MasqueradeRe:Lights ~この世界では本の力を持つ仮面の騎士がいる~ (ダグライダー)
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目録 作家と魔女と剣士と……。

 以前読み切りを投稿した際、感想を貰いまして……ええ、溜め込めずに出してしまいました。
 取り敢えずプロローグを書いてしまいました。

 プロローグラピライ側はアニメの流れから入ってますが話の大筋はオリジナルになる予定です。
 読み切りでも書いた通り公式パラレル設定を此方も採用していますので。

 取り敢えずニコニコで玩具の音声動画をリピートしておきたいですね。



 感想にて指摘がありましたので修正を致しました。
 取り敢えず読み切り版の設定を少し弄り加筆。
 
 誤解が無いように言うならば私別に神様転生が嫌いな訳ではないのですが、私は神様にある種のアンチテーゼを持ってもいるので、こういう理不尽ないし原因不明の転移や転生か、神様とは違う善意と悪意を持った超位存在による世界の介入を書いています。



 皆さん、ボンヌ・レクチュ~~~~~~~ル!!

 僕の名前はタッセル。

 これからお話する物語は皆さんが知る仮面ライダーの物とは少し……いえ、かなーーーり違う世界の物でございます。

 

 その世界は一風変わった世界で魔獣って呼ばれる怪物がその世界の人々を襲っていたんだ!

 ま~るく可愛い見た目の割りに結構狂暴な魔獣達……ひゃぁ~!大変だっ!!

 そしてそんな怪物と戦っていたのはうら若い少女。

 彼女は音や歌を媒介にして魔法を使う魔女と呼ばれる存在だったのです。

 

 

 

 ──古の時代、魔獣の脅威に曝される人々を後に【暁の魔女】と呼ばれる女性が手を差し伸べ人々に平穏をもたらした。

 そして彼女を守る仮面の騎士と共に幾重もの戦いを超え、この世界の人類は発展していった。

 【暁の魔女】フローラが従えていた剣士達は不思議な力宿した本の力を振るい、聖剣と呼ばれる剣を以て魔獣を討伐した。

 こうしてこの世界は魔獣を退け、人類はフローラと仮面の剣士達を崇め奉ったのである。

 

 しかしこの世界で生まれたフローラと違い、仮面の剣士には謎が多い。

 

 

 

 曰く、彼等は普通の人類ホモサピエンスでは無い。

 

 曰く、彼等に力を与える本同様、彼等もまた異なる世界の来訪者である。

 

 曰く、彼等は皆異なる時代からやって来た。

 

 曰く、彼等の力は本来魔獣以外の存在と戦う為の物である。

 

 

 

 剣士達は多くを語らなかった為、真偽は定かではない。

 そうして、彼等は各々がその世界の国に帰属した。

 ウェールズ、マルルセイユ、ドルトガルド、ヤマト、フィレンツァ、リュウト等々。

 

 やがて時が大きく巡り、仮面の剣士達はその国で子を成して、聖剣と本は次代の者達に託され各々が其々の国で再び人類の生活圏を脅かす魔獣を撃退する為に、魔女達やこの世界の騎士達と共に戦った。

 

 果たして、幾度と無くそういった戦いが繰り広げられてきた。

 ある時、一人の剣士が邪悪な意思に唆されたのか或いは二心を始めから抱いていたのか、国を、仲間を裏切り、世界へ反旗を翻した。

 

 裏切りの騎士を止める為、同じ力を持つ仮面の剣士達は彼と戦った。

 その戦いの最中、多くの命が喪われ、また仮面の剣士達の中にも犠牲が出た。

 結局、裏切りの剣士を討つことは叶わず、彼は姿を眩ませ、残った仮面の剣士達も傷付き、幾つかの聖剣や力持つ本が失われていった。

 

 そんな内乱…もとい大戦が伝説と成り果て幾百年が経った後、世界は再び魔獣の脅威が現れる様になった。

 しかし暁の魔女が発足させた魔女達の学園、フローラ女学院から輩出された五人組の魔女による歌の力【オルケストラ】により魔獣の侵攻を押し留め、撃退に成功する。

 その魔女達のユニットとしての名は【Ray】

 後に伝説のユニットとなる者達、彼女達の類い希なる活躍により再び現れた魔獣達は討ち果たされる。

 その後も彼女達は精力的に活動し、世界を股に掛け、魔獣の脅威に苦しむ人々を救っていった。

 

 【Ray】が華々しく活躍すると共に仮面の剣士の存在はより一層皆の記憶から薄れていき、最早、本の中でお伽噺として語られるだけの存在となった。

 

 そして新たなる伝説を築いた【Ray】…彼女達が解散し、各々の人生を歩みだし再び世代が移り行く頃、それは現れた。

 

 突如として切り取られる世界。本の様に捲られる謎の現象【ワンダー・ワールド】

 従来の魔獣とは違う謎の怪物メギド。堰を切った様に世界各国で発見される来訪者達。

 

 そして甦る伝説の聖剣。

 

 【暁の魔女】が魔獣を鎮めた地で、古より伝わる嘗ての伝説が今、再誕する──

 

 

 

 

 

 

 

 そう!これから語られる物語はその新たなる来訪者と新しい時代の魔女達のお話。

 

 実は此処にその魔女が書いた…かもしれない本があるんだけど、さてさて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あの人と初めて出会ったのは、私達が五人になってからの事でした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━日本━━

 

 東京の何処かの出版社、そこの応接スペースで向かい合う人と人。

 片方がペラペラと紙の束を捲りきると、そっと息を浸いて一言……。

 

 「ボツ」

 

 「え…………」

 

その言葉に何を言われているのか分からないといった顔で固まる青年。

 「だからねボツだよボツ。流行りに乗れとは確かに言ったよ?でもねぇ、在り来り過ぎると言うか……特徴が無いと言うか」

 「で、でも言われた通りチートで主人公が無双する話ですよ!」

 「そういうのネット漁れば大抵見付かるレベルだからね?そこからもう少しブラッシュアップとか差別化出来ないと……正直厳しいかなぁ。もうね、君が学生の頃嵌まってた様な王道は余程の手腕を持った大作家でもなけりゃヒットさせるのは難しい時代なの、分かる?」

 会話からして編集と作家なのだろう、草臥れた中年の編集者が作家の青年に言葉を掛ける。

 「君のデビュー作、正直他にマシな作品が無かったから受賞したようなもんだし、言いたか無いけど、売れたのが奇跡だからね?まぁ元々の志望自体ウチの部署じゃなくて、普通の小説の方らしかったんだっけ?どちらにせよこれだと厳しいよね?分かる?」

 つらつら列べられる言葉に青年は沈んだ面持ちで聴いている。

 

 「あのぅ……と言うことはもしかして……?」

恐る恐る上目遣いに編集を見る青年、恐らく返ってくる言葉は既に解っている。しかし訊いてしまうのは性なのだ。

 

 「今回は縁が無かったと言うことで、またお越し下さい。ってヤツだね、それじゃ」

 テーブルを挟んで対面していた彼等、編集が原稿の束を雑にテーブルに放ると立ち上がってそそくさとエレベーターに向かって行く。

 対して青年は引き留めるでもなく目の前の原稿を眺め、数分の後鞄に仕舞い編集社を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、またダメだった……。バイトの合間に頑張って書いたのに……ライトノベルって結構キツイんだなぁ……」

 とぼとぼと車通りを避けながら歩く青年、彼の名は剱守斗真【つるもりとうま】。

 デビュー作以来、啼かず翔ばずの売れない作家である。

 「嗚呼、いっその事、此処とは違う何処かの世界へ飛び出したい。銀河鉄道にでも乗って彼方の世界へ行けないものか………ははっ…」

 そうして俯いていた顔を空に上げた瞬間、頭に落ちてくる固いモノ。

 「アダッ?!」

 おでこに当たって地面に転がるソレに斗真は暫し身悶えた後、泪を浮かべながら手にする。

 「くそぅ、一体何だって言うんだ……ナニコレ?オモチャの本?」

 手に取って見たものは赤い表紙の片手大の黒い本らしきモノ。

 表紙のタイトルはBRAVEDRAGONと綴られている。

 「ぶれいぶ…ドラゴン?最近はこんな玩具があるのか…!」

 何処か感心しながらまじまじと本を天に翳しながら歩く斗真。

 だからであろうか、彼は前方の路の危険に気が付かなかった。

 「へぇー良く出来てる……ん?」

 気付いた時には足下は穴、斗真は重力に従い落下する。

 

 「うそやん…」

 

 それがこの世界で剱守斗真が最後に残した言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━???━━

 

 牧歌的な雰囲気の街道を馬車が走る。

 御者が手綱を握る馬に引かれながら馬車の中にいる人々はとある街を目指す。

 その中で一際目立った色鮮やかな赤い髪にピンクのリボンが付いた黒く底の浅いホンブルグ・ハットの様なソフト帽、首元にレースがあしらわれた白い半袖ブラウスと紅いリボン紐、緑がやや濃い浅葱色の広い丈長のスカートの少女が睡魔に舟を漕ぎながら馬車の揺れで目を醒ます。

 額を抑えつつ外に出て荷物を受け取り、目的地の城門を潜れば、そこは視るモノ全てが新鮮な世界。

 

 「わぁ~!」

 

 これから始まる生活に高揚と興奮、期待と希望を抱いた声が口から出る。

 白い街並み、活気に溢れる人々、気の良い露店の肉屋。

 

 「あ~む…んん~!美味しい!!」

 

 肉屋の店主から無料で貰ったトルティーヤに舌鼓を打ちつつ、再び街を散策しながら目的地へと進む少女。

 道中、元気の無い萎れた花にちょっとした()()()()()()()()()()をした彼女は目的地である魔女の学舎の園の門戸を叩く。

 

 ブルーサファイアの様に澄んだ青い瞳を決意に滾らせ、いざ夢の学院生活へ!

 扉を開いた先は整然としたホールに城の様な間取りに家具、階段に視線を向ければ案内役であろう女性が立ちずさんでいる。

 

 「いらっしゃいませ」

 との声と共に左手で階段を指す女性、出来ればもう少し愛想良くして欲しいと思ったりしたが口には出さない。

 

 「あ…あの、ティアラと申します」

 兎も角名乗り目的を告げよう。そう思って名を名乗るも女性は顔色1つ変えず言葉を放つ。

 「こちらへどうぞ」

 「その…入学したいのですが」

 「こちらへどうぞ」

 「えっと……はい…」

さて目的を述べたにも関わらずこちらへどうぞの一点張り。

 成る程、さっさと案内に従えと言う事なのだろう。

 女性に何か言いたげに視線を寄越すがピクリとも顔を変えない。人形か何かだろうか?

 ともあれ、階段を上がり、案内に従いとある部屋の扉の前に立つ。

 つまりは此処がこの学舎を統治する長、理事長が居る部屋なのだろう。

 ノックの後返ってくる入室を許す返事。

 魔法によって人の手を使わずに開く扉を超え、入った先には窓辺にて執務机から立ち外を眺める青髪の女性。

 

 「フローラ女学院へようこそ。理事長のクロエです。ティアラさん…でしたね」

 振り向いた彼女はそれは美しい顔立ちに知性を感じさせる眼鏡を携え、片眼を髪で覆った理知的な女性であった。

 クロエと名乗った彼女はティアラを前に静かに見詰める。

 

 「はい!私……いえ!わたくし、是非ともこちらの学院で」

 と精一杯礼儀と誠意を込めて心意気を述べようとするティアラ、頭を下げて

 「学ばせていただきたく」 「分かりました」

 と告げれば被せる様に間髪入れずクロエから了承の返事が来る。

 「ほぇ?」

 「入学を認めます」

 余りに早い返答に呆けて間抜けな声を挙げてしまうティアラ、少し間を起き、クロエの言った事を理解して、いやしかしおかしいのではと疑問をぶつける。

 「あの…試験とかは」

 流石に何の条件も無くあっさり入学など有り得ないだろうと意味を込めて問えば、クロエは顎に手を充て考える素振りをする。

 「ふむ……そうですね。では、その石に触れてみて下さい。魔女としての資質を見極める事が出来ます」

 そうしてクロエが指差す先にはアンティークの箪笥の上に置かれた茶褐色の菱形に研磨された鉱石。

 ティアラがそれに恐る恐る、そして意を決し手を翳せば石は青白く光輝きティアラを照らす。

 そして光を発したという事は、入学するに過分無い資質であると言う事。

 クロエにして曰く、この学院は未来ある全ての者に門戸が開かれるのがこの学院であると言う。

 こうして名実……と評して良いかは判らないが入学を認められたティアラはありがとうございますと礼を述べる。

 対してクロエは静かに胸に手を翳しながら瞑目して告げる。

 

 「星に光を」

 

 その言葉の後に続く言葉はティアラでなくとも魔女を志し、この学舎に来た者であれば誰もが知る言葉。

 

 「あっ…!」

 

 「大地に」

 

 「恵みを」

 

 「「暁の魔女フローラに感謝を」」

 

 両の手を胸元で重ね瞑目し全てに"礼"を尽くす2人。

 

 その感謝を捧げる詠唱が終えられたタイミングで新たに理事長室の扉が叩かれる。

 

 「入りなさい」

 「失礼します」

 クロエの許可と共に扉が勝手に開き入室して来たのは、ティアラにとってとても懐かしい顔。

 「え?ロゼ!!?」

 襟とスカートが蒼い制服に身を包んだこちらも蒼い髪を長く腰まで伸ばした少女。

 少女がティアラの声に眼を見開いて驚き声を洩らす。

 「ティアラ!?様!!?」

 ロゼと呼ばれた少女がティアラを様付けで呼ぶ。

 どうやらティアラはかなりの地位に居る人物のようだ。

 兎も角、久しく逢わなかった友人に逢えた喜びからロゼに抱き着くティアラ。

 

 「会いたかったー!会いたかったよロゼッターーー!!」

 「私もですティアラ様」

 子供の様にはしゃぐティアラを優しく受け止めるロゼ改めロゼッタ。

 会話からして彼女達は主従に準ずる間柄なのだろうか?

 再開に喜びはしゃぐ彼女達を前にクロエがロゼッタに指示を言い渡す。

 内容はティアラに学院内を案内する事、そしてロゼッタが所属する班にティアラを加入させる事。

 前者には忠礼したロゼッタも流石に後者の内容には困惑を禁じ得ない。

 「でもそれは……」

 しかしクロエは頑として言葉を覆さない。

 「これは提案ではありません。決定事項です」

 「うぅ…はい…」

 「?」

 クロエの決定にロゼッタは諦めた様に肩を下げる。

 ティアラは何故親友がそんな態度になっているのか分からず首を傾げる。

 ともあれ揃って理事長室から出る2人、ティアラは最後に理事長室の壁に立て掛けられた装飾品の中で唯一、不自然な迄に不釣り合いな剣の存在が目につき、気にはなったが、親友の案内を優先して剣の存在を頭の片隅へ追いやった。

 

 

 

 

 ロゼッタに連れられ学院を散策するティアラ。

 はしゃぐティアラをロゼッタは優しい眼差しで見る。

 「ホントに久しぶりだよね!最後に会ってからだから……」

 「二年と3ヶ月14日振りになります」

 ティアラの回想に対し正確な月日を返すロゼッタ、中々に重い感じがしなくもない。

 

 「あはっ!流石♪」

 ロゼッタの返しにティアラは特に何とも疑問を挟まず笑顔で褒める。

 

 さて、ロゼッタの案内により中庭へ出れば寛ぐ生徒が数多く、会話に華を咲かせている。

 そんな中でティアラはロゼッタに敬語で話す事を止めるよう懇願する。

 渋るロゼッタに対し、止めなければ先輩を付けて呼ぶと笑顔で脅せば、折れるしかないのがロゼッタであった。

 

 

 兎にも角にも、案内ついでにこれから共に過ごす班員を紹介する為に向かうロゼッタ。

 2人が先ず向かったのは図書室、そこで紹介されたのはミディアムボブカットの翠色の髪の少女。

 名をリネット、どことなく気が弱そうな少女だ。

 

 彼女もまたロゼッタ同様蒼い制服を纏っている。

 ティアラが理事長クロエの指示で自分達が属す班に加入となった事にはとても不審がっていた。

 

 ともあれティアラが図書室の蔵書の量に目を奪われ驚嘆すると先程までの少し引いたリネットの態度が一変、ズイッと食い付く。

 

 「そうなんです!ここの蔵書はすごいんです!遠方から本を求めて来る人もいるくらいなんですよ!!その他にも魔導書とは違う不思議な本があったり!」

 その剣幕にティアラも腰が退ける。

 「えぇ~……本が好きなんだね…」

 「私…物語が大好きで大好きで」

 心底嬉しそうに語るリネット、ロゼッタは苦笑し、ティアラはそんなリネットが閲覧していた本に目を向ける。

 とそこから溢れヒラリと落ちる紙切れを手に取れば、明らかに蔵書された本とは違う内容が綴られたモノが……。

 「さぁ漕ぎ出そう、愛と言う名の……」

 それに気付いたリネットが慌てふためきティアラから紙切れを奪い取り赤面する。

 「違うんです、これは違うんです!忘れて下さい気にしないでください忘却の彼方へ!!」

 どうやら彼女にとって見られてはいけない黒歴史だったらしい。

 

 

 リネットと別れた後、再び学院内を散策、授業の風景を廊下から覗き込みながら進んで行く。

 自由に受ける授業を選択出来るという校風に感心と期待を伴いながら座学中の教室を覗いたり、薬学の実践で暴発する生徒を見掛けたり、校庭に出て魔法によって宙を舞う円盤を扱う授業を見学したり。

 

 そうして校庭を進んで行けば今度はコートにて球技に興じる生徒達。

 どうやらロゼッタの班員が参加しているようだ。

 

 かなりの速度で投げられたボールを軽やかに躱す金髪のツーサイドヘアの少女、ラヴィ。

 

 そのボールを真正面から受け止めた純紫のポニーテール少女、アシュレイ。

 

 この2人にロゼッタと先程のリネットを加えたのがこれからティアラが加入する事となる班だという。

 さて、紹介している内に試合は見る間に展開していき、ラヴィとアシュレイが見事なコンビネーションにより勝利をもぎ取った。

 試合を終え、ロゼッタ達に近付くアシュレイとラヴィ。

 「見ていてくれたのか」

 「ええ」

 アシュレイの言葉にロゼッタが是と返せば、階段を駆けてくるラヴィが自慢気に小さな体で大きな胸を張る。

 「すごかったでしょ!最後のスーパーショット!!」

 そんなラヴィにアシュレイは当然の様に己の活躍を添える。

 「私のパスが良かったからな」

 「いやいやいや。あの程度のパスだったらトムでも出来るよ」

 因みにトムとはラヴィが面倒を看ているウサギの名前である。

 ともあれロゼッタからティアラを紹介され彼女達も名乗る。

 「アシュレイだ」

 「あたしはラヴィ!この学院のエース!」

 「自称な」

 アシュレイの名乗りに続き自信満々に己をエースと言ってのけるラヴィ、空かさずアシュレイが付け加える。

 そして名乗った後にティアラが自分達の班に加入する事を今更理解して驚くのだからこの娘は存外頭の弱い子なのだろう。

 ティアラに抱き着きながら「ちょー愛してる!」などと外面も無く叫ぶのだから人懐っこい部分が見えるラヴィ。

 アシュレイはティアラの加入に胸を撫で下ろす。

 「有り難い。誰かさんと違って聡明そうで助かる」

 「誰かさんってあたしのことか?」

 アシュレイの言う"誰かさん"が自分の事を指したのが判るのか彼女に対し突っ掛かるラヴィ。

 そこまでは良かったが、その後の発言がダメだった。

 「ってか、ソウメイって何だ」

 「まさか分からないのか?」

 アシュレイ、半眼のジト眼でラヴィを睨む。

 「うっ…!そのぐらい知ってるよ。ソウメイでしょ?…そうめい……、要するに…つまり…ハッ!瞑想の反対言葉ってヤツだ!!」

 「………本当にコレと一緒の班で良いのか?」

 文字通り言葉を反対にしただけの的外れな答えに鼻を鳴らすラヴィを前にアシュレイがティアラに後悔しないかとばかりに訊ねている。

 これにはティアラも苦笑して誤魔化す他無い。

 

 

 それから、ラヴィの提案で彼女が飼育しているウサギのトムとシェリーを紹介される。因みにどちらもメスである。

 ロゼッタとの幼馴染みの様な間柄を紹介して、ロゼッタが具体的な年数を告げると2人はドン引きした(寧ろこれが一般的な反応である)

 

 

 

 

 

 

 アシュレイ、ラヴィと別れ再び学院案内に戻るティアラとロゼッタ。

 魔法によるナイフの的当ての実演を観たり、硬化の魔法の耐久試験を観たり、プールで濡れたり……と、周り魔法の矢を当てる射撃場へ赴いた2人。

 実習中の生徒がくしゃみで矢を在らぬ方向に飛ばしたお陰で至近距離で大爆発を目撃してティアラが気絶する羽目になったのは御愛嬌。

 ともあれこれから彼女が過ごす学院は中々に刺激に満ちているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな学院の敷地内の人の気配が微塵も無い一角で女の園に見合わぬ存在がやる気無く寝転がっている。

 

 「はぁ…若い声は姦しいねぇ。オジさん羨ましいよ…」

 それは…無精髭を顎に蓄えた大柄な男性であった。

 

 他にも彼とは違う場所で中庭のテラスが見える場所を眺める青年、少し息が荒い。

 「お嬢様…今日も何時に無く美しい!嗚呼…お嬢様ぁ!!」

 誰か他に目撃者がいれば通報待ったナシである。

 

 更にはとある一室にて……。

 「新しい娘さんが増えたのかな?もしかしてクロエさんが言っていた子かな?」

 鎚を振るいながら外の状況を把握している青年、彼の眼前には複数の剣が置かれている。

 

 

 或いは学院の何処かにて…。

 「歯車が回り始めた……時は来た…と言う事か…」

 意味深に呟く青年、見上げた先は厚い天井に遮られている。

 

 本来ならば男性が居る事自体異常な事ではあるが、彼等は特別だ。

 彼等は魔女とは別にこの世界に必要な存在であるのだから。

 そして彼等の手許、或いは隣には斗真が手にした物と同じ小さな本が置かれている。

 

 

 

 そしてそんな世界に青い空を絶叫が引き裂く。

 

 

 「ぁぁぁぁあああ!?!落ちる落ちる落ちる落ちる落ちるぅぅぅううう!!」

 

 

 絶叫の主は剱守斗真、その手には例の赤い本。

 

 

 

 

 

 彼がうら若き5人の魔女候補と出会う時、大いなる本を巡る物語が始まる。

 

TO BE Continued……

 

 

──ブレイブドラゴン──




 本当に早く新しいライダー出ないかな。
 一応とじダグ優先なのは変わらないので…。
 後は三人称系なのでもしかしたらリリスカより更新速く出来るかもしれないジレンマェ……。

 ラピライゲームアプリ速くリリースして



 修正如何でしょうか?
 ちょっと不安です。感想で書かれた様な事を巧く反映出来る技量に自信が無いので……。
 でも書いた以上は反省はしても後悔は出来る限りしたくないです。
 モットーの1つが例え駄文と謗られようと自分が産み出した作品を自分で駄文と謗る事はしたくない、と言う心境で書いているので


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セイバーの章
1頁 復活の火炎剣烈火!


 おはようございます。そしておやすみなさい

 取り敢えずね、1話だけでもと思い、プロローグの目録に続き1頁目を投稿。
 まぁテレビのセイバー本編の進行度合いやラピライのリリースを待ちながら幾つかプロットを用意しつつ、対応出来れば良いなぁなんて思っています。

 ジャオウドラゴン格好いいですね。でもワンダーライドブックの形状からするとソードライバーの方だと展開出来ないのかな、アレは?
 後、スラッシュに変身する為の聖剣、音銃剣錫音。
 ああいうタイプの銃剣…良いですねぇ…ロマン武器は好きです。



 

 ──私達五人とあの人……先生との出会いがあの戦いの始まりだったのかもしれません──

 

 

 

 

 

 ━━マームケステル━━

 

 フローラ女学院を擁する魔女の街。

 朝陽登る青白い空の下、街を往来する馬車が入れ替わり立ち替わりと走る。

 その城門前に何処かで拾った適当な木の棒を杖代わりにしてボロボロの青年が辿り着く。

 「や…やっと、人が居そうな場所に着いた……長かった…」

 ひぃひぃぜぇぜぇと声を上げ息を切らし城門に着いた瞬間、倒れ込む青年。

 近くに居た定期馬車の人々が何事かと騒ぎ出す。

 倒れた彼のもう片方の手には小さな赤い本が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━フローラ女学院・学生寮━━

 

 ティアラが入学し、5人班となったロゼッタ、リネット、ラヴィ、アシュレイ。

 部屋の都合からロゼッタがティアラと共に2人部屋に移り学院での生活に適応し始め早数日。

 「ん~~~~!」

 カーテンを開き窓から射し込む陽の光を全身で浴び、大きく伸びるティアラ。

 「おはようティア、随分早いわね」

 そんな彼女に2段ベッドの上にいるロゼッタが起き上がり声を掛ける。

 「おはようロゼッタ。うん、ちょっと目が覚めちゃって……」

 「大丈夫?あまり無理をしてはダメよ、昔より元気になったとは言え、油断は大敵なんだから」

 ティアラの苦笑混じりの答えにロゼッタは心配を込めた声色でやんわりと忠告する。

 そんな幼馴染みの親友の思い遣りにティアラは心配症なんだからと少し拗ねた顔を作った後、平気と返す。

 「大丈夫だよ、ちょっとおかしな夢を見て目が覚めちゃっただけだもん」

 「おかしな夢?よかったらどんな夢を見たのか教えてくれる?」

 ティアラの言うおかしな夢が気になったのかロゼッタは彼女に訊ねる。

 

 「う~ん…何て言えばいいのかなぁ?昔、お姉ちゃんと一緒に少しだけお城の外に出た時の夢なんだけど……此処じゃない何処かにいつの間にか居て、気付いたらお姉ちゃんともはぐれて…」

 

 「エリザ様とはぐれて、どうなったの?」

 

 「見たことも無い魔獣に襲われそうになって……その時、不思議な鎧を纏った仮面の騎士…ううん、剣士かな?その人に助けて貰ったの……それで私は安心したのか気を失っなって、次に目を覚ましたら」

 

 「寮のベッドの上って事ね」

 

 「うん。でも…私が小さい頃にそんな事があったなんて記憶に無いんだ……だけど妙に現実味があって…ごめんね!ロゼッタ、夢の事だし心配しないで!」

 

 嫌に生々しさが伴う夢を見て不安な顔をしてしまい親友にまで心配され慌てるティアラ。

 わたわたと手を振り自分が至って心身共に健康であるとアピールする。

 「分かってるわ。それにしても仮面の剣士だなんて…昔、二人で読んだお伽噺の絵本みたいね」

 ティアラの態度に微笑を溢しながら夢に出て来た剣士の特徴的な容姿にロゼッタは幼少の頃に目にした絵本を思い出す。

 「あ、やっぱりロゼもそう思う?」

 「まぁ、夢だからお伽噺の英雄が出てきてもおかしくは無いけどね」

 「そうかな……うん、そうかもね。良し!じゃあ今日も頑張ってポイントをゲットして退学回避しようね!」

 ティアラがいっそう奮起して宣言する。そう、今し方ティアラ自身が告げた通り、彼女が配されたロゼッタ達の班は度重なる問題行為等から減点を受け、退学の危機にあるのだ。

 この事を知った時のティアラの表情は意も言われぬモノであった。

 具体的に言えば、瞳から光が消え失せ、思考を全て放棄する程である。

 それが食事の時に伝えられたのだから、手許のスプーンを落とし暫く茫然自失してしまい、班員達はそれはもう後ろめたい気持ちであっただろう。

 

 ともあれ現状を打破する為にもティアラは加入当初、張り切ってポイントを稼ごうとしたのだが、そこは問題児が集う班。

 おバカ(ラヴィ)による座学の失点、ティアラが声を掛けた為に起きたアシュレイの集中力の乱れによる魔法矢の暴発、ティアラ自身の初体験(卑猥な意味では無い)の魔法の円盤(フライングソーサー)の破損等、これまた思う様にはいかなかった訳である。

 その後もなんやかんやあり、得点は増減……まぁ減点が勝っているが、増減を繰り返し今日に至る。

 

 「そ、そうね…今日こそは何としても減点を回避、いえ…ポイントを加算しなくてはね……!」

 在りし日と言う程でも無いが、それほどに濃い数日間を思い出しロゼッタも危機感と共に拳を握る。

 此処には居ない別室の3人も気持ちは同じであろうと信じて2人は寝間着から制服へと着替えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━マームケステル・詰所小屋━━

 

 「はっ!!?」

 椅子を利用されて作られた簡易寝台(ベッド)から青年が飛び起きる。

 周りに目を配れば日本とは建築様式の異なる白い石壁に囲まれた外国の様な小屋。学生時代の修学旅行以外で日本から出た事が無い彼はその光景に狼狽える。

 「お?目覚めたかい兄ちゃん」

 そんな青年に声を掛けたのは中年の男性。状況から見て小屋の主だろう、そんな彼が苦笑しながら何があったのかイマイチ判然としない青年に丁寧に説明してくれる。

 

 何でも、朝も早くに物流や人員の馬車が往来する城門前、石橋が掛かる土手の辺りでボロボロになった自分が倒れているのを何人もの人々が見掛け、騒ぎになり、比較的平和なこの街で早々出番の無い門兵が騒ぎを聞き付け自分を此処に運び込んだそうだ。

 そして、この中年男性はその門兵の1人だと言う。

 「兄ちゃん、この辺じゃああまり見ない格好だなぁ?旅人か?にしちゃあ無用心だけど……っとそう言やぁ名前も訊いてなかったな。兄ちゃん名前は?」

 中年門兵は青年の格好──ウインドブレーカーに合成繊維のYシャツとその下に着込んだノースリーブシャツ、赤いスラックスという様相に首を傾げながら旅人だろうかと当たりを付けつつ名前を訊ねる。

 「え…あ、えと…」

 「名前だよ、名前。何だぁ?もしかして訳ありか名無しか?」

 「い、いえ!斗真です!剱守斗真!」

 青年はどう見ても日本人に見えない外見の中年門兵があまりに流暢に日本語を話す様を見て一瞬呆けるも直ぐ様名乗る。

 「テュリーモラ・トーマ?変わった名前だなぁ?トーマの方がファーストネームなのか?」

 苗字のアクセントが大分間違って伝わったが名前は一度で覚えて貰えた様である。

 「テュリーモラではなく剱守です。つ、る、も、り!」

 「んん?ツルモォリャー?よく解らん。名前の感じと見た目からして兄ちゃんヤマトの人か?だとしたら凄いな!船旅から歩きだなんて無謀も良いとこだ!」

 よく解らんと一蹴された事にショックを感じつつヤマトと言う言葉に反応を示す斗真。

 「(ヤマト?ジャパンとかジャッポーネとかじゃなくて?)……えぇ、まぁ、そんな所ですけど……あの、つかぬことお訊きしたいのですが、此処は何処でしょうか?」

 「ん?おいおい、まさかなにも知らないで来たのか兄ちゃん!?此処はマームケステル、暁の魔女フローラに所縁のある地さ!」

 「マームケステル?それがこの国の名前……?」

 門兵の言葉にやはり聞き覚えが無い斗真は首を傾げるが門兵は違う違うと首を振る。

 「マームケステルはこの街の名前さ!国の名前はウェールランドってんだよ」

 「ウェールランド……(ダメだ全然聞いたことが無い。歴史や地理はそれなりに勉強したけど…思いあたる節が無い!?)」

 そこまで思考して斗真はまさかと言う結論を導き出す。

 (待てよ、あの人は何て言った?暁の魔女フローラ?魔女?科学全盛の時代に?そもそも考えてみれば馬車って言うのがおかしい…!見た感じこのオジさんの服装も21世紀にはそぐわない。コスプレ?違う。あのシワは日常的に身に付けてなきゃ出来ない。それにヤマト、船旅……もしかして、いやもしかしなくても……此処は異世界なのでは?)

 この間僅か数分、門兵から見たら急に黙りこんでコロコロと顔色が変わるものだから、どこか調子でも悪いのかと心配になる。

 「おい兄ちゃん、本当に大丈夫か?医者呼ぶか?」

 「っ?!いえ!大丈夫です!ちょっと考え事しただけなんで……ってあれ?リュックは?!」

 門兵の心配に慌てて否定する斗真。そこで改めて自分が背負っていたリュックが無い事に気付く。

 「兄ちゃんの荷物ならこっちだ」

 慌てふためく斗真に門兵は自身の机の下から斗真のリュックを取り出し、投げ渡す。

 「あ、ありがとうございます……良かった無事だ」

 渡されたリュックのファスナーを開き中身を確認し胸を撫で下ろす斗真。

 「兄ちゃんの鞄、変わってんなぁ?ヤマトじゃそんなのが流行ってんのかい?」

 門兵に言われて斗真もハッと気付く。

 此処が異世界でしかもよくある中世風なら自分のリュックは中々にオーバーテクノロジーの結晶と言えるのではないかと…。

 「ええ!はい!そんな感じです!」

 幸い、門兵はそこまで造詣に深い人間では無かったのか、深くはツッコまれなかった。

 「まぁ、何にせよ意識が戻ったんなら良かった。改めてようこそマームケステルへ。ここは良い街だ、兄ちゃんもきっと気に入るぜ!」

 人の良い笑顔で肩を叩く門兵。斗真は笑みを浮かべてやり過ごす事に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ━━マームケステル・商店区画━━

 

 街で暮らす人々や観光客で賑わう場所を見下ろす様に臨む屋根の上。

 そこから見える人々は活気に溢れ、その存在など気にも止めない。

 「さぁ、始めようか…新たなる世界。その始まりの狼煙を」 

 頭まですっぽりと覆い隠したマントを身に纏う謎の影が手にした小さな白い本に力を注ぎ、邪気に満ちた黒い本へと変貌させる。

 本のタイトルは"アラクネの糸"。本が開かれ人間大の蜘蛛の怪物が生まれる。

 「こいつで世界を我らの色に塗り潰せ

 マントの人物が怪物へもう1つあった白い本を渡す。

 蜘蛛の怪物は無言で頷き眼下を見下ろすと渡された白い本を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、退学回避の為に手近な事から……有り体に言えばボランティアに手を付けたティアラ達。

 街に出て誰か困っている人は居ないものかと散策する。

 「まぁ、だからって早々見付かりませんよね困っている人なんて……」

 緑色のショートボブの少女、リネットが溜め息混じりに呟く。

 「ま、まぁ良いことだよ!困ってる人が居ないって事は平和な証拠だし」

 そんなリネットを何とか励ますティアラ。横では金髪ツーサイドの少女ラヴィが唸っている。

 「なんかこう……ピンチ!って感じで困ってる人がいたらイイのに!」

 「バカかお前は!他人の不幸を願ってどうする!!」

 「な、なにおー!?あたしはただ困ってるなら力になれるから居たらイイナァとか思っただけだ!」

 「言い方があるだろ!」

 ラヴィの無自覚な発言にすかさずツッコミを入れるアシュレイ。背の高い彼女と低いラヴィが互いに顔を突き合わせて言い争うのは何時もの光景だ。

 「あの……あそこにいる男の人、なんだか困ってるように見えません?」

 と、そこでリネットが何かに気付き指を差す。

 他の皆がその指をの先を辿り、視線を巡らせれば其所には辺りをキョロキョロ所在無さげに見渡す青年の姿。

 

 「ホントだ!なんかスッゴいキョロキョロしてる!怪しい!!」

 

 「観光客かしら?それにしても少し妙な格好ね…」

 

 「困ってるなら声を掛けてみない?」

 

 「悪漢であれば私が成敗してくれる!」

 ラヴィが青年のあまりの挙動不審さにオブラートに包まずに思った事を口に出し、ロゼッタが他の人間とも違う一風変わった服装に首を傾げ、ティアラが天使も斯くやと優しさを発揮し、アシュレイが万が一にも不埒な輩であれば投げ倒さんと言う眼をする。

 さてそうと決まればと5人揃って青年に近付く、青年も近付いて来たうら若き乙女達に気付いたのか、一瞬だけビクリと体を揺らし彼女達と視線を合わせる。

 

 「あの~…何かお困りですか?」

 開口一番、口火を切ったのはティアラだ。多少の警戒を含めつつも、あからさまに怯えている態度はせずに青年に声を掛ける。

 「はい?!あ、俺か……。え、ええ、困ってます。行くところが無くて……」

 青年──剱守斗真は声を掛けてきた見目麗しい美少女に見とれつつも掛けられた言葉の意味を理解し、嗚呼、この娘さん達はいい人だなぁと心中で溢しつつ、端的に今の自分の状況を口にした。

 「え?」

 返ってきたのは困惑の声。

 「え?」

 そしてその返答に己も困惑。

 「「「「え?」」」」

 赤髪の少女の連れも困惑と疑問の声を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 「ふーん、そっかお兄さん迷子なんだ~」

 斗真とティアラ達の邂逅から数分後、先程の内容をより事細かに話す斗真。とは言っても異世界云々は信じて貰えそうに無いと思ったので話してはいないが……。

 「そう…なるのかな。えぇっと……」

 「あたしラヴィ!」

 「ティアラです」

 「り、リネットです…!」

 「ロゼッタと言います」

 「アシュレイだ」

 名前が解らない為、言葉に詰まっていたところ彼女達は律儀に自己紹介してくれた。

 「俺…じゃなくて僕は剱守斗真。よろしく」

 ならばと己も名乗り返す斗真。しかし──

 「つるつるトーマス?」

 ラヴィがとんでもない間違いをしたので変な声を挙げてしまう。

 「バカウサッ!」

 「ア゛ダッ!!?」

 その反応にアシュレイが取り敢えずラヴィが粗相を仕出かした事だけは理解して彼女の頭を叩く。

 「あー、うん……それじゃ、斗真で呼んでくれて構わないよ」

 先程の門兵の事も思い出し苦笑しながら名前呼びを許す斗真、その反応に少女達も彼が悪人で無い事を理解してか其々微笑んだりして警戒の度合いを下げる。

 「それじゃトーマさんは気が付いたらウェールランドの何処かに居たんですね?」

 「うん。それで馬車が行く方向を目指して歩いたら……」

 「このマームケステルの街の前に着いて倒れてしまった…と」

 「なんだか不思議ですね。ヤマトから船に乗って来た訳では無いんですよね?」

 「そ、そうだね。何て言うかいつの間にかだから」

 「他に何か手掛かりは無いのか?」

 「手掛かり……」

ティアラから質問が始まり、ロゼッタ、アシュレイが斗真に次々質問を繰り出す。

 リネットは皆と会話に参加はすれども、斗真にだけは些か遠慮がちになり、アシュレイとロゼッタの間に隠れてしまう。

 ともあれアシュレイの質問。手掛かりと言う言葉で自分がこの世界に来る原因となった存在を思い出しポケットから取り出す。

 「恐らく、だけど…これが唯一の手掛かりかな」

 それは小さな本。

 赤い表紙に英語表記らしき言葉で"ブレイブドラゴン"と記されている。

 そして斗真が持つそれを見た瞬間食い付くリネット(本の虫)

 「そ、そ、そ、その本詳しく見せて下さいませんかっ!!?」

 「ホワッ?!」

 これは斗真もかなり驚いた。先程までの引っ込み思案な雰囲気を出していた少女は何処へ消えたのか、グイグイ迫ってくるものだから思わず引け腰になってしまう。

 大の大人の男が15、6歳頃の年端もいかぬ少女に圧されている様は何とも情けない。

 何より斗真は学生の時分より異性との交友経験が少ない為、内心かなり動揺している。

 更に更に、このリネットと言う少女は5人の中でも特に立派なモノを胸部に誇っているので詰め寄られている斗真としても気が気で無い。

 「リネット落ち着いて、ね?」

 「はっ…!す、すみません!!私ったらつい…」

 「あー…いや、うん何と言うかキニシテナイヨ?」

 内心、ご馳走さまでしたと思いながら震える声で動揺諸々を誤魔化す斗真、リネットの肩を軽く叩いて止めたティアラ共々苦笑する。

 

 そしてそれが起きたのはそんな和気藹々としかけた瞬間であった。

 斗真、ティアラ、リネットとロゼッタ、アシュレイ、ラヴィとの間に突如遮るように現れる光の境界線。

 彼と彼女達がそれを認識した瞬間、斗真と彼と共に居た2人は光に包まれた。

 

 

 

 

 「ティアラ!?」

 「りっちゃん!?!」

 斗真達が光に目を眩ませている一方で僅かに離れていたロゼッタ達は何が起きたのかを認識していた。

 突然現れた光の境界線がそのままティアラ達諸共、開いた本が捲れる様に下から上に捲り上がり消えた。

 彼女達は知る由も無いがマームケステルの街の一角が、巨大な本の幻影に取り込まれたのである。

 そして斗真とティアラ、リネットはソレに巻き込まれた。

 「な、何が起きたんだ……?!」

 アシュレイが唖然とした顔で目の前で起きた現象に言葉を洩らす。

 「何いまの!?何かの魔法!?」

 「解らないわ…転移にしてもこんなモノは見たこと無い……」

 友人2人と会って間もない青年が消えてしまった事に驚き、焦り、戸惑う3人。

 彼女達が今出来るのはせめてもの無事を祈る事だけである。

 

 

 

 

 「あちゃー、遅かったかぁ……。うん、しょうがない!今動けるのは僕だけだし、頑張って()()()退()()()()()()()()!」

 ロゼッタ達から離れた場所で駆け付けて来たのか肩掛けの短いマントを羽織った青年が額に手を当て呟く。

 彼はそのまま腹部に奇妙なバックルを充てると目の前に現れた扉大の本へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━???━━

 

 「眩しっ?!………な、何が起きた?」

 光から目を守る為、手を顔の前に出し俯き背けていた顔を挙げる。

 同時に自分の近くに居た2人の少女の存在を思い出す。

 「ティアラちゃん!リネットちゃん!無事か!?」

 声を張りつつ光に慣れてきた目を開けば其処はトンデモ無い光景が広がっていた。

 「……………なんじゃあこりゃぁぁああ!?」

 「っ…トーマさん?」

 斗真の叫びに近くに居たティアラから声が掛かる。

 「ティアラちゃん?!無事かい?怪我は無いか?」

 「は、はい!私は大丈夫です。リネットも」

 そうして横を見ればリネットも目を擦りながら斗真と同じ様にその光景を見て言葉を失くす。

 

 彼等の目に飛び込んだ光景、それは虹色の雲と見た事も無い植物郡、空を飛び交う竜と魚。

 浮遊する大陸という、輪を掛けてファンタジーな光景。

 「一体、これは何なんだ……この街にはこんな事が何時も起きているのかい?」

 「分かりません!私達もこんな事、初めてで…」

 斗真の問いにリネットが首を振る。

 自分がこの世界に落ちてきた時もファンタジーであったが、今自分が目にしている光景は彼女達にもファンタジーな事らしい。

 そうして暫く呆然としていると何処からか騒しい爆発の音が聴こえてくる。

 

 「何だ!?」

 

 「何かが大きく破裂する音?あっちから!」

 ティアラが音の在処の方へ駆け出す。

 「待って?!ティアラさん!危険です!!」

 リネットの制止も虚しくティアラは火中の方向に飛び込んでいく。

 「彼女は俺が連れ戻す、君は此処で待ってるんだ!」

 見かねた斗真がリネットに向き直り、諭す。しかしリネットは一瞬、躊躇を見せるも斗真の目を真っ直ぐ見詰め直し、震える声で口を開く。

 「わ、私も…一緒に行きます!ティアラさんを放っておけません!」

 「………分かった。でも何が起きるか解らない、危険だと思ったら君は直ぐに逃げるんだ」

 恐怖を押し殺し友の為に動こうとする少女の想いに折れ、共にティアラを追いかける。

 

 数分もしない内に斗真はティアラを見付け追い付く、リネットは……かなり後方でヒィヒィ言いながら本人としては走っているのであろう、覚束無い足取りで此方に向かっていた。

 

 「ティアラちゃん!」

 「あ……トーマさん……あれ…」

 ティアラが追ってきた斗真に気付き、眼前の光景を震えながら指差す。

 斗真がその指が示す先を見て息を飲む。

 

 赤黒い人間大の異形が頭部とおぼしき部位からナニかを撃ち出し建物を爆発させる。

 異形の姿はまるで蜘蛛の様、人の手足が蜘蛛の巣の様な模様をとり、胸は8本の蜘蛛脚を組んだような意匠、頭部は先程の通り蜘蛛の腹を象っている。

 そしてその怪物が此方に気付いた。

 

 「うん?命知らずの獲物がやって来たか?

 

 明らかに人間の言語を喋るのに向かないであろう蟲顎の口からおぞましい声が響く。

 

 「逃げろティアラちゃん!!」

 その声を聞いた瞬間、斗真は即座にティアラを庇うように連れ走り出す。

 「きゃっ?!」

 少女が短い悲鳴を溢すがそれを無視しても一刻も早く目の前の化物から逃げる。

 途中、息も絶え絶えになったリネットと交錯、慌てて彼女の腕も引っ張り逃げる。

 何処まで走ったであろうか?自分でも解らないくらい息を切らせながら周りを警戒し、怪物が追って来ていない事を理解しホッと一息を浸いた瞬間、タッと軽い着地音が前方より聴こえる。

 

 「鬼ごっこは終わりか?

 

 逃げ切った筈の怪物が目の前にいる。

 「ひっ!?」

 怪物を見た瞬間、リネットが腰を抜かす。

 「あ…ぁ……」

 ティアラも怯え小さく声を洩らしている。

 

  「っ……!南無三!

 

 そんな怯えすくむ少女達を守る為、なけなしの勇気で恐怖心を抑え斗真が怪物に向かって組み付く。

 「俺がコイツを抑えるから!君達は何とか逃げて誰か助けを呼ぶんだ!」

 組み付く間も怪物は斗真を拳や肘、膝で滅多撃ちにする。

 「がっ?!…逃げろ…ぐっ、早くぅ…ぁが!」

 が、奮闘虚しく地面に転がる斗真。弾みでブレイブドラゴンが落ちる。

 そして、蜘蛛の怪物は斗真が落としたブレイブドラゴンを目にした瞬間、驚愕し動きを止めた。

 (何だ?…あの本を見た瞬間、奴が止まった……あれに…何かあるのか…?!)

 怪物の異変に自身が持っていた物が関係あると見て這う這うながらもそれを手にする斗真。

 その時、彼の脳裏に膨大な情報が流れ込む。

 

 「ぅ…ぐぅぅぅぅぁああっ?!」

 

 頭を抱え転がる斗真。

 蜘蛛の怪物はそれを見て己を取り戻し斗真に迫る。

 怪物の脚が彼の頭を捉えた瞬間、空を割り大地に炎が逆巻く。

 

 「何ィっ!

 

 怪物が吹き飛ばされ、斗真の前には地面に突き刺さった剣が現れる。

 「剣…?」

 

 斗真と怪物、ティアラとリネットの場所からやや離れた位置に本の扉を伝ってマントの青年が現れ、彼等の様を目撃する。

 「あれは…!ウェールランドの失われた聖剣、火炎剣烈火!?」

 

 マントの青年が驚く傍ら、斗真は藁にもすがる希望で剣に触れようと弱々しく近付く。

 「コイツで…あの怪物を…どうにかしなきゃ…」

 そうして剣を手にした瞬間、斗真は炎に包まれる。

 「?!ぁぁああああ!?」

 全身を熱と炎に焼かれる感触、悲鳴すら挙げられるのが奇跡の様。

 

 「いけない!この世界の純血の住人ではあの剣は……!」

 

 マントの青年が何事かを叫ぶ。

 

 「ぁぁぁあ!?熱い!けど……あの子達を守らなきゃ……友達の所に返して…あげなきゃ…だから…抜けろぉぉぉおおおお!!」

 

 炎に焼かれながら気合いで剣を抜く斗真、そしてその声に呼応したのか剣はあっさりと地面から抜け出る。

 斗真が剣を掲げると炎が刀身に集束しその姿を変えていく。

 

 「これは……」

 剣が姿を変えたのはマントの青年が腹部に充てた物と同様のバックル。

 斗真は自らの体の赴くままにそれを腹部──腰の辺りに充てる。

 

 『聖剣ソードライバー』

 

 バックルから荘厳な声が響く。斗真は本能に従いブレイブドラゴンの表紙を開く。

 

 『ブレイブドラゴン』

 

 『──かつて世界を滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた……』

 

 開いた本を再び閉じ、斗真から見て右側のバックルに空いたスロットに本を差し込む。

 すると何処からともなく不思議なメロディーが木霊する。

 

 「まさか!?変身出来るのか!?」

 

 「トーマ…さん…?」

 

 「何が起きてるの……」

 

 マントの青年、リネット、ティアラが各々に言葉を洩らす。

 

 蜘蛛の怪物は瓦礫を掻き分け、立ち上がりに斗真が為さんとする行為を止めんと駆け出す。しかし彼が行動を起こす方が早い。

 

 

「っらぁぁあああ!!」

 

 

『烈火!抜刀!!』

 

 

「変身っ!!」

 

 

『Wo~Wo~Wo~Wo~♪ブレェイブドラッゴォォォン!!』

 

 

『烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!!』

 

 

 斗真の発した変身の声と共に彼の姿が変わる。

 上体中央を除き、右半身が赤く、右肩に竜を象った意匠、中央部は白く刃の様な突起が装甲中央に見られ、左半身は黒く、頭部は炎の剣閃をクロスさせたバツ十字に黄色い複眼を備え、頭頂部位は剣先の様な鋭い意匠。

 非対称な姿ではあるが、その様は正に騎士。

 

 「夢で見た、仮面の……剣士……」

 

 「嘘…仮面の剣士…お伽噺じゃ……」

 

 ティアラとリネットは斗真のその姿に絶句している。

 

 

 「本当に変身した…!セイバーに……彼は一体…」

 

 マントの青年は斗真の氏素性に興味を抱く。

 

 

 

 「はぁ…はぁ…うぉぉおおおお!!」

 

 そして無我夢中で変身した斗真は己の変化に気にも止めず怪物に向かって行く。

 

 失われた聖剣が再びこの世界に現れ、青年を戦士に変えた。

 真紅の騎士は少女を守る為、果敢に敵へ立ち向かう。

 

 

TO BE Continued…!

 

 

──ライオン戦記──




 まぁ仮面ライダーモノは二次創作は色々言われるだろうなぁと思いつつ、やりたくなったんだから仕方無いと開き直ります。
 私は自称コンニャクメンタルなので、誹謗中傷は心にキますが評価での批評はそういうのもあるのかと受け止めるくらいにはまぁ打たれ慣れてます。
 ガラスじゃ無いので簡単には砕けませんが、だからといって文章に意見を反映出来るかと言われたら……まぁ微妙ですね。
 そもそも創作なんて言うのはある程度他人の目に触れるとは言え、ある種の自己満足ですからメリハリを付けつつ好き勝手やらなきゃ書けるもんも書けませんからね。
 言うなればプロであれアマチュアであれ、作家は皆心に厨二力を秘めているんだと思っています。

 長々語りましたが、また次回てお会いしましょう。


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2頁 来訪者【フォリナー】


 うーん大分迷いに迷い、何とか仕上げました。
 今回は顔見せでブレイズの本格的な戦闘は次回かな…。
 如何せん、他の作品と違いこれだけは原作の情報が2つともまだ少ないので明確にオチが決まって無いんですよね。
 他は始めにさわりの部分とオチをきっちり決めてから中を肉付けして書いてるので……。
 まぁ、その中の肉付けが一番時間が掛かるんですが……。
 取り敢えず二話目書いたのでまた暫くは展開を見つつ、主流で書いてるとじダグを中心にそろそろリリスカも書かなきゃならんので、時間が掛かりますかね



 

 ──ずっとお伽噺の中だけの存在だと思っていた仮面の剣士。

 それがあの時、あの不思議な場所で私達の目の前に現れ、怪物との戦いを繰り広げたのです──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぉぁぁああああ!!」

 

 真紅の剣士となった斗真が眼前の魔人にソードライバーから抜刀した聖剣、"火炎剣烈火"を無我夢中で振り下ろす。

 型も何もない我武者羅な攻撃だが、それでもアラクネメギドからすれば脅威に等しい。

 先程とは比較にならぬ身体能力で間合いを詰めアラクネメギドの肉体を切り刻む。

 

 「ゴッォ?!バ、バカな……!何故?!

 過去の大戦の折、失われた筈の聖剣が復活しあまつさえ新たな使い手を見出だした。

 アラクネメギドにとっては想定外も良い所であろう。

 彼とて生み出されたばかりの存在だが、邪魔者の存在は()()()()()

 であればこそ、現れる筈の無かったイレギュラーに動揺し圧倒されている。

 なまじ我武者羅であるが故に反撃に移りずらい。力任せの素人剣術によってダメージを受け転がるアラクネメギド。

 斗真は聖剣を手にした瞬間に頭の中に流れて来た情報に従い、右手に握る烈火をソードライバーへと納刀、グリップに付いたトリガーを引く。

 

 

必冊読破!

 

 ソードライバーから鳴り響く必殺の宣告。

 納めた烈火を再び抜刀、同時に聖剣を炎が包む。

 

 烈火抜刀!ドラゴン一冊斬り!ファイヤー!

 

 構える斗真の持つ刃に渦巻く炎が竜を象る。満身創痍で立ち上がるアラクネメギドに向け走り駆ける。

 一方のアラクネメギドもこのまま黙ってやられてなるものかと頭部の蜘蛛の腹を模した箇所より噴出した糸を重ね硬質化させた2本の手槍で迎え撃とうとする。

 左手の槍を真紅の剣士目掛け投げる。

 刃で防ごうものならその挙動で出来た隙にもう一方の槍を喰らわせてこの場を凌ぐ。

 そう考えていたアラクネメギドであったが、その思惑は斗真が斬撃を飛ばす様に烈火を振るった事で脆くも崩れ去る。

 投擲された糸の槍を炎の竜が呑み込みメギド魔人すらもその顎で噛み砕く。

 炎に罷れ、火達磨になったアラクネメギドに聖剣が迫る。

 異形に刻まれる紅き剣閃。横一線に振るわれた刃を返す刀で縦一文字に振り下ろす。

 

 「オォォアアアァッ!!?

 

 異形の蜘蛛は断末魔を挙げ爆散した。

 後に残るは炎に照される真紅の剣士──仮面ライダーセイバーとなった斗真と彼の戦いを茫然自失と見守っていたティアラとリネット、そして彼女達よりも遠方から一連の出来事を見ていた青い肩掛けマントの青年のみ。

 

 「ハァ…ハァ……倒した…のか?」

 

 剣に誘われるまま夢中で戦っていた斗真は肩で息を切らしながらやっとの事で自らの状況を省みる余裕が生まれる。

 「………………なんですと?」

 その生まれれた余裕で己の手足を見れば、その姿は異質な鎧のソレ。

 本能が情報の供給過多と疲労で真っ白そうになりそうな所をギリギリ理性がストップを掛け留まる。

 「変わってる……何かこう…全体的にちょっと鋭くなってる……これは…本当に俺なんでせう?」

 烈火をバックルに納刀し、変質した手でベタベタと己の顔から体まで触り、拍子でベルトと化したソードライバーにセットされたブレイブドラゴンを閉じた事で、そう言えばと赤い本(ブレイブドラゴン)の存在を思い出しドライバーから抜き取る。

 同時に変身が解け、その肉体は"元の人間"剱守斗真へと戻る。

 「ぉうっ?!戻った…」

 おっかなビックリ手許の本を見つめる。

 「っ!そうだ!?ティアラちゃん!リネットちゃん!大丈夫?!怪我してない?!」

 そして共に居た少女達の存在に思い至り、彼女達の側に駆け寄る。

 「…はい…大丈夫…です…」

 真紅の剣士の姿から再び人の良さそうな青年に戻った彼に声を掛けられ何とか声を搾り出すティアラと未だ呆けているリネット。

 「リネットちゃん?おーい、大丈夫かい?」

 「……っ?!ひゃ、ひゃい!だいじょうぶれす…」

 反応が返って来なかった為に顔を近付け手を彼女の顔の前に翳した結果、正気に戻ったリネットが大きく飛び退いて噛み気味に返事をする。

 その反応に斗真は悪い事をしたなぁ等と思いつつも2人共、目立った怪我も無くホッと一息衝き、胸を撫で下ろす。

 「さて…後はこの世界からどうやって出れば良いのかだけど…」

 ともあれ脅威は去り、少女達は無事、残るはこの不可思議な世界から脱出するだけとなったのだが、斗真にはてんで手段が無い。

 困り果てる彼と少女達、未知の現象に頭を悩ませた結果、人影が迫っている事にすら気が付かない3人。

 その人物は斗真に声を掛ける。

 「安心して下さい。メギドが倒れた以上、そう暫くしない内に元の場所に戻ります」

 「へぇーそうなのか…物知りだね……って誰?!」

 真後ろからの声に驚き振り向けば、爽やかな笑顔を浮かべる中世貴族の様な格好の美青年が居るではないか。

 

 「そんな事は後で良いです。さて、そこの貴方!!」

 青年が笑顔から一転、真剣な顔に変わり斗真に詰め寄る。

 「え?あ?俺?」

 「はい、貴方です。お名前は?」

 「斗真です。……剱守斗真

 いきなり現れた謎の青年に名前を問われ、答え、しかしフルネームを小さく呟く。

 きっとまた名前を間違えられるんだろうなと思い、小声になったのだ。

 「ツルモリトーマさんですね。では失礼ですが貴方を逮捕、連行します!」

 「え?今普通に名前…って逮捕?!」

 一瞬、ちゃんと名前を呼ばれた事に感動しつつも青年が出した手錠をガチャリと手首に嵌められそのまま連れ去られる。

 「ではティアラさん、リネットさん、僕達はこれにて失礼します」

 「ちょ?!ちょっと!!?」

 45度のお辞儀をして斗真を引き摺って行く青年。本の様なモノにそのまま真っ直ぐ突っ込んだかと思えば、斗真共々その場から消え去った。

 

 「なんだったんだろう……」

 「さ、さぁ…」

 後に残された2人は青年の一連の行動にそれくらいしか言葉が出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青年が斗真ごと元の街並みがある世界に帰還する。

 「ちょっと…ちょっと待ってくれ!」

 「何です?」

 斗真が青年を必死に止める。

 「何で彼女達を置いていったんだ!?一緒に連れてけば良かったじゃないか?!」

 「先程も言いましたが、後暫くもしない内に元に戻ります。なので放置していても問題ありません。僕達が先に出たのは貴方をこれからある場所に連れて行くからです」

 テキパキ歩きながら斗真の必死の質問に答える青年。

 彼はそのまま人気の無い路地に入り、胸元から"BOOKGATE"と書かれた小さな本を取り出す。

 「それは……!」

 「ショートカット、時間短縮です。行きますよ」

 そう言って適当な民家の扉を開き中に入って行く。

 「え?何が?って…ぇぇぇええ?!!」

 続いて引き摺られながら斗真が扉──正確には扉の先の不可思議な異空間に呑み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━フローラ女学院・理事長室━━

 

 「──ぇぇぇええ?!!ってあれ?」

 扉を潜り、気付けば見知らぬ部屋に出た斗真。青年は彼のリアクションを気にも止めずに目の前の女性に恭しく礼をする。

 「只今戻りましたクロエさん」

 「ご苦労様ですアルマ。其方の男性は?」

 自分を連行した青年──アルマと言うらしい…彼はクロエに斗真の事を含む先程まで起きていた異変の事情を話す。

 

 「──と言う訳です。幸い生徒さん達は無事でした」

 「成る程…それで彼を此処に」

 アルマからの説明を聞き、斗真を見るクロエ。眼鏡越しに値踏みする視線に些か居心地が悪くなる。

 (いや待て…よくよく考えてみれば、あのアルマとか言う人……あの時の事見てたんなら助けてくれても良いじゃないか!?)

 思わず視線を下げながらクロエとアルマのやり取りを回想し、アルマがあの時あの場に居た事に対し心の中で愚痴をごねる。

 そんな斗真の胸中を知ってか知らずか、クロエが口を開く。

 「トーマさん…でしたね。生徒達を助けて頂きありがとうございます」

 「あ…いえ、そんな、夢中で剣を振ってただけですし……」

 「それでも助かったのは事実です。流石は来訪者ですね」

 クロエの口から出た謝礼の言葉に思わず慌てて否定するが、次いで彼女が発した言葉に眉を上げる。

 「ん?ふぉ、来訪者?何ですそれ?」

 斗真の怪訝な顔にクロエはアルマへ振り向く。

 「アルマ?まさか教えていないのですか…」

 「???教えるも何もこの御仁は来訪者の方なんですか?」

 まさかのアルマの答えにクロエも唖然とし眼鏡がズレる。

 「……」「……」「……」

 3人共に暫しの沈黙、居たたまれなくなった斗真が口火を切る。

 「えっと…それで来訪者と言うのは…?」

 「そうですね…簡単に言ってしまえば、この世界とは異なる世界より来たる者の総称です。聖剣に選ばれ抜く事が出来るのは、来訪者と彼の者達の血を色濃く受け継ぐ人間のみ。アルマの話と貴方の身形から半ば推測ですが、そう結論を着けたのですが……改めて問います、貴方はこの世界とは別の世界で暮らしていた人物ですね?」

 斗真の問いに居姿を正し眼鏡を直すクロエは努めて冷静に答える。

 そしてクロエから来訪者の話を聞かされ、改めて己が異世界に居る事を自覚する羽目になった斗真は天を仰ぎ見る。

 

 「俺はこれからどうすれば良いんだろう……」

 

 訳も分からぬ内に異世界に来たかと思えば、訳も分からぬ内に謎の剣と本によりよく分からない姿に変身し、訳も分からない内に知らない場所に連れて来られ、最早彼の頭はキャパオーバーである。

 そんな斗真を見かねてかクロエがある提案をしてきた。

 「お気持ちはお察します。さて、そこでもしよろしければトーマさん、我が学院で教鞭を取ってみませんか?」

 「ほ?教鞭……!つまりココで先生をやれと?何故?」

 「貴方は着の身着のままで放り出されたのです。行く宛も無いのでしょう?聖剣の事もあります。でしたら考える時間も必用でしょうから、貴方が良ければ暫く此処で過ごしてみては如何でしょう」

 そう言うクロエの顔を見据える斗真。彼女は善意から言っているのだろう、しかし何か思惑を感じないでも無い。

 

 「……………いやでも、教鞭と言われても大した事を教えられませんよ?」

 寝床、食事、もしかしたら風呂の保証もある以上、斗真に断る選択肢は存在しない。が、教鞭を振るう事には全く自信が無い、それでも良いのかと意図を込めて視線を投げれば、クロエは構いませんと口にする。

 「此処とは異なる世界の話、文化等を知るのも彼女達の糧となると私は思っています。無論、貴方が引き受けてくれればですが」

 「えっと…因みに、このアルマって人じゃダメなんですか?」

 チラッと隣を見ればアルマは斗真の視線に気付き腕でバツを作る。

 「残念ですが僕の身元、所属はマルルセイユ本国にあるので許可されていない事は出来ないんです」

 アルマから出た新たな単語に疑問符を浮かべ首を傾げるとクロエから補足が入る。

 「彼はこの学院があるウェールランドとは別の国家に属する特任騎士と呼ばれる存在なのです。彼が国より受けた任は学院に通うマルルセイユの者の護衛と先刻貴方が遭遇したメギド、そして魔獣の対処、後はとある人物の代理ですのでこれ以上を望む事は私からは出来ません。ですが…」

 「異世界から来たばかりで行く宛の無い自分なら、何ら問題無い……そう言う訳ですか、成る程、理由は解りました。ついでにもう1つ質問良いですか?」

 「構いませんよ。何か?」

 「結局、この剣と本って一体何なんですか?」

 どの道、受ける事とは言え、アルマが駄目な理由に一応の納得を見せ、今度はソードライバーにワンダーライドブックについて訊ねる斗真。

 クロエはそれに一頻り沈黙した後、何事かを決めたのかアルマへ一度視線を寄越し、改めて斗真の質問に答える。

 「それは私から話すよりもアルマに訊いた方が早いでしょう。彼も貴方と同じ様に仮面の剣士へと変身するのですから」

 クロエの答えに今一度アルマを見やる斗真、見られたアルマはフンスと胸を張る。

 「ではアルマ、トーマさんを例の場所に案内して差し上げなさい。その後の事は追って連絡します、それまでは貴方の好きにするように」

 「はっ!騎士アルマ、これより来訪者トーマ殿をベースへと案内致します!では失礼致します!」

 右手を心臓の辺りで添える敬礼をすると彼は斗真の手錠を外し、そのまま理事長室を後にする。

 斗真も慌てて後を追うように退室、困惑が残りつつもアルマの元へ走る。

 部屋には理事長たるクロエが1人残される。

 

 「まさか……烈火が再び現れるなんて……エリザ、貴女が知ったらどう思うのかしら……」

 

 物憂げに独り語ちるクロエ、光を反射する眼鏡の奥で彼女の瞳は僅かに揺れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━フローラ女学院・図書室━━

 

 先を行くアルマを追って共に歩けばいつの間にか途轍もなく膨大な蔵書量を誇る図書室の奥へと進んで行く。

 その圧巻なまでの量に圧倒されながらも前を行くアルマに斗真は先のクロエとの会話で気になっていた事を訊ねる。

 「あのさ……さっきの女性が話してた感じ、君も俺と同じ様な剣と本を持っているのかい?」

 先程の会話で出た、聖剣を抜けるのは来訪者とそれに纏わる血筋の者と言う話。

 あの時の会話でクロエは、アルマに与えられた任務は何某の代理、護衛、そして魔獣と()()()()()()()()()()()()()

 それが事実であれば目の前のアルマもまた、聖剣に選ばれた者と言う事となる。

 果たして彼から返ってきた答えは──

 

 「はい、そうです。このライオン戦記のワンダーライドブックとマルルセイユに伝わる聖剣、水勢剣流水を代々から受け継いでいます」

 アルマは胸元より青い表紙の小さな本を取り出し、斗真へ見せる。

 「代々……って事は、君はこの世界で生まれたの?」

 「はい!僕の両親は父方が来訪者の一族、母方がマルルセイユの貴族になります」

 「来訪者の一族?そんなものまであるのか!?」

 アルマの口から出た来訪者の一族と言うワードに関心を見せる斗真、その反応にアルマも誇らしそうに語り始める。

 

 「この世界には過去、多くの来訪者が現れては文化的、技術的に貢献してきた歴史があります。父の一族は流水を受け継いでいた者と、それとは別に国の発展に尽くした者で成り立った血筋なのです」

 「つまり君は由緒正しい家柄って奴か」

 アルマの説明で来訪者がどういう存在かは何となく理解してきた斗真。

 そうして話し込んでいる内にいつの間にか景色が変化している事に気付く。

 (なんだ…?この周辺だけ本の並びが妙だ?)

 規則的に不規則に棚に並べられた蔵書に違和感を感じる斗真。そんな彼を尻目にアルマは棚の本を並び替え始める。

 幾つかの本を入れ替え終え、最後に豪奢な綴装の本を真ん中に差し込めば、カチリという音と共に本棚が大きく動き扉が現れる。

 「さぁ、行きましょう。この先が僕達の本拠地にして、今後貴方が暮らす事になるであろう場所です」

 振り返ったアルマが道を指し示す。

 2人の青年は扉をくぐった。

 

 

 

 図書室の奥、秘密の扉をくぐった先に広がっていたのは古いながらも綺麗な大理石の床と壁。

 まるで本に出てくる城か洋館の様な様相だ。

 

 「ここは?」

 「嘗ての聖剣の剣士達の拠点にして我々現代の剣士の拠点でもある場所です」

 アルマが先導しながら斗真の問いに返す。

 何でも、初代の剣士達がこの世界に降り立った際、生活や剣士としての諸々の活動の為、彼等の元の世界に存在したノーザンベースといった其々の拠点をモデルに作り出した場所だと言う。

 この学院自体が暁の魔女フローラ、そして聖剣の剣士に所縁の地と言う訳だ。

 其所を更に現代に聖剣を受け継ぐ剣士達が改良を加え、居住性を高めたのだとか。

 「でも、あの入り口とかここの生徒に見つかったりしないの?」

 「奥の書庫へは許可が無ければ入れませんし、あの棚の本も特殊な術を施して僕達以外に反応しないようになっているので問題ありません。と…着きました」

 そのままアルマがある一室で立ち止まり、扉を開ける。

 「トーマさんはこの部屋を好きに使って下さい。僕はこれからマームケステル周辺に魔獣かメギドが居ないか調査に行きますので」

 「ちょ?!まだ全部話を聞いてないっ……?!」

 一仕事終えたとばかりにそそくさと立ち去ろうとするアルマを止めようとする斗真。

 「止めておいた方が良いですよ?そろそろ身体も心も限界でしょう?」

 アルマがそう発言した途端、斗真は自身の足に力が入らなくなっている事に気付く。

 思い返せば、この世界に降り立ち、空腹で宛もなく彷徨、果ては変身して戦って、色々な話を聞かされて、斗真は心身共に疲労の限界に達していたのだ。

 それを見たアルマがやっぱりと呟く。

 「今日はもう休んで下さい、食事は後で持って来ますので。積もる話は明日以降にしましょう。紹介しなければならない人達もいますからね」

 そう言うと斗真に肩を貸し、部屋のベッドまで運んでくれるアルマ、改めて斗真を横に寝かせ布団を被せるとアルマはでは失礼と言い残し退室する。

 斗真の意識はアルマが部屋の扉を閉める姿を目撃した所で途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━マームケステル周辺━━

 

 拠点に斗真を案内した後、アルマは改めて学院を、そしてマームケステルの街を出て、街道を外れた雑木林の中に居た。

 

 「ふむ……雑な気配だ。メギド…じゃないな、シミーか。既にメギドが倒されたのにまだ残っているなんて、何か企んでいるのか?」

 目を閉じ、周囲の気配を探る彼。その腰には斗真の物と同様のバックルが装着されベルトが展開している。

 ただ、敢えて斗真の物との相違点を挙げれば、そのバックルに収まっている剣の柄、特にガードにあたる鍔の部分に施されたエンブレムの装飾が青く、ナックルガードの様に片側だけ伸びている事だろうか。

 此こそが清き水の聖剣"水勢剣流水"。

 普段はフローラ女学院の理事長室にて飾られている聖剣だ。

 アルマは手に持った青いワンダーライドブック、ライオン戦記を開く。

 

 

『ライオン戦記!』

 

 「まぁ何が目的でもここで倒してしまえば良いことさ」

 

 

『この蒼き鬣が新たに記す気高き王者の戦いの歴史』

 

 斗真のブレイブドラゴン同様、荘厳な声で本のタイトルが読み上げられた後、概要が語られる。

 アルマはライオン戦記を再び閉じ、ソードライバーの3つあるスロット【シェルフ】と呼ばれる箇所の中央、ミッドシェルフに挿入する。

 そして烈火とはまた違った軽快でありながらも清廉さを醸し出す音が木霊す。

 

 

「変身…!」

 

 その掛け声と共に流水のグリップを握り、ソードライバーより聖剣を抜くアルマ。

 

 

『流水抜刀!』

 

 アルマの周囲の空間が多くの本棚に変わり、足下は彼が立つ大地以外が荒れ狂う水面へと変化、アルマの背後には石柱が現れ、巨大なライオン戦記がソードライバーの物と同調する様に捲り開かれる。

 流水を横凪ぎ一閃。刃の飛沫が半月状に飛ぶ。

 

 

『ライオンッ戦記ィ!』

 

 

『流水一冊!百獣の王と水勢剣流水が交わる時、紺碧の剣が牙を向く!』

 

 アルマの身体が変質する。

 全身をライオン戦記の力が宿ったソードローブに変質、中央─ライドミッドと呼ばれる箇所に獅子を象った鎧が装着される。

 その胸部、"ブレスライオン"からソードライバーのバックル下に連なる様に下半身は"メインドイル"と呼ばれるライオン戦記の力宿した前掛けのような装甲に覆われ、両足にはノーブルソルトと呼ばれる蒼い装甲が纏われる。

 斗真の姿が右側に本の力を具現化したものならアルマのこの姿は中心に本の力を具現化したモノとなる。

 最後に半月状に飛んでいった斬撃が顔面に仮面となって装着されれば、其処に現れたる騎士は正しく紺碧の獅子。

 アルマことアルマ・神明・イーリアスは仮面ライダーブレイズとなり剣を振るう。

 

 木々の影より現れたシミーと呼ばれるヒトガタの怪人。

 メギドとは違い顔は魚の骨にも見えるフルメイルの兜の様な鉄仮面。

 ズタズタの襤褸を纏った下は黒い身体に白い模様が入っている。

 その数は凡そ数十といった所。しかしブレイズは怯む事すらせず踊る様に華麗に流水を振るう。

 シミー達も"ロット"と呼ばれる短剣と銃が一体となった武器で対抗するも、紺碧の騎士は然したる苦戦も無く、必殺技すら使用せず全て蹴散らし討伐せしめた。

 

 「うん、これで全部だ。これなら街道も安心!魔獣もこの近くに居ないようだし、今日はこの辺で帰還しよう。トーマさんの食事も用意しなきゃいけないしね」

 1人ウンウンと納得し聖剣を納め、ライドブックを閉じ、取り外す事で変身を解いたアルマは街へと戻る。

 

 《Gatlin♪Gatlin♪》

 

 アルマの胸元から奇妙な電子音が轟く。

 取り出されたそれは一見すればスマートフォンの様な物。

 「あ!クロエさんどうしました?…え?僕は今しがた調査に出てシミーを倒したところです。はい、はい…ええ、大丈夫です。全部倒しました。暫く危険はありません。え?トーマさんですか?彼には明日話をする事になってます。ええ、()()()()()()()()()()。はい、では…」

 通話を終え、端末を仕舞うアルマ。その顔は少し興奮している。

 

 「もしトーマさんが仲間になるなら僕が色々教えてあげよう!」

 

 青年は子供のように気分を高揚させ学院への帰路に着くのであった。

 

 

 

 

TO BE Continued…。

 

──ディアゴスピーディー──

 





 そう言えば、感想でオリジナルのワンダーライドブック云々の話が出ましたが、あちらでも書いた通り、ワンダーの方はオリジナルは出しません。
 アルターの方を出します。
 そしてオリジナルの案を贈って頂いたので頑張ってアルターライドブックとオリジナルメギドとして出番を作り出したいと思っています。

 それはそれとして……あー、早くオジサンと忍者出したいなぁ。
 プロローグの目録じゃ忍者は台詞無かったしなぁ……。
 忍者とナデシコの絡み書きたいなぁ……。
 自称従者は仮面ライダーセイバーの方が進展したら色々固まるんだけどなぁ…。

 ではまた次回


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3頁 毎号特別加速、創刊ディアゴスピーディー


 やっとこさ3頁目、ダグライダーでございます。
 眠いので寝ます。
 今回はまぁ前回のラストにブレイズを入れた急展開の分、ゆっくり目にした感じです。
 主にディアゴスピーディーは登場こそすれ発動はしてない所とか……。


 ──あの人も最初の頃は大分混乱していたそうです。

 特にそれを加速させたのはとあるライドブックであったとか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・図書室━

 

 ウェールランド国内最高峰を誇り、国外からも閲覧者が押し寄せる程の蔵書数を持つ学院の書庫。

 その最奥、生徒達ですら滅多に寄り付かない場所にその扉はある。

 扉と言っても、人々が普段目にする様な在り来りの物では無く、本棚の体を成した仕掛け扉であるのだ。

 そして、その扉の奥…広大な空間を有するその場所はこの世界で伝説に語られ、市勢にお伽噺と親しまれる仮面の剣士達の拠点が存在する。

 現在、その居住空間を擁する拠点には新たな住人が己が置かれた状況に困惑を懐きながらもこの世界で初めて身の安全が保証された部屋での朝陽を眺める。

 

 「うん……やっぱり夢じゃ無かったか……」

 

 窓から射し込む陽射しに眼を細めながら、改めて口にする事で現実を受け入れる青年、剱守斗真。

 昨日、謎の怪物に襲われ、突如目の前に現れた剣を本能に導かれる儘に手にしたかと思えば、超人宛らの仮面ライダーなる剣士へと変身するわ、いきなり現れたアルマと名乗る青年に乙女の園たる女学院に連れて来られるわ、そこの理事長から教師をしてみないかと誘われるわ、1日の密度が途轍もなかった。

 

 あの後一度、夜に目が覚めたらベッドに寝かされていて、すぐ側の小さなデスクには食事が載せられた盆が置いてあり、恐らくはアルマの仕業だろうというのは解った。

 丁度空腹ではあったので、多少躊躇したりもしたが、欲求には勝てず有り難くいただく事にした。

 そして、今日、こうして再び目覚めれば否応なしに己の現状を把握するのだから、まぁ気が重い。

 「それでもお腹は空くんだよなぁ…」

 昨晩は遅くに食事を採ったにも関わらず日が替われば軽く小腹が空いている自分がいる。

 このまま待っていればアルマがまた食事を運んで来るのだろうか?

 

 それはそれとして、自分はどうするべきか……。

 クロエと言う女性から教師にならないかと誘われた訳だが、果たして自分の様な三流小説家崩れの物書きが他人にモノを教えられるものだろうか?

 どうにも悪い方に物事を考えてしまうのは、あの日自分が持ち込んだ小説がボツを食らった所為なのか……等と思考が巡り始めたが、思い出したように空腹が襲って来たので、アルマを大人しく待つのを諦め、思い切って部屋を出る事にした。

 扉を開けた先は幅の広い中央に赤く長い絨毯が敷かれた廊下、自分が居る部屋以外にも幾つか扉の見られるが人の気配はしない。

 当然見ず知らずの建物内であるからして、地理に自信は無い。

 であれば昨日、アルマに案内されながら通った道を己の朧気な記憶を頼りに進む他に無い。

 

 「まぁ…だからと言って、食事が出そうな場所を見付けられる訳じゃ無いけど……」

 迷路ではないが左手の法則で壁に手を着きながら歩いて行く斗真。

 数分か、或いは数十分歩いた先に一際大きな両開きの扉を見付けた斗真。

 知識と経験上、こういった扉を持つ部屋は大抵大きい間取りの何らかの目的を持って作られた部屋だと彼は考える。

 「……さて…(これといって食欲をそそる臭いがするでも無い、少なくとも食堂では無いだろうけど……他に宛も無いし、人が居るなら何らかの情報は獲られるだろう)うん、ダメで元々…こうなれば当たって砕けろだ!」

 意を決して扉の取っ手を掴み開けば眼前に広がるのはエントランスの様な部屋、その中央に巨大なテーブルともとれる台座。

 台座の意匠は本を模した様な装飾とファンタジーな異世界には不釣り合いなテレビジョンモニター。

 更に奥に目を配らせば本棚があり、壁面よりに左右から延びた階段が2階の中央に向かっている。

 2階にも本棚があり、吹き抜けよろしく踊場となっている場所は台座を含め、斗真が今いる場所を眺める様にレイアウトされている。

 例えとしては秘密基地の司令室がイメージと近いだろうか。

 (それにしては色々アンティークが過ぎる気位もあるかな……)

 部屋を睥睨しながらも人の影を探す。

 然りとて人は見当たらず、ならばと本棚の間にある奥の部屋の扉に近付いて行く。

 斗真がノブに手を触れようとした所で2階からガチャリと戸の開く音がする。

 「良かった…人が居たのか」

 安堵の声を洩らし、数歩後ろに下がって上を見上げれば其処には昨日見掛けた美しい蒼髪の女性──フローラ女学院理事長クロエが一冊の本を小脇に抱えているところであった。

 「おや……トーマさん」

 「あ…ど、どうも……」

 昨日の今日で未だ答えを返せないでいる斗真としては非常に気まずい心境であるのだが、クロエの方は特に気にもせず接してくる。

 「昨夜はよく眠れましたか?」

 「ええ…まぁ、お陰様でそれなりには」

 「それは何よりです。ところでトーマさんは何故此処に?」

 「えー…少々小腹が空きまして、自分を此処に連れて来た彼が待っていればまた食事を持って来てくれるかなぁとか思ったりもしたんですが……」

 「一向に現れ無かったか…と。成る程、それで耐えきれず散策に出てこの部屋を見付けたのですね」

 「はい……その…済みません…」

 別に後ろめたく思う必要など無いとクロエは思うが、斗真としては客分の立場故か、どうしても畏まってしまうのだ。

 「頭を下げる必要はありません。そうですね、良ければ私とご一緒しませんか?」

 これには斗真としても驚いた、未だ態度をはっきりさせない上、何とも消極的な返事を返していると言うのにクロエはは自分を食事に誘ったのだ。

 どうにせよ、ここまでされては断れない。斗真は頷き、クロエの後に続く。

 

 

 

 ━フローラ女学院・食堂━

 

 クロエの先導に従ってたどり着いた場所は学内の食堂。

 早朝から多少時間が経ったからかチラホラ学院の生徒の姿が見られる。

 正直、居心地は悪い。

 「どうぞ、此方に腰を掛けて待っていて下さい」

 周囲の視線に耐えながら視線を下げて歩いていたら、クロエが窓辺近くの席の椅子を引いてくれた。

 (ああっ!?女性に席を引いてもらうなんて…情けない)

 食事の席で女性にエスコートされた情けなさに思わず胸中で己を詰る斗真。しかしながら折角の好意を無視する訳にもいかないので軽く手を挙げ礼を表す。

 そのままクロエが2人分の食事を取りに消え待つこと数分、如何にも朝食全としたサンドイッチとコーヒー、スープとサラダを乗せた食器を持ってくる。

 「どうぞ」

 「どうも…」

 周囲の乙女達の好機と不審の視線に晒されつつも食器を受け取る。

 対面にクロエが座るのを見届け斗真も食事をいただく為に手を合わせる。

 「いただきます」

 日本で暮らしていた人間としてごく自然に出た行動、しかしクロエには物珍しかった様だ。いや、クロエのみならず食堂にいる全ての生徒が斗真をよりまじまじと見る。

 「あれ?え?な、何か…おかしかったですか?」

 「いえ…トーマさんの行動が皆物珍しいのですよ」

 どうやら掌を合わせる合掌からの"いただきます"はこの世界では珍しい行為に入るらしい。

 大抵の人間は言葉だけを口にして食事を摂るし、この学院に通う魔女やそれを目指すもの、或いはその恩恵に預かる者達はそれ相応の作法があるのだとか。

 斗真がどんなものなのかと気になっていると、クロエが目の前で実践してくれた。

 

 「星に光を、大地に恵みを、暁の魔女フローラに感謝を。それではいただきましょう」

 

 右手を鎖骨と胸の間の辺りに持って来て次に左手を右手に重ねる様に合わせ、最後にそのままの状態で瞑目しながら感謝を述べると言う一連の動作にある種の感心を抱く。

 周囲の視線やクロエの手前、慣れないテーブルマナーに四苦八苦しながら食事をする斗真。

 互いに特に会話も起こらず黙々と咀嚼する。

 そして残す所、スープとコーヒーだけとなった頃合いにクロエの方から話題を振ってくる。

 「改めて、昨日は我が校の生徒を助けて頂きありがとうございます」

 「いやぁ、昨日も言いましたけど…本当に無我夢中だったので……」

 「それでも前途ある若者が救われたのは事実です。トーマさんとしては些か複雑な状況化であったにも関わらず」

 眼鏡越しの視線は鋭い様で、しかし思い遣りを感じる物だ。

 「まぁ、……見ず知らずの土地で訳も分からないまま危険な目に遇う羽目になったのは確かですけど」

 「そこで昨日の件なのですが、もしその気があれば此方で出来うる限りのサポートをさせて頂きます」

 食事を全て終えたクロエが真っ直ぐ此方を見詰める。

 「…………正直、住む場所も帰る手段も無い身としては、もの凄く有難いお話です。けど…自分は本当に人様に物事を教えられる様な人間ではないですよ?」

 些か迷いながら拙く言葉を発し始める斗真、だがクロエはそれでも構わないと頷き、彼へ答える。

 「資格を持っているから教師にと誘った訳ではありません。貴方にしか伝えられない…教える事が出来ないモノがあると思ったからお誘いしたのです」

 「………」

 黙り考え込む斗真。クロエはそれを暫く黙って見ていたが、どうにも周りの生徒達が頻りに此方を気にし始めたので流石に大々的に聴かれるのは不味いかと思い立つ。

 「失礼、考え込んでいる所申し訳無いのですが…場所を変えましょう。理事長室に着いて来てください」

 斗真に声を掛けつつ席を起つ彼女に慌てて自分も残った食事を口に含み席を後にする。

 

 なるべく意地汚く無いように咀嚼しながらクロエの後を追って階段を登り理事長室へと入る斗真。

 斗真が入室したのを見届け魔力によって扉を閉めるクロエ。宛ら自動ドアの様だ。

 「わざわざ連れ回すような真似をして申し訳ありません。それで先程のお話の続きですが……如何でしょう?」

 再三のクロエの問いに対し斗真は返答を口に含みつつも頭の中では全く別の事を考えていた。

 (異世界転生とか召喚の主人公って凄かったんだなぁ……物語の流れありきとは言え、直ぐに順応して八面六臂の活躍なり無双なりしてんだもん。ウジウジして長ったらしく考える時間が無い分、そりゃティーンにウケるよ……)

 小説家としての斗真がそんな事を思考の片隅で考え、一般的な人間としての斗真がクロエの誘いの問いにそれならと答えを紡ぎ始める。

 「取り敢えず……いきなりは無理なんで、お手本と言うか……軽く見学なんかさせてもらえると嬉しいかなぁ……なんて…ダメですかね?」

 日和見染みた答えだが、クロエとしても早々ぶっつけ本番で勤まるモノでもないのは解っていたので、斗真の返答を承服する。

 「構いません。此方としてもいきなり教鞭を執ると言うのは難しいでしょうと考えていましたから。しかしそうですね……ならばトーマさんには特別クラスをご覧になって頂きましょう」

 「特別クラスですか?それは……名前からして如何にもなエリートが居そうですね…」

 腰が引けた青年の反応に思わず吹き出すクロエ。

 「え?あれ?え?なんか可笑しな事を言いました?」

 「いえ…失礼、トーマさんに非はありません。ただ、貴方が想像したようなクラスは選抜クラスと呼ばれています。特別クラスはどちらかと言えば、クセの強い個性的な生徒を集めたクラスになります」

 冷静沈着な美女が初めてその顔を大きく崩した光景を見て何とも様々な感情がない交ぜになったリアクションをとってしまう斗真。

 「個性的なクラス…ですか……(それって所謂問題児クラスなのでは?それはそれとしてこの人もこんな風に笑うのか…)」

 一頻り笑った後、改めて斗真へ向き直るクロエ。その顔はいつも通りの理事長としての顔に戻っている。

 

 「ともあれ、そう言って頂けると言う事は…脈はあると受け止めても宜しいのですね?」

 「えっと…はい、自分のような若輩者でお役に立てる様ならそれに越したことは無いので…その為にも此処がどういう場所なのか見せてもらえたらなと思ってます」

 今度ははっきりと己の考えを述べる斗真に目の前の女性は分かりましたと頷き、応接用のソファと5人の少女が描かれた絵画の辺りにある伝声管に近付き、その1つの蓋を開いて2、3言伝をすると、今度は中央のデスクの引出しから何らかの物を取り出す。

 

 「今し方、特別クラスまでの案内をする人員を呼びました。彼女が到着するまで些か時間があるので()()()()渡しておきます」

 そう言うクロエの手元に握られていたのはワンダーライドブック。

 それは斗真の持つブレイブドラゴンともアルマのライオン戦記やブックゲートとも違うライドブックだ。

 まず全体的に見た目が他のライドブックより一部大きい……と言うよりも何かヘンなモノがはみ出している。

 具体的に言うとタイヤの様な……。

 (いやいやいや……そんな馬鹿な)

 これには思わず己の眼を疑う小説家だが、こんな言葉がある。

 

 "──事実は小説より奇なり"

 

 既に異世界という有り得ない状況に自分が変身した戦士や怪物、果ては魔法があるのだから今更疑うべくも無い筈なのだが、それだけは見た瞬間、真っ先に二度見してしまうくらいには衝撃だった。

 その上でこの本のタイトルを読んでみよう……。

 

 

"ディアゴスピーディー"

 

 眼を擦る、もう一度表紙のタイトルを、今度はゆっくりと、声に出して読む。

 

 「ディアゴ…スピーディー……」

 

 「はい、これは貴方が持つブレイブドラゴン同様、仮面の剣士にしか使用出来ないワンダーライドブックです」

 斗真の半ば独り言染みた呟きに肯定を返すクロエ。

 認めよう、最早今更何度も現実逃避は意味が無い。

 彼女が取り出した小さな本には間違いなく記されているのだ。

 表紙のイラストだってデカデカ描かれているじゃあないか、この世界に不釣り合い甚だしい鉄の騎馬──バイクの存在が。

 正直斗真は本の形状よりもタイトルに対して色々物申したい気分であったが、そう言えば昨日の説明でワンダーライドブックを始めとしたこの謎ツールの類いもまたこの世界のモノでは無いと語られていたのを思い出した。

 ならばそう言う事も有るのだろう。

 タイトル的には大分ギリギリを攻めてる感が無いでも無いし、自分だって昔この手のシリーズを買った事があるのでそう言うモノだと受け入れる。

 「あの…因みにコレはどうしてクロエさんが?」

 一応素朴な疑問を呈してみる。

 「我が学院に常駐している剣士達は皆、他に移動手段を所持しているのです。貴方も既に見たとは思いますが……こちらです」

 その言葉と共にクロエが新たに取り出したのはアルマがあの時持っていたスマホであった。

 「これはガトライクフォンと言って、剣士達の連絡用端末兼移動手段なのです」

 「????なるほど?」

 連絡手段と言うのは解ったが移動手段には疑問以外湧かない斗真、しかしクロエは構わず話を続ける。

 「彼等はガトライクフォンがある為、ディアゴスピーディーを所持する必用が無く、その為私に預けられたのです」

 「それをどうして自分に?」

 「貴方は既に連絡手段をお持ちの様でしたので、後は移動手段だけかと思い、預かっていたこちらを譲る事にしました。私が持っていても宝の持ち腐れですから」

 正直益々意味が理解出来ない。クロエが持っていても意味が無いのは解る、ワンダーライドブックである以上聖剣に選ばれた騎士の所有物と言うのも解る。

 ガトライクフォンとやらに対してはまぁ一旦隅に置いておくとしよう、問題はこのライドブックが何故移動手段となるのかが解らない。

 バイクが描いてあるのだからそれに関連した能力があるだろう事は想像に難くない、しかしイコール移動手段が結び付かない。

 

 (もしかして、あの本をバックルに挿すと脚が速くなるんだろうか……)

 

 そんな馬鹿馬鹿しい事を考えながら斗真はこの黒くメカメカしい綴装のライドブックをクロエから受け取るのであった。

 

 彼がこのワンダーライドブックの真価を知るのはまだ少し先の話である。

 

  さておき、斗真がディアゴスピーディーに困惑している間に、クロエから呼び出された教師が理事長室に到着し、そんな彼女達から声を掛けられ斗真は正気に戻り今度はその教師の先導に従って、彼は何れ己の教え子となるであろう少女達が待つ教室へと向かうのであった。

 

 TO BE Continued…?!

 

──ディアゴスピーディー──





 さて、テレビの方は賢人君が大変な事になったり、セイバーが新フォームになったり、次回はブレイズが新フォームになったりしますね。
 それはそれとして、高橋PはやはりOVとか劇場版とか撮影スパンが短い短編向きのプロデューサーなのでは?と思わなくも無いこの頃。
 それにしても福田脚本は色々と巡りが悪い。
 高橋、福田タッグはゴーストの時も色々言われちゃってたりしましたからね。
 いっそ高橋Pメインに添えるならサブに誰かスケジュール管理能力が高い人を付けたら良いのにと思わなくも無い。


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4頁 特別クラスと謎の男達


 こんばんおやすみなさい。
 割りと悩みました4頁目です。
 今回、やっとこさオジさんとストーカー一歩手前の押し掛け従者(自称)を出せました。

 ライザ2買ったので、積んでたライザのアトリエをやっとプレイし始めた私…うん、採取だけで大分時間潰れるわ、楽しい。
 


 ──男の先生が出来るかもしれない、クラスのみんなはそれに驚いていましたけど……私達はあの時助けてくれた人が先生になるかもしれないと言う事に驚かずにはいられませんでした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・特別クラス前━

 

 女性教師の後ろを追いかけながら剱守斗真は手許の黒い本"ディアゴスピーディーワンダーライドブック"をどうしたモノかと思いに耽る。

 そうこうしていたら目的地に着いたらしい。教師が立ち止まる。

 「トーマさん、到着しました。ここが特別クラスです。教室に入ったら貴方の事を紹介した後、授業に入りますのでその際、生徒達の集中の妨げにならないよう出来るだけ後方の席から授業の様子をご覧下さい。質問などありましたら授業後に」

 女性教師からそのように告げられまぁ妥当だなと頷く斗真。

 教室の扉を開け、女性教師が入室する。

 扉が開いた瞬間に聴こえる姦しい喧騒が教師の入室によって静かになる。そのタイミングで開いたままの扉から斗真も入室を試みる。

 入った瞬間、静まっていた喧騒が今度は別の形で鳴り始める。

 ヒソヒソと互いに隣の席の者同士で会話をしたり、驚き呼吸が上擦った音だったりと、そういう喧騒だ。

 そんな静かだが騒がしいと言った空気に一際大きな"声"が、教室全体に木霊した。

 

 あーーーーーーー?!

 

 絶叫に数人が耳を塞ぐ。声を挙げた少女の隣に座る人物などあまりの大声に迷惑そうな顔をしている。

 と言うか、声を挙げた少女もその隣に座る少女も更に前と後ろに座る少女達にも斗真は見覚えがある。

 

 「うるさい!バカウサ!」

 隣の少女──アシュレイが声を挙げた少女に苦言を呈する。

 「ラヴィさん静かに」

 更に教師が窘めた事により口許を抑えてそのまま立ち尽くす。

 「ラヴィさん、席に着いて下さい」

 教師に言われてやっとの事座る声を挙げた少女──ラヴィ。

 これにより奇しくも教室全体が正しく静かになる。

 それを見計らって教師は教壇から教室を見渡し口を開く。

 「授業の前に…皆さんも気になっているでしょう御仁について紹介します。新任の教師候補として当学院に着任予定となる──」

 そう述べつつ教壇のスペースを空ける教師、自分で名乗れと言う事か。

 見渡せば襟元が蒼、紅、黒と色分けされた生徒達が階段状の机に思い思いに座して過ごしていた。

 「えー……初めまして剱も「ツルピカトースト!」ええぇ…」

 そんな少女達に睥睨される中、名乗ろうとしてラヴィの大声に出鼻を挫かれる。しかも以前に間違えられた名前より悪化している。

 

 「ラヴィさん?」

 教師が眼を鋭く尖らせる。

 

 「バカラヴィ……」

 「あれ?違うっけ?あれぇ?」

 呆れ果てるアシュレイの横で首を傾げて思考を疑問符まみれにするラヴィ。

 場を満たしていた緊張を孕んだ空気が二度の絶叫により完全に霧散した。

 期せずして……と評して良いのかは判らないが、斗真としても張り詰めた空気と針のように刺さる視線が少なくなった事に安堵し、心の中でラヴィに感謝を述べる。

 

 (ありがとうラヴィちゃん、でもその間違え方はどうかと思う…)

 

 途もあれ、弛緩した空気の中改めて軽く深呼吸をし生徒達を見据える斗真。

 生徒達も改めて目の前の青年に注目する。

 

 「改めまして、皆さん初めまして剱守斗真です。故あって此方の方でお世話になる予定です。えー…今回は皆さんの様子を見学させて貰います」

 教師云々は別としてもお世話になる事に変わりは無いので学院の生徒達の顔を憶えておいても損はない。

 逆に彼女達にも顔を憶えて貰う事も此処で生活する上で重要だ。

 という訳で彼女達の顔を見回していく、まず目に着くのは自分が助けた少女達だ。

 先程場を騒がせたラヴィとアシュレイ、驚きこそしていたが好意的に受け入れてくれているだろうティアラは此方に手を振ってくれている。

 ロゼッタとリネットは軽い会釈と目配せで此方も好意的だと判る。

 他、此方に欠片も興味の無さそうな顔をした紅い制服を着た2つ結びお団子で藤色の髪の少女。

 その隣で頬杖をつきながら此方を吟味する様に視線を送る背の高い桃色髪の少女。

 また別の席に視線を巡らせば、見慣れぬ相手が居るからか胸元のボードで口許を隠す人見知りらしき空色の短い髪の少女。

 その少女の頭を撫でる、彼女と同じくらいの薄紅のツインテールの少女。

 そしてツインテールの少女同様、空色の髪の少女を宥める金髪に褐色肌の快活そうな少女。

 と、そこまで視線を巡らせた所で、前方の席から一際敵意が籠った視線を感じ、斗真が其方へ視線を向ければ襟元が黒い制服を着た深い紫色の長髪に紅い瞳の少女が斗真を鋭く見据えていた。

 あまりにも強く睨んでくるので斗真としても何か気に障る事をしたのかとたじろぐ。

 すると深紫色の少女の隣に座る同様の制服を纏う桜色のサイドテールの少女が口を開き、彼女へ何事かを耳打ちすると、突如として深紫色の少女がサイドテールの少女の頭を力強く叩く。

 

 (?!今、物凄く激しい音がしたんだけど……!?)

 

 斗真が驚くのもムリは無い。絵図はバンッ!だが音はズバーン!とドゴーンである。

 音の例えが漫画過ぎるが実際そうとしか言えないのでそうなのだ。

 そんな凄絶極まる音を立てたにも関わらず平然とした顔で叩いた少女に些か批難めいた視線を送るサイドテールの少女を見て斗真は戦慄を憶える。

 

 (キャラが濃い……!全体的に個性的だけど、あの娘達が何か一番濃い!!)

 

 恐らく主従であろう少女達のやり取りを後ろで笑いながら見ている獣っぽい印象を受ける茶髪の少女も含め実に濃い少女達だ。

 

 「皆さんお静かに」

 

 女性教師の再びの鶴の一声で少女達は静まる。

 「ではトーマさん、後ろのお好きな空席に着席して下さい」

 「あ、はい」

 一連の流れに困惑しながらも、教師に言われた通り一番後ろの座席に座る為、階段を登って行く。

 そうして取り敢えず、黒板が良く見えるであろう中央寄りの場所に着席し教室を見下ろす。

 

 (入った時も思ったけど……空席が多いな。それに制服の色が違うのも何でなんだろうか)

 

 パッと見で獲られた情報からでも既に幾つか疑問があるが、今は少女達の授業風景を見学する事に意識を向ける。

 斗真は知る由も無いがこの時、特別クラスに所属する生徒は此処に居る者達ばかりでは無く、これまた彼の預り知らぬ事ではあるが、その中でも極東の地"ヤマト"からの留学生三姉妹が+αと共に諸事情により里帰りをしていたのである。

 しかしそれはまた別の話。

 途もあれ斗真が座席に着いた事を確認した教師が授業を始める。

 

 斗真はそれを興味深そうに見守るのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・???━

 

 多くの生徒を擁する学院の敷地には生徒も正しく把握していない場所がある。

 その1つ、丁度特別クラスの様子を外から伺える場所にバードウォッチング等に使用される様なオペラグラスを眼に当てて窓から覗ける少女達の授業を見守る影が居た。

 

 「……………誰だ、あの男は!」

 オペラグラスを握る手に力を込めながら、ワナワナと身体を振るわせる挙動不審な青年。

 「おのれ……お嬢様に睨まれるなど、なんて羨ま…けしからん!一体何なのだ奴は!!」

 怒りに震える青年の声に驚いた鳥達が羽ばたく。

 因みに青年の寝そべる地面の下にはきちんとブルーシートが敷かれている。

 

 「お前さん……何をしてるんだね……」

 

 そんな怒りに打ち震えている青年の後ろに何時の間に近付いていたのか、大柄な男性がツッコミを入れる。

 その声に青年は咄嗟に反撃が出来る体勢を取りながら立ち上がる。

 「むっ?!何だ…貴様か、貴様には関係の無い事だ。さっさとあっちへ行け!」

 自分に声を掛けてきた人物が知己と判ると途端に興味を失い、ぞんざいな対応をする青年。

 対して男性は仕様の無いと言わんばかりに溜め息を吐きながら頭を掻く。

 「愛しのオジョウサマに御執心なのも結構だがね、せめてその不審者極まる行動は控えなさんな。オジさんビックリして飛び起きちゃったよ」

 「またその辺で寝ていたのか、やる気が無いにも程があるな。そんな体たらくでリュウトの姫を護れるのか?」

 オジさんと称する男性が青年に文句を呈すると、青年は青年で男性に苦言を吐く。

 

 「オジさんは良いの。ここは割りと安全だし、御姫さんは強い娘だし、そもそもオジさん、引退したいのを国が御姫さんの護衛に付けてムリヤリ任期延ばされてんだから」

 「はん!何が引退だ、貴様の聖剣は未だ後継者すら現れて無いだろうに。第一、未だ十分現役を続けられるだろうが、老け込むには早いぞ」

 「そりゃあお前さんが若いから言える事だ。オジさんこれでも見た目より歳いってんのよ?四十路よ四十路。そろそろ五十手前だしいい加減引退したいのよ、後継者はその内どっかから降って来るでしょ」

 そう言う男性はとても四十代に見えない。

 無精髭を生やしてこそいるが、その見た目は三十前半だ。

 「リュウトは来訪者の出現率が低いのか?まぁ私には関係無いが…それよりも今はあの男だ!一体何者だ?!クロエは何をしているのだ!!?」 

 憤慨し地団駄を踏む青年の手から男性はオペラグラスを奪い取り、彼が見ていた教室を覗く。

 「はは~ん、成る程成る程…アレがお前さんの怒りの原因かぁ、そう言えばアルマの坊っちゃんが何か言ってたな……つまりはあの青年が烈火の……」

 「何っ?!私はそんな話聴いていないぞ!どういう事だ!!?」

 「いやお前さん…ガトライクフォンの呼び出しに応答しなかったじゃないか。それにメッセージも送ったんだぞ?まぁそれも既読付いて無かったが……」

 「何?!……本当だ」

 男性に言われ慌ててガトライクフォンを取り出し着歴とメッセージグループの履歴を確認する青年。

 「ま、お前さんが危惧するような事にはならんだろ、オジョウサマは男嫌いだし、烈火はウェールランドに帰属するから必然、あの坊やはオジョウサマにもお前さんにも関わらんだろ……多分

 実際にはバリバリ関わる可能性が大であるのだが、彼等は今は未だそれを知る事は無い。

 「だとしても!何故、お嬢様のクラスに居るのだ!」

 「それはオジさんも知らない。そこはクロエお嬢ちゃんに訊きなよ。後、お前さん、クロエお嬢ちゃんより歳下なんだからもうちょい敬いなさいよ」

 男性が青年のクロエに対する態度を改善するよう最後に付け加えるが青年の耳には最早届いていない。

 「くっ、あの男…後で問い詰める!」

 「やれやれ……」

 男性は嘆息すると青年を放ってどこぞへと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・特別クラス━

 

 斗真という異邦人をクラスに迎えた事により、最初の授業はこの世界の基礎的な歴史の復習という出だしとなった。

 態々、自分の事を考慮して貰って申し訳ない気持ちがあったが、どうやらもう1人復習が必要な人物が居たようで、その人物が斗真も良く知る元気溌剌印の金髪ツーサイド少女であった事に苦笑を漏らすのであった。

 

 途もあれ、授業内容は斗真としても興味深く、もし今目の前に原稿用紙とペンがあれば出来はどうあれ何か1つ、物語を綴っていたかもしれない…そう思えるくらいのめり込んでいた。

 

 そうして気が付けば座学は終わりを迎え、生徒達も教室に残るのは疎らな人数と化し、そこで斗真は自分が如何に話に没入していたかを自覚する。

 流石に自由時間まで教室に居座るのは据わりが悪く、なるべく静かに退室する。

 すると廊下では女性教師が待機しており、どうやら斗真が訊ねて来るのを待っていたようだ。

 「如何でしたか?何か理解が不明瞭な所などありましたでしょうか?」

 「えー…正直分からない事だらけで何処から訊ねたモノかと思いますけど……取り敢えず、生徒さん達が制服の色が違うのって何でなんでしょう?」

 必死に頭を回転させいの一番に出た質問である。

 教師はその質問に微笑しながら丁寧に答えてくれた。

 その内容を要約するとこうである。

 

 1.学院の生徒は三段階でランク別けされており、優秀者から順に黒【ノワール】、紅【ルージュ】、ラピス【蒼】と別れており、学年は関係ないそうだ。

 

 2.そして授業の成績や学院から指示されたミッションを行う事で得点を稼ぎランクを上げ、卒業に至るのだとか。

 

 3.ランクは個人単位ではなく班単位の為、個人の過失がそのまま連帯責任で班の失点に繋がるらしい。

 

 「成る程……あの、じゃあさっきのラヴィちゃんの態度なんかは……」

 先程、自分が現れた事で大声を挙げた少女の処遇を思んばかる斗真、教師も斗真が言わんとする所が解ったのか彼を安心させる為の言葉を掛ける。

 「確かにラヴィさんが所属する班は問題も多いですが、あれくらいならば許容範囲ですよ。まぁ…その後の受け答えの内容に関しては擁護出来ませんが…」

 どうやら斗真の事で失点されてしまう事は無いらしい、しかしそれとは別に彼女達の班──ティアラやリネット、ロゼッタ、アシュレイ含めかなりギリギリな立場であったのは流石に斗真としても何と言って良いのか分からなくなったが……。

 

 「他に何かありますでしょうか?」

 

 女性教師からのその問いに、斗真はならばと次の疑問をぶつける。

 

 「教室には空席も幾つか見られましたけど、クラスの人数はあれが普通なんですか?」

 あれ程の規模の学院であればもう少し生徒が居そうだと思い出た質問である。

 「そうですね、基本的に生徒がどの授業に参加するかは自由となっているのです。ただ今回特別クラスに関しては、トーマさんが担当する事になる予定との事で諸事情により不在の生徒を除けば、あの場に居た人数で全てとなります」

 大学の講義よりも自由だなと言うのが斗真が抱いた感想である。

 しかしそう言った授業事情であれば己としても幾ばか気分は楽と言うもの。

 自分が教鞭を振るったとて教えられる事など限られている。しかし、参加自由ならば最低限の知識でも体裁くらいは保てるかと斗真は安堵するのであった。

 

 「ところで、次は如何なさいます?生徒の大半は実技実習に参加する事になりますが…そちらも見学致しますか?」

 女性教師から出た質問に斗真は暫し思案し返答する。

 「じゃあ折角なんで…お願いします」

 「分かりました。ではグラウンドの方でお待ち下さい。生徒達は着替えがありますので」

 実技実習ならば当然の事、それも年頃の少女となれば運動着に着替える行動1つとっても時間が掛かるのだろう。ならばと斗真は授業が行われるグラウンドの場所を教師に訊ね、先にその場で待つ事を決めた。

 

 

 

 

 

 「思ったより迷わず来れたな…」

 教師と廊下で別れ、己が身一つで学院を歩く事数分。

 予想に反して一番乗りでグラウンドに出た斗真は待ちぼうけを喰らう。

 あまりにも暇なモノだから折角だし、クロエから受け取ったワンダーライドブックを確認してみようかと懐からディアゴスピーディーを取り出す。

 

 (やっぱりベルトに装着して発動するんだろうか?)

 そんな事を思い、同じく仕舞っていたソードライバーを装着しディアゴスピーディーを装填しようとした所に見知らぬ声が掛かる。

 

 「ちょいと待っただお前さん。こんな場所で聖剣を出すなんざ、何を考えてんのよ?」

 

 声の主……目の前に現れた大柄な無精髭の男性は待ったを掛ける。

 「あ、いや…その……待ってる間暇だったから貰ったコレがどういうモノなのか試そうかなぁ…なんて」

 行きなり登場した見知らぬ男性の威容に怯えつつ質問に答える斗真。

 そんな彼の様子に気が付いたのか、男性が苦笑しつつ頭を掻く。

 「あー、いや別に怒ってるとかじゃないのよ。ただそのライドブックはドライバー無しでも発動出来るから、ドライバーは仕舞いなさんな」

 威容に反して物腰軟らかな口調に斗真も安堵し態度を改める。

 「そうなんですか、わざわざ教えて頂きありがとうございます。えっとそれで…貴方は?」

 「他人に名前を訊ねるならまずは自分から名乗るもんだよ。まぁ良いがね。オジさんは……そうだね、この学院の警備員みたいなもんだね、ま、不良警備員だけどね」

 無精髭の男性の言葉に確かにその通りだと思い、改めて斗真は彼に礼と名乗りを挙げる。

 「失礼しました。改めてありがとうございます。自分はこの度此方の学院で教師としてお世話になる予定の剱守斗真と言います」

 まだ座学の授業を見学しただけだが、斗真の中では既にこの学院で働いてみても良いかという思いがあった。

 そんな斗真の自己紹介に男性は暫し値踏みする様に視線を巡らせ、何事かを納得すると改めて斗真が持つディアゴスピーディーワンダーライドブックの事を斗真にレクチャーし始める。

 「ふーん、成る程ねぇ…それでか……。ま、ともかくだ、ソイツはフツーに開いても()()()()試してみなよ」

 「?…解りました」

 男性の物言いに些か気になる事はあったが、言われた通り表紙を開く。

 

 

『創刊、ディアゴスピーディー!』

 

 開いた瞬間鳴り響く、本のタイトル。

 開かれたページに描かれたのは機械の模様──折り畳まれたタイヤのホイールだ。

 

 

『発車爆走!!』

 

 その音声と共にディアゴスピーディーが斗真の手から離れ、空中で巨大化し変形を開始する。

 

 『タイヤを~開け~♪真紅のボディが目を醒ます~♪』

 

 そして轟く奇妙な唄とガコンガキンと鳴る変形音。

 

 

『剣がシンボル。走る文字。毎号、特別加速!』

 

 

『ディアゴスピーディー~♪』

 

 そして変形を完了させ目の前に降り立つ鋼鉄の騎馬。

 ライドマシン"ディアゴスピーディー"が斗真の前に現れたのであった。

 

 「えー……」

 正直どんなリアクションをして良いのか解らない。だってそうだろう、開いた本がいきなり飛んでいきなり唄い始めて、いきなり変形したのだから、斗真としても微妙な反応をする他無い。

 「っく…くく、まぁ、初めてコイツを見ればそうなるわな。いやそれにしても、外で起動したのは正解だったのよ。もし室内で開いてたら危なかったなぁ?」

 笑い声を抑えながら斗真に話し掛ける男性、正しくその通りなのだが、目尻の涙は拭っておいてほしい。

 「あの…因みにコレ、どうやれば戻ります?」

 ライドブックの正体が知れた為、誰かの目につく前に片付けたい斗真はすがる思いで男性に訊ねた。

 「簡単簡単!触れながら戻る様に念じれば良いのよ」

 聞いた瞬間、即座にディアゴスピーディーに触れ、「戻れ!戻れ!」と念じる斗真。

 その甲斐あってか、真紅の装甲のバイクは元のワンダーライドブックへと戻っていった。

 一連の光景を見届け、男性に再び御礼しようと正面を向けば、既に彼の姿は無かった。

 

 「名前…訊いてないや…」

 

 立ち尽くす斗真。そんな彼が茫然としているグラウンドに着替えを終えたのかやたら露出にフェチズムを感じる運動着を纏った生徒達が現れるのであった──

 

 TO BE Continued!!?

 

 

─ブレイブドラゴン─ライオン戦記─

 





 次回は何とか同時変身まで書けたら良いなぁ…。
 
 因みに私、変身ヒーローモノは大好物ですが特に好きなのは実は悪役だったりします。
 キャラクター濃いのが多いですよね、鮭とか(それは戦隊だろうと言うツッコミは流します)
 勿論ヒーロー自体も好きです。
 実は読み切り載せる時もラピライにクロスさせる作品の候補にはセイバーの他にリュウケンドーがあったと言う裏話的な事を暴露しておきます。
 それではー


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5頁 始メテノ魔獣討伐

 こんばんわ。そして此方でも一応あけおめです!

 いや、こっちしか読まない方も居るでしょうと思い表記させて貰います。

 ダイナミックスーパードッジボールかと思いましたか?残念!!フライングソーサーディスクでした!!いや実際、バンプボール回の方は斗真が正式に教師として着任後の方が転がし易いので……。

 さて、作中にてシャンペがアルマの家名がマルルセイユで有名と称していますが、2頁目にてリッちゃんはソコに触れていないのは目の前の衝撃的な出来事に気を取られていた事が1つ、そもそも名前を知っていても実際に対面したのはあの時が初めて、と言うのが1つと、2つの理由です。
 因みにラヴィですら名前だけは知ってます、うろ覚えですが……。
 ミル姉は……まぁアルマがクロエとそれなりに親しい時点で、ラピライを詳しくご存知であればお察しの方も居るでしょう。
 知らない方は公式Twitterか公式ページをチェック!
 或いは後書きを読んで下さい!



 ──先生が初めて魔獣を見た時の感想は、思っていたより可愛いでした。私たちからすれば恐怖の象徴である魔獣ですが、先生は『襲ってくるなら確かに恐いけど、見た目は完全にゆるキャラだよね』と仰っていました、異世界の感性って不思議ですね──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・グラウンド━

 

 謎の男性からレクチャーを受け、ディアゴスピーディーのワンダーライドブックを起動。即座に元に戻すという愉快な出来事から30分後。

 

 グラウンドには運動着に着替えた乙女達が続々……という程では無いがそれ相応の人数が集っていた。

 そして少女達は小脇に円盤の様な物を抱えているのだ。

 (教室より人数が少ない…。成る程、受ける授業を選択するのも自由ってのはこう言う事なのか)

 芝生の緩い傾斜となった大地の坂に腰掛けながら少女達の様子を眺める斗真。

 授業に参加を決めこんだ面子の運動着の色を観れば、圧倒的に蒼…ラピスが多く次いでルージュ、ノワールなど精々5人居れば多い方だ。

 これこそが先程女性教師が言っていた参加する授業を選ぶという事なのだろうと納得をする。

 此処に居ない生徒は別の授業に参加しているのか、或いは自由に過ごしているのだろう。

 座学の際は斗真を特別クラスの面々に紹介するという名目もあり、所属する大多数の少女達が教室に居たのだ。

 (それにしてもあの小脇の円盤は何なんだろう)

 グラウンドに集まった生徒達が持つ謎の道具、その用途に考えを巡らせる斗真はフリスビーでもするのかな?等と思案する。

 その答えは直ぐに解った。

 

 「ふぉぉおおお……」

 年甲斐も無く間抜けな声を挙げてしまう斗真。しかしそれも無理からぬ事、何せ少女達が円盤を中空へ投げたかと思えば、各々が指笛なり拍手なりで音を鳴らし、それに呼応して円盤が巨大化する。

 その巨大化した円盤の上に生徒達は次々と立ち、更に上昇して空中で浮遊しているのだ。

 

 斗真はまだ知らぬ事であるが、この世界の魔法は基本的に長々とした詠唱を必要とはしない。

 無論古い魔道書に記載されている様な術はその限りでは無いが、一般的に魔女が魔法を行使する手段は"音"である。

 【エコーギフト】と称されるそれは音であればカタチを問わない。

 フィンガースナップであったり、拍手であったり、口笛であったり、それこそ楽器や歌も含まれるのである。

 

 未来の魔女たらんとする乙女達が宙を舞う様は中々に画になる光景である。

 さて、そんな外野から授業風景を臨む斗真の後ろよりドタドタと土煙を上げ駆けてくる足音が2つ。

 周辺の散った生徒達や授業に出席する順番待ちの生徒は何事かと音の主を探せば、見付けたのは選抜クラスの生え抜きのユニット【supernova】の1人、短く所々外ハネが強い深紅の髪を風に靡かせながら両手にスケッチブックと鉛筆を握り締める少女──フィオナ──が己の前を行く青年を追い掛ける。

 

 「今日こそはスケッチさせて貰うよッ!!」

 少女が青年に対し声を張り己の目的を吐露する。

 「冗談じゃねぇ!?ゴホッ…事あるごとに脱がそうとする奴に誰が…!ゴホッゴホッ…!くそっ、こういう時に限って似非侍の忍者が居ないっ!やっぱ、外なんかロクなもんじゃねぇ!!」

 所々咳き込んでいるのは滅多に走らないからなのか、絶叫しつつ少女から逃れようと手段を模索する青年。

 そんな2人のやり取りを物珍し気に見る者と、またかと呆れる者で半々に生徒達の反応が別れる。

 

 「あれは……一体…」

 斗真としても後方の騒ぎに嫌が応にも注目してしまう。

 

 「あー、またやってんだ~」

 そんな中、騒ぎを見ていた授業中の特別クラスの生徒の1人が斗真の隣までやって来てそんな事を洩らす。

 「また?ええっと…」

 「あ!ゴメーン、驚いたしょっ?」

 戸惑う彼を前に片目を瞑りつつ手を合わせて謝る褐色金髪の少女。彼女が斗真へ己の名を名乗る。

 「ウチはラトゥーラって言うし、ヨロシクねトーマセンセ♪」

 「あ、うん…宜しくラトゥーラさん。それで…あれは一体何かな?」

 見た目通りの明るい性格、それも斗真的にはギャルと言って差し支え無い様な見た目のラトゥーラの気安さに少々怯みつつ、目の前の珍事の詳細を訊ねる。

 

 「それね!まず、追われてる方の名前はエレン…確かフルネームはエレン・ロサリオだったけ?まぁそんな感じの名前だし。んでエレンってば普段引き込もってばっかで滅多に人前に出ないからさ、たま~に外に出るとあーしてフィオナに追われるって訳だし。あ、フィオナってのは追いかけてる方ね」

 「へぇ…。因みに何で追われてるのかな?」

 すらすらと件の人物達の説明を口にするラトゥーラに感心し、何故追われる様な事になっているのかをも訊ねてみる。

 「んー…ウチもあんま詳しくワケは知らないけど……エレンが珍しいモノを持ってて、フィオナがそれに目を着けたのがキッカケだったとか…。ま、今じゃエレン自身をモデルにしようとしてるみたいだけど」

 「いや、随分詳しいと思うけど……二人とは知り合いなのかい?」

 「二人ともウチとは同郷…フィレンツァの出身だし。フィオナとはあんまり話した事無いケド、エレンとは何度かね。…同人活動毎回手伝ってもらってるし

 と、最後に小さく何事かを呟いていたが、要するにエレンと言う青年は出不精で、フィオナと隣に居るラトゥーラとは同郷であるから詳細な情報が聞けたと言う訳だ。

 そして"また"と言う発言からも、この光景は少なからず複数回に渡ってこの学院内で繰り広げられていると言う事なのだろう。

 呆れている生徒達はそれを見慣れているから。

 逆に物珍しそうな生徒達はエレン自身の出現率の低さからそういった反応になったのだろう。

 

 (何だかツチノコみたいだな…)

 エレンの詳細についてそんな事を思う斗真、そこでふと思い至った事を隣の褐色少女に訊ねてみる事にする。

 「そう言えば、俺…自分以外にもチラチラと男性を見掛けたけど、彼等はどういった役職なのかな?」

 頭にアルマとエレン、そしてあの時忠告をくれた男性を思い浮かべながら話題をラトゥーラに振ってみる。

 「う~ん?センセ以外の男の人?ウチが知ってんのはエレンの他にはおじさんとサイゾーくんだけだけど…」

 「その…おじさんって言うのは?それにサイゾーって人も良かったら教えて貰えるかい?」

 「オッケー、まずおじさんの方はリュウトからの留学生のお姫様のお付きの護衛で…ラウシェンって名前だったと思うし。サイゾーくんはヤマトから来た子で、今日は居なかったけど…ウチらのクラスに居るヤマトからの留学中の三姉妹と仲が良いんだ、って…そう言えばセンセも名前の感じがヤマトの人っぽいね!」

 快く斗真の質問に答えてくれたラトゥーラ、彼女は最後に斗真の名前の響きがヤマト人らしいと屈託ない笑みを浮かべて斗真に返す。

 「へぇー…後、一応まだ正式に先生になってないからね?」

 「良いじゃん良いじゃん♪ウチ、オトコのセンセって結構興味あるし」

 途もすれば誤解を生みそうな発言である。

 「所で……ラトゥーラさんは他にも見たことは無いのかい?具体的に言うとマントを肩に掛けてる貴族騎士みたいな格好の人とか?」

 彼女との会話で影も形も無かったアルマの事を訊ねてみる、しかし彼女は思い当たる節が無いようで、う~んと唸ってしまう。

 すると其処に小さな影が2つ、近付いて会話に加わって来た。

 「ラトゥーラばっかり先生とお話してズルいの!シャンペ達もまぜてなの!」

 「あ…あの…、よろしく…お願い…します…『メアリーベリーだぜ!( ・`д・´)』」

 1人はやや薄いピンクに近いオレンジ色の髪をツインテールに括った甘ったるい声と人怖じしない明るさを持った少女、もう1人は空色に近い水色のショートヘアで胸元に奇妙な顔文字が表示され加工された少女の声が発せられるアイテムを持った人見知りがちな少女であった。

 

 「あ~、シャンペ、メア!ちょうど良いとこに来たし!」

 3人の少女が並んだのを見て、そう言えばこの娘達は教室でも隣り合って座っていたなと思い出す斗真。

 ラトゥーラは2人の友人に斗真の質問を振る。

 「二人とも、センセの言ってること分かる?」

 「ふぇ?どういうことなの?」

 「あぅ…『いきなり言われても何が何だか解らないぜ?(・_・?)』…その、質問の意図が……わからない…と」

 今しがた来たばかりの2人が小首を傾げれば、褐色の少女はゴメンと謝り、斗真の質問を彼女達にも教える。

 

 「あ、青い…マントを…羽織った……貴族みたいな…騎士の…男の人?『何だそりゃ?(?_?)』あ…でも…こんな噂なら…聴いたことある…よ?『理事長室に入り浸ってる男が居るって話だぜ!(>_<)』」

 メアリーベリーが己の声とボードの電子ボイスで交互に喋る。

 

 「青いマントの騎士なの?もしかして……「僕がどうかしたんですか?」ひゃあぁっ!!?」

 シャンペが心当たりを口にしようとした時、件の人物が斗真の隣に立っていた。

 

 「うわっ!?あ、アルマ君…驚かさないでくれよ」

 予兆も無く隣に現れた若き騎士に苦言を呈する斗真、アルマも流石に驚かせた事を悪いと思ったのか、斗真、そしてシャンペに頭を下げる。

 「申し訳ありません。トーマさんを見付け近付いたら、何やら僕が話題に挙がっていた様なので、そこでついいきなり声を掛けてしまいました。斗真さんの肩を叩くなり、ある程度の距離に近付いたら、其処から声を掛ければ良かったですね。其方のお嬢さんも大丈夫ですか?」

 当のシャンペはアルマの登場から謝罪に至るまでの光景に感嘆と畏敬と困惑が入り雑じった顔をして震えていた。

 

 「シャンペどうしたし?」

 「ど、どこか…具合が悪いの…『大丈夫か?(´・ω・`)?』」

 級友2人が心配を顕にシャンペを見やれば、少女は有名人を目撃した感動に目を輝かせていた。

 「本当に本当のホンモノなの……?ホンモノの自由騎士イーリアスなの?」

 「おや?僕の家名をご存知とは、もしやマルルセイユの方ですか?」

 名を呼ばれた当人も少女の言葉を聞き、彼女がマルルセイユからの留学生である事に気付く。

 「有名なのかい?」

 感動と感激に撃ち震える少女に恐る恐る訊ねてみると……。

 「超有名なの!マルルセイユでその名を知らない国民はいないの!お伽噺の仮面の剣士のモデルになったってくらい有名なの!」

 実際にはお伽噺の仮面の剣士そのモノなので、モデルどうこうでは無いのだが、一般的にこの世界の住人の大半が聖剣の剣士達をお伽噺と認識しているので、彼女の様な反応の方が大多数である。

 「あー!仮面の剣士ね!ウチの国にもモデルになったって言う傭兵の像があるし!」

 ラトゥーラも故郷の首都に奉られる剣士の銅像と伝承を思い浮かべる。

 「う、ウェールランドは…仮面の剣士の……伝説、発祥の地…『暁の魔女とならんで有名だぜ!』」

 この国の生まれであるメアリーベリーが負けじと起源はウェールランドにある事を頑張って主張する。

 

 「そう言えば、ヤマトとかリュウト、後ドルトガルドにもおんなじような話があるとか聞いたジャン!っぱフローラの伝説と同じくらいメジャーなんだ!」

 ラトゥーラがテンション高くその様な事を述べる。

 そんな授業そっちのけで盛り上る少女達からアルマに連れられ離れる斗真。

 

 

 「どうしたんだ一体、あの娘達から離れて……?」

 「あまり彼女達の前で話す様な内容では無いので……。トーマさんはこの後、予定等はありますか?」

 周囲の喧騒に消える…しかし確実に斗真には聴こえる様な声で話すアルマ、斗真も座学と違い、実技の方は特にこれと言って特別気になる事も無いので、予定は無いと答える。

 「良かった、でしたら僕と一緒にとある場所まで着いて来て下さい。トーマさんはクロエさんからディアゴスピーディーを受け取っていますよね?それの使い方を教授も兼ねてこれからも戦いの基本を教えたいと思います!」

 アルマのその言葉に息を呑みつつ、ディアゴスピーディーの事は心配無いと答える。

 「それは…どうして?」

 「グラウンドに出た時に親切にも教えて貰ったんだ、自分の事をオジサン呼びする人に」

 斗真が口にしたオジサンことラウシェンの名が出た事でアルマも妙に納得する。

 「あの人が……。成る程、引退するなんて何だかんだ言いつつ、面倒見はいい人ですしねラウシェンさん」

 「そのラウシェンって、結局何者なのかな?」

 本人から名を聞きそびれた斗真がアルマにその仔細を訊ねる。

 「リュウトの聖剣、大地の大剣土豪剣激土に選ばれた使い手で、僕よりもうんと前の世代の方です。何よりトーマさんと同じ来訪者ですからね」

 その言葉に斗真は一層驚いた。

 「え…?って事はその人も俺と同じ世界から?」

 「さぁ?詳しくは本人から聞いた方が早いかと、あ、でも名前はトーマさんと同じ様に漢字?でしたか、それで書いてましたね」

 確かこんな字ですと胸元のガトライクフォンのメモアプリケーションを起動し、劉玄と入力する。

 因みに、フルネームは陳劉玄(チャンラウシェン)である。

 

 「あ、後、あの褐色の…ラトゥーラって娘から聞いたんだけど、エレンと言う人にサイゾー…多分才蔵なんだろうけど、兎に角その二人も剣士なのかい?」

 「ええ、サイゾウくんはヤマトの聖剣の使い手で、現役の剣士の中では最年少ですね、それと…エレンに関しては……まぁその、はい、剣士は剣士なんですが……」

 サイゾー改めサイゾウの話から一転、エレンの話題に移り、歯切れが悪くなるアルマ。

 「あ……引き籠りなんだっけ?」

 途端先程のラトゥーラとの会話を思い出し申し訳無くなる斗真だがアルマはいえと首を振り。

 

 「彼もちゃんとした…ええ、一応ちゃんとした剣士です。ただ、フィレンツェは初代以降は一貫して傭兵の体裁を取っていまして、その中でエレンはラウシェンさんやサイゾウくん同様、トーマさんよりも前に現れた来訪者なのですが……、ええ、本当にどうしてこうなったのか…元々先代お墨付きであったにも関わらず、正式に継承する頃には気付いたら引き籠りに…。この学院にも嫌々来たらしく、何でも…フィレンツェの商家貴族のご息女の護衛の為にそのご息女のご両親から雇われたとかで」

 それでフローラ女学院に息女が入学したと同時に度々引き籠る様になったのだと言う。

 「嘆かわしい事です!聖剣が折角後継にと選んだのに、あれでは宝の持腐れになってしまいます!」

 「ま、まぁきっと彼にも色々とあるんじゃないかな!?それより目的地に行こう!」

 これ以上は長い愚痴になりそうだったので無理矢理話を切り上げる。

 取り敢えず、斗真は自分がアルマと共に抜け出す事を実技の教員に告げてから学院の敷地を後にした。

 

 

 「それで、戦い方と言うけど……具体的にはどんな?何を相手に?まさかまたあの時みたいな怪物が!?」

 マームケステルの外壁を越えた草原でアルマに訊ねる。

 「怪物と言えば怪物ですが、メギド魔人ではありません。今回は魔獣です」

 「魔獣…って言うと、この世界の人達を苦しめているって言う……」

 「はい。此処、マームケステルは暁の魔女の結界もあり、安全なのですが、それ以外の土地や国では昨今魔獣による被害が多数頻発しています。僕達の仕事は出没する可能性が高い場所の魔獣を討伐する事です。それをしないと生徒達が特別実習で校外活動する際に危険ですからね!」

 と、アルマの言に成る程と深く頷く。

 「でも、そういうのは普通国が何とかするんじゃないのかい?」

 そして当然の事を訊ねて、アルマからの返答を待つ。

 「そうですね。基本的には師団単位で事に当たります。勿論魔獣の強さも個体により違うので絶対では無いですが、人里等の人口密集地帯は魔獣も群を成して襲って来るので。そうなると人手がどうしても足りなくなる時がありまして、ですが、僕達なら単独でも複数匹の魔獣を余裕を持って倒せます」

 フンスとそこで胸を張るアルマ、彼は意気揚々ソードライバーを取り出しながら斗真に語り掛ける。

 

 「魔獣は基本的にメギドよりは耐久性も知能も凶暴性も低いです。勿論、人間の脅威である事に違いはありませんが、変身した僕達なら楽々倒せます。なので!トーマさんにはこれから向かう場所に出没するだろう魔獣で剣士の戦い方をレクチャーします!さぁ、行きますよ!!」

 そのままソードライバーのバックルを腰に充て、更に胸元のガトライクフォンを取り出し、画面のアイコンの1つをタップするとそこから折り畳み、手元で何かを捻った後、空中に軽く投げると…何とみるみる巨大になり、人一人跨がれる程の大きさの三輪、所謂トライクルへと変形したではないか。

 

 

《ライドガトライカー!》

 

 「えぇ!?」

 ディアゴスピーディーの時同様、大きなリアクションと共に驚く斗真。

 「驚きましたか?これが僕達剣士の移動手段、ライドガトライカーです!凄いでしょ?」

 対してアルマは自信満々の様相で先程までスマホ型ガジェットであったライドマシンへ跨がると、何処から取り出したのかゴーグルを掛け、アクセルを回す。

 「さぁ、トーマさんも早くディアゴスピーディーを!」

 急かすように言うアルマの言葉に慌てて斗真もズボンに押し込んでいたディアゴスピーディーのワンダーライドブックを取り出し、表紙を開く。

 

 

『発車爆走!』

 

 ライドブックから響く声と共に再び金属がぶつかり合う音と謎の歌、変形が完了し真紅の騎馬が斗真の前に降り立つ。

 しかし、斗真はディアゴスピーディーに跨がろうとしない。

 

 「??どうしましたか?早く乗って下さい」

 

 「……いや、だってヘルメット無いし………」

 

 異世界で何言ってんだとか、道交法無いだろとか、ツッコミこそ飛んでこないが、曲がりなりにもバイクである。生曝しの頭で乗るには些か厳しい。

 

 「?兜甲冑(ヘルム)なら其所に掛かってますが?」

 躊躇う斗真が洩らした言葉にアルマはキョトンとそんな反応を返す。

 「いやいやヘルムって……本当にあるし!?しかもちゃんとライダーヘルメットだし!?何時の間に?!」

 一瞬、アルマ(異世界人)自分(現代日本人)の認識の違いにたじろぐも、言われてクラッチがある左レバーに目を向ければソコにスッポリ被せられた現代社会で良く見るバイク用のフルフェイスヘルメット、これには斗真ももう本当何でも有りだなと驚愕を通り越して無我の境地に差し掛かる。

 

 何は途もあれ、2人の青年は鋼鉄の騎馬に跨がり、舗装された馬車道を走る。

 

 走る事、約2刻半。

 「道を外れます、着いて来て下さい!」

 ライドガトライカーにて先導するアルマが声を張り、後ろに追従する斗真へ指示を出す。

 斗真はディアゴスピーディーをアルマのライドガトライカーの後に沿ってハンドルを切る。

 辿り着いた場所は一見すればとても人類を脅かす怪物が生息している等と思えぬ程平穏な山。

 マシンを止め、山を見上げる。

 

 「本当に此処に魔獣が?」

 「はい、一匹、二匹なら実習に派遣される生徒でも問題は無いのですが、事前の調査にて少なく見積もっても八匹程が潜伏している事が判りました」

 アルマは深刻そうに語るが、この世界に来て日が浅い斗真はそれがどれ程の脅威なのか実感が湧かない。

 彼の怪物の基準がアラクネメギドである為、剣士にとってはそこまで脅威にはならないと事前に言われてしまえば、それが師団単位を用いて殲滅する相手であっても精々が猪退治かと思ってしまうくらいだ。

 

 「今回はトーマさんへのレクチャーも兼ねているので、突入は変身してからにしましょう!準備は良いですか?行きますよ!!」

 

 

『ライオン戦記!』

 

 「えっ?!あ、ちょっ!」

 既に腰にソードライバーを巻いているアルマに対し、斗真は急いで火炎剣烈火が収まったソードライバーのバックルを腰に充て、ブレイブドラゴンのワンダーライドブックを取り出す。

 

 

 

『火炎剣烈火』
 

 

『聖剣ソードライバー!』

 

 

 

『ブレイブドラゴン』

 

 2人は各々のライドブックの表紙を開く。

 

 

 

『──かつて世界を滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた……』

 

 

『この蒼き鬣が新たに記す気高き王者の戦いの歴史──』

 

 共にマシンに跨がったままでバックルにライドブックを挿し込む。

 斗真はブレイブドラゴンをライトシェルフに、アルマはライオン戦記をミッドシェルフに挿入しグリップに手を掛ける。

 

 

変身!

 

変身…!

 

 烈火と流水がドライバーのバックルより抜刀される。

 

 

『烈火/流水』

 

 

『『抜刀!!』』

 

 炎と水、2つの斬撃が飛び、2人の身体は其々が紅い光と青い光に包まれ、バックルのライドブックが捲れ新なページが姿を見せる。

 

 

『Wo~Wo~Wo~Wo~♪ブレェイブドラッゴォォォン!!』

 

 

『ライオンッ戦記ィ!』

 

 

『烈火一冊!勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!!』

 

『流水一冊!百獣の王と水勢剣流水が交わる時、紺碧の剣が牙を向く!』

 

 真紅と紺碧の仮面の騎士が並び立つ。鋼鉄の騎馬が唸りを挙げる。

 「……まさかまた変身するとは…って言うか、ええっと…君、アルマ君?」

 仮面と鎧を身に纏う己の姿に諦観入り雑じった溜め息を洩らし、次いで隣の青い影の存在がアルマである事を訊ねてみる。

 「はい!この姿の時はブレイズと呼んで下さっても良いですよ!!」

 「あ、うん。え?じゃあ俺のこの姿も何か名前あるの?」

 青い剣士、仮面ライダーブレイズとなったアルマの言葉に斗真は己が変身した姿の名前を誰何する。

 「ええ、烈火の剣士はセイバー。そう呼ばれていたそうです」

 父の代、或いはそれよりも前の代から伝えられた名を斗真に教えるアルマ。

 

 「セイバー……それが俺の姿…」

 

 「さぁ、感傷はそのくらいに。一気に行きますよ!」

 ガトライカーを吹かし山中へ突撃するアルマ、その爆音に山奥に潜む魔獣達が反応する。

 「っ…よし!」

 斗真もディアゴスピーディーのアクセルグリップを捻り、道なき道を走る。

 

 「もうすぐ、この音に引かれて魔獣達が現れる筈です。まずは僕がお手本を見せますのでちゃんと見ていて下さい!」

 その言葉通りに前方から現れる魔獣……ヌイグルミ様な見た目にのっぺりした光る眼が2人の剣士を睨む。

 「もしかしてだけど…アレが魔獣なのかい?」

 「そうです!あの種は特異な能力はありませんがパワーはあります、僕達のこの姿なら吹き飛ばされたり噛まれても大したダメージにはなりませんが……普通のホモサピエンスには厳しい!」

 アルマは鬼気迫る声で忠告してくれているが、斗真には魔獣がそこまでオドロオドロしい獣には見えない、寧ろ──

 (どう見てもゆるキャラとかのデザインだよなぁ……。キモカワとかそんな感じの)

 そんな斗真を置いてきぼりにアルマは目の前の魔獣をガトライカーで跳ねる。

 跳ねられ身動きが鈍った魔獣へ方向転換しガトライカーに備えられた機銃を斉射。

 魔獣は断末魔を挙げ死に至る。

 そのままガトライカーから降りると流水を抜き構える。

 「さぁ、今の魔獣の悲鳴で残った仲間達が集まってきますよ!」

 「お、おう……」

 斗真もディアゴスピーディーから降り立ち、烈火を抜きつつも、一連のアルマの行動に引き気味である。

 そうこうしている内に集まる魔獣達、事前の話では八匹程と言われていたがその数はどう見ても十数匹はいる。

 「想定よりも多い、しかし!」

 アルマがバックルのミッドシェルフに挿入されているライオン戦記の開かれたページを軽く叩く。

 

 

『ライオン戦記』

 

 流水を横凪ぎに振るい斬撃が飛ぶ。そしてその斬撃が激流の縄となって魔獣達を拘束する、それと同時に現れた青い獅子が拘束された魔獣の一体へ突撃し絶命させる。

 「これがライドブックを使用した技、ライオン・ワンダーです。トーマさんもブレイブドラゴンで同じ様に出来る筈です」

 「分かった!」

 促され、斗真もまたバックルのブレイブドラゴンのページを叩く。

 

 

『ブレイブドラゴン』

 

 右腕のガントレット、"バーンガント"から真紅の龍が実体化し目前の魔獣をその(あぎと)で噛み砕く。

 これこそがセイバーブレイブドラゴンのライドブックの固有技、ドラゴン・ワンダーである。

 

 「次、行きます!」

 その言葉と共にバックルへ流水を納刀、その状態でグリップのトリガーを1度押す。

 

 

『必殺読破!流水抜刀!ライオン一冊斬り!ウォーター!!』

 

 「ハァァァッ!ハイドロォッ…ストリィィィィム!!

 

 流水の刃を水が螺旋を描きながら逆巻き、アルマがそれを縦斜めに一閃する。

 するとアルマに群がろうとしていた二匹の影が重なった瞬間、斬撃がその二匹の魔獣を両断した。

 

 「更にこれです!」

 再び流水を納刀しトリガーを今度は素早く2度押す。

 

 

『必殺読破!ライオン一冊撃! ウォーター!!』

 

 先程と違い剣を収納した状態での技が炸裂する。

 アルマが変身したブレイズの胸部"ブレスライオン"から水撃が放たれ敵を包み檻となって捕らえる。

 其処へアルマが跳躍し落下の勢いを使った強力な両脚の蹴りをお見舞いする為叫ぶ。

 

 

レオ・カスケード!!

 

 鋭い飛び蹴りが魔獣の一匹を吹き飛ばし、後ろに居た数匹を巻き込み爆発する。

 そしてそれら一連の流れを見て斗真も負けじとアルマを真似て烈火を納めトリガーを押す。

 

 

『必殺読破!烈火抜刀!ドラゴン一冊斬り!ファイヤー!!』

 

 「ぜぇぇぇえいっっ!!」

 

 アラクネメギドを倒した時同様、炎が龍を象って斬撃と共に魔獣を焼く。

 「良い感じです!出来れば必殺技の名前も言えばグッドです!!」

 「ええっ?!」

 アルマが此方を見てそんな事を言うので戸惑ってしまう斗真、だが、まぁ良いかと思い直して残りの魔獣へ今度は納刀状態の技を繰り出す。

 

 

『必殺読破!ドラゴン一冊撃!ファイヤー!!』

 

 「え…と、じゃ、じゃあ!火龍蹴撃破(ひりゅうしゅうげきは)!!

 

 咄嗟に思い浮かんだ名を叫ぶ斗真、叫びながら跳躍して右脚の飛び蹴りを魔獣へ喰らわせる。

 此方も吹き飛んだ魔獣が仲間を巻き込み爆発した。

 

 「ふぅ、何とかなった……」

 着地し一息浸く斗真、辺りに魔獣はもう居ない。

 「お疲れ様でした。僕としてはまだ教えたい事があったのですが、魔獣は全滅させてしまったので次の機会に取っておきます」

 アルマが労いの言葉と共にそんな事を言うので、まだ何かあるのか…と少々辟易しないでもない斗真。

 「ではマームケステルに帰りましょう!」

 「了解、ゆっくり休みたい……」

 変身を解きガトライカーに跨がるアルマ、同じく斗真も変身を解除してディアゴスピーディーへ跨がる、2人はアクセルを吹かし、来た道を戻りフローラ女学院のあるマームケステルへと帰路へ着くのであった。

 

 TO BE Continued!

 

 

─???─

 




 と言う訳で5頁でした!
 前書きの答え?ですが、クロエ理事長とミルフィーユは幼馴染みなので、その関係でアルマが出入りしているのも知っているし正体も知っています。

 今回、supernovaからフィオナ、そしてシュガポケの3人が登場。
 更に実はエレンのフルネームは目茶苦茶長い設定だったりします。
 本人も長いの気にして短くした姓を名乗ってます。
 因みにサイゾウ君も実際には才蔵ではなく哉慥が正しい字だったりします。
 年齢的には上から順に劉玄>>>>>???>エレン=斗真>アルマ>???>>哉慥となります。
 そんな訳で次回でまたお会いしましょう!

 後もう2人くらいライダー出ないかなぁ…。


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6頁 漆黒の剣士と堕ちた聖剣/フィレンツァの来訪者とオルケストラ

 こんばんは……寒いっ!!?いやぁ…寒い…ですねぇ~(震えながら)
 手が悴んで暖房…点けたんですが、部屋が寒くて寒くて…。
 何か今回はこっちがとじダグより速く出来ちゃいましたよ…。

 とか言ってる内に今期の冬アニメが続々放送開始。
 いやぁ…SHOW BY ROCK STARS楽しみにしてました、マシマヒメコ好き……デルミン可愛い…ほわん撫でたい…ルナティックさんマジ、ルフユ…。

 ウマ娘season2待ってた!スカーレットめちゃ好き、期待を裏切らないゴルシとオグリパイセン、時差でうつらうつらしてるスズカ可愛い。

 ウィクロスの新作も相変わらずルールの解らないがバトルして好き…今回はこのまま明るい路線で行く気だろうか…(疑心暗鬼)
 バック・アロウの勢い嫌いじゃないです、面白い。
 他にも多々ありますがこの辺で…。



 ──お伽噺の中の剣士、でもそれは実在していて……彼等は私達の英雄。けれど、剣士が全て英雄では無かったのです──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━????━

 

 其処が何処かは分からい。分かるのは其処が常に夜の帷に包まれたかのような宵闇である事。

 

 「失われし聖剣…火炎剣烈火が現れたか

襤褸の様なローブで全身を包んだ人物が一言、布でくぐもった声で感慨も無く呟く。

 ローブのフード、その陰に顔が隠され性別すら差だかでは無い人物が立つその場所は…まるで墓標。

 荒れ果てた大地に錆びた剣、折れた槍、砕けた鎧、朽ちた人骨。

 光射さぬ紫煙と漆黒の空、生命の鼓動の一切を感じさせぬ空間に然も平然と立つ件の人物はローブの下から黄金の刃を持つ漆黒紫闇の剣。

 

 「時は来た。我が大願成就の為に……。覚醒(めざ)めよ、幻獣を統べる魔人…"レジエル"!!

 その言葉と共に剣を大地へ突き刺すローブの某、突き刺さった剣は膨大な闇の奔流を大地の奥深くへと流し込む。

 

 数秒の後、剣の闇が全て大地に沈み、轟々と揺れ始める。

 一瞬の沈黙、そしてローブの某が大地から剣を引き抜くと、剣によって作られた孔を拡げる様に一冊の黒いライドブックが飛び出す。

 それはまるで自ら意思を持つかのようにページを開き1つの姿を成す。

 

 「オォォォッ!!………俺を覚醒めさせたのは誰だ…?

 白い仮面の様な顔に左右非対称の角らしき意匠、灼銅の板金鎧と灰銀の身体、腕から覗く鱗と胸から頚にかけて伸びる黄金の牙らしき装飾、獣の如く鋭い爪が生えた具足、そして本の背表紙を模した意匠を胸部中央に象る彼の者の名は幻獣のメギド魔人、その頂点、魔人"レジエル"。

 

 「レジエル……覚醒めて早々ではあるが、ワタシに協力して貰うぞ

 

  「何ィ?誰が起こしたかと思えば人間だと?ふん、更には言うに事欠いて協力をしろと来たか……馬鹿にするのも大概にしろっ!

 

 ローブの某かの言葉に、しかしレジエルは不遜な態度で返す。

 対して某はその答えを予想していた様にローブの下からベルトのバックルを覗かせ、左手の紫闇の本を開く。

 

 

ジャアクドラゴン

 

 本から轟くのは禍々しく強い声。

 

かつて世界を包み込んだ暗闇を生んだのはたった1体の神獣だった

 

 

ジャアクリード…

 

 開かれた本の名はジャアクドラゴンワンダーライドブック。

 ジャアクドラゴンのライドスペルが綴られた後、表紙を閉じ、右手に持つ闇の聖剣、否…邪剣──"闇黒剣月闇"の刀身に備えられた【ジャガンリーダー】にジャアクドラゴンを読み込ませ、バックルへとセットする。

 

 「…?!チィッ!

 

 レジエルが目の前の人物の行動に気付き妨害を試みるが、魔人の攻撃は闇に阻まれ届かない。

 その間にもローブの某は闇黒剣月闇の柄【エングレイブヒルト】を両手で握り己の眼前で掲げる様に構え、グリップエンドに備えられた打突器でローブ下から覗かせた邪剣カリバードライバーのバックル直上に存在する始動装置【ライドインテグレター】を押し込み告げる。

 

変…身…

 

 バックルにセットされたジャアクドラゴンがページを開き闇が溢れる。

 

 

『闇黒剣月闇…!』

 

Get go under conquer than get keen(月光!暗黒!斬撃!)

 

『月闇翻訳!光を奪いし、漆黒の剣が冷酷無情に暗黒竜を支配する!』

 

 闇が晴れた先に現れたのは紫と黒のボディに銀の鎧を纏った剣士。

 頭頂部の先端はセイバー達と異なり月闇と同様の黄金。

 漆黒の兜を覆う銀の仮面、そのスリットから覗く鮮血の眼光。

 右肩の暗黒竜の意匠【ジャアクドラゴンボールド】も同様に仮面を被せられている。

 シンメトリーの美しさを持ちながら非対称であるという姿は正に闇の力で竜を支配した様相を表しているかのよう。

 

 それは嘗ての闇の聖剣の剣士、そして今は堕ちた邪剣の剣士。

 "仮面ライダーカリバー"がレジエルの前に立ち塞かる。

 

  「まさか宿敵に喚び起こされるとはな……何の目的があるかは知らんが、尚更協力などする気が起きん!

 「いいや、どうあっても協力して貰う。貴殿とて目次録を欲しているのであろう?

 カリバーとなったローブの某の声が布でくぐもった声から一転、ノイズが入り雑じったモノに変声する。

 そしてレジエルはカリバーの発した"目次録"と言う単語に僅かに肩を揺らす。

 

 「だとしてもそれは貴様の手を借りる理由にはならんな、だが…それ程までに俺の助力が欲しいのであれば、力付くで俺を従えてみせろ!!

 そう言うや否やフランベルジュらしき刀身が波打ったかの様な特徴的な刃を持つ剣を振り上げカリバーへと襲い掛かる。

 対するカリバーも自身の持つ月闇で迎撃する。

 鍔競り合う両者、しかし、息巻くレジエルに対しカリバーは余裕を崩さない。

 互いの刃がぶつかる拮抗を自らが力を緩める事でレジエルの勢いをそのままに体勢を崩す為に利用する。

 カリバーが拮抗を崩した事により、自身が剣にかけていた重みでつんのめる。

 

  「ヌゥッ…?!!

 

 当然カリバーはレジエルの剣を躱す、半身を捻り右に半歩踏み込むカリバー、黄金の刃【ゴルドスレイブ】でレジエルの剣の刃を滑らせる様に足下まで逸らし、エングレイブヒルトから右手を離して上半身が倒れ込むレジエルの顔面へ裏拳を喰らわせる。

 

 「ガッ……!?

 

 拳を当てられた勢いで頭が後ろに反れるレジエル、すると前に倒れ込もうとしていた体もそれに引っ張られる様に引き上げられ、咄嗟の事であった為に剣から手を離し、腹部ががら空きになる。

 カリバーはその隙を逃さず左脚の膝でレジエルの腹を殴打し左手に持った月闇を振り上げて斬る。

 飛び散る火花、よろめき退がるレジエルに右手に持ち代えた月闇で斬り掛かる。

 横一閃、右袈裟斬り、斬撃を二度喰らわせ膝を着くレジエルを見下ろす。

 

  「力の差は理解したか?これ以上の戦闘は無駄だ

 「クッ……一度膝を着かせた程度で随分な物言いだな……。だが良いだろう、俺もこのままグダグダと無為な戦いを続けるのは望むところでは無い」

 肩で息を浸きながら異形の姿から人の姿へと変わる。

 その姿は傲慢極まる表情を浮かべながら不愉快そうに眉根を歪める長身のモデル体型の青年。

 「それで…何故俺を起こした?目次録を手にする事が目的だと言うなら貴様一人でも事足りる筈だ。競合相手を覚醒させる真似をする必要性が何処にある?」

 レジエル人間態の不遜な態度の質問にカリバーは仮面の下で嘆息しつつ言葉を紡ぐ。

 「目次録……その力は余りに強大、ワタシ一人の手には余る。ワタシの望みは貴殿達に比べれば些細なモノ、僅かばかりの願いを叶える力さえ残っていれば良い。その後がどうなろうともワタシの関知する所では無い、ならば残る目次録の力はソレを欲している貴殿の様な者に渡す事こそ道理ではないか?

 そう告げる漆黒紫闇の剣士の言葉に、レジエルは信用ならぬものを感じながらも降って湧いた好機をフイにする事も無いだろうと考える。

 

 (まぁ…奴の思惑がどうあれ、目次録を手に入れる機会が目の前にあるのならば誘いに乗ってやろうじゃないか。精々俺を利用するつもりで利用されるが良い)

 レジエル自身、カリバーの申告全てを馬鹿正直に信じてなどいない、隙を見せれば何時でも背後から闇討ちするつもりで協力を呑む事にした。

 

 「良いだろう、協力してやる。俺の助力を得られる事を光栄に思え!」

 文字通り傲岸不遜の態度でカリバーと協力関係を結ぶ。そして何かを思い出しカリバーへ問い掛ける。

 「おい、そう言えば貴様…俺以外の奴はどうした?」

 「生憎と貴殿が最初だ。何分、手持ちのアルターライドブックは()()しか無いのでね

 そう言ってレジエルへアラクネメギドの核となるアルターライドブック、"アラクネの糸"を見せる。

 「ならば好都合、ズオスもストリウスも覚醒めていないのなら存分に出し抜かせて貰おう。貴様も奴等を覚醒めさせるなよ?」

 「それは確約出来ない。計画が貴殿の力だけで厳しいようなら後の二人にも覚醒めて貰わねばならない

 「チッ、融通の利かん…。だが要は俺一人でも計画を進行出来れば問題無いのだろう?奴等が復活した時、俺が力を手にして入る事を知ればさぞ面白い顔を見られるだろうよ…クク」

 凶悪に嗤うレジエルにカリバーは何を言うでも無く佇む。

 カリバーはレジエルが一通り満足したのを見届けると彼に近付き口を開く。

 「では我々の拠点となる場所へ案内するとしよう

 「拠点?アジトまで用意してあるのか、ならば相伴に預からせて貰おうじゃないか」

 レジエルがカリバーの隣へ立つ、カリバーはそれを確認し月闇を虚空に振るう。

 闇が2人を包みその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル━

 

 「はー、こうして改めて見ると広い上に馴れて無きゃ迷子になるのも仕方無いくらい入りくんだ道があるんだなぁ…この街」

 街を歩きながらその様な言葉を洩らすのは、魔獣退治を終えマームケステルに帰還した剱守斗真その人。

 既にアルマの姿は無い、彼の青年はクロエへ報告する為に街中で別れフローラ女学院に向かった。

 今の斗真は少し遅まきながら昼食の為に食事をする店を探している最中である。

 因みに資金は別れ際アルマより手渡されている。その際、一応アルマはこの土地に不馴れな斗真を案内しようかと持ち掛けたが、斗真自身が断っている。

 フローラ女学院までの道順は魔獣討伐の行掛けに憶えたし、散策は趣味も兼ねているからとの理由でアルマを説き伏せたのだ。

 と言う訳で斗真は趣味でもあるロードワークに興じながら食事処を探しているのだ。

 

 「何処かに良い店は無いかなぁ……と、ん?あれは…」

 そうしてキョロキョロと四方に目を向けていると死んだ魚ばりの眼をした気怠そうな青年を見付ける。

 (あれは…確かエレンとか言う…!)

 オープンテラスの席でグッタリとしている彼に注目していると向こうも此方に気付く。

 

 「あん?何見てやがる…?見せ物じゃねぇぞ」

 粗野な口調だが椅子に力無くもたれ掛かった姿勢で覇気無く言われても恐くも何とも無い。

 「いや、君…エレンだよね?」

 

 「あ?お前誰?」

 

 「俺は剱守斗真、一応フローラ女学院で教師をする事になってる者です」

 

 「あー…真面目ちゃんが言ってたヤツね、オケオケ、で?何でオレっちの事知ってんの?」

 斗真が自らの素性を明かすと直ぐに納得するエレン。

 一応剣士間での連絡や報告は取られている様だ。

 「実技の授業の時、君が女の子に追われているのを見たもので…」

 「…………………忘れろ。お前は何も見なかった、OK?」

 「いや、流石にそれは…無理があるんじゃ…」

 エレンの死んだ魚の様な眼が斗真の一言で更に曇る。

 

 「いやホントマジで忘れろ、タダでさえフロ女の多くの生徒に目撃されてんだ、年頃の娘相手に逃てたなんて憶えられるのは恥以外の何物でもない!」

 

 「(大分手遅れな気がしないでも無いけど……)あ、はい、忘れます」

 眼が死んでる割りに鬼気迫る顔をするエレンに斗真は圧されるがまま頷く。

 「で、お前、何でこんなトコに居んの?飯か?」

 「あ、うん。ちょっと遅いけど昼食に良いとこは無いかなと探していてね(もしかしてハイライトが無いのが彼のデフォなのか…?!)」

 寄りかかって項垂れていた頭を起こし斗真が何故彷徨いていたかを問うエレンに対し斗真は一向に死んだままの瞳に戦慄する。

 「なら此処でいいじゃん。結構手頃な値段で美味いモン食えるぞ」

 右手の親指で自身の真後ろを指すエレン、どうやら彼が居座っているテラスは大衆向けレストランのようだ。

 「へぇ、じゃあお言葉に甘えて…で良いのかな?お薦めに従うよ」

 そうして店へ入店する斗真、店内も決して大きい規模とは言えないが、中々の広さを有している。

 

 「いらっしゃいませー!ってセンセーじゃん!」

 

 接客に出迎えたウェイトレスが斗真を見て驚きの声を挙げる。

 「え…?ラトゥーラさん!?」

 ウェイトレスの正体は特別クラスの生徒、ラトゥーラであった。

 「アハ♪驚いた?ウチ、ココでバイトしてんの」

 器用にトレーを片手で持ちながらウインクするラトゥーラに何だか顔が紅潮する斗真。

 外のテラスからエレンの声が飛ぶ。

 「ソイツは実家の金銭管理が厳しいんだよ、そのクセ金が掛かる趣味してやがるからテメーで働いて稼いでんのさ」

 「へぇー、貴族にも色々あるんだなぁ。それにしても詳しすぎじゃない?趣味まで知ってるって」

 ラトゥーラがエレンの事を話した時同様、エレンもラトゥーラの事に詳しい様で、斗真ははてと疑問に首を傾げる。

 「それね~、パパがウチが無駄遣いしないようにってエレンを雇って送って来たんだし、別に心配無いのに…」

 ラトゥーラがやや鬱陶し気に目を伏せる。斗真はエレンの側に寄り、小声で訊ねる。

 

 「本当の所は、どうなの?

 「真面目ちゃんから聞いたんだろ?あのギャルの護衛だよ、ま、お目付け役って意味じゃ監視も間違いないけどな

 「じゃあ彼女が商家の貴族なのか……

 まさかまさかと次々明かされる事実に感心しながらラトゥーラを見やる斗真。

 「ま、そう言うこった。出来ればオレっちは引きこもりたいんだがな」

 「(一人称安定しないなぁ)それ大丈夫なのか?職業的に」

 「だよね~、でもウチとしてはこんくらいテキトーな方が楽だし」

 ラトゥーラがケラケラ笑いながら斗真の言葉に同意する。

 

 「ま、オレらの事は良いんだよ。取り敢えず座れ、話しようや」

 エレンが顎で自分の座る座席の対面を指す。

 その好意に従い斗真は席に着く、それを見届けたラトゥーラがメニューを持って来てくれる。

 「じゃあセンセ、ご注文をどうぞ!」

 「えー、じゃ…これと、これと…これで」

 「オッケー♪流石男の人はいっぱい食べるし」

 そう言って愛想を振り撒いてキッチンの方へオーダーを持って消えるラトゥーラ。

 

 「良い子だなぁ…画に描いたように勤労学生だ」

 「ま、アイツは人好きするタイプだし、所謂オタクに優しいギャル(オタク)だからな」

 斗真が洩らした一言にエレンが滔々と返す。

 「でだ、アイツが居ない内に訊きたいんだが、お前いくつよ?」

 

 「年齢なら23だけど…」

 

 「タメか、職業は?」

 

 「…………小説家です」

 

 「やたら間があったな、しかし小説家ねぇ…ある意味同類か」

 死んだ魚の眼が空を仰ぐ。

 「同類?君も物書きなのか?」

 

 「漫画家だよ、っても月刊誌でアンケート下から数えた方が早かった三流だけどな」

 皮肉気に笑うエレン、その瞬間だけハイライトが戻った様に見えた。

 「そう言えば、アルマ君から聞いたけど君の名前って…」

 

 「ったく、おしゃべりが過ぎるヤツだなぁ…あの真面目ちゃん。ああ、エレン・ロサリオは略したやつだよ。ついでにちょっと捩った。オレのフルはエルヴィレアノ・ホサ・ロマリオ・サバン・ドルティアーノ・鳴美。な、長いだろ?」

 早口言葉のように綴られたエレンの本名にポカーンとする斗真、そんな彼の顔を見てエレンは補足するように続ける。

 「ラテン系イタリアと日本のハーフなんだよ、因みに日本在住だった」

 「日本に住んでたのか!じゃあ何時この世界に?」

 斗真がずっと気になっていた事を訊ねる。

 「10年前、まだ学生してたガキん頃な…」

 「それじゃ、エレンは在学中に漫画を描いてたのか?!」

 「ああ、中学で描くヤツは珍しがられたけど最初だけな……。後はさっき言ったように打ち切り秒読みのダメ漫画家だよ。そう言うお前は来たのはつい最近だってな」

 エレンの来歴に驚愕していた斗真だが彼の覇気が消えていく声にいたたまれない気分になる。

 

 「お待たせー♪ご注文の品だし!」

 

 空気が重苦しくなったタイミングでそれを破るように明るい声がその空気を吹き飛ばす。

 「ありがとう、頂くよ」

 「はいはーい♪ごゆっくり~」

 ヒラヒラと手を振りながら仕事に戻るラトゥーラの背中を2人して見送る。

 「ま、オレの過去バナは次の機会で良い。それより、メシ食ったらどうするんだ?」

 「う~ん特に決めてないなぁ、取り敢えず学院に帰って理事長に教師をやる事を伝えようかと…」

 斗真の言葉を聞き終え何事か考え始めるエレン、一頻り瞳を左右に揺らした後、口を開く。

 

 「なら…良い機会だ。夜まで街に残ってろ、面白いモン見れるぜ」

 

 「面白いもの?」

 

 斗真は目の前の青年の言葉を聞いて首を捻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・中央広場━

 

 そして夜、食事を終えた後、斗真はエレンと共に適当に街中をブラつきながら時間を潰し、陽が完全に沈んだ時間を見計らってエレンの言う面白いモノを見に行く為に中央広場の方へと移動を開始する。

 

 「何だか…人が増えてきた気がする……」

 周囲の人間達が中央に向かって行く度、密度を増していく事に気付く。

 「今日はオルケストラがあるからな、じゃなきゃオレっちも早々に直帰してヒキコモリウム摂取してらぁ」

 「(ヒキコモリウム?)そのオルケストラって?」

 「そいつぁ、見りゃ分かる」

 それだけ言うとエレンは口を閉ざしてしまう、着いてからのお楽しみと言う事なのだろう。

 

 

 

 暫く歩いた後、集団の動きが止まっている事に気付く。彼等は皆、謎の発光物を手にして何かを今か今かと待ちわびている。

 

 「っし。運が良いな、今日はそこそこの場所が取れた」

 等とエレンがガッツポーズを小さく取る。

 

 

 「こっちよティア!…此処からなら見えるかしら?」

 

 「待ってよロゼ!」

 

 すぐ近くで聞き覚えのある少女達の声が聴こえてくる。

 「ティアラちゃんと…ロゼッタさん?」

 声の方向を向けば夜の闇と街灯りの中でもその色が判る程鮮やかな紅と蒼の極め細やかな髪、特別クラスの生徒であるティアラとロゼッタが居た。

 

 「「トーマさん!?」…と誰?」

 

 2人共に斗真が側に居た事に驚き、そしてティアラが隣に居るエレンに小首を傾げる。

 

 「オカマイナク」

 それに対し何故か片言で返事をするエレン、そうこうしている内に中央広場にあるフローラ像のある噴水が競り上がる。

 

 「何が始まるの?」

 「オルケストラよ!」

 ティアラが今から始まるであろう何らかの催しに疑問を口にすればロゼッタが誇らしげに答える。

 

 光を放つ浮遊装置が逆光を作り出す、ステージとなった噴水には3人の人影。

 「あれは……」

 斗真が目を細めながらステージに注目する。隣ではロゼッタがティアラにオルケストラの仔細を説明している。

 「ここマームケステルの街は、魔力で支えられているの。人々の想いを集め魔力として蓄積する主な手段がオルケストラ」

 「オルケストラ?」

 

 ──何処から途もなく旋律が奏でられる。

 

 

【─アオノショウドウ─】

 

 

 

 人々の歓声に4人とも中央のステージへ視線が釘付けになる。

 逆光が収まりシルエットが取れ現れた3人を見たティアラが見覚えがあるのかポツリと溢す。

 

 「この人達は、たしか……」

 

 「"supernova"よ」

 

 ティアラの溢した言葉にロゼッタが答える。そしてsupernovaのメンバーの1人を見て斗真はエレンを見る。

 

 「んん?あの左の子は確か昼前頃に君を追い掛けてた……」

 

 「ああ、フィオナだ。んで、右側がミルフィーユ、センター張ってんのがユエ。アイツら揃って選抜クラスのエリートだよ」

 

 フィオナを含めたsupernovaのメンバーの名前を挙げていくエレンに斗真のみならずティアラも感心の息を吐く。

 「そちらの男性の言う通り、彼女達は理事長選りすぐりの魔女よ。それにセンターのユエはリュウトの王女らしいわ」

 ロゼッタがエレンの言葉に続けてユエの情報を述べる。

 「彼女が劉玄さんが護衛してる……」 「リュウトの王女……」

 

 ユエを見て斗真とティアラは其々に思う。

 ティアラはそのままステージを真剣に眺めながら訥々と語り始める。

 

 「すごい…お姉ちゃんもこんな風に歌ってたのかな……」

 そんなティアラをロゼッタがチラリと見やる。

 「ティアが学院に入ったのって」

 「うん、お姉ちゃんに憧れて」

 東国より来る姫を尊敬の眼差しで眺めるこの国の王女、彼女は或いはユエを通してその先に見える過去の遥か彼方の憧れ(エリザ)に目を奪われているのかもしれない。

 

 「凄いなホントに、この歓声、この熱狂……まるで──」

 「アイドルみたいだってか?間違っちゃねぇよ。魔女ってのはオレらが元居た世界的にはアイドルで、オルケストラはライブだからな。まぁあんな感じになったのは多分来訪者の影響もあるんじゃないかってオラぁ考えてっけどな」

 斗真の目の前のステージの感想にエレンは自身の憶測も兼ねた返答を返す。

 また幸いなのか否か解らないが、彼等の会話は周囲の熱狂と歓声により隣の少女達には聞こえていなかった。

 

 

 

 

「「これが……オルケストラ」」

 

 

 青年と少女、小説家と王女、剣士と魔女、2人の言葉が自ずと重なる。

 

 光に彩られ熱い心を語る唄が空に響く夜は更けていく──

 

 TO BE Continued…♪

 

 

─ピーターファンタジスタ─




 さて、カリバーと幹部メギドのレジエルさん登場、一応人間の姿はテレビシリーズと同じです。でもあれって見た目変えられたりするのかな?
 こっちだとレジエルさんもですがズオスもストリウスも過去の戦いで封印されちゃったりした設定です。

 ついでにエレン目茶苦茶喋らせました。ラピライ名物ハイライトオフが常にデフォルトな青年です。
 フィレンツェの剣士ですが怠惰な部分があるからかルキフェルとは気が合います、メアリーベリーともシンパシー感じてます。
 使用コードなんて分からないので、曲はタイトルを載せただけです。

 所で……レジェンドライダーのライドブックって出した方が良いんですかね?出さない方が良いんですかね?
 
 後、天華百剣で浦島虎徹出たんで実質エミリアの声を好きな時に聴けるようなもんです!
 八丁念仏はロゼッタだし、城和泉はカエデで千人切りはルキで鶴丸はナデシコで典厩がアシュレイで乱兼光がシャンペと割りとラピライの面子居るんですよね~。
 ではまた次回。


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7頁 ガラクタ市のピーターファン 前編

 おはようございます、おやすみなさい。

 今回どういう話でピーターファンタジスタを絡めようかと思案した結果、プロットを前後編に別けての物となりました。

 ついでにさらっと登場?してる哉慥くん、何気にカエデからお兄ちゃん呼びされるくらいには仲が良いという…。
 年齢的にはカエデよりは上ナデシコより下なのです。
 そして此方もさらっと登場キャバレー部、シャンペは可愛いからね。仕方無いね!

 さて、セイバーの方は11本の聖剣が出てきた訳ですが……烈火の左隣、無銘剣虚無ですよね?と言う事は、ファルシオンを除けば少なくとも新規ライダーが後2人登場すると言う事になる訳で…早く剣共々出てきてくれないかなぁ…。

 あ、後、鬼一さん正式加入頑張ってた時に回したら景清さん普通に来ました。
 物欲絡んで無い上に特に狙ってもいない時は普通に来るんだよなぁ……。



 ──その日は先生が正式に私達の先生となった日でした。なんでも、クロエ理事長から教師をするに当たってお部屋を頂いたそうです。後にガーネットさんが入り浸る事になるとは先生も露程思わなかったでしょうけど……。

 かくいう私達も気軽に遊びに行っていましたけれど──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━図書室最奥・旧ベース━

 

 嘗ての剣士達の拠点、ノーザンベースと呼ばれていた今や学院の一部と化した施設の大広間……剣士達が集う本の間。

 その場所で斗真は蒼髪の美女からある事を告げられた。

 

 「はぁ…部屋、ですか?」

 

 「はい。トーマさんが我が学院で正式に教職に就くに当たって、私共の方で協議した結果、教員寮の一室を提供させて頂く事となりました」

 持ち上がった話題にイマイチ要領を得ない返事をする斗真にクロエは知性を感じさせる眼鏡を僅かに光らせながら決定事項を伝える。

 「あの…()()じゃ駄目なんですか?」

 そんな彼女に斗真はこの拠点の居住区画ではいけないのかとクロエの顔色を窺いながら訊ねる。

 「残念ですが、此処の存在は貴方の様な特異事例を除けば私と一部の教員しか知り得ません。ですので対外的にもトーマさんには教員寮に入って頂く必要があるのです」

 淡々と言葉を列ねるクロエ。それを受けて数秒の思考の後に成る程と納得を見せる斗真。

 そんなやり取りを聞いて残念そうに肩を下げるアルマと面白そうにニヤける劉玄、そして無理矢理アルマに引き摺られて来た為床に突っ伏していたエレンが顔を上げる。

 「うぅ…残念です。折角新しい仲間と共に切磋琢磨出来ると思ったのに…」

 

 「いやぁ、別に二度と会えない訳じゃないんだから、そんな大袈裟な反応しなくてもいいんじゃないのよ?ま、お前さんくらいしか此処の部屋を常用してないから仕方ないかもしれんがね」

 

 「はっ、別にココがバレても問題無いと思うけどな。どうせ別段正体隠してる訳でもねぇんだから」

 

 エレンがいい加減床に寝転がるのを止めて立ち上がり階段に腰掛けると今この場に居る者達に向けて己の本心を述べる。

 

 「いえ!それはダメです!万が一!億が一と言う事もあります!クロエさんの様な人なら未だしも、僕達以外がこの場所に立ち入る事は看過出来ません!」

 「チッ…真面目ちゃんはこれだから…」

 エレンの言葉を即座に否定したアルマに視線をアルマから逸らしながらエレンは小さく舌打ちをする。

 「やれやれ…。ま、兎も角だ。クロエちゃんの言うことは妥当だわな?オジさんもそこの引き隠りも此処の部屋とは別に表向き暮らしてる所があるからね」

 この場の最年長者がエレンに噛みつかんばかりのアルマを宥めながら剣士達の普段の暮らしを語る。

 

 「へぇー。そうなんですね…所で今更なんですが、他の剣士の人とかは?」

 劉玄の言葉に感心しながら斗真はこの場に居る面子を見回して、これで全員なのかと暗に訊ねる。

 

 「う~ん、一応ヤマトに帰省してる哉慥の坊やを除けば後二人ばかし居るんだがね……一人はちょいと問題アリな性格だし、もう一人も所要で不在がちになる事が多いんだね、これが」

 「オッサンよぉ、そんなオブラートに包む必要無いだろ?良く聞け小説家、似非侍の忍者以外はストーカーとムッツリ偏屈野郎だ。どっちもかなり変人だからな?ま、ムッツリの方がストーカーや忍者と比べたら割合良識的ではあるけどな」

 「エレン!仲間をそんな風に言うなんて許しませんよ!大体、あの人はムッツリじゃなく物静かなだけです!」

 劉玄が斗真の問いに苦笑しながら返答すればエレンは皮肉気に笑いながら斗真に対して残る剣士達を偏った……概ね偏ったイメージで語り、それに憤慨するアルマがエレンに喰って掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ヤマト某所━

 

 「……くしゅん!」

 

 「風邪ですかサイゾウお兄ちゃん?」

 

 「むむむ…否、これはえれん殿が拙者の事を語っているのでござる」

 

 「エレンさん?それはもしかして例の部屋から出てこないひきこもりの人の事ですか?」

 

 「然り。きっと拙者が居なくて寂しいのでござるな!皆、元気であろうか?」

 

 「所でサイゾウさん、先程サイゾウさんのろっくな"がとらいくふぉん"でしたっけ?それが震えていましたよ?」

 

 「むむ!何と!!?拙者、未だにこの手のカラクリの扱いは苦手なので気付かなんだ!忝ないでござるナデシコ殿」

 

 「いえいえ、ゆっくり慣れていけば良いんですよ。それよりも、サイゾウさんもろっくに参りましょう!」

 

 「承知……ではなかった、おー!でござる」

 

 「サイゾウお兄ちゃん、姉様に律儀に付き合わなくても良いんですよ?」

 

 「何を仰る!ろっくとやら実に深いでござる。カエデ殿も共に参ろうぞ!」

 

 「「せ~の!ろっくんろ~♪」」 「……ろ~」

 

 「お姉ちゃん、サイゾウくんに妹たちを盗られて悲しいわぁ~…シクシク…チラッ」

 

 「ツバキ姉様はふざけてないでちゃんとして下さい!」

 

 「はーい♪」

 

 ヤマトにて、とある剣士と三姉妹の一幕──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━図書室最奥・本の間━

 

 「ん?今なんか変なの挟まなかった?」

 「何言ってんだお前?」

 「特に変な気配等はありませんでしたけど?」

 「斗真ちゃん、緊張してるのかね?」

 何処から途もなく虫の報せのを感じ取った斗真、しかし他の皆はそうでは無いようだ。

 改めてクロエの方に向き直り、話を進める。

 

 「お話は分かりました。それで自分はその部屋に移れば良いんですよね?」

 「ええ、おおよそ必要な物は揃っています。もし他に何か生活用品等で足りない物が有れば言ってください、少ないですが此方で経費を出します」

 クロエからの破格な対応に何だか申し訳なくなる斗真、しかし今更断るのもそれはそれで失礼なので、申し訳無さを出しつつも有り難く受け入れる。

 

 クロエとの会話に一段落付いたと見てアルマがならばと自らも斗真に餞別としてライドブックを手渡す。

 「では僕からも一つ贈り物を…」

 「…これは?」

 手渡された物は以前、アルマが自分をフローラ女学院に連れて来た際に見かけたワンダーライドブック。

 「ブックゲート、移動用のワンダーライドブックです。扉ないし窓を介して此処と繋がっています。因みに僕のゲートは此処の自室と理事長室に繋がっています、トーマさんの場合はご自身が生活する教員寮の自室と此処になりますね、他に行きたい場所があればイメージして下さい、行った事があれば楽に移動出来ますよ?」

 

 「バイクあるのに?」

 

 「バイクにしろトライクにしろゲートが開けない場所に向かう足だろうし、ブックゲートはまぁあくまで扉のある場所で急ぎの時に使えば良いんだよ、難しく考えなさんな。それにこっちじゃバイクなんざ珍品極まるモンだしね」

 アルマのブックゲートの説明に対しディアゴスピーディーを取り出しながら疑問を投げれば劉玄がクックッと笑みを溢しながら補足を付け加える。

 

 「そう言う事なら有り難く受け取らせて貰うよ。しかし部屋かぁ、私物になるような物って何処で買えますかね?」

 己が暮らす事になるであろう部屋を想像しながら、生活必需品を何処で買う事が出来るのかと皆に訊ねる。

 「そうですね……基本的にはマームケステルの街の商店に大概の物は揃っていますが……トーマさんにお渡しする金銭では物高になってしまうかもしれませんね」

 クロエが口元に手を添えながら考え込む様な仕草を取る。

 「確かになぁ~、給料じゃなくて教師就任のお祝いみたいなもんだしね、斗真ちゃんに渡したお金が足りなくなる可能性はある」

 劉玄も困った困ったと呟きながら額に握り拳を充て考える。

 「んぁ?んな難しく考える必要は無いだろ?今日から何日かガラクタ市があるじゃねぇか?」

 そこで死んだ魚の眼を見開きながらエレンが何とも無しに言ってのける。

 「ガラクタ市?」

 当然、この世界の知識が浅い斗真は聞き慣れない単語に首を傾げる。

 「ガラクタ市ってのはね、このマームケステルのダウヒッチストリートを抜けた所にある中心広場ロランパークで定期的に開催されてる露天市だね、普通の店で買うより安く買えたり、値切りし易かったり、掘り出し物が多かったりするバザールみたいなもんさ」

 「ほらアレだ小説家、前にオルケストラを見たあの噴水がある広場のとこだ」

 この世界の生活が長い先輩来訪者2人がガラクタ市の事を語ってくれる。

 「成る程ね、日本じゃてんで少なくなった様な寄りモノ出し物市って訳か。それなら手持ちが少なくても良さそうな品が手に入るかも…」

 斗真が得心と共にさて何を買おうものかと今から思案し始める。

 「考えるよりも行動ですよ、トーマさん!僕も一緒に行きますから!」

 アルマがウキウキした顔で眼を輝かせる。その様子は子供の様だ。

 「じゃ、折角の機会だし…オジさんも行くかね」

 「おう、さっさと行っとけ行っとけ、オレぁ部屋に引きこもらぁ」

 劉玄が物のついでとばかりに2人に同行を申し入れれば、エレンは清々したとばかりに手をシッシと振れば青き騎士と剛剣の騎士がその両肩を掴む。

 

 「あん?何だこの手は?」

 

 「何って決まってるだろうよな?」

 

 「貴方も一緒に行くんですよエレン?」

 

 2人揃って顔に満面の笑みを浮かべる、それに対してエレンは物凄く嫌な顔を作る。

 「ざっけんな!?どうしてオレまで!」

 「オジさんはお前さんや斗真ちゃんと違ってスマホとやらどころかケータイとかの知識が無い時代の人間だし、アルマは言わずもがな、斗真ちゃんが欲しがりそうなモノと近しいのが分かんのはエレン、お前さんだけだ」

 劉玄の言う通り、彼は中国の片田舎…それも197X年代の人間であり、アルマはそもそもこの世界の生まれなので近代の来訪者が欲するモノがイマイチ理解出来ない。

 また、ヤマトの哉慥も21世紀の人間では無いのでどの道居ても役には立たなかっただろう。

 そういう事情もあってか有無を言わさず連行されるエレン。暴れようにも劉玄とアルマと言うバイタリティ溢れる2人からは逃げられない。

 

 斯くして、4人の男達はクロエの苦笑を傍目にロランパークのガラクタ市へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━中央通り・ダウヒッチストリート━

 

 マームケステルの中心街の商店街道、ダウヒッチストリートを進む4人の人影。

 約一名、必死に足を動かすまいと抵抗しているが両脇を組む2人に引き摺られてズリズリという音を発てる。

 そしてダウヒッチストリートのとある店前まで通り掛かると、ちょうどすぐ横の店の扉が開かれ見覚えのあるツインテール少女が飛び出して来る。

 

 「ほぇ?トーマ先生?」

 

 「あれ?シャンペさん?」

 

 少女──シャンペが逐一あざとさを醸し出す動作で小首を傾げて剣士一行から斗真を見付け声を掛ける。

 斗真もこんな時間にこんな所で生徒に会うとは思わなかった為驚く。

 「ほほー、シャンペお嬢ちゃんじゃないのよ。お久しぶり」

 「おや、あの時のお嬢さん。こんにちは」

 劉玄はとある理由によりちょくちょく見掛ける顔に、アルマはつい先日遭遇した顔と知って挨拶を交わす。

 「ラウシェンおじ様、久しぶりなの。それにイーリアス様もお久しぶりですなの!」

 小柄な身体を元気良く動かしながら綺麗にお辞儀するシャンペに3人は微笑ましくなる。

 「ところでおじ様達が挟んでるヒトは誰なの?」

 笑顔で応えながら頭を上げ、改めてアルマと劉玄の両脇に後ろ向きで抱えられたエレンに誰何を抱く。

 「オカマイナク」

 そしてやはりカタコトで合わせてもいない目線を逸らしながら返答するエレン、そんなに他人と関り合いになりたくないのだろうか。

 「まぁコイツの事は気にしなさんな、それでシャンペお嬢ちゃんは部活動中かな?」

 劉玄が抱えた腕で器用にエレンを小突きながら苦笑する。

 「にひひー♪そうなの、今日は夕方からの活動の為の準備なの!」

 と、シャンペは胸の前で手を組ながら人好きする笑みで揚々と答える。

 「部活?このお店でかい?」

 当然、未だにフローラ女学院の全てを知る訳では無い斗真は疑問を浮かべる。

 シャンペが出て来たのは何ともファンシーな看板を掲げた2階建ての小振りな建物。

 材質は周囲の建築同様、白い石造りの壁と材木骨子の家。

 明るいオレンジ色の屋根には煙筒が生え、窓から覗く内装はピンク一色と言っても過言では無い飲食店らしきモノ、しかしシャンペそして劉玄は言った、部活だと……であれば如何なる活動内容であろうか?気になるのは小説家としての性かはたまた野次馬根性か。

 

 「バレ~部なの」

 

 「バレー部?」

 

 「ああ、うん、そうね…(キャ)バレー部なんだよね、此処」

 

 シャンペが笑みのまま答えれば、現代日本人の斗真からすれば一体何処に球技と関係があるのかと訝しげな声が溢れ、劉玄は間違っちゃいないなとばかりに微妙な歯切れで同意する。

 実の所この中年、暇を見付けてはちょくちょくキャバレー部に客として入り浸っているそこそこの常連なのである。

 国許か隣のアルマに仔細が知られれば仕事をしろとツッコミが入るだろう事は間違い無い。

 そして幸運な事に看板のCabaretのCaの文字が店の育ち過ぎた観葉植物の手により絶妙に隠されている。

 

 「ダウヒッチストリートにこんな店があったんですね。僕もこの街に来てそれなりに経ちましたが知りませんでした」

 アルマは純粋に感心している。彼は街を巡回する際に、今までシャンペ含めた部員と遭遇する事が幸運にも無かったのである。

 しかしシャンペがそこに爆弾を落とした。

 「よかったら先生もイーリアス様も今度一緒にどうぞ!サービスしますなの♪」

 キャバレー部エース部員、妹にしたい魔女No.1の発言に劉玄、目玉を飛び出さんばかりの衝撃を受ける。同時に冷や汗が大量に流れ始める。

 「ん、まぁ機会があったらね」

 「ですね。その暁には是非ともお願いします。後、その様に畏まらなくても…アルマと呼んでくれて良いですよ?」

 何となく察した斗真は短く返すが、気付かないアルマは純粋に好意として受け取り、シャンペが先程から畏まった呼び方をしてくるので、それも提訴する。

 「わぁ!ありがとうございますなの!その際は当店のご来訪是非お待ちしてますね♪」

 劉玄がエレンを引っ張る力を強める、話しは済んだのだから早く行こう、今すぐ行こう!とばかりに足を勇む。

 「さぁ行こう!直ぐ行こう!超行こう!早くしないと掘り出し物とか失くなっちゃうよ!?」

 「痛デデデデ!!?オッサン加減しろ!?痛いんだよ!!」

 「どうしたんですかラウシェンさん?いきなり?」

 引っ張られるエレンは悲鳴を挙げ、理由が解らないアルマは疑問符を浮かべながら取り敢えず言われた通り進むのであった。

 

 「あ、あはは…」

 後ろに付いていく斗真は只々苦笑するのみである。

 

 

 

 

 ━ロランパーク・ガラクタ市━

 

 ダウヒッチストリートを抜け、先日のsupernovaによるオルケストラが行われた噴水が見える広間に市場のテントが所狭しと建ち並んでいる。

 「到着です!此処がロランパークで定期的に開催される市場、ガラクタ市です!」

 アルマがどうですか?どうですか?と態度で示す様は犬のよう、獅子なのに犬とはこれ如何に?

 きっとドルトガルドの亜人の生徒サルサとも仲良くなれるだろう。

 

 ガラクタ市は広場の噴水から少々距離を空け、展望エリアへ続く道程の途中、整理された芝や草木が生い茂る十字の交差路を囲う様に拡げられている。

 噴水広場手前側から本や花が覗き見える事から本当に色々な物が売られているらしい。

 「凄いな……!ここまで盛り上がっているなんて、確かにこれなら色々面白いモノが見付かるかも………うん?」

 感心の息を吐きながら市場を見回すと見知った緑色の頭を見掛ける。

 

 「もしかして……リネットちゃん?」

 3人から先行して見掛けた人物へ声を掛けると、少女はビックリしたのか身体をビクッとさせた後、顔の眼前に近付けて広げていた本を下げ、恐る恐る声を掛けて来た相手たる斗真に振り向く。

 「と、と、トーマさん?!いえ…先生!!?」

 何やら見られてはいけない場面に出会したのかリネットは矢鱈滅多ら慌てふためき本を後ろ手に腰の辺りに隠す。

 「あー、取り込み中だったかな?なんかゴメンね?」

 言うなれば母親が息子の粗相の最中、ノックも無しに部屋に入って目撃してしまったかのような気分となりゆっくり後ろに下がろうとする斗真。

 「い、いえ!ち…違うんです!!?まさかこんな所で先生と会うなんて私思ってなくてだから違うんです!誤解しないでください!!?」

 顔を真っ赤に染めながら必死に捲し立てるリネットに少々気圧される。

 助けを求めて3人を見れば、ニヤニヤ嫌らしい笑みを浮かべるエレンと、悪ノリして面白そうだからとアルマを足止めしながら同じくニヤける劉玄。

 

 (ちょっとぉぉぉぉお?!)

 心中にて非難混じりの悲鳴を挙げながら天に助けを乞う斗真、それを聞き届けてくれたのか、横合いから別の少女の声が掛かる。

 「もぉ、リッちゃんってば勝手に先に行っちゃダメだってば!」

 ぷりぷりと頬を膨らませながらリネットを批難する小さな背丈に大きな双丘を持つ金髪ツーサイド、ラヴィが腰に手を充てて其処に立っていた。

 「ラヴィさん!?す、すみません…」

 「アシュレイもティアちゃんもロゼちゃんも勝手にどっか行っちゃうしさぁ…って、トーマ先生じゃん!先生も買い物に来たの?ってオジサン達誰?」

 リネットに愚痴を溢しながら斗真、そして彼の後ろに佇む3人に気付き漫画の様な仕草で首を捻るラヴィ。

 「あはは…どうもラヴィちゃん。実はね──」 

 

 

 

 「ふ~ん先生、ガッコーの先生用の寮に住むんだ。ならさ、あたし達と一緒にみんなを探すついでにまわろうよ!」

 ナイスアイディアとばかりに指を鳴らすラヴィ、その思い付きの衝動ままを行動に移す才は正しく十代が若さの特権である。

 「良いんじゃないかね?オジさんも野郎ばかりでむさ苦しいと思ってたし、お嬢ちゃんの好意に甘えようよ斗真ちゃん」

 「陳さん……、あー、それじゃあお言葉に甘えてよろしく。ラヴィちゃんリネットちゃん」

 「やった!これで楽にみんなを探せる~!」

 「ラヴィさんったら…」

 斗真の返事にはしゃぐラヴィと苦笑するリネット、斯くして4人の男と2人の少女はガラクタ市を共に巡る事となった。

 

 噴水広場から数えて正面の本屋、時計屋、グリフィン工房なる工房、対面の店は花屋、スナック菓子専門店、ケーキ店と来て一行は見知った顔を見付ける。

 

 「あれ?メアちゃん?」

 いの一番にラヴィが少女の名を呼ぶ。

 

 「ひゃい?!…あ、ど……どうも」

 ベリー社と銘打たれた店舗のテントにポツンと座るラヴィよりも小さな少女、メアリーベリーが恥ずかしそうに挨拶をする。

 「こんにちはメアリーベリーさん、こんな所で会うなんて奇遇だね?」

 シャンペに続きラトゥーラと共に居た印象的な少女との再会に会釈をする斗真、メアリーベリーはそんな見知った顔、見知らぬ顔の混合集団の視線に晒されてか大慌てで椅子の下から何時も首に架けているボードを取り出す。

 「せ、先生…『久しぶりだな!( ・ω・)ノ』」

 辿々しい肉声の後に自信に満ちた電子音声が続く、何時ものメアリーベリーだ。

 「何とまぁ、面白いお嬢ちゃんだ」

 「確かにユニークなアイテムです!」

 劉玄とアルマはメアリーベリーのベリーボードに関心の目を向けマジマジと少女を眺める。

 「あ…あぅ…ぅ…『そんなに見られると恥ずかしいぜ(///∇///)』」

 「はーん、ナルホド…チビちゃん、ベリー社の関係者だったのか………、!!」

 エレンも自身が護衛を引き受けた人物の友人が名高いマジックアイテムで有名な会社の人間と知って感嘆すると共に何かを思い付く。

 

  「おい小説家、耳貸せ!」

 

 そして何を企んだのやら、斗真の側に近寄り耳打ちを始める。

 「え?何、急に?」

 「アホ、もう少し声を落とせ」

 急な事であった為、つい素で返してしまったら頭をひっぱたかれた。

 

 「お前、デゴスピ貰ったからガトホじゃなくてスマホのまんまだよな?」

 「まぁ…クロエさんもスマホがあるなら大丈夫って言ってたし」

 エレンが改めて小声で会話を振るので此方も合わせる斗真、途中出たデゴスピやガトホやらの単語は恐らくディアゴスピーディーとガトライクフォンの略称だろう。

 さて、エレンの話を要約すると──

 

 1.アルマも劉玄もスマホの知識が無いので、ガトライクフォンと普通に通話が出来ると思っている。

 

 2.そもそも現代なら未だしもこの異世界では電波が飛んでないので普通のスマホの通話機能は使えない。

 

 3.故にクロエもその事を知らずガトライクフォンを渡さなかった為、もしもの場合、斗真に緊急の連絡が取れない。

 

 4.最初はエレンが余ったガトライクフォンか、ガトライクフォンに搭載されたスマホで言う所のSIMカードを入れて無理矢理対応しようとしていた。

 

 5.しかし万が一不備があると困るし不必要にガトライクフォンを減らすと叱られるので悩んでいた。

 

 6.ベリー社はマジックアイテムの大手、そして目の前の少女は個人でボードの様な高性能アイテムを自作出来る非凡な才能の持ち主。

 

 「つまりはお前のスマホをチビちゃんに渡せば、あら不思議!あっという間にこの世界でも自由に通話出来て、ついでにゲームも出来る様になるかもしれないぜ?」

 肩に腕を回したエレンがニヤリと笑う。通話は兎も角ゲームは無理じゃないかと思いつつも、そう言えば結局スマホの件が話せていなかった斗真には渡りに舟な話ではある。

 「確かに、結局スマホに教えて貰ったアドレス?を入れて電話してもそもそもアンテナ立って無かったし、君の言う通り彼女がスマホを此処でも通話出来る様に改造してくれるなら有難いけど……」

 果たして生徒にそんな真似をさせて良いものだろうかと考え込んでしまう。

 「かっ!お前も真面目だな。案外、チビちゃんノリノリでやってくれるかもだぜ?」

 仔細は話終えたと言わんばかりに、声量の大きさを戻して喋るエレン。

 そうこうしている内にラヴィ達は世話話を終えた様で2人に声を掛けてくる。

 「先生ー!次に行こうよー!」

 「ゴメン、ラヴィちゃん!俺はちょっとメアリーベリーさんと話があるからみんなで先に行ってて!」

 「オレも残るわ。コイツのフォローしなきゃならんし」

 斗真がラヴィに手を合わせ謝罪すると横合いからエレンが更に口を出す。

 その物言いにフォローされんのはお前さんじゃないのか?と劉玄は思った。

 そして、いきなり名前を出されたメアリーベリーはメアリーベリーでビクッと震える。

 彼女も往々にして人見知り、引き隠り、コミュ症と言う三拍子が揃った人物である為自身の名が飛び出た事に酷く驚いていた。

 

 「な、なんですか…?!『先生はもしかしてソッチの趣味なのか!?(;゚Д゚)』」

 「うん違うよ?取り敢えず落ち着こう?深呼吸して」

 4人が斗真の意図を汲んで離れたのを見計らってメアリーベリーが口を開くととんでもない事を宣ったので訂正しておく、ついでに彼女に落ち着くように言い聞かせる。

 数度の深呼吸の後、落ち着きを取り戻したメアリーベリーが斗真とエレンを交互に見やる。

 「あの…メア……わたしに何か用ですか?」

 か細くもボードに頼らない真摯な声が斗真の耳に届く。

 「何時も通りの喋り方で良いよ、実はね、メアリーベリーさんに見て欲しいモノがあるんだ」

 対して斗真も彼女を怖がらせない様に優しく語りかける。

 そして取り出したるは自身のスマホ、電源を入れて小さな発明家に渡す。

 「これ……!?『おいおい!?ナンだよこの不思議アイテムは?!!!!(゜ロ゜ノ)ノ』」

 本人からは困惑と好奇心の声、ボードからは驚愕と説明を求む声が飛ぶ。

 「それはスマホ…スマートフォンと言って……簡単に言えば遠く離れた人と会話が出来たり景色とかを残せたり、音楽を聴けたりするツールなんだけどね」

 斗真が簡単にスマホの機能を説明する。

 「スマホ……『先生はこれをどうしたいんだ?(´・ω・`)?』」

 「うーん説明が難しいんだけど……この世界じゃ電話…つまり離れた人と通話する機能が使えなくて……後充電もちょっと厳しいかな」

 概要を聞いたメアリーベリーが自分に何を求めているのかを訊ねると斗真がしどろもどろになりながら、理由を述べる。

 「要はチビちゃんの才能を見込んで、コイツをこの世界でちゃんと使えるようにして欲しいんだよ。そうだな……()()()()()()に頼む。あ、変形機能は要らねぇ」

 エレンが珍しく真っ直ぐメアリーベリーを見詰めながら斗真の言葉を補足して助け舟を出す。

 何より本来秘奥のガトライクフォンまで取り出してだ。

 「コレ…似てる…?!『兄ちゃん何モンだ?(-ω- ?)』」

 「通りすがりの引き隠りだ、憶えなくて良いぞ」

 メアリーベリーからの誰何に何とも締まらない答えを返すエレン。メアリーベリーは暫し考え込む様にブツブツと小さな声で何事か呟くと決心したのか2人を正面から見据える。

 「ま…、任せて、下さい……一週間、ううん……三日で何とか…してみます…!『バリバリだぜ!( ・`д・´)』」

 メアリーベリーとベリーボード、双方の顔がやる気に充ち溢れている。

 「三日、まぁ妥当な所か?」

 「十分過ぎる。もっと時間が掛かっても大丈夫だからね?」

 メアリーベリーの答えにエレンはどうだと斗真に視線を寄越せば、無理をするなと少女を諫める。

 しかし小さな発明家は俄然やる気の様で直ぐにでも作業に取り掛かりたくて仕方がないと言った様子だ。

 

 「ま、これなら大丈夫だろ。さて、オレは帰る……と言いたい所だが、折角のガラクタ市だ何か買ってくとしよう。それに今バックレるとアイツらが煩いしな」

 「ははっ、ならみんなと合流しよう。それじゃメアリーベリーさん、宜しくね?」

 エレンが今帰宅するのと皆で帰宅する状況を想定してリスクが少なそうな方を選ぶと、何だかんだ付き合いが良いなという笑みが出る斗真、最後にメアリーベリーへ労いを掛ける。

 

 「が、頑張り…ます!『ベリー工房の真髄を見せてやる!(>ω<)/』」

 

 少女のその言葉を背中で聞き2人はラヴィ達の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 それから暫くして、ラヴィ、リネット、アルマ、劉玄と合流を終えれば、既にアシュレイが加わっており、一体この生真面目そうな少女が何処に居たのかと訊ねようとすればラヴィが口を開こうとした所をアシュレイが必死に誤魔化して塞ぐという珍事があり、割りと見慣れた凸凹コンビの何時もの喧しいやり取りが繰り広げられ、その一方でリネットが再び本の虫となり、すぐ側の小さな露店の本屋で品を漁っていた。

 

 「これは…!絶版になった魔導書!!こっちは異国の初版本!!?」

 

 目を輝かせて次から次に本を手に取る少女はそこであるモノに気付く。

 

 「………えっ?これって………!」

 

 本とは思えぬ小ささにしかし確かに本であると確信させる存在感。

 コバルトブルーの表紙に何やら少年らしきキャラクターが夜空を飛ぶ様なイラスト、タイトルの文字は英語の綴りで"PeterFantasista"と書かれている。

 それは、そう…正に己の背後でルームメイト達を止めようと四苦八苦する新任教師が持っていた赤い本と同様の【ワンダーライドブック】と呼ばれる物でであった。

 

 To Be Continued…?

 

 

 

─ピーターファンタジスタ─




 前編はピーターファンタジスタが影薄いって?仕方無い、メアリーベリーにスマホを預ける下りはやっておきたかった。
 実際、Twitterで更新された情報にメアがスマホを元に製作したベリパことベリーパッドが登場しましたし…。

 そろそろ宇宙船も最新号発売してくれないかなぁ、セイバーの情報もだけどゼンカイジャーの情報も公式ネット以外でも確認したい。

 キラメイジャーまさかのシンフォギアコラボですよ、しまりんヨロシク目玉が飛び出ました。
 装甲娘戦記、私は好きですよ、あの感じ。
 
 ブルボンの勝負服姿のレースが見れて満足、バカコンビのやり取りはツボりました。
 救いはないんですかbotと化したドトウちゃん、ストーカーと化したライスちゃん、勝負服で手を振ってたタンホイザの雰囲気完全にほわんちゃん。
 史実同様、結局走れなかったオグリパイセンの今週のヤンジャン。
 からのショバスタ、シンガンキャンセルは笑わせて貰いましたよ。

 ではまた次回



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8頁 ガラクタ市のピーターファン 後編

 おはこんばんは!

 後半です!前半より長くなっちゃったよ?!
 反省点は色々ありますが、今回もまたオリジナルのメギドを登場……いや作中、突飛な事になってますけど。
 今回のオリジナルメギドも自前です。メッセージにて戴いたアイディアは後々の展開も考えて登場はまだ少し先になります。
 アイディアをくれた皆様には申し訳ありませんが今暫くお待ち下さい。

 エックスソードマンが先に来るのかぁ、プリミティブドラゴンはその次かな?



 ━マームケステル城門前━

 

 中世建築の城門の前に不似合いなレザージャケット姿の青年が不遜な顔で立つ。

 そのまま街へ足を向け、手を伸ばせばバチッと言う甲高い音と共に肉の焼ける悪臭と煙が上がる。

 

 「成る程……これがヤツの言っていた結界、魔女め忌々しいモノを残してくれた…!」

 

 独り、己に呟く様に語る青年は周囲の人間の訝しげな視線に煩わしさを覚え、門から離れる。

 人気の無い場所へ移り、青年はタイトルも装丁も何もかもが無地の白い小さな本、【ブランクライドブック】を取り出す。

 「ふん、本来であればあの場で暴れても良いんだが……封印のブランクもある。俺が本調子で無かった事に感謝するがいい人間共!」

 誰に言うでも無く独り語ちる青年…メギド魔人レジエルの人間態がブランクライドブックに力を込める。

 「奴の言葉が本当に真実か…俺自らが試してやろう」

 不遜な態度で鼻息を吐きながらブランクの無地をアルターの黒へ変えていく。

 完成したアルターライドブックのタイトルは"ラタ&スク"。

 レジエルは青年の姿のまま城壁の上に飛び乗る。結界に触れるか触れないかギリギリの場所に器用に立ち、右手にアルターライドブックを握り締め、左手で再び結界に触れる。

 

 「ヌゥン!!

 

 左抜き手で結界を貫く。即座に修復しようとする力が働くがレジエルはそれを無視して無理矢理穴を押し広げる。

 

 「ヌゥゥゥゥッアアァッ!

 

 丁度、もう拳1つ入りそうな大きさに広がった所にアルターライドブックを掴む右手を差し込み、指を器用に動かし表紙を開く。

 結界を隔てた側の城壁屋根にアルターライドブックから現れた本が人のカタチを成そうとする。しかし、重なった本は四散し脚を構成した1冊分が残るのみ。

 

 「っ…ちっ!奴が言っていたのは()()()、確かに面倒だな」

 穴からアルターライドブックを握った右手を抜き、結界から左手をも離し焼かれた掌を再生させる。

 そうして彼は邪剣の剣士の言葉を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 「結界…だと?」

 外からの光をカーテンで遮り、蝋燭の光のみで充たされた部屋の中でレジエルはローブの人物に聞き返す。

 「ああ、魔獣を阻み、メギドを拒む。貴殿であっても無理な侵入をすれば只ではすまない……そして、よしんば侵入出来たとして生み出されたメギドは街の半分もワンダーワールドに取り込む事が出来ぬ

 講釈を述べながら部屋の中にある本棚へ歩みを進める。

 「まるで見てきた様に……いや、既に実証済みという訳か」

 せせら笑う様にローブの人物へ返すレジエル。

 目的のモノを探す為であろうフードを外す、ローブの人物のくぐもった声がクリアになる。

 「嘗ての戦いの折…貴殿達が魔獣と共に大暴れしてくれたからな」

 目的の本を見付けたのか、棚から取り出し表紙を軽く拭う。

 「この世界に伝わる魔女と剣士の物語。その原典として記された伝記だ、軽く眼を通すと良い」

 再びフードを被り、本をレジエルが座る机に放り投げる。その言葉に眉をひそめながら言われた通り本を手に取りパラパラと捲る。

 「……………ふん、この世界の人間共は俺達と魔獣を一緒くたにした訳か…」

 「貴殿達がこの世界に現れ暴れていた時、魔獣を利用していただろう。故に貴殿等の存在を知るのは最前線で戦った初代剣士達を除けば暁の魔女のみ……。その著者はメギドを知らぬか、或いは敢えて記さずにいたのか、故にこの世界でメギドを知るのは聖剣の剣士とそれに連なる一族、各国家元首、そして"Ray"だけだ

 フードの人物が最後に口にした聞き覚えのない単語にレジエルは疑問を抱く。

 「レイ?何だそれは」

 「魔女だ。飛びきり優秀な五人の魔女……暁の魔女と聖剣の剣士が御伽噺へと変遷する程時を経た後に現れた、生ける神話、伝説のユニット、至高のオルケストラ。言うなれば英雄と呼べる存在

 レジエルの疑問にフードの人物は"Ray"という存在がどの様なモノなのか答える。

 「魔女…また魔女か、この世界に降り立って真っ先に邪魔をしてくれた存在がまた立ちはだかるか…魔女が……あの女が小癪にもしぶとく抵抗してくれた為に貴様等剣士が我々を追ってこの世界に来たのだと思うと、本当に忌々しい」

 遥か昔に受けた苦渋を思い出し呪詛を吐き捨てるレジエル。

 「初代剣士達か、それに関してはワタシに当たられても困る。それに、ワタシは連中からすれば裏切り者…まぁ、今の剣士達にワタシを知る者がどれ程残っているかは知らぬが…

 

 「それで?ならばそのマームケステルとや、どう攻略する気だ?」

 

 「何、そう難しい事では無い。マームケステル周辺の領地をワンダーワールドに取り込んでしまうのだ。それが巡り巡って、あの街の結界に影響を及ぼす

 

 「ふん…成る程、しかしあの街に拘る理由は何だ?」

 

  「あの街…いや、あの地こそ来訪者──初代、聖剣の剣士達が降り立った地。そして今に至り再び聖剣の集う地。それ故に目次録へと至る扉を開くに適している

 ローブの人物が腕を広げ大仰に語る。レジエルは得心し難いものの、理屈は理解したとばかりに頷く。

 「良いだろう。計画の為にも貴様の指示にある程度は従おう。が、果たして結界とやらが本当にそれ程の力があるのか、己が目で確かめない事にはな」

 

 「それで貴殿が納得すると言うなら…好きにすると良い。ワタシは精々貴殿のお手並みを拝見するとしよう

 

 「その言葉、忘れるなよ?もし件の街を俺が陥落させた暁にはそれ以降の計画は俺に主導させて貰う」

 ローブの人物の言葉に言質は取ったと立ち上がり、部屋を後にするレジエル。

 独り、暗澹たる部屋に残ったローブの人物は呟く。

 

  「エリザ……君はワタシが…

 万感の想いを込めたその声は誰に届くでも無く霧散した──

 

 

 

 

 

 

 

 マームケステルに来る直前に交わしたやり取りを思い返しながらレジエルは結界の内にポツンと残った本を見詰める。

 レジエルは知らぬ事だが、先日、マームケステルではsupernovaによるオルケストラの影響で結界の強度が上がっている。そしてフードの人物はそれを知っていながら敢えて黙っていたのだ。

 「チッ…認めたくは無いが、カリバーの言っていた事は事実のようだな。覚醒めて間もないとは言え、小さな穴一つ空けるだけでここまで疲弊しようとは……」

 結界越しに街を眺めながら傲慢な顔を不服そうに歪めるレジエル。その時、結界側の城壁の屋根に放置された本が動き出し、小さな靄の様な姿を作り出す。

 

 「何……?」

 

 カタカタと震えた後、小さな靄は栗鼠に竜の様な特徴を加えた姿となる。

 「小さい……不完全ながら顕現したのか?だがワンダーワールドへと至る異界が開かない。これでは使い物にならん」

 本来であれば人間大であって然るべき魔人が小動物同然の姿ではワンダーワールドに繋がる異界に変化させる事は出来ない。

 これは、外から無理矢理結界に干渉してアルターライドブックを開いた為とレジエルはローブの人物からの言葉と併せてそう結論付ける。

 事実、ローブの人物がマームケステル内でアラクネメギドを召喚した際も、異界となったのは街の5分の1程度であった。

 内側でこの結果なのだ、外からの干渉ではよりメギド自身も弱体化するのは道理である。

 「……面白く無い、しかし癪ではあるが、今はカリバーの策に従う他あるまい………」

 眼前のメギドとも言えぬ小さな姿の異形に見切りを付け、城壁から飛び降り、マームケステルを後にするレジエル。

 主の命なき出来損ないの怪物はマームケステルという名の脱出出来ぬ檻に閉じ込められ、果たす使命も無いままロランパークの方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ロランパーク・ガラクタ市━

 

 斗真のフローラ女学院教師就任に際し、寮生活に必用なモノを安く買う為、ガラクタ市へと来た斗真含む4人の剣士。

 彼等は其所で特別クラスの生徒、リネットとラヴィに遭遇し、ラヴィの案で他のメンバー…ティアラ、ロゼッタ、アシュレイを捜索するついでに共にガラクタ市を巡る事となる。

 途中、出店の中で見付けたマジックアイテムの大手ベリー社のテントにて遭遇した、これまた特別クラスの生徒──メアリーベリーにエレンの後押しを受け自らのスマホを預け、この世界でも使用出来る様にと頼み込む。

 そして先に行ったラヴィ達をエレンと共に追えば、アシュレイが合流しており、ラヴィと口論を激しく交わしたかと思えば取っ組み合いに発展していたのだった。

 

 「だーかーらー!なんでリッちゃんを探しに行ってアシュレイがヌイグルミに夢中になってるのさ!」

 

 「む、夢中になどなっていない!ただ、ちょっと…本の少し…気になっただけだ!!」

 

 互いの手を組み、腕押しの状態になっている2人。

 アシュレイの方が背が高いので若干押している様にも見える。

 そして2人が姦しく騒げば当然周囲の衆人環視の注目を集める訳で、斗真は他人様の迷惑にこれ以上発展しないよう2人の諍いを止めに入る。

 因みに同行者3名の内2名は面白がって暫く止める気は無い。

 アルマは面白がってこそいないが、取り敢えず斗真に期待し一任する気らしい。

 

 「二人共、その辺に…!他の人達も見てるから!」

 果たして異世界でセクハラの概念があるか怪しいが、来訪者が多く存在する世界なので法は兎も角、言葉くらいはあるのかもしれない。

 そうでなくても年頃の娘さん2人に不用意に触れるのはどんなものかと思う斗真は取り敢えず、一先ずは言葉で諭そうとラヴィとアシュレイの取っ組み合いの最中に近付く。

 一応、2人の友人であるリネットの方へ視線をチラリと寄越せば、何時の間にか本に夢中で此方の事は目に入っていない。

 助力は望めない、なので新任教師は独力でどうにかするしかないのだ。

 「先生はどう思う!!?」

 「え?いや、まぁアシュレイさんも悪気があった訳ではないし…」

 「教官……!教官もこう仰っている、お前ももう少し寛大になれ」

 我が意を得たり、斗真の言葉により意気揚々となるアシュレイ。

 ラヴィはぐぬぬと歯軋りする。

 「で、でもラヴィちゃんがお冠になるのも分かるよ?アシュレイさんも少しは節度を持たないと……」

 「そ…それは確かに……」

 「ほらぁ!先生だってこう言ってるじゃん!せっとーを持てー!」

 とは言えラヴィの言い分も理解出来るのでアシュレイにも忠告すると、流石に罪悪感があるのか尻すぼみになる純紫のポニーテール。それを好機と見た金髪ツーサイドはここぞとばかりにアシュレイを責める。因みに本人的には節度と言いたかったのだろうがおバカな頭ではこれが限界である。

 なるべく角を立てぬ様に互いの顔を立てつつ諌めればどちらかがマウントを取るので結局取っ組み合いが再開するのだ。

 

 「くくっ……斗真ちゃんもこれから大へ……ん?」

 

 他人事目線で微笑ましく見守っていた劉玄が何かに気付く。

 

 「あ、あの…先生!こ…「斗真ちゃん、アルマ、後エレン!」あぅ…」

 

 本に夢中になっていたリネットが何かを見付け斗真に声を掛けようとしたタイミングで劉玄から剣士達に声を荒げて呼ぶ。少女の声は剛剣の騎士の轟声に掻き消されてしまう。

 

 「何だよオッサン、声デケェ!」

 「何事ですか?!」

 「陳さん?」

 

 3人が劉玄に視線を向ける。当人は周囲の観衆に道を空けるように謝罪しながら大地に耳を付ける。

 「足音…小さい……小動物?だがこの気配……かなりか細いが…メギド…こっちに近づいてる…?」

 そのまま大地に伏せた状態でブツブツと声を溢す。

 「場所は……あっちか!みんな着いてこい!」

 見当を付けた方向に顔を上げ巨体が駆け出す、同輩に後を追うように指示し劉玄は人波を割っていく。

 

 「……今、メギドって」

 「言ったな、普通はありえねぇが」

 「ですが、以前この街にメギドが出現しました。それは少なくともメギドに協力している人間が居ると言う事です」

 剣士達が互いに顔を合わせ頷けば3人も先行した巨体を追う為に駆け出す。

 「ごめん!ラヴィちゃんリネットちゃん、アシュレイさん!ちょっと急用が出来た!人探し協力出来なくてごめんね!!」

 「一先ず此処から離れて下さい!危険かもしれません!」

 「ついでだ、見掛けたら連れてきてやるから嬢ちゃん達は逃げとけ!………よく考えたらオレ要らなくね?」

 最後にエレンが一応フォローのつもりで、残るティアラとロゼッタを見付けた際、連れて来る事を公言し、ふとそこで自分が行かなくても既に劉玄と斗真、アルマと3人も剣士が現場に向かっているのだから自分は必要無いのではと思い足を緩めるも、即座にアルマから手が延び引き摺られて行った。

 

 

 

 

 「行ってしまったな……どうしたリネット?」

 アシュレイがポカンとした顔で男達を見送って呆然としていると、リネットが隣で所在なさげに手を中途半端に上げた手を引っ込めるのに気付く。

 「あ…その……実は…」

 アシュレイの問い掛けにリネットはすぐ側の小さな本屋の露店から何時の間にか購入していた小さな本ワンダーライドブック【ピーターファンタジスタ】を握っていた。

 「何それ?ってか先生達、ドコに行ったんだろ?」

 ラヴィはリネットが持つ覚えの無い本に目をパチクリと瞬きさせ、消えた彼等の行方を見る。

 「多分ですけど……戦いに向かったんだと、思います…」

 斗真と共にワンダーワールドに取り込まれた経験からリネットが心当りを口にする。

 「何?どういう事だ!?」

 「……私、先生達の後を追います!きっとこの本が必要になると思うんです!」

 言うが早いや、リネットは見えなくなった彼等を追い掛け始める。

 「えっ!?ちょ、リッちゃーーーーん」

 「リネットのヤツ、えらく真剣だったが……まさか本当に…?」

 ラヴィの静止も聞かず拙く走り去るリネットにアシュレイはまさかと思案する。

 「何やってんのさアシュレイ!リッちゃんを追わなきゃ!!」

 しかし思考に没頭しようとした彼女をラヴィが足踏みしながら妨害しリネットを指差す。

 「あ、ああ…そうだな!待てリネット!私達も行くぞ!」

 ラヴィと合わせ慌ててリネットの後を追うアシュレイ、紫のポニーテールと金のロップイヤーが風を切る。

 

 

 

 

 

 「はひぃ……はひぃ……ひぃ…」

 

 「リネット……」

 

 「リッちゃん…イノイチバンに駆けてったのに……」

 

 元々体力が無いリネットは数分としない内に人の波に揉まれ体力切れでバテていた。

 逆に運動の得意な2人にあっさり追い付かれ追い越されている有り様である。

 途もあれ、3人は元気にガラクタ市の道が交差する十字の中央に差し掛かると展望エリア側に向かう道辺りにガタイの良い長身を見掛ける。よく見ると紅い髪と蒼い髪の少女も居る。

 

 「さっきのオジサン!それにティアちゃん、ロゼちゃん!ってことはアソコに先生もいる!」

 ピョンピョン跳ねながら目立つ長身を見付けたラヴィが声を挙げる。

 「まさかティアラ達も見つかるとは、兎に角急ぐぞ!」

 「おー!いっせーにちょーだー!」

 アシュレイが音頭を取るとラヴィが同調しリネットの手を取る。因みに一石二鳥だ。

 

 

 

 

 

 そして件の斗真達は──

 

 「本当にメギドなのかよ?」

 植物を販売する大規模の露店のテントと対岸に花瓶や壺等の陶器類、ランプや照明等の灯火商品を販売するテントの間に他者の注目を集めながらエレンはその視線を鬱陶しそうにしながら劉玄に訊ねる。

 「う~ん実は…良く判らんのよ、大地から伝わる震動に人間とも普通の動物とも違う邪気を含んだナニかをかんじたんだけどね……どうにも気配…というか存在が小さいと言うか虚ろと言うか……」

 エレンに問われた劉玄は顎に手を充て首を捻る。

 

 「陳さん…あんな事言ってるけど……実際どうなの?」

 片や斗真はアルマに劉玄の感じた気配とやらの是否、正確性を訊ねている。

 「大地の聖剣に選ばれたのは伊達じゃありません。ラウシェンさんはリュウトでの修行により大地の気から伝わる震動を頼りに邪なモノを感知出来るそうです。ましてマームケステルは結界によって魔獣やメギドを阻みますから、もし侵入したと言うなら信憑性は高いです」

 自分が知る大先輩の技能を斗真に語るアルマ。

 蒼い騎士は邪なモノを感知すると語ったが、正確には人間以外の邪なモノを感知出来るが正しい。

 「いや…オッサンのは修行の成果ってより剣を──」

 「コラコラ、折角信じてくれてる純粋な若人の夢を壊しなさんな!」

 「マジで騙してんのかよ、クソだなオッサン」

 「騙してるとは失礼な、感知出来てるのは事実よ?まぁそれもこれもリュウトの聖剣が()()()()()()()()()()()()

 等と語り合っていると横合いで困惑しているロゼッタが口火を開く。

 「あの…一体何があったんですか?」

 ティアラの左手をしっかり握りながら空いた自身の開くを胸に置き、不安を押し込め青年達に何が起きているのかを訊ねる。

 その時である──

 

 「な、なんだぁ!!?」

 植物を販売しているテントから店員の声が挙がり、皆揃って其方へ注目が行く。

 其所では何やら小さな影が右へ左へ、商品棚の上に載ったかと思えば、人の足下をスルスルと駆け抜けている。

 

 「っ!あれだ!!?

 劉玄が再び声を挙げる。

 すかさずアルマが流水を抜き小さな影に斬り掛かる。

 「ぜあっ!」

 しかし影はその小さな体躯を活かしスルリと躱すではないか。

 「ちょ!?アルマくん!?」

 問答無用に抜刀し正体不明の影に斬り掛かったアルマに斗真は目が飛び出さんばかりに驚く。

 「っチッ、あのバカ…あんだけオレに講釈たれといて自分はいざとなったら容赦無しかよ!しゃあねぇ!」

 そう言って悪態を吐くエレンが手元から取り出したのは黄金の本。

 

 

『ランプドアランジーナ』

 

 ライドスペルが本のタイトルを告げる。

 

 「こういう使い方は想定してないが……ま、出来んだろ、ランプの魔神なら」

 表紙を指で弾き開く。

 

 

『とある異国の地に伝わる──「今はそういうのはいい!」

 

 開かれた途端読み上げられるランプドアランジーナの概要のライドスペルを無残に切って捨てるエレン、その言葉を聞き届けたのか不承不承ながら宙を舞う絨毯と黄金のランプが飛び出す。

 絨毯に乗ったランプが金色の煙は吐き出しながら周辺の人を遠ざける。

 「わっぷっ!?」

 「何も見えませんーーー?!」

 「ええい!小癪な!」

 しかし、ティアラとロゼッタだけはその場に留まり、果ては斗真達を追い掛けて来たラヴィ、アシュレイ、リネットまでもが新たに乱入する。

 「あぁっんん?!なんで嬢ちゃん達が残ってやがる?!あー、もう面倒クセェ!後は任せた小説家!真面目ちゃん!オッサン!」

 考えても理由が解らないので丸投げして3人に託したエレンは不貞腐れてランプドアランジーナを仕舞う。

 

 「エレン!貴方も戦うんです!」

 

 「知るか!剣は持ってきてねぇんだよ!オレはオッサンとは違うの!!ってかオッサンも持ってはいないだろうが!!!」

 

 「なっ!?剣士たるもの常如何なる時も聖剣を身に付けておくものですよ!と言うか、ラウシェンさんも持ってないとはどういう事ですか!!?」

 

 「ゴメンねぇ、オジさん基本引退する心積りだから…」

 

 「オレはお前らにムリヤリ引っ張られて来たヒッキーだぞ!そんな状況で持ってる訳ねぇだろうが!オッサンはアレすりゃ戦えんだろうが!!

 

 アルマの抗議にエレンがまさかの答えを返したので剣士の心得を説き、この場の最年長すら聖剣を持ち合わせていない事を嘆く。

 対し当人達は其々、引退と引き隠りを理由に不可抗力だと返す。

 

 「兎に角オジさんも加勢はムリかな。素早い上に小さいんじゃオジさんは邪魔でしょ?取り敢えず斗真ちゃんとアルマのサポートはするから頑張って!」

 

 敵の特殊な状態も相まって、劉玄は徹底して居場所の探知なりに精力する心算で戦線に加わる事を辞退する。

 

 「くっ…仕方ありません!トーマさん!」

 

 「ああ、うん、取り敢えず俺達が何とかしよう!」

 

 生徒の手前もお構い無しに斗真とアルマは腰にソードライバーを充て、其々のワンダーライドブックを取り出し、そのまま挿入し叫ぶ。

 

 

「「変身!!」」

 

 

『ブレェイブドラッゴォォォン!』

 

 

 

『ライオンッ戦記ィ!』

 

 ライドスペル省略での変身にて即座に姿を赤と青の仮面の剣士へと変える2人。

 当然、それを目撃した5人の少女は瞠目する。

 

 「えっ?!えっ!?先生が真っ赤っか仮面になっちゃったよ!?」

 

 「もう一人は青い…あれは剣士か?!」

 

 「やっぱり…あの時の事、幻なんかじゃなかったんだ……」

 

 「もしかしてお伽噺の伝説に出てくる仮面の剣士なの?!」

 

 「先生だけじゃなかったんですね…!」

 

 ラヴィが頓珍漢な事を口走り、アシュレイは初めて見る仮面の剣士の姿に興奮気味になり、ティアラはあの時ワンダーワールドに飛ばされた事が夢幻でなかった事実を噛み締め、ロゼッタは混乱する頭で物語の空想が現実であった事に驚きを顕にしている。

 そしてリネットはもう1人、仮面の剣士が居た事に驚愕していた。

 

 「変身したは良いけど…!相手が小さい上にすばしっこいから結局、やりずらい!!」

 斗真は烈火を振り回しながらもなるべく商品に気を遣い、思うように戦えない事を歯噛みする。

 「それも理由としてはありますが、そもそもこんなメギドは見た事が無いです!」

 アルマも同様に苦戦している様だ。

 

 「斗真ちゃん、アルマ!落ち着け!まずは進路を限定するんだ!」

 劉玄が檄を飛ばす。

 「っても小さすぎだろ。おい、嬢ちゃん達の誰か何か都合良く捕まえられるような魔法無いか?」

 見かねたエレンが少女達に助力を乞う。

 「えっ!?そんなのいきなり言われても…」

 ラヴィが答えにどもる。

 「ま、任せて下さい!」

 しかしリネットが腰に下げた革張りのポーチから魔導書を取り出してページをパラパラ捲る。

 「…!ありました!これなら……!!」

 魔導書を掲げ、そこに記された呪文を唱える。

 

 「我はイザベルの子、73番目の物語…彼の者に束縛を!

 

 リネットが呪文を唱え終えると本に魔方陣が表れ、方陣から飛び出した光が網目状の檻となってセイバーとブレイズに追われ追い詰められている影を捉え閉じ込める。

 「やった!」

 まさかの成功にリネットは思わずガッツポーズして喜ぶ。

 「ヒュ~♪やるじゃん本屋ちゃん」

 「まっさか、お嬢ちゃん達に助けられるとはねぇ」

 エレンと劉玄が感心したように言葉を洩らす。

 「さて、メギドらしいけど…一体どんな姿なんだ?」

 「ご拝見と致しましょう」

 セイバーとブレイズはバックルに各々の聖剣を納刀し檻に閉じ込められた影の正体を見極める為近付く。

 

 「これは!?」

 「なんと!!?」

 2人の剣士の驚嘆の声が木霊する。

 「なんだぁ?どうしたってんだよ……ハッ、マジか!?ひ…ひ、ヒャヒャヒャヒャ!!こりゃ傑作だ!」

 「うん?何だったんだい?この妙に小さい邪気の正体……はー、こりゃ小さい訳だ…!」

 そんな2人の間に割って入るエレンと劉玄、エレンはその正体がツボに入ったのか馬鹿の様に笑い転げ、劉玄は違和感の正体に納得する。

 少女達も何故、エレンが笑っているのかが分からず、恐る恐る4人の周りに近付き、光の檻に目を向ける。

 

 「え……可愛い!」

 ラヴィが思わず呟いた。

 檻の中に囚われた影の正体は栗鼠らしき小動物。但し、竜の角らしき部位と鱗、爪が生えている。

 栗鼠はキィキィ啼き喚きながら檻を掴んではチョロチョロと動いている。

 

 「うーん…これは……彼女達の手前、斬りずらいなぁ」

 仮面の口許をポリポリ掻きながらセイバーは困ったように唸る。

 「見た目に騙されてはいけません!どんな姿であろうとメギドはメギドです!放って置く事は出来ません!」

 アルマは厳しく叱責し檻の中の栗鼠竜を警戒する。

 「つっても、檻に閉じ込めたは良いが、結構スペースあんのかチョロくさ動き回ってんな。これ下手に斬ったらそっから逃げ出さね?」

 エレンは檻の中を駆け回ったり唸ったりしている栗鼠竜を観察しながら懸念を呟く。

 「確かに。こういう時に奴さんがマームケステルに居てくれたら楽なんだが……」

 劉玄が何某かの人物を頭に思い描きながら腕を組む。

 「なんの!モノは試しです!トーマさん!」

 「え、あ、うん」

 セイバーに声を掛け、共々檻に近付くブレイズ、何事かを指示し、セイバーと共にしゃがむと檻の隙間から剣を黒ひげよろしく突き刺し始める。

 

 「えいっ!」 「とりゃ!」 「なんの!」 「こなくそ!」 「finish!」 「喰らえ!」

 

 互いに隙間から刺しては引いて、刺しては引いてを繰り返すが、栗鼠竜は器用に凡て躱してしまう。

 

 「うーん何か手は無いもんかね?」

 劉玄が間抜けな絵面を眺めながら考えていると隣から視線を感じる。

 「うん?何か用かなリネットお嬢ちゃん?」

 視線の主はリネット。彼女はおずおずと劉玄に自らの手に握ったとあるモノを差し出す。

 「あの…先生達が姿を変えた衝撃で忘れてたんですが……これ、使えませんでしょうか…?」

 「こいつぁ…!?お嬢ちゃん!コレを何処で!!?」

 目にしたモノの正体に驚き、筋肉質な腕でリネットの肩をガッシリ掴む劉玄。

 「ひっ!?……あ、あの……痛いです、離して…

 いきなり眼前にドアップする厳つい顔に怯えすくむリネット、一瞬少女が何に怯えたのか解らず考えるも即座に己の事かと理解して手を離す。

 「スマンスマン、恐がらせた様で申し訳ないのよ、しかしリネットお嬢ちゃんが持ってんのは確かにオジさん達にとっては重要なモノだよ」

 「やっぱり…そうなんですね」

 ピーターファンタジスタを持った手ともう一方の手を豊かな胸の前で重ね何事かを思うリネット。

 「でしたらコレをお返しします。先生達のお力になるんですよね!?」

 再びワンダーライドブックを差し出した彼女、その顔を見てエレンが口を開く。

 「別にオレらに渡さなくても、あそこで間抜けしてる小説家達に投げ渡せば良いだろ?」

 

 「えっ?!で、でも私…運動には自信が無くて……」

 

 「大丈夫、オジさん達はみんな鍛えてるから!あっちで何とか受け止めるさ!斗真ちゃんは知らんけど

 

 聖剣の剣士は常人よりも身体能力が高い、だから下手くそに投げても大丈夫と少女に言い聞かせる劉玄。と言っても斗真は他の剣士と違い何の備えも無く剣士になったので劉玄は小さな声で保証しかねると予防線を張った。

 

 「分かりました!先生ーーー!受け取ってくださいっ!!」

 

 えいっ!と可愛らしい声からセイバーに向かって投げられるコバルトブルーのワンダーライドブック。

 ブレイズが小さなメギドにムキになっている傍らでどうしたものかと思案していた紅き剣士が宙を舞うソレに気付きキャッチする。

 

 「コレは…?」

 投げ渡された新たなワンダーライドブックに困惑を顕にするセイバー、ブレイズに声を掛け用途を訊ねようとした所、エレンが声を飛ばして来る。

 

 「小説家!ソレをお前から見てバックルのスロットの左に差し込んで抜刀しろ!!」

 「あ!おい!?エレン!!?何言っちゃってんのよ?!アレはアルマに──「分かった!」あちゃぁ…」

 エレンの悪巧みに劉玄が慌てて止めに入るが、既に斗真は行動に移していた。

 

 

『ピーターファンタジスタ』

 

 ワンダーライドブックの表紙【ガードバインディング】からタイトルが読み上げられらる。

 表紙が開かれ中に描かれていた画は先鋭的なタッチの対面する妖精の少年と鉤爪の海賊。

 

 

『とある大人にならない少年が繰り広げる夢と希望のストーリー』

 

 「こいつを…左のスロットに…!」

 

 烈火を納刀し、ガードバインディングを再び閉じたピーターファンタジスタをレフトシェルフに装填する。

 

 「それで……抜刀する!!」

 

 

『烈火…抜刀!』

 

 その声と共にセイバーの背後にビジョンとしてブレイブドラゴンとピーターファンタジスタのワンダーライドブックが現れ、ページが捲られる。

 

 

『二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る』

 

『ワンダーライダー!!』

 

『ドラゴン!ピーターファン!』

 

『二つの属性を備えし刃が研ぎ澄まされる!』

 

 セイバーの左側にワンダーライドブック同様、肩が妖精の羽と少年の顔を模したコバルトブルー装甲に、腕も同様の色となり、籠手の装甲には吊り鐘のフックが追加される。

 バックルのライドブックに描かれた画は竜の籠手を強調する仮面のシルエットと直線に伸びたフックが付いた肩から籠手にかけてののシルエット。

 その姿の名は仮面ライダーセイバードラゴンピーター。

 

 「姿が変わった?!」

 セイバーが新たな己の変化に驚く。

 

 「うそん…!」

 「はっはっー!マジで成功させやがった!しかも割りと平然そうにしてやがる!?あいつスゲエな!」

 劉玄とエレンはワンダーコンボとなったセイバーに驚愕と歓喜を溢す。

 

 「また変わったぁー!!?」

 「赤に白を挟んで青か……」

 「お伽噺の本にも仮面の剣士にこんな力があるなんて載って無かったです」

 「リネットが言うなら確かね……でもまさか先生が…!」

 「どんな力なんだろう……」

 5人の少女も新たな姿となったセイバーに瞠目する。

 

 「えっ!?と、トーマさん?!!何時の間にワンダーコンボをっ!!?え?と言うか平気なんですか!!?」

 遅れてブレイズもセイバーの変化に気付き、その身を案じる。

 「うん?まぁ、平気かな?特に身体が重いとかは無いね、それじゃ決めようか!」

 ケロッとした声音で答え、バックルのピーターファンタジスタの開かれたページをタップする。

 

 

『ピーターファンタジスタ!』

 

 左腕の鉤爪【キャプチャーフック】が同じく左腕から出現した光の玉に引き伸ばされて魔法の檻の中に侵入、栗鼠竜をグルグル巻きに拘束する。

 「なるほど……こうなるのか、なら!」

 技の結果を確認し、ならばと3度納刀、烈火のグリップのトリガーを押し引き抜く。

 

 

『必殺読破!烈火抜刀!ドラゴン!ピーターファン!二冊斬り!ファ・ファ・ファイヤー!!』

 

 キャプチャーフックから妖精が離れ、檻の周りを一周したかと思えば、光の檻が壊れること無く球状に変化、宙に浮きキャプチャーフックがリールを巻くかの如く巻き戻る。

 勿論、栗鼠竜のメギドを拘束したままでだ。

 「これでお仕舞いってね!」

 閉じ込められた上に動けぬ小さなメギドを待ち受け烈火に炎を纏わせ掬い上げる様に斬る。

 檻は断ち斬られ、キャプチャーフックに捕らわれたメギドは小さな断末魔と共に両断され燃えて灰となった。

 

 「う~ん…やっぱりちょっと可哀想だったかな?」

 

 剣を軽く振るいながら、栗鼠竜メギドであったモノが存在した焼け跡を見てセイバー──斗真は呟いた。

 

 

 「はぇ~、すんっごい」

 「あぁ……ちょっとで良いから抱いてみたかった…」

 ラヴィが感心した様に呟き、アシュレイは栗鼠竜メギドを抱けなかった事を苦心していた。

 

 「先生…いえトーマさんの急な教師就任の理由って、もしかして……」

 「理事長は先生が剣士だと知ってる?」

 ロゼッタとティアラは斗真が教師に任じられた理由に思いを巡らせる。

 

 「…………!」

 リネットは1人、込み上がる高揚と感動に目を光らせていた。

 

 

 ──この時の私達は目の前で起きた事に只々、驚き、興奮するだけでした……いえ、私達ではなく"私"…がです。"私が見付けた本が先生の力になった"そんな物語みたいな出来事に有頂天になっていたのです。

 それが先生を益々戦いに臨ませる事のキッカケになるなんて、この当時は思ってもみなかったから──

 

 

 TO BE Continued──

 




 次回にワンダーライドブックが記載されてないのは、恐らく出番が無い為です。
 
 はい、遂にエレンが何の聖剣なのか判明しました。
 何故、あの剣になったのか……それはフィレンツェと言う国名と出身の2人の名前の感じから、ドルトガルドよりはフィレンツェかなぁと思いまして、ならエレンのフルネームの苗字には連想させる鳴美の字を入れよう、となりまして!
 後、今回のライドブックから出したランプは、ほらアレです、賢人くん初登場時に空飛ぶ絨毯に乗ってたし、なら魔神のランプも出せるんじゃないかなぁと思いまして…ええ、はい。

 ではまた次回で!


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9頁 球技

 おはすみなさい!
 毎度の事ではございますが執筆、投稿が遅くて申し訳ありません。
 
 ええ、はい…今回もまた分割です。
 Sadistic★CandyとIV KLOREで出番を分けました、そうしないと前の話より長くなるので。
 一応、途中でIV KLOREとドルトガルドの聖剣の剣士に触れていますが、そこで初めて剣士の名前と特殊な事情が明かされたりしてますが、お気に為さらず。

 サブタイトルに関しては、ニコニコで見てた平成の歴史の始まりに感化されたとだけ…。



 ──バンプボール、それは私達の間ではごく当たり前の球技。でも先生達の世界にも似たような、でも微妙に違う競技があるそうです。そう言えばフィレンツェの聖剣の剣士さんはこのバンプボールを知っておかしな事を口走ったそうです。一体何を仰ったんでしょうか?──

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・教員棟職員寮━

 

 ガラクタ市での騒動からはや数日。戦闘と呼べるかも解らない出来事の後、居合わせた少女達から色々と詰め寄られ根掘歯堀質問責めにあった斗真であるが、劉玄の口添えとアルマの尊い犠牲もあり、何とか必用最低限のモノを購入する事が出来た。

 途中、エレンがゲームを販売する店舗のテント前でルージュの小柄な生徒と珍しく楽しげに……否、あれは愉しげと表すべき顔で話していたのは印象深い。

 

 「それはそれとして部屋に入るなり寛がれるとは思わなかったけど……」

 

 予め部屋に備えられていた事務処理を行う趣の深い机とセットであったそこそこ豪奢な椅子に腰掛けながら斗真は眼前の2人の姿に呆れる。

 

 「堅いこと言うなよ、同類だろ?」

 「おー、そーだそーだ。ついでにワタシもモテなせー」

 

 持ち込んだ折り畳み式チェアへ凭れるエレンと共に斗真へ指図めいた事を口走っているのは、特別クラスルージュランクのルキフェル。

 斗真の部屋のソファに平然と腰掛けながら不敵な顔で無遠慮に宣う。

 彼女は同じく特別クラスに所属するアンジェリカと共に、デュオオルケストラユニット【Sadistic★Candy 】の1人である。

 どうも数日前のガラクタ市での騒動を見ていたらしい。

 曰く、適当にフラついてゲームでも見繕って帰ろうかと思ったら奥の方で騒ぎが起きて興味本位で近付けば黄金の煙が充満し、五里霧中、視界不良の中何とか反響する音を頼りに出所の大きな方向へ向かえば…其所に居たのはクラスメートと()()()()姿()()()()()()()姿()()()()()()()()

 己の欲求に素直で怠惰な彼女はその剣士の片方の正体がつい最近自分達のクラスの担任教師となった男──つまりは斗真である事を知る。

 更に彼女はこの学院に入学して以降、ある時ラトゥーラの留学に伴って帯同して来たエレンと知り合い、意気投合。

 何時ものように授業をサボタージュした彼女は珍しく自室から出てきたエレンを見掛け、行先を知り、ならばと己も便乗したのである。

 

 「うーん、まさか見られてたなんて……兎も角、もてなすかはさて置き、生徒と親交を深めるのは悪い事じゃ無いかな。でもルキフェルさんはあんまり仮面の剣士について騒がないんだね?」

 経緯は兎も角、生徒と意志疎通は大事と思い会話の取っ掛かりとして自分達のもう1つの顔について訊ねる。

 「ハンッ!ワタシの保護者ヅラをするヤツが貴様らと同類なのさ先生」

 とても偉そうにソファにふんぞり返るルキフェル、小さな暴君は斗真の問いに鼻で笑いながら答える。

 

 「保護者?それに同類って……」

 

 「ルキが言ってんのはムッツリの事だな、アイツは生まれは真面目ちゃんやストーカーと同じでこの世界だし、色々あってまぁ…このちっこいのの面倒見てるというか監視と言うか……コイツの相方とは別ベクトルでな。まぁその話題の当人は今留守にしてるワケだ。監視してねーじゃんってのはナシな」

 

 「誰がチビっ子か!?」

 

 斗真が新たな疑問に傾げればエレンが持ち込んだチェアを器用に傾けながら軽い解説を始め、ルキフェルがすかさずチビと言う言葉に対して不機嫌を顕にする。

 「相方と比べてもチビじゃねぇか」

 「ほう……久しぶりに痛い目を見るか?」

 

 「喧嘩は外でお願いします」

 

 大人気ないエレンの物言いにルキフェルが剣呑な雰囲気を醸し出し空中に見えない火花が散る。

 部屋の主としては新生活早々、部屋を荒らされたくはない。

 

 「冗談だ、本気にするな先生」

 

 「そうだぞ小説家。喧嘩一歩手前までの流れが御約束ってヤツだ」

 途端にケロッと態度を返す2人。

 

 「止めてくれ…心臓に悪い。後ホントに帰って……」

 切実に願う、心からの声。しかし2人は取り合うつもりは無いらしい。

 斗真の目の前でルキフェルが持ち込んだボードゲームに興じながら会話を続ける。

 

 「先生を見て思い出したが…明日は久しぶりに授業に出るぞ」

 「ほーん?珍しい…。いつもサボってるお前がどういう風の吹き回しだ?」

 

 (サボってるのか……と言うか帰って…。ゲームは自室でして下さい!後…保護者の人速く帰って来て!!)

 言っても聞かないので心中で吐露するのみに留める斗真であった。

 

 「まぁアンジェリカのヤツがうるさいからな。それに偶には点数を稼いでおかないと理事長にも口煩く言われるかもしれん」

 「ほーん。で、明日どんな授業があるわけ先生よぉ?」

 からかう様な口調で死んだ目を此方に向けてくるエレン。正直ハイライトの無さが怖いので何とかして欲しい。

 「え~っと……明日の授業だと実技だから俺の仕事は特に無いなぁ」

 スケジュールを記入したメモを捲りながら質問に返答する。

 するとエレンはルキフェルの方へ視線を移す。

 「ふっ…気になるのか?」

 「そりゃサボり魔が出たがるモンなら気になるだろ?」

 ルキフェルの挑発めいた言葉にも乗らず至極当然とばかりに返すエレン。

 「チッ、つまらん。…バンプボール、そのリーグ戦だ」

 挑発に乗ればゲームが自分に有利になると目論んだルキフェルだがアテを外され舌打ちを打つ。

 暫し自身の前髪の黄色く変色した毛先を弄った後、ポツリと溢す。

 「バンプボール…?」

 もう何度目かになる聞き覚えの無い単語に当然斗真は首を捻り、エレンはその名前を聞いた瞬間考え込む。

 「バンプボール……バンプボール…ああ、あの超エキサイティンンン!!無差別ドッジボールか」

 思考の海から帰ってきたエレンが述べた言葉に斗真は思わず声を荒げる。

 

 「いやそれ、昔のオモチャのCMのヤツ!!って言うかドッジボールが無差別ってどう言う事ぉぉおおお!?!!?

 

 「煩いぞ小説家。いきなり大声を出すな」

 

 「ふーん、先生達が居た世界には中々愉快なオモチャがあるんだな。後、うるさい」

 2人から揃ってうるさいと叱られる斗真。己の部屋だと言うのに理不尽である。

 結局、その日は2人の珍客のゲームに浪費されバンプボールの詳細も訊けず、気付いた時には2人共に居なくなっており有耶無耶な気持ちを抱えたまま1日を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・グラウンド━

 

 翌日、特別クラスと他複数人の参加希望生徒による実技の授業時間。

 其所には斗真の姿もあった。

 

 「すみません、いきなり見学したいだなんて無茶を聞いて頂いて…」

 実技担当の女性教諭に礼を述べる斗真。

 「いやいや、気にしないでください。担当以外の目もあった方が彼女達も気が引き締まるでしょうから。それにトーマ先生も魔女の魔法がどういったモノなのかを詳しく知る機会にもなるでしょう!」

 実技教諭は明朗快活に笑って斗真の懇願を許諾する。

 さて、改まってグラウンドに視線を飛ばせば、運動着に着替え健康的な肢体を覗かせるうら若き乙女達。

 制服と同様ノワール、ルージュ、ラピス其々のランクが一目で判別出来る。

 今回行われる実技授業──バンプボール。そのリーグ戦とあって生徒に与えられるポイントはかなりのモノ、それ故か参加者はかなりの数だ。

 

 (見た所……特別クラスはほぼ全員参加してるな…。居ないのは例のヤマトって国の娘達くらいか)

 斗真の所感の通り、特別クラスはヤマトの魔女3名を除き全てが参加している。

 斗真と縁が深くなりつつあるティアラ達の班。ラトゥーラ達シュガーポケッツ。昨日会話を交わしたルキフェルのSadistic★Candy 。そしてユニットメンバー全員が亜人と言うドルトガルドのグループ、【IV KLORE】。

 他数名といった具合か。

 それ以外にも参加生徒や観戦目的の生徒も居る。

 「結構注目されてるんだな…」

 リーグ戦と言うのも大きい理由だろうが大半の生徒が参加ないし観戦という規模に驚きの言葉を洩らす。

 

 「そりゃあ見応えはあるからな」

 

 「うんうん。若い娘が元気に球遊びに興じるってだけでオジさん羨ましいよ」

 

 そして何時の間にやら斗真の隣に現れているニート(エレン)不良中年護衛(劉玄)

 「おぉう?!何時の間に!!?」

 思わず漫画みたいな驚き方をする斗真に気さくな最年長が笑顔で答える。

 「斗真ちゃんが見学に来る前から!」

 「全く気付かなかった……」

 同僚…と言って言いか不明だが、2人の存在に一切気付かなかった斗真。これが年季の違いという奴なのだろうか……。

 「まぁ斗真ちゃんは剣士としてはまだまだ若輩も良いところだからね。仕方無いんよな、後ね、オジさん達だけじゃなくて……ほらあの木陰の所見てみなよ」

 新米教師の予想通りの反応にカラカラ笑いながらフォローする劉玄、ついでにとばかりに対岸となる木々の方に指を差す。

 「んん……あれは…燕尾服?に何か木の枝を括り付けて……陳さん、あれは一体…?」

 眼を凝らし劉玄の差す方に注目すれば綺麗なミッドナイトブルーの燕尾服に、薄く紫がかったシャツ、反対に上着とシャツを引き立てるような白いウェストコート、タイはスタンダードに白、ポケットチーフはやや暗めの赤と…実に印象的な見た目である。頭と肩に付けてる葉の付いた枝を無視すればだが…。

 

 「え…と…、彼は?」

 何と評して良いのか分からないままなんとか言葉を絞り出し件の人物について訊ねる。

 「ドルトガルドの聖剣、その担い手……()()()()()()()()()()

 「そんでもってIV KLOREのリーダー"エミリア"の従者を自称してるストーカーな」

 2人が各々に燕尾服の人物について説明してくれる。しかし斗真は劉玄の口にしたある言葉が気になった。

 

 「なる筈だった……過去形ですか?」

 

 「うんまぁ……ちょっと訳アリでねぇ、詳しい話は当人──は話さないかなアイツは」

 

 「話してもオジョウサマガーってんで大した会話にならねぇだろ」

 

 理由を知る2人が斗真を置いて互いに納得している。

 「つまり?」

 困惑を残しながらも再び切り込む斗真、仕方ないかと頭を掻く劉玄。

 「ドルトガルドはつい数十年くらい前まで管理してた聖剣をちょっとした事情で紛失してんのよ。それで継承する予定だった奴さんがあぶれてね、元Rayのメンバーの口添えとか紆余曲折あってエミリア嬢ちゃんの実家にお世話になって、彼女がこの学院に入学するにあたって、追って来たのさ」

 言葉を探しながら斗真へ簡潔に話す劉玄。

 最後に理解出来たかね?と視線で問うて来る。

 

 「……えっ?!じゃあ彼は仮面の剣士じゃ無いんですか!!?」

 

 これには斗真も大いに驚いた。何故ならば剣士はアルマ、劉玄、エレン、自身以外にこの学院に後2人居ると聴かされていたし、ドルトガルドからの人間がそうだとも言っていたから尚更である。

 「しーっ!斗真ちゃんしーっ!正体隠して無いとは言え、大っぴらに語る事じゃないんだよこれ!」

 「後…別に継承してないからって言っても、じゃあ剣士じゃ無いのかって言えば違うしな」

 斗真の口を抑える劉玄の横でエレンが補足する様に述べる。

 「まず、アイツは普通の来訪者とこの世界の人間のハーフじゃねぇ。亜人とのハーフだ。それに本来継ぐはずの聖剣が無くなっても、ワンチャン大戦で失われた聖剣が発見されりゃ…ソイツを使えば良いしな、お前みたいに」

 燕尾服の人物をその死んだ瞳に捉えながらパタパタと手を軽く振り言葉を紡ぐ。

 「亜人……確か、特異な体質や異能を持った種族だっけ?」

 教師として赴任するに中りクロエやアルマから聞き齧った情報を思い出す。

 「うん、そうね。オジさん達の世界で言う所の吸血鬼やら人狼やらだ」

 「お前が受け持った特別クラスにも居るIV KLORE の3人がまさにソレだ。淫魔(サキュバス)のエミリア、人狼(ウェアウルフ)のサルサ、魔律人形(オートマタ)のあるふぁ、あの連中は特別クラスでも数少ないノワールだから印象強いだろ?」

 エレンがウォーミングアップをする生徒の中から黒い襟とスカートの生徒3人を視線で指し示す。

 「彼女達か……。そう言えばまだちゃんと話した事無いなぁ」

 該当生徒を見付けそんな事を思い出す斗真に止めとけとエレンが呆れ半分の声を出す。

 「あの御嬢様は大の男嫌いで有名だし、その従者やってるメイドはやたら毒舌だし、唯一マトモなワンコはワンコだし、そもそも御嬢様にちょっかい掛けるとストーカーがエライ形相で報復しに来る可能性があるからな」

 

 「えー……」

 

 「うん、エレンの言う通り、アイツはちょっと面倒な奴だからね。ハーフとは言え亜人だし、素の身体能力も高いから生身で相対するのは危ない」

 劉玄も斗真の身を案じる様に言うのでそんなにとたじろぐ。

 「モノにもよるけど魔獣一匹程度なら一撃よ、一撃。しかも奴さんの場合は剣士としての修行もあったからシミー程度なら生身で無傷のまま圧倒出来るし」

 更に畳み掛ける様に劉玄は燕尾服の人物の詳細を語る。

 エレンは生身で無傷圧倒ならアンタも大概だと小さく呟いていたが、斗真はツッコむ気もなく笑うしかなかった。

 「はははは……って、それはそうと彼、名前は何て言うんですか?」

 肝心な事を訊ねていなかったので、件の人物の名を問い質す。

 「名前ね、名はへルマン。姓は分からんね…、基本この世界の人間は来訪者の子孫以外は姓は名乗んない事多いから」

 「ん?でもへルマンも先祖に来訪者が居るんですよね?なら苗字はあるんじゃ…」

 「まぁそうなんだけどね、当人曰く…『私はお嬢様に尽くす為に居る。故に家名など不要!』なーんて言ってるもんだから」

 それ故にこの学院に居る剣士達はへルマンの事をそれ以上は知らないとの事だそうだ。

 つまる所、どんな亜人のハーフかも判っていないのだと言う。

 

 「所で…さっきから気になってたんだけど、エレンは何でそんな怪しい格好を?へルマンよりも目立つよ?」

 

 「変装……オレ、ヒキコモリ。メダツ、キライ。シアイミタイ。ギャクテンノハッソウ…カオカクス、メダツヘイキ。OK?」

 話題のへルマン並に怪しい見た目のエレン(紙袋)にツッコめば何故か返ってくるカタコトの屁理屈。

 瞳に当たる部分に開けられた覗き穴から見える死んだ眼が余計に怪しさを引き立てる。

 正直、へルマンよりも不審者である。

 

 ──と、へルマン某関連の話題に気を取られている内に試合が始まった。

 

 

 さて、始まったバンプボールだが、参加者は何人かでチームを作る。

 己が所属する班以外に他班の者とも組み、リザーブメンバーも含めそれなりの人数となる。

 更に今回はリーグ戦とあって参加人数が多い。その為時間を区切り場所を別けて試合が組まれている。

 斗真達が観戦している場所の他にも試合が行われている場所があるのだ。

 「それでも丸一日の授業時間いっぱい使うのか…体育祭規模だな」

 「言い得て妙だな。競技自体は一択だが、ま、その分の価値はあるぜ」

 同年の2人が言葉を交わしながら始まった試合に注目する。

 

 斗真が注目しているのはやはりなんだかんだ縁があるティアラ達の居るチームだ。

 もう1つ、エミリアの居るチームも気になったが別のコートでの試合であった事や、ティアラのチームと対戦するチームにルキフェルが居たので、ティアラ達の方を優先した。

 

 

 

 「最初の獲物は貴様らか」

 右手でボールを持ちながら不遜に笑うルキフェル。

 

 「ちゃっちゃと終わらせるよ」

 腰に手を当て仁王立ちしながら秒殺宣言めいた事を口走るのは同じくルージュの運動着を纏うSadistic★Candyのアンジェリカ。

 ラヴィがアンジェリカの挑発に「何だとー!勝つのはあたしだー」と憤慨している。

 ルキフェルが小さな暴君ならばアンジェリカは"大" 天使とでも称しておこう。他意は無い。

 

 「みんなー!頑張ってーーー!」

 控えの選手が待機するベンチでティアラがコート内の仲間へ声援を送る。

 「ルキフェルとアンジェリカ…厄介ね」

 ティアラの隣に座るウェーブの掛かった茶褐色の髪と丸眼鏡がチャームポイントのクラスメート、メリッサが息を呑む。

 

 「強いの?」

 「噂ではかなり。ただ授業サボってばかりの2人なので詳しくは…」

 ティアラの問いに少年漫画の解説キャラみたいな科白を返すメリッサ、彼女達の真後ろで男達が『知っているのか?!』ネタで盛り上がっているのを彼女は知らない。

 一方コートではルキフェルがその細腕からは想像もつかない豪速球をラヴィ目掛け投げる。

 その球を危なげ無く両手と体を使いキャッチするラヴィ、しかし思いの外高い威力にその表情は苦悶に歪む。

 お返しとばかりにルキフェルにボールを投げ返すが容易く受け止められてしまう。

 

 

 

「「「「「あっ!」」」」」

 

 

 ベンチのティアラ、メリッサとその後ろの土手の石椅子に座る斗真達が声を挙げる。

 ラヴィが投げ返したボールをルキフェルは彼女にではなく隣の少女──メリッサの班員の双子姉妹、気弱なパッツンおかっぱボブカットのココ目掛け投げた。

 ラヴィと比べそこまで運動神経が良くないココはあっさりボールに当たってしまう。

 

 「まずはルキのチームが一点取ったか」

 「やー、ちっこいのに凄いよね~、オジさんも吹っ飛ばされちゃうかもなぁ~!!」

 「またまた……。しかしルキフェルさん、俺の授業でももう少しやる気を出してくれればなぁ」

 男3人、各々感じ入った事を述べる。

 ルキフェルの授業態度に斗真は嘆いていたが、サボらず参加している時点で斗真の授業に興味津々、十分真面目に勉強している方である。

 

 「せめてもの情けだ。魔法は使わないでおいてやる」

 

 コートの中で堂々と魔法の不使用宣言をかますルキフェル。小さな身体に見合わぬ強者のオーラが見える。

 

 現在のコート内には片やラヴィ、アシュレイと言う運動神経抜群の2人とココと入れ代わりで外野から内野に入ったロゼッタ。

 ルキフェルとアンジェリカは変わらず、もう1人ルージュの生徒がポジショニングしている。

 

 「うーん、ラヴィちゃん…ちょっと何時もより元気が無いなぁ。それにアシュレイさんと何かあったのかな?」

 コート内で顔を合わせた瞬間反目しあった生徒達を見て斗真は心配を顕にする。

 「おや?斗真ちゃんってばもう一人前の教師としての自覚が出来てきたのかね?うんうん、若いって良いねぇ」

 そんな不穏な雰囲気をコートから感じつつも、試合はラヴィがルージュの生徒にボールを当て同点へと得点を戻す。

 「よし!とりあえず同点!!」

 

 「一点ぐらいで調子に乗るなっての!」

 

  今度はアンジェリカがボールをアシュレイの方に目掛け投げる。 すかさず指の背を咥え口笛を吹くアシュレイ。

 少女の瞳が金色に変色し、彼女が眺める世界の全てがスローモーションの様にゆっくりとなる。

 傍目から見ればアシュレイが加速した様に見えたであろう。彼女はボールを躱し左側へと動くもすぐ隣に同じ様に右へ動こうとしたラヴィとぶつかり、縺れ倒れる。

 

 「なにすんのーー!」 「そっちこそボサッとするな!」

 

 途端言い争いを始める2人。しかし敵はそんな事を悠長に待ってはくれない。

 

 「危ない!」

 「あぁ?!」

 ロゼッタの警告も虚しく、ラヴィの顔面目掛けボールが思いっきりぶつかる。

 終いには互いに敵チームそっちのけで隙あらばボールをぶつけようと意識しあう余り、2人揃ってアウトになる始末。

 

 「おいおい大丈夫なのかね?あのお嬢ちゃん達…」

 「端から見てる分には面白いがな」

 「うーんこのままじゃマズイな……」

 観戦している3人も流石に不安を口にする。

 

 アシュレイはココの双子の姉のリリ──前髪を上げ髪止めで止めた少女と入れ代わる。ラヴィはリネットと交代だ。

 得点は8対1でSadistic★Candy の居るチーム優勢、このままではティアラ達の班はポイントを得ることが出来ない。

 「(このままじゃ…)ラヴィ」

 この状況をロゼッタも不味いと感じ、リネットと代わって外野へ移動するラヴィの背中へ声を掛ける。

 「ん?」

 「()()をお願い」

 ロゼッタからの"アレ"なる懇願に一瞬何を言われたか考えるも金髪ウサギは即座に思い至る。

 「あぁ。アレね、わかった!」

 コート中腹付近でロゼッタが瞑想する傍らラヴィが突如声を張上げ踊り出す。

 すぐ側ではリネットがボールを持っている為、狙われる心配は無い。

 

  「フレ!フレ!ロゼちゃん!ゴーファイゴーファイロゼちゃん!すごいぞすごいぞロゼちゃんっ!!!

 ラヴィ流のアレンジが入ったチアダンス、最後に両の指でフィンガースナップを軽快にロゼッタへ向けて打ち鳴らす。

 するとどうだろう…ロゼッタの全身が青いオーラに包まれ発光しているかの様に変化する。

 「リネット。ボールを…」

 「あ…はい!」

 魔法に掛かったロゼッタが瞑想を止め、右目を開きリネットが持つボールを渡す様に指示する。

 それら一連の様子をベンチから見ていたティアラが驚きの声を洩らす。

 「あれがラヴィの……」

 「肉体強化魔法よ」

 付き合いに一日の長があるメリッサがその魔法の正体を明かす。

 

 「え?ナニ今の?かわいい!?」

 「あの金髪の子の魔法だねぇ、青髪の子の様子から見るに肉体に作用するタイプかね?」

 「あざといな、あのウサギ」

 3人の素直な感想である。

 

 強化され輝くロゼッタが腕を思いっきり振りかぶってボールを投げる。

 昭和日本のスポ根漫画のような強烈なストレートがアンジェリカに襲い来る。

 

 「くぅぅっ?!う…うぅ…うぅっ!わぁっ?!」

 両手を眼前で構えて受け止めようとするも球の勢いを殺せずヒットして外野に転がるアンジェリカ、正に魔球に吹き飛ばされる漫画のキャラである。

 「うへっ…」

 ドシャと表現するのが適当な音を立て悲鳴を溢す。

 「2対8」

 

 「何をしている!」

 「しゃーないでしょうがあんな球!」

 審判役の教師の宣言を聞きながらルキフェルは無様な格好になったアンジェリカに文句を飛ばし、アンジェリカはどうしろと言わんばかりに転がったまま、ジタバタ抗議する。

 幸いにしてアンジェリカに当たったボールはルキフェルの手の内にある。

 「チッ…くらえっ!!」

 「わっ…!?」

 小さな暴君は気を取り直してリリ目掛けボールを投げる……がリリに当たる直前、横合いから伸びてきた手に阻まれる。

 「なんだと!?」

 ボールを止めた手の主はロゼッタ。彼女は片手でルキフェルの剛球を止めたのだ。

 お返しに強化されたロゼッタがボールを投げる、ルキフェル以上の剛球が彼女のチームの魔女の腹を撃ち抜く。

 「もひとつ!」

 反動で返って来たボールを再び相手コートへと投げ込む。狙うはルキフェル。

 強化された膂力、腕力で振りかぶり小さな身体のど真ん中にヒット、衝撃で吹き飛ぶ……そしてルキフェルに当たったボールが上空へと逸れ地面に落下する間際、アンジェリカが華麗に飛び込みキャッチ、そのまま前転しながらボールをキープする。

 どうやらヒットしてもボールがコートに落ちなければ当たってもセーフになるようだ。

 

 「アンジェリカ……」

 まさかのフォローに唖然とするルキフェル。ボールを抱えたアンジェリカがルキフェルにニヒルに笑い掛ける。

 「貸しにしといてやるわ」

 そんなミラクルプレーを眺めていたロゼッタにバチッという音が走り、彼女が纏っていた光のオーラが消える。

 「う…」

 「ロゼッタ?」

 「まさか!効果がもう?!」

 魔法の効力が切れた瞬間、ガックリと膝から崩れ落ちるロゼッタ。

 リリがどうしたとばかりの声を挙げ、リネットは彼女が何故崩れたかの理由に思い至る。

 そして相手は動けないマトを放ってはくれない。

 すぐ目の前のアンジェリカが容赦無くロゼッタにボールをヒットさせた。

 

 「ロゼちゃんのかたき!」

 再びコート内へ戻ったラヴィが外野で未だ魔法が切れた事により項垂れるロゼッタへ視線を向け、仇は取るとばかりにアンジェリカ目掛け投げる。

 が、魔法によって強化された訳でも無いボールはアッサリとアンジェリカにキャッチされそのまま前へ出て来たルキフェルに渡される。

 「よっと。ルキ」

 「任せろ。そりゃぁ!」

 ボールの軌道の先はリリ──

 

 「リリさん!」

 リネットが叫び視線を送る。しかしリリは余裕の顔で応える。

 「大丈夫!」

 両の人差し指と中指を口に咥え、笛を吹く。

 リリの顔にボールが迫る……かに思われた瞬間、リリの姿がぶれる。

 

 「え?…ぶっ!?」

 リリ?が鼻血を吹いて倒れる。

 

 「ココーーーーー!!

 

 「え?リリじゃないの?」

 メリッサが叫ぶ。隣のティアラが今の一瞬何が起きたのか分からず思わず訊ねる。

 「今のがリリの魔法で…ココと瞬時に入れ替わる事が出来るの」

 迫真の解説を熱弁するメリッサ、そこへティアラがツッコむ。

 「それ…意味なくない?」

 沈黙…からの顔ごとティアラの追及から視線を逸らすメリッサ。

 ティアラの指摘は至極その通りであった。

 

 「便利なんだか不便なんだか…」

 「入れ替わっても結局ポイント取られてんじゃねぇか!ギャハハハッヒィ…笑っちゃ悪いけど…こりゃ笑うしかねぇ!」

 「何か昔読んだ漫画を思い出したよ俺…」

 再び後ろの剣士達のリアクションである。

 

 

 そしてリリとココ、双子達はと言えば──

 「ごめんね!ごめんねココ!」

 「ううん…私も欠点に……気づく…べき…」

 「ココーッ!?」

 倒れる妹に駆け寄り謝罪するリリ、ココは息絶え絶えになりながらも姉を労り、ガクッと言う音と共に気絶する。

 

 「あー…ったく」

 今の茶番を見せられたアンジェリカはバツが悪そうに頭を掻きながら倒れたココに近付き手を翳す。

 手から放たれる癒しの光、それがココの傷を癒す。

 「エコーギフト無しで…すごい」

 アンジェリカが見せた神業の如き魔法にリネットが感心の声を洩らす。

 治癒の効果により即座に目覚めるココ、リリは感極まり最愛の片割れに抱き着きながらアンジェリカに感謝を述べる。

 「ココ、良かった!あ…ありがとうございます!」

 

 「お礼なんていらないっつーの」

 やれやれといった表情で自陣のコートへ戻るアンジェリカ、ルキフェルは鼻を鳴らしながら彼女の行動に苦言を呈する。

 「フン!敵の傷を治すとは、随分と甘いな」

 「あんたがゲガ人出すからでしょうが、このチビルキ!」

 相方の暴言にルキフェルは我慢出来ずに苛立つ。

 「なんだと!」

 その隙にリネットがボールを投げる。が、リネットのか弱いボールなど簡単に受け止められる。

 

 「あぁーすまん。手が滑った」

 ルキフェルはその止めたボールを、彼女に投げ返す……事はなく、アンジェリカ目掛け投げた。

 「どう見てもワザとだろっ!」

 やられたらやり返す。当然、アンジェリカもルキフェルへ思いっきり叩き返す。

 今度はSadistic★Candyが相手そっちのけで喧嘩を始める。

 「あの…二人とも落ち着いて」

 

 「「あぁっ!?」」

 

 「ひっ?!」

 仲裁に入ろうとしたリネットに凸凹コンビの憤怒の形相が向けられる。その顔に思わず悲鳴を溢すリネット。

 とは言え、仲裁の効果はあった様で、2人共試合に戻る。

 「続きは試合が終わってからだ!」

 「望むところよ!」

 そこからSadistic★Candyの2人による一方的とも言える蹂躙が始まる。

 リネット、リリをアッサリ降し、アシュレイ、ラヴィすら手も足も出ずポイントを取られゲームセット。

 結果は15対3でSadistic★Candyのチームが圧勝、敗北に膝を折るアシュレイを尻目に2人揃って何処ぞへと雌雄を決する為歩き去る。

 「さぁ決着つけるわよ!」

 「上等だ!表に出ろ」

 「もう表だっつーの!」

 しかし年頃なのだからがに股で歩くのは如何なものか……。

 

 

 

 「凄かった……色々と。後半、殆んどワンサイドゲームと化してたけど」

 「サディキャン的には寧ろこの後のケンカが見所なんだがなぁ」

 「まぁ、ティアラ王じょ……ティアラ嬢ちゃん達は相手が悪かったとしか言えないねぇ。後は斗真ちゃんの懸念通り、金髪ちゃんとポニーちゃんの不和かな、敗因は」

 1回戦目からの色々な意味で白熱した試合に斗真は只々呆気に取られるばかり。

 エレンはエレンで喧嘩の為に去ったSadistic★Candyが気になる様だ。

 そして劉玄は今の試合の総括(ハイライト)を分析し述べる。

 

 バンプボールリーグ戦はまだまだ始まったばかりである──

 

 TO BE Continued→

 




 プリミティブの暴走がどんな感じになるのか気になるなぁ。東映はバンダイ事業部とそろそろ腰を据えた話し合いをしてアイテムの売り方なり改善してくれないかなぁ。
 それはそれとして新しいのは大歓迎です。
 
 因みにエレンは基本的に他人を彼なりの呼称で呼ぶので、ルキフェルのように名前の愛称で呼ぶのはかなり親交が深い証拠だったりします。
 それとは別にルキフェルにもエレン流の呼称がありますが。
 剣士に関しては凡て名前ではなく呼称呼び、魔女に関してはルキフェルとラトゥーラが現段階でエレンから名前で呼ばれたりします。

 陣さんは剣士歴が長いのでティアラの素性を当然の様に知ってます。勿論、アンジェリカの正体もです。

 それでは次回、IV KLOREバンプボールでお会いしましょう。


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10頁 亜人の力

 こんばんすみなさい
 
 またやってしまった……、後半に詰め込み過ぎて前半より長くなりました申し訳ございません。
 一応、原作ラピライの公式展開同様パラレルと以前にも明記しましたが、ベースはアニメなので(ゲームは未だリリースしてない故)HDDに録画したのを見返しながらこれでも色々省いて、この様です。
 本当に申し訳ございません。

 次はもう少し短くまとめたいな!



 ──亜人、人間とは比べ物にならない屈強な肉体と常人ならざるチカラを持つ種族。

 ドルトガルドはその亜人と人間が共存共栄する国。

 特別クラスにもIV KLOREと言うメンバー全員が亜人のユニットが存在します。

 そしてドルトガルドの剣士は何と、人と亜人の間に生まれた半亜人との事でした。

 ですが彼には振るうべき聖剣が存在しませんでした──

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・グラウンド━

 

 Sadistic★Candy率いるルージュのチームに敗北したティアラ達。

 膝を折ったアシュレイは去り行くSadistic★Candyの喧騒を耳にしながら歯噛みする。

 

 「無念……」

 

 敗北に悔やむアシュレイにラヴィが不機嫌な顔で近付く。

 「アシュレイが当たってばっかだから」

 お前の所為で負けたとばかりの言い様にアシュレイはカチンとくる。

 「何だと?バカウサだって!」

 此方も嫌悪くな空気が漂い始め、ティアラがすかさず割って入る。

 

 「ドンマイドンマイ。まだ4試合あるんだから取り返せるよ」

 そんな中、ティアラの隣に居るメリッサがラヴィの運動着が破けている事に気付く。

 「あ…ラヴィ、服が…」

 「んー?あ…ホントだ。まぁいーやこんぐらい」

 破けた胸元を摘まみながらあっけらかんと言ってのける。

 「え?でも…そのままじゃ……」

 「平気へーき。さぁ!次の試合に備えて、しっかり休もう!」

 ラヴィは気にせず次に意識を向けている。そんな彼女にアシュレイが先程までの剣呑さを横へ押しやり、真っ直ぐ視線を向けて真に迫った顔で口を開く。

 

 「ラヴィ、脱げ」

 

 「はぁ?」

 

 えぇえぇ!?それって…やっぱりその…あの…!

 当然その意図が分からないラヴィは顔を訝しげに歪め、リネットはアシュレイの突然の発言に頭の中が頓珍漢な方向へ振り切れてお花畑を展開する。

 彼女の顔は興奮で熱した鉄板の如く赤面している。

 そんなリネットの反応にアシュレイが慌てて否定する。

 「あぁ…いやっ!?そう言う意味では!…ええい!とにかく来い!!」

 「ちょっとアシュレイ?!痛い!いたいってば!?」

 チームメイト達が見守る中、ラヴィの有無を言わせず寮の方に引っ張って行く。

 リネットは最後まで顔を赤らめたまま2人の背中を見詰めているのであった。

 

 

 

 「ラヴィちゃん、アシュレイさんに連れてかれたみたいだけど……大丈夫かな、喧嘩しないかな?仲良くしてほしいな……」

 不安気に寮へ消えていった2人を見ながら呟く斗真、そんな彼にエレンが紙袋の下からジト眼でツッコむ。

 「お前はアイツらの親か…?」

 「いや~教師でも生徒は心配でしょ。でもそんなに気になるなら斗真ちゃんさ、あそこに残ってるティアラ嬢ちゃん達に理由訊いてみたら?」

 劉玄の案に一頻り悩んだ後、確かにと頷き、少女達に近寄って行く斗真。

 

 「仕事熱心なこって」

 「お前さんも少しは見習ったら?」

 「は?ヤだよメンドクサい。大体オッサンは教師も生徒を心配して当然つーけど、あんたがいた時代の話だろ?ってかあんた中国の田舎出身だろ?そのイメージはどっちかってと日本じゃね?」

 「その辺は苦学生なりに渡航した経験が………ってオジさんの事は良いの、お嬢ちゃん達の話…オジさん達も聞き耳立てに行きましょうや」

 エレンの皮肉に劉玄が諫める様に物申せば、アッサリ面倒だと返し古臭いイメージだと彼の理想の教師論を否定する。

 劉玄は己の過去の経験を口にしかけ止める、そんな事より自分達もチームの不和の原因を知ろうと野次馬になりに行く。

 

 

 

 

 

 「それじゃ喧嘩の原因は解らないんだ?」

 「はい…昨日、リネットがアシュレイからトートバッグを貰ったら、ラヴィが急に怒って走り出して……アシュレイも心当たりが無い様で……」

 詳しい話を聞こうと少女達に話し掛ける。

 ティアラ曰く、昨日の夕刻頃、上機嫌で鼻唄を歌っていたラヴィ、読書に更け込んでいたリネット、そのリネットへプレゼントするトートバッグを作っていたアシュレイと各々寮の自室で過ごして居たのだが、アシュレイが完成したトートバッグをリネットへ渡したと思ったら、急にラヴィが怒鳴ったのだと言う。

 そのままラヴィはアシュレイと言い争いになり、部屋を飛び出してしまう。

 寮に戻って来たティアラ、ロゼッタも走り去るラヴィを目撃しており、リネット共々2人の仲を取り持とうと苦心したのだが今日まで解決しないまま試合を迎えたのだと言う。

 

 「うーん。原因が解らないなら俺もどうしようも無いなぁ……でもほっとけないし二人が戻って来たらそれとなく訊いてみるよ」

 「すみません先生、私達の班の事なのに…」

 「その…二人共日常的に言い争いはしてますけど、今回は何時もとちょっと違う様で…大丈夫ですか先生?」

 ティアラが自分達の事に心を砕いてくれる斗真に申し訳無い気持ちになり、メリッサが普段己が知る常日頃の喧嘩と違う事に不安を口にする。

 

 「喧嘩して険悪になった二人……けれど心の中では互いに求めあって……嗚呼、でも素直になれないから強引に……」

 

 「所でリネットちゃんは大丈夫なの?色々と…?」

 「え、えぇ…と、あはは…」

 「気にしないで下さい…」

 妄想にトリップするリネットを見て顔を引きつらせる斗真、苦笑するティアラ、額を抑えるメリッサ、ココとリリは傍観し紙袋と中年相手に談笑している。

 そして話題の2人は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━学生寮・リネット達の部屋━

 

 ロゼッタがティアラの為に2人部屋に移り、ベッドの空きが出来た4人部屋、談笑用のソファに座るラヴィとアシュレイ。

 2人の間に流れる空気は何とも微妙なモノだが、試合前よりは改善しているように思える。

 「別にいいのに…」

 「そう言う訳にはいかないだろ?よし……出来た」

 針を針山に刺し、破れた箇所を塞いだ運動着を持ち主へと手渡す。

 

 「…可愛い」

 戻って来た運動着にはデフォルメめされたウサギのアップリケ。その愛らしさに思わず言葉を洩らすラヴィ。

 「どうしてそんなに怒ってるんだ」

 アシュレイはラヴィの怒りの原因が解らず思い切って訊ねる。ラヴィはその質問に些かバツが悪そうに顔を背けながらボソッと返す。

 「もういいよ。貰ったし…」

 「貰った?……あっ?!まさか…!」

 貰ったと言う返しに一瞬、何を言っているのか理解出来ずに瞬かせるも、その真意を察するアシュレイ。

 ラヴィはやっと気付いたか、と拗ねた顔で短く肯定する。

 

 「そうだよ」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 「誕生日おめでとーう!」

 

 「ありがとう。大事にする」

 

 数ヶ月前、夕日の放課後、噴水前でラヴィはアシュレイに可愛いらしいウサギのヌイグルミを贈った。

 

 「えへへ♪」

 

 「ラヴィの誕生日には、私がプレゼントするからな。覚悟しておけ!」

 

 義理を通す意味と、純粋に友人への感謝も込めてはにかむラヴィへアシュレイはそう宣言したのだ。

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 その数ヶ月前の出来事をたった今思い出したアシュレイ。

 「すまない!」

 己の非に即座に謝罪するアシュレイ、しかしアップリケに満足したラヴィは気にした風も無くアップリケが付いた運動着を抱く。

 「だからもういいってば。コレ貰ったし…」

 「そう言う訳にはいかない!そうだ服だ!服を作る!」

 「え…服を?」

 「それも飛びきり可愛いヤツを!」

 「ちょーカワイイヤツ?」

 「ああ!」

 だがそんな不義理は示しが付かないのかアシュレイはお詫びとして服を作る事を提案する。

 その服が可愛いモノとなればラヴィも食い付く。お互い蟠りが解け空気が緩和する。

 

 「じゃあ許したげる!今度は忘れないでよ?」

 

 ラヴィの機嫌が直り、互いに笑顔を浮かべる。

 「約束だ」

 「約束だよ」

 今度こそはと、指切りを交わすラヴィとアシュレイ。折しも期せずして仲直りした2人、斗真の教師としての仕事は無くなった。

 

 

 

 

 

 

 ━グラウンド━

 

 コートから離れ、石造りの屋根がある休息スペースのベンチでロゼッタを横に寝かせ休息を採るティアラ達。

 柱には斗真が背中を預けて立ちながらうんうん唸っている。

 喧嘩中の2人をどう仲直りさせようか考えているのだ。

 「悩んでるねぇ~、それも経験だよ」

 「年寄り臭いセリフだな」

 「その紙袋の下、どうなってるんですか?」

 「なんか…どっかで見たような格好してるなぁ」

 悩む斗真を尻目にベンチに座りながら1人納得したように染々呟く劉玄。

 エレンはココとリリに付きまとわれながら胡乱な口調で返す。

 

 

 「大丈夫?」

 ティアラが疲労困憊のロゼッタを労る様に声を掛ける。

 「あ…ぁあ…」

 ロゼッタはロゼッタで相当肉体に負荷が掛かったのか生返事だ。

 

 「二人が戻って来たよ」

 ココかリリか、兎も角ラヴィとアシュレイが戻って来た事に声を挙げる。

 「よ、よし!二人を仲直りさせるぞ!……え?」

 意気込む斗真、グラウンドの皆が休んでいる場所に近付いて来る2人へ顔を向けて、そこで間抜けな声を出す。

 

 その理由は2人が並んで仲睦まじく会話しながら歩いて来たからだ。

 

 「それでねー、あとはねー」

 

 楽しそうな声色でアシュレイに何かの話を話しているラヴィ。まるで喧嘩など無かったかの様である。

 「すっかり仲直りしたみたいだね」

 ティアラも2人の仲が戻り嬉しそうに声を掛ける。隣のリネットは別の意味で嬉しそうにとても良い笑顔を紅潮させている。

 

 「お前の出番は無かったな」

 「若者は本当に一瞬で成長したり変化するよねぇ、それはそれとしてドンマイ斗真ちゃん」

 「いえ…良いんです。教師が出しゃばる様な事態に発展しなかっただけで…ええ本当に…ショックなんて受けてませんから」

 その割にはいじけている様にも見える表情だ、とは2人も流石に口にしなかった。

 

 「ここからが本番だ!」

 「ガンガン行くぞ!」

 戻って来た2人が威勢良く宣言する。

 

 

「「「「「「「「おぉー!!」」」」」」」」

 

 その場の男達を除いた全員が一気呵成の声を挙げる。

 そこからが彼女達の快進撃の始まりであった。

 

 

 

 

 

 

 「うぉりゃー!」

 

 「15対7!」

 

 すっかり復調したラヴィがその優れた運動能力で2戦目を制する。

 

 

 

 「はぁっ!」

 

 「15対5!」

 

 同様に調子を取り戻したアシュレイがラヴィの応援を受けながら3戦目を手にする。

 

 

 

 「えいっ!」

 

 「15対8!」

 

 連勝の波に乗ってメリッサが4戦目のラストアタックを取る。

 4戦目までを終えて噴水前に集まりながら快勝に歓喜し上機嫌となるティアラ達。

 「はぁ…これで三勝一敗だね!」

 タオルで汗を拭いながらドリンクを補給しつつ戦績に実感を握るティアラ。ロゼッタったも強化の反作用が抜けたのか快復を宣言する。

 「私ももう大丈夫。いけるわ」

 「次も勝てれば優勝出来るかもしれません」

 「よし、絶対勝つぞ!」

 「あたし達なら楽勝らくしょー♪」

 ロゼッタの快復を見てリネットはもしかしたらと希望を見出だし、アシュレイがその展望を確実とする為の宣言を口にし、ラヴィは能天気に勝利を疑わない。

 

 「早々ウマく行くわけないし」

 

 其処へ突如掛けられる陽気な少女の声。

 

 「チッ、マズイ!後は任せた!!」

 エレンは声の主に反応して身を隠す。

 彼が隠れた理由──声の主の正体はシュガーポケッツのラトゥーラ。

 

 「ラッちゃん!」

 声の主に気付きラヴィが彼女の名前を愛称で呼ぶ。

 「シャンペとメアリーベリーまで…何の用だ?」

 アシュレイも突然割って入って来た3人に用件を訊ねる。

 「シャンペたちは4勝0敗。優勝もイタダキなの!」

 『余裕のよっちゃんだね!(@′J``)9』

 シャンペの言葉にメアリーベリーのボードが合いの手を打つ。

 「ん?」

 「よっちゃんってナニ?」

 ボードの発言にラトゥーラ、シャンペの2人が首を傾げて発言した張本人(正確には彼女の持つマジックボードだが)に訊ねる。

 「『さぁ?(´・ω・` )』」

 しかし当の本人が肉声、ボードの合成音共によく解っておらず、自身も疑問を口にする始末。

 ではその言葉の意味を知る者達はと言えば──

 

 「余裕のよっちゃんって……古いなぁ、親父世代くらいかな」

 斗真は何処か懐かしげに空を仰ぎ。

 

 「よっちゃん…て、おいおい。何処の来訪者だよ、んなふざけた事を抜かしやがったヤツは、妙なカタチで後世に伝わってんじゃねぇか」

 噴水の裏に隠れるエレンが独り言で誰にも聴こえぬ声でツッコミ。

 

 「ん?何か可笑しいのかね?」

 微妙に伝わって無い劉玄だけが頭を捻っているのであった。

 

 兎にも角にも、ティアラ達の前に現れたシュガーポケッツは自信満々な態度。

 だがアシュレイとラヴィは彼女達の態度を前にしても自分達が負けるヴィジョンは浮かばない。

 「ラトゥーラはともかく」

 「二人には負ける気しないね」

 そんな2人の挑発的な態度に、メアリーベリーはラトゥーラの影に隠れるがラトゥーラは余裕を崩さない。

 「ウチ達が組んでるのはエミリア達だし」

 

 

 「「「「「えぇ~~~!?!」」」」」

 

 

 ラヴィやリネット等数人がその発言に声を挙げて驚き、他の者達も驚愕の表情を顕にしている。

 

 

 「呼んだかしら?」

 「お嬢様。あちらが次の対戦相手です」

 そして件の人物達は意外な程直ぐ近くに居た。

 中庭でティータイムを洒落混むIV KLORE、エミリアがティーカップ片手にティアラ達が居る噴水の方を見れば、傍らの席でティーセットを広げるあるふぁがその仔細を告げる。

 「そう。精々頑張りなさい」

 

 「わーっふっふっ。いっぱい楽しもうね~」

 

 「私たちの勝利に変わりありませんが」

 クールに健闘を祈るエミリア、独特の笑いで嬉しそうにはしゃぐサルサ、無表情で自分達が勝つ事に変化は無いと言ってのけるあるふぁと三者三様の余裕を押し出す。

 

 「マジで?」

 「これは…一筋縄ではいかないな」

 戦慄を覚える身体能力の高い2人。

 

 「強いの?」

 「人とは異なる者…亜人の三人よ。エミリア、あるふぁ、サルサ。ランクは最上位のノワール」

 「ノワール…」

 接点の無かったティアラはロゼッタに3人の評価を訊ねる。幼馴染みからの質問にIV KLOREに対する緊張を覚えながらその評価を語るロゼッタ。ティアラもその言葉に改めて彼女達を見やる。

 「特にエミリアには気を付けてね。触れるとエナジードレインされる事があるから」

 「エナジードレイン?」

 「精気を吸収されちゃうの。エミリア自身、セーブしきれないみたい」

 「へぇ~」

 亜人の特色…主にエミリアのであるが、その解説を聞き感心するティアラ。

 リネットはラトゥーラ達シュガーポケッツに向き直り感嘆の声を洩らす。

 「ノワールの方々と一緒なんてスゴイですね」

 

 「でしょ~」

 「人数合わせって言われちゃったけど」

 『ただの置物だってさ(´ ;〰️;`)』

 どうやらシュガーポケッツがIV KLOREを引き入れた訳では無く、IV KLOREが彼女達を穴埋めに使っている様だ。

 「でもここまで全勝って事は、ルキフェル達にも勝ったのね」

 人数合わせとは言えSadistic★Candyのチームに勝ったとなれば油断は一切出来ない。その筈だが──

 「ん?あの二人だったら居なかったかな」

 

 「え?」

 

 「どーせいつものサボりに決まってるし」

 ラトゥーラ達はどうやらSadistic★Candy不在のチームと戦った様だ。

 「えへへ…」 「はぁ…」

 双子がその様子を聞いて苦笑と溜め息を溢す。

 「まだ喧嘩してるんだ……」

 

 ──その頃、飼育小屋の前ではSadistic★Candyが誰も見ていない中アクロバティックな喧嘩を繰り広げていた。

 

 

 

 「よし、今度こそ喧嘩を止めて……」

 「止めとけ、サディキャンはアレでいつも通りだ」

 「飽きるか疲れたらあの娘達は自分で帰ってくるから心配なさんな」

 斗真が今度こそはと意気込むが意味が無い、徒労だと2人に止められる。

 そんな彼等に注がれる視線、1つはエミリア。

 ティアラ達の側に立つ異世界から訪れた自分達のクラスの担任を見詰める。

 その瞳の奥に携えた感情は只の嫌悪かそれとも──

 

 

 そしてもう1つの視線。エミリアからはバレない様に身を潜めつつ、斗真と序でに噴水越しに彼と劉玄の影に隠れるエレンを視界に捉え拳を握る燕尾服の青年、ドルトガルドの剣士へルマン。

 彼が胸中に懐く感情は当人以外には窺い知れない。

 彼が斗真を見詰める真意とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━グラウンド━

 

 そして遂に切って落とされた最後の試合。

 実技の担当女性教師がホイッスルを口許に近付けながら、ボール権を獲る為に互いに敵陣側に入りコート中央で対峙するアシュレイとサルサを見る。

 

 「スタンディングバイ」

 

 アシュレイの目の前に立つサルサは天真爛漫、満面の笑みを浮かべる。

 「よろしくね~!」

 その小さく愛らしい見た目は仔犬の様、自分よりも一回り小さなサルサにアシュレイは余裕と言う名の慢心を抱く。

 (この身長差なら)

 ホイッスルが鳴る。同時にコートの幾何学魔法陣から飛び出し宙を舞うボール。

 ボールを追うように跳び、己の陣営にボールをパスしようと右手を構えボールの落下タイミングを計るアシュレイ。

 しかし彼女がボールに触れるよりも先にその体躯からは考えられない程の高さを垂直に跳びボールに追い付くサルサ。

 

 「わ~ふ~っ!

 

 独特な掛け声と共にサルサがボールをエミリアへと渡るように叩く。

 一度バウンドしてエミリアへと渡ったボール。ルビーの瞳が獲物を捉え、藤色の髪がたなびく。

 「ふっ!」

 アンダースロー気味に振りかぶった体勢からボールを投擲するエミリア、大地スレスレの球が向かう先はラヴィ…を外れ、彼女の右側空中。

 「どこ投げて…なっ?!ぐっ!」

 ラヴィが見当違いな方向へ投げられたボールを見て安堵と落胆入り交じる声を洩らすも、突如空中のボールが急カーブを描く。

 咄嗟に両手で受けるが、咄嗟過ぎて弾いてしまいエミリア達に得点が入る。

 

 「くそぉ…リッちゃんお願い!」

 「はい!頑張ります」

 リネットがラヴィと入れ代わりに外野から内野へとコートを移動する。

 

 先制された得点を取り返す為に力強くボールを放るアシュレイ、しかしサルサはその強力な勢いのボールを小さな身体全体を使い包み込むようにして平然と止める。

 「いい球だね。それじゃあ…いっくよー♪わ~ふぅ~~っ!」

 短くハネた髪の一部がピコピコと動き、元気そのモノといったサルサがその体躯からは想像も付かない程の超豪速球を投げる。

 

 「うわっ!」

 

 「おわっ?!」

 

 ボールはティアラの横を通り抜け、コートに展開された結界壁に当たりボールは跳弾する。

 結界壁に連続してピンボールの様に勢いを増していく、ボールは誰にも当たる事は無いがその威力はティアラ達に警戒と衝撃を与えるには充分であった。

 

 「これは…」

 「私だったら…小指十本で止められるよ」

 ベンチで控えとなって観戦するココとリリもその顔を恐怖に染めながら声を洩らす。

 リリなどその恐怖から妙な事を口走っている。

 「小指は十本もねぇよ…気持ちは分かるけども」

 紙袋がリリの背けた頭をコートの方へグイッと掴んで戻す。

 「凄いな……これが亜人…」

 「う~ん、サルサ嬢ちゃんのパワーが途轍も無いのは知ってたが…オジさんでもあのボールを生身で受けると冗談抜きで吹っ飛ぶかも」

 斗真は凄いとしか言いようがないサルサの身体能力に絶句、劉玄もサルサ…と言うよりも亜人の力を周知して尚、ボールの威力にSadistic★Candyの時と比べ本気の冷や汗を掻く。

 やがてボールはその途轍も無い威力のまま、エミリア陣営のコートに戻る。

 常人…いや、只人では止める事すら儘ならないソレをあるふぁは真正面から無表情かつ簡単に受け止める。

 

 「なんてシュートだ」

 「アレを止めるなんて凄い」

 「あるふぁさんは魔律人形なんです」

 ボールの威力に萎縮するティアラのチーム。そしてそのボールを簡単に受け止めたあるふぁに驚嘆するティアラ。

 リネットがそのティアラにあるふぁがどういった亜人かを説明する。

 

 魔律人形──魔法で動く精巧な少女人形である彼女の能力を以てすれば超豪速球のボールも平然と掴む事すら不可能では無い。

 あるふぁは敵陣を見渡しながら一言言葉を発する。

 

 「計算致しました」

 

 あるふぁがボールを結界の壁に向け投げる。ボールは壁を反射してアシュレイの足元へヒットする。

 

 「2対0」

 

 「すまん」

 「任せといて」

 得点は未だティアラ達に不利、アシュレイは悔しそうにラヴィと交代する。

 ボールはティアラが保持し、両手を使って非力なりに精一杯投げる。

 「よぉーし!えいっ!」

 「危な」

 リネットよりはマシな威力のボールがラトゥーラ目掛け飛ぶが褐色の少女はヒョイと避ける。

 「まだまだね」

 その緩いボールを拾い上げたエミリア、サルサに劣るも亜人の腕力で投げられたボールは凄まじい。

 ティアラに迫るボール、しかし彼女は焦る様子もなく口笛を吹く。

 コートの芝生が1部急激に成長しボールとティアラの前に壁を造り出す。

 

 「やった!」

 「あら」

 魔法が成功しボールを阻み喜ぶティアラ、エミリアも意外そうに声を挙げる。

 しかしボールを阻んだのも束の間、勢いは死なず緑の壁を貫く。

 「わっ?!草だと防ぎきれないか…」

 草を掻き別ける音で辛うじて躱す事が出来たティアラ、しかしボールは外野のメアリーベリーの手に、そして隙だらけのティアラの背中に向けて投げる。

 「ティアラさん!?後ろ!後ろ!」

 リネットが声を掛けた頃には時既に遅し、へなちょこボールがティアラにヒットする。

 「え?あたっ!」

 予想外の伏兵からの襲撃にティアラは肩を落とす。

 「うぅ…」

 「ティアちゃんドンマイ」

 シンボリ顔でフラフラと外野に行くティアラを励ますラヴィ。 

 リネットは腰のポーチから魔導書を取り出しページを捲り始め呪文を唱える。

 「草がダメでしたら…。大地の祭儀の響きを聞け。我は血で描かれし者──

 

 「あ…あぁ、リネットちゃん、試合中に余所見は……」

 

 「──トルシエールの異端。堅牢なる障壁を!あうっ?!」

 斗真がリネットに声を掛けるも遅く、そのどう見ても隙しかないリネット目掛けラトゥーラが軽くボールを放る。当然詠唱に夢中なリネットは躱す素振りすら無くアウトになる。

 

 「4対0」

 

 得点はIV KLORE、シュガーポケッツのチームに入り、遅れて地面の1部が競り上がり壁が生まれるが…無意味に終わる。

 

 「ああ…やっぱり…」

 「うん、まぁ、そりゃそうだよね」

 「むしろ何故待ってくれるとか思ったのか…解らない、オレは勢いでバンプボールを観戦しているのに…」

 男性陣が色々な項垂れる。

 

 「この流れマズいな」

 圧倒的不利にアシュレイが危機を覚える。

 「あたしに考えがある」

 そんな相棒へラヴィが必勝の策を提案する。

 「よし」

 その言葉を信じボールをラヴィに投げ渡すアシュレイ、受け取ったラヴィはサルサに狙いを定め大胆にも宣言をかます。

 

 「いくぞサルサ!あたしの新魔球!!」

 

 「わふっ!?!」

 

 「あっ!空飛ぶブタ!!?!」

 

 「え~?!どこどこ~!!?」

 

 ラヴィの策が炸裂する。それはまさかの古典的な手法、ラヴィの言葉を信じ空を見上げ、瞳をキラキラ輝かせながらサルサはラヴィが指差した方向を無邪気に探しまくる。

 

 「スキあり!」

 

 「きゃうっ?!」

 

 そうしてアッサリ出来たサルサの隙だらけの背中目掛けラヴィのボールが当たり、人狼の少女は犬の様な悲鳴を可愛らしく挙げアウトになる。

 

 「っしゃー!」

 「でかした!」

 ハイレベルな攻防の中で唯一低レベルな戦いが繰り広げられた瞬間であった。

 「ずるいよラヴィ!」

 騙された事を理解したサルサが珍しく激昂している。しかしそんなサルサにエミリアはゆっくりと首を動かし、絶対零度も斯くやの声音で告げる。

 「サルサ。油断したあんたが悪い」

 当人も自覚があるのかそれ以上反論をせず唸るに留まる。

 「うぅ~…」

 「サルサ様交代を」

 「ちぇ~」

 あるふぁが交代を促すので渋々外野に向かって行くサルサであった。

 試合再開、シャンペからサルサにボールが手渡される。

 「サルサ~」

 「ん?わっ!……よぉ~しお返しだよっ!!」

 突然渡されたボールに戸惑うも即座に切り替え超豪速球を投げるサルサ。

 

 「わぁ!?」

 

 外野であっても凄まじい跳弾を描くボールにエミリア、あるふぁ、アシュレイと投げた張本人以外は地に伏せてボールをやり過ごすしかない。

 「やっぱり恐いね」

 「それでしたら!祭儀の魔女の名の下に!踊れ!従僕!!

 外野のティアラがその恐ろしい威力を改めて口にするとリネットが妙案を思い付いたとばかりに再び魔導書を手に取る。

 「わふっ?!」

 リネットが唱えた詠唱により現れた桃色の毛の羊がサルサ目掛け飛んで来ては彼女の頭の中に吸い込まれる様に消える。

 彼女の脳内では桃色羊がグルグル駆け回る。

 「あっ…羊が一匹…羊が二匹…羊が三匹…」

 その羊を何故か数え始めるサルサ、夢の中も現実も彼女は深い眠りに堕ちる。

 

 「羊が…四匹…」

 

 「寝てる」

 「ああ。寝てるな」

 

 寝言でも羊を数えているサルサを遠巻きに見ながらラヴィとアシュレイは分かりきった事を述べる。

 そして、それとは別にリネットは女性教師から厳重注意を受ける。

 「魔法の使用は一種類のみです」

 「え?でも魔法はこの魔導書一つだけで……」

 「魔導書の中の一種類としてください。最初に使用した障壁のみ認めます」

 「そんなぁ~」

 「ペナルティとして相手チームに3点追加。7対1とします」

 意図せず自チームを不利に追い込んでしまったリネット、彼女自身はまさか魔導書の中の一種類判定が下るなんて思っていなかったのだろう。

 

 「「知ってた」」

 「えぇ?!教えてあげよう?!」

 声を揃えて知ってた発言をかます紙袋と中年に斗真がツッコむ。

 一方、外野ではあるふぁがサルサの首元を掴み強烈な往復ビンタを喰らわせるも人狼少女の眠りは醒めない。

 

 「ここはウチが!」

 ラトゥーラが低下した戦力分を埋めようと奮戦、アシュレイに投げるも避けられ、外野のシャンペが慌てて掴みに行くものの、結界に反射しそのままラヴィに渡る。

 「よっしゃラッキー!おいアシュレイ」

 「これは…イケるな!」

 サルサの行動不能、更に他の外野は運動能力の低いシャンペとメアリーベリー。千載一遇、チャンスとばかりに攻め込む。

 互いに当てては当てられ返す好試合の様相を呈する、メアリーベリーを除いてだが…。

 小さな発明家はシャンペ以上に運動能力に問題があるのか、リネットの投げようとするボールにすら怯えて泣いてしまう始末。

 何は途もあれ奮戦を演じ、点数は僅差の14対13。

 「良し!ティアラちゃん達何とか逆転した!」

 「何とまぁ、あのチビッ子組…特に青い子がハンデになっちゃってるねぇ」

 「アレはこういうのはダメなタイプだからな。寧ろ評価項目は別にあるだろ」

 メアリーベリーの評価に一家言あるのかエレンが妙に肩を持つ言い回しをする。

 「うん?珍しいな、お前さんが他人をそこまで評価するのは」

 「ベリー社のチビッ子はインドアタイプの技術職だ、この手の種目で不利になるのは当然、あれでも良くやってる方だろ」

 どうやら何かしらのシンパシーを感じている様である。

 

 コートでは追い込まれた状況に流石に不味いと感じたエミリアがあるふぁに命令を下す。

 「本気で行きなさい。あるふぁ」

 「かしこまりました、お嬢様」

 エミリアの指示に従いあるふぁはとある魔法を行使する。

 彼女の桃色の髪のサイドテールが生き物の様にうねるとボールを巻き取り思い切り投擲される。

 ボールは凄まじい音を鳴らしてサルサにぶつかる。

 「ぴえっ?!」

 その威力に悲鳴を挙げサルサが倒れる。そして自陣に転がるボールをロゼッタが拾い上げようとした時、響くフィンガースナップ。

 「ひゃっ?!…え?」

 ロゼッタが掴むより早く巻き付く桃色のナニか、その出先は何とあるふぁのサイドテール。 

 「アレは…フリーダムハンドだ」

 あるふぁの魔法に戦慄を覚え、ゴクリと喉を鳴らしながら迫真の顔で述べるラヴィ。

 「髪だからヘアーじゃないの?」

 「そうとも言う」

 そしてティアラのツッコまれる。

 「勝手に名付けないで下さい。しかもセンスの欠片も無い」

 無表情極まる顔のまま、ラヴィのネーミングを批難しつつ髪で掴んだまま離さないボールをロゼッタへ近付け至近距離で当て軽く跳ね返ったボールを再び髪で掴んで保持するという、普通なら反則も良いところの裏技を展開する。

 

 「そんなのアリ?!」

 

 ロゼッタが思わず呟いた言葉は斗真達も思わす同意してしまう程であった。

 展開は14対14の同点によるデュース、ロゼッタは入れ代わりに入るアシュレイと交代際にあるふぁの魔法に気を付けるよう警告する。

 「こいつぁヤバいぜ」

 「正念場だな」

 コートに再び揃った双璧も本気となったあるふぁに対し危機を覚える。そして後ろでは眠っていた獣が目覚めた。

 

 「ぼくにちょうだーい!」

 

 「遅いお目覚めですね」

 

 サルサの懇願に応えボールをパスするあるふぁ、受け取ったボールを掴みながら腕を振り回すサルサが吠える。

 「ぼくの全力…見せてあげる!」

 投げられ反射するボールの勢いは今までのソレを簡単に凌駕する。

 コートに冴え渡る悲鳴、アシュレイとラヴィも地に伏せながら躱す。

 ボールが頭上を通り過ぎたタイミングを見計らい、ラヴィは相棒へ呼び掛ける。

 「やるぞアシュレイ!」

 「わかった」

 言うが早いや2人は立ち上がり反射を繰返し再び己等の方へ向かって来るボールへ2人連れ合う様に両手を前に出す。

 炎の様なオーラを纏った超豪速球が2人目掛け飛び込んで行く。その威力に2人懸かりでも後退させられ、必死に踏ん張る。

 

 「ラヴィ!アシュレイ!」

 

 ティアラが2人の名を叫ぶ。

 尚もボールに押される2人、コートの芝が少女の足で削られる。

 「んんぐぅぅう……」

 「と…まれ…えぇ!」

 必死に力を振り絞りボールを止めようとする2人だが、彼女達はどんどん外野の方へ押し込まれて行く。

 

 

「うぅわぁぁぁああ!!」

 

 それでも諦めない少女達は雄叫びを挙げる。しかし既に外野までは後数センチの距離。

 「もうダメだぁ!!」

 絶望的な状況でココは目を両手で覆い、リリが諦めた様な声を出す。

 だが、その絶体絶命の瞬間に外野のラインが引かれた大地が1部障壁の様に競り上がった。

 大地のブレーキを得た事により2人は支えを受け、ボールは勢いが遂に死に、彼女達は決定的な敗北を免れる。

 「わふっ!?すご~い!!」

 必殺のボールを止められたサルサは障壁の後ろから無邪気にはしゃぐ。

 ティアラが障壁を見て即座に振り替えれば、魔導書を掲げるリネットの姿。

 

 「後は任せて!」

 「頼むね!」

 起死回生のチャンス、ティアラが全霊を尽くしてボールを止めた2人へ言葉を掛ける。

 

 「そこぉっ!」

 

 ラヴィからの声と共に託されるボール、ティアラはソレを助走を付けてエミリアへと思い切り投げる。

 

 「甘いわ!」

 

 しかしボールの軌道を見極め最低限脚を動かし躱すエミリア、だが──

 

 「まだだよ!」

 その宣言と共に口笛を吹き、エミリアの背後に芝の壁を作り出す。

 ボールはその壁にぶつかり跳ね返るとエミリアへとヒットするのであった。

 

 「15対14」

 

 「やった~!やったやった~!!」

 

 「ティアちゃんナイスシュー!」

 「見事だ!」

 魔法を使ったファインプレーで逆転したティアラがはしゃぐ様に喜ぶ。ラヴィ、アシュレイ共にそんなティアラを労う。

 「これで四勝一敗だね!」

 エミリアをアウトにして勝利したと思ったティアラが2人へ振り向き喜びを分かち合おうとするが2人はそんなティアラへ慌てて警告を飛ばす。

 「あっ!?避けろティアラ!!」 「あぁ?!」

 

 「へっ?あいたっ」

 その意味が理解出来ないティアラの後頭部にメアリーベリーが投げたボールが当たりホイッスルが鳴る。

 

 「デュース。15対15」

 

 「え…なんで?私達の勝ちじゃ無いの?」

 「デュースだよ」

 「デュース?」

 「両チームマッチポイントになると二点差が付くまで勝敗が決まらないんだ」

 訳も解らず困惑するティアラにラヴィとアシュレイの2人が何とも居たたまれないさそうに説明する。

 「えぇ~!?!?」

 当然、勝ったと思っていたティアラは驚き、そんな中あるふぁが無情にもボールを投げる。

 

 

 「そんなぁ~~~!」

 

 憐れ鳴り響くホイッスル、後の結果は語る必要も無い。現実とは斯くも無情であるのだ。

 

 

 「負けたな」

 「負けたねぇ」

 「なんだか可哀想だな、デュースのルールを知らずに負けちゃうなんて…」

 決着を見届けた3人が溢す。

 全ての試合が終わり、生徒達は汗を流す為に浴場へと移動している。

 少女達が去ったコートを感慨深く見詰めながら斗真は今日の試合を思い返す。

 「凄い試合だった。これはエレンが観たがるのも分かるよ」

 「だろ?こう言う見応えのある試合が稀にあるから出歯亀観戦は止められねぇ!…ん?オッサンどうした?」

 斗真の感嘆へ同意を示しながら隣で黙りこんだ劉玄を見上げる。

 しかし年長者は応えず、視線を木陰に向けたまま静かに口を開く。

 「なぁ、へルマンよ…お前さん、いくらなんでもソレはダメだろ?」

 劉玄の言葉にそう言えばと斗真が木陰の方向へ首を向けた瞬間、己目掛け翔んでくるナニか。

 「え?」

 ナニかは斗真の眼球に後数ミリと言うところで止まる。止めたのは劉玄。

 そしてナニかの正体はバターナイフ。巌の指に挟まれ止められた刃を認識して腰が抜ける斗真。

 そして木陰からは怜悧な声と共に黒紫の燕尾服が姿を見せる。

 「フン、貴様か鳴美が止めるだろうと踏んでの事だ。しかし…コレが烈火の剣士だと?未熟その物ではないか」

 淡々と、しかし高圧的な態度で斗真を見下ろす燕尾服の男──へルマン。

 

 「しゃーないだろ?コイツはこの世界に来てまだ日が浅い上にイキナリ剣士になっちまったんだからよ」

 斗真を弁護する様に、そして庇う様にエレンが前に立つ。紙袋は既に脱ぎ捨てている。

 「ほぅ?偉く肩を持つ、同郷の好と言うヤツか?まぁ良い……噂の男がどんな者か、果たしてお嬢様を預けるに値するか見定める事は出来た、結果は当然不適格だがな!!」

 劉玄からバターナイフをひったくり上着の内へ収納するへルマン。彼はつまらなそうに斗真から視線を外し吐き捨てる。

 「だからと言って力業が過ぎる。もう少し手心をだね…」

 「フン」

 「お前よぉ、もしかして嫉妬か?ポッと出の野郎が剣士になったのが気に食わねぇの?」

 へルマンの態度にエレンが責める口調で質問するが、漆黒の従者は違うと否定する。

 「私にとって聖剣の剣士等と言う役職は至極どうでも良い。お嬢様の側に居る為に得た地位に過ぎん。私が気に入らないのは私よりもお嬢様の近くにその男が居る事!そしてお嬢様からの視線を受けた事だ!そもそも──」

 剣士の肩書をどうでも良いと切って捨てた半亜人の青年はそのまま堰を切った様にエミリアの事を熱弁し始める。

 「あ、ダメだなコリャ。スイッチ入りやがった」

 「うん、まぁそんな気はしてたけど……好都合、斗真ちゃん、今の内に移動しよう」

 「え?あの…良いんですか?」

 「良いの良いの。コレの頭がおかしいのは周知の事だから、それにこのまま此処に居たらへルマンにエミリア教に入信させられちゃうよ?」

 そう言うと斗真に手を貸し、立ち上がらせ劉玄は斗真を連れて職員棟まで急ぐ。エレンも脱ぎ捨てた紙袋を拾い彼等を追う。

 後に残されるのは独りになっても構わずエミリアの素晴らしさ諸々を熱く語るへルマンのみ、当のお嬢様はティアラ達と共に入浴中であった。

 

 TO BE Continued↓

 

 

 

─玄武神話─




 反省は前書きでしたので後書きは私事をば…!
 
 取りあえず、今日休みなのでスーパー戦隊THEmovies観に行ってきます。創作の刺激を貰って来ます。

 アレですね感想は無いなら無いで気にはならないけど貰えると凄い嬉しかったりしますね。
 
 全く関係ありませんが、SHOW BY ROCK STARS、ウマ娘と同じくらい毎回楽しみに視聴してます。私の性癖的に好きなのはヒメコちゃん、チュチュ、ララリン、ハンドレッコ、ツキノ、阿、ルフユ、ホルミー、ペイペイン、ほわん、吽ですが…、キャラクターとして気に入っているのはヤイバとデルミンとハッチンとういういなんですよね。

 では次回


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11頁 剛・腕・堅・陣

 おはこんばんやすみなさい。

 はい、タイトルで察した人はその通り、バスター登場回です。
 まぁバトルはあっさり目ですが…。
 その為セイバーがちょっと微妙な活躍しかしてません、けどまぁお披露目回はその回の人がメインだからしょうがないね!

 今回登場したメギドのアルターライドブックは以前、頂いたアイディアから抜粋しました。
 肝心のメギドについては特に見た目とかは指定されて無かったので好き勝手しましたけど……どんなもんでしょ?如何せん、生物カテゴリのメギドがテレビ本編サンショウウオとピラニアしかいないから他のカテゴリの連中からもインスパイアを得ながら書くしかない有り様で……。
 ともあれアルターライドブックのアイディアは随時募集してますのでメッセージにてどうぞ!



 ──リュウト、大陸の東に存在する国。その国に伝わる聖剣は大地の力宿す大剣。

 陳劉玄。"堅陣"の異名を持つ大地の聖剣を振るいし剛剣の騎士、彼の存在がリュウトをReyの救援が来るまで魔獣の猛威から持ちこたえた理由、その強さを私達も知る事になるのです──

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院職員寮・斗真の自室━

 

 バンプボールのリーグ戦式の授業終了後、突如ドルトガルドの剣士へルマンに絡まれた斗真は、劉玄とエレンの助けもあり無事切り抜け大事へと至らずに済んだ。

 因みにあの後、浴場ではティアラがエミリアから激励を受けた際、不用意に手を取ってしまったらしく、湯槽に沈みてんやわんやの騒ぎが起きていたのだと言う。

 勿論男子禁制の浴場に教師と言えども、男性である斗真は関わる事が出来ない。

 そう言う訳で現在彼は自室にてバンプボールの取得ポイント総数にてルージュへとランクアップする事が決まったシュガーポケッツの3名の受理手続きの準備をしているのだ。

 

 「何と言うか……酷い目にあった、色々と…」

 

 「まぁ、蜂に刺されたか蛇に噛まれたとでも思っておけ、アイツの頭は色々とオカシイ」

 

 「その例えはどうなんだ……(そして当然の様に人の部屋に居座ってるし)」

 

 斗真が机に囓り付いている傍ら、然も当然の如くソファに横になっているエレン。

 図々しい同年の存在に頭痛を憶えなくもない斗真であった。

 

 「おっ、そうだ小説家。明日頑張れよ」

 

 「え?」

 

 ある程度寛いで満足したエレンが去り際に妙な事を口にしていたのが気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・理事長室━

 

 片や此方はこの学舎の長が居を構える一室。

 今、この場所には部屋の主たる蒼髪の女性の他に1人の男の姿があった。

 

 「ちょいとごめんよクロエちゃん。明日斗真ちゃん鍛えたいから借りて良いかい?」

 

 「構いませんよ。明日はトーマさんの授業はありませんので」

 

 「サンキューね。いやぁ~明日が楽しみだよ」

 

 斗真の与り知らぬ所で重要な事が気軽に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━学院付近の森林郡━

 

 「はい、と言う訳でやって来ました、樹海!」

 

 「何がと言う訳なのか分からないんですが、それは……」

 

 翌日、劉玄はクロエに宣言した通り斗真を随伴して森へと来ていた。

 勿論、斗真からしてみれば知らない内にいきなり連行されたので堪った物じゃない。

 

 「まったく…今日は俺の受け持ってる授業が無かったから良いものの……事前の連絡くらいしてくださいよ」

 劉玄に抱えられて連れて来られた所為で頭や肩に着いた葉や茎を払い落とす。因みに連れて来られた当初は縄でグルグル巻きに縛られていた。

 「いや~済まんね、授業が無いのはクロエちゃんから訊いて知ってたんよ。はいこれ、斗真ちゃんの烈火とワンダーライドブックと他諸々の手荷物ね」

 「手際が良すぎる……」

 担いで拉致する間際ちゃっかり聖剣諸々まで運び出していた年長者の手際にいっそ呆れを通り越して感心すら覚えてしまいそうだ。

 「本当に驚きましたよ陳さん!イキナリ部屋にやって来たかと思えば俺の事を有無を言わさず掴まえて担ぎ上げて…挙げ句『今から森に行くから』って」

 俵を担ぐように抱かれながら存外常人離れした速度で動く劉玄の上で簀巻にされていた斗真は無抵抗のまま後ろに過ぎ去って行く景色を眺める事しか出来なかった、酔わなかったのは単に体質の賜物である。

 

 「それで、何が目的なんですか?いくら貴方でも理由も無くこんな事はしないでしょ?」

 

 「さっすが斗真ちゃん!話が早くてオジさん嬉しいよ!でもその前に……お嬢さん方、隠れてないで出ておいで」

 

 斗真の説明を求める質問に答える前に背後の木々に振り返る劉玄。

 すると何やら後ろの方で驚いたかの様な息遣いが聴こえ、暫しの沈黙の後見知った少女達がゾロゾロ顔を出して来たではないか。

 

 「バレたかぁ…」

 「お見事…」

 「ぜぇ…はぁ…」

 「あはは…」

 「すみません…」

 「『ヘナヘナヘナ~…へ(×_×;)へ』」

 

 現れたのはティアラ達いつもの5人組にプラスしてメアリーベリーと言う珍しい組合せ。因みにリネットとメアリーベリーは疲労で息を切らしていたり目を回している。体力が無いからである、その上メアリーベリーはアシュレイにおぶられている。

 

 「えっ?!あれ?!いつの間に!!?」

 担当クラスの生徒が授業そっちのけで自分達に知らず知らずの内に付いて来ていた事に目玉が飛び出る思いの斗真、そんな彼の傍らで劉玄は顎に手を添えながらあちゃーと呟く。

 「斗真ちゃんとか担いだ分、スピードが落ちてたかぁ」

 「え?あれで?!」

 思わず声に出す斗真、声には出していなかったがリネットやメアリーベリー、ロゼッタ、ティアラも同様の事を思っていた。

 実際、追い付けはせずとも視界に捉えられる程度の速度ではあるので、学院から程近いこの森に入った所さえ解れば後を付ける事事態は可能である。

 

 「君達…どうして?」

 劉玄に移動中聴かされた事情を鑑みれば、此処は生徒達にとっても危険な場所、特別クラスは素行や性格に些か難がある者が多い、その分他者より資質が高い者や尖った才の持ち主が在籍している訳ではあるのだが……。

 そういった背景を考慮しても尚、この森は相応の装備や準備も無く入って良い場所では無い。

 

 「いやぁ、なんか先生がグルグル巻きにされてスゴいいきおいでどっかに連れてかれるのが見えたら気になって…えへへ」

 少しバツが悪そうに頭を掻くラヴィ。

 

 「バカウサじゃないが、教官が警務員殿と森の方に向かったと言うのが引っ掛りまして…」

 アシュレイも葛藤したような表情で目を剃らしている。

 

 「ぜぇ…はぁ…ひぃ…ひゅ…はひゅ…」

 リネットは未だ息が整わぬ調子で言葉にならぬ言葉を頑張って口にする。

 

 「えっと……その先生が心配だったので…」

 ティアラがリネットの背中を摩りながら躊躇いがちに恐る恐る理由を述べる。

 

 「私は…みんながどうしてもって言うから心配で…そのごめんなさい、クラス委員長としてきちんと止める立場なのに…」

 真面目さからか深刻な顔で俯きがちになるロゼッタ。

 

 「うん。まぁ…付いて来た事はもう仕方無いけど……ティアラちゃん達は別としてメアリーベリーさんはどうして此処に?」

 仲も良く同じ班の5人が結果的に行動を共にするのは理解出来る、が、メアリーベリー…彼女はどうして態々ティアラ達と共に居るのだろうか?

 

 「……その、前に…ガラクタ市で……『目の死んだあんちゃんの頼まれた先生の持ってた()()の調整が終ったから渡そうと探してたんだ!( *・ω・)ノ』」

 「アレ?あ…ああ!アレね」

 「『本当は昨日のバンプボールのリーグ戦が終わったあと渡そうとしたんだけど…(´・ω・`)』…先生、お部屋に戻っちゃったみたいだから……」

 顔の下半分をボードで隠しながら少女は己がこの場に来た理由をたどたどしく列ねていく。

 

 「アレってなにさ?」

 「そう言えばガラクタ市の時にベリー社のお店で会った際に何かやり取りしていましたね?」

 斗真とメアリーベリーのやり取りにラヴィとリネットが口を挟む。

 「これ…どうぞ…!『目茶苦茶面白かったぜ!(*゚∀゚)=3』」

 クラスメートの視線が集中し思わず眼を瞑ってしまいながらスマートフォンを渡す。

 時と場所とモノが違えば告白の1場面の様に見えなくもない。

 

 「ありがとう、どれどれ………凄いな!?こんな森の中なのにアンテナが立ってる!それに見た事ないアプリも」

 返ってきたスマホの電源を入れ、映った画面を覗けば、感度は良好、更には用途不明のアプリも見られる。

 目の前の少女は本当にこの異世界でスマホを使用出来るようにしてくれたのだ。

 勿論、通話やメール、SNS関連の機能は使えると言ってもガトライクフォンとの相互連動のみであるが。

 

 「教官、それは一体何なんだ?」

 「板に色々四角かったり丸い模様があるわね」

 「数字も書いてある…」

 ラヴィとリネットのみならずアシュレイ達も興味津々である。

 「あはは、まぁその内説明するよ。…って陳さん?」

 自分の周りに集る少女達に苦笑しながらスマホを仕舞えば、劉玄はまだティアラ達が出てきた方向を鋭く見ている。

 

 「奥の方…離れてるからバレないと思ったら検討違いだよ?隠れても無駄だから出てきな」

 先程より少し声音を厳しくして言葉を投げる劉玄。その声に観念したのか1人の少女が姿を現す。

 

 「「「「「えっ?!」」」」」

 

 「うそ…『な、なんで!(; ゚ ロ゚)』」

 

 「君は…」

 

 予想外の人物の登場に驚きの声を挙げる5人とメアリーベリー。

 その人物を遠目に1度目にした斗真は親交が無い為か少女達程驚いてはいない。寧ろ一番大仰に驚いていたのは出てくるように声を掛けた劉玄その人であった。

 

 「……!なんで……此処に…?!御姫さん?!!一体どうして?!?!」

 

 そう、現れた新たな少女は選抜クラス、supernovaのリーダーにしてリュウトの御姫様。

 

 「おじ様こそ、何故こんな森の奥に居るんです?それも……例の新任の教師と一緒にだなんて」

 

 少女──ユエは1度ティアラに鋭い視線を飛ばした後、そっぽを向き劉玄に対し呆れたように口を開く。

 そのまま劉玄と斗真の方に近付き、劉玄に何事かを言う前に斗真へ向き直る。

 

 「初めまして、来訪者の先生。あんたの事はクロエ理事長から聞いてる。ユエよ、もしかしたら授業で顔を会わせる事もあるかもね」

 絵に描いた様なクールな佇まいで名乗る黒髪の少女、その雰囲気は正に孤高。

 「あ、ああ…斗真です。剱守斗真…よろしくユエさん」

 ユエの雰囲気に呑まれそうになりながら手を差し出す斗真、しかし少女はそれを気に止めず彼の横で悪戯が見付かった子供の様な反応をしている劉玄へと詰め寄る。

 

 「説明…していただけるんでしょうね?おじ様?」

 

 「……………………はい」

 

 その普段の陽気な人柄からは想像も付かない程弱々しい返事が陳劉玄の口から飛び出たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━森の何処か━

 

 斗真やティアラ達が現在居るだろう場所とは違う森の奥で唐突に闇が生まれた。

 その闇から現れたのはローブの人物。

 

 「さて、では実験と行こうか…

 ローブの人物は手にした無地白書のライドブックと淡黄色のワンダーライドブックを見詰め呟く。

 「…ヌゥウン!

 其々両手に持ったライドブックを対面させる様に向き合わせ力を込める。

 すると淡黄色のワンダーライドブックからエネルギーらしきモノがブランクライドブックに注がれる。

 それを確認したローブの人物はブランクライドブックに闇の力を加える。

 ブランクライドブックは忽ちアルターライドブックへと変化する。そのタイトルは"ロコモバッファロー"

 変化を見届けたローブの人物は淡黄色のワンダーライドブックを懐に仕舞い、アルターライドブックを開く。

 

 『ロコモバッファロー!

 

 本が積み重なりその姿を象っていく。やがて生まれたその異形は牛の頭を持った怪物。

 まるでミノタウロスの様なソレはしかし神話に語られるモノでは無い。

 スイギュウを象った頭部の下に人のような顔があるソレは牛の鼻息を荒く吹かし今にも走り出さんとする圧を感じる。

 全身に車輪を象った模様や鉄道レールを鎧にした様な装飾が見られる意匠である。右胸の本の表紙丁装を思わせる装飾に刻まれた印は生物を表すモノ。

 

 「さて…結界の直ぐ近くで展開されたワンダーワールドはどれ程の影響を及ぼすのか、見物だな…フフ。序にと行った実験の方も成果は得られた事だ、貴様にも期待しているぞ?

 そう言ってバッファローメギドに語り掛けるローブの人物。メギド魔人もそれに応える様に鼻息を吐く。

 学院に面した樹木以外の森のほぼ全域が異界に消える。ローブの人物はその直前に再び闇の中へ消え、剣士2人と魔女7人はワンダーワールドへ繋がる異界が生まれた事すら知らずに呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━森林郡━

 

 「「!!?」」

 

 「先生?」 「おじ様…?」

 

 突如として顔を上げた2人の反応にティアラとユエは訝しむ様に声を掛ける。

 「陳さん、これって…」

 「うんまぁ…斗真ちゃんが思ってる通りのだね。いやはや参った、本当ならちょっとばかし活発化した魔獣数匹相手に斗真ちゃん自身の力を試す為に来たのに、このタイミングでとはね……」

 何とも間が悪いと吐き捨てる劉玄、彼は本来斗真に渡し訓練に使う筈であったロングソードを抜刀しつつ斗真と少女達に注意を促す。

 「取り敢えず、お嬢さん方は斗真ちゃんの側を離れないように!オジさんが先行するからその後を見失わないように付いて来てくれよ?」

 こうなっては少女達が引き返す事も出来ない為、斗真の側に着かせ対処し易い状態を作る。

 その上で確実に此処を脱出するのであれば、それは原因となった存在を討伐する事にある。

 

 

 

 

 剛剣の騎士は未熟な聖剣使いと若き魔女達を常に意識に置きながら、異界の元凶を打破せんと前に進む。

 途中、異界の空気に充てられたのか…本来の目的であった魔獣が何匹か群がって来たが、特段苦にするでも無く蹴散らした。

 (本当なら斗真ちゃんの練習台にしたかったんだがねぇ)

 片手でロングソードを勢い良く振りながら迫る魔獣を容易く両断する。

 後ろを付いてくる少女達はユエを除き絶句している。メアリーベリーは途中から恐怖と驚愕で気絶してしまったようであるが。

 そうして何処まで進んだのだろうかと言う所、劉玄は足を止める。

 

 「陳さん、どうしました?」

 「来てるね…うん、来る…凄い勢いで、真正面だ。斗真ちゃん、お嬢さん方、ちょっとオジさんの真後ろから左右どっちかにずれて……そうそう、それくらいで良いよ」

 何らかの気配を感じ取った劉玄が振り返り後ろに付いてくる同行者達へ離れ、安全を確保出来る位置に移動するよう促す。

 それを見届けた歴戦の兵は腰だめに剣を振り下ろす様に構える。

 劉玄が構えて1分程、周囲の木々が揺れ始め、大地が震える。

 音の出所は劉玄が見詰めているだろう前方、何かを砕き、折り、土煙を立てて近付いて来る。

 

 「あれはっ…?!」

 「何かが近付いて来る?!」

 「また魔獣!?」

 「どどどーっ!って、すんごい音してるけど!?」

 「いざとなれば私とて騎士を志す者として戦う!」

 「うぅ…恐い…ですけど、私も何かお役に立てるなら!」

 「違う…魔獣じゃない。魔獣ならおじ様は構えない」

 

 待ち構える劉玄と気絶してしまったメアリーベリー以外の全員が土煙が上がる方角を緊張の面持で注視する。

 その中でもユエは劉玄の顔つきが如実に変化した事に気付く。

 

 「斗真ちゃん、今の内に変身しときな。理由は解ってるよな?」

 「ですね。解りました」

 

 

『ブレイブドラゴン』

 

 

「変身!」

 

 

『烈火抜刀!』

 

 

『ブレェイブドラッゴォォォン!』

 

 

 劉玄の提言によりソードライバーを装着、ブレイブドラゴンワンダーライドブックを装填、抜刀しセイバーに変身を完了させる。

 「おぉー!真っ赤か仮面だ!」

 「うむ、見るのは二度目だが…凛々しい姿だ!素晴らしいです教官!!」

 「確か変身したお姿の名前はセイバーでしたよね」

 「何と言うか…本当に先生がお伽噺の剣士の一人なのよね……」

 「先生とアルマさんとエレンさん、それに……ラウシェンさんもなんだよね」

 ラヴィ、アシュレイが2度目となる斗真のセイバーと化した姿に興奮しリネットが以前質問攻めして得た情報から真紅の竜の剣士の名を口にする。

 ロゼッタが改めて目の当たりにする斗真の姿に感慨深げに溢し、ティアラがその上あの時あの場に共に居た男性全員が聖剣の剣士であると明かされた事に両の拳を可愛いらしく握る。

 そしてユエは初めて見る斗真の変身した姿に目を見開く。

 「あんた……おじ様と同じ聖剣の剣士だったの…!?(それに烈火って……ウェールランドの)」

 あらゆる意味でセイバーに思う所あるユエはそれ以上何も言わず黙り込む。

 

 「来るぞ!」

 

 劉玄が叫ぶ。その言葉通り木々を薙ぎ倒し、大地を揺らす、その騒動の正体が顕になる。

 

 「う…うしだぁー!!?」

 「あんな魔獣は見た事が無いぞ!!?」

 「ティアラさん、あの魔獣って…!」

 「う、うん。多分…街で巻き込まれた時の蜘蛛の魔獣やこの間のリスの魔獣…ううん魔人と同じ」

 「ティアとリネットはアレが何か知ってるの?!」

 

 「あれは…魔獣じゃない、けど敵…!」

 

 5人組がメギド魔人について騒々しく言葉を交える中、ユエは唯一人魔獣とは違う脅威に厳しく視線を飛ばす。

 

 「BuoooOOO!!

 

 スイギュウの鼻、四肢に付いた配管の様にも見える装飾、背中から蒸気を吹き出し突進するバッファローメギド。

 劉玄のロングソードと激突し凄まじい轟音が木霊する。

 「っ…ぃヤァァアア!!」

 剣で角を反らし力を逃がす。

 「斗真ちゃん!!」

 

 「はいっ!」

 

 下方へ力を反らされつんのめる様によろめくバッファローメギドへセイバーは烈火でもって斬り掛かる。

 

 「はぁぁあっ!」

 

 烈火がメギドの鋭利な角とかち合う。そのまま魔人の頭部を切り落とそうと力を込めるがバッファローメギドは鑪を踏み耐える。

 猛牛がその怪力を存分に発揮して刃を押し返す。

 

 「っ…!?ぐぅう…!」

 

 「BoooaaaAAA!!

 

 そのまま角に引っ掻けた烈火ごとセイバーを上空へ弾き飛ばす。

 

 「くっ、まだまだぁっ!」

 

 

『ピーターファンタジスタ』

 

 ピーターファンタジスタワンダーライドブックを取り出し、ソードライバーに装填、火炎剣烈火を納刀しブレイブドラゴンを閉じ再び抜刀する。

 

 

『ワンダーライダー!』

 

 ソードローブの左側にコバルトブルーの装甲が装着される。

 セイバーがワンダーコンボ、ドラゴンピーターとなってキャプチャーフックを伸ばし手頃な枝に巻き付けこれ以上飛ばされる事が無いようにと手管をこなし枝に着地。

 「くそっ、パワーが違う…」

 そのセイバーの独り言に魔人は獣の嘶きを止め、静かに笑い始める。

 「クックック…流石の聖剣の剣士も我がパワーには堪えると見える」

 バッファローメギドが嘲る様に言葉を紡ぐ。アラクネメギドの声帯と違い、キチンとした音として聴こえる流暢な言葉の羅列に斗真は驚く。

 「前のメギドよりも声が聞き取り易い!?」

 

 「そこじゃあない!…ふん、まぁいい。Bulll!そこのデカブツが吾輩の突進を反らしたのには驚いたが、それだけだ!炎の剣士たった一人、敵では無い!」

 

 自信満々、歓喜に鼻息荒く吹かすバッファローメギド。しかし魔人がたった今鼻で笑い一蹴した剛剣の騎士は突進を受け歪んだ長剣を魔人に投げる。

 「ボooルu?!何っ?!?」

 

 「勝手に斗真ちゃん一人だけがお前さんの敵だと思ってんじゃないよ」

 スイギュウの魔人を威圧する彼の右手には灰色のワンダーライドブックが握られている。

 

 「あれは?!あれが陳さんの…!」

 

 「おじ様もやる気になったみたいね」

 

 初めて見るワンダーライドブックにセイバーは目を見張り、久しく見る事が叶わなかった己の護衛の本気にユエは嘆息するもどこか喜色が混じった声を洩らす。

 

 「ぬぁにぃ?!」

 そして予想外の展開にバッファローメギドは狼狽える。

 

 

『玄武神話』

 

 それは神獣のカテゴリに分類されるワンダーライドブック。灰色のガードバインディングには漢字で書かれたタイトルと北を司る四神のイラストが描かれている。

 

 

『かつて四聖獣の一角を担う強靭な鎧の神獣がいた』

 

 「さぁて、久し振りに……暴れますか!」

 

 劉玄が玄武神話を左手に持ち替え、右腕を大地に振り下ろす。

 

 「ええぇっ?!あのおじさん地面にパンチしたよ!!?」

 「何を…!?」

 「「「!?!」」」

 ラヴィとアシュレイが劉玄の突然の行動に目を白黒させ、残る3人も驚きに声を失う。

 

 「よっ……こいしょぉぉぉおおおお!!」

 

 構わず気合いを入れ劉玄は大地から()()()を引き抜く。

 

 

 

『土豪剣激土』

 

 割れた地より振り抜かれるは剛岩大地の聖剣、灰褐色の刀身、橙に近い琥珀の刃を持つ片刃の大剣を肩に担ぎ、本来鍔となる位置にある装填機【ゲキドシェルフ】に玄武神話を嵌め込む。

 

 「そのご自慢のパワー、真っ向から叩き潰してやるよ?変身!!

 

 その言葉と共に激土の柄【メインステイヒルト】に備わる引金【ゲキドトリガー】を引く。

 劉玄の背後にエレメントイメージとしての玄武神話が出現、そのページが捲られる。

 

 開かれたページ【テキストオブワンダー】に描かれた大地の剣士のシルエット。

 陳劉玄の前には六角形の岩が亀甲の様に現れ、目の前のソレを剛剣の騎士は激土を振り下ろし叩き割る。

 

 

『一刀両断!』

 

『ブッた切れ!ドゴッ!ドゴォッ!土豪剣激土ォォッ!』

 

『激土重版!絶対装甲の大剣が北方より大いなる一撃を叩き込む!』

 

 

 砕かれた岩盤が【ソードオブロゴスバックル】により展開したソードローブの装甲へ変化する。甲羅を象った胸部・肩部鎧【ブシンゴウラ】、腕部装甲【ライドロックアーム】は左右で僅かに形が違う。

 同様に左右の差異がある脚部【ライドロックレッグ】により大地を力強く踏み締める様は正しく堅牢な要塞のようである。

 頭部の【バスターヘルム】の【ソードクラウン】はソードライバーによって変身する剣士達と違い激土の先端を模している。

 【グラウンドバイザー】はソードクラウンの位置と相まって大地割る様を描いたかのようにも見える。

 

 「大地の剣士、バスター…推参ってね」

 

 【ゲンブシンワマスク】に包まれた口から聞き覚えのある声が発せられる。

 大剣を杖のように立て体を預ける目の前の重剣士は間違い無く斗真の知る陣劉玄なのだと理解出来る。

 

 「先生の真っ赤か仮面、アルっちの真っ青仮面に続いておっちゃんがガキンガキン仮面になっちゃった!」

 

 「おい、バカウサ…もう少しマシな愛称を付けろ」

 

 「あれがリュウトに伝わる聖剣と剣士なんですね…」

 

 「何と言うか、一目で堅い、強い、大きいって感じの姿ね」

 

 「でもこれであの魔人と戦える剣士が二人になったよ!」

 

 「残念だけど、多分あんた達の先生の出番はもう無いわ。あの魔人がどれだけ力自慢か知らないけど、アレ一匹しかいないならおじ様の敵じゃないよ」

 

 ラヴィとアシュレイが度々緊張感を弛緩させる会話を繰り広げる中、3人目の剣士の存在に息を呑むリネットと思わず子供の様な語彙でバスターを表現するロゼッタ、そして戦力が増えた事で斗真の負担が減る事に心の底から安堵するティアラという反応を見せる傍ら、ユエはセイバーの出る幕など無く、バスター1人で事足りると断言する。

 

 

 「だからどうした…それが何だと言うんDaaaAAAAAA!!

 

 新たな剣士の登場に激昂し興奮を顕にするバッファローメギドはセイバーを無視しバスターに向けてその凶角を刺さんと突進する。

 全身から噴き出す蒸気によって向上したパワーがバスター目掛け激突せんと爆進する。

 対してバスターは突進を迎い容れる様に体を開き構える。

 

 灰の要塞と茶銅の重機関車が激突する。

 

 耳を塞ぎたくなる程の轟音が辺りに響き渡る。

 

 蒸気と土煙が晴れていく。

 

 

 「ち、陳さん!?」

 セイバーとなった斗真はキャプチャーフックを使用し枝から地上へ降りながらにバスターの安否を気遣う。

 そして完全に煙が晴れる…その瞬間、趨勢は既に決していた。

 

 「グuuボォoaアアッ?!ば、バカなっ!!バカなぁぁあ!!?吾輩の突進の直撃でビクともせんだとぉぉおおお!!!」

 

 その絶叫の示す通り、バスターの装甲は凹みすらせず、バッファローメギドは彼をその場から一歩として後退させる事すら出来なかった。

 

 「悪いね。オジさん、お前程度に負ける訳にゃいかねぇんだわ。御姫さんも見てるから余計にね。だから…終わりにするぞ!」

 陽気な声から一転、圧力が増す声。左手でメギドの頭部を掴みその体を易々と持ち上げる。

 

 「ヴouぉあ?!」

 

 「ぃ…よいしょぉぉおおお!!

 

 持ち上げられた事により宙に浮いたメギドのがら空きのボディに激土の刃【ダイゲキジン】による斬撃が2度、3度と加えられる。

 

 「魔人を片手で軽々持ち上げるなんて!」

 

 「すごい…あの大剣を片手であれ程自由自在に…!」

 

 「今のは敵も大分堪えたみたいね。次で決まるわ」

 

 ロゼッタがバスターの剛力に、アシュレイがバスター技術に感心している。

 ユエは既に勝敗は見えたとばかりに淡々と述べる。

 

 「さぁて…悪いね斗真ちゃん、オイシイとこ最後まで持ってちゃって」

 「あ、いや気にしないでください。(陳さん滅茶強いじゃん!)」

 ゲキドシェルフから玄武神話を取外しながらセイバーへ申し訳無さそうに謝罪するバスター。

 そのまま激土のゲキドシェルフ上部にある【シンガンリーダー】へ玄武神話ワンダーライドブックの裏表紙に存在する【スピリーダー】をリード(読み込み)させる。

 

 

『玄武神話!ドゴーン!会心の激土乱読撃!ドゴーン!!』

 

 「汝、刮目也。我、必殺一刀!大・断・断!

 

 激土から必殺の一声が轟く、バスターがそれに伴って技の名を吼え、激土を倒れ伏したバッファローメギド目掛け叩き下ろす。

 彼とメギドを中心にして激しい衝撃波が大地に伝わる。

 割れる地面、悲鳴すら岩盤に呑まれ絶命するスイギュウの魔人、激しい揺れに思わず立ち眩むセイバーと少女達。

 隆起した大地が爆発しメギドは消滅、同時にワンダーワールドは解除され、後には土煙の煤で少し汚れただけの無傷のバスターが激土を肩に担ぎ堂々と其処に立ちはだかっていた。

 

 

 TO BE Continued!?!

 

 

 

─猿飛忍者伝─

 




 次回、遂にヤマト三姉妹と忍者出せる!(変身するとは言ってない)
 ウチの忍者は普通に純情ボーイです。

 ユエを出した理由?そろそろ喋らせたかったからです。(それ以外に理由なんて無い)

 煙叡剣狼煙と昆虫大百科で女性ライダーかぁ……サーベラはどうプロット練ろうかなぁ。

 また次回、それでは!


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12頁 Return to YAMATOSisters&NINJYA

 こんば改めおはようございますからの私は寝ます!

 先に此方のアイディアが纏まりプロットを作り書き上げてしまったので、今回は此方から投稿します。

 忍者哉慥くんとヤマトの三姉妹この花は乙女が登場です。

 序でにとある御仁も登場です。

 人手が欲しいよぉ~!仕事の人手が欲しいよー!

 ミホノブルボンも実装されたし、後はラピライのゲームさえリリースされてくれればウマ娘も始められるんだけどなぁ。





 ──ヤマトに伝わる伝説……風が影に溶け込み魔を切り裂く。変幻自在の刃は、個であり郡。

 風の聖剣の使い手は私達もよく知る少年でした。私よりも幼く見える彼が先生達と同じだとはあの時までは思ってもいなかったのです──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━海上・とある帆船の甲板━

 

 波を切り海の上を進む極東の島国(ヤマト)からウェールランドに向かう木造式の大型帆船、その船頭の甲板に佇む薄桃色混じった銀髪の少女。

 物憂げな色を顔に滲ませる彼女が身に纏った衣服はフローラ女学院"ルージュ"の制服。

 既に目と鼻の先まで見える海の向こうに聳えるウェールランドの大地。それを眺めている少女の傍に近付く長い茶髪を後頭部で纏めた長身の少女、銀髪の少女に声を掛ける。

 

 「ナデシコ」

 

 「あ……間もなくウェールランドに着きます」

 

 「ようやくね」

 

 茶髪の少女に名を呼ばれ憂いを消して明るく応える銀髪の少女──ナデシコ。

 対して茶髪の少女でナデシコの姉──ツバキは船での長旅が終り、再び戻って来た異国の地を眺めながら息を浸く。

 そんな姉にナデシコは再び眉をハの字に寄せて先程から憂いていた原因の進展を訊ねる。

 「カエデは?」

 その短い一言に込められた意味を理解して、無言で首を横に振るツバキ。

 その仕草にナデシコは残念そうに俯くも、一転眼に強い輝きを宿し力強く拳を握る。

 「わたくし諦めません!必ずカエデを説得してみせます…「ろっくんろー!!」」

 ロックな事を可愛らしく叫ぶナデシコ、併せて甲板の何処からか変声期の少年の声が聴こえる。

 

 「あら?」 「はて?」

 

 同時に首を傾げるツバキとナデシコ、その彼女達の反応を見てマストから小さな影が落ちて来る。

 

 「はわわ!?申し訳ございませぬナデシコ殿!拙者…つい何時ものように合わせてしまい申した」

 

 影が大慌てで甲板に額を擦り付ける様に頭を下げる──ようは土下座である──それは小柄な少年であった。

 ツバキよりは低く、然りとてナデシコと並んでも些か低い。

 「あら、サイゾウくん盗み聞きなんてワルい子ねぇ」

 「あわわわわ!?堪忍でござる、堪忍でござる!?悪気は無かったのです。カエデ殿も一人になる時分が必要かと思い拙者も此方に参った次第なのですが、そこでナデシコ殿が何時もの"あれ"を叫んでおられたので……つい…」

 目まぐるしく百面相で慌てる少年に意地の悪い笑みを浮かべるツバキの傍らでナデシコが苦笑しながら頭を上げる様にと手を差し出す。

 「わたくし達の事を元気づけてくれようと考えていてくれてたのですね。ありがとうございます」

 「も、も、も、勿体無きお言葉にござる!拙者、魔女殿を守る事がヤマトは帝より賜った一族の使命なれば!ナデシコ殿のお心の不安も取り除く事もまた然り!でなければ当代の御当主様や歴代のお歴々、更にはユズリハ様、お三方のご両親、先代剣士殿、果ては嘗て我等が仕えた上総ノ守様に申開きが出来ません故!」

 ナデシコが差し出した手をまるで貴重品でも扱うかの様にワナワナと震える両手で掴み、半ベソを掻きながら仰々しく言葉を並べ立ち上がる。

 

 「大袈裟ねぇ、でもサイゾウくんの気持ちはありがたくお姉ちゃん頂いておきます」

 「はい、サイゾウさんの為にもわたくしも頑張ります!ではもう一度参りましょう!」

 「承知!ニン!」

 

 

 

「「ろっくんろー!!」」

 

 改めて甲板に面し…可愛らしい叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・飼育小屋前━

 

 晴天映える青空の少ない雲が風に流される中、西日へと傾きつつある空の下人気の少ない飼育小屋から空気を切り裂く音が鳴っては消える。

 

 「そうそう、いい感じだよ斗真ちゃん」

 

 「うーん、こんな簡単な訓練で良いんですか?」

 

 「いえ!基礎は大事です!何事も積み重ねが大事なんです!!」

 

 音の主は木剣を振る剱守斗真。そしてそんな彼を見守る或いは見届けているのは大地の剣士バスターこと剛剣の騎士陳劉玄と水の剣士ブレイズこと自由騎士アルマ・神明・イーリアス。更には──

 

 「警務員殿や自由騎士殿の言う通りです教官!教官の筋は悪くありません、そして基礎の型を知らずに実戦をこなし続ける事は危険が付き纏います」

 

 「イケイケ!頑張れ!レッツゴー!レッツゴー!せんせーい!!」

 

 ──アシュレイとラヴィが各々で声を掛ける。

 

 さて、何故斗真が木剣を素振りしているのか?それは昨日の森での一件が関わっている。

 メギド魔人を倒した後、ワンダーワールドと繋がった異界は解除され、生徒達を寮へと返した斗真と劉玄。

 結界の外とは言え、間近で異変が起きたとなればクロエに報告しない訳にはいかない。

 直ちに理事長室へ向かい、事の一件を報告。その後御破算となった斗真の訓練を何が起きてもある程度の対応が取れる学院内の早朝の僅な時間と担当授業の無い数時間に宛がわれ、訓練指導を学院の警務員(体裁上の職ではあるが)をしている劉玄とマームケステル全域を巡回しているアルマが行う次第となった。

 それが昨日の夜の事。

 

 そして偶然剣士達のそんな訓練風景を落ちこぼれ5人組(byエレン)の2人が彼等を見付け理由を聞き出し今に到る。

 

 「うん。アシュレイ嬢ちゃんも言っていたけど、筋は悪く無い…いや寧ろいい方だね。初めての素振りで体幹がここまで安定してるなんて凄い事だよ」

 巌の如き手で拍手を叩きながら笑みを浮かべて斗真を褒める劉玄。

 

 「ええ、流石初陣でメギドを倒しただけの事はあります。何か特別な事でもやっていたんですか?」

 同じ様に拍手をしながら感嘆の声を洩らし疑問を挟むアルマ。

 

 「特別な事って訳じゃ無いけど、元の世界に居た頃、小説のネタ探しでよくフィールドワークに出たりして、作中の設定に添うにはどうすべきかとか考えて取材にスーツで富士山登山を結構したり、ダメ元で宇宙飛行士選抜試験受けに行ったり、知り合いに頼み込んでその人の持ってる土地の山道で走り屋よろしく(バイクだけど)レースみたいな事をした事はあるかな」

 

 「ほう…所々よく分からない単語がありましたがトーマさんは見た目以上にバイタリティに溢れる人だったんですね!」

 

 「うーん、斗真ちゃんマトモな人種かと思ったら別方向でぶっ飛んでたタイプかぁ」

 

 「なんかよくワカンナイけど、先生がスゲーって事であってる?」

 「うむむむ、お二人の反応から察するに恐らく…」

 斗真の返答にアルマは純粋に感心するばかりな一方、劉玄は何とも形容し難い顔になる。

 そしてそれを横で聞いていたラヴィ達も分からないなりに自分の中で斗真の来歴が凄いのだと納得する事にした。

 

 「いやおかしい、おかしいだろ。突っ込めよオッサン」

 其処へ新たに掛かった声は斗真達同様、この学院にて生活しているフィレンツェの剣士(現・引きこもり)のエレンことエルヴィレアノ・(以下略)・鳴美。

 相も変わらず死んだ魚の如く濁った瞳でボソッとツッコむ。

 

 「そうなんですか?」

 

 「そこんとこどうなの?」

 

 「おかしいいんでしょうか?」

 

 この世界で育った3人がこの場の最年長者に揃いも揃って訊ねる。

 

 「いやぁ、うん。まぁ、そうね…おかしいちゃおかしいし、普通ちゃ、普通…なのかな?少なくとも斗真ちゃんからしたら普通なんだと思う…よ?」

 だよね?と視線で訴える劉玄に斗真ははいと返す。

 「ところで普段引きこもってばっかのお前さんがこんな陽も高い内から何しに来たんだい?」

 当人からの肯定を貰い、これ以上この話題は触れないでいようと決めた中国片田舎出身の護衛の仕事していない不良中年、話題を変えようとエレンの方にシフトする。

 「(オッサン、コノヤロウ…)別に。オマエがチビッ子からスマホ返して貰ったってから、オレもガトホ返して貰っただけだ。そう言や忍者が帰って来るよな」

 濁った瞳を半眼にしながらガトライクフォンを軽く翳しながら思い出した様にとある少年の事を話題に出す。

 

 「忍者?それって……ヤマトの風の聖剣の剣士だって言う…」

 

 「ええ、僕達剣士の中で最年少の剣士ですね。素直な子なのでとても助かっています」

 

 「割りと人懐っこいんよね。時代的にはオジさんより圧倒的前の人間らしいけど」

 

 「あれだ、一言で言うとあざとい。しかも狙ってやってないから余計あざとい。野郎のあざとさなんざ誰得とか思わなくも無いが、タッパは小せえわ、美少女顔だわ、ガキだわで属性が渋滞してる」

 

 マルルセイユ、リュウト、フィレンツェの剣士達が揃ってヤマトの剣士の事を語る。

 そんな彼等の言葉からややあって、誰の事を語っていたのか理解した2人の魔女が会話に加わる。

 

 「もしや今、教官達の話題に出ているのは購買の彼ですか?」

 「ニンニン言ってる人だよね、たしか名前は……さ、さ?し?す?あっ!ハンゾーくん」

 

 「哉慥だね」「サイゾウですね」

 

 アシュレイ、ラヴィ、2人して思い浮かべた人懐っこい笑みを浮かべる少年の顔、惜しむらくはラヴィが彼の名をマトモに憶えていない事か。

 

 「そうそう、それそれ!」

 「アホウサ……」

 

 「購買?それはもしかして学院で見かけるあの用途不明が多い雑多なラインナップの購買部かい?」

 少女達の言葉で斗真は学院内で度々通りがかる何に使うのかよく分からないモノが店頭に置いてある一角を思い浮かべる。

 「一応…アレらは授業に使用するマジックアイテムです教官………兎も角。ええ、その購買部です」

 マジックアイテムに縁が無い斗真からしてみれば用途不明でも学院の生徒からすれば重要なモノである(マジックアイテムで無い物も普通に売っている)。

 「それで、哉慥君?とは親しいのかい?」

 態々購買部と言う学生に関連深い場所でよく目撃されているのならまぁ親交はあるだろう憶測する。

 「んとね、親しいって言うか、こう…購買部のマスコット的なカンジ。あと、すんごい速いから購買部の子たちからはかなりちょーほー?されてる」

 ラヴィが説明する、斗真が学院に赴任する前に良く見た光景。ニンニン口にしながら購買部の生徒が不在時は代わりに店番を任されていたのだと言う。

 

 「逆に想像出来なくなってきた……」

 

 濃い。圧倒的に濃い人物像に妙な頭痛がしてくる斗真。

 此処に居る剣士達やへルマンも大分濃い人物であったが、哉慥少年はそれ以上の人物であるらしい。今から会うのが不安になって来た、そんな胸中であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ウェールランド・港━

 

 そしてそんな話題の渦中たる少年は久方振りの異国の地にてバク転、空中三回捻り等、体操選手も斯くやのアクロバティックな動きで大地の感触を踏み締めていた。

 その後方ではヤマト三姉妹──ツバキ、ナデシコ、そして末妹のカエデが甲板から波止場に上陸し船旅で海の揺れに慣れた身体を陸に馴らしている。

 

 「ようやく陸ね」

 

 「はい、皆さんとまた会えるのが楽しみです!ね、カエデ」

 

 「……そうですね」

 

 姉妹でも一番背が低いカエデはナデシコのその言葉にむすっとした顔で返事を返す。

 どうやらまだ説得は叶わない様だ。

 

 「ツバキ殿、ナデシコ殿、カエデ殿。大変心苦しいのですが拙者、これより先行し、ふろ~ら女学院に顔を出し申します。然らば──」

 

 

『猿飛忍者伝』

 

『とある影に忍は疾風!!あらゆる術でいざ候…』

 

 「失礼致しまする!忍!」

 

 小さな本が読み上げられたと同時に一迅、風が吹き荒ぶと哉慥の姿は既に其処には無かった。

 「相変わらず疾いわね~」

 「とっても"ろっく"です!」

 (そう言えばサイゾウお兄ちゃんは何時からニンニンと口にするようになったのでしょう?)

 姉2人が暢気に哉慥を見送る中、カエデは今更ながらの疑問を懐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━図書室・旧ベース通路━

 

 国内最高峰の蔵書を誇る書庫の最奥、嘗ての剣士達の拠点"ノーザンベース"を改良した隠し部屋の通路を歩く剣士4人。

 「その…特訓の時の事なんですけど、哉慥って子が陳さんより前の時代の人間って?」

 斗真がふと先程の話題に触れる。

 「うん?何て言うかね、どうも来訪者ってのは現れる際、必ずしもその時代通りに現れる訳じゃ無いみたいでねぇ、ヤマトに現れた来訪者の中に一族ごと来訪したのが居たらしくてね」

 手振りで説明を始める劉玄、アルマが補足する様に口を挟む。

 「僕の両親の先祖もそうですね。マルルセイユに一族ごと現れたそうです。哉慥君の一族とは時代は違いますが」

 「アルマが言った様にちょくちょく数世紀のジェネレーションギャップ?だっけ?があるんよ」

 そこで年長者と生真面目な若者はエレンの方に顔を向ける。

 後はお前が同い年のよしみで説明しろと言う事だろう。

 「チッ、しょうがねぇな。あれだ、忍者は戦乱が収まってから天下統一された後くらいの時代にあたる年代の人間らしい。でまぁ、アイツが五歳くらいの時に住んでた里ごとこっちの世界に現れたみたいでよ、アイツの曾祖父が三代目風の剣士で、間にオレっち達と同じ21世紀の人間を挟んで五代目が忍者の奴なんだよ」

 ざっくばらんに述べるエレンに斗真は目を丸くする。

 「また随分奇妙な経歴だな、でもどうして彼が今の風の剣士に?」

 至極真っ当な疑問をぶつけてみると、エレンはとても面倒臭そうな顔をして渋々口を開き始める。

 「詳しい事は本人に訊け。オレが知ってんのは風の剣士の継承は徹底実力主義って事、アイツがそれだけ候補者の中で、継承出来る程才覚があったって事だけだ」

 

 そうこう会話を交え歩いている内に、剣士達が普段集う本の間の扉前に辿り着く彼等。

 先頭の斗真が扉を潜ると其処には見慣れぬ人物が居た。

 

 「え?誰?」

 

 「不審。それは小生のセリフだな、手前こそ誰だ?見ない顔だ」

 サングラスを掛けた恐らく歳上だろう人物がこれまた中々に特徴的な喋り口調で返す。更には──

 

 「動くな。でござる」

 

 背後から首筋に当てられる金属の感触。まず間違いなく刃物であろうソレを当てて来る人物の声は若いを通り越して幼い。

 しかしその声に振り向けば即座に首を落とされかねない。

 「(声変りするかしないかのギリギリの高音…語尾がござる…そうか)君が哉慥少年か……」

 「ニン?!な、なななななな!?何故拙者の名前を!!?」

 背後で慌てふためく声が聴こえる。正直、勘弁して欲しい。

 当てられた刃が薄皮を通り越してザックリ食い込みそうで恐い、と冷や汗混じりに思う斗真。

 

 「おい、アホ忍者、さっさとソイツから剣を離してやれ。敵じゃねぇ」

 

 「ござっ?!えれん殿!それに劉玄殿にあるま殿お久し振りでござる!」

 後ろからの助け船に哉慥は元気良く反応し、言われた通りに刃を離す。

 そうして安全が確保出来た為、存分に振り向けば小柄な少年が翠色の片刃の剣を腰に戻していた。

 

 「(小さい!ラヴィちゃんよりはある。リネットちゃんよりも少し高い……けど、俺より小さい!155…いや6か?!)えっと初めまして、剱守斗真です。此処で教師をしています。火炎剣烈火の剣士やってます」

 歳下とは言え、異世界歴、剣士歴では先輩の少年に丁寧に挨拶をする。すると少年では無く、サングラスの人物が斗真の言葉に反応した。

 

 「何?確認、手前は今烈火の剣士と言ったのか!?」

 その言葉に後から入って来たエレン達が彼に気付く。

 

 「あ?ムッツリグラサンじゃん。お前も帰って来たのかよ」

 

 「お久し振りです!セドリックさん!」

 

 「おお、お前さんも戻ったんだね。これでアルマとエレンが分担してた聖剣のメンテと他のアイテムの整備諸々が楽になるねぇ」

 

 「憤慨、訂正具申。小生はムッツリでは無い。この色眼鏡も視力保護が目的である。ふむ、聖剣の整備に関しては任せて貰おう。騎馬は雷鳴剣が扱いが雑な以外、問題無かろう。それよりもツルモリ何某とやら、手前が火炎剣と言うのは事実か!」

 

 先程の剣呑な声は何処へやらサングラス越しに眼を輝かせる。

 「あの…貴方は?」

 「失敬。名乗りがまだであったな、セドリック・マドワルドⅢ世(ザ・サード)。音銃剣錫音の剣士兼鍛冶師である」

 此処に風と音、新たなる剣士が現れたのであった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ダウヒッチストリート━

 

 夕暮れのマームケステル市街、中央通りのマジックアイテム専門の店舗内で陳列された品を眺めてティアラが感嘆の声を洩らす。

 

 「面白そうな物ばっかり」

 

 髑髏、ライターらしきモノ、藁人形の山、謎のランプ、etc.etc……。

 地球からの来訪者が見れば用途が分からない、解らない、判らないの三重苦であるが、魔女にはそうでは無いらしい。

 そんな中でロゼッタが棚に陳列された品の中から眼鏡を取り出し、掛け、ティアラに訊ねる。

 

 「どうかしら?」

 「うん、似合ってるよ。魔法は何か仕込まれてるの?」

 

 キラリと輝く叡智の結晶、それに施された魔法が何なのかとティアラが質せば、ロゼッタは少しばかり悪戯を思い付いた様に眼鏡の魔法を発動して答えを返す。

 「これは…分析能力があるみたい。身長156フィンチ、体重45ストン、バストが8じゅ……「ちょっとロゼ?!」うふ、冗談よ」

 「もうっ!知らない」

 

 「こんにちは」

 気安い相手同士だからこそのやり取り、そんな風に2人して盛上がっていると、ユエが店の扉を開けて入店しようとして、しかしティアラを見付け店に入るのを止める。

 「あっ…supernovaのユエさん、でしたよね!この間はちゃんとお話出来なくて…あ、この前のオルケストラ見ました。とっても良かったです!」

 

 「別に…昨日のあれはおじ様に用があっただけ、それにあんたに誉められても嬉しくない…。」

 昨日同様、ティアラに対して当たりが厳しいユエ。しかし彼女のそんな態度にも臆せずティアラは果敢にコミュニケーションを取る。

 

 「あの…何か成績を伸ばすアドバイスを貰えないでしょうか。私達…」

 「あんたの班退学寸前なんだってね」

 「え?」

 「醜態晒して、エリザ様に悪いと思わないの?」

 「…え……?」

 最高ランクノワールからの助言を貰おうと声を掛ければ返ってきたのは苛立ちと嘲り混じりの冷淡な声。

 ユエと言う少女はどうにもティアラに思う所が多いのか兎に角対応が厳しい。

 そのまま言うべき事は言ったとばかりに去っていく。

 

 「大丈夫?」

 店を出て2人で通りを歩く、ロゼッタは親友を気遣い声を掛ける。

 「でもユエさんがあんな事を言うなんて……知り合いだったの?」

 「ううん。でも…向こうは私を知ってるみたい」

 ティアラがこの国の第二王女だと学院で知っているのは、ロゼッタを除けばクロエだけ(ティアラ達は劉玄が自分達の素性を周知している事を知らない)、それ故、まさかユエからあんなキツい言葉が出るとは思っても見なかったのだ。

 「…そうみたいね。…あら?」

 受けたショックを笑顔で隠す親友に何とも言えぬ顔になるロゼッタ、何か話題をと思った矢先に道端で見知った顔を見掛ける。

 

 店頭のショーウィンドウから覗く水晶等の占い道具を見詰める楓の葉の髪飾りを付けた小柄な少女。

 ティアラはロゼッタの反応に少女を観察する。

 

 「知り合い?」

 「あの子はカエデ、ヤマトからの留学生よ」

 簡潔に素性を紹介する。そう言えばと真紅の王女はクラスに不在の席があった事を思い出す。

 

 「お帰りなさい」

 

 「あ…ロゼッタさん」

 

 クラス委員長として率先して声を掛けるロゼッタ、彼女にティアラも追従する。

 カエデはカエデでそんな彼女達に気付き意識を店から久方振りの学友達に向ける。

 

 「いつ帰って来たの?」

 

 「ついさっきです。あの……そちらの方は?」

 

 「少し前に入学した…」

 

 「ティアラです」

 

 カエデが見慣れぬティアラに若干の怪訝を覗かせつつ訊ねるとロゼッタが委細を述べ、ティアラ当人が名乗る。

 成る程と納得したカエデはならばと佇まいを正しティアラに向き直る。

 「はじめましてカエデです」

 

 「よろしくね」

 

 「はい」

 しっかりとした挨拶。此方が気軽に宜しくと返せば微笑みを以て応えてくれる。

 

 「ここは何のお店なの?」

 「占いの小道具屋です」

 「カエデは占い研究会なのよ」

 「へぇ~」

 小道具屋の矢面で3人の会話が弾む。話題のタネは学院の部活動だ。

 「そう言えば…ティアはまだ部活に入っていなかったわね」

 入学してからいきなり退学寸前の班に組み込まれるわ、メギド魔人と仮面の剣士との戦いを目撃するわで暇が無かったとも言える。

 「そうなんですか?でしたら一緒にどうでしょう」

 カエデがならばと暗に占い研究会を薦める。

 「ロゼもどこにも入ってないよね?」

 「私はバイトもあるから…。でも、もし入るならじっくり考えた方が良いわよ」

 カエデの誘いに、しかしロゼッタも未だどの部活にも所属していない件を持ち出せば実家の都合故か苦学生となった親友の苦笑とアドバイスが返ってくる。

 そしてそれはカエデにも何やら刺さったモノがあるようで……。

 「そうですよね。じっくり考えた方が…」

 そんな少女の如実な変化にお人好しを発揮しカエデに何か困り事があるのかと訊ねる。

 「どうかしたの?」

 「実は……ナデシコお姉ちゃんが…」

 その好意に甘え、己が抱えているモノを吐き出さんと口にしかけた所で悩みの種の元凶がカエデの名を呼ぶ。

 

 「カエデー!先に行きすぎですよー?あら?」

 

 果たしてその細腕で本当に平気なのかと疑いたくなるような大きな鞄を両手で持ち歩き、背中には唐草模様の風呂敷からはみ出た鞄に入りきらなかった傘等が背負われている。

 

 「お帰りなさいナデシコ。新入生のティアラよ」

 カエデの悩み事はさて置いて、取り敢えずの紹介を済ませる。

 「まあ!そうなんですか!カエデの姉のナデシコです。ろっくんろー!」

 ナデシコのその見た目からはそぐわぬ言葉にティアラが目を白黒させる。

 「ろ、ろっくんろー?」

 その反応にナデシコは嬉しそうに語り始める。

 「うふ…わたくし"ろっくんろーる"が大好きで」

 

 「初対面の人におかしな事言わないで下さい」

 しかしそれを側で聴かされるカエデの機嫌は忽ち悪くなっていく。

 ナデシコを置いてズンズンと独り速足で学院の方へ逃げて行く。

 

 「はわわ…カエデ~!」

 何処かの忍者少年と似たような言葉を洩らしながら去り行く妹を追おうとするナデシコ。その前にティアラ達に向き直り挨拶を交わす。

 「それでは、後程学院でお逢いしましょう!」

 

 「あ…はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━学生寮・共用談話室━

 

 入浴上がりの魔女達が己の御髪を手入れする傍ら会話に興じるサロンでティアラ達は寝巻きに着替え各々過ごしていた。

 

 「ふふふんふふふん~ふふんふんふんふんふーんふーん♪」

 いつものツーサイドを解いたラヴィがソファの1つを占拠して鼻唄をご機嫌に口ずさむ。彼女は4人が着ているラピス共通の寝間着ではなく、アシュレイがプレゼントしてくれた可愛らしいワンピース。

 

 「ラヴィはどうして着替えないの?」

 

 「べっつにー?ただなんとなく~」

 

 「着たまま寝たらシワになるぞ」

 

 「それは困るな!着替えてくるー!」

 

 ティアラの質問に気分で答えアシュレイに注意を受ければ慌てて部屋に取って返す。頭に着けた短いリボンがピコピコ動いて髪を解いても尚ウサギのようである。

 

 「どうしたんでしょう…あれ?ツバキさん?」

 「ん?こんばんは」

 

 文字通り脱兎で駆けて行くラヴィを見送ったリネットが代わりに此方に近付くツバキに気付くとアシュレイも気付き彼女へ挨拶を交わす。

 

 「戻って来てたんですね」

 「久し振りだな」

 久しく顔を見なかったクラスメートに2人して歓迎を口に出す。

 「みんな相変わらずみたいね。貴女がティアラ?」

 「?ええ…」

 「三姉妹の長女、ツバキよ」

 そんな変わらない学友達に微笑みながらツバキは目的の人物、ティアラに近付き誰何すると自ら名乗る。

 

 「三姉妹?」

 「ナデシコとカエデのお姉さんよ」

 「あぁ…!」

 ティアラは急に現れて三姉妹と口にしたツバキに小首を傾げれば、隣のロゼッタが夕暮れに出会った2人の少女の身内であると教えてくれた。

 それに伴いツバキは改めて軽い会釈でティアラに微笑む。

 「お見知り置きを」

 挨拶が済み、話題の口火をアシュレイが切る。

 「スランプからは抜け出せたのか?」

 「それがね~?打開策は見つけたんだけど…」

 2人の会話の意味に図りかねていると又々ロゼッタが補足してくれる。

 「ツバキ達はオルケストラをやってるの」

 「え、じゃあsupernovaみたいに?」

 オルケストラと言う単語からティアラが知るユニットと同様に彼女達も歌うのかと喜色で訊ねれば、しかしそのツバキは困った顔で右手を頬に添える。

 

 「ええそうよ。ただ…いまいち盛り上りに欠けてきてて……」

 

 そんなツバキへリネットが不在であった理由を訊ねる。

 

 「自分探しの旅に出たと聞きました」

 

 「ただの帰省よ。でもそこでナデシコが新境地を見出だしたの。だけどカエデが乗り気じゃなくて……サイゾウくんも頑張ってくれたんだけど…何とか二人の溝を………」

 不在の間に話が大きくなっている事に苦笑して大それた事では無いと否定を織り混ぜ訳を話してゆく。その話の途中で妙案到りと思い付いたか、ツバキがティアラに目を付ける。

 

 「貴女、どの部活に入るか決めかねているそうね?」

 

 「ええ…まぁ…」

 

 それがどうしたのかと意図を含めた生返事、ツバキはそんな彼女を見下ろしながら悪戯っぽく笑うのであった。

 

 「だったらちょーっと、お姉さんに協力してくれないかしら」

 

 「へっ?」

 

 ツバキの申し出にティアラは只々困惑するばかり。果たして三姉妹の長女が思い付いた秘策とは何なのであろうか?

 

 

 TO BE Continued…忍!

 

 

─猿飛忍者伝─

 




 はい!前編です。
 次の回でセイバーの章は終了です。そしてブレイズの章に移行します。
 
 哉慥くんちっちゃいですね!実はオジさんと並んでお気に入りだったりします。
 作中カエデが疑問を呈した哉慥くんのニンニン口調の原因…元凶はエレンです。

 これを読んでいる読者の皆様はどの剣士がお気に召したのか私気になります!
 もしかしたら章移行する前に行間で剣士達の軽いプロフィールを載せるかもしれません(望む声があればですが)

 ではまた次回でお会いしましょう。


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13頁 唐紅に舞うは此花、風一迅。

 おやすみなさい、そしてやはりおやすみなさい。

 私史上最長の長さになってしまいました。
 いやぁ後半色々考えたんですがどうしても分割する訳にいかなくて………。
 今回の話でセイバーの章を終えますが…まぁ次回にちょっと行間の話入れますけど、次章からはバリバリワンダーコンボ出してく予定です。



 ──ナデシコさんとカエデさんの仲を取り持つ為、ツバキさんの一計にティアラさんは巻き込まれてしまうのでした。そして先生までもが何故だかご一緒する事になって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院エントランス━

 

 ティアラは現在エントランスにてナデシコ、カエデと再び対面している。

 昨夜、寮にてツバキの企みに一枚噛む次第となったからだ。

 

 「部活動見学……」 「ですか?」

 

 ティアラをだしにツバキは2人の妹を呼び出し、今2人が口にした通りの事を提案する。

 

 「そう!この子に付き合って欲しいの」

 

 「わたくしたちと?」

 

 「一緒に回りたいのよね?」

 

 ナデシコがキョトンとした顔で姉に訊ねれば、ティアラの肩を抱き寄せたツバキは笑顔の瞳を開き意味深げにティアラへ言葉を投げる。

 

 「えっと……私、占いやロックに興味ガアッテ…」

 

 ツバキの視線から顔を背けながら引き吊った笑みで予め用意していた台詞を上ずった声で垂れる。

 誰がどう見ても言わされている感マシマシである。

 

 「本当ですか!?」

 

 が、しかし、この妹、一分の隙も疑わない。

 

 「他にも…色々ト見テミタクテ……」

 

 大根役者も真っ青な白々しさだがクラスメートの為に慣れない事を頑張るティアラ、すぐ隣のツバキの笑顔の圧が凄い。

 

 「わかりました!」

 「すぐにでも参りましょう!!」

 片や妹達、同好の志を見付けたとばかりにはしゃぐ。

 

 「そう言う訳だからよろしくね」

 「ツバキお姉ちゃんは同行しないんですか?」

 妹達が思惑通りティアラを部活動見学に連れ出す言質を聞き、後は彼女達次第とばかりにツバキは笑う。

 しかしカエデがおかしいとばかりに不審に思い訊ねてみれば、困った顔で右手を顔に添えて語る。

 「残念だけど色々忙がしくて。出来れば二人の側に居たいんだけどね」

 「妹思いなんだね」

 白々しい芝居から解かれ改めて本心でツバキの妹を思ん図った言葉に対し素直に返す。

 しかし、ナデシコはなんとも残念そうに、カエデはジト眼でツバキを胡乱じながらティアラに言うのだ。

 

 「いえ…少々、違いまして……」

 「重度のシスコンなだけの変態さんです」

 

 「ひどいわぁ!私は…妹達が心配なだけで。あぅうぅぅ……」

 ヨヨヨとワザとらしく制服の何処からか上等な布のハンカチを取り出し顔に押し当て伏せる。

 「はっ…!」

 何か嫌な予感を覚えたカエデが素早くツバキの手からハンカチを取り上げる。

 「あぁん!」

 艶やかな悲鳴を挙げるツバキを余所に取り上げたハンカチを広げるカエデ、彼女はその正体に思わず絶句する。

 「これはカエデの…!」

 そうそれはシルクで編まれた薄桃色のショーツ。もっと分かり易く言葉にするならパンツである。

 

 

パンツである

 

 そんな末妹が固まるのもお構い無しにツバキは新たな布を取り出す。今度はライムグリーン、これもパンツである。

 

 「はっぅ!」

 カエデはその顔を名前の通りに真っ赤に紅葉もとい紅潮させる。

 「コッチにはナデシコの~~♪」

 更にツバキは自身の制服の胸元から白い丸みのある布を取り出す。

 無論ランジェリー、つまる所ブラジャーである。

 

 「ツバキ姉さまっ!!?」

 

 ナデシコまでも真っ赤に顔を紅潮させ、両手を頬に当て絶叫する。

 ツバキと言う魔女…いや姉は度し難き変態さんであったのだ。

 妹達はツバキに詰め寄り自身の下着を取り戻そうとするが察した姉はくるりと身を華麗に翻し逃げる。

 

 「返してくださいっ!」

 

 「何をしてるんですかぁーーー!!」

 

 ラウンジの観葉植物が生えたプランター部に立ち、両手を高く上げて下着を保持するツバキ、それを必死に取り戻そうとピョンピョン跳ねるナデシコとカエデ、場所が絶妙に高低差がある上ツバキの背がナデシコ、カエデよりも高いので全く届かない。

 ティアラや他にもラウンジで談笑していた生徒達が頭のオカシなモノを見た様な顔をする。

 

 (ナンダアレ) (騒乱喧騒、またあの姉妹か)

 

 偶々通り掛かったエレンとラウンジで何事かのパーツを日干ししていたセドリックがヤマト人は変態しかいないのかと言わんばかりの顔になる。

 

 「必死に迫って来る妹たち……私的にはアリだわ~~~♪」

 そんな視線も露知らず、変態の姉は恍惚とした蕩け顔で自分の世界にトリップしている。

 そんな三姉妹のやり取りをティアラは引き吊った笑みで苦笑するのであった。

 「ぁはは…あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・占い研究会━

 

 早速向かった見学、トップバッターは占い研究会。

 此処はカエデが所属する部である。

 部屋は赤いカーテンで陽射しを遮り、香炉を炊いて、更には部員は黒っぽいローブを身に付け、水晶占いや神楽鈴と盛り塩を使用した用途不明占いなど、オリエンタルな雰囲気が充満している。

 

 「色んな占いがあるんだねー」

 「良ければ占いましょうか?」

 感心するティアラにカエデが占術を買って出る。善意もあるがポイント稼ぎと言う目論見も無くは無い。

 カエデの隣で聴いていたナデシコがからかい混じりに太鼓判を押す。

 「よく当たりますよ!カエデは筋金入りの占いマニアですから」

 次姉の言葉にムッとするカエデ"占いマニア"の例えが気に障った様でお返しとばかりに反論する。

 「それを言うならナデシコお姉ちゃんなんて」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 ──フローラ女学院、ヤマト三姉妹次女ナデシコ。とある日の寮での一幕

 

 「はぁ…は、はは…あははははは…」

 

 ベッドの上で寝間着のまま愛用のエレキギターを見つめ涎を口端に滴らしながら顔を興奮で紅く染め荒い息を吐く。

 

 「今日()ろっくです~♪」

 

 仕舞いには愛器に抱き着き頬を刷り寄せている。綺麗に畳まれた掛布団の上には黒の革ジャンとアクセサリーのネックレスが割りと無造作に投げ出されている。

 

 控え目に言葉を濁しても変態であろう……いや!変態である!

 

 とある日の寮での一幕、終演──

 

◆◇◆◇◆

 

 「筋金入りの変態じゃないですか」

 在りし日の姉の痴態を思い起こし軽蔑を込めた視線で毒を吐くカエデ。

 末妹にとって姉2人はどうしようも無い変態さん、と言う認識なのである。

 

 「何かおかしいでしょうか」

 が、ナデシコ自身それを疑問に思っていないのか人差し指をその白磁の如き柔肌の顎に当て、愛妹が何故そんな事を口走るのかと可愛らしく考えている。

 

 さて置き次の部活見学へ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん?あれ?ティアラちゃん?と君達は……」

 姉妹とティアラが次なる部へと向かう道すがら、出会ったのは我らが特別クラス担任教師にして炎の聖剣に選ばれし来訪者、剱守斗真その人であった。

 

 「あ…、トーマ先生!」

 近頃はすっかり公私で往々に関わる機会が増えた数少ない年上の異性の名を呼ぶティアラ。

 対し昨日ヤマト帰省より戻った姉妹は、乙女の園では物珍しい男性に、はて誰であろうかと首を傾げる。

 

 「あのぅ、ティアラさん…その方は?」

 若干人見知りを発揮している妹に代わりナデシコがティアラへ斗真の氏素性を訊ねる。

 「この人はツルモリトーマさん。私達特別クラスの担任になった先生だよ!」

 

 「宜しく。クロエさん…理事長から君達の事は聞いているよ」

 何処と無く嬉しげに語るティアラとナデシコ、カエデ両名に人好そうに微笑む斗真を見て、そう言えばとカエデが思い当たる節を記憶より探る。

 

 

 ──昨日学院へと到着した際、隣の姉が理事長室にてクラスに新しい担任が出来たと聞かされたとか、就寝間際のぎこちない姉妹間の会話に哉慥が天井裏から突如として現れ興奮して何某かの人物の事を話していた事を思い出した。

 

 閑話休題──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・MIP(マジックアイテム研究会)

 

 道中にて遭遇した斗真と偶然にも目的地が一致した3人は一路目的地たる部室を目指し到着、そして歓待を受けていた。

 

 『MIPへようこそ!( *>ω<)ノ』

 出迎えたのは特別クラスのクラスメートにしてこの部屋の主、メアリーベリーその人である。

 

 「「MIP?」」

 聞き慣れぬ単語にティアラと斗真が揃ってオウム返しに首を傾げる。

 

 『マジックアイテム研究会だよ!(・_<)q☆ゆっくりしていってね~♪(o^・^o)』

 メアリーベリーのボードが口元を隠した本人とは真逆に揚々と喋る。

 「それもマジックアイテムなの?」

 割りと対面した以前から気になっていた事を訊ねるティアラ。その答えをくれたのは同行していたナデシコとカエデだ。

 「なんでも持ち主の感情を読み取って、声で表現してくれるとか」

 「メアさんが発明したんですよ」

 

 「ほぉ~!」

 存外高性能であったボードの機能に感嘆を洩らすティアラ。斗真はと言えばボードがマジックアイテムであった事それ自体は存じていたが、仕組みについては知らぬばかりであった為、素直に感心していた。

 

 『商品化もしてるぜぃヾ(*>ω<)ノその名もベリーボード!何故かあんまり売れないけど……(´;~;`)』

 ボードが自信満々に自らの名を宣い、しかし次の瞬間には声が一層落ち込む。

 ボードを持つ開発者自身、気まずそうに目を游がしている。その視線を追えば大量の在庫の山。

 「それは…まぁ…」

 「必要無いですからね」

 至極当然の理由である。

 

 因みに斗真の用事は用途不明アプリの機能確認であった。それに関してはメアリーベリー自身まだ内緒との事。

 

 そうして一行は斗真を加え次なる目的地へ──

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・美術部━

 

 「よーし!」

 

 多数の生徒がより集まって円を作り、目の前のカンバスと中央のモデルを見比べながら筆を思い思い取るなか、腕のみならず鼻の頭まで黒炭に煤汚れたノワールの制服を纏う少女が満足そうに笑いサムズアップする。

 「じゃあ、脱いでみよっか!」

 

 「「えっ?!」」

 

 ティアラ驚く、勿論斗真も驚く。

 そもそもモデルの生徒は既にかなり高い露出の服を着て腕をおっ広げている。

 まぁ、芸術家にとってヌードデッサンなど茶飯事と言う事なのだろう。決して口にした当人、フィオナがヌードが好きだからとか言う個人的な都合等では無い!……筈である。

 

 閑話休題──

 

 

 

 

 

 

 

 ━ゲーム同好会━

 

 ゲーム同好会との名の割りに思いの外片付いた部屋で青年と少女達は目の前のやり取りを見守る。

 

 「そりゃあ!…………おっしっ!」

 割りと小ぢんまりとした部屋の中央でテーブルに置かれたそれなりに大きなイカの筐体を挟み対面して座る2人。

 Sadistic★Candy のアンジェリカが玩具の短剣をイカの触手に刺し込んでガッツポーズをする。

 既に何本か刺さっている所を見るに黒ひげ危機一髪的なゲームなのだろと斗真は当たりを付ける。

 

 「ワタシの番だな」

 手番が回ってきたルキフェルが短剣を逆手にいざ勝負と勢い良く振り下ろす。

 「死ねぇいぃ!!」

 トンでもなく物騒な事を口走ってくれるルキフェル、結果はカチッという作動音と共にイカの頭が回転、ルキフェルに向くと噴出孔から真っ黒な液体が彼女の顔を目掛け勢い良く飛び出し、その顔面を染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━キャバレー部・学院部室━

 

 「バレ~部へようこそ、お姉様、お兄様」

 

 禁則地に迷いこんだ。斗真が最初に部屋に入って思った言葉である。

 一行を出迎えてくれたのはやはり特別クラスの生徒、シュガーポケッツのシャンペ。

 全体的にピンクな部屋の中、肩出しのメイド服なのかウェイトレス服なのか判らない衣服を纏った少女達が、恐らくは客であろう生徒達をもてなしている。

 ぶっちゃけて言おう、完全にアレな店だ。

 絵面が同性同士だからまだマシであるが……いや、やはりアレである。

 

 「はい、あーん」

 等と食べさせて貰っている者。

 

 「ぁぁ~…」

 肩揉みされている者。

 

 他にも膝枕、耳掻き、お喋り等々。ギリギリの健全さを攻め過ぎである。

 

 「バレ~部?」

 「キャバレ~部です…」

 斗真が改めて頭を抱えたくなる思いに苛まれる中、隣ではティアラが何がバレ~部なのかと部屋を見渡し、ナデシコが恥ずかしがりながら教えてくれる。

 カエデもどこか恥ずかしそうに顔を背けている。だが、そもそもこの部の創設者はヤマトの魔女である。

 それもカエデとは特に縁がある人物だ。

 

 青年と少女達はそそくさと撤収する事に決めた。

 出て行く途中、視界の端に見覚えのある巨漢が客の中に見えたような気がしたが考えたら負けな気がして斗真は考える事を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━購買部━

 

 おおよその学院内の部活を回った一行。次なる目的地の途中、生徒であれば誰もがお世話になる部活に立ち寄る。

 「此処は知ってるよ、購買部だよね」

 当然それなりに学院生活を過ごす様になったティアラにもどの様な場所かは解る。

 「相変わらず、何をどう使うのか分からないモノから必要なのかどうなのかと思うモノまで何でもあるね、此処は……」

 斗真も呆れ半分に言葉を洩らす。先日ギターの弦やペットサークル等を見付け戦慄したものだ。

 

 「ニン!ようこそおいで下さいましたでござる!」

 

 そんな彼、彼女の反応に呼応してか少年が元気良く声を挙げて現れる。

 

 「えっ?!誰…!」「哉慥少年!?」

 突如として目の前に現れた小柄な少年(尚、ティアラとの背丈は全く同じ、しかし雰囲気が小柄感マシマシ)に対し初対面故に驚くティアラと昨日見知った斗真は仰け反る。

 「サイゾウさん、お店番ですか?」

 「サイゾウお兄ちゃん…また色々安請け合いしてませんか?」

 片や深い仲の姉妹2人はナデシコは弟の様に接し、カエデは頼りになるようで頼り無い兄貴分に些か呆れた声で進捗を訊ねる。

 「おぉ!ナデシコ殿!カエデ殿!更には斗真殿もご一緒でごさるか!…それと、そちらの御方は……」

 対して少年は犬の様に嬉しそうに訪ねてきた訪問者達に応え、そして見馴れぬ少女にコテンと首を傾ける。

 

 「あ……少し前に入学しました、ティアラです。よろしくね」

 

 「おぉ!新しい魔女殿でござりましたか!拙者、ヤマトにて此方のナデシコ殿、カエデ殿、そしてツバキ殿の護衛とこのふろ~ら女学院の魔女の方々をお守りする任を承けております祭風(はれまき)哉慥と申しまする。てぃあら殿今後とも宜しく頼みまする」

 小柄な少年が身体いっぱいに応じる様を見てティアラは元気な仔犬が尻尾を振っているイメージを懐く。

 

 「サイゾウさんは此処で何をしているのかな?」

 

 「さん等と…畏れ多い。呼捨てで結構でござります。拙者、日々修行も兼ねましてこの購買部なる雑貨屋で働く次第に候。宜しければてぃあら殿も何かご用命の際はお気軽に御立ち寄り下さいませ!「スミマセーン!」ニン!只今ぁー!」

 ティアラが少年へと行動目的如何を質せば、懇切丁寧に敬称呼びや己が何故購買部に居るのかを説明してくれる。最後にちゃっかり宣伝も忘れない。

 そうして別の利用客に呼ばれ直ぐ様其方へと消えていく。

 

 「なんだか…可愛い子だね。2人とトーマ先生は知り合いなの?」

 「はい。サイゾウお兄ちゃんはヤマトの英雄です」

 「とってもとっても頼りになる殿方なんですよ~」

 ティアラが哉慥の愛らしさに顔を綻ばせて、彼が名を呼んでいた3人に関係性を訊ねてみると、カエデはヤマトの国が一般的に認識している彼の姿を、ナデシコが普段彼に感じている個人としての印象を語ってみせる。

 

 「あれ、これは少年の正体普通に知ってる感じなのかな?」

 

 姉妹の口振りから哉慥がどういう存在なのかを認知していると感じた斗真が思わず溢す。

 

 「先生?その正体って……?」

 ティアラがまさかと思いつつも確信を得る為、敢えて問う。

 「あー、実は……ゴニョゴニョ」

 購買部の利用者の手前、あまり大きな声で言えないので耳打ちにて説明する。

 「え…えぇっ?!でも使い手は基本的にお伽噺扱いでごく一部しか知らないんじゃ!?」

 そう、普通は聖剣の剣士の存在は一般的に秘匿され、飽くまでお伽噺の体で伝えられているので魔女であってもその正体は知らされていない。

 リュウトの姫であるユエ等の例外は在れど、国に携わる王侯貴族であっても元首以外が存在を知るのまず無い。

 そんな反応を察してかナデシコが微笑み、周囲の視線に気を配りつつ斗真とティアラにヤマトの事情を教える。

 

 「実はヤマトではサイゾウさんのような存在は国中のみんなに知られているんですよ♪」

 少し悪戯染みた微笑みが可愛いらしい。ナデシコの言葉を受け取るなら極東の島国の臣民全てが風の剣士の姿を認識しているのだろう。

 ヤマトの島国特有なのだろう理由に、そう言うモノなのかと自身の故郷を思い出しながら購買部の方に視線を戻すと、小柄な少年は増えていた。

 

 「「!!?」」

 

 「サイゾーくーん、コレ持ってってー」

 

 「ニン!お任せくだされ!」

 

 「サイゾウくん、この商品って在庫あったっけ?」

 

 「ニン!ニン!少々お待ち下さい!」

 

 「サイちゃーん。これ違う色ある~?」

 

 「ニン!ニン!ニン!確めてまいりまする!」

 

 「サイゾウ、お会計手伝って~!」

 

 「ニン!承知でござる!」

 

 増えた哉慥の姿を良く眼を凝らして観ると、僅かに姿がブレているのが判る。

 購買部員や利用客からの声に応える少年はその余りにも素早い動きに残像が残る程に動いているのだ。

 

 そんな少年の働き様を見届けた一行は次なる目的地へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・温室━

 

 部活動見学の旅も夕方に差し掛かり、少女達と新米教師が辿り着いたのは園芸部。

 硝子張りの夕陽射し込む温室で大量の植物に囲まれた屋内にティアラは感嘆の声を挙げる。

 

 「わぁ~…!素敵…!」

 

 そんな少女の後ろで微笑ましく笑うのは何時もは双子と共に行動している特別クラスのクラスメート、メリッサ。

 彼女はエプロン姿に如雨露を持ちながら温室の植物達に水やりをしている。

 

 ナデシコ達も思い思い、温室の植物を見て回る。

 

 「これは輝砂ですか?」

 

 「ええ、そうよ」

 「輝砂を含む土だと良く育つの」

 ナデシコが陽を反射して輝く砂を手に取りながらメリッサへ訊ねてみるとメリッサの肯定に補足する様にティアラが輝砂の解説を述べる。

 「詳しいね。流石ティアラ」

 魔法も植物に干渉するモノが多いだけあり、園芸には一家言あるティアラ。メリッサが称賛を贈る。

 そんな彼女達へカエデが何かを大事そうに抱えて持ってくる。

 「あの…!コレってもしかして」

 差し出された手に載っていたのは黄金の輝く石。

 大きさはカエデの片手の握り拳程だろうか。

 「ええ、輝石の原石よ。これを砕いて土に混ぜるの」

 「占いでも使えそうです」

 「北東の森で採ったの。奥にはもっと大きいのがあるらしいけど」

 輝石、輝砂──フローラ女学院のあるマームケステルの街の動力源や魔女が使用する魔法や呪文の媒介となる特別な鉱物である。

 であれば、占いに使用する事もまた当然と言えよう。

 

 (北東の森……って言うとこの間陳さんに拉致されて行った所か)

 

 「採りに行きたいです!」

 

 「いけません!あの辺りには魔獣も出ると言われているでしょう!?」

 「でもっ」

 「ダメと言ったらダメです」

 「むぅ…ナデシコお姉ちゃんには関係無い話です」

 「あっ…カエデ」

 斗真が森での出来事を回顧していると、姉妹が何やら揉め始める。

 最終的にカエデが拗ねて話を切上げ、ナデシコが二の句を告げられなくなってしまった様だ。

 

 「それで、他にはどんな花があるの?」

 

 再び姉妹仲が険悪となりティアラは話題を変えて、これ以上拗れぬようにする。

 

 「珍しいのだとジェラニュー草とか」

 「えっ!?」

 メリッサの出した草花の名前に心底驚くティアラ。

 「わぁ~すごい!実物見たの初めて!」

 植物に詳しい彼女が初めて見るそれは碧い花を咲かせる茎が其々対面し重なる様になっている。

 茎の部分から生える薄紫の葉がまるで羽の様で、見ようによっては羽の生えたハートにも見えなくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・中庭━

 

 「さぁ、次は何処行こうか」

 

 園芸部の見学を終えた一行は中庭の一角で休憩の一服としてお茶に耽っている。

 因みに斗真とは途中で別れた。

 ティアラが次は何処へ見学に行こうかと訊ねるがナデシコが打ち止めを口にし、カエデは飲んでいたカップから口を離し告げる。

 「いえ。もう必要無いのではないでしょうか」

 「えっ?」

 「ティアラさん、園芸部でとても楽しそうでしたから」

 「やっぱり…そうかな。私、花が大好きだから!」

 既に心の内が決まっていた事をカエデに指摘され自身も改めてそれに納得の幕を卸す。

 

 「部活動に勤しむ皆様を見てわたくしも改めて思いました。"ろっく"が大好きなんだと!そして完成したろっくを早く歌ってみたいと!」

 ティアラの言葉に触発されたか、ナデシコも唐突に語り始める。

 「曲はもう出来てるんだ」

 「振付けまで出来ております!」

 ティアラが彼女達のオルケストラを曲を聴けるかと高揚すると、ナデシコは"ろっく"な指を立て自慢気に語る。が──

 

 「だったら好きにすれば良いじゃないですか…」

 

 「あっ…」

 

 徐に席を立つカエデ、俯いたその表情は伺えない。

 

 「ツバキお姉ちゃんと二人で、やりたい音楽やって下さい!」

 

 「カエデ!」

 

 「私が!」

 噴飯し立ち去るカエデに延ばした手をだがどうする事も出来ぬナデシコ。代わりにティアラが追い掛ける。

 姉妹の仲は未だ拗れてしまったまま──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━学生寮━

 

 「すみません。お邪魔して」

 髪を卸し、枕を抱いたカエデが申し訳無さそうに上目遣いでティアラ達の部屋に上がる。

 「気にしないで、今夜は一緒に寝ようか」

 「はい」

 「何か悩みがあるなら、相談してね」

 「ティアラさん、カエデのお姉ちゃんになってくれませんか?」

 「え?」

 ソファに腰掛け、カエデを労る言葉を掛けるとまさかの打診が飛んでくる。

 

 「駄目よ!それはっ…

 

 「なんでロゼが?」

 

 そんなあざといカエデの懇願を真っ先に否定したのはベッドの上で話を聞いていたロゼッタ、間髪入れず反論を叫ぶ幼馴染みの言葉にティアラは漫画のリアクションの様な白眼を剥く。

 

 「あ…いえ、何でも無いわ」

 「んー?」

 しかし我に返ったロゼッタはすかさず先程の発言を否定する。と言うか彼女はティアラより年上であるし、実妹も居るのだが……妹に憧れでもあるのだろうか?

 

 「すみません、頼りになりそうだったので…つい」

 カエデもまた冷静になり、謝罪を述べる。まぁ、上の2人があれでは頼り甲斐を求めるのも致し方無し、兄貴分もあまり年上感は無いのだから余計に。

 

 「ツバキもナデシコも頼りになるお姉さんだと思うよ?」

 そんなカエデにティアラは彼女なりにツバキ達が頼りになると嗜めるが、

 「ただの変態さんです。それに…カエデは、何故新しい音楽を始めなくちゃいけないのか分からないんです」

 姉2人を変態さんと切って捨て、今まで自分達がやってきたオルケストラの音楽をがらりと換えねばならない事に不満を垂れる。

 「せっかく今まで頑張ってきたのに…」

 ナデシコが言い出すまでの彼女達オルケストラスタイルはそれはもうバリバリのロックスタイルであった。

 

 「盛り上りが足りないから、路線を変えるなんて何を考えているんでしょう」

 

 カエデは姉の…ナデシコの考えが解らず抱いている枕に顔を埋める。ティアラはそんなカエデを己と重ね自身の過去を朴訥に語り始める。

 

 「私にもね…魔女のお姉ちゃんがいるんだ」

 「そうなんですか?」

 「うん。でも、お姉ちゃんは私がこの学院に通う事に反対で……」

 

 「そうだったの」

 

 「実は……ここに来る前も、お姉ちゃんとケンカしちゃったんだ。きっと…病み上がりの私が魔女をやることに、反対なんだと思う」

 

 「そんな…」

 

 幼馴染みのロゼッタまでもが初めて知ったティアラとその姉の間にあった確執、だが喧嘩別れをして飛び出して来たとしても彼女の中で姉に、魔女に対する憧れは変わらない。

 

 「でも、私はお姉ちゃんみたいな立派な魔女になりたい。そう自分で決めたの。そうすればお姉ちゃんに正面から向き合える勇気を持てる気がするんだ」

 そこまで言葉にしてカエデへと笑いかける。

 「勇気…」

 ティアラの言葉はカエデに何を思わせるのか──

 

 

 

 

 

 一方で眠れぬ夜を過ごすナデシコ。

 ツバキは信じているのか、はたまた然して気にしていないのかぐっすりと眠っている。

 カーテンの隙間から射し込む月光に照されながら、ベッドで横になる彼女の顔は浮かないものから何かを決意した顔へと変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・学生寮━

 

 明朝。昇る陽射しで夜の帳が尾を退き始めた頃、カエデは制服姿で寮の通路際に腰掛け、未だ晴れぬ頭の靄に思考を纏められずにいる。

 そんな彼女が人の気配を感じ振り向くと、昨夜世話になった赤毛の少女が側まで立つ。

 

 「あ…ティアラさん」

 「考えが纏まるまで泊まっていいから」

 「ありがとうございます。でも、カエデは…」

 

  「カエデ!」

 

 そんな時にツバキが大声を挙げて大急ぎで駆けてくる。

 

 「ツバキお姉ちゃん。どうかしたの?」

 姉の珍しく慌てた姿に意外な声を溢しながら目的を質せば、ツバキは一息入れて手にしていた置き手紙を愛妹に渡す。

 

 「森へ行って参ります。これって」

 

 「ナデシコが居ないの」

 

 「どうして?行っちゃダメって言ってたのに!」

 

 読み上げられた内容にティアラが温室でのやり取りを思い出し声を挙げる。

 

 「もしかしたらですが…輝石を探しに行ったのかもしれません」

 

 「輝石を?」

 

 「カエデが欲しがっていたから…」

 森へ向かった次姉の動機に思い到り、声が震えるカエデ。

 ツバキもまた、納得したのか優しい声音で末妹を見る。

 「そう。あの子らしいわね」

 

 「探しに行こう!」

 

 「落ち着いて。森には魔獣も居るわ」

 

 「でも…」

 

 魔獣と言う脅威が潜む森に消えたナデシコを心配してかティアラが居ても立ってもいられず叫ぶ、が、ツバキは待ったを掛けるので気が気でない。何せ前回森に入った時はメギドにまで襲われている。

 

 「それに…森と言っても広すぎて」

 探そうにも手掛かりが無ければどうしようも無いとツバキが述べる。

 「はっ…でしたら!」

 そこで妙案を思い付いたカエデが2人へ何事かを説明し始めるのであった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院裏手の樹海━

 

 未だ陽が低く暗い、鬱蒼とした森の中を固まって歩く集団がある。

 先頭に立つのはカエデと同じくらいの背丈のノワールの制服を纏った亜人の少女サルサ。

 スンスンと鼻頭を動かしながら匂いを頼りに進む。

 

 「すみません。こんな朝早くに」

 

 「気にしないで、ぼくとカエデの仲でしょ!」

 

 カエデの陳謝に勇んで応えるサルサ。この2人、実はルームメイトだけあり仲が良い。

 

 「ったく、何でオレまで……」

 「俺の部屋に入り浸ってたからだろ。人探しくらい黙って手伝いなさい」

 「ぅぅう、ナデシコ殿ぉ」

 そして哉慥経由で参加した斗真と彼の部屋のソファで何故か寛いで居たエレンも共に捜索に加わる。

 

 「ありがとうございます。先生、エレンさんも」

 ティアラが感謝を口にする。因みに緊急であった為、髪飾りはしていない。

 

 「いや気にしなくて良いよ、哉慥少年が大慌てで部屋の天井から降って来たのは驚いたけど」

 

 「おう、感謝しろ。オレっちがワザワザ手伝うなんて、早々ないんだから゛っ゛?!」

 最後まで言い切る前に斗真から肘打ちを喰らうエレン。イイトコロに入り悶絶している。

 

 「ナ゛テ゛シ゛コ゛と゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛」

 「ハイハイ、泣かない泣かない。よしよし」

 哉慥は哉慥で涙でぐちゃぐちゃな顔で叫んではツバキにあやされている。

 「ナデシコ…大丈夫かしら」

 哉慥の頭を撫でながらツバキも少し不安そうに呟く。それを聞いて哉慥が更に咽び泣く。

 「きっと大丈夫です。ナデシコお姉ちゃんは強いから」

 対してカエデもまた不安であろうに、しかし姉の事を信じる言葉を口にする。それを耳にしてまたしても哉慥が、今度は嬉し泣く。

 

 「止まって!この匂いは…」

 

 そんな珍道中の最中、先頭を行くサルサが何かを感じ取り制止する様に声を挙げ辺りを見回す。

 

 突如として真横の草むらより飛び出てくる巨体。キノコの様な魔獣が現れ、慌てて離れるツバキとカエデ、2人を庇うように泣き貼らしつつ腰に後ろ手を回しながら距離を取る哉慥。

 ティアラの前に立ち、ソードライバーとワンダーライドブックを取り出そうとする斗真と、何時の間にか取り出していた雷鳴剣黄雷を居合いの如く構えようとするエレン。

 しかし、魔獣と剣士が動くより速く人狼の少女の拳が魔獣を捉える。

 

 「わ~っふっ~!」

 

 アッパー気味に打ち出された拳がクリーンヒットしキノコ型の魔獣は天高く何処かへと飛んでいった。

 

 「すご…」

 

 (これオレいらねぇな)

 (成る程、一匹程度ならサルサちゃんでも余裕か)

 

 「素晴らしいです!さるさ殿!」

 

 サルサの強さに絶句するティアラとやる気が削がれたエレン、感心する斗真。

 哉慥は眼を赤くしながらも人狼の少女に称賛を贈る。

 

 しかし、安心も束の間、ティアラ達の前に新たな魔獣数匹が現れる。

 

 「まだ居んのか……。おい小説家!変身するよか普通に抜いた方が速ぇ」

 斗真に忠告するや否や新たに現れた魔獣の一匹に肉薄し両断するエレン。黄雷で魔獣の腹を斬り裂きかっ捌く。

 

 「っ!慣れないけど、その通りか!」

 ソードライバーから烈火を抜刀し手近な魔獣の頭上に飛び乗り烈火を突き降ろす。

 

 「忍!悪!即!斬!でござる!」

 哉慥もまた、ツバキやカエデに害が及ばぬ様に迫って来ていた魔獣を逆手に持った双風剣翠風で滅多斬りにする。

 

 「先生達もすごい……ん?」

 剣士達の活躍に目を奪われていたティアラは何時の間にか近付いていたクジラ?の様な魔獣を見上げ思わず固まる。

 

 「え?」

 

 魔獣は既に眼と鼻の先、剣士達は新たに現れた魔獣を討伐し終えたばかりの為、ティアラからは距離がある。

 魔獣は眼前のエサを飲み込まんと大きく口を開きティアラに襲い掛かる。

 

 「きゃぁーっ!」

 思わずしゃがみ込み叫ぶティアラ。しかし、間一髪、寸前の所で魔獣の額の結晶に光の矢が突き刺さり、其所から体内を滅魔の魔力に蹂躙され膨張しはぜて消滅する。

 「あっ?」

 矢の出処を追い振り向けば、弓を持ち残心するツバキの姿。

 「お姉さんに射抜けぬ的はあんまり無いの」

 そう言って弓を符に戻し収納する。

 「ありがとう…」

 まだ少し茫然としながらも謝礼を述べるティアラ。

 

 「ほーん、あれが変態姉の魔法か初めて見た」

 「変態姉って……。しかし、ヤマトはやっぱりと言うか魔法も陰陽師っぽさがあるなぁ」

 「ニンニン!お見事ですツバキ殿!」

 ツバキの魔法に感心する2人と、ツバキが魔法を使用した事に気付き、己が駆けるよりも彼女が魔獣を討伐すると信じ委ねた哉慥が其々口にする。

 

 「もし…ナデシコお姉ちゃんが襲われていたら」

 しかし、今の一件でカエデは一気に不安に駈られたのか涙目となり最悪の事態を思い浮かべてしまう。

 

 「ナデシコお姉ちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

 口許に両手を添えて叫ぶカエデ、他の面々も追従して叫ぶ。

 

 「ナデシコーーー!」

 

 「ナデシコぉぉおお!

 

 「ナデシコさぁぁぁぁんんん!

 

 「ナ゛テ゛シ゛コ゛と゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」

 

 (忍者ウルセェェェ)

 

 同じ様に最悪を想像した哉慥がまたも大泣きしながら叫ぶ。

 そんな中、聞き耳を立てていたサルサが声を挙げる。

 

 「あっちから何か聴こえた!」

 

 「ナデシコお姉ちゃん!」

 

 「待ちなさい!」

 サルサのその指摘にいの一番駆け出すカエデ。ツバキの制止も聞かず1人先へと走り出す。

 「わぁっ!」

 枝で肌を切ろうが、泥にまみれようが駆ける。

 本当は誰よりも大好きな姉の為にその身を省みずに駆ける。

 

 「うわっ!?」

 

 そうして森を抜けた光の先は切り立った崖の先。ナデシコの姿は見当たらない。

 最早先へ進む道など無く、後はカエデ自らが通って来た獣道のみ。それは…もしかしたら、いやもしかしなくても、()()()()()()になってしまったんじゃ無いかと過ってしまい、カエデはその不安を必死に振り払う様に叫ぶ。

 

 

 「お姉ちゃーーーん!ナデシコお姉ちゃぁぁぁぁぁあああんんん!!!」

 

 

 「ここっですぅ…」

 

 聴こえた声にハッとして崖の下を覗く。居た。

 切り立った岩肌から生えた樹の幹に今にも落ちそうになるのを精一杯踏ん張って両手で掴まるナデシコの姿があった。

 

 「はっ!?ナデシコお姉ちゃん!!」

 

  「カエデ…」

 

 辛そうな面持ちで尚も必死に幹に掴まるナデシコ。だがそう何時までも持つまい。

 

 「今、助けます」

 懐より取り出したる人形(ヒトガタ)符に口付けをし魔法を発動する。

 「待っててくださいっ!」

 光を伴い巨大化する人形へ飛び乗りナデシコの救出を敢行しようとする。

 

 「カエデ殿っ!」

 「カエデ!」

 泣き腫らした顔のまま冷静さを欠いている哉慥、三姉妹絡みの窮地でメギドや魔獣が絡まない事になると転で忍者スキルを活かせなくなるのが若さ故の欠点である。

 ツバキ共々カエデが式を使用しナデシコ救出に向かう瞬間を目撃、追い縋ってきた他の面々の前でハラハラオロオロしている。

 

 「ナデシコ!?」

 ツバキがナデシコの置かれている状況を知り悲鳴を挙げる。

 その間もカエデは人形の式神を操り、ナデシコの側へと近付く。

 「ナデシコお姉ちゃん!手を」

 ナデシコの真正面に滞空し自身の小さな手を伸ばすカエデ。

 「くっ…」

 ナデシコもそれに応えようと力を振り絞り右手を伸ばすが上手く掴めない。

 

 「もう一度です!」

 

 「お願い!」

 妹の窮地と奮闘にフローラへ思わず祈るツバキ、ティアラやサルサも神妙な面持ちで見守る。

 

 「カエデちゃんの乗ってるアレをナデシコさんの下に回せば良いんじゃないか?」

 「おい、そこんとこどうなんだよ?」

 同じく見守っている斗真とエレンが哉慥に訊ねる。

 「それは不可能でござる。カエデ殿の魔法による式は当人以外を乗せる事は出来ませぬ」

 哉慥が首を横に振り無理だと断ず。

 「オレの空飛ぶ絨毯と同じか、おい小説家、ピーターファンタジスタは?」

 「あれを生身の女の子に使うのは無理だろ!?」

 元々敵を拘束する為のモノであるキャプチャーフックによる救出も絶たれる。

 「後は忍者の道具くらいしかねぇが…」

 「ああもカエデちゃんが近いと逆効果だろう」

 「ニン……投げ縄では危のうございます…」

 

 そんな会話の最中、遂にナデシコがカエデの手を掴むも、そのタイミングでナデシコが今まで掴まっていた幹が軋む音を立て折れる。

 それによりカエデの片腕に一気にナデシコの体重がのし掛かり少女は苦悶に顔を歪める。

 

 「カエデ!しっかり!」

 見守るティアラからの声。しかしナデシコはカエデに手を離すよう言う。

 

 「もういいです…このままでは…あなたまで」

 そして更に事態は悪い方へと急転する。カエデの式の魔力が切れ始めたのだ。

 足の部位が膨らみ破裂し始める。

 

 「シキガミが!?」

 

 しかしそれでもカエデは諦めず手を離さない。

 

 「ダメです!絶対に離しません!」

 だが現実は非情にも残酷である。遂に式は限界を迎え、乗せていたカエデ共々急落下する。

 

 「いやぁぁぁあああっ!?!

 

 その先に待つ最悪の結末を幻視し思わず絶叫し眼を覆うツバキ、サルサや斗真達も焦りと驚愕に眼を見開く。

 

 

 落下するナデシコとカエデ。ナデシコはせめて妹だけでも守ろうとカエデを抱き締め、カエデもまたそんな姉を抱き締める。

 

 だが、何かが落下し潰れた音はいくら経っても聴こえる事はなかった。

 

 「見てツバキ!」

 「え…」

 サルサの声にツバキが覆っていた指の隙間から恐る恐る覗く。

 

 「あっ」

 思わず溢す安堵と喜びの声、ツバキの瞳が写したのは岩壁から伸びた木々の幹が蔓の様に三方からナデシコとカエデを確りと掴み止めた姿であった。

 

 「これは魔法?」

 逆さまのナデシコが己等の状況にカエデ共々眼を白黒させている。

 

 「なーる、冠ちゃんの魔法は植物系だったな」

 「しっかり太い幹が三つ絡まってナデシコちゃん達を捕まえてる。あの咄嗟の出来事にここまで対応出来るなんて…凄い娘だ」

 

 「間に合った~」

 感嘆し評価を述べる男2人の傍ら口から指笛を離したティアラは安堵し息を浸く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「このたびは、ありがとうございました」

 無事引き上げられたナデシコが皆に深々と頭を下げる。

 「無事で良かった」

 

 「あまり心配を掛けちゃダメよ?」

 

 「はい…」

 ティアラの身を案じる言葉、ツバキの姉としての諌言に弱々しい返事を返すナデシコ。

 「まったくです!カエデが居ないとホント駄目なんですから」

 「カエデ…ごめんなさい。どうしても、あなたと仲直りがしたくて」

 助かったからか何時もの調子を取り戻し始めたカエデにナデシコは申し訳無さげにポケットから大きな石を取り出す。

 その石──輝石を受け取り、同時に姉の想いも受け取ったカエデは目端に涙を溜めながら鬱屈した心の内を遂に姉に明かす。

 

 「カエデもです」

 

 「え?」

 

 「カエデも仲直りがしたかったです。でも…カエデは怖くて。これまでのロックに、ヤマトの音楽を取り入れるなんて。できるかどうか不安でっ、でも…それを言ったら臆病だって思われると思って…」

 そうして遂に堪えていたモノが決壊しポロポロと泪を溢す。

 

 「気持ちは分かりますよ。わたくしも…とても恐いです」

 「え…?ナデシコお姉ちゃんも?」

 「それでも…誰も歩いたことがない、未踏の道をゆきたいのです」

 ナデシコもまたカエデと同様恐れがあったのだ、しかしそれでも尚切り開く事を選んだ。

 「カエデやツバキ姉様と一緒に…」

 大好きな姉妹が共に居るのならば己がパイオニアとなるのも恐くは無い。

 「ナデシコ」

 

 「それが…わたくしにとっての"ろっくんろーる"ですから」

 

 その決意を聞き、カエデもまた己の願いを口にする。

 「カエデも…ナデシコお姉ちゃんと一緒に歌いたいです」

 最早、2人の間にあった蟠りは消えた。姉妹仲が修復された事をティアラや斗真達も嬉しそうに見詰める(若干1名洪水の様に涙を流していたが)。

 

 「流石愛しの妹達~♪好き好きーだーい好き~」

 

 「ツバキ姉様!?」

 

 「ちょっと…こんな所で危ないです」

 

 「大丈夫よ。いざとなったらティアラがまた助けてくれるわ」

 

 「ぅぇ私?!」

 妹達の仲が元通りとなりツバキもまた何時もの調子に戻る。そして何時も通りに妹達から注意を受けるとティアラをアテにするような事をからかい混じりに言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・ステージ━

 

 夜、学院のステージ前には大勢の生徒の姿。その中にはティアラ達何時もの5人組や斗真は勿論、独特なサイリウムライトを二刀流に持ち今か今かとオルケストラを心待ちにするラトゥーラや友の晴れ姿を見ようと駆け付けたサルサ。

 オルケストラとあって疲れを我慢しラトゥーラ同様サイリウムライトを複数持つエレン、今し方ステージのセッティングを終えた哉慥の姿もある。

 全体的に和の装いとなったステージに照明が点り、ヤマト三姉妹が肩から胸元がバッサリ露出したミニスカートの改造着物のステージ衣装で現れる。

 

 「今宵は…この花は乙女の新曲お披露目にお集まり頂き、ありがとうございます」

 センターを勤めるナデシコが挨拶を始める。

 

 「リハーサルとも言いますが」

 そこにボソッとカエデが呆れ顔で呟く。

 

 「わたくしたちは新しく和風ろっくをやる為に、生まれ変わります」

 装いも新たとなった三姉妹、カエデは少し不服そうに溢す。

 

 「…ホントにやるんですか?」

 「良いじゃない。折角ナデシコが考えた口上だもの。それに哉慥くんもステージを飾るの頑張ってくれたんだから」

 長姉からこうも言われてしまえばカエデとて偶の音も出ない。

 姉妹は手にした扇子を広げ各々に見栄を切り口上を述べる。

 

 「喩え散り逝く宿命(さだめ)でも

 

 「咲かせてみせます銀銭花

 

 「捧げてみせます恋の唄

 

 

 

 「「「我らヤマトから来たりし三姉妹。この花は乙女」」」

 

 三姉妹の扇が円を描き花弁が生まれる。

 

 「参ります!

 

 

 

 

【─からくれ*ナイトフィーバー─】

 

 

 軽快なロックサウンドに和楽器独自の音が混じり調和を生み出すこれが彼女達の新たなるろっくんろーる。

 桜の花弁が歌詞に合わせて姉妹其々の花葉へと転じ、舞踊を織り混ぜたダンスに合わせて散る。

 

 

 

 「よー!はい!!よー!はい!!」

 

 「よー!ニン!!よー!ニン!!」

 

 「へっ、ラトゥーラのヤツ…はしゃぎやがって」

 

 「お前も端から見たら大分はしゃいでるよ?哉慥少年もだけど…何あれ、残像にしては少年カラフル過ぎない?」

 

 コール&レスポンスをするラトゥーラと哉慥を後ろ手で眺めつつ、自身も6刀流してアクションを取りながらクール振るエレンに、ツッコミつつも目の前で増えては光る忍者の謎スキルに戦慄する斗真。

 

 「ありゃ猿飛忍者伝を応用した影分身からの遁術だな」

 「おかしい…俺の知る遁術は逃走術だったはず……」

 

 と言うか、そんな事にワンダーライドブックの力を使って良いのか?と、うごごと頭を抱える斗真。そうこうしている内にステージは終幕を向かえる。

 

 「この花ーーー!マジサイコーじゃん!」

 魔女のオルケストラ限界オタクと化したラトゥーラが称賛を叫ぶ。

 観客の反応に一礼を返す三姉妹。

 「いけそうね」

 「これなら次のオルケストラもばっちりです!」

 「カエデ…なんだか自信が付きました」

 オーディエンスの声に確かな手応えを感じる三姉妹、やりきった彼女達の顔は輝いて見える。

 

 

 「すごく元気をもらった気がするよ。心の中に、花が咲いたみたい!」

 

 「そうね。私も胸が熱くなってきたわ」

 ティアラが傍らのロゼッタに興奮抑えられぬとばかりに伝えれば、親友もまた同じ様に身の内より湧き出す想いを肯定する。

 

 

 

 

 

「これが…歌の力なんだね!」

 

 

 

 とぅ びぃ こんてにゅ~ど♪

 

 

─ジャッ君と土豆の木─

 




 次章からは最低でも八千字前後で納めたいなぁ…。

 因みにこの作品では、哉慥くんがこの花は乙女のステージセットを頑張って運んで組みました。ええ両脇の桜の木もです。
 
 次章以降は斗真をIV KLOREとも絡めて行きたいと思っております。
 ではまた次回。


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行間 今更だけど…

 こんばんは。おやすみなさい。

 ガルパン三章、観に行って来ました。いやぁ最高でした。

 遂に春アニメも始まりましたね。私はダイナゼノンが楽しみでした。良いですよね心に傷を持ってる登場人物達のジュブナイル的日常からの、後半ダイナゼノン登場で『そんなこと知るか!』とばかりの特撮的非日常のやりたい放題。
 ガウマが思いの外、駄犬…もとい大型犬ぽくてあのギザギザハートな面子の癒しになりそうな所とかポイント高いです。

 ゴジラSPも往年の怪奇特撮みがあって良いですね。

 後何と言っても楽しみなのは原作を読んでる86!あの絶望的な死に急ぐ様に生き抜こうとするスピアヘッド大隊の面々が好きでしてね。
 苦悩するレーナと、段々と変化してくシンの関係も大好きで大好きで。
 無双が嫌いな訳では無いんですが、やはり不条理な世界で必死に食らい付く人間は美しさを感じます。



 【元の世界に未練は…?】

 

 ━職員棟・斗真の自室━

 

 「やっほー♪せんせー遊びに来たよー!」

 突如として勢い良く開け放たれる扉。それを行った主はとても能天気に溌剌とにむべも無く宣う。

 「このバカ!バカウサ!ノックも無しに入るヤツが何処にいるっ!?」

 その後ろから騒動の元凶を叱るのは純紫の馬尾を揺らす。

 「ここに居るぞ!」

 そして叱られる方は方で特に悪気も無く堂々と言ってのける胆力を持つ金髪の垂れ耳の様な2房の髪。

 

 「ごめんなさい先生。二人共、入口で言い争わないで!」

 その後ろから更に3人が続く。1人は蒼い長髪を漉き流しにした真面目全とした少女。

 

 「あはは…お邪魔しまーす」

 1人は先の2人のやり取り諸々を苦笑する美しい髪飾りを着けた真紅の流麗な髪を持つ気風穏やかな少女。

 

 「お、お邪魔、します…!」

 最後に、緊張の面持ちで上擦った声を上げるのは若葉の如き緑の髪をミディアムショートに切り揃え黄色のカチューシャで纏めた内気な少女。

 

 「や、気にしないで良いよ。気軽に遊びに来てくれて良いって言ったのは俺なんだし」

 そんな騒がしい5人組を斗真は顔を綻ばせて迎い入れる。

 

 「ほら!先生もこう言ってんじゃん。あ、パンツ丸見え」

 先陣を切った騒動の元凶が梯子を降りながら、上に視線を向ければ当然己を叱った相方のショーツが見えてしまう訳で──

 

 「お、お前は何をっ!!?」

 当然見られた方は顔を真っ赤に染めて憤慨するのである。

 

 (位置的にはラヴィちゃんのソレも見えてしまうんだよなぁ……)

 無論、彼女のように堂々と覗くつもりも毛頭無いが、と金髪ウサギが梯子を降り始めた時点で机の書類に熱中する()()をする、健全な一般的成人男性たる斗真は胸中にてそんな事を思う。

 常なるかな煩悩との葛藤を繰り広げている内に5人中、4人が斗真の元へ降りてくる。

 

 「リッちゃーん、降りて来ないのー?」

 

 「済みません。少しどんな本が置いてあるのか見てみたくて……先生、宜しいでしょうか?」

 ラヴィが上に残ったリネットに如何にしたかと訊ねれば、内気ではあれども想像力豊かな本好きの彼女は斗真の部屋に収められた蔵書に目を奪われている。

 

 「構わないよ。その辺のはガラクタ市や街の書店で見付けた個人的趣味のモノばかりだから、君のお眼鏡に叶うかは判らないけど」

 まるで宝物を見る様に目を光らせる少女の言葉に困った様な嬉しい様な笑みで返す。

 あれから定期的にロランパークに赴いては何かあるだろうかと探し歩いた結果見付けた、元の世界の本の数々、或いは来訪者が書いたとされる本の原本。

 それらを入口のある2階本棚に収めていっているのだ。

 

 「上も下も本が結構いっぱいありますね」

 ソファに失礼しますと断りを入れながら、ティアラが部屋を見渡しポツリと溢す。

 

 「上は趣味物だけど、この辺にあるのはこの世界の歴史とかこの世界の文字が書いてある教本とかかな。偶に混じってるボードゲームはエレンやルキフェルさんが置いていった物だけど」

 書き終えたフリをした書類を引出しに片付けつつ応じる。

 困った事にエレンのみならずルキフェルまでもが稀にこの部屋に来ては居座り寛ぐのである。

 

 然りとて、1人部屋としてはそこそこの広さを持つ円筒形のこの場所も、4人もの少女が来たとなれば些か手狭ではある。

 

 「ごめんね、椅子使うかい?」

 3人も座ればソファも埋まってしまう。がエレンやらルキフェルやらが度々訪問して来るので備えは万全だ。

 本と共に購入した折り畳み式のミニデッキチェアを引っ張り出す。

 

 「ありがとうござります。此方こそ突然済みません」

 ロゼッタが代表して頭を下げる。しかし彼女はちゃっかりとティアラの隣をキープしているので、座るのはアシュレイかラヴィのどちらかとなる。

 

 「ふっふーん、あたしはこっちだー!」

 ラヴィがご機嫌気分で斗真の後ろ、彼のベッドの梯子を駆け上がって布団に座る。

 

 「おい!ラヴィ!いくら何でも遠慮って物を…!!」

 「大丈夫だから、落ち着こうアシュレイさん」

 ラヴィの凶行に怒鳴るアシュレイを落ち着かせる斗真。彼自身はラヴィの行動には特に怒りを覚えてはいない。

 「ですが教官!」

 「本当に大丈夫だよ。それにまぁ、何と言うか…ラヴィちゃんは姪っ子を思い出すんだよね」

 嘗てあった生活に思い馳せる斗真、そんな彼の顔を見てティアラが一抹の不安と共に訊ねる。

 

 「先生は…元の世界に帰りたいとかは思った事は無いんですか?」

 「ティア…?」

 「ティアラ…」

 「ティアラさん…」

 「ティアちゃん」

 この質問に上で本を物色していたリネットも下のやり取りに注目する。

 果たして彼の答えは如何なる物なのかと…。

 

 「うーん、どうなんだろう。自分でも良く分からないんだよなぁ…帰れる手段があれば、それは勿論帰るんだけど。それはそれとして、この世界にはまた来たいって気持ちもある。一番良いのは自由に此方とあっちを行き来出来たらって事だけど……まぁそんな都合の良いことは無い訳で、だからまぁ、ティアラちゃんの質問への答えは…無いと言ったら嘘になるけど、でもそこまで必死に帰りたい訳では無いかな」

 曖昧でごめんねと返し困った様に笑う斗真にティアラはどう返すべきなのかと困窮する。

 命の恩人で自分達のクラスの担任。この学院に来て紡がれた縁の1つ。

 ティアラには彼との出会いもまた大事な宝物、彼を含めてこの学院での仲間達との生活が楽しいのだと思うと同時に、しかし斗真にも元の世界での生活や他者との繋がりが有ったのだと思うと胸が痛む。

 それを表情から察してか斗真が何か機の利いた事を言葉にしようと口を開こうとした時、部屋の扉が再び開かれる。

 

 「小説家!匿ってくれ!!」

 

 フィレンツァの剣士、エレンである。

 

 「エレン……一体何をしたんだ?」

 最早すっかりお馴染みとなったこの世界で出来た悪友の訪問にジト眼を返す。

 

 「何でオレが悪い前提なんだよ!ちゃうわ!オレっちは単にあの芸術病弱バカから逃げてるだけだっての」

 扉のノブを握り締めながら吠える煤こけた金髪の青年。

 彼が言う芸術病弱バカとは誰か?と考え頭を巡らせるも思い当たる節が無い。

 だがこの場に居る他の者は違った様で、ロゼッタがもしかしてと洩らし、注目を集める。

 

 「あ、えー…その多分ですがフィオナの事を言ってるんですよね?」

 「おう、委員長ちゃん流石だな。知ってたか」

 

 ロゼッタの言葉で斗真、そしてティアラもフィオナと言う名から思い出す顔形。

 クロエ自らが担任を勤める選抜クラスのメンバー、オルケストラユニットsupernovaの1人、エレン同様フィレンツェ出身のボーイッシュな少女が頭に浮かぶ。

 

 「えっ?フィオナ…さんってsupernovaの?」

 ティアラが意外そうに声を溢す。

 

 「あー選抜クラスの。そう言えばお前を初めて見た時も追われてたな……って言うか彼女病弱なの?!とてもそうは見えないんだが…」

 斗真としてもやっと顔と名前が一致し、尚且つエレンを初目撃した時の事を思い出して声を上げる。

 

 「ま、あの見た目だと普通はそう思うだろうな。実際には割りと体調崩し易いヤツな訳だが」

 

 「そうなのか……何と言うか…意外だ」

 同郷(厳密には違うが)の者が断言する以上、事実なのだろうと納得する。がそこで斗真は思う。

 

 「それなら彼女から逃げるなよ」

 

 「馬鹿、おま、バカ野郎!それとこれとは話が別だ!!あいつは事あるごとに脱がそうとすんだぞ?!上は良いよ許容範囲だ、けどな下はダメだ下は!尊厳的に断固ノーセンキュー!」

 必死に首を振る悪友にそこまでか…と唖然とする斗真。その場の少女達も何とも言えない顔になる。

 

 「あ、そうだ!エレっちに質もーん!エレっちは元の世界に帰りたいって思った事無いの?」

 しかし此処にそんな空気を物ともしないラヴィがエレンに斗真がティアラにされた質問と同様のモノを投げ掛ける。

 

 「無いね」

 

 「「即答!?」」

 ロゼッタとアシュレイが間髪入れずに却って来た答えに声を揃えて驚く。

 

 「えと…何でですか?」

 エレンの近くに居たリネットが恐る恐る訊ねる。

 

 「オレぁよ、13の時にこの世界に来たんだよ」

 

 「そうなんですか」

 相槌を返すリネット。下の4人も其々へぇやすごいね~やらと声を挙げる中、1人斗真だけが彼の言葉に籠められた意味に気付く。

 

 「あっ、そうか……お前…」

 

 「おいバカ止めろ!その先を言うんじゃない!」

 

 扉に張り付いている為、下の斗真の顔を伺う事は出来ないが、きっと憐れんだ瞳をしているに違いないと確信するエレン。

 彼は慌てて斗真が言わんとしていた言葉を遮るが、物理的に塞がれていない彼の口は少女達のどういう事?と言う視線に数刻迷った後、紡がれる事と相成った。

 

 「えー…っと、俺達の元居た世界…13歳って年頃は中学生なんだけど、その頃にこの世界に来たって事は最終学歴が小卒になるんだ」

 

 「ショウソツ?」

 

 斗真の説明に首を傾げるティアラ他。

 

 「基本的に俺達の世界で学校って国によって多少違う所もあるけど小学校、中学校、高校、大学ってなってるんだよね。で、エレンは生まれはイタリアって言う国なんだけども、俺の居た日本で長い事生活してたんだよ。それで日本って基本的に小、中が義務教育になってて……、将来的な働き口、広げたいなら大学か、最低でも高校までは卒業する必要があるんだよね。で、エレンは13で此方に来たから最終学歴が小学校卒になっちゃうんだよ」

 

 「「「「あっ」」」」 「???」

 

 今の説明で理解した4人と未だ疑問符を浮かべるラヴィ。

 斗真はそんな彼女に耳打ちをして穏便に済ませようとするが、そこは問題児クオリティー、ラヴィは大声で叫ぶ。

 

  「ええ!つまりエレっちって向こうに戻ったらムショクなの?!

 

 「ハァァア?!ちげーし!漫画家だしー!」

 

 「いやでも十年前だろ?そりゃ13までに月刊誌とは言え連載してたのは凄い事だけど…人気無かったんだよな?」

 

 「オメーだって似たようなもんだろ!?つーか別に良いんだよ帰る気ねぇし!」

 

 斗真の言葉にキレ気味に返すエレン。大人2人の大人気ないやり取りにに困惑する少女達。

 これ以上は不味いと思ったティアラが柏手を打ち何事かを思い付いた様に話題を変える。

 

 「そ、そうだ!他の方達はどうなんですか?!」

 

 「他?」

 

 「あん?そりゃつまり、オッサンと忍者の事か?」

 

 ティアラの出した話題に2人が下らない応酬を止める。

 

 「はい!確かそのお二人も来訪者なんですよね?だからどうなのかなぁって」

 

 見事話題の路線を変更する事に成功したウェールランドの第2皇女は笑みを取り繕う。

 

 「あの二人も帰る気はねぇだろ。お前らは知らねぇかもしれんが、来訪者ってのはな、よしんば帰れたとしても元居た時間軸に戻れるたぉ限らねぇんだよ。まして忍者の奴が居た時代はオレと小説家、オッサンよりも遥か前だ」

 

 「え?時間軸が違うってどういう!?」

 死んだ魚の如き眼をした悪友から飛び出た言葉に思わず立ち上がる斗真。

 

 「詳しくはオレも知らねぇ。がムッツリグラサン曰く、万に一つ、此方から向こうに渡る手段を得ても来訪者の頻度やらから繋がるとしても最新の暦年なんだと。つまりだ、オレやお前はまぁ帰れる望みの芽はあるが、オッサンや忍者は無いってこった」

 そんな言葉と共に嘆息する音が聴こえる。

 「成る程……今、学院に居る剣士で一番暦が新しいのは俺の2020年になるのか」

 

 「ふへぇ~2020年、それが先生のいた世界のねんごーってヤツなのか!」

 

 「確か授業だとまだ先生が居た世界と私達の世界の類似点と発展の違いしかしてませんでしたよね」

 ラヴィが斗真の真後ろで感心し、ロゼッタが指を立てて斗真の授業内容を振り返る。

 

 「そうだね。此方の世界の生物史に詳しい本をまだ読んだ事がないから、どの程度一致してるかまでは解らないけどね」

 

 「進化論の歴史ってヤツか。ま、亜人だの魔獣だの居るしな此処」

 斗真が生徒に答える上でエレンが適当な本を取り出す。

 「教官とロサリオ卿の事は解りましたが、結局…警務員殿とサイゾウは帰りたいと思っているのですか?」

 アシュレイが挙手と共に話を戻す。

 「オッサンは前にオレが直接訊いたからな。帰る気は無いってよ。忍者は…本人に訊け」

 エレンはそう言うとガトライクフォンを取り出しコールを掛ける。

 

 暫くして──

 

 

 

 「お呼びでしょうか!えれん殿!!ニン!」

 

 斗真の部屋の天井から落ちて来てはクルリと身を翻し2階の手摺に着地する祭風哉慥の姿。

 

 「えっ?!あれ?!この上って他の先生の部屋があるんじゃ……?」

 それを目撃したリネットは眼を白黒どころではないくらい混乱を顕にしている。

 

 「本屋ちゃん。良いことを教えてやろう。忍者に常識は通じない」

 

 「ニンジャすげー!」

 「むむ、ヤマトに於ける2つある騎士爵の1つなだけの事はあるな」

 「ニンジャってみんなあんな登場するのかしら…」

 3人が忍者に対して有らぬ誤解を加速させる。

 「先生、サイゾウくんの様なニンジャってみんなあんなスゴい技が使えるんですか?」

 ティアラが訊いてきてくれたので、すかさずいやいや違うよ?と応じる。

 「元の世界の忍者も此処までの非常識さは無い…筈……。それに俺が居た頃の時代じゃ忍者って半ばアトラクションになってたからね」

 

 「むぅ、えれん殿から聞いた時もそうでしたが、改めて聞かされると複雑でござる。草者から始まり乱破と呼ばれ、いざや忍の地位を確立したと思えばこの有り様、時代は非情にござる」

 「まぁ現代の忍者はスパイだし」

 「スパイはスパイで大分非常識じゃね?」

 落ち込む哉慥を宥める2人。

 少女達は会話の内容がイマイチ理解出来ない。

 

 「それで結局拙者にどの様なご要望があるのですか?」

 気を取り直した哉慥が改めて呼び出された要件を訊ねる。

 

 「オレじゃねぇ。用があんのはガールズ達だ」

 

 「はい!ヒョウゾーくんは元の世界に帰りたいって思った事ある?」

 

 「哉慥でござるよ、らう"ぃ殿。はて元の世界でござるか?うむむ……そもそも拙者、幼き時分に此方に一族郎党共々参りましたので、帰るも何も無いのでござる」

 ラヴィの言い間違いを訂正しながらとんと語る少年。

 

 「そなの?」

 

 「ござる。里の大人達は慌てておりましたが、拙者ら小童共は然程気にしてはいませんでしたのです。なので拙者にとって故郷とはヤマトの国でござる」

 ムフーと自信満々にどや顔する少年、エレンはその額にデコピンをかます。

 

 「あぅ?!」

 

 「ま、そう言うこった。少なくともこの学院に居る来訪者の面子はそこまで帰りたいたぁ思って無いっつーこった。だよな小説家?」

 

 「そうだね。さっき君達に言った通りだよ」

 

 「んだよ、もう答えたんか」

 斗真の返答に己が駆け込む前に少女達へ回答していた事を知り呆れるエレンなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【先代の剣士って?】

 

 「よーし、じゃあじゃあ!あたしからも先生にシツモン!先生とかアルアルとかエレっち達が持ってるセーケンを前に使ってた人ってどんな人?」

 元の世界の話題を終え、一段落する中でラヴィが話題を切り出す。

 

 「先代剣士か…それは俺も知りたい」

 

 「教官はご存知無いのですか?」

 

 斗真が知りたいと口にした事でアシュレイが意外そうな反応を示す。

 

 「そりゃ、剣士の中じゃ俺が一番この世界に来て日が浅いからね。一応、市販されてる本なんかで勉強してるけど…やっぱり此処の図書室の蔵書を調べてみようか」

 国内、延いては世界一の蔵書数を誇る場所を頭に浮かべる彼にロゼッタが心配そうに口を挟む。

 

 「ですけど先生、あそこは度々魔道書が脱走したりしますから、先生一人では危ないのでは?」

 

 「じゃあその時はリネットちゃん辺りに一緒に付いて来てもらっても良いかな?」

 

 「ええっ?!私ですか!?」

 話題を振られたリネットが一瞬手に抱えた本を落としそうになって手摺に身を預けて本をキャッチする。

 

 (ごっつぁん!)

 

 その一部始終を目撃していたエレンは手摺に押し当てられた彼女の一部をチラと凝視しながら心の中で手を合わせ感謝を述べる。

 

 「良い考えです。あの書庫はりねっと殿の様な書を愛する方が居ればこそ安全かつ的確に探している物も見付かるでしょう。ニンニン」

 何時の間にか2階吹抜け通路の下で逆さまになっていた哉慥がうんうんと同調している。

 

 「ま、それはそれとして先代剣士の話なんだけど、少年かエレンは知らないかな?先代炎の剣士」

 脱線した話題を修正し、剣士の先達に問い掛ける。

 

 「残念ながら、拙者は斗真殿より前の炎の剣士には逢った事が在りませぬ」

 

 「オレも無いな。オッサンかムッツリグラサンなら別だろうが……。変わりにそこの忍者の前に剣士やってた奴とか他の先代剣士の話なら簡単には説明出来るぞ」

 エレンが下を覗き込みながら軽く言ってのける。

 

 「是非教えて戴きたい!」

 それに真っ先に飛び付いたのはアシュレイ。彼女は眼を爛々に滾らせてエレンを見やる。

 

 「ええい?!そんな真っ直ぐな目で見んな!……ったく、えー…まずは先代水の剣士が真面目ちゃんの親父、大地の剣士はオッサンに引き継いだ時、寿命でおっ死んだから詳しくは知らね。風の剣士はオレらと同じ現代人でその前の代が忍者とこの爺さんでリアルエルフってかホビット、音の剣士がグラサンの兄貴で、雷…つまりオレの前任は師匠(クソババア)だ」

 

 (クソババアって……。うん?闇は?)

 エレンのざっくりとした説明に呆れ果てる斗真、しかしそこで闇の剣士たるヘルマンの先代について触れていない事に気付く。

 

 「なぁ闇の…「お待ち下さいロサリオ卿!先程雷の先代剣士の事をく、くそばばあ等と仰いましたが、剣士には女性も居たのですか!?」(まぁ良いか次の機会でも)それは俺も気になる。後風の剣士の先々代、リアルホビットとかって何だよ?」

 途中アシュレイが驚き割り込んで来たので質問を飲み込み彼女の疑問に追従する。

 

 「ああん?あーそうか、お伽噺じゃ剣士は大抵男で書かれてるからなぁ。初代がどうだったかは知らねぇが、別に女の剣士なら歴代にはそこそこ居たぜ?音も三代目辺りは女だって聞いてるし。で小説家の方の疑問な、忍者の奴が住んでた里長が全く年取ってねえの、剣士止めたのに…つーか剣士する前から年取ってねぇんだよ」

 詳しく解説しろと哉慥に振るエレン。少年は承知しましたと答え説明を始める。

 

 「長はこの世界に来たる以前より、秘術により外見の老いを克服しました。とは言え長の職務もありました為、剣士は数年で引退しまして、拙者の先代であらせられます刻風殿に譲られました」

 

 「なるほど…剣士にも色々あるのですね。それで先程のロサリオ卿の先代であらせられる方のことですが」

 哉慥の解説に深く頷くアシュレイ、改めてエレンの師匠について触れる。

 

 「文字通り、オレの師匠だよ。この世界に来たばかりの頃、オレを鍛えたクソババア」

 

 「あんまり女の子の前でクソを連呼するなよ。後ババアって……」

 斗真がエレンの物言いにツッコミを入れる。しかしエレンはそう言われてもなと悪態を浸く。

 

 「剣士やってた影響で見た目若いのは当然なんだが、オレに黄雷押し付けた後も、やれアンチエイジングだの、やれエステだので若作りしてるし、修行は厳しいしでクソババアとも言いたくもなる」

 

 「そ、そうか……」

 

 「確かに。先代雷の剣士の方は女傑と呼ぶに相応しき方だったと長より聞き及んでおりまする」

 

 「「「へぇ~」」」

 ソファ近くに降りて来た哉慥の言葉にティアラ達が感心する。

 そしてババアババアと連呼しているエレンのガトライクフォンにメッセージの着信が届く。

 

 「あ?何だこんな時にっ?!」

 

 「どうした?」

 画面を確認して固まるエレンを不審に思うも返事が返って来ない事を見かね哉慥が跳び、エレンの側まで近付きガトライクフォンのメッセージを確認し読み上げる。

 

 「なになに…《今度帰って来たらぶち殺し確定ね》だそうです」

 

 「「「「「「うわぁ…」」」」」」

 

 教師と生徒の心が1つとなった稀有な瞬間であった。

 

 

 

─side episode end─

 

 




 さて、遂に聖剣全てが出揃った訳ですが…この作品での界時をどう料理しようかと宇宙船を読んだ時から考えています。使い手の方は早い段階でガワから作ってたんですが、剣の方の扱いは未だ思案中です。

 毎年多人数ライダーは後半になるとスーツがアップ・アクション兼用になるのが保存を考えると大変だなぁと宇宙船読んでて思ってます。
 まぁ何着かは次のライダー作品で改造されるんでしょうけど……。

 DXダイナゼノン欲しい。


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ブレイズの章
14頁 緋色の王女と土豆の木 前編


 おはようございます。
 眠いので短めに……タイトル通りの前編です。テレビのセイバー倫太郎曇らせ助かる。氷獣さんスーツちょっと白すぎません?アップアクション兼用だと汚れ滅茶目立つと思うんですけど……。

 それはそれとして佐賀、早ようゆうぎりはんのエピソード見たいんでありんすが。

 アリスギア久々の十連回してこれまた久々の星4がちえり、ピックアップ来ないなぁ、嬉しいけど。



 

 ──ワンダーライドブック、不思議な力を宿した小さな本。

 仮面の剣士に様々な能力を付与するソレは複数が古の戦いで失われ、私達の時代で発見される本達は時にとんでもない場所で見付かるのでした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・特別クラス━

 

 「──と言う訳で蒸気機関が産まれ、産業に革命が起こり、鉄道が産まれた訳だけど──」

 

 教壇の前に立つ青年が黒板に簡易図を書き記しながらサポートの女性教諭に文字の筆記を任せ対面の階段状の席に座る生徒達を見る。

 前半の歴史上の話は退屈なのか、欠伸をするルキフェルや既に寝ているラヴィ(瞼に眼を描いている)といった者がチラホラ見られる中、近代の移動手段の話題が出て以降皆一様に興味深そうにしている。

 

 何分此方の世界での一般的な陸路に於ける移動手段は馬車である。

 同様に海路も帆船が主流の為、蒸気機関や自動車の話等は関心が無くとも彼女等には興味深く聞こえるらしい。

 実の所、この世界にも輝石を利用した飛行船技術等が存在するにはするが、一般的では無い為かあまり知られていない。

 ある程度説明を終えた所に授業終了の鐘が鳴り、斗真は手にした書物を閉じる。

 

 「今日はここまで。何か解らない事があれば訊きに来てくれ、答えられる範囲で出来るだけ答えるよ」

 その言葉で彼女達も各々に席を立つ。

 

 「お疲れ様でしたトーマ先生。大分授業も手慣れてきましたね」

 板書をしていた女性教諭が斗真に労いの言葉を掛ける。

 

 「まぁ此処に来てもう1ヶ月半は経ちましたから」

 「確かに。ところで此方の文字には慣れましたか?」

 「そうですね…一応字体がローマ字の筆記体に似通っているので読む分にはもう問題は無いんですが、書く方はちょっと苦労してます」

 「そこは頑張って下さい。でも近い内に私のサポートも必要無くなると思いますよ」

 女性教諭の言葉にそうですかね?と照れながら笑う斗真、アルマやエレンに手伝って貰った甲斐もあり日常的に過ごす分には問題の無いレベルにはなっているのだ。

 そんな差障りの無い会話を終え、斗真も教室を後にしようと扉に手を掛けると、背後に気配が2つ近付くのを感じ取る。

 

 「ええっと何か用かな、確か…エミリアさん?だったかな…?」

 振り向き、気配の正体を確認する斗真。其処に立っていたのはウェーブが掛かった薄い藤紫の長髪を翻した宵闇の令嬢、ドルトガルド亜人組ユニットIV KLOREのリーダー、サキュバスの亜人エミリアであった。

 「…ちょっと訊きたい事があっただけよ。おかしいかしら?」

 切れ長の瞳が見定める様に、どこか詰る様に斗真を見つめる。

 「いや…それで何が聞きたいのかな?授業で解らない所でもあったかい?」

 「そんな事じゃ無いわ。アタシがアンタに訊ねるのは風紀委員としての義務なんだから!」

 当人は高圧的に宣言したのだろうが、声が僅かに上擦り、やや紅潮した頬もあってか年相応の艶っぽさがある。

 

 「やれやれ、肝心な所の詰めが甘いのは如何な物でしょうか?まぁそこが愛らしくもありますが」

 エミリアの後ろから別の声が斗真の耳に届く。

 対しエミリアが振り返り声の主に抗議を宣う。

 「仕方無いじゃない!お父様以外の男となんて早々話す機会は無いし、話つもりも無かったんだから!?」

 

 「そうですね。ご実家ではお買い物は概ね私の様な使用人の務めですし、お嬢様が直接お出向きになる店舗は総じて女性の接客要員ばかりと、お嬢様は筋金入りの男性恐怖症ですから」

 

 「恐怖症じゃないわ!嫌いなだけよ!!」

 

 声の主の言葉に売り言葉に買い言葉で言い争いを始めるエミリアともう1人。

 さて、エミリアと口論している人物にも覚えがある。というか受け持ちの生徒なので覚えが無いとおかしいのだが、エミリア含め彼女のインパクトは強烈であったから記憶に鮮烈に焼き付いている。

 桃色の髪を後ろ手左寄りに纏めた(斗真から見れば右)サイドテールを揺らす表情の変化が少ない少女。

 否、正確には少女ではなく、少女型自動人形──俗に魔律人形と呼ばれる彼女の名は"あるふぁ"。

 エミリアのオルケストラユニットIV KLORE のメンバーにして彼女の従者である。

 因みに、もう1人のメンバーであるサルサは教室の最前の席に座って2人のやり取りを眺めて、斗真の視線に気付きぶんぶん手を振ってくれる。

 その際、犬耳の様なくせっ毛が一緒にピコピコ跳ねていた事も追記しておく。

 

 (う~んバンプボールの試合で見た強者感が嘘の様だ。まぁ初めて見た時も主従コンビは漫才みたいな事してたけど)

 

 クールなビジュアルから受けるイメージとは全く異なるやり取りを繰り広げる彼女達を眺めながらそんな事をふと思う。

 しかし同時にヘルマン某の凶行をも思い出し、このままでは不味いかとも思い冷や汗が背筋を伝う。

 そんな斗真の胸中を知ってか知らずか、あるふぁがそれよりもと前置きし斗真に視線を向ける。

 

 「お嬢様は先生様にご用がおありだったのでは?」

 

 「アンタが余計な口を挟むからでしょうがっ!?」

 

 すわこれでもかとばかりに怒鳴るエミリア。唖然とも言える斗真の顔に気付き、咳払いをして先程までの醜態を無かったことにする。

 

 「こほん…、改めて風紀委員として忠告するわ。先生、アンタの部屋にかなりの頻度でウチのクラスの娘達が訪ねていっているみたいだけど…もし変なことをしたら、風紀委員権限で理事長に上申してアンタには教師を辞めて貰うから!」

 

 ビシッという効果音が聴こえて来そうな指差しをするエミリアに、成る程そう言う事かと納得する。

 要するにこのお嬢さんは自身が男性恐怖症なのもあるが、他の生徒達が心配でもあるのだ。

 それもそうだろううら若き乙女達が集う学舎で教師も女性の中、唯一現れた異物。それも異界からの来訪者なのだから警戒するのも当然であろう。

 まぁこの学院には斗真以外の男も常駐して居る。しかし、斗真程頻繁に彼女達に関わる訳では無い、よしんば彼以外の男で最も生徒と関わるのは彼女等と同年代である哉慥だけだ。

 しかし彼の忍者少年は購買部以外では呼び出しが無い限りその姿を現す事は無いので結果として斗真こそがこの学院で一番少女達と深く長く広く接する事になる。

 

 (言葉の当たりは強いしキツいけど…優しい子なんだなぁ)

 エミリアの態度や語調からそう推察する。

 そんな生暖かな視線に気付いたか亜人の令嬢は目尻を吊り上げ糾弾する。

 

 「ちょっと!笑い事なんかじゃ無いわよ、本当に何か厭らしい事件でも起こしたらアンタの事、ただじゃ済まさないわ!」

 

 「ですがお嬢様。厭らしいとは具体的にどんな事を仰っているのですか?」

 紛糾するエミリアにあるふぁの横槍が入る。

 

 「それは……!?その、だから…キ、キ、キ──」

 

 「キ?」

 「何ですか?誇り高き貴族であるならばはっきりと仰って下さい。」

 首を傾げる斗真、煽るあるふぁ、言葉につんのめるエミリアは暫く壊れたコピー機だか蓄音機の様に"き"を連呼しついぞ決意したか、顔を真っ赤にしながら両の瞳をぎゅっと閉じ力強く発言する。

 

 キスしたりよっ!!

 

 不覚にも可愛いと思う斗真であった。

 綺麗系の娘が見せる羞恥の様にそんな感想、彼女の性格を考えれば言葉にせぬ方が身の為だろう。

 

 「えぇっと、ご忠告感謝するよ…けど君が危惧する事態にはなっていないし、これからもならないと誓うよ」

 取り敢えず、差障りの無い答えを返す。これ以上会話を続けたら彼女の沽券に関わる事態になり得るだろうし、ヘルマンが恐ろしい。

 

 「本当に理解してるの?!もし男女でキスなんてした日には…あ、あ、赤ちゃんが出来ちゃうのよ!!?」

 「お嬢様、お話はそろそろこの辺りで切り上げた方が宜しいかと」

 言葉にするのも恥ずかしかろうに精一杯、強気を維持しながら斗真に頓珍漢な男女感の性知識を衝き述べるエミリア、そんな彼女にバレるかバレ無いか絶妙な大きさで鼻で嗤いながら次の授業に移動すべきだと進言するあるふぁ。

 その今の一瞬のやり取りで何と無く、いや…大分彼女達の関係性が理解出来た斗真はエミリアに同情を憶えた。

 

 「兎に角!精々気を付けなさい!アンタだって無職になりたくはないでしょ」

 フンと言い残し斗真を避けながら教室を出て行くエミリア、サルサが駆け寄り後を追う。

 残されたあるふぁも一礼し斗真の真横を通り抜ける……瞬間、彼の耳元に抑揚の少ない少女人形の声が届く。

 

 「ヘルマン氏の事はお嬢様にはご内密に」

 

 思わず振り返るが亜人の従者は足を止める事はせず、仕えるべき主の後ろを半歩遅れて追従するのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・正門前━

 

 生徒が街へと繰り出す以外にも物資の往来に業者の者が時折訪れる。

 大半は購買部の商品であるが、園芸部の温室で使用される肥料や用途別の土も運ばれる。

 そしてその荷車は荷物を教師が改め、生徒が運ぶのである。

 そんな土嚢の中に彼女達が想像もしない様な"とあるモノ" が紛れているなど露知らず………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・街道のレストラン━

 

 「そりゃあの御嬢様はストーカー野郎の存在を知らないからな」

 放課後、ラトゥーラが働くレストランにて、食事がてら同席した悪友(エレン)に先程の出来事を話し返ってきた言葉である。

 「へ?でもヘルマンって人はエミリアさんの従者として彼女の実家に世話になってるんだよな?」

 「ま、そうだな。正確には御嬢様の両親とメイドはあのストーカー執事の存在を知っているが、御嬢様だけは知らされて無い、が正しいんだが」

 思わず聞き返した斗真にエレンは彼が知る限りのエミリアとヘルマンの関係について説明する。

 

 「前にも言ったろうし、今回、御嬢様自身と会話して理解したろうが、あのサキュバス、大の男嫌いだからな。父親は兎も角、使用人も御嬢様にはあのメイドがほぼ専属で付きっきりだ。んで、ストーカーの奴は元Rayのカミラん所で面倒見てたのを御嬢様の両親が引き取って、けど…御嬢様はアレだろ?だからストーカーは御嬢様を知ってるが、御嬢様はストーカー執事野郎を知らないって図式さ」

 

 「はぁ…要するに、エミリアさんの為にご両親がヘルマンの事を秘匿しながら、エミリアさんの護衛をあるふぁさんとは別口で任せたって事か」

 エレンの大雑把な説明を自分なりに解釈した斗真が結論を出す。

 「そう言うこった。ああ、でも犬っころも一応知ってるちゃ、知ってるか」

 「そうなのか?」

 「ああ、幼馴染みだそうだからな。あのチビッ子存外空気は読めるからな」

 犬っころと聞いて誰だか判ってしまうのも失礼だとは思ったが事実なので仕方無い。

 

 「ま、あれだ。御嬢様関連でヘルマンが絡んでヤバくなったらメイドを探せ、大体御嬢様と一緒に居るから見付かり易いだろうし、従者序列的にメイドのがストーカーよか上だからな。後は忍者を呼べ。何故かは知らんがあのストーカー、忍者が苦手らしい」

 それっきり話は終わりだとエレンはガトライクフォンのゲームアプリを弄り倒す作業に戻る。

 斗真も一応のヘルマン対策を聞き心に留め置く事にした。

 そうして食事に黙々と集中していると何やら学院方面が騒がしい。

 

 「あぁ?何だぁ…あっち、やけに騒々しくなってんな?」

 デザートのジェラートを食べていたエレンがスプーンを咥えながら学院の方へ視線を向ける。

 「学院の方…だよな、何かあったのか……悪いけど先に戻る。代金は此処に置いて「いらね、奢りにしてやるから今度、適当に何かで返せ」助かる。それじゃ!」

 エレンが代金を肩持ちした事に礼を述べ、テラスから飛び出す斗真。

 そんな友人を見送りながら雷の剣士は独り呟く。

 

 「アイツが来てから矢鱈メギドやらワンダーライドブック関係の問題が起きる様になった。こりゃいよいよオレっちも馬車ウマの如く齷齪(あくせく)働かされるな…はぁ、働きたくねぇなぁ……」

 

 そんな愚痴を溢しながら彼はウェイトレスにケーキを注文するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・温室━

 

 「……ぁあ」

 

 「メリッサ!?しっかりしてメリッサ!」

 

 突如として目の前で起きた異変に、現実を受け入れられず立ち眩みを起こすメリッサを抱き抱え、彼女の名を叫ぶティアラ。

 他の園芸部員達も、今し方己の目の前で起きた現象に目が点になっている。

 

 そう、今、園芸部員達が居る温室の中では信じ難い事に大きな緑の蔓が互いに重なり合いながら温室の硝子天井を破り、天高く聳え立っているのだ。

 

 「ティア!」

 

 「ティアちゃん!」

 

 騒ぎを聞き付けたロゼッタとラヴィがメリッサを抱えるティアラに駆け寄る。

 

 「うわぁ…デカっ!長っ!」

 「前々から妙な植物も育てていると噂があったが…本当だったか」

 Sadistic★Candyも近くでそんな根も葉も無い事を言っている。

 

 「果てが見えないわ」

 「とってもろっくです~!」

 「言ってる場合じゃ無いのでは?」

 この花は乙女ことヤマトの三姉妹も上を眺めながら暢気に物申している。

 「むむ、何と珍妙な…。てっぺんが空まで伸びているのでござろうか?」

 勿論、哉慥も騒ぎに気付き姉妹に合流している。

 

 「何事です?」

 

 そして学院の敷地でこれ程の騒ぎとなれば理事長自らが現場に出て来る事も至極当然である。

 

 「くろえ殿!」

 

 「サイゾウ、何があったのか詳しい情報を」

 

 クロエは異変の原因を知ろうと哉慥に仔細を訊ねるが、少年は申し訳ありませぬと首を横に振る。

 

 「拙者も今し方馳せ参じました故、詳しい事は存じませぬ。ですが今から調べて参ります!ニン!」

 言うや否や駆け出し、極太の蔓へ飛び付きそのまま垂直に登り出す。

 

 「ニン!ニン!ニン!─ニン!ニン!──ニン!ニン!──ニン!ニン!…ニン!…ニン!…ニン!──ン!──ニ──」

 

 上に昇って行くにつれ、哉慥の声が途切れてゆく。皆が少年が駆け上がって行く様を眺める中、クロエが改めて訳を知っているであろう園芸部員のティアラに訊ねる。

 

 「それで…何があったのか説明をお願い出来ますか?ティアラさん」

 

 「は、はい」

 

 クロエからの求めに応じティアラが数時間前に起こった事の始まりを語り始める。

 

 「──今日は以前から取り寄せていた珍しい植物の苗を育てる為、その植物が好む環境に合った土壌の土と、他に幾つかの肥料を新しい花壇に撒いていたんですけど……それで、花壇の整備を終えて苗を植えて水を注したら急に何も植えていない筈の場所から大きな蔦と蔓が天井を突き破ったんです」

 

 「土…ですか……。成る程、信じ難いですが、おおよそは理解しました。そうですね、まずは園芸部以外の生徒の立ち入りを制限しましょう」

 一考し、決めるや否や集まった教員に話を通し、野次馬に集まった生徒達を寮なりへ追い返す。

 哉慥はその間に力尽きたのか無念そうにムササビの様に落ちてきた。

 そして関係者のみが残された温室に漸く到着した斗真が顔を出す。

 

 「クロエ理事長!」

 

 「トーマさん」

 

 青年からの呼び掛けに首のみを向け、一瞥すると目の前の巨大な蔓に視線を戻す。

 

 「状況はご覧の通りです。今は関係者である園芸部員の生徒以外には自室に待機して貰っています」

 「凄いですね…、上の方はどうなってるんです?」

 クロエの隣に立ち、状況の進捗を訊ねる。彼女は腕を胸元で組ながらその事ですがと前置きし、眼鏡のブリッジを押し上げながら何やらテキパキ組み上げている哉慥にレンズの照り返しで隠れた視線を投げる。

 

 「彼が一度、その身を呈して確認したのですが…どうやら途中で限界があったらしく、今は二度目の調査の為に凧を作っているようです」

 「は…はぁ。(何故に凧を?!)それで原因の方には……?」

 「目下調査中とだけ。ラウシェン氏が居れば究明も早いのですが…」

 「そう言えば陳さん居ませんね?これだけの騒ぎなら、何時もなら真っ先に駆け付ける筈なのに」

 クロエとの会話で学院の安全を守る男の姿が無い事に訝しむ。

 

 「彼は現在、所用によりリュウトに一時帰省しています。帰る期間は今の所未定ですが…早くても四日後になるでしょう」

 「それじゃ地道に原因を探すしか無いですね」

 「ええ、念の為にアルマには街の方に何かしらの影響が無いか確認に出てもらっています。恐らく街の何処かに居るだろうエレンさんと共に事に当たってくれるでしょう。トーマさんはサイゾウを手伝ってあげて下さい」

 理事長としての指示をテキパキと出すクロエ、因みにヘルマンとセドリックの名が出なかったのは、ヘルマンはこの手の事には一切協力する気が無いからであり、セドリックは既に温室の修復に駆り出されているからである。

 と言う訳で斗真は哉慥の元へと近寄る。

 「少年、手伝える事はあるかい?」

 「おお!斗真殿、丁度良い所に!こちらをお持ちくだされ」

 早速仕事を与えてくれる少年。果たして斗真が手渡されたモノとは凧を操る為の凧糸と、それを巻き付けた木製の操具を手渡す。

 

 「これは…?て言うか、凧デカくない?」

 

 「拙者これより先の醜態の汚名を返上すべく、この凧に乗り上が如何様になっているのかを確かめて参りまする!それで舵取りを誰かにお願いしたかったのですが、斗真殿であれば安心です。ささ、先ずは温室より出ましょう」

 

 「あ、うん」

 

 少年のやる気に押されそれ以上二の句を告げなくなる斗真。

 黙々と操具を手に哉慥が凧に身体を固定するのを見届け、そのまま彼が駆け出し、風を捉え気流に乗るまで漫画の様な気の抜けた顔で一連の流れを見届けていたのだった。

 

 

 「質問。手前はそんな処で棒立ちで何をしている?」

 

 温室の修繕の為、中と外を見回していたセドリックに声を掛けられやっと正気に戻る。

 

 「はっ!いえ何か少年の行動に呆気に取られて…」

 「納得。あれが突飛な行動を取るのは今に始まった事では無い。それよりもこの怪奇の原因であるが……」

 サングラス越しの瞳を空から地上へと戻しながら技師にして鍛冶師は第三者に聞き耳を立てられぬ様に斗真の耳元に顔を近付ける。

 

 「推察。調査の結果を省みるに…経緯は知らんが、あの温室の土の中には恐らくワンダーライドブックが紛れていたのだろう。それがどういう訳だか輝砂と水に反応し、()()が出現したのだろう」

 「ワンダーライドブックですか!?そんな能力を持ったライドブックが存在するなんて……」

 「畢竟。良い機会であるから教えておく、ライドブックとは元は一冊の本であったのだ。それが別たれ、頁が様々な力宿す本へと転じた」

 「だからこんな巨大な植物を生み出す事も十分有り得る…と?」

 「肯定。あの力には心当りがある…物語に分類されるワンダーライドブック、命題は"ジャッ君と土豆の木"であったか……失われて久しいブックの一つだな」

 セドリックが側頭部に人差し指を充てながら記憶の中にあるワンダーライドブックのタイトルを列ねる。

 

 「…また何処かで聞いたようなタイトルだなぁ……」

 「注意散漫。糸が引いているぞ」

 「え?あっ…!」

 斗真の手元の操具の糸がどんどん伸びてゆく、話に夢中になっていた所為か、上の方で凧が風に流されていた様だ。

 「っと、お…とと…とととぉ?!あっ…」

 慌てて引き戻そうと糸を巻き戻していると途中、プチンッと音が聴こえ糸を引かれる手応えが無くなる。

 聴こえないが、恐らく上空では凧に乗った哉慥が「ござぁぁぁああ!!?」等と絶叫しているのでは無かろうか。

 

 「さ…哉慥しょぉぉねぇぇぇぇぇんん!!」

 斗真の叫びも虚しく凧は流されて行った。

 「放置。あれでも剣士、況して風の聖剣の剣士だ。下手は打つまい…それに幸いにして彼方は街の方、運が良ければ流水か黄雷に拾われる筈」

 割りと無情に哉慥を切り捨てたセドリック。それよりもと斗真を伴い再び温室に入る。

 

 「え?いや、ちょっ…セドリックさん!?」

 

 馬耳東風とばかりに蔓の根元に歩くセドリックと追う斗真。

 件の蔓の元にはティアラと病み上りのメリッサ、クロエに園芸部員と数人の教員達。

 

 「あ…トーマ先生、それに…えっと……」

 

 「セドリック・マドワルド三世。見知り置くかは任せる」

 斗真と共に居た稀に見掛ける見知らぬ人物が間髪入れずに名乗るものだからつい怖じ気付いてしまうティアラ、しかし名乗った所を見るに悪い人物では無いと断じ会釈を返す。

 

 「提案。策を一つ提訴する蒼き死に「オホン!聞きましょう」

 セドリックがクロエを呼ぼうとしたのを態とらしく咳払いで遮り機先を取るクロエ。

 「効率優先。激土が不在である以上、力任せに斬り倒す事は出来ない。しかしこれ以上時間を掛けるのは無為。強硬…。ならば此処は今有る手札でどうにかするより他に無い、烈火を使いこの巨木同然の蔓を燃やしてしまえ」

 

 「え?」 「へっ?」 「Pardon?」 「それは……いえ、そうですね」

 

 セドリックの過激な提案に目を点にするティアラとメリッサ、信じられないとばかりにセドリックを見やる斗真。

 最後に何かに納得するクロエである。

 

 「いや…いやいやいやいや、それはマズくないですか?下手したら温室全焼しちゃいますよ!?」

 流石に良識から抵抗を示す斗真、しかしセドリックはサングラスで伺えない顔を向けながら平然と言ってのける。

 「無問題。手前がしくじらなければ済む事である」

 「えぇぇ……クロエさん?」

 真顔でやれと宣う歳上に理不尽を感じ、クロエに助けを求めるが彼女は顔を横に俯かせながらやや申し訳無さそうに応える。

 「やって頂けますか。人を下がらせますので」

 疑問符は付いていない。丁寧語だが命令形である、決定事項だ。

 クロエが最終的に許可を下したので斗真は渋々準備に入る。

 その間、クロエの命によりティアラを除いたメリッサ達園芸部員と事態解決に集った教員が温室より追い出される。

 御膳立ては整ってしまったらしい。

 

 「……はぁ、仕方無い…のか?うーん……」

 

 『ブレイブドラゴン』

 

 釈然としないモヤモヤを抱えながらブレイブドラゴンを取り出し、ソードライバーを装着装填する。

 

 「えー…変身」

 

 『烈火抜刀!』

 

 何時もの勇ましい変身ではなくやる気がイマイチ足りない変身を遂げる斗真。

 手早くセイバーへと姿を変え、何処と無く哀愁を漂わせながら蔓へと近付く。

 

 「それじゃあ…いきます。あの出来ればフォローお願いしますね?」

 烈火を納刀しながらクロエとセドリックに振り返り確認を取るセイバー。

 2人の大人は無言で頷くのみ。ティアラは1人心配そうに見守る。

 

 

『必殺読破!烈火抜刀!!ドラゴン一冊斬り!ファイヤー!!!』

 

 火炎剣烈火を炎が包む。そのまま炎剣で蔓を横一文字に斬る。

 忽ち蔓には炎が燃え移り天辺まで燃え盛ってゆく。

 クロエは炎が蔓を登った瞬間にエコーギフトで温室周辺範囲の蔓の周囲を見えない膜で包み、炎が他へ燃え広がらない様に備える。

 後はただ、巨大な蔓が燃え尽きるのを待つばかり。

 時間にして凡そ二時間、遂に蔓さ一片も残さず燃え尽き、空から何かが降って来る。

 

 「ふぇ?!」

 

 まさか自らの頭上にモノが落ちてくるとは思わなかったティアラが思わず声を上げてしまう。

 まるでティアラに引き寄せられる様に落ちてくる物体、そしてこれまた思わず受け止めてしまえばそれは見覚えのある形をした小さな浅葱色の本。

 

 「先生、これ…!」

 担任教師に確認を取ろうと呼び掛けるが、セイバーの姿のままの彼は新たな本を取り出し温室の外へと向かう。

 

 「ごめんティアラちゃん!暫く預かっといて!ちょっと少年探しに行ってくる!」

 

 

『発車爆走!』

 

 赤い仮面の剣士はまだ外に疎らに生徒や教員が残って居るにも関わらず、風に流された哉慥を探しにディアゴスピーディーを召喚し走り去って行くのであった。

 

 幸い目撃者は学院内だけで済み、斗真もディアゴスピーディーはそのままに街に入る頃には変身を解いてはいたが、此より暫く学院内ではお伽噺の剣士の様な謎の仮面怪人の話題で持ち切りとなる。

 

 

 

 TO BE Continued!

 

 

─ブレイブドラゴン──ジャッ君と土豆の木─

 

 

─ライオン戦記──ピーターファンタジスタ─




 次回は戦闘しますよ。本当ですよ?

 DXダイナゼノン、アニメ見てたら余計に欲しくなっちゃった…。
 でもスマホの容量大きい奴に買い替えたいから暫く我慢せんといかんとよ…。
 それはそれとして新しい巫剣欲しいなぁ、出来れば影打欲しいなぁ。
 では次回お会いしましょう。おやすみなさい


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15頁 緋色の王女と土豆の木 後編

 こんにちは珍しく昼間に投稿するダグライダーです。
 いやぁ暑いとやる気が削がれて筆が進まなくなるのが難点ですね、秋と初冬は割りとサクサク書ける時は書けるんですが、夏はてんでダメです。
 今年はまだ春の内だと言うのに暑い日が多くて……。

 現在はシンデレラの総選挙期間なのでボイスの方共々声が付いてないアイドルに声が付くよう頑張っております。
 それはそれとして天華百剣の新巫剣の一振りのボイスに安齊女史の御名前が!
 これでLiGHTsは3人が巫剣に居る事に!



 ━フローラ女学院・ラウンジ━

 

 昨日の温室での騒動により授業のカリキュラム大幅な変更が起きた今日日のラウンジにて、ティアラは手元の本を弄びながら悩ましい顔を浮かべる。

 

 「浮かない顔だな、どうしたんだティアラ?」

 

 ティアラが座すソファの一角にアシュレイが近付き、友人の顔色に言及する。

 

 「あ…アシュレイ。うーん…その、先生を探してたんだけど……見つからなくて」

 声を掛けられアシュレイへと視線を上げるティアラ、一瞬口ごもりはにかみながら理由(ワケ)を述べる。

 

 「教官を?部屋にも居なかったのか?」

 

 「うん。コレを返そうと思ってたんだけど……」

 

 そう言って彼女に手にした浅葱色の小さな本を見せる。

 

 「これは…!ワンダーライドブックじゃないか!?何故それを…?」

 以前ガラクタ市での一件以降、5人でアルマを問い詰めた際に憶えた知識から即座に本の正体を理解するアシュレイ。

 驚き声を荒げたのも束の間、周囲の反応に声を落としティアラに顔を寄せ、経緯を訊ねる。

 「うん…と、アシュレイは昨日の温室で起きた事件は知ってるかな?」

 対して、昨日の件を困った様に語りだすティアラ、アシュレイに対面のソファに座る様に促しながら訥々と話を進める。

 

 「──成る程。そんな事が私が学院に戻って来た時は既に解決した後だったからな。マドワルド卿が他の講師の方々と修復作業をしている所を目撃しただけだったが…そんな事が起きていたのか」

 「うん。それで結局昨日はそのまま返せずじまいで、なるべくなら早く渡そうと思って先生を探してたんだ」

 頷くアシュレイにそうして先程の悩まし気な顔色の意図を語り終えるティアラ。

 純紫の少女はティアラが持つジャッ君と土豆の木ワンダーライドブックを眺めながら"しかし"と前置きする。

 

 「以前のリネットもそうだったが…何故教官達の元にではなく私達の所に来たのか……」

 「?リネットの時は偶然じゃないの?」

 意味深な事を口走ったアシュレイにティアラが不思議そうに首を傾げる。

 「いや、それがそうでも無いらしくてな……っと、ちょうど噂をすればだな。おーい!リネット!!」

 緋色の少女の疑問に何と答えようかと首を動かした所、エントランスからラウンジを通り掛かる件の少女を見付け呼び寄せる。

 

 「アシュレイさん?ティアラさんも、何かご用ですか?」

 己を呼び寄せる友人に親しみを込めた愛想で応じながら、彼女等が座る一角へとリネットは歩み寄って行く。

 

 「実はな、ちょっとコレを見て欲しいんだ」

 

 「ふぇ!?そ、それはまさか!!?ワ、ワ、ワ、ワンダーライドブックッ!!?いいいい一体何処でそれを!?よ、良ければ読んでみても良いですか!!」

 

 本、それもワンダーライドブックと聞いて目の色を変えるリネット、ライドブックを持つティアラの手を両手で包み込む様に握りながら興奮を顕にする。

 

 「ちょ…リネット?!」

 

 「落ち着け!」

 

 「はうっ?!」

 戸惑うティアラを助けようとアシュレイがリネットを手刀で軽く小突く、その衝撃に小さく悲鳴を挙げ、本好きの少女は平静を取り戻すのであった。

 

 「───すみませんでした。思わず…」

 

 「ううん、気にして無いから大丈夫だよ」

 

 「まぁ私も、リネットが本の事で見境が無くなるのは知っていたのに不用意にコレを見せたのは悪手だった…」

 

 共に反省するリネットとアシュレイ。改めてリネットに経緯を語ると、少女はふと考える仕草を見せ前置きをしてから自身の体験を語る。

 

 「もしかしたらですけど……そのワンダーライドブックはティアラさんに惹かれたのかもしれません」

 「この本が?」

 「はい。私もガラクタ市であの青い…ピーターファンタジスタを見付けた時、理屈じゃなくて感覚的に何か惹かれるモノがあったんです。だから本好きである事を抜きにしても私が本に惹かれたのなら、その逆もあるんじゃ無いかと……」

 己の体験談から来る私見を述べながらティアラ達の反応を観て取るリネット。

 今一つ実感は伴わないものの、何となく府に落ちた顔になるティアラ。アシュレイはそう言うモノかと微妙な顔をしている。

 

 「そう言えば…先生には?」

 リネットが本の力を扱うべき人物の名を出す。

 

 「それが…探したんだけど見当たらなくて」

 

 「校内に居ないなら、外…街の方でしょうか」

 

 「よし、ならば探しに行くぞ」

 

 リネットが街と口走った途端、即決断するアシュレイ。

 言うが早いや、ティアラと…ついでにリネットの手を取り、ラウンジを飛び出し、街へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━図書室最奥・旧ノーザンベース━

 

 一方でフローラ女学院図書室内、書庫の隠し扉を潜り抜けた先にある剣士達の拠点にその日、5名の剣士が会していた。

 

 「いやはや昨日は酷い目にあったでござる…」

 

 哉慥が昨日の騒動で自身に降り掛かった災難を振り返りぼやく。因みに、椅子の上に座布団を敷き正座で鎮座している。

 

 「いやぁ…本当にね…」

 

 その隣、視線を下に落とすと斗真が床に直に正座()()()()()()()

 首からは《私は往来の街中を鉄騎で暴走しました》と書かれた看板をぶら下げている。

 

 「懲罰。反省せよ」

 セドリックが中央の装置を弄りながら2人を一瞥すると直ぐ様作業に戻る。

 

 「ゲラゲラゲラゲラ!──おっ?!」

 わざとらしくバカ笑いを挙げるエレン。笑い過ぎて階段から転げ落ちた。

 

 「エレンは自業自得として、幾らなんでもやり過ぎでは?」

 斗真への刑罰にアルマがセドリックに物申す。

 

 「反論。これでも甘い方である。隠している訳では無いとは言え、烈火がもし変身したまま街中を走り回っていたらこの程度では済まなかった。手前は烈火と翠風に特に甘い。躾とは厳しくするものだ」

 アルマの言葉をあっさりと一蹴し鼻を鳴らす。

 

 「それは……そうなのですが……」

 

 「烈火、反省が済んだのならばワンダーライドブックを回収してこい。手前があの緋色の髪の少女に預けたままなのは承知している。だが何時までも預けて良いものでも無い。看板は外すなよ」

 

 「はい…仰る通りです。行ってきます」

 

 看板をぶら下げたまま、本の間を後にする斗真。その背中は悲哀に充ちている様に見えなくも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━街道━

 

 マームケステルの街へと続く、馬車が通る為の整備された畦道。

 其処を往来する商隊の馬車、その進行方向に闇が現れる。

 

 「な、何だ?!」

 

 先頭を行く御者が嘶く馬を嗜めながら目の前の異変に驚愕を顕にし慌てて後続の仲間へ危機を知らせようと後ろを確認すれば其所に仲間達の姿は無かった。

 

 「全く……面倒を掛けさせてくれるなカリバー。こんな回りくどい手に何の意味がある?

 それは怪物と呼べる異形であった。表情の読めぬ白面の相貌、牙を思わせる鎧、人とも獣とも取れる…或いはどちらとも取れない魔人。

 メギドレジエルが剣を片手に御者の前に立っていた。

 

 「ひぃっ?!化物ぉ!!?」

 

 「実験は次の段階に入った。禁断の力を我等の物とする為、目次録の成就の為には必要な手段だ。

 新たに背後から声がする。御者が再び前方へ振り返れば、今度は黒紫の鎧を纏った仮面の剣士が目の前に立ちはだかっていた。

 魔人の疑問に答えながら手にした剣に黄金と赤銅の小さな本を翳す。

 

 ジャアクリード・ジャアク昆虫大百科

 

 黄金の刃持つ漆黒の剣から禍々しい声が轟き、剣に"得体の知れないナニか"が靄…もしくは煙の様に力となって出現する。

 それはともすれば針の様にも見える。

 

 「本来であればこの力を使うに相応しい者に任せるべき仕事ではあるが……"彼女"はどうもまだ現実を受け入れられないらしくてね、ワタシが代わりを務める。まぁ君には何の事か解らないだろうがね

 半ば独り言の様に語る黒き剣士の言葉に恐怖と混乱で思考が乱れる御者はその場から逃げる事も出来ず、其処で彼の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル━

 

 学院に不在の斗真を探す為に街に出たティアラ達。実際には彼女達が知らない学院の一角に斗真は居るのだが、そんな事を知る由も無い少女達は連れ立って歩いていた。

 

 「見付かりませんね……」

 

 「この街もそれなりに広いからな。 もしかしたら何処かの店に居るかもしれないが……一軒一軒、手当たり次第にとはいかないだろう」

 

 「結果的に運に任せるしか無いって事だね」

 

 辺りを見渡しながら目的の人物を探さしている3人、しかし斗真は見当たらない。

 

 「せめて教官が立ち寄りそうな場所に心当たりがあれば楽に探せるんだが…」

 「ロゼやラヴィにも手伝って貰った方が良かったかな?…あ!」

 手掛かりを探す中、ティアラが何かに気付く。

 

 「どうしました?」

 「見付けたのか?」

 

 「ううん、先生じゃなくて…ほら」

 訊ねる2人にティアラは己が見付けた視線の先を指差す。少女の指先を追い、視線を動かせば見慣れた桃色の揺れる髪、表情変化に乏しい顔、手には買い物を終えた後だろう大きな紙袋が抱えられている。

 そして3人の視線に気付いたか、立ち止まり首を動かす。

 

 「おや、ティアラ様、アシュレイ様、リネット様。この様な場所で会うとは奇遇ですね」

 

 「「「あるふぁ」」さん」

 

 そう、ティアラが見付けた人物はエミリアのメイド魔律人形のあるふぁ。

 少女人形は3人に近付き軽く会釈をする。

 

 「お三方もお買い物ですか?」

 

 「いや、我々は教官を探しているんだ」

 

 あるふぁの問いに同郷のアシュレイが代表して答える。

 

 「成る程。禁断の関係…それも四角関係とは、あの方も隅に置けませんね」

 

 「!!禁断のっ!!?あ……そんな、ダメです…私達、生徒と教師なのに……で、でも先生が望むのなら……」

 

 「リネット?リネットしっかりして!?」

 ティアラがリネットの肩を揺するが、彼女は1人頭に描いた妄想の中でメロドラマにトリップしている。

 

 「な、な、な、何を言っているんだ!!?私達はそんなフシダラな関係じゃない!」

 アシュレイも動揺して言葉が震える。エミリア程では無いが真面目でウブな彼女は3人の中で一番顔を真っ赤にしている。

 

 「中々の反応です。まぁ事情は理解しました、折角ですので私もお手伝いします」

 

 真顔でとんでも無い事を口走るあるふぁが此方をからかっていると分かりアシュレイは1度深く呼吸を落ち着かせあるふぁを批難する。

 

 「いきなり何て事をしてくれる!普通に協力してくれ!」

 

 「申し訳ありません。同じドルトガルドの出身だからでしょうか、お嬢様と近しいモノを感じたのでつい口が滑ってしまいました。結果は上々でございました」

 

 しれっと清まし顔でいけしゃあしゃあ宣う少女人形。

 そんな4人が屯する大通りの中央にフラフラと虚ろな眼で意識があるかも解らない男が独り立ち止まり、うわ言を繰返し手にした黒く禍々しい小さな本を開く。

 

 「世界を混沌に……目次録へと至る為に……世界を混沌に……目次録へと至る為に……」

 

 

岩石王ゴーレム

 

 開かれる黒い邪悪な力持つ魔本(アルターライドブック)、飛び出しヒトの容を象る憤怒の死相(デスマスク)、泥と土と岩で構築された躰、デスマスクが貼り付いている器の様な頭部は轆轤を回すヒトの手が付属している。

 それは魔人であった、人でも動物でも無い者、存在しない生き物、幻の獣…神なる物語の邪悪。

 ゴーレムメギドが現界する。

 同時に魔人を中心に世界が震え閉ざされる。

 

 「なっ!?」

 

 「嘘…メギド!?」

 

 「ああ//……って、えっ!?」

 

 「魔人?メギド?……何やら面倒事に巻き込まれてしまった様ですね」

 

 少女達とその大通りに散乱と点在していた住人達がワンダーワールドへと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──同時刻。

 

 斗真もまた街の方へとティアラを探しに出ていた。

 そして彼の隣には手伝いを申し出たアルマの姿もあった。そして丁度…そう偶然彼等2人は高台側に居た為にソレを目撃出来たのだ。

 

 「あれは!?」

 「ワンダーワールドが開いた?!またしてもメギドが街中に?!どうやって結界を越えたんだ!!」

 

 アラクネメギド同様、結界内で発生したワンダーワールドの出現にアルマは大いに驚き、歯噛みする。

 

 「と、兎に角急ごう!巻き込まれた人達を助けてメギドを倒すんだ」

 

 「は、はい!」

 

 急ぎ駆ける2人の剣士。大通りであった場所の付近に近付き、本と聖剣の力を用いて異界へと侵入する。

 

 本の扉を潜り抜けた先には火の手を上げ、瓦礫となった建物と逃げ惑う囚われた人々、暴れる襤褸を纏った複数の骨の様な人型の異形達。

 

 「何だ?!沢山居る。メギドは一体じゃないのか!?」

 

 「あれはシミー、メギドの小間使いです。本命は恐らくもっと奥!変身しましょう!」

 

 「ああ!」

 

 

 

『『聖剣ソードライバー!』』

 

 

「変身」

 

 

『烈火/流水』

 

 

『抜刀』

 

 

『ブレェイブドラッゴォォォン!』

 

 

『ライオンッ戦記ィ!』

 

 力無き者を死へ誘う影達に突撃する赤と青。仮面の剣士セイバーとブレイズがシミー達を斬り倒しながら前へと進む。

 

 倒して、倒して、倒して、倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して進む。

 

 そうして魔人が暴れているであろう場所まで辿り着けば其所では意外な光景が広がっていた。

 

 「くっ…教官達が到着するまで持ち堪えなくては!」

 アシュレイが瞳を金色に輝かせ空を自在に舞う手から逃れる。

 

 「…ぅぅう、魔力がもう…持ちません……!」

 魔道書を掲げながら苦悶の表情を浮かべるリネット。彼女の姿の先には土泥の魔人が光の檻に閉じ込められ、そこから脱出しようと暴れている。

 

 「頑張ってリネット!」

 周りに生えた観葉植物を利用しシミー達の脅威から共に巻き込まれた人達を守りながら安全な場所へと誘導するティアラ。

 

 「そのまま魔法を維持して下さい。代わりにリネット様の事は必ずお守りしますので」

 髪の毛の手と自身の身体機能を十全に発揮してリネットに近付こうとするシミーを蹴散らすあるふぁ。

 

 4人の魔女が持てる力を以てして奮戦していた。

 

 「ティアラちゃん!?」

 

 「っ!先生ぇ!!」

 

 駆け付けた剣士達に真っ先に気付いたのはティアラ。不安と恐怖を圧し殺しながら共に居た市民を励ましていた彼女の顔には希望が現れた事への回生の笑みが浮かぶ。

 

 「アルマ、ティアラちゃんとアシュレイさんの方を。俺はリネットちゃんとあるふぁさんの方…メギドを倒す!」

 告げるが早いや、リネット達に群がるシミーを切り捨てるセイバー、そのままベルト左腰のホルダーからピーターファンタジスタを取り出し、レフトシェルフに装填、ブレイブドラゴン共々ページを閉じ、ドライバーに烈火を納刀、再び抜刀する。

 

 

『ワンダーライダー!!』

 

 ドラゴンピーターへと転じた炎の剣士が幻想から編まれた左腕のフックを魔人目掛け放つ。

 

 「リネットちゃん、もう大丈夫だ!檻を消して君も逃げなさい!」

 

 「先生…!は、はい!」

 「先生?そうですか、仮面の方は先生様でしたか」

 安堵するリネットに対し特段驚いた様子も見せずティアラ達へ合流しようと駆けるあるふぁ。

 同時に檻から魔人が解放される。しかし自由の身となった魔人にキャプチャーフックが纏わり付きその自由を再び奪う。

 

 「オォォォォオオ!!剣士ィィ倒スゥゥゥウウ!

 

 デスマスクの下から轟く醜い声と共に、唯一まだ自由なままの腰から下──両脚でセイバー目掛け突進して来る。

 

 (真正面から受けるんじゃなくて、力を受け流す!)

 以前のバッファローメギドとの戦いで得た経験からか、同じパワー型と判じたゴーレムメギドの突進を、やや半身で待ち構え、互いに交差する程近付いた際のタイミングを見計らい、マタドールの様に華麗に躱しながら斬り付ける。

 

 「グオォォ…!

 

 セイバーからの一撃に苦悶を溢すゴーレムメギド。斬られたダメージと腕の自由が利かない状態から思わずバランスを崩し無様に転ぶ。

 しかし其所は人為らざる魔人故か、両の腕が塞がれているにも関わらず容易く立ち上がり、今度はアシュレイに飛ばし、今はブレイズが牽制している浮遊する頭部の両手を呼び戻しセイバーの背後へと強襲させる。

 

 「っ"ぁあ!?」

 

 ロケットパンチよろしく背後からの不意討ちに火花を散らすソードローブ。

 しかし劉玄立会の元、日々の修練を受け剣士としての腕を磨いた斗真は何とか耐える。

 一方で奇襲を成功させた空飛ぶ両手は再びセイバーの背後に回り、もう一度攻撃を試みる。

 

 「っ…なんのぉ!!」

 しかし攻撃が来ると分かる2度目ともなれば対応は容易い。キャプチャーフックを巻き取りその勢いに任せて身を預ける。

 そうなれば敵目掛け慣性に従って走るよりも速く敵に肉薄出来る。ゴーレムメギドにフックを巻き付けたまま、まるで伸ばしたゴムが縮む様に突撃する。

 

 「喰らえ!」

 

 後は剣をただ置くように突き立てれば自然と敵を貫く形となる。

 キャプチャーフックの回収する勢いによって速度を増した一撃は途轍も無い威力となりメギドに深い傷を残す。

 フックが外れると同時にセイバーもメギドも互いに地面を転がる。また転がる際の拍子にピーターファンタジスタが外れ、石畳を滑る。

 

 「っっ……ちょっと無茶し過ぎたか」

 先に立ち上がったのはセイバー、自身も激突の衝撃に眩みながらも余力を持って立ち上がる。

 

 「グォォォ…

 ゴーレムメギドもよろけながら今度は腕も使って立ち上がる。

 

 「よし、トドメを決める」

 

 「確実に行きましょう!」

 アシュレイがフリーになった事でブレイズがセイバーへと合流、地面に落ちたピーターファンタジスタを回収がてら共に聖剣をドライバーに納刀し、必殺技を放とうとする。

 だがその時、ゴーレムメギドの頭上に孔が…より正確には闇が現れ、其所から何かが魔人目掛け落ちてくる。

 

 「!!何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル大通り━

 

 ワンダーワールドに取り込まれた大通りの建物の何れか、剣士達と魔人の戦いを一望出来る建物の屋根の上で、闇黒剣月闇を手に目の前の空間を斬り自身が保有していたワンダーライドブックを空間に開いた孔目掛け放り投げたカリバー。

 彼はゴーレムメギドに起きるであろう変化をつぶさに観察する。

 

 「結界によって削がれた力、それは即ち空白のページ。そこにワンダーライドブックを取り込ませ、穴を埋めると果たしてどうなるのであろうな?

 

 誰に言って聴かせる訳でも無く、純粋に実験の為の確認の意を込めた独り言、闇の剣士はその変化を見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴォォォォオオオ!!

 

 投げ込まれた本の力を受け魔人は本来の真価を発揮する。

 肉体が辺りの瓦礫や土を取り込み膨張し周囲の建物の高さを優に越え、2mの体躯が今や20mと化していた。

 

 「巨大化!?そんな事も出来るのか!!」

 「そんな馬鹿な!ワンダーワールドに取り込まれたとは言え、此処マームケステルは結界の力が働いているからメギドは能力の全てを発揮出来ない筈です!」

 突如巨人と化したメギド魔人に驚愕するセイバーと有り得ない出来事に狼狽えるブレイズ、だがそんな2人の反応など知ったことかとばかりに巨大ゴーレムメギドはその脚を振り上げ2人を踏み潰さんとする。

 

 「うわっ!」 「くっ…!」

 

 慌てて躱す2人。巨人の剛脚より逃れ改めて必殺の剣撃を見舞う。

 

 「火炎十字斬!

 

 「ハイドロ・ストリーム!!

 

 猛火の斬撃と怒濤の激流が挟み込む様に岩石の巨人に直撃するも、ゴーレムメギドは取り込んだワンダーライドブックの力によって強化された耐久性と底上げされた特性の能力により破損箇所を再生・修復する。

 

 「なんて奴だ!僕達の攻撃を耐え抜くなんて…!!」

 

 「……(ゴーレム…って事はヘブライ語のemethに相当する核か何かがあるのか?どちらにせよ何とか動きを止めたいけど)ピーターはアルマが拾ってくれたとは言え、この状況じゃ此方に投げてもらうのは無理かっ!」

 巨大な腕や脚、果ては浮遊する手を各々で躱しながら何とか戦っている現状、敵を挟んでのやり取りは致命的な隙になりかねない。

 

 「せめてもう一冊あれば……あっ!」

 打開策となる様な力を持つワンダーライドブックを欲し、無い物かと溢したその時、セイバーは緋色の少女に預けたままのソレに思い至る。

 

 「ティアラちゃん!聴こえるか!?」

 

 「先生…?はい!聴こえてます!

 

 突然自分の名を叫び、何事かを訊ねようとするセイバーにティアラも声を挙げて返す。

 

 「君に預けたままのアレ、此方に投げてもらって良いかなっ!!」

 

 メギドの攻撃を転がり躱すセイバーは一瞬だけティアラ達が身を隠す方に顔を向け要件を伝える。

 

 「アレ……それって!」

 当然思い当たる節は1つしかない、即座に意図を理解した彼女は懐に閉まっていたジャッ君と土豆の木を取り出し、意を決し遮蔽物から跳び出し、手にしたワンダーライドブックを思い切り振りかぶって投げる。

 

 しかし魔人とて馬鹿では無い。攻撃に使用していた浮遊する頭部の手を片方投げられたライドブックへ向かわせる。

 別段奪う必要は無い、ただホンの少しの風圧で軌道を変えるだけでも剣士達にとっては致命的だ。

 後は再び拾われる前に踏み潰して終わりにしてしまえば良い。

 

 それで終わりだ。()()()()()()

 

 巨大な手がその質量から巻き起こした風圧で逸れた筈の浅葱色の本はしかし口笛の音と共に石畳を突き破って現れた蔦によって受け止められ、大地に消える。

 

 「ゴォォッ?!」

 

 目標を見失い動揺するメギド、剣士達に対する攻撃の手が緩む。

 

 「今だ!」

 それを機と見たティアラが気合いを叫ぶとセイバーの直ぐ近くの地面が盛上り、消えた蔦が炎の剣士にその先端に保持したワンダーライドブックを手渡す。

 新たに手にした本を赤き仮面の剣士が開く。

 

 

『ジャッ君と土豆の木』

 

 開かれた者にのみ理解できる言葉でテキストオブワンダーのライドスペルの序文が綴られる。

 

 

『とある少年が、ふと手に入れたお豆が巨大な木となる不思議なお話』

 

 ライドスペルが読み上げられた事を確認しガードバインディングを閉じ、空白となったレフトシェルフに装填する。

 

 

『烈火抜刀!』

 

 中央を除きシェルフが埋められたソードライバーから抜刀の呵成の声が響く。

 

 

『二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る』

 

『ワンダーライダー!』

 

『ドラゴン!ジャックと豆の木』

 

『二つの属性を備えし刃が研ぎ澄まされる!』

 

 セイバーのソードローブのライドレフトにジャッ君と土豆の木の力が現出する。

 左肩は【ドマメノキボールド】に変質つし浅葱色の豆や蔦・蔓を思わせる意匠が入った鈍色の装甲に。

 同様に左腕腕もそれらの色と意匠を取り入れた物へと変化、【インタングルガント】と呼ばれる蔓の様な鞭が生えた手甲となる。

 左脚部は【ボタニカメイル】が覆い、頭部ソードクラウンにはマスク左側に追加された装甲【ドマメノキマスク】から伸びる蔓がぐるりと絡まっている。

 

 これこそがセイバーの新たなる力と姿、セイバードラゴンジャッ君である。

 

 「成る程、こんな感じか!」

 シェルフを通じて入って来る本の力の使い方に頷き烈火をゴーレムメギドの足下へ向けると、剣先からなんと豆が撃ち出される。

 撃ち出された豆達は即座に急成長巨大化しゴーレムメギドの手足を絡め取り、自由を奪う。その拘束力はキャプチャーフックの比では無い。

 

 「私の見間違いでなければだが、今教官の剣から豆が飛ばなかったか?」

 「見間違いじゃなくて本当に豆が飛び出たんだよ」

 「で、でもお陰で敵は動けなくなりましたよ!」

 「プラプラ揺れる鞭らしき蔦がシュールですね」

 ドラゴンジャッ君の姿、能力を目撃したアシュレイが白目になりながら今し方起きた現象に葛藤し、ティアラとリネットが現実を肯定しフォローを述べるも、その全てをあるふぁの一言で無に帰される。

 

 「アルマ!今度こそ決めるぞ!」

 

 「はい!後、出来ればブレイズと呼んで下さい!」

 

 そんな少女達を置いておいて、戦闘に注力する2人は今度こそはとトドメの態勢に入る。

 

 

『必殺読破!ドラゴン!ジャックと豆の木!二冊撃!ファ・ファ・ファイヤー!!』

 

 セイバーが左腕の蔦の鞭を伸ばし、ゴーレムメギドに2度、3度と打ち付けてからメギドの首に蔦鞭を巻き付け跳躍しメギドの顔面目掛け跳び蹴りを放つ体勢となる。

 

 

 

 

『ライオン!ふむふむ…』

 

『ピーターファン!ふむふむ…』

 

『習得二閃!』

 

 片やブレイズはミッドシェルフから取り外したライオン戦記と回収したピーターファンタジスタを流水の切先に搭載されているシンガンリーダーに読み込ませ本の力を剣に一時的に宿らせる、これにより流水に幻想的な光を宿した水が逆巻く。

 

 

 

 「これで!」「終わりだぁぁああ!!」

 

 炎の脚撃と妖精の様に意思を持つ無数の水撃が巨大化したゴーレムメギドを襲う。

 動けぬまま手足を砕かれ、腹を無数の水撃に蹂躙され、顔面を炎の蹴りによって粉砕され、遂に再生出来ずに巨人は岩の破片と泥となって爆発と共に砕け散った。

 

 

 「やったーーー!」

 ティアラが思わずと言った具合に喜び跳ねる。その顔には砕け散った泥が少しこびりついている。

 同じ様にアシュレイやリネットの顔や服にも泥汚れが着いてしまっている。

 そんな中、あるふぁだけが予期していたとでも言う具合に上手いこと建物の影に隠れ難を逃れた。

 

 そして剣士達の元には泥や破片と一緒にとあるモノが降って来る。

 

 「?これは……ワンダーライドブック」

 

 「まさかメギドが所有していたとでも言うんでしょうか…!」

 

 飛び出たワンダーライドブックは水色の装丁のガードバインディング。タイトルは【一寸武士】と記されている。

 

 「これがメギドが巨大化した理由……とか?」

 「可能性は否定出来ませんが…兎に角もうすぐワンダーワールドから元の世界に戻ります。変身を解除しておきましょう」

 セイバーが拾ったライドブックをブレイズに見せながら推察を口にする。

 ブレイズもその可能性が高いと見ながら聖剣を納刀し変身を解く。

 セイバーもそれに倣って斗真の姿へと戻ってゆく。

 そしてそんな斗真の姿を見てあるふぁは言うのだ。

 

 「ところで先生様、その個性的な格好は貴方様のご趣味で?」

 

 「はっ?え?あっ!」

 あるふぁに指摘され己が首から何をぶら下げていたのか思い出す斗真。変身中は看板の存在は分解されている為忘れていたのだった。

 外そうにも外したら、帰還した際にセドリックが無言でねめつけて来るので外せない。

 何より生徒達に既に目撃されているのでどうしようも無い。

 結局斗真は反省が書かれた看板を首から下げたまま皆と共に帰路に付くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「概ね実験は成功と言うべきか。それなりに得る物もあった、ワンダーライドブック二冊を犠牲にするだけの価値はあったな

 眼下で繰り広げられていた戦いを最期まで見届けた黒紫の剣士が背後に生み出した闇の中へ消えながら言葉を残す。

 そう、彼が言った通り、ゴーレムメギドに取り込ませたワンダーライドブックは斗真達が回収した一寸武士の他にもう1冊存在したのだ。

 そのもう1冊は爆発と共に何処かへと飛んで行ったが、カリバーは特に未練も無くアジトへと続く闇に消える。

 

 果たして消えたもう1冊のワンダーライドブックは行方は……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ティアラさんが預かったワンダーライドブックの力により先生達は辛くも窮地を脱し強力な敵を倒しました。

 けれどそんな戦いの様子を闇の剣士が見ていた事は、あの時の私達含め、誰一人気付いていませんでした──

 

 

 TO BE Continued

 

 

 

─ライオン戦記──ピーターファンタジスタ─




 
 ここでちょっとしたどうでも良い裏話設定Tipを1つ、斗真ちゃんはそれなりに裕福な実家の次男坊です。
 小説家としてはパッとしませんが、フィールドワークの際のフットワークの軽さは実家暮らしで培われた形になります。

 暑さに打ち勝つ為にも私の創作意欲を目茶苦茶刺激する作品に出会えぬもか……。

 ともあれまた次回お会いしましょう。なんとかビーム!


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16頁 真のワンダーライダー

 おはようございます
 寝ます。起きたら散髪して機種変します。
 未だにスマホ良く分からないですけど……。

 グリッドナイト君すっかり大人になっちゃって……2代目は今度はお母さん寄りですかそうですか(可愛い)

 加藤国広(ティアラ)、八丁念仏(ロゼッタ)、典厩割(アシュレイ)、浦島虎徹(エミリア)、鶴丸国永(ナデシコ)、城和泉正宗(カエデ)、千人切(ルキフェル)は持っているので後は乱光包(シャンペ)が来れば天華百剣実装済みのラピライキャスト揃うんですよねぇ。
 リーチ掛かってるのはこの花は乙女だけですけど……。鈴木女史の巫剣来ないかなぁ。
 或いは他の人でも良いからもうちょい来ないかなぁ。
 おちフルは揃ってんだけどなぁ。



 ──ワンダーコンボ。先生達が持つソードライバーによって発揮される本の力を解放した姿。

 ティアラさんから渡されたワンダーライドブックで新たな力を獲得した先生ですが、ピーターファンタジスタはアルマさんが所持したままでした。

 そしてそれはワンダーコンボの真の力に迫るきっかけとなったのです──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・理事長室━

 

 「またしても…ですか」

 窓辺に佇みながらクロエは夜の帳が降りた正門前を見詰める。

 

 「はい。幸いにして僕とトーマさんで早期に対応出来た事や居合わせた生徒さんが迅速に行動を起こした為、取り込まれた街や人は最小限の被害で済みました……ただ、目撃証言から調査した所、メギドを召喚した人物は、身に付けていた物から推察した所、商隊の方らしく、心神喪失状態で発見。その後の更なる調査の結果…その…彼の他に居たであろう商隊のメンバーの方々は残念ですが……」

 報告を述べながら今回の件で発生した犠牲者を悼む、その握り拳からは血が滲み滴る。

 

 「貴方のそういう所が良い所でもあり悪い所でもあります。今はしっかりと休みなさい」

 

 「はい…失礼します」

 

 語気弱く、項垂れた様に理事長室を去るアルマ。

 生真面目ながらも明るい青年が気落ちしている様を見てクロエもまた苦々しく眉間を寄せる。

 そうして、それら一連の会話を今まで黙って見守っていたもう一人が口を開く。

 

 「未熟。まだまだ若輩であるな、奴の父なら割り切ったであろうに」

 セドリックである。温室の修復報告の為、アルマとは別にクロエの元に訪ねて来ていたのである。

 サングラス越しの瞳を若獅子の騎士が去った後の扉に向けながら辛辣な評価を述べる。

 

 「彼が聖剣を引き継いだ時期を考えれば仕方の無いことでは?」

 「手前も中々に甘いな。生徒にも、流水達にも」

 「前途ある若者たちですから」

 「笑止。同い年だろう。そもそも小生からしたら手前も未だ尻の青い小娘なのだがな。それで…流水が言うメギドを召喚したと言う人間だが、手前はどう見ている?」

 

 一頻りクロエと若き剣士や魔女について会話を交えた後、話題をメギドの件へと戻す。

 

 「はい…目撃、調査情報の通り虚ろな状態で頻りに何事かを呟いていた、と言う事は何者かに操られていたのでは?と考えます」

 

 「……となれば、憶測、その商人何某は怪物とやら…十中八九メギドだろうが──襲われ、その後、何者かに操られていたと見るのが可能性の一つか。無論、狂信者の線も全く無いとは言い切れないがな」

 

 「その辺りは追々、此方でも調査させます」

 

 「重畳、期待する。しかしそうなると定例議会への報告も一苦労であろう」

 

 「でしたらご助力して頂けますか?」

 

 「騒々しいのは好かん」

 セドリックが口にした"議会"という言葉にクロエが少々の皮肉を込めての同行の是非を問えば、黒いレンズに隠れて尚判る程にセドリックは顔をしかめ断る。

 

 「此処(学院)も騒々しいと言う意味では変わらないのでは?」

 

 「騒音の種類が違う。若者の日々を過ごす喧騒と、益欲渾沌の坩堝と化し不愉快な嫉妬、怒号飛び交う事もあるあの場所とでは天地の差だ」

 

 「ですが例の…失われた聖剣やワンダーライドブック探索の成果を報告する必要があるのでは?」

 

 「不要、態々議会に併せる必要は無い。どうしてもと言うのであれば手前が代わりに答弁してくれ」

 

 そう言って話すことはもう無いと席を立ち、去ろうとする鍛冶師。

 クロエが呆れつつも最後に訊ねる。

 

 「セドリックさん……今回の様な事はまた起こると思いますか?」

 

 「……それは無いと答えて欲しいのか?それとも有ると答えるべきか?失笑、既に己の中で出ている解答に他者からの太鼓判を求めるなど…無意味。心配せずとも手前も手前の学院も其処で過ごす者達も我等が守るとも、何があってもな」

 ではなと残し、今度こそ立ち去るセドリック、残されたクロエは苦笑するより他に無い。

 

 「ええ、皆さんの事は頼りにしています」

 

 唯一人部屋に残ったクロエの呟きが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━???━

 

 「おいっ!何だあの女はっ!やる気があるのかっ!!このままでは計画が遅々として進まん!

 

 「"彼女"はあれで良い。何れ、来る時が来れば否応無しに聖剣を手に取る。その為に我々の側に置いたのだ。そもそも人手と言うならせめてあと一人、貴殿と同格のメギドが居れば別であるが…

 

 レジエルのとある人物に対する不満の怒号にローブの人物はワザとらしく辟易した様に答える。

 

 「ぐっ……、チィッ、良いだろう!ならばズオスを起こせ!単細胞の奴ならばストリウスよりは幾らかマシだ」

 

 「(飽くまで己が力を手にする算段か、予想以上に狭量だな……まぁ、でなければ真っ先に起こした意味が無い)承知しよう。それまではくれぐれも自重するよう頼みたいものだ

 

 「ふん、貴様が余計な道草を喰わねば…大人しくしているさ」

 

 「(ズオスだけでは足りないな………予定よりも早いが、アレを切るか。既に"煙"は此方の手の内に。残るは"光"と"無"の聖剣の捜索、"時"の奪取。そして奴等の手にした聖剣を利用し目次録への道が拓かれた、その暁には残る聖剣も我が手に…)では手早く行動起こすとしよう、試したい事もあるのでね

 レジエルの皮肉を込めた物言いも物ともせずローブの人物はその胸中で自らの目的を秘めつつ闇の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・ダウヒッチストリート━

 

 事件報告の翌日、アルマはとある人物に帯同していた。

 

 「ごめんなさいねー、わざわざ付き合ってもらって」

 

 「いや、僕も気分転換がしたかったから…」

 

 敬語の彼にしては珍しく、気安い、砕けた口調で会話を交える相手、エメラルドグリーンに煌めく長髪を一房の三つ編みに纏めた線の柔らかい顔立ちに糸目の少女。

 選抜クラス、supernovaの1人、ミルフィーユである。

 クロエの幼馴染みで弟子でもある彼女はその関係から同郷の人間で顔馴染みでもあるアルマとは親しい。

 

 「アルくんがこっちに来てどのくらいになるかしらー?」

 

 「ミルフィが学院に入学してから暫く…君達がsupernovaを結成した時くらいに来たから、大分経つね」

 

 ミルフィーユの買い物で出た荷物を抱えながら答える。

 

 「あら~、もうそんなに経ってたのねー。どう?此処の生活には慣れた?」

 

 「ああ、うん、毎回街の見回りをしていたからかな?露店の人達から良く声を掛けて貰ってるくらいには」

 

 「そうね~、さっきも親しげにお話していたものね」

 

 買い物に際し起きたやり取りを思い返してクスクスと笑みを溢すミルフィーユに対し、少し気恥ずかしいのかそっぽを向くアルマ。

 

 「僕よりもトーマさんの方が大変だと思うよ。来訪者としていきなり知らない世界に来たと思ったら訳も解らないまま聖剣の剣士になってしまったんだから。きっとエレンやラウシェンさんよりも大変だったはず」

 

 「トーマ……ああ!あの新しく特別クラスに来たって言う先生ね!どういう人なのかしらー?お姉ちゃん興味あるわー♪うふふ」

 左手を頬そっと添えながらアルマが口にした名を転がしながら微笑む。

 

 「あまりからかっては駄目だ、目上の人なんだから」

 

 「分かってる分かってる♪アルくんはホント生真面目ねー。少しは肩の力を抜かなくちゃ」

 

 アルマの苦言に笑顔を崩すこと無く、寧ろアルマを丸め込むミルフィーユ。齢17歳とは思えぬ余裕と包容力が滲み出る態度である。

 

 「一応…僕は君より歳上なんだけど……わぷっ?!」

 「拗ねちゃって可愛いんだから」

 

 ぶすっとした顔をするアルマの直ぐ側に近寄り、彼の両手が荷物で塞がっているのを良いことに鼻の頭を摘まんで軽い悪戯を掛けるミルフィーユ。

 端から見れば姉弟の様である(誤字に在らず)、或いはデートとも取れるかもしれない。

 

 「それで今回はどんなモノを作るんだい?」

 手にした荷物──そのほぼ全てが食料品──を見ながら隣を共に歩く少女に訊ねる。

 

 「そうねー、何時も通りユエやフィオ、クロちゃんに振る舞うのは当たり前として、そのトーマ先生にもお近づきの印に振る舞ってみたいわねー。勿論アルくんにもご馳走するわ。後は…そう!デザートも作りたいわね、今回こそは成功させるわ~」

 

 「え゛?!デザート?」

 

 「そうデザート。毎回あんな結果になってしまうんだもの、そろそろ成長した所を見せないとねー」

 デザートとミルフィーユが口にした瞬間固まるアルマ、だがミルフィーユは構わずニコニコと話を続ける。

 誤解の無いよう言えば、ミルフィーユは料理研究会に所属しているだけあり、その腕前は決して下手などでは無い。寧ろ絶品と言えよう。

 デザートにしても不味くは無いのだ。では何故アルマがこの様な反応を示したのか、それはこの場で語る事では無いので割愛する。

 

 そんな会話を繰り広げながら彼と彼女はダウヒッチストリートの中央通りを抜け、西側の広場へ休息の為に向かって行く。

 そんな日常の一幕──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル近辺━

 

 アルマがミルフィーユに付き合って広場へと向かったのと同時刻、外壁の外ではローブの人物が手にズルズルと引き摺っている()()を適当な広さの平原に投げる。

 弱々しい悲鳴を挙げる魔獣を一瞥すると手にしたアルターライドブックを、魔獣の口らしき部位に捩じ込む。

 魔獣の抵抗も意に返さず、捩じ込んだアルターライドブックを開く。

 

 『饕餮伝書

 

 魔獣の躯が不安定に膨張する。のっぺりとした体躯が刺々しいモノに変貌してゆく、両生類の様なヌメりを持った脚から剛毛が生え、鋭い爪が大地を確りと掴む。

 背中は角なのか骨なのか見分けが付かない突起に覆われ、腹は縦に走った直線から宝玉の様な眼球がギョロギョロと蠢く。

 一見して可愛いらしくも見えた顔は獅子と蛇と鷹を混ぜた様な不気味な形相に転じる。

 

 それはメギドであってメギドでは無いもの。魔獣でありながら魔獣から外れたモノ。

 魔人の力を内包し既存の魔獣とは一線を画した怪物が産まれた。

 

 「随分悪趣味なモノを造ったな、見掛け倒しにならなきゃ良いが……ま、お手並み拝見といこうか

 そんな様子をローブの人物の背後から眺めていた黒い怪物がせせら笑いながら評する。

 

 「なら見物料を支払って貰おうか?

 

 「へぇ?面白い。オレに何をさせたいんだ?

 

 「なに…そう難しい事では無い。ただ、ワタシが呼び出した時に場を乱してくれれば良い。それ以外は…そうだな余所の国でなら幾らでも好き勝手に暴れてくれても構わない

 

 黒い怪物──唯一顔面だけが紅い仮面(スカルフェイス)を被った、蟲や獣が入り雑じった複数の意匠を持つ魔人──メギド【デザスト】がその異形からは想像も付かぬ程に若い青年の声を発しながらローブの人物に訊ねれば、ローブの人物は暴れろと宣う。

 

 「おいおい、たかが見物一つにえらいぼったくるじゃないか?注文が多すぎだ

 肩を揺らし竦めるデザスト、ローブの人物は何も言わず懐から新たなアルターライドブックを取り出し、黒い魔人にチラ付かせる様に見せる。

 

 「貴殿が此方のオーダーをこなしてくれるのならば報酬に()()を返そう

 ローブの人物が手にしたのは紅い表紙のアルターライドブック。

 それはつまりデザストの命綱その物。

 

 「……だから?はいそうですかって従うとでも?オレからしてみれば直ぐに…それこそお前から奪ってでも取り返すかもしれないぜ?

 

 「ああ、だがそうはならない。貴殿もまた数百年の歳月から目覚めたのだ、先ずは我々の為そうとする事を見届けるくらいは余裕があるだろう?それに早々退屈はさせんさ。それでも尚と言うのであれば()()()を前払いの報酬に付けよう

 そう言ってローブの人物は新たにデザストアルターライドブックをずらし後ろから3冊のワンダーライドブックを見せる。

 

 「フッ…ククク、フハハハ!!良いねぇ、面白い。中々悪くない条件だ……良いぜ、暫くはお前らの茶番劇に付き合ってやるよ

 デザストが上機嫌に良と答えた瞬間、魔人の手目掛け3冊のワンダーライドブックが投げ渡される。

 

 「その3冊と貴殿の力があれば結界の中でも遜色無く活動出来るだろう。が、先にも言ったように今回ばかりは大人しく成り行きを見守って貰おうか

 ローブの人物がその言葉を述べた瞬間、魔獣饕餮が吼える。

 異端の魔獣の声に誘われ、周囲から複数の魔獣が集い群れる。

 獣達は饕餮を先頭に、マームケステルの街へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・西側広場━

 

 甲高くも軽い金属音が街中に鳴り響く。

 

 「?!これは魔獣が街中に!?」

 広場で休息に伏していたアルマが飛び起きる様に立ち上がる。

 同時に彼のガトライクフォンに着信が入る

 

 「はい!アルマです!」

 『声がデケェよ馬鹿。ゲホッ…その感じならもう分かってんな、ゴホッ…魔獣が街の至る所に出た。お前今どこだ?ゼェ…ハァ』

 電話の主はエレン。怠惰な青年は、彼にしては珍しく息を切らせながらアルマに情報を伝える。恐らくは彼も街中を奔走しているのだろう。

 

 「西側の広場です」

 『なら好都合…ゲホッゲホッ、お前はそのまま西側に出た魔獣を片付けろ。オレは南、忍者が東、小説家が北、ムッツリグラサンとストーカー執事は万が一の為に学院に詰めてる。ゴホッゲホッ、あーシンドイ。で、魔獣の数は南に1、東に2、北に2、お前の居る西に3だ、お前の所だけ数が多い、後多分今まで戦って来た魔獣とは違う感じだが、何とかしろ』

 咳き込みながら現状を伝え終えたエレンはそのまま通話を切る。

 

 「アルくん…」

 ミルフィーユがそっと声を掛ける。

 

 「ミルフィ、なるべく安全な所に逃げて。もうすぐ此処に魔獣が来る。念の為手前で迎え撃つけど……相手は結界を越えるくらいの魔獣だ、そんなつもりは毛頭無いけど…もしかしたら取り逃す可能性もある。だから君は市民と一緒に逃げてくれ」

 ミルフィーユに逃げるよう言い含めながら腰にソードライバーを装着、ライオン戦記を挿入し駆け出す。

 

 

 

変身!!

 

 

 

『流水抜刀』

 

 

 

『ライオンッ戦記ィ!』

 

 獅子の顔を胸に懐き、水流より出でた蒼き剣士がその超人全とした身体能力を駆使し魔獣達へ向かう。

 

 

 

 《Glloooooaaaaaa!!》

 

 三匹の魔獣、その中央に位置する一際異彩を放つ巨獣が猛る。

 

 「…!何だ…あの魔獣、見た事がない!新種?いや…それよりまずは取巻きだ」

 聖剣を片手に、先ずは確実に倒せるだろう通常の魔獣に標的を定める。

 

 ──定めようとして、その刃をリーダー各の新種に阻まれた。

 

 「何っ?!(庇った?!いや…違う!コイツ僕を張り付けにして取巻き達を自由に暴れさせる気だ!)」

 魔獣が見せたまさかの知恵に驚愕するブレイズ。

 何とかしようにも新種──魔獣饕餮──はブレイズを逃がしてはくれない。

 

 (くっ…こんな悪知恵を魔獣が使うなんて!!確かに今までの魔獣とは違うっ!?)

 ブレイズの剣舞を爪で牙で、或いは背中の角で器用に受け躱す魔獣饕餮に思わず歯噛みする。

 

 (不味い…これ以上コイツに構っていられない!早く振りほどかなきゃ、あっちにはミルフィや市民の方達がっ!?)

 しかし奮闘振るわず取巻きの2匹は建物の屋根を踏み砕きながら広場へと抜ける。

 沫やこれまでかと焦るブレイズ。がしかし、天はまだ彼を見捨ててはいなかった。

 

 「わぁ~~~ふっーーーーーっ!!」

 

 2匹の魔獣が広場に到達した瞬間、横合いから独特の叫びと共に小さな影が魔獣の横ッ面を叩く。

 

 「えっ…?今のはまさか…!?」

 

 魔獣饕餮の凶爪を聖剣で防ぎながら突如現れた影に瞠目する。

 

 「あたた…ちょっと失敗」

 魔獣2匹と共に転がった影が土煙の中から立ち上がる。

 煙が晴れたその場所に立つ小さな影の正体、それはフローラ女学院特別クラスに在籍する人狼の亜人、サルサが悪戯っ子の様に舌を出しながら制服の土埃をパンパンと払う。

 

 「君は…トーマさんのクラスの…」

 

 「わふっ!?なーぁにーぃ?」

 

 思わず溢した一言に小さな人狼が反応する。どうやら土埃と喧騒に紛れ良く聴こえなかった様だ、

 

 「君!危険だから逃げなさい!!」

 

 「だいじょーぶ!ボク、強いから魔獣なんて一捻りしちゃうよ!」

 サルサがピコピコ跳ねながら大丈夫だと応じる。

 

 「しかし……」

 尚も渋るブレイズに対し避難誘導の最中であったミルフィーユが声を掛ける。

 

 「アルくん!今は手段を選んでられる状況じゃ無いわ!」

 

 「…っ、分かりました。ですが危ないと感じたら直ぐに逃げて下さい!」

 

 「まっかせて!わっふふ、張り切っちゃうよー!」

 

 右拳を左掌にパシンと軽く当てながら気合いを入れるサルサ。

 未だ生徒を巻き込む事に後ろ髪を引かれつつも、一先ず目の前に立ちはだかる特異点に集中する。

 

 「ぜっ!」

 自重を掛けて押し込んでくる魔獣饕餮の腹に蹴りを見舞い間合いの余白を作り互いの戦況を振り出しに戻すブレイズ。

 敵に機先を差される前に左腰の必冊ホルダーに流水を納刀、居合いの構えを取る。

 

 

『流水…居合』

 

 ホルダーに納めたまま走る。

 饕餮の爪を掻い潜り、牙を躱し、腹に潜り聖剣を一気に引き抜く。

 

 

『読後一閃!』

 

 先の打ち合いで見付けた腹の眼球目掛け必殺の居合い斬りを喰らわせる。

 

 《Gyaaaaaa?!!》

 

 巨体が痛みに絶叫し大きな音を経てて倒れ込む。動かなくなった魔獣を一瞥し、サルサの救援に向かうブレイズ。

 

 「わぁーっふっふっふっふっふぅぅぅうう!!わっふぅーーーっ!!!

 小さな体からは想像も付かない力強いラッシュが残った魔獣の1匹を殴打する。トドメのアッパーカットにより打ち上げられた魔獣が彼方へ飛んで行く。

 これで残る魔獣は1匹。

 

 「後は僕がっ!」

 流水をドライバーに納刀しトリガーを2回引く。

 

 

『必殺読破!ライオン一冊撃!ウォーター!!』

 

 跳躍し必殺のキックをサルサを警戒していた魔獣を背後から強襲する。

 意識外からの一撃に断末魔を挙げる間も無く木っ端微塵になる魔獣。

 

 「おおーっ!スゴーーーい!」

 

 「はぁ…はぁ…これで全部…。他のみんなは?!」

 戦場での高揚と興奮で息が乱れるブレイズ、他の戦場はどうなっただろうかと意識を弛緩させたその時であった、先程自分が魔獣にやった様に今度は自分が背後から強襲を受ける。

 

 「かはっ…!?」

 

 「アルくん!?」

 

 転がるブレイズの姿に思わず悲鳴混じりに叫ぶミルフィーユ。

 一体何が起きたのかとサルサ、ミルフィーユ、そして満身創痍のブレイズが攻撃の出所を探した所、倒れた筈の魔獣饕餮の咥内より煙が白んでいる。

 

 「馬鹿な…!確かに倒した筈!」

 戦慄するブレイズ。その言葉に反応して魔獣饕餮の巨躯が膨れる。

 内側からメキメキと音を立て、まるで繭でも割るように異端の魔獣から魔人が出でる。

 

 「メギドだって!?」

 

 「……やっと表に出てこれたぜ

 

 産まれ出でた魔人が言葉を発する。

 牛と羊を足した様な意匠の身体、虎の牙を模した肩と胸、曲がりくねった2角の角。

 怒りと喜びをない交ぜにしたデスマスク。目元と鼻こそヒトを模しているが口は獣の様に鋭い歯並びである。

 

 「くはははっ!丁度程よく疲れているな!実に好都合…死ね剣士!!

 

 魔獣時のそれと比べれば小さな腕がブレイズ目掛け振り下ろされる。

 

 「っくぅ!」

 

 咄嗟に身を捻り躱す。しかしトウテツメギドはそれを読み蹴りを喰らわす。

 

 「あ゛あ゛」

 怯むブレイズに角から雷撃を発っし更なるダメージを与える。

 

 「ハッハッハッハ!見ろ!剣士が赤子の様だ!これが魔獣の中で負の力を蓄えた成果よ!

 トウテツメギドが高らかに笑いながら、自らが力を得た理由を述べる。

 ローブの人物──カリバーによって魔獣の中で生まれたメギドは魔獣の体内をアンダーワールドと化し、魔獣の糧である人々の負の感情を集束し結界内でも遜色無く動けるのだ。

 

 「ぐぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!(応援が…来るまで…耐えなくては……)」

 そう思うものの果たしてそんな悠長な暇があるのかと考える己が居る事に気付く。

 聖剣と本の力で超人へと変化してもそれぞれの最端からこの場に来るには時間が掛かる。

 ライドビークルを使用しようにもこの混乱で人々は逃げ惑っているやもしれない、そうなれば走行も容易ではないだろう。

 ならばどうすべきか?既にブレイズの…アルマの中で答えは出ていた。

 

 (けれど、やれるのか…?いきなり同色のワンダーコンボ二冊……負担は……いや、やるしかないんだ!!)

 雷撃に打たれながらもブレイズは左手を右腰のホルダーに伸ばし、そこから以前のゴーレムメギドとの戦闘の際から所持したままになっていたピーターファンタジスタを手に取り、震えながらもガードバインディングを開く。

 

 

『ピーターファンタジスタ』

 

 ライドスペルの序文詠唱を飛ばしレフトシェルフに装填、流水を納刀しライオン戦記を閉じる。

 

 うおぉぉぉぉぉぉお!!

 

 激しい雷撃の中、気合で立ち上がり吼えるブレイズ、勢いに任せ流水を抜刀する。

 

 

『流水…抜刀!』

 

 激流渦巻く本棚にオーライメージのライオン戦記とピーターファンタジスタがブレイズの背後に聳えページが捲られる。

 蒼いライオンの胸が描かれたシルエット、その左側に重なる様にピーターファンタジスタの左腕のみのシルエットが繋がる。

 

 

『輝くっ!ライオン!ファンタジスタァァア!!』

 

『流水二冊!!』

 

『ガオーッ!キラキラ!幻想の爪が今、蒼き剣士のその身に宿る!』

 

 斗真が使用した際とは全く違う、独特の殷を踏んだ音声が轟く。

 

 ソードローブの左側がピーターファンタジスタの力に包まれる。

 ブレスライオンを中央に頂き、左肩、左腕、左腹部がコバルトブルーに染まる。

 似通った色の鮮やかなコントラストが幻想的な雰囲気を醸し出すブレイズライオンファンタジスタの誕生である。

 

 「出来た…!これなら!!」

 新たな力を得たブレイズは雷撃を打ち払いメギドへと跳ぶ。

 その跳躍がそのまま飛行へと転じ、蒼き剣士は魔人を翻弄する。

 

 「をおぉぉ゛?!小癪な真似をっ!?

 

 飛行するブレイズからの攻撃に雷撃を連発し対応するも、まるで捉えられない。

 

 『ライオン戦記!』『ピーターファンタジスタ!』

 対してブレイズはドライバーのライドブックをタップし流水で円を描き水の輪を作り、蒼い獅子を喚び出す。

 同時にキャプチャーフックを伸ばし、メギドを拘束、水の輪からシャボン玉が飛び出し魔人を包む。そして蒼い獅子と共に魔人の周囲を回転しながら攻撃、更に完全に身動きを封ずるとそのまま高度を上げメギドごと空中へと上る。

 

 「今度こそ終わらせる!」

 

 今度は己を軸にしハンマー投げの様にメギドを振り回し拘束を外し放り投げる。

 シャボンに囚われたままの魔人に逃げる術は無い。

 

 

『必殺読破!』

 

『ライオン!ピーターファン!二冊撃!ウォ・ウォ・ウォーター!!

 再びトリガーを2度引き、空のトウテツメギド目掛け水撃を放ち突進。

 シャボンは割れ、魔人は落下しながら激流に乗ったブレイズにピンボールの如く打ち上げられたまたしても落下する。

 そしてブレイズは水の炸裂する力を両脚に込め、落下中の魔人の背中へ全身全霊の体重を込めた蹴りを見舞い、急速直下、地面に激突しクレーターを作る。

 

 ギィィャァァァアア!!

 

 魔人は断末魔の絶叫を挙げ爆散、水飛沫が雨のように降り注ぎ、クレーターの中央にはブレイズだけが立ち、勝利を誇っていた。

 

 

 「我がイーリアスと水勢剣流水の名に於いて、僕は負けない」

 

 「ほっ……冷や冷やしたわー」

 

 残心を取るように左腕を横合いに伸ばし、宣誓するブレイズに安心したと言う顔でミルフィーユが近付く。

 

 「わっーふーっ!カッコいい!!わふ?」

 少し離れて見ていたサルサが興奮気味にハネッ毛をピコピコ揺らしていると足元に落ちていた黄色い本に気付く。

 それは目の前でミルフィーユに抱き着かれているブレイズが持っている本に似ていて、何だか気になって拾うサルサ。

 何だろうと思い蒼い剣士に訊ねようとして、しかし先に剣士の方から瓦礫を撤去するので良ければ少し手伝ってくれと言われて、本について訊ねると言う些細な疑問が頭から抜け落ちてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━西側民家屋根上━

 

 「あ~あ、負けちまってやんの。それにしても……水の剣士…ありゃダメだな、つまらなそうだ。臭いで分かる

 広場からある程度距離がある民家の屋根上で黒い魔人が気怠そうに呟く。

 一連の戦いを観戦して、彼はブレイズに対する評価を下し、失敗したかとぼやく。

 「変わり種のメギドだったからこっちの観戦を優先したが……どうせなら他の剣士の所に行きゃ良かったぜ……ん?

 そうこうぼやいていると己の直ぐ背後に現れた気配に首を動かす。

 

 「おいおい…マジか、メギド居るし。しかも只者じゃ無い感じビンビンじゃねーか!何だよ今日はよぉ、魔獣は結界越えるわ、しかも何時もよりしぶとい上に強いわで大分時間食うわ…更には真面目ちゃんの所にオレが一番乗りだわ、だと思ったらもう終わってたわ、かと思えばヤバげな気配するわで確認しに来たらこれだよ……今日のオレの運勢終わってね?」

 担当地域の魔獣が1匹だった為かいち速く駆け付けたエレン。そんな彼が微かに感じた悪寒を頼りに屋根上を伝って見れば見馴れぬ赤い仮面の様な形相に甲虫の顎が生え、両肩は猟犬か狂犬を模した意匠を持ち、顔と同様の赤いマフラーをたなびかせる漆黒の魔人がアルマ達を観察しているではないか。

 

 「ふーん。この臭い…お前も剣士か……それも雷の。なるほど…へぇ…お前ちょっと面白そうだな、どうだ?オレと遊んでかないか?

 

 エレンから感じる封印される前に殺した剣士や先の水の剣士とは違う空気に誘いを掛けるデザスト。

 しかし今代の雷の剣士は魔人の誘いを鼻で笑い一蹴する。

 

 「ハンッ、冗談はよしこちゃんてな。オレは今日はもう充分働いたっての、援護ならまだしも…誰が進んでお前みたいな厄ネタって判りきった野郎と戦うかよ」

 自嘲気味に息を吐くエレンにしかしデザストはどうでも良いように振る舞いながら、突如として剣を振り抜きエレンへと襲い掛かる。

 

 「そうかい、なら普通に此処で死んでおけ!

 

 漆黒の痩躯にしかしプリン頭の怠惰な剣士は腰に装着したままのソードライバーを逆手で素早く抜き放つ。

 

 雷鳴が駆ける──

 

 交差は一瞬──

 

 倒れ、しめやかに爆散するデザスト──

 

 電光が一瞬だけ仮面の剣士の姿を象るも、次の瞬間には霧散しエレンの姿となる。

 

 「あー…だからシンドイんだってんだろうがクソッタレ」

 手にした聖剣をクルクルと回しながら既に居ない魔人に対して愚痴を溢す雷の剣士。

 

 その神業を知るものは居ない。

 

 

 

 

 とぅびぃこんてにゅ~。

 

 

 

─猿飛忍者伝─

 




 はい。16頁でした!
 何とか一話内で納められた…筈。
 今回のメギドはちょっと特殊なパターンでした。この結果も踏まえた上でこっちの人間製メギドは…ゲフンゲフン!

 そして次回、エスパーダ登場かと思った?残念剣斬です!
 一応今回の話の最後にエスパーダ、雷の光のシルエットで一瞬出ましたけどね!

 序でにTip、ミルフィーユはアルマの母親と雰囲気が似てるらしい。具体的にはあらあらうふふ感が似てる。
 でも母親の方がぽわぽわしてる。

 では次回!チャオ!


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17頁 剣斬、見参!

 こんばんは。
 遂に機種変更しました。ついでにイチから辞書登録をやり直し、設定に四苦八苦し、操作に馴れ、ウマ娘をやっとこさプレイし、遅れました。

 ビワの姉貴とファルコとカイチョーを無償ガチャで出たのである程度バクシンした後星1、2で慣らして育成しようかと計画しています。

 ついでに天華百剣、久し振りにピックアップ中の巫剣が出ましたかっちゃんこと加藤国広ではなく、ぶっしーこと山伏国広の方ですが…嬉しいです。
 アリスギアもアナザー美里江が来ました。たまげました。




 ――街が魔獣に襲われた日。アルマさんがメギドと戦っていた一方で先生を含めた、他の剣士達も各々現れた魔獣へと対処していました。

 そして学院の守りにはセドリックさん。この時は顔も知らなかったへルマンさんが守りに付いてくれていました。

 私も含め大半の生徒は学院に居て難を逃れましたが、数人は巻き込まれてしまっていたのです。

 今回はそんな顛末の一部、ロゼッタさんやヤマト三姉妹から聞いた話を語りたいと思います――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステ・街区東方━

 

 魔獣が石畳を砕く。屋根瓦を蹴散らす。軒先の出店を吹き飛ばす。

 

 人々は怯え、恐れ、震え、逃げ惑い、死を覚悟する。

 老人も子供も、男も女も皆、殺される。

 ふざけた見た目をしている癖に、絶対に人類とは相容れない存在が死を運んでくる。

 

 突然の非日常、混乱の坩堝と化した住人達は必死に逃げる。

 1人の幼い少女が捲れた石畳につまづき転ぶ。

 

 「あっ……!」

 

 小さく悲鳴を挙げて立とうと脚に力を込める……が、転んで止まった脚は恐怖で笑って思う様には動かない。

 そして魔獣は容赦無く倒れた少女へ死の凶爪を降り下ろそうと(かいな)を振りかぶる。

 眼前の死に目を瞑る少女。自らの終わりに恐怖し、痛みに備える。

 

 「………………?」

 

 が、待てども痛みも衝撃も来ない。それはつまり痛みすら感じる事無く死んだのかと思い、幼いなりの思考で恐る恐る目を開く。

 

 「……ぁぇ?」

 

 開いた先にあった光景は死後の世界ではなく、変わらず渾沌たる様相をしたマームケステルの街である。ただ、先程と違う事があるとするなら自分が誰かに抱かれ白い何かに乗っている事であろうか。

 

 「良かった…!間に合いました」

 自分を抱き絞めている誰かが胸を撫で下ろした安心した声を洩らす。

 と同時に白い何かが弾けて消える。

 

 「きゃん?!ぅぅ…やっぱり無理があったかも……」

 自分を庇って先に落下した誰かが可愛らしい悲鳴を挙げてぼやく。

 幼い少女が落ち着きを取り戻して自らを抱く誰かを見やれば、見覚えのある上等な布地、白いワンピース、その腰を覆うルージュのコルセット状の布。

 この街の象徴であるフローラ女学院の制服だ。

 

 「大丈夫?怪我はありませんか?」

 一見して自分と大差無い幼さを覗かせる顔、しかし少女よりも確かに女性として成熟の途中にあることが判る体つき。

 極東より来た異国の魔女姉妹、カエデその人であった。

 そんな2人の側には人の形を象った紙人形の四肢が破れながら落ちてくる。

 そして獲物を逃さんと少女とカエデに追い縋り飛び掛かる魔獣に光陰を切り裂いて矢が突き刺さる。

 或いは激しく掻き鳴らされる弦の音が轟き空気を揺らす。

 

 「もう、カエデったら無茶しちゃダメよ?お姉ちゃん心配したんだから」

 

 「まったくです。ですがその心意気は正しくろっくです!」

 

 片や弓を構え矢をつがえる茶髪の美人、片やギターを引っ提げ高らかに天に腕を掲げる薄紫の紅を挽いた様な銀髪美人という状況。

 此方の2人も少女には見覚えがあった。

 カエデ同様、極東より来た魔女であり、彼女の姉達であるツバキとナデシコだ。

 2人共に学院外でもそこそこ有名である。

 オルケストラの時は勿論の事、センターでリーダーを勤めるナデシコは事あるごとにろっくを連呼したり楽器店のショーウィンドウに貼り付いてギターを眺めながら涎を垂らしていた事は少女の記憶にも新しい。

 ツバキはツバキで来訪者が広めたカメラなる道具で写真を撮る姿が目撃されている。

 

 そんな奇行が多い彼女達だが、フローラ女学院に留学してきただけあり、魔女としての実力は申し分無い。何より極東と言えば伝説を築いたユニット"Ray"のメンバーユズリハの出身地だ。

 世代で無くともその偉大さは少女とて周知している。

 そしてもう1人、少女の知らぬ人物が魔獣目掛け足音少なく駆けて行く。

 まるで風かと思う程軽やかに走り、矢と音の牽制を受け間合いを測っていた魔獣の背に一瞬で飛び乗り、腰に提げていた独特な形の剣を突き刺す。

 

 刺された魔獣が絶叫し、もう片方が急いで相方の背に取り付いた某を攻撃するが貫いたのは肉ではなく服を着た丸太。

 ドロン!というふざけているかの様な音が立ち、少女を庇う姉妹の前に男性としては小柄な人物が帷子のインナーを纏った姿で印を結びながら現れる。

 剣もいつの間にか腰に戻っているのだから驚きだ。

 

 「むむ?!何時もならば急所を衝けば消えるのでござるが……しぶといでござる」

 少年が口を開くと奇妙な語尾の口調を発しながら敵を分析する。

 

 「突然変異かしら?」

 「まさか…!?魔獣にもろっくを解するモノが現れたのでしょうか!!」

 「そんな訳無いじゃないですか!」

 ツバキの予想にナデシコが頓珍漢な推論を挙げれば、すかさずカエデが苦言を述べるようにツッコミを入れる。

 

 「四人とも、大丈夫!!?」

 

 更に後方、カエデの肩越しに聴こえた新たな声。

 三姉妹とは腰布と襟の色が違うが彼女もまたフローラ女学院に通う魔女なのだろう綺麗な蒼髪を風に靡かせなが姉妹達の元へ合流する。

 

 「ロゼッタさん。はい、大丈夫です…この子も」

 

 カエデが合流してきた魔女の名を紡ぐ。少女はカエデと同じ様に視線を上に向けロゼッタと呼ばれた少女を見上げる。

 知的な利発さを感じさせる顔立ちの、これまた美人だ。自分も大きくなったらこんな風になれたら良いなと思えるタイプ。

 そんな少女のちょっと的外れな思考の合間、魔女達が何かやり取りを交わし、取決めが済んだのか少女を守るようにしてカエデ、ロゼッタが側を固め、ナデシコとツバキが先程からござるだのニンだのと口にしている少年の援護をと言っている。

 そしてその少年は手にした変わった形のナイフや四方が尖ったナイフを投げたかと思えば何やら導火線が付いた丸い玉を持ち出したではないか。

 

 「皆々様、どうやら敵は普段の魔獣とは違う様子。このまま戦っていても埒が明きません。故に!拙者、此れより剣士としての務めを果たそうと思いまする」

 

 少年はそう口にすると手にした玉の導火線に火を着け大量に魔獣の方へ投げる。

 魔獣の躯に当たり跳ね返った物、そのまま石畳に叩き付けられた物、或いは壁に当たった物、それら全てが当たった瞬間煙を撒き散らす。

 

 「然らば!参ります!」

 

 

『猿飛忍者伝』

 

 左手に腰から再び抜いた剣を逆手に、右手は刀印を結びつつ緑色の表紙の小さな本を持つ。

 人差し指と中指をピンと伸ばしたまま器用に親指だけで翠色の表紙の本――猿飛忍者伝ワンダーライドブック――の表紙【ガードバインディング】を開く。

 

 

『とある影に忍は疾風!あらゆる術でいざ候……』

 

 読み上げられたライドスペルを聞き届けた少年――祭風哉慥は逆手を順手に戻し、翠色の独特な形状の剣、聖剣"風双剣翠風"の鍔部分に備えられたライドブック装填部位【ハヤテシェルフ】に装着、剣から三味線の音が轟き響く。

 哉慥は翠風を両手で掴み正眼で構える。

 

 

 「いざ、変身にござる」

 

 変身と口にして翠風を縦に別つ。

 一刀が二刀となり風が逆巻く。

 

 

『双刀分断!!』

 

 

『壱の手・手裏ぃけぇぇんん!』

 

『弐の手・二刀ぉぉぉ流ぅぅう!』

 

『風双剣…翠風(はぁやぁてぇぇ)!!』

 

 

『翠風の巻!甲賀風遁の双剣が神速の忍術で敵を討つ!』

 

 少年の姿が変化する。

 黒いソードローブの上に緑と翠の軽装鎧が装着される。

 胸部鎧【エアリアメイル】。

 四肢に装着される小具足…肩から腕にかけての【ライドブラストアーム】、腰から上腿にかけての【ライドブラストレッグ】、膝下の下腿から爪先までを覆う【ライドブラストブーツ】、各々に疾駆ける風をイメージした黄緑色の塗装が施されている。

 頭部、【剣斬ヘルム】のソードクラウンはセイバー達とは赴きが異なり、瞳を覆う【ベーンバイザー】の右側から翠風を思わせる2つの刃が上を向き、左側は手裏剣が複数重なった様な意匠となっている。

 

 「天に代わりて悪を討つ。我が名は剣斬、推して参る!」

 

 風の剣士…自らを剣斬と名乗った哉慥は【サルトビマスク】から意気揚々、歌舞伎の見切りの如く二刀を構え叫ぶ。

 

 《GaaaaOooooNN!!》

 

 《GuuuLllaaaaaAA!!》

 

 2匹の魔獣が煙が薄まったのを見計らい、剣斬へと襲い掛かる。

 爪が、牙が、剣士を蹂躙した…筈だった。しかし、魔獣達の前に居た剣斬は陽炎の如く揺ら搔き消える。

 

 「残像でござる。忍!」

 予め頭部結晶体【センスリーダー】にて魔獣の動きを察知していた剣斬は魔獣の背中に立ち二刀を振るう。

 眼にも止まらぬ速さで魔獣の背を切り刻む剣斬。

 右手の風双剣翠風・表の【ハヤテトリガー】を引く。

 

 「秘剣!疾風剣舞・二連!!

 翠風の刀身【ハヤテソウル】に風の力が満ちる。

 そして翠風の刃【風雲刃】の特性により風を撫で斬る毎に切れ味を増していく。

 皮、肉、骨を二刀で一瞬で切り裂き魔獣の1匹は絶命する。

 

 「可愛い顔して…結構えげつないわね……」

 翠風の刃によって巻き起こされた風により晴れた煙の中、剣斬の戦いぶりを見たロゼッタが青ざめた顔で溢す。

 

 「まず一匹!次でござる!ニン!」

 魔獣を1体絶命させた後、その苛烈さに怯え背を向けその場から逃げ出したもう1匹を見据える。

 

 「逃がしませぬ。人の理、世の理を乱す魔なる獣よ……その命、天に還すが良い」

 分裂させた翠風を再び1つに重ね、ずらす。

 刀剣から手裏剣の様に変形した翠風のハヤテシェルフから猿飛忍者伝を取り外し、ハヤテシェルフ側面のシンガンリーダーに猿飛忍者伝のスピリーダを接触させる。

 

 

『猿飛忍者伝!ニンニン!』

 

 

 1足で魔獣の正面に回り込みその上っ面を蹴り叩く。

 手裏剣状の翠風を投擲するように構え、しかし実際には掴んだまま回転する剣斬。

 

 「秘技…疾風剣舞・回っ転ん!!

 

 

『翠風速読撃!ニンニン!』

 

 自身、荒れ狂う竜巻となって魔獣に迫る。

 巻き込まれた魔獣はミキサーにでも掛けられた様に跡形も無くミンチになって消えた。

 

 「破邪…退散。成敗!」

 

 竜巻によって煙が完全に晴れた街中で翠の忍が再び刀剣に戻した翠風を横に構えつつ印を結ぶ。

 剣斬の頸元、マフラー状のパーツ【ブラストラッパー】が靡く。

 

 「あれが風の剣士…なのね。何だかサイゾウ君のイメージが変わったわ」

 疾風怒濤の剣斬の活躍に苦笑気味に感想を述べるロゼッタ。

 

 「強いでしょう!ろっくですよね!?」

 

 「ロック…なのかしら?」

 ナデシコの喩えに些か首を傾げる。

 

 「変身しちゃうとサイゾウくん可愛く無くなっちゃうのが難点よねぇ」

 

 「そこは仕方無いんじゃないかしら?」

 ツバキの苦言にツッコむ。

 

 「そうですよ!サイゾウお兄ちゃんが一番頼りになる時が魔獣退治なんですから!」

 

 「普段もそれなりに頼りになるわよ?」

 カエデの物言いがあまりにあんまりだった為、フォローする。

 

 そんな少女達の元へ剣斬が戻って来る。

 

 「皆々様、拙者これよりあるま殿の助太刀に向かいまする。皆々様はそちらの少女をご母堂の元へお届けくだされ。では御免」

 ナデシコ達が何かを言う前に風に消える剣斬。

 これより数十分後の後、少女を親元に送り届けた4人は魔獣が全て駆逐された事を哉慥より知らされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・外壁街━

 

 魔獣の襲撃騒動から暫くして、陽も傾き、夕空から茜色に空が染まりつつあるマームケステルの街。

 その街を囲う壁付近にある人気の無い路地裏で黒い異形がしゃがみこんで居た。

 

 「クク……クハッハッハッハッハッハッハ!あー…ヤられたヤられた。はぁ…良いねぇ、口車に乗ってみるもんだ。居るじゃないか面白いのが。こりゃあ昔よりは楽しめそうだ♪

 3冊のアルターライドブックを融合させ生まれた本のメギド魔人、デザストが先程の事を思い出す。

 やる気の無い雰囲気を漂わせていた雷の剣士、彼に襲い掛かった瞬間、デザスト自身が知覚するより速く倒されていた。

 普通のメギドであれば其処で終わりだっただろう、しかしデザストは再びアルターライドブックを起動させなくとも復活する事が出来るのだ。

 一頻り笑い満足したのか外壁に跳び移り結界を抜ける。

 魔人の身体を破邪の力が襲うが彼はそれを意に返さないまま潜り抜け、外へと出た。

 3冊分のアルターライドブックの力、更に3冊のワンダーライドブックを所持する事により結界の影響を受けない彼はその心が赴くままに世界を巡る。

 彼が再び剣士達の前に立つ時は戦いの時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━???・旧サウザンベース━

 

 激しい海流が外界からの侵入を阻む何処かの島。

 その島の中央に聳える議事堂か城の様な建物、嘗ては剣士達を統括する組織の拠点であり現在は旧組織から引き継がれた肩書を持つ数人の役職を持つ者と各国の元首、剣士の来歴を知る一部の人間のみが入る事を許されている場所である。

 

 そんな建物の中、豪奢な廊下の柱に背を預けてガトライクフォンで通話をする巨漢――陳劉玄が顛末を聞き安堵の声を洩らす。

 

 「そうかい、何とかなったか…。済まなかったなオジさんももっと早く戻れてたら良かったんだけど」

 

 『気にしないで下さい。俺の方は特に苦労してないですし、少年やエレンも特に苦戦はしてないらしいので…労いはアルマに掛けてあげて下さい。彼が一番大変だったらしいので』

 電話の相手は斗真、劉玄はリュウトからマームケステルに戻る際、中継点として逗留していた時に彼から今日マームケステルに起きた事件の事を聞いていたのだ。

 

 「それはそれは…帰ってきたら存分に可愛がってやるとしようかね」

 

 『程々にしてくださいよ?』

 

 「それは…約束出来んのよ」

 

 笑う劉玄に電話の向こうで沈黙する斗真。

 其所に陽気な闖入者が現れる。

 

 

 「何スか?何スか?飲み会の話ッスか?良いなぁ、自分…此処に着任してからハメ外した事無いんスよね~」

 チャラチャラした口調で割り込んで来たのは日本人らしい黒髪に少し陽に焼けた小麦の肌の糸目の青年。

 その闖入者の姿を認め、劉玄はやれやれと肩を竦める。

 

 「お前さんは立場的に無理だろ。よしんば外に出たいならマスターの許可でも取りなさいな」

 ガトライクフォンのマイクに手を翳して声が届かないよう配慮しながら闖入者に返事を返す。

 

 「いや~外に出る事自体は難しく無いんスよ。何せ今さっきナルミッチから連絡来たんで、その事ロゴマスに話したらラウのおっちゃんに同道する形でウェールランドのマームケステルに行く許可取れたんで。でもそれってお仕事じゃないっスか、だから遊べる余裕が無いって言うか……」

 

 「いや遊ぶ事前提かい!?……ホントに何でお前さんみたいなのがマスターの側近護衛なのかねぇ、時の聖剣ってのは分からんねホントに」

 

 青年のおどけた口調っぷりに少々辟易する劉玄。

 そう、今陳劉玄と会話を交えている青年は、現在剣士側が所持している最後の聖剣"時国剣・界時"を有する時の剣士にして前風の剣士であった男。

 名を刻風勇魚。斗真、エレンと同様21世紀の日本からこの世界に迷い込んだ来訪者である。

 

 「だって剣が自分を選んだんスよ?風の方は身長伸びたら使えなくなっちゃうし、しょうがないじゃないッスか!自分も可愛い女の子とイチャイチャしたいッス!!」

 

 「不純!?限り無く欲望に忠実な動機だなおい!」

 

 普段飄々とした劉玄が思わずツッコミを入れる程のユルさとチャラさ、しかし聖剣に選ばれるだけあり実力は確かである。

 

 「ま、そう言うワケなんで。自分もおっちゃんに便乗するッス。例の炎の剣士にも会いたいし、ナルミッチからの用事も済ませるしWin-Winッス!」

 

 「(Win-Win…なのかねぇ?)分かった…そこはかと無く不安はあるが、マスターロゴスが許可を出したってんならオジさんが断る理由は無いよ」

 

 「ひゃっほ~い♪これで自分もハーレム気分が味わえるッス!ウハウハッス!噂のキャバレー部めっちゃ楽しみッス!」

 

 はしゃぐ勇魚、劉玄は今からでもマスターの元へ行ってコイツをしばいてくれないかなと眼を据わらせる。

 

 「で、エレンに一体何を頼まれたんよ?」

 

 「あー…何か顔が赤くて黒いメギドの事ッス。取り敢えず資料を適当に漁ったんでそれを持ってこうかなって」

 実にいい加減である。

 

 「雑っ!もう少し頑張れ!」

 

 「ムリッス!あんなムズカシイ本ばっかの場所、逐一真面目に目を通すとか出来ないッス!なんで、姐さんにナルミッチの事を話してそんでカテゴリーから適当に選んだの持ってくんス!きっとナルミッチが自分の立場でも同じ事するッス!」

 

 「姐さんって……ああ、エレンの奴可哀想に……」

 

 勇魚の言葉の中にあった姐さんなる人物に心当りがある劉玄はエレンの悲惨な未来を想像し同情の念を憶える。

 そう遠くない日、エレンは自らの発言と併せ勇魚の告げた理由により自らの師に折檻されるのだ。

 

 「ナルミッチに炎の剣士もッスけど、アルっちや哉ちゃん、三世、後ついででへルっちにも会えるのが楽しみッス!ツバキちゃん、ナデシコちゃん、カエデちゃんも居るからそれも楽しみッス!」

 

 嘗てはヤマトに居た為か三姉妹の名を挙げる勇魚。動機は不純だが再会を楽しみにしていると言うのは本心の様だ。

 

 「やれやれ……。斗真ちゃんゴメンな、ちょっと頭のおかしい知人に絡まれてた」

 1人で盛り上る勇魚を尻目に電話に戻る劉玄、後ろでヒドイッスと抗議が飛んだが無視する事にした。

 

 『あはは…何やら賑やかなのは伝わりました。それで陳さんはすぐにお戻りに?』

 

 「いや、リュウトから持ってきた荷物が手元に無くてね。それに同行者の都合もあるから今日中は無いかな。明日には戻って来るよ、そんじゃみんなやクロエお嬢ちゃん、それからウチの御姫さんに宜しく言っといてくれ」

 最後に伝言を残し通話を切る。

 取り敢えず、先ずは目の前ではしゃぐ青年の準備を手伝うかと心に決める土の剣士であった。

 

 

 

 

 

 TO BE Continued…ッス!

 

 

 

 

―トライケルベロス―
 

 

 

―ランプドアランジーナ?―

 




 今回は短めに纏められた方かな?

 はい、剣斬登場です。
 ついでに最後にこの作品の時国剣の持ち主も登場、…ええ、以前哉慥くんがチラリと口にした刻風殿こと刻風勇魚です。捻った読み方はせず真っ当に"ときかぜいさな"と読みます。
 語尾がッスの人です。

 今日のちょっとしたTip、哉慥くんはエレンと勇魚の悪ノリに騙さ…影響され決め口上や語尾を着ける等しています。
 魔獣を倒した際の天に還すも最初はその命神に還しなさい的な、どこぞの753みたいなのでしたが、八百万信仰的にどうかと唯一反論したので天になりました。
 どっかの侍戦隊も風が天でしたしおかしくは無い!(断言)


 それはそれとして、この間…まぁ日付とっくに替わったので先週の聖刃…流石にあの映像演出は笑っちゃいますよ、ええ、まぁどちらかと言えば失笑気味でしたけど。

 思うに福田さんはメインよりサブの方が面白いんじゃないかなぁなんて脚本の来歴をみて思いました。
 まぁ例え賛否あろうとも見続けますがね。ライダーも戦隊もウルトラマンも特撮はアニメ同様好きなので。
 ではまた次回お会いしましょう。ヴゥン!!


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18頁 何故雷の剣士は力をひた隠すのか?

 こんにちは、お久し振りです。
 何週間振りでしょうか?タグライダーです。

 執筆に詰めている間に聖刃本編にも進展がありましたね。
 やはり令和の最強フォームはシンプル系で行くのか…。クロスセイバー…色とかは別に良いんですが、マスクの造形ぶっちゃけソードクラウンぐらいしか変化が大まかに見なれないんで、もう少し複眼の辺り弄っても良かったんじゃ…とも思わなくもないです。

 それはそれとして、私個人の方もまぁ喜ばしい事がありまして…、天華百剣で初めて絢爛ガチャピックアップから天叢雲剣が10連ガチャ一発ツモで出た事が嬉しくて堪らなかったです。



 ──雷鳴剣黄雷、フィレンツァに伝えられた聖剣。

 その聖剣の使い手は代々傭兵という立場で国を魔獣の脅威から護ってきたそうです。

 けれど今代の雷の剣士、エレンさんは何故だか頑なにやる気を見せない上に一向に変身しようともしません。

 それはサルサさんが見付けて来たワンダーライドブックを見ても変わらないようで──

 

 

 

 

 

 

 

 ━???━

 

 荒野、瓦礫が重なり人の気が失くなった死んだ大地。

 荒涼たる風が吹き荒ぶ見たまま文字通りの荒れようを成す地で黒いローブが風に煽られフードが翻る。

 砂埃で顔の全体を窺い知れる事は叶わないが、彫りの具合から男性である事は見て取れる。

 

 「レジエルもだが……嘗ての偉大なる存在がこの様な地に封じられているのは、皮肉だな…いや、なればこそか、道を外れ堕ちたモノには相応しい…ワタシもまたその一人とも取れる」

 手にした黄金の刃持つ漆黒紫闇の邪剣――闇黒剣月闇に針鼠が描かれた蛍光色の黄色い(ライムイエロー)ワンダーライドブックを読み込ませる。

 

 

『ジャアクリードジャアクヘッジホッグ

 

 稲光走り電光のエネルギーが刃に収束する。

 

 「ふんっ!」

 

 月闇を振り回し、荒んだ大地に於いて唯一形を保っていた寂れた建物──教会の十字架に無数のプラズマの針を飛ばす。

 凄まじい力を持った電針が十字架を穿ち砕く。そして、真鍮のコーティングを剥がし、石造りの砕けた部位から埋め込まれた四角い物体が浴びせられた電光に呼応して自立する。

 

 それは本である。しかし只の本では無い、悪しき獣の記録。

 アルターライドブック【ズオス】。

 

 開かれた魔本から瘴気が紙魚にまみれた複数の本となって人の似姿を象った獣を生み出す。

 

 「ZrrrrreeeeVaaaaaAAAA!!

 

 理性無き獣が解き放たれたと同時に天を震わせる雄叫びを挙げる。

 

 「チッ……永い眠りの中で理性を手離したか、骨が折れる」

 

 

『ジャアクリード』

 

 

「変身……」

 

『月闇翻訳!光を奪いし、漆黒の剣が冷酷無情に暗黒竜を支配する!』

 

 獣の暴乱にローブの人物は闇の剣士カリバーへと姿を変える。

 

 Zwooooulllrr!

 

 意味も無い咆哮を挙げるだけの獣の魔人が猪突の如く眼前に現れた怨敵に突進する。

 対して紫闇の剣士は絶妙な距離間を保ちながら闇に消えては現れを繰り返す。

 知性無き魔人に剣士の意図を推し測る事は出来ない。

 

 「当初の想定とは少々異なる結果となったが……まぁ、今の剣士達の質を確認するには良い試金石となるか

 

 ウェールランド──延いてはマームケステルのある方向を一瞥するカリバー。

 ズオスが突進するのに併せ魔人の前に闇を置く。

 獣はそれをお構い無しに穴の向こうに居るであろうカリバーに再三突進を試みる。

 当然荒れ狂う獣の魔人は闇の中へと落ち、同時に闇が消える。

 

 「理性無きズオスに敗北するならそれまで。しかし…退ける事が叶えば目次録に至るに足る、そして狂える獣を元に戻す手間も省けると言うもの……精々期待させて貰おう

 

 闇の先に消えたズオスを見届け、自身もまた闇へと消える。

 獣が落ちた先、多くの人々が屍の山を築くと知りながら──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━旧ノーザンベース玄関エントランス━

 

 「きーたーぞーーーーーー!」

 

 「騒がしいよ」

 

 レッドカーペットの上に現れたブックゲートの扉から2人の男が降り立つ。

 1人は現れて早々、体をX字のシルエットになるように大きく開いて叫ぶ青年。

 

 もう1人は青年より頭1つ分高く、体の大きさも一回り大きい巨漢。

 リュウトの剣士、陳劉玄。

 彼は隣で可笑しなテンションになっている青年──刻風勇魚の頭を手刀で小突く。

 

 「辟易。戻って来たと思えば……何故彼奴が共にいる?」

 そして騒ぎに気付き現れたセドリック・マドワルド三世が勇魚を見た瞬間に不機嫌な顔を顕にする。

 

 「三世ー!酷いッス!自分はこんなにみんなと会える事を楽しみにしてたのにーーー」

 

 「ぶっちゃけわざとらしいんよね」

 

 「同感。手前はどうにも本音が見えない」

 

 勇魚のぶう垂れた言葉に熟練の年長者達は胡乱な視線を掛ける。

 

 「まぁ良い。人選としては些か不満が無いでもないが、好都合。手伝え」

 

 「唐突だな、もしかして斗真ちゃんが言ってた魔獣の襲撃に関係あるのかい?」

 連れて来た事はしょうがないと切り替え、帰ったのならばこれからすべき仕事を手伝えと述べるセドリック。

 劉玄は昨日の斗真からの電話を引き合いに出す。

 セドリックは無言で肯首し彼等の背後にある扉に手を掛ける。

 

 「手伝えって事は…学院を回るんスか?それとも街?どっちにしろ楽しみッス!いやぁ来て早々観光出来るなんて感激~」

 

 「いやそんな暇は無いと思うんだがね?」

 「肯定。作業が立て込んでいる、教員達と共同とは言え…働くのは小生、激土、そして手前だ元翠風……いや、今は時国剣界時か」

 

 セドリックが勇魚を用いる聖剣の名で呼称する。それに勇魚はてへぺろ♪と返すので苛ついた鍛冶師は彼を蹴る。

 【時国剣界時】彼の聖剣を使う者に求められる資質・才覚は特殊な物である。

 

 「不平不満。未だに納得がいかん、こんなのが歴代でも有数の天才の一人とは……」

 

 「だよね~……オジさんも正直信じられない。でも実際使えちゃってるらしいからねぇ」

 

 セドリックの愚痴に同意を示しながら劉玄が後に続く勇魚を振り返る。

 

 「いやぁ~、自分そこまでじゃないッスよー♪歴代のお歴々に比べれば。いやぁ~やはは」

 言っている事は謙虚だが顔が明らかに喜んでいる。寧ろもっと褒めてと表情が語っている。

 

 そうして3人が立ち入り制限の掛かっている禁書庫から人目を警戒しながら生徒達が出入りする図書室の中心に向かって行く。

 「ぁあ~、若い女の子のいい匂いがするッス~」

 

 「こいつ検非違使に付き出した方が良くない?」

 「この学院で相当するのは手前だろう激土。仕事しろ」

 

 曲がりなりにも天才剣士である勇魚の発言に互いに耳打ちしながら責任を押し付け合う。

 と、彼等が図書室の閲覧スペースに通りかかった時、見覚えのあるボブカットの少女を見付ける。

 

 「ありゃ、リネットちゃんかい?」

 

 「えっ…?ラウシェンさん?リュウトに帰郷していたのでは?それにセドリックさんの後ろにいる方は………」

 久方振りの顔に驚くリネット、ここ最近見慣れたセドリックは兎も角見慣れぬ勇魚の存在に少々引っ込む。

 

 「ういッス!初めましてレディ。刻風勇魚…こっち風に言うならイサナ・トキカゼ!聖剣の剣士ッス」

 

 「ひゃい?!リネットです……えっ、剣士なんですか?!」

 

 あまりにも自然に威勢良く己の素性を解き明かす勇魚に、一瞬気圧されおずおずと名乗りを返すリネット。そして勇魚が聖剣の剣士である事に驚きを顕にする。

 

 「ッス。いやぁリネットちゃんって言うんスか!リッちゃんって呼んで良いッスか?て言うかおっぱいデカイッスね!」

 

 「えっ…はい、えっ?ええっ?!!」

 勇魚のリッちゃん発言にまさかいきなり渾名呼びされるとは思わず唖然とし、そして続いて胸の大きさに触れられ思いっきり狼狽え顔を紅く染める。

 そんな少女の反応に満足気な青年の頭を後ろから土と音の剣士が思いっきり叩く。

 

 「あだっ!?!」

 

 「厚顔無恥!恥を知れ恥を!」

 セドリックが激昂する。

 

 「お騒がせしましたーーー!」

 劉玄が一連のやり取りで周辺から注目を受けた事に頭を下げる。

 そして同じく居たたまれないであろうリネットの手を引っ張って4人で図書室を退室する。

 

 

 

 

 

 「スマン!本当に済まない!この通り!この馬鹿に代わって謝罪するよ!」

 

 「あ、そんな…頭を上げてください。大丈夫ですから…!ちょっと驚きましたけど……はい、大丈夫です…多分…」

 巨体を縮こまらせて謝る年長者に引け目を感じるのかリネットは必死に取り繕う。

 

 「おい。手前も謝罪しろ。手前の発言が原因だぞ」

 

 「いやぁ、メンゴッス。その見事なメガロポリスについテンション上がっちゃって…本音がポロリと」

 

 反省してるのかしてないのか分かりかねる発言の勇魚に本音なのかとドン引く2人。リネットも両腕で自らを抱き締め胸を隠す。

 

 「あ、あの…ところで皆さんは何か用があるんじゃ……」

 

 「ああ、そうだった。刻風の発言に振り回されてすっかり頭からトンじまってたよ」

 「然り、莫迦者の所為で本来の目的を忘れてしまう所であった……我々はこれから理事長の元へ赴き、街の結界の補強、強化を試みる」

 「それなんスけど、ナルミッチはどうしたんスか?たしか三世ってアルマっちとナルミッチにそれぞれ鍛冶技能と技師技能を教えてませんでしたっけ?」

 

 リネットの質問に本来の目的を思い出す彼等、勇魚がそこでセドリックがエレンの名を出さなかった事に疑問をぶつける。

 

 「黄雷は相も変わらず引き込もっている。稀に外出したかと思えば、何処で何をしているか良く解らん……まぁ、最近は烈火の部屋に入り浸る事が多い様だが」

 

 「へぇ、んで、リッちゃんは本が好きなんスか?」

 

 自分から訊いておいて興味が無いような素っ気ない返事を返し、リネットの方に話題を振る勇魚。

 

 「あ、はい……昔から物語が好きで…そこから魔導書なども興味があって…」

 

 「ふぅん熱心ッスねぇ~(本好きかぁ…なら向こうから持ってきた()()この子なら使えるかも)」

 

 「手前…いや貴様!己から訊いておいて無視とは良い度胸だな!?」

 

 「いやだって、ナルミッチ引き込もってんのは、まぁ想定済みみたいなもんでスし、まぁ例の烈火の剣士とそんなに仲良くなってんのは意外ちゃ意外でしたけど。自分仲良くなるのに五年費やしたのに……ナルミッチってば酷い浮気性ッス」

 態とらしくヨヨヨと目元を押さえながらエレン事を述べる勇魚にまたしても胡乱な視線が飛ぶ。

 

 「け…結界のお手伝いと言う話でしたけど…先生やサイゾウさん達にはお手伝いを頼まないんですか?」

 

 「烈火は未熟ながらも教鞭に忙しいだろう。流水は剣を鍛えるならまだしも、こう言う事には向かん。翠風はこの手の知識が無いので頼る意味は無い。月闇候補者は論外だ。そういう理由で我々のみとなる」

 

 「オジさんは力仕事枠だね」

 「自分は結界の調整補助ってところッスかね」

 

 「イサナさん剣士なんですよね?魔法の知識もあるんですか?!」

 しれっと補助を語る勇魚に思わず訊ねるリネット、勇魚が愉快そうに笑う。

 

 「ニシシ、この世界に来ていっちゃん最初に興味が沸いたのが魔法なんで理論はともかく感覚的には解るッスよ?」

 

 「信じ難い事に、コイツ本とかあんまり読まないクセに理論的な事を感覚で理解する天才肌なんよ」

 

 「ッス、普段は休みの時来訪者が魔法使えるかどうかの研究もしてたりしまス。けどみんな何故か自分の言う事が解んないらしくて中々研究が前進しないんスよね~」

 

 「「そりゃそうだろう」」

 

 勇魚が不思議そうに首を傾げる中で年長者2人が当然だとばかりに溢す。

 そう、勇魚は天才と称されるタイプではあるが基本的に思考が己の中で完結しているので他者に教える事には向いていないのだ。

 教えたとしてもドーン!だのズビューンだの、オノマトペの擬音を用いての物なので他人には理解し難いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事が学院で繰り広げられている頃、街の方では話題のエレンが斗真、アルマ、哉慥をラトゥーラがバイトで働く何時も昼食等で利用するレストランカフェに連れ込んでいた。

 

 「それで?俺達をなんで一緒くたに集めたんだよ?」

 

 「そうです!僕もせめて街の復興に協力しなくてはっ!」

 

 「ニン!と言うか、えれん殿はせどりっく殿を手伝わなくて宜しいのでござるか?」

 

 「いや瓦礫撤去はそういうのが得意な連中に任せろよ、オレらが仕事奪っちゃダメだろ。んでムッツリグラサンの仕事を手伝うだ?無いわ、ぜってーコキ使われるし」

 矢継ぎ早にアルマと哉慥から何かしなくてはと言われた言葉をバッサリと切り落とすエレン。

 その答えにアルマは不服そうに顔を歪める。

 

 「それによぉ?魔獣が森かどっかから侵入する可能性はゼロじゃねぇ。ま、出る前から肩肘張っても仕方ねぇ、出たらそん時に対処すりゃ良い。それよかお前らに集まって貰った問題ってのは……あの犬っコロだ」

 エレンが親指で自分達が占拠する背後の席を指す、其所に居たのはフロ女のノワール制服に身を包んだ小柄な少女、人狼の亜人サルサ。

 

 少女は暢気にハンバーガーに齧り付いている。

 

 「それなんだけど……一体どうした?何でサルサちゃんがお前に付きまとってるんだ?何かしたんじゃ無いのか?」

 受け持ちの生徒が見た目怪しいプリン頭の金髪に付き纏っている事に疑問を放つ斗真。

 エレンの人となりを知った上で非はエレンの方にあるのでは?と大部失礼な聞き方をする。

 

 「いやしてねぇよ、お前オレをなんだと思ってんの?犬コロがストーキングする理由が解んねぇからお前らに頼んでんだよ」

 

 「はて?ご自分でお訊きなされば宜しいのではないでござるか?」

 

 「ハッ!コミュ障ナメんな!大して話した事無いヤツとオレがスムーズに話せる訳無いだろうが!」

 

 「え?」

 

 「ん?」

 

 「「「え?」」」

 

 自身をコミュ障と称し話せないと宣うエレンに3人は思わず声を溢す。

 

 「いやだってお前、俺と初対面の時…普通に話しかけて来たよな?」

 

 「エレンは目線こそ合わせない事が多々ありますけど、会話自体はそこまで難は無いですよね?語意が少々荒いのは些かどうかとも思いますが…」

 

 「えれん殿は拙者に色々教えてくれたではありませぬか!」

 

 三者三様の評価にしかしエレンは納得しかねる。

 

 「いやでもオレ引きこもりじゃん?それに真面目ちゃんが今言ったみたいに眼ぇ合わせらんなきゃ結局はコミュ障だよな?だろ?そうだよな?!」

 途中から少し不安になったのか縋る様に言い募る。

 

 「えー?ウチはそんな事感じなかったけどなぁ~」

 

 其所へ割ってはいる明るい声。注文された料理を配膳しているラトゥーラである。

 

 「ゲッ…ラトゥーラ。お前何で余計な事言うん?そこは下げるとこだろ?」

 

 勤勉なバイトギャルの言葉に嫌そうな顔で返すエレン。

 斗真は下げるとこなのか?と心中でエレンの発言に訝しむ。

 

 「それは無いかな。性格はちょとアレだけどウチからしたら割りと気心知れてるし、何だかんだ面倒見良いし、それに……ウチの趣味手伝ってくれるし……ま、とにかくアンタが口下手コミュ障は無いわ。引きこもりは同意するけど、それも最近は改善されたみたいだし」

 

 「異議あり!引きこもりを改善した覚えは無いぞ!アレはコイツらがオレを無理矢理引っ張り回してんだ!」

 

 「えぇー?でもアンタが本気で嫌なら捕まる前に逃げてるか、そもそも人前に姿みせないじゃん?だから結局そういう事なんでしょ?ね、センセ」

 

 トレイから皆の前に食事を配膳しながら斗真に会話を振るラトゥーラ。イタズラ心を込めたウィンク付きだ。

 

 「あー、まぁ言われてみればそうなのかな?(剣士関連はまぁ逃げようにも陳さんや少年が機先を制するし、他は何だかんだ文句を言いながらも付き合ってくれるし……あれ、露悪的なだけでコイツ案外良いヤツなのでは?)」

 過去を振り返りエレンの評価を内々で高める斗真。

 そんな彼の顔を見て不味いと察したかエレンが話題を逸らす。

 

 「それよか、犬っコロの事だ!しつこ過ぎてオチオチ部屋にも帰れねぇ!」

 

 「そう言えばサルサってばどうしちゃったし?何でアンタ付きまとわれてんの?」

 

 「それが解りゃ苦労しねぇよ」

 

 ラトゥーラが改めてエレン達の近くにサルサが居る事にツッコむとエレンも解らんと頭を垂れる。

 

 「仕方無い、聞いておいてやるか。俺としても生徒の相談に乗るのは吝かではないし」

 「僕も付き合います。彼女には先日助けて貰いましたから」

 

 斗真とアルマが席を立ち、サルサの元へと向かう。

 会話の成り行きを見守るエレン、哉慥、ラトゥーラ。

 

 「何だ?こっち見たぞ」

 「やはりえれん殿に何かご用命があるのでは?」

 「やっぱセンセー達に任せないで自分で聞いてきたら?」

 と3人が傍目からそんな会話を繰り広げていると、斗真が困った顔を浮かべながら戻って来た。

 

 「どうだった?」

 

 「あー、うん。いや…何と言ったら良いのか…ラトゥーラさんは仕事に戻らなくて大丈夫かい?」

 エレンの問いに斗真が歯切れ悪く返す、そしてラトゥーラの方を見て急に仕事の話題を振るのだ。

 

 「?…ああ、そゆこと。オッケ、ウチ仕事に戻んね。良かったら後で話の顛末だけでも話せる範囲でいいから教えてよ?じゃあね~♪」

 視線から何かを察した褐色の少女は空いた左手をフリフリと振りながらキッチンの方に戻って行く。

空気を察してくれた生徒に感謝を胸中で掲げながらエレンと哉慥にのみ聴こえる声で会話を切り出す。

 

 「サルサちゃんがお前に付き纏っている理由なんだが……どうもワンダーライドブック絡みらしい」

 

 「ああ"?何だそりゃ?!何で犬っコロがストーキングする事がワンダーライドブックに関係してんだ?!」

 

 「もしや…えれん殿変身したのですか?」

 

 「したけど…誰にも見せてねぇぞ。それに一瞬だけだったし」

 

 ((変身はしたんだ…)でござる)

 バツが悪そうにするエレンに胸中で語ちる斗真と哉慥。

 「そもそもあの犬コロが見たのは真面目ちゃんのブレイズだけだ。俺が変わった姿は見てない…つか、絶対見せない」

 

 「それなんだがな…」

 エレンがサルサに変身後の姿を見せていない事を断言するが斗真がその詳細を語ろうとしたところ、サルサがアルマと共に近付き自ら口を開く。

 

 「あのね!匂いが似てるんだ!」

 

 「あ?匂いだ?」

 

 「そうだよ!これとおにーさんの匂いがソックリなんだ!」

 エレンの疑問に陽だまりのような笑顔で応じるサルサ。そのままスカートのポケットから黄色のワンダーライドブックを取り出す。

 

 「おいおいおいおい?!嘘だろ?!そう言う事かよ!よりによって黄雷に相性の良いライドブックじゃねぇか!!」

 

 少女の取り出したライドブックの色を見て、手を顔に当て項垂れる。

 そう、エレンの言う通り、サルサが取り出した黄色のワンダーライドブック【トライケルベロス】はランプドアランジーナと組み合わせると強大な力を発揮するワンダーライドブックなのだ。

 

 「めでたいではないですか!拙者達の戦力アップですぞ?」

 

 「オレは出来る限り戦いたくないの!よし決めた。このライドブックは真面目ちゃんにくれてやる」

 

 「え?!」

 

 「あと小説家ぁ、暫くオレのアランジーナ預かれ!」

 

 「はい?!」

 

 サルサから受け取ったトライケルベロスをアルマに、自身が元から所持していたランプドアランジーナを斗真に放り投げ、テラスを飛び越え何処かへ逃げ出すエレン。

 あまりにも突然過ぎてその場の皆が一様に固まる。

 

 「はっ!?少年!」

 

 「承知しております。ニニン!」

 

 正気に戻った斗真が哉慥に声を飛ばし、哉慥がその意図を即座に理解し消える。

 

 「……取り敢えず、少年がエレンを捕まえて帰って来るまでここで大人しく待ってようか」

 「ですね」

 「わふ」

 

 《Gatlin♪Gatlin♪》

 

 残された3人がテラスの席に着くと同時に、テーブルに置かれていたガトライクフォンが鳴る。

 

 「わふっ?!」

 

 「これ…もしかしてエレンのか?」

 

 「徹底してますね……しかし誰からでしょう?」

 斗真が手にしたガトライクフォンを見てアルマが呆れる。

 

 「取り敢えず出てみるよ。もしもし」

 

 『あれ?誰ッスか?』

 

 「え、其方こそどなたですか?」

 

 『自分は自分ッスよ?あ、詐欺じゃないッス。で、あんたさんは……あ、ちょと待った!当ててみせまス!あー…ナルミッチの酒飲み仲間!そうでしょ?』

 

 「違いますけど…」

 

 『んなぁ?じゃ、じゃあオタク仲間…いや違う、兄弟?』

 

 「全然違うんですが…」

 

 『でスよねぇ~。でもちょとくらいノって来ても良いじゃないの?火炎剣烈火の剣士さん?』

 

 「っ?!…貴方は一体……?」

 

 『お?自分の事が気になりまス?気になりまス?なら『再界時』後ろ、振り返ってみましょうか?」

 

 通話越しの声の合間に彼以外の()()()()()()聴こえた気がした。

 そして次の瞬間には斗真の背後には小麦色に日焼けた肌と東洋人特有の黒髪を持った青年が何時の間にか立っていたのだ。

 

 

 「え…なっ、いつの間に!?」

 

 「と、トキカゼさん?!」

 

 「わっふ~?!知らない人がいきなり現れたー!!」

 

 その場の3人が三者三様驚く中、褐色の青年は笑顔で手を上げる。

 

 「よッス、久しぶりッスねアルマっち。んで、初めましてッス、火炎剣烈火の人、可愛いリトルレディ。自分、刻風勇魚って言いまス。ヨロシコ」

 

 青年──勇魚がおチャラけた態度で名乗る。

 

 「どうしてトキカゼさんが此処に?」

 

 「やだなぁ、アルマっち。一個差しか年違わないんだから呼び捨てで良いって前から言ってるでしょ?や、簡単ッスよオッちゃんに便乗して付いて来ちゃったんッス」

 

 「ラウシェンさんに……ですがラウシェンさんの姿は…?」

 

 「オッちゃんは三世と一緒に結界の方でお仕事中ッス。自分は退屈なんで抜け出して来ちゃったッス、テヘ♪」

 悪びれもせず言ってのける勇魚にアルマが呆れる。

 

 「で、烈火の人。ワッチュアネーム?」

 

 「あ、名前か…。剱守斗真です、よろしく刻風さん」

 

 「なるなる~。じゃ斗真っち…は無いわ……トーマん?トーちゃん?や、ツルモリャーも棄てがたい。あるいはツルリン?モリトってのもありかな?」

 

 「普通に呼んでくれないかな?!」

 

 名前を訊ねられ名乗ったらいきなり渾名を付け始めた勇魚。斗真は困惑を隠しきれぬまま、しかし断固渾名を拒否する。

 

 「え~。しょうがないニャ~、じゃ、その日の気分で呼びまス。取りあえず今回は初回サービスで斗真くんと呼んでしんぜよう」

 

 (なんでそんな偉そうなんだ?)

 勇魚のテンションに若干着いていけない斗真が項垂れる。

 そんな斗真を横目に流し、勇魚はアルマが持つトライケルベロスに着目する。

 

 「およ?アルマっちが持ってるソレワンダーでライドなブックッスよね?どしたの?」

 

 「あ、はい。実はこれは…ここに居るサルサさんが見付けた物で、彼女はこれをエレンに渡そうとしてたみたいなんです」

 

 「ふーん。神獣カテゴリーかぁ…(黄色…なるほドリル~。確かにナルミッチと相性バッチのヤツだね。でも肝心の本人は居ない。にも拘らずその本人のガトホがある…つまり)…逃げられたんスね。で、この形跡からすると哉ちゃんも一緒だった感じッスね、んで、アルマっちか斗真くんが哉ちゃんにナルミッチを追うように言って、現在進行形で逃げて潜伏しているであろうナルミッチを待っていると」

 

 まるで見てきたかのようにスラスラと挙げ列う勇魚に斗真は感心と同時にただならぬモノを感じる。

 

 「ああ、うん…そうなる。それで刻風さん、貴方は何が目的なんです?」

 うなじ辺りに冷たい汗を感じながら得体の知れない目の前の人物に目的を問う。

 

 「ヤダなー、言いませんでしたっけ?自分、アルマっち達みんなに会いにくるついでに斗真くんにも会いに来たんスよ?斗真くんがどんな人かっての知りたくってね。あ!さらについでに学院のおんにゃの子達とも仲良くなれたら万々歳~ってのもあるッス」

 

 勇魚の言い様の知れぬ雰囲気に途中まで気圧されていた斗真であったが、最後の勇魚の言葉で気勢が逸れる。

 

 「あと、斗真くん。さん付けは不要ッス。刻風って呼んで下さい。下の名前は…男に呼ばれんのむず痒いんで、親密になった女の子限定ッス♪」

 

 「(微妙にチャラい…)はぁ…。そ、そうなのか……本当にそれだけで来たの?」

 

 「ッス。と言いたいところでスけど、流石にソレだけじゃ外出許可降りないんで、建前上の目的と後、お土産があるッス」

 そう言って勇魚は肩に掛けていたリュックから古い文献らしき資料本と、朱色のワンダーライドブックとヴァイオレットのワンダーライドブックを取り出す。

 

 「ジャジャ~ん!ナルミッチから頼まれてた黒いメギドのモノらしき資料!+おニューのライドブックッス」

 

 「まさか、向こうで保管してたワンダーライドブックを持ち出して来たんですか!?」

 アルマが勇魚が持ち出した物の重大さに戦く。

 

 「ちゃーんと許可は貰ってるッスよ?最近魔獣にメギドにって立て続けなんでしょ?なら戦力強化はあって然るべきってね。こっちのストームイーグルは斗真くんのブレドラとベストでマッチするブックッス。もう一つの方は三世向けなんッスけど」

 言いながら左手の指の間に2冊のワンダーライドブックを挟んで振る。

 

 「む…許可が降りているなら僕からは何も言う事はありません」

 手順を正式に踏んでいる以上は文句は無いとアルマが引き下がる。

 

 「アルマっちのそういうトコ愛してるッス!にしても遅いッスね~哉ちゃん。苦戦してんのかな?ここはいっちょ手助けしまスかね!つー訳でリトルレディ、ちょいとお手を拝借」

 アルマの言葉を聞き、彼を茶化しながらエレンと哉慥の帰還に痺れを切らした勇魚がサルサの小さな手を取る。

 

 「わふ?」

 

 「いきなりッスけど、斗真くん!実は自分、この世界の魔法を研究してましてね?来訪者が本当に魔法が使えないのかを主に研究してんでス」

 

 「は、はぁ」

 コテンと首を傾げるサルサの反応に笑顔を返しながら斗真に己が普段務めている事の1つを語り始める勇魚、斗真は困惑するばかりだ。

 

 「んで、実は来訪者ってこの世界に来た時に大なり小なり魔力を持つらしいんス。それは自分ら聖剣の剣士も例外じゃ無いらしいってのまでが…つい最近判明してましてね?」

 サルサの手を握ったまま、空いた左手で虚空を掴む動作をしつつ説明を続ける。

 

 「まだ完全な理論じゃ無いんッスけど…実は自分、魔女と接触した時だけッスけど魔法に近い現象を起こせる手段を確立したんッス。まぁ自分しか使えないんでスけど……」

 

 「それが何か?」

 

 要領を得ない会話に結論を問う斗真。勇魚がまぁ見てて下さいッスと口にしながらフィンガースナップの指を走らせる。

 すると、本の一瞬ではあるが、勇魚とサルサの身体の表面が光って見えた。

 

 「今のは?」

 

 「リトルレディそのものを媒介に街に埋め込まれてる輝石や空気中を漂う微力の輝砂に干渉して知覚──この場合は嗅覚と聴覚ッスね──を底上げしたんッス」

 

 「そんな事が可能なのか?!」

 

 一連の説明に思わずたじろぎ問い質す。

 

 「勿論、色んな条件が揃ってないと出来ないッス。まず、理論を理解してる自分。次に魔女ないし魔女見習い。そんで純度の高い輝石か輝砂。最後に界時とオーシャンヒストリーこれらの条件が揃って初めて可能になりまスん」

 勇魚の最後の方の言葉は何を言っているのか良く聴こえなかったが、限定的とは言え凄い事である。

 

 「それで!エレンが何処に居るのか判ったのか?!」

 興味深い現象に物書きの血が騒ぐ斗真が勇魚にグイグイ詰め寄る。

 

 「近い近い!ちょ、斗真くん思ったよりアグレッシブ!待って下さいッス。何分実践すんのは初めてなんで調整が上手く……あれ?」

 至近距離まで近付いた斗真の顔を押し退けながら勇魚は何かに気付いた。

 

 「どうしました?」

 

 「情報の取捨選択と絞り込みをしてたんスが、途中でヤバい音と匂いを拾ったッス。今この街にデッカいどす黒い気配が近付きつつあるッス。これ多分メギドッスね。それも一等強い。凄い速さと勢いッス。斗真くん、アルマっち、急いで!街に来る前に迎え討つッス!」

 メギドと言う言葉に斗真とアルマの顔付きが一変する。

 

 「分かった。行こうアルマ」

 「はい。トキカゼさん!エレン達を見付けたら…」

 

 「わーってるッス。ちゃーんと連れて来まスよ。だからさっさと行くッス」

 

 駆け出す斗真と後を追うアルマ。行掛けに勇魚にエレン達にも合流するように伝えて欲しいと言おうとして勇魚に制される。

 

 「頼みますよ!」

 

 「任せろッス!…………行ったッスね、どもありがとうッスリトルレディ…確かサルサちゃんでしたっけ?」

 

 「そうだよ。ねぇせんせー達のお友達を探さなくて良いの?危ない魔獣みたいなのが近付いてるんだよね?!」

 

 「ん?ああ、大丈夫ッスよ。ナルミッチなら居場所はもう割れてるッス後は哉ちゃんにそれを教えりゃ良いんッス。でも哉ちゃん、機械扱うの苦手だからサルサちゃんに直接探しに行って伝えて欲しいんッス!お願い出来まス?」

 先日の魔獣から現れたメギドが記憶に新しいサルサは、現在街に近付いているメギド魔人がそれ以上の強さと聞き焦る。

 しかし勇魚はエレンの場所に当たりが付いていると述べ、しかし哉慥に連絡を取ろうにもガトホを扱い切れぬ少年の欠点に困った顔をし、人狼の少女に直接旨を伝える様に嘆願する。

 

 「わふっ!わかった!ボク、ひとっ走り行ってくるね!わぁ~~~ふっーーーー!!」

 そしてサルサは勇魚が指を示す方向を確認すると哉慥の匂いを便りに小さな身体で走り出す。

 

 

 

 

 

 「行ったかな……?素直な娘で助かったッス。さぁて、斗真くんのお手並み拝見アーンド、ナルミッチを戦場に引きずり出す作戦、第一フェーズは成功っと。にしても……いきなり幹部級とはツいてないねぇ…いや逆にツいてんのかな?ま、ヤバそうなら裏から自分()が手助けすりゃ良い。さてそれじゃもう一つの作戦の布石を打っとくかね」

 テラスの木柵に背を預け店内を見る勇魚。視線の先には接客をするラトゥーラの姿が──。

 

 「いやぁ急かした甲斐もあって、ストームイーグルもブレーメンも持って行かれずに済んだ。今代のセイバーがどの程度の実力か知らない内に正規のワンダーコンボされても困るんだよねぇ、それに自分が渡すより彼女達経由の方が後々面白くなるだろうし……」

 誰に聞かれるでもなく独り語ちる勇魚、ストームイーグルをテラスのテーブルに置きその場を離れる。

 

 「さぁて次はブレーメンのロックバンドか……これは会うまでもなくあの娘しか居ないよねぇ、相性が良い魔女なんてさ」

 先程までの笑顔とは全く別種の…何処か胡散臭い笑みを浮かべ虚空に手を添え、握り込むと其処から布に包まれた剣らしき物が現れる。

 

 「んじゃ行きますか、さぁて愉しくなって来たなぁ~ヤハハ!」

 

 

オーシャンヒストリー

 

 

 

 

時は、時は、時は時は時は時は時は…我なり!

 

 バイオレットカラーのワンダーライドブックを仕舞い、新たに懐から取り出した白い装丁のワンダーライドブックを布から露出したスロットらしき部位に装填、静かに変身を告げ、布にくるまれた部位と装填した部位を切り離し布側を回転させ、改めて繋げたかと思えば、またしても誰にも聴こえぬ音が轟き、そして既に勇魚の姿はこの世界から消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「センセー、話どうなったしー…って居ないし!…何これ?」

 そうして誰も居なくなったテラスに様子を見に来たラトゥーラがただ1人、テーブルに置かれた朱色のワンダーライドブックを手に取る。

 

 「本?誰かの忘れ物?ってここ今日使ってたのエレンとセンセ達だけだからあの4人の内の誰かのかな?「ラトゥーラー!」はーい!ま、帰ってから渡せばいっか」

 繁々と見つめた後、斗真、アルマ、エレン、哉慥の誰かの物だろうと予想するラトゥーラ。

 そして店内から呼ばれストームイーグルワンダーライドブックを胸元に仕舞い職務へと再び戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル付近の野良街道━

 

 街から十数キロ程離れた場所に佇む2人の青年。

 斗真とアルマは勇魚の言葉に従い、街の手前地点にて警戒を厳にしながら言葉を交わす。

 

 「どうやらまだメギドは此処まで来ていないようですね」

 

 「ああ…。けど…今更ながらだけど、あの刻風って人の言ってた事信用出来るのかい?」

 

 辺りを見回すアルマにイマイチ勇魚の言葉の信憑性を疑う斗真。

 それもそうだろう、いくら興味深い現象だったとは言え、会って数十分にも満たない初対面の相手から、只々強い敵が街に向かって来ているとだけしか伝えられなかったのだから疑うのも無理はない。

 

 「トキカゼさんはあんな感じですが、実力と才覚は確かです。けど確かに確証も無い、初めて実践したと言うあの方法…信じろと言うのには無理がありますね。けど…仲間の言葉ですから」

 

 「信じるべき…か」

 

 「はい。それに何事も無ければそれで良いじゃないですか!」

 

 「確かに。それに越したことは無いか………………でも、どうやらそうもいかないらしい」

 アルマの言葉に肯定の意を返した斗真、しかし咆哮の様な轟音た共に近付いて来た土煙に勇魚の言葉の正しさを確信する。

 

 「来ましたか」

 

 「ああ、ここからじゃ土煙しか見えないが…凄まじい相手なのは判る」

 

 

『ブレイブドラゴン』

 

『ランプドアランジーナ』

 

 斗真がソードライバーにブレイブドラゴンとランプドアランジーナを装填する。

 

 「まさか…エレンのワンダーライドブックを使う気ですか?」

 

 「まぁ…本人が遠慮無く使えって言ってたし。それに、刻風が言う通りなら相手はかなり強いんだろ?」

 

 「確かに…。そういう事でしたらええ、遠慮無く使いましょう!それで後から返してくれなんて後悔しても遅いって、文句を言ってやります!」

 

 

『ライオン戦記』

 

『ピーターファンタジスタ』

 

『トライケルベロス』

 

 斗真の言い分に一理あるとし、自身もライオン戦記とピーターファンタジスタに加え先程のトライケルベロスを装填する。

 また、これによりアルマのドライバーのシェルフは全て埋まった事になる。

 

 強大なメギド魔人が近付く最中、剣士2人が新たな力を手に聖剣を抜刀する。

 

 

 

 

「「変身!」」

 

 

 

 そして荒れ狂う獣の魔人は自らの行く先に新たな怨敵が現れた事実を獣の直感で全身から感じ取り吼える。

 

 

 ZaaaaaaaaOrrrrrrrrrrr!!

 

 剣士と獣の激突まで、後──

 

 

 TO BE Continueeeeeeeeed!!

 

 

 

─ランプドアランジーナ─

 

 




 はい。久し振り過ぎて滅茶長くなった…。
 所謂前編で、次回後編に続きます。

 最後の方、特撮恒例の特撮ワープしてます。

 勇魚が何か企んでますが…別に今の所悪意では無いです。善意とも言い切れませんが。
 勇魚の変身お披露目はまだ大分先です。
 ついでに最後の2人の変身は後編で改めて描写します。
 
 そしていつものどうでも良いTIP。エレンは十代の修行時代に幼いラトゥーラと面識があります。

 ではまた次回


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19頁 雷鳴のSwordDance

 こんにちは。
 仕事に行く前の軽い仮眠前投稿です。

 今回は割りと難産な部分もあり、更に何時ものように後半話が長くなってしまいました。反省


 天華百剣─斬─のサービス終了悲しい。オフライン版が欲しい、桑名江と別れたくない。

 カリギュラ2買おうかなぁ…あの精神を抉るようなジュブナイル結構好きなんですよね。



 ──マームケステルの街に近付く強大凶悪なメギドを迎え討つ為、戦いに赴く先生とアルマさん。

 一方でエレンさんはサイゾウさんから逃げ続けて街の何処かに隠れていました。

 そんな彼を見付けたイサナさん。当時の私は知る由もありませんでしたが、エレンさんを戦場に駆り出す事が彼の目的の一つだった様なのです──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めたばかりの()()を支配していたのは怒りと餓えだった。

 無軌道に無秩序に吼える。吼えて、一頻り空に怒号を放って気付く。

 本能が奴等を憶えている。

 目的を妨げる忌々しい存在、しかし同時にこの身に蔓延る餓えを満たせる存在。

 

 聖剣の剣士だ。

 

 紫闇の剣士目掛けひたすらに爪を振るう。

 その躰を滾らせ突撃を繰り返す。

 当たらないのらば当たるまで繰り返す。

 ()にあったのはそんな単純な思考。

 

 「──■■■■、■■■■■■■■」

 

 剣士が何事かを呟いているが、()()()にはその言葉は理解出来ない、鬱陶しいノイズでしかない。

 だから、そう、ひたすらに、愚直なまでに、力任せでぶつかって行くのだ。

 やがて剣士が虚空に剣を振るって黒い靄の様な物を出した。

 獣と化している()にソレが罠かどうかの判断は下せない、ただ頭の中にあるのは壁を遠回りするなんてまどろっこしい事をするよりも壁ごと敵を切り裂いてしまえば良いと言う、力ずくな思考。

 だからこそ、故にこそ、()は眼前の黒い靄の様な壁が、壁ではなく穴であった事に気付かなかった。

 力任せに突進して、ぶつかった感触も無く、穴に沈み、だが、それは()にとっては一瞬の事でしかなく、気が付けば荒野の廃村であった筈の其処は長閑とも言える草原であった。

 

 獲物の姿は何処にも居ない。何だそれは?ふざけるな!とでも言わんばかりの咆哮が長閑な大地を揺らす。

 そうして満たされない餓えを満たそうと獣の感覚が己の周辺全ての情報を取得せんばかりに鋭敏になる。

 

 探して、探して、探して、探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して…見付けた。

 

 先程の剣士とは違うが、間違いなく忌々しい気配である。

 かなり遠いが、他に道は無い。ならば其処を目掛けようではないか。

 そう決めて獣となった()は二足から四足へと体躯を変え、ひたすらに駆け走る。

 途中幾度と無く何かにぶつかった気もしたが、然したる物では無いので脚を止める事無く、目的地目掛け駆ける。邪魔なモノは全て轢き潰す、目的地目掛け駆ける。

 屍山血河何する者ぞ。涎を滴し、眼を血走らせ、獲物を求めて駆け続ける。

 

 もしも、()が本来の状態であれば、或いは理性が本の少しでも残っていれば、凶暴な笑顔を浮かべながら、血の海で暫し遊んび、しかし同時に清廉な気配に反吐を吐いていたかもしれない。

 それは宿敵たる剣士のみならず、幾度と無く邪魔をしてくれた魔女が住まう地。

 

 ()……メギドズオスが目指す先はマームケステル。

 

 その道行の妨げとなるもの全てを蹴散らして蒼白い獣は全身を鉄臭い赤い返り血で染めながら、餓えを満たす為にひた走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━野良街道━

 

 

 2人の男が迫る脅威を迎え討たんと剣を抜く。

 

 

『ブレイブドラゴン』

 

 『ライオン戦記』『ピーターファンタジスタ』

 

 己の力の象徴をドライバーに装填する。斗真はブレイブドラゴンを、アルマはライオン戦記とピーターファンタジスタを。

 そこから更に2人は押し付け同然に手にした、第3のソードライバーを持つ者の力を開く。

 

 

『ランプドアランジーナ』

 

 

『トライケルベロス』

 

『かつて冥界の入口に3つの頭を持つ恐ろしい番犬がいた』

 

 斗真がアランジーナをそのまま装填するのに対し、律儀にトライケルベロスを開きライドスペルの序文を聞き届けるアルマ。

 斗真はアランジーナをレフトシェルフへ、アルマはケルベロスをライトシェルフに嵌め込む。

 

 

 

 

 猛る炎と荒ぶる怒涛が2人の男を超人としての剣士の姿へ変えて行く。

 

 

『烈火抜刀』

 

 

『流水抜刀』

 

 

『二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る!』

 

『ワンダーライダー!』

 

『ドラゴン!アランジーナ!』

 

『二つの属性を備えし刃が研ぎ澄まされる!』

 

 

 

『輝くっ!ライオン!ファンタジスタァァア!!』

 

『増冊!ケルベロス!』

 

『流水二冊!!』

 

『ガオーッ!キラキラ!幻想の爪が今、蒼き剣士のその身に宿る!』

 

 炎の剣士セイバーの左腕が金色に染まる。

 左肩にはランプを模した【ランプドボールド】から精霊が瞳を覗かせている。

 左胸部【スファーラムメイル】の胸元から伸びたチェーンがランプボールドの蓋に繋がっている。

 そして左腕を包む様に展開されたマント【アルカナシェード】を翻す。

 何よりも特筆すべきは左腕【スプレンディブレーザー】に握られている"雷鳴剣黄雷"だろう。

 

 水の剣士ブレイズ、その右腕だけが黄に変質する。

 その右肩は三重の攻めと守りをもたらすとされる【トライケルベロスボールド】に覆われ、右腕には三頭犬を模した【ケルベロスブレーザー】が装着されている。

 そして右胸部【カテーナメイル】の背部より伸びたマント【カテーナクローク】がはためく。

 

 セイバードラゴンアランジーナとブレイズケルベロスライオンピーターが並び立つ。

 

 「ん?え?何で?!」

 突如として左手に現れた感触、自らが何時の間にか握っていた黄雷に驚くセイバー。

 

 「ランプドアランジーナは黄雷を使用した剣士のスターターライドブックですから、エレンが変身しない以上、こうなるのは自明の理かと」

 ブレイズがおおよその見当を付け解説してくれる。

 

 「成る程……しかし二刀流かぁ、剣道の方は経験あるけど……こうなる事が判ってたら少年に教えを請いに行ったのに……」

 

 「まぁ最悪、烈火をソードライバーに収納したまま戦うと言う手もありますから」

 その間にも凶つ獣の魔人は近付いて来る。

 邪悪なる存在を備に感じ取る感覚を持つ【ブレイブドラゴンマスク】と視覚や聴覚を鋭敏に高める【ライオンセンキマスク】で2人は迫る魔人の全容を捉える。

 

 「遂に見える距離まで近付いて来ましたね…うっ!?」

 

 「何だ?体に着いている赤黒い模様は……」

 

 「血です…それも人間の!」

 

 「何だって!?なら奴は此処に来るまで何人もその手にかけているってのか!」

 

 ズオスの全身にこびりつく乾いたソレの正体にいち早く気付いたブレイズ、その拳が力強く握り込められ、怒りに震えている事を隣に立つセイバーは見逃さなかった。

 

 「アルマ…その怒りは俺も理解出来る、けど逸るな、気持ちだけ急いても危険なだけだ」

 

 「…そうですね、怒りのままに行動するのではなく、怒りを戦う力の一部に変えて、僕達はあくまでも世界を守る剣士として敵を倒さなくては!」

 セイバーの言葉に逆上せ上がっていた憤怒をコントロールし、剣士としての職務を全うせんと流水を構える。

 

 

 

 

 ZyyyuuuRRoooOOOO!!

 

 獣の雄叫びが聴こえる。彼方も目と鼻の先に此方を捉えたのだ。

 

 「向こうはやる気満々だな。行けるかアルマ?」

 

 「勿論です。それとこの姿の時はブレイズと…」

 

 ブレイズ(アルマ)の調子が元に戻った事を確認してセイバーも烈火と黄雷を構える。

 小太刀と違い、付け焼き刃とも言えない拙い構えだが、自身の経験に則って戦うだけだと腹を括る。

 

 「行くぞぉぉぉおお!!

 

 「はいっ!

 

 ズオスに向かい赤と青の剣士が駆ける。守るべきものを背に2人の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・住宅街━

 

 「むむむ…まさか見逃してしまうとは……えれん殿、いつの間に腕を上げたのでござろうか…?!」

 

 祭風哉慥が民家の屋根の上から辺りを見回しながら口惜しく呟く。

 何よりショックなのは斗真から頼られ任された大役を果たせなかった事だ。

 年上とは言え剣士として後輩の斗真。しかし彼はキャリアの短さにも関わらず、既にワンダーコンボを2種も使いこなしメギドを撃破している。

 対して自分はヤマトに居た頃から未だメギドと相対したことは無く、大抵が魔獣か下手人ばかり。

 嫉妬は無い、仲間が増えた事、戦力として申し分無い実力である事は喜ばしい。

 だが羨望はある。右も左も分からぬ初陣からしてメギドと戦い撃破、以降も要所でメギドとの戦闘を行っている。

 後から来た筈の彼が、哉慥の中で直ぐ様憧れの人間の1人となった。

 

 (拙者、歴代の剣士の各々方含め拙者以外の剣士の方々も尊敬しております。であるからこそ!共に肩を並べ戦いたい!なれば…!)

 

 ならばせめて任されたエレン捜索の任ぐらいは楽にこなさなくてはと思ってしまう。

 と同時にこんな事を考えているなんて里長(祖父)や父に知られたら未熟者と謗られてしまうかもしれないと、少々考えが悪い方向に傾きかけた為、首を思い切り横に振って霧散させる。

 

 「わふっー!追いついたー!」

 

 そんな事をしていたら後ろから溌剌喜楽とした声が耳に届く。

 

 「さるさ殿?どうなされました?」

 振り返らずとも声の主が誰かは判る。が礼儀として彼女の方に顔を向ければ、そこには予想通りに人狼の少女が少しばかり息を切らして立っているではないか。

 

 「あのね!なんか街にスッゴイ魔獣っぽいめぎど?って言うのが近づいてて、せんせ~とアルマが戦いに行ったんだよ!それでボクはサイゾーに、あのエレンって人の居場所を教えるように言われたんだ」

 

 「なんと!?えれん殿の居場所が判ったのですか!むむ?教えるとは……一体誰がその様な事を?」

 サルサのエレンの居場所が判ったと言う言葉に驚き、しかし、彼女の一連の発言に第三者の存在を感じて首を傾げる。

 

 「えっとねぇ…イサナって人!その人がボクと一緒に魔法で探し当てたの」

 

 「ニン!?刻風殿が!?この街にいらしているのでござるかっ!!?それに魔法!!?何やら探究しているのは存じておりましたが、まさか魔法を使えるようになるとは…拙者とても驚きでござるぅ」

 自身の先代の風の剣士にして現剣士統括議会直属の剣士となった来訪者の男の顔を頭に浮かべ驚愕する哉慥。

 彼の中で刻風の株がうなぎ登りに上がって行く。

 

 が──。

 

 「それでえれん殿はどちらに?」

 

 「えっ?う~~~ん……わふ、ごめん…わかんない」

 

 「ニンと!?失敬…なんと!?刻風殿肝心な所をさるさ殿に教えておらなんだではないですか!?」

 

 男性としては中背よりの小柄な少年と、その彼よりも小柄な少女がウンウンと唸る。

 暫く2人して往来で右往左往していると、そんな彼等が目に留まったのか、新たな人影が声を掛けてくる。

 

 「何してるんですか…サイゾウお兄ちゃん、サルサさん…」

 

 「お二人が一緒だなんて珍しいですね?」

 

 「何か困り事かしら?」

 

 3人分の声、その主はこれまた哉慥が良く知る相手──この花は乙女の三姉妹、ツバキ、ナデシコ、カエデであった。

 

 「カエデ!」

 

 「ツバキ殿、ナデシコ殿!」

 

 カエデと同室のサルサが末妹の名を呼び、姉2人の方を哉慥が呼ぶ。

 風の剣士と縁が深いヤマトの魔女姉妹が揃って2人の状況に訳を訊ねる。

 

 「良かったら何があったのか話してくれませんか?わたくし達が力になれるかもしれませんし」

 

 「何となく只事ではない気がします」

 

 「私は愛しの妹達と一緒ならなんだってしちゃう!」

 

 約1名、会話が明後日の方向に飛んでいるが気にしない。

 哉慥は姉妹の好意に感激しながら訳を話始める。

 

 「実は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・???━

 

 白い石造りの街の何処か、恐らくは屋内であろう場所の幾重にも荷物が積み重ねられた場所に彼は居た。

 

 「黄雷が消えやがった。て事は小説家がオレのアランジーナを使ったか……魔獣でも出たか?いや、それにしちゃ街は慌ただしい感じがしねぇ、アイツら外に行ってんのか?」

 積み荷の隙間を縫うように開いたスペースに器用に入り込み、4畳半1間の空間が作り出されているその場所で己の聖剣が納められていた空になったソードライバーを確認しながら、独り呟く。

 

 「どっちにしろ戦闘中なのは間違いねぇ…。となるとこれでオレを追うのは忍者だけになってる訳か…、こりゃもう暫くは此処で大人しくしとくかね」

 薄暗い空間の中で手持ちぶたさになりながら積み荷に背を預けて天井をボーっと眺めるエレン。

 しかし暇が過ぎるのか退屈を持て余す。

 

 「チッ、やっぱ撒くためとは言えガトホを置いてきたのは失敗だったか……ヒマだ」

 

 「そりゃまた、ならコレ使いまス?」

 

 「おう、サンキュ……あ゛?」

 

 持て余して空を漂っていた手に横合いからガトライクフォンが極自然に渡され 、エレンもこれまた極自然に受け取り礼を述べて、そこで初めて自分の聖域に真似かねざる客人が現れた事に気付く。

 

 「おひさしハローッス、ナルミッチ」

 

 「テメェ…ペテン師、どっから現れやがった!?」

 

 知らぬ間に現れた勇魚に警戒のガンを飛ばすエレン。対して勇魚は芝居掛かった動きで答える。

 

 「んもう!忘れちゃったんスか?!この間あんなに自分の事を頼りにしてくれたのに!」

 

 「寝言は死んでからほざけ」

 

 「冷たいッスねぇ~。それにアダ名もペテン師って、酷くないッスかぁ~?もうちょいこう…これぞ自分ってのがあるっしょ?」

 

 「ねぇよ。大体、何で此処に来てんだよ?確かに頼み事はしたが、来いとは言ってねぇ!」

 苛立ち気に勇魚へ言葉を飛ばしながら彼が何故マームケステルに居るのかと糾弾する。

 

 「そこは自分もあの島に籠りっぱなしは毒なんで。オッちゃんが戻るついでにって♪それに自分だってナルミッチ達みたく可愛くて美人が多い乙女達に囲まれたいんッスよ~!」

 

 「最低だなお前。つーかどうやって此処を見付けやがった?」

 

 「ヌフフ知りたいッスか?なら教えてあげまス!実は、自分が新開発した魔法でナルミッチを発見したんッスよ!!」

 驚きました?と末尾に付け加えてウインクする勇魚。

 エレンは吐くようなジェスチャーで応じ、口を開く。

 

 「嘘乙」

 

 「いや、嘘じゃないって、本当なんッスよ?」

 

 「よしんば事実だとしてもお前1人じゃ使えないだろう」

 

 「ワォ、さっすがナルミッチ!心の友よ~。やは~…ま、その通りッス。魔女とお手手繋いで秘密の道具を少々~!それで魔法っぽいモンが発動!ナルミッチ発見!更についでに、街に近づく敵も発見!斗真くんとアルマっちは街の外で迎え討つ!と、そんで今に至りまス」

 逐一大袈裟なリアクションを取る勇魚に胡散臭いモノを見る視線を向け続けながらエレンは興味無さげに相槌を打つ。

 

 「ほーん。で?何処までが本当で、何処までが嘘だ?」

 

 「やだなー、全部本当ッスよ?実際、ナルミッチは黄雷消えてるでしょ?」

 

 「ハンっ、良くもまぁヌケヌケと…。ま、聞いた感じ、オレを探し当てた魔法モドキは本当。小説家達が敵を迎え討つってのも本当だろう。だがその魔法モドキで敵を見付けたってのは嘘だね」

 勇魚の言葉を聞き流していた様に見えてしっかり聴いていたエレンが勇魚の嘘を指摘する。

 

 「その魔法モドキっての発動すんのに魔女がいるっっつったな…そいつぁ、もしかしなくても犬コロだな?」

 

 「ウッス、サルサちゃん…勝手にルサちゃんと呼ばせて貰いまスけど、まぁそうッスね。それが?」

 

 「アイツはドルトガルドの亜人で、人狼だ…「小さくてモフモフしてそうで可愛かったッスねぇ」…話の腰を折るんじゃねぇ!……兎に角!犬っコロの力を借りたってんなら、オレを見付けた手段とやらは嗅覚か聴覚…或いは両方か?その鋭くなった感覚でオレの痕跡なり息遣いなりを察知したんだろうが、その魔法モドキ…実践すんのは初めてなんだろ?ならテメェがいくら天才だの言われてもいきなり街一つ…ないし、それ以上の広範囲を察知出来る事は不可能だ。お前、その態度で誤魔化してるつもりだろうが、リスクが不確かな実証不十分の手段を試すタイプじゃねぇ。つまり…だ、お前は事前に敵が来ることを別の手段で知っていたんだろ?」

 エレンなりの観察眼で得た知見を勇魚に語る。勇魚は最初こそ茶化したが、話の腰を折るなと言われ、後はニコニコ笑いながら黙って聴いていた。

 

 「あー……久々に長々喋って疲れた…。でだ、お前、オレに何させたいワケ?」

 

 「ヤハハハハ♪いきなりッスね。先の質問の答えは訊かなくていいんでスか?」

 

 「どうせ訊いた所で答えやしねぇだろ。なら、お前がオレをどう利用する気かの方が気になんのは当然だろうが」

 背を預けていた積み荷から離れ立ち上がる、そして勇魚の返答を待つように彼を鋭く見据える。

 

 「なるなる~ナルミッチ、そういう知恵はすぐ働くんスね。で自分がナルミッチにさせたい事は、まぁ単純!ナルミッチさぁ、戦場に出てちゃんと戦いましょうよ?斗真くんも来て戦力も大分アップ、でもメギド本格復活で世界もヤバイ!だからナルミッチもいい加減覚悟決めましょ?大丈夫ッス、斗真くんはお人好しッスけど、度を越した英雄症候群じゃないッスよ、同期の候補者みたいに早死になんかしないッスよ」

 

 「ハンッ!何の事だか…、全くもって見当違いだ。大体オレが居なくてもあの二人だけで事足りるだろ。もし無理でもオッサンや忍者も…グラサンだっている。あの五人で充分オーバーキルじゃねぇか」

 

 勇魚の言葉を受けて尚も露悪的な態度でやる気を見せないエレン。

 しかし勇魚もそれを見越していたのか特段諦めた素振りは無い。どころか更に言葉を重ねる。

 

 「うーん普通のメギドとかならそうなんッスけどね。今回はかなり特別なんッス、何せ敵は最上級のメギドなんスから」

 

 「んだと?」

 

 勇魚の物言いに眼を細め、意図を読み取ろうとするエレン。だが目の前の日焼けた男の笑顔からはその顔の裏を察する事が出来ない。

 

 「まぁオッちゃんに三世も居るんで最悪街を守る事は出来るでしょうけど、少なくとも今の斗真くんやアルマっち、哉ちゃんはタダじゃ済まないかもしれないッスねぇ」

 

 「分かんねぇ、分かんねぇなぁ、それが分かってて何でアイツら二人だけで行かせた?」

 

 「それはほら、斗真くんがどの程度か知りたいじゃない?それにナルミッチの事も自分は信じてまスし」

 

 「白々しい。やっぱお前ペテン師だよ」

 

 勇魚がいけしゃあしゃあと心にも無いことを立て列べていると感じているエレンは勇魚をペテン師であると言って憚らない。

 

 (最悪の最悪は自分()も戦うつもりだし、そもそも斗真くん達の戦いを見る為にも、どの道戦場に行きまスし、ヤバい時は影から助ける。みんなが負けたら自分が矢面に立つ。要はそれだけの違いでしかないんだよね。とは言え黒幕の事を考えるとあんまり目立ちたくない、だからナルミッチに自発的に動いて貰わなきゃ)

 

 「お前の事だから最悪のケースも考えてんだろうが……チッ、癪だが乗ってやる。此処には護衛対象もダチも居るからな」

 勇魚の思惑に乗る事を癪と感じながらも脳裏に浮かんだラトゥーラやルキフェルの顔に雷の剣士は遂に覚悟を決める。

 

 「一応訊いとくが、メギド出現をオッサン達は知ってんのか?」

 

 「まだッス。一応、これから自分のガトホで連絡するつもりだったんッスけど、結界の作業進捗を考えると…斗真くんの救援に間に合うかはギリッスかね」

 

 自分でけしかけておいてあっけらかんと宣う勇魚。そもそも結界の作業が遅れているのも勇魚が途中で脱け出したからなのであるが、そんな事までエレンは知らない。

 

 「本当に白々しい奴……」

 

 吐き捨てる様に言い残し外へ駆け出す。

 

 

≪RideGatriker!!≫

 

 手にしたガトライクフォンをライドマシンへと変形させ宙に投げると、飛び乗る様に跨がる。

 

 「くたばっててくれるなよ…」

 

 悪友の健在を祈りながらアクセルを全快にしてマームケステルの街道をひた走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「思ったより簡単に動いたなぁ、じゃ自分もオッちゃんに連絡…の前に哉ちゃんに連絡して哉ちゃんも…まぁルサちゃん辺りが代わりに出てくれるでしょうからそんであの子にも戦場に参戦してもらえばオッちゃんが遅れてもナルミッチがいれば…うん、無傷ではないかもだけど、まぁ再起不能になる様な怪我はしないっしょ」

 手元のガトライクフォンを弄りながら呟く勇魚。メッセージアプリで劉玄に連絡し、次いで哉慥には通話を掛ける。

 

 「もしもーし…あっ!カエデちゃん?へぇ、哉ちゃん達と一緒なんだ!なら哉ちゃんに伝言、ナルミッチを見付けたから哉ちゃんは斗真くん達に合流して助太刀してって言っといてよ。え?自分?自分はオッちゃん達の方に行くから(嘘だけど)じゃそゆことで!バイナラ~」

 

 「さぁて観戦♪観戦♪へーんしーん!」

 

 

界時逆回!

 

 愉快そうな声を残しこの世界から消える勇魚。その際またしても音ならぬ音が轟き、空間に飛沫が立つ。

 役者は揃った、そういう事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━野良街道━

 

 そして場面は再び2人の剣士と獣の魔人との戦いへ戻る。

 

 「っあぁ!」

 

 「このぉ!」

 

 セイバーとブレイズ、2人掛かりで蒼白の獣に斬り掛かる。

 既にライドブックのワンダー技や習得技を駆使しズオスに幾度もダメージを与えているのだが、魔人の勢いは衰えない。

 

 「ダメージを負っているはずなのに…全然勢いが衰えない!」

 

 「手負いの獣が一番恐いとは言うけど……攻撃を受ける度に強く…速くなっている気がするだけど……」

 

 セイバー──斗真の見立ては間違いでは無い、ズオスは理性を手放したのと引き替えに、敵対者の能力や実力に応じ即座に適応進化している。

 故に半端な攻撃ではズオスをより強化させるだけとなってしまうのだ。

 

 Zwooooulllrr! 

 

 ズオスが吼える。

 

 「くそっ!このままじゃ此方がジリ貧だ…」

 

 セイバーが忌々しげに吐き捨てながら烈火でズオスの爪撃を防ぐ。

 

 獣魔の王と戦いを繰り広げる2人の剣士、そこへ翠碧の風が巻き荒れる。

 

『翠風速読撃!ニンニン!』

 

 風の手裏剣がズオスを襲い、2人から引き離す。

 

 「これは…!?」

 

 「サイゾウ!」

 

 「斗真殿!あるま殿!祭風哉慥…此より助太刀致しまする!」

 翠色の軽装鎧の様なソードローブに身を包んだ風の剣士、剣斬が参戦する。

 

 「少年、エレンは?」

 

 「刻風殿が発見した次第でして、拙者は刻風殿よりお二方に合流する様に申しつかりました」

 

 「トキカゼさんが…ですが、今は助かりました。サイゾウ、気を付けて下さい。敵はただのメギドでは無いです、一瞬でも気を抜いたら命はありません!」

 

 「なる程、敵の首級は大将首でござるか!然らば拙者がめぎどの爪を捌きまする。お二方はその隙を衝いてくだされ!」

 

 「ああっ!」「分かりました!」

 剣斬の案に即座に応じフォーメーションを組む。

 

 「参る!」

 己を鼓舞する様に鬨を挙げ剣斬はズオスに近接する。

 

 「RRRoooooyyyy!!

 

 向かい来る剣斬の二刀に剛腕の爪を振るい対応するズオス。

 

 対し、迫る剛爪を翠風の刃で反らす様に受ける剣斬。

 真っ向の力比べでは不利と承知してインパクトの瞬間に掛かる衝撃を最低限に受け流しているのだ。

 並外れた速度で動く狂乱の獣の怒涛の攻撃に、一心不乱に反らしながら追従する剣斬。

 しかしソードローブの表面には徐々に傷が増えていっている。

 

 「なんの…これしき!」

 必死に食い付き耐え、ズオスが大振りの攻撃を繰り出すのを待つ。

 ズオスもまた理性無き状態とは言え、眼前の羽虫が一向に潰れない様相に痺れを切らし両腕を大きく振りかぶる。

 

 「好機!」

 振り上げられたズオスの両腕に併せる様に跳び上がり脚を開いて、振り上げられた二の腕を止める。

 そしてズオスの鋭い牙が立ち並ぶ口外に二刀の翠風を突き立てる。

 

 「今でござる!」

 

 

 

『ジャックと豆の木!フムフム…習得一閃!』

 

 セイバードラゴンアランジーナが烈火のシンガンリーダーに読み込ませたジャッ君と土豆の木による習得技で豆の弾丸を撃ち込む。

 幾つかはズオスに、もう幾つかは地面に当たり、ズオスに直撃した豆は当たった瞬間から中身が割れ、蔦が獣の肉体と下半身を絡め取る。

 大地に当たった豆は、即座に発芽し太い幹へと成長し蔓を伸ばして獣の腕を絡み取る。

 剣斬は蔓が腕に絡み着いたタイミングで離脱、同時突き立てた翠風を斬り付ける様に引き抜く。

 

 「よし!動きを止めた!」

 

 「ええ!これで確実に一撃を当てます!」

 

 

『必殺読破!』

 

 拘束され動きが止まった所を空かさずブレイズがソードライバーに聖剣を納刀した状態でトリガーを2回引く。

 

 

『ケルベロス!ライオン!ピータファン!』

 

『三冊撃!ウォ・ウォ・ウォ・ウォーター!!!』

 

  剣斬の奮戦、セイバーによるアシストによる拘束というコンビネーション。そして、生まれた大きな隙をブレイズがトドメの跳び蹴り(ライダーキック)で穿つ。

 

 ワンダーライドブック3冊分の力が込められた蹴りを受けて的になった凶獣が吹き飛ぶ。

 そして爆発が巻き起こり空気が揺れ水が揮発し蒸気が霧の如く立ち込める。

 

 「やったでござるか!?」

 

 「手応えはありました」

 

 「倒したさ、間違いなく」

 

 しかしその言葉とは裏腹に3人の中には言い様の知れぬ不安が渦巻く。

 そして──

 

 z ZwaaaaAAAAガァァァアァァ!ケンシィ…ケンシハ倒スゥゥゥウウ!!

 

 不安は的中し、咆哮と共に霧を払うようにして再び凶獣が姿を現す。但し、その眼は狂気に染まりつつも明確に剣士を倒すと物語っている。

 

 「しぶとい!」

 「何処までタフなんだ…奴は!?」

 「なれば今一度!」

 

 先程よりもより鮮明に此方に向けて敵意を向けて向かって来るズオスにもう一度必殺を叩き込もうと剣斬とセイバーが動く。

 

 しかし──

 

 「ズェAaaaAAAA!!

 

 ズオスが一瞬、躰を揺らめかせたかと思うと既に凶獣は剣斬とセイバー、大きく手を大の字に広げた状態で2人の間に立ち、そのまま2人の仮面に覆われた顔を掴み振り抜く。

 

 「「っ゛ああ゛!?!」」

 

 大地に叩き付けられ吹き飛ぶ2人の剣士。そのままブレイズより後ろにボールの様に転がる。

 セイバーはその衝撃でランプドアランジーナが外れてしまった。

 

 「セイバー!?剣斬!?」

 

 三冊撃の反動で動けずに居たブレイズが自身の視界を横切った仲間達の名を叫ぶ。

 

 「ぐ…っ…」

 

 「かふっ……」

 

 幸いな事に変身は解けていないが大きなダメージを負って2人とも動けそうには無い、そしてブレイズの方にもズオスの凶刃が迫る。

 

 「しまっ…!?う゛ぁあ゛」

 顎を蹴り上げられ宙に浮いた所を、鋭い爪が光る貫手で打たれ、ブレイズもまた吹き飛ぶ。

 

 

 

 「わふっ!?せんせー!!?」

 

 「サイゾウお兄ちゃん?!」

 

 「カエデ!危険です!!」

 

 「貴女もよナデシコ!待ちなさい!」

 

 倒れ伏す剣士達の耳に聴こえる若い少女達の声。

 セイバーが声の方向に痛みを圧して僅に首を動かすと、一体何時から其所に居たのか、木陰から飛び出して来るサルサ、カエデと、それを追うナデシコ、更に追うツバキといった面々の姿。

 

 「みんな…どうして此処に…!?」

 

 「わふっ?!サイゾーくんの後を追って来たらせんせー達が怪物と戦ってて…」

 

 「わたくし達はお邪魔にならないよう隠れ潜み様子を伺っていたんです」

 痛々しい声を発するセイバーにビクッとしながら答えるサルサと悲痛な顔をするナデシコ。

 

 「…ここは…、危ない…貴女達は…早く逃げて…下さい……」

 セイバー達よりもズオスに近い場所で倒れていたブレイズが流水を杖代わりに立ち上がりながら現れた生徒達に逃げるよう告げる。

 

 「そんな…!?先生もサイゾウお兄ちゃん達もボロボロなのに!」

 

 「でござりますな……ですが、まだ……拙者達は…戦えまする…!」

 剣斬も不恰好ながら必死に腕と脚に力を込め、立ち上がらんとする。

 

 「無茶よ!?いくら変身していてもそんな傷だらけで…」

 ツバキが彼等の身を案じて言葉を投げるが剣士達は退かない。

 

 「アイツを…今の街に入れる訳にはいかない!」

 

 結界が大いに弱まった状態のマームケステルにズオス程のメギドが侵入すればタダでは済まない。

 3人ともそう結論付け、頑なに立ち上がろうとする。

 

 「ですが…!」

 

 そんな3人へ尚もナデシコが何か言おうと口を開きかけた瞬間、ズオスが少女達を"認識"する。

 

 「ママママMァ女ォォooooo…

 

 「ひっ…?!」

 獣の剣幕にカエデが思わず悲鳴を溢す。

 

 それに反応したか、ズオスの目標が剣士から少女へて移る。

 獣が半端に取り戻した知性が真面に動けぬ宿敵よりも、己を封じた忌々しき"清廉"なる力を持った小娘達を排除せよと囁くのだ。

 

 「止め…ろっ!」

 

 「逃げて下さい…!!」

 

 「カエデ殿!?!」

 

 弱った剣士達が何かをほざいている。しかし知った事では無い、弱り切った連中なぞ後でどうとでもなる。

 それよりも厄介な存在を片付けなくては…!

 ズオスの思考が魔女の排除という1つの事に埋め尽くされる。

 先ずは直ぐ手近のチビからだとにじり寄る。

 

 「「「カエデッ!!」」」

 2人の姉と親友の人狼が彼女の名を必死に叫ぶ、しかし腰が抜けたカエデは動けない。

 

 沫やこれ迄、そう思った時であった。遥か彼方の背後より轟く轟音。

 次の瞬間には轟音に爆発音が混ざり、ズオスの肉体に複数の火花が立ち上る。

 

 

 「え……?」

 茫然とするカエデ。

 

 「今のは……」

 音の出所にセイバーが視線を巡らせる。

 

 ブルンとまるで牛か馬が嘶く様な音を発するそれは鋼鉄の騎馬。

 三輪の車輪を人の叡知が作り出した動力で動かす乗機。

 

 "ライドガトライカー"…車体に備え付けられた銃口から煙を上げるその鉄の馬に跨がるのは頭頂部の一部が黒く染まった金髪の青年。

 

 「やれやれだな。どうにも偉いタイミングで間に合っちまったらしい」

 

 「「エレン!!」」

 「えれん殿!!」

 見知った顔の登場に3人が声を挙げる。

 

 「ハァ…マジでヤられてんじゃねぇか……」

 当の名を呼ばれた本人は倒れる3人を見て何とも微妙な顔を浮かべる。

 

 「エレン…良い所に…、どうにかして彼女達を逃がして下さい…!敵は強敵です!時間は僕達が稼ぎます…」

 

 「アホか、寝言はベッドで言え。よっ…と」

 ブレイズが少女達を逃がすよう嘆願するが、エレンはそれを一蹴、足下に転がっていた黄雷とランプドアランジーナを器用に足を使い回収する。

 

 「後少ししたらオッサンが此処に来る。それまではまぁ……あの糞ケダモノの相手はオレがしてやるよ」

 

 

『ランプドアランジーナ』

 

 ズオスがダメージで怯んでいる間に、ワンダーライドブックを開き、ライドスペルの序文のテキストが読み上げられる。

 

 

『とある異国の地に伝わる不思議な力を持つ魔法のランプがあった』

 

 「ハッ、変身…!」

 

 

『黄雷抜刀!』

 

 ワンダーライドブックをドライバーの左スロット──レフトシェルフに装填し、拾い上げた黄雷を納刀、短く嘆息し抜刀、下から上に振り上げる様に黄雷を掲げ、斬撃を飛ばす。

 

 青年の背後に雷電迸る本棚の空間が現れオーライメージのランプドアランジーナが捲られ、電光がエレンを包む。

 そして跳んだ筈の斬撃がエレンの顔を回る様に迸り姿を変える。

 

 

『ランプドッアランジィィィナァァ!』

 

『黄雷一冊!ランプの精と雷鳴剣黄雷が交わる時、稲妻の剣が光り輝く!』

 

 左腕を除く全身を白のソードローブに包んだ剣士が稲妻を纏い、威風を立たせる。

 

 雷の剣士エスパーダ──それこそが今のエレンの名である。

 

 「悪いが…長々と戦う気は無ぇ、早々にケリ着けるぜ」

 雷のフレアを模したマスクが呟く。

 瞬間、稲光を残し消えるエスパーダ、ズオスが漸くガトライカーの機銃【ガトライクシューター】のダメージより復帰し、前を向いた瞬間、既に眼と鼻の先まで肉薄しているエスパーダ。

 ズオスが反応して迎撃よ為に行動に移すよりも速く黄雷を突き出し新たなダメージを与えていく。

 

 「速い…!」

 

 「わっふー!全然見えな~い!?」

 

 「エレン…エスパーダは直線的で素早い攻撃を得意としています。更にエレンの素質から、短時間であれば瞬間的に光速を越えた移動速度をも叩き出す事が出来るんです」

 その速さに瞠目するセイバーと驚愕の声を挙げるサルサにブレイズが解説を交えて教えてくれる。

 その間にもズオスの四肢、胸部、頭部に閃光が瞬き、ダメージを与えていく。

 これではズオスも対応が追い付かない。

 

 「ハンッ!小説家達がある程度弱らせてくれたお陰で楽で良い…が、オマエみたいなのは手っ取り早く片さねぇと学習して適応するからな…休む暇はくれてやんねぇ」

 口にしながらも刺突を絶え間無く続けるエスパーダ。

 そのまま空いた左手でドライバーのアランジーナのページをタップする。

 

 

『ランプドアランジーナ』

 すると左肩の魔法のランプを模したランプドボールドからランプの精霊現れ、エスパーダとスイッチしズオスに拳のラッシュを見舞う。

 

 「真面目ちゃん!ケルベロス投げろ。理由は訊くな時間が惜しい」

 

 「…?!嫌な予感がしますが分かりました!」

 

 エスパーダに乞われ自身のライトシェルフからトライケルベロスを外し投げるブレイズ。

 投げられ宙を舞うワンダーライドブック、エスパーダはトライケルベロスの裏側、【スピリーダ】に黄雷の剣先のシンガンリーダーを翳し読み込ませる。

 

 

『トライケルベロス!フムフム…習得一閃!』

 

 「そぉらよっ!!」

 

 聖剣から振るわれた雷のオーラが象った三つ首の番犬がズオスに噛み付く。

 

 「Gャaッ?!

 

 「そらそら!どんどん行くぜ!」

 

 

『黄雷居合!』

 

『読後一閃!』

 

 「Vァwaooオォo?!

 

 居合抜きから放たれる、一撃にして連撃の斬閃。

 絶え間無く与え続けられた攻撃に遂にズオスの肉体が悲鳴を挙げる。

 

 「こいつでフィナーレにしてやるよ!」

 膝から崩れたズオスの隙を見逃さずエスパーダがドライバーに黄雷を納めトリガーを引く。

 

 

『必殺読破!』

 

『アランジーナ!一冊斬り!サンダー!』

 

 黄雷の刀身に稲妻が走り、雷の力が満ちる。

 そしてそのまま雷の力に満ちた黄雷でズオスに眼にも止まらぬ速さで突進、剣戟を抜き放つ。

 

 「aaァァガァッ?!?

 

 痺れ絶叫するズオス。その瞳に走る狂気の光が消え、倒れ沈黙する。

 

 「トルエノ・デストローダってな」

 

 「最後に言うのか……」

 

 ズオスが倒れた事を見届け、自身が放った技の名を口にするエスパーダにセイバーが少し呆れた様に溢す。

 

 「今度こそやったんですね…」

 「ニン、少なくとも起き上がる気配は致しません」

 

 対しブレイズと剣斬は倒れたズオスがまた立ち上がって来ないかと戦々恐々としている。其所へ──

 

 「おーーーい!!」

 

 大声と共にバスターと化した劉玄がエレンが現れた時の様にライドガトライカーに乗って現れる。

 

 「無事…とは言い難いが、どうやらオジさんが来る前に終わったみたいだね」

 状況を見回し開口一番、既に決着が着いた事に胸を撫で下ろすバスター。

 爆散せず倒れたままのズオスに不気味なモノを感じつつも皆の元へ駆け寄る。

 

 「手酷くやられたみたいだね、お嬢ちゃん達の方は無事で良かったよ」

 

 「遅せぇぞオッサン。オレぁ疲れた…後の処理は任せる」

 言うや否や変身を解き、フラフラと倒れるエレン。

 

 「お、おい?!」「わわっ、わふ!?」

 そんな彼を受け止めるセイバーとサルサ。エレンが倒れた事に目を白黒させる。

 

 「やれやれ相っ変わらず燃費が悪いねぇ。さて…後処理ね……」

 エレンの言葉を受け、倒れたズオスへ向かい激土の切っ先を向けて振り上げるバスター。

 そのまま突き刺す為に振り下ろした瞬間、獣が背にした大地から闇が広がり、ズオスを呑み込む。

 

 「何っ?!」

 その光景に思わず手を止め見いるバスター。彼はズオスを呑み込んだ闇に見覚えがあった。

 結局、獣の魔人にトドメを刺す事が出来ぬまま、立ち尽くし、闇が完全に消えたのを見届け、色々な感情がない交ぜになったタメ息を洩らす。

 

 (まさか…とは思いたく無いがね……)

 複雑な感情を胸中に抱えながらも、今は体力を使い切ったエレンや傷付いた若き剣士達、共に居合わせた少女達の元へ戻る。

 

 そして、バスターと同じ様にとある人物もまたズオスが呑み込まれた闇を見て、ある考えに至った人物が直ぐ近くに居た事は…エレン以外知る由も無い事であった。

 

 

 TO BE Continued

 

 

 

─ヘンゼルナッツとグレーテル─

 

 




 はい。いや本当に…何故か長くなってしまうんですよね…。

 何時もの様にTiP、勇魚の言うエレンの同期の候補者達と言うのは、フィレンツェ時代に居た黄雷継承者の人達の事。純来訪者、ハーフ、クォーター等が居て魔獣退治が候補者を絞る試験の1つだったりする。

 次回は三世もですがSadistic★Candyにも本格的にスポットを当てられたら良いなぁと思っております。

 それでは次回


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20頁 Sの衝撃

 こんばんは、おはようございます。
 或いはお久し振りになります?

 夏はやる気が上がらない倦怠感が上がる。で、どうしても筆が進まずという具合です。
 早く夏終われーーー!

 スーパーヒーロー戦記観に行きました。
 オチの方、殆どリバイスが持ってきましたね!バイスあれデップーじゃないですかぁ。

 スパロボ30も楽しみにしてたりしますが…予約出来るのだろうか……。

 マジーヌのママを名乗るアンジェラ女史、特別編の方が絡み中身まろび出てません?






 ──セドリック・マドワルド三世(ザ・サード)

 古より聖剣を鍛え上げてきた鍛冶師の一族、その中でも開祖の名を戴いた三代目にして現"音の剣士"。

 

 ラウシェンさん曰く、自分の次に学院に居る古株。

 エレンさん曰く、ムッツリで面倒臭い職人気質の頑固者。

 アルマさん、サイゾウさん曰く、厳しけれど優しい人。

 そして先生方からも評判の良い魔導技術者て名を馳せる人物…そしてルキフェルさんの学院での保護後見人。

 

 そのルキフェルさん曰く、育ての親の次に口煩い相手なのだそうです。

 でも彼の事を語るルキフェルさんはとても嬉しそうにしていました──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━野良街道・???の世界━

 

 其処は灰色…或いはモノクロ、もしくは色の無い、音も響かぬ世界。

 生きとし生けるモノが存在する事が困難なその世界に唯1人、槍を持ち佇む黒と白に彩られた鎧を纏う者。

 彼は先程まで行われていた戦闘を思い返していた。

 

 「ヤハハ!はぁ~、良かった良かった。ナルミッチ間に合ったじゃ~ん!ま、ヤバい時は矛先だけ"浮上"して攻撃しようかと思ったけど…必要なくて何よりッスわぁ。(にしてもあのメギド……本で見た時もまさかとは思ったけど…マジで()()()()()かよ。ロゴスの資料室で記録は視た事あったけど…想定より強いじゃん、マジでナルミッチのエスパーダ居なかったら危なかったわぁ~。んで、最後にあの獣畜生呑み込んだのは)……あれ月闇の闇かね?十年ちょい前にジークハルトパイセンが持ち去ってフレッドパイセンが討ち取って以降行方不明って聞いたんだけど……もしかして生きてたのかねぇ。て、こたぁ、やっぱフレッドパイセン死んだのか…それなら烈火が斗真くんの所に現れたのも納得…ではあるけど、そうなるとパイセンが可愛がってた弟子の…あー…何だったっけなぁ、地味で存在感薄くて憶えてねぇや。確か日本人っぽい名前な気もしたけど…ま、フレッドパイセンが死んだ可能性が高い以上、弟子くんも死んでるだろうし良いや」

 

 思考を纏める為に声に出しながら云々唸る槍の騎士甲冑──改め聖剣の力により変身した刻風勇魚。

 彼以外侵入不可能の空間でくるくると槍を玩びながら思考を建て列べ纏める。

 

 (まぁ今考えて解んねぇ事は考えてもしょうがねぇかな。どっちにしろ最初の想定じゃナルミッチが間に合わなかったら、替えが利きやすい哉ちゃん切り捨てる予定だったし。あの坊っちゃんの犠牲が自分()の介入ラインだったからなぁ…本人には悪いけど)

 

 言いつつ辺りの木々の陰、草むらを、本人曰く"潜行"状態のまま練り歩く。

 

 「居ない……(あの状況で畜生を回収するならそれなりに近い場所に身を隠してると践んだんだけどね、ハズレか…、もしくは自分みたいに特殊な空間の中に潜んでる?なら…)"浮上"は学院の敷地内かな。念には念を入れて警戒するに越した事は無いしね~。ヤハ♪」

 

 そう言って一先ずの結論を出した聖剣の甲冑──ソードローブを纏い、時の剣士と化した勇魚はその場を後にする。

 無論、この世界を認識出来る者は彼以外居ない、故に彼が其処に居た事すら誰も気付かない。

 

 時の剣士は来た時と同様、誰に知られるまでもなくその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━旧ノーザンベース・本の間━

 

 「と、言う訳で。あの獣の上級メギドの被害に遭ったであろう領地の支援と言うか、調査に行く訳だけど……」

 本の間の中央に位置する装置を円卓代わりに集まった面子を見回しながら発言するのだが──。

 

 「う~ん少ない。当然だけど」

 

 「至極当然。流水は三冊のワンダーコンボによる極度の疲労と怪我の度合いが一番深い事から療養。翠風は比較的軽症、しかし何やら購買に掛かりきり。黄雷は変身中の活動時間の反動から全身筋肉痛でアテにならん。界時は何処を放蕩しているのやら」

 肩を大きく下げて項垂れる陳劉玄にフォローではなく追い打ちを掛ける様に現状を語るセドリック。

 そうして必然的に残る2人……剱守斗真と、ヘルマンに視線を配る。

 

 (恐い恐い恐い恐い!)

 

 斗真は斗真で自分を睨んでくるヘルマンに身を竦めながら居たたまれない気分で縮こまる。

 

 「まぁ動かせる面子は限られるよねぇ…。一応哉慥の坊やは方針に従うそうだから、頭数に入れるとして。そんでも、学院の防衛にも剣士残さなきゃなんないから、調査に出せるのは最低限になっちまうね」

 

 「然り。そして防衛の観点から学院には激土を残す。翠風はその補佐だ。となれば残るは…」

 

 「セドリックさんと………俺って事ですね?」

 

 「肯定。闇黒剣月闇候補者は心情的にも戦力的にも学院からは出ないだろうからな」

 

 年長者達の視線を受け、ヘルマンに警戒しながら意図を察する斗真。

 ヘルマンはヘルマンで当然とばかりに大仰な態度で口を開く。

 

 「愚問だな!私がお嬢様のお側から離れる事など有り得ん!お嬢様がこの学院、延いてはこの街に居らっしゃるからこそ、私もこの地に居るのだ。故にお嬢様の居ない土地に足を運ぶ事など断じて有り得ん!」

 

 「これだよ」「元より解りきった事だろう」

 ヘルマンの物言いに呆れ返る劉玄と嘆息するセドリック。

 

 「と言う訳だ。烈火、手前は小生と共にメギド被害を受けた領地に出向く事になる。学院のカリキュラムの都合を付けておけ」

 「あ、はい。大丈夫です」

 

  色眼鏡(サングラス)を直しながら席を発つセドリック。

 「所用。小生は預けていた物を取りに行ってくる。烈火、お前は出立の準備をしておけ」

 言うや否や、本の間を出るセドリック。彼はそのまま学生寮へと進む。

 

 

 

 ━フローラ女学院・学生寮━

 

 「ルキフェル。アンジェリカ。邪魔をする」

 短くノックして早々、返答も待たず扉を開ける鍛冶師の登場に部屋の主である2人の住人は一瞬固まる。

 

 「っおい!乙女の部屋に無断でズケズケと…何を入ってきてやがるんだキサマは!?」

 いち早く正気に戻ったルキフェルが突如として部屋に闖入して来た保護者に文句を投げる。

 

 「邪推。安心しろ、それに今更小娘の裸体を見て欲情するか。手前達も初心ではあるまいに。悔しければ生娘らしい反応をもう少し心掛けろ。乙女を豪語するならばな」

 

 「「あ゛ぁ゛んん?!」」

 

 勝手知ったるセドリックからのデリカシーの無い言葉に気持ちが1つになり乙女がしてはいけない顔になるSadistic★Candy。

 

 「結論から述べる。預けていた物を返して貰いに来た、以上だ」

 

 凸凹少女達から反論が飛ぶより先に要件を告げる。

 

 「あ?………なる程な。ついにキサマも戦場に出るのか。個人的には退屈な授業よりそっちに同行したいが……隣のバカが五月蝿い上に、オマエからも文句を言われるから仕方無く我慢してやろう」

 

 「誰が馬鹿だ!ったく……。てか、三世が直に会いに来んの久し振りじゃん、それでいきなりソレは私でもキレる……てかキレてる」

 

 アンジェリカが恵まれた肢体の脚を組み直しながら片肘で頬杖を着きつつジト目で抗議を飛ばす。

 

 「ふむ、であれば陳謝。謝罪を述べる。が、此方も火急だ、お前達に預けた我が愛剣とワンダーライドブック…出して貰おう」

 部屋の戸口で寄越せと手を差し出しながら動かないセドリック。アンジェリカは呆れながら自身の机の引き出しからマゼンダカラーの()()()()()()()()()()を取り出す。

 

 同じくルキフェルも自分の領域と化している一角からガサゴソと積み上げたボードゲームを掻き分け、此方はマゼンダカラーの片手剣らしき物を引っ張り出す。

 

 「ほれ、お望みの品だ。さっさと持って帰れ」

 小柄な肩に聖剣を担ぎながらルキフェルが憮然とした顔でセドリックの元へと近付いて行く。

 

 「遺憾。もう少し丁寧に扱って欲しいものだ」

 

 「ハッ!知るか、ワタシに預けたお前が悪い」

 

 言って、剣先を下に向けながら小さな暴君は学院で父代わりとも言える様な、そうでない様な付き合いの鍛冶師に聖剣"音銃剣錫音"を受け渡す。

 セドリックは受け取った錫音を腰の牛革の布鞘に納めるとアンジェリカへと視線を移す。

 

 「ん」

 それに応える様に長身の少女は取り出したワンダーライドブックを戸口に留まる男に向けて軽く投げるのだった。

 

 「手前もか。手前達…乙女どうこうと宣うならば、そう言う所だ、改めるべきは」

 

 「うっさいわ。分かってるつーの、第一、オーディエンス相手には愛想良くしてるから問題無いっての」

 

 「まぁその猫被りもちょくちょくボロが剥がれているがな…だっ?!キサマ、ワタシの優れた脳が劣化したらどうしてくれる!」

 

 「知るかバカルキ!」

 「なんだとキサマ!」

 ルキフェルが言い放った余計な一言を皮切りに、セドリックそっちのけで喧嘩を始める2人。

 あまりに何時も通りなので、止める事すらしないセドリック、用は済んだと踵を返す。

 

 「失敬。邪魔をしたな、隣人から苦情が出ない程度に存分に争っていてくれ」

 

 「いやぁ~、そこは止めません?普通」

 

 そんな無愛想な男の前に、何時の間にやら居る茶褐色に日に焼けた軽薄な笑みの男──刻風勇魚がセドリックの肩越しに諍いを繰り広げているサディキャンの2人を観察している。

 

 「おっ?(あん?)はれはひはは?(誰だキサマ?)ひほひはほひゃにゃ(見ない顔だな)

 アンジェリカの両の頬を引き伸ばされたルキフェルが勇魚に気付き誰何を投げ掛ける。

 

 「ヤハハハ、なーに言ってんだか全然っわっかんね~ッス」

 

 当然呂律がハッキリしないので勇魚は何を言われたのか全く理解出来ない。

 そんな勇魚の比較的特徴的な笑いに、先程まで頬を引っ張るのに力を込めていた手が止まるアンジェリカ。

 その顔は面倒な奴に久し振りに逢ったと言う様な、とても嫌そうな顔である。

 

 「ゲッ……なんで居んのよ!?アイツ、昔より背が伸びてるけど、アレじゃんか、ヤマトの前の風の聖剣の剣士……。いや大丈夫、あれから私も変わった、アイツと逢ったのだってホンのちょっとだったし…バレないはず!

 この間、僅か5秒の呟きである。

 

 「いつまで握ってる!…おい、どうした?」

 アンジェリカの手が緩んだ隙に逃れたルキフェル、そうして相方の様子が妙な事に気付く。

 

 「三世ぇちょっとどいてッス、アハロ~♪初めましてイサナ・トキカゼ~ッス、よろちゃんッス」

 「貴様!」

 セドリックを横合いに押し退けSadistic★Candyの方に改めて名乗る勇魚、押し退けられた方が眉間に皺を寄せながら抗議の声を挙げるが無視する。

 

 「ほほへ~、女子寮の部屋ってこんなんなんスねぇ。ふぅ~ん、十代女子特有の良い香りが充満してる~!」

 

 「うっわっ…!」

 「おい、ムッツリグラサン誰だこのおぞましい変態は」

 勇魚の奇行にドン引きするアンジェリカと極寒の瞳を向けながらセドリックに抗議するルキフェル。

 

 「……。剣士だ、遺憾甚だしいがな。それも直属の」

 ムッツリと言われた事が癪に障るのかムッとした顔で質問に答える。

 

 「はぁぁあ?!嘘でしょ?!こんなんが!!?」

 

 セドリックの返答に一番驚いていたのはアンジェリカであった。彼女は勇魚を信じられないモノを見るような眼で睥睨しながら、ありえないと溢す。

 

 「んー?さっきから気になってたんスけど、ノッポのお嬢さん、どっかで会ったことありません?」

 そこで勇魚がアンジェリカに見覚えがある様な気がして首を傾げる。

 

 「い、いや知らない!アンタの事なんて私は知らない!めっちゃ初対面!だから気のせい!ハイ!この話これで終わり!」

 

 やたらと慌てるアンジェリカを後ろ手に見ながら、要件を終えたセドリックは勇魚と関り合いになりたくないのか早々に部屋を出る。

 

 「おい、今度は返事を待てよ」

 

 「善処。気に留めておこう」

 

 去り際、ルキフェルからぶっきらぼうに言われ、口微苦笑して返す。

 

 「あ!ちょ?!待って!コイツ持って帰りなさいって!こら!おい!置いてくなぁぁぁぁあ!!!」

 

 部屋から出た瞬間、アンジェリカのそんな悲鳴を込めた叫びが聴こえたが重要ではないので無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル城壁━

 

 芝生い茂る城門近くの壁の前で剱守斗真はこの世界で愛馬ならぬ愛車となったディアゴスピーディーに腰を預け待ち人を待つ。

 

 「あ、来た…セドリックさーん、こっちです!!」

 

 書き物職を生業にしていたとは言え、ロードワークを実益を兼ねた趣味としていた為視力はそれなりに良い斗真。

 石造りの門から出て来た色眼鏡(サングラス)、長めの頭髪を後ろに流し、前髪に1房濃桃のメッシュが入った人物──まごうごとなきセドリックその人である。

 そんな彼に向け軽く手を上げ振ると向こうも此方に気付いたか、足速く駆けてくる。

 

 「行くぞ」

 

 そして短く告げ、懐よりガトライクフォンを取り出しては畳み、宙に投げる。

 巨大化し、セドリックの眼前に重い音を立てるライドガトライカー。

 目の前の三輪に躊躇なく跨がるとアクセルを入れさっさと走り出す。

 

 「えっ?!あ、ちょっと待ってください」

 

 あまりにも華麗な一連のセドリックの行動に呆気に取られながら、斗真も慌ててディアゴスピーディーに火を入れ後を追う。

 

 当然だが道中は無言である。セドリックという男が無駄話を必要以上好まないからだ。

 斗真としては居たたまれない気分であるが、彼も別にお喋り好きな訳ではないのでそれ事態は問題無かった。

 ズオスの被害に逢った土地を見るまでは。

 

 「これは……」 

 

 マームケステルから馬車で約1日半と2刻、ディアゴスピーディーやライドガトライカーならば半日、東南東にあたる小さな領地、こびりつく様な嫌な臭いが鼻に付く。

 

 「屍山血河、と評すべきか。例のメギド襲撃から凡そ1日足らずだが……まだ血と肉の臭いが残っているな」

 

 「こんな……惨い…」

 

 建ち並ぶ家屋の至る所、崩れ、砕け、朽ちている。

 何より忌避感を掻き立てるのは、嘗て()()()()()() 肉塊が大量に残っている事だろう。

 蠅が集り、野犬が肉を貪る。

 

 「凄惨たる有り様。醜悪、見るに堪えぬな…住人は全滅、弔う者も居ないのであればこの光景も然も有りなん…。さて、烈火、何時までもショックを受けているな、剣を取れ。()()()

 

 血肉に惹かれた…と言う訳では無いだろう、しかし死の臭いとそれに伴う負の感情に誘われてか街を囲う気配が数匹。

 見た目は可愛らしいクセしてその実この世界でメギドを除いて何よりも凶暴で悪辣な異形の獣が2人を遠巻きに囲いこんでいるのだ。

 

 「魔獣!」

 

 「果断即決。迷うな、遅れるな、戸惑うな、魔獣は問答無用で狩れ」

 魔獣に驚く斗真を尻目に既に一番近くの魔獣へと駆け出しているセドリック、腰の革鞘からマゼンダカラーの片手剣(ショートソード)とワンダーライドブックを取り出す。

 

 

『音銃剣錫音』

 

 対して魔獣──キノコの様な見た目に2本の触手を傘の下にぶら下げた魔獣は触手を槍の如く鋭く飛ばす。

 セドリックはそれを躱し、或いは切り払いながら跳躍し魔獣の頭上を踏みつけると迎撃が来るよりも早く聖剣を突き刺し絶命させる。

 魔獣が地面に倒れ込むと同時に着地したセドリックが目前のソレを軽々と群れている魔獣達に向け蹴飛ばす。

 

 「このままでも勝利は容易い。が、迅速、手早く済むに越した事は無い。烈火、手前も本を出せ」

 

 変身するぞ──と鍛冶師は斗真を色眼鏡越しに見つめる。

 

 「はい!」

 

 襲い来る魔獣を斬り倒しながら先達からの発破に応じる斗真。既に腰に装着していたソードライバーに烈火を納刀し、魔獣の攻撃を避けながらブレイブドラゴンワンダーライドブックを取り出し挿入する。

 

 その行動を視線を僅かに動かし確認したセドリックは魔獣が態勢を立直す前に己のワンダーライドブック、【ヘンゼルナッツとグレーテル】のガードバインディングを人差し指で弾く様に開く。

 

 

『ヘンゼルナッツとグレーテル!』

 

 彼の手にしたワンダーライドブックから軽快な声でライドスペルが読み上げられる。

 

 

『とある森に迷い込んだ小さな兄妹のおかしな冒険のお話…』

 

 「転変にて我が意を示す。変身…」

 

 右手に握った音銃剣錫音のスズネシェルフにヘンゼルナッツとグレーテルを装填し、スズネトリガーを引く。

 

 

『銃剣撃弾!銃でGO!GO!否!剣で行くぞ!音銃剣錫音!』

 

 セドリックの周囲を彩る様に囲うお菓子のオーライメージ、カラフルな音符がビートエフェクトを刻む。

 それによってセドリック・マドワルド三世の姿がマゼンダと黒と茶色といったサイケデリックな甲冑に包まれる。

 

 

『錫音楽章!甘い魅惑の銃剣がおかしなリズムでビートを斬り刻む!』

 

 その姿を一言で表すならばお菓子の家だ。

 マゼンダのソードローブの上をパティシエが装飾したかの様に装甲が重ねられている。

 首周りを覆う黒い装甲【ソニックメイル】、首元の左側に付けられた三色のボタン飴(カラーキャンディドロップ)型のボリューム調整機【ドロップノブ】、胸部装甲【ファウンテンボレロ】はチョコレートを模し、そこから続く様に肩に備えられた盾の様な装甲【クッキーディバイダ】は名の通りチョコレートコーティングされた四角いクッキーを思わせる。

 両腕を覆う【ライドルチェアーム】、両脚の【ライドルチェレッグ】が柔軟性と高い強度を誇り、纏う者の望む動きを支障無く発揮する。

 手首、足首に付けられたドーナツ型の腕輪と足輪【ドーナッツバンド】の力により軽快な動きを可能とさせる。

 踊る様に舞う彼の今の名は音の剣士スラッシュ。

 音銃剣錫音を模したと思われるソードクラウンの下、サウンドエフェクトの様なバイザー【リズムバイザー】の独特なデザインも相まってとても派手である。

 

 「円舞曲と洒落込もうか知恵無き魔獣共」

 錫音を軽く撫でたスラッシュが軽快を通り越して無音のステップで駆ける。

 それはスラッシュの【ライドトラックブーツ】の能力によるモノ。

 この無音の歩方によって、視覚を退化させ聴覚を頼りにしている魔獣は自らに何が起きたのか理解出来ぬまま死に至った。

 

 

『Wo~Wo~Wo~Wo~♪ブレェイブドラッゴォォォン!!』

 

 「凄い…陳さんとは違った意味で強い」

 セドリックがスラッシュに転じたと同時にセイバーブレイブドラゴンに変身した斗真がスラッシュの戦い様に感嘆を溢す。無論その間にも烈火で魔獣を斬り倒してはいる。

 片手間レベルで対応出来る程度には斗真も順応してきたと言う事だ。

 

 そんなセイバーの視線が追う先、錫音を己の手足の一部の様に軽々と、華麗に扱うスラッシュ。それはスラッシュの【ライドクラップブロー】による錫音の力に対応する機能もあるが使い手であるセドリック自身が錫音を深く理解しているからこそである。

 だからこそ錫音の柄【カナデヒルト】を片手で自在に振るう。順手、逆手、順手と端から見れば曲芸だ。

 

 (エレンも聖剣を逆手にしたりしてたけど…あいつと違って雑さは無い。寧ろ丁寧故の神業と言っても良い)

 獣型の魔獣を殲滅せしめたセイバーがスラッシュの(スキル)(アート)を兼ね備えた文字通りの技術(テクニック)に目を奪われる。

 

 「容易い。まぁ魔獣ごときまぁ遅れを取るのは未熟に過ぎるのだから当然と言えば当然至極。畢竟、烈火の実力を目に出来た事は重畳と考えるべきか」

 片手剣型とは思えぬ程硬そうな魔獣を撫で斬りする錫音の切れ味も見事なモノ。

 それは錫音の刀身【スズネソウル】に備えられた2つのスピーカーから発せられる高周波が刃を震わせ、その刃【センリツジン】が纏わせた音色によって切れ味を変化させる事が出来るからである。

 

 「お見事です。流石としか感想が出ませんでした」

 セイバーがスラッシュの元へ近付き、彼を称賛する。しかしスラッシュは応えず沈黙している。

 

 「セドリックさん?」

 

 「()()()()…。こそこそと姿を隠しても無意味、である。小生の耳にはその耳障りな"声"が聴こえているぞ」

 

 その問い掛けに応じたか、廃墟と化した街の周辺から何時の間にか新たな気配が複数現れる。その気配はセイバーにも覚えがある。それは──

 

 「これは…メギド!まさかずっと隠れていたのか?!」

 そう、新たな気配の正体は黒いシンプルな見た目の蟻の様な魔人──アリメギドであった。

 

 「否。隠れてはいたがずっとでは無いだろう、寧ろ…いや話は後だ、手早く片付けるぞ烈火」

 

 「はい」

 

 セドリックが一瞬何かを言いかけて、しかしメギド殲滅を優先しセイバーに指示を飛ばす。

 対し蟻の名の通りゾロゾロと数を顕にしてゆくアリメギド。

 セイバーが先陣を切る中、スラッシュは戦場を俯瞰し、敵の展開状況と数を大雑把に把握すると何と()()()()()()()()()()()()

 

 (えっ?!ええっ?!?!)

 先陣を切る際、後に続かないスラッシュを不審に思い視線を向けたセイバーが胸中にて驚愕する。

 そんなセイバーの胸中の驚愕など知らず、まして興味も無いスラッシュは変形させた音銃剣錫音を構えスズネトリガーを引く。

 すると変形し刀身の中央が綺麗に割れ、バレル部分となった【ワオンイコライザー】が音の弾丸【錫音弾】を作成、銃口【オンリツマズル】から弾丸を射出し遠距離からメギドを撃ち貫く。

 

 「銃?!剣なのに銃!?っていうか銃剣ってそういう意味じゃ無いですよね!!?」

 群がるアリメギドを斬り伏せながら思わずツッコむセイバー。

 小説家として創作作品に触れた経緯から錫音の銃剣としての異質さに声を挙げられずにはいられない。

 

 「喧騒(やかましい)。これはそういう聖剣なのだ、手前がどう宣おうがその事実は変わらん」

 言う間にも弾丸を撃ち、アリメギドを次々と倒してゆく。

 

 「聖剣ってなんだろう……「余所見をするな」あえ?っ゛だ?!!」

 錫音の変化に驚き無防備に聖剣とは何たるかを耽っていた所に背後からアリメギドの一匹が近付き奇襲を掛けようとした所、スラッシュが弾丸で撃ち抜き、ついでにセイバーにも1発軽めに当てる。

 

 「すみませんでした……」

 ソードローブの保護があるとは言えヘルムが軽く煙を立てるだけに収まっているのはスラッシュが一応の手加減をしたからである。

 

 「気を取り直して…」

 失態挽回の為、腰のホルダーからジャッ君と土豆の木を取り出しレフトシェルフに挿入するセイバー。

 烈火を納め再び抜刀する。

 

 

『ワンダーライダー!』

 

 「こいつで蹴散らす!」

 

 ドラゴンジャッ君となったセイバーがインタングルガントから生えた蔓を烈火の柄に巻き付かせ伸ばす。

 

 「おぉぉぉおおおっ!!これでどぉぉぉだぁぁああ!!

 

 ある程度の長さまで伸ばした蔓を振り回すセイバー。近くのアリメギドは蔓に吹き飛ばされ、離れたアリメギドは蔓の先端に握られた火炎剣烈火によって斬り刻まれる。

 

 「ほぅ…(驚愕。ワンダーライドブックのコンボあの様な形で利用するとは興味深い。聖剣の扱いには思うところあるが……黄雷の様に嫌々扱っている訳でも無し、大目に見てやろう)それはそれとして油断があった事は激土に報告しておく」

 

 「そんなぁ?!」

 

 セイバーの突飛な発想による戦い方に感心しつつも、先程の油断による無防備を晒した事を指南役の劉玄にはきっちり報告すると宣言するスラッシュにセイバーは思わず情けない声を出す。

 

 「終局必滅。トドメを刺すぞ」

 「あ、はい!」

 残り僅かとなったアリメギドに向けケリを着けると宣言するスラッシュにセイバーも合わせる。

 スラッシュは銃奏モードの錫音のスズネシェルフからヘンゼルナッツとグレーテルのガードバインディングを閉め、取り外しシェルフの対面に位置するシンガンリーダーへヘンゼルナッツとグレーテルワンダーライドブックを銃のカートリッジの様に挿し込み読み込ませる。

 

 

『ヘンゼルナッツとグレーテル!イェイ!錫音音読撃!イェイ!』

 

 「弾撃。ビート・ロリポッパー

 

 オンリツマズルからマゼンダ色のエネルギーが弾丸となって放たれ幾匹かのアリメギドを滅殺する。

 

 

『必殺読破!烈火抜刀!』

 

 残るアリメギドをセイバーが仕留めんとドライバーに聖剣を納刀、トリガーを引く。

 

 

『ドラゴン!ジャックと豆の木!二冊斬り!ファ・ファ・ファイヤー!!』

 

 インタングルガントから生えた蔓に烈火から発した炎を纏わせ鞭の如く振るう。其処へ烈火の炎の斬撃を横一閃に跳ばしてアリメギドを跡形も無く焼き付くす。

 

 「好評。剣士としては型破りだが、手前の戦い様は中々に愉快だ。激土の指導の甲斐もあって十二分使えるな」

 

 「どうもです。しかしセドリックさん滅茶苦茶強いですね?!本当に鍛冶師が本業なんですか!?」

 

 「無論。しかして今代の我が一族の適材が双方小生だったと言うだけの事」

 そうして、旅道中の時とは違い、軽口を挟む余裕を見せながら2人の剣士はメギドを全て討伐せしめた。

 

 「今度こそ終わりですかね?」

 暫く身構えたままでいても周辺に変化が見られなかった事から、力を抜き改めてスラッシュへと近寄るセイバー。

 

 「肯定。魔獣の醜い音もメギドの不愉快な音も聴こえん。一応は全て倒したと見て間違い無いだろう。(些かメギドの方に違和感はあったが…これ以上の動きが無い所を見ると…先の連中は小生達の力を量る為の当て馬……と言った所か)この様子ではこの領地に生存者は居まい、である以上我々に出来るのは死した彼奴等を供養してやる事くらいか。しかし他にも同じ様な土地がある可能性もある、一々埋葬する時間は無い、故に烈火よ、抵抗があるやもしれないが…手前の炎で弔ってやれ、遺体集め程度は付き合う」

 

 一段落した状況で死屍累々…それも来た当初よりも魔獣やメギドの襲撃により更に荒らされた現場を眺めながらスラッシュは言う。

 

 「…っ!」

 

 「それくらいしか今の小生達に出来る事は無い。此処をこのまま捨て置けば土地に負の念が溜まり再び魔獣の温床となる。しかしだからとて時間を掛け過ぎては同様の土地に魔獣が蔓延り、近く他の人里の脅威となる。残酷かもしれんが、燃やして処理する事が状況的に一番有効なのだ(結局もう1つの音は消えた、杞憂であったか?)」

 

 スラッシュの提示した案に、返事を言い澱むセイバー。そんな彼に畳み掛ける様に理由を述べるスラッシュ。彼の剣士の言う通り、ズオスの被害に逢った場所は他にも存在する。

 そこにも同じ様に死体が散乱しているならば魔獣が集まって来る事だろう。

 調査に出向いた土地1つ1つで逐一埋葬していたら、その間に無事な街や里が被害に逢う可能性の方が高い。

 

 「せめて…学院に彼等の家族が居ない事を願います」

 もしかしたら被害に遇った何処かの領地の出身者がフローラ女学院に在学しているかもしれないし、居ないのかもしれない。

 出来れば後者であって欲しいと願いつつ、セイバーはスラッシュが1ヶ所に集めた物言わぬ彼等或いは彼女等を聖剣に炎を纏わせ焼いた。

 そうしてズオスが通過したと目される土地を道なりに目指し、到着しては魔獣を掃討し火葬するという行為を繰り返す。

 彼等2人が学院に帰るまでに繰返したその行為は12回にも及ぶ。

 ズオスが出した被害は土地の規模を問わず12ヶ所も存在していたのだ。

 

 数日程掛けて学院へと戻った2人を、偶々園芸部の活動で朝早く出ていたティアラが目撃し、斗真が酷く意気消沈している様を見て思わず胸を締め付けられる思いに駈られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ズオスの被害に逢った領地跡━

 

 ズオスという生ける災害に行き逢った領地、その中で斗真とセドリックが一番最初に調査に訪れた場所の雑木林の影に人影が佇んで居た。

 

 「ふぅん…アレが今の剣士ですか、随分と様変りしましたねぇ。特に炎の剣士、何とも甘い。あまり人死にには慣れていないご様子。逆に音の剣士は冷静でしたねぇ」

 手にしたアルターライドブックを弄びながら既にこの場より去った剣士達の戦い様を振り返る謎の人物。

 そんな彼の傍らには蟋蟀を模した異形が控える。

 

 「何より音の剣士は私の存在に気付いた節がありますねぇ、まぁ半信半疑であった事や他の土地の調査と炎の剣士のケアを優先していた様ですが、此方としては有難い限り…フフフ…何やらレジエルやズオスも復活している様ですし、私も暫く遊んだら彼等の元に持参するとしましょうか」

 端整な顔に薄気味の悪い笑顔を浮かべてアルターライドブックを撫でまわす謎の人物。

 彼は傍らの魔人に命を下す。

 

 「今の世界がどれ程の物か……剣士達が拠点とする街へ向かいなさい。嘗ての戦いから変わっていなければ、其処に魔女も居る筈です。出来れば次は今の時代の魔女の実力が見てみたいですね…ある程度、適度な数の魔女を見付けたら襲撃なさい、勿論結界から出てきた所を…ですがね」

 マームケステルの結界の事まで把握している謎の人物は沙汰は下したとして魔人を置き去りに暗がりへと消える。

 残された魔人──キリギリスメギドはその命を受けマームケステルへと向かう。

 

 新たなる波乱が若き魔女へと襲い来る。

 

 

 TO BE Continued……。

 

 

─ストームイーグル─

 

 

─ブレーメンのロックバンド─




 今回のTipは三世実は既婚者。注釈しておきますと、ルキフェルの育ての親の女性とは別の女性と結婚してます。
 そもそもルキの言う女性の年齢、明言されて無いですし。

 ちょっとした個人の思相としてなんですが、私は無双チートとハーレムは別けるべきと考えているんです。勿論、自身の作品での事です。他者様にまで彼是は申しません。
 と言うよりも私、主人公が酷な目に逢うの割りと好きみたいなんですよね。具体的には小林靖子脚本辺り……殿とかレオンとか千翼とか。
 なのでハーレムよりもドロドロの修羅場か、青春のほろ苦い三角関係の方が好みですし。
 無双も物理的に雑魚を蹴散らせるけど同格や格上には相応に苦戦、敗北とかが好きだったりします。

 勿論チートハーレムを読まない訳ではございません。他者様の作品としてはそういうジャンルも読みますが、私が書く場合は大体別けます。

 ではまた次回


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21頁 苦悩の中で

 おはようございます。
 夏はやはりバテるダグライダーです、財布落としたのでこの後警察署行ってきます。

 トリ子欲しい…ピックアップしてる!回した、出ない………そもそも二部六章までクリアしてない。ま、まぁ良いでしょう。

 ドトウも欲しい。石貯まってない……まぁ良いでしょう。



 ──先生の元気が無い。その一言を口にしたのは誰だったか……。数日前何処かへとセドリックさんと共に出掛け、帰還して以降、度々上の空の先生を見かける事が多くなりました。

 此方が何かあったのかを訊ねても 笑って誤魔化される始末。

 このままではいけないと私達は先生の為に何か出来る事は無いかと相談し彼を元気付けようと一計を案ずるのでした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・理事長室━

 

 剱守斗真、セドリック・マドワルド三世の帰還より一夜明けた日後、クロエに報告の詳細を伝えたセドリックは斗真が被害に逢った土地の有り様に必要以上に心を傷め、己を責めている可能性があると告げた。

 クロエはそれを留意しつつ、様子見に徹していたが、ここ数日授業中の斗真の様子がどう取り繕っても調査の一件を引き摺っている事は明らかである。

 何せ問題児だらけの特別クラスの生徒全員が何かしら彼の態度が妙な事に程度はあれど気付いているのだから。

 

 そして現在、理事長室にはクロエ、セドリック、劉玄という見慣れた面子に加え、勇魚と不機嫌極まり無いと言った顔のアンジェリカが集っていた。

 

 「さて、予想外の珍客が居ますが集まって頂き感謝します」

 クロエが話の皮切りを開く。

 

 「オジさんとセドリックが呼ばれた理由は察しが付くけど……お前さんは何で此処に居んのかねぇ?」

 この中で頭1つ抜けて大きな身体の陳劉玄が来客歓談用のソファに腰掛けながら隣の刻風勇魚に視線を向けて問う。

 

 「え?普通に楽しそうだからッスけど?」

 部屋に入って来て早々、棚から茶器を取り出して自分で勝手に茶を淹れてはソファに脚を組ながら図々しく呑む勇魚があっけらかんと返す。

 そんな勇魚の返しに劉玄が呆れた様に額に手を当てながら天を仰ぐ。

 対面に座るセドリックは色眼鏡に隠れた瞼を閉じながらテンプルを押し上げる。

 そして、勇魚の対面に座るアンジェリカが勇魚の態度に対し額に血管を浮かべながら隣の年長者に噛み付く。

 

 「こいつってば本当に……!ってか三世あんた!この間はよくもさっさと逃げてくれたわね!?!その所為で私の正体バレたじゃない!!」

 

 (それは時間の問題だったんじゃないかね?)

 (時間の問題だったのでは?)

 「風評。何れにしろ時間の問題だった。あの場に小生が居ても普通にバレただろう」

 劉玄とクロエが心中でツッコむ中、あっさりと口にして迷惑そうに溢すセドリック。

 

 「いやぁ~驚いたッスよ。時の流れは残こ……面白いッスねぇ、まさかノッポちゃんが、あの!()()使()(自称)()()()()()()()だったなんて……プハッ!ヤハ!ヤハハハハヒヒヒヒ…腹痛い」

 数日前の事を思い出してか爆笑する勇魚。飛び掛からんばかりに机越しに腕を伸ばすアンジェリカを劉玄が諫める。

 

 「おまっ!?何で言い直したぁぁあっ!!?いや言い直す前の発言にも物申す!!」

 

 「まぁまぁ、落ち着けアンジェリカ嬢ちゃん。こんなだけどコイツは相応に秘密は守る質だから」

 

 「ッスよ、アンちゃん。自分口は(時と場合により)固いッス!秘密を知ってるルキちゃんとか三世とかおっちゃんとかクロちゃん以外にはちゃーんと黙ってるッス」

 未だにケラケラ笑う勇魚に釈然としないものの、この場の最年長者に窘められ一先溜飲を下げる。

 

 「今の発言の間が気になるし、イマイチ信用に欠けるけど本当でしょうね?つか、アンちゃんは止めろ!そっちの呼び方はバレる確率が高くなる」

 

 「じゃあリカちゃんで……リカちゃん…クハッ、ヤバい…ちょと想像しちゃったッス」

 恐らくは日本で最も有名な着せ替え人形と目の前のアンジェリカを重ねて噴き出す勇魚、そのリアクションにやっぱいっぺん殴っとくかと拳を握り締めるアンジェリカ。

 

 「そもそもこの間の調査だかにコイツも連れてけば先生もあそこまで変になる事なかったんじゃないの?」

 

 「不可能。無理だ、小生もあの時その考えが過らないでもなかったが……行動に移した瞬間、この阿呆は逃げる」

 

 「や~それほどでも~」

 

 アンジェリカとセドリックのやり取りを聴く勇魚が照れたように頬を掻くが、この場に居る4人は皆一様に褒めてねぇよと心の声を胸に抱く。

 

 「ま、自分の事はほっといて。今はほら斗真ちんの事ッスよ。なんかこう…元気無いんでしたっけ?」

 

 「元気無いってゆーか、空元気でから回ってるって言うか、ムリしていつも通りを振る舞おうとして逆に不自然になってんのよね」

 

 「生徒達が察する程にあからさまに出ていると言う事ですか……原因はやはり…?」

 

 「まぁこの間の調査だろうねぇ。その辺どうなんよ?同行者でしょうや」

 話を変えた勇魚に溜め息を浸きながら教室での様子を語るアンジェリカ、その言にクロエと劉玄がセドリックに視線を移す。

 

 「推察。手前達が考える通り、あの件が尾を引いているのだろう。とは言え、調査初期はまだ烈火にも多少の余裕なりしはあったのだ…、憶測。アレがあそこまで思い詰めているのはまぁあまりに多くの数を見たからだろう」

 

 「そりゃ斗真ちんは現代日本人でスしおスし?この世界…魔獣の脅威とかで人死にがあるとは言え、基本街は平和でしたし、しょうがないじゃないんでスかね?」

 

 「お前さんも所謂21世紀の現代日本人なんじゃないんかね?」

 

 「や~ヤハハハ、自分はちとばかし事情が特殊なんでぇ。寧ろ感覚的にはナルミッチの方が斗真ちんを理解出来ると思んまスよ?」

 セドリックの語る心当たりに勇魚が口を挟むと劉玄がお前は違うのかと問うたので、自分は生活環境が特殊だったから比較するのは意味ないと述べ、斗真に共感するのはエレンの方だと笑う。

 

 「左様で。どうせどんな生活だったかは教えちゃくれんのだろう?「ッス」……で、どうするんよクロエちゃん?」

 

 「そうですね……今は様子見かと、幸い…と言うべきかは分かりませんが、彼は剣士も教職も辞めようとはしていませんから」

 今後の斗真への対応を如何にするかと訊ねると、一先ずは様子を観察しておくと返答が返ってくる。

 

 「そうかい。まぁ、オジさんの方でもそれとなくフォローしておくよ」

 

 「よろしくお願いします」

 話に一区切りが付き、会話が切れたのを見て、勇魚は席を立つ。

 

 「んじゃ、お話は終わったみたいなんで…自分はまたちょっち学院を散策して来るッス!バッハは~い!」

 

 「アイツ…マジで暇潰しに来ただけなの……。はぁ、とりあえずさ…私の方でも先生の事注意して見とくわ」

 アンジェリカも頭を掻きながら理事長室を後に去る間際、その様な事を言い残す。

 余計な客人と一応の生徒が退室し大人達だけが残った空間で彼等は取り敢えずの結論に暫し身を委ねる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・特別クラス教室━

 

 突出した才を持ちながらも癖が強すぎて問題児扱いされる者達が集う教室の一角、今日も今日とて授業を終えた少女達。

 その中にあって昨今5人組で行動する事が多くなった班の1人が口を開いた。

 

 「先生がヘンだ!」

 短く結んだ2房のロップイヤー金髪ツインテールを揺らして開口一番宣ったのはラヴィ。

 

 「ほぅ…お前にも分かるくらいにはやはり教官は参っているんだな。一体何があったんだティアラ?」

 相方が真っ当に担任の変化に気付いた事に感心の声を寄せるアシュレイ、斗真帰還を目撃したティアラへと話を振る。

 

 「詳しい事は………ただ、勘なんだけど…何かとてもショックな出来事があったんだと思う」

 

 「確か…先生の他にマドワルド伯爵も居たのよね?」

 

 「けどあの人いつも通りだったじゃん?メッタに会わないけど」

 

 「そもそもマドワルド卿はサングラスで表情が読みにくいから変化が読み取れないしな」

 

 「ですけど、伯爵がご一緒だったのなら多分…仮面の剣士絡みの事ですよね?原因って」

 

 ティアラの発言を皮切りに同班のロゼッタ、ラヴィ、アシュレイ、リネットが思い思いに意見を口にし始める。

 そんな5人組の喧騒を聞き付けて新たに近付く人影。

 

 「何だ?セドリックがどうした?」

 ルキフェルである。

 

 「そう言えば…ルキフェルはマドワルド伯爵と親しい間柄なのよね?何か知らないかしら?」

 

 「あん?別に親しい訳では無いが…。まぁ、それなりに詳しくはあるな」

 ロゼッタからセドリックとの仲について触れられ憮然としながら肯首するルキフェル。

 

 「じゃあさ先生がヘンなりゆーをサンセーから何か聞いてないの?」

 

 「ふん?先生が?ふーむ……(この間の調査云々とやらか?先生も一緒だったのか、よくもまぁあのムッツリと一緒に過ごせたものだ。そうなると剣士絡みのネタか、コイツらは先生が剣士なのを知っているんだっか…ふむ…なら)ワタシは知らん。が、恐らく奴なら知っているだろう」

 

 「奴?」

 ラヴィが唇を尖らせてルキフェルに訊ねると小さな暴君は指し指を顎に当て黙考、己が詳しく説明するのは面倒なのと、目的の人物が寝込んでいる事を思い出してニヤリと笑う。

 そんな彼女の反応にロゼッタが訝しむ。

 

 「エレンだ」

 悪どい笑みを拵えながらその人物の名を告げた。

 

 

 

 

 

 「で、なんで場所を知らないのさ?」

 

 「仕方ないだろう。普段は同好会の部室か先生の部屋に屯っているんだ(厳密にはベースとやらの部屋に通された事はあるが、アレはブックゲート越しだったからな)」

 

 「それでラトゥーラを探すんだね」

 

 「ああ、アイツはエレンの護衛対象だし、エレンの方も何だかんだ言いつつアイツの側に居る。つまる所、ラトゥーラならアイツが(普段)暮らしている場所を知っているはずだ」

 

 「「あっ」」

 

 ルキフェルが先頭を進む形で学院の廊下を闊歩する6人、そんな彼女達の横辻からヤマトの三姉妹、進行先の廊下からは日焼けした軽薄男。

 後ろを進んでいたリネットとティアラが気付いた時には既に遅し、互いに会話に夢中となっていた少女達は勇魚を巻き込んでぶつかり縺れる。

 

 「うぉっ?!」「きゃっ?!」「ありゃららら~」

 

 悲鳴を挙げたルキフェル、ナデシコ、そしてどうにもワザとらしい声で少女達の下敷きになった勇魚。

 

 「だ、大丈夫?!」

 

 「ああ、何とか踏み留まった」「痛たぁ…」「うぎゅ~」

 

 何とかバランスを取ったアシュレイ、敢えなく転んだロゼッタ、そのロゼッタに引き潰され、ルキフェルの上に被さる形でサンドイッチになるラヴィ。

 

 「ナデシコお姉ちゃん!?大丈夫ですか!!?」

 

 「ナデシコしっかり!!傷は浅いわ!」

 

 「ところで…一番下で下敷きになってる人は大丈夫なの?」

 

 カエデとツバキが転んだナデシコを引っ張り起こそうと手を掴む。

 その光景を心配そうに眺めながら、ティアラは下敷きになった勇魚を案じる。

 

 「あ…イサナさんですね」

 

 「知り合い?」

 

 「少し前に図書室で会いまして…その…色々と…ラウシェンさんやセドリックさんのお知り合いらしいので、たぶん…悪い人ではないと思います」

 顔に見覚えがあるリネットが青年の名を溢し、起き上がったロゼッタが件の青年の事を知っているのかと訊けば些か口ごもる様に人物評を述べる。

 

 「助けないと!」

 

 「必要ありません」「別に良いんじゃないかしら」

 

 ティアラが兎に角助けようと声を挙げた所に気勢を削ぐようにカエデとツバキから助成不要と言葉が入る。

 

 「で、でも」

 「超がつく程のド変態さんにはこの状況もご褒美になってしまいますので」

 「ほら、顔をよ~く見て。この人ウチの妹の下に潰されて感触を楽しんでるのよ!?羨ましい!」

 

 「ツバキ姉さまっ!?」「ツバキお姉ちゃん最低です」

 

 カエデに罵られて図星の様に喜び笑う勇魚をツバキがティアラ達を自分達側に呼び寄せ勇魚の顔色を見せながら己の欲求も滑らせる。

 そうしてナデシコが助け出されたその一瞬に彼女のスカートのポケットに何かが混入した事は、それを仕込んだ勇魚以外気付く者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 「ははーん、お嬢さん方は斗真ちんを何とかしようとナルミッチを訪ねる為に、そのラトゥーラちゃんを探してるんスか」

 

 「はい」

 

 あの後、結局勇魚を除く面子が起き上がったのを待って、勇魚は己で立ち上がった。

 連れ立った面子に面白いモノを感じた彼は、もののついでにとヤマト三姉妹も一緒に学院のラウンジホールにある談話席で理由を聞き、そうして今の発言を溢したのである。

 

 

 

 「ここはわたくしのろっくで元気付けて差し上げてみてはどうでしょう?」

 「ならあたしのチアでもアリじゃない?」

 「そう言う問題か?」

 「少なくともナデシコお姉ちゃんの案は却下です」

 「元気が湧いてくるお花差し入れとか?」

 「良いかもしれないけど…まともな植物なのよね?」

 

 

 リネットが返事を返している内に他の面子が今から如何に元気付けようかと騒いでいる。

 

 「アンタ達はお馬鹿なの!?」

 其処へ掛かる新たな声は呆れているのか怒っているのか、声の主の方へ全員が振り返る。

 

 「エミリア…!」

 

 「あるふぁにサルサも」

 

 ティアラとロゼッタが視線の先に居た人物達の名を告げる。

 どうやら3人共ラウンジでティータイムと洒落こんでいたらしい。

 

 「どうも」「やっほー♪」

 憤慨するエミリアを横目にいつも通りのペースで挨拶を交わす2人。

 自分の発言の数秒後にはもう和気藹々している面々に息を詰まらせながらも改めて口を開く。

 

 「わざわざラトゥーラに会いに行かなくても其処にそのエレンとか言うケダモノの居場所を知ってる奴が居るでしょうが!!」

 そうして今にもスビシッと言う音が聴こえそうな勢いで指を指す先には勇魚。

 

 「「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」」

 

 言われて全員、そう言えばと言う顔になる特にルキフェルやロゼッタなど何故気付かなかったとばかりに顔を歪める。

 

 「なるほど!イサミンならエレンっちの場所知ってるんだ!よしイサミン教え───『界時抹消!』──って、あれ?居ない」

 

 ラヴィが得心し勇魚へ顔を向けた瞬間、僅からながら"何か"が聴こえ、既に姿は消えていた。

 

 「何やら何処からか布に包まれた物体を取り出していましたが…おや?何故か淹れようとしたお茶が溢れていますね」

 あるふぁがティーカップから溢れる程零れ出た紅茶に思わず首を傾げた。

 

 

 

 

 「結局ラトゥーラに頼る事になるんだね」

 9人になった魔女一行は何時ものレストランカフェを目指す。

 

 「まぁ居場所が割れている分、楽だしな」

 

 「この時間帯ならばラトゥーラさんはバイトに励んでいますものね!」

 ナデシコがフンスと鼻を鳴らす。

 

 「エミリアからも先生宛に激励を貰ったものね」

 ロゼッタが苦笑しながら学院のラウンジでの一幕を思い起こす。

 

 

 

 

 「本当は関わるのもゴメンなんだけど、アイツの様子がおかしいと調子が狂うのよ。だからさっさと元のアイツに戻る様にって伝えておきなさい!」

 

 「聞きようによってはまるで恋する乙女のツンデレの様ですねお嬢様…ああ失礼しました、元々ツンデレでしたね」

 

 「うっさいっ!!はっ倒すわよ!!!」

 

 

 

 

 「何だかんだとエミリアも教官の事を気にかけているのだな」

 

 「とにかく先生をなんとかし隊!ラッちゃんに会いにレッツゴー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・街路地━

 

 ダウヒッチストリートから列なる路地の表道を入って暫くした所にある露店、商店を更に進んだ所にあるカフェテラスがあるレストラン。

 昼時を少々過ぎても繁盛しているのは料理が上手いからか、看板娘としてのウェイトレスの評判が良いからか──。

 

 そんなウェイトレスの1人として働く勤労少女を訪ねて9人と言う大所帯が店を訪れた。

 

 「たのもー!」

 機先を切ってラヴィが道場破りめいた呵成の鬨を挙げる。

 

 「あれ?ラヴィじゃん。ってか他のみんなも…どったの?ダイミョー行列?ってヤツ?」

 「うっせぇなぁ、身体に響くだろうが……」

 奥側の客席にて接客?中のラトゥーラとその席に客として項垂れる目的の人物。

 

 「エレンっち!」「エレン居たな」

 

 思いの外あっさり見付かった探し人に皆肩透かしを喰らう。

 

 「んだよ、オレに用かよ。ま、話くらいは聞いてやる」

 机に突っ伏したまま宣う様は実に格好悪い。

 

 

 

 

 

 

 「──つまりはあれか……小説家を元気付けるから原因を教えてくれってんでオレん所に来たと」

 あれから2階の部屋を借りてエレンに事情を説明するティアラ達、ラトゥーラも休憩を貰い同室して貰っている。

 

 「そういやセンセーってばここ最近変だったけど、エレンあんたマジで何か知ってんの?」

 

 「オレが何でも知ってるとか思うなよ?ま、心当たりはあるが…ッ」

 未だに筋肉痛でバテバテの体を推しながらラトゥーラからの振りに応じるエレン。 

 

 「なら…!」

 

 「そんな回りくどい事しなくてもよぉ。お前らが普通にアイツに直接言ってやりゃ良いんだよ、ウジウジすんな!前を向け!とかってよ。この時間最近ヤツぁ街の外で剣振り回してるだろうし」

 腕をロボット宛らにぎこちなく動かして窓の外を指す。

 

 「ん?剣振り回すって何でだし?」

 「あー、説明すんのメンドイからお前も一緒に来い。来りゃ分かる。そう言う訳で…誰かオレを運んで来れ」

 ラトゥーラがエレンの振り回すと言う言葉の意味に首を傾げた為、一瞬誤魔化そうかと考え諦めて同行させる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・外壁近辺の草原━

 

 風切り音を靡かせて、己の中の靄を払うように烈火を振る1人の男。

 彼こそは剱守斗真、少女達が真に目的とする人物である。

 斗真は虚空に烈火を振るう。

 

 脳裏に過るのは数日前の死の街。

 

 散乱した屍肉、集る蝿の群、肉を啄む野犬と野鳥。

 

 1度は耐えた、共に居た先達に悟られぬ様、本心を押し隠して軽口を返してみせた。

 

 そうして十二度廃墟を巡り、都合十二回屍を燃やし弔った。

 今でも鼻が肉の焼ける嫌な匂いを記憶している。

 思い出すと胃から込み上げてくるモノを耐えて飲み込む。

 

 更に斗真は預かり知らぬ事であるが、ズオスが無辜の人々を殺した理由はただ邪魔だったからだ。

 進路上に障害物があった、だからどかした。そんな理由だ。

 本能で剣士に敵意を剥き出しにしていた獣は道端の小石を軽く足蹴する程度の意識で蹂躙しただけなのだ。

 もしそれを知れば彼はより一層己を嫌悪し責めるだろう。

 あの街を含め被害にあった場所でズオスが起こした暴虐だけが無意識の産物だ。

 道端の雑草を踏んづけたとして人々は誰も気に止めない、それと同じことをあの獣はやっただけに過ぎない。

 

 きっとズオスが去った後も僅かな生存者は居たのだろう。そして魔獣に襲われ死んだ。

 メギドの認識はどうか知らないが、魔獣からすれば魔女以外の人間は餌程度の認識だろう。

 

 その点で言えば、ズオスと戦端を交えて生き残った斗真達は運が良いと言える。

 斗真達と被害に逢った人々、その違いは言うなれば運、間が良かった悪かったかだ。

 そしてその事に彼は心根の隅でほんの一瞬僅かながら優越感を抱いたのだ、自分は常人が逆立ちしても届かない力を手にしたのだと。

 

 

 だから授業中、教鞭を取っている中でその時の事を思い返して呆けて、後悔して、生徒達に心配を掛けさせてしまう失態を見せた。

 

 (駄目だ…!考えるな!悪い方に考えるな…!)

 

 そんな醜い己を振り切る為にここ数日時間があれば街の外で剣を我武者羅に振るっている。

 

 

 

 「感心。精が出る……と言いたい所だが、些か無軌道が過ぎるな」

 

 そんな斗真に声を掛けたのは、セドリックだ。

 何時来ていたのか、剣を振るうに夢中になっていた斗真は彼の声が掛かるまで気付かなかった。

 

 「セドリックさん…どうして……」

 

 「……何、少し手前が気になってな。あの惨状を目にして以降、手前の明らかに調子が悪いと…知人に教えられてな。猛省…誘った小生も責任があると考えた」

 どうして此処にと問う前にセドリックからの返答が返って来た。

 それから暫く何を話して良いのか判らず双方が沈黙していると門の方からぞろぞろと人影が此方を目指してやって来るのが見えた。

 斗真は慌てて烈火を仕舞い、影の正体を確かめる。

 

 

 

 「あ?ムッツリグラサンも一緒かよ」

 

 「先生見っけ!」

 

 「お前は…子供かまったく…」

 

 「ふん、セドリックまで居るとはな…ツイてない」

 

 「えーっと…誰だったかしら?見覚えがあるような」

 

 「セドリック・マドワルド伯爵候ですよツバキお姉ちゃん」

 

 「正確にはセドリック・マドワルド三世らしいけれどね」

 

 「先生と伯爵……剣士と鍛冶師…言うなれば夫婦の間柄……」

 

 「リ…リネット?」

 

 「ろっくです!先生はわたくしと共にろっくんろーるを感じましょう!!」

 

 「ち~っすセンセ、探したし」

 そうして斗真とセドリックの側にエレンと少女達が近付いたタイミング、その瞬間大地が世界から切り離された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ワンダーワールド・壁外の草原━

 

 「「「「「「「「「えっ?!」」」」」」」」」

 

 「ほう…」

 

 「っ…迂闊!敵が居たか!!」

 

 「おぃぃ、勘弁してくれよオレまだ動けねぇんだぞ……」

 

 「敵は何処に…!?」

 

 草原ごと異界に取り込まれ、突然の出来事に少女達が戸惑い──ルキフェルだけは面白そうに辺りを眺めているが──立ち竦む中、セドリックは全く気配の無かったメギドに背筋を凍らせ、エレンはアスファルトの大地に腰を卸したまま愚痴を嘯き、斗真は周囲に視線を巡らせる。

 

 その異界はただ只管にハイウェイが続く無人の広野。

 建物は一切存在せず、生き物の鼓動も無い。

 

 

 「ナニコレ…!?」

 突如として叩き付けられた状況にラトゥーラは理解が追い付かないまま放心するばかり。

 

 「ここもワンダーワールドなの……」

 「私達が立っているこの地面…石畳とも違うわ…」

 

 「見ろアシュレイ!ここメチャ高い!」

 「なっ!?誰が見るか!!」

 

 「ふぅん、この柵みたいな板は鉄か?所々剥がれているが」

 「鉄にしては柔らかい気もします……」

 

 「なんと言うか殺風景ねぇ、左右は金属柵、前後は道ばかり、撮り甲斐の無い所だわ」

 「お姉ちゃんはもっと危機感を持って下さい!」

 

 「これもろっくです!多分…」

 「ロックって言えば許されると思うなよ」

 各々が其々に言葉を発する。

 その中でやはりセドリックがいち早く、その音に気付く。

 

 「2…4…10…まだ増える…これは……烈火、黄雷、備えよ、敵が押し寄せて来るぞ」

 既に錫音を銃奏モードに変化させシェルフにライドブックを装填しているセドリックが声高に叫ぶ。

 

 「くっ…生徒達に手出しはさせない」

 

 「だからオレぁマトモに動けねぇと…それにラトゥーラが……」

 

 「ウチ?エレンって何かウチに見られたくないもんでもあるの?」

 

 「……チッ、もうどうにでもなれ!つかまた筋肉痛になんのか……」

 

 

『ブレイブドラゴン』

 

 

『ランプドアランジーナ』

 

 頑なにラトゥーラに秘密にしていたエレンは遂に悟り諦め、斗真に続いて腰にドライバーを装着、ワンダーライドブックを開く。

 同時に音が形を持ってハイウェイの向こうから現れる。それは巨大な蟻。

 

 「キモッ!?!」

 

 「アリだぁぁぁああ!!?」

 

 ラトゥーラが巨大蟻の大群に嫌悪感を示し、ラヴィが見たままの事態を叫ぶ。

 

 

「「「変身!!!」」」

 

 

『ブレェイブドラッゴォォォン!!』

 

 

『ランプドッアランジィィィナァァ!』

 

 炎よりセイバー、稲妻よりエスパーダが来陣する。

 

 そして──

 

 

『剣で行くぜ!NO!NO!銃でGO!GO!BANG!BANG!音銃剣錫音!』

 

『錫音楽章!甘い魅惑の銃剣がおかしなリズムでビートを斬り刻む!』

 

 快音と共にスラッシュが姿を顕にする。その際流れた剣からの音声が以前のモノと違うのは剣盤と銃奏とで錫音の音声が二種類存在するからである。

 

 「ほう、銃形態で変身すると音が変わるのか…ワタシはいつも剣からの変身しか見たことが無かったからな」

 

 「オレは割りと両方見たぜ…イテテ…つか変身はしたがオレを戦力に数えんなよ!」

 

 保護後見人の見慣れた剣士姿の、しかしある意味でレアな姿に感心するルキフェルの後ろから悪友たる雷の剣士が剣を杖にしながら堂々と嘯いた。

 

 「おおぉっ!先生の真っ赤か仮面、アルマっちの真っ青仮面、おっちゃんのガキンガキン仮面につづいて新たに金ぴか仮面とピンクとチョコレート仮面のとうじょーだー!!」

 

 「あのねラヴィ…そのネーミングセンスはやっぱりどうかと思うの…」

 ラヴィが直感に従って名付ける名前にロゼッタがツッコむ。

 

 「やっぱり先生達の剣士姿……サイゾウお兄ちゃんの剣斬とは違って如何にもな騎士です」

 

 「けど三世さんの姿は騎士と言うより何か別の姿じゃない?」

 

 「ろっくです!!先生もエレンさんもろっくですが、三世さんは途轍もないろっくんろーるを感じます!!」

 ヤマト三姉妹が初めて見るのセドリックの剣士姿に好き勝手に感想を述べている。

 

 「はっ?いや、え?は?」

 

 「ラトゥーラ、混乱している様だな…まぁ無理もないか」

 

 「はい…いきなり異世界に跳ばされて、目の前に怪物が現れ、更には知り合いが仮面の剣士に変身したんですから無理もないかと」

 

 「確か…ラトゥーラはエレンさんが聖剣を振るう仮面の剣士って知らなかったんだっけ…?」

 

 「だって…え?仮面の剣士ってお伽噺で…アイツは伝説にあやかった傭兵で…ウチの護衛だから…ウソ…マジ?!ちょ、説明しろし!!」

 

 「後にしろ、蟻どもが集って来てるんだぞ」

 ラトゥーラの詰問がエスパーダに向けられ、ルキフェルがそれを制止する。

 

 「阻止(させん)

 スラッシュが錫音のトリガーを引き巨大アリメギドを撃ち倒してゆく。

 

 「むむ…マドワルド卿の聖剣のアレは何なのだろう?」

 「考えてる場合じゃないよアシュレイ!足手まといにならない様にエレンさんの所まで逃げないと!」

 来訪者によりもたらされた知識や技術があるとは言え、銃というこの世界に馴染み無い武器を見て思わず立ち止まるアシュレイの手をティアラが引く。

 

 

 「オレの方に来られてもなぁ、ぶっちゃけ立ってるだけで精一杯なんだが…」

 「ちょ、護衛でしょ?!なんでそんな体たらくだし!?」

 「この間久し振りに変身して戦ったからだよ!」

 「ハァッ?!意味ワカンナイ!?なんでそれで戦えなくなるし!!」

 「オメェだって知ってんだろ!オレぁ体力が少ないんだよ!!」

 「ザケんなし!こっから無事に帰ったらレオ姉に言い付けてやるし!!」

 「おまっ…ザケんな!?ババアに告げ口とか卑怯だぞ!?!」

 少女達がエスパーダの周りに集まる中でエスパーダとラトゥーラが口論を始める。

 その間もスラッシュが銃撃で、セイバーが斬撃で巨大アリメギドを倒してゆく。

 

 

 「くっ…大きい上に数が多くてキリがない!ふっ!」

 烈火を振るいながら迫る巨大アリメギドを斬り倒しては別の巨大アリメギドの攻撃を躱し、斬るを繰り返すセイバーが切迫した様に洩らす。

 

 「こうなりゃ応援だー!先生を応援して──」

 「だ、駄目ですよ?!ラヴィさんの魔法は効果時間が切れたら疲労が一気に来るんですからこんな状態で使ったら先生が危ない事に!!」

 苦戦するセイバーを見かねラヴィが身体強化の魔法を掛けようとするのをリネットが慌てて止める。

 

 「あのメギド…蟻なんですよね?」

 

 「そうねぇ、でも魔人と言うより魔獣みたいよね」

 

 「いえそうではなく…蟻なら統制しているリーダー、つまり女王が何処かに居るのでは?」

 

 「なるほど!流石はカエデです!」

 

 口論に興じているエスパーダ達の側でメギドを観察していたカエデがふと口走る。

 そこにツバキが的外れな相槌を返すと、少々呆れながらもカエデは1つの推論を述べ、ナデシコが心底感心した様に声を挙げる。

 

 「成程。頭を叩けば残りも消えると言う算段か、実行…試す価値はある(無論、アレが生物のメギドならばと前提があるが)。しかし実行するにも手が無い、烈火がああも埋もれていてはな…、せめて黄雷が使い物になればべつなのだが…失望。貴様の怠慢のツケが来たな」

 

 「うるせぇ」

 

 カエデの案に試行価値有りと称すスラッシュ、しかしセイバーが巨大アリメギドの大群の対処に追われ、エスパーダがほぼ置物と化している為、カードが足りない。

 

 「チッ…手加減は苦手なんだがな」

 その言葉と共に発せられるフィンガースナップ。エコーギフトによって発生した真空刃が巨大アリメギドに襲い掛かる。

 

 「ルキフェル!?」

 

 「おいナデシコ、キサマ確か音系の魔法が得意だっただろう?それでセドリックと先生を援護しろ」

 

 魔法を使用したルキフェルにロゼッタが眼を剥くが構わずナデシコに指示を出す。

 

 「承りました!わたくしのギターテク、特とご覧あれ!」

 言って魔法で取り出した愛器を構え弦を打ち鳴らすナデシコ。

 錫音程では無いが相応の威力の音波衝撃が巨大アリメギドを強襲する。

 

 「ろっくんろ~~~!!」

 

 そんな彼女のろっく魂に反応したのか、はたまた偶然かナデシコのスカートのポケットから飛び出す赤紫色(バイオレット)のワンダーライドブック。

 

 「無謀…!危険な事を──それはっ?!」

 突如戦線に参加した少女達を制止しようとしてスラッシュがその本に気付き手を伸ばし掴む。

 

 「ワンダーライドブック"ブレーメンのロックバンド"……、詰問!何故手前がこれを持っている!!?」

 

 「えっ?さ、さぁ…?何故なのでしょう?ところでろっくと仰いましたか?!」

 

 「お姉ちゃん!?今はそれどころじゃないです!!?!」

 

 (きっとトキカゼね。仕込んだのはぶつかった時かしら……まったく、人様の妹になんて物を…)

 

 ロックと言う単語に食い付き敵から眼を離す姉に慌てるカエデとライドブックを仕込んだ下手人に思い至り悔しそうに顔を歪めるツバキ。

 そして飛び出た本を見て、そう言えばと思い出した者が此処にも1人──。

 

 「それ!似たようなヤツ、ウチも持ってる!!」

 そう言ってブラウスの胸元の隙間から朱色のワンダーライドブックを取り出すラトゥーラ。

 

 「お前…なんつー所に仕舞って…ってか、何で持ってる?!そりゃ確か刻風の奴が持って来たのじゃねぇか!」

 よく見るとそっちも!?と驚く棒立ち(肉盾)となったエスパーダが叫ぶ。

 

 (やっぱり…)

 

 「前にアンタ達が帰った後にテーブルに残ってたの!これ、アンタなら使えるんで「色的に察しろよ!?小説家に渡せよ!!」…いや危ないじゃん」

 手にした朱色の本をエスパーダに渡そうとして拒否されるラトゥーラ、困ったように至極真っ当な事を言う。

 

 「投げりゃ良いだろ。そこまで肩弱くなかったよな?」

 

 「あー、もう!ハズレたらアンタのせいにするし!センセーーー!!受けとってぇ!!」

 

 エスパーダの気軽な物言いに地団駄を踏みつつも覚悟を決めて朱色のワンダーライドブックをメギドと戦うセイバーに呼び掛けながら振りかぶって投げる。

 

 

 「ラトゥーラさん?…っ、これは……」

 襲い来る巨大アリメギド達の顎や脚の攻撃を躱しながら何とか投げ渡されたワンダーライドブックをキャッチするセイバー、タイトルは以前テラスで見た"ストームイーグル"。

 

 「あの時のライドブック…」

 

 「使え小説家!んでオレの分まで働け!!」

 

 (((((何でこんなに偉そうなんだろう……)))))

 戸惑うセイバーにエスパーダが発破を掛ける。それを聞いていたティアラ、ロゼッタ、アシュレイ、リネット、カエデが心中で思わず呟く。

 

 「分かった!」

 

 「光明。この一手に賭けてみるのも一興か」

 

 セイバーがストームイーグルの、スラッシュがブレーメンのロックバンドのガードバインディングを開く。

 

 

『ストームイーグル!』

 

 

『ブレーメンのロックバンド!』

 

 

『この大鷲が現れし時、猛烈な竜巻が起こると言い伝えられている…』

 

 

『とある戦いを強いられた動物達が奏でる、勝利の四重奏…』

 

 ライドスペル序文が高らかに読み上げられ、セイバーはストームイーグルをソードライバーのミッドシェルフに。

 スラッシュはブレーメンのロックバンドを錫音のスズネシェルフに装填する。

 

 

『烈火抜刀!』

 

 

『銃奏!銃剣撃弾!』

 

 

『竜・巻!ドラゴンッイーグルゥゥ!』

 

『烈火二冊!』

 

『荒ぶる空の翼竜が獄炎をまとい、あらゆるものを焼き尽くす!』

 

 

『剣で行くぜ!NO!NO!銃でGO!GO!BANG!BANG!音銃剣錫音!』

 

 熱風を伴った竜巻の内より新たなセイバーが生まれる。

 

 激しい重奏の爆音と共にスラッシュの左腕に凄まじい力が宿る。

 

 

 TO BE Continued!!!!

 

 

─ブレイブドラゴン──ストームイーグル─

 

 

─ブレーメンのロックバンド─

 




 今回のなんちゃってTip、刻風勇魚の実家はヤの付く家業。

 天華百剣もとじとももサービス終了悲しいなぁ。
 ラピライ早くリリースしてくれないかなぁ。
 スパロボ30欲しいけど店頭予約にPS4のチケット無いなぁ……。

 また次回お会いしましょう。


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22頁 貴方の力に──。


 こんばんは。9月に入って少しはやる気が戻って来たダグライダーです。

 遂に…遂に、ラピスリライツリリース前事前登録が開始されました!長かった……。当然事前登録しました。
 ウマ娘含め、この為に機種変更したと言っても過言ではない!
 元々プレイしてたアプリ以外はその為に追加してませんし!
 まぁ…天華百剣ととじともサービス終了と言うショッキングな事もありました。未だ天華百剣のアイコン消せない……分かっていても残してしまう…。
 とじともはオフライン版があるだけ救いですが…。

 兎も角、容量は多分、きっと、恐らく、メイビー…問題無い筈です。



 

 ──新たな力を得た先生とセドリックさん、私達はそれをエレンさんと言う盾越しに目撃しました。

 赤き龍が空を駆ける翼を得たのです。

 そして私達がワンダーワールドに巻き込まれている間、外の世界、マームケステルにもメギドの魔の手が迫っていました──

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル近郊━

 

 異界と繋がり、切り離された大地より数メートル離れた人の気が無い平原に現れる()()()()()()

 本の扉を通って青草生い茂る大地に降り立ったのは何かに怯える少女、年の頃は17~8、丈は168と同年代ではそこそこ高い方、艶のある濡羽の鴉色の黒髪はしかし裏側だけ臙脂色に染められている。

 肌は健康的で程好く色白、細身ながらも出る所は出ているスタイルと…此処まで美少女全とした要素を備える彼女のその全てを駄目にしているのは怯えた様な態度と額から目元までを隠した孤面。

 更に彼女の服装はアオザイ、リュックを背負い右手に赤銅と金色のサーベルレイピアと、よりチグハグ差が増している。

 

 「ぅぅ…帰る為…これも帰る為なんや……かんにん…かんにんな…せやけど、うちははよ元の世界に帰りたいんどす」

 ややゆったりとした関西訛りで己に言い聞かせる様にブツブツと呟く彼女は1度、手にした赤銅のレイピアを地に突き刺し、リュックを手前に持ってくると中から幾つかのアルターライドブックを取り出そうとする。

 

 「一日でも早く…帰る為に…」

 

 そうして手にした邪本を開こうとして、しかしすぐ側の異界との境に変化が現れて慌てて剣を手に近場の林に逃げ、隠れ潜む。

 

 「な、なに?!なんなん?!」

 

 飛び込む様に隠れた樹の陰から半身を出して様子を伺えば草原と異界の境界より巨大な蟻が顔を覗かせたではないか。

 

 「ヒッ……虫?!」

 

 自分の倍以上の大きさの蟻を目にして思わず口を押さえて吐き気を耐える。

 少女とて普段目にする程度の大きさであればここまで生理的嫌悪を出しはしなかったが、大きさが大きさ故に仮面の下の瞳は涙が貯まる。

 

 (もういややぁ…!)

 より一層帰りたいと心の中で愚痴る少女。そんな彼女に巨大蟻こと巨大アリメギド"達"は気付かぬまま、マームケステルの街へと侵攻すべくゾロゾロと数を増やしてゆく。

 

 しかし──

 

 

 

『激土乱読撃!ドゴォォォオン!!』

 

 

『翠風速読撃!ニンニン!!』

 

 境界から飛び出たアリメギドの頭を地を割く大剣の断刀と、疾風の双斬が斬り落とす。

 

 「やれやれ何とか間に合ったかね?」

 

 「刻風殿が仰った通りでござりますね、皆様無事でしょうか……にん……」

 

 立つは双璧。陳劉玄"堅陣"剣士バスター、祭風哉慥"風迅"剣士剣斬。

 

 「取り敢えずねぇ、オジさんが此処引き受けるから哉慥はあん中で何が起きてるか確認しに行ってくれるかね?」

 

 「承知。しかし……本当に御一人で?」

 

 「うん?オジさんの実力を疑ってんのかい?悲しいなぁ」

 

 「めめめ、滅相も御座りません!劉玄殿の御力は長より聞き及んでおりますれば!ニン!」

 

 

 

 (うわぁ…!あんなに余裕で話ながら、あのおっきい虫を軽々倒してん……うち、あの人らとも戦わなならへんの…?嫌やぁ、うち帰りたいだけやのに…もう今日はこのまま隠れてやり過ごしたい…てか、そもそも…うちが何かせぇへんでも、街襲われとるし…戻ってもええよね?)

 まるで近所を散歩するノリでメギドを蹴散らしていく2人の剣士の戦い様に戦慄する少女、彼女が持つ剣とて2人が振るうモノと同等以上の剣なのだが、如何せん彼女は戦いとは縁遠い生活の直中に居た為、考えが常に後ろ向きである。

 

 そうこうしている内に緑…翠色の剣士が異界へと飛び込んで行く。後に残るは灰褐色の巨漢が1人。

 未だ増え続ける巨大アリメギドを前に肩を軽く回して彼は言う。

 

 「オジさん護るのは得意なのよ、だからまぁ…お前等ごときには遅れは取らんのよな…!」

 

 轟音が大地を震わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ワンダーワールド━

 

 寂れたハイウェイ、正しくSFのポストアポカリプスの様な世界で、灼熱の嵐が有象無象の巨大アリメギド達を巻き上げ蹴散らしてゆく。

 

 「力が…溢れてくる…!これが相性の良いワンダーライドブック同士の力か!!」

 

 荒ぶる竜巻の目より天へ翔び上がるのは赤き炎の剣士、セイバーこと剱守斗真だ。

 剣士セイバーとなった彼のその姿は何時もの様な赤い龍を右肩に頂いただけのモノでは無い。

 そのソードローブ中央に象られた朱色の猛禽の意匠──胸部【ブレスイーグル】、そして其所から延びる尾羽の前垂【ウインガメイル】背部の【バーミリオンウイング】がセイバーに大空を舞う飛翔能力と竜巻を生み、操る力を与える。

 幻獣の王に荒野を翔る大空の王者が合わさったその姿の名は、仮面ライダーセイバードラゴンイーグル。

 

 「ぜぇぇぇええいっ!」

 

 バーミリオンウイングを広げ、巨大アリメギドを跳ね除ける。

 さらに──

 

 「 Destruction!!果てろ!滅びろ!メギド共ォ!」

 

 激しい絶叫と共に爆音の弾丸が巨大アリメギドを粉々に撃ち砕く。

 

 「ええっ?!」

 

 「伯爵!!?」

 

 「なんかキャラ違くない?!」

 

 「ハッ!面白いじゃないか」

 

 「ふぁ~!!ろっく!とてもろっくです!!わたくしも負けていられません!ろっくんろ~!!」

 

 「 Yeah!そのSession乗った!吐いたからには遅れるな小娘!Rock'n roll!!」

 

 先程まで冷静ながら言葉の節々に熟語を挟むスラッシュ──セドリック・マドワルド三世──が、まるで真逆の感情を激しく打ち出した荒ぶり様で英語混じりにナデシコの提案に乗る。

 錫音の弾丸とギターを通したナデシコの魔法が重なりあうサウンドで巨大アリメギドが近付く隙を与えない。

 激しく銃奏モードの錫音を乱射するスラッシュのシルエットは非対称となっている。

 左肩から腕にかけてのみ変化しており、その左腕部分は錫音に装填されたブレーメンのロックバンドの力を現出しているのだ。

 左肩のスピーカー【ブレーメンボールド】の機能により音を広範囲拡散、または任意方向・物体に対し指向性のリリースをが取れる。

 そして腕から二の腕にかけてブレーメンの動物と各々が担当する楽器を模した装甲【ギグアーム】が命懸けの演奏を奏で変身者の戦闘能力、戦意を上昇・高揚させる。

 恐らく彼の急激なキャラ変…もとい口調の変化はそれが原因である。そもそもの所、このワンダーライドブックの朗読文には以下のように記されているのだ。

 

 ──お菓子の家にて動物たちは、おかしなメロディで熱狂する──

 

 と…。何より、ヘンゼルナッツとグレーテルにもそちらに言及したような文が記されている。

 

 ──迷い込んだその先で聞こえたメロディは、愉快な動物たちへの物語へと導いた──

 

 これらの記述からスラッシュヘンゼルブレーメンと化した影響故、セドリックの急激な変化も致し方無い物と言えなくも無い。

 

 「Go without hesitation!此処は任せろ、貴様は首魁を討て! Hurry up!」

 

 スラッシュがセイバーを促す。地上がメギドに埋め尽くされている以上、空を進む事が出来るセイバーがこれ以上無い適任者だからだ。

 

 「分かりました!生徒達を頼みます!」

 

 「Off course、此方にはいざと言う時の肉盾がある。貴様の方こそ、油断するなよ!」

 

 「肉盾ってのはオレの事かよ!もう少しなんか…こう扱いあんだろ!!」

 

 戦力的に役に立たないエスパーダを顎で指しながらスラッシュは任せろと謳う。

 セイバーはそれを確認しエスパーダの抗議を聞き流しながら、恐らく女王にあたるアリメギドが居るだろう居場所を前額部に追加された【ストームイーグルマスク】を用いて捉える。

 

 「あれか!?何か緑色のも居るみたいだけど……兎に角、倒さないと!」

 見付けたが早く、目にも止まらぬ速さで空を翔る。

 目標まで数メートルの所に差し掛かったセイバー、烈火をソードライバーに納刀しトリガーを二度引く。

 

 

『必殺読破!』

 

『ドラゴン!イーグル!二冊撃!ファ・ファ・ファイヤー!!』

 

 空中で姿勢を変え、目標に向かって蹴りを叩き込む形で突っ込む。

 

 「火龍蹴撃破!

 

 龍の炎と荒鷲の翼が巻き起こす竜巻を纏った飛び蹴りが女王目掛け突き刺さる。

 あまりの衝撃にハイウェイは大きく崩れ、分断される。

 寂れた鉄筋とアスファルトはものの見事に罅割れ、最早ハイウェイはその役目を果たす事は無い。

 赤き剣士が多くの黒蟻と共に落下していく。

 そして肝心の女王(推定)アリメギドはと言えば──

 

 「くっ…!手応えはあった筈なのに…!周りの兵隊を盾にしたのか!!?」

 

 荒野の大地に着地したセイバーが敵の方を見やる。

 ストームイーグルの力を受け強化された火龍蹴撃破──名称を新たに付けるならば火龍蹴撃破・嵐と言った所か──は確かに強力な一撃であった、しかし女王(推定)アリメギドもセイバーの危険性を理解してか慌てて周囲の巨大アリメギドを自らの上に団子の様に重ね難を逃れたのだ。

 そして、その団子状の盾によって身を護ったのは女王(推定)アリメギドだけでは無い。

 

 「シャァァアッ!!

 

 「っ…、さっき見えた緑のっ!?」

 

 既に事切れた巨大アリメギドを跳ね除ける様にしてセイバーへ飛び掛かる緑色の影、それは直翅目の特徴を持った魔人、飛蝗の様にも見える顔の顎下にこれ迄のメギド同様、人間の顔の一部を模した意匠が覗く。

 肩は直翅目の腹を模し、尻部位の様な所から爪が飛び出るデザインとなっている。腹も同様に腹を模した意匠となり、脇辺りより翅の様な装飾品を垂らし、胸部中央には物語を示すメギドのエンブレムが施されている。

 両腕からは直翅目特有の後ろ足を落とし込んだ形のブレードが生えている。

 そのブレードでセイバーを斬り付けようと強襲するが直前に気付いたセイバーがバーミリオンウイングにて翔び上がり、両脚の【ストームソルト】で迎撃し弾く。

 仕留め損ねた魔人は小さく舌打ちしながらもセイバーに向け自らの氏素性を明かす。

 

 「シャッシャッ!俺の名はキリギリスメギド!女王を護る騎士とでも言うべき存在よ!

 

 「成る程…騎士ね…ちょっとした嫌味だな(護衛か…兵隊の巨大アリより厄介そうだな、兎に角隙を見て女王の方を倒さないと!)」

 

 以前遭遇したメギド達と比べ、吟う様に喋るキリギリスメギドを間合いを計りながら会話を交えるセイバー、再び抜いた烈火を卸し手に構えながら機を窺う。

 

 「ククッ…こんな所で時間を喰っていて大丈夫なのか?

 

 「生憎…セドリックさんと…ついでにエレンの事も信じているんでね!あの二人は今の俺よりずっと強い!生徒達の事も守りきってくれるさ!」

 

 「ああ、それについては此方も予想外だった。俺に与えられた命の一つは魔女をワンダーワールドに閉じ込める事だったからな、まさか三人も剣士がついてくるとは思わなかったぞ?だが、俺が言っているのはそう言う事じゃ無い。今頃貴様らが拠点にしている街はどうなっているだろうなぁ?

 

 互いに動きを警戒する中で、キリギリスメギドが嘲笑う様に口火を切る、セイバーはそれに対しスラッシュとエスパーダが側に居る以上、魔女達は安全だと断言し一蹴に伏すが、螽斯の魔人は"ああ、此方はそう言う状況だったな"と言う口振りで嘲りながらしかしもう1つの与えられた目的を暗喩する物言いをする。

 

 「……どう言う意味だ?!」

 

 「気になるか?だがこれ以上は教える義理は無い!精々焦れるが良い!!」 

 

 中々に嫌らしい物言いをする魔人に内心、焦燥感を懐きながらも仲間を信じようと考えるセイバー、そんな彼の元へと一迅の風が新たなる影を運んで来る。

 

 「───ぉ!」

 

 始めは小さな声が…、

 

 「────殿ぉ!!」

 

 近付くに連れ、

 

 「─────真殿ぉ!!」

 

 段々と鮮明に、

 

 「──────斗真殿ぉ!!」

 

 その成形(なりかたち)を伴って、

 

 「斗真殿ぉぉぉぉぉおお!!」

 

 正体が明らかとなる。

 

 「何っ!?新手だと?!

 

 「何だ…?あれは…哉慥…少年!?」

 

 キリギリスメギド、セイバー双方共に声の主を探して視線を巡らせれば荒廃した空にはあまりに不釣合な存在が此方に向かって流れて来るのだ。

 それはキリギリスメギドと違い綺麗な翡翠の如き緑色をした軽装の仮面の剣士。

 

 風の剣士剣斬が、いつぞやの温室での事件の際に、使用していた凧を小器用に操る姿であった。

 凧はセイバー達が対峙する地点やや手前まで来ると、操具より剣斬が手を離し、重力に任せて落下、クルクルと回転し着地を成功させた。

 かなりの高さであったこの戦場を、ソードローブを纏っているとは言え、易々と着地し、あまつさえ平然としている剣斬はそのまま翠風を腰より抜き、魔人に最大限の剣気を飛ばしながらセイバーの隣に立つ。

 

 「ご無事でしたか斗真殿」

 

 「少年…どうして此処に?」

 

 「実は…刻風殿が拙者と劉玄殿に敵が現れた事を報せてくださったのです。そして街の外へと出て見れば…!なんと驚く事に巨大な蟲けらの大群が押し寄せて来るではありませぬか!?それを拙者と劉玄殿で討ち取っていたのですが、劉玄殿が拙者に斗真殿達の様子を見てくる様に申したのです。拙者、些か迷い申しましたが、劉玄殿を信じこの場に参った次第」

 

 セイバーからの質問に剣斬は軽く会釈気味に顔を動かしながら語り始める。

 

 「道中、何やら普段と様子の違うせどりっく殿とぎた~を手に激しく勇むナデシコ殿、えれん殿を盾にしながら矢を射るツバキ殿や式で撹乱するカエデ殿、何か出来る事は無いかと地に転がる礫を投げるあしゅれい殿やろぜった殿、らう"ぃ殿。てぃあら殿はらとぅ~ら殿と共に皆を鼓舞しておりました。るきふぇる殿は寛いでおりましたが……。拙者、最初は其方に助太刀しようかと思いましたがせどりっく殿が流暢な南蛮語……いえ英語でしたか?意味は良く分からなんだですが、雰囲気から斗真殿の方へ行けと仰っておりましたので馳せ参じた次第でござります」

 

 「な、成る程…経緯は理解したけど……陳さん一人にして本当に大丈夫だったの?」

 

 「拙者もそう思い申しましたが、劉玄殿は現役最古参にして籠城戦、防衛戦にかけては一騎当千の猛者なりますれば、巨体ばかりの有象無象には遅れは取りませぬ。本人が豪語した以上、未熟な拙者は従うまでです」

 

 と剣斬が語り終える。するとそれを黙って聴いていた魔人は肩を揺らして笑い出す。

 

 「ふっ…何をほざくかと思えば。いくら剣士と言えどあの数のアリメギド相手に一人で持ちこたえられる筈が無いだろう!?風の剣士、判断を見誤ったな!まぁ安心しろ。直ぐに貴様らも後を追わせてやるよ!!さぁ!奴らを蹂躙するのだアリメギド達!

 状況から自らの勝利を疑う事の無い魔人の嘲笑、しかしそれを聴いても剣斬は怒りに乱される事は無い。

 

 「ふむ?先程より気になってはいたのですが…達とは?この場には拙者と斗真殿、そして貴様と先の折から踞ったまま動かぬ巨大蟻が居るだけだぞ?」

 寧ろ冷静に魔人へ指摘を返す。

 

 「な…に…?ははっ、何を馬鹿な…!

 言われ、その発言を一蹴に伏しようとするも振り返り背後を見れば、剣斬が言う通り女王アリメギドは一切の動きを見せない…どころか、兵隊アリメギドを生み出す事すらしない。

 

 「何故だ?!本物の女王がやられたのかっ?!!

 

 「本物…?」

 

 キリギリスメギドが慄く、彼の言う本物の女王とは、マームケステル侵攻に駆り出た巨大アリメギドを率いていた女王アリメギドである。

 そしてキリギリスメギドが護衛していたのは影武者、女王が健在であれば影武者も胸の本の意匠を通じて兵隊アリメギドを増産する事が出来る、しかしその女王が討たれればそれも不可能。

 そもそも増産能力は本来"()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()"によって得られるモノだ、しかしそれを補う為に女王アリメギドには彼等を生み出した青年から大量の人間の魂を取り込んだブランクライドブックを糧として擬似的にその能力を再現した。

 では、その女王アリメギドを誰が討ち果たしたのかと言えば───

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル城壁前━

 

 「ふぅ~、ちょっと疲れたけど…まぁ一人でやるならこんなもんかね?斗真ちゃん達は大丈夫かねぇ。ま、哉慥を向かわせたし、セドリックの奴も居るし無事ではあるだろうね」

 

 戦闘によって砕け、競り上げた大地に腰掛け土豪剣激土を肩に担ぎ、空を仰ぎながら呟く陳劉玄。

 彼の背後には塵となって消えてゆく大量の巨大アリメギドの姿があった、無論その中にはキリギリスメギドが言う本物の女王アリメギドも含まれている。

 目下、この中年の悩みは仲間の安否よりも…激しく荒れた草原をどう片付けるかにあった。

 

 「あー……ティアラ王女辺りに頼むかなぁ。取り敢えずクロエちゃんに報告しないとなぁ」

 

 鉄壁の堅陣は無傷でマームケステルを守り通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ワンダーワールド━

 

 「ふむ…敵の慌てようを視るに、どうやらこれ以上蟻のめぎどが増える事は無いようです。劉玄殿が全て倒した様ですな」

 

 「そうか…流石は陳さん。と言う事はセドリックさん達の方も」

 

 「ニン!ご無事であるかと。しかし兵隊と女王が消えても影武者はまだ残っております。螽斯の方も何を仕出かすか分かりませぬぞ」

 

 敵の一挙手一投足に警戒しながら外の状況を推移する剣斬とセイバー。

 対し、キリギリスメギドは一頻り地団駄を踏み頭を抱えた後、後ろで沈黙する影武者女王アリメギドが消滅してゆく──実の所、あの時のセイバーの一撃は影武者にも致命打を与えていたのだ──を見て、次にセイバー達の方を見やる。

 

 果たして魔人が取った行動は──

 

 「クソがっ!やってやれるか!

 

 「なっ!?」

 

 「むむっ!?」

 

 逃亡であった。これにはセイバー、剣斬双方とも面を喰らう。

 物語カテゴリーでありながらバッタ目に見られる特徴である跳躍能力と飛行能力を生かしてどんどんと逃げてゆくキリギリスメギド、既にハイウェイに飛び上がり高架の上を跳躍を繰返しどんどんセイバー達から離れてゆく。

 

 「逃がすか!」

 バーミリオンウイングを開き、セイバーも高架に戻る。

 同時に空白となっているソードライバーのレフトシェルフにディアゴスピーディーワンダーライドブックを装填し烈火を引き抜く。

 

 

『発車爆走!』

 

 発車爆走のライドスペルと共にワンダーライドブックが鋼鉄の騎馬へと変形してゆく。

 召喚されたマシンディアゴスピーディー、セイバーは即座に跨がるとアクセルを全快にしてキリギリスメギドを追走する。

 

 「待てぇぇえ!!」

 

 「ちぃっ!追ってくるか、しつこい奴め…待てと言われて待つ馬鹿はいない!

 

 後ろから猛スピードで追い付いて来るセイバーの声に返しながら必死に逃げる魔人。しかし最早差は幾ばくも無い。

 

 「これで…!」

 

 

『必殺読破!!』

 

『ドラゴン!イーグル!二冊斬り!ファ・ファ・ファイヤー!!』

 

 残った僅かな距離をディアゴスピーディーから翔び飛行して肉薄するセイバーはそのまま必殺の一太刀を発動する。

 

  「火炎っ竜巻斬!!

 

 炎の竜巻を纏った剣を横薙ぎに振るう。普段の炎のみの斬撃よりも広い範囲の一閃にキリギリスメギドは躱す事が叶わない。

 

 「《font:262》くっ…クソォォオオ!!ギャァァァアアア!!?」

 

 断末魔が炎に呑み込まれ魔人は塵も残さず消滅する。

 そして原因となる魔人が全て倒れた事により、ワンダーワールドは元の世界に姿を戻してゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル城壁前・平原━

 

 「おっ?どうやら無事倒したようだね」

 異界が消える様を外から見ていた劉玄が笑いながら言う。

 彼の目の前には異界に取り込まれていた剣士と魔女達が現れる。

 

 「よっ!おかえり。元気そうで何より……ん?どうした?」

 戻って来た者達へ労いの声を掛ける劉玄、しかしセドリックが沈んだ顔をしているのを見て訝しむ。

 

 「猛省、羞恥、黒歴史……この本は出来れば二度と使いたくない」

 

 「まぁまぁ…」

 

 「そのお陰で私たちも助かりましたし」

 

 落ち込む彼をリネットとロゼッタが必死に宥める。

 

 「あれは衝撃的だったぜ…」

 

 「マドワルド卿には悪いが私も暫く忘れられそうに無い」

 

 「恥ずかしいだなんてとんでもありません!とってもろっくでございました!」

 

 「お姉ちゃんそれは逆効果です…」

 

 「寧ろトドメを刺しちゃってるわねぇ」

 

 それを外目にラヴィ、アシュレイがヘンゼルブレーメン時の衝撃が脳裏に焼き付いて離れず、ナデシコは落ち込むセドリックへ追い討ちの様に興奮冷め止まぬまま褒め言葉を贈るが、それが余計に彼を塞ぎ込ませる。

 カエデとツバキはそんな彼女に片や呆れ、片や苦笑する。

 

 「まぁ…あれはしょうがない。オレからしても意外だった」

 

 「拙者、経緯はよく解らぬのですが…ナデシコ殿が喜んでいるのは喜ばしい事でござる!」

 

 「サイゾーくんて取りあえずウチらの言うこと全肯定するよね」

 

 「うん、何だか詐欺とかにも騙されそう」

 

 「そもそもあの小僧は既に多分に身内から騙されいるがな」

 変身を解除して大地に寝そべるエレンが主張するのに続き、哉慥がナデシコの発言に好色を示す。

 そんな哉慥を見てラトゥーラとティアラが、この男の子は純粋過ぎて果たして大丈夫なのかと不安に思い始める。

 そこへ哉慥がエレンや勇魚に遊ばれている事を知るルキフェルがボソッと溢す。

 

 其処へ斗真がディアゴスピーディーを回収しつつ近寄って来る。

 

 「あ…先生」

 

 「やぁ、みんな傷一つ無く無事で何よりだ。良かったよ」

 

 「"良かったよ。"じゃねぇよ!こっち見ろや!オレが無事じゃねぇ!」

 

 「ハイハイ、あんたは少し黙ってるし…っ!「ゲボァッ?!」……よし。じゃあティアラ、頑張るし」

 

 寝そべって動けないエレンにエルボーを噛ましてズリズリと引き摺って行くと、去り際ティアラに耳打ちしていく。

 

 「ラトゥーラ!?」

 

 「ティアラちゃん?どうしたんだい?」

 

 「あっ、えっと……先生!」

 

 「はい?!」

 

 「何か悩んでいるのなら教えてください!私達は先生より子供かもしれないけど……力になりたいんです!だから一人で抱え込まないで下さい!私達に出来る事は少ないかもしれないけれど、私にはそれしか思い浮かばなかったから……」

 段々と言葉尻がしどろもどろと化し尻すぼみになる。そんな彼女を見て斗真何だか少し可笑しくなって思わず噴き出してしまう。

 

 「っ…ぷっ、あはは!…はぁ…そうか俺はそんなに落ち込んで見えたんだね。ああ…君達にそんな心配をさせるなんて……俺は教師失格だなぁ」

 

 「そんな事ありません!」

 「そーだよ!せんせーは良くやってるぞ!」

 「お前は何様だ!……コホン。兎も角教官は決して教師失格などではありません」

 「みんなの言う通りです、先生。特別クラスはみんな先生の事を慕ってますよ」

 

 「先生はとてもろっくな生き様をしております!」

 「私も先生くんの事は妹達の次にサイゾウくんと同じくらい好きよ?」

 「私もです!それでその……もし良かったらお兄ちゃんって呼んでも良いでしょうか?」

 

 「サキュバスのお嬢はまだデレって無いけどな」

 「あんたはイチイチ茶々を入れない!ま、ウチも先生の事気に入ってるし。ここには居ないけどシャンペもメアも先生の事結構慕ってるし。多分何だかんだエミリア達も先生を憎からず思ってるじゃない?」

 

 「ワタシとしても数少ないオアシスが無くなるのは遠慮したい。アンジェリカは知らん」

 

 斗真の自嘲にリネットが声を荒げて反論したのを皮切りにラヴィ、アシュレイ、ロゼッタが次々と言葉を重ねる。

 更にはヤマト三姉妹が続き、痛みから復帰したエレンに再び鋭角突きを決めながらラトゥーラがユニットメンバーの分も代弁しつつIV KLOREの面々もきっと同じ気持ちになっているんじゃないかと語る。

 最後にルキフェルがこれからも部屋に入り浸る事を宣言しながら相方の気持ちは無視する。

 

 「言われちゃったねぇ斗真ちゃん。オジさんとしてもさ、悩むのは悪い事じゃ無いけど、誰かに話せたらきっと楽になると思うよ?あ、後ね、うちの御姫さんも斗真ちゃんの事何だかんだ気に入ってるからさ、これからも学院に残って仲良くしてやってよ」

 

 劉玄がニヤニヤ笑いながら斗真の肩を叩き、一転優しい顔で諭す様に語り、ついでとばかりにユエの事も話題に出す。

 

 「痛っっぅ…クソ、思い切りやりやがって……いいのが入っちまったじゃねえか……。ゲホッ…、あー、アレだ。お前が居ねぇと真面目ちゃんがうるさいからな。それと…ほらアレだよアレ、フィオナの奴から追われた時の隠れ家とか身代わりとかでもお前は重要なんだよ」

 

 エレンが再び痛みより復帰しながらどこか気恥ずかしいそうに頬を搔きながら彼なりの理由をアルマやフィオナを出汁に語る。

 

 「小娘共に同意するつもりはないが…小生としても手前を失うのは可惜(あたら)と感じている。と言うか手前が抜けると小娘達は色々危なっかしい事この上無い、何より黄雷なり翠風なり界時なり、月闇候補など問題児の割合が増える。そうなれば蛙鳴蝉噪、小生の平穏が遠退く」

 

 セドリックが気を持ち直して斗真に彼なりの発破を掛ける。

 

 「みんな……。ありがとうございます。そうだね、ティアラちゃんの言う通り、お言葉に甘えようかな?」

 

 「…じゃあ!」

 

 「でもまずは街に帰ろうか、色々あって今日は何だか何時もより疲れたし」

 

 「ま、小説家はワンダーコンボ使ったしな同系統の」

 

 「そうだねぇ、斗真ちゃんもお嬢ちゃん達も疲れただろうし、クロエちゃんへの報告もあるし帰ろ帰ろ」

 

 「はーい!」

 

 皆の言葉に心の蟠りがほんの少し解れた斗真、その目尻は僅かに光っている様に見えた。

 その斗真が疲れを口にしたので、エレンがドラゴンイーグルが原因だと補則する。

 そして怒涛の1日に皆疲労があるだろうと劉玄が締める。

 最後はラヴィの割りと元気な返事が木霊した。

 

 

 TO BE Continued

 





 リバイスってバイスタンプのゲノム云々の設定はアサルトリリィと相性良さそうだなぁとか思いました。
 まぁ設定とかストーリーとか始まったばかりだから…流石に直ぐに書く人は居ないでしょうが…誰か書いてくれないかなぁとか思ってます。前述の理由からラスバレプレイしてないのですがね!

 あ、某百合の間に──読んでます。面白いですね!

 ガーネットですがエスパーダの章からの出番ですので今暫くお待ち下さい。
 ではまた次回お会いしましょう。


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23頁 教えていさなお兄さん。準備号

 おはこんばんは。

 ヒシアケボノデカ過ぎ!?!
 はい。回したら出ました。その勢いで書ききりましたダグライダーです。

 今回はそろそろ作中のキャラにもそれなりの情報をと思い書いた回という次第でございます。
 プロット切ってる途中、あ、これ長くなっちゃうわ。と思い別けました。
 一応幾つかカットしたんですけどね



 ──聖剣とは、仮面の剣士とは何なのか……。何時かの戦いより日々が過ぎ私達は改めて、その疑問を懐く事となりました。

 そして私達は先生と共に、その謎を調べる事となり…結果、イサナさん主導の元、数人が彼の主催した講習会…と言う名の暇潰しに付き合わされるのでした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・薬学実技室━

 

 今日も今日とて少女達は立派な魔女になる為に、己が必須と思う授業を選択し、学ぶ事で成長してゆく。

 そんな少女達のその中で、一際班員の数が多い一角がある。

 それは悪名名高き…とまでは言わないまでも、問題児の巣窟として遺憾ながら名を馳せる特別クラスに属する者達。

 魔法の薬品を生成する授業に於いて集中力を擁さねばならない状況で、班員の1人、ロップイヤーの兎を思わせる金髪のツイテールの少女が思い出したかの様にいきなり言葉を洩らした。

 

 「ケッキョクさ~、聖剣とか仮面の剣士ってなんなのさ?」

 金髪の少女──ラヴィがそのツイテールと豊満な胸部を躍動させながら頭上のクエスチョンマークと共に首を傾げる。その両手に鮮やかな色の液体が入った薬瓶を持って。

 

 「おいバカ集中しろ!?授業中なんだぞ!!」

 そんな彼女の行動を目撃するや否や、机を挟んだ対面に立つ純紫のポニーテールを持つメンバー随一の身長の少女が手を伸ばそうとするも、一足遅く。

 薬品は机に置かれたガラス薬器の中へと落ちて混ざり合い、急激にポコポコと音を立てて色を変色させたかと思えば、終いにはボンッ!と言う音と共に小さな爆発を起こした。

 

 「そこの班~!散らかした分はしっかり片付けてくださーい!」

 

 教師の対応も慣れたモノ、常々何かしら問題を起こしている班なので、最早対応も雑と紙一重である。

 

 「あぁ…トーマ先生の授業分で補填出来てた点数が……」

 

 「ぷ、プラスに考えよう!?爆発が小規模で良かったとか!壊れたのが実験器具で済んだとか!!」

 

 「そ、そうですよね!?前だったらもっと爆発は大きかったですし、教室の窓なんかも割っちゃってましたし!その頃と比べたら大きな前進ですよね?!」

 

 ストレス性頭痛に手を当てるロゼッタをティアラとリネットが頑張ってフォローする。正直、励ましになっていないが、ご愛嬌というものだ。

 因みに同じ様な失敗をした経験はシュガーポケッツにもあるが器具破壊までは至らなかった。

 ともあれ失敗した罪悪感があるのか、ラヴィが申し訳なさそうに合掌して謝罪を示す。

 

 「ごめんってロゼちゃ~ん。でも気になってさぁ~」

 

 「はぁ…。反省してるなら良いけど……、でもまた随分急ね」

 

 「きゅーじゃないよ!この間のアリンコの時から、なんか気になってモヤモヤしてたんだい!」

 

 「それって割りと最近なのでは?」

 

 ロゼッタの言葉に反論した結果、リネットから指摘が飛んできた。

 

 「まぁ、このバカの肩を持つ訳では無いが……私も気にはなっていたな」

 

 「おぉ!アシュレイもそう思ってたのかー!って…誰がバカだーーー!!」

 

 「落ち着いてラヴィ、でもそう言う事ならこの授業が終わったら、先生にみんなで訊いてみる?」

 

 アシュレイの賛同を得られた事に喜び、しかしバカ呼ばわりにプンスカと腹を立てるラヴィと言う何時もの光景を、苦笑しつつも宥めながらティアラが班の皆に提案する。

 

 「そうね、最近は魔獣だけでなく、あのメギドとか言う魔人とも遭遇する事が多くなったし、それ等に対する為にも……その対抗手段である仮面の剣士の事を訊いてみる価値はあるわね」

 

 「私も、あの本…ワンダーライドブックには以前から興味があったので賛成です!」

 ロゼッタの理性的かつ有利的な言い分の後に続くリネットの本能的かつ私欲的な理由での賛成に、皆が彼女らしいなと往々に反応する。

 

 「ならば片付けを終えたら早速教官に訊きに行ってみるか」

 何だかんだアシュレイも乗り気であった。

 

 その後、授業で出した損失分の減点評価を貰った彼女達は、肩を項垂れつつも、剣士とは何かという目的に懸けて斗真が居るで在ろう職員寮へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━職員寮・斗真の部屋━ 

 

 「コール」

 

 『フルハウス』

 

 「フッ…勝った。ストレートフラッシュ」

 

 本に囲まれた部屋にて、寝具の直ぐ近くに配された執務机の上に置かれた謎の箱、それと対面するように椅子に座り配られた札を見て自信満々に宣言するのは斗真が受持つ特別クラスの生徒、"Sadistic★Candy"のルキフェル。

 彼女は相も変わらず勝手に部屋に入り浸っては謎のゲームに興じている。

 今遊んでいるのはマジックカードゲームと言う物らしい、UNOから始まり、古今東西のカードゲームをクリアして現在はトランプのポーカー…それもテキサスホールデムをプレイしている。

 

 「えぇと……エレン居ないよ?」

 

 机を占拠され、やむ無くソファの方に腰掛けて筆を走らせる斗真が彼女へ互いの悪友が不在であると述べる。

 

 「別にアイツが居るからワタシも入り浸る訳では無い。先生はワタシのゲームの邪魔はしないだろう?」

 

 「まぁ…ルキフェルさんは俺の授業課題を毎回提出してくれるし……。でも他の先生の授業も出ようね?」

 

 「フッ、前向きに検討しておいてやろう」

 

 (あ、これは駄目だな)

 

 口では検討すると宣うが、態度は一向に変わらないルキフェルに斗真は半ば諦観に耽る。

 

 「で、何で自分の部屋か部室でやらないんだい?」

 

 「最近はアンジェリカが授業を受けろと煩い。まぁアイツはどうとでもなるが…セドリックがいるからな、この間の事で弱味を握ったが、追い詰め過ぎるとワタシが危ない」

 

 「へー、そうなんだ。(この子はどうにも謎が多いなぁ)」

 

 イマイチ関係性が掴み切れないルキフェルとセドリックの関係に思考を耽けながら、この世界の本を片手にメモ帳へと筆を走らせていると上の扉がバタンと開く。

 

 「せんせーいるー?」

 

 「ラヴィさん!?せめてノックしましょう!!?」

 

 現れたのは何時もの5人組。こちらも相も変わらずラヴィが先頭に立ち、何時ものようにノータイム入室、それを窘める残り4人の内の誰かという図式が出来上がっている。

 今回はリネットだった様だ。さておき、ラヴィは勝手知ったる担当教諭の部屋、梯子を滑るように降りて斗真の元へとやって来た。

 

 「ラヴィちゃん、今日はどうしたの?」

 

 最早斗真も慣れたモノで注意換気よりも彼女が此処に来た要件を真っ先に訊ねる。

 

 「先生たちが変身してる仮面の剣士あるじゃん、あれとか聖剣ってなんなの?」

 

 「え?いやごめん、ちょっと意味が判らないな…」

 前後の脈絡が無いノータイム質問に困惑を隠せない斗真。頭の上でクエスチョンマークが輪舞していて返答に詰まる。

 

 「このスカポンタン!お前はもうちょっと脈絡なり情緒なり気にしろ!」

 ラヴィを追い、テラスから梯子を使わず直接飛び降りたアシュレイがラヴィの後頭部に手刀を叩き付ける。

 

 「ぃったぁあっ!何さ!回りくどい話を長々するより早くて良いじゃんか!」

 

 「だとしても社交辞令というモノがあるだろう!」

 

 フィジカルコンビの何時もの喧嘩を呆れながら素通りして、ロゼッタが前に出て代わりに質問を投げ掛ける。

 

 「ごめんなさい先生、ラヴィがいきなり。あの娘が言いたかったのはお伽噺の仮面の剣士…先生達が使っている聖剣の起源と言うか正体が何なのかと言う事でして」

 

 「それは…成る程、でも君達が揃って来たって事は、全員が同じ疑問を懐いてるって事かな?」

 

 「ええ、はい。正直に言えば私も…他のみんなも気になっています、聖剣の事も、先生や他の方が変身した仮面の剣士の事も、あのメギドと言う魔人の事も。なので先生さえ構わなければ、教えて頂けたら幸いです」

 

 「うん、ありがとうロゼッタさん。ただ……残念だけど俺も聖剣や剣士、メギドの事については説明出来る程詳しく無いんだ」

 

 「そうなんですか!?」

 「そっかー、先生も知んないのかー」

 「どうする?」

 「あてが外れてしまいましたね」

 「先生が無理となると後は……アルマさん、エレンさん、サイゾウくん、ラウシェンさん、セドリックさんだけど…この中で今居場所がハッキリしてるのはサイゾウくんだけだね、そっちに訊いてみる?」

 

 「なら俺も付き合うよ、聖剣や剣士については俺も前から詳しく聞きたかったしね」

 言って、梯子を登り始めたラヴィのスカートから視線をそらしつつ彼女等に同行を申し出た。出たのだが、そこで机でゲームに興じていたルキフェルから声が掛かる。

 

 「そんな面倒な手間をかけずとも、呼べば来るだろう?」

 

 「「「「「「あっ…!」」」」」」

 

 そう哉慥は呼べば来る。何時、何処に、戦闘中以外であれば、どの様な場合と場所であっても学院の敷地内であれば必ず現れる。理屈など無い、何故ならばそれが忍者だからだ。

 

 「よし!なら呼んじゃえ!すぅ……テンゾーくーーーん!!

 

 「哉慥でござるよらう"ぃ殿ぉ~!?」

 

 足で器用に梯子に掴まり哉慥を呼ぶラヴィ、相変わらず彼の名前を間違える。

 そしてそれを当人が現れ訂正する。お約束である。

 

 「ふん、今日は床からか。大概天井からのパターンだったが、流石にバリエーションを増やしたか」

 

 そんな事を頬杖付きながら誰にとも無く説明するルキフェル。

 

 それから───

 

 

 

 

 

 

 

 「──なる程、聖剣と仮面の剣士、ついでにめぎどについて知りたいと……。ですがお恥ずかしながら拙者もあまり詳細は存じませぬ。先代の方々よりの使命であるだとか、世界を守る為…と言う事くらいしか……、ですが!劉玄殿かせどりっく殿辺りに訊けば解るかと!」

 

 「そうか、なら訊いてみよう。あ、でも彼女達が居場所が判らないと言っていたから…どうするか………」

 

 「何も悩む必要は無いだろう。サイゾウと同じで呼べば良い、まぁコイツと違い道具は要るがな。ちょうど二人居るんだそれぞれに連絡を取れば良いだろう」

 又してもルキフェルが口を挟む、その物言いの意図に一瞬固まって何の事だか考える2人。ティアラ達は何の事だか全く分からないのか、揃って首を傾げている。

 

 「ん?おい、まさか分からないのか?あるだろうガトライクフォンとか言うのが。先生のは少し違うんだったか?」

 

 「あ、あー。そう言えば通話して居場所なり予定なりを訊けば良いのか!」

 理解するが早く、スマホを取り出し登録された一覧から陳劉玄の名をタップする斗真。

 対し哉慥はガトライクフォンを両手に持ちながらアワアワしている。

 

 「どうしたのサイゾウくん、連絡しないのかしら?」

 

 「ろ、ろぜった殿……その、そのですね?拙者、カラクリの類いが苦手でして……その、お恥ずかしながら…斗真殿より長くこの地に居ながら…この"がとらいくふぉん"なるカラクリ文を使いこなせないのでござりますぅ~!」

 ロゼッタに問われ、最初はいそいそと、最後には涙眼になって縋りつく少年忍者。

 その中性的な容姿に涙眼のあざとい破壊力に()()()()()()()()()()()()()()()()も思わずキュンと来てしまう。

 

 「そ、そうなのね。でも私もそれの使い方は解らないから……」

 「ええい!まどろっこしい!手間の掛かる!貸せ!」

 しかし生憎と、この手の最新鋭科学製品に縁の無いこの世界の住人であるロゼッタにはガトライクフォンの操作など解るはずも無く、それは他の班員も同じでロゼッタの助力を乞う視線に全員が首を横に振る。

 そんな彼女達と哉慥のグダグダに見かねたルキフェルが、彼の手からガトライクフォンを奪い取る。

 

 「こんなもんは要はマジックアイテムを扱うのと変わらん!先生が巨漢のオッサンに連絡を取るなら、こっちはセドリックの奴だ」

 慣れている様で慣れていない絶妙な手付きで電話帳からセドリックの名を見付けて電話を掛けるルキフェル、後ろで涙眼の哉慥が感動している。

 

 結果──

 

 「駄目だったでござる」

 「こっちも…。陳さん今リュウトだって」

 

 連絡を取った2人は現在学院に居らず、劉玄はリュウトに。

 セドリックは地球で言う所の南アメリカ大陸にあたる場に外征している。

 アテが外れ途方に暮れる斗真と右往左往する哉慥、其所へ新たに扉が開かれ軟派な声の闖入者が軽快な挨拶と共に現れる。

 

 「ちゃす!ちっす!おいーっす!みんな大好き刻風さんちの勇魚くんの登場ッスよ~♪」

 

 「刻風…!?」

 

 「刻風殿!!」

 

 「ダレだっけ?」

 「む…確か…トキカゼ殿だったか?」

 「はい、イサナさんですね」

 「ここ最近学院内で見かける事が多くなってたわよね」

 「普段何してるんだろう?」

 「ハン、ちょうど良かったじゃないか」

 

 現れた勇魚に斗真と哉慥が驚く傍ら、生徒達は各々にリアクションを取る。

 

 「どもッス、斗真どんに哉ちゃん!勇魚ッスよウサギちゃん。ッスッス、でも下の名前で呼んでくれて良いッスよレイちゃん。んでリッちゃんも相変わらず素晴らしいメガロポリスでスね!いや~学院の中楽しいッスよロゼちゃん。んでティアちゃん、普段は暇してまス♪テヘペロ。んでんでルキちゃ~ん、ちょうど良いって何なんッスかぁ~?」

 捲し立てるかの如く各人に返事を返す勇魚。

 

 「実は──」

 

 これまでの経緯を少女達を交えて説明する斗真。会話の最中もニコニコ顔で相槌を打ちながら聞く勇魚、ちょくちょくセクハラを試みるも哉慥の妨害に逢い、段々と会話そっちのけになっていく。

 

 

  

 「と言う事で、刻風…頼めるかい?って聞いてる?」

 

 「んふ、大丈夫聞こえってまス、オケオケ。勇魚センセ~にお任せあれッス♪でもそう言う事なら広い場所が良いッスね、後、もうちょい人数ふやしましょ?」

 言うや否や勇魚は懐より自分のガトライクフォンを取り出し電話を掛け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・漫画研究部部室━

 

 「お前さぁ、毎度毎度〆切ギリギリまで原稿進まねぇのなんとかなんねぇのかよ?」

 漫研の部室でカリカリカリと足高な音を立てる2人の人物、その内の1人…男性、頭頂部だけが茶黒く染まった金髪に褐色肌、ハイライトの死んだ瞳を持つ雷の剣士エレンがぶつくさと呟く。

 

 「うっさいし!だから手伝ってってたのんだんじゃん!」

 もう1人、此方は綺麗な絹の様な金髪に、健康的な褐色肌の活発な印象のある少女ラトゥーラ。エレンの護衛対象である。

 

 彼と彼女は今現在、ラトゥーラの趣味の1つである漫画活動(同人)の〆切に追われている。

 

 「で、チビっこコンビがグロッキーしてんのは連日の作業で燃え尽きた…つーこったろ。ったく本当によぉ、毎回最後にオレに泣きつくなら最初から呼べよ!」

 

 「…だってなんか負けた気になるじゃん、それに恥ずかしいし…

 

 「あん?何だって?!」

 

 「何でもないしっ!!」

 

 当人同士がどうかは別として、傍目から見たら兄妹の様に睦まじい会話を繰り広げるフィレンツァの2人、ラトゥーラから最後の原稿を受け取り背景を描き上げ墨入れを終えたエレン。

 

 《Gatlin♪Gatlin♪》

 ちょうどその時、エレンのガトライクフォンが鳴る。

 画面の通知は"ペテン師"と出ている。

 

 「あ゛ぁ?野郎…なんちゅう間の悪さ……いや、アイツのこったからむしろ確信犯か?」

 

 正直、出たくは無い。しかしこの場にはラトゥーラやノックダウン中とは言え、シャンペとメアリーベリーも居る。

 護衛対象の個人的趣味を手伝って泥のように眠る小さな少女達を起こさぬ様にと、とても遺憾ではあるが通話のアイコンをタップする。

 

 「テメェ、こなクソ。何の用だ?空気読めボケ」

 

 『あらら?機嫌悪い?でも別に狙ってやった訳じゃないんで怒っちゃや~よッス。で、用件なんでスけど、簡単に言うと斗真どんと剣士に関わった生徒さんに聖剣と剣士と、ついでにメギドの説明を講義するんッスけど……ララちゃん一緒に居ます?』

 

 「ほー、言い出しっぺは金髪ウサギか。はぁ…メンドクセ……」

 言いながらラトゥーラに視線を寄越せばちょうど視線がかち合う。

 

 「?…なんだし?」

 

 「お前さ、オレが変身した姿の事を知りたがってたよな?」

 

 「うん、まだ話して貰ってないけど…話す気になったワケ?」

 

 「オレが話すんじゃなくオレらの関係者が講義つー形で説明会みたいなモンをこれから開くってよ、んでお前が居るか訊かれたんだが……参加するか?」

 

 「はっ?!マジで!行くし!作業も終わったし、ちょうど良いじゃん!もちあんたも行くんでしょ?」

 

 「出来ればブッチしたいが、お前だけ行かせるのも心配だしな…(小説家と忍者だけじゃ丸め込まれそうだしな)」

 

 「あはっ♪何だかんだちゃんと仕事してんじゃん。メア達はどうする?」

 

 「ほっとけ、只でさえチビ1号は徹夜で発明してたのお前に引き込まれてるわ、チビ2号はキャバ部帰りを引っ張ってこられて修羅場付き合わされたんだ寝かせといてやれよ」

 

 「うん、それは……ゴメン。ウチもちょっとテンパってた」

 申し訳なさそうに謝罪を述べながら、額の冷却シートと執筆作業用眼鏡を外して出立の準備に取り掛かる。

 すると、物音に気付いたのかシャンペが眼を擦りながら起き上がる。

 

 「…んにゅ、ラトゥーラ…エレエレ…どこか行くの?」

 

 つられてメアリーベリーも眼を醒ます。

 

 「…ぅぁ…『…トイレか…( ・д⊂ヽ゛?』」

 

 「ちょっとね、呼ばれたから」

 「エレエレ言うな。あ、そう言うけどやぁ…けどなぁ」

 2人してチビっコンビ(エレン命名)に他愛ない返事を返す、その中でエレンが思い出した様な声を出して、しかし言うべきかと悩み始める。

 

 「ちょっと、どうしたし?行くよ?」

 

 「ちょい待ち。おいチビ1ご……あー、メアリーベリー、お前さ、見たよな?小説家とか真面目ちゃんとかオッサンが……変わる所」

 ラトゥーラに呼掛けに応じず、メアリーベリーに近付き、なるべくシャンペには聴こえない様に耳打ちするするエレン。

 言われたメアリーベリーは眠気に満ちた頭で薄らぼんやり思考し記憶を振り返る。

 

 「むにゃ…先生たちの……あっ!『それってガラクタ市とか森の時に先生達が変身した仮面の剣士の事か!!(/ロ゜)/』」

  「あ、おい!声が大きい!?」

 憐れ眠気故の迂闊さを甘く見たエレン、メアリーベリーの…と言うよりベリーボードの声の大きさは、折角声を潜めての会話を水泡に帰した。

 

 「へんしん?先生達が?何のことなの?」

 

 「あー……終わった。いやもう良いか、今更一人が二人、二人が三人になったとこで面倒は変わんねぇか」

 シャンペの言及に天を仰ぐエレン、傍のメアリーベリーのボードにも『あちゃー(ノД`)』と表示され、彼女が完全に覚醒し己の失態を察した事が判る。

 

 「あ…あ…の…ごめん…なさい…『ワザとじゃないんだよぉ…(;ω;`)』」

 当人は今にも泣きそうになり、ボードは既に泣いている。

 

 「ちょっと!メアを虐めて泣かせんなし!」

 

 「虐めてねぇよ!それと怒っちゃいねぇ。兎に角お前ら、全員纏めて付いて来い!」

 説明が面倒になって諸々を勇魚の講義に丸投げする事にしたエレンはシュガーポケッツ全員を連れて行く方へシフトした。有無を言わさずシャンペとメアリーベリーを両腕に抱え漫研を出る。

 

 この後目茶苦茶腕が痺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・空き教室━

 

 学院の隅にあると思われる空き教室、出入口の扉に貸し切り中・関係者以外立入禁止と思いの外達筆に書かれた看板をぶら下げている。

 惜しむらくはそれがまんま日本語である事だろうか……言語体型が近いヤマトの民以外には全く意味を為さない文句である。

 そんな教室の中では──

 

 

 「てってって~♪てってって~♪てれれてってっ♪さぁ始まりました!なぜなにロゴスー!講師のいさなお兄さんでーすよろよろ~♪」

 

 「アシスタント兼マスコットのアンジェリカだよ~♪………って誰がマスコットじゃこんちくしょー!!?!」

 

 セルフBGMと共に子供向け教育番組みたいな格好で教壇に立つ勇魚と、その後に続いてノリノリで名乗った後に着せられた顔出し型のキグルミパンダヘッドを取り外して地面に叩き付けるアンジェリカ。

 

 「あれあれ~?リカちゃんてばどうしたのかなぁ?よい子みんなが困惑しているよ~」

 子供に言い聞かせる様にも聴こえる、その手の番組特有の喋り口調でアンジェリカを半ば()()勇魚。完全におもちゃで遊ぶ顔である。

 

 因みに"よい子のみんな"とはこの場に集った斗真、アルマ、エレン、哉慥、ティアラ、ロゼッタ、ラヴィ、アシュレイ、リネット、ルキフェル、この花は乙女、シュガーポケッツの面々である。

 

 「な・ん・で!私がマスコットとアシスタントをやらされんのよ!?おかしいだろうが!!」

 

 「えー、だって集まった面子で魔女側からこっち関連について(聖剣と剣士諸々)それなりに詳しいのリカちゃんくらいなんッスもん」

 襟首をアンジェリカに掴まれて尚、涼しそうな顔でヤハハと笑う勇魚。

 

 「ったく…部屋でゆっくりしてたら急に入って来て、なぁにぃが"お手伝いよろしくッス~"よ!こっちが詳しく問い詰める前に無理やり連れて来やがって!」

 

 「リカちゃん口悪いッスよ~」

 

 「うっさい!黙れ!つか避けんな!」

 

 「ヤハハ~い♪」

 

 教壇で良い歳した青年と良い歳になった少女の漫才染みたスパーリングが繰り広げられる中、生徒として集まった側は呆然となる。

 詳しい事情を知らないシャンペが取り敢えず斗真へ理由を訊ねる。

 

 「先生ぇ、一体何がはじまるの?それと頬っぺた赤いけどどうしたの?」

 

 そう、彼女の言う通り斗真の頬は赤く腫れている。厳密には左頬だけだが、問われた斗真は遠い目をしながら経緯を語りだした。

 

 「ああ、これ。うん……此処に来る途中でちょっとね、あそこでアンジェリカさんで遊んでる人……刻風って言うんだけどね?彼が"折角だからこの際呼べる関係者全部呼んじゃいましょうよ"って言ってさ、IV KLOREのみんなの所に行ったんだよ」

 語りながらその時の事を思い出し目から光が消える斗真。

 彼の語る経緯の要点を簡単に纏めるならばこうだ。

 

 1.IV KLORE…と言うより、サルサをこの講習会に参加させようと勇魚が提案する。

 

 2.IV KLOREに偶然にも鉢合わせる。

 

 3.勇魚が「手間省けたッスね~」と斗真の背中を押す。

 

 4.漫画みたいなラッキースケベイベントが発生する(対象はエミリア)

 

 5.男嫌いのエミリアに赤面涙目で思いっきり平手打ちを喰らう。

 

 「──とまぁ、そう言う訳なんだ。で、エレンは何で唸ってるのかな?」

 事情を簡単に説明し終えた斗真が後ろの席で先程からずっと唸っているエレンについて訊ねる。

 それに答えたのは共に来たラトゥーラであった。

 

 「あー、気にしないで。虚弱のクセに無理した結果だから」

 

 そんなこんなでグダグダしながら勇魚プレゼンツの講義が始まろうとしていた。

 

 

 

 TO BE Continued

 




 はい、敢えて講義が始まる直前くらいでカットしました。
 今回のTipはヘルマン実は勇魚も苦手、煙叡剣狼煙の持ち主は2006年頃の京都出身。の2本です。

 はい、前回疲れてて入れ忘れてた分です。

 10月入ったらワクチン打ちに行かなきゃ……、ちょっと怖いなぁ。

 ではまた次回でお会いしましょう。


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24頁 教えていさなお兄さん。聖剣来歴編

 こんばんは。

 語られる歴史前編的な回ですん。
 いやぁ勇魚はホント書き易い、でも次の章から帰っちゃうんですよね……。次の出番は何時になるか…。
 
 スパロボ30予約して来ました、序でに余裕があったらBLUE REFLECTION帯も買っちゃうかなぁ。
 と言うか詩ちゃん思いの外人気だったなぁ(山田の方もまぁ人気でしたね)、私も嫌いじゃないですけど…。

 宇宙船最新号読んで来ました、ゴリラとジャッカルゲノムあんな感じになるんですねぇ、バイス。

 


 ━フローラ女学院・空き教室━

 

 「はい!改めて、いさなお兄さんッスよー!よろしくぅ!」

 

 「マジか…おま、マジでそのノリで続ける気か!?正気か!!?」

 

 アンジェリカの拳のラッシュをのらりくらり躱しながら笑う勇魚に思わずエレンがツッコむ。

 

 「マジッス!ぬぬぬマジッス、マージ・マジ・マジーロッス!マジかマジでマジだショーターイッス!」

 

 「ヤメロォ!色々アウトだからヤメロォ!!」

 

 「二人とも一体何を言ってるんだ……」

 

 「申し訳ありませぬ、拙者にも何が何だか…」

 

 「取り敢えずトキカゼがふざけているのだけは分かります」

 

 エレンと勇魚の会話の応酬に疑問を浮かべながら呆れる斗真、哉慥、アルマ。

 そんな一向に進まない中で教室に新たな人影が現れる。

 

 「おや、どうやら盛り上がっていますね」

 「わふ!楽しそう!」

 

 あるふぁとサルサ、IV KLOREの亜人2人である。

 

 「サルサにあるふぁ?エミリアはどうしたんだ?」

 同郷のアシュレイが2人に訊ねる。

 

 「お嬢様はお身体を殿方に思いっきり触れられたショックで寝込んでしまわれましたので、丁度良い…失礼、陳情の抗議を申すついでに講義に私共も参加しようかと馳せ参じた次第です」

 明確に視線を斗真に注ぐあるふぁ。ポーカーフェイスが逆に彼の良心を滅多刺しにする。

 

 「う゛っ!!ごめん…ごめんよ…わざとじゃないんだ……」

 

 「まぁ建前なんですが」

 ダメージに沈む担任を眺めながら掌で口元を隠して本音を溢すあるふぁ。

 彼女にとってはエミリアの次に楽しめるオモチャと言う認識となったのかもしれない。

 

 「はいは~い、新しく来たお友達も席に着いて下さいッス~」

 

 「はぁ…はぁ…こん…ちく…しょう…!何時か、憶えてなさいよ!」

 後ろ手にバテバテ疲労困憊のアンジェリカを置いて、あるふぁとサルサの背中を押して着席を促す勇魚。

 

 「んじゃ、第一回?なぜなにロゴス!教えていさなお兄さんを始めまース!今回の議題はーーーーーー?」

 自らセルフドラムロールを立てながら黒板の上下を入れ替える。其所に書かれていた言葉、先程勇魚自らが言い宣ったなぜなにロゴス云たらの下に聖剣と仮面の剣士、ワンダーライドブック、メギド魔人について等と色付きチョークで華々しく書かれた文字が踊っている。

 

 「ズバリ!仮面の剣士諸々について!質問の発端はウサギちゃんことラビラビ!」

 

 「はーい!てか質もーん!」

 

 「はい、ラヴィくん!何かね?」

 

 「なんでパンダ?」

 

 「良い質問ッス!実は当初はユエっちにも参加を打診してたんッスよ、けど参加者を聞いたら断られたッス~シクシク悲しいッス」

 

 ((((絶対思ってない…))))

 

 態とらしく"泣き"の仕草をする勇魚、ラヴィは理由に納得したのか挙手を下げ着席する。

 その隣ではティアラがユエの名に微細な反応を示して僅かに顔を伏せる。

 

 「ま、参加しないもんはしょうがないッスけどね」

 教壇からそういった少女達の僅な反応を目敏く観察しながら、ケロッと嘘泣きを止める勇魚。

 

 「茶番の方も止めろよ」

 

 「やだなぁナルミッチ、遊び心はあってナンボッスよ?語り手はともかく内容はクッソッお堅い真面目な話になっちゃうんだからせめて外郭だけでも楽しく飾りましょうよ」

 

 「自覚ある分クソタチ悪いわお前」

 

 エレンの吐く悪態も何のそのニヘラと暖簾に腕押しの態度の勇魚。

 それじゃあと柏手を打ち、改めて皆の注目を浴びる。

 

 「さて、どっから話したもんッスかねぇ、取り敢えずみんな自分の故郷の国に伝わってる仮面の剣士の伝承は知ってるんスよね?」

 少女達が知る一般的な仮面の剣士の伝承…要するにお伽噺であるが、その知識の有無を問う。

 

 「ええ、それぞれの国によって差異はありますが…魔女フローラと共に聖なる力宿した剣を振るう仮面の剣士、ないしは騎士が魔獣を調伏したと伝わっています」

 その問いに優等生全とした解を返すロゼッタ。彼女のテンプレートとも思える答えに満足しながら勇魚は話を続ける。

 

 「ッスねぇ、お国によって登場する剣士が違いまスけど概ね魔獣を祓っただの邪悪な魔人を討ち取っただの言われてるんッスね~。そこで斗真どんに問題でース!此処、ウェールランドに伝わる剣士伝説はどういったモノでしょーか!?」

 

 「え?!あー…確か赤い仮面の剣士がフローラを護り、聖なる焔を以て悪しき魔を焼き払った…要約するとそんな話だったかな?」

 

 「正解!赤い仮面の剣士…まぁ言うまでも無く炎の剣士セイバーの事ッスね。で焔を以ての方は火炎剣烈火の様を著してまスん。でもでも?あれれ~おっかしいなぁ~?魔女フローラ縁の地、来訪者招来の始まりの地なのにどうして炎の剣士しか登場しない話しか伝わって無いんだろ~?」

 

 「!…言われてみれば確かに…」

 

 「そう言われてしまえばおかしな話ね、国を跨げば剣士の所はガラリと変わる…何か理由があるのかしら?」

 

 「ひ、広場の像もフローラと隣あってる剣士の像はひとつだった…気がする…『なんでだ?Σ(゚◇゚;)』」

 

 ウェールランドを生地とする少女達が今更ながらに疑問を懐く。

 

 (おんやぁ?ティアちゃんは知らないんッスねぇ?エリちんも過保護だなぁ。それはそれとしてティアちゃんが王族なの知ってるのはこの中だと侍従してたロゼちゃんと、ロゴマスの付き人してた自分くらいッスかね?ナルミッチはどうせ儀典とかサボって出なかったでしょうし)

 思考を回しながら次の質疑の為の解答を述べる。

 

 「まぁその辺は国の威信なり、組織の体面なり諸々の事情から秘密になってる所もあるんですが…(ドルトガルドとか)」

 

 「そうなのか……」

 

 「そうなんッス。で、この世界魔獣の脅威がメッチャパナイんでまぁ物理的な戦争なんてやってる暇無いんッスよね、やっちゃうと負の感情から魔獣生まれちゃうし」

 黒板に武器を持った棒人間を描き、その頭上に紫色のチョークで負の感情の円を描くなど図解を伴って解説してゆく。

 

 「見た目ゆるキャラなだけの超凶暴生物だからな」

 「対抗手段が限られているのも妖の様で厄介この上ないでござる」

 「来訪者や魔女フローラが台頭する以前は酷かったとも聞きます」

 

 其々の剣士が聞き齧った、或いは本で目にした歴史を途々と語る。

 

 「ととっ、話ズレたッスね。剣士が国によって異なる理由なんでスが、これ実は最初の伝記だとちゃんと複数記されてんッス」

 

 「そ、その話詳しく教えて下さいっ!!」

 

 話を本来の軌道に戻した勇魚、彼が吐いた言葉にリネットが興奮して食い付く。

 「おぉう?!リッちゃん食い付き良いッスねぇ」

 流石の勇魚も少したじろいでいる。

 

 「す…すみません…」

 

 「ではその話に入る前に問題でス。デデン♪聖剣の数はいくつでしょうか?!リカちゃん時計よろしこ」

 

 「あー、はいはい」

 

 疲労から復帰したアンジェリカが巨大なアナログタイマーを取り出す。

 

 「制限時間内に解答ヨロシクゥ!な訳でラビラビ行ってってみよう!」

 

 「オーキードーキー!先生、アルマっち、エレエレ、おっちゃん、サンセー、チケゾーくんの六人!」

 

 「哉慥でござるよ!?」

 

 「ぷひゃ!チケゾー…くく…チケゾーってマジかヤハハハ!この世界競馬無いっしょ、なのにヤハハハ!」

 ラヴィの解答がツボに入ったのか大笑いする勇魚、横でアンジェリカが呆れている。

 

 「笑い過ぎでしょ、取りあえずラヴィは不正解だから」

 「えっ!?あれー?だって六人しょっ?」

 「ラヴィさんの言う通りです!トキカゼ、あまりおふざけが過ぎる様だと僕も怒りますよ!?」

 「解ったの!イサナお兄さまも入れて七人なの!」

 不正解に納得がいかないラヴィが何度も首を傾げ、アルマが同調を示す中、前の座席のシャンペが解答を重ねる。

 

 「お兄さま……良い響きッスね、お兄さまかぁ…カエちゃんはお兄ちゃん呼びしてくんないからなぁ、もう正解にしちゃおうかなぁ」

 

 「アホかっ!ちゃんと講義しなさいよ!!」

 

 有頂天な褐色軟派野郎の後頭部に、何処から取り出したのかハリセンを振り下ろすのはアンジェリカ。尚パンダの頭はとっくの昔に外している。

 

 「ありがとうございます!?!!」

 

 頭頂部より白煙を立てながら感謝の言葉を口にして教卓にヘタリ込む勇魚、中々に図太い男である。

 「やぁ痛かった痛かった……いやしかし、そっか、アルマっちは知らなかったんでしたっけ?哉ちゃんもかな?ナルミッチはおおよそ察してるでしょうし、斗真どんは多分最初っから自分が聖剣の剣士だと思われてたみたいなんで、取りあえずお見せしましょうや!いざ、刮目せよ!これが自分の聖剣でござんス~!」

 虚空に伸ばされた手はまるで海から物を引き上げる様に腕から先が消え、かと思えば次の瞬間には布でぐるぐる巻きにされた()()()()()()()()()

 

 「アレは確か…以前、見た記憶がありますね」

 見覚えがある物体の登場に淡々と述べるあるふぁ、対して他の面々は反応に程度は在れど皆一様に驚いた顔をしている。

 

 「なっ?!それは何ですか!?トキカゼ!!」

 

 「布に巻かれて全容は判らないけど…アレが刻風の聖剣……」

 

 「刻風殿…、組織付きの剣士となったのは聞き及んでおりましたが、新たな聖剣の剣士であったとは……!?」

 

 「アレが野郎がやたら気配ゼロで他人様の後ろに回り込める理由って訳か……」

 

 剣士4人が特に興味を持って驚く中、ラヴィが溢した言葉がある種の核心を突く。

 

 「おお!おっちゃんの聖剣の出し方に似てる!それってやっぱ本の能力も込みなヤツだったりすんの!?」

 

 「「「「!!?」」」」

 

 (言われてみりゃそうだ……オッサンが地面に普段激土を収納してんのと同じ原理じゃねぇか)

 

 (しかし一体何処に?嘗て刻風殿が拙者の翠風を用いていた時は風を巻き起こし其所に翠風を収納していたと聞き及んでおりましたが……先程の行動はどちらかと言えば海面に手を入れる感覚に近い…)

 

 雷と風の剣士が考察に明け暮れる一方で炎と水の剣士は生徒達と共に感想を述べる。

 

 「凄いな、陳さん以外にも自然?の中に収納出来る人が居たのか…」

 

 「僕はあんな聖剣の存在は知りませんでした……父からも教えて貰ってはいません」

 

 「イーリアス様でも知らないなんて、イサナお兄さまって実はスゴい人なの?」

 

 「イーリアス卿やその御父上である公爵殿が知らないとは…つまりそれだけの聖剣と言う事か」

 

 「や、でもアルマっちってどっか抜けてる感じするし知らなくてもしょーがない感じしない?」

 

 「流石にそれはアルマさんに失礼では?」

 

 ガヤガヤと波立つ教室、その喧騒に勇魚が満足そうに笑いながらではでは~と、布をほどいてゆく。

 現れたのは刀身が細長く刃は金色、先端が鏃の様な両刃の黒い細剣、差し色に水色と桃色2色、シェルフが存在する鍔の部分にやや特徴があるものの、スタンダードなタイプに見える。

 聖剣を掲げ、芝居掛かった口調で勇魚は告げる。

 

 「改めてジャジャ~ん!これが自分の聖剣!時国剣界時ッス~!んでまぁ、アルマっちやアルマっちのお父さん…ミハイルパイセンも知らないのは無理無いッス、この聖剣は秘中の秘で、知ってんのは三世とこの一族とロゴマス付きの近衛剣士とジッさま方、後はオッちゃん含めた古株の剣士の極一部の一握り。と言う訳で所在がハッキリしてる7本、諸事情で行方不明というのは名の紛失が3本、封印が1本ってのが現状の聖剣の数ッスね」

 曲芸の様に界時を玩びながら聖剣の絵を黒板に描き記していく。

 

 ((((((((う、上手い…!))))))))

 

 ((今度漫画のアシスタントに誘おう))

 

 「すごーい!イサナお兄さまとっても絵が上手なの」

 

 「器用とは聞いていたけど、写真と比べても遜色無いわねぇ」

 

 約2名、職業病染みた事を思っているが概ね皆驚いている。

 

 「わふ、せんせーでしょ、アルマくんでしょ、おじさんでしょ、サイゾーくんでしょ、さんせーにイサ兄と…後は……ぼく達のドルトガルドに伝わるヤツで、えっとえっと…」

 

 「失くしたってのが3本でふーいんが1本だから、よし!合計13本!」

 

 「わふ~!」

 

 「「イエーイ!!」」

 

 サルサとラヴィが話を聞いてから数を数えて自信満々に答える。が──

 

 「合ってないぞ」

 「間違って数えていますよサルサ様」

 

 アシュレイとあるふぁから否とツッコミが入る。

 

 「えっ!?うっそだぁ!?」

 「あれれ?違うの?」

 

 「紛失3の内の1つがドルトガルドの闇の聖剣なんだろう。ワタシもそれなりに聖剣の逸話は知っているからな(何せ後見人がヤツだし)、闇の聖剣が月闇と言う名なのは知っている。時国剣とやらの銘は界時。ドルトガルドの剣士はヘルマン。しかし界時の使い手はそこでふざけている軟派野郎だ」

 頬杖を付きながらルキフェルが面倒そうに溢す。

 そしてルキフェルの言葉にあるふぁ以外の少女達が息を飲む音が轟く。

 

 「!…もしやあの時父が頭を悩ませていたのはこの事だったのか……」

 ドルトガルドの陸戦騎士団ガートランド師団の団長を父に持つアシュレイが幼き日に見た父の姿を脳裏に浮かべ謎が解けた顔になる。

 

 「おっ、ガートランド騎士団ッスか、確かにジークハルトパイセンも所属してた事がありまスね」

 

 「ジークハルト!?闇の聖剣の剣士の正体はあのジークハルト・ウェルナー卿だったのですか!!?」

 先代闇の剣士の名にも覚えがあるのか、アシュレイが勢い良く立ち上がる。

 

 『有名人なのか?(゚Д゚≡゚Д゚)゙?』

 

 「ドルトガルド民ならば、知らない者は居ないと言っても過言では無い御仁です。但し、既に故人として悼まれる立場ですが」

 

 「んじゃ今度はその辺含めてまずは剣士の起源について話てきましょうか」

 黒板を入れ替えて世界図を貼り出す。大陸等斗真の知る物と差異はあれどその地図は紛れもなく地球の物だ。

 

 「昔むか~し、地球の方で多分ウン千年とか数えるのも馬鹿になるくらい前ある所に何かこう…目茶苦茶スゴい力を宿した大いなる本って呼ばれる本があったんッス」

 

 (((((((((((((((((…雑?!!)))))))))))))))))

 

 「んで、とある女性が2つの世界…ワンダーワールドともう1つ初代剣士達が居た世界の事ッスね。なんで、この世界じゃ無いッス、そもそも初代の人らが自分らと同じ世界出身かも怪しいッスけど…なんせ資料は多い上に古いんで探して確認するの面倒なんッスよねぇ…兎も角、2つの世界を繋げて、ワンダーワールドに降り立った五人の人間、始まりの五人って呼ばれた人らが居たッス」

 

 「その話は僕も知ってます」

 

 「クソババアから嫌って程聞かされた、耳タコだぜ」

 

 「とても興味深い御話でござる、拙者も初めて聞いた時はわくわくし申した!」

 

 「成る程、と言う事はその地図はその始まりの五人の人間が生きていた時代の地図なのか」

 

 「ッスッス、んでその内の一人が剣士達の組織の始祖を創り、もう一人はワンダーワールドに残ったらしいッス。ヤバいッスね!」

 重要な話の"さわり"の部分をヤバいの一言で片付ける現組織付きの剣士、それで良いのか。

 

 「あの…、後の三人はどうしたんですか?」

 

 「はぁい!リッちゃん良い質問ッス!答えは単純、人間欲深いもんで力に魅入られちゃったんッスねぇ。そんでこう…バァーってなって大いなる本の一部を奪ったらしいッス」

 

 「奪ったって……まさかっ!?」

 

 「イエ~ス、こうビリビリっとページの一部を破ってなんて罰当たりな事をっ!!!……ビックらこいたぁ~、リッちゃん落ち着いてッス」

 

 「あ……、ご、ごめんなさい!?本を破ったと聞いてつい……」

 

 「いや気持ちは分かる。本って言うのは先人の知識、経験、思想、人の願望、希望なんかを文章として書き記した物だ。それを破るなんてとんでもない!」

 

 「斗真どんもッスか、本好き嘗めてたッス……。それはそうと続き話ても?」

 

 「「あ、はい」」

 勇魚の苦笑しながらの伺い言葉に思わず口を揃える斗真とリネット。

 

 「んじゃ続きッス、まぁ何をどうしたかは詳しくは知らねッスけど、残った三人はメギド──大いなる本の力に引寄せられた本の魔人──を利用し残った書物を狙いに来たッス。それを剣士の組織の始祖創った五人の内の一人と、意思とか教義に賛同的な…言うなれば自分らの大先輩…違った、大パイセン方が本の残りを守る為に立ち上がったんスね。んでウン百、ウン千年戦いを繰り広げてたんッス、その最中で大いなる本はバラバラになっちゃいまして──」

 

 バラバラと言うワードを聞き、顔を青くするリネット。そのままお手本の様な立ち眩みを起こして隣のアルマに支えられる。

 

 「ま、バラバラになったページはコイツらが持ってるワンダーライドブックに変化したんだけどね」

 そこでアンジェリカが補足としてワンダーライドブックの存在に言及がてら懐からセドリックより押し付けられた【ブレーメンのロックバンド】を取り出す。

 

 「お前が持ってんのかよ、グラサン相当堪えたんだなアレ」

 「噂に聞く、パンキッシュロックモードッスか?ん?デスメタルの方ッスかね?」

 「知らん」

 「それはもう!ろっくでございました!」

 互いに言葉尻を食い気味に言い放つ、前回のスラッシュの戦闘風景の感想。

 この場で知らぬ数名とリネット、ラヴィを除き、黙っていた面々は苦笑するばかり。

 

 「ウワーめっちゃ見たかったッス。ま、それはともかく…そのバラバラになった影響でもう1つの世界への穴と言うか入口?が出来ちゃったんスねぇ」

 言って、地球、ワンダーワールドに加えこの世界を表す円図を書く。

 

 「それがフローラと出会った、そういう事なのか」

 

 「ッス。それがこの世界で言う二百年とちょっと前の事でス。んで、この世界で初代剣士呼ばわりされてるのは元の世界では何代目かの人らッスね」

 

 「ウッソ!?そうだったの!!」

 

 「はぁーん、要はこの世界では珍しい…ってか破格の聖剣を持つ初めての異界の剣士だったから"初代"な訳か」

 

 「それじゃあ初代様達の前も、剣士だった方々がもっと居らしたんですね」

 

 勇魚の言葉に頭の中で色々情報が整理出来て来た為感心する斗真、その後の説明で初代剣士が実は初代でなかった事が衝撃的だったラトゥーラ。

 理屈が解ってアホらしいと嘆息するエレンとメモを録りながら歴史に想いを馳せるカエデ。

 

 (実は聖剣と剣士の中でも名前も素性も不明、解ってんのは聖剣の属性だけって言う光の聖剣があるんだよなぁ…代替わりしてんのかも解らんし、いやでも、もしかしたらこっちで後継を知らん内にこさえてる可能性もあるのか……どっちにしても自分()にはこれ以上調べようが無いんだけど──)

 「──ともかく、そうして最初の話題……この世界での仮面の剣士の伝記に戻るんス。んでまぁバラバラになった影響で来たのでメギドも一緒に来ちゃったんッスね、だから魔獣討伐のついでにメギド退治もしてたんッスね。で、我らが剣士の組織【ソード・オブ・ロゴス】もこっちの世界に併せてもっかい組織体系を組み直したんでス」

 思考の中だけに留めた事実から切り替える様に、話をこの講義が開かれた主目的へ持っていく。

 

 「伝記では組織の名前は敢えて伏せられてまスがフローラと剣士達を支援した存在として示唆されてまスね。んでんで、魔獣相手ならウン百万匹程度なら変身した状態なら苦にもなんないッスけどここにメギドが混ざると能力よっては厄介でして、特に厄介なのがこの間斗真どん達が苦戦して、ナルミッチ参戦で何とか倒せた様なメギド…ズオスを始めとした上級メギドッスね」

 デフォルメされたズオスを描きながらエレン達に視線を投げる。

 

 「あぁ、あの獣畜生か」

 

 「確かに…途轍もなく強かったでござる……」

 

 「あの時先生くん達を追い詰めていた獣の様な魔人ね。そんな名前だったのね」

 

 「他にもレジエルとストリウスってのがいまス、これにさっきのズオスを加えた三体が上級メギドッス。因みに自分が此処に来る理由になったナルミッチから調べるよう頼まれたメギドは別口らしいッス、解ってんのは名前とどういうカテゴリのメギドかってのでスね」

 ズオスの図の隣に紅い仮面のメギド──デザスト──を描き加える。

 

 「あんた…そんな事頼んでたの?」

 「大分前にな。あったろ、街中に奇妙な魔獣が出た事件が」

 

 「ああ…アレもそっち関係だったんだ…ウチはお店を守るの協力する様に店長に言われてあんま詳しくは知らなかったし」

 ラトゥーラは以前の魔獣襲撃、トウテツメギド出現事件を思い返す。

 

 「で?結局あの紅生姜黒野郎は何モンなんだよ」

 

 「アレは神獣、動物、物語三種のアルターライドブックを掛け合わせて造られたメギドだそうッス、名前はデザスト。あのキメラ紅生姜、調べてみたら結構剣士を殺してまス。例えばナルミッチの師匠の姐さんの更に師匠だった先々代雷の剣士と煙の剣士、先々々代風と音の剣士が毒牙に掛かってまス。他にも聖剣の剣士じゃない組織の剣士もかなりの数殺られてまスね」

 

 「ほ~ん思ったよりヤバい奴だったのか…良く勝てたなオレ」

 

 「ホントだし、良く生きてるじゃん。結構強かったんだ」

 「わふ、エレンて強いんだね!!」

 「エレン兄さまスゴの!」

 『ソンケー(。・Д・)ゞ』

 「確かにソイツの強さは中々のモノらしいとあのサングラスも溢していたな」

 「人は見掛けによらないんですね。ただお兄ちゃんやサイゾウお兄ちゃんと違ってお兄ちゃん呼びは出来ませんけど」

 ラトゥーラを除く評価の言を下したのが全て小柄な魔女達ばかりで何とも言い難い顔になるエレン。

 

 (それでも現状実力的にはリュウトのおじさんが一番強いらしいけどね)

 チビッ子達から良し悪しは兎も角、評価を受ける現雷の剣士の様を教壇側から眺めながらアンジェリカが勇魚を除く学院の剣士の番付を思い浮かべる。

 

 「ま、そんな訳でデザスト含め上級メギドはこっちの世界来てから大戦が終わる頃には封印されたんッス。とまぁ此処までなら多少脚色はあれどお伽噺にも書かれてる所ッスね」

 

 「なんで?これでめでたしめでたしじゃないの?」

 

 「それだとどうして国によって剣士が一人しか登場しないのかって問題の答えにはならないよ」

 

 「あ、そっか」

 

 ラヴィの純粋な問いにティアラがこの話に至った発端の疑問を提示して、言われて思い出したかの様に納得するラヴィ。

 

 「そうなんッスよねぇ、現実もそこで終わっときゃ美談としての英雄譚物語で済んだッスけどね~。そこはやっぱ、剣士も人間だったんッスねー。居たんですよ、魔が差しちゃった人が」

 再び芝居掛かった動きとなる勇魚、地図を何度目かになる黒板スライドをして地球の地図の上にこの世界の古い地図を貼り付ける。

 

 「さて、ご存知の通り自分らの大パイセン方はこのマームケステルからそれぞれ世界に散って上級メギド三体とデザスト封印した後も野良メギドや魔獣から人々を守る為幾人かの組織の構成員共々各々国に根を張った訳ですが……その中でも地球で言うとアフリカにあたる地理の国の1つに居着いた聖剣の剣士がどういう訳か世界中に宣戦布告しましてね?まぁてんやわんやなったらしいんッスよ」

 貼り付けた地図のアフリカ大陸にあたる部分の1部にマルを付けてヤレヤレと肩を竦める。

 

 「…その剣士の名前は……?」

 

 「アジハド・ルイ・イムハタール……【無銘剣虚無】の剣士ですね」

 斗真の問いに答えたのは勇魚ではなくアルマ。

 

 「でス。ルイと呼ばれていた結構な腕前の剣士らしいッスね(聞くところによればルイ氏の前にも虚無の剣士が居たらしいッスけど、閲覧出来た情報で解ったのはルイ氏の前の人は光の聖剣と闇の聖剣によって封印されたとかなんとか…まあルイ氏の話には関係無いッスけど)」

 続けて勇魚が詳細を一部伏せながら情報を開示してゆく。

 

 「無銘剣……」

 「…虚無」

 「全然知らないっ!」

 

 「ええそりゃ知らないでしょ、その人の所為で今の仮面の剣士のお伽噺が出来たんッスから」

 知り得ぬ聖剣の登場に少女達が困惑と動揺をみせる中、いけしゃあしゃあ結論を言ってのける。

 

 「さっき、聖剣の総数を話題にした時、封印された剣があるって言いましたよね?それがその無銘剣虚無、そしてその使い手アジハド・ルイ・イムハタール──」

 

 一度言葉を切って参加者達を見回しながら、勇魚は自らの言葉の続きを紡ぐ。

 

 

 「決して死なない…不死身の剣士ッス

 

 

  TO BE Continued

 

 

無銘剣虚無

 




 勇魚が語っている歴史は意図的に曲解されたモノを更に幾つか情報を伏せて語っています。
 本人は閲覧出来る情報に限りがあると胸中で自宣していましたが、情報閲覧の機密レベル的には作中内では賢神に次いで高かったりするんですねぇ。
 後こっちでも聖剣の剣士以外の剣士も組織にいますし、練度も高いので魔獣相手なら4、5人小隊でガートランド師団並みの戦果を出せます。ので聖剣が無い国には彼等が常駐しているんですね。

 今回のどうでも良いかもしれないしそうじゃないかもしれないTip、これまでの界時の剣士は次代に聖剣が継承された事を見届けた場合、界時の能力の秘密を守る為に自刃します。故に勇魚の前の界時の使い手だった人は既に故人です。

 水着なぎこさん欲しかったなぁ、ハロウィンクリーク欲しいなぁ。次回でお会いしましょう。


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25頁 教えていさなお兄さん。その名は仮面ライダー編

 おはよございます。
 
 忙しい!?やることが…やることが多い!?
 宣言解除からこっちやたらと客が多くて仕事が増えて中々筆が進みませんでした!!申し訳ございません!
 しかもハロウィンイベント始まって、何と為しにゼノビアが来たのでちょっとモレーも欲しくなって、そっちにもかまけてました!

 後、琴歌が安齋さんなので私としては大変喜ばしく思います!



 これまでのMasqueradeRe:LiGHTsは!ラビラビの授業中の疑問から端を発した剣士とは、聖剣ては何か?と言う疑問。斗真どんや哉ちゃんは答えられず困窮、オッちゃんも三世も不在、アルマっちとナルミッチでは頼りない、ヘルっちは論外!そこで白羽の矢が立ったのがこの刻風勇魚と言うわけなんッスね~。そして自分の口より語られる暁の魔女と仮面の剣士の伝説!!あれやこれやを話して、ついでに秘密だった自分の界時の事もゲロって…さぁ次ぎはいよいよ何故剣士の伝承が国で違う事になったのか?!その原因!剣士達の裏切り者!不死身の剣士とその聖剣の話となったのです!どうなる!?多分第二十五話くらい!!」

 

 「お前いい加減にしろよ!?」

 「君は本当に何を言っているんだ!?」

 

 「二十五話ってなに?」

 

 「さぁ?」

 

 (何か悪い物でも食べたのでござろうか」

 「サイゾウお兄ちゃん、途中から声に出てます」

 「気持ちは解るけどねぇ」

 「良く解りませんが、きっとろっくな事だと思います!!」

 

 「何でもロックと付ければ良いってもんじゃ無いだろう」

 「そういうもん?」

 「どうかしら……」

 

 突如として始まった勇魚の奇っ怪な戯れ言に目頭をヒクつかせるエレン。

 魔女達は教壇に立つ青年の発言の意図を理解出来ずに戸惑うばかり、哉慥ですら途中からオブラートを投げ棄てた。

 

 (なんで私、こいつのアシスタントやらされてんだろ……)

 アンジェリカの顔が死ぬ、主にハイライトが死ぬ。

 

 「話が逸れています!!トキカゼ!真面目にやって下さい!!」

 アルマが憤慨し勇魚へ怒声を飛ばす。

 

 「あいや失敬、一回やってみたかったんッスよねぇベストでマッチしそうなあらすじ語り。で……確か無銘剣虚無とその剣士の名前まで講釈したんでしたっけか?」

 

 「まぁ…うん。ルイ某が不死身の剣士って今さっき言ってたし」

 ケラケラ笑う勇魚に戸惑いながら斗真が返す。

 

 「そうそう、そうでした。つい悪ノリしたくなった衝動に駆られたッスけど…ルイ氏の説明いってみよー!」

 

 「結局ノリ変わんねぇじゃねぇかぁ!!?!」

 まるでメタフィクションで第四の壁を認識する様な登場人物のノリをした勇魚、気を取り直して教育番組のノリに戻るが結局はふざけてるのに変わりはないだろうとエレンが血管を切れんばかりに叫ぶ。

 

 「叫んでるナルミッチは放っといて、アジハド・ルイ・イムハタール氏、この人はですね自分ら剣士の面子で確認されてる中でも唯一ハッキリしてる二代目で、元々は中東のやんごとなき血筋のお方だとか…」

 

 「またフワッとした事情ですね。その辺り詳しく解ってないんですか?」

 今までの絵を消してルイの話題に関するワードを黒板に書き込みながら説明する勇魚に対しカエデが胡乱な眼を向けて疑問を宣う。

 

 「さぁ?そもそも虚無からして解ってる事が少ないんで…だからまぁワンモアですが無銘剣虚無の剣士は決して死なない不死身の剣士なんッス!!」

 

 「そのフレーズ気に入ったワケ?」

 改めて虚無の使い手は不死身の剣士だと宣言した勇魚にアンジェリカが呆れた顔で呟く。

 

 「はい」

 

 「あい、何ッスかロゼちゃん!?」

 

 「不死身と言うのは文字通りの意味でしょうか?後、その無銘剣もですけど先程トキカゼさんが持ち出した時国剣もかなり重要な機密なのでは無いんですか?と言うか秘中の秘って言ってましたよね?!本当にこの話私達が聴いて大丈夫なんですよね?!後でトキカゼさんが粛正とかされませんよね?!」

 今更ながらに機密含めベラベラ喋る壇上の男に対しロゼッタが真面目さ故に疑問を立て列べて問い掛ける。が、後半はもうツッコミながらの不安を吐き出す形になっているが……。

 

 「オケオケ、優等生な質問ありがサンキューッス、元気があって実によろしい。特に後半自分の事心配してくれてるのがポイント高いッス!可愛い子の反応はなにしても面白いッスねぇ」

 

 ((質問に答えてやれよ))

 (別に刻風だけ心配してる訳じゃないと思う)

 エレンとアンジェリカの心境が重なる。

 斗真が真顔のまま、しかし口にする事無く胸中にてツッコむ。

 そんな2人からの視線に気付いてかペロリと舌を出してふざける。

 

 「ん…まぁ結論から言っちゃいますとノープロッス。んで、はい。文字通り不死身ッス、色んな殺が……げふんごふん。色んな死に方が記録されてんでスがどれも復活したって書かれてましたね、流し読みッスけど。

 どうもドライバーと聖剣とワンダーライドブックが揃ってる限りまるごと爆散しようがコンテニューしちゃうんッスねぇ。チートッスよ!チート!

 で……界時についてはまぁ存在とか名前だけならさっきも言った通り、古参は知ってるんで。第一さぁ、分かりますか?この聖剣の能力?

 予想や推測は立てられても確証は見なきゃ分からんちんでしょ?だから掟だの仕来たりだの因習だので縛られるのは自分的にはゴメンなんッスよ鬱陶しい。

 どうせ五月蝿く言ってくんのは幹部の賢神のジッさ……老いぼれの爺共なんで、こっち能力を断定されない限りは多少姿形が知られた所で痛くもねーつーうの!」

 

 最初は言葉を選んでいたが、下手に取り繕う質でも無いと開き直りやや口早に述べる勇魚。

 最後の方になると僅に本音らしきものが見え隠れしている。

 

 「むぅ…トキカゼの組織批判は如何な物かと思いますが…。組織付きでない僕らの様な剣士は国に身を捧げていますから、今のは聴かなかった事にします」

 真面目なアルマが勇魚の批判に眉を潜めつつも見逃すとこの場へ集った面子を代表する形で喧伝する。

 

 「別にオレぁ国に滅私奉公誓ったつもりは無いがな」

 

 「同じく。ワタシなんぞ生まれた国も定かでは無いしな!」

 

 アルマの言葉で一段落着けようとした所に敢えて割り込む引きこもり(ニート)チビッ子暴君(ルキフェル)

 

 「わー、ちょっといい話風?になってた空気が台無しッス。いや、らしいっちゃらしいんでスけど…。えー取り敢えず…他に誰か何か訊きたい事あるッスかー?」

 

 勇魚の不服気な発言も何のその、お前だって空気読まんだろうとゲーマーコンビの無言の圧に、鼻頭を掻く様な仕草をしながら、これまでの事で他に質問が無いかと訊き返す。

 

 「はい」

 

 「んんー!カエちゃんどうぞ!」

 

 「結局の所、そのルイと言う人はどうなったんですか?さっきの話だと封印されたのは分かるんですけど……流れからすると初代さんと同じ形で封印されたんでしょうか?」

 

 「うん、おっしゃる通りッス。初代虚無のえー…バ…ナントカさんはマトメて封印されて、その所為で組織再編のゴタゴタの時に封印した本から解放された時色々好き放題やられたんで、その教訓も踏まえ、ルイ氏の時はソードライバー組が頑張ってバラして封印したんッスよ」

 最初に虚無を手にした剣士について詳細な資料が紛失しているのでナントカさん呼びしながらルイについて雑に語る。

 

 「バラしたって……まさか!?五体をバラバラに?!」

 想像力豊かなリネットが青ざめた顔で独り叫ぶ。

 

 「ノンノン、バラしたのは聖剣、ドライバー、ワンダーライドブックッス。3つ揃った状態で当人が装着した状態で倒すと復活するワケっしょ?んだから当時の月闇の剣士が界時の剣士と協力してまず虚無を封印、次に激土、翠風、錫音、狼煙の剣士が死ぬ気で連携して出来た僅なスキにソードライバー組がこれまた決死でドライバーとライドブックを奪って封印。

 んで最後にルイ氏本人を捕まえて無期限の禁固刑で永久封印ッス。

 不死身じゃなくなったから、きっともう今頃はミイラッスね」

 

 遥か昔の事であるからと予想出来る当然の結果を口にする勇魚に、それもそうかと納得し手を下げるカエデ。

 

 「んじゃ次に行きましょう!今度はこっちから指名しちゃうッスよ~」

 カミサマの言う通り等と嘯きながら指をフラフラ動かす。

 やがてその指が止まった先に居たのは──

 

 「デデデン!メアちゃん!どうぞ!」

 

 「ふぁっ…?!あぅ…あぅ…『無茶ブリにもほどがあるぜ?!(;>_<;)』」

 突然の指名に慌てふためく当人を余所にベリーボードは雄弁に反論する。

 

 「無いッスか?なんか無いッスか?なんなら後回ししてあげるんで、考えといて下さいッス」

 リスタート!と吠えて再び神頼み指差しを始めるちゃらんぽらん。

 次にその指が止まった先に居たのはポーカーフェイスのサイドテールヘッド。

 

 「へい!あるふぁちゃん!クエスチョンぷりーず!あ、アダ名は何が良いッスか?」

 

 「謹んでお断り申し上げます。私めはしがないメイドの魔律人形ですので、その様な迷惑極まり無い不名誉でお遊びになられるのでしたらどうぞエミリアお嬢様にお願いします」

 

 (おい、このメイド主人をナチュラルに売ったぞ)

 (多分本人なりの茶目っ気なんだろうけど……)

 (表情が何一つ変わらない所為か、洒落になりませんね色々と)

 (えみりあ殿は不憫でござるな…)

 

 「良いッスね~それ。んじゃアダ名は諦めるとして、質問ありまスん?」

 

 「では二点程。まず1つ、メギドなる魔人についてもう少し詳細な情報を求めます」

 人差し指と中指を立て、一度中指を折ってから問いを投げる。

 

 「ヤハ~、そう来ましたか。う~ん」

 

 「どうしたのよ?」

 

 あるふぁの質問に頭を掻きながら返答に詰まる勇魚にアンジェリカが訝しげな視線で訊ねる。

 

 「や、今までみたいに答えても芸が無いなぁって……おっ、そうッス!ここは折角だから斗真どんやナルミッチ、アルマっち、哉ちゃんに答えて貰いましょ♪」 

 

 「「えぇぇー…」」

 「そんな遊び心はいらねぇ」

 「に……拙者の様な未熟者にそのような大役が務まるでござざざざ」

 いきなりの指名に斗真とアルマが声を揃えて唖然とし、エレンは不手腐れてそっぽ向く。

 挙げ句、哉慥は緊張で言語がおかしくなっている。

 

 「ほらほら、ハーリーハーリー♪」

 

 未だ戸惑う斗真達にに対し早くと促す日焼けたニヤケ面、教壇まで降りて来いとは言われなかった事から取り敢えず斗真から起立しその場で講釈を始める。

 

 「えー、じゃあ俺から…。メギドは勇魚が説明した様に、大いなる本の力に引き寄せられる本の魔人でアルターライドブックと呼ばれるワンダーライドブックの模造品から生まれる。

 メギドはアルターライドブックが破壊されない限り、何度でも現れる。

 種別はワンダーライドブックと同様三種、神獣、動物、物語がある……ここまではで良いかな?」

 

 「では引き継ぎます。メギドにはシミーと呼ばれる下級の雑兵……戦闘員らしき存在が複数匹確認されています。

 此方はアルターライドブックを用いずとも生まれ出で、放置すると際限無く増えます」

 

 「まさしく本の紙魚ってな」

 

 「またアルターライドブックは人工的に造られるモノですが、稀に極自然に発生する場合もあります」

 

 「そうッスね、アルターのライドブックは上級メギドが生み出すのが常なんッスけど、連中が封印されてから大戦で確認されたメギドのアルターライドブックは上級とデザストを除いて全て破壊されましたが、それ以降もメギドが発生している例から何かしらの淀みが溜まってもメギドが生まれる可能性が示唆されてまス」

 

 「ハァ…次はオレかぁ、メンドクセ…」

 「なんて言いながら立つあたり律儀じゃん」

 「ウッセッ」

 ラトゥーラの茶々に悪態を吐きながら語り始めるエレン。 

 

 「大戦の頃は大いなる本の力を手にするっつー目的が奴ら全体にあった。

 んで、そっから組織の再編期からまぁ…小説家がこっちの世界に来るまでは自然発生した個体が目的も無く暴れては秘密裏に処理されて来た訳だが……」

 

 「此処の所、ま~むけすてるやその近辺に現れためぎどは何者かの意図により使役されているでござるな」

 

 「ま、ここ最近現れたメギドは3タイプカテゴリー役満だった上に1つのカテゴリーのメギドの出現率が異様に高いしな、誰かが封印を解いたんだろ」

 

 「一体どの様な下手人の仕業でござろう…」

 

 「少なくても、あの獣畜生が現れた以上…他の上級ももうとっくに復活してんだろうよ。誰だか知らねぇが良い迷惑だっての」

 

 (多分、今、月闇持ってる人でしょうね。その辺は要調査ッスねぇ……)

 

 エレンと哉慥の言葉を聞きながら勇魚は口元を覆い隠しながら思案する。

 

 (ふーん、あの男何か知っていて隠しているな。まぁワタシには関係無い事だ、藪をつつく必要も無い)

 剣士達をつぶさに観察しながらルキフェルは一先ずの無関心を決め込む。

 自分が口を挟まなくとも他の誰かが鋭ければ気付くだろうと踏んだからだ。

 よしんば話題に上らずともそれならそれで良いかとも論付けている。

 

 「なるほど、しかし上級メギドとやらがズオス某以来、直接侵攻に来ないのはやはり彼等も結界に弾かれるからでしょうか?」

 

 「そうだと思いまスよ?そういう意味だと暁の魔女様々ッス。結界マジヤバい」

 勇魚がフローラを讃える様におチャラける。その言葉に気を良くしたのはラヴィやサルサの2人、他の面々も多少の違いはあれど当然と言った顔をしていたり、うんうんと頷いたりしている。

 

 「で?で?もう1つは何ッスか?」

 

 「そうですね……我が国ドルトガルドに伝わる聖剣について──」

 

 「うんうん闇黒剣月闇ッスね!よーし張り切って説め…「──訊ねようかとも思いましたが、特段すぐに知りたい事でも無かったので」──えぇ?」

 

 あるふぁが月闇の話題を出した瞬間、待ってましたと言わんばかりに黒板に手を付けながら勇んでいた勇魚は、しかし次の彼女の言葉で出鼻を大きく挫かれる。

 

 「何か?」

 

 「いや…その…え?マジで気になんないの?折角準備してきたんッスよ?」

 

 「はい、特には。ヘルマン氏も気にしていないようなので」

 此処には居ないストーカーの名前を出して淡々と答えるあるふぁに、両の人差し指をツンツン付き合わせながら、3の様に口を窄める勇魚。

 

 「ヘルっちかぁ…ならしょうがないにゃあ」

 

 (((((しょうがないの?!)))))

 

 「まぁアイツはな」

 「ですね」

 「にん?」

 

 勇魚が納得した様に項垂れるが傍聴しているティアラやロゼッタ等マトモな常識をある程度持ち合わせている少女数名は心中にて叫ぶ。

 対してエレン、アルマは彼の人間性を知るが故に納得し、哉慥はそもそもヘルマンから基本避けられているので良く分かっていない。

 

 「ねぇねぇイサナン、そのヘルマンって誰?」

 

 「あれ?ラビラビ見たこと無いッス?燕尾服着たドルトガルドの半亜人で、月闇を継承するハズだった人ッス」

 

 「ふぇ~、そんな人いたんだ」

 「知らなかったの」

 「名前だけは哉慥お兄ちゃんからチラホラ聞いた事が……」

 「存在は知っているが、見たことは無いな」

 

 幾人かから驚きと関心を含めた声が挙がるが、この話題がこの場でこれ以上発展する事は無かった。

 

 「んん…うん、さっきは出鼻をあらぬ方向に曲げられちゃったッスけど、改めて、2つ目の質問をどぞ~」

 咳払いをして、盛り下がったテンションを建直す勇魚は平手を改めてあるふぁに向ける。

 

 「ではお言葉に甘えて。以前より気になっていたのですが、皆様が聖剣を用いて変身される仮面の剣士の姿……其々固有の名称はあるようですが、何か総称の様なモノは無いのですか?」

 

 「あー、何か分かる。正直仮面の剣士ほにゃららとか言いづらいし」

 

 「確かにな、語呂がイマイチだ」

 

 「うんうん、なんかカッコいい名前とかないの?」

 

 「お前はそもそもマトモに名前を言わんだろう……」

 

 あるふぁが述べた疑問に同調してルキフェル、ラヴィが続く。

 そのラヴィの隣でアシュレイがそもそも彼女が剣士達の名を真面に憶えず、自身が名付けた愛称でしか呼んでいない事にツッコミを入れていたが。

 

 「なにおう!ちゃんとした呼び方があるんなら憶えるぞ!!」

 ムフンと意気込み胸を揺らすゴールデンラビット。

 その様を眺めて眼福眼福と頭の中で喜びながら勇魚はやや意外そうに答える。

 

 「おんやまぁ、斗真どんや哉ちゃんは兎も角、おっちゃんから聞いたことないでス?」

 

 この質問に対し魔女達は揃って首を縦に振る。

 

 「ルキちゃんが知らないのも意外ッス。てっきり三世が話してるもんだと……」

 

 「おいおい、ヤツだぞ?それにワタシとヤツの関係からしてまずそういう話題は余程の時にしか出て来ない!」

 

 「なーる~、アルマっちは…まぁ言わずもがなでスし」

 「どういう意味ですか!!?」

 言外に真面目が過ぎて総称を知らない或いは教えて貰っていない、ないし知っていても仮面の剣士と言う呼び名こそが至高等と言いそう、と、勇魚はアルマをそういうイメージで見ている。

 

 「んまぁ、そういう事なら教えてあげましょ。

 我らソード・オブ・ロゴスに属する聖剣を振るいし仮面の剣士のその総称!」

 後ろの黒板に描かれたメギド達の絵を大きく消して、日本語とこの世界の言語両方で書き綴る。

 その名は──

 

 

 「「「「「仮面ライダー?」」」」」

 

 幾人かの声が重なる。

 

 「そう…仮面ライダーッス」

 露骨に視線を斗真とエレンに向けながらドヤ顔で肯定する勇魚。

 

 「仮面ライダーだって?!」

 

 「むむっ?!知ってるのかせんせー!!」

 

 (この金髪ウサギ素でやってんだろうなぁ…)

 

 斗真の大仰な反応にラヴィがすかさず合いの手を返す。

 エレンは某漫画を頭に浮かべながら、呆れた様に感心する。

 

 「そうッスよ、()()()()()()()()()()

 

 「そうか…いや…でも確かに言われてみれば……」

 

 「何かご存知なのですか?!とてもろっくなお名前ですけれど…!」

 「ナデシコ~、落ち着きましょうかー?」

 

 仮面ライダーと言う響きに興奮するナデシコをツバキが()()()()()()()()()()諌める。

 

 「あ…あぁ、うん。仮面ライダー…元居た世界で有名な都市伝説に出てくる超人の名前さ。

 曰く、日夜悪の秘密結社の怪人と戦う仮面の戦士。

 曰く、警察の秘密兵器。

 曰く、夜を駆ける閃光。

 曰く、とある学校を守る謎の助っ人。

 曰く、風が吹く街に現れる二色のハンカチ。

 曰く、何処かの実験都市で行われている試作兵器……。色々な噂が飛び交ってるくらい有名さ。

 目撃証言も複数あって……」

 

 「やれバッタだカブトムシだ、ハチだ、トカゲだ、クワガタだ、コウモリだ、桃だ、ロケットだ、宝石だとか一人なんだか大勢なんだか分かんねぇアレな」

 

 斗真の列挙に続けてエレンが見た目の情報を例に出してゆく。

 

 「ろっくです!とてもとてもろっくです!うぅ~~…ろっくんろー!!」

 

 「お姉ちゃん!」

 

 弾けるナデシコにカエデが苦言を呈する。

 

 「実際の所は何かの撮影じゃないのか?とか色々憶測があるけど、共通しているのは奇妙なベルトを装着して全身が鎧もしくは特殊な装甲か衣服に包まれたフルフェイスの仮面を着けた人型の存在であるって事だけど……」

 

 「イエース、その仮面ライダーッス。っつても自分らが居た世界で目撃されたらしいどのライダーとも聖剣の剣士が変身した姿が合致しない辺り、案外初代と聖剣は別の世界から迷い混んだのかもしれないッスけどね~、その辺は閲覧権限無いんで」

 

 「でも言われてみれば似てるとも言える姿だ。と言うより……どうして思い至らなかったのか…」

 

 「バイアスってヤツだろ」

 

 斗真が目から鱗な状態になっている後ろでアシュレイがフムと顎に拳を添えて言葉を発する。

 

 「と言う事は、教官が仮面ライダーセイバー、イーリアス卿が仮面ライダーブレイズ、ロサリオ卿が仮面ライダーエスパーダ──」

 

 「ラウシェンさんが仮面ライダーバスターでサイゾウ君が仮面ライダーケンザン、マドワルド伯爵が仮面ライダースラッシュ…と言う事になるのかしら」

 

 ロゼッタも後に続く様に剣士達の変身した姿に仮面ライダーの枕詞を付けて名を挙げ列ねる。

 

 「そうッス。後ロゼちゃん、剣斬はこう漢字で書くのが正式ッス。んで、月闇の剣士がカリバー、虚無がファルシオンッス」

 其所へ勇魚が補足を付け加える。

 

 「あれ?イサ兄の変身した姿は?」

 

 サルサが耳の様にハネた髪を動かしながらコテンと首を傾げる。

 

 「んふ、内緒ッス。いつか機会があったら教えてあげまス」

 唇に人差し指を当てながらニヤリと笑う。

 

 「あの…ちょっといいですか?」

 

 「何ッスかティアちゃん?」

 

 そんな中でティアラがふと何かに気付いて挙手をして会話に入る。

 

 「その…行方が分からなくなった剣ってまだありますよね?そっちの方も名前とかまだ教えて貰ってないです」

 

 「そう言えば…、でも確かさっき虚無の説明の時に"狼煙"って…」

 ティアラの疑問にリネットも深く考える様に同意する。

 

 「あぁ、はいはい。紛失3の残り2の方ッスね。

 一本は名前は分かんねッス。もう一本…リッちゃんが言う通り虚無の説明の時に出した狼煙ってのは、煙で合図を出す方じゃなくて聖剣の名前で合ってるッス。

 まぁでも実際煙の聖剣なんであながち間違っても無いかなぁ」

 今にも(笑)と付けそうな言い様で少女達に答える勇魚。

 「詳しく説明したいとこッスけど、もうそろそろ良い時間なんでサッと語っちゃいましょ。

 もし気になったなら次の機会に三世にでも訊いてみて下さいッス。

 狼煙…正式な銘は【煙叡剣狼煙】。文字通り煙を操る聖剣で、歴代継承者が全て女性と言う変わり種の聖剣ッス。んで、狼煙を使って変身した姿、仮面の剣士としての名前は仮面ライダーサーベラ!

 因みに前代所有者ことオルガ姐さんはご存命ッス」

 

 「女性!?」

 歴代継承者が女性と聞いてアシュレイが思わず立ち上がる。

 過程に魔女を挟んでいるとは言え、彼女の最終目的は騎士になる事。然らば、聖剣の剣士と言う違いは在れど女性騎士と言う先達に羨望を向けるのも無理からぬ事だろう。

 

 「ッス、その辺はまぁ抗議する程の事でも無いんで、気になったって子は後で個人的に訊きに来てくれて良いッスよ?その代わり自分とデートを──」

 

 「やめい!」

 

 勇魚が最後まで言い切る前にアンジェリカがハリセンを魔法で強化して思いっきり殴る。

 結果、講師を務めていた自称いさなお兄さんは頭に大きなコブを作って床に沈んだ。

 

 「はい!終わり!もう終わり!解散!」

 

 アンジェリカの鶴の一声でその場で講義は終了の旨となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━暗黒大陸・???━

 

 来訪者達から地球同様に暗黒大陸と称される開拓の地。

 未だ前人未到の場所が多く点在する大陸の、人が踏み入れる限界ギリギリのその場所に暗闇が生まれる。

 

 「見付けたぞ、正しく灯台もと暗しだな。彼の反逆の王が最期に投獄されたこの地に探し求めた虚無が在ろうとはな

 

 暗闇より出でるは漆黒のローブを纏った謎の剣士、闇黒剣月闇を振るいし邪剣士が光届かぬ渓谷に立つ。

 

 彼の目的は無銘剣虚無。

 

 渓谷の最奥に人工的に造られた遺跡らしき建造物、恐らくは慰霊の為の神殿へと足を向け進む。

 手入れを怠った内部は風化しているものの材質は渓谷近辺で採掘された石である為か、存外にしっかりと形状(カタチ)を保っている。

 

 「慰霊の為に拵えたであろうに…。死人に口無し、所詮は悪逆の徒、歴史の敗者を貶める事など造作も無いか…それが世界に牙を剥いた男ならば尚更…フッ、最低限の面子を立てた形ばかりの墓碑と言う事か

 

 神殿の奥深くに位置する石櫃目指し歩みを進めながら皮肉を口走る。

 或いは何れ己が被る末路と重ねた言葉なのかもしれない。

 辿り着いた中央、石櫃の蓋を足蹴にして抉じ開けるローブの人物。

 

 果たして石櫃の中に眠っていたモノは、誰もが予想する通りの木乃伊であった。

 眼球は遠の昔に乾き渇れ果て、水分を失った肌は黒く変色し、筋肉と脂肪は痩せて皮膚は骨に貼り付いている。

 髪もカサカサに乾き、着せられた服は虫食いの痕が見られ襤褸布同然。

 櫃に容れる際に拘束の為に付けられた手枷足枷も、木乃伊となった事ですっかり隙間が出来ている。

 だが、そんな事等よりも一層眼を惹くのは彼の木乃伊の胸に深く突き立てられた朽ちる事なき黒耀が如き刃を戴く橙のエンブレムが象られた剣。

 

 「自らが望み奪い振るった聖剣によって最期を迎えた憐れな王、貴公の"虚無"確と頂いて行くぞ

 

 憐憫か嘲笑か、顔色が伺えぬローブの奥で木乃伊を見下ろしながら、その胸から"無"を司る聖剣を引き抜く。

 ローブの人物は目的の物を回収し、帰還の為に月闇を振るう。

 そして闇の中へと踏み出そうと足を動かしたその時──

 

 ≪さぬ…わた……わがふしは…けして…わたさぬ…ぅぅ

 

 何処から途もなく聴こえて来る声。

 怨嗟と呪詛を絡めた呂律整わぬ声。

 

 「ほぅ…何と…!朽ちて尚聖剣に執着するか!妄執も其所まで来ると大したものだな。

 未だその肉体に不死の効力が残留していたのか…或いは、魂までは虚無で滅する事叶わなかったか…何れにしても…まだその意識を残していたとはな…侮り難しは不死への渇望か

 声の主を探して視線を巡らせれば、何と木乃伊がカサカサと震えながら手を伸ばし、乾いた唇を必死に動かしている。しかし──

 

 「が、悲しいかな…既に其所まで肉体が朽ちれば如何に不屈の魂を持とうとも、剣を握る事も…況してや再び立ち上がる事も出来まい

 ローブの人物が言う通り、木乃伊は動く度にその身を塵の様に崩してゆく。

 

 ≪のがさぬ…わたさぬ…よのきょむ…よのちから…

 

 崩れ行く身で尚、聖剣に執着を見せる木乃伊。

 その姿を見てローブの人物は1つとある提案を口にする。

 

 「ふむ……そうまでして求めるか、ならば王よ、古の王よ、取り引きをしようではないか?

 木乃伊の震えが止まる。それを同意と見たローブの人物は木乃伊の言葉を待たずに話を続ける。

 「汝に新たなる肉体(うつわ)を用意しよう。なに、此方も入り用でね…人手が欲しいのだ。

 それに新な肉体を得たならば戦力としても貴殿は申し分無い。

 協力を約束してくれるのであれば、散り散りとなったドライバー、ワンダーライドブックも此方で探索、回収しようではないか…。悪い話では無かろう?

 何より、貴殿を封じた者達…剣士達の組織への復習も叶う。さぁ…如何とする?

 

 悪魔が囁く様に言葉を紡ぐローブの人物、話を黙って聴いていた木乃伊が残る最期の力を振り絞って、声を絞り出す。

 

 ≪よは…のぞむ…えいえんのせいを…よはのぞむ…おろかなる…ぐしゃに…まじょに…じんみんに…せかいに…ふくしゅうを……。

 よかろう……なんじが…かんげん…うけたまわろう……わがあらたなうつわ…さっきゅうに…よういせよ…それまでは…このたましい……あずけるぞ……

 

 その言葉を最後に木乃伊が全て崩れ落ちる。

 そして木乃伊が在った場所から薄ぼやけた塊が抜け出る。それはローブの人物に近付くと彼が懐に隠していた白いライドブック…ブランクライドブックへと吸い込まれていった。

 と同時に墓碑が役目を終えたのだとばかりに風が吹きすさび、塵となった木乃伊を拐って行く。

 風で煽られ素顔が顕となったローブの人物が不敵に嗤う。

 

 「思わぬ収穫を得た、嗚呼…予想外の前進だ。フフ…フフフフ…、待っていてくれ…エリザ……」

 

 フードを被り直し、闇の中に消える。

 

 嘗て墓碑であった場所は最早その存在の意義を為さぬまま、この地でゆっくりと朽ち果てて逝くのである。

 

 

 TO BE Continued……。

 

 

─???─
 

 




 今回のどうでもTipは作中でも名前が登場した狼煙の前所有者ことオルガさん。
 フルネームはオルガ・ヴァシュキロフ。
 銀髪で肩掛け肩甲骨周りまでのセミロング、顔面左側やや上方からにかけて火傷に似た傷痕があり、それを前髪を延ばして片側目隠れにして、更に淵無し眼鏡を掛けた美女です。
 見た目は威圧感ありますが、性格は穏和です。
 外見の容姿は二十代後半です。
 これで存命中の前代剣士は水、雷、風、音、煙が判明した訳ですね。

 ではまた次回お会いしましょう。

 タクトオーパスもやりたくなっちゃったなぁ…容量持つかなぁ…。


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26頁 闇人強襲 ──時の悪戯──


 こんばんは、こちらでの更新はお久し振りです。

 年末が段々と近付きますと、思うように執筆が進まず困る困る……忙し過ぎますよ、ホントに…。
 さて次回に閑話を挟みまして、章がまたしても変わります、大体13話ごとになりますかね。


 

 ━フローラ女学院・空き教室━

 

 「ふん、それなりに暇潰しにはなったか」

 ルキフェルが鼻を鳴らしていの一番に扉へと向かう。

 

 「私も帰る、このクソ野郎は先生達に任せる…と後、このワンダーライドブック、先生に渡しとく」

 アンジェリカも床に転がった勇魚を一瞥した後、ブレーメンのロックバンドワンダーライドブックを斗真に渡してそそくさ退室する。

 

 「じゃあね先生くん、行くわよ~ナデシコ、カエデ~」

 ツバキが相応の色気を持ったウインクを斗真達に向け、妹達を傍に招きながら教室の扉に手を掛ける。

 

 「先生、いつか先生のろっくな姿も見せてくださいね!」

 ナデシコは斗真の手に渡ったブレーメンに視線を注ぎながら興奮気味に語る。

 

 「ナデシコお姉ちゃん!何を言っちゃってるんですか!!?ごめんなさいお兄ちゃん、お姉ちゃん達にはカエデから後で厳しく言っておきますので」

 ナデシコの発言を聞き付け脱兎の如く、サルサから離れ、ぷんすこと言わんばかりの膨れっ面で姉を叱る、ツバキが私も?!等と一緒くたにされた事に抗議の視線を向けたが、カエデを目にして一秒と持たなかったのは言うまでも無い。

 

 「色々勉強になったし、それなりに面白かったし、エレンが何やってんのかも解ったしで参加して良かったかも」

 「オレぁ説明の手間が省けて助かった」

 「またすぐそう言う事言うなし」

 褐色金髪コンビは変わらず仲が良い。

 

 「お勉強会楽しかったの!お返しに今度お店に来てくれたらサービスしてあげるね、おにーさま♪」

 妹にしたい魔女No.1の肩書に恥じぬあざとさを斗真に向け発揮するシャンペ。

 ヒキガエルの様に倒れた勇魚が羨ましそうにうごごと唸る。

 

 「あ……え……の……『まだこっち質問してないんだぜ?それなのに終わっちゃうのは困るなぁ(*´・ω・)』」

 最初、己の口で伝えようとパクパクと開閉を繰り返すも、最終的に首から提げたベリーボードに頼って用件を伝えるメアリーベリー。

 確かに先の勇魚の抗議で後回しにされ、保留のまま結局勇魚の発言をアンジェリカがハリセンで一喝、強制解散となったものだから、質問の機会が宙ぶらりんとなったままになってしまった訳だ。

 

 「クソペテン師がクソみたいな事ほざいた所為で終わっちまったからなぁ」

 

 「もし良ければ僕達の方で答えてみましょうか?勿論、答えられる範囲の物であれば、ですけどね」

 エレンが勇魚を腐ったゴミを見る眼で見下す横でアルマがメアリーベリーに視線を合わせるよう、中腰になって微笑む。

 

 『じゃあ遠慮なくきくぜ!ぶっちゃけ先生の前の炎の剣士ってどうなったのさ(・・?』

 

 ベリーボードから放たれた何気無い疑問、その言葉に下で蠢いていた勇魚の動きが一瞬ピタリと止まったという事に気付く者は、残念ながらこの時点では誰も居なかった。

 

 「斗真殿の前の炎剣士……拙者、残念ながらお会いした事が無いので解らないでござるよ」

 

 「10年前くらいだからな。お前5歳じゃん、そりゃ知らねぇわ。かく言うオレもクソババア伝手に聞いた事しかねぇけど」

 

 「そうですね…僕も当時は修行中でしたので父に訊ねてみない事には……」

 

 斗真は元より知らないので答えようが無い。であるならば、残るは下でヒキガエルから復帰した勇魚に訊ねるのみであるが…………。

 

 「いやぁ、自分も知らないッスねぇ」

 

 何をどうしたのか、足の指に力を込めただけでバネの様に起き上がると肩を竦め、息を吐き、ヤレヤレとジェスチャーを取りながら白々しく宣う。

 

 「クソ嘘クセェ、大体お前10年前は忍者の前任で風の剣士やってたんだから会ってるハズだろ…」

 

 「そう言えば…刻風は今幾つなんだ?」

 

 「僕より一個上なので…二十一歳の筈です」

 

 「それは…つまり十一歳で聖剣の剣士になったと言う事か?!」

 

 「左様にござります。歴代最年少保有記録者であり、歴代最速で選抜の試しを制覇し、歴代最短で引退した御仁でござる」

 

 「や、結局自分新しい聖剣の剣士になったんですけどね~やはは!」

 

 「それで結局俺の前に烈火を使ってた人の事は知ってるの?知らないの?」

 

 「(知ってるけど)いや詳しくは知らねッスね。多分昔に顔を合わせた事くらいはあるでしょうけど、ガキだったんであやふやッスねぇ…(嘘だけど)」

 いけしゃあしゃあ言ってのける勇魚の後頭部を目茶苦茶胡散臭い物を視る眼で眺めながらエレンが口を挟む。

 

 「オレぁ、ババア伝手に聞いただけだが、割りとテンプレなイギリス紳士だったらしい…ハーフだそうだが…。名前までは知らね」

 

 「それこそセドリックさんやラウシェンさんにでも訊いてみない事には…やはり詳しい事は解りませんね」

 

 「…と、言う訳で、そう言う事なんでメアちゃんの質問にはこんな答えしか返せないッス。メンゴ!」

 

 『メンゴて……(´・ω・`; )』

 

 「お詫びと言っちゃなんッスけど、メアちゃんにはコレをプレゼントフォー・ユー」

 俗に言うテヘペロ顔をしながら教壇の下に放置していたスポーツバックからタブレット端末とスマホを取り出す勇魚。

 

 「こっち来てからガトホに切り替えたんで正直持ち腐れだったんッスよね、でもナルミッチや斗真どんかから聞きましたよ?メアちゃん何か造ってるって……数日物借りて斗真どんのスマホをこっちで使える様にしたてっっっんさいっ!のメアちゃんならこの使わなくなったタブとスマホを有効に活用出来るでしょ!

 と言う訳で、コレあげまスんでメアちゃんの発明に役立ててちょーだい」

 

 ポイポイと端末2機にそれ等の周辺機器も含めメアリーベリーに渡してゆくおちゃらけ剣士に、渡されている当人は戸惑うばかりである。

 

 「良いのか?俺みたいにこっちでも使える様にしてみるとかしなくて」

 

 「そこはそれ、もう1台あるんで。メアちゃんが造ったモンの結果次第でどーとでもなりまスし、エリちに頼んだりするので」

 

 さらっと複数台端末を所有している事を明かす。因みに彼が口にしたエリちとはセドリックの兄、エリウッド・マドワルドの事である。更に言うなら心は乙女

である。

 

 「エリち?」

 斗真は当然誰の事を指しているのか判らないので置いてけぼりである。

 

 「ほ…ほ、ホントに貰っていいんですか??!!『太っ腹が過ぎるぜ!!(*/□\*)』」

 マジックアイテムクリエイター渾身の叫び、ボードも荒ぶっている。

 

 「良かったねメア」

 「う、うん」

 「でも徹夜は程々にするし、美容にわるいからね」

 「う……『善処するよ( ゚ε゚;)』」

 シャンペが頭を撫で、ラトゥーラが釘を刺す。

 溢れる好奇心と創造性を抑えられないメアリーベリーは返事もそこそこに早足で自らが有する研究室へと足を向ける。

 残るシュガーポケッツの2人もそんな彼女の後ろ姿に苦笑を溢しながら後を追って教室を出た。

 

 「さて……ティアちゃん達はともかく、何で残ってんッスか?あるふぁちゃん?」

 

 「いえ、そろそろ頃合いかと思いまして」

 

 「あ?何がそろそろなんだ?」

 「謎です、魔律人形の思考は謎過ぎます」

 「???」

 

 あるふぁの意図の読めぬ発言に剣士達は疑問を浮かべるばかり、唯一勇魚はあるふぁが斗真に視線を注ぐ様子からおおよそ理由を察する。

 

 「あるふぁが何を考えているかなんて多分エミリアでも早々判らないんじゃないか?」

 「それは……そうかもね」

 「ん?何か廊下から変な音しない?」

 「そう言えば何か騒がしいような……」

 「声…かな?」

 

 「わふ…さーん、にー」

 

 ティアラ達が怪訝な顔を合わせる横で、予め示し合わせていたのかサルサがカウントを始める。

 彼女の口が1を告げる形となったと同時に教室の出入口にあたる扉が勢いよく開け放たれる。

 

 

 「剱守ぃぃぃぃぃトォォォマァァァアッ!!」

 

 

 「ひっ…」

 「何だっ!!?」

 「恐っ!?!めちゃ恐!!?」

 「あ、あんな人…学院に居たかしら…?!」

 「て言うより…今の名前って、先生の名前じゃ…」

 

 突如憤怒の形相を貼り付け現れた燕尾服の青年にリネットが悲鳴を溢し、アシュレイが驚き、ラヴィが慄き、ロゼッタが見覚えの無い顔に当惑し、ティアラが青年が口にした名が自分達の担任の名前である事に気付く。

 

 「うわっ?!でた!!?」

 

 「やはり来ましたね」

 

 そして名指しされた本人と、彼の襲来を予想していた魔律人形がほぼ同時に声を上げる。

 片や本能から出た苦手意識、片や呆れが入り雑じった無表情を浮かべ、件の青年──ヘルマンを見やる。

 

 「死ぃぃぃぃねぇぇぇええ!!」

 

 そしてヘルマン、斗真を視界に収めるなり、途轍もなく物騒な事を叫び両の指に銀食器のナイフとフォークを挟み跳び掛からんと跳躍する。が───

 

 

 「御免!」

 

 

 突如としてヘルマンの横合いから伸びた細腕が彼の二の腕を掴み、勢いのままに床下に投げ、叩き付けられる。

 

 「ナイスでございます、サイゾウ様」

 斗真を庇う様に前に立ち塞がるあるふぁが、下手人を投げ飛ばし押さえた人物を褒める。

 

 「いえ、当然の事をしたまででござるよ」

 照れながらも極める所はキッチリと極め、ヘルマンの抵抗を無力化する哉慥、忍者は伊達ではない。

 

 「ぐぬぅぉおおおお!!」

 年下の少年に押さえ込まれ唸る燕尾服姿の青年、手にした凶器はアルマとエレンにより隠していた物含め押収されている。

 

 「お前遂にやりやがったな…此処にオレらが居なかったらちょっとした惨劇になってたぞ、あ?おい」

 

 「ヘルマン……トーマさんとは仲が良好ではないとは言え、いきなり殺害に踏み切るのは見逃せません!何が君をそこまで駆り立てたのか…動機を話して下さい」

 押収した凶器を教壇に並べ置き、哉慥と併せて立ち上がらせたヘルマンが暴れない様に取り囲むアルマとエレン。

 しかしヘルマンはそれを待っていたのか、口端をニヤリと歪め言い放った。

 

 「獲った!」

 

 ヘルマンの足元から影が急激に延び、斗真へと向かう、しかし──。

 

 「ほい」

 

 「?!?!」

 

 他人事よろしく、ニヤニヤ眺めていた勇魚が割って入り、ヘルマンから延びた影を踏みつける。

 

 「おの…れ!?貴様!刻風!!邪魔するか!!退け!」

 

 「や・だ♪」

 

 「糞っ!絶妙に体重を掛けおってからに!()()()()()()()()()()()()!!」

 

 ヘルマンが忌々しげに叫ぶ、どうやら勇魚はヘルマンの半亜人てしての能力が何かを知っているらしい。

 

 「もぅ、ホントにヘルっちはエミリアちゃんしか眼中に無いッスねぇ。その所為でコミュニケーションが不足し過ぎッス、基本エミリアちゃんかあるふぁちゃん、後はカミラたんの言う事くらいしか聞かないッスよねぇ…あ!一応ジークハルトパイセンの言う事もか」

 

 「おい、クソペテン師とクソストーカー…今はクソ殺人未遂犯って呼ぶか、テメェらだけで話進めんじゃねぇ、キチンと説明しろ説明」

 

 「出来れば穏便に頼みたいかな、なんか未だにヘルマンの眼が恐いし」

 

 ニコニコ顔の勇魚と怒り顔のヘルマンの応酬に苛立ちながらエレンが事情の詳細な解を求め、標的となった斗真も額に汗を滴らせながら同じく説明を求める。

 

 「良いッスけど、その前に…ヘルっちは影引っ込めて、さもなきゃ哉ちゃんに()を縫って貰っちゃうよ?」

 

 「ニン!よくは解りませぬが、お任せ下さい!」

 

 「っ……チィッ!だから風の剣士の系譜は苦手なのだ…!」

 性格的にも能力的にも相性が悪いのか、ヘルマンは哉慥と勇魚を鬱陶しく思いながらすごすごと影を元の長さまで戻す。

 

 「あの……大丈夫ですか?」

 

 そこまで済んで、やっと蚊帳の外になっていた少女達が会話に加わろうと、ティアラが取り敢えず斗真やアルマに問い掛ける。

 

 「多分……だよね?」

 

 「ええ、まぁ…予断は許されませんが、一先ずはサイゾウとトキカゼが居ますから大丈夫かと」

 

 「後あるふぁちゃんも居まスしね。で、ヘルっちったら何をそんな激おこプンスコなんッスか?」

 再び影を延ばす事のないよう会話に紛れてヘルマンとの距離を自然に詰める直轄剣士、彼の態度の割りに油断ならない行動に舌打ちをしそうになるのを堪え、屈辱にまみれた顔で質問に解を返す。

 

 「決まりきった事を訊く!私が動くのは全てお嬢様の為、お嬢様の知り得る事知り得ざる無い事に関係無く、お嬢様の害となる者は等しく私が裁く」

 

 「はは~ん、読めたッスよ…ヘルっちエミリアちゃんのパイ乙に斗真どんが触れた事を知ったんッスね」

 

 勇魚がエミリアのパイの部分を口にした時点で、ヘルマンの殺気がおおよそ2回り程鋭く大きくなるのをこの場の全員が感じ取った。

 が、そんな剣呑な空気を理解した上で余裕をみせるのが刻風勇魚と言う男である。

 真正面から鬼気を遮り、受け止める男の顔は実に満面の笑みであった。

 

 「貴様!お嬢様の神聖で美しい御身の一部を軽々しく……」

 

 「えー、パイはパイッスよ。それともお山って呼ぶ方が好みでス?或いはメガロポリス?思えばエミリア山も中々のメガロっぷりッスねぇ、リッちゃんに並ぶ大きさと見た」

 

 「うぇぇ!?」

 

 まさかの自分の名前が話題に挙げられた事に両腕で自身の胸を隠すように抱きながら身を隠すリネット、と言うか勇魚は最早セクハラ発言を隠す気が無い。

 これで鼻の下が伸びて下卑た笑みを浮かべていたら、少女達も実力行使に出ていたかもしれないが、堂々とケラケラカラカラ笑いながらさらっと言ってのけるので、少女の代わりにアルマが勇魚を諌める。

 

 「下品ですよトキカゼ」

 「アルマっちは紳士ッスねぇ。でも人は遅かれ早かれ下ネタ色ネタ恋ネタにゃあ触れるモンッス、自分の場合は八割方下ネタッスけどね!!」

 

 「自信満々に返す事かよ」

 「少年がさっきからリネットちゃん以上にめっちゃ顔赤くしてんだけど」

 

 「にゃ、にゃ、にゃにをおっしゃいましゅる!?せっしゃきわめてれいせいでごじゃりゅよ!!」

 

 「呂律ガタガタじゃねぇか」

 「初すぎないか?」

 

 ((かわいい……))

 

 「あははは!ビンゾウくん変なの~!」

 

 「しゃ、しゃいじょうでごじゃりゅよらう"ぃどょの!?!」

 

 勇魚がパイだの何だのと発言する度に顔を赤面させている哉慥、斗真の指摘に当人は否定を口にするが、エレンが言う通り呂律が回らず噛み噛みの発言を繰り返す為、女性陣からの印象が完全にマスコットのソレである。

 その上ラヴィだけがツボにクリーンヒットしたのか吹き出して大笑いしている。

 そのお蔭か、はたまた所為か、先程の剣呑殺伐とした気が霧散する。

 

 「ヘルっちさぁお嬢様優先主義は構わないけど、度が過ぎるとカミラたんにチクッちゃうよ?

 

 「ぐっ……!」

 

 ふにゃふにゃになった哉慥の代わりに即座にヘルマンを拘束した勇魚は、ヘルマンの背後から小声で耳打ちを始め、ヘルマンも恩人の名を出されると大人しくならざる終えない。

 大人しくなった彼の耳元で勇魚は尚も耳打ちを続ける、先程よりも一層小声で話す為、喩えサルサの聴覚を以てしてもゴニョゴニョとしか聴こえない。

 

 「何だと…?!」

 「そう言う訳で、斗真どんへのヘイトを下げましょう」

 ヘルマンが勇魚の真意を推し量る様に見つめるが、勇魚は終始笑顔を浮かべるのみ。

 

 「ふむ、ひとまずは先生様の安全は確保出来たと見てよろしいでしょうか?」

 

 「ッスね、問答無用でKILLされる事は無くなったッス。一応は」

 

 「勘違いするなよ、私は別に剱守の無礼を許したつもりはない!お嬢様に破廉恥な行為を働いた事は万死に値する事には違い無いのだ」

 

 「わざとじゃないんだけどなぁ…」

 

 「そ、そうですよ!あれは不幸な事故だと思います!」

 「う、うん先生には下心とか悪意は一切無かったよ!」

 リネット、ティアラが斗真を弁護する様に発言すると、流石にヘルマンも分が悪いのか口ごもる。

 

 「やや、斗真どんモテモテでスねぇ。つー訳でヘルっち、斗真どんを処したらティアちゃん達が悲しむ訳ですよ?そんであるふぁちゃんがその辺りの経緯含めエミリアちゃんに報告する可能性がある訳でしょ?そしたらヘルっちはどうなっちゃいまスかねぇ~?」

 

 「…忌々しい男だな刻風貴様!くっ、良かろう…剱守に過失が無かったとし、此度の件は不問にしてやる」

 

 「良かったッスね斗真どん…やっぱ言い辛いから斗真くんで良いッスか?良いッスね!」

 

 返答を待たず、有無を許さず、一方的に捲し立てる勇魚。斗真は只々首をコクコクと縦に振るしかない。

 問題は一先ずの解決をした……かに思われた、勇魚が去り際に放った一言さえなければ。

 

 「んじゃ、自分もこれにてドロンしちゃうッス!あ、そうそう、斗真くん転ばしてエミリアちゃんのパイにToL○VEるもといトラブルさせた原因は…実は自分ッス♪チャオチャオ~」

 

 「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」

 

 場を支配するのは一瞬の沈黙、しかして真実を知り真っ先に反応を起こしたのは…当然エミリア史上主義を謳うヘルマン。

 

 

 刻風ェェエェエエエエ!!貴様ぁぁぁああ!!

 

 

 薬缶が沸騰するからの如く、怒気を湯気にして噴出しながら去った勇魚を追走するヘルマンなのであった。

 

 「アホらし、おい小説家ぁ帰るぞ」

 「少年は放置して大丈夫なのか?」

 「その内戻んだろ」

 「えぇ…。と、取り敢えずティアラちゃん、リネットちゃんもありがとう。そう言う訳で俺達は戻るよ、ラヴィちゃんは課題しっかり復習しておいてね」

 2人に庇ってくれた礼を述べ、先に行くエレンを追う様に斗真も教室を去る。

 その場に残った面々もそう言う事ならばと次々去り、後には未だ言語がバグった忍者少年が残るのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・理事長室━

 

 「随分と色男になりましたね」

 

 「やぁ~、一応責任はそれなりに感じたんで一発は甘んじて受けたんッスけど、ヘルっちたら本気で殺しに掛かるもんだから、後は全力で抵抗させて貰いましたッス」

 日の暮れた理事長室でクロエがソファに寛ぐ人物に声を掛ける。

 掛けられた人物──当然刻風勇魚の事である──が紫色に腫れた左頬を擦りながら紅茶を啜る。

 

 「念の為確認しますが……ヘルマンは生きていますよね?」

 

 「だいじょびッス、本気で殺り合ったら自分のが強いの知ってるでしょ?」

 

 腫れた頬の締まらない顔をして尚余裕と言った雰囲気を醸し出す青年に少々蟀谷を押さえたくなるクロエ。

 

 「それで、貴方はまだ学院に滞在する気ですか?」

 

 「んにゃ、明日軽~くこの辺一帯の土地を回ったら噂の幽霊屋敷を軽く見に寄って帰るッス」

 

 "幽霊屋敷"…、そう発言した勇魚を眼鏡越し見開いて見つめる。

 

 「どこでその情報を…?」

 

 「壁に耳あり障子にメアリー……冗談ッスよ冗談、だからそんな恐い顔しちゃ嫌ッス」

 

 「貴方に情報の出処を訊いても無駄でしたね……ですが、近い内に課題として例の屋敷がある一帯の調査を生徒達に出す予定です…ですから──」

 

 「モーマンターイ、安心してくださいッス。自分はただちょこっと野次馬しに行くだけなんで、台無しにするような事はしませんよ、ついでに例えメギドが出ても不干渉するッス」

 

 「そちらの職分はトーマ先生達にお任せする予定です」

 

 雲を掴むどころか掴んでも逃げる水を相手にする気分になるクロエ、呆れつつも勇魚に最後に問う。

 

 「トーマ先生…トーマさんは貴方とマスターロゴスのお眼鏡に叶う御仁でしたか?」

 

 「さぁ?自分は斗真くん嫌いじゃないッスし、ロゴマスも個人としては好意を示すでしょうけど……組織としてはまだ解んねぇって感じッスね、何せジジイ共が堅物ッスから」

 

 「ですが、さる筋から聞く所によれば、賢神の一角が入れ替わると」

 

 「耳がはやーい。そうッス、哉ちゃん所の里長が候補てして挙がってまス、だからまぁ…あの合法ショタお爺ちゃん辺りは斗真くん参入は賛成するでしょうね、やははは~オヤスミー」

 

 芝居掛かった何時もの笑いを挙げソファから発つ勇魚、クロエの反応や返答を待たずさっさと理事長室を後にする。

 階段を降りながら人が疎らなエントランスを眺める褐色の剣士は最後にふと呟く。

 

 「ま、一番油断ならないのはそのお爺ちゃんなんッスけど

 

 誰に聞かせるでもない一言は空気の中に溶けて消える。

 時の剣士刻風勇魚、彼の本心は彼と彼が仕える組織の長以外に知る術は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──抗議を終えた次の日、トキカゼさんは学院を後にしていました。

 結局彼が何を考えて何をしたかったのか、当時の私達は、この時点では知る由も無かったのです。

 後日、トーマ先生を介して渡されたとある物の意図も、やはりあの時の私には気紛れとしか思えなかったのです──

 

 

 TO BE Continued

 

 

 

─ジャアクドラゴン─

 





 さらっと出て来た三世のお兄ちゃん漢女設定。
 更にガーネットに関わる事にも少しだけ言及すると言う、まぁガーネットの登場より先にカリバーに関連した話が次の章であるんで登場は今暫くお待ち下さい。
 
 今回のなんちゃってTip、勇魚がメアリーベリーに渡した端末、スマホの方はカバーが軍事用もかくやとばかりの頑丈さを誇るモンです。
 そんなもんをホイッと渡す辺りメアに期待してるのか、はたまた執着が無いのかはご想像にお任せするとして、これで今作に於けるベリーパッド開発が更に進む訳ですね。

 では次回にておば


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行間 天才?刻風勇魚

 おはこんばんは。

 遂にリリースされたラピライ!待ちに待った甲斐がありました。

 今だUR出てませんし、URチケットユニットか単独かで迷って使えてないですけど……。
 折角なんで斗真くんの名前をそのまま拝借。
 他にも始めた人がいれば嬉しいですね。
 今の所フレンドもまだかなり空きがありますし。



 ━本の間━

 

 「斗真くん斗真くーん」

 

 勇魚主導で行われた講習の翌日、フローラ女学院図書館室奥の禁書庫の更に奥に隠された剣士達の拠点、その中枢となる本の間にて大荷物を纏めた日に焼けた褐色に黒髪の若い男が、同じく同部屋にて本を漁っていた整端ながらも人好きする笑顔が似合いそうな青年に気安く声を掛ける。

 

 「刻風?随分と……大荷物だね、まるでサバイバルに向かうみたいだ」

 

 「そッスかね?そんな大したモンは入ってないんッスけど…精々替えの下着、着替え、お土産、街で売ってたオルケストラブロマイド、ベリーボード、姐さん方に頼まれたLaLaの新作コスメ、来訪者謹製デッキブラシくらいッスよ?」

 

 「うん?待って、ちょっと待て!?着替えは分かる。お土産もまぁ分かる。頼まれた物も分かるし、ブロマイドとかは…うん、個人的な趣味として捉えれば理解出来なくも無い。ベリーボードは…想像が着かないけど…まだ良い、最後おかしくない?」

 

 勇魚が挙げ連えた物一覧に引っ掛かる物を感じて思わず手を制す斗真。

 何なのだ来訪者謹製デッキブラシって……と眉間を押さえて用途を幾つか想定するがまるっきり解らない。

 デッキブラシ──マームケステルの街にある雑貨店に来訪者が関わったとされる道具が入荷される事は多々ある。

 デッキブラシもその1つだろう。

 普段学院で見掛けるブラシと違い、素材は木製ではなく、金属。毛の部分も獣の物ではなくて加工手段は知らないが科学線維のソレである。

 別にそれは良い、問題は何故目の前の青年が外に出掛けるに辺り、そんなモノを持ち出すのかと言う事である。

 

 「おかしくないッス、一般で売ってるのより頑丈でちょっとやそっと振り回しても壊れ難い優れ物ッスよ?」

 

 「振り回す事って…前提がおかしいよ?!何で掃除具を武器にする事前提なんだ!!?」

 

 斗真のツッコミに何言ってッスか?とばかりのキョトン顔でデッキブラシの性能をプレゼンする勇魚。

 しかし斗真には彼の言い分が理解出来ない。

 

 「や、最初はサスマタと迷ったんッスけど、サスマタじゃ矛先のウェイトが重すぎなんで最終的にデッキブラシに落ち着いたッス」

 

 「違うよ?!そう言う事言ってんじゃ無いよ?!刺股だから良いとか言う問題でも無いよ?!!」

 

 勇魚が尚もデッキブラシについて語るがそう言う問題ではないと斗真は退き下がらない。

 

 「斗真くんは心配性ッスねぇ。モーマンタイッスよ、自分前にもモップで魔獣倒したんで。むしろ穂先の重量的にはこっちのが使い易いし、此処の工房の製品は武器にも使えるって売り文句で有名ッス」

 

 「エエエェェェェェェ…」

 

 斗真は思った、勇魚の思考もおかしいが、ブラシを作った工房の人間とやらも頭おかしいと。

 いやしかし、実際の所、本当に武器としても申し分無い強度を誇るのだ。

 本来は武器として使用する際、穂先の部位を交換するとして別途に矛先オプションセットなる物を買う必要性があるのだが、勇魚はブラシのままでも問題は無いらしい。

 だが、そもそも何故ブラシを武器にも利用出来る様に作られたのか?そこに言及すると、製作者の来訪者はドヤ顔で答えるだろう…趣味だと──。

 

 「ともあれッス、そう言う訳で自分もこの街とは暫くお別れなんで新しく仲良くなった斗真くんには挨拶しとこっと思い至った訳ッス」

 

 「それは…うん、ありがとう?」

 

 「どういたましてーッス」

 

 結果強制的に話を戻して別れの挨拶を告げる勇魚に面食らい、思わず礼を口にする斗真。対して勇魚は妙な日本語で礼を返す。

 

 「そこででスね、帰るにあたってホントは直接渡せれば良かったんッスけど、思いの外ブラシ選びに時間掛けちゃったんで、この本斗真くんからリッちゃんに渡しといてくださいッス」

 言って背負ったリュックから白い装丁の本を取り出す。

 「これは?」

 「それはリッちゃんに渡せば()()()()()()()。それまではお楽しみつー事で」

 「えぇ…そこはかとなく不安だなぁ」

 と言いつつも本を受け取っておく。

 まぁ友人として信頼してくれたのだからその想いには応えたい。と斗真のお人好しな部分が詮索を良しとせずにしたのだ。

 

 「そんな訳で~、いざサラバーイ。ッス!」

 

 そんな言葉を残し以前見た時の様に突如として消える勇魚、残された本の間に独り佇む斗真は思った。

 

 (そう言えば…何でデッキブラシなんだろうか?曲がりなにも剣士ならそこは木刀とかじゃないの?何で長柄物なんだ?あれじゃまるで槍じゃないか?)

 

 生憎とこの場にそれに答えられる人物は居ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル外・街道━

 

 「さぁ~て、取り敢えずの布石…微々たるもんッスけど、打っといたし。後は気侭に遊覧の旅と洒落こむッスかね」

 ガトライクフォンを取り出し変形させながら頭の中で旅のルートを構築する勇魚。

 

 「とりま、幽霊屋敷とやらは絶対に見ときたいし……街道は無視して良いかな。どうせガトライカーは衆目にはそうそう晒せないし、説明メンドイし」

 変形し、鋼鉄の騎馬ライドガトライカーに跨がり独り語ちる。

 口にした通りアクセルを握り、道なき道をマシンの性能に任せて進むは一人旅。

 後日その不可解な轍が街で一頻り妙な噂を呼ぶ事となるが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━本の間━

 

 あれから、斗真が渡された本を律儀に開かずに観察していると、寝起きの顔で浅く隈の残る目元を抑えてエレンが現れる。

 

 「おーす……」

 

 「また随分遅いお目覚めだなぁ。徹夜は良く無いぞ」

 

 「うるへぇ、お前だって原稿詰まったら徹夜すんだろ」

 

 「適度に休息は取るさ」

 

 最早すっかり馴れた応対を交わす2人、眠気に頭を振りながらエレンは斗真が持つ白い装丁の本に視線を配る。

 

 「あ?んだその本?…忍者ぁ、温めたタオル寄越せ」

 

 「お呼びとあらば!!ニンニン!」

 本に気を向けつつも割りとどうでもいい事に哉慥を呼び付ける。

 呼ばれた方も素直に湯気立ち上る手拭いを持っているので斗真としては何だかなぁと思うばかりである。

 そんな日常の1コマへ新たに闖入者が現れる。

 

 「ただいま~。オジさん達が帰ったよ~と」

 「帰還。ふむ…三人だけか。変わりはないか?」

 

 ブックゲートワンダーライドブックにより各々が外征先より帰還し、真っ先に本の間の扉を開けて帰還の報を挙げる。

 年長者達の言葉に若き剣士達は其々の反応を返す。

 

 「お帰りなさい。これと言った事は特には……うん、特には無いです」

 

 「お帰りなさいませ!ここ数日の間は魔人の被害も無く、魔獣が街へと攻めてくる事も御座りませんでした!魔女の皆様におかれましては健やかに過ごし、学業に励んでおられまする」

 

 「ハッ!強いて言やぁウサギの疑問でペテン師が講義を開いたぐらいだな」

 

 エレンが軽く笑い飛ばしながら劉玄、セドリック不在の間に起こったイベントについて語る。

 

 「へぇ、あいつがねぇ」

 「驚愕、奴に人に教えるだけの技能があったのか!?」

 

 感心する劉玄の横でセドリックは狐に摘ままれた顔をする。

 

 「せどりっく殿、刻風殿は剣技等の実践における実技指導に難があるだけで、寺子屋等の学問にて知識を語る分には申し分無い程度には教鞭を執れまする」

 幼少期、勇魚から短い期間翠風の継承に際し指導を受けた経験のある哉慥が困った様な顔をしながら一応のフォローを述べる。

 

 「まぁ仕方無いさね、オジさん達はあいつがガキーンだのズバーンだの言ってる所しか見たことないから」

 

 「馬鹿なのか頭いいのかイマイチ判んねぇ野郎だなアイツ」

 

 「同意。あれで剣士としては天才等と持て囃されるのだから世の理とは解らぬ物だ」

 

 劉玄、エレン、セドリックとそれなりに付き合いがある面々が語る勇魚の武勇伝だか与太話だかに斗真は興味がそそられる。

 

 「その…良いですか?結局刻風勇魚って、どういう人間なんです?」

 

 「ふむ…どういう人間か…。その前に斗真ちゃんはあいつをどう見た?」

 斗真の質問に対し、暫し熟考してから質問で返す劉玄。

 最年長者からの質問返しに面を喰らいながらも、彼がまず、斗真自身が勇魚をどの様に観察し、解釈したのかを知りたがったと見て、斗真なりの所感をポツポツと語り出す。

 

 「そうですね……一見するとお気楽でちゃらんぽらんでいい加減な青年ですけど、講義の時の生徒達に対する対応やヘルマンとの会話を聞いたりした感じ、エレンの言い分を含めると、腹に一物ニ物は抱えてる感じだなぁとは思います。少なくとも額面通りの軽薄な人物では無いかと………ふざける時は本気でふざけてるみたいですけど」

 

 「おおう…存外良く"観て"るのね斗真ちゃん」

 「慧眼…かどうかはさておき、中々に興味深い評ではあったな。再評」

 斗真の勇魚評に思いの外たじる劉玄と斗真の観察に対し彼の人物評を修正するセドリック。

 

 「まぁ度々エレンがペテン師なんて言ってるしねぇ。オジさんはどの辺がペテン師なのか解らんけども…。うん、確かに刻風はこっちの反応をちょくちょく確認しながらふざけてる所あるよ」

 

 「腐っても、現マスターロゴス直属の剣士だ。腹芸くらいはやってのける。態度に軽薄が過ぎるのは考え物だがな…辟易」

 

 「なんとぉ……そうだったでござるか!!?刻風殿はそこまで聡明な方だったのでござるか…!!?」

 

 「いや何でテメェが驚くんだよ忍者!」

 

 哉慥のリアクションにエレンが呆れた声で手刀を下ろす。

 勿論、少年忍者は容易く白羽取りしてしまうのでエレンが軽く拗ねるのだが、それは些細な事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は…くショッカー!?!ズビ…風邪かな?それとも誰か噂してる?」

 山岳地帯に入り、ガトライカーから降りてハイキング気分で登山していた勇魚が鼻を啜りながら溢す。

 

 「いやぁ舐めてたわ山。そこまで高い所じゃないけど徒歩だと長時間はクるねぇ~。でもガトラは使わない!負けた気になるし!」

 一体何と張り合っているのかは分からないが、フンスと鼻息荒く意気込む。

 其所だけ見ればとても普通の事である。其所だけ見れば。

 

 ≪bbeeeee…≫

 

 「あっ、ダメッスよ抵抗しちゃあ。君らはきっちり消してあげるから大人しくしてて欲しいッス」

 

 勇魚の足下には羽根の捥げた虫型の魔獣が山となって横たわっている。

 数はそこまででもないが、それなりに大型なので強力な魔獣だ。

 それを彼は生身で手にしたデッキブラシ1つで撃退し、組み敷いているのだ。

 ブラシの穂先を魔獣の傷に押し当てて擦りながら、まるで友達に語り掛ける気安さで言葉を発す。

 

 「いやぁ魔獣が出るなんて思わなかったからつい遊んじゃったッスね~。君らちょっち凶暴すぎじゃない?自分眼にした瞬間襲って来るとか…思わず楽しくなっちゃったよ」

 尚も執拗に傷口を抉る様に擦る。その内、勇魚の下敷きとなった山の頂上の魔獣が消滅する。

 

 「あ、死んだ…つか消えた。はい、んじゃ次~♪」

 

 消えた魔獣に感慨も懐かず、新たに足下に来た魔獣倒したんで傷に再びブラシを当て擦る。

 

 「ホント、魔獣の生態系って謎ッス。ヤハハ!」

 

 魔獣の悲鳴を無視して甚振る。

 

 「やー、弱いモノ虐めは趣味じゃ無いんッスけど、君らがどういう構造なのか昔から興味あったんで……ゴメンネ~苦しんで死んでよ?」

 

 本当に心の底から申し訳無さそうに謝る勇魚。

 

 「んー、大体分かった。や、君らの相手は楽だわ。腹芸する必要無いし…、普段人間相手に探り合いとかしてっと疲れるんだよね~。フローラ女学院の娘達とかマームケステルにいる剣士のみんなとか良い人らなんだけど、だからこそ楽しいから逆に疲れるって言うか…」

 

 言葉通り心底疲れた顔して魔獣にのみ本音をブチ撒ける、そうして言いたい事を言い切った勇魚は魔獣の山から飛び降り、デッキブラシをバットの様に思い切り振りかぶる。

 

 「お掃除完了♪ブラシだけに。さぁて、お楽しみはこれからだ~♪幽霊~♪幽霊~♪ゆ・ゆ・幽霊~♪カイガン♪カイガン♪バッチリミナ~♪」

 

 謎の鼻歌を口ずさみながら近くに投げ捨てた荷物を回収し森の方へと刻風勇魚は消えていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・購買━

 

 「そう言えば…」

 「どしたの斗真ちゃん?」

 本の間での雑談から一転、職員としての備品を補充する為に購買に来た斗真。

 同じく所用で同行していた劉玄が唐突に呟いた斗真の言葉に反応を示す。

 

 「いえ、度々陳さんやセドリックさんが刻風の事を天才って言ってますけど、具体的どう天才なのかなって…」

 

 「あ、あーそれね。う~んどう説明したもんかな」

 

 「その話カエデも気になります!」

 「中々興味深いお話ですね」

 劉玄が説明に迷っていると後ろから愛らしい声と淡々とした声が掛かる。

 2人して振り替えれば其所には声の主であるカエデ、あるふぁに加え、ロゼッタとリネット、シャンペと講義に参加していた面子が一部揃い踏みであった。

 

 「あららぁ、お嬢ちゃん達ってば随分とアグレッシブになって。ちょいと此処じゃ邪魔になるから場所変えよっか」

 困った顔を作りながらも断らないのは彼の人の好さ故か、劉玄の提案に従って学院のエントランスラウンジにある談話席、その内最も人目から遠い席を選んで座る。

 足りない席はカフェテーブルから拝借する。

 

 「さて……どっから話したもんかね」

 ソファの長椅子に腰掛け、膝上で手を組みながら話の切り出しを思案する。

 

 「どこからも何も、トキカゼ氏が天才と呼ばれている理由をそのまま語るのでは?」

 

 「や、まぁそうなんだけどね?取り敢えず此所にいるお嬢ちゃん達はみんな刻風と面識あんのよね?君らから見てあいつってどんなイメージよ?」

 

 「変態不審者さんです」

 「お嬢様に不埒を働いた不届き者でしょうか」

 「面白いお兄さまだったの」

 「個性的ではありましたね…」

 「あ…その……」

 

 「あー…、リネットちゃんはまぁ初対面であんな事言われちゃったしねぇ。無理しなくて良いよ」

 

 順にカエデ、あるふぁ、シャンペ、ロゼッタと勇魚のイメージを語っていくが、最後リネットの番となった時、リネット自身が勇魚との初対面時の記憶を思い起こして顔を紅く染める。

 それを見て、リネットと勇魚の対面時に立ち会っていた劉玄は彼女の心情を慮ってリネットの発言を制する。

 

 「はい…」

 

 「まぁ兎も角。大体みんなのあいつに対するイメージとか好感度?って奴は解ったよ」

 

 「印象で言ったら過半数マイナスですかね」

 

 「いえ、私はそんなつもりは…!」

 

 顔を見合せて肩を竦める2人にロゼッタが忖度するが、メンバーで好感が高かったのがシャンペだけだったので口ごもってしまう。

 

 「や、仕方無いし、当然だと思うよ?あいつ自身もその辺は分かった上でやってんだろうし」

 そんなロゼッタに劉玄も苦笑しながら応えてやる。

 

 「さて…ちょっと脇道に逸れちゃったけど、本題に入ろうかね。

 刻風勇魚はね聖剣の剣士としては歴代最高峰の適正を持つ天才なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・MIP━

 

 「つまりどういう事だ?」

 

 「簡潔。要するに奴は全ての聖剣の力を使う事が出来る」

 

 マジックアイテム研究会にて、魔法道具のゲームを修理しているセドリックが不遜に腕を組んで作業を見届けているルキフェルに答える。

 側にはこの部屋の主であるメアリーベリーがとある道具の試作をしながら聞き耳を立てている。

 また現在この部屋には他にアンジェリカ(セドリックに引っ張ってこられた)、ラヴィ(ルキフェルとゲームする為に居る)、ツバキ(カメラのメンテ)、アルマ(ラヴィに誘われた)が各々の所用にて同席している。

 

 「初耳です…。トキカゼにそんな才能があったなんて……」

 年代が近いアルマが、勇魚の才能に驚愕を示す。

 

 「補則。より厳密には所有者不明のまま行方不明となった光の聖剣、女性しか選ばぬ煙の聖剣、元所有としていた風の聖剣を除くが…いや、風に関しては剣の意思を無視すれば今でも変身は出来るんだったか…」

 

 「人は見かけによらないのね~」

 「ホント、見た目はチャラいクソ野郎なのにね」

 「え~?普通にカッコいいじゃん!?先生の次くらいには好きだよ?」

 

 ラヴィからだけは好評の勇魚であった。

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・購買奥━

 

 「ま、言っちまえばクソペテン師は持ち主の有無に関係無く、他の聖剣でも変身出来るつーこった」

 

 「マジ!?スゴいじゃん!!でも何でそんな事知ってるし?」

 購買のバックヤードで物色しながら語るエレンに同じく購買部にトーン等の必要物資買い物に来ていたラトゥーラが自身の護衛に疑問を投げる。

 

 「実際に目の前で実践されたからな」

 

 「全ての聖剣で変身!?ろっくです~!!」

 「何だか想像出来ないなぁ…」

 「持ち主の有無関係無くとは…!確か聖剣は前任者が没したか当人の意思で引退しない限り、その力を振るう事は出来ない、でしたよね?」

 「わふ~!イサ兄スゴ~い!!」

 

 同じく替えの弦を買いに来たナデシコ、園芸用品を買いに来たティアラ、裁縫に必要な物品を購入しに来たアシュレイ、何故かエレンに矢鱈と懐いているサルサと言った面々が口々に感想を述べる。

 

 「刻風殿曰く、煙叡剣は変身は出来なくとも力だけならば使用出来なくも無いとの事でござる」

 翠風の前所有者と現所有者という繋がりで本人から教えられた事を哉慥が説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━エントランステラス談話席━

 

 「ま、そんな訳で…。聖剣の剣士として見れば破格の才能は天才と言っても差し支え無いんよ」

 

 「信じられません…」

 

 「なる程、では次にお会いした際は変態の天才様と呼んで差し上げましょう」

 

 「それだと別の意味にならないかしら…?」

 

 「本当に凄い人だったんですね…!」

 

 カエデは納得がいかない顔をしているが、あるふぁはあっさり受け入れ、勝手に不名誉な異名を付けている(付けられた本人は喜びそうではあるが)。

 

 「まぁ、俺達剣士を纏める組織の長の側近やってるくらいだし、そりゃあそれくらいは凄い所あるよね」

 斗真もあるふぁの言い様に苦笑しつつ勇魚という人物の才に感心の言葉を口にする。

 

 

 

 「見付けたわよ!ポンコツ従者!帰りが遅いと思ったら変態教師と一緒だったなんて、何を考えてるのよ!」

 

 其所へエミリアがプリプリした顔で現れる。

 

 「これはこれはお嬢様、もうそんな時間でしたか」

 

 「変…態教師………そうだよね、事故とは言え事実だけ見たらそうなるよね………」

 

 「ああっ!?!お兄ちゃんがショックで項垂れてます?!」

 

 「よっぽどショックだったんですね…」

 

 背後にブルーオーラが見える程落ち込む斗真。

 

 「にーさま元気出してなの、いい子いい子」

 

 斗真の隣に陣取っていたシャンペがあざとさを存分に発揮して担任を励ます。

 

 「そこっ!公序良俗違反よ!」

 

 「ふぅ、お嬢様がお冠なので私めはこれで失礼致します」

 エミリアが現れこれ以上の会話は続けられないと判断したあるふぁが静かに起立するとそそくさと寮へ向け歩き出す。

 

 「あっ、ちょっと待ちなさい!あるふぁ!」

 

 エミリアも斗真達にまだ何か言いかけていたが、あるふぁが足早に去るのを追い掛け、自らもその場より立ち去った。

 

 「あるふぁちゃんが帰っちゃったけど、取り敢えずまぁ刻風の事を一言で言うならチェスのクイーンの働きが出来るナイトって事らしい」

 

 「らしい、とは?」

 

 「奴さんの師匠、前時の剣士がそう言ってたんよ」

 

 「成る程。すると実力も相当な物なんですね」

 

 「そうなるねぇ、その内オジさんを越えちゃうかもね」

 

 「またまた、ご冗談を」

 

 「チェンさんが負ける所、カエデは想像つかないです」

 

 「おじさまはまだまだ現役でいけると思うの!」

 

 「おチビちゃん達の期待が重いなぁ、や、頑張るけどね?まぁそう言う事で刻風が天才って言われてるのはそんな感じの理由な訳、分かった?」

 

 「はい。ありがとうございました」

 

 「良いんよ、委員長ちゃんは真面目だねぇ」

 

 ロゼッタが深く頭を下げ、それに続き、残った少女達も頭を下げる。

 それを苦笑しながら堅陣騎士はよっこいしょと年季を感じさせる声を挙げて立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おっ?御姫さん」

 皆から離れて数分、廊下を歩く彼と劉玄はリュウトの姫ユエに遭遇する。

 

 「おじ様、さっきの話…本当なの?」

 

 「さっきの?……ああ!刻風がいずれオジさんを越えるかもってトコの件かい?」

 

 「そんな事、私は認めない…!リュウト最強の剣士は誰にも負けない!おじ様が他の聖剣使いに負ける訳が無い!」

 

 「落ち着きなって御姫さん。斗真ちゃん達にも言ったけどオジさんが現役の間は早々負ける気も譲る気も無いよ」

 

 「それなら良い」

 

 劉玄が最強である事に拘り熱くなっていたユエだが、当人から最強の肩書きは早々降ろさないと告げられて、僅かではあるが口元を緩め満足そうな表情をするとそのまま来た道を引き返して去って行った。

 

 「やれやれ…まだまだユエも子供って事かね」

 残された最強の男は独り、溜め息を吐きながら己が生活する用務員小屋へと足を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━何処かの山峰にある森林樹海━

 

 「ぶえっらぁっあぁぁるえっくしょん!!…まぁた誰か噂してるッスね」

 ふざけているとしか思えないくしゃみをしながら次期最強(予定)の天才は夜を待つ。

 怪奇現象──幽霊を見る為に。

 

 

─side episode end─

 




 はい、勇魚がどう天才なのかが判明する回でした。

 作中でも言われた通り、狼煙だけは聖剣側が変身拒否するので煙の力を振るうくらいしか出来ません。
 最光に関しては適正不明ですが、虚無は確実に扱えます。
 因みにエレンの前で実演した時は激土、錫音、黄雷、流水、月闇での変身を試しています。
 烈火もフレッドから実演を頼まれて変身して見せました。
 
 魔獣相手に本音を溢しはすれども情け容赦一切しない男勇魚。
 勿論人前で魔獣退治する時は何時も通りです。
 ただ、疲れるとは言っても悪い意味ではなく、相対的に己の悪党ぷりに嫌気が湧いてしまう自己嫌悪からの疲労です。
 そう言う意味ではエレンが一番遠慮無くズバッと言って来るので勇魚はエレンを親友と見ています。

 ではまた次回。


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エスパーダの章
27頁 Darkness Prolog


 謹賀新年明けました、おめでとうございます。

 やっと忙しい日々から解放…されたかは微妙ですが、落ち着いて時間が取れるようになりました。
 ちょっと歳末セールとかお客様多すぎててんてこ舞いですよ、私の仕事座れないので持久力が無い私には立ちっぱは痛くてキツいのです。

 それはそれとしてクリスマスのチビッ子3人娘揃いましたー!
 実質カエデのUR2枚目!
 これでエミリア、ガーネット、アシュレイ、ラヴィ、ナデシコ、カエデ(通常)、カエデ(X'mas)、アンジェリカ、ルキフェル(X'mas)、サルサ(X'mas)が私の最大戦力となりました!
 スパノバとシュガポケのUR一人も居ない?!!



 ──トキカゼさんがマームケステルを去り、数日。

 先生を通じて渡された一冊の"本"、その用途も当時の私は知らないまま…けれど本であると言う理由で丁重に扱っていました。

 そんなある日の時です。行方知れずの筈の闇の聖剣が謎の人物と共にマームケステルの街に現れたのでした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━廃墟の地の館・黒い本棚━

 

 「成る程、貴様が事を起こす前に既に剣士共が拠点にしている人間達の街の前にワンダーワールドが出現し、情けなくも物陰に隠れそのまま諦観、何もせずおめおめと帰って来た訳か……ふざけているのかぁああっ!!」

 赤銅のレザージャケットを身に付けた青年──メギドレジエルの人間態が憤怒を顔に描いて叫ぶ。

 彼の視線の先には怒鳴り声に身を竦めビクビクと怯える濡羽の鴉色の黒と臙脂色のポニーテールの髪、色白の肌、藍色のアオザイに身を包むその双丘は見事な物。

 年の頃は17~8歳、顔立ちは端整だが日本人と判る顔立ちの少女である。

 

 「……っ、せ、せやけどうちの姿見られたらあかん言われたし……そ、それにうち一人だけじゃあんなおっかなくて強い人達に勝てへんもん!!」

 両の目端に泪を溜めて震える声で絞り出す様に反論、しかし直ぐに眼を瞑ってレジエルの怒声に備える。

 

 「貴様ぁ……!」

 

 振り上げられる右手の拳。

 

 振り下ろす先は目の前の少女。

 

 人の姿型をしているとは言え魔人のそれは、直撃すればひとたまりもない。

 

 しかし、その拳が少女に振り下ろされる事は終ぞ無かった。

 

 何故ならば──

 

 「まぁ落ち着けよ、折角の貴重な人材…オマエの勝手な一存で壊しちまえばカリバーや、例の仮面野郎からも煩く言われるぞ。

 吊し上げされたくはねぇだろ?」

 

 青いノースリーブのブルゾンを着流した野性味溢れる青年、彼がレジエルの振り上げられた拳を掴んでいたからだ。

 

 「ズオス……!貴様っ、正気に戻って早々随分と利口な事を言う!!剣士の小娘の肩を持つなどと…」

 

 その青年はレジエルよりズオスと呼称された。そう──以前マームケステルを強襲し、剣士達の決死の奮闘により退けた獣の魔人その人である。

 覚醒したてのメギド態の時とは打って変わってワイルドながらも理性を感じさせる語り口でレジエルを諭すズオス。

 対してレジエルは尚更不機嫌となる、ズオスに掴まれたままの手を力任せに振りほどき鼻を鳴らして、気勢が削がれたとばかりの態度で一人用のアンティークソファに乱雑に腰を降ろす。

 

 「あ……ありがとう…ございます…(なんか肩出してるし顔付きワイルドなザ・肉食系な見た目な人やからおっかない人やと思っとったら…もしかしてええ人なん?)」

 

 助けられた少女はレジエルの様に怒鳴り散らす事をしないズオスに好感を懐き、感謝の言葉を口にする。

 

 「いやぁ、礼を言う必要はねぇ……オマエが何を勘違いしてるか知らねえが、オレ様がお前を庇ってやったのは単にまだ使い道があるからだ。魔女と剣士の街、あの街の結界を無視出来るのはオマエとカリバー、仮面野郎だけだ。

 しかしだ、カリバーも仮面野郎も腹の底で何を考えているのか真意はさっぱり解らねぇ、だがオマエだけは目的が明確だ、従順な味方を一時の感情で失うなんて勿体ない…まぁオマエがあんまりにも失敗続きだったら………」

 

 「……っ」

 

 少女に対し己の理と意を説くズオス、彼女の反応をそれとなく観察、最後の言葉を述べずに一度溜める。

 それを聴いて少女は静かに息を呑む。

 しかしズオスは二の句を告げようとしない、少女が聞き返すのを待っているのだ。

 ややあって意図を察した少女がおずおずとズオスに訊ねる。

 

 「……し…失敗続きやったら?」

 

 「決まってんだろ?……丸ごと呑み込んで喰っちまうんだよぉぉおおお!!

 

 野性味溢れる青年から蒼く凶悪な獣へ変じる。顎を大きく開きむざむざと少女に口内を見せ付ける態度からは、発言が本気である事を示している。

 

 「──────」

 

 そして少女は開きかけていた心の扉諸共、意識を閉じた。

 

 「ハッハハハハァアッ~…あ?クハッ!気絶してらぁ」

 少女が白眼を剥いて不動と化した事に、玩具で遊ぶ気分で良機嫌な声を鳴らすズオス。

 

 「あまり、彼女を虐めないで貰いたいものだ

 不貞腐れるレジエルと、少女を玩具にして遊ぶズオスが屯する部屋に闇が顕現し、その内より黒いローブの人物が現れる。

 

 「カリバー、ようやく帰って来やがったか。で?収穫はあったのかよ?」

 

 「ご覧の通りだ。虚無はつつが無く、嬉しい誤算もあった…。そろそろ彼等の進捗を確めに行く頃合いだ

 無銘剣虚無と禍々しく過激なオーラを迸らせるブランクワンダーライドブックをティーテーブルへ置く。

 

 「ふん、やっと第一段階と言う訳か」

 「どの道オレ達は留守番なんだろう?」

 

 魔人達がつまらなそうに、愉しそうにローブの人物へと言葉を投げる。

 

 「まずは新しく現れた炎の剣士の仕上がりを確認する。そのついでに水と雷の剣士にも相応の力を得て貰わねばね

 そう言うローブの人物の手には3冊のワンダーライドブックが握られていた。

 

 「それは構わねえが、煙のお嬢ちゃんが見たメギドに関して教えておくぜ…デカイ蟻だそうだが、オレは知っての通り創っちゃいない、アレは──」

 

 「知っているとも。十中八九物語のメギド──ストリウスのモノだろう?何故彼がワタシが解くよりも早く封印から目覚めたのかは知らぬがね

 

 「本当だろうな?貴様はどうも何か隠し事をしているきらいがある」

 

 ローブの人物の言に、レジエルが眉間を険しくして訊く。

 

 「誓って。ワタシは貴公達の不利益となる事はしない、お互いに目次録に至ると言う目的は同じだろう?

 

 「ふん…」

 

 未だ納得いかぬと言う顔をしてソファにふんぞり返るレジエル。しかしこれ以上の追及をしたとて煙に巻かれるのは分かっているからか、押し黙る。

 

 「さて…君も何時までも寝ていては困る、起きたまえ

 一応の議決が終わり、ローブの人物は気絶したままの少女を起こす。

 

 「──……はっ!?うち意識飛んでた…?!」

 

 「お目覚めかね?

 

 「あ…。えと……カリバー?さん?お帰りなさい」

 

 「鳳蝶(あげは)くん、君にも色々と手伝って貰う

 

 「あぅ…うちも行かなあかんですか?」

 

 鳳蝶と呼ばれた少女が怯えた態度で見えない顔を伺う。

 

 「当然だとも。君が持つ聖剣は攪乱逃亡に於いてとても有用だ、まぁ君に頼る段階になった時点でワタシは大分追い詰められているだろうがね

 

 「ひぇぇ……堪忍してぇ」

 

 涙目となった鳳蝶が芋虫も斯くやとばかりに這いずって部屋から逃げようとするが、そんな牛歩の動きは簡単にローブの人物に捕まり、首根っこを引っ張られてローブの人物ごと闇の中へと消えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院職員棟・斗真の自室━

 

 「よし、採点終わり」

 

 「お、やっと終わったか」

 

 自らの自室にて特別クラスの授業採点を終えた斗真に、何時もの如く入り浸るエレンが声を掛ける。

 

 「うん、主に俺が担当している授業の物だけね。それはそうと……お前ちょっと此処に入り浸り過ぎじゃない?」

 

 「ハッ!今更だな、良いじゃねぇか!ウサギとか本屋とか、ルキとかもちょくちょく遊びに来てんだろ、嫌なら入れなきゃいい」

 斗真の物言いを一蹴に伏し、手元の本に眼を落とす。

 

 「まぁ、本気で勘弁して欲しい時はそうするよ。で、わざわざ他人の部屋に来てお前は何を読んでいるんだ?」

 

 「オレぁ漫画描いてたんだぞ?漫画に決まってんだろ」

 

 (それは自分の部屋で読めよ……)

 

 エレンの返しに内心呆れていると、そうだ。と気怠い視線が斗真を見据える。

 

 「例の、ペテン野郎から渡されてた白い本、どうしたよ?」

 

 「ああ、あの後リネットちゃんに渡したよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━前日フローラ女学院・女子寮━

 

 フローラ女学院に通う魔女達が羽を休める寮の一角、リネット、ラヴィ、アシュレイが過ごす4人部屋。

 今その部屋の扉の前に来訪者にして炎の剣士、剱守斗真が立っていた。

 

 「すぅ…はぁ、いややっぱり緊張するなぁ。ただでさえ女の子達の園に居るのに、更に女子寮だしなぁ…や、今更だけど…。陳さんや寮監からも許可は貰ってるけど、それはそれとしてだし」

 右手に白い本を抱えながら独り語ちる斗真。一頻り呟いた後、扉をノックする。

 

 「ハ~イ!……おろ?先生じゃんどうしたの?」

 

 「やぁ、ラヴィちゃん。リネットちゃんは居るかな?」

 

 「リッちゃん?ちょっと待ってて。──おーーーいリッちゃ~ん、先生が呼んでるよー」

 動く度に揺れる頭の両端に纏められた2房の金糸の御髪が、活発に跳び跳ねるウサギそのものを彷彿させるラヴィに内心癒されながら、斗真は目的の人物を待つ。

 

 「は、はーい…!」

 

 やや慌てた声と共に内気な碧翠の少女が奥から急ぎ足でやってくる。

 

 「こんにちはリネットちゃん、ごめんね急に」

 

 「い、いえ!大丈夫です」

 

 果たして何をそんなに急ぐ必要があったのかは知らぬ事ではあるが、そこは生徒個人の問題。

 斗真に実害が無いなら踏み込む事では無い。

 

 「それで…何か御用でしょうか?」

 

 「ああ、うん。実は刻風からリネットちゃんに渡すように言われてた物があるんだ」

 

 「え……トキカゼさんが…ですか」

 

 勇魚の名が出た途端、とても言い様の知れぬ顔になるリネット。

 どうも彼女は勇魚に対しとことん苦手意識があるようだ。

 

 「うん、気持ちは解らなくもないけど、多分そこまで変な物じゃないと思うよ?

 中身は見てないけど表紙を触った感じ普通の本だったと思うし」

 

 「本!!?!み、見せて下さいっ!!」

 

 先程の顔は何処へやら、一転して興奮し始めるリネット。彼女の本に対する愛と情熱は斗真の想像を越えていた様だ。

 

 「う、うん…ちょっと落ち着こうか、本は逃げないから…」

 

 「───はっ!?!すみません……」

 

 興奮の剰り、斗真に寄りすぎて身体を押し付ける形になっていた事に気付いたリネットは思わず紅潮してしまう。

 

 「わ~お、リッちゃんってばダイターン」

 

 「リネットは本が絡むと本当に人が変わるからな」

 

 囃すラヴィと寮部屋の奥から見かねて出てきた呆れ顔のアシュレイ。

 

 「それで、その本はどう言った本なんだ?」

 

 「あ、はい…ええっと」

 

 アシュレイに問われ軽く捲っていくリネット、端から捲って最後まで見るも本には何も書いていない。

 

 「白紙……」

 

 「なにそれ?真っ白でなんも書いてないってこと?」

 

 「もしや…リネットが何か描くのを期待してか?」

 

 「いや…どうだろう──本人は渡せば分かるとしか言ってなかったから」

 

 本が一切の仕掛無く白紙であった事に唖然とする一同。

 生徒達の疑問に斗真も自身が分かっていない事を訴える。

 

 「…取りあえず、私の方で色々と調べたり試してみたいと思います。それでもし何かあったら先生にご相談させて下さい」

 

 「分かった、くれぐれも無茶な事はしないでね?寝食を忘れるとか、授業のボイコットとか」

 

 「はい」

 

 一先ずはリネットに目的の物を渡せたとして、斗真はその場を去るのであった。

 

 

 

 

 「──…ほーん、中身も白紙とは、ホント何考えてやがるんだか」

 

 「そればかりは何とも……」

 

 勇魚の真意を図りかねる2人、沈黙が部屋を支配したその時、外から騒がしい喧騒が聴こえてくる。

 

 「せんせー!大変だーーー!!」

 「教官!一大事です!!」

 「ちょっと、まだ居るかも判らないのに…失礼します先生はご在宅でしょうか」

 「は、はひ…ひ…はひゅ…」

 「リネット?!しっかり!!」

 現れたのはラヴィを先頭にティアラ達5人の班。

 ラヴィとアシュレイが喧々騒々何やら、事件が起きたと叫びながら扉を開け、ロゼッタが委員長らしく生真面目に開け放たれた扉をノックしながら入室。

 リネットが胸に白い本を抱えて肩で息を切らしている横で、ティアラが彼女の背中をさすって励ます。

 

 「何時もの五人じゃねぇの」

 

 「どうしたんだい?そんなに慌てて……」

 エレンが何時もの顔ぶれに早々興味を失うが、斗真は担任らしく真摯に問う。

 

 「ひゅ…ひゅ…はぁ……せ、先生…大変なんです」

 

 リネットが梯子を降り、息を整え抱き抱えていた白い本を斗真の前に出す。

 

 「それは例の本だね?それが一体…」

 

 「と、とにかくこれを見て下さい!!」

 

 困惑する斗真に白い本を開くリネット、すると開かれたページからまるで投影スクリーンの様に映像が映し出される。

 

 「これは──」

 「アァん?」

 映し出された映像に対し驚く斗真と怪訝な顔をするエレン。

 何と其処には大量のシミーと数体のメギドの姿が映し出されていた。

 

 「野郎……そう言う事かよ」

 小さく舌打ちを鳴らし、懐からガトライクフォンを取り出しグループコールを選択する。

 対象は斗真と己以外の剣士全てと理事長クロエ。

 

 「おい、小説家。場所変えるぞ」

 エレンからの声に並々ならぬモノを感じた斗真は黙って頷き、部屋に集った5人を共に連れ出す。

 

 「みんな、ちょっと着いて来て貰えるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──数時間後。

 

 学院内の土地には陳劉玄の住まう宿直小屋の様な物がある。

 学院の裏手、森の動向が確認出来るよう小さな湖畔の側に建った其所へ剣士達とクロエ以下6名の魔女が集っていた。

 

 「成る程、トキカゼ氏が残していった本はメギド出現を予期する物でしたか」

 

 「訂正、予期ではない出現の感知だ。故に事前に防げるのは精々が知れている」

 

 「ですが、これはかなりの代物だと思います!この本があれば敵の居場所を即見付けられるし、多くの人々を救えますよ!!」

 

 クロエの第一声にセドリックが訂正、アルマが興奮したように本の重要性を力説する。

 

 「しかし何故りねっと殿に託されたのでしょう?拙者達剣士の誰か…若しくはくろえ殿ではいけなかったのでしょうか?」

 

 「さてな、ま、あのクソペテン師の事だから…何らかの意味と意図があるんだろうよ、つかそうじゃなきゃ殴る」

 

 (多分大した意味は無いんだろうなぁ。精々本好きだからとか、図書委員だからとか)

 

 哉慥の当然の疑問にエレンが吐き捨てるが、劉玄は内心で適当な理由なんだろうなと結論付ける。

 

 「それで…これはどうしたら」

 リネットが困った顔で本を広げている。

 

 「本の映像を見る限り、マームケステルに三方から進軍している様に見えるね」

 

 「ヤバいじゃん!どうするの!?」

 

 「先生……」

 

 本から得られた情報を分析する斗真と、大仰に叫ぶラヴィ、ロゼッタが斗真を不安そうに見つめる。映し出される軍勢。特に魔獣の出現が頻発する森側二方向からはかなりの数が確認出来る。

 

 「取りあえずだ、北東側はオジさんが、北西はセドリックと哉慥、街道側からのは残った斗真ちゃん達が担当。ヘルマンはまぁ剣無いしお留守番兼クロエちゃん達学院教師と連携して学院の生徒の護衛ね、ちゃんと他の先生方に協力をしなさいよ?」

 

 「フン、弁えているとも。しかし私が護るのはお嬢様とそのご学友だけだ、他の生徒は知らん」

 聖剣を持たぬ身の上から弁えていると返すも、自身が護るはあくまでエミリアとついでに彼女の周辺の者達と言うスタンスを貫くヘルマン。

 そのまま話が終わったと判断し、スタスタと小屋から出て行く。

 

 「ご心配無く、我々教員が全力を以て生徒の安全を守ります」

 ブレないヘルマンに代わり、クロエが全生徒の安全を守ると断言する。

 そんな中、アルマが劉玄の編成別けに待ったを申し出る。

 

 「待って下さい!!班を別けるなら僕等を三人一纏めにするのは愚策です!誰かがラウシェンさんと組むべきだと思います!」

 

 「うん、普通はそうなんだけどね。オジさん…ちょ~~~と嫌な予感がするのよ」

 

 「同感。街道側の敵が少ないのが気になる。メギド三体にシミーが僅か十数体と言うのが気に入らん、故にライドブックの変更で柔軟に対応出来る手前達が適任だと、小生も激土に賛成する。

 心配無用。此方が片付けば即座に合流する」

 

 年長者達が長年の経験から来る勘に伴った理屈を述べてそれ以降の反論を許さない。

 

 「オッサンとムッツリグラサンが揃ってそんだけ言うなら確かなんだろうよ、大人しく従っとけ真面目ちゃん」

 

 「エレン!!」

 

 「兎に角、これ以上はこの場で言い合ってもしょうがない、ひとまず陳さんの言う通り動こう」

 

 アルマがエレンに喰って掛かろうという所で、斗真が無理矢理にでもと転換を謀る。

 

 「では皆さん、よろしくお願いします」

 締めるようにクロエに言われてしまえば、アルマも流石に引き下がる他ない、直ぐ様劉玄が一番に動き北東へ。

 次に哉慥が血気盛んに、セドリックが速足で小屋を去る。

 最後に残った3人の内、最初に動いたのはエレン。彼は時間帯から人が多いであろうと推測し、自身の頭に紙袋を被り小屋を後にする。

 アルマは未だ得心いかないと態度に表れていたが、剣士の使命を優先せんとエレンの後を追う様に駆け出す。

 最後、斗真が小屋を出るタイミングでティアラが彼に声を掛ける。

 

 「先生!怪我には気を付けて!後…頑張って下さい!!」

 

 「ああ!君達もくれぐれも学院から出ない様に、気を付けてくれ!」

 

 「「「……」」」

 「カメンライダーの出現だー!!」

 「お前と言うヤツは…もう少し緊張感を持たないか!」

 そう言って駆け出す斗真の背を見つめるティアラ達、ラヴィだけが呑気とも思える態度と言い様に、アシュレイが窘める様にツッコむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル門外・街道近辺小高い丘━

 

 「ふむ……?想定より行動が早い。メギドを感知する術を手に入れでもしたか………

 ローブの人物が何かに気付いた様に顔を僅かに動かす。

 

 「ふぇ…?」

 

 「君は予定通り、ワタシが呼ぶまで待機だ。何…聖剣の力を使えば隠れる事も容易い

 

 

ジャアクドラゴン

 

ジャアクリード……

 

変身…

 

Get go under conquer than get keen(月光!暗黒!斬撃!)

 

 少女──鳳蝶某に軽く告げ、ローブの人物は月闇にジャアクドラゴンワンダーライドブックを手早くリードし、直ぐ様ライドインテグレーターを押し込み闇の剣士カリバーへと姿を変える。

 

 「ふぇぇえ……(何なん?!変身おっかな過ぎなんやけどぉ。あの時の大地の剣士(おっきいおじさん)と言い、聖剣の変身って物騒過ぎひん?!!?)」

 間近で目撃した変身に戦慄している鳳蝶、もしや己が持つレイピアも仰々しい効果を伴って姿を変えるのだろうかと胸中を不安で満たしてゆく。

 そんな彼女の胸中を、恐らくは理解した上でしかしカリバーは淡々と告げる。

 

 「ではワタシはメギドの後方に付く。君も早々身を潜める事だ

 

 「ふゅへゃ?!」

 

 鳳蝶が間抜けな返事を返す頃には隣の闇黒剣士は姿を遥か前方へと移していた。

 カリバーの左手指に挟まれたワンダーライドブック3冊──その色はまるでこれから己に立ち向かう剣士が誰だか解っているように赤系(クリムゾンレッド)青系(ネイビーブルー)黄系(ライトイエロー)と順に挟み握り込んでいる。

 

 「さぁ…彼等に必要な最後の"一冊"だ。決死を賭して向かって来て貰おうではないか、フフフフフ

 

 仮面に伏された男が嗤う。

 

 「これが果たされれば残る要素は後1つ……我が大願の足掛りの為、失望はさせてくれるなよ?新世代の三剣士達

 

 カリバーは果たして、何を望んでいるのだろうか──

 

 

 TO BE Continued

 

─???──???──???─

 




 闇のタユスカポン…じゃなかった、闇のコヤン年明け一発で来たのにはおったまげました。
 ウマはウマで無料10連ガチャ期間中来たのは水着激マブとフジ寮長が新規でした。
 
 どうでもいい話ですが、デレマスの小梅ちゃんとよしのんとDMJとクラリスさんと茄子さんを見える子ちゃんとクロスした話読みたいですよね!(言い出しっぺが云々)
 
 それではまた次回、お会い致しましょう。


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28頁 激突!三剣士VSカリバー


 こんばんは、やっとこさ書き上がりました。
 仕事がどうにも忙しいし書き上げるプロットも多い所為か、どうにもモチベーションが上がらず思いの外時間が掛かってしまいました。

 それにイベントのティアラもイベガチャのツバキもメアも手に入れられなかったので惨敗です。
 ウマの方はバレンタインフラッシュ来てくれたんですけどねぇ。
 アリスギアも4周年星4無料ガチャはお目当てのハサミンないしアオイさん来なかったし、儘ならないですね。




 

 ━マームケステル近郊・街道━

 

 青く生い茂る草原を進むおどろしい行軍。

 襤褸を纏った骨の様な意匠を顔に携えたシミーの軍勢。

 中央にはそれを指揮する3体の魔人メギド。

 更に離れて、後方にはそれら全ての糸を手繰る黒幕、闇の剣士──仮面ライダーカリバーが控える。

 

 「来たか……

 

 カリバーが何かに勘付いた様に呟く。

 

 

 

『Wo~Wo~Wo~Wo~♪ブレェイブドラッゴォォォン!!』

 

 

 正面のシミー達が炎に薙ぎ払われる。

 現れた影は赤き龍を携えし炎の聖剣火炎剣烈火の剣士、仮面ライダーセイバー。

 

 「炎の剣士…セイバー

 

 

 更に左翼側のシミーが怒涛に押し流される。

 

 

 

『ライオンッ戦記ィ!』

 

 

 激流より現れるは獅子を胸に抱く水の聖剣水淒剣流水の剣士、仮面ライダーブレイズ。

 

 「水の剣士ブレイズ……そして…フッ、変わらず直前まで他人任せかエルヴィレアノ

 街を守る剣士達を彼等の視界に写らぬ距離から眺めながらまるで懐かしむ様に溢す。

 

 

 

 

 「エレン!何をしてるんですか!!?」

 

 右翼のシミー達が健在なのを見て、ブレイズが視線を巡らせればなんとエレンは右翼側に居らず、セイバーとブレイズの間の空間やや後方の道草の上を匍匐前進しているではないか。

 

 「チッ、バレたか」

 

 「バレたか…じゃないよ!?お前なんで変身してないの!!?」

 

 「ウルセェ、オレの体力舐めんな!この状況、この戦力で変身したらすぐにガス欠するわ!思ったより多いんだよ!楽してぇんだよ!安心しろメギドはちゃんと倒すから」

 

 地面に腹這いとなった姿勢のまま顔だけ上げて叫ぶエレン。

 迫真の叫びである。

 

 「くっ……エレンの自堕落ぶりを見くびっていました…!」

 

 「兎に角!残ったシミーを片付けて、メギドを倒そう!」

 

 「はい、街は結界があるとは言え油断は出来ませんからね!」

 

 会話を切り上げ脇に抱えたシミーを離し斬り落とす。

 

 

 

 

 (さて……おおよそ事前に"視た"通りの展開ではあるな。大方この割振りを決めたのは陳劉玄辺りか、ザ・サード。恐らくは前者であろう…まぁどちらであろうともワタシが"視た"未来では然したる支障はない。結果的にこの三人がワタシの前に立ちはだかる事は決定付けられているのだからな)

 傍観に徹するカリバーが自らが合間視た筋書きに悦を洩らす。

 「行け魔人共…、存分に遊び暴れるが良い

 目に見えてシミーが減った事を境に、配下として引き連れているメギドへ指示を出す。

 

 物語のカテゴリーから造り出されたチェロを抱いた幽霊の様なメギド【セロ弾きゴースト】、神獣・幻獣カテゴリーから生み出されたした蝶の様な羽根が生えた黒づくめのメギド【影の王モスマン】、動物カテゴリーから誕生した羽付きチロリアンハットにロングブーツを履いたメギド【長靴を履いたジャイアントパンダ】が指示に従いセイバー、ブレイズへ向かって行く。

 

 「メギド…!エレン!メギドが動き出しましたよ!早く変身してください!!」

 

 「面倒クセぇなあっ!!」

 その言葉と同時に稲妻が駆け巡り、向かって来た魔人を1体弾き飛ばす。

 

 

『ランプドッアランジィィィナァァ!!』

 

 音が止めば其所に立つのは黄金のランプから棚引くマントをはためかせる白き衣、雷の聖剣雷鳴剣黄雷の剣士、仮面ライダーエスパーダが聖剣を突き出していた。

 

 「こいつで文句はねぇな?とっとと片付けちまうぞ」

 

 そう言って聖剣を肩に担ぐ様に叩く仕草をすると弾き飛んだパンダメギドへとトドメを刺さんと走る。

 

 「全く!こんな時ばかり!」

 後から変身して音頭を仕切るエレンに憤慨しながらモスマンメギドを迎え撃つブレイズ。

 必然、残ったゴーストメギドをセイバーが相手取る。

 

 ゴーストメギドは手にした弓を剣の様に振りセイバーの烈火と打ち合う。

 刃と弦がぶつかり火花を散らす。

 鍔迫り合いとなるのを避けるべくセイバーが魔人の足元を蹴り払う。しかし魔人は霊体となって蹴りを躱す。

 

 「?!…文字通り幽霊と言う訳かっ!」

 

 「Fuuuuuu……!

 

 実態の掴めぬ敵にセイバーは苦戦を強いられる。

 

 

 

 

 晴天の下にあって尚色濃く黒い影。

 モスマンメギドは光に照され延びる影となって駆ける。現れた黒い蝶に剣を振り下ろせばまるで水の中に潜る様に影に沈み消えるモスマンメギド。魔人のトリッキーな奇襲にブレイズは受け身になる。

 

 「厄介ですね……」

 

 「ケケケケケッ!

 

 黒い蝶が若獅子を嘲笑う。

 

 

 

 

 

 

 「アイツら苦戦してんのかよ…」

 

 「Bofyuu!他人の心配とは余裕じゃあないか!」

 

 「そりゃ、他と違ってお前にゃあ攻撃が通るしな!」

 

 言うが早く光速の突きを繰り出すエスパーダ。

 パンダメギドは刃が竹槍となった細剣を駆使して致命傷を捌くもその身に多くの傷を作る。

 

 「Buhooon?!なる程…貴様強いな!!」

 

 「馬鹿言え、オレはそこまで強くねぇ」

 

 パンダメギドをその実力で押し込みながら自虐的に溢す。

 

 「BofBoff……ほざきよる。ならば我が力を存分に味わえ!Boofyooonn!!」

 エスパーダから跳び退き竹槍細剣を大地に突き立てる。

 するとエスパーダの周囲の地面より無数の鋭利な竹が剣山の如く生い茂る。

 

 「チッ…(オッサンの技の下位互換かよ?!)っとに面倒クセェ」

 固有能力の光速移動によって足下から襲い来る魔の力持つ竹を躱す。

 

 「Bafuu、どうだ?幾ら貴様が速くとも…こうも矢継ぎ早に道を絶たれれば思うように動けまい」

 

 「ウゼェ…お前だけ喋り過ぎだろ、少しは仲間を見倣えよ。それとな、確かに面倒とは言ったが厄介だとは言ってねぇよ」

 その言葉を裏付ける様に右腰のブックホルダーから取り出したのは、濃黄色(ダンデライオンイエロー)のワンダーライドブック───

 

 『トライケルベロス!』

 

 「小説家ァ!真面目ちゃん!今回ばかりは手っ取り早くギアを上げてくぜ!

 

 そうして、同じ様にメギドの能力に四苦八苦するセイバー、ブレイズへと大声で語り掛ける。

 

 「ギアを上げる…?それはどういう…」

 「そう言う事か…。アルマ、二冊目だ!!」

 エスパーダの言い回しに困惑するブレイズ、しかしセイバーは彼がトライケルベロスを手にしたのを見て即座に理解し、ブレイズにもその意図を伝える。

 

 

 「成る程!そう言う事でしたら!」

 

 『ピーターファンタジスタ!』

 

 「やるぞ!」

 

 『ストームイーグル!』

 

 エスパーダに倣い、2人の剣士も己に力を与える2冊目のワンダーライドブックをホルダーから引き抜き起動させる。

 メギドと戦いつつも取り出したる2冊目を其々のシェルフに挿入し聖剣を納刀、3人が同時に聖剣を引き抜く。

 

烈火/流水/黄雷

 

 

『『『抜刀!!!』』』

 

 

『竜・巻!ドラゴンッイーグルゥゥ!』

 

 

『輝くっ!ライオン!ファンタジスタァァア!!』

 

 ドラゴンイーグル、ライオンファンタジスタと変わるセイバー、ブレイズ。

 そしてここに来て初めて同色のワンダーライドブックを使用したエスパーダ、彼の雷鳴の力が新たな姿を描き出す。

 

 

『三ぃつぅ(まぁた)ランプドッケルベロッスゥゥウ!』

 

 右肩から右腕に掛けてソードローブは白から黄金へと変質、仮面ライダーエスパーダランプドケルベロスが再誕せしめた。

 

 

『黄雷二冊!!』

 

『魔神と番犬が織りなす、地獄の電撃が狂い咲く!!』

 

 「Fuu…カワッタ、カワッタ…Fuu~

 

 「Bfafu!?たった一冊加えただけでこの圧力……恐ろしい…やはり剣士は殺さなくてはっ!!」

 

 「ケケッ?

 

 ゴーストメギドは生気の無い平坦な声で剣士達の変化を口にし、パンダメギドは聖剣の剣士の存在により一層危機感を懐き殺意を募らせ、モスマンメギドは状況を理解しているのかしていないのか不気味に笑うばかり。

 

 「者共続け、剣士達を血祭りに上げるぞ!Bafyooooo!!」

 ある種芝居染みた動きで竹槍細剣を構え仲間のメギドへ指示を飛ばす。

 

 「Fu!

 

 「ケケッケェーッ!

 応える様にゴーストメギドが胸のチェロを弓で弾けば、奏でられた音の衝撃は無数の矢となって剣士達に襲い掛かり、同時に影に潜ったモスマンメギドがものすごい速さでパンダメギドと共に接近する。

 

 

 「向こうから来るってんなら楽だな」

 

 「全く!貴方はどんな時も自堕落が過ぎる!」

 

 「まぁまぁ……とにかく、向こうも決める気だ。こっちもやるぞ!」

 

 「はい!」 「おうよ」

 

 セイバーがワンダーライドブックを烈火にリードし、ブレイズがソードライバーに聖剣を納刀、エスパーダが左腰の必殺ホルダーに黄雷をすべらせる。

 

 

『ドラゴン!フムフム…』

 

『イーグル!フムフム…』

 

『習得二閃!!』

 

 

『必殺読破!!』

 

『ライオン!ピーターファン!二冊斬り!ウォ・ウォ・ウォーター!!』

 

 

『黄雷居合!』

 

『読後一閃!』

 

 迸る3種の閃光と斬撃、炎の竜巻が邪悪な矢をセロ弾きの亡霊ごと呑み込み幽体で居続ける事を許さぬまま滅する。

 妖精の加護を得た激流が黒い蝶を影に潜らせる事を不可避とし拘束、斬撃がその悪しき影を真っ二つに伏した。

 そして雷鳴が音を置き去りにして竹槍細剣を引き裂き、そのまま気取った大熊猫の肉体に大穴を空けた。

 

 「F……

 「ケェッ……

 「Bぁカなァ?!」

 それが3体の魔人の断末魔となった。

 

 

 

 

 

 「……ワンダーライドブックから抽出した力で生み出したアルターライドブックのメギドだと言うのに…二冊の力を使用した剣士に手も足も出ずに倒されたか。侮っていたつもりはないが、フフ…これは面白い

 

 3人から気付かれぬ位置取りで剣士と魔人の戦いを眺めていたカリバーが動きを見せる。

 自らが持つ闇黒剣月闇へ自身が持つ3つのワンダーライドブックをリードさせる。

 

 

『ジャアクリード・ジャアク西遊ジャー・ジャアクペガサス・ジャアクヘッジホッグ

 闇に包まれた炎、水、雷の力が刀身を渦巻く。

 

 「さぁ…本番はここからだ

 

 そのまま月闇を乱雑に横へ振るう。

 

 

 

 

 「アァ?」 「攻撃!?何処から?!」 「まだ敵が居るのか!!」

 

 突如意識の外側から現れた攻撃に咄嗟に防御姿勢を取って聖剣で受け止め、或いは受け流す三剣士。

 

 「何者ですかっ!!」

 晴れた爆煙の中から一歩踏み出し、ブレイズが何処に居るとも知れぬ敵へ問う。

 すると彼等の視線の先、なだらか丘の向こうから余裕の足取りで歩み来るのは暗黒を纏いし黒紫の衣と銀の仮面。

 

 「あれは……剣士、なのか……?」

 「そんな!?あれは闇黒剣月闇!?」

 「マジかぁ……行方不明の聖剣が剣士共々敵になったってのか」

 

 「初めまして剣士諸君、ワタシの名は……語るまでも無かろう?

 

 「闇の剣士カリバー…!」

 

 「あれがカリバー…」

 

 「ハンッ、初めましてねぇ……(なぁんか気に喰わねぇんだよなぁ)」

 

 カリバーを前に三者三様反応を示す三剣士。中でもエレンは初対面の如く振る舞うカリバーに奇妙な違和感を憶え、仮面の下で疑惑の視線を向ける。

 

 「ああ、厳密にはキミとは初対面ではなかったね。今代の雷の剣士

 

 「つーことは、テメェの正体はオレが知ってる奴って事か?どうにも釈然としねぇ…」

 

 「知りたければ、ワタシを倒す事だ。出来ればの話だが

 そこで言葉を切るとカリバーはまずエスパーダへと月闇の切っ先を向け襲い掛かる。

 

 「チッ…」

 

 黄雷と月闇の刃が交わり火花を散らす。

 鍔迫り合う剣に添える手は共に両手、全力のぶつかり合いに見える……当人達以外には───

 

 

 「クッ…ソがっ!無駄に手強くてやんなるぜ…!」

 

 実際には月闇を黄雷の腹に滑り込ませる様に合わせ、エスパーダが手に力を込められぬように競り合っているのだ。

 そしてそんな鍔迫り合いも数秒の事、エスパーダの腕を上方に跳ね上げ大きな隙を作る。

 

 「ヤベッ…」

 危機感にエスパーダは光速移動を使用しようと意識をそちらの方に余分に割いた為に、カリバーの純粋な剣技の踏込みにソードローブを斬り払われダメージを受ける。

 

 「ッア゛がぁっ!?」

 短い痛声を挙げ草原に転がる。

 

 「エレン!!?」

 

 「そんな…エレンは確かに力より速度を重視する剣技の使い手ですが、力負けだけじゃなく一瞬の踏込みまで負けるなんて!?」

 

 エレンの人間性は兎も角、剣士としての腕の冴えを信用しているブレイズが驚愕に目を見張る。

 

 「エルヴィレアノ…確かに三人の中では生え抜きの腕前だが、キミは聖剣を継承した頃より何も変わっていない。錆び付いてこそ無いが、上達してもいない。メギドには通用したようだが…一冊増えた程度ではワタシの足下には及ばない

 

 「テ…メェ…ホントにゾンビトカゲ(不滅のジークハルト)だってのか?」

 

 「そんな馬鹿な!?ウェルナー候は死んだ筈では…?!」

 

 「言った筈だ、倒して確めろと。とは言え…一人の力などたかが知れている、纏めて掛かって来るといい

 

 3人の剣士を前に余裕を崩す事無くカリバーを語る。

 

 「後悔すんなよ!」

 「相手は手強い、フォーメーションを密にして行こう!」

 「任せて下さい!」

 

 今までの相手とは全く違うカリバーに三剣士はチームワークによる攻撃を仕掛けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・学院裏の森北東━

 

 

「大断断!!」

 

 一方、森の北東右翼側より進行するシミーの軍勢をたった独りで押し留め奮迅するのは守りに於いて他に比類を許さぬ男。現役の剣士最強と呼び声高き堅陣騎士、陳劉玄こと仮面ライダーバスターその人である。

 

 バスターはたった今必殺の太刀にて撃滅せしめた敵軍勢を見下ろしながら思考する。

 

 (おかしいね、歯応えが無い…無さすぎる。さっきから斬った先から雑魚ばかり補充されて、指揮してるだろうメギドが見当たら無い……まさかとは思うが、オジさんが相手にしてる連中は囮か?

 だとしたら本命は…………斗真ちゃん達か?何の為に…?どうにも嫌な予感するねぇ…、とっととシミーの発生源を叩いて斗真ちゃん達の元に向かおうか!)

 頭の中で幾つかの予測を立て結論付け不動を止め、敵陣奥へと切り込もうとしたバスター。

 しかしそこへ漆黒の閃刃が襲い来る。

 

 「…!甘いよ!!」

 

 エスパーダの動きに勝るとも劣らない影を相手に、玄武神話由来の頑強なソードローブを以て防ぎいなす。

 

 「やれやれ…何者だ?」

 

 「ハハッ、噂に違わず堅い上に巧い…なるほどなァ最強ってのもあながち嘘じゃない訳だ

 

 バスターを強襲した影の正体は黒い躰に紅いマフラー、同色の仮面の様な意匠を象った猫背気味の複数のモチーフが入り乱れた魔人。

 

 「ふむ……お前さんが例のデザストとやらか」

 

 メギドデザストが己の武器たる愛刀【グラッジデント】を構え再びバスターへ迫る。

 対してバスターは土豪剣激土の峰を左腕の装甲に滑らせる様に構え迎え撃つ。

 大剣と片手直剣、リーチに差があるにも関わらずデザストは恐れる事無く直進し、バスターもまた敵の攻撃など効かぬとばかりにその頑強な装甲で受け止め攻撃のみに終始する。

 

 「ハッハァッ♪強い、強いなァ!楽しいぜ…最高だ!これだから戦いって奴は堪らない

 

 「勝手に一人で盛り上がってな!オジさんはお前に構ってる余裕は無いんだよ!!」

 

 グラッジデントの刃を激土の刀身ゲキドソウルの空部位で巧みに絡めとり、デザストの手から弾き跳ばす。

 

 「見たとこお前さんがシミーをバラ撒いてたってとこか?ならここで倒してついでに後顧の憂いを断つ!」

 

 「やってみせろよ、オレは不死身だ

 

 「そうかい!だったら簡単には復活出来ないよう倒してやろうじゃないか!」

 左腕でデザストの首元を郭締めし数度の膝打ちを放ち、魔人が鑪を踏みよろけた所に激土を振り下ろし、返す刀で袈裟上げに斬り上げる。

 

 

『玄武神話!ドゴドゴーン!!』

 

 玄武神話をシンガンリーダーに素早く読み込ませ、激土を手前に掲げ、大地に突き刺す。

 

 

「豪覇斬地走り!」

 

 突き刺された大地が鳴動し激土を起点に隆起、鋭く尖った岩が無差別に生えてデザストを八方串刺しにする。

 

 「ォあ゛ア゛ア゛?!

 響き渡る魔人の絶叫、哀れ無数の岩針にて身体中を穴だらけにされ絡み合った岩に拘束される。

 残ったシミー達も同じ様に隆起し生えてきた岩針に穿たれ消滅するのであった。

 

 「これなら暫くは動けないだろ、そこで晒し死にしてな!」

 言ってガトライクフォンを取り出しライドガトライカーへと変化させ飛び乗るとデザストを置いて去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・オルケストラステージ━

 

 「あぁ!何だかじれったいなぁ~、ジッとしてるなんて勿体無いよ!」

 街での定期オルケストラを終えたsupernova、メンバーのフィオナが堪え切れぬ様に叫ぶ。

 

 「ダメよ~、クロちゃんから大人しく待機してるようにって言われたでしょ~?」

 今にも飛び出しそうな彼女を窘めるのはメンバー最年長ミルフィーユ。

 

 そしてそんな2人からやや離れて控室の窓から外を見つめるsupernovaのリーダーにしてセンター、東国リュウトの姫君ユエ。

 

 「……おじ様…!?」

 

 「ユエちん?」

 「どうかしたの?」

 

 「ごめん、ちょっと出てく」

 

 「ユエちん!?」

 「駄目よ!今街の外に出たら…」

 窓の外から見えた灰褐色の影が屋根から屋根に翔び駆ける姿、その姿から何やら鬼気迫るモノを感じて、2人が制する声も無視して駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━街道近郊━

 

 「「「うぁぁあ゛?!」」」

 

 轟は爆音と悲鳴。セイバー、ブレイズ、エスパーダの3人が声を挙げて吹き飛ぶ。

 それとは真逆に悠々と歩み来るカリバー、三剣士達は終始不利な勝負を繰り広げる。

 

 「クソッタレ!!少しはこっちの攻撃を喰らえよ!?」

 

 「くっ……攻撃が全て防がれてしまう…どうしたら」

 

 「それでも!やるんだ!こいつを街に入れちゃいけない!!」

 セイバーの鼓舞にブレイズ、エスパーダ共に痛む身体に鞭打ち立ち上がる。

 

 「で、何か手ェあんのか?」

 

 「ある。二冊で駄目なら三冊だ!」

 エスパーダからの問いにセイバーはホルダーに収納していたもう一冊…見覚えのあるバイオレットカラー。

 

 「それはセドリックさんの?!」

 

 「例のキャラ崩壊ブックか……使えんのか?」

 

 「分からない、けどやるしかない」

 

 ブレーメンを握る手に力が籠る。

 

 「ハッ、じゃあ取りあえずはオレと真面目ちゃんで推定ゾンビトカゲ野郎の攻撃を捌く、お前は奴を倒す事だけに集中しろ」

 

 ゆっくりと歩を進めるカリバーを見据えながらエスパーダはセイバーに全てを託す。

 

 「作戦会議は済んだかね?ならば来たまえ、キミ達の底力をもっと振り絞って見せてくれ

 舞台芝居の如く両腕を大きく広げ煽るカリバーにエスパーダは忌々しくもしかし余裕があるような振る舞いで返す。

 

 「ほざいてろよ、クソ野郎。余裕こきやがった事今から後悔させてやるぜ!」

 

『トライケルベロスランプドアランジーナ』

 

 

 「闇黒剣月闇は返して貰います!」

 

『ライオン戦記ピーターファンタジスタ』

 

 雷と水の剣士がドライバーのブックを叩く。

 ライドブックの技を用いてカリバーへの牽制とする心算だ。

 そしてその隙にセイバーが自身のソードライバーの空のレフトシェルフにブレーメンのロックバンドを挿入、聖剣を納刀する。

 

 

『烈火抜刀!』

 

『竜・巻!ドラゴンッイーグルゥゥ!』

 

『増冊!ブレーメン!』

 

『烈火二冊!』

 

『荒ぶる空の翼竜が獄炎をまとい、あらゆるものを焼き尽くす!』

 左肩から腕に掛けて音楽の力を宿した装甲がセイバードラゴンイーグルに加わり、レフトマスクには【ブレーメンマスク】が装着され新たにドラゴンイーグルブレーメンと化す。

 

 (ほう……炎の剣士の三冊か、これは"視えて"いなかった。それもブレーメン…相性としてはワタシが持つ西遊ジャーニーに及ばぬまでも悪くは無い組合せ…その分、身体に掛る負荷は亜種三冊以上ではあるが……フッ半端に"視える"のも考え物か)

 ブレイズとエスパーダを捌きながら、今し方姿を変えたセイバーを胸中で見定めるカリバー、仮面の下で口元を僅に緩める。

 「見せてみよ、新たなる若きセイバー!

 

 

 「おぉぉぉおおっ!!

 

 セイバーが吼える。烈火を振るいながら駆け抜けてカリバーにその一撃を見舞わんとする。

 セイバーの攻撃に合わせる様にブレイズ、エスパーダ共にカリバーの迎撃を阻まんと先制を期す。

 

 「僕達を忘れて貰っては困ります!」

 

 「テメェは無防備で受けやがれ!」

 

 ブレイズがカリバーの月闇に流水をかち合わせて押さえ、エスパーダが空き手側に斬り込む。

 

 「手段を選ばずか…嫌いでは無いが、その程度予想していないとでも?

 振り下ろされた黄雷を躊躇う事無く左手で受け止める。

 

 「だがこれでテメェの正面はガラ空きだ!」

 

 「認識が甘いな

 カリバーが冷淡に告げる。と同時に月闇から吹き出た闇がブレイズを包む。

 

 「うわぁぁぁあ?!!?」

 絶叫に近い悲鳴を挙げて倒れるブレイズ、ソードローブが本のオーラと化しパラパラ捲れる様に霧散する。

 

 「次は貴様だ

 

 「っ…!なろっ!」

 

 自由になった月闇をエスパーダへ向け突き抜く、その動作に咄嗟に黄雷を手放し闇纏う刃を躱す。

 突きを躱した後、回し蹴りで黄雷を掴むカリバーの左手を蹴り上げる。

 当然手放された黄雷をエスパーダは右マントカーテナクロークを使用し器用に回収する。

 そして倒れ伏したアルマもを左脇に抱え光速移動にてカリバーから離れる。

 

 「(こうなりゃ小説家の潜在能力が頼りか……)行け!」

 

 エスパーダの声を受けセイバーが更に加速する。

 

 「三冊だろうとっ!

 

 音と炎纏う烈火と闇渦巻く月闇が激突する。膨大な力の奔流、そして激突した衝撃が生み出した余波が突風となって草木を揺らす。

 最初は拮抗していた剣を介した力比べ。しかし受けた月闇が徐々に押し込まれてゆく状況に仮面の奥の瞳が見開かれる。

 

 「……!?ワタシを押し込むかっ!!

 押され気味となった月闇を寝かせ、峰の腹を左手で支える。

 

 「うぉわぁぁぁあ!!」

 

 遂に力比べに決着が付く、遮二無二叫ぶセイバーの気迫と共にカリバーに一太刀浴びせる。

 

 「ぬぐぅぅう……

 カリバーのソードローブに走る縦一閃の軌跡、脚に力を込め立つ事叶わず膝を付く。

 

 「しっ!今だ小説家ぁ!躊躇わず決めろ!!」

 

 「ふっ…!」

 

 

『必殺読破!!』

 

『ドラゴン!イーグル!ブレーメン!三冊斬り!!ファ・ファ・ファ・ファイヤー!!!』

 業火残響の斬撃が無防備なカリバーへ直撃し大地と共に派手に吹き飛ぶカリバー、と同時に彼の元から零れ落ち何処へと飛び行く3つの小さな本。

 大きな音を立てカリバーが落下する。

 

 

 「あんま言いたかねぇが……ヤったか?」

 後方から趨勢を観ていたエスパーダが呟く、しかし土砂が濃い土煙となって視界を塞ぐ為、カリバーらしき影が見えない。

 

 「はぁ…はぁ……」

 セイバーも肩で息をする程疲労している。

 

 「──……いや、驚いた」

 

 「「?!」」

 

 土煙の奥から声が木霊す、声色こそ入り雑じったノイズが無いが恐らくはカリバーの変身者だろう者の声。

 

 「まさか…同色のワンダーライドブックを揃えたワンダーコンボでも無いに関わらずこれ程の力とは…おっと、今代のセイバー、キミの評価を見直す必要がある様だ

 途中声がくぐもったモノとなる、フードか何かを被ったのだろう。

 「出来る事ならばもう少しキミと遊んでみたいが……ワタシとしても、予想外の痛手を受けた。何より…時間切れの様だ

 姿見せぬ声が差すセイバーの後方、エスパーダよりも更に後ろの街の外壁。

 其処に立つ雄々しき堅牢。

 

 「流石のワタシも手負いであの侠の相手をするのは厳しいのでね

 

 ふらつく足で立ち上がり、走り来るバスターを一瞥し指笛を吹く。

 すると何処から途もなく土煙とは別に蒸気の様な煙が現れ僅に覗いていたフードを被ったローブの影を覆う。

 

 「っ…!待て!!」

 

 「近い内にまた(まみ)える事もあるだろう。その時を楽しみにすると良い……

 

 白煙に消える仮面ライダーカリバーであったローブの人物、煙が晴れる頃には小さなクレーターとなった大地が残るのみとなった。

 

 

 

 

 

 「斗真ちゃん!」

 

 「あぁ…陳さん……」

 

 敵が消え、バスターと言う頼れる存在が駆け付けた事により安全が確約され気が抜けたセイバーが変身が解けると同時に倒れる。

 

 「小説家ぁ!?!」

 「斗真ちゃん!!」

 

 近くで見守っていたエスパーダ、駆け付けていたバスター共に変身が解けながら倒れた斗真の名を叫ぶ。

 

 強敵を退ける事には成功した、しかし被った被害もまた無視出来る物では無い決着となったのであった。

 

 

 TO BE Continued……

 

 





 私の別の作品の後書きでも書いた事なんですが、どうも掲示板形式は私のスタイルとは合わないのか、自分で書く分には書き途中の読み切りが限度かなぁと。
 やはり掲示板形式の作品は読み専が性に合っているみたいです。

 後…冬コミの同人誌買いすぎて金欠なのでセイバーのVシネクスト観に行けないかもしれない……。

 では次回


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29頁 呼び声


 お久しぶりのこんばんは。

 構成諸々悩んでいたら時間がかかりました…。

 それはそれとしてバレンタインガーネット、リネットをゲット。
 更に伝説を回してクロちゃんもゲット、次はエリザをゲットしたいですね。
 バレララちゃん出ないもんだからシュガポケ1人もUR居ない……。



 

 ━マームケステル・外壁近辺━

 

 闇の剣士カリバーの襲撃を退けた炎の剣士仮面ライダーセイバーこと剱守斗真であったが、激戦の痛みと大き過ぎる力を行使した代償か倒れてしまう。

 

 「斗真ちゃん!しっかりしろ!」

 

 戦場に急ぎ足て辿り着いたバスターこと陳劉玄は眼前で倒れ、変身の解けた後輩剣士に駆け寄りながらも自身もまた変身を解き、斗真の上体を抱き起こして声を掛ける。

 

 (脈は……ある。傷は多少血が出ちゃいるが、今すぐ命に関わる致命的なモンは無い。って、おいおい!?まさか三冊コンボを使ったのか?いくらここ最近鍛えてはいるっても…斗真ちゃんは剣士としちゃまだ素人に毛が生えた程度……。

 アルマだって意識こそあれ倒れた程の力を使っちまったってのかい)

 

 声を掛けつつも脈拍を計り、俯瞰して身体中の傷を確認する劉玄。

 そうして彼は斗真の腰に装着されたドライバーのシェルフスロットが全て埋まっている事に気付き、変身が解ける直前に見えたセイバーの姿と照らし併せ斗真が倒れた原因に行き当たる。

 

 「(斗真ちゃんが相対していた相手……遠目な上、霧らしきモノでハッキリとは判らなかったが…メギドじゃあ無かった)……エレン、取り敢えずオジさんはクロエちゃんに連絡して斗真ちゃんを学院に運ぶ。

 お前さんはアルマの方を、ついでにセドリックにもこの事を伝えといてくれ…頼む。それと……何があったのか、後でたっぷり聴かせて貰おうか?」

 

 「ああ、嫌って程聞かせてやるよ」

 

 エスパーダの変身を解いたエレンが覚束ないながらもアルマの右半身を肩に担ぐ。

 空いた右手でガトライクフォンを取り出しワンフリックで目的の人物にコールを掛ける。

 

 「クッソ、細いクセして重いなコイツ……細マッチョかよ…。はよ出ろムッツリグラサン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院裏手の樹海━

 

 「残敵無し。しみー1匹残っておりませぬ」

 

 「当然。小生達二人掛かりで片付けたのだ、万が一にでも残党など残すものか」

 北西側を任された2人の剣士、風の剣士仮面ライダー剣斬こと祭風哉慥と音の剣士仮面ライダースラッシュことセドリック・マドワルドが劉玄が戦場としていた北東側へと進路を向けながら会話を交わす。

 

 「劉玄殿の方はどうなっているのでしょうか?」

 

 「愚問、激土は小生達の中で最も歴戦の古兵。敗陣を期す事など在るまい」

 

 「それもそうでござりますね……やや?」

 

 「問、どうした?」

 

 劉玄との合流目指し進んでいた所、樹の上を跳び駆っていた剣斬が動きを止め、手で庇を作り何かに注目している。

 

 「いえ…あちら……少し先の…おおよそ七里程でしょうか、拓けた場所に鋭い岩石の柱が複数…地面から空へ内よりに生えているのでござる」

 

 眼にした光景を下で己を見上げるスラッシュに伝える。

 

 「思案…回顧、ふむ……激土の技に該当するモノがあったな……うん?」

 

 伝え聞いた状況に記憶を探っていると自身のガトライクフォンが震えている事に気付く。

 

 「……黄雷?あちらも敵を殲滅せしめたか」

 

 『グラサン、忍者と一緒だな?どっちかで良いからすぐ来い。助けろ、理由は来れば分かる』

 

 通話を選択した途端、聴こえるエレンの声。普段の何かにつけて文句を垂れる様な女々しい物言いではなく、端的で業務的な口調…何より"助けろ"と宣った電話の向こうの声にスラッシュも疑問を懐きつつ、しかし只事ではないと理解してこちらを見下ろす剣斬に手招きのジェスチャーを示し、エレンに返事を返す。

 

 「了承。翠風をそちらに向かわせる、詳しくは合流してからだ」

 

 『おう…』

 

 短い返事。そのまま通話が途切れ、一連の会話を知らぬ剣斬が小首を傾げスラッシュへ問う。

 

 「先の声、えれん殿でしたが……」

 

 「珍事、奴にしては珍しく慌てていた。何かあったのは確かだ。質疑、それで…そちらはどうだ?激土は見当たったか?」

 

 「いえ。ですが足跡を見付けました。恐らくは敵を討ち果たした後、斗真殿達の元へ向かったのだと思われます」

 腐っても…もとい未熟を自称すれども忍、周辺の痕跡から相手を追跡する技術はお手の物である。

 

 「時間は?」

 

 「拙者達が戦闘中の頃には既に劉玄殿は粗方の敵を滅していた様です。あの岩柱の塊も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それらの事から推察するに、拙者達の戦闘を終えた時分には既に森を後にしたものと」

 

 「納得。現役最強は伊達ではないな…、得心がいった。豪覇斬地走りを喰らった手合い……十中八九メギドだろうが…(縛り付けたというのが気にはなるが)消滅したと見て間違い無いだろう。

 方針伝達、翠風、手前は黄雷の元へ向かえ。言い様こそ短くしていたが声が震えていた、あの震え方は体力が限界に近くなった時の黄雷だ、早めに手助けに行ってやれ、さもなくば奴は途中で力尽き倒れるぞ」

 

 「にん!それはいけませぬ!!えれん殿は倒れた時は気力が無い為、その場では何事も無く済みますが、後から皆様へ怨嗟にも似た愚痴を捲し立てる様になりまする…、拙者は兎も角…魔女の方々にまで飛び火しては申し訳が立ちません。然らばお先に御免!」

 

 断りを入れ剣斬が目の前から消える。樹から樹へと跳び移り遠ざかる僅な音がスラッシュの耳に届く、風の様に身軽な少年はそのまま街の家屋の屋根上を軽々と跳びエレンの元へ辿り着くだろう。

 残されたスラッシュは魔獣に警戒を配りながら、樹海から立ち去り、学院へと合流を急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル正門近辺━

 

 場面は戻って、街道の正面通用門前。

 フローラ女学院在学生にして理事長クロエ肝入りの選抜クラスユニットsupernovaのセンターにしてリーダー、東の大陸リュウトの姫であるユエが、遥か先の草原での出来事を只々眺めていた。

 

 「あれって……特別クラスの…それにあっちの二人はマルルセイユの自由騎士に、フィレンツァの雷迅?」

 

 劉玄が背中に背負った斗真と、少し離れた場所でアルマを担ぎ上げて脚が笑っているエレンを目撃し、思わず溢す。

 そんな彼女が立つ門の元へと劉玄が焦れた顔で近付いて来る。

 

 「おじ様……」

 

 「御姫さん、悪いが急いでる。話なら後にしてくれ」

 

 ユエが恐る恐る訊ねようとして、だが劉玄の一言で二の句を告げなくなる。

 ユエが見つめ続ける中、劉玄は背負った斗真を気遣いながらその巨体に見合わぬ速度で学院へと駆ける。

 道中の行き交う人々に速度を落とされる事を嫌った劉玄は拓けたダウヒッチストリートから路横に入り、壁面を蹴って屋根へと登り、来た時と同様屋根上を駆ける。

 奇しくも剣斬とは別の場所を移動していた事から互いが顔を合わせる事は無かった。

 

 

 

 

 

 「何が…あったの……」

 鬼気迫るといった空気を纏っていた敬愛すべき自国の守護者の様相にユエは只々唖然と狼狽える。

 

 「あー…重い…真面目ちゃん起きねえかなァ、引き摺るのキッツいんだよ……忍者のヤツ早く来いよ…」

 エレンがアルマを四苦八苦しながら担いでいるが、どんどんアルマの方に身体が傾き、担がれているアルマは斗真程では無いが意識が明瞭としない為、されるがまま両足を引き摺る事となる。

 「あー…キツイ…………おおん?お前…確か………スパノバの」

 セドリックの評価など露知らず、通話中の時にあった意気込みも終わればグチグチと女々しく愚痴を垂れ流すエレンは、そこで門の陰に立ち尽くすユエを見付ける。

 

 「……教えて、あそこで何があったの?」

 

 「ぁア?メンドクセェなぁ、お姫様よぉちったぁ空気読んでくれや、オレもこう見えていっぱいいっぱいなんだよ。まぁでも忍者来るまでオレ一人で真面目ちゃん運ぶのもキツいし、ちょっとした休憩がてら独り言を言ってよぉ、それをどっかの誰かが聞いてもまぁオレにゃ責任はねぇよな……多分」

 ユエの懇願にとても面倒な顔をしてしかめた後、僅かに考え直し、態とらしくそっぽを向きながら建前をしれと述べるエレン、最後に余計な一言があったがユエにとっては重大な事ではないので無視した。

 

 「っとによ……メギドだの魔獣だの相手にする分には良かったのによォ。実際、今回もメギドとシミーだけだと思って腹ぁ括ったらまさかの闇の聖剣と剣士が敵でご登場だわ、ソイツ滅茶苦茶につえーわ、真面目ちゃんが真っ先にやられるわ、オレも躱すので精一杯だわ大変だったぜ。

 オッサンも、もうちょい早く駆け付けてくれりゃ小説家が無茶する事も無かったのによぉ、ホント…ガラじゃねぇよ命掛けるなんざ。

 ワンダーライドブック三冊だぜ?そりゃあソードライバーにはスロットが三つあるが、だからってついこの間まで素人同然だったヤツがいきなり三冊コンボの力を使えばそりゃああもなる。敵さんが退いてくれたから良かったもんを…もし野郎が無傷だったらと思うとゾッとするね。………おっと、今のは口が滑っただけだからな?オッサンやクロエのヤツにゃあチクんなよ?」

 

 言いたい事は言ったとして、壁に預けていた背を離し、再びアルマを担ぎ直して歩き始めるエレン。

 劉玄と違い、ノロノロと歩いているので先の戦闘の轟音を気にして野次馬目的の民衆等に見付かり、視線を集めている。

 そんな状況で元々大多数の他人からの視線に晒される事を嫌う彼はとても嫌そうな顔をして、ただでさえ死んだ魚の眼がマイナスへと振り切ってゆく。

 そうして門から約100メートル程離れた所でようやく、剣斬もとい変身を解除し家屋の屋根から跳び降りて来た哉慥が合流。

 何やら遅いだのさっさと手伝えだのと哉慥にだけ聴こえる様に言っているのか、言われている忍者少年の方は大仰に「申し訳ございませぬぅぅぅううううう!!」等と泣き叫んでいる。

 

 (敵が来ていた……それも魔人だけじゃなくて、聖剣の剣士が?

 闇の聖剣……確かドルトガルドに伝わったって言う…けどそれがどうして敵に?)

 一般的にドルトガルドから月闇が持ち出された事は知られていない、知っているのは国の重鎮の1部と組織に属する剣士達、そしてその剣士の1人(刻風勇魚)からその事を教えられた特別クラスの生徒数人のみ、クロエが担任を務める選抜クラスに属し、Rayの1人であるエリザの弟子であろうとも他国の姫でしかないユエにその情報は与えられぬ。

 それ故彼女は答えの出ぬ疑問に苛まれながらも、一先ずは抜け出したステージの元へ戻ろうとして、草原にて陽の光を照り返し光る()()()()()()()

 

 (これ……先生やおじ様達が使っている……)

 近付き視線を落とせば、落ちていたのは小さな紅色の本。

 剣士を間近で見てきたユエはソレがどういった物なのか理解し手に取る。

 

 (取り敢えず…まずはみんなの所に戻ろう。コレはおじ様から詳しく話を聞いた後に渡そう)

 そう決断して、彼女は身を翻して仲間が待つステージへと踵を取って返す。

 その手に紅色の聖なる魔本(西遊ジャーニー)を握って───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・医務室━

 

 劉玄の身体能力を十全に用いたショートカットによって斗真は素早く治療を受ける事が出来た。

 

 「どうですか、彼の具合は?」

 

 「どうもこうも…傷よりも極度の緊張と疲労つう精神的なもんが原因なんだから、先生の眼が醒めるまでは私にもどうしようもないっての」

 

 医務室のカーテンに遮られたベッドから覗く斗真を眼鏡越しに伺いながら治療を施したアンジェリカへクロエが訊ねる。

 対しアンジェリカは斗真の傷を完全に治した後、自分にはもう出来る事は無いと突っぱねる。

 

 「傷を治してくれただけでも有り難いよ」

 

 斗真を背負った事で所々に血汚れの付いた劉玄が少女を労う。

 

 「称賛。相変わらず治癒の腕前は見事に他ならない」

 

 先に学院にてクロエと合流したセドリックもアンジェリカの治癒魔法の腕前には感嘆の意を示す。

 そんな医務室に遅れて到着した哉慥とエレンとアルマが現れる。

 

 「ぉぅ、ならその調子でオレと真面目ちゃんも治してくれや」

 

 「はぁ?ふざけんなつーの……ってなんであんたサイゾーに背負われてんの?」

 

 そう現れた3人は3人ではなく6人であった。

 アンジェリカが言う通りエレンは哉慥の背に背負われ、アルマは()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「あんた……自分より年下で背が小さい子に背負われ恥ずかしくないの?」

 

 「オレぁ変身したんだ、その上で頑張って街の方まで真面目ちゃん担いで来たんだぜ?」

 要約すると変身によって消耗する上、二冊のワンダーライドブック使用でサラに体力を奪われ、肉体的疲労凄まじい所に斗真やアルマと比べれば軽症なれどダメージもあり、しかしそれを圧しても気を失ったアルマを街の門前まで運べたのだから誉められこそすれ、謗られる謂れは無いと言外に述べているのだ。

 

 「サイゾーもさぁ、ちょっとは断るとかしなさいよ?あんた何でもかんでも素直に聞きすぎなのよ。もうちょっと我ってもんを──」

 

 「しかしえれん殿もあるま殿同様に消耗しているのは事実でござりますから。何より、実体を伴う幻影分身の鍛練にも良いかと思い、拙者の方から進んで引き受けた次第に御座います」

 

 「くっ…なんてピュアな輝き…!そこのニート恥ずかしくないわけ?」

 

 キラキラした曇りの一切無い瞳を受けたじろぐアンジェリカ、そしてピュアな瞳の向こうにいる濁った方の瞳へ言葉を投げる。

 

 「ニートじゃねぇし!だいたい恥もクソも動けねェのは本当なんだから仕方ねぇだろうがッ!」

 

 哉慥(本体)から近くの椅子に下ろされながらアンジェリカに食って掛かるエレン。この男、御歳23歳である。

 

 「まぁまぁ、オジさんは見てないけど今回はエレンも頑張ってたと思うよ…多分。だからうん、大目に見て…は無理でも、ちょっと…ほんのちょっとはお目こぼししてあげ……やっぱ無理かなぁ」

 

 「諦めんなよ!そこで諦めんなよオッサン!!」

 

 「そんだけ元気なら私が治療しなくても平気ね。んじゃアルマの怪我治すから」

 

 実際、カリバーと対面し剣を交えた中でエレンだけが目立った傷も致命的な傷も無く元気なので間違ってはいない。

 

 「喧々騒々。病人がいるのだから静かにしろ……む?また騒がしくなりそうだ」

 

 「どした?」

 

 尚も喚こうとしたエレンにセドリックが右手で頬を挟み口を塞ぐ。と同時に彼の耳には大勢の足音が部屋の外から聴こえて来た。

 

 「嘆息…そら、姦しいのが来たぞ」

 

 セドリックの溜め息と同時に哉慥が開きっぱなしにした扉から雪崩れ込む様に数人の少女達が現れる。

 

 「「「「先生!」」」」 「教官!」 「センセ!」 「お兄ちゃん!」 「『せんせい(*>д<)』」 「にーさま!」

 

 特別クラス──ティアラ、ロゼッタ、ラヴィ、リネット、ナデシコ、アシュレイ、ラトゥーラ、カエデ、メアリーベリー、シャンペが次々と斗真を呼びながら部屋に入り込もうとする。

 

 「あらあら、そんなにいっぺんに入ったら先生くんが潰れちゃうわよ?」

 

 「せんせー!!」

 

 半ば押しくら饅頭状態のクラスメイトや妹達を後ろに控えていたツバキが窘めんと言葉を掛けた所に、遅れて駆け付けたIV KLOREから突出したサルサが扉に寿司詰めしていた集団に突っ込む。

 

 「「「「「「「「「きゃぁぁぁあああ?!」」」」」」」」」

 

 そして挙がる悲鳴。ドミノ倒しよろしく数人が床へ倒れその上に他がのし掛かるという光景。

 無事だったのは後方で傍観していたツバキとサルサの声にいち速く反応し咄嗟に下がったカエデ、そしてサルサの後から到着したエミリアとあるふぁ。

 因みにエミリアに気付かれぬ様にヘルマンが廊下の柱に身を隠している。

 

 「ちょっとー!余計な怪我人増やさないでくれる?!」

 

 「おやおや、大丈夫かいお嬢ちゃん達」

 

 アンジェリカが額に青筋を立て抗議する横で、劉玄が動き上の方の少女達を優しく持ち上げながら下敷きになった少女に声を掛ける。

 

 「あいたた……だ、大丈夫です」

 

 倒れる瞬間ロゼッタに庇われる様にして倒れ込んだ為、他より多少余裕のあったティアラが下から這い出て答える。

 

 「なァにやってんだラトゥーラ」

 

 「うっさいし、見てないで助けなさいよ」

 

 護衛対象の醜態に呆れるエレン、しかしラトゥーラも野次を飛ばして傍観するだけのエレンを非難する。

 やがて山が崩れ、少女達は其々に立ち上り落ち着きを取り戻す。幸い…と言って良いかは判らないが、下敷きとなった側はリネット、ナデシコを除いて受け身が取れていたし、ティアラは庇われていたので言わずもがな、前述した2人もリネットは身体の極一部がクッションとなっていたし、ナデシコは位置が良かったのかこれと言った怪我はしていなかった。

 

 「何やってるのよ…って言うか何があったのよ!?何でアイツが倒れたの?!アンタ達何か知ってるんじゃないでしょうね!?」

 そして1人事情を呑み込めていないエミリアが困惑混じりに叫ぶ。

 

 「あー、オジョウサマも一緒かよ。まぁそうだよな…念の為っつってクロエが号令掛けて校内の生徒は街の外と森に出ないようにって徹底して言い含めた上に、オッサンが背負ったズタボロの小説家や忍者が担いでた真面目ちゃんを目撃した生徒連中が騒ぎゃ、そりゃ風紀委員サマの耳には入るわな」

 

 「はわわわ?!!如何するでござるか?!如何するでござるか?!」

 

 「静粛(静かに)。間借りなりにも剣士がみっともなく慌てふためくな、先程組織の方に連絡した。

 烈火の状態を此方側でも詳細に把握すべく人材を呼んだ……む?ルキフェルはどうした?」

 

 「はにゃ?ルキさま?ルキさまならさっきまで一緒に……あれ?」

 

 エミリアの反応を見て『まぁそうなる』と得心するエレンと逆に慌てふためく哉慥。

 その哉慥に落ち着く様言い含めたセドリックはどうやら先程までガトライクフォンで何処かへ連絡をしていた様だ。

 そうして彼は自らが後見人を務めている少女の姿が見当たらない事を訊ねる。

 それをシャンペが答え、しかしその姿を認める事が出来ず首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━マームケステル・ダウヒッチストリート━

 

 「ふん…やっと待機指示が解けたんだ。先生には悪いが、どうにも気になる…まぁついでだ、帰りに見舞いの品として何かゲームでも買っていってやるか」

 

 話題のルキフェルは1人、街の中央通りを歩いていた。彼女が向かう先は3剣士が戦っていた戦場、やがてsupernovaがオルケストラを行う筈だったステージに通り掛かる。

 

 「ふぅん、supernovaめオルケストラを再開するのか。殊勝な事だ」

 ルキフェルが言う通り、ステージは賑わっており、どうやら壇上ではフィオナがMCの主導を回している様だ。

 が、ルキフェルの位置からでは観客の歓声しか聴こえない為、早々に見切りを付け先へ進む。

 やがて門へと辿り着いたルキフェルは街道側を軽く警戒した後、足取り軽く戦場となった場所を彷徨き始める。

 

 「ふむ……メギド、シミー以外にも居たなこれは」

 おおよその場所を見回して草原に落ちていた物を見付け確信したように呟く。

 

 「何故戦場が気になったのか……ハンッ!本に呼ばれる──か、まさかワタシにも起こりえるなんてな」

 足下に落ちていたソレを拾い、誰に言うでもなく嘲る。

 

 「土産が増えたな、これで少しはアンジェリカもセドリックもワタシを五月蝿く言えんだろう」

 

 小さな暴君(凶乱の魔女)はソレを拾って満足したのか、最早此処に用は無いと再び街へと取って返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・医務室━

 

 「気付いたら居なくなってたとか、あいっかわらず地味ねルキのヤツ」

 

 「チビルキの事は今はいいだろ、重要なのはムッツリグラサンが誰を呼んだのかだ。聖剣の事ならグラサン自身でどうにも出来るから、オカマは除外するとして後の候補もクソペテン師は無い…となると、東洋の神秘妖怪シジイか医者だったつー姐御か?」

 

 ルキフェルが聞いたら憤慨しそうな事を口にするアンジェリカと、同じくぞんざいに扱うエレン。

 そのまま斗真の容態を鑑みて呼び出したとされる人物の予想を立て始める。

 セドリックの兄エリウッドを除外し、自身が知る中で他に可能性がある人物としてヤマトにある忍の里の長【阿檀(あだん)】とソード・オブ・ロゴスの現マスター付き秘書官を務めるオルガ、2人の名を挙げる。

 

 「妖怪だなんて……せめて妖精と言ってあげるべきじゃない?」

 

 「そうです。いくら何年間も見た目が変わらないからと言って妖怪は言い過ぎだと思います」

 

 「アダンおじいちゃんに聞かれたら里の人達をけしかけられちゃいますよ?」

 

 憚らず妖怪と謗るエレンに、阿檀を知るヤマト三姉妹が苦言を呈する。

 

 「否定。呼び出したのは前黄雷…要するに手前の師匠だ──」

 

 瞬間、エレンが椅子から立ち上り脱兎の逃亡を図る。

 痛みはどうしたとか、疲れて動けなかったんじゃないのか?とかそう言う諸々を無視して火事場の馬鹿力を発揮して駆け出した瞬間、眼前に現れるブックゲート。開かれた本の門から競り出したヒールの踵がエレンの腹に突き刺さり、哀れ怠惰な元漫画家は吹き飛ばされた。

 

 「此処は病室なのですが……」

 

 クロエが何とも言えぬ顔で溢す。

 

 「悪いわね、クロエちゃん。後で弁償するから今は見逃してくんない?」

 やがて聴こえて来た声はクロエよりは歳上であろう女性の声。

 

 

 

 

 「さぁ、オシオキの時間(ブチ殺しタイム)だバカ弟子ぃぃぃいいいいいいいい!!!!」

 

 

 

 

 

 ──突如として現れたその女性(ヒト)はとても鮮烈でした。

 彼女が先生を助けてくれる。セドリックさんはその為に呼んだのでしょうけど、先にエレンさんが死んでしまうのではないのでしょうか……と、その時の私は思っていたのです──

 

 

 TO BE Continued





 哉慥くんの里の人達は哉慥くん以外は大体花か草木、獣か蟲の名前を名乗っています。
 例えとしては、紫苑や藜、薊、蜈蚣、虱、海驢、豪猪、日雀、鶸などですね。
 
 久々のTip、鳳蝶は実はちょっとした洗脳を受けてます。

 ではまた次回


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30頁 師・匠・襲・来


 おはこんにちは。
 カミラ様が出たのでこれでRay4人揃いました。
 後はユズリハだけですね!
 
 しかし今年のホビーショーネットで事前申込が必要だったの知りませんでしたし……うん、来年は確認しておこう。



 

 ──突然現れた巨大な本を扉にして彼女は今まさに逃げ出す瞬間だったエレンさんのお腹に、痛烈な一撃を与え彼を吹き飛ばしました。

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・医務室━

 

 絶句。その一言以外、目の前で起きた出来事に対し表す言葉が無い程までに衝撃を受けた若き魔女達。

 否、より正確には眼前の女傑を初めて目撃した数人のみがその様な状態に陥っている。

 例外なのは女傑を知るフィレェンツェの魔女であるラトゥーラ、大抵の物事に対し動じる事の少ない魔律人形のあるふぁ、過去の経歴上面識のあるアンジェリカは驚いてはいない。

 無論其々、苦笑、鉄面皮、呆れと反応は違うが。

 

 「わわっ?!エレンっちがスゴい音を立てながら吹き飛ばされたーーー?!!?!!」

 最初に言葉を発したのはラヴィ。最も素直かつ端的に目の前の事象を言葉にしてくれた。

 

 「ひぇ……『恐いっ!?(´;д;`)』」

 

 「どうやらロサ氏はお亡くなりになられたようですね」

 

 「何縁起でも無い事を言ってるのあんたは!!?」

 

 ベリーボードで鼻頭まで隠して怯えた声を洩らすメアリーベリーの真横で、あるふぁが動きを見せないエレンを眺めて思わず溢すと、彼女の主人であるエミリアに頭をすっぱ抜かれる。

 

 「あー、レオナ、レオナさんや?いくらエレンが度々お前さんを謗ったり、修行をサボってたからといって、出会い頭に早々"ソレ"はやり過ぎなんじゃないかな?」

 この場での最年長者として、少女達を気遣い穏当にエレンの師たる亜麻色の髪を靡かせる女傑──レオナ・E・メランドリを窘めんと陳劉玄は彼女の肩をやんわりと掴む。

 

 「ああ、陳。お久しぶり、相変わらず引退し時を逃した面してるわね。そりゃ婚期も来ないわ」

 

 「君も相変わらず酷いね。オジさん傷付いちゃうよ…後、結婚関連で弄るのまじやめてないちゃう」

 最強の剣士、轟沈。

 

 「暴挙。手前はもう少し穏便に出来ないのか?無駄に騒音を立てる、実に不愉快」

 セドリックは耳を押さえながら隅っこでいじける劉玄を一瞥し、レオナに文句を宣う。

 

 「マドワルド?へぇ、珍しい。アンタの事だから電話したらとっとと自分の巣に隠るかと思ったら、まだ居たのね。にしても相変わらずムッツリしてんわねぇ、愛想が無いにも程があるわ。

 勇魚の坊やから聞いたロックモードとやらの方がまだ愛想良さそうよね」

 

 「グッ…!!おのれ界時め、喧伝したな!?沈痛、心が乱れる……!」

 鍛冶師、撃滅。

 

 「言葉だけで警務員殿とマドワルド卿を征しただと!?」

 

 「めっちゃ落ち込んでんじゃん…」

 頼れる年長者達が悉くレオナの前に沈んだ様を見て、アシュレイとラヴィは戦慄する。

 

 「レオ姉ぇ!」

 

 「ん、ラトゥーラ!元気そうね、何よりだわ。バカ弟子も最低限の仕事はしてたみたいね」

 折を見て、ラトゥーラがレオナに声を掛けると、そんな少女を迎え入れる様にレオナは彼女を包容し頭を撫でる。

 

 「あのねレオ姉、ウチらのセンセの事……」

 

 「大丈夫、話はそこでブツクサ言ってるムッツリから聞いてる。それにアンジェリカちゃんが最低限治療はしてくれたんでしょ?後はアタシともう一人で何とかするから安心なさい」

 

 「もう一人……?」

 自身の後頭部に添えられた手が優しくラトゥーラの首を動かし、レオナの身体越しに見える人物を視線に捉える。

 

 「……」

 促され覗けた先には、セミロングのシルバーブロンドを後頭部で結って纏め、左目側を伸ばした前髪で隠す淵の無いノンフレーム眼鏡を掛けた美才女オルガ・ヴァシュキロフが無言で微笑を返す。

 女性は一通りベッドで眠る斗真の身体を触診した後、レオナの元へと歩み寄って来る。

 

 「レオナさま、あちらで横になられている殿方を一通り診ましたのでございます。外科的、内科的な見地でもあんじぇ…リカさんはとてもすばらしい治癒魔法の使い手でございますね、わたくしとても感銘いたしておりますわ」

 一見してクールビューティーと表すに相応しい佇まいと顔付きから繰り出される、とても意外で上品でふわふわしたソプラノボイス。

 眼鏡と髪で隠した傷痕も合間って凛々しい顔であるにも関わらず、口を開いた途端イメージが180度変わる衝撃と来たら、ラトゥーラの中のオタク脳を破壊するには充分な威力であった。

 

 「そ、まぁ事前に聞いてた通り。原因はワンダーライドブック三冊使用のフィードバックで間違い無いわね」

 

 「はい、それは確かでございます。しかし念のため、レオナさまの知見もいただきたいのでございます」

 

 「Bene、こちとらソードライバー経験者。任せなさい」

 ラトゥーラから手を離し、オルガと入れ替わる様に斗真の元に向かう。

 

 「何だか、エレンさんの師匠って言うのがこの短い間で嫌という程分かった気がするわ……」

 レオナの無軌道な女傑ぶりにロゼッタは妙な納得を感じる。

 

 「大丈夫かなエレンさん。あの人に吹き飛ばされたきり、ずっと白眼を剥いて動かないままだけど」

 

 「見たところ生命活動に支障は無いかと」

 ティアラの心配を余所にあるふぁが断言する。

 

 「問題無いっしょ、運ばれて来た中で一番軽症だったんだから、まぁ重症に早変りした訳だけど……うるさく言わない分むしろ有難いし」

 とアンジェリカは軽く手をスナップさせながらティアラ達の方に寄る。

 

 さておき、肝心の斗真の様子を診るレオナ。ペタペタと眠る彼に触ったり、突ついたりしている。

 

 「ふんふん、やー若いって良いわぁ。見た目よりイイ身体してんじゃない。腹筋も……はぁ~綺麗に割れて…堪んないわぁ」

 

 「「「えぇぇぇ……」」」

 ティアラ、ラヴィ、リネットがレオナの行動に思わず声を揃えて、驚愕と失望と茫然とその他諸々の予想外が入り雑じった残念なモノを見た様な反応を出してしまう。

 

 「なんでしょうか…わたくし、あのれおなという方に既視感がある気がします…」

 

 「カエデもです。ツバキお姉ちゃんと似た何かを感じます」

 

 「あら失礼ね、私が欲望を晒け出すのは最愛の妹である貴女達だけよ?」

 

 「その割りには…バレ~部の妹プレイにもノリノリじゃなかったかしら……」

 ナデシコ、カエデが露骨にツバキを見ながら引き気味にレオナを印象付ける。

 ツバキはツバキでお冠なのだが、クラス委員長(バイト貴族ロゼッタ)が溢した発言により妹達からの視線が更に険しくなった。

 

 「ちょ、ちょっと!誰だか知らないけれど、そこのバカは一応アタシ達のクラス担任なの!おかしな事したら承知しないんだからっ!!後そんなベタベタ触って破廉恥なのよ!!」

 

 「はぁ、こんな所で無駄にツンデレを発揮するなんて、まったく仕方の無いお嬢様ですね」

 著しく風紀を乱し始めたと見て、レオナを糾弾するエミリアなのだが、それはそれとして斗真の心配を滲ませる物言いにあるふぁは呆れて小さく息を吐く。

 

 「れ、れおな殿…お戯れは程々に、斗真殿の事で何かお分かりになりましたでしょうか?」

 今まで推移を見守っていたが、これは不味いと判断し哉慥が割って入る。

 

 「おっと、久し振りの若いイイ男についつい……、や、助かったわ坊や。相変わらずカワイイわねぇ~、ホントにあのジジイの直系?真面目で素直で心配なくらい純真、ヤダ撫でたくなってきたわ」

 

 「わっ?!や、止めてくだされーーー?!」

 忍者、陥落。

 

 「わふー、ちょっと羨ましいかも?」

 自身に流れる人狼の血が、哉慥を撫で回す手付きにピクピクと反応を示す。決して犬的アトモスフィアではない。

 

 「それで、結局どうなんですか?ソードライバーを使用していた者としての意見は?」

 事が落ち着くのを見計らって、クロエが眼鏡の位置を直しながら問う。

 

 「ん。ウダウダと長ったらしく講釈垂れてもあれだし結論から言うわ。この子スゴいわ。

 限りなく同色の三冊でこの程度の疲労で済んでる、倒れたのは敵が人間だった事から来る緊迫と緊張が七、コンボの疲労が三って割合ね。ヤバいわ……あーなんでバカ弟子じゃなくてこの子が黄雷を継がなかったのか……」

 斗真の素質を目にして心の底から羨望の声を挙げるレオナ、その弟子は未だ意識無くひっくり返ったままである。

 

 「や、ちょっと待ってよレオ姉!確かにメンドクサがりだし、いちいち一言余計だし、ガサツだし、引きこもりだけど……エレンだってスゴイヤツだし!」

 

 「おやおや?ふーん、そう、そっかぁ、ラトゥーラも色を識る歳になったか~、そっか~」

 

 「いや違っ!違うからっ!そんなんじゃないから!!単に小さい頃から知ってるってだけだから!」

 

 「そうね~アンタが小さい頃はよく遊んで貰ったもんね~。憧れのお兄ちゃんだったのよね~。

 あの頃はまだ素直さがあったのよねこのバカも…」

 ラトゥーラの発現にからかう様な語調で始めて、しかし最終的にどうしてこうなったと落胆する女傑。

 

 「どーでも良いけど、怪我人増やさないでくれる?」

 今の今まで、アルマの治療に専念して沈黙を保っていたアンジェリカ。目ぼしい傷を治し終え、今頃になってエレンの事を言及する。

 

 「ああ、それは悪かったわね。でもコイツも悪いのよ?修行はサボるわ、積極的には戦わないわ、何より人様をババア呼ばわりすふんだから…ま、多少は痛い目を見なきゃねぇ?」

 

 「僭越ながらあん…ジェリカさま。わたくしめもお手伝い致しますでございますですよ?

 魔法による治療はあくまでも細胞の生命力を活性化させ自己の治癒促進を促す物、虫歯や癌等の腫瘍のような要因は切除出来ませんのでございます」

 レオナが弟子を睥睨し謗るのに対し、喋る度にギャップを再確認する存在ことオルガが優雅に挙手する。

 

 「ん、まぁね。なんかアルマの身体に纏わりついてた痣?影?闇っぽいもんの除去に大分魔力のリソース割いたから、正直エレンの方は一人じゃキツかったし有難いわ」

 

 「ぅう…申し訳ない……」

 苦痛から解放され、漸くアルマが弱々しく呟く。

 

 「念の為~、アルマさまにまわたくしの方で包帯を巻いて差し上げますのでございますよ。

 大人しくしていて下さいませー。てりゃ~」

 やはりクールな見た目に削ぐわぬ掛け声で包帯を取り出してアルマへと飛び掛かる(オルガの気持ち的にはであり、実際はぴょんと多少跳ねただけである)。

 

 「んじゃあ、アタシ様はバカ弟子を叩き起こすとしますか……オラォ!何時までもオネンネしてんじゃアねぇぞッ!クソ弟子がぁぁあ!!」

 途端粗暴な言葉遣いとなって片腕でエレンの首根っこを掴み激しく揺らす。

 今更ながらにこの師弟、互いに遠慮や配慮が無い、と妙な納得をする魔女達であった。

 

 

 

 「ゴホッァッ?!な、何が…一体何が起こった!?目の前にブックゲートが出やがったと思ったら、そん中から見覚えのある脚と聞き覚えのある声がして………そうだ!クソ鬼畜外道ババア師匠が来るって──「だぁれぇがクソ畜生鬼畜外道鬼悪魔高齢期喪女独身クソババアだってェ?」──おぅふっ…」

 自身がレオナによって掴まれ宙に浮いていた事も気付かず、ここぞとばかりに怨嗟を込めて悪態を吐けば、真後ろからの声に首を壊れたブリキの玩具よろしくゆっくり動かす。遅くなったけど。

 

 「……クソ師匠?」

 「チャオ~クソ弟子、覚悟はよ・ろ・し・く・て?」

 そうして開け放たれたままになった医務室の扉から轟くギャーと言う絶叫は学院内に残っていた、生徒教職員全ての耳に入る事となったのであったと言う。

 

 

 

 

 

 

 閑話休題(さておき)

 

 

 「お゛お゛お゛お゛……まだ痛ェ……」

 

 「遅くなったけど自己紹介するわね、アタシ様はレオナ・E・メランドリ。フィレンツァの傭兵騎士元締めにして、其処で唸ってるバカの師匠、んで、今現在は聖剣を保有する剣士達の世界守護組織ソード・オブ・ロゴスの訓練教官みたいなモンをやらせて貰ってるわ。それで、さっきのはまぁ、其処で寝てる新しい炎の剣士の子が倒れたって聞いたから、どんな状態かを直接確かめに来たってワケよ。よろしくて?亜人のお嬢さん?」

 エレン以外には比較的、穏やかな態度で──それでもやや高慢にも取れる態度であるが──接するレオナは先程のエミリアの問いに対し今になって答える。

 

 「ではー、わたくしめも自己紹介致しますのでございます。わたくし名はオルガ、姓はヴァシュキロフと申しますですよ。

 今は失われてしまいました煙叡剣狼煙の元剣士でございますね。今は組織の長の秘書兼補佐官等をさせて戴いておりますのです」

 レオナに倣って、オルガも続く。

 別段特別ゆっくり喋っている訳では無いのだが、何故かポワポワとした印象を受ける語り口調がエミリアの気概を剃ってゆく。

 

 「…………貴女達が、不振人物で無い事は理解したわ。でも正直、色んな情報が一気に頭に叩き付けられて今はすごく混乱してる……と言うか、あるふぁ!アンタこの事知っていた黙ってたのね!?」

 

 「まあまあ、そこまで興奮なさらないで下さい。私としましても、これでもお嬢様の為を思って黙秘を貫かせて頂いたのです」

 

 「どうだか!大方黙っていた方が面白そうだとか思ってたんじゃないの?」

 

 「まぁ、そちらの思惑も多分にない訳ではございませんが…」

 

 「アンタねぇ!?」

 

 蟀谷を指で押さえながら苦い顔でこれまでの情報を整理しつつ、自身にその事実を今日まで黙っていたメイドに対し噴飯するエミリア。

 あるふぁもあるふぁで否定しないものだから、結局何時もの主従漫才と合い成る。

 

 「とにかく!他にアタシに対して隠している事は無いでしょうね?」

 

 「(隠している事は)ありませんね。後は大体お嬢様もご存知の事ばかりです」

 ヘルマンについては訊かれていないので別に隠してはいない。まぁそもそも彼女が彼の執事に対面したのは学院に入る前、あるふぁの起動間もない頃、カミラに付随して来た少し年上の少年が居たという程度の幼き日の頃なので憶えていないのだが。

 

 「さて、そこの亜人の娘も事情は周知したみたいだし、そろそろ新しい火炎剣烈火の子を起こしますか」

 

 「兄さま気持ち良さそうに寝てるのに起こしちゃうの?」

 

 「ええ。これからその子とイーリアスの倅であるアルマ坊や、バカ弟子には重大な話があるからね」

 

 「イヤな予感しかしねェ…」

 師の物言いに、経験から不吉な予感を覚える弟子はしかし、抵抗する気力をゴッソリ奪われその一言を口にするだけしか出来ない。

 

 「しかし斗真さんを起こすだなんて…。僕と違って彼は深く眠っています、力ずくで無理矢理と言うのは……」

 

 「安心なさいな。バカ弟子じゃないんだから手荒な真似はしないわ。ちょっと気付けに頸骨に衝撃を送るだけよ!!」

 要するに手刀でトンするアレである。

 創作にて往々にして対象を気絶させる為の手段と取られる手刀で背後から首を叩く行為だが、無論現実にそれが出来る人間は…普通は居ない、普通は。

 だが彼女は出来る。出来るからその逆も然り。

 

 「はーい、ちょっとビリッとするわよ~」

 斗真の上体を起こし左手で背中を抑えながら、右手をブラウン管テレビを叩いて倒すかの如く、秒速0.5秒の速度で青白い微細な稲妻を纏った手刀をお見舞いする。

 

 「ぅあ゛だっ゛!!?!

 当然上がる悲鳴、斗真は背中に電流が走ったかの様に飛び起きる。

 実際、電流が走った。

 

 「ヨシッ!」

 

 「良しじゃないです!何をしているんですかっ!?」

 

 「落ち着きなさいなアルマ坊や、これはアレよ!所謂除細動器の首版よ!医療行為なんだから問題無いわ!」

 大アリである。

 

 「…成る程?」

 しかし、アルマはこの世界の生まれなのでそんな事は判らない。自由化騎士、陥落。

 

 「っぅ……ぅうぅう、ここ…は?」

 

 「先生!!」

 

 「ちょっ、ティアラ?!」

 眼を醒ました斗真にいの一番抱き着いたのはティアラ──と。

 

 「うぇっ!?リッちゃん!!?いつのまに!?」

 まさかのリネットであった。

 

 「…良かったです…先生が目覚めて…私がトキカゼさんから貰った本を見せたばかりに…先生がこんな事になってしまって……」

 どうも責任を感じていたらしく、嗚咽混じりに謝意を溢している。

 

 「あ、えーと、何だか状況がよく掴めないけど…大丈夫だよ。だから二人とも離れて、ね?(さもないと腕と背中に当たる柔らかな感触でどうにかなりそうだから!!)」

 特に背中のメガロポリスは凄まじいのである。

 

 「ハイハイ、お取り込みの所悪いんだけど…お話良いかしら?」

 

 「えっと、貴女は?」

 

 「詳しい事はそこのバカ弟子から訊いて。んで、バカ弟子、アルマ。そして剱守斗真。喜びなさい、アンタ達は暫くこのアタシ様がシゴいてあげるわ!!」

 

 「それはどう言う……?」

 「まさか?!貴女直々にですか!!?」

 「うっわ、やっぱりかよ。イヤな予感が的中しやがった……」

 三者三様にリアクションが返るのを満足そうにしながらレオナは続きを口にする。

 

 「仮面の剣士の先達として、同じソードライバーを用いた経験者からの指導をしてあげるって事。マドワルドのヤツから話を聞いて思ったのよ、バカ弟子に会って鍛え直すってだけじゃなく、若手のホープをマトメて鍛えられるチャンスだってね!」

 

 「それなら忍者だってそうだろうがっ!」

 

 「馬鹿ねバカ弟子、坊やの翠風はアンタ達のとはスタイルが違うからアタシが指導しても良さを崩しちゃうだけよ」

 哉慥とて若手の注目株だとエレンが主張するが、レオナは彼の意見を論外と突っぱねる。

 

 「あの、一応俺は陳さんから教えて貰ってるんですけど……」

 

 「でもねぇ、陳の土豪剣激土って大剣な訳でしょ?基礎程度ならまぁそれでも教えられたでしょうけど、やっぱり経験者の先人からってのは大きいわよ?」

 斗真の控え目な主張に、キャッチセールスよろしく胡散臭く笑う。

 

 「エレンと斗真さんは理解出来ます。けれど何故僕まで…?」

 

 「それは簡単…ってか単純、アンタが今、この学院に常駐してる剣士の中で一番弱いからよ」

 

 「なっ……」

 ズバリの一言に絶句するアルマ。彼のそんな表情を見てレオナは発言の意図を掘り下げる。

 

 「言われるまでも無いでしょうけど、この街近郊にメギドが出現した際の戦闘時に何が起こったかを記録してるのは、知ってるわよね?」

 

 「はい、主にラウシェンさんや僕、斗真さんが報告書を書いていますので」

 

 「つまりそう言う事よ。アンタ達…特にアンタは生真面目に事細かに書いてくれるからその辺イヤでも予測出来ちゃうのよ」

 

 「ですが!それなら斗真さんも剣士としては未だ未熟な部分がある筈です」

 やはり納得いかないとレオナに噛み付く。

 

 「まぁ、純粋な剣技って意味なら積み重ねた時間込みでもアルマ坊やの方が上でしょうね。

 ただまぁ、その上で比較表でも作って著すなら……アンタと特に斗真はやや横並び、でもね総合評価で比べると本の力を引き出せる分、斗真の方が数段上になる…ま、嘗てのアタシや、そこで拗ねてる現役最強から見たらドングリの背比べだけどね。つか、何となく自分でも薄々感じてたんじゃない?」

 

 「……………」

 

 彼の女傑にこうも言われてしまえば、若獅子は黙り込むしかない。

 これには居合わせた少女達も何とも言えぬ空気に気まずくなる。

 

 「レオナ女史、彼を苛めるのはそこまでにしてくれますか?半ば世襲とは言え彼もまた自由騎士という肩書きに相応しく在ろうと努力し、また水の剣士として、お父上にも劣らない成果を果たしています」 

 

 「そーだ!そーだ!りじちょーの言う通り、アルマっちはマルルセイユの英雄として頑張ってるんだー!」

 

 「そうなの!いつも会ったら笑顔で挨拶してくれるの!」

 

 「ちょ、アタシが悪役みたいなんですけど!?」

 

 「少なくとも性悪ババアではあるゴベッ!?」

 クロエを筆頭にマルルセイユ出身の魔女達から非難の抗議を受け狼狽えるレオナ、特に一番効いたのは斗真に密着したままのリネットの無言の困り顔のままの視線。

 そこに弟子が便乗していけしゃあしゃあ嘲笑気味に戯れ言を宣ったものだから、鉄拳制裁しておいた。

 

 「だから怪我人増やすんじゃねーっつてんでしょうが!!」

 

 「あらあら、落ち着いて下さいまし。あ…ンジェリカさま、わたくしめもお手伝い致しますので冷静に。

 クロエさまや皆さまも、レオナさまは別にアルマさまを貶している訳では無いのでございますよ?

 それはそれとしましても、レオナさまも些か言い方がよろしく無かったのでございます。

 今後気を付けて下さいませ?さもないとメッってしちゃいますでございますよ?」

 相変わらずアンジェリカを呼ぶ時だけ、彼女の嘗ての呼称になりそうになりながらも不和の間に割って入り、双方を説き伏せるオルガ。

 そんな彼女の喋り口調に皆一様に毒気を抜かれる。

 

 「オレのフォローは?」

 

 「悪かったわ。アルマ坊やが剣士の中では弱いにしても、祖国で一族含め英雄である事に違いは無かった訳だし、生真面目で礼儀を弁えてる所とかはウチの弟子には無い美点だもの。

 ええ、だからこそ!このままじゃいけないのよ!

 今までは魔獣や格下のメギド、雑魚雑兵のシミーが

殆どだったから良かったけど、これからは同格どころか、以前アンタらが戦ったズオス含めた最上級クラスのメギド魔人や、正体不明のカリバーが敵になるんだもの!今よりももっと強くならなくちゃいけない!

 だからこそ、本の力の方に比重が寄ってる斗真はより剣士としての実力を、総合評最下位のアルマ坊やは剣の腕の他にライドブックの力を引き出す為に、そしてェ!バカ弟子ィイ!お前は言うまでもなく徹底して鍛え直ォおす!!」

 

 「ねぇ姐さんオレのフォローはっ…て言うかババアはオレに当たりが強ェえんだよ!クソがっ!!」

 

 オルガに自分だけフォローが無い事を突っ込みつつも、師匠の言葉に、こちらも喧嘩腰で返す辺り、やはり師弟である。

 

 「でも鍛え直すと言われても…あの、レオナさんでしたっけ?俺は学院の教師としての仕事もあるので、あんまり長い時間拘束されるのは……」

 

 「フッ、そこは安心しなさんな、ってヤツよ。お誂え向きの修行場所がココにはあるでしょ?」

 

 「???」

 学院を示して不適に笑うレオナに、意味が解らず疑問を浮かべる斗真。

 

 「おいおい…まさかあの部屋を使う気かい?!」

 そしてどうやら彼女の発言に心当たりがあるらしい劉玄が、冷や汗混じりに思わず溢す。

 

 「あたぼうよっ!そもそもその為の用途に造られた部屋でしょあそこは」

 

 「確然。手前が言う通りではあるな」

 

 「いやでもねぇ……オジさん達の世代は兎も角、今の子達には酷じゃないかい?」

 

 年長者達が口にするアレだのあの部屋だのに揃って怪訝な顔をする若い剣士と魔女達。

 

 「お三方さま、何事もまずは実践してみてはいかがでございましょう?こう言った時の為のわたくしなのですからー」

 

 「「「………」」」

 オルガの再びの諫言に暫しの沈黙。

 

 「まぁ…なるようにしかならんか」

 

 「同意、先ずは何事も委ねてみる事も必要だ」

 

 「うっしゃ、決まり!さぁて…斗真!アルマ坊や!クソバカ弟子!行くわよ!着いてきな!」

 そう言ってエレンだけは首根っこを掴んで医務室を飛び出るレオナ。

 

 「待って下さい!行くって、何処へ!?」

 

 「決まってんじゃない、剣士の修練場…リベラシオンによ!!」

 

 

 

 TO BE Continued 

 

 





 今回のTip、レオナも若い頃は師匠に反発・反抗ばっかりしてお仕置きされてたのでやはり似た者師弟。

 FGO、シャルル出たけど、私まだロストベルト四章の途中なんですよね…。
 
 アリスギアもコラボの星4あんこ欲しかったのに出なくて…イベント期間終ってしまったし、早々全部思った通りには行きませんね。

 ではまた次回


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31頁 女傑の指導


 お久しこんばんは。

 夏バテ気味な体調を何とか復調させて投稿しまんした。
 その間に起きた事と言えば、サマータイキがチケット1発で来た事や最近虚ろなるレガリアにハマって購読しているくらいですかね。
 ストブラは原作はマニャ子絵が私に響かなかったので買わなかったんですが、レガリアは挿絵の深遊絵がレギオス、グランクレストの時よりツボったので買いました。
 虚レガもう少し既刊増えたら何か二次創作したいなぁ。
 
 復刻でツバキ姉さまゲット出来たよー!!



 

 ──リベラシオン。聖剣の剣士が自らの力を高め、試す為に時には命を賭して挑む修練の間の総称。

 その場所は南北双方の本の間の一階、中央から見える奥の扉の中にあるとされる部屋。

 その部屋は私達が認識とは異なる時間が流れ、更には挑む剣士に対し負担を掛けると言う物なのだそうです。

 エレンさんは当時それを聞いて何やら苦笑しながら抵抗していたのですが、レオナさんに難なく先生やアルマさん共々部屋の中へ放りこまれたのでした───

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━本の間・リベラシオン扉前━

 

 「い、イヤだ!!オレは絶対に入るもんかァあああっ!!」

 

 「往生際が悪い!死ね!そんでリベラシオンの中で大人しく修行しろバカ弟子!!」

 

 (死んだら修行出来ないんじゃ…いやよそう、あの師弟の関係には口を挟まない方が良い)

 

 扉の前で繰り広げられている程度の低い口論に呆れながら推移を見守る斗真とアルマ。

 

 「ねぇちょっと、斗真かアルマの坊やどっちかソコの扉開けてくれる?このバカを真っ先に中に放り込むから」

 愛弟子をガッチリと逃げられないよう卍固めにしながら斗真達に指示を飛ばす。

 

 「あ、はい………どうぞ」

 

 流れる状況に身を任せたまま斗真がリベラシオンへと続く扉を開ける。

 

 「テメっ!?小説家ァッ!!オレを売るとは何事だぁぁあア!!?」

 

 「売るも何も…別に示し合わせた訳でも無いのに言われてもなあ」

 

 「それでもダチかァあああっ!?」

 

 「そう言われても……親友じゃなくて悪友の方だからなぁ」

 

 レオナに関節を極められたままぷるぷると必死に声を上げるエレンと、先の戦闘の傷も治療され疲労もすっかり取れた斗真のやり取りは、端から見れば割と何時も通りの漫才である。

 側に立つアルマの顔が曇っている事を除けばと註釈が付くが。

 

 (………やはり、トーマさんからは既にワンダーコンボを使った疲労が抜けている。アンジェリカさんから治癒魔法を受けたとは言え、ワンダーライドブック三冊分の疲労は並の物では無いはずなのに………)

 

 これがレオナが言っていた斗真と己の差なのかと1人沈痛に浸る。

 そんな自由騎士の胸中なぞとは関係なく、遂に力尽きたエレンはレオナによってまるでゴミ袋でも放るかの様に軽々投げられ、リベラシオンの中へと消えていった。断末魔は憶えていろクソババアである。

 

 「さて、あのバカ弟子があの中で体力を回復するのはかなりの時間有するでしょうから、今の内に斗真達にも説明しときましょうか」

 一仕事終えたOLみたいに清々しい顔でレオナが2人に向き直る。

 

 「アルマ坊やは知っているだろうけど、この中(リベラシオン)は此処とは時間の流れが違う…バカ弟子曰く精神と時の部屋みたいなもんね。そこでバカ弟子とアンタら2人にはアタシが直々に徹底して鍛えてあげる、咽び喜んで頭を垂れても良いわよ?」

 

 (う~ん…何と言うか…ホント、弟子が弟子なら師匠も師匠なんだなぁ)

 一見して20代後半程度の外見の美女が自信満々とふんぞり返る様は画にはなるが、言動が逐一高飛車感溢れている。それでいて偶に実年齢相応に染々とした科白まで吐く物だから斗真としても対応に困る。

 劉玄が穏やかだった分、余計に破天荒を絵に描いたこの女傑のノリが調子を狂わせるのだ。とは言え──。

 

 「確かに、ソードライバーを扱った先達から学べるなら心強い事この上無いですし、咽び喜ぶとまでは行きませんが、どうかご指導ご鞭撻宜しくお願いします」

 レオナに対して深々お辞儀をして応える。

 

 「っふ…!素直!今の、ウチのクソ弟子だったら悪態の一つくらい吐いてた所よ…。ヤバい涙でそ…ンン!で?アルマ、アンタはどうする?」

 

 「勿論、僕もお願いします。このままでは家名に恥じる己になってしまう。それは国の為にも世界の為にも避けたい」

 続けて心情を僅かばかり吐露しながらアルマも深く頭を下げる。

 

 「っぁ~!真面目かっ!!アンタ肩肘張りすぎなのよ。疲れない?それ?まぁ良いわ、どっちにしろ元から拒否権は無かったけど、一応建前は必要だから言った訳だし」

 

 (この人も結構適当だなぁー!?)

 フィレンツェの剣士は皆この様な人種ばかりなのかと不安に駆られる斗真、そんな風に思っている内に、背後に回ったレオナに背中を強く押されアルマ共々リベラシオンの空間に消えて往く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━ウェールランド首都・ブリストル━

 

 この世界で最も魔法が発展している国、その中心となる王族が城を構える首都ブリストルの一角に()()()()()()()

 

 「………王都に足を運んではみましたがぁ、やはり此処に私が求めている物は有りませんでしたか。

 となると、レジエル、ズオスの元に参じるべきなのでしょうが…共に居る剣士、カリバーの行動が解せない」

 下唇の下に人差し指の背中を当てながら街の喧騒に紛れる程度の声量で溢す、長身痩躯で左側のみ1房長々伸ばした長髪を垂らす耳の側で外にハネる短髪、身に纏う衣服は釦で前までキッチリ止めた足下にまで届く程のコート。

 一見すれば穏やかで人の良さそうな顔立ちをした青年はしかし瞳の奥底が昏く光る。

 

 「一度、カリバー個人に接触する必要がありますねぇ」

 ブランクライドブックを空いた右手で弄びながら城を見上げる。

 

 「鍵を握るのは、やはり結界に覆われたあの街。となれば一先ずは、彼等の謀略に乗るとしましょう。その為にもこの世界を改めて知らなくてはね…」

 行き交う人波の中、空の雲が太陽の光を一瞬遮った瞬間に青年の姿は既に其所には無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━リベラシオン━

 

 「グ、グ、グ…ぅぅう、オノレぇクソババアぁ。ゼッテェ~いつかやり返しちゃる」

 

 「その様で凄んでもなぁ」

 

 「説得力がありませんね…」

 

 弱々しく吠えるエレンを見下ろしながら斗真とアルマは嘆息する。

 

 「クソォ…お前ら何で平気なんだよズルいぞクソッタレ」

 地べたに突っ伏したまま、声だけ怨めしそうに出すプリン頭。

 

 「って言われても、俺にはこの場所ちょっと怠いかなぁ…程度にしか感じないし」

 

 「確かに少し疲れが襲ってきますが、そんな無様を晒す状態になる程では……」

 

 「クソッ、体力バカどもめ!無駄にアクティビティな自慢かコノヤロウ」

 必死の力で俯せから仰向けに体勢を変えてエレンが悪態を吐く。

 

 「あー、まぁほら、さっきまで関節極められてたし、その前には思っいっ切り蹴っ飛ばされてたからその辺のダメージが残ってたんじゃないか?」

 

 「うーんそれだけがこの有り様の理由なんでしょうか?」

 

 辺り一面黒い果ての無い空間でうんうん唸る2人とぼやき続ける1人。

 ややあって彼等の背後の空間が人1人分通れる程度の白い光に溢れる。

 

 「お待っとさん。修行を始めるわよ!」

 

 光の中から颯爽と現れたレオナは3人の足下(約1名頭上であるが)に片手剣型の模造刀を放る。

 心なしか各々の聖剣に形が似ている。

 

 「これは?」

 

 「見ての通り…ってか感じての通り、この部屋には負荷が掛かっているワケじゃない?……結構平気そうね」

 仰向けの弟子は兎も角として、斗真、アルマが思ったより平気そうで拍子抜けした顔になる。

 

 「バカ弟子ちょっと……アルマはともかく斗真は剣士になってまだまだ半月行くか行かないかくらいでしょ?何なの?今の若い子ってみんなああな訳?斗真って元は小説家でしょう?恐いわー」

 

 「あの小説家は見た目に反してバイタリティ高いぞクソババア。アルマはまぁアイツ真面目だし別にしても世の中不公平だ」

 

 「「??」」

 師弟で内緒話を交えて、斗真達をチラ見すると件の2人はハテナとクエスチョンを浮かべている。更に言えば、斗真は疑問符を浮かべつつも何だかんだ師弟の仲は良いんだなとか思っていたりする。

 

 「まぁもやし弟子は後で叩き起こすとして、2人共普通に平気みたいだから予定を繰上げて行きましょうか!」

 言って、肩に下げていたバッグを下ろし、中の物を取り出す。

 

 「ここに取り出したるはリベラシオン内で装着すると使用者に更なる負荷を掛けるウェイトバンド諸々!あ、製作者は兄ワルドね。

 ホントはアンタ達が普段の負荷状態に一定以上慣れてから使う気だったんだけど、アタシの予想以上に元気だったから初日から使う事にしたわ!」

 

 さぁ巻きなさいなと宣って重量を感じさせるソレを投げて寄越す。

 

 「っ…危なっ!?」

 

 「!…はい!」

 

 片や避ける斗真、そして受け取るアルマ。

 

 避けた斗真はウェイトがガシャリと落ちる音を耳にし、受け取めたアルマはその重さにつんのめる。

 そう、つんのめる。先の傷が癒えたアルマの鍛え上げられた生身を以てしても姿()()()()()()()()。斗真が避けた側のウェイトと全く同じ形でありながら。

 

 「お、重い…!?トーマさんの物と同じ筈なのに?!落ちた音に比べて()()()()!!」

 

 実際に耳にした音から想定される物より重いと自由騎士は言葉を絞り出す。

 

 「ソレは特別製らしくて、予めある魔法の魔力を込めた輝砂を練り込んで製鉄された物で、現役の剣士が持つないし身に付けると重量が増加する代物だそうよ」

 要するに触っただけでウェイトに込められた魔法が発揮されるのである。

 

 「んな危ねぇモン投げんなクソババア!!」

 

 「だから一番軽そうな腕に装着するのを投げたんでしょうが。あ、アンタにはこっち」

 そう言って、2人に投げ渡した物よりも小さいリストバンド大のウェイトをエレンの腹に置く。

 

 「オゴォォォオオオ…!?ご、ゴゴゴ?!デベヂグジョヴゴロズゥゥゥウ!!」

 

 「なぁに言ってんのか全然解らん。とにかくまずはソレを利き手に着けて、後の残りを此処に置いたカバンの中から取り出して装着しなさい、それがファーストステップ。バカ弟子は第一段階はソレ1つで許しちゃるからさっさと着けろ」

 

 こうして稲妻の女傑指導の下、3人の修行が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・理事長室━

 

 医務室での騒動の後、生徒達を解散させ執務に戻ったクロエ。切り良く仕事を片付け、応接用のソファに行儀良く着席するオルガとクロエと共に彼女から話を聴く為に同行し茶を啜っていた劉玄に視線を飛ばす。

 

 「ふぅ……取り敢えずは斗真ちゃん達は暫くレオナに任せるしかないとして。オルガちゃんよ、いい加減話してくれるかい?まさか本当に治療の為だけにレオナに付いて来た訳じゃああるまい?」

 

 「ふふ、美味でございました。それで……レオナさまに同行した理由でしたわね。ええ勿論治療の為だけではございませんわ。

 あのイサナさまとマスターさまが関心を向ける方にわたくしもとても興味が湧いておりましたの!!」

 優雅に両の手を合わせて笑顔で語るオルガ。しかし劉玄とクロエは逆に拍子抜けした表情になる。

 

 「んん?それだけかい?」

 

 「はい」

 

 「なんかこう……もうちょっと他にないかい?」

 

 「はて?他にと仰いますと…?」

 

 「本当にご自身の興味による好奇心だけでレオナ女史に同行したんですか…」

 

 (う~ん、この娘こんなんだったか?昔はもうちょっとキレたナイフみたいな性格してた気がするんだけど………いやそもそもプライベートとかで彼女と個人的に話す機会はそんな無かったか、大体見かける時はいつも国家代表議会で進行役してる時だけだったし…)

 オルガへのアテが外れ、片眉を下げつつも過去彼女との交友時期を思い返して、そう言えば私的に会話した回数は数える程も無かったと思い至る。

 劉玄にしろクロエにしろ、オルガの顔を見る機会は、組織の本拠地で行われる国家間会議だけであったからだ。

 

 「好奇心は大事ですわ。時には活き過ぎれば猫さんも殺めてしまいますけれど、かと言って無関心であり続ける事は人を人足らしめる物を殺してしまいますもの」

 カップの淵を指で艶かしくなぞりながら柔和に微笑む。

 

 「そんな嬉しそうに言われてもなぁ」

 「詰まる所、オルガ女史の当学院への来訪に組織の意図や政治的な含みは無い……と?」

 

 「わたくし政治闘争はあまり好みませんの。大病院時代に嫌と言う程目にしましたから」

 目が隠れている方の頬に手を当てながら息をそっと吐く。

 

 「となると、カリバーの件も訊くだけ無駄か」

 軽く握った拳で額を数回叩き、困った顔を作る。オルガが何らかの情報を持っていると践んでいたアテが外れたからだ。

 

 「かりばー……ああ、そう言えば。関係があるのかは判りかねますが、以前現れたメギドズオスの復活には件のカリバーが関わっているのではという報告が挙がっておりましたの」

 

 「そう言うのは先に言おうねぇぇえええ!?」

 

 おかわりを注ぎながら、世間話の合間にふと思い出した様に気楽に言ってのけるオルガに思わず叫ぶ劉玄。

 しかし当人は何故彼が叫んでいるのか理解出来ずにそそと首を傾げるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・女子寮━

 

 「つまり…アンタ達は先生やアイツらが聖剣の剣士って事を知っていたってわけ?」

 

 「まぁ、有り体に言えばそう言う事になりますね」

 

 「わふ…ごめんねエミリア、おじさんたちから…知らないなら他言するもんじゃないから秘密にしてって言われてたから」

 

 「と言ってもお嬢様を除いた特別クラスの大半、先生様達が剣士であった事は知っていましたが」

 

 「ちょっとアンタは黙ってなさい!性悪メイド!!」

 

 数ある女子寮の部屋の1つ、特別クラスきってのオルケストラ人気を誇るIV KLOREの部屋にて、あるふぁとサルサから聖剣の剣士にまつわる事情を聴いていたエミリアが目端を吊り上げて従者の頭を叩く。

 

 「はぁ、でも考えてみたらそうよね。あの割りといい加減な…もとい自由人ばかりのお国柄が特徴のマルルセイユの中で例外的に真面目な自由騎士が、留学生の警護だけで学院に滞在するなんておかしな話だったし。

 リュウトの堅陣騎士についても……いくら選抜クラス所属のエリート扱いな上ユエがお姫様だからって、学院に役職付きで居座るのもおかしな話よ」

 人差し指で額を軽く圧しながら思い当たる節として有名人2人を例に出し息を吐く。

 

 「サイゾーくんたちが居座ってるのは不思議じゃなかったんだ…」

 

 「だって、このはなの関係者だし、ヤマトだし…。それにあのエレンとか言う男は傭兵なんでしょ?フィレンツァの事情までは知らないけれど、そもそもあの男を見掛ける頻度が上がったのはアイツ(先生)が来てからだもの。セドリックだったかしら、あのスミスに関してはごく稀にだけど実技場でマジックアイテムを整備してる所を見掛けた事はあったから、お抱えの整備士が週に一度のメンテか何かで来てたものだと思ってたし……」

 

 「まぁ実際には今名前が挙がった方は全員もれなく学院に住み込んでいますけどね」

 しれっと会話に復帰するあるふぁ。

 

 「何だか頭が痛くなってきたわ……。って、ちょっと待ちなさい、まさかウチの国の剣士も居るの!?」

 

 「いえ、我がドルトガルドに伝わる月闇を扱う()()()()()()()。何せ、トキカゼ氏曰く闇黒剣月闇は行方不明なそうなので」

 まぁ剣士候補は居りますが、と心中で付け加える。

 

 「そ、そう…え?ドルトガルドに伝わった聖剣が行方不明!?何よそれ!!?」

 

 「おっと……話の流れで洩らしてしまいました」

 

 「絶対わざとだ…」

 

 「嘘でしょう?ドルトガルドの象徴の1つが行方不明?と言うか…トキカゼってこの間来てた変態ヘラヘラ男よね?アイツも剣士なの?!剣士ってあんなヤツでもなれるのね……」

 

 「はい。それとお嬢様、先生様方が聖剣の剣士である事実はおいそれと他者に喧伝せぬ様にとの事です」

 

 「特段秘密にしている訳でも無いのに隠すなんて……おかしな話ね。良いわ、別に自慢する様な事でも無いし黙っておいてあげる。

 一応訊いておくけど…先生達の正体を知ならないのは誰?」

 

 「特別クラスならばティアラ様達の班を除いたオルケストラユニットを組んでいらっしゃらない方々でしょう」

 

 「メリッサとココリリたちなんかだね」

 

 「それと他クラスの方々。選抜クラスのフィオナ様でしょうか」

 

 あるふぁが挙げた意外な名にエミリアが眼を丸くする。

 

 「フィオナはsupernovaのメンバーでしょ、なのに知らないってどう言う事?」

 

 「厳密にはラウシェン氏の事はご存知でしょうが、他の剣士についてはユエ様、ミルフィーユ様共に詳細は語っていない様です」

 

 そう、フィオナだけは聖剣の剣士について詳しく知らない。劉玄に関してはユエがフィオナの押しの強さに負けて語ってしまったものの、学院内に現れる謎の紙袋の正体がエレンだとは知らないし、エレンが雷の剣士エスパーダであるという事も知らない。

 

 「エレ兄はフィオナのこと苦手だからね」

 

 「ああ……あの週に何回か見掛ける謎の紙袋との追い駆けっこ…」

 半ば名物と化した光景を思い浮かべて納得してしまう己がいるエミリア。

 

 「まあ…そう言う理由なら黙って然るべきね、風紀をアタシ自身が乱す訳にいかなしい」

 本音としては多分に面倒事が増え頭を悩ませたくないと言う心算も僅にある。

 

 「では、お嬢様も納得されたようなので、お茶に致しましょう」

 主が相応に落ち着きを見せた頃合いを見計らって、茶器を取り出す。

 ある種、最もぶれないあるふぁであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━リベラシオン━

 

 「ォォォ……し、死ぬ……」

 

 「流石にそれは大袈裟では?」

 

 修行を始め数時間、外では1分にも満たない合間となる空間の中で、エレンは一気に老け込んだと見紛う調子で声を絞り出す。

 隣で素振りを繰り返していたアルマが誇張が過ぎると苦言を呈するが、ニートを続けていた傭兵騎士は模擬刀を杖代わりに青年を恨めしく見つめる。

 

 「黙れフィジカルエリート。お前には大した事じゃなくてもオレには地獄の苦しみなんだよ」

 

 「全部自業自得では?トーマさんを見て下さい、稽古とは言えマエストロレオナ相手に良い立回りをしていますよ!」

 

 「クソぅ、そー言ゃあ野郎もフィジカル高いんだった裏切り者め……」

 

 アルマとエレンが見据える先で、剣を交える斗真とレオナ。

 ウェイトによる重心のズレと身体への負荷に顔を歪めながらも果敢に斬り込む青年に対し、打ち込まれる刃を己の模擬刀でいなし、脚を使って素早く踏込み斗真へ向け突く。

 さながらフェンシングにリペストの如く流麗な技の冴だ。

 

 「っ゛!?!」

 

 先端を潰してあるとは言え強烈な突きを喰らい呼吸が乱れ、声ならぬ声が漏れる。

 そして相対する女傑は自分が態勢を建て直す暇など与えてくれない。

 彼女は突き出した模擬刀を引き戻す事なく、中空で手離して剣が落下するより速く足で柄頭を押し出す。

 

 「かっ゛ぢゃぁっ!!?」

 再び漏れる声は最早言語らしい呈を為さず斗真は押し倒れる。

 同時に彼の身体に当たったレオナの模擬刀は肉をバネにして跳ねた所をレオナが器用に足先で受け止め、手元へと持ち直す。

 

 「クソ師匠がハナっから足使ってんのはまぁ確かに……小説家のヤツがいい線行ってるからなんだろうが…容赦ねぇなぁ」

 

 「マエストロレオナの戦闘スタイル…、始めて見ましたがエレンと似てますね。特に足癖のあたりが」

 

 「そりゃ一応師弟なんでな。まぁ足技に関しちゃオレが勝手に視て盗んだモンだが」

 

 成る程と納得して2人の戦いを見守る。最初は奮戦していた斗真だが、次第に状況は一方的になり、倒れた所を女傑は容赦なくストンピングしては斗真はそれを喰らわぬよう、ゴロゴロと転がりながら躱す。

 

 「何と言いますか……もう少し手心が有っても良いのではないでしょうか?」

 

 「ムリムリ、クソババアは兎に角身体に憶えさせるタイプだから。つーかあれでも手加減してる方だぜ?本気出したらもちっとストンプが速いからな…パッと見脚が四つ位に増えた様に見える感じ」

 

 「それは………えぇぇ…」

 アルマが思わず返答に困窮していると、レオナが持ち込みアルマ達の方に置かれていた砂時計が全て落ち切る。

 

 「よし。模擬戦闘終了!三十秒休憩して良いわよ」

 

 「…ぁぃ」

 

 斗真を見下ろす形でケロッと宣うレオナに対し、何とか呼吸を整え吐いた返事はとても小さいモノであった。

 

 「それとクソ弟子、アンタは一旦アタシ共々外に出るよ」

 

 「しゃっ!外に出たらこっちのモンよ!!」

 

 リベラシオンから出られると聞き、ガッツポーズを取るエレン。しかし彼が思う程美味しい話ではなく───

 

 「負荷から解放されたアンタの速度がどの程度上がったかを定期的に確認する為の措置な訳だけど……アンタ、このアタシ様から逃げられると本気で思ってんの?」

 ポキポキと指を鳴らして不敵なオーラを漂わせるレオナ。

 

 「フッ…んなもんやってみなきゃ分かんねぇだろ?クソ師匠」

 

 やっぱり一週回って仲良いんじゃないか?と思うようなやり取りを交わし、尚且堂々と逃げる事を肯定する辺り肝が図太い。

 互いにフッフッフッ…と不敵に嗤いながらジリジリと退がるエレンと詰めるレオナ。

 ややあってリベラシオンへの出入口が開く。

 

 「貰ったぁあっ!」

 駆け出すと言うよりは跳ぶに近い動作で開いた扉へと走るエレン。

 

 「甘いっ!」

 それを追うレオナは引き絞られた弓の如く脚を曲げたかと思えば、リベラシオン内に漂うスモークにクレーターを作りエレンの影に迫る。

 

 「は、速い!!?」

 

 (速いし凄いんだけど……その力を発揮する理由が呆れる他ないんだよなぁ)

 

 バトル物の漫画よろしく素直に驚くアルマとは対象的に、ひたすら呆れ果てて乾いた笑いを浮かべる斗真は消えた2人を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━本の間━

 

 「に、にん?!!?にゃ、にゃにごとでござるかっ!!?」

 事前にレオナに頼まれた通りに、本の間からリベラシオンへの扉を開けに来た哉慥は暗闇の中から飛び出した2つの動体物に慄く。

 

 「うぉぅぉぉおおおお!!逃げ切るっ!逃げ切ってオレは自由を手に入れるぅぅう!!」

 

 「んなに上手く行く訳ないでしょうがぁぁああっ!!」

 本当に妙齢の女性か?!と言わんばかりの強烈なアームフックを掛けエレンの左肩を強く掴む。

 

 「なんのこれしきぃぃいい!!」

 「生意気なぁぁああああ!!!」

 

 捕まりつつも尚も逃げようとするエレンと、片手の力だけで彼の肩を引っ張り引摺り倒そうとするレオナ。

 

 《Gatlin♪Gatlin♪》

 

 割りと良い感じに拮抗していた2人の緊張を破ったのは、エレンの懐から鳴り響くガトライクフォンの着信音であった。

 

 「(クッソ!?こんな時に誰だよ!!空気読めよ)ちょ、まっ、ババア!着信来ってからタンマ!一旦タンマー!!」

 

 「だが断る!」

 

 必死の懇願虚しく、エレンはレオナの手により仰向けに倒れる。

 

 「ゴホォォオッ!?!」

 

 「そぉら、さっさと出なさい。電話の向こうで相手が待ってんでしょ」

 

 「──ゴッホッ…鬼か!(鬼か!)」

 

 噎せながら悪態を吐いて懐からガトライクフォンを弱々しく取り出すエレン、画面の表示はセドリックの名。

 

 「グラサン?ちくちょうテメェの所為で───もしもし!」

 

 『ん、出たな』

 

 八つ当り気味に語調荒く通話を繋げれば、しかし聴こえて来た声は男の物ではなくややダウナー気味な少女の声。

 

 「あん?お前…ルキか?なんでオマエが」

 

 『フン、別におかしくは無いだろう。ワタシとヤツは知らん仲では無いし、このアイテムの使い方はサイゾウの件で憶えがある。しかし中々繋がらんから少々焦ったぞ』

 

 「そいつぁ悪かった。こっちも色々あんだよ…、しかしまぁ、言われてみりゃそりゃそうか。

 しかしよくムッツリグラサンがガトホ貸してくれたな?」

 

 『フッフッフッ、ワタシがヤツから素直に物を借りると思うか?当然無断借用だ!

 別に構わんだろう?なんせ工房に籠っている方が悪いんだからな!!』

 電話の向こうの声から小さな暴君が悪い笑みを称えている様が浮かぶ。

 

 「で?用件は?」

 

 『おっと、いかんいかん…キサマと会話が思いの外心地好いものだからつい忘れる所だった』

 

 「(そういうトコがノッポに地味地味言われる要因なんだよぁ…)手短に頼む」

 暗にグダグダ長話はしないと告げるエレンの言葉にルキフェルは喜色を含む声音で宣言した。

 

 

 『今すぐ我がゲーム同好会に来い!キサマに見せたい物がある!』

 

 

 TO BE Continued!

 

ニードルヘッジホッグ




 
 最近はインプットよりアウトプットが多かったから、何処かで雑学なり仕入れるべきかなぁ。

 取り敢えずデジモンサヴァイブプレイしていきたい。

 ではまた次回でお会いしましょう。


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