俺ガイル SS集 (ゆ~セイ)
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やっぱりあたしの青春ラブコメは間違っていない

 

「俺はあいつと離れるのが嫌で、それが納得いってねぇんだ――」

 

 その言葉を聞いた時、あんまり驚かなかった。

 ずっと前から分かってたから。

 でも、その言葉はずっと重くて、やっぱり泣いちゃった。

 

 考えたことない、って言ったら噓になる。

 

 ずっと前から、頭の片隅にはあった。

 楽しそうに笑う二人を見て。

 どうしようもなく頑固で、真っすぐで、曲がってて、歪んでて、すれちがって。それでも離れない二人を見て。

 

 

 ――もしも。

 

 ――もしも、あの日。ヒッキーが初めて学校に来た日。

 

 あの時声をかけていたら、未来は変わってたのかなって。

 

 

   ※※※

 

 

 帰りのチャイムが鳴り、放課後が始まる。

 友達の誘いを断って、急いで彼のいるクラスへ行くとそこに彼の姿はもうなかった。

 は、早い。もう帰っちゃったのかな……。

 きょろきょろと廊下を見回すと、見つけた。

 昇降口へとつながる階段、そこを曲がっていった少し猫背気味の背中。あたしはそれを走って追いかける。

 でも彼はすごく歩くのが早くて追いつけない。昼間は覇気のない死んだ魚みたいな目つきをしていたのに、歩くのだけは俊敏だ。それが可笑しくて、ついつい笑みがこぼれる。

 やっと校門の前で追いついて、あたしは彼に声をかける。

 

「あっあのっ、ヒッキー!」

 

 かなり勇気を出して呼んだのに、彼はこちらを見もしないで歩き続ける。

 

「ちょ、ヒッキー。待ってってば!」

「ひょわぁっ⁉」

 

 肩を掴んでもう一回呼ぶと彼は変な声を上げて立ち止まった。

 

「えっ……何、ヒッキーって俺のこと?」

「そ、そう! あたしヒッキーの隣のクラスの由比ヶ浜結衣」

 

 あたしがそう言うと、彼はまるで何かを探しているかのようにあたりをきょろきょろと見まわして、

 

「な、なんの罰ゲームで話しかけてるんだ?」

「罰ゲーム? なんのこと?」

「あーいや、なんでもない。それより何の用だ?」

 

 ど、どうしよう。喋ること何も考えてなかった。

 えーっと、なんて言ったらいいのかな……。

 

「……えっと、ヒッキー覚えてる? その…入学式の日のこと」

「いや、俺入学式出てないから」

「そ、そうじゃなくて! 入学式の日の朝、ヒッキーがサブレを助けてくれて……」

「サブレ? なにそれお菓子?」

「違うし!あたしんちの犬!ヒッキー助けてくれたでしょ」

 

 その言葉で分かってくれたみたいで、彼は合点がいったように頷く。

 

「……ああ、お前あの犬の飼い主か」

「そう!遅くなっちゃったけど、助けてくれてありがとう!」

 

 頭を下げてあたしは精一杯の感謝を彼に伝える。あの時の彼は本当に必死で、あたしのヒーローだった。

 驚いてちょっと後ろに下がった彼は、照れているのか顔を赤くして。

 

「いや、まぁ。別にそんなの感謝されることじゃねぇし、気にすんな。……じゃ俺帰るから」

「うん。……ってなんで帰るし!」

 

 ナチュラルに帰ろうとするヒッキーをあたしは慌てて呼び止める。

 

「え、いや。なんでって、特に用件ないし……」

「よ、用件ならあるから!その…今日はお礼をしようと思って来たの。とりあえずファミレスとかで話さない?」

「え、いや……話さない……」

「だからなんでだし!」

 

 さっきも今もかなり勇気を出して言ったのに、彼はすぐに否定してくる。

 

「いや、俺お金あんま持ってねぇし」

「じゃあ公園とかでいいから!」

「いや、そういう事じゃなくて……」

「ちょっとでいいから。ほら、行こう?」

「……まぁ、ちょっとだけなら」

 

 あたしがしつこく誘うと、彼は渋々といった感じで了承してくれた。

 

 

「はい、ヒッキー」

「ん、おお。悪いな。いくらだ?」

 

 自販機で買った紅茶を手渡すと、彼はカバンを開けて財布を取り出そうとする。あたしはそんな彼に首を横に振って、

 

「いいよ。それもお礼」

「いや、そういうわけには……」

「いいから、おごらせて」

 

 公園のベンチに二人で座って、さっき買ったジュースのふたを開ける。一口飲んで呼吸を整えてから、あたしは話しはじめる。

 

「えっとね、さっきも言ったけど。本当にありがとう。助けてくれて、すごい嬉しかった」

「いやその……、さっきも言ったけど気にしなくていいぞ? 俺が勝手にやったことだから、それでお前が責任感じる必要とかも全然無い」

「それでも、感謝してるよ。責任、とかじゃないの。あの時のヒッキーはすごく必死で、……か、かっこよかったよ」

「いや、かっこよくは無かっただろ」

 

 かっこよくなかった自覚があるのか、彼は顔を赤くしながらちょっと自嘲気味に笑う。

 

「そんなことないよ。たしかに傍から見ればちょっとカッコ悪かったかもしれないけど……」

「えぇ……、急に悪口……」

「で、でも! あたしはすごいかっこいいって思ったし、その……」

 

 顔が熱い。次の言葉が分からない。でも、言わなきゃ。

 今日。これだけは言うって、決めたんだから。

 深呼吸して、彼に向き直って、あたしは、この想いを彼にぶつける。

 

「あたし、ヒッキーが好きなの。だから、付き合ってください!」

「なっ……」

 

 顔を真っ赤にして驚く彼は、やがて。

 

「えっと……。お、俺なんかで良ければ………」

 

 その言葉を聞いてあたしの全身が熱くなる。

 

「ヒッキー!」

「どうぁっ⁉」

 

 嬉しさのあまり、あたしは彼に抱き着いてた。

 

 ――ああ、これはきっとあたしが夢見た世界だ。

 あたしがヒッキーを好きでいて、ヒッキーがあたしを好きでいてくれて、あたしの隣にヒッキーがいて、そして―――。

 

 ―――――――――。

 

 ―――――――――。

 

 ………………………。

 

「……………ううん」

 

 

 やっぱり、違うや。

 

 

「どうした、由比ヶ浜?」

 

 彼はあたしを心配してそう言ってくれる。

 これは確かに、あたしが思い描いた世界。あたしはこんな世界を夢見てたのかもしれない。

 

 ――でも、違う。

 

 あたしは、こんな世界を望んでなんかいない。

 

「あたしね、ゆきのんが好きなんだ」

「……え」

 

 夢の中の彼に、あたしはそう告げる。

 

「この未来と今の未来。どっちがいいかっていわれたら、あたしは今のほうがいい」

「……………」

 

 きっと彼は何を言われてるか分からないだろう。夢の中の彼は、まだゆきのんと出会ってないから。でも。

 

「もしヒッキーが私を選んでくれても、くれなくても。私はそこにゆきのんがいてほしいって、そう思うの。……たぶん、ヒッキーもそうだよ」

「……………」

 

 本当に、そう思う。

 ヒッキーのことは好きだ。でも、同じくらいゆきのんも好き。

 どっちかしかいない未来なんて、あたしはそんなの嫌だ。

 あたしは、全部欲しい。

 

「だから、ごめんね」

「……………」

「この夢は私がつくった偽物だから。………それに、夢のヒッキーは素直すぎ。本物のヒッキーはもっとひねくれてるし、もっと目が腐ってる……」

「……………」

 

 目の前のヒッキーは、いつの間にか消えていた。何故だか、涙が溢れてくる。

 でも、きっとそうだ。

 きっとヒッキーなら、あそこであたしの告白を受けたりなんかしない。

 何か理由を付けて、ドッキリじゃないかと疑ったりして、きっと逃げる。

 それで、あたしはそれを相談しに奉仕部へ行くんだ。

 

 そしてゆきのんと出会って、そこにヒッキーも来て、三人で色んなことやって、いろはちゃんや小町ちゃんもそこにいて、話して、近づいて、泣いて、離れて、今みたいな日常が、きっと――。

 

 ―――――――きっと……………。

 

 

    ※※※

 

 

 

「――んぱい、結衣先輩。起きてください、もう帰りますよ」

「……ふぇ?」

 

 目を開けると、夕焼けが差し込む奉仕部の部室で、いろはちゃんに揺さぶられていた。

 

「………っあたし寝ちゃってた⁉」

「はい。…って、結衣先輩どうしたんですか?」

「えっ」

 

 言われて涙が出てることに気付いたあたしは、慌てて袖で拭う。

 

「大丈夫、由比ヶ浜さん?」

「結衣さん、兄が何かしましたか?」

「おい小町、なぜいきなり俺のせい? 普通に考えて怖い夢見たとかだろ」

「でも夢に比企谷君が出てきたら、それはもうホラーといってもいいのではないかしら」

「それは俺の目がゾンビっぽいと言ってるのか? で、大丈夫なのか由比ヶ浜?」

 

 ゆきのん、小町ちゃん、ヒッキーが口々に声をかけてくれる。

 

「うん、ちょっと夢にヒッキーが出てきて……」

「うわー、それは怖いですね。ゾンビ映画じゃないですか」

「ほらやっぱりお兄ちゃんのせいじゃん」

「夢に出てきてまで女性を脅すなんて最低ね、ゾンビ谷くん」

「いや、マジで俺のせいだったの。でも夢なんだし俺どうしようもなくない?」

 

 ああ、これだ。

 夢の中で、夢見た光景。あたしが望んだ景色だ。

 それに安堵したあたしは、ついつい笑みがこぼれてしまう。

 

「うん、もう大丈夫。なんか元気出た!」

 

 そう言ってあたしは荷物をまとめ、

 

「よし、今日はみんなでどこかに寄って帰ろうよ!」

「あっいいですね、小町は賛成です!」

「それは私も行かなければいけないのかしら……」

 

 小町ちゃんが話に乗って、ゆきのんが戸惑うように言う

 

「もちろんだよゆきのん! あ、あとヒッキーも強制だから!」

「えぇ、俺今日あれの日だからちょっと……」

「そんなこと言ってヒッキーいっつも予定ないじゃん」

「たしかに先輩ってなんだかんだ言いつつも何でも頼み事聞くくせに、絶対最初は断りますよね。ひねデレってやつですか?」

 

 ヒッキーのひねデレた態度を、いろはちゃんがバカにしたように笑う。

 

「そんな言葉は無いぞ一色。つーかお前は今日も何でいるんだ」

「まぁまぁ、兄がひねデレてるのは昔からですし今更ですよ。それより結衣さん、どこに行くんですか?」

「うーん……。ゲーセンか、カラオケとかどうかな?」

「どうでもいいけど遊ぶなら早く行かないと暗くなっちまうぞ」

「そうね。どこへ行くかは歩きながら決めましょう」

「うん、じゃあそろそろ行こっか!」

 

 小町ちゃんと、いろはちゃんと、ゆきのんと、ヒッキーと、みんなと一緒に部室を出る。

 きっとこのあとも、この心地良い時間が続くのだろう。

 ああ、やっぱりだ。

 

 

 やっぱり、私の青春ラブコメは間違っていない。

 

 

 



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やはりこの奉仕部ラジオは間違っている。

 

「「総武高校奉仕部ラジオ!」」

 

 由比ヶ浜と雪ノ下が声を揃えて言うと、チャララ~と明るめのイントロが流れ出す。

 

「やっはろ~!皆さんこんにちは、奉仕部副部長の由比ヶ浜由衣です!」

「部長の雪ノ下雪乃です」

「……平の比企谷八幡です」

 

 各々が短く自己紹介をして、総武高校奉仕部ラジオは始まった。

 

「今日から始まります、『総武高校奉仕部ラジオ』。えー、このラジオは皆さんからお悩みを募集してそれを私たち奉仕部の三人が解決していくというラジオです」

 

 と、由比ヶ浜が台本通りに進めていると雪ノ下が突然横から口を出す。

 

「由比ヶ浜さん、それは少し違うわ。私たちはあくまで解決策を考えたり助言をしたりするだけで、解決をするのあくまで悩みを持つ本人よ」

「あっ、そうだったねゆきのん。……えーっと、そういう感じのラジオなので、よろしくお願いします」

 

 前にはマイクスタンドしかないのにぺこりと頭を下げながらそう言う由比ヶ浜。

 一色あたりがやるとあざとさMAXでわざとらしい行為だが、由比ヶ浜がやると子供っぽくて純粋に微笑ましい。

 

「えー、まずはふつおたのコーナー! ラジオネーム『テニスラビットさん』からいただきました」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

「『奉仕部のみんながラジオをやると聞いてメールしました。雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、八幡、頑張ってね』だって!」

「頑張るぞ戸塚! 超頑張る! お便りありがとう!」

「単純ね……」

「ヒッキー反応がキモい……」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が揃って冷めた目線を送ってくるがそれは無視することにしよう。そんなことより、

 

「おい由比ヶ浜、そのお便りの紙を俺に渡せ。部屋に飾って家宝にする」

「ヒッキーマジでキモい!」

「キモ谷くん、本当に気持ち悪いからやめた方がいいわよ」

「放っとけ。俺の戸塚への想いは我が最愛の妹、小町への愛と匹敵するからな。これくらいの反応は当然だ」

 

 なんなら俺の世界は戸塚と小町を中心に回っていると言っても過言ではないまである。

 

「うわー、シスコンだー……」

「由比ヶ浜さん、シス谷くんは無視して次のお便りに行きましょう」

「そうだね。…えー、続いてはラジオネーム『YUMIKO』さんからいただきました」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

「『結衣ラジオ始めるの? 一応あーしも聞くから頑張って。それから雪ノ下さんもね。あとついでにヒキオも』」

 

 あーしさん……。ツンデレでいい人だなぁ。ついでとはいえ俺のことも触れてる辺りがいい人だなぁ。

 と、それは皆が思ったようで。

 

「三浦さん、いい人ね」

「そうだよ。由美子ああ見えて面倒見いいから。今度ゆきのんも一緒に遊ぼうよ!」

「そ、そうね。考えておくわ」

「うん。じゃあ次のお便りね。『お兄ちゃんの妹』さんからいただきました」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

「『お兄ちゃん、さっきの発言は小町的にポイント高いけど、ちょっと気持ち悪いかな』……だってヒッキー」

「小町ぃ……」

 

 今のお便りは傷付いた。雪ノ下で罵倒の耐性がついてるはずなのに傷ついた。

 このラジオってリアルタイムじゃなくて募集したお便りを読むんじゃなかったっけ?小町は未来を予測したのかな? と現実逃避するくらいには傷付いた。

 

「哀れね。……では続いてはお悩み相談のコーナーです。ラジオネーム『剣豪将軍』さんから頂きました」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

「『日本語が喋れれば誰でもラノベで賞が取れるは嘘。ソースは我。どうすれば一次選考に通るかはよ』……だそうよ」

 

 ………一発目から材木座かよ。

 

「担当者の比企谷くん。返事をしてあげて」

「……が、かんばって、ヒッキー」

「やっぱり俺なのかよ……」

 

 材木座の担当になった覚えはないし、なりたくもない。だが仕事はしなくてはいけない。

 まぁ材木座だし、適当でいいか。

 

「えー、『剣豪将軍』さん。賞を取ることばかりを考えるんじゃなくて、いい作品を作り上げることを考えた方がいいのではないかと思います。そうすれば最期には何かしらの賞がとれるのではないでしょうか?」

 

 と、こんな感じで喋ると

 

「お~、ヒッキーすごい。なんかそれっぽい!」

「そうね。具体的な解決策は何も提示していないのに、良いことを言っている風に喋れる所が賞賛に値するね」

 

 由比ヶ浜はなんか感動してるが、雪ノ下は分かっているようだ。

 ま、材木座だしこれでいいだろ。

 

「じゃあ次ね。ラジオネーム『ウェーイ』さんからいただきました」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

「『こういうとこに相談するのもあれなんだけどー、マジで今ちょっと悩みがちっていうか、ぶっちゃけ好きな人に好かれるためにはどうすればいいのかを知りたいって感じなんで、オネシャス』……だって」

 

 読み終えた由比ヶ浜が苦笑いで辺りを見渡す。

 言いたいことは山ほどあるが、まず一つ。

 

「……なぁ、ここに悩みを持ってくる奴はまともな日本語が書けない決まりなのか?」

「そうね。今のメールもさっきのメールも、半分くらい何を言っているのか謎だったわね」

「で、でも今のは恋愛相談だよ。ほら、解決策を考えよう? まずはヒッキーから」

 

 由比ヶ浜に名指しされて考えてみるが……、

 

「まぁ一般的なことでいうと、相手と趣味が被ってると会話が盛り上がったりするが……」

「あー、……そうだね。この場合……」

「少し、問題が生じそうね……」

 

 もし仮に戸部が「はや×はちキタっしょウェーイ!」とかいって盛り上がってたらそれはもう世界の終わりと言ってもいい。

 

「あ。じゃあじゃあ、相手の喜びそうなことをしてあげるとか!」

「だから一般的にはそれでいいんだろうが、この場合は……」

「戸部くんが比企谷くんと仲良くすれば喜ぶ……のかしら?」

「おい、止めろ。そんなんで仲良くされても嬉しくねぇし、そもそも仲良くしたくない」

 

 だがきっと効果はバツグンだ。

 海老名さんなら「とべ×はちキマシタワー!」とか言って鼻血を垂らして喜ぶだろう。

 

「ゆきのんは何かある?」

「そうね……相手に合わせていくのが難しいとなると、やはり自分を磨くのがいいのではないかしら」

「でもどうやって?」

「例えば学力テストで一位をとるとか、部活を頑張って格好いいところを見せるとか、かしらね」

「雪ノ下と葉山がいるから無理だろ」

 

 学力テストでは不動の雪ノ下が、サッカー部ではキャプテンでエースの葉山がいるからそれらは不可能に近い。

 やべぇな。戸部の恋路はトゲだらけだ。

 

「でっでも、今までで一番いい方法だと思う! というわけで、『ウェーイ』さんは勉強したり部活を頑張ったりして、自分磨きをしたらいいと思います」

 

 由比ヶ浜がそうまとめて、雪ノ下が次のお便りを……。

 

「では次のお便り……は、また『剣豪将軍』さんからね。比企谷くん」

「はいはい。『ラノベ作家になるよりも宝くじで三百円当てる方が難しいというは嘘。ソースは我。ちなみに我はこないだ三百円当たったのにまだラノベ作家になっていない』」

 

 相変わらず意味の分からない文章だな。つーかこいつはどっからこういう情報を得てるんだ。

 

「えー、このメールはただの報告メールであり、悩み相談の形を成していないので、解答不能として処理します。……よし。由比ヶ浜、次いけ次」

「う、うん。ラジオネーム『三十歳未婚女性教員』さんからいただきました」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

「『私は三十歳になり、そろそろ結婚を考えています(笑)。ですが婚活パーティーやお見合いパーティーに行っても、あまり成果がありません(笑)。自分で言うのもなんですが、私は収入も安定していてかなりの優良物件だと思います(笑)。親からも早く孫の顔を見せろなどと言われていて困っています(笑)。こういった場合の解決方法を教えてもらえると幸いです(笑)。長文のメール失礼しますが(笑)、よろしくお願いします(笑)』」

 

 ……由比ヶ浜がそのお便りを読み終えると、部室に重い沈黙が流れた!

 

「えーっと……どうしよっか?」

「ま、まぁ。とりあえず考えるか。つってもあの人なんで結婚できないのかマジで分かんねぇんだよな」

「そうね。仕事もできるし容姿やスタイルも悪くない。……となると、逆にそういった完璧な所が相手を引かせているのではないかしら」

「ああ、なるほどな」

「?、どういうこと?」

 

 首を傾げる由比ヶ浜に雪ノ下が説明する。

 

「結婚相手の女性が自分より立派だと、男性としては立場がなくなるでしょう。それがマイナスに働いているのではないか。という事よ」

「なるほど……」

「とはいえ仕事を辞めるわけにもいかないし、そこはどうしようもない点だな」

 

 となると取れる手は限られてくる。

 

「新しい属性を身に付けるか」

「「は?」」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が何言ってんだコイツみたいな目で見てくる。その目は傷付くからやめてほしい。

 

「要するに男が喜びそうなステータスを身に付けるってことだ」

「あっ、料理上手とか?」

「まぁそういうことだな」

「でも仕事もできる上に料理まで上手くなったらより完璧になってしまうのではないかしら……」

 

 確かにその心配はあるが。

 

「そこらへんは結婚して仕事を辞めるってなったら前者は関係なくなるし、いいんじゃねぇの。知らんけど」

「うん、そうだね。じゃあそれでいこう」

 

 由比ヶ浜が頷いて、回答を述べる。

 

「というわけで『三十歳未婚女性教員さん。家庭的な女性というのは好かれやすいです、なので料理スキルを磨いてみてはいかがでしょうか?』……じゃあ次のお便りにいこう、ゆきのん」

 

 由比ヶ浜に促されて、雪ノ下が次のお便りを………。

 

「ええ。では次のお便り……は、また『剣豪将軍』さんからね……。これは飛ばして……もまた『剣豪将軍』。次も『剣豪将軍』で、その次も『剣豪将軍』。あとは全部『剣豪将軍』からね。……比企谷くん、これらまとめてお願いするわ」

「お、おう」

 

 少し疲れた様子の雪ノ下から紙束をまとめて受け取る。

 雪ノ下を疲れさせるとは。材木座、恐ろしい子……!

 

「えーっと、『声優さんと結婚するにはラノベ作家で本当にいいのか』『ゲームクリエイターと編集者だったらどっちが声優さんと関わりが多いのか』『声優さんはトイレに行かないは都市伝説だった。ソースは我』『声優さんは……』ってもういいよ、なんだこれ」

 

 声優さんと結婚したすぎだろう。

 平塚先生といい、材木座といい、結婚願望者が多すぎな気がする。

 もう平塚先生と材木座が結婚すればいいんじゃねぇかと思うレベル。……いや、それはないな。うん、ない。有り得ない。

 

「えー、というわけで『剣豪将軍』さんはこんなメール打ってる暇があるなら小説を書いた方がいいと思います。………よし、これでお便りは全部消費したんだよな?」

「ええ」

 

 剣豪将軍へ適当な返事を返してそう確認をとると、エンディングのジングルが流れ出した。

 

「それではみなさん、そろそろお別れの時間みたいです。総武高校奉仕部ラジオ、楽しんでいただけたでしょうか? お相手は由比ヶ浜結衣と」

「雪ノ下雪乃と」

「比企谷八幡でした」

 

「「「ばいばーい!」」」

 

 

「っだぁ~……。やっと終わったな」

「ええ、何故だかかなり疲れたわね」

「でも楽しかったね。ね、ゆきのん!」

「あ、暑い……」

 

 ゆりゆりしい二人をみながら、ラジオの事を振り返る。

 平塚先生の試みでとりあえずやってみたラジオ。お悩み相談メールは8分の6が材木座だったな。まさかの材木座率75%、脅威だな。

 

「………ふぅ」

 

 と、一息吐いたところで、俺はずっと思ってた疑問を口にした。

 

「なぁ。このラジオ、やる意味あったか?」

「…あ~、それは………」

 

 由比ヶ浜は苦笑いで答えを濁していたが、雪ノ下はハッキリと断言した。

 

「無いわね」

 

 だよなぁ……。

 というわけで結論。

 

 やはり、この奉仕部ラジオは間違っている。

 



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