〇〇泊地所属軽空母「ほうしょう」 (堀井 椎斗)
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番外編(日常編)
日常1話 新しい習慣


お久しぶりです。堀井 椎斗です。
投稿遅れています。申し訳ないです。
書くことがあまり何もないです...。

今回は番外編でも垂れ流しします。
基本的にメインストーリーから離れすぎない程度の日常を描ければと。


瀬戸内への玄関、豊後水道の入口に位置する宿毛湾泊地。

そこにはこの世界では異色と言える艦娘が所属している。

 

CVL-1 ほうしょう

 

戦後日本で初めて最初から空母として設計され進水、歴とした現代空母の1隻だった。

ある日、爆弾低気圧の覆う演習海域へ進んでいた彼女はひょんなことから艦これの世界へ異世界転生。

艦自身が人間の容姿になった「艦娘」という存在になり、以降宿毛湾泊地へ身寄りしている。

 

そんな彼女。どうにも朝は苦手なようだ。

 

艦船時代でも、出港が朝の時間帯になると発動機がフルで回らないという不思議な現象が起きていた。乗組員はこの現象を「ねぼすけ」と呼んでいたほどには頻発していたらしい。

人の姿に生まれ変わった今でも、そのねぼすけは続いている。

身寄りしてから一夜を明かした日は、起床のラッパが鳴り響いてもなお眠りにつこうとしていたほどだ。結果は夕立からの最高に素敵な起床(パーティー)を食らって飛び起きる事態になったが。

 

それからも同じように、朝は眠気と戦う日々。

髪を結っていても体を動かしていても、立ったまま寝落ちをしてしまいそうになる。

洗面台で顔を洗う習慣がついている分、幾分かはマシになっている(と信じたい)が、出来ることなら毎朝眠気とずっと戦うのは避けたい。

 

「それなら、珈琲を飲んでみるのはどうだ?」

 

ある日、たまたま長門と話をする機会があったのでこれを話してみたところ、そんな提案があった。

 

「コーヒー...ですか。」

「あぁ、鳳翔が朝食の後に希望制で珈琲を出してくれているだろう?あれを飲んでみるといい。すぐに眠気が覚める...というわけではないと思うが、飲まないとでは違ってくると思うぞ。私もよく飲んでいるが、飲んだ後は何かスッキリとした気分になる。」

「...ちなみに何か入れて飲んでたりはしますか?」

「ん?何も入れずに飲んでいるが...何か入れないといけないものでもあるのか?」

「あ、いや。そのままでもオーケーです。ただ私も何も入れないコーヒー、いわゆるブラックでいくとなると、ちょっと...大丈夫かな、と...。」

「なるほどな...確かにあれは苦い。最初こそ厳しいものもあるかもしれないが、だがやがては慣れていくものだ。地団駄を踏まずにまずは一歩踏み出してみたらどうだ?案外ほうしょうならいけるかもしれないぞ?」

 

コーヒーか。カフェインの入った飲み物は確かに眠気覚ましに良い。

実際、カフェインを取って20~30分の仮眠を取るだけでもかなりの効果が出るとされている。

ただし、だからと言って摂りすぎるのも中毒症状に陥るため注意が必要なものでもある。

あとは体質的に効きやすい、効きにくいもあるが、そのあたり自分はどうなのだろうか?

効果が出ないからと摂りすぎて、中毒症状だけもらうのは不本意だ。

だがこのまま眠気と戦う生活を続けるのも嫌だ。

とすると、一度試してみて様子見をしてみた方が良さそうか。

 

「あまり乗り気はしませんが...とりあえずそれを飲んでみることにしますね。ありがとうございます。それにしてもブラックコーヒーが飲めるなんて、羨ましい限りです。」

「ふっ...世界のビック7と呼ばれたこの長門、珈琲の嗜みも世界基準なのだぞ?」

「感服の限りです...ところで1つ、雑学を聞きたくはありませんか?」

「ほぉ、それは?」

「...ブラックコーヒーって、世界ではマイナーな方なんですよ?」

 

「...え、なんて?マイナー?」

 


 

翌朝。

いつも通り眠気と戦いながら食堂へ足を運ぶ。

朝食を済ませて片付けた後、コーヒーの注文をするため鳳翔のもとへ向かう。

 

「あら、珍しいお客ですね?」

「ちょっと、残ってる眠気をどうにかしたいので...。初めて飲みますけど。」

「あんまり無理して飲まなくても大丈夫ですから、自分の飲める分だけ飲んでくださいね?あと、飲み過ぎには気を付けること。夜に眠れなくなっちゃいますから。」

「そこは十分、分かってm...ふあぁ~...」

「こらこら、あくびしながら返事をするものじゃないですよ?はい、お待たせです。」

 

そう言われながら、鳳翔から挽きたての珈琲をもらう。

珈琲特有の香り高いにおいが鼻に入ってくる。

 

席についてから、もらった珈琲を覗きこむ。

光を反射する輝かしい黒。自分の顔こそ映らないが、まるで鏡のようだ。

ゆっくりカップを持ち上げ、口につける。一息ついて覚悟を決め、少しだけ珈琲を口の中へ流し込む―。

 

 

鳳翔さんが淹れてくれた初めての珈琲、それは黒く澄んだブラックで私は初挑戦でした。

その味はほろ苦くてスッキリしていて、こんな飲みやすいコーヒーを貰える私は、きっと特別な存在なのだと感じま―

 

 

...飲んでみた時の衝撃で何か乗り移っていたようだ。

ブラック初挑戦(そもそも艦だった時代は何も飲むことすら出来ないが)だったが、意外と飲みやすい。

続けざまに珈琲を流し込んで、気付けばあっという間に飲み干してしまった。

 

『もう少し飲みたい。』

 

そういう気持ちが心の中を過ったが、眠気が取れなければ意味がない。

気持ちを抑えて次の一杯を見過ごした。

 

 

 

少し時間がたったころ。

いつもより頭がすっきりとしていて、視界もクリアになっている気がする。

これは...しっかりと効果が出ているのだろう。

なんだか何をしても最後まで正確にこなせそうな気分だ。

 

「...あれはなんですか、かんちょー?」

「わ、わからんのです...あんなにかっぱつなあさのほうしょうさん...これは、てんぺんちいのまえぶれ?」

「あしたはすべてのスケジュールがくるいそう...くわばらくわばら...」

「いやいや、むしろスケジュールがくるうだけならまだだいじょーぶなほうでしょ...むしろあしたせかいがおわってもしかたな―」

 

「はい、ちょっとそこでこそこそ話をしてるあなたたちー?何の話をしているんですか??」

「ピェッ」

 

後に妖精さんたちは語った。

その時のほうしょうは、満面の笑みながらも憤怒の感情を滾らせていた、と。

ちなみにこっそり話をしていた妖精さんたちは全員ほうしょうからオハナシをたっぷりとさせられたらしい。

その時関係していなかった別の妖精さんたちが、オハナシされている妖精さんに向けて反省を促すダンスをしていて、内心とてもイライラしてたとオハナシを食らっていた妖精さんの後日談。




バッドコンディション獲得 なまけ癖

ぼちぼちまた書いていきます。
ちなみに長編小説ならびにメインストーリはまだ書き終えてません。


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日常2話 サンタクロース

堀井 椎斗です。
クリスマス大遅刻です。
書きたいことは多々ありますが、それは後書きに回します。
今回は日常編です。



これは、冬の寒さが厳しさを増す中の、ある特別な1日のおはなし。

 

「3-4、分かっているな?今回は任務だ。遊覧で来てるわけじゃないぞ。」

「分かってるよ...それより、任務の後絶対にチキンくれるんだよね...?」

「...相変わらず聞いてんだか聞いてないんだか。」

 

ブラッドハウンド隊は青い空を駆ける。だがそれは決して遊覧で来ているのではない。

 

「しっかし、よく考えつきましよねぇあんなやり方...。」

「それだけ必死こいてんだ。使える手は何であろうと使う。追い詰められた相手ががむしゃらになって抵抗するのと一緒だ。」

 

話をしているうちに目標が見えて来る。相手は、白色の零戦2機。

 

目標視認(ヴィジュアルコンタクト)サンタは近い(サンタクロース)攻撃準備をせよ(レディフォーエンゲージ)。」

 

 


 

 

時は少し遡って数時間前...。

 

「―はぁ。任務、ですか。」

「ああ、飛鷹から密告が入ってな。隼鷹がまた秘密裏に酒を運んでいるらしい。知っての通り今隼鷹には禁酒令が出てる。」

「またですか...。しかも秘密裏って...よく気付きましたね...。」

「乱雑に置かれているゴミの山からたまたま航路表が出てきたらしいんだ。わざわざ遠征時に本来のルートから寄り道をしてまで回収するらしい。」

 

秘密裏に運びたいのであればもっとマシな場所に計画書を隠せなかったものか...。そして何故隼鷹という人物は酒が関わると大人しく出来ないのか...。ほうしょうは呆れて頭を抱えた。

 

「...それで、私は何をすれば良いのでしょう?」

「輸送に使われる機体の妨害をしてくれ。妨害の方法は問わない。本来なら他の子に任せるべきものだろうが、発覚したのがつい2、3時間ぐらい前でな...。時間がないんだ。あの機体を使った方がギリギリ間に合うと思ってな。」

「妨害...それは撃墜も方法のうちの一つで?」

「...貴重な機体だ。出来るだけそれは避けてほしいのだがな...。やむを得ない場合は構わない。」

「...分かりました。やってみましょう。」

「こんな日に急な要望をしてしまってすまないな。本来ならみんなと一緒にワイワイする方が良いと思うが...。」

「もう何度目の違反でしょうね?身に分からせた方がいいと思いますよ。」

「...そうだな。」

 

こうして、隼鷹の密輸妨害作戦が急遽始まった。

 

 

 

「―はぁぁ。うちの子供ら、元気にしてっかな...。」

「なんだいなんだい、ホームシックかい?」

「まぁー仕方ないですよ。今日はなんせ12/25、クリスマスですから。子供たちにとっては夢のイベント。親も子が喜ぶ姿を見るのは嬉しいことですから、連絡すら取れない今じゃこうなっても。」

「...あんたらは独身だから分からんだろうな。」

「いやだなぁ、私だって彼女ぐらいいますよ!画面から出てきてくれませんけど!」

 

泊地のある一角でほうしょうの妖精さんたちは語る。

世界が変わってもクリスマスの季節は訪れる。元の世界を想い気を重くする妖精さんに普段通りに過ごす妖精さん、クリスマスに盛り上がる妖精さんもいれば、普段から尊さに負けているのにクリスマスという特別な日にしか見れない艦娘たちの様子に、自分の残機を減らしている妖精さんと、様々だ。

 

 

「―至急至急。ほうしょう搭乗員は直ちに出撃準備を整え、出撃ドックへ集結せよ。繰り返す―。」

 

 

どんな日だろうと、どんな状況だろうと、任務が入ればそれが優先事項になる。アナウンスが鳴り終わる頃には、先程まで妖精さんたちが溜まっていた場所には、まるで最初から誰もいなかったかのようにガランとしていた。

 

 

 

出撃準備を終え出港したほうしょうと搭乗員妖精一同。道中で今回の妨害任務に関する情報をほうしょうから説明される。

今回の任務は、隼鷹が公然の秘密のもと運んでいる、酒を積んだ零戦を隼鷹の下まで辿り着かせないよう妨害すること。目標の機体が隼鷹のもとまでたどり着いてしまうとどうしようもなくなるので、時間との勝負だ。そしてその計画に気付いたのが数時間前。準備にも時間がかかっているので、残り1時間程度しか時間が残されていない。

こちらに進路を変えて着艦させるには時間が足りなさ過ぎる。おそらく中隊を発艦させて急がせたところで、接触する頃には隼鷹の間近だろう。そのため、ある一部分に限り射撃の許可がほうしょうから降りた。

 

「それで、今回の目標群コールサインですが...」

「コールサインはサンタ、それでブラッドハウンドをこんかいだけブラックサンタ、なんておもしろくない?」

 

一人の妖精さんが声を上げると、周りが賛同し始める。子持ちの妖精さんは、子供の夢を潰しているような気がして苦虫を噛み潰したような表情をしているが。

 

「...まぁ、それで良いならそれで行きましょう。」

 

コールサインは正直何と呼ぼうが影響はしない。下手に却下しても士気に関わるのでそれで呼ぶことにした。ほうしょう自身も、子供の夢を潰しているような気がして申し訳なく思っている節はあるが。

 

 


 

 

「ひだりぜんぽー、こうくうきをしにん!」

「お、来た来た〜♪ これでクリスマスのお伴は良さそうかなぁ〜...♪」

 

妨害作戦が展開されているとは知る由もない隼鷹。先に回収地点に到達し、酒をぶら下げた零戦が来るのを今かと待っていた。そこへ知らされる見張り妖精さんからの情報。クリスマスを過ごす妄想を膨らませながら双眼鏡を覗き込むと、見えた。通常のものに比べてかなり大きめの増槽を抱えながら。

 

 

 

それと時をほぼ同じくして、ブラックサンタ隊も零戦の輪郭を捉えていた。

 

「あれか。酒抱え込んでる場所。」

「不恰好なほどにでかい...けどこっちからすれば小さい...。」

「バンプor...チキン...。」

「...それ季節が違うし絶対かけてるよな3-4?」

「分かっているな?一撃離脱だ。一回で確実にあの部分だけを仕留めろ。ドッグファイトにもつれ込んだらチャンスはない。」

「了解っすよー隊長。」

「ラジャー...。」

サンタを視認(サンタインサイト)。ブラックサンタ、速度を上げる(インクリーズスピード)。」

 

F-35Bの編隊がぐんぐん速度を上げていく。目標は零戦の下に積まれた酒の増槽。

ドッグファイトにもつれ込むと、予定外の箇所に着弾する可能性もあり危険なため、気付かれてない範囲から一気に近付き目標だけを叩く一撃離脱の戦法だ。チャンスは一度きり。

 

サンタ射程圏内(サンタインレンジ)。ブラックサンタ、FOX3。射撃開始(オープンファイア)。」

 

先導する2機が始めに、それぞれの増槽へ銃弾を打ち込む。それで落ちなかった場合はすぐさま先導が急降下し、後続の2機に追加で増槽を落としにかかる。残る1機はバックアップとして、落とし切れていない増槽を完全に落とす。

だが、結果としてはバックアップを必要としなかった。

始めに打ち込まれた機銃掃射で、増槽に引火。慌てた零戦側が増槽を切り離したため、一つは1回目でノックアウトした。なお、引火による本体への損傷は、撃った側・撃たれた側、双方とも奇跡的になし。

残る1つも1回目で中身が漏れ出し、すぐさま第2波の攻撃で増槽に大きなダメージが入ったことで、増槽を落とすまでには行かなかったが到着までに残量を0に出来るほどの大穴を開けた。

バックアップとして来た機体がそれぞれの戦果を確認し、問題ないと判断して報告を流す。

 

「ブラックサンタ3-5、サンタはプレゼントを落として行ったようだ。再攻撃の要なし。」

「了解した3-1。ご苦労。」

「悪い子には妨害という名のブラックサンタからのプレゼントがありますよってね。」

「ほうしょう。こちら(ディスイズ)ブラックサンタ3-5。彼女へのプレゼントはもうない(プレゼントフォーハーイズノーモアー)。RTB。」

 


 

「...え?え?」

 

突然のことに固まる隼鷹。それもそのはず。ここにはいるはずのない灰色の悪夢が見えたのだから。

自分のご褒美になるはずだった高価な酒は引火、または燃料投棄状態にされ、儚くも散っていく。

しばらく双眼鏡を覗き込んだまま固まっていたが、頭上を通過する灰色の悪魔の音で意識を叩き戻され、ひとまずこの後のことを考える。

 

「なんで...何でここにいるのあれぇ...?そ、それよりもともかく、失敗しちゃったのは仕方ないとして早く戻った方が...いやでもあれもしかしてちょっとだけなら拾えるんじゃね...?」

 

動揺を言葉にする隼鷹に言葉が投げかけられる。

 

「それでしたら、私のところで良いお酒が入りましたので、ご一緒にどうですか?」

「お、それいいねぇ〜。それなら一緒に混ざ...ってアイエエエエ!?ホウショウ、ホウショウナンデ!?」

 

そこにいたのはほうしょう...ではなく、鳳翔の方だった。

にこやかな笑顔を浮かべているが、怒っている雰囲気が周りに漂っている。

 

「何でって、迷子になっていたみたいだったのでお迎えに来たのですが...まさか迷惑だったなんてことは―」

「いいいいいいいえ!?とんでもないです、ありがとうございます!!ちょうど迷っていたところだったので...あ、あは...?」

「...ひとまずあの零戦は周辺の僚艦を探すのに出していたのでしょう?早く回収して泊地に戻りましょうか?今日はクリスマスですし、説教をするつもりはないので大丈夫ですよ。」

「はいいいい!分かりましたあああ!!」

 

ビシッと敬礼する隼鷹。本来酒の回収用だった零戦を手早く着艦させ、鳳翔と2人、ぎくしゃくした雰囲気の中泊地へ戻るのだった。(ちなみに遠征に出ていた僚艦は、別の艦娘に連れられ先に帰投していた様子。)

 

 

 

その夜、泊地のクリスマスパーティーは決行され、泊地の艦娘たちは大いに盛り上がっていた。その中、鳳翔も今日は特別だからと高価なお酒を嗜んでいたが、その注ぎ役をしていたのが隼鷹だった。説教こそ無かったものの、目の前に飲み甲斐のありそうな酒があるのに飲めない生殺しの状態に、翌日生気が抜けていたとか。

 

また、酒の運搬に使われていた零戦にも多少の改造がされており、翌日元に戻す作業が北上の元へ送られ、「こんな年末に仕事増やすねぇ!?」と多少怒り気味だったとは北上の後日談。




Santa ClausのClausと形容詞のCloseが発音似てるよね、という思い付きの元書いた日常編でした。

さて、本編の進捗ですが、正直に言いますと進捗皆無です。
普段は、艦これやウマ娘といったゲームや仕事をこなしつつ、ぱっと浮かんだ構想を小説に落とし込んで仕上げていく、という書き方を取っていますが、今回何やってても構想が何一つ浮かばないので何も書けていません。
正直見切り発車で書いているというのがまず見直すべきところですが...それをしてしまうと執筆のハードルが一層高くなってしまうのでしない方針です。
とにかく無理やりにでもまた書いていこうと思うので、2ヶ月ぐらいしばらく待っていただけると幸いです。
また、感想の返信も書けていませんが、簡潔に言えば自信の無さから書くのを少し躊躇っています。またゆっくり返信していくので、それまでお待ちください。

話は変わって、今年一年はどうでしたでしょうか?
私の方は艦これでは初のオール甲達成、小説では気付いたら1年以上執筆を続けていたという事実に驚いています。気分の移り変わりが激しい奴なので正直すぐに打ち切りになる可能性も全然ありましたが...応援の言葉が執筆活動をここまで繋げてくれたと思います。本当にありがとうございます。

このシリーズとはまた違うものも執筆中ですが、このシリーズと比べてペースが超スローなのでいつ書き上がることか...w
ウマ娘やオリジナルに今手をつけていますので、興味がありましたらまた出た時に読んでいただければと思います。


長くなりましたが、今年はどうもありがとうございました。来年もまたこんな奴の小説を楽しみにしていただければ嬉しいです。
それでは、良いお年を。


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ストーリー本編
1話 転生


はじめまして。 堀井 椎斗です。
艦これ小説を読んでたら書きたくなった、ただの新卒社会人の処女作です。
文才はほぼ無いといっていいのであまり期待はしないでください、ハイ。
あ、ちなみに転生後の話は次回以降になります。


軽空母 ほうしょう。

 

次第に隣国との軍事緊張が増す中で、日本国がやっとその重い腰を上げて建造した軽空母である。

ヘリコプター護衛艦として建造されたいずもやかが、米国強襲揚陸艦のワスプ級やアメリカ級を参考にして、戦後日本が初めて最初から空母として建造した艦であり、その長さは約250m、横幅約40mと大きい船体だ。

強襲揚陸艦とは違い揚陸に必要な格納庫を設ける必要がないため、F-35Bを10〜15機程度保有できる格納庫を持ち、甲板上の駐機スペースを含めればざっと20機は保有できるポテンシャルを持つ。なおかつ今までのようにヘリコプターを保有してヘリボーン運用、といった扱いも可能である。

主な運用方法として島峡防衛に係る任務や対潜任務にあたれるように設計されたが、何にせよ海洋国家という事情から哨戒ヘリを載せた対潜警戒が主であり、F-35Bによる空中哨戒はついで、といった運用になってしまっている。

隣国やマスコミからはとにかく非難の声が上がったものだが、「この国の防衛を固めることに何が悪いんだ、何故隣国のことを気にしなきゃならんのだ」という当時の防衛大臣の意向により、ほぼほぼ無視された。

 

「さて...今日も演習ですね。」

ほうしょうに宿る魂のようなものはそう呟く。

つい数日ほど前から大規模な演習を海上自衛隊内で行っており、自国の離島に不明な敵艦が接近している想定で、ほうしょうの役目は陸上からでは補給が間に合わない制空の対処、ならびに近海で貿易船ならびに戦闘艦を屠っている潜水艦への対処を僚艦と共に務めている。

艦載機にF-35Bを12機、SH-60Kを5機搭載し、F-35Bには機外付属の機関砲ポッドを搭載している。

空対空と言えば、あくまでロングレンジからの対空ミサイル攻撃が主流なのだが、不意の接敵や対地攻撃を急に行うことになった際に対応できるように、機関砲は載せられている。

ただし、あくまでそういった場合に対応できるというだけの話なので、載せている弾数はそこまで多くないのは厳しい所であるのだが。

「演習4日目の今日はあいにくの荒天…あたごさんやむらさめさんがこのまま無事でいてくれるといいのですが…」

爆弾低気圧がちょうど演習海域付近を覆っていることもあって、天気は台風が来ているのではないかと思うほどの雨風。

艦橋では僚艦である護衛艦むらさめやイージス艦あたご等と逐一情報共有だったり高波による損害の有無の確認を行ってたりしていた。

艦載機も準備したのは良いがこんな天候では発着艦させる方が危険だ。

この後の天気予報によれば、低気圧はここから遠のいていくとのことらしいので、演習に遅れは出るかもしれないが大丈夫だろう。

 

 

―それから少し経った時。

「なにやら艦橋がざわついてますね...?」

先ほどより更に雨が強くなり雷が降り始めた頃から、艦橋に異変が起きたようでドタバタしている。

ほうしょうの魂も、自分の船体の状況を調べてみたところ。

「え...衛星...ロスト...? 僚艦とも、反応なし...?」

自分のいる位置を見失った上に、周りを見渡してみると自分の近くにいたはずの僚艦が消えていた。

今、低気圧の中でほうしょうは迷子になってしまった。

「と、とはいえまだ主機も電源も生きてます...落ち着いて僚艦を探すことにしましょう。日本近海ですから、遠くで遭難したわけでもないですし...」

初めての現象に動揺の色を隠せずにいるが、知らない海のど真ん中で遭難したわけでもなければ、レーダー類もノイズが走っているが根本的に故障したわけではなさそうなので、極めて深刻的な事態ではない。

落ち着いて。

今やるべきことをやろう。

大丈夫、きっと。

 

 

―そう思った刹那。

 

大きな雷が直撃した...のだろうか。

衝撃こそないが明らかに雷は自分の船体の上に落ちたと思った。

考える間も無くどこか真っ暗な世界に放り込まれた。

いや、自分は船体にいる魂のようなものだからそんな人間じみた出来事など体験するはずもないのだけど...

何も分からないまま、意識は薄くなり、やがて途絶えてしまった。




最低月1ペースは守れるといいなぁ...
感想などありましたらどうぞお願いします。
賛美が来ると飛んで喜びます。


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2話 状況把握

こんにちは、堀井 椎斗です。
まさかのお気に入り8件がいきなりついててびっくりしました((
どんな展開にしていきたいっていうのは結構思い浮かんでるのですが、その点と現在地点を結ぶのがかなり厄介ですねぇ...
とりあえず、第2話をどうぞ。


意識が無くなってからどのぐらいたったか。

 

少しずつ戻ってくる意識の中で、感覚が目覚めていく。

 

 

いつも聞く大海原の波の音。

 

当たる風は塩気を帯びている。

 

 

目の前は真っ暗だけど、いつも聞く音、いつも当たる風は感じれる。

 

それと共に...

 

 

どこかに立っている感覚?

 

何かを背負っている?

 

 

普段と違う感覚も感じられる。

 

どんどん感覚が鋭くなって目の前が少しずつほのかに赤くなっていく。

 

 

目を瞑っている?

 

いや、そんなはずあるわけない。

実体を持たない”船の魂“なのだから人間のような感覚が生まれるわけー。

 

 

 

 

 

 

あった。

 

 

何故か記憶にある目の開け方をそのままやってみれば、目の前に大海原が広がっている。

ただ、いつも見るような自分の大きい甲板前部は見当たらない。

視点をほんの少し下げれば何かを持っている。

 

「...え?」

 

今何か思ったことを言葉にした?

試しに何か話してみよう、えっと...

 

「...あ、あー」

 

うん、何故か話せるみたい。

 

持っているものを見れば、クロスボウだろうか。

体の周りをよく見てみれば矢筒もある。ただ入っている矢の矢羽がグレーに日の丸が描かれている。

左腕には見慣れた甲板が付けられていた。ただ何故か自分の体格に合わせて小さくなっている。

肩あたりにはSeaRAMが載っているし、CIWSもクロスボウに付属するように付いている。

 

「...これ、何がどうなっているのでしょう...?」

 

全く訳が分からない。

可能性があるとすれば...船の装備を持った人になった?

こういった擬人化する物語とか好きな搭乗員がいたから、そういった物語のあらすじを聞くこともあったのだけど。まさかそんなね...

 

「そのまさかなのです」

 

「あー...やはりそのまさかなのですn...うぇ!!?」

 

びっくりし過ぎて変な声が出てしまった。

声がした方を見れば見慣れた海自の服を着た小人が何人か浮遊している。

今声をかけた小人は...元は艦長さんかな?着てるものからして確かそうだったはず。

 

「かんこれのせかいにてんせいしたぞおおお!! うおおおおお!!!」

 

あ、あの小人は擬人化物語が好きな乗員だ。一瞬で分かった。

何やらテンションが上がっているようで膝をつき両手の握り拳を突き上げて天を仰いでいる。

 

「あいつがいうには、かんたいこれくしょん?っていうゲームとほぼにたせかいにとばされたらしいのです。じぶんたちがようせいさんになってるし、ほうしょうさんがかんむすになってるからほぼかくじつにそうだ、って。」

 

 

「...???」

 

話が飛躍しすぎて首を傾げることしかできなかった。一回整理してみよう。

艦隊これくしょんっていうゲームが何か分からないが、どうもその世界に飛ばされて乗員は妖精さんに、自分はほうしょうという名の艦娘になっているらしい。

また聞けば艦娘というのは、その船の艤装を身に纏った女子らしく、その艤装で深海棲艦?という敵を倒すのだとか。

それぐらいしか情報量が多すぎて処理ができなかった。混乱しない方が難しい。

 

「そんなことより、まずはみのまわりのあんぜんをかくほするべきなのです。ほら、あたまにのってるメガネをつけるのです。」

 

言われて頭に手をやってみれば確かにメガネがあった。しかも片耳にイヤホンもついている。正しくメガネをかけると、いつも表示されていたレーダー系統が目の前に表れる。

 

「はあぁ...っ、何というのでしょう、すごい近未来的な...っ」

 

「こちらCDC、ときめいてるばあいですか。レーダーたんち。たいすいじょうもくひょう5。しょうたいふめいのかんたい、220どよりせっきんちゅう。きょり、120マイル。」

 

はっ、と我に帰る。

レーダーに目をやれば、確かに5つの点がこちらに向かってきている。輪形陣で来ているのだろうか、点の形が十字になっている。

120マイル、キロ換算すれば約200km先。

本来の世界であればハープーンが飛んできてもおかしくない距離。

ただこの世界では相手がやはり違うのだろうか。ミサイルが飛んでくるどころか気付いている素振りすらない。

 

(このままやり過ごすのもいいのですが...ただ私は味方が誰一人としていない、単艦の状態。仮に見つかったとなれば、僚艦を見つけるどころか私の身まで危うい...。)

 

「一先ず、ロストした僚艦の捜索を続けます。とはいっても、異世界転移したのであれば見つかる可能性は0に近いと思われますが...念のためです。国籍不明艦へは通信を試みてみましょう。日本語、英語、韓国語、中国語、ロシア語、話せる言語を出来るだけ全部です。そして航路を外らせるように知らせます。それでも近付くのであれば...航空機による誘導を試みます。」

 

真剣な眼差しで国籍不明艦隊のいる方角を見つめる。

 

「接敵すれば、今までのような必ず生きて帰れる演習ではなく、生きるか死ぬかの実戦になる可能性は大いにあります。総員、対水上警戒を厳とせよ!」

 

「あいさー」「らじゃ!」「りょうかい」「ウラアァ!」

 

最後聞こえた返事が何かおかしかったが気にしないでおいた。

 

「あとは...潜水艦が怖いところですね、単艦の空母なので絶好の的と思われてもおかしくありません。」

 

少し間を開けて、強めの口調で言い放つ。

 

「対潜警戒も厳とせよ! シーホーク4機、即時待機! 準備出来次第発艦!」

 

左腕に付いた甲板を水面と平行にさせ、いつの間にやら出てきたSH-60Kを発艦させる。

そして自身の周りを囲うように配置しては、ディッピングソナーを落として対潜警戒を厳重にする。

 

「こくせきふめいかんたい、ぞうそくしました! なお、よびかけにおうとうありません! しにんかのうけんまで、のこり70ふん!」

 

初陣の刻は、近い。




次回から実戦になると思われます。
気力はまだまだ保っているので次回も出来るだけ早く書き上げようと思います。
どうぞお楽しみにしていただければ幸いです。

〜雑談〜
11/1のウナギ祭りには行きましたでしょうか?
私は今回初めてのリアルイベント参加でした。
うなぎとても美味しかったです。マタタベタイ。
あと白露お姉ちゃんについて、あの限定グラ何ですか。
私の心拍数が0に何回もなりましたよ。
lv99になったら指輪受け取ってもらうぞこのやろー((


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3話 誘導

堀井 椎斗です。
3話目を書き始めたら、結構すらすらと書けてしまって今日の投稿に至ります。
正直前半が書きたかっただけで後半が少々適当な部分があるかもしれません((

あ、お気に入り21件来て毎日情報ページ見るのが楽しみになっています。
ありがとうございます。


「こ、こうでいいのでしょうか...?」

 

ほうしょうは困っていた。

例の艦隊が増速して10分ほど経った頃だ。

相変わらず呼びかけにも応じず、進路を変えずに突っ込んでくるので航空機による誘導を試みようとしているのだが、いまいちこのクロスボウの使い方が分からない。

例の妖精さんから「元々レシプロ機を飛ばしていた空母の艦娘は大体弓を射ているから、このクロスボウはF-35Bを飛ばすものではないか」と推測をもらったのだが、生まれてこの方何かを握ったことすらない、ましてや人に化けるなど想像もしていなかったので、どう撃てば良いのか分からない。

妖精さんの中にたまたま元の世界でクロスボウ経験者がいたので、装填、発射の仕方はなんとか知ったが、的が見えないのに何を狙えば良いのだろうか?

そこに艦これの世界を知る妖精さんが割り込む。

 

「とりあえず、そらにむかってうってみればどうです?かんむすならたぶんそれでいいはずです。」

 

「空に向かって撃つのですか? 」

 

何か適当さが拭えないが、気にしないでやった方がいいのだろう。

クロスボウを空に向けて構える。矢の装填、よし。

 

「航空機スタンバイ、発艦始め!」

 

トリガーを引く、と同時にグレー色の矢が飛んでいく。

その数秒後、矢が光ったと思えば形を変えて、見慣れたF-35Bに変身した。

なるほど、そういう世界なのか。

 

こちら(ディスイズ)ホークアイ1-1、はっかんよし(グッドローンチ)りょうきをまつ(ウェイティングフレンドリー)。」

 

「ホークアイ1-1、現在地で周回待機せよ(ホールドユアポジション)どうぞ(ハウコピー)。」

 

「ホークアイ1-1、りょうかい(グッドコピー)。」

 

2機目を出す為にクロスボウの弦に手をかけr―

 

「あっつぅいっ!」

 

指を火傷した。

 

 

F-35Bは垂直着陸の際に、摂氏約1000度の熱を甲板の一点に与えるとの資料がある。

離陸の際には熱が当たる箇所は一点ではないので、そこまで熱くはならないだろうが、それでも短距離離陸を可能とする為にそれ相応の熱が出ている。

そのデメリットがこちらの世界にもあるのだろうか。

金属製のワイヤーが地獄のように熱くなっている。

 

「っつつ...手袋のようなものがあればよかったのですg...。」

 

 

あった。

 

左腰の部分にぶら下がってた。

なぜ今まで気付かなかったのだろう。

 


 

一悶着あったが何とか2機発艦を終えて誘導のために不明艦隊の元へ向かわせていた。

 

「そろそろ視認可能距離、果たしてどんな奴さんが待っているんでしょうねぇ?」

「あくまでも誘導が目的だから、急に撃ったりするんじゃないぞ?じゃないと、後でどやされるからな。」

「分かってるってのー。」

「まるで何も分かってないかのような口振り、これは死ねるな。」

 

雑談をしながら辺りを見渡す艦載機搭乗員の妖精さん。

すると、進路から2時の方向にそれらしいものを発見した。

 

「タリホー。間違いないとは思うけど...なんじゃありゃ?」

「歯の発達した変な魚のような見た目が4体に...あれは主砲か?それに人が顎辺りにしがみついてる見た目だな。ちょっと気味が悪い。」

「変なのー。これが艦これの世界での普通なの?」

「多分そうなんだろ。ホークアイ1-2、不明艦隊を発見(コンタクトアンノウンフリート)接近する(アプローチング)。」

「1-1、コピー。」

 

2機同時に旋回して不明艦隊の後方左右につくように進路を取る。

速度を落として少しずつ接近し、不明艦隊からよく見えるように高度も落とす。

と、その時だった。

 

「うわ...っ!!?弾が...飛んで、きた...っ!!」

「一旦離れろ!ブレイク!ブレイク!」

 

急旋回して出力もフルスロットルまで入れ、一時不明艦隊から距離を取る。

その最中にも弾は飛んでくる。目の前で何かが爆発する。いくつか左翼右翼に被弾し穴が開いていた。

 

「ちぃ...っ!」

「いゃ、だ...っ、死にたく、ない...っ!!」

「だったらさっさと逃げるんだ!とにかく撃たれない方向に!」

 

戦場を知らない者にとっては恐ろしい以上のものだった。

突然命の危機に晒された際、冷静にいられるのもかなり難しい。

 

「ホークアイ1-2、攻撃を受けている(ウィアテイキングファイア)目標空域離脱中(イグジッティングターゲットエリア)!」

 


 

「敵艦からの攻撃ですか...。」

 

一時的に誘導隊の離脱を許可した後、ほうしょうは自衛の手段に困っていた。

やむなく今の段階で撃沈するか、それとも敵の対空を黙らせるだけの限りなく最小限の自衛に止めるか。

妖精さんの間でも討論になっていた。

 

「いましずめなくてどうする!?このままじゃぼかんが...ほうしょうさんがやられてしまうぞ!!」

「とはいえせんしゅぼうえいがモットーだから、げきちんはやりすぎといわれかねない。ほんかくてきにせいとうぼうえいといえるまでまったほうがいい。」

「だがそれでじぶんたちがやられたらもともこもないんだよ!!しゅほうがのってるときいた!それでうちぬかれたらいっぱつでおわりだ!」

 

専守防衛。

日本国憲法第9条で、日本から戦争をふっかけることを、武器を使って威嚇や攻撃することを禁じられた結果取ることになった方針である。

平和的に全てが解決が出来るのなら、一番良い憲法条文ともいえるだろう。しかし、相手が武力を背景に自分たちの居場所を強奪しようとしてきたら。武力に対抗できるのは武力しかない。しかし相手から攻撃を受けない限りこちらは反撃をすることができない。最近では領海内に入られても攻撃を受けていないため、反撃できない事態も発生した。

「攻撃されない限り武器の使用を禁じる」。言葉だけで見れば聞こえは良い。しかし戦場においては他に類を見ないほど大きな足枷である。

 

今はどうか。

誘導をしようとした味方機が不明艦隊からの攻撃を受けた。それも撃ち落とそうとする射線だった。

「たかがそれだけで反撃か」、そう思う人々もいるかもしれない。

だが、殺意をもった相手に歯止めという言葉はない。

 

 

手を挙げて妖精さんたちの口論を制し、口を開く。

 

「―稼働戦闘機、全機爆装。これより、彼の艦隊を敵艦隊とみなし、攻撃を開始します。」




専守防衛の足枷が今はありますが、後々この縛りは解除される予定です。
だってずっとその縛りでストーリー描くのめんどくs…おっと誰か来たようだ。
それではまた次回をお楽しみに。

2021/02/22 遅くなりましたが、妖精さん主観の会話について漢字+ひらがな表記の修正を行いました。


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4話 全機爆装

堀井 椎斗です。
毎日小説情報を確認しているとあら何ということでしょう。
お気に入り48件も来て感想も書かれ、アクセス数に至っては合計4000回を超えて...
こ、こんな拙い小説だけど大丈夫かな???
今回は敵艦隊への攻撃回になります。


「CDC、現在の敵艦との距離は?」

 

「もくひょうぐんα(アルファ)、32ノットでこちらにせっきんちゅう。きょり、45マイル。」

 

「かなり近付かれましたね...爆装機、発艦急げ!」

 

クロスボウをとにかく空に撃ち、翼下をハープーンで爆装したF-35Bの中隊を編成させる。

揚げれる数は10機。全て発艦させたのを確認すると、指示を出す。

 

全爆装機(オールボンバー)方位215へ旋回せよ(ターンヘディング215)武器使用を許可する(クリアードフォーファイア)“アルファ”を沈めよ(キル“アルファ”)。」

 

りょうかい(ラジャー)“アルファ”をしずめる(キル“アルファ”)。マスターアームオン。ほうい(ヘディング)215。」

 

爆装機隊が一斉に旋回し不明艦隊のいる方向へ飛び去っていく。ほうしょうは中隊の無事を祈るように、遠くへ飛び去るまでずっと敬礼を続けた。

 

「さて、いつまでもここに止まるわけにはいきません。第五戦速!舵このまま!相手の視認範囲外から攻撃を続けます!」

「だいごせんそー!」

 

「ソーナー、反応はどうですか?」

「いぜんとしてはんのーなし、ちかくにせんすいかんはいないよーです。」

「いてくれない方が今は幸せです。何せ単艦かつ甲板残存機がシーホーク1機のみですから...。ひとまず、シーホーク4機はこちらの動きに合わせてください。」

 

指示を出しながら、演習でもこんなに甲板や格納庫がガラガラになることってあったかな...と内心苦笑いしていた。

今までは随伴護衛艦がいてくれたからこそ、万全な対潜警戒網を敷くことが出来たのだが、今は単艦状態での能力の限界が出ている。

しかも近付かれたらそれに対応でき得る能力も、今の状態ではほとんど持ち合わせていない。

仲間がいてくれたらなんと心強いことか。しかし、周りを見渡しても、今は一人。

 


 

「ホークアイ、こちらブラッドハウンド3-5、無事か?」

「ホークアイ1-2、無事だ。1-1もなんとか無事だ。ただ何発か被弾したn「こ゛わ゛か゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!゛!゛」

 

「なななななんだ!?藤原竜也を受信したぞ!?だいたいホークアイ1-1のほうこうから!?」

「た゛れ゛か゛ふ゛し゛わ゛ら゛た゛つ゛や゛た゛っ゛て゛は゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ゛っ゛!゛!゛」

「天狗じゃ!天狗のしわざじゃ!」

 

「3-2、3-4、あんまりいじってやるな。ホークアイ1-1、とりあえず泣き言はまだもうちょっと先にしとけ。不明艦隊への攻撃許可が降りている。ホークアイ、誘導頼めるか?」

「了解、ただエンジンとか燃料タンクとかが心配だ。この誘導でビンゴと見て母艦にもどる。」

「ラジャー、ホークアイ1-2。」

 

爆装機隊の前に飛び先導するホークアイ隊。ほどなくして1時の方向に再び敵影を確認する。

 

「タリホー。目標群αを確認。ホークアイ、誘導感謝する。全機、アタックポジション。」

「ホークアイ1-2、RtB。」

「1-1、ゴビィ...。」

 

合図とともにブラッドハウンド隊は攻撃態勢に入り、ホークアイ隊は機体の安全確保のために母艦へ引き返す。

 

「奴らがこっちを見てる、レーダーには映ってたらしい。やはりステルス性はこの世界でも必要そうだな。」

「だが見つかっても対空ミサイルが無ければどうということはない、さっさと潰すぞ!」

 

「ターゲット、ロック!」

「ブラッドハウンド3-5、FOX2!サルボー!」

「ウルァァァッ!!」

 

一斉にF-35Bから発射されたハープーンの群れが敵艦隊へ降りかかる。その数20。発射と同時に急旋回で対空砲の射程内に入らぬよう再び距離を取る。

敵艦隊の対空砲は撃ってきた大元の航空機よりも、飛来してくるミサイルへ弾幕を浴びせる。しかし、今までにない速度で近づいて来る標的に狙いがうまく定まらず、一発も当たらない。

 

「インターセプトまで3...」

 

ミサイルの群れは一直線に敵艦隊へ突っ込んでいく。

 

「2...」

 

飛んでくる飛来物を凝視するしゃくれた顎の魚みたいなものと、頭を抱える主砲のついた人間の食われかけ。

 

「1...」

 

庇いに行こうとする変な魚がいたが、時は既に遅い。

 

「マークインターセプト!」

 

着弾のコールと共に爆発の手が上がり、少し遅れて爆音が聞こえてくる。そこからまた微かに断末魔の叫びが聞こえる。

 

「目標に弾着。レーダーどうだ?」

「目標群α、全てレーダーからロスト。」

「了解。3-2、戦果確認を行え。」

 

1機が高度を下げて着弾地点に近づく。

爆発の黒煙がだんだんと空へ上がっていき、着弾地点が晴れていく。

 

「3-2、弾着地点に気泡を確認。ターゲットノンビジュアル。オールキルしたと思われる。」

「了解。確認ご苦労、3-2。」

 

「どんな敵か分からんかったとはいえ、やりすぎたんちゃう?」

「木っ端微塵くんだな。」

「あの魚食えるんだったら釣って食いたい...。」

 

「雑談は帰ってからだ。ほうしょう、こちら(ディスイズ)ブラッドハウンド3-5。任務完了(ミッションコンプリート)目標空域を離脱する(イグジティングターゲットエリア)。」

 


 

「CDCからほうしょうへ。レーダーたんち。たいくうもくひょう1。ほうい030。きょり180。210ノットにてせっきんちゅう。」

「まだ来ますか...休む暇がありませんね。」

 

敵艦隊を倒して一息つくも束の間、すぐさま次の不明機を探知した。メガネを通して見えるレーダーディスプレイに1つの点が表示されている。1機のみということはどこかの偵察機なのだろうか?

帰投したホークアイ隊を甲板に着艦させながら次の動きを考える。

ブラッドハウンド隊がこちらに戻ってくるには少し時間がかかるし、敵艦隊撃滅のための燃料しか積んでいないため補給にも時間がかかる。ホークアイ隊は機体点検のため次発艦できるまでには時間を要する。シーホークを動かすことは可能だが、レシプロ対ヘリでは速度差で振り切られる。

...あれ、これはもう見つかるしかないのでは???

 

「...ひとまず、敵艦隊は撃滅しました。対水上戦闘、用具収め。不明機ですが、おそらく航空機が間に合わないのでこのまま見つかるほかありません。対空警戒、見張りを厳とせよ。機関減速、第一船速へ。シーホークは引き続き対潜警戒に努めてください。」

「だいいちせんそー、ヨーソロー。」

 

どうか敵艦隊のものでありませんように...

 

ほうしょうは心の中で必死に願った。

 

 

 

 

 

 

 

―時間が少し経った頃。

見張りの艦これマニア妖精さんが声を出す。

 

「みぎげん、ふめいきをしにん!ひのまるがついています!おそらくあれは..."さいうん"です!」




彩雲に見つかってしまいました。
この日本軍機を扱う艦隊は敵対行動を示すのでしょうか?それとも一度邂逅を果たすのでしょうか?それは次回のお話になります。
お仕事しながら必死に考えて書いている小説ですが、割と実際の性能と異なったりストーリーがグダったりすることがあります。
出来るだけ温かい目で見守っていただけると幸いです。
...次回も出来るだけ早く投稿できるように努力します。

2021/02/03 遅くなりましたが、妖精さん視点の部分について漢字+かな表示に変更しました。


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5話 遭遇

堀井 椎斗です。
艦これイベントの季節です。絶賛E3乙攻略中でございます。
このままオール乙でイベントを締め括りたいところ...。

ま、そんな感じで攻略していたら小説投稿が少し遅れました。
今回も後半になるにつれて適当になってきている箇所があるかもしれません((


「ちょっと、飲み過ぎよ! 遠征中なのに一体いくら飲むつもり!?」

「そうだねぇ〜、このまま遠征ほったらかしてずぅ〜っと飲んでたいよねぇ〜♪ ひゃっはぁ〜っ!」

「隼鷹、ウォッカはあるかい? 私も飲みたくなってきた。」

「お、ヴェールヌイぃ〜良いねぇ〜? ほれほれ、一本だけと言わず持ってっちゃって〜っ♪」

「スパシーバ。」

「はぁ...これはダメだわ...」

 

片手を頭に当て悩む飛鷹。

真昼間かつ遠征中に呑んだくれる隼鷹、とウォッカをせびるヴェールヌイ。

ちゃっかりヴェールヌイの持っている大発動艇にウォッカが積まれていく。

その後方ではー。

 

「そこまで敵に遭遇しないといっても、こんなので大丈夫なのかな...?」

「まぁ鎮守府から出さないと煩過ぎて仕方ないって言ったの提督だし、良いんじゃないの〜?お、これは描かなきゃ〜...っ。」

 

後ろから様子を眺め呆れ返る時雨と、ささっとスケッチブックに隼鷹たちの様子を鉛筆で描く秋雲。

飲みかけの酒が飛鷹にかかってしまい、思いっきり打たれる隼鷹の様子と、その横で隼鷹のことは全く気にせず、ウォッカを瓶から直接飲むヴェールヌイの様子が描かれている。

ちなみに描かれたスケッチは遠征の様子を示すものとしてよく活用されているため、暴れ馬(隼鷹のような)が遠征に出る時はほぼ必ずセットで秋雲が起用される。秋雲本人も同人誌の練習になるとかの理由でこういった遠征には快諾している。

 

隼鷹への説教をしているところへ、この先の進路の索敵を行っていた飛鷹の彩雲よりモールス電文が入る。

 

「あら? 偵察に出した彩雲から電文だわ、なになに...?」

 

『ワレ、艦娘ヲ見ユ。鳳翔ニ似ルモ未ダ嘗テニ見ヌ艤装ナリ』

 

「一度も見たことない艤装って...何...?」

「へぇ〜? 新しい艦娘がいるって〜? ちょっと脅かしちゃおっかな〜...よいしょお〜っ!」

 

酔っ払い隼鷹から運搬していた九六式艦戦が発艦される、その数18。

発艦した艦戦はそのままほうしょうがいる方向へ飛んでいった。

 

「あっちょっと隼鷹!何してるのよ!?」

「なになに〜、ただのお遊びだって〜っ。弾も抜いてあるしさっ。」

「あなたはそうかもしれないけど、向こうからして見れば何をしてるか分からないのよ!?」

そう言えど、ふへへぇ〜と隼鷹はまるで気にしていない様子だ。

「あぁもう、変に気を障らないといいけど...。」

 


 

「レーダーたんち。たいくうもくひょう18、きょり180。そくどおよそ200ノット。まっすぐつっこんでくる!」

「この数を見るに、歓迎的な反応ではないですね。ブラッドハウンドの補給はどうですか?」

「まだまだかかりますけど、すうきだけならだせますよーっ!」

「ならその分だけ即時待機お願いします。対空戦闘用意!手出しをしてくるのであれば...遠慮なく!」

 

矢筒に入った数本の矢を取り、一本ずつ空に打ち上げる。一本だけはクロスボウに装填しようとしたタイミングで何かを思ったか、矢筒に戻し残しておいた。発艦できた艦載機は...3機。

「ブラッドハウンド、緊急なので日本語で行きます。対空目標群βがこちらに向かって接近中。方位040へ旋回しβの進路上に出てください。進路を変えさせるだけで十分です。攻撃は禁じます。ですがもし撃ってきたら...自衛措置として、遠慮なく。」

「ブラッドハウンド、ラジャー。3-3、3-4、つづけ。」

 

三角形の編隊を作った3機は同時に旋回し、向かってくる目標群へ突き進む。ほうしょうは再びその編隊に向けて敬礼を送っていた。

 

 

発艦してから少し経った頃。

 

「レーダーコンタクト、この機数は間違いない。各機、念のためIFF送れ。」

 

目視距離外より敵味方識別装置から信号が送信される。もちろん二次大戦前に就役した航空機にそれに返答する装置など付いてない。

 

「応答なし...まぁあったら怖いわな。」

「目視距離に入るまでこのまま。相手はおそらくレシプロだ。速度落として様子を見るぞ。目視距離に入ってから奴らが妙な動きを見せたら、戦闘の覚悟をしておけ。」

「ラジャー、3-5。ま、敵意が無いことを祈りましょっと。」

「お腹空いた...何か食べ物ない...?」

「この期に及んでも3-4は食べ物の話かい...。」

「3-4、戻ったら何か食わせてやるから今は我慢しておけ。」

「ふえーい...。」

 

相変わらず雑談を交わしながら風防越しに索敵を行う。目視距離に入って少し経った頃、雲の合間に大勢のレシプロ機が見えてきた。

 

「アンノウンインサイト。...何だあれ、羽の下に脚が生えてやがる...。」

「んな...っ、あいつら、バンク振ったぞ。どうする? 俺らも振り返すか?」

「...3-3、3-4。まだ振り返すな。よく分からん奴らが母艦に向かい続ける限り、バンクを振られようが友軍とは言い切れない。」

「ラジャー...って、2つに別れて真ん中開けてきたぞ? 何がしたいんだ...?」

「ひとまず開いた真ん中を突っ切って、各自散開。周りを囲うぞ。マスターアームオン。3-3、母艦へ状況報告を頼む。」

「アイサー。隊長の役も忙しいねぇ。」

「こんなの自分がなったら、たぶんお腹減りすぎて死ぬ...。」

 

 

時同じくして、九六艦戦サイドでは。

 

「お出迎えが来たぞぉ...って、レシプロじゃねぇぞあれ。一体どうやって飛んでんだ...?」

「尾翼が2つに短い羽...どことなく秋水にちょっと似てるような...でも何か違うな...」

「ていうか速くない...?さっきまで豆粒の大きさだったのに、もうすごい近くまで来てるぞ...?」

 

反応は多種多様だった。

全機が見たこともない機体に驚いているのは事実だが、機体の形に驚く者もいれば、速さに驚く者もいる。

 

前を行く2機がバンクを振る。その後、左右に分かれていくのを見て後続の機も左右に分かれる。そしてわざわざ道を開ける。

無線がないため空中での口頭伝達が難しい。そのため、発艦する際予めいくつか動きを定めていた。基本的に前方の機と行動を合わせること。危険を感じたらすぐに引き返すこと。新艦娘が艦載機を上げてきたら、出来る限り敵意がないことを示すこと。そして(あくまで)お遊びで来ているため、もしうまく新艦娘の元まで辿り着けたらタッチダウンして帰ること。

 

開けた中央の空間をF-35Bが突っ切る。一瞬の間にお互いのパイロットが目を合わせる。

一旦通過した後3機は旋回し両脇と前を囲う。九六艦戦も開けた真ん中を閉じてまた集団飛行する。

横に並んだF-35Bと九六式艦戦でハンドサインによる交信が行われているが、母艦に近づけたくないF-35Bと、お遊びで来ているつもりの九六式艦戦。認識の違いが更に認識の違いを生み、F-35Bはこちらの指示に従う気が相手にはないものと、九六式艦戦サイドは母艦への誘導を行っていると、それぞれが勘違いをする。

 

突然周りを囲っていたF-35Bが高度を少し下げて後ろに下がる。そしてまたほぼ元の高度に戻ると、何度誘導に従うようにハンドサインを出しても反応を示さないことに、まるで怒りを覚えたかのようにー。

 

F-35Bの機関砲が前方に向けて火を噴いた。




F-35Bの発砲。先制攻撃したのでしょうかね?禁じられてるのに。
そうなったらそうなったで帰ったら「貴様ら戦争をおっ始めるつもりか!?」とどこからともなく聞こえてきそうですねぇ。

だいぶ妖精さん主観なシーンが多いですが、次回もそうなりそうです。
イベント攻略に精を入れているため、投稿が遅れるかも分かりませんがご容赦ください...。

P.S.
イベントのドロップで春雨が出て白露型が全員揃いました。うれしい。
ということで春雨を2日間でLv65まで上げました。
目標はLv90なのでまだまだ長い道のりです。


2021/02/22 遅くなりましたが、妖精さん主観の会話について、漢字+ひらがな表記の修正を行いました。


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6話 処罰

イベント攻略に勤しんでおります。堀井 椎斗です。
E4第一ゲージを突破してギミックを解除している最中です。
5話のアンケートありがとうございました。
やはり漢字表記も含めた方がいいとのことなので、今回から妖精さん主観の部分のみ漢字表記を含めた文でお送りします。
5話以前のものについても時間を見て漢字表記含めたものに変更する予定なのでお待ちください。

そして急な小説の評価やUAの伸び具合に椅子から転げ落ちるどころか天地が逆になってしまった私がいます。
感想もありがとうございました。応援の言葉は心に染み渡ります...。
出来るだけ今のペースを保ちつつ、楽しめるようなストーリーを描いていきますのでどうぞよろしくお願いします。

今回の話はF-35Bが機銃を発射したあの場面からになります。


「ほんとに...やるんですか?」

「これ以上近付かれてもほうしょうさんが危ない。従う気がないなら少しでも気を削がなければ「ですが、報告なしにするのは規律違反になり得ます!それ相応の処罰が下りますよ...?」

「...もう時間の余裕はない。今ここで食い止めて俺だけ犠牲になるのと、ここで食い止めずに皆を巻き込む。この2つの選択肢があったら、俺は前者を取る。何をやらかすかも分からん相手だ。そいつらと仲間を鉢合わせたくない。責任は俺が全て取る。お前たちは俺にやらされたと答えれば良い。」

「...ラジャー。3-4、聞いてたな?」

「うん...コックさん達も巻き込んじゃうくらいなら、僕もここで止める...。」

「やっぱり食い物関係の理由かい...。」

「3-4はその距離を保て。これより、母艦領空に侵入せんとする不明機に威嚇射撃を実行する。3-5、減速(リデューススピード)!」

「3-3、コピー。」

 

九六艦戦と並走していた2機が減速し、高度を少し落としてクラッシュしないように後ろへ下がる。そして、3機が並走しそれぞれの近くの九六艦戦を捉える。

 

「いいか、機体に損傷は微塵も与えるな。あくまで威嚇だ。撃ち方用意!...FOX3!」

 

合図と同時に、F-35Bは規律を犯した。

 

 

「うわわっ、撃ってきやがった!何だよ誘導するんじゃなかったのかよ!」

「おまけに連射がはえぇ!下手に行動すると被弾する!」

「や...やられる...そんなの、いやだっ!」

威嚇射撃によって何機かが旋回し、来た道を引き返していく。だが、それでもまだ母艦へ向かう機体が多かった。

旋回した艦戦は気に留めず、次から次へと母艦に向かう脅威に対して威嚇を実行するF-35B。

着々と数は減らしていくも、数機は動じずにそのまま向かい続けた。

 

その様子はレーダー越しにほうしょうにも映る。

「もくひょうぐんβ、ちりぢりになります。なお4きいまだにちかづく。」

「ブラッドハウンドが何かやりましたね...威嚇射撃か何かでしょう。確かに威嚇するなとは言ってませんが...。」

「きょかなしでのこうどう、しょばつがひつようですな。」

「そう、ですね..。ただ、やってくれている理由はよく分かります。自分の保身よりも、一緒にいる私達仲間を命懸けで守ってくれてるのです。そんな子を処罰するのはどうにも気が引けますね...。」

「おまけに私も、今からしようとしていることは見方によっては規律違反より重い、憲法違反ですが...。」

 

「整備班、頼んだ作業は今どうですか?」

「なんとかできましたー!まったく、きゅうになにかとおもえばいそがしいちゅうもんですねー。」

「申し訳ありません。ただ、相手には少し下手な行動に出ない様に釘を刺す必要がありそうです。ブラッドハウンド爆装機、発艦準備をお願いします!」

 

先程打ち上げなかった一機の矢をクロスボウに装填し、発艦させる。

「ブラッドハウンド3-2、緊急なので日本語で行きます。先程私達を発見した彩雲の離脱進路は覚えていますか?おそらくそちらの方向に空母がいるはずです。進路140に旋回し、我々のメッセージを渡してきてください。見つけた標的から外さないよう、くれぐれも御用心をお願いします。」

「ラジャー、3-2。なめたまねをさせないようにやってきます。」

「単騎で行かせるなどして申し訳ありませんが...お願いします。」

速度を上げて彩雲が撤退していった方面に爆装機は飛んでいった。

 

「みぎげん、きえいをかくにん!たいくうもくひょう4、こうぞくにブラッドハウンドたいがいます!」

「SeaRAM、CIWS用意!いつでも撃てる状態を整えてください!」

「...ブラッドハウンド3-5からほうしょうへ。もくひょう4きがきかんへせっきんちゅう。とうかいいきからのりだつをぐしんしm「ブラッドハウンド、帰投してください。目標4機はそのまま進ませておきましょう。」

「な...しかしそのままではなにをされるかわかりません!ほうっておくぐらいならおれが「いいですか。帰投命令です。いかなる具申も聞き入れません。」

「...ラジャー。ブラッドハウンド3-5、RtB。」

「3-3、コピー。」

「3-4、コピー...お腹すいた...。」

九六艦戦の後ろについていたF-35Bの編隊がほうしょうへ向けて帰投を開始する。

 

「...ブラッドハウンド、あなたたちがやったことは自衛隊の規律が大きく乱れる原因になりかねません。報告を行わずに威嚇射撃を実行した。状況によっては許可もなしに先制攻撃を開始したと捉えられても仕方がない行動です。そのことは理解していますね?」

「...わたしがどくだんでしゃげきをめいれいしました。せきにんはすべてわたしにあります。いかなるばつもうけるよういができています。」

「3-5、そうですか...。本来ならブラッドハウンド隊長の任を解くなどの処罰があるものですが...ただ私は処罰を言い渡すつもりはありません。」

その言葉に大勢の妖精さんから驚きの声が上がる。艦長妖精さんは特に反応を示さなかったが。

「むしろ感謝をしたいと思っています。空母の私を、私に空母としての能力を与えてくれる皆さんを守ろうとしてくれたのです。...もし仮に元の世界に戻って私が元の船の姿に戻った時、その時はもしかしたら艦長から重い処罰を言い渡され二度と乗ることも出来なくなるかもしれません。ただ、この世界ではまだまだ隊長として頑張ってもらいたいと思っています。あくまでこれは自衛隊としての判断ではなく、“(ふね)”の私が判断したものなので...規律違反を犯したという事実は忘れないようにお願いします。」

「...かんちょうは、それでいいのですか?」

「ふねのおさといったって、ふねがじぶんのことばでそれがいいというのであれば、それにしたがうまでなのです。じっさい、ほうしょうさんがいるいま、わたしはただのおきものでしかないのです。」

「...ラジャー。そのことば、しかとうけとめます。」

 

「...ところで、のがした4きはどうするのですか。」

「あぁ...見た感じ、敵意はないようです。威嚇射撃を受けても反撃もせずに帰っていく機が続出、飛んできたものを見れば特に爆装が載っているわけでもなければ、ほら、あそこで。」

指差す方向に九六艦戦が高度を下げて迫ってきている。だがバンクを振りながら速度も落として接近してきているようだ。

「ただ単に遊びとしてきただけかもしれません。はた迷惑な話ですけどね...。ブラッドハウンド、着艦は周回して待機してください。先に来客を受け入れますので。」

苦笑いを浮かべながら、甲板を九六艦戦の進路に合わせて着艦出来る様にセットした。




飛鷹・隼鷹達の視点は次回になります。
残しておいた1機は爆装機として発艦させて飛鷹達の元へ向かわせたようですが、果たしてメッセージとはどのようなものでしょう?
次回をどうぞお楽しみにしていただければ幸いです。

2020/12/15 ストーリーを一部修正しました。


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7話 予告

堀井 椎斗です。
E4乙のラスボスラスダンまで来ましたが、ボス前の門前払いを食らいすぎてて絶賛資源が危うい状況です。
小説の評価・感想ありがとうございます。ぐんぐん伸びていくのを見てふへへぇ、と顔が緩み切っています((
今回は飛鷹・隼鷹たちの視点です。少しネタ要素をぶち込んでみたのでそこでクスッとでもしていただけると万々歳です。


「電探に感、隼鷹の艦戦がもう少しで帰ってくるみたいだよ。」

「時雨、数は分かる?」

「んーっと...10機前後ってところかな。」

隼鷹(このバカ)が飛ばしたのは18機だから...いくつか帰ってきてないわね、撃ち落とされてたらどうするつもりなのよ...。」

飛鷹は頭を抱えた。隼鷹は相変わらず能天気なままでヴェールヌイはもはや遠征など二の次かのようにウォッカを飲み進めている。その様子を苦笑いで見守るしかない時雨。艦隊行動という言葉があっただろうかという様になっている。

 

 

「レーダー視認(コンタクト)。目標5。...バラバラだな。どれを狙ったものか...。」

雲に隠れながらF-35Bは飛鷹達の元へ飛行を続けていた。レーダー上では、艦隊行動という言葉がまるでないようにバラバラに行動しているように見える。

「真ん中の奴を狙って落とすか。方位転回(ターンヘディング)(ナウ)。」

狙いを定めて雲から抜けるルートへ転進する。少し時間はかかったが雲から抜けると、遠方に例の艦隊を発見した。

「...さ、やりましょ。マスターアームオン。」

安全装置を解除して攻撃準備に入る。目標は中央にいる隼鷹。

 

 

「ひだりげん、こうくうきをしにん!」

「あら、もう来たのかしら? かなり早く戻ってきたわね...。隼鷹、着艦の準備しておきなさいよ。」

「わ〜ぁってるってぇ〜っ、ひっく...。」

左舷から接近する航空機を見る。隼鷹の放った九六式艦戦が1機帰ってきたのだろうか?ただ何か違和感がある。

機体が近づくにつれて飛鷹の見張り妖精さんたちもその違和感を感じ始める。

「...おい、あいつあしがないぞ?なにかおかしくないか?」

「きたいもあんなでかかったっけ...?」

「しかもなんとなくむかってくるそくどがはやいような...。」

 

時雨もその違和感を感じ取り始める。

「...あの飛行機、電探に映ってるものと少し距離が離れてるけど...気のせいかな...?」

 

そして、1人の見張り妖精さんが叫ぶ。

「...まて、あのひこうきじゅんようのじゃないぞ!」

その一言に艦隊が動揺する。

「...え、まじ?」

酔いの状態から一転血の気が引いていく隼鷹。

「え!?隼鷹のじゃないって、あれは何...!?か、艦隊!輪形陣を取って対空戦闘配置!急いで!」

飛鷹が咄嗟に対空戦闘用意の号令を発動する。

対空の目を担っていた時雨もまた、恐怖を感じた。

「気のせいじゃない...対空電探に映ってない...!?提督に頼んで改に載せ替えてもらったのに...あれは一体...!?」

まばらに帰ってくる隼鷹の艦戦が映ってる時点で故障とは考えにくい。13号対空電探改という強力な電探を積んでいるにも関わらず、接近されてもなお全く電探に映る気配がない。

今回飛来したF-35Bは対空ミサイルや機関砲ポッドといった武装系は全く載せておらず、ステルス性においては持てる最大限の性能を発揮している。現代の強力な対空レーダーなら見つかる可能性はまだ十分にあるが、二次大戦時の電探となればはっきりと映る可能性が極めて低い。

 

輪形陣への陣形変更が通達されたが、バラバラに行動していることに加え酔っ払い2人。まともに陣形変更がうまくいかず混乱が生じる。

 

「隼鷹、何でこんなに遠く行こうとしてるの!もうちょっと後ろよ!」

「ぁえぇ〜...っ?待って、何処に進んでるのか分からなくなってきた...。」

「そっちは右!左後ろに...そっちは前よ!ちゃんと動いてよ!」

 

「Ураa!」

「ちょちょっとヴェールヌイ!?それ爆雷だって!三式弾じゃないから!対空には意味ないから!」

「おや、これじゃ効果がないというのかい。ならこれで...Ураa!」

「そういうことじゃない!爆雷の代わりにウォッカ投げれば良いってわけじゃない!ああああスケブ返して!スケブの紙破ろうとしないで!破った紙で即席火炎瓶作ろうとしないで!同志様困ります!あああああああ!!」

 

混乱というよりは混沌だろうか。秋雲とヴェールヌイの間では何やら一悶着があり、飛鷹は隼鷹コントローラーに翻弄されている。1人まともに動ける時雨も、予想よりも急接近していた航空機を見てもはや空を仰いで諦めムードである。

 

 

近付けば近付くほど艦隊の様子が分かる。ほうしょうのように艤装を纏った艦娘が5人、おそらく対空戦闘配置に着こうとしているのだろうが、見ていて「何をしているんだ」と突っ込みたくなるほどに現場が混沌(カオス)と化している。

帰投したらこの混沌(カオス)っぷりを報告するとしよう...と頭の片隅に今の状況を置いておき、本来の目的であるメッセージを届ける準備に入る。

高度を下げて艦隊との高低差を小さくする。ウェポンベイを開けてメッセージの投下用意。チャンスは一度きり。しかも対艦にそれを落とすという初めての経験。

投下用意(ドロップレディ)...(ナウ)。」

隼鷹目掛けて白の物体を投下する。そのまま艦隊の上空を猛スピードで通過し、高度を上げていく。

 

 

「あだっ」

見事隼鷹の頭部に弾着。跳ねて飛んだ物体はそのまま隼鷹の髪に挿さった。

弾着を確認したのか、飛来した航空機は旋回した後超高速で来た道を帰っていく。

飛鷹が隼鷹の髪に挿さった物を取る。どうやら紙みたいだ。輪ゴムで両端が留められている。

紙を広げて見ると次のように書いてあった。

 

「貴艦隊のものと思わしき18機の航空機を今すぐ帰投させることを要請する。

また、モールス信号にて貴艦隊との交信を望む。万が一この要請に対する反故があった場合、敵対する意志があり、我が艦隊を攻撃する意志があると判断し、やむを得ず貴艦隊を攻撃する。

発 海上自衛隊第一護衛隊所属 CVL-1 ほうしょう」

 

「...隼鷹、今すぐ飛ばした艦載機全部引き返させて。あとで彼女に謝っておきなさい。...多分、怒ってるわよ。」

「ア、ハイ。」

飛鷹の雰囲気に怖気付いた隼鷹はその言葉しか出せなかった。

発艦させた九六式艦戦全機に帰投の命令を出す。タッチダウンに向かった4機のうち、残り1機のタイミングで帰投命令が出てしまったため、タッチダウンがすんでの所で出来なかったパイロット妖精さんは暫くの間「あァァァんまりだアァァァ!!」としか言わなくなってしまったのは別のお話。

 

「海上自衛隊...一体何の組織かしら...?」

「何処かの鎮守府の秘密組織...みたいなものかな?」

手紙を読み返す飛鷹の後ろからぴょこっと顔を覗き込ませる時雨。

海上自衛隊という組織どころか、先程飛んできた飛行機さえ彼女たちには分からないため、転生が起きたことなど知る由もない。

「秋雲、まだスケッチブックは残ってる?」

「まだなんとかあるよ〜、一部破られたけどね。」

「うぶっ。何をするんだい、痛いじゃないか。」

「人の物勝手に壊して即席火炎瓶を作ろうとしてた奴に、そんなこと言われる筋合いなんてありませ〜ん。」

ヴェールヌイに軽く拳骨を喰らわせた秋雲。一部スケブが破られたが遠征の記録が描かれたページが残っているのは幸いか。

「はいはい、喧嘩は後で。さっき飛んできた飛行機、なんとなく形は覚えてる?」

「ん〜まぁ?覚えてないってわけではないよ?」

「なら、今のうちに覚えてる範囲でスケッチお願いできる?それから、今から起きることについても、印象に残りそうなところだけで良いから。」

「あいよっ、秋雲さんに任せなさいっ!」

そう言うと空いているページに早速スケッチを描き始める秋雲。

それと同じくして、飛鷹がモールス信号で打電する。

 

「コチラ宿毛湾泊地所属 第二遠征艦隊、旗艦飛鷹。要請ヲ受諾ス。貴艦「ほうしょう」トノ交信ヲ請フ。」




次回はまた戻ってほうしょう視点になります。
材質的に脆い紙をどうやってウェポンベイの中に格納したりだとか、そういった話はあまり気にしないで欲しいところであります((
※イベントに少し専念したいため、次回の投稿が少し遅れるかもしれません。


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8話 合流

あけましておめでとうございます(遅い)
堀井椎斗です。

イベント終わったと思ったらお仕事の方でかなり忙しくなってしまい、投稿がかなり遅くなってしまいました…。
これから少しずつペースは戻していきたいところなのですが、この後もドルフロでイベントが始まったり、お仕事の方は社会人1年目も終盤に差し掛かって着々と量が増えてきているので、あまり戻せれないかもしれません…。
ゆっくりお待ちいただければ幸いです。

今回はほうしょう視点でストーリーが進んでいきます。
期間が開いたおかげで少し書き方に困りました故、おかしいところが多少あるかもしれません、お許しを()


「CDCからほうしょう、モールスのじゅんびよし。」

「了解しました。...というかよくそんな物ありましたね...」

 

F-35Bの単騎が飛鷹の艦隊に警告を投下し、隼鷹からの撤収指示で九六式艦戦が引き返したその頃。

ほうしょうサイドでは、いつから誰が持っていたのかは分からないが、モールス信号機があったので準備をしていた。

既に1人の通信妖精さんがヘッドフォンを付け手に電鍵を持ち、親指を立ててスタンバイ状態になっている。

 

「電源入れ。モールス入信がないか調べてください。」

「ぎょい。」

 

電源を入れて受信音量をまずは上げていく。すると早速モールスが聞こえてきた。

 

「まことにはやきしんごう...しかしせっしゃにかかれば、あかごのてをひねるようなものなり。どれどれ...」

 

 

 

 

 

「ア...ン...マ...リ...ダ......あんまりだ?」

「あ、その信号は無視して大丈夫ですね。他の信号を探して下さい。」

 

先程のタッチダウンしようとしたら、途中で帰還命令が出たせいかあんまりだあんまりだずっと叫んでた搭乗員か。風防が無いから声が通りやすいとはいえ、あの金切り声には周りにいる妖精さんはもちろんだが、私もつい両耳を塞いで着艦態勢どころではなくなってしまった。

モールス信号でも打ち続けているあたり相当嫌な出来事だったのだろう。今頃モールスを打ちながら同じように口に出してる光景が目に浮かぶ。

 

周波数を変えて他に信号が出ていないか検索する。

途中何度か先程の通信を受信するが、少し経った頃ようやく別の信号を受信した。

 

「...モールスかいどく。かんたいめい、すくもわんはくちだいにえんせいかんたい。かんたいきかんは「ひよう」。ひめとのこうしんをこうておりまする。」

「宿毛湾...ってどのあたりでしょう...?」

「こーちけんのはじにあるところなのです。ぶんごすいどーのいりぐち、ともいえるのです。」

「高知県...ただあそこに何かしらの泊地なんて「あったんですよそれが。」

 

そう声をあげるのは、例の艦これ世界に転生してテンションブチ上げ状態になっていた見張り妖精さん。

 

「もともとあそこには、だいにっぽんてーこくじだいにぐんかんがとまれるところがあって、たいへーよーからかえってきたふねたちのきゅうそくスポットになってただけでなく、さいだいせんそーでどれぐらいそくどがでるかのしけんがおこなわれたばしょでもあるんです。よくみるやまとのしゃしんなんかも、あそこでとられてるんですよ。」

「なるほど...」

 

艦長妖精さんといい見張り妖精さんといい、よくそんなこと知っているな、という情報が多いと改めて思う。とはいえ、自衛隊になってからは宿毛湾に泊地は置かれなかったために、知ってなかったとしても当然なのだろうか?実際、他の妖精さんは「そうだったのか」という反応が多く見られる。

 

「ひめ、モールスをまたせておりまする。どのようにへんとうするかおきめくだされ。」

「あ、そうでした...。ひとまず艦隊の方角を、この先でこちらとクロスする方に転進させましょう。速度は25ktにて固定、もし途中で雷撃などを受けてやむを得ず回避する場合はその限りでは無いですが、その際は必ず報告を入れるよう伝えてください。目視距離に入るほどから速度を順々に落とす予定ですが、その際はまた連絡する、という形でいいでしょう。そのように返信をお願いします。」

「ぎょい、ひめのおおせのままに。」

「あとその『姫』いうの止めていただけますか...少し、恥ずかしくて...」

「む...たいへんごぶれいをいたしもうした、ひめどの...あっ」

 

...つくづく癖の強い搭乗員(妖精さん)が多いものだ。

 


 

「とにかく、隼鷹(このバカ)の件で、ほんっとうにご迷惑をお掛けしました...」

 

隣にいる隼鷹という名の艦娘と共に、飛鷹に頭を下げられる。

あの後モールスで通信をしながら、時々艦載機を飛ばしてその先の進路を確認しつつ、無事合流地点へ漕ぎ着けたわけなのだが開口一番いきなり謝られた。

18機の艦載機が飛んできた時の状況も同時に説明してくれたが、どうやら隼鷹が酒に酔った状態で自分を驚かせるために飛ばしたらしい。しかし先程のF-35B単騎による警告を渡された事により(その後の飛鷹の様子も要因の1つになったのだが)、頭の冷静さを取り戻してやったことを反省したとのことだ。

 

「まぁ...威嚇射撃を行った後の行動から、やりたいことをなんとなく察することが出来たのでいいのですが、その娘の心理状態や考え方などによっては敵対行為と見られてもおかしくないものでしたので、次からは気を付けてくださいね...?」

「ほんっとすみません、以後気をつけます...」

 

完全に隼鷹が萎縮している。

その様子を横で見ていた飛鷹は、最初からこんな事しなきゃよかったのに...と一瞬思ったが、そもそもあんな酔った状態でそんな判断なんて隼鷹(このバカ)には無理だったか、と思い直した。

 

それにしても、改めて見直してみれば容姿が今まで見てきた鳳翔とはまた違う。

左腕の甲板は木材を使用した小振りなものとは違って、それこそ装甲空母に似たような灰色の甲板を付けている。

矢筒は背中ではなく右の腰元に掛けられており、矢羽の部分もグレー色に日の丸がついた、零戦や九七艦攻では見られない色合いをしている。この矢がおそらく先程飛ばしてきた不明機のものなのだろう。

革の軍手で覆われた手で持っているものは、変なカプセルのようなものがついたクロスボウだろうか。その他にも彼女の肩には12cm30連装噴進砲に似たものを載せているし、そもそも服装も鳳翔のような和服ではあるのだが、色が上は加賀が着ているようなほんの少し黄味を帯びた白、下が群青色と黒色のデジタル迷彩と、簡単に言えば鳳翔が陽とするならばほうしょうは陰というような色合いである。

髪は完全な黒色、顔はそこまで鳳翔と変わりはないが、基本温和な鳳翔と比べ、少しだけ冷静さを感じられるような雰囲気である。

 

「やー、秋雲さんだよ〜。そのクロスボウ、少し撃ってるところ見てみたいんだけどいいかな?」

 

スケッチを描き続けていた秋雲が、艦載機を発艦する時の姿を絵に収めたいのか、ほうしょうに注文をする。

 

「あ、これですか...期待されてもあまり困るのですが、どうしてもと言うのであれば「あ、それなら撃たせてもらって〜っ♪」

 

早くもテンションを取り戻した隼鷹が、ほうしょうからクロスボウを半ば窃盗のような感じだが取り上げる。

 

「あぁ〜ちょっと隼鷹!それじゃあまり意味がないってば〜!」

「いいじゃんいいじゃん、後で描かせてもらえればさ〜♪ ふふ〜ん、ここの弦の部分を...」

「あ、ちょっと待ってください!最後の発艦からそんなに時間が経ってないので、今そこ触ったr

 

「あっちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!!!」

 

 

 

この海域に今までの中で一番の叫び声が響いた。




次回からは鎮守府までの道のり、ならびに鎮守府に着いてからの様子がメインになっていくと思います。
ちなみに新キャラを追加する予定はありますが、どのタイミングでぶっこむか考えているところであります。


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9話 帰路の歩き話

堀井 椎斗です。

お仕事が今週はそこまで忙しくないだと!?
ならば構想は固まってるしさっさと書いてしまおう!!

と思い立ったが吉日と言わんばかりに書いてみたところ、思ったよりも筆が乗って書けてしまいました。
どうなんでしょう?構想と時間さえしっかり確保できていればこんなものなのですかね?
今回は鎮守府までの道中を描きます。


夕陽が水平線にほぼ沈んで辺りを夜の暗さが包み始める頃。

ほうしょうは、航空機輸送任務を終えて帰投中の飛鷹の艦隊と合流して、このまま宿毛湾泊地まで同行していた。

飛鷹と隼鷹が今(巻物の中に転移させて)輸送している九六式艦戦は、機種転換が遅れた海軍航空基地のものだったようで、往路は零戦を積んでいたようだ。この後泊地で解体して資材にするらしい。

しかし思えばよくその巻物の中に艦載機を積めるものだ。最初巻物を使って発着艦をすると聞いた時は、何をバカなことを、と思ったのだが実際に目にすればもう何も言えなかった。目の前で勅令という言葉の書かれた魂のようなものを、巻物に滑らせるように動かすと、艦載機の絵が光って実機となり実際に飛んでいくのだから。空いた口がしばらく塞げなかった。ちなみにそれを見た見張り妖精さんは涙を1Lほど流しながらずっと拍手し続けていた。

 

「ところでまだ聞いていなかったけど...ほうしょうさんってどんな船なんだい?その...全然聞かない単語がよく聞こえたから。」

 

復路の道中、速度を上げて横についた時雨から質問をもらう。そりゃそうなるか。相手のことやこの世界のこと、聞くことばかりで全く自分の情報などあげていなかったのだから。

 

「私は日本国海上自衛隊、第一護衛隊所属の軽空母、『CVL-1 ほうしょう』です。とは言っても、これだけ聞いてもさっぱりだと思いますが...。」

「うん...ごめん、よく分からないや。」

「推測ですが、おそらく別世界から来た、と言った方が正しいでしょう。貴女達のいるこの世界とは違う世界から...ね。」

 

小さく頷きながら話を聞く時雨。前方では飛鷹と隼鷹、秋雲にヴェールヌイと4人が何やら軽い口喧嘩のような話をしながら泊地に向かって進んでいる。単縦陣で来てたはずなのに、もはや陣形などないこの状況で少し後ろで並んで話す2人。この話は4人との距離や声量の大きさからおそらく聞こえていない。いわば、2人だけの話の状態。

 

「まず、海上自衛隊という組織も聞いたことがないと思いますから、そこから話しましょうか。第二次世界大戦が終わった後に日本で発足した、いわば日本という国をひたすらに守るだけの最低限の武力を持った、こちらからの先制的な攻撃は一切認めない軍隊...それが海上自衛隊です。軍隊と言ってしまっては、また叱られてしまいますね。」

 

最後の「軍隊」という言葉に苦笑いを浮かべながら話すほうしょう。一時期自衛隊を「国防軍」という名前に改名しよう、なんて話も出たには出たのだが、結局有耶無耶にされて未だに軍隊と名乗れない。憲法第9条の条文のままに当てはめれば違憲、だが解釈は違うなどと繕ってグレーゾーンに立たされた板挟みの組織。

そんな背景を知らない時雨は、その軍隊と名乗れないことに疑問符を浮かべている。

 

「第一護衛隊というのは、その海上自衛隊の中の一編成です。横須賀を母港とした艦隊で、今はむらさめさんやいかづちさんなどがいらっしゃいます。」

「村雨、その世界でも生きてるんだね...なんだか、嬉しく思うよ。」

「残念ながらしぐれという艦はまだいないですが...きっと来ますよ。メイビー。」

「いないのは残念だけど、フォローの仕方が少し適当じゃないかな?」

「な、何のことでしょう...?」

 

はぐらかすほうしょう。それを目を瞑ってまるで絵文字に出来そうな顔で見つめる時雨。気にせずほうしょうは話を続ける。

 

「そしてCVL-1というのは艦種記号と艦番号のことですね。CVLが軽空母の意味で、私は1番目に就航したのでCVL-1という記番号が与えられたのです。艦名は平仮名でほうしょう。これは言わなくても分かると思いますが、大日本帝国海軍の鳳翔から持ってきた名前です。基本的には大日本帝国海軍にいた艦艇の名前を取ってくることが多いですね。」

「そうなんだ...こういう話聞くの、なんか面白いからずっと聞いてたくなるよ。」

「...時雨さん、もしかしてパラレルワールドの話とか聞くのお好きですか?」

「どうだろう?でも何もない日はそういう話のまとめをよく読んでたりするから、やっぱりそうなのかな?」

「だと思いますね...もしよければ、今度もこのお話しましょうか?」

「...! うん、聞きたい...!」

 

目を輝かせて大きく頷く時雨。帰路の間にほうしょうと時雨の間には、少しばかり友好な感情が芽生えたようだ。今度にしよう、という約束を交わし、別の話題に移っていた。

彼女達の話がどんどん弾んでいく中、ほうしょうサイドの妖精さんの動きといえば...

 

「うがあああぁぁぁぁぁあっ!! 通せ!!通すんだこのやろう!! 俺はあの会話に混ざりたいんだうおおおぉぉぉおおっ!!!」

「おい、誰かこいつを止めるのを手伝え!」

「落ち着けってお前! 今行ったところで百合の間に挟まる男状態になってボコされる未来が待ってるんだから!!」

「くっそ、HA⭐︎NA⭐︎SE!!!」

「夕飯はどこー...?」

 

感情が暴走列車に飛び乗りした見張り妖精さんを複数の妖精さんが身体をロックして引き止める構図が出来ていた。

 


 

深夜、某所。

 

 

「くっ...流石にちょっと、まずいかしら...」

 

真っ暗な視界に囲まれた海の上、大きく被弾した村雨と峯雲がそこにいた。

峯雲はもはや大きく被弾しており、喋ることもままならない。今は村雨の肩に手を回し抱えられてなんとか生きながらえている。村雨自身も艤装が大きく損傷し、何処から敵が撃っているかもよく分かっていないため、回避することしか今は出来ない。燃料も少なくなりつつある。自分もいつ更に被弾して、この海の下に...出来ることなら考えたくはない。

 

「峯雲さん、しっかり...! もう少し耐えてくださ...っ!」

 

すんでのところで飛んできた弾を躱す。ちょっとだけでも気付くのが遅れていたら、また被弾して自分も動けなくなっていたかもしれない。着々と相手の命中精度が上がってきている。次発が撃たれたら、もうどうにも出来そうにない。

どうしてこんな目に遭わなければならないのだろうか。十分な修理・補給をされないままに何度も何度も行ってこいと言われ、同じ仲間が沈もうと関係ない、それが当たり前かのような運用をするあの提督。今回だってそうだった。自分こそまだ良かったが、峯雲は会敵してもまともに戦えない状態で出撃を命じられた。あの人には、痛みを分かち合う心というものがないのだろうか?

 

直感が告げる、もうすぐ次発が飛んでくる。そうなれば自分は思うように動けなくなる。ここで艦生を、人生を終えることになる。

 

「こんなところで、終わってしまう、の...?」

 

嫌だ、沈みたくない。けど自分ではもう何も出来ない。

助けて、という願いを心の中で呟く。だがおそらくこの願いも届かずに終わってしまうのだろう。

最後まで抵抗はするが、意は決しよう。そう思って先程から弾が飛んでくる方角をじっと見据える。そして最後の時を待つ。

 

次の瞬間、音が聞こえた。

 

しかし、聞こえてきたのはこちらに向かって発砲される音ではなく、爆発の音と深海棲艦の断末魔の声だった。

何が起きたのか全く分からないところに間髪入れず、横から声がする。

 

「はいはーい! 大丈夫?もう1人の私」

 

そこには、見慣れぬ艤装を纏った自分(わたし)が立っていた。




投稿時間が投稿時間なので結構眠たいです((
次回の間に泊地に到着させたいですねぇ...。

前回ですが、投稿が遅くなったにも関わらず読んでいただき、ありがとうございました。
感想も書いていただき感無量です、むしろ今までで一番多く感想が来るとは...。


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10話 宿毛湾泊地

堀井 椎斗です。
前作も感想ありがとうございます。もう「続きを楽しみにしている」という声を聞くだけで一時的にキラキラモードになれます。まぁ、お仕事してる間に赤疲労になってしまうのが問題ですが((
今回はいよいよ辿り着いた泊地でのお話です。


宿毛湾泊地。

かつては太平洋上での演習から帰投した艦隊が、一時的に休息するためのスポットだった。また、立地的に都合が良いこともあって全速航行試験の海域にもなったり、あるいは二・二六事件の際に演習のために停泊していた艦隊が出撃したポイントでもある。

そんな泊地は今、簡易的ではあるが庁舎や工廠などが立ち並んでいる。側から見れば、一鎮守府と言っても差し支えないほどには発展を遂げていた。

時間は既に21時を過ぎている。目線を下ろしてみればやっとの思いだろう、母港へ帰投してきた飛鷹率いる第二遠征艦隊の姿が見える。そこには遠征に出した5人の他に、帰投中の報告であった見慣れぬ艤装を纏う鳳翔らしき姿があった。

庁舎の2階、執務室から腕を組みつつ彼女達を見下ろす背の高い艦娘ー「長門」はこれから起きるであろう様々な事を案じていた。

 

 

到着後、艤装を解除した飛鷹たち5人から今回の遠征について報告を聞く。

航空基地の機種転換は無事終了し、古くなった九六艦戦を持ち帰ってきた事。途中の接敵はなくほぼ決めた通りのルートで行けた事。

 

そして、道中で軽空母「ほうしょう」を“保護”した事。

 

その時の事細かな情報ももちろん伝えられ、秋雲の書き残したスケッチで視覚的に状況が分かるように更に説明が入った。

 

「うむ...分かった。今回もよく頑張ってくれたな。ただ隼鷹...お前また任務中に呑んでやらかしたのか...しばらく禁酒令と酒没収だな。」

「...え゛?」

 

隼鷹からしてみれば残酷でしかない指示に思わず変な声が漏れる。

 

「え、も何も...これじゃまるで遠征任務をしに来たのか遠征で呑んだくれて邪魔しに来たのか分からんじゃないか...とにかく、この処置に異論は認めんぞ。」

「うあぁぁん!こんな仕打ちなんて嫌だあぁっ!」

 

自業自得である。

 

「それから響も...大発に何を積んで来たかと思えば、ボーキサイトじゃなくてウォッカじゃないか...艦隊運営に関係ないものを持ち帰らなくて良いんだぞ。しかも飲んでるし...」

「おまけにこの破けたページは何だ?すごく小さいが『響がやりました』と書いてあるし...何があったんだ一体?」

 

破かれたスケッチブックの端切れ、そこに秋雲がいつの間にやら書き込んだのだろう、『響がやりました』とまるで新聞の書かれている本文の文字の大きさ並みに小さく書かれている。

 

「んあぁ〜、それね。敵意があるのかもしれないって勘違いしたほうしょうさんが、艦載機をこっちに飛ばしてきた時に、酔っ払った響がウォッカと紙で即席火炎瓶を作って対空戦を展開しようとしてた訳よ〜。それの名残!」

 

秋雲がその時の状況を簡単に説明する。まぁ何も描いてなかったページだからそこは良かったけどねぇ〜、と後付けで独り言のように呟いた。

それを聞いた長門がやれやれといった表情になり。

 

「...まぁ迷惑かけた隼鷹よりはまだマシな方だろうから良いだろう。良く言って機転を効かせたやり方だからな。お咎めなしだ。」

Супасиба(スパシーバ)。」

「えぇぇちょちょっと!?響だって酒飲んでたのに何でこんなに扱いが違うのぉぉ!?」

「少しぐらいはやったことを振り返らんか!?」

 

 

執務室の扉越し、廊下で呼ばれるのを待つほうしょうは、聞こえてくるそのやり取りに少しだけ笑いそうになってしまった。ここの泊地はいつもこんな感じなのだろうか?

笑いを飛ばすように咳払いをしてまたしばらく待っていると、両開きの扉が片方だけ開く。

 

「ほうしょうさん、長門さんと話する時間だよ。...艤装をぶつけないように気を付けてね?」

「...扉の枠が小さく見えるので、少し心配ですね。」

 

時雨の呼び掛けに苦笑いを浮かべながらドア枠を見る。自分の身長から見れば、頭をぶつけないかヒヤッとするぐらいの高さだ。これが日本人サイズということだろう。まさか自分が自分の頭を心配しなきゃいけない日が来るとは。

しかも今回は、どんな艤装を付けているのか見たいというものだから、艤装を装備した状態でここにいる。日本人サイズのドア枠に下手したら甲板の後部あたりがぶつかってしまうかもしれない。

もし本当にぶつかりそうになったら、少し屈んで行くとしようか...そう思って、開け放たれた扉の前へ一歩踏み出した矢先。

 

「あぇ...うわわぁっ!?」

 

声が聞こえたと同時に後ろから思い切り追突されて、押し倒された状態で執務室にいる艦娘達へ姿を現した。何やら背中が熱いし濡れている。

 

「あぅ、えっ?あぁ、あああ〜〜〜〜っ!!」

「...またこぼしたのかい、五月雨...。」

 

またか、と仕方なさそうな顔で見る時雨と倒れたほうしょうの後ろであたふたする五月雨。

狙ったかのようなタイミングだが、どうやら淹れたお茶を持ち運んできた時に何かで足を引っ掛け、そのまま前にバランスを崩して倒れ込んできたようだ。あたり一面の床がお茶で濡れ、茶飲みが数個散乱している。あまりに不本意な出来事に思わずほうしょうはジト目になってしまった。

 


 

「改めまして...はじめまして。日本国海上自衛隊 第一護衛隊所属 CVL-1『ほうしょう』です。不束者ですが、よろしくお願い致します。」

「はじめまして、だな。私は戦艦『長門』だ。よろしく頼む。まずは何だ...隼鷹(こいつ)が迷惑をかけたようで、申し訳ない...。」

 

隼鷹の頭を押さえて無理やり頭を下げさせ、長門も自ら頭を下げる。いててて、と隼鷹の悲痛な声が聞こえてくるが気にせずにおいた。先程背中からのシャワーを浴びせた五月雨も一緒に横で頭を下げている。

 

「あぁいえ...こちらから以後気をつけるように申しましたので、今後は突飛な行動は慎むと思っています...メイビー。」

「...何かやりっ放しな感じがしなくもないが...それは置いておくとしよう。それにしても、ある程度時雨や秋雲のスケッチから貴艦や組織のことを見聞きしたが、見慣れない艤装だ...。」

 

地面に足をつけた状態で見れば、それが艦これ世界でどんなに特異な存在かがよく分かる。

軽空母と名乗っていたが、身長や艤装だけを見れば護衛空母と装甲空母を足して2で割った容姿に近い。左腕に付けられた甲板はフラットで灰色。専ら大鷹や神鷹が付けているような甲板に似ているが、木材を使用している感じはなく装甲が張ってあるような見た目に、艦尾の着艦標識はなくほぼ長方形。中央からやや左に逸れたところに黄色のラインが引いてあり、所々にアスタリスクの半分を描いたようなマークがある。

右腰元に矢筒がついているが、矢羽が灰色に塗られたものが12本入っている。矢羽の色が違うのは少し気になるが、他の艦娘でも矢を用いて艦載機を発艦させる事はやっているのでそこまで違和感はない。それよりも気になるのが、左腰元に付けられたポーチである。ただのポーチであれば良いのだが、その中に日の丸が描かれた白の小さな畳まれた何かが入っている。それも何かしらの艦載機になるのだろうか?

また矢の発射方法は弓ではなくクロスボウ。しかもカプセルの形状をした何かがその上についている。肩に12cm30連装噴進砲に似たような箱上のものが載っているが、それにも同様にカプセルの何かが付いている。軽空母なのにクロスボウを持っている、それだけでも訳が分からないのにほぼ全ての艤装が見慣れない、知らないもので混乱してくる。

顔には少し太枠の黒縁眼鏡がかかっているが、うっすらと何か鏡面に映っている。口元にはマイクがあり、片耳イヤフォンから伸びているようだ。

身長はもはや翔鶴や瑞鶴、加賀の身長に近い。これで軽空母だと言うのだから、正規空母ではどこまでの身長になるのだろうか?

 

「...あの〜、先ほどから私の装備を見てるようですが、何か問題が?」

「いや、問題しかない。こんな分からないものだらけの艤装を見させられてずっと混乱しっ放しだ。...まぁ、細かいところや性能については明石に見てもらった方がいいだろう。」

 

咳払い一つついた後、長門から「本題」が切り出される。

 

「さて、貴艦についての扱いだが今は『保護』という扱いになっている。他の鎮守府から迷子になってしまったり、任務中に逸れてしまった場合にこちらで『保護』をして、休憩・準備をさせた後に元の鎮守府に帰すのだが...別世界から飛んできたんだ、所属鎮守府というものも無いだろう。そこで我々の泊地、宿毛湾泊地の所属として是非来て欲しい。此処でなくとも、他の鎮守府で拾ってもらうのもよし、海上をひたすらに放浪するのもよしだが...正直それをするぐらいであれば、此処に居てもらった方が良いと私は思う。外はあまり良い噂は聞かないからな。出来る範囲であれば貴艦の要望も聞き入れよう。全ては貴艦の判断に任せる。」

 

周りの妖精さん達に目を配ってみる。艦長妖精さんはやはり艦である私の一存に託すようだ。他の妖精さん達からは、殆どが此処に居付くべきという声が上がっている。中には放浪はもう疲れた、という声も聞こえるが。

 

「...正直海の上を放浪したところで、補給がなければ何も出来ずに沈んでしまうだけです。他の鎮守府にも行ったところで、此処のように快く拾って貰えるとも限りません。それであれば、此処に居させてもらいたいと思います。本当によろしいのであれば、どうぞよろしくお願いします。」

 

長門に向かって深く一礼をする。

 

「...ありがたい、これなら奴らと足並みが揃えられる...」

「...? 奴らとは...深海棲艦のことでしょうか?」

「あ、あぁいや、何でもない...気にするな。」

 

小さい声ながらも聞こえて来た呟きに反応すると、それに触れないでくれと言わんばかりにはぐらかした。...少し何か事情がありそうだ。ただ今すぐに触れようとするのはナンセンスだろうか。ひとまずスルーすることにした。

 

「ともかくだ。私たちは歓迎しよう。空母戦力はあまり居なかったから助かる。」

「厚かましいようですが、早速一つお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」

「む、なんだ?」

「この泊地の所属にはなりますが...表向きではあくまで「日本国 海上自衛隊」の一員としてありたいので、ある程度の単独行動権を与えてもらってもよろしいですか?」

「単独、か...まぁ、許可はするが行動中に接敵が起きてもすぐに助けは出せない。そこは念頭に置いて行動をしてほしい。あとは...艦隊の出撃メンバーに加わった際はそちらが優先だ。それも承知しておいてくれ。」

「分かりました。多大なご配慮、ありがとうございます。」

 

 

「改めて...ようこそ、宿毛湾泊地へ。我々は貴艦『ほうしょう』の入港を歓迎する。」




書いていたらまさかの4000文字オーバーになりました((
むしろ文量このぐらいを目指した方が良いですか?
中々執筆が難しいところであります...。

次回は前話でちょこっと出た「もう一人の私」のお話です。
どうぞお楽しみにしていただければ幸いです。


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11話 邂逅

堀井 椎斗です。
お気に入り500件突破してしまいました。ついでに総合評価も900pt突破間際です。上手く書けている自信があまりないのですがどうしましょう((何を?
今回は「もう1人の私」のお話です。序盤は少しだけ時間が遡ります。


最初は異世界に転移したことなんて、分かりもしなかった。

演習4日目の日。ほうしょうを旗艦とした艦隊は、爆弾低気圧が演習海域付近を覆う中、ひたすら演習地点に向けて航行を続けていた。逐一ほうしょうより船体の無事を訊ねる無線が飛んで来ていたのだが、途中からピタリと止んでしまった。何事かと思いきや、異変は次々と起きる。衛星との通信ロスト、先程まですぐ近くにいた僚艦と逸れ、通信も使えない。挙げ句には雷が船体にダイレクトヒット。そこから何故か分からないが、異世界転移でどうやら艦これの世界に来てしまったとCICの妖精さんが言う。どうやら艦これというゲームをやっていたようで、今起きていることとほぼ合致しているらしい。

右手には62口径76mm単装速射砲。ただ一回り小さくなったのとグリップとトリガーが付いており、銃を扱う感覚で使用できる様になっている。太ももには短魚雷発射管。これも一回り小さくなっていて装備していても邪魔にならない程度になっている。背中には排気口近くが黒く塗られた機関部を背負っている。脇腹あたりでどうも固定しているようだが、四角い形状だからかリュックサックを背負っている感覚に近い。そして何故か左腕には錨が巻き付いている。近接攻撃に使え、というお達しなのだろうか?

転移してからも更にドタバタは続いた。どうやら深海棲艦と呼ばれる敵がわんさかいる場所へ転移してしまったようで、ありとあらゆる手段を使って脱出をしなくてはならなかった。最初は接近するなと警告するも、言葉がまるで通じない。立て続けに襲ってくる駆逐イ級や駆逐ロ級を90式艦対艦誘導弾と速射砲で撃沈させ、遠くから飛んでくる大口径の砲弾を急な加減速で狙いをつけさせない様にしながら回避、飛んでくる飛行機には短SAMとCIWSをフル稼働させて撃ち落としていった。

太陽が沈み夜の暗さが包み始める頃、やっと敵の少ない海域まで逃げてきた時には、90式や短SAM、CIWSは全て弾薬切れ。残る主砲の弾薬もあと少ししか残っていなかった。このままでは弾薬が全て尽きてしまう。そうなったら自衛が使えずあとは回避しか手段が残らない。今回こそ相手がまだ弱いものばかりでほぼ無傷で済んだから良いものの、次あのような戦場に巻き込まれたら艦命が危うい。

この先どうしようか相談を持ちかけたところCICの妖精さんから、ひとまず艦娘と呼ばれる、今の自分と同じ様に艤装を背負った少女を探し出して、所属鎮守府に補給をお願いした方が良いのでは、という助言が入った。見知らぬ世界の施設で修理や補給を受けるのはかなり抵抗があるが、今はわがままを言ってられる状況にない。その案を採用して艦娘を探した。

 

夜は更に更けて暗闇が支配する海の上、レーダーを使って捜索を続けていると、レーダーマップ上に複数の点を発見する。2つの点と、少し離れた場所に6つの点。6つの点は単縦陣でいるので分かりやすいが、2つの点は重なり合っていてよく目を凝らさないと分かりづらい。

艦娘と深海棲艦との戦いである可能性があるのでそちらへ進みつつ、レーダーで様子を伺っていると、CICの妖精さんがその様子を見て声を上げる。

 

「...これ、ビラ・スタンモーアやせんのさいげんじゃないか...?」

「...?何かしら、その...ビラ・スタンダード夜戦?」

「スタンモーアです。べーぐんのレーダーしゃげきで、いっぽーてきににほんのくちくかんがうちのめされたってゆーたたかいですよ。」

「ふぅん...?そんな夜戦が大戦時にあったんだ、その...ストダード夜戦?」

「だからスタンモーアです。たしかそのときしずめられたくちくかんがみねぐもと...」

 

と続きを言いかけたところでハッとする。そうだ、この夜戦には村雨がいる。名を受け継いで4代目のむらさめから見れば、白露型の村雨は2代目なのでいわば祖母のような存在だろう。

その艦娘が目の前で沈む。どうだろうか?見るに堪えないだろう。

 

「むらさめさん!!!あの6せきをつぶすきょかを!!!」

「んあぁぁいっ!?イヤフォン越しで怒号をあげられても聞こえないんですけどぉ!?」

 

急な進言に周りの妖精さんからも声が上がる。

 

「んぁ!?しょうきかおまえ!?こっちからせんそうふっかけるきかよ!!?」

「あのやせんでしずんだくちくかんに、むらさめがいるんです! あなたのそぼといえるそんざいです! このままじゃふたりとも...!」

「...あの先に、もう一人の...私...。」

「おま、ばかいえ!いくらかんめいがおなじでなじみがあるとしたって、おれらがわざわざかいにゅうするほどでm「ブラ・スタッカート夜戦で沈む歴史、塗り替えちゃうからね!総員、対水上戦闘用意!!」

「ふぁ!?」

「だからビラ・スタンモーア!!」

 

むらさめの決断は早かった。村雨の名前を出しただけで6隻を潰す選択を取ったようだ。

 

「レーダー捕捉中の6隻、電子戦用意!まずは目を潰しちゃうわよ!EA攻撃始め!」

「まじかい...んんっ、EAこーげきはじめ!」

 

妨害電波が6隻の艦隊へ向けられて照射される。

突然レーダーの目を潰された深海棲艦側は、何が起きているのか分からず混乱し始める。

 

「どうもきいているようです。てきかんたい、じんけいがみだれはじめました。」

「そしたら一気に決めちゃうよ!最大船速!主砲SAPOMER弾用意!近付きつつささっとお片付けしちゃうから!」

 

主砲を敵艦隊のいる方向へ向ける。真夜中かつ明かりのない海上。肉眼では到底見える範囲ではないが、レーダーのおかげで全艦艇の位置・自艦との距離が把握できる。

 

「しゅほーそうてんヨシッ!」

「トラックナンバー1388から1394、主砲撃ちー方始め!」

 

それぞれの艦艇に向けSAPOMER弾が発射される。元の世界での主砲の使い方といえば、専ら迫るミサイルへの自衛行為として発砲するだけで、対水上戦闘でここまで使用する頻度が増えるとは思ってもみなかった。その新鮮さからだろうか。撃っていてどこか楽しさを覚える。

カタログスペック分間80発。昼から撃ちすぎたせいか少し連射が遅くなっている気がするが、大戦時の主砲では出し得ない圧倒的な連射速度で一隻ずつ潰していく。76mmという小口径なので装甲のある艦に対してはダメージが出しにくいが、どうやら今回相手しているのはそこまで分厚い装甲を持った艦隊ではないようだ。

そこまで時間がかからないうちにレーダー上にあった6つの点は消失した。

 

「...よし、撃沈確認(キルコンファーム)ね。対水上戦闘用具収め。」

「たいすいじょーせんとー、ようぐおさめ。もうざんだんがありませんな。」

「各部、残弾はそれぞれいくつ残ってる?」

「たいかんミサイル、SAM、CIWSそれぞれだんやく0。しゅほーもSAPOMERだんはいまうったものでさいごです。あとはりゅうだんが10はつていどしかありません。ぎょらいはたんまりとあります。」

「了解、これじゃあ撃ちすぎだって帰ったら怒られちゃうわね...あ、いたいた」

 

全速力で2隻側へ航行していると、姿が見えてきた。未来の自分(むらさめ)がその場にいるなど知りもしない村雨は、何が起きたのかよく分かっていないようで、その場で呆然としている。徐々に速度を落としていき、村雨の横から声をかける。

 

「はいはーい! 大丈夫?もう1人の私」

 

白露型駆逐艦「村雨」と、むらさめ型護衛艦「むらさめ」が初めて邂逅した。

 


 

「あ、貴女は...誰...?」

「むらさめ型護衛艦1番艦「むらさめ」。簡単に言って、未来の貴女よ。それより、見た感じ大丈夫ではなさそうね?」

 

未来の...私?言っていることがよく分からない。

確かに見た目は私に瓜二つだ。ただ身長は軽巡洋艦クラスの高さでもあるし、武装も全く見慣れないものを付けている。眼鏡とヘッドセットもかけているし、おまけにたわわなものまで...。

 

「私も弾薬がもう少しで尽きちゃうから、貴女の鎮守府まで案内してほしいの。もちろんそこまで護衛はするわ。まず方向をー...って、聞いてますー?」

 

目の前で手を振られてハッとする。考え事に完全に意識が呑まれていた。

 

「えっと、ごめんなさい。全く聞いてなかった...」

「んもぅ、もう1人の私にも話聞かれないって、不貞腐れちゃうぞー...まぁいいわ、貴女の鎮守府まで行かせてほしいの。貴女ともう1人、峯雲さんだったかしら?貴女たちの護衛はもちろんするかr「ちょ、ちょっと待って!」

 

村雨がすかさずストップをかける。

 

「えっと...護衛をしてくれるのはとても嬉しいのだけれど...鎮守府近くまでにしてもらえないかしら?弾薬と燃料はもちろん後から持ってくる、そこは約束するけれど...あの鎮守府に貴女を巻き込みたくないの...」

 

言葉を紡ぐ村雨はどこか震えている。なるほど、鎮守府内に入れたら何か問題があるみたいだ。よっぽど見られたくないものがあるからなのか、それとも面倒事に巻き込まれてしまうからなのか。

村雨をよく見てみると、ある点に気づいた。明らかに被弾して付くような傷ではないものが付いている。となると、後者の面倒事の可能性が高いだろう。

 

「...もし私が、面倒事に巻き込まれたい、って言ったら...貴女はどうするつもり?」

「え...?」

「おそらく、イジメか何かの関連と見たわ。多くの人は巻き込まれたくないから、貴女の指示に従ったり、見ないフリをすると思う。ただ何ででしょうね...?私、そういうのには首を突っ込みたくなっちゃうの。特に貴女が、もう1人の私が関わっているのなら、尚更にね。」

「...」

「本当に首を突っ込んでほしくないのであれば、仕方ないけど手を引く。貴女の指示に従う。ただ、これだけは言わせて。貴女が何か困っているなら、助け出してあげたい。何としてでも、ね?」

 

出来るならあの鎮守府には未来の私を巻き込みたくはない。未来の私には今の私の現状と同じところに置きたくない。いや、あの鎮守府の提督のことだ。私以上に何かするかもしれない。だから出来るなら避けてほしいのだ。私のことは知らなかったフリをして、輝ける別の道を歩んでほしい。ただ、貴女からそんなことを言われたら...

 

「...なら、助けて...くれる...?」

「ええ、今は貴女の護衛艦として、何とかしてみせるわ。」

 

少しだけ、信じてみようかな...?




面倒事に自ら巻き込まれに行ったむらさめ。この後はどうなるでしょう?
次回もこのお話の続きになります。ほうしょうパートはもう少し先になりそうです。
※ちなみに今回も4000文字突破しました。ストーリーの進め具合的にはこのぐらいの分量が何か良いような気がして来ました((


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12話 兵器

堀井椎斗です。
「構想は思い浮かんでるがそこまでどう繋げたら良いか分からない…まぁ適当に書いてみて繋げていこ。」
という感じで書いてみたら、前半こそ若干詰まったものの超えてしまえばめちゃくちゃすらすら筆が進んでしまったわけで。
過去最高の5336文字を観測しました((
なので普段よりは読了に若干時間がかかるかもです。

今回は村雨と合流した後の、所属鎮守府での出来事です。


トラック泊地。

かつてこの地は“日本の真珠湾”とも呼ばれた軍事上重要拠点で、陸上攻撃機が離着陸可能な滑走路を所持し、南方へ向かう連合艦隊主力の根拠地としても存分に利用された。大和と武蔵が並んだ写真が撮影されたのもこの地である。

ここの泊地も今では入渠ドックや建造ドックが建造され、一鎮守府と遜色ない設備を備えている。

そんな泊地にむらさめ達が到着したのは、夜が明けてからしばらく経った午前8時ごろのことだった。史実のビラ・スタンモーア夜戦は、ソロモン諸島コロンバンガラ島付近で行われた海戦のため、トラック泊地からは約2000km強離れている。ただ今回の夜戦は泊地近海警備中に遭遇したため、そこまで帰投に時間は掛からなかった。とはいえ、大破した艦娘がいる以上原速が基本だったのでその分時間はかかったわけだが。

 

「村、雨...さん...?ここ、は...?」

「峯雲さん、起きた!?あと少し耐えて!今入渠させるから!」

「......」

 

周りを見渡すことすらままならず再び目を瞑る峯雲。あの夜戦で敵砲撃の着弾位置が悪かったのだろう。意識が朦朧としているのが見て取れる上に頭部から出血している。村雨自身も今は峯雲一心で気付いていないだろうが、気を緩めれば痛覚が煩いほどに襲ってきそうな傷がいくつかある。

小走りで入渠ドックへ駆け込む。入渠ドックとだけ聞けば普通の艦船が修理するあの大きな施設が出てくると思うが、艦これの世界ではどうも専用のお風呂場が入渠ドックと呼ばれているようだ。

 

「むらさめさん!彼女を入れるの手伝って!服着せたままでいいから!」

「オーケー、焦らないでゆっくりね。」

 

3人とも服を着たままゆっくり湯船に入り、峯雲を肩を貸して支えながら下ろしていく。入る前にむらさめの適当な妖精さんに頼んで、近くにあった「高速修復剤」と書かれた緑のバケツを持って来てもらい、それを湯船の中に入れてもらったおかげか、傷がみるみるうちに癒えていく。頭まで沈めてしまうと今度は溺れる可能性があるため、頭部はむらさめの医務妖精さんにひとまず止血処理をしてもらった。峯雲だけではない。村雨もむらさめも、戦闘でついた傷は気付いた時には消えてなくなっていた。

 

「はあぁ〜...休まりますねぇ...。」

「そうですねぇ...って、そんな場合じゃない!」

 

村雨が急に立ち上がろうとするが、峯雲を支えてることを思い出して咄嗟に動きは止めた。ただ大事な何かはあるみたいだ、それも今すぐやらないといけないことのようでそわそわしている。

 

「...?何かあったの?」

「帰投したら必ず戦果報告をしなきゃいけないんだけど、まだやってなかった...もう30分ぐらい経っちゃったけど...」

 

戦果報告...となればここの提督と接触が出来そうだ。村雨のいじめ関連で何か情報が得られるだろうか?

 

「それなら私が行ってくるわ。提督にご挨拶もしなきゃいけないし。ゆっくりしてて?」

「...わ、分かった。けど...提督と話す時は十分気をつけて?あの人、貴女に何をするか分かったものじゃないから...。」

 

...話ぶりからして提督が絡んでいるのだろう。対人警戒を厳として行くとしよう。

 


 

「ちっ...どいつもこいつもろくでなしだなぁ!?」

「っ...!」

 

トラック泊地提督執務室前に辿り着いたむらさめ。扉の前に立ちノックをしようとした瞬間、中から何やら怒号が聞こえたので聞き耳を立ててみれば、誰かが殴られたような音が聞こえる。

道中すれ違う艦娘が、見慣れない服装を身に纏った“村雨”が通るのを見ていたが、どの娘も生力を感じれない目付きをしていた。一部の娘は村雨と同じく暴行を受けたような傷があった。そこに聞き耳を立てた結果聞こえたこの出来事。どうも提督が黒と見て良さそうだろう。

 

「たく、お前ら駆逐艦っつうのは...海域の突破にも使えなきゃ遠征に出しても失敗して帰ってきやがる...どうしてここまで使えねぇんだお前らは...なぁ、なんとか言ったらどうなんだ!えぇ!?」

「はいはーい!お説教中に失礼しますねー!」

 

バタンと勢いよく執務室の扉を開けて姿を表す。その音に驚いた2人がこちらへ振り向く。そこには白の軍装服に身を包み、手を挙げて殴ろうとしていた提督らしき男の姿と、頬を赤く腫らしてなお殴られる準備をしていた艦娘らしき姿があった。

 

「あ、あさしおぉーッ!」

「あぁなんというすがたに...ねぇ、あいつ、やっちゃってもいいよね?」

「やっこさん、おなじめにあいたいようですっ!」

「ステイ、ステイ。」

むらさめの近くでは、艦これに精通したCICの妖精さんを筆頭に、何人かの妖精が提督に向かって飛びかかろうとするのを、艦長妖精さんが抑えている構図が出来上がっている。

 

「あ?誰だお前?」

「むらさめ型駆逐艦1番艦のむらさめ、あなたのところの艦娘に拾われて来ました!よろしくお願いしますね!」

 

むらさめの艦艇番号はDD-101。日本では護衛艦と名付けられているが、アメリカの方では他国の駆逐艦と同じ系列で扱われている。また本来はDDという略自体もDestroyerを短くしたものになるので、駆逐艦という表記もまた間違いではない。

 

「駆逐艦だぁ?...へぇ、大層な体してるじゃねぇか。駆逐艦でもこんなやつがいるとはなぁ...?」

 

自分の体を凝視している。おそらく提督は自分のことをR18の方面でしか見ていない。確かに自分でも、よくここまで大きいなと思うほどのたわわなものが付いているが...。

 

「んで、誰に拾われたってんだ?」

「えーっと、村雨と峯雲の2人ね。」

「はっ!補給も修理もしてやんなくても、やりゃ出来んじゃねぇか!使えんやつばっかだと思ってたが、いい知らせだ。で、そいつらは今どこだ?」

「あ、その2人はかなり傷付いていたから、入渠しに行ったわ。」

「...は?」

 

声音が嬉しさの混じっていたものから一気に下がり、怒りの感情が混じったものになる。

 

「俺の許可なしに入渠しやがったのか!?誰が入っていいと言った!クソ野郎が!」

「まぁまぁ、落ち着きましょ。それに入渠については私の独断です。知らなかったものですから、ごめんなさいね...。」

「結構勝手なことしてくれるじゃねぇか。まずは俺の許可を取ってからにしやがれ。クソったれ...まぁいい、少し罰を受けてもらうだけで良しにしてやる。」

「罰ね...何をするつもりかしら?」

「そこに立ってるだけでいい。ちょっと俺と付き合ってもらうだけさ...」

 

妖精さんから朝潮、と呼ばれてたか。その艦娘をその場へ置き去りにし、げへへ...と欲望を隠しきれぬ声を漏らしながら、獲物を狙う動物のようにゆっくりとこちらへ迫ってくる。先程の言動からなんとなく察しがついたが、やはり自分の体が目当てらしい。手をわきわきとさせているところでもう確信犯だ。朝潮は殴られた箇所に手を当てて目を瞑り、必死に痛みに耐えているように見える。

 

「...ふーん?私をやるつもりなの?」

 

小声でそう呟く。間近に迫る獣物。自分の胸に手が触れる寸前で、両手で腕を掴みー

「セ・ク・ハ・ラぁっ!」

 

 

思い切りその獣を背負い投げしてやった。投げ飛ばされる瞬間に、ふおぉおっ!?と声が聞こえたが。受け身も失敗したようで、投げ飛ばされぶつけた箇所を痛そうにさすっている。

 

「あまり女の子を舐めちゃダメよ?貴方のような男から身を守る術がある娘だっているんだから。」

「はぁ...?何が女の子だ、笑わせる...!所詮お前らは兵器だろうが...!人間の皮を被った化け物め...!」

「...兵器?」

「あぁ、そうだ...お前らは兵器さ...!沈んでもまた造れる...いくらでも替はある、俺が行けと言えば従うだけのただの動く兵器さ...!」

 

「...そう。」

「貴方、兵器の手入れを怠るとどうなると知っているかしら?」

 

「あ...?」

「例えば銃がいい例ね。手入れがしっかりされている銃は、自分が撃ってほしいタイミングで思う通りに撃ってくれる。ただ手入れがきちんとされていないと、不発したり暴発したりするの。」

「何が言いたい...!」

「貴方は私を兵器だと言うのでしょ?なら...。」

 

後ろに隠しておいた76mm速射砲を素早く取り出し、クソ野郎と呼ぶべき対象に照準を向ける。

 

「ひっ...!?」

 

「今私は十分に手入れがされていないの。私がここで暴発したとしても何も言えないわよね?」

 

銃口を突きつけられた白軍装の男は、絶望を見ているかのような顔でただ口をパクパクさせるしかしない。

 

「兵器のせいにしたとしても、それはメンテナンスを怠った貴方の責任よ?おまけに兵器なら感情も心も何もないから、貴方を殺傷しても何とも思わないの。ただ誤って発砲しただけ、それだけになるの。ねぇ、聞こえてる?何か言ったらどうなの?ねぇ?ねぇ?」

 

言葉を使ってどんどん提督と呼ばれた男を捲し立てる。相手は何も言わない。ただ恐怖で泣きそうな顔をしてこちらを見ている。

 

「...司令官から、離れろ...っ!」

 

急に声がした。そちらを向けば、朝潮が持っていたであろう主砲をこちらに向けている。痛みに耐えつつもこの男を庇うようだ。

 

「...朝潮、貴方も十分に手入れがされていないように見えるわ。その主砲、果たして撃てるのかしら?」

「...」

 

静寂が提督執務室を包む。しばらくの間むらさめは男に、朝潮はむらさめに主砲を向ける構図が出来上がっていたが、少し経つとゆっくりと朝潮が主砲を下げた。弾薬の補給がされていないのだろう。

再び絶望が支配して全く動く気配のない男に顔を向けて、こう告げる。

 

「私も朝潮も、感情がある。痛覚がある。心がある。貴方と同じように。今こうやって貴方を撃たずにいるのも、心があるから。完全に人間だとは言わないけれど、それでも私達は、人間。今はそう思っているわ。」

 

主砲を徐に下げて佇まいを直すと、補給は3人分させてもらうね、と最初の元気な声で言い残して提督執務室を後にする。

部屋から離れて階段まで来た時、どっと力を抜いてだあぁ〜...とだらしない声を出した。

 

「はぁ...あんなに感情的になってしまったの初めて...疲れたぁ...。」

「むらさめさん、おもいっきしいかくしてましたね。ぐんきいはんマシマシじゃないですかやだぁ。」

「もはや海上自衛隊に属せるのかすらも怪しいところね...と、こんなことしてる場合じゃない。早く補給物資持って村雨さんの下へ戻らなきゃ。」

「あんまりいそがなくてもいいんじゃないですー?」

「...いや、急がなきゃ。多分私達を狙いに来るわよ、あいつのことだから。」

「うわ、むらさめさんがあいつ呼びしたー。いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにーいっちゃーおー。」

「艦長妖精さん、この子CICの担当全部1人でやりたいそうですよ?」

「ちょそれはかんべんしてくださいマジですみませんでした。」

「...」

「かんちょうむくちなほうだからよけいこわい...。」

 


 

「司令官...彼女を止められず、申し訳ありません...お怪我は...?」

「俺に気安く触れるな...!クソが...」

 

むらさめが立ち去った後、手助けしに来た朝潮を一蹴しゆっくりと立ち上がる提督。未だに受け身を取れずダメージを受けた右腕が痛むようで、左手で押さえている。

 

「人間と同じ感覚を持っているから何だ...心を持っているから何だ...!人間には使えねぇ装備を持って黒色の気持ち悪い奴とドンパチしてる奴らが同じ人間な訳ねぇだろうが...!」

「...」

「...朝潮、おめぇらの姉妹とやらを呼んでこい。出撃して、奴を...人間風情の勘違い野郎を、捻り潰せ。あとあいつを連れて来た村雨と峯雲ももういらん...まとめて沈めてこい。」

「...はい。」

 

朝潮自身も痛みがまだある。ささっとは出来ないが提督に敬礼をすると、姉妹艦を呼びに提督執務室を後にした。

 


 

「補給物資持ってきたわー!」

 

別れる前に予め決めておいた合流予定の部屋へ入る。そこには快復した峯雲と、その横に村雨がいた。

 

「おかえりなさい。見た感じ...何もされなかったのね、良かった...。」

「貴女は...むらさめさん、ですね。助けてくださりありがとうございました。」

「礼には及ばないわ。早速悪いんだけど、補給を終えたらすぐに出港準備をしてくれるかしら?」

「え?それまた何で?」

「確かにあの時は何もされなかったけど、これからも何もされないわけじゃないの。」

 

そう言い終えた瞬間に、鎮守府全体の放送が入る。

 

「ー鎮守府にいる艦娘に告ぐ。今すぐ3人の艦娘を探し出して拘束しろ。対象は村雨、峯雲、そしてむらさめ型1番艦を名乗る、むらさめという奴だ。以上。」

 

「...え?え、ちょ?何したの?」

「んー、あまりにあのクソ野郎の態度がイラついちゃったから、思わず投げちゃった⭐︎」

「「は!?」」

 

すかさず2人から驚きの声が入る。

 

「そ、そんなことしたらこうなるに決まってるよ!何しちゃってるの!?」

「し、しかもそれとは無関係な私達まで巻き込まれるなんて...!」

「...テヘペロ⭐︎」

「テヘペロって訳分からないし、こんな事本当に困るんですけどぉ!うあぁんっ!」

 

村雨達のトラック泊地逃避行が始まった。




むらさめの感情が暴走しました((
絵にしたときにハイライトオフの状態で機械のように話す雰囲気を想像しながら書いていたので、あんな感じになっています。

次回は再びほうしょうの物語へ戻ります。

P.S.
毎度感想ありがとうございます!結構創作の励みになりますので、面白かった点や良いと感じた点などいっぱい書いてもらえれば3重キラ状態になれます((


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13話 ドッペルゲンガー

堀井 椎斗です。
色々とありまして少々投稿が遅くなりました。
とはいえ今後もしばらく投稿ペースがこのまま遅くなるやもしれません...。詳しいことは活動報告に書かせてもらっていますのでそちらを見ていただければ。
今回は宿毛湾泊地のほうしょうのストーリーです。いつも通り後半になるにつれて少しずつ適当になっています((


0600、宿毛湾泊地。

 

総員起床のラッパに意識が夢の中から叩き戻される。

 

「んん...うるさひ...」

 

もぞもぞと動くも、目は瞑ったまま布団から出る気配のない彼女ーほうしょう。

扉の向こうで足音を大きく鳴らしながら廊下を走っている音が聞こえる。この部屋へ向かって来ているようだ。おそらく起こしに来たのだろう。

だが今は眠気が十分に勝っている。気にせずにもう一度仰向けになり寝ようとした瞬間、瞼越しに光が入る。

 

「総員起床っぽーい!ぽぉーーーい!!」

 

ほうしょうが眠る部屋のドアを勢い良く開け、ジャンプして布団へ飛びかかる艦娘。もう一度眠ろうとしていたほうしょうの腹部へ強烈な重さの顔面ボディーブローを食らわせた。

 

「んあああぁぁぁぁっ!!???」

 

宿毛湾泊地生活2日目。早速大声をあげる羽目になった。

 


 

「ーじゃあ、そういうことだから。この後もよろしくね。」

「ぅ...あい...っ...」

 

痛みで声が出ない。大声を出した時に急いで部屋へ駆けつけてくれた時雨を、お腹をさすりながら見送る。過去最高に良い目覚め(無理やりだが)を提供してくれた彼女、夕立は時雨に襟を掴まれながら引き摺られていった。

寝癖のついた回らない頭を揺らし、ちょっとだけ眠気覚ましをしてから寝ぼけ眼で支度に入る。動作はすごいゆっくりだ。

先ほどまで寝ていた布団を畳んで枕を上に乗せる。まだ温もりがある分寝たい気持ちが膨れるのだが、これ以上寝ると先程の二の舞になりかねない。

 

「フトゥン...マクラッ」

 

眼鏡入れに入れた、あのレーダーディスプレイ付きの眼鏡をかける。ほうしょう自身そこまで視力が良くないので、これがなければ視界がかなりぼやけてしまう。

 

「ネガネッ」

 

...と、順番が逆になってしまった。一度顔を洗って眠気を更に飛ばそうと思い、眼鏡を頭に一旦ずらして洗面台で顔を洗う。水がまだ冷たく感じる時期。こういう季節にこの顔を洗うのはかなり効果がある。

 

「ミズッ...ミズッ...」

「おうスペースブラザーズのテキトーこーかおんやめーや。」

「えー、いーじゃんか。べつにこーかおんつけるのぐらいー。」

「だとしてもミズッ...ミズッ...ってなんやねん。フツーバシャバシャとかやろ。」

 

...何やらしょうもないことで妖精さん達が言い争いしているが、気にしない方がいいだろう。

髪をとかして束ねていると、艦長妖精さんから声がかかる。

 

「あいかわらず“ねぼすけ”なのです。もうすこしすっきりおきれるようにするのです。」

「簡単に言いますが、ねぇ...ふぁあ...っ。」

 

ポニーテールを作りながら欠伸。起きた時よりは全然マシだがやはり眠気は取れない。

艦娘になった世界では、ほうしょうは朝にめっぽう弱かった。先程のように布団の中に入れば何があってもずっと寝ようとするし、脳が上手く働かず、何をするにものっそりと動く。

とはいえ、元の世界でもそのような兆候はなくはなかった。普段出港する際は機関始動から最大船速まで満遍なく動いてくれるのだが、早朝に出港する日に限り機関始動から1時間経つぐらいまで、フル性能で機関が動いてくれなかった。隊員はこの現象を「ねぼすけ」と呼んでおり、早朝毎にこの現象が起きるため最早慣れてしまっていたほどだ。戦闘艦として大丈夫なのだろうか?

 

「...あれ、眼鏡...眼鏡...?」

「...あたまにかかっているのです。」

「頭...あ、本当だ...」

(まいあさこんなちょーしでこれからダイジョーブなのですか???)

 


 

時刻は0730。眠気がだいぶ飛んだところで、朝ご飯を食べに食堂へ赴く。そういえば私の紹介もそのタイミング済ませると、昨日長門が言ってたか。

食堂の扉を開いて中へ入る。朝から和気藹々と食事をしている多くの艦娘。扉が開くのを見聞きして何人か振り向いたが、見た途端に突然混乱し始めている。

 

「んぇ...鳳翔さんが2人...!?」

「...ねぇ、私目おかしくなってないよね?大丈夫だよね!?」

「ドッペルゲンガーですわ...私達、このまま消え失せやがっちゃいますの!?」

「いや、違うでしょ...!だってめっちゃ背高いし...!」

 

「...すごいいわれようなのです。」

「ま、まぁこればっかりは...ちょうどおなじなまえのかんむすがいるようですし。」

 

妖精さんや艦娘達の会話を聞き流していると、いつの間にやらこちらに来ていた長門が手を叩いて皆の注意を引く。

 

「食事中にすまないな。昨日のことだが新たな仲間が加わってくれることになった。自己紹介を頼む。」

「あ、はい。海上自衛隊第一護衛隊ならびに、昨日より宿毛湾泊地所属になった、CVL-1、軽空母のほうしょうです。不束者ですが、何卒よろしくお願いします。」

 

「海上自衛隊...?何その組織...?」

「あの大きさで軽空母...?何か勘違いしてないよね...?」

 

またもちょっとしたどよめき。今の状況を説明するならば、まるで長門が「自分は重巡洋艦だ」と言っているのと似ているので、どよめくのも仕方がないことではある。

 

「彼女だが、どうやら我々とは別の世界から来た艦娘のようだ。聞き慣れない単語に見慣れない装備、お互いに色々と苦労するかもしれない。だが、少しずつでも構わない。打ち解けあって、良い関係を築いてくれ。以上だ。」

 

話が終わり長門が先程まで座っていた席へ戻っていくのと同時に、緑色の弓道着に身を包んだ青髪の艦娘に捕まり、空母勢の集まるテーブルまで連れて行かれる。

 

「あ、あの、まだ朝食取りに行ってないのですが...」

「まぁまぁ良いじゃないですか!とにかくまずはこっちに!」

「良くはないです!」

 

引き込まれるがまま、テーブルまで着いてしまった。取りに行けなかった朝食は、強引に連れてきた艦娘が代わりに持って来てくれるようだ。そうしてくれなければ朝食抜きになってしまう。

テーブルには昨日の飛鷹隼鷹も同席していた。隼鷹は食べ終わって話し相手を待っていたかのようにしていたが、飛鷹がまだ食べ進めているようで会釈だけした。隼鷹の様子を見るに、早速規則破りが起きてはいないようでひとまず安心だ。

 

「やぁ〜、空母の集いへいらっしゃ〜い。」

「おはようございます、隼鷹さん。早速規則を破って呑んだくれていないようで良かったです。」

「ちょ、そんな信頼度低い?私?」

「昨日の今日だから仕方ないじゃない。そのぐらいのことをやったのよ。」

 

呆れたように飛鷹が口を挟む。そこへ更に割り込むように、橙色の弓道着を着た声をかけられる。

 

「ほうしょうさん!とりあえず私から質問!あ、私は航空母艦の飛龍です!」

「何でしょう?」

「何で正規空母じゃないんですか!?」

 

艦船の全長がほぼ身長に置き換わるこの世界。確かに軽空母と名乗るには、二次大戦時の艦娘からすれば身長が高すぎる。

 

「うーん...もう二次大戦から75年近く経った世界ですから、正規空母の大きさもかなり大きくなっている、と言った方が良いでしょうか?私のような艦の長さでは、軽空母としか言いようがないんです。」

「それで軽空母サイズ...ちなみに、正規空母ってどれぐらいの大きさなんですか?」

「そうですね...例えば最近出てきたアメリカのジェラルド・R・フォード級原子力空母が、全長330m近くで「「「330m!!!???」」」

 

その場で話を聞いていた飛龍、飛鷹、隼鷹がそれぞれ声を上げる。今居合わせている中で最長の飛龍でも230mほど、当時世界最大の戦艦と言われた大和や一航戦の赤城でも260mほどなので、それよりも大きいともなれば驚かないはずがない。

 

「え...ち、ちなみに排水量は...?」

「よく覚えてはないですが...確か満載の状態で10万t近くだったかと...」

「...ねぇ、私達ってそんな恐ろしい相手と相見えたの?」

「恐ロシア、アメリカ...」

「それどっちなのよ...?」

 

米海軍が保有しているニミッツ級以降の原子力空母の満載排水量は、どれも10万tを超える。これは飛龍からすれば約5倍、赤城でも約2倍の排水量に相当する。大和を持ってしてもあと3万t足りない。

 

「ちなみに10万tクラスであればアメリカに10隻程度いますね。まだまだ建造もされているみたいです。」

「もうなんでもありじゃんそんなの...」

「...なんか、米艦娘相手に『どぉよっ!』とか言えなくなってきた気がするなぁ...」

 

二次大戦時は「日刊駆逐、月刊空母」というアメリカの海軍事情を比喩する言葉があるほど、工業力が極めて優れていることはもちろん彼女たちも知っている。ただ、それが時代が過ぎればこのような形で真価を発揮されるとは思いもよらなかったようだ。

 

「お待ちどうさま〜、ついでにあの人も連れてきたよ〜って...何で飛龍死んでるの?」

「そ〜りゅ〜...っ、アメリカこわい...まんじゅうこわいよぉ〜...っ」

「この短時間で何があったの...」

 

先程無理やりこの集いへ連れてきた艦娘、蒼龍が朝食を持ってきて置いてくれたと同時に、飛龍が抱きついて訴える。飛鷹隼鷹は何やら魂が抜けたかのように呆然としている。話題に入っていない蒼龍からすれば何があったのか分からなくて当然だろう。

 

「貴女が...ほうしょうさん?」

 

声をかけられ後ろを振り向く。そこには割烹着を着た背の低くて優しい微笑みを浮かべる、そう...自分がいた。まるで母とも言うべきであろう佇まいだ。気付けば彼女が誰なのか分かっていないはずなのに口に出していた。

 

「はじめまして...鳳翔さん。」

 

側から見れば会ってはならないドッペルゲンガー。だが彼女達からすれば時代を超えて巡り会えた母と娘。どこかを疾走しているあの護衛艦に引き続き、宿毛湾でも2人が初めて邂逅した。

 

 

それからというものの、蒼龍が「こんなところ見逃してどうするの!」と飛龍を叩き起こし、鳳翔とほうしょう2人を並ばせ、何故か食堂で記念撮影会が開かれた。

皆が皆手持ちのカメラなどを持ってきて、母娘2人の写真を撮る艦娘、間に入ってテーマパークのキャラクターと一緒に撮る感覚で撮ってもらう艦娘。秋雲はスケッチを描いているし、ほうしょうの見張り妖精さんはその様子を見て横で神を崇めるが如く崇拝の土下座を繰り返している。

そんな記念会が開かれている最中に2人が口を開く。

 

 

「「ひとまず朝食を食べさせてもらって(食器を片付けさせてもらって)もよろしいでしょうか...?」」

 

まだ1日は始まったばかりだ。




次回は工廠訪問、書けたら性能評価まで行こうかなと思っています。
アンケートまた用意しましたのでよければお願いします((
あと感想も寄せていただけると私のモチベが上がります((

※ちなみにアンケートですが、選択肢にないもので何かある場合メッセージなどで飛ばしていただければ。

P.S. 嫁艦白露、進水日おめでとう。これからも艦隊の1番を目指してください((


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14話 工廠

堀井 椎斗です。
小説がなかなか筆が進まず気づいたら1ヵ月...お待たせしましてすみません。
イベントがいよいよ始まりますね。水雷戦隊熟練見張り員が手に入るとかなんとか。駆逐艦がメイン戦力の当鎮守府、必ず確保しなければ...。
今回は工廠でのお話です。


朝からずっと忙しない。

記念会の後朝食はなんとか取れたものの、羨望の眼差しで質問をどんどん押し掛けてくる彼女達に困り果てたものだ。聖徳太子でもないのだから一気に話かけないでほしい。

そんなことを思いながら廊下を歩き、次の予定に向かう。目的地は艤装の点検・整備・保管を行う場所である、宿毛湾泊地内の工廠。

長門との面会後、艤装を時雨に預けて工廠へ持っていってもらった。長門曰く、工作艦の艦娘と兵装についていろいろと話し合ってほしいとのことだそうだ。あとは管理を工廠で一括することで紛失を防ぐ狙いらしい。

 

工廠内に入って目に入ってきたのは、ラックに段々と置かれた魚雷やレーンに乗った試作段階のような主砲。デカデカと上部に掲げられた「安全第一」の文字。そして各所の掲示板に貼られた変なポスター。

「ヤード・ポンド法を滅ぼそう!」という標語に、イラストには縦長の顔のキャラクターがネジを持ち、隣でもう1人のキャラクターが「さてはインチだなオメー」という台詞を喋っている。ここで一つ気にかかったのが、自身の兵装だ。

船体は自国で建造・進水したとはいえ、兵装については米国の兵器に頼りっきりな部分が多かった。特にF-35Bについては、国籍マークを日本に変えた程度で中身に関してはほとんど変えていない。そのため、インチネジをふんだんに使用している可能性が高いのだ。F-35Bに関しての資料も、基本的に長さはフィートで、重さはポンドで書かれている。(幸い別途でメートルとグラムで表記がされているのが救いだが。)他にも輸入したハープーンミサイルも怪しい。

 

「んぉ、そこにいるのはほうしょうさんかな?」

 

声をかけられてそちらに顔を向ける。そこには魚雷磨きをしていたのだろう、顔を少し汚した魚雷を持つ艦娘がいた。作業着まで着込んで自身の兵装の手入れでもしていたのだろうか?

ほうしょうの死角、艦これ世界に精通した見張り妖精さんは大きな違和感を覚えていた。いや、違和感というには規模が小さいだろう。何かが違う。

 

「はい。ここに整備を担当している工作艦の方がいると聞いたのですが...。」

「あぁ〜、それアタシのことだね。」

 

「...へ?」

横から素っ頓狂な声が聞こえたような気がするが、おそらく気のせいだろう。

工作艦を名乗る彼女は魚雷を置いて、よっ、という掛け声と共に立ち上がると、自己紹介を始める。

 

 

「アタシは工作艦、北上。まーよろしく。」

 

 

...

 

「ふぁぁぁあああああああっ!?」

 

見張り妖精さんの極端に大きい驚きの声が工廠内で反響する。その音があまりにもうるさくて2人して耳を塞いだ。

 

「うるさ...っ!」

「うっるさっ...!」

 


 

 

「工作艦...スーパー北上様が工作艦...どうして...」

 

まるで宇宙の写真を背景にすると1つのコラ画像が完成しそうなほど、見張り妖精さんは口を開けたまま放心している。自身には分からないことだが相当ショックなものだったのだろうか?

そんなことをよそに、北上はほうしょうの装備を1つ1つ手に取って見ている。

 

「それにしてもさぁ、すごい装備持ってるよね〜これ...一目見ただけじゃ何がなんだか分からないよ。例えばこれなんかね。」

 

ほうしょうのポーチから、畳まれた白いものを取り出す。日の丸のついた雫のような形をしたものだが、勢いよく振ると展開されてハンドスピナーのような形のブーメランに変形する。

 

「艤装を預かって最初に気になったから、ちょっと触ってみたけどさ。何をしてもビクともしなかったのに、振ったらこうなるんだもん。これも何かの艦載機になるんでしょ?」

 

ほうしょうの顕現時にあった敵襲、隼鷹達との勘違い戦闘でも使用したそのブーメラン、変身前のSH-60Kだ。基本的に対潜用の艦載機であること、自身にソーナーを装備していないため海中の目はそれに依存してしまうこと、装備によっては対潜だけでなく対艦攻撃や物資・兵員輸送にも使えることなどを説明した。

 

「なるほどねぇ...陸の方であったオートジャイロってやつの発展型みたいなものかな。未来だと海軍でも持ってるんだねぇ...。お、やっぱ未来でもこれはあるんだね〜。」

 

次に興味を示したのは短魚雷だった。対潜戦闘で使われる魚雷で、ほうしょうのSH-60Kには12式が詰まれている。1世代前の97式短魚雷と比べてサイズ・重量は変わらずに、センサ部分の性能向上が図られ、沿海での迎撃がしやすくなっている。

 

「んふぅ〜...酸素魚雷が1番お気に入りだけど、魚雷はどれでもいいもんよ〜...。でもサイズがかなり小ちゃいけど、これでも未来の水上艦は潰せるの?」

 

短魚雷を撫でながら形容しがたい声を漏らした北上が、質問を投げかける。

 

「えっと、魚雷と言ってもそれはあくまで対潜戦闘用なので、水上艦に打ち込むことはあまり無いんです。...もしかしたら稀にあるかもしれませんが。」

「...ん??待って、これ潜水艦にぶち当てる用なの?というか海中にいる奴にぶち当てれるの??」

「短魚雷...でなくても、私のいた世界では魚雷の先頭にソナーが備わっているのが普通です。あとは海底にぶつかったり海面に出たりしないようにしているのと、魚雷がひとりでに蛇行したりして航海するのも普通ですね。」

「...え、何こいつ。こわー...」

 

先程までの愛でる態勢から一転、見知らぬ物を忌避するかのように魚雷を遠ざけた。

魚雷といえば対艦攻撃に用いるもの。長槍と呼ばれるほど全長が長く、長射程高威力で打ちっぱなし直進が常識のこの世界。弾頭部にソナーが付いていることはもちろんのこと、魚雷が航海パターンを持ったりまるで生き物のように海底や海面を避けたり、ましてや対潜水艦用に魚雷を使用するなど聞いたことがない。食堂で少し目にかけた時からある程度感じていたが、改めてほうしょうがいた世界相手には、ここでの常識が通じないと感じ直した。

 

その後も様々な兵装を説明してもらった。ステルス性を重視した爆装可能な戦闘機、ステルス性を若干削いでしまうことにはなるが対艦攻撃を可能にする無人ミサイル、ほうしょうが付けている眼鏡も借りて対空・対水上を索敵できるレーダーもディスプレイ越しに見せてもらった。いくつかの兵装についてはインチネジがふんだんに使用されており、見たくもないものを見てしまった顔になりながら最大限に嫌そうな声を漏らしてしまった。ほうしょうはその反応にどういった顔をすればよいのか困っていたようで、後で心の中で謝っておいた。全部を見せてもらったうえで、ずっと聞きたかったことを聞いてみる。

 

「...うーん、1つ言いたいこと言ってもいいかな?」

「? なんでしょう?」

「...ホントに()()()軽空母なんだよね?さっきから聞いていれば米軍だのアメリカだの、よく出てくるもんでさ。アメリカで建造されたものを日本が引き受けた、とかそういうのじゃないかって思ってね。」

「あー...」

 

そこを突っ込まれてしまっては何とも言えない気持ちになってしまう。空母の命といえる戦闘機は米国製のF-35Bを使用しているし、対艦ミサイルも日本仕様に改造が済んでいないためにハープーン対艦ミサイルを使用している。船体も半分米国艦艇の影響を受けたものになっているため、そう思われてしまっても仕方ないのかもしれない。

 

「確かに私の設計時に、アメリカで建造された艦艇も参考にされているので、そういった面ではアメリカの血を引き継いでいるのかもしれません。ですが、ちゃんと生まれも育ちも日本です。生粋の日本艦であると自負はしていますよ。兵装がなんで米国製が多いかは政治も絡んでくると思うのでよく分かりませんが...」

 

途中まで言いかけたところで工廠に誰かが入ってくる。振り返ると艤装を背負った時雨がいた。

 

「北上さん、準備できたけどそろそろかな...?」

「ん、おっけー。じゃあ先に演習場に入っててー。」

「分かったよ。」

 

どうやら性能評価演習の準備が完了したらしい。北上に準備完了を知らせてそのまま演習場へ向かっていった。

 

「ま、れっきとした日本の空母ってことは分かったよ。自由にうるさい国の兵器が満載で整備めんどそうだけど、やることはやるから。んじゃ、行こっか。」

「分かりました、行きましょう。」

 

ほうしょうに艤装を持たせて自分は記録用紙を持ち、演習場へ向かおうとする。

 

工廠から出るときのほうしょうの後ろ姿に、過去の自分を重ね合わせた。あの時の自分はこれで艦隊のために大きく役に立てるかもと、意気高揚としていたものだ。ほうしょうは今何を思って行こうとしているだろう?

昔は自分も重雷装巡洋艦として生きていた。酸素魚雷を持って深海棲艦に圧倒的な雷撃の弾幕をはる。多くの()()をそれで屠ってきた。

 

 

もしその中にあの子たちが含まれていなければ...これから先、ほうしょうと同じ舞台に立てたかもしれないな。

 

 

これ以上考えると自己嫌悪に陥りそうだ。意識を別に逸らして深入りしないようにしながら、ほうしょうの後ろを付いていった。




GW中なので、折角ですからもう一話を投稿したいと思っております。
明日中には多分出るかと。


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15話 性能評価

堀井 椎斗です。
1日経ってもなお小説の筆は不調のままです。
感想返信についてはまた後程行っていきますのでご了承をー...。

今回は性能評価試験の前編?になります。なかなか筆が進まないので一旦前後編で分けることにしました。


「さて、そろそろ性能評価試験はじめるよー。各所、準備はいいー?」

 

『電探係、いつでも大丈夫だよ。』

 

「電探了解ー。目標群はー?」

 

目標群、設置完了っぽ

 

最後の声が聞こえる前に無線を一旦切る北上。「あー、ぽいぬうるさーい。」と呟いているあたり、かなり大声で言っていたのだろう。再び電源を入れて確認をとる。

 

「五月雨ー、水上三角コーンの位置大丈夫ー?」

 

『はい!ばっちりで...クシュンッ!」

 

「...了解ー。ずぶ濡れになったなら今のうちに(おか)上がってきなー。」

 

三角コーンという単語を聞いた一瞬、もはやそれがアイデンティティと化した誰かの顔が頭の中によぎった気がするが、気のせいだとしておこう。

そして無線の相手は、かすかに聞こえたあの声からして五月雨だろう。また転んで濡れるドジをしてしまったのか、無線越しにくしゃみが聞こえた。あのドジっぷりは天性で備わっているものなのか...?

 

「ほうしょうさんも準備はいい?」

「はい、いつでもオーケーです。」

「了解、じゃあぼちぼち始めましょー。」

 

時刻は1000を指す頃。この世界では特異というべき、ほうしょうの性能試験がいよいよ始まった。

 


 

「最初は水上航行試験。ここから最初の三角コーンまでの間は加速区間、行けたら一杯まで出しちゃってー。その後はコーンの間を縫うように移動して、色違いのコーンの部分で反転、さっきと逆でここまで戻ってくる。こんな感じかな?ちょっと計器類とか付けてるから動きづらいかもしれないけど、まー頑張ってー。」

「分かりました。」

 

返事をして三角コーンの並ぶ海上を見渡す。今日はよく晴れた日、波も穏やかで走りやすそうだ。ちなみに今回は変身前の艦載機類は全て載せた状態で試験を行う。なんでも、満載状態でどの程度の性能が出るのか知りたいらしい。まぁ、正直まだ載せれる余裕はあるにはあるので、完全な満載とは言えないのだが。

 

「さて...準備は良いですか?やりますよ。」

「ねぼすけおこしてエンジンがふちょーとかやめてほしいのですよ?」

「艦長自らフラグを建てに行かないでください...。」

 

首を回して息を整え、リラックス。力んでしまうとパフォーマンスに影響が出る。

 

「軸ブレーキ脱!最大船速!」

「さいだいせんそー!」

 

少しだけ前かがみになって重心を移動させ、加速に備える。直後、後ろに勢いよく引っ張られる感覚とともに身体が前へ動き出した。

視界に入る海面が後ろへ動いていくのが見える。

 

「ん、出だしは良い感じ...って早!?」

 

今まで見てきた艦娘の誰よりも加速が早い。あっという間に計測器上で20kt以上の速力まで行ってしまった。機関始動から1分以内の出来事だ。

予測された加速に必要な距離を、大きく余裕をもって最大速力まであげたほうしょうはそのまま水上三角コーン地帯へ入る。

通常より少し間隔を狭めにしてあるとのことだが、旋回性能が良いのもあるが足遣いがかなり上手い。難なく間をすり抜けていき、ノーミスで反転ポイントまでたどり着いた。

 

「反転ポイント、急旋回準備オーケー?」

「きかん、そうだそうちもんだいなし!いけますよ!」

「...タイミングよし、反転!」

 

「つっこむぞ!!さんかくコーンはんてんポイント!!」

「まがる!!まがってくれほうしょう!!」

「セリフまちがってんぜみはりいん!ふねってのはまがるもんじゃねえ!」

 

「まげるもんだ!!」

 

「うっひょおおおう!!よーじょーパワードリフトはハンパじゃねぇぜぇ!!」

 

妖精さんたちが一斉に、自転車が曲がる要領で体を曲げて反転しようとしているほうしょうの体の上へ乗る。

ちなみに妖精さんが体に乗っかったところで、カーブが曲がりやすくなるだとか、重心がずれて不安定になるだとか、そういった影響は全くない。つまり、妖精さんたちがノリでやっているだけなのである。

集中していたのに気が散りそうになるこの状況に、あとで参加した妖精さん全員にオハナシでもしておこうと強く思うのだった。

 

「...なにやってんだあれ...。」

 

双眼鏡を覗いてほうしょうの反転の様子を見ていた北上は、妖精さんの行動に呆れた声を出すしかなかった。

水上電探の監視をしていた時雨も、あはは...と苦笑いを浮かべるしかなかった。

 


 

無事水上航行試験を終えて最初の地点へ戻ってきたほうしょう。結果は最高速が30kt程度で加速性能が駆逐艦並みかそれ以上、旋回性能は蛇行・反転にミスがないどころか当初の想定以上に曲がる、ということになった。そんな少々大雑把なものでいいのかと思ったが、初回の試験はだいたいそのぐらいで良いらしい。

 

「じゃー次は艦載機の性能でも見よっか。少し遠くの海上に風船を飛ばしておいたから、戦闘機でそれを撃ち落とすのと、海中に爆弾を満載したドラム缶を沈めておいたから、それをシーホークだっけ?それで撃ってみること。その2つかなー。対空は時間制限を設けて...まぁ発艦含めて20分ぐらいかな、その間でどれぐらい撃ち落とせるか。対潜は対空が終わった後に1発ずつの判定で行くからよろしくー。開始の合図はこっちで出すよ。」

「ラジャー...あ、了解です。」

「うん、英語が隠しきれてないよほうしょうさん。」

 

発艦から20分以内にかなり奥に見える風船群を撃ち落とす、となると空対空ミサイルを積ませる時間がなさそうだ。最初から積ませておけばかなり楽に済ませれそうだったが、スクランブルで発艦させて機関砲のみで対処させた方が、どのぐらいで接敵範囲まで持ち込めるか見れる点でもおそらく良いだろう。

 

「それじゃーいくよー。対空試験よーい...はじめ!」

 

試験はじめの合図とともに指でイヤホンを押し当てて指示をかける。

 

「ホット・スクランブル発動(アクティベート)急ぎ発艦準備をせよ(プリペアートゥローンチイミディエイトリー)!」

りょうかい(ラジャーザット)!」

 

レーダーディスプレイを起動し風船を対空目標群に設定する。数は50。かなり多い。さらに密集している箇所もあれば、それぞれの間がかなり開いている箇所もある。

どの順番で風船を片付けていこうか案じていると、通信が入った。

 

「ブラッドハウンド3-5。じゅんびよし(グッドトゥゴー)はっかんできます(ローンチオンレディ)。」

 

発艦準備完了の知らせを受けて、矢をクロスボウに装填し風上に向ける。

ちらっと時間を見れば大体4分が経とうとしている頃。まずまずといったところだろうか?

 

 

「演習のようなものですが、思いっきりやっちゃってください!ブラッドハウンド、発艦はじめ!」

 

クロスボウにしっかりと装填された矢は、ほうしょうの構える方向へ勢いよく射出された。




少し短いですが、なかなか筆が進みそうにないのでここで一旦止めておきます。
次回の話がいつ書きあがりそうか...。
とりあえず、この後生放送でもして一旦気分転換を図ります。

~ちょっとした雑談~
誰某さんはかく語りき総集編を購入して1日ほどで読了しました。
あの鎮守府はネタが豊富で私もあんな風にポンポンネタをぶち込めるようになりたい...。
そして最近、というか前々から思っていることですが、なかなかどれにおいても自信がつきそうにありません。自己評価が低いから?
一体どうやったら自信というものはついてくるものなんでしょう?


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16話 異世界の戦い方

堀井 椎斗です。
筆が中々進まず、書く内容も思い付かずで、ずるずると引き摺っていたら気付けばまた1ヶ月経っていました。先の内容はポンポン思いつくのですが...
イベントの進捗はどうでしょう?私は絶賛攻略中で、前段はオール甲クリア、後段は乙乙でE5-3ギミック解放中です。
あと2週間ほどでイベントが終了すると聞いて結構焦ってます。掘りの時間が...

今回は対空試験です。対潜試験まで書こうかとも思ってましたが、前述の通り筆が進まないのでまた細かく分割します。


「うえぇ...こういう教練めんどくさい...」

「そう言うなって3-4、前のような実戦じゃないからまだ全然マシな方だぞ。」

「そーだけどさぁ...」

 

「3-3、3-4。入感感度確認、送れ。」

「3-3、バッチリ聞こえてますぜー隊長。」

「3-4、コピー...」

「よし、今回は対空目標が50だ。各個機銃で撃ち破っていけ。風船が相手だからと体当たりするのは禁止だ。」

「仮想敵機に誰も幸せなキスなんざしようと思わんですけどね...」

「コメくいてー...」

「さっき食ったのにもう飯かよ...」

「3-4、もしこの対空教練で撃墜王になれたら、間宮券をやるぞ。」

「...俄然やる気が出てきました。ここは譲れません。」

 

急加速で我先にと風船を撃ち破りに行った3-4。

 

「ほんっと飯が関わると人が変わるよなぁ!?」

「遅れるな3-3、エンゲージ!」

 

後を追いかけるように3-3、3-5も各個風船を撃破しに散開した。

 

 

ほうしょうから発艦した10機のF-35Bは、瞬く間に1つ、また1つと風船が撃ち破る。機銃の精度や連射能力が良いことはさることながら、何より風船間の距離が空いた場所での、風船を撃ち破るまでのインターバルが他に類を見ないほど早い。

少し時間が経った頃には、風船の残りは半分を数えないほどにまで減ってしまった。

 

「あれが爆戦だなんて、考えられもしないねぇ...」

 

双眼鏡を目に当て、戦闘隊の様子を見ながら独り言を呟く北上。今まで知っていたジェット航空機といえば、陸の秋水と海の橘花ぐらいだ。だが両者の開発コンセプトは大いに異なっており、用途も性能もまるで相反している。今見せられているあの航空機は、まさにその相反しているものがうまく混ざり合わさった技術の結晶と言っても良い。

 

「時雨、電探の反応はどう?」

「...やっぱりだめだ。全然反応しないや。」

 

ほうしょう自身の姿は水上電探で捉えてはいるのだが、ほうしょうが飛ばす艦載機は発艦時点からずっと対空電探に映らない。ステルス性を重視しつつ、対地・対艦・対空全てにおいて使用できる多用途の戦闘機。異世界ではこんな戦闘機を電探に収めようとしているのだろうか?

 

「...これが異世界の戦い方、か...」

 

空を仰ぎながらぽつりとまた独り呟く。この世界では考えられもしなかった兵器・戦術・思想が、ほうしょうには集約されている。最先端を行き過ぎる彼女がこの先の戦場にもたらすのは、全てを丸く解決させてくれる平和な世界か、それとも摂理を無視しすぎたが故に訪れる混沌の世界か。北上には想像がつきそうもなかった。

 

 

風船の数が残り10個を数える頃になった頃。発艦からのモチベーションを下げることなく、10機は撃墜を続けた。

ブラッドハウンド隊長機の3-5は、残り数が少ない地域で次の風船に狙いをつけていた。トリガーに指をかけて照準を風船のど真ん中に合わせる。

 

「...ここだ!」

 

機体下の機関銃が音を立てて発砲する。それと同時...ではなく直前に風船が破裂するのと、横から風船にあった場所への弾道が見えた。

すかさず見えた方向と反対へ機体を傾け衝突回避を図る。数秒の間に一機が近くを通り過ぎた音が微かに聞こえた。と同時に無線に声が入る。

 

『ごめんあそばせぇ〜〜〜!!!』

「...またお前か、フィッシャー。」

『あら、まるでヘッドオンの状況にあって窮地な味方を助けたことに、感謝の言葉はなくて?ハウンド。』

「風船だとどの角度でもヘッドオンのようなもんだろ...」

 

深海棲艦撃沈時はブラッドハウンド隊に追従していたため目立たなかったが、今回はブラッドハウンド隊とは別でキングフィッシャー隊が5機編成されている。

そのフィッシャー隊の隊長とも呼べるのが、お嬢様言葉で話しているこのパイロット妖精さん。なお元世界での性別は男である。

 

「というか、そっちにも目標はあっただろ。わざわざ俺の戦果を奪いに来たな?」

『どこかの大食い小僧のお陰で、わたくしのフルコースが全部食われちまってですわ。隣の芝生が青いのであれば分捕りに行くまででしてよ!』

「...どんだけ飯に貪欲なんだ、あいつ。」

『人の金で食う焼肉は最k「お前には聞いてねぇ。」

 

「あと俺が気付かなかったらさっきの衝突してたぞ。危ない綱渡りに俺を巻き込むな。」

『まぁ、あくまで貴方を信頼して撃ってますわ。どんな状況でも周りをよく見れる冷静な御方ですからね。』

「...そらどうも。」

 

最近規則違反を起こしたばかりなのだが、これは皮肉のこもっていない純粋な褒め言葉として受け取った方が良いのだろうか。複雑な気分になった。

 


 

「最後の目標に命中、対空試験やめ!艦載機は帰投させちゃってね〜。」

「はい、分かりました。えっと...全戦闘機(オールファイターズ)任務は完了です(ミッションアコンプリッシュド)今すぐ帰投(リターントゥベース)...」

 

よく分からない英語を片耳で聞きながら、手に持っていたタイマーの残り時間を確認する。表示されていた残り時間は、普通の零戦搭乗員はおろか、熟練の零戦使い、ましてやネームドと呼ばれる精鋭の部隊ですら出し得ない記録だった。いや、そもそもジェット機とレシプロ機という、土俵が違いすぎるものを並べて比較するのは無意味なことかもしれないが。それでも当初の想定では、記録が残っているネームド部隊の時間よりも数分程度早い、というものだった。それを大幅に上回る、15分を切る記録。機体の性能はもちろん段違いだが、それを扱うパイロットの熟練度も相当なものだということだろうか?次回もまた対空試験をする時は、ほうしょう用に少し内容を見直したほうが良いなと思った。

 

「さて、次は対潜試験だね〜。その魚雷、どこまで強いのか見せてもらうよ〜。」

 

気を取り直して対潜試験に移る。見せてもらったあの短魚雷というものが、どれ程のものかこの目で見れる、楽しみでもあれば少し恐ろしくもある、複雑な心境で考えついた台詞を言葉に放つのだった。

 


 

「...ぽい?」

 

時を同じくして海上から見学していた夕立。対空試験で見たこともなかった戦闘を見させてもらい、次の対潜試験に備えてソナーを準備していたところ。水平線の向こうから誰かが何かを訴えているような感覚がする。

 

「...通信兵さん、モールスを聞かせて欲しいっぽい。」

「ちょっとまっててくださいねーっと...」

 

無線を聞けば何かが聞こえるだろうか。すぐに受信機の起動が完了し、モールスの音波を拾い始める。

ザーという雑音の嵐。周波数を少しずつ変えながら、注意深く嵐に紛れた声を聞く。

 

『...P......N...、こt......あ.........』

「何か聞こえるけど...受信機の調子悪いっぽい?」

「...みたいですねー、そろそろじゅみょうかもしれません。」

「うーん...少し引っかかるけど、聞き取れないなら仕方ないっぽい。そんなに重要でもないと思うから、あとで北上さんにそれだけ言っておくっぽい。」

 

発信元不明、要件も何を伝えたいのか分からなかったこのモールスは、一旦放っておかれることになった。




〜ちょっとした雑談〜
コラボ小説が書かれているのを見ると、私も書いてみたいという気持ちにはなります。ただ題材が題材なので中々。
自分への自信のなさは未だ健在です。むしろ悪化してます。めんどくさい御仁ですねこの方は((


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17話 対潜掃討

堀井 椎斗です。
先の話はポンポン出てくるのに今書いている話をどう進めるかについて全然構想が固まらない現象に陥っています。悲しきかな。

対潜戦闘のお話です。
内容の完成度はあまり突っ込まないでほしいです。



 

『ひゃっはああああ!うちらドルフィン隊や、そこどきゃああ!!進め進めえええ!!』

「なんだこのテンション高いの。」

「んまぁ...あいつキャラが不安定だから...」

 

対潜試験開始後、ほうしょうから発艦したシーホーク5機は、対潜用の魚雷を抱えながら洋上を進んでいく。

ドルフィン隊、というのはSH-60Kを操るパイロット妖精さん達が付けた編隊名だ。

F-35の方は小隊ごとに名前があるのにSH-60Kの方は愛称だけで無名の小隊なのは嫌だと、ほうしょうに駄々捏ねて(交渉して)付けてもらったらしい。

 

今回の対潜試験は爆薬とともに沈められたドラム缶を擬似潜水艦と見做し、1つずつ潰していくのが目的だ。一応今回の試験では時間制限こそないが、現実に即して考えれば素早く無力化しなくてはならない。万一もたもたして仕留めあぐねれば、輸送艦をはじめとした水上艦がやられてしまう。水上艦がやられてしまえば、特に日本においてはそれこそ物資が欠乏していき、心臓を止められたような状態になる。

 

「索敵用意、ソーナー降ろせー!」

「ソーナー降ろーせー。」

 

ディッピングソーナーが海面へ向けて降ろされる。降ろされたソーナーは自ら音を出し、目標の捜索を始める。

相手が現代の潜水艦である場合、探知されないために表面に無反響材を使用していることもあり、捜索は難しくもある。ただ、今回は何の変哲もないドラム缶がターゲットだ。無反響材を使ってるわけでもなければ響きにくい塗装が施されているわけでもない。それ故に反響音がものすごく響く。

 

「ソーナー探知ー、ドップラー高いー。」

「数は?」

「近距離に2つー。方位70と280ー。」

「よーし、こいつの力を見せてやれ!方位70の敵、短魚雷用意!てー!」

「痛いのをぶっ込んでやるぜ!」

 

妖精さんたちの合図とともにSH-60Kから短魚雷が切り離される。切り離された短魚雷は海面に打ち付けられた後、目標へ自走を開始する。

 

「ソノブイ回収、もう一つのやつも狙うぞ!」

『...あー、あー。テステス。うちがもいっこ狙っとこかー?』

「ん、すぐに撃てるなら頼みたい。」

『よし、んじゃあちょっち待っときゃー。すぐ沈めたるから。』

 

 

「君らぁ、聞いてたな!短魚雷用意!目標、僚機の左にいるやっちゃ!観測員、うちらの向く方位間違えてないな!?」

「方位、間違いなしでっせー。」

「よっしゃ!ささっとぶっ潰してまえー!」

「短魚雷用意、撃てぇ!」

 

僚機のソノブイから得られた情報を元に、近くにいたもう1機が短魚雷を撃ち込む。それぞれの魚雷は落ちた瞬間に指向していた方面へ向けて、アクティブソーナーを放ちながら海中を進んでいく。一つは深度をほぼ変えずに進み、一つは更に深くへ。数十秒経った後、二つの水柱が海面に立った。

 

「うぉー...こりゃド派手な海中花火だ。」

「炸薬どんぐらい詰めてたんだあれ...ともかく、戦果確認。急げ。」

 


 

一方、離れた場所では艦娘たちも一部始終を目撃していた。

 

「SH-60K...別名“シーホーク(海の鷹)”とも呼ばれてるみたいだけど、どんな戦い方を今度は見せてくれるぅ...?」

 

双眼鏡でSH-60Kを追う北上の隣では、時雨が聴音機を耳に当てながら機器類のチェックをしていた。

ドラム缶の中には炸薬が詰められているのはもちろんだが、目視や水中聴音で完全に撃沈したかどうかの判別が付きにくいため、小型の豆電球と乾電池、ソーラーパネルや単音を発し続けるモールス信号機などをぎゅうぎゅうに詰め込んでおり、モールスの音が消えたかによって撃沈判定をしている。モールスの音もバラバラになるよう事前に北上が調整しているため、判別もしやすい。

 

「お、何か降ろした...多分ほうしょうさんが言ってた探信儀かな。どのぐらい聞こえるか耳澄ませておいてね〜。」

 

北上の呼びかけに頷きを返す時雨。SH-60Kから降ろされたソーナーが海中に入ってから数十秒経ったぐらいだろうか。九三式水中聴音機でディッピングソーナーから発されたソーナー音を観測する。だがその音量は今まで聴いたものよりもかつてなく大きなものだった。

 

「うぅ...ちょっと耳やられそうかも...。」

 

片耳から聞こえて来る音に集中していたため、突然の大音量に思わず聴音器を耳から遠ざける。離された聴音器から思い切り音漏れするソーナー音は、少し離れた北上にも聞こえていた。

 

「うへぇー...こりゃ”死の宣告“だー...私が潜水艦なら絶対これだけは聞きたくないわー...」

 

ソーナーで敵を探知できたのか、SH-60Kから魚雷が切り離され、海面へ自由落下させる。

その後、先程と同等程度のソーナー音が聴音器ごしに聞こえて来る。ただ、ソーナーを落としていたSH-60Kは既にソーナーを巻き上げている最中だ。他の機体もソーナーを落としているものはない。そうなればつまり...

 

「...ほんとに魚雷から探信音出してるんだ...ひぇー、これはおそろし...」

「え...?魚雷から探信音...?」

「そ。ほうしょうさんが言うには、あのオートジャイロ、んまぁヘリって言った方がいいのかな。それが持ってる魚雷には探信儀が積まれてて、自分で潜水艦を探して倒すんだってさー。そんなの相手にしたくないよねー...」

「へ...へぇ...?」

 

時雨もひとつ聞いただけでは何が何だかという顔をしている。北上以外は、ほうしょうの戦闘能力について何も知らない状態で来ているのだから、それもそのはずだろう。

ここで思わぬ行動を見かける。ソーナーを下ろしていた機のすぐ近くにいた別の機が、今度はソーナーを下ろすことなく魚雷を投下した。

 

「...ん、え、ちょ?何も索敵なしで切り離すの?まさか缶1つに2本攻め?でもそれ禁じ手だったよねぇ...?」

 

事前に通達したルールでは、攻撃は1度のみ。単騎の性能を確認するためにも、複数による攻撃は認めていない。そのルールを無視して試験に臨んでいるとは思ってはいないのだが、ただ目撃したことに対する予想の処理が追いついていない。

 

処理が追いつかないところへ、2つの水柱が上がった。それとほぼ時を同じくして、不協和音を奏でていたモールスからいくつか音が消え、三重奏に変わる。

 

「ドラム缶、2つとも撃沈したみたいだよ。...って、北上さん?」

「...あ、あばば...?」

 

処理能力を一時的にオーバーして、口を開いたまま反応できないほど呆然している北上が少しの時間見られた。

 

その後も各機は目標を発見しては一発で仕留めていく。一撃必殺。この世界ではそんな芸当はまともに出来る試しがないのだが、さも当たり前のように短魚雷を落としては、落とした数だけ確実に潰していくのだ。

 

「ぽいー...」

 

時雨同様、夕立も起きていることが分からないまま遠くから対戦試験をするSH-60Kたちを眺める。あれが未来で繰り広げられる対潜戦闘の一部分。ふと、自分もあの装備を乗せれたら、もっと強くなるのかなと一瞬思ったが、そもそも駆逐艦には水上機自体を乗せるスペースはない。高望みだというのは分かっていたのでその考えはすぐに飛ばしてしまった。ただ自分の名を冠した艦が、元の世界で同じようにSH-60Kを飛ばしていると知るのはまだ先の話。

 


 

あっという間に5つの目標を仕留め上げ、着艦作業も終えたほうしょうは北上の元へきていた。のだが...

 

「...あの、北上さん...?」

「ばばば...あば...あばばば...」

 

「...1つ目のドラム缶を撃沈させてから、ずっとこんな調子なんだ。まともに会話ができそうにないし...とりあえずこの後何か試験あっても記録に影響するから延期したって言っておくね。」

「そうしていただけると助かります。おそらくこうしても...」

 

「ぶぶ...うぶぶ...ぶ...?」

 

北上の両頬を手で軽くつねってみるほうしょう。もちろんつねれば声音も変わるし言葉も聞き取りづらくなるのは分かっていたが、北上のその様子が少し可笑しくて、思わずちょっとだけ吹き出してしまうのだった。

 




性能試験は特に書きたいものがない限りはこれで終わりです。
次の話は何を書きましょうかねぇ...
むらさめ視点かほうしょう視点、どちらが見たいかアンケートに参加してくれると助かります。

ちなみにこれとは別で文字数ノルマを度外視した適当な連載小説を一個書いています。
長編小説等はまだお待ちを。
あと更新がないなと思ったら活動報告を見てくれれば、ちょくちょく更新してたりします。生存してるかどうかの指標に。


P.S. もう1か月前の話ですが、22歳になってしまいました。時間の流れがどんどん早くなっていく...


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18話 戦術転換の打診

堀井 椎斗です。
前回のアンケートありがとうございました。
むらさめ視点でのストーリーが読みたいという方が少し多かったようですが、その前に入れておきたいものがあったので、今回もほうしょう側になります。
割と筆は進んだので1ヶ月ペースには間に合いました。
なんとか立て直せるといいな(願望)


「—ひとまずそうするしか道はないだろうが、これで納得してくれるだろうか...?」

「納得させるしかありません。圧倒的にほうしょうさんの装備と今の私たちでの装備では技術的な格差がありすぎて、兵装を補充すること自体がまず難しいのもあります。あと、性能試験だけでも予想を遥かに上回る資材を使ったのですから、こうするしか道が...。」

 

ほうしょうの性能試験から数日後。執務室では長門と大淀が、今回の性能試験や偶発戦闘の際にいた艦娘からの聞き込みで判明した戦闘能力、評価項目の結果、並びに使用資材量などが記載された、北上からの調査報告書を見ながら頭を悩ませていた。

 

今回あがった北上の報告書を要約すると、次のようになる。

 

まず、ほうしょう自身、ならびにほうしょうが持っている装備の性能。これらについては、この世界ではありえないほどの戦闘能力を有していることが判明した。基本的にほうしょうの持つ艦載機の武装は全て、敵に対する誘導機能を持っており、一度引き金を引けばこの世界ではまず外れないと言える。対空試験では今回は機銃のみを使用していたが、いつか見た噴進航空機と同等かそれ以上の航行速度があり、且つ操縦パイロットも腕が良いため決まった目標をほぼ確実に仕留めることが可能である。対潜試験では魚雷そのものが海中に対する目標への追尾機能を有しており、敵側の視点で考えれば索敵で見つかった場合は死を意味している。

両機とも滞空能力があり、これによってほうしょう自身の甲板に制動索がなくても問題なく着艦ができる。甲板に多少の被害があったとしても、よほど穴だらけでなければ発着艦に影響はないと思われる。ただし、F-35Bから発せられる着艦時の熱は非常に高熱で、通常の甲板を使用すると焼けてしまうため、もし緊急時などで他の艦娘に着艦せざるを得ない時のためにも、何かしらの対策を施す必要がありそうだ。

また、ほうしょう自身の性能も目を見張るものがある。軽空母ながら駆逐艦のような動きを見せてくれるが、特に特筆すべきは加速力だ。0スタートで競走させた場合、立ち上がりで追いつく艦娘はほとんどいないと思われる。最高速は高速戦艦並みの速度が出ているが、転回半径は高速戦艦のそれよりも小さく、駆逐艦のターンを彷彿とさせる。おそらく装甲を極限まで落としているため、軽く動かすことができるのだろう。今後機がある際に被弾テストを行う予定でいるが、逆を返せば装甲が薄すぎるのはかなりの弱点だ。魚雷はもちろんのことだが、おそらく駆逐艦の主砲でも危険な可能性がある。だがあくまでほうしょうは軽空母だ。航空戦力で接近される前に無力化出来ると思われる。そのためこの弱点は毎回露呈するものではないだろう。

 

性能面ではもはや右に出るものは、この泊地はおろか全世界を見渡してもいないと考えられる。

しかしこのまま運用させた場合、この泊地にかなりの負担がかかり、最悪の場合ほうしょう自身も今在籍している艦娘たちも共倒れになる可能性が高い。

まず急務で解決すべきは資材の消費量だ。今回の性能試験だけでも、全力出撃して帰還してきた重巡洋艦並みの資源量が消費された。数回のみでもほうしょうが全力で出た場合、たちまち泊地の資材のやり繰りが立ち行かなくなる可能性が十分にある。基本は出撃不可、出したとしても兵装を使用しない航海のみに制限すべきだ。

また先述で我々とは一線を画す性能を持っていると述べたが、これは即ち技術差が激しすぎて十分な兵装補充もできないということ。追尾機能のついた噴進弾は緊急時を除いて使用を禁止すべきである。ただし禁止しただけで何も代替案を用意しなければ、ほうしょう艦載機の攻撃手段が残されなくなってしまう。そのため、九一式航空魚雷や500kg爆弾などを使用した、こちらでの通常の攻撃方法にシフトさせるべきであることを進言する。工廠側でもできる限り兵装補充が出来るよう優先的に開発を行ってみるが、十分な補給ができるようになるまでどれほどの月日がかかるか想定は現時点で不可能だ。航空機の補修は可能であるが、補修すればするほどこの航空機が持ち得る長所を徐々に奪う可能性がある。出来る限り被弾をしない立ち回りを心掛けるようほうしょうと相談する必要がある。

 

以上が今回北上からの提出された報告書の概要である。

 

長門からすれば、目下の敵が周囲に多すぎる状況で、せめても泊地周辺の安全だけは確保したい今、戦力の増強はどうしてもやりたかった。特に、ほうしょうという強力な助っ人が来たのであれば尚更だ。だが大淀から言わせれば、ただでさえ上手く回らせるのに一苦労な資材のやり繰りを、大喰らいされた暁には確実に全てが破綻する。

周辺の状況は長門がよく理解しており、必要な武装を考えるのは長門に任せている。そこからどれほど消費量を削れるか。今後毎回頭を悩ませることになるだろう。大淀はため息をついた。

 

「ひとまず、現状をほうしょうに説明した上で聞いてみないと何も始まらん。呼んでから悩めばいいさ。」

「...分かりました。とりあえず呼ぶことにしましょう。」

 

こうして大淀はほうしょうを呼び出しに、一度執務室を退室した。

 


 

その頃、ほうしょうは何をしているかといえば...泊地の海岸にて。

「—あっつあああああっ!!!」

 

またもやクロスボウを借りられており、発艦後の熱に指をやられた艦娘を見て、やれやれと言いたそうな顔をしていた。

 

「なんで誰も私が注意する前に触っちゃうのでしょう...。」

「まぁ、みんなからすれば珍しいですし...おすし...。」

 

真横で何と言えばいいのか、苦笑いを浮かべる蒼龍。今回被害に遭っていたのは飛龍だった。

ほうしょうに発着艦を間近で見せてほしいとお願いしたところ、実際に間近で見せてもらえることになり。見たことない艦載機にあり得ない着艦方法、そして弓で射るよりも速く、クロスボウから放たれる艦載機の矢。全てが初めて見るもので、好奇心で心を掌握された飛龍は目をキラキラさせながら、艤装を持たせて欲しいと頼み込んだ。

いいですけど...と言いながら、クロスボウを貸し出したほうしょうの忠告を聞くことなく、即座に弦を触って今この状況である。

 

「—あ、ここにいたんですね。ほうしょうさん、長門が呼んでいますので執務室へお願いします。」

「あ、分かりました...えっと、とりあえずその指は火傷の初期治療をしておいてくださいね?」

 

飛龍を心配しながらクロスボウを返してもらい、工廠に寄って艤装を置いてから大淀とともに執務室へ向かうのだった。

 


 

数分後、提督執務室に呼ばれたほうしょうは、長門・大淀にその件を伝えられた。その話を聞いたほうしょうは難しい顔をして黙り込んでしまう。

現在身寄りをしているほうしょうからすれば、力になれることは出来る限りのことをしたいと考えている。だが、あくまでほうしょうの兵装は()()()のものだ。この世界の日本のものではない。

今の時点では同盟でも何でもないここの日本の整備に任せて、果たして良いかと言われればどうだろうか。むしろ伴う危険が大きすぎる。改造と称して一度分解され、その技術を盗まれてはこちらの機密に関する情報漏洩も甚だしい。性能試験をされてしまった段階で情報漏洩なのかも分からないが、仮にそうだとした場合これ以上の漏洩は防ぎたい。また、分解された後再度組み立てが出来るという保証もない。根本的に技術レベルが違うため、分解してしまったが最後になる事態も予測できる。

 

「少し、時間をいただいてもよろしいでしょうか...。海上自衛隊として動いている以上、考えることが多すぎてここで答えを出すのはかなりハードです...。」

 

何も考え無しに答えを出してしまっては、後々に多大な影響が出かねないと判断して、回答は一度待ってもらうよう伝える。

 

「分かった。少しだけ待つとしよう。だがあまり遅くならないでくれるとありがたい。我々の今後の動きにも関わることだからな。」

「特に資材については早急に解決しなくてはなりません。ここの泊地の現状ではー...」

 

再び大淀からしばらく説明を受ける。

 

と、同時にほうしょうは違和感を覚えた。

先程から資材の話がよく出てくるが、深海棲艦に日本が脅かされている今、本土防衛の一拠点であるはずのここが、資材にここまで神経を使わなくても良いのでは、と思ったからだ。

日本海軍からすれば、日本本土に敵が接近するなど起こしたくない話だ。陸続きの敵勢力があるならまだしも、周りを海洋で囲まれたこの国では、海からしか侵入経路がないため、海が絶対的な防衛ラインとも言える。

そうなれば、日本近海を守るこの宿毛湾泊地にも、いざという際に即応できるよう何かしらの援助があってもおかしくないのだが、援助どころか海軍の名前すら出てこない。

 

「気になったのですが、何故資材のマネジメントにここまで困る必要があるのですか?同じ日本海軍なら、上に依頼すれば少しは資材をもらえるのでは...。」

 

そう言った直後の長門と大淀の様子は、張り詰めた空気が漂ったようにも見えた。お互いが何かを確認する様に目を合わせて、再びこちらに向き直ると、長門から言葉が発せられる。

 

「今私たちがいるのは、()()()()()()()()()()()()()()んだ。」

「....え?それはどういうー」

「悪いが、これ以上話せるものは今はない。分かってくれ...。」

 

そう言って以降、この一連の議論で長門から言葉が発せられることは二度と無かった。




次回もおそらくほうしょう側、その次にやっとむらさめ側の予定です。
むらさめ好きって方がいましたら、もう少しだけお待ちくださいお願いします何でもしますから!(何でもするとは言っていない)


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19話 夢

お久しぶりです。堀井 椎斗です。
まずは6ヵ月間お待たせして申し訳ありません。

度重なるゲームイベントの攻略、増えてきた仕事の処理、創作意欲と自信の無さに苛まれていたらこんなに時間が過ぎていました。
この小説自体は捨ててないので、今後極端にペースが上下すると思いますが、ご容赦いただければと思います。


さて、長らくブランクが開き設定も見返しながら執筆したので、多少おかしくなっているかもしれません。それでも良ければお楽しみいただければと思います。ほうしょう視点です。



 

 

 

 

 

—大きく揺さぶられるような感覚。何かを押し分けて進む感覚。

 

 

 

つい先日と似たような感覚だ。何も見えないが、目を閉じている感覚はある。

 

 

自身の目をゆっくりと開くと、そこには見慣れた光景があった。

 

目前に広がる、大きな甲板。駐機している航空機の羽が下の方にちらっと見えている。

腕の感覚などはない。足も。体が随分と重たい。自分で身動きを取ることはできないようだ。

 

 

—懐かしい。

 

どうやらこれは転生前の自身。軽空母「ほうしょう」の艦体。

雷に打たれて束の間の夢でも見ていたのだろうか。元の世界に戻ってきたような“感覚”だ。

 

そう、感覚だけは。

 

 

何やら周りの空は赤黒いし、一寸先は闇と言わんばかりに黒い霧が立ち込めている。

こんな空間、元の世界にあるはずがない。よっぽどの気象条件がー、とも考えたが、こんな黒い霧など存在するものか。しかも夕焼けで一部が赤くなっているのならまだ分かるが、周りを見る限りでは全体が赤黒い。

 

—と、周りを見渡して気付いた。

すぐ近くにはもう一つ、見覚えのある護衛艦が同じく航行していた。

艦番号101。護衛艦「むらさめ」。

見通しが悪いためか、かなり密になって行動しているようだ。レーダーはどうも生きているようだから、そこまで接近しなくてもいいと思うのだが...。

 

「—あたごからの応答、未だありません。」

「無線機でも壊れたのか...?とにかく連絡を取り続けろ。どんな手段でもだ。」

 

艦橋やCDCでは、今までのように妖精ではない、人の姿の乗組員が忙しなく動いている。この姿で見るのもかなり久々な気がする。

どうやらむらさめ以外の艦とは連絡が取れないようだ。そういえば他の艦は無事にあの低気圧を乗り越えられたのだろうか?

レーダーを確認してみるが、そこには自身以外にすぐ近くのむらさめと、少し離れた位置にいるあたごしか影が映っていない。確か他にも艦はいたはずなのだが...その艦たちは一体どうしたというのだろうか?

 

「...ッ!!?FCRコンタクト!方向は...『あたご』の方面から!」

「は?あいつ何を考えている!?こちらは味方だぞ!?」

 

CDC内クルーの1人の怒号が響き渡る。だがそれはこの艦内のクルーに向けてではない。とち狂った味方艦船への焦りと怒りだ。

艦長から落ち着くのです、と声が掛けられ、すぐに対空戦闘用意の下令が下される。

だが、それからわずか数秒後。

 

「『あたご』から、小型目標分離!高速で本艦に近付く!!」

 

先程から信じ難いような会話がこちらにも届く。素早い小型目標といえば、あたごが持っている武装的に主砲弾か対艦ミサイルかだろう。主砲弾でも当たりどころでは過貫通を引き起こすか、格納庫内の燃料か機体に着弾する可能性も有り得る。だがそれで狙うには、この距離ではあまりにも運任せな要素がミサイルに比べて多い。そうなれば撃ってくるのは被弾時に確実にダメージを与えられるミサイル—。

 

「対空戦闘用意!これは演習ではない!繰り返す、これは演習ではない!甲板要員は速やかに艦内へ退避せよ!」

 

状況的にはおそらく演習海域にいるのに、やることは演習ではないなど、とんだ皮肉である。

 

「目標2発、真っ直ぐ突っ込んでくる!到達まで、20秒!」

「SeaRAM、CIWS、フルオート!」

 

すぐ隣にむらさめがいるおかげで、ミサイルが向かってくる方向へしか回避行動が取れそうにない。突然の対空戦闘でむらさめ側も準備が今整ったところらしい。だが、この距離まで来られてしまえば、EAもシースパローも、もう遅い。

 

「...衝撃に備え!」

 

時間の進みがどんどん遅くなってゆく。高度を上げてから、甲板目掛けて突っ込んでくるミサイルが目視で見える。CIWSの弾幕を掻い潜り、無機質な白い矢は、死を届けにやってくる。決して逃れることの出来ないその時が、すぐそこに—

 

 

 

 

 

「...っ!」

 

随分と見たくない光景を見させられた。同じく国を守るために行動を共にした味方に裏切られ、真っ先に沈められそうになる夢だとは。

 

「はぁ...はぁ...」

 

目が覚めてから動悸がひどい。息も少しばかり落ち着かない。

眠気も飛んでしまった上に、今は再び夢の世界に飛ぶ気分にはなれない。

この日は寝起きの悪いほうしょうが珍しく、叩き起こされず自ら起き上がれた日になった。

 


 

早い時間から食堂に向かったら、鳳翔には驚かれた。だが普段から他の艦娘たちとは少し遅い時間に、眠たそうな顔で来る様子を見ているのだから、当然の反応と言われれば当然の反応だ。

不吉な夢を見させられた以外は、特に不調をきたしてるわけでもない。何故かは分からないけど早く目が覚めた、と適当に流して、早めの朝食を済ませた。

さて、そこから先は特に今日も何も大きな出来事はない。長門から提案された、武装・戦術の変更について考える時間だけがただあるだけ。

 

 

 

一応少し考えて答えは出したのだ。

Noという方向で。

 

まず、自分が装備している武装と今回提案された武装では、あまりにも格差がありすぎるのだ。技術面での格差は言わずもがな、戦術面でも大きな格差がありすぎる。

現代戦闘は基本視界外戦闘である。レーダーに映る敵機・敵艦に向けてミサイルを放ち、ある程度敵の方向へミサイルを誘導してあげたら反転し、撃たれたであろう相手からのミサイルを回避する。戦闘機同士が撃墜するまで撃ち合うことも多くない。ただでさえ目で捉えることの出来ない距離で戦闘を繰り広げるのだから、撃墜できたらそれはそれで副産物、というレベルだ。

一方、二次大戦時の戦闘は基本肉薄戦闘(ドッグファイト)だ。もちろん当たらないための操縦もあるが、とにかく機銃の当たる距離まで—。とにかく魚雷を確実に当てれる距離まで—。自分の命を賭した殴り込みだ。どちらかが息絶えるまで続くことが多い。

仮に提案を受け入れて、訓練でその格差を埋めようとしても、明らかに時間がかかりすぎる。

 

また、操縦面でも大きく異なる部分がある。一番大きなものは着艦だろう。

確かに二次対戦時の機体を使えば、自身に万が一があった時に他の艦娘の下へ避難させることができる。だが、短い滑走路目掛けて急降下し、ワイヤーに引っ掛けて機体に急制動をかける、”制御された墜落“と称される着艦を行うのは容易くない。それ相応の訓練が必要だ。

余談とすれば、ほうしょうの艦載機にF-35Bが採用されたのには、実はその着艦訓練に割かれる時間を省くというものもあった。長らく空母を持たなかった戦後日本の自衛隊。海自に戦闘機使いがいるわけでもなければ、まともな空母着艦を行ったことのある空自パイロットがいるわけでもない。

そんなパイロット達を、発艦着艦のできる空母搭乗員へ再教育し、F/A-18やF-35Cを導入する。そのための膨大な時間や予算を設けるぐらいであれば、最初からヘリのようにホバリングできて着艦動作が容易なF-35Bを導入した方が、空自パイロットの再養成も最短で済み、自分達の給料を取られない(昨今の事情にぴったりな)のではないか、という官僚の選択だった。

 

敵はこちらの事情を汲んで待ってくれるはずなどない。今の時点でもかなりこの泊地の状況は芳しくないのだから、今この転換を受け入れるのはかえって手間も負担も増えるし、時間も足りない。そう考えてNoの判断を下した。

だが、Noと言うからにはいくらか代案も必要だ。代案もなしにひたすらNoと言うだけなら簡単だが、それではまともに議論も成り立たないし、今後どうしたいというビジョンも示せない。

 

そういえば、元の世界の日本もどこかの機関が同じような状態だったか。ろくに修正点や代案を出さず、ただ相手の出した案に反対しか言わない組織に邪魔されている。まともに議論が出来ないまま採択まで進んでいることが近頃は多かったようで、直接的にも間接的にも巻き込まれている人々は甚だ迷惑な話だろう。

 

と、そんなことに気を逸らしている場合ではなかった。その代案をどうするか考えているのだが、上手く落としどころがつけれそうなラインが見当たらない。

 

 

「―ごようなり、ごようなり、ごようなりぃー!」

 

 

どうしたものかと思考を巡らせていると、古語の主張が激しい通信士の妖精さんが自室になだれ込んできた。その話し方どうにかならないのかな、とも思うが今は置いておこう。

 

「何でしょう?そんなに急いでくるとなると、何か重要なことでもありましたか?」

 

妖精さんがこちらに来て耳打ちをする。

それを聞いて顔色を変えたほうしょうが問い返す。

 

「...全部、確認したうえで可能性が高いと。そういうことですね?」

 

 

 

 

 

 

「...おっしゃるとおりに、ござりまする。」

 

 

 

刹那、勢いよく立ち上がると、そのまま泊地の寮を駆け抜ける。それと同時にマイクを使って、ほうしょう搭乗員の妖精さん達へ下令する。

 

「総員、出港準備!直ちに出航できるようにしてください!」

 

 


 

 

「ぎょーらいー、ぎょーらいー、たーっぷーり、ぎょーらいー。」

 

工廠に一人、そこの主をしている艦娘、北上の独り語りが工廠の中をこだまする。

魚雷職人の朝は早い。早朝起きてまず魚雷の状態チェック、朝飯済ませて魚雷の汚れ落とし、昼飯を食べたら魚雷の生産か魚雷の品質管理、夕飯を挟みながら工廠の掃除と点検をして、夜遅くに魚雷を抱き枕にして眠る...。魚雷職人は魚雷から離れる時間など有り得ないのだ。

...嘘、冗談。実際魚雷以外の兵器も点検しないといけないし、最近はほうしょうの艤装について研究もしないといけないから、そんな魚雷ばっか見れる時間も少ない。とほほ。

たまたま今日は魚雷の整備を主な仕事にしてるから、一本一本の魚雷に損傷がないか確認したり、魚雷を使う艦娘の魚雷管に異常がないか見れるわけだけれども。

誰に向かって解説してるのやら、と一人でツッコミを入れていると、突然ドアが勢いよく開かれる音が響く。びっくりしてそちらに目をやると、少し息を切らしたほうしょうがそこに立っていた。

 

「突然ですみません、私の艤装はどこに置いてあるか知らないですか?」

「ほうしょうさんのなら、そこに置いてあるけど...一体そんなに急いできてどうしたのさ?」

「急ぎで行かなくてはいけないことができたので、少し借りていきますね!」

「えぇちょっと、急ぎで行く場所ってどこに!?」

 

北上の問いかけも聞いていたのか聞いていなかったのか、自分の艤装を持つと身に着けながらすぐに工廠を後にしてしまった。

 

「...まぁ、長門さんなら何か知ってるかねぇ...?」

 

考える顔をしながら、魚雷の整備をし終えたら確認しに行こうと、再び自分の仕事に戻ることにした。

 

 

 

 

 

「出港準備、良いですか?」

「ぜんいんすでにじゅんびできてるのです。いつでもいけるですよ。」

「仕事が早くていつも助かります!長門さんには悪いですが、単独行動権を早速使用させていただきます!」

「軸ブレーキ脱!第四船速にて航行!海岸線に沿いつつ、小笠原諸島方面へ転舵!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―今作戦の目標、友軍と思わしき艦の確認・救出!」

 




【後書き】(こうした方が多分見やすいかな。)

次回はむらさめ視点の予定です。仕事中に構想を練る時間がまったく無くなってしまったので、フリーな時間を使ってまたゆっくりやろうと思います。


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