵は気づいているだろう。

 

「思った以上の布陣と量だな。これほどの大艦隊を相手にした海戦は、日本の歴史上初めてになるかもしれない。」

高橋はレーダー画面を見て呟く。

 

 

「これは気合いが入るな。全力で相手をしてやろう。」

 

 

敵竜母艦隊は、こちらの艦隊から北東方向約100kmに展開している。

その艦隊からは、多数の敵航空戦力が飛び立つ様子がレーダー画面上に映し出される。

 

 

恐らく改良種のワイバーンロードもしくはオーバーロード、一時間もせずに接触するだろう。

 

 

一方、皇国竜母艦隊―――

 

偵察艦隊が消息を絶った方面に間違いなく日本はいる。

 

 

各竜母からは、皇国の航空戦力、ワイバーンロードが続々と飛び立ち、上空で編隊を組む。

 

竜母20隻からは、各12騎づつ、計240騎がすでに上空に舞い上がり、さらに竜を排出し続ける。

 

空に上がった竜騎士は、反応が消失した方向へと向かう。

 

 

「これほどの竜が迎撃に上がるのは、歴史上初めてだな。」

 

竜母艦隊司令バーンは、飛び立つ竜騎士を見てそう呟いた。

 

 

「そうですね、敵のお手並み拝見といきましょう。」

 

竜母艦隊の軍師アモルは、余裕のある態度をもって、司令の言葉に答える。

 

彼らの自信は揺るぎない。

 

 

 

数十分後―――  

 

 

『対空戦闘用意』

 

艦隊に通信が入る。

 

既にワイバーンはかなり接近してきており、間もなく視認できるだろう。

 

 

各艦の砲は全てが同じ方向を睨む。

 

 

『敵機確認しました』

 

通信が入り、高橋もその方向に視線を移す。空に黒い点が見えた。

 

 

「最初の一発は主砲でいくぞ!!用意は良いか!」

 

『大丈夫です!!』

『任せろ!』

『いつでも来い!』

 

元気な声が返ってくる。

 

「よし!必ず当てるぞ!!!」

 

警戒のブザーが鳴る。

 

 

 

 「――撃てぇぇっ!!!!」 

 

 

 

 

ドオッ―――

 

一斉に20隻の戦艦は主砲を発射した。

 

凄まじい音と衝撃で、ガラスがビリビリと震え、海面が一瞬鏡のように平らになる。

 

110発の砲弾は飛竜に向かって飛んでいった。

 

 

 

 

ワイバーンロードに騎乗する竜騎士ラカミと彼の所属する飛竜隊は、ついに敵の姿を捉えた。

 

「敵艦隊発見!」

 

隊長が艦隊へ魔信を入れたその時だった、敵の巨大船がほぼ同時に爆発した様に見えた。

 

 

『なんだ?』誰かが呟いた。

 

 

ラカミは本能的に底知れない恐怖を感じ、咄嗟に相棒を操って右に動いた。

 

次の瞬間、少し前まで彼が飛んでいた所に、凄まじい爆発が起きた。

 

空が突然、墨を垂らしたかのように真っ黒く染まる。

 

「なっなんだ!!?」

 

爆風でぐらぐらと体が揺れ、思わず声をあげる。

 

煙が晴れると、200騎以上いたワイバーンはその数を40程にまで減らしていた。

 

そして彼も、左耳に痛みがあることに気づいた。手をやると、血が付いていた。

 

(耳を...やられた!!)

 

痛みに顔を歪めるが、相棒はどうやら無事なようだ。これくらいなら帰ってから魔法で治療できる。

 

ようやく飛竜隊は落ち着きを取り戻した。

 

隊長は無事だったようで、指示を出している。

 

 

『まとまるな!!なるべく距離をとり、バラバラに攻撃を加えたら各自すぐに帰投せよ!!』

 

ラカミも指示に従い、仲間達と離れて敵へと向かう。

 

 

敵艦を改めて見据える。やはりとてつもない大きさだ。

彼は信じられない物を見た。

 

 

(....!??あれは!?レイフォルを滅ぼした軍艦!?何故!?)

 

そこには、少し前に新聞で見た、グレードアトラスターとかいう戦艦の姿があった。

 

(何故こんなところに..?)

 

残念ながら彼の疑問に答える者はいなかった。

 

いや、その答えを知る前に彼は127mm砲弾の直撃を受け、木っ端微塵に吹き飛んでしまったのだ。

 

 

同じように、彼の仲間達も数分以内には姿を留めていなかった。全て撃墜されてしまったのだ。

 

 

「大和」艦橋内―――

 

『目標全機撃墜確認』

 

「よし、ご苦労。相変わらず手応えが無いな。弱すぎる」

 

「油断してはいけませんよ、京介さん。まだまだ戦いはこれからです。」

 

大和が高橋を諫める。

 

「その通りだな。全艦進路そのまま、速度24ノット。榴弾入れとけ。徹甲弾だと過貫通するからな。」

 

『了解』

 

 

艦隊は足を止める事無く進軍する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇国海軍竜母艦隊―――

 

 

「そろそろ終わった頃か?」

 

バーンはアモルに尋ねた。

 

「間もなく、任務完了の魔信が入る頃でしょう。」

 

 

既に勝ったかのような雰囲気だ。

 

「報告!!!!」

 

突然通信士が絶叫する。

 

竜母に乗艦する幹部の誰もが彼に視線を向ける。

 

 

 

「竜騎士団との通信途絶!!並びに魔力反応消失!!全滅の模様!!」

 

「.....!?なっ!?そんなバカな!!?」

 

「何かの間違いでは!?」

 

彼らは額に冷や汗を浮かべる。

 

急速に不安の空気が広がり、一気に雰囲気は暗くなる。

 

 

数十分後―――

 

 

見張りがついに見つけた。彼は大声で叫ぶ。

 

「日本軍だぁーーーーっ!!!!」

 

 

 

 

 

―――「来たかっ!!」

 

バーンは双眼鏡を覗き込む。

 

「なんと大きい...!?まさか!!!」

 

「敵艦発砲っ!!!!!」

 

「どうなっているんだっ!!遠すぎるぞ!!」

 

騒然とした雰囲気の中、艦隊に風を切るような音が近づいてくる。

 

「総員衝撃に備えろおっ!!!!!」

 

これまでの情報からこの音の正体を彼は知っていた。

 

数秒後、バーンの乗る竜母アリステラより離れた場所に猛烈な水柱が上がった。

 

「ひいいいいっ!!!」

 

アモルが情け無い声をあげうずくまる。

 

 

転覆こそしなかったものの、大きく船は揺れる。

着弾位置の近くにいた艦はすでにその姿を消していた。

 

 

「くそっ、このままではっ!!!通信兵っ!!敵の位置を第3主力艦隊に伝えろ!」

 

「はいっ!!」

 

通信兵が魔信を入れた直後、残っていた全ての竜母も転覆もしくは爆発を起こし、海上からその姿を消した。

 

 

 

司令バーンは戦死した。

 

 

 

 

パーパルディア皇国主力海軍第3艦隊 旗艦ディオス

 

 

ディオスの艦橋で、第3艦隊提督アルカオンは、前方の海を睨んでいた。

間もなく日本海軍と戦う事になるだろう。

 

激戦になる。

そんな予感がする。

 

 

 

「報告します。」

通信士が声をあげる。

 

「何だ?」

 

「我が第3艦隊所属の竜母艦隊が、日本軍の砲撃を受け、全滅しました!!

 

既に上空にあった竜騎士240騎も、南方方向に向かい、同じく全滅した模様です」

 

「なんと!!」

 

 

 場がざわつき、艦橋にいた幹部達はそれぞれ驚愕の声をあげる。

 

 

「うろたえるな!!我ら皇国軍を止められる者など存在しない!!落ち着くのだ」

 

アルカオンの鼓舞により彼らは落ち着きを取り戻す。

 

 

「戦列艦アディスから報告!!」

 

 

 

 通信士は続ける。

 

 

 

「アディス前方40km地点に艦影を確認!艦数不明!!」

 

 

 

「ほう、見つけたか!!」

 

 

 アルカオンは手を振りかざし、宣言する。

 

 

 

「全艦隊、第1種戦闘配備!!!!

艦隊の隊列を乱すな。最大船速で敵に向かえ!!全艦から一斉に攻撃をしかけるぞ!!!」

 

 

 

「はっ!!」

 

 

各艦に命令が伝わり、緊張が走る。

 

 

一方、対皇国遊撃艦隊―――

 

「攻撃開始」

 

高橋は短く告げる。

 

既に敵艦隊は射程距離に入っている。

 

事前に彼は通信でこう命令していた。

 

『射程距離に入り次第砲撃を開始していい。ただし、わざとゆっくり敵を狙え。すぐに全滅されたらつまらないからな。最後に敵の旗艦らしい戦列艦一隻だけ残しとけ。』

 

これだけ聞くと高橋が極悪人のように思われるが、彼にしてみればパーパルディア皇国は"兄の仇"なのだ。その恨みは底知れないものを感じる。

 

そして艦娘達にとっても皇国は憎い相手だ。大切な上官の家族を殺し、その心を傷つけた。到底許せることではないのだ。

 

まず、先頭を進む「ポルタヴァ」の356mm三連装砲が火を噴いた。それに続き、他の船もゆっくりと攻撃を開始する。

 

―――敵艦隊を嬲り、屠るために。

 

 

 

 

 

戦列艦「アディス」 艦上―――

 

「―――!?敵艦発砲!!」

 

こちらの艦と、敵艦はまだ40km近く離れているにも関わらず、日本の軍艦は発砲した。

艦長は副長に話しかける。

 

「奴らはこれほど距離が離れているのに砲を放ち、いったい何のつもりだ?威嚇か?」

 

「全く理解できませぬ。敵の砲が我が方の射程距離よりも長かったとしても、あまりにも離れすぎています。」

 

微かにいやな予感がする。

今まで戦場で感じる事の無かった確かな死の予感。

 

「面舵いっぱいっ!!念のため回避行動をとるぞ!!」

 

艦長の命により、戦列艦アディスはゆっくりと向きをかえる。

 

ところが突然艦が激しく揺れた。

 

艦の横に、とてつもない水柱が立ち上る。

 

「い.....いかん!!」

 

 

アディスは波に煽られ、傾き始める。

 

 

「もう持たない!!総員退―――

 

 

艦長の必死の言葉は猛烈な光と音に遮られる。

 

傾いた船内で、大量の爆発物が転倒、その誘爆により、皇国の戦列艦アディスはこの世から消えた。

 

 

 

皇国第3艦隊 旗艦ディオス

 

 

 

「アディス轟沈!!敵の攻撃は砲撃によるものと判明!!距離は約40km!!

 

たった1発の発砲で沈没させています!!!」

 

 

 

「ななっ.......なんだとおっ!?40km!?砲の射程距離が40kmもあるというのか!!!

 

 我が方の20倍も……。

 

 しかも、たったの1発で転覆!?

 

 何という威力だっ!!」

 

 

 

「40kmから撃って撃破......。

そんなものを、距離2kmで撃たれでもしたらどうなる?まあ、1発では計れないが。」

 

 

「敵の砲はたった1発で戦列艦を沈めるほどの威力がある!純粋な火力については、想定以上の開きがあるのかもしれない!」

 

 

幹部たちは、敵の強大さに対する驚きと、戦列艦で戦うには難易度があまりにも高すぎる艦の性能差に絶望する。

 

 議論をかわしている間にも、すでに3隻の戦列艦がそれぞれたったの1発で轟沈している。

 

 

「......まずい。」

 

アルカオンは初めて焦りの表情を見せた。

 

 

数分後―――

 

「マルタス、レジール、カミオ轟沈、ターラスに敵砲着弾!!」

 

 

絶望的な通信士の声だけが、艦橋に響き続ける。

あの歴戦の獅子、第3艦隊提督アルカオンでさえ、額に汗を浮かべ、沈黙している。

 

皇国の頭脳マータルの考えた作戦も、列強ムー相手ならば効果があっただろう。

 

しかし、こちらの20倍の長射程砲と、1発で沈むほどの威力のある砲弾なんて、いくらなんでも反則だろう。

 

これでは作戦は全くの無意味となり、絶え間ない味方艦の沈没の報告が続く。

 

皇国の魔導砲の射程距離まで近づこうと思ったら、最大船速で40分以上かかってしまう。

 

敵との相対速度を利用すれば、もっと早く到達できるだろうが、戦場で甘い期待をするべきではないだろう。

 

あのような正確な砲撃をこれ以上受け続けるのは不可能だ。

 

 

「くっ!!」

 

 

アルカオンは覚悟を決める。

 

そもそも、皇国主力が皇都の目と鼻の先で、戦力を残して降伏や撤退が許されるはずなどない。

 

選択肢などは、初めから無いのだ。

 

 

「全軍、進攻してきた日本軍に突撃せよ!!!皇国海軍の意地を見せてやれ!!!」

 

 

 

各船の魔石が輝く。

 

風神の涙と呼ばれる風を起こす魔石により起こされた風を帆いっぱいに受け、最大船速で敵の巨大船に向かい、加速を行う。

 

虚しくも味方艦はなおも轟沈し続ける。

 

 

 

面のように薄く展開した皇国艦隊、その面に棒が突き刺さるかのように日本の艦隊が進攻する。

 

日本の遊撃艦隊が通過した線の半径10km圏内のパーパルディア皇国艦船は次々と粉砕、轟沈し、日本軍の通った後の海上には戦列艦の残骸のみが残る。

 

絶望に包まれる第3艦隊。

 

 

「日本艦隊、我が艦の正面に来ます!!」

 

パーパルディア皇国主力第3艦隊 旗艦 超フィシャヌス級150門級戦列艦ディオスに、日本の艦隊が正対する。

 

その距離は間もなく20kmに達するだろう。

 

 

 

「左に進路を変え、日本艦隊との距離をとる事を申言します!!!旗艦が指揮能力を失う訳にはいきません!!!」

 

 

幹部の1人が提督アルカオンに上申する。

 

 

「ならん!進路そのまま維持、皇国主力の旗艦が引いてはならん!!!」

 

 

「し、しかし!!!」

 

「提督!速く進路を変えてください!!!」

 

 

「ならん!!!」

アルカオンは吼える。

 

 

次々と残りの戦列艦も轟沈し、気づけばディオス一隻のみになっていた。

 

だが、ここで何故か敵の砲撃が止んだ。弾薬切れだろうか。

 

ぐんぐんと距離が狭まっていく。間もなく2kmを切るだろう。

 

「これはチャンスだ!!砲撃準備!!」

 

ディオスはゆっくりと横を向き、片舷75門の砲を指向する。

 

「射程に入りましたっ!!」

 

報告が入る。

 

アルカオンは叫ぶ。

 

「全砲門、一番近いあの敵船を狙え!!

 

―――撃てっ!!!」

 

 

凄まじい煙幕がディオスを覆い、敵巨大船に着弾した。

 

 

「やったぞおっ!!!」

 

兵士が飛び上がる。

 

アルカオンは前を睨む。その時だった。

「どうだ......なにいっ!?」

 

信じられない物を見た。煙を引き裂いて、攻撃したはずの敵艦が姿を変えずに表れたのだ。

 

そしてそれは、こちらにまっすぐ突っ込んでくる。

 

アルカオンは何かを察した。彼に恐怖の表情が浮かぶ。

 

「まさかっ...まさかまさかっ!?」

 

旗艦「大和」から高橋は命じた。

 

 「―――ぶつけろ。武蔵」

 

 

「飛び降りろぉーーーっ!!!」

「うわあああっ!!!」

 

数秒後、「武蔵」はディオスに体当たりした。結果は呆気ないものだ。

 

 

27ktでぶつかられたディオスはあっさりと船体をへし折られ、バキバキという音を立て崩れ落ちた。反対に武蔵には損傷は一切無い。いや、少し塗装が剥がれた程度だろう。

 

 

 

アルカオンはぶつかる直前に海に飛び込み、「武蔵」の立てた波に呑み込まれながらもどうにか海面に顔を出した。

 

「ディオスが...。砲撃する必要もない、ということか.....」

 

彼らの近くには救命用のゴムボートが投げ込まれた。一応何日分かの水と食料も入っている。

 

ここから生き延びれるかは彼ら次第だ。

 

 

 

「―――次に行くぞ」

 

高橋は短く告げる。

 

 

戦闘を終えた遊撃艦隊は、次の目標であるエストシラント海軍本部に向かって舵を切った。

 

 

 

そして、森高率いるデュロ攻撃艦隊も、間もなく戦闘を始めようとしていた。

 

 




体当たりはちょっと無茶苦茶でしたね。

引き続き評価・感想お待ちしています。


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第28話 エストシラント沖大海戦 その2

お気に入りが増えてきてうれしいです。


今まで描いていませんでしたが、登場する航空機は全て国籍マークを日の丸に変更しています。

艦船については、その国の国旗と旭日旗を掲げています。現在ムーに貸し出されている戦艦達にはムー国旗も追加で掲げられています。


4月6日―――

 

 

 

第三艦隊全滅の報せが入ってきた。

 

意を決したようにマータルが発言を始める。

 

 

「バルス海将!第1及び第2艦隊は最密集隊形で、日本軍に突入させましょう!!これほど差があるとは思いませんでした。

幸い日本軍は数が少ないようです。奴らを倒すには、数で押しつぶすしかありません。」

 

「.....許可する。」

 

 

 

 海将バルスの命により、皇国主力第1艦隊と、第2艦隊は、密集隊形で日本軍に向かっていった。

 

 

対皇国遊撃艦隊 旗艦「大和」

 

 

 

戦場の刻一刻と変化する状況が、艦橋に伝えられる。

 

現在のところ、作戦は順調に推移しているようだ。しかし、敵国首都の港から続々と出てくる敵艦の量はまるで終わりのない様に感じさせる。

 

敵艦の隊列の報告があがる。

 

「密集隊形をとってきたか...それにしても、進路上に敵が多すぎる。ゴキブリみてえな奴らだな。倒したと思ったらまた湧いて出てきやがる。鬱陶しいことこの上ない」

 

高橋は文句を垂れる。

 

艦隊はすでに薄い面のように広がった敵に食い込む棒のように突っ込んでおり、どの方向に向かっても敵がいる。

 

気を取り直し、通信機を手に取った。

 

「あー、全艦進路そのまま。先頭の『ポルタヴァ』『ジョージア』『伊賀』は前方の敵に主砲で攻撃、進路をこじ開けろ。他はそれぞれ近づいてくる船に副砲と機銃で攻撃しろ。それだけで十分沈められる」

 

『了解、攻撃開始』

 

それぞれの返事が戻ってくる。そして各艦攻撃を開始した。

 

 

 

―――パーパルディア皇国 海軍本部南方150km先海域

 

 

高橋率いる艦隊は、皇国の艦隊を沈め続けていた。

海上には絶えず発砲音が鳴り響き、着弾音と水柱の数だけ皇国艦は沈んでいく。

敵の射程圏外から攻撃を加える。

 

戦列艦は、副砲弾や、機銃の連射で次々と燃え上がり、沈んでゆく。

 

しかし、彼らは勇敢だった。

 

 

1回の攻撃で数百人が死んでいくにもかかわらず、勇敢に立ち向かっていく。

彼らは正に、列強パーパルディア皇国の守護者にふさわしい、壮絶な最期を遂げる。

 

海上には皇国艦の残骸が多数浮遊し、血で赤く染まる。

 

 

轟音が響きわたる中、高橋は外を見て呟いた。

 

「どことなくこの光景、世界史で習ったアロー戦争を思い出させるな。あの時のイギリス人も、こんな景色を見ていたのか。尤も、今回一方的にやられているのが戦列艦なんだがな。」

 

 

およそ一時間の戦闘の後、健闘虚しく戦列艦は全滅した。

 

そのまま足を止めることなく、高橋達はエストシラントへ向かう。

 

 

 

同じ頃、デュロ沖―――

 

 

「第一次攻撃隊発進」

 

森高が通信を入れた。6隻の空母から次々と爆撃機が発艦する。今回は対地攻撃を目的としている為、雷撃機は載せていなかった。その代わり、見慣れないシルエットの航空機の姿がある。

 

それはソ連の襲撃機、いわゆる「シュトルモヴィーク」として名高いイリューシンIl-2とスホーイSu-2だ。

 

空母を持たなかったソ連の、それも陸軍の航空機である。本来ならば空母に搭載するものではない。

 

 

しかし、その高い対地攻撃能力を見込まれ、特別に改装、艦上でも運用できるようにされていた。

 

艦橋から、森高とサラトガは攻撃隊を見送る。

 

「さあ、敵さんはどうでるかな...」

 

 

 

 

 

エストシラント 海軍本部近くの港―――

 

臨時職員として雇われていたシルガイアは、港で掃除をしていた。

 

「おい貴様!!その地面にゴミが落ちてるじゃないか!!掃除という、簡単な作業が仕事なんだから、それくらいきちんとしろ!!」

 

 

「.......,すいません。」

 

 

シルガイアは、海軍の下っ端兵から罵声を浴びながら掃除をする。

 

情けない。今の自分があまりにも情けない。

彼は、パーパルディア皇国海軍本部を見上げて寂しげに呟く。

 

「あいつは……出世したな……。」

 

彼は先日の同窓会を思い出す。

 

そこには、皇国海軍の将であるバルスが出席していた。

 

学生時代、彼とはライバルだった。

成績、運動能力、ほとんど変わらなかったが、少しだけ自分が劣っていた。学生時代のほんの僅かな差、この差の積み重ねが、今の圧倒的な差となって現われていた。

 

 

同窓会で戦死の話が出た時の海将バルスの言葉が思い出される。

 

 

『はっはっは!!前線に出る事の無い列強国の海将が戦死する事などありえぬよ。もしも、私が暗殺以外で死に、断末魔をあげるような事があれば、それは列強パーパルディア皇国の滅ぶ時であろう。』

 

 

(すべてを手に入れた者と、何も手に入れられなかった者か...。)

 

 

その時シルガイアはふと違和感に襲われ、海に視線を向ける。

 

水平線ギリギリの辺りに、何か影が見える。

 

よく目を凝らすと、どうやら船のようだ。それもべらぼうに大きい。

 

次の瞬間、その船が煙を吐くのが見えた。

 

シルガイアは本能的に、それが皇国へ向けられた攻撃であると理解する。

 

海将バルスは、シルガイアにとって、ライバルではあったが、良き友であり、誇りでもあった。

 

彼は、海軍本部へ向かうそれを見て、海将の身を案じ、本能的に叫んでいた。

 

 

「バルスうっ!!!!!」

 

 

次の瞬間、放たれた51cm砲弾が連続して海軍本部の至近距離に直撃し、大爆発を起こした。

 

 

装飾が施された海軍本部、威厳と威容を放っていた同建物よりも、遥かに大きな爆炎が吹き上がる。

 

猛烈な爆発に耐え切れず、建物は音を立て跡形も無く崩れ落ちる。

 

他国を恐怖で支配し続けてきた列強パーパルディア皇国、その恐怖、力の象徴であった海軍本部が崩れ落ち、爆発音は再び皇都エストシラントに響きわたる。

 

これによって、パーパルディア皇国は、海軍全体の指揮能力を失った。

 

 

魔導砲に似た爆音が皇都エストシラントを覆う。

 

先日の皇都爆撃の恐怖から、外にでて確認する住民はおらず、誰もが自宅に籠もり、窓と鍵を閉め、ただただ震える。

 

海軍本部のあった港では、崩れ落ちた本部建物を見て、皆唖然としている。

 

臨時職員のシルガイアは海を見る。

 

戦闘音は徐々に、そして確実に港に近づき、その音を出している船がはっきりと見えてくる。

 

灰色でとてつもなく大きく、そして速い。

 

 

「ばっ、化け物かっ!?」

 

 

シルガイアは呆然と立ち尽くす。

 

その傍ら、港の兵は慌しく動き回り、陸上に設置され、海へ向く砲を稼動させる。

彼は敵の脅威を正確に理解し、動かない足を手で叩き、必死に逃げ始める。

 

彼は兵舎、弾薬庫、そして陸上設置砲台等の重要施設から走って離れる。港から離れ、高台に上り、振り返る。

 

敵の攻撃が港の砲台に連続して命中し、噴煙に包まれる。

 

続いて弾薬庫にも命中し、港全体が猛烈な爆発と黒煙で埋め尽くされた。

 

 

「畜生っ!!これではなす術が無いではないか!!!」

 

 

対皇国遊撃艦隊による敵海軍本部のある港に対する砲撃により、港湾施設、武器弾薬貯蔵庫及び兵舎は完全に破壊、さらにパーパルディア皇国主力海軍を全て撃滅した。

 

 

 

―――「撃ち方やめ、撃ち方やめ」

 

高橋は命令し、港の様子を伺う。

 

大火災が発生しており、被害は甚大だろう。

 

もう一度通信機を手に取る。

 

「任務完了だ。俺たちの仕事は終わりだ、皆よくやってくれた。帰投するぞ」

 

通信機を置く。

 

「お疲れさまです、京介さん」

 

大和が声をかけてくれる。

 

「そっちこそお疲れさま、だな。俺はいつも通りふんぞり返って偉そうに指示してただけさ」

 

自嘲するように高橋は笑う。

 

その言葉に彼女は頬を膨らませ、不満げな様子だ。

 

「そんな事を言うのはやめてください!私達はあなたがいないと戦えないんですよ!」

 

「悪かったって。だが端から見ればそんな感じさ。しかしそれだけで人が死ぬ。不思議だよなあ。」

 

彼の表情から何を考えているか想像もつかない。

 

高橋は外に出て、しばらくやめていた煙草に火を付ける。煙を吐き、こう呟いた。

 

「本当は誰も、戦争なんかしたくない。だというのに戦わない俺達には何の価値も無い……。皮肉なもんだ」

 

 

(千鶴はうまくやってるかな……)

 

艦隊は全艦無傷で佐世保へと舵を切った。

 

 

 

同じ頃、デュロでも凄まじい煙が上がっていた。




次で海戦は終わらせるつもりです。

それが終わったら閑話に入るかもしれません。そういうのが書きたくなってきたので。


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第29話 エストシラント沖大海戦 その3

お気に入りが80を超えました。ありがとうございます。


同じ頃―――

 

 

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 

 

 情報局長アルネウスは、部下からの情報を受け、考え込む。

 

 第3文明圏の雄、パーパルディア皇国が一方的にやられている。

 

日本が少なくとも「列強」に数えても差し支えないほどの国力を有する国であることは間違いなく、西からのみではなく、東からも新たな列強国が出現した事に頭を痛める。

 

「ライドルカ、おまえは日本国についてどう考える?」

 

情報局長アルネウスはトーパ王国において、古の魔法帝国の残した生物と日本軍の戦いを直に見た情報局員、ライドルカに尋ねる。 

 

「少なくとも軍事技術については、とてつもないものがあります。先日お出しした報告書のとおり、威力はそこまで高くありませんが、人が持ち運び可能な誘導魔光弾のような兵器を実用化しております。

また、魔王を倒した戦車と呼ばれる陸戦兵器は脅威です。

皇国陸軍と日本がフェン王国で陸戦を行った際、皇国の魔導砲が日本の戦車に命中していますが、同戦車はその機能を損失する事なく、高威力の魔導砲を放ち、極めて正確な射撃で地竜を仕留め、しかも次弾装填がとてつもなく速かったそうです。

まだあの国は未知数な事が多すぎますが、パーパルディア皇国の二の舞にならぬよう、外交は細心の注意をもってあたるべきかと考えます。」

 

 

「そうだな。日本国の規模は不明だが、技術の高さだけで考えれば、グラ・バルカス帝国よりも敵対したくない。恐らく皇国は列強から脱落し、第3文明圏は日本の方を向くようになるだろう。」

 

 

 

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 

(ふむ....)

カイザルは、情報部より届けられたムーの新聞を読んでいた。日本によるパーパルディア皇国への爆撃について報じられている。崩れ落ちた城と丸焦げになった陸軍基地の写真が一面を飾る。

 

(随分と派手にやったものだ。)

 

新聞を閉じ、そばに控える秘書に声をかける。

 

「すまないが、コーヒーを一杯もらえるかな」

 

「はい、勿論です。少々お待ちを」

 

少しして、彼の目の前には湯気を立てるコーヒーが置かれていた。それを口に含みつつ、カイザルは物思いに耽る。

 

(もう少しで、日本とパーパルディア皇国との戦争は終わる。日本の情報が少ない今のところは、無闇に衝突するようなことは避けねばならん。最近何かとうるさい過激派が何もしなければいいが....)

 

 

 

パーパルディア皇国 デュロ陸軍防衛隊基地

 

早朝に、司令ストリームと陸将ブレム、そして海軍司令ルトスを筆頭に、会議をしていた。

 

ブレムは呟く。

「まったく、日本にここまで一方的にやられておいて未だに蛮族蛮族と、呆れたもんだ。エストシラントをやられておいてな。」

 

ルトスも苦笑いで答える。

 

「我らより格上の列強であるムーの大使が事前に忠告していてくれたらしいのに、滑稽なことだ。」

 

ストリームもどこかもの悲しい表情で頷く。

 

「やれやれ、我らの装備では悔しいが勝てそうもない。ここが、死に場所ですかな...」

 

 

三人の司令官は死を覚悟していた。

 

同日昼過ぎ――

 

日本が事前に予告していた攻撃の日が今日だ。レーダーの見張り員は常時警戒に当たる。

 

「.....!?あっ!!!」

 

画面の隅に小さな点が映った。これがもしもワイバーンならもっと大きく表示される。事前の報告によると日本は飛行機械を使用しているため、魔力反応はとても小さい、とあった。間違いない!!

 

彼は急いで魔信を入れる。

 

「日本軍と思われる飛行物体接近中!!その数およそ300!!!!」

 

これを聞いたこの基地の司令ストリームは迅速に命令を下す。

 

「ワイバーンロード全騎出撃!!準備が出来た者から上がれ!!対空魔光砲も準備しろ!!」

 

これに部下が難色を示す。

 

「司令!!対空魔光砲はまだ解析も十分に出来ていません、今使うのは危険です!!」

 

しかひ、ストリームは真っ向から反論した。

「馬鹿者!解析も何も、ここで俺たちがやられたら全てが終わるんだ!!なりふり構っている場合ではない!」

 

普段、比較的温厚な彼の思いがけない迫力に根負けした部下は、渋々了承した。

 

そして、倉庫から唯一つの対空魔光砲が引っ張り出させる。これは神聖ミリシアル帝国から密輸入した物で、本来パーパルディア皇国では手に余る代物だ。

 

正式名称は"イクシオン20mm対空魔光砲"といい、神聖ミリシアル帝国では既に旧式化している。

 

それでもパーパルディア皇国の技術ではまともに動かせず、性能も大幅に下がっている。それでもないよりはマシだ。それくらい、皇国の対空装備は頼りないのだ。

 

ワイバーンが負けたらとても苦しい。

 

兵士達は縋るような目で飛竜隊を見送った。

 

 

 

「サラトガ」のレーダー画面にも、飛び立つワイバーンが捉えられていた。

 

サラトガが指示を飛ばす。

 

「前方より敵機飛来、直援戦闘機隊は先行して迎え撃って下さい。」

 

『サラトガリーダー了解』

『レキシントンリーダー了解』

『ヨークタウンリーダー、了解』

『ホーネットリーダー了解』

『白龍隊了解』

『大鳳隊了解』

 

返事が返ってくる。どれも練度は最高クラス、ワイバーンに後れをとる事は無いだろう。

 

F6Fと紫電改が編隊から離れ、先行する。かつての戦争の末期、激しく戦ったライバルだ。

 

それが今は仲間として同じ空を飛んでいる。

 

『さあ、大暴れだ。とことんやってやろう。』

 

『任せろ。5分以内に全部墜としてやる。』

 

『見えてきたぞ!』

 

隊員の士気は高い。

 

 

同じ頃、飛竜隊も日本の戦闘機を捉えた。

日本軍が今までにない程の強敵であることは誰もが知っている。列強、それもムーよりも強い敵と戦うのだ。生きて帰ることは難しいかもしれない。

 

それでも、愛する家族を、国を守るため彼らは突き進むのだった。

 

 

 

今ここに、パーパルディア皇国と日本の最後の本格的な戦闘の火蓋が切られた。

 

 

 

『全機突撃』

 

サラトガ隊のリーダーが短く告げる。彼らにとって、指示はこれだけで十分なのだ。

 

敵ワイバーン部隊は密集せずに向かってくる。まとめてやられないようにしているのだろう。

 

竜騎士長ガウスは命令する。

 

「絶対に一対一で挑むな!一騎の敵に五騎で仕掛け、確実に落とせ!!」

 

第三文明圏最強の筈だった皇国竜騎士団にとって、これはあまりにも屈辱的な作戦だ。しかしそれほどまでに余裕はないのだ。

 

「かかれえっ!!!」

 

ガウスの号令の下、飛竜隊は一斉に突撃した。

 

 

 

―――しかし数分後、その結果は余りにも残酷なものだった。最初の一撃でワイバーンは数十騎が落とされた。必死に敵騎に食い付こうとするも、速度も、動きも違いがありすぎた。次々と竜騎士隊はその数を減らしていった。

 

 

最後に一人残されたガウスは乾いた笑みを浮かべる。

 

「悔しいな...ここまでか....」

 

彼は既に被弾しており、肺に血が溜まっているのが分かる。幸運なことに、相棒の飛竜は無傷なようだった。血を吐きつつも最後の力を振り絞り、手綱と鞍をほどく。最後の紐を解くと、体がふわりと軽くなり、景色が逆さまになった。ここで相棒を逃がしたところで、ワイバーンロードが野生で生き抜ける可能性は低い。だが、そんな事はどうでもよかった。

 

ガウスは真っ逆様に落ちていった。

 

 

戦闘機隊は再び編隊を組み直す。

 

「よし、任務完了だ。よくやった」

 

『しかし、一人だけ動きが違う奴がいたな。驚いたよ』

 

『ああ。皇国にも骨のある奴がいたんだな。』

 

パイロット達は名前も知らない一人の竜騎士を褒め称えるのだった。

 

 

 

 

―――「竜騎士団反応消失、全滅と思われます。」

 

通信兵が震えた声で報告する。

 

ストリームは腹を括った。他の兵士もそうだ。

 

「何としても一矢報いるぞ!!!竜騎士隊の奮闘を無駄にするな!!対空魔光砲、用意はいいかっ!!」

 

「はいっ、大丈夫です!いつでも撃てます!!」

 

「よし、俺の指示通り撃て!敵を追いかけていては当たらん、敵の通る道の先を狙え!!」

 

「敵騎来ます!!」

報告が飛ぶ。

 

「射程距離に入っても慌てるなよ...」

 

そうこうしているうちに敵の攻撃が始まった。次々と降ってくる何か、そして大爆発が起きる。

 

こちらは何も出来ず、一方的にやられていく。

 

「まだだ...まだ...!!!」

 

一匹の鉄竜が真っ直ぐに向かってくる。チャンスは一回のみだ。

 

「今だ!!!撃てえええっっ!!」

 

次の瞬間、魔光砲には巨大な魔法陣が展開され、赤い光が連続して敵騎に向かっていく。

 

「当たれえええぇぇぇっっ!!!!」

 

ストリームは目を見開き、拳に力を込め叫ぶ。

 

奇跡が起きた。彼の気迫が通じたのだろうか、まるで吸い込まれるように敵騎が赤い光弾に近づいた。次の瞬間、その敵騎は胴体から火を噴き、大爆発を起こして墜落した。

 

「「「「「やった!!!」」」」」

 

そこにいた全員がそう叫んでいた。ここにきて、皇国軍はやっと戦果らしい戦果を挙げることができたのだ。

 

 

だが、運命は残酷だ。

 

今落とした敵の後ろにいた別の敵騎がこちらに何かを発射したのが見えた。それはまるで光る矢のようだった。まっすぐにこちらに飛んで来ていることが何故かはっきりと分かった。

 

ストリームは観念して、飛んでくるそれに向かって手をかざす。

 

(神よ....どうか皆の家族だけは.....)

 

そう祈った次の瞬間、Su-2の放った10発のロケット弾が着弾、対空魔光砲も大爆発を起こした。

 

魔導回路の暴走により、まるで花火のような色とりどりの火花があがる。

 

およそ十分後、全ての爆弾を投下し終えた編隊は空母へ戻っていった。

 

戦闘機隊は一旦別れ、工場地帯と住宅街の上を飛び警告を行う。

 

 

『警告する。我々は2時間後にデュロ工場地帯に対し、艦砲射撃を行う。それまでに急いで避難せよ』

 

 

それを終えると、戦闘機隊も空母へ戻っていった。

 

 

 

デュロ沖  およそ4km地点――

 

「撃ち方やめ」

 

森高はそう命令し、椅子に座る。

 

今まさに敵海軍基地を無力化し、陸軍基地への襲撃にも成功したとの報告があった。

 

だが、どうやら敵が対空機銃を持っていたらしく、一機のSu-2が運悪く撃墜されてしまった。はっきりとした被害はこれが初めてだった。

 

「敵さんも健闘したんだな。」

 

そう呟くと、通信機を手に取る。

 

「予定通り、一時間と五十六分後に砲撃を開始する。事前に通達したとおりの陣形を組み待機。それまで攻撃してはいけないが、警戒は絶対に怠るな」

 

 

そしておよそ二時間後、艦砲射撃によってデュロの工場や関連施設は全て破壊された。事前の警告によりこの砲撃による民間人への被害者はゼロだった。

 

 

 

生産の拠点を失った皇国は、また一歩追いつめられたのだった。

 

 

 

 

 




近々番外編「吉川とペトログラードの休日」を書こうかと思っています。


感想・評価をお待ちしています。


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第30話 降伏の日

やっと終わりましたね。

バーが赤色になりました。

評価してくれた方々、ありがとうございます。


皇国の生産拠点であるデュロも陥落し、陸軍基地が全滅したとの情報が入った。これにより、軍の不信感が募る。さらに属領・属国が一斉に反乱を起こし、中からも外からもじわじわと崩れていく皇国であった。

 

 

パーパルディア皇国 皇都エストシラント カイオス邸

 

 

「――準備は整った。」

 

 

朝日が照り込むカイオスの自宅、カーテンは風にゆられ、カイオスは美しい皇都を望む。

 

いつも通りの、よく晴れた日だ。しかしパーパルディア皇国の国の幹部や国民にとっては歴史的な日となるだろう。

 

 

成功すれば国の幹部として皇国に残り、失敗すれば一族のすべてが殺される。

いや、失敗すればどのみちパーパルディア皇国は亡国となる運命だ。

 

既に手配は出来ている。

 

覚悟を決め、彼は部屋を出た。

 

 

 

パーパルディア皇国 皇都エストシラント 行政大会議場

 

 

「いったい軍は何をやっている!!?属領から復活した国72ヵ国の反乱を許すどころか、まさか北方都市アルーニまで落ちるとは!!!」

 

各幹部が集まり、国の運営に対する実質的な対策が会議される行政大会議は、皇国始まって以来の未曾有の危機を前に紛糾していた。

 

皇国主力海軍はすでに無く、残るのは日本に対するにはあまりにも貧弱な艦隊が残るのみであり、大陸軍基地もすでに1つしか残っていない。

 

加えて属国・属領の大反乱、これによりパーパルディア皇国の国土は大幅な縮小を余儀なくされ、属領の穀倉地帯までも皇国の支配権から離れてしまった。

 

これによって食糧の補給が実質絶たれ、このままでは飢餓すら発生しうる。

 

 

アルデは相次ぐ罵倒を受け止め、頭を痛めながらも説明する。

 

「現在軍は再建中であり、それが進み次第――」

 

「いつだ!!それはいつになる!!!」

 

 

彼の発言を遮り、農務局局長が発言する。

 

「すぐにでも穀倉地帯だけでも取り戻していただきたい!!このままではもって半年、つまりたったの6カ月でおそらく食料の底がつく。

統制すればもう少しもつが、いずれにせよ8カ月程度しかない!!

一時的に日本国と休戦し、穀倉地帯の反乱を押さえるような手続きは出来ないのか?」

 

アルデのイライラは限界だ。そんなこと出来る訳がないに決まっている。

日本はそもそも、国内問題だとは見てくれないだろう。

敵国が弱っている時に手を抜くバカがあるか。

 

彼は農務局長の無知に怒りを覚えながら返答する。

 

「第一外務局長とも話し合いましたが、無理です。」

 

「では、穀倉地帯を取り戻せるのか!!蛮族の戦力など、たかが知れているだろう!!何故さっさとやらないんだ!!」

 

ヤジが飛び交う。

 

 

「穀倉地帯は取り戻せるよう全力を尽くします。

しかし、北方都市アルーニが落ちた際、73ヵ国連合のみではなく、リーム王国の軍も混じっておりました。

文明国と戦うとなると、やはりある程度の戦力を整える必要があります。」

 

「確かに、この資料にあったな。リーム参戦と……あの小国が!!すぐに寝返りよって!!!」

 

 

会議は熱を帯び、終わる気配はない。

 

その時、不意に大会議室のドアが強く開かれ、武装した軍人70名がなだれ込んでくる。

彼らはパーパルディア皇国歩兵に正式配備されているマスケット銃を構えながら、会議室に押し入る。

 

 

「各人動かないでいただきたい!!この行政大会議場は、たった今掌握した!!勝手な行動をされると命の保証はない!!!」

 

 

リーダー格の軍人が声をあげる。

 

 

「この国家の未曾有の危機を前に革命ごっこのつもりか!!!指導者のいない国は全く動かんぞ!!!お前たちは、パーパルディア皇国を滅ぼしたいのか!?」

 

アルデの言葉に場が静まりかえった。

 

「この危機的状況を作り出したのは、他でもないあなたたちだ。

我々は愛するパーパルディア皇国を滅亡から救うためにここに来たのだ!!」

 

 

「ただ行政機構を押さえただけでは何の解決にもならん!!!相手がいるんだぞ!相手が!!!具体案か、代替案を示してみろ!!!

それが出来なければお前たちは本当の大バカ者だ!!!」

 

「具体案ならある!!既にカイオス様が日本国と話をつけておられる。

我々が皇国内の膿を大掃除すれば、皇国は救われる。」

 

 

場がざわつく。

 

 

「戯けが!!日本を押さえただけではどうにもならんわ!!!

反乱軍を、いや73ヵ国連合軍と、文明国を押さえない事には我々の未来はない。

仮にそれがうまくいったとしても、我が国は日本国に対し、殲滅戦を宣言している。

彼らが皇国を守るとは到底思えぬわ!!」

 

 

リーダーの軍人はため息をついた。

 

「あなた方は、私よりも日本の事を知らないと見える。

情報は上に行くほど簡素化され、都合の良いように捻じ曲げられるのだな。

まあ良い、もうこれ以上問答する気はない。

大人しくしていただこう。」

 

行政大会議場は無事無血制圧された。

 

 

一方、エストシラント 皇宮

 

 

「―カイオスよ、これはいったいどういうつもりだ。」

 

皇帝ルディアスはカイオスを睨みつける。

 

彼の横には、屈強な軍人が5名囲むように立つ。

 

 

「陛下……皇国のために、しばし動かないでいただきたい。」

 

「フン、革命か……小癪な事を。

こんな事をしても、国民はついて来ないぞ?すぐに軍により、おまえたちの首は刎ねられるだろう。」

 

あくまで威厳を保ちながら、皇帝ルディアスはカイオスに話す。

 

 

「私が……日本との戦争を止めます。そして、反乱軍からも皇国を救います。もうあなたには任せておけない。」

 

 

「我を、どうするつもりだ?」

 

 

「皇帝陛下は、今後政治に口を出す事は許されません。

国の皇族として、儀礼的行事には参加していただき、政治に関しては永遠に口を出さない。いや、出せないように致します。」

 

一時の沈黙の後、ルディアスは呟いた。

 

「――そうか。」

 

 

彼とカイオスが話をしている最中、息を切らし、武装した軍人が部屋に飛び込んでくる。

 

その男は、息を整えながら第3外務局長カイオスに敬礼する。

 

「申し訳ありません……レミール様を取り逃がしました!!レミール様の邸宅に到着したところ、すでに立ち去った後だったとの事です。」

 

 

カイオスの血の気が引き、全身の血が抜けるかのような感覚に襲われる。

 

 

「なっ!!なんだと!!絶対に見つけ出し、必ず捕らえろ!!!」

 

 

日本国との講和の可能性が遠のく現実を前に、カイオスの頭はフル回転する。

 

 

(まずは、日本に降伏を……日本の提示した条件はすべて達成可能と報告し、反乱軍を押さえてる間にレミールを探すしかない。くそっ!あの女め!!

いつまでも手間をかけさせやがって!!!)

 

 

「はっはっは……カイオスよ、現実というものは、計算通りにはいかないものだな。貴様がどう皇国を運用するのかが見ものだ。」

 

こうして、パーパルディア皇国運営の実権は皇帝ルディアスの手から離れる事となった。

 

 

カイオスは日本に対し、革命はすべて順調に成功した旨報告を行い、国の実権を握ることになった。

 

 

数時間後、逃走を図っていたレミールは、偶然にも通りかかったシルガイアによって捕らえられた。

 

 

これによって条件はどうにか揃い、日本に降伏する準備は整った。

 

カイオスの要請により日本が反乱軍に停戦を呼びかけたため、どうにか反乱は収束した。

 

 

一週間後―――

 

外交官の朝田らを乗せた艦隊はエストシラントの港に停泊していた。今日、ここで降伏文章調印式が行われる。

 

朝田らは、レミールの身柄を引き取るために船を下りていった。

 

その様子を高橋は甲板より見送る。

 

二時間後に調印式が始められることになっており、皇国民や戻ってきた各国大使の姿も多く見られる。

 

高橋の後ろから一人の艦娘が声をかける。

 

「なあキョースケ、そういや何で私なんだ?」

 

「んなもん決まってるだろ?調印式を行うのならお前しかいないさ」

 

高橋はいたずらっぽく笑ってその青髪の艦娘「ミズーリ」に振り返る。

 

そう、降伏文書調印式はこの「ミズーリ」の甲板上で行われる。それも、昔日本が調印式を行ったときと同じ場所でだ。

 

「それでいいのか?あの時は日本が負けたんだぞ。それを思い出させやしないか?」

 

「今回は勝ったからいいんだ。それに誰も気にしないさ」

 

そう言って彼は頭の後ろで腕を組んでいる。

 

「ふーん...そんなもんか」

 

ミズーリもこれ以上聞かないことにした。

 

今回の降伏調印式にあたって、佐世保から10隻の戦艦が派遣されていた。

 

ミズーリの他にも、「扶桑」「山城」「コロラド」「サウスダコタ」「プリンス・オブ・ウェールズ」「ウォースパイト」「ダンケルク」「ストラスブール」「アルミランテ・ラトーレ」が軒を連ねる。

 

そしてその全ての主砲がご丁寧にエストシラントを向いていた。これは皇国に不穏な動きがあれば即座に攻撃を始めることを示していた。

 

もちろん、本当に攻撃する気は当然ないが、プレッシャーを与えるためにこうしていたのだ。

 

それを港から見ていた人々は驚愕と畏怖の目で見つめる。

 

「何と大きい船、それに魔導砲だ。皇国の戦列艦がこれに敵うはずもなかったのか……」

 

「もし、まだ日本と戦闘を続けていたら、これ以上の戦力が襲ってきていたのか....恐ろしいことだ。皇国の危機を見抜き、反乱を起こしたカイオス様に感謝しないとな。」

 

そう、これは結果的に皇国を救ったカイオスを持ち上げるための行動でもある。国民からの人気が高い方が、カイオスを日本の実質的な"操り人形"として動かしやすいからだ。

 

パラディス城を破壊した事も、皇都の防衛体制に疑問を持たせる為である。尤も、皇国の技術ではどうあがこうと防ぐことは不可能だが。

 

プライドの高い皇国民の心を動かすには力を示すのが一番だったのだ。

 

 

そして2時間後、ついに調印式が始められた。

 

皇国を代表して、カイオスとエルトがミズーリの甲板に上がり、文書が置かれた机に向かう。

 

どちらも緊張した面持ちだ。事前にある程度知っていたカイオスと違い、エルトはすっかり縮こまってしまっている。

 

日本からは朝田と高橋が出席し、二人を向かい合って机に座らせる。

 

「では、始めます。この文書にお二人の署名をお願いします。」

 

朝田が文書を二人に渡す。

 

そこには、こう書かれていた。

 

・その所在地に関わらず皇国軍全軍へ無条件降伏布告。全指揮官はこの布告に従う。

 

 

・皇国軍と国民へ敵対行為中止を命じ、船舶・飛竜、軍用非軍用を問わず財産の毀損を防ぎ日本国最高責任者及びその指示に基づき日本政府が下す要求・命令に従わせる。

 

・その所在地に関わらず、皇国の支配下にある全ての国における統治施設を撤廃する。

 

・公務員と陸海軍の職員は、皇国の降伏のために日本国最高責任者が実施・発する命令・布告・その他指示に従う。 

 

・非戦闘任務には引き続き服する。

 

・降伏文書の履行及びそのために必要な命令を発しまた措置を取る。

 

・旧属領及び属国の独立を認める。

 

・皇国領内の地下採掘権等は全て日本に無償譲渡する。

 

・皇帝及び皇国政府の国家統治の権限は本降伏条項を実施する為適当と認める処置を執る日本国政府の制限の下に置かれる。

 

・皇国はニシノミヤコで日本人に対して行った虐殺に対し正式に謝罪する。また、本件に関わった疑いのある皇国人は、その身分や立場に関わらず聴取等に応じること。被疑者の裁判は日本で行う。

 

・皇国が日本に払う賠償は、この戦いで日本が支出した金額の倍額とする。また、ニシノミヤコでの虐殺の被害者遺族にも別で賠償金を払うこと。その金額は遺族一人当たり日本円で五千万円とする。

 

・皇国は今後の、日本との交易においての関税自主権を認められない。

 

 

・今後旧パーパルディア皇国はその国名に「皇国」を入れてはならない。

 

・本降伏文書の内容は、後から日本が自由に改訂・変更を行える権利を有する。

 

 

といったものだった。

 

これを読んだカイオスとエルトの顔が歪む。思った以上に厳しい内容だ。これを呑めば間違いなく国の経営は苦しくなる。特に、関税自主権等こちらに不利な条件でしかない。しかし呑まねば本当に滅ぼされてしまう。

 

結局、背に腹は代えられないのだ。

 

カイオスとアルデは文書に署名し、それを確認した朝田と高橋も同じく署名した。

 

調印式が終わると、高橋は何か合図を入れた。

 

すると数分後、海から何かが飛んできた。それは、アルタラス基地より飛び立った航空自衛隊の"ブルーインパルス"だった。

 

この降伏調印式に際し、川島防衛大臣の計らいで特別に派遣されていたのだ。

 

「何だあれは!!」

 

港にいた見物人は驚いた顔で空を見つめる。カイオスやエルトもこれは聞かされていなかった為、もしや攻撃ではと勘違いして高橋に詰め寄った。

 

彼は笑って答えた。

 

「なあに、ほんの余興ですよ。」と。

 

そしてF-2の編隊は空に見事な日の丸を描いた。

 

この日の出来事は世界各国の新聞で報道されることとなり、日本は更に注目を集めることとなったのだった。

 

 

そしてこの光景を見て、更に驚いている国の人間が二人いた。

 

一方は神聖ミリシアル帝国の新聞記者だ。

 

「あれは……我が国の天の浮舟!?なぜこんなところに」彼は特段軍事に詳しいわけでは無かったが、ミリシアルの誇る天の浮舟の姿くらいは知っていた。この時彼によって撮影されたF-2の写真は、帝国軍部をひどく驚かせることになる。

 

もう一方はグラ・バルカス帝国のスパイだった。

 

「何だあの飛行機は!?プロペラがついていない!?それに、何という速さだ!!」

 

帝国では、ジェットエンジンは構想だけの存在であり、スパイの彼は当然知らないことだ。

 

彼も隠れて写真を撮った。だが、ピントがぼけていたこともあり、日本についてのこの情報はあまり正確なものとはならなかったのだった。

 

 

こうして、日本国とパーパルディア皇国の戦争は終結したのだった。




一段落ですね。

次回からちょくちょく番外編を挟むかもしれません。


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番外編 吉川とペトログラードの休日

ストーリーからは外れますが、後々本編に関わる内容を匂わせています。


時は少しさかのぼり、皇都爆撃の少し前―――

 

 

「おいコウスケ、寝てるところ悪いがそろそろ起きてくれ」

 

誰かが肩を揺らしてくる。

 

「―――ん?ああ....」

 

名を呼ばれた男、吉川はゆっくりと目を開ける。そこには自分を見下ろす艦娘「ペトログラード」の姿があった。

 

「...あれ?寝ちまってたか。起こしてくれりゃ良かったのに。」

体をゆっくり起こし、彼女に向き直る。

 

「深夜なんだから無理もないさ。それに、寝顔が面白くてな、そのままにしてやりかったんだ。」

 

そう言ってペトログラードは笑みを浮かべた。

 

イルネティアでの思いがけないトラブルのせいで予定が遅れ、帰港が深夜になってしまった。壁の時計に目をやると、時刻はまもなく1時になろうとしていた。

 

吉川はあることに気づいた。

 

「・・・わざわざここまで運んでくれたのか。重かっただろう、すまん」

 

二人がいる場所は艦内にあるペトログラードの自室だった。

 

各艦にはその艦娘の個室が必ず備え付けられてある。

だがクレムリン級戦艦である彼女の船体は292mもあるためとても広い。艦橋から体の大きい吉川をここまで運んでくるのはとても大変だっただろう。

 

だが彼女は笑って自分の腕をたたいた。

 

「なに気にするな、28万馬力の私にとってこれくらい容易いことだ。」

 

もちろんこれは彼女の冗談だ。その出力を出せるのは艤装である船体だけで、生身の彼女は一般人より力が強い程度だ。

 

吉川は彼女の心遣いに感謝した。

 

「ああ、ありがとうペトロ。」

 

「上司を支えるのは旗艦として当然のことさ。それより、あと少しで佐世保に着くぞ。荷物も既にまとめておいたからゆっくり準備してくれ。」

 

「助かるよ。ありがとう」

 

吉川が礼を言うと彼女は部屋を出ていった。

 

彼もベッドから立ち上がり、下船の支度をする。

といっても、ペトログラードが全てやってくれていたので、壁に掛けられていたジャケットを羽織り、制帽を被るくらいしかやることはなかったが。

 

 

そして数十分後、艦隊は佐世保に到着した。

 

ペトログラードと一緒にタラップを下ると、誰かがこちらに走ってくるのが見えた。

 

吉川にはそれが誰かすぐにわかった。長いつきあいの「雪風」だ。彼女は吉川のもとにやってくると、そのままその胸に飛びついた。

 

「しれぇ!おかえりなさい!」という台詞とともに。

 

 

四人の提督を名前で呼ぶ艦娘が増えたが、呉時代から長く吉川と共に働いてきた雪風は、今更呼び方を変えるようなことはせずに「司令」と呼び続けていた。ちなみに、他の三人のことは名前で呼んでいる。

 

吉川も笑顔を見せて彼女を抱き上げる。

「ただいま雪風。まだ起きてたのか?」

 

「はい!しれぇの帰りをずっと待ってました!」

 

「そうかそうか、待たせてごめんな。今日は一緒に寝ようか。俺は少し仕事があるからまっててくれ。」

 

「わかりました!」

 

「よし、いい子だ。」

 

雪風の頭をなでてやる。すると奥からまた誰か出てきた。吉川は彼女にも声をかける。

 

「ただいま、ホーネット。雪風の面倒を見ててくれたらしいな。ありがとうよ。」

 

その艦娘「ホーネット」も答える。

 

「仕事だから気にしないで。皆もお疲れ様。」

 

真面目な彼女はいつも頼りになる。

 

外交官の真壁も今日は時間が遅いので空き部屋に一泊することになった。

 

真壁に風呂や寝室を案内した後、吉川は執務室に向かった。

 

ノックをして部屋に入る。

 

「うい~、ただいま帰りましたぁ~」

そして気の抜けた言葉と共に、部屋のソファへなだれ込んだ。

 

机に座る森高は笑顔で迎える。

「お疲れ晃輔。大変だったな」

 

隣に座る秘書艦の「北上」も声を掛ける。

「おうおう、こんな遅くまで大変だったねえ。」

 

だらりとソファに寝そべったまま吉川は答える。

「ああ、本当にしんどかったよ。遅くまで待たせて悪かったな。」

 

「大丈夫だ。報告書は作成しておいたからもういつでも寝れるぞ。」

 

森高と北上は早めに報告書を作っておき、わざわざ起きて待っていてくれたのだ。

 

吉川は改めて二人に礼を言い、立ち上がって今回働いた艦娘達に振り返る。

 

「よしみんな、これで一段落だ。明日から一週間休みになるから、ゆっくり休んでくれ。」

 

「了解しました!!」

 

各々が部屋を出て行き、最後にペトログラードも退室しようとしたところで、吉川に呼び止められた。

 

 

「なんだ?コウスケ」

 

「おれもこの一週間の間に少し休みを取るんだが、一緒に温泉でも行かないか?金は俺が出してやる」

 

「オンセン!?いいのか!」

 

「来るか?」

 

「勿論だ!」

 

北上が横槍を入れてくる。

「いいなーペトロっち。ねー千鶴さん、私たちもどっかいこうよー」

 

「ん?ああいいぞ、また今度休みが取れたらな。」

 

「やったー」

 

佐世保では提督が4人いるので、その内の誰か1人いれば問題はない。このおかげで、転移後は提督達もそれなりの頻度でまとまった休みをとることができるようになった。こうして時々、艦娘を連れてちょっとした旅行に行く事もあるのだ。

 

 

およそ一時間後

 

「じゃあ明後日の朝4時な、そんじゃお休み」

 

「お休みなさい、ペトログラードさん」

 

「ああ、二人ともお休み」

 

ペトログラードと、雪風を抱えた吉川はそれぞれの寝室に戻っていった。

 

 

 

そして二日後―――

 

「よし、行こうか。忘れ物は無いか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ。」

 

「そんなに堅くなるなよ、似合ってるじゃないか。」

 

「それは良かった。クレムリン姉さんに見繕ってもらったんだ」

 

 

二人は車に乗り込み出発した。吉川の愛車は赤いセダンのフォード・マスタングだ。

 

車の中でペトログラードは話し始めるが、少し緊張しているようだ。

 

「これは、コウスケの車なのか?」

 

「ああ、そうさ。俺たちはだいたい佐世保にいるからあんまりお金を使ってないんだ。だからこうして時々でかい買い物をするか、誰かと一緒に旅行に行くんだ。」

 

「なるほどな...そういや、何故私を選んでくれたんだ?」

 

「ん?俺の艦隊の旗艦を務めてくれた奴を連れてっているのさ。さすがに全員は多いし、一番よく働いてくれたしな。」

 

「そうか...。」

 

「まあお前を誘ったのは他にも理由があるんだけどな。」

 

「えっ?」

 

「まあそれはまた後でな。」

 

 

「あ、ああ。わかった。」

 

車内にはご機嫌な音楽が流れる。

 

およそ一時間半後、二人は福岡空港に到着した。

 

「そういえば聞いていなかったが、どこに行くんだ?」

 

「あれさ」

 

吉川は掲示板を指さす。

 

「えーと...TOYAMA?ああ、富山県か」

 

「正解だ。初めてだろ?」

 

「ああ。というか佐世保から出たのは今日が初めてだ。」

 

「はは、そういやそうだったな。すっかり馴染んでるから忘れてたよ。海外にはちょくちょく行ってるのになんだかおかしな話だな。」

 

 

「そうなんだ。だから今日を本当に楽しみにしていたんだ。」

 

「そりゃ良かったよ。そろそろ行こうか。」

 

二人を乗せた飛行機は富山県へ向かった。

 

 

 

そしてその日の夕方五時頃―――

 

「ここに泊まるのか?」

 

「そうだよ。俺のお気に入りさ」

 

「きれいな所だな....」

 

「そりゃ良かった」

 

二人が来ているのは、周囲を山に囲まれたとある温泉地にある旅館だ。昔ながらの和風旅館で、吉川は時々ここを利用していた。

 

玄関に入ると、きっちり和服を着た女将さんが出てきてくれる。

 

「吉川様、お久しぶりです。いらっしゃいませ。」

 

「お久しぶりです女将さん。またお世話になります。」

 

「よろしくお願いします。」

 

二人も挨拶をして、チェックインをすませ部屋に案内された。

 

 

「では、ごゆっくり。」

女将さんは手早く案内をすませると、丁寧に頭を下げて退室した。

 

10畳ほどの畳の部屋と、川に面した小部屋があり、いかにもといった風情だ。川のせせらぎが心地よい。

 

上着をクローゼットにしまうと、ペトログラードはそのまま横になった。

 

「良い部屋だな。タタミは好きだ。」

 

「俺もさ。日本人で畳が嫌いなやつなんてほぼいないだろうな。」

 

「ここの女将さんに顔を覚えられているのか?ずいぶんと親しい様子だったが。」

 

「まあ、それなりに来てるからな。でもこの世界に飛ばされてからはこれが初めてだ。」

 

彼女はふと疑問に思い、吉川に尋ねた。

 

「前には誰と来たんだ?」

 

「ん?あー、誰だっけな。前は榛名、その前が雪風と曙、でその前が高雄と愛宕?だったかな。最初は確か足柄と那智だったか?いろんな所に行ってたし、かなり前だからいまいち覚えていないな。」

 

「随分とまあ贅沢な旅行だな。毎回連れている女性が違うなんて。」

 

「自分でもそう思うよ。でも毎回同じだと怒られるしな。まあそのせいで女将さんにはとんでもないやつだと思われてたらしいがな。」

 

「ははは、そりゃそうだろう。」

 

「あれには参ったよ。誤解は解いたんだけどな。そんじゃあ俺はちょいと風呂に行ってくるわ。」

 

そう言うと吉川は着替えの浴衣を取ろうと立ち上がった。

 

これにペトログラードもぴくりと反応し、畳から身を起こす。

 

「私も...一緒しても?」

 

吉川は笑って答えた。

「もちろんさ。」

 

支度をした二人は部屋に鍵をかけて、貸し切りの露天風呂へ歩く。

 

「良かった、空いてるぞ。」

 

風呂場の鍵を確認し、吉川とペトログラードは脱衣所に入る。

 

「わあ...良い景色だ。」風呂場を覗いて、彼女は素直な感想を述べる。

決して広くはないが、屋根のついた檜の四角い浴槽がある。そこに湛えられた湯が濁っているのを見て、ペトログラードはほっと胸をなで下ろした。

 

「すまんペトロ、ちょっと通るぞ」

その後ろからいつの間にやら服を脱いでいた吉川が声をかける。振り返ったペトログラードは思わず息を呑んだ。元々服を着ていても分かる立派な体格だが、脱ぐとさらに凄い。腕はそれこそ丸太のようだ。しかし決して行き過ぎということもなく、まさに理想的な体型といえるだろう。

 

「そんなにジロジロ見られると少し恥ずかしいんだが...」

苦笑いしながら吉川は頭をポリポリとかく。ペトログラードははっとして一歩下がった。

 

「すっ、すまない。つい....」

 

「大丈夫さ。俺は先に入ってるからゆっくりおいで」

 

「ああ、ありがとう。」

 

彼女がそう言うと吉川は入り口の扉を閉めた。少しすると、湯をかぶる音が聞こえてくる。

 

ペトログラードは吉川が先に入ってくれたことに感謝していた。やっぱり彼の目の前で服を脱ぐのはいくらなんでも恥ずかしかった。

 

だが、せっかく大好きな男と二人っきりでいられるというのに、こんなことで時間を無駄にしてどうする。意を決して、風呂場へ乗り込んだ。

 

吉川は川の方に顔を向けてゆったりと湯に浸かっていた。

「こっちを見るなよ...」と伝え、かけ湯をして湯船にゆっくりと入る。

 

肩まで浸かると、彼女は思わず息をはいた。熱すぎず、それでいて温くもなく、少しとろみのある湯が肌に心地良い。

 

「ああ...これはいいなあ。疲れが取れそうだ。」

 

「だろう?温泉は最高さ。」

 

「だな。こういう事が出来るから、生きているってのは楽しい。」

 

「そうだな...。船のままじゃ風呂に入るどころか、食事も出来ないもんな。」

 

話に花が咲く。いつのまにかペトログラードの緊張は消えていた。いろいろと話す内にいつしか話題は移り変わっていた。

 

―――「この世界に来てからそろそろ一年か、早いもんだな。クビになるかと思ってたんだが、こんなことになるとは思っていなかった。お前もそうだが、未成艦はあったが、設計だけの計画艦が建造で出てきたことは今まで無かった。」

 

「そうらしいな。」

 

「この世界に来てからというもの、不思議なことばっかりだ。だけど、国が転移するなどと言うあり得ない事が実際に起きたんだから、もう何が起きても一概に馬鹿げてるなんて言えないな。」

 

「うむ...。」

 

「・・・そういやさ、朝は言わなかったけど、今日お前を誘ったのにはもちろん理由がある。単純だけどお前に礼が言いたかったのさ。」

 

「...?」

 

「何だか上手く言うのは難しいんだが、何と言えばいいかな。俺以外の三人には、パートナーや相棒といって差し支えない艦娘が一人か二人はいるんだ。千鶴は扶桑、京介は霧島、一誠は鳳翔さん...あれはもうほとんど夫婦だが、そういうのがいる。

 

そいつらは全部、9年前の最初っから一緒にいる。俺の所の呉では、最初に出会ったのは雪風と曙だった。もちろん長いつきあいで今でも大好きだが、パートナーというよりは親子って感じでな...」

 

「ふむ..」

 

「もちろんそれが嫌ってわけじゃないんだが、俺だけ少し違っていてな...。んで、佐世保に鎮守府が統合されてから産まれたお前は、不思議と俺と気が合った。いつも俺を支えてくれる、要は『そういう』存在になってくれた。本当に感謝してるよ。今日お前を誘ったのはこういう事さ。」

 

「...!!!」

ペトログラードは、自身の胸に何か熱いものがこみ上げてきているのがわかった。

 

「まあ、とは言っても俺たちはそのうち老いて、そのうち死ぬ。だけど艦娘は歳をとらない。何だかお前達を置き去りにして先に死ぬのが少し寂しいような気はする。だから戦いが終わるか、俺が引退するまで俺を助けてくれよ。」

 

「―――任せろ、()()

 

「ああ、よろしく頼む」

 

二人は互いの拳を軽くぶつけて笑った。

 

また二人は話を続けた。

 

「艦娘については、やっぱり謎だらけだ。姿こそ人間と同じだが、何故老いないのか、何故下手なことでは死なないのか、何故船をしまったり動かしたり出来るのかすら俺達は分かっていない。一部のことは長門にもわからないそうだ。」

 

最初の艦娘「長門」は艦娘の数々の謎を知っている。それについては彼女が自分から言わない限りは聞かない約束になっていた。

 

吉川は続ける。

 

「この世界に転移してからなぜこんなにも数が増えたのか、とかな。これはもう、何か人の理解の及ばない領域だな。ただ、艦娘を人間に限りなく近くした存在に出来る方法はあるらしい。そうすると、艦娘も年をとるし、子供も産めるようになるそうだ。元に戻ることは不可能らしいが。」

 

「そうなのか...」

ペトログラードは出来ることなら最後まで吉川と一緒にいたかった。他の艦娘達も同じ事を考えているだろう。今すぐ人間になれるのならなっても構わない。だがそうは問屋が卸さないだろう。なんだか怖くなって、つい彼に体を近づけていた。

 

吉川は彼女の思いを汲んだのか、その体を持ち上げて自分の膝に乗せた。

 

「ひゃっ!?」

 

「そんなに悲しい顔をするなよ。俺もオッサンに片足突っ込んだ年齢になっちまったが、まだまだ半世紀は余裕で生きるさ。それにここ一年は見違えたように体調が良いんだ。きっと100年は生きるさ。おっと!」

 

 

ペトログラードは気づくと無意識に彼に抱きついていた。出来ることならずっとこうしていたかったが、そろそろ夕食の時間だったので仕方なく上がった。

 

そして夕食を食べて部屋に戻ると、並んで布団が敷かれていた。彼女はどうにか緊張をほぐそうと大酒を飲み、ついそのままぐっすり眠ってしまった。

 

 

翌朝起きたペトログラードは、自身の酒癖の悪さに赤面したのだった。

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。まあ今回匂わせたことはそのうちわかるので、ただの番外編として見てくれれば大丈夫です。


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一時の平和編
第31話 各国の動向


本編に戻ります。


神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 

世界中の誰もが認める世界最強の国、神聖ミリシアル帝国、その他とは隔絶した栄え方、そのあまりにも高度な発展を前に人々は「世界の中心」という意味を込め、帝国の存在する大陸付近を中央世界と呼んでいた。

 

 

神聖ミリシアル帝国は、

・世界で最も高い魔法技術

・国の基礎を安定して支える高度な政治システム

・広大な国土と優秀な物資の量産化システム

・優秀な学問体系

 

が高度に入混じり、この世界の文明圏国家や、列強国と比べても国力の優位性は疑いようがない。

帝国は、国土の所々に残る、古の魔法帝国の遺跡を解析し、高度な技術を支えてきたため、地球の歴史を基準にすると、軍事技術は歪な発展をしている。

 

 

帝都ルーンポリスに位置する外務省、その建物の1室で、2人の男が会談をしていた。

 

「しかしまさか、第3文明圏唯一の列強国、パーパルディア皇国が、実質的に負けるとはな。

しかも、国土も狭く、文明圏外の国にとは。

・・・未だ信じられないよ。」

 

外務省統括官リアージュはつづける。

 

「我が国の魔導船団をもってすれば、パーパルディア皇国など、吹けば飛ぶような軍隊、しかしそれでも第3文明圏の技術水準から考えれば、皇国の軍事力は付近の国よりも隔絶していた。日本....興味の沸く国だな。」

 

 

机の上には今日発行された新聞が置かれていた。パーパルディア皇国の敗戦について大きく報じられている。見出しを飾るのは10隻の戦艦の写真だった。

 

「にしても、東方の文明圏外に位置する国が何故ここまでの戦艦を保有しているんだ?これはムーどころか、下手すれば我が国のミスリル級魔導戦艦より大きいかもしれない。」

 

もう一人の男、アルネウスも返す。

 

「ええ、全くの謎です。ただ噂によりますと、日本は転移国家を自称しているそうです。これが本当ならば、彼等の技術水準が高い理由になるかもしれません。」

 

「なるほど、信じられない話だが、確かにここまでの軍事力を持つ国が突然現れたのにも納得がいく。」

 

アルネウスはまた別の写真をリアージュに見せた。

 

「リアージュ様、これを見てください。これはエストシラント上空に現れた日本の戦闘機です。」

 

「これは...天の浮舟?なぜ日本が!?聞いた話だと、日本の飛行機械はムーの戦闘機を更に発展させたようなものだと聞いていたが?」

リアージュはF-2の写真を見て驚きを隠せない。

 

アルネウスは続ける。

「この写真を技術研究開発局に見てもらいました。資料がこれしかないので100%正しいとは言えませんが、この戦闘機は音速を超える可能性があります。」

 

「な...なにいっ!!?どういうことだ!!」

 

アルネウスは写真のある部分を指さす。

「この翼を見てください。これは後退翼と言って、超音速飛行を行う際に必要な設計です。古の魔法帝国の天の浮舟も、本来はこれに近い形の翼を持っています。しかし、我が国の技術では音速を超える飛行機を作ることは不可能であります。」

 

リアージュは飛び出さんばかりに目を見開いていた。

 

「そ...そんなバカな。我が国が文明圏外国に後れをとるなんて...」

 

「ですから是非使節団の早期派遣を……。」

 

 

「アルネウス君、情報局長である君が、日本国の情報を集めたいのは解るが、我が国は世界最強の国だよ?

ただ単に国交樹立を目的として、我が国側から打診し、使節団を派遣するなど……しかも、列強国ですらない、文明圏外国に。」

 

 

 

「リアージュ様、日本国は今後、第3文明圏の列強に代わって、東方大陸国家群の代表的存在であり、列強の1つになると思われます。

我が国の開く先進11ヶ国会議にパーパルディア皇国の代わりに日本を呼び、それらの準備すべき事柄の指導という形で、国交樹立の準備も含め、使節団を派遣するといった形ではいかがですか?」

 

 

「うーん、それならば、議員の方々も納得するかもしれないな。検討と根回しをしてみよう。」

 

後日、神聖ミリシアル帝国は、日本国に使節団の派遣を決定した。

 

 

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

 

戦艦「グレードアトラスター」艦長ラクスタルは、大将カイザルに呼び出されていた。

 

「失礼します。」

ノックをして、執務室に入る。

 

そこには、カイザルが応接用のソファに座って待っていた。

 

ラクスタルは敬礼する。

 

「ただ今参りました、カイザル大将。」

 

「やあ、ラクスタル君。まあ座ってくれ。堅苦しい挨拶はいいから。」

 

「はい、失礼します。」

 

ラクスタルが向かい側のソファに座り、話が始まった。

 

「さて、ラクスタル君、今日の議題は何だと思う?」

 

これにラクスタルは少し黙り、答えた。

「日本...についてでしょうか。」

 

「正解だ。これを見てほしい。」

カイザルは机の上に2部の新聞と、数枚の写真を並べた。

 

ラクスタルは少し身を乗り出して、新聞を手に取る。

 

どうやらムー国と神聖ミリシアル帝国の新聞のようだ。

 

どちらも、パーパルディア皇国の降伏について大きく報道されていた。

 

「やはり、パーパルディア皇国とやらは敗北しましたか...まあ当然でしょうね。戦列艦と戦艦では勝負になるはずもありません。」

 

ラクスタルは一端言葉を切る。

 

「・・それにしても、この10隻の戦艦...この間私がイルネティアで遭遇したものとはどれも違いますね。いったい彼らはどれだけの軍艦を保有しているのでしょうか」

 

カイザルも写真を指さしながら話し出す。

「うむ。確かに君の言うとおり、どれも前見たものとは違う。この中には比較的旧式の戦艦が多そうだが、それでも脅威には違いない。にしても戦艦の上で調印式とは、小洒落た事をするな...皇国の代表はさぞや恐怖に震えたのだろう。それにしてもこの『ミズーリ』という戦艦もかなり大きそうだな。全長はグレードアトラスターに匹敵するかもしれん。」

 

「やはり....現時点で最も警戒すべき国家は日本ですね。」

 

カイザルはふっと息を吐き、新たな写真を取り出した。

何か空を飛ぶ物を写しているが、ピントが合っていないらしくぼやけてしまっている。

 

「...?これは?」

 

彼の疑問に、カイザルはゆっくりと答えた。

 

「これは、降伏調印式が行われたパーパルディア皇国の首都エストシラントで我が国の諜報員が撮影した写真だ。日本の戦闘機を写した...のだが、あまりにも速くうまくフレームに収めることすらできなかったらしい。」

 

「....!?」

ラクスタルの顔に驚愕の表情が浮かぶ。

 

カイザルは更に続ける。

「その諜報員によると、その戦闘機は、かなり大きく、そして変わった形の翼を持ち、プロペラは無い。そして、レシプロエンジンとは全く違う爆音を放っていたらしい。

 

―――恐らくこれは、ジェットエンジンを積んだ戦闘機だ。」

 

「!!!」

 

普段はあまり感情を出さないラクスタルもこれには度肝を抜かれた。ジェットエンジン、それはレシプロエンジンに代わる次世代の技術とされているが、グラ・バルカス帝国ではあくまで構想の段階であり、実用化にこぎつけるにはいったいあと何年かかるのかすら分からない。

 

これが本当なら、日本の技術が帝国を上回ることはもはや疑うべくもない。神聖ミリシアル帝国の戦闘機もどうやらジェットエンジンの様な機構を採用しているらしいが、それにしては遅く、運動性も良くないとの情報があった。

 

「これは...驚きましたな....」

ラクスタルは気を落ち着かせるために、テーブルに置かれたお茶を一口飲んだ。

 

 

一服したところで、カイザルがまた話し始める。

 

「もはや日本とぶつかってはいけないことは明白だ。しかし、最近帝国の力を盲信し、この世界の全てを支配しろと騒ぐ連中が出てきている。私たちは一度頭を冷やさなければいけないようだ。

 

世界を力で支配することは難しく、いずれは崩れる。パーパルディア皇国が正に良い例だ。むしろ私としてはここらで暴走を止め、この世界に調和することの方が合理的だと感じている。」

 

 

「私もそう考えます。恐怖政治は隙があります。」

 

カイザルは大きく頷いた。

「君がそう考えていてくれて良かった。実は今度陛下にも相談して、秘密裏に日本に一度使節を派遣しようと考えている。その時はよろしく頼むよ、ラクスタル君。」

 

「了解しました。」

 

これにて談話は終了した。およそ一ヶ月後カイザルは皇帝グラルークスにその旨を相談し、皇帝はこれを認めた。

 

そして帝国はまずムー国に外交官を派遣し、日本への使節派遣を仲介してもらうことになった。

 

これには日本とムーは勿論驚いた。だが無碍にするわけにもいかないため、おっかなびっくり両国は近づくことになる。

 

 

第3文明圏内国家 パンドーラ大魔法公国 首都ファンドルフ

 

 

「そうか。やはり噂は本当だったのか」

 

 

「はい、列強パーパルディア皇国は、日本国との戦闘で大きくダメージを受け、74ヵ国に分裂し、降伏しています。これにより、我が国への圧力は無くなり、我が国は救われました。」

 

 

「本当に良かった。もし我が国が列強の侵略を受けたら、おそらく勝てないだろう。

日本は最近何かと話題になるが、本当に転移国家なのか?」

 

「はい、少なくとも本人たちはそのように述べていますし、そうでなければ新しく出来た新興国に列強が負けるはずがありません。」

 

 

「うーむ...日本の国旗はたしか太陽を現していたな?」

 

 

「はい。」

 

 

「異界の太陽も東から昇る...か。この太陽は、我々の未来を照らす太陽となるのか...それとも、我々を焼く業火となるのか....。」

 

 

「いずれにせよ、日本国との国交開設は急務ですね。」

 

 

「そうだな。どうやら日本は平和な国家らしいし、応じてくれるだろう。すぐに準備をしよう。」

 

パンドーラ大魔法公国は、高い魔導技術を持つ国でありながらパーパルディア皇国の属国とされていた。これに国民の不満は多く、日本が皇国を破った事に喜びの声があがった。皇国の傀儡であった学連長はその地位を追われ、その行方は誰も知らない。

 

 

列強パーパルディア皇国に勝ったというニュースはあまりにも衝撃が大きく、世界を駆け巡る。

日本国外務省は、皇国戦の後、新規国交開設のため様々な使者が日本を訪れる事となり、地獄の忙しさになる。

 

 

 

 

それとは別の日、フェン王国近海―――

 

 

パーパルディア皇国の脅威が無くなったフェン王国には平和が戻っていた。日本の協力により街は復興し、その活気を取り戻していた。

 

王国のある漁師が、小さな船を漕いでいた。今日はいつもの漁場ではいまいちあたりが無く、場所を動こうとしていた。

 

いつもは寄らない、とある小さな無人島の裏側に回った。だが、今一つ釣れない。

 

「うーん...今日はダメか。...ん?」あきらめて引き返そうとしたとき、彼は島に違和感を覚えた。島の裏手の切り立った崖に、なんだか不自然にみっしりと蔦で覆われた場所がある。

 

彼は好奇心に負け、そこに近づいた。やはりその一部分だけなんとも不自然だ。まるで誰かが何かを隠しているような―――

 

崖に近寄り、蔦を少し剥がした。中を覗くと、かなり暗いが何か人工物のようなものが見える。まるで秘密基地のような光景だ。どうやら金属でできた扉のような物も見える。

 

「なんじゃあ、こりゃあ?」

 

ひとまず彼は引き返し、役人にこれを相談した。困った役人は更に上に相談し、巡り巡って日本に調査を依頼した。これをフェン王国に駐留していた艦娘達が請け負う事となり、その島へ向けて出港したのだった。

 

 

 

 




原作そのままだと面白味に欠けるので展開を異なる物にしています。後々詰まらなければいいのですが....


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第32話 ムーの新戦艦

タイトル通りですね。

なお、本作では先進11ヶ国会議を1年か2年遅くする予定です。


ムー国 首都オタハイト―――

 

首都に位置するムー国海軍本部の建物で、新たに採用された新戦艦についての説明会が行われていた。

 

いつもに増してテンションが高そうなマイラスが大講堂で説明をしている。海軍幹部の他、軍務大臣やゲストの艦娘も出席していた。

 

既に説明会は終盤に差し掛かっていた。

 

「―――よって、近日起工される新戦艦は、前級の『ラ・カサミ級』を大きく上回り、神聖ミリシアル帝国の最新鋭魔導戦艦である『ミスリル級』に匹敵する力を持つと思われます。」

 

「おお....!!!」

 

 

会場にどよめきの声が挙がる。出席者達はもう一度配布されたレジュメを見つめる。そこには見取り図と共にこう書いてあった。

 

ラ・ヴィンセント級戦艦

 

3隻建造予定

 

同型艦 ラ・キューリック ラ・セイヤー

 

全長217.6m

全幅22.2m

基準排水量29,000t

最大出力100,000hp

最大速度29kt

航続距離10,000海里

 

主砲 305mm連装砲5基

副砲 152mm単装砲8基、100mm連装両用砲8基

対空兵装 ボフォース40mm機関砲16基、20mm連装機関砲20基、8mm単装機関銃30基

 

 

ラ・タウンゼント級戦艦

 

2隻建造予定

 

同型艦 ラ・エントウィッスル

 

全長231.6m

全幅24.9m

基準排水量36,000t

最大出力10,0000hp

最大速度26kt

航続距離9,000海里

 

主砲 305mm三連装砲もしくは381mm連装砲4基

副砲 152mm単装砲12基、100mm連装両用砲10基

対空兵装 ボフォース40mm機関砲20基、20mm連装機関砲24基、8mm機関銃30基

 

どちらもこれまでの軍艦の性能を大きく上回る革新的な戦艦だった。日本からの技術指導、各種兵装のライセンス生産等で一気に性能を押し上げた。当然、莫大な資金がかかるが、王の勅命によりラ・カサミ級の3番艦以降の建造を中止し、元々それなりに余裕があったので、どうにか開発にこぎ着けることが出来た。

 

特徴としては、

 

・バルバス・バウを採用

・バルジを装備

・蒸気タービン装備による高出力化

・主砲の長砲身及び大口径化、合理的な直線配置

・総括射撃管制装置

・英戦艦「ヴァンガード」に似た形の艦橋

・対空戦闘にも気を配った副兵装

・各種レーダー搭載

 

・・・などといったところであり、完成すれば神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦と同等かそれ以上の性能になると予想されていた。少なくとも防御力においては勝っていると思われる。

 

ムーは日本から魚雷について教えられていた為、現在その開発に勤しんでいた。神聖ミリシアル帝国には魚雷の概念は無く、艦艇にバルジは装備されていなかった。各艦の名前は、ムーの偉人や、過去の海軍提督の名字から命名されていた。

 

「最低でも2隻は、先進11ヶ国会議までに完成させる予定です。すべて同時に起工します。」

 

マイラスが説明を終えると、割れんばかりの大きな拍手が大講堂を包み、説明会は終了した。

 

戦艦に加え、マリンの後継機となる初の単葉機の開発も進められていた。

 

現在ムーに派遣されている5人の艦娘達はムー政府より与えられた家へと戻っていった。

 

その家は正に豪邸と言っていい程の立派なものだった。主人たる艦娘はたった5人しかいないというのに、執事とメイドが合わせて100人近くもいる。至れり尽くせりどころか、まるで貴族のような対応だ。

 

庭には25mプールやら、噴水やらに加えちょっとしたゴルフ場まである。そしてなぜか日本の温泉風の露天風呂まで用意されていた。更に艦娘達がムー国内でいくら浪費しようとも政府の負担になるという。

 

以前の引き渡しの際の吉川の言葉を、どうやらムーは拡大解釈してしまったらしい。

 

もちろんこの扱いに不満があるわけでは無いのだが、佐世保での気兼ねない暮らしが何だか懐かしい。

 

5人だけで同じ部屋に集まり、机を囲む。

 

英国淑女のお決まりというべきか、紅茶にスコーン、サンドイッチといった軽食が机に並ぶ。

 

それらを摘まみながら、雑談を始める。そこではこのような会話がなされていた。

 

「はあ~あ、何だか佐世保が懐かしいわぁ。にしても研究のためとはいえ、見知らぬ男達に体の隅々まで見られてしまった...私、もうお嫁にいけないかもしれないわ...」

 

 

机に突っ伏しながら「エジンコート」がぼやく。体と言ってもそれは船体の事だが...。どうやらわざと誤解を招きそうな言葉を選んでいるらしい。

 

これに苦笑いをしながら「フッド」と「レパルス」が返す。

 

「まあまあエジンコートさん、ここの生活も良いものではないですか。皆さんとても良くして下さるし...」

 

「まあ、気持ちは私も分かりますよ。私も日本が懐かしく感じています。ムーの町並みはどこか古き良きといった風情で気に入っているのですがね...。先進11ヶ国会議?とやらが終わるまでの辛抱ですよ。」

 

5人の貸与期間は少し変更されていた。

 

エジンコートは紅茶のおかわりを「ロイヤル・オーク」に注いでもらいながら話す。

 

「まあ、帰ったら私はイッセーに飯に連れて行ってもらう約束をしたからな。それまで我慢するか....」

 

これに「ヴァリアント」が食いついた。

 

「え!!一人だけずるいですよ!!私もつれてってください!!」

 

エジンコートはにやりと笑って返す。

「嫌だね。私は一対一で行く約束をしたんだ」

 

「そんなーっ!?酷いですっ!!」

 

ロイヤル・オークが間にはいる。

「まあまあ、落ち着いて。日本に帰ってからでも機会はありますから。」

 

5人はいつもこんな調子だが、何だかんだ上手くやっているようだ。

 

フッドは窓から庭を眺めつつ、ティーカップに口を付けた。

 

(佐世保のみんなは、どうしているかしら...)

 

 

 

その頃 佐世保鎮守府―――

 

3人の提督と何人かの艦娘達が、執務室で話をしていた。戦争の終結により以前のような忙しさは一時的に鳴りを潜め、佐世保は和やかな雰囲気に包まれていた。

 

赤松は一枚の写真に手を伸ばす。

「ふーん...これが、神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦とかいう代物か。まるでSFの世界に出てきそうな見た目だな。どれくらいの性能かはよくわからないが、少なくとも戦列艦よりは遙かに上だろうな。」

 

隣にいる「清霜」もその写真を食い入るように見つめていた。

 

「すごーい!!かっこいい!!」

 

「確かに見た目は格好いいな...まるでステルス機みたいだ。なんだかこの国の戦艦は空を飛んだりとかしそうだ。」

 

森高は別の写真を見ていた。

 

「ははっ、何だこりゃあ。双胴の航空母艦!?よくこんなものを作ったもんだな。搭載量は多くなるかもしれんが、機動性は悪そうだな。

それにしても、同じ列強国でも、一方は戦艦、かたやもう一方は戦列艦...何でここまで差があるんだ?なんともキテレツな世界だな、本当に。」

 

高橋も話に加わる。

「でも、その神聖ミリシアル帝国とやらが今度使節団を送ってくるんだろ?パーパルディア皇国みたいにこちらを見下していなけりゃいいが...。」

 

そう言うと彼は机を立ち、部屋のドアノブに手をかけた。

 

「京介さん、どこへ?」

 

「大淀」が彼に声をかける。

 

「んあ?タバコだよタバコ」

そして彼は部屋を出ていった。

 

 

「あれ、そういや晃輔は?」 

 

森高の問いに赤松は外を指さした。

 

「あいつなら外で走ってるよ。」

 

 

佐世保鎮守府には、運動の為の設備が各種備えられている。グラウンドに体育館、ジム、プールといったところだ。とくに強制ではないが、自己鍛錬や息抜きとして艦娘と提督が利用している。

 

そのグラウンドの外周トラックに人の姿が見える。だがその中に一人だけやけに大きいシルエットがあった。お察しの通りそれは吉川だった。駆逐艦娘達の1500m走に混ざり、彼女たちを置き去りにしてぶっちぎりで走っている。

 

その様子を少し離れた場所にある、外に置かれた机に座る4人が見ていた。それはクレムリン級の四姉妹だった。

 

次女の「スラヴァ」が呟く。

 

「いったいあの人、どんな体力してるのかしら。確か今年で33歳でしょう?」

 

四女の「ナヴァリン」も同意する。

「本当、凄いです。何をしたらあそこまでの体ができるのですかね。」

 

ここで長女の「クレムリン」が別の話題を振る。

 

「そういえばペトログラード、あなたちょっと前にコウスケさんと二人っきりで旅行に行っていたわね。どんな感じだったのかしら?」

 

これにペトログラードは少し恥ずかしそうに答える。

 

「いや...その...まあ、楽しかったぞ。」

 

それをクレムリンはばっさりと切り捨てた。

 

「そんな事は聞いていないわ。私が聞いているのは夜のことよ。さぞ楽しい時を過ごしたのでしょう?」

 

ペトログラードの顔は真っ赤だ。

 

「いや、実は...何もしていないんだ。」

 

 

この言葉に姉妹達は驚いて彼女に詰め寄った。

 

「はああああああ!!???嘘おっしゃい!!」

 

ペトログラードは必死に説明する。

 

「本当なんだ!!つい緊張して、どうにかしようと酒を飲んだんだ。そしたら眠くなってしまって...」

 

クレムリンはため息をついた。

 

「どれだけ飲んだのよ?」

 

「ウォッカを一本だけ....」

 

「「「そんなの眠くなるに決まってるじゃない!」」」

 

三姉妹揃って突っ込みを決める。だがそもそもウォッカを一本丸ごと飲んだら普通の人は急性アルコール中毒でぶっ倒れてしまうだろう。そこはこの姉妹がおかしいのだ。

 

「あーあ、勿体ないことしたわね。せっかく服を選んであげたのに...」

 

 

「あらあら、それは勿体無いことをしましたね...」

隣の机からこんな声が聞こえてきた。ペトログラードが振り向くと、そこには高雄と愛宕が座っていて、こちらを見て笑っていた。

 

前に吉川にした質問を思い出したペトログラードは、なぜだか無性に恥ずかしくなってきた。

彼女はさらに顔を真っ赤にしたのだった。

 

 

「はあー、やっぱり長距離は疲れるな。速吸、水くれ。」

 

そんなことは露知らず、駆逐艦娘達より三周速く走り終えた吉川は水を飲むとご機嫌でシャワー室に向かったのだった。

 

 

 

フェン王国―――

 

依頼を受けた艦娘達は、その島の調査をしに来ていた。

 

「ふーん、ちっぽけな島だな。ここに本当に何かあるのかな?」

 

フェン王国駐留艦隊旗艦「アンリ4世」は双眼鏡から目を離しそう呟いた。その島は円形で、直径2kmに満たない程度の大きさだ。見たところどうってことのない、ただの無人島のようだ。

 

だがこれも仕事の内、そして彼女は冒険が好きだった。随伴の駆逐艦2隻とともに島に近づいてゆく。

 

 

そこには思いがけないものが眠っていたのだった。

 

 




赤松はしれっとフラグをたててますね。

ムーの戦艦の名前は好きなミュージシャンの名字からとっています。


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第33話 無人島の忘れ物 その1

30話 「降伏の日」での調印式に登場した戦艦を金剛型からダンケルク級に差し替えました。




フェン王国 近海―――

 

巡洋艦「アンリ4世」と駆逐艦「雷」「電」は依頼のあったその島に向かっていた。

 

錨をおろし、内火艇に乗り換えて島に上陸した。

 

「ふーん。どうってことない、ただの島だな...」

辺りをキョロキョロと見回し、「アンリ4世」はこう呟いた。

 

ひとまず島の砂浜に3人で降り立った。妖精は船で留守番だ。

 

歩き出して島の裏手の崖に回る。険しく切り立っているが、どうにか件の蔦が集まった場所までは行けそうだ。

おそらく道のようになっていたのだろうが、手前の方が崩れてしまっている。

 

 

 

 

少し危なそうだ。足をかけるとパラパラと小さく崩れる音がする。

 

「おっと、気を付けないとな。」

 

「はわわ、危ないのです!」

 

慎重に足を運び、ようやく蔦の前に辿り着いた。

 

「なるほど、確かにこれは怪しいな」

 

そう言うと蔦に手をかけ、力一杯剥がした。

 

「よし、入ろう」

 

人が通れる位の隙間を作り、一人ずつ中に入った。

 

「暗いわ....」

雷がそう呟いた。

 

全員が懐中電灯をつけた。

 

見渡すと、奥まで50mほどあり、そこに報告にあった扉らしき物がぼんやりと見える。思ったより遠い上にやけに寒い。

 

「なんだか、お化けでも出そうだな...。」

 

「そ、そんなこと言わないでほしいのです!」

 

アンリ4世の言葉に電が少し怯える。

 

「でも、この島はフェン王国の民は近づかないらしいぞ。どうやらこの島の近くで"空飛ぶ鍔"が出るという伝承があるらしいんだ。ここを見つけた漁師は知らなかったらしいが。」

 

「"ツバ"?何それ?」

 

雷が尋ねると、アンリ4世は身振り手振りを交えて説明する。

 

「ほら、あれだよあれ。日本刀ってわかるだろう?あれの持ち手の近くにある、手を守る部分の事さ。」

 

詳しく知っている訳ではないが、雷と電の頭には日本刀の形が浮かんだ。

 

「えっ、それって....」

 

雷の言葉を電が拾う。

 

「UFOなのです!?」

 

「そうかもな。まあいつ生まれた伝承かもわからないし、タダのヨタ話かもしれん。どこの世界にも似たような伝説があるんだな。....着いたぞ。」

 

三人は扉の前に立っていた。

 

「んん.....?何の文字だこれは?」

 

アンリ4世はスマートフォンを取り出し、共通語と見比べる。やはり見たこともない文字だ。続いて取っ手に手をかける。

 

「よっ.....うーん...むむむ....駄目だ。雷、電、手伝ってくれ。」

 

一人では歯が立たず、三人がかりで取っ手を引っ張る。

 

「むむむむ.....」

 

まるで童話の『大きなかぶ』を思い出させる光景だ。顔を真っ赤に染め、うんうん唸りながら頑張ったが、ぴくりとも動かないので、一度諦めた。

 

「これは...鍵がかかっているな。しかしこれはいつ作られたんだ?埃は被っているが錆びていないし...うーん、困った。どうやって開ければいいんだ?そもそもこいつは何で出来ているんだ?」

 

ひとまず写真を撮って、この日は引き上げた。その写真は日本に送られ、解析に回された。これを外務省が各国大使館に見せたところ、ロウリア王国と最近国交を結んだばかりのパンドーラ大魔法公国が反応した。

 

彼らによると写真にある文字は、古代文字の可能性が高いとの事だ。

 

そしておよそ二週間後、高橋と戦艦「ビスマルク」はフェン王国の駐留艦隊居留地に来ていた。

 

タラップから降りてきたのは四人だ。高橋と艦娘「ビスマルク」、それと二人の熟年男性の姿があった。

 

建物から一人の女性が手を振って走ってくるのが見える。

 

「キョースケさん!ビスマルク姉様!お久しぶりです!」

 

艦娘「プリンツ・オイゲン」だ。屈託のないまぶしい笑顔でこちらに向かってきている。その様子に高橋は安堵した。

 

「ようオイゲン、久しぶりだな。元気にしてたか?」

 

「はい!みんな元気です!」

 

「そりゃ良かった。ビスマルクも心配してたぞ。」

 

高橋がそう言うとビスマルクは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

「嬉しいです!...ええと、そちらのお二人は?」

 

彼女の問いにビスマルクが答える。

 

「この二人は、今回調査に協力してくれる事になった魔導師さ。ロウリア王国のヤミレイ氏と、パンドーラ大魔法公国のザネル氏だ。」

 

ロウリア王国と言うと、転移後最初の敵国だ。とは言っても、パーパルディア皇国のように日本の怒りを買うような事をしたわけでもなく、あまりにあっさりと終戦に至ったせいか両国にそこまで気まずい空気は無かった。

 

それに、ロウリア王国が掲げていた「亜人の排斥」を本気で目標としていたのは一部の王族くらいで、むしろ戦後に日本による文化の発達を王国民は喜んでいた。結局平和な暮らしができればそれが一番なのだ。

 

そして、派遣されてきた魔導師ヤミレイは文明圏外国家どころか文明圏でも名を知られた優秀な男だった。彼自身亜人差別などといった文化に興味はなく、戦後、より研究しやすくなった環境に喜んでいた。昔から古の魔法帝国について研究しており、誰も使わない古代の言語を解読するなど、実績は十分だった。

 

そしてもう一方は、国交を結んだばかりのパンドーラ大魔法公国より派遣されたザネルという魔導師だ。新しくなったパンドーラの副学連長で、ヤミレイよりも若いが優秀な男だ。

 

今回の派遣には日本に恩を売っておこうという思惑が見え隠れしていたが、こちらにしても別に悪い話ではなく協力者は有り難かった。日本は魔法については初心者、素人同然なのだから。

 

休憩をはさみ、居留地の隅にある慰霊碑に立ち寄ってから、およそ二時間後出港した。

 

ビスマルクと、旗艦のアンリ4世はその島へと向かった。

 

 

「ほっほっほっ、まさか日本の軍船に乗れるとは...こんなにも大きいというのに、乗り心地がいい。長生きはしてみるもんじゃな....。」

 

「ビスマルク」艦内でヤミレイはそう呟いた。

 

 

そして数十分後、島の近くに着いた。

内火艇に乗り換えてそのまま例の洞窟の近くに向かう。この2週間の間にそこには簡易だが階段が設置されており、前回よりも行きやすくなっていた。

 

アンリ4世を先頭に、暗い洞窟へ入っていく。

 

扉の前に辿り着くと、二人の魔導師は調査を始めた。背負っていた鞄から書物を取り出し、扉の横に書かれた擦れた文字を指でなぞる。

 

数分後、何か難しい事を話していた二人はこちらを同時に振り向くとにっこりと頷いた。

 

ザネルが告げる。

「どうやらこの扉を開ける事が出来そうです。」

 

「本当ですか!」

 

高橋とアンリ4世が喜びの声を上げる。

 

ヤミレイが壁を指さしながら続ける。

「これは、間違いなく古の魔法帝国が使用していた古代文字です。開け方が記されています。」

 

この言葉に「アンリ4世」が疑問の表情を浮かべた。

「そんな所にわざわざ開け方を記しておくなんておかしくないか?それじゃあ誰にでも開けられるじゃないか」

 

ヤミレイはそれに答える。

「当時、それはさしたる問題では無かったのです。この文字は古の魔法帝国だけの物であり、そもそもその時代は文字自体が普及していませんでした。ですから、書いたところで誰も読めなかったのですよ。それに、この扉を開けるには高位の詠唱が必要ですが、それができるのも光翼人だけだったのです。」

 

「成る程...説明を止めてすまなかった。」

 

「いえいえ、お気になさらず。ところで、扉は今開けてみますか?私たちの見立てによると、ここは魔帝の小規模な基地だったと思われます。もしかするとその兵器などが残っているかもしれません。」

 

高橋の表情が変わった。

 

「出来るものなら是非お願いします。」

 

古の魔法帝国についての伝承は日本も把握していた。ジェット機や核爆弾のような物を持つ、地球での1960~70年代相当の技術があり、傲慢で暴力的、もし復活すれば最大の脅威となるだろうと予測されている。その情報が手に入るなら願ってもないことだ。

 

「分かりました。やってみましょう。」

 

そう言うとヤミレイはなにやら準備を始めたようだ。

 

祈祷のように手を組み、目を閉じる。そして何か聞いたことのない言葉を話し始めた。おそらくこれが古代言語の詠唱なのだろう。

 

数分間に及ぶ詠唱の後、突如カッと目を見開くと右手を捻るように動かした。すると、それに合わせてカチリ、と音が鳴った。

 

「おお....!!」

 

「.....ふう。どうやら開いたようです。」

 

ヤミレイは少し息があがっており、額には汗も浮かんでいた。

 

「大丈夫ですか?」とザネルが声をかけると、ヤミレイはにやりと笑って返す。

 

「ほっほっほっ、久しぶりに力を出したので少し疲れましたな。爺には少し無理があったやもしれませぬ。ささ、開けてみましょう。」

 

「ええ、では...」

 

高橋が取っ手に手をかける。軽く力を入れると扉はすんなりと開いた。一人ずつ中へと入る。

 

 

「暗いな....」

 

ビスマルクが呟いた。窓がないので当然光は入ってこない。各々が懐中電灯や魔石を使ったランプで灯りを手に入れる。

 

「足下気を付けて」と誰かが注意する。下を見ながら一歩ずつ足を進めてゆく。

 

「ん...?」

 

アンリ4世が何かを見つけたようだ。全員でその方向を照らす。

 

「こっ、これは!?」

 

ザネルが叫んだ。全員が驚いた顔をしていた。

 

―――そこには、巨大な円盤の様な物体のシルエットが浮かび上がっていた。

 




原作を読んでる人からすればもうこれが何かお分かりですよね。


ちなみにオリジナルキャラの「ザネル」は銀河鉄道の夜に登場する「ザネリ」からとっています。

恐らくここでしか登場しませんが....


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第34話 無人島の忘れ物 その2

原作と違い、グラ・バルカス帝国は第二文明圏全体への宣戦布告はしていません。


「何だこれは!!!」全員が驚いた顔をする。普段落ち着いている高橋やアンリ4世もこれには面食らった。

 

そこに浮かび上がったのは、巨大な円盤状の物体だった。それはまるで―――

 

「UFO、だな。」

 

高橋が呟くと日本側は全員が頷く。まさにその珍奇な姿は未確認飛行物体、UFOにそっくりだった。

 

ヤミレイが話し出す。

「これは....間違いありません。古代兵器、『空中戦艦パル・キマイラ』です。」

 

 

「空中戦艦?」

 

高橋の疑問にヤミレイが答える。

 

「ええ、文字通り、空を飛ぶ戦艦です。敵の攻撃の届かない高度から一方的に攻撃できるというものです。古い言い伝えにもおそらくこれだと思われる兵器が登場します。いくつもの国を滅ぼした、"空飛ぶ悪魔"として。」

 

「ふーん...にしても暗くてよく姿が見えないな。電気のスイッチとか無いのかな?」

 

 

「これですかね?」

 

ザネルが壁についたレバーのような物を見つけた。それはいかにも電気のスイッチといった風情だ。

 

「とりあえず動かしてみましょう。このままじゃあ暗すぎて何も出来ません。」

 

高橋がそう言うとザネルはレバーを下ろした。どうやら正解だったようで、パッと部屋が明るくなった。

 

「んん...眩しいな...」光に慣れず、誰もが目を覆う。

 

 

「....ん?あれはっ!?」

 

一足先に目を開けたビスマルクがどうやら何か見つけたらしい。遅れて全員が部屋を見渡す。

 

明るくなった部屋は思った以上に広かった。そして更なる発見があった。

 

「戦艦!?」

 

そう、そこには2隻の戦艦の姿があった。とはいっても、どちらも白く、日本の戦艦とはまるで違った、SFじみた形をしている。

 

「おお...これは、魔導戦艦....。これは驚いた。皆さん、どうやら大当たりのようですね。」

ザネルが髭を撫でながら呟いた。

 

全員がその戦艦のもとに近づく。

 

「魔導戦艦....確か神聖ミリシアル帝国が使用していましたよね?これと同じ物ですか?」

 

高橋が尋ねると、ザネルがそれに答える。

 

「ええ、神聖ミリシアル帝国は魔導戦艦を運用しています。ですがあれははっきり言って劣化コピーの可能性が高いです。文献にあった魔導戦艦はもっと強力な物ですからね。」

 

船の下にたどり着くと、ヤミレイは船体を軽くコンコンと叩くと、眼鏡を出してなにやら調べだした。

 

「ふむ。これは....間違いなくアダマンですな。つまりこれは、『アダマン級戦艦』です。」

 

船体を撫でながら彼はそう言った。

 

「アダマン?とは?」

 

「簡単に言えば特殊な金属です。その製造法は現在は失われているとされており、非常に貴重です。」

 

「ほう...つまりこれは、"当たり"ですか?」

 

「はい、それも"大当たり"です。私たちはすごい物を見つけてしまいましたね。」

ヤミレイはにっこりと微笑んだ。

 

「それは良かった。しかしこれは動くんですかね?かなり古いようですが。」

 

戦艦を指さしながら高橋が呟くと、ザネルが返した。

 

「大丈夫だと思います。ここは恐らく時空遅延魔法がかけられていたので、およそ一週間ほどしか経っていない状態だと思われます。燃料さえあれば動くかと...」

 

「へえ、面白い魔法があるんですね。言われてみればこの部屋はずいぶんと綺麗だ。一万年も経ってるようには見えませんね。燃料とは、この船は何で動くのですか?」

 

 

「これは...液体状にした魔石で動くと思われます。調べてみないことには分かりませんが、魔石ならフェン王国にもあるでしょう。」

 

魔石は照明器具などとして、魔法の使えないフェン王国でも最近になって使用されはじめていた。それらはアルタラス王国等から輸入されている。

 

「なるほど、分かりました。とりあえず、いろいろ調べてみましょう。」

 

高橋がそう言うと、それぞれが調査を開始した。

 

 

 

その頃―――

 

エストシラント カイオス邸

 

暫定国家元首となったカイオスは、祖国を新しく生まれ変わらせるべく頭を働かせていた。

 

(うーむ....ここまで一気に体制を変えるとなるとやることが多いな。だが思ったよりもスムーズに移行できている。国民が日本の戦艦を見て力の差を認識したのも大きい。しかし.....)

 

彼は手を止め、一ヶ月前の事を思い出す。戦争終結後、皇国はパーパルディア民主共和国と名前を変えた。そして日本の要請により、ようやく使節を派遣する事になった。その中にはカイオスの他、元第一外務局長エルトや、元皇国軍最高司令官アルデの姿もあった。

 

エストシラントに簡易に建設された空港から日本の航空機に乗り、地方都市の一つであり外交の窓口である福岡に向かった。

 

飛行機に乗った時点でエルトとアルデの顔色が変わっていた。彼らとカイオスは過去にムーや神聖ミリシアル帝国との交流において、両国の航空機に乗った事があった。彼らはこの時点でムーとミリシアルには勝てないことは理解していた。日本の航空機は両国のそれよりも大きく、速く、そして乗り心地も良かった。シートに座ったカイオスは、疲れからかいつのまにか目を閉じていた。

 

そして、半日と経たず日本に到着した。

 

それはもう、凄いとしか言えなかった。天を貫く建築物、町を行き交う航空機や車、その全てがこの世界の列強国のレベルを間違いなく上回っている。

 

外交官に案内してもらい、日本各地を回った。その度に使節団は目をむいて驚き、まるで蛇に睨まれた小動物のように肩をすくめながら移動した。その姿は、かつて皇国を訪れた文明圏外国の使者が見せた姿によく似ていた。日本と皇国にはそれくらいの差があったのだ。

 

最後に、自衛隊という国防組織の基地を見学したが、あれは本当に恐ろしい物だった。日本によると、自衛隊は皇国と交戦した軍とは別の組織で、数こそ少ないもののそれを軽く叩き潰せる程の戦力差があるそうだ。

 

それを聞いたアルデの顔色は悪くなっていた。一方でカイオスは、日本がこの程度で済ませていた事に安堵していた。彼らが本気を出していれば、きっと皇国はレイフォルよりも惨たらしく滅んでいたのだろう。

 

 

今日の仕事を終えたカイオスは、棚にしまっていたウイスキーのボトルを取り出した。日本土産として買ったものだ。小さなグラスにそれを注ぎ、ゆっくりと味わう。日本は料理などの文化においても皇国を凌駕していた。

 

カイオスは祖国の再興のために日々走り回るのだった。

 

 

一方、グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

帝王府において、帝王グラルークスは執務に当たっていた。先日、帝国海軍大将であるカイザルが、日本に一度使節を派遣すべきだと直接具申してきた。

 

普段冷静ながらどこか飄々としている彼が珍しく真剣な顔でやってきたので、グラルークスもしっかりと彼の意見に耳を傾けた。

 

そもそも彼が意味のない行動をする事はありえない。

 

カイザルが言うには、この辺りで征服をやめないか、とのことだ。植民地支配は確かにメリットはあるが、それは一時的な物であり、いつかは失うことになる。これからは技術的優位を背景にこの世界の国々と協調すべきだと言う。

 

グラルークスも日本については情報を手に入れていた。帝国と同等以上の技術と工業力を持ちながら、平和的な国家であると。そして帝国と同じく転移国家で、この世界における列強国の一角、パーパルディア皇国に一方的に宣戦布告を受け、民間人を虐殺された、と。

 

転移してからの流れは、どこか帝国と似たものがある。帝国も当初は、右も左も分からず、当初は平和的な外交を試みていたが、あろうことか派遣した皇族が惨殺されてしまい、一気に情勢が変わった。帝国に土を付けたパガンダ王国と、その親玉のレイフォル国を一気に滅ぼした。

 

ここまではまだ良かった。この行動において帝国に非は無く、正当防衛の延長線上に過ぎない。だがこの戦いの後から、この世界の全てを支配すべきと言い出す勢力が現れた。列強であるレイフォルがあの弱さなら、この世界は大したことのない国ばかりだ、だからこそ我々が支配すべきだという。

 

その波に押され、仕方なくイルネティア王国を征服すべく、再びグレードアトラスターを派遣した。だがここで思いがけない遭遇を果たした。それが日本だった。

 

ここで日本の力を認識した帝国は一度踏みとどまる。

 

ムーと日本が密接な関係にあると知るやいなや、予定していた第二文明圏への宣戦布告を取りやめた。そして現在に至る。

 

帝国のこれからの動向は日本の動き次第と言っても良かった。

 

「まったく......面白き世界よ。」

 

グラルークスはペンを机に置き、ひとり物思いに耽るのだった。

 

 

一週間後 佐世保鎮守府―――

 

昼下がり、この日の佐世保では特に急ぎの用事も無く、それぞれがのんびりと時間を過ごしていた。

 

今日の予定と言えばフェン王国に行っていた高橋が帰ってくることくらいだ。

 

赤松は大部屋で艦娘達とテレビゲームに勤しみ、森高は扶桑と私室にいた。そして吉川は昼食後の軽い運動の後、大浴場とは別の貸し切り風呂に入っていた。

 

「あ゛ぁ゛~~~~」

 

力の抜けた声をあげながら、吉川は四肢を浴槽に投げ出していた。そんな彼の腕には、艦娘「足柄」がもたれかかっている。

 

「ちょっと、そんなオジサンみたいな事しないで欲しいわ。」

 

足柄が軽口をたたくと、吉川は笑って答える。

 

「悪い悪い、どうもクセでね....。そういや今日は京介とビスマルクが帰ってくるな。何か見つけたらしいが、どうして写真も何も寄越さないんだろう?」

 

「何か面白い物があって、私たちを驚かせたいんじゃない?あの人らしいわ。」

 

「ああ、なるほど....。あいつ、意外といたずら好きだからな。あり得る話だ。しかしいったい何を見つけたんだ?」

 

「まあ、どのみち今日中には分かるんだから、のんびり待ちましょう。」

 

「そうだな。.....話は変わるが、昨日の事についてどう思う?」

 

吉川は隣の足柄に尋ねる。

 

 

昨日、昼食の準備中に森高が手を滑らせ、指を少し切ってしまった。ところが血は驚くほどすぐに止まり、今日の朝には傷そのものが消えて無くなっていた。

 

昨日の事、というのはそれのことだ。これは艦娘達の特徴と同じだった。よっぽどの事がない限り彼女たちは死なないし、怪我もすぐ治る。そして基本的に年もとらない。しかし提督達はただの人間だったはずだ。だが転移後、提督達の体調はずっと極めて良好だった。これだけなら特におかしな所は無いが、怪我が一眠りしただけで無くなるなどあり得ない。

 

もしかすると、提督達も艦娘と同じ身体になってしまったのかもしれないのだ。

 

足柄は彼に身を寄せて話す。

 

「どうってことはないわ。怖がるなんてありえないし、むしろ嬉しいくらいよ。貴方達とずっと一緒に戦えるのなら、これ以上の幸せは無いわ。それに私は貴方達以外の人の下で働く気はこれっぽっちも無いもの。」

 

「嬉しいことを言ってくれるな。確かに俺もおまえ達とずっと一緒にいれるならそれでいいさ。」

 

そんな事を話していると、突然ドタドタという足音と共に、誰かが勢いよくドアをあけて入ってきた。

 

「晃輔さん!!!足柄さん!!!今すぐ来てほしいっぽい!!!たたたた大変っぽい!!!」

 

駆逐艦娘「夕立」だった。元々活発な性格だったが、いつも以上に慌てた様子だ。

 

「どうした夕立、何があった?」

 

「いいから早く来て欲しいっぽい!!」

 

彼女の剣幕に圧された吉川と足柄は急いで着替え、夕立に引っ張られながら建物の外に出た。

 

 

空から聞き慣れない怪音が聞こえていた。そしてその音がする方向を見た吉川は思わず叫んでいた。

 

 

「なななな、何じゃこりゃあ!!!???」と。

 

 




そこで吉川が目にした物とは―――!?




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第35話 古代兵器の使い道

色が橙になってた.....

それと、全然書いてなかったのですが、作品での現在の日付は中央暦1640年10月後半くらいだと思っていて下さい。


吉川と足柄、そしてその他提督や艦娘達も空を見上げ、呆然と固まっていた。

 

       「ゆっ.....UFO!?」

 

その巨大な円盤は、下から見ると、どこかドイツの有名な自動車メーカーのマークに似ていた。

 

そしてそれは、不気味な機械音をたてながら上空100m程に停止している。

 

「......!?降りてきたぞ!??」

 

 

突然それは鎮守府の隅にある滑走路にゆっくりと向かい、そしてふんわりと着地した。

 

(大きいな....直径は大和と同じくらいあるんじゃないか?)

 

そのような事を考えながら赤松はそこに走る。

 

着地したUFOの出入り口と思われる部分の周りに次々と艦娘達が集まり、片時も視線を外すことなくそれを睨む。

 

静けさに包まれた雰囲気の中突如空気の抜けるような音と共にUFOのドアが開いた。

 

誰もが思わず一歩下がる。だが―――

 

 

「今帰ったぞ~~~。あれ?みんなどうしたんだ?」

 

という緩い言葉と共に降りてきたのは、フェン王国に行っていた筈の高橋だった。

 

「ええっ、何でお前が!?」

 

森高がそう叫ぶ。周りの全員が同じ事を思っていた。

 

「ん?今日帰るって言ってあっただろう?」

 

高橋はにやにやと笑いながら答える。明らかに確信犯だ。

 

「いやいやいや、聞きたいのはそこじゃない。いったいこいつは何なんだ?お前、宇宙人に改造手術でもされたのか?」

 

「ほっほっほっ.....何やら楽しそうなことになっていますな。ここは私が説明しましょう。」

 

そう言って船から降りてきたのはヤミレイだ。髭をなでながら柔和な笑みを浮かべている。

 

「ヤミレイさん!?えーと、これは一体?」

 

「ほっほっほっ、そう慌てずに。これはですね―――」

 

ヤミレイはゆっくりと古代兵器の説明を始めるのだった。

 

 

 

その頃、グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

「ラクスタル君、君の船に使節を乗せることになった。問題はないね?」

 

大将カイザルの部屋にラクスタルは呼び出されていた。

 

「.....一つ、よろしいでしょうか。」

 

「何かね?不満でも?」

 

「いえ、違います。ですが聞いていた話によると日本に派遣するのは別の戦艦だったような気がするのですが......」

 

ラクスタルの質問にカイザルは答える。

 

「ああ、その事か。確かに候補はグレードアトラスター以外に4隻あった。だがそれぞれ用事が出来てしまってな。『ジャコビニ・クレサーク』、『ヴォルフ・ハリントン』の2隻は点検、『エル・ヴァーゴ』と『デュトワ・デルポルト』はレイフォルに移動することになってしまったんだ。」

 

「....なるほど、分かりました。謹んでお受けしましょう。私個人としても日本を見てみたい気持ちがありましたので。」

 

「それは良かった。よろしく頼むよ。」

 

「お任せください。」

 

こうして、日本への使節を送り届ける船はグレードアトラスターに決まったのだった。船だと当然かなりの時間がかかるが、日本への空路は当然無かった為選択肢は海路しかなかった。

 

長旅になるだろうが、グラ・バルカス帝国の戦艦は居住性に優れているため使節団を乗せるように準備は出来ていたのだ。

 

(さて、久しぶりの長旅になるだろうな。妻に言っておかねば。フィルムも買っておこう.....)

 

写真と旅行が趣味のラクスタルは、部屋を出た後にこんなことを考えていた。少しばかりはやる心を抑えつつ、彼は仕事場に戻っていった。

 

グラ・バルカス帝国は日本と接触するための準備を始めた。その一方で、これらの動きを良く思わない勢力も一定数存在していたのだった。

 

 

 

翌日、佐世保―――

 

「一誠さん、鳳翔さん、朝ご飯の時間ですよ!起きてください!」

 

駆逐艦娘「萩風」がカーテンを開けながらそう言う。赤松と鳳翔は珍しく少し寝坊していた。

 

「あら、もう朝ですか.....一誠さん、起きてください。」

 

鳳翔は体を起こすと隣の赤松に声を掛ける。二人が支度を終えると、揃って食堂へと向かった。

 

朝食をとりつつ、赤松は鳳翔に尋ねる。

「えーと、今日って何かあったっけ?昨日は飲み過ぎたようでいまいち覚えてないんだ。」

 

「今日は午前中にビスマルクさんとアンリ4世さんが戻ってきますよ。フェン王国で見つけた戦艦を引っ張ってくるので、午後はそれらを解析する予定です。」

 

「ああ、そういやそうだったな、ありがとう。」

 

朝食を終えると、提督達は執務室に集まり、仕事を始める。

 

「おい、これ見ろよ。グラ・バルカス帝国から戦艦が2隻出港したっぽいな。恐らくレイフォルに行くんだろう。」

 

高橋が送られてきた衛星写真を周りに見せる。

 

そこには彼の言うとおり、2隻の戦艦と随伴するいくつかの小型艦の姿があった。

 

それをのぞき込んだ吉川はこう呟く。

 

「ん?これは...例の長門型のそっくりさんか。上から見てもよく似ているな。もう一隻は....こいつは何だ?長門より大きいぞ。」

 

今度は赤松が話す。

 

「うん、確かに隣の長門もどきよりも大きいな。それに、砲塔も一つ多い...シルエットから判断すれば、こいつは加賀型か、天城型戦艦に似たような感じかな?まあこれだけじゃ何とも言えないが。」

 

「おお、確かにそう言われればそれっぽいな。今度来るグラ・バルカス帝国の使節団は何に乗ってやってくるんだろうな。」

 

そんな話をしていると、巡洋艦娘「能代」が部屋に入ってきた。

 

「皆さん、ビスマルクさん達がそろそろ帰ってきますよ!外に出ましょう!」

 

そう言われると、部屋にいた者達は出迎えのために部屋を出ていった。

 

 

同じ頃、第二文明圏某所―――

 

2隻の戦艦を中心とした艦隊が波を切り裂いて突き進む。これは日本の衛星写真に捉えられていたものだ。

 

ヘルクレス級戦艦4番艦「デュトワ・デルポルト」と、エル・ドラード級戦艦2番艦「エル・ヴァーゴ」はグラ・バルカス帝国領レイフォルへと向かっていた。

 

「ふう、あと数時間後にはレイフォルか。それにしても、私も日本を見てみたかったな。」

 

「デュトワ・デルポルト」艦橋内にて、艦長ジョーダン・オクテウス大佐がそう呟いた。副艦長のペリン・ハミルトン少佐がそれに答える。

 

「確かにお気持ちは分かります。私も日本がどんな国なのか気になっていましたので、少しばかり残念です。当然、仕事に手を抜くつもりはありませんが。」

 

「ははは、君もそうか。まあ文句を言ってもしょうがない。我々は我々の仕事をきちんとやろう。」

 

「勿論です、大佐。」

 

艦隊はレイフォルへと進む。軍部ではラクスタルがイルネティア王国で撮影した日本の戦艦の写真が新聞などで出回っており、有名だった。

 

軍部内では、日本はこの世界で現時点での最高レベルの脅威として認識されており、融和政策をとるべきだと主張する派閥と、早期に叩き潰すべきだと主張する派閥が存在していた。現時点では帝王グラルークスが慎重な行動をとるべきとしていることもあり、前者の勢力が数で勝っていた。

 

「グレードアトラスター」艦長のラクスタル大佐と同期である「デュトワ・デルポルト」艦長、オクテウスは仲が良かった。彼と副艦長も慎重派に属していた。

 

 

 

そして同日午後、再び佐世保鎮守府―――

 

「うへぇ、これまた何とも変わった形してるなあ。」

 

アダマン級戦艦を見上げ、吉川はそうこぼした。やはり彼らの知る戦艦の形とはまるで違う。

 

計測の結果、この戦艦のスペックはこのような物だった。

 

全長242.2m

排水量44,000t

全幅37.8m

 

主砲 406mm三連装魔導砲3基9門

副砲 127mm連装両用魔導砲12基24門

 

対空兵装 対空魔光砲多数

 

公試はまだであり、機動性や最大速度は分からない。事前の連絡により、急遽アルタラス王国から買い付けた液体状魔石があったので軽い点検のあと、動かす予定だ。

 

巡洋艦娘「夕張」から渡されたレポートを見ると、森高はこう呟いた。

 

「ふーん....まあ大体、ノースカロライナ級とアイオワ級の中間くらいの規模か。しかし分からない事が多すぎて、実力は正直未知数だな....。」

 

そう、この魔導戦艦とやらはスペックだけでは全く実力が読めなかったのだ。装甲は決して分厚くないが、どうやら船体各部に魔力を注入すると硬度を上げたり、爆発への耐性を強化したり出来るらしい。そして対水雷装備として、バルジと併用して破孔を早く修復する、といった芸当も出来るようだ。

 

同じように魔力を振り分けることで速力を上げたり、磁場を歪ませてレーダーに映りにくくしたりと、いろいろと使い道があるのだとか。

 

ひとまず動かしてみないことにはどうしようもないので、こちらの調査は早めに切り上げられた。

 

一方、空中戦艦パル・キマイラの調査は盛り上がっていた。

 

こちらは動かせる状態だったため、高橋と赤松、ヤミレイとザネルに、乗艦を希望した艦娘が50人ほど乗り込んでいた。

 

今は佐世保鎮守府の近海を飛んでいる。

 

「驚いたな....こんなに動いているのに、中は一切揺れを感じない。」

 

赤松は驚愕に満ちた顔で前を見据える。

 

この奇っ怪な戦艦には驚くべき機能がいくつか備わっていた。

 

まずどのように動いても、内部には干渉しない。これが無ければ、乗り物酔いに苦しむ者も出るだろう。他には空中にシールドを張る事が出来る、魔法で周囲に磁場を発生させて飛ぶ、といった所だ。原理はリニアモーターカーに少し似ている。

 

そして最も驚いた所は、簡単に言えば透明になれる事だ。光学迷彩のように、背景の映像を映し、どの角度から見てもその後ろにある景色しか見えない、ということだ。

 

一部の技術は地球を上回っている事が分かり、日本を驚かせた。一方でCIWSに似ている「アトラタテス砲」とやらは若干性能で劣っていた。

 

残念だったのは、今回の調査では魔帝の潜水艦や誘導魔光弾に関する情報が手に入らなかったことである。

 

この報告を受けた日本国政府は、魔法帝国の調査を本格的に始めたのだった。

 

 

 




今回登場したグラ・バルカス帝国の戦艦4隻は後々出てきます。この他にもいくつか出す予定です。

一応全ての艦名は小説に乗っ取り、天体名をモチーフに名付けています。


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第36話 魔導戦艦のテスト

次回にミリシアルがやってきます。


翌朝―――

 

ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦四姉妹は朝食前に散歩をしていた。ドックの前を通ったとき、彼女たちはその中に何かの気配を感じた。

 

「誰かいるのかしら?」

 

おそるおそる中を覗くと、見たことのない船体の姿があった。かなり久しぶりのことだったが、おそらくまた新しい艦娘が生まれたのだろう。今は鍵がかかってしまっているため、提督を呼びに一度姉妹は戻っていった。

 

 

「また誰かいたのか?にしても久しぶりだなあ。」

 

報告を受けた赤松は鍵を持ってドックへと向かう。パーパルディア皇国戦の途中では防空巡洋艦「スモレンスク」級4隻や大型巡洋艦「ジークフリート」級3隻、それに「アレクサンドル・ネフスキー」級巡洋艦3隻が誕生していたが、それ以来しばらく止まっていた。というより、てっきりもう生まれないと思っていたので、これは少々意外だった。

 

鍵を開けて中にはいると、かなり大きい戦艦が鎮座していた。4連装砲を2基搭載しているのが分かる。それだけ見ればフランス戦艦のようだが、艦橋や船体はイタリア戦艦のそれに似ている。

 

(....こんな戦艦あったっけか?まあ、おそらく計画艦の類だろうな。)

 

タラップから船内へと上がり、中を探索する。

 

(こりゃまた随分とでかいな...300mはないが、レピュブリクと同じくらいか...?)

 

そんな事を思いながら、軽く探索する。後ろにも4連装砲を2基装備しており、合計で驚きの16門だ。これは、リヨン級戦艦とタイで最多の門数だ。だが、リヨン級の主砲は340mmなのに対し、こちらはおそらくヴィットリオ・ヴェネト級と同じ381mm砲の可能性が高い。

 

艦内を回り、恐らくこの船の艦娘がいるであろう部屋にたどり着いた。ノックをしてみるが反応がない。仕方がないのでゆっくりとドアを開けると、ベッドがあるだけの簡素な部屋に、一人の女性が横たわっていた。赤松は声をかけようとして、一瞬硬直した。思わずその姿に目を奪われてしまっていたのだ。

 

(い....いかんいかん!俺には鳳翔さんがいるんだ!!)

 

彼ははっとすると、自分にそう強く言い聞かせた。他の提督達は結構な頻度で色々な艦娘達に手を出していたが、赤松だけは鳳翔とのみ慎ましいつきあいを続けていた。特に鳳翔がそれを求めたわけではないのだが、彼は自主的にそうしていた。

 

鎌首をもたげた邪な心を取り払い、肩を軽くたたきながらその艦娘に声をかける。

 

「あー、寝てるところすまないが起きてくれないか?」

 

この言葉に、その艦娘はゆっくりと目を開く。

 

「んっ.....あなたは?」

 

「俺は赤松一誠、ここの提督をしている者だ。君の名前は?」

 

「...私は...クリストフォロ・コロンボ、です....」

 

ゆっくりと彼女はそう答える。とろんとしたその瞳にうっかり吸い込まれそうだった。その体は全体的に甘い雰囲気を醸し出している。

 

「....いい名前だね。ところで君は自分が何者か分かるかい?」

 

「はい、なんとなくは.....」

 

「そうか、なら良かった。君には色々と説明することがあるんだが、ついてこれるかい?」

 

「はい、お供させていただきます。」

 

「ははは、そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。君もきっとすぐに馴染めるはずさ。」

 

そう言うと赤松は彼女の手を取り、外に連れ出すのだった。

 

そしてその隣のドックでも、彼女の妹が2隻誕生していた。長女が「クリストフォロ・コロンボ」、次女が「ダンテ・アリギエーリ」、そして三女は「サンドロ・ボッティチェリ」という名前だった。

 

比較的数が少なかったイタリア艦達は仲間の誕生を心から喜んだ。

 

彼女たちはその夜イタリア料理を振る舞い歓迎した。赤松もナポリタンとタラコパスタを用意したところ好評だったが、その後で「ローマ」になぜか少し怒られたのだった。

 

 

 

そして昼過ぎ―――

 

「さてと、動かしてみるか.....」

 

佐世保ではアダマン級魔導戦艦の公試が行われようとしていた。

 

「よし、出港だ」

 

高橋の合図により、ドックから引っ張り出された1隻はゆっくりと動き出す。ここまでは特に鎮守府の戦艦と変わったところはない。まずは速力と機動性の計測をすることになっていた。

 

「出力最大」

 

通信を入れると、徐々に速度が上がっていくのがわかる。今のところそれなりに速度が出ているようだ。高橋は計測係に尋ねる。

 

「何ノットだ?」

 

「えー、現在30.2ノット出ています。」

 

「了解。....まあまあ速いな。よし、魔法を使ってみよう。よろしく頼む。」

 

「了解しました。」

 

ヤミレイの指示をもとに、妖精達が少したどたどしさを見せつつも操作を始める。

 

「えーと....魔力注入開始!!」

 

タッチパネルを操作すると、艦内を巡る魔素が移動し、推力部に集中的に注がれる。数十秒後、注入が完了すると、一気に速度が上がっていくのが手に取るように分かった。

 

「おおっ....!?これは中々速いな!!」

 

思わずそう呟く。

 

「何ノットだ!?」

 

「はいっ!さ、36ノット!36ノットです!!」

 

「36!?そりゃすごいな!!」

 

これは戦艦にしては類を見ないほどの高速だった。続いて機動力についてだが、これは特筆すべき点は無かった。素の状態ではアイオワ級とほぼ同じ、加速するとさらに悪化するといったところだ。

 

次は砲撃の試験に移る。標的から距離およそ35km地点に横向きに移動し、主砲をその方向へと向ける。

 

「主砲準備いいか?」

 

『はい、いつでも撃てます!!』

 

「よし、目標、標的艦!撃てぇっ!!」

 

ドォッ―――

 

合図と共に主砲9門が一斉にその力を解放する。とはいってもそれは青い線を引いていて、他の戦艦の物とは一線を画している。魔法で弾を生成、発射しているため薬莢は出ず、硝煙の匂いもしない。代わりに廃棄された魔素が排出され、青い光跡を引く。

 

『3、2、1、弾着いま!!』

 

その通信が入ると同時に、標的艦の周囲に巨大な水柱があがる。

 

「どうだ?」

 

高橋は双眼鏡を覗きつつ、着弾観測機に連絡を入れる。

 

『はい、至近弾2を確認しました。』

 

「へえ....いいじゃん」

 

ニヤリと笑い、そう呟いた。尤も、これが主砲の性能のせいなのか、それとも妖精の腕が良いせいなのかは分からないが。

 

「よし、弾種変更。次だ。」

 

弾の魔法属性を変更し、再び試験に入るのだった。

 

結果として、この魔導戦艦はかなり優秀な成績を残した。まだ馴れない部分が多く、実戦で活躍できるかははっきりしないが、魔帝の実力の片鱗を知れただけでも大きな収穫だ。

 

公試を終え、得られたデータは自衛隊や防衛省にも提出された。

 

 

高橋は一人考える。

 

(魔導戦艦....思った以上に強力だな、ということは神聖ミリシアル帝国の海軍は中々強いのかもしれん。)

 

だが彼の考えは悪い意味で裏切られることになるのだった。

 

 

同じ頃、グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

(やっと着いたか。本土に戻ってくるのは久しぶりだな。それにしても、大事な用件とはなんだろう...?)

 

「デュトワ・デルポルト」、「エル・ヴァーゴ」と入れ替えにレイフォルから帝国本土に2隻の戦艦、「プロキオン」「アル・マーズ」が戻ってきていた。

 

そして帝国に到着した「プロキオン」からは一人の女性が下りてきていた。その服装から判断するに、軍人ではないだろう。

 

それもそのはず、彼女は外交官であり、レイフォルで働いていた。名前をシエリア・オウドウィンといい、若いながらも優秀、そして容姿端麗な人物として知られていた。

 

彼女は今度日本へ派遣する外交官の代表として選ばれ、一度本土へ呼び出されていたのだ。シエリアは帝王府へと向かっていった。

 

 

その夜、佐世保鎮守府―――

 

「千鶴さん、トリックオアトリート!!です!!」

 

「はい、これをどうぞ。」

 

「わーい、ありがとう!!」

 

今日は10月31日、ハロウィンだ。そのため鎮守府の中では仮装した艦娘達がそこらを歩き回り、提督達や妖精に声をかけてお菓子をもらったり、交換したりしていた。

 

森高は仕事をしつつ、やってきた艦娘達にお菓子を渡していた。

 

明日は近くにある海上自衛隊の佐世保基地でイベントが開かれる。そこに何人か艦娘達を送り込み、船を公開することで地元の人たちや自衛官との交流をはかる。

 

その担当が森高であり、明日送るのは「大和」「金剛」「陸奥」の三隻となっていた。

 

「ふう、そろそろ終わりそうだ。明日の礼服は用意出来てるかい?」

 

「ええ、もちろん大丈夫ですよ。」

 

礼服というのは白い軍服の事だ。見た目は自衛隊の物に似ており、提督用はスーツ、艦娘用は膝丈のタイトスカートだ。イベントなのだから普段通りの服装の方がアピール出来るのではないか、という声もある。その気持ちも分かるが、問題があった。艦娘達の普段着ている服はそもそも人前に出れるような物ではない事が多い。なぜそうなっているのかは分からないが、やけに体のラインを強調していたり、短すぎたり謎のスリットが入っていたりでスカートの機能を全く果たしていなかったり...と様々だ。

 

鎮守府内には関係者以外は入れない上、強制する理由もないので普段の服装は自由だ。艦娘達も気にしていないし、基本的にルールは無い。数年前には一度イベントに普段の制服で出席したことがあったが、その時に盗撮をして逮捕される人間がでた事もあり、それ以来は制服は鎮守府内か戦いに出るときのみ着て良いことになっていた。

 

 

「そうか、ありがとう。俺もそろそろ終わりそうだ。」

 

いったん手を止め、森高はそう呟く。秘書艦の扶桑とサラトガは既に仕事を終え、ソファでくつろいでいた。

 

「頑張ってください千鶴さん。もう少しですよ...」

 

「ああ、ありがとう。そういえば二人は仮装しないのか?」

 

2人はこれに顔を見合わせると、どこか含みを持たせた表情を浮かべる。

 

「うふふ、もちろん()()()()()()()()を用意していますよ。また後でのお楽しみに....」

 

その意味を何となく察した森高は苦笑いを浮かべ、頭をポリポリとかく。

 

「はは、まいったなあ。明日は朝早いから、程々にしてくれよ....」

 

 

少しして、今日の仕事を終えた3人は部屋を出て行ったのだった。

 

 

 

 

 




今回名前が登場した船についてはそのうちコラムに載せておきます。後々登場する可能性が高いので、気になったらそこをご覧ください。


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第37話 平和の形

今回正直ミリシアルは影薄いです。


翌朝6時―――

 

「そんじゃあ行こうか。ふぁぁ....」

 

眠そうに目をこすりながら森高が言う。その様子に「陸奥」が心配そうに声をかけた。

 

「ちょっと、そんな調子で大丈夫なの?今日は忙しいんだから。」

 

「いやすまん、ちょっと寝るのが遅くなってな...」

 

「いくらなんでもハッスルしすぎなのデース...」

 

呆れたように「金剛」がぼやく。

 

「悪かったって....あんまりいじらないでくれよ。ほら、はやく行こう。」

 

話題をさりげなく逸らすと、森高達は自衛隊佐世保基地へ出港した。

 

そしてその頃、自衛隊佐世保基地では隊員達が準備をしていた。とはいっても昨日までに大方終わっていたため、今は料理の支度などをしている。

 

「そろそろ来るかな?」

 

「そうだな。今年はどの戦艦が来るんだろう?楽しみだな。」

 

若い自衛官達がこのような話をしていた。このイベントで鎮守府から派遣される軍艦は一部の人間にしか伝えられておらず、ほとんどの隊員は3隻やってくることしか知らない。彼らにとっても戦艦は心躍る代物だ。

 

数分後―――

 

「おおっ、見えてきたぞ!!」

 

誰かがそう叫ぶと、外に出ていた面々が海に目をやる。帽子をかぶった上官が歩いてきて、ゆっくりと告げる。

 

「来たな....今日のお客さんは『金剛』『陸奥』『大和』だ。」

 

「おお....!!!すげえ!!」

 

近づいてきた3隻の姿に彼らは目を奪われる。現代の護衛艦とはまた違った美しさを持つ戦艦はやはり見る人をワクワクさせるのだ。

 

3隻の戦艦はあらかじめ指定されていた場所に滑るように停泊した。

 

そこから3人の艦娘と、1人の男が降りてくる。その姿を確認した上官は、そちらへ歩いてゆく。

 

「ようこそ、森高提督。それに、金剛さん、陸奥さん、大和さん。二日間、よろしくお願いします。」

 

森高もこれに敬礼で返す。

 

「お久しぶりです、藤島一等海佐。こちらこそよろしくお願いします。」

 

他の3人も挨拶をすませると、説明を聞きに一度建物の中に入っていった。

 

そして10時になり、入場門が開かれると一斉に人がなだれ込む。いつもとは違った賑やかな雰囲気が基地を包んだ。

 

戦艦や護衛艦の見学も始まり、3隻の戦艦にもたくさんの人が集まる。やはり日本の戦艦は根強い人気があり、思い思いに艦内を見学していた。

 

また、特別展示としてフェン王国で鹵獲したパーパルディア皇国の戦列艦3隻も展示され、物珍しさも手伝って結構な人気を博した。

 

艦娘達は写真撮影等に応じ、等身大の兵士の姿になった妖精達も案内や警備に、忙しく歩き回る。

 

昼頃になると、昼食を買いに行く客も増え、少し余裕が出来た。艦娘達は休憩に入り、その間に森高は屋台で買った差し入れを持って艦娘達のもとへ向かう。地元の人気店も屋台を出しているので、その味はお墨付きだ。

 

金剛と陸奥を呼ぶと、最後に揃って大和のところへと向かう。

 

エレベーターに乗って艦橋まで上がり、「大和」に声をかける。

 

「お疲れ大和、昼ご飯にしようか。」

 

「はい、ありがとうございます」

 

森高が椅子に座ると大和が緑茶を淹れてくれる。4人で机を囲み、全員で食べ始める。机の上にはカレーや佐世保バーガー、サンドイッチにジュースなどが並ぶ。

 

それらをつまみながら森高は話を始める。

 

「どうだ、今日の調子は?」

 

「いい感じですね。今年はマナーの悪いお客さんも今のところいません。みなさん行儀良く見学してくださっています。」

 

大和が大きな佐世保バーガーと格闘しながら答える。

 

「ええ、こちらも問題なしね。大和の言うとおり今年は良いお客さんばかりで助かるわ。」

 

「大和の言うとおり、今年はいい感じデース」

 

陸奥と金剛も同意見のようだ。

 

「それは良かった。なら今回は無事に終わりそうだな。」

 

お茶をすすりつつ森高は安心してそう呟いた。

 

少しして全員が食事を終えると、彼は腕時計に目をやる。

 

「......そろそろ『あれ』の時間だ。外に出よう。」

 

森高がそう言うと、他の3人も席を立ち、艦橋の外にでる。

 

空に目をやると、海の向こうから4つの点が近づいてくるのが見える。やがてそれはだんだんとその姿を明らかにし、悠々と大和の上空を通り過ぎていった。それは2機ずつの零戦52型とF-2戦闘機だ。縦に並んだF-2の両サイドに零戦が飛び、それは見事な飛行を披露した。

 

「....綺麗だな。見事なものだ」

 

「ええ、本当に綺麗です。いい腕ですね。」

 

空を見上げたまま、素直な感想を述べる。

 

「我々も自衛隊も、これからもこの空を守っていかないとな....」

 

森高の呟きに3人の艦娘達は強く頷くのだった。

 

 

 

その頃、ムー国 首都オタハイト―――

 

 

技術士官マイラスは、用事があるため艦娘達が滞在している屋敷に訪れていた。

 

(すごい家だな...)

 

少し緊張しながら彼は呼び鈴をならす。少しするとドアが開き、一人のメイドが出てきた。

 

「はい、何か御用でしょうか...?」

 

「あっ、はい、えーと、ここに住んでいる方に用事がありまして参ったのですが...」

 

「分かりました...聞いて参りますので、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ムー統括軍士官、マイラス・ルクレールと申します。」

 

「マイラス様ですね。少々お待ちくださいませ。」

 

そう言うとそのメイドは建物の中へと消えていった。そして数分後、彼女は戻ってくるとこう言った。

 

「ご案内します」

 

マイラスは中へ通された。メイドの案内で広い廊下を歩く。

 

「御主人様達はただ今プールにおられます。どうぞ。」

 

5分ほど歩き続けると、ガラス張りのドーム状の建物に着いた。メイドに礼を言い、おそるおそる中へ入る。

 

(温水プール!?確かかなりの維持費がかかると聞いたが...)

 

通路を抜けドアを開けると、大きな25mプールには5人の女性の姿があった。マイラスを見つけると、一人が近づいてくる。

 

「あらマイラスさん、お久しぶりです...今日はどうされたのですか?」

 

プールから上がってきたのは艦娘「レパルス」だ。背が高く、いわゆるモデル体型の彼女の水着姿にマイラスは思わず生唾を飲み込む。

 

「はい、来週開催予定の新戦艦の完成記念式典に是非参加して頂きたいのですが...」

 

「あら、随分とお速いですね。もうすぐ完成するのですか?」

 

「いえ、実は技術的に不安がありまして、『あとは組み立てるだけ』の状態で一隻分日本に作ってもらっていたんですよ。ですので、その一隻だけ完成が速いんです。」

 

少しはにかんだ笑みを浮かべつつマイラスは説明した。

 

レパルスは他の艦娘達に声をかけ、全員が集まる。マイラスがもう一度説明すると、彼女たちは全員が同意した。

 

「良かったです...ありがとうございます!」

 

「私たちでお役に立てるなら何でもしますよ...ところでどうして私たちを誘ってくださったのですか?」

 

「はい、今回の新戦艦開発に協力してくださったこともありますが、マスコミも多く来るので、やはり華があった方が良いかと思いまして。」

 

「うふふ、嬉しいことを仰ってくださいますね....そうだ、私たちちょうど上がるところだったんですが、もしよろしければご一緒にお昼ご飯でもどうですか?」

 

それを聞くと、マイラスの腹がぐうと鳴った。それを聞いて「フッド」が微笑を浮かべる。

 

「ふふ、身体は正直ですね...。どうされますか?」

 

「これは失礼しました....是非ご一緒させて下さい。」

 

マイラスが顔を赤くしつつ答えると、レパルスはにっこり笑った。

 

「それは良かったです。では私たちは着替えてくるので少し待っていてくださいね。」

 

5人の艦娘達が更衣室に向かった後、1人残されたマイラスはぼんやりと水面を見つめる。

 

(ああ...もし今日死んでもきっと後悔しないだろうな...)

 

煩悩が渦巻くマイラスであった。

 

 

翌日夜、佐世保―――

 

「ただいま~~~」

 

疲れた顔と共に4人が鎮守府に帰ってきた。慣れない仕事はやはり彼らを疲弊させるのだろう。

 

「お疲れ様だったな。疲れてるだろう、今日は風呂入ってさっさと寝な」

 

吉川の言葉に素直に従い、4人は泥のように眠ったのだった。

 

翌日午後―――

 

およそ一週間前から訪日していた神聖ミリシアル帝国の使節団は現在、佐世保を訪れていた。外交官フィアームは驚きすぎて疲れたのか少し体調が優れなかったため今日はホテルで休んでいる。

 

「これは...凄い!!なんという大きさの戦艦だ!」

 

技官ベルーノは大型巡洋艦「セヴァストーポリ」、戦艦「ダンテ・アリギエーリ」を見上げ、驚愕の声を上げる。厳密にはセヴァストーポリは戦艦ではないのだが、ミリシアル帝国海軍の最新鋭戦艦である「ミスリル級」より50m近く長いため、勘違いするのも無理もないのだろう。それに一々突っ込んでいてもしょうがないので、案内の高橋も黙って見守っていた。

 

ベルーノは興奮した様子で高橋に話しかける。

 

「いやはや、ここまでの戦艦を所有しているとは驚きましたよ。出迎えの戦闘機といい、街といい、そしてこの軍艦といい素晴らしい物ばかりです。私としては珍しい物がたくさん見れて大満足です。それにしても、本当にグレードアトラスターが日本にあったと思ったときはびっくりしましたよ。」

 

日本は使節団にグラ・バルカス帝国と日本の兵器が一部似ていること、そして両国には何の関係もないことを説明していた。

 

高橋も笑顔で答える。

 

「神聖ミリシアル帝国の技官様に誉めていただき光栄です。ありがとうございます。」

 

「いえいえ、技官としてこのような物を見せられては、血が騒ぐというものです。私も帰ったら研究に精を出さねばなりませんね。」

 

「...実は見せたい物があるのですが、よろしいですか?」

 

「?はい、なんでしょうか?」

 

「それは現物を見ていただければ分かります。ついてきてください。」

 

高橋はベルーノをドックの一つに案内した。

 

数分後―――

 

「こっ、こっ、これはまさかっ!!??あ、あ、アダマン級魔導戦艦!?」

 

ベルーノは見事に腰を抜かしていた。まさかこんな物をこんなところでお目にかかるとは想像していなかったのだ。

 

「はい、その通りです。実は...」

 

高橋はゆっくりと説明を始めた。それを聞いたベルーノは帰国後その旨を報告し、神聖ミリシアル帝国上層部を驚愕させた。

 

これに興味を持った神聖ミリシアル帝国は、アダマン級戦艦を一隻譲り受けられないか協議を始めるのだった。




原作でヘルクレス級戦艦って「ラス・アルゲティ」以外に登場していましたっけ?感想ついでに教えてくださると幸いです。


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第38話 グラ・バルカス帝国使節団の出発

中央暦1640年 10月5日 朝7時30分

 

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 

「出港だ。」

 

ラクスタルが告げると、全長263mの体躯を持つ巨大戦艦、「グレードアトラスター」はゆっくりと動き出す。外交官シエリアを筆頭に、帝国使節団を乗せたこの船は今日本に向けて出港した。

 

同じ頃、帝王グラルークスは帝王府にて使節団が出港したとの報告を受けていた。

 

「そうか...ご苦労、下がって良いぞ。」

 

「はっ、失礼します。」

 

一人になった部屋で彼は考える。

 

(行ったか....この派遣の結果次第でこの国の動きも大きく変わることだろう。若い頃、世界中を駆け回っていた時が私にもあったな....今は私に出来ることをせねば。)

 

彼には心配な事があった。彼には二人の子供がいた。双子であり、どちらも男だ。兄の名はグラ・カバル、弟の名はグラ・アデルと言う。おそらくこの二人は次の皇帝の座を奪い合うことになるだろう。

 

兄であるカバルは決して頭が悪い訳ではなく、むしろ物覚えは良いほうだ。グラルークスがこれからのあり方について語るとそれに賛同していた。一度聞くと中々意見を曲げないのが玉に瑕なのだが。

 

一方、弟のグラ・アデル。こいつが曲者だった。暴力的で傲慢、そして頭が悪い。急進派議員の口車に乗せられ、完全に都合の良い操り人形と化している。帝位争いにおいてはおそらくこちらが勝ってしまうだろう。絶対にそれは止めねばならない。グラルークスがいる限り妙な気は起こさないだろうが、なるべく早い内に形を整えておかねばならない。

 

「うっ!!」

 

突如グラルークスは咳込み、うずくまる。その手には血が付いていた。彼は肺を病んでいたのだ。

 

荒い息をしながら、彼は思う。

 

(まだだ...まだ、私は倒れるわけにはいかん....)

 

 

出港してから数十分後、ラクスタルはシエリアに説明をしていた。

 

「日本に到着するまで、およそ5週間の予定です。使節団の方々にはそれぞれ個室を用意していますので、そちらで過ごしていて下さい。船旅は何かと窮屈でしょうがご了承ください。食事の際には兵士が呼びに行きます。なお、非常に距離が遠いため日本の同盟国であるアルタラス王国にて一度補給を受けます。」

 

「分かりました。ラクスタル殿、よろしくお願いします。」

 

ラクスタルは地図を広げる。これはムーにある日本大使館から事前に受け取っていたものだ。

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。我々は日本の長崎県佐世保という都市にまず向かいます。そこで停泊し、使節団の方には移動していただきます。」

 

 

「ほうほう、そこに行くのか。これは楽しみだ。」

 

そこに突然別人の声が紛れ込んだ。聞いたことのあるその声にラクスタルは思わずはっと振り返る。

 

「かっ...カイザル大将!?なぜここに!?」

 

いつの間にか机に座っていたのは、グラ・バルカス帝国大将、カイザル・ローランドその人だった。

 

「はっはっは、甘いねラクスタル君。こんな面白そうな事を前にして私が何もしないでいるとでも思ったのかね?」

 

カイザルは豪快に笑う。ラクスタルとシエリアはあんぐりと口を開けていた。完全に想定外の出来事だったからだ。

 

「い...いえ。失礼しました。ですが、あなたほどの人がこんなことで国を離れて良かったのですか?」

 

「心配するな。皇帝陛下には正式に許可をいただいているし、留守の間はミレケネスに任せる事にしてある。」

 

「ミレケネス大将には事前に了承を?」

 

シエリアの質問にカイザルは少し気まずそうに答える。

 

「あー、いや、あいつの机に置き手紙を...」

 

ラクスタルがため息をつきつつ呟いた。

 

「帰ったらきっと怒られますよ....」

 

「はは...土産をたくさん買って帰るとしようか...」

 

カイザルは苦笑いでそう答えるのだった。

 

 

その頃、帝国海軍本部―――

 

「帝国の三将」が一人、ミレケネス・ワイズマンは自身の仕事場に向かっていた。

 

部屋に入ると、彼女は机の上に一枚の紙切れがあるのを見つけた。

 

(置き手紙?何かしら?)

 

それを拾い上げ、目を通す。その表情は次第に厳しいものになってゆき、紙を持つ手にも力が入る。

 

(あっ...あんの男っ!!!)

 

その紙には短く「留守番よろしく」と書いてあった。それだけで全てを察したミレケネスは大きなため息をついた。長いつきあいであり、カイザルのほぼ全てをよく知っている彼女はあきらめて今日の仕事を始めるのだった。

 

(手ぶらで帰ってきたら一発ぶん殴ってやる...)

 

という思いとともに。

 

 

二日後、神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス

 

世界最強の国、神聖ミリシアル帝国が誇る首都、ルーンポリス。国の北西部、海洋に面する世界最大級の都市であり、「眠らない魔都」の異名を持つ。高層ビルが立ち並ぶその姿は地球における1920年代ごろのニューヨークの街並みにどこか似ている。

 

そんなルーンポリスに位置する皇帝の居城、アルビオン城において帝前会議が行われていた。

 

現在、グラ・バルカス帝国へ派遣されていた情報局員ザマスが話していた。

 

「という訳で、先進11ヶ国会議についての概要は伝えたのですが、帝国は終始そっけない対応であり、本国の位置や首都名ですら教えないという、国際関係上信じられない暴挙に出ました。

旧レイフォル国首都、レイフォリアを窓口とするとの事です。

なお、レイフォルの首都上空を飛んでいた飛行機械はムーのそれよりも速く、我が国の制空型の天の浮舟に匹敵する速度が出ていました。国力の総力が全く不明な状態ですが、少なくとも技術力は侮れません。」

 

「では、グラ・バルカス帝国本国の位置は、謎のままなのか。」

 

「はい...。」

 

沈黙が場を包む。

少しして、ライドルカが手をあげた。

 

「すみません、日本国に関する報告の前ですが、1つよろしいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「実は、こんな物がありまして...」

 

ライドルカは前に立ち、黒板に一枚の地図を広げる。

 

「なっ!!」

 

「こっ、これは!!!」

 

そこにいた面々は、そのあまりにも精巧に描かれた世界地図に驚愕した。山の高さ、谷の位置、主な川、主だった街の詳細な位置等極秘にしてきた自国の精巧な地図を凝視する。

 

「我が国が精巧に描かれた図に驚かれるのもわかります。そして、グラ・バルカス帝国の位置はここです。」

 

ライドルカは、地図上の一点を指示する。ムー大陸よりもさらに西方2000kmほどの位置に島というには大きく、かといって大陸と呼ぶには少し小さい陸地が見える。それにも山や湖の位置が精巧に記されており、ご丁寧なことに主だった街の位置等も記されていた。

 

「いったい、これはどうしたのだ?」

 

「実は、日本国と先進11ヶ国会議について話をした際、この地図を持参してきて、どの部分を通過して神聖ミリシアル帝国に来れば良いか尋ねてきたのです。

他国の領海や、聖地指定をしているような部分を避けて航行するためと申し立てておりました。日本の担当者は、『この地域の地図を持参した』と言っていたことから、もしかすると彼らは、この世界の全容をつかんでいるのかもしれません。領海等調べて回答するため地図を持ち帰って良いか尋ねると、問題ないとの回答であったため、持ち帰る事が出来ました。まさか、通常は極秘事項に認定される地図を、あっさりと入手出来るとは思っていませんでした...。担当者は、先進11ヶ国と関係する国が記された地図を持ってきますと言って、持ってきたため、グラ・バルカス帝国の位置までも丁寧に記載されたものを持ってきたのでしょう。.....正直かなり驚きましたが。」

 

「何とも驚くべき話だ。では日本国について、話を聞かせてもらおう。」

 

 

ライドルカは、日本国に関する説明を開始した。そして数分後、それは終盤にさしかかっていた。

 

「―――日本では我が国の天の浮舟を越える速度の鉄道が間もなく実用化しようとされており、また自衛隊なる国防組織のもつ戦闘機は凄まじい速度で飛行します。具体的には音速の倍以上を出せるのだそうです。」

 

会議場はざわついている。事前にある程度の情報は知っていたとはいえ、あまりにも信じがたい話なのだ。

 

「それは本当なのかね?その話が全て正しければ、日本の技術は帝国を超えていることになるぞ。」

 

出席者が口々にこんな事をつぶやいていた。

 

ライドルカは更に続ける。新しい写真を取り出し、黒板に貼り付けると、出席者達の視線はそれに注がれた。

 

「この写真を見てください。」

 

「これは...我が国の魔導戦艦?これがどうかしたのか?」

 

ライドルカは一呼吸おいて話し出す。

 

「これは...技官のベルーノ殿が日本で撮影した物です。つまりこれは、日本が所有しているものです。そしてこれは、驚くことに『アダマン級戦艦』とのことです。」

 

「「「「!!!!!!!!!!!!」」」」

 

部屋にどよめきが走る。アダマン級戦艦は神聖ミリシアル帝国でも一隻のみ発掘されており研究が進んでいたが、ミスリル級よりも更に複雑であり解析は依然として進んでいなかった。

 

「何故だ?日本は科学文明国で、魔法については素人だと聞いていたが....」

 

「どうやらそれについては、日本の同盟国、例えばパンドーラ大魔法公国などから技術者を呼んで解析してもらったようです。どの程度まで研究できているのかは不明ですが、少なくとも稼働できる状態ではあるようです。」

 

「なんと...!!しかしそれを譲り受けることは出来ないのか?我が国としては喉から手がでるほど欲しい代物だ。」

 

「そうだ、文明圏外国など少し脅せばすぐに差し出すのではないか?」

 

ここで皇帝が手をあげた。すると、騒がしかった部屋が水を打ったようにしんと静まりかえる。

 

そして、皇帝ミリシアル8世はゆっくりと口を開く。

 

「.....ライドルカ、話は聞いた。どうやら日本は思った以上の国であるようだな。して、アダマン級戦艦についてはなんとしてでも手に入れるよう努力してほしい。しかし日本をただの文明圏外国として見てはならぬ。あくまでも対等な相手として取引をするよう尽力せよ」

 

「ははっ!!!」

 

 

皇帝の命により、神聖ミリシアル帝国は日本からどうにかアダマン級戦艦を買い付けられるよう動き出すのだった。

 




帝国使節団の来日は次回に。


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第39話 異世界の姉妹艦

タイトルの通りですね。


11月2日 ムー国 港湾都市マイカル 

 

「こんにちは皆さん、私は今リグリエラ・ビサンズ社マイカル工場に来ています!今日ここでムー海軍の新戦艦がお披露目されます!」

 

カメラに向かってリポーターの若い女性が元気に話す。彼女の言うとおり、今日ここでは日本の協力により一足早く一隻の戦艦が公開されることになっていた。

 

ラ・タウンゼント級戦艦1番艦「ラ・タウンゼント」。それが今日披露される戦艦の名前だ。今は大きなベールに囲まれており、その姿は見えない。

 

 

「あっ!どうやら始まるようです!」

 

リポーターがそう告げると、カメラは一斉に同じ方向を向く。

 

マイラスがマイクの前に立ち、話を始める。

 

『あ、あー。本日は忙しい中お集まりいただいてありがとうございます。司会を務めさせていただきます、マイラス・ルクレールと申します。よろしくお願いします。』

 

そう言うと彼は言葉を切り、一礼した。激しいフラッシュが彼を包む。顔を上げ、もう一度話し出す。

 

『えー、今回の新戦艦設計につきまして多大な貢献をしてくださった日本国より、ゲストに来ていただいています。技術提携の一環として派遣されている戦艦の艦長の皆様です!それではどうぞ、拍手でお迎えください!!』

 

彼がそう言うと、舞台の横から5人の艦娘が姿を現す。艦娘について知っているのはムーでもごく一部の人間のみであり、一般向けにはこういった説明がなされている。女性の軍人、それも艦長というのはムーでは珍しいが決してあり得ないことではない。それに他国のあり方にケチをつける理由もないため、こんな言い訳で十分なのだ。

 

「おおお...!!!」

 

観衆にどよめきがあがる。艦娘達はどれも豪華絢爛かつ大胆なドレスに身を包んでいた。それは彼女たちの抜群のスタイルをいやというほど見せつけている。

 

「うわっ、すげぇ美女だ!」

 

「本当に軍人なのか?信じられん」

 

テレビの生中継を酒場から見ていた酔っぱらい達も思わず身を乗り出す。彼らの言うとおり、5人の艦娘達はとても軍人には見えない美女揃いだったのだ。

 

彼女たちはマイラスに一礼すると、並んで横に立つ。

 

マイラスも返すと、再びマイクに向き直る。

 

『続きまして、機動部隊司令、アルバート・レイダー中将です!』

 

今度は一人の軍人が姿を現す。マイラスの説明の通り、彼はムー海軍の機動部隊の司令であり、今回の新戦艦開発に非常に興味を持っていたのだ。そしてその表情はどこか高揚しているように見える。

 

少しして、全ての出席者が登場し着席した。

 

これでようやく本題に入る。

 

『それではただ今より落成式に移ります。代表者の方々は席をお立ちください。』

 

マイラスのアナウンスにより、レイダー、議員、そして日本からはフッドが席を立ち、テープの前にそれぞれ並ぶ。

 

『では、テープカットに移ります。皆さんお願いします!』

 

そのかけ声に従い、全員が目の前のテープを切る。すると、ベールが落ち、「ラ・タウンゼント」はついにその姿を現した。ムーの戦艦として初めて381mmの大口径砲を装備しており、神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦にも引けを取らない高性能が予測される

 

「おお!!!」

 

歓声と、少し遅れて盛大な拍手がその場を包み込む。こうして、ムー海軍期待の新戦艦はこの世に生を受けたのだった。

 

 

二日後、11月4日 神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス

 

「いったいどうなっているんだ!!何故ムーがここまでの戦艦を!?こ、これは我が国の魔導戦艦と同等ではないか!!!」

 

ルーンポリスでは臨時の会議が執り行われていた。

 

会議室は大騒ぎだ。数日前にムーが公開した戦艦が予想を大きく上回る規模のものだったからだ。神聖ミリシアル帝国上層部はムーのラ・カサミ級戦艦やマリン戦闘機を見て、その技術差はまだ大きくよもや追いつかれることはないだろうと高をくくっていた。ところがこれはどうしたことか。いきなり自分たちと同様の技術の産物を見せつけられ、ひどく驚いている。

 

説明係が新聞を手に話す。

 

「そっそれが....どうやらムーは日本から技術提携を受けていたようです。記事に、そうあります。そしてこの一隻はあらかじめ日本で部品を作り、あとは組み立てるだけの状態でムーに引き渡されたとか。」

 

出席者達も配布された記事に目を通し、難しい顔をする。

 

「むむ...確かにそうあるな。しかしまた日本か、本当にどうなっているんだ?」

 

ぽっと出の文明圏外国に振り回され続け、彼らは頭を痛めるのだった。

 

 

 

その一週間後、佐世保ではムーにいる艦娘達とテレビ電話をしていた。

 

「―――なるほど、無事完成したんだな。そりゃあ良かった。」

 

今は吉川とレパルスが話している。

 

『はい、私たちも出席しましたが中々に頼もしい姿をしていましたよ。』

 

「そうかそうか。そっちの生活はどうだ?もうなれたか?」

 

『ええ、大分馴染むことが出来ています。私たち今、すごい豪邸に住んでいるんです!』

 

そう言うと彼女は画面を動かし、背景を見せる。

 

「へえ、凄いじゃないか。まるでセレブだな。」

 

『そんな感じですね。もし良かったら遊びに来て下さい!』

 

「分かった、ムーに用事があったら絶対に行くよ。」

 

『約束ですよ?』

 

「ああもちろんさ、それじゃ頑張ってな。」

 

『はい、ありがとうございます。では....』

 

通信が切られ、画面が閉じられた。吉川はパソコンを畳み、仕事に戻る。

 

(グラ・バルカス帝国の使節団が到着するまでだいたい10日ってところだな....どうなることやら。)

 

使節団を乗せたグレードアトラスター級戦艦は順調に進路を辿っているようだった。衛星写真により、少なくとも4隻の同型艦を確認しているが、そのうちのどれなのかは分からない。

 

(楽しみだな...さて、俺は俺の仕事をしなきゃな。)

 

佐世保鎮守府も帝国使節団を迎える準備をするのだった。

 

 

 

11月10日、佐世保沖―――

 

「日本の領海に入りました。」

 

「了解。全員準備をしておいてくれ。」

 

兵士がラクスタルに報告すると、彼も指示を出す。

 

「ようやく到着か。やはり遠かったな。」

 

いつの間にか艦橋内に立っていたカイザルも大きく体をのばしつつそう呟く。

 

「ええ、そうですね。お待ちかねの日本ですよ。」

 

数分後、シエリアも艦橋内に上がってきていた。3人で話をしていると、通信兵が報告してくる。

 

「艦長、通信をキャッチしました!日本からです!」

 

「よし分かった、つなげてくれ。」

 

「はい!」

 

無線機を手に取る。

 

「こちらはグラ・バルカス帝国監察軍旗艦、グレードアトラスター。私は艦長のラクスタル・マクヘンリーと申します。」

 

すると向こうからは、比較的若そうな男の声が帰ってきた。

 

『こちらは日本国、佐世保鎮守府です。そして私は司令の森高千鶴と申します。ようこそ日本へ。我々はあなた方を歓迎いたします。』

 

「ありがとうございます、森高殿。我々はどう動けば宜しいか?」

 

『先導の駆逐艦が向かっていますので、その指示に従ってください。航空機も向かっていますが、我が国の報道機関によるものですのでご安心を。それと、戦艦も2隻近づいていますが敵意はありませんのでよろしくお願いします。』

 

「...?了解しました、ありがとうございます。」

 

『はい、ではお待ちしております。』

 

通信が切られた。

 

ラクスタルの表情には疑問符が浮かんでいた。それを見たカイザルが尋ねる。

 

「どうしたのかね?」

 

「いえ、先導のため駆逐艦が向かっているとあったのですが、同じく戦艦も向かっている、とのことです。一体何のつもりでしょうか。」

 

「確かに気になるな。しかし直にわかることだ、素直に待とう。」

 

「そうですね。」

 

既にレーダーに艦影は捉えられており、前方からは2隻の小型艦の姿を、そして左右後方から1隻ずつ近づいてくる大型艦の姿が映し出されていた。事前の連絡の通りだ。

 

「前方より駆逐艦発見!発光信号を放っています。」

 

「よし、指示に従え。」

 

「はい!.....えっ!?」

 

「どうした?」

 

素っ頓狂な声を上げた見張りに尋ねると、彼はとても驚いているようだった。

 

「あれを見てください!!」

 

ラクスタルは双眼鏡でその方向をのぞき込む。

 

「ん?....何っ!?」

 

カイザルも同じく双眼鏡をのぞき、驚いた顔をする。

 

「エ、エクレウス級駆逐艦!?」

 

そこには帝国の駆逐艦に瓜二つな船の姿があったのだ。それはあまりにも似ており、彼らに衝撃を与える。実際のところ先導を担当しているのは陽炎型駆逐艦「浜風」と「磯風」であるが、その姿はエクレウス級にそっくりだった。

 

驚くべきはこれだけでは無かった。

 

森高は2隻の戦艦に通信を入れる。

 

「さあ2人とも、異世界の姉妹艦に挨拶してやれ。」と。

 

見張りが更に報告する。

 

「左右後方より戦艦発見!接近しています!」

 

次第にそれは近づき、はっきりとその姿を現しはじめる。

 

「なにぃっ!?そ、そんなばかな!!」

 

「何故、こんなところに!!」

 

艦橋は騒然としている。ラクスタル、カイザル、シエリアもあまりの出来事に固まっていた。

 

「「「「グレードアトラスター!?」」」」」

  

そこには、自分たちが乗っている筈の戦艦、「グレードアトラスター」の姿があったのだ。

 

  




というわけで、グレードアトラスターと大和、武蔵が出くわしました。


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第40話 使節団到着

あと2人の投票で評価バーが上がります...もしよければ評価をお願いします


その頃、佐世保鎮守府―――

 

「さあ、いよいよグラ・バルカス帝国の使節団が到着するぞ。」

 

通信を切り、森高が振り返る。

 

「俺ちょっと野次馬行ってくるわ」

 

「あ、じゃあ俺も!」

 

そう言うが早いか、吉川と赤松は部屋を出ていった。残された森高と高橋は執務室にあるテレビに目をやる。昼のワイドショーは生中継でグラ・バルカス帝国使節団の到着について報道している。ヘリコプターが間もなく接近するグレードアトラスターの姿を捉えようとしていた。

 

 

「グレードアトラスター」艦橋内―――

 

「ラクスタル君。私はどうやら幻覚が見えるようになってしまったようだ。グレードアトラスターが2隻いるぞ。」

 

「カイザル閣下、ご安心を。私もそのようです。日本に着いたら2人で病院に行きましょうか....。」

 

この会話にシエリアが慌てて入る。

 

「お二方とも、落ち着いてください。あれは幻覚などではありません!」

 

これにカイザルは笑って返した。

 

「はっはっは、シエリア君、言われなくとも分かっとるさ。何が起きてもおかしくないと分かっていたとはいえ、それでも目の前のこれは信じがたいんだよ。それによく見ると、あの戦艦はうちの物とは少し違うようだしね。まあ似ていることには変わりないが。」

 

「そうですか....ん?この音は?」

 

耳の良い彼女は、遠くから聞こえてくるバタバタバタ....と言う音に気づいた。すると、見張りが声を上げる。

 

「前方より奇妙な形の航空機が近づいてきます」

 

先ほどよりレーダーで捕捉していた、やけに遅い航空機のことだろうか。

 

「奇妙な?今度は何だ?」

 

再び彼らは双眼鏡で外に目をやる。空には見張りの言うとおり、見たことのない奇妙な形の航空機が飛んでいた。あれが連絡にあった、報道機関の航空機なのだろうか。

 

ラクスタルは呟く。

 

「あれは...我が国で開発しているオートジャイロのような物でしょうか。それにしては随分と洗練された形をしていますが。」

 

そのヘリコプターは東都テレビの物だった。リポーターは上空から元気よく話す。

 

『放送局、放送局、現在佐世保沖上空!見てください!すごい光景です!「大和」と「武蔵」がグラ・バルカス帝国の戦艦と並んでいます!』

 

東京のとある大衆食堂のテレビではその光景が映されていた。そこで食事をしていた人たちは思わず画面に見入る。

 

「すごい光景だな...。」

 

「ああ、にしても本当にそっくりだな。言われなければ見分けがつかない。」

 

そして先ほど部屋を出て行った吉川と赤松は零式水上観測機に乗り込み、グレードアトラスターへと向かっていた。

 

「おい晃輔!お前、あの戦艦見るのは2回目だろ!?」

 

赤松が後ろから叫ぶと、吉川も答える。

 

「ああ、その通りだ!見えてきたぞ!」

 

海の向こうに、大きな艦影が見えてくる。赤松はもう一度叫ぶ。

 

「よっしゃ、歓迎してやれ!」

 

「任せろ!」

 

吉川も元気に返すと、一気に操縦桿を引く。すると機体は上昇を始め、それと同時に尾翼の辺りから赤い煙が放たれる。そしてそれが出終わる時には、空には大きなハートの絵文字が描かれていた。

 

「ははっ、一丁あがり!!」

 

「あれ、でも向こうはハートの意味知らないんじゃないか?」

 

「そういやそうかもな!!まあ察してくれるだろう!」

 

のんきな二人であった。

 

 

 

「...あのパイロットはいい腕をしているな。」

 

「ええ、そのようですね。しかしあの記号はどういう意味なのでしょうか。」

 

「おそらく歓迎とか、そういった類のものだろう。少なくとも悪い意味ではないだろうね。」

 

吉川の操る零式水観を見送りつつ、カイザルとラクスタルはそれぞれ話す。既に彼らはかなり佐世保に近づいており、あと数分もすれば本土が見えてくるだろう。

 

 

そして数十分後、グレードアトラスターは佐世保まであと3kmの地点まで来ていた。巨大な基地と凄まじい数の艦艇が停泊しているのが見える。

 

 

「接岸準備。引き続き向こうの駆逐艦の指示に従って動け」

 

「了解」

 

指示を出し、だんだんとはっきり見えてくる佐世保に目を凝らす。

 

「かなり大きい基地だな。....!?あれは、もしや!?」

 

見えてきた艦艇の中には明らかに見覚えのある姿がある。シグナス級戦艦に加え、アルタイル級戦艦、オリオン級戦艦、タウルス級重巡洋艦、ラインムート級重巡洋艦にキャニス・メジャー級軽巡洋艦までいる。

 

「本当に、一体どうなっているんだ....」

 

ラクスタルは双眼鏡から目を離すと、顔を洗いに一度艦橋を後にした。後は接岸するだけなので、彼が指示を出さずとも乗組員たちはうまくやるだろう。

 

実際のところそこにいるのは、長門型戦艦、肥前型戦艦、金剛型戦艦、妙高型重巡洋艦、蔵王型重巡洋艦、そして阿賀野型軽巡洋艦なのだが、当然ラクスタルの知るところではない。日本からしてもどうして似ているかは全く分かっていないので、致し方ないことではあるだろう。

 

艦内の設備で作られた炭酸水の瓶を冷蔵庫から取り出し、蓋を開けて口に流し込む。その瞬間、船に少しの揺れが走り、停止したのが分かった。続いて、錨を下ろす音とタラップが動く音が聞こえてくる。どうやら無事に停泊したようだ。

 

ラクスタルは一気に残りを飲み干すと、艦橋に急いで戻っていった。

 

「無事到着しましたね。下船の準備は出来ていますか?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

「よし、では行きましょうか。」

 

使節団5人とラクスタル、そしてカイザルはタラップに向かう。いよいよ日本との接触とあって、少しの緊張が走る。帝国は以前のイルネティア王国における小競り合いもあり、それについて問われないか少しばかり不安だった。

 

意を決して、ラクスタル達はタラップを下り、ついに日本本土に足を着けた。

 

大きく延びをしながらラクスタルは思う。

 

(空気が、おいしいな....)

 

グラ・バルカス帝国では工場からの排気煙等による環境汚染が問題となっていた。そして同じく大気も汚されており、帝都ラグナの空はいつも澱んでいる。日本も恐らく同じような物だと思っていたがそれは外れたようだ。少なくともここの空気は澄み渡っている。どうやっているのだろうか、出来れば教えてほしいものだ。

 

彼らが辺りを見回していると、向こうから4人の男が歩いてくるのが見える。

 

その内の一人が前に出てきて帽子を取り、軽く一礼して話し出す。

 

 

「グラ・バルカス帝国の皆さん、ようこそ日本へ。私は森高千鶴と申します。先ほど通信をした者です。」

 

カイザルは彼に目をやり、どのような男か考える。

 

(優しそうだが、優秀そうな男だ...立ち居振る舞いに一切の隙がない。それにしても随分と若いな)

 

続いて他の男達も自己紹介を始める。

 

「初めまして。私は吉川晃輔と申します。森高の同僚です。この2人もそうです。」

 

まずは一番背の高い、精悍な顔立ちの男が話す。続いて一番背は低いが眼光の鋭い男が短く挨拶する。

 

「高橋京介と申します。初めまして。」

 

最後に髪を後ろにまとめた男が自己紹介する。

 

「赤松一誠と申します。よろしくお願いします。」

 

グラ・バルカス帝国側も自己紹介を始める。

 

「初めまして、私はシエリア・オウドウィンと申します。この使節団のリーダーを務めます。今回日本国との交流を認めてくださり、本当にありがとうございます。」

 

それを聞き、吉川は一人思い出す。

 

(なんだ、まともそうじゃないか。イルネティアの時のあの怒りっぽいヤツじゃなくて良かったぜ。)

 

「あ....あの、どうしました?何かお気に障ることでもしましたでしょうか?」

 

気づけばシエリアが心配そうにこちらを見ていた。いつの間にか彼女を睨みつけていたらしい。

 

「ああいや、これは失礼しました。以前にあなたの国の外交官と揉めた事がありましてね、それを思い出していたのです。」

 

これを聞いたシエリアと外交官達の顔色が変わる。

 

「そ...それにつきましては、本当に申し訳ありませんでした。まさかそんな事になるとは思っておらず....」

 

吉川はこの言葉に笑って返す。

 

「ははは、お気になさらず。私にも彼を怒らせた落ち度がありましたしね。互いにそれは水に流しましょう。」

 

これに使節団は安堵したようだ。その中には以前イルネティアで怒るダラスを必死に制止していた若い男の姿もあった。一段落したところで、ラクスタルとカイザルも自己紹介する。

 

「私はラクスタル・マクヘンリーと申します。この、『グレードアトラスター』の艦長をしています。」

 

「初めまして、私はカイザル・ローランドと申します。一応、帝国海軍大将など務めております。」

 

これに日本側はひどく驚かされた。まさかここまでの高級将校が来るとは思っていなかったのだ。

 

「たっ....大将!?」

 

「ああいや、まあそれは形式的なものです。ただの一人の客として扱っていただければ結構ですよ。」

 

「は....はい、分かりました。では到着してすぐのところ悪いですが使節団の皆様は移動していただきます。車が待っていますのでそれに乗ってもらいます。榛名、案内を頼む。」

 

「お任せください!」

 

黒髪の女性が出てくると、使節団を駐車場に連れて行った。帝国が日本にいる間は、一部を除き艦娘達は常識的な軍服に身を包んでいる。

 

カイザルは森高に尋ねる。

 

「彼女も軍人なのですか?」

 

「ええ、戦艦『榛名』の艦長をしています。」

 

「なんと...あの若さで、しかも艦長とは。さぞ優秀な軍人なのですね。」

 

「ええ、とても優秀ですよ。私たちも移動しましょうか。こちらへどうぞ。」

 

森高が手招きすると、ラクスタルとカイザルはそれについて建物へ向かっていった。




本格的な交流は次回から。


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第41話 交流 その1

ここはそれなりに長くするかもです。

投票してくれた方々ありがとうございます。

コラムの編集を行いました。


シエリア率いる使節団は榛名に案内されて駐車場に到着した。

 

2台の車が停められており、一人の男が待っていた。

 

「こんにちは、グラ・バルカス帝国の皆様。貴方達を福岡国際会議場までお送りします。別れてお乗りください。」

 

 

彼に促され、シエリアともう一人の女性、残りの男三人と別れて黒いクラウンに乗り込んだ。

 

「シートベルトは締めましたか?」

 

「はい、締めました。」

 

 

「では出発します。福岡市までおよそ2時間ほどですので、お疲れでしたらお休みになられても構いませんよ。」

 

こうして使節団を乗せた車は福岡市へと出発したのだった。

 

 

一方、佐世保では4人の提督とカイザル、ラクスタルが会議室で話をしていた。

 

「何か飲み物はいかがですか?何でもあるのでどれでも結構ですよ。」

 

「では、コーヒーをお願いします。」

 

「私もコーヒーを。」

 

「ホットでよろしいですか?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

数分後、鳳翔が全員の前にコーヒーをおくと、恭しく礼をして部屋を後にした。

 

男5人だけとなった部屋で、話が始められる。

 

「さて....」

 

森高が呟く。

 

「互いに聞きたいことは多くあると思いますが、まずはこちらからでも構いませんか?」

 

「ええ、もちろんです。」

 

「ありがとうございます。では初めに...今回なぜグラ・バルカス帝国は日本へ使節を送ることを決めたのですか?聞いた話によると帝国はまだこの世界のどの列強国とも関わりを持っていないはず。だというのに、なぜわざわざこんな東の果てにある日本まで来てくれたのでしょうか。」

 

コーヒーを一口飲み、カイザルが答える。

 

「簡単な事です。この世界の列強国に下手に関わるとロクな事にならないと思っているからです。それにあなた方にも似たような思い出があるでしょう?」

 

意味は分かるだろう?と言う趣旨の発言に日本側は頷く。

 

お互い転移してから接触した最初の列強国、日本はパーパルディア皇国、グラ・バルカス帝国はレイフォル国とどちらも一方的に見下され、戦争を仕掛けられた。

 

結果としては何故この程度で喧嘩をふっかけてきたのか理解に苦しむほど弱い敵だった。

 

後々わかったのはこの世界の国々はとにかく文明圏外国を全て見下している傾向にあるということだ。

 

そのため今までの常識が通じず、関わりを持つだけで相当に苦労する。

 

「....お互い転移国家であるからですね。」

 

「ええ、その通りです。我々はこの世界のどの国とも未だ国交を結んでいませんが、日本は違う。ムーやミリシアルとも関係を築けている。簡単に言えば我々もそこに乗っかりたいのです。帝国はおそらくそれらの国々からは警戒されているでしょうしね。」

 

「なるほど、よくわかりました。ではそちらも何か聞きたいことが有ればどうぞ。機密でなければお答えします。」

 

「では....まず、どのように日本はこの世界の国々と関係を築いていったのでしょうか?」

 

この質問に森高達はゆっくりと答える。転移してからの最初の友好国の危機を救うため、やむなく戦うことになった。そしてパーパルディア皇国との戦争。同じ科学文明国であるムーとの国交開設。といったところだ。

 

「――なるほど、この世界には珍しい科学文明国、しかも元の世界での友好国だった、と。ふむ...もし日本と帝国の転移した位置が逆だったら、状況もかなり違っていたかも知れませんな。」

 

ここでカイザルはあることを思い出した。

 

「ところで、我が国は本土の場所を公表していないことはご存じですかな?」

 

「はい、確か外交に関してはレイフォルで受け付けると。」

 

「日本は帝国の位置をご存じですか?」

 

「えー....はい、把握しています。」

 

森高はスマートフォンをポケットから取り出し、この世界の地図を見せる。それを食い入るようにカイザルは見つめると、大きな声で笑い出した。

 

「くくく....あっははは!!こりゃ駄目だ、勝てるわけがない!なあラクスタル君!」

 

「ええ、そうですね....まったく、急進派の頭の固さには呆れたものです。」

 

日本側はこれに少し驚く。

 

「あの...突然どうされたのですか?」

 

「これは失礼、我が国にもバカはたくさんいるのですよ。急進派にはうんざりしているんです。奴らはレイフォルを倒したことで調子に乗り、この世界全てを乗っ取ろうなどと考えているのです。」

 

「ああ...やはりそのような人はどこにもいるのですね。」

 

「一番の理由はそれです。帝王グラルークス陛下はこの情勢を払拭するため、日本に接近することを決めたのです。」

 

「....なるほど。」

 

「あと二つほど聞きたいことがあります。よろしいですか?」

 

「ええ、勿論どうぞ。」

 

「では、この写真についてですが....これは、日本の...ジェット戦闘機ですか?」

 

エストシラントで撮影されたF-2の写真を見せる。

 

「ええ、これは現在の日本での主力ジェット戦闘機、F-2です。」

 

「やはりか...しかし、我々の情報網ではパーパルディア皇国との戦闘で使用された航空機は全て我が国と同じようなレシプロ機のみで、このジェット戦闘機の情報はありませんでした。主力と言うからには相当数が運用されているはずですが、なぜなのですか?」

 

この質問に4人の提督達は少し話し合い、こちらを向いた。

 

「....我が国は少しばかり特殊なのです。見ていただきたい映像があります。よろしいですか?」

 

「はい、もちろんです。」

 

「ではお見せします。我が国の歴史についての簡単な映像です。」

 

赤松が部屋にあるテレビを操作し、画面に映像が映されると、カイザルとラクスタルはそれを見つめる。

 

その映像は日本の文明開化から列強への成長、そして第二次世界大戦へと......

 

 

真珠湾攻撃、ミッドウェーでの敗北、追いつめられていく日本の姿、これらは実際の記録とCGを織り交ぜて作られている。

 

沈む武蔵、特攻で死んでいく若い兵士達、飢える国民と兵士、空襲で焼かれる町、そして大和の爆沈....

 

グラ・バルカス帝国の兵器は日本のそれと酷似していることもあり、グレードアトラスターに似た大和と武蔵の轟沈する映像はラクスタルの胸を締め付ける。

 

そしてアンタレスに似ている戦闘機に乗った若いパイロットが次々と死んでいくその様はカイザルにとっては見るに堪えない物だった。無機質なモールス信号の音が悲壮感をより引き立てる。

 

そして終戦。泣き崩れる国民、更地と化した首都。そして原爆実験で沈む長門。原爆については超大型の爆弾とだけ説明している。

 

戦後、爆発的な発展を遂げる日本。東京オリンピックを契機に先進国へと上り詰め、そして現在に至る。

 

映像が終わり、画面が暗くなる。カイザルとラクスタルはそれぞれ複雑な顔をして黙り込んでいた。

 

 

「....いかがでしたか?」

 

「日本が複雑な歴史を歩んできたことがよく分かりましたよ。想像を絶するものだ。」

 

「その通りです。過去の戦争から日本は一からやり直し、そして再び立ち上がったのです。」

 

「......」

 

カイザルは腕を組みもう一度黙り込むのだった。

 

この後、何故一度沈んだはずの軍艦を再び運用しているか聞かれたが、これについては特殊な事情があった、としか言えなかった。

 

そして第9条についての説明をして、ひとまずこの日は終了となったのだった。帝国使節団は2週間かけて日本を一周する予定のため、時間はそれなりにあるのだ。

 

 

一方、帝国使節団は福岡に到着していた。

 

「―――シエリアさん!シエリアさん!起きてください!」

 

隣に座る外交官に肩をたたかれて起こされた。やはり疲れが溜まっており、いつの間にかうたた寝をしていたようだ。

 

「...んっ....どうした?」

 

「そろそろ会議場に付くので、準備をしておいて下さい。」

 

彼女にそう言われ、眼鏡をかける。すると彼女は今自分が見たこともない大都市にいることに気づいた。

 

「すごい....これが地方都市だとは....信じられない」

 

空を埋め尽くす高層建築、道路を走る車、車、車。帝都ラグナよりも発展しているように見えるこの都市が首都ではないということに使節団は驚愕する。

 

「改めて、凄い国に来てしまったな...気を引き締めねば。」

 

緊張しつつも、彼女たちは福岡国際会議場に向かうのだった。

 

 

 

 



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第42話 交流 その2

シエリアら外交官は一応共通語も読めると思っていてください。


 

その日の夜、福岡市―――

 

 

 

使節団はホテルにてそれぞれ休息をとっていた。そしてシエリアは部屋にある風呂に入っていた。ゆったりと湯船に体を沈めつつ、今日の出来事を振り返る。

 

有意義な会議ができたと思う。少なくとも、自分たちの伝えたいことは全て伝えた。日本の外交官は全員が真摯にこちらの話を聞いてくれた上、対応も非常に丁寧な物だった。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

浴槽に頭を沈め、少しして上げる。目に付いた水気を払い、彼女は一人考える。

 

(やはり日本の技術はおそらくほとんど全ての面で、帝国を上回っている....。というより、帝国が勝っている面が見つからない、と言った方が正しいか。)

 

彼女が今滞在しているこの部屋だけでも、見たこともない物がいくらでもある。テレビがなぜこれほど薄いのに動くのかも分からないというのに、そのテレビはカラーで画質もきれいだ。リモコンというのはどういう原理なんだろう?実は理系の彼女にとってこういった初めてみる物は非常に興味深いのだ。

 

風呂から上がり、肌触りのよいタオルで体を拭き、「ユカタ」という日本の服に着替える。着方は先ほど教えてもらった。

 

この部屋は地上25階に位置し、窓から繁華街を見下ろすとたくさんの人が行き交うのが見える。

 

「はあ....」

 

ベッドに腰掛け、テレビを付ける。やはり画質も音質も帝国の物とは段違いだ。現在の時刻は午後8時51分だ。彼女は大陸共通語版の新聞に目を通し、番組表をチェックする。

 

(おっ..『金曜ロードショー』?ということは映画か!)

 

番組表の中に映画があるのを見て、シエリアは一人綻んだ表情になる。それもそのはず、彼女の趣味は映画鑑賞なのだった。

 

(タイトルは...『火垂るの墓』..?ホタルとは何のことだろう。だが、あまり明るいものではなさそうだな。)

 

時計を見ると始まるまで残り5分を切ったところだった。

 

(...そうだ。せっかくだし飲み物をいただこう)

 

部屋の冷蔵庫にストックしてある飲み物は自由に飲んで良いと説明されていた事を思いだし、シエリアは冷蔵庫に手を伸ばす。

 

このコンパクトな冷蔵庫も、帝国では再現できないのだろうか。そんな事を考えながら取っ手を引き、中身を取り出す。

 

「あれ?」

 

てっきり瓶だと思い込んでいたが、出てきたのは缶だった。開け方を説明した紙もある。中にはビールと、カクテルの缶、そしてミネラルウォーターのボトルが2本ずつ収められていた。

 

(缶切りがいらないのか...これくらいなら真似できるかな?)

 

そんなことを考えながらプルタブを引くと、プシュッ、という小気味の良い音がして開いた。

 

グラスによく冷えたビールを注ぎ、ゆっくりと口を付ける。

 

「美味しいな...苦みが心地よい。」

 

ふとテレビに目をやると、どうやら丁度始まるようだった。彼女は姿勢を正し、テレビに見入る。

 

翌朝、なぜか目を赤く腫らして登場したシエリアに部下達はひどく驚いたのだった。

 

 

同じく翌日、佐世保―――

 

 

朝食前に吉川が放送を入れている。

 

『よーし、みんなおはよう。俺と一誠は朝飯食ったら自衛隊の基地に行くから留守番頼む。あー、あと皆ベランダに洗濯物干すのしばらく遠慮しといてくれ。お客さんがいる間は室内干ししといてな。』

 

数十分後、食堂で全員が朝食をとっていた。

 

いち早く食事を終えた赤松と吉川は部屋を出ていこうとする。ところが吉川はあることを思い出し、食堂に一度戻ってきた。

 

「なあ明石。」

 

吉川はピンク色の髪をした艦娘「明石」に声をかける。

 

「はい?なんでしょう?」

 

「今日の午後3時くらいまでに複座のミグ出しといてくれないか?」

 

「乗るんですか?」

 

「ああ、ジェット機に乗せてほしいって言われてな。まあ問題ないしいいかって。昼前には帰ってくるつもりだけど、飯食ってから少し休むから出来ればそのくらいまでに準備しといてくれるとありがたいな。もちろん今日じゃなくても大丈夫だ。」

 

彼女は少し考える様子を見せて、吉川に振り返る。

 

「了解しました。2時で大丈夫です。」

 

「おう、ありがとう。よろしく頼むよ。」

 

吉川は明石の肩をポン、と叩くと去っていった。

 

 

彼が駐車場に向かうと、赤松とカイザル、ラクスタルが既に愛車の前で待っていた。

 

「お待たせしました。乗ってください。」

 

鍵を開け、愛車のマスタングに乗り込む。

 

「では、行きましょう。自衛隊の佐世保基地まですぐです。」

 

アクセルを踏み込み、4人は鎮守府を出発した。そしておよそ15分後、彼らは自衛隊佐世保基地に到着していた。

 

「お邪魔します、藤島一等海佐。」

 

「ようこそ、吉川提督、赤松提督。それに、グラ・バルカス帝国の方々。私は藤島譲治と申します。階級は一等海佐...つまり、大佐相当ですね。」

 

グラ・バルカス帝国の2人も自己紹介する。

 

「初めまして、藤島大佐。私はラクスタル・マクヘンリーと申します。階級は大佐、戦艦『グレードアトラスター』艦長をしています。」

 

「私はカイザル・ローランドと申します。今回自衛隊の基地を見学させていただけるとのこと、誠にありがとうございます。」

 

カイザルはわざと階級を告げない。何となく意味を察した藤島も聞こうとはしなかった。

 

「ラクスタルさん、カイザルさん、改めて今日は短い時間ですがよろしくお願いします。ではこちらへ....」

 

藤島は彼らを引き連れて中へと向かっていった。

 

そしておよそ一時間後、最後に彼らは護衛艦を見学していた。

 

カイザルらは現在、「いせ」を見学している。全長197mの体躯に全通甲板を備えた姿は軽空母のように見える。

 

「この船は空母ではないのですか?」

 

「はい、この『いせ』はヘリコプター護衛艦です。」

 

「ヘリコプター....。あの回転翼機ですか。帝国では開発中のものです....かなり難航しているとか。自衛隊は空母は持っていないのですか?」

 

「いいえ、一隻のみ所有しています。『おわり』といい、かなりの大型空母です。神奈川県の横須賀にいますね。」

 

「大型とは...どのくらいの大きさなのですか?」

 

「ええと...全長328mですね。排水量は覚えていませんが。」

 

「!!!!!」

 

この情報はカイザルとラクスタルを驚かせた。つまり帝国の主力空母「ペガスス級」よりも80m近く大きいのか、と。

 

「ほう、それは...さぞ搭載量も凄いのでしょうね。」

 

「ええ、およそ70機ほどですね。」

 

「...?思ったより少ないのですね。我々の主力空母よりも少ない...?」

 

「ああ、なぜなら戦闘機がとても大きいからですよ。」

 

「なるほど...」

 

彼らは写真で見たジェット戦闘機を思い出す。機体が大きいのなら搭載数が少なくなるのは当たり前のことだろう。

 

「しかし、あの小さな軍艦...イージス艦?でしたか?が戦艦よりも強い、というのは信じられませんね。現物を見てますます分からなくなりましたよ。」

 

カイザルはいせの甲板から隣に停泊している「あしがら」を見て不思議そうな表情を浮かべている。

 

とても小さい上に、砲が一門しかない。これが強いようにはどうしても見えないのだ。少なくとも見てくれだけなら、グレードアトラスターや日本の戦艦の方がずっと強そうに感じられる。

 

赤松は首をかしげるカイザルに話す。

 

「確かに見た目は貧弱です。ですがあの艦は間違いなく戦艦よりも強い。イージス艦はまさに日本を守る、いわば『神の盾』なのです。機密も多いので詳しくは教えられませんが、少なくともあれがいれば戦艦は正直不必要な代物ともいえるでしょう。」

 

「ほう...私のような頭の固い人間には難しいが、あれが未来の軍艦の姿なのですね。帝国の軍艦もいずれあのようになるのでしょうか....」

 

感慨深げに呟く彼を赤松は黙って見ていた。

 

そして少しして、彼らは佐世保鎮守府に戻っていった。

 

同じ頃、シエリアら使節団は飛行機に乗って首都、東京に向かっていた。

 

 

 




グラ・バルカス帝国との交流は結構長くなるかもしれません。いろいろ詰め込むことがあるので....


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第43話 トップ・オブ・ザ・ワールド

佐世保鎮守府は埋め立てをして広めの飛行場を確保してます。


11月11日 午後2時17分 佐世保―――

 

コツ...コツ...と言う無機質な音が格納庫に響く。

 

音の主はカイザルとラクスタルだ。昼食後数時間の休憩を挟み、佐世保鎮守府の飛行場の隅にある格納庫の一つに足を運んでいる。そしてその横には若い男の姿もあった。

 

「おお....」

 

「ほう」

 

2人は中にあったものを見上げると思わずため息をもらした。そこには彼らからすればかなり大きい機体が収納されていた。爆撃機と変わりない大きさで、戦闘機としては相当に大きい。鋭く研ぎ澄まされた機体は針のようだ。

 

「やあ、ようこそ俺の秘密基地へ。」

 

奥の暗がりから姿を現したのは吉川、そして艦娘「夕張」と「明石」だ。どうやらここは彼らの持ち場のようだ。

 

「吉川さん、その服は飛行服ですか?」

 

ラクスタルは吉川の着ている服について尋ねる。

 

「はい、これは耐Gスーツと言います。これが無いと飛行中に意識を失ってしまうので、ジェット戦闘機に乗るには必須ですね。」

 

「なるほど...速度が速くなればなるほど重力の負担は重くなる。音速を超えるとなると、かなりの物になるでしょうね。」

 

「その通りです。まあこれを着ていてもキツいのには変わりないのですがね...当然、無いよりはずうっとマシですが。」

 

「...我々には未知の世界です。」

 

「そうですね。ですから今日は少しでも知っていただこうかと思います。今日動かすのはこの、MiG-25です。日本の物ではありませんがね。」

 

「...?他国の物を運用して問題ないのですか?」

 

「大丈夫ですよ。その国はこの世界には存在しませんから、怒る人はいませんよ。それにこいつは古いですしね。初めて飛んだのはもう50年も前です。」

 

「50年!?」

 

カイザルはひどく驚いた。日本と帝国の技術差は確か70~80年ほどと聞かされていた。このような先進的な飛行機が半世紀前のものと言われても、30年後の帝国で同じような物が作れるとはとても思えない。

 

「古いといってもとても速いですよ。最高速度はマッハ3、時速にしておよそ3600km/hですね。」

 

ラクスタルは困ったように帽子を押さえて呟いた。

 

「ははは...アンタレスの7倍...」

 

カイザルもこれにはもう笑うしか無かった。現在帝国での主力戦闘機であるアンタレスの最高速度はおよそ550km/h、改良型でも580km/hだ。そして間もなく実用化されるであろう新型戦闘機でも700km/hである。こんな化け物にどう抗えばいいんだ?何も思いつかない。

 

「まあ立ち話はこれくらいにして....乗せるのはそこの彼でよろしいですか?」

 

吉川はカイザルの隣に立つ若い男に視線を向ける。

 

「はっ...はいっ!!私はレニー・リヴァースと申します!グレードアトラスターの水上観測機パイロットを務めております!」

 

彼は若干緊張した様子で自己紹介し、これをラクスタルが補足する。

 

「若いですが優秀なパイロットです。私とカイザル大将もできるものなら乗りたかったのですが、なにぶん歳ですし、残念ながら耐えられる自信がありません。そういうわけですので、彼をよろしくお願いします。」

 

「よっ、よろしくお願いします!!」

 

「こちらこそよろしくお願いします。では、ぼちぼち準備を始めましょう。皆さんこちらへ。」

 

彼らは格納庫の奥へ入っていった。

 

 

そしておよそ30分後、説明と準備を終えた彼らは離陸の準備に入っていた。既に吉川とリヴァースは機体に搭乗している。外に引っ張り出されたMiG-25は銀の機体に派手な紅葉の模様があしらわれた特別仕様だ。

 

吉川は尋ねる。

 

「では、そろそろ行きましょうか。注意事項は覚えていますか?」

 

『はい、飛行中は首を引っ込め、背中を背もたれにくっつけ体に力を入れること、下腹部に力を入れて呼吸することです。』

 

「いいですね。それと、計器には手を触れないように。大声も出さないようにお願いします。それでは行きましょう。準備はよろしいですか?」

 

『はい。よろしくお願いします。』

 

心なしか彼の声は震えているようだった。

 

「こちらこそ。では指示が入り次第離陸しますので、心の準備をしておいてください。」

 

吉川は管制塔からの指示を待つ。そしておよそ1分後、ついに指示がやってきた。

 

『Clear For Take Off!』

 

「Roger.」

 

後部座席にいるリヴァースに告げる。

 

「出発します」

 

『は、はい!』

 

数秒後、エアインテークに空気が流れ込み、特徴的な大きい排気口から炎が吹き出す。そしてほんの数十秒で一気に加速したMiG-25は爆音と共に空へと飛び立っていったのだった。

 

「おォ、速い速い。」

 

鎮守府内のガラス張りプールで、プールサイドベッドに横たわりバカンス気分を楽しんでいた高橋は、サングラスを外して外に目をやるとこう呟いた。

 

4人の提督は全員がレシプロ機なら操縦できるが、比較的新しいジェット機を操れるのは吉川だけだ。Me262くらいなら出来なくもないのだが。一度彼の後ろに乗せてもらったことがあるが、とてもひどい目にあわされた。

 

「やはりジェット機はとてつもなく速いですね。」

 

高橋の隣のベッドで同じく寝そべっていた「霧島」も上体を起こし、そう呟いた。そして二人は会話を交わす。

 

「ああ、速いな。」

 

「うちでもジェット機を本格的に配備できないのでしょうか...?」

 

高橋はサングラスをかけ直し、もう一度うつ伏せになる。

 

「...難しいな。()()()()()があるからな。それはお前も知ってるだろ?」

 

「はあ、やっぱりそうですよね...ですがこのままだといずれやってくる古の魔法帝国?との戦いでは私たちは戦力外になってしまいます。」

 

「だよなあ。こればっかりは法が変わらないとどうしようもないよなぁ.....おい、重いぞ。」

 

いつの間にか霧島が彼の背中に重なるように乗っかってきていた。高橋のぼやきは無視し、霧島はため息をつく。

 

「私たちは日本の力であり続けなければならないというのに....」

 

 

 

そしてその様子を離れて見守っていたカイザルとラクスタルは双眼鏡をのぞき込み呟く。

 

「なんと凄まじい速度だ。それに加速も...」

 

隣に立つ「夕張」が説明する。

 

「MiG-25は離陸後一分で383km/hまで加速できますからね。高度20kmに到達するのには10分もかかりません。」

 

「ははは....別次元という言葉がぴったりだ...」

 

「カメラの中継映像がありますが、ご覧になられますか?」

 

「ええ、もちろん。」

 

彼らは建物の中へと入っていった。

 

 

 

 

一方―――

 

(ぐうっ...苦しい!!)

 

MiG-25ではリヴァースが必死に姿勢を保とうとしていた。前にいる吉川から通信が入る。

 

『いかがです、初飛行の感想は?』

 

「重力のせいで姿勢を保つのも苦しいです....」

 

絞り出すように彼は答えた。

 

『MiG-25は20kmまで上がるのに10分もかかりませんが少し速度を落としましょう。』

 

「はっ、はいっ!」

 

(いっ、いつの間にこんな高さまで!?)

 

目を開き、どうにか外に視線をやると既に彼は自分が雲の上にいることに気づいた。佐世保の町が、港がとても小さく見える。

 

「今の速度はどれくらいですか?」

 

『現在はマッハ1。秒速340m、時速にして1224kmです。』

 

(マッハ1...!!これでこんなにも苦しいのに、マッハ3で俺は耐えられるのか!?)

 

そんな事を考えていると、また通信が入る。

 

『この飛行での最高重力加速度は3~4Gです。せっかくですし、面白い体験をさせてあげましょう。』

 

なんだか猛烈に嫌な予感がして、思わず表情がゆがむ。

 

「なっ、なにを!?」

 

リヴァースがそう言ったとき、吉川は人知れずにやりと笑って操縦桿を捻った。すると機体は猛烈な回転を始める。当然とてつもない恐怖が彼を襲う。

 

「う゛わ゛あ゛あ゛っ!!!???」

 

悲鳴を上げるがどうにか耐えているようだ。スタントはこのあたりでやめ、通常の飛行に戻る。

 

「速度を上げますよ!もう少し頑張って下さい!今からマッハ2.6、4Gです!」

 

吉川はそう告げると再び操縦に戻った。

 

リヴァースは今までにない別種の恐怖に耐えながら必死に姿勢と意識を保とうとする。

 

(ううっ...!!身体中の血が絞られているようだ!!)

 

圧力によって彼の血は下半身に集まろうとし、耐Gスーツが膨らんでそこを圧迫する。少しでも気を抜けば意識が持って行かれるだろう。

 

そして数分後―――

 

リヴァースはどうにか意識を保っていた。ここで吉川から通信が入る。

 

『目標高度に到達しましたよ。外を見てください。』

 

「ううっ....。!!!こ、これは!!」

 

窓の外には巨大な星が見える。それはとても青く、何物にも代え難い美しさだった。吉川も転移してからこの高度に来るのは初めてだったため、改めてこの星の大きさを実感している。

 

「すごい....」

 

『よくここまで耐えましたね。おそらくグラ・バルカス帝国の歴史上この高さまで来たのはあなたが初めてでしょう。』

 

「はい....!!」

 

かみしめるようにリヴァースは呟く。自分が帝国の歴史に名を刻んだのかもしれないという感動にうち震えているのだ。

 

『私たちは今、正に世界の頂上にいるんです。』

 

「はい..!はい!!!」

 

約十分後、彼らはゆっくりと佐世保に戻っていったのだった。

 

 

 

その頃、東京―――

 

「はあ~~~~~~~......」

 

東京スカイツリーの展望台から首都を望む使節団は、揃ってこのような嘆声をあげていた。

 

眼下には高層ビルが敷き詰められており、遠くには白雪で化粧した美しい火山が見える。

 

(これが...日本の首都!!福岡も凄かったが、東京は段違いだ!!改めて、なんという国なのだろう!)

 

ガラスに張り付いたままシエリアは一人考える。

 

彼らは残りの約十日に日本各地を巡り、ちょっとした観光もかねて日本の技術や文化に触れる予定だ。

 

(明日はあの火山の近くまで行くのか...)

 

初めて現れた自分たちの遙か上をいく国において、彼らはある種の畏怖と興奮をもちつつ行動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 




タイトルは、物理的な頂上と、技術的な頂上をかけています。  

ジェット機の飛行シーンの描写にはまるで自信がありません....。


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第44話 交流 その4

お気に入り200いきそう...うれしい...


翌日 午前9時32分 東京駅

 

すべりこむようにホームへやってきた新幹線に帝国使節団一同は目を奪われていた。

 

 

「さあ、どうぞお乗りください。」

 

 

担当の外交官が彼らを車内へと招き入れる。数分後、発車ベルがホームに響くと、すうっと新幹線は出発した。

 

窓から移りゆく景色を、シエリアは眺める。

 

(騒音もなく、乗り心地も良い....昨日の飛行機もそうだったが、日本は交通においても、本当によく発達しているのだな...)

 

 

 

案内役の外交官、近藤が説明する。

 

 

「これから我々は山梨県に向かいます。電車を乗り換えまして、最後は車でリニア実験線に参ります。」

 

「すいません、質問よろしいですか?」

 

シエリアが手をあげた。

 

「もちろんです。何でしょうか?」

 

「ええと、その....リニア?...とは何ですか?」

 

「ああ、これは失礼しました、簡単に説明しますね。ええと、強力な磁石を使って車体を動かす鉄道ですね。」

 

これは帝国使節団にはあまり想像のつかない説明であった。

 

「なるほど...」

 

よくわからなかったが、どうせ数時間後には分かることだ。気を取り直し、シエリアはお茶を飲むのだった。

 

 

同じ頃、佐世保鎮守府―――

 

「ふう...」

 

白い煙が放たれる。

 

鎮守府に一カ所だけの喫煙所で、数少ないスモーカーが何人か集まって話に花を咲かせていた。そこには、カイザル、ラクスタル、高橋、赤松、ガングートらの姿がある。

 

「ふう~....」

 

「一誠、お前やめたんじゃなかったのか?」

 

高橋は赤松に尋ねる。

 

「ああ...確かにしばらくやめてたよ。けどもう関係ないしな。」

 

「....ふーん、そうかい。」

 

高橋はこの間の出来事を思い出す。提督全員の血液を採取し、調査を行った。すると、彼らの血液は艦娘のそれとほぼ一致していたのだ。恐らく彼らは、ある特殊な処置を施さない限りはもう死ねないのだろう。

 

(...?関係ないとは、どういう意味だ?おそらく煙草の健康への影響についてだろうが...わからん)

 

その会話を聞いていたカイザルはこんなことを考えていた。

 

 

「京介さん、ちょっと来ていただいて宜しいですか?」

 

「ん?あいよ」

 

数分後、艦娘「鹿島」に呼ばれた高橋は吸いかけだった一本をちょっぴり名残惜しそうに消すと、一足先に喫煙所から出て行った。

 

 

また数分後、ガングートも退出し、残っていたのは三人になった。赤松はもう吸っていなかったが、二人を置いていくわけにもいかないので残って話をしていた。

 

「一本いかがかな?私の好きな銘柄です。」

 

カイザルが差し出してきたそれを口に咥え、マッチで火を付けてもらう。だが赤松はちょっと深く吸い込んだだけでせき込んでしまった。

 

「あー、こりゃあずいぶん強いやつですね...」

 

息を整えて呟く。

 

「お口にあいませんでしたかな?」

 

「いや、少し強く吸い込んでしまっただけです、ゆっくり吸えば....ほら、このとおり大丈夫です。」

 

そう言って笑顔を見せると、カイザルも安心したように煙を吐き出した。

 

「良かったです。日本は喫煙者が少ないのですか?」

 

「ええ、ここ10年ほどでだいぶ減った気がしますね。まああまり良いことは無いですからね...体にも悪いし。」

 

「帝国では成人は殆ど喫煙者ですよ。割合は確か...どのくらいだったかな?」

 

ここでラクスタルが会話に入ってくる。

 

「たしか男性が92%、女性が78%ほどだったかと。」

 

「おお、さすがだラクスタル君。煙草と酒は優秀なコミュニケーションを生み出す道具ですからね。」

 

「日本も昔は同じような感じでしたよ。私の父も母もどちらもそうでしたから、煙に包まれて育ったようなものですね。」

 

「はは、私もそうでした。最近は帝国でもある程度分煙は進んでいますがね。」

 

彼らはその後も話し込み、話題は移り変わってゆく。

 

「―――帝国は前世界ユグドにおいて、間違いなく最強の国家でした。転移していなければ、おそらく一年以内に世界を支配していたでしょう。」

 

カイザルの話を赤松は聞いていた。

 

「最大のライバルだったケイン神王国でも、我らに比べれば一段劣っていました。ユグドではどの国も覇権主義でしたので、何もしなければ奪われます。そういう世界だったのです。」

 

「昔の地球も似たようなものです....そしてこの世界も..我々としては平和に過ごしたいのですがね。」

 

「私とラクスタル君もそう考えています。それと、帝王グラルークス陛下も。正直なところ私は少し疲れました...それに、覇権主義はもう時代遅れだ。」

 

「ほう...」

 

赤松は今回の訪問を通して、帝国のイメージが変わりつつあった。イルネティアで初めて遭遇した時の帝国は乱暴で野心的だったと聞いていたからだ。だが現在日本に来ている帝国の人間は、皆礼儀正しく理性的だ。

 

カイザルは続ける。

 

「ですが...国内には当然頭の悪い人間もいるものです。転移直後の混乱の中、急進派と穏健派がぶつかり合っていました。陛下の御意志もあり、ひとまずは近くの国に接触を試みようとしたのです。しかし....」

 

ここで彼は軍帽の向きを直した。

 

「パガンダ王国のドグラスという男は帝国の使節団に対し終始横柄な態度であり、ついには我が国の貴族を勝手に処刑するという信じられない行動に出たのです。当然我らはこれに報復し、次に宣戦布告してきたレイフォルも滅ぼしました。」

 

赤松が口を開いた。

 

「なるほど....お互い苦労しているようですね。日本も、パーパルディア皇国に一般市民を200人ほど惨殺されました...。そしてその中には、京介....先ほどまでここにいた、目つきの悪い男です。その兄も含まれていました。」

 

「それは、なんと...お気の毒な。」

 

「....あいつが泣いてるのは初めて見ましたよ。家族を失ったのだから当然といえば当然ですが...そしてパーパルディア皇国と日本は戦争になったのです。」

 

「なるほど...」

 

カイザルとラクスタルは頷く。

 

「しかし、使節団が戻ってくるまでまだ十日ほどあるというのに、もうやることが無くなってしまいましたね....。そこで提案なのですが....」

 

赤松は一度言葉を切った。

 

「何でしょう?」

 

「せっかくですし、私たちと旅行にでも行きませんか?こんなに遠くまで来たんだから、何かしなければ勿体ないでしょう?」

 

ラクスタルはこれに思わず食いつく。彼は出来ることなら佐世保以外も見てみたかったのだ。

 

「よろしいのですか?」

 

「もちろんです。我々もやることがないし、使節団も観光はしています。これはなんだか不公平と思いませんか?こんな遠くまで送迎させられて、さらに留守番だなんて。」

 

「はは...確かにそうかもしれませんね。では、よろしくお願いします。留守番は副艦長に頼んでおきましょう。」

 

「良かったです。明後日の朝出発するので、明日必要な物を買いに行きましょう。」

 

その夜、船に戻ったラクスタルはご機嫌だった。佐世保も良い町だったが、そのせいで日本の他の場所にも行ってみたいという気持ちが出てきてしまっていたのだ。

 

艦長室でお気に入りのレコードをかけ、愛用のカメラをいじくり、少し酒を飲んで床についた。

 

翌日、提督達は必要な物を買い揃え、旅館等の手配を行った。鎮守府には艦娘がいるし、頼もしい警備の妖精もたくさんいる。何か問題があっても対処してくれるだろう。艦娘達も、たまには男だけで水入らずの休暇を楽しんできてほしいという気持ちもあり、快諾してくれた。

 

その日の夜―――

 

「明日の朝行っちゃうの?寂しいわね...。」

 

「ああ、だから今日はもう寝るよ。悪いな。」

 

吉川の私室で、彼と重巡洋艦娘「足柄」が話をしていた。暗くなった部屋で吉川はベッドに寝ころび、その隣に彼女も並ぶ。

 

「ふぁぁ...」

 

大きなあくびをして目を閉じると、足柄が話しかけてくる。

 

「何日間なの?」

 

「えーと...10日かな。」

 

「長いわね...」

 

「留守番は任せたぞ。また今度どこか連れてってやるからさ。」

 

「待ってるわ...おやすみ..」

 

「ああ、おやすみ。」

 

足柄も目を閉じた。

 

翌朝早く、森高の運転する車に乗って一行は福岡に向けて出発したのだった。

 

 

 

 

 

 




帝国の文化は70年くらい前だとしたら、喫煙率高いんだろうな、と思ってこの描写を入れました。たばこ嫌いな人はすいません。

11ヶ国会議の前にドンパチパートがあるかもしれません...相手は人間じゃないけど。


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第45話 交流 その5

結局11ヶ国会議の時期は原作と同じになりそうです...




中央暦1940年 11月13日

 

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス 日本国大使館

 

外務省統括官アルネウスと技官ベルーノはルーンポリスにある日本国大使館を訪問していた。彼らは少し前から日本が所有している「アダマン級戦艦」の買い付けの交渉を行っていた。そしてそれは既に終盤に差し掛かっており、あとはどのように運ぶかなどを決めるだけだ。

 

日本国大使の木下とミリシアルの二人は熱心に談義をしている。

 

 

「我が国としましては、できれば来年のうちに引き渡しをお願いしたいです。」

 

 

 

アルネウスがそう告げる。神聖ミリシアル帝国の誇る世界最強の艦隊「第零式魔導艦隊」は、1642年の4月に行われる先進11ヶ国会議には本拠地の港湾都市カルトアルパスを離れ、南西海域に位置するマグドラ群島沖にて大規模な演習を行うことになっている。帝国としてはそれまでにアダマン級を戦力に加えておきたいのだ。

 

 

木下も返す。

 

「移動に関しては問題ないと思われます。おそらく年明けすぐにでも可能です。ただし、こちらへの支払いが円滑に行われれば、の話ですが。」

 

これに帝国の二人は思わず姿勢を正した。世界最強の国家たる神聖ミリシアル帝国の外交官に対し、他の国の大使はいつも一歩引いた姿勢をとることがほとんどだ。例外はエモール王国とムー国くらいのものだったが、日本もそうだった。とはいっても、いちいち怯えた様子で接されてもあまり気分の良いものではない。それに、物怖じしない彼らは帝国の対等な取引相手として見合うだけの国力を持っているのだ。そういうわけで、アルネウスもベルーノも気合いを入れて交渉に務めている。

 

「それにつきましてはおそらく一ヶ月以内に決まると思います。ですので、問題はないかと。」

 

「それは良かったです。なにぶん、金額が膨大ですからね。」

 

「ええ、その通りですね....」

 

実際、戦艦1隻ともなるとその金額はとんでもないものだ。それは、日本円にして脅威のおよそ1兆円。それに輸送費など諸費を追加して合計は1兆7000万円だ。当然、国力の豊かな神聖ミリシアル帝国にとっても安い出費では無い。しかし、これによって手に入る技術等を考慮すれば決して無駄な支払いでは無いだろう。

 

結果的に日本からの引き渡しは4月に決まったのだった。

 

 

同日 午前7時半 福岡空港

 

一機のボーイング777が飛び立ってゆく。そしてそこには4人の提督とグラ・バルカス帝国の2人の軍人が乗り込んでいた。転移後は海外旅行客が増えたこともあってか、国内線はあまり混んでいなかった。

 

 

「なんだ、私たちでも乗れるジェット機があったんだなあ。」

 

「そうですね。とても快適です。」

 

機内ではカイザルがご機嫌な様子でそう呟く。そしてその隣の座席に深く座るラクスタルも答えた。

 

「日本の首都....東京までおよそ一時間半か。速いな。」

 

カイザルは胸から懐中時計を取り出し、時間を確認する。90分後.....つまり午前九時ごろには到着するのだろう。

 

「お飲み物はいかがですか?」

 

飲み物の入ったカートを押してきたキャビンアテンダントの女性が二人に声をかけ、メニューを渡す。

 

「ホットのコーヒーをお願いします。」

 

ラクスタルは迷わずにそう決めたが、カイザルはメニューをなにやら真剣な顔で見つめている。数秒後、彼はこう呟いた。

 

「私はこのオニオンコンソメスープを...」

 

およそ一分後、二人の前には湯気をたてる紙コップがそれぞれ置かれていた。

 

「ふふふ....」

 

それを一口飲むと、カイザルはこう笑った。

 

「カイザル閣下、どうされたのですか?」

 

「私の勘は正しかったようだ...こいつはうまいな。」

 

コップを持ち上げ、彼はにやりと笑う。その通り、このスープは今乗っている航空会社の名物だったのだ。

 

「良かったですね...」  

 

ラクスタルは苦笑いだ。仕事をしているときの上司と今目の前にいる男は別人なのではないか、そう思ってしまうほどにカイザルはリラックスしていた。

 

飛行機は東京へと向かっていく。

 

 

同日昼頃 ムー国領海 マイカル沖20km地点―――

 

「どうだ?」

 

『2発の弾着を確認しました!!』

 

「ほう....!!素晴らしい。」

 

観測機からの報告を受け、艦長のミニラル・オーウェンスは笑みを浮かべる。彼は少し前まで戦艦「ラ・カサミ」の艦長をしていたが、この新鋭艦「ラ・タウンゼント」へと栄転となっていた。そして現在はそのテスト航行―――もとい公試中であった。

 

「その通り。素晴らしい性能だな、ミニラル大佐。」

 

彼の隣に立つ男もうれしそうにそう呟いた。ミニラルはその男、ムー統括海軍機動部隊司令であるアルバート・レイダー少将に振り返る。

 

「レイダー少将はこの日を心待ちになされていたとお聞きしていますが、今日の感想をお聞きしても?」

 

「私は心底感動しているよ...。まさかこんなにも美しい艦に乗れるとは。正直、生きている内に神聖ミリシアル帝国に追いつけるとは思ってもいなかった。」

 

感慨深げにレイダーは言葉を紡ぐ。彼の言うとおり、前までは神聖ミリシアル帝国とムー国では、船の技術においておよそ3~40年ほどの開きがあると見積もられていた。それが日本からの技術支援により一気に近づいた。列強同士、表面上の諍いは無くとも裏では常に技術を争っているものだ。こういったわけで、彼らはいつになく興奮している。

 

「仰るとおりです。....おっと、時間です。次は日本が()()を見せてくれるようですね。」

 

ミニラルが腕時計を見てレイダーに告げる。

 

「おお、そうか....。例の『魚雷』というものか。」

 

二人は艦橋から出て、標的艦の方へと視線を向ける。

 

その時、爆音を響かせ、「ラ・タウンゼント」の上を4機の単葉機が通り過ぎていった。そしてそれは低空で一直線に標的艦を目指す。

 

「あれが....日本の雷撃機か。やはり単葉機...それに、とても洗練されているな....。美しい。」

 

その雷撃機は、少し前にムーへやってきていた空母「アーク・ロイヤル」に載せられていた「ブラックバーン・ファイアブランド」だ。"艦上戦闘雷撃機"という非常に珍しい仕様を持つ飛行機である。名前の通り魚雷を積む事が可能で、単座であり戦闘機としても使用できる。ちなみに、かつての戦争には間に合わなかった悲劇の機でもあった。

 

『投下!』

 

4機のファイアブランドは標的艦に向かうと、それぞれの魚雷を投下した。4本の魚雷は航跡を引きながら標的艦に全て命中、巨大な水柱があがる。数分後、大量の浸水が発生していた標的艦は、いともあっさりと海にその姿を消した。

 

「.....!!!なんと!!旧式艦とはいえ、戦艦がこうも簡単に沈むとは.....!!!」

 

「ううむ....!!!これは..!!!」

 

 

その様子を双眼鏡で伺っていた二人には驚愕と感嘆の表情が浮かんでいた。彼らに、いやムーの軍人にとって、"航空機では軍艦は沈められない"というのが常識だった。日本から事前に話を聞いていたとはいえ、いざ目にしてみれば彼らの常識は音を立てて崩れ落ちていった。航空機が軍艦の脅威になるのはもはや間違いないのだろう。

 

レイダーは一呼吸整え、こう呟いた。

 

「恐ろしいものだが、味方であれば心強いことこの上ないな。なるべく速く実用化できるように、開発資金を増やすよう上にかけあってみよう。」

 

ミニラルも返す。

 

「ええ、間違いありません。それに我らは魚雷に対する回避訓練やもし被雷したときの対策を考えねば。」

 

 

後日、ムーでは一刻も早く魚雷を開発、実用化できるように研究者たちが精を出すのだった。

 

 

そして同日、トーパ王国 王都ベルンゲン―――

 

「うむむ...困ったものだ。」

 

国王ラドス16世は頭を悩ませる。以前に日本国陸上自衛隊の活躍によって危機から救われていたこの国だが、最近再び魔物の活動が活発になっているとの報告があった。魔物が少なくなったため、比較的安全だと思われていたグラメウス大陸の鉱山資源等の調査に向かった人間が大型の魔物に襲われかけるという事件も勃発していた。

 

「残念だが、我々に出来ることは少ない...情けない話だが、もう一度日本に助けを求めるべきか.......。」

 

国王の言葉に部下達も同意する。

 

「よろしいかと思われます。日本にとってもグラメウス大陸の資源は気になっているはずです。それに、海魔も出現しており、漁に影響が出ています。こうなると日本への海産物の輸出量が少なくなってしまうと思われます。」

 

「うむ、その通りだな。援助を要請することにしよう......。」

 

後日、年明け頃にトーパ王国は再び日本へ救いを求めることになるのだった。




せっかくなので、本作に登場するグラ・バルカス帝国のオリジナル軍艦の情報を軽くメモしておきます。艦級及び艦名は天体をモチーフにしています。本編に名前が登場したもののみ載せておきます。後々この他にも色々登場させる予定です。

原作にはまだ描写がありませんが、アメリカなみの国力らしい帝国がヘルクレス級とグレードアトラスター級の間に何も作ってない、というのは少し違和感がありまして...仮に軍縮条約とかがあったとしても、アメリカレベルだったならあんまり影響を受けてないんじゃ、とも思いました。

戦艦

・オリオン級戦艦 
 5番艦アル・マーズ

・ヘルクレス級戦艦 
 4番艦デュトワ・デルポルト

・エル・ドラード級戦艦 
 2番艦エル・ヴァーゴ

備考:ヘルクレス級より大きく、砲塔も一つ多いことから、おそらく天城型や加賀型に相当する戦艦だと日本は推測している。同型艦と思われるものは衛星写真によって確認されている限りでは18隻が存在。帝国本土の他に、レイフォルやパガンダにも姿が見られる。

・シグナス級戦艦 
 3番艦ジャコビニ・クレサーク

備考:もともとはグレードアトラスター級の案の一つで、46cm砲の開発に失敗したときのことを考えた物だったが、結局グレードアトラスター級と並行して建造された。41cm三連装砲を4基装備しており、グレードアトラスターと並ぶ優秀な性能を誇る。日本における肥前型戦艦とよく似ている。確認されている限りでは4隻。

・グレードアトラスター級戦艦 
 2番艦ヴォルフ・ハリントン

備考:ご存じ、グラ・バルカス帝国の誇る巨大戦艦。少なくとも5隻の存在を確認。そのうち1隻は連装砲を搭載しており、51cm砲の存在を疑われている。

巡洋艦

・ラインムート級重巡洋艦

備考:グラ・バルカス帝国の最新鋭重巡洋艦。203mm三連装砲を4基装備し、対空戦闘・速度・火力に重きを置く。日本における蔵王型重巡洋艦に類似している。同型艦と思われるものは現時点で3隻。


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第46話 交流 その6

今回は各国の動き?が多めです。交流要素は少な目。


翌日昼頃、ムー統括海軍 マイカル基地―――

 

「ふーん.....」

 

海軍基地の中にある大きな格納庫で、マイラスが唸っていた。彼の目の前には数々の航空機が軒を連ねており、それらは全て日本から無償譲渡されたものだ。ムーが日本から購入する航空機のサンプルたちである。マイラスからすれば、眼前の航空機は非常に先進的に見えるが、ジェット機を主力とする日本国自衛隊からすればこれらの航空機はただの型落ち品に過ぎないのであろう。改めて彼は、日本の強さを認識する。

 

ずらりと並べられたそれらの飛行機をマイラスは昼食をとるのも忘れて、かれこれ3時間も観察していた。

 

 

「これは...."ノースアメリカンP-51"、という戦闘機か。液冷式エンジンは、空気抵抗が少なそうだな。」

 

手渡されたカタログをパラパラとめくり、該当ページに見入る。およそ100機近い航空機の情報が表記されており、その内のどれでも日本に発注することができる。明日にはムー統括軍の士官や技術者らが多数集まり、これらの航空機を見学する予定だ。

 

「そしてこちらは....デカいな。えーと...?"リパブリックP-47"か。大きい上に重い.....。被弾には強そうだ。うーん....」

 

彼は一人考える。

 

(だが、上が欲しがるのは、おそらく艦上戦闘機だろうな....。陸上機も当然手に入れたいが、予算が足りない....)

 

「と、いうことは.....」

 

マイラスは場所を少し移動する。そこには様々な艦上戦闘機が並べられていた。彼はそれらのデータを見比べ、物思いに耽る。

 

(零式艦上戦闘機....運動性能が非常に高いらしい。そして、グラ・バルカス帝国のアンタレス戦闘機はこれによく似ているとの情報があった。恐らく、性能も多少近いものがあるだろう。と、いうことはマリンでこれに対抗するのは不可能だな....。)

 

「うーん....」

 

今日の彼はずっとこのような調子だ。機体を舐め回すように見つめては、何か考えながらその周りを歩き回る。

 

(無理に機体を購入しなくとも、エンジンの供与や、設計図の購入というやり方もある。本当はそのほうがいいが、今のムーにこれらをうまくコピーできる技術があるとは到底思えない...。残念だ。そして、隣のこの戦闘機は...)

 

「美しいな....」

 

「シーファイアがお気に召されましたか?」

 

零戦の隣に停められていた、銀色が眩しいその戦闘機に手をふれていると後ろから誰かに声をかけられた。マイラスがはっとして振り返ると、そこには艦娘「ロイヤル・オーク」が籠を手に立っていた。

 

「これは、『ロイヤル・オーク』さん。失礼しました....」

 

彼女に気づかなかったことを詫びると、彼女は微笑みを浮かべた。

 

「いえいえ、ただ今参った次第ですので、お気になさらず...マイラスさん、お昼を食べていないでしょう?簡単な食事を持ってきましたので、一緒にいかがですか?」

 

「あっ....はい、ありがとうございます!」

 

二人は床にシートを広げ、いそいそと食事の支度をする。大きなレジャーシートの上には、やはりというべきかサンドイッチの入ったボックスと熱い紅茶が注がれたカップがあった。

 

「先ほどの答えですが...とても気に入りましたよ。」

 

サンドイッチを食べながら二人は会話を始める。

 

「嬉しいです。...."スピットファイア(かんしゃく女)"は我が大英帝国の誇り、ですから..。」

 

「確か、その戦闘機は元々陸上用なのですよね?」

 

「はい、その通りです。とても優秀だったので、艦上機にも転用されたのです。もっとも、欠点もあるのですが....お分かりでしょうか?」

 

試すような質問にマイラスは少し堅い表情になる。しかし彼はシーファイアを監察した上で、気になった点があった。

 

「....あのように主脚の幅が狭いとなると、空母での着艦が難しそうに私には思えます。」

 

「ご名答です!さすがですね。」

 

素直にほめられて、マイラスはなんだか照れくさそうだ。

 

「その通り、性能は言うことなしですが、主脚の幅がとても狭いので空母での着艦が難しいのです。」

 

「なるほど、説明ありがとうございます。」

 

その後も二人は食事をとりつつ話しあっていた。

 

「ふあぁ....」

 

食事を終えてから少しして、マイラスは大きなあくびをした。ロイヤル・オークが少し心配そうに尋ねる。

 

「眠いのですか?」

 

「失礼しました...ここ一週間ほど仕事ずくめで、あまり睡眠時間がとれていないのです。」

 

「それはいけません。仕事熱心なのはよいことですが、それ以上に自分の体を大事にせねばなりませんよ。」

 

諫めるように言われて、マイラスは肩をすくめた。だが彼女の言うことは正しいのだからどうしようもない。

 

「はい、すいません。」

 

「よろしい。日本では働きすぎて死んでしまう人がいます。それを"過労死"といいます。そうならないように、きっちりと休息はとってくださいね。」

 

「わかりました....」

 

その夜、彼女の言いつけ通りマイラスはいつもより早く床についたのだった。

 

 

グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

急進派、もとい過激派議員の筆頭的存在である男、ギーニ・マリクスは帝王府に呼び出しを食らっていた。

 

「ですが陛下!!帝国の悲願である世界征服を、なぜあきらめようとなさるのですか!!それも、この世界の蛮族と友好関係!?私には理解できません!」

 

彼は帝王グラルークスの目の前で萎縮しつつも、必死に自分の意見を述べる。

 

「それに、この世界の国々は恐ろしく弱い!!だからこそ、我らがか弱い蛮族を統治すべきなのです!!医療も、技術も、我が国の方が上です!」

 

実際は植民地化された土地の人々は悲惨な扱いを受けている、ということは棚に上げている。

 

グラルークスはギーニを睨みつける。

 

「マリクスよ。なぜこの世界に我々より強い国は存在しないと言い切れる?」

 

「....あのレイフォルなどという国が列強などというのなら、その他の国も大したこともないかと。」

 

「例外はないといえるのか?」

 

「....神聖ミリシアル帝国とやらは、我々と同レベルの技術を持っていると思われます。ですが、数は多くありません。せいぜいケイン神王国程度の脅威でしょう。」

 

「.....日本については?」

 

「技術においては、我が国と同等以上のものがあるかも知れませぬ。ですが、軍事力も少なく、食料自給率も低いような国は、それを支えている国を崩せば簡単に落ちます。」

 

グラルークスはため息をついた。

 

「.....そうか、もう良い。下がってくれ。」

 

「はっ。失礼しました。」

 

部屋を出たギーニは考える。

 

(くそっ!もう陛下を説得するのは不可能か!不本意だが、やむを得まい。)

 

彼は帝王府を出て、別の建物に入っていった。

 

「失礼します。」

 

ノックをしたが返事は帰ってこない。いつものことなので、ギーニは気にせず入室した。

 

「うっ...」

 

彼は顔をゆがめる。香水と、その他様々な体液の混ざったような匂いが鼻をつくからだ。それに、奥からはくぐもった嬌声が聞こえてくる。

 

できればこんな所からはすぐにおさらばしたいところだが、そうもいかない。意を決して暗い部屋の奥へ目をやり、大声でその男を呼ぶ。

 

「殿下!皇太子殿下!どちらにいらっしゃいますか!」

 

「....何だ、貴様か。」

 

奥から姿を現したのは、第二皇太子のグラ・アデルだ。兄のグラ・カバルと同じく、背が高くがっしりとした体躯の、まさに美丈夫といった風体をしている。といっても、中身は別だ。

 

「で?親父の説得には成功したのか?」

 

「....いえ。残念ながら....」

 

裸体のままのアデルを前に、ギーニは思わず目を背けたくなるが、そんなことは出来るわけもない。

 

「はっはっはっは!!!だろうな!!親父も老けたのさ!!―――なあ、そうだろう?」

 

「はっ、はい!!仰るとおりでございます!!」

 

「親父は老け、兄貴は弱腰―――人の上に立つのは、強い男でなくてはな。」

 

「はい!次期皇帝の座はアデル殿下のものです!」

 

「そうだ、その通りだ。....その時になったら、よろしく頼むぞ。」

 

「はい、お任せください。」

 

「ご苦労、もう戻って良いぞ。ああそうだ、前にお前が連れてきたレイフォルの貴族の女だが、なかなか良かったぞ。」

 

「ありがとうございます。失礼します。」

 

部屋を出て、ギーニは自分の仕事場へと戻っていく。

 

(あのクソバカ皇太子め...戦争と女にしか興味がないのか!?....まあいい、せいぜい踊らされるがいい。事が済んでしまえば、お前はお払い箱だ。)

 

その思いを胸に、彼はほくそ笑むのだった。

 

 

その日の夜、日本国 首都東京―――

 

「「「「かんぱ~い!!!」」」」

 

4人の提督は慣れた様子で、そしてグラ・バルカス帝国の2人は少しぎこちない手つきでグラスを交わした。そして吉川はなんと一口で大ジョッキのビールを飲み干し、もうおかわりを頼んでいた。

 

「おいおい、もっと落ち着いて飲めよ。」

 

「何言ってるんだ?ビールなんざ水と同じさ。」

 

呆れる赤松を横目に吉川はとにかく飲むのだった。

 

「おお、冷えたビールはうまいな。」

 

「はい、とてもおいしいです。」

 

「くくく、ラクスタル君...。その顔で真面目な事を言われても...」

 

「はい?私の顔になにか?」

 

「「「「....あっはっはっは!!!」」」」

 

 

カイザルも豪快に飲んでいる。そしてその横で顔に見事な白ひげをつけたラクスタルを見て、全員が笑ってしまった。

 

当然、カイザルとラクスタルは帝国本土に不穏な空気が流れてきていることに気づくはずも無かった。

 

 

 

 

 




と、いうわけで帝国の不穏分子が登場しましたね。原作よりも強化されてるので、自信があるのも無理もないのかもしれませんが......


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第47話 交流 その7

めっちゃ今更なんですけど、本作ではゲームにおける「改二」に該当するものはありません。改装は行うこともありますが、扶桑型を航空戦艦にしたり、とかも多分無いです。ただし、容姿については最初っから改二かな....?そっちの方がかっこいいし。


11月14日 佐世保鎮守府―――

 

「はあ~~....。」

 

「暇ですわ.....。」

 

「退屈デース....。」

 

提督のいない執務室のソファに座る艦娘達はぐったりとしていた。とは言っても、疲れているわけではない。単純に提督達がいないのが寂しいだけだ。一日目はどうにか耐えたが、二日目にはちらほらこのような艦娘が現れはじめ、三日目にはほぼ全員がこうなった。普段、何か作戦があったとしても、誰か一人は留守番で残っていることが多いので、佐世保に誰もいないのは非常に珍しいことだ。というわけで、まるでお通夜のようなムードになってしまっていた。

 

「まあまあ皆さん、しんみりしていても何も変わりませんよ....お茶にしましょう。」

 

部屋に入ってきた「鳳翔」が優しく喝を入れる。彼女がお茶を入れ、そこにいた3人のところへ運んできた。

 

「鳳翔さんは大人ですわね....。」

 

「熊野」が羊羹を食べつつ呟く。

 

「私だって寂しくないわけではありませんよ?ですが、提督達に心配をかける訳にはいきませんから。」

 

「その通りですわ.....。」

 

「それに、今遠征にでている子達は、見知らぬ土地で頑張ってくれています...私たちは日本にいれるだけ恵まれているのかもしれません。」

 

その頃、別室では「大淀」がパソコンを開き、誰かと話をしていた。画面に映る相手の男は、防衛大臣の川島雄一だ。

 

「やあ、大淀君。佐世保の皆は元気にしてるかい?」

 

「ええ、皆元気です。川島大臣はいかがお過ごしでしょうか?」

 

簡単な挨拶をしただけだが、大淀の表情は明るい。艦娘達を裏から支えてくれた男ということもあり、彼女たちが提督以外で唯一心を許しているといってもいい存在が川島だった。

 

「元気だが、あまりのんびりもしていられなくてね。悪いが、早速本題に入るよ。」

 

「はい。」

 

「先日、トーパ王国からSOSが来てね。以前に陸自が魔王を排除したのは知ってると思うけど、また魔物が増えてて危ないんだとか。海魔も出てきて、漁業にも影響が出ている。日本としてもこれは困る。というわけで、また君たちに一働きしてもらいたい。」

 

「...トーパ王国にいる艦娘達に依頼をすればよろしいでしょうか?」

 

「うーん、詳しいことがまだ分からないのだけれど、それだとちょっと戦力が足りないかもしれないね。」

 

「...!?そんなに大事なのでしょうか?」

 

「まあ、詳細な情報が入り次第追って連絡するよ。まあ、年明け後少ししたくらいかな。」

 

「分かりました。」

 

「うん、よろしく頼むよ。あっ、それともう一ついいかい?」

 

「はい、もちろんです。」

 

川島は尋ねる。

 

「....提督達の身体の変化についてどう思っているかい?」

 

「...それは...私たちと近い存在になっていたことについてでしょうか。」

 

「うん、そうだよ。出来れば正直に教えてほしい。」

 

大淀は一呼吸置くと、自身の素直な思いを、しっかり話した。

 

「....信じがたいことではありますが、今更何も驚くことではありません。.....それに、あの人たちと一生を添い遂げられるというのなら、それを上回る光栄はありません。正直、私たちは他の人についていく気はあまりありません....。これは私個人のものでは無く、艦娘全員の意志と思っていただきたいです。」

 

川島はこれを聞いて、にっこりと笑った。

 

「......良かった。彼らの後継者は今のところいない上に、君たちがそう思っているのなら問題はない。理由はわからないが、長年一緒にいたからかもしれないね。....私がいつまで君たちを支えられるかは分からないが、出来る限りのことはするつもりだ。....話してくれてありがとう。失礼するよ。」

 

通話が終わり、画面が暗くなった。大淀はパソコンを閉じて、誰もいない部屋で目を閉じる。

 

彼女は、いや艦娘達は怖かった。転移の前、初めて出会ってから8年、24歳の若者だった提督達は32歳になっていた。たった8年で人は驚くほど変わってしまう。一方、艦娘は年をとらない。とることができない。そのため、彼女たちは置いて行かれるような不安にさいなまれていた。自分が提督と一緒に年をとれないことに負い目を感じた。

 

それよりも、いつかくる別れがどうしようもなく怖くて、寂しかった。大好きな提督と離ればなれになるのは、自分が死ぬことなんかよりもずっと嫌だった。それを考えただけで涙が出てきて、眠れない夜もあった。

 

けれどもそれを打ち明けるわけにもいかなかった。深海棲艦との戦いが終わったあとも、彼女たちは提督と離れたくなかった。

 

だからこそ、本当に、心の底から嬉しかった。また戦えること、そしてまた提督と一緒にいられることを、信じてもいなかった神に感謝した。

 

だから..........。

 

「よし!」

 

大淀は立ち上がると、部屋を出ていく。彼女たちは、最期まで提督と共にいると誓ったのだった。

 

 

 

同日昼頃、再び執務室―――

 

「帰投しました。」

 

「お疲れさまです。どうでしたか?」

 

キング・ジョージV世級戦艦「アンソン」とポルタヴァ級戦艦「ポルタヴァ」が模擬戦を終えて戻ってきた。そしてそれを執務室にいた面々が迎える。

 

「私が負けました...とほほ...」

 

がっかりしている様子のアンソンをポルタヴァが心配そうに見つめていた。

 

「アンソンさんの主砲が詰まっちゃいまして....第二砲塔しか使えなかったんです。同じ356mm砲を、9門と2門じゃ勝負にならないのは仕方ないです....。」

 

ポルタヴァが説明してくれた。

 

「あらら....またですか...」

 

キング・ジョージV世級戦艦の主砲には問題があった。第一及び第三砲塔に複雑な構造の四連装砲を装備した事で、それによる弾詰まりが頻発していたのだ。

 

「うう...悲しいです...私たちは大英帝国の誇る世界最強の戦艦だって...チャーチル首相が言ってたのに...。」

 

アンソンはすっかり自信を無くしてしまっているようだ。

 

「まあまあアンソンさん、落ち着いて...外は寒かったでしょう、お茶をどうぞ。」

 

「ありがとうございます.....。」

 

「あ、どうも。」

 

二人は、鳳翔が淹れてくれた緑茶を飲む。

 

「緑茶もおいしいですね....。」

 

アンソンはやっと笑顔を見せてくれた。

 

「私は風呂に入ってきます。」

 

ポルタヴァは疲れを癒すべく、風呂に向かっていった。その一方で、アンソンはこたつで休んでいる。

 

「私にも...活躍できる時が来るのでしょうか....?」

 

彼女の問いに、大和が答える。

 

「大丈夫、きっと大丈夫ですよ....提督が帰ってきたら相談してみましょう。」

 

「ありがとうございます....。」

 

みかんを食べつつ、大和は提督達のことを思う。

 

(帰りが待ち遠しいですね....。)

 

 

その頃、東京駅―――

 

「ぶえっくしょい!!」

 

吉川が大きなくしゃみをしていた。

 

「おいおい大丈夫か?風邪か?」

 

「誰かが俺の噂話をしてるな。まったく、人気者は辛いぜ.....。」

 

「はいはいわかったわかった。そんじゃまた後でな。」

 

「あいよ、じゃあ七時にまた東京駅で。」

 

ここで吉川が一端別れた。そして、他の面々は横須賀線のホームへ向かう。

 

「彼はどこへ?」

 

「友人と会うそうです。」

 

「なるほど...」

 

カイザルの質問を森高が拾った。彼らは横須賀線に乗り込み、終点の横須賀駅に向かう。

 

およそ二時間後―――

 

 

「大きい...!!!」

 

横須賀駅の改札を出てすぐに彼らを迎えたのは、海上自衛隊唯一の航空母艦「おわり」だった。全長328mの巨体は見る物を圧倒する。

 

「ああ~~、久しぶりの横須賀だあ。」

 

赤松は嬉しそうだ。

 

「...まだ時間がありますね。せっかくなので『三笠公園』にでも行きましょうか。」

 

彼らはヴェルニー公園を通って三笠公園へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

「これが戦艦『ミカサ』..."日本の英雄"か。」

 

戦艦三笠を見て、ラクスタルはそう呟いた。もう100年以上も昔の船らしい。グラ・バルカス帝国の二人から見ると、4~50年ほど前の戦艦と似ている。

 

「...残念ながら今日は開いていませんね。少し早いですが、もう行きましょうか。」

 

「分かりました。」

 

 

 

数分後―――

 

「ん?あれは....慰霊碑ですか?」

 

カイザルは、道の外れにある石碑を見つけた。そしてそこには軍艦を象ったレリーフがついている。

 

「その通りです。戦艦長門と...山城の慰霊碑です。」

 

「....手を合わせても?」

 

「もちろんです。」

 

5人は慰霊碑に手を合わせ、少しの間目を閉じる。それが終わると、彼らは米国海軍横須賀基地へと向かっていった。

 

 

その頃、東京都某所―――

 

「久しぶり~~。」

 

吉川はとある中華料理店の個室に入ると、中にいた二人の男に声をかけた。

 

「コウスケ!久しぶりだな!」

 

「やあコウスケ!元気にしてた?」

 

「俺ぁいつも元気さ!どうだい調子は?」

 

吉川もテーブルに座り、話を始める。相手は、彼の大学時代からの友人であるジャック・リーとダニエル・パークだ。名前から何となくお分かりになるかもしれないが、二人は中国人と韓国人だ。およそ十年前に日本の大学で留学生として学び、転移の前に日本に出張に来ていた。そして、運の悪いことに祖国へ帰れなくなってしまっていたのだ。

 

「僕は、日本の会社が雇ってくれたから何とかうまくやってるよ......。」

 

「僕の会社も、日本の提携企業と協力することになったよ。本社は中国にあるからどうしようもないね...。」

 

転移後、彼らを含め日本にいた外国人は非常に苦労していた。政府は、彼らの雇用増加政策や留学生の生活援助などを決め、どうにかつないでいた。最近では日本製品の需要が増えたことで、雇用もされやすくなっている。

 

韓国人のパークは日本での企業に雇用され、中国に本社を構えるIT系企業に務めていたリーは提携していた会社の援助によりそれぞれ窮地を脱していた。

 

「とりあえず仕事は出来てるのか、良かった...けど家族と離れたのは辛いだろ?」

 

「そりゃそうさ!帰れるのなら帰りたいよ。けど、いじけててもどうしようもない。僕は今度ムーに行くよ。向こうで取引をするんだ。」

 

「僕も頑張らなきゃね!この世界でも成功して見せるよ!」

 

元気そうな様子を見れて、吉川は安心した。

 

「頼もしいね。お互い頑張ろうぜ。」

 

「ああ、もちろんさ!」

 

「コウスケも頑張れよ!じゃあ、それぞれの成功を祈って.....乾杯!」

 

「「乾杯!!!」」

 

昼だったので酒は頼まなかったが、ソフトドリンクの入ったグラスで乾杯をした。ひとしきり語り合った後、吉川は二人と別れて再び提督達と合流したのだった。

 

 

 

 




....というわけで、原作ではあまり触れられていなかった在日外国人の方達の様子について軽く書いてみました。

なお、本作には政治的思想は一切関係ありませんので、現実世界での問題等に言及するのはおやめください。よろしくお願いします。

次回は米軍横須賀基地を見学します。


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第48話 交流 その8

USA!!!! USA!!!!


11月14日 午後3時 神奈川県横須賀市

 

「少し待っていてください。」

 

 

門の前につき、赤松が門番になにやら話しかけている。そして少しして、重そうな門が開けられた。カイザルとラクスタルは少し身構える。昔の戦争で日本を焼き払い、圧勝した、アメリカという国。日本がいた世界での最強の国の一つと聞かされていた。看板に書いてある字は読めないが、おそらく"関係者以外立ち入り禁止"といったようなことが書いてあるのだろう。

 

 

門を通り抜けた瞬間、空気が変わったのを肌で感じた。

『この中は日本の領内にあるだけで、日本ではありません。』と、先ほど赤松が言っていたのを思い出す。

 

 

少し行くと、奥から一人の大きな男が歩いてきた。そして彼はこちらに来ると、赤松とハグを交わした。これにカイザルとラクスタルは思わずぎょっとしたが、異国の文化に文句を言うのは失礼だと、すぐに表情を戻した。

 

 

赤松とその男、ダニー・ハリス中佐はお互い笑顔だ。友人との久しぶりの再会を喜んでいるようだ。

 

「Issei!!! It's great to see you again!!!!!(久しぶりだな!!!会えてうれしいぜ!!!) How's it going?」

 

(次のせりふからは日本語で書きますが、本人達は英語で話しています。)

 

「めちゃ元気さ!!ダニー、奥さんとうまくやってるかい?」

 

「Of course!!! アイオワちゃんは元気にしてるか?」

 

ハリスはかつて横須賀鎮守府に在籍していた戦艦娘「アイオワ」と仲が良かった。横須賀鎮守府は在日米軍基地とも時々交流をしていたこともあり、赤松やその他艦娘達の顔を知っている者ばかりだった。

 

「ああ、ファッキン元気だぜ!!最近妹も誕生したからな!!」

 

「手紙で読んだぜ!アイオワ級に、モンタナ級までいるんだろ!?いつかヨコスカに連れてきてくれよ!!」

 

「それいいかもな!!相談しとくよ!!」

 

 

 

やたらとテンションの高い話が終わるのを他の面々は黙って待っていた。

 

「...彼らはいったいどんなことを?」

 

「...まあ、簡単な世間話ですね。」

 

「それにしてもずいぶんと楽しそうですね。」

 

 

 

 

「おっと、お客さんがいるのを忘れてた。ついてきてくれ。イッセー、通訳頼むぜ。」

 

「あいよ。」

 

数分後、やけに騒がしい立ち話を終えた二人は、待っていたカイザル達を司令官室に連れて行った。

 

 

コンコン、とノックをすると、すぐに「Come in.」と聞こえてきた。ハリスはドアを開けて全員を部屋に入れ、中にいた男に敬礼する。

 

 

「大佐、お客様を連れてきましたよ!」

 

「ご苦労。....イッセイ、久しぶりだね。」

 

椅子に座っていた男、ジャスティン・リンドバーグ大佐は席を立ち、こちらに歩いてきた。

 

 

「お久しぶりです、リンドバーグ大佐。」

 

 

「それで...このお二方が、例のお客さんかな?」

 

「はい、そうです。グラ・バルカス帝国の方々です。」

 

リンドバーグはラクスタルとカイザルに向き直り、手を差し出して自己紹介する。

 

「初めまして、グラ・バルカス帝国の方。私はここの司令官を務めているジャスティン・リンドバーグと申します。階級は大佐です。」

 

「初めまして、リンドバーグ大佐。私はラクスタル・マクヘンリーと申します。戦艦『グレードアトラスター』の艦長をしています。階級は大佐です。」

 

「お初にお目にかかります。私はカイザル・ローランドと申します。階級は大将です。」

 

赤松の通訳を挟み、カイザルとラクスタルも挨拶した。それを聞いたリンドバーグは少し驚いた顔をしていた。

 

「あなたが例の"Yamato"....いや失礼、"Grade Atlastar"の艦長ですか...にしても、大将とは...冗談ではないですよね?」

 

「ええ、もちろんです。」

 

「そうですか....。とにかく、会えて光栄です。早速ですが、うちの大統領を見学していただきましょう。」

 

「.....大統領?」

 

「ええ、"George Washington"はうちの空母の名前です。アメリカ合衆国の初代大統領の名前です。」

 

「空母ですか!かつての大統領の名前を付けているのですね。」

 

「そうです。質問なのですが、グラ・バルカス帝国の軍艦にはどのような命名規則があるのですか?」

 

リンドバーグの質問にカイザルが答える。

 

「帝国の軍艦の名前の由来は...戦艦は過去の英雄の名前や地名、空母は過去の戦場、巡洋艦は山や川の名前、駆逐艦は軍人の名字や星の名前、といったところですね。ただし、例外もそれなりにありますが。たとえば『グレードアトラスター』は人名ではなく、"栄光を掴みし者"という意味です。これと似たような名付け方をされている空母や戦艦もあります。『バルサー』は"戦争を調停する者"、『ラス・アルゲティ』は"戦争を嫌い、蔑む者"などですね。」

 

「へえ...そうだったんですか。『Warspite』と似てるな。」

 

これは日本側からしても初耳であった。

 

「説明ありがとうございます、では行きましょうか。今日の仕事はもう終わらせたので、私とダニーがご案内します。」

 

そして、彼らは部屋を出ていった。

 

 

港までは少し距離があるため、雑談をしながら歩いていく。

 

「なあイッセー。そういや『オワリ』は見ただろうけど『キイ』は今ドックにいるよな?彼ら、運が悪かったな。」

 

ハリスの質問に赤松は答える。

 

「ああ違うんだ、上から『きい』は見せない、という判断がおりたっぽくてさ。だからこのタイミングで点検してるんだ。自衛隊は一隻だけ戦艦を保有している、ということだけ伝えてる。」

 

「ふーん...そうなのか。」

 

 

数分後、彼らの前にそれは姿を現した。

 

「おお....!!!」

 

「これも大きい....!!」

 

リンドバーグは立ち止まり、振り返る。そして後ろに控える巨大な空母を親指でさし、こう言った。

 

「こいつが、空母"USS George Washington"です。どうぞ、こちらへ。」

 

彼らはタラップを上がって、中へと入っていった。

 

 

 

 

「広い....」

 

数十分後、カイザルらは飛行甲板の上にいた。グラ・バルカス帝国海軍の主力空母である「ペガスス級」よりも二周り以上は大きい船体と甲板を持っている。そして最近就役したばかりの最新鋭装甲空母「カプリコーネス級」でも全長は大きく劣る。そしてその甲板の上には多数のジェット戦闘機が誇らしげに軒を連ねていた。

 

カイザルはリンドバーグに尋ねる。

 

「この空母は我々から見ると、少し変わった形をしているように見えます。ジェット戦闘機を運用するのにはこのような形が最適なのですか?。」

 

赤松は通訳に難儀しつつもそれを訳し、どうにかリンドバーグに伝える。彼は通訳を引き受けた事を少し後悔していた。カイザルがずっと質問をするのでそれを英語にするのに疲れたからだ。そしてそれを後ろにいた高橋は巻き込まれないように息を潜めていたのだった。

 

 

一方、甲板の別の場所では、森高とハリス、ラクスタルが何かを見学していた。

 

「これは....機関銃の類....ですよね?見たところ数が少ないのですが、これで間に合うのですか?」

 

「ええ、もちろんです。足りるからこそ、これだけしか載せていないんですよ。」

 

その言葉の意味をラクスタルは噛みしめる。自分たちの常識は彼らには通じないのだ。どう考えたところでそれらしい答えが見つからなかった。

 

(機関銃の弾が目標を追いかける....いやいや、そんな恐ろしい物があってたまるか。それに、それならば対空火器は一つで十分だろう。)

 

ふと脳裏をよぎった恐ろしい考えを振り払い、ラクスタルは軍帽の向きを直した。

 

 

 

およそ一時間後、「ジョージ・ワシントン」の見学を終えた彼らは、基地の中にあるカフェで休憩をとっていた。

 

「....いかがでしたかな、私たちの艦隊は?」

 

レモネードを飲みつつ、リンドバーグはカイザルに尋ねる。その隣では、ハリスが名物のシナモンロールにありついていた。それには、クワ・トイネ公国産のシナモンがふんだんに使われている。

 

「チキュウで最強の国の戦力をお目にかかれて光栄です。質問なのですが、ここの軍隊は有事の際には行動するのですか?」

 

「私たちは、基本的に本国の指示があるまでは動きません。尤も、その本国はいなくなってしまいましたが...ですが、自衛隊との合同訓練等は引き続き行いますし、もちろん攻撃を受ければ反撃はします。」

 

「なるほど...ありがとうございます。」

 

 

その隣のテーブルでは、赤松がぐったりした様子で座っていた。さすがに可哀想だったので、森高が通訳を交代していた。

 

「はあああ、疲れた....」

 

「お疲れさん。お、来た来た。サンキューサンキュー。」

 

向かい側に座る高橋は、ウェイトレスからシナモンロールとコーヒーを受け取るとご機嫌な様子でかぶりつく。

 

「うまい!....けど甘いな。さすがアメリカ。」

 

赤松もレモネードを飲む。

 

「はあ、明日からやっと観光かあ。疲れたぁ~。」

 

 

 

 

この後、午後4時頃に横須賀基地を出た彼らは、再び東京で一泊し、翌日早朝、北海道へ向かったのだった。

 




グラ・バルカス帝国の軍艦名の由来もオリジナル要素です。ご注意ください。


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第49話 悩める国々

うっすらわかってる方もいると思いますが、グラ・バルカス帝国は原作よりも強化されてます。神聖ミリシアル帝国もしかり。


11月18日 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 海軍本部―――

 

「.....で、どうだった?」

 

帝国海軍大将にして、特務軍司令長官であるミレケネス・ワイズマンは報告を聞いていた。

 

「はい、最大速度は36ノットを記録しました。これはペガスス級を上回っています。しかし、旋回半径は少し悪化していました。」

 

彼女は手渡されたレポートに目を通す。帝国海軍の空母として初めて飛行甲板に装甲を張った「カプリコーネス」級は計画では500kgまでの急降下爆撃、そして800kgまでの水平爆撃に耐えられるとされていた。搭載数は53機の予定だ。

 

「....いいじゃないか。頼もしい限りだ。」

 

目の前に鎮座する船体を見上げ、そう誇らしげに呟いた。

 

「......他の新兵器の試験結果はどうだった?」

 

ミレケネスは振り返り、兵士に尋ねる。

 

「えー、新型試作誘導爆弾『ブローセンX』は成功です。しかし、照準については非常に難しく、誘導員の技量によるところが大きいです。威力につきましては良好で、標的の軽巡洋艦に命中し、一発で轟沈させました。」

 

「ほう...そうか。しかし、いかに高高度から発射するとはいえ、低速で目標の近くを飛ばなくてはならない。つまり敵の護衛機に狙われやすくなるのでは?」

 

「.....はい、それにつきましては確かに懸念事項の一つです。ですが、我らの技術ではこれが限界です。情けない話ではありますが、今の時点では見えない敵を狙うなど()()()()()であります。」

 

それを聞いたミレケネスはため息をついた。

 

「まあ、仕方なかろう。それで、もう一つは?」

 

 

「酸素魚雷も、おおよそ良好です。雷跡を視認するのは非常に難しく、威力も問題ありません。ですが、不発がありました。10本のうち1本は作動しませんでした。」

 

「そうか。それはなるべく改善できるよう努力してほしい。単純に、高くつくからな。」

 

「はっ、了解しました!」

 

「では私は執務室に戻る。邪魔したな。」

 

「はいっ!!」

 

 

 

 

自室に戻るミレケネスの表情は明るいものではなかった。

 

(新兵器を開発したとはいえ....いや、現時点でも、前世界までの敵なら難なく倒すことができていただろう。しかし、この世界にはまだわからない事が多すぎる.....。特に、日本と神聖ミリシアル帝国.....。神聖ミリシアル帝国は単純に、能力が未知数だ。魔法という物がどの程度の力なのか全くわからない。少なくとも技術だけで見れば、我々と同程度かそれ以下の軍艦を持っている。そして日本.....この世界では文明圏外の新興国と扱われていたようだが、少なくとも列強国をいともたやすく下す力がある。グレードアトラスターを上回る大きさの戦艦に、多数の空母....。そして、未確認情報ではあるが、ジェット戦闘機を持っているかも知れない.....。とにかく、全てが未知数だ。絶対に先走るようなことは避けねば.......!!!)

 

そんなことを考えながら私室のドアをあけると、中には先客の姿があった。

 

「お帰り、姐さん。」

 

「......どうした、ヴァネッサ。何か用か。」

 

ミレケネスを『姐さん』と呼んだのは、海軍少将ヴァネッサ・ランドルフだった。日焼けした美女で、軍では非常に少ない女性将校であり、そしてミレケネスの片腕とも言える存在だ。

 

「別に何も?ただ男達がずっと話しかけてくるのがうっとうしかっただけさ。」

 

「......はあ、やれやれ。お前もそろそろ気を付けないと私のように婚期を逃すことになるぞ。」

 

これを聞いたヴァネッサはいかにも面倒臭そうな顔をしてソファに寝ころんだ。

 

「......私はそんな物に興味は無いもの。それに昔の姐さんだってそうだったでしょう?」

 

「........あの時は戦うことしか頭になかったしな.....この歳になったことなんて考えてなかった。お前は若い内にここまで上り詰めたんだ。私よりチャンスはあるだろう。」

 

「イヤよ」

 

あっさりと拒絶されて、ミレケネスは少しがっかりしつつも、それ以上繰り返すのをやめた。図らずもヴァネッサを軍の世界に引き込んでしまったことに、ミレケネスは少し負い目を感じていた。

 

 

「そうか.....まあいい。今日の仕事は終わったしな。少し話に付き合ってくれ。」

 

「ええ、もちろん。お茶を淹れるわ、少し待ってて。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 

ヴァネッサがお茶を用意し、それを口に含みつつ話を始める。

 

「―――というわけで、お前も聞いているだろうが、日本は、帝国以上の技術を持っているかもしれない。」

 

「聞いてるわ。あの写真も見たしね。」

 

「十中八九真実であると.....私は考えている。いずれにせよ、使節団が帰ってくれば分かることだ。彼らが有益な情報を持ってきてくれれば良いのだが.....。」

 

「そうね......過激派のバカが変な気をおこさないよう、私も注意しておくわ。」

 

「頼む。カイザルがいない今、抑止力が弱まっている。悔しいが私だけでは力不足なんだ....。」

 

 

 

 

 

同じ頃、海軍本部のとあるドック―――

 

ここでは、エル・ドラード級戦艦1番艦「エル・ドラード」と、シグナス級戦艦3番艦「ジャコビニ・クレサーク」、そしてグレードアトラスター級戦艦2番艦「ヴォルフ・ハリントン」が点検および改装を受けていた。

 

 

「ほうほう、こいつぁ中々イカしてやがるな。」

 

改装中の「ジャコビニ・クレサーク」を見上げ、艦長アーノルド・パリッシュ大佐はこう呟いた。現在、彼の乗艦であるこの戦艦は、主砲を41cm三連装砲から46cm連装砲に変える改装を行っていた。シグナス級戦艦計4隻のうち、1番艦「シグナス」と、3番艦「ジャコビニ・クレサーク」にこの改装を行っていた。

 

「はい、46cm砲は頼もしいですね。」

 

副長のチャールズ・グラッドストン少佐も嬉しそうだ。

 

「そうだな。......日本....噂によればケイン神王国以上の強敵だとか....燃えるな!!!」

 

艦長パリッシュと副長グラッドストンは過激派でも穏健派でもなく、ただ戦いが好きないわゆる「バトルジャンキー」だった。しかしその性格のため、どちらかというと過激派に傾いていた。前世界でも数々の武勲を打ち立てている歴戦の猛将であり、日本や神聖ミリシアル帝国と戦ってみたいという気持ちが隠せないでいた。とはいっても、決して軍の規律を乱すような問題行動を起こすような人間ではなかったので、あくまで事の経過を注視していた。

 

 

 

 

 

「―――点検は終わったか?」

 

「はい、終了しました。全て問題ありません。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

別のドックでは戦艦「エル・ドラード」の艦長、クリストファー・ボールドウィン少将が点検を終えた乗艦を眺めていた。彼の乗るこの戦艦は全6隻ある同型艦の栄えあるネームシップだ。もうすぐ60になろうとしているベテランの彼は、以前はオリオン級戦艦1番艦「オリオン」に乗っていたが、前世界における戦争で沈められてしまっていた。しかもこれは不運なことに、ケイン神王国によって轟沈させられた、戦闘行動中の唯一の戦艦となってしまった。そのため彼は艦隊司令官の座を辞し、空席だったこの戦艦の艦長となった。

 

生き残ったボールドウィンはこの事を「人生で最悪の屈辱」として、ずっと気にしていた。この時失った片足を義足に変えて、彼の次の乗艦は「戦艦の完成形」とも言われたエル・ドラード級になり、今まで以上に戦意を燃やしていた。残念ながら憎いケイン神王国はもういないが、まだ戦うことは出来る。

 

(神聖ミリシアル帝国、そして日本......いつか戦火を交えることとなれば......この私が全力で相手をしてやろう。)

 

彼は一人そんなことを考えるのであった。

 

 

 

 

翌日、神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス

 

 

「うーん.......分からない。」

 

技官ベルーノが仕事机で唸っていた。その手に写真が握られており、机の上にも魔写がいくつか並べられていた。

 

「どうした、そんなに悩んで?」

 

休憩時間になり、別の部屋にいた同僚が声をかけてくる。ベルーノは彼に写真を見せる。

 

「これは、日本から送られてきた魔写......いや、写真なんだが。」

 

「ああ、日本から買い付けたとか言う魔導戦艦か。こいつがどうかしたのか?」

 

 

「......んで、これが日本の戦艦。こっちがグラ・バルカス帝国の戦艦だ。それがムーの新型戦艦だ。」

 

「それも知っている。日本とグラ・バルカス帝国の戦艦はそっくりというか、見分けがつかないな。こいつら本当は仲間なんじゃないか?」

 

ベルーノは首を横に振った。

 

「いや、それは無いだろう。日本の人たちは非常に友好的だったし、距離が離れすぎている。」

 

「ふーん......まあいいや。それで?」

 

「ここを見てくれ。」

 

ベルーノは写真に写る船体の膨らみを指さす。

 

「......それがどうしたのか?」

 

「この膨らみは遺跡から発掘された魔導戦艦の設計図にも記されていた物だと思う。そして、これらの戦艦にも全て装備されている。我々はこれを不必要な装備として建造した魔導戦艦にも装備しなかったが、どうやらそうではないらしい。」

 

同僚はよくわからない、といった表情だ。それを気にせずベルーノは続ける。

 

「......つまりこれは、必要な装備って事だ。尤も、何の為なのかは分からないが。」

 

「来年にまた日本の人間が来るんだろ?その時に聞けばいいじゃないか。」

 

「うん、そうだな。そうしてみるか。」

 

「しかし、魔導戦艦は美しいな。それに比べ、機械動力艦は優雅さの欠片もないな......。」

 

ベルーノは同僚を諫める。

 

「見た目では強さは測れないんだぞ。もしかしたら日本とグラ・バルカス帝国は我々より強いかもしれないんだ。」

 

「さすがにそれはないだろう!!神聖ミリシアル帝国より強い国なんているわけないさ!!」

 

同僚はそう言うと部屋を出ていった。そこに一人残されたベルーノは考える。

 

(違う......日本やグラ・バルカス帝国は自分たちだけで技術を発展させてきたが、神聖ミリシアル帝国は過去の遺物をコピーすることしかできていない......!!それに、技術もムーに追いつかれているかもしれないんだ!!もう猶予は無いのかもしれない!!)

 

彼は祖国の現状に危機感を抱いていたのだった。だがしかし、そのような人間は非常に少ないのも現実なのであった。

 

 

その頃 日本国 北海道小樽市―――

 

「うーん、これは美味い。生の魚とは......少し怖かったが、こんなにも美味いものだったとは......」

 

カイザルが初めて食べた寿司に舌鼓を打っていた。生の魚を食べるという文化はこの世界では日本以外には無い。もちろん、グラ・バルカス帝国の二人からしても初体験だった。

 

 

「ほほう...うん、これは美味しいですね、大将。」

 

「こいつは最近仕入れたトーパ王国産の本マグロですよ!大間のマグロより安いが味は負けてません。」

 

「へえ...トーパ王国の..知らなかったなあ。」

 

その隣では森高が鮪を食べてご機嫌な様子だった。カイザルとラクスタルらは久しぶりの休暇を満喫していたのだった。

 

 

 

 




年末ですね......今年の投稿はこれで終わりになると思います。

どうでもいい情報ですが、作中のキャラクターの名前は作者の好きなバスケ選手やミュージシャンからとったりしています。

引き続き評価、感想をお待ちしております。作者のやる気があがるので是非、よろしくお願いします。


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第50話 交流 その9

あけましておめでとうございます。

評価が500ポイントを超えました、ありがとうございます。マイペースな更新になりますが、今年も本作をよろしくお願いします。


11月23日 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス 

 

今日、ベルーノはおそらく、今まで生きてきたなかで最も緊張していた。昨日、突然皇帝の住まうアルビオン城に呼び出されていたからだ。門番の衛兵に身分証を見せると、また別の衛兵に連れられて中へと案内された。

 

「こちらが皇帝陛下のお部屋でございます。衛兵に取り次ぎますので、いましばらくお待ちください。」

 

豪華絢爛なドアの前にも屈強な衛兵が控えており、周囲に目を光らせている。ここまで案内してくれた衛兵が彼らになにやら話しかけると、門番が部屋の中に様子を伝えているようだ。少しして門番はこちらにやってきて、短く「どうぞ。」とだけ言った。

 

ベルーノは彼らに礼をして、おそるおそる部屋の扉を開ける。中に入ると、彼が思っていたよりかはずいぶんと質素な部屋で、その中央のこれまたシンプルな机に、皇帝ミリシアル8世が座っていた。

 

 

 

「たっ、ただいま参りました、神聖ミリシアル帝国技術研究開発局室長、ロザリオ・ベルーノでございます!!」

 

緊張しすぎて噛んでしまったことを恥ずかしく思い、ベルーノが顔を赤らめていると、ミリシアル8世は彼の緊張をほぐすように柔らかい笑顔を見せた。

 

「ベルーノよ、よく来てくれたな。そのようにに堅くならなくていい、ここに座るが良い。」

 

「は、はいっ!!しっ、失礼します!!」

 

そう言われても目の前にいる相手は世界最強の国の皇帝、簡単に言えば世界で最も偉い男なのだ。緊張しないわけがない。

 

遠慮しつつも紅茶を勧められ、口に含むとようやく落ち着いた。後からそれは王室専用の超高級茶葉(日本円にして1グラムあたりおよそ1万円)だったと知って気絶しそうにはなったが。そして当然、器もとんでもなく高額なものであった。

 

 

 

「............さて。」

 

少しの沈黙の後、ミリシアル8世はその口を開いた。

 

「今日ここにそなたを呼んだのは...聞きたいことがあったからだ。」

 

ベルーノは再び姿勢を正し、少し身構える。

 

「はい。どのようなことでしょうか......。」

 

「日本と、グラ・バルカス帝国について......その技術について、そなたの意見を正直に、包み隠さず述べてほしいのだ。」

 

これを聞いたベルーノは一度深呼吸をして、自分の持論を語り出した。

 

「それでは、まずグラ・バルカス帝国ですが......私の見立てでは、神聖ミリシアル帝国以上の技術と兵力を持っていると思われます。そして、日本についてですが.......こちらについては、私が直接見たものを語らせていただきたいと思います。」

 

「ほう...是非、聞かせてもらいたい。」

 

「はい。では、はじめに―――」

 

 

 

 

「―――というわけであります。我ら使節団の報告を議員や外交官の皆様方は一笑に付し、信じようともなさりませんでした.......。ですが、これらのことは本当に我々がこの目で見たものであり、事実なのです。」

 

およそ5分ほど、ベルーノは話していた。ミリシアル8世は紅茶のお代わりを注ぐと、それを口にしてゆっくりと息を吐いた。

 

「......よくぞ話してくれた。礼を言う。そなたのような冷静な人間がいたことを知れて安心したよ。」

 

「......?それは、どのような.......?」

 

「神聖ミリシアル帝国は、誰もが認める世界最強の国....それは、分かっている。しかし、その事を鼻にかけ、すっかりのぼせきっている輩が多くなっているのだ。」

 

「......!!!」

 

当然、ベルーノにも心当たりがある。

 

「だが、私が即位しておよそ、2000年......長い時間だ。その中で近年、ムーは急速に技術を発展させてきていた。それに加え、日本とグラ・バルカス帝国が出てきた。この3国は低く見積もっても我らと同等の国力を持っている。しかしこのことに危機感を持っていない者があまりにも多すぎる。それも....『蛮族が我々を超えられるはずがない。』という考えでな。まったく......愚かなことよ。」

 

「そっ、それは......。」

 

「....よい。これは、本当の事なのだ。....しかし、そなたのような、客観的に物事を見ている人間もいる。このことが分かっただけでも大きな収穫だ。

 

 

 

―――決めた。神聖ミリシアル帝国は、日本に技術提携及び供与を依頼する。」

 

「おお......!!!」

 

 

「しかし、そなたのような人間は残念ながら少ない...。一筋縄ではいかないのは分かっているが、なんとしてでも成功させよう。」

 

「素晴らしいお考えであります!!!」

 

 

ベルーノは、皇帝が自分の意見に理解を示してくれたことに深く感動していた。今まで彼と同じような考えを持っている人間は少なかったが、ここに誰よりも強力な味方を得ることができたからだ。

 

後日ベルーノは、日本との数々の交流を任されることとなるのだった。

 

 

同日 トーパ王国 王都ベルンゲン 日本国艦隊居留地

 

「あ゛あ゛あ゛さささ寒いぃぃ~~~~~~あ゛あ゛~~い゛ぎがえ゛る゛ぅ゛~~~~」

 

部屋に入って来るなり滑るようにこたつに入り込んだのは、大型巡洋艦娘「グアム」だ。現在彼女はこの基地の旗艦及びリーダーを務めており、今は用事をすませて帰ってきたところだった。トーパ王国は非常に冷涼な気候が風土的特性の国である。しかも今年は特に寒く、まだ11月だと言うのにも関わらず外は大雪だった。そのため多くの艦娘達は厳しい寒さにやられていた。

 

 

「おいおい大丈夫か?だから私が代わってやると言ったのに....。」

 

こたつに潜り込んだ「グアム」にまた別の艦娘が声をかけた。

 

「なんでアンタは平気なのよ......。」

 

「簡単よ。私は"Wisconsin"だからさ。」

 

「いくらウィスコンシン州が寒いからって、名前は関係ないような気がするんだけど...。でも私は『Guam』だから寒さに弱い...?いや、まさか。」

 

グアムはその戦艦娘「ウィスコンシン」を一瞥すると、そう独り言を言った。

 

「まあそれはおいといて......年明け、Januaryの仕事についてよ。―――9日から、グラメウス大陸より魔物.....もとい有害鳥獣を駆除します。以前のように自衛隊でもいいのですが、私たちの方が都合がよいとのことです。」

 

これを聞いた取り巻きの艦娘達にも少しの緊張が走る。少し前から噂はある程度聞いていたとはいえ、本格的な仕事は久しぶりだ。

 

「......んで、ここには空母がいないから日本から応援が来るらしい。キョースケとコウスケも来てくれるって。様子を見に来るらしい。」

 

「!!!本当に?」

 

「私はJokeは嫌いなの。」

 

「イェーーース!!!」

 

ウィスコンシンがガッツポーズを決めていた。彼女は久しぶりに提督に会えるのが嬉しいようだ。実を言うとグアムも嬉しかったのだが、それを表情には出さなかった。

 

『はいはい、皆さんお昼ご飯にしますよーー。食堂へ来てくださーーい。』

 

そこに昼食の時間を告げる放送が入り、それを聞いた面々は食堂へと歩いていった。

 

 

11月25日 日本国 山形県尾花沢市

 

ここは銀山温泉。大正ロマンを感じさせるレトロな木造の旅館が川に沿って並んでいる、実に風光明媚な温泉街だ。

 

グラ・バルカス帝国使節団は今日、観光と伝統文化の視察のためこの温泉地にやってきていた。過去の町並みが失われつつある帝国にとって、このような懐かしい雰囲気の町は失われつつあった。

 

 

「ああ.....良い湯だ。」

 

「そうですね......。気持ちいいです...。」

 

とある旅館の露天風呂で、シエリアと部下の女性外交官が湯に浸かっていた。今日はまだ11月の末というのに、外には雪が降っている。疲れを癒やしながら、シエリアは隣の彼女に話しかけた。

 

「明後日には日本を発つが......今回の訪問はどうだった?」

 

「そうですね......参加できて良かった、と心の底から思っています。ここまで有意義な仕事は、外交官になってから初めてのことです。何もかもが新鮮で、驚きに満ちていました。」

 

「うん.....私も同じ意見だ。しかし、帰ったらきっと大変だろうな.....ありのままを報告しても信じてもらえないような気がするよ。」

 

「うーん...確かに私もこの目で見なければとても信じれないかもしれません...。難しいですね。」

 

部下はため息をついた。

 

「だが、絶対に説得に成功し...日本に喧嘩を売るような事は避けねばならない。まあ、帝王陛下がいらっしゃる限りどうにかなるだろう。それより、今はゆっくりと休もうじゃないか。」

 

「うん、そうですね。あっ、そろそろ夕ご飯の時間ですよ、もうあがりましょう。」

 

彼女たちは湯船からあがり、体を拭くと脱衣所に戻っていった。

 

 

一方、同じ温泉地の別の旅館では、四人の提督とグラ・バルカス帝国の二人の軍人が滞在していた。彼らはシエリアら使節団が同じ温泉地にいるとは知らなかった。

 

「良い湯ですね......温泉は好きです。」

 

「それは良かったです。ここは私たちも何回も訪れている、お気に入りの場所なんです。」

 

「なるほど...いつもは誰と来ているのですか?」

 

「えーと...まあ、この4人だったり、あとは基地にいる艦長の女性達とも時々旅行に行きますね。」

 

「ほう、それは羨ましいですね。ですが今回は連れが男だけで少し申し訳ないですな。」

 

「ああいえいえ、そんなことはないですよ。()()()()()()()()()のでね。ありがたいことです。」

 

吉川の冗談に全員が笑った。

 

タオルを頭に乗せたラクスタルは、すっかりリラックスしているようだ。その様子を見た森高は嬉しそうな表情を見せる。

 

「ラクスタル君は旅が好きなんです。休暇を取ると、よく家族を連れて旅行に行っているのだとか。彼は家族をとても大事にしているのです。」

 

カイザルがそう説明した。

 

「ほう...ラクスタル大佐には家族がいらっしゃるのですか。」

 

赤松の言葉に、ラクスタルは少し照れくさそうにこう答えた。

 

「私には二つ年下の妻と、娘が一人います。家族という守るものがあるからこそ、私は闘うのです。そして、家族がいるからこそ、必ず生きて帰らねばとも思えるのです。」

 

「なるほど...カイザル大将にも家族はおられるのですか?」

 

この質問を聞くと、カイザルはふっと息を吐く。そしてそれが終わると、ゆっくりと話し出した。

 

「.....私にも若い頃、結婚を考えている女性がいました。彼女は私と同期の軍人で...まあ、一目惚れというやつでした。ですが....

 

―――演習中の事故で、彼女は死んでしまいました。古い艦だったもので、ボイラーが突然爆発しましてね。私は彼女のちょうど後ろにいて、守られるような形になっていました.....。私も大けがを負い、太股に大火傷をし、左手の指を2本失いました。」

 

ラクスタルも初めて聞く話だった。いつもは手袋をしていて気づかなかったが、彼らがカイザルの左手に目をやると、確かにその指が2本欠けていた。

 

「....一週間ほど死の淵をさまよい、目が覚めてようやく彼女の死を知りました。....何と言いますか、そこで糸が切れてしまったんですね。ああ、軍人が家族なんて持たない方がいいんだ、どうせ長生きしないんだから、と。しかし、どういうわけかこんな歳まで生き残ってしまいました。....全く、人生というものはよく分かりませんね....。」

 

彼はそう言うと少し悲しみを帯びた笑顔を見せた。他の面々もどう声をかけるべきか分からず、少し気まずい沈黙がその場を包む。そしてその空気を破ったのもカイザルだった。

 

「ああいや、このような暗い話をしてしまって申し訳ない。私はこのことを後悔しているわけではありませんし、勿論ラクスタル君のように家族を持つことを否定するわけもありません。ただの、遠い昔の思い出です。...おや、そろそろ夕食の時間ですかな。」

 

「ああ、そうですね、そろそろ上がりましょうか。」

 

あと少しで予定していた食事の時間だったので、彼らは風呂場を後にした。

 

翌日、彼らは東京に戻っていった。




ありがとうございました。

評価、感想をお待ちしています。

投稿時間ミスした!!!あけてない!!すいません!!


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第51話 使節団の帰国

ちょっと短めです。


11月26日 日本国 首都東京 とあるショッピングモール

 

「うーん......?」

 

カイザルが化粧品と睨めっこをしていた。彼は留守番を押しつけてしまったミレケネスへの土産を吟味しているところだった。

 

「困りましたな.....何を選べば良いのやら、さっぱり分かりません。」

 

悩むカイザルに森高が助け船を出した。

 

「ここは店員さんに聞くのが一番ですよ。」と。

 

 

 

一方、別の店ではラクスタルが家族への土産を購入していた。その彼はカイザルよりもいくらか手慣れた様子だった。

 

「もう済みましたか?」

 

吉川が尋ねると、彼は首を横に振った。

 

「いえ、まだあります。留守を任せている副艦長達にも何か買っていかねば。さすがに全員分は無理ですが.....。」

 

「なるほど、ではご一緒しましょう。」

 

「ありがとうございます。」

 

彼らはまた別の店へと歩いていった。

 

この日の夕方頃の飛行機で、カイザルらは使節団より一足早く佐世保へと戻っていった。

 

 

使節団も翌日の朝の飛行機で福岡空港へと戻っていった。

 

 

 

11月27日 午後3時頃 佐世保鎮守府

 

 

グラ・バルカス帝国使節団はおよそ2週間強の訪問を終え、今、日本を発とうとしていた。グレードアトラスターの煙突からは黒煙が吐き出され、いつでも出港できる状態だ。使節団は既に船に乗り込んでいる。

 

「どうも、お世話になりました。」

 

一方、カイザルとラクスタルは別れの挨拶をしているところだった。

 

「とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。あなた方はこの世界での初めての友人です。本当に、ありがとうございました。」

 

カイザルが礼を述べる。

 

「嬉しいお言葉です。なに、国交を結べば空路が整備されてもっと手軽に行き来できるようになりますよ。」

 

「それはいいですね。機会があればぜひ帝国にもお越しください。今度は私が案内しましょう。」

 

「ええ、そのときは是非お願いします。」

 

その時、野太い汽笛の音が鳴った。それを聞いたラクスタルは苦笑いを浮かべてこう言った。

 

「おっと、副長たちが早く来いと催促しているようです。そろそろ行かねば。」

 

「おやおや、ではお別れですね。今度は合同で観艦式でもしましょうか。」

 

カイザルは笑って手を差し出した。

 

「ええ、また会いましょう。」

 

彼らはがっちりと握手を交わした。そして数分後、グレードアトラスターは錨を上げ、ゆっくりと佐世保を離れていった。その姿を提督達は見えなくなるまで送ったのだった。

 

 

 

「.....さてラクスタル君、国に帰ったらもう一働きだな。」

 

「ええ、そうですね。今はひとまず無事に帰りましょう。」

 

小さくなってゆく日本を、カイザルは艦橋から眺めていた。

 

 

 

 

「さて、とりあえず執務室に戻ろう。」

 

森高がそう言うと、そこにいた面々は建物に入っていった。

 

 

 

12月30日 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 軍港

 

およそ5週間かけて、グレードアトラスターは帝国本土へと帰ってきていた。管制官に案内され、空いているスペースに滑り込み、大きな錨を下ろして停泊した。

 

「ん...?あれは『デュトワ・デルポルト』か。レイフォルから戻ってきていたのか。」

 

ラクスタルは隣に停泊していたヘルクレス級戦艦を見てそう呟いた。グラ・バルカス帝国の国旗と旗艦を示す旗の他に、第三艦隊、通称「ディオニソス」の旗が掲げられている。つまりこれはその艦隊の旗艦である4番艦の「デュトワ・デルポルト」だということだ。

 

使節団を船から降ろし、彼とカイザルも少し遅れて船を降りた。

 

「ふう...やっとついたか。しかし、また空気が汚れた気がするな。空が淀んでいる。」

 

カイザルは空を見上げ、ため息をもらした。転移直後は一時的に解消していた空気と海は、あっというまに元の汚れた状態に戻ってしまっていた。

 

そんな二人の元に誰かが歩いてくるのが見えた。ラクスタルが目を凝らすと、それは『デュトワ・デルポルト』の艦長であるジョーダン・オクテウス大佐だった。

 

「やあジョー、今戻ったよ。」

 

ラクスタルとオクテウスはお互い渾名で呼び合う仲だ。しかし、オクテウスの表情は明るくなかった。

 

「ラック、よく帰ってきたな。早速で悪いが来てほしい、大事な話がある。カイザル大将も出来れば来ていただきたいのです。」

 

「....?分かった。」

 

案内された先はミレケネスの部屋だった。中に入ると、これまた複雑な表情の彼女が座っていた。挨拶もそこそこに、ミレケネスは重い口を開いた。

 

「......グラルークス陛下が倒れられた。」

 

「なに!?何故連絡を寄越さなかった!!」

 

カイザルの表情が変わった。

 

「落ち着け。最後まで聞いてくれ。グラルークス陛下は現在療養生活を送られているが、とても人前に出れる状態ではない.....。そして法に従って臨時議会が開かれた。」

 

「.....ッ!?まさか!?」

 

ミレケネスは腕を組み、話を続ける。

 

「お前も知っているだろう。国のトップである帝王は常にその任務を全うできなければならない。つまり今のグラルークス陛下にその資格はない.....!!」

 

「....!!」

 

「そして会議の結果......暫定君主に選ばれたのはグラ・アデル皇太子殿下だ......!!!」

 

「!!!!」

 

(まずいな....。)

 

ラクスタルの背に冷や汗が流れる。これが意味するのは、急進派が主導権を握った、ということだ。

 

「すまない、私は反対したんだが....!!力不足だった!!女一人では何も出来なかった!!」

 

ミレケネスはそう言って頭を下げた。その手は震え、彼女の悔しさがひしひしと伝わってくる。男尊女卑の面が色濃く根付いている帝国では、いくら大将であるとはいえミレケネスの影響力は低かったのだ。

 

「いや、こちらこそすまない...私がいれば、もう少し状況は変わっていたかもしれん。」

 

 

彼らにしてみれば、グラルークスがここまで早く倒れてしまったのが想定外だった。少なくとも彼の跡継ぎをグラ・カバルに固めるところまでは出来ると思っていたのだ。あまりにも運が悪すぎる。

 

 

(くそ....絶対に、なんとしてでも戦争を回避せねば!!!さもなくば帝国に未来は無い!!)

 

 

 

カイザルらの、長い長い苦難が今始まった。

 

 

 

 

12月22日 佐世保鎮守府

 

 

現在、会議室では提督達が年明けの任務について打ち合わせをしていた。

 

「えーと....トーパ王国にはどいつを連れて行きゃあいいんだ?」

 

トーパ王国へ行くことになっている高橋が、同じく吉川と話をしていた。

 

「うーん....空母と、護衛の艦艇をいくつかってところかな。寒いから、気密性の高いソ連艦がいいかな。空母はいないからそこは別の国のを選ぶしかない。」 

 

「分かった。どうしようか....。というか戦車なしで大丈夫なのか?」

 

高橋の疑問に、森高が答えた。

 

「なんか聞いた話によると今回発生している魔物は空を飛んだりするやつが多いらしい。だから戦車はあまり必要ないんだとか。それに政府は自衛隊をこんなことで外に出したくないんだろう。」

 

「ふーん....。そんなもんかね。」

 

「あとは海魔とかいうイカのバケモノみたいなのも出るらしいから爆雷とかも持って行った方がいいな。駆逐艦だと危ないから、最低でも巡洋艦サイズがいいだろ。」

 

「イカのバケモノねえ...それ、美味いのか?」

 

「知るか!!」

 

 

 

 

一方、ほぼそれと同時に神聖ミリシアル帝国の港湾都市カルトアルパスにアダマン級魔導戦艦を送り届けることになっている赤松も、随伴艦を誰にするか考えていた。

 

 

「うーん......どうしようか。世界最強らしい国の機嫌を損ねるわけにもいかんし...。大型巡洋艦あたりでもいいな。」

 

結局彼は護衛兼アピールとして4隻の戦艦と3隻の大型巡洋艦を選んだのだった。

 

 

 

 

12月25日 ムー国 首都オタハイト―――

 

「「「「かんぱ~~~い!!」」」」

 

「か、かんぱ~い???」

 

ムーに滞在している艦娘達の邸宅で、クリスマスパーティーが開かれていた。そしてその中に一人の男の姿があった。技術士官マイラスである。なぜ彼が呼ばれているのかと言うと、「男がいないのはつまらない」という理由で暇を持て余していた彼が引っ張ってこられたのだ。ムー人の彼にはクリスマスという文化は当然無く、少し混乱が見て取れる。

 

しかし決して悪い気分では無かったので、マイラスもついつい深酒してしまっていた。途中から記憶がなくなり、翌朝目覚めたときにはなぜか全裸だった。彼はひどく赤面したのだった。

 




次回から新編「グラメウス大陸大掃除作戦(仮称)」が始まります。評価、感想をお待ちしております。よろしくお願いします。


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辺境の魔王編 補足分
第52話 グラメウス大陸大掃除作戦①


ここもそれなりに続きます。

原作の「辺境の魔王編」にあたる部分を書かなかったので、その代わりです。


今更気づいたけどグラ・バルカス帝国から日本へ船で3週間は速すぎた...。ミリシアル帝国まで2週間かかる...しくじりました...5週間弱に修正します。すいません。

書籍が買えてなくて大陸間の距離に自信がないので間違ってたらご指摘お願いします...。

アンケートを設置してみましたので、ぜひ投票をお願いします。

ここからは主にトーパ王国とミリシアル帝国の様子、時々グラ・バルカス帝国を挟む予定です。


1641年―――

 

西暦にして2017年、元号で言えば平成29年が始まった。転移からおよそ2年、目立った混乱も大分静まってきたように思える。

 

日本国政府はこの2年で転移の原因を必死に探っていた。まだ確実な原因は分かっていなかったが、遠い過去にも日本軍が来ていたかもしれない、というとんでもない情報が入っていた。エスペラント王国に国宝として保管されていた魔写に、大和型と思われる戦艦が写されていたのだ。政府は現在、過去の資料を読みあさっているそうだ。

 

 

 

 

 

 

それはさておき―――。

 

 

年末年始のちょっとした休暇を終えた鎮守府は、早速仕事にとりかかろうとしていた。まずトーパ王国へ空母を中心とした艦隊が出港し、少し遅れて神聖ミリシアル帝国へ送り届ける魔導戦艦を護衛する艦隊が次に出ることになっている。

 

 

 

1月7日 午前5時 佐世保 

 

「.......なァ霧島。」

 

「はい?」

 

早朝、高橋と霧島は揃って布団から出て、顔を洗い歯磨きをしていた。

 

「......前から思ってたけど、お前って眼鏡取ると榛名に似てるよな。」

 

高橋は時々、急にこんなことを言う。

 

「いきなりどうしたのですか?」

 

「いや...言ってみたかっただけ。」

 

「そうですか。」

 

「うん。...あぁ、まだ眠いな。」

 

そう呟くと、彼は大きなあくびをした。

 

 

 

 

一時間後―――

 

「......そんじゃ行こうか。全艦抜錨。」

 

高橋の乗るレーニン級戦艦「スターリン」、その横に吉川の乗るクレムリン級戦艦「ペトログラード」、そしてその後ろにビスマルク級戦艦「ビスマルク」「ティルピッツ」の2隻、エセックス級航空母艦「イントレピッド」「ボクサー」「ヴァリー・フォージ」「ゲティスバーグ」「イオー・ジマ」の5隻と、アレクサンドル・ネフスキー級軽巡洋艦「アレクサンドル・ネフスキー」「ドミートリィ・ドンスコイ」「ピョートル・バグラチオン」、最後尾にモスクヴァ級重巡洋艦「モスクヴァ」、「ペトロハブロフスク」、「リガ」が続く。合計15隻の艦隊はトーパ王国駐留艦隊基地に向かって出港した。

 

トーパ王国までおよそ7,000km、およそ一週間の道のりだ。

 

 

 

およそ2時間後―――

 

「なあコウスケ。それ、効くのか?」

 

ペトログラードが不思議そうな顔をして吉川に尋ねる。彼の手には青と銀に赤い牛が描かれた長い缶が握られていた。

 

「んなわきゃないだろ。翼が生えたことは一回もないね。」

 

吉川は中身を一気に飲み干し、そう言った。

 

「ふーん...なんだそりゃ。」

 

「こういうのは結局気分だよ、気分。.....でも眠いな。」

 

「全然駄目じゃないか。やはり、目覚ましならスピリタスに限るな。」

 

「んなもん飲んで死なないのはお前らソ連艦くらいだっつうの....。てか、ウォッカとかの酒ってもう買えないんじゃ?ほとんど輸入品だし。」

 

吉川の疑問に、ペトログラードはフフン、と鼻を鳴らして答えた。

 

「いや、クワ・トイネ公国に似たような酒があるらしくてな、少し前から輸入が始まっているらしい。それに日本のメーカーが拠点を構えたらしくてな、そこで造るらしいぞ。」

 

「へえ、詳しいんだな。」

 

「ああ。酒は大事さ。命と同じぐらいにな。」

 

「はは...流石だ。こいつはスイスから輸入してたから、たぶん発売停止だろうな..。少し残念だ。」

 

吉川は空になった缶をゴミ箱に投げ、そう呟いた。

 

 

同じ頃、戦艦「スターリン」艦内―――

 

「おい。」

 

「....なんだよ。」

 

艦娘「スターリン」は高橋に呼ばれ、振り返った。

 

「お前、そんなアホみたいな格好してると風邪引くぞ。」

 

高橋は彼女の服装を指さし、そう言った。レーニン級姉妹の制服は、比較的オーソドックスな軍隊の礼服と似たような装いだ。だが、姉と違い妹はそれをかなり崩して着ていた。ネクタイを付けずに、ワイシャツのボタンを5個ほど開けて、ブレザーも前を閉じず、黒いタイトスカートも膝上15センチほど上げていた。彼女のその出で立ちは、どこか不良学生を思わせる。当然だがレーニン級2人は名前の元となった人間のように髭を生やしている、なんてことはないし、姉がハゲている、なんてこともない。当然ではあるが。

 

 

 

 

「......うるさいなあ、別にいいだろ。寒くなったら上着着るし。」

 

彼女はぶっきらぼうにそう答えた。高橋も「そうかい。」とだけ返す。

 

建造されたばかりの頃のスターリンは、ずっと姉にくっついて、まるで狼のように周囲を警戒していた。今でも口は悪いままだが命令は素直に聞くようになったし、姉と離れての任務もこなすようになった。なんだかんだ面倒見もよく、他の艦娘たちにも好かれているらしい。しっかり者の姉とは違うが、彼女もまた信頼できる戦力であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、午前9時 再び佐世保―――

 

「さーて、こっちも行こうか。目指すは神聖ミリシアル帝国の港湾都市、カルトアルパスだ。全艦抜錨!!」

 

『『『『『『『了解!!』』』』』』』

 

 

先ほど出港した艦隊よりも時間が遅いので、艦隊を率いる赤松は元気そうだ。とはいっても、彼らの向かう第一文明圏まではおよそ1万kmほども離れているので、結構な時間がかかる。船旅で退屈しないように、たっぷりと荷物は詰め込んだ。

 

戦艦「ヴィットリオ・ヴェネト」「リットリオ」「インペロ」「ローマ」及び、大型巡洋艦「プエルトリコ」「フィリピン」「サモア」がアダマン級魔導戦艦を護衛する。プエルトリコが後方でアダマン級を曳航する形となっていた。

 

今回ヴィットリオ・ヴェネト級4隻が選ばれたのは、年明け前に航続距離を大幅にのばす改装を受けたからだ。イタリア海軍の軍艦は、主に地中海での行動を想定していたため全体的にスタミナが少なく、このままではこの広い星ではあまり活動できない、という問題があった。そのため、現在イタリア艦は順次同様の改装を受けている。

 

およそ20ノットで、艦隊は神聖ミリシアル帝国の港湾都市カルトアルパスへと向かった。

 

 

同日、アルタラス王国に駐留していたキング・ジョージV世級戦艦「キング・ジョージV世」、「デューク・オブ・ヨーク」、「ハウ」、そしてマール王国に駐留していたネルソン級戦艦「ネルソン」、「ロドニー」は、佐世保にて改修を行うため、それぞれ日本に向かって出港した。

 

 

 

 

1月14日 午前9時 トーパ王国近海―――

 

大雪が降っていた。

 

「さっむ......」

 

煙草を吸おうと艦橋の外に出ていた高橋が震えながら戻ってきた。ドアを閉めると、彼はすぐにストーブの前の椅子に座った。

 

「そりゃそうだろ、こんなに雪降ってるんだし。到着するまで我慢しろよ。」

 

スターリンは呆れた様子でそう言った。

 

「ああくそ、分かったよ。うおぁっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

突然船体に衝撃が走り、大きく揺さぶられる。それによって二人は椅子から強く投げ出されてしまった。

 

 

「いつつ....何が起きた!?」

 

高橋が頭を押さえつつ体を起こすと、見張りの妖精から悲鳴のような通信が入った。

 

『たっ、大変です!!ばっ、化け物が船に!!!』

 

「ハァ!?化け物だぁ!?」

 

『右舷を見てください!!』

 

妖精の必死な叫びに気圧され、高橋とスターリンも窓から右舷側に目をやる。そこには、150メートルはあるのではと思わせるほどの、巨大なイカかタコのような生物がいた。

 

「うおっ、なんだありゃあっ!?」

 

思わず素っ頓狂な声を出してしまったが、こうしている間にも船は大きく揺らされている。全長252m、排水量45000tのこの船がまさか沈むなんてことは無いだろうが、危険なことには変わりない。

 

「急いで近くの火を消せ!!!早くしろ!!」

 

高橋は艦内放送で指示を出し、自身も慌てて近くのストーブを消した。再び通信機を手にし、指示を出す。

 

「副砲手配置に付け!!後ろに巻き付いてる触手の付け根を狙え!!榴弾ブチ込んでやれ!!」

 

イカの化け物は船体後部の両用砲のあたりに触手を2本絡ませていた。船体中央部、各舷に2個づつ配置されている152mm三連装砲は異常なしだった。

 

『了解!!!』

 

妖精達は急いで配置につく。数分後、後ろ側の副砲が旋回を始め、まとわりついていた触手に狙いを定めた。

 

一方、高橋は艦隊の他の船にも通信を入れた。

 

「こちら『スターリン』、本艦だけで対処可能だ、手ェ出すなよ!!」と。

 

 

 

 

「撃てぇっ!!」

 

        ドォッ!!!

 

指示と共に152mm三連装砲が火を噴いた。この副砲はキーロフ級巡洋艦の主砲を基に開発されたものであり、最大射程は脅威の38kmと、戦艦の主砲並みである。

 

 

 

発射された砲弾は着弾と同時に爆発を起こし、化け物から触手を一本えぐり取った。

 

すると突然、「ギィィィィィィィィィイ!!!!!」という耳の痛くなる悲鳴を上げ、それはふらふらと海に潜っていった。

 

嵐の過ぎた後のような静けさが艦内に戻った。

 

「クソ...何でイカのくせに鳴くんだよ...。」

 

耳鳴りのする部分を押さえつつそう忌々しげに吐き捨てると、高橋は再び通信機を手に取り指示を出した。

 

「よくやってくれた、ご苦労。悪いが一応総員戦闘配置だ。到着するまで警戒を解くなよ。」

 

 

 

『―――おい、京介大丈夫か?』

 

隣の「ペトログラード」から吉川が通信を入れてきた。

 

「ああ、まあ大丈夫だ。転んだし、耳痛いけどな。」

 

『そうか。どうやらさっきのあれが噂に聞いてたクラーケンとかいう、船を襲う海魔の一種らしい。しかし、あのくらい大きいのはグラメウス大陸に近づかないと出ないらしい。それも、滅多にな。...普通はせいぜい20mくらいだとある。』

 

 

「....なんなんだ一体。まあいい、撃退できたしな。危ないがここにいる船が沈められる事はないだろ。」

 

『そうだな、しかし思ったより凄かったなあ。あんなのに喰われるのは御免だね。』

 

「ああ、そうだな。気を付けよう。」

 

通信を切り、高橋は船体後部に目をやる。そこには、切断された触手が1本、くっついたままになっていた。今度は主砲に目をやると、先ほどの揺れで波をかぶったせいで凍り付いてしまっていた。

 

(こりゃ、着いたら早速掃除だな....。)

 

小さくため息をつくと、彼は艦橋の掃除を始めるのだった。数分後、ふと彼はあることを思いだし、スターリンに声をかける。

 

「なあスターリン。」

 

「...あ?」

 

「お前、意外と悲鳴可愛いのな。」

 

「.....ブン殴るぞ。」

 

彼女の顔が赤くなった。

 

 

 

 

一方その頃、ムー国政府から日本国政府に連絡があった。

 

『6月、国王ラ・ムー陛下即位30周年記念観艦式がオタハイトにて開かれる。神聖ミリシアル帝国と共に、日本国にも是非参加していただきたい。』と.........。

 

 

 




以前感想の返信にも書きましたが、名前の被っている艦艇には作者がそれらしい別の名前を付けています。今回登場したエセックス級「ゲティスバーグ」がその例です。名前は南北戦争の戦いにちなんでいます。有名な戦いですね。



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第53話 グラメウス大陸大掃除作戦②

評価をつけてくださった方々、ありがとうございます。

感想が少ないとちょっと悲しいので、ぜひそちらもよろしくお願いします。




1月14日 午前11時47分―――

 

 

 

「ふぃー、やっとついたぁ。」

 

トーパ王国の王都ベルンゲン郊外にある基地に到着し、船から下りたった吉川はそう言って大きな伸びをした。同時に降りてきたペトログラードも、軽くストレッチをしている。そこに、この基地で働いている妖精が駆け寄ってきて敬礼をした。

 

「ご苦労様です!」

 

「おう、お疲れさん。寒いしさっさと中行こうぜ。」

 

吉川とその他艦娘達は建物の中へと入っていった。ただし、高橋とスターリンだけはその場に残って指示を出す。

 

「悪いがこいつの船体を診てやってくれ。異常があったら修理を頼む。あと、あの鬱陶しい足を引っ剥がすのも頼む。あんなマヌケな姿じゃ話にならん。」

 

「分かりました。今日中に仕上げます。」

 

「無理はすんなよ。最悪、こいつはお留守番でも構わない。」

 

これを聞き、後ろにいたスターリンの表情がゆがむ。

 

「お、おい!留守番なんて嫌だぞ!!あ痛っ!?」

 

気づけば彼女は強烈なデコピンを額に喰らっていた。犯人の高橋は痛がる彼女を無視し、妖精に向き直る。

 

「....悪ィ、こいつの言うことは気にすんな。取りあえずよろしく頼むぜ。」

 

「は、はい!」

 

妖精が敬礼で答えると、彼はスターリンの首根っこを掴んで建物へ引きずっていったのだった。その様子を、妖精たちは驚いた顔で見ていたが、すぐにそれぞれの持ち場につき、戦艦スターリンの点検を始めた。

 

 

 

 

「うう、痛い......。手加減しろよ....。」

 

ヒリヒリと痛む額を抑えつつ、スターリンは文句を垂れる。

 

「どあほう。わざわざ急かさなくてもさっさと終わらせてくれるっつーの。いらないプレッシャーをかけるんじゃねえ。」

 

「....口で言ってくれよ...。」

 

「回りくどいことは嫌いなんだ。」

 

それだけ返すと、高橋は建物のドアを開けて、中に入っていった。

 

 

ちょうど昼時だったので、昼食をとりつつ簡単な打ち合わせをすることになった。

 

 

およそ10分後―――

 

 

「おお.....」

 

「うおぉ.....!!」

 

目の前に並べられたご馳走を見つめる高橋と吉川の目は光り輝いていた。彼らの前の机には、立派な蟹の脚や、マグロやサーモン、いくらなどが惜しげもなく乗せられた海鮮丼が置かれている。刺身はてらてらと艶やかに光り輝き、食欲をそそる一品だ。

 

 

「「いただきます!」」

 

二人揃って手を合わせると、丼を持ち上げ一気にかっこむ。

 

「うっま....。」

 

 

思わずそれを口に出してしまうくらいの美味しさだった。

 

「いかかですか?トーパ王国の海産物は。」

 

現在この基地に在籍している給糧艦娘「間宮」が二人の元にやってきて、声をかけた。彼女はここで主に料理番を務めている。

 

「いやー、めっちゃ美味しいじゃん。俺ここに住もうかな。おかわり!」

 

「お前は何しにここにきたんだ....。」

 

はしゃぐ吉川の隣で高橋が突っ込みを入れる。結局吉川が3杯、そして高橋は2杯、特盛りの海鮮丼をそれぞれ平らげたのだった。彼らは休憩の後、王都ベルンゲンの中心地にある王城に向かって車を走らせた。

 

ベルンゲンも、他の日本の友好国と同じようにインフラ整備が進み、町には街灯やコンクリートの道路などが見受けられる。とは言っても自動車はまだ国内では一部の金持ち商人や日本人が所有しているのみで、道を通り過ぎる車を人々は物珍しそうに見ていた。

 

 

およそ30分後―――

 

「おお日本の方々、よくぞいらっしゃった。」

 

王の間に通されるなり、トーパ王国国王ラドス16世は吉川と高橋を満面の笑みで迎えた。豪華な椅子から降り、わざわざこちらに歩いてきて握手もしてくれた。よほど待ちわびていたのだろう。二人の提督も挨拶をして、会議が始められる。長い机に吉川と高橋が座り、その向かい側にラドス16世と側近が座っていた。

 

「.....えー、では、今回の依頼について改めて確認いたしましょう。」

 

机の上に広げられた地図を指さし、側近が話を始める。

 

「以前、日本の陸上自衛隊の活躍により、魔王ノスグーラを筆頭とする脅威は去りました。しかし、昨年の終わり頃から再び魔物の活動が盛んになってきており、重大な脅威となっています。お恥ずかしながら我らトーパ王国の戦力では守ることで手一杯なのです....。」

 

「今回の件は我ら日本としても対処せねばならないものですのでご安心ください。全力を以て協力させていただきます。」

 

実は日本は、トーパ王国とエスペラント王国を結ぶ高速鉄道もしくは空路を整備しようと考えていた。

 

「ありがとうございます。...えー、今回主に目撃されている魔物についてですが....」

 

側近はそこで一度言葉を切り、分厚い本のページをパラパラとめくって見せた。その本は簡単に言えば主な魔物を記した図鑑のような物だった。

 

「まずはこれです。海魔の一種で、クラーケンといいます。見た目はイカのようですが、とても大きく獰猛で、漁船や客船が沈められることが稀にあります。」

 

「.....そいつは今朝出くわしましたよ。確かに、バカデカいイカでした。...まあ、大砲ぶっ放したらどっか行きましたけどね。」

 

高橋のこの言葉を聞いて、ラドス16世と側近の目の色が変わった。

 

「...流石でございます。普段はめったに出没しないのですが、ここ最近は数が増えており、漁に出れない状況になっております。そのため、日本の業者も影響を受けている状態になっているのです。このままでは日本に我が国の海産物が出荷出来なくなってしまいます。」

 

今度は吉川の目の色が変わった。

 

「それは困りますね...。なんとしてでも脅威を取り払ってみせましょう。」

 

「頼もしい限りです。次に、空を飛ぶこの魔物ですが....名前を"ロッド"と言いまして―――」

 

 

 

 

 

 

 

―――およそ一時間に渡る話し合いも終わり、二人の提督は帰路に就いていた。

 

「...なんかお前、やけに気合い入ってるよな。どうした?」

 

助手席に座る高橋が、ハンドルを握る吉川に話しかけると、彼は笑って答えた。

 

「そりゃそうだろ。あんなに美味いマグロが食えなくなるのは困る。」

 

「...はは、相変わらずだなあ。食い意地張ってやがる。」

 

「いやいや、お前だって刺身好きだろ?」

 

「まあな。けど俺ぁお前みたいに三大欲求剥き出し人間じゃないからな。」

 

高橋のこの言葉に吉川は苦笑いだ。

 

「ははは...ひでぇ言われようだな....。」

 

「本当のことだろ?」

 

「...まあな。」

 

基地に帰った二人は、艦娘達と作戦会議を行い、二日後の行動開始に向けて準備を進めるのだった。

 

 

 

 

同日 佐世保近海―――

 

 

「....ふん、間もなく日本か。」

 

艦娘「ネルソン」は紅茶を啜ると、そう呟いた。彼女と姉妹艦の「ロドニー」は、主砲の交換を行うため、マール王国から佐世保に戻る途中だった。なお、彼女たちの代わりとして、佐世保からは戦艦「アルミランテ・ラトーレ」と「ワシントン」が出向している。

 

 

特にやることも無いため、私室で彼女は優雅にティータイムを過ごしていた。その時、部屋のドアがノックされ、一人の妖精が入ってきた。

 

「....どうした?」

 

「ソナーに潜水艦と思われる影が捉えられました。」

 

これを聞いたネルソンの頭には疑問符が浮かんだ。

 

「....?それがどうかしたのか?ジエイタイのものだろう?」

 

しかし、妖精は首を横に振って答える。

 

「...いえ、自衛隊に確認したところ、今日この辺りを行動している潜水艦はいないそうです。」

 

これを聞いたネルソンの片眉がつり上がった。

 

「....何?ではどこの国のものかも分からない潜水艦が近くにいるというのか?」

 

戦艦2隻だけの状況で潜水艦に狙われているとしたら、非常に危険だ。船内には緊張が走り、ピリピリとした空気で包まれる。

 

 

しかしその潜水艦はおよそ10分後にはどこかへ姿を消し、無事に二隻の戦艦は佐世保に入港した。しかしこのことを知らされた政府は、海保や海自を警戒に当たらせたが、これといった情報が手にはいることはついに無かった。

 

 

その身元不明潜水艦の中では、このような会話がされていた。

 

「...人間だけの国が、あのような戦艦を持っているとはな。ざっと見る限り、少なくとも神聖ミリシアル帝国よりは上だと思う。潜水艦と魚雷もあるのだろうか?」

 

「チッ、下等種族の人間の癖に生意気な...。それにしても、あの不気味な音はなんだったんだ?」

 

1人の男が文句を言う。

 

「うーむ、おそらく水中の様子を探る音波のようなものじゃないか?日本は機械文明国らしいから、俺はそう思うぞ。」

 

「...はあ、本当に潜水艦任務はストレスがたまるな。狭いし暇だし、何より翼が引っかかって鬱陶しい。」

 

「まあまあ、もう帰れるんだからそう言うなよ。」

 

「...分かってる。」

 

彼らの乗る潜水艦は南に向かって進んでいった。

 

 

 

その頃、佐世保鎮守府では、キング・ジョージV世級戦艦姉妹が森高と話し合いをしていた。

 

 

「.....えー、今回の改装については2つ案がある。1つ目はこれ。まあ無難に、主砲を全部381mm三連装砲に変える。」 

 

これに対する姉妹の反応は全て似たような物だった。

 

「はあ?」

 

「うーん...。」

 

「イヤです。」

 

「それはちょっと...。」

 

「No.」

 

長女から順番に並べてみると、反応はこの有様だった。尤も、これはおおよそ森高の予想していた答えと一致していた。

 

「....まあ、そうだろうと思ったよ。これだとモナーク姉妹と見分けつかなくなっちゃうしな。じゃあ、こっちはどうだ?」

 

「おお、なるほど。これはいいじゃないか。」

 

「だろ?」

 

次に彼が出した案は好評だった。 

 

簡潔に説明すると、特徴的な356mm主砲を、フランス戦艦の4連装砲を参考にした機構で新しく作り直す、というものだ。 

 

フランス式の4連装砲塔は、中央部を隔壁が砲室を左右に分断しているため、実際は連装砲2基が隔壁を挟んで並列に2基配置した4連装砲塔となっている。この方式の利点としては、敵弾が砲身に被弾した時や砲弾不良で故障した際の喪失門数も最悪2門に限定できる利点があった。反対に、キング・ジョージV世級の4連装砲塔は純然たる4連装砲であったため非常に複雑な構造をしている。

 

満場一致で後者の案が採用され、すぐに改装が始められた。その後で、ネルソン級姉妹の主砲も、ライオン級戦艦と同じ新型の406mm3連装砲に取り替える作業が行われたのだった。

 




・どうでもいいメモ  

主要キャラである提督達の簡単なデータです。


・吉川晃輔(きっかわ こうすけ)
 
広島市出身、元呉鎮守府提督。身長187cm。
本編で言われていたように、基本欲求丸出しで豪快な性格。バンド、サーフィン、ミリタリー、酒、筋トレなど男が好きなものは大体やっている。艦娘との距離感は"従兄弟の兄ちゃん"とよく言われる。自衛隊にいた頃は屈指の男前として有名だった。容姿は名前の元ネタになった人に似ている。相棒は雪風、曙、ペトログラード。8月18日生まれ。


・高橋京介(たかはし きょうすけ)

高崎市出身、元舞鶴鎮守府提督。身長171cm。
自衛隊に入る前は北関東でも有名な悪童だった。その名残か、口調が「ァ!」のようになることが多い。こちらも昔バンドをやっていたので、歌は上手い。ぶっきらぼうだが面倒見はよい。ヘビースモーカーで、弱点は酒にあまり強くないこと。容姿と名前のモデルは高崎の生んだ伝説のバンドのボーカルだったあの人。相棒は霧島、スターリン。10月7日生まれ。

・森高千鶴(もりたか ちづる)
 
熊本市出身、佐世保鎮守府提督。身長182cm。
温厚な性格で、よくお爺ちゃんぽいと言われる。元バスケ部で、趣味はバスケの他に登山やドラムなど。欠点はかなり音痴なこと。名前のモデルは平成初期から今でも活躍を続けている某美脚歌手。当然性別が違うので容姿は異なる。相棒は扶桑とサラトガ。4月11日生まれ。
 
・赤松一誠 (あかまつ いっせい)

鎌倉市出身、元横須賀鎮守府提督。身長179cm。
最初に艦娘と遭遇したときの護衛艦の乗組員の一人だった。吉川とつるんでよくふざけるが、根は真面目でそこそこストイック。趣味はギターとテレビゲーム、ベースも弾ける。中分けロングにした髪を後ろでまとめて、顎髭を生やしている。この人だけは特にモデルはいない。相棒は鳳翔...というより、ほとんど夫婦に近い関係。2月3日、通称"ロックが死んだ日"の生まれ。



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第54話 グラメウス大陸大掃除作戦③

原作登場兵器との被りがあったため、アルタイル級戦艦をシグナス級戦艦に訂正しました......。失礼しました。


1月16日 午前9時 トーパ王国基地

 

「......よーし、出発だ。」

 

戦艦「ペトログラード」から吉川が通信を入れると、エセックス級空母5隻を中心とした艦隊はグラメウス大陸へ向かって出港した。

 

 

 

一応護衛として戦艦及び巡洋艦は配備されているものの、今回のメインは艦載機による攻撃なので、あまり出番はないだろう。クラーケンのような大きく凶暴な海魔は実は数はあまり多くないらしく、おそらく10匹もいないだろうと言われていた。

 

 

船の中で、吉川はペトログラードは今回の作戦についておさらいをしていた。二日前の打ち合わせで、トーパ王国から伝えられた情報が記されたノートを見ている。

 

「.....えーと、まあ今回はあんまキツい作戦じゃないけど、厄介なのがいるかもしれないらしいな。」

 

熱い味噌汁を飲みながら、吉川はとあるページを見せる。

 

「......ん?量産型魔王?なんだこれ。」

 

まだ朝だというのに好物のアイスを食べつつ、ペトログラードはノートを覗く。そこには、日本語で書かれた説明の他に、やや不鮮明だが人型の生物の写真が貼られていた。

 

「ふーん.....古代の生物兵器...。これが?」

 

彼女は"はずれ"と書かれた棒をちょっぴり不機嫌そうに咥えながら、まじまじとノートを見つめている。

 

「ああ。まあ100パーセント確実な情報ではないが、目撃情報から察するにこいつの可能性が高いらしい。グラメウス大陸の鉱山の近くには古代遺跡があるんだが、鉱山を調査していた日本企業の人間が遠くから撮影したらしい。その人の証言は文献に残ってるこいつと一致したんだ。」

 

「...ふーん。」

 

「まあそれで、こいつは以前に自衛隊が倒した魔王よりは弱いらしい。とは言っても、魔物を操る能力を持っているらしい。....ということは、魔物の活性化の原因は多分こいつだ。だからこいつを倒せば、たぶん一件落着だ。」

 

「......なるほどね。そいつは爆弾やら機銃掃射で倒せるのか?」

 

彼女の疑問に吉川は少し困った顔をした。

 

「うーん、それはちょっとわからん。けど、以前の魔王はロケランやら戦車の砲やら喰らって死んだらしいから、爆撃は効くんだろ。」

 

「なるほど、じゃあこの編成で大丈夫なのか。」

 

「うん、そうそう。あっそうだ、ちょっと風呂借りるぞ。」 

 

そして、吉川は急に席を立つとそう言って部屋から出ていった。その様子をペトログラードは狐につままれたような顔をして見ていたが、到着時間まではまだ余裕があるので何も言わなかった。

 

一人になった彼女は部屋のテレビを付けると、撮りためていた映画の続きを見始めるのだった。

 

 

 

同日 午前10時 佐世保鎮守府―――

 

 

「......はい、もしもし。こちらは佐世保鎮守府です。」

 

部屋で執務にあたっていた森高の、机の電話が鳴った。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・。』

 

「...はい。...えっ!?本当ですか?はい、はい.....ありがとうございます。分かりました、失礼します。」

 

そう言って、受話器を置いた彼の表情は明るいものではなかった。その様子を同じ部屋にいた扶桑とサラトガが心配して声をかけると、森高はゆっくりと話した。

 

「......上は、どうやら核兵器の保有を考えているらしい。」

 

「........えっ?」

 

それを聞いたサラトガの表情も変わった。それもそのはず、彼女は過去、日本に落とされるはずだった原子爆弾の標的として使われた船の一人なのだ。更に言えば、サラトガは敵国に沈められたのではなく、自分の祖国の手で沈められた。これを人間に例えるとしたら、親に殺されるようなものだ。こんなことを良い思い出として捉えるなんて有り得ない。

 

艦娘達には、個人差はあれど前世......つまり実艦だった頃の記憶がある。当然、作られなかった船である計画艦は除くが、彼女たちは何らかのトラウマを抱えていることがあった。

 

 

今、森高の隣にいるサラトガもそうだ。レキシントン級航空母艦の2番艦である彼女は、戦後老朽化を理由に原爆の実験に用いられ、一度目の生涯を閉じた。同じ実験で使われた船は、長門、酒匂、ペンサコーラや、現在フェン王国に駐在しているアーカンソー、プリンツ・オイゲンなどがいる。

 

 

そしてかなり昔のことだが、悪夢にうなされるサラトガを、森高が隣にいてやって夜通し慰めるということが何回かあった。今ではかなり落ち着いたが、ときおりその悪い夢を見ることも未だにあるらしい。

 

 

しかし日本政府にもそれなりの理由がある。原因は、他でもない古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国だ。近年復活するとされるこの国は、コア魔法......つまり核ミサイルを保有し、それを実際に使用するような連中らしい。

 

日本は「抑止力が実際に使われるようなことがあってはならない」ということは当然理解している。使ってはいけないが、しかし保有はするべきと考えはじめているのだ。

 

 

 

「........まだ決定はされていない。それと、これは機密事項だ。鎮守府の外に情報が出ないようにしてくれ。」

 

何ともいえない空気になってしまい、複雑な心境で森高らは仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

同日正午 「世界の門」 沖合約3km地点―――

 

「........第一次攻撃隊発進。」

 

高橋が指示を出し、「イントレピッド」「ヴァリー・フォージ」「ボクサー」「ゲティスバーグ」「イオー・ジマ」の5隻のエセックス級空母から次々とF6F戦闘機、F4U戦闘機、SBDドーントレス爆撃機、TBDアヴェンジャー雷撃機が飛び立っていく。

 

 

彼らは、手始めに世界の門の近くに溢れた魔物を機銃掃射で駆除し、次により奥側に進んで鉱山までの道を開く予定だ。

 

「おお、行った行った。」

 

 

第一次攻撃隊を見送った吉川は、そう呟くと艦内へ戻っていった。彼の乗る「ペトログラード」他、戦艦と巡洋艦らは空母を囲むように展開し、水中に目を光らせている。

 

 

100機を超える規模の航空隊は、誇らしげに翼をはためかせ去っていった。

 

 

そしてその様子を、近くのとある山から見つめるものがあった。

 

(.......間違いない、あれが太陽神の使いか.......。あれはもう、1万と2000年前のことか....。太陽神も苦労しておられるようだな。)

 

その姿は、一見すると狼のように見える。しかし真っ白なその体は汚れ一つ無く、非常に優雅な佇まいだ。もちろん、彼はただの魔物では断じてない。その正体は、風神エンリルの眷属である神獣フェンリルであった。彼は、"太陽神シャマシュの遣わした者達の様子を探れ"という神託を授かり、この場にやって来ていた。なお、彼は1万2000年前にも、太陽神の使いと魔王の戦いを見ていた。

 

(.....ふん。もう少し様子を見るとしようか。)

 

フェンリルは踵を返し、その場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

同日 午後2時頃 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

「......私は、絶対に反対です。」

 

「ほう.....何故だ?」

 

大将カイザル・ローランドは帝王府に呼び出されていた。そして彼は皇太子...いや、帝王となったグラ・アデルと一対一で話をしていた。

 

「帝国主義は時代遅れであります。これからは各国と協調していくべきなのです。」

 

カイザルは、臆せず自分の意見を述べる。しかし、グラ・アデルも負けてはいなかった。

 

「......ふん、貴様も老いたらしいな。」

 

「なっ!?」

 

「そもそも世界制覇とは、グラ・バルカス帝国建国以来の悲願であるぞ。世界が変わった程度で、おいそれとやめるわけにはいかぬ。」

 

「....しかし、この世界には我々よりも上の国があるかもしれないのです!」

 

カイザルがこう言っても、アデルは鼻で笑うだけだった。

 

「貴様が言っているのは、日本のことだろう?......はっ、戦争に一度負けた国に我が国が劣るなどありえぬよ。それに、我が国にはあの兵器があるではないか。それを使えば、どんな国でも一撃で滅ぶさ。」

 

「...なっ!?あれは絶対に使っていいものではいけません!!あれは、死神の兵器です!!」

 

「落ち着けカイザル。とにかく、貴様も帝国軍人であるからには、私の命令には従ってもらうぞ。」

 

 

 

 

 

 

結局、アデルを説得することは出来なかった。当然、帝王府から出て行くカイザルの足取りは重い。

 

(あの男は...駄目だ!!何も見えていない!!それに、あの兵器..."アトム"だけは使ってはならない!!絶対にだ!!)

 

カイザルは世界との戦争を回避する方法を探すべく、必死に模索し続ける。しかし、彼の苦悩はこれからもしばらく続くのであった。

 

 

 




ありがとうございました。評価、感想お待ちしています。


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第55話 グラメウス大陸大掃除作戦④

ちなみに、"ロッド"という名前は、未確認生物「スカイフィッシュ」の別名からとっています。


1月16日 午後1時15分 グラメウス大陸 とある古代遺跡―――

 

 

(......?何だ?)

 

岩に腰掛けていた体がぴくりと動いた。

 

その体は、大きさは成人男性とさほど変わりない。しかし、その皮膚は青と緑の斑模様でごつごつしており、おまけに目はどす黒い。誰がどう見たって、人間とは思わないだろう。

 

彼の―――と言っても、男なのかは分からないが―――、その名前は「量産型戦闘培養体・コード021」通称"ハネス"。古の魔法帝国・ラヴァーナル帝国によって作られた生物兵器である。彼はこの遺跡に封印されていたが、先日何者かによって目覚めさせられたのであった。

 

 

ハネスは自分が目覚めた理由を知らなかったが、遺跡に残された資料を読み、この世界の現在の情勢をおおよそ把握していた。近々復活するらしい魔法帝国の為、彼は手近な国を滅ぼそうとも企んでいる真っ最中だ。

 

 

まずはこの、グラメウス大陸と地続きになってるトーパ王国とやらを滅ぼして、ついでにフィルアデス大陸もまとめて手に入れれば、復活した魔帝様にも顔向けが出来るだろう.....と、彼は考えていた。

 

この世界のどこかにも、恐らく彼の仲間が眠っているはずだったが、今のところ反応はなかった。まだ眠っているのか、それとも機能が復活していないのか。そんなことも考えつつ、まずは遺跡に残っていたクローンのデータを元に、空を飛ぶ魔物である"ロッド"などを使役した。

 

 

"ロッド"はワイバーンとは違って、寒冷地でも行動できる魔物だ。その見た目は、青白いワイバーンといった様子だ。大きさはほぼ同じだが、上昇高度はおよそ2,500mが限界であり、その分運動性能に優れる。また、導力火炎弾と導力氷結弾をどちらも使うことが出来る。そして、その最高速度はおよそ280km/hだ。

 

これだけ見ると、「寒冷地でも扱えるワイバーン」と言える。しかしこの魔物は、それなりに強力な念動波でないと使役できない上に数も少ないため、この世界の国々では兵器として使用できなかったのである。数が少ないこともあり、魔法帝国の技術によりクローンを作ることに成功し、さらに魔王の能力を使うことでようやく使役できる代物なのだ。

 

 

 

そして、この魔王―――ハネスは、量産型魔王の中でも魔物を使役することに長けた個体だ。彼らにはそれぞれ長所短所があり、ハネスの短所は、自分自身が扱える魔法が少ないということである。

 

 

 

 

―――まさに今、グラメウス大陸とフィルアデス大陸の境界付近に向かわせたロッドの反応がいくつか消えたことに彼は気づいていた。

 

 

(......なんだ?事故か?それとも......まさか、敵か?)

 

彼の考えでは、この付近でロッドを倒せる魔物はほとんどいない。未知の脅威の出現に、ハネスは警戒を強めるのだった。

 

 

 

 

その頃 「世界の門」よりグラメウス大陸方面 約3km地点―――

 

 

 

「ギャアッ!!!」

 

 

 

痛々しげな悲鳴が響き、生暖かい血しぶきが飛び散る。そこいにた、およそ200匹のロッドは急速にその数を減らしていた。以前のパーパルディア皇国との戦いや、グラ・バルカス帝国とレイフォルとの戦いの結果によって、ワイバーンが航空機に敵わない事はもはや周知の事実となっていた。ワイバーンオーバーロードですら勝てないのに、普通のワイバーンより少し強い程度のロッドで歯が立つわけもない。

 

5隻のエセックス級航空母艦から飛び立った100機近くのF6F戦闘機とF4U戦闘機は、僅か15分ほどで殆どのロッドを撃墜していた。そして、TBFアヴェンジャーやSBDドーントレスの密度の高い爆撃により、地上にいたおよそ1000匹のゴブリンやオークも一掃されていた。

 

 

『イントレピッドリーダー、トカゲはあらかた落としたぜ。』

 

この攻撃隊のリーダーを務める「イントレピッド」所属機のもとに通信が入った。髭を蓄えた隊長の妖精は、無表情のまま外に目をやる。すると、大陸の奥の方へ数匹のロッドが逃げていくところが見えた。

 

「オーケー、ご苦労。やっぱり遺跡の方から魔物が来ているようだな。俺んところとヴァリー・フォージの隊は偵察に行ってみよう。他のところは爆撃隊と一緒にひとまず帰還してくれ。」

 

 

『『『了解!』』』

 

彼の指示通り、ここで爆撃機隊及び「ボクサー」「ゲティスバーグ」「イオー・ジマ」の戦闘機隊と、「イントレピッド」「ヴァリー・フォージ」の戦闘機隊が分かれる。前者は一足先に母艦へ、後者は鉱山の方へそれぞれ向かっていく。

 

 

 

イントレピッドの隊長は、改めて母艦に連絡を入れる。

 

「こちらイントレピッドリーダー、俺とヴァリー・フォージの戦闘機隊は遺跡付近の偵察に向かう。その他は先にそっちに帰らせたぜ。」

 

『OK、何かいたら倒しても良いが無理はするなよ。』

 

「もちろんさ、任せてくれ!!」

 

自信満々にそう答えると、通信を終えた。

 

彼の操るF4Uの機首付近には、2種類の国旗に赤い×印のマークがいくつも描かれている。1つは、ロウリア王国の国旗。そしてもう1つは、パーパルディア皇国のものだ。これまでの戦争で墜としたワイバーンの数だけ、このマークが描かれている。尤も彼らからしてみれば、ワイバーンなど"本当にどうしようもないくらいの弱敵"扱いなので、大した自慢にはならないらしい。

 

 

「よしお前ら、行くぞ!」

 

『『『イエッサー!!!』』』

 

陽気な戦闘機隊は、翼を翻し去っていった。

 

 

 

同じ頃 戦艦「スターリン」艦内―――

 

「おいキョースケ。攻撃隊は、とりあえず大陸の境界線あたりにいた魔物を片づけたらしいぞ。」

 

スターリンの報告を聞いた高橋は、少し面倒くさそうに、ゆっくりと身を起こす。

 

「.......そうかい。まあ、そうなるだろ。」

 

そう呟くと、大きなあくびをした。

 

「おいおい、提督がそんなんでいいのかよ。」

 

スターリンは少し呆れたような顔をする。

 

「だって暇だしなあ......。例の海魔もいないし。ああ、攻撃隊が帰ってきたら、もっと奥の方へ艦隊を移動するように伝えといてくれ。」

 

「分かった。目が覚めないならシャワーを浴びるなりしろよ。」

 

そう言うと彼女はドアを開けて去っていった。

 

 

 

この後、帰ってきた攻撃隊を迎えた艦隊は、高橋の指示に従いより大陸の奥地に近い海域に移動した。

 

 

 

 

 

同日 午後2時頃 神聖ミリシアル帝国 港湾都市カルトアルパス 港湾管理局―――

 

 

「......ほほう、日本からは戦艦が4隻に、巡洋艦が3隻くるのか。これは楽しみだな。」

 

管理局長ブロントは、上から渡されたメモに目を通すと嬉しそうな表情を見せた。近日、カルトアルパスにやってくる日本の軍艦についての情報がざっくりと記されている。軍艦好きの彼にとってはビッグなサプライズだった。

 

彼は自身の仕事机の引き出しから、一冊のノートを取り出し、とあるページに目を通す。それはパーパルディア皇国の降伏を伝える新聞の切り抜きで、調印式に参加した日本の戦艦の魔写が大きく掲載されていた。そしてそこには、戦艦「ミズーリ」や、「プリンス・オブ・ウェールズ」の姿がある。

 

文明圏外の国がムー以上、いや神聖ミリシアル帝国と同等の軍艦を所有していることは彼をひどく驚かせたが、むしろ実際に見てみたいという気持ちも強まった。

 

(先進11ヶ国会議の前に、日本の軍艦をお目にかかれるとはな....。今から楽しみだ。)

 

カルトアルパスに他国の軍艦が入港することは、先進11ヶ国会議を除いて滅多にないことであった。思わぬところで舞い込んだ仕事に、彼の気分はとても高揚している。こころなしか弾んだ足取りで、彼は自室を後にしたのだった。

 

 

 

 

同じ頃 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

 

自室で、カイザルは苦悩していた。彼の祖国は今、かつてない危機的状況にある。そしてそのことに気づいているのはごく少数の人間だけだ。驕り高ぶった人間達の表情は、彼の目にはおそろしく醜く映った。

 

(いったい、どうすれば戦争を回避できる......!?少なくとも、日本を含めこの世界の国々が帝国に宣戦布告をしてくることは無いだろう。だが、逆に過激派が仕掛ける可能性は高い......。)

 

秘書に頼み、熱いコーヒーを淹れてもらった。そしてそれを口にしつつ、カイザルは考えを巡らせる。

 

 

 

(タイムリミットは...........先進11ヶ国会議だ!!!)

 

 

 

このとき飲んだコーヒーは、なんだかやけに苦いような気がした。

 




ありがとうございました。あと2人で評価バーがまた上がるので、是非よろしくお願いします。


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第56話 グラメウス大陸大掃除作戦⑤

高評価、ありがとうございます!うれしいです。


1月 16日 午後3時頃 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ―――

 

「...............。」

 

背の高い一人の男が、病院から出て行く。その足取りは重かった。

 

彼...グラ・カバルは先日、議会で行われた帝位継承会議で敗れ去っていた。それも、ものの見事な惨敗という結果でだ。あの時のことを思い出すだけで、彼はこの上なく情けない、みじめな気分にさせられる。

 

父親のグラルークスはずっと眠り続けている。病状の進行は緩やからしいが、このままではいずれ力尽きてしまうだろう。しかし彼の病気は帝国の医療技術では治すことが出来ないのである。

 

 

 

「ああ.......。」

 

不甲斐ない......。思わずため息がでる。もしかすると日本の技術をもってすれば、父の病気は治るのかもしれない。だが、弟のアデルはこのままでは世界中に戦争を挑んでしまうだろう。

 

彼は自身の無力さを嘆くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

同日  午後3時33分 グラメウス大陸 遺跡付近―――

 

(......!!!いったい......何が起きているんだ.....!?)

 

 

量産型魔王、ハネスは大いに混乱していた。放ったロッドが数匹をのぞいて全て反応が消えたからだ。しかも、何匹かは彼自身が直接操ったというのにもかかわらず瞬殺されている。リンクさせた視界に映ったのは、魔帝の戦闘機によく似た航空機の姿だった。姿は違えど、航空機を持っている国があるということに、彼はひどく驚かされていた。

 

(いつの間にやら、この世界の蛮族も技術を発展させたようだな。だが、速度は劣っている上に誘導魔光弾も持っていなかった。フン...やはり魔帝様には劣るな。)

 

 

そう言って、どうにか自分を落ち着かせる。魔帝を超える技術とはいかないまでも、どうやら彼の思った以上に、この世界は発展しているようだった。

 

 

その時だった。

 

ゴォォォォォ.....という低い音が遠くから聞こえてきた。

それを聞いたハネスは思わず立ち上がり、空の向こうを睨む。そこにはいくつものシルエットが浮かび、次第に近づいてくるのがわかった。おそらく、高度3,000メートルほどだろう。

 

 

「くそ!目障りな!!」

 

彼はそう吐き捨てると、指を何やら不思議な形に組む。すると、彼の目の前には直径2メートルほどの魔法陣が形成されてゆく。

 

「くたばれ!!」

 

その叫びと共に、魔法陣が光り輝く。すると、太いサーチライトのような光が空に向かって伸びていった。そしと、およそ5秒ほどで、それは霞んで消えていった。

 

しかし、残念ながら敵の航空機には当たらなかった。久しぶりに魔法を使ったせいか、どうやら腕がなまっているらしい。

 

「クソッ!」

 

ハネスは再び悪態をつくと、慌てて別の魔法の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

「うおっ!!なんだあ!?」

 

一方、攻撃を受けた戦闘機隊はいきなりの攻撃に驚いてはいたが、幸いにも被害はなかったようだ。そして、「ヴァリー・フォージ」所属の隊員が原因を見つけたようだ。

 

 

『リーダー!あの岩の裏になんかキモいのがいるぜ!』

 

彼の通信を聞き、全員がその方向に視線を向ける。そこには、彼の言うとおり"なんかキモいの"......ハネスがいた。

 

『アイツが噂に聞く"魔王"か!!』

 

『どうするリーダー!!』

 

隊員達が急かすように通信を飛ばしてくるが、隊長は冷静に考える。少しの沈黙の後、彼は命令を出した。

 

「俺と......ジェイ、ついてこい。機銃とロケット弾で様子を見る。他の奴らは待機だ。もし一機でもやられたら即撤退。」

 

 

『『『『了解!!!!』』』』

 

敵の正体や能力がよく分かっていない今、油断は禁物だ。もしかすると、こちらを一瞬で全滅させられるほどの能力を持っているかもしれないのだから。それに、もしここでやられてしまっても、妖精である彼らは母艦の艦娘が死亡しない限りはまた戻ってくることが出来るのだ。

 

 

隊長の命令に従い、彼のF4Uと、「ジェイ」と呼ばれた妖精のF6Fが編隊から一旦離れる。そしてその2機は、唸りを上げ、急降下を始めた。

 

 

「気ィ抜くなよ!!」

 

『もちろんさリーダー!!』

 

 

2機の戦闘機は一直線に魔王を狙う。

 

 

 

 

 

 

―――「来たか!!!」

 

その様子に気づいたハネスは身構える。先ほどの攻撃でこちらの居場所がバレたのだろう。彼は今度は違った形で指を構え、何かを唱える。すると、魔法陣ではなく薄紫色のシールドのような物が、彼の周囲を覆うように展開された。どうやらこれが防御魔法の一つのようだ。

 

 

 

そして、その様子を2人のパイロットは見ていた。彼らは、隊長機のF4Uが前、その少し斜め後ろにF6Fという形を取っている。

 

 

「吹き飛びな!!」

 

そう叫ぶが速いか、トリガーを引いた。6丁の12.7mm機銃が火を噴き、曳光弾を交えながら飛んでゆく。続いて、ロケット弾10発もまとめて発射し、後ろのF6Fも同じ方法で攻撃を開始した。

 

 

 

 

「ぬがぁっ!!!」

 

弾丸が次々に降り注ぎ、地面が剥がされんばかりの勢いで波打つように突き刺さる。シールドを貫通はしないようだが、これでは動くこともできない。

 

ハネスは防御魔法は得意だが、攻撃魔法は先ほど使ったものしか出来ない。それに防御魔法を使用中は攻撃が出来ないので、今はただ守ることで精一杯だ。

 

「...!?」

 

さらに続いて、銃撃が止み、今度は2機の航空機の翼が光る。それを見て、ハネスは恐怖を覚えた。

 

 

「まさか、誘導魔光弾!?」

 

合計20発打ち出されたロケット弾が、彼の元に向かう。特に意味はないが、ハネスは思わず足腰に力を入れてしまう。もしあれが魔帝の誘導魔光弾と同様の物なら、シールドを破壊されてしまうかもしれない。

 

 

 

「ぐおっ!!!」

彼の周囲にロケット弾が着弾、爆発を起こし土煙と粉雪がもうもうと立ち上がる。およそ30秒ほど、ハネスのいた辺りは、ほとんど何も見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

「さあ、どうかな?」

 

 

攻撃を終えた2機は、視界が晴れてゆくのを待つ。今の攻撃がどの程度効いているのか見極めなければならない。まあ、この程度で倒せるのならば楽なものだが―――。

 

『......ああ、やっぱりダメみたいですね。』

 

ジェイの言うとおり、土煙が晴れるとそこには変わりない魔王の姿があった。そして、相変わらずの不気味な見た目で、こちらを睨んでいる。雪を引っ剥がされた地面は歪な形に変貌していたが、魔王にはダメージはなさそうだ。

 

 

 

「.....そのようだな。一度母艦に戻ろう。全機撤退。」

 

『了解!』

 

再び編隊を組み直した戦闘機隊は、隊長の指示に従い母艦に戻っていった。

 

 

 

「くそ!!!」

 

去っていく戦闘機隊を黒い目で睨みながら、ハネスは悪態をつく。先ほどの攻撃は、どうやら誘導弾では無いようだが、それなりに威力はあった。この世界の野蛮人どもにまさかここまでコケにされるとは思っておらず、彼のイライラはとっくのとうに頂点に達している。

 

 

 

「猿どもめが!!!絶対に許さん!!」

 

 

そう叫ぶと、彼は遺跡の中へと入っていき、何やら準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

同日 午後4時頃  戦艦「スターリン」 露天艦橋―――

 

 

ちりん、と鈴のピアスが音を立てる。ここにきて雪が大人しくなったので、高橋はやっと一服できていた。彼曰く、寒いときに吸うたばこはなぜかおいしいらしい。

 

 

「なあキョースケ。前から気になってたんだが、お前のその耳、どうしたんだ?」

 

隣にいた艦娘「スターリン」が高橋の右耳を指さしてこう尋ねた。最近、彼は左耳にだけピアスをしていたが、右耳は下の三分の一ほどが失われていたのだ。それに首筋には銃創のような傷の跡がある。

 

 

高橋は自身の耳を触ると、こう答えた。

 

「...ん?ああ、これか。......ええと、たぶん5年前くらいの戦いで、敵にうっかり撃たれたんだ。耳の一部は吹っ飛ばされたが、幸い体には掠っただけだった。あん時は大変だったなあ....。」

 

「ふーん、昔にそんなことがあったのか。」

 

「ああ、そうだよ。男の勲章?かな。」

 

そう言うと、ゆっくりと白い煙を吐いた。

 

 

「あと、そのイヤリングはどうしたんだ?」

 

スターリンはもう一つ気になっていたことを尋ねた。前までは何も付けていなかったはずだが、そのピアスは少し古そうに見える。

 

「これは兄貴のさ。昔に買って、俺は右耳に、あいつが左につけてた。俺のはずいぶん前に、撃たれて吹っ飛ばされてどっか行っちまったんだがな。んで、これは最近フェン王国で見つかったらしい。」

 

スターリンは、これは少しまずいことを聞いてしまった、と思った。フェン王国での虐殺被害者の遺体は、パーパルディア皇国の兵士によって捨てられ、一人も回収できなかったらしい。

 

「......すまない。」

 

「気にすんなって。今度は....うっかり左耳を撃たれないようにしなきゃな。」

 

高橋はそう言って笑った。

 

ちょうどその時、魔王を攻撃していた戦闘機隊が帰ってきた。

 

「......さて、作戦会議といこうか。晃輔とペトロたちと合流しよう。」

 

「ああ。」

 

その様子を見ていた二人は、艦橋内に戻っていった。

 

 

 



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第57話 グラメウス大陸大掃除作戦⑥

思ったよりもすぐ終わりそうです。


1月16日 午後5時 戦艦「ペトログラード」会議室――

 

 

「さあて.....どうしたもんかね。」

 

会議室には長机を囲み、今回参加している全ての艦娘達と、2人の提督が座っている。彼らは戦闘機隊の報告を聞き、これからの作戦についての話し合いをしていた。

 

吉川はガンカメラによって撮影された魔王の写真を、なんともいえない顔つきで見ていた。写真にはシールドを展開し、その裏からこちらを真っ黒な目で睨みつけるハネスの姿がはっきりと写されている。

 

「機銃と......ロケット弾は.......おそらく効果なし....かあ。爆弾ならどうかな?」

 

緑茶を飲みながら、写真を机に戻す。出席している他の面々も、写真などの各種資料に目を通していた。その気になれば全艦による艦砲射撃も出来るのだが、そうするとおそらく遺跡や鉱山も木っ端微塵にしてしまう可能性が高いので、それはなるべく避けたい。

 

ここで、1人の艦娘が手を挙げた。

 

「アレク、何か?」

 

彼女は軽巡洋艦娘「アレクサンドル・ネフスキー」だ。非常に腰の据わった性格と、スラヴ系を思わせる整った顔立ちが特徴の艦娘である。名前が長いので、よく略称で「アレク」と呼ばれていた。

 

高橋に指され、彼女は意見を述べる。

 

「......ひとまずは、様子を見るべきかと思います。遺跡や鉱山を傷つける訳にはいきませんし、時間には余裕があります。向こうから襲ってきたら、全力で反撃すればよろしいかと存じます。」

 

言い終わると、再び行儀良く椅子に座った。

 

「うーん.....遺跡にこもってる内は様子を見て、出てきたら攻撃か.....。まあ補給も出来るし。何か他に意見ある奴いるか?」

 

高橋の言葉に答える者はいなかった。つまり、とりあえずはそれでいいだろうということだ。

 

というわけで、ひとまずは偵察機を常時飛ばして様子をうかがうことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

同日 午後7時 戦艦「リットリオ」艦内――― 

 

 

 

 

「.........リットリオ。」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

現在、「リットリオ」の他、艦隊では夕食の時間だった。今艦内で働いている妖精達も食堂に集まっている。その中のとある机では、赤松が目の前に並べられたイタリア料理の数々を目の前にして固まっていた。1月7日に出港してから今日で9日目になるが、当然食事は全てイタリア料理であった。これは、日本人の赤松にとってはなかなかにつらい。既に限界に近づきつつあった。

 

彼は机にだらんと倒れたまま、向かい側に座るリットリオにこう言った。

 

「リットリオ.......ソロソロニホンショクタベタイ......オレシンジャウ.......。ミソシルノミタイ.....。」

 

何故か片言で話始めた赤松に、少しばかり戸惑うリットリオではあったが、彼の気持ちは分からなくもない。彼女はにっこりと笑うと、こう返した。

 

「分かりました、料理長に伝えておきますね。ミソはあるんですか?」

 

それを聞いた赤松は跳ね上がるように体を起こした。

 

「よっしゃ!寒いから辛口味噌を乗せといたよ。」

 

すっかりご機嫌になった彼は、夕食をあっという間に平らげてしまった。その後、入浴などを済ませ、あとは寝るだけとなった赤松とリットリオは、艦内の小さなバーで酒を飲みつつ話をしていた。壁に掛けられたレトロ調な時計は、午後10時を少し過ぎた頃を指している。

 

 

「......ふう。」

 

ロックグラスを呷ると、赤松は一息つく。その隣には、ワイングラスを片手にリットリオが座っていた。

 

彼はスマートフォンを何やらいじくると、リットリオにある写真を見せる。

 

「見てみなよこれ。京介たちはこんなのと戦ってるらしいぜ。」

 

そこには、F4Uのガンカメラによって撮影されたハネスの写真があった。

 

「これはまた......不思議な生き物ですね。」

 

リットリオは、興味深そうにその写真をのぞき込む。前の世界.....地球にはこのような生き物はいなかった。

 

 

「なんか、防御力が高いんだとさ。シールドみたいなのを使ってロケット弾を弾いたとか。」

 

「想像もつかないですね.....。」

 

赤松は煙草に火を付け、ゆっくりとくゆらせる。

 

「まあ、陸自さんなら、前みたいに戦車で倒せるんだろうな。俺たちがやるよりずっと楽に、な。」

 

「.........。そうですね.......。」

 

政府は以前、例外的に魔王ノスグーラ戦に陸自を派遣させたが、少なくとも転移の原因が分かるまでは自衛隊は領海より外には出さないという方針を取っていた。虎の子である自衛隊を外に出している時に、万一元の世界に戻るようなことがあると困るからだ。逆に言えば、積極的に外に出されている佐世保の戦力は最悪いなくなっても構わない、という事だ。誰も口にはしないが、暗黙の了解として全員がそのことを理解している。しかし、あまり気分のいい事では無かった。

 

「......早いとこ、転移の原因を知りたいねえ。」

 

火を消すと、赤松はそう呟いた。

 

「....さてと.......まだ、寝るには少し速いかな。スマブラでもしようか。」

 

「はい。」

 

2人はバーを後にした。

 

 

 

 

翌日 1月17日 早朝6時頃 日本国 東京都某所―――

 

 

冬だということもあり、まだほんの少し薄暗い。朝靄がうっすらとかかっている相模湾を、彼女......戦艦娘「キング・ジョージV世」は感慨深げに眺めていた。

 

今からおよそ70年前に、彼女は妹の「デューク・オブ・ヨーク」や、アメリカの戦艦「コロラド」「ミズーリ」などと共に、太平洋戦争の終結を見届けた一人だ。彼女ら5姉妹は、船体の改装を行っている間に休暇をもらって、ここに来ていた。

 

「あのときから随分、変わったな......はは、そりゃあそうか。70年も経ったんだからな。なあ、デューク。」

 

「ええ、そうですね......。」

 

彼女たち「キング・ジョージV世級」が艦娘として誕生したのは数年前のことで、ここに来たのは今日が初めてだった。かつての敵国であった日本で、人の姿をして生きているなんて、まったく不思議な話だ。

 

「......さて、そろそろ行こうか。ツキジでbreakfastだ。」

 

長女がそう言うと、彼女たちはそこから去っていった。

 

 

 

 

 

 

同日 午前7時頃 グラメウス大陸 遺跡地下

 

 

「........これを使うか。」

 

ハネスは武器庫にあった、あるものを見ていた。

 

そこには、人型の、白く無機質な物体が佇んでいる。顔にあたる部分は透明で、中に入ると外が見渡せるように作られている。内蔵された魔導エンジンにより、魔力を発生して保存するほか、操作者の魔力を増幅して放てる。さらに手や足の力も何倍にも増幅できる、古の魔法帝国製兵器。汎用人型陸戦補助兵器「MGZ型魔導アーマー」だ。高さおよそ2m、全幅1.2mで、後背部に魔導兵器を搭載可能であり、防御力も、生身に比べると遥かに向上する。これがあれば、防御魔法を使わなくとも十分だろう。

 

 

彼がこの魔帝の兵器を身に纏うと、物々しい見た目に拍車がかかった。

 

 

 

「あとは.......。」

 

 

武器庫から出たハネスは、机の上にあったディスプレイを操作する。

 

「ゴブリンが5000に......オークが1000.....少ないな。」

 

彼が見ているのは、更に下層の部屋に保管されている生物兵器達のリストだった。空を飛ぶ敵を相手に戦えるとはとても思えないが、弾除けくらいにはなってくれるかもしれない。それに、ハネス一人で敵の大元を潰せれば問題はないはずだ。

 

敵はおそらく海から.....つまり艦隊がいるのだろう。そこまでたどり着き、強烈な魔法をお見舞いしてやろう。そうしなければ、彼の気が済まない。

 

 

「フフフフフ.......許さんぞ、猿ども.....!!!」

 

 

彼は、1人ヒステリックに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

同日 午前9時頃 佐世保鎮守府―――

 

 

「うーん.....。」

 

森高が1枚の紙に目を通していた。先日連絡があったムーでの合同観艦式に誰を参加させるか、彼は考えていた。どうやら、神聖ミリシアル帝国の艦隊も参加するらしいので、この世界の列強国を相手になるべく自分たちの存在をアピールしておきたいところだ。

 

「......行くかい?」

 

彼は同じ部屋にいた艦娘「扶桑」に話しかける。

 

「はい、慶んで。」

 

彼女は微笑みを浮かべ、そう返した。

 

「うん、じゃあ山城にも聞いてみようか。あとはどうしようかな......。」

 

 

佐世保は、今日も平和だった。




たぶんここらへんが終わったらすぐ会議にすると思います。


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第58話 グラメウス大陸大掃除作戦⑦

ここからの流れは、

あと数話で魔王編終了→ミリシアル帝国でのうんぬん→ムーでの観艦式→番外編→会議とする予定です。

マイペースに更新していくので気長にお待ちください。


1月17日 午前5時30分 戦艦「リットリオ」艦内―――

 

『♪~~~』

 

キル・ビルのテーマで目が覚める。

 

「ん~~~.........。」

 

赤松はゆっくりと目を開けると、携帯のアラームをとめる。いつもより時間が早い上に、真冬なのでなかなかに体が重い。布団からでるのが辛いが、彼はどうにか身を起こした。

 

 

「...あら?お早いですね...。」

 

隣のベッドで寝ていた艦娘「リットリオ」も目を開けていた。しかし、彼が楽しみにしている朝食まではまだ1時間と30分もある。

 

「......ああいや、昨日、寝る前に大事なことを思い出しちゃってね......。」

 

「?」

 

「この船の炊事担当....米炊くのド下手なんだよねえ。なんか、ドリアが出来ちゃうんだよ。」

 

ヘアゴムを結びながら、赤松はそう答えてにやりと笑った。

 

「あら、そうなんですか...。ふふっ。」

 

「ああ、だからこそ俺がやんなきゃあね。」

 

さらにこう言うと、彼は部屋のドアを開けて去っていった。

 

 

 

 

午前6時30分頃  グラメウス大陸 遺跡上空―――

 

 

「ふあぁ.......眠いなあ。」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

TBF雷撃機のパイロットは、大きなあくびをした。彼らは現在遺跡を見張っているが、これといって何の動きもなく暇を持て余しているところだった。

 

「ああ....7時になったら戻れるから...あと30分の辛抱だ。」

 

「そうだな。帰ったらゆっくり休もう。」

 

「おう。....あっ、出てきたぞ!!」

 

 

気がつくと、遺跡の地下へ続く穴からぞろぞろと魔物が出てきていた。小さな人のような魔物もいれば、豚のような頭をした2足歩行の魔物もいる。

 

 

「おいおい...いったいどれだけいるんだ.....」

 

彼らにはほんの少し、焦りの表情が浮かぶ。穴からは今も大量の魔物が次々と、ゾンビのように出てきている。

 

「報告だ!」

 

 

彼らは急いで艦隊に連絡を入れると、引き続き上空から監視を続ける。

 

 

 

 

その少し後 戦艦「ペトログラード」艦内―――

 

 

艦内の、とある部屋。そのドアは閉ざされていたが、獣のようないびきが廊下にまで響いていた。

 

そして、その部屋に向かって走る女性の姿がある。艦娘「ペトログラード」だ。彼女はたいてい6時頃には起きていて、先ほど偵察機からの連絡を聞いていた。今、彼女は寝ている吉川を起こしに来ている。

 

 

ドアを勢いよく開けて、ベッドへと歩を進める。ところが―――。

 

「あれっ?」

 

ハイヒールを履いていたせいか、うっかり彼女は何かにつまづいてしまった。そして、倒れた先にはベッドがあり―――。

 

 

 

「お゛お゛ぅ゛っ!?」

 

 

数秒後、鈍い悲鳴があがった。ペトログラードの右手が吉川の大事なところにスレッジハンマーをキメてしまったからだ。これには、いくら彼でも堪らない。

 

 

「あっ...すまん。」

 

「おっ.....俺のラスプーチンちゃんが.....。」

 

 

(ラスプーチン.....?)

 

 

吉川が何を言っているのかよく分からなかったが、冗談を言う余裕があるのなら、まあ大したことはないのだろう。

 

「なんだ、こうすれば一発で起きれるのか。」

 

「......なんかお前最近、俺の扱いヒドくない?」

 

「気のせいだな。」

 

吉川のぼやきをペトログラードは一蹴した。

 

「まあいいや。.....で、用件は?まあ、おおかた予想はつくけど。」

 

「動きがあったぞ。魔物が.....6000体ほど出てきたらしい。」

 

「....多いなあ。」

 

「で、キョースケが既に攻撃隊に準備をさせている。」

 

「そうかい。じゃあ俺、やることあるのか?」

 

「......無いな。」

 

「だよな。じゃあもっかい......」

 

さりげなくベッドに戻ろうとした吉川の肩をつかむ。

 

「もう一回、殴ってほしいのか?」

 

「......シャワー行ってくる。」

 

吉川は苦笑いを浮かべ、逃げるように部屋を出ていった。

 

 

 

同じ頃 戦艦「スターリン」艦内―――

 

 

 

「よーし、行け行け。準備できたらどんどん行って良いぞ。」

 

高橋がそれぞれの空母に指示を出している。とは言っても、非常にざっくりとしたものだ。攻撃を終えたら戻ってきて、補給を終えたらまた出撃する。これを繰り返せば十分だろう。最も恐れていた海魔は気配すらない。魔王以外の魔物も機銃で倒せる。

 

 

「よし、朝飯にしようか。」

 

「ああ。」

 

指示を終えた高橋は、隣にいた艦娘「スターリン」を連れて食堂に向かった。

 

 

おそらくこの作戦は、今日で終わるだろう。魔王を倒せば、ミッションコンプリートだ。

 

 

 

 

他の艦でも、それぞれ食事をとっていた。「ペトログラード」でも、朝食の時間となっている。

 

「ゴブリン?とオーク?が合わせて5千か6千ほど確認されたらしい。それと、最後尾にこんなやつがいる。」

 

トーストを齧りつつ、ペトログラードは吉川に写真を見せる。魔導アーマーを纏ったハネスの姿が、そこにあった。

 

「んー?これは...なんだか鎧みたいだな。もしかして、こいつが魔王か?」

 

 

「そうかもな。一体だけらしいし、一応警戒対象だ。」

 

「ふーん.....まあ、こっちに来る前に全滅してるだろう。」

 

「そうだな。しかし、空母以外は暇だな。」

 

「まあ、今回は砲艦の役目はあくまでも護衛だからなあ。仕方ないさ。」

 

「ああ、分かってるさ。早く帰って酒が飲みたいな。」

 

「そうだな......。」

 

 

 

 

 

およそ2時間後、午前9時頃、魔王ハネスは配下の魔物達の最後尾を歩いていた。彼の前には、まるで軍隊アリの行進のような風景が広がっている。あわせておよそ6千の魔物たちは、この世界の蛮族が見たら震え上がるほどの恐怖をもたらすであろう。

 

しかし―――。

 

ハネスの頭の中には、とある感情が渦巻いていた。それは、彼が生まれて初めて感じる、微かな恐怖。魔帝の技術の結晶たる自分が、防御に徹することしか出来なかったという信じがたい事実が、彼を混乱させていた。

 

 

(.....くそっ!!)

 

 

こんな情けない事は初めてだ。あの憎たらしい天の浮舟を飛ばしてきた連中は、おそらくここから60kmほど進んだ先に停泊しているだろう。そこにたどり着きさえすれば、自身の究極魔法を以て消し炭にしてやろう。いざとなれば、最後の手段もある。おそらく敵は既に感づいているだろう。間違いなく、来る。

 

 

決意を固め、彼は歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

同じ頃 戦艦「リットリオ」艦内―――

 

『ヘイ、腕を下げないで!もう2セットだ!』

 

「リットリオ」艦内のとある部屋にある、大きなテレビから、ご機嫌なリズムとよく通る英語が流れている。そしてそれに合わせて体を動かしているのは赤松だ。暇を持て余した彼は日課の運動の一つとして、どこかから引っ張り出してきたこのビデオを流していた。船の上だからって、運動を怠るわけにはいかないのだ。

 

それは10年以上も前に日本で流行った、とあるブートキャンプの映像だ。今も画面から、ムキムキの黒人男性が檄を飛ばしている。

 

 

『オーライ、良く頑張ったな!』

 

「ふう、上がりっと...。」

 

およそ1時間のプログラムが終わり、赤松は水を飲む。明日の昼頃には無事に目的地、神聖ミリシアル帝国に到着するだろう。今朝、ようやく味噌汁を補給して活力を補給した彼は、鼻歌を歌いながら風呂場に向かったのだった。

 

 




ラスプーチンはまああれですね、クソしょーもないジョークですね。すいませんでした。


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第59話 グラメウス大陸大掃除作戦⑧

うっかり下書きが消えてたので遅くなりました。少し長くなってます。


午前9時32分―――

 

 

「......見つけたぜ!」

 

一人の男が吼える。

 

発艦より一時間と経たずに、攻撃隊は目標に接近していた。彼らの視線の先には、まるでアリの行列のようないくつもの黒点が確認できる。間違いなく、あれが報告にあった魔物の群れだ。

 

 

「攻撃開始!!」

 

 

隊長機からの号令のもと、彼らは遂に攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

同じ頃 戦艦「スターリン」艦内―――

 

 

「キョースケ、パピコ食うか?」

 

「......おう、くれ。」

 

艦娘「スターリン」は慣れた手つきでアイスを二つに割ると、片方を高橋に投げて渡した。

 

相変わらずやることもない高橋とスターリンは、艦内のとある部屋で時間をつぶしていた。外は寒く、雪も降っているが、当然部屋は空調が効いている。そしてその暖かい部屋で食べるアイスクリームの美味しさといったら、えもいわれぬものだ。

 

 

 

「おまえ、そんなもん読むのか?」

 

 

受け取ったアイスを口にしつつ、高橋は前の席にどっかりと座っているスターリンに声をかける。

 

彼女がアイスを食べながら読んでいるのは、プロイセンの有名な哲学者であるカール・マルクスについて書かれた本だった。社会主義という思想に大きな影響を与えた人物について書かれた書籍を、「スターリン」の名を持つ彼女が読んでいる風景は、なんともいえないシュールさを醸し出している。

 

 

 

「......私には、似合わないか?」

 

 

彼女はちょっぴり不服そうにそう言うと、本を閉じた。どうやらスターリンは、少し勘違いをしたようだ。

 

 

「あーいや、違う違う。お前がその本を読んでるのがな...。」

 

 

「ああ、そういうことか。...だが、名前が同じだけで私はあの男とは特に繋がりはないんだぞ。」

 

 

スターリンはそう言うと、またアイスを一口食べた。

 

ここで高橋は一つ、彼女に尋ねてみる。

 

「まあ、分かってるけどさ。......そういやお前は、資本主義と社会主義なら、どっちの方がマシだと思ってるんだ?」

 

彼の切り出したこの質問に、スターリンは少しの間黙ってから、こう答えた。

 

 

「......私からすれば、社会主義はクソで......。」

 

「ほう?」

 

「.......資本主義はチンカスだな。」

 

そう言い終わると、彼女は足を組み直した。一方の高橋は、この例えにあまりピンとこなかったらしい。それに、余りにも下品な答えだったので少し表情が歪んでいるように見える。

 

「きったねぇ例えだな...。つーかそれ、なにが違うんだ?どっちも大して変わんねぇだろ。」

 

 

彼のこの言葉に、スターリンは少し呆れたような表情を作ってこう返した。

 

「それは違うな。私は、クソを口に入れるのは絶対にごめんだ。...つまりは、そういうことさ。資本主義の方がマシってことだよ。」

 

「......ほう、そうなのか。」

 

「ああ、そうさ。そもそも、社会主義がクソだってのは、歴史が嫌というほど証明してくれているだろう。前の世界の地球で、結局社会主義を貫けた国はないに等しい。ソ連のやり方も、結局スターリンが雇い主の資本主義と変わらん。私も姉さんも作られなかったのは、他ならぬスターリン(クソッタレ野郎)の采配のせいだしな。」

 

 

このように一通り文句をぶちまけると、彼女はまたどっかりと座り直した。彼女の名前の由来は、かの有名な"ヨシフ・スターリン"から来ている。しかし彼女は彼のことを嫌っているらしく、自身の名前もあまり気に入っていないようだ。曰く、『フルネームで付けられてたら改名していた』のだとか。

 

 

佐世保に所属している様々な国の艦娘の中でも、ソ連は未成及び計画のみで終わった艦が多い。何故かというと、大量の軍艦を欲していたスターリン自身が大量の技術者を粛正してしまったことも一因である。自分の政策で自国の首を絞めてしまっていたのだ、なんとも皮肉なことである。結局開発は停滞を重ね、大戦中に運用できた戦艦に至っては旧式のガングート級と、イギリスから供与されたリヴェンジ級戦艦の「ロイヤル・サブリン」など少数に留まるという有様だった。多数あった計画は、結局ほとんど全てが水の泡となってしまったのである。

 

 

しばらく黙って聞いていた高橋は、食べ終えたアイスを捨ててから口を開く。

 

「......まあ、そんなカッカすんなよ。とっくの昔に亡くなった爺さんにキレても意味がないだろ。」

 

「分かってるよ。.....まだ休んでていいのか?」

 

「ああ。今日は晃輔に任せとけ。けどまあ、何かあれば動ける準備はしとけよ。」

 

「ああ、了解だ。」

 

そう言うと、スターリンは一度部屋を出ていった。

 

 

 

 

9時34分―――

 

 

「.....くそっ!!」

 

 

魔物達の行列の一番後ろの方で、ハネスは舌打ちした。あの不気味な音がしたと思ったいなや、前の方で猛烈な爆発が連続して起きた。それだけで、なにが起きたかは理解できる。

 

「はっ!」

 

ふと空を見上げると、3機の天の浮舟が彼のほぼ真上に陣取っているのが見えた。そしてそれは、向きを変えると真っ直ぐに落ちてくる。

 

 

そして、それは何か黒いものをこちらに放った。おそらく魔導爆弾のようなものだろう。

 

 

次の瞬間、ドン!という腹に響く音が鳴る。

 

 

「くっ......ぐおあっ!?」

 

咄嗟に防御魔法を貼ろうとしたが、詠唱が少し遅れてしまった。彼の目の前で猛烈な爆発が起き、大きな体が空高く打ち上げられる。たちこめる土煙に混ざり、魔物の腕や足の破片などが降ってきた。

 

 

「う.........。」

 

 

大きな衝撃こそあったものの、アーマー及び彼自身にはダメージはない。やはり自分以外の魔物達はあの攻撃には耐えられないようだったが、所詮寄せ集めの囮達だ、自分さえ残ればよいのだ。

 

奥の手中の奥の手ではあるが、彼にはある考えがあった。それは、一言でいえば自爆だ。彼の持てる限りの魔力をアーマーの心臓部に集中させ、故意に暴走させる。コア魔法には流石に劣るが、それでも半径1kmほどを焼け野原に変えることができるだろう。欠点としては、チャージに一時間ほどかかることだ。

 

 

プライドの高い彼としては、こんな事は絶対にやりたくはない。それでも、偉大なる魔帝様の覇道の障害になりうる存在は除かねばならぬのだ。

 

再び決意を固めると、彼はまた歩みを進めるのだった。

 

 

 

およそ30分後 戦艦「ペトログラード」艦橋内―――

 

 

―――「で、結局どうなんだ?いけそうか?」

 

『ザコは問題なさそうだ。爆弾で始末できてるぜ。だが、さっきはビームが飛んできた。おそらく例の魔王だな。』

 

艦橋では、吉川が攻撃隊のリーダーと話をしていた。

 

「そうか、分かった。魔王については引き続き警戒を続けてくれ。生き返れるからって無茶はしすぎるなよ。」

 

『任せろ、サー。』

 

 

ここで一旦通信が切られる。吉川は通信機を置くと、またどっかりと座り直した。

 

 

「......で、どうだって?」

 

彼の隣に座っていた艦娘「ペトログラード」が彼に話しかける。

 

「とりあえず、普通の魔物は機銃やら爆弾やらで十分だ。だがな......。」

 

言葉をそこで切り、吉川は腕を組む。

 

「......魔王か?」

 

「ああ、そうだ。なんかパワーアップしてるらしいぞ。あの鎧みたいなのは本当に強化アイテムだったっぽいな。機銃どころか、爆弾もあまり効いていないのかもしれん。」

 

「......そうか。大丈夫なのか?」

 

彼女の顔が少し不安げなものになった。相手が未知の存在である以上、何が起きるか分かったものではないのだ。それに魔王ハネスの目標は、十中八九自分たちだ。一方で、吉川はあまり心配していないように見えた。

 

 

「なーに、そんなに緊張するな。この世に無敵なんてものはありゃしないんだからな。」

 

「......ああ、分かっている。全て問題ないさ。」

 

「よし、それでいい。」

 

こう言うと、吉川は再び通信機を手に取り、指示を出した。

 

 

『えー、こちら吉川だ。全艦に告ぐ。向けられる限りの砲門を大陸に向けておけ。』と。

 

 

これに従い、空母以外のすべての艦が大陸に向けて、砲を指向した。

 

 

 

 

 

「なんか飲むか?」

 

「......うーん、ゆず茶を頼む。」

 

「渋いな...。ああそうだ、なんか音楽かけといてくれよ。」

 

「何かリクエストはあるか?」

 

「せっかくだし、シューベルトの『魔王』でも...。いやまて、あれは確かバッドエンドだったな。だめだ。.......やっぱりユニコーンか斉藤和義でもかけといてくれ。明るいやつな。」

 

「わかった。」

 

 

通信機をおいた吉川は立ち上がり、ペトログラードに声をかける。彼女の答えを聞くと、彼は一旦部屋を出ていった。吉川のリクエストを聞いた彼女も、スマートフォンを操作し始めた。少しすると、艦橋内には陽気なロックが流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 午前10時5分頃 佐世保市某所―――

 

非常に広大な佐世保鎮守府では、八幡製鉄所のように、物資の運送などのために専用線が敷設されている。そして、そこではかつての軍の工廠のように蒸気機関車やディーゼル機関車が使用されていた。

 

 

佐世保鎮守府は当然、一般人の立ち入りは禁じられているため、その中身はあまり公にされていない。しかし、搬入などに使われる専用線は一部が外からも見え、またJR佐世保線と接続していることもあり、その場所では今日も多くの鉄道ファンが集まりカメラを構えていた。

 

 

 

「まだか?」

 

「そろそろ来るはずだ。」

 

カメラマンたちが貨物用の時刻表とにらめっこをしている。まもなく引き継ぎが行われるはずだ。

 

そして間もなく、遠くから煙が見えてきた。それに気づいた彼らは、反射的にカメラを構える。

 

 

「げっ、あれは!?」

 

見えてきたその姿に、どよめきがあがる。

 

「パシナ号だ!!間違いない!!」

 

誰かが思わず叫ぶ。

 

紅く、大きな動輪に、流線型の優美なボディ。やってきたのは、かつての南満州鉄道で活躍したパシナ型蒸気機関車だった。

 

「すげぇ!!」

 

一斉にシャッターが切られ始める。しかしパシナ号はそれを気にも留めず、黙々と作業を終えると、貨車を引いて去っていった。

 

「なんでここにパシナ号が?」

 

「いや、ここではいろいろな国の蒸気が目撃されているらしいぞ。何がいてもおかしくない。」

 

「どうなってるんだ........。」

 

残されたカメラマンたちは、夢でも見ていたかのような表情で、ただその様子を見届けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ええ~......。」

 

そしてその頃、佐世保鎮守府内にある巨大な車庫の前では、森高が驚きとも呆れともとれる表情で立っていた。彼の視線の先には、世界の著名な蒸気機関車が肩を並べ、休んでいた。

 

「イギリスの『マラード』、『LNERフライング・スコッツマン4472号』に......ドイツの『52形』『01型』...。」

 

彼が思わず口に出した以外にも、中国の前進型などもある。その全てが、1067mm用に若干のスケールダウンはされていたが、それでも凄まじい迫力だ。

 

「......大淀。これはいったい、どうしてこうなったんだ?」

 

ずれてしまった制帽を直しながら、森高は隣に控える艦娘「大淀」に尋ねる。

 

「ええと.....各国の娘達が工廠の妖精に頼んで.....」

 

 

「晃輔と一誠は許可を?」

 

鉄道に関しては、赤松と吉川の担当であった。

 

「はい、『どんどんやれ』と......。」

 

「なるほどねえ......。あいつらならしょうがないか。資源は足りてるのか?」

 

「それに関しては問題ありません。クイラ王国からほとんどタダに近い価格で購入できています。」

 

「そうか....。じゃあ、問題ないか。」

 

森高はこれ以上悩むのは無駄だと気づいた。転移後、日本によるインフラ整備の一環として佐世保も協力していた。ロデニウス大陸など各国に蒸気機関車を輸出しているのだ。

 

人件費がほぼかからないので、価格はかなり抑えられている。ほかの重工業メーカーは客貨車及び機関車を製造しているが、現在の日本で蒸気機関車を製造できる場所はここ佐世保と東北にある、とある企業だけだ。そして後者の方も、今ではほぼ製造を行っていない。というわけで、佐世保で色々な機関車が日々製造されているのだ。資源が豊富ということと、文明レベル、そして日本からの観光資源として蒸気機関車にもニーズがあった。

 

 

「......そろそろ戻ろう、大淀。」

 

「はい、千鶴さん。」

 

二人は機関庫を離れていった。




今度やる予定の番外編は、後半にふれた「新世界の鉄道事情」というものにしようと思っています。

お粗末様でした。


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第60話 グラメウス大陸大掃除作戦⑨

午前11時36分   佐世保鎮守府―――

 

 

提督の一人である森高千鶴と艦娘「大淀」は機関庫から執務室に戻る途中、話をしていた。

 

「......最近、寮では特にトラブルはないかい?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

「そうか。ならよかった。.....そういや、グラ・バルカス帝国からは何もないのか?もう二ヶ月は経つというのに。」

 

大淀も返す。

 

「......今のところは、なにも連絡がないようです。政府内でもちょっとした不安の種になっているようですが......。」

 

「そうか、どうしたんだろうな....。」

 

森高が少し困ったような顔をしていたそのとき、駐車場の方から特徴的なエンジンの音が聞こえてきた。

 

「あの音は.....まさか!悪い大淀、先に部屋に行っててくれ。」

 

「えっ、はい!」

 

戸惑っている彼女を置いて、森高は駐車場へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいダンテ、どっか行くのか?」

 

そして今まさに真っ赤な車に乗り込み、鎮守府から出ようとしていた艦娘「ダンテ・アリギエーリ」に、近くにいた「キーロフ」が声をかけていた。

 

前者はクリストフォロ・コロンボ級戦艦の3番艦、後者はキーロフ級巡洋艦の1番艦である。そして、「ダンテ・アリギエーリ」はウェーブのかかった茶色のショートヘアに少しのそばかす、「キーロフ」はストレートロングの黒髪が特徴だ。

 

 

アリギエーリは振り返ると、こう返す。

 

「ああ、博多に行くところだ。用事があるなら乗せていくぞ?」

 

「いや、遠慮しておく。んで、お前は何をしに行くんだ?」

 

「ああ、タトゥーをいれようと思ってな。ここと......ここらへんにな。どうだ?イカすだろう?」

 

彼女はスマホのアルバムを開くと、キーロフにデザインを見せた。どうやら彼女は左腕、背中、そしてデリケートゾーンの辺りにもガッツリ墨をいれるつもりらしい。

 

それを見たキーロフは少し苦い顔をして、アリギエーリにこう告げた。

 

「提督達の気を引くつもりだろうが......あまりお勧めはしないぞ。タトゥーは日本じゃウケが悪い。」

 

「えっ、そうなのか?」

 

アリギエーリはいかにも意外そうな表情になった。彼女からしてみれば、タトゥーはファッションの一環に過ぎないのだ。

 

「ああ。それに......温泉にも入れなくなるし、駆逐艦連中にも逃げられるぞ。前に妹が1回タトゥーを入れたことがあったが、結局3ヶ月で消したよ。」

 

「そうなのか...うーん、参ったなあ。どうしようか......。」

 

アリギエーリが悩み始めていたその時、森高がその場にやってきた。

 

「あっ、やっぱりか!!待ってくれダンテ、流石にそれで外出するのは遠慮してくれ。」

 

ダンテ・アリギエーリが乗っているのはかの有名なF40....を妖精に頼んで作らせたものだろう。転移してからは外国製の車は供給が途絶えたこともあり、プレミア価格で取り引きされたり、強盗が多発したりと散々な状況であった。そんな状況でこの車で出かけると、トラブルの種になるかもしれない。.....というより、法に触れてしまうので絶対にだめだ。

 

 

「いや、たった今外出はやめにしたよ。」

 

「えっ、そうか。ならいいんだが......。」

 

「それと聞きたいんだが......。タトゥーは日本人には人気がないのか?」

 

車から降りたアリギエーリは森高にもタトゥーのデザインを見せる。森高はそれをまじまじと見つめると、少し申し訳なさそうにこう答えた。

 

「うーん......確かにそうだな。申し訳ないが、俺も少し苦手だ。」

 

「そ.....そうなのか......。」

 

ダンテ・アリギエーリは少なからずショックを受けたようだった。しかし10秒ほど俯いていたと思いきや、すっと顔を上げて森高に向き直り、こう言い放った。

 

 

「まあいい。それより千鶴よ、あとでやけ酒するからつき合ってもらうぞ。」

 

そして森高も、彼女があまり落ち込んでいないことに安堵すると、ふと腕時計に目をやりこう告げた。

 

「ああ、分かったよ。その様子なら、まあ大丈夫そうだな。......そろそろ昼ご飯の時間だな、みんな中に入ろう。」

 

「今日の献立は?」

 

「ええと......牡蛎のフライだったかな?.......多分。まあ、行ってみれば分かるよ。」

 

彼に促され、周りにいた艦娘たちも動き出す。今日の佐世保は清々しい日本晴れで、空気も澄んでいた。

 

 

「.......ん?あれは........。」

 

 

森高はふと歩みを止め、上に目をやる。透き通るようなその空には、少し変わった機影が一つ。珍しい逆ガル翼の銀の機体に、赤い日の丸。九試単座戦闘機の姿がそこにはあった。恐らく、また誰かが引っ張り出したのだろう。あの機体は、数年前、とある映画の公開記念イベント用に製造したものだ。

 

(眩しいな.........。)

 

彼はまた視線を前に向けると、艦娘たちとともに歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、防衛省のとある会議室では話し合いが行われていた。

 

 

「おそらく、件の不明潜水艦はこの国のものだと考えられます。」

 

一人の男が、資料を広げて話している。先日、戦艦ネルソンとロドニーのレーダーが捉えた国籍不明の潜水艦についての報告が行われているのだ。

 

「......アニュンリール皇国、もしくはグラ・バルカス帝国か.........。」

 

ここから別の男が説明を引き継ぐ。

 

「はい、衛星写真によってこの2国に潜水艦らしき物があることは把握しています。そして、この世界の大国である神聖ミリシアル帝国及びムーは潜水艦を保有していません。ですので、今のところ潜水艦を所持しているのはこの2国のみと思われます。」

 

「.....そうか。しかし、なぜこの海域にいたのかが分からないな。」

 

「はい、仰るとおりです。まあ、未知の生物の可能性も無いわけではありませんが。」

 

「アニュンリール皇国.......。確か、来年の国際会議に出席するはずだったな?」

 

「そうです。」

 

「うーん......この国は謎だらけだな........。」

 

 

アニュンリール皇国、南方世界の長として先進11ヶ国会議に呼ばれている国だ。非常に広大な土地を支配しているが、外交には消極的で、実質の鎖国状態に近い体制をとっている。後進国であるかのように認識されているが、日本は衛星写真により発展した都市や、多数の大型軍艦、潜水艦、回転翼機らしきものを確認していた。しかし、なぜ彼らがこのようなやり方をしているのか、全くの謎であった。

 

ひとまずは、来年の会議にて接触を試みようという考えに至った。

 

 

 

 

 

午後12時36分 アニュンリール皇国 港湾都市テル・エル・アマルナ

 

 

ここはアニュンリール公国の本土であるブランシェル大陸の港湾都市、テル・エル・アマルナだ。そしてここにはアニュンリール皇国海軍本部が置かれており、広大な軍港には数多くの軍艦が肩を寄せ合っている。

 

 

「.........ふむ。これが.......。」

 

そしてその海軍本部内のとある部屋で、濃い白髭を生やした壮年の男性が机に肘を突きながら、一枚の魔写を見つめていた。

 

彼の名前はサラック・マハディー。アニュンリール皇国海軍本部所属の軍人である。階級は中将、皇国海軍第一艦隊指揮官だ。皇国の軍人の中でも、屈指の情報通として彼の名は知れ渡っていた。アニュンリール皇国人の例に漏れず、彼の背にも実体化した翼がついている。

 

「..........。」

 

少しして、彼はその魔写から視線を外す。そして、ゆったりとした手つきで葉巻を火をつけて、それを優雅にくゆらせる。そしておもむろに立ち上がると窓を開けて、荘厳美麗な港に目をやった。

 

「うむ......。」

 

彼の視線の先には、アニュンリール皇国海軍の最新鋭魔導戦艦である「バド・ティビラ」級戦艦が3隻、停泊していた。それぞれ1番艦「エン・メン・ル・アナ」2番艦「エン・メン・ガル・アナ」、そして3番艦「エン・シパド・ジット・アナ」だ。魔法帝国のアダマン級魔導戦艦を基に開発され、長砲身の40.6cm三連装砲を主武装としている。アニュンリール皇国の軍艦の銘々規則は、神聖ミリシアル帝国のそれとは違い、文献に残る魔帝........ラヴァーナル帝国の人物名等からとられていた。

 

 

港にはこの他にも、ギルガメシュ級戦艦「メスキシェル」、「エンメルカル」や、サルゴン級航空母艦「マニシュトゥシュ」、「ナラム・シン」、アクシャク級軽巡洋艦「イシュ・イル」、「ウルル・サニラー」、キシュ級駆逐艦「パブム」、「プアナム」、「アルウィウム」など、数多くの魔導軍艦の姿がある。この国の軍艦の総数は、間違いなく神聖ミリシアル帝国を上回っているだろう。

 

 

ふう、と白い煙を吐き出しながら、マハディーは再び魔写を見つめ、眼前に並んでいる魔導艦とネルソンとを見比べる。

 

(大きさは.......ほぼ同等だろう。黒い煙を吐いているのは......ムーと同じか?主砲も....もしかすると同じくらいの口径か。ということは、40cmクラス......。)

 

熱心に考え事をしていたそのとき、部屋の扉をノックする音がした。おそらく秘書だろう。壁の時計に目をやると、そろそろ会議の時間だった。

 

「どうぞ、入りなさい。」

 

「失礼いたします。」

 

入ってきたのは、やはり秘書だった。年若い光翼人の女性で、いかにも芯の強そうな見た目をしている。

 

「会議の時間だろう?もう準備はできているよ。」

 

その秘書に声をかけると、彼女は少し不機嫌そうな顔をしてこう言った。

 

「私の仕事を奪うおつもりなのでしょうか?」

 

「ははは、悪いね。さあ、もう行こう。」

 

マハディーはいかにもわざとらしい表情を作ると、葉巻を灰皿できっちりともみ消した。そして秘書を連れ、ゆったりとした足取りで部屋を出ていった。

 

誰もいなくなった部屋の机の上には、大量の魔写と、なにやらびっしりと書き込まれたノートが残されていた。

 

 

 

 

 

12時58分 グラメウス大陸沖4km地点

 

 

『......第二次攻撃隊、帰路に就きます。目標殲滅には至りませんでした。』

 

戦艦「ペトログラード」「スターリン」に通信が入り、昼食で使った食器を洗っていた吉川は顔を上げた。どうやら第二次攻撃隊も魔王を倒すことは出来なかったらしい。

 

「......了解。まあ仕方ないな。全機無事に帰ってきてくれればそれでいいさ。」

 

『......で、どうするんだ?』

 

「スターリン」から、いかにもダルそうな声で高橋が話しかけてきた。吉川はちょうど洗い物を終えると、艦隊に指示を出した。

 

「目標がここから15km以内に入ったら砲撃開始だ。魔王が粉々になるまで弾をぶち込んでやれ。準備はいいよな?」

 

『問題ない。』

『平気です!』

『いつでもOK!』

 

....と、次々に返事が返ってくる。先ほど指示を出していたので、当然ではあるが。

 

「よし、じゃあ偵察機の報告をゆっくり待とう。」

 

 

 

 

 

哀れな魔王を肉塊にする、死のカウントダウンが始まった。

 

 

 




アニュンリール皇国の軍艦の名前は古代シュメール王の名前からとっています。国名の由来がシュメールの神からきているようでしたので。

アニュンリール皇国はまだ情報が少ないので、原作ではどうなるのか楽しみです。


タイトルと関わる内容が少ししかなくて申し訳ないですが、一応魔王は次回でおさらばの予定です。


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第61話 グラメウス大陸大掃除作戦⑩

ちょくちょくキャラクターが歌ってたりする曲は完全に作者の趣味なんであんまり気にしないでください。

そしてやっぱり魔王は影が薄いです。


午後13時6分 第一文明圏付近某海域―――

 

 

 

「「「「「「~~~~~~~~♪」」」」」」

 

 

「...........んん~~?」

 

 

外が何やら騒がしい。この時間まで眠りこけていた艦娘「サモア」はようやく目を覚ました。ここのところは暇な日々が続いていたため、昨晩はずっとゲームをしていたようだ。

 

 

 

(何の騒ぎだろう....?)

 

 

大きな伸びをして、目をこすりながらメガネをかける。そして寝間着のまま外に出て、音のする方向へと気だるそうに視線をやった。どうやら音の正体は「リットリオ」にあるようだ。

 

よく目を凝らすと、どうやら艦橋の上に誰かが立っている。そして甲板上には大勢の男たちがひしめき合い、大合唱をしているようだった。しかも、艦橋で踊りながら歌っている男は恐らく赤松だ。サモアには彼らが何をしているのかよく理解できず、少しの間固まってしまった。この寒いのに、なぜ外に集まっているのだろうか。

 

 

そんなことは露知らず、「リットリオ」の甲板では大勢の男たちが大勢集まって歌っていた。彼らの視線は揃って艦橋に向いている。そしてそこには、ストライプのスーツを身にまとった赤松がマイクを携え立っていた。

 

 

『TO~KI~O♪ やさしい女が眠る街』

 

『TO~KI~O♪  TOKIOが空を飛ぶ』 

 

『TO~KI~O♪  TOKIOが二人を抱いたまま』

 

 『TO~KI~O♪  TOKIOが星になる~~~』

 

 

数分後、男数百人のやかましい大合唱が止んだ。それから少しして歓声も止まり、辺りに静けさが戻る。

 

 

そしてその様子を呆然と眺めていたサモアも、少しして船内へと戻った。

 

(そういえば........)

 

またベッドに横になり、ふと昨年末の忘年会のことを思い出してみる。

 

そう言えば、提督達が演奏を披露していた...ような気がする。しかしあの時は、彼女は他の艦娘に酒瓶を口に押し込まれ、べろべろに酔わされたあげく全裸で放置され、翌朝風邪を引いてしまったために記憶があまりないのだった。.....思い出すだけで、少し頭が痛くなる気がする。

 

 

そもそも赤松と吉川の二人は、よく分からない行動に走っているようなことが多いような気がする。どちらがどちらのものかは知らないが、聞いた話によると空母の甲板で昼寝をしたり、戦艦扶桑の艦橋の上でジェンガをしたり.....と。二人の性格を考えると、本当にやっていそうだから恐ろしい。

 

 

「変な人......。」

 

 

彼女が小さく呟いた時、天井のスピーカーからよく通るがどことなく力の抜けた声が聞こえてきた。赤松の声だ。

 

 

『あ、あー、こちら俺だ、赤松だ。我々は明日の午前11時頃、目的地の港湾都市..........えーと......なあリットリオ、なんだったっけ目的地の名前。なんか.......おやつカルパスみたいな。』

 

 

『カルトアルパスです!』

 

 

「ぷっ......。」

 

スピーカーから聞こえてくる可笑しなやりとりに、思わず吹き出しそうになる。

 

 

『そうそう、それそれ。そこに到着する予定だから、ぼちぼち準備しといてくれよ~~。あ、あと今日の夕飯は俺が作るからみんな遊びに来てくれ。7時な~~。』

 

 

彼がそう言い終わると少しして、ブツリ、という音がして放送は終わった。

 

 

「ふぁぁ.....。」

 

サモアは時計に一瞬だけ目をやると、またすぐ眠り始めてしまった。

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

午後3時頃―――

 

 

「はい、どうぞ。」

 

 

「お、ありがとさん。」

 

 

「リットリオ」艦内の食堂付近の部屋で、テーブルに赤松と艦娘「リットリオ」が向かい合ってコーヒーを飲んでいた。

 

現在の時刻は午後2時を少し回った頃。船内は暖かく、ついついあくびをしてしまう。この「リットリオ」を含め、イタリアの軍艦は艦内の豪華さが抜きんでている。そしてそれが生む居心地の良さも、眠気の原因だ。

 

 

 

 

「.......でさあ、俺はやっぱり転移は偶発的なものじゃなくて、何かあると思うんだよね。なんて言うか......こう、人ならざるものの仕業って言うかさ。」

 

その眠気を忘れるために、先ほどから赤松とリットリオは雑談に興じていた。机の上には、もう何杯目か分からなくなったコーヒーもある。そして今の話題は、日本の転移についてだ。

 

「...それはつまり?」

 

赤松の意見をリットリオが聞いている。

 

「だってさあ、そもそもおかしいだろ?なんで領土が全部丁寧に揃ってついてきてるんだ?それに隣には平和で友好的、しかも腐るほど資源がある国。天候もほぼ変わらない。自然現象にしては出来過ぎている気がするんだ。...まあ、根拠なんて無いんだけどさ。」

 

 

「........。」

 

 

「....で、あと何年...何十年か知らないが、ヤバい国がそのうち復活するんだろう?その国はとてつもなく横暴で、恐らく60か70年代程度の技術、おまけに核も持っている。この世界の国々の力では対抗できない....。」

 

ここまで言ってしまえば、リットリオも赤松の言いたいことがおおよそ分かっていた。日本は、その国を倒すために何者かの力によって転移させられたのではないか、と。

 

「それとさ...。転移した日のこと、覚えてるか?濃い霧がかかっていただろ。俺が長門たちに初めて会った日も同じように霧がかかっていたんだ。もしかすると、何か関係があったりするのかもな。」

 

2008年の1月、横須賀近海にて艦娘との初遭遇を果たしたあの日、赤松は護衛艦「きりしま」に乗り込んでいたのだ。その時のことを、彼は今でもよく覚えている。

 

「それって.....。」

 

リットリオは少し驚いた顔をしていた。彼女が加わったのはそれからしばらく後の話であり、所属も舞鶴であったためにその日のことについては知らなかったのだ。

 

「いやまあ、これは多分無いと思うけどな。」

 

赤松はそう言うと、帽子を取って指でくるくると回し始めた。一方、リットリオにも気になることがあるようだ。

 

「......イッセーさん。そもそも.....転移じゃない、という可能性もありますよね?」

 

この言葉を聞き、赤松は興味深げに彼女の方に向き直った。

 

「....つまり?」

 

「例えば今の日本は、地球にあった日本をそっくりそのままコピーした物だとしたら?」

 

「.....!」

 

「...地球から日本がいなくなったら、それこそ大変なことになりませんか?もしかすると、それが原因で戦争が起きかねないですよね?もし転移が人為的なものであれば、この考えの方が自然だと私は思います。」

 

「....随分、面白いこと言ってくれるじゃん。まあそれが分かる日が来るのかは知らないけどな。とにかく、魔帝が復活する時までにルールが変わってくれればいいよ。そうじゃなけりゃ、俺たちは......。」

 

「......どうしました?」

 

急に言葉を切った赤松を、リットリオが少し心配そうに見つめている。

 

「ああいや、なんでもない。.....そろそろ夕食の支度をしよう、手伝ってくれ。餃子1000個作るぞ。タネはもう出来てるから、後は包むだけだ。」

 

彼はそう言うと立ち上がり、一人キッチンに歩いていってしまった。一方で残されたリットリオは、その後ろ姿を見つめていた。

 

....何を言おうとしていたのだろう。それが少し、彼女の心に引っかかっていた。

 

 

 

 

 

「.......ああ、まずいなあ......。」

 

一方、キッチンに立った赤松は顔を洗い、思わずそう呟いた。

 

まるで、生け贄みたいじゃないか。.....思わずそう言ってしまいそうになった先ほどの自分を、彼はひどく恥じていた。自分の抱えている不安を人前で出してしまいそうになったのは、これが初めてかもしれない。

 

いつ復活するのかはとんと分からないが、ラヴァーナル帝国というのは非常に傲慢で暴力的な国だと聞かされている。その時は、きっと戦うことになるだろう。しかし今のままでは、自衛隊は領海から外には出ることができない。そして自分たちの、現時点の戦力ではおそらく勝てないだろう。

 

なら、さっさと近代化をするなり方法はあるだろう.....と言いたいところだが、それは難しい。なぜなら、彼らにはある制約が課されているからだ。

 

それは、"自衛隊の脅威になってはいけない"という決まりだ。

 

そもそも建前上戦力を放棄している日本にとって、護衛艦と同等レベルの装備を持った軍艦がそれ以上いては困る...ということで、これは転移よりも随分前から決められていたことだ。あの時は特に問題は無かったこの決まりが、いまさら足枷になってしまっている。

 

ただ最近では、パーパルディア皇国戦での苦い経験もあり、世論は"積極的な防衛"を支持する方向に傾きつつあった。それでも、赤松の不安が無事消えるかどうかはまだ分からないままではあるが。

 

 

 

「......イッセーさん?」

 

気づけば、いつの間にかリットリオがきっいんの入り口に立っていた。赤松は考え事をしていたせいで、間抜けなポーズのままシンクの前に突っ立っていたようだった。しかも、電気のスイッチもつけないままで。

 

「ああ悪い、ちょっと考え事をしてたんだ。」

 

「....部屋の明かりもつけずにですか?」

 

電気をつけて、リットリオが部屋に入ってくる。

 

「それは、まあ...ボンヤリしてただけさ。さあ、夕食の準備をしようぜ。」

 

はぐらかすような言い方をして、赤松は冷凍庫から冷えたグラスを取り出すと、サーバーからビールを並々と注いで一気に飲み干した。そして大きな冷蔵庫の扉を開け、支度に取りかかろうとする。

 

 

「.......溜め込みすぎないでくださいね?」

 

「...うん。」

 

リットリオはただそれだけ言うと、赤松と一緒に支度を始めた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

同日午後3時46分 グラメウス大陸沖某所―――

 

 

『全艦.......砲撃開始。』

 

偵察機が安全のためその場から一旦離脱したことを確認し、吉川は艦隊に命令を出した。既に準備は完了しており、この命令が来たとほぼ同時に、次々と砲撃が始まった。

 

凄まじい轟音と硝煙が辺りを包み、一気に静寂を破った。中でも、吉川の乗っているクレムリン級戦艦「ペトログラード」の搭載する457mm砲の放つ音と煙は飛び抜けて大きい。

 

その他、レーニン級戦艦「スターリン」、ビスマルク級戦艦「ビスマルク」「ティルピッツ」、アレクサンドル・ネフスキー級軽巡洋艦「アレクサンドル・ネフスキー」「ドミートリィ・ドンスコイ」「ピョートル・バグラチオン」、モスクヴァ級重巡洋艦「モスクヴァ」「ペトロハブロフスク」「リガ」の合計10隻、55門の主砲から放たれた砲弾は、海岸からおよそ15km地点にいる魔王を狙い、一直線に向かって行った。

 

 

 

 

その数分後―――

 

 

「ぐ........」

 

 

魔王ハネスは荒れ地を一人歩いていた。その後ろ姿にはもう、塵ほどの自信も感じられなかった。盾につれてきた魔物はとっくのとうに全滅し、魔導アーマーをつけていなければ自身も危なかったかもしれない。そして魔物を消し去った憎たらしい天の浮舟は突然来なくなり、一機だけ嘗め回すようにこちらを監視していたものも先ほど姿を消した。

 

 

(.........。)

 

 

薄ら寒い予感がして、ハネスは思わず足を止める。すると、空から何かが落ちてくるような音がした。次の瞬間、周囲で突然大爆発が次々と起きはじめ、彼の表情は戦慄に歪む。

 

(こんな.....こんな馬鹿な.....!!!)

 

爆発の中で、彼の頭の中には様々な考えが浮かんでくる。

 

間違いなく、この者たちは魔帝の障害になる。

 

それなら、せめて記録を残しておくべきだっただろうか。

 

それとも、復活まで大人しく待っていれば良かったのだろうか。

 

 

ハネスのその心が後悔と恐怖に押しつぶされる前に、至近距離の爆発に巻き込まれ、ついに意識を手放した。そしてその爆発の衝撃によりアーマーの回路が暴走を始め、とてつもないエネルギーを発生させる。これによって起きた大爆発により、爆心地から半径1km以内は根こそぎ焼き払われ、地面には大きな穴があいた。

 

 

そしてこの爆発は艦隊からも確認され、更に偵察機によって魔王の消滅は確認された。

 

 

その後、艦隊はトーパ王国の基地に帰還し、目標の消滅を報告。その後は無事に魔物の出現回数も減り、この国の海域における安全が再び確保されたのだった。

 

 

翌日、吉川と高橋たちは佐世保に帰っていった。

 




最近更新遅くてすいません。暇な時間にちまちま書いてます。


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嵐の前の静けさ編
第62話  カルトアルパス到着


お久しぶりです。

この世界の日付変更線はどこにあるのでしょうか。


1月17日 午後3時37分 ムー国 首都オタハイト―――

 

 

 

ここオタハイトに駐留している艦娘の一人である「レパルス」は、習慣である午後の散歩に出かけていた。彼女はロングコートに身を包み、白い息を吐きながら優雅に歩を進める。

 

今日はいつものコースとは違うところに行ってみよう、そうふと思ったレパルスは、普段の海側への道とは反対の、内陸側の道を歩いていた。

 

 

前から思っていたが、このオタハイトの町並みはどこか、地球における100年ほど前のロンドンや、東京に似ている。赤煉瓦造りの建物が整然と並ぶ光景は、とても美しいものだ。

 

 

大通りをはずれ、レパルスは人気の少ない裏道を歩く。彼女はここを気に入ってはいたが、同時に佐世保が少し懐かしくなりつつあった。やはり一人で歩いていると、いつのまにか色々なことを考えてしまう。

 

ぼんやりと歩いていると、ふと視界の隅で違和感のあるものが通り過ぎた。思わず立ち止まり、そこにあるものを見つめる。小さな空き地になっている所に、古そうな石像が立っていた。

 

 

どうやらそれは―――

 

 

「......お地蔵様?」

 

 

思わず声に出てしまった。しかし道端に佇む小さな石像は、日本でも時々見かける地蔵菩薩によく似ていた。安らかな表情、身にまとう袈裟。本当にそっくりだ。

 

しかしなぜムーの首都に、このようなものがあるのだろうか。よく観察してみると、像は雨風に浸食されているし、苔も少しまとわりついている。遠い昔からここにあるようだ。

 

したがって、日本から送られた...とは考えにくい。

 

 

「.........それは、『変わり地蔵様』ですよ、美しいお嬢さん。」

 

 

ふと、声をかけられた。レパルスがはっとして振り返ると、彼女の後ろには上品な老婦人が立っていた。年はおそらく80近いだろうが、背筋がぴんと立っており、纏う雰囲気はとても若々しい。この辺りに住んでいるのだろうか。

 

 

「変わり地蔵?」

 

 

「ええ、そうです。表情が日によって変わるのですよ。例えばお地蔵様の顔が曇って見えるときには、決まって翌日に天気が崩れるのです。」

 

「ふうん.......。この像は、いつからここにあるのですか?」

 

正直、レパルスはあまりこの類の話に興味はなかった。気になるのは何故ここに日本の地蔵があるのか、ということだけで、そのようなオカルト話は心底どうでもいい。それにおそらくこの像の表情は、角度によって微笑んでいるようにも悲しんでいるようにも見えるように彫刻されているのだろう。彼女はリアリストなのである。しかしそれを態度に表すのは、あまりにも失礼というものま。

 

老婦人はにこやかに答える。

 

「これは、ヒノマワリ王国からの友好の証として、何百年も前に送られてきたと聞きます。」

 

(......ヒノマワリ?どこだったかな。....ああ、ここの隣の国だったか。)

 

最近聞いた話によると、ヒノマワリ王国はどうやら日本と何か関係あるらしい。ということは、文化も似ているのだろうか。

 

「.....なるほど。ちなみに貴女は、この像の表情が変わっているところを、実際に御覧になられたことがあるのでしょうか?」

 

レパルスの質問に、老婆は笑顔でこう答える。

 

「ええ、ありますとも。私がまだ小さな子供だった頃のことですから......もう70年ほども前でしょうかね。日が傾く頃に、この像が泣いていたのを見ましたよ。とても悲しそうに見えました。」

 

「ほう.....それで、その次の日には何かあったのですか?」

 

老婆は一呼吸置き、ゆっくりと返答をする。

 

「....大地震が起きました。オタハイトの建物は崩れ、大波にさらわれ.....私も、妹を失いました。」

 

「........。」

 

返事が、できなかった。偶然にしても、恐ろしい出来事だ。

 

「.....それ以来私は、時々ここを訪れているのですよ。」

 

 

老婆は話を終え、像に手を合わせる。それが終わると、レパルスにも挨拶をして去っていった。

 

 

(........帰るか。)

 

気づけばもう、日はほとんど落ちてきていた。あまり遅くなると使用人に心配されてしまう。そのことを思い出したレパルスは、ゆったりと帰路に就いた。

 

 

少し進んでから、なんとなく振り返ってみると、像は微笑んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月18日  午前6時32分  神聖ミリシアル帝国近海―――

 

赤松は今日も6時頃には目を覚まし、手早くシャワーを浴びる。まだまだ寒さが厳しいので、入念に体と髪を乾かすと、慣れた手つきで髪を纏める。

 

(髪伸びたな.....髭もか。)

 

鏡を見ながらそんなことを一人思う。日本に戻ったら少し短くしようか、それともヘアスタイルを変えようか.....。彼の現在の容姿は、センター分けにした前髪、長い後ろ髪をヘアゴムで結び、整えたあごひげといったものだ。気に入ってはいるが、少しだけ胡散臭さも放っていた。

 

「はあ......。」

 

どうも、昨日は考え込みすぎてしまったようだ。確かに制限こそあれど、流石にいつまでたっても状況が変わらない、なんてことはないだろう。それに今のところは、実際自分たちだけでも問題ないのだ。むしろ、パーパルディア皇国には過剰戦力だったかもしれない。それに魔帝がやってくるのはまだだいぶ先だ。時間はある。

 

 

 

 

 

コンタクトレンズを付け終わり、朝の支度を終えた赤松は食堂へと歩いていく。

 

 

 

食堂の前にたどり着き、重厚なドアを開ける。広い食堂だが、視界に入る人影は少ない。というのも、乗組員である妖精は、基本的に食事を必要としないのである。食べれないというわけではないが、無くても問題ないらしい。

 

それでもこのスペースがあるのは、万一人を大量に乗せなくてはならなくなった時を想定しているからだ。食事をするのは、人間である赤松と艦娘のリットリオだけだ。

 

とはいっても、さすがにこの広さの中で二人だけで食べるのは落ち着かない。なので、調理だけはここでして、食べるときはラウンジなどに移動するのがお決まりだ。

 

キッチンに入ると、そこには既にこの船の主の姿があった。赤松は彼女に軽く手を振る。

 

「よう、おはよう。」

 

「おはようございます、一誠さん。」

 

艦娘「リットリオ」は、朝食の準備をしていた。挨拶をそこそこに、赤松も手伝いに入る。今日の昼は、神聖ミリシアル帝国において会食が予定されているため、今は軽めにサンドイッチとサラダで済ませるつもりだ。

 

昨夜のうちに予め具材を作っていたこともあり、10分もかからずに作り終えた。熱いエスプレッソを淹れ、二人で分担してそれをラウンジまで運ぶ。

 

 

品のいい机の上に、手際よく朝食が並べられていく。支度が終わると、二人はいただきますを言って食べ始めた。同時にテレビをつけて、ニュースを見る。

 

いまでは放送衛星の打ち上げにより、設備があればかなり広いエリア内で日本の放送を視聴することができるようになっていた。日本から神聖ミリシアル帝国までの距離はおよそ一万キロ離れているため、こことではおよそ3時間の時差がある。そのため、テレビ画面の時計は今赤松たちのいる場所のそれよりも進んで時を指していた。

 

 

『―――今月13日、クワ・トイネ公国の都市クワ・トイネにおいてエルフの女性に差別的な言葉をかけ、さらに性的暴行に及んだとして、大阪府在住、無職の○○容疑者が―――。』

 

テレビ画面には、全く覇気を感じない、不細工な男が映し出される。脂ぎった汚い肌、指紋だらけの眼鏡、ボサボサの髪、センスの無い服装と、赤松の嫌いな要素を詰め込んだような醜悪な容姿だ。彼は身だしなみに気を使わない人間が嫌いなのだ。

 

 

(.....朝からこんなニュースかよ.....勘弁してくれよ。)

 

こう、心の中で悪態をつく。

 

赤松の表情が苦々しくなっているのは、決してコーヒーの味のせいではない。テレビから流れてくる間抜けなニュースによるものだ。

 

 

転移後、各国との交流が深まるにつれ、海外に出向く日本人が増えた。それだけなら良いことだったのだが、問題を起こす輩が時々現れる。

 

 

例えば、脱サラして他国の冒険者ギルドに入る日本人がいる。他にも、重婚が認められている国へ出向き、エルフや獣人などと結婚しようとする輩もいた。

 

それだけならまだいいのかもしれない。だが、その行動のせいで人に迷惑をかけているのなら話は別だ。

 

前者の場合で言うと、魔力がほとんどない日本人が役に立てるはずもなかった。彼らの殆どが犬死にするか、大けがを負って帰国している。

 

後者の場合は、文化の違いからほぼ不可能であった。人間は彼らに比べ寿命が短いことや、そもそも子供を産むことができないといった理由でだ。しかしその事に逆ギレし、暴言を吐いたりするような人間も、転移後時々いた。フィクションと現実の区別もつかないのだろうか。

 

 

「........。」

 

このままでは食後のコーヒーが不味くなりそうだったので、赤松は黙ってチャンネルを変えた。そちらは朝の情報バラエティー番組を放送している。

 

一服でもしようかとポケットに手を突っ込むと、そこには空っぽになったソフトパックのガサガサとした感触だけがあった。

 

(.......ああくそ、切らしてるんだった。)

 

小さくため息をつくと、赤松はカプチーノを一気に呷る。飲み終わると、用を足すため席を立ち、部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

およそ4時間後―――

 

 

 

午前11時3分 神聖ミリシアル帝国 港湾都市カルトアルパス 

 

 

「日本国艦隊がまもなく到着するとのことです。沖合にて、引き渡しは既に軍によって完了しました。」

 

部下が局長ブロントに報告する。

 

「うむ、そうか。」

 

口調こそ穏やかなものの、興奮を隠し切れていないことは表情で丸わかりだ。部下は思わず苦笑いしてしまう。もっともブロントの軍艦好きは部下たちにも知れ渡っていたので、これは至って普通の反応であった。

 

「.......で、数は報告通りで間違いないか?」

 

しかし仕事はきちんとこなすのが、ブロントという男だ。やや興奮こそしているものの、仕事のミスは絶対にしない。この確認に、部下は少し困ったような顔をして答えた。

 

 

「それが.......。」

 

「どうした?何か手違いでもあったか?」

 

「いえ.....報告通り、戦艦4隻、大型巡洋艦3隻の艦隊のようなのですが.....この巡洋艦が、戦艦よりも大きいようなのです。」

 

日本からの報告にあった大型巡洋艦、これを管理局は自国における重巡洋艦と同義と解釈していたため、予想以上の大きさに混乱してしまっていた。そしてこのままでは、予定していた場所に係留できないかもしれない。

 

 

ブロントは咄嗟に解決方法を考える。

 

「なるほど......その巡洋艦と戦艦の全長は分かるか?分からなければ、日本の艦隊に直接私が聞こう。」

 

「では、日本の艦隊に通信を入れます。」

 

 

数分後―――

 

 

『はい、こちらは日本国艦隊、戦艦「リットリオ」。私は司令の赤松と申します。』

 

日本国の艦隊につながった。向こうからはやや低めの、ゆったりとした話し方の声が聞こえてくる。

 

「突然申し訳ありません、赤松殿。こちらはカルトアルパス港管理局、私は局長のブロントと申します。無礼を承知で申し上げます。あなた方の軍艦がこちらの予想よりも大きく、予定していた係留地では少し小さいのかもしれないのです。確実なものを用意したいので、そちらの艦の全長を教えていただきたい。」

 

ブロントは非常に丁寧な口調で話す。相手が誰であろうと、こちらに落ち度があれば謝るのが当然だ、と彼は思っていた。それに上からは日本の艦隊は列強国と同等に扱え、と指示されていたのである。だがそうでなくても、ブロントは同じ態度を貫いただろう。勇敢な海の男に敬意を払うのが、彼のポリシーなのだから。

 

 

 

『こちらこそ申し訳ありません、紛らわしい説明をしてしまいました。全長についてですが、戦艦4隻がおよそ240m、大型巡洋艦3隻が約270mです。よろしくお願い致します。』

 

「270m......!!わかりました、ありがとうございます。こちらの準備が終わり次第、また連絡いたします。」

 

『はい、了解しました。』

 

通信が切られると同時に、ブロントは部下に指示を開始する。

 

 

「海軍基地に連絡しろ!第零式魔導艦隊所属『コールブランド』『クラレント』『カリバーン』の移動を要請するんだ!」

 

今名前の挙がった3隻の艦は、どれも神聖ミリシアル帝国海軍最大級の「ミスリル級戦艦」だ。全長222m、排水量約30,000tの体躯を誇る。しかし日本の軍艦はそれよりも大きいらしい。海軍の機嫌を損ねてしまうかもしれないが、背に腹は代えられないのだ。そして部下も、早急に連絡した。これに海軍も了承し、3隻の戦艦はタグボートで一旦移動させられたのだった。

 

 

およそ30分後―――

 

 

「......まったく、何故最強たる我々が蛮族ごときのために場所を譲らねばならんのだ。」

 

3人の男が、港をじっと見つめていた。そのうちの1人はかなり不機嫌である。

 

不機嫌な男の名前はオリヴァー・クロムウェル。第零式魔導艦隊旗艦「コールブランド」の艦長だ。誇り高き世界最強の艦隊が移動させられたことに、彼は苛立ちを覚えていたのだ。

 

 

「まあまあ、クロムウェル艦長。ブロント局長直々の嘆願なのだ、大目に見てやろう。」

 

そしてその隣に立つ男が、クロムウェルを宥める。彼の名はフルヘンシオ・バティスタ。第零式魔導艦隊の司令官である。その表情からは、好奇心が読みとれた。

 

噂の日本国がどの程度なのか、自身の目で確かめてやろう.....そんな表情だ。

 

 

 

「司令、私も日本国の艦隊に大変興味があります。」

 

バティスタの隣に立つもう一人の男が発言する。彼は大変にこやかな表情で、港を見つめていた。その名前はマーストン・ムーア。戦艦「クラレント」の艦長である。いつも仏のような形相であり、見かけは温厚そうだ。しかし最高練度を誇るこの艦隊に所属しているだけあり、実際は鬼のように厳しいことでも知られていた。特に彼の目が開いたときには、船員にはとてつもないしごきが待っている合図として有名である。

 

 

「ほう....君もか。おお、見えてきたぞ。」

 

バティスタが指さした先に、黒い煙が見える。それを見るやいなや、クロムウェルが素直な感想を述べた。

 

「ふん!黒い煙を吐くなど、優雅さのかけらもありませんな。美しいカルトアルパスの空気が汚されてしまいます。」

 

「まあまあ......。」

 

 

 

だんだんと近づいてくるそのシルエットを、カルトアルパスの人々は興味深げに眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃 パンドーラ大魔法公国 首都ファンドルフ―――

 

 

 

今日も国立魔法学院では、数多くの人間がそれぞれの研究に没頭していた。その中には、古の魔法帝国―――ラヴァーナル帝国についての資料を集め、研究することを専門としている人間も多く存在する。

 

 

 

 

ある一人の教授が、はるか昔に記された魔帝についての資料を解読していた。所々文字にかすれがある上に、ラヴァーナル語で書かれているため、かなりの時間を要していた。

 

そして彼はおよそ1週間に及ぶ解読をちょうど終え、その翻訳文を大陸共通語でノートにまとめていた。そこには、こんなことが書かれていた。

 

 

 

『―――軍艦と、生物兵器を同期させることにより、より強大な力を得る研究が――― しかし些細な原因で研究は失敗し、それらは暴走を始めた。これによる死者が―――我々はやむなく研究を中止し――― 転移魔法を使い、それらを別次元の世界に飛ばした。―――研究再開については―――』

 

.

 

.......と。

 




原作では『バッティスタ』となっていますが、とても言いづらいので変えています。

バティスタは表記揺れだと思っていただきたいです。


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