ドラえもん のび太の異空幻想伝 (松雨)
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いざ、幻想郷へ

「ねえ、ドラえもん! 僕たち2人で、明日の冬休みから何処かに遊びに行こうよ! 皆が行きたがるようなところにさ」

 

 もうすぐ1年が終わろうかと言う12月下旬、外を出歩く気が起きなくなる程寒い中、学校から帰って来たのび太は一目散に2階の自室へと駆けると、石油ストーブの前でぬくぬくと過ごしていたドラえもんを揺すりながら冬休みに何処かに出掛けたいとねだっていた。

 

 せっかく暖かい石油ストーブから出る暖かい風に当たりながら、友達の猫へのプレゼントを用意していたドラえもんは、どうせまたスネ夫辺りに旅行関連での話を聞かされて自分も同様に行きたくなったのだろうと推測をしつつ、念のためにのび太に学校で何があったのかと質問を投げ掛けた。

 内容によっては、いつものようにひみつ道具で何とかしてあげようと考えていたからである。

 

「はぁ……取り敢えず、落ち着こう。何があったのかは大体察したけど、一応聞くよ。のび太君、何があったの?」

「うん、実はね……」

 

 そうして、ドラえもんに落ち着かせられた後に何があったのか言ってくれと促されると、冬休みの間に何処かへ出掛けたいと思うに至った、学校での出来事を話し始めた。

 

 のび太曰く、自身の担当している場所の掃除を手早く終わらせ、教室で帰り支度をして帰ろうとした時にジャイアンに呼び止められ、冬休みの間は何をするのかと言う話になったとの事。

 

 ジャイアンは都外にある両親の実家泊まりに4日間、しずかちゃんは大阪への3日間の旅行に行くと告げ、スネ夫に至っては父親の知り合い家族と5日間のフランス旅行へ行く事をこれ見よがしに自慢したのを見て、とても羨ましくなったらしい。故に、海外は色々な意味で無理にしても、どうにかして国内旅行位は楽しみたいと、ドラえもんに懇願したようである。

 

「無理だね。ホテルや旅館に泊まりたいって言っても、僕やのび太君のお小遣いに早めにもらったお年玉を加算して、安めの旅館やホテル1泊分が関の山だから。お正月まで待って色々な人から毎年貰えるお年玉とかがあれば多少は伸びるかもしれないけど……それって、皆が善意であげようと思ってあげるものだから、毎年同じ額貰えるって確約されたものじゃないからね」

 

 しかし、ドラえもんはそんなのび太の懇願を、金銭的な余裕がないと言う理由から即座に無理であると切り捨てた。実際、現在の2人の貯金額に早めにもらったお年玉を合わせたとしても1万円と少し、お正月に前年と同じ人数から同じ額を貰うと想定しても3万円を超えるか超えないか位であり、1泊2日でも中々厳しい。なので、仕方のない事ではあった。

 

「仕方ないかぁ……」

「まあ、君が有名観光地での単なる散歩と少しばかりの買い物とかだけでも良いって言うなら、今すぐにでも『どこでもドア』で連れていってあげる事は出来るけど、どうする?」

「うーん……」

 

()()()()()()()()()。こんな、今すぐにはどうしようもない理由で断られてしまえば、旅行に関しては流石ののび太も諦めが付いたらしい。ただ、皆が冬休みを旅行などで謳歌する事が出来るのに対して羨む気持ちは消しきれずにいた。

 

 なので、ドラえもんにお泊まりなしかつある程度の買い物をするだけなら連れてっても良いよとの言葉に対しての返答を考えつつ、およそ4ヵ月前に初めて出会い、2ヵ月前に姉である『レミリア・スカーレット』と共に再び遊びに来た吸血鬼少女『フランドール・スカーレット』から貰った、机の上に飾られている翼の宝石を見ながら、また遊びに来ないかなと思っている。

 

「なら――」

「それなら、2人で幻想郷に遊びに来ない? ちょうど土下座してでも誘いに行こうかと思っていたのよ」

 

 頭の中で色々と考える事30秒、旅館やホテルの宿泊や大きな買い物をせず、ただの散歩にちょっとした買い物だけだとしても楽しめはするだろうと結論を出し、ドラえもんの問いかけに対して肯定の意を示そうとした時、突如として女性の声が部屋に響いたと同時に空間に不気味な目玉の見える空間の裂け目が発生したのを目撃した。

 

 本来であれば、奥に目玉が無数に浮かんで見える空間の裂け目が現れれば、多少なりとも恐怖と言った感情が発生するはずであるが、のび太は相変わらず不気味だなとは思いつつも、何度も同じ物を見た事があると言う理由から、そう言った感情は一切発生しなかった。ドラえもんも同様である。

 そして、その不気味な空間から出てきた『八雲紫』と言う妖怪の賢者である女性とも知り合いであるため、2人は特段驚く事はなかった。

 

「あっ……お久しぶりです、紫さん。幻想郷に連れていって貰えるなら嬉しいですけど、土下座してでも誘おうと思っていたとは一体……?」

「確かに、僕ものび太君と同じ事を思いました。紫さん、説明をお願いします」

「ええ、久しぶりね。のび太、ドラえもん。それで、その理由なのだけど……」

 

 で、のび太とドラえもんはスキマから出てきた紫に挨拶をした後、紫が出てくる前に言っていた『土下座してでも幻想郷に2人を誘うつもりだった』とは一体どう言う事なのかとの質問をすると、紫は理由を説明し始めた。

 

 何でも、ここに来る数時間前に幻想郷で様子見を兼ねて紅魔館に行った時にたまたまフランに会い、のび太がいつ遊びに来るのかと言う質問をされた際に何故か、今日来ると言ってしまったようだ。

 

 当然、今すぐにでものび太に会って楽しく話し、幻想郷を案内したりして遊びたいと思っていたフランは紫の言葉を真に受けて非常に喜んだらしく、お兄様のお出迎えするんだと気合いを入れて準備をし始め、玄関前で今か今かと待っている状態になってしまったようである。ちなみに、レミリアもそんなフランからのび太が来る事を聞き、とても楽しみにしているとの事。

 

「なるほど……フランが僕と一緒に遊びたくて仕方がないと」

「ええ。本当は、のび太の友達3人の都合がついてから誘うつもりだったのだけど……申し訳ないわ」

「いえ、大丈夫ですよ。ドラえもん。そう言う訳だから、せっかくだし一緒に幻想郷に行こうよ。何だか楽しくて面白い事が起きそうだしさ」

「うん、分かった。のび太君がそう言うなら、僕も行くよ」

 

 紫からの説明を聞いたのび太は、それによってフランが自分と一緒に遊びたがっていると知り、更に何処かへ出掛けたいと言う抱いていた気持ちもあって幻想郷に行く事を即座に決断し、ドラえもんも行こうと誘った。

 のび太が行くと決めた時点でドラえもんも幻想郷に行こうと同じく即座に決断したため、その問いに対してそう伝えた。断る必要が出てくるような、確たる理由もなかったためである。

 

「ありがとう。じゃあ2人共、このスキマを通って。そうしたら紅魔館の門番妖怪の前に出るから、その妖怪に声をかけて中に入れてもらえれば後はレミリアたちが色々と面倒見てくれる手筈になってるわ」

 

 2人の返事を聞いた紫は、それに対して感謝の言葉を述べた後に幻想郷へと繋がるスキマを開き、通るように促す。その際に、若干申し訳なさそうな表情をしていた事にドラえもんが気付くも、事前に自分のミスでジャイアンやスネ夫、しずかちゃんの都合を合わせて誘えずに申し訳ないと謝っていた事を思い出し、今見せているこの表情もその類いのものだと思ったため、取り敢えず気にしないでおこうと決める。

 

「実際に中に入ると、沢山の人たちから四方八方から睨まれてるみたいで不気味だね。ドラえもん」

「うん。それにしても、紫さんがこんな事をひみつ道具なしでも出来るなんて……凄いなぁ」

「そう言ってもらって嬉しいけれど、こちらとしてはドラえもんの居た未来世界の、下手したら神が起こす事象をいとも簡単に()()()起こせるようになるひみつ道具の方が圧倒的に凄いと思うわ。調べていく内に、自分の顔が蒼白になってくのを感じてく位にはね」

 

 そうしてスキマに入った後は、ドラえもんと紫がお互いの能力とひみつ道具の超常的な効能を褒め合うやり取りが始まった。

 特に、レミリアとフランの現代旅に合わせ、()()()()()のために未来世界の事を調べ、情報を集めていた紫のひみつ道具に対する衝撃は凄まじかったようで、色々な感情が入り交じった返答を返す程である。

 

 ちなみに、のび太は途中から話についていけていなくなったため、幻想郷についた後何をして楽しむか、レミリアとフランは元気で居るのだろうかなどといった事を考えていた。

 

「さてと……着いたわ。ここが幻想郷、目の前にあるのが2人が()()()()お世話になる『紅魔館』よ」

 

 スキマ内部の空間を漂いながら移動する事15秒、幻想郷へと繋がる出口を通り抜けて降り立ち、2人は目的地である紅魔館の門前に到着した。

 どう見ても、自分たちに一番身近であるスネ夫の大きい家よりも二回り位の大きさである上に、庭まで相応の広さである実際の紅魔館を見たためか、大きいと言う感想しか出て来ない様子である。

 

「貴方たちが、紫さんとお嬢様たちが言っていた……のび太君と、ドラさんですね? 私、紅魔館の門番をしている妖怪の『紅美鈴(ホン メイリン)』と言います! しばらく滞在なさるとの事なので、よろしくお願いしますね!」

「はい。美鈴さんの言う通り、しばらく滞在する事になると思うので、よろしくお願いします」

「同じく、よろしくお願いします」

 

 すると、のび太とドラえもんの2人館の敷地内に入るための門の前に立ち、侵入者を防ぐための門番をしている女性から声をかけられると、簡単に自己紹介をし始めた。曰く、彼女は『紅美鈴』と言う名前であるらしい。

 

 で、美鈴の簡単な自己紹介と歓迎の言葉を聞いた後、のび太たちもそれにならって自己紹介をしようとしたものの、レミリアや紫から既に聞いていて知っていたため、よろしくお願いしますと簡単に挨拶を済ませる程度でこの場は留めておく事に決めた。

 

「さてと、自己紹介は置いておいて……早速中に入って頂けると助かります。何せ、特に妹様がのび太君を『お兄様』と夢心地な様子を見せながら何度も連呼する位には、会える事を非常に楽しみにしているので」

「はい、勿論です! ドラえもん、行こう!」

 

 そんな感じで軽めの自己紹介も兼ねた会話を交わし終えた時、美鈴がのび太に対して館に早く入ってくれたらありがたいと言い始めた。夢心地になる位にのび太に会える事を喜んでいるフランを見て、ここで会話を交わすよりはまず合わせてあげたいと思ったようだ。

 当然、ここに来た理由の1つにフランに会いに来た事も含まれている故に、美鈴の促されるがままに会話を中断して館の中へと向かい始める。

 

「あっ……お兄様ぁーーー!!」

「へっ!?」

 

 これから、幻想郷や紅魔館で起こるであろう楽しい出来事に心踊らせながら館の入り口の扉を開けたその瞬間、のび太が来るのを心待ちにしていたフランが勢い良く抱きついて来たため、バランスを取れずに転倒する羽目になってしまった。




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紅魔館の案内

「えへへ、久しぶり! 私ね、あの日からずーっとお兄様に会いたくて仕方なかったんだよ! まあ、それは取り敢えず置いといて……元気だった? 私が居なくなってから、何か辛い事とかなかった? 例えば、お兄様に暴力をふるって教室の掃除を押し付けようとした、あの男の子たち(顔も見たくない奴ら)みたいな人が出たとかさ」

 

 八雲紫の手招きによって幻想郷へとやって来て、滞在中の宿泊場所である紅魔館へと訪れたのび太に、会えなかった寂しさを癒すが如く抱きついたフランは、ようやく会えて触れ合える嬉しさを爆発させつつも、とある事について心配そうに問いかけていた。

 何故ならば、自分が居なくなってから辛い出来事がのび太に襲い掛かっていないか不安に思い、仕方なかったためだ。

 

 特に、1ヵ月を超える現代旅の中で、フランの記憶に鮮明に残っている出来事の1つである『教室清掃押し付け事件』の4人組のような存在が現れていないかが気になって仕方がないらしい。

 その強さたるや、幻想郷に戻ってからも時折思い出しては、その4人組を始末してやろうかと言う衝動が沸き上がり、独り言で怨嗟の声をあげる程である。館の妖精メイドに至っては、その時のフランが放つ『狂気』が恐ろしすぎて、5割程の確率で気絶する者も出る始末となっていた。

 

 当然、質問している今も同様に同じ衝動が沸き上がり始めているが、のび太に思う存分甘えられると言う幸せが強力な枷となっているため、端から見れば今のフランは、幸せを噛み締めている女の子にしか見えていない。

 ちなみに、この様子を見ていた妖精メイドの一部は、フランがここまで依存する原因となったのび太を初めて見て、それが何となく分かるような気がしている。

 

「うん。変わらず僕は元気だし、例えみたいな嫌な事とか辛い事とかはなかったから大丈夫だよ。それよりも、フランは元気だった?」

「うーん……正直、お兄様に会いたくて()()()()落ち込んでた時もあったから、完全に元気だったとは言えなかったかな。でもね、今はこうやってお兄様の温もりを感じていられるから、凄く気分が良いの! つまり、今の私はとっても元気なんだよ!」

「そっか。なら良かった」

 

 フランから心配そうに問いかけられたのび太は、あの時からずっと病気などもせず元気だったし、例えに出されたような嫌な事や辛かった事は一切なかったと伝えた後、逆にフランが元気であったかと聞き返した。のび太も同様に、それが気になっていたためだ。

 

 実際、今でこそレミリアや館の皆の努力に加え、のび太に再開出来た嬉しさによって完全に元気を取り戻してはいるものの、幻想郷に戻ってきてからすぐのフランは、本人の想定を超える寂しさのあまり、落ち込んで大泣きしていた位だった。

 

 だが、正直にそう言ってのび太が変に気を使ってしまい、幻想郷を楽しめなくなってしまうのは論外である。そう思ったフランは、大泣きする程落ち込んでいたのではなく、少しだけ落ち込んでいたと言う事にした上で、のび太が来てくれたからもう完全に元気を取り戻していると言う部分をこれでもかとアピールをして、心配させまいと試みる。

 

 果たして余計な心配をさせまいと言うフランの試みは成功し、のび太は安心した表情を見せてくれる結果となった。

 

「さてと……お兄様! 格好的に学校帰りっぽいけど、疲れてたりしない? それと、ドラえもんはどう? 2人に館の皆を紹介したり、中を案内したいなって思ったの」

 

 そうして、ひとしきり抱きついたりなどしてこの状況を堪能した後に、フランはのび太の格好を見て学校が終わってからすぐ遊びに来たのだろうと推測すると、疲れていないかと聞いた。紅魔館にしばらく滞在すると言う事から、のび太を皆に紹介しなければと思ったが故の質問である。ドラえもんに関しても同じ思いのようだ。

 

「あまり疲れてないよ。今日は冬休み前ってだけあって、学校も早く終わったから」

「僕は、のび太君が帰ってくるまで家に居たから疲れてないよ」

「そっか! じゃあ、今すぐ紅魔館の案内と皆の紹介が出来るね! お兄様!」

 

 で、そんなフランからの問いに対して、のび太が冬休み前日で早めに帰れた事もあってあまり疲れていないから大丈夫であると答えたため、紅魔館の案内と住人の紹介をすぐに行う事が決まった。

 

 周りの目などもあった現代旅では気を使わなければいけなかったが、ここは幻想郷……それも、自分の性格などを熟知している家族や住人が住む紅魔館であるため、気を遣わずにのび太と触れ合っても白い目で見る人はいない。なので、フランはこれから館の案内と住人の紹介をしつつも、常識の範囲内でのび太と触れ合いをする気満々である。

 

「ほら! お兄様、どう? ここが地下の大図書館なんだよ! 凄いでしょ?」

「うん、凄いよこの本の量。あっちにもこっちにも、全部びっしり……」

「何千……いや、きっと何万冊もあるよ。知らない本も沢山あるし……」

 

 時折翼をパタパタと動かし、幸せのあまり目に見えて興奮しているフランが最初に案内したのは、地下にある大図書館であった。自分自身にとっては腐る程見た光景故に何の面白味もなかったが、のび太が驚きながらもドラえもんと共に図書館を歩き回り、楽しそうにしている姿を目に出来たためか、フランはとても楽しそうである。

 

「あら、フラン。彼ら2人がレミィの言ってた特別なお客様ね?」

「そうだよ、パチュリー。あっ、お兄様! この人は『パチュリー・ノーレッジ』って言ってね、図書館にいつもいる魔法使いなんだ。で、少し後ろに居るのが『小悪魔』って言う悪魔なの。私を含めて、皆は『こあ』って呼んでるんだよ!」

 

 フランに案内されながら、だだっ広い図書館をのび太とドラえもんが歩いていた時、声をかけてきた紫色の髪を持つ人物が現れた。両脇に分厚い本を抱え、少し後ろを暗めの赤い髪色の人物が後についている。

 どうやらフラン曰く、紫髪のゆったりとした服装の人物は『パチュリー・ノーレッジ』と言い、その少し後ろをついている暗めの赤い髪の人物は『小悪魔』と言うらしい。

 

「なるほど……えっと、僕は野比のび太と言います。幻想郷に居る間は泊まる事になったので、よろしくお願いします!」

「僕はドラえもんで、のび太君の親友をやってます」

「のび太に、ドラえもんね。ええ、よろしく」

「えっと、のび太さんにドラえもんさんですね。よろしくお願いします!」

 

 声をかけてきた人たちの簡単な紹介を聞くと、のび太とドラえもんも続いて軽く自己紹介を済ませ、握手を交わした。

 

「いやぁ、妹様がお嬢様以外にこれ程までに懐くとは……余程、(のび太)の事が好きなんですね。聞いてはいましたけど、ビックリ――」

 

 そうして一通りの自己紹介を終え、フランがのび太たちを連れて次の場所へと向かおうとした時、小悪魔がふとそんな事をパチュリーに向かって話しかけていた。彼女から見て、フランののび太に対する懐き様は、前もって聞いていても驚く程であったらしい。

 

「うん! お兄様の事、大好きだよ! 優しいし、私のために色々してくれるし、何より一緒に居て安心するからね! だから、恥ずかしいけどいつか絶対に勇気を出して、あの時みたいにテンションに任せてじゃなくて、ちゃんとしたムードを作ってからお兄様に……えへへ」

「……レミィの言った通りね」

「みたいですね、パチュリー様」

 

 すると、その会話を聞きつけたフランがのび太を半ば強引に引っ張りながら小悪魔とパチュリーの側まで駆け寄り、2人の驚いているのをよそにその会話に割り込むと、いかに自身がのび太の事を好きなのかと言うのを語り、愉悦に浸り始めた。

 

 話を聞く限り、今のフランがのび太に対して抱いている感情には、かなりの割合で恋愛的な意味での『好き』が混じっているらしいが、恥ずかしいなどの理由があって言葉には出せていないようだ。

 

 ただ、パチュリーや小悪魔には即座に全てを察され、のび太には2ヵ月前の現代旅で、テンションに任せて『私のもの(恋人)』と言った事や、別れ際に唇に軽めのキスをした事もあってか、もしかしたらと疑念を抱かれている状態であったが。

 

「あっ……私1人で勝手に盛り上がってごめんね、お兄様とドラえもん。じゃあ、案内の続き行こ! パチュリーとこあも、何かごめんね」

 

 そんな感じで1人愉悦に浸りながら話す事30秒、紅魔館の案内をすっぽかしかけた事に気づくと、フランは気まずそうにのび太とドラえもんに対して謝り、話に割り込んで中断させたパチュリーと小悪魔に対しても謝ると、紅魔館の住人紹介と案内を再開するために2人を連れて図書館を出て行った。

 

「お兄様、ジャイアンたちの都合っていつつくのかな? ついたとしても、ここに遊びに来てくれるかな……?」

 

 地下の大図書館の案内にパチュリーと小悪魔の紹介を済ませ、館内の案内と妖精メイドたちへの紹介のために歩いてる途中、フランが突然ジャイアンたちの都合がいつつくのか、ついたとしても遊びに来てくれるのだろうかと、心配そうにのび太に尋ね始めた。

 

 その内容は、いつまで自分だけがのび太を独り占め出来るのか気になったからなのと、友達であるジャイアンたちが居ない事によって()()()()内心寂しそうにしているのではないかと思ったとのものだ。本音を言えば、今のこの状況がずっと続けば良いと思っている。

 

 ちなみに、フランはのび太の友達の括りにドラえもんを入れていないが、それは単に友達を超える『家族』のような枠組みで考えているだけであり、決して忘れていたり雑に扱ったりしている訳ではない。少し違うものの、例えるならフランにとってのレミリアのような感じである。

 

「分からないけど、余程の事がない限りは誘えば来てくれると思うから、大丈夫。でも、旅行とかの疲れもあるから来るとしても、多分1週間は先になるかな?」

「そっか。来るとしても、1週間後なんだ……」

 

 友達であるジャイアンたち3人が居ないこの状況で、独占する事を望んでいるフランの本心など知らないのび太は、フランがジャイアンたちが居ないせいで寂しく思っていると思い込んでしまう。故に、誘えば来てくれる事を前提として色々と考えれば、1週間は来ないだろうとの推測を打ち立て、そう伝えた。

 

 結果、最高で1週間はのび太を独占出来ると知る事となり、フランは内心それを非常に喜んだ。勿論、言葉にも顔にも一切合切表さないように細心の注意を払っているため、のび太()()感づかれずに済んでいる。

 

「ねえ、フラン。そう言えば、レミリアって何処に居るのかな?」

「お姉様? 多分、自分の部屋に居ると思うけど……行く?」

「うん。僕たちが遊びに来た事を伝えたいから」

「分かった。じゃあ、お姉様の部屋に行こう!」

 

 そうして3人で歩き回り、紅魔館の皆が食事をとるための大部屋の前に来た際、のび太がレミリアを見かけないのを疑問に思ってフランに居場所を尋ねた事で、次に行く場所がレミリアの自室に決まった。




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フランとのび太

「お姉様! お兄様たちが来たよー!」

「ちょっ、フラン!? 私の部屋に連れてくるの早すぎよ! と言うか、せめてノックくらいして欲しかったわ」

 

 地下の大図書館の案内とパチュリーを紹介した後、話の流れで次に行く場所をレミリアの自室へと決めたフランは、のび太とドラえもんを連れ、意気揚々とレミリアの元へと突撃していった。

 

 しかし、レミリアは自室でのび太とドラえもんを迎えるために魔法鏡の前で身だしなみを整えている最中であった上、2人が来る前にフランと身だしなみをするための時間稼ぎの約束をしていた。

 故に、こんなにも早く意気揚々と2人を連れて来られるとは想定外であり、着替えをしていたタイミングであったために見られた恥ずかしさが交じり、フランに対するレミリアの口調は少し強めである。

 

 とは言え、全裸ではなかった事がレミリアにとっては不幸中の幸いであった。すぐさまカジュアルな服に着直し、髪を軽く整えるとのび太とドラえもんのところへと向かっていく。当たり前だが、着替えの最中、2人は後を向いていた。

 

「ごめんなさい、お姉様。お兄様が来てくれたのがスッゴく嬉しくてつい……」

 

 そんなレミリアを見たフランは、のび太が大親友のドラえもんと()()で来てくれた嬉しさの影響で約束を完全に忘れていて、まさか着替え中であったとは微塵も思わなかったが故に、全力でレミリアに対して謝罪をした。自分ならともかく、異性かつ他人であるのび太とドラえもんに見せてしまい、恥ずかしさを味合わせてしまった訳だから、当然ではある。

 

「確かに凄く恥ずかしかったけど、怒ってないから大丈夫よ。それにしても、本当に嬉しそう……まあ、別れ際にのび太と唇を軽く合わせたり、戻ってきてからも寂しさのあまり泣いたり、()()()()を想像してニヤニヤしたり独り言を呟いてた位だし、当然かしらね」

「ちょっと、お姉様!? いつの間にそれを……ってか、何でよりによってお兄様の前で言っちゃうのさ!? しかも、そこだけ強調して言ってるし!」

「ふふっ……お返しよ」

 

 ただ、レミリアは着替えを見られた恥ずかしさを味わいこそすれ、それに対して怒りを感じていなかったらしい。しゅんとした様子で謝るフランに対して、笑顔で怒っていないから大丈夫だと伝えていた。

 まあ、その後にフランが隠しておいたはずの恥ずかしい秘密を、お返しと称してのび太の居る前で全てではないが喋ったので、怒っている可能性がないとは言えないが。

 

「さてと……いらっしゃい、2人共。幻想郷に居る間は、うちでゆっくりしていって。何かやりたい事とか行きたいところとかがあったら、出来る範囲で協力するから遠慮なく伝えてくれて良いわよ」

「うん、分かった。ありがとう、レミリア」

 

 隠していたはずの秘密がいつの間にか漏れていた上、一番その秘密がバレて欲しくないのび太にバラされてしまい、顔を真っ赤にして恥ずかしがるフランをよそに、レミリアは笑顔で歓迎の意を示した。

 

 2人はそんなレミリアからの歓迎の意に感謝しつつも、彼女が話したフランの隠しておきたかった秘密に関しては、本人が黙り込む位に恥ずかしがる様子を見たため、それについての話を振られるまでは聞かなかった事にしようと決める。

 

 だが、勿論2人がそう考えている事はフランには分からない。そのため、バレてしまった以上は自身が抱いているその強い気持ちを隠す必要性が薄れたと考え、これからはのび太との関係を自分の望むものとするためにもっと積極的に動こうと、フランは決意を固めた。勿論、積極的にと言っても、のび太に不快感を抱かせない程度にではあるが。

 

「失礼します。お嬢様、特別なお客様方用の食事のご用意が出来ました」

「あら、随分と早いじゃない。咲夜」

「はい。お嬢様もそうですが、特に妹様がご執心なお客様であるようですから」

 

 その後、恥ずかしがっていたフランが大分落ち着き、レミリアたち4人が部屋で楽しげに会話を交わす事10分、扉がノックされる音が部屋の中に響いた。

 断る理由もなかったため、その音を聞いたレミリアが入室の許可を出してから数秒の間が空いた後、中に1人の10代後半の女性が入って来たのを全員が目にした。

 

 レミリアとの会話を聞くに、その女性はどうやら特別な来客(のび太とドラえもん)の分を含めた、食事の準備が済んだ事を報告しに来たようだ。

 

「のび太様、ドラえもん様。ようこそ紅魔館へ。私、ここのメイド長をしている『十六夜咲夜』と申します。滞在中、お二方の担当をさせて頂きますので、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。咲夜さん」

「僕からも、よろしくお願いします」

 

 で、食事の準備を済ませたと言うその報告を終えた『十六夜咲夜』と名乗った女性は、のび太とドラえもんの方に向いてレミリアと同様に館への歓迎の意を示すと、2人はそれに対して頭を下げて挨拶をした。

 

 現代旅に行ったレミリアとフラン、紫による話からもう既に名前は知られていたので、この場でも軽い挨拶を交わすに留まっていた。今のところ、自己紹介をしたのは話の流れでする事となった、パチュリーと小悪魔の時のみとなる。

 

「そう言えば、のび太様とドラえもん様はここに来る前に既に食事を済ませたりしていますか?」

「いや、まだ学校から帰ったばかりの時に紫さんに連れられて来たので、何も食べていません」

「僕も、ここに来るまで家でぐうたらしてたので、のび太君と同じで何も食べてないです」

「なるほど……では、宜しければ一緒にお食事はいかがでしょう? 私を含め、うちの妖精メイドたちが腕によりをかけて作った料理がありますので、是非とも召し上がって頂けると嬉しいです」

 

 そうして、咲夜がのび太とドラえもんの2人と軽い挨拶を済ませた後、幻想郷へと来る前に食事は済ませているのかとの質問を投げ掛けた。レミリアからの指示によって2人分多くの食事を用意し、一緒に少し早めの夕食を取る想定でいたためである。

 

「夕ご飯には時間的に少し早いけど、まあいっか。お腹も空いてるし、何より僕たちのためにせっかく用意してくれたんだし」

「そうだね、のび太君。えっと、咲夜さん。お願いします」

「分かりました。ではこちらへ……」

 

 若干、食事を既に済ませているか空腹ではないと言われるのではと言う心配を、この場に居るレミリアや咲夜は抱いていた。ただ、その心配は2人が『食事は済んでいない』と答え、更に食事をすると言っために、杞憂に終わる事となった。

 

「うわぁ……良い匂いがするね。食べた事ない料理もあるけど、全部凄く美味しそう」

「そうでしょ? 咲夜たちの作る料理はスッゴく美味しいの! だからきっと、食べればお兄様も気に入ってくれると思うよ!」

 

 咲夜の案内の下、大食堂へと向かったのび太とドラえもんは、長机に用意されている料理から漂う食欲をそそる匂いに、空腹も相まって自然と笑顔になっていた。

 レミリアやフランにとって特別なお客様が来ると聞き、いつも以上に気を遣っている料理である事もあり、この上ない程の出来となっている故に、のび太とドラえもんの反応を見た咲夜や調理担当の妖精メイドは、少し肩の荷が降りた。

 

「遠慮せず、食べたいだけ食べなさい。のび太」

「お兄様! テーブルマナーとか考えなくても、家で食べるのと同じ様に楽しんで食べてね! ドラえもんもだよ!」

「うん。じゃあ、いただきます!」

「いただきます!」

 

 そうしたやり取りを交わした後、席に案内されて座ったのび太とドラえもんは『いただきます』と、食事前の挨拶を済ませて用意された料理に手をつけ始めると、レミリアたちもすぐ後に続いた。

 

「スケールが大きすぎてついていけないわ……」

「確かにそうだね! 幻想郷がちっぽけに見えてくるし!」

 

 こうして始まった、いつもの紅魔館の皆にのび太とドラえもんを加えた少し早めの夕食は、レミリアの想定を超えた盛り上がりを見せた。のび太とドラえもんがパチュリーや美鈴たちに今まで経験した冒険の話をしたり、逆に幻想郷に来てからレミリアたちが経験した事を、一部ぼかしつつ話したりしたためである。

 

「ねえねえ! えっと……のび太だっけ? このカレーとかどうだった?」

「私の仕込んだドレッシングをかけたサラダはどうだったかな!?」

「やった事が殆んどないけど、頑張って作ったお味噌汁はどうだったかな……?」

「勿論、全部美味しいよ。皆料理上手で、羨ましいなぁ」

「そう? やったぁ!! ねえ、咲夜お姉ちゃん! のび太()()()()()が美味しいって言ってくれたの!!」

「「あっ……」」

 

 しかし、その盛り上がりはのび太から料理の感想を聞いた妖精メイドの中でもとびきり純粋かつ精神的に幼い1人が、喜びを表現するためにお兄ちゃん呼ばわりしながらくっついてしまった事によって、何とも微妙な盛り上がりへと変貌してしまった。本人の目の前で起こした行動が故に、どんな反応を示すのかが何となく想像ついてしまったためである。

 

 だが、そんな皆の予想は外れ、のび太と妖精メイドの1人が楽しそうにしている光景を少し見るだけで表面上は終わったため、ホッと一安心する事となった。まあ、内面的にはのび太を妖精メイドに気を引かせないようにと、実力行使を含めた策略を立ててはいたが。

 

「ねえ、お兄様。ご飯を食べ終わったらさ、今日1日だけでも良いから私と2人きりで居て欲しいの。駄目……かな?」

 

 しかし、色々なリスクを過剰に恐れた結果、立てようとしていた策略を全て取り消して普通にのび太に甘え、就寝時間を含めた今日1日2人きりで過ごす状況に持って行く事に決め、フランはそれを実行に移した。

 

「2人きりで? うん、分かった。良いよ」

「ありがと! 約束だよ、お兄様!」

 

 結果、上目遣い込みの甘えが効いたのかは不明なものの、望み通りの回答をのび太から引き出す事に成功したフランの様子が元に戻ったのを確認したため、大食堂は再び元の賑やかな雰囲気に包まれる事となった。

 

 とは言え、フランはのび太に対してお兄ちゃん呼ばわりする妖精メイドが気になって仕方ないようで、レミリアたちと話したりしながらもチラチラ見たりしている。仮に恋人として取られそうなら、穏やかに引き離すつもりであるらしい。

 

 しかし、この妖精メイドは館の皆は当然の事ながら、余程の悪人でなければ館の住人でなくても、性別や年齢や種族などは関係なくのび太に対する態度で接する性格である。決して恋心を抱いている訳ではないので、フランの心配は杞憂に終わる事が既に最初から決まっていた。まあ、本人はそれに全く気づいていなかったが。

 

「じゃあ……お兄様! 約束だから、私のお部屋に行こ!」

「分かったよ……ってフラン!? そんなに引きずらなくても行くってば……あぁぁぁぁ」

「「「……」」」

 

 そうして、食事を終えた瞬間にフランはのび太の手を掴むと、約束だから部屋に行こうと言いつつ高いテンションのままに半ば強引に引きずりながら自分の部屋へと向かっていった。床がアスファルトや砂利などと言ったものでなかったため、引きずられる事による怪我は軽くで済んだのが幸いであった。

 ちなみに、部屋に行った後にのび太を引きずり怪我をさせた事に気がついたフランは、顔面蒼白で回復魔法を使用しながら10分もの間、涙目で謝り倒す事になった。

 

 その後は、先程の妖精メイドを超える甘えっぷりをフランはのび太に発揮、言葉にはしなくても1ミリたりとも自分以外に靡かせない意思を明確に示す形となった。それ以外にも絵本の読み聞かせや他愛もない会話、簡単な身体を使った遊びなどをしてもらい、自分だけを見ていてくれる時間を捻出した。

 

 当然、万が一のび太がする事なくて退屈にならないよう、ドラえもんから色々なボードゲームを借りてきたり、大図書館から興味がありそうな本を持ってきては渡すなどのサポートも忘れない。お陰で、数時間部屋に居てものび太が退屈を感じる事は皆無だった。

 

「今日はありがとうね、お兄様。私、とっても幸せだよ!」

「どういたしまして。僕も楽しかったよ、フラン」

「っ! えへへ……」

 

 そして、夜10時を回ったところで流石に遊びを中断した2人は、時間が時間である事もあって寝る準備を手早く済ませ、ベッドに横になり、自然に眠るまでの間は会話を交わす事を決めて実行に移した。

 

 こうして、のび太たちが幻想郷に来た初日は幕を閉じる事となった。

 




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のび太とフランの幻想郷巡り(導入編)

「お兄様! 今日からいっぱい、私と一緒に遊んで楽しもうね!」

 

 のび太とドラえもんが幻想郷へ来た翌日の早朝、1人早く目覚めたフランは、未だ隣で気持ち良さそうに眠っているのび太の寝顔を見ながら悦に浸りつつ、今日は何して遊ぼうかと考えていた。

 

 現代旅の時とは違い、のび太と一緒に来ているのが大親友のドラえもん1人である上、今は自分の部屋に2人きりで居るが故に、起きたばかりでもフランのテンションは非常に高い。

 

 そして、今は親友であるドラえもんと存在感を比べた場合に圧倒的に負けてはいるものの、いずれはのび太の中で両親を除いた()()()()()()()であるドラえもんを圧倒的に超え、自分がその座についてやろうとの野望を内に秘めていた事も、寝起きの高いテンション維持に一役買っていた。

 

 勿論、その野望を達成するために物理的・精神的に強制するなどの手段を、フランは取るつもりは全くない。目先の欲に盲目となったせいで大好きなのび太から怖がられるなどして嫌われると言う、想像するだけで涙が出てくる『痛み』を絶対に味わいたくないと、本能的に思っているためである。

 ただし、のび太が自分に気を向けてくれる様な行為を、強制と取られない程度にしようとは思っているが。

 

「うーん……おはよう。フラン、起きるの早いね」

 

 そんな事をフランが考えていると、ベッドから身を起こし、眼鏡をかけたのび太が寝ぼけた状態のままおはようと、自身に声を掛けてきたのを聞き取った。

 

 本当なら高ぶるテンションのまま、自分とのび太しか居ないこの空間て思い切り抱きついたり、吸血したりと言った感じでスキンシップを堪能したいと考えていたが、流石に朝からそれだとこれからの楽しみがなくなってしまうと考えて自重し、それとなく手を握る程度に留めておいている。

 

「ふふっ、おはよう! ぐっすり眠れた? 私の部屋、暑すぎたり寒すぎたりしなかったかな?」

「ふかふかベッドのお陰でぐっすり寝れたよ。部屋も心地良い暖かさで、快適だったから」

「そっか! お兄様が快適に寝れたみたいで、本当に良かった!」

 

 で、それらの留めておいた行為は想像で補いつつ、フランはのび太に自分の部屋での寝心地を聞いていた。もしも、暑すぎたり寒すぎたり、毛布やベッドがのび太に合わなかったりすれば、気持ち良く寝てもらえる様に、即座に環境を整えるつもりだったからだ。

 

 しかし、その心配はのび太本人から快適であったとの返事をもらったため、フランの杞憂に終わる事となった。

 

「ねえ、お兄様。今日は何して遊ぶ? 私はね、せっかくふ……3人だけなんだから、一緒に外を出歩いて楽しく話したりとかしたいな。でも、それでお兄様たちが楽しめなきゃ意味ないからさ、やりたい事があったら何でも言って! それにするから!」

「そうだね、うーん……」

 

 すると、心配事が解消したフランはのび太に対して、ドラえもんを含めた3人で幻想郷を案内しながら楽しく話がしたいと言う自分の意見を言った上で、何かやりたい事があったらそれにするよと言った。

 

 勿論、のび太の事を考えて何でも良いよと最後に付け加えた訳であるが、内心は幻想郷を案内しながら楽しく話しながら手を繋いでデートがしたいと言う欲望が渦巻いている。だから、自分の意見に誘導するために、フランの頼み方にも熱が入っていた。

 

「フランのやりたい事で良いよ」

「えっ、本当に良いの? お兄様、私のために無理してない?」

「うん、全然無理してないから大丈夫だよ。それよりも、僕とドラえもんとフランの3人で幻想郷を回るの、楽しみだし」

 

 結果、のび太はフランのやりたい事で良いやと決めたらしく、問いかけに対してそう答えた。

 すると、当の本人であるフランは自分で誘導しておきながら、あっさりのび太に了承された事が衝撃的だった様で、自分のために無理してないかと心配そうに訊ねる。あくまでも、のび太の意思が1番と言うスタンスでいるが故の行動であった。

 

 しかし、のび太は幻想郷に来てまだ1日も経っておらず、知識が皆無である。なので、幻想郷にどんな人妖が居るのか、どんな物があるのか、何をしたら危ないのかなど、基本的な所をよく知る事から始めたいと考えていた。故に、幻想郷を一緒に楽しく回りたいフランと利害が一部合致し、了承したと言う訳である。

 

「……っ! 分かった! お兄様が楽しんでくれる様に私、案内を頑張るから任せてね!」

 

 勿論、フランはのび太がそう考えたから了承したとは知らないものの、心から了承してくれたと言うのは理解出来た。そのため、これからやる予定である幻想郷巡りでのび太に楽しんでもらえる様にするとフランは胸を張ってそう宣言し、すぐに歯磨きと着替えとしようと立ち上がったが、その楽しげな気分は割れたガラスの様になっていく事となった。

 

「ちょっとお楽しみの所失礼するわ、2人共」

「あっ、おはようございます。紫さん」

「……紫、今日はお兄様との楽しいデートの日なの。邪魔しないでくれる? ねえ?」

 

 何故なら、そのタイミングで紫がスキマから登場したためである。フランは紫が、何の用事もなしにこのタイミングでスキマを使ってまで来るはずがないと直感していた。

 更に、それによってのび太とのデートの予定まで崩されてしまうとまで思っていたため、自然と妖力が漏れ出てる上に口調も態度もキツいものとなった。これも全て、紫がのび太の友人ではないが故のものである。

 

「違うわ、フランドール。別にデートの邪魔をしに来た訳じゃないの」

「ふーん……じゃあ何なのさ?」

「ちょっと今日は申し訳ないけど、2人だけで遊びに行ってて行っててくれないかってお願いをしに来たのよ」

 

 そんなフランの不機嫌な様子を目の当たりにしても紫は特に慌てず、デートの邪魔をしに来たのではないと説明したものの、未だに納得の行かないフランはじゃあ何なのかと更に詰め寄った。

 しかし、自身がフラン以上の力を誇っている上に、そう言う態度を取られる事は既に想定済みであったため、紫は特に動じる事もなく用件を簡潔に伝えた。

 

「私とお兄様の2人だけで? ドラえもんは?」

「ちょっと()()()()()()()()()()()の事について興味があって、それについての話がしたくてね。本当ならのび太も一緒に居てもらった方が良かったのだけど、()()()()()()()()を邪魔されたくないでしょう?」

「まあ、そうだけど……」

 

 紫の用件を聞いたフランは、本心ではのび太と2人きりでデートが出来ると舞い上がっていたが、それは決して態度には出さず、気を使ってドラえもんの事について疑問を投げ掛ける。

 そして、紫はフランの疑問に対して未来の世界とひみつ道具の事について興味があり、ドラえもんと話がしたいからだと淡々と理由を述べた。のび太を呼び寄せないのは、フランとのデートを邪魔するつもりがないとの意思表示のためだとの事。

 

 かなり、紫の説明に胡散臭さを感じているフランであったが、どちらかと言えばのび太と2人きりで居れる事の方が嬉しかったため、それは気にしない事に決めたようだ。

 

「本当にごめんなさい、のび太。ドラえもんには既に了承を得ているから、その辺は安心しても問題ないわ。それと、今日1日安全に遊べる様に『スペアポケット』とか言うものを借りてきたから、万が一の時は使って」

「えっと、何だか良く分かりませんけど……分かりました」

「うん。お兄様、ドラえもんが居なくて残念だけど……一緒に楽しもうね! 万が一なんかないように、私が守ってあげる!」

 

 対して、のび太は紫のお願いの意図が全く分からずに戸惑っていたものの、ドラえもんの了承は得ていると聞いた上に、フランがドラえもんが居ないと言う事を()()()思いながらも認め、自分との時間を楽しもうとしている様子を見たため、取り敢えず了承する事に決めていた。

 

「さてと、お兄様! えっと……着替えるから、部屋の外に出ていて欲しいな……」

「分かった! じゃあ僕も、ドラえもんの部屋で着替えたりとか、歯磨きとかしたりしてくるね」

 

 そうして、紫がスキマでこの場を去っていった後、フランはのび太に一旦部屋から出ていってもらい、外へ出かけるための準備を始めた。

 

「ジャイアンたちも居ない、ドラえもんも居ない、だからお兄様を1日独り占め……えへへ、幸せぇ」

 

 素早く寝間着から特別仕様のお出かけ着へと着替え、髪型などを吸血鬼でも映る特殊な鏡で整えている時、フランはこの後のデートについて想像し、表情が思い切り緩んでいた。

 

 特にジャイアンたちはもとより、幻想郷に来ているドラえもんも紫に連れられるかしておらず、のび太の気を自分から散らす()()がない事もあって、自分の心の内が独り言となって漏れ出てしまっている。

 

「妹様、入ってもよろしいでしょうか?」

「咲夜? うん、良いよ。どうしたの?」

「朝食が出来上がりましたので、妹様もどうですかと伝えに来ただけです」

 

 そんな感じで過ごす事20分、フランは自分の居る部屋の扉をノックする音が聞こえてからすぐ、咲夜が部屋への入室許可を求めてくる声を聞いた。

 着替えも身だしなみも整え、準備万端であるフランはそれを了承して入る様に促して用件を訊ねると、扉を開けて入ってきた咲夜は『朝食が出来たので呼びに来た』と、そうフランに伝えた。

 

「朝食かぁ。私も歯磨きしたら行くけど、お兄様は?」

「のび太様でしたら先ほど、()()()()()が朝食が出来た事を伝え、食堂へご案内をして――」

「咲夜。その妖精メイド、まさかとは思うけど……昨日、お兄様を()()()()()呼ばわりした挙げ句、くっついて甘えてた子じゃないよね?」

 

 咲夜からそう聞き、自分も歯磨きを終えたら向かうと伝えた上でのび太はどうなのかと聞いたフランは、妖精メイドがのび太を食堂に案内をしていると聞いた瞬間、即座に話を中断させた。

 

 そして、表情を曇らせながら詰め寄るようにして、お兄ちゃん呼ばわりした昨日の妖精メイドではないかどうかを、咲夜に確認を取った。どうしても、昨日の彼女がしていた表情を忘れられず、取られないかと心配になってしまったからである。

 

「はい、勿論ですよ。昨日の妖精メイドとは別の、比較的落ち着いたベテラン妖精メイドでしたので、しっかりと適度な距離感を保っていました。急がなくても、大丈夫だと思いますよ」

「なら良いけど……うーん」

 

 フランからそう聞かれる事を予期していたのか、咲夜は落ち着いてのび太をお兄ちゃん呼ばわりした、昨日の妖精メイドとは違うベテランの妖精メイドが案内をしていたと伝えた。勿論、距離感を適度に保ち、そう言った関係になる可能性は皆無であると、暗に示す。

 

「咲夜。やっぱり心配だから、今すぐ急いで歯磨きしてから向かう事にするね」

「分かりました」

 

 しかし、信頼出来る咲夜からの一言でも、のび太が取られてしまうかも知れないと言う想像の恐怖は完全に拭う事が出来なかったフランは、今すぐ洗面所へと向かって歯磨きなどを済ませ、食堂へと向かう事にすると伝えてから、この部屋を後にした。




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のび太とフランの幻想郷巡り(前編)

「お兄様! 早く朝ご飯食べてデートしに行こ!」

「ちょっ、分かったからフラン。そんなに急かさないで」

 

 咲夜から朝食の知らせを受け、急いで歯磨きを済ませて食堂へと向かったフランは、館の皆がドン引きする位の速さで朝食を食べ終えると、まだ普通に食べている途中であるのび太を急かしていた。朝食に掛けている時間の1分1秒が非常にもったいないと感じている上、2人きりのデートが楽しみすぎて興奮しているためである。

 

 しかし、言われているは本人はたまったものではない。早食い選手レベルの早さで食べろと言われても、一般人であるのび太には不可能であるからだ。

 なので、やんわり急かさないでくれとのび太はお願いをフランにするものの、興奮のあまり聞き取れていないのか急かしを止める様子はない。故に、食事を急いで取らなければいけない状況は、変わる事はなかった。

 

「フラン! ちょっと落ち着きなさい。のび太が困ってるわよ」

「妹様、お嬢様の言う通りです。そんなに急かしては、のび太様とのデートに支障が出てしまうかも知れませんよ」

 

 ただし、それは2人の様子を見ていたレミリアがかなり強めに注意し、そんなレミリアに同調してフランを諌めた咲夜のお陰で急かしが止まったため、のび太は落ち着いて食事を取る事が出来る様になった。

 

「あっ……うん。お兄様、急かしちゃってごめんなさい。2人きりのデートが嬉しすぎてつい、興奮しちゃったの」

 

 そんな感じで、レミリアと咲夜に注意されて興奮が収まり、その後すぐにのび太へ申し訳なさそうに謝罪の言葉をかけたフランであったが、その後にのび太が言った言葉ですぐに興奮が最高潮まで達してしまう事となる。

 

「大丈夫だよ、フラン。僕だって、君との2人きりのデートが楽しみなんだから、その気持ちは分かるし」

「えっ……?」

 

 何故なら、のび太の口から出た一言が、フランとのデートが楽しみと言うものであったからだ。

 一瞬、衝撃的過ぎたせいでのび太のその言葉が理解出来ていなかったフランであったが、自分とのデートが楽しみと言う言葉を反芻していく内にどんどん顔が火照っていき、意識せずに表情が緩んでいってしまっていた。

 もしも、のび太の性格からして自身を友達として見ているのであれば、デートとは言わないはずであると言うフランの考えも、興奮が高まった要因となっている。

 

「お兄様が、私とのお出かけをデートって言ってくれた……お兄様も私の事、恋愛的な意味で好きでいてくれてたんだ……えへへ、幸せぇ……」

 

 そして、最終的には椅子をのび太の隣にピッタリくっつけると、食事の光景を邪魔にならない程度の距離から見始め、夢心地となっていた。まだ出かける前なのに、出かけて楽しんでいる時の様な幸せを感じていたため、当然と言えば当然であった。

 

「あらあら。フラン、とっても幸せそうな表情……さてと、のび太。貴方の事だからそんな事はないとは思うけど、一応確認するわ。その言葉に、()()()()()()はないわよね?」

 

 すると、そんなフランの様子を微笑ましそうに見ていたレミリアが突如としてのび太に対し、先ほど言った言葉の中に一切の嘘偽りがないかと、威圧感を出しながら確認を取り始めた。

 たった1人の妹であるフランの幸せを思うがあまり、のび太がそう言うタイプの人間ではないと分かっていながらも、万が一があってはならないと、確認を取らざるを得なかったと言うレミリアの意思の現れである。

 

「うん、勿論だよ」

「……その様ね。ごめんなさい、のび太。愚問だったわ」

「謝らなくても良いよ、レミリア。幸せそうなフランを見て、そう言う風に思うのは当然だろうから」

「ふふっ、当然だよお姉様! 心優しいお兄様が嘘とかノリとかでそんな事言うはずないもん! 私にデートが楽しみって言ってくれた時の目を見て分かったの!」

 

 突然のレミリアから向けられる威圧感に驚いたのび太であったが、実際少しずつではあるものの、現代旅後半辺りからフランに対しての恋愛感情を抱き始めていた事もあって、胸を張って勿論であると答える。

 

 結果、のび太の瞳を見つめていたレミリアも、その言葉に嘘偽りはないと言う判断を下したため、この問題はすぐに終わる事となった。

 

「あっ、お兄様。食べ終わったね!」

「うん、やっと食べ終わったよ。じゃあ、早速行こう」

「はーい! じゃあ、お姉様! ()()()お兄様と一緒に、デートに行ってくるね!」

「ええ、行ってらっしゃい」

「お二人共、行ってらっしゃいませ。後片付けは私たちメイドがやっておきますので、大丈夫です」

 

 そして、食事中にじっと見つめられながらと言う、何だか落ち着かない状況ながらも出された朝食を食べ終えたのび太は、夢心地の状態のフランに半ば引っ張られる様な形で食堂を後にし、ひみつ道具の『テキオー灯』を使い、自分は『タケコプター』をつけてから紅魔館を飛んで後にした。

 

「それで、フラン。紅魔館を出てきたは良いけど、最初はどこに行くの?」

 

 ゆっくり飛びつつ、2人きりの空の旅を楽しんでいた時にふと、のび太がフランに対して最初はどこへ行く予定なのかと問いかけた。紅魔館を出る前に、フランと目的地の相談などをしなかったためである。

 

「あっ、お兄様ごめんね! 今私たちが向かってるのは『人里』って言う幻想郷で唯一、普通の人間たちが住むところだよ! お兄様の住む町みたいに大きくなくて、娯楽も比べればあまりないけど、安全だし雰囲気も良いところなの! 美味しい食べ物とかもいっぱいあるから、多分しばらく退屈はしないと思う!」

 

 のび太からの問いかけを聞き、デートが出来る嬉しさで舞い上がるあまり目的地を告げずに向かっていた事に気付いたフランは、その場ですぐに謝った後に、人里についての説明を始めた。

 あまり長くなりすぎず、かつのび太にとって出来る限り分かりやすくするため、フランの説明にもかなりの熱がこもっている。

 

「人里かぁ。一応聞いておくけど、危ない妖怪とかが襲ってきたりとかはするのかな?」

「ないよ! 妖怪は()()()()では昼夜問わず人を襲ってはいけないってルールがあるから。仮に、そのルールを破って人里内の自警団でも手に負えなければ、博麗霊夢って言う巫女さんを筆頭とした勢力の人に退治されるか、事が大きくなれば紫に文字通り()()()()からね! 」

 

 そんな感じで、今からデートに向かう人里についての説明を聞いたのび太は、そこでする楽しい事を想像しつつ、外から危ない妖怪などの人外的な存在から襲撃をされないか、念のために質問をした。

 のび太にとって、幻想郷はまだ未知なる場所であり、ひみつ道具と頼もしいフランの存在があれど、自分の身を脅かす危険な存在に襲われたくはないからだ。

 

 フランは、そんなのび太の心に秘められた不安を解消し、幻想郷巡りを心行くまで楽しんでもらうため、人里の中では妖怪などの襲撃は昼夜問わずに禁じられているから大丈夫だと答えた。

 で、そのルールを破った場合は人里内の自警団や、博麗神社の巫女である霊夢を筆頭とした勢力の人に退治されるか、酷ければ紫が出て来て襲撃者を幻想郷から文字通り消してしまう事を伝える。

 

「なるほどね。教えてくれてありがとう」

「うん、どういたしまして! また何か聞きたければ、知ってる限りの事は答えるから聞いて! と言うか、お兄様を襲う奴とかがいたら、私が絶対に殺……叩きのめしてあげるし、紫に気に掛けてもらってる訳だから、尚更心配しなくても良いよ!」

「分かった。頼りにしてるよ、フラン」

 

 更に、のび太が襲われると言う万が一が起こった際は、自分がその襲撃者を返り討ちにしてあげるし、紫に何かと気に掛けてもらっているから心配などいらないと言い、ようやく安心してもらえる事に成功し、フランはとても満足した。

 

「おじさん、こんにちは!」

「こんにちは、フランちゃん。そっちの兄ちゃんは……見た事ないな。服装も珍しいし、外来人かい?」

「うん、八雲紫に連れてきてもらった外来人だよ。のび太お兄様って言って、私の恋人なの! とっても優しくて、一緒に居るだけで心が幸せで満たされてね……えへへ」

「そうか。まあ、時間の許す限りはのんびりしていきな」

「はい、ありがとうございます。おじさん」

 

 そんな感じで、これから向かう人里についての説明を終えたタイミングで、眼下に広がる目的地が見えてきたため、入口付近まで飛んで降り、警備をしている里の人にフランは話しかけた。

 

 1人見知った顔の隣に人里はおろか、幻想郷に住む人間ではないと思われるのび太が居るのを見て彼は驚くも、フランが惚気るのを見ているのと八雲紫に連れてきてもらったとの一言、目を見てのび太が穏和な人物である事が理解出来たと言う理由から、警備係の里の人はゆっくりしていってくれと声をかけた上で通す事を決めた。

 

「凄い……まるで、昔の日本にタイムスリップしたみたい」

「お兄様、どう? まだ少し歩いただけだけど、楽しめそう?」

「少し周りの人たちの視線が気になるけど、楽しめてるよ」

「そっか。まあ、お兄様は外来人だし、格好も人里だとちょっと目立ってるって言える奴だから、しょうがないよね」

 

 警備係の里の人から通された後、フランの案内で人里をのんびり歩きつつ、建物やお店を見て回るなど、のび太はかなり良い感じにデートを楽しめていた。

 どの程度かと言うと、フランの楽しめてるかと言う問いに対し、時折里の人たちから注がれる、警戒してるかの様な視線がほぼ気にならないと答える程度である。

 

 そして、その視線もフランと一緒に歩いていく内に少しずつ減ってき始めた。紅魔館の当主の妹であるフランがのび太に対して完全に気を許し、親しげに会話を交わしたりしていたと言うのが、最大の理由だった。

 

 後は、恐れる事なく無邪気に挨拶をしてきた子どもたちに対し、のび太が名乗った上で優しく接していた光景が、それを見た里の人からねずみ算的に伝わり、少なくとも悪い存在ではないと認知されたのもあった。

 ただ、その際にスペアポケットからひみつ道具を出し、使って見せてしまった事で、不思議な魔法使いではないかとの噂が立ってしまい、興味の視線が向けられる事となってしまったが。

 

「お兄様、もうそろそろ次の――」

「よう、フラン。随分とお楽しみみたいだな」

 

 そんな事がありつつも、何だかんだ楽しみながら人里巡りを続ける事1時間、もうそろそろ次の場所へ行こうとフランが提案しようとしたものの、彼女に声をかけてくる人物が出てきたため、一旦中断される事となった。




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のび太とフランの幻想郷巡り(中編)

「魔理沙! えへへ、うん! 今、とっても楽しくて幸せなの! 大好きなお兄様と一緒に、2人きりでデートだから!」

「なるほど。要は、愛しの人って訳か……っと、悪い! つい声をかけたんだが、邪魔しちまったな」

「うーん……()()()()()()()、大丈夫だよ!」

 

 のび太との幸せなデートの最中、フランに声をかけてきた少女の正体は、彼女の大親友とも言うべき存在である『霧雨魔理沙』であった。どうやら、見知らぬ格好の人間の少年と楽しそうに歩いているフランを見て、つい声をかけてきたらしい。

 

 本来であれば、楽しく幸せな気分の時に少しでも横やりを入れられてしまえば、多少なりともフランは不機嫌になってしまうが、話しかけられた相手が大親友であったために全くそう言う事はなく、むしろ自慢気であった。

 現に、魔理沙がフランの話を聞き、邪魔して悪かったと謝ってから去ろうとした際、少し考えた後に笑顔で大丈夫だと宣言をしていた程だ。これが、他の少女たちであれば、そうはいかない。

 

「そうか、それなら良かったが……お前、名前は何て言うんだ?」

 

 フランから、笑顔で大丈夫だよと聞いた魔理沙は少しホッとした後、のび太に対して名前を尋ねた。大親友が、これ程にまでデレデレになっている少年についても、気になっている様だ。

 

「えっと、僕は野比のび太と言います。紫さんに幻想郷へと遊びに連れてきてもらって、今は紅魔館でお世話になってます」

「のび太……ああ、そう言えば前に聞いてたな。ちなみに、私は霧雨魔理沙だ。よろしくな!」

「はい! 魔理沙さん、よろしくお願いします!」

 

 魔理沙からそう尋ねられたのび太は、フランが仲良さそうに会話を交わしていた事に安心し、自分の名前と幻想郷に来た経緯を簡単に説明をした。魔理沙ものび太の話を聞き終え、簡単に自己紹介を終わらせた。

 

「ところで、さっきから気になってたんだが……フラン。何で晴れてるのに、日傘がなくても全く平気なんだ? パチュリーの魔法かとも思ったが、魔力を感じないし……」

「パチュリーじゃなくて、お兄様のお陰なの! 日傘がなくても、日光の下で私が遊べる様にしてくれたから!」

「のび太のお陰? へぇ……お前って、不思議な力を使える奴だったのか。外の世界の人間なのに、凄いな」

「ねっ、そうでしょ! お兄様はとっても凄い人なんだよ!」

 

 すると、のび太との自己紹介を終えたばかりの魔理沙が、日光の下でもフランが日傘なしで出歩けている理由が気になったらしく、不思議そうに尋ねていた。パチュリーの魔法の線も考えたが、特有の魔力を感じなかったためだ。

 

 で、フランは魔理沙からの質問に対して、反射的に()()()()()()であると満面の笑みで答えた。自分のために色々としてくれる優しいのび太に、かなり心酔しているためだ。

 その様相は凄まじく、魔理沙がのび太の事を凄い奴だと褒めると、表情を緩めてお兄様はとっても凄い人なんだと、人目も憚らず大きな声をあげる程である。

 

 ちなみに、その様子を見ていたのび太は、周りからの注目の視線が恥ずかしくて止めようと思っていたが、気分の高ぶるフランを止める事が出来ずにただ眺めているだけとなってしまっていた。結果、凄い力(ひみつ道具)を使う外の世界の人間なのかと言うイメージがついてしまう事となる。

 

「さてと、私はそろそろ霊夢のところ……博麗神社に向かうつもりだが、一緒に来てみるか? のび太の奴、幻想郷に遊びに来たんだろう? 勿論、2人だけが良いのなら、強制はしないけどな」

「霊夢のところかぁ……魔理沙と一緒に、うーん……」

 

 そして、フランの興奮がある程度落ち着いた後、魔理沙は2人に対して博麗神社へと一緒に来てみないかと誘いをかけた。のび太が幻想郷に遊びに来た事と、デートのために遊び回っている事を鑑みたためである。

 

 しかし、魔理沙からの問いかけに対して、フランはかなり迷っていた。大親友からの好意を無駄にするのは悪いと言う思いと、誰も余計な人を入れずにのび太と2人きりでデートがしたいと言う思いが、心の中でぶつかり合っていたからだ。

 これがもし、提案してきたのが魔理沙やレミリアでなければ、のび太と2人きりが良いとフランは即答していた。

 

「ねえ、お兄様はどうしたい? 博麗神社の霊夢って巫女さんの居るところに行くんだけど、私と2人きりが良い? それとも、初めての場所だから、魔理沙も一緒が良い?」

「えっ……」

 

 1分間、悩みに悩んだ末にフランが出した結論は、のび太に丸投げすると言うものであった。2人きりが良いと言ってくれれば良し、魔理沙も一緒が良いと言っても、大親友だからそれはそれで良しと思ったからだ。

 

 ただ、決定権を振られたのび太にしてみれば、ある意味でたまったものではなかった。自分だけの事を考えれば、初めての場所であるために魔理沙と一緒の方が良いのかもと思っているが、2人きりのデートをとても喜んでいるフランの笑顔を考えれば、一緒でない方が良いとも思っていると言うのが理由だ。

 後は、のび太自身も2人きりの時間を楽しんでいたと言う、そんな理由も存在している。

 

「えっと、魔理沙さん。博麗神社の霊夢って巫女さんに、僕たちの事を伝えてもらいに先に向かってもらう事は出来ますか? フランと一緒に、もう少し2人きりの時間をここ(人里)で作ってから向かいますので……」

「おう、任せとけ! じゃあ、私は先に行ってるから楽しんでこいよ!」

 

 

 結果、のび太はフランの倍以上の時間を使って悩みに悩んだ末、魔理沙に博麗神社へと先に向かってもらって霊夢に自分たちの事を伝えてもらい、人里でもう少しだけ2人だけの時間を過ごすと言う提案を持ちかけた。

 何故普通に答えるのではなく、この考えに至ったのかは本人も良く分かっていないが、自分の意思も尊重しつつ、フランも喜ばせたいと思ったために生まれた案であった事だけは確かである。

 

 魔理沙も、のび太にピッタリくっついて幸せそうにしているフランの様子を見てその提案を了承し、人里をもう少し楽しんでいけと言い残して博麗神社へと向かっていった。

 

「じゃあ、フラン。もう少しだけ、人里を楽しもう?」

「……うん!」

 

 で、当のフランと言えば、のび太が自分との2人きりの時間を少しでも長く過ごしたいと言ってくれつつ、のび太自身の思いも取り入れてくれたこの案にとても満足していた。気分が高ぶり、今すぐ抱きついたり軽くキスをしたくなる衝動に駆られる程だ。

 

 しかし、今この場でそれをしてしまうと、自分はともかくとしてのび太が恥ずかしさのあまり、デートが楽しめなくなってしまうかもしれないと思い立ち、理性で欲を無理やり抑え込んだ。どうせ、紅魔館に帰ればのび太の許す限り、好きなだけ出来る事であるからと言うのもあった。

 

「ねえ、お兄様。私の事、どう思う?」

「フラン。突然そんな事言ったりして、どうしたの?」

「どうもしないよ。ふと、今のお兄様が私の事をどう思ってるか気になったの」

「うーん……一緒に居るだけで凄く楽しくて、どんな嫌な事があってもそれを忘れられる位に、()()()()()()()()()かな」

「元気で可愛い……ありがと。じゃあさ、近い内(告白をする時)に誰にも話した事のない私の過去、お兄様にも話すから、嫌いになったりしないでね」

「大丈夫。心配しなくても、過去の事で僕はフランを避けたりはしないよ。まあ、ビックリする位はあるかもしれないけどね」

「お兄様……えへへ、約束だよ!」

 

 そして、再び人里巡りを始めた2人であったが、その様子はもう誰が見ても、恋人同士としか思わないものであった。

 している話は比較的重たいものであったものの、それを相殺するかの如く、お互いに距離が近くて雰囲気が穏やかなものであったからだ。

 

 少し前に、凄い力を使う外の世界の人間と言うイメージがつき始めただけに、吸血鬼であるフランの心を虜にする何があるのだろうと、のび太に対する興味も向けられ始めていた。

 これには、のび太自身の性格の良さや人ならざる者に好かれやすい体質、出会った当初のフランの精神状況が上手く噛み合ったからと言う理由があったものの、普通の人間である里の住人には知る由もなかったが。

 

「えへへ、お兄様! お金ならまだあるから、食べたかったり欲しかったりするものがあったら、遠慮しないで言ってね!」

「あ、うん。でも、フランばかりにお金を出させちゃって……何かお礼をしなきゃ」

「私が好きでやってるだけだし、お兄様とデート出来るだけでも幸せだから、お礼なんか別にいらないのに……あっ、そうだ! じゃあさ、紅魔館に帰ったら私とハグしたり……えっと、その、1回だけで良いから……キスしたり、してくれる?」

「……分かった。君がそれを望むなら、やるよ」

 

 その後も、人里にある和菓子屋に蕎麦屋、和洋の品々が揃う雑貨屋へと高いテンションのままに、フランはのび太を連れ回して楽しんでいた。使わずに貯めてあったお小遣いを躊躇いもなく使い、のび太にも楽しんでもらう事も忘れずにいる。

 

 故に、お金を使わせてばかりとなってしまったのび太が、いずれ何かお礼をしなければと思い始めてしまう。その様子を見ていたフランは、一時はお礼などいらないと言いつつも、それに便乗して紅魔館に帰った後にハグや軽いキスなどと言ったスキンシップをしようと考え付き、顔を赤らめながらの上目遣いでお願いを持ちかけた。

 

 のび太は、フランのお願いを聞いて現代旅の際にされたキスの事を思い出し、恥ずかしさのあまり同じく顔を赤らめるも、そのお願いを了承する事に決め、そう伝えた。

 結果、この提案をしたフランは、まさかあっさりと了承されるとは思っていなかったのか一瞬だけ固まったものの、すぐに紅魔館へと帰った後の事を想像し始め、今日1番の幸せを味わう事となる。

 

「さて、フラン。もう結構時間も経った事だし、そろそろ博麗神社に行こう。魔理沙さんと、霊夢って巫女さんも待ってる事だろうから」

「うん、そうだね!」

 

 そんなこんなである程度の時間が経った時、流石にもうそろそろ博麗神社へと向かった方が良いと感じたのび太がフランに呼びかけ、本人がそれを快く了承した事で、人里でのデートは本当に終わりを告げる事となった。




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のび太とフランの幻想郷巡り(後編)

「ふーん……なるほど。あんたが魔理沙の言っていた外来人の少年『野比のび太』と……確かに、フランは相当入れ込んでるみたいね」

 

 人里を去り、フランと一緒に博麗神社へと訪れたのび太は、先に待っていた魔理沙と共に、居間にて巫女である霊夢と相対していた。魔理沙が知り得る限りの情報を伝えてくれたお陰でスムーズに対面が出来てはいたが、霊夢の表情は少し硬かった。

 理由としては、フランののび太に対する好意の強さが、フランのレミリアに対する好意以上だと一瞬で理解してしまったからである。

 

 それも昔、レミリアが精神的に傷つけられたりした時、傷つけた相手に対して苛烈な怒りを向けるフランを鎮めるために、霊夢と魔理沙が必死になって止めたと言う事件があった事に由来していた。

 ちなみに、その引き金となった者は後日落ち着いた霊夢と魔理沙とレミリアの3人によって、厳しく処されている。

 

「フラン。一応聞くけれど、仮にのび太が傷つけられたりしたら、あんたはどう対処するの?」

 

 そう言った出来事があったため、フランがレミリア以上に好いているのび太が傷つけられたりしたら、のび太を含めた関係者が全員不幸になるレベルでの大惨事が確定した様なものだと霊夢は思っていた。

 

 故に霊夢は、フランの抱く好意がどれ程のものなのかを見極めるために、のび太が傷つけられたりした場合の対処を上手く出来るかと、出来る限り刺激しない言い方を選んで質問を投げ掛けた。

 

「お兄様が傷つけられたら? まず、傷つけられたのが身体だったらお兄様を回復魔法で治して、精神だったら私がお兄様の側に寄り添ってあげるの。取り敢えず、傷つけた奴は無視かな」

「なるほどね」

「次に、傷つき具合が酷かったりお兄様が何も言わなければ、奴が()()()()()()容赦なく叩き壊し……いや、お兄様に嫌われちゃうかもしれないから、全力の妖気で威圧して、それで駄目なら生活に支障を来したり壊れない程度に痛めつけて謝らせるかな! で、最後にちゃんとソイツにも完全な回復魔法をかけてあげるの!」

「へぇ、貴女にしては随分と穏健な報復手段――」

「それでも2度3度としつこくお兄様を痛めつけるのなら、問答無用で3回半殺しにした上でその場に放置するわ! 勿論、お情けで壊れない程度には回復魔法をかけとくけど!」

 

 結果、身体・精神的かに関わらずに最初は全力の妖気で威圧を与え、それでも駄目ならのび太を傷つけた奴に生活に大きく支障を来すか死なない程度の制裁を加え、謝らせた後に回復魔法をかけて解放してあげるとフランが答えた事で、霊夢は少し安心したと同時に、のび太へ向けられた好意と依存具合が凄まじいものであると実感した。何故なら、関心が他の女性に向いたり、嫌われる事に対する恐怖心が節々に滲み出ていたからである。

 

 のび太が霊夢と話している最中、少しでも笑みを見せれば一瞬不機嫌なオーラを醸し出すのと、それを本人に気づかれる前に抑え、不快感を与えない様に非常に気を使っていると分かった事が、判断材料となっていた。

 

「半殺し……ごめん、前言撤回するわ」

「ははっ。それにしてもフラン、凄い好意の寄せ様だな」

「あはは……」

 

 しかし、最後にフランはハッとして、のび太を身体・精神的に傷つけた奴が反省もせずにしつこい様であるなら、その場で回復と半殺し制裁を3回繰り返した挙げ句に放置してやると、満面の笑みで宣言してしまう。

 最後に、お情けで壊れない(死なない)程度には回復魔法をかけるつもりではいるとは言ったものの、あまりにも過激な報復内容に霊夢も前言を即撤回していた。のび太も、霊夢と同じくフランの発言を全て聞いていたため、苦笑いを浮かべている。

 

「それとのび太。フランが暴走しない様に、しっかりと見ててちょうだい。人間の貴方にお願いするのは正直あれだけど、フランがこれ程好いているから」

「分かりました……フラン。出来れば過激な仕返しをしてくれるよりも、そう言う人は無視して一緒に居てくれる方が、僕は嬉しいかな」

 

 そして、フランの『回復と半殺しの制裁を3回繰り返す』との発言に危機感を感じた霊夢は、彼女が強い好意を抱いているのび太に対して、暴走しない様にしっかりと見ていて欲しいとお願いをした。

 

 本来であれば非力な外の世界の一般人であるのび太ではなく、霊夢自身や親友の魔理沙、レミリア含む紅魔館の面々でどうにかすべき問題であるとは思っているが、こっちの方が色々な意味で断然良いと()()()()()()()()()()である。

 まあ、勘が教えずともこの件はのび太に丸投げした方が、誰も傷つかず済む事が明白ではあるが。

 

「分かった。お兄様がそれを望むなら……私はずーっと、お兄様が傷ついた時は一緒に居てあげる! ただ、それ以外の時も出来れば長く一緒に居たいなぁ」

「うん、勿論だよ」

「本当? えへへ……だから、お兄様って大好き!」

 

 霊夢からそうお願いをされたのび太は、自分のせいでフランが過激な事をして他人を傷つけ、それが巡りめぐってフラン自身に傷ついて欲しくないと思っているためにそれを了承、報復よりも寄り添ってくれた方が嬉しいと伝えた。

 結果、もしもの時があった際もフランは過激な報復をせず、そんな奴は最初から居なかったとして無視し、ずっと寄り添ってあげようと決意したので、霊夢の心配の種は1つ掘り返される事となった。

 

「さてと、話題を変えて……のび太。紫に誘われて連れてきてもらったらしいけど、いつまで幻想郷で遊んでいくつもりでいるの?」

「えっと、今日を入れて1週間は紅魔館の皆さんにお世話になりつつ、親友のドラえもんやフランと一緒に幻想郷巡りをしていく予定です」

「あら、のび太の親友も一緒だったのね。それらしき人物はどこにも見当たらないけど」

「はい。今日は紫さんに連れられて、どこかに行ってしまいました」

「紫に? 親友だけ連れていくなんて不思議ね……まあ、良く分からない事をし出すのには慣れたものだし」

 

 フランの暴走の可能性が極端に減り、心配の種が1つなくなったところで霊夢は話題を変え、のび太が幻想郷でどれ位の期間遊んでいくつもりなのかとの話になった。この空気を変えるためであるのと、紫に誘われて幻想郷へ遊びに来たのび太の人となりを、より知ろうと思っているからだ。

 

 そう聞かれ、魔理沙と人里でバッタリ会った時にした自己紹介とほぼ同じ感じで、のび太が説明し始めた。その際、親友である『ドラえもん』らしき人影が見当たらない理由が、紫にどこかへ連れられたと聞いてどう言う事かと霊夢は一瞬不思議に思うも、何か良く分からない事を考えているのだろうと即座に納得していた。

 

「とにかく、紅魔館の面々が後ろ楯になってくれて、紫にも目をかけられてるみたいだから比較的安心だけれど、それでも外の世界とは違って危ない場所ではあるから、1人では行動しない方が懸命よ。夜中は妖怪たちの時間だから、例え一緒でもやめた方が良いわ」

「勿論です、霊夢さん」

「それと、フラン。しっかりのび太の事を守ってあげなさい。万が一がない様にね」

「当たり前だよ、霊夢! お兄様の事は絶対に誰にも傷つけさせないから!」

 

 で、霊夢はそれらも含めた話を全て聞き終えた後にのび太に対して、例え紅魔館の面々や紫に目をかけられてるとは言え、幻想郷は外の世界とは違って危ない面も多々あるから気を付けろと忠告しつつ、万が一がない様にのび太をしっかりと守ってあげなさいと、フランにも忠告をした。

 

 のび太本人は言わずもがな、フランも霊夢に言われるまでもなくのび太の事は是が非でも守ってあげるつもりであったため、この忠告に耳を傾けた。

 ただ、守ると言ってもあまり圧迫感を感じさせては意味がない遠出フランも理解しているので、のび太が幻想郷の少女や女性たちと遊んだり会話したりする事に対して、基本的に何も言わない事を決めている。勿論、恋愛関係に発展する確率が高いと思われる行動や発言には、ある程度の実力行使も厭わないつもりではいるが。

 

「よし。これで、顔合わせは終わった訳だが、これからどうするんだ? 人里には行ってたし、いくら強力な守護者のフランが居て、のび太自身も不思議な力を持っているとは言え、初日からあまり遠出はしないだろ?」

「不思議な力? 本当なの?」

「ああ。フランが言ってたんだが、日傘なしでも出歩けてるのは、()()()()()のお陰だとさ」

「そうなの! 魔理沙の言う通り、私が日傘なしでも出歩けてるのはお兄様のお陰なんだよ!」

 

 そうして、お互いに顔合わせが終わった後、魔理沙がこれからどうするのかと言う話の中でふと発した『のび太も不思議な力を持っている』との言葉に、霊夢が懐疑的な反応を見せた。どう見てもただの一般人である様にしか見えないためであると同時に、パチュリーの存在があったためである。

 

 しかし、それはフランが日傘なしでも出歩けている事にのび太が絡んでいると魔理沙が言い、フラン本人も笑顔でそれを認めたため、解消される事となった。

 

「なるほどね。日傘なしでも出歩けてるのはあの魔女のお陰かと思っていたけど……のび太。差し支えなければ説明してもらえる?」

「分かりました。えっと……」

 

 それからすぐに、一見何の力も持たないのび太が一体どの様な方法を使ってフランを日傘なしでも出歩ける様になったのかと霊夢は気になり、差し支えなければ説明して欲しいとの願いを持ちかけた。

 

 この機会に、不思議な力の正体は自分の魔力と言った誤解を解き、22世紀の超科学によって作られた道具の効果によるものであると、ここに居る皆に認識してもらおうと考えていたのび太はこれを了承、説明を始めた。

 

「魔法みたいな事を、魔力とかを持たない人の手で作られた道具で出来るとか、凄いとしか言い様がないな」

「確かにね。と言うか、別次元に世界を創造する事が出来るひみつ道具なんて、もはや神の所業よ。外の世界の未来、幻想郷(ここ)が涙目になるくらいの魔境としか思えないわ」

「確かにね! でも、お兄様自身だって凄いんだよ! 何回も命すら失いかねない危機に飛び込んで、それを打ち払ってきたんだから!」

「命すら失いかねない?」

「うん! えっとね……」

 

 結果、フランに対して使用したテキオー灯以外にも数々の超絶効果を誇るひみつ道具の話や、今までしてきた冒険についての話なども含めて話した事によって、未来は魔境なのかと霊夢と魔理沙は驚愕していた。

 

「そりゃそうだ。いくら優れた道具があっても使う奴の精神が追い付いてなかったり、使い方や使い時を誤ったりすればそんな大層な事は出来ないからな」

「まあね。それにしても、スケールが大きすぎて話についていけない……過去に未来、地上に空中に水中、果ては魔法世界……道理で、のび太が幻想郷の説明を聞いても比較的落ち着いていられる訳だわ」

 

 加えて、今までのび太たちがしてきた冒険の話を聞いたフランが少し誇張させて話し始めたため、余計に驚きが増す事となっていた。勿論、冒険譚を誇張させて話される度にのび太が慌てて訂正する訳だけれど、訂正後の事実も普通に考えれば十二分に凄い内容であったため、意味はあまりなかった訳だが。

 

「なあ、のび太。魔法世界って――」

 

 で、のび太とドラえもんたちの冒険の話を聞いたり、ひみつ道具を見せたりしながらある程度の時間が過ぎた頃、魔理沙が魔法世界の事について聞こうとしたものの、博麗神社へとやって来た客によって立ち消えとなってしまった。




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重要な話

「それで、()()()()って何? しかも、のび太も呼び止めるなんて一体何を考えている訳? まあ、あんたたちが総出だから、きっとただ事ではないのだろうけど」

「ええ。まあ、ただ事ではないのは確かだわ」

 

 のび太やフラン、魔理沙の3人と会話中に神社へとやって来た来客……八雲一家(紫と藍と橙)を居間へと促した霊夢は、3人に向かって重要な話とは何かと、真剣な表情でそう尋ねていた。

 

 霊夢自身や魔理沙だけに対して呼びかけるのならまだしも、スカーレット姉妹を含めた紅魔館や紫を除いた幻想郷の住人には、今現在縁も所縁もほぼないのび太まで呼び止めている事が、大きな訳である。

 

「本当にただ事じゃないのか。なんとなく想像はつくが……なら、今すぐ全容を話してくれ。紫」

 

 そして、紫のただ事ではないと言う言葉を聞いた霊夢やのび太は勿論の事、魔理沙も真剣な面持ちとなったが、彼女はそれと同じ位に心配な事があったために、あまり集中が出来ずにいた。それは、幸せな一時の流れを真っ二つに切られたフランが、明らかに機嫌が悪くなっていくのを目撃したためである。

 

 これでも、当の本人は精一杯その事を隠しているつもりではいたが、隠しきれずに発されている妖気と魔力があまりにも多かった故に、魔理沙にはバレてしまっていた。

 ちなみに、そう言った力を感じ取る能力がほぼないのび太も、無理した笑顔や雰囲気、無意識に抱きつく仕草などからフランがご機嫌斜めだと察しているが、同時に精一杯我慢している事が分かっているので、何も気づいていないふりをしながら頭を撫でている。

 

「そう……なら、早く説明を頼むわ」

「分かったわ……まあ、()()()()()()

 

 魔理沙やのび太は言わずもがな、何かと付き合いの長い霊夢もフランの様子に当然の如く気づいている。なので、変に刺激して神社を含む周囲に被害が及んだり、その厄介事によるダメージを抑えるために早く説明をしてくれと紫に頼んだ。

 

 そうして、促された事によって始まった紫の説明を聞き、魔理沙と霊夢は驚きつつもまあそうだよなと納得し、のび太は純粋に驚く事となった。何故なら、幻想郷全体に()()()()()()()が近い内にやって来る事が確定してしまったと言う説明であったためだ。

 

 曰く、具体的にどのタイミングで起こるかやそれを起こす存在の内訳、異変の内容はあまり良く分かっていないらしいが、最高位の神々レベルの存在が幻想郷に大きく影響を及ぼす事だけが分かったとの事。

 

 勿論、そうなるまで手をこまねいていた訳ではなく、最初に結界に対する干渉に気づいた時には即座に対処し、影響が与えられる前に何とか守りきる事が出来ていたらしい。しかし、上手い事その少し外側の空域に同等の強度を誇る『超結界』を張られていた上、隠蔽工作が幾重にも施されていた事が後に判明し、そちらに気づいた時にはもうどうしようもないところにまできていた様だ。

 

 当然、そうなってからも紫を筆頭とした幻想郷の賢者組は解決策を探り当てようと奔走していたが、どうにもならずに頭を抱える羽目になっていたとの事である。

 

「幻想郷が滅亡する程ではないけれど……始まって以来の大異変とはなるでしょうね」

「「……」」

 

 あまりにもスケールの大きい異変の話に、霊夢や魔理沙ですら一瞬思考が止まってしまい、のび太も今まで経験した事のある冒険の中でも大きい方に分類される出来事に、表情も自然と真剣なものとなっている。

 

「うん、今までの異変の中で最も大規模なものが外部の存在によって起こるって事は分かった。でも、それだったらどうしてお兄様もこの場にいなければいけないの? まさかとは思うけど、お兄様を異変解決に使うつもり……?」

「ええ、その通り。今回のこの異変、幻想郷守護にのび太とその友人たちに協力してもらおうと考えているわ。ドラえもんからは了承済み、他3人はこれから交渉しに向かう予定よ」

「……」

 

 そんな中、せっかくのデートを妨害された上に、紫がのび太をその異変解決に協力してもらおうとしている事がはっきりと分かってしまった機嫌悪めのフランが、言葉を発そうとした霊夢を威圧で黙らせてからそう問いかけたところ、案の定紫は一拍間を置いた後にのび太や友人たちに協力してもらおうと考えていると答えた。

 

「やっぱり……紫。今すぐお兄様をあの町へ戻して」

「フランドール……」

「貴女たちは、お兄様が過酷な冒険をして五体満足で生き延びてきた経験と勇気があると知っているから、そう言ってるんだと思う。だけど、幻想郷史上最大の異変……怪我したり、想像したくはないけど死んじゃう可能性だってあるんだよ? 現にお兄様だって、何度か命の危機に見舞われた事だってあるって言ってるのに……」

 

 自分の予想が当たってしまったと知ったフランは、手を繋いでいたのび太の方に寂しそうな表情を一瞬だけ見せると、隠していた妖気や魔力と言った力や、悲しみや怒りなどの感情を全て紫に対して向け、今すぐお兄様(のび太)を町へ戻せと強い口調で責め立てた。

 

 本当なら冬休みが終わるまでずっと一緒に居て、あわよくばしっかりとした告白まで済ませたいと言う思いよりも、危険な場所に向かわせて傷つけさせたくないと言う思いの方が強くなったが故の行動である。

 

「フラン、ちょっと落ち着――」

「うるさい! 霊夢は黙ってて!」

「くっ……」

 

 今すぐにでも本気の戦闘が始まり、とんでもない事になりかねない雰囲気に霊夢が落ち着いてくれと言おうとするも、興奮しているフランにとってはそれも効かず、むしろいつの間にか出していたレーヴァテインの切っ先を向けられてしまったため、黙るしかなかった。勿論、実際に斬りかかって戦い始めるつもりは全くない様ではあったが、明らかにまずい行為である。

 

 その後も、本気で激昂しているフランが紫や藍たちを責め立て、のび太やドラえもんを今すぐにでも町へ戻してあげろと何回も繰り返し、終いにはお前たちをボコボコに叩きのめしてでも戻させると言い始めるなど、事態は最悪の方面へと向かっていった。

 

 なので、霊夢や魔理沙は戦闘準備を整えたり、神社本殿が崩壊しない様に結界を張るなどして万が一に備え始める。

 

「ありがとう、フラン。でもね、僕は紫さんのお願いを聞こうって思ってるんだ」

「えっ、どうして……?」

「うーん。困っている友達と大切な人(フラン)を見捨てて帰るなんて、僕には出来ないからかな」

「大切な人……もしかして、私の事……?」

「うん、そうだよ」

 

 しかし、そのタイミングでようやくのび太が緊張しながらも動き出し、今にも紫と戦い始めそうなフランを宥める事によって収まったため、霊夢と魔理沙の備えは完全に無駄に終わる事となった。

 ただ、怒りが落ち着いた後に今度はフランがのび太に抱きつき、嬉しさや罪悪感などから大声をあげて泣き始めてしまった事で、別の意味で事態が面倒な方へと傾いたが。

 

「なので、紫さん。僕やドラえもんが出来る範囲でなら協力します」

「ありがとう。そして、貴方を騙す様な形でここへ連れてきて本当に申し訳ないわ。一応だけど、嫌がっているのに無理やりやらせるつもりは全くなかった事だけは伝えておくわね」

「分かっています。紫さんはただ、幻想郷を必死になって守りたいだけだと」

 

 それから10分以上、フランが大泣きしながら八雲一家以外の3人に今までした行為について繰り返し謝り続け、疲れ果てて抱きついたまま眠りについた後、のび太が改めて紫に協力する旨を伝えた事で、全てが解決した。

 

 が、この様な状況でフランのデートが続けられる訳がなくなってしまったので、のび太は霊夢と魔理沙に挨拶を済ませると、紫のスキマを通って紅魔館へと戻っていった。

 

「美鈴さん、ただいま」

「はい、お帰りなさい。それよりものび太君、藍さんから聞きましたよ。紫さんのお願いを聞き入れて、一緒に幻想郷をいずれ襲い来る大異変から守る事に決めたと」

「はい。僕には美鈴さんたちみたいに強くはないですけど、出来る範囲で頑張ってみます」

「そうですか。でも、無理はしないで下さい。危ないと思ったら逃げても怒りませんよ。むしろ、妹様が悲しむので……危ない時は逃げてもらわないと困ります」

 

 で、紫にスキマで紅魔館へと送ってもらったのび太は門前に居た美鈴に挨拶をするために声をかけると、博麗神社でのやり取りが藍を通じて伝わっていたらしく、本当に大丈夫なのかと言いたげな表情でその事を話し始めた。

 

 何かしらあって傷ついたり最悪の事態が起こり得る異変に身を投じる本人が心配なのも勿論あるが、誰が見ても分かりやすい位にのび太に恋をしているフランに対して、万が一が起こった際の精神的ダメージが絶大なのが明らかであるから、当然である。

 

 ちなみに、博麗神社でした決意が僅かたりとも変わっておらず、美鈴の言いたい事が何となく理解出来ていたのび太は、無理なく自分に出来る限りの事するに留めると伝えた。

 

「あら、お帰り。、のび太。ドラえもんもそうだけど、紫からのお願いを聞き入れるなんて随分と勇気があるじゃない。流石、命がけの冒険をこなしてきただけはあるわ」

「あはは……紫さんも随分と困ってる様子で、幻想郷が危ないと言う事はレミリアたちも危ないって事だし……」

「ふふっ、のび太らしいわね……あっ、そうそう。妖精メイドたちが作ったおやつがあるんだけど、良かったらどう? ドラえもんも先に食堂で待ってるわよ」

 

 そして、美鈴とのやり取りを終えて館へと戻り、スヤスヤと眠るフランを部屋に寝かしに向かっている途中でレミリアとすれ違ったのび太は、殆んど先程と似たようなやり取りを交わした後に妖精メイドの作ったおやつを食べないかと誘われた。

 

「あっ、そうなの? 食べたいけど、フランの分は……」

「大丈夫よ。何故か張り切り過ぎたメイドたちが物凄い量を作ったものだからね」

「なら、フランを寝かせた後に僕も食堂に行くよ」

 

 まだ、紅魔館の料理は初日の夕食と2日目の朝食しか食べていないのび太であったが、その美味しさは既に理解していた。故に、幸せそうな夢を見て寝ているフランの分はあるのかと尋ね、有り余る程の量があると聞いた事で食べに行こうと決めた。

 その際、デートをする中で色々と飲んだり食べたりした記憶が過るも、そんなに多く飲んだり食べたりしなかったから良いやと、考えない事にしている。

 

 こうして、のび太は眠っているフランを彼女の自室にあるベッドへと運んで寝かせた後、レミリアたちの待つ食堂へと向かっていった。

 

 




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大異変の予兆

「全く……想像以上に凄い力ね。回避能力もさることながら、加減しているとは言え素早く動く私を捉え、命中弾を叩き出すなんて驚いたわ。体力はあまりないみたいだけど、人間にしてはかなり優れた空間認識能力と動体視力を持っている様ね」

 

 のび太とドラえもんが幻想郷に訪れてから5日目となった日の昼間、紅魔館の上空にてのび太は大鷲を模した『バードキャップ』と『ショックガン』を使い、レミリアと擬似的な弾幕ごっこを行っていた。こうなった発端は、フランの過剰な程の心配による提案があったためである。

 

 大異変が発生し、いざ戦闘となった時にもしかしたら咄嗟に動けず、最悪の事態が起こってしまう可能性が恐ろしくて堪らないための提案に、のび太もレミリアも了承して今に至っていた。

 

 ただ、手加減しているとは言え吸血鬼であるレミリアの素早い動きを捉え、威圧感を乗り越えて攻撃を続け、時折命中させる事すら出来るのび太の高い能力をまざまざと見せつけられたフランの心配は激減する事になったが。

 

「うん。苦手な事ばかりがある僕だけど、射撃だけは飛び抜けて得意だしね。まあ、普段の生活じゃ殆んど意味がないんだけど」

「でしょうね。普段の生活でも活きないと言う事はないだろうけど、全て活きるとしたら戦闘の時位しかなさそうだし。ただ、その能力のお陰で過酷な冒険でも生き延びる事が出来たのだから、誇っても良いと思うわよ。現に、私に攻撃を当てる事が出来ているのだから」

 

 そして、手加減しながらとは言え対峙したレミリアも、人間にしては類い稀な空間認識能力と動体視力を持つのび太に対して、純粋に褒め称えていた。

 体力と身体そのものの強さは一般人の範疇であるものの、数々の冒険をくぐり抜けてきた経験に加え、前述の2つの能力がかなり強力だと実感し、幻想郷でも何とかやっていけるだろうと確信が持てたと言う理由からだった。

 

 実際、そのお陰で数々の危機を乗り越えてきた訳なので、レミリアの認識は概ね正しいと言えた。そして、体力と身体そのものの強ささえどうにかカバー出来れば、中位の実力者として名乗り出てもおかしくはない。

 

「さてと、結構疲れてるみたいだからそろそろ終わりにするわよ。そうでなくても、練習ばかりしていたらつまらないでしょう?」

「確かにそうだね。じゃあ、そうする――」

「お兄様お疲れ! 休憩するなら、早く私のお部屋に行こ!」

「あっ……」

 

 で、レミリアはのび太を褒め終えると、空中を縦横無尽に駆け巡って擬似的な弾幕ごっこを全力で行い、疲れ果てている様子を見て今日はもう終わりにしようと判断を下した。

 

 のび太自身も、言われなければもうそろそろ休みたいと言おうと思っていたため、練習を終わりにすると言うレミリアの判断に従うと言った瞬間、待ってましたと言わんばかりに登場したフランによって有無を言わさずおんぶされ、彼女の自室へと運ばれていく事になる。

 

 あまりにも素早い一連の行動にのび太はもとより、レミリアですら一瞬反応出来なかった程であった。まあ、フランがのび太をおんぶした際にとても嬉しがっていた事から、特に追いかけて止めはしなかったが。

 

「えへへ……今日の戦い、凄かったなぁ。流石は()()()()()! お姉様に褒められてるのを見てて、自分の事の様に嬉しくなっちゃった!」

「そうなの?」

「うん! これって本当に凄い事だから、お兄様はもっと誇っても良いんだよ! あっ、麦茶どうぞ!」

 

 で、幸せな気分のままにフランは自室へと疲れきったのび太を運ぶと、レミリアとの擬似的な弾幕ごっこの結果を褒めちぎりながら、世話をし始めた。

 麦茶を持ってきて渡す、手加減弾幕による軽い怪我の回復魔法での治療、ハンカチで少しだけかいていた汗を拭う、退屈させない様に会話を出来る限り途切れされないなど、楽しそうである。

 

「えっと、フラン。流石にそれは自分で出来るから……」

「良いの良いの! 私がやりたくてやってるだけだし! それとも、お兄様は私にお世話されるのは嫌……?」

「ううん、嫌なんじゃなくて、何だかやらせっぱなしなのは申し訳ないなって」

「そっか! じゃあ、このまま私に疲れが癒えるまでお世話させてね!」

 

 ただ、世話をされている本人であるのび太自身、嫌と言う訳ではないが全く動けなくはない事もあって、流石に怪我の回復以外は自分でやった方が良いのではと思っていた。

 だから、実際に自分で出来るからとフランに言っていた訳だけど、今にも泣きそうだと思える様な表情と仕草によって断れず、世話されの続行は確定事項となる。

 

「ねえ、お兄様」

「フラン? 急にどうしたの?」

「本当なら冬休みの間、幻想郷で沢山遊んだりして思い出作りをするはずだったのに、大異変の解決に巻き込んじゃって……その、ごめんね」

 

 そうして、世話をされ始めてからある程度の時間が経過した時、唐突にフランはのび太に対し、これから起こりうる大異変からの幻想郷防衛に巻き込んでしまってごめんねと、自分のせいではないのにも関わらず謝り始めた。のび太が紫からの願いを聞き入れた理由に、フランの存在が含まれていた様な事を言っていたのが、ふと頭をよぎったからだ。

 

 一旦よぎってしまえば、紫の心の内を読み取って先に伝える事が出来ていれば、自分が傷ついてでものび太を現代の町に戻す力と勇気さえあれば、大好きな人を死ぬ危険のある戦いへと向かわせる事なんてなかったのではないかと、そんな考えがフランの頭から離れなくなっていた。

 

「君のせいじゃないから、謝らないで」

「お兄様……」

「僕の事を心配してくれてるんだよね。ありがとう、フラン」

「……うん!」

 

 しかし、こうなったのは決してフランのせいではない。どう言う経緯であれのび太を幻想郷へと招いたのは紫であるし、紫がのび太に協力を要請したのも、大異変を起こそうとしている何者かの仕業だからだ。

 

 のび太もそれを理解しているため謝る必要なんてないと言い、その後すぐに自分の身を心配してくれているが故の発言であると察し、いつもの様に頭を優しく撫でながらお礼を言って落ち込むフランを笑顔へと戻した。

 

「さてと、ちょ――!?」

「うぅ、何このやかましい音……あっ! お兄様、大丈夫!?」

「大丈夫だよ、ありがとう。それにしても、今のは一体何だったんだろうね? ほんの一瞬だけだけど、凄く頭に響く不快な音が……」

「うーん、本当に何だろうね。もしかして、これが異変の前兆だったりするのかな?」

 

 そんな感じで色々しながら2人だけの一時をお互いに楽しんでいる時、何の前触れもなく一瞬だけかなり大きな不快音が襲うと言う怪奇現象が発生した。

 例えるなら、黒板を爪で引っ掻いた時に出る身の毛もよだつ音が1秒程度、耳を塞いでもハッキリと聞こえてくる位の不快度である。

 

 当然、こんな音をまともに聞けるはずもなく、聞こえてきた瞬間に耳を塞ぐ体勢に2人はなっていた。今までこんな経験をしてこなかったのと、紫から幻想郷に大異変が起こると聞いていた事もあり、もしかしたらその前兆なのかもしれないと言う考えが浮かんでいた。

 

 ただ、幻想郷全体に影響のある大異変の前兆としては、いささか規模が小さすぎるとの考えもあったため、そうであるとは断言出来ずにいるらしい。

 

「お兄様見て! 窓の外、真っ白で何も見えないよ!」

「うわっ、本当だ凄い霧……ついさっきまでは気持ちいい程の晴れ間だったのに、やっぱり紫さんの言ってた『大異変』の前触れなのかも」

「確かに。霧の湖でもここまで酷くならないし、そもそも普通の霧から魔力なんて感じないし……部屋の中にまで響いてきたさっきの気持ち悪い音も合わせると、そうとしか思えないよね」

 

 しかし、ふと閉まっていたカーテンを開け、目の前すら見えない程の魔力を帯びた濃い霧に包まれた窓の外を見たり事によって、ここまでに起こった現象は大異変の予兆だろうと、そう確信を持つ事となる。

 

 とは言っても、この時点で2人に出来る事は全くと言って良い程なかった。いくらフランと言えど、幻想郷全体を覆っているであろう魔力を帯びた濃い霧を消せる力は持っておらず、それならばとひみつ道具を使おうとしたとしても、どう言う訳かのび太がスペアポケットに手を入れようとしても、謎の力で弾き返されてしまうと言う事態に陥っているからだ。

 ちなみに、既に外へ出してあるひみつ道具のテキオー灯や大鷲のバードキャップは、問題なく使用可能である事が判明している。

 

「スペアポケットが使えなくなってるって事は超空間が封じられてるって事だから……今回の大異変、『ギガゾンビ』みたいな時空犯罪者の仕業とか……?」

「ギガゾンビ? 時空犯罪者? でも、この霧からは魔力を感じるから違うとは思う。未来の道具って魔法みたいな事は出来ても、魔法そのものじゃないしさ」

「うーん、確かに神様みたいな存在が居る可能性だってあるし……分かんなくなってきたなぁ」

 

 そんな中、スペアポケットが使えなくなったと言う事態、魔力を帯びた霧の規模が大き過ぎる事から、のび太はこの大異変に未来人……その中でもとりわけ厄介な『時空犯罪者』が絡んでいるのではと考えていた。

 

 ただ、いくら魔法じみた事が出来る未来のひみつ道具を筆頭とした機械とは言え、魔法ではないので魔力を発する事はない。魔力を生み出す道具も聞く限りではない事も分かっている。

 故に、のび太やドラえもんとそれなりに付き合いが長いフランは、未来人が一枚噛んでいると言う訳ではないと思うと、キッパリと断言した。

 

 結果、この現象を引き起こした外部の存在が一体何者であるのか、余計に分からなくなってしまう事となった。まあ、例え分かったとしても、たった2人で挑むには強敵過ぎるのが明白であるため、分からなくても今のところは問題はない。

 

「あっ、お兄様。だんだん薄くなり始めてきたみたいだよ!」

「本当だね。それにしても、随分と大がかりな異変……」

 

 そんな感じで部屋の中でのんびり過ごすこと30分、ようやく目の前すら見えなかった濃い霧が急速に薄まり、外の景色が見えてくる様になったものの、その際に見えてきた景色を見た2人はかなり驚く事となった。

 




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フランの想い

「お兄様、空を見て! あれって飛竜じゃないかな? しかも、背中にフード被った人が乗ってる!」

「……あっ、本当だね。空飛ぶ竜とそれに乗る人が居るなんて、まるでゲームの世界みたいだ」

 

 少し先すら見えない霧が晴れた後、のび太とフランは上空を見上げた際に、人が背中に乗っている飛竜を見て驚いていた。霧が晴れた瞬間に、突然現れた形となったためである。

 

 しかも、人が乗った飛竜は翼も含めるとかなり大きく、姿形がハッキリと見える位の低空を比較的ゆっくり飛んでいた事もあり、かなり迫力が出ていたから尚更だった。

 最も、彼らも戸惑っていたのかすぐに遥か上空へと飛んで行ったので、姿をのび太とフランが見れたのはほんの十数秒程度である。

 

「うん! 飛竜とその飛竜に乗る人間なんてお兄様の居る町にも幻想郷にも居なかったし、さっきまでは冬だったはずなのに窓を開けた時に吹いてくる風も暖かいし、太陽の位置とかも何か違うから、もしかしたら異世界に丸ごと移動したのかもね! これなら、確かに大異変って言うのも頷けるなぁ」

 

 そんな中、のび太が飛竜とその飛竜の背中に乗っているフードを被った人物を見てふと言った、まるでゲームの世界であるとの言葉に同意を示し、今回の異変はそう言う様な世界へと幻想郷が丸ごと転移するものなのではと判断した。

 

 のび太自身も、流石にここまで大規模なものは体験した事はなかったが、『もしもボックス』を使用して魔法の存在する平行世界などへ行ったり、『絵本入り込みぐつ』で絵本の中の世界へと入ったりなど、似た様な経験をした事があった。

 故に、フランが言った幻想郷が異世界へと丸ごと移動させられると言う判断を、可能性が高いと考えている。

 

 ただ、これらは今現在起きている事から、その可能性がかなり高いと判断したに過ぎず、異世界に幻想郷が来てしまったと断定出来る物的証拠となるものは何もなかったため、今後調べていく必要があるが。

 

「フラン、のび太。変な現象が起きたけれど、こっちは大丈夫だった?」

「いきなり四次元ポケットが使えなくなったからビックリしたけど、のび太君とフランの方は何かなかった?」

「あっ、レミリアにドラえもん。僕たちの方も変な現象を目撃したけど、特に危なくはなかったかな」

「うん! だから、お姉様もドラえもんも、心配しなくても大丈夫だよ!」

「そう。これで館内全部を見回ったけど、危険な現象は起こってなかったみたいで一安心ね」

 

 初めての経験に驚きつつも、のび太と2人きりでの会話のネタが増えた事にフランが幸せを感じていると、部屋にレミリアとドラえもんが2人を心配しながら入ってきた。これ程大規模な現象が発生すれば、他にも何かあるのではと心配になるのも当然だろう。

 

 幸い、気持ち悪い音と窓の外が見えなくなる程の霧、人が乗った飛竜の低空飛行の目撃に冬から春の気温への変化など、現時点で大規模ではありつつも危険な現象には巻き込まれてはいない。

 故に、2人はレミリアとドラえもんに対して、一切危険な現象には巻き込まれていないため、怪我などもないと言う事を伝えた。

 結果、レミリアとドラえもんは2人の居る部屋に来る前、危険な現象が館内で起きていない事を確認しに回っていて、ここに来た事でようやく全体の安全を確認出来てホッと一安心する事となる。

 

「だけど、一応話は聞いておきたいわね。変な現象についての説明をお願い出来るかしら?」

「分かったよ、レミリア。えっと……」

 

 ただ、レミリアは一応変な現象について聞いておこうと思ったらしく、2人に対して何があったのかと質問を投げかけてきたため、今まで起きた事を全て説明した。

 その上で、のび太はフランと大異変がどう言ったものかを考えていたり、フランが自身との話のネタが増えたため、とても楽しく幸せな気分になっていたりしていたと付け加える。

 

「ありがとう……そうね。私とドラえもんも恐らく、紫の言う『大異変』は幻想郷ごと謎の方法で異世界へと転移させられるものと考えているわ。フランに分かりやすく言えば、10年以上前に紅魔館が幻想郷に引っ越した時に使った大規模魔法を、想像つかない規模に大きくした術か何かによってと言ったところかしら」

「やっぱり、お姉様も似た感じの考えになるんだなぁ」

「ええ。まあ、そう考えたところで今すぐ解決出来る訳じゃないから、紫が何か言ってくるか危険な事態が引き起こされるまでは、普通に過ごす感じになるわ。だから、のび太との幻想郷デートもこのまま続けて大丈夫よ。万が一の時は、すぐに戻ってくるって約束してくれるならね」

「本当!? えへへ、やったぁ!」

 

 結果、レミリアとドラえもんの2人も、のび太やフランとほぼ同様の考えに至っている事が判明した。

 しかし、超空間を一時的とは言え封じる事が出来たり、幻想郷ごと異世界転移させると言う超規模現象を引き起こす存在が裏で手を引いている以上、紅魔館に居る面々のみでは圧倒的に力不足であるのは否めない。ここに居る全員が、そう実感している。

 

 そのため、紫から何らかの指示が出されるか、差し迫った危機がない限りは普段通りの生活を送る感じとなる事がほぼ確定となった。

 当然、フランがのび太との2人きりのデートをしても問題はなく、レミリアからそう言われたフランはひとまずデートが可能だと知れたため、満面の笑みを浮かべて喜びを表現した。

 経験した事のない事態のお陰で会話のネタが増え、幸せな心地でいたフランも、心の中では当分出来なくなるのではとの不安も抱いていただけに、これは当たり前の反応だと断言可能である。

 

「あっ、レミリアさま! 美鈴さまから、『紫さんの連れてきた来客3人を入れても良いか』と、伝言を預かってます!」

「紫の連れてきた来客3人……? 特徴とか名前とか、何でも良いけど聞いてない?」

「えっと、のび太さまのお友達とか言ってました! 名前は確か『源静香』『剛田武』『骨川スネ夫』だそうです!」

 

 4人でそんな感じのやり取りを交わしていると、扉を開けっ放しにしていた部屋に妖精メイドの1人が、美鈴からの伝言をレミリアに伝えるために入ってきた。内容は、紫が連れてきた来客3人を紅魔館へと招いても問題ないかと言うものであった。

 

 奇妙な現象が発生し、幻想郷が恐らく異世界転移したであろうこのタイミングで紫が来客を連れてきた事を不思議に思ったレミリアは、特徴とか名前とかを聞いていないかと妖精メイドに尋ねると、その3人はのび太の友人であるしずかちゃんとジャイアン、スネ夫であると判明する。

 

「あぁ……なるほどね。あの3人なら入れても構わないから、美鈴にそう伝えておいて。彼らが寝泊まりする部屋の掃除とかも必要だから、メイドたちを何人か客間に向かわせといてくれると助かるわ。それと、彼らを招いたら一応ここまで案内してちょうだい」

「分かりました!」

 

 のび太の友人であり、自分とも何かと付き合いがあった3人の名前を聞いたレミリアはすぐに館に招く事を決め、そのために妖精メイドに対して色々と指示を出し始めた。

 

 まさか、幻想郷に自分たちの友人である3人が既に来る事を決めて来ていたとは思ってなかったのび太とドラえもんは少し驚くも、普段から色々あっても仲が良く、なおかつ冒険の頼もしい仲間でもある彼らが来る事を歓迎していた。

 

「……」

 

 しかし、フランだけはそんな状況を全くもって歓迎していないどころか、何故来るんだふざけるなと強く不満に思っていた。理由は、大親友のドラえもんでも妥協しているのに、更に3人も()()()()()()が加ってしまい、のび太の気が散ってしまう恐れがあると考えたためである。

 

 特に、しずかちゃんに対してはのび太との付き合いも長く、同年代かつ異性である事が加わり、愛しているお兄様を取る危険が高い恋敵として認識しているため、ジャイアンやスネ夫と比べて向ける敵意がかなり強かった。

 自分が会わなかった場合ののび太の未来に、しずかちゃんと結ばれると言うものがあったと現代旅の時に知ったため、尚更だった。

 

「うぅ……」

 

 しかし、それよりものび太が自分から離れていってしまう未来が来る事に対する恐怖などの感情が、敵意を圧倒的に上回る形で既にフランを覆い尽くしていたため、むしろ表面に出てきたのは涙であった。

 

 先程まで笑顔だったフランの変わり様に、レミリアもドラえもんも困惑気味となっているが、今まではジャイアンやスネ夫やしずかちゃんが居てもそこまでの態度は見せなかったために、こうなるのも無理はない。

 ただ、そんな感じで恐怖に震え、涙まで流し始めたフランを見たのび太が咄嗟にしたとある行動によって、この問題は即解決される事となる。

 

「フラン、ちょっとこっちに顔を向けてくれるかな?」

「ぐすっ……お兄様……!?」

 

 何故なら、現代旅の終わり際にフランがのび太に対してしたのと同じ様に、のび太がフランに対してほんの一瞬、顔を赤くして恥ずかしながらキスをしたためだ。

 今まで合わせて2回、それも自分からしかした事がなかったフランは、まさかのび太からされるなどとは想定しておらず、あまりの事態に頭が追い付かなくて固まってしまう。

 

「あらあら……随分と見せつけてくれるじゃない、のび太。これは将来が楽しみね」

「……うん。この運命の分岐点を進んである程度の変化があったとしても、最終的な未来は変わらないらしいから、君は何の心配をしなくても大丈夫。のび太君が幸せなら、それで良いんだから」

「ちょっと、お願いだからそんな大きな声で言わないでぇ……!」

 

 この光景を見せられた2人によって間髪入れずに色々と言われる事となったのび太は、ただでさえ赤かった顔を更に赤くさせながら大きな声で言わないでくれと、慌てふためいてしまう。

 結果、運悪く部屋の前を掃除のために通ったお喋り妖精メイドに聞かれてしまい、あっという間に館中に知られてしまった。

 ちなみに、これはレミリアが妹の幸せを後押しするために、狙って作られたものである。

 

「レミリアさま! のび太さまのご友人をお連れしました!」

 

 そうして、妖精メイドがジャイアンたち3人を部屋まで案内してくれるまで、この状況は続く事となった。




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異世界の調査

「のび太! 八雲藍って言う九尾の狐の姉ちゃんから、お前が幻想郷に降りかかる大異変とやらの解決を手伝うって聞いたから、俺たちも来たぜ!」

「ジャイアン! しずかちゃんにスネ夫も……来てくれたんだね」

「おうよ! ああだこうだ考える前に、身体が動いたからな。心の友を助けるのに、理由なんか要らないだろ?」

 

 友達であるジャイアンやスネ夫、しずかちゃんが幻想郷へと来てくれた事に対して、のび太は嬉しく思っていた。わざわざ藍から幻想郷やそこに降りかかる危機について色々と説明を受けた上で、自分が居ると知るや否や、来る事を選んでくれたためである。

 

 普段は何かとトラブルが多い友達同士でありながら、いざと言う時はお互いに友達の事を思って行動するため、こうなる事は必然と言えるだろう。しずかちゃんとは例外的に、殆んどトラブルは起こり得ないが。

 

「全く……()()()()()()()()って、のび太の奴が調子に乗るから僕もこんな目に……」

「とか言いながらすぐに来る事を選んだのを見るに、のび太とドラえもんが心配だったんじゃねえか? 素直になれよ」

「武さんの言う通りよ。本当は私と同じで、心配していたじゃないの? ここに来るのも強制じゃないのよ」

「まあそうだけどさ……」

 

 2人とは違い、スネ夫は藍からの説明を受けた上で即座に来る事を選んでおきながら、恐怖と言う感情が2人に比べて強かったために、のび太に対する多少の呆れを伴う愚痴をこぼしていた。

 が、2人と同様にのび太やドラえもんに対する心配は言わずもがな、種族の違いなど関係なく楽しく遊べる友人『レミリア』や『フラン』の事も気になっていた。故に、ああだこうだ言いつつも来た事自体に後悔はしていない様ではある。

 

「まあ、その話は終わりにするとして……のび太。ここに来る途中に案内してくれた妖精メイドから聞いたんだが、フランに()()()()キスしたってのは本当なのか?」

「ぶっ……!」

 

 そんな中、ジャイアンが唐突にこの件についての話を終わらせると同時に、のび太にフランに対して自分からキスをしに行ったのは本当なのかと、そう質問を投げかけた。

 

 案内してくれた妖精メイドから何気なしに聞いたり、すれ違う妖精メイドの噂話を耳にして疑問に思ったがために投げかけただけであり、ジャイアンには全く悪意はなかったが、当の本人であるのび太にとってはたまったものではないため、思わず黙り込んでしまう。

 

「ええ、私もこの場で目にしたから間違いないわ。お陰でフランったらこんな感じでずっと蕩けた状態なのよ」

「やっぱりな……ハハッ! のび太の癖にやるじゃねえか」

「そうね。長く付き合うにつれて種族や価値観の違いから来る問題は絶対に出てくるだろうし、私自身抱いている色々な思いはあるけれど、妹の幸せを願う身としては是非ともこのまま結婚まで行って欲しいわ」

 

 すると、そんなのび太の様子を見たレミリアがジャイアンの問いかけに対して代わりに答え、色々な問題が発生したり自身が思うところがあれども、フランの幸せを考えればこのまま結婚まで突き進んで欲しいとまで言ってしまった。

 

 故に、恥ずかしさが限界突破してしまったのび太はそのまま何も言わずに黙り続け、スネ夫はドラえもんと共に取り敢えず静観する事に決め、しずかちゃんは内心複雑な思いを抱きつつも見守る事に決めていた。

 

 ただし、フランに至ってはようやく蕩け状態から回復しようとしたタイミングで、レミリアの『のび太との結婚』と言う言葉を耳にしてしまったせいでその光景が頭に浮かんできてしまっていた。

 結果、意味不明な言葉を呟きながら蕩けた表情を見せたり、かと思えば唐突にドラえもんで遊んだ挙げ句、のび太を抱えてぐるぐる回ったり、他にも奇妙な行動を取り始める程の混乱状態となる。

 

「あぁ……疲れた……それは取り敢えず終わりにしてさ、ジャイアンたちは幻想郷に来てからは何をしたら良いかとか聞いてる?」

 

 そうしてある程度の時間が経過し、恥ずかしさから復帰したのび太は必死になって混乱するフランを宥め終えると、ジャイアンにそう問いかけた。このタイミングで来たと言う事は、八雲一家の誰かから幻想郷を守るために何をして欲しいかを言われているかもと考え、もし言われていればそれを実行するべきだろうと考えたためである。

 

「その事なら、ひとまず何かあるまではお前とドラえもん、紅魔館の住人たちと遊びながら過ごしててくれって言われたぜ。あっ、可能なら幻想郷とその周囲の様子調べを手伝ってくれと言って欲しいと頼まれてたな」

「なるほどね……ドラえもん、何とか出来ない?」

「うん、任せてよ」

 

 結果、取り敢えずは皆で遊んでいても構わないが、可能であれば幻想郷とその周辺の地形調べを、どんな形やタイミングであれ協力して欲しいとの要望があった事が判明した。

 

 そのため、のび太はドラえもんにどうにか出来ないかと訊ね、ドラえもんはそれを受けて、ねじ巻き都市を作った小惑星で地形を調べるために使った機械を含め、生き物観察を目的としたステルス偵察機を使うために、中庭へと向かっていった。

 それに続き、部屋に居た仕事が残っている妖精メイド以外の全員は、その様子を見に行くために中庭へと向かっていく。

 

「ドラえもん。その偵察用の機械が偵察を終えるまでにどれ位かかるのかしら?」

「うーん……どの位の広さを、どこまでしっかり調べるかによるから何とも言えないかな。けど、時間はかかるとは思うよ」

 

 中庭に向かい、ドラえもんが数多くの種類の機械を素早く用意してから偵察機を上空へ発射させると、レミリアが偵察がいつ終わるのかと疑問を投げかけた。

 

 しかし、それは調べるエリアの広さや細かさをどれだけ重視するか、天候や気温や湿度の変化の幅の違い、ドラゴンなどと言った異世界の魔法生物の動きによって細かく左右されるため、正確には言えない。ただ、世界全体を調べる訳でもない事から、それ程長時間かかると言う訳ではないが。

 

「ねえ、お兄様。ドラえもんって確か、子守り用のロボットだったんだよね?」

「うん、そうだけど……それがどうかしたの? フラン」

「ドラえもんの持つひみつ道具を見てるとさ、本当に子守り用のロボットなのかなって思えてならないんだよね。それとも、未来って物凄く危ないのかなぁ」

 

 で、ドラえもんのひみつ道具による偵察が始まってから15分程が経った頃、その様子をのび太にべったりくっつきながら見ていたフランが、ふとそんな疑問を口に出した。

 出すひみつ道具が子守りに使うには危険すぎたり、そもそも子守り用のものとは思えない道具の数々を所持しているため、疑問自体は何らおかしいものとは言えない。

 

 ただ、フランがこれらの要素から未来が混沌とした世界なのではと誤解し始めてしまった事で、のび太やドラえもんが即座に否定をする事となった。

 

「幻想郷全体の写真はともかく、周辺の様子も航空・衛星写真で届いてるけど……本当に異世界に来たんだなぁ」

「「「……」」」

 

 色々と微笑ましいやり取りを交わしながら待つ事更に10分、何の脈絡もなしに噴水の如く写真が噴き出してきた。どうやら、指定した範囲の偵察が終了したらしい。

 

 幻想郷周辺を低空飛行した極小の旧型ステルス偵察機が捉えた、目測数mの飛竜の群れを含めた魔法生物の数々、幻想世界の人々が暮らす中世~近世の欧州を彷彿とさせる町並み、高高度を飛ぶ通常偵察機のカメラが写した地球では見られない奇妙な地形など、全員が驚くに値する情報が送られてきた。

 この様子を見るに、初回の偵察としてはかなりの成果を得る事が出来た様である

 

 勿論、もっと別の場所の偵察も行いつつ、例え同じ場所であるとしても何か重大な変化を見逃さない様に、手持ちの偵察機の一部をを幻想郷との境目付近を定期的に巡回させる様に設定を行う事も忘れない。あくまでもこれは、幻想郷に降りかかる大異変に対抗するためであるからだ。

 

「しかし、想像以上に町が近すぎるわ。見た感じ、のび太とフランが見たって言う飛竜に乗った人間もある程度の数は居るみたいだし……恐らく、そう遠くない内に幻想郷の存在は多くの異世界人に露呈するでしょうね」

 

 噴き出してきた写真を拾い集め、全員で偵察機が捉えた多数の写真を見終えると、幻想郷からそう遠くない位置に異世界の人々が暮らす町がある事に対して、レミリアが問題視し始めた。どう考えても、軍事都市にしか見えなかったと言う理由があるためである。

 

 流石に友好的か敵対的かまでは分からなかったが、万が一を想定しておいた方が安心ではある。勿論、何もしなければいきなり撃墜するなどの態度は取らないつもりでは居るものの、取り敢えずレミリアは彼らを敵対的な存在だと想定して、警戒していく事を決めた様だ。

 

「うん。それにこれ、早くアイツ()に知らせた方が良いんじゃない?」

「確かに。でも、探すのが面倒――」

「心配せずとも来たわよ、レミリア。フランドール」

 

 そんなレミリアの様子を見たフランも、のび太が大怪我を負って苦しんだり死んでしまう事に絶対的な恐怖を覚えたらしい。同様に警戒していく事を決め、紫に知らせた方が良いのではと言い始めた。

 すると、待ってましたと言わんばかりの早さで紫が隙間から現れたため、呼びかけたり探すなどの手間が省ける事となった。

 

「紫さん。これ、この辺の様子を写した写真です。是非とも役立てて下さい」

「……ここまで素晴らしい写真を用意してくれるなんて凄いわ、ありがとう。これで色々と調査が捗る事でしょう」

「いえ、これ位なら全然危険じゃないので大丈夫ですよ」

 

 紫が現れたのを確認したドラえもんは、機械から噴き出してきた写真を全て渡し、調査などに役立ててくれとの言葉をかけた。

 未来の機械を使って撮った写真の写りは非常に優れているため、紫も今後の調査などがかなり捗るだろうと感じ、ドラえもんに対して頭を下げて感謝の意を表した。

 

「巻き込んでおいてなんだけど、無理はしないで。何も危機が起こってない時は、羽を伸ばして良いのよ」

 

 最後に紫はそう言い残し、来た時に出てきたスキマに入ってこの場を後にした。




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地下室での遊び

「さて、これからどうする?」

 

 ドラえもんの道具による異世界の調査結果を紫に伝えた後、取り敢えず館内へと戻っていたのび太たちは、夜になるまで余った時間をどう過ごすかとの話し合いを行っていた。

 

 本来であればすぐに紅魔館の近くにある霧の湖、人里や博麗神社と言ったのび太がフランと共に行った事があり、かつ比較的安全な場所を含め、色々と見て回るなどして遊ぶ考えも浮かんでいた。

 

 しかし、異世界転移による異常現象が起こってからそれ程経過しておらず、恐らくどこへ行っても楽しめる状況ではないと言う考えがこの場の全員にあった。故に、今日の外出はやめておいた方が良いのではとの意見が出たため、この様な状況となっている。

 

「うーん……とは言え、うちで出来る遊びは限られているわ。例えば漫画や小説を読む、チェスやオセロやトランプをやるって感じ――」

「お姉様、だったら地下室使って身体を動かそうよ。私とお姉様が全力で飛び回って戦える位に頑丈で広いし、スポーツで例えるとバドミントンとか、思い切り出来そうだからさ」

 

 中々意見が出ず、どうしようかとレミリアを含めた全員が考えていると、フランがバドミントンと言ったスポーツを例に挙げ、暴れても問題のない地下室で思い切り身体を動かすなどして遊んではどうかと勧めた。

 

 確かにそれは良いアイデアだと思いつつも、例に挙げられたそれらのスポーツをするための道具や環境が紅魔館にはない。故に、その辺は分かっているのかとレミリアが問うと、ドラえもんがどうにかしてくれるだろうとフランが答えた。

 

 これは、ひみつ道具の万能さをドラえもんやのび太と交流を重ねていく内にある程度理解し、道具や環境が作れたりするのではと信頼しているがための発言である。

 後は、ひみつ道具以外にも四次元ポケットの中には色々なものが仕舞われている事を、フランはのび太経由で情報を得ていた。なので、仮にひみつ道具でどうにかならなくても、ラケット・バドミントンの羽があるのではないかと考えたと言う理由も存在していた。

 勿論、実際にそうだと言える何かを掴んでいる訳でもなく、単にそうではないかと考えているに過ぎないだけであるが。

 

「うーん……あっ、運良くあった! 後はこれを人数分増やすだけ……」

「やったぁ! これで、()()()()()()()()()()で遊べる!」

 

 すると、フランからどうにかしてくれと要望を受け、四次元ポケットに手を入れてあるかどうかと探していたドラえもんが、運良く見つけたバドミントンに使う各種用具をポケットから出し、足りない分はひみつ道具の『フエルミラー』を使い、人数分増やす事でその問題は解決した。

 コートの問題は、ドラえもんを筆頭に書物で確認しながらそれらしき感じに再現を行い、どうにかプレイ出来る位には作る事が出来ている。

 

 で、準備が終わって少しの休憩を挟み、最後にレミリアとフランの自主的な力と能力の抑制、バドミントンのチーム分けや地下室の明るさ調整などを行い、怪我をしない様に体操をし終え、完全に運動する体勢が整う。

 

 シングルスかダブルスどちらにするかについては、フランがのび太と一緒じゃなきゃ嫌だと強く主張した事により、ダブルスで行われる事が決まった。ちなみに、最初に行われるバドミントンの試合ではのび太・フランのペアとレミリア・しずかちゃんのペアが戦うと決まっている。

 

「最初はバドミントンかぁ。お兄様、楽しもうね!」

「うん。でも、僕って運動苦手だからフランの足を引っ張るかも……」

「ううん、私なら大丈夫。ボロ負けしようが勝とうが、お兄様と一緒に楽しくやれればそれで良いから。何なら私だって経験とか少ないから……あっ、お兄様が勝ちたいって思ってるんだったら、私が一生懸命頑張るよ!」

 

 自分が好いている相手と一緒のペアでバドミントンを出来るとだけあって、フランのテンションは開始前から既に非常に高い水準である。勝ち負けなど心底どうでも良いと考えているため、のび太の自信なさげな発言にもそう言い、楽しくやれれば良いよと伝えていた。

 

 一方、レミリアとしずかちゃんのペアはあくまでも遊びとは言え、本気で勝利を掴み取るために挑むつもりでいるが、自分たちが楽しむ事も忘れてはいない。

 

「あら、運動苦手とか言ってる割にはやるじゃない。フランに良いところでも見せたいのかしら?」

「まあ……うん」

「お姉様、お兄様が恥ずかしがってるから止めて! せっかく良い感じなのに、集中力を途切れさせるつもり!?」

「いや……そんなつもりはなかったのだけど、ごめんなさいね」

 

 こうして始まった対戦であったが、意外にものび太が良い動きを見せ、押されながらも何とか立ち向かえているためか、見ているドラえもんやジャイアンも衝撃を受けていた。

 レミリアに至っては、普段から運動が苦手と繰り返し聞かされている事もあって何ら悪気なく、フランに良いところを見せたいのかと聞いてしまう程であった様だ。

 

 しかし、結果としてのび太の集中力が恥ずかしさにより落ちてしまった事は否めない。加えて、スタミナの差から急激に動きが鈍くなり、フランのカバーが間に合わずに点を取られてしまう事が増えてしまった。

 

 ただ、見応えのある試合にはなっている故に、フランが居ると言っても正直すぐに決着がつくだろうと考えていたジャイアンとスネ夫は、この様子を集中して見ている。

 

「あーあ……負けちゃったね」

「はあっ、はあっ、そうだね。でも、結構上手く行った方だし、僕は楽しかったよ」

「そっか。お兄様が楽しかったなら、それで良いや!」

 

 それから時間が更に経つ事数分、レミリアのスマッシュが綺麗に決まり、のび太とフランの負けで最初の試合が終わる事となった。

 惜しいところまで行った状況からの負けでも、終わった後の様子から、のび太もフランもかなりこの勝負を楽しめている事が分かる。

 

「やるじゃねえか、のび太! 普段のへなちょこぶりとは大違いだな!」

「野球でもこの位上手く行ってくれたら……まあ、今は良いや。お疲れ」

「うん、ありがとう。2人も頑張ってね」

「「おうよ!」」

 

 次の試合の出番であるスネ夫とジャイアンも、終わって待機場所に戻ってきたのび太の、普段の様子からは想像もつかない位の活躍を純粋に褒め称えた。少し遅れて、疲れた事でドラえもんと交代が決まったしずかちゃんも同じ様に褒めたため、のび太はかなり嬉しい思いをする事となる。

 

 で、このスネ夫とジャイアンの『へなちょこ』発言と、しずかちゃんがのび太と楽しげに会話をする様子がフランは気に入っていないが、この様な場所でそれを表明するのは雰囲気がぶち壊しになると考え、何も言わないと決めていた。これにより、余計な争いが起こらないで済んだ。

 

 そしてこのやり取りの後、すぐにジャイアン・スネ夫ペア対レミリア・ドラえもんペアの試合が始まった。

 元々運動神経が良く、そこそこの期間バドミントンの経験済みであるジャイアンと、そのジャイアンにある程度ついていける位の運動神経を持つスネ夫は、レミリアとドラえもんのペアにほぼ互角で渡り合え、点差も抜きつ抜かれつの関係になっていた。

 

 とは言え、レミリアの力や能力は大きく制限していても、スタミナまではそれ程大きく制限出来なかった関係で、徐々に戦況がレミリア・ドラえもんペアに傾くのは避けられなかった様である。

 

「くそぉ……力を制限していても、やっぱりレミリアは強えな」

「ふふっ、褒めてくれてありがとう。でも、ジャイアンとスネ夫だってかなり強かったわよ」

 

 故に、10分程続いたこの試合の結果は僅かにではあるが、レミリア・ドラえもんペアの勝利と言う形で幕を閉じる事となった。様子を見る限りでは勝った方も負けた方も、今回の試合をお互いに楽しむ事が出来ていたので、良い感じだ。

 

「お姉様。次から美鈴とかパチュリーとか妖精メイドさんたち、良ければ魔理沙とか誘ってやらない? 楽しかったけど、相手がもっと居たらもっと楽しそうだしさ」

「なるほど、確かにそうね……よし。パチュリーや美鈴、妖精メイドの一部に声をかけてくるわ。ついでにジャイアンたちの紹介も済ませておきたいから」

 

 スタミナ的にはまだ問題ないスカーレット姉妹はともかく、激しく動いて疲れたのび太たちのために休憩を取っていた時、フランが次やる時は館の皆や、良ければ魔理沙辺りを誘ってやらないかと言い始めた。

 フラン曰く、今日居る7人でやっても十二分楽しかったが、もっと沢山の人たちを誘えばそれよりももっと楽しいのではと考えたかららしい。

 

 それを聞いたレミリアは、確かにその通りだと納得した。ただ、全員をまとめて誘うのは館の仕事の関係上難しいため、咲夜や美鈴やパチュリー、最低限の妖精メイドたちのみを誘ってみる事を決め、一旦地下室を後にしていく。

 

「レミィ。調子が良いと言っても、あまり長くは運動しないわよ」

「のび太様やドラえもん様のご友人ですか。確かに、しばらく滞在される訳ですし、気分転換にもなりますから、交流を深めるべきですね」

「そうですね、咲夜さん」

 

 およそ10分後、レミリアが咲夜・美鈴・パチュリーと比較的暇していた妖精メイド15人を連れて、地下室へと戻ってきた。咲夜や美鈴はそれぞれメイド長と門番と言う重要な役割があるため、連れてきても大丈夫なのかとのび太は疑問に思うも、代わりとなる妖精メイドが数人存在すると聞いた事を思い出したため、即座に解決された。

 

「しずか様、スネ夫様、武様ですね。私、紅魔館のメイド長をしている十六夜咲夜と申します」

「パチュリー・ノーレッジよ。色々と大変な事に巻き込まれたみたいだけど、少しは楽しんでいって」

 

 その後、既に自己紹介済みの美鈴は除き、ジャイアン含めた3人と咲夜とパチュリーの自己紹介が行われた。態度の良さに加え、レミリアやフランが現代で世話になったのび太の友人と言う事もあり、2人に対する初印象は比較的良好な感じとなっている様だ。

 ちなみに、連れてこられた妖精メイドたちの殆んどは、すぐにジャイアンたちと仲良く接している。

 

 こうして自己紹介などが済んだ後は、彼女たちも加えて地下室で賑やかかつ楽しく遊ぶ事となった。




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異世界探索に向けて

「はぁ……よりによって、転移先が幻想郷に相性最悪な場所なんてね。全く、冗談じゃないわ」

「はい。それに、この『異世界』は外の世界とは違い、普通の人間でも魔法などの特殊能力を持つ『人間』が多く、東洋に西洋の妖怪やそれに相当する『魔獣』なる存在も居ます。軍事力に関しては未来は言わずもがな、一部の国々を除いて現代には及ばないとは言え文明力自体は高いので、侮る事はしない方が良いでしょう」

 

 幻想郷が丸ごと異世界へと転移する大異変が起きてから6日目の昼間、一般的な人妖が立ち入る事のないマヨヒガと呼ばれる場所にて紫と藍の2人が、ドラえもんの偵察衛星やステルス偵察機などによって撮影された大量の地形写真や動画、式神や一部の大妖怪による調査結果を見ながら、ため息をついていた。

 

 理由としては、転移先が人間至上主義を強く掲げている『テステラ王国』と呼ばれる国家であり、人間以外の種族も多数暮らしている幻想郷とは絶望的に相性が悪いためである。

 

 これが、魔法などの特殊な力を持たず、魔法生物の存在しない地球の様な場所であったなら、転移先が近代以上の科学力を誇る国でなければ然程頭を抱える事はなかった。現に、純粋な科学力()()に関しては一部を除いて地球の中世欧州よりも多少進んだ程度の国が殆んどである。

 

 しかし、魔法や特殊な術には幻想郷でも通用する強力なものが調べる限りでもそれなりの数が存在し、科学技術に相当する『魔導技術』がこの世界では幅を利かせている事も判明した。

 個人や種族的能力による影響が大きく出てしまう欠点があるものの、それを加味しても準列強クラスの国家で地球の1920~1940年代後半、列強諸国ともなれば1970~1990年代後半相当の文明力を誇っている。

 ちなみに、テステラ王国は1930年代前半の日本とほぼ同じ文明力を持つ準列強国家であると判明していた。

 

 更に、のび太やフランの目撃した飛竜などの強力かつ厄介な魔法生物が王国の中で比較的多く生息している地帯に、幻想郷は転移してしまっていた。

 現に1例確認出来てしまっている以上、それらの生物などが幻想郷に多数侵入し、自然環境やそこに住む数々の人妖たちに大きな影響を及ぼす可能性が高まってきた事も、原因であると言えるだろう。

 

「ええ。本当、ドラえもんたちの協力を取り付けられて良かったわ。()()()()()()()のび太と出会ってくれていたフランドールにも、感謝しなければいけない様ね」

「確かに、彼女の現代入りは予想外でしたし、運が良かったと言えるでしょう。現に、未来の超科学のお陰でこうやって安全に備えが出来ている訳ですし」

 

 故に、偶然の賜物で現代入りしてしまったフランに対して、そこでなんやかんやあってのび太と出会って親しくなってくれた事に、強く感謝の念を2人は抱いた。勿論、のび太やその友人たちに対しても、関係が深い訳でもない自分たちを助ける手伝いをしてくれる事に強く感謝をしている。

 

「紫様。ここまである程度の情報は纏まってきてますけど……どうすれば幻想郷が元の世界に戻れるか、これに繋がる情報を得るには、現地に向かって地道に調べてみる必要があるかと思います」

「勿論、それは分かっているわ」

「しかし、それには数々の危機的冒険を乗り越えてきた、ドラえもん一行の協力が必要不可欠かと。未来の超科学も勿論ですが、この様な事態(異星・異世界冒険)の経験が、私や紫様を含む幻想郷の面々にはありませんので」

 

 同時に、地球への帰還のために行う異世界探索の主体に、ドラえもんたちを据えようと藍は提案を行った。八雲一家を含めた古参の妖怪や神々のみでやろうとも思い付いたものの、幻想郷を守らなければならない上、ドラえもんたちの方がこの様な事態の経験が豊富であるためだ。

 

「そうよね。ただ、そうなるとドラえもんたち5人だけで送り込むのは色々な意味で不味いから、紅魔館の面々にも動いてもらいましょう」

「紅魔館の面々に……ああ、そう言う事ですか」

「ええ、そう言う事よ。藍」

 

 それを聞いた紫は、藍の話に全面的に同意を示しつつもドラえもんを含めた5人のみで異世界へと向かわせるのは流石にまずいと判断した様で、比較的親交のある紅魔館の面々にも探索のメンバーへと加える事を独断で決定した。

 

 ただ、この場で考え付いたものであるため、当然ながら末端の妖精メイドはおろか、館の主であるレミリアもこの事を知らない。故に、実行を確定させるのは大丈夫なのかと藍は思っていたが、紫の少し困った様な表情を見て真意を察したため、これ以上は何も言わないと決めた。

 

 まあ、普段の様子を見ればフランが()()()()ついていくのは確実で、そうなると流れでレミリアたちも大なり小なり協力する事になるのは明白だったから、多少は理解は出来るが。

 

「それじゃあ、今すぐ紅魔館に向かうわよ」

「分かりました。橙、ついてきて」

「はい!」

 

 話し合いが済んだ後、紫は藍と橙を連れてここで決まった事をレミリアたち紅魔館の主力陣やドラえもんたちに伝えるため、スキマ伝いでこの場を後にした。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

「……と言う訳なのよ」

 

 スキマで紅魔館へと向かった八雲一家から皆を集めて欲しいと頼まれたレミリアは、館の主力陣とドラえもん一行を全員会議室へと集め、紫からされた詳しい説明を聞いていた。

 

 幻想郷が転移した場所のテステラ王国の事についてはこの場に居る全員、未来の偵察衛星やステルス偵察機などから同様の情報を得ていた事もあって特段驚く事はなかったが、まさか自分たちが現地に出向いて更なる情報を集めてきて欲しいと頼まれるとは思わず、驚きを表していた。

 

 ただ、未来の偵察衛星やステルス偵察機、八雲一家の式による偵察のみでは漏れが生じてしまうためとの理由には納得出来るだけの説得力がある。それに、ここで待っているだけでは何も始まらないともこの場の全員は思っていたから、特に渋る事もなく現地に出向く事が決まった。

 

 勿論、色々な観点から紅魔館の主力陣が全員留守にする訳にもいかないため、彼女たちに関しては5人の中から状況に応じて2人が同行する形となる。ただし、その内の1人はフランで固定されていて、かつ今回は初回と言う事でレミリアが立候補したため、結局は現代旅の時と殆んど変わらない。

 

「異世界探索……正直少し楽しみではあるけど、それならそうとせめて一言伺って欲しかったわ」

「確かに、こちらとしても危機に飛び込む形になる訳ですし。まあ、幻想郷の危機は私たちの危機でもありますから、出来る範囲での協力はさせていただくつもりです」

「そこのところは……本当、勝手な考えで申し訳なかったわ。にもかかわらず、了承してくれて感謝するわ」

 

 すると、異世界探索についての話が終わったタイミングでレミリアたちがいくら了承したとは言え、行くと答える事を前提で進めないでせめて一言聞いて欲しかったとの不満を漏らした。まあ、フランがついていくとなったら自動的にこうなるとは言え、当然の反応である。

 

 しかし、紫もその辺はしっかりと理解をしているらしく、3人揃って頭を下げて謝罪を行ったため、レミリアたちもこれ以上は不満などを言うつもりもなくなった。

 

「さて、異世界冒険となったら色々と準備しないとな。スネ夫、さっさと行くぞ」

「分かったよ」

 

 その後、ゲームなどに登場するファンタジー世界そのものを冒険出来るだけあって、少し楽しみに思っているジャイアンは若干不安げなスネ夫を連れて急いで出発するための準備を整えに、用意された部屋へと向かっていく。

 

 で、しずかちゃんとドラえもんは、そんな2人を見ながら普通に部屋へと準備をしに向かっていった。とは言っても、偶然人里へ食事をしに向かおうとしていたために、殆んどやる事はなかったが。

 

「異世界でも、お兄様をしっかりと守ってあげなきゃ……あっ、異世界では特別な時以外は絶対に私から離れないで! だって、お兄様が苦しむところを想像したら心が痛くなるし、お兄様が居なくなるところなんか見たら……私、きっと死んじゃうもの」

「うん、分かった。約束するよ」

 

 最後に、初回と言う事で探索に向かうと決めたレミリアが準備のために部屋へ行った後、フランはのび太を連れて同じく準備のために自室へと向かう。

 その際、のび太が傷つき苦しんだり死んでしまう事を何よりも恐れているが故に、異世界では何があろうとも自分から離れては駄目と強く念を押していた。

 ただ、見られると恥ずかしいトイレ・入浴・着替えの際は例外であり、それもしっかりと伝えている。

 

 今にも泣きそうな位に辛そうな表情を見せられた上、最悪死んでしまうかも知れないと言われ、うっかりあの時(夢幻三剣士)の事を思い出してしまうのび太であったが、そんなのはおくびにも出さずにフランの頭を撫でながらそう約束を交わした。

 もし、仮にあの時の事を話してしまえば非常にまずい事になりかねないため、意図はどうであれのび太の行動は正しいと言えるだろう。

 

「あら、皆準備が整うのが早いわね。異世界探索が楽しみなのかしら?」

「そうみたいよ。正直、私も少し楽しみね」

「なるほど。まあ、これから大変な事をする訳だし、精神的に気分転換するのは大切ね」

 

 それから15分、各々準備を終えて待っていた自分たちの下に集まる様子を見て、紫は皆が異世界探索をするのが楽しみなのだろうと察した。

 

 行き先が人間至上主義の国であるのにも関わらず、余裕を見せるレミリアやフランに若干不安感を抱くも、未来の超科学の結晶であるひみつ道具を持つドラえもんが居て、かつ現代旅で姿を偽る経験も積んでいるから問題ないかと考えた。

 

「ただ、幻想郷が日本に戻る方法を探す調査だと言う、主目的を忘れないように気をつけて。後、問題が起こると面倒だから出来る限り戦闘は控えてちょうだい。それと仮に、レミリアとフランドールの正体がバレたらまずいから、そこのところはしっかりと頭に入れておいて」

 

 そして最後に、今回異世界調査へと出向く上での注意を言い、万が一の時のために側に特殊なスキマが開けるよう、ドラえもんたち全員に妖気を秘めた紐を手渡してから、博麗大結界と異世界の境界線まで普通のスキマで向かった。




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森の縦断

「異世界って言うからどんなところかと思ったけど、所々変な植物とか生き物を見かけるなって位なのね。ドラちゃん」

「そうだね。空気も美味しいし、暖かくて快適だし」

 

 紫によって博麗大結界と異世界の境界線へと連れてこられ、何枚かの地図と共に幻想郷を地球へ返すための異世界探索の旅へと出発したドラえもんたちであったが、今のところは穏やかなムードを維持出来ていた。危険な魔法生物などに襲われる事もなく、遠目に異世界の魔法生物や植物などを見る事が出来ていたからである。

 

 衛星写真から見て最初の目的地である人の住む町まではおよそ30㎞あり、歩きで向かうにはかなり遠いため、本来なら空を飛んで向かうのが1番良い。

 

 ただ、時折森の上空をヘリコプターと同程度の速度で飛行する飛竜に乗って巡回する竜の騎士(ドラゴンライダー)の存在や、衛星やステルス偵察機による偵察で知れなかった未知の何かが絶対にあると考え、やむなく歩きで向かっていた。

 後は、肝心な時に故障して使えませんと言う事がない様にするため、念には念を入れて使用頻度を落とすと言った理由もある。

 

「何か美味そうなリンゴみたいな果物がなってるけど、食えるのか?」

「見た目は食べられそうだけど……ジャイアン、駄目だよ」

「スネ夫。お前は俺を何だと思ってるんだ? 知ってる物ならともかく、似てるからってだけで美味そうに見えても食うわけねえよ」

 

 今皆が歩いている場所には、当然ながら舗装された道などはない。木の根や大小様々な石ころ、地面の盛り上がりや窪み、獣道や狭い足場など歩くにはかなり大変な森である。

 

 が、複数放ったステルス小型偵察機と偵察衛星による現代のGPSに似た簡易的なリアルタイム探査網の構築、バッジ型の発信器の装着によって全員の位置情報が、ドラえもんの持つタブレット端末に表示されている。

 

 なので、皆がバラバラに動いて離れすぎたり、何らかのトラブルによって発信器から発せられる電波が阻害されたりしなければ迷う事はないので、そう言った意味で気持ち的に辛さも軽減されていて、まだ元気がありそうであった。

 

「お兄様、お姉様。異世界の町が楽しみだね! 一体何が起こるんだろうなぁ」

 

 特に、フランに至っては異世界探索が始まってからテンションがとても高く、のび太にべったりくっついたりレミリアにハグしたりしながら、これから向かう町でどんな楽しい事が起こるかと想像しながら楽しんでいた。

 

 まるでただの楽しい異世界旅行に来ているノリではしゃいでいるフランだが、今居る国は人間至上主義な上に彼女は吸血鬼だ。人間ではないので、万が一バレてしまえばのび太たちよりも危険である。

 

「確かに楽しみだけど、フランは人間じゃないから気をつけて。魔法もある世界みたいだし、もしもの事があったら僕だと咄嗟に守れないかもしれないから」

「のび太の言う通りよ。私たち自身が魔法も使えて戦えるし、未来の機械のサポートがあるとは言え、油断したら危ないわ」

「……うん、そうだね。私、お兄様()お姉様、他の皆にも迷惑かけない様に気を付けるよ!」

 

 しかし、未知の異世界探索のワクワク感に、実質的な恋人であるのび太や大好きな姉であるレミリアに手を繋がれる幸せが加わり、当の本人はその事が頭から抜けきってしまっていた。

 ただ、それについては2人にやんわり指摘されてようやく気づく事が出来たので、変に羽目を外す様な事はもうないと言っても問題はなさそうだ。

 

「フラン。何だか、私たちをこう……選ぶみたいにして監視する様な視線を感じない?」

「うーん……確かに感じるね。お兄様、危ないから私から離れないで。皆も――」

 

 そんな感じで森の雰囲気を楽しみつつ、目的地である人の住む町へと全員で向かっていると、レミリアがこの場に居る全員を見定める様にして監視する何者かの視線を感じ取り、フランへと伝えた。

 当然、レミリアが感じていたそれをフランも感じ取っていたため、まずはのび太へと危機が迫っている事を伝え、 その後に皆に対しても同じく伝えようとする。

 

「この人間共なら行けそうダ!」

「えっ……」

「「「のび太!!」」」

 

 が、それはおよそ10m離れた茂みからのび太たち3人ををめがけて鉄の剣を振るう、人語を話す二足歩行の豚かイノシシのような化け物が7体も出現した事によって、伝えられる事はなかった。運が悪かった事に、スカーレット姉妹とのび太が集団の外側に居たため狙われてしまったらしい。

 

「行けると思ったの? ふふっ、馬鹿な玩具たちだこと」

 

 しかし、本当に運が悪かったのは3人ではなく、気配を極限まで落としたスカーレット姉妹を人間と勘違いしてしまい、更にのび太も含めて狙ってしまった化け物の集団の方である。

 吸血鬼である自分や姉はともかく、何の力も持たない上に死ぬまで添い遂げようと思う位に好きな人を殺そうとされた激烈な怒りから、どうこう考える前にフランは化け物たちを滅殺しようと反射的に決断、物凄い勢いで向かって行った。

 

 結果、ものの30秒も経たない内に襲ってきた二足歩行の豚かイノシシの様な化け物の集団は、どす黒いオーラが具現化する程に怒り狂うフランの猛攻に、殆んど何も出来ずに全滅してしまった。

 頭が陥没していたり、殴り飛ばされ岩にめり込んだりしている化け物も居る中、最初にのび太へと向かった化け物が激しい報復攻撃を食らい、()()()()()()()()()()()となってしまうなど、見るに堪えない光景が広がる事となる。

 

「もう、コイツらの顔は2度と見たくないわ。不愉快過ぎて堪らないから」

 

 その後、すぐに化け物の死体は結界で囲われた上、フラン独自の火炎魔法によって一瞬で跡形もなく焼き尽くされたため、これ以上グロテスクな光景を見る事はなく済むようにはなった。

 しかし、戦闘時を含めて子どもには刺激が強すぎる光景を少しでも見てしまったためか、ジャイアンやスネ夫、しずかちゃんの3人はへたり込んでしまう。

 

「フランって、こんな強烈な子だったっけ……?」

「相手の割には派手に殺り過ぎてるし……全く、のび太の事となると先が思いやられるわ。でもまあ、私的には良くやったと褒めてあげたいところね」

 

 で、のび太に至っては、普段満面の笑みを浮かべながら可愛い仕草で自身に甘えてくるフランと今とではあまりにも違い過ぎて、グロテスクな30秒間をかき消す勢いで衝撃を受けていた事もあり、3人よりも精神的なダメージは少なく済んだ。

 

「あっ……お兄様ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

「フラン、落ち着いて! 大丈夫、大丈夫だから!」

「不味いわね……ドラえもん! 何か良いひみつ道具をお願い!」

「分かった! 上手く調整はしておいたから、これでのび太君たちの頭を軽く叩いて!」

 

 最終的に、敵を始末し終えて正気に戻ったフランが、のび太の目の前でグロテスクなものを見せてしまった事に対する激烈な罪悪感で錯乱し始め、混沌とした状況に陥ってしまう。

 ただ、ドラえもんとレミリアがひみつ道具の『ワスレンボー』を使って全員の例の30秒間についての記憶を消去し、必死の説明によって抜けた分の記憶を比較的マイルドなものへと置き換えた事で精神的ダメージがなかった事になり、何とかこの事態は納まった。

 

 ふとした拍子に記憶が甦る可能性も全くない訳ではなく、副作用なども判明している訳ではないものの、現時点では最適な対処の仕方と言えるだろう。

 

 そして、念のために周囲にひみつ道具を使って水を撒いた後、ここに留まる事は危ないと思い知らされた7人は、この森の旅を楽しもうと言う考えを即座に捨て去り、ひみつ道具などを駆使して出来る限り早く人の住む町へと向かう事を満場一致で決定し、実行に移した。

 

「ねえ。私、お兄様の嫌がるものを見せちゃったんだけど……嫌いになったかな?」

「フランを嫌う? そんなの絶対にあり得ないよ。だって、僕の事を守ってくれようとした結果なんだから」

「本当に? これからもずっと、私の事を好きで居てくれるの……?」

「勿論だよ。だから、もう泣かないで」

「そっか……お兄様って優しいんだね。だから、私もお兄様の事が大好き!」

 

 道中、マイルドとなった化け物との戦闘の記憶を辿り、自分のやった行為でのび太に嫌われる事を恐れたフランが突如泣き始める一幕があったものの、いつも通りの対処でのび太が落ち着かせて解決した。

 

 これにより、一層のび太への好意を深めていくと同時に誰かに取られる恐怖も深まっていったフランは、遅くとも今回の探索が終わる日までには正式な告白をしようと固く心に誓う。

 

 希望としてはちゃんと準備を整えた上で、姉を含めた如何なる人物の邪魔も入らない2人きりの場所……紅魔館の自室が1番良いが、ムードに欠ける。

 たまに使う、巨大な日傘のある屋上のテラスで月でも見ながら告白はムードが出て良いものの、誰かの目につく確率はぐんと上がる。一体どちらが良いのかと、フランは頭の中で繰り返し自問自答した。

 

 その際、本人は幸せを体現したかの様な笑みを浮かべ、他人の視線はお構いなしと言わんばかりの態度を無意識に示していた。

 

「フラン、何か嬉しそうね?」

「うん! まあ、秘密だけど!」

「分かったわ。まあ、大方いつ――」

「わーっ! わぁーっ……言っちゃ駄目ぇ! もう、お姉様ってそう言うところあるよね!」

 

 結果、心の中でフランが何を考えているのかが手に取る様に分かってしまったレミリアにより、おふざけでご開帳されかけるハプニングの様な事態が発生した。

 当然、顔を真っ赤にしながら必死になって止めるフランだったものの、やったのが大好きな姉であるが故に、恥ずかしがっても怒りの感情はそれ程抱いたりはしていない。

 

 今回はほぼ何も起こらずに終わったものの、これがもし赤の他人である誰かによるものであった場合、その人はほぼ確実にフランから激怒される事となるだろう。

 

「皆。ようやく目的地が向こうに見えてきたみたいよ。後もう一息だから頑張りましょう」

「「「おーっ!!」」」

 

 ひみつ道具を駆使し、体力の問題などを解決しながらかなりの早さで町へ向かう事8時間、日が完全に沈みきる前に町を視界に入れるところまで来る事に7人は成功した。

 




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常識の違い

「ふぅ……森歩きは疲れるなぁ」

「全くだよ。森の途中で、少しは休憩しても良かったんじゃない?」

「でも、スネ夫さん。レミリアちゃんやフランちゃん、のび太さんを襲った化け物が居る以上、疲れを押してでも来たのは正解よ」

 

 あれから急いで視界に入った町へと向かい、門前の警備兵たちとの少し長めのやり取りを交わしたドラえもん一行は、たまたま空いていた旅人や冒険者用の宿に泊まる事を決め、強行軍的な移動で疲れた身体を部屋で癒していた。

 

 と言っても、元から人間を遥かに凌駕する体力を持つ吸血鬼のレミリアとフランはまだ余裕があり、畳の様なものが敷かれた部屋の床に寝そべる程に疲れているのは、2人以外の4人である。

 ただ、のび太に関しては7人の中で最も体力がなかったため、フランが付きっきりで回復魔法をかけ続けて疲労を除去していた事もあり、しっかり休めば誰よりも早く回復する感じだ。

 

 まあ、森の広さが尋常ではない上に異世界であり、豚かイノシシの様な化け物に実際に襲われた恐怖から解放されれば、一般人であれば当然とも言える反応だろう。子供であれば、トラウマを植え付けられても何ら不思議ではない。

 

「運良く町の宿が空いてて良かったわね、ドラえもん。それにしても、異世界転移してからそんなに経っていないのにこの国の通貨の量……助かったけど、良くもまあ紫はこんなに用意出来た(盗って来れた)ものだと感心するわ」

 

 故に、その様な厳しめな環境から解放されて落ち着ける場所に来れれば、全員の気が緩んで和やかになるのも同じく不思議てはないだろう。

 例えば、レミリアが7人全員が泊まれるだけの異世界国家の通貨を紫が渡してきたのを盗ったものだと考えたり、部屋にある魔法が使われた道具をジャイアンたちが物珍しそうに眺めたり、フランがのび太を他の皆から遠ざけて独占に成功し、喜びを隠せなかったりと言った感じだ。

 

「うーん、明日からどう動こうかしら。流石に調査名目で送り出されてきたからには、町の観光だけで終わらす訳にはいかないわよ」

「確かにそうだね。でも、どの辺を回れば有益な情報が手に入れられるのかな?」

「図書館みたいな場所とかがあればの話だが、そこに行けば少しは手に入るだろ。後は……新聞とかがあれば良いんじゃないか?」

「うーん、人が沢山集まる場所で上手い事話を聞くべきじゃない?」

「それもそうだけど、まずはこの町のルールを知るべきよ。知らない間に私たちが破って、色々と注目を浴びたり捕まったりしないようにもね」

 

 そんなこんなで宿に来てある程度の時間が経った時、レミリアが防音結界を張った上で明日は町のどこら辺を見て回ろうか予定を立てようと言い始めた事により、全員での話し合いが始まった。

 図書館かそれに相当する施設を探して書籍を漁るか新聞を探して読む、人が沢山集まる様な場所で変な誤解を生まない様に上手く聞く、それよりもまずは町固有のルールを調べるのを最優先に動くなど、色々と案が飛び出している。

 

 これも今居る場所が外国どころか、魔法や魔獣などのファンタジーなものが存在する異世界故であった。

 

「じゃあ、しずかの案を主として他の皆の提案も上手く取り入れていくと言う事で良いわね?」

「そうだね、レミリア」

 

 結果、しずかちゃんが提案した町のルール調べを主として、後は全員が出した提案をその場の流れで上手く行うと言う結論が出される事となった。

 その際、2つか3つのグループに分けて行こうかとも考えも出たが、何が起こるかまだ殆んど分かっていないこの状況で別れるのは危ないだろうと言う事で、この考えは没となる。

 

「お兄様、早く疲れを癒して元気になってね! あっ、痛いところがあったら言って!」

「ありがとうね、フラン。今のところは痛いところはないかな」

「そっか。なら良かった!」

 

 明日からの予定が決まり、時間も遅いと言う事もあって各々寝る準備などを済ませる中、そんなの知らんと言わんばかりにフランはのび太のお世話をしながら我が世の春を謳歌していた。

 普段は何やかんやで自分1人が独り占めする事を()()()()、大手を振って独り占め出来る理由があるこの機会を逃したくないと考えていたから尚更であった。

 

 ただ、実際には回復魔法がもう既にかなりの効力を発揮していて、森の縦断前と同じ位の体力に戻っている故に、フランが付きっきりで世話を焼く理由は既に失われていた。

 にも関わらずのび太がこの状況を維持しているのは、彼女の2人きりの時間が欲しいとの意図を察し、それを汲んでいるためだ。後は、自身もこの一時に安息を得ているとの理由もある。

 

 そして、その事には気を遣われているフラン以外の全員が気づいているものの、2人が幸せそうにしている事から言葉に出すのは野暮だろうと、何も言わずに遠目で見守るだけで済ませている。

 

「ねえ、お兄様。私と一緒に居て幸せ?」

「うん、とっても幸せだよ」

「えへへ……じゃあ、これからも(死ぬまで)ずっと一緒に居ても良い?」

「勿論、僕もフランと同じ事を思ってる」

「そっか。お兄様()私と同じなんだ……」

 

 寝る準備を終えた他の皆が眠りにつき、2人きりの一時を謳歌する事1時間、流石に世話疲れして眠くなってきたフランはのび太の布団に潜ると、自分と居て幸せかと問いかけた。ジャイアンたちが幻想郷へと来てから、妙な不安に駆られて行われるようになった行為である。

 

 勿論、告白をされたりしてはいないとは言え、実質的にフランと恋人となっているのび太が不幸せだと答える訳もなく、幸せだといつもの様に答えを返した。

 そして、その後のやり取りも多少の差異こそあっても殆んど同じ様な感じで交わし、満足したのび太の腕を抱き枕代わりにして眠りについた事で、終わりを告げる事となった。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

「この町で滞在する際に注意しなければならない事……ですか」

「はい。何せ、僕たちはこの町に訪れたばかりで、ルールをあまり知らないんです。なので、是非とも教えていただければと思いまして……」

 

 幻想郷から夜中に森を縦断して異世界の町訪れ、そこの宿で初めて迎える朝、ドラえもん一行は食事を済ませてから手の空いていた宿の女性スタッフに、町固有のルールなどを尋ねていた。目的は昨日の話し合いで出た、調べもののためにこの町に滞在している間、出来る限り穏やかかつ安全に過ごすと言うのを達成するためである。

 

 勿論、知らなければ致命的となる絶対的な国のルールに関しては幻想郷を出る前に伝えられているものの、それ以外のものに関しては完全ではないし、この町特有のルールも同様だ。

 

「承知しました。それなら、こちらの用意した解説書をお持ち頂ければ大丈夫ですよ。貴方たちの様な旅人や冒険者向けに、出来る限り分かりやすく解説されていますので」

「あっ、何かわざわざすみません」

「いえいえ、この程度の事なら割とありますのでお気になさらず」

 

 すると、ドラえもんに町固有のルールなどについて尋ねられた宿の女性スタッフは微笑みを浮かべながら、それを含めた事柄について解説された本……と言うよりはしおりであるが、それを懐から出して手渡した。

 曰く、冒険者や旅人用の宿故にこう言う類いのお願いが割と良くあるため、あらかじめ彼女含めた宿のスタッフ数人によって用意していたらしい。これで、この町を見て回る分には何とかなるレベルとなる。

 

「なるほど、僕たちにも分かりやすい解説ですね。ありがとうございます」

「そうですか、それは良かったです。皆さん、見る限り全員が人間である様なので、安心してこの町を含めた色々な町や村などに訪れ、滞在する事は出来るでしょう。ただ、貴殿方が心から楽しめるかどうかは……正直、()()()()()()()

「「「……」」」

 

 そして、渡された解説本を全員が簡単に流し読みしてからドラえもんが代表してお礼を言ったところ、宿の女性スタッフは数秒笑みを浮かべた後にその柔らかな雰囲気を、その場に居る者に緊張感を与える雰囲気へと180度変えた。

 

 とは言っても、ドラえもんたちに対して敵意を示す意味でその雰囲気を醸し出している訳ではなく、ただ純粋にこの国で過ごす上で色々と心配に思えていて、それ故の変化であった。

 急な雰囲気の変わり様に驚く一行ではあったものの、女性スタッフが自分たちに気を遣ってくれている事は理解出来ていたため、恐怖の様な感情は抱かなかった。

 

「保証出来ない?」

「はい。ご存じかと思いますが、この国は人間至上主義と言う思想を、総力を挙げて掲げています」

「うん、それは知ってる」

「故に、国民の半数強は自然と純粋な人間以外の方々を下に見る傾向があり、露骨なのは珍しくとも所々でその片鱗をどこかで見る事になると思われるので、心優しい貴殿方は恐らく気分を害されるかもしれませんね。まあ、この町は特性上マシな方ではありますが……」

 

 そして、沈黙の中でフランが発した一言を皮切りに女性スタッフによる説明が始まると、いよいよこの町での調査に本格的な不安感を全員が抱き始めた。

 特に、実質的な恋人のフランとその姉であるレミリアがこの国で言う見下されたりする対象にガッツリ入っている事で、のび太の抱く不安感は他の誰よりも超えている。だからなのか、誰にも聞こえない位に小さな声で『守ってみせるから』と、独り言を言っていた。

 

「重ね重ね、僕たちのために色々とありがとうございました」

「いえ、とんでもありません。僭越ながら、貴殿方はどうも私と似た様な心の持ち主であると感じて勝手に説明させて頂いただけなので、気にしないで良いですよ。むしろ、お時間取らせてしまって申し訳ありませんと、こちらが謝罪するべきだと考えてます」

 

 そうして、何だかんだで女性スタッフの話を真剣に聞く事15分、最後にお互いに頭を下げて一言二言交わすやり取りをし終えたドラえもん一行は、早速町中へと出かける準備をするために部屋へと戻っていった。




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冒険者との初対面

「綺麗で楽しそうな町ね。色々な懸念材料がなければ心から楽しめていたでしょうに」

「あー……うん、違いないね。まあ、全く楽しくない訳じゃないけど!」

 

 泊まっていた宿の女性スタッフから解説本をもらい、プラスアルファで役に立つ話をしてもらったドラえもん一行は必要最低限の準備を済ませた上で、最初の目的地である図書館へと向かっていた。

 

 早速何か起きそうな不安がない訳ではなかったが、それに反して和洋折衷の綺麗な町は平和そのものである。その上、一部の分野や衛生観念に至っては魔法技術のお陰で、現代日本人でも大した違和感もなく過ごせる環境が整っていて、何もなければ普通に異世界探検を楽しめそうな雰囲気と言えるだろう。

 現に、のび太一行は風情ある町並みや練り歩く人々を見て楽しめてはいた。

 

 しかし、亜人と呼ばれる人々を差別する風潮が強い国にある町に居ると言う、本来の姿を強力無比な隠蔽魔法とテキオー灯で隠しているレミリアやフランにとっては懸念でしかない要素が存在していた。

 

 故に、どこか楽しみつつも何か忌避するべき事態に巻き込まれない様に警戒し、いざとなったらすぐさま逃げ帰れる備えもしているため、完全に楽しめているとは言いにくい心境ではあるらしい。

 

 そして、その傾向はフランとの実質的な恋人であるのび太に顕著である。ドラえもんに純粋な気持ちで頼み込んでスペアポケットを借り、銃系ひみつ道具の対人使用をせざるを得ない万が一の事態に備えていた。

 勿論、のび太はその様な事態が起こらない様にも望んておらず、起こったとしても強力過ぎるものは使わないで、出来るならショックガンや空気砲程度で済ませておきたいとは考えている。

 

 ちなみに、差別的な扱いを受ける対象となっているレミリアは名も顔も知らぬ有象無象からの悪意などそよ風も同義で、フランに至ってはもはや幻と同義だ。

 

 しかし、お互い(姉妹同士)に対する悪意やのび太たちの雰囲気に加えて、ここに来た主目的がそもそも異世界を楽しむと言う訳ではない。あくまでも、それは平和な時間のみついてくるオマケであるため、自身にとってはそよ風や幻でも気を抜くまいと改めて気合いを入れ直していた。

 

「ねえ、お兄様! あの建物……武器とか持った人の出入りも多いし、何か気にならない?」

「ん? えっと、そうだね。そうなると、図書館を後回しにしてでも先に行ってみると良いのかも」

「確かに、僕ものび太君と似た考えだけど……行ってみる?」

 

 解説本を片手に町を歩き、会話などを楽しみつつ図書館へと向かっていると、フランがとある日本家屋に似て非なる『冒険者協会』と書かれた看板のある建物を指差してのび太に話しかけた。どうやら、彼女が今まで生きていた中でも見た事のない様式の建物、不思議な形の武器を持った人間の出入りがそれなりにあるのも加わる事で、興味を引かれたらしい。

 

 で、フランに話しかけられたのび太やその隣を歩いていたドラえもんも同調し、皆に対して目測60m程離れていた例の建物へ図書館よりも先に訪れてみないかと聞いていた。少なからず、のび太やドラえもんも同様に気になり始めている様である。

 

「ええ。()()()と言うからにはこの国を見て回った人たちが多いでしょうし、行く価値はありそうね」

「ああ。ドラえもんとフランとレミリアの3人も居るし、反対する理由も特にねえもんな」

「確かに、私も行ってみるべきだと思うわ」

「僕はまあ、皆に任せておくよ」

 

 軽い話し合いをした結果、頑なに反対しなければならない理由も特になかったのもあって全員が賛成の意を示した事で、図書館より先に町の冒険者協会へと立ち寄ると決まった。

 今まさに、のび太たち位の子供が出入りしないどころか近寄ろうとすらしていないと言うタイミングであったため、全員ではなくとも通行人や立ち寄ろうとしている人々の注目を少なからず浴びているが、本人たちは気にする素振りは見せていない。

 

「……お兄様。私たち、スッゴく注目されてない?」

「うん、確かにされてるね。もしかして、僕たちが入っちゃまずいところだったのかな?」

「そんな事はないとは思うけど、何とも言えない心地ね……まあ、彼らからしてみれば()()()()()この場に居ると見えている訳だから、特段不思議な事ではないのかも」

 

 だが、建物の中に入った瞬間に浴びた視線の多さは流石に気にならざるを得なかったらしく、周りを見渡しながら落ち着かない様子を見せる。

 更に言えば、冒険者協会との看板がある建物の中に入ってから誰にどう話を聞いたりしようかなどの計画は立てていなかった。故に、こうなるのは決まっていた様なものだろう。

 

「やあ! 子供だけの冒険者集団なんて珍しいと言うか、私も見るのは始めてだよ」

 

 慣れない雰囲気にどうしようか考えながら、ひとまず観光案内所と似た感じの受付に居た男性に話しかけてみようと向かったのび太たち一行であったが、途中で別の冒険者らしき身なりの女性から話しかけられた事で、少し驚きつつも一時中断を選んだ。

 女性曰く、のび太たちが優れた子供で構成された冒険者集団に見えていて、それがとても気になって話しかけてきたとの事らしい。

 

「にしても、君たちは人間の子供なのに……何故ここまで冒険慣れしているんだ? 実は『人間』ではなく、人に姿の似た長命の種族なのか? でないとするなら、一体どんな……?」

「「……」」

 

 それを受け、のび太一行が当たり前の如く挨拶をすると、話しかけてきた女性はすぐに最初とはまるで違う真剣な雰囲気を纏い、周りの人々が思わず視線を向ける程の猛烈な勢いで疑問に思っている事を口に出し始めた。

 

 当然、冒険者と思わしき女性に話しかけられたのび太たちも自分たちが会話を挟む合間すらない今の状況に困惑はしているが、変える方法が思い浮かんでいない。

 あまりにも勢いが凄いので、一応声をかけてから立ち去ろうとの考えも一行に生まれているものの、緊急事態でもないのに流石にそれはまずいだろうと思い直したらしく、このまま口を挟む良いタイミングが訪れるまで待つと小声での相談で決まった。

 加えて、この女性が相当な実力派であると感じられる魔力や立ち振舞いから感知したスカーレット姉妹の2人は、敵対的な存在にも同じかそれ以上の力の持ち主が居ると考え、万が一の時にすぐ動ける様に少し意識を向けておくと決めていた。

 

「……いえ、僕たちは至って普通の()()です。でも、色々な場所に割と頻繁に冒険しに行ったりはしているので――」

 

 そんなこんなで待つ事5分、口を挟む間もない彼女の疑問が途切れたのを見計らい、代表してドラえもんが自分たちについての説明を始め、この流れを変えようと試みた。

 当たり前ではあるが、上手く行っている現状を鑑みてドラえもん自身が実は超高性能ロボットである事、レミリアやフランが吸血鬼の少女である事、自分たちが異世界から来た集団である事など、明るみに出た場合に厄介になりそうな部分はぼかしている。

 

「何と、そうなのか! つまり、幼少期から腕を磨いていたのも勿論の事、冒険に必要な類いの才能も優れている……うむ、天才的だ。並のトラブルならはね除けて悠々自適の旅を送れるだろうし、正直年齢的に怪しいが……能力的には、冒険者協会に特例での登録が許可されてもおかしくはないな」

「あはは……」

 

 しかし、ぼかされた説明でも冒険者の女性の好奇心を煽るには十分であったらしく、最初と同等かそれ以上とも言える反応を見せ始めた。

 今まで、やり取りが始まってからそこそこ経過している上に格好の珍しさも相まって、周りの人々からの注目を徐々に集め始めているこの状況は、ドラえもん一行に対して中々落ち着けないと言う影響を与え始めている。

 

「リーダー、また悪癖ですか。好奇心が旺盛過ぎるのは目を瞑っても、他人に迷惑かけるのはいただけません」

「全くだ。この場に()()()()()()()()()が居て、気になるのは理解出来るが……」

 

 最初の会話から10分近くが経過し、流石に強めに声をかけてでもこの場を後にしようかと皆が考え始めてきた時、とある男女がドラえもん一行と冒険者の女性とのやり取りに割り込んできたために、それは立ち消えとなる。

 

 容姿は言わずもがな、威圧感を感じる様な立ち振舞いを素で行う男女2人と視線が合ったスカーレット姉妹以外は驚きを見せるも、敵意が向けられている訳ではない。なので、多少の緊張感は抱きつつも落ち着きをすぐに取り戻した。

 

 スカーレット姉妹の2人に関しては、冒険者の女性だけでなくこの威圧感のある男女の力量を落ち着いて推し量り、感じられる魔力や立ち振舞いから彼女に匹敵する力の持ち主であると知る。

 ただし、性格自体が良さそうな冒険者の女性と行動を共にしている事もあり、あまり警戒はしなくても大丈夫だろうと判断を下していた。

 

「おっと、すまないね。ついついやってしまったよ」

「はぁ、これで今月は6回目ですよ? 小さな子供ならまだしも、リーダーは良い歳した大人なのですから、その辺はしっかりしてくださらないと」

「そうだな。まあ、この性格のお陰で助かってる面もあるんだが」

 

 更に、横槍を入れてきた男女2人と好奇心旺盛な冒険者女性の会話が続く事3分、蚊帳の外と化していたドラえもん一行に向き直り、3人は頭を下げた。主に、貴重な時間を使わせてしまった事に対する謝罪が占めている様だ。

 

 とは言え、合計で30分近く時間を取られた以外にこれと言った事はなく、周りの人々からの注目についても建物の中に入った時点で既に存在していた。更に言えば、自由に使える時間にかなりの余裕があり、精々少し疲れたと思う程度の影響しか受けていなかったのもあって、謝罪を即座に受け入れていた。

 

「さて……そう言えば君たち、どうして冒険者協会に来たんだい? 私が勝手に思っている事なんだけど、依頼をしに来た訳ではないだろう?」

「はい。実は……」

 

 そして、それらのやり取りを交わし終えた後に、落ち着いた冒険者の女性が何故この場に訪れてきたのかとの質問をぶつけてきたため、のび太たちは答えられる部分を彼女を含めた3人に対して事細かに話し始めた。




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情報収集

「あの……本当に良いんですか? 僕たちの情報収集にわざわざ付き合ってもらえるなんて」

「なぁに、問題ないさ! むしろ、こちらが感謝したい位だよ!」

 

 中々印象に残る出会いをした冒険者パーティーに、協会へ立ち寄った理由や流れで町を訪れた目的を説明し終えたのび太たち一行は、半ば強引にリーダーの女性に連れられ、とある場所へと向かっていた。

 国内外から沢山の商人や商会が集い、各種物品のやり取りを交わす窓口となる『キーナイア』と呼ばれるエリアと、エリア内にあるキーナイア商協会の建物である。

 

 リーダーの女性曰く、その特性故に世界情勢や各国の様子などに関しての情報が冒険者協会よりもかなり集まりやすく、かつ一般人が買い物などにも訪れるのが可能な場所でもあり、誰もが比較的楽しんで過ごせるとの事。

 

 王国経済を支える柱の1つと言っても過言ではないものの、他国の有力者や有名冒険者などの人々も集まり極まった結果、流れで世界的にも注目される『国際機関』の支部も立てられてしまった都合上、ここを経由して逃亡する亜人のくくりに入る人々を国が止めるのが非常に難しい、言わば()()()()()()()()でもある。

 

 なので、冒険者協会の敷地内でも同様だが、のび太たちにとって見たくないであろう光景をほぼ見ずに済む。万が一何者かがやった場合、警官隊に相当する組織につま弾きにされ秩序は保たれる。これらの要素が目的地となった理由だと、話の中で全員に説明された。

 

「なるほど……()()()()()()()()()()()()。良く考えてみたら私たち、最初からそこに行けば済んでたわよね」

「確かにそうだが、気にしなくても良いのではないか? 答えが近くにあるのに気づけない事なんて、君たちに限らず誰にだってある。無論、私たちにもあるさ」

「まあ、大概はリーダーが持ち前の好奇心を発揮した時ですけど」

「反論出来な……おい、何だその手は? 私が子供とでも言いたいのか?」

「え? ああ、ごめんなさい。今の今まで子供って思ってました!」

「あはは……仲良しなのね、貴女たち」

 

 紫と藍からもたらされた事前情報、泊まっている宿の女性スタッフからもらった解説本に一通り目を通したのに、結構目立つ上に自分達の目的達成に最も有用な場所へ向かう思考に至らなかった事実に、のび太たち一行は何とも言えぬ気分になってしまう。

 

 が、リーダーの女性からの言葉や持ち前の明るさなどのお陰ですぐに元へと戻り、歩きつつ現代地球や幻想郷では実際に見る事が叶わない光景を、再び楽しみ始めた。

 

「着いたぞ。ここがキーナイア交易協会だ――」

「おやおや、こんなところでガキ共引き連れてお守りでもしてるのか? 『【舞天(ぶてん)】のロモハ』さんよぉ」

「【暴地(ぼうち)】のラドア……面倒な奴が来たな。トラブルは起こしたくなかったんだが」

 

 そうして歩き続ける事30分と少し、のび太たち一行は目的地であるキーナイア交易協会へと到着したものの、その刹那に背後に3人引き連れた非常に強面な男……ラドアと呼ばれた人物が一行に、正確にはロモハと呼ばれたリーダーの女性へ、蔑む様な視線を向けつつ声をかけてきたため、出鼻を挫かれてしまう。

 

 因縁があるためか、はたまた単純に力量自体に迫るものがある問題人物なためか、ロモハ含めた3人は先程までのリラックスモードから一転、万が一に備えての警戒モードへと入った。

 警備兵も何事かと駆けつけてきたものの、実力者同士のいさかいかつ現時点ではまだ言い争いに収まっているため、一定距離を保って様子を伺うに留めていた。

 

「へぇ、貴女ってロモハと言うのね」

「ああ、自己紹介してなくて済まなかったな。ちなみに――」

「おいおいおい、仕方なく良い話を持ってきてやったと言うのに、オレを無視するとは良い度胸じゃないか?」

「喚き散らさなくても聞こえとるわ、煩い奴め。全く、()()のせいで楽しい時間が台無しだろう、どうしてくれる。と言うか、周りの迷惑も考えろ痴れ者が。話とやらがあるならさっさとしろ」

 

 なお、レミリアやフランは実力者故に余裕綽々で様子を見守り、のび太たちも『バリアーポイント』や『ひらりマント』などの防御系ひみつ道具を装備しているため、若干気圧される程度で済んでいる。

 

「ぐっ、仕方ねぇ。じゃあ、手短に……町近くの大森に現れた()()()()()()の調査に、オレらと――」

「興味自体はあるが、断る。行く事になるなら他の冒険者か、この子供たちと一緒に行った方が、貴様らなんかと行くよりは100倍マシだ」

「ははは! こんなひ弱なガキ共と? あの眼鏡の奴なんか、特段雑魚そうじゃないか」

「……止めろ、この子たちを侮辱するな。それと、見た目で判断すると痛い目見るぞ」

 

 そんな2人のやり取りの折、ラドアが発した文言にフラン以外の全員が反応しかけるも、何とか心の中で驚く程度で抑えられる。

 レミリアに至っては、周りに見えぬ様に冒険前に紫に渡された紐を使って特殊なスキマを展開、幻想郷の存在が相当範囲に広まっている可能性が高い事実を、こっそりと伝えていた。

 

「お兄様を侮辱……ふざけてるの? 壊してやろうかしら?」

「大丈夫、大丈夫だから。フラン、お願いだから落ち着いて」

「分かった。お兄様が良いなら、我慢する」

 

 なお、フランは不思議な土地云々よりも、ラドアがのび太を指して特に侮辱的な態度を取った事の方が重要だった様で、抑えがなければ殺しをしかねない程に怒り狂っている。

 

 隠している吸血鬼としての身体的特徴は表に現さなかったものの、内に秘めていた膨大な魔力と威圧感の一部が漏出してしまったらしく、言い争いをしていた2人が思わずフランの方を向いた。周りの野次馬たちの一部は、恐れるあまりその場から逃走を図る位だ。

 

「だから言っただろう。ラドア、いい加減懲りろ」

「……ちっ! お前ら、ずらかるぞ」

 

 こうして、最終的にはロモハが心底面倒そうに忠告し、不服ながらも矛を引いたラドアが仲間3人を引き連れ、この場を立ち去る事によって言い争いが幕を閉じた。

 

 と同時に、ラドア程ではなかったのに加えて状況からして仕方なかったとしても、大きな声で騒ぎを起こしてしまった事へ申し訳なさを感じている様で、周りの野次馬含めた人々にロモハは頭を下げて回っていった。

 当然、謝罪を受けた人々の中に彼女へ怒りをぶつける者はおらず、むしろ面倒臭い奴に絡まれた事への同情をする者が多かったが。

 

「さて、本当に済まなかった。君たちの目的達成と私たちの欲も兼ねて、中に入る事にしよう!」

「はい、ありがとうございます」

「私たちの欲……と言うか、大体はリーダーの欲の様な気がします」

「違いない。全く、冒険者としては優秀な癖して子供っぽいところが――」

「2人共、分かってはいるから今は止めてくれ」

「「はーい」」

 

 周囲の人々への謝罪を終えた後は、ラドアに会う前の愉快な性格に戻った彼女に、彼女のパーティーメンバー含めた一行が少々振り回されかけながらも協会の敷地内へと入り、人混みを上手く避けつつ歩いていく。

 

「えっと……金髪の女の人が『セーヴァ』さん、銀髪の男の人が『シルディ』さんですね。一時期ですけど、よろしくお願いします」

「はい、どうぞ宜しく。のび太くんたち」

「おうよ。お互い色々と話しながら楽しもうや」

 

 途中、何だかんだやっていなかったのび太一行とロモハ一行の自己紹介の他にも、お互い冒険者協会では話していなかった冒険の話や、敷地内にある色々な店に寄り道しつつ行き交う商人などに話を聞いて回ったりなどした。

 

「いやぁ、まさか【舞天】のロモハ様方に会って話まで出来るなんて……感謝しかごさいませんわ」

「何、この程度なら安いものだ。むしろ、有益な情報にこちらこそ感謝している」

「僕たちもです。旅商人のお姉さん、ありがとうございます!」

「構いません。職業柄、嫌でも入ってくる各所の情報を話しただけですので」

 

 大半は目的に寄与しない不必要な情報ではあったが、中にはのび太一行が求める有益な情報が舞い込んできたり、ロモハ率いるパーティーの名声や性格と言った要素が功を奏し、冒険などに役立つアイテムを提供してもらえたりなど、寄り道で得する場面が割とあったので問題はない。

 

 ちなみに、もらったアイテムの効能は『現代地球の懐中電灯』と同等のものや、ひみつ道具『虫の知らせアラーム』の下位互換とも表せるべきものではあった。

 

 のび太たちにとっては使いどころがさほどなかったが、貴重な異世界の魔法道具なのもあって、一応特殊なスキマを通して紫に引き渡すと決まる。その後に役立つか、使えずガラクタ同然となるかは不明だが。

 

「ロモハさん、これって僕たちみたいな子供でも入れる場所なんですか?」

「君たちが入れない場所なら、そもそもここの名前を挙げないさ。まあ、強いて言うなら取引可能な物品、珍しい宝石などを持っていればなお良いが」

「それだったら、これとかはどうですか?」

「なっ……君たちはやはり、ただ者ではない様だ。これ程強力な()()()、取引材料としては十分だ」

 

 寄り道をしながら歩き続ける事20分、ようやく協会の建物前に到着したのび太たち一行は警備員の厳しめのチェックを通過、建物内へと歩みを進めていった。




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