「「どうしたの?」」
「「突然私の言葉を言い当てるなんて驚きなんだけど」」
「「なんでそこまで当てられるの?」」
「「え?もしかしてなんか部屋についてる?」」
「「あ、分かった!あれでしょ未来の道具!」」
「「え?当たってるの?」」
ここまでがいつものやり取りだ、お父さんとの。
「「ねぇ、私って未来でどうしてるの?」」
未来のお父さんはいつも優しそうな笑顔を浮かべていた。
けれどその優しい笑顔の中に、いつも憂鬱そうな何かを感じていた。
「「へぇ…良かったよ。育児放棄とかしてなくて」」
お父さんはそんな人ではない、これは本当だ。
あんな優しい笑顔を子供の前で浮かべられる人が、育児放棄なんてするはずがない。と言うよりもしなかった。
けれど私は今、こうして過去にいる。
「「え?そんなこと言って欲しいの?い、いいけど…未来の私に頼んだら?」」
確かにそうだ。こんなことを頼むのはおかしい。けれど、この時代のお父さんでなければならないのだ。
だけど……
「「…ありがとう、真理奈。いつも助かってるよ」」
違う、そんな言い方じゃない!そんな、そんな優しそうな言い方じゃ……
…今回もダメだった。もう1回、次こそは言ってくれるはずだ。
いつしか、そんなことも考えなくなって、自暴自棄になりかけた時、過去のお父さんからこんなことを言われた。
「私は…いじめられてた時があったんだ。未来の私が言ってたかどうか知らないけどさ」
初耳だった。お父さんは過去に何かあったようなことは濁すけど、いつもはっきりとは言ってくれなかった。
まさかいじめられていたとは思わなかった。
「言ってなかったの!?言わなきゃダメじゃんそういうことは…」
過去のお父さんは呆れていた。
別にいじめられていたとか言わなくてもいい事だと思う。むしろ、いじめられていたとわかった時、【情けない】とすら思いそうではある。
でも、私のお父さんに限っては情けないとは思わない。けど、誇らしいとも思わない。らしいな、としか言いようがない。
だって、お父さんはいつも優しい笑顔を浮かべていて…よく言えばいい人そうで…悪く言えば、便利な道具みたいなものだ。
「へぇ…そこまで私は【いい人】では無いと思うんだけどなぁ…」
私はいい人そうだと思うって言ったら過去のお父さんは苦笑いを浮かべていそうな声を出していた。
「それは過大評価をし過ぎだと思うよ。えっと…真理奈?」
私は気が付いたら涙を流していた。よく分からなかった、なんで泣いてるのか、言って欲しいことを言ってくれたからなのだろうか?
全く分からなかった。
「えっ…ご、ごめんね?多分、私のせいだよ……ね?」
違う、そういうことを言って欲しい訳では無い。
「うーん…まあいいか。取り敢えずいじめられてた話、するね」
それから聞いた話はありきたりな、ごく普通のいじめの話だった。正直、女子同士のいじめの方が酷いものだとも思った。
素直にそう言ったら、「男子には効くんだよそういうの」と言われた。
「さてと…大体は話し終えたかな?普通でしょ?私の話。誰にでもありえる、そんな普通のいじめの話」
過去のお父さんはそんなことを話の最後に言った。
私はもう、この時代に悔いはない。
「最後に…なにか言い残したいことがあるんです」
「ん?どうしたの?」
「いつもありがとう、お父さん。助かってたよ」
「そ、そっか。ならいいけど」
そう言って、私はこの時代を去った。
そして私は今の時代に……お父さんが死んでしまった時代に戻った。
「ありがとう、お父さん。私、過去のお父さんに言って欲しいこと言って貰えたよ」
私の言って欲しかったこと、それはちょっとした拒絶だった。
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