【熊本ネタ】熊本が好きすぎた結果地元愛を拗らせた西住まほ (Mamama)
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【熊本ネタ】熊本が好きすぎた結果地元愛を拗らせた西住まほ
黒森峰女学院は熊本が誇る戦車道の名門である。戦車道全国高校生大会において怒涛の九連覇を果たした全国での屈指の強豪であり、その名声は熊本のみならず全国的に見ても高い。
今年は十連覇がかかり多くの期待が寄せられる一方、当の選手達に圧し掛かる重圧は相当のものと言えよう。
しかし黒森峰を率いる西住まほは泰然自若を貫くカリスマ溢れる隊長であり、その重圧を容易く跳ねのけること間違いなし、と太鼓判を押される程である。
新入生を迎え連携が心配される中、先日行われた練習試合では完勝しその体制を盤石とした事からその手腕は確かなものであり、今更それを疑う者など内外問わずにいない。
しかし忘れてならないのは如何に優れた隊長とはいえど十代の高校生であり、その精神性は完成されたものではないということだ。それは女子高校生にして才覚を見事に発揮するまほが偉大である事であるという裏返しでもあり、単なる未熟と断ずることは出来ない。
とはいえ、幼い頃から西住流としての厳しい訓練を施されたとしても二十を生きない少女であることに変わりはなく。戦車道に於いては如何なる状況でも冷静沈着な態度を崩さないまほも、それ以外では隊長としての仮面が剥がれるということもあり得るだろう。
「そんな馬鹿な……! ありえない……こんなことは……!」
関東某所。まほは項垂れていた。そこには黒森峰を率いる厳格な隊長の姿はなく、迷子になった小さな子供のようだ。そんな様子をみほと小梅は遠巻きに見ていた。小梅は心配そうな顔で、みほは『私は関係ありません』という風に素知らぬ顔で一定の距離を保っている。
「おべんとうのヒ〇イがないなんて……!」
まほの悲痛な声は春空に溶けて消えた。
BIG4に数えられ、その中でも頭一つ上の強豪として知られる黒森峰。西住流の息が掛かっていることもあり、後援会や黒森峰OBの力は強い。バックに強大な団体がいるということはそれだけのバックアップを受けられるということであり、黒森峰が強豪である理由の一つとしてその存在を上げることが出来るだろう。
しかしメリットだけではない。バックに強大な存在があるということは裏方から口を出されることと同義であり、それに縛られてしまうということでもある。それは戦車道においてもそうだが、それ以外にも累を及ぼしている。
母港の熊本港近辺ならまだしも、寄港した先での買い食いや外食というのは黒森峰後援会にとって聊か風体が悪く映るようで、少なくとも推奨されているものではない。明確な指針として打ち出されたものではなく、暗黙の了解のようなものだ。
隊長たるまほが率先してそれを破るわけにはいかないのだが―――つい先日、とうとう我慢も限界を超えたらしい。
即ち、禁断症状である。
「お姉ちゃん、関東にヒ〇イはないよ……」
流石にそのままにしていられないのかみほは観念して声を掛けた。血走った目でヒ〇イの捜索を命じられたが、ないものはない。手持ちのスマートフォンでちょっと検索すれば分かるようなものなのだが。
「マップ機能に追加されていないようなヒ〇イがあるかもしれないだろう……!」
「ヒ〇イをなんだと思ってるの?」
おべんとうのヒ〇イは熊本に本社を構える弁当のチェーン店で、そんな知る人ぞ知る名店みたいな扱いを受ける店ではない。
「に、西住隊長。ヒ〇イはないですけど、ほら、お弁当ならあそこにオリ〇ン弁当という店が」
「私はヒ〇イが良いんだ。ヒ〇イのちくわサラダが食べたいんだ。油っこいあれをノンアルビールで流し込みたいんだ」
「仮にも女子高生が酒飲みの中年みたいな事を言うのはどうなの」
地元愛を拗らせたこの状態のまほに不慣れな小梅のフォローは一瞬で叩き潰された。
ちくわの中にポテトサラダを突っ込んで油で揚げた矢鱈とカロリーが高そうな惣菜は熊本ローカルのもので、関東圏には当然ない。みほも別に嫌いではないが、そこまでして食べたいものではなかった。
「学園艦に戻れば売店で売ってたと思うけど、それじゃ駄目なの?」
「あんなバッタものはちくわサラダじゃない」
みほは面倒くさくなってまほを放置して帰ろうかな、という考えが浮かんだ。熊本の工場で生産されたものでないと身体が受け付けないらしいのだが、一体どんな体質なのか。
あまり悠長にしていられる時間はない。どうにかしてこの状態の姉を説き伏せなければならない。
元より隙間時間を利用して来ているため、時間に余裕があるわけではない。戦車道においては尊敬しているが、こうなると姉は途端に面倒くさくなる。
「でもヒ〇イは無いんだから食べられないよ? お姉ちゃんがいくら食べたいと思っても、無い以上はしょうがないよね?」
子供に言い聞かせる様子は最早どっちが姉だかわからなくなる。そのあたりはまほも分かっているのか、先ほどに比べると理知的に言葉を紡ぎ始める。
「むぅ。でも地元の味が恋しくてな」
その気持ちはみほにだって分かる。母港は熊本港とはいえ、学園艦に乗っている以上は航海することも多いし、戦車道の遠征なども多いからふと地元のものが食べたくなる瞬間がある。
「だったらヒ〇イじゃなくても、他のお店でも良いよね? 代替だけど、少しは我慢できるよね?」
「あ、だったらこちらに進出しているチェーン店を探してみますね」
「……味〇拉麺はないか? 確かあれは結構店舗があるはずだ」
熊本発祥の豚骨ラーメンのチェーン店だ。確かに味〇ならあるかも、とみほは思った。
何度か行った事があるが、確か店内で他の地域に出店する旨の告知ポスターを見た記憶がある。
小梅は暫くスマートフォンを操作していき、気まずい表情で顔を上げた。
「……すみません。味〇拉麺も無いみたいです」
「そんな馬鹿な!? 台湾を始めとして世界各国で出店している世界の味〇だぞ!?」
「いや、それは創業者が台湾出身だから」
「詳しいですね、みほさん。……ニューヨークとかサンディエゴにもあるみたいですね」
海外に七百を超える店舗を構えるが、関東にあるのは茨城県の一店舗だけだ。まほはまたしても項垂れた。
「―――隊長!」
その時、走って現れたのはまほの指示でヒ〇イを探して走り回っていたエリカだ。
女子高生にあるまじき俊足で視界に現れたかと思えば、あっという間にまほの傍まで駆け抜けてきた。大分体力を使ったのか、肩で息をしている。
「エリカか。……どうだった?」
釣果を尋ねるまほにエリカは呼吸を整え、顔を上げて答えた。
「申し訳ありません! ヒ〇イ発見できませんでした! というかセンター〇バーもないんですけどこの辺りの人は何を食べてるんですかね!?」
半ばキレたように言うエリカだが、当然だ。県内に十店舗もないハンバーグ店が関東にあるわけがない。ハンバーグが食べたいならいき〇りステーキとかびっくり〇ンキーとかで良いんじゃないかな、とみほは言いたくなったが、言ったら言ったで面倒くさくなるのが目に見えていたので黙った。気の強い友人は頼もしい存在であるが、ことハンバーグの話題になると姉と同レベルで面倒くさくなることをみほは知っている。
「……由々しき事態だ。だが私の力ではどうすることも出来ない。……すまない」
「そんな! 隊長は悪くありません。顔を上げてください!」
試合中にも見たことがない沈痛な顔での謝罪だが、バックボーンを知っていると途端に安っぽく見えてしまうのは何故だろうか。
「チェーン店がないなら、熊本の料理を出す定食屋はないか? 太平燕とかだご汁とか……」
「ええと、調べてみましたがないようです」
申し訳なさそうに小梅が言った。沖縄料理とかであれば店舗がありそうだが、熊本料理は全国的に見てもマイナーである。探せばもしかしたらあるかもしれないが、早々見つかるようなものではないだろう。あったとしても都合よく徒歩圏内で行ける場所にある可能性は極めて低いし、探すにも時間が無い。
「お姉ちゃん。もうどこでも良いからお店に入ろうよ。というか、いくらなんでも地元愛が強すぎるよ……」
「地元を愛して何が悪い」
「そうよみほ! 熊本の事が好きで何が悪いの!?」
同調するエリカも合わせて面倒くささは二倍になる。唯一の癒しは小梅だが、どちらかと言えば控えめな性格で戦力としては数えられない。今現在もどうしていいかわからず右往左往しているし、諫言は期待できそうにない。
「いや、別に悪くはないし良い事だと思うんだけど、ただちょっと過剰というか」
「別にこれくらい普通だ。我々に限らず、例えばプラウダ高校だって休憩中は津軽弁全開でけの汁を啜っているに違いない」
唐突にプラウダ高校に飛び火するが、事実無根である。ただ戦車道では頼りになる姉がこと地元の事になるとポンコツになることから、その可能性もあるかもしれないと思い始めてきたみほ。けの汁自体は普通に青森の伝統料理でもあるし。
「プラウダ高校の事は良いよ。時間もないし、どうする?」
「むむ……」
まほは形の良い眉を歪め思案し、一つの結論を出した。
「ここは妥協だ。あそこにあるエブ〇ワンに行こう」
「お姉ちゃん。あれはセブンイ〇ブンだよ……」
7のマークをどう見ればパックマンのマークに見間違うのか。まほには熊本でも全店舗が閉店したコンビニチェーンの姿が見えているようだが、完全に幻覚である。
ただいい加減に疲れてきたみほはもうどこでも良かった。まほのように異様なほど地元の味に執着しているわけでもないし。好物のブラック〇ンブランでも食べれば多少は姉の機嫌も良くなるだろう。
「ブラック〇ンブランが、ない、だと……!?」
無かった。
白く〇くんがあるのに何故ブラック〇ンブランがないんだ、とかブラック〇ンブランが無い癖にチョコ〇リだけがあるのは差別だとか、誰に聞かせるでもない恨み節全開のまほを強引に外に引っ張りだす。あのままだと罪の無いコンビニ店員にまで絡んでいきそうな勢いだった。
みほはチョコ〇リで良いじゃない、と進言したが聞き入れてもらえなかった。チョコクランチがぽろぽろ落ちるあの絶妙な食べづらさといい殆ど同じものだと思うのだが、まほ曰くまったくの別物らしい。
そもそもブラック〇ンブランの発売元の会社は佐賀県なのだが、まほの頭の中では悪逆非道な佐賀によって熊本から奪われたとかいう都合の良いカバーストーリーがあるようなので問題ないらしい。
「ブラック〇ンブランどころかトラ〇チ君も、ミル〇ックも置いてないなんて……」
「販売元が同じ会社だから、ブラック〇ンブランがないなら、その二つも置いてないと思うよ」
「私は、無力だ」
「隊長……」
「……」
とぼとぼと歩く。みほから見えるまほの背中はいつもとり小さく見えた。本人は至って真面目であり、だからこそその寸劇はみほにとっては茶番に映る。無力でもなんでもいいから帰ろうよ、と言いそうになる口を理性で押しとどめる。エリカはまほの事を慕っているから、蔑ろにするような言葉は避けた方が良い。それがどれだけくだらないものであっても。
「げ、元気だして下さい! ほら、学園艦に戻ればア〇ックラーメン食べられますし」
「……うん」
小梅の励ましに幼児退行したような態度で応える。みほも何となく罪悪感が湧くが、どうしようもない。みほは歩きながら自分のスマートフォンで付近の店を検索する。やはり熊本を発祥とする店舗は少なくとも付近にはないようだ。少し幅を広げて検索をしてみると、一つの店が目に留まった。
「あ、リンガー〇ットがある」
熊本にも店舗があるちゃんぽんのチェーン店だ。しかし発祥は熊本ではなく長崎だ。
しかしまほはその言葉を聞いて勢いよく振り返る。人間ってこんなに早く動けるんだね、と言いたくなるような速度だった。
「そこだ」
「え?」
「そこにしよう。うん、そうしよう」
「……え、良いの? リンガー〇ットって熊本じゃないけど」
長崎ちゃんぽん、と頭につくだけあって長崎発祥なのだがそれで良いのか、と確認するとまほは鷹揚に頷いた。
「うむ。熊本は九州のナンバーツーだから、それ以下の他県は熊本の支配下にあると言っても過言ではない」
「とんでもないレベルの過言だよ」
長崎県民が利いたら激怒しそうな事をさらっと言ってのけるまほ。
「熊本発祥の店でないのは残念だが……私も小さな子供ではない。ここはリンガー〇ットで手を打つとしよう」
「だったら白○くんでも良かったんじゃ……」
「私はさも『私は全国区ですけど?』みたいな顔をしているあれが気に食わないんだ」
「ああそう。……もう突っ込まないけど、他県出身の人もいるからチームの人にはそういうこと絶対に言わないでね」
九州出身者にとっては対立煽りの大きな火種になるであろう言葉を真面目な顔で言う姉に苦言を呈すが、聞いちゃいない。そのうちスキップでも刻みそうな浮足だった姉の姿に、みほはため息を吐いて追いかけた。
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世界の中心(熊本)で地元愛を叫ぶ
逸見エリカの趣味はネットサーフィンである。オフの日や自由時間は良く携帯端末を使って情報収集を行っていることは周知の事実だ。内容としては芸能界のニュースやコスメ情報といった女子高生らしいものを始めとして、お菓子や戦車道の情報など多岐に渡る。
しかし、最近その趣味にとある変化が訪れた。
ずばり、地元熊本の情報収集である。
地元の事なんて地元民が知っていて当然と思いがちではあるが、意外と抜けが多い。灯台下暗しということなのか、身近だからこそ詳しく知らないことも多いのだ。
それに逸見家は熊本の中でも名士として知られた家系であり、故にこそ地元熊本の事を知り、熊本が如何に優れた場所であるか啓蒙活動を行うことは至極当然のことと言えよう。多分違うが、少なくともエリカ自身はそう思っていた。
「劇場版世界の中心で〇を叫ぶの監督である行〇勲の出身地が熊本である以上、世界の中心が熊本であることは自明の理。なのに何故愚かな民衆はそれを信じようとしないのかしら?」
某隊長の良くない影響を受けまくったエリカの脳内は大分愉快な事になっていた。
突っ込み役に回るみほはいない。飛躍に飛躍を重ねた上で破綻した理論ともよべない何かを展開するエリカを止められる者は何処にもいない。
ベッドに寝転がった姿勢で、手元だけ異様に素早い動作で携帯端末を操作していくエリカ。
今閲覧しているのは某匿名掲示板だ。今現在『クソスレ立てんな』、『自演乙』、『じゃ〇んnetの観光名所ランキングの上位に熊本市電が食い込んでるクソ田舎がなんだって?』などの煽りを受けているがエリカは焦らない。民衆とは根本的に愚かな生き物であり、だからこそ選ばれた熊本の民である自分が導かなければいけないのだという使命感を帯びたエリカに死角はない。
「……ん?」
ふと反応を示すエリカ。熊本出身の有名人について投稿されていたスレッド内で張られたとあるリンクだ。少し遡ってみると熊本を代表するお笑い芸人であるくりぃ〇しちゅーの話題であるようだ。
それまではくりぃ〇しちゅーに対して好意的な意見が目立っていたが、そのリンクを境にして『信じていたのに』、『おいおいこれマジか……』等の意見が見られるようになる。
「……」
気になったエリカはそのリンクにアクセスした。今更ブラクラなんて恐れるエリカではない。
リンクをタップし、数秒で画面が切り替わる。そこにあったのは一枚の画像だ。
「こ、これは……!」
「個別で呼び出しなんて、一体どんな用事なんだろう……」
少しばかり緊張の色を滲ませてみほは作戦室に向かっていた。放課後に一人で作戦室に来るように、とまほから呼び出しを受けたのだ。
心あたり、と呼べるものはない。単純な作戦会議であればエリカや車長達も呼ぶだろうし、自分一人だけ呼ばれる理由は分からない。あるとしたら何か失態をして叱責されるということだろうか。ただ、最近目立ったミスもしていないつもりだ。
「し、失礼します」
おっかなびっくりな態度で作戦室に入るとテーブルに一人だけまほが座っていた。両肘を机に立てて、口付近を覆っている。普段から表情の薄いまほであるが、今日は輪に掛けて表情が読めない。ただどこか硬質さを感じる態度にみほは反射的に背筋を伸ばした。
「―――来たか。ああ、座ってくれ」
「う、うん……」
おずおずとみほの向かい側に座る。
「えっと、何かあった……んでしょうか?」
まほはみほの姉である同時に黒森峰の隊長だ。プライベート時なら砕ける口調だが、ヒリついた雰囲気に敬語が混じる。
「何も聞かずにこれを見て欲しい。それで私が何を言いたいか分かるだろう」
まほは手元にあったノートパソコンを操作し、画面をみほの方に向ける。
そこに映し出されたのは一枚の画像だ。上〇さんの収入、というタイトルが記載されたそれには一つの円グラフがあり、闇の仕事の割合が53,4%という衝撃的な数字が並んでいる。
シルシル〇シルで流された捏造グラフだ。本人のワイプもしっかり映っている。
「……」
「みほ、これを見て私が何を言いたいのか分かってくれたことだろう」
「ごめんお姉ちゃん、欠片も分からないよ」
みほは率直な感想をまほにぶつけた。
「お姉ちゃん。これはね、本当のことじゃなくてただの番組の演出だから。有〇さんは別に白いガウンを普段着にしてるわけでもないし、白い粉の王でもないからね」
「それぐらい私にも分かる」
おや、とみほは意外に思った。熊本の事になると思考回路が爆発する姉の事だからてっきりこのグラフを信じ込んでいるのかと思ったが、そういう風ではなさそうだ。
「ええと、このグラフが嘘っていうことは分かってるんだよね?」
「当たり前だ。有〇が不動産業を営んでいる事実はないし、脱税を収入元としてカウントしているなど、このグラフは作りが杜撰だからすぐに気づいた」
「そこで気づいたんだ!?」
「この情報を持ってきたエリカは信じ切ってしまっていたようだが……まだまだ甘いな」
「エリカさんは信じちゃったんだ……それで、お姉ちゃんは何が言いたいの? 私にはさっぱりなんだけど」
結局なぜ自分は呼ばれたんだろう、とみほは疑問に思う。
「ああ、その事だが―――」
まほは自分の方にノートパソコンを直し、
「有〇の扱いが、悪すぎるとは思わないか?」
そんな事を真顔で言い出した。
「くりぃ〇しちゅーは熊本を代表する芸人だ。長らくバラエティー番組の最前線で活躍しているのだから、間違いない」
「うん、まぁ。熊本出身の知名度がある有名人ではあると思うけど……」
そこに関してはみほも同意する。普通に全国区の芸人だ。くりぃ〇しちゅーを知らない人は余程テレビを見ないごく一部の人くらいだろう。
「トーク力は高いし、ゲストに対して気を配れるからMCとしての実力は疑いようがない。制作会社からの評判だって悪くないし、目立った悪評があるわけでもない。新番組をスタートするにしてもその知名度から着火剤に出来るし、既存の番組であってもオールマイティに振る舞える程の実力がある」
「お姉ちゃんはいつからテレビ局のディレクターになったの?」
「それに結婚相手も熊本県出身の一般女性で、決して他県に媚びない一貫した姿勢にも好感が持てる」
聞いちゃいない。
その後も延々とくりぃ〇しちゅーがどれだけ素晴らしいコンビであるか熱く語るまほ。バカ〇ンのパパは意外とはまり役だったとか、上〇ちゃんネルの差し歯が飛翔したエピソードとか、これまで数えきれないほど聞かされた話をまくし立てられて、みほは開始数分でダウン寸前まで持っていかれた。
こうなると手が付けられなくなるのは経験上分かっているので、みほは今日の夕食に思いを馳せながら時折まほの話に相槌を打つだけの機械になった。
「つまり、私が何を言いたいかというと―――」
まほは立ち上がり、備品のホワイトボードにデカデカとした字で『熊本県出身の芸能人の扱いが悪すぎる問題』と書いた。ばぁん!とホワイトボードを叩くがみほの感情はまったく動かなくなった。
「うん、そうだね」
最早何も考えてない状態で頷いたみほにまほは満足そうな顔だった。
「そこで今日は熊本県出身者の芸能人を取り巻く状況について考えていきたいと思う」
「前置きが長すぎるよ……」
壁掛け時計に目をやるともう三十分が経過していた。しかもこれからが本番だと考えるとげんなりする。
「別に熊本出身の芸能人の扱いが悪いとか、そういう事はないと思うよ。有〇さんだってその番組で偶々弄られただけだし」
面倒事は回避するに限る。やんわりと矛先を収めようとするが、まほは毅然とした態度で反論する。
「コロッ〇や水前〇清子だって知名度はあるのにテレビにはあまり出ていないじゃないか。これはテレビ局の謀略に違いない」
「コロッ〇は地方営業が多いし、水前〇清子は歌手でバラエティにあんまりでないだけでしょ? 女優の橋〇愛とか夏〇結衣なんてドラマや映画で良く起用されてるよね? 芸人だったらウッチャン〇ンチャンの内〇さんだって活躍してるから、別に熊本出身の芸能人が蔑ろにされているわけじゃないと思うな」
「……みほ、もっと前の段階の話なんだ。今みほが名を挙げた彼らは抜きんでた才覚によって地位を築いたのだろう。しかし、そもそも熊本出身の芸能人が少なすぎると思わないか?」
それは熊本が田舎で人口が少ないからじゃないかな、とみほは思ったが間違いなく見えてる地雷なので何も言わずに黙っておいた。西住流に逃げるという道がなくても地雷があれば迂回ぐらいする。西住流でありながらも柔軟な対応が出来るみほなら猶更だ。
「タレント名鑑に掲載されることなく、諦めた者も多くいることだろう。東京のテレビ局の策略によって熊本は馬鹿にされている。ゴ〇けんほどの猛者がローカルタレントに甘んじているんだ。間違いない」
「そ、それはあまりにも強引すぎるような……」
ずい、とみほに顔を寄せて力強く断言するまほ。姉妹故に変な気持ちなんてものは出てこないが、
整った顔が顔面すれすれまで来ているから普通に威圧感がある。
「よく考えるんだ。大ブレイクしたヒ〇シが、襤褸雑巾のように捨てられたのは何故だ?」
「い、いや、ヒ〇シ以外で消えた一発屋なんてそれこそいくらでもいるし……。それにほら、今本人はYoutuberになって頑張ってるでしょ」
「そこだ。ヒ〇シはYoutuberとして確かに再ブレイクしている。だが素人のキャンプ動画に何故人気
が出る?」
「そ、それは……」
みほも偶に見ているレベルの軽いファンだが、あの魅力を説明しようとすると難しい。
口数の少ない中年男が只管キャンプしているだけの動画なのだが、不思議と見入ってしまうのだ。
「テレビ局という悪意を持つ第三者の介在がないからだ。そうでなければ今なおヒ〇シは最前線で活躍していたに違いない」
そもそもヒ〇シがテレビに出なくなったのは本人の性格やメンタルが大きい原因なのだが、そこには触れないまほ。そして一見筋が通っているように見えなくもない理論を受けて、『もしかして私が間違っているのかな?』と思い始めてきたみほ。
「いや、でも……」
「間違いない。みほが好きなガリッ〇チュウの福〇がいまいち売れ切れていないのはその為だ」
「ふ、福〇さんを引き合いに出すのは止めてよ!」
聞き捨てならない言葉にみほは反論した。
「おかしいと思わないのか? 今や同じような芸風になったロ〇ートの秋〇は人気者だというのに、福〇は微妙だ。船越〇一郎のモノマネでネットニュースにはなったが、現実の人気にはそこまで火が点かなかった……」
「そんなことないよ! ネプ〇ーグにもめざ〇しテレビにも出てたし、沖縄ローカルでレギュラーだって持ってる! ゲームなら竜が〇くにも出たしパチンコ桃〇郎電鉄のCMだってやってた! 福〇さんの知名度は微妙なんかじゃない!」
「―――でも冠番組はない。秋〇にはあるのに」
「いやぁ!」
残酷な現実を突きつけられてみほは叫んだ。
「……ち、違うよ。ロ〇ートははね〇のトびらが放映されてる時から人気があったし、これはしょうがない事なんだよ……。動きのあるモノマネが売りの秋〇さんの方がテレビ映えするだけで……」
「もしもそれが卑劣な連中が仕組んだ罠だとしたら?」
それはまるで悪魔の囁きのようだった。
「ガリッ〇チュウの才能に嫉妬した一部の愚か者が彼らの足を引っ張っているんだ。だからいまいち売り切れない。一ファンとして、そんな不正が見逃せるのか?」
「あ、あああ……!」
黒森峰女学院を率いる隊長としてのカリスマまで持ち出され、みほは抵抗が難しくなってきた。
まほはそれまでの厳しい顔を崩し、ふっと笑う。
「西住流とはいえど、テレビ局にまでは影響力もない。今直ぐにこの状況を打破することは出来ないだろう」
そこでまほは一度言葉を切って、みほの瞳を真っすぐ見た。
「だが、それを仕方がないで諦めて良いのか? 一人のファンとして出来ることを探すべきだろう。本当の、真のファンならば」
「……そうだよね。諦めたら戦車道だって勝てないもんね。頑張ってる芸人さん達を応援して、どうやったらもっと売れるのか考えるのもファンの役目だよね」
握手するように伸ばされた手を、みほは握ってしまった。
黒森峰女学院きっての良心が陥落した瞬間である。
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放課後黒森峰日誌
全国の頂点を目指し切磋琢磨する高校戦車道の世界において最も警戒されているのがどこかと言われれば、それは間違いなく黒森峰女学院だ。
何せ前人未踏の九連覇を成し遂げ、二桁にリーチが掛かった状況だ。他校のマークが厳しくなるのも致し方ない。練習試合を積極的に組んで動向を伺ったり情報戦を仕掛けたり、勝負は戦いの前から始まっている。
そんな他校の動きに対して黒森峰とて悠然と構えているだけではない。絶対的な王者である黒森峰は、王者だからこそ弱者を相手にしても一分の油断もない。身一つで行うスポーツとは違い、戦車道では何が起こっても不思議ではない。極端な話、流れ弾を食らってフラッグ車が墜ちるということもありえるのだ。故に黒森峰は人事を尽くす。
それが破竹の勢いで九連覇を成し遂げた、一つの大きな要因でもある。
マークが多いということはそれだけ相手側から積極的に仕掛けてくるということであり、それを逆手に取ったカウンターの要領で黒森峰も情報収集に当たっていた。
「……全員揃ったか」
まほの言葉にはい、と円卓テーブルについた黒森峰女学院の生徒達が返事をする。まほを始めとして副隊長のみほ、チームの主軸になるエリカに小梅、そして車長達だ。副隊長のみほは今日のところは書記という役割についている。
まほはちらりと時計に目をやり、軽く頷く。
「時間も押している。早速始めよう」
まほを見て、みほはこっそり安堵のため息をつく。今日のところは変な発言はしないだろう、という謎の安心感だ。まほは戦車道においては極めて真面目に取り組む性格であるが、平時がアレなので最近は目が離せなくなってきた。
「―――はい。西住隊長、報告よろしいでしょうか」
「ああ」
挙手し、はきはきとした口調で一人の女子生徒が立ち上がる。
「君達は……確か青師団高校を探らせていたグループか」
青師団高校。和歌山に本拠地を構え、スペインの流れを汲む高校だ。
みほとしては数回練習試合の機会があったくらいで殆ど縁のない高校ではあるが、あの胸元を大きく開けた制服のインパクトは一度見れば十分だ。みほとしては絶対に入学したくない高校の筆頭だ。羞恥心の限界という意味で。
「はい。……やはり今年度は我々黒森峰の十連覇が掛かっている事もあり、他校ではチームワークを強固にするための新たな取り組みをしている学校が多く見受けられます。青師団高校もその一つです」
戦車の種類が戦術を決める。だが戦車なんてものは簡単にぽんぽんと買えるようなものではない。そして用いる戦車が変化しないということは戦術も大きな変化はありえないという意味でもある。
勿論大局的な戦略という部分においては隊長が交代した以上は色の変化があるだろうし新たな戦術を身につけることもあるだろうが、戦車の基礎性能を活かすとなると既存の戦術を捨て去ることは出来ない。
よって、よりよい戦績を残すためには一人一人の練度とチームワークの向上は不可欠なものになる。その為に新たなシステムを取り入れる高校が増えてきたのだという。
「青師団ではどのようなものを?」
「はい。青師団高校はスペインの流れを汲むということもあり、殺戮能力の高い順に数字を与えるという取り組みをしているようです。これによって競争意識を高めているのだとか」
「青師団の生徒は破面の集団なのか?」
お姉ちゃんが突っ込みに回るなんて珍しい、とみほは思った。
「ご安心ください。響転は使えませんし鋼皮もないようです」
「虚閃は打てますみたいな曖昧な報告は止めろ」
戦車道に殺戮能力はまったく関係ないし、寧ろ青師団の生徒達は戦車に乗ることによって弱体化しているんじゃなかろうか。
「申し訳ありません。求められるのは正確な情報の伝達。そのことを踏まえ、改めて報告いたします」
「ああ」
「虚閃は打てます」
「打てるのか!?」
驚愕する姉というのも中々レアだ。いや、誰でも驚くだろうけども。騒めきに包まれる会議室はまほ一喝で瞬時に静かにさせる。
その後も報告は続き、帰刃やら崩玉やら到底戦車道とは思えない言葉がぽんぽんと出てくる。みほはノートパソコンのキーボードに手を滑らせながら、私は今何を打っているんだろうと自問自答した。
「……ああ、分かった。では次」
早くも疲れたように蟀谷を押しもむまほ。また別の生徒が挙手をし、報告を始める。
「我々のチームは先日練習試合を行ったBC自由学園を探っていました」
「ああ、あそこか」
元々はBC高校と自由学園は別々の高校である。両艦の老朽化にあたり合併された、というのは有名な話。現在はエスカレーター組と外部生組の仲がすこぶる悪いという事で有名だ。それは戦車道の試合中にも遺憾なく発揮され、先の練習試合では包囲するまでもなく互いに砲撃し合って自滅するという世にも珍しい記録を残し、みほの記憶にも新しい。勝利の喜びや安堵よりも困惑が勝ってしまった試合はBC自由学園が最初できっと最後になるだろう。
試合後も罵詈雑言のぶつけ合いをする相手高校の面子を見つつ、なんでこの人達は味方で争っているんだろう、と思っていたものだ。向こうの隊長は優雅にケーキを食べてるし。
かつては全国大会でもベスト4に輝いた実績があるというが、失礼な話、あの体たらくを見ていると黒森峰の脅威になるとは到底思えない。
「BC自由学園の連携は、稚拙と言わざるを得ない」
それは恐らく、みほだけではなく他の隊員達もそうだったのだろう。僅かに弛緩した空気をまほの冷たい言葉が切り裂く。
「だからこそ、結束した時には脅威になるだろう」
黒森峰の隊長のカリスマが為せる技か、まほの言葉は大きくなくとも会議室に浸透し、多くの者が背筋を伸ばした。
高校の戦車道においては長らくBIG4と呼ばれる高校が上位を独占している。プラウダやサンダース、聖グロリアーナ、そして黒森峰。恐らく今回の大会もその四校で優勝を争うことになるだろう。
だが、遠くを見過ぎると足元が疎かになるとも言う。かねてよりまほが危険視しているのはその部分だ。
「……遮って悪かった。報告の続きを」
「はい。BC自由学園も先ほどの青師団と同じように新たな取り組みを行っている高校になります。その具体的な取り組みですが、エスカレーター組を一科生、外部生組をニ科生とする枠組みが発足しております」
「……」
「これも競争意識を高めるためのものとされていますが、現状としては寧ろ互いの差別意識を高めるものとなりつつあります」
ですよね、とみほは思った。多分みほ以外の全員が同じ感想を抱いたことだろう。
しかしBC自由学園は文字通り自由だ。まさしく未来に生きているといってもいいかもしれない。
魔法があるなら私も使ってみたいよ、と文句を垂れつつも報告通りに文字をタイピングしていく。
BC自由学園はフランス戦車の流れを汲む高校だ。だからこそ、本来の意味とは違うがみほは『会議は踊る、されど会議は進まず』という言葉を思い出した。
いや、今開かれているのは本当に会議なのだろうか、という良くない思考まで飛び出してきたのでみほはそれ以上考えることを止めた。
その後も会議と称した何かは続く。やれ聖グロリアーナではヘルシング機関が発足したとか、やれアンツィオ高校では社会福祉公社が幅を利かせてきているとか、常軌を逸した内容をみほは心を無にしてタイピングしていく。
そうして出来上がっていくのは会議の議事録を称した小説のプロットだ。日本はいつからこんなに魔境になったんだろう、と思わなくもない。
こんな存在達が跋扈する日本で九連勝もしてきたことが奇跡のように感じてきた。寧ろなんで他校は黒森峰に負けてるんだろうか。
「……エリカ」
一通りの報告を聞き終えて、まほは疲れたような声で言った。
「はい。なんでしょうか」
「冷蔵庫にあるまるごとし〇りストレートを持ってきてくれないか。デコポンのやつ」
「ヒ〇リ工房のソーセージはどうしますか? 最近お気に入りの」
「……じゃあそれも」
ジュースどころかドイツの食肉コンテストで金賞を取ったソーセージを所望するまほを見て、ああもう限界なんだ、とキーボードを叩いていたみほは思った。ただみほとしても限界が近かったので、このタイミングでのブレイクタイムは有難かった。
「―――まずは敵情視察の件、感謝する。我々の優勝も盤石なものになるだろう」
みほには本当かよ、という皆の心の声が聞こえた気がした。先ほどまでソーセージを頬張っていたせいで頬が少し汚れているが、それがまた絶妙な間抜けさを演出している。
察したエリカがハンカチを差し出し、拭っていく。なんだか出番を取られたような悔しい感覚をみほは味わった。その役割は妹の私じゃないのか、と自然にキーボードを叩く音が大きくなる。
「むぷっ……。まあ、情報の精査は行う必要があるだろうが……」
慌てて付け加えるまほに既に隊長としての威厳はない。熊本キチを拗らせた、ボケた姿の姉がいるだけだ。
まあ、これはこれでいいのかもとみほは思う。戦車道から一歩外れたら熊本愛しか語らないポンコツな姉だ。年を追うごとに戦車道の方にもプライベートの姿が侵食されていっているが、それだけ肩肘を張らなくなったということでもある。普段は頑張って冷徹な隊長を演じているが、それがボロボロの仮面だということはみほどころか黒森峰の隊員なら誰でも知っている。そしてそれを生暖かい視線で見守っている上級生と、姉に影響されたのか矢鱈と地元愛を語るようになった下級生。
それが果たして良い方向に転がっているのかみほには分からないが、個人的には軍隊然としていた以前よりは今の方が程よく力が抜けてありがたかったりする。
「我々もやるべき事はやっておくべきだと思う。どんなに小さな事であろうとも」
まほは一度席を立ち、ホワイトボードにマーカーで書き込んでいく。そこには『熊本県民の対立問題』とデカデカと文字が躍っている。
あー、と諦観にも似た声がそこかしこで漏れる。最近問題になってきている隊員の熊本愛問題だ。
熊本は日本の都道府県の中では十五番の面積と大きい方で、四十五の市区町村に分けられている。世界第二位のカルデラがあるなど雄大な自然がある一方で熊本市は政令指定都市に指定されており、都会と自然が奇跡的に融和した場所なのだ。
住む場所が違えば文化が違う。互いの認識や価値観の相違が生まれるのは当然といえよう。
やはり皆が皆、自身が生まれる場所に誇りを持つもので、そこからちょっとした諍いが起こることもあるのだ。即ち、『私の地元が一番凄い』問題である。
「幸いな事に他県出身者に問題は起きていないが……」
黒森峰は戦車道の名門故に県外から進学する生徒も存在する。しかしそのあたりについてはまほ自身が厳しく取り締まりを行っていた事が功を奏し、現状では大きな問題にはなっていない。
まほが一番地元愛を語らせたら凄いのだが、それはそれだ。流石に隊長として一線は引いている。
「……この間食べたリンガー〇ットのちゃんぽん、美味しかったよね」
「は? あんなものより太平燕の方が美味しんだが?」
ぼそっとみほが呟くと耳ざとく反応してくるまほ。喜んで餃子に半チャーハンまで注文した癖に酷い言いようだ。恐らく条件反射で言ってしまったのだろうが。
次の瞬間にははっとした顔になり、まほは一つ咳払いをした。
「……熊本の素晴らしさ故にこうして問題が起こっている。大きな不和が無い事は私も知っているが、万全を期すべきだと思う」
一理ある、とみほは思った。副隊長として知っているが、本当に最近ではその『私の地元が最高』も馬鹿にならなくなってきているのだ。無論、感情に任せて暴力を振るったり苛めに発展するケースはないが、口論の種になることがある。それはそれで一つのコミュニケーションとして成立しているのだが、黒森峰の不安要素を挙げるとしたらその部分になるだろう。
協議の結果、一度各々の出身者を纏めて集合させ、討論の場を設けることになった。公の場所で、オブザーバーとしてまほやみほが参加する討論会である。
後腐れなく意見をぶつけ合う。それはきっと問題を解決するための一助となることは間違いない。
ただ―――
「荒れるだろうなぁ……」
誰にも聞こえない程度の音量でみほは呟いた。
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実録・黒森峰抗争史 LB黒森峰会議室 侠友よ
黒森峰の会議室は静かでありながらも熱狂的な雰囲気に包まれていた。『あとぜき』と書かれた張り紙なんてものがなくたって、誰かが通り過ぎようとした時この会議室の扉が開いていたら閉めようとするだろう。出身地別に区分けされた其処には戦車道を履修する黒森峰の生徒達、計三十人が言葉を交わすまでも無く、既に戦いを繰り広げているのだ。
狂気とは伝播する。そのようなキャッチコピーを残した映画があったが―――情動感染とも言うソレは、会議室という密室空間において各々が抱く地元愛を極限までに肥大化させるに至っていた。
討論は既に始まっているのだが、目線による牽制のし合いによって膠着状態が保たれている。
「……このままじゃ話が進まないじゃない。あのねぇ、熊本の中心は熊本市で決まっているでしょう? 県庁所在地で一番栄えてるんだから」
肌が泡立つような異様な雰囲気の中、口火を切ったのは『熊本市出身』と書かれた紙の三角柱の前に陣取った逸見エリカその人である。
この場に置いても物怖じせず言い切ったのは一年生ながらティーガーⅢの車長を務めるに至った胆力と実力故だろう。そのエリカの隣で強引に引っ張ってこられた小梅が酸欠の魚の如くパクパク口呼吸をして必死に自分の存在を消そうと足掻いている。
かかった―――!
熊本市以外の出身者達はエリカの言葉をこそ待っていたのだ。熊本市出身者のグループは黒森峰の中において最大の勢力を誇るグループである。本日参加する三十人の中でも熊本市の出身者達は一番多い。
だからこそ、他の出身者達はまず熊本市グループを潰すという一手に出る。出身者数名の小競り合いなど、そこで局地的な勝利を得ても大きな渦に飲み込まれるしかないからだ。
故にまずは手を取る。業腹であるが、勝利の為ならば誇りすらも嚥下をしてみせよう。
同盟などという繋がりではない。利害が一致しただけの関係であるが、それゆえに強固である。
しかしエリカとてその事が分からないほど愚鈍ではない。それらを理解してなお、勝算があると見て先の発言に踏み切ったのだ。
先に述べた通り、熊本市グループは最大勢力である。であれば下手な小細工など不要。
策を弄すは格下の戦法である。正攻法で叩き潰せるだけの戦力があれば正面から打破すれば良い。そして、そこから得られる勝利は値千金である。
なによりも―――。
エリカは顔を動かさず、視線だけを奥にやった。
会議室の端にはオブザーバー達が数人座っている。西住姉妹と、数少ない他県出身者達だ。
そう、熊本市出身である西住姉妹だ。これは熊本市グループにとって大きな盾だ。幾ら基本的には介入しないと明言してあっても、やはりその存在感は無視できない。
「な、何よ! ちょっと栄えてるからって! 熊本市なんて合併繰り返して大きくなっただけじゃない! 言っておくけど山鹿市だってマックで待ち合わせくらい出来るんだからね! それに熊本市だってピンキリよ! 逸見さんはどこに住んでるのよ! まさか金峰山しかない西区だなんていわないでしょうね!?」
「チッ、素人が……」
思わず毒づく阿蘇市出身の上級生。都市の繁栄具合だけでいえば熊本市の一強なのは一目瞭然。であれば攻め方を変えなければならないのだ。山鹿市といえば藤崎宮例大祭と並ぶ山鹿灯篭祭りがあるし、八千代座だってあるだろう。文化方面から攻めていけばいいものを、一年生故か挑発に乗ってしまった。
―――いや、それすらも計算づくか。
「私の実家の住所? 中央区新屋敷だけど?」
「新屋敷だと―――!?」
途端に喧噪に包まれる会議室。
―――計算通り。
多くの生徒達が慄く姿にエリカはにやりと笑う。
「中央区新屋敷……! 熊本で最も栄えているというあの……!」
「高級で知られる中央区、その中でも最高ランクの場所だと……!?」
「逸見家は名家だという噂があったがまさかそこまでとは……!」
※熊本市の坪単価平均は約49万円、なお東京都中央区の坪単価平均は約2833万円(公示地価ランキング2020より)
「ふふ、中央区といえば熊本の中核。パル玉に鶴屋に熊本城―――。熊本の全てがここに詰まっているといっても過言ではないわ」
「ちょっと待ってくれ! 私の実家がある光の森周辺だって高級住宅街だ! 熊本市に引けは取らない!」
※菊陽町の坪単価平均は約18万円。
「そうよ! 山鹿だって田舎じゃない! オム〇ンの関連会社だってあるし、栄えているわ!」
※山鹿市の坪単価平均は約4万5000円。
「ハッ! 路面電車はおろか鉄道すら走ってない山鹿市が何を言うかと思えば。可哀そうね、路面電車が絡む交差点の緊張感を味わうことが出来ないなんて」
「ハァ!? 鹿本鉄道があるんですけど!」
「……いや、流石にそれを持ち込むのは駄目でしょ。半世紀前には廃線になってるじゃない」
鹿本鉄道、後の山鹿温泉鉄道は大正時代に開通し1960年代には廃止されている。流石に半世紀も前のモノを持ち出すのは看過出来ずエリカも突っ込む。誰がどう聞いてもエリカの正論なのだが、頭に血が上った山鹿出身は更に逆上した。
「アーケード街が近いからって調子に乗って! 中央区の新屋敷なんて白川の氾濫で一番割を食う場所じゃない! それにセンタープラザだって……うッ!」
センタープラザの話題を出した時、オブザーバー席にいるまほから強烈なプレッシャーが放たれ、山鹿出身の下級生は口を閉口させた。まほにとってその話題は地雷だったようで、口出しこそしてこなかったが、それ以上は侮辱と取られたことだろう。
途端に静まり返る会議室の中で、阿蘇出身の上級生はため息を吐いて口火を切る。
「……皆、落ち着きましょう。今のは隊長が収めてくれたけど、感情が先行しては討論にはならないでしょう?」
阿蘇出身の上級生が穏やかな口調で述べた。彼女は弱小グループの将である。自らそれを理解した上で、彼女は乾いた口内を湿らせて朗々と述べた。
「逸見さん、確かに都市の発展具合で言えば熊本市が一番かもしれないわ。でもね、現代的な都市が形成されていれば一番と言えるのかしら。確かに阿蘇は夜間に懐中電灯が無いと出歩けないほどに田舎よ。風に乗って牛の香りがしてくるし」
でもね、と続ける。
「阿蘇のカルデラは世界一位(※諸説あります)だし、野焼きで合法的に放火が出来るし、ミルクロードはバイカー達の聖地。ほら、こうしてみれば阿蘇だってたくさんの魅力があるでしょう? 物事は多角的に見ないと。ねぇ?」
「ミルクロードでしたら私の地元の菊池から伸びています! ミルクロードを阿蘇の物のように言うのは控えて頂きたい!」
「例えよ、例え。……まぁ、こういう風に熊本の一番を名乗るからには都市の発展ぶりだけじゃ決められないということよ。自然や文化、食。そういうものを含めて総合的に判断するべきでしょう?」
「上等……! 熊本市が一番だって事を思い知らせてやるわ……!」
「あ、それなら天草もヒトデが美味しいことが有名で―――」
「「「ごめん、それは嘘」」」
「なんでですかぁ!?」
天草出身の下級生が我が意を得たりとばかりに発言したが、一瞬で否決された。涙目で訴える下級生に対して皆が皆気まずそうな視線を逸らす。
食文化を否定する気は更々ないが、流石にヒトデを全面に出すのはちょっと……と言わんばかりの態度だ。
「いや、天草の中でもごく一部しか食べられてないし……」
「私、上天草出身ですけど食べたことないですよ。というか、秘密のケン〇ンショーで初めて知ったくらいで」
「『熊本の人ってマジでヒトデ食うの?』って言われて複雑になる気持ち、アンタ考えたことあるの? 普通の県民は食べないわよ」
継続高校の生徒に『河豚の卵巣食って毒とか大丈夫なの?』と聞くようなものだ。周囲からフルボッコされた天草出身の下級生はしくしくと泣いた。
一先ず此処で前哨戦は終わりを告げる。山鹿出身の下級生も頭が冷えたのか、落ち着きを取り戻す。
「……どうだ。黒森峰の連中も面白いだろう」
あーだこーだと議論している生徒達を見ながら、まほは両隣に座る生徒に小声で話しかける。
「え、ええ。なんというか、本当に郷土愛が強い方なんですね……」
「郷土愛もここまでくれば立派なものだと思いますよ……」
女子生徒二人は顔を引き攣らせながら返事をした。黒森峰の新入生で唯一の東京出身者と福岡出身者だ。異様なまでの熱気に始終押されっぱなしだったのだが、ここに来てようやく慣れてきたようだ。
「若い身一つで熊本まで亡命してきたのだ。その心情、察するに余りあるが……」
「いや、心情も何も普通に引っ越してきただけですから。というか国内の引っ越しを亡命とは言わないです」
「別に私達は迫害されてきたとか、そういう事情はないですって」
「冗談だ。ただ、君達も見知らぬ土地で大分苦労しているだろう」
まほの言葉に二人は頷く。
「それはまあ、分かっていたことですが練習も大変ですし」
「友達とかもこっちに来たばかりなんでいませんしね」
熊本どうこうの前に縁も所縁もない場所に単身で越してきたのだ。慣れない環境での新しい生活だ。苦労など幾らでもあるだろう。
黒森峰に入学した県外出身者は他にもいるが、まほがこの二人を敢えて連れてきたのには理由がある。どうにも気後れしてしているのか、上手く黒森峰にまだ馴染めていない二人だからだ。
「そうだな。これから三年間、黒森峰で戦車道を学ぶんだ。だから、熊本の事を知ってほしいと思った。それに……黒森峰の練習は確かに厳しいが、それだけではないところを見せてやりたかった」
二人は地元の事を熱く語り合う黒森峰の隊員達を見る。練習の時には鬼のように厳しくなる上級生に、同じ学年なのに自分達よりも遥かに優秀な下級生。劣等感と、そして県外出身故の疎外感があった。しかし今はどうだろうか。ぎゃあぎゃあと騒ぐ姿はある意味とても女子高生らしい。話の内容は置いておくとして、その光景だけを見ていればどうでも良い話題で盛り上がる自分達と大差ない。
「気後れする必要はどこにもない。君達と彼女達は同じだ。……そうだな、注目!」
まほの一声でまたしてもエキサイトしつつあった会議室は静まり、全ての視線がまほの方を向く。
「それぞれの熱い思いは分かった! しかし主観的になってしまうのも良くないだろう。ここは県外出身者の者に客観的な意見を求めてみてはどうだろう!」
まほの提案に顔を見合わせる生徒達。
「……そうね。確かにこのままじゃ結論が出ないし」
「客観的な意見を聞きましょう。というか、いい加減疲れてきたし」
「……だ、そうだ。二人とも行ってくると良い」
まほに背中を押され、困惑しながらも前に出る二人を、熊本出身者達が取り囲む。
「アンタは確か……福岡出身だったわね。どう? やっぱり熊本市が頭一つ抜けて発展してるわよね? 熊本市がナンバーワンよね?」
「逸見、お前にそのつもりがなくてもそれじゃ恫喝と変わらんぞ。それはそれとしてやはり荒尾市が一番だろう。福岡と県境でもあるしな。そうだと言え」
「落ち着け。この子が落ち着いて喋れないだろう。……というか、熊本市以外の場所を知っているのか?」
「あ、私は高校に入って初めて熊本に来たので……」
「やはりそうか。……ではどうだ? 福岡と比べて熊本は? 忌憚ない意見を聞かせてくれ」
「……あー、都市の発展具合だけならやっぱり福岡の方が」
福岡出身者として素直に意見述べたつもりだ。見下すではなく、博多に住んでいたので単純にそう思っただけだ。決して悪意はないし、人口密度やビルの数からしてもそれは客観的な事実だ。
しかし時に正論とは人を傷つけるものである。福岡が目の上のたん瘤だと無意識の内に感じている熊本県民達のプライドをいたく傷つけた。
「ハァ!? 九州ヒエラルキーで一位だからって熊本見下してんじゃないわよ!」
「福岡は確かに都会のイメージだが……。見識が狭いと言わざるを得ないな」
次々と攻撃を受け、福岡出身の女子生徒は苛立った。九州のトップは福岡であることは動かない。有象無象共が二位以下でどんぐりの背比べをしている中で悠々と一位なのだ。不動の一位にある福岡に何故熊本如きに逆らっているのか、という考えが浮かぶ。
そしてそれは福岡出身者同様に質問攻めにあっている東京出身の女子生徒も同様だった。
彼女から見れば熊本など未開の地である。原住民風情が一丁前に東京に反抗するなど許されない行いだ。誰が日本のGDPを引っ張っていると思っている。弁えろ。
「やっぱり熊本は田舎ですよ。自然は豊かですけど都市の発展具合なら福岡の方が上です」
「日本の首都たる東京に勝てるとお思いで? いきなり団子の食べ過ぎで頭までサツマイモが詰まっているのですか?」
「き、貴様等ァ……!」
そこから始まるのは熾烈な煽り合いだ。下級生も上級生もレギュラーメンバーも、なんの意味もなさない。
「熊本空港はアクセスが悪すぎるんですよ! 公共交通機関がバスしかないってどういうことですか!? せめて空港に鉄道繋げてから都会を名乗って下さいよ! 空港周辺は何もないし! 道中のスプーンカーブは狭くて怖いし!」
「あァ!? 奥ゆかしい県民性を体現した良い空港だろうが!」
「そうよ!東京出身だからって偉そうに! 大体私は前から気に食わなかったのよ! 前に東京に遊びに行った時にジョイ〇ルに行くっていうから付いていったらホームセンターだったし!」
「それは先輩の勘違いでしょう!?」
東京出身の女子生徒が上級生達とやり合っている一方、福岡出身者の女子生徒はエリカと睨み合いをしていた。
「……前々から気に食わなかったのよ。福岡出身だからといって優越感に浸っているアンタがね」
「被害妄想ですね。もしあったとして、それは福岡が上と思っている証拠ですよ? 熊本が世界の中心なんですよね? 逸見さんも心のどこかで福岡に負けてるって思ってたんじゃないですか?」
「言わせておけば……!」
「言いますよ。レギュラーメンバーだからと反抗されないと思ったんですか? ……話を聞いていましたが、なんですかパル玉って。あんな通販で買えるようなものをありがたがる神経が理解できませんね。あと天神じゃ待ち合わせは角マックみたいな芋臭い場所じゃなくて大画面前なんで」
遠慮がちだった二人の姿はもうない。慣れない環境に厳しい練習。過度な熊本愛を語る黒峰守隊員達。フラストレーションが溜まる原因はいくらでもあったのだ。それがここに来て爆発した。
けれど、二人にとってここまで大きな声を出すのも本音で話すのも久しぶりのことだった。
「……」
その光景を見たまほはひっそりと席を立って何も言わずに退出した。
「お姉ちゃん」
退出したまほをみほは追いかけた。
「みほも着いてきたのか」
「着いてきたっていうか。あの、放っておいて大丈夫なの? あの二人、凄いもみくちゃにされてたけど……」
「ああ、あれで良い。県外出身者の中での特にあの二人は浮いていたからな。馴染める切っ掛けになるだろう」
「うん、それは私も話を聞いていて思ったんだけど。でも、なんでこんな方法を? ……良くない言い方になるけど、あの二人はレギュラーでもないんだから、こんな荒療治じゃなくてもっと時間を掛けた穏当な方法があったんじゃない?」
「……確かにそうかもしれない。だが、私がいる間に出来る事をしたかった」
まほはそこで初めて振り向いてみほの方を向いた。
「もしかしたら、次の大会が黒森峰の隊長としての最後の大会になるかもしれない」
「どういうこと」
まほはまだ高校二年生だ。次の大会が終わっても、高校三年生の大会がまだ残っている。僅かに硬さを孕んだ声のみほにまほは声を小さくして言う。
「まだ正式なものではないが、国際強化選手としてドイツに来ないかという話が来た」
「……それって留学ってこと?」
「そうなる。まだ時期も未定だ。三年生まで残れる可能性もあるだろう。だが、場合によっては私が二年の内にドイツに旅経つことになるかもしれない」
名誉な話だ。尊敬する姉がその力を認められて世界に羽ばたく。それはとても素晴らしいことだ。だが、いきなりそんな話を聞かされたみほの心中も穏やかではいられない。
何せ外国だ。気軽に行き来が出来る場所ではない。半年、もしかすると一年以上会えなくなるかもしれない。
「まだ私も迷っている最中だ。熊本から離れることにもなるし」
「そ、そうだよ! ドイツに行ったらちくわサラダも太平燕無いんだよ。お姉ちゃん我慢出来るの?」
「そうだな。だが地元を離れることによってまた見えてくるものがあると思っている。……どの道を選ぶにせよ、まだ先の話だ。他の部員達には内密に」
「う、うん……」
まほに言われずとも、こんな話は他の隊員達に聞かせられない。隊全体の士気に関わることだ。顔を俯かせて並んで歩く。大会が近く多忙ということもあり、こうやって並んで歩くことが久しぶりの事だ。
「……そう不安がるな。まだずっと先の話だし、私自身まだ葛藤がある」
「……うん。でももし本当にドイツに行ったら中々帰ってこれなくなるよ。お姉ちゃんは本当に大丈夫なの?」
「いや、数週間に一度くらいは帰ろうと思っている。直行便で二時間も掛からないし」
「……ん?」
みほも詳しいフライト時間を把握しているわけではないが、流石に数時間でドイツに行けないことくらいは分かる。そもそも熊本ドイツ間の直行便などない。
「あの、お姉ちゃん。確認するけど留学先はドイツだよね?」
「当然だ。先ほどそう言っただろう」
「……正式名称で言ってもらえるかな。もしかしたら私の勘違いかもしれないから」
「東京ドイツ村だ。……テレ〇タの録画分を見ないといけないから私は先に帰るぞ」
まほはいそいそと足早に去っていった。これからちくわサラダとノンアルビールで一杯やりながらテレ〇タを眺めるのだろう。最近のまほの日課だ。
まほの後ろ姿を眺めながら一人取り残されるみほ。
「……お姉ちゃん、そこは千葉県だよ……」
残念ながらその声はまほには届かなかった。
これにて完結。
全然やってなかった感想返しとか明日からやっていきます。
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