俺と僕と私と儂 (haru970)
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第一章 テラとガイア、銃と魔法
プロローグ 「出会い」


はじめまして!作者の970です!


色々書類の整理をしてたらかなり前に書いてた小説っぽい物が出てきたので投稿しようかなと思いました。頑張って面白くしたいと思いますので、是非読んでいってください!

よろしくお願いいたします!!


 やあ、こんにちは。俺の名はマイケル。マイケル・レナルト軍曹。れっきとしたハウト連邦軍人大学(ぐんじんだいがく)の学生だ。一通りの訓練は受けていて、今時珍しい白兵戦と銃撃戦を合体したような型までも訓練を受けている。

 

 ちょっと前までは宇宙船の中にいたけど、今は大自然の森の中を堪能中です。

 

 全身全力で。

 

 いやー、こんな見渡す限りの森なんて何年振りか。森の中のサバイバル実地訓練以来じゃね?まあ、あの時と違って何もしてないのに湿気のみで汗だくにならないのが良い。

 

 今は周りに女子いないもんな。

 

「ハァハァハァ────!」

 

 あー空気がうめぇ。

 

「グルルルルルル!」

 

 いやほんと、湿気で蒸し暑いから軍服を自ら脱いで汗で透けるってラッキーって思わね?

 

 中身は味気のない軽ボディーアーマーインナーだけどそこは想像力でカバーだ!

 

 つか木でけぇな。何十メートルあるんだこれ?根っこも所々出ているから走りにくいったらありゃしねー。

 

「ガアアアアアア!」

 

 ああウザイ。こいつで何匹目だ?そろそろ息も切れる、やっぱり無心で走っとけばよかった。

 

 俺は一旦走るのをやめ、後ろから追ってくる()()()()に護身用に持っていたクリス・ヴェクターサブマシンガンの照準を合わせ、引き金を────

 

 カチ。

 

 あ、ヤベ。女子の事考えていて残弾数忘れていた。()()()()の爪先がベストに食い込んで俺の体が吹っ飛ぶ。

 

 え?軍人学生のくせに初歩的なミスをするのは二流だって?

 

 うん、分かる。俺も普段こんな事しないんだが想像してみてくれ。

 

 何が何だか分からないうちに知らない場所に救命ポッドで不時着して外に出た瞬間全長2メートル弱位の()()()()に襲われたんだぜ?

 

 しかもうじゃうじゃとエンドレスに湧いて出てきやがる。これが十匹位までになると誰でも現実逃避したくなるんじゃね?

 

 グシャ!

 

「グハッ?!」

 

 あ、この浮遊感無重力に似ている。

 

 つか、こんなに考えてお前は大丈夫かって?

 

 Ha, ha, ha. ソンナワケナイジャナイカー。

 

 だって俺の体、木に衝突して痛くて視界もぼやけてきて、()()()()が目の前まで来て今にも襲い掛かりそうなんだぜ?

 

 あ、これヤバイ奴や。

 

 何で俺今回の飛行演習に志願したんだろ、おれ?

 _________________________________________

 

 時は西()()3600。俺ことマイケル・レナルトはハウト連邦の軍人大学《ぐんじんだいがく》の中をいつものように歩いていた時にそのチラシが入った。

 

 “急募集中:新型艦超長距離飛行演習。拘束期間予定一週間。特殊部隊任期経験要。”

 

「“新型艦超長距離飛行演習”~?しかも一か月の拘束期間~?毎度思うけど上層部の奴らアホだな。つか特殊部隊任期経験要って……軍人大学《ぐんじんだいがく》じゃかなり限定するぞ。ん?」

 

 チラシの文章の下の方にいつもの金と軍務履歴の報酬が……てかその上に特別報酬だと?!

 

 “任務達成後特別報酬:軍務からの限定的自由権、一か月。”

 

 軍務からの限定的自由権、六か月?!

 

 ……マジか?

 

 周りを見てほかの学生がチラシに気付いたかどうか確認しながら俺はそれを依頼掲示板からもぎ取る。

 

 依頼がさっき張られたばかりなのか、接着剤がまだ乾いてなくて綺麗に取れた。

 

 俺はすぐさまチラシに書いていた軍港に向かうため都内ライトレールに乗り、依頼の受託手続きを済ませた。受付によると当日乗るはずだった乗組員が前日に戦死したから急遽報酬の良い依頼を出したらしい。

 

 で、今艦内なんだが────

 

「すげぇ、ほぼ新品じゃねぇかこの船。」

 

 文字通り新品同然の船の中を俺の荷物(と言っても私物はほとんど無い)の入ったバッグを自分にあてがわれた部屋に持っていく途中そうぼやいた。

 

「……なんか、俺浮いてね?この依頼ってもしかして訳アリ?」

 

 いやいやいや、依頼は掲示板に貼られていたし、軍港に行く途中何度もスマホで正規の物だって確認取ったし、軍港も正規の物だし。ちゃんと特殊部隊任期経験あるし。

 

 ……うん、たぶんそれだ。“特殊部隊任期経験要”の依頼が普通、汚れ仕事の上に機密保持絶対状態になるからな。今回はラッキーという事で。

 

 部屋に着いてドアを開けると────

 

「ま、ここは普通だな。」

 

 普通の一人用乗務員室だな。()()()風に言うとあの有名な“ビジネスホテル”

 って言うのかな?

 ほど狭い一室にベッド、机にロッカー。とりあえず軍服に着替えて、ロッカーの中にバッグを入れた。

 

「ん?」

 

 着替えた後、通路を歩いていたら前方から何人かが歩いてきた。俺はすぐに気をつけの姿勢で立ち、待つ。

 

 この軍服の肩の階級はこの船の船長と……上の奴らっぽいな。俺は通路の端で敬礼を保ち────

 

「……」

 

 ────その子と目が合った。へー、翠眼に肩より少し長めの金髪、整っている顔つきに小柄な身体つきの女の子。結構好みだな。胸は……

 

 うん、小ぶりだけど中々にイイカタチだね!どれかの上層部の秘書か何かかな?ちゃんと顔を覚えて後で会いに行くか。

 

 上層部っぽい奴らは俺に目もくれずただズカズカと歩き通す。船長はちゃんと歩きながらも敬礼を返した。女の子の方ははにかむような、何というか、曖昧な()()────?

 

「ッ?!」

 

 一瞬体がゾクっとするような感覚が走った。何だ、今のは?

 

 女の子が通り過ぎる。

 

 目はもう合わせていない。

 

 いや、()()()()()()()

 

 あたまのなかがぼーっとする。しかいがぼやける。あせがでる。きもちわるい。

 

 やつらがとおのく。

 

「ッハァ!」

 

 俺はいつの間にか息を止めていたみたいだ。呼吸を整い遠くなった奴らを見送る。

 

「何だったんだ、今のは?」

 

 寒気を遠ざけるように二の腕を擦る。

 

 少し出港した後で他の乗組員との顔合わせと知っている人がいるかどうか見に行ったら幸か不幸か知らない奴らばかりだった。彼らに話を聞いた所噂ではこの新型艦には今まで使えなかった超長距離飛行技術が搭載されているとかどうか。これで従来の光速飛行をさらに早くした“亜空間飛行”をテストする上にその“亜空間飛行”ってのを行った際に出来た“宇宙の穴”みたいなのを同時に固定するだとか。この“穴”の固定により他の船や通信も使用範囲が広くなるだとか。笑いながら“これで戦争は終結に近づいた”とか。

 

「へぇー。」

 

 ただへぇーとしか言えない。一般兵士の俺に関係無いんだが。ただ「へぇー、光速飛行より早くなるのかー」という感想しか浮かばない。化学部門でもなかったし。それに“これで戦争は終結に近づいた”は皆子供の頃から聞き飽きた。

 

 つか早よこの出港終われ。早く終わって、アパートに帰ってゴロゴロしたい。

 

 ちなみにさっき通路で合った(というか通り過ぎた)翠眼金髪の子の事を聞いたら誰もその子がどこにいるのか知らなかった。

 

 船が少し揺れて、艦内放送によると噂の“亜空間飛行”ってのに成功したらしく、体調不良を感じ始めた者や他の者の体調が優れない様だったらすぐに医療室に報告。

 

 まあいつもの事だな。他の奴らもほぼ放送聞いていないし。

 

 船がまた揺れて、ほかの乗組員が静かになる。ここにいる奴らは俺も含めて軍務の経験が長いからこういった事は────

 

「カクノリクミインハキュウメイポッドフキンニテタイキシテクダサイ。」

 

 ────船の機械知能の放送が聞こえた。てかこの声って確か機械知能の安い量産型じゃなかったけ?毎度の事とは言え、安く上がるとこ間違っていんな。

 

 俺は軽く他の人に別れや武運を告げながら自分の荷物を回収して救命ポッドの方向に向かった。

 

 さて、今回不時着する戦場は何処だろう?

 

 …………

 ……

 …さてと。

 

「周りの環境大気報告と現在地の確認照合。」

 

 結局救命ポッドの着地の揺れが収まって俺は機械知能に向けながら軍服から戦闘用のラフな防御服に着替える。いきなり戦場に着陸したってことはないだろう。

 

 まだこのポッドが無事だからな。だが油断は禁物、ポッドの中の銃器点検をとっとと済ませて出発だ。

 

「オツカレサマデシタ。ガイブノタイキハチッソ78%、サンソ21%ソノタ────」

 

 ────うし、当たりだ!宇宙服って窮屈だからなー。てか地球(テラ)に近いな?最近テラフォーミングが終わった惑星か?なら辺境惑星辺りか?

 

「ゲンザイチハカクニンデキマセンデシタ。」

 

 お、やっぱり辺境惑星辺り────ってちょっと待てやオラ。

 

「現在地の確認照合。」

「ショウゴウチュウ…………ゲンザイチハカクニンデキマセンデシタ。」

 

 What?(ホワット)

 

「現在地照合不明詳細の軽報告。」

「エイセイナドノジンコウテキデンパガキャッチデキマセンデシタ。イチジョウホウシステムニナンラカノボウガイノカノウセイアリ。」

 

 人工の電波が()()?おかしいな、そいつは初めて聞く。辺境惑星でも非軍事的衛星は設置されているぞ?

 

「…………出て行って見るしかないか。幸いにも静かだし、空気もある。」

 

 俺は覚悟を決めて救命ポッドの外に行く扉の近くに行きバックパックを背負い開けた。

 

「なんじゃこりゃ。」

 

 森。見渡す限り森。Forestだ。ジャングル一歩手前のMori。

 

 それだけじゃなく、木は全長数十メートル位あるし根っこが盛り上がっている。こんなの地球(テラ)の空気清浄機エリアの人工木でも見ないぞ────ん?

 

 そんなことを考えている俺の頭上に風が通ったと思って上を向いた瞬間牙ぞろいの()が降って来た。

 

「げぇ?!」

 

 俺は久しく使ってない本能バリバリ任せの回避行動で前に走ってバックパックが裂ける音が聞こえた。

 

「このッ!」

 

 俺の持っているサブマシンガンが火を噴き俺を襲って来た()()()()に命中する。

 

「ギャン!」

 

 そのはずみで奴の口からバックパックの中身が噴出される。何故()()()()と呼んでいるかっていうと他に言葉が思いつかんからだ。てか何処に二メートル弱の狼が存在するんだ?!デカすぎるだろ!45口径数十発食らっても平気って熊かよ?!

 

「グルルルルルル!」

 

 上から聞こえたと思って見たら()()()()どもが木の上から数匹飛び降りて来ていた。生態系どうなっていんだ?早く救命ポッドに避難────ってさっきの死にぞこないがきっちりブロックしてやがる!

 

 依頼にホイホイつられた俺を殴りたい。

 

 _________________________________________

 

 とまあ、大まかな走馬灯的なフラッシュバックご苦労さん脳みそさん。今にも俺に迫ってくるギラギラの牙を────

 

「ふんぬ!」

 ガキィン!

 

 俺が持っている銃(弾無し)を垂直方向にして噛みつくのを食い止めようと全力で押し返そうとした際に金属がぶつかり合う音が響き渡った。

 というか“ガキィン”って何だよ、“ガキィン”って。どんだけカルシュウム食っていんだよこいつ。

 

「ヌオオオオオオオオオオ!こなクソォォォォ!」

 

 抗った、文字道理必死に。アドレナリンやら他に人が縮地に陥った時に分泌するアレ。

 それでも迫りくる牙。

 

 やっぱ死んだわコレと思った瞬間、棒みたいなのが()()()()の頭から生えた。

 棒というか矢かこれは?

 ()()()()が絶命したのか体から力が抜かれて俺の下半身に圧し掛かり始める。オウフ。重いし獣臭ぇ!

 足を使って()()()()を横に押し倒し呼吸を整えながら周りを見る。かすんでいた視界が徐々にクリアになり、他に()()()()が見えるかどうか確認するが姿が見えない。

 

 俺は上を警戒し、見上げ────

 

 彼女と目が合った。

 




訂正などがあれば教えて下さい!

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第1話 「ええ子や」

次話です!是非読んでいってください!


 俺は見上げて、彼女と目が合った。デカい木の枝の一つの上に彼女はいた。

 民族衣装に弓と矢筒を装備し、腰辺りに短剣。碧眼にかなり長めのピンクブロンドの髪の毛。

 

 ピンクブロンドの髪なんて初めてリアルで見たぞ。

 

 彼女は木の枝からフワッと飛び降り────

おおおお!あの脚線美!Eccellente!胸部装甲はほどほどサイズだが形がイイ!ちなみにパンツは角度と服で見えなかった。ガッデム。

 

 俺はフラフラになりがらも体に鞭を打って立ちながらズボンポケットから数は少ないが疲労回復剤の針なし圧力注射器を打った。一応命の恩人の前だらしないところは見せたくない(俺も男だし。見栄っ張り?イイんだよんな事は。)

 

「……」

 

 弓に矢を構えながらもこっちに無言で歩いて来た。身長は俺と同じかちょっと低めな感じで顔は────

 

「綺麗だ……」

 

 ────“綺麗”と思わず呟いた。この一言でしか表せなかった。完璧に美少女だ。つか可愛い。えっと、まず友好的に事を運ぶには礼を────

 

「あ、ありがとう────」

「�����」

「────え?」

 

 ────俺が礼を言うとほぼ同時に彼女は声をかけてきた、が初めて聞く言語だった。こうなったら────

 

「ハロー、カンユゥーアンダースタンドミー?」

「�����?」

 

 キョトンとした顔でこっちを見る。だめだこりゃ、ぜんっぜん分からん。綺麗な声と顔だけど。

 

「えーと」

 

 俺はとりあえず敵意が無いことを証明するために“自分は丸腰です”という両手上げのアピールをしたがなかなか警戒体制を解いてくれない。よく見たら装備品とか服が旧世界の古代史位か?どんな所に不時着したんだ俺?

 

「�����」

 

 彼女が俺を指さしてまた喋る。

 

「あー、うー」

 

 こんな事になるんだったら奮発して言語解析人工知能搭載付きのスマホ買えばよかった────

 ん?なんか回りが光って────?

 

「ってなんじゃああああ?!」

 

 俺の体が光り始めたと思ったとたん消えた。ここってもしかして放射線があるところ?!俺の体ってこれから光るの?!

 

「あの────」

「へ?」

 

 あれ?彼女の言葉が分かるぞ?

 

「────早くラージウルフを持ってこの場から離れたいのですが、手伝ってくれませんか?さっきの騒ぎが他の魔物を呼び寄せる前にしたいのですが。」

「あ……ああ、もちろん!」

 

 ラージウルフって言うのかこの()()()()は。彼女はせっせと移動する為の作業を始め、俺も加わった。

 

「フー、こんなもんか?」

 

 少し身だしなみを整え(ガムテープは最高だな!ちなみにサブマシンガンも簡易点検してから回収した)、移動しやすいように近くにあった木の棒とかを簡易的な担架っぽいのに狼もどき────いや彼女が言うにはラージウルフか────を乗せ移動彼女と共に始めた。

 

「さっきはありがとう、俺はマイケル。」

「いえ、こちらこそ手伝ってもらってありがとうございます。私の名はケイコと言います。」

「さっきの矢、君のだろ?いい腕しているな。てか、普通に喋れるようになったな俺達?」

「いえ、あなたの魔術こそよく発動しているのに魔力の気配を一切発さないとはさぞ名のある魔術師なのでは?私も多少嗜む程度ですが、“意思疎通の風”位なら扱えます。」

「魔術?魔力?“意思疎通の風”?」

「……ご存じ無いのですか?」

「いや、まあ……うん、色々あって……」

「そうですか。」

 

 返答を濁しながら俺は“何言っていんだかこの子は”と思った。魔術や魔力なんて、そんなファンタジーめいたものを未だに言う奴がいるとは。もしかしなくてもさっきの銃声とかの事を“魔術”と勘違いしているんじゃ?というか銃声を知らない?“

 

 見た目通りあんまり発達してない文明の星なのかな?でも俺の知る限りそんな星は聞いた事がない。

 

 もしかすると実は“装備品は文化的制限があって本来はやはり近代化した文明”なんて言うのもありかも。ということは、ここはもしかして俗に言う“未開惑星”って奴か?だとしたら────

 

「あ、やっと森の出口が見えてきました!」

 

 考え込んでいる内に森から出られる所まで来たか。さて、これからどうするかと思いながら前方の眩しい程の光に足を踏み出した。

 

 _________________________________________

 

 森を出たらそこは草原と畑ばかりだった。

 

「へ?」

 

 いや“へ?”としか……今まで見慣れていた()()の都市があるようなビルが聳え立つ景色の代わりに見渡す限りの草原の中に畑。金色に輝いているのは確か“小麦”だっけ?実物を見るのは旧世界史の授業以来だな。

 

 俺は何とも言えない気持ちで周りを見ながらケイコの後を歩き、一応整備されている土道に出て両側に畑。それにあれは人?畑の中で何をしているんだ?武器も持たずに。

 

「?どうかなさいましたか?」

「ああいや、何だか……夢でも見ているんじゃないかって。」

「フフ、私は夢などではなく本物ですよ?」

 

 ケイコが笑い、俺は目をそらした。笑顔が、眩しい。畑の中にいる一人の男が俺たちに気づき、声をかけてきた。

 

「お~い!ケイコや、デカいウルフだな!」

「ええ!今から肉屋に持って行く所なの!新鮮な肉がもうすぐ売りに出るわよ!」

「こりゃ早いとこ、畑仕事をいったん切り上げてカミさんに伝えなきゃ損だな!ん?その坊主は誰だ?この辺じゃあ見かけねえ顔だな。」

「え?」

「どこから来たんだ?」

「お、俺は────」

「彼、森の中を遭難していたみたいなの!彼を助ける代わりに私の手伝いを申し出たの!」

 

 俺はどう答えたら良いのか迷っている所をケイコが答えてくれた。

 

「何だ、ようやく嬢ちゃんにも“コレ”が出来たのかと思ったぜ!」

「“コレ”?」

「ブッ?!」

 

 思わず吹き出してしまった。この星(ここ)でも小指使うんだな。俺はケイコの様子を窺う。

 

「“コレ”って何ですか?」

「がっはっはっは!ただの冗談だ!さて、いったん切り上げるぞお前ら!」

 

 男は笑いながら他の畑にいる奴らに声をかける。ケイコの方は見事な“ハテナ”マークが似合う顔をしている。

 

 歩いていると城壁らしき物が見えて、門を守護する兵士から声をかけ────

 

 ────られる事無く門を潜り抜けた。

 

 いやいやいや、警備体制緩すぎるだろ?!俺が言うのもなんだが服装 (ボロボロだが)が違う俺よりも逆にウルフに興味が行くとか地球(テラ)じゃ基本失格だ。

 

 あーだこーだと考えている内に町の中に入った。作りは旧世界で言う“中世”の少し前ぐらいか?そう言えば昔こんな時代をテーマにした娯楽町もあったな。

 

 出門の兵士同様視線が俺よりウルフに行っているな。

 

「ごめんくださーい!」

 

 ケイコが肉屋らしき建物(看板の文字が読めなかった)に入り店主に声をかけに行く。ようやく一人になって自分の容姿を見る。

 

 ところどころ破れた迷彩服(ガムテープで即席修理)に軍用ブーツ。バックパック(これもガムテープで即席修理)に腰の小銃ホルスター、肩から下げたサブマシンガン。

 

 傍から見たらどう見ても場違いな感じがするのは俺だけかと思って周りを見たら案の定余所余所しくも他の人らがチラチラと俺を見ていた。子供は俺を指差して連れの親に何か言っているし。

 

「なあ兄ちゃん────」

「へ?」

 

 振り返れば5,6歳位の民族衣装を着た子供が俺に声をかけて来た。

 

「兄ちゃんってお貴族様なの?」

「えっと、それはどうしてかな?」

「だって兄ちゃん、凄い模様の入った服着ているじゃん。」

 

 そう言えば他の人達が着ている服は皆質素な服装だ。

 考えてみれば今俺が着ている迷彩服は支給品とはいえ戦場で活動する為に色々と工夫がほどかされている。たまに“こんな機能いつ使うんだ?”と思っていたが今の俺の状況には不確定要素がありすぎて損はしないだろう。

 

「ああ、これか?これは戦うための服と言うか()と言うか────」

「すげえ!騎士様なんだ!でも剣も持っていないし、馬にも乗っていないし、見た事ない鉄の塊をぶら下げているけど?」

 

 やっぱり―こう言っちゃ失礼かもしれんが―この星の現地人からしたら俺の服装と装備は異様なんだな。ここはどう答えたら良いんだろう。

 

「えーと、俺は基本的に()()を使うんだ。森の中を遭難していて他の仲間とはぐれっちゃってね。その時にウルフに襲われて馬からもはぐれちゃったんだ。」

「ふーん、そうなんだ────」

 

 俺はさっきケイコが畑と話した男の会話を少し借りてありきたりな返答をする事にした。

 

「申し訳ございません騎士様!子供の無知をお許し下さい!」

「ちょ、母ちゃん!」

 

 途端に子供の母親らしき人が子供の頭を下げさせて自分も俺に頭を下げてきた。

 

「え?」

「子供とは言え騎士様にご無礼を、何卒────!」

「え、いや、ちょっと────」

 

 何で?え?ちょっと付いて行けん。

 

「あのう────」

 

 後ろからケイコの声がして振り返れば唖然とする肉屋の店主らしき男とケイコがいた。

 

「いや、俺に聞かれても────」

「魔術騎士様、どうかお許しを────!」

 

 “魔術騎士”と聞いた瞬間他のやじ馬がひれ伏し始める。これを見たケイコは凛とした、かつ優しい声を上げた。

 

「皆さん頭を上げてください!確かにこの方は()()()()()()()ですがこんな事を望むような方ではありません!どうか、頭を上げてください!」

 

 これを聞いた者達が恐る恐る頭を上げながら“ケイコ様が言うなら”とひそひそ話し合っているのを聞こえてくる。

 “ケイコ様”って、余程この子は慕われているな。

 全然驚かないけど、俺みたいな奴に動じないし、面倒見は良いようだし。

 

「では、買い取りありがとうございました。」

「あ、ああ。」

 

 何もなかったように肉屋の店主に笑顔を向けるケイコにたじろぐ店主。頭を上げた人たちはいそいそと場を離れ、店主はウルフを店の裏に持って行き、ケイコは俺の手を引き歩き始めた。

 

 手、柔らかいな。

 

 少し歩いて路地裏に引きずり込まれ────

 

「って力つよ?!」

「さっき何が起こったのですか?何故あんな事に?」

 

 ケイコは俺の目を真っすぐに見ていた。無表情だけど威圧感半端無い!

 俺は店の外で待っている間さっきの子供とのやり取りをケイコに話した。

 

「成程……そう言っては仕方が無い事ですね。」

「えっと、“騎士様”にも驚いたが、“魔術騎士”って────?」

「“騎士”など普通は貴族や貴族に所縁ある者達が普通なる職業ですわ。“魔術騎士”等となると“騎士”の中にさらに上の上位職業になります。」

「な、成程」

 

 イメージ的に俺の前に見慣れない軍服着ている奴が曹長と思って気軽に接したら実は少尉どころか少佐でしたー!な感じかな?そりゃ恐れ多くなるわ。

 

「いや、すまん。軽率だった。」

 

 俺が頭を下げるとケイコは少しびっくりした顔になり────

 

「いえいえ、わかって頂けるのなら幸いです。」

 

 ええ子や、マジで。

 

「ですが今からすぐ私の家に行き、詳しい話を聞かせてもらいます。」

「ア、ハイ。」

 

 でも時々怖え~!

 




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第2話 「“普通”」

 町の中を静かにケイコの後ろを歩くこと五分、視線を感じながらもケイコの一階建ての家に着き────

 

「って大丈夫か?このままで?」

「?」

 

 いや“この人何言っていんの?”って顔しながらキョトンとするのは反則だろ。

 

「家の人とかに迷惑じゃないのか?それに俺達合って間も無いんだぞ?」

「ああ、その心配は大丈夫です。家には私一人しかいませんから。それに、あなたは根が優しい人です。」

 

 へー、一人暮らしか~。じゃなくて!

 

「や、や、優しい人ぉ?お、俺が~?ど、どどうやって分かるんだそんなの?」

 

 な、何突然変な事言いだすんだ、キョドっちまったじゃねえか。

 

「だって、あなたの()()()がそう“語って”いますから。」

 

 いや、説明になって無い。この俺にも分かるように説明プリーズ。

 

「お、お邪魔しま~す。」

 

 俺は家に入り次第キョロキョロと家の中を見る。中は結構小綺麗で家具もそこそこ置いてある。玄関に靴を脱いだあと置くタンスみたいなのがあるのでブーツを脱いだ。“郷に入っては郷に従え”って言うしな確か。

 

 後矢と弓筒が置いてある台があったので俺もサブマシンガンを置く。小銃はホルスターにキープ、何があるか分からないし、もし万が一ここの人達と敵対する事になると何らかの護衛手段は欲しい。

 

「お茶を入れてきますね────」

「ア、ハイ。」

 

 俺は椅子に座り、周りを観察し違和感を持った。この家の作りは一人暮らしにしては少々大きいが、家の他の者の痕跡が見つからない。そういえば靴とかも無かったよな?本当に独り暮らしなのか────?

 

「お口に合うかどうか分かりませんが────」

「あ、ああ。すみません。どうも。」

 

 俺はコップを受け取り中のお茶の匂いを少し嗅ぐ。うん、毒や自白剤独自の匂わないな。単に俺の知っている類じゃないかもしれないが。

 

 俺はケイコがお茶を先に飲むのを待ってから俺も飲む。

 

「お、なんか“お~い粗茶”に似ている」

「“おおいそちゃ”?」

「いやこっちの話」

「それで、あなたは何処から来たのですか?」

「え?」

 

 “誰”と問われるより先に“何処から”だと?

 

「森の中で狩りをしていたら、突然大きな音がし、音の方向から貴方はラージウルフの群れに襲われていた。そしてそれだけでは無く、見た事も無い“魔力が発生しない”魔術を何度も使い、群れを撃退していた。貴方は一体、何者ですの?」

 

 これは……色々と見られているな。そんなに見ていたのに俺を助けたのは何故だ?メリットが見えない。俺が持っている物目当てだとしても最初に会った時の前に俺とあのウルフを射抜けば事は済んだ筈だ。何が狙いだ?

 

 待てよ、最初俺達は言葉が通じなかった。という事は説明などを通訳する為に生かされたという事か?

 こいつの目的が分からない。ここは慎重に────

 

「じゃあ最初から。俺の名はマイケル。マイケル・レナルト。ハウト連邦所属の軍人だ。」

 

 学生だけど。さあどう出る?

 

「“はうとれんぽう”?聞いた事の無い国ですね……それに家名持ちで初対面にそれを────」

 

 “聞いた事が無い”、ね。ならここは自然に聞き返せる筈だ。最後の方は声が小さすぎて聞こえなかったが、独り言か何かだろ。

 

「────ちなみにここは何処なんだ?“()”から降りて気が付いたら俺はあの森の中にいたんだ」

「“船から降りた”?森の中でですか?あの森の中にある()()に面している場所まではかなりの距離があった筈ですけど────」

 

 “船”を“宇宙船”じゃなくて水面上の“船”として取ったという事はやはりここの文明はまだ“宇宙飛行”を発明していないか、そもそもその概念が無いという事だが確信が欲しい。

 

「────ちなみに此処は“メンレ”の街です」

 

 掛かった。おっと無表情、無表情(ポーカーフェイス)

 

「いや俺が“ここは何処だ”と聞いたのは町の名前じゃなくてこの星の名前だ」

「この星の名前ですか?ガイアと言いますが────」

 

 やっぱり、知らない星の名だ。ここ“ガイア”は恐らくハウト連邦にとって未開惑星。ならば友好的に現地協力者を得る為に簡単な説明ともうちょっと砕けた感じに────

 

「俺が言う“ハウト連邦”とは多分ここの人達からしたら信じ難い話かもしれないが宇宙にある大国の一つだ」

「“うーちゅー”?」

 

 おっとここから説明かよ。

 

「あー、つまり“空”のさらに上に行くと“宇宙”。そして宇宙では他にここみたいな星がいっぱいあってハウト連邦は惑星数個をベースに────」

「?」

「────つまり俺は別の星の────」

「?????」

 

 あ、ヤベ。完全に聞き慣れている演説を丸パクリ(そのまんま説明)してしまった。ケイコの方は頭上ハテナマーク数個出していやがる。

 

「……えっと」

「すまん、俺も気が回らなかった。つまり────」

 

 今度は気を付けながら出来るだけ簡素な説明や()()()()()をした結果────

 

「成程。マイケルは宇宙(ソラ)の中でも“地球(テラ)”と言う星の戦士の一人で宇宙(ソラ)は無限に広がっているのですね。」

 

 どうしてこうなった。いや確かに友好的関係を築ける為に宇宙や他の居住可能な惑星の説明をしたが。

 

 て言うか“星の戦士”って旧世界の“アレ”そのまんまじゃねえか。あの三分でピコピコ光る奴。

 

 イカン、脱線した。

 

「ま、まあ概ね合っている……と思うぞ?で、俺が乗っていた宇宙の船が故障してそこから脱出したらあの森に着地してって訳。」

「成程、それは災難でしたね。」

 

 笑顔が眩しい。なんか変な気持ちだな。

 

「マイケルは戦士と言いましたね。では何と戦っているのですか?」

「ハウト連邦の他にディダ帝国ってのがってそいつ等と結構長く戦っているな。」

「マイケルは偉い人なのですか?」

「俺?俺は()()ぐらいだな。前線でちょくちょく戦っている。」

「それは……家族の者たちもさぞ心配なさっているのでは?」

「“家族”? ああ、あれだろ。“血縁者”の“親”とかだろ? 分からないな、俺家族いないし。」

「────え?」

「そんなの()()だぜ? 今時“血縁者”なんて。だってそうだろ?早く軍人になって、遺伝子を物理的に又はデータを登録してそれを融合、で子供が生まれて軍人育成設備に送られる。()()()()()()?」

「……」

 

 な、何だこの表情? 混乱か? いや、なーんか微妙に違う。

 

「……長く戦っていると言うのは────」

「ああ、もうかれこれ数世紀ぐらいかな? あ、“世紀”って“100年の期間”って意味で今は昔と違って物理的兵器だけじゃなくビーム兵器や人型の兵器も────」

「────ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 ────ケイコが急に立ち────

 

「うお?!」

 

 ────俺がびっくりする。いや、だから何だよその表情。 何の表情だよ? 惚けているのとはちょっと違うな。

 だが俺が言っている事は至って()()だぞ?

 

「あ?! す、すみません。」

 

 ケイコが気まずく座り直し、俺は冷えてきたお茶を飲む。

 

 あ~、うめえ~。

 

「で、さっきのどうしたんだ?」

「い、いえ……その……」

 

 やっぱ綺麗な子がモジモジするのってこう、グッとくるな。っとと、こっちも情報が欲しかったんだった。

 

「まあ、もっと入り込んだ説明は後にして、この星の事をもっと聞きたいんだが────」

「あ、はい! もちろん良いですよ!」

 

 ホント笑顔が似合うな、表情もコロコロ変わるのも良い。てかそんなに自分の星の説明が好きなのか?

 

「さっきも言った様に、ここは“メンレ”の街。この“キョーゲ大陸”の中央に位置している“大樹の森”周辺の街の一つです」

 

 フムフム、キョーゲ大陸のメンレの街ね。それにラージウルフがいた大樹の森。

 

「私はこの町で主に狩猟と巫女として活動しています。」

「巫女?」

「あ、えっと……“祈祷師”として伝えた方が良いのでしょうか?」

「ああいや、聞き慣れなかった単語だったから。」

 

 巫女とか祈祷師とか、本当に古代史の教科書の単語がリアルに出てきた!

 

「聞き慣れない?」 

「どんな事をするんだ?」

「え?魔物や獣、害意のある妖などを────」

「そっちじゃなくて“祈祷師”の方。」

「そうですね、人に掛けられた呪いや病、傷の類などを和らげる又は治療っと言った事などをしています」

 

 ほーん、衛生兵みたいの者か。 てか紛争や戦争って無いわけ? 古代史の中では割とあった筈だが。

 

「ちなみに戦争とかは無いのか?」

「戦、と言うのは聞かないですね。」

「え? 争いとか無いわけ?」

「それはもちろん人と人の価値観が少々違ったりしますが────」

「いやだから宗教とか文化とかの違いで“オラァ、ワレェ!何言っとんじゃワレェー!国で戦争だーボケェ―!”とかの王とか将軍とか」

「え、ええと……それは、何ででしょうか?」

「え"。」

「確かに時々価値観などが違う者が合うと口論や喧嘩など発生しますが国全体の兵士を上げるのは無駄なのでは?」

 

 なん……だと?

 

「えっと、マイケルさん?」

 

 分からない。

 

「……マイケルさん?」

 

 理解できない、戦争の()()()()()? 馬鹿な、人が二人いれば争うだろ? 戦争なんて()()()()()()

 

「ちょっと顔色が優れないようですが────」

 

 何だこの気持ち? 息をするのが苦しい。俺の体が傾き、椅子から落ちる。

 

「マイケルさん?!」

 

 ワカラナイ。ドウシテソンナヒョウジョウヲスルンダ?

 

「-!」

 

 アタマガボヤケル。キコエニクイ。

 

 ドウシテダ?

 

 ドウシテソンナ、カナシソウナメデミルンダ?

 




第二話“普通”、いかがでしょうか? 



追伸の予告っぽいもの:

“普通”、それは自分の“世界”以外知らぬ存ぜぬの者が周りを“ありのまま”として受け入れる甘い誘いの言葉

他の者の“普通”と遭遇し、始めて違和感を覚える

この違和感を“ありのまま”か“拒否”するかの選択に陥った者はどうする?

次回、「“日常”」



他者の“真実”が果たして“真の事”とは限らない。


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第3話 「“日常”」

今回はケイコ視点で少し長めですが、是非読んでいってください!


 私の名前はケイコ。 ()()しがない狩猟や巫女としてメンレに住んでいます。 

 このキョーゲ大陸の中央に位置する大樹の森の近くにある街です。

 え、家名? 家名は有るには有るのですが、()()さほど重要ではありません。

 

 私は朝早く目を覚まし、近くにある桶にお湯を出す。 右手から水を出し、左手で出した火球で温める。

 程よい量が桶に溜まり、肌着から狩り用の服に着替える際に体の寝汗を拭き、胸に布を巻く。

 

 私の自慢の髪の毛も念入りに櫛を使い、鼻歌をしながら整える。

 

 術式のコンロに魔力を流し、燻製の肉をお湯の張ってある鍋の中に入れ、煮ている間に野菜を切りこれも煮、簡単なスープを作る。

 

 朝ご飯を食べる前に、私は祈りを捧げ、肉や野菜、数々の積み上げた“モノ”のお陰の“今”に感謝をする。

 

 狩りに出かける前にもう一度身だしなみと装備品の確認、点検を済ませたあと、まだ日が出ているか出ていないか位の時間に森を目指す前に家の前を確認する。

 

 良かった、急ぎの薬の調合や患者の知らせの(ふみ)はいないみたい。 みんな、健康が一番。感謝の気持ちいっぱいに、私は森へと出かける。

 

 これが私の“日常”の始まり。

 

 いつもなら私はこの後、まだ獣や魔物の餌食になっていない薬草や薬になるカビを採取し、木の上の枝と枝を移動し、狩りを行う。

 狩りで街に脅威になりそうな魔物の群れや凶暴性のある獣を主に狙い、数を減らす。

 これが終わり、私は町に戻り、その日の収穫を売り捌いたり、在庫が少なくなってきた薬の調合や町の巡回を終えた後、一日の感謝を祈り、お風呂で疲れと汚れを取り、晩御飯を食べ、就寝の前に明日があることに祈りを上げ、寝る。

 

 これが私の“日常”であり続けると思っていた。

 

 その日もいつもの様に薬草や薬になるカビを採取し、木の上の枝と枝を風属性の“瞬時の浮遊(跳躍の強化)”を駆使しながら移動し、良い狩場を探している途中、耳の鼓膜が割れるような勢いのある音が頭上で発生し、反射神経でビックリしながらも上を見上げる。

 

 何かが空から降って────?

 

「────きゃ?!」

 

 移動中だったので着地が甘かったらしく、足を踏み外そうになるが移動の勢いを使い必死にしゃがみ、枝を両手で握り一回転した後座る。

 

「痛い……」

 

 まるで鉄と鉄の衝突が頭の横で起きた感じだ。 キーンとするが……さっきのはな────

 

 考えを纏めている最中にまた大きな音がした。今度は火山が噴火したような音がし、木が揺れる事数分。

 

「今のは……何? 流れ星かしら?」

 

 流れ星であるならば冷えるまで近くにいて採取すれば貴重な素材が入手出来るかもしれない。そう思った私は()()()が落ちたと思う方向へ駆け出していた。

 

 私は流れ星が落ちる際なぎ倒した木や千切れている枝を避けながら、土煙を出している“ソレ”を見た。

 

「何なのかしら、あれ?」

 

 シューシューする音がし、空気の流れが“ソレ”から発しているのが分かる。

 

「空気を出す流れ星?」

 

 見ている内にみるみる赤かった表面の色が変わる。

 

「え、もう冷えた?」

 

 まさかと思いながら、変な感覚と音が“ソレ”の方向から数度私の体を覆う。

 

 何だろう。まるでネットリする様な、体の中を探るような、頭を圧迫する様な嫌な感覚だった。

 

「ッ!」

 

 周りの空気が変わるのを感じ、私はさらに上の枝に上がった。一分も待たずにすぐ下を興奮したラージウルフの群れが私と同じように枝と枝を移動し“ソレ”の周りの木に潜む。

 

 こんなに興奮しているラージウルフは見た事が無い。さっきの変な感覚のせいかしら? 風上とは言え、こんなに近いのに察知されている様子が全く無い。

 

 急に空気が抜けるような音がし“ソレ”が卵の殻一部分を割ったかのように開き、()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()?  まさか、(いにしえ)()()()?!

 

 本当に()()()なら今すぐに事切れるまで射抜かないと大変な事になる!

 

 “ソレ”から出て来たのは斑模様(まだらもよう)の見た目をした服と、背負いカバン?、をした人だった。持っているのは何かの鉄の塊?

 

 おかしい、()()()が伝承通りならば鋼の体で出来ているはず。だが“コレ”は見るからに“人”だ。 天空人(仮)として今は名称変更しておこう。

 

 暗い髪色に平たい顔で周りを呆けた表情でキョロキョロと見る。

 可愛いと思ってしまうのはホリネズミみたいな仕草だからだろうか────? 前に

 

「��?!」

 

 天空人(仮)にラージウルフの一匹が襲い掛かり、天空人(仮)の斑模様(まだらもよう)の背負いカバンが若干破れる。

 天空人(仮)が驚きの声を上げ前に躓きながらもラージウルフに持っていた鉄の塊を振りかざす。

 

「��!」

 

 振りかざした途端、紙袋が破裂したような音が連続で響き、鉄の塊に付いている筒のような先端から火がでる。

 

 あれは何?

 

 辛うじてだが火が出る瞬間、筒の先端から()()()出るのを見た。っと思ったらラージウルフの体に無数の穴が開く。

 

「ギャン!」

 

 ラージウルフが痛がり、口に入っていた背負いカバンの布が落ちる。

 

 今のは魔術? 魔力の流れが全く感じなかった。矢の類でもない。

 

 ラージウルフの姿を見た天空人(仮)はさらに目を見開き、驚きの顔をしながら後ずさる。

 

 あ、そっちは危険です!

 

「グルルルルルル!」

 

 そう思った瞬間、木の上から群れの数匹のラージウルフが飛び降りて天空人(仮)に襲い掛かっていった。思わず私は弓に矢を構え、奇襲の機を窺うラージウルフを射抜き始め、存在を察知されてしまった。

 

「クッ────!」

 

 襲い掛かってくるラージウルフ達をかわし、彼らの眉間や足を射抜き、時にはすり抜けざま腰にある短剣で斬る。

 

 魔術、弓術に剣術を駆使し、周りにいたラージウルフの駆除をしている間さっきより遠い距離でまた紙袋が破裂したような音が連続で響く。

 

 私は最後の一匹を仕留め、急いで天空人(仮)の後を追った。 紙袋が破裂したような音がまた響き、私が駆け付けた時には天空人(仮)の胸にラージウルフの爪が食い込み、血が────

 

「��?!」

 

 ────血が出ず、体が吹き飛ばされ近くの木に衝突する。ラージウルフは最後の詰めと言う風に襲い掛かり金属がぶつかり合うような音が響いた。

 

「��������!��������!」

 

 天空人(仮)が聞き慣れない言葉でまた叫ぶ。さっきからこの叫ぶ声には()()()()()()()()()。どちらかと言うと、これは哀しみの────

 

 私が考えるよりも先に私の弓から矢が飛び、天空人(仮)を襲っているラージウルフの頭に命中した。絶命したラージウルフを自身から蹴り、彼と目が合った。

 

「���」

 

 天空人(仮)彼はあどけない顔で聞き慣れない言葉で私を見ながら何かを言う。 いや、そもそも天空人(仮)なのか?

 

 私が枝から飛び、瞬時の浮遊(跳躍の強化)の応用で足腰や膝に負担をかけず地面に降りた。 その瞬間だけ天空人(仮)から強い眼差しを受けた気がしたけどそれはすぐに消える。 私が天空人(仮)を見ると彼が立ち上がった。立ち上がる際に目眩がしたのか、自分の太ももに軽く拳を叩きつけた。

 

「�、����────」

「私の言っている事、わかりますか?」

「�? ��������────?」

 

 本当に聞いた事が無い言葉。 声から彼は男性と考えられるが、少し微妙ですね……がもし彼が本当に()()()ならその名に反応するはず。

 

「あなたは(いにしえ)に聞く“天空人”なのですか?」

 

「����」

 

 ……困りました。彼は本当に私が何を言っているのか分からない様ね。 意思疎通の風ならあるいは効くのでは?

 

 私は対象である彼に指を差し────

 

「精霊達ぞ。我の願ひ聞き、この者との話能ひして。“意思疎通の風”。」

 

「��������?!」

 

 私が唱え終わり、天空人(仮)が自分の体に精霊が宿るのを見た瞬間両手で蚊か何かを追い払うかの様にバタバタする。

 

 ……………何か持ち上げた子犬のように腕をバタバタするわね。 って楽しんでいる場合じゃないわ、ラージウルフ達の血の匂いが散漫しているはず。 ここから早く離れなければ────そうだわ。 “天空人”は下々の者に労働をさせていたと言う筈。 これでこの者が“天空人”かどうか────

 

「あの────」

 

「へ?」

 

 天空人(仮)はあどけない表情で私を見る。

 

「────早くラージウルフを持ってこの場から離れたいのですが、手伝ってくれませんか?さっきの騒ぎが他の魔物を呼び寄せる前にしたいのですが。」

 

「あ……ああ、もちろん!」

 

 躊躇も無く答えた。 これは……

 

 私は周りを警戒しながらラージウルフを移動しやすいように前足と後ろ足を近くにあった若くて曲がれる枝を切り落とし、くくり始める。 たまに布が破れるような音がしたので見ると天空人(仮)が薄く巻いた布を手で切り、自分の斑模様(まだらもよう)の服に付ける音だった。

 

 あれは何をしているんだろう?

 

 そう考えながら事切れたラージウルフを共に森の出口に移動し始めた。

 

「さっきはありがとう、俺はマイケル。」

 

「いえ、こちらこそ手伝ってもらってありがとうございます。私の名はケイコと言います。」

 

 話しかけられた。 (マイケル)は落ち着きを取り戻したのかさっきよりハッキリと声を出すようになった。

 

「さっきの矢、君のだろ? いい腕しているな。てか、普通に喋れるようになったな俺達?」

 

 そういえばさっきの鉄の塊の筒のの事を聞きたかった。

 

「いえ、あなたの魔術こそよく発動しているのに魔力の気配を一切発さないとはさぞ名のある魔術師なのでは?私も多少嗜む程度ですが、“意思疎通の風”位なら扱えます。」

 

「魔術?魔力?“意思疎通の風”?」

 

 マイケルはまるでその単語を初めて聞くように聞き返した。 おかしい、どんな人でも多かれ少なかれ魔力は生まれ持つ。 たとえ年を取り、魔力が退化するとしても()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ご存じ無いのですか?」

 

「いや、まあ……うん、色々あって……」

 

「そうですか。」

 

 思わずその“色々”の詳細を聞きそうになりました。 けど、マイケルの声のトーンと目を逸らす表情があまりにも哀しそうでやめました。 

 

 森が暗いからでしょうか?

 

「あ、やっと森の出口が見えてきました!」

 

「へ?」

 

 私達が森を出ると、マイケルから変な声が聞こえた。 何かあったのかとマイケルの方に振り向くと、そこには必死にラージウルフと戦っていた者の顔ではなく、あどけない、まるで世界を初めて見る子供のような純粋な目をした者ががあった。

 

 可愛い。思わず顔が()()()()()でにやけ始める。 彼はゆっくりと私の顔を見た。

 

「?どうかなさいましたか?」

「ああいや、何だか……夢でも見ているんじゃないかって。」

 

 夢? おかしい事を言うのですねマイケルは。 あ、これは彼の所謂(いわゆる)冗談の仕方なのでは?

 

「フフ、私は夢などではなく本物ですよ?」

 

 そう悪戯っぽく返したら彼は目を逸らした。 図星だったようですね。

 

「お~い!ケイコや、デカいウルフだな!」

 

 小麦畑の間にある道を歩いていると庄屋(しょうや)のハイムさんに声をかけられた。

 

「ええ!今から肉屋に持って行く所なの!新鮮な肉がもうすぐ売りに出るわよ!」

 

 ハイムさんは私の事を幼少から知っている、数少ない知人。

 

「こりゃ早いとこ、畑仕事をいったん切り上げてカミさんに伝えなきゃ損だな!ん?その坊主は誰だ?この辺じゃあ見かけねえ顔だな。」

 

 ハイムさんがマイケルを見、目を細める。

 

「え?」

 

「どこから来たんだ?」

 

「お、俺は────」

 

「彼、森の中を遭難していたみたいなの!彼を助ける代わりに私の手伝いを申し出たの!」

 

 マイケルの答えを遮り、嘘でも本当でもない事を言う。

 

「何だ、ようやく嬢ちゃんにも“コレ”が出来たのかと思ったぜ!」

 

 そう言いながらハイムさんが笑いながら小指を立てる。

 

「“コレ”?」

 

 あれは何だろう?

 

「ブッ?!」

 

 小麦が口に入ったのか、よくわからない吹き出し方をマイケルがするのを聞こえた。 あの立っている小指に何の意味があるんだろう?

 

「“コレ”って何ですか?」

 

「がっはっはっは!ただの冗談だ!さて、いったん切り上げるぞお前ら!」

 

 はて? 何なのだろう?

 

 そう考えている内にメンレにあるいつもお世話になっている肉屋に私は入る。

 

「ごめんくださーい!」

 

「はいよー!」

 

 奥から店主のサワモさんの声がする。少しするとお店の奧から出てきて────

 

「よーケイコ、いつもより早かったな!」

「ええ、森でラージウルフの群れと遭遇して────」

「お!こりゃ期待出来そうだな!」

「いえ、それが急に凄い轟音がしてラージウルフの群れ共々森から逃げたのですよ。その際に森の浅い所で群れからはぐれたラージウルフを仕留めまして────」

「あー、そりゃ災難だったな。 あの音はもしかして(りゅう)が争っている音じゃないかって噂でな────」

 

 確かに。 あの音だったら(りゅう)が暴れているように聞こえなくもないですね。

 

「で俺ァ言ったんだ、『(どらごん)ならともかく、(りゅう)だったら俺たちは今頃死後の夢の中さ』ってな!」

「ア、アハハハハ」

「ッと済まねえ、ラージウルフの買い取りだな。“これ”でどうだ?」

「それは銀貨五枚ですね────」

「アアン?! 銅貨五十枚の意味だ!」

「それは駄目ですね。 少なくともいつもの値段の銀貨一枚以上でないと悪い冗談にしか聞こえませんよ?銀貨四枚」

「そりゃ高すぎる! 銀貨一枚だ!」

「あら? ハイムさん達も久しぶりの大物の肉で急いで畑の収穫を切り上げましたよ? 銀貨三枚」

「ぬぐ……銀貨二枚」

「銀貨二枚に銅貨五十枚」

「……ほらよ、持ってけ!」

 

 にやにやしながらサワモさんが貨幣を数え、銀貨二枚に銅貨五十枚の入った革袋が渡される。

 

 良い人なんだけど「元商人のプライドが許せへん!」とか言って毎回ああいうやり取りをみんなに強いる。

 

「で? 肝心のラージウルフは?」

「あ、それなら大きいので外に連れの者が────」

 

 サワモさんと一緒に出るとそこは地面にこすりつける勢いでひれ伏している人達に困惑しているマイケルに。

 

 一瞬心が冷えかけたが向かいの通りの人達がマイケルを見ているのが分かる。でも何で?

 

「あのう────」

 

 何が起きたのか聞く為にマイケルに声をかける。

 

「いや、俺に聞かれても────」

 

()()()()()、どうかお許しを────!」

 

 マイケルの近くにひれ伏している子供と母親らしき女の人がそう叫ぶ。 マイケルはもっと困惑する表情で何が起こっているのか付いて行けないような感じがした。

 

 ここは────

 

「皆さん頭を上げてください!確かにこの方は()()()()()()()ですがこんな事を望むような方ではありません!どうか、頭を上げてください!」

 

 ゆっくりとだが恐る恐る頭を上げながらひそひそと“私がお願いするのであれば”と話し合っているのを聞こえてくる。

 

 これでこの場の人達は勘違いをした何度と恥ずかしみを受けず、かつマイケルは温厚な他所の者として受けられる。

 

「では、買い取りありがとうございました。」

 

「あ、ああ。」

 

 私は何もなかったようにサワモさんに笑顔を向け、マイケルの手を引き歩き始めた。

 

 後ろでサワモさんが私を呼んだと思うけど今はなるべく早くマイケルが何をどうやったのかあんな事になったのか知りたい。

 

 少し歩いて()()強引に路地裏にマイケルを引きずり込み────

 

「って力つよ?!」

 

「さっき何が起こったのですか? 何故あんな事に?」

 

 さっきの平伏す人達の景色を思い出しながらマイケルに事情を聞いた。

 

 ……

 

「成程……そう言っては仕方が無い事ですね。」

 

 マイケルは悪気が無く好奇心旺盛な子供とやり取りしていた事が分かった。 これは私の所為でもある。少しの間だけと思い彼を見知らぬ土地で一人にしてしまった。

 

「えっと、“騎士様”にも驚いたが、“魔術騎士”って────?」

 

「“騎士”など普通は貴族や貴族に所縁ある者達が普通なる職業ですわ。“魔術騎士”等となると“騎士”の中にさらに上の上位職業になります。」

 

「な、成程。いや、すまん。軽率だった。」

 

 マイケルが頭を下げた事に少し驚きながらも何とも言えない気持ちが沸き上がる。 

 

「いえいえ、わかって頂けるのなら幸いです。 ですが今からすぐ私の家に行き、詳しい話を聞かせてもらいます。」

 

「ア、ハイ。」

 

 何だろう、マイケルを放って置けない感じがする。

 思えば、この人との出会いと会話から私の“日常”が変化し始めたのだと思う。 

 この時は夢にも思わなかったが。

 




日本語独学者なので訂正すべき所などがあれば是非とも感想などお願いします!

初めて日本の古典を(チョロンと)使いましたが合っているかどうか。。。



ではまた、次の話で!



え? 今回は予告っぽいの無いかって? 今回は無いです。 強いて言うのならばケイコ視点続な感じです。


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第4話 「価値観」

第4話です! ケイコ視点(続)で短いですが、是非読んでいってください!



日本語独学者なので訂正すべき所などがあれば是非とも訂正のコメントお願いします!



もしお楽しみいただけたら是非評価や感想お願い致します!


 マイケルと歩き、家に戻ると「迷惑じゃないのか?」や「合って間も無い」など聞かれる。

 

 私は彼が“優しい”と答えると彼の虚を突いたのか、顔を逸らす。

 

 彼自身は気付いて無いかもしれないが、彼に掛けた“意思疎通の風”は私を媒体としているので彼の発している声からある程度の“意思”のような感じが何となく分かる。 魔術の心得がある者は自身の魔力を使って遮断はできるけど、彼にはそんな事をする素振りも無い。 気が引けるけど、私はこれも使い彼の“意思”を感じ取る事にした。

 

 今まで感じ取ったマイケルを一言で表現すれば“興味津々”。 時々他の“負”の様なものが入っているけど純粋な、まるで子供のような“興味津々”が主な意思として伝わってくる。

 

 家の中に入り、お茶を出し、飲みながら落ち着いたマイケルと話し始め、数々の疑問について質問した。

 

 ……

 

 マイケル・レナルト。 という事は家名持ち? しかも初対面の人に家名を堂々と?! え?! い、いえ何か理由がある筈。 

 

 ……

 

 “はううとれんぽう”に“うーちゅー”、“わくせい”。 聞き慣れない単語や()()()()()()()()()()()()()に生きてきた質問が返ってくる。

 

 彼は本当に一体何者なのだろう? 何処から来たのだろう?

 

 ……

 

 成程、彼は空の彼方より来た戦士。 そして彼はこの星ガイアとは別の星から来たと。 空のかなたを行き来する船が故障しここガイアに降りたと。

 

「成程、それは災難でしたね。」

 

 優しく微笑みながら相槌を打つ。 (いにしえ)の“天空人”の伝承と類似点が幾つかあるので私は身構えた。

 

 マイケルが言う“はううとれんぽう”や“でぃだていこく”のどちらかが“天空人”なのかもしれない。 もしかすると彼自身も……

 

 でも、さっき彼が自分の事を“戦う者”として話をした時に感じた“意思”は“誇り”や“義務”等ではなく、“()()()()()()()()()()()”。

 

 何なんでしょう? ()()()()()()()()。 

 

 私は思い切って彼に質問をする。

 

「マイケルは戦士と言いましたね。では何と戦っているのですか?」

「ハウト連邦の他にディダ帝国ってのがってそいつ等と結構長く戦っているな。」

 

 さっきのこの“意思”の感じは……そう、例えるのなら“疲れ”だった。

 やはり他の星でも“戦士”は疲れるのですね。

 

「それは……家族の者たちもさぞ心配なさってるのでは?」

 

 彼の父君や母君は大丈夫なのだろうか?

 

「“家族”? ああ、あれだろ。“血縁者”の“親”とかだろ? 分からないな、俺家族いないし。」

「────え?」

 

 ()()()()()()? そんな、そんな事って……

 

「そんなの()()だぜ? 今時“血縁者”なんて。だってそうだろ?早く軍人になって、遺伝子を物理的に又はデータを登録してそれを融合、で子供が生まれて軍人育成設備に送られる。()()()()()()?」

 

 ()()? マイケルが()()と称している“家族がいない”事に対して彼自身何も感じていない事で私の心は何とも言えない気持ちでいっぱいになりつつあった。 

 

「……長く戦ってると言うのは────」

「ああ、もうかれこれ数世紀ぐらいかな? あ、“世紀”って“100年の期間”って意味で今は昔と違って物理的兵器だけじゃなくビーム兵器や人型の兵器も────」

「────ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 ()()()戦っている? それは冗談か何かのつもりなのだろうか? 私は思わず立ち上がり、マイケルのビックリした顔と声で多少冷静さを取り戻す。

 

 何で立ち上がったんだろう? 彼の冗談は笑えない。 場の空気が少々気まずいものに変わり始める。

 

「で、さっきのどうしたんだ?」

「い、いえ……その……」

「まあ、もっと入り込んだ説明は後にして、この星の事をもっと聞きたいんだが────」

 

 彼の気遣う提案に私はホッとした。 

 

 ……

 

 彼は巫女と言う職業に馴染みが無かったらしい。 次に私が知っている近い職業の祈祷師もだ。 簡単に私は説明をする。

 

「ちなみに戦争とかは無いのか?」

「戦、と言うのは聞かないですね。」

 

 戦なんて、英雄譚以外から聞かない。

 

「え? 争いとか無いわけ?」

「それはもちろん人と人の価値観が少々違ったりしますが────」

 

 そう、価値観の違いからの争いはある────

 

「いやだから宗教とか文化とかの違いで“オラァ、ワレェ!何言っとんじゃワレェー!国で戦争だーボケェ―!”とかの王とか将軍とか」

「え、ええと……それは、何ででしょうか?」

「え"。」

「確かに時々価値観などが違う者が合うと口論や喧嘩など発生しますが国全体の兵士を上げるのは無駄なのでは?」

 

 国全体の兵士を戦いに投じる事には貨幣も資源もあまつさえ人の命も使い、結果がどうなろうとも失ったものは取り戻せない。

 それこそ同じ貨幣を武器や道具を作成するのに使うなら他の者の為や世代に残せる形にした方が良い。

 それに命は何よりも尊い。

 この世の何よりも。

 ? 何だろう、マイケルからから何か別の“意思”が流れ込む。

 

 これでハッとし、私は気が付く。

 マイケルの息遣いが荒く、彼の顔色も青白くなっている事に。

 この、彼から流れてくる“意思”。 これは────

 

 “拒絶”。

 

「マイケルさん?!」

 

 彼の体が横に落ち、床を叩きつける。 私は彼の痙攣する体に駆け寄り、素早く彼を“診る”。

 

 息遣いがもっと荒くなり、彼の脈が速く、体は冷たかったのに対し汗が滝のように噴き出していた。 私は急いで彼をベッドに運び、上着らしい服を少々強引に脱がし、彼の上半身の汗を桶に入れたお湯の中に染み込ませた布で拭いたあと予備の布で彼の上半身に巻いた。

 

 まだ体を痙攣で小刻みにし、苦しそうな唸り声をあげるマイケル。 体はまだ冷たい。

 この症状は過去に山に登り、急な吹雪にあってロクに雪と急激な温度低下に対応していなかった者たちと似ている。

 

 このままでは危ないと思った私は胸に巻いていたサラシを解き、寝着に着替えた後まだ震えながら苦しい唸り声をあげるマイケルの体を前から抱擁した。

 

「ゥ……ァァァ……ァァァ……ゥゥゥゥ」

「大丈夫、大丈夫ですよ。 私はここにいますよマイケルさん。」

 

 まるでわが子をあやすような母みたいに私はマイケルの頭を撫で、優しく声を掛け続ける。

 

 余程効果があったのか、マイケルの息遣いが収まり始める。

 

「ゥ……ゥ……」

 

 体温も徐々に上がり始め、唸り声も苦しいものから変わる。

 

 マイケルが落ち着くまで彼に声を掛け続け、撫で続けた。

 

 ……

 

 どれだけの時間が経ったか分からない。 ただふと窓を見ると日はきもに沈み、星々が出ていた。

 

「スー……スー……」

 

 胸の中で静かに寝息をするマイケルを見ながら私の顔が優しく微笑む。

 

「フフ。 こうしているとまるで大きな子供ですね。 余程────」

 

 ────寂しかったんでしょう、と言う前に気付く。

 

 ああ、成程。 彼から感じ取っていたのは“常に寂しい”、“癒しが欲しい”と言った欲でしたか。 私自身長らく()()()()()()()()ものですから()()()いました。

 

 彼はどれだけの時間戦い続けていたのだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()なんて。

 

 彼には休養が必要だ。

 

 彼の精神がどれだけ削り取られるのか私にはわからない。 どれだけ彼が苦しんだのか理解しようもない。 どれだけ哀しい思いをしていたのか見当も付かない。

 

 こんなに傷付いた彼を“天空人”等と疑っていた自分が恥ずかしい。 彼は唯の“人”だ、それ以上でも以下でもない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 だけど、少なくとも彼の話し相手位にはなれるはず。 傍にいる事もできるはず。 

 

 神よ。心から感謝します。

 

 こんな私でも()()()()()()()

 

 彼が,私と言う“揺り籠”が必要にならない日まで。

 

 神よ、私にこの役割を授けたあなたに感謝します。

 

 どうか。

 

 どうか。この子(マイケル)に安らぎの一時を。




ええ子や。(´;ω;`)ブワッ


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第5話 「新しい “おはよう”」

第五話です、是非読んでいってください!


 俺は気が付くと()()()()()()()()()()()()()()

 

 量産型人型兵器“機動兵(モビルソルジャー)”の中から周りを移動しながらモニター越しに見る。

 

 通り過ぎるアスファルトの転がっている空になり煙を発する薬莢。

 

 朽ち果てたコンクリートの()()の破片。

 

 相方や仲間の名前を叫ぶ者、腹に力が入らない霞む声。

 

 爆発の響く音。

 

 ()()()()()の一人がうろうろし、自分の引き千切れた腕を拾い上げ何処(いずこ)へと走る。

 

 俺は前方にディダ帝国兵の動きをセンサーでキャッチし、支給装備されている重火器を撃つ。

 敵兵が爆散している間に物陰に入り、無線機から聞こえてくる無数の情報、命令に援護射撃の要請。

 

 物陰として使っていたビルの中から何かが動き、俺は半場反射神経で機動兵《モビルソルジャー》の足で“ソレ”を踏み潰した。

 

 敵の伏兵なら俺がやられる。

 

 足を動かし確認すると火器類や爆薬の類はモニターに感知されなかった。そこにあったのはただ熟しすぎたトマトがぶちまけられたような光景があった。

 

 何だ、ただのアクシデント(巻き添え)か。

 

 何も思わないのかって? 何で? ()()()()()()()()()()()()()。 

 

『確かに時々価値観などが違う者が合うと口論や喧嘩など発生しますが国全体の兵士を上げるのは無駄なのでは?』

 

 彼女の声が響く。

 

 無駄? 兵士が()()

 

『戦、と言うのは聞かないですね。』

 

 戦争を()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()

 

『それはもちろん人と人の価値観が少々違ったりしますが』

 

 違う、そんな単純な話じゃ────

 

『それは、何ででしょうか?』

 

 分からない。わからない。ワカラナイ。わからない。

 

 だれか、おしえてくれ。 だれか────

 

 周りが暗くなり、不思議な浮遊感と暖かさに俺は包まれた。

 

 ……暖かい。 あの時を思い出す。 宇宙空間の戦闘で俺の機動兵(モビルソルジャー)は戦闘継続不能状態に陥って、俺は遠くからの地球(テラ)をボーっと見ていた。

 

 広く、暗い宇宙の中でのちっぽけな青い球体(ペイルブルードット)

 

 俺は手を伸ばそうとし────

 

「ッハ?!」

 

 俺は目が覚め、背中にはマットレスのような感覚に、頭の下に枕。 腕が重い。 そして────

 

「……見覚えのない天井だ。」

 

 言っちまったよ。これで隣に可愛い子が添い寝してたら────

 

「うお?!」

 

 隣を見たら美少女がすぐ傍で寝てた。

 トナリヲミタラビショウジョガスグソバデネテタ。

 となりをみたらびしょうじょがすくそばでねていた。

 

 大事な事だから三回言ったぞ。

 

 ……

 

 ナンデ?! ナンデビショウジョ?!

 

 いいいいや落ち着け、落ち着くんだ軍曹! 記憶を整理し、周りを観測し、状況を把握しろ! 臨機応変のイロハだ!

 出来なければ戦場は生き残れんぞ軍曹!

 

 えーと。 まず俺は不時着して、ケイコと言う子に助けられて、メンレの街に来て、魔術騎士と町の人達に間違われて、誤解を解いて……って解いたっけ?

 

 まあ今はいいや。 保留で。

 

 んでケイコの家に招待されて上がって、お茶飲みながら情報を引き出して(逆に引き出された気も気がしないが)……

 

 駄目だ。ここからが記憶が途切れてる。変だな、()()は96時間ぐらい休み(すいみん)無しで戦場で活動出来た筈だが。

 

 そういや待てよ。俺がケイコと初めて会った時に見え張る為に疲労回復剤打ってたな、森で。

 

 なるほど、理解した。うん。

 これは疲労回復剤の効果が切れたせいで気を失っていたな!

 

 いや~あれって凄い効き目なんだけど切れた時がヤバいのなんのって!

 Ha, ha, ha, ha, ha。

 

 え? 他に原因は無いかって?

 んなもん無い無い。 多分。

 

 ……で“コレ”どうするよ?

 

 そう“コレ”。 またの名をガイアという未開惑星現地人で俺の初めての知り合いナンバーワンのケイコだ。

 

 隣で静かに寝息をしているケイコだ。

 

 あ、良い匂いするなー。 

 

 双方の(主に俺の)為に離れよう。 俺の腕にしがみついているケイコの腕をそっと解き────

 

 グッ。

 

 そっと解き────

 

 グググッ。

 

 ()()()────

 

 ググググー!

 

 て、動かん! 腕が、全く動かんぞ! この細腕のどこにこのパワーが?!

 

 俺は腕の方を見たが、二の腕の先から下が見えなかった。

 ……あ、ありのまま今見ている事を話すぜ!

 

 下を見たら俺の腕が双璧に侵食されていた。

 

 な、何を言っているのか分からないかもしれんが。 

 

 うん、現実逃避するのはやめよう。

 

 俺の二の腕が挟まっているの双璧と言うケイコの胸部装甲だ。

 

 てちょっと待て、今日(同じ日か分からないが)森で見た時は“ほどほどでイイ”位だった筈のに今は“デカくてイイ”、略して“デカイイ”。

 

 俺の見間違いだったか? 距離があったから目視力が狂ったとか? 

 

「スー……スー……」

 

 それにしても……柔らかそうだな。

 

 どれ、ちょっとだけ────

 

 ────プニ。

 

 FUOOOOOO! 柔らけぇー! 

 

 プニプニプニプニプニプニプニプニ────

 

「ん、んぅ」

 

 ケイコが僅かにモゾモゾする。

 

 おっとっと。 危ない危ない。 いくら何でも“連続ホッペツンツン”は不味かったか。

 

 え? 何で頬っぺたかって? 

 だって柔らかそうだったからに決まってるだろう?

 で、振り出しに戻るけど────

 

「どうするよコレ、マジに」

 

 離れようにもガッチリと拘束され(しがみつかれ)てるし。 そもそもここは誰の部屋だ? ケイコの部屋にしては質素だし、客室か?

 

 ……する事が見事に何もねぇーよー! そうだ! こんな時こそスマホだ!

 

 もう一つの腕で俺はポケット(今更だが上半身が裸だった事に気づいた)を漁り、スマホを出した。

 

「流石軍用。 頑丈さは折り紙付きだ。」

 

 平凡な型だが一通りの機能が搭載されていて、体内電気を拾って自己充電するタイプだ。 “機能信頼性”をモットーに作られてこいつに紐を付けたケースを首からぶら下げる奴らもいたな。

 

 稀に弾除けとして機能する頑丈さだからな。

 

 片手で電源を入れ、久しぶりの人工的な光に目を細める。

 

 電波はさすがに圏外か。 まあ期待していなかったけど。

 

地球(テラ)の時間は午前二時か。ガイアの時間の流れが地球(テラ)と同じかどうか知らないが……」

 

 お、あったあった。 スマホに搭載されているカメラを寝ているケイコに向け────

 

「て暗いから見えにくいな。」

 

 俺は近くの窓の外を見る。

 

「うお。こりゃあなかなか。」

 

 窓の外にある夜空の星がクッキリと見える。 俺は思わず写真を撮る。

 

「て何してんだか俺は」

 

 だけど悪くないな。

 こう、なんというか。

 落ち着く……

 

 ……

 ……

 ……

 

「んあ?」

 

 光が瞼に当たって俺は起き上がる。

 

「朝か。」

 

 珍しく体が軽い。 こんなに良く寝たしたのは何時頃か。

 欠伸をしながらベッドから出るとテーブルに羽織るシャツみたいなのが目に入った。

 

 これって俺の為。だよな?

 

 置いてあるシャツを手にし、肌触りを確認する。 これは────?!

 

「木綿か?!」

 

 ス、スゲェ。 本物だ。 地球(テラ)では高級品だぞ?!

 少しワクワクしながら俺はシャツを着、部屋を出る。

 そういやバックパックの中身をもう一度確認するか。あと救命ポッドの確認だな。

 

「あ、お早う御座いますマイケルさん。寝心地はどうでしたか?」

 

 ケイコは笑顔を浮かべながら俺へと振り返る。

 

「お、お早うケイコ。 良かったよ、うん。 シャツありがとうな。」

 

「いえいえ、お気に召したのなら例など────」

 

 エプロン姿のケイコ、超アリだ。 親指を上げたグゥーよグゥー。Very good.

 

「はは。」

「? どうなさいましたか?」

「何か手伝える事は無いか?」

「そうですね……朝ごはんはもうすぐ出来ますので────あ! マイケルさん!」

「うお?! な、何だ?」

「苦手な物などありませんか?!」

「へ? い、いや別に無いぞ? ま、まあ非食用材を使うとかならまだしも……」

「“非食用材”? それは無いので……良かった、もしこれで食べれないとなると大変ですからね。」

 

 良かった。()()()とは違うベクトルで良かった。本当に。 

 

 て久しぶりだな()()()の事を思うのは。

 

 ってヤメヤメ。 死んだ奴の事を思っても()()()()()

 

「なら食材や香辛料など出来るだけ出してくれないか? とりあえずこの星の物が食えるかどうか試したい。」

「?」

「いや、こういう風に姿形が似ているとしてももしかすると生態系が違うかも知れないだろ?」

「???」

「えーと、とりあえず食材や香辛料などをお願いしたい。 実験として。」

「は、はあ。」

 

 ……

 

 ウェップ。

 

「ゲフ」

「あ、あの……お茶を持ってきましょうか?」

「グプ……オネシヤス」

 

 食べ過ぎた。 お腹がはち切れそうだ。 だがこれで少なくともガイアの食事は普通に食べれるみたいだ。

 

「はい、どうぞ」

 

 置かれたお茶を俺は少し飲む。

 

 は~、お茶ウマ~。 

 

「ん?このお茶は昨日と違うぞ?」

「ええ、今回の様にお腹が不調な時などに効くお茶です。 お嫌い……ですか?」

 

 ちょ、その上目遣いやめろやコラ。 罪悪感ッパネェ。

 

「いや、スッキリするからちょうど良い。 ありがとう。」

 

 少し落ち着いた後、ケイコもテーブルの向かいに座る。

 

「では、昨日の続きから始めませんか?」

「昨日の? ああ、お互いの事の話だったな。」

 

 そこからの話で俺はガイアの事をもう少し聞いた。 まず、この星の文明は俺が思った通り旧世界で言う中世当たりの文明で魔法や魔術、剣や弓などが普通に存在しそれを理解した上で人々が生きている。

 

 完璧にファンタジーだな。

 

 魔法と魔術は違いがあるのかと聞いたら、魔術は比較的誰でも微小な魔力だけでも術式や方式など分かれば使えるらしい。

 

 それに対して、魔法は魔術と違って“これ”といった術式や方式が無く、逆に“原初の理(げんしょのことわり)”をある程度の理解が魔法行使に必要と言われた。

 

 ナンジャソリャ。

 

 その“原初の理(げんしょのことわり)”についてケイコに詳細を聞いたがうまく説明だきないらしく、逆に俺に謝ってきた。

 

 なんだか胸の辺りがチクチクするが話を続けた。

 

 キョーゲ大陸には国と言う概念よりも“領地”みたいなのが強いらしく、様々な種族が生息しているらしい。

 種族と言うのは“亜種”や“上位種族”なども大まかに部類分けすると“人族”、“エルフ族”、“獣人族”、“ドワーフ族”、“精霊族”、“(リュウ)族”、“(ドラゴン)族”────

 

 って多いな! まだまだ続くのかよ?!  そもそも“(リュウ)”と“(ドラゴン)”ってあのファンタジーとかで出てくるクソデカいトカゲの事だろ?! どこがどう違うんだよ?!

 

 おっと無表情、無表情(ポーカーフェイス)

 

 俺は適当に相槌をし話を聞く。

 

 種族は違えど交流はあり、主に良好。 異種族同士手を取り合って適材適所の職業で補うらしい。

 

 何ソレ、そんな絵空事みたいな事が()()()()()()()? 

 

 まあいいや、今は社会の階級や職業の話に移ったな。

 

 お茶がお腹に効く~。




もしお楽しみいただけたら評価や感想、是非お願い致します!

しかし今のところガイアの話ばかりと思う方もいると思いますが、実はこれには訳が。。。

(;゜д゜)ゴクリ…


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第6話 「オレ、ワクワクすっぞ」

 ケイコから聞いた話では貴族階級というが存在し、多少の違いはあれど概ね議会議員、大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、に騎士。

 

 ちなみに魔術騎士は普通男爵以上、子爵未満とか。 あとは家柄や功績によって誤差があるとか。

 分からない? 頭がこんがらってきた?

 

 Ha, ha, ha。 大丈夫さジョージー、俺もさ!

 

 ……約一時間後……

 

 すっかりお腹の調子が良くなった頃に俺は()()の疑問を繰り出した。

 

「っで、君は何で俺にこんなに良くしてくれているんだ?」

「え?」

「先日のラージウルフを町に持って来るまでは良しとしよう、だが見ず知らずの俺を自分の家に上げベッドも貸し食料も提供している。 見たところ君は裕福な日々を過ごしてるようには見えないから聞くけど何でこんなに良くしてくれているんだ?」

 

 目的は何だ? 何を得たい?

 

「理由は必要なのでしょうか?」

 

 ……何だと?

 

「自分が裕福であろうが無かろうが、人助けをする為に理由は無くて良いのではないのでしょうか?」

 

 と、言う事は? 今まで彼女がして来たのは()()()()()からだからか?

 

「あ、あとご自分の星に帰るお手伝いも致しますが?」

 

 ()()()()()事だが仮に万が一今までの行動がすべて本当に善意からだとしたら────

 

「ああ、ありがとう。助かる」

 

 ────この状況を最大限()()()()

 

「で帰り方についてなんだが俺が不時着した救命ポッドに戻りたいんだが」

「あの鉄の塊ですね。 そう言えば何故あなたの乗っていた船は故障したのですか?」

「ま、()()()()さ。“船に異常があったから各自は命が惜しければ脱出。しなくて死んでも知らん”って感じさ。」

「……」

 

 まただ。 また()()()をする。 俺は変な事を言ってるつもりは無いがどうも“人の命”の話題になると()()()をする。

 

「コホン。 救命ポッドに行けば少なくとも今よりは装備や備品が揃う筈だ」

「では、出る用意をしておきますね。 あなたの持っていた背負い鞄はあそこに置いてありますので、準備出来次第玄関で会いましょう」

「ああ、色々ありがとう」

 

 ケイコが立ち上がり、ダイニングの部屋を出る。

 

「……あ、しまった! 風呂の事聞くの忘れてた!」

 

 後で聞くか。 俺はダイニングの端に置かれていたバックパックを漁り中身を確認し始める。

 

 _________________________________________

 

 私はダイニングの部屋を出て、マイケルとの会話で確信する。

 

 彼の心は“病んでいる”と。

 

 しかも彼はそれに気づいていないらしく、非常に不安定な状態だ。

 

 さっきの彼の言葉を思い返し────

 

『ま、()()()()さ。“船に異常があったから各自は命が惜しければ脱出。しなくて死んでも知らん”って感じさ。』

 

 ────まるで人の命を使()()()()()()()()と平然に、何の動揺も無く説明する彼があまりにも可哀そうで……

 

 やはり私が出来る事は何でもしよう。 

 

 それで彼の心が癒せるなら私は満足だ。

 _________________________________________

 

 俺がバックパックを背負いながら玄関に行くとケイコはすでに待っていた。

 

 家を出ると、ケイコは目を閉じ何かをボソボソと言う。 それが終わり、家の前のあるポストの箱みたいなのを確認し俺の後を追う。

 

「お待たせしました」

「今のは?」

「急ぎの薬の調合や患者の知らせの(ふみ)がないかどうか見てました。」

「じゃなくてボソボソしてただろ? それも何かの魔術か?」

「いえ、(ふみ)が無い事に感謝を上げてました」

 

 う~ん、このにっこり顔。 こいつマジでいい奴なんじゃね? 地球(テラ)の金の亡者のクソッタレ(医者)どもにこいつの爪の垢でも飲ませたい。

 

 街の中を俺達は歩き、昨日みたいに注目を浴びる事無く森の中に着いた。

 

「そう言えばさ、俺にも魔術とか魔法って使えねえかな?」

「その“筒”はやはり違うのですか?」

 

 彼女は銃を指さす。

 

「これはちょっと特殊でな。連続で発射すると、えーと、()()()()()()()組み直さないといけないんだよ」

「はあ……」

「と、言う訳で迷惑じゃなければ教えてくれないか?」

「そう……ですね。 使えるかどうかあとでお試しなりますか?」

「ああ、頼むよ。」

 

 ────と表面()で冷静な仮面を被るが、中身は最高な気分だ。

 

 森の奥へ進むと俺はサブマシンガンを構え、ケイコは弓に矢を構える。

 

「やはりおかしいですね。」

「何が?」

「森の獣達や鳥がいません。」

「そういや、そうだな」

 

 レーダーや探知機が恋しいぜ。 この際贅沢は言わんから遠赤外線方式(サーモ)ゴーグルでも良いぜ────

 

「着きました。ですが────」

 

 うひゃあ、救命ポッドの周りにウルフがわんさかいやがる。 まるで群がるハイエナだ。 この木の根っこがデカくて助かる、ちょこっと身をかがめば体がほぼ隠れる。。

 

「何故、こんなに?」

「知らね」

 

 途端にケイコの体ビクッとし、ウルフ達が唸り始め、ウロウロし始める。

 

「な、何だ?」

「マイケルは感じなかったんですか? こう、ネットリする様な? 体の中を探るような、頭を圧迫する様な嫌な感覚が」

「いんや?」

 

 ん? 体の中を探るような? まさかあの救命ポッド、ずぅっと救命信号を発信してたのか?!

 

「やはり私たちに気付いていないですね。」

「う~ん……」

「どうしたんですか?」

「い、いや。どうやってあの群れを退かせよう(殺そう)かと考えてた」

「そうですね、数が多いですし。どうやって退かせる(生かす)か迷いますね」

 

 お? 気が合うな。 

 気が合うついでにここは少しカッコ付けるか。

 

「なあ、もし俺があいつらを撹乱するってなら援護はできそうか?」

「と、言いますと?」

 

 俺はニカッとケイコに笑いながら立ち上がった。

 

「うし! じゃ、俺もちょっぴり本気出すか!」

「?」

「お前の矢の腕、信じてるからな。」

「は、はあ」

「あと俺が良いって言うまで()()()()

「それ────?」

 

 ここでケイコがどの位動いてる的に矢を当てれるか把握して損はないだろ。俺はサブマシンガンと小銃の安全装置(セーフティー)を外し、バックパックを外す。

 

「フゥー……フィジカルリミッター(物理強化の制限装置)限定解除と共にリフレックス限定強化(反応速度強化)。」

「な、何を────?」

 

【マイケル軍曹ノフィジカルリミッター(物理強化の制限装置)限定解除オヨビリフレックス限定強化(反応速度強化)を承諾。良い戦果を期待してイマス。】

 

 頭の中の機械的な声が言い終わると共にケイコの声が段々と遅くなり、声もトーンが落ちてくる。

 

 オレ、ワクワクすっぞ(キリングタイムだ)

 

 周りが遅く、スローモーションに動く。 

 

 心臓の鼓動が耳の中で鼓動するかのように聞こえる。

 

 これこそハイって奴だ! 気分爽快だぜ!

 

 俺はこの状態のまま()()()()()()に襲い掛かる。

 

 _________________________________________

 

 私がマイケルから流れてくる“意思”が変わったと気が付いた頃には、彼はもうラージウルフの群れ中央の中にいた。

 

「掛かってこいや、ヒャッハー!」

 

 ()がそう叫びながら鋭い目つきでラージウルフの群れに向かい、彼の持っている筒からまた紙袋が破裂する様な音がし始める。

 

 これは────

 _________________________________________

 

 ()()邪魔者()を撃ち始める。 

 

 弾倉を交換。

 

 撃つ。

 

 弾倉を交換。

 

 回避しながら方法から撃たれる矢を観測。

 やはり良い腕だ、正確に(邪魔者)の機動力を奪っている。

 そこを俺は邪魔者()の脳天を打ち抜く。

 

 ダンソウヲコウカン(弾倉を交換)

 

 ウツ(撃つ)

 

 ザツオン(雑音)ガハイッテクル(が入ってくる)

 

 ムネガモヤモヤスル(胸がモヤモヤする)

 

 ナンダコレハ(何だこれは)? テキカ(敵か)? テキナラ(敵なら)────

 ────両腕が後ろから抑えられる────

 ────ハイジョアルノミ(排除あるのみ)────

 ────拘束者の腕を逆に掴み取り、力任せに前に投げ────

 ────テキノムリョクカ(敵の無力化)ヲカイシ(を開始)────

 ────地面に叩き付け(ちょっと待て)間髪入れずに銃口を(俺の後ろには)────

 ────ヒキガネガオモイ(引き金が重い)────

 

【現健康体デノリミッター制限に到達シマス。 お疲れさまデシタ軍曹。】

 

 ────俺の“意識(理性)”が頭をクリア(冷静)にする。

 

 周りの音が戻り始め、景色(視野)が戻り始める。

 

「ウ……マイ……ケルさん」

「……あ」

 

 地面との衝突で息苦しそうなケイコが俺を見ている。

 

 なんてこった。

 

 まさか彼女が援護に徹せずに()()()()を起こしてしまうとは。

 

「どう……して────」

 

 ああしまった、舞い上がってIFF(敵味方識別)タッグを渡し忘れてた。

 怒ってるだろうな。

 でも“良いって言うまで近づくな”って忠告はしたけどな。

 ケイコがまた()()よく分からない表情に戻ってる。

 

「済まない、わす────」

「────どうして殺してしまったんですか?」

 

 へ? 何言って────?

 

「そんなに簡単に()()()()()殺してしまうんですか?」 

「え? いや、だって」

 

 俺は手を放し、僅かに後ずさりケイコがよろめきながらも立ち俺を見る。

 

「獣とは言え、彼らも命あるもの。 彼らと私達は何も殺しあう必要は、なかったのでは?」

 

 いやだって、駆除で殺すのは普通だろ? 

 

「なんでそんなに怒ってるんだよ?」

「あなたには……いえ、あなたは────」

「お、おい!」

 

 ケイコが前倒れに落ちそうになり、俺は思わず彼女を受け止める。

 

 脈もあるし息もしている。 過労かただ単に打たれ弱いか。

 

 まあどっちにしろ今の俺には好都合だ、今の内に救命ポッドに残された備品入手と現状確認だ。

 

 その後メンレに戻ってケイコの看病しながら今までの情報のおさらいだな。




さてさて、情報のおさらいという事でこちらも読者用に情報まとめみたいなのも入れる予定です。

See you at the next part!


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開幕 情報まとめ(六話まで、各キャラ視点入り)

読者用に情報や登場人物をまとめました!

時々こんなのを投稿する予定です。


 今までの登場人物:

 

 *マイケル・レナルト*

 地球(テラ)出身のハウト連邦所属の軍人(学生)。階級は軍曹。 数世紀におよぶ戦争の従軍中に新技術仕様の超長距離飛行中の宇宙船の難破により、未確認の星ガイアに不時着しケイコに命を救われ、これまでの価値観を揺さぶられ始め戸惑い始める。 なお、特殊部隊(汚れ仕事)の経験がある様子。 ちょっぴり(ド)スケベっぽい。 暗い髪色に平たい顔、家族無し。

 

 今までの事をどう思いますか?/色々あるが久しぶりにワクワクするぜ! 特に美少女がいるからな!

 

 他の人の事をどう思いますか?/プロポーション抜群でお人好しだがたまに訳の分からない事を言う上に変な表情で俺の事を見る。 ちなみに目視だがスリーサイズは-

 

 神や上位存在について。/胡散臭ぇー、そんな物はディダ帝国の奴らで十分だ。

 

 これからどうしたいですか?/ガイアも悪くないがド田舎過ぎる。早く地球(テラ)に帰りてぇー

 

 *ケイコ*

 ガイア出身の狩人、巫女、一人暮らし。戦とはほぼ無縁な様子で自然と命あるもの全てに強く保守的。 ガイアに不時着した“空から来たりし戦士”マイケルを助け、彼の価値観や思考が自分のとあまりにも違い戸惑いながらも彼の事が放って置けないと思う。 優しく、面倒見が良く、碧眼に長めのピンクブロンドの髪。 弓の扱いは上手らしい。 マイケル曰脚線美持ちでサラシ無しだと胸部装甲が“デカくてイイ”、略して“デカイイ”。 メンレで平民に少々慕われている模様。

 

 今までの事をどう思いますか?/色々あり、今までの日常が変わりました。これも“運命”という大河の流れなのでしょう。

 

 他の人の事をどう思いますか?/マイケルは……変わり者ですね。時には子供のように純真な時もあり、時には(多少失礼かもしれませんが)少々“理解し難い”場合もあり、不安定な感じですね。 彼の心には大きな傷があり、癒しが必要です。 根は優しい人なのに、いったいどんな事を体験すればこんな事に?

 

 神や上位存在について。/マイケルとの出会いも神の御意志なのでしょうか?

 

 これからどうしたいですか?/マイケルと話し、彼が安らげる環境を作りたいですね。 そして、私が必要なくなったら-

 

 *ハイム*

 ガイアでケイコが現在住んでいるメンレの町の庄屋(しょうや)。 気が良く、ケイコを幼少の頃から知っている数少ないケイコの知人。 既婚者。

 

 今までの事をどう思いますか?/今年の小麦は豊作だな! あとは嬢ちゃん(ケイコ)と一緒にいた坊主が気になるな。

 

 他の人の事をどう思いますか?/嬢ちゃん(ケイコ)は誰が何と言おうと嬢ちゃん(ケイコ)だ。

 

 神や上位存在について。/毎日がある間感謝をするぜ。

 

 これからどうしたいですか?/カミさんと幸せに暮らしゃあそれでいい。出来れば嬢ちゃん(ケイコ)にも幸せになってほしいが-

 

 *サワモ*

 ガイアでケイコが現在住んでいるメンレの町の肉屋の店主。 元商人のせいか値切りあうのが癖らしい

 

 今までの事をどう思いますか?/新鮮なラージウルフが安く手に入ってホクホク顔が止まらん。

 

 他の人の事をどう思いますか?/ケイコは人として良い、がお人好しすぎる。ラージウルフもほぼ原価で売り、こっちが金をもっと渡そうとしても受け取らない。

 

 神や上位存在について。/ボチボチ儲けさせてもらってます。

 

 これからどうしたいですか?/生肉の臭いを消す物ってないかな? “浄化”使いは高ぇし、匂いが服に染み付くし……

 

 *“アイツ” (仮)*

 マイケルが5話で“チラッと”話した相手。 マイケル曰非食用材を料理に使っていて、既に亡くなっていると思われるが-?

 

 今までの事をどう思いますか?/……

 

 他の人の事をどう思いますか?/……

 

 神や上位存在について。/……

 

 これからどうしたいですか?/……

 

 *“金髪の子” (仮)*

 プロローグでマイケルの乗っていた宇宙船が難破する前に自身がナンパしに行こうと思っていた翠眼に肩より少し長めの金髪、整ってる顔つきに小柄な身体つきの女の子。 秘書か何かだったらしいが-?

 

 今までの事をどう思いますか?/どこから始めたら良いのか分からない。

 

 他の人の事をどう思いますか?/知らん奴は知らん。

 

 神や上位存在について。/F○○k them. Piss off.

 

 これからどうしたいですか?/……

 

 地理:

 

 *地球(テラ)

 マイケルが依頼を受託した星。“家族”、又は“血縁者”、がいるという事が珍しい。 人は早く軍人になって、遺伝子を物理的に又はデータを登録してそれを融合、で子供が生まれて軍人育成設備に送られる事が普通。(マイケル説) *注:今はこれだけ判明*

 

 *ガイア*

 ケイコの出身星、様々な種族が住み、共存している。 今まで判明している文明レベルは中世辺りだが魔法や魔術といったものが存在する。 貨幣は金貨、銀貨、銅貨。 貴族制がありケイコ曰“国”ではなく“領地”という意識であるが、議会議員と言う機構もあるらしい。 “戦うもの=騎士”と子供は考えている。

 

 *キョーゲ大陸、ガイア*

 ガイアにある大陸の一つ。

 

 *大樹の森、キョーゲ大陸、ガイア*

 キョーゲ大陸の中央に位置する森、マイケルが不時着した場所。 木は全長数十メートルにも上る。

 

 *メンレ、キョーゲ大陸、ガイア*

 ガイアにあるキョーゲ大陸の町の一つ。

 

 機構、組織又は団体:

 

 *ハウト連邦*

 マイケルが所属する地球(テラ)の大国の一つ。 今まで明らかになった技術レベルは現在の21世紀のものがあるものの発達した機械知能、人工知能やヒト型兵器、宇宙船に惑星テラフォーミングといったものが見れる。 ディダ帝国と長い間戦争中の模様。

 

 *ディダ帝国*

 ハウト連邦と対を成す大国。 憶測だがハウト連邦と長い時間戦争できる国力と技術を持っている模様。

 

 登場した魔物、単語や“句”:

 

 *ラージウルフ*

 マイケル曰全長2メートル弱の狼もどき。群れを成し俊敏を活かした狩りを行う。 ケイコ曰察知能力が高い筈だが-?

 

 *限定的自由権 (ハウト連邦)*

 文字通り軍務からの限定的自由権。 依頼をこなさなくていい券。 別名“普通に生きてオッケー”券。

 

 *救命ポッド (ハウト連邦)*

 救命ポッドと言うより兵士を戦場に送り出すドロップポッドの使い方が主らしい。

 

 *疲労回復剤 (ハウト連邦)*

 名目上兵士の“過労回復”と言っているが実は“疲労”と言う体の電気信号などを脳に到達するのを一切遮断すると21世紀のところで言う“ヤバイ”薬。 本来の使い方は縮地脱出や“最後”まで戦う為らしい。

 

 *機動兵(モビルソルジャー)

 量産型ヒト型兵器“モビルソルジャー”。 ハウト連邦及びディダ帝国も使っている模様。 軽々と小さな分隊なら踏みつぶせるサイズ。

 

 *スマホ (ハウト連邦)*

 体内電気を拾って自己充電するタイプが主流。 “機能信頼性”をモットーに作られ、機能はピンからキリまであるがマイケルは平凡な型を使っている。 稀に弾除けとして機能する頑丈さ。

 

 *魔力 (ガイア)*

 どんな人でも多かれ少なかれ誰もが生まれ持つ力。 魔法や魔術などの行使に使われる。

 

 *魔術 (ガイア)*

 比較的誰でも微小な魔力だけでも術式や方式など分かれば使えるといわれる魔法の簡易版。

 

 *魔法 (ガイア)*

 魔術と違い術式や方式が無く、“原初の理(げんしょのことわり)”の理解が行使に必要。 尚ケイコ曰、“原初の理(げんしょのことわり)”は説明しにくいらしい。

 

 *ガイアでの家名*

 家名持ちは何らかの家柄を示し、あまり振られていないが初対面の人に家名を堂々という事はビックリする事らしい。

 

 *意思疎通の風 (風属性)*

 『精霊達ぞ。我の願ひ聞き、この者との話能ひして。』

 媒体を通し、指定した者の発する声からその者の“意思”を拾い、精霊が使用者の使う言語に変換する。 自信を媒体として党せばある程度標的とした者の“心境”を拾えるがこれは基本的にマナー違反とされている。 標的が自分の魔力を使い“心境の漏れ”を遮断することも可能。

 

 *瞬時の浮遊(跳躍の強化) (風属性)*

 風を操り移動力を強化する魔術。

 

 *天空人*

 “空から地に落ち、流れ星から生まれた人”。 体が鋼でできて、下々の者に労働をさせていたと伝承がガイアにはあり、ケイコがマイケルを警戒した理由。

 

 *(りゅう)(ドラゴン)

 ガイアではこの二つは違うらしい。 マイケルは両方“クソデカいトカゲ”と心の中で呼んでいる。

 

 *フィジカルリミッター(物理強化の制限装置)(ハウト連邦)*

 使用が“承諾”されると使用者の体のあらゆる制御が一時的に解除され、使用者の健康状態によって使える時間などが調整される様子。 その“良い戦果を期待している承諾者”とは-?

 

 *リフレックス限定強化(反応速度強化)(ハウト連邦)*

 使用が“承諾”されると使用者の脳が一時的に活性化され、使用者の健康状態によって使える時間などが調整される様子。 その“良い戦果を期待している承諾者”とは-?

 

 貴族階級 (ガイア):

 議会議員、大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、魔術騎士、男爵、騎士の順にある。 家柄や功績によって多少の上下誤差が生じることもある。




ちなみ今現段階でキャラクターたちが説明したり彼らの理解の範囲内のみ提示しています。

では、see you all in the next chapter!


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第7話 「なるほど、分からん」

第7話です! 今回もマイケルとケイコの視点があります。

中々、物語が進まないなぁと思われてる方もいると思いますが、何卒見放さない下さい!!


 やあ、こんにちわ。俺の名はマイケル。マイケル・レナルト軍曹。れっきとしたハウト連邦────

 

 え? それはもう良いって? 

 

 いやだってそうでもしないと背中の感覚に脳みそが行っちまいそうだから。 

 

 軽いし、柔らかいし、いい匂いするし、これでリミッター(制限装置)解除後じゃなかったら発狂しそうなぐらいテンション滝登り具合なんだが。

 

 う~ん……情報まとめはしたし、あと出来る事と言えば今の現状の事を整理する事と救命ポッドについてだな。

 

 今背中に気を失ってるケイコをおぶってメンレに戻ってる途中だ。 

 

 以上。

 

 何でこれだけかって? 聞くなよ、ハズイから。

 

 救命ポッドについては大当たりだった。 どうやらずっと現在地の照合検索と平行してちょくちょく救命信号を出してたらしく受信確認のログがあった。

 

 どこがどうなったら受信確認可能か分らん。 この星には人工衛星や電波が無かった筈なのに? でも結果オーライだからあまり気にしない気にしない。

 

 でだ、今俺はメンレの町の外にいる。 正確には城壁の外だ。 何で入らないかって? 言うと思ったから想像して見てほしい。

 

 背中に気を失った少女を背負っている言葉の分からない奴が城壁を普通に通れると思うか?

 

 通れたとしても他の誰かに止められて少女の具合を質問されても今の俺には言語が分からないから“言葉が通じない+気を失っている少女を背負っている不審者”確定されて衛兵を呼ばれて連行というオチだ。

 

 そこで俺は戦術的待機(ヒマ)を持て余して野外隠密行動(外で身を隠し)中だ。

 

 幸いにもここら辺は訓練場か何かで身を隠す所も川も近くにある。 ケイコも横になれるしな。

 

「う~ん……」

 

 オレは救命ポッドから取り外────もとい“拝借”したものを地面に置き、整理しながら考えた。

 

 今のガイアの文明ってやっぱり俺からしたらド田舎で何か改善できないかって。

 

 いやもちろんガイアに住む種族全員って訳にはいかないけどせめて俺の身の回りを楽にしてあげたい。

 

 チラッ

 

 ……眼福。

 

 やっぱ化学っていいね! と思いながら俺は軍用のフルフェイススタイルのヘルメットのバイザーを上げた。目視力だと限界があるからな。

 

 もともと宇宙服についていたタイプのヘルメットだが持ってて損はないだろ。

 

 次に小型食事レプリケーター。 「これさえあれば10年は腹が空く事は無い!」って誰か言ってたなー。

 こいつの良い所は太陽さえあればエネルギー変換をし、いつでも使える状態で待機。 後は野菜なり、泥なり、()なりとにかく栄養価のあるものを放り込めば硬いパウンドケーキ状の(ほぼ)無臭のバーが出来上がる。

 

 味は聞かないでくれ……入れたものの影響そのまま受けるから適当に放り込むと物体Ⅹが出てくる。 あれは闇鍋パーティーとどっこいどっこいの勝負ができるぐらいヤヴァイ。

 

 けどこのラージウルフのは当たりだな。 ビーフジャーキー風味のエネルギーバーの出来上がり。

 

 ガジガジと口を動かしながらも次のものを見る。 意外にうまい、ビールが飲みたい。

 

 次はストラップを解けば寝袋っぽいのが出来上がる!

 ……うん、ただのブランケットだ。

 

 そこからは結構小物に分かれるな。 小型通信機(イヤピース付、体内電気充電可)、マグネシウムファイヤースターター、ウェット・ドライマッチ、拡大レンズ、銃用フラッシュライトアタッチメント(取り外し可タイプ)、応急処置用医療器具、トラップ・警備用ワイヤー、コンパス……

 

 よく見る機会なんて今までなかったが結構充実してるな(使い捨てのような扱いが多いのに)。

 

 これを使って楽をするのはやっぱり料理かな? 材料をただ入れるだけ。

 次はフラッシュライトかな? 戦闘用だけあってなかなかのルーメンだ。真っ向からこいつの光を肉眼で食らったらマジで目が見えなくなるような代物だが普通にフラッシュライトとして優秀のはずだ。いままで見た松明とかよりは光るしバッテリーの心配もしなくていい。

 

 あとは……医療器具か。 ガイアの治療は見た事ないがケイコが言ってた薬草云々で医療技術は低いと思うが……

 

 魔法、いや魔術か。これがどんなふうに絡んでくるのか見ものだな。

 

 ガジガジと噛むほどに味が出るな、このジャーキー風のバー。

 

「……ん、う~ん────」

 

 奴さんが起きてきた! タイミングを逃さず俺は行動に移った。

 

 ……

 

「……あの────」

 

 俺は何も言わず唯々額を地面に擦り付けるような低さで動かない。

 

 そう、古来から伝わっているアレだ。

 

「────えっと────」

 

 深く詫びたいが故に顔を合わせず、かつ言葉で示せない相手への最大のお詫びの作法。

 

 DOGEZAだ。

 

「────こ、困ります」

「恩人の()に危害を加えた俺を裁く権利がある。何をして良いが、俺の世界の物の使い方を先に説明させてくれないか?」

「え────?」

「出来れば少しでも()の生活が楽になればと。遺書はもう既に作ってあるから────」

「ちょ────」

「だから、()がしたいようにしてくれ。」

「……」

 

 うーん、反応がないのはちょっと意外だな。 もうちょっと待ってみるか?

 

「……」

「……」

 

 無言の時間が通り、ケイコが声をかける。

 

「私のしたいように、ですね?」

「そうだ。」

「それは、“なんでも”、と言った具合ですか?」

「出来る範囲内であれば。」

「……では」

 

 ケイコの気配が近づき、俺の前方付近で止まる。

 

「では一つだけ、お願いします。」

 

 彼女の両手が俺の頭を優しく上げ、顔と顔を照らし合わすようにする。 彼女の瞳が俺を見、俺は彼女と目が合った。

 

 なんだこの表情? 「またこの顔か。」

 

「この顔ですか?」

 

 ヤベ、思わず声に出してたか?

 

「私は、貴方の事が悲しく思います。」

「?」

「私が貴方にして欲しい事とは、生きる事です。」

 

 ()()()

 

「私からは、あなたはまるで自分の命に執着心がないように見えて、それが悲しいのです。」

 

 ()()()()()()()? ()()()()()? ()()

 

「私は、すべての命が尊いと思います。狩りをするのも、射る相手に最大の敬意をもってするものです。薬草になる植物や苔は薬などに調合され、いずれはまた地に戻り他の命の為となる。」

 

 なんだそれ、()()()()()()()

 

「ですがあなたの行動はまるで、生き急いでいるような感じがして……歳はさほど離れていないと思うと、余計にそう思ってしまうのです。」

「……」

「ですから、少しの間でいいのでここ(ガイア)での住み方を学びませんか?」

「……俺で、よければ。でもいいのか? 不本意とは言え君に危害を────」

「大丈夫ですよ、()()()()()()()。」

「ア、ハイ。」

 

 笑ってるのに目が笑っていない。こ、怖えええええええ。

 でも、許してくれるのありがたい。

 

 スマホの㊙フォルダを先に消すのを忘れた。

 

「では、明日からは早いので帰りましょうか?」

「あ、ああ」

 

 俺は立ち上がる、足に痺れる感じがしたが必死に我慢しケイコの後を追った。

 

 分からない、()()()? それは何だ? スマホで検索しても“心が痛んで泣けてくるような気持ち”としてしか出てこない。

 

 次にケイコが言っていた“生き急いでいる”を検索したが“データ無し”として帰ってきた。

 

「なるほど、分からん」

「何がですか?」

「いんや、こっちの話。」

「では次は────」

 

 ちなみに今は魔術の術式や方式についての授業中だ。 ケイコの家に一緒に戻ってきた後俺の“設定”について話し合ってみたところ俺は以下のようなものという設定にしておいた:

 

 1.他の領地の辺境の地の出でそこはもろに学を受けれるような場所ではなく辺鄙な場所。

 2.その辺境の地は極めて強い魔物が頻繁に出るので常人より戦闘技術を備えている。そしてそのせいで家族はいない。

 3.出会った魔物との戦闘中、相手が何らかの極大魔法を使い、その余波に巻き込まれ見知らぬ森の中で彷徨っていた。

 4.極大魔法に巻き込まれ、精神に何らかの影響でケイコの世話になっている。

 5.最後に4で出た“精神に影響”のお陰で共通語、魔術、魔法というガイアでの基礎知識が曖昧になっていてリハビリにケイコに付き合ってもらう代わりに彼女の手伝いをする。

 

 ……うん、我ながらよくこんな設定などで来たと思ったがそこはほぼすべてケイコが考えた事だ。

 

 それにあながち間違っていないし。

 

 _________________________________________

 

 あれから一週間程たちましたが、マイケルと彼の世界の技術には未だに驚かされます。

 魔術や魔法がない世界らしく全てを“かがく”という物で代用し、生き、誰もが使えると。

 

 彼に初歩的な魔術を教え始め、共にお互いの世界の言語も習い始めた。 カタコトとですが、お互いの世界の言葉での会話は彼には良い刺激みたいですね。 より魔術や魔法の勉学に励んでいるように思えます。

 

 ただ彼は何故か私と共に街に繰り出すのを戸惑っているように思えます。 彼にこのことを聞いたら“視線が気まずい”と言い、なるべくフード付きのシャツを着ているのですが逆に注目を浴びているというのは酷かと未だに言えず……

 

 夜遅くまで町に繰り出し帰りが遅くなると彼は“街路灯が欲しい”と言っていた。

 

 後から聞くと夜道が常時明るいとか。いいですね、馬を走らせるにはもってこいといった時、彼は“そういや、馬肉って堅かったなー”と言っていたのですが彼なりの冗談だったんでしょうか?

 

 ……冗談ですよね?




日本語独学者なので訂正すべき所など感想があれば是非とも一言お願いします!

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第8話 「責任感」

「そういや、馬肉って堅かったなー」

 

 そう言った後、ケイコが心の入っていない笑いをする。

 

「いやホントに。人それぞれらしいが俺は慣れないかな?」

「……冗談ですよね?」

「?」

 

 この一週間のうち起こった一つのやり取りを思いながら歩く。

 前は注目を浴びない為にフードを羽織っているが、正直逆効果だったらしく今はガイアでよく見る質素なものを着ている(下半身は俺の私物の中にあったプレーンなジーンズとスニーカーだ)。

 今では少しだがガイアで使っている言語(仮名称ガイア共通語)も話せるようになった。

 

 ちなみに家名をホイホイ名乗らないようにっと稽古に釘を刺された。 

 

 何でと聞いても場合と場所によっては意味が異なるらしいが詳しく教えてくれなかったが、俺の想像通り(もとい、聞きかじった旧世界の知識)では確か家名って貴族関係者しかなかったっけ?

 

 魔術や魔力の感知の仕方も覚え始めたが、何とも言えない奇妙な感覚だ。 

 こう、あえて言葉にすると体の髪の毛が静電気の籠った風船を近づけるとブワってする感覚に似てる。 

 

 ただこれもその人の魔力によって違うらしい。

 

 魔力自身に属性というか、得手不得手な部類があり使い易いものと使いにくいものになるらしい。

 

 これを聞くと旧世界のアニメの“アレ”を思い出す。 

 

 狩人x2。

 

 考えながら歩いてると声をかけられた。

 

「お、噂の漂流者だ!おはよう!」

「オ、オハヨウ」

「そう堅くなるなって、この間ガキンチョどもの相手をしてくれて良い評判だぜ。なんて言ったけ、あの遊び? サーカッ?」

「サ、サッカー。デス」

「あー、サッカーだな。子供も大人の間も流行ってるぜ」

「ド、ドモ」

 

 この人(ハイムだっけ?)はケイコの知り合いらしくよく喋る人の一人だ。

 この間ケイコが巫女(俺的には医者)関連の仕事に患者の家に訪問したら相手は女性だったので俺だけ文字通り蚊帳の外だった。

 

 待ってる間適当に歩き回ったら汚れた、ボール状の布塊が農具の手入れ用に売られていたんで買った(ガイアの金の勉強のためにはケイコから少しもらった。)

 

 町の端にある少し開けた場で久しくしていないドリブルをし始めて数分。ボールを落としたら周りからドワッとざわめきが走ってちょいマジビビった。

 

 どうやら暇だった子供や老人たちが俺の奇妙な踊り(ドリブルだっつーの)に目を引かれてそこから瞬く間に流行った。

 

 それもあってか待ち人に声を掛けられるようになり、畑仕事の手伝いにも繰り出された。 

 

 ちなみに仕事後のビールはなかったが初めてミードを飲んだ。

 

 甘かった。

 

 で、なんで今ハイムのおっさん(本人は否定しているが見た目がおっさん)といるかって言うとハイムのおっさんの妻が久しぶりにケイコを招きたいって言い、今日の夕ご飯はハイムのおっさんの家族と一緒にする事になった。

 

 ……ローレさん奇麗だったなー。こう、ケイコとは違う大人の余裕と言うか、芯が強いというか。

 

 で、食材とかをさばいている最中男性組は男性で他所で暇潰せって。手伝いをするって言ったが即却下された。

 

 と言う訳でメンレを散歩中におっさん(ハイム)とあって今に至る。

 

「で、どうだ?」

「ナニ、デショウカ?」

「ケイコの事だ」

「???」

 

 質問の意図がわからん。

 

「いやだってお前の事情があるとはいえ一つの屋根の下で若い女と男が一緒に住んでて何もなかったはないだろ? こう、思うところの一つや二つはあるだろ?」

「ナイ、デス」

「……ハ?」

「ナニモ、オンジン、ナイデス」

「……お前」

 

 そりゃそうだろ。 可愛い前に命の恩人だ。恩返しするならまだしも“そんな事”をする気は毛頭ない。 

 

 “覗きや妄想は?”ってか? 覗きとかは別腹だが隙が無いが積極的にする気もない。 

 

 そうだ、おっさん(ハイム)なら分かるかも。

 

「ハイム、サン。 トショカン、アル?」

「図書館だー? モチっと大きな都市ならあるかもしれんが、何でだ?」

「イロイロ、シリタイ」

「ああ、そういえばお前の記憶が曖昧だったな。俺でよければ何でも聞いてくれ、分かる範囲でだが」

「カン、シャ。 ゲンショ、コトワリ。リカイシタイ」

「うを、なんつーハードルの高い事を」

 

 これが解らなければ魔法は使えない。魔術なら何とか行けそうだが、今後の事を考えると実戦に使えれば俺の生存率は高くなる筈だ。

 おっさん(ハイム)なら違う取り方があるかもしれない。

 

「ダメ、カ?」

「うーん、俺なりの説明でもいいかどうか……つか何でだ?」

「タチタイ。ヤク、タチタイ」

「ふーん? 充分役に立ってると思うぜ?」

「???」

「……ここだけの話、男と男の話だ。いいな?」

 

 目が真剣(マジ)だ。 これは魔法の習う覚悟を聞いてんのか?

 

「イイ」

 

 なら迷わず、俺は頭を縦に振った。

 

「うし。 ケイコの事だ。」

 

 ナニッヌ?

 

 何でここでケイコの話になる? 思わず声に出しそうだが必死に無言&ポーカーフェイスで切り抜く。

 

「昔あいつの子供の頃には色々あって、数年前までは極力人と付き合わない様にしてたんだ。それこそあいつとやり取りしてたのはローレと村長と領主様だけ位だった」

 

 ふ~ん。

 

「顔を見せ始め他の奴らも安心したんだが毎日同じ事の繰り返しと言うか、まるで“生きてる”って感じがしてなくてな? なんだか危なっかしい感じだったよ」

 

 ほう。

 

「そこでお前だ」

 

 ……Why(何故)

 

「お前が来たからアイツ(ケイコ)の表情は生き生きとし始めた、昔の……“あの頃”のようにな」

 

 おっさん(ハイム)が遠くを見るような眼をし、俺は────

 

 ふーん、ケイコにもそんな時期があるんだなっとこの時は軽く思ってた。

 

 あとからだがこの事をもっと真剣に聞けって過去の自分に殴りながら叫びたい。

 

「っと、話が逸れちまったな────」

 

 やっと気づいたかよおっさん(ハイム)!#

 

「────原初の理だっけか? 俺が思うには、あれはこの世界の事だ」

「?」

「えーっと、ここに俺達がいるだろ? っで、地面がある。地面の上にたまに草があって地面の中にも蟻はあるだろ?」

 

 なんのこっちゃ。 そうだ────

 

「ハイムサン、ゾクセイ?」

「ん? 俺の属性か? 俺は“製作”寄りだな」

「???」

 

 え゛。 

 

 ちょいまちーや。こげなこときいとらんぜよ。

 

「まあ、そのお陰で畑仕事の長になったって感じもしないがな。ってその顔じゃ分からんか」

 

 頭を縦に振る。

 

「チョット、ワカラナイ」

「いや、俺もその手の部門の事は疎いからな……そうだ! ローレに後で聞いてみるか?」

「カンシャ、スル」

「いいってことよ!アイツ(ケイコ)の事も頼むぜ!」

 

 背中をバシバシするのはやめてくれねーか、おっさん《ハイム》? 

 ガタイが良いだけにマジで痛い。

 

「本当に……アイツ(ケイコ)の事を頼んだぜ?」

 

 だから余所者の俺に何を期待してるんだ?

 

 ……

 

 結果的に言うとケイコ+ローレさんコンビの飯はうまかった。酒があれば尚更良かったが夫婦二人に断固拒否された。 

 何故だ。

 

 その夜の帰り道に俺のスマホの着メロが鳴る。

 

「ひゃ?!な、何ですか?!」

「お、悪いな。俺のスマホの着メロだ」

「その、光っている板の事ですか?」

 

 久しぶりに見た、ケイコのキョトン顔。 俺はスマホを操作し、メールが久々にが入っているのを見た。

 

【レナルト軍曹、生存を嬉しく思う。先の依頼で確認された生存者は貴殿のみ。多々の知的生命体の存在を感知しているので救出隊との合流座標をそちらからの送信を待つ。それまで低軌道にて待機する】

 

 うおおおおお! 文明を感じるゥ~!

 

「やったー! 帰れるぞー!」

「え?」

「迎えがすぐそこまで来てるんだ!」

「?」

 

 俺が上を指さし、ケイコはそれに釣られて夜空を見る。

 

「……そうですか、それは良かったですね。」

 

 なんだ? 一瞬顔の表情が曇ったな。

 

「どうかしたか?」

「何を、ですか?」

「何をって……」

 

 そういや、こいつ(ケイコ)の事はどうする? 俺が持ってた道具の使い方をこれからって時に突然帰っちまうなんて……

 

「?」

 

 反則だろ、その“何が起こってるか分からないけどとりあえず笑顔”は。

 

「なあ、一緒に来るか?」

「……え? どこに……ですか?」

「いやだから俺と一緒に。」

「……え?  で、ですがそれは……つまり……でも……」

 

 どうしたんだ? いつもはどこかポヤポヤしてるのに、こっちをチラチラと見たり、ぼそぼそと独り言をしたり。

 

 いつものポヤポヤ心は何処へ?

 

「俺はただ地球(テラ)の道具とか技術を今までのお礼代わりに教えたいだけだぞ? そうするばきっと暮らしが楽になる筈だ。」

「そ、その……迷惑、じゃないでしょうか?」

「? 何が?」

「ですから、マイケルにです」

「迷惑っていうか、俺がしたいんだが……むしろお前の方は大丈夫か?、ここ(メンレ)を離れるんだぞ? その、色々あるだろ?」

「確かにメンレを離れることを文にしないといけませんが……」

 

 ああ、わかったぞ。 躊躇する理由が。

 

「安心しな!」

 

 ズバリ! ここ(ガイア)に帰れるかどうかだな!

 

「へ?」

 

 な~んだ、そんな事か! 確かに帰れるかどうかわからないと不安だからな!

 

「大丈夫だ! ()()()()()()()!!」

「……」

 

 胸を張り、唖然としてるケイコに俺はそう宣言する。

 

「本当に……いいんですか?」

「おうよ!」

()()を取ってくれるのですか?」

「恩人に二言はない!」

 

 ま、地球(テラ)の技術と道具の使い方を教えるまでの間だしな。 

 責任もってこっちが今度は世話を見るさ。

 

「本当に……」

「ん?」

「……」

 

 な、なんだ? なんなんだその顔は? 

 

 ……とりあえず気まずいから目をそらして────

 

「────あ────」

 

 ────俺はスマホの救出座標設定を見た。ケイコが何か言いかけてたがスルー。

 

「うーん、どこがいいかな? やっぱ森か? なあ、船が着陸する場所って、森でいいか?」

 

 俺が声をかけてケイコがハッとしたような顔をする。

 

「……え? あ、夜の森にしたほうがいいと思います。夜は比較的に人が少ないので。」

「りょーかい」

 

 俺たちはケイコの家に帰り、地球(テラ)へ行く支度をし始めた。時々ケイコの動きが止まり戸惑う素振りを見せるが、俺のほうを盗み見、支度を再開する。

 

 いやいや、隠れてそうしてるつもりでも(ミラー)で丸分かりだから。

 

 てかなんで俺を見る?




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第8話、いかがでしたでしょうか?

次回の予告っぽいもの:

狩る者と狩られる者、そしてその残り物を拾う者、
刃を持たぬ者は生きて行かれぬ“戦”という場所。

己の道徳など無くただただ生きる為が世界、
“ここ”は永い“戦”が生み出したゴモラの成れの果て。
“戦”と無縁の者が見るもの、するものとは何か?

次回、「“驚愕”」

自分の知っているものからかけ離れたものは、苦い。


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第9話 「“驚愕”」

第9話です!


 俺達が支度をし終わった翌日の日、ケイコはメンレを離れる事を伝えに村長やその他の人に伝えに出かけた。

 

 俺はと言うとケイコの家にある本を読んでいた。

 正確には解読しながら読もうとしている。

 

 今地球(テラ)でメインに使われてるタブレットやスマホ、ホログラム情報共有システムではなく“本”だ。

 

 しかも紙製の。

 

 今時珍しい情報記入方法で最初は躊躇ったがケイコ曰く乱暴に扱わなければいいとの事で読ませて(解読させて)もらっている。

 

「うーん、題名や初めのほうに出てくる図とかから察するに魔法や魔術関連だが、この最初の文章はちょっと……」

 

 “原初の理、即ち万物万象のものは全にして個、個は全なり。”

 

 ……何がどうなれば全部が一個で一個が全部になるんだ?

 

 分からん。 とりあえず読んで頭に叩きこむかスマホでメモっとこ、損はしないだろ。

 

 _________________________________________

 

「本当に行くのか、嬢ちゃん(ケイコ)?」

 

「はい」

 

 私はそう心配するハイムさんに答え、隣のローレさんが話す。

 

あの子(マイケル)とはあんまり直に話していないけど評判ではいい子だからいいんじゃないかしら?」

 

「でもよう、聞く話によると“空の向こう側”に行くって話じゃねえか。大丈夫か?」

 

 彼の疑問は分かる、()()()()()でこの旅立ちは私にとっては文字通り大冒険だ。

 

「……不安がないといえば嘘になります。 ですが私は帰ってくるつもりです。」

 

「いや、()()()はいい。 俺がむしろ心配しているのは────」

 

「心配は無用です。 いざとなれば……覚悟は決まっています」

 

「……」

 

 ハイムさんとローレさんが黙り込む。

 

「だが────」

 

「あなた、彼女を信じましょう?」

 

「け、けどよう────」

 

 やはりこの二人は良い人達だ。 今の私にも懸命に接してくれている。

 

「ありがとうございます、ローレさん。」

 

「いいのよ。 私はただあなたがまた何かをやりたいと行動してるのがうれしいのよ。」

 

 ローレさんが私に微笑み、ハイムさんが諦めたように溜息をする。

 

「それが嬢ちゃんの望みなら、反対はしない。 ササキ様と約束したしな。」

 

「ちょ、ちょっとあなた────」

 

 腕を組みハイムさんに対してローレさんが珍しく慌てる。 

 そう言えば父上の名前を聞くのも久しい。

 

「大丈夫ですよローレさん。」

 

「で、でも」

 

 私は二人を安心させる為に笑顔を作る。

 

「わかった、村長や領主様に送る文は俺たちが責任をもって送り届けよう。 説得は……まあ何とかさせるか」

 

「ありがとうございます、ハイムさん。」

 

 私は礼をしながら腰を深く折り、頭を下げる。

 

「ケイコちゃん、私達だから良いけど他の事情の知っている人達にしたら────」

 

「お二人ですから」

 

 この人たちには頭が上がらない、()()()から迷惑をかけている。

 

「……ちょっと待ってろ。」

 

 ハイムさんは席を立ち、奥へと消える。

 

「……ごめんなさいねケイコちゃん、あの人は反対しているんじゃなくて単に貴方の心配をしているだけなの。 失礼かもしれないけど、貴方は私達にとってもう一人の子供だから」

 

「失礼だなんて考えた事はないですよ」

 

「待たせたな。」

 

 ハイムさんが戻り、テーブルの上に袋と共に────

 

「これは────」

 

「聞く話によると坊主(マイケル)の世界は戦時なんだろ? それにそいつはもともとササキ様のものだ、持っていて損はないだろ?」

 

「……ありがとうございますハイムさん。()()を使う日がない事を祈ります」

 

 そういい、私は袋と共に置かれ鞘に納められている“モノ切り刃(きりは)”を手に取る。

 

「やはり……()()ですね。」

 

「“殺生の為だけに斬る”のは余程の事がない限りご法度だからな。その分重いさ」

 

「ありがとうございます。これは?」

 

 私は袋の中を見、びっくりする程の金貨などが入っていた。

 

「こ、これは────」

 

「路銀代わりに使ってくれ。俺達は金に執着はないが坊主(マイケル)の行動を見る限り必要になるだろ?」

 

 本当に、何から何まで……

 

 _________________________________________

 

「お、よう。戻ったか」

 

 扉が開き俺はケイコに声をかけた。

 

「すごい荷物だな、それに────」

 

 俺はケイコの持っていた袋と()に注目する。

 

「珍しい剣だな。」

 

「ええ、もともと父上のものをハイムさんから────」

 

 説明を続けるケイコに相槌をしながら刀を見る。 刀なんて高価な接近戦用武器なんて士官共が自分のお金を出してまで取り寄せる()()()の武器だ。

 

 実際の戦場ではすぐ刃こぼれはするわ、折れるわ、メンテナンスはめんどくさいわで色々と問題のある武器として聞いている。

 

 その反面切れ味はピカイチで……

 

 ……まあ見た目がカッコいいのは不定しない。

 

「マイケルさん?」

 

「ああ、悪い。刀なんて久ぶりに見るもんだからさ」

 

「カタナ? モノ切り刃(きりは)の事ですか?」

 

 何その名前。

 

「物騒な名前だな?」

 

「剣や包丁などの使い道では無く、ただ相手を“斬る”為にあるものですから」

 

 なんだそりゃ?

 

 声に出しそうになったが、俺は立ち上がり窓の外を見る。

 

「そろそろ行くか?」

 

「ええ」

 

 ……

 

 メンレの城壁を超えたあたりから俺とケイコの間に会話が弾み始める。 

 地球はどんな場所なのか、俺の事とか。

 

「ん~、ガイアみたいに他種族はいないかな? こっちで言う人族がメインで、後はサイボーグ化した奴らに“Docka(人口人形)”だな」

 

「“さいぼおぐ”?“どっか”?」

 

「サイボーグは欠損した部分を機械で補っている人のことだ。 例えば亡くなった右腕や足を機械に変えてまた使えるようにするとか」

 

「それは……凄いですね」

 

Docka(人口人形)はサイボーグと違って元から全部が機械なんだ」

 

「その“サイボーグ”と“ドッカ”はどう違うんですか?」

 

「サイボーグはもとは人間だからな、Docka(人口人形)は全部が機械のものだ」

 

「?」

 

「ええと、つまり()()()()()()()()()()()

 

「は、はあ」

 

 やっぱ伝わりにくいか。 まあ無理もないか、実物を見ればわかるだろ。

 

 そう思いながら俺達は“大樹の森”の中に不時着した救命ポッド付近までついた。

 

「おし、準備はいいか?」

 

「あ、その前に────」

 

「ん?」

 

「私やガイアの事はどういう扱いになるのでしょうか?」

 

 そういやここ(ガイア)は未開惑星だったな。

 

「あー、お前の事は現地の協力者で通せる。ガイアは多分だが大丈夫なんじゃね?」

 

「どういう事ですか?」

 

「言っちゃ悪いが、目ぼしい物が無い。直ぐに戦いに活用できる物が無い」

 

 これで魔法がすぐ使えるってんなら話は別だが修行が必要だしな。

 

「……そうですか」

 

「“時間の無駄”と軍上層部にハンコを押されるだろ。 ま、何かするとしたら監視のために人工衛星か高軌道偵察機を配置するぐらいだろ」

 

「ならば良いのですが……」

 

「お、来た来た────」

 

 お腹にグッとくる(もしくは響く)音がし上を見ると夜空をバックドロップに大きな影が徐々に大きくなり、風が強くなる。

 

 埃や土煙を吸わないように俺は布を通してなるべき浅く息をする。 ケイコには前に宇宙服についていたフルフェイスヘルメットをかぶせた。

 

 船が着陸し音が低音に切り替わり中から数名の兵士とら士官しきものが出てくる。

 

「マイケル軍曹だな?」

 

「ハッ、そうであります!」

 

「うむ、待たせたな。こんな辺境惑星でよく無事でいてくれて何よりだ。 して、そちらの者は?」

 

 士官(階級ワッペンを見たら准尉)がフルフェイスヘルメットを脱いだケイコを見る。

 

 うわ、髪がちょっとボサボサになってるな。 悪いことをしたな。

 

「この惑星の現地の協力者であります!」

 

「何?」

 

 准尉がケイコを見、他の兵士の注目が彼女と俺たちの近くにある荷物に行く。

 

「何で彼女がここにいる?」

 

「彼女には恩があるので、出来ればそれを返したいと思ったからであります!」

 

「まさか一緒に地球(テラ)に行くと?」

 

「そうであります!」

 

「……とにかく船に戻ろう、ここに長居は無用だ。あまりにも臭い────」

 

 そういうと准尉は踵を返し船の中に戻り、俺も歩き始める。 他の兵士たちがケイコに近づくのを見て俺は止めた。

 

「待ってくれ、言語が通じない。俺に任せてくれないか?」

 

 荷物をまとめ、俺たちと兵士達が船に入ると扉が閉まりまた響き音がする。

 

 軽い検問を俺たちと持ってきた荷物がされる間ケイコは近くの窓の外を見た。

 

「……」

 

「どうした?」

 

 俺がガイア語で話しかけるがケイコはまだ窓の外を見てガイアがみるみると遥か下のほうに動く。

 

「本当に()()()()()()だったのですね」

 

「なんだ、信じてなかったのか?」

 

「……な、何かあったら俺に言えよ? 一応俺が世話係の形になってるからな」

 

「は、はい」

 

 う~む、これから忙しくなるぞ。 検問の後には体の検査、そのあとは報告。

 

 ……

 。。

 。

 

「凄いですマイケルさん! 外にガイアがあります!」

 

 めっっっっちゃ興奮してますねお客さん。

 

 現代風の服に着替えたケイコは通路の窓の外にあるガイアを指さして張り切っている。

 さっきやっと報告が終わって解放された俺達だがケイコの調子はさっきからこんな感じだ。

 見る物すべてが新しく、刺激が止まらないらしく他のやつらの注目を浴びる。

 

「────おい、あいつが噂の────」

 

「────案外かわいいな────」

 

「────写真撮らせてくれねえかな────」

 

「────あの太ももに埋もれたい────」

 

 おい、最後のヤツ裏にツラ貸せやオラ。

 

 だが同感だ。 ケイコが着替えたのは所謂、軍人学生風の服ですっごい似合っている(世事抜き)。

 

 民族衣装もよかったが、これもなかなか────

 

「あ、見てくださいマイケルさん! キョーゲ大陸があんなに小さく!」

 

「おう、珍しいもんが見えて満足か?」

 

「もうどこから語り始めばいいのか、驚愕の嵐で────!」

 

 俺は思わずウキウキしているケイコの頭を撫でた。 周りの視線が一気に厳しくなるが無視。

 

「あ────」

 

「ん? っとと、悪かった。ついアイツと被ってて────」

 

 呆気にとられたようなケイコから目を逸らす。

 

「い、いえ……“アイツ”?」

 

「知ってたヤツさ────」

 

 そう言い俺はスマホを弄りアドレス帳をケイコに見せる。

 

「これは?」

 

「俺の知人リスト」

 

「この赤色は────?」

 

「ああ、戦死かMIA(戦時中消息不明者)が赤でまだ生きている奴らが青だ────」

 

「────え? で、ですがこれはほぼ赤────」

 

「ま、今時珍しくもないさ」

 

 俺は赤色の名前の一つを見、ケイコに見せる。

 

「この子さ。ラケールって言って俺の……」

 

 俺は“アイツ”のことを考え、言葉を無くす。

 

「……想い人だったのですか?」

 

 俺は頭を横に振る。

 

「そんなんじゃないさ。 強いて言うなら……“腐れ縁”って奴だ」

 

 俺はラケールの赤色の名前を見て、何とも言えないモヤモヤした感じが胸に広がるが────

 

「さて! 義務事業は今のところ無いし、地球(テラ)の事を教えるか!」

 

 ────俺は気持ちを切り替え、ケイコをこの船の図書館(データベース保管庫)に連れて行く。




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第10話 「“戦”」

 (ケイコ)は今空を大きな船らしき物に乗り、今マイケルさんにいろいろと教えてもらっていながら飛んでいる。

 

 空を飛ぶ船、“機械”という発明、今私が着ている服も聞く所によると人の手で作られたのではなく“機械”が作ったそうです。

 

 驚愕の連続で上手く言えないのですが、()()()()()()()()世界。

 代わりに別の技術、所謂“化学”という誰もが使える“力”。

 

 なんと良い事なのでしょう。 良い事のはずなのですが、あまりにも“戦い”に傾いているの何故でしょうか?

 

「え? 何故って……何故なんだろうな?」

 

 食堂で食事をとりながら(食事も“機械”が作っているとは……)私が問い、マイケルが腕を組み困った顔をしそう答える。

 

「考えた事ねえや」

 

 これは……何か変です。 違う種などにはある違う価値観なのでしょうか?

 

「ですがよく……その……滅びないですね」

 

 “滅び”は言うべき事ではない不吉な事ですが、素直にそう思えて仕方がない。

 

「まあな、人口維持の為にいろいろ開発したからな。“Docka(人口人形)”もその過程で作られたからな。 お? 丁度良いや、あそこに座ってる奴を見な?」

 

 マイケルが視線を送っている方向に私も見、他のテーブルに座っている三人組が話しながら笑い合っているの見える。

 

「はあ……男性二人に女性一人の彼らですか?」

 

「あいつら全員“Docka(人口人形)”だ」

 

「えええええええええ?! で、ですが彼らはどう見ても────」

 

 どう見ても人間じゃないですか! そう私が言う前にマイケルが答え、私が食べる前に祈りを捧げる時みたいに周りは一瞬ざわめく。

 

 が、やはりさっきの祈りや私の喋る言葉が違うのが分かったのかざわめきが収まる。

 

「────奴らのうなじ辺りをよ~く見な? 皮が薄くなっててそこに接続ポートがあるから」

 

 私が集中し彼の言うように見ると確かに皮膚の下に何か埋まっているような物が見えた。

 

「“せつぞくぽーと”?」

 

「えーと────」

 

 マイケルが言うには“あっぷでーと”や“ほぞん”などの役割を果たすそうだ。

 

「彼らが人口維持とどういうふうに繋がるのですか?」

 

「んぐ……そ、それは……その……アレだ。」

 

「“あれ”?って何ですか?」

 

 またまた知らない事が出ました。

 今度は私にマイケルが説明する番になりましたね。

 

 ですがなんで赤くなりウズウズしているのでしょうか?

 

 ……もしや“()()()”でしょうか?

 

 _________________________________________

 

 どない説明せえーちゅーうねん!

 

 (マイケル)はそう心の中で叫びケイコの質問にどう答えるか頭をいまフル回転中。

 

 とりあえず順番にシミュレートしてみよう。

 

 Docka(人口人形)とは“アレ”が出来る。『ですからアレとは何ですか?』

 駄目だ、堂々巡りになる。

 

 Docka(人口人形)と一緒にいるとコウノトリ(ていうかガイアにあるかコウノトリ?あると想定しよう)が子供を持ってくる。『そうなんですか? ですが一緒にいるだけでそんな事が……』

 これもイマイチだな。

 

 Docka(人口人形)とは○○○○が出来る。『きゃあああ!マイケルさんの変態! スケベ!』 バシン!

 何故か俺がモミジ形の跡が付いてる頬っぺたに憲兵に捕縛されるイメージが……

 

 う~ん……

 全然いい考えが思い浮かばん。 ここは────!

 

「あ、ちなみに甘いものは好きならクレープ食べるか、持ってこようか?」

 

 名付けて、“意識を甘いものに逸らせる”作戦だ!

 

「“くれーぷ”?」

 

「じゃあ、持ってくる────」

 

「あ、ですがさっきの人口維持────」

 

 無視無視無視無視無視無視無視!

 

 俺は食事レプリケーターに行き、チョコバナナアイスクレープ(激甘そう)を二人分持って帰る。

 

「これ────」

 

「あー!“チンチョ焼き”の事でしたか!」

 

 ちんちょやき? なにそれ。あ、くれーぷのことですか。

 

「ってガイアにもあるのかよ?!」

 

「はい! かなり高価な甘味ですが」

 

 ケイコがクレープを手に取り食べ始める。

 

「この冷たいのがいいですね~」

 

 ……なんか今のケイコの笑顔、いつもと違うな。

 

 こう、柔らかいというか何というか。

 

 いや頬っぺは柔らかいのは知ってるがそうじゃない。

 

「え~と……」

 

 ケイコがチラチラと俺のクレープを見る────

 って食べるの早いなオイ?!

 

「……もう一つ食────?」

 

「はい、いただけるのなら!」

 

 うおっふ、スンゴイ食いつき。

 

「いいぞ、まだまだあるからな」

 

 俺はまたクレープを奢り、ケイコとの会話に戻った(人口維持の話題には戻らなかった)。

 

 でも面白いなケイコの物の取り方。 

 “馬無し馬車(自動車)”とか“燃える水(ガソリン)”とか“魂の鏡(写真)”とか。

 

 アイツ(ラケール)が好きだった旧世界の“時代劇”の人が現代に来たみたいだ。

 

 今度時代劇に連れて行って反応を見るのも面白そうだな。

 

「そう言えば機動兵(モビルソルジャー)をまだ見せていないな」

 

「“もびるそるじゃー”?」

 

「ま、見てのお楽しみって奴だ。」

 

 …………っと格納庫に来るまであんなに辺りをキョロキョロ見ていたのに何故か機動兵(モビルソルジャー)を見た瞬間石像みたいに固まってるケイコが隣にいる。

 

「お~い、大丈夫かー?」

 

「“天空人”……」

 

「え?」

 

 “てんくうびと”? 新しい単語だな。

 

「おいケイコ?」

 

「……はッ?! あ、す、すみませんマイケルさん」

 

「い、いや俺は良いんだが────」

 

 ケイコが整備されるHMS────106(通称“十六式”)を見上げる。

 

「……大きいですね」

 

「だな」

 

 さっき言ってた“てんくうびと”ってのが気になるが……

 

 まあ、いっか。って────

 

「ちょっと待った!」

 

 俺は格納庫に入りそうなケイコの腕を掴み彼女を止める。

 

「何そのまま入ろうとしてるんだよ?」

 

「え?ダメですか?」

 

「いや、ダメじゃないんだが中は整備しやすいように低重力区域になってるんだ」

 

「“ていじゅうりょくくいき”?」

 

 ハテナマークを出す()()()()姿のケイコを見る。

 

「あー、その服装のまま入るといろいろと大変な事になる」

 

「?」

 

 今に聞こえるぜ、ケイコの悲鳴と整備士+訓練生の声が。

 

「えーと、もっと近くで見たいか?」

 

「もし、迷惑でなければ」

 

「じゃあ着替えるぞ」

 

 俺達は近くにあったパイロットスーツ(ケイコのは訓練生用)を手に取り近くの着替え室に向か────

 

「あ、ちょいまち────!」

 

 やばい!

 

「へ────?」

 

 俺の静止の声が一足遅く、ケイコが振りかえながら着替え室に入り────

 

 ────身体と()が浮き始めた。

 

「ひゃああああああああ?!」

 

 忘れてた、今訓練生達に重力の変化に慣れさせる為に着替え室が多分無重力設定されていたと。

 

「マ、マイケルさ~ん!」

 

 ケイコが浮き始めた服を抑えながら必死に助けを呼ぶ。

 

 ……脚線美ゴチでした!

 っとふざけてる場合じゃないや。

 

 ……

 

「それじゃ、いくぞ」

 

「は、はい!」

 

 パイロットスーツに着替えて(着替え室内の重力を元の地球(テラ)基準に戻した)俺たちは格納庫の中に入る。

 

「や、やはり慣れないものですね」

 

「もうちょっとしたら慣れるさ」

 

 俺たちは“十六式”の整備をさせられている訓練生達の近くに着く。

 

 ちなみにケイコのフォローを俺はしている(ワタワタしているところが何とも言えない)。

 

「彼らは何をしているんですか?」

 

「この“十六式”の装甲が所々外されてるだろ? 整備の訓練さ。 こうすればパイロットが応急処置ができるっていう話さ」

 

「すごいですね。マイケルさんも出来るのですか?」

 

「自慢だがパイロットととして腕は良いほうだと思う」

 

「……この、えっと……“じゅうろくしき”は古いのですか?」

 

「古い? 量産型の中では結構新型のはずだが?」

 

「どのくらい前からあるんですか?」

 

「“十六式”の開発が五年前ぐらいかな?」

 

「この“もびるそるじゃー”はいつ作られたのですか?」

 

機動兵(モビルソルジャー)か? う~ん……」

 

 いつだろ? マジで考えた事無い。

 

 俺が考えている間に訓練生達が俺達に気付き何人か近づく。

 

「軍曹! お聞きしてもよろしいでしょうか?!」

 

 俺は敬礼を返しながら彼らがケイコの方を一瞬見るのに気が付く。

 

「オウ、何だ一等兵共?」

 

「隣の女性が噂の原始人でしょうか?」

 

「はあ?!」

 

 おいちょっと待て! なんだそりゃ?! 噂のってどんな“噂”だよ?!

 

「もうちょっとその“噂”を詳しく」

 

「いえ、軍曹が降り立った惑星から“お供”を連れ帰って来たと」

 

 ナンデスト?

 

「それは違うから。ぜんっぜん違うから」

 

「ですがそれ以外の理由が────」

 

 俺達の口論を見てケイコが見合わせる。

 

「えっと────」

 

 訓練生の上級生(上等兵)が来て鬼の形相で怒鳴る。

 

「おいお前ら!訓練中に何やってんだ!」

 

「「ヒィ!」」

 

 訓練生達が烏合の衆ごとく散らばる。

 

「上等兵、ご苦労なこった」

 

「いえ、軍曹に失礼があるとなると────」

 

「こんなんで体罰するほど短気じゃねえよ」

 

「さすがですね」

 

 ってお前もチラチラ見るんかい。

 

「あの、何ですか?」

 

 ケイコが上等兵の視線に気付く。

 

「いえ、“綺麗だな”っと」

 

「あら、ありがとうございます“じょうとうへい”さん」

 

「う」

 

 赤面する気持ちは俺も分かるぞ上等兵。

 

 途端に船が揺れ、耳に来るサイレンが鳴りだす。

 

「な、何ですか?!」

 

 ケイコさんや、しがみ付くのは良いがパイロットスーツにも装甲があるんだぞ?

 

「これは敵襲だな」

 

「敵襲?」

 

「大方ディダ帝国の偵察部隊だろ」

 

 周りが騒がしくなり、俺の胸が高鳴るのを感じる。

 

「……何だか嬉しそうですねマイケルさん」

 

「ん? そうだな。ひっさびさの戦闘だからかな?」

 

「……」

 

 だからその顔は何なんだ?



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第11話 「“撃て!撃つんだ!”」

今回はケイコ視点からです!


「ハア、ハア、ハア────!」

 

 (ケイコ)の息が上がるにつれ、甲冑(ヘルメット)のガラス部分が時々曇る。

 

『ケイコ、撃て!』

 

 (マイケル)が私にそう“むせんき”経由に叫び、私は自分の手が握っているレバーを見る。

 

 このボタンを引けば私は……

 

 何故、こんな事に?

 

 _________________________________________

 

 時は少し遡り、戻る。

 

 (ケイコ)がマイケルに“じゅうろくしき”という機械の事を聞いている時にディダ帝国の偵察部隊とやらに敵襲を受ける直前と聞き、活き活きとしたマイケルさんの顔を見る。

 

「……何だか嬉しそうですねマイケルさん」

 

「ん? そうだな。ひっさびさの戦闘だからかな?」

 

 彼がにやけた顔で()()()()()()()()()()()()言葉を返す。

 

「……」

 

 言葉が見つからない。

 胸に湧き上がるこの気持ちは何なんでしょうか?

 

 私は彼に付き従い“格納庫”に集合しつつある人だかりのほうに動いた。

 

 そこにはさっきの訓練生なども見え、何やら士官らしきものが情報共有をしている。

 程なくして出撃準備の号令がかかり、皆がバラバラに動き出す。

 

「マイケルさん」

 

「ん?」

 

 私はさっきの訓練生達も出撃する手配されているかの様な作戦に嫌な予感がし、マイケルさんに聞く事にした。。

 

「先程の作戦、まるで訓練生の方達も戦に出るような流れだったのですが────」

 

「んあ? ()()()()()()()()()()()

 

 ……え?

 

「で、ですが……」

 

「ん?」

 

 彼らはまだ年端も成人しているかどうかも分からない見た目。

 もしやマイケルさん達は長命種?

 

「彼らの歳は?」

 

「う~ん……15,6歳じゃね?」

 

 え?! なんて若い……

 と思い、彼の次の言葉に驚愕する。

 

「ま、初陣としては遅い方だな。っと、俺たちも行くか?」

 

「遅い方?」

 

 あの成人したての年で?

 

「それに行くって、どこへ?」

 

 マイケルさんが“じゅうろくしき”に指さす。

 

「別に船の中に居ても良いが当たり所が悪かったら避難しないといけなくなるが言葉をまだ完全にマスターしていないし違う勝手だろ? だったら俺の側の法がいいんじゃないか?」

 

「……」

 

 これは、()()()()()

 おかしい。

 具体的に何がおかしいのか私にも漠然としか思えないが、()()()()()()()

 

 “じゅうろくしき”の制御場らしき場所に私とマイケルさんが近付き、彼が私の事を“初戦に参加する訓練生”として乗り込む。

 

 中は2メルー(メートル)程でしょうか? 前後に人が座る場所があり、“ればー”や“光る板(コンソール)”等の物がある。

 

「よっと……よし、ケイコ後ろの席に座ってくれるか? オペレーター無しでも動かせるがこの際知ってもらっても損はないと思う」

 

「“おぺれーたー”?」

 

「補助制御士みたいのものだ。要するに、一緒に十六式を動かす。っと、別に強制じゃないが────」

 

「いえ、やらせてください」

 

「ん?」

 

 もしこの“じゅうろくしき”が天空人、もしくは彼らに関係しているのならば……

 それに、知らなければならない。マイケルさんの世界は()()()()()()()

 もしやこのせいで彼の心は病を?

 

「────乗り方と制御の仕方は初心者向けの設定にして、ヘルメットと接続してっと────」

 

「ひゃ?!」

 

 突然私の甲冑(ヘルメット)の半分閉まった状態のガラス部分が光を灯し、周りに文字などが表示される。

 

「悪い、文字はまだ読めなかったっけ。じゃあ文字の代わりにAR(拡張現実)表示を文字から絵に変更して────」

 

 彼が言ったように文字が絵に代わり、甲冑(ヘルメット)越しに私も分かる絵などが見えるようになる。

 やはりこの“かがく”というのすごい。

 

 “じゅうろくしき”の“こっくぴっと”(マイケルさんがそう制御室の事を読んでいた)に私達二人が搭乗すると声が甲冑(ヘルメット)越しに聞こえ、“意思疎通の風”のおかげで私の理解できる言葉に代わり、その間マイケルさんが“おぺれーたー”の説明を私にする。

 

『全機発進後、僚機との同期を確認し展開せよ。ディダ帝国の偵察部隊らしき巡洋艦1隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦6隻────』

 

「って強行偵察部隊かよ?! マジ運が悪い」

 

 マイケルさんが叫び、苛立つ。

 

「強いのですか?」

 

 私の質問に頭を振り、マイケルさんは“こんそーる”に向き合いながら答える。

 

「敵の強行偵察部隊に対して俺達のは軽遠征救助隊だからな。これが普通の遠征救助隊なら良いが、今は軽巡洋艦4隻、駆逐艦4隻、コルベット8隻。ちょっとキツイな」

 

『各モビルソルジャー部隊は我が艦の援護射撃斜線を確認し、敵の小型艦やモビルソルジャーを抑え』

 

「そう簡単に言ってくれちゃってまー」

 

 マイケルさんがこめかみを押さえながら反応する。

 

「何かあるんですか?」

 

「敵の小型艦やモビルソルジャーにも対艦装備があるから実質そいつらに取りつかれた船は沈む。要するに俺達が母艦を守りながら相手を攻める」

 

『206号、発進用意』

 

「っと、俺達の番だ。ヘルメットのバイザーを────」

 

 マイケルさんが甲冑(ヘルメット)の横にあるボタンを押すとガラス部分が完全に閉まる。

 

 私もそうすると、空気の匂いが若干変わった気がした。

 

『あー、テステス。聞こえるかケイコ?』

 

『はい、聞こえます。』

 

『よし、無線機の状態良好だな。他には……ベルトをちゃんと着けておけ。一応オート(自動)で閉まるはずだが確認は大事だ』

 

『は、はい!』

 

 私が“べると”を確認している間(胸辺りがきつかったので少々緩くしました)、“もびるそるじゃー”の扉が閉まり、周りのガラスが周辺の景色を表示する。 

 

「やはり、すごいですね」

 

『なんか言ったか?』

 

『いえ、独り言です』

 

 私達の“きたい”が揺れと景色の変わり具合から動いているのが分かる。

 まるで巨人になった気分ですね。

 胸が高鳴るのが感じます。

 

 私達の“もびるそるじゃー”が通路らしき場所に着くと、身体が“むじゅうりょくくうかん”に感じた浮遊感に包まれる。

 最初はキツイと思ったこの“ぱいろっとすーつ”と甲冑(ヘルメット)(長い髪でもなんとか着けられた)も気にしなくなった。

 通路の開けた場所の先に真っ黒な空間に光などが走っているのが見える。

 

『戦、なのですね』

 

『艦隊戦がもう始まっているのか。戦闘に入るから揺れと衝撃、高Gに備えておけ。後舌を噛むかもしれないから口はあんまり開けるな。』

 

『はい! あと、“こうじー”と言うのは────?』

 

 突然急加速による急激な重みによって身体と身体の中身がシートに押し付けられる感覚が私を襲い、汗がじんわりと滲んでくる。

 

『ひ?!』

 

 な、なんなんですのこれは?!

 昔子供の頃に父上と乗った馬に似ているけど違う!

 その数倍はしています!!!

 

 目を何とか凝らし“外”を見ると通路の中をもの凄いスピードで動き、瞬く間に真っ黒な空間に出て、身体の重みが無くなり始める。

 

『大丈夫かケイコ? 吐いてないか?』

 

『う……は、はい……何とか』

 

 マイケルさんの声が聞こえ、何とか返事をする

 

『上等だ。大概の奴は吐くか……まあこれからが大変だ』

 

 そこからマイケルさんは私達の乗る“じゅうろくしき”を操りながら私に説明を続け、“引き金”の事も説明する。

 

『このボタンを押せば……』

 

『ああ、そうすると選択した十六式の銃火器が敵を撃つ。他に────』

 

 そう声を変えずに説明を続けるマイケルさんとは別の感情が浮き上がる。

 “怖いですね”っと。

 

 動作一つで命が無くなる。

 戦士の果し合いの中の様な場所ならまだしも、こんな簡単に命が散るのは────

 

『敵が来た! オープンコンバット(戦闘開始)!』

 

 私が考え事をし始めるとマイケルさんの声が“むせんき”越しにそれを遮る。

 

『え?え?』

 

『掛け声の了解は“Jaー(了解)”で良い────』

 

『や、“やー”?』

 

『────回避!』

 

『う?!』

 

 “じゅうろくしき”がまた揺れ、私の身体が急激な動きで重くなり、目が霞む。

 外の私達がいたらしき場所に光が走り通り、後ろを見ると小さな花火の様な物が光る。

 

『あー、一機撃墜されたか』

 

 え?

 

『撃墜?』

 

『今のは爆発だ、運が無かったな』

 

『中の人は────』

 

『即死だなありゃ。上手くコックピットブロック排出機能が働いていれば生き残れるかもしれないが、そんな動作は見えなかった』

 

 こんなにも呆気ない死など────

 

「うぐッ」

 

 また“じゅうろくしき”が揺れ、“じゅうろくしき”の腕が掴んでいる“銃”らしき物から光の洪水が黒い空間を走り、また小さな花火の様な光が一瞬現れる。。

 

『よし、こっちもまずは一つ』

 

 また命が意味も無くに散る、そんな考えに背筋がゾッとする間マイケルさんが操縦を続ける。

 

『二つ目』

 

 いつかの胸の高鳴りは消え代わりに冷たい、氷に似た感じがお腹辺りから広がる。

 

 こんな世界にマイケルさんはずっと────

 

 左から耳に来る音がし反射的に見ると“じゅうろくしき”とは違う形のした“鋼の巨人”が赤く甲冑(ヘルメット)のガラス越しに赤く点滅しながらこちらに近づいてくる。

 

『下からもだと?! 挟み撃ちか! ケイコ、左の奴を撃て!』

 

 撃つって、私が?

 

「ハア、ハア、ハア────!」

 

 (ケイコ)の息が上がるにつれ、甲冑(ヘルメット)のガラス部分が時々曇る。

 

『ケイコ、撃て!』

 

 (マイケル)が私にそう“むせんき”経由に叫び、私は自分の手が握っているレバーを見る。

 

 このボタンを引けば私は……

 

 息がさらに荒くなり、心臓が聞こえるように強く鼓動するのを感じる。

 

『撃つんだ、早く!』

 

 何故、こんな事に?




ちなみまだまだ彼女自身に馴染みのない言語は“”+ひらがなで表示しています。

無理もないですよね、中世の人に車とか話しても理解出来るかどうか。。。


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第12話 「ライトアップされた灰色」

「お疲れー」

 

「よう、生きてっかー?」

 

「うわ、こいつのパイロットの野郎ヘルメットのバイザー開けて吐きやがった!」

 

「よーし! 一戦おーわりっと!」

 

 周りの兵士と整備士達が格納庫の中で騒ぐ。 時には笑いながら、愚痴りながら、無重力での立体機動戦の緊張から解放されて吐きながら。

 

「ハアー…」

 

 後は(マイケル)みたいに一服するとか。

 

 あーマジ旨い。 喉の奥にこびりついた血の味を誤魔化せる。

 

 俺の吐いた息と共に灰色の煙が出て上に上がり、天井に設置してる空気換気システムに吸い込まれていくのを見ながら俺は鼻血を止めているティッシュを新しいのに変える。

 

 やっぱ無理にリフレックス(反応速度)限定強化した後は血が多いな。

 

 接近した床に俺は着地し、後ろにケイコが到着するのを聞き声をかける。

 

「あー、さっきの事は気にすんな。初陣でしかも銃を撃たせようとした俺が悪かったよ」

 

「……」

 

 ケイコを見ると暗い顔で俯いたままだった。

 

「えーと……」

 

 こういう時何を言えばいいんだっけ?

 

『こういう時は甘~い物が良いわ!』

 

 いや、“アイツ”は参考にならん。 ケイコと“アイツ”は違いがありすぎる。

 

 気まずい空気のまま俺達二人は格納庫を後に通路の中を歩く。

 

「……それは葉巻ですか?」

 

「ん?」

 

 ケイコがやっと声を出したと思ったら、“葉巻”? ってタバコの事か。

 

「ガイアにもあるのか?」

 

「白い棒ではなく、葉を巻いたものですね。」

 

 俺はフィルターまで吸ったタバコを近くのゴミシュートに鼻血のついたティッシュと共に投げ捨てる。

 

「大丈夫……な訳ないよな」

 

「……かなりの方達が見えなかったですね」

 

「でも死亡者率6割は少ない方だ。ラッキーだったな俺達」

 

 俺はそう言うとさっきのモビルソルジャー戦を思い出す。

 

 _________________________________________

 

『撃つんだ、早く!』

 

 俺は十六式の右腕に装備されたレーザーライフルを乱射し、彼女の方をちらっと見ると青い顔で動きが止まっていた。

 

 あ、新兵症だなこりゃ。

 

リフレックス限定強化(反応速度強化)!」

 

【マイケル軍曹ノリフレックス(反応速度)限定強化を承諾。良い戦果を期待してイマス。】

 

 周りが遅くなる中で俺は十六式の各種制御スラスターを駆使し、軌道を無理やり変えながら接近してたディダ帝国の機体を素早くプラズマサーベルで切り付けた後爆発寸前の機体を蹴る。その勢いでもう一機の不意を突き接近して切り付ける。

 

アラート(警告)。マイケル軍曹ノ脳内に異常を感知。脳血管障害ノ恐れアリ、リフレックス(反応速度)限定強化の停止を────】

 

「却下、続行だ」

 

【マイケル軍曹ノリフレックス(反応速度)限定強化の継続を承諾。良い戦果を期待してイマス。】

 

 頭痛を無視しながら俺は十六式を駆使し敵の攻撃を回避しつつ、威嚇と撃墜を繰り返す。

 

 ちょっと息苦しくなってきたな。

 

「フンッ!」

 

 鼻に何かつまった感覚をとりはらおうと息を鼻からいきおいよく吐き出すとビシャっと音がした。

 

 ヤバイかな? 鼻血か?

 

『―――――――? ―――――!』

 

 横にけいこの顔がみえる。 なにかさけんでいるが聞こえない。 耳なりがする。

 

 しかいもボンヤリと────

 

「ゴホッ! リフレックス(反応速度)限定強化……カイジョ」

 

【オツカレサマデシタ、衛生兵ナドノ健康診断を推薦シマス】

 

 強化解除したとたん、周りの景色が早く感じ、頭痛が酷くなる。 レーダーが周りに敵機の反応がないのを確認し俺はヘルメットを乱暴に取り外す。

 

「……あー、頭痛────」

 

『マイケルさん、ジッとしてて下さい!』

 

 無線機越しのケイコの声のする方を見るとヘルメット越しでも顔色が悪い。

 

 やっぱり初の宇宙立体機動戦はきつかったか?

 

 と思いきや魔術を唱えていた。

 

『命の精霊よ、この怪我し負ひし者に安寧を、安らぎを!』

 

 唱えが終わった瞬間、俺の身体が温かい光に包まれ今まで息苦しさと頭痛が嘘のように引いていった。

 

「お? サンキュー。楽になった」

 

「もっと……」

 

「ん?」

 

「何でそんなに死に急ぐような事を?」

 

 ()()()()? なんだそれ? ()()()()()()()

 もしかして兵士としての義務を急ぎすぎているとか?

 

「いや、そりゃ違うだろ? 俺は兵士。戦うのが義務────」

 

「ち、違います。違うんです……」

 

「?」

 

 ハテナとする俺に対し、ケイコは言いよどむ。

 

 _________________________________________

 

 っと、気まずい空気の中俺達は帰還して今に至る。

 

「6割……ですか」

 

「大体8割だからな、平均死亡率」

 

「……」

 

 だからその顔は何だ? 

 ……分からんが、気まずくなる。 目を逸らしてしまう。

 

 ピコンッっと俺の携帯が鳴る。

 

「ん?」

 

 俺はスマホをポケットから出し、画面を見て────

 

「お、お、お、お────!」

 

「へ?」

 

「おっしゃー!」

 

「ひゃ?! な、なんなんですか?」

 

「キタキタキタキター!」

 

「な、何が来たんですか?」

 

 笑いながら俺はケイコにスマホの画面を見せた。

 

「軍務からの限定的自由権!待ってました!」

 

 フハハハハハ! やったぞ!

 

「は、はあ。おめでとうございます?」

 

 何が何だか分からない顔をしているケイコに対し、俺は笑顔を向けた。

 

「やっとゴロゴロできる!」

 

「“ごろごろ”? ……回る事でしょうか?」

 

 ガクッ。

 

「い、いやそっちじゃなくて。()()()()()()()()()だ。」

 

「“なにもしなくていい”?」

 

 む、そういえばケイコは地球(テラ)出身じゃなかったな。

 

「つまり俺は一時的に軍務から外れるという事だ」

 

「それは……戦事をしなくていいという事ですか?」

 

「そうなるな」

 

「まあ! それは良い事です!」

 

 うわ、ケイコの手加減待った無しの眩しい笑顔がー!

 

 なんか俺まで今以上に嬉しくなってくるぞ。

 

「それでマイケルさんはどうするのですか?」

 

 え?

 

「え?」

 

 思わず声にも出ちまった。 いざ何でもして良いってなると、何をするのか……

 そういやケイコに俺の分けれる物の使い方とかの説明だな。

 そうと決まればまず地球(テラ)の文化だな。

 

「そうだなー……」

 

 けど中世時代辺りの奴にいきなりデパートは無理難題じゃね?

 

 そうだ。

 

「博物館……とか?」

 

「博物館ですか?」

 

「あ、ああ。博物館かなんかに行くか?」

 

「え?! よろしいのですか?」

 

 何この食い付き?! 

 

 _________________________________________

 

 (ケイコ)(マイケルさん)の提案に乗ることにした。

 何故なら(マイケルさん)達の歴史を知るいい機会だからだ。

 

 これで彼らの文化がなぜこんな事になったのか分かるかも知れない。

 知ったからと言って何かできるとも限らないけど、少なくとも(マイケルさん)の助けになれるかもしれない。

 

 _________________________________________

 

 彼女(ケイコ)の食い付きちょっと怖いんですけどー?!

 何、何、何だ? 博物館が好きなのか?!

 

「あ、ああ。いいとも」

 

 (マイケル)、なんか変なスイッチ押したか?

 ……ま、いっか。

 

 そんなこんな事をしてる間に俺達のいる救助艦隊は地球(テラ)の数あるスペースポートに着いた。

 

 着いた後の検問などは省略するが、流石に中世辺りの物は珍しいらしく時間を取られた。

 

 待ってる間にケイコからの質問など答えている俺だが……

 

「戦争の原因?」

 

「はい、ご存じであれば」

 

 という風な質問ばかり。

 

 俺は兵士であって俗に言う“哲学者”って絶滅した職業に変換した覚えはないんだが。

 

 更に一時間後、質問攻めでヘロヘロになった俺と何だか考え込んでいるケイコは税関職員のDocka(人口人形)達に市内まで案内された。

 

「帰還ご苦労様ですレナルト軍曹、よい日を」

 

「おう、じゃあ行くかケイコ?」

 

 荷物を手渡され、ケイコの方に向くと彼女は高層ビルが並んでいる地区を見渡している。

 

 辺りは既に夜になり、人口の光で照らされている。

 

 まさに夜が無い街だな。

 

「凄い景色だろ?」

 

 ガイアではこんな景色あり得ないらしいからな。

 

「え、ええ。そうですね?」

 

 そこで何で疑問形になる?

 

 黒い夜にライトアップされた雲まで聳え立つ数々の高層ビル。

 化学の賜物と言っても良いんじゃないか?

 

 _________________________________________

 

 (マイケルさん)が再び歩き始めると(ケイコ)はもう一度だけ後ろを向き、空の彼方まで立つ灰色の巨大な建物たちを見上げる。

 

 (マイケルさん)が言うように凄い景色なのは間違いないのですが、今までテラの事を見聞きした私の第一印象は────

 

「まるで巨大な墓場、ですね」

 

とボソリと言い、マイケルさんの後を追いかけた。




まだまだ続く予定です


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第13話 「……何で?」

 物珍しくキョロキョロするケイコと共に久しぶりのマイホームに着いた。

 

「うーん、次は勿体ぶらずに金出してお手伝い型Docka(人口人形)を買うか?」

 

 埃の溜まり始めている家の中でそんな事を考えながら喚起の為に窓を開ける。

 

Docka(人口人形)は買えるのですか?」

 

「ピンからキリまであるが、まあ平凡な性能のDocka(人口人形)は買いやすい値段だな」

 

「そう…ですか」

 

 ケイコが()()()()()をしながら俺の家の中を見る。

 

 別に珍しくも何も無いそこら中にある量産型プレハブ住宅なんだが。

 

「夕餉はお食べになりますか?」

 

「あ、ああ」

 

「あそこに台所らしき場所があるのですが、キッチンでしょうか? 使ってよろしいですか?」

 

 そう言えば“キッチン”も付いてたなこの家。

 

 ずっとレプリケーター食事だったから長い間放置してたけど。

 

「ああ、良いけど長い間使ってないから気を付けてな? あとあそこにあるのが冷蔵庫だが…非常食の類しかなかったような気がする」

 

「ではそこは私の腕の見せ所ですね」

 

「食事レプリケーターがあるんだから別に────」

 

「大丈夫ですよ、私がやりたいからやっているだけなのでお気を遣わずに」

 

 そういいながらケイコは髪の毛をポニーテール風に変え、エプロンを付けた。

 ガイアから持ってきたのかな? 少なくとも俺のじゃない。

 ……なんかこれ、いいな。 胸の奥がフワフワする。

 そう思いながら彼女を見ていると────

 

 ピンポーン。

 

 ────途端にインターコムが鳴った。

 

 誰だ? 宅配便は……ないな、近頃何も注文してないし。

 セールズ……はありかも。

 帰還したての兵士に売りに来るハイエナ共め。

 想像しただけでも嫌だな~。

 

「今のは呼び鈴ですか?」

 

「誰か来たみたいだな」

 

 ピンポーン。ピンポーン。

 

 またインターコムが鳴る。

 

「多分セールズかなんかだろ」

 

「“せーるず”?」

 

「迷惑な商人って言ったら通じるか?」

 

「…?」

 

 やっぱ通じないか。 俺はインターコムのスクリーンを見ると玄関のカメラが何かに塞がれているのか真っ黒だった。

 

「ちょっと見てくる、すぐに終わると思うから」

 

 そう言い玄関に向かい始めると────

 

 ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ────

 

 インターコムが引っ切り無しになり始めた。

 じっみーに俺イライラしてきたぞ。

 よし、ここは扉を開けると同時に威嚇して────

 

「誰だおんどr────!!!」

 

 パーン!

 

「生還おめでとうマイケル~!」

 

 クラッカーから放たれた音に俺の叫びは遮られ、飛び出た紙などが俺の頭に乗っかる。

 

「……」

 

 突然の出来事に俺は沈黙を……

 ではなく目の前にいる“ヤツ”を見て黙り込む。

 

「って、なーにシケタ顔してんのよ? 折角だから生還したあんたも祝ってあげてるんじゃない」

 

「……」

 

 この翠瞳の栗毛の髪の毛。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫?」

 

 この胸部装甲────

 

「ちょっとどこ見てんのよアホ!」

 

「へぶっ?!」

 

 この鳩尾ど真ん中ストレートのキレ。

 

 間違いないが()()()()()

 

 何とか()()()()()()()()()、彼女を見る。

 

「な、何? 何とか言ったらどう? そんなに見られると────」

 

「ラケール、なのか?」

 

「そうだけど?」

 

 本当に()()()なのか?

 

「死んだ筈じゃ────ゴフッ?!」

 

「勝手に殺すなやボケェー!」

 

 俺が本当のラケールかどうか確認するため近づくと見事なハイキックを食らわされた。

 これで間違いない。

 数年前に未帰還者だった筈の()()()だ。

 

 俺が倒れそうになり、壁に寄り掛かると後ろから声がした。

 

「マイケルさん、大丈夫ですか?! さっき“じゅうせい”とやらがしたのですが!」

 

 後ろを見ると弓と短剣を装備したエプロン姿のケイコが立っていた。

 

「「……」」

 

 沈黙状態が過ぎると────

 

「「貴方は誰ですか?/アンタ誰?」」

 

 ケイコとラケールがほぼ同時に声を出し、また沈黙状態になると思ったが先にこの膠着状態を破ったのは────

 

「ああ、アンタお手伝い用Docka(人口人形)ね。 ふ~ん、こんなのがいいんだ」

 

 ラケールがケイコに近づくと────

 

「それ以上の接近はやめてください。何故マイケルさんに危害を加えたのですか?」

 

「へ~? 高級Docka(人口人形)ねアンタ? でも────」

 

「ちょ、スト~ップ! 二人共やめい!」

 

 事態が悪化する前に俺は二人の間に入る。

 

「説明するから! いろいろと話したことはあるがラケール、まずは上がってくれ! ケイコ、こいつは俺の知り合いだから剣を下げてくれ!」

 

「そう? じゃ、お邪魔するわよ」

 

「……マイケルさんがそう言うのなら」

 

 ……

 …

 

 俺がケイコと会い、世話になった履歴を掻い摘んで話し終わる頃にはケイコが入れてくれたお茶(ガイア産)と茶菓子(非常食に入っていた甘味)がほぼ無くなった。

 

 

 

 魔法とかは省いた、こいつに知られるとメンドクサク成る予感がビンビンする。

 

「────という事なんだ」

 

「ふむふむ、それで? 何でマイケルの家にいるの?」

 

「いやだってこっち(テラ)に着いた途端“ハイじゃあサヨナラ~”はダメだろ?」

 

「……な~んか怪しい」

 

 ラケールがジト目で俺達二人を見る。

 

「な、何がだ?」

 

「だって彼女、ケイコさんだっけ?」

 

「はい、初めまして……えっと────」

 

「ああ、ゴメンゴメン! まず最初に名乗った方がよかったわね。 私はラケール。 ラケール・イヴァノヴァ。 階級は曹長でマイケルと同じでハウト連邦軍人大学(ぐんじんだいがく)の学生よ」

 

「ありがとうございます。 私はケイコと言います。 先ほどマイケルさんが説明していたガイア出身です。 後、怪しいと言うのは何がですか?」

 

「“マイケル()()”ね……まず最初に。 マイケルが運良く不時着して貴方に出会ってそこから一緒に地球(テラ)に来た?」

 

「ハイ」

 

「それってまるっきりアニメか何かの前書きみたいじゃない!」

 

「いや、それが本当なんだなこれが────」

 

「────これならまだマイケルが“他所で誑かした現地妻を連れ帰った”の方が説得力あるわよ!」

 

「“げんちずま”?」

 

 ウオイ?!

 

「おいちょっとオラ、お前が俺の事どういう風に見てるかよーく分かったがそれは無いだろ?!」

 

「だ、だってアンタが帰還したって聞いたからダッシュでここに来て見たら知らない女がエプロン姿で家の中から出てきたのよ?!」

 

「それを言うならお前の方こそどうだ! 何年か前に“未帰還者”報告を見た俺のヤケ飲み代返せ!」

 

「知らないわよそんなの! 私だって好きで昏睡状態になった訳じゃないわよ!」

 

 俺達が言い合ってる傍でケイコがキョトンとしている顔から“納得”の笑顔に変わる。

 

「成程、お二人は信頼し合う中なのですね」

 

「ハ、ハア~?!」

 

 うわ、ヤバイ。 ラケールの奴顔が、と言うか耳まで赤くなりやがってる。

 完全に激おこモードだ。

 

「ちょっと待ってくれケイコ。ラケールとはいわゆる“腐れ縁”って奴で────」

 

「そ、そうよ! 確かに共に戦う兵士として────!」

 

 と言い返してる俺達二人に対して相変わらず無言のニコニッコ顔をしてるケイコ。

 だから違うんだってケイコ。

 ここは話題を逸らすに限る。

 

「で? さっきの“昏睡状態”が何だって?」

 

 話題を変えた俺に対してラケ-ルは独り言をブツブツと何か言い続けていた。

 

「大体“ピンクブロンド”って何よ、どこかのアニメで出る“歌姫”とかじゃあるまいし……やっぱりマイケルはおっとり系が好きなの?」

 

 ブツブツブツブツと言ってるラケール、これはマズイな。

 

「お~い。もしも~し、ラケール?」

 

「ハッ?! な、何? えーと、昏睡状態の事ね。 ヘレナ叔母さん曰く搭乗していたモビルソルジャーのコックピットブロック機能が上手く働いていたのは良いけど長く冬眠状態だったのが危なかったらしくてほぼ昏睡状態だったのが2,3年前位。 で、一週間前まではリハビリとか検査とか色んなものが終わって今日に至るっていう訳」

 

「……だってお前の状態、まだ“未帰還者”って────」

 

「ああ、それね。 何か叔母さんが色々手配してしばらくは軍務に戻らなく良い様にしたって言ってたからそれかな?」

 

「……」

 

 ……色々と出来事が起きてちょっと頭が痛い。 俺は────

 

「……まあ、いいか」

 

 ────深く考えずにありのままに出来事を受ける事にした、

 

 とりあえずラケールが生きていたのは素直に嬉しいし、同性の奴がいればケイコも聞きやすい事とかあるだろ。 多分。

 アイツ(ラケール)でも一応性別は“女”だし。

 

「なんか言った?!」

 

「いんや、別に?」

 

 こわ! こいつの直感野生動物並みにこっわ!

 何とかポーカーフェイス(無表情)で通す俺に対してケイコがラケールと話し始める。

 

「それで、ラケールさんは────」

 

「“さん”付け無しで良いわよ。そう言う堅苦しいのは嫌い」

 

「はあ……ではラケールはマイケルさんと同じで兵士をやっていると?」

 

「まーねー。 と言っても今はある意味休業中な訳だけど。 だから私チョー暇になるのよねー。 誰か私みたいに暇な人いないかなー」

 

「そこで俺を見るのはお前の勝手だがな。 だが生憎と俺はケイコに恩返しする予定でな、スケジュールは詰まっている」

 

「な、なあー?! 聞いてないわよそんなの?!」

 

「聞かれなかったからな」

 

「ぐぬ」

 

「ならば一緒にいるのはどうでしょうか? マイケルさんもちょうど“ぐんむからのげんていてきじゆうけん”をもらったことですし。」

 

「え?/はえ?」

 

 ケイコの突然なオファーに俺とラケールが間の抜けた声を出す。

 

「この機会に旧知のお二人の仲を取り戻しつつ私に“恩返し”を両方するには良いのでは?」

 

「い、一緒に……」

 

 おいラケール、そこでなぜ黙り込む?

 その前に────

 

「────そうは言うが、ラケールにも準備とか────」

 

「────あ、それは大丈夫よ。もともと泊まる予定でキャリーケース持ってきたし」

 

「……何で?」

 

「アンタねぇ……こんなに夜遅くにか弱い女の子一人を帰らすつもり?」

 

「……“()()()()()”ー? ぶわっはっはっはっは! 素手で軍用猟犬をねじ伏せるヤツが────?!」

 

 テーブルの下で俺の足が蹴られる。

 痛って―なオイ?!

 

「大丈夫ですかマイケルさん? 顔色が────」

 

 ラケールの目がギロッと俺を睨む。

 

「だ、大丈夫だ、ちょっと腹が痛くなっただけだ。は、腹が減ってな」

 

「あ、そう言えば夕餉の準備中でした!」

 

「“夕餉”って、時代劇以外で初めて聞いたわ。リアルで」

 

「“じだいげき”?」

 

「まあ、いいわ……マジで中世の人ね」

 

「?」

 

 しっかし、これからどうする俺?



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第14話 「“普通”の買い物」

「うっま! なんじゃこりゃ?!」

 

「……」

 

「(ニコニコ)」

 

 ケイコが作った物はとても非常食から抜き取った食材とは思えない位味が違った。

 現に食べ慣れてる筈の俺やラケールの奴も食が進んでいる。

 そこんとこどうなのよラケールさん? 

 さっきから無言で怖いんだけど。

 せめてもの救いがケイコの笑顔だな。

 

「あまり馴染みの無い食材かと心配したのですが、味見をしてみれば憂鬱な心配でした」

 

「……ピンクブロンドのおっとり系の上に料理の腕が良いってどれだけ要素積み込んでるのよ」

 

「ん?」

 

 またラケールが何かブツブツと独り言を言ってるような……

 まさかこの料理から“インスピレーション”を貰ったんじゃないだろうな。

 

 見た目が同じで中身がゲテモノ料理は御免だぞ俺は!

 ……これからはケイコ自身に飯作ったかどうか確認するか。

 

「そうだ、部屋の案内をしてくるからここを片付けてくれないかラケール?」

 

「んあ? ヤダ」

 

 ちょ、“ヤダ”って何やねん。

 

「プレハブ住宅何だから作りは同じでしょ? 私が案内するわ。 どうせアンタの事だからこの子はゲストルームで私は私室でアンタはリビングのソファーでしょ?」

 

 何がどうなればそうなる?

 

「オイ、何でそうなる?」

 

「じゃあ何よ? まさか自分はホテルを取るとか────」

 

「当たり前だ。 家具とかならまだしも、ベッドが足りない。大きいサイズとは言え一つだけだぞ? ソファーに一人、ベッドに二人ってか?」

 

「あら、(ケイコ)は構いませんが?」

 

「俺が気にする」

 

 客人に雑魚寝はなんか違うからな。 

 招かれざる客(ラケール)ならまだしも。

 

「じゃあ(ラケール)もそれでいいわ」

 

「いいって……ソファーに一人、ベッドに二人をか?」

 

 意外だな、こいつ(ラケール)が配慮するような奴だったとは……

 

「(ジー)…サイズ的には負けてない筈、後で確認しないと」

 

 ……配慮してるんだよな? 他意は無いよな?

 

「では、話もまとまったようですし今夜はお開きという事で宜しいでしょうか?」

 

「ま、そういう事なら俺は片づけをしとくから……ラケール、こいつに風呂の説明をしてくれ」

 

「ほいほ~い、じゃ行こうかケイコちゃん?」

 

「ケイコ…ちゃん?」

 

 ケイコ“ちゃん”って……見ろよ、本人でさえ戸惑っているじゃねえか。

 

「…ケイコちゃん……」

 

 ラケールがケイコを連れて行って久しぶりに俺は一人になった。

 ……何かデカく感じるなこの家。

 

 ダイニングとキッチンを片付け、皿を洗ってると風呂場から声が漏れ、聞こえ始める。

 

『あら、可愛い肌着ですね』

 

『そういうアンタもね。って何それ? サラシ?』

 

『サラシをご存じだったんですか?』

 

『まあねえ、旧世界のアニメとか漫画とか見るとね~……』

 

 うんうん、仲が良い事は良きかな。

 

『そちらの胸当ては変わった形をしていますね』

 

『あ、ブラ見るの初め……って何よそれ?! デカすぎない?!』

 

 …ん?

 

『あ、あの────?』

 

『ホンモノよね? 整形とかじゃ……ない、だと?』

 

 …えーと?

 

『そんなに見られてはこ、困ります』

 

 何を見られ……いや落ち着け俺。 

 皿洗いに集中するんだ。

 ラケールがケイコに風呂場の蛇口やら設定やら説明するのを場のせせらぎと思うんだ。

 

『やはり聞くのと実際に見るのは違いますね!』

 

『そ、そう? 聞くって誰に……て、アイツしかいないわね……って髪の毛凄いわね?! どうなってるのよそれ?!』

 

 ………髪の毛が何だって?

 

『これですか? ヘアピンを普段使ってるだけですが────』

 

『それにしても長すぎるわよ! ざっと見ただけで1.5メートル位有にあるわよ?!』

 

『ああ、それは何重にも折りたたんでいるので────』

 

『────それにしても綺麗な髪ねー。 細いけどちゃんとしっかりしてて、ってこれは何? ……ヘアピン?! まだつけていたの?!』

 

『すべて解くと迷惑になるかと────』

 

『も、もういいわ……次からは一人で入れるんだから……』

 

 ……………すごく長いのか、ケイコの髪の毛。

 

 っとと、皿洗いに集中……ってもう終わりやんけ。

 

 風呂場が気にならない様に部屋の掃除でもするか。

 そう思い二階への階段を上がり始めると────

 

『はふう~……いい湯ですね!』

 

『う、浮くって都市伝説じゃなかったんだ………』

 

 ────そんな二人の声が聞こえた気がした。

 

 _________________________________________

 

 次の日、俺は朝日に釣られて目覚めた。

 

「ふわ~……ねみ~……」

 

 朝の支度をしていると二階から誰かが階段を下りる音がして見ると制服姿のケイコが見えた。

 

「あら、おはようございます」

 

「おう、おはよう。ラケールは?」

 

「彼女ならもう間もなく来ると思います────」

 

「ふわ~……おは~……」

 

 半分寝ぼけているラケールが下りてくる。

 

「おう、帰れ」

 

「ヒド! 朝一番の掛ける声がそれ?!」

 

「それはさすがに酷いのでは?」

 

「昨日から迷惑掛けてるアポ無しを泊めたんだ、それ位は────」

 

「あ、アンタねえ────!」

 

「ではこれはどうでしょうか? お二人が(ケイコ)に市内のご案内をすると言うのは?」

 

「まあ……お前がそれでいいなら」

 

 ラケールがジト目で俺を見る。

 

「何この扱いの差」

 

「“自業自得”って言葉知ってるか?」

 

「ぬぐ…」

 

「やはりお二人は仲が良いですね」

 

「「どこがやねん」」

 

 俺とラケールの声が同時にハモリ、ツッコんだ。

 

「ちなみに時々聞くその言葉遣いは何なのですか?」

 

こいつ(ラケール)の見る旧世界のアニメとか読む“まんが”っていう本の影響で時々変わっちまったんだよ」

 

「別にいいじゃん、言葉遣いなんか」

 

「よかねえよアホ、お陰で気を付けなきゃ相手は俺が何言ってんのか分かんねえ時とかあるんだよ!」

 

「“あにめ”? “まんが”?」

 

「それは追々説明する」

 

 取り合えずラケールの事は置いて今日はケイコに地球(テラ)の道具とかを────

 

「アンタ馬鹿じゃないの? 女の子の買い物なら普通第一に服でしょ、服!」

 

 ────と話したらラケールにダメ出しをされた。

 

「……何でそうなる?」

 

「アンタ本気でそう言ってる?」

 

「ですが私に衣類は支給されましたし────」

 

「────駄目ったら駄目! 支給品の制服が憎たらしい程似合うのはともかく、折角可愛いんだから似合う服を見に行くのが先でしょ! と言うわけでデパートへレッツゴーよ!」

 

「……それってお前が行きたいだけじゃないだろうな?」

 

「(ギクッ)そそそそんな訳ナイナイナイ」

 

 図星か。 目が泳いでいるぞラケール。

 

「その“でぱーと”と言うのは?」

 

 あー、やっぱりそこからか。移動しながら説明するか。

 

「ラケール、この辺のデパートは()()()()か?」

 

「あるわよー、何回か()()しちゃったらしいけど、なるべく品揃えは買えてないみたい」

 

「そいつは良かった、じゃあ行くか」

 

「どう行く? 交通機関?」

 

「ここは奮発して車を出そうか考えてたんだが────」

 

「……」

 

「何だよその目は?」

 

「ううん、べっつにー?」

 

 何だよ? 買い物は荷物がかさばるから言ったんだが…

 

 …………

 ……

 …

 

 数時間後、俺は車で来てよかったと心底思った。

 荷物がかさばるからと思ったが、女子の買い物ってよく分らん内に多くなる。

 

 デパートに来て数時間、まだまだこれから買い物をするって言うラケールに振り回されるケイコと荷物持ち/荷物片づけ係の俺。

 

 一服しながらデパートの屋上にある休憩スペースのベンチに座りながら横に置いてある買い物から目を逸らし、上を見る。

 

 ……何かガイアと違ってこっち(テラ)の空は曇ってんな。

 かくいう俺の吸ってるタバコもそれに加担してるような気がするが。

 

 ケイコは大丈夫なんだろうか?

 

 _________________________________________

 

 (ケイコ)の周りには数えきれないほどの上に見た事のないデザインなどの衣類が様々なサイズで置いてある。

 マイケルさんとは別行動になりましたが、彼の知り合いのラケールに今案内されている。

 

「ふんふんふふ~ん♪」

 

 そして何故かご機嫌のそのラケールに着替えの“こーでぃねーと”をされている途中です。

 

「……あ、あの────」

 

「ほんっと何着ても似合うわね貴方、一周回ってすごく楽しいわ」

 

「で、ですがこれ程の数の服は高いのでは?」

 

「いいのよ! どうせアイツ(マイケル)持ちだからこの際いろいろ買って貰っちゃいなさい!」

 

「は、はあ……」

 

 (ケイコ)は服などよりこの世界の事を知りたいのですが……

 

 そう思った途端耳に響くような音が聞こえ、辺りが騒めく。

 

「またか────」

 

「今日はいつもより遅いな────」

 

 通りかかる人達がその様な事を言い、お店の窓に鉄の板の様なものを設置する。

 

「あれは?」

 

「ん? ああ、貴方は知らないかもね。 あれは敵襲サイレンよ」

 

「て、敵ですか?!」

 

「そ、だから皆防弾シャッターとか閉めてるでしょ? ま、モビルソルジャーとかビーム兵器が加わったらアウトだけど」

 

「た、大変ではないですか!」

 

 私はこの間の宇宙での戦闘を思い出し、今度はそれがここで起きるのかと思った。

 

「そう? ()()()()()よ? さ、早く避難シェルターに行きましょう?」

 

「ここでも…ですか…」

 

 やはり何かがおかしい。 

 それが何か突き止めて…何か出来るとは言えませんが。

 

「あーあ、これで(ラケール)の好きな店とか友人が無くなるかも思うと嫌だなー」

 

 ふと思い、ラケールに問いをする。

 

「聞いても良いですかラケールさん?」

 

「なーに―?」

 

「マイケルさんのいる屋上にもその“ひなんしぇるたー”はあるのですか?」

 

「無いけどその代わりに対空砲とかあるから多分そっちに回されたんじゃない?」

 

「“たいくうほう”?」

 

「貴方本当に別の星から来たのね、忘れてたわ」

 

 やはり分からない事がいっぱいありますね。この際なのでラケールにも聞く事にしましょう。



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第15話 「戦闘のセンス」

*注*視点がかなり変わります。このまま一人称視点を使うのかちょっと迷いました、ハイ……


「休日に来るなー!」

 

 俺は対空砲の引き金を引きながら叫ぶ。

 

 まあ叫んだところで周りの銃声とか爆発音とかモビルソルジャーのスラスター音とかで掻き消されるんだがそこは気持ちの問題だ。

 

 固定してあるとはいえ反動と音が半端ねえな、流石三十五ミリ口径のスカイシールド式SHORAD(短距離防空)だ。

 敵さんの戦略爆撃機撃墜に最適だな、砲台だから高機動兵器とかモビルソルジャーに取りつかれたらアウトだが。

 

 敵の戦略爆撃機へ撃ちながら俺は考え事をしていた。

 

 ……う~ん、今日の予定ちょっと狂ったな。 これじゃあケイコに恩返しするどころか時間取ってるだけなんじゃね?

 うお、敵のモビルソルジャーがこっちに気付きやがった!

 

 素早く砲台から飛び降りて屋上に着地すると背後からの爆風圧で体が押されて転ぶ。 

 

 近くに落ちていたAT(単発無反動)4CS(対戦車用武器)から()()()()()()()()()()セーフティを外し、敵の方向に撃つ。

 

 使用済みのAT(単発無反動)4CS(対戦車用武器)を肩から投げ捨てて次の砲台に走る。

 

 今日の食事は手軽にテイクアウトにするか。

 体がほぼ反射神経で戦場を駆け抜けながらそう考える。

 

 _________________________________________

 

「あ、あの~」

 

 (ケイコ)が困った顔をしながらラケールを見る。

 

「ん? 何?」

 

「なぜ天────ではなくて“モビルソルジャー”に乗り込んでいるのですか?」

 

 そう、何故か私達は皆格納庫に案内され今“モビルソルジャー”に乗っている。

 

「だって追撃戦に移るから」

 

「そ、そう言いますが、“十六式”とは違う────」

 

「当たり前でしょ? 十六式なんて軍用機、市街の追撃戦に使う訳ないでしょ?」

 

 私はこの前乗った“十六式”と違う形のした“こっくぴっと”を見る。

 

「それにこれは一人用に見えるのですが────」

 

「追撃戦用モビルソルジャーよ? ガッチガチに装甲が厚くて遅い機体より機動性重視だから構造も複雑じゃないわ────っとと」

 

 ラケールが職員に呼ばれ隣の“ついげきせんよう”モビルソルジャーを降り、私は周りを見る。

 

 ウキウキした顔で友と喋る若者。

 昔を懐かしがり話し合う中年期の者。

 年端もいかない子供たちが“こっくぴっと”の中のレバーやスイッチを弄る。

 

 私のいたガイアでは考えもしていない光景に見取られ始めると近くの別の職員が話しかけた。

 

「お? その制服姿は軍人学生のだね? モビルソルジャーに乗った経験は?」

 

「十六式なら────」

 

「じゃあ戦果に期待しているよ────」

 

「はい?」

 

「じゃ発進させるから」

 

「はい?!」

 

 何を言ってるんですかこの人?!

 

 _________________________________________

 

「で、さっきの服の会計が何だって?」

 

 私、ラケール、は今まさに“めちゃ不機嫌です”のトーンで呼び出された職員に向けて言う。

 

 折角着せ替えにん────

 

 ────ゲフン────

 

 ────ではなく“ピンクブロンドの(アニメに)おっとり系で料理上手(出てくるような)”な子で遊んでいた────

 

 ────ゲフンゲフン────

 

 ────もとい、話し合っていたのに。

 

 あ、紹介が遅れたわね。 私はラケール。 

 ラケール・イヴァノヴァ。 階級は曹長でマイケルと同じでハウト連邦軍人大学(ぐんじんだいがく)の学生よ。

 

 と言っても昏睡状態だったから長期間軍務果たしてないんだけど。

 

「はい、先ほどのお支払いに使われたクレジットカードなのですが現在ストップが掛かれまして────」

 

「────うげ、マジ? じゃ、じゃあ現金で────」

 

 あちゃ~……先に確認すれば良かった。 と思いきや周りが騒がしくなる。

 

「ん? もう出撃?」

 

 今回早いわね~……

 

 でもなんか忘れてるような……

 

 あ。

 

 _________________________________________

 

「うわ、何だあのパイロット?」

 

 (マイケル)は発進された追撃戦用モビルソルジャー056式、通称“ゼゴロク式”、の中でも一機変な動きをしているヤツを見てた。

 

 まあ、見とれている間に爆風でまた体が吹っ飛んだが。

 

「ってー!!! くそ、今のは避難所の方だったからだぞ?!」

 

 痛む体に鞭を打って避難所シェルターの方に走ると中から怪我人達が連れ出されているのを見た。

 中にはぐったりとした職員を担いでいるラケールを見たがケイコの姿が見えない。

 

「お、おい大丈夫か?!」

 

「ええ、何とか! でも……」

 

 おい、まさか。

 

「まさか────」

 

「あのケイコって子、操縦の経験ってある?」

 

 ……は?

 

「いや、オペレーター席に座った事があるだけだが────」

 

「げ、不味いわね。」

 

 ……おいおいおいおい! ちょっと待て!

 

「おいまさか」

 

 気まずそうにラケールが空の方に指を差し、さっき俺が見てた()()()()()()()()()()()()()()があった。

 

 _________________________________________

 

「ど、どどどどどどうすれば?!」

 

 (ケイコ)は高まるばかりの胸を抑え込もうとしつつ、この間乗った“十六式”を動かしていたマイケルさんの事を思い出しながら()()()()()()()()

 

 何とか何がどうこの“ついげきせんよう”モビルソルジャーに影響があるか試していてる間に“むせんき”から声などが聞こえる。

 

『よおし! やるぞ! これでボーナスを稼ぐんだ!』

 

『ハハハ、若い者は良いねえ。昔を思い出すよ』

 

『オイお前ら! 前方から何か来ていないか?』

 

『あ? 友軍の偵察機じゃ────?』

 

 前から小型の火の玉の様な物が突然前からこちらに飛来し隣や周りにあったほかの“ついげきせんよう”モビルソルジャーに当たる。

 

『え、ちょ、ま』

 

 瞬く間にその“ついげきせんよう”モビルソルジャーの“こっくぴっと”辺りから()()()()()爆発したように噴き出す。

 

『てて敵襲!』

 

『何だよありゃ?!』

 

『友軍の偵察機は何をやっているんだ?!』

 

 凄い轟音が前方からし始めていると思うと、何かが私達の横を通り抜ける。

 

『早い!』

 

『ありゃあティダ帝国の遊撃部隊の生き残りだ!』

 

『マジか?! ゼゴロク式には荷が重いぞ?!』

 

『来る! 総員旋回────!』

 

 また爆発が起こり、周りの人達の人数が減る。

 

『くそ、このままじゃジリ貧じゃねえか?!』

 

『あの野郎、楽しんでいやがる!』

 

『お、俺は帰る! もともと追撃戦に参加したんだ! ガチの────!』

 

『おい待て、そっちは────!』

 

 上から火の玉が雨のように降り、爆発が再び私の乗っているモビルソルジャーを揺らす。

 

「そ、そんな…どうしたら…」

 

 そう思い、“むせんき”から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『ジジッ……ケイコ、聞こえるか?!』

 

 今まで荒げていた息を何とか整え返事をする。

 

『!!! は、はい! 聞こえますマイケルさん! どこにいるんですか?!』

 

『今避難所シェルターの中だ! 色々ボロボロになったが通信室はまだ稼働していた! 状況を教えてくれ! 帰ってこれそうか?!』

 

『だ、駄目です! さっきから何人か逃げようとしていた者から撃ち落とされています!』

 

 _________________________________________

 

「くそ!」

 

 苛立った(マイケル)はコンソールを殴る。

 

「こんな事になると分かれば────!」

 

「ちょ、落ち着きなさいマイケル! 今はケイコちゃんをどうやって無事に変えさすかが先よ!」

 

「分かっている!」

 

 くそ、いつもならこんなにイライラしないはずなんだが……

 

『ど、どうすれば…』

 

『……お前がやるしかない』

 

「え?」

 

『え?』

 

 ラケールとケイコの声がほぼ同時に返ってきた。

 

「む、無茶よマイケル! あの子はほとんど素人なのよ?! 敵のプロの、生き残りとはいえ遊撃部隊よ?!」

 

「でも、ほかに助かる方法は無い。 個々の襲撃のおかげで近くに使える機体は無いし、あったとしても間に合うかどうか分からない」

 

「で、でもどうやって────?」

 

 俺は通信機に戻った。

 

『よく聞いてくれケイコ。 俺がこの通信越しで指示をする』

 

「そんな無茶な……」

 

『わ、分かりました。 やってみます!』

 

 よし、良い子だ。

 

『俺の声に集中しろ、良いな?!』

 

 俺はうろ覚えの学校の教師の座学などを思い出し、通信室の生きている計測器やレーダーなどに気を付けながらケイコに説明し始める。

 

 _________________________________________

 

 ハウト連邦の犬共め! いたぶってやる!

 

 そんな思いを胸に秘めながら儂、アルグレ元隊長、は自分のモビルソルジャーの腰に搭載してある固定ライフル型拳銃でハウト連邦の小型モビルソルジャーを撃ち落としていった。

 

 こうでもしなければ死んでいった隊員達に申し訳が無い!

 

 そう思っていた途端に敵の中で一機変な動きをしているヤツを見つけた。

 

「何だアイツ? “落として下さい”と言っているのなら上等だ!」

 

 儂はそう叫び、照準を合わせ引き金を引いた。

 

 _________________________________________

 

『────敵からの砲撃右上方、噴射左旋回!』

 

 (ケイコ)はそう聞き、レバーを前に押す。

 

「ぐ、ううううううっ?!」

 

 急な動きで私の身体が椅子の押さえられ、痛みが体中に走り外の景色が急激に回る。

 

『噴射はそっとやれ! そっと! 来るぞ! 斜め上方! 右だ!』

 

 _________________________________________

 

「ぬ、こいつ」

 

 (アルグレ)は何が起きたのか一瞬分からなかった。 さっき明らかに変な動きをしているヤツを撃ち落としたと思っていたら急に動きを変えた。

 

 これに釣られ好機と思ったのか他のハウト連邦の犬共が撃ってきた。

 

「ええい、ハエ共め!」

 

 儂はいたぶるのをやめ、敵の小型機を撃ち落としていった。

 

「最後は────」

 

 そう言いかけて最後の一機から雑な砲撃が来たが────

 

「何をしている下手くそめ!」

 

 ────避けるまでもなく敵の砲弾が通り過ぎる。

 

 _________________________________________

 

『さ、最後になってしまいした!』

 

 ケイコの慌てる声が来て、それに対し────

 

『大丈夫だ! うまいぞ、その調子だ! 急噴射の時は下半身に力を入れておけよ!』

 

 (マイケル)は指示を出し続けた。

 

『で、ですが────』

 

『当てなくても良い、敵の方向に撃て! 威嚇にはなる!』

 

「だ、大丈夫なのあの子?」

 

 ラケールが聞いてくる声がしたような気がしたので通信機のマイクを手で覆う。

 

「空中戦では勝ち目は無いな」

 

 小声でそう答える。

 

「え?!」

 

 _________________________________________

 

 あれから何回か(アルグレ)は最後の敵機と撃ち合ったが────

 

「ええい、なんて下手くそな奴だ!」

 

 あまりにも戦場の法則を無視しすぎて動くが読めない!

 

 _________________________________________

 

「ふう、ふう、ふう!」

 

 (ケイコ)は深呼吸を繰り返しながら襲ってきたティダ帝国の遊撃部隊の生き残りの攻撃を避けながら“すくりーん”に浮いている十字の模様を大まかに合わせ引き金を引いていた。

 

『ケイコ、聞こえるか?!』

 

 マイケルさんの声が切羽詰まったように“むせんき”から聞こえた。

 

『ハイ!』

 

『俺がいるところが崩れる!』

 

『はい! ……はい?』

 

『よく聞け、勝ち目は一つ────!』

 

 マイケルさんの声の後ろに何か軋む音とラケールの声がする。

 

『マイケル、早く! この壁クソ重い!』

 

『────地上戦に何とか持ち込め!』

 

『ど、どうやって?!』

 

『ザーー』

 

 返事がなく、帰ってきたのは砂が流れるような音だった。

 

 _________________________________________

 

「どわっと?!」

 

 (マイケル)は首を捕まられ、ラケールに投げられ転んだ。

 その瞬間、俺がいた通信室の壁と天井が崩れ、中の機械が壊れる音が聞こえた。

 

「あ、あっぶね~」

 

「感謝しなさいよバカ! 私がいなかったら今頃ひき肉よ!」

 

 プンプンしているラケールが俺を立たせ、埃などを払いながら怒鳴る。

 

「ああ、ありがとうラケール」

 

 お礼を言いながらラケールの頭をポンポンとすると、ラケールがそっぽを向く。

 

「な、何バカ正直になってるのよバカ」

 

 ラケールからケイコがいると思う方向を俺は見る。

 

「無事でいろよケイコ」

 

 _________________________________________

 

 (アルグレ)は超低空飛行に移った“変な奴”を撃っていた。

 

「ええい、上空の角度では無理か!」

 

 そう思い機体をこれから動かすと思った矢先に敵が180度急展開しコックピットスクリーンが“変な奴”で覆わされ、敵モビルソルジャーに捕まったと思ったら突然の加速と方向展開で周りの景色が文字通りゴロゴロ変わる。

 

「うわ?!」

 

 突然の出来事で戸惑い、その上儂達の二つの機体が地面に叩きつけられながらもゴロゴロと転ぶ。

 

 すべてが収まると同時に儂はグワングワンとする意識を無理やり引き止め敵を睨む。

 

「下手くそにも程があるぞ! いい加減に死ね!」

 

 儂は自分の機体を起こし、目の前に座っているかのようにある敵モビルソルジャーに照準を合わせ引き金を引く。

 

 が、何も起こらなかった。

 

「な、何だと?!」

 

 これに驚いている間敵モビルソルジャーは儂の機体を引き寄せ、噴射ノズルのある足裏をこちらのコックピットに付け────

 

「ま、待っ────!」

 

 ────噴射ノズルに火が付くのを見ると同時に体中に汗が噴き出すのを感じた。

 

 そしてこの汗は冷や汗などではなく、急激な温度の変化によって出た汗と瞬時に理解した。

 

「ぎゃああああああああああ────!」

 

 無駄と分かりつつも、儂は明るくなるコックピットの中で腕と手で顔を覆いながら叫んだ。

 

 _________________________________________

 

 (ケイコ)は襲ってきた者の機械の腰辺りに付いている鉄の筒(マイケルさんたち曰く“じゅうしん”と呼び、中に“だんがん”と言い、たまに見える火の玉が通る場所)が曲がっているのを確認し、自分の機械の“足裏”を向け噴射の為のレバーを一気に捻る。

 

 その途端私が乗っているモビルソルジャーの足裏からもの凄い勢いで火が出て来て、“すくりーん”越しでも声が聞こえるような気がした。

 

「ぎゃああああああああああ────!」

 

「う!!!」

 

 (ケイコ)は聞かない様に顔を逸らし、耳を塞ぐ。

 が、断末魔がまだ聞こえてきた。

 

「────あぎゃあああああああ! あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」

 

 (ケイコ)は目を力いっぱい瞑り,耳鳴りが鳴るまで耳を手で塞ぐが、今日ほど()()()()()()()()()()()()()()()




15話です! いや~、これを書いていた時に来たハリケーンIsaias凄かった。 

落ちてきた木の枝サイズ達が“ヘルメットがなければ即死だった”レベルだった。
とはいえ、家の外に出ないようにはしているのでそう見て、思ってただけですが。


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第16話 「初めて」

 気が付くと(マイケル)は近くまで来た瓦礫撤去用の重工業用モビルソルジャーを()()()ケイコ達が飛んだ方向へ限界ギリギリで走らせていた。

 

「大丈夫だろうか?」

 

 特にこれはケイコの初の単独初陣の上、かなりのガチな敵が相手だ。

 

 とは言えケイコの反射神経と触覚・視覚協応機能は高いからな、ワンチャンあるかも?

 

 そう考えながらモニター越しにティダ帝国型の遊撃モビルソルジャーとハウト連邦型の追撃戦用“ミニ”モビルソルジャーが見えてきた。

 

 あれは確か……ミゴ製のタイプ16だったか? 機動性特化型の。

 

 それに対して俺達側のはサイム製の90式、通称“クロ”。 こっちも機動性特化型だが元々量産第一の設計で()()()()()()()()()様な作りだからな────

 

 ────じゃなくて何だありゃ?

 

 俺が近づくとタイプ16にしがみついている90式が足で蹴る寸前のような形で固まっていて既に人だまり出来ており二機を囲んでいた。

 

『ケイコ、無事か?!』

 

 俺の胸がザワザワし、思わず叫びたくなるような衝動に動かされた。

 

『……』

 

 通信には何も変えって来なかったので更に近づき、俺のオープンコックピットに猛烈な異臭が鼻をつく。

 

 この匂いは忘れ様も筈が無い────

 

 ────()()()()()()()()の混じった匂いだ。

 

「ケイコ!」

 

 できるだけ近づき、オープンコックピットの安全バー(ロールケージ状みたいな)を開閉し、ケイコが乗っていると思う90式のハッチ付近まで移動した。

 

 ガンガン!

 

「ケイコ、いるのか? 返事をしろ!」

 

 コックピットハッチを叩き、声を上げても反応がないので緊急開閉スイッチに認識コードを入力し強引に開けた。

 

「ケ────」

 

 ────そこ(コックピット)にいたのは股を抱えて頭を埋めているケイコだった。

 

 何時もの雰囲気が無く、声が続かなった。

 

「………マイケルさんですか?」

 

 何分、何秒かの沈黙後彼女が俺に気づいたのか顔を上げず、声を上げる。

 

「…ああ、そうだ」

 

「……すみません、少し時間をくれませんか?」

 

「いいぜ、その間に憲兵に報告と車を回してくる」

 

 そう言い俺は来た重工業用モビルソルジャーに乗り移り、地面に降り立った。

 

 そしたらすぐさま記者や野次馬に声が掛かってきた。

 

「正規の敵パイロットを撃墜したのが宇宙帰りの学生というのは本当ですか────?!」

 

「パイロットとの関係は────?!」

 

「この追撃が適正テストと言う噂の真相は────?!」

 

「90式パイロットが初の出撃どころか実戦経験の無い者と言うのは本当ですか────?!」

 

「────ノーコメントだ!!!」

 

 毎度毎度うるさい奴らだ! もうノーコメントで通らせてもらう!

 次いでだからこいつらに借りたモビルソルジャーの会社の対応をしてもらおう。

 

 俺は何とか憲兵達も乗り越えるのに苦労する人の輪を潜り抜け何とか合流する。

 

 それにしてもやっぱりケイコは────

 

 ────機転が利くな、素人にしちゃあ上出来な結果だ。

 

 _________________________________________

 

 こんにちわ。 (ケイコ)は今非常に混乱している。

 

 特に理由も無くマイケルさんと言う方に付いて来て初めて“りったいきどうせん”に遭遇し、テラ(地球)と言う別の“わくせい”に着くや否ラケールという方に出会い────

 

 ────そのラケールという方も昨日見ましたが()()()()()()()()()()()()()()()をしていましたし────

 

 ────そして今私は初めて、()()を────

 

「ウッ!」

 

 私は込み上げてくる気持ちや考えが渦になり私を襲い、私は横を向き胃の中の物を吐いた。

 

 ……私は何をしているんだろう?

 

 私は収まり始める気持ち同様、考えを冷静に順を追って今までの事を思い出す。

 

 そうだ、このテラ(地球)の“間違っている”という違和感の正体は────

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いえ、これもやはり的を得ていないのですが…

 

 マイケルさん達が来るのを待つ間私はまた考え込み、他の事に頭を映した。

 

「……ラケールさんの髪の色、()()()に似ていたな……」

 

 _________________________________________

 

「あーもー邪魔!」

 

 (ラケール)はマイケルの車のある方に走り、イライラしながら頭を掻く。

 

 駐車場に置いてあるマイケルの車を見つけ、預かっていた合鍵を使って中に入る寸前にマイケル走って来ているのが見えた。

 

「お~い! 待ってくれ~!」

 

 彼と私が乗り込み、駐車場から出発する。

 

「ちょうどいいタイミングだったわね。憲兵達への報告は終わったの?」

 

「ああ、終わった。 で、幸報なんだがアイツは見事敵機を撃墜していた」

 

 アイツ…ああ、ケイコちゃんの事ね。

 

「へぇー、意外ね。良かったじゃない」

 

 完璧なド素人だったと思ったのに、やるじゃん。 ん?この流れって、もしかして────

 

「だろ? という訳で今日は焼肉にしようかどうか考────」

 

「────賛成────!」

 

 はい来たー! 初出撃パーティー!

 

「────えていたんだがケイコの倒し方がな、その…」

 

 ん?

 

「ん? 倒し方が?」

 

 _________________________________________

 

 (マイケル)は運転しながら掻い摘んでケイコが恐らくどうやって敵を倒したのかラケールに説明した。

 

「あー、それはちょっと…焼肉はきついかもね」

 

 渋い顔をしながらラケールが同意する。

 ま、普通敵を焼き殺した日に焼き肉ってのは無いよな。

 

「な? だからいつもとはちょっと違う方法で祝おうかと思ってな。 例えばいつものメンバーを呼んで俺の帰還も兼ねて飲むってのはどうだ?」

 

「お、いいわね~」

 

 昨日確認した時は“いつものメンバー”は生きていたからな、大丈夫の筈だ。

 

 そんな事をラケールと喋っている内にケイコを回収して家に帰った今に至る、が────

 

「────すみません、今は祝い事をするような気分ではないので…」

 

「い、いや気分が良くないなら無理はダメだからな」

 

 主役がイベントから辞退宣言してしまった上部屋に撤退して行った。

 

 これはこれで問題ないんだが…

 

「で? どうするのよマイケル? もう皆呼んじゃったんだけど?」

 

 そう、もう既に知人達をラケールが呼んでしまったんだ。

 

「い・い・加・減・に・し・ろ」

 

 俺はすかさずラケールの顔面にアイアンクローをお見舞いする(手加減なし)。

 

「いだいだいだいだいだい!」

 

 む? なんかこいつの頭の感触変だな。

 

「大体確認する前に呼ぶ奴がいるか?!」

 

 とりあえず言い訳を聞くためにラケールの頭を離す。

 

「だ、だってなんか空気が悪かったからここはパーッと料理パーティーを開こうかと────」

 

「────お前が絡むと“料理”じゃなくて“人体実験”になるのをお忘れかね?」

 

「失礼ね! 木の枝だって立派な有機物よ!」

 

「ジャーキーソースを塗った枝は悪趣味な“ジョークグッズ”の部類に入ると思うんだが、てかどうするんだよ? みんな来るんだろ?」

 

「う、うん…そこはまあ…アドリブで?」

 

 こんっの能天気ドアホ。

 

 …とりあえずアイアンクロー。

 

「だから痛いって! この馬鹿!」

 

 ラケールが返しにキックをお見舞いする。

 

「ぐほあ?!」

 

 切れが入ったキックで俺はよろめき()()()()()()()()()()

 

「て、ああああああああああ?!」

 

「ぬあ、ぬあんだあああああああ?!」

 

 ラケールと俺が共に驚きの声が上がり、俺の手の中には栗色の髪の毛の束(もといカツラと言う奴か?)、そしてラケールの頭から白に近い銀色の髪が────

 

「────なんやねんそれ?!」

 

「わきゃああああああ! 見ないでー!」

 

 ラケールが珍しく俺に手を出さずに頭を手で覆うとする。

 

「……」

 

「こ、これには宇宙より深~い訳が────」

 

「────お前髪染めたのか?」

 

「へ?」

 

「“イメチェン”って奴か?」

 

「は?」

 

「いや何豆鉄砲食らった鳥みたいな顔してるんだよ?」

 

「だ、だって変…じゃない?」

 

 何が?

 

「変? 何が?」

 

「だ、だって…私がこんな“現行締め切り三秒前の作者の髪の毛”みたいな────」

 

「────その例えはさすがに俺も分からんがそんな事を気にしていたのか?」

 

「あ、アンタね! 髪の毛はレディーにとって大事な事なのよ?!」

 

「“レディー”ってお前がか?」

 

「そ、そりゃあ…私だって────」

 

 おいバカやめろ。 何モジモジしてるんだよ────

 

「────ぷ────」

 

 ────笑っちまうだろ。

 

「んな?! わ、笑ったわよねアンタ?!」

 

「だ、だってお前がまるで自分が女────ぐあ?!」

 

 俺の意識は激おこのラケールの拳が顔に飛んできたところで途切れた。



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第17話 「テラのトモ」

 気が付くと()()はいつもの天井を見上げていた。

 

 体を上げ、肺いっぱいに空気を吸い()()()の木と葉の匂いを感じとる。

 

「やっぱ肩が凝るな、昨日の仕事はハッスルしすぎたかな?」

 

 ぼやけた頭を覚醒する為に独り言を続け()()は立ち上がり階段を下りるところで彼女とばったり玄関で会った。

 

「お、おはよう」

 

 彼女が朝の挨拶をしつつ頭を下げ、その弾みで肩より長い金髪が顔を隠す。

 

「おはよう、〇〇」

 

 ()()も〇〇に挨拶を返し、何時もの様に頭を撫でる。

 

「あ」

 

「朝から働き者で()()は幸せだよ」

 

「〷も働き者ではないですか」

 

「そうか?」

 

 この子は〇〇()()の……()()の────

 

 ────誰だこいつ? ()は知らないぞ?

 

 ていうかここはどこだ? 

 ()には見覚えが無い木製と煉瓦の組み合わせた()()()建物。

 辺りを見渡し鏡を見つけ、()は自分の確認をする為中を見ると────

 

 ────顔の無い、のっぺらぼうのような頭が見返していた。

 

「うわあああああああああ!!!」

 

 俺は目を覚ましながら叫んでいた。 体を起き上げさせ、周りを確認する。 冷や汗が身体中にこびりついて空調の効いた風が少し肌寒く、いつものプレハブ住宅の部屋だと確認出来た。

 

「何だったんだ、今のは?」

 

 未だに心臓がバクバクしている、何か夢を見ていたような気がするが……

 

 駄目だ、思い出せん。 嫌な夢だと思うが────

 

 バアン!

 

 ────と考えていたところ、豪快な音と共に扉が開いた。

 

「大丈夫ですかマイケルさん?!」

 

 俺は入ってきた心配しているケイコの顔を見て若干安心する自分に少し戸惑いながら聞いた。

 

「なあ…俺って…」

 

「はい?」

 

「…いや、何でもねえ。それよりラケール達は?」

 

「はあ…ラケールなら外で待ち合わせをしていると言い出かけました」

 

 外食か?

 

 俺はスマホを探し始め、ケイコがキョロキョロしながら声を掛けてくる。

 

「ここがマイケルさんの部屋ですか?」

 

「ああ、そうだが?」

 

 あまり物は置いてはいないが…何か恥ずかしいな。

 

「────な、なあ」

 

「はい?」

 

「…その…」

 

「何でしょう?」

 

「俺のスマホどこにあるか知っているか?」

 

「“すまほ”?」

 

「俺がいつも持ち歩いている携帯電話」

 

「えーと…」

 

 あ、通じないか。 じゃあ────

 

「────持ち歩いている“光る板”」

 

「ああ! それでしたら下にあります。 持ってきましょうか?」

 

「いや、いい。 ちょっとメッセージを送るだけだ」

 

「“マッサージ”?」

 

 ガクッ。

 

「ち、違う。 とりあえずそれも教えるか」

 

 俺は早速ケイコにスマホの使い方などをついでで教えた。

 …なんか新鮮な反応するなケイコは。

 ホッとする。

 

「────これがカレンダー機能って大丈夫か?」

 

 惚け顔になりつつあるケイコに声を掛ける。

 

「は、はい…と、とにかく機能が沢山あるのが分かりました」

 

 あちゃあ、しまった。 一気に説明しすぎたか。

 

「すまん、じゃあ取り敢えず電話とメッセージ機能を教えれば良いか」

 

「はい、お手数を掛けます」

 

「いやいやいや! 一気に説明し始めた俺が悪いだけだ! っで、これが────」 

 

 _________________________________________

 

「♪~」

 

 (ラケール)が道を歩いているとポケットの中から着メロが聞こえてきた。

 

「この着メロ…や~っと起きたかあの朴念仁」

 

 私はスマホを出すと共にメッセージを確認する。

 

『お前もしかして怒ってる?』

 

 ムカッ。

 

 こいつ(マイケル)は────!

 

『激おこ』

 

 取り敢えず短く、かつクリアに返信を打ち返す。

 

『すまん』

 

『“すまん”でオールオッケーなら憲兵は要らん』

 

『いやマジで。 俺が軽率だった』

 

 え? こいつ…え?

 

『すまなかった、配慮すべきだった』

 

 え? え? ええええええ? ちょ、え? マジ?

 

『もう一度言う、すまなかった』

 

 アイツ………

 

「ああ、もう! イライラしてるこっちが馬鹿らしくなっちゃうじゃない、もう!」

 

 何とかニヤケそうな顔を必死に我慢しながら返信を打つ。

 

 _________________________________________

 

「こ、これでいいのか?」

 

「ええ、これならば良い返事が来るかと」

 

 (マイケル)はケイコに返信を見せながら確認した。

 

 え? 何をって?

 

 そりゃあラケールへの返信とかに関してだ。

 俺が『すまん』と返信したのを見たケイコはニッコリとした顔の(無言の威圧を出した)まま俺にアドバイスをしてくれた。

 案の定、ラケールからの返信を見れば効果はあったみたいだ。

 

『分かればいいのよ☆ 今からアイリ達と合流するところだから大人しくピザとかの手配46~☆』

 

 ……何この文章表示? 特に最後の“よろ~(星)”って……

 

 普通に怖いんですけどこの豹変化?!

 

「何ですか? この文章は?」

 

 そらみろ! ケイコだってこんな反応だぞ?!

 

「えーと、許してくれたみたいで今から友人達とこっちに向かうから準備をしてくれと」

 

「まあ! それは良かったですね!」

 

「ああ、お前のお陰だ。 ありがとう、恩を返すどころかこっちが受けてばっかりだな」

 

「いえいえ、こちらこそしたい事なので苦になっていませんよ?」

 

 はあー、マジ良い感じの子だ。 ゴリラ(ラケール)とは大違いだな。

 

 _________________________________________

 

「ぶえっくしゅ!!!」

 

 突然のムズムズした鼻のせいで(ラケール)はクシャミをする。

 

「お? 何だ何だ? 豪快なクシャミだなラケール?」

 

「うっざいわね、クシャミぐらい誰でもする」

 

 (ラケール)はティッシュ鼻を噛みながらそう知人Aに答える。

 

 誰か私のことを喋っているのかな?

 …アイツかな?

 

「大方ラケールが見栄を張って薄着を履いているのが(わり)ぃんじゃねえ────グエ?!」

 

 余計なことを言い始めた知人Bにはエルボー・スマッシュを食らわせた。

 

 _________________________________________

 

「よし、これであらかたのフィンガーフードとかは良いとして────」

 

「“ふぃんがーふーど”?」

 

「手で食べる料理の事だ。あと問題になりそうなのは────」

 

 俺はデリバリーサービスの会計や手配を確認しながら次の問題にとりかかった。

 

「────飲み物かな。食事はこれでいいとして」

 

「何か問題があるのですか?」

 

「うーん…」

 

 腕を組みながら俺は()()を見る。

 

「? はい、なんでしょう?」

 

 やっぱコイツ(ケイコ)に酒はどうかな? 俺がガイアで数多く試食した食材の中に酒は出てなかったからな。

 果たして地球(テラ)の酒の悪影響を及ぼすかどうかも心配だ。

 

「なあ、“酒”って知っているか?」

 

「お酒、ですか? 単語として知っていますが…」

 

 “単語で”かよ?!

 じゃなくて────

 

「じゃ、じゃあ飲んだ事は?」

 

「無い…ですね、すみません」

 

「いや攻めている訳じゃないんだ!」

 

 となるとここはやはり────

 

「────じゃ、炭酸飲料にするか」

 

「“たんさんいんりょう”とは?」

 

 あー、そういえばそうだった…

 

 俺は近くの冷蔵庫から定番のカフェーラのボトルからコップに少しよそった。

 

「飲んでみるか?」

 

「な、なんですかこれは? ブクブクしている黒い油みたいな見た目をしているのですが」

 

 なんだその表現?

 

「これが炭酸飲料の一つなのだが?」

 

 ケイコが恐る恐るコップを持ち上げ、匂いを嗅ぐ。

 

「薬…ではないんですね?」

 

「薬じゃあ無いぞ」

 

 ラケール曰く昔は薬として広告されていたらしいが。

 

「で、では…い、いただきます────ケホ?!」

 

 ケイコが飲み始めたと思ったら咳をし始めた。

 むせたか?

 

「だ、大丈夫か?」

 

「ピ、ピリピリしますぅ~。で、ですが貰った物を無下には────ケホ! は、鼻が────」

 

 涙目になりつつもカフェーラを飲むケイコ、そしてむせての繰り返し。

 

 ……何この気持ち、ほんわかする。

 

「たっだいまー!」

 

「お邪魔するぜマイケル!」

 

「四肢喪失まだかー?」

 

「何かいい土産話があると聞いたんですけどー」

 

 ラケール達の声が玄関の方から聞こえてきたので、出迎えに向かう。

 

「おおー、久し振りだなお前ら!」

 

 素直に俺は嬉しくなり、ラケールが読んできた奴らを見る。

 

「で、なんでお前だけ顔に痣出来てんだ?」

 

「いやー、来る途中ラケールに指摘したらこうなってな」

 

 俺はこのグループの中で一回り背が高く、金髪で割と顔が整っているのがクリフ。

 軍人大学生の陸軍部所属のクリフ・マックスコナー曹長。

 同じ重歩兵のせいかラケールと一緒にかなりの場数を踏んでいる。

 

「ま、こうなる事は分かっていたがな。 で、まだお前もまだ生身か?」

 

 次に背が俺達の中ではかなり低めで黒に近い濃い栗毛がリック。

 軍人大学生の空軍部所属のリック・ダンレマン伍長。

 “背が低いから空軍に入れられた”と冗談で言っているが実際空軍所属は基本的に背が低いのは事実だからな。

 

「元気そうね、マイケル!」

 

「サイム嬢も元気そうで何よりです」

 

「もう! お嬢様扱いは社交界とかだけでいいの!」

 

「へいへいっと」

 

「よろしい!」

 

 このドヤ顔しながら背が低くて無い胸部装甲()を張ってるボブカット風栗毛頭はアイリ・サイム嬢。

 サイムコーポレーションの一人娘でこの中でただ一人のいわゆる“良いとこのお嬢ちゃん”だ。

 

 とは言えお嬢扱いが嫌いで毎度毎度実家から抜け出しては俺達とつるんでいるが。

 

「このメンツで会うのは久しぶりな感じがするわ」

 

「ああ、ありがとうラケール。 成り行きとはいえラケールには感謝してる」

 

「べ、別に良いわよ」

 

「「「ふ~ん?」」」

 

「な、何よあん(クリフ、)(リック、)(アイリ)

 

「「「べっつに~?」」」

 

「なんでそこで三人ともにやけるんだ?」

 

「ラケール────」

 

「────俺達は応援してるからな」

 

「うっさい馬鹿!」

 

 クリフとリックに同情(?)されて怒るラケールにこの場を楽しむアイリ。

 

 うん、懐かしい日常に戻ってきたんだな俺は。

 

「あの、マイケルさん?」

 

「あ、ああすまない。 紹介するよ、俺の友人達だ」

 

 背後からケイコの声がして振り返り、紹介する為に再度振り戻ると固まっているクリフ、リック、アイリ達が呆然として立っていた。

 

「あ、初めまして。 私の事はケイコとお呼びください」

 

 丁重にお辞儀をするケイコ。

 

「「「…………」」」

 

 と、微動だにしない三人組。

 …う~ん、どうしたんだr────

 

「現地妻キターー!」

 

 と空へと叫ぶクリフ。

 

「C? D? いやこれはEかFの予感が────」

 

 と真剣な顔でブツブツ独り言を言いながらガン見するリック。

 

「ラケール大丈夫? 愚痴りたいなら何時でもいらして良いからね?」

 

 と同情の眼差しをラケールに向けながら言うアイリ。

 

「違うっつーの! あとリック、それ以上見比べたら目玉くり抜くわよ!」

 

 そして三人組に向かって起こるゴリラ(ラケール)

 

「????????」

 

 これ以上見た事の無い数のハテナマークがさぞや頭から飛んで状況が読めないケイコ。

 

 さーて、どこから説明すれば良いかな?



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第18話 「テラの愉快な集会な」

「「「胡散臭~」」」

 

 ジト目で俺を見るクリフ、リックとアイリ。

 

「デスヨネ~」

 

 はいご期待通りの反応ありがとうございました!

 

「でも本当みたいよ?」

 

 ラケールがジト目三人組にそう言う。

 

「どこのアニメの筋書きだそれ?」

 

「分かる! 私もそう思っていたもん!」

 

「この場合アニメよりマンガじゃね?」

 

 最後のリックの一言でみんなが彼を見る。

 

「いやだって…なあクリフ?」

 

「お前もそう思うかリック?」

 

 この二人は何の話────あ。

 

 俺は二人の視線がケイコとラケールの二人を見ているのに気付いた。

 

「はい?/何?」

 

 ケイコとラケールも気付き頭を傾げる。

 

「…ほんっと御免なさいね?」

 

 アイリが申し訳なさそうに言う。

 

「あ────」

 

 お、ラケールが視線の意味に気付いてニヤニヤし始めたクリフとリックの顔面にワンパンずつ食らわせる。

 

 ………

 ……

 …

 

「「すんませんでした」」

 

「反省しているなら見比べるのをやめて?」

 

 顔の晴れてる(&正座)させられているクリフとリック、そして二人を睨んでいるラケール。

 

「それにしてもほんっと綺麗ねアナタ! えっと、ケイコだっけ?」

 

「ありがとうございます、ですがアナタにも同じ事が言えるのでは?」

 

「え? えへへ、貴方に言われると照れるな~」

 

「あ、頬に菓子の欠片が────」

 

 う~ん、この二人(ケイコとアイリ)をこうやって見比べると“姉妹”じゃなくて“年の近い保護者と娘”だな。

 

 カフェーラをグビっとな。

 

 …うん、久しぶりの炭酸飲料は旨いな!

 っと、早くパーティーを始めなきゃな。

 

「なあラケール、そこまでにしておけよ。ピザとかチキンフライは保温状態だが食感がモシャモシャして不味くなるんだが」

 

 ラケールがジトっと(マイケル)と見、クリフとリックに開き直る。

 

「ったく、分かったわよ。 ほら二人とも、立って用意とか手伝いなさい!」

 

「「Yes ma'am(イェスマム)!」」

 

 クリフとリックが立ち上がり、せっせと動き始める。

 

「というかマイケル、お前結局お手伝いDocka(人口人形)買わないのか?」

 

 リックが俺に聞いてくる。

 

「うーん────」

 

「────何を迷う事があるマイケル?」

 

「クリフ?」

 

「お前も金の使い道が無いのなら一つ買って────」

 

「興味が無いって言ったらウソだが…何かな」

 

「まーたそれか!」

 

 そうなんだよなー…なんか違うと言うか────

 

「だが分かるぞマイケル」

 

「「え?」」

 

 俺とクリフがリックを見る。

 

 何が分かるんだ?

 

「あんな子がいたらそりゃあな────」

 

 リックが未だにアイリのお喋り相手────もとい世話────をしているケイコのほうを見ながら言う。

 

「いや、アイツは────」

 

「────高級Docka(人口人形)買うよりはあの子に“色々”買って────」

 

「おい」

 

 だから話を聞けオラ。

 

「────“色々”な事を頼んでさ?」

 

「…」

 

 一瞬脳内に浮かび上がった狐耳+狐尻尾+メイド服着用しているケイコを振り払った。

 

「いや、だからそんな────」

 

 否定する俺をクリフとリックが聞かずに話を続ける。

 

「俺は猫耳尻尾と旧スク水ニーソ」

 

「ボクはウサ耳セーラーガーターと眼鏡」

 

 確かにその二つも捨てがたいが────じゃなくて!

 

「そんな感じじゃないんだ」

 

「「は?」」

 

「そうだな…彼女の周りにいるとこう…説明しにくいんだが“ホッと”するっていうか────」

 

「「ふーん」」

 

 こいつら絶対分かっていないな。

 

 ………

 ……

 …

 

「ふう、ちょっと疲れたな」

 

 俺は重くなった腰(まあ実際には腹だが)をソファーに下した。

 

 パーティー中、間違った情報をケイコに教えようとしていたクリフとリックはアイリとラケールが訂正させていたし。

 

 思わなかった収穫といえばケイコの質問に答えていたことか?

 

「良い友人達ですねマイケルさん?」

 

 片付けが一段落した後にケイコが俺にそう言う。

 

「まあな。 数少なくなった、気軽に話せる友だ…そういえば聞いていなかったな」

 

「何をです?」

 

「興味の引くものとかあったか?」

 

「え? うーん、そうですね~…」

 

 そうだった。 そもそもケイコがここにいる理由は俺が誘ったからだが、彼女自身に理由がなかったら単に俺の我儘なのでは?

 

「では歴史書などあればいいですね」

 

「何だそれ?」

 

「はい? ああ、私はこの“ハウト連邦”の歴史が気になるのですが」

 

「そんなんでいいのか?」

 

「ええ、それが知ればガイアの方達にも助けになるかと」

 

 あ、成程。 そいつは考えたな。 技術を使った物を買ったり、貰ったりしても物が壊れたりしたらそこで終わりだもんな。

 

 _________________________________________

 

「ぐぬぬぬぬぬ」

 

 (ラケール)は壁越しにケイコとアイツ(マイケル)が話しているのを聞いていた。

 

「ラケール、その“壁にガラスを当てて耳を当てる”って効果あるの?」

 

「あるからこうしてるんだよアイリ!」

 

「はあ、だから言ったのに…時間かけすぎたんじゃない?」

 

「うっさい!」

 

「これだから奥手は────」

 

「シッ!」

 

 横でアイリが肩をすくめる前に壁越しの話に気を再度集中した。

 

『興味の引くものとかあったか?』

 

『え? うーん、そうですね~…では歴史書などあればいいですね』

 

 歴史書? 何でだろう…

 

『そんなんでいいのか?』

 

『ええ、それが知ればガイアの方達にも助けになるかと』

 

 “ガイア”? ああ、そういえばケイコは“宇宙人”って設定だったわね。

 

 そう、(ラケール)は未だにマイケルの説明を信じてない。

 ていうか信じられないわよ!

 ぜっっっっっっっっっっったい何かあるに決まっているわ!

 何とかケイコとまた二人っきりになれないかな?

 あの子、嘘とか付くの下手っぽいし。

 

『じゃあ明日は博物館に行くか?』

 

 …それだー!!!

 

 _________________________________________

 

 (マイケル)とケイコはドデカイビルを見上げている。

 

「…大きい、ですね」

 

「だろ? 中には昔使っていたモビルソルジャーや戦車とかが置いてあるらしいからな」

 

「“置いてあるらしい”ですか?」

 

「実は俺もここに来た事がない」

 

「ふふん、私が付いて来てよかったじゃない!」

 

 そして何故かラケールも一緒にいる。

 誘った覚えは無いんだが。

 

「おうそうか。 帰れ」

 

「ッ何をー?!」

 

「お呼びじゃないんだよ。 つーかどうしてここにお前(ラケール)がいる?」

 

「あ、実は(ケイコ)が呼んだのですが、迷惑でしたか?」

 

「へ?」

 

「そうよ! 博物館に行った事があるかどうか聞かれたから同行してるんじゃない!」

 

「…成程?」

 

「なんで疑問形なのよマイケル?」

 

「…まあ、いっか。」

 

 別にいいか、来た事があるならガイドとしてこき使おう。

 

 ………

 ……

 …

 

「ふわあ…」

 

 博物館の中に来たとたんケイコが周りを物珍しそうに見渡す。

 

「思ったより色んなものが入っているな」

 

 俺もここから見える物だけで旧世界のスペースシャトル、惑星着陸船、戦車に大陸間弾道ミサイルのレプリカ。

 

「うーん、どこから始めるケイコ? …ケイコ?」

 

 返事が無かったのでケイコがいた場所を見るといなくなっていた。

 というかそこかかしこにフラフラ~っと博物館の展示を行き来していた。

 

「あ、私が付き添うからマイケルも見たいもんがあったら見てきていいわよ────?」

 

「あ、ちょい待ち」

 

 ラケールがケイコのいる方に向かおうとしるのは俺は止めた。

 

「な、何?」

 

「“頭”の方はケイコに言わなかったのか?」

 

 昨日のパーティー中もラケールは一度もカツラを取っていなかったしその話もクリフ達には上げなかったので気になっていた。

 

「ああ、あの子にはちょっと黙っていてもらうように頼んでいたから」

 

「そうだったのか」

 

 ラケールがこっちをジッと見ながら(カツラの)髪の毛に手を添う。

 

「や、やっぱり元の見慣れた髪の毛の色が良いでしょ?」

 

「そうか? 俺には新鮮だったんだが」

 

「え?」

 

「っと、置いて行かれちまうぞ?」

 

 ケイコがほぼ見えなくなった俺はそうラケールに言う。

 

「わわわ、じゃまたあとでコール(連絡)するわね!」

 

「おう、またな」

 

 ラケールが慌ててケイコに合流するのを俺は見届け、俺は気になるモノを見た。

 

「ん?」

 

 あの後ろ姿は見た事があるような無いような…

 

「!!!」

 

 思い出した。

 

 気が付くと俺は早歩きになって()()()を追っていた。

 

「ちょ、すまん! どいてくれ!」

 

 俺は焦りを感じ、人混みを少し強引に突き進み()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を追っていた。

 

 見間違いじゃなければガイアに不時着する前に船の中で見た子だった。



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開幕 情報まとめ(第6話から18話まで最新や新しい物のみ、各キャラ視点入り)

第6話から18話まで判明した情報や最新した視点入りの開幕です!


 今までの登場人物+第18話までの影響を受けた人物:

 

 *マイケル・レナルト*

 

 地球(テラ)出身のハウト連邦所属の軍人(学生)。階級は軍曹。 ちょっぴり(ド)スケベっぽい+マニアックっぽい。 暗い髪色に平たい顔、家族無し。 モビルソルジャーとしてのパイロット経験ありと判明。

 

 今までの事をどう思いますか?/地球(テラ)に帰って来たは良いが、なーんか前と違うんだよなー。

 

 他の人の事をどう思いますか?/そうだな…少なくとも俺の周りの人には感謝している。楽しいからな。

 

 神や上位存在について。/ケイコが“神話”って言う物語を聞くのは面白いな。色んな話があるから退屈しねえ。

 

 これからどうしたいですか?/とっとケイコに恩を返してガイアに帰らすオプションを差し上げたいかな? 

 

 

 *ケイコ*

 

 ガイア出身の狩人、巫女、一人暮らし。 優しく、面倒見が良く、碧眼にかなり長めのピンクブロンドの髪(ラケールは目視で1.5m程と言っている)。 弓の扱いは上手らしい。 マイケル曰脚線美持ちでサラシ無しだと胸部装甲が“デカくてイイ”、略して“デカイイ”。 

 *注*第15話 「戦闘のセンス」にて初めて単独でモビルソルジャー戦でティダ帝国の兵士を接近戦で討ち取っている。尚、父親の名はハイム曰く“ササキ”と判明。

 

 今までの事をどう思いますか?/テラの方々には失礼かもしれませんが…この文化は“異常”です。 変える事は難しい事かもしれませんが、少なくとも“何故”このような文化になった事が判明すれば…

 

 他の人の事をどう思いますか?/マイケルさんやラケール、クリフさん、リックさんにアイリさん…皆、良い人です。 出来れば彼ら全員を…いえ、これは私が言える事では…

 

 神や上位存在について。/テラの神よ、何故こんな世界をお見過ごしにされているのですか?

 

 これからどうしたいですか?/テラの文化がどのように築き上げられきたのか理解出来れば、何故相手を思いやる感情や動作が欠陥している……或いは────

 

 

 *ローレ*

 

 ガイアでケイコが現在住んでいるメンレの町の庄屋(しょうや)ハイムの妻。 ケイコを幼少の頃から知っている数少ないケイコの知人。 

 

 今までの事をどう思いますか?/今年の小麦は豊作ですね。 あとは…そうですね、あの子(マイケル)はどうしているのでしょうか?

 

 他の人の事をどう思いますか?/皆、笑顔が一番です。

 

 神や上位存在について。/毎日があることに感謝です。

 

 これからどうしたいですか?/ケイコにも幸せになってほしいですが────

 

 

 *ササキ*

 

 ケイコの父親。ハイムが“ササキ様”と呼び、“モノ切り刃(きりは)”と言う刀を所持していたらしい。

 

 今までの事をどう思いますか?/…

 

 他の人の事をどう思いますか?/…

 

 神や上位存在について。/…

 

 これからどうしたいですか?/…

 

 

 *ラケール・イヴァノヴァ*

 

 マイケルと同じく地球テラ出身のハウト連邦所属の軍人(学生)。階級は曹長。マイケルが5話で“チラッと”話した相手。 (マイケル曰)非食用材を料理に使っていて、既に亡くなっていると思われたが彼女曰く昏睡状態にいた模様。 

 “ヘレナ叔母さん”と言う家族持ちで“旧世界”と言う文化の中の“アニメ”や“漫画”、“時代劇”などに興味を持ちそのおかげで“へんな言語”がマイケルにも伝染。

 翠瞳に栗毛の髪の毛だが現在地毛は白に近い銀色に変わっている。

 

 余談だが“へんな言語”は21世紀地球の日本で言う“方言”に似ているらしい。

 余談2:マイケルはラケールを“ゴリラ”と心の中で呼び、“ラケールでも一応性別は“女”だし”と認識している

 

 今までの事をどう思いますか?/いやね、色々ありすぎてどこから話したらいいのか…てか何よマイケル! あの“ケイコ”って子って誰?! マジに現地妻を連れ戻したって言うの?!

 

 他の人の事をどう思いますか?/ピンクブロンドのおっとり系の上に料理の腕が良い上にグラマーなプロポーションってどれだけの要素を積み込めば……この上歌も上手かったらマジに“妖精”なんだけど…

 

 神や上位存在について。/ハァ? 何それ、ウッザ! ティダ帝国じゃあるまいし…

 

 これからどうしたいですか?/マイケルが喋らないってんならケイコに語って貰おうじゃない! “実態は何時も一つ”ってね(キリッ)!

 

 

 *“金髪の子” (仮)*

 

 プロローグでマイケルの乗っていた宇宙船が難破する前に自身がナンパしに行こうと思っていた翠眼に肩より少し長めの金髪、整ってる顔つきに小柄な身体つきの女の子。 秘書か何かだったらしいが第18話にて再登場。

 現在マイケルが追っている途中。

 

 今までの事をどう思いますか?/永かったわ。

 

 他の人の事をどう思いますか?/興味が無い。

 

 神や上位存在について。/……

 

 これからどうしたいですか?/出方による。

 

 

 *アルグレー*

 

 ティダ帝国の遊撃部隊隊長。 15話にてハウト連邦の市を攻撃し、部隊員の大半を失い、出撃したハウト連邦の遊撃隊を罠に掛ける。

 尚、同話にてケイコの搭乗していた機体にコックピットごとバーニアに焼き殺される。

 

 

 *クリフ・マックスコナー*

 

 地球(テラ)出身のハウト連邦所属の軍人(学生)。階級は曹長。 マイケルに引けを取らずに(ド)スケベっぽい+マニアックっぽい。 背が高く、金髪で割と顔が整っている。 

 

 今までの事をどう思いますか?/俺は過去(女性)を振り返らない男だ!

 

 他の人の事をどう思いますか?/女の子なら大歓迎! え、男? パスパスパス。

 

 神や上位存在について。/…なにそれ?

 

 これからどうしたいですか?/オーダーメイドのDocka(人口人形)セールを待ってるんだが?

 

 

 *リック・ダンレマン*

 

 地球(テラ)出身のハウト連邦所属の軍人(学生)。階級は伍長。 マイケルに引けを取らずに(ド)スケベっぽい+マニアックっぽい。 かなり低めの背で黒に近い濃い栗毛。 

 

 今までの事をどう思いますか?/歳=彼女いない歴を変えたい。

 

 他の人の事をどう思いますか?/女性なら文句は無い。 多分。

 

 神や上位存在について。/…なにそれ?

 

 これからどうしたいですか?/オーダーメイドのDocka(人口人形)セールは何時頃なんだろう?

 

 

 *アイリ・サイム*

 

 地球(テラ)出身のサイムコーポレーションの一人娘で“良いとこのお嬢ちゃん”。 背が低くてボブカット風栗毛頭、ちなみに胸部装甲胸()がほぼ無い。 

 

 今までの事をどう思いますか?/そうねえ…マイケルの所で会ったケイコには同類の感じがするわね。

 

 他の人の事をどう思いますか?/私の周りには気軽に付き合える人達が少なかったから声を掛けてもらった時は嬉しかったわ!

 

 神や上位存在について。/ナにソレ?

 

 これからどうしたいですか?/このまま楽しい時のまま止まればいいのに…

 

 

 地理:

 

 *地球(テラ)

 

 マイケルが依頼を受託した星。“家族”、又は“血縁者”、がいるという事が珍しい。 人は早く軍人になって、遺伝子を物理的に又はデータを登録してそれを融合、で子供が生まれて軍人育成設備に送られる事が普通。(マイケル説) *注:第6話までの判明*

 マイケルの出身星、数世紀に渡る戦争が今も尚続いている。 今まで判明している文明レベルは人口維持などの為に人造人間、ヒト型兵器のモビルソルジャー等が存在する。 貨幣は廃止されて今は電子通貨がメインとなっている。 マイケルが黒い夜にライトアップされた雲まで聳え立つ数々の高層ビルを“化学の賜物”と呼んでいるがケイコは“巨大な墓場”と呼んでいる。

 “一般人”とは仮の名称、読者達での21世紀地球風に言えば“非番の徴兵”が最も合う。

 *注:第18話までの判明*

 

 

 機構、組織又は団体:

 

 

 *ハウト連邦*

 

 マイケルが所属する地球テラの大国の一つ。 今まで明らかになった技術レベルは現在の21世紀のものがあるものの発達した機械知能、人工知能やヒト型兵器、宇宙船に惑星テラフォーミングといったものが見れる。 ディダ帝国と長い間戦争中の模様。

 

 

 *ディダ帝国*

 

 ハウト連邦と対を成す大国。 憶測だがハウト連邦と長い時間戦争できる国力と技術を持っている模様。

 

 

 登場した魔物、単語や“句”:

 

 *小型食事レプリケーター*

 

 太陽光発電をパワーソースに様々な栄養値の在る物を何でも使い、ほぼ無臭で硬いパウンドケーキ状のバーが排出される。

 *注*味は元になった材料に影響される、尚マイケルは馬肉を過去に食べたらしい事をケイコに言っている

 

 *ハウト連邦のサバイバルキット*

 緊急ポッドに内蔵されているグッズの中身には様々な物が入っており兵士が単独行動できる前提に揃っている。小型通信機(イヤピース付、体内電気充電可)、マグネシウムファイヤースターター、ウェット・ドライマッチ、拡大レンズ、銃用フラッシュライトアタッチメント(取り外し可タイプ)、応急処置用医療器具、トラップ・警備用のワイヤー、コンパス等々

 

 *魔力(ガイア)*

 

 どんな人でも多かれ少なかれ誰もが生まれ持つ力。 魔法や魔術などの行使に使われる。

 *注:第6話までの判明*

 魔力自身に属性や得手不得手な部類があり、使い易いものと使いにくいものに分かれる

 *注:第18話までの判明*

 

 *モノ切り刃(きりは)*

 ガイアでケイコの父親ササキが所持していた刀。 ケイコがガイアを一時的に離れるとハイムに宣言した時彼から託された。 

 ガイアでは珍しく“殺生の為だけに斬る”道具と認識されている模様だがテラではマイケル曰く“()()()の武器ですぐ刃こぼれはする、折れる、メンテナンスはめんどくさいなど色々と問題のある武器”。

 

 *Docka(人口人形)*

 テラでの数世紀に渡る戦争で減り続ける人口を補う為に開発された“人造人間”。ほぼ人間と同じ作りになっており、うなじ辺りに接続ポートがある。 尚様々なタイプが存在しており、限りなく“人間”に近いモデル等があれば限りなく“ロボット”に近いモデルも存在する。

 値段はピンからキリまであり姿や性能は変幻自由自在。

 

 *チンチョ焼き*

 ガイアで言う“クレープ”の名称。

 ケイコの好物(らしい)、がかなり高価な甘味(らしい)。

 

 *HMS106*

 ハウト連邦、モビルソルジャー106式、通称“十六式”。 数あるモビルソルジャーの中でも汎用性が高く、オプション等で様々な役割を行える半面、特化したモデルには性能的に後れを取る。

 

 *HMS056*

 ハウト連邦、モビルソルジャー056式、通称“ゼゴロク式”。 数あるモビルソルジャーの中での追撃戦用と量産にに特化している為機動性重視のタイプ。 市内に数多く配置されている。 尚追撃戦用なので兵装や装甲などの質はお世辞にも“良い”とは言えない。

 *注*ケイコの初の単独搭乗モビルソルジャーでティダ帝国の遊撃部隊の生き残りを撃破している

 

 *TMS Flanders(フランダース)*

 ティダ帝国、モビルソルジャーFlanders(フランダース)。 帝国の遊撃部隊に配置されている機体で機動性と瞬発的火力の特化型。 機動性を保つため固定武器を多数所持している。



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第19話 「The Beginning Always Suddenly...」

「凄いですね」

 

 (ケイコ)は見慣れない展示品などを見渡しながら歩く。

 

「そう? こんな古い物余程の事が無い限り来ないわよ。 まあ、稀に物資の不足が在った場合旧式の装備や武器を使わなきゃいけない時とかの“座学”の授業とか? あ、でもアナタにしてみたら未知の物が多いわよね。多分」

 

 隣にラケールが言い足す。

 

「…」

 

「ん? どったの?」

 

 彼女は(ケイコ)の視線に気づきこっちを向く。

 

「今日は何時もの服では無いんですね?」

 

「うぇ?! ナナナナナニイッテルノカナー?」

 

「いえ、何時もの動きやすく、活発な服装も良いのですがそういった()()()()も似合うと思いまして」

 

「そ、そう…かな?」

 

 そう、私が今日まで見たラケールは……そうですね、私から見れば男装に近い“らふ”な服装に対し、今日は心なしかもう少しおとなしい“ふぁっしょん”に“あれんじ”されている気がする。

 

「あ、アンタに言われるのはちょっと複雑だけど」

 

「? どういう意味ですか?」

 

「へ? いや、だって、その……」

 

「?」

 

「ア、アンタはアイツと相思相愛なんでしょ?!」

 

「???」

 

 …はい?

 

 _________________________________________

 

 い、言っちゃったよ(ラケール)ぃぃぃぃぃ!

 ああああハズイ! めっちゃハズイ!

 

 顔に血が充満し、冷汗を掻き始めるのが分かる。

 

 それに対しこの子(ケイコ)は何キョトンとした顔してるのよ?!

 余裕の表情? 図星? 図星の顔よね?!

 

「……えっと、仰っている意味がよく分からないのですが?」

 

 くっ! まだこの“大人の余裕”の顔! 

 

「そもそも“相思相愛”と言うのは誰と誰の事でしょうか?」

 

「んなっ?!」

 

 な、何よこいつ?! ムッキー!!! 私に言わせる気ね! 気に食わない!

 

「だ・か・ら! アンタとアイツよ!」

 

「…?」

 

 ケイコちゃんがキョロキョロと辺りを見た後自分に指さし私は頷く。

 

「私が?」

 

「う、うん」

 

「誰と?」

 

「ア、アイツと」

 

「“アイツ”とは誰ですか?」

 

 うぐ……こ、この子は!

 いや、これは好機よ(ラケール)! この際ハッキリさせようじゃないの!

 

「だ、だからマイケルの事よ」

 

 って、何ボソボソ声で言ってんのよ(ラケール)ぃぃぃぃぃ?!

 ああああああ駄目! み、耳まで熱くなってきてるのが分かるぅぅぅぅ!!!

 塹壕があったら飛び込みたい!

 

「はあ……私とマイケルさんが相思相愛……ですか?」

 

 ん? 何この反応?

 

「え? 違うの?」

 

「違うと言いますか、ええと」

 

 え? 何? 何何何?

 

「私はてっきりラケールがマイケルさんをお慕いしている思ったのですが?」

 

「え?」

 

「違うのですか?」

 

 ナニコレ? どゆこと?

 

「じゃ、じゃあアンタは? 他所のとこの彼女じゃないの?」

 

「え? マイケルさんがお説明した通り私は他の星から来たのですが」

 

 え? じゃあ何、あの話はマジって事?

 ………え? え?! え"?!

 

「で、でもアンタ達一緒に住んでいたじゃない!」

 

「あの日はマイケルさんがテラに帰って来た初日だったのですが」

 

「エプロンもしてたし!」

 

「夕餉の準備をしていましたので」

 

「そ、それに……アンタの方が大人っぽいおっとり系のボインの上に料理の腕が良いしで勝てる要素が何一つ見当たらないんだけど……」

 

 う。 自分で言ってて泣けてくるんですけど。

 つか暗い気持ちなドヨ~ンなんですけど。

 

「はあ…分からない単語等があったのですが、ラケールは私がマイケルさんの伴侶になる事を恐れていたと」

 

 “伴侶”ってどれだけ古臭いんねん?!

 いや、ツッコんでる場合じゃなくてさっきこの子の出身話が本当の事だと信じるなら本当に中世当たりの所から来たって事よね。

 

「う、うん? そうなる…かな?」

 

「それでしたら何も心配はいりません」

 

「はぇ?」

 

「私はただマイケルさん……いえ、彼と彼の周りに者達の心が安らげる事が……他者を思い遣る事の出来る状況にさえ出来れば良いと思っていますので」

 

 この子何言ってんの?

 

「えーと…イマイチ言ってる事がよく分からないんだけど?」

 

「いえ、いいんです。 それに…」

 

「それに?」

 

「私には、彼の傍に立つ事は出来ません────」

 

 と、突然ケイコが天井を見る

 

「??? それってどう────?」

 

 ────言う事? っと聞ける前にビル全体が激しく揺れ、天井から旧式の戦車が落ちてきた。

 

 あー懐かしい型ね。 確かあれって旧世界の九二式重装甲車じゃなかったっけ?

 

 など思いながらスローモーション風にで上から落ちてきた物体を見ていたのを覚えている。

 その後はよく覚えていないけど何か見上げているが私の胴体を正面から衝突した最後に目の前が真っ暗になった。

 

 _________________________________________

 

 時は少し遡り、(マイケル)が走っていた頃に戻る。

 

 (マイケル)は焦りながら人込みの中を走っていた。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 俺の声に気付いたのか、一瞬追っていた金髪の子が俺の方に振り向きながら人込みの中をスイスイと歩く。

 

 これで()()()()。 あの子は()()()()()()()()()()()()()()だと。

 

 ようやく人込みを抜けたと思えば少し開けた場所に出て俺は周りを見る。

 旧式の戦車や車両が展示されている階に出たようだ。

 

 息と汗を整えながら見失った金髪の子を────

 

「────ハア、ハア、ハア…ってなんで俺はこんなに焦ってんだ?」

 

 てかそもそも何で俺は“追わなきゃいけない”って思ったんだ?

 

「…うーん」

 

 (マイケル)は腕を組み頭を傾けると後ろから声がした。

 

「どうしたのオニイサン?」

 

「ぬお?!」

 

 俺はびっくりしながら後ろを振り変える。

 

「ぷ!“ぬお?!”だって! カッワイイ!」

 

 俺は声の方を見る為下を向くとさっきとは違うヒラヒラドレス風(“ゴスロリ”ってラケールが前に言ったっけ?)を着た小柄の金髪の子が俺を見上げていた。

 

「……」

 

 似ているが、違うな。

 

「でどうなのだサンバン?」

 

「ぬお?!」

 

 又もやびっくりし、横を見る。

 てかどこから湧いてきたんだこいつら?

 お、今回は追っていたヤツだな。

 “サンバン”と呼ばれたゴスロリ風の子が俺の顔をマジマジと見る。

 

「うーん」

 

「ちょ、近い近い近い!」

 

 俺は急接近したゴスロリ風の子から顔を逸らす。

 ったく、なんなんだよ────

 

「ん?」

 

 ────そういえばコイツ俺より背が低かったような?

 そう思い俺がもう一度見るとゴスロリ風の子が()()()()()()()()()()

 

 いやもう本当に文字通り()()()()()としか────

 

「えーと、何かな君達?」

 

「残念だけど()()()()“ルーちゃん”」

 

「そう」

 

 おい、俺を無視して話を進め────

 

「じゃあ次に期待するわ」

 

「ほいほーい」

 

「おい、だから何────」

 

 ────の事だと問う前に()()()()が“サンバン”と呼ばれたゴスロリ風の子の後ろから舞い上がった。

 

「という訳でバイバイ!」

 

「え────」

 

 ()()()()が旧式の軍用車両だと認識した頃には俺の方に落ちて来ていた。

 

 ヤバイ。

 

 ヒラヒラと手を振りながら呑気に笑っているゴスロリ風の子より落ちて来ている旧式の軍用車両がヤバイ。 

 

 かわせるか? このタイミングで?

 ……無理だろ。

 ま、ここでぺしゃんこになるなら痛みは一瞬だろ?

 死に方としては────

 

『私が貴方にして欲しい事とは、生きる事です。』

 

 ────この声と言葉は────

 

『私からは、あなたはまるで自分の命に執着心がないように見えて、それが悲しいのです。』

 

 ────俺は────

 

 ケイコの笑っている顔が頭をよぎる。

 

 ────かわせるのかって? いや、かわすんだ!

 俺にはまだ、()()()()()()()()

 

【マイケル軍曹ノ緊急フィジカルリミッター(物理強化の制限装置)限定解除オヨビリフレックス限定強化(反応速度強化)を承諾。】

 

 脳内に機械的な声が響くと同時に周りがスローモーションに動く中俺は泥沼の中に埋まってる感覚の体を無理やり動かす反動で鼻血が吹き出す事や筋肉が悲鳴を上げるのを無視しながら落ちてくる車両をかわした。

 

 車両がそのまま床を打ち抜き、下の階へと落ちる。

 

「ぐはぁ?!」

 

 俺は落ちそうになり、頭を床に打ちながらも残っている床にしがみつき、穴から登る。

 

「フ、フゥ、フゥ、フゥ────」

 

 俺は息を切らしながら悲鳴を上げる体に鞭を打ち()()()()()ゴスロリ風の子ともう一人の“ルーちゃん”と呼ばれた二人を睨む。

 

「へぇー? 意外ね。 あ、でも考えたらそうでもないか」

 

「後を頼むぞ“サンバン”」

 

「は~い!」

 

 何が何だか分からないがいきなり襲ってきたコイツらは敵だなコンチクショウ!




今まで書いた物を読み返しているんですけど日本語がこれであっているかどうかちょーっと心配になっていたり……

日本語独学者なので訂正すべき所などがあれば是非とも感想、レビュー、フィードバック等々をお願いします!


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第20話 「錆びた鉄の匂い」

「!!」

 

 久しぶりの魔術行使の感覚で胸が騒ぎ、上を見ると()()()()()()()()()()()()()のが見えた。

 

 (ケイコ)はラケールを落ちてきた物体から遠ざける為に術式を省いた魔法で自身を強化し、体当たりをした。

 

「グェ?!」

 

 変な声を出したラケールに悪いと思いながらも二人で床を滑りながら入口の方から叫ぶ声と“じゅうせい”がした。

 

「各隊員、確保するのが最優先だ! 散って逝った戦友の弔い合戦だ!!」

 

 入口の方額を見ると覆面を着けた数人の人達が走りながら銃を使い、通りすがらに人を撃つのが見えた。

 

「何て事を?!」

 

 信じられなかった。

 

 今までとは違い、撃たれていく者達は手に武器を持っていたが今回は違う。

 

 明らかに武器を持っていようがいまいが無差別に皆撃たれていく。

 

「いッッッッた…ティダ帝国の特攻隊ねあれは────」

 

 ラケールが体を起き上がらせながら小物入れから小さめの銃を取り出す。

 

「まずは比較的安全な場所に移動するよケイコ!」

 

「で、ですが────」

 

「まずは自分達の安全、その次に他の人よ!」

 

 ラケールが私の手を取り、走る。

 

 _________________________________________

 

「クソ、このタイミングで────!」

 

 (マイケル)は今ほぼ反射的に掛かってくる(多分)ティダ帝国の特攻隊を護身用の小銃で威嚇しながら移動していた(鼻血は花を噴き出した後袖で拭いた)。

 

 さっきの金髪共は置いといて今はこいつらが厄介だ。

 特攻隊なら出来るだけ暴れてお仕舞いだからな。

 

 俺は持っていたFN Five-seveNのマガジンを交換し、残りの弾薬と敵の確認をした。

 

 チェンバーの中に一発。 弾倉に20発で合計21発、スライドを引く必要無し。

 スペアマガジンは後二本。

 敵は私服偽装の為ボディアーマーは恐らくIIかIIIーAがせいぜいだろう。

 

 それでも今の装備じゃ荷が重いか。 まずは奥にあるシェルターに行って、装備を充実させるか状況によっては逃げる。

 朧気に覚えている博物館の見取り図を脳内に思い浮かべて行動を開始し始める。

 

 が、いつもと違ってここでケイコとラケールの二人も思い浮かぶ。

 

 そう言えばあの二人は大丈夫か────?

 

 _________________________________________

 

「どうするのですか?!」

 

 ケイコが走りながら(ラケール)に話しかけてくる。

 

「まずは奥のシェルターに行ってからよ! こういう時に備えて各公共の場には正規軍が常時警備している筈よ! そこで装備を整えて────グェ?!」

 

 ケイコに突然襟元を掴んで首が締まり、変な声が出る。

 

「ゲホッ。な、何よ────?!」

 

 ケイコが“静かに”というジェスチャーをしながら通路の脇によると先の交差点を敵の特効部隊の何人かが走り通る。

 

「…これで先に進んでも大丈夫と思います」

 

「ちょっと何今の? 今何をしたの?」

 

「え? 普通に足音が聞こえて来たので慎重に動こうかと────」

 

「ちょっと何それ、エスパー的な感じ奴?」

 

「“えすぱー”とは何か存じませんが、ただ聞こえやすいように魔法を────」

 

 …なんですと?

 

「ちょ、ちょいまち。 え? 何? 今時魔法ごっこ?」

 

 この歳で“魔法ごっこ”ってどれだけ────

 

「いえ、遊びや冗談ではなく」

 

「魔法」

 

「はい」

 

 何この真剣な顔。 冗談でしょ?

 あ、これは緊急事態によく起きる場を和ませる冗談ね。

 

「…じゃあ何? アンタは掌から冷や水を出したり出来る訳?」

 

「確かに出来ますが今は役立つのはやはり探知系の魔術や魔法かと」

 

 ほらやっぱり冗談────

 

「て、えええええええ?!」

 

「え?! ど、どうしたんですか?! 何かあったんですか?!」

 

「あ、うん…ちょっとね…」

 

「?」

 

 ハア~。

 ……何か言うのも疲れてきた。

 

「…えーい!」

 

 バシン、と私は自分の頬を叩く。

 

「え? ど、どうしたんですか?! どこか具合が────」

 

「────ううん、今は使える物は全部使うわ」

 

 逆に考えて、この子が本当に魔法とか使えるならとことん使って今の状況を有利に持って行こうじゃない!

 

「よし、作戦変更よ! ケイコちゃんが使える魔法や魔術一通り教えて!」

 

 _________________________________________

 

「マジか」

 

 (マイケル)は物陰に身を寄せながら通路先を防いでいる旧式の装甲兵員輸送車BTR-80の30ミリ2A72に搭乗している敵の特攻隊を見る。

 

 やっぱり古いとは言え、ティダ帝国の装備品を先に奪取して使うか。

 

「不味いな、見事シェルター行きのメイン通路にキャンプしていやがる」

 

 周りと通路に寝っ転がっている30ミリの直弾を受けたと思われる死体とかが辺りに悪臭を放つ。

 

 と言っても何時もの血と生臭い、焼けた肉のような匂いだが。

 

「さあて、どうするか」

 

 ちょっと困ったなこりゃあ。 迂回するか、戻って他に人手を見つけてこっちも車両を使うか? 

 …いや、人手が見つかるどころか敵の後続に挟み撃ちになる事もある。

 

 戻って対戦車ミサイルかライフルを────

 

「ん?」

 

 微かにだがこっちに向かうような音がしたと思い、耳を床に付けるとキャタピラの音がスゴイ振動で近づくのを聞く。

 

「ヤベ、遮蔽物がねえ!」

 

 俺は周りを見て、大きめの死体の下に潜り込む。

 所謂“Play Dead”って戦法だ。

 

 出来るだけ自分も死体に偽装するとM4 Sherman戦車が腹にグッと来るようなうねった音を上げながら猛スピードでこっちに来ていた。

 

 敵か? 味方か? 

 いや、味方だ! 敵なら友軍が先にいる通路をあんなスピードで飛ばす訳が無い!

 

 ティダ帝国の特攻隊もこの考えに至ったのかBTR-80に搭載してあるの30ミリキャノンがM4 Sherman戦車のキャタピラを狙って撃ち始める────

 

 ────と思ったらM4 Sherman戦車のほうが先に撃ち、BTR-80に着弾する。

 

 鉄と鉄のぶつかる、耳をつんざく様な音が響きBTR-80がひどく揺れている内に今度はM4 Sherman戦車本体が体当たりをかます。

 

 おお、スゲエ。 てかM4 Shermanのヤツ、めっちゃ思い切った事をするな。

 

 BTR-80は14tだが対してM4 Shermanは30t前後に加えてあの猛スピード。

 見ている内にBTR-80が横に倒れ始め、中から敵兵が避難する。

 が、M4 Shermanに搭乗している奴らもこれを知っていたのか、上にあるコマンダーハッチが開き────

 

 ────中から両手にM1トンプソンサブマシンガンを構えているラケールが飛び出た。

 って乗ってた奴はよりによってアイツかよ?!

 

 そのまま飛び出たラケールはM1トンプソンサブマシンガンを片手ずつ使い逃げていく敵を撃ち、それに乗じて俺も“Play Dead”をやめFN Five-seveNを撃つ。

 

「遅いわよマイケル!」

 

「うるせえ、そっちこそ無茶しやがる! ケイコは?!」

 

 そう言っている内にM4 Shermanの中からケイコが出ようとしているのを見て、手を貸す。

 

「おう、無事だったか────」

 

「ありがとうございます!」

 

「うお?!」

 

 いきなりの叫び声で思わずこけそうなのを何とか踏みとどまる。

 

「あ、すみません! 耳が少しキーンとして────!」

 

「マイケル、早くターレットを反転させて────!」

 

 ケイコとラケールが俺に叫ぶがふと通路のほうを見るとRPG-22でこっちに狙いを定めている敵兵が見えた。

 

「退避────!」

 

 俺はケイコとラケールを無理やり押し/引っ張りM4 Shermanから距離を取らせると共に敵がロケットを撃つ。

 

 あ、駄目だわこれは。 無理。

 

 _________________________________________

 

 (ケイコ)はマイケルさんが押すと同時にこちらに飛来する物体を見ていた。

 今日見た展示品で確かラケールが“ろけっと”と呼んでいた物で────

 

 ────気が付くと私は既に魔法を行使し、風を起こし“ろけっと”の飛ぶ方向を無理やり変えた。

 

 _________________________________________

 

 あ、これ死んだわ。

 

 (ラケール)は後ろからくるロケットを見て死を覚悟したけど()()()()()()が体を襲い、ロケットの軌跡が横へと変わり私達の横を素通りし少し置いた距離で爆発する。

 

「も、もしかしてこれが魔法?」

 

 …ちょっと待てよ。()()()()()()

 …何だろうこれ。



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第21話 「POW」

21話目です!
今回からは一人称と……えーと、“三人称視点”(?)を合わせました!
三人称視点は〔〕で表せています!


「ぬあ?!」

 

 ロケットの爆発で(マイケル)はよろめきながらケイコをカバーしながらラケールの方に叫ぶ。

 

シャーマン(M4 Sherman)は?!」

 

「敵に使われないように手榴弾を使うわ!」

 

 ラケールはシャーマン(M4 Sherman)のハッチ裏の何かを引くと同時にサーメートが焼ける独自の匂いが鼻を襲った────

 

「────ってよりによってサーメートかよ?!」

 

「時間がなかったんだからしょうがないでしょ?!」

 

 俺達三人は内側から焼け始めるシャーマン(M4 Sherman)と横たわっているBTR-80を走り通ってシェルターが設置してある奥へと進んだ。

 

「いや~、でも二人が無事で良かったよ」

 

 そう言うと、ラケールが意外そうな顔で俺のほうを見る。

 

「え? そ、そう?」

 

「そりゃそうだろ?」

 

「え?!」

 

 何だよコイツ(ラケール)、失礼だな。

 

「だって二人がいなかったら大変だったからな。 どうやってあの装甲車(敵のBTR-80)を一人で切り抜けるかとか考えるだけで頭が痛くなるじゃん?」

 

「………フン!」

 

 ちょっとラケールさん? 何故そこでジト目&顔プイ?

 

 そうこうしている間にシェルターらしきエアロック状のゲートに着いた。

 

「えーと、このインターフェイスに市民番号を入れて────」

 

 …………

 

 ……

 

 …

 

 で、俺達三人はシェルターに入った訳だが────

 

「────これってもしかしなくてもヤバくね────いで?!」

 

「こんな時に馬鹿言ってんじゃないわよ!」

 

 俺がふざけている────もとい場を和ませる冗談を言う────とラケールが頭突きを食らわせた。

 ゴリラの上に石頭とは…

 

「大丈夫ですかマイケルさん?」

 

「ああ、ありがとう。 すまないな、こんな事になってしまって」

 

「いえ、まさか“しぇるたー”なるものが敵の手に落ちていたのは誰も想像していないかと」

 

 あー、マジでいい子。

 ちなみにもう察しているかもしれないがシェルターは既にティダ帝国の潜入部隊に占拠されて、到着した俺達は身柄を拘束されていた(現在はシェルター内に設置してある数ある個室の一つに三人共腕を後ろに縛らている)。

 

「で? どうするのよ?」

 

「いや、どうもこうもないだろ。 てかお前この縄引き千切れない?」

 

「……アンタは私を何だと思っているの?」

 

「怪力おん────いで!」

 

「ア・ン・タね~!!!」

 

「だってお前重装兵じゃん!」

 

「だからって限度って物があるわ」

 

「だってクリフは出来たぞ?」

 

「上半身ほぼメカの奴と比べないでくれる?」

 

「“めか”?」

 

「そういやそうだったなアイツ(クリフ)。 えーと、つまり身体の上部分がほとんど機械なんだ」

 

「それは…何か凄いですね。Docka(人口人形)とは違うのですか?」

 

Docka(人口人形)は一から作られて、クリフの場合は怪我を負って代わりに機械にしたって感じだな」

 

「そうね。確かあいつの場合両腕とアバラ左半分が吹き飛んだっけ? で、どうすんのよホントに?」

 

「だな、今の状況は不可解な部分が多い」

 

「そうなのですか?」

 

 あー、ケイコは知らない筈だな。

 

「まずティダ帝国の突撃部隊が捕虜を取るのが前代未聞だ。突撃部隊と読んじゃあいるが、実質“帰る見込みの無い”部隊なんだ。だから捕虜を取ったとしても意味があまり無いんだ」

 

「“取る意味が無い”?」

 

「だって死ぬつもりで戦うような奴らだぜ?」

 

「そ、そんな…」

 

 毎度思うんだが何なんだ? あの表情()は?

 落ち着いたら聞いてみようか。

 

 それにしても今回は何が違うっていうんだ?

 突撃部隊が捕虜を取るのにはそれなりの理由────

 

「────あ」

 

「何だ、ラケール?」

 

 俺はラケールを見る。

 

「もしかしてだけど…ねえ、ケイコちゃん? 少し前、天井が崩れる前に見上げてたけどあれは────」

 

「────あ、はい。 ()()()()()()と感じたので────」

 

「────それってやっぱり“魔法”的な奴?」

 

 うぃえ?! ナンデ知ってんの??!

 

「ってちょっと待てい! なんでお前が────?」

 

「あら、やっぱりマイケルは知ってたのね?」

 

「うげ…」

 

「それはまあ、置いといて────」

 

「いいのかよ」

 

「良くないけど、今の状況下で違うのは明らかにこの子かさっきの“魔法”でしょ? で、この子が何かに反応したのを私は見たわけ」

 

「で、それで“魔法”に至った訳か」

 

「うん。 それで二人とも何か分かる? 私はつい最近までそんな物が実在したなんて知らなかったから」

 

「…うーん、俺もそんなに言える程知ってる訳じゃないんだが────」

 

「私もです…魔力に関する“何か”というのは確実なのですが」

 

「「どゆこと?」」

 

 お、俺とラケールがハモッた。

 

「あ、いえ。 先程感じ取ったのは魔法の行使、または発動だったのですが今はどちらかと言うと魔術が────」

 

「ちょっと待って、その二つって違うの?」

 

「は、はい。 魔法は使う際に使用者独自の波長みたいな物が発するのですが、今は────」

 

「その話は後だラケール。今は現状打破が先だ」

 

「そうね。で、この縄を解くような奴はある?」

 

「えーと……」

 

「無いの?」

 

「どっちかって言うと俺もそんなに詳しい訳じゃないからな」

 

「“風の刃”と言う物があるのですが────」

 

「────よし、それで行こう」

 

「ですが縄を切ると同時に下にある皮膚と肉も切ってしまうかと」

 

 ナンデスト?

 

「“風の刃”は物を切断する為に使う物ですので……」

 

「あー、鋸か包丁みたいなものか」

 

 “縄が解けたけど同時に腕も無くしちゃいました、テヘ☆”じゃあ本末転倒だからな。

 

「あ、じゃあ火で縄を焦げ落とすってのは?」

 

「あ、それならば()()()()()()()()()()

 

「大丈夫()()()()()()()?」

 

「いえ、こういう使い方は初めてなので……」

 

「あ、いや責めてるわけじゃないんだ。それで行こう」

 

「で、ではこちらに来て背を向けてもらえますか?」

 

「おう」

 

 俺は言われたとおりにケイコの傍に寄り、背を向けた。

 

「あ、あの……しゃがんでもらえますか?」

 

「ん?」

 

「い、いえ。こういう細かい作業は初めてですので、火を手で覆い縄を焼くので────」

 

「あー、そうだな」

 

 そういえば俺とケイコとの身長差は頭一つ分ぐらいあったな。

 俺がしゃがむと────

 

「────では」

 

 ファサ。

 

 ……“ファサ”?

 

 突然俺の手に変な感触が────

 

「────すみません、髪の毛を横にしてもらえますか?」

 

「あ、ああ」

 

 俺は出来るだけケイコの髪の毛を動かし────

 ────ってサラサラして細いなー。

 

「ええと……」

 

 ケイコの手が俺の腰をまさぐり始める。

 

「もうちょっと上だ。しゃがむぞ────」

 

 っと、俺がしゃがむと────

 

 フニッ。

 

「ひゃ?!」

 

 ん? 何だこれ? やわらかい何かを触────

 

「何してんのよ変態!」

 

「ブオ?!」

 

 こ、こいつ(ラケール)器用に縛られながら俺の顔を蹴りやがった!

 俺が何をしたって言うんだよ?!

 …相変わらずキレの良い足技。

 

「アンタね────!」

 

「い、いえ大丈夫です。故意では無いかと」

 

 だから何を?

 

 そう考えている内に俺の手や腕をケイコが触り、腕が縛られている辺りが熱くなり始める。

 

「お、効き始めたかな?」

 

 ラケールが横で覗き込むとポカンとした表情をする。

 

「ふおお、凄い。ホントにケイコちゃんの手の中に火が燃えている────あ、もうちょっと近くにしないと」

 

「こうですか?」

 

 …アツ。

 

「うん、そうそうそこらへん」

 

 アツツ。

 

「うん、あともうちょいで────」

 

「────ぅあっちぃ!」

 

 暑い暑い暑い暑い暑い!

 

 突然温度が上がったような感覚で思わず俺は立ち上がり、腕を冷やす為にひたすら動かし、縄が緩んだの感じた。

 

「お? おお?」

 

「やった! 成功よマイケル! さ、早く私達の縄も解いて!」

 

 自分の縄を解き、今度は二人の────

 

「────滅茶苦茶固いな、この縄」

 

「あ、やっぱり?」

 

「やはりこれらも焼かないといけないのでしょうか?」

 

「じゃあ俺がケイコの手をガイド────」

 

「てか何でアンタ(マイケル)は魔法使わないわけ?」

 

 うぐ。 ラケールさん、痛いところを。

 

「マイケルさんはどうにも原初の理(げんしょのことわり)の理解があまり────」

 

「出たぁぁぁぁぁ! 中二病的なアレ!」

 

「“中二病”? 何の病気だそれ?」

 

「さあ? 私も良く分かんない。 旧世界で魔法とかに関してよく出てきた単語。 いやホント、あとで詳しく聞かせて────」

 

「────ていうか良く敵さんの見張りとか来ないな。どうしてだろう?」

 

「でもこれはチャンスよ」

 

「違いねえな」

 

 _________________________________________

 

 〔一方その頃シェルター内での通信室では叫ぶ声が通路にまで響いていた…〕

 

「────話が違うではないですか!」

 

 〔通信室の中にはティダ帝国の突撃部隊らしき人物が画面に向かい怒鳴っていた。〕

 

『君とは前以って作戦内容を確認した筈だが?』

 

 〔画面越しには突撃部隊の上官らしき男が退屈な表情をしながら答えていた。〕

 

「作戦は対象の身柄を確保次第、援軍が後程指示をする筈では?!」

 

『そうだが?』

 

「でしたら何故援軍は来ないのですか? 部下に説明をしようにも────」

 

『────だからさっき君も確認した様に援軍はもうそちらに着いているではないか』

 

「……あの女二人が()()ですか?」

 

『君の思うところは分かるが、これは軍上層部からの勅命なのだ』

 

「だが彼女がここに着いてからは“捕虜が必要”と“ここからはまだ動かない”と変な命令を出し、部下にも混乱が生じました。今は何とか統制を維持していますが────」

 

『それも作戦の内だ。 今我が軍が時間を稼ぐ為に各地で市街戦を行っている。彼女の好きなようにさせなさい。他には無いかね? 他に指示を仰いで来る者が閊えているのでね』

 

「……いえ、他には…何も…」

 

『宜しい、では次の指示があるまで現状維持に慎め』

 

 〔そう言い残すと上官らしき人物側から通信が切れ、通信室に残された突撃部隊の体調らしき者がグッタリと椅子に座る〕

 

「……クソデスク(desk)ジョッキー(jockey)が。現場に居ないくせに…」

 

 〔そう言い残すと上官らしき人物側から通信が切れ、通信室に残された突撃部隊の体調らしき者がグッタリと椅子に座ると後ろの扉が開き、一人の女性が入ってきた。〕

 

「荒々しい声が通路まで聞こえましたよ、隊長さん?」

 

 〔“隊長”と呼ばれた者が後ろを振り向き通信室に入ってきた女性を睨む。

 女性は白衣を纏い、紫色の髪は長く後ろにポニーテールに纏まり、抜群のプロポーション。 

 顔はどこかこの状況を楽しむかのようにニンマリと笑っていた。〕

 

「その顔じゃ、あまり良くない話をしたようね?」

 

「……」

 

「ンフフ、そう睨まないでくれるかしら?」

 

「…次の指示は?」

 

「つまらない人。 まだここの用事は終わっていないからその後になるわね。 ああ、疲れてきたら私に言って頂戴? 眠気覚ましになる飲み物ぐらいは出せるから」

 

 〔白衣の着た女性そう言い、部屋を出ようと踵を返すと隊長と呼ばれた者が声を掛ける。〕

 

「お前は何者だ? 我らティダ帝国の上層部に関わっているらしいが私はお前たち二人の事を見た事も聞いた事も無い」

 

「あら、最初に会った時に言った通りよ? 私達は極秘中の極秘。 一般の兵達には存在すら匂わせないようになっているの」

 

「……」

 

「話が終わったのなら私は戻るわね?」

 

 〔そう言い残し、白衣の女性は部屋を出て、通路を歩くと一人の少女らしき人影が壁に身を預けているのが見え、白衣の女性に声を掛ける。〕

 

「茶番は終わったかロクバン?」

 

「オホホ、茶番だなんてそんな…せめて人形遊びって言って頂戴?」

 

 〔“ロクバン” と呼ばれた白衣の女性は歩みを止めず歩き続けると壁に身を預けていた少女も身を乗り出し、後を歩く。

 これにより少女の服装と顔立ちもう少し明らかになり、彼女は隣の女性とは対照的に退屈な表情に少し背が低く、ショートな黒髪と思わせるが後ろに細長いポニーテールらしき髪が後ろを揺れる。

 顔自身は正統派和風美少女らしく、服装は地球の幕末時代の侍服装が現代風にバージョンアップしたような雰囲気を思わせ、腰と背中に鞘に収めている刀らしき物が見える。〕

 

「で? どうなのだ?」

 

「う~ん、暇つぶしに何体かバラしたけどあまり変わっていないわね────」

 

「────貴様の趣味の事では無い、阿呆」

 

「相も変わらずの堅物ね。 安心して、今回の“オカルト好き”────ああ、ごめん言い直すわ。 “魔術師”は私の提案した方針で今も実験中よ?」

 

「そうか」

 

「最も、成功するには中身が重要になるのだけど」

 

 〔歩みを続ける白衣の女性は声の低い一人笑いをクスクスとしながらも笑顔は崩れず、もう一人の侍風の少女の表情は一切変わらなかった。〕




初の三人称視点はいかがでしたか?
これからもこういう風に使う予定ですがあまり良くないのであれば一人称オンリーに戻せます。

後々今までの話をもう一度読み直して直すべき場所などを見つけ次第直す予定ですので“なろう”での最新情報が変わるかもしれませんので前以って一声をと。

では、また次の話で!


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第22話 「BOW」

「で? どうここを抜け出すの?」

 

「ドアは────」

 

 ────うん、さすがにロック()は掛かっているな。

 ガチャガチャと取っ手を俺は捻るが扉は開かない。

 

「後は────」

 

 ラケールがそう言い天井を見上げ、(マイケル)もそれに釣られ上を見上げる。

 

 そこには換気とメンテナンス用を兼ねた換気口が見える。

 

「不気味なほど静かだな」

 

「そうね、何かしら聞こえてくると思ったんだけど…」

 

「よし、一人の上に誰か肩車した上で三人目が上ったところでやっとリーチする高さ位か?」

 

「見たいね。という訳でアンタが一番上ね────」

 

 ラケールが俺に方向に指を指す。

 

「ってちょっと待て! どうしてそうなる!」

 

「だってこの三人の中で隠密行動経験者は私達二人、でも力で言うと(ラケール)が地盤になったほうが安定するでしょ? 消去方法よ」

 

「俺はケイコに上らない」

 

「「え?」」

 

 二人が俺を見る。

 …ちょっと気まずいな。

 

「なんで?」

 

「い、いや……だって……女に上に上るってのは抵抗があるって言うか────」

 

「────アンタこの非常時に何言っていんの」

 

「そ、そうですよマイケルさん」

 

 うぐ。この二人から同時に正論が来るとは。

 

「てかお前(ケイコ)は大丈夫なのかよ?」

 

「ふ、不束者ですが頑張ります!」

 

「…苦労掛けるな、すまないケイコ」

 

「いえ、私は構いせんよ?」

 

 ええ子や。

 この隣の人と違って。

 

「っで? なんでそこで俺をジーっと見ているラケール?」

 

「う、ううん…べっつにー?」

 

「じゃあ、俺が換気口からこの部屋のカギを開けてくる」

 

「そして私達二人はここで待機。見張りが入って来たら拘束の振りをして不意打ちを掛けるって事で良いわよね?」

 

「話が早くて助かる」

 

「ふ、不意打ちと言うのは?」

 

 ケイコが俺達二人に聞いてくる。

 

「普通にこれ?」

 

 ラケールがチョークホールドからの首折りモーションをケイコにジェスチャーする。

 

「???」

 

 いやいや、それじゃあ伝わらないぞラケール。

 

「あー、極端な話無力化する(殺す)ってことだ」

 

「あ、成る程。()()()ですね!」

 

 お、これは通じたな。

 よし、作戦(ミッション)開始だ!

 

 ………

 ……

 …

 

「しっかしこのダクト(通気通路)狭いな」

 

 俺は身をよじりながら先進む。

 今通っている所はマッチョな男(またはデブ)だったら百パー詰んでいるな。

 

 少しの間進むと次のダクトの隙間が見えてきた。

 

 お? なんか話声がする……

 

『────で────あるからにして────』

 

『成程! 流石────ですな!』

 

『いえ────序の口────』

 

 この声は……男女の声だな。少なくとも一人ずついる。

 どんな部屋何だろう? 声のトーンからして監禁されてなさそうだが……

 

 俺はダクトカバーの隙間を覗き、部屋の様子を窺っ────。

 

「ッ?!」

 

 部屋の中を見ようと近づいた瞬間腐りかけている血と肉、人の糞尿が混ざった様な猛烈な匂いが鼻を襲う。

 思わず声を上げそうになるが息をこらえラケールのゲテモノ料理を思い出し呼吸を鼻から口に変える。

 

 ダクトカバーの隙間を覗くと中には医療室っぽい景色が見えた……様な気がする。

 明らかに違うのは患者用のベッドや医療器具が部屋の端に動かされたのか見当たらない。

 床の所々は真新しい血と古い血、肉片などが混ざり合った箇所。

 そして部屋の中心辺りの床には誰かが直接()()を刻み込んでいた。

 

「成程成程! こことここが間違っていたから体は合成を果たせなかったのか!」

 

 声からしてこっちが男だな。

 見た目はよく見えないが……強いて言うなら“狂気”に近い熱気の様な物が声から感じ取れる。

 

 そこから視界の中に他の誰かが話しながら歩いてくる。

 

「そうそう。これは初歩的な事だからメモっとくのを忘れないでね? ……えーと、貴方達で言う“中身”が無事だったとしても入れ物が不完全だと────」

 

 こっちは女か?

 声からして成人、足音からは身長は160から170㎝位か?

 ハイヒールの安定からして体型はスリムっぽいな。

 話からして何かの議論か?

 いや待てよ、あの床に刻まれている模様……

 おいありゃもしかして魔術の術式か?!

 

「まさに陰と陽の関係! 素晴らしいです! 人の長年の願いに一歩近づけた!」

 

「でもまさかティダ帝国の研究者の中にまだこれほど魔術の知識が残っていたとは思わなかったわ。てっきり科学の歴史の中に埋もれていったと────」

 

「何を言おう、過去の私の家計は初代ティダ帝国皇帝家の血族関係者だったのです! 他の者達は“時代遅れ”や“意味が無い”など数々の暴言を言い残し去って行った者と私は違う! 私は────」

 

「あーハイハイ。“先祖代々の知識や研究の書き残しを現代に再現できるかどうかが私の生産”……だっけ?」

 

「そうだとも! これが成功した暁には今の銃や“モビルソルジャー”など比べ物にもならん大きな“力” が手に入る!」

 

「それでまずは“コレ” って事?」

 

「そうだ! おい! 次の者を連れて来い!」

 

 部屋の中の男が出口らしき方向に声を荒げ、近くのテーブルの上の何かを見ながらブツブツと低い声で独り言を言い始める。

 

 女のほうは視界から出て椅子かベッドに腰かけたのかギシッと音が上がって以来何も聞こえてこない。

 

 ……これ以上ここにいても時間の無駄────

 

 ────と思ったら何か部屋の外が騒がしくなった。

 

『!!!』『!!』『!?!?』

 

 何か怒鳴っているような…

 まさかアイツ(ラケール)じゃないだろうな?!

 

 扉が乱暴に開く音がして、怒鳴り声の内容が明らかになる。

 部屋の中に連れてこられたのは拘束された男子……服装からして警備員

 か?

 

 うわ~、かなりボコられたな。

 てかこれは動くチャンスだ。 

 何だ? 警備員をあの術式らしき物の中心に────

 

「ぐわああああああ?!」

 

 ────足の甲を()()()()()()()()()()

 

 ホー、イタソー。

 っと、呆けている場合じゃない、動くチャンスだ。

 警備員が叫んでいる間に俺は先に進み、首筋辺りがゾワっと一瞬毛が立って警備員の叫びが止んだ。

 

 …何が起こったのか分からないが早いところここから出ないといけないな────

 

『クソ、これも失敗か!』

 

『そうみたいね』

 

 後ろから声が遠のき、俺は進む。

 

 _________________________________________

 

「うーん、不気味なほど静かね」

 

「…」

 

「他に誰か聞き取れる?」

 

「……あ、すみません。何ですか?」

 

 (ケイコ)は亡くなった方の目をそっと閉じ、ラケールの方を見る。 

 

「他に誰か聞き取れ────って何してんの?」

 

「あ、亡くなった方に祈りを…えっと、他に“人”は聞き取れません」

 

「じゃあ、出来るだけマイケルの方向に行って出られる部屋に先回りしましょ? 私が合図したらついて来て」

 

「ハ、ハイ」

 

 ラケールが銃を拾い上げ確認している間に(ケイコ)は先程彼女が殺した敵兵達に最後の一言を送った。

 

「�����」

 

「ん? 何か言った?」

 

「いえ」

 

「そ。 じゃあそっと付いて来て」

 

 やはりこの世界はおかしい。

 

 _________________________________________

 

 ……よし、ここなら出れそうだな。

 

 (マイケル)は物置らしき部屋の中に出た。

 

「うげ、埃だらけ」

 

 さっさと髪と顔を払い、ドアの方に近づき外の様子を見る。

 …しかし手薄だな。見張りか他の奴らがいてもおかしくないのに。

 

 そう考えながら物置の中の箱などを確認する。

 

「うーん、さすがに銃とかはないか」

 

 中には非常時の時の為の器具や薬に────

 

「いや待てよ、コレ使えるぞ」

 

 俺が中身を拝借しているとドアの外から気配がし、俺は物陰に移る。

 気配が大きくなり、ドアの前で止まった。

 

 俺はドアが開く瞬間を待ち構え────

 

「ちょ、マイケルストップ、私達よ!」

 

 ラケールの小声で俺は薬物を投げるのをやめた。

 

「お、お前らも良く無事に出られたな?」

 

「運が良かっただけ、ね?」

 

「ハイ……ですが何か変です」

 

 ケイコがチラッと俺の方を見た様な気がした。

 

「何が?」

 

「その……他に人が見えなかったのです」

 

「は?」

 

「そうなのよ、さっきまでずっと警戒していたんだけど人影が断然────」

 

 そこでケイコがラケールの話を止め、横を向いた。

 

「待って下さい…何か…聞こえます」

 

「早く中に入れ!」

 

 ラケールとケイコが俺のいる部屋の中に入り、俺達三人は息を潜んだ。

 潜んで数秒後、ヒタヒタとした足音らしき物が汚臭と共に通り過ぎる。

 …ホントラケールのゲテモノ料理に感謝する。

 

「失礼ね────!」

 

 ヤベ、声に出ていたか。

 

「────てかクサ?! 何この匂い?!」

 

「少し見てくる」

 

 俺がドアをそっと開け、通り過ぎた通路を見ると────

 

 ────そこにはおぞましい()()が見えた。

 

「何だ、()()?」

 

 通路を歩いているモノ、それは()()()()を思いさせるナニカだった。

 四足歩行で身長は2メートル前後位、全長は6メートル……

 いや、()()()()()()()()()

 

 重要なのはソイツの身体の皮下が剥き出しの姿で所々の腐った血肉がずり落ちて床にボタボタと落ちて行く。

 まるで身体がすごい熱を浴びているのか熱気の様な物が辺りに拡散していく。

 

「…なに、()()? 新手のBOW(生物有機兵器)?」

 

 俺の肩にラケールの顎が置かれて彼女も()()を見る。

 

「分からん、だがそんな物を突撃部隊はどうやってここに持って来た?」

 

 あの大きな犬モドキが何かに気付いたのか、鼻らしき部位(異様な形だが鼻面っぽい)から大きく息を吸い込む。

 

「ヤバ────」

 

「あ痛────?!」

 

 俺はドアを閉めながら身を後ろに移動させ(ラケールにちょい頭突きを食らわせてしまったが今はどうでもいい)、取り敢えず消臭剤になりそうな重曹をドアの隙間辺りにぶちまける。

 

「ゲホ、マイケルさん何を────ムグ」

 

「し、静かに」

 

 俺はケイコ(ついでにラケールも)部屋の奥に押し、口を手で塞ぐ。

 

「Fushuuu… Fushuuu…」

 

 荒げた息の様な音がドアの隙間から聞こえ、重曹の粉が()()の息で宙を舞う。

 重曹を撒くのは不味かったか?

 

「Fushuuu… Fushuuu…」

 

 お、ナイスファインドだラケール。

 ラケールが俺に敵から奪った銃の一つを渡してきた。

 AK-105カーバインか…使い慣れていないが欲をかいている場合は無いな。

 

 てか早よどこか行けや!

 

 〔マイケル、ラケール、ケイコの三人がいる物置部屋の外には先程マイケルとラケールが見た大きな犬モドキがドア付近の匂いを嗅いでいる様な仕草が見えた。〕




どうでもいいかもしれませんが後21話の“POW”は“Prisoners of War”の略です。


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第23話 「異は日頃うちつけに

第23話 「異は日頃うちつけに」です!


 〔大きな犬モドキがドア付近の匂いを嗅いでいるとマイケルの撒いた重曹を吸い込んだのか咳をしているかの様な音が三人の耳に聞こえてくる。〕

 

「Gugah! Gaha! Gaha! 」

 

 そのままどっか行け!

 っと(マイケル)は念じながらAK105カーバインをラケールと共に狙いをドアに付ける。

 

「Fushuuu…」

 

 頼むからどこか行ってくれ!

 

「「「…」」」

 

 ドアの外からノッシリとした足音っぽいのが響いて遠のくのを俺、ラケール、ケイコが全員待ってから数分後(実際には数秒後か?)に長い溜息を出した。

 

「何だったんだ今のは?」

 

「ていうかちょっとグロかったわね」

 

「“ぐろ”とは?」

 

「“グロ”テスクの略。 なんか“屋敷・オブ・ジ・デッド”に出てくるゾンビ犬みたいな感じがしてない?」

 

「ああ、気味が悪いな。それに嫌な予感がする」

 

 俺はケイコとラケールに換気口での出来事を話す。

 

「…」

 

「うげ、何それ? ブードゥー儀式か何か? てかいまだにティダ帝国にそんな考えをする人がいるなんて…」

 

 ラケールが薄気味悪く反応しているのに対してケイコは何か考え事をしているのか黙り込んだ。

 てか何か心当たりがあるんじゃないか?

 

「どうしたんだケイコ?」

 

「え?」

 

「何か知っているのか?」

 

「いえ、ただ…」

 

「ただ?」

 

「生贄を用途する魔法は時に使い方を間違えると魔物を呼ぶと聞いた事が…」

 

「「え?」」

 

 じゃあなんだ? さっきの怪物は“魔法で作られた魔物”ってか?

 

「と、とにかくここから出よう」

 

 〔マイケルが話を終わり、三人は廊下へと通じるドアを開け、通路の様子を見る。 辺りには腐った肉の破片や固まりつつある瘡蓋らしく物が転がっている他は何も見えないらしく、マイケル、ケイコ、ラケールの順番で通路を進む。〕

 

「で、ケイコちゃんの使う感知の魔法ってどのぐらい有効なの?」

 

 未だに“ケイコちゃん”かよ。

 

「はい、私は主に風の動き、即ち“呼吸”の動きを“聞く”事によって分かるのですが…」

 

 あ、この流れは────

 

「な、何?」

 

 おずおずと聞くラケールに対して申し訳なさそうにうつ伏せるケイコが話の続きをする。

 

「先程の者は呼吸をしていませんでした」

 

 …え?

 

「え?」

 

 俺の内心とラケールの言葉がハモった(と思う)。

 

「…ちょっと不味いなそれは」

 

「ハア? 何でよ?」

 

「いや、だって呼吸をしていないって事はもう死んでいるって事だろ? もう死んでいるヤツをどうやって殺すんだ?」

 

「死ぬまで撃つ」

 

 何言ってんだこのアホ(ゴリラ)

 いや、脳筋か?

 

「弾が持つと思うのか?」

 

「博物館の保管庫の物を使うとか?」

 

「いやそもそも脱出して外の奴らと合流して────」

 

「そう言えばさっきから静かね、もう既にハウト連邦軍が突入しておかしくない筈なのに…」

 

「マイケルさん?」

 

「ん?」

 

 さっきから黙っていたケイコを見る。

 

「先程説明した話の中で術式らしき物を見たと言っていましたね? その部屋に案内してもらえますか?」

 

「…あー、いいが部屋の中はかなりグロイぞ?」

 

「かまいません、少し気になる事があるのです」

 

「分かった、こっちだ────」

 

 〔見る場所が変わり、博物館外の大道路の景色が見える。 

 そこにはハウト連邦所属のモビルソルジャー隊と戦車が先陣を切り博物館入り口付近に先程マイケル、ケイコ、ラケールが見た様な怪物を駆逐し、兵士が後方から装甲車に乗りなが博物館への突入の準備を進めていた。 

 その中の兵士二人が喋っていた。〕

 

「しっかしやっと突入できる段階になったな」

 

「ああ、先程のBOW(生物有機兵器)達が雪崩出て来て前衛を襲った時は焦ったが────」

 

「────そもそも無茶な命令だったんだよ、“周りのビルに被害無く殲滅しろ”なんて」

 

「まあ、M(モビル)ソルジャー隊の何人かは喜んでいたが」

 

「…まあ、気持ちは分からなくも無い。俺も火炎放射のナパームぶっ放しながら────」

 

「お喋りはそこまでにしろ! 各隊、博物館内の見取り図を再度頭に叩き込んでおけ!」

 

 〔士官らしき男が叫び、兵隊の何割かはもう既に掃討気分なのかスマホを使い今夜の献立や予定を立てていた。

 

 景色がまた博物館内にいるマイケル、ケイコ、ラケールに戻り、三人が()()()()に着く。〕

 

「ウッ!」

 

「うっわ、グロ」

 

「だから言っただろ?」

 

 ()()()()に着き、ケイコが口を塞ぎ別の方向を向き、ラケールバツが悪そうな顔で中を見る。

 

 部屋の中の照明をつけた今、中の景色がさらに鮮明に見えた。

 

「…大丈夫か?」

 

「…ハ、ハイ────」

 

 ケイコの顔色悪そうだな。やっぱ()()()()のは見慣れていないか。

 ケイコが床に刻み込まれているモノをブツブツと言いながらなぞっている間俺は机の上に置かれていた物に注目が行く。

 

「これは────」

 

 これは確か前に見たあの男女の傍らの男の方の奴が独り言を言っていたブツか?

 何だ、本か────

 

「何?!」

 

 俺は()()を手に取り目を見開く。

 

「何々? …なにこれ、ミミズみたいな模様?」

 

「いやこれは────」

 

 俺はこの文字を()()()()()、いや正確には()()()()()文字だ。

 

「何で…何で()()()()がここに書かれているんだよ?!」

 

「え? ガイア語って────」

 

 そう、本の題名がガイア語で書いてあった。

 

「マイケルさん、この術式は────きゃああああ?!」

 

「うお?!」

 

「何?!」

 

 ケイコが何かを言いかけたが突然床からの発している閃光に俺とラケールが声を上げ、ケイコが叫ぶ。

 

「ケイコ?! クソ、なんなんだよ?!」

 

 光りが眩しく、とても瞼を開けられる状態ではなく、俺は目を瞑り激しい風が周りを吹く。

 

「なにこれ?! 何なのよこれ?!」

 

「知らん! クソ、光が────!」

 

 俺は何とかケイコの方に歩もうとしたが、足が鉛みたいに重く、激しい風のせいで足元が不安定でうまく進めなかった。

 その中僅かにだがケイコの声がした様な気がした。

 

「マイケルさん」

 

 と消え入りそうな声で一言だけ。

 

「ケイコォォォォォ!」

 

 俺はありったけの声で叫んだつもりだが周りの暴風に飲み込まれ、自分自身が聞き取れないぐらいの音量にまで達していて、眩い光が辺りを埋め尽くすと共に何か吸引力みたいな力俺の体を引き込もうとする。

 

「ぬあ?!」

 

 この新たな勢いにびっくりしながらも何とか身体をかがみ、引き込む力に抵抗する。

 やがて暴風と光が収まり何とか目が見える程度に回復した。

 

「く、なんなの一体」

 

「ケイコは?!」

 

 ラケールも視界が回復し始め、俺はケイコのいた方を見ると彼女が床に横たわっていた。

 

「ケイコ!」

 

 俺は焦り始める気持ち何とか心の奥に押し込み、ケイコに駆け寄った。

 

「マイケル? え、ケイコちゃん?!」

 

 俺はラケールを無視しケイコのバイタルと呼吸をチェックした。

 …外傷なし、呼吸音もしているし心拍も強い。

 気を失っているだけか?

 

「ッ! マイケル!」

 

 後ろでラケールが息を潜む声がした様な気がするが今はそんな────

 

「グワ?!」

 

 〔マイケルの身体が何かに弾き飛ばされたかのようにケイコから遠のき、ラケールのいるところまで飛ばされる。〕

 

「な、なんだ今のは────?」

 

 俺は突然の勢いで遠くなりそうな意識を無理やり押し止め、ケイコの方を見る。

 そこにはどこを見ているのかハッキリしない目をしたケイコが立っていた。

 

「……」

 

「ケ、ケイコ?」

 

 何が何だか分からん。

 何だかわからないが…

 猛烈に嫌な予感が────

 

「────ドワ?!」

 

 急にケイコが動いたと思ったら喉を摑まれ、身体ごと宙に浮かされていた。

 じ、地味に苦しい。

 

「ちょっとケイコちゃ────きゃ?!」

 

 〔近寄ったラケールが声を出すと同時に急な風がラケールの身体を横に吹き飛ばし、その勢いで体が壁に打ち付けられる。〕

 

「ウガ…ガ…」

 

 く、苦しい…い、息が…

 俺は首を鷲掴みにしているケイコのてを何とか振り解こうと試みるが────

 ────細腕にどんだけ力入れてるんだ────

 ────無残にももがくだけだった。

 

�����(我を呼びしは汝か)?」

 

 通訳の魔法を切っているのかケイコが俺にガイア語で直接話しかけてくる。

 

「ガ…」

 

 未だに力を弱めていないケイコの腕をバシバシと手で叩く。

 答えようがないっと目で訴えたのが伝わったのか、握る力少し弱まる。

 ていうか俺の足浮いてね今? 地面に足が立っている感覚がないんだが。

 

「グハア! ハア、ハア、ハア────」

 

 あー、空気うまい。 酸素うっめえ。

 

�����(とくいらへよ、人)?」

 

 俺が空気いっぱい息継ぎをしていると再度ケイコから質問が来る。

 てか何か口調変わっていないか?

 それともこれがガイア語での口調なのか? イマイチ聞いてくる事が理解出来ない。

 

「ま、待ってくれケイコ、まず俺を下ろ────」

 

�����(まあ、よし。先ずは腹を満たすや)。」

 

 急な寒気が俺の背中を走り、ケイコが舌なめずりをする。

 

 そして銃声の音がして俺の身体が離され、俺は咳をしながら後ろへと後ずさった。

 

「マイケルから離れなさい!」

 

 俺が見るとラケールは頭からカツラを投げ捨てていてどこか切ったのか血が頬の横を流れ、ケイコの腕に弾痕の穴が数個開いて血がそこから床へと落ちて行った。

 

「|�����《ム、何なりそのあやしき筒は?それにこの依り世、余りにも動き鈍い》。」

 

「ごちゃごちゃとうるさいわね! マイケル、立てる?!」

 

 何が起こっているんだ?

 何なんだこれは?

 どうしてこうなった?




久しぶりに次回予告っぽいのをどうぞ!


運命の手綱を握っているのは偶然か“偶然”と装う名の何かなのか?
それは永遠の時を超える答えの無い謎かけ。
では視点を変え、問おう。
運命とは何ぞや?

次回第24話 「Rain From a Cloudless Sky」

晴天に降る雨は塩辛い。


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第24話 「After All」

24話目です。

少し長めですがお楽しみいただけると嬉しいです。


「フゥ、フゥ────」

 

 (ラケール)はAK-105の照準をケイコに乗せたままじりじりと咳をしているマイケルへと慎重に動いた。

 

 ああ、頭痛い。 これは何処か切っちゃったわね。

 視界に点々が見える。 頭の傷から流れる血がウザイ。

 頭が熱い。 カツラは取った筈なのに。

 

「�����?」

 

 ケイコがまた聞いた事の無い言葉で語ってくる。

 

「何よそれ────?!」

 

「────ゲホ、ガイア語だ…」

 

「マイケル、喉は大丈夫?」

 

「ああ、何とか────」

 

 (マイケル)がガラガラの声で答え、私は若干ホッとする。

 別に状況が良くなった訳じゃないけど────

 

「�����」

 

 ────ケイコがニタァと笑い、先程私が撃った腕を舐め────

 

「────ええええ?! ウソ?!」

 

 何アレ?! 傷口がもう閉じ始めている?!

 

「なら────!」

 

 私が引き金を引いたと思った瞬間、私の意識が遠くなりそうな程の痛みが背中を走っていた。

 

「────! ────!」

 

 マイケルが何か叫んでいる。

 耳がキーンとする……

 あ。 吹き飛ばされたの、私?

 何に?

 ……じゃない、早く立って……

 あれ? 足に力が入らないや。

 それに頭がグワングワンする。

 

 _________________________________________

 

「やめろ! やめてくれケイコ!」

 

 (マイケル)はラケールを吹き飛ばしたケイコに銃を構えながら叫ぶ。

 

���(そのあやしき)��(筒を使はずや)?」

 

 ケイコがそう俺に聞いてくる……

 撃つか? いや、まずは動きを止め────

 

「うわ?!」

 

 俺は魔力の動きらしきモノを肌で感じ、反射的に横へ身を投げると俺のいた場所当たりの床に無数の切り刻んだような傷跡が出来た。

 

「く────!」

 

���(ほう、汝には)��(見えたりや? それとも…)

 

 俺は銃の引き金を引く指に力を込め────

 ……()()()()()()

 

 何をしているんだ俺?

 撃て。

 

�����(いとほしく、産まれし)��(ばかりの雛のごとく)��(わななきて。 畏しや)?」

 

 早くとラケールを医者に見せないと。

 俺は未だに壁に叩きつけられ、呆けているラケールを見る。

 俺が、何とかしないと。

 でもケイコを撃つのは────

 

 ────でもそれじゃあ────

 

「クソォォォォォ!」

 

 俺はグチャグチャになりつつある思考を無視してようやく撃つ気になった指で引き金を引き、弾丸がありもしない方向へと撃ち込まれる。

 

「……ハッハッハッハ!」

 

 ああ、やめてくれ。

 そんな顔を俺は見たくない。

 そんな声を聞きたくない。

 優しい笑顔の出来る人が、顔が────

 ────人を嘲笑う様な────

 

 そこでケイコは壁の方に向かい、突然の爆発にもかかわらず笑っていた。

 

「突げ────グエ?!」

 

「な、なん────ウグ?!」

 

「ハッハッハッハ!」

 

 ケイコが笑いながら壁に穴を開け、突撃してきたハウト連邦部隊の隊員に文字通り飛び掛かり、獣の如くどこから湧いてきている怪力か何かで防弾ベストごと胴体や首などを引き裂いていく。

 

「って、見てる場合か、俺?! おい、ラケール! 大丈夫か?!」

 

 俺は遠のくケイコの笑う声を頭の端で聞きながらラケールのいる側まで走った。

 

「う…」

 

 ラケールが苦しそうに呻き声を上げる。

 

「おい!」

 

「背中と頭…痛い…」

 

 ラケールの頭から血が流れているのを俺はいま気付き、自分のジャケットの腕部分を千切り、ラケールの頭に巻き付け、出血を試みる。

 

「背中は────」

 

「あう」

 

 ちょ、変な声出すなよ。

 調子狂うな。

 

「後は────」

 

「どわあ! いった~い!!!」

 

 俺はラケールの背中を見るためにそっと身体を前のめり具合にした後、出血が外部にも内部にもないことを確認した。

 

「出血はしていない────」

 

「早く追いなさいよマイケル。」

 

 俺が応急処置を施そうとするとラケールに止められた。

 

あの子(ケイコ)のことが気がかりなんでしょ? 私は大丈夫だから」

 

「え、いやでも────」

 

「行きなさいってば!」

 

 半場力任せに俺はラケールに押される。

 

「…そうか、ありがとう」

 

「良いって事よ」

 

 俺はAK-105に不調が出ていないか確認し、部屋の外から聞こえる悲鳴を頼りに走った。

 

 _________________________________________

 

 あ~、私ってば何やってるんだろう。

 

 そう考えながら(ラケール)はマイケルが走って行く姿を見送りながら立ち上がった。

 

「ッ」

 

 立ち上がった瞬間、眩暈がして、倒れそうになるのを壁に寄りかかって阻止する。

 

「おかしいな、こんなにヤワだったっけ私?」

 

 そういえばちょっと前まで昏睡状態だったんだっけ、私。

 

「でもそれにしては筋肉とかは衰えてないわね、リハビリとかしてないのに」

 

 あ~、こんなに体が痛いのって()()()以来ね。

 

 0261空域戦線、私とマイケルが共に駆け抜けた場所。

 そして私がこん睡状態に陥った戦線でもある。

 

「…あれ?」

 

 懐かしむように私はその時のことを思い出そうとして()()()()()()()()事に気が付く。

 

「あれれ?」

 

 えっと、私は確かに出動して、母艦から発進する前にマイケルと話してそれから……

 

 その先からの事から目覚める前の記憶の空白に冷汗が私の背中を埋め尽くし始める。

 

「なん…で?」

 

 _________________________________________

 

 〔同時刻頃、マイケルは博物館内の通路を走っていた。所々にはハウト連邦の軍服と装備をしている軍人だったらしき()()()等の横を通る。〕

 

 何なんだこれ?! ケイコに何が起きたって言うんだよ?!

 クソ、クソ、クソ!

 

 角を曲がったところで自分の目を疑った。

 

 〔マイケルがそこで見た光景は実に見慣れたモノだった。 横たわって呻き声を上げる者、自分の欠損した手足などを探しそれを抱きしめる者、愛する者への願いなど。

 そこはマイケルが嫌と言うほど()()()()はずの、血生臭い戦場だった。

 だが────〕

 

「────ウッ!」

 

 〔何故か吐き気が込み上げ、嘔吐するのを必死に我慢するマイケル。

 口を手で覆い、先を急ぐ。〕

 

 何でだ? 新兵じゃあるまいし、何で俺は吐き気がしたんだ?

 

 〔困惑しながらもマイケルは走り、別の区に着くとそこには阿鼻叫喚となっていた。

 逃げ惑う兵士、恐怖に負け銃を乱射する兵士、勇気を使い、襲ってくる()()()に対して銃を撃つ兵士。

 その誰もが例外なく、等しく死に至る傷を終え散って逝く。

 そしてその原因は既に人の形を捨てているかのように黒い靄が全身を覆い変質し、この世のモノとは思えない、大きな四足歩行の異形のモノに変わり果てていた。

 異形のモノは黒い靄で作られた前足と口を使いながらその場にいる兵士達を時には遊ぶかのようにいたぶった後、食していた。〕

 

 俺はその景色を見て、覚悟を決める。

 

「ケイコ…」

 

 〔マイケルの声で異形のモノが殺戮(遊び)を止め、彼に振り向く。〕

 

『おお、先程の小僧か。』

 

 〔ガイア語ではなく、直接頭に響くような声にマイケルは内心動揺しながらも銃を構える。〕

 

「ケイコは…彼女は何処だ?」

 

 〔マイケルの質問を聞き、異形のモノが高らかに笑い始める。〕

 

『そんなに我の依り代が大事か? 安心せい、すぐに会える────』

 

 〔マイケルの背中に寒気が走ると同時に異形のモノが大きな靄で作られた口でマイケルの胴体に噛みつき持ち上げる。〕

 

「グワアァァァァ?!」

 

 俺は胴体に走る痛みにくぐもった声を上げ

 

『────我の表現の血肉としてな!』

 

「待ってたぜ────」

 

 俺は右手で持っていたAK-105と背中に背負っていたもう一つのAK-105を左手で取り出し構えた。

 照準を合わせるのは怪物の両目!

 

『────何?!』

 

「これで避け様がねえだろうがー!」

 

 〔マイケルが引き金を引き、二つの銃が火を吹く。

 その場に響く弾丸の音が数秒ほど鳴ったほどで止まり、辺りが沈黙に包まれる。〕

 

『…見事な覚悟だ、小僧』

 

 〔マイケルは浮遊感を感じ、身体が地面へと落ちた。

 彼は突然の出来事で態勢がよろめき尻餅をつき、銃を両手から手放す。〕

 

「ハァ、ハァ、ハァ────」

 

 俺は高ぶっている気持ちを落ち着けるように深呼吸を続け、目の前の靄の塊が擦れていく中、巨体が横へと倒れ辺りに地鳴りを促した。

 

「覚悟なんて無かった。 俺はただケイコに恩を返したいだけで、お前は…お前は()()()

 

『クハハハハハ! 恩を返す相手を打ち倒してまでか?!』

 

「アンタは…魔術か魔法関連の()()だろう?  魔獣か何かそれに連するモノ…それにその巨体、中に本体(ケイコ)がいるっぽいからな」

 

『…成程、こやつが思っている様な面白い小僧だ。』

 

「は? どういう意味だそりゃ?」

 

『いずれ分かる。 次回は…正しく我が呼ばれる事を待つとしよう────』

 

 黒い靄が急に薄くなり、消えた。

 代わりに床に横たわるケイコが露になり、俺は傍へと寄った。

 

「ケイコ!」

 

 〔マイケルが近づくと、ケイコの身体は無理をしたかの様に所々大きな傷跡等があり、酷く出血していた。〕

 

「おい! 脈は────」

 

「マイ、ケルさん?」

 

 ケイコが今にも消えそうな声で俺の名を呼ぶ。

 

「ケイコ!よかった、喋るな。 今から病院に────!」

 

「御免…なさい…」

 

 謝る? ケイコが俺に?

 何で?

 

「いや、謝るのは俺だ! 俺は────!」

 

 ………

 ……

 …

 

「…あー、ダルイ」

 

 (マイケル)は天井を見ながら独り言を放った。

 今いるのは博物館の近くに設置してある病院で中は患者などで溢れかえっていた。

 

「…そうね」

 

 俺はあの後出来るだけケイコの出血を止めるとすぐに第二突撃隊と出くわせ、ラケール共々一緒に入院した。

 

 ちなみに隣のベッドにはラケールが横になっていた。

 俺達二人は割と軽傷で済んだらしいのでそう言う様な他の患者と一緒に大部屋でいたが…

 いまいちラケールに元気が無い。

 

「…ねえマイケル」

 

「あん?」

 

 〔マイケルは入院して初めてラケールから呼ばれ、身をベッドから身体を起こし彼女の方を向いた。〕

 

「0261空域戦線の…」

 

 0261空域戦線だと?

 あれって確かラケールがMIA(生死不明者)認定になった────

 

「ううん、何でも無い」

 

 それを言い残し、ラケールは俺から隠れるように寝返りをする。

 

 いったい何だったんだ?

 

 そこに軍医らしき奴が数名の看護婦を連れて俺のベッドの横で止まる。

 何でだ?

 この流れは大抵良くない事が────

 

「君がレナルト軍曹か? あの女性仮市民の保証人をした?」

 

 仮市民の保証人?

 ケイコの事か?

 

「あ、ハイ。 そうだと思います?」

 

 俺の胸の鼓動が高鳴るのを感じ、耳にまで心臓の音が聞こえてくる。

 

「えっと、君と一緒に発見した変な髪の色をした女性の事だが────」

 

 いやいやいや、まさか────

 

「先程息を引き取ったと────」

 

 〔マイケルは勢いよくかぶっていた毛布を払いのけ、腕に刺さっていた点滴を乱暴に抜き取り重傷者用の病棟へと走った。〕

 

 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!

 

 〔マイケルは重傷者用の病棟へと着くと、荒げた息を整える事無く周りを見渡しながらズダズダと速足で歩く。〕

 

 アイツが、ケイコが────!

 

 〔マイケルは点滴を抜き取って腕から血が出ているのを無視しながら移動を続け、病院の裏にある遺体安置所の扉を乱暴に開けた。

 中には生気は無く、ただヒンヤリとした空気が開かれた扉から抜け出していく。

 マイケルは片っ端から遺体に被せてあるバッグのジッパーを開け、中の顔を次々と確認する。〕

 

 違う。

 違う。

 こいつも違う!

 

 仕切りに俺は次のジッパーに手を掛けると自然にうるさい鼓動がより音を増し、頭の中に大きなドラムが鳴っているかのような────

 

 そ、そんな筈は────

 

 そう自分に言い聞かせ、いまさらながら自分の手が震えている事に気付いた。

 気付いたとはいえ、止める事も無くジッパーを開け────

 

「ウ、オエエエエ!」

 

 ────中から青白い肌に変わり果てたケイコの顔を見た瞬間今までの吐き気が込み上げ、俺は床に吐いた。

 

 〔マイケルが吐き、地面へと倒れる。

 ほどなくして病院のスタッフがマイケルを発見し彼をもとの部屋に戻すのをラケールはボーっと見ていた。〕

 

 

 




では“なろう”からのストックはここまでなので今後ともよろしくお願いします!



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第25話 「人工の雨」

 〔病院の中の講堂の様な部屋の中には先程見た軽傷の兵士などが座っている場面が見え、士官らしき者達が先頭で演説を行い、博物館での出来事を一通り説明していた。

 この様な事は初めてではないらしく中の兵士のほとんどは五割が表情や姿勢を変える事無く妄想や今後の予定を立て、三割は明らかに“こんなの時間の無駄だ”と言う姿勢を取り、一.五割強は新兵、または軍人学生での低学年らが興味津々に演説を聞いていた。

 残りの者達はいずれ知人を亡くし、心がここに在らずと言った様な虚ろな目をしていた。〕

 

「────」

 

「……」

 

 〔その中にはマイケルもいた。

 士官たちの演説や説明など聞き流し、ただただ前を見ているのか分からない顔をしていた。〕

 

「────、────ではこれにて終了する。 なお、戦死を遂げた者には二階級特進が与えられている────」

 

 …ああ、これで終わりか。

 (マイケル)の今日の最初に纏まった考えだ。

 

「────ん? “仮市民”? …フム、名誉の戦死を告げた仮市民は正式な市民、また階級を上等兵とする! 以上!」

 

 …仮市民は正式な市民?

 ()()()()()…だと?

 

 〔周りがざわつき、“やっと終わったー”と言う人だかりの中、マイケルは唖然としていた。

 彼から見ても今まで大差ない出来事の後処理、何時もの事だった筈。

 されど今回彼の中には意味不明な程の気持ちが渦巻いていた。〕

 

 …それだけ?

 

 〔マイケルはほかの周りの人たちが立ち上がるにつられ、自分も立ち病院内の講堂を出始める。〕

 

『────あなたはまるで自分の命に執着心がないように見え────』

 

 誰だっけこの声?

 …ってケイコか。

 

 〔外へと出ると記者(ハイエナ)ジャーナリスト()がいない代わりに大雨が降っていた。

 他の人が戸惑う中、マイケルは構わず雨が降り注ぐ道を歩いて行った。〕

 

 何なんだこれ?

 身体の奥が、芯が抉り取られたような…

 これはアイツ(ラケール)が未帰還者に認定された時以来だ。

 

『それが悲しいのです』

 

 悲しい? これが?

 

『あなたの行動はまるで、生き急いでいるような感じがして────』

 

 …ああ、これは…

 今ならケイコが何の事を言っていたのかちょっと分かった様な気がする。

 

 〔マイケルは雨の中を歩き、横断歩道からそのまま道の向こう側に渡る為に歩いた。

 歩行者用信号を確認せずに。〕

 

 そっか。 

 これが“悲しい”って事か。

 まるで心臓が抜かれたような気分だ。

 何か…嫌だなこれ。 

 でも今回は飲む気にもなれないや。

 何か…どうでも良い────

 

 〔マイケルが考えに耽っている為彼は横から来る強烈なライトを出し、クラクションを鳴らしている物体にかなり遅く気付く。〕

 

 あ、これは跳ねられるな。

 …これで俺も死ぬのか?

 

 〔そう思い、急接近する車を(マイケル)はただ見ていた。

 そして彼、マイケルは────〕

 

 _________________________________________

 

 〔時はほんの少し遡り、場面はラケールへと移る。

 彼女はマイケルから少し離れた所で考えに耽っていた。

 頭には包帯が巻かれ、頭の髪がほとんど隠れているような姿だった。

 ラケールは近くにあった支給品の傘の一つを手に取り、何かを探すかのように辺りを見渡す。〕

 

 アイツ(マイケル)は何処?

 聞きたい事が────いた!

 

 〔降る雨の勢いによって視界が多少遮られるが、ラケールはマイケルらしきものがフラフラと歩いて行くのを見てその後を追った。

 やがて距離が後数歩と言った所でマイケルが横断歩道から道へとそのまま歩いた。〕

 

「ちょっと────?!」

 

 〔そこでラケールはクラクションとヘッドライトがマイケルの横から来ているのを見聞きする。

 そしてそれをただ見ているマイケルの顔をも。

 

 ラケールが気付く頃には既に持っていた傘を手放し、マイケルの身体を勢いで押し倒して来ていた対向車が素通りしていた。

 その勢いでラケールの頭に巻かれていた包帯が緩み、中から多少の白金色の髪が姿を現せ、風の中で揺れていた。〕

 

「アンタ馬鹿?! 馬鹿なの?」

 

「……」

 

「それとも何も考えていない訳?!」

 

 〔ラケールは怒りを露わにした表情でマイケルの上半身を無理やり起こす。

 ちょうど自分はマイケルの腰の上を乗っているのでマイケルは角度で言うとちょうど120度位で腕は力が入っていなく、ダランとしていた。〕

 

「…あ、ラケール」

 

 (マイケル)はまるで初めて私に気付いたかのように声を出し、私の顔を見る。

 

「“あ、ラケール”じゃないわよ!」

 

「…でも…」

 

「“でも”何?」

 

「俺は、約束を()()守れなかった」

 

「“また”?」

 

「前は0261空域戦線で…今回は────」

 

「ねえマイケル、その事なんだけど────」

 

 〔ラケールは片手を使い、解けかけの包帯を頭から取り、中から白金色のセミロングのヘアスタイルが雨に濡れしっとりとしていた。〕

 

「────私は()()()()()()の。 一緒に出動するってところで次に私が覚えているのは病室でついこの間起きた頃。 ねえ、“約束”って、何?」

 

「…そうか、ならいい」

 

 “そうか、ならいい”?

 

「“そうか、ならいい”って、それだけ?」

 

「ああ、それだけかって聞いているんだよ」

 

 何か…いつも以上にムカつく。

 

「何よ、そんな丸投げ状態になっちゃって」

 

「だって…実際何もやる気になれないし…俺は疲れた────」

 

 プツン、と何かが私の中で切れるような感覚がして苛立ちが怒りに変わった。

 

「貴方だけがそんな気になっている訳ではありませんわ! 貴方は自分が“死んでも良い”など思っていてもそれを良しとしない人達はいるのですよ?! それは考えた事ありまして?!」

 

 ()はイラつきながらこの男にそう叫ぶ。

 

「ラケール?」

 

「何も…貴方だけが…」

 

 私は目の周りが熱くなるのを感じ思わず俯く。

 

 _________________________________________

 

「貴方だけがそんな気になっている訳ではありませんわ! 貴方は自分が“死んでも良い”など思っていてもそれを良しとしない人達はいるのですよ?! それは考えた事ありまして?!」

 

「ラケール?」

 

 “何か口調がおかしいぞ”と指摘する前に────

 

「何も…貴方だけが…」

 

 ────そう震える声でラケールが俯いた。

 よく見ると俺を掴む手も震えていた。

 

「…怒っているのか?」

 

「ッ?! 馬鹿!」

 

 そうラケールが俺に叫ぶと同時に俺の身体に降ってくる雨が止まる。

 

「傘」

 

「え? あ、どう…も」

 

 雨が止んだと言うよりは近くに来た退屈そうな表情をした女の子が支給品とは違う形の傘を広げ、その取っ手を俺に渡す。

 俺が傘を渡され見上げるとその子と目が合った。

 

 へー、この子琥珀色か────

 ────と思い、何故か一瞬ケイコの面影がこの子と重なった様な気がしたので俺はその子の顔から目が離せなかった。

 

「…」

 

 …何だかこの子に見透かされている様な感じがしないでもない。

 赤が混じった琥珀色の目が瞬きもせず俺を見続ける。

 

「彼女、死んだの?」

 

 と、激突に問いかけて来た。

 俺は未だに俯きながら震えているラケールをチラッと見て────

 

「────い、いや違う。 ただ怒って────」

 

「もう一人の方」

 

 ────え?

 

「も、もう一人って────」

 

「────死を確認した?」

 

「え、いや、だって」

 

 何言っちゃってんだこの子?

 

「確認していないのなら死んでいない」

 

 …は?

 

「だって軍医が────」

 

「────()()()()自身の確認」

 

 …俺の確認?

 

「死は自分自身で確認し、納得した上で初めて意味として成り立つ」

 

「…え?」

 

 目の前の少女が今までの会話で一番饒舌な台詞を言い、少女はその場を立ち去ろうと向きを変え歩き始める。

 

「あ、ちょっと待て!」

 

「…?」

 

 引き留める俺の声に反応して少女が再度俺の方を見る。

 

「その…ありがとう」

 

「…」

 

 頭を下げる俺に対して少女は表情を崩す事無く、無言で振り返り雨の中に消えて行った。

 

 …そうだな。 そうだった。 あの子の言う通りだ。

 俺はまだケイコが死んだ事を直接確認していないし、納得していない。

 

「すまないラケール」

 

「あ」

 

 俺は申し訳なさそうに頭をラケールに下げ、謝った。

 

「少し、いやかなり自分勝手だった」

 

「…ううん、私も変な事を言ってごめんね?」

 

 〔暫しの沈黙の後、マイケルとラケールは笑い始める。

 まるで、緊張の糸を、今の空気を自らの手で切るように。

 そこでラケールは傘の形に気付き────〕 

 

「…あ、これって────」

 

 ん? 何だ?

 ラケールがマジマジと俺の持っている傘を見る。

 

「もしかして、木製?」

 

 〔ラケールの指摘でマイケルは自分の傘の手触りがプラスチックやビニールではなく木製と気付く。

 今まで見えていたビニール傘や合成素材などではなく、この世界では珍しい和傘の作りであった。〕

 

「へー、初めて見るなこんな傘。 何か良いもん貰っちゃったな」

 

 木製の家具とかってもの凄い希少らしいからな。

 

「そう言えばあの子の名前って────」

 

「────あ」

 

 〔そこで二人(マイケルとラケール)は今の少女の名前はおろか、自分達の自己紹介もしていない事に気付いた。〕

 

「まあでも、見かけたらすぐ分かるでしょ。 あんな目立つ格好しているし」

 

「目立つ格好? どんなんだ?」

 

「…」

 

 ラケールがジト目で俺を見る。

 って、何でだ?

 

「あ、そ。 あの子の顔、いわゆる“正統派和風美少女”だったもんねー」

 

 肩をすくめながらラケールがそう言う。

 

「へ?! いや、俺は目を見ていたんだが?!」

 

 いくら俺でもそんな風に思われるのは心外だ!

 この場面と空気で殴られるのは流石に御免だぞ?!

 

「クス、冗談よ」

 

 ちょい待てや。

 ……少しイラっとした自分の気持ちを押し込み、次にしたい事をラケールに言おう。

 

「なあ、ラケール? 0261空域戦線の事なんだが…どこまで覚えているんだ?」

 

 ケイコの生死の確認をしたいところだが…場合によっては()()()()が必要になるかもしれない。

 そうならないようにも出来るだけ信用できる仲間は欲しい。

 先ずは身近なラケールを取り込もう。

 

「んー、最後って言うと母艦から出撃するちょっと前位…かな?」

 

「…分かった、混み入った話は帰ってからにしよう。 ラケールは先ずはヘレナ叔母さんに連絡────あ」

 

「何?」

 

「…いや、カツラしていないんだなって思っただけだ」

 

「ん? まあ…ね。 ちょっと蒸し暑いし今はこれで良いかなって」

 

 〔マイケルとラケールは共に立ち上がり、和傘を差しながら雨の中を歩く。〕

 

「そういえばここから一番近いのはお前の家だな」

 

「ええ、そうだけど?」

 

「じゃ、お邪魔させて貰うぜ」

 

「はぁ…ハ?! え?!」

 

 ラケールがびっくりした顔で俺を見る。

 

「え? いやでも、え? そ、そんな────」

 

 何慌てているんだ?

 ただずぶ濡れになったからシャワー借りたいだけなんだが?

 

 _________________________________________

 

 ………

 ……

 …

 

 えー、突然ですが(ラケール)の家に来たいと言うマイケルが今はシャワーを浴びています。

 ちなみに彼に勧められて私が先に入らせてもらいました。

 

 え? なにこれ旧世界で言う“ドッキリ”って奴?

 近くにアイリやクリフやリックがカメラ持って隠れていないわよね?

 

 あ、これ漫画で見たかも!

 でも確かあれって女性が気になっていた男性に慰められた後その男性の家に行ってシャワー借りてなかったっけ?

 これってもしかしてもしかするともしかした?

 

 いやいや、落ち着きなさい。 あの漫画の場合、あの朴念仁(馬鹿)の気が弱った所に付け込む最低野郎のする事じゃない。

 

 でもでも、実際は家に来てるしこれってもしかしてそういう展開になるんじゃ?!

 

「ムフ、ムフフフ」

 

 ああ、私の顔がニヤケるのが分かるぅー!

 

 _________________________________________

 

 何やってるんだ、ラケールの奴?

 (マイケル)はシャワーから出てドライヤー(乾燥機)で乾かした服に着替えラケールのリビングに入ろうとすると……

 

 ……別の言い方が思い浮かばないが…椅子に座りながら百面相みたいにコロコロと表情が変わるラケールがいた。

 あと蛇っぽく身体をクネクネとしていた。

 何だあれ? キモ。

 

「ムフ、ムフフフ」

 

 しかも意味不明な笑いまで出てるし…

 近寄りがたい。

 うーん、どうしたものか────

 

「────あ、マイケル」

 

「はひ?!」

 

 〔ラケールがマイケルに気付き、満面の笑顔で声を掛けると彼は気の抜けた返事を上げた。〕

 

「湯加減どう────ぶえっきし?!」

 

「あー、お前も身体が冷えてたか。 暖房入れておくぞ?」

 

「う、うん…」

 

 〔マイケルは近くにあるリモコンを使い、暖房機が付くとラケールの座っているテーブルの向かい側に自分も座った。〕

 

「さてと…どこから始めようか、0261空域戦線の話…」

 

「…じゃあ、私が知っている事から話しましょうか?」

 

「そうだな、そこで────」

 

「────でもいいの? その……先に私の話を聞いて?」

 

「…何の事だ?」

 

 こいつ…もしかして気付いているのか?

 感がいいからな、ラケールは。

 

「だって、あの子(ケイコ)の確認したいんでしょ?」

 

「ああ、でも今はお前の方が先だ」

 

「え?」

 

「大切な仲間だからな」

 

 場合によっては共犯者になるかもしれないが。

 

「あ…ありがとうマイケル」

 

 熱でも出たか? なんか顔が赤いような…

 う~ん…それにしてもこいつ(ラケール)が素直に礼を言うとは…

 まあ、これはこれでいっか。

 

 そこで俺とラケールが今の地球(テラ)で言う“大戦戦争(たいせんせんそう)”の事を話し始める。

 “軽い”おさらいをするだけだしな。

 




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第26話 「空っぽ」

 〔“大戦戦争(たいせんせんそう)”。

 それは世界をハウト連邦とティダ帝国と言う二つの勢力の戦争で、何時如何なる時にも何らかの軍事作戦が絶えなく行われている状態の事でもあった。

 人は長く続く戦争の中Docka、モビルソルジャー、大型宇宙ステーションなどの発明がされ、人は宇宙と言う新たな空へと進出しつつも戦いを続ける。

 その中の0261空域戦線はティダ帝国の要塞化した小惑星を奪取、または破壊するハウト連邦の強襲作戦にマイケルとラケールを含む小隊が参加していた。〕

 

「う~ん、またお前と組むとは────」

 

「────何よ? 文句あんの?」

 

 〔マイケルと思われる男性が“またか”と言いたそうな顔をしながら戦艦内にある通路を歩き、隣には翠瞳で肩までの栗毛の髪の毛でニヤニヤしながら横を小刻みにスキップする女の子がいた。〕

 

「内心は嬉しいくせに。 この、この」

 

 ゴリラ(ラケール)が俺のアバラ目掛けて肘を出す。

 

「いで?! 肘はやめろ! 自分の力考えろ!」

 

「え~? これでも手加減してるんですけど~?」

 

「よく言うぜ…」

 

 〔二人は格納庫に着き、各員が中のモビルソルジャーや小型船の整備や点検を忙しく行っている中、マイケルとラケールは自分たちのモビルソルジャー機へと向かう────〕

 

「で? 何でお前は俺に付いてくるんだ?」

 

 〔────と思いきやラケールがマイケルと共にモビルソルジャーのコックピットに入る。〕

 

「う~ん、アンタとちょっと話したい事があってね。 ほら? なんだかんだ言って色々あっても私達結構一緒にいる事が多いじゃない? 今年で大体何年ぐらいの付き合いかしら?」

 

 何年って…まあ、子供の頃からいたからな。

 

「…かれこれ十年ぐらいか?」

 

 うん、もう腐れ縁って事で。

 

「でね? もうそろそろ私達も成人するじゃない────?」

 

 何か嫌な予感がする。

 

「────最後まで話を聞け。 でね、今度一緒に飲みに行くってのはどうかなって」

 

「あー、うん。 俺はあんま興味ないかな」

 

「えー! 何で?!」

 

「ポイントが分からない」

 

 何が面白くて皆毒性物質を好き好んで飲むんだ?

 百害あって一利無しだろ?

 

「そんな事言ったらアンタが煙草を吸うのと一緒じゃん!」

 

「うるせえな、ロマンなんだよ。 お前のもどうせロマンだろ?」

 

「あのね? マイケルだから誘ってんの」

 

 …ん?

 

「どういう意味だ? クリフ、リックやアイリ達と一緒に、って訳じゃないのか?」

 

「ううん、二人だけでって意味で誘ってんの…駄目?」

 

 〔ラケールが少し恥ずかしそうにマイケルに問うと彼は一瞬呆気に取られた顔を引きつり、ニヤける。〕

 

 あ、分かった。 こいつ自分が酒に弱いかもしれないから酔い潰れた自分を運べる“保険”が欲しいんだな?

 

「これってお前が恥ずかしいから俺を誘ってんのか?」

 

「ち、違うわよ!」

 

「良いぜ」

 

「へ?」

 

「良いぜ、飲みに行こう。 それに…」

 

「それに?」

 

 う。 そこで聞くか?

 

 〔ラケールはマイケルの言葉の続きを聞くと、彼は恥ずかしそうにそっぽを向き、頬をかきやがてボソッと一言付け加える。〕

 

「…お前といるのも悪くないってな」

 

 なーんか気が楽になるって言うか、付き合いやすいと言うか────

 

「今、なんて?」

 

 ────うっわ。 顔近い。 何だか分からないがこれは滅茶苦茶ハズイ。

 

「さ、さっさと自分の機体に待機しに行けよ!」

 

 〔ラケールはニマニマしながら自分のモビルソルジャーに向かい、搭乗するとマイケルに通信を送る。〕

 

『約束だからね! 守らなかったら針千本だヨ?』

 

「…針千本ってなんだろう?」

 

 もしかして酒を千本位飲ませるってか?

 とりあえず返信────

 

『ああ、約束だ。 俺が傍にいとくぜ、必ず』

 

『蜉ゥ�縺九�』

 

 …何この意味不明な通信?

 間違って通信した…とか?

 

 う~ん、分からん。 今回も頼むぜ、相棒。

 

「ついでにお前もな」

 

 〔この時マイケルとラケールは強襲作戦時従来の量産型モビルソルジャーでは無かった。

 マイケルの搭乗している機体はハウト連邦製、モビルソルジャー102式改。 

 一、二世代前の機体にカスタマイズを積み上げ限界まで機動性と瞬発の火力にマイケルが特化させ、当時でもかなり珍しい形態変形機能が備わっている。

 対してラケールはハウト連邦製、モビルソルジャー104式改。こちらはマイケル程ではないにしても一世代前の機体で機動力やその他は捨てて逆に持続可能な火力とそれに伴う出力に特化した割とゴツイ形態だった。

 その中、マイケルが自分のコックピット内で言葉を掛けたのは後ろのオペレーター席に座っている人だった。〕

 

「…」

 

 〔その()は無表情で静かにマイケルを見つめ返す。〕

 

「あー、調子はどうだシオン?」

 

「良好でス」

 

 〔シオンと呼ばれた者は中性的な顔と白がかかった透明に近い、ショートの髪をして、マイケルの問いに答えるとスピーカーから発する独自のノイズも交じっているかな様な声だった。〕

 

「そっか」

 

 この口数少ないのはシオン、俺が物心付いている頃からお世話になっているDocka(人工人形)だ。

 と言ってもハウト連邦の支給品世話係役なんだが…

 まあ、俺にとっては“家族”だ。

 俺はヘルメットを被り、気密性のチェックをしているとラケールからの音声通信が聞こえてきた。

 

『それにしても、マイケルの機体は何か人の背中に飛行機を無理やり乗せたよう感じね』

 

『ほっとけ。そういうお前の機体はいつ見てもハリネズミの様に近寄りがたい姿じゃねえか。文句言うならもう()()()()()

 

『ごめん、謝るから私を的にさせないで』

 

 〔そこに二人は船が揺れるのを感じ、発進命令が下される。

 景色は(宇宙)に変わり、激戦が遠めからでも見られた。〕

 

『いつも通り、激しいね』

 

『ま、逃げ回ってれば死にはしないだろ?』

 

 〔マイケルの102式改が形態を戦闘機らしき物に変え、その“背中”にラケールの104式改がサーファーかの様に乗り、二人の機体は移動していた。

 二人のように移動するペアの機体がチラホラと散開し、移動しているのがコックピット内のスクリーン越しに見える。〕

 

『誘導式地原に入るぞ、メインウェポンのチャージは控えてくれ』

 

『私を誰だと思ってんの?』

 

『“歩く弾薬庫”に乗っている力ごり押し満点────』

 

『────はいはい。分かったわよ、“タクシー”さん。 いざとなったら実体弾で何とか対応するわ』

 

「前方より砲撃、来まス」

 

 シオンがレーダーに砲撃の弾道予測を見せる。

 

『前方から長距離砲撃来るぞ! 作戦開始(オープンコンバット)!』

 

了解(ヤー)! って、気付くのはっや?! もうぶっ放し始める?!』

 

「どうだシオン?」

 

「この距離からの火力では要塞の表面を焦がす程度に収まると予測しまス」

 

 やっぱりそうか。

 

『なるべく近くまで待て! 火力特化のお前が再度リチャージ(充電)するまで時間かかるだろ?!』

 

『あああ、メンドクサ!』

 

 〔長距離砲撃を躱すハウト連邦機などがいれば、逆に避けられず撃破される火力特化か移動手段にしていた機動力特化を撃破され、素早く動けない火力型のモビルソルジャーが次々と出始めた。

 その中、マイケルはシオンの誘導に従い0261空域戦線の要になっている要塞化された隕石の表面へと取りつき、低空飛行を続ける。〕

 

「シオン、味方機は何割付いて来ている?」

 

「約六割でス。 ですがその中の一割が中破していまス。」

 

「そうか、作戦続行だ!」

 

 〔低空飛行を続け、隕石内部へと続くと思われる人口の穴へと近づくに連れ、ティダ帝国軍からの追撃が激しくなった。

 その中敵ミサイルを撒く為の数々の機動を取る。〕

 

「このままじゃ全員狙い撃ちされる、流石要塞化した前線基地だ!」

 

「…別ルートから内部へ侵入することを推薦しまス。 作戦提案よりもはるかに要塞化が進んでいる模様でス」

 

「成功率は?」

 

「約三割と推測しまス」

 

 よし、本来の作戦予定より高いな。

 

「解析を急いでくれシオン!」

 

「了」

 

『ちょっと! 作戦径路から外れているわよ?!』

 

『分かっている! シオンに別ルートを探させている!』

 

『アンタまだそのポンコツを乗せているわけ?!』

 

『ポンコツの撤回を要求する。 自分は育成支援型────』

 

『だー! もういいから早く別ルート探して!』

 

『了』

 

 それから数分後、いや感覚的には数時間後ぐらいにシオンが別ルートを表示し俺達は0261の内部に侵入した。

 共に来た友軍機は後三割ほどに減っていた。

 

「いつもより多いな。 シオン、これは勲章モノじゃないか?」

 

「是。 帰還後マイケルが────」

 

「────いや俺じゃなくてお前だろ?」

 

「当機は育成支援型Docka(人工人形)であり、マイケル所属と登録をしている。 マイケルの成し遂げた功績がより多い程存在意義を表示する」

 

「…うーん、いつも言ってると思うんだけど、俺にとってシオンは家族だからな」

 

「…」

 

 〔内部へと進むにつれマイケル達への攻撃が少なくなって行き、ある程度距離を置くと防衛システムがまだ設置されていない場所へと着いた。〕

 

「よし、ここまで来れば────シオン、他の奴らは?!」

 

「各員の作戦遂行位置に移動をした模様、なお内部には強いジャミング電波が撒かれている様子」

 

『ラケール、準備出来次第主砲をぶっ放してここを出よう。 嫌な予感がする』

 

『了解! えーと、粒子砲は────』

 

 それにしても静かだ…とても外でドンパチやっている様には思えないな────

 

「告、敵影と思われし熱源反応接近中」

 

「来たか、数は?」

 

「熱源反応多数」

 

「要する不明って事か…よし、火器管制システムを頼む」

 

「了」

 

『ラケール、敵が来た。 時間稼ぎをしてくる』

 

『はーい、気長に待ってまーす』

 

 〔マイケルの機体とラケールの機体が離れ、マイケルの102式改が人型へと戻り、来た通路を進むとティダ帝国のモビルソルジャーが攻撃してくる。〕

 

「ハ! さっきの憂さ晴らしだ! 目一杯ビームをぶちまけてやる!」

 

 そこから俺は身に染み付いた機動戦を行う。

 ただひたすら敵の砲撃軌道を読み、避け、反撃を繰り返す。

 だが────

 

「おかしい、数が多すぎる! ラケールは何をしているんだ?!」

 

 そう、ラケールの内部破壊工作(砲撃)がまだ感じられない。

 

「不明、何らかの問題が発生したと────」

 

「────クソ!」

 

 俺は焦り始める気持ちを落ち着かせ、ラケールのいるはずの方へと向かった。

 

 〔だがラケールへと通じる通路は固いシャッターの様な門が閉まっており、マイケルの行く手を阻んでいた。〕

 

「な?! どういう事だ?」

 

「告、恐らく罠かト」

 

 俺はシャッターの横にあるコンソールにモビルソルジャーの手を置き、遠隔クラッキングを試みた。

 

「シオン、ラケールと繋いでくれ!」

 

「了、しばしお待ちを……繋ぎましタ」

 

『ラケール────』

 

 そこで俺の声を遮るかのように切羽詰まったラケールの声が返ってくる。

 激戦の背景音と共に。

 

『────マイケル?! ハメられたわ!』

 

『どういう事だ?』

 

『敵の主力が内部に待機して────!』

 

 そこで周りの隕石ごと揺れた。

 

『私達は捨て駒よ! マイケルは()()()()()()! 逃げて!』

 

 ()()()()()()

 

『ちょっと待て! お前は?!』

 

『敵と交戦中……私は私で何とかする!』

 

 心の中がザワザワとするが、無視した。

 

『ふざけるな! ()の無いお前の機体じゃあ撃ち落とされるだけだ! もう少し持ちこたえ────!』

 

 また隕石が酷く揺れ、辺りが崩れ始める。

 

「マイケル、脱出を推薦する。 センサーに放射線を探知。 恐らくは核が使われているかト」

 

『私は良いから!』

 

 ふざけるな!

 

『良くない!』

 

 ふざけるな! ふざけるなよ!

 

『シオン! お願い!』

 

「…了」

 

 シオンが答えると俺の機体の制御システムがカットされ、シオンの方に移った。

 

「待てシオン! まだ────」

 

『私も後を追うから、行って!』

 

「了」

 

 自分の機体が俺のインプットを無視し、高速移動での脱出を始める。

 

「クソォォォォォォォ!」

 

 〔崩れ始める内部をマイケルの乗っている機体が所々壁にぶつかるも着々と出口の方に近づいていた。〕

 

「…そろそろ出口か────」

 

 〔マイケルが隕石内部から出るところまで来るとボロボロのティダ帝国の生き残りに摑まれる。〕

 

「どわ?! マジか?!」

 

『ゴホッ、貴様も…道連れに!』

 

 この死にぞこないが!

 出口はすぐそこだってのに!

 

「…」

 

「シオン?」

 

 〔そこでシオンはいきなり席を立ち、コックピットのハッチを開けて────〕

 

「ノワァァァ?!」

 

 〔────マイケルを宇宙へと投げ出した。〕

 

「シオン?!」

 

 俺は急に無重力空間へと投げられて若干────いやかなり────焦った。

 その中でシオンの方を見ると敵の機体の爆発の中に消えていくシオンの顔が微かに笑っていたような、憂鬱そうな様な気がした。

 

 _________________________________________

 

 ………

 ……

 …

 

「────とまあ、俺が覚えている大体の事だな。」

 

 (マイケル)は0261空域戦線での作戦を()()()ラケールに話し、淹れてもらったコーヒーを一口飲み────

 

「ブフーー?!」

 

 ────それを吐き出した。

 

 何だこれ?!

 まっず!

 まるで泥じゃないか?!

 

「そっか…そう…なんだ」

 

「ああ。 そこからはまあ、友軍に拾われて戦闘後の演説に報告、未帰還者発表その他もろもろ」

 

「ねえ…その後飲みに行ったの?」

 

「ああ、クリフとリックに身柄保証人された後にな」

 

「“身柄保証人”? アンタ…いったい何をしたの?」

 

「まあ、色々」

 

「ふーん…」

 

 ラケールが自分の淹れた、泥の様なコーヒーを平然と表情一つ変えずに飲む。

 まー、まさか“上官をぶん殴ったから”とは流石に言いにくい。

 特に作戦時俺自身覚えていない部分が多いからな、説明しにくいったらありゃしない。

 

 え? それは医者に診てもらった方が良い?

 うるせえ、生きているんだから良いだろ別に?

 何好き好んであの金の亡者(ハイエナ)達に行かなきゃなんないんだ?

 

「そっか…話してくれてありがとう、マイケル」

 

「これで良いんなら何ともないぜ」

 

 そこでラケールが考え込むような仕草をする。

 同時に俺も考えをまとめ始める。

 

 さて、ケイコの生死確認は直接見た方が良いんだが…

 果たしてそうさせてもらえるか。

 …ん? ちょっと待てよ?

 

 そういえば一応とはいえ俺がケイコの身柄保証人になっていたのに死後処理の連絡が来ないな。

 俺は気になりスマホを出し弄ると────

 

「────は?」

 

『該当者無し』と言う文字だけが返って来た。

 …いやいやいや、これは流石になんかおかしい。

 もう一度俺は検索を掛けると────

 

「────該当者…無し?」

 

「どうしたの、マイケル?」

 

 俺の見開いた眼と唖然とした声に築いたラケールが聞いてくる。

 

「ケイコの…記録が無い」

 

「は? んな馬鹿な────」

 

 ラケールが自分のスマホを出して────

 

「へ? あ、あれ? 写真も無くなっている」

 

「何?!」

 

 まさか?! と思い、俺も自分の撮った写真を確認する。

 ……無い。

 

 ケイコの写真が無い!

 

「え…何これ? 気持ち悪いんだけど」

 

「お、俺に聞かれたって…」

 

「と、とりあえず病院に行くぞ!」

 

 俺とラケールは外に出て退院した病院へと向かった。

 そこでケイコの事を聞くと────

 

「────その様な方は当病院に記録はございません────」

 

 ────の一点張りだった。

 

「どういう事なの────? あ、マイケル!」

 

 俺は気付けば走っていた。

 何かがおかしい。

 何がおかしいと問われたら説明できないが────

 

 ────俺は自分の家に着くなり鍵を乱暴に開けてケイコの部屋に入った。

 そこで見たモノに俺は脱力しそうになった。

 後ろからドタドタとする音がしたと思えば息切れしそうなラケールの声がした。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、な、によ。 きゅ、急に」

 

「ラケール────」

 

 俺は顔を彼女の方に向けて────

 

「俺達、夢を見ていた訳じゃなかったんだろうな? 何でこの部屋()()()なんだ?」

 

 まるで最初から誰もいなかったような、()()()の部屋の前で俺の足から力が抜け、尻餅を付く。

 

「この部屋って…もしかして────」

 

「なあラケール…これ、何なんだよ?」

 




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とても励みになります!


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第27話 「真相の糸口」

「なあラケール…これ、何なんだよ?」

 

 (マイケル)の問いに私は答えられなかった。

 そもそも起きた物事が重なって(ラケール)の頭がグルグルしてきた。

 

 先ずはマイケルが見知らぬ女性を連れ返って来たでしょ?

 しかも今考えると宇宙人を!

 その次に博物館でしょ?

 あの不可解ばかりのゲリラ戦に魔法や魔術のファンタジーにケイコが何か暴走した様な…

 そして今ケイコが何か初めから居なかった様な感じが…

 いや、それの全部以前に0261空域戦線で私の記憶の途切れ方に私の髪の毛の色の変質…

 

 え? 髪の毛はそれほど重要じゃない?

 あのね、女の子にとって髪の毛は死活問題なの!

 あー! もうー! すっごいめんどくさい!

 

 私は部屋の中を見渡す。

 うん、埃一つないわね。

 流石はプレハブ住宅、部屋の作りも、窓の形も私のと同じ────

 

「────ん?」

 

 いや、何か()()()がある。

 

「マイケル?」

 

「…なんだ?」

 

「ちょっと部屋の鏡、取り外していい?」

 

「…ご自由にどうぞ」

 

 マイケルは気の抜けた声でスマホ弄り始めた。

 まあ、煙草をバカスカ吸い始めるよりはマシね。

 

 私は部屋のデスクをどかしてミラーと壁の間にわずかに隙間ができているのを見る。

 しかも最近動かされたような跡がある。

 私は鏡を取り外して、壁と壁同士の間の空洞を────

 

「「────これは────」」

 

 私と同時にマイケルの声が出た様な気がした。

 

 _________________________________________

 

「「────これは────」」

 

 (マイケル)と同時にラケールの声が出た様な気がした。

 俺は操っていたスマホから見上げ、ラケールの方を見ると彼女が()()()()()()()()()っぽい物を出した。

 

「これってケイコちゃんの────?」

 

 同時に俺はラケールに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見せた。

 

「ああ、そしてこの夜空はガイアのだ!」

 

「あ、凄い綺麗」

 

 沸々と何か温かいモノが俺の身体を満たし始める感じがした。

 

「つまり────」

 

「ああ、ケイコは確かに此処に居た」

 

「そして何者かがそれをとことん隠蔽しようとしている!」

 

「ああ!」

 

 と言う事は……

 

「まずは情報収集だ! っと言いたい所だがラケール、先ずはヘレナ叔母さんに話をするぞ」

 

「え?」

 

「お前の事をハッキリさせないと嫌だろ? 行くぞ────」

 

「ええええ?!」

 

 俺は急いでジャケットを羽織ってから、外に出て車のイグニッションを入れてラケールを待つ。

 

「ちょ、ちょ、ちょっとマイケル────!」

 

「よし、乗ったな。 行くぞ────」

 

「待って、シートベルト着けさせ────わきゃああああ?!」

 

 俺はアクセルを踏み、ヘレナ叔母さんの居所へと行く。

 

 ………

 ……

 …

 

「……」

 

「なあ、いい加減機嫌直してくれよ」

 

 ラケールがフイっと顔を背ける。

 

 高速道路に乗って数分。俺とラケールの間にはまだ沈黙が続き、ラケールはケイコの本らしき物のページをパラパラと捲る。

 

「それ、ガイア語だから読めないぞ」

 

「ふーん…」

 

「「……」」

 

 何と無く空気が気まずい。

 知り合って十年かそこそこ。 

 この年数は地球(テラ)にしては異様に長い付き合いとも言えるしそれ故に遠慮なしでコイツ(ラケール)に気軽に話せるのだが…

 

「……あー、不安か?」

 

 俺は取り敢えず頭にきた言葉をそのまま伝える事にした。

 

「…何よ? 悪い?」

 

 不貞腐れている様な声でラケールがそう答える。

 

「私にだってこう言う時ぐらいあるわよ────あ」

 

 俺の手がラケ-ルの手を握る。

 

「大丈夫だ」

 

「…」

 

 確か()()夜泣く時とかはシオンにこうされていたな。

 今までアイツの事はなるべく思い出さないようにしていたんだが…

 やっぱりさっきラケールに0261空域の事を話したからかな?

 

「…ありがと」

 

 俺は高速道路から降りる坂を下るとラケールが何か言った様な気がした。

 

「おう、何か言ったか?」

 

「な、何でもない! って、いつまで触る気?!」

 

 変な奴。

 

 〔マイケルとラケールの乗っている四輪駆動車が高速道路を降りると住宅街に出る。

 と言ってもマイケルとラケールの家が中心部の都会に近いというだけで厳密には同じく市の中となっている。

 大きな違いがあるとすればこの住宅街はプレハブ住宅だけが並んでいるのではなく、ここの特徴がある家などがほぼ建っている。〕

 

「お、ここだったな確か────」

 

 二階建ての家の前に止まり、ラケールの手を放す。

 

「あ────」

 

「うーん、流石高級街ってか?」

 

 俺は四輪駆動車から降りて周りを見ながら腰を確認する。

 

 ()()()を使う羽目にならなければ良いが、事と場合によっては────

 

「ね、ねえマイケル? べ、別に今日じゃなくても良いのよ? 明日でも────」

 

「────いや、今は時間が惜しい」

 

 俺達のスマホ内のデータ改ざん、病院への手回しの上に俺の家内部の証拠除去…

 あまりにも行動が早い。

 …もしかするとこれは────

 

 〔マイケルはヘレナ・イヴァノヴァ(ラケールの叔母さん)がいるらしき家のインターコムを鳴らす。

 少しの間待つとドアが開かれ、モーター音につられ電動車椅子に乗った女性が出てくる。

 歳は大体30代後半辺りと思われる上半身の見た目に反して、下半身の肉付きが異様に少なかった。〕

 

 へ? こ、これがヘレナさん?

 最後に見た時とは違うな。

 

「あら、マイケル君じゃない。 久しぶりね。」 

 

「あ、ハイ。 ご無沙汰しています、ヘレナ叔母さん」

 

「ラケール、何度か通信送ったんだけど解読の表示が無かったから心配したわよ?」

 

「ご、ごめんヘレナ叔母さん。ちょっと色々あって……」

 

「で、マイケル君と久しぶりの再会はどうだった? 見た所二人ともまだ────」

 

「────だー!!! その先言わないでー!」

 

 ラケールが慌て、それを見たヘレナ叔母さんがクスクスと静かに笑う。

 

 “まだ”何だ?

 それにしても……ヘレナ叔母さん随分変わったな。

 前見た時は車椅子もなかったし、足も普通だった────

 

「────気になるマイケル君?」

 

 おっと、見すぎて気付かれたか。

 

「ええ、まあ。 最後に見た時は自身の足で立っていましたし」

 

「これはちょっとした()()で神経をやられちゃってね。」

 

「そう、だったんですか。 義足などは────」

 

「────神経が死んでいるから意味無いわね。 だけどどうしたの? 連絡もしないで急に来られたら大したおもてなしなど出来ない────」

 

()()()()に関して聞きたいことがあります、」

 

 〔マイケルは真っすぐとヘレナを見ながらそう言う。 ヘレナはマイケルの顔を見返し、何かを悟ったように、あるいは諦めたかの様に溜息をした。〕

 

「そう……玄関で話をするのも何だから、上がったら?」

 

「では、お邪魔します」

 

 俺とラケールが家に上がり、ヘレナ叔母さんとリビングに入る。

 

「お茶を入れてくれるかしらラケール?」

 

「え? あ、うん」

 

 え?

 

 〔マイケルがリビングに入るとヘレナはテーブルに着き、マイケルも反対側に座る。〕

 

「さて、と。何を聞きたいの?」

 

 〔マイケルはキッチンでお茶を入れる用意をするラケールをチラッと見た後、身体を前に寄りかかりヘレナに小声で問いを投げる。〕

 

「単刀直入に聞く、アレは……いや、()()()()()()()()()()()?」

 

 〔マイケルの問いにヘレナは表情を変えず、彼女も上半身を前にし小声で返す。〕

 

「あら、何の事かしら?」

 

「とぼけないで下さいヘレナさん。ラケール自身も違和感を持っています」

 

 〔マイケルは目を離さずヘレナを見続ける、まるで威圧をかけるかのように。

 いや、実際はかけようとしていたがヘレナはこれをモノとせず、ただ静かにマイケルを見る。〕

 

「そう? 気のせいではなくて? 長らく会っていない事もあるし────」

 

「────俺達二人の共通の知人の情報が隠蔽され、存在を揉み消されようとしているんだ。 アンタはラケールの数少ない“家族” だ、手荒な真似はしたくない。 けど事情がこっちにもあってね。 例えアンタでも俺は────」

 

 〔────そこでカチャリと金属と金属の擦り合いが起きたような音がしヘレナが音の元を見るとそこには小銃のFN Five-seveNがテーブルの上に置かれる。〕

 

「……撃ったら憲兵に捕まるわよ?」

 

「構わないさ。 どうせ何時死ぬか分からない人生だ」

 

「……そこまでさせるとは余程の事ね」

 

「俺の命の恩人との約束があってね。 まだ返せていないんだ」

 

「その“恩人”って言うのが────」

 

「────ケイコの事よ、叔母さん」

 

 〔ヘレナの後ろからラケールがお茶の入ったコップをテーブルに乗せた後自分もテーブルに座る。チラッとテーブルの上に置いてある小銃に視線を送りヘレナへと戻す。〕

 

「前に写真を見せた子ね……そう、通りで────」

 

「ヘレナ叔母さん、話してくれる? あの時写真を見たリアクションの理由を」

 

 ん?

 どういう事だ?

 初耳だぞ?

 

 俺はラケールの方を見ようかどうか一瞬迷ったが、ここはラケールに任せようかと思う。

 

「貴方が言った事に対してビックリしていたのよ? “何せマイケルが連れ帰って来たー!”って騒いで────」

 

「────じゃあ何で写真を見せた時黙ったの?」

 

「……」

 

「それだけじゃないわ、今思えば色々聞いていたわね。“この子は何処から来たの”とか、“この子とは何か喋った”とか。あの時はただ物珍しかったかなと思ったけど……まるで私をあの子との接触を怖がっていた様な────」

 

「────そうね。 そうかも知れないわ」

 

「「え?」」

 

 〔ヘレナは溜息をして自分の動かない足を見る。〕

 

「私の下半身は事故で神経をやられたと言ったけど……それは半分本当の事で、もう半分は────」

 

 〔ヘレナは自分の足からラケールへと視線を移す。〕

 

()()にされた事」

 

「え?」

 

「と言っても“前の貴方”だけど」

 

「「ハ?」」

 

 俺とラケールの声がハモリ互いを見てヘレナを次に見る。

 

「どういう…事?」

 

 いや、まったくその通りだ。

 

 どういう事だ?

 




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第28話 「ヘレナ、語る」

少し長めです、すみません!
キリのいいところまで書いたつもりです。


 どういう事だ?

 “前の貴方(ラケール)”?

 俺はそれがどう言う意味で言われたのか考えてみるが……

 

 〔ヘレナがお茶を啜る音に二人(マイケルとラケール)はハッとする。〕

 

「そ、それって…その…えっと」

「そうね、少し順を追って話しましょうか? 私がハウト連邦の化学機関所属だったのを覚えているかしら? 元だけど」

 

 ハウト連邦の化学機関。

 確かハウト連邦の医学、物理学や量子力学などの“知識”の追及がされ、技術とかを編み出しているところだっけ、確か。

 まあ、俺から見れば“頭でっかち”の集まり場所だったが……

 まさかヘレナ叔母さんがそうだったとは。

 

「そこで私は生化学寄りの部門で()()()()()()()()に加わっていた」

 

 〔そこでヘレナは一旦言葉を止め、お茶をもう一度啜り、マイケルとラケールを見る。〕

 

「今言うけど、これから話す事を聞いたら貴方達はもう“知りませんでした”では通らないところまで来るわよ??」

 

 何だ?

 まさか命に危険が迫るってんなら────

 

「“命なんか惜しくない。いつ死ぬかも分からないなんて日常茶飯事だ”って思っているのかも知れないけど、死ぬ事よりもっと酷い事はこの世にザラとあるのよ? 少なくとも、今から話す事にそれも含まれるかも知れないけど」

 

 …もしかして、いや先に確認を────

 

「一つだけ、聞かせて欲しい」

「何かしら?」

 

 そこで俺はさっき思った疑惑を聞く事にした。

 

「さっき、ヘレナ叔母さんは元化学()()所属って言ったな? という事は、まさか“中央”絡みか?」

 

「あら、マイケル君って見かけによらず鋭いわね」

 

 ……褒めているのか? それか嫌味か?

 分からん。

 だが否定はしてない。

 

「“中央”って、連邦首都の────?」

 

 正式名ハウト連邦首都ゼロ区、又は“中央”。

 文字通りハウト連邦のど偉いさん方やエリート、最新技術の出所。

 ヘレナ叔母さんって、意外と凄い所の所属だったんだな。

 何で出たんだろ?

 

「ヘレナ叔母さんは、何で“中央”から出たの? それにその下半身は“前の私”って────」

「────()()だったからよ。貴方の代わりに、ね」

 

 〔ヘレナは自分の下半身を擦りながら、ラケールの方を見る。〕

 

(ラケール)の…代わりに?」

「そう。 先程私が言ったプロジェクト────Líf(リフ) Lífþrasir(リフプラシル)計画の中で一つの()()()の代わりに」

 

 なん…だと?

 計画の被験体だと?

 じゃあ、此処に居るラケールは────

 

 _________________________________________

 

「そう。 先程私が言ったプロジェクト────Líf(リフ) Lífþrasir(リフプラシル)計画の中で一つの()()()の代わりに」

 

 そう(ラケール)がヘレナ叔母さんから聞いた瞬間、何か得体の知れないザワツキを感じ始めた。

 まるで毛虫が体中を這いずり回るような────

 ────ってそんな考えやめやめ!

 マジで無理だから!

 

「あまり楽しい話では無いのは、まあ言わなくても分かるわよね…ねえ、二人は“不老死”って事を知っているかしら?」

 

 不老死って確か…

 アレでしょ? 旧世界で言う“火のバード”シリーズとか首をはねられた事を“(The)クイッカニング(Quickening)”を呼ぶとか。

 …えーと、現実逃避はこれくらいにしてと。

 

「“不老死”って永遠に生きるって事でしょ?」

「うーん、少し違うかしら。 マイケル君は?」

「…うん? あまり考えた事ないや」

「そう。 単純に言うと“不老死”とは“歳を重ねる意味”が無くなる事よ」

 

 ……は?

 え?

 “歳を重ねる意味”が無くなる?

 

 _________________________________________

 

 “歳を重ねる意味”が無くなる?

 なんじゃそりゃ?

 

 (マイケル)はヘレナ叔母さんの言った事に関して考えるがあまりにも突拍子な事だったので……

 ラケールの方を見た。

 旧世界文化ドハマリな彼女なら何か知っている────

 

 ────と思って見たら案の定、ラケールも困惑していた。

 

「うーん…そうね、私達人間だけ当てはまる訳じゃないんだけど生物の全てには細胞の分裂回数には上限があるの。 ここまでは分かる?」

 

 なんのこっちゃ?

 うーん…

 

 もう一度ラケールを見ると今にも頭から湯気が出てきそうな感じで“ウーン、ウーン”と唸りながら考え込んでいた。

 

「……つまり生物全てには“賞味期限”みたいなのがあるって事よ」

「「あ、成程」」

 

 〔マイケルとラケールが同時に返事をし、ヘレナは溜息を吐きそうになるが途中で止めて説明を続ける。〕

 

Líf(リフ) Lífþrasir(リフプラシル)計画は寿()()()()()()事を第一目的にしているわ。 Docka(人口人形)はその過程で造られた技術の応用ね」

 

 まあ、無理も無いか。

 ただの兵士である俺でさえ単純にすごいと思っているしな、Docka(人口人形)の事は。

 

「最初に私達はヒトの器を作り、ソレがヒトとして生命活動を維持出来るのか試した。これが第一段階のクリア条件」

「なんか“フランケンシュタイン”の物語みたいね」

 

 “フランケンシュタイン”?

 

「それって何だ?」

 

 聞きなれない単語に俺は質問するラケールの補足をするようにヘレナ叔母さんが話す。

 

「人工的に“ヒト”を作る点では同じね。 その後“ヒトの精神を解読、または保存出来るのか?”は第二段階の追求。 これにはかなりの時間を必要としたけど、結果として精神は抜き取った“新鮮度”が大事という結果が出た。人から取ると果たしてそれ人なのか? それともただ残留思念の残ったglia(グリア)neuron(ニューロン)の塊と化したオブジェか」

「「…」」

 

 俺とラケールは今言われたことをジッと考え、理解しようと脳をフル回転した。

 …俺だけかも知れないが。

 

「第三段階、“果たして作られた器に抜き取った精神を備え付けられるか?” 答えは“ノー”。 Docka(人口人形)は限りなく人間に近い構造を意識して作られているけど所詮は人工な機械、“ヒト”としての無意識が拒否反応を起こし、最後には錯乱するか或いは自らの生を断つか……まあ、結局は死ぬことに変わりはないのだけど。 ここまで莫大な予算と計画の順調さに突然の壁が出来たってわけ」

 

 ……知らなかった。

 まさかDocka(人口人形)にそんな裏があったなんて想像もしなかった。

 

 待てよ、そのLíf(リフ) Lífþrasir(リフプラシル)計画とラケールにどんな接点があるって言うんだ?

 隣にいるラケールのうなじを見てDocka(人口人形)の接続ポートが無いのを確認する。

 その割には顔色がどんどんと悪くなるラケール。

 

「その…壁はどうやって乗り越えようとしたの?」

 

 〔ラケールがヘレナにそう問うとヘレナは一瞬気まずそうな顔をする。

 今までに見ていない表情にマイケルは思わず声をかけそうになるが待つ事にし、数秒後ヘレナは語り始める。〕

 

「疑似的な器に拒否反応があるとすれば、“()()()()に精神は移植可能か?”という方針に変わったわ。 それは、とある地球(テラ)に近い惑星が発見されたから」

 

 …おい。

 

地球(テラ)に近い惑星? そんな事────あ」

 

 ラケールが俺を見るが、今はそれどころじゃない。

 まさか────

 

「まさかヘレナ叔母さん、あの時(着せ替え中)サンプルとして“ケイコちゃんの髪の毛が欲しい”って言ったのは────」

「────解析結果からして貴方(ラケール)彼女(ケイコ)は濃い血縁関係者、そして彼女(ケイコ)はガイア出身……ここまで話せば自ずと理解出来るかしら?」

 

 隣にいるラケールとケイコが“濃い血縁関係者”?

 俺の心臓がまるで耳の隣にあるかのようにうるさい。

 冷汗がじっとりと俺の背中を埋め尽くし始めるのを感じた。

 カラカラに乾いた喉で俺はヘレナに聞く事にした────

 

「まさか、“自然の器に移植”って……ガイアの人を────?」

 

「運び来られた()()()()の出所は誰も気にしていなかったわ。 私達はただ“優秀な研究材料”に喜んで計画を進めた」

 

「……何で?」

 

 ヘレナ叔母さんがそんなことに加担していたのが信じられないのか、ラケールがポツリと言う。

 

「何でヘレナ叔母さん……何でそこまで────?」

 

「私の姉と義兄、ラケールの親はラケールがまだ小さい頃私に預けて来たまま二人とも帰らぬ日となった。 次の年に母も父も亡くなり、イヴァノヴァ家はラケールと私だけとなった」

 

 ああ、確かにそんな事を聞いたような…

 ありふれている話だから忘れていたぜ。

 

「その時私はかなり参っていてね、ラケールは気丈にも私を励ましてくれたわ。 きっとラケール自身も参っていた筈なのに。 そんな日常の中に変化は起きた────」

 

 ヘレナ叔母さんが上を向き、俺を見る。

 

「────ある日小学校から帰ってきた日に“マイケル”と言う隣のいじめられっ子を連れ帰って来てね、それはもうびっくりしたわ。 久しぶりに心の底から笑ったラケールを見たのもその日」

 

 うわ~、ここでまさかの俺登場?

 きっまず。

 

「来る日も来る日も徐々に明るくなったこの家、楽しかったわ。 この時はまだLíf(リフ) Lífþrasir(リフプラシル)計画の第二段階が終わったばかりでね? “あ、楽しいわね”と思った矢先に0261空域戦線が起きて、ラケールは未送還者としての報告が来たわ。 その時は計画の第三段階の失敗したての頃で……」

 

 ……俺はラケールの方を見る。

 単純にラケールにもヘレナ叔母さんにもかける言葉が見つからないからだ。

 

「そこからは私達学者チームに提案が来て先ほど言った“()()()()に精神を移植”というのに私は全力で励む事にした。 理由はラケールを取り戻す為よ」

「……あー、聞いても良いか? 俺は詳しくないんだがそもそも人の考えってそんなポンポン抜き取ったり移したりできるのか?」

 

 俺はさっきから気になっていた事をヘレナ叔母さんに聞く。

 

「出来る。 と言いたいけど私が加わっていた頃は成功二割、失敗は八割ってところだったわ。 私達人間の記憶みたいに固定化した情報はともかく、思考は常時変わっているから一瞬でも止まると────」

「────でも可能なのね?」

 

 〔ラケールがヘレナの言葉を遮り、そう聞く。〕

 

「…ええ、可能よ。 そこで運び込まれた“優秀な研究材料”の一体が────」

「────私って訳ね」

 

 ラケールの顔が沈み、ヘレナ叔母さんの顔も強ばった。

 

「…」

 

 ……いやこれは流石の俺も言葉が見つからん。

 隣にいるラケールの見た目は(髪の色以外)俺の知っているラケールと大差ないぞ?

 そんな偶然あり得るのか?

 それにもしラケールがケイコとの関係者というのなら、何でケイコは黙っていたんだ?

 覚えている限りそんな素振りは見せなかったし。

 

「運び込まれた素材は全部強制的に睡眠状態を保っていたと聞いていたからコンテナを開けてら訳も分からない間にナニカに襲われたわ」

 

 “ナニカ”って何だ?

 

「“ナニカ”って何?」

 

 ナイスだラケール!

 思わず心の中でガッツポーズをとる。

 

「そうね……人の形はしていたけど、あれはまるで本能のみで暴れまわる獣のようだったわ。 ただそこに加えて不可思議な突風などが加わるとラケールが好きで見ていた、旧世界で言う“魔法”とかがしっくりくるわ」

 

 ……なんてこった。

 じゃあ隣にいるラケール(の体)はガイア出身の説が強いじゃないか。

 早くケイコの生死を確認するだけがとんでもない事になったな。

 




いや~今更ながら、子供の頃の自分に驚きです。
多少は今風に直しているものの今までの原稿にほぼ手は加えていません。

是非お気に入りや感想、評価等あると励みになります!


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第29話 「“またね”と“さようなら”」

 “魔法”…ね。

 (ラケール)はテーブルに置いてある自分の手の甲を見る。

 博物館での出来事がなければ私も笑い飛ばすような内容ね。

 

「結果としてそこにいた同僚の大半は死んだわ、そして私は下半身の自由を失った。 その代わりにラケールの精神を流し込んだ、ラケール本人に限りなく近い姪を取り戻し、私はこの成功例の功績を使って計画から外してもらった。 これが、今ここにいるラケールに関する大体の事よ」

「「……」」

 

 

 _________________________________________

 

 

 ヘレナ叔母さんが話し終わり、重苦しい沈黙が下りた。

 ラケールが時折俺の方を見るが、いやコレを俺にどうしろと?

 

「そこで二人に聞きたいのだけれど、今の事に関してどう思うかしら?」

 

 どう思う、か。

 はっきり言って俺の想像の斜め上を行っている気がする。 俺は一介の兵士であって上院議員とかじゃない。

 いきなりハウト連邦の裏の顔っぽいことを話されてもな……

 ただもしケイコの事に関与している奴らが上層部にいるとしたら────

 ────下手したら死ぬか、“素材”として扱われるか。

 この二つは今更だな。

 だがこの考えが楽観的なのはヘレナ叔母さんの話で分かる。

 甘く考えていた。

 つまりハウト連邦政府を相手にしないといけないかも知れない。

 これを回避する方法か、または何らかの布石を考えないといけないな。

 これはクリフやリック、ラケールには荷が重すぎる。

 アイリなら、まあ何とかなるかもしれない。 あそこは財力と影響力が半端ないからな。

 …よし。

 

「悪いが俺は辞めるつもりは無い。 どうせ救われた命の分ぐらい……いや、彼女をこの世界に連れて来たのは俺だ。 “家に連れて帰るまでが遠征”ってな」

「そう。 ならもう何も言わないわ」

「止めないの、叔母さん?」

「私で止められるなら、ね。でも二人はもう決めたのでしょ?」

 

 ん? 二人?

 

「ええ、私はもう決めたわ」

 

 え? おいちょっとラケール何を────?

 俺はラケールの方を向くと彼女微笑んでウィンクしてきた。

 

「という訳であの約束全部終わった後はケイコちゃんも含めて皆で飲みに行きましょう?」

「な、な、な────?」

「じゃあ、二人には“ご武運を”って言った方がいいのかしら?」

「うん、ありがとう叔母さん」

「ちょ、ちょっと待────」

「────いこ、マイケル」

 

 〔ラケールはマイケルの腕を取り、出口へと引っ張っていく。〕

 

「お、おいラケール────」

「────マイケル君」

「あ、ハイ」

「ラケールをよろしくね?」

「あ、ハイ……ハイ?」

 

 〔マイケルを引っ張っているラケールの二人が玄関へ着くと、ラケールは見送りに来たヘレナへと開き直り頭を深く下げた。〕

 

「今まで育ててくれてありがとうヘレナ叔母さん」

「気遣いはいいのラケール、貴方は私を────」

「ううん、違うの。 経歴がどうあれ、結果的に私はマイケルと再会して今こうして()()()()()し、今の話を聞けた。 だからね────」

 

 〔ラケールが頭を上げると笑顔の顔をヘレナに向けていた。〕

 

「────私は恨みもしていなければ憎んでもいない。 ただ心の底から“ありがとう”って言いたいだけ。 だから今度飲みに行く時ヘレナ叔母さんも行こう!」

 

 〔罵倒を覚悟していたヘレナの顔が困惑に変わるが次第にラケールの笑顔につられ自分も笑顔を返すようになっていた。〕

 

「フフ、そうね。考えておくわ」

「じゃあまたねヘレナ叔母さん! ほら行こうマイケル? 次はアイリ達の所でしょ?」

「ちょ、押すな! あ、ヘレナ叔母さんお世話になりました!」

 

 〔マイケルとラケールが外へ出て雨がまだ降っているのを見ると和傘を差す。 ヘレナはニコニコとしながら二人を見送り、二人はマイケルの四輪駆動車に乗ると窓を開けヘレナにもう一度声をかける。〕

 

「絶対よ! 次に会う時皆と乾杯しに行くわよ!」

「ええ、考えておくわ」

「話ありがとうございますヘレナ叔母さん! ではまた!」

「ええ、()()()()()

 

 俺は片手を振りながらエンジンを掛けて車を出した、何となくだがバックミラーに映った、どことなく寂しそうなヘレナ叔母さんから目が離せなかったのが印象に残った。

 

 _________________________________________

 

「…フゥー」

 

 〔ヘレナは長い溜息を吐き、雨が降り注ぐ空を見上げ目を閉じた。〕

 

「…ありがとうラケール。 ありがとう名前も知らない子。 ありがとう、マイケル君」

 

 〔そのヘレナに近づく人影があり、歩道を歩いているブーツがパシャパシャと水溜まりを踏み歩く。 これに気付きヘレナは音の方向へと向くと侍服装のした少女は雨が続くにもかかわらず、持っていた和傘を閉じる。〕

 

「貴方は、確か…そう、彼らも意地悪ね」

「……」

「中にお茶の用意をしているのだけど、どう?」

「悔いは無いか?」

「無いといえばウソになるけど、満足はしているわ」

「そうか」

 

 〔何かが風を切る音と何かが切れる音がほぼ立て続けに響くが降り続く雨によってほぼかき消される。 ヘレナの腕が車椅子の肘掛けから外れ、力なく垂れる。 侍服装のした少女は和傘をまた開き雨の中ゆっくりと歩き次第に視界から消える。〕

 

 _________________________________________

 

「「…」」

 

 俺は運転しながらラケールの方を時々見るが、明らかに気落ちしていて窓の外をぼ~っと見ている。

 ……なんて声を掛ければ良いんだこの場合?

『まあ、何とかなるさ!』

 うん、いいんじゃね? とりあえず保留。

『飲みに行くか?』

 …だめだ、さっきこいつが皆と一緒にって言ったのを忘れたのか俺?

『一旦家に来るか?』

 それもいいが、何者かが俺の家に前回来た以上監視されている筈だ。

『ホテル取るか?』

 …………何かこいつにぶっ飛ばされる予感しかないので没。

 よし。 ここは取り敢えず────

 

「なあ────」「ねえ────」

 

 声がハモった。

 

「あ、マイケルから先に────」

「いやいや、ラケールこそ────」

「「……」」

 

 あ、またこの気まずい空気だ。

 いやだな~、これいやだな~。

 どうすっべ?

 あ、そうだ。

 

「ラケール、アイリ達に連絡してくれないか?」

「あ、うん。そうだね」

 

 ラケールがスマホを取り出しアイリ、リック、クリフの番号を入れて電脳会議室に待機するメロディが車の中を流れる。

 先に入って来たのはリックだった

 

『ふわ~、もしもしラケール? どうしたんだ?』

「うん、ちょっと皆に話したい事があって」

『ようラケール! お前から連絡とは珍しいじゃないか!』

 

 今度はクリフだな。 相変わらずテンションたか。

 

『お? 何だ何だ? これ皆にいっているじゃねえか? まずまず珍しいなおい』

「うん、アイリが来たら」

『はい、アイリです。 って何時もの皆? どうしたの?』

「うん、ごめんねアイリ? ちょっと話したい事があるから部屋を用意してくれるかしら?」

『えーと、それならカラオケ────』

「いや、()()を用意してくれ」

『…わかったわ。 何時もの場所で落ち合いましょう』

『ああ、()()をしたらすぐに行く』

『おいおい、そこまでかマイケル? いや、答えなくていい。 俺も()()したらすぐに行く』

「ああ、ありがとう皆」

 

 アイリ、クリフとリックが通話を切りラケールがスマホのアプリを閉じる。

 さてと、どこまで行けるか。

 作戦開始(オープンコンバット)

 

 俺は高速道路から降り、例の場所へと向かった。

 大道路の中を走り、周りには列に並んでいる高速ビル。

 ここは大企業の本部などが集結している、いわばハイソサイエティーエリアってところだ。

 その証拠に周りを走っている車はリムジンやファッションを重視したデザインの車だけだった。

 う~ん、やっぱり視線が集まるな、軍用車じゃ目立つが仕方ない。

 

 〔マイケルとラケールの車が角を曲がり、あるビルの地下駐車場入口の中へと進む。〕

 

 ここまでくれば監視が掛かっていても監視続行は難しいだろ。 

 何せここはサイムコーポレーション本部の私有地だからな。

 

 〔マイケルの車が地下駐車場内を通過すると一瞬二人の耳に少々の圧迫感がしてすぐに消えた。〕

 

「フゥー、これで少しはリラックスできるな」

「…そうね」

 

 俺がラケールの方見ると彼女はただ窓の外をぼ~っと見ていた。

 車を適当に止めて、ラケールと共にビル内部へと進むとDocka(人口人形)が俺達を待っていた。

 

「お待ちしておりました。 自分はアンジュと申します。 レナルト様にイヴァノヴァ様ですね? アイリ様がお待ちしております。 どうぞこちらへ────」

 

 さて、あの三人がどう反応するかによって作戦を考えないと。

 

 ………

 ……

 …

 

 〔景色が変わり、何かの会議室のような場所の中の丸いテーブルにマイケル、ラケール、クリフ、リックと正装しているアイリが静かに座っていた。〕

 

 さて、この三人にはほぼ全部包み隠さず話してみたが…今のラケール自身がガイア出身かも知れない事は不確定要素だから除外した事以外。

 

「ふ~ん…Docka(人口人形)の裏にそんな事があったとは」

「何か…いろいろヤバくね?」

「何か……凄いの聞いちゃったな、私」

 

 最後にアイリがポツリと囁く。 その気持ち分からなくも無い。 サイムコーポレーションはDocka(人口人形)製造にも関わっているからな。

 

「で、ここまで俺達にその話をするという事は…何だ? ケイコの生死確認だけか?」

「感から言うとそれだけで収まらない気がする」

 

 うーん、意外だな。 先に聞いて来たのはクリフだった。 それに続いてリック。

 だが反応は悪くない。

 よし、勝負に出るか。

 

「俺がしたいのはケイコの生死確認、ケイコが生きていれば救出して彼女がガイアに戻りたいのであればそれを叶える。 次に博物館の事件に加わった奴らのいぶり出し。 ヘレナ叔母さん曰くその同じ奴らがガイアから人を攫っている可能性が高い。」

 

「ヒュー♪」

「ぐわ、マジか」

「それは…」

 

 〔クリフが口笛を吐きながら笑い、リックとアイリは驚愕の表情をする。〕

 

 …やっぱりそうなるか。

 無理も無い、結果的にはハウト連邦上層部にケンカを売るみたいなものだ。 理由が理由だけにこれに参堂してくれる奴なんてよっぽどの物好きか────

 

「「いいぜ、乗った」」

 

 そうだな、やっぱり普通はそう────

 

「へ?」

 




本日の2話目投稿!


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第30話 「F○ck!」

お待たせしました! またも長めですが。


「へ?」

 

 俺はほぼ即答で答えたクリフとリックを見る。

 

「お前ら、良いのか?」

「いんや、“良いと”か“悪い”で言うと“ヤバい”。 けどやっている事が気に食わない」

「右に同じ」

「……本音は?」

「「可愛い宇宙人の子達と親しくなれるかも知れないから」」

「馬鹿なのね二人共」

「「いや~、照れる」」

「違った、大馬鹿なのね」

 

 今回はラケールに同感だ。 未だに考え事をしているアイリを俺は声をかける。

 

「アイリは? 降りたいのなら別に構わないが、手伝ってくれると正直助かる」

 

 何せ俺の知り合いの中で唯一軍部から外れている上流階級の人材だからな(ガイア風に言うと“貴族”になるのかな?)。

 

「そうね、マイケルってお披露目パーティーとかって経験ある?」

「“お披露目”って何だ?」

 

 ………

 ……

 …

 

 

 何故こうなった?

 俺は憂鬱な気分で溜め息を吐き夜の景色を見ていた。

 

 〔場は変わり、高層ビルの中にあるフロアに注目が行く。 フロア一色がパーティー会場風になっており、中から周りの景色が見えるように透明な高質ガラス────

 ────ではなくかなりの制度でガラス窓と大差ないモニターが外の景色を映していた。

 中は暗すぎず、落ち着いた雰囲気を醸し出している配色と雰囲気、そして素人が見ただけでも高価な物だと分かる見事な装飾が施され録音ではなく生で演奏される穏やかで落ち着いた演奏に室内が満たされる。〕

 

 何故こうなった?

 溜め息交じりに俺は片手に持っているワインガラスに口を付き、周りの人達を見る。

 何処を向いても軍の上層部、元軍将校、大企業のCEOとその家族らしい者が辺りにいて、各々輪を作って話をしている。

 部屋のテーブルの上には天然物の食材で作られた食べ物に飲み物のお代わりを給仕の人らが交換する。

 そして隣には正装のドレスを着ているアイリが延々と俺に話しかけようとしている若い男性達に対応している。

 

「ええ、大変申し訳ございませんパーシヴァル様。 ()は病弱の上、人見知りでして今回のお披露目が初めてで────」

「────そうか、ならば致し方無いな」

「ご配慮ありがとうございますパーシヴァル様。 この埋め合わせはきっと────」

 

 俺は空になりかけたワイングラスを通りかかった給仕に渡しアイリと共に頭を下げた。

 

「────いやよい。 ()()の父親からアイリの姉が出場すると聞いて話をと思ったのが」

 

 俺はアイリにつられ頭を上げて遠のく元ハウト連邦軍大佐のパーシヴァル・ギュンターを見送る。 顔見知りだから一瞬ビビった。

 

 

「…うん、中々様になって来ているじゃない()()()♪」

「覚えていろよアイリ」

「そこは“覚えておきなさい”でしょ?」

 

 俺とアイリがボソボソと笑顔を崩さずに話す。

 もう一度言う。

 何故こうなった?!

 いやわかっている。 理屈としてはわかっている。 

 俺とラケールの話を聞いていたらこれに関して知っているかも知れない人に心当たりがあるってアイリは言った。

 そしてその人が今夜開催するパーティーに参加することも。

 そしてサイム家が招待されている事も。

 俺達の中でアイリが行く様なパーティーにクリフとリックは行った事があるから相手とは顔見知りで警戒されるかも知れない。

 と言うか変装するとなるとそれ以前に二人の体格的にこんな芸当は無理。

 ラケールも顔(と言うか体格)も実験体だったからウィッグと多少の化粧で誤魔化しが効かないかも知れないのでアウト。

 と消去方法で俺が()()()()()の役をする事になったが何故姉と言う架空の身分の用意されてあったのか?

 

『上流階級にもなるとそう言う()()()()()()()()()が必要になるかも知れないから』

 

 成程、架空の身分とは何かと役立つのは分かる。

 で次はなぜ兄ではなく姉役なのか?

 

『昔お父様に姉妹が欲しいと言ったらその日に病弱の姉の身分が作られた』

 

 成程成程、アイリの父さんの親バカさは相変わらずだな。

 では最後に。

 なんでラケールやDocka(人口人形)じゃなくて(マイケル)なんだ?!

 

『その話が本当なら相手はラケールの顔と体格を知っているし、今から事情と戦闘プログラムをDocka(人口人形)にセットするには時間がないからアンジュ確保』

『ハイお嬢様』

 

 成程成程成程。 パーティーは今夜開かれる予定で事情を知ってある程度戦闘ができる俺に役がまわったと。 なら問おう。

 何でファッションショー並みに衣装を次から次へと変える? それってこの作戦に関係無いよね?! というか爆笑してないで助けろ、この二人馬鹿(クリフ&リック)

 ラケールも気分悪いのか顔を真っ赤にして鼻を押さえていたし。

 アイリは笑いながら化粧をしていたのに化粧とかし終わったら急に真剣な顔になるし。

 変装の準備が全部終わった後に俺が俺自身の姿を鏡で見て一瞬ドキッとしたのは墓まで持って行こう……

 

 という訳で今俺はマイケル・レナルト軍曹ではなく、アイリの姉リーア・サイムとして振舞っている。 礼儀作法など諸々はアイリ付きのDocka(人口人形)のアンジュの猛烈なシゴキ────コホン、教育の付け焼刃。

 後の大きな問題は声なのだが一応“病弱な人見知り”なので極力声を出さないようにしている上に仕込みはあるがこれは最後の手段。 できれば使いたくはない。

 

「来たわよ、今会場に入って来た人よ」

 

 俺はウィッグの前髪を通してアイリの示す人物を見て護衛らしき者達を観察し始めた。

 見える護衛が5名……いや既に入場している人達の何人かの反応からしていたからそいつらも裏の護衛らしいな。 合計8名って所か。

 表の護衛が5名とも全員黒スーツにサングラス、青白い肌。 懐と腰辺りが盛り上がっている具合からして拳銃と近接武器所持の戦闘用Dockaか?

 裏の護衛が3名、こっちは人間っぽいな。

 最後に今入って来た50代程のスーツのイケメン。

 ヘレナ叔母さんと同じくハウト連邦“中央”の化学機関所属のスコット・エッシェンバッハ。 今でも現役でかなりコネとかがある。 自称だが。

 ただアイリ曰く前のパーティーで酒に酔っていたら()()()として働いただけなのに出世したと笑っていた。

 

「ちょ、ちょっとマイ────リーア姉様。 殺気漏れているよ!」

 

 おっと、思い出しただけで()()とは情けない。 平常心(ポーカーフェイス)平常心(ポーカーフェイス)

 

「準備は良い?」

 

 俺が頷くとサイリは平然とした足並みで向かい、俺もなるべくマネしながら後を追った。

 作戦は至って単純でスコット・エッシェンバッハを捕縛し、ケイコに関する情報を話してもらう。以上。

 

「ん? おお! これはこれは! サイム嬢ではないか?」

「お久しぶりですわエッシェンバッハ様」

 

 アイリがスカートの裾をちょこんと持ち上げて、俺も同じ様に挨拶をする。

 ううぅ……股辺りがスースーする。 女の子ってこんな着ていたのか……

 あ、聞く前に()はちょいきつめの短パンだからな。

 え? 胸はどうしたって? そりゃあ……()()した。 と言っても普通は胸の欠損とかになった女性用だけど何とか合うサイズを見つけた。

 あ~、ちょっと変装の説明に入るけど良いかな?

 ん? アイリ達の会話が気になる? 大丈夫、だってただの世間話とかお世辞とかの話で俺は相槌を打つだけの筈だから。

 という訳で良いよな?

 良いよな?!

 俺だって女装されてこんな所でばれてみろ! 文字通りヤバイシチュエーションだから少しは現実逃避したくなるよ! 

 えー説明としてはこの女装が如何に凝っているか説明しようではないか。 まず目が大きく見える様に目元に化粧、クマや髭剃り跡を隠す為のコンシーラー(オレンジ色)、ウィッグセットで横髪と前髪で頭の特徴や輪郭などを女性寄りに………

 化粧とかは全部アイリがコーディネートした。 何でこんな事出来るのだって聞いたら無断外出する時に変装用のメイクや化粧が身に付いた技とか。

 そして服装と胸とかはラケール担当(こっちは何かよく解らない旧世界の“こすぷれ”ってヤツで習ったらしい)。 ハイヒールは断固として拒否したのでシューズにしてもらった。 代わりに無理やり足を少しでも痩せているかのように見える超キツイタイツをはかされた。 トホホ。

 他には何かあったかな? ああ、そうだ。 今回何で俺が女装しているかって言うとスコット・エッシェンバッハは大の酒好きの色男で()()の女性が好みらしく、酒が絡むと気に入った子に酒の相手をさせる癖があるってアイリが言っていたな。 鬼のような形相で。

 その顔のまま俺達の“あっは~んエッシェンバッハうっふ~ん誘惑で誘拐作戦”に同意したっけ?(なおこの酷いネーミングセンスはクリフとリックが付けた。)

 なので男のまま俺が付き添ったらアイリが相手されないかも知れないって事で女装という提案が上がった。

 

「────そしてそちらが噂に聞いていたリーア嬢だね?」

 

 スコット・エッシェンバッハが俺の方を見たのでペコリとお辞儀をすると奴の視線が俺の胸を見ているのを感じた。

 ……フェイクの胸でもこれは嫌だな。

 

「ええ、ようやく人前に出られるまで顔色が良くなりました」

「ふ~む、アイリ嬢に似て綺麗だね。 お嬢さん、良ければご自分で挨拶をしてくれないか?」

「あ、リーア姉様は────」

「────わかっているとも。 病弱と聞いているが言語障害は聞いていないからね。 な~に声さえ聞ければ私は満足だとも」

 

 あー、やっぱ来たか。 声出すタイミング。

 だからアイリ苦笑いはやめろ、ばれてしまうだろ? それに言った筈だ、奥の手があると。

 

 俺は口を開け、出来るだけフワッとした笑顔を作り────

 

「お初にお目にかかりますわ、エッシェンバッハ様。 リーア・サイムと申します」

 

 ────何オクターブか高い()()()声で今夜初の挨拶をした。

 

「ほう! 顔だけで無く声も可憐とは!」

「……」

 

 おいそこ、口をポカーンと開けっ放しにすんなアイリ。 アンジュがいたら“令嬢に有るまじき行動”だぞ? 俺自身かなりビックリしているが忠告した筈だぞ?

 この芸当の種は風の魔術で俺が喋っている間、声と共に発する空気を弄って女性の声に変えている。 声なんてようするに空気の振動とかで決まるのだからこれ出来なくね?と思って実験していたら割と出来た。 人間必死になれば何でも出来るのだな。

 ただネックが魔術で効果が“声を出す時”だから首か口辺りにどこかに術式を組み込んだものを肌身離さず持っておかないと駄目で最終的にネックレスに組み込んだ。

 

「……嬉しいお言葉ありがとうございますエッシェンバッハ様、姉もがんばって声を出したかいがある言うものです。 して、あちらに良いお酒などを見かけたので────」

「────ぬ、そうか? では案内してくれないかね?」

「はい、では────」

「ああ、出来ればリーア嬢にしてもらおうかな? 確かアイリ嬢は酒が苦手だったと前回聞いたが?」

 

 ────え゛?

 

「ぇ────あ、ああ! あの時はまだ成人して間もなかったのです。 ですのでお酒の経験が────」

「そうなのかい? では二人に案内役を頼めるかな?」

「え、ええ。 喜んで、ね? 姉様?」

「ア、ハイ」

 

 ちょっと待てい! 聞いていないぞ?! 思わず疑問形の“ハイ?”じゃなくて肯定の“ハイ”が出ちまったじゃねえか?!

 

 何・故・こ・う・なっ・た?! Someone (誰か)tell me(教えて) please(くれ)!  F○ck(フ〇ック)

 




是非お気に入りや感想、評価等あると励みになります!

あ、あとお気づきになっている方もいるかも知れませんがなるべく土日に投稿予定をしております。

最悪の場合前の月曜日投稿に戻るかも知れませんが今のところ土日のままで。

ではまた明日!


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第31話 「(大きな)勘違い」

 〔さて、ハウト連邦“中央”の化学機関所属のスコット・エッシェンバッハについて少し説明しよう。

 先ほどアイリはマイケル達に自称でコネがあると言っていたが実はと言うとスコット・エッシェンバッハはこれ以上目立つのは嫌なので敢えて今の地位に固執していた。 元々彼は天才でも何でも無く、それを彼自身はよく理解していた。 ではなぜ彼は“中央”所属のまま出世の誘いなどが未だにあるとすると彼には二つだけ抜きんでた取り柄がありそれを駆使していたからだ。

 その取り柄とは鑑識眼(物や人の潜在的価値を見定める目)とそれを上手く利用して立ち回れる思考。 この二つのおかげで彼は適材適所の人員の振るい方や推薦、プロジェクトの方向性の見極めなどで彼の手柄またはに恩を感じる者達が少なからず化学機関だけで無く、軍部などにもいた。

 大の酒好きの色男で年(・)下(・)の女性が好みらしい。 これは間違いではないのだがある誤差が生じている。 確かにスコット・エッシェンバッハは大のお酒好きであるし人並に好意など持ち合わせている。 では色男で年(・)下(・)の女性が好みと言うのは?

 実はこれも先程の鑑識眼に関係してありスコット・エッシェンバッハはごますりをしてくる輩、自分の利益の為に利用しようとする者、身を保身の為に寄せ付けるなどの人物には最低限かつ社交的に接し、純粋な者達には親が子供に向ける好意や応援を。

 ただこのおかげで少々在らぬ噂などが出回っているが本人はさほど気にしていない。 このパーティーに参加するのも目立たず消えさずの体制を保つ為に仕方なく来ているだけ。〕

 

「(さて、今日の参加者は…何時もの人達か。 やはりつまらん、さっさと高い酒を────ん?)」

 

 〔彼はパーティー会場を見渡しつまらなさそうに見ていたがある人物に目が行った。〕

 

「(何と儚げな顔! そして普段の令嬢とは違う健康的な血色! あれはもしかして受付にて署名してあったもう一人のサイム嬢か? 病弱だったのが最近になって良くなったと聞いたが…)」

 

 〔彼が見たのは壁際で憂鬱な表情をしていたリーア・サイム嬢(マイケル)。 大抵の参加者の女性達はコルセットや濃い化粧、ファッションなどで着飾っているのに対しリーア・サイム嬢(マイケル)はほぼ素の格好と状態での正装ドレスを着ていた(スコット・エッシェンバッハ視点)。

 これにより興味を持ちサイム姉妹に声を掛けると────〕

 

「お初にお目にかかりますわ、エッシェンバッハ様。 リーア・サイムと申します」

「ほう! 顔だけで無く声も可憐とは!」

 

 〔姿と身長に似合わず妖精の様な声でさらにスコット・エッシェンバッハの興味が引かれた。 何故リーア・サイムでアイリ・サイムに向けられていないかと言うと以前のアイリは他のご令嬢方の噂話や実際会った時の彼の視線が気に入らなかったとか。〕

 

「……嬉しいお言葉ありがとうございますエッシェンバッハ様、姉もがんばって声を出したかいがある言うものです。 して、あちらに良いお酒などを見かけたので────」

「────ぬ、そうか? では案内してくれないかね?」

「はい、では────」

「ああ、出来ればリーア嬢にしてもらおうかな? 確かアイリ嬢は酒が苦手だったと前回聞いたが?」

「ぇ────あ、ああ! あの時はまだ成人して間もなかったのです。 ですのでお酒の経験が────」

「そうなのかい? では二人に案内役を頼めるかな?」

「え、ええ。 喜んで、ね? 姉様?」

「ア、ハイ」

「(ふむ、表情豊かで妹思いに一般的な仕草と反応。 今まで見てきた人達では貴重と言えるほどの…ますます興味をそそる)」

 

 〔かくしてスコット・エッシェンバッハはリーア・サイムに対しての評価が上がりつつ飲み物バーへとアイリとリーア(マイケル)に案内され、他愛ない世間話などをスコットとアイリはし続けていた。 その隣では相槌を打つだけと時々近くの飲み物を飲むリーア(マイケル)。〕

 

「(アイリ嬢と違って酒がいける口か)」

 

 〔そう、男性はともかく女性はとやかく飲み物を普通ガバガバと飲まない。ましてやそれがお酒とならば。 だがリーア(マイケル)はあまりの場違いの緊張と女装からとりあえず落ち着こうと必死だったがそれが裏目に出た。〕

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 なんでやねん?!

 (マイケル)はそう心の中で叫んだ。

 

 えー、現状報告。今俺はターゲット(エッシェンバッハ)のお酒の相手をしている(そしてアイリは隣で冷や冷やしている)。 何がどうなったらこうなるか知らないがどうやら俺がお酒を飲んでいるのを見ていたり、好み(?)っぽいからだとか。

 っという訳で今俺の脳ミソフル回転で質問中&考え中。

 

「え、ええ。アイリとは世間の話をして…エッシェンバッハ様は普段“中央”ではどの様な事を?」

「ム? 私は……まあ雑用係だな。 良い人材を雇い、色々なモノに手を付けている。 リーア嬢は病弱と聞いていたが?」

「お父様が良い医師を雇っていたおかげです…わ。 エッシェンバッハ様は先程“色々なモノ”とl…仰っていましたが例えばどの様な物を?」

 

 アイリ噴出すな、俺だって頑張っているんだよ!

 

「どの様なモノ…か。 まあ、色々だ」

「例えばDocka(人口人形)など…でしょうか?」

「やはりサイム家として気になるか? 初めの方はそうだったな…」

 

 お? これって…もしかして行けるか? ほろ酔いっぽいし……こんなに飲んだのは久しぶりだな。

 

「初め? では今は負傷者などでしょうか?」

「負傷者? 何故そう思うのかね?」

「いえ、エッシェンバッハ様は“中央”では医療などにも通じているとお聞きして」

「“負傷者”……と言えば負傷者か、星は違えど────」

 

 来た!

 

「星が違う? 辺境の最前線でしょうか?」

「辺境……最前線ではあったが────」

 

 〔スコット・エッシェンバッハが手招きをしてリーア(マイケル)は耳を貸す。〕

 

「この前の博物館騒ぎの事だ。 ()からの勅命で()()を捕獲せよと命が下ってな? ……交渉と移行しようではないか? 儂が知っている情報の代わりにサイムコーポレーション製の最新Docka(人口人形)

「……その情報とやらによりますわ」

()()の輸送され、保管されている場所」

 

 〔マイケルは汗がジットリと背中に湧き出ているのを感じ、心臓の心拍数が上がるのを感じた。〕

 

「何故……その話を私に?」

「先の素体達の輸送の際に儂が小細工を施したのが余程気に入らなかったらしくてな。 影武者が近い頃必要になると感じたまで」

「ですが何故妹ではないのですか?」

「お主からはこんな場所に出てくる輩みたいな考えに染まっていない、それにアイリ嬢は何かと儂の事を毛嫌いしている節がある」

「……分かりました、父上に話をしすぐ手配するように致しますわ。」

「うむ、ここに頼む」

 

 そう言ってスコット・エッシェンバッハは握手するように見せかけてメモを手渡してくる。 握手を返すとエッシェンバッハはもう片手で俺の手を包み込むかのように握手を続ける。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

「フゥー」

 

 〔スコット・エッシェンバッハは赤くなった顔でパーティー会場から護衛と見送りに来たアイリとリーアと共に出て待機してあるリムジンへと向かう途中、後ろからアイリの声がした。〕

 

「エッシェンバッハ様! すみません姉様の様子が」

 

 〔スコット・エッシェンバッハがリーア嬢の方を見るとアイリが明らかに顔色の悪いリーアに肩を貸していた。〕

 

「む? 車に乗りなさい二人とも、近くの病院まで送ろう」

「ありがとうございます! ほら、姉様」

 

 〔近くにいたエッシェンバッハの護衛Docka(人口人形)達は反論する事無く主の命令に従いアイリとリーアとエッシェンバッハの三人をリムジンの中へとエスコートし、5人の護衛の内一人は運転席、他の四人はスコット・エッシェンバッハと向かいに座っているアイリとリーアを挟むかのように座っていた。 リムジンが出発して数分後、車は高速道路へと乗るとアイリが沈黙を破る。〕

 

「ありがとうございますエッシェンバッハ様────」

「────い、いや儂が軽率だった。 病み上がりのものにお酒の相手をさせるとは…いやはや申し訳ない」

「ウッ!」

 

 〔リーア・サイムは呻き声をあげ、隣にいた護衛Docka(人口人形)のジャケットにしがみ付き、口元を抑えるが主からの命令がない故護衛Docka(人口人形)は微動だにしなかった。〕

 

「エッシェンバッハ様……」

「何かねリーア嬢? 窓をあk────」

「──── “()()()”に、覚えは?」

「……()だねそれは────」

 

 〔スコット・エッシェンバッハの答えを遮るかの様にリーア・サイムは掴んでいたジャケット内からベレッタ92FSを素早く取り出しながらセーフティーを外し元所持者の顎下から発砲し、反応した反対側の護衛Docka(人口人形)が銃を出し照準をリーアに定めようとするのをアイリは護衛Docka(人口人形)の腕を横へと押しずらす。 またも発砲音が響くリムジンでリーアはアイリの隣の護衛Docka(人口人形)の頭部を打ち抜き手ぶらの手で落ちるもう一つのベレッタ92FSを受け取り主の危機と自動判断し動き始めた向かいの護衛Docka(人口人形)二人の頭部を撃ち抜き、銃を二つとも唖然としているスコット・エッシェンバッハに向ける。〕

 

「運転手に『このまま運転』させろ!」

「わわわかった! 『このまま運転しろ』!」

「両手を上げたまま後ろを向け! アイリ────」

 

 〔リーア・サイムはアイリにベレッタ92FSを一つ渡し、背を向けたスコット・エッシェンバッハの懐からスマホを抜き取り、窓を開けて外へと放り出す。〕

 

「な、なんなんだ君は? ま、まさか────」

「さてと、ケイコの事を洗いざらい吐いて貰おうかエッシェンバッハさん」

「な、なぜ────?」

()は一度も“けいこ”が“人”って言ってないのに“誰”とはな」

「リ、リーア嬢?」

「あー、ワリィが違うな。で? アンタの命とケイコの情報、どっちが大事だ?」

 



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第32話 「飛べ! スーパー○ン!」

どうもこんにちわ970です! 

え~、まず最初に。今までは英語で書いた原稿を日本語にするのって趣味でしていたのですがこれが物凄く大変でした、ハイ。 ギャグやユーモア、雰囲気のスタイルなどがベクトルごと違うので(英語と日本語)。

下手な文章なども含めて読んでくれて誠にありがとうございます! もうちょっとオリジナルの原稿の先を読んだらすごく遅いペースで繰り広げられる物語だったのでペースを一応上げてみました(具体的に21話からです)!

あと省いた部分などは番外編やオマケとしていつかアップしたいと思っています。



「リ、リーア嬢?」

「あー、ワリィが違うな。で? アンタの命とケイコの情報、どっちが大事だ?」

 

 〔マイケルは怯えながら両手を上げるスコット・エッシェンバッハにベレッタ92FSで狙う。〕

 

「で、どうなんだよ()()()サンよぉ?!」

「い、いや仰っている事が────」

 

 ────バン!

 

「ぎゃあああああああ! い″だい″い″い″い″い″い″い″!」

 

 〔銃声がリムジンの中で響き、アイリの体がビクつきスコット・エッシェンバッハは両手で自分の右膝を掴む。 次第に彼の手の中から赤い血が滲み出てマイケルは照準を戻す。〕

 

「次は左と行こうか?! ああああ?!」

「い、言います! 言いますから撃たないでぇ! し、死ぬぅぅぅ!」

「動脈は外した! 答えたら病院に行かせてやる、だから知っている事を吐け! ケイコは生きているのか?! 死んでいるのか?!」

「そ、そんな…名前だけで分かる訳が────」

 

 ────バン!

 

「ヒィィィィィ!」

 

 (マイケル)が持っているベレッタ92FSから薬莢がリムジンの床に落ちる。 さっき護衛Dockaに不意打ちをかけた際にフィジカルリミッター(物理強化の制限装置)リフレックス限定強化(反応速度強化)の許可を待たずに同時に使った反動で体のあちこちの関節と筋肉が悲鳴を上げているのを我慢する。

 

【告。 非許可使用の為一時的にレナルト軍曹のフィジカルリミッター(物理強化の制限装置)リフレックス限定強化(反応速度強化)が使用不可になりマシタ。】

 

 あ~、ハイハイ知っていた。 有難う脳内アナウンサー(潜在意識AI)さん、いつもお世話になっています!

 

【…………】

 

 分かっていた事だがやはり返事無し、か。 っとと、ヤバイ。 考えに耽っていたら意識失うところだった。 俺は眠気と痛みに襲われながらも目の前のスコット・エッシェンバッハを睨む。

 

「とぼけんなよ、博物館で確保された()()だ!」

 

 〔マイケルは叫ぶと同時にカツラを取り、変装を解くと見る見るうちにスコット・エッシェンバッハの表情が変わる。〕

 

「フウ、蒸しアッツ! で? どうなんだ────?」

 

 〔マイケルが視線を上に戻すとスコット・エッシェンバッハの顔は正にこの世の終わりとでも言いたい絶望の顔をしながら頭を抱えていた。〕

 

「あ、ああああ────お、終わりだ────」

「おい、どうした?」

「た、頼む! 私を殺してくれぇぇぇ!」

「はぁぁぁ?! ちょ────! っざけんな!」

 

 〔スコット・エッシェンバッハは更に青い顔をし、マイケルへ突っ込もうとするが足に怪我を負い速度が出ずマイケルの蹴りにって元の位置に戻される。エッシェンバッハは頭を抱え、歯をガチガチと恐怖で鳴らす。〕

 

「も、もう終わりだ。 お終いだ────」

「────だから! ()()は、ケイコはどこだ!」

「……彼女は“中央”にいるよ、多分」

 

 〔エッシェンバッハはどこか諦めたような溜め息をし、マイケルに声を投げると彼はそれに食いつく。 アイリは自分の持っている拳銃をリムジンの運転中の護衛Docka に向けながら話を聞いている。〕

 

「本当か?! 間違いないんだな?!」

「答える前に…頼む、儂を一思いに殺すと────」

「────なら早く答えろ」

「…まだ“中央”の化学施設に保管されていると聞く」

「ねえマイケル────」

「────黙ってろアイリ! 施設のどこに保管されている!」

「特異室の筈だ。 だから────」

「────マイケル────」

「────後でだアイリ。 施設の規模は? 防衛は?」

「知らん、だがこれが施設内に入る為の────」

「────マイケル!」

「何だアイリ?!」

「後ろから何か来る!」

 

 〔マイケルが視線をエッシェンバッハから高速道路を走るリムジンの後ろを見ると車が数台明らかにスピードを上げ追って来ているのが見えて────〕

 

「ヒィィィィィ!」

「「?!」」

 

 〔エッシェンバッハに注意をマイケルとアイリが戻すとつい先ほど誰もいなかった(頭部を撃ち抜かれたDockaはカウントしていない)エッシェンバッハの胸倉を掴みリムジンのドアから出ようとしているゴスロリ風の少女の姿がいた。〕

 

「あ、見つかっちゃった☆」

「な、てめえは博物館での?!」

 

 〔マイケルはその少女に見覚えがあり(第19話 「The Beginning Always Suddenly...」にて)吞気に笑っていた子だった。〕

 

「あ、うん。その筋はどもども! でも今回は()()()()()担当でねー構ってられないのー」

「────い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「という訳でバハハ~イ!♪」

「逃がすかよ!」

 

 バンバンバンバンバンバンバンバン!

 

 〔マイケルがベレッタ92FSを乱射するととても少女とは思えない力で少女自身とエッシェンバッハを車内から引きずり出しリムジンが走っている道路に転がり落ち────なかった。〕

 

「なぁぁぁぁ?!」

「はぇぇぇぇぇ」

 

 〔少女と少女に引きずられたエッシェンバッハは宙を舞った。

 飛び立つ鳩の様に。 或いは射出されたミサイルの様に。 またはスーパー○ンの様に。

 そしてそれを唖然と窓から見送るマイケルとアイリ。〕

 

「………………いででででで!」

「……夢じゃないね」

「髪を引っ張るな! てか自分のを────!」

 

 カカガカカガカガン!

 

「きゃ?!」

「チィ、撃って来やがった! アイリ、運転をDockaと代われ!」

「で、でも────」

 

 〔アイリは未だ運転中の護衛Dockaをどうやって動かそうか迷っている表情をする、何せ事前に登録されている主のエッシェンバッハがいなくなったので先の 『このまま運転しろ』の命令をそのまま継続している。〕

 

「…仕方ねえ────」

 

 〔マイケルは助手席に乗り出し、運転中の護衛Dockaの頭部を撃ち抜きリムジンの外へと蹴り出した。〕

 

「このまま合流地点まで運転しろ!」

「う………うん………」

 

 〔明らかに顔色が良くないアイリはおずおずと運転席に乗りリムジンのアクセルを床まで踏み、マイケルは後方に迫ってくる車に応戦し始めた。 応戦する事数分後、上空からプロペラ音がしてアイリが空を見る。〕

 

「やった! 来たわよマイケル!」

「よし、そのままスピードを落とさず、まっすぐ進め!」

 

 〔上空のプロペラ音の正体はC-130 ハーキュリーズでこの世界では既に旧式化とされていた輸送機だった。 その輸送機の後方カーゴドアが開き、地面に接触するかしないかの微妙な距離でマイケルと運転するアイリの乗っているリムジンの前に距離を保つ。〕

 

「アイリ、アクセルもっと踏め!」

「もうやっています~!」

「じゃあ飛ぶぞ!」

「へ? ふひゃあああ?!」

 

 〔マイケルが助手席のドアを開けて運転中のアイリを肩で担ぐ(firemen carry style)と本来の日常で聞く事の無い声をアイリが上げる。 マイケルはそのままリムジンのボンネットの上を走ってC-130 ハーキュリーズ輸送機の空いている後方カーゴスペースの中へと走りこみ、中からBDU(迷彩服)と顔を覆面で覆っている人が出て使い捨て式の滑腔式無反動砲のAT4を肩に乗せコントロールを失いつつリムジンにロケットを放った。

 ロケットの直撃を受けたリムジンは爆発し、高速道路の上を横に倒れ転がる。追跡していた車やその他の物にリムジンだったデブリと化したものの所為で通行は困難……と言うか大事故に発展する中C-130 ハーキュリーズ輸送機は空へと戻っていく。〕




追記:
元々他の作品にある時を境にクロスオーバーする展開などもあったのですが正直それも入れた方が良いのか迷っていますのでハーメルンにてアンケートとして出しています(第31話にて)。
クロスオーバー作品はざっと読みなおしたところFate Stay/Night、Bleach、幽遊白書、HunterXHunter、ペルソナ4辺りなどのような多作品世界です。

追記2:
ハーメルンにて全話にペースや“文字の誤差が気になる”などのアンケートを出してみました。
ご協力してくださると、嬉しいです!


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第33話 「ONMITSU」

お待たせしました! もっと早く書いて投稿する予定が他のキャラの外伝っぽいのを見つけてそれを投稿しようか迷ってて……

けっして仕事が忙しいとか風邪を引いたとかありませんよ?!

すいません、両方でした………


「(C-130 ハーキュリーズ輸送機か、よくこんなものが動いているぜ。)」

 

 (マイケル)はそう思いながら中を見────

 

「あいで?!」

「ちょっといい加減に下ろしなさいよ!」

「ああ、すまん」

「それにしてもお前の格好…ブフゥ!」

 

 暴れ始めるアイリを下ろして覆面の男が噴き出した。

 

「仕方ないだろクリフ。 てか作戦ではラケールの筈だったんじゃ?」

「何だよ? 俺じゃ不満か?」

「そうじゃなくて────」

「安心しろ、俺よりアイツの方が手先器用だから武器と装備の点検を代わってもらっただけだ。 それに……」

 

 ん? どうしたんだクリフの奴急に黙って?

 

「私は着替えをして来るわ────」

 

 アイリは少し手を加えた輸送機の中にある移住区っぽい奥へと行き、クリフが覆面を取る。 リックが“少し手を加えた”と言ったから何かの改造と思ったが……

 まさか個人で飛ぶCP(コマンドポスト)を実現するとは。 ま、そのおかげでプロペラの音が中までで響かなない仕組みになっているのはありがたい。

 

「エッシェンバッハは?」

「ゴスロリに連れて行かれた」

「…………………すまん、もう一回言ってくれるか? 何か聞き間違えた様な……」

「ゴスロリ風少女に連れて行かれた」

「……………………お前、パーティーで薬盛られてないよな?」

「いや、至ってマジだ。 しかも飛んで行った」

「……………………………………………お~い! リック! マイケルが薬盛られたってよ!」

「だから違うって!」

 

 分かる。 分かるよクリフ、お前の考えが。 俺も信じにくいがもうどうやっても“飛んで行った”という表現しか出来ないから“こいつラリっているのか?”の顔をやめろ。

 

「………………あー、どっちにせよ収穫無しって事か?」

「まさか。 話からしてケイコは生きているっぽいし“保管”言っていたから────」

「────で、やっぱ“中央”か?」

「ああ、エッシェンバッハから“コレ”をもらった」

「………………カードキー? 今時珍しいな」

 

 そう、エッシェンバッハがリムジンの中で俺に手渡したのはカードキーだった。 クリフが言った様にカードキーのような物理的暗証は今ではほぼ廃棄されて体内ナノマシンから発するデータ転送によって自動的にオープン/クローズするのが主流なのに……………

 

 え? ここで“何でナノマシンが出てくる”かって? 言ってなかったっけ? 言ってない?

 あー、そっか。 じゃあ着替え&次の作戦準備中に説明しとくさ。

 まずハウト連邦はティダ帝国との戦争で国民全員には一通り予防接種などが施されている。 一般的なのは毒耐性や傷の治り具合とかかな?

 で次に俺達みたいな特殊作戦実行部隊経験者には思考速度上昇やそれに間に合うように体が動くようなリミッター解除(と言っても体を無理やり動かしているのに変わりはないから使った後の頭痛とか眠気や体の痛みが酷いが)。 

 分かりやすい様に言うと人間の脳と体の速度を疑似的に早くする為に()()()()()()()と言う枷を外す。 そしてその行為をナノマシン経由で無意識と言う()を外す。 ちなみにこの制御を行っているのは脳内アナウンサー(潜在意識AI)さん………らしい。

 いや学校でそう習っただけだから詳しい事は知らんがな。

 っと着替えも()()()()()()被り終わったし、あとは────

 

『あ、マイケル』

『ようラケール、武器点検ご苦労さん』

 

 俺は武器庫(に急遽改造した個室)に入ると今回使う装備を点検していた(俺と同じヘルメットを被っている)ラケールに労う声を掛けた。

 

『ねえ、本当に()()大丈夫なのよね?』

『ああ(多分)』

『今回の作戦は上手くいけばいいけど……アンタが術式を施したこの装備はちょっと』

 

 そこでラケールは俺が刻み込んだ装備らを見る。

 

『まあ、使わないに越した事はないが…万一の事を考えて、な』

『おーい、お二人さん方。 そろそろ例の“中央”の化学施設上空に着くぞ!』

『ああ、有難うリック。 すまないな、色々コネとか財産使わせて』

『いいって事よ! ただガイアに着いたら可愛い子紹介してくれよ? ………ああちなみにクリフにも』

 

 俺とラケールは服と装備、銃、そして()()()()()()を再度チェックし直して後方カーゴスペースへと戻る。

 いやあ、生身のHALO(高高度低開口)ジャンプなんて何時頃か。 訓練生時代以来か?

 

『二人とも分かっているな? もう一度ブリーフィング(作戦内容確認)をするぞ』

 

 1.(マイケル)とラケールが“中央”の化学施設の敷地にHALO(高高度低開口)ジャンプで降下

 2.ジャンプ中にクリフとリックが陽動を仕掛ける

 3.陽動が終わるまでに施設内に潜入

 4.ケイコを確保

 5.施設から脱出、そして後でクリフ、リックかアイリのいずれかと合流

 6.先の三人はガイアへの航路を確保

 7.ケイコをガイアに送り返す

 

 とそんなところだ。 弱化穴だらけに感じるが仕方がない、むしろ即席で出た割にはしっかりしているって褒めてくれても良い。

 息を吸い込む度に純度100%の酸素が肺から体中に行き渡る(急速な高度降下時の減圧病又は低酸素症の予防)。

 

『すまないラケール、今回は隠密行動だから重機は────』

『────持っていくわよ? 何があるか分からないし』

『持っていくなとは言ってない。 使うのは最後の最後、絶体絶命な時だけだからな?』

『わかっている……ねえマイケル?』

『うん?』

 

 ラケールが俺の方を見る。 ヘルメットのおかげで顔は見えないが声が震えている。

 

『私……私ね? えっと……』

『何だよ、急にモゴモゴ&モジモジしながら?』

『……私マイケルに聞きたい────』

『────二人とも着くぞ! 早くジャンプの準備をしろ!』

 

 ラケールの声を遮ってクリフが輸送機内のインターコムで俺達を急かす。

 

『で、何だってラケール? 質問の途中ぽっかったけど────』

『────ううん、やっぱりいいや!』

『???』

 

 ラケールが装備の点検を切り上げて準備をして個室を出る。

 ……っで結局何だったんだ? ま、いっか。

 俺も自分の装備らを確認してから後を追う。

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

【無事に入れたな】

【ええ、ターゲット(エッシェンバッハ)おかげ(カードキー)ね】

 

 今俺とラケールは共に軍用サインランゲージ(手話)で話しながら施設内の通路を移動する。 なるべく警備についている人やDocka、ここで働いているらしい研究員はスルー。

 ケイコと居た時の索敵能力が恋しいぜ。 そう言えばどうやってアレやっていたんだっけ? ケイコは“風が教えてくれています”とか言っていたが……

 そういえば────

 

【待ってくれ】

【何故?】

【新しいアドバンテージを組み込む】

【もう皆動いている、危険よ】

【承知の上】

【……分かった、辺りを警戒しておく】

了解(ヤー)

 

 ラケールがサプレッサー付きQ Honey Badgerを構えて次の角辺りを警戒している間に俺は一冊の本を出した。 それはガイアから俺が持ってきた魔法や魔術に関するノート。

 確かここに……

 “原初の理、即ち万物万象のものは全にして個、個は全なり。”

 …違った、こっちはまだ訳も分からん魔法の方だった。 

 “()()()使()()()()()”は…っと。

 あった! えーと、これの術式は……フムフム…………これなら使えそうか?

 俺はウエストポーチの中からタクティカルゴーグルを取り出して股の外側から下げていたKA-BARナイフで術式をガリガリガリっと。

 

【何をしているの?】

 

 俺は術式を刻み込んだタクティカルゴーグルを付けて────

 

()を見ている】

 

 ハァ?と言いたそうな呆れた顔をしてラケールが俺を見ている気がするが俺は無視して周りを見る。

 

 おー、これは何と言うか……新鮮だな。

 

 〔マイケルの見ている景色は普段人が見ている景色の上にまるで一帯が陽炎のごとく揺らいでいて、ところどころから波紋の様な軌跡が視界を遮る。 試しにマイケルは自分の手を見て指先を擦るとそこから球状の波紋がゴーグル越しに見えた。〕

 

 よし、これで────

 

【我に続け】

【了】

 

 〔マイケルとラケールはそのまま施設内の中核らしき場所へと進む。 なぜ彼らが高も初見の内部を進めるかと言うとこういう場合、あるいは機密性が重視される場所などは基本的に最も秘密にしたい物は外部からの最も遠い中央か地下、或いは両方と言う作りに自然となる。

 マイケル達は徘徊している警備Docka等を警戒しつつ奥へ奥へと進む、そしてその度に通過する数々のガラス越しに見える部屋を彼らは横目で見る。

 中には様々な器具や明らかな倉庫や実験室などを通り()()に辿り着く。〕

 

「なんだ…こりゃあ?」

 

 俺は思わず声を出し、隣のラケールも警戒をするのを忘れ俺と一緒にその()()。 と言うか部屋か、これ?

 

 〔マイケル達の前にはただっぴろい場所の壁や部屋の中にびっしりと並ぶ棺桶みたいな箱が天井まであり、それら全てがパイプや機械などに繋がっていた。〕

 

「ようこそお二人さん、待っていたよ」

「「?!」」

 

 〔マイケルとラケールは後ろから声がかけられ振り返り、銃を構え上げるとそこには────〕

 

「お久しぶり、と言っておこうかしら?」

 

 〔そこには明らかに場違いなスカートの端を摘み一礼をする、ゴス風の服を着た少女が一人いた。〕

 

「あなた、誰?」

「お前、博物館とさっきの…」

「え? じゃあこいつが────」

「あ、空は飛んだけど私スーパーマ○になったつもりはないわよ。 その気だったら『目からビーム!』かクルクル回って『竜巻!』ってしているし」

 

 俺とラケールが銃を構えているのにこの余裕……それにこいつ、()()()()()()()()()()。 何かあるか、それか────

 

「────嵌められたって訳か?」

「マイケル?」

 

 〔ゴス風の少女の口の端が吊り上がり────〕

 

「へぇ? どうしてそう思うのかしら?」

「ここまで俺達が楽々と侵入出来たのが腑に落ちなくて、な」

「そうね、私に感謝して良いのよ? 何せこれは()の独断だから」

 

 ん? どういう意味だ?

 

「人払いに警備のルート調整その他もろもろ。 と言っても時間稼ぎ位しか出来なかったけど」

「…何でだ?」

「そうね~、ぶっちゃけ“気まぐれ”って言うのかな? でも良いの、お喋りに時間使って? ああ、ちなみにお探しの物は右奥から三段目の一番下よ」

 

 少女がそう言い、指を差すが俺もラケールも微動だにしない。

 分からん。 何でこいつはこんな事をするんだ?

 

「……ハァ~、好きにしなさい。 私は帰って────」

「────動くな!」

 

 踵を返し俺達が来た通路を戻ろうとする少女にラケールが怒鳴るが一向に振り向く気配がしない。

 

「動くなと言っている!」

 

 俺はゴーグルを外し再度脅しを掛けるが少女は無視し────

 

「────チィッ!」

 

 バスバスバスバスバスッ!

 

 俺が銃の引き金を引くとラケールも引き金を引き、俺達のQ Honey Badger弾丸が少女の四肢目掛けて飛んで皮膚と肉をえぐ────

 

 ────らなかった。

 

「んな?!」

 

 少女は撃たれたどころかそのまま歩みを変えず、角を曲がる前にこっちを向いて手を振り消えた。

 代わりに少女が撃たれたと思う場所の空中に今尚前に進まずに回転する俺とラケールが撃った.300口径の弾丸達があった。

 少女が角を曲がり視界から消えると弾丸はそのまま回転しながら床へと落ちる。

 

「…………………………………なあラケール?」

「……………………………何マイケル?」

「今何があった?」

 

 今起きた事を考えようにもどこか気がまとまらず俺は疑問をそのままラケールにぶつけた。

 



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第33話 「折れた骨」

お待たせしました! Fate/Zeroの文法がしっくり来てたのでこれからは恐らくあっちみたいになって良く思います!

今後ともよろしくお願いします!


「うおおおおおお?!」

「ちょっとマイケル! もっとスピードを上げて!」

「無茶言うな! もう飛ばしている!」

 

 マイケルとラケールは今軍用輸送大型6×6輪駆動トラックに乗りマイケルが運転席に、隣の助手席にぐったりと意識を失って座っているケイコ。 ラケールが後方のドアからMk 48機関銃を追って来る追跡者達へと放っていた。

 

「何なのよこれ?! 出鱈目も程があるわ!」

「いいからそのまま────おわ?!」

 

 マイケルが前から目を離した隙にトラックのボンネットに()()()()()()()()()()()()()、マイケルの前の窓を割りながらハンドルのコントロールを強引に奪おうとした。

 

「この、こなクソ!」

 

 時は少し遡るが、あの不可解な少女との出会いの後、マイケルとラケールは無事ケイコを見つけ出し、運び出すところで人影に襲われた。

 どんな人と見ようとしても、文字通り()()のように黒い霧が人の形を保っているようでどれだけマイケルとラケールが撃ったとしても弾は当たるが勢いは減らずそのまま二人に襲い掛かり続けた。

 何とか施設内の防御壁を駆使して距離を取り駐車場に出てもここにも人影が今度は一体ではなく無数に湧いて出て来た。

 近くにあった大型6×6輪駆動トラックに二人(+1名)に乗り無理やりイグニッションをかけ施設を離脱した。

 この際に人影達は他の自動車に乗り込み追跡する者もいれば、そのまま走り自動車並みの速さを見せる者もいた。

 

「(まるで悪いホラー映画の様ね!)」

 

 ラケールはトラックの中にある様々な支給品の武器に素早くマガジンを入れて弾を装填し何丁かの銃をマイケルへと渡し、未だに眠っているかのように意識のないケイコを見た。

 

「まだ起きないの?」

「ああ、呼吸もしているし心臓も動いている。 が、まだ目を覚めない」

「じゃ、このまま突っ走ってクリフかリックかアイリの何れかと合流しましょう!」

「ああ! ここで俺達は止まれない!」

 

 そう二人が意気込んだもの、現在状況は芳しくない。

 

「このッ! いい加減にしろ!」

 

 施設の人影同様、銃をどれ程撃ち込んだとしても効果は今一つで良くて弾が当たる反動でよろけて転ぶ、悪くて何も起きらないと言った程度。

 そして何体かの人影に追いつかれ、今ラケールは肉弾戦を強いられていた。

 ラケール一つ一つの拳はただ相手を痛める力ではなく、骨を砕く位力を込めて振っているが────

 

「(なにこれ?! ブヨブヨしている感じがする、キショい!) マイケル、ショットガンを────!」

「────こっちも今忙しんだよ!」

 

 そして先程トラックのハンドルのコントロールをマイケルから奪う事態へと戻る。

 

「グッ……オオオオォォ!」

 

 マイケルは最初両手でハンドルから人影の腕(らしきもの)を引き剥がそうとするが全く動く気配がせず、瞬時に横にあったベネリ M3ショットガンを片手に取り銃口を向けようとすると人影のもう一つの腕(モドキ)が阻止する。

 

「ヌオォォォ?! (何つー馬鹿力だ?!)」

 

 バリバリバリバリッと金属が力尽くで破れる様な音がして横を見るともう一体人影が助手席のドアを破り取り、ケイコを連れ────

 

「────させるかぁぁぁぁぁ!」

 

 ベネリ M3ショットガンの銃口を人影に押さえつけられている逆方向、つまり床に向けて引き金を引く。 すると反動でショットガンの銃床が前のめりになった人影に当たり、手(?)を離す。

 

「くらえ!」

 

 マイケルは自由になったショットガンを今度こそ人影に向け、引き金を引くと装填されていたスラッグ弾が人影にめり込み────

 

 ────マイケルはその先を確認せず、今度はケイコを連れ出そうとする人影にスラッグ弾を放った。

 今度こそ最後まで見ているマイケルはズレたケイコの体を中へと引きずり、人影から血しぶきが出るのが見えた。 見る見る内に人影のまとっていた靄が薄れ中から目が虚ろで不気味な青白い肌をした男性がいた。

 身体から力が抜かれたのかその男性は重力に引かれてずるずると落ち、最終的には高速道路へと身体が転び出して消えていく。

 

「…………ラケール!」

 

 マイケルは後方で一体の人影に首が絞められているラケールを見るとショットガンを構え何発か撃つと先程の人影の様にそこには虚ろな目をした女性が後方エリアの床へと落ちる。

 

「ゲホッ! ゲホッゲホッ!」

「ラケール! とりあえずショットガンだ! 至近距離スラッグがこいつらに効く!」

「!!! 了解!」

「もう少しで市外に出る! そこまで粘れば────」

 

 その時無数の銃弾がトラックに被弾する音がした。

 

「のわ、今度は撃ってきた?!」

「マイケルはそのまま運転して!」

「了解!」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「もう、憲兵は何をしているの?! ぜんっぜん見ないんだけど?!」

「知らん!分からん!俺に聞くな! それに市外だ!」

 

 マイケルとラケールとケイコが乗っているトラックは既にボロボロになり、高速道路の周りは高層ビル等ではなく霧が深く、視界が遮られる橋の上を彼らは走っている。

 ここは市外、地球(テラ)では滅多な事が無い限り都市の外を個人的な理由で移動しないエリアの一つ。

 

 市外はかつてハウト連邦とティダ帝国がモビルソルジャーなど開発する前に大量破壊兵器に力を入れ打ち合っていた頃の所謂ノーマンズランドと化した土地。

 雑草一本生えておらず、放射性降下物で放射能もあり、未だに余熱が地面を焼いてその所為で霧がずっと発生していると言われている。

 だがそのおかげでハウト連邦とティダ帝国の両国にはこの様な場所に常時兵をパトロールさせるのは“戦術的価値が無い”とされていて放置に近い扱いをされている。

 

「ラケール、まだまだあの変な奴らがいるぞ!」

「弾が……スラッグ弾がもう残り少ない………」

「………そうか」

 

 マイケルは振り返らずにトラックを運転し続け、ラケールは残りの武器を見る。

 武器本体の銃はまだあるとしても、弾数はお世辞にも“残り少ない”とも言えない状態だった。 空の箱に薬莢、そして敵からの血痕がトラックの床に充満していた。

 このような事になればいくら銃があってもただの鉄の塊と化す。

 

「でも、まだ“合図” を上げるのは────きゃあ?!

 

 大きな破裂音がしてトラックはガタガタと大きく揺れ始め、ラケールは近くの固定されたハンドルを握ってバランスを保とうとする。

 

「チィ! ラケール、使えるものはまとめろ! トラック止めて迎撃に出────!」

 

 迎撃に出る。 そうマイケルが言い終わる前にトラックは横に転覆にして、マイケルとラケールの意思が飛ぶ。

 

 

 

 

「…………………(ん? 気を………失ったか)…………う」

 

 マイケルは目を開けようと、辺りを見ようとすると激痛が体中に走り、顔をしかめた。

 今度はゆっくりと目を開けると同時に金属が軋む音がして、マイケルはトラックが横に転覆した事に初めて気付く。 窓ガラスが酷く割れていて、固定されていない小物は辺りにばら撒かれていた。

 横の助手席にはシートベルトをしたのが幸いでて意識を失ったケイコがまだいた。

 

「グッ………ラケール………………………は?」

 

 マイケルはゆっくりと後方へと視界を移すと────

 

「────あれは。 やばい」

 

 そこには横たわっていたラケールと、歪な方向に曲がっている彼女の右腕。 マイケルとケイコみたくシートベルトをしている訳でも無くトラックが転覆する際に自らバランスの為に固定物を握っていたのが裏目に出た。

 

 それにしてもさっきからの軋む音は何だろう、と思ったマイケルは周りを見るとギョッとした。

 

 何故なら彼らの乗っているトラックが半分橋からはみ出ていて今にも落ちそうだったからだ。

 

「ラケール……ラケール! 起きろ!」

「…………ん…………マイ、ケ────い”?!」

 

 ラケールは身を起こそうとすると右腕の異常にやっと身体がそれに気が付いたのか痛みに顔が歪む。

 

「ラケール、そのままでいいがヤバイ。 俺たち今落ちそうだ」

「落ちそうって────」

 

 ガダンッ! ギリギリギリギリッ。

 

 トラックが一瞬沈みそうになり、金属が軋む音がさらに酷くなりらけーりの目は見開かれた。

 

「マイケル、まさか────」

「────俺がケイコのシートベルトをゆっくりと外して、自分のも外す。それからラケールの方へと移動して後方ドアから出る、いいな?」

「………うん。 マイケル、私の右腕は付いている? 大丈夫?」

「……ああ、多分骨折と関節が外れてだけだ」

 

 パチン! ドサッ、ガダン。

 

 マイケルがケイコのシートベルトを外すと彼女の身体が自分の方へと落ち、彼がそれを受け止め激痛がまた走る。

 

「ウッ…………俺も骨……折ってるな……多分」

 

 そう言いながらマイケルがシートベルトを外すと何かが崩れる音と突然の浮遊感に彼とラケールは襲われる。

 

「うわ、マジか?!」

「わわわわわわわ!」

 

 そして彼らを乗せたトラックが橋から落ち、深い霧の中へと消えていく。




作者:ふいー、何とか書けた
三月:たのもー!
作者:ウェ?! 何でここに?!
三月:へ?いやだってFate/Zeroでの五話、私出番少なかったじゃん? だーかーらーひーまーなーのー
作者:いやいやいや、決した蔑ろにしている訳じゃないよ? 何せ次の話では────あ、これ聞かなかった事に
三月:お!やっと出番ね! ヒャッハー!
作者:……………ハァァァァ


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第34話 「川の中、霧の中、森の中、□□□□の中」

 景色は変わり、そこは廃虚のような場所だった。 霧が薄く、百メートルほど先は何とか目を凝らせば見えるというような状態。

 廃墟といってもその見える建物は歪ながらしっかりとした作りであり、その建物の中で包帯と副木をしたラケールが鍋の中身を玉杓子のような物でかき混ぜているのが見える。

 

「お、いい匂いだなラケール」

 

 後ろからマイケルの声がして、ラケールはクスリと笑う。

 

「まあね。 案外食材で作りのも悪くないかなって時々思っているの。 それに────」

 

「…………う?」

 

 ラケールが振り返るとそこにはラケールと同じように包帯や絆創膏をつけているマイケルがいた。

 

 

 

 キョトンとしたケイコと手を繋いで連れて。

 

「ケイコちゃんもいるしね~」

 

「あう~?」

 

「ハァ………これで何時も普通に料理さえしてくれれば」

 

「何か言った?」

 

「いーえ、な~んも」

 

 マイケルが溜息を出して、ケイコを近くのテーブルに座らせ、ラケールがドロドロに煮ていたシチューを食器に入れてテーブルへと片手で持っていく。

 

「フー、フー………ほらケイコ、あーん」

 

「あー………んっ」

 

 マイケルが幼い子供をあやす様にケイコにシチューを食べさせる。

 

「………(あれから何日位たったんだろう?)」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 さて、今の状況を説明するとマイケル達は霧の中へと輸送トラックごと落ち、数百メートル程下にあった川の中へと落ちた。 初めは死んだと思ったマイケルとラケールは気を失ったが、水へ落ちた衝撃と冷たさで意識が戻り、命からがら陸へと泳いだ。

 

 そこで力尽き、気を失ったラケールをマイケルが近くにあった森の中から枝と自分の服を破り、脱臼した右肩と骨折した右腕に処置を行い、自分達の傷を確認しながら疑問が彼の頭の中を駆け巡る。

 

 市外は大量破壊兵器の使用で荒れ地になっていなかったのか?

 何故こんなところに森が?

 過去の核兵器の放射能に対応した植物なのか?

 この川の水は飲めるのか?

 よくあの距離を落ちて死ななかったな。

 

 となど、かなりの混乱に陥っていた。 これは無理もなく、さんざん市外=死地という認識で生きてきた者に今の状況は不可解だった。

 

「……………う………………いっっっっっっっったーい!!!!」

 

 ここでラケールも若干回復したのか息を吹き返し、身体の痛みに叫んだ。

 

「痛いって事はまだ生きているって事だ」

 

「うっさい。 どこの教官よ。てかよく生きているわね私達。 てかなにあれ森?」

 

「一度に聞くな、そうだな────」

 

「────う…………ううぅぅぅ…………」

 

 マイケルはラケールと同意する前にケイコがうめき声を上げたのに反応する。

 

「ケ、ケイコ? おい、聞こえるか? マイケルだ!」

 

 マイケルは今まで起きそうな気配もなかったケイコの所へと移り、体を揺すりとケイコがトロンとした顔で目と口を開き、マイケルの顔を見る。

 

「よ、よかった………生きていて……お前には話さないといけない事が……」

 

「良かったわね、マイケル……」

 

「……うー?」

 

「ケイコ?/ケイコちゃん?」

 

 ケイコは表情を変えず、ただ何の意味も言語でもない声を上げ、彼女の口から涎が顎にまで垂れる。

 

「お、おいケイコ? 俺だ、マイケルだ。 分かるか?」

 

「あー、あおあー?」

 

 ケイコは返事をせず、ただただ回るを見る。

 

 

 

 まるで初めて物を見るかの様に。

 

「ねえ、マイケル………」

 

「おいケイコ? おい。 おい!」

 

 マイケルがケイコの顔を自分の方へと無理矢理方向を変えてケイコの目が彼の目を見、彼女は手をマイケルの頬を撫で────

 

「ケイコ────あいで?!」

 

「うーあー」

 

 ────ずにマイケルの髪の毛を引っ張った。

 

「あいでででででで?!」

 

「う? ……う………うわー………うわーーーーん!」

 

「「えええええええ?!」」

 

 そしてケイコは急に泣き出す。 これを見たマイケルとラケール二人は呆気に取られ、顔を見合わせる。

 

 二人が困惑している間もケイコはわんわんと泣き続け、マイケルは自分の膝辺りが温かくなるのを感じ、アンモニア臭が彼の鼻にツンと────

 

「────わわ、マイケルちょっとその子から離れて────!」

 

 ────とラケールが言い、マイケルを(ほぼ力ずくで)ケイコから離し、未だに泣くケイコを担ぐようにサッと二人は川の中へと飛び込む。

 

「こっち見るなマイケル!」

 

「……………えーと?」

 

 マイケルは何が起こったのか理解せず、ただ川に背を向ける。 後ろからはキャッキャッと楽しむようなケイコの声に反して────

 

「────ちょ、こら! そんなに手足バタバタ────いた?! 髪を引っ張らないでー?!」

 

 どこか苦戦するようなラケールの声にマイケルは自分の膝を見ると、水とは違うシミのようなモノが付いていた。

 

「何だこれ?」

 

 そしてパズルのピースがはめ合うかのようにマイケルはハッとする。

 

 

 

 もしかしてこれは……………尿では?

 

「あ、こらケイコちゃん! 服を────!」

 

「うおあ?!」

 

「うー! あうー!」

 

 マイケルは後ろから水をかけられ、反射的に振り返ると楽しそうにしていたケイコがいた。 施設から連れ出した彼女は貫頭衣(かんとうい)に似た簡易な服装だった(正に余分な織物を使わないと言う様な感じの)。

 

 だがその衣類(?)は今何故かラケールが左手に持っている。 つまり今彼女はそれを着ていなく、ぜんr────

 

「────ブフォ?!」

 

 マイケルは咄嗟に目と顔をそらし、鼻を抑える。

 

「(ナンデ?! 全裸?! ナンデ全裸?! って、考えてみたら当たり前か?)」

 

 更にバシャバシャと水が跳ねる音がして、ラケールの承知を得ると今度はマイケルが川に入り自分のズボンを洗い始める。

 

 そしてマイケルとラケールが分かった事は、今のケイコは子供の更に幼い赤ん坊に似ていると(主にラケールの見たアニメや漫画からの知識だが)。

 

 だが二人とも実際に子育ての経験どころか世話などした事がないのでラケールの知識(?)頼りに、また手探りで自分達がいる場所の周りを比較的けがの少ないマイケルが偵察しに行った。

 

 子育ての経験や世話などした事がない二人だが長年軍人として生きてきた癖は抜けておらず、しかもマイケルは短期間とはいえ自然の多いガイアの中にいた為、地理の偵察にケイコの周りの警戒はすんなりとスムーズに行った。

 

「よ、ただいま」

 

「うわー」

 

「ケイコもただいま」

 

「お帰り、どうだった? 火を起こせそうな物とかある?」

 

「一応あるが、ちょっと森の中で気になる物を見つけて、な。 これだ」

 

 マイケルがポケットから取り出したのは()()()()()()()()()()だった。

 

「薬莢ね。 かなり古い────え?」

 

 幾度となく戦場を駆け抜けている者には違和感の無いソレ。 だが本来なら森の中ではありえないもの。

 

「ああ。 今もどうか知らないが、少なくとも人かDockaか何かがこの辺にあったと言う事だ」

 

「なら、少しここら辺を────わわわ! ケイコちゃん待って!」

 

「へ?」

 

 ラケールが急に立ち上がり、“ハイハイ(四つばい歩き)”しているケイコを制した。

 

「キャッキャッ♪」

 

「………この状態のケイコをラケールと二人でするのは……難しいかラケール?」

 

「まあ、片腕折っているしね」

 

「分かった、じゃあ俺がケイコを負ぶって────」

 

「────私が殿ね、了解」

 

 こうしてマイケル、ラケール、とケイコは森の中を進む。

 

 体感で言うと十分ほど進むと、二人(+1)は道路のような、しっかりとした地面の上に出たことに驚いた。

 

「これって………」

 

「ただ単に地面を固めた……て訳じゃないな。 かなり前なのか所々アスファルトの小石とかが土に交じっている」

 

「うあーおー」

 

「どういう事? 市外ってノーマンズランドじゃなかったっけ?」

 

「…………」

 

「……うー」

 

 二人(+1)はそのまま歩くと今度はかなり古い、廃墟のような建物が見え始めた。 壁はひび割れ、時間によって、屋根が崩れたものや壁が崩れたものなどがチラホラと見え、三人ともキョロキョロとする。

 

「町? いえ、『村』って言うのかしら?」

 

「分からない、ただ一つ言える事は随分前に『人が住んでいた』って事だな」

 

 マイケルはそう言い、周りを見渡すと、霧の向こう側に一際大きい影が見えた。

 最初マイケルとラケールは崖と思っていたそれは近づけば人工物だということに驚いた。

 

 しかも大きさは視界の端から端を埋め尽くすほどであった。

 

「うわ~、でか。 てかなんだ、これ?」

 

「あ、マイケル! あっちに梯子が!」

 

 ラケールが左手で指さすと確かに錆び付いている梯子があった。

 

 梯子はこの人工物に直接繋がっているのか角度が少し偏っていた。 怪我人のラケールにどこからどう見ても幼い子の言動を続けるケイコ。

 

「俺が上って行ってくる、その間にラケールはケイコの世話をしてくれ」

 

「了解」

 

 そういい、マイケルがケイコを背中から降ろそうとすると、ケイコが服を掴んだ。

 

「うー、あー」

 

「…………」

 

「うー! うー! うあーおあー!」

 

 マイケルは無言でケイコの手を離させ、梯子を上ると後ろから聞こえてくる、訴える様な声を無視して登っていく。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「かなり登ったな、これ」

 

 マイケルはポツンと独り言をいい、梯子の頂上である所から霧に隠れた下を見、中へと入ると明らかに見覚えのある構造にマイケルはびっくりした。

 長らく放置されたのか錆や苔が目立つが、その通路は宇宙船や無重力で移動の際に使う取っ手やレールなどが設置されていたからだ。 マイケルはポケットに電源を切っていた携帯の光を頼りに中へと進む。

 

「(宇宙船の残骸か? それにしては霧の中というのに状態がいい………ん? )」

 

 近くの壁に案内図みたいなのが目に入り、苔を服の袖を使って払い、構造を見ようとするこの人工物の名称か何か薄っすらとあった。

 

「えーと、ペ…ペガ……ペガ…スIII? もしかして、『ペガサスIII』? 聞いた事ないな……早速検索を────って、圏外か」

 

 舌打ちをしてマイケルはそのまま進んで、さっきの案内図に『居住区』と書かれていた場所へと行く。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 その間ラケールは別の疑問に頭を悩ませていた。

 

 酷く悩ませていた。

 

 爆撃で荒れる高原を身一つで走った時より。

 

 仲間が次々と何も出来ず海の藻屑と消えていった無謀な上陸作戦より。

 

 それは────

 

「(いやこれどないせーっちゅうねん?! 子供の世話なんてした事ねえっつうのー!)」

 

 ────ケイコの世話だ。 さっきマイケルに訴えるような唸り声を出し、彼が視界から消えると泣き始めるケイコに苦戦していた。

 




作者:ハイ、という訳で気付いた人もいるかもしれません

ケイコ:うー?

作者:うわわ、涎が!

ケイコ:キャッキャッ! ♪

作者:あだだだだだ! 髪の毛が! は、禿げるー!

三月:いや流石にこれはちょっと…ねえ?

作者:うるせえ! これのプロット書いたの何歳だと思ってんだ?!

三月:確か10歳だっけ? こう、いろいろなアニメと漫画にのめりこんでいて

ラケール:あー、わかる~。 面白いもんね!

マイケル:てかラケール普通に料理できたんだな(これで物体X食わなくて済む)

作者:あー、今は非常事態だからねー。 でも落ち着いたら────

マイケル:────やめてくれ!


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第35話 ほのぼのと陰謀

精神的に参っていました。


「どうだラケール?」

 

「ちょっときつい……かな? 右腕は某FFの侍風に出しているけど」

 

「うッ?」

 

 俺はさっきの人工物から拝借した宇宙服らしいものにラケールと共に着替えていた(ケイコは嫌がったので俺とラケールの着ていた服の無事だった物を着せた)。 中には居住区らしき部分があり、損傷が激しい物の中、密閉され保存が効いていたコンテナなどから必要なものを出していた。

 

 居住区だったのでベッドなどもあって一瞬その中で暮らそうかと思ったが未だに謎が多すぎるのでその考えは捨てた。

 上がるときには余裕がなかったがラケールたちのいる地面の方へと降りるときに一際大きい建物があり、着替えた後の次にそこを目指す事にした。 

 

 最初はこの宇宙服に着替えるかどうか迷ったが、ケイコの服をそのままにしておくのは正直目のやり場に困る。

 特にこう……無邪気に周りを見るときに頭と体ごと回す仕草にボディラインが釣られて色々………

 

 これ以上考えるのはやめよう。 うん。

 え? 何を考えているかって? 言わせないでくれ…………

 

「そっちもきついか」

 

「うん」

 

 俺達が着た宇宙服はハウト連邦で支給されている物より分厚く、オレンジ色で体に密着したデザインだった。 他に違う部分があるとすれば通常、酸素発生器や応急修復用パッチなどの生命維持機能が腕やヘルメットの部分ではなく、腰にあるベルト脇のコンパクト化された状態のポーチの中に入っていたぐらいか。

 

 まあ、何時の年代物か知らないが無いよりマシか。

 

 そんなこんなでラケールが文字通り片手でケイコをあやしながら大きい建物は昔会館のような場所だったのか、作りがそれに類似していてつくりも割と頑丈だったので三人はここを仮の拠点としてラケールはケイコの世話と片付けを、マイケルは先の人工物の探索や物資調達を。

 

 それらを二日ほど繰り返し、時は第34話の冒頭へと戻る。 やはり会館らしく、粉末製の非常食などが備蓄してあった(勿論これを直接使うなど論外だが塩胡椒らしい調味料は使えたので近くから獲た食材と使っている)。

 

 その内マイケルは人工物の探索し終わり、帰ってきたところラケールのシチューをマイケルが幼い子供をあやす様にケイコにシチューを食べさせながら探索結果をラケールに話した。

 

「宇宙船? あれが?」

「らしい。 と言っても電源を通して辛うじて生きていた端末からはあれは一部でしか過ぎない」

「………よく電源通せたわね?」

「良くも悪くも、携帯のおかげさ」

 

 笑いながらマイケルは自分のスマホを出してラケールに見せる。

 支給品の中でも地味なスマホだが頑丈で、体内電気を拾って自己充電するタイプを、マイケルは片っ端から繋げられる端末に繋げて作動していった。

 

「で? それで手を火傷しそうになったと?」

 

 ジト目でラケールは焦げている宇宙服のグローブ部分を見、マイケルは苦笑いする。

 

「いや~、まさか一番初めに試した端末がショートするとは思わなかったぜ!」

「呆れた」

 

 ケイコはと言うと口をモグモグしながらマイケルとラケールを静かに見ていた。

 

「その他に収穫は?」

 

 マイケルがニヤリとするとラケールは嫌な予感がして、彼の視線を返す。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「…………………は?」

 

 ラケールが呆気に取られ、口がポカンと開いたままマイケルを見る。

 

「いや、正確には()()()()()()()()みたいな物を見つけたというべき────」

 

「────な、なんやてぇぇぇぇぇ?!」

 

「ふぇ?!」

 

 ラケールが突然声をあげ、ケイコがビクリとして、目に涙を留めながら顔が不安へと変わる。

 

「あわわわわ! ち、違うのケイコちゃん! 何でもないのよ?! だから泣かないで?!」

 

 ケイコはマイケルの方を見ながら愚図り始め、マイケルは笑顔を無理矢理作ったのが功を現したのか、ケイコは次第に落ち着いていった。

 

「でも…………動くの?」

 

「そこなんだよな~……あまりよく見ていないから何とも言えないが、()()()は放置されて結構立つと思う」

 

「ちょっと待て、『()()()』?」

 

「見た所同系統が三機は在ったな。 と言ってもさっきも言ったようにあまりよく見ていないし、あれは宇宙船の一部だけだった」

 

「じゃあ、方針としてはそれらが使えれば修理して、アイリ達と合流?」

 

「大まかに言えば、な。 あとはここら辺の探索を続ける。 ノーマンズランドになっていた筈の『ここ』が人の住めるような環境になっているのが違和感ありまくりだ」

 

「そう…ね」

 

「それと腕の方はどうだ? そろそろ痛覚もカット(遮断)出来る具合だろ?」

 

『痛覚遮断』はハウト連邦やティダ帝国の国民達全員が兵士として機能するように生まれた頃に処置を施される機能の一つ。 マイケルが時々使う身体と思考速度の限定強化などに類する、文字通り脳へ伝達する筈の痛覚を一時的に止める事が出来る。

 

「あー、それが…………()()()()の」

 

「は?」

 

 今度はマイケルが呆気に取られる顔になり、ラケールを見る。 何故なら『痛覚遮断』などは生まれた頃から誰もが使え、ほとんど無意識に使えるようになる数多い機能の一つだからだ。

 

 それが()()()()と言うのは異常であり、本来あり得ない。

 

「あ、その顔は信じていないでしょ? じゃあアンタもやって見れば良いじゃない?」

 

 そこでマイケルも限定強化を行使しようとしても、何もない事に拍子抜けしていた。

 

「………何か納得しない。 なんでマイケルはそんなに冷静なの?」

 

「冷静な訳あるか。 今はただ自分に出来る事をやってないと色々と圧し潰されそうだからな」

 

 そう言いながらマイケルはケイコの口周りについた食べ跡を拭く。 ラケールは静かにこのやり取りをしているマイケルの顔色を窺うがこれといった変化は無かった様に見えた。

 

 食べ終わった後マイケルは先ほどの宇宙船の探索に戻り、ラケールはケイコの世話をほぼ行き当たりバッタリ+二次創作ものの知識で何とか乗り切っていった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「納得いかな~い!」

 

 何処かの事務所に場は変わり、そこで十代前半のゴスロリ風の服を着た金髪少女がソファーに座りながら足を不満そうな顔でバタつかせていた。

 

「そうも言ってられないわ、これは『上』からの命令だし」

 

 不満まみれの少女に答えたのは近くの窓から夜の街を見下ろす以前“ロクバン”と呼ばれた白衣を纏った紫色のポニーテールをした女性だった(第21話 「POW」を参照)。

 

「でもさー、幾らなんでもこれは横暴じゃないと思うだけどローちゃん」

 

「“ローちゃん”って」

 

「何なら“六番目”で────」

 

「────うるさい“三号”」

 

 溜息交じりに“六番目”と呼ばれた紫髪の女性が“三号”にそう答え、場の空気が見るからにピリピリとし始め、二人の苛立ちが顔と仕草でわかる。

 

「あ゛? “サンちゃん”と呼べっつっただろ? ボケたか何処かでSTD(性感染症)もらっちまったか、クソ婆娼婦?」

 

「貴方は一度解剖して見たかったのよ、この絡繰り人形」

 

「うるさいぞ二人とも。 ()ルなら他でやれ」

 

 一触即発のこの場で声を出したのは明らかに場違いのような侍服装の黒髪ポニーテールの十代後半の少女だった。

 

「あーらら、叱られちゃったね婆?」

 

「あら、貴方がイライラするのは珍しいわね“二番目”?」

 

「………………………」

 

 クスクスと笑う“六番目”に対して“二番目”はただ黙り込み、依然として表情を崩さず、ただ静か座禅を組むのを“サンちゃん”が面白そうに見る。

 

「そうねえー、ただでさえ自分の()()()()()された上に『お預け』食らっちゃったじッ────」

 

 ザシュ!っと音がすると“サンちゃん”と呼ばれた少女の首が胴体から外れ、ドドンと首だけの頭と体が鈍い音と共に血を吹き出しながら床へと落ちる。

 

「まったく手を出すのが早いわねー『二番目』」

 

「………………」

 

 いつの間にか立ち、抜刀した刀を鞘に戻すのを見ていた『六番目』が視線を床で未だに微動だにしない“サンちゃん”の体を見下ろす。

 

「今のうちに解剖────」

 

 “解剖しようかな?”と言い終わる前に、“サンちゃん”の胴体が切り離された頭を掴み取り、乱暴に首と首同士を繋げ────

 

「………………あ゛あ゛あ゛あ゛、びっぐりじだ」

 

 ────“サンちゃん”がガラガラとした声で、ナプキンで首回りを拭き、口から血を吐き出しながら言う。

 

「それに不満なのは私もよ~? 何せあんた達は『()()()』に対して、私は『()()』よ? 明らかに人員配置を間違っているでしょ?」

 

「まあ、『彼女』が私達に出す指示が我々にとって意味不明なのは今に始まった事ではないからな」

 

「……………そうだな」

 

『サンちゃん』、『六番目』、と『二番目』がそれぞれ自分の意見を声に出す。

 

「それでしかも最後にはちゃんと事成すから怖いね~、策士ね~」

 

「違いないわ! それに『彼女』が一人で全部出来るのにしないのかが『何らかの策の一部』って考えちゃうわよね」

 

「………………興味がない」

 

『二番目』が興味がない事を声に出しながら部屋を出て、『サンちゃん』はソファーから飛び降りると後を追って部屋を出る。

 

『六番目』は近くのテーブルの上に置いてある電話を手に取りながらパソコンに電源を入れる。

 電話の連絡先が固定しているのか『六番目』が手に取ると相手を既に呼び出していた。

 

『……………もしもし』

 

「あ、()()()閣下ですか? 夜分遅くに申し訳ありません。 実はLíf(リフ) Lífþrasir(リフプラシル)計画に関しての報告なのですが────」

 

『────おお! 早速転送してくれ!』

 

「実は大総統閣下に提案があるのですが、ティダ帝国の上層部にも()()を持ち掛けてはどうかしら?」

 

『何? どういう了見だ?』

 

「確かに『不老』は()()ですが、『不死』ではないのでどうせなら二つの大国を合併しつつ、計画の結果を餌に大総統閣下達が新しい国の主導権を握る方がお気に召されるかと」

 

『………確かに、そのほうが我々も安泰になるが……今まで『敵』として接してきた者達と和解などして国民達が受け入れるだろうか?』

 

「そうですね…………こちらの考えを言っても宜しいのであれば────」

 

『────君が今まで言ってきた提案は全て有意義なものだった。聞いて損は無いと()()は思うが』

 

「では、こう言うのはどうでしょうか? 『この長い戦争に休戦協定を持ち掛けたら相手も休戦協定を申し出てきた。その話し合いでお互いの国の国民に利益のある“寿命延長”を目指して手を取り合う』」

 

『それは………う~む………』

 

「この宣言の後に反対しそうな者達や『邪魔者達』を“反逆罪”という大義名分の下で駆除をすれば────」

 

『成程、それは……少し側近の者達と話し合う』

 

「では大総統閣下、ごきげんよう」

 

 そう言いながら、『六番目』は電話を切り、パソコンの画面に出てあるメールを送信して送る。

 

「さて、見ものよなー? ()()

 

 クツクツと愉快に笑う『六番目』は椅子に体を預け、座りながら外の夜景をまた見る前に────

 

「────あ! あの木偶人形、後片付けをしていないじゃない?!」

 

『六番目』は床にこびり付いた血のたまりを恨めしそうに見、舌打ちをしながら椅子を立つ。

 




うおおおお、やっと投稿出来た。

と言う訳で最近まで参っていました(今もですが前ほどでは無い)。

しっかし思ったより『サイバーパンク2077』クソゲーだったな、あの後気分直しの『ウェイストランド3』にドはまりしてしまいましたけど…………

未だにTRPG版が好きだっただけにかなり堪えました。 

え? コロナ? みなまで言わせないでくれ。そっちも堪えているから。


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