機動戦隊おねショタサーガ (野生のムジナは語彙力がない)
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第1話:ショタとバストと[削除済み]

本編の前に、これだけは言わせてください
『本作の制作は、ムジナ(作者)の意思によるものではありません』

というのもですね……先日、ムジナに宛に一通のお便りがありまして……その内容を要約すると、こうでした。

『アイサガでおねショタものを作ってください!』
『アイサガはおっぱ◯が大きくて魅力的なお姉さんキャラが豊富なので、おっ◯いに囲まれてイチャイチャしているようなものをお願いします! お◯ぱい!◯っぱい!』

……とまあ、こんな感じの依頼が届きまして

これを見て、最初ムジナは断ろうかと思ったのですよ。というのも、ムジナさんはこう見えても純愛派でしてね……不純なのはちょっとねぇ、実を言うとハーレムとかもそんなに好きじゃないんですよ。

でもその一方で、ムジナはこういう……自分の欲望に正直な人って嫌いじゃないのです。だって、普通こんなこと言えますか? 見ず知らずの赤の他人であるムジナに、自分の欲望を包み隠さずさらけ出すなんて……できます? 少なくとも、ムジナにはできません。

なので、依頼主様のその正直な心に敬意を払って、ムジナは依頼主様の願望を叶えることにしました。というわけで、本作はムジナの意思によるものではありません……ですが、全力を尽くして書かせていただきました。

おねショタとかハーレムの類を作るのは初めてなので、未熟なところも多々あると思われます。また、ムジナは慢性的に語彙力がありません。それでも宜しければ……



[注意]
・文中、()で囲まれている部分が指揮官様のセリフです。
・本作では指揮官様の性別は男性で固定されています。
・一部過激な表現がございます、閲覧の際にはご注意を……



では、胸焼けがするほどの、甘々なひと時をどうぞ……


 

アイテム番号:SCP−053−IS

『おねショタ促進薬』

オブジェクトクラス:Euclid

 

 

 

以下の文章は様式美なので、読み飛ばしても何ら問題はありません。暇つぶしにでもどうぞ?

ームジナー

 

 

 

特別収容プロトコル:

SCP−053−ISは常温での保管が可能な為、30×30センチ四方の低脅威度飲食物用収容ロッカーに保管、または強い光を避け、涼しく乾燥した場所に保管してください。現在はエリア████に存在するベース████内、指揮官████の自室にて厳重に保管されています。SCP−053−IS:インシデント053−ISの発生を受け、SCP−053−ISを用いた全ての実験は指揮官によって禁止されています。

 

 

説明:

SCP−053−ISは一般的に市販されている指定医薬部外品████に偽装された液体状の薬品です。経口摂取によりSCP−053−ISを服用した成人男性(以下、SCP−053−IS−1)は薬品に含まれる未知の成分により、服用後数時間かけて体組織の縮小が始まり、最終的に身長と体重が平均的な未就学児童とほぼ同程度となった時に縮小は停止します。この時、SCP−053−IS−1がSCP−053−ISを服用する以前の記憶は失われず、筋組織の縮小などによる身体能力の大幅な減少は見られるものの、精神的及び学力的な変化はありません。

また、SCP−053−IS−1となった者は、SCP−053−IS−1を目視した██歳から██歳までの成人女性に対して軽度の認識災害をもたらします。(以下、SCP−053−IS−1の影響に暴露した成人女性をSCP−053−IS−2とします。)SCP−053−IS−2となった者は、上司と部下など対象とどのような関係であろうとSCP−053−IS−1に対して愛情を抱き、強い庇護欲と独占欲を訴えるようになり、SCP−053−IS−1へ積極的な接触を図るようになります。場合によっては対象を[データ削除済み]な意味で誘惑するほか、[データ削除済み]になることを望みます。また、SCP−053−IS−1の身に何らかの危険が差し迫った場合、SCP−053−IS−2は凶暴化し、ありとあらゆる手段を用いてSCP−053−IS−1を防衛します。この際、SCP−053−IS−2の全能力はSCP−053−ISに暴露する以前と比較すると格段に向上しており、中には未知の能力を発揮するケースもあります。SCP−053−ISの効果は服用後24時間を目安に終了し、SCP−053−IS−1は服用以前の身長と体重に回復します。しかし、SCP−053−IS−2が受けた認識災害はSCP−053−ISの効果終了後も持続し、SCP−053−IS−1だった者に対してSCP−053−ISの再使用を促すようになることから、この効力は永続するものと見られます。

インシデント:053−ISにて発生した被害を受けて、オブジェクトクラスを一時的にEuclidとし、製造元であるオスカー製薬にてSCP−053−ISの開発に携わったとされる研究員へ事情聴取を行ったところ、SCP−053−ISはSCP−███−IS(薬品。服用者を性転換させる)開発中に偶然生成された副産物であることが分かりました。SCP−053−ISに含まれる成分を再現する試みは全て失敗に終わりました。指揮官は実験等で既に使用された分を除く、全てのSCP−053−ISを回収しました。

 

 

インシデント:053−IS

以下は、ベース████にてSCP−053−ISの異常性が最初に確認されてから、事態が収束に至るまでの全記録です。

 

 

 

 

 

ここから先がメインです。

ームジナー

 

 

 

 

 

新暦██(AD25██)年██月██日

エリア████ベース████

 

 

 

その日、夜遅くまで仕事をしていた指揮官が自室に戻ると、PCやら書類の山に覆われたデスクの上に、自分では置いた覚えのない小さな瓶が置かれていた。

 

(……ん?)

 

気になった指揮官が瓶を手に取ると、それはごく一般的な栄養ドリンクだった。茶色の瓶で、疲れを吹き飛ばす濃厚な甘味と程よい爽快感のある酸味が売りの一品である。

 

誰かの差し入れだろうか? そう思って瓶のラベル部分に視線を向けると、そこには一枚のメモが貼り付けられていた。

 

メモには可愛らしい文字で

 

『指揮官様、いつも夜遅くまでお疲れ様です!』

『これを飲んで、明日も一緒に頑張りましょう!』

 

……とだけ、記されていた。

 

指揮官は贈り主の名前を探したが、メモを裏返してみても名前らしきものはどこにも見当たらなかった。

 

きっと、名前を書き忘れてしまったのだろう。

そう思った指揮官は、指揮官としての激務により既に疲労困憊の状態に陥っていたこともあって、贈り主のささやかな気遣いに感謝しつつ、ドリンクを口にした。

 

ドリンクを飲み干すと、スッキリとした味わいが五臓六腑に染み渡ると共に、体の底から力が湧いてくるような気配を感じた。

 

そこで、指揮官デスクの上に溜まった書類の片付けを始めることにした。栄養ドリンクに含まれているカフェインが効果を発揮したのか、それまでの眠気が嘘だったかのように瞳は冴え渡り、書類整理に集中することができた。

 

しかし、それから1時間後……

 

(ああ、これは少しまずいかも……)

 

なんの前触れもなく、息苦しさと猛烈な体の怠さが執務に没頭している指揮官を襲った。仕方なく、指揮官はペンを置いて作業を中断し、フラフラとした足取りでベッドへと向かう。

 

(風邪かな……?)

 

そう思ったところで、指揮官はベッドの上に倒れ込んだ。体温計で熱を測ってみようにも体が思うように動かず、毛布すらまともに被れないほどの脱力感に晒された。

 

(体が、熱い……)

 

体の内側から、血液の流れを通じて焼けるような熱さが全身を駆け巡った。痛みこそないものの、心臓が高鳴る度に、体が何かに対して拒否反応を起こしている時のように、強烈な不快感が押し寄せてくる。

 

あ、これは本当にヤバいやつだ

 

そう考えたところで、時既に遅し……

 

(…………)

 

動くこともできず、助けを呼ぶこともできず

指揮官の意識は、そこで闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

翌朝

 

 

 

 

 

(…………ん)

 

早朝。すぐ近くの窓から差し込む暖かな陽ざしを感じ取り、指揮官はゆっくりと目を覚ました。

 

(ここは……?)

 

指揮官は体を起こし、周囲を見回した。いつもと変わらぬ見慣れた室内。照明はついていなくとも、窓から差し込む陽光が室内をにわかに明るく照らし出していた。

 

(えっと……昨日は、いつの間に眠ったんだっけ?)

 

眠る前の記憶があやふやなことに気づいた指揮官はベッドの上で少しだけ思考を巡らせ、そこで昨晩の体調不良を思い出した。

 

しかし、昨日あれだけのことがあったにもかかわらず、指揮官は奇妙なほど自分の体調が良好であることに気づいた。呼吸も正常、倦怠感もなく、体もしっかりと動かすことができ、熱もなく、視界もクリア……

 

(昨日のあれは、一体なんだったのだろうか?)

 

そう思いつつ、体に巻きついた毛布を取り払い、立ち上がった指揮官だったが……

 

(……え?)

 

そこで、指揮官は視界が妙に低いのを感じた。

まるで床の上に膝立ちをしているかのような……

 

思わず下を見ると、そこには露出した自分の肌……床の上に立った指揮官は、そこでようやく自分が何も着ていないことに気づいた。

 

(そういえば、昨日は毛布を被らずに寝たような……)

 

ベッドへ振り返ると、そこには脱ぎ捨てられた衣服がそのままになっていた。毛布だと思っていたそれは指揮官の衣服で、ボタンはかかったまま、まるで蝉の抜け殻のようにその場に放置されていた。

 

普通、このような脱ぎ方はできない。

 

脱ぎ捨てた服を着てみるも、昨日まではピッタリのサイズであった洋服は何故かダボダボ、ズボンに関しても足の先が一向に裾の部分から出てこようとしない。

 

まるで、体が縮んでしまったかのようだった。

 

(まさか……)

 

ズボンを履くのを諦めた指揮官は、慌てて部屋の隅に何となく置いていた大きな鏡へと向かい、そして鏡に映る現在の自分の姿を目撃した。

 

(嘘……)

 

指揮官は絶句した。

 

幼い顔立ち

低い背丈

短い両腕と両足

体つきは細く、筋肉の発達は見られない

 

 

 

それは、幼い容姿に変貌した自分自身だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式イベント『機動戦隊おねショタサーガ』

第1話:ショタとバストと[削除済み]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、医務室

 

「うーん……」

 

しばらくの間、手元のカルテに目線を落とし、何やら考える素ぶりを見せていたグニエーヴルだったが、不意に小さな唸り声をあげると目の前の指揮官へ視線を向けた。

 

「特に、これといって異常は見当たりませんね」

 

(そっか……)

 

グニエーヴルの言葉に、指揮官は小さくうなずいた。

 

突如として自分の体が縮小し、幼い見た目となってしまった原因を探るため、指揮官は医者であるグニエーヴルの元へ向かっていた。

 

因みに、指揮官が今着ているのは高橋龍馬が置き忘れていったA.C.E.学園の制服である。本来の持ち主である高橋龍馬は、インターンシップの期間が終了したため日ノ丸に戻っており、不在となっていた。

 

当初、勝手に服を借りることに対して心苦しさを覚えた指揮官だったが、他に着れそうな服がなく、子どもの体とはいえ全裸で基地内を徘徊する訳にもいかず、暫定的な処置として龍馬の服を着ることにした。

とはいえ、小柄な龍馬用に調整された制服にも関わらず、指揮官が着る分にはそれでも大きく、裾を折り曲げるなどして何とか着ることができた。

 

「はい……今の指揮官様の状態について私から言えることと言えば、至って健康的な小学校低学年くらいの男の子であるとしか……」

 

グニエーヴルは指揮官を不思議そうに見つめた。

 

(もしかして、疑ってる?)

 

「いえ、あなたがその……指揮官様であるということは、先ほど採取した皮膚サンプルによって証明されていますので」

 

グニエーヴルは指揮官から採取したDNAが、医療用端末に記録されていた指揮官のDNA情報と100%一致しているこということを説明した。

 

「こうなってしまった原因に何か心当たりは?」

 

(心当たりといっても……)

 

指揮官は体が縮んでしまった原因を考えてみるも、誰かに何かをされただとか、特に思い当たる節はないことを伝えた。

 

「では、何か薬のようなものを服用したとか?」

 

(いや、それは……あ)

 

そこまで言いかけて、指揮官は昨晩の栄養ドリンクを思い出した。あの栄養ドリンクは指定医薬部外品(最初は薬として扱われていたが、後に医薬部外品として扱われることになった)なので忘れていたのだが、栄養ドリンクもある意味では薬品と呼べる。

 

指揮官は昨晩飲んだ栄養ドリンクのことを話した。

一応、飲んでから体調が悪化するまで1時間ほどの間隔があったということも伝えておく。

 

「なるほど……状況的に考えて、この前のバレンタインデーでベカスが服用した性転換の薬と似ていますね」

 

(そういえばそんなこともあったね……)

 

指揮官はバレンタインデーのことを思い出して小さく笑った。(前前作、『焦燥バレンタインを参照』)あの時は、女体化したベカスがウッドに迫られて大変なことになりかけていた。

 

「でも、パッケージは一般的な栄養ドリンクだったのでしょう? ということはつまり、ここの誰かが意図的に指揮官を、その……小さくさせたということでしょうか?」

 

(もし、原因が栄養ドリンクだったのならね)

 

指揮官は昨晩のことを思い返した。あの時は激務による疲れでそれどころではなかったのだが、よくよく考えれば贈り主の名前が記載されていなかっただとか、鍵のかかった部屋にどうやって押し入ったのか、気になることは沢山あった。

基地のスタッフによる善意によるものか、単なる悪戯か、或いは……自分のことを陥れようとした何者かによる犯行か……

 

「指揮官様、その栄養ドリンクの瓶はまだありますか?」

 

(一応ね。分かった、持ってくる)

指揮官はグニエーヴルの言いたいことを察した。

 

「いえ……私ではなく、それをセラスティアさんに持って行って欲しいんです」

 

(セラスティアに?)

 

指揮官が何故セラスティアなのかと尋ねると、グニエーヴルは以前、天才メカエンジニアである彼女と話した際に、何故かセラスティアが異常なまでに薬学に詳しかったということを説明した。

「このセラスティア様の天才さは、万能なんだから!」事あるごとに指揮官に対してそう言い聞かせてくる彼女だったが、どうやらその言葉に嘘はなかったようである。

 

「セラスティアさんに渡せば、成分分析により栄養ドリンクの正体について何か分かることがあるかもしれません」

 

(なるほど。というか、ここじゃ出来ないの?)

 

「はい、医者と一口に言っても私は外科医でして……薬学に関しては一応、医者として必要最低限の心得はありますけど、分析や創薬の類は全くの専門外でして……お役に立てず、申し訳ありません」

 

(いや、そんなことないよ)

 

申し訳なさそうに深々と頭を下げるグニエーヴルに、指揮官は頭を上げるように促した。

 

(アドバイスありがとう、それじゃあ)

 

そう言って、指揮官が医務室を出ようとした時……

突然、指揮官の背後で医務室の扉が開く音がした。

 

「おい、頼まれたものを持ってきたぞ」

 

振り返ると、そこには朧がいた。

緋色の瞳が特徴的な、長い黒髪の女性……

腰に刀を差し、いつもの黒い服を着ている。

今はグニエーヴルの手伝いをしているのであろう、医薬品の入った箱を抱えていた。

 

「あ、朧さん。ありがとうございます」

 

「ああ、箱はここに置いておくぞ」

 

朧は淡々とそう告げて、入口近くの棚の上に箱を置いた。

 

「それでは、また何かあれば言ってくれ」

 

相変わらずクールだな……

そう思いながら、指揮官が朧を見つめていると……

 

「ん……?」

 

その時、指揮官の視線に気づいたのか、医務室から出て行こうとしたところで朧が振り返った。そして、朧に視線を向けていた指揮官と目が合う。

 

「なっ……!?」

 

指揮官の存在に気づき、朧は驚愕した。

 

「お主は……まさか、指揮官殿……!?」

 

(あ、どうも。指揮官です)

 

指揮官がそう告げると、朧は「目の前の光景が信じられない」というような顔をして指揮官へと近寄り、その手前でしゃがみ込んだ。

 

「そんな……どうしてこんな姿に……?」

 

朧はそう言って指揮官の頰に手を置いた。

 

(気づくの遅くない……?)

 

「いや、すまない……その、どうやら持っていた箱で視界を塞がれていたようだ。小さくなった指揮官のことが全く見えていなかった」

 

朧は少しだけ顔を赤くしてそう告げた。

 

(ああ、そういうこと……)

 

「いや、そんなことはどうでもいい……! 指揮官殿、一体どうしてこんなことになってしまったんだ!?」

 

(実は……)

 

指揮官は朧に大体の事情を話した。

 

「なるほど……人を童子に変える薬とは、面妖な……」

 

(昨日の飲んだ栄養ドリンクが、体が小さくなった原因だっていう確証はまだないけどね)

 

指揮官がそう付け足すと、朧は興味深そうにまじまじと指揮官の顔を見つめた。

 

(えっと……何かな?)

 

「指揮官殿。何か私に役立てる事はないか?」

 

(いや、今のところは大丈夫かな)

 

「そうか……いや、しかしだな……」

 

「あの、朧さん……もしよければ、指揮官様をセラスティアさんのところまで連れて行って貰えないでしょうか?」

 

何か指揮官の為にする事はないかと考え始めた朧へ、グニエーヴルはそう提案した。

 

「本当は無用な混乱を避けるためにも、医者である私が同行すべきなのですが……生憎、この後は予定が入っていまして……」

 

「要は指揮官殿の護衛だな! あい分かった!」

 

朧は自信ありげに頷き、指揮官へ手を差し伸べた。

 

「では指揮官殿! 共に参ろうか!」

 

先程までのクールな様子は何処へやら、指揮官を一心に見つめ手を差し伸べる朧の表情はとても朗らかで和かだった。

 

……まるで、妹の睦月と一緒にいる時の朧みたいだ

指揮官は珍しい朧の様子を見て、そう思った。

 

(じゃあ、お願いしようかな……)

 

戸惑いつつも、指揮官は朧の手を取ることにした。

 

「では……よっと!」

 

そう言って朧が指揮官を引き上げると……

次の瞬間、指揮官の体が宙に浮いた。

 

(えっ……?)

 

指揮官が驚く暇もなく、朧は幼い指揮官を軽々抱き上げると、まるで赤ちゃんを抱っこするように優しく、それでいて大切そうに両腕でホールドした。

 

「あ、扉は開けっ放しでいいですよ〜」

 

グニエーヴルはそう言ってニコニコと手を振った。

 

「感謝する!」

 

指揮官で両腕を塞がれた朧は、グニエーヴルへ短い感謝の言葉を述べた。それから指揮官を抱き上げたまま、開きっぱなしだった医務室の扉をくぐり抜け、医務室から退出して行くのだった。

 

しかし、その時……

 

「へぇ……指揮官くんが、あんな姿に、ね」

 

廊下の影から、密かに2人の姿を見つめる者がいた。

 

「ふふっ……面白いわね」

 

謎の人物は朧に抱きしめられる指揮官を見て艶めかしく舌舐めずりをすると、虎視眈々とした瞳を浮かべ、静かに2人の後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

(朧……あのさ)

 

朧に抱きかかえられたまま、しばらく廊下を進んだ所で、指揮官は朧へと声をかけた。

 

「なんだ、指揮官よ?」

 

(なんで、抱っこするの?)

 

「ああ、それはだな指揮官殿が歩きにくいだろうと思ってな」

 

(歩きにくい?)

 

「ああ。話を聞く限りでは、指揮官が童子と化してしまったのは急なことなのだろう?」

 

(まあ、そうだけど)

 

「では、今の指揮官ではいつも通りに歩く事は大変だろうと思ってな。普段とは違う視界の低さ、大幅な体重の変化、そして歩幅も変わっていることから……きっと歩き辛いだろうなと思ってな」

 

朧の言葉は正しかった。

自室で目を覚ましてからというもの、指揮官は得体の知れない歩き辛さを感じていた。身長や体重など、急な状態の変化に脳が混乱してしまっているのか、指揮官は上手く体のバランスを保つことができず、医務室へ向かう際にも何度か転倒してしまっていた。

 

なので今の指揮官の体では、広い基地内を歩くのはとても大変な事だった。

 

「だからこそ、私の出番だ」

 

朧は至近距離で指揮官の顔を見つめた。

 

「私が指揮官の足となり、何処へでも指揮官の行きたいところへ行く……それこそが私に与えられた役割なのだろう」

 

(あ、ありがと……)

 

真正面から朧に見つめられ、気恥ずかしさを感じた指揮官は若干視線を逸らした。

 

「ところで指揮官殿、苦しくはないか?」

 

今度は朧が質問する番だった。

 

「いや、なにぶんこのように人を抱えて運ぶ機会はあまりなくてだな……何か苦しかったり、やり方に問題があると言うのなら言ってくれないだろうか?」

 

(いや、苦しくはないから大丈夫……なんだけど)

 

「けど? なんだ?」

 

(少し、恥ずかしい気が……)

 

「何だ、周りの視線が気になるのか?」

 

朧は周囲を見回した。

世界に名高い『剣聖』である彼女、持ち合わせたその強さもさることながら、冷酷無情、普段から淡々としているあの朧が、嬉々とした様子で見ず知らずの男の子を抱きかかえている……そんな彼女の様子が珍しいのか、先程から通りすがった基地のスタッフたちは、皆ギョッとした目で2人を見送っていた。

 

「なんだ、そんなことか……」

 

しかし、事情を知らないスタッフたちから向けられる視線など一切気にした様子もなく、朧は指揮官に向かってこう続けた。

 

「別に気にする必要はない。このように抱きついていれば、遠くからでは貴方が指揮官であることは気づかれまい。指揮官に向けられる妙な視線は、全て私が引き受けよう……もう少しの辛抱だ」

 

そう言って、朧は指揮官の頭を優しく抱いた。

 

(いや、それもあるけど……)

それによって、必然的に朧の体に顔を押し付けられる形となった指揮官は、顔を赤くしてチラリと下を見た。

 

 

 

朧の大きな2つの膨らみが、指揮官の体に密着していた。

 

 

 

指揮官が戸惑う一方で、朧は大切そうに指揮官のことを抱きしめるものだから、その大きな膨らみが指揮官の体で押し潰され、形を変えてしまっている。

 

柔ら……いや、何でもない

服越しとは言え、体同士が触れ合うことで感じられるその温かさと心地良い質感に、指揮官は心の中で小さなため息をついた。

 

「ん、指揮官よ……先程から何を見ているのだ?」

 

つい先程から、指揮官の視線が妙な位置を彷徨っていることに気づいた朧がそう呟いたのを聞き、指揮官は慌てて視線を明後日の方向に向けた。

 

「では、少し休憩でもするとしようか」

 

やがて、2人は基地内の休憩所に辿り着いた。

[深い意味はありません]

朧は指揮官をゆっくりと椅子の上に座らせ、自らは指揮官の前にしゃがみ込み、ニコニコとした表情で視線の高さを合わせた。

 

(あの……朧さん?)

 

「さあ、指揮官は何が飲みたい?」

 

朧の笑顔に得体の知れないものを感じた指揮官だったが、朧は懐から財布を取り出し、近くの自販機コーナーを指差して指揮官の口を封じた。

 

「水、お茶、ジュース、炭酸……どれがいい?」

 

(いや、それよりも……)

 

「ん? もしや喉が渇いたのではなく、お腹が空いているのか? ならば、軽い食事でも買ってきてあげよう。指揮官も知っての通り、ここの自動販売機は何でも揃っているからな!」

 

基地に設置された自販機には、飲み物だけでなく、冷凍食品や即席ラーメン、お菓子、おつまみなどといったものを販売しているものもあり、無駄に種類が豊富だった。

 

(えっと……)

 

「さあ、遠慮するな」

 

(いや、そういうことじゃなくて……)

 

 

 

「お姉ちゃんが何でも買ってあげちゃうぞ!」

 

 

 

(お、お姉ちゃん……!?)

 

朧の口から放たれた衝撃的な言葉に、指揮官は驚愕した。

 

「うん、どーした? 指揮官?」

 

指揮官が放った戸惑いの言葉を、自分が呼ばれたものだと勘違いした朧はニコニコとした表情を浮かべたまま首を傾げた。

 

(ああ……その、お茶が欲しいかなって……)

 

「お茶だな! 買ってくるからちょっと待っててねー」

 

そう言って朧は指揮官の頭を軽く撫でた後、財布を片手に自販機の方へ向かって行った。

 

 

 

(朧の様子がおかしい……)

 

 

 

その背中を見送りながら、指揮官は小さく呟いた。

 

先程から妙に柔らかくなりつつある表情と口調もそうなのだが、厳格な朧に限って自身のことを「お姉ちゃん」と呼ぶなど、まずあり得ないことだった。

 

まさか、朧も今の自分と同じく何らかの薬品の影響を受け、身体的ではなく精神的に幼児退行してしまったのだろうか……?

 

(いや、考え過ぎか……)

そこまで考えて、指揮官は首を横に振った。

 

(でも一体、何がどうなって……?)

 

朧のキャラが少しだけ変になってしまった原因を探るために、指揮官が思考を巡らせ始めた時だった……それは、音もなくやってきた。

 

 

 

(……むぐっ!?)

 

 

 

突然、背後から伸びてきた手が指揮官の口を塞いだ。

 

(……! ……っ!?)

 

咄嗟のことに、助けを呼ぶことも抵抗することも出来ず、指揮官は一切の声を出せないまま椅子の後ろ側へと引きずり込まれ、そして……通路の奥、闇の中へと消えてしまった。

 

「指揮官ー、買ってきたぞー」

 

やがて、2人分のお茶を持って朧が戻ってくると、既にそこには誰もいなかった。

 

「指揮官……?」

 

朧は指揮官を探して周囲を見回すも、辺りからは何の気配も物音も聞こえず、シンと静まり返った空気が漂っているだけだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

(ここは……?)

 

指揮官が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。

清潔なシーツ、白いマッドレス……指揮官は今、どこかのベッドの上に寝かされている。

 

なるほど、今までのことは全て悪い夢だったのか……そう思いたかった指揮官だったが、伸ばした右腕がいつもと比べると細く短くなっていたことから、全て現実であると再認識した。

ベッドの淵から見下ろすと、床のフローリングが自室のものと酷似していることから、指揮官は自分がまだ基地の中にいるのだということに気づいた。

 

状況を確認する為に、指揮官がベッドから起き上がろうと両腕に力を入れた時だった。

 

(……!)

 

突然、力を入れた左腕を何者かに掴まれ、指揮官の体がびくりと震えた。それと同時に、指揮官は自分の左側から何者かの息遣いを感じた。

 

「ふふっ……おはよう、指揮官くん」

 

不敵な笑い声

それと同時に発せられる、色っぽい女性の声

 

(その声は……!)

 

聞き覚えのあるその声に、指揮官は振り返った。

 

(そんな……)

 

指揮官の隣に並ぶようにして、ベッドの左側で体を横にしていたその人物を見て、指揮官は驚愕した。

ショートヘアーの黒髪、白い肌、極東製の白銀の装束には特徴的なスリットが入っており、黒色のソックスも相まって、白く美しい彼女の生足が艶やかに強調されていた。

 

 

 

(黛……!?)

 

 

「は〜い、君の黛よ〜」

それは極東安全機関に所属する特務機関員、コードネーム『霊蛇』こと、黛だった。

 

(どうしてこんな事を!?)

 

「どうしてって……決まっているじゃない?」

 

驚く指揮官を前に、そう言って黛は体を横にしたまま足を組んだ。色気の強い彼女の生足がさらに露出する。

 

黛に誘拐されてしまったという事実から、

まさか指揮官である自分のことを亡き者にせよという指令が極東共和国から出された……とでもいうのだろうか?

……指揮官がそんなことを考えていると

 

「安心して〜、どこぞのスパイ映画みたいに君のことを暗殺しようってわけじゃないから〜」

 

まるで指揮官の思考を読んだかのように、そう告げた。

 

(じゃあ、なんで……?)

 

「ふふっ……それはねぇ〜」

 

そう言って、黛は指揮官の右腕で指揮官の腕を掴んだまま、上体を起こして左腕を伸ばし、指揮官の頰に手を触れた。

 

一体何をするつもりなのだろうか?

恐る恐る、指揮官が身構えていると……

 

「えい!」

 

(……っ!)

 

指揮官が反応するよりも早く、黛は素早く彼の後頭部に手を回すと、力を入れて手前に引き倒し、肉つきの良いその体で包み込むようにして指揮官のことをぎゅっと抱きしめた。

 

 

 

「指揮官くんのことが、可愛くてしょうがないから〜」

 

 

 

(!?)

 

黛は嬉々としてそう告げ、指揮官の顔を巨大な双丘で挟み込み、頭の先を愛おしげに頬ずりした。咄嗟に抵抗しようとした指揮官だったが、子どもの力で大人に敵う筈もなく、なす術なく彼女の抱きしめを受け入れざるを得なかった。

 

「因みに、指揮官くんがこうなっちゃったのは私のせいじゃないからね〜! 私はただ、通りすがっただけの第三者なんだから〜」

 

(じゃあ、なぜこんな事を……?)

挟まれ、もみゃくちゃにされながらも指揮官が尋ねる。

 

 

 

「それはね〜子どもになっちゃった指揮官くんとイチャイチャしたかったからなの〜! だからぁ、ついお持ち帰りしちゃったのよね〜」

 

 

 

(……!?)

 

つい、とは何なんだろうか?

指揮官は黛の言葉の意味を考えることで気を逸らそうとするも、しかし顔面を圧迫する極上の柔らかさと、彼女の体から発せられる淫美な甘い香りをゼロ距離で感じ、それどころではなくなった。

 

「ちっちゃくなった君を今日初めて見た時から、なんだが全身が火照ってきちゃって、それに体の奥が疼いてしょうがないの……だから、私とたっぷりイチャイチャして、この疼きを沈めて頂戴ね?」

 

ただでさえ男を狂わせる魅惑的なボディを持っているにもかかわらず、あろうことかそれを惜しげもなく顔に押し付け、さらに色気のある芳香が悪戯っぽく鼻腔をくすぐるものだから、たまったものではない。

 

「ふふっ……ぎゅ〜〜〜♡」

黛は幸せそうに指揮官の体を抱きしめた。腕だけでなくむっちりとした両足も使ってホールドし、全身で指揮官の小さな体を抱きしめ、堪能する……

 

これでもかと言わんばかりの黛の愛情表現に、指揮官は心臓の猛烈な高鳴りを感じ……そして、指揮官が(ある意味で)苦しさを覚え始めた時……

 

「ふふっ……」

 

唐突に、黛が指揮官の体を解放した。

 

(な……何を……?)

 

「おっしまーい」

 

黛はそう言ってニッコリと笑った。

 

(え?)

黛の意図が分からず、指揮官が呆然としていると

 

「あらあら〜指揮官くんってば、もっとぎゅってして欲しーって顔してる〜〜〜」

 

そんな指揮官の様子を見て、黛は悪戯っぽく笑った。

 

(そんなことは……)

 

「誤魔化してもダ〜メ、指揮官くんの気持ちは、全部お見通しなんだから〜」

 

(それは……っ!)

 

言葉ではそう取り繕っても、自分も男なのだろう……心の奥底に、甘美な黛の抱擁を求めている自分がいる事に気付いた。

 

「私も、指揮官のことをもっとぎゅ〜ってして、たっぷりイチャイチャしてあげたいのは山々なんだけどね……でも、お・あ・ず・け〜」

 

黛はそう言って、指で指揮官の鼻の先をツンツンとした。

 

「ねえ、指揮官くん……あなたはだぁれ?」

唐突に、黛はそう切り出してきた。

 

(……指揮官だけど?)

 

「えー? こんなちっちゃな子が指揮官? おねーさんの目には、とてもそうには見えないけどなー? パッと見、どこにでもいる普通の男の子だし、とても指揮官っていう偉い立場の人には見えないけどな〜?」

 

(……何が言いたいの?)

 

回りくどい挑発を展開する黛に、指揮官は真意を求めた。

 

「だから、君が指揮官に相応しいかどうか、これからテストしてあげる事にするわ。ああ、拒否権はないからね」

 

(テスト?)

 

「そう。もし、私の出した課題をクリアしたなら、私はあなたを立派な指揮官として扱ってあげるわ……でも、もしクリア出来なかったらあなたは指揮官に相応しくない……だから、この基地には要らないってこと……つまり……」

 

そこで、黛はニヤリと笑った。

 

その笑みに、指揮官が嫌な気配を感じていると……黛は指揮官の耳元に顔を寄せ「もし君がテストに合格したら、ちょっとしたご褒美をあげるわ」と、囁いた。

 

(これって、どちらにしろアレなやつじゃ……?)

 

これから待ち受けるであろう運命に対して小さな不安を抱いた指揮官だったが、しかし、どうあがいても引くことは許されなかった。

 

仕方なく、指揮官は黛の言葉に従う事にした。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「場所を変えようか」と黛に連れられ、指揮官が訪れたのは基地内の小会議室だった。定員が20人にも満たない、こじんまりとした会議室……

 

そこで黛は指揮官を椅子に座らせた後、あらかじめ用意していた結束バンドで両足を椅子に固定し、直ぐに逃げられないよう細工を施した。そして、課題と称したプリントを机の上に置き、指揮官にプリントの問題を解くよう言い渡すのだった。

 

裏返しになったプリントを前に、どのような難解な問題が出題されるのだろうか……? と身構えていた指揮官だったが、プリントをひっくり返し、そこに書かれていた問題文を見て驚愕した。

 

問題は全て小学校低学年で習う基本的な計算問題のみで、数学ですらなかった。(算数です)

 

子どもなら兎も角、大人がやるにはあまりにも簡単すぎる問題ばかりだった。そのため、指揮官は当初この問題文を怪しむのだが……しかし、実際にやってみても2+2は5などといった引っ掛け問題があるわけでもなく、落ち着いて解けばまず間違えようのないものばかりで……

 

「うんうん……全問正解ね」

 

プリントを提出すると、黛によって直ちに採点が行われ……そして、何事もなく採点が終了し、指揮官の元へ100点の答案が返却された。

 

「指揮官くん、これでテストは全て終了よ」

 

(あれで終わり!?)

 

「そうよ〜。これで指揮官くんは名実共に指揮官くんっていうことが証明されたわ〜凄い凄い〜お姉ちゃん、感激しちゃう〜〜〜」

 

そう言って黛は指揮官の頭を優しく撫で回した。

色々な意味で黛に下に見られているような気配を感じた指揮官だったが、今のこの状態では仕方がない……と、諦めることにした。

 

(えっと……じゃあ、自分はこれで……)

指揮官が足の結束バンドを取ろうとすると……

 

 

 

「頑張った指揮官くんには、ご褒美をあげなくちゃね!」

黛は目にも留まらぬ速さで指揮官の前へ立ちはだかると……

 

 

 

突然、首元についた衣服の留め金を外し、

 

 

 

さらにスリットの結び目を紐解き始めた。

 

 

 

(ちょっ……!?)

指揮官が止めに入ろうとするよりも早く、黛は肩にかけた薄いベールを取り払うと……

 

 

「それ〜〜〜〜〜」

あろうことか、そのまま着ている服さえも勢いよく脱ぎ捨ててしまった。

 

 

 

(うわっ……!?)

指揮官は慌てて黛から視線を逸らした。そして、黛の裸体を見てしまわないように顔を背け、目を瞑っていると……

 

「指揮官くん、大丈夫よ〜」

 

黛に促され、指揮官が恐る恐る目を開けると……先程服を脱いだ筈の黛は、共和国流の早着替えというやつだろうか、いつの間にか別の服を着用していた。

 

しかし、問題は着ている服にあった。

なぜなら、黛が今着ているのは……

 

「どう? 凄いでしょ?」

 

(な、何が……?)

 

「見て分からない〜?」

そう言って、黛は熱っぽい視線を指揮官を向けながら手を膝につき、前屈みになった。これにより指揮官の眼前に、たわわに実った2つの肌色の果実が差し出される形となる。

 

 

 

胸元が大きく開かれたワイシャツ

 

 

 

大胆に開かれたそこから、彼女の体に纏わりつくセクシーな黒い下着が露わになっている。

 

 

 

そして、下着で保護された淫乱な肉体は、さながら黒色のフルーツキャップで守られた巨峰のようだった。瑞々しい質感、表面にはシミひとつなく、果実は少し触れただけで弾けてしまいそうなほどに完熟しきっていた。

 

 

 

2つの果実が並ぶ事によって出来た深い谷間は、意識を保っていなければ体が吸い寄せられてしまいそうになるほど魅力的で、芸術的とまで呼べる美しさがあった。

 

 

 

彼女が少し動くたびに、その巨大な曲線が艶めかしく揺れ動いた。

 

 

 

そう、黛が着ているのは……

例の(変態的な)教師服だった。

 

 

 

(いや、どうしろと……?)

 

「指揮官はそう言葉では否定しつつも、その視線は黛の胸部に注がれていた」

 

(……!)

 

「心を読まれた。でも、目が離せない」

 

(くっ……!)

指揮官は気力を振り絞り、心を惹きつける魅力的な部位から何とか目を離し、黛の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

「あら? 案外頑張るのね〜」

 

そんな指揮官の様子がおかしかったのか、黛はケラケラと笑った。

 

(からかうのもいい加減に……)

 

「からかってなんかないわよ〜。ねえ、指揮官くんって……コレ、好きなんでしょ?」

 

(そんなことは……)

 

「仕方ないわよ、君だって男の子なんだもんね〜。それに……さっき剣聖さんに抱っこされてた時、指揮官くんがチラチラと下の方を見ていたの、私知ってるんだから〜」

 

(……見てたの……?)

どうやら、黛は全てお見通しなようだった。

 

「うんうん、だから〜指揮官くん〜」

 

黛は指揮官の前に跪き、上目遣いで指揮官を見つめた。

そうして、おもむろに自分の胸部を突き出し……

 

 

 

 

 

「触って♡」

 

 

 

 

 

一体、黛はどうしてしまったのだろうか?

 

 

 

基地の中でも屈指の美貌を持つ黛。

その美貌を武器に、指揮官から様々な情報を引き出そうと、色仕掛けによる誘惑をするということは前々からあった。しかし、ここまで露骨な誘惑は指揮官にとっても初めてのことだった。

 

(いや、そういうのは流石に……)

セクハラを恐れた指揮官は、眉を潜めて身を引いた。

 

 

 

「遠慮しないの〜、据え膳食わぬは何とやら〜」

そんな指揮官の両腕を掴み、黛は自分の胸へと誘導した。

 

 

 

(あっ……)

手のひらに人肌の温もりと、弾力のある塊が触れるのを感じた。少し力を入れただけで指は塊の中に沈み込み、しっとり柔らかい海の中に包み込まれてしまう。

 

指揮官が無意識の内に指を動かそうとするものなら、黛は目を細め「んっ……」と、官能的な声を漏らした。慌てて手を引こうとするも、きめ細やかな肌が指揮官の指に絡みつき、まるで吸い付いてしまっているかのように離さなかった。

 

……いや、違う

指揮官はそこで、黛の柔らかい塊が指を離そうとしないのではなく、自らの意思で離そうとしていないことに気づいた。

 

しかし、その事実に気づいてもなお、指揮官は指を離すことができなかった。指先に伝わる抗い難い甘美な心地よさが、指揮官の理性をことごとく打ち砕いていく

 

 

 

「んんっ……ふふっ……指揮官くん、上手よ〜」

黛の顔はすっかり快楽に染まっていた。

 

 

 

「指揮官くん、ほぉら見て……」

 

黛に促されるまま、指揮官は視線を下に向けた。

 

「指揮官くんのちっちゃくて温かい手でモミモミされて〜私の[データ削除済み]がいやらしく形を変えちゃってるわ〜」

 

(……ッッッ)

そこで、指揮官は信じられない光景を目の当たりにした。黛に言われるまで全く気がつかなかったのだが、指揮官は[データ削除済み]。

 

 

 

 

 

[ムジナ(作者)のSAN値が限界を迎えました]

 

 

 

 

 

ーーー省略ーーー

[以後数分間に渡り、黛の官能的な声が響き渡る]

 

 

 

 

 

「はーい、ご褒美の時間は……お・し・ま・い」

 

 

 

黛が指揮官の前から一歩だけ引くと……ぷるん、大きな膨らみが盛大に揺れ動き、それまで繋がっていた箇所が名残惜しく分かれてしまった。

 

(…………)

恍惚とした表情で衣服の乱れを直す黛を前に、指揮官は自分の手のひらを見つめた。そこには、まだ彼女の肌の温もりと柔らかい感触が残っている。

 

 

 

「ふぅ……さ、授業を始めるわよ〜」

熱を帯びた深い吐息、うっすらとハートマークが浮かび上がっている瞳、上気した赤ら顔を浮かべながら、黛は教卓の上に置いていた指示棒を手にした。

 

 

 

(……?)

 

授業……?

最後に残った理性という名のたった1枚のファイアウォールを盾にして、指揮官は黛を見つめた。

 

 

 

「次は指揮官くんもお待ちかねの……保健体育よ〜」

 

 

 

(……ッッッ!?)

しかし、黛の放ったその一言に、指揮官の理性は早々に無数のひび割れが入ることとなった。

 

「ふふっ……」

指揮官のそんな様子に色っぽい笑みを浮かべた黛は、教卓の上に腰掛けると、その上で足を組んだ。スカート丈が恐ろしく短いため、黛が足を動かす度に、その中身がチラチラと見え隠れしてしまっている。

 

 

 

「私の授業に教科書は要らないわ〜。だって、こ・こ・に……教科書よりも、も〜〜〜っと良い教材があるんだから〜〜〜」

 

 

 

散々指揮官のことを弄んだ黛は、そこで何の躊躇いもなく股を大きく開いた。黒いストッキングに包まれた黛のムチムチとした悩ましい脚部が、彼女の柔軟性と相まって左右対称の美しい形となっている。

 

いわゆる、M字開脚というやつである。

 

それにより指揮官のところからは、黛の……薄布に包まれた、女性の大切な部分が丸見えになってしまっている。そして、その場所は[削除済み(もうダメ書き起こしたら死ぬ……)]

 

(…………)

指揮官の理性に甚大な損傷が発生する。

 

「さあ、始めましょ〜」

黛は指示棒の先端を自分の股に向けた。

 

 

 

「君と私……2人っきりの、保健体育を……実技で♡」

 

 

 

(…………ああ)

今まさに指揮官の理性が崩壊しようとした……その時

 

 

 

ガシャン!

スモークがなされた会議室の窓ガラスを突き破って、何か小さいものが飛び出してきた。しかも、窓ガラスを突き破ってもなおその勢いは止まらず、教卓の上に腰掛ける黛めがけて一直線に向かっていた。

 

「!」

それに気づいた黛は素早い身のこなしですぐさま起き上がると、飛来する何かめがけて蹴りを放った。履いていたハイヒールの先端がその物体を捉え、真っ二つに粉砕した。

 

「わっ?!」

 

そして、黛は悲鳴をあげた。

なぜなら、物体を粉砕した瞬間、その中から大量の液体が吹き出し、黛を襲ったからだった。

 

(これは、お茶……?)

粉砕され、地面に転がる空き缶を見て指揮官が呟く。

それにより、指揮官は理性を取り戻した。

 

「くっ!」

 

吹き出したお茶に一瞬だけ怯んだ黛だったが、すぐさま態勢を整えると、胸の谷間から小さな瓶を取り出し、親指で蓋を開けつつ、あろうことか中に入った液体を指揮官めがけて飛ばした。

 

(なっ……!)

 

しかし、その液体が指揮官に届く直前……指揮官の目の前に出現した黒い影が盾となり、指揮官が液体を浴びることはなかった。

 

「貴方は……!」

 

突然現れた黒い影を見て、黛が驚愕する。

 

「…………やっ!」

黒い影はその場で抜刀、黛へと斬りかかった。

 

「くっ……」

迫る峰打ちを、黛は側面へ飛び、ギリギリのところで回避した。

 

しかし、黒い影にとっても回避されるのは計算ずくだった。黒い影は勢いそのまま反転すると、椅子に縛られた指揮官に向けて横薙ぎの一撃を放った。

 

刀の一閃は指揮官と椅子を繋ぐ結束バンドだけを綺麗に切断し、これにより指揮官は自由の身となった。

 

(朧……!?)

 

「指揮官殿! 手を……!」

黒い影の正体は朧だった。

朧は刀を左手に持ち替え、空いた右手を指揮官へ差し出した。指揮官が手を握ると……朧は指揮官の体を引き上げ、大事そうにその胸中へ誘い、抱き……

 

 

 

「朧月の輪!!!」

 

 

 

朧が技の名前を呟いた瞬間、左手の刀から放出された高周波が2人の体を包み込んだ。そうして、気流の刃を伴う1つの竜巻と化した2人の体は、会議室の中を高速で移動……会議室の壁を突き破って、外へ消えてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

数十分後……

セラスティア様専用ラボ(自称)

 

 

 

「あははっ、それは大変だったわねっ!」

指揮官の報告を聞き、セラスティアは盛大に笑った。

 

(少しはこっちの身にもなってよ……)

 

「面白いから仕方ないでしょ? だって、あの指揮官がこんなちんちくりんになっちゃってるんだから〜あはっ、可愛い〜」

 

そう言ってセラスティアは指揮官の頭を撫で回した。

 

(子供扱いしないでよ……)

 

「だって子供でしょ、あはっ!」

 

お菓子食べる? と明らかな子供扱いをし始めたセラスティアに小さな苛立ちを覚えた指揮官だったが、頼りになるのが彼女しかいない事もあり、余計な反論をせず、ここは我慢することにした。

 

 

 

朧(直感で指揮官の居場所を探し当てた)の力も借りて黛の誘惑からなんとか逃れた指揮官は、当初の予定通り自室に戻って例の栄養ドリンクの瓶を回収した後、セラスティアを訪ねて基地内の彼女のラボへ足を運んでいた。

 

幼児になった指揮官の姿を見て、最初は驚いた様子を見せたセラスティアだったが、事情を細やかに説明すると、彼女はその青い髪の毛を揺らしてひたすらに笑うのだった。

 

 

 

「ほんと、指揮官といると退屈しないわね」

 

(ポジティブに受け取っておくよ)

 

ため息を吐きつつ、指揮官はポケットを探る

 

(それで、これなんだけど……)

 

「オッケー、これを分析すればいいのね?」

 

指揮官は制服のポケットから取り出した栄養ドリンクの瓶をセラスティアへと手渡した。セラスティアはそれを受け取ると、軽く振って蓋を開け、中を覗き込み……そして顔をしかめた。

 

「って……何も残ってないじゃないの」

 

(ん、分析出来そうにない?)

 

「で、出来ないとは言ってないわよ! この天才セラスティア様にかかれば、瓶の内側に付着した僅かな液体からの成分分析でも余裕よ。ただ、サンプルが少ないから分析には時間がかかりそう……そうね」

 

セラスティアは背後へと振り返り、薄暗い部屋の中にポツリと浮かび上がっている空間投影型ディスプレイに映る現在時刻を確認し、それから少しだけ考えた後、こう続けた。

 

「2、3時間後くらいにまた来てよ。それくらい時間をくれれば何か重要な手がかりを掴めるはずだから……まあ、完全には無理だと思うけど」

 

(2、3時間後ね、了解)

 

……流石に頼りになるなぁ

指揮官が心の中でそんなことを思っていると……

 

「ところで、指揮官さあ」

 

(……?)

 

「なんでそんなのつけてるわけ?」

 

セラスティアはそう言って、指揮官の顔を隠している冷徹のマスク(好感度アイテム:バイロン用)を指差した。

 

(実は……)

指揮官はそこで、朧と黛の件を説明した。

 

朧は、医務室で出会ってからというもの、自分に対してそれまで見せることはなかった柔軟な姿勢で接してくるようになったことを……

 

黛に関しては、性的なアピールが前にも増して酷くなったことを……

 

この2点を、何があったかは具体的には言わずに2人の尊厳に配慮しつつ、あくまでも彼女たちが少しだけヘンになってしまったことを伝えた。

 

「はあ……? キャラ崩壊に誘惑ねぇ……?」

 

セラスティアは怪訝そうな表情で指揮官を見つめた。

 

「女2人に言い寄られてご満悦とは、大層なご身分だこと……で、それと指揮官がつけているマスクに一体何の関係があるっていうのよ?」

 

(実は……)

指揮官はセラスティアへ、この件に関してある仮説を立てていることを伝えた。

 

「ふーん……要するに指揮官は、2人がおかしくなってしまったのはこの薬が原因かもしれないって、そう言いたいのね?」

 

指揮官が立てた仮説……

それは……もし、指揮官が幼くなってしまった原因がこの栄養ドリンクにあるのだとすれば、服用者を幼くさせる効果の他に、それとは違う第2の効果が存在するのではないか? ということだった。

 

というのも……朧と黛がどちらも幼児化した指揮官を目視した直後におかしくなってしまったことから、薬には服用者を幼くさせる効果の他に、周囲に対する誘惑、または認識障害のようなものを引き起こす副効果があるのではないかということが考えられた。

 

 

 

「つまり、惚れ薬の成分も含まれているんじゃないかってこと? 小さくなった指揮官の姿を直接見た女の人を、指揮官に夢中にさせる……と?」

 

 

 

(そう、マスクはその予防策ってこと)

最も、どれだけ予防できてるかは分からないけど……マスクの下で、指揮官はセラスティアに聞こえないよう、小さく呟いた。

 

この一連の出来事について、指揮官たちはまだ分からないことがあまりにも多すぎた。

 

「うーん、話を聞く限りでは母数が少ないから何とも言えないけど……とにかく、これの中にそういう効果をもたらす成分が含まれているのかも一緒に調べればいいのね?」

 

(そういうこと、お願いね)

 

「りょーかい! それじゃあサクッと調べてみるから、指揮官はそこら辺をぶらぶら散歩でもしてるといいわ」

 

そう言ってセラスティアはデスクへ向き直り、さっそく作業に取り掛かった。その姿勢に心強さを感じながら、指揮官はラボの出口へと向かった。

 

「ん、話は終わったのか?」

 

出口付近で正座をして待機していた朧は、指揮官の接近に気づくと即座に立ち上がった。

 

(一通りね)

指揮官は顔から冷徹のマスクを外しつつ、そう答えた。さらに分析には2、3時間ほどかかる旨のことも伝えた。

 

「そうか、それでは……んっ」

 

朧は指揮官へ両手を差し出した。

指揮官がそれに従って両腕を軽く上げると、朧は脇に手を入れて持ち上げ、そのまま幼い指揮官の体をぎゅっと胸に抱いた。

 

「指揮官殿、苦しくはないか?」

 

(ああ、大丈夫……)

 

「そうか! 苦しかったらおねーちゃんに言うのだぞ!」

 

(ん、ありがと)

 

2人はお互いに見つめ合いながら言葉を交わした。

最早、2人とも密着することに慣れてしまっている。

 

筋肉の割合が影響しているのだろう、黛の時とは一味違った朧の柔らかいながらも引き締まった、ハリのある質感を布ごしに感じていると……指揮官はラボの奥から奇妙な視線を感じた。

 

 

 

「…………むぅ」

見ると、先ほどまでデスクに向かっていたはずのセラスティアがいつのまにか振り返っており、朧に抱っこされている指揮官のことをジト目で見つめていた。

 

 

 

(……何?)

 

「見せつけてくれちゃって……」

 

(え?)

 

「何でもないわよ! さっさと出てって!」

 

(アッハイ)

 

顔を見られてしまったが大丈夫だろうか?

そんなことを思いつつ、じっとりとした目つきのセラスティアから逃げるようにして、指揮官たちは早々とラボを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

[エンディング]

 

セラスティアへ薬の分析を依頼し、指揮官は自分のショタ化を治すための手がかりに向けて、一歩前進したかに思えた。

 

だが、この後……

次々と襲いかかってくる、アイサガお姉さんキャラ(?)たちによる[削除済み]な誘惑を、指揮官はまだ知らない……

 

 

 

「すまない、指揮官……ッ!!」

突然の裏切り、[削除済み]した朧に壁ドンされ……

 

 

 

「さあ、授業再開よ〜」

逃げ込んだ矢先、黛によって再び拘束され、さらにあの人物の登場により急遽3Pへ! [削除済み]の波状攻撃により、指揮官の理性は一瞬にして削り取られる。

 

 

 

「主人殿! お背中を流させてもらうであります!」

「私も…………指揮官の背中流すの、手伝う」

意外! 本編では恐らく絶対にあり得ないであろう珍しい組み合わせによる、[削除済み]のご奉仕……

 

 

 

「指揮官……私のしっぽを……触って……?」

次々とおかしくなるのは機械の体を持つ彼女たちも同様だった。接続部を探して指揮官の体を這い回る、彼女の尻尾……切なげな囁き声

 

 

 

「指揮官様〜お待ちしておりました〜♬」

「待ってたわよ〜〜〜ダーリン♪」

リフレと化した指揮官の自室、そこで待ち受けるはあの2人……膝枕に、耳かき、囁き……甘々で、とろけるような新感覚の体験。

 

 

 

その他、アイサガお姉さん(?)キャラたちによるドキドキで甘々で、切なくて、甘酸っぱくて、ちょっぴり[削除済み]な展開が満載……?

 

果たして、指揮官は誘惑に打ち勝つことができるのか……? そして、指揮官をショタ化させた犯人とは……? その目的とは……?

 

 

 

 

 

機動戦隊おねショタサーガ

第2話へ続く……

[シチュエーションとシーンは全て開発中のものです。]




大事なことなので2回言います。
『本作はムジナの意思によるものではありません』

……なので、誤字脱字や表現に関するもの以外の、本作の内容に関するクレームは一切受け付けておりません。何か内容に関する文句があるのであれば、ムジナに作るよう依頼した依頼主様を特定し、そちらへクレームを送っていただけると幸いです。(ムジナの尻尾切り)
(依頼主様へ、コメントを書く際には自身が依頼主であると発覚しないように、もしくは身元が特定されないよう細心の注意を払ってコメントをしてください!)

また、本作を書くにあたってアイサガのワルチャ民へ意見を求めたところ……

・影麟×ウェスパは至高(なのでこれ以外で)
・ケリーを汚すな(ショタはダメ?風評被害)
→例えアイサガ1の巨乳だったとしても
・ウィオラに蕩けさせられるのが潤う

このような意見が出たので、参考にさせていただきました。

次回も頑張らせていただきます。
コメント等、お待ちしております。
それでは、また……


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第2話:ショタと媚薬と超絶テクニック

お帰りなさい!指揮官様!

第2話でござます。
今回は前回よりもアレな展開が多めですが、ムジナは命令に従って書いただけなので例によって苦情は受け付けておりません。誤字脱字や表現的な指摘は受け付けております。何かありましたらひと言感想とともにコメントしてくれればありがたいです。

オーダー通りとはいえ、少しやり過ぎた気も……r18ではないようにしてますが、BANされないか少し心配なところなのです……

まあまあ
それでは、続きをどうぞ……


 

「それで、指揮官殿はこの後どうしたい?」

 

セラスティアのラボから出たところで、朧は視線を少しだけ下に向け、胸元の指揮官へ尋ねた。

 

(じゃあ……部屋に戻りたいんだけど)

 

抱っこされつつも、指揮官は朧の体に極力触ってしまわないよう努力してそう答えた。しかし、手で直接触れずとも抱っこされている時点で今更である。

さらに、歩くたびに生じる僅かな振動の影響により、指揮官の体と接している朧の柔らかい部分が擦れ合い、奇妙な心地よさを生み出してしまっていることから、指揮官は自分の努力にうっすらとした意味のなさを感じていた。

 

「指揮官殿の自室に?」

 

(ああ、今の自分の姿をあんまり人には見られたくないし……)

 

最高責任者である今の自分の姿を他のスタッフにでも見られたりしたら、下手をすれば基地全体の士気が落ちてしまうかもしれない……そう考えた指揮官は、セラスティアの分析が終了するまで大人しく自室に引きこもることにした。

 

(それに、薬の副作用の疑いもあるから……)

 

もし、周囲の女性を魅了するというような副作用があると仮定した場合……指揮官がこのままウロウロすることによって、副作用に暴露してしまった女性を増やすことになってしまえば、それこそ大惨事に発展しかねなかった。[指揮官の理性的な意味で]

 

「分かった。では、そこまで運ぶとしよう」

 

朧は指揮官の頭に顎をぶつけてしまわないよう小さく頷いた。そして、指揮官に配慮し人気の少なそうな通路を選んで歩を進めた。

 

道中、数名の女性スタッフと出くわしたが、朧は咄嗟に指揮官の顔を見られないよう体の向きを変えるなどしてなんとかやり過ごした。見知らぬ子どもを抱っこしている朧を見て、スタッフたちは驚いたような表情を浮かべたが、幸いなことに指揮官の顔を見られることはなかった。

 

(……朧)

 

スタッフたちとの距離が離れたのを確認してから、指揮官は朧へと声をかけた。

 

「うん、どーした?」

 

(その、色々と……ありがと)

 

「……!」

指揮官が礼を述べると、途端に朧の顔がパアッと明るくなり……そうして、小さな笑みを浮かべて指揮官の頭に頬ずりをし始めた。

 

「何! 例には及ばないさ、私だっていつも何かと指揮官には助けられているからな。それに、困った時にはお互い様と言うだろう?」

 

そう言いつつも、朧の顔から笑みが少しだけ消えた。

 

「それに……」

朧の足が止まる。

 

「だから、こういう時くらい……たっぷり甘えて欲しいな。それが……お姉ちゃんとしての役割だからな」

 

それはまるで線香花火のような、切なげで、小さな笑み。口調は依然としておかしいものの……指揮官を優しく抱きしめ、そんな笑みを浮かべる朧は、どこか寂しげでもあった。

 

(朧……?)

朧の様子に疑問を抱いた指揮官だったが、すぐさま彼女の言わんとしていることに気がつき、ハッとなった。

 

無理もない……彼女はかつて孤独だった。

 

彼女にとって、信じられるのは歳の離れた妹である睦月のみ。しかし、当の睦月は強力かつ制御不能な超能力を持ち、これに姉妹は長らく苦しめられていた。

 

姉として、自らの能力に苦しむ妹にしてやれることもなく、強力すぎる睦月の能力故に、妹が受けている苦しみを分かち合うことも出来ず、そばにいてあげることすら出来ず……

 

何か出来ることはないかと考え、妹を守ろうと決意するも、実力も素質もないと蔑まれ……

 

それでも、がむしゃらになって妹を治す方法を模索し、彼女は延々と孤独の戦いを続けていた。

 

しかし、それも過去の話。

 

今では、睦月もある程度能力を制御出来るようになり、姉妹の間にあった「すれ違い」も徐々に解消されつつあった。

 

だが、現在がどうであれ、それで彼女の過去が平和的に改変される訳ではない。それまで孤独だった彼女の心にできた、孤独という名の穴が消えることはない。

 

(そっか……)

そんな朧の心を察して、指揮官は朧の顔をじっと見つめた。

 

「……指揮官? 私の顔に何かついてるのか?」

 

指揮官の視線に気づいた朧は、指揮官を見つめ返し……そして、その表情と視線の意図するものに気づいた。

 

「そんな顔をしないでくれ」

朧は指揮官を強く抱きしめ、耳元でそう囁いた。

 

「昔の話だ……もう辛い時代は過ぎ去った。今を生きる私たちに必要なのは過去ではない、未来に向かって歩み続けようとする意思だ……もう、過去の根断ちはできている……」

 

頼もしい言葉とは裏腹に、朧の表情から寂しさが抜けない。

 

「もう、私は未来を求めて歩き続けると決心した。妹と歩む未来を作るために……その為に必要なことは、過去を振り返って悲しむことではない……いや、私は悲しんではならないんだ」

 

そこまで言って

「でも……」

朧は指揮官の額に自分の額を当てた。

 

 

 

「指揮官は悲しんでくれるのだな……」

 

 

 

そうして、指揮官のことを至近距離で見つめた。

 

「ありがとう、指揮官……私の……いや、私たちの代わりに悲しんでくれて……」

 

彼女の紅い瞳から、小さな雫が流れ落ちた。

光を伴って朧の頰を伝い、跡をつけながらやがて顎に達すると落下し、2人の間で美しく弾けた。

 

(……仲間として、当然のことだよ)

 

「そうか、仲間か……」

 

指揮官の言葉に、朧は小さく笑った。

 

「こんな私にも、出来たのだな……睦月とは違う、信頼できる人が。安心して背中を任せることの出来る、仲間という存在が……」

 

(だから、もう1人で抱え込む必要はないよ。自分も……今はこんなだし、朧みたいに強くないし、頼りないかもしれないけれど……仲間として、できることならなんでもするから)

 

「なんでも……か……?」

 

朧はその言葉を噛みしめるように目を閉じると

 

「では、仲間として……」

 

朧はそう言って顔をうつむかせ、指揮官の首筋に顔を埋めた。

2人の頰が重なり合う。

 

 

 

「すまない……もう少し、このままでいいか?」

 

 

 

接触面に生じた僅かな振動によって伝わる小さな呟き。朧の表情は指揮官の頭の陰に隠れて見えない。それはちょうど、指揮官の存在を周りに知られないよう顔を隠していた時と、全くの逆の状態だった。

 

 

 

指揮官はすぐ近くに、朧の放つ小さな息遣いを感じた。

 

 

 

その声は、僅かに震えていた。

 

 

 

(……朧)

そんな朧を、指揮官は強く抱きしめ返すのだった。

 

普段の彼女からは想像もつかない弱々しい姿。

それは孤独の戦いを続けることでいつしか忘れ去り、不器用になってしまった彼女の姉としての一面が現れたものなのかもしれない。

 

そう考えると、睦月の自分に向けられる執心的な言動に関しても説明がつく……

 

 

 

つまり、姉妹は愛情に飢えていたのだ。

 

 

 

過去、満たされなかった自身の心を穴埋めするかのように……心の中で、密かに誰かの温もりを求めていたのかもしれない。

 

睦月はともかく、朧のそれは、普段の理性的な彼女の心によって完全に抑制されていたのだが、恐らく……薬の影響によって表側に出てしまったのだろう。

 

指揮官はしばらくの間、朧が落ち着くのを待った。

 

 

 

「……恥ずかしい姿を見せてしまったな」

 

数分後……落ち着きを取り戻した朧が顔を上げた。

 

「忘れてくれ」

 

いつもの調子を取り戻しつつも、朧は少しだけ恥ずかしそうに指揮官から視線を逸らした。そんな朧の、いつもとは違う可愛らしい様子に指揮官は愛しさを感じた。

 

「わ、笑うな……」

 

そう言って、朧が指揮官のことをちょっぴり睨んだ後……

 

「もう…………ふふっ、仕方のない人だな」

 

小さく息を吐き、それから暖かい笑みを浮かべた。その表情には、先ほどまでの寂しさを含んだ暗い色は完全に消えていた。

 

「さあ、行こうか」

 

(お願いね)

 

そうして、2人は再び歩み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式イベント『機動戦隊おねショタサーガ』

第2話:愛撫と媚薬と超絶テクニック

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後……

 

依然として基地の通路を進む指揮官と朧

しかし、その足取りはいつのまにか重くなっていた。

 

(朧……?)

 

「…………」

 

指揮官は朧の腕の中から彼女へと呼びかけるも、しかし、彼女からの返答はなかった。

 

(朧!)

 

「ん…………どうした、指揮官?」

大きな声に反応し、ようやく朧が視線を向けた。

 

(顔が赤いけど、大丈夫?)

 

「む……? そうか?」

 

そう言われて、朧は首を傾げた。

本人にとっては確かめようのないことなのだが、朧の顔は頬を中心に、にわかに赤く染まっていた。

 

「言われてみれば……いつもより、少しだけ体が熱いような気が……妙だな、風邪を引いたとは思えないのだが……?」

 

(そう? とにかく、体調には気をつけてね?)

 

「ああ。だがもし風邪なら、指揮官殿にうつしてしまっては大変だ……少し、歩くスピードを早めるぞ」

 

そう言って、朧は足早に歩き始めるのだが……

 

「はぁ……はぁ……」

どういうわけか、朧の息が上がっていた。

 

基地の外周を全力疾走で駆け抜けても、決して乱れることがないにもかかわらず……しかも、それと連動するようにして歩くスピードも徐々に遅くなり、ついに指揮官を抱えたまま、今にも倒れそうな足取りになるのだった。

 

(何かおかしい……)

 

ここまでくると、朧がうっすらと感じていた熱っぽさを、抱っこされていた指揮官ですら気づくようになり、指揮官は朧へ体の異常を訴えた。

 

(朧、一回下ろして)

 

「ああ、分かった」

 

説得の末に、朧はしゃがんで指揮官を下ろすと、途端にその体がグラリと揺れ動き、かろうじてバランスは保つも、指揮官の前でぐったりと床に膝をついてしまった。

 

(朧!? 大丈夫……?)

 

「はぁ……はぁ……指揮官、すまない」

 

息を荒げ、朧はしきりに頷いた。

どう考えても普通の状態ではなかった。

 

(とにかく、人を呼ぼう)

 

指揮官は周囲を見回した。人気のない通路、陽の光が入らず、天井に取り付けられた照明が1つだけの薄暗い空間……

 

(だめだ、なら……)

 

周囲に誰もいないことを知ると、指揮官はポケットから携帯端末を取り出した。

 

(待ってて! 今、グニエーヴルを呼んで……)

 

「……だめだ!」

 

(えっ!?)

 

突然、朧の伸ばした腕が、電話をかけようとする指揮官の腕を掴んだ。指揮官が振り返ると、朧は虚ろな目をして指揮官の瞳を覗き込んでいた。

 

「あの部屋に……」

 

そう言って、朧は通路の先……1つの扉を指差した。

 

「私を、連れて行ってくれ……」

 

(あの部屋に、何かあるの?)

 

「……頼む」

 

(分かった)

 

おぼつかない両足を言い聞かせ、指揮官はよろめく朧の手を取って、彼女の指定した部屋に向けてゆっくりと進んだ。

 

幸いなことに、扉には鍵がかかっていなかった。

 

指揮官は扉を押して朧より先に部屋の中へと侵入した。薄暗い……だが、壁の天井付近に取り付けられた小さな窓から光が入っており、完全に見えないというほどではなかった。

 

原因不明の体調不良に陥ってしまった朧を一旦部屋の入り口近くに座らせ、指揮官は部屋の中を見渡した。

(……っ)

その際……床に腰掛ける朧の、半開きになった股の間に一瞬だけ指揮官の視線が吸い寄せられるも、指揮官はすぐさま正気を取り戻し、頭を振って視線を逸らした。

(ここは……?)

 

そこは基地の物置だった。人気のない通路の中にポツンとあったことから、カビと埃が酷いことだろうと踏んでいた指揮官だったが、意外なことに部屋の中は綺麗だった。

 

タイル張りの床はフローリングが行き届いておりゴミは落ちていない。空気も全くと言っていいほどカビ臭くなく、棚の中身も整理整頓されており、汚れているということもなければ埃が積もっていることもなかった。

 

まるで……つい最近、誰かが掃除をしたかのようだった。

 

部屋の様子に疑問を抱いた指揮官だったが、壁際に小さな折りたたみ式の椅子が立てかけられているのを見て、これを使って少しでも朧に楽な姿勢を取らせようと考え、指揮官は椅子を持ち上げた。

 

(朧、これ使って……)

椅子を引きずりつつ、朧へ振り返ろうとした時……

 

 

 

カチャリ……

 

 

 

(…………?)

 

それはまるで、鍵をかけた時のような音だった。

 

不意に背後から聴こえてきたその音を耳にして、指揮官が振り返ると……そこには、虚ろな瞳の朧が佇んでいた。

 

「…………」

そして、その手は扉の錠前に触れていた。

誰がどう見ても、朧が扉に鍵をかけたということが分かる。

 

(朧……?)

 

「…………」

 

心配する指揮官をよそに、赤ら顔の朧は錠前から手を離し……ゆらり、ゆらり……と、指揮官のことを虚ろな瞳で真っ直ぐに見据え、ゆっくりと距離を詰め始めた。

 

(朧さん……?)

 

「…………」

 

コツリ……コツリ……

部屋の中に、朧の足音が響き渡る。

 

(あの……)

持っていた椅子から手を離し、指揮官が後ずさりを始めた時だった……

 

「ここは……」

唐突に、朧が口を開いた。

 

「ここは……基地の物置き部屋らしいが、この部屋に面した通路には人通りが少なく、さらに居住区や工廠からは離れているため、比較的静かで瞑想をするにはうってつけの場所でな」

 

淡々と説明しながらも、朧は足を止めない。

 

「だから……軽く掃除をして、少し前から個人的に使わせて貰っている」

 

(そっか、それは……結構なことで……)

 

「つまり、今この部屋の中は私と指揮官の2人っきりというわけだ。鍵もかけておいたから、誰かに邪魔される心配もない」

 

(……邪魔……?)

 

指揮官が怪訝そうな目をしていると、朧は唇をキュッと結び、指揮官から目を逸らした。先程から顔が赤くなっていることもあって、朧のその仕草は、恥ずかしさに耐えきれず視線を逸らしたようにしか見えなかった。

 

「少しだけ、私の話を聞いてくれないか?」

 

そして、朧は指先をツンツンと……可愛らしくモジモジとした様子でゴニョゴニョと呟いた。周囲が静かだったこともあり、指揮官はその呟きを聞き取ることができた。

 

(な、何かな?)

普段とは明らかに違う朧の様子に疑問を抱いた。指揮官だったが、とりあえず話だけでも聞いてみることにした。

 

「先程……医務室で、持っていた箱のせいで指揮官が見えなかったと言ったのを覚えているか?」

 

(ああ、覚えてる)

 

指揮官は小さく頷いた。

それは、指揮官が医務室にてグニエーヴルの診察を受けている時のことだった。途中からやってきた朧は最初、抱えていた箱で視界を塞がれ、指揮官の存在に気がつかなかったと言っていた。

 

しかし、それが一体どうしたと言うのだろうか?

指揮官がそう思っていると……

 

「実は、あれは嘘なのだ」

 

(え?)

嘘……と言われ、一体何事かと指揮官がたじろいでいると、朧はさらに顔を赤く染め、とても言いにくそうに言葉を続けた。

 

「いや、視界を塞がれていたのは変わりないのだが……その、私の視界を塞いでいたのは、箱ではなく……正確には、その……」

 

 

 

 

 

 

私の胸なのだ

 

 

 

 

 

(……?)

 

指揮官は最初、朧が何を言っているのか理解できないでいた。しかし、その眼前で朧が眉をひそめ、自分の胸に手を当てて軽くむにむにとしているものだから、指揮官の視線は否が応でも朧の胸に吸い寄せられてしまった。

 

「あまり、見ないでくれ……」

 

自分の胸に向けられる指揮官の視線を感じ、朧が蚊の鳴くような声でそう告げると、我に返った指揮官は慌てて目を逸らした。

 

(ああ、つまり……さっきの医務室での出来事は、荷物で視界を塞がれていた訳じゃなくて、小さくなった自分の姿が、朧の大きな…………それに隠れて見えなくなってしまっていたから、ということ……?)

 

「そ……その通りだが、あまり言わないでくれ……」

指揮官が要約すると、朧は恥ずかしそうに目を閉じた。

 

(ご、ごめん……)

 

「いや、いいんだ……」

 

2人の間に微妙な空気が流れた。

 

「と、とにかく……その、無駄に大きくなり過ぎてしまったこの胸は、私にとってとにかく邪魔でならないんだ。下方向への視界は塞がれるし、何かと揺れるものだから、剣を振るう際にも邪魔になる……」

 

(ゆ……揺れ……?)

 

「武人になることを望み、無駄を捨てるべく修練に励んできたというのに……出来上がったのは鋼の肉体ではなく、このたるんだ胸! なぜ、こんなにまで卑しく成長してしまったのだろうか……?」

 

朧は悔しそうに自分の胸を見下ろした。

 

「武人としての素質がないことは、私自身でも承知していた。しかし、まさか自分の体にすら裏切られるとは思っていなかった……いわば、この胸は私にとって武人としての志を阻む、障害物に過ぎないのだ」

 

(そんな事は……)

 

胸の大小がどうこう以前に、男である指揮官にはあまり関係のない話なため実感が薄かったのだが、朧は自分の胸が相当コンプレックスなようだった。

 

「これではただの乳牛ではないか!」

 

(乳ぎ……!? そこまで言う!?)

 

「指揮官だって、本当はこの胸が嫌なのだろう?」

 

(え?)

 

「誤魔化さなくてもいい! 私が貴方を抱きかかえていた時、貴方は時折チラチラと見つめるだけで、ずっと私の胸から意図的に目を逸らしていた……」

 

(いや、それは……)

女性は男性の視線を読み取る能力に長けていると聞いてはいたが、どうやら本当のようだった……指揮官はそう思いつつも……

 

……言えない

指揮官は心の中で密かに呟いた。

 

「本当は嫌だったのだろう? でも、優しい貴方はそれを口にしなかった。私のことを気にかけてくれて……」

 

……そうじゃなくて

 

「私の胸は指揮官にとっても邪魔だっただろう? その上で、こんなものを押し付けてしまって……だが、指揮官は嫌な顔1つせずにそれを受け入れてくれた。そんな指揮官の優しさに私は……甘えてしまっていたのだ」

 

……本当は、そんなことはないのだと

見ないようにしていたのは、恥ずかしさもあったが、それが彼女のためにならないと考えてのことだったということを

 

「だから……指揮官」

朧は決意の込められた瞳で指揮官を見つめ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の胸を……揉んでくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………は?

 

 

 

 

(朧……? 何を言って……?)

指揮官はまた、朧が何を言っているのか理解できなくなってしまった。

 

「いや、混乱するのも無理はない」

 

朧はとても恥ずかしそうにしながら、手を胸元に当て、指揮官のことをチラチラと見つめた。

 

「これは風の噂で知ったのだが……揉むことによって、この卑しく成長してしまったこれが小さくなると聞いたことがある」

 

朧はポツリポツリと続け、指揮官へにじり寄った。

 

「だから自分でも時間を見つけては、人目を憚ってこっそり揉んではみたのだが、上手くいかなかった。しかも、この前測った時にはどういうわけか大きくなってしまっていた……」

 

(……!)

あの厳格な朧が自分の胸を揉んでいたという事実と……さらに、恐らく意図的ではないのだろうが、朧が言葉を続けつつ自分の胸を寄せるように抱いたものだから、指揮官は胸の高鳴りを感じた。

 

「恐らく……やり方が間違っているのだと思う。指揮官が私の下品な胸を嫌っているとは承知の上で、頼みたい!」

 

 

 

私の胸を……揉んではくれないだろうか?

 

 

 

(……ッッッ!)

朧の意図を完全に理解した指揮官は、自分の心臓が大きく跳ねたのを感じた。

 

「こんなことを頼めるのは指揮官殿しかいないのだ……だから、頼む!」

 

朧の気持ちに押され、思わず後ずさりした指揮官だったが……その時、指揮官の背中が壁に当たった。もう後退することはできない、覚悟を決める必要がありそうだった。

 

「さっき、なんでもすると言っただろう?」

 

(いや、確かに言ったけどさ……)

朧に迫られ、指揮官は先ほどの発言を後悔した。頼もしさを重視し、朧ならばそんなことはないだろうと思っての発言だったのだが、どうやら裏目に出てしまったようだ。

 

逃げるとして……大人の時はともかく、子どもの体では並外れた身体能力を持つ朧を突破するのは無理なことだろう。仮に突破できたとしても、部屋には鍵がかけられており、鍵を外している間に朧に捕まってしまうのは目に見えていた……逃げるのは、まず不可能と言えた。

 

朧を説得しようにも……彼女は冷静さを完全に無くし、まるで獲物を目の前にした肉食獣のような血走った瞳を浮かべて詰め寄ってきているため、彼女が聞く耳を持っているかどうかすらあやふやな状態だった。

 

……怖い

というか、これ以上焦らし続ければいつ朧に襲いかかられるか分からない……そうなってくると大変である。

 

指揮官はため息を吐き、そして決心した。

 

胸を揉むだけだ……これはあくまでも胸を小さくするという、ある種の医療のため。やましい事なんて何1つない、肩を揉むのとそう変わりはないはずだ。朧の気が済むまで。そうすれば、きっと解放してくれるだろう。

 

 

 

所詮、脂肪の塊に過ぎないのだから

 

 

 

自分にそう言い聞かせ、指揮官は朧を手招きした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

指揮官は先ほどの椅子に座り、朧は指揮官に対面する形で膝立ちの状態になった。これにより、指揮官が手を真っ直ぐに伸ばせば、すぐに朧の胸に触ることができるようなっている。

 

「その……なんだ……」

 

朧は顔を真っ赤にして、上目遣いで指揮官を見つめた。

 

「……きてくれ」

 

(あ、ああ……)

 

洋服越しでも分かる、その圧倒的質量の塊……

見ているだけでもいい香りがしてくる。

 

朧に促されるまま、指揮官は朧のそれに手を伸ばした。

 

「……っ!」

 

指揮官の両手が朧の双丘に触れた瞬間、朧はまるで電気が流れたかのように、びくりと体を震わせた。

 

(大丈夫……?)

思わず、朧の双丘から手を離した指揮官だったが……

 

「だ、大丈夫……」

朧は両腕で自身の胸を抱き、全身に生じた奇妙な感覚を不思議に思いつつも、その感覚に流されてしまわないよう堪えているようだった。

 

どうやら、朧の肌はかなり敏感なようだった。

 

「すまない。少し、驚いただけだ……続けてくれ」

 

そう言って朧は腕を下ろし、再び胸を差し出した。

 

(ああ……)

指揮官は小さく返事をしつつ、今度は先ほどよりもゆっくり……敏感な朧の肌を極力刺激しないよう、優しく触ることにした。

 

「……んんっ!」

 

指揮官の手が朧の双丘に触れると、その口から小さな嬌声が生じた。彼女は目を細め、体を少しだけのけ反らせる……

 

朧の放つ色っぽい雰囲気に惑わされないよう、彼女の双丘に這わせた手を動かし……少しずつ、感覚に慣らすように揉みしだいていく……

 

「くふ……ぅ……っ」

 

朧は唇をキュッと結び、声が出るのを必死に堪えようとするが、今まで味わったことのない感覚に、その口から熱のこもった吐息が漏れていた。

 

朧の吐息を肌に感じながらも、指揮官は彼女のために行為を継続する。すると、不思議なことに朧の体から色気のある芳香が漂い始め、指揮官の鼻孔を刺激した。

 

(…………)

豊満なそれを激しく握り潰し、傷物にしたい衝動に駆られるも……指揮官は理性で自らの欲望を抑え、ペースを早めずに、じっくりと浸透させるように両手を動かした。

 

「〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 

その時、自らの体に広がる感覚に耐えきれなくなったのか、彼女は体を大きく震わせ、声にならない悲鳴をあげた。

 

(朧……少し声抑えて……)

 

静まり返った密室に響き渡った悲鳴、この辺りは人通りが少ないとは言え、こうも大きな声を出されると通りすがりの誰かに聞かれてしまうかもしれない。

 

「はぁ……はぁ……そう言われても……」

 

思わず指揮官が手を止めると、朧は息も絶え絶えと言った様子で指揮官を見つめ、全身に広がる快感を熱と共に吐き出した。

 

「あなたの手が……気持ち良すぎるのだ……」

 

(朧が……感じ過ぎだから)

 

「それは……くぅ……そうかもしれないが……」

 

ただ触っているだけにも関わらず、朧はまたも体を震わせた。それに合わせて、朧の大きなそれもいやらしく揺れ動いた。

 

服越しに触ってこれなのだ。

 

もし、直接肌に触れるとなると、朧は一体どうなってしまうのだろうか?

 

「はぁ……こんな感覚は初めてだ……自分でする時とは、全然違う……とても、気持ちいい……なるほど、この快感が胸の収縮に繋がるのだな……?」

 

朧はうっとりとした表情で指揮官の手を見つめた。

 

「温かくて、力強い……これが殿方に触れられる感覚……いや、そうではなくて……ひうっ! む……胸を触られただけで私がこうも気持ち良く感じているのは……きっと指揮官が触ってくれているからだろうな……」

 

朧の言葉に、指揮官の心臓がドクンと波打った。

 

「指揮官だから、私はこんなにも……んんっ! 」

 

朧が言い切る前に、指揮官は朧の胸を激しく握った。それ以上言わせてしまえば、自分が自分でなくなってしまう気がしたからだった……

 

「し、指揮官……!? どうして急に、そんな……っ!」

 

朧は快感と戸惑い入り混じった表情を浮かべた。

それでも指揮官は激しくする手を止めない。

 

「ああ! これは……もう、ダメ……っ!」

 

朧の口から甲高い悲鳴が放たれようとしたその瞬間……彼女の昂りを感じ取り、指揮官は手の動きをピタリと止めた。

 

「はぁ……はぁ…………指揮官、どうして……?」

 

あとほんの少しで昂りも最高潮に達しようとしたところで寸止めされ、朧は物欲しそうな瞳を浮かべた。

快感にまみれ、蕩けきった表情の朧……それでも、指揮官は彼女に押し寄せる感覚の波が引くのを待ち続けた。

 

(…………)

指揮官は顔を真っ赤にしながらも何とか理性を保ち、朧の顔色を伺っている。本来であれば、このまま胸を強く揉みしだき、彼女を未開の境地へと誘いたかった。

 

 

 

しかし、これはそういう話ではない

 

 

 

これはあくまでも胸を小さくするという治療であり、快楽が目的ではない。……散々やっておいて、何を今更という感じではあるが……

 

それに、彼女がこうなってしまった原因は、恐らく……いや、まず間違いなく自分が飲んでしまった薬が影響していることだろう。

 

つまり、朧本人の意思ではなく……このまま雰囲気に流れてしまえば、お酒を飲んで酔い潰れた女性と関係を持つことと同じである。

 

「ああ……そうか……」

 

指揮官の必死そうな表情を見て、その思惑に気づいた朧は深々とため息を吐いた。

 

「ん…………少し落ち着いた、続けてくれ……」

 

(……分かった)

 

波が収まったのを感じ、指揮官は手の動きを再開した。

先ほどのように激しくはせず、彼女のことを思って優しく、それでいて大切なものを取り扱うようにゆっくりと扱く……

 

(……朧、どう?)

 

「ああ……良い、とても良い……」

 

先ほどの激しい手つきですっかり慣れてしまったのか、朧は時折小さな悲鳴をあげつつも、大分落ち着いていた。

 

「何というか……指揮官に触られる度に、胸が引き締まっていくような気がする……んんっ!」

 

(え、そうなの……?)

 

「ああ……指揮官の掌から放たれる熱と、熱く滾る私の心臓に挟まれて、外と内、その両方から燃焼していくような……」

 

(そ、そっか……)

 

正直、人の手で揉んだだけでそこまで小さくなるとは思ってもみなかった指揮官だったが、朧がそのように実感しているのならまあいいか……と、行為を続ける。

 

「ああ……睦月に触られる時とは、大違いだ……」

 

(……睦月?)

突然、朧がそんなことを口走った。

 

「い、いや! 勘違いしないでくれ……別に、私が睦月に触らせている訳ではなく、その……睦月がよく、触ってくるのだ」

 

朧は慌てて首を横に振った。

 

「その……指揮官も知っての通り、睦月はまだ体つきが幼いから……私のこの卑しい部分を羨ましいと言って、触ってくるんだ……」

 

朧はそう言って自分の胸に目を落とした。

 

「妹は自身の貧相な体つきに悩みを抱いているらしいが、私に言わせればこんなもの……一体何が良いのだか分からないな……」

 

指揮官は手を止め、

(まあ、悩みは人それぞれってことでしょ)

……と、伝えた。

 

「そうか、そういうものなのだな……」

すると朧は少しだけ考えるそぶりを見せ……

 

 

 

「ところで……指揮官は、睦月のことが好きか?」

 

 

 

唐突に、そんなことを聞いていた。

 

その言葉に指揮官は少しだけ戸惑うも……睦月のことは、自分に対して積極的すぎるところもあるが悪い気持ちはしないので、概ね好きであることを伝えた。

 

「そうか……それは良かった」

 

すると、朧はホッとしたように息を吐いた。

 

「指揮官も気づいているだろうが、睦月は貴方のことを好いている。だから……その、睦月のことを嫌いにならないで欲しい」

 

なぜ、自分が睦月のことを嫌いになることが前提なのだろうか……? 指揮官がそう思っていると

 

「実は……私が睦月のようにまだ幼かった頃、私の体型は今の妹とほぼ同じくらいだったのだ……それがいつの日か、急激に育ってしまって今はこんな風になってしまった」

 

(そうなんだ)

朧の告白に、指揮官は意外そうな表情を浮かべた。その話が本当ならば、現在の豊満な体つきの朧からは中々想像することが出来なかった。

 

「睦月が私と同じであるならば……この後、妹は急激に成長することだろう。睦月にはそう言い聞かせているのだが、中々聞く耳を持ってくれなくてな。そう焦らずとも良いというのに……」

 

そこで朧は……

「いや……問題はそれではなくてだな」

と、言葉を返した。

 

「信じられないかもしれないが、睦月の胸囲は……将来、恐らく私よりも遥かに大きくなることだろう。そう言える根拠はない……しかし、姉である私には分かるんだ」

 

……今の子どもっぽい睦月が、朧以上に……?

朧の言う通りに成長した睦月の姿を想像できず、指揮官は信じられないと言いたげな表情を浮かべた。

 

「だから……指揮官!」

 

指揮官が悶々としていると、朧は急に声を上げ……

 

 

 

「胸が大きくなった睦月を、どうか嫌いにならないであげてくれ……」

 

 

 

そう言って、真剣な眼差しで指揮官のことを見つめた。

 

(……あのさ)

 

朧の誤解を解く良い機会だと思った指揮官は、そこで『自分は胸の大きい女性が嫌いというわけではない』ということを伝えた。

 

「そ、そうなのか? しかし、先程は……」

 

驚いた表情を浮かべる朧に、指揮官は『抱っこされている時は恥ずかしかった』『本当は心地よかったのだが、流されてはいけないと思って目を逸らしていた』ということを伝えた。

 

それと同時に、自分は胸の大小で人を好き嫌いすることは絶対にないと告げた。

 

「そう……だったのか……?」

 

そこで、朧はハッとなった。

 

「じゃあ……指揮官は、胸の大きい私のことが嫌いではなく……」

 

(誰も、そんなことは言ってない)

そう言いつつ、指揮官は『寧ろ、自分も1人の男として胸の大きな女性には好き嫌い以前に、つい惹かれてしまう』ことを告白した。

 

「指揮官は……大きくて邪魔なだけの私の胸に、価値があると思っているのか……?」

 

(それは……)

指揮官はそこで、どう言えば良いか言葉に詰まった。

 

人の体とは産まれながらにして誰しも平等、本来であれば切り売り出来ないものであり、それは胸もまた然りである。しかし『胸に価値があるのか?』の『価値』と聞くと、ついお金をイメージしてしまう。

 

それだと、自分の体という『商品』を売る……つまり臓器売買の類を想像してしまう。さらに場所が場所だけに……自らの体を駆使してお金を稼ぐ、娼婦を彷彿とさせられたからだった。

 

朧の体は商品ではない、ましてや娼婦でもない。

指揮官は朧の言葉を否定しようとして……

 

「…………」

そこで目の前の朧と目を見合わせた。

期待に満ちた、彼女の眼差し……

 

指揮官はそこでハッとなった。

理性で抑えてはいたものの、心の中では朧の大きな胸に惹かれ、無意識のうちに彼女を求めてしまっていた。

無論、そこに恋愛感情はない…………多分

しかし、それはまさしく娼婦のあり方であり、お金のやり取りこそないものの、自分は朧の胸に『価値』を感じていたと言わざるを得ない状況ではないだろうか?

 

それに、朧と触れ合っている時……まず間違いなく、自分は行為を愉しんでいた。それは朧の胸に価値を感じていた紛れも無い証拠であり、いくら否定のための理由を並べようとも、その証拠がある限り、完全なる否定は困難と言えた。

 

そもそも、朧はどういう答えを望んでいる……?

指揮官は朧の気持ちになって考えてみた。

 

(……ああ)

考え抜いた末に、指揮官は覚悟を決めた。

 

今だけは、自分を偽るのを止めよう。

ならば答えは……

 

(……あると思ってる)

指揮官はシンプルにそう答えた。

 

「……!」

すると、朧は少しだけ驚いたように指揮官を見つめ……それから、頰をポッと赤く染めて熱のこもった瞳を浮かべた。

 

「そ、そうか…………なら、んっ……」

 

そう言って朧は体を揺さぶった。それにより、朧の大きな双丘が揺れ、止めていた指揮官の掌との間で静かに擦れあった。

 

「もっと、触ってくれ」

 

(……分かった)

 

豊満なその身体を、自ら惜しげも無く押し付けてくる彼女。その姿は、話題の方向を睦月へと逸らし、さりげなくこの治療を切り上げさせようとしていた指揮官から、完全にその気をなくさせた。

 

「んんっ……! し、指揮官が今の私の胸に価値を感じていてくれるのは素直に嬉しい。だが、私には守りたいものがある。それは睦月であり、久遠であり、そして……貴方でもある。はぁ……はぁ……私は既に武人として生き、守るべきものを守り通すと決意したのだ……ふぅ……だからっ……志半ばで立ち止まるわけにはいかぬのだ……」

 

快楽に晒されながらも、朧は優しげな表情を浮かべた。

 

「だから……私はやはり、胸は小さい方がいいと思う。しかし……ひぅっ……貴方は私のこの胸が良いと仰る……ならば、まだ大きな形を保っている内に、私の胸を好きなだけ……んっ……堪能してくれ……!」

 

瞳を輝かせ、指揮官の頭を撫で始める。

 

「もっと強く……乱暴にしてくれても良いのだぞ……? 私の胸は……もう貴方のものだ。大きくなるも、小さくなるも……全て貴方に身を委ね…………んんっ!!」

 

朧の求めに応じて、指揮官は力を強めた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

蜜柑は皮を剥く前に揉むと比較的甘くなるそう

 

それと同様に、目の前で淫靡に震えるたわわな果実は、一通り揉みしだいたことにより更に甘みが増したであろう。服という皮を丁寧に剥き、その中に包まれた新鮮で瑞々しく、噛み心地の良い質感の果実をこの手に収め、そして思いっきり頬張りたい。

そして……その甘味が最も集中しているとされる先端へ容赦なく吸い付き、そこから溢れ出す果汁を一滴残らず絞り尽くし、吸い尽くし、心の底まで甘美を貪り尽くしたい。

 

指揮官の脳裏に、そんな欲望が渦巻き始めた時……

 

(……ハッ!?)

指揮官は唐突に我に返った。

 

手元を見ると、指揮官の手は朧の胸を荒々しく鷲掴みしていた。触れただけで快感に打ち震えていた最初に比べると、物凄い進歩である……壁に掛けられた時計を見ると、朧と行為に及んでから既に30分以上は経過していた。

 

つい夢中になり過ぎていた……

指揮官は小さく詫びて、朧の胸から手を離した。

 

(こ……これだけすれば、もう十分でしょ……?)

そう言って、朧へ視線を送ると……

 

「はぁ……っ……はぁ……っ……」

朧は熱のこもった荒い息を吐いていた。顔には明らかに赤みが増し、その瞳にはうっすらとハートマークが浮かび、恍惚の表情で……胸を艶やかに揺らし、さらに膝立ちの両足はガクガクと震えていた。

 

これは快楽目的ではなく、胸を小さくするという治療行為であることを心に止めていた指揮官は、どうやら無意識のうちに朧の昂りに合わせて感覚の寸止めを行なっていたようで……朧は幾重にも及ぶ昂りを30分もの間全く解消できず、快楽を蓄積するだけとなっていた。

 

……やり過ぎた!?

指揮官がそれに気づいた時には既に遅く……

朧は快感のハングリーモンスターと化していた。

 

「はぁ……っ……はぁ……っ! もう、我慢できない!」

 

そう言って朧は、服の着崩れを直すどころか逆にわざと悪化させ、服を半分だけ脱ぎ、裸の上半身を曝け出した。巨大な塊がぷるんと震えながら、指揮官の前へ飛び出した。

朧は、そのまま指揮官へと抱きついた。

 

(……っ!)

 

上半身だけ生まれたままの姿になった朧は、柔らかな胸部を指揮官の顔へと押し付けた。布越しではない初めて直に感じられるその温かさと、この世のものとは思えない柔らかさ、そして彼女から放たれる良い香りに、指揮官の思考回路は爆発した。

 

「指揮官……っ! 指揮官……っ!」

 

朧は溜まりに溜まった快感をどう発散して良いのか分からないのか、指揮官の髪に顔を埋め、指揮官の頭皮めがけて熱い吐息を漏らしている。

 

どうして良いか分からず、指揮官がオロオロしていると……

 

「あらあら、お盛んねぇ」

 

部屋の隅からのんびりとした声が聞こえてきた。

女性の高い声、挑発的で、色っぽさも込められた……指揮官にとってはつい先ほどぶりの声色

 

(その声は……まさか黛?)

 

「はーい、君の黛さんですよ〜」

 

朧の胸で視界を塞がれ、指揮官は確認することができなかったが、どうやら部屋の中には黛がいるようだった。

 

「君が今思っていること当ててみましょうか? 指揮官くんは〜黛さんはいつの間にここに来たのか? しかも、どうやって部屋の中に侵入したのか……って、思ってるでしょ?」

 

指揮官の思考回路を読み、黛が続ける。

 

「こう見えても私は極東の諜報員よ。ターゲットの身辺調査、敵地潜入、ステルス&ストーキング、そしてピッキングの類はお手の物。特に……指揮官くんを探すためなら……いつも以上に頑張っちゃうわぁ」

 

そう言って、黛はいたずらっぽく微笑んだ、

 

「因みに、君と剣聖さんの情事は……ちょうど剣聖さんが自分の胸を小さくして欲しいって、指揮官くんを求めてきたところから見ていたわ〜」

 

(……ほ、ほぼ最初から?)

2人は治療に夢中になり過ぎて、黛の侵入に全くと言っていいほど気づかなかったようだった。だったら止めてくれればいいのに……指揮官がそう思っていると

 

「まあ、仕方ないわよね〜〜〜効果が出ると、本人が満足するまでなかなか止まらないって聞くから……」

 

……効果?

 

「本当は即効性があるはずなんだけど……それでもなかなか効果が出なかったのは剣聖さんだからかしら? まあ、後になってズドーンって来る感じみたいだったけど」

 

……まさか……!

 

「ふふっ、気づいた?」

うっすらと笑う黛の声を聞いて、指揮官は確信した。

 

先程から朧の様子がおかしいと思っていたが、それは自分の飲んだ薬だけが原因というわけではないようだった。

 

(朧に……何か盛った?)

 

「大正解!」

 

指揮官の言葉に、黛は指を弾いた。

 

「ちなみに、剣聖さんに盛った薬は媚薬よ〜。これを摂取すると、異性を求めて体が疼いちゃう〜っていうすっごくエッチなお薬ね」

 

(なんてことを……!?)

その言葉を聞いて、指揮官は愕然とした。

 

しかし、分からないことが1つあった。

 

一体いつの間に、朧に媚薬を盛ったというのだろうか? 朧が飲食をしている場面は見ていない。そもそも警戒されている以上、黛が朧に接近する機会は他になかった筈だ。

 

ただ一つ、黛の色仕掛けを受けている指揮官を救出するために、朧が乗り込んできた時を除いて……[第1話参照]

 

(まさか……!)

そこで、指揮官はハッとなった。

 

指揮官は、朧が部屋へ踏み込もうとした直前に……黛が胸の谷間から何やら小さな瓶を取り出し、その中身を自分めがけてかけようとしていたのを思い出した。

そして、朧が身を呈して守ってくれたことも……

 

 

 

「そうよ〜、あの時の瓶が媚薬だったってわけ」

指揮官が答えに辿り着くと、黛はケラケラと笑った。

 

 

 

「本当は剣聖さんに奪われる前に指揮官にかけて〜、私にメロメロになって貰いたかったんだけど、代わりに剣聖さんがかぶっちゃって予定が狂っちゃったの〜」

 

(ええ……)

 

「効果が出るのが遅かったのは、媚薬の大部分が服に染み込んじゃったってのもあるかもね? でも……剣聖さんは私のように薬物に対する耐性を身につけていないようだから、少量でも効果は抜群だったと……」

 

黛の声が大きくなる

それは彼女の接近を意味していた。

 

「でも、君も君よね〜」

 

(何が……?)

 

「いくら媚薬の効果があるとはいえ、あのカタブツの剣聖さんをこんなになるまで躾けちゃうなんて……物凄いテクニックね〜」

 

(いや、それは……もご!?)

指揮官はそこで、朧がおかしくなったのは自分が飲んだ薬も影響しているのだと主張しようとするが……その時、朧が突然体を震わせたことによって指揮官の頭は彼女の胸の谷間の、さらに奥へと押し込まれ、口を塞がれてしまった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

敏感になった肌に生じた刺激に、朧は悦楽の悲鳴をあげた。

 

「わぁ……凄い……」

室内に響き渡る足音、黛は指揮官のすぐ側にまで迫っていた。

 

「ところで……指揮官くんと剣聖さんの情事をずっと見せつけられてぇ、黛さん、体の奥が疼いて疼いてたまらなくなってきちゃったの……」

 

指揮官のすぐ近くで、彼女の艶かしい声が響いた。

 

「終わってからでいいからさ、剣聖さんを落とした指揮官くんの超絶テクニック……私にも感じさせてちょうだぁい……?」

 

(そんなのないよ……)

柔らかいものに埋もれながらも、指揮官は辛うじて声を出すことができた。

 

「いいからいいから……ん?」

 

そこで黛は何かに気づいたような声を上げた。続いて、彼女の足音が少しずつ小さくなり、彼女が後退したことが分かる。

 

(……?)

 

すると、朧が突然立ち上がり、今まで指揮官の顔を覆い尽くしていたものが離れ、指揮官は視界を取り戻した。

 

(……!)

目を開けた指揮官の前には、上半身裸の朧の姿があった。女性の大切な部分を隠そうともしない彼女の様子に気づいた指揮官は、慌てて視線を逸らした。

 

「はぁ……はぁ…………やはり、そうだったのか」

 

赤く染まった頰、荒い息を吐き、トロンとしたような瞳を浮かべてはいるものの、先ほどと比べると朧は少しだけ吹っ切れたような顔をしていた。

 

「まさか……媚薬の効果に打ち勝った?」

 

彼女のそんな様子を見て、黛が驚いたように呟いた。

 

(朧……大丈夫?)

 

「ああ、大丈夫……と言いたいところだが……くぅ」

 

そこまで言いかけて、朧の体がゆっくりと崩れ落ちた。指揮官は何とかそれを受け止め、彼女を床の上に座らせた。

 

「ふぅぅぅぅぅぅ……まだ、妙な感覚が私の体を蝕んでいる。これは一度発散しなければどうにもならないようだ……」

 

朧は深いため息を吐き、うっとりとした目で指揮官を見つめた。

 

「これが媚薬というものか……今、私は指揮官のことが欲しくて欲しくて堪らない。少し気をやってしまえば、まもなく私は指揮官めがけて襲いかかってしまうだろう……」

 

(そんな……)

 

「だが安心してくれ。指揮官の前ではそのような無様な姿は絶対に見せはしない……」

 

朧は優しく微笑みかけ、そして……

 

「こうなったら……」

 

そう言って、腰に吊っていたブレードケースの中から紅い刀身の小太刀を引き抜いた。

 

(何をする気……?)

 

「痛みで、この感覚を紛らわせる」

朧の持つ紅い刀身が、部屋に差し込む日の光を受けてギラリと輝いた。

 

(えっと……大丈夫?)

 

「ああ、少し血が流れるだろうが問題ない。そうだ……血が飛び散るかもしれないから指揮官は少しだけ離れていてくれ……」

 

(分かった)

言われた通り、指揮官は朧から離れた。

 

「ふぅ…………よし!」

指揮官が安全な位置にいることを確認した朧は、礼儀正しく正座をして、脱ぎかけていた上着を完全に脱ぎ捨てると、ポケットから白いハンカチを取り出した。

 

そして日ノ丸の時代劇にもよくあるように小太刀を逆手に持つと、刀身を覆い尽くすようにハンカチを押し当て……

 

「いざ!」

力強いかけ声と共に、朧は小太刀の切っ先を……自身の下腹部へと突きつけ……

 

(待って!)

上着を脱ぐことや、白い布を用意するなどと言った一連の動作から、朧が切腹をするのではないかと予感し身構えていた指揮官だったが……案の定という展開に、慌てて朧を制止させた。

 

「指揮官、なぜ止める?」

 

(なんでお腹なの!?)

手とか腕とか、もっと簡単な場所があるのではないのか? 指揮官はそう主張するも……

 

「いや、それでは痛みが薄くてこの感覚を誤魔化しきれぬだろうと思ってだな」

 

(だとしてもお腹はまずいから!)

 

ただでさえ女性の体に傷が入ること自体がアレだというのに、それがお腹ともなると……例え小さな傷であったとしても、朧の将来を考える意味ではとても危険な行為だった。

 

「大丈夫! 先っちょ! 先っちょだけだから!」

 

(いやいや! この流れはとことんまで行くやつだから! 根元までずっぽり行くやつだから!)

 

お腹を切るのをやめさせたい指揮官と、お腹を切りたい朧が攻防戦を繰り広げていると、先程から黙ってそれを聞いていた黛はニヤニヤと笑い……

 

「あらあら……2人とも、エッチな会話ねぇ〜」

2人には聞こえない声で、ひっそりと呟いた。

 

(黛……っ、笑ってないで朧を止めて!)

 

黛が何か呟いたことに気づいた指揮官は、朧の切腹を止めるべく、彼女の助けを借りることにした。

 

「もう、しょうがないわねぇ……えい!」

 

 

 

パシャ……

黛はそう言って、手に持っていた何かを朧めがけてふりかけた。

 

 

 

(……!?)

 

気づいた時には、既に朧の髪の毛は濡れていた。

 

(何を……?)

 

指揮官は黛へ視線を送ると、彼女は自信たっぷりに「切腹を止めてあげたわよ」と言いたげな表情を浮かべていた。

 

「…………」

 

すると朧は何を思ったのか、小太刀をブレードケースへ収めると、ハンカチをポケットへ戻し、それから無言で立ち上がった。

 

(まさか……)

 

黛の放った何らかの液体。朧の髪の毛からはポタポタと……その液体が重力に引かれ、滴り落ちている。最悪の事態を想定し、指揮官は半裸の朧から距離を取るも……

 

「……!」

 

次の瞬間、朧が抜刀

ブレードケースから紅い色をした刀が引き抜かれたと思った瞬間……朧は指揮官との間にある、何もない空間めがけて超高速の斬撃を放った。

 

(……っ!?)

 

朧の間合いからは十分な距離を取っていたにもかかわらず、指揮官は刀の風圧をひしひしと感じ、少しだけ怯んだ。

 

そして、指揮官は違和感に気づいた。

慌てて身体中を見回すも、特に切られただとか痛みだといったものは感じられない。しかし、全身を駆け巡る異様な寒気と軽快さに、指揮官が呆然としていると……

 

 

 

……そんな…………

 

 

 

 

 

(……どうして?)

 

次の瞬間……朧の斬撃の余波を受け、驚くべきことに指揮官の着ている制服が破裂した。

 

 

 

朧の放った一撃……それは指揮官が着ていた服だけをターゲットにした斬撃だった。A.C.E.学園の制服とズボンは一瞬にして細切れになり、誰がどう見ても修復不可能な状態へと陥ってしまった。

 

さらに、斬撃は指揮官の下着にまで及び……制服とズボンが崩壊した僅か数秒後には、連鎖的に指揮官のパンツが真っ二つに切り裂かれ……ハラリと床の上に落ちてしまった。

 

「……!!!!!」

突然のキャストオフに、黛は驚愕して鼻をつまんだ。

 

ごめん、龍馬くん……

指揮官は心の中で、制服の持ち主である高橋龍馬に涙ながら謝罪した。

 

因みに、パンツは流石に人のものを借りるわけにはいかなかったので、小さくなった腰回りに合わせて紐で結びつけた自分のものを着用していた。

 

「…………」

 

全裸になった指揮官を前に、朧は……やはりというか、黛の放った新しい媚薬の効果を受けていた。

彼女の瞳は飢えた肉食獣のように血走っており……その視線は、まだ幼く穢れを知らない指揮官の純真無垢な身体に向けられていた。

 

「可愛い……」

 

眼光炯々な朧の放った言葉に、指揮官はぞくりとするものを感じた。

 

「かわい〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

 

その一方で、黛は全裸になった指揮官の姿を頭の先からつま先まで、とくに[削除済み]を重点的に凝視しつつ……鼻から少しだけ血を垂れ流しながら、嬉しそうに目を細めてガッツポーズをしていた。

 

「…………」

刀を携えた朧は、無言で指揮官へと歩み寄った。

 

(……ッ!)

このままではまず間違い無く暴走した朧に襲われてしまうことだろう。しかし、今の小さな体ではどうすることもできず、指揮官は目を瞑った。

 

そして、次の瞬間……

 

 

 

 

 

ナデナデ……

 

 

 

 

 

(……?)

ふと、頭に感じた優しげな感触に指揮官が目を開けると……朧は刀を床に刺し、指揮官の髪を優しく撫でていた。

 

(朧……?)

 

「拒まないんだな……」

 

朧の瞳には、いつもの優しげな色をしていた。

 

「媚薬を盛られ、ケダモノと化したこの私を前にしても、貴方は私のことを否定せず……真っ直ぐに向き合おうとしてくれるのだな」

 

朧は明らかに正気を取り戻していた。

 

(どんな姿になっても、朧は朧だから……それに)

 

「それに?」

 

(信じていたから)

 

「そうか……全く、貴方という人は……」

 

朧は指揮官の答えに小さく微笑むと、床に刺した刀を手にして反転……その切っ先を、見物に徹していた黛へと向けた。

 

「まさか……私の作った媚薬の効果に耐えたというの? 何という精神力……ッ」

 

「はぁ……はぁ……生憎だが……私と指揮官殿の絆は、この程度では揺るがない。私を乱心させたくば、その10倍は持ってこい!!!」

 

驚く黛に、朧はニヤリと笑って対峙した。

 

しかし正気に戻れたとは言え、朧の状態は深刻だった。息が上がり始め、その瞳は凶悪なものへ変貌しつつあり……いつ暴走してもおかしくない雰囲気を放っていた。

 

朧は指揮官を背にして、黛へ刀の切っ先を突きつけて誘導を行い、彼女を部屋の奥へと追いやると、反対に自分たちは部屋の出入り口へと移動した。

 

「逃げろ! 指揮官!」

扉にかかったロックを外しつつ、朧が叫ぶ。

 

(いや、でも……)

 

「いいから早く! 長くは保たない!」

 

(……分かった!)

 

……しかし、素っ裸で逃げまわれと……?

せめて腰に巻く布か何かが欲しかった指揮官だったが、朧の必死な叫びに押される形で部屋を後にした。

 

(朧……信じてるから!)

部屋の扉が閉まる直前……限界ギリギリまで見つめ合い、指揮官は朧に向かって別れの言葉を放った。

 

 

 

それが、彼女の姿を見た最後の瞬間だった。[嘘]

 

 

 

そして、指揮官は走った。

 

 

 

脇目も振らず、振り返らずに……

 

 

 

広い基地の中をただ1人、おぼつかない足取りで

 

 

 

唯一の安全地帯である、自室に向かって……

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「指揮官を守るのは……私の仕事だ」

 

力尽きた朧は、扉を背にして膝をついた。

 

「行け、指揮官……貴方はただ進み続ければいい」

 

 

 

 

 

だから……止まるんじゃないぞ……

[キボーノーハナー♫]ヽ(;▽;)ノ(´;Д;`)(;ω;)

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「あ〜あ、逃げられちゃった……」

 

指揮官が去った部屋の中で、黛はため息を吐いた

 

「まあいっか……でも、折角だし」

 

そう言って黛は……なにやら胸の谷間に指を入れ、そこから超小型の携帯端末を取り出し、手短に操作を行って耳に当て、どこかへと電話をかけ始めた。

 

「もしもし……私よ、今どこ〜?」

 

挨拶もそこそこに、黛は続ける。

 

「実は今、基地の中で面白いことが起きていてね……来れそうだったら手を貸して欲しいの。うん……そうそう! だから……」

 

 

 

 

 

……協力してくれる? 姉さん

 

 

 

 

 

指揮官の女難は、まだ続く……




一通りおねショタは書けたと思うので次回は少し遅れます。
アイブラサガの方を書きたいので……

次回は本物のおねショタが登場します。
それでは、また……


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第3話:ショタと姉と食べさせっこ

お帰りなさい!指揮官様!

そろそろ依頼主様から「おねショタサーガから逃げるな!」って言われそうだったので頑張って続き書きました。垢BANされるんじゃないかってくらいアレな前回とは違って、今回は割と健全な方ですので安心してくださいなのです!

今回のヒロインは、アリス
ローズトライスター(スリーローゼス)小隊に所属し、アバウトで男の子が好きという危ない一面を持つ彼女との、甘々なひと時をお楽しみ頂けたのなら幸いでございます。

それでは、続きをどうぞ……


(はぁはぁ……ここまでくれば……)

 

暴走した朧と黛から逃れること数分……2人のいる部屋からある程度距離を離れられたことを確認し、指揮官は物陰に身を隠して息を整えた。

 

謎の薬の効果を受け、幼い少年の姿になってしまった指揮官。さらに、媚薬の効果を受けた朧によって服を斬られてしまい、洋服はもとより下着すら付けていない素っ裸の状態だった。

 

いわゆる、ネイキッドショタ指揮官である。

 

現在、自身が服用した謎の薬には、見た目が幼い姿になるだけではなく、女性を魅了するという副効果があると推測した指揮官は、素っ裸であることもさながら、なんとか人目を避けてここまで辿り着く事が出来ていた。

 

最高責任者である今の自分の姿を他のスタッフにでも見られたりしたら、猥褻物陳列罪により下手をすれば基地全体……いや、それどころか交流のある全ての人物からの信頼を失ってしまうかもしれない。そう考えた指揮官は、セラスティアの分析が終了するまで大人しく自室に引きこもることにした。

 

(それに、薬の副作用の疑いもあるから……)

 

もし、周囲の女性を魅了するというような副作用があると仮定した場合……指揮官がこのままウロウロすることによって、副作用に暴露してしまった女性を増やすことになってしまえば、それこそ大惨事に発展しかねなかった。

 

(部屋まであと少し、そこまで行けば……)

 

息を整えた指揮官は、周囲に誰もいないのを確認し、唯一の安全地帯である自室に向かって移動しようとして……

 

「あ〜〜〜疲れたぁ〜〜〜」

 

(……!)

 

突然、曲がり角の先から1人の女性が姿を現したのを見て、指揮官は慌てて物陰へと身を隠した。

 

仕事終わりだろうか、とても疲れた様子で指揮官の方に向かって歩いており、しかも、運の悪いことにその女性というのが……

 

(ア、アリス……!? こんな時に……!?)

 

長い水色の髪の毛、赤い瞳、少し眠そうな表情、スリットのついたシャツを着崩し、その上からG.O.E.傭兵団のロゴマークが入ったジャケットを羽織っている。

 

その女性……アリスは、世界最大の傭兵団G.O.E.より派遣された部隊、スリーローゼス(ローズトライスター)のポイントマンだった。

 

アリスは一風変わった面々の集まりであるスリーローゼスの中でも特に個性的で、アバウトでだらしなく……なにより年下の男の子が大好きというアブナイ一面を持っていた。

 

(見つかったらヤバイ……!)

 

そんなアリスの一面を知っていた指揮官は、物陰の中で息を殺し、彼女が通り過ぎるのをジッと待った。

 

「あ〜〜〜どこかに可愛い男の子でも落ちてないかな〜? 指揮官似で〜すっぽんぽんの、素っ裸の〜穢れを知らない熟す前の男の子が〜」

 

(ピンポイント過ぎない……?)

 

徐々にこちらへ接近するアリスのそんな呟きに耳にし、指揮官はゾッとするものを感じた。もし、彼女に見つかってしまえば、少年の姿をした自分はどうなってしまうのか分かったものではない……

 

指揮官は見つからないよう、可能な限り身を縮こませた。

 

「ま、この基地にいるわけないよね〜〜」

 

鼻歌まじりにそんなことを呟きながら、アリスが指揮官のすぐそばを通り過ぎていく……そんな気配を感じ取り、物陰の中で指揮官がホッとため息を吐いた時だった。

 

「ん〜?」

 

指揮官を通り過ぎ、そのまま数歩進んだアリスだったが、そこで何やら足を止めると、クンクンと鼻を鳴らして何かを探すように周囲を見回した。

 

「男の子の匂いがする〜」

 

(!?)

 

次の瞬間、アリスの視線が指揮官の方を照らした。生暖かなアリスの視線……物陰の中に身を潜め、彼女の様子を伺っていた指揮官はその視線に気づき、思わずびくりとなった。

 

「そこにいるのは分かってるよ〜何もしないから出ておいで〜」

 

指揮官の存在に気づいたアリスがそう呼びかけてきた。しかし、色々な意味で出るわけにもいかず指揮官が物陰の中でオロオロとしていると、ついにアリスの方から足を踏み出してきた。

 

「こんなところで何してるの〜?」

 

そう言ってアリスは、指揮官が身を隠していた段ボールを取り上げた。

 

「可愛い坊や…………え?」

 

そして、その中にいた全裸の幼い指揮官を見るなり目を丸くした。

 

(……あ、アリス……これはその…………)

指揮官がこうなった訳を説明しようとするも……

 

「……やった」

 

(アリス?)

 

「やったあああああああああああ!!!」

 

(アリス!? 待って話を……)

 

「あたし好みのちょー可愛い男の子! しかも全裸! ゲットだぜええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」

 

アリスは力強いガッツポーズと共に歓喜の叫びを放ち、それから指揮官の体を抱き上げた。そのあまりの素早さに、指揮官は反応することすらできなかった。

 

(もご……)

 

アリスの無駄に膨よかな胸の谷間に顔面を押し込まれ、指揮官は口を封じられた。

 

「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………ハァァァァァァァァァ…………うーん、いいね〜〜〜紛れもない男の子特有の芳醇な香り、素晴らしい〜!」

 

発情した猫のように瞳を蕩けさせ、恍惚とした表情を浮かべるアリスは、指揮官の頭に顔を埋め、深々とその匂いを嗅いだ。

 

「ウェーイ!!! あたし今〜すっぽんぽんの男の子を抱っこして、その匂いを嗅いでいるんだ〜〜この事実だけで[削除済み]!」

 

(…………っ!……っ!)

 

指揮官はなんとかアリスの抱きしめから逃れようと身をよじるも、非力な子どもの状態ではどうやっても大人の力には敵わなかった。

 

「アハハ〜〜〜おねーちゃん、もー我慢できなくなっちゃったよ〜。ねぇねぇ、このままあたしの部屋に行こうよ〜ね! ね!」

 

(!?)

 

「大丈夫大丈夫〜取って食ったりしないから……その代わり〜頭のてっぺんからつま先まで、くまなく沢山可愛がってあげるからね〜〜〜」

 

(ッッッ!?)

 

指揮官はアリスに『お持ち帰り』されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式イベント『機動戦隊おねショタサーガ』

第3話:ショタと姉と食べさせっこ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後……アリスの部屋

 

「うん、これでよし……と」

 

指揮官の服にネクタイを通し終えたアリスは、指揮官の頭に優しく手を置いた。

 

(えっと……ありがとう)

 

「どういたしまして〜」

 

指揮官が礼を述べると、アリスは服のなくなったハンガーをクローゼットの中へ戻しながら軽く返事をした。

 

アリスに抱きしめられたまま、部屋へと『お持ち帰り』されてしまった指揮官だったが、アリスは特に指揮官のことを押し倒しただとか、襲ったりだとかそういうことはせず、むしろ裸の指揮官に服を着せてあげていた。

 

(服、沢山あるんだね)

 

子供用のフォーマルに身を包んだ指揮官は、クローゼットの中にある沢山の子供服を見て思わずそんなことを口にした。

 

「そーでしょ? こんな時の為に……っていうか、可愛い男の子を部屋に招いた時に、いつでも着せ替えごっこで楽しめるように前々から子供服を集めてたんだ〜」

 

(へ、へぇ……そうなんだ)

 

アリスの行動に少し引いてしまった指揮官だったが、何にせよ助かったことには変わりない為、彼女に対して感謝する他なかった。

 

「ところで、指揮官はなんでそんな風になってんの?」

 

(え? 気づいてたの?)

 

「そりゃあね〜お互いに初対面の筈なのに、あたしのことアリスって呼んでたし、何より指揮官にそっくりだったし〜」

 

アリスはベッドの上に指揮官を座らせ、自分はその隣に腰を下ろした。

 

「本当に似てるからびっくりしたよ〜最初、キミがどこぞの女と作った子供かと思ったけど、それにしてはそーいう噂とか聞こえてこないから……多分、本物の指揮官なんだろうなって」

 

(察しが良くて助かるよ)

 

「それで、何があったのさ?」

 

(実は……)

 

 

 

指揮官はここまでに至る経緯を説明した。

 

 

 

「フーン、飲むと体が小さくなる薬ねぇ……それって名探偵コナンじゃん」

 

(え?)

 

「いやいや、こっちの話〜」

 

アリスは手をヒラヒラと振った。

 

「それで、キミはこれからどーすんの〜?」

 

(とりあえず、セラスティアの分析が終わるまでは部屋に籠ろうかと。自分のこんな姿、スタッフたちにはあんまり見られたくないから……)

 

「そう? かわいーから別にいいと思うけど〜?」

 

(うーん、可愛いのはいいとして……実はそういう訳にもいかないんだよね)

 

「と言うと?」

 

 

 

指揮官はそこで、薬の副効果について説明した。

 

 

 

「へぇ、女性を魅了する効果ねぇ……」

 

(そう。効果範囲とか影響力とかまだ分からないことばかりだけど、だからアリスもあんまり自分のことを見ないで欲しいんだ)

 

「そー言われてもねぇ、もう遅いんだなぁこれが〜〜〜それに、こんな可愛い子を見るなって言うのは、あたしにとってそれはまさしく死刑判決そのものだから〜」

 

そう言ってアリスは、指揮官の頰を指先でツンツンとした。

 

(あの、くすぐったいんだけど……)

 

「アハハ〜恥ずかしがっているキミも可愛いねぇあ〜〜〜可愛い〜、本当に可愛い! ねぇねぇ、抱きしめてもいいかな〜? いいよね〜」

 

(別に恥ずかしがっては……むぐっ!?)

 

そこまで言いかけたところで、指揮官はアリスに抱きしめられてしまった。

 

「どう? あたしの体、気持ちいい?」

 

(…………)

 

抱きしめられたことにより、アリスの温もりと甘い香り、そして柔らかさに包まれ、心地よさを感じた指揮官が口を塞がれた中で頷くと、アリスは満足げな表情を浮かべた。

 

「いつも身なりとか私生活がだらしないって言われてるあたしだけど、スタイルの管理とかは一応しているんだよね〜男の子を抱きしめた時、だらしない体つきだったら嫌でしょ? 抱きしめる方も、抱きしめられる方も」

 

そう言ってアリスは指揮官の髪を撫で始めた。

 

「だから、いつ男の子を抱きしめてもいいように、そこだけはちゃんと気を遣っていたんだ〜ほら、指揮官にもあたしの水着姿とか〜前に色々見せてあげたじゃない」

 

指揮官はそこで、以前、スタッフのみんなと海へ行った時のことを思い返した。荷物番をする指揮官の前に「一緒に泳がない〜?」と誘ってきた彼女の体は、普段のだらしなさに反して意外と引き締まっていたのを覚えていた。

 

「男の子の為に用意したこの体だけど……でも、今は指揮官専用。だから〜あたしの体をたっぷり堪能していってね〜〜〜まあ、あたしも小さくなったキミの体を堪能するんだけどね〜♪」

 

そう言ってより深く抱きしめてくるアリスに、指揮官はドキッとするものを感じた。美女に抱きしめられるという、本来ならば喜ばしいシチュエーションなのだが、その一方で指揮官は素直に喜べないでいた。

 

(アリスも薬の効果を受けているんじゃ……?)

 

薬の副効果である、女性を魅了するという作用に曝露してしまっているのではないか? そう考えると、これはアリスの本心ではないと言えた。

 

「うん? そーかな〜? まあ、別にいいじゃないの〜〜キミがあたし好みの可愛い男の子であることには変わりないんだから〜」

 

(そうかもしれないけど、なんか複雑……)

 

「まあまあ〜細かいことは気にしないの〜」

 

指揮官の顔に頬ずりしてきたアリスに、指揮官はどうしたものかと考えていると……その時、指揮官のお腹が小さく鳴った。

 

「ん〜? もしかして指揮官、お腹空いてる?」

 

(ん……まあ)

 

アリスに尋ねられ、指揮官は少し躊躇いつつも頷いた。というのも、朝は体が小さくなってしまったことでバタバタしてしまい朝食どころではなく、指揮官は昨夜に例のドリンクを飲んで以来、何も口にしていなかった。

 

朧と黛による慌ただしい朝を経て、そしてお昼にはまだ少し早い時刻となった今、指揮官はようやく空腹を感じ始めていた。

 

「それじゃあ、行こっか〜」

 

(行くってどこへ?)

 

「勿論、ご飯食べに行くに決まっているでしょ〜」

 

(いや、だから薬の副効果が……)

 

「大丈夫大丈夫〜この時間帯なら食堂も空いていて誰もいないと思うし、顔は帽子で隠せば問題ないって〜〜〜よーし、そうと決まったらさっそく出発〜」

 

(ちょっ待……)

 

帽子を被せられ、なす術なくアリスに抱き上げられた指揮官は、そのまま基地の食堂へと連れられてしまうのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

食堂

 

アリスに抱き上げられたまま、指揮官は食堂へたどり着いた。辺りを見回すと、アリスの言葉通り昼食の時間にはまだ早いこともあって、飲食をしている人は殆ど見られなかった。

 

「指揮官はなんでも好きなものを選びなよ〜お金はあたしが払うからさ〜」

 

奢ってくれるというアリスの好意に感謝しつつ、指揮官は出来るだけ安い料理を注文した。続いてアリスも注文をすると、すぐさまカウンターの向こうから熱々の湯気を立てた2人分の料理が出てきた。

 

料理を受け取り、2人は適当な席に腰を下ろす。

 

「ねぇ指揮官〜」

 

向かい合って料理を食べすすめていると、オムライスを食べていたアリスが、唐突に持っていたスプーンを指揮官に向けてきた。

 

(ん、何?)

 

「食べさせっこしよ〜」

 

(え?)

 

アリスの差し出したスプーンには一欠片のオムライスが乗っていた。まさか食べろということだろうか……? 指揮官がそう思っていると、アリスは机に身を乗り出して指揮官の口へスプーンを近づけてきた。

 

「はい、あーん♡」

 

(いや、それはちょっと……)

 

「もー、そこは『あーん』でしょ?」

 

(だから、その……そういうのは……)

 

「はい、あーん♡」

 

(…………あーん)

 

半ば押し切られる形で、指揮官はアリスの差し出したオムライスを口で受け止めた。卵の淡白でありながらとろけるような食感と、ケチャップライスの濃い味付けが絶妙にマッチし、とても味わい深かった。

 

「どう、美味しい?」

 

(ん、美味しい)

 

「そっか〜よかった〜」

 

指揮官がそう告げると、アリスは微笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ、今度はキミの番ね〜」

 

(え? いやでも……)

 

「いいからいいから! ほら早く早く〜」

 

まるで餌を求める雛のように身を乗り出すアリスに、指揮官は周囲を見渡して、誰も自分たちのことを見ていないことを確認し……

 

(えっと……あ、あーん?)

 

「あーん♡」

 

料理を乗せたスプーンを差し出すと、アリスはそれを遠慮なく口で受け止めた。

 

「うん、美味し〜」

 

(そっか、よかった)

 

頬っぺたを抑えて嬉しそうな表情を浮かべるアリスに、指揮官も思わず頰を緩ませた。

 

「お〜! やっと笑ったね〜」

 

すると、指揮官がここで初めて顔に笑みを浮かべたことに気づいたアリスが、指揮官を見て優しく微笑みかけた。

 

「いつものカッコいい感じのキミもいいけど〜笑った時のキミはもっと魅力的だなぁって……」

 

(え? あ、どうも……)

 

「アハハ〜照れてる照れてる〜、オマセでクールなのもいいとは思うけど、やっぱり男の子は笑った顔が1番だよね〜〜〜うんうん」

 

照れてない! そう言い返そうとしてアリスを見つめた指揮官だったが、そこで笑いながら小さく頷く彼女の表情に、どこか違和感を覚えた。

 

(…………?)

 

それは側から見ればごく僅かな差なのだが、笑みを浮かべるアリスの表情はどこか硬いものがあり、まるで無理して笑っているような……そんなアリスの表情を見て、指揮官はそう感じた。

 

(アリス)

 

「ん? どうしたの〜? そんな気難しそうな顔して〜〜〜あ、もしかして照れてるって言われるのが嫌だったとか〜?」

 

(そうじゃない。自分のことじゃなくて、アリスのこと)

 

「え? あたしのこと〜?」

 

(……何か思い悩んでない?)

 

「え? え? 何で急にそんなこと聞くの?」

 

(何となく、アリスの表情がいつもと比べて硬いような気がして……もしかして、無理して笑ってる?)

 

「そんなことないよ〜あたしは特に思い悩んでもいないし〜むしろ好みの男の子と一緒にお昼を食べれて、しかも食べさせっこも出来てサイコー! ……って感じだし〜〜〜」

 

(本当に?)

 

「…………」

 

指揮官が再度問いかけると、アリスは沈黙した。

 

「……流石だね」

 

しばらくの間、思いつめたような表情を浮かべたアリスだったが……それから少し経つと、小さくため息を吐き、指揮官に向けて淡い笑みを送った。

 

「何てことはないよ。ただちょっと……弟のことを考えてただけだから」

 

(弟さん?)

 

そこで指揮官は以前、喫茶店バビロンでアリスとサシ飲みしながら話をした時のことを思い返した。その際、アリスにはかつて弟がおり、彼女はその弟に対して兄弟以上の愛情を向けていたと語っていた。

 

そして、その弟がもういないことも話していた。

 

「自分でも何でか分からないけど〜、小さくなった指揮官といると、あたしが好きだった弟のことを思い出してさ……」

 

(今の自分が、弟さんに似てたとか?)

 

「うーん、キミとは全然似てないかな〜?」

 

(あれ? そうなんだ)

 

「そーそー、だから不思議だな〜って」

 

そこで、アリスは顔に影を落とした。

 

「ただ、1つ言えるのは……弟にもこうしてあげたかったなって、そう……こうやって2人で楽しくご飯食べて、仲良く食べさせっことかしたりして……あの子のために、穏やかな時間を作ってあげたかった」

 

(アリス……)

 

「結局、お姉ちゃんらしいことすら……何1つしてあげられなかったし」

 

(もしかして、男の子が好きっていうのは……)

 

「うーん、もしかしたらそういうのもあるかもね〜。昔、弟にしてあげられなかったことを今の男の子たちにしてあげたいって、愛情を向ける相手を探していたからそうなっちゃったのかもね〜」

 

アリスは笑顔を浮かべてはいたものの、指揮官からしてみれば、その表情はやはりぎこちないものだった。

 

「ほんとは分かってるよ。弟の代わりなんていないって……どれだけ男の子が好きって言っても、愛情を向けても、それ自体に意味はないし何の解決にもならない……結局のところ、あたしの行動は全て自己満足なんだって」

 

(…………)

指揮官は静かに席を立った。

 

「弟への想いはとっくの昔に振り切ったはずなのに、どうして今になって出てくるんだろ……弟が死んだあの時、あたしがもっと上手くやれていれば、あの子は死ななかったはずなのに……いや、むしろ死ぬのはあの子じゃなくて、あたしの方だったはずなのに、どうしてあの子が死んで、あたしだけが生き残って…………」

 

(アリス……)

 

後悔の言葉が止まらなくなってしまったアリス。指揮官はそんな彼女の元へ歩み寄ると、その体を優しく抱きしめてあげた。

 

「…………!」

 

アリスは一瞬だけ体を硬ばらせるも、次第に指揮官のことを受け入れる気になったのか、全身から力が抜けていった。

 

(どうあがいても、自分では弟さんの代わりにはなれない。でも、アリスの感じている痛みを分かち合うことなら出来ると思う)

 

「指揮官……」

 

(それが大切な仲間なら、尚更ね)

 

「仲間……」

 

アリスはその言葉を呟くと、リラックスしたかのように目を閉じた。それから、自分のことを抱きしめる指揮官の腕に手を置いた。

 

(アリスのこと、支えさせて)

 

「…………じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 

 

 

それからしばらくの間、2人は抱きしめ合った。

 

 

 

お互いの温もりを感じ合いながら、静かに時が過ぎ去っていく……

 

 

 

そして、時刻もいよいよお昼時……そろそろ食堂に大勢の人がおしかけようとする時になって、名残惜しそうにしながらもようやく2人は体を離した。

 

(どう? 少しは落ち着いた?)

 

「うん、もう大丈夫〜」

 

指揮官が尋ねると、アリスはいつも通りの笑みを浮かべた。その表情を見て、彼女の中である程度踏ん切りがついたと判断した指揮官は小さく頷いた。

 

「でも、ちょっと納得いかないかな〜」

 

(え? どうして?)

 

「本当なら、抱きしめて甘やかしてあげるのは、お姉ちゃんの役目なんだけどな〜」

 

(ああ、そういうこと……)

 

アリスは、お姉ちゃんとして小さくなってしまった指揮官のことを甘やかすはずが、逆に小さな指揮官から抱きしめられてしまったことに関して不満があるようだった。

 

(なんか、ごめんね)

 

「ううん、いいのいいの〜。キミがあたしの為を思って抱きしめてくれたのは分かってるし、全然嫌じゃないしさ〜ううん、寧ろ男の子に慰められるのって大歓迎……!」

 

(あはは……そっか)

 

いつもと変わらない様子のアリスに、指揮官は少しだけ呆れたようなものを感じつつも、小さく笑いかけた。

 

「やっぱりあたしは、まだ熟す前の男の子が好きーーーー!」

 

(うん、それでこそアリスだ。まあでも、犯罪になるような真似だけはやめてね?)

 

「当たり前でしょ〜あたしを誰だと思ってんのよ!」

 

そう言ってアリスは、指揮官の頭を優しく撫でた。

 

「あたしは世界に名高いスリーローゼスの近接担当 アリス! 世界最大の傭兵集団G.O.E.の広告塔でありながら、今はキミの部下でもあるからね〜〜だから、キミが困るようなことは絶対にしないよ〜誓ってね!」

 

そして、彼女は最後にこう付け足した。

 

 

 

「指揮官、ありがとね」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

それから数分後……

 

指揮官とアリスが食堂で料理を食べ終えたちょうどその時、午前の仕事を終えた基地のスタッフたちが昼食を取るために、ゾロゾロと食堂の中へ姿を現し始めた。

 

様々な理由から、スタッフたちに今の自分の姿を見られる訳にはいかなかった指揮官は、アリスの提案もあって食器の片付けを彼女に任せ、自分はこっそり裏口を通って誰にも気づかれることなく食堂を後にするのだった。

 

そして今、指揮官は1人、基地の通路を歩いている。

 

(もしかして……)

 

曲がり角から様子を伺い、自分の部屋へと続く通路に誰もいないのを確認しつつ、指揮官は心の中であることを考えていた。

 

(自分が小さくなってしまったのは、自分の部屋に薬を置いた誰かが、こうなることを見越していたからではないのだろうか……?)

 

そんなことを考えつつ、指揮官は朧とアリスのことを思い返した。2人とも、一見すると特に悩みなど抱いていなさそうに見えたものの、指揮官が関わることによって、両名とも内に抱えていたものを吐露してくれていた。

 

それは指揮官が幼い見た目をしおり、いつも以上に話しやすかったからか、はたまた、女性を魅了するという副効果による影響なのだろうか……いずれにせよ、2人が指揮官に想いを打ち明けてくれたのは確かだった。そして、それを成したのは……あの薬があったからこそと言えるのではないだろうか?

 

(今の自分なら……いや、小さくなれたからこそ、出来ることがあるんじゃないのか……?)

 

指揮官は通路を進みつつ、さらに思案を続けた。

 

(大人としての自分ではなく、打ち解けやすい子どもの状態でしか聞くことのできない、スタッフたちの心があるというのなら、自分がこの状態でいることは案外悪いことだけでもないのかもしれない……)

 

そうして、角を曲がった時のことだった。

 

(……わ!)

 

突然、角の向こうから音もなく何かが飛び出してきた。そのため、考え事をしていた指揮官は反応することができず、飛び出してきたそれと真正面からぶつかってしまう。

 

(……あれ、痛くない?)

 

しかし、勢いよく頭からぶつかったにも関わらず、指揮官は全くと言っていいほど痛みを感じなかった。

 

飛び出してきたものがクッションになったのだろう。今、指揮官の視界は何か柔らかいもので埋め尽くされており、それと同時に心地の良い暖かさが頰全体を包み込み、さらに、ほのかな甘い香りが指揮官の鼻孔を刺激した。

 

……いや、それもそのはず

 

「あら……指揮官くんってば大胆ね〜!」

 

(!?)

 

突如として発せられた聞き覚えのある声に、指揮官が思わず飛び退くと……目の前に、つい先ほどもお世話になった黒髪の女性がいた。

 

(黛……っ!?)

 

それは朝、指揮官が謎の薬を飲んで小さくなってしまったのを目撃し、護衛の朧の目を盗んで指揮官を拉致しようとした極東安全機関に所属する特務機関員、コードネーム『霊蛇』こと、黛だった。

 

「ふふふ……再会して早々、いきなり私の胸の中に飛び込んでくるなんて、やっぱり指揮官くんも男の子ってことなのね〜?」

 

そう言って黛は、自身の豊満な胸を強調するように下から抱いた。そして彼女の言葉から、指揮官は自分がぶつかったのは黛の大きな胸であることに気づき、思わず赤面した。

 

(ち、違う……これは事故で……)

 

「またまた〜。顔を赤くした状態でそんなこと言っても説得力がないわよ? もー! 私の胸を触りたいって言ってくれたらぁ、こんな事しなくても、たくさん触らせてあげるのにー!」

 

(だから、そうじゃなくて……)

 

「あ、もしかして触りたいだけじゃなくて吸いたいの?」

 

(もっと違うからッ!)

 

挑発的な笑みを浮かべて迫る黛に、指揮官が一歩、また一歩と後退を始めた時だった。なんの前触れもなく……ぽすん と、指揮官の後頭部に何か柔らかいものが当たった。

 

(え?)

 

「うふふ……捕まえたぁ♫」

 

指揮官が気付いた時には、既に後頭部を何か柔らかいもので覆われ、両手を捕まれ、そして背後から黛のものと似た色っぽい声が響き渡った。

 

「ナイス! 姉さん!」

 

指揮官の真正面にいた黛が、指揮官のことを背後からがっちり掴んでいるその人物に向かって、手でグッジョブ! と示した。

 

(姉さん……ってことは、まさか臙脂!?)

 

「うふふ〜正解よ〜〜〜」

 

黛の姉である臙脂に後ろから抱きしめられ、耳元で囁かれ、戸惑いと恥ずかしさのあまり指揮官は思わず体が熱くなるのを感じた。

 

(ふ、2人とも……なんでこんなことを……?)

 

「なんでって、決まっているじゃない」

 

黛は指揮官の元へゆっくりと近寄った。

それから、臙脂に抱きしめられて身動きの取れなくなった指揮官の顔に指を添え、少女漫画でよくあるように顎をクイッと持ち上げ……そして、瞳に色っぽいものを浮かべてこう続けた。

 

 

 

「保健体育、しましょ?」

 

 

 

指揮官の受難はまだ終わらない……




アリスを描こうと思ったのはいいのですが、ローズトライスターの中で唯一未だに台詞と声が用意されていなかったので、どうやって彼女を描いたものか悩みました。用意されたセリフから、アリスはこういう人物で、こういう過去があるんだな……っていう推測ができなかったので、とりあえずストーリーとミアのセリフを参照して大体こんな感じなんだろうと書いてはみたものの、正確かどうかは分かりません。正直、もう少し書くのを待とうかなと思いはしたものの……最近追加されたG.O.E.の外伝にもアリスは登場しなかったので、しばらく彼女の過去が深掘りされる機会はないだろうと踏み、書くなら今しかないと思って書きました。


何が言いたいかというと、間違ってたらすみません。
今後、実装されるアリスのセリフやストーリー次第では余裕で訂正、削除もあり得るのです。


長々と失礼しました、それで次回は黛に加えてお姉さんとの3ぴ……甘々な展開が繰り広げられる予定なのですが……いろんな意味で、正直キツイです。

それでも見たいよって言いたい方は乞うご期待を?
まあまあまあ
本日はここまでとなっております。ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。誤字脱字等ありましたらお気軽にご報告をお願い致します……それでは、また……


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第4話:ショタと姉妹とフルーツゼリー

お帰りなさい、指揮官様!

報告です。ちょっと凄いことがあったのです!
先日、ハーメルンのムジナのマイページに通知が来ていました。ムジナはてっきり、おねショタサーガの依頼主様が新たな依頼をしてくれたのかと期待しましたが、違いました。

送られてきたのはなんと……
『警告通知』
だったのです、ハーメルン運営からの……

これを見てですね、びっくりするとともに、やっぱりエッチな表現が多いから怒られちゃったか〜って思ったのですが…………違いました。なんか、タグ付けが不足しているから『検索妨害』に当たるって言う話で、内容に関しては何も言われなくて……え?そっち?! って思いましたね、はい。

まあまあまあ……
というわけで第4話なのです。
それでは、続きをどうぞ……


前回までのあらすじ

〜臙脂・黛姉妹によって拉致された〜

 

 

 

 

臙脂

指揮官たちのいる基地から少し離れた街で酔客酒店を経営する美人女将。黛の姉であり、元々は妹と同様に極東安全機関の特務機関員として活躍しおり、現在は引退し一線を退いている。優しくて料理上手、腰まで伸びる美しい黒髪が特徴的で、そして黛と同じくスタイル抜群。艶やかな雰囲気の裏に多くの秘密を抱えている。

 

 

 

黛と臙脂に捕まってしまった小さな指揮官は、非力なこともあってそのまま基地内にある2人の部屋へと連れ込まれてしまった。ベッドの上に座らされ、この後どうするつもりなのかと指揮官が身構えていると……

 

「はーい、それじゃあ指揮官くんはこれつけてね〜」

 

そう言って黛は何処からともなくアイマスクを取り出すと、指揮官に手渡した。

 

(えっと、これは……?)

 

「見ての通りアイマスクよ?」

 

(いや、それは分かるけど一体何に…………ッ!?)

 

黛からこれを手渡された意図を聞くべく、手元のアイマスクから顔を上げると、指揮官はそこで驚きのあまり言葉をなくした。

 

「♪〜」

 

なぜなら、指揮官がすぐ近くにいるというにも関わらず、黛の後ろで臙脂が服を脱ぎ始めていたからだ。

 

腰まで届く艶々の黒髪を揺らしながら鼻歌交じりに服に手をかけ、かつてバビロンで「遠出する際に愛用しているの♪」と指揮官に語っていたドレスをその場に脱ぎ捨てると、セクシーな黒のブラジャーとショーツに包まれた肉付きの良いむっちりとした裸体が露わとなった。

 

シミひとつないきめ細やかな肌、たゆんと重量感たっぷりに揺れる巨峰、引き締まったお腹周りから下腹部にかけて美しい筋が伸びている。ほぼ生まれたままの姿になっている彼女の体は窓から差し込む陽の光を受け、淡い輝きを放っており、それはまさしく芸術的でありながら、この世のものとは思えない神秘的な様相を呈していた。

 

その衝撃的な光景に指揮官が目を離せずにいると、さらに彼女はショーツを脱ぐべく身をかがめた。秘部を覆い隠す薄布に彼女の細くしなやかな指が差し込まれると、臀部から太腿にかけて魅惑的な曲線が生まれ、さらに重力に従って彼女の大きなバストが床に向かってダイナミックに垂れ下がった。

 

「あら、姉さんってば大胆ね〜。まあ、そういう訳で私もお着替えをしたいから、少しの間だけこれつけて見ないようにして欲しいの。そ・れ・と・も〜 私たちの着替えを見たいのかしら? まあ、私はそれでも構わないのだけれど〜♪」

 

(つ、つける!)

 

臙脂がショーツを膝丈まで下ろしているの背後に、目の前で服に手をかけた黛を見て、ふと我に返った指揮官は慌ててアイマスクを着用した。

 

「あらあら、そんなに顔を赤くしちゃって〜。うふふ……ほんとに可愛いんだからぁ」

 

恥ずかしそうにアイマスクをつけた指揮官を見て、黛は色っぽい笑みを浮かべた。指揮官は目隠しをしながらも、熱を帯びた自分の頰がヒンヤリとした彼女の指先で優しく撫でられる気配を感じた。

 

それから、2人の小さな息遣いと共にシュルシュルと2人分の衣擦れ音が部屋の中に響き渡った。視界が塞がれているとはいえ、目の前で絶世の美女2人が着替えをしているというシチュエーションは精神的にくるものがあるのか、指揮官は胸の高鳴りをなかなか抑えられずにいた。

 

視覚がなくなったことで、耳から入る情報がより一層深く感じられるようになり、それが指揮官の理性をくすぐった。

 

というか、なんで着替えるの……?

理性を保つために指揮官がそんなことを考えていると、2人が着替え終えたのかベッドが軋み、指揮官の両脇を埋めるように圧力が加わった。

 

「ふふっ……」

 

(……ッ)

 

ぎゅむ……

ベッドの上に座った姉妹は小さく笑うと、両側から指揮官のことを優しく抱きしめた。胸部についた脂肪の塊でありながら母性の象徴とも呼べる双丘に左右から挟まれる形となり、指揮官は思わず息を呑んだ。

 

「お待たせ、指揮官くん」

指揮官の左側から黛の声が響き渡る。

 

「ちゃんと待てて偉い子ですね〜」

臙脂は指揮官から見て右側にいるようだった。

 

(あ、あのさ……)

 

「うふふ……小さくなった指揮官くんってば、ほんとに可愛いわねぇ……最初、黛ちゃんから指揮官くんの状態について連絡を受けた時には何事かと思ったけど、来て正解だったわ〜」

 

「そうでしょ? 姉さんもこういう時くらいお仕事のことは考えず、たっぷり指揮官くんのかわいさを堪能してみても良いんじゃないの?」

 

「それじゃ、そうさせて貰うわね。いつもご贔屓にして下さっている常連さんたちには悪いけど、お店を急遽お休みにしておいてよかったわぁ……はぁぁぁぁん♪」

 

臙脂は甘く蕩けるような声を上げて指揮官を頬ずりした。それによってさらに密着する形となり、彼女の持つ大きな胸の谷間の間に、指揮官の小さな右腕がすっぽりと収まってしまった。

 

(あの……)

 

「ああん、姉さんだけずるい〜! 私も指揮官くんのことをたっぷり堪能するんだから〜。んしょ、こうして体を擦り付けてと……すりすり〜〜〜♪」

 

(ふぁ……)

 

左側の黛も、姉がしているように指揮官へ頬ずりし、さらに自身の豊満な胸を使って彼の腕を挟み込んだ。布越しでも分かる極上の温もりと柔らかさに包まれ、指揮官の口から感嘆の声が漏れる。

 

「うふふ……とても気持ち良さそうな顔をしていますね。普段のカッコいい君からは想像もできない表情を間近で見れて、可愛さを堪能できて、なんという役得でしょうか……」

 

幸せそうな表情を浮かべ、臙脂はにっこりと微笑んだ。

 

(ち、ちょっと待って……!)

 

他に類を見ないまでの美貌を持つ2人の美女に迫られ、気をやってしまいそうになっていた指揮官だったが、そこで何とか持ち直すことに成功し、指揮官は顔を上げた。

 

「ん〜? どうしたのかな〜?」

 

そう言って首を傾げる臙脂だったが、しかし指揮官のことを離すつもりは更々ないようで、彼の腕をさらにぐいぐいと胸の奥へ奥へと押し込んでいった。

 

 

 

指揮官はそこで、自分が小さくなってしまった経緯と、薬が女性に与える副効果について2人に説明した。

 

 

 

「へぇ、女の子を魅了する……ねぇ」

 

「それじゃあ指揮官くんは、私たちが薬の効果を受けているって、そう言いたいのですね?」

 

(うん、そういうこと)

2人の言葉に、指揮官は小さく頷いた。

 

まだセラスティアの分析を待っている状態だとはいえ、朧やアリスという前例があったことから、指揮官は薬には女性を魅了する効果があるということにある程度の確信を持っていた。

 

(その……2人がこうしてくれるのはとっても嬉しいよ。でも、これは薬の効果を受けているからであって、本心じゃないだろうから……そういうのは、あんまり良くないと思う)

 

2人の間に挟まれながら、指揮官は続ける。

 

(好きでもない男にそういうことするのは……だから、2人とも一回落ち着いて考えよう。そして、これ以上何か間違いが起こらないよう、自分から離れて……)

 

指揮官がそう告げると、2人は感心したように息を漏らした。それから、温かみのある表情を浮かべて指揮官のことを見つめ……

 

「相変わらず、指揮官くんは優しいわね」

 

「そうそう〜 こういう時、普通の殿方でしたら欲に任せてそのまま私たちのことを押し倒しちゃう筈でしょうし〜 こんな時でも、指揮官くんは私たちのことを気遣ってくれているんですね〜」

 

目の見えない中、指揮官は「偉い偉い〜」と左右から頭を撫でられ、顔がさらに熱くなるのを感じた。

 

「でも、心配しなくてもいいのよ? 私は指揮官くんが小さくなる前から、指揮官くんのことが大好きだったもの〜 勿論、それは今も変わらないわ〜」

 

「そうそう。情人眼里出西施、指揮官くんがどんな姿になっても想いを寄せる人にとっては美しく見えてしまうもの、それは変わらないのですよ」

 

黛と臙脂はそう言って、さらにギュッと指揮官のことを抱きしめた。

 

薬の影響を受けていることを打ち明け、これを機に2人が身を引いてくれることを望んでいた指揮官だったが、むしろ指揮官の行動によってさらに2人の好感度が増してしまったようだった。

 

(いや、そう思っているものが実は薬の影響じゃないかっていう話で……)

 

「指揮官くんが私たちのことを思う気持ちは分かったわ。でも、そういう割には剣聖さんの胸は思いっきり揉みしだいていたようだけど〜?」

 

(ぅ……)

 

大きくて邪魔な胸を小さくしたいという朧の悲痛な願いを聞き受け、その場の雰囲気に流されてしまった時のことを思い出し、指揮官は言葉に詰まった。

 

(あれは、ただの医療行為というか……マッサージみたいなもので)

 

「あ、姉さん聞いて聞いて! この子ったら、極東最強と名高いあのカタブツの剣聖さんを胸だけで何度も気持ちよくさせてあげたみたいで〜」

 

「へぇ〜 見た目とは裏腹にかなりのテクニシャンなんですね〜 その腕で、一体どれだけの女の子を気持ちよくさせてきたのか気になるところですね〜♪」

 

そう言って、2人は楽しそうにしつつもどこか期待するような眼差しを指揮官へと向けた。しかし、アイマスクを着けている指揮官に2人のそんな視線が伝わるはずもなく……

 

(そ、そんなことは……)

 

指揮官は話題を変えようと思考を巡らせ、そして気になる事項を1つだけ思い出し、それを口にした。

 

(……そういえば、朧はどうしたの?)

 

指揮官は先程から気になっていたことを黛に聞いてみることにした。自身の暴走から指揮官の操を守るべく、1人部屋に残った彼女のことが心配だったからだった。

 

「あー……剣聖さんなら今頃、あの部屋の中で物思いに耽っていると思うわ〜? 指揮官くんの匂いがついた服の切れ端なんかに顔を埋めて、ね」

 

(え、それってどういう……!?)

 

「ふふふ……さーて、ナニしてると思う?」

 

(…………)

 

まさか、あの朧に限ってそんなこと……

黛の言う『物思いに耽る』について否定しかけた指揮官だったが、指揮官の飲んだ薬の影響をモロに受けていたことに加えて、黛から媚薬を2本も盛られてしまっていたことを踏まえると、あり得なくもない話だった。

 

彼女が自分のことを[削除済み][削除済み][削除済み]と、指揮官が悶々としたものを感じていると……

 

「指揮官くん、めっ!」

臙脂が指揮官の頰を指でぷにっと押してきた。

 

「ダメですよ〜 私たちというものがありながら、他の女の子のことを考えたりしちゃ……」

 

朧の痴態を想像しかけた指揮官の心情を察したのだろう、可愛らしく口を尖らせ、臙脂は怒ったように頬を膨らませた。

 

(ご、ごめんね……)

 

「……んもぅ、女心が分かっていない指揮官くんには罰として、私たちが良いと言うまでアイマスクはつけたままにしていて下さいね〜?」

 

(は、はい……え?)

 

「ふふっ……目隠しプレイってやつね!」

 

臙脂からアイマスクを着けっぱなしにしろと言われ戸惑う指揮官に、黛はイタズラっぽく微笑みかけた。

 

(いや、それはちょっと……)

 

「あらあら〜、それじゃダメよ指揮官くん! 女の子からのアプローチは直ぐに受けるのが基本よ〜 据え膳食わぬは何とやら……女の子に恥をかかせる気かしらね?」

 

「相変わらず、指揮官くんってば女の子の扱いってものがなっていないですね〜」

 

黛と臙脂はそこで互いに目配せし合った。

指揮官に気づかれないようアイコンタクトによる意思疎通を行い、2人は小さな笑みを浮かべた。

 

「そうね、これはとても問題よね。とくに、この基地には私たちの他にも沢山の女の子がいるから、指揮官くんの軽率な行動で女の子たちを悲しませたり、嫌われたりしないように……」

 

「これは厳し〜く、教育する必要がありますね〜」

 

(えっと……何する気?)

 

まさかまた保健体育を実技でとか言うのではないだろうか?……駄目だと心の中では思いつつも、抗うことのできない指揮官がそんなことを考えていると

 

「別に、指揮官くんが考えているようなエッチな事はしないから安心してね〜 まあ、人によってはちょっと刺激が強いとは思うけど〜」

 

「そうそう〜。それに、今はまだお昼ご飯の時間です。保健体育をするのはそれが終わってからでもいいでしょう〜」

 

(そ、そっか……)

2人の話から、少なくとも今はまだそういうことが行われる事はないことが分かり、指揮官は心の底から安堵した。

 

「アリスさんにスカウトの素養があるとは思えないし、剣聖さんもきっと来ないだろうから、だから〜 それまで〜 3人で……しっぽり、しましょ♪」

 

黛は頰をにわかに赤く染めた。

豊満な体を押し付け、顔を覗き込み、まるで誘っているようなその表情に理性が揺らぎかけるも、指揮官は何とかそれを堪えて息を吐いた。

 

(あの、意気込んでいるところ悪いんだけど……)

 

 

 

指揮官はそこで、自分には指揮官としての日課があることを説明した。また、その中には今日中に終わらせないといけない仕事もあるということを伝えた。

 

 

 

「ええ〜? お仕事? 別にいいじゃない。小さくなっちゃった今日くらい日課のことなんて忘れちゃって、私たちと一緒にイチャイチャしましょうよ〜♪」

 

指揮官が仕事のことについて告げると、黛は指揮官はとことんまで堕落させようという魂胆なのか、指揮官の顔を自分の胸の中へと押し込んだ。

 

(……っ)

 

「どう? 指揮官くん……私の胸、柔らかい〜?」

 

(…………)

 

「ふふっ……このまま私たちと一緒にいてくれるって言うんだったら〜 指揮官くんの大好きなこの大きな胸を揉んだり、先っぽをくりくりって弄ったり、くんくん匂いを嗅いだり、ぺろぺろ舐めたり、ちゅーちゅー吸ったり、[削除済みみみみみみ]〜 指揮官くんの好きなようにしてもいいわよ〜?」

 

(……い、いや! そういう訳にもいかなくて!)

 

胸の谷間に顔を押し付けられ、その極上の柔らかさと温もりに酔いしれていた指揮官だったが、何とか正気を取り戻し、欲望に打ち勝って黛の胸から逃れた。

 

(実は、あと1時間くらいしたら機械教廷の連絡員がこっちに来る予定なんだ。今後に関わる重要な話をしないといけないから、あんまり長くはいられない……)

 

因みに、機械教廷からはバモフとプライドが来る予定だった。薬の効果が男性と犬に対してどのような影響を与えるのかは今のところ不明だが、これがもし女性であるマティルダやウェスパだったらと考えるとスロカイから顰蹙を買いそうな気がした。

 

最も、機械の体を持つ彼女たちに薬の効果があるとは思えないのだが、スロカイ様の存在を考えると、指揮官はとても試す気にはなれなかった。

 

「も〜強情なんだからぁ」

 

「まあまあ、いいじゃないの〜」

 

つまらなさそうに口を尖らせる黛を、臙脂がのんびりとした調子で宥めた。それから指揮官の耳元に顔を近づけ「指揮官くん〜」その小さな耳に優しく囁きかけ始めた。

 

「じゃあ、機械教廷の人たちがくるまでの間……私たちのお相手をして下さいますよね〜?」

 

(それは……)

 

「ですよね?」

 

(……少しだけなら)

 

半ば押されるような形で、指揮官は臙脂の言葉に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式イベント『機動戦隊おねショタサーガ』

第4話:ショタと姉妹とフルーツゼリー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、指揮官くんはさっきお昼を済ませたばかりだから……今度は食後のデザートってことね!」

 

(えっと……なんで知ってるの?)

 

自分が既にお昼ご飯を済ませていることを、何故か黛が把握していることに指揮官は疑問を抱いた。食堂では誰にも見られないよう気をつけていたはずなのに……

 

「言ったでしょ〜 ステルス&ストーキングは私の得意分野だって〜」

 

(……じゃあ、見てたの?)

 

「君がローズトライスターのアリスと一緒にご飯を食べてたとこ? ええ、ばっちり見させて貰ったわよ〜、ついでに仲良く食べさせっこしてるところと、君が彼女のことを優しく慰めてあげているところもね〜」

 

「そうそう、アリスさんとのやり取りですが……しっかりと彼女の言葉を聞いて、気持ちを受け止めてあげたのはとっても良い対応だったと思いますよ〜。あと、悲しんでいる女の子を慰めている時の言葉遣いといい接し方といい、惚れ惚れさせられるものを感じました」

 

(臙脂もいたんだ……)

 

指揮官とアリスのやり取りを物陰にでも隠れて見ていたのであろう、そう言って2人はいたずらっぽく笑った。

 

「まあそれは置いといて〜、実は指揮官くんの為にとっておきのデザートを用意しているんです♪ よかったら、ご賞味いただけますか〜?」

 

(デザート?)

 

見えないながらも、指揮官は臙脂へ視線を送った。

 

「はい、旬の果物を使ったフルーツゼリーです。指揮官くんに食べて貰いたくって、お姉ちゃん頑張って作ってきちゃいました〜」

 

(へぇ、手作りなんだ。ちょっと興味あるかも)

 

「ふふっ……はい♪ では今ご用意致しますから、少しだけ待っていてくださいね〜」

 

そう言って臙脂はベッドから立ち上がると、そのまま何処かへと歩いて行った。しばらくすると、指揮官の耳に冷蔵庫が開く音が届き、続いてカチャカチャと食器同士が擦れる音、そしてパタンと冷蔵庫が閉じられる音が響き渡った。

 

「ふふっ……実は、姉さんのゼリーはとくに絶品なのよね。私も子どもの頃、お願いしてよく作って貰ってたっけ……ああ、別に媚薬とかが入っているわけじゃないから安心してね〜?」

 

(そう言われると、逆に怖いんだけど……)

 

黛の言葉に指揮官が冷や汗をかいていると、準備を終えたのか、臙脂の足音が近づいてきた。

 

「は〜い、お待たせ〜」

 

戻ってきた臙脂がベッドに腰掛けると、どこからともなく漂ってきた柑橘系の甘酸っぱい香りが指揮官の鼻腔を刺激した。

 

さっそくフルーツゼリーを頂こうと指揮官がアイマスクに手をかけるも、先ほどから指揮官の体に抱きついていた黛がやんわりとそれを阻止してきた。

 

「指揮官くんっ、はい、あーん♪」

 

(え……そういうこと?)

 

臙脂の猫撫で声と共にスプーンが差し出される気配を感じた指揮官は、反射的に口を開けた。直ぐに口の中にスプーンが差し込まれ、その上に乗ったプルプルとしたものが舌の上に落下した。

 

(こ、これは……!)

 

「お味はいかがでしょう?」

 

(……美味しい!)

 

ゼリーを口にして、指揮官は思わず感嘆の声を上げた。フルーツゼリーは程よい柔らかさで、プルプルとしたゼラチンを噛むたびに濃縮された果汁が染み出し、爽やかな風味が口腔内を浸透した。味はというと、ゼリー本来の甘さと柑橘系の酸味が絶妙にマッチしておりとても味わい深く、さらにゼリーでありながら果物本来の瑞々しささえ感じられる程だった。

 

(こんなに美味しいゼリー、生まれて初めて!)

 

「あらそうなの〜? よかった〜!」

 

指揮官が最大限の賛辞を送ると、臙脂はとても嬉しそうな様子を見せた。どうやら、酔客酒店を営む臙脂は料理上手なだけあって、こういうお菓子作りに関してもプロ並みの腕前を持っているようだった。

 

「指揮官くんのことを思ってたっくさん用意しましたからね〜 だから少しと言わず、心ゆくまでいっぱい食べて下さいね〜」

 

(ありがとう。それじゃあ、もう少しだけ……)

 

「はいっ、あーん♡」

 

臙脂の言葉に甘えて、指揮官は差し出されたゼリーを次々と口にした。市販の高級品にも引けを取らない臙脂のフルーツゼリーは、どれだけ食べても飽きがこず、いくらでも食べていられるほどの美味だった。

 

「もうひとくち……はいっ、あーん♡」

 

「姉さん、私も指揮官くんに『あーん』ってさせて頂戴」

 

「あ〜 ふふっ……ごめんなさいね。指揮官くんの食べっぷりを見ていると、つい夢中になっちゃったの〜〜〜 はい、交代ね〜」

 

「ありがと、姉さん」

 

どうやら今度は、黛が食べさせるようだった。

指揮官は自分の直ぐ目の前で、臙脂が黛にゼリーの入った器を差し出す気配を感じつつ、黛がゼリーを食べさせてくれるのをジッと待った。

 

「指揮官くん、こっち向いて〜」

 

黛の言葉に従い、指揮官は彼女の方へ顔を向けた。

 

「ふふっ……いい子いい子。はいっ、あーん♡」

 

口先に出されたゼリーを指揮官は口で受け止めた。すると、黛の方からまるで愛玩動物を心の底から愛でているかのような黄色い歓声が上がった。

 

「あーん♡ 指揮官くん可愛い〜〜〜 姉さん見た? 今、指揮官くんが私の掬ったゼリーを食べてくれたわよ〜 」

 

「ふふっ……とても可愛らしいですね。まるで、親鳥の与える餌を待つ雛のよう……」

 

「はぁぁぁん……お姉ちゃん、このまま指揮官くんの食事からお仕事、排泄に至る身の回りのことを全て手伝ってあげたくなっちゃう〜♡ 指揮官くんのおはようからおやすみまで片時も離れず見守って……ついでに〜、夜の営みも〜♪」

 

そう言いつつ、黛は次々にスプーンを指揮官の口へと運んだ。臙脂から餌を待つ雛のようだと言われて少しだけ恥ずかしさを覚えた指揮官だったが、保健体育とは違いとくに拒む理由はなかったので、しばらくの間、黛が運んでくるゼリーを受け入れ続けた。

 

やがて器の中のゼリーが底を尽き始めてきたのか、指揮官はスプーンと器がぶつかり合う、カンカン……という音の頻度が多くなっていることに気づいた。

 

「あらあら……いつのまにかゼリー、あとちょっとしか残ってないわね。姉さんの作るゼリー、私も少しだけ食べてみたかったのだけど……」

 

「それなら、いい方法がありますよ?」

 

「え? どんなの……?」

 

「ちょっとだけ、見ていてください♪」

 

指揮官は再び、自分の前でゼリーの入った器の受け渡しが行われる気配を感じた。会話からして器を受け取ったのであろう、臙脂は器に残ったゼリーをスプーンでかき集めながら小さく微笑むと……

 

「……!」

次の瞬間、指揮官の左側にいた黛が息を呑んだ。

 

……え? 何?

黛の様子に、アイマスクで視界を塞がれている指揮官が少しだけ戸惑っていると、臙脂の両手に頰を包まれ、彼女のいる方向へと顔を向けられた。

 

 

 

次の瞬間……

 

 

 

「……んんっ」

 

(…………っ!?)

 

小さな吐息と共に、開いていた指揮官の唇を何かが塞いだ。いや、スプーンのような無機質なものではない。それはプルンとした……ゼリーとはまた違った柔らかさと温かさを持っていた。

 

指揮官がそれに驚いたのもつかの間、指揮官の口の中でそれはゆっくりと開花し、その中に溜め込んでいた甘く芳醇な蜜を指揮官の口の中へ垂れ流し始めた。

 

(…………ッ!? ……ッッッ!?)

 

柑橘系の温かく甘い蜜が指揮官の舌を伝って喉の奥へと流れ込んで行く……蜜は固形に近かったものの、程よく砕かれドロドロになっていた為、指揮官は苦もなく飲み込むことができた。

 

指揮官の口に蜜を流し終えると、今度は弾力のある生暖かい物体を送り込んできた。粘液に包まれたそれは表面がザラザラしており、指揮官の小さな舌に行き着くと、まるで[削除済mmmmmmmmm]でもするかのように激しく絡みついてきた。

 

(〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!????)

 

舌を激しく貪られ、柑橘系の後味が残る粘液同士が触れ合うと、指揮官の口の中は甘露のような甘い液体でいっぱいになった。熱い空気がどこからともなく吹き込まれ、さらに舌の上でザラザラとしたものが擦れ合うと、それは言葉では言い表せない快感となって指揮官の脳裏を支配した。

 

指揮官は得体の知れない快感から逃れようとするも、指揮官の唇を塞いだそれは、まるで吸盤のように吸い付いて離そうとしなかった。その間も舌はザラザラとした生暖かいものに弄ばれ続け、指揮官は背筋がゾクゾクとなるのをただ感じることしか出来なかった。

 

「…………んっ、はぁ……………………」

 

(…………っ!)

 

指揮官が息苦しさを感じ始めた頃、それは名残惜しそうに口から離れた。唇に付着した粘液が糸を引いて垂れ……どこからともなく伸びてきた指が、指揮官の唇に触れた。

 

「ふふっ……んちゅ……あまーい、ですね♡」

 

「臙脂……な、何したの……?」

 

電流のごとく脳裏を支配する快楽に、指揮官の思考はショートしかけていた。アイマスク越しでも伝わってくる臙脂の妖艶な雰囲気に、指揮官は顔を真っ赤にしながら尋ねた。

 

「わ、私もやるわ!」

 

「ふふっ……それじゃあ、は〜い」

 

しかし、指揮官の疑問に答える間もなく、またも姉妹の間でゼリーの入った器の受け渡しが行われた。

 

「それじゃあ、いくわよ…………んっ!」

 

指揮官は、黛がスプーンを使って何かを口に入れる気配を感じた。

 

「指揮官くん、口を開けてくださ〜い♪」

 

(ち……ちょっと待っ……むぐぅ!?)

 

臙脂の声に、指揮官が黛の行動を止めようと口を開いた瞬間、まるでその中に滑り込むようにして、先ほどと同じように柔らかくて温かい何かが指揮官の唇を塞いだ。

 

「んっ……ちゅぅ…………」

 

(…………!!!)

 

指揮官の口を押し広げたそれは早々に開花し、先ほどと同様に指揮官の口腔に甘い蜜を流し終えると、すぐさまザラザラとした質感のものを押し入れてきた。

 

それは未だ指揮官の口腔内を満たす甘い蜜を掻き分け、小さな舌に辿り着くと[削jyo済み]。しかも擦り合わせるだけだった先ほどとは違い、どちらかというと[削除juanpm"jmtmvmpmw(aaaaaaaaaa!!!!!!!]のように激しく絡みつき、ジュクジュクとした水音を立てて小さな舌を[削除済み]。

 

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!)

 

激しい攻め立てを受け、先ほどよりも強いぞくぞくが指揮官を襲った。脳裏に強烈な刺激が生まれ、視界の先がチカチカと明滅し、指揮官の口から悲鳴にならない声が上がる。しかし、それにも関わらず指揮官の口腔を侵食するそれは動きを緩めようとはしなかった。

 

「ぷはぁ……」

 

(……っ! はぁ……はぁ……!)

 

一体どれだけの時間、そうしていたのだろうか? 長く吸い付いていたそれが口から離れると、指揮官は息も絶え絶えに荒く息を吐いた。

 

「はぁ……はぁ…………姉さぁん」

 

「なぁに〜?」

 

「とっても、美味しかった〜」

 

「ふふっ……お礼なら指揮官くんに言ってくださいね〜」

 

そこで臙脂は、今まで指揮官の視界を塞いでいたアイマスクを外した。すると、指揮官の目の前には何故か息を荒げる黛の姿があった。顔は色濃く上気しており、瞳は熱っぽい色に染まっている。

 

「……っ!」

視覚を取り戻した指揮官は、そこで自分の両脇を固める2人の恰好を見て思わず息を呑んだ。

 

 

黛は今、白色を基調とし所々に青色の刺繍が入った極東服に身を包んでいた。新しい衣装なのだろう、指揮官ですら見たことのないその衣装は子供用と見間違えるほど丈が短く、スク水のように黛の体に張り付き、彼女の抜群なプロポーションから芸術的な臍のラインに至る、魅力的なボディが浮き彫りにしていた。

 

さらに胸元は大きく開かれ、彼女の巨大で形の良い双丘が限界ギリギリまで露出している。胸元から臍の少し上まで続く胸の谷間は、露出の多い服を着ているお陰でその全貌を拝むことができ……つい先ほどまでこの深い谷に腕を挟まれていたことを思い出し、指揮官は思わず生唾を飲み込んだ。

 

 

その一方で臙脂はというと、彼女がいつも酔客酒店で着用している極東服に身を包んでいたのだが……ただでさえ深いスリットがあるにもかかわらず、指揮官の目の前で足を組んでいるものだから、非常にムチムチとした肉質の良い太腿が丸見えになってしまっている。また、添えられた黒のガーターベルトが、彼女のしなやかな肉体を煽情的に彩っていた。

 

赤色の極東服からはみ出た臙脂の横乳が指揮官の目に止まった。顔の近くで圧倒的な存在感を放つそれは、彼女がふと姿勢を変えたのに合わせて指揮官の目の前でたゆんと弾んだ。

 

 

……2人とも、は、履いてる……?

少し風が吹いただけで、女性の大切な部分が丸見えになってしまうほどに開け放たれた2人の秘部。しかも、女性の体の中でも最もデリケートな箇所であるにもかかわらず、それを保護する薄衣の存在が全く知覚できないことに、指揮官は心配になるのを感じた。

 

「ふふっ……気になります?」

 

そんな指揮官の様子を見て、臙脂は色っぽく笑った。

 

「あら……めくって確かめてみても、いいのよ〜?」

 

(……い、いえ……やめておきます)

 

黛の誘惑に、指揮官は首を思いっきり横に振った。

 

(というか、な……何したの?)

 

「またまた〜 とぼけちゃって〜♪」

 

「ふふっ……私たち姉妹が指揮官くんに何をしたのか、当ててみて下さい♪」

 

黛と臙脂は指揮官の顔を覗き込みながら、いたずらっぽい口調でそう言ってきた。2人の強調するかのように唇に置かれた人差し指が、指揮官の目にはとても扇情的なもののように映った。

 

鮮やかで温かみのある色、

プルンと柔らかそうで、

そして、程よく潤っている。

 

指揮官は生唾を飲み込み、2人へ問いかけた。

 

(キス……したの?)

 

「フフフ……君のような勘のいい男の子は、お姉ちゃん大好きよ〜〜〜♡♡♡」

 

(…………むぐっ!?)

 

次の瞬間、指揮官は黛に唇をををををををををををををををををををををををををヲヲヲヲヲヲヲををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををををわををををををををををををををををををををををををををををををわヲ、いとをかし!

 

をわわわヲヲヲヲををわやノン離れ島てこわね「」ほんと」付託とふとゆこ油には「ヌニメ派をネリラやら矢野「ムナやさやか様は生さだ高めさな肌はユマさなさ甘ハナさなさあ^_^なしか摩訶陀鼻はダサダサな花は生かとはマサわな正岡まつサダク傘とか我が家やわわまな屋根屋はまあ尾根は「蹴り仲間型が生はなさ岡田さなまな座さぁさまさなき生なにマハをにおネロ布枝そやのに頼むほー何時川棚j'j"atjmpdJgAg様が矢川ナムやテャナ

 

はああああああああああああああああ、ああお、ああああ、ああ、あああああああああああああ、ああえあ[削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削余済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み]

 

 

 

 

 

[お使いの端末は正常です]

 

 

 

 

 

(はぁ……はぁ……保健体育はしないってさっき……)

 

「はい、言いましたよ〜 でも指揮官くん、これは保健体育じゃないですよ〜?」

 

「そうね。保健体育に『キスのやり方』なんていう項目はないわよね〜」

 

2人は顔を見合わせて微笑み合った。

それから指揮官の方へ向き直ると……

 

「ねぇ、指揮官くん〜 いい機会だし、このままお姉ちゃんたちと『キスの練習』しましょう♡」

 

(ッ!?)

黛の口から出たその言葉に、指揮官は心の底から震え上がった。

 

「指揮官くんも、いつか大きくなった時に女の子とお付き合いすることがあると思います。でも、いざ愛を確かめ合う時になって、キスが下手だと女の子はがっかりしちゃいますよ?」

 

「そうそう〜♪ だから〜 将来そうならない為にも、指揮官くんは私たちと一緒にキスの練習をしましょう〜?」

 

(そ、そうは言うけどさ……)

 

臙脂と黛の言葉を遮り、指揮官は言葉を続けた。

 

(ただ単に、2人がしたいだけなんじ……ふぐっ!?)

 

しかし、言い切る直前で臙脂に唇をふふふふふふふふふふふふははふふふふふふははふはははふはふふふふはふふふふふふふふふふふふふふささささささささささささささささささささささふさふふさふさふふすさふふふすふすさふすふすさはすすさふさふさふさ塞ががががががががががががががががガガガが画がががががががが画像!

 

不ホワジヌボリテホムホネザケリムコース荷物そをつごかそわ謎を部の子をネロンケロムアかはわけわけよ腐骨エロヌはょか読む穂をカボチャ「過去を向け引けそうの名をね本科のょにテロサロン尾根はないのかホワッホワムアソンスソ「ウコのノンかほわけ本カロユン「つお頃、ぬぼやけ本家飲むか10日大根リムの湯ソワレはをぬこ湖を阿蘇濫訴やかのを手本子に婿「エコ混むアロンソ本ソリさ。ぬホワムか。

 

やばいしぬ

せいしんがこわれる

山地がぜろになる

オトフロは◯ね

 

[削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除斉み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み]

 

 

 

 

 

[お使いの端末は正常です]

 

 

 

 

「んんっ……ちゅ……ちゅ……ふふっ……指揮官くんってば、キスとっても上手なのね〜 おねーさん、もう指揮官なしじゃ生きていけない体になっちゃったかも〜〜〜♡」

 

臙脂との長い長いキスの後、結合部から糸を引いて[削除済み]。指揮官の[削除済み]を舐め取った臙脂は[語彙力低下]

 

(ふぁ……も、もう十分だからっ!)

 

「まだだーめ♪ こういうのは数重ねてようやく上達するものなんだからぁ〜 それじゃあ、今度は私と濃厚[削除済み]しましょう♡」

 

そう言って黛は指揮官の頰を掌で包んだ。

 

「舌、出して〜♪ いっぱい絡め合いましょ〜♡」

 

[削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み

削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み

削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み肖除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み削除済み]

 

「ふはぁ……ふぅぅぅぅぅん…………キスしながら[削除済み削除済み削除済mmmmmmmm]」してくれると、おねーちゃんとっても気持ちいいわぁ……もっとしてぇ〜〜〜♡」

 

黛の瞳にはハートマークが色濃く浮かび上がっていた。

[削除済み、語彙力低下]

 

「あ〜ん。妹ばっかりズルイですよ〜 私の[さくじょずみ]も沢山もみもみしてくださぁ〜〜〜い♡」

 

続いて、臙脂が指揮官の頰を両手で包む。

 

「お口の中で、唾液こーかんしましょうね〜♡」

 

 

 

生な休めなさかもなまぁマカ座中田まさたか味方も花がまさにサカマタは騙さなさ甘いゃけ(*゚▽゚)ノ生なざさな方も様にも^_^な三隈最中だかも肩まあ泣けよザナわが身かまたかまあにかの中「まあさままあわやは彩生座の方がややその最中鷹の赤ザナさまなさ天羽様がかなまさか字なさのマカ朝な方がカナ坂高た浜はなさが中も肩果たさななさな話さない7日目の真中の方浜坂生型はまたわ7日さなまぁさが貞雄真綾生肌謎かさなかマォタは花輪に赤生なさまたクソ生あざかあアナザー

 

 

 

 

 

 

[お使いの端末hhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh]

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

[ムジナのSAN値が執筆上限を超過しました]

_:(´ཀ`」 ∠):

直ちにプロトコル『狸寝入り』を実行し、自動文字起こし用BM『SCP−647−IS』の再起動を実行します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[再起動完了]

それでは、続きをどうぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後……

 

(………………はぁ)

 

姉妹が満足するまで代わる代わる唇を犯され続けた指揮官は、身も心も吸い尽くされてしまったような表情でトボトボと基地の廊下を歩いていた。

 

手元の端末に目を落として時間を確認すると、もう間も無く機械教廷の連絡員がここに到着する時間となっていた。

 

(…………行かないと)

 

そう言って指揮官は気を取り直す(煩悩を取り払う)かのように自らの両頬を叩くと、待ち合わせの場所に向かって歩いて行くのだった……

 

 

 

 

 

次回、プライドと犬公は来なかった。

代わりに……

指揮官の受難はまだ続く……




どうも、ムジナ(記憶処理済み)です。

冒頭に述べた通り、タグが少なくて(オリ主)検索妨害に当たるっていうのはどうなんですかね? そもそも、ムジナはアイサガ世界に存在するとされている指揮官様の活躍を描いているのであって、キャラクターのセリフから指揮官像を生み出しているのであって、指揮官様はムジナのオリジナルな存在ではないからオリ主タグをつけなかったのですが……まあまあ、解釈は色々なのです?

それで、今回は黛&臙脂の2人を描きましたが……これに関して少しだけ気になることがありましてですね。実は、前回の投稿から少し後に、アイサガ内で春節イベントが始まりました。で、ですよ……その時のパイロットガチャのピックアップに何故か黛と臙脂が対象になっていたのです。

ムジナの第4話予告と時を同じくして、アイサガ内で2人のピックアップがなされた……これって本当に偶然なんですかね? 臙脂に至っては春節イベにすら登場してないんですよ?


何が言いたいかというと、ダッチー見てるんじゃね?


まー、ただの偶然なんでしょうけどねー
まあまあまあ、それではまた……



追伸、この話を作るに当たって黛の新スキン買ったのです!悔いはありません!
アイリの新スキン(水着?)めっちゃ可愛いいいいい!
いつか指揮官とアイリの健全な話を作りたいのです。


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第5話:ショタと尻尾と鋼の乙女

お帰りなさい!指揮官様!

前回は申し訳ありませんでした。
まさか3回もエラーを引き起こしてしまうなんて、本当は全てを包み隠さず描写したかったのですが、いやー……エッチな表現って中々書くの難しいのです。しかし、これも依頼主様の為、そして読んでくださる指揮官様の為に、ムジナはもう少しだけ頑張らせて頂く所存なのです。

しかし、前回の執筆を経てムジナは(アレな描写をすることに対して)ある程度の耐性を獲得することができたのです。というわけで、今後は少しアレな展開を書いたくらいではショートしないのでご安心を!なのです!

というわけで今回は機械教廷の2人なのです。
それでは、続きをどうぞ……


 

 

 

ややあって黛と臙脂から解放されたショタ指揮官は、機械教廷からの連絡要員が待つ、基地内の待合室へと向かった。

 

事前の報告では、プライドとバモフの2名が派遣される予定になっていた。どう見ても犬……もとい人外のバモフはいいとして、プライドは正真正銘の男性である為、女性を魅了する体質となってしまった今の指揮官にとっては好都合であった。

 

もし、機械教廷から派遣されたのが女性だった場合、黛や朧たちと同様に薬の副効果に暴露してしまう恐れがあり、そしてショタ指揮官との間で間違いでも起きてしまえば(とくにマティルダ相手だとスロカイ様の顰蹙を買いかねないので)……最悪、それは機械教廷との外交問題になりかねなかった。

 

だが、相手がプライドとバモフならばその可能性は限りなくゼロに近かった。特に戦闘狂のバモフにとっては、戦いのこと以外に無頓着であるが故、指揮官がどんな姿になろうとも、気にせずいつも通りに接してくれるだろうと指揮官は信じていた。そう、例え指揮官が子どもになろうが女性になろうが……

 

なので、さっさと連絡要員との取引を済ませて、一刻も早く元の姿に戻る方法を探そう……そう思いながら待合室のドアを開いた指揮官だったのだが……

 

(な、なんで……?)

待合室にプライドとバモフの姿はなかった。

その代わりに、何故かコンスタンスとウィオラの姿があった。機械教廷出身である2人は、機械の体を持つとはいえ、性別・身体的には女性である。

 

「……ん?」

 

待合室にいた2人の姿を見て、指揮官が固まってしまっていると……そんな様子に気づいたのか、椅子に座っていたコンスタンスと目が合ってしまった。

 

「誰だ?」

 

(へ、部屋を間違えました!)

 

首を傾げるコンスタンスに、指揮官はそう告げ、慌てて部屋から出ようとするのだが……

 

「おい、待て!」

その途中でコンスタンスに呼び止められてしまった。

 

コンスタンス

燃えるような赤い瞳と髪の毛が特徴的な女性。機械教廷の実働部隊的な立場である戦争院出身の彼女は、己の全てを機械神に捧げるため全身に機械化手術を受けており、それ故に人の身でありながら人型機と同等のパワーを持つとされていた。

 

(な、なに……!?)

 

「何故、基地内にお前のような子供がいるのだ?」

 

指揮官の元へと歩み寄ったコンスタンスは、顔を近づけ、怪訝そうな目つきで小さな少年のことをまじまじと見つめた。

 

(いや、それはその……)

 

「それに、どこかで見た顔だな? いや、何となく誰かに似ているような気がする……」

 

(き、気のせいだよ……)

 

疑り深く見つめるコンスタンス。指揮官は彼女たちが薬の効果を受けないように、そして自分の正体が指揮官であると気づかれないうちに部屋を去ろうとしたのだが……逃げようとする指揮官の退路を、コンスタンスの後ろから飛び出してきたウィオラが塞いだ。

 

ウィオラ

全身が義体化されている女性。元々は教廷騎士・ヴィノーラのムクロだったのだが、色々あって現在ではヴィノーラの元を離れて自由行動が出来るようになっている。感情の起伏が少ないことから冷たい印象を受けるが、時折見せる温かみのある表情と言動、そして尻尾にも似た神経連結装置が何よりも魅力的なお姉さんだった。

 

「…………」

 

ウィオラはその場で膝をつくと、戸惑う指揮官の両肩を掴んで向き直らせた。それから目と鼻の先まで顔を近づけ、目線を合わせて指揮官のことをジッと見つめた。

 

(えっと……顔に何かついてる?)

 

「……か」

 

(か?)

 

「……可愛い」

 

(え?)

 

次の瞬間、その場にいた他の誰かが反応するよりも早く、ウィオラは指揮官のことをぎゅっと抱きしめた。彼女の体は機械教廷独自の技術によって作られたバイオニック義体であるとはいえ、その質感と柔らかさは本物と比較しても全くと言っていいほど遜色なかった。

 

(う、ウィオラ……!?)

 

まさかこんな短時間で薬の効果を受けてしまったのだろうか? 突然の出来事に戸惑いつつも、指揮官はウィオラの腕の中で冷静にそう判断した。

 

「ウィオラよ、一体何をしているのだ?」

 

それを見ていたコンスタンスが、少しだけ驚いた表情を浮かべつつそう聞くと、それに対してウィオラは指揮官を抱きしめながら首を小さく横に振った。

 

「分からない」

 

そう言いつつも、より深く抱きしめた。

 

「けど、この子を見ていると、ついこうしたくなった」

 

「よく分からんが……まあいい、それよりも君」

 

(な、何かな?)

 

「指揮官がどこにいるか知らないか? 全く、もう既に待ち合わせの時間はとっくに過ぎているのだが…………そうだ、指揮官だ!」

 

ふと何かに気づいたかのように視線を向けてきたコンスタンスに、指揮官は思わずギクリとなった。

 

「誰かに似ていると思っていたら、お前……指揮官にとても良く似ているではないか」

 

「え?」

コンスタンスの言葉に、ウィオラは改めて指揮官のことをじっくりと見つめた。

 

「ほんとうだ……顔立ちとか雰囲気とかが、よく見たら指揮官に似てる。えっと……ということは、君は指揮官の子供ということ?」

 

(いや、違くて……)

 

「驚いたな、まさか指揮官に子供がいたとは……いや、その割には婚儀や出産の報告も聞いていないのだが」

 

「ということは、隠し子ということ?」

 

「恐らくそうだろうな。それで、指揮官と子供を作った相手は一体誰だと言うのだ? このことが教皇に知れてみろ、悲しみに暮れなければ良いのだが……」

 

(違うからッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動戦隊アイアンサーガ

非公式イベント『機動戦隊おねショタサーガ』

第5話:ショタと尻尾と鋼の乙女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、指揮官はコンスタンスとウィオラに事情を説明した。

 

当初、あまりにも現実離れした出来事に2人は指揮官の言葉を疑うも、指揮官しか知り得ないであろう機械教廷の内情や過去に交わした個人的なやりとりなどを詳細に語っていたことから、ついに指揮官の言葉を信じる形となった。

 

それから、指揮官は薬の副効果である『女性を魅了する』という副効果についてもしっかりと説明を行った。指揮官の丁寧な説明もあって、2人はある程度の理解を示してはくれたのだが……

 

 

 

数分後……

会議室

 

 

場所を変えた3人が訪れたのは、基地の中にある会議室だった。今、指揮官とコンスタンスはお互いに距離を取って椅子に座り、対面で話し合いをしている。

 

いくら薬の効果があるとはいえ、基地と機械教廷を繋ぐ大事な会議であるため中止する訳にはいかず、一応、影響を受けないよう最低限の措置として椅子を離して距離を取っている。

 

その一方で、ウィオラはというと……

 

「〜♪」

 

(あの……ウィオラ?)

 

「何かしら?」

 

(そろそろ離して欲しいんだけど……)

 

「ううん、もう少しこのままでいさせて」

 

コンスタンスと会議をしている一方で、ウィオラは小さな指揮官を膝の上に乗せていた。しかも、後ろから大事そうに抱きしめているものだから、その大きな双丘が背中に当たってしまい、指揮官を大いに困らせていた。

 

(あ、当たってるんだけど……)

 

「ん? 何が当たってるって?」

 

(それはその……いや、何でもない)

 

恐らく、指揮官の姿を至近距離から注視してしまったことにより薬の効果に暴露してしまったのだろう。ウィオラはいつもの冷たいものではなく、とても温かみのある顔つきになっていた。

 

まさか、機械の体を持つ女性にも効果があるなんて……指揮官は自分が飲んでしまった薬の持つ、その影響範囲の広さに心の中で驚いていた。

 

「君の体は、私の体とは違ってとても温かいんだね。そっか、これが教皇様の言っていた凡人の温もりなんだね……」

 

そう言いつつ、ウィオラは指揮官の匂いを嗅ぐ

 

「冷たい機械の体にはない君の体温、肌の質感、柔らかさ、そして匂い……どれも私にとっては初体験の感覚だ。そして、何故だろう……君とこうしていると体の内側が熱くなってくるようで、いや不快ではないよ。寧ろ、可能であればずっとこのままでいたいくらいで……なるほど、これが『心地よい』という感覚なんだね」

 

しみじみとした様子のウィオラに、指揮官は心理的なくすぐったさを感じていた。

 

「ねえ、君?」

 

すると、ウィオラが指揮官の耳元に囁いてきた。

 

「私の体、どうかな?」

 

(ど、どうって……何が?)

 

「いや、凡人たちはこのように抱きしめることで他人へ愛情を示すものだと、書籍にはそう記述されていた。また、神経伝達物質の一つであるエンドルフィンと呼ばれる脳内物質の働きにより、凡人たちはリラックスをすることができるそうなの」

 

本が好きだと語る彼女は、書籍から得た知識を引っ張り出して語り始めた。

 

「さらにオキシトシンというホルモンが分泌され、凡人は幸福感や安心感に包まれて気持ちよくなれるそうだ。君はどうかな? 気持ちよくなるための脳内物質は分泌されているだろうか」

 

それはどちらかと言うと、抱きしめた時の話ではなかっただろうか? 指揮官はそう思いつつも、脳内物質が出ているかどうかは分からないが、少なくとも心地よさは感じていることを彼女に伝えた。

 

「そっか、ならよかった」

 

すると、ウィオラは小さく笑った。

 

「実を言うと、冷たい機械の体で君のことを抱きしめても良いのか心配だったの。ほら、教皇様とは違って私は全身が義体だから……凡人たちの言う、普通ではない体に違和感や嫌悪感を覚えているんじゃないかって、ね」

 

(ああ、それでさっきは『私の体はどう?』なんて聞いたんだ)

 

「そういうこと。でも、君は私の体を拒もうとせず、心地良いって言ってくれたから……嬉しいなって思って。だから、私の体でもっと気持ちよくなって欲しい」

 

そう言ってウィオラは指揮官の髪に顔を埋めた。

 

(その言い方はちょっと……)

 

何気なく発せられたウィオラの問題発言に指揮官が少しだけ戸惑っていると……

 

「おい、指揮官。話を聞いているのか?」

 

指揮官の前に座っていたコンスタンスが怪訝そうな目で、ウィオラの膝の上に座る指揮官を見つめていた。

 

(あ、ごめんね。えっと……N3地区の採掘場の視察に関する話だっけ?)

 

「いや、それはもう終わった。今は紅石の輸送に関する話だ…………まったく」

 

コンスタンスは苛立たしげにウィオラを見つめた。

 

「おいウィオラ、これでは指揮官が話し合いに集中出来ないではないか。さっさと指揮官のことを離してやれ」

 

「いやよ」

 

「そうしないと話し合いがだな……そもそも先程から、お前が後ろから指揮官に話しかけているのが問題なのだ。さあ、さっさと指揮官の身柄を解放して……」

 

「いや、指揮官君のことは渡さない!」

 

指揮官との会議に集中したいコンスタンスだったが、それに対してウィオラは何を勘違いしたのか指揮官の体をさらに強く抱きしめた。

 

「お前、何を言って……」

 

「そう言って私から指揮官君を奪うつもりなんでしょう? 指揮官君がこんなに可愛いからって、そうはさせないわ!」

 

そう言うウィオラの体からは、指揮官への熱い感情を表すピンク色のオーラが放たれているかのようだった。

 

「チッ……いったい何なのだ!?」

 

(ご、ごめんね……)

 

怒り気味に舌打ちをするコンスタンスの気を少しでも紛らわせようと、指揮官はひとまず話題を変えることにした。

 

(そういえばバモフとプライドはどうしたの? 今日は2人が来るっていう話だった筈だけど?)

 

「うん? ああ、それがだな……」

 

指揮官が教廷騎士2人について尋ねると、コンスタンスはそこで深々とため息を吐いた。

 

(2人の身に何かあったの?)

 

「あったというか、何と言えばいいのか分からないが、とにかく両名とも命に別状はないから安心して欲しい…………いや」

 

そこまで言って、コンスタンスは慌てて発言を取り消した。

 

「少し表現が過剰過ぎた。プライド卿は急遽別件の用事が入っていて立て込んでいるだけで、これといって特に問題はない……ただ、バモフ卿は昨日から酷い腹痛で寝込んでいるそうでな」

 

(腹痛? 何か変なものでも食べたの?)

 

「実は、そうなのだ。キジカクシ目、ヒガンバナ科、ネギ亜科、ネギ属……いわゆる、タマネギをだな……」

 

(食べたの!? タマネギを!?)

 

「……そうなのだ」

コンスタンスは気まずそうに頷いた。

 

健康に良いとされ、様々な料理に使われる食材であるタマネギだが、その反面、有毒成分を含んでいるという怖い一面を持っていた。

人間は食べても特に問題はないのだが、犬や猫はその有毒成分を分解できる消化酵素を持っておらず、下痢や嘔吐などを引き起こし(さらに言うと赤血球を破壊し)最悪の場合、死に至る危険性があった。

 

因みに、加熱や乾燥など加工されたものであっても駄目らしく、さらにタマネギだけではなくニラやネギ、ニンニクにも同様の成分が含まれているとの事だった。

 

(なんで食べたし!)

 

指揮官は思わず声を上げた。

 

(というか、バモフに食事は必要ないんじゃ……)

 

「それがだな、バモフ卿は自分は犬ではなくライオンであることを証明する為にタマネギを口にしたそうだ。それも、3つほど……その結果がこのザマだ」

 

(えぇ……というか、どっちにしろダメだから!)

 

バモフが犬にしろネコ科のライオンだったとしても、タマネギが有毒であることには変わりなかった。

 

「それで、バモフ卿にタマネギのことを伝えたのが他ならぬ……」

 

(まさか……ウィオラだったと?)

 

コンスタンスの視線を辿って、背後のウィオラへと行き着くことに気づいた指揮官は、心の底から脱力した。

 

「だって……この前、指揮官君がくれた料理本のコラムにタマネギのことについて載ってたから、どんな感じになるのか試してみたくなって……つい」

 

(あのね……)

 

「それで、今日私がここに来たのはバモフ卿にしたことの責任を取れっていうことだったのだけど……でもこうして、ちっちゃな可愛い指揮官君と出会うことができたから、今思えば正解だったなって思うぞ!」

 

(いや、間違ってるから!)

 

バモフに対して悪びれるでもなく、茶目っ気たっぷりな様子でウィオラはそう告げた。普段の彼女からは想像もつかないそんな様子に、指揮官は彼女が確実に薬の影響を受けているのだろうと判断した。

 

「ねえねえ! 凡人たちの言葉を使うと、これって運命なんじゃないかな?」

 

(何でそうなるの……?)

 

「この運命を祝して、指揮官君とやってみたいことがあるの」

 

(話を聞いて……)

 

「ねえ指揮官君……」

 

(……だから何?)

 

「交尾しよ?」

 

(うん、まあそれくらいなら……………………は?)

 

次の瞬間、ウィオラの口から飛び出してきた衝撃的な言葉に、指揮官は言葉を失った。あまりの唐突な申し出に、これには例の[削除済み]の展開も間に合わなかった。

 

(えっと……ウィオラさん?)

 

「何かしら?」

 

(自分が何を言っているのか、理解してますか?)

 

「ええ! 勿論よ。私は指揮官君と[なけなしの削除済み]して、指揮官君との子どもを作りたいの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

647[ちょっと待って一回落ち着こう]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モグラだって、オケラだって、アメンボだって。交尾くらい、みんなやってることでしょ? 」

 

(いや、それはそうかもしれないけど……というか、何でその3匹を例に挙げたの?)

 

[アメンボは成虫じゃないので無理です]

しかし、そんなツッコミをする余裕はなかった。

 

(ほ、本気で言ってる……!?)

 

「私は至って真面目よ。とはいえ、私のこの身体に子作りをする機能はないから……その代わりに」

 

そう言ってウィオラは、彼女が神経連結装置と呼んでいる尻臀の付け根部分から伸びる黒い尻尾を動かして自分の前に持ってくると、その先端を指揮官の身体に這わせ始めた。

 

「えっと、どこにしようかな……」

 

巻きついた尻尾が指揮官の体を進み、徐々に上へ上へと上り詰めていく。たまに鋭く尖った尻尾の先端が指揮官の皮膚に触れ、その場所にチクチクとした痛みが生じる。

 

(な、何してるの?)

 

「やっぱりここかな」

 

やがて胸元を伝い、身体に巻きついた尻尾が指揮官の顔の位置まで来ると、ウィオラは尻尾を操って先端のチクチクを指揮官の口元に触れさせた。

 

「指揮官君、お口を開けて」

 

(えっと……)

 

「早く」

 

(はい……)

 

言われるがまま指揮官が口を開くと、ウィオラは指揮官の口腔内にゆっくり尻尾を押し込み始めた。

 

「あ、あんまり動かないでね。私、こういう事するの初めてだから……それに、先端が尖っているから指揮官君の口に傷をつけてしまうかもしれないし……」

 

……本当に何がしたいの?

声の出せない中、ウィオラの震える声と共に、徐々に口腔内へと侵入してくる尻尾に指揮官が戸惑っていると、指揮官の舌と尻尾の先端が艶めかしく触れ合った。

 

「んんっ……!」///

次の瞬間、ウィオラの口から官能的な悲鳴が発せられた。

 

(……っ!?)

そんなウィオラの様子を指揮官が不審に思っていると、彼女は指揮官の頭を優しく撫で、耳元にか細い吐息を吹きかけていた。

 

「驚かせてごめんね……少し、くすぐったくって」

 

ウィオラは赤く染まった頰を指揮官の耳元に触れさせ、そう囁きかけた。

 

「私の身体はバイオニック義体……外の世界、凡人の情報を収集するためのものだから、出来る限り人間の身体に似せて作られてはいるけど……しっぽの部分だけはちょっと違っていてね。神経連結装置になっているから敏感で、触れたものの感触が私の感覚器官に直接フィードバックされるの……」

 

彼女の熱い吐息が指揮官の耳に届く度に、指揮官は胸の高鳴りが大きくなっていくのを感じた。

 

「だけど、それだけじゃなくてね……しっぽで指揮官君の唾液から遺伝子情報を読み取って、私の身体の中に記録することができるの……」

 

(そ、それって……)

 

「そう。あとは読み取った遺伝子情報を他の義体に移動させて反映することが出来れば、それは私と指揮官君の子どもになれる。これが私なりの……交尾」

 

そう語るウィオラは、どこか寂しそうだった。

 

「この身体では大好きな指揮官君の子どもは産んであげられないけど、一時的な依り代になることは出来る……だから、指揮官君の唾液を……指揮官君の遺伝子を私の中に、もっと頂戴……っ!」

 

(…………)

かつてムクロになる以前のウィオラがどのような人物であったのかを指揮官は知らない。しかし、健気ささえ感じられる彼女の言葉は指揮官の心を強く揺さぶった。

 

「あぁ……指揮官君が私の尻尾をたくさん舐めてくれている……今、そなたの情報が私の神経と直接繋がって、まるで身も心も1つになっているみたい……」

 

(…………)

 

「そっか……これが交尾なんだね。愛する者の子どもを作るという神聖な行為……でも、まだ足りない……指揮官君、私のしっぽをもっと舐めて?」

 

(…………)

 

その場の空気に流され、ついウィオラの尻尾を舐めることに夢中になっていた指揮官だったが……

 

 

 

「おい、いい加減にしろ!」

 

 

 

(……っ!!)

 

「……あ…………」

 

会議室の中に響き渡ったコンスタンスの声に、2人はびくりと体を震わせた。その声は激しい怒りで満ちていた。

 

「今は指揮官と教廷を繋ぐ大事な話し合いの最中だというのに、2人して何をやっているか!」

 

コンスタンスの言葉に指揮官はハッとなった。

そして、ついその場の空気に流されてしまったことを反省し、素直に謝罪しようとするも、尻尾で口を塞がれてしまっているので声を出すことが出来ず……

 

「ぁあん、そんなに怒らないでよ」

 

しかし、ウィオラは全く悪びれもせずにそう告げた。

 

「今は指揮官君との大事な子作りの最中だから……」

 

「それはこの会議よりも重要なのことなのか!?」

 

「ええ。だってそうじゃないの!」

 

「ふざけるのも大概にしろ!」

 

コンスタンスは額に大きな青筋を浮かべ……そしてついに我慢出来なくなったのか、椅子から立ち上がって両肩部の武装を装着すると、臨戦態勢に入った。

 

「いい加減、指揮官を離さないか!」

 

そう言ってコンスタンスはウィオラから指揮官を引き剥がすべく、漆黒のアームを用いてウィオラへと掴みかかった。

 

(い、痛い痛い……!?)

 

「そ、それはダメっ!」

 

戦闘兵器であるコンスタンスのパワーは圧倒的で、深く絡み合ったはずの指揮官とウィオラの体が徐々に引き剥がされてゆく……しかし、それでもウィオラは大好きな指揮官のことを離すまいと、必死な抵抗をみせた。

 

「コンスタンス、あなたに指揮官君を渡すわけにはいかないわ! あなたは常日頃から紙巻き煙草を吸っている。指揮官君がくれた書籍によると、受動喫煙が子どもに与える悪影響は……」

 

「知るかッッッ!」

 

そして、ついにその時が訪れた。

 

「ああっ!?」

 

コンスタンスはウィオラの体から指揮官を引き剥がすことに成功した。しかし、指揮官の身体に巻きついていた尻尾はそのままだったため、ウィオラは前に引き倒される形となり……

 

「な!?」

 

(うわぁ!)

 

指揮官のことを奪還したコンスタンスだったが、そこへウィオラが倒れ込むことにより予想していた以上の重量が加わって、急な出来事にコンスタンスはバランスを保つことができず……結果、3人はもつれ込むような形で転倒した。

 

「痛たた……2人とも、大丈夫?」

 

先に起き上がったのはウィオラだった。

 

(な、何とか……)

 

コンスタンスに引っ張られ、顔から床に転倒しかけた指揮官だったが、何か柔らかいものがクッションになってくれたため、怪我をすることだけは免れていた。

 

だが、この時……怪我をするよりももっと恐ろしい事態が起きていた。

 

(え……?)

 

指揮官は自分の顔を包み込む、クッションになってくれたものを見つめた。黒い布地のそれは、指揮官の顔がすっぽりと収まってしまうほどの大きな凹凸になっており、しかも俄かに暖かく、そして居心地の良い弾力があった。

 

そして、指揮官はその感触に見覚えがあった。

 

「指揮官……?」

 

自分のすぐ上の方からコンスタンスの声が聞こえてくることに気づいた指揮官は、すぐさま黒い布地から顔を上げた。

 

そして、全てを理解した。

指揮官は今、仰向けに転倒したコンスタンスの胸の谷間に顔を埋めている状態となっており、しかも、その両手は彼女の大きな双丘を鷲掴みしてしまっていた。

[伝説のラッキースカブなのです!]

 

コンスタンスは機械の体を持つとはいえ、そこは機械教廷のこだわりなのだろう……彼女の持つ女性の象徴とも呼べる部分は、とても柔らかかった。

 

「何を、している……」

 

次の瞬間、コンスタンスと目が合った。

慌ててコンスタンスの体から手を離そうとした指揮官だったが、それよりも早くコンスタンスの漆黒のアームが指揮官の体を掴んだ。

 

あ、これ終わった……

コンスタンスの持つスキル・瞬殺により、自分の命が失われてしまうことを想像した指揮官は、次に来る衝撃に備えて目を瞑った。

 

(…………?)

 

しかし、いくら時間が経過しても自分を襲う衝撃も痛みも何もないことに気づいた指揮官は、恐る恐る目を開けた。

 

「怪我はないか、指揮官よ」

 

(え……)

 

「そうか、ならば良かった」

 

先ほどまでの怒りに満ちた表情は何処へやら、そこにはウィオラと同じく温かみのある表情を浮かべたコンスタンスの姿があった。

しかも、いつのまにか漆黒のアームはパージされ、コンスタンスは人間らしい細い腕を使って指揮官の体を優しく抱きしめていた。

 

(コンスタンス、その……ごめんね)

 

「指揮官よ、何を謝る? むしろ悪いのはこちらの方だ……何も考えずに無理矢理あなたのことを引き剥がしてしまい、すまなかったと思っている」

 

(いや、そんなことは……)

 

「それで、1つ聞きたいのだが……」

 

(な、何かな?)

 

「さっきからずっと触っているのだが……もしや、指揮官は私の胸に興味があるのか?」

 

(あ……ご、ごめん!)

 

指揮官はそこで、まだ自分がコンスタンスの胸を掴み続けていることに気づき、慌てて手を離そうとするも……そこで、コンスタンスに両腕を掴まれて止められた。

 

「いや、いいのだ。決してあなたに触られるのが嫌だとか、そういう意味で言ったのではないのだ!」

 

そう告げたコンスタンスの表情は……驚くべきことに、頰を赤く染めていた。それも、まるで恋する乙女のように

 

「ただ、指揮官がこうしてくれていると……あなたに求められているような気がして、何故だろうな、それが私にはとても嬉しく感じられてしまって……」

 

これは……?

未だ嘗て誰も見たことのないであろうコンスタンスの様子に、指揮官は最悪の事態を想定して震えた。

 

そう。指揮官と間近で触れ合ってしまった事により、コンスタンスは『女性を魅了する』という薬の効果にあえなく暴露してしまっていた。

 

その結果、冷徹な機械兵器だったコンスタンスは、今や……指揮官に恋する鋼の乙女になってしまっていた。

 

「こんな気持ちは初めてだ。身も心も、全てを機械神に捧げた筈の私に、まだこのような心があったとは……」

 

(お、落ち着いて……さっき説明した通り、それはあくまでも薬の効果によるものだと思うから……)

 

「そうか。私がずっと人間の姿をしていたのは、いつかあなたと出会うためだけではなく……あなたにこの身を捧げ、添い遂げるためだったのかもしれないな」

 

(早まらないで!)

 

「指揮官、どうかこの私と1つになり、いずれは子を成すことで機械神への信仰を形作り、そして親子共々、機械教廷を支え続けて行こうではないか!」

 

(な、何でそうなる……っ!?)

 

あっけなく堕ちてしまったコンスタンスに求婚され、指揮官が戸惑っていると……

 

「ダメ! 指揮官との子どもを作るのは私!」

 

指揮官を引き剥がすべく、今度はウィオラがコンスタンスへと掴みかかった。

 

「む? ああ、ならば2人で指揮官の子どもを作れば問題はあるまい。むしろ、教廷の行く末を担うための繁殖活動であるならば、きっと機械神もお喜びになられる筈だ!」

 

「成る程、それはいい考えね!」

 

そうして、意気投合した2人は1人の少年を取り合うのをやめて、何かを期待するような熱い視線を指揮官に向けた。

 

(せ、戦略的撤退ッッッ!!!)

 

全てを察した指揮官は己にブーストをかけ、トランザム並みの素早い動きで立ち上がると、そのまま部屋の出入り口めがけて脱兎の如く駆け出し……そのまま会議室から飛び出して行った。

 

「あっ! 逃げた!」

 

「待たれよ! 指揮官!」

 

背後に2人の声を聞きつつも、指揮官は一度も振り返ることなく廊下を駆け抜けた。その途中、何名かの職員とすれ違ったのだが、いちいち気にしてはいられなかった。

 

(もうダメだ、本当に……!)

 

このままでは全ての女性スタッフが薬の影響を受けておかしくなってしまう。一刻も早く、薬の効果を取り除かねば……そう考えた指揮官は、薬の分析を依頼したセラスティアの元へと急ぐのだった。

 

しかし、この基地が誇る天才・セラスティアなら何とかしてくれるだろう……1人の少女に一縷の望みをかけ、指揮官は基地の中を駆け抜けた。

 

 

 

果たして、指揮官の願いは叶うのだろうか?

指揮官の受難はまだまだ続く……




プライドの用事→に◯さんじのオーディション
文中で前半で「子供」と書いていたのが、後半で「子ども」へとシフトしてますが、これは仕様です。統一していないことに特に深い意味はありませんが……ないわけじゃないです。


ここまで書いて、怒られないか心配ではありますが……


まあまあまあ
というわけで、次回は青い髪の毛のあの子との物語です。
ただし、天才ちゃんの方ではありませんが
それでは、また……


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第6話:ショタと蝶々と蜜の味

お帰りなさい、指揮官様!

さあ依頼主様! 予告した通り日曜日に完成させたのです!
ムジナは人を化かす生き物ですが、約束は違えないのです!

逃げる指揮官、追うお姉さんたち
逃げ場のない基地の中で、指揮官が出会ったのは帝国出身のあの人でした。
それでは、続きをどうぞ……


 

 

(はぁ、はぁ……!)

 

ショタ指揮官が、薬の副効果に曝露してしまった教廷の外部派遣員2人(ウィオラとコンスタンス)から逃れること数分後……指揮官は依然として、複数の女性たちから追われる身となっていた。

 

しかも、小さくなった指揮官を追っているのはウィオラとコンスタンスだけではなく……

 

 

 

「指揮官く〜ん、保健体育の時間ですよ〜」

 

「ふふっ……隠れてないで、出てきてくださ〜い」

 

 

 

(……っ!)

廊下を駆け抜けていた指揮官は、すぐ背後に黛と臙脂の気配を感じたため、一旦、空いている手近な部屋へと身を隠すことにした。扉を開けて部屋へと飛び込み、中から鍵をかけて、さらに扉の前に椅子と机を引きずってバリケード代わりにする。

 

鍵のかかった部屋の中で指揮官が息を整えていると、やがて廊下を進む黛と臙脂の声がだんだん近くなってきた。

 

頼むから、そのまま通り過ぎて……!

息を殺してそう願う指揮官だったが……

 

「うーん……こっちね!」

 

しかし、そんな指揮官の思惑に反して黛と臙脂は指揮官のいる部屋の前でピタリと足を止めた。扉越しにそんな気配を感じ取り、指揮官は心の底から震え上がった。

 

(な……何でこっちの居場所が……!?)

 

そう呟いたのもつかの間、ドアノブがゆっくりと捻られた。空き部屋にも関わらず扉に鍵がかかっていたことで確信を得たのか、2人の艶やかな嬌声がその場にこだました。

 

 

 

「指揮官く〜ん、そこにいるんでしょ〜?」

 

「ふふっ……大人しく出てきて下さい。大丈夫です、取って食ったりなんかはしませんから……まあ、別の意味で指揮官くんのことを食べちゃいますけど〜♡」

 

 

 

指揮官の目の前で、今すぐにでも壊れそうな勢いでひっきりなしにドアノブが回されている。いや、極東の諜報機関に所属している2人が本気を出せば、ピッキングなり蹴破るなりして、鍵のかかった扉の一つや二つくらい簡単に突破できる筈だった。

 

しかし、わざわざこうして開けられないフリをしているのは、音ですぐそばにいるということを強調し、部屋の中にいる指揮官に揺さぶりをかけているようだった。もしくは扉が開かないと指揮官を油断させ、その隙を狙って一気に突入し、指揮官が反応するよりも早く確保するつもりなのだろう。

 

(くっ……!)

 

どちらにせよ、なけなしのバリケードが長く持つとは思えなかった為、指揮官はロクに息つく暇もなく移動を余儀なくされた。部屋の中を通ってベランダへ……そして、排水管を伝って中庭へとゆっくり降下する。

 

指揮官が中庭へと降り立った時、2人が扉をぶち破ったのだろう……部屋の方から猛烈な破砕音が響き渡った。

 

(き、来てる……!)

 

慌てて中庭を駆け抜け、開いていた扉から建物の中へと侵入しようとして……指揮官がふと背後を振り返ると、ちょうど黛と臙脂がベランダから飛び降り、中庭へと華麗な着地を決めている瞬間を目撃することとなった。

 

「……み〜つけたぁ♡」

 

(……ッ!)

 

黛と目が合うと、彼女は顔を赤らめにっこりとした表情を浮かべた。そんな黛の姿に寒気を感じた指揮官は、慌てて扉を閉め、部屋を通り抜けて廊下へと飛び出した。

 

小さくなってしまった原因を解明すべく、一刻も早くセラスティアのところへ向かいたかった指揮官だったが、2人に追われているこの状況下で彼女の元へ行くことは不可能だった。なので、2人を撒くためにいくつもの分かれ道をランダムに通って進むことにした。

 

しかし、指揮官がどのような複雑なルートを通って安全地帯へ身を隠したとしても……ようやく息つく暇が出来たと思った次の瞬間には、どういうわけか黛と臙脂の影が間近に迫っていた。しかも、指揮官の居所を最初から知っていたかのような正確さでジリジリと詰めてくるのだから、これには流石の指揮官も恐怖でしかなかった。

 

脅威の探知能力を前に、指揮官は発信機でもついているのではないかと疑い、2人から逃げつつも全身をくまなく探した。しかし、指揮官がいくら探しても、特にこれといって発信機が体についているだとか、ポケットの中など衣服の仕込まれているだとか、そういうものの気配を感じることはできなかった。

 

焦る指揮官に、さらに不幸(?)が訪れる。

通路を進み、角を曲がろうとしたその時……

 

(う……ウィオラとコンスタンス!?)

 

通路の奥から機械教廷出身の2人がこちらに向かって歩いてくるのを目撃し、指揮官は慌てて角を曲がるのをやめて壁に張り付いた。

 

「指揮官く〜ん、どこにいるの?」

 

「さあ、早く我々と交尾するのだ!」

 

そんなことを言いながらこちらに歩いてくるものだから、たまったものではない。2人とすれ違った基地の女性スタッフたちは皆一同にギョッとした表情を浮かべており、角越しにそれを見ていた指揮官は思わず首を吊りたい衝動に駆られた。

 

しかし、そうするわけにもいかず……

ウィオラとコンスタンスから逃れようと踵を返した指揮官だったが、数歩ほど進んだところで前方からさらに強烈なプレッシャーを感じ取り、足を止めた。

 

(この感覚……黛と臙脂ッ!? ま、まずい……!)

 

薬の副効果に暴露してしまったお姉さんたちに挟まれる形となり、指揮官はどうしていいか分からずオロオロとした。まさしく『前門の虎(山月記的な)、後門の狼(ブラッディウルフ的な)』である。[↑上手くない?]

 

このままでは、飢えた4匹のケダモノに襲われ、純粋無垢な指揮官の体は淫らに弄ばれて穢され、骨の髄まで激しく貪られてしまうことだろう。

早い話が、いわゆる5Pというやつである。

 

どれくらいヤバいのかと言うと、某プリコネで例えるならば幼児退行した騎士くんを、美食殿とトゥインクルウィッシュの6人が襲ったりするようなものだったりするのです! ヤバいですね!

 

(ど、どうすれば……っ!)

 

徐々に迫り来る4人の影にどう対処するべきか、指揮官が必死に頭を回転させていると……ふと、どこからともなく花のようなふんわりとした甘い香りがするのを感じた。

 

(……むぐっ!?)

 

その時、いつのまにか背後に忍び寄っていた何者かによって手で口を塞がれ、指揮官は思わずびくりと体を震わせた。

 

(だ、誰……!?)

 

「シッ……静かに、声を立てないでください」

 

(その声は……!)

 

後ろから耳元に囁かれた優しげなその言葉に、指揮官は驚きつつもそれに従うことにした。やがて、その人物は指揮官の口を塞いだまま通路の端にかけられた大きなカーテンの方へと移動し、そのままカーテンの中へと潜り込んだ。

 

しかし、カーテンの中というものは言うまでもなく閉鎖空間である。限られた小さな空間の中に2人以上も身を隠すならば、出来るだけ身を縮こませたり身を寄せ合う必要がある訳で……

 

(……ッ!)

 

指揮官は自分の後頭部に、柔らかな2つの塊が押し付けられる気配を感じて頰を赤らめた。ふわふわでぬくぬくな谷間に埋まり、奥底から響き渡る小さな鼓動が指揮官の理性を刺激した。

 

というか、カーテンに隠れたくらいで追跡を躱せるとは思えないんだけど……そう考えていた指揮官だったが、まもなくウィオラとコンスタンスが目の前を通過していく気配を感じ、静かに困惑した。

 

……え、嘘……?

何事もなく通過した2人を前に、カーテンの中で驚いていた指揮官だったが、やがて黛と臙脂の接近を感じ、極東の諜報員として高いステルス&ストーキング能力を持つ彼女たちには、流石に見つかってしまうだろうと半ば諦めかけていた。

 

しかし、指揮官のそんな予感に反して、まもなく目の前を黛たちが通り過ぎていく気配を感じて、指揮官はさらに困惑してしまった。

 

……な、なんで……?

カーテンの中に隠れているという、子ども騙しの行動に全くと言っていいほど気づけないという、凄腕の諜報員らしからぬミスに驚くしかなかった指揮官だったが、つい先ほど感じた花のような甘い香りのことを思い出した。

 

恐らく『彼女』から発せられた甘い香りが指揮官の匂いを隠蔽し、指揮官の匂いを頼りにトレースしていた黛と臙脂を誤魔化すことが出来たのだろう。

 

……そんな、2人は犬か何かじゃあるまいし……そう思っていた指揮官だったが、そこでふと、意識が遠のいていく感覚に陥った。

 

「……どうやら、行ったみたいですね」

 

その女性は指揮官の口を手で塞ぎつつ、カーテンの隙間から周囲を見渡して安全を確認すると、指揮官を胸に抱いたまま安堵のため息を吐いた。

 

「指揮官様、もういいですよ」

 

(………)

 

「指揮官様……?」

 

(…………)

 

返事がないことを不審に思った女性が指揮官に目を向けると、自分の胸の中で、指揮官がぐったりとしてピクリとも動かないことに気付いた。

 

「息、してない……?」

 

慌てて指揮官の口から手を離した時には既に遅く……黛たちに追われ、ただでさえ酸欠気味だった指揮官は窒息して意識を失ってしまっていた。

 

「えっと……こういう時、どうすれば……」

 

しかし、女性はそれでも冷静だった。

指揮官を床に横たわせると、肩を叩きながら少しだけ考える素振りを見せ……

 

 

「あ、そっか……CPR……?」

 

 

ふと思い出したかのようにそう呟き、女性は指揮官の顔をまっすぐに見つめた。僅かに顔を朱に染め、青白い髪の毛を触るその姿はどこか色っぽいものがあった。

 

 

「緊急事態なので、仕方がないですよね……」

 

 

誰に言うでもなく確かめるようにそう告げて頷くと、女性は青白い髪の毛をかきあげ、それから両手で指揮官の頰を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊おねショタサーガー第6話ー

ショタと蝶々と蜜の味

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後……

 

 

 

(うぅ……はっ!?)

 

指揮官が目を覚ましたのは、基地の一角にある庭園の中でのことだった。中庭に併設するような形で存在するその場所は、手入れの行き届いた色とりどりの花々で囲まれ、小鳥のさえずりが響き渡り、空には澄んだ青空が広がっている。

 

「起きられましたか?」

 

指揮官が覚醒後間もないうっすらとした視界をパチパチとさせていると、その頭上から、もの静かな印象を受ける女性の声が聞こえていた。

 

(イザベラ……?)

 

目を慣らした指揮官は、横たわる自分を心配そうな表情で見つめているその女性を見上げた。色白の肌、青みがかかった長い髪の毛、髪や腰回りなどに暖かな色合いの造花をアクセサリーとして身につけている。

また、モノキニ(後ろから見るとビキニ、前から見るとワンピースに見える水着のこと)にも似た露出の多い白い礼服を着用しているものの、それを着た彼女は淫乱や妖艶といった雰囲気を放っているという事はなく、むしろティンカーベルやピクシーなどといった幻想的な存在……妖精のような印象を受ける、不思議な存在感を放っていた。

 

「はい。息を吹き返した後も一向に目を覚ましてくれなかったので心配だったのですが、どうやら大丈夫みたいですね」

 

そう言って、妖精のようなその女性……イザベラは微笑みと共に指揮官の頭を優しく撫でた。指揮官はそこで、自分がイザベラに膝枕されていることにようやく気づいた。

 

慌てて彼女の膝から退こうとした指揮官だったが、起き上がろうとする彼をイザベラはやんわりと膝の上に押し留めた。

 

「まだ動かないでください……つい先ほどまで気絶していた状態でしたので、念の為、私の力で貴方のことを癒している最中です……」

 

指揮官がイザベラの視線を追うと、胸や手足など自分の体の至る所に、彼女の持つナノマシンによって構成された光の蝶々が数匹ほど羽を下ろしているのを見ることができた。何かしらの治癒を施しているのだろう、光の蝶々が触れた箇所には暖かな光が宿っていた。

 

 

イザベラ

グレイトブリテン帝国出身、帝国国会の書記官を務めている美しい女性。幼い頃はスラム街で花売りの仕事をしている貧しい身分だった。しかし、後に先帝の隠し子だったことが明るみとなり、それに目をつけた貴族に養女として迎えられ、美しい容姿とご機嫌を取る手腕で、現在は伯爵の地位にまで上り詰めている。

 

 

(気絶……? 一体何が……)

 

「そう……覚えていないのですね」

 

黛たちから逃げている最中に、自分が気絶してしまった理由をなかなか思い出すことが出来ない指揮官に、イザベラは自分のしてしまったことをこと細やかに話し、そして心から謝罪した。

 

(……ん、そっか……イザベラは追われている自分のことを守ろうとしてくれたんだ)

 

「はい、そのつもりだったのですが……」

 

そこでイザベラは、申し訳なさそうな感じで指揮官から目を逸らした。一方、そんな彼女の様子を見て、指揮官は小さく首を振る……

 

(いや、そんなに気に病む必要はないよ。イザベラのお陰で助かったのは事実だし、気絶した自分のことを気遣って、こうして治癒してくれている……それだけでも嬉しいよ、ありがと)

 

「そんな……お礼を言われる筋合いなんて、私には…………本当に、貴方はお優しい方なのですね」

 

イザベラはそう言ってふっと微笑みを浮かべた。それから、うっとりとした表情で指揮官のことを見つめ……

 

(あ、そうだ……!)

 

指揮官は小さくなってしまった今の状況と、女性を魅了するという薬の副効果についてを思い出し、慌てて姿勢を変え、仰向けから横向きの形となることでイザベラから顔を逸らした。

 

「どうされましたか?」

 

(いや、その……なんて言うか……)

 

「もしや、私が薬の副効果を受けてしまわないか配慮しているのですか?」

 

(え? 何で知ってるの!?)

 

知るはずがないことをイザベラが知っていたということに、指揮官は驚愕した。

 

「知っているというより、既に基地の中ではもっぱらの噂になっています。指揮官が幼児化している、そして幼い彼の姿を間近で目撃した者は、彼に対する性的な欲望を抑えられなくなる……と」

 

(えぇ……)

 

「その反応……ということは、噂は本当だったという事なのですね?」

 

(実は、そうなんだ……)

 

指揮官はイザベラの問いかけに小さく頷いた。それから、朧や黛らとの間で起きた、これまでの出来事を包み隠さず説明した。

 

「なるほど……こうして貴方は、薬の効果で数多くの女性たちが言い寄ってくるのをいい事に、容赦なく情を交わしてきたと。それは、さぞお疲れだったことでしょう」

 

(そ、そんな事は……)

 

とは言いつつも、キスをしたり体を触ったりしたという前科がある以上、指揮官はあまり言い返すことが出来なかった。

 

「そして今、私が貴方に対して抱いているこの気持ちも、薬の影響によるものだと。では、私も他の方々と同じ様に、貴方様の手によって淫らに犯されてしまうのですね……」

 

(言っておくけど、何もしないからね……)

 

「ふふっ……冗談です」

 

イザベラはお茶目に微笑んだ。

そんな彼女の微笑みを横目で見て、自分がからかわれていることに気づいた指揮官は小さく溜息を吐いた。

 

(だから、その……薬の影響を受けるとまずいから、せめて、あんまり自分の顔を見ないようにして欲しいんだ)

 

「何を今更、もう遅いですよ」

 

(だよね……)

 

せめてイザベラの言う治癒が終わるまで安静にしておこう、そう考えた指揮官は微笑みイザベラから視線を逸らした。

 

それにしても……

指揮官は今、自分が枕がわりにしているイザベラの脚へと視線を送った。

 

 

……生足…………

 

 

生まれたままの姿になった彼女の美脚が指揮官の目に飛び込んできた。水着のような礼服を着ている以上、太腿から下を包む布は皆無で、彼女の白い肌も相まって、その上に頭の乗せていることにより指揮官の視界の先は雪の平原を思わせる神秘的な光景が広がっていた。

 

シミひとつない綺麗なイザベラの脚は、モデルにも負けず劣らず程よく引き締まっており、陶器のように美しく、そして頭部に伝わるその弾力はとても心地よいものだった。

 

「私の脚が気になりますか?」

 

ついつい脚の美しさに魅入ってしまっていた指揮官だったが、そんな指揮官の様子をイザベラは敏感に察知し、そう問いかけた。

 

(あ……こ、これは……)

 

「隠さなくても良いですよ。私の脚にかかる、貴方の熱い視線を感じますので……いえ、特に不快という訳ではありません。殿方からそういう目で見られることには慣れていますから……」

 

(そんなこと……)

 

「いいのです。寧ろ、貴方にいやらしい目で見られるのは、私としても好ましい限りです。貴方にならもっと見られたい、自分の全てをさらけ出したい……そう思ってしまうのは、きっと薬の影響によるものなのでしょうね」

 

(……?)

イザベラの様子に、指揮官は疑問符を浮かべた。

朧や黛など、これまで薬の効果を受けていた女性たちは皆、指揮官に対して積極的に言い寄り、中には指揮官を拉致するなどといった強行手段に走る者もいた。その一方で、イザベラは薬の影響を受けていることを自覚し、理性でそれを抑えている素ぶりが見られた。

 

……きっと個人差があるのだろう

薬の効き目について、指揮官は密かにそう分析した。

 

「まあ、それはそれとして……」

 

イザベラの伸ばした指先が、指揮官の掌に触れた。

 

「触っても、いいのですよ?」

 

(えっと……な、何を……?)

 

「私の脚です。はい、貴方が枕代わりにしているそれにです。貴方だって、本当は触りたくて触りたくてたまらないのでしょう? 一々そうやって、カマトトぶる必要はありませんよ」

 

(カマトトって……)

 

視線から内心を言い当てられ、イザベラの少しだけじっとりとした視線を感じながら、指揮官は戸惑いつつも生唾を飲み込んだ。

 

(じゃあ、触るよ?)

 

「はい。気絶させてしまったお詫びと言っては何ですが、私の脚如きでよければいくらでも触って下さい……んっ」

 

指揮官は横向きになったまま目の前に手を伸ばし、手始めにイザベラの白い柔肌を軽く撫でてあげると、彼女の口からくすぐったそうな声が漏れ出た。

 

(うわ……)

 

すべすべの肌、しっとりと手に馴染む。

さらに、程よくひんやりしていることから、ただ触っているだけでも、とても心地よいものを感じられた。

 

「貴方の手つき、とてもいやらしいですね」

 

(……ごめんね)

 

「はい、くすぐったくて堪りません。それに、よくよく考えてみたら何故私は貴方に脚を触らせているのでしょう? いくら薬の影響があるとはいえ、このような人の脚を触っただけで喜ぶような変態なんかに……」

 

(泣いていい?)

 

まさしく『綺麗な薔薇には棘がある』

ふっと湧いて出てきたイザベラの棘がある言い方に、指揮官はイザベラの脚から手を退けようとした。しかし、イザベラの伸ばした指が再び指揮官の掌に触れ、それを押し留めた。

 

 

「でも……それ以上に暖かい」

 

 

それは心からの安らぎに満ちた言葉だった。

指揮官がふと、イザベラに視線を送ると……彼女はまるで指先から伝わる指揮官の感触と体温を感じ取るかのように、そっと目を瞑っていた。

 

 

「貴方には、感謝しているんです」

 

 

目を瞑ったまま、イザベラは静かに語り始める。

 

「貴方も知っての通り、私は先帝の隠し子です。貴族たちは私の従姉……ヴィクトリアを玉座につけました。しかし、彼女があまりにも民衆からの支持を受けたので、貴族たちは彼女をコントロールすることができなくなりました」

 

(……それで、将来ヴィクトリア様に代わって国を治める候補として、イザベラが選ばれたんだよね)

 

「その通りです。当時、私のいたところは貧しく、明日を生きる糧すらままならない日々が続いていました。そんな路頭に迷っていた私を、貴族たちは探し出し……養女として貴族に仕立て上げました。これだけ聞くと、まだ良いように思えるかもしれませんが……言うなれば、私は貴族たちの傀儡、女王から政権を奪取する為の道具に過ぎないのです」

 

イザベラは淡々と続ける。

 

「私は、一匹の蝶でした。貴族という名の小さな鳥籠に囚われた……哀れな生き物。外で自由に生きることを許されず、ただ貴族たちの欲望にまみれた矮小で醜い世界を、少しでも見栄えを良くするためだけに飼われ、生かされ続けている存在。本当は、代わりなんていくらでもいるのです……」

 

指揮官はそこで、以前、イザベラを誘ってヴァネッサの経営する喫茶店へ行った時のことを思い出した。ややあって、そこで出された料理を分け合って食べることになった際、豪勢な帝国国会の料理と比較すると圧倒的に粗末で、庶民的な料理だったにも関わらず、彼女はそれを実に美味しそうに、懐かしむように食していた。

 

貴族たちに目をつけられる前は、貧しいなりに、彼女にも平穏な日々と自由があったのかもしれない。いや、あった筈だ。

 

そして、その自由は虚しく奪われた。

 

それまで、貴族社会とも政治ともまったく関わりのなかった彼女が、いきなりそういった世界へ引き込まれてしまったのだ。選択権などなかった。将来、ヴィクトリアに取って代わる存在としての役割を無理やり与えられ、育てられ、その最中で膨大な量のプレッシャーに晒され、恐らく生きた心地がしなかった筈だ。

 

そして必要がなくなれば……捨てられる。

役割を果たせなくても、それは同様である。

本来ならば、先帝の不貞の末に生まれた帝国の汚点であるべき存在なのだ。そんな彼女が失敗すれば、それは即ち存在そのものを抹消……いや、否定されるということを意味していた。

 

それが死ぬよりも過酷な運命であるということは、容易に想像することが出来た。

 

ただの貧しい少女だった彼女が、貴族としてここまで成り上がることが出来たのは、周囲の期待に応えたかった訳でも、流れに身を任せてしまった訳でもなく、ましてや自分の意思でそうした訳でもなく、ひとえに……

 

 

ひとりの人間として、生きたかったからなのだろう。

 

 

「ですが、ここのところ……揺らいでいました」

 

顔に暗い影を落とし、イザベラは続ける。

 

「自分は何故、ここにいるのか? このまま貴族たちに飼い殺しにされたまま生き続けることに、何か意味があるのか……と、代わりなら幾らでもいる。私は、私がいなくなっても別に良いのではないか……そんなことを考える事もありました」

 

(……!)

 

指揮官はイザベラのことを真っ直ぐに見つめた。

その手には、いつのまにか彼女の細くしなやかな手を強く握りしめている。

 

「……そんな顔をなさらないで下さい」

 

(イザベラの代わりなんていない)

 

「大丈夫です。それも、昔の話ですから……」

 

イザベラは指揮官の頭を優しく撫でた。

 

 

 

「でも、そんな時に現れたのが……貴方でした」

 

 

 

直後、イザベラの顔から暗い影が消えた。

不思議そうな顔を浮かべる指揮官に、彼女は続ける。

 

「貴方が鳥籠の鍵を開け、その中に囚われるだけだった私に手を差し伸べてくれた。そして、私の事を本来あるべき場所に向かって羽ばたかせてくれた」

 

それは、今から少し前の出来事だった。

当時、指揮官はブリテンの政治に立ち会う機会があった。その際、ヴィクトリアやゲーテとの会話の中からイザベラの存在とその境遇を知り、2人の頼みもあって、指揮官はイザベラを巡って貴族たちと大立ち回りを繰り広げたことがあった。

 

イザベラの言う『昔の話』という言葉からして、それは指揮官と出会う、まさに直前の事だったのだろう。つまり、あの時に指揮官がそうしていなければ、今ここにイザベラは存在していなかった可能性があった。

 

まさか、そんなギリギリの状態だったなんて……

今更ながら、最悪の事態を想像して薄ら寒いものを感じ始めた指揮官に、イザベラは優しく微笑みかけた。

 

「鳥籠の中から見た貴方は、私の目からはとても輝いているように思えました。そんな貴方の暖かい手を、汚れきった私の手で取っていいのか心配になりました。ですが、貴方は私の事を知っても尚……私に手を差し伸べ続けてくれましたよね?」

 

(それは、ヴィクトリア様の頼みで……自分はただ、それに従っただけ)

 

「ですが、命令ではなかった筈です。帝国騎士ではない、ヴィクトリアと対等な関係……唯一、友と呼べる存在である貴方には」

 

(…………)

 

「私はいい女かどうかという以前に、いい人間でもありません。私なんかと一緒にいると、幸せにはなれません。なので、男の影をチラつかせて貴方の方から離れて行ってくれるよう仕向けたりもしました。大抵の殿方は、そうするだけで興味を削がれてしまうものですから。でも、貴方はそうしなかった……」

 

イザベラは空いたもう一方の指で指揮官の小さな手を優しく包み込んだ。そして持ち上げ、指揮官の腕を胸に抱いた。

 

「貴方は、私という存在を認めてくれた。だからこそ、私は生きたいと思えるようになった……貴方の隣で、生きていきたいと思えるようになりました」

 

(……ッ!)

 

イザベラの白い肌は俄かに赤く染まっていた。愛情、信頼、恋慕……様々な想いが込められた瞳で真っ直ぐに見つめられ、指揮官はドキッとするものを感じた。

 

(……あ…………も、もう治癒は終わったみたいだから、ありがとう。膝枕……とっても気持ちよかった!)

 

顔が熱くなるのを感じつつも、いつのまにか自分の周りから蝶々たちが姿を消していることに気づいた指揮官は、そう言ってイザベラの膝から起き上がった。

 

「もう、宜しいのですか? 触りたいと言っていましたが、結局あまり触れませんでしたけど……」

 

(だ、大丈夫……! 十分堪能したから)

 

「そうですか……」

 

しかし、そこでイザベラは何かに気づいたようにハッとした表情を浮かべた。

 

「少し、動かないで下さい」

 

(え……? どうかした?)

 

「貴方の顔に、蝶が……」

 

(ついてるの?)

自分の顔を確認しようとした指揮官だったが……

 

「動かないで下さい」

 

指揮官の顔についた蝶を取るつもりなのだろう。

イザベラは指揮官の顔に両手を伸ばし……

 

 

 

指揮官の頰を包み込んだ。

 

 

 

(え……?)

「だから……」

 

そして、指揮官が反応するよりも早く……

 

 

 

 

 

ありがとう

 

 

 

 

 

短いリップ音が鳴り響いた。

 

 

 

口先に広がる蜜の味

 

 

 

その糖度は、まるで世界中の花から採れる蜜を濃縮させたかのように、甘いものだった。

 

 

 

(イザベラ……?)

「…………ふふっ♪」

 

戸惑う指揮官を目の前に、イザベラは至近距離で指揮官に微笑みを送った後、指揮官の頬から両手を離して元の位置へと戻った。

 

「どうでしたか?」

 

(……ちょっと、驚いた。でも、気持ちよかった)

 

「そうですか、それは何よりです。因みに言わせてもらうと、私は殿方と口づけを交わすのはこれが初めてという訳ではありませんから」

 

(……それ、今言う必要あった?)

 

「勘違いされると困りますので」

 

(そ、そう……)

 

プロフィールにもある通り、美しい容姿で成り上がったと書かれるほどの美女なのだから、お付き合いしたことのある男性の1人や2人くらいいてもおかしくない。

モヤモヤとしたものを感じつつも、指揮官は自分の唇に触れた。指先に伝わる混じり合った2人分の体温が、とても熱く感じられた。

 

「やはり、何か勘違い(・・・)をされているようですね」

 

(え?)

 

「何でもありません……ふふっ♪」

 

イザベラはそう言って唇を押さえながらイタズラっぽく笑った。それを見て、最初から最後まで彼女の手玉に取られているような感覚に陥った指揮官だったが、彼女の可愛らしい一面を見られるのなら、まあそれも悪くないだろう……そう思い、明るく笑いかけた。

 

「貴方がいてくれたからこそ、私は生きる理由が出来ました。ですが、私はまだ自由という訳ではありません。私はいずれ国会に戻ります。そして、帝国が真の平和と安定を得られるために……私は努力を惜しまないつもりです。全ては、私たちのことを信じてついてきてくれる民衆の為に」

 

そこで、イザベラは手を差し出した。

 

「なので、もし……私が見事、自分の役目を終わらせることができた時には、私のことを迎えに来てはくれませんか?」

 

(ん、いいよ。約束する)

 

そうして、2人は固い握手を交わした。

 

「貴方と出会えて、本当に……よかった」

 

最後に、指揮官とイザベラはお互いのことを真っ直ぐに見据え、安らかな微笑みを浮かべながら約束を交わした。

 

そんな2人の周囲を光の蝶々たちがゆっくりと飛び交い、2人の体を暖かな光で包み込んだ。それはまるで、2人のことを祝福しているかのようだった。

 

 

 

続く……




読んでいてモヤッとなった方は、CPRについて検索して下さい。

次回はいよいよ天才ちゃんが登場!
果たして彼女は、この状況を打破することができるのか!?


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第7話:ショタとキスと天才ちゃん

お帰りなさい! 指揮官様!

というわけで、某天才ちゃんの話です。
あと、ここまで色々とアレな話を書いてきたので、ムジナは吹っ切れました。エロスに耐性がついてきたので、もう[削除済み]に逃げたりはしないのです!

なので、最大級のイチャイチャをですね……

まあまあまあ、
それでは、続きをどうぞ……


イザベラの元で十分な休憩を取ってから数十分後……依然として、黛やコンスタンスなどの女性たちから追われる身となっている指揮官は、たっぷりと時間をかけてセラスティアの待つ研究ラボへと足を運んでいた。

 

(ふぅ……この体にも少しは慣れてきたかな)

 

研究ラボへと通じる一本道に辿り着いたところで、指揮官は周囲を見回しつつそんな事を呟いた。幼い体となってしまった当初は視界の低さになかなか慣れず、さらに体のバランスも変わっていることから転倒を繰り返し、歩いて移動するだけでも四苦八苦していた指揮官だったが、慣れてみると驚くほど体が軽く、大人だった頃の自分以上に速く走れるような感覚を持つまでになっていた。

 

かといって、元の姿に戻りたくないというわけではないが……そんな事を考えつつ、指揮官は通路を進み、真っ直ぐセラスティアの研究ラボの前へと向かった。

 

(セラスティア、いる?)

 

扉をノックしてそう告げると、指揮官の声に対応した認証システムが作動し、扉にかけられたロックが解除される。

 

研究ラボの内部は暗闇に包まれていた。

照明の一切は電源が入っておらず、あるのは天井に取り付けられた監視カメラから発せられるセンサーの赤い光と、ラボの奥から滲み出る青い輝きだけだった。

 

(セラスティア、入るよ?)

 

静まり返ったラボの中を覗き込み、部屋の主人へと呼びかけるも、彼女からの反応はなかった。何やら怪しい気配を感じつつも、仕方なく、指揮官は部屋の中へと足を踏み出すことにした。

 

自動扉が閉まり、ラボの中の深淵がより強くなる。指揮官は光に誘われる虫のように、目の前にチラつく青い輝きを目指して室内を移動し、淵から薄い光の漏れている扉を開けた。

 

(なんだ、いるじゃないか……)

 

扉を開けた先の部屋に、彼女の姿を見とめて指揮官はホッと胸を撫で下ろした。高級そうなブラックのオフィスチェアに腰を下ろし、扉側に背を向けた状態で、青い輝きを放つ無数の空間投影型モニターを前にしている。

 

カチカチというマウスのクリック音が響き渡る度に、彼女の持つ青いツインテールの髪の毛がゆらゆらと揺れている。

 

(セラスティア)

 

「…………」

 

扉の前に立った指揮官は、そこでセラスティアへと呼びかけるも……しかし、彼女からの反応はなかった。

 

(セラスティア……?)

 

「…………」

 

(おーい)

 

「……ッ」

 

少しトーンを上げて呼びかけると、セラスティアはピクリと反応して僅かに指揮官へと振り返った。

 

「あ…………指揮官」

 

部屋の中が薄暗いこともあって、指揮官のいる部屋の入口からでは、モニターから放たれる青い輝きを受けた彼女の表情はハッキリとは見えなかった。

 

「来たんだ」

 

(うん、遅れてごめんね)

 

「いいのよ、別に……」

 

(……セラスティア、大丈夫?)

 

セラスティアの声色にいつもの覇気がない事に気づいた指揮官は、彼女の身を気遣ってそう尋ねた。

 

「大丈夫って、何が?」

 

(なんか、元気がないみたいだけど……)

 

「あー……ごめん、ちょっと寝不足なだけ」

 

(そう? ならいいけど……)

 

モニターへと向き直った彼女のことを気遣いつつも、まさかセラスティアも薬の副効果を受けてしまったんじゃ……と、指揮官は最悪の事態を想定した。

 

しかし、薬の効果に暴露してしまった他の女性スタッフたちとは違い、距離を取ってなるべく姿を見られないように立ち回っていることから、それはないと思い直すことにした。

 

(それで、分析の結果は……)

 

「……出来てるわよ。ちょっと待ってて」

 

そう言ってセラスティアは手元のコンソールを操作し、空間投影型モニターのいくつかに文字がびっしりタイプされた文書やら、例の瓶の映像やら、何かのグラフの映像などを表示させた。

 

「瓶の底に残ったサンプルを成分分析にかけてみたわ。結果は、成分の約90パーセントはごく普通の栄養剤に含まれているものと同じだった……」

 

モニターに映るグラフを指差し、セラスティアは続ける。

 

「でも、あとの10パーセントが分からなかった。言わば、未知の成分が検出されたってことね」

 

(じゃあ、それが……)

 

「そうそう。それが指揮官の体を縮ませたことと、女性を虜にしちゃうっていう体質にした原因物質であるという可能性は、状況的に見て極めて高いと言えるわ」

 

そこまで言って、セラスティアは深く息を吐いた。それも、ただの深呼吸ではなく、まるで体の内側から出てくる辛いものを堪えようとする時のような息遣いだった。

 

(セラスティア……)

 

「うん?」

 

(本当に大丈夫?)

 

「……何でもないわよ。それで、これを解析する事が出来れば『幼児退行』と女性を魅了するっていう『特異な体質』……その2つの効果を打ち消すことの出来る、特効薬が作れるかもしれないわね」

 

(おお! それは吉報だね)

 

セラスティアの活躍によって、元の姿に戻れるかもしれないという希望が導き出されたことに、指揮官は歓喜した。

 

「喜ぶにはまだ早いと思うわよ? あくまでも可能性があるってだけで……そもそも成分の分析はいいとして、それに対抗する薬を作るのは時間がかかるんだから」

 

(あ、そういうものなの……?)

 

「当たり前じゃないの。この世に星の数ほど存在する物質の中から、病気とかに対処可能なものを探して、それらを組み合わせる。さらにそこから人体への親和性や有効性、代謝安定性を高めるなりして最適化を行う。それらのプロセスを経て、例え薬が出来たとしても人体への悪影響も考慮しつつ、いくつもの臨床試験を重ねる必要があるし……ん、これは世間一般の創薬のやり方だから、医療機関を通さなければそんなに重く考えなくてもいっか。それに、臨床試験って言ったって、今のところ実例は指揮官1人だけだし……」

 

(なるほど……色々と、大変なんだね)

 

「そうそう。ものによりけりだけど、1つの新薬を作るのには数年単位で時間がかかることも珍しくないみたいで、ヘタをすれば開発が打ち切りになることもあるらしいわよ?」

 

(す、数年単位……!?)

 

では、特効薬が開発される数年後まで、自分はずっとこの状態なのだろうか……? 基地の運営とかどうしよう……指揮官がそう思って愕然としたものを感じていると、そんな気配を悟ったのか、セラスティアは振り返ることなく小さく笑った。

 

「別に、特効薬なんて作らなくても……」

 

その時、セラスティアの口からそんな呟きが漏れた。

 

(え? 今なんて……)

 

「な、何でもないわよ! ただ……ここじゃ、成分の分析とかは出来ても、創薬は無理って言いたかっただけ! だって必要な機材とか道具とか材料とかが無いんだから!」

 

セラスティアは少し慌てたようにしながら、言葉を続けた。

 

「それに、もし仮に指揮官の身に起きている異常が何らかの薬の作用によるものだとしたら、いずれ薬の効果は切れるかもしれないわね? ああ、これを半減期って言ってね。血中に含まれる薬の成分が尿や発汗などを通して体の外に出てしまうことで、基本的に薬っていうものはそんな感じで効力が失われるまでの期間があるものだから、そんなに焦らなくてもいいと思うわよ?」

 

(へー、そうなんだ)

 

「ただし、体の構造の変化が某少年探偵みたいに永続しなければの話だけど。とにかくオスカー製薬……正式名称なんだっけ? まあいいや、あの会社の作ったTGM(性転換薬)と症状が似てるっぽいから何とかなるでしょ」

 

TGM(トランス・ジェンダー・メディスン)その名の通り、男性を女性に、女性を男性に変化させる薬の事である。その効果は一時的で、服用後1週間以内に元の姿に戻る。

 

(アレと似てるってそんな……や、アレも確かに喉仏とか骨格とか色々変わっているから似てなくもない……のかな?)

 

指揮官が苦笑いを浮かべていると、

「ふぅぅぅぅ……」

またしても、セラスティアは大きく息を吐いた。

 

(セラスティア?)

 

「何よ?」

 

(疲れてる?)

 

「別にいいじゃない、溜息くらい……」

 

(いや、それはいいんだけど……)

 

「ふぁぁ……もう限界かも」

 

セラスティアはとても脱力したような様子で、デスクの上に肘をつき、何やら両手で顔を抑えた。

 

(セラスティア、色々と教えてくれてありがと)

 

「うん、どういたしまして……」

 

(それじゃあ、もう行くね)

 

「え……? どこ行くの……?」

 

セラスティアはハッとした様子で顔を上げた。

 

(いや、だってもう用は済んだでしょ? セラスティアも疲れてるみたいだし、今日はゆっくり休んで……)

 

「い、行かないで……!」

 

扉の先にいるセラスティアへ声をかけ、立ち去ろうとした指揮官だったが、背後から聞こえてきたセラスティアの叫びにも似たその声に、思わず足を止めた。

 

(ど、どうしたの……?)

 

「あ……そ、その……」

 

扉付近にいる指揮官の位置からでは、振り返ったセラスティアの表情はよく見えなかった。だが、彼女が妙にしどろもどろとした様子で言葉を探している気配は感じられた。

 

「はぁ…………ねぇ、指揮官。ちょっと確認して欲しいことがあるんだけど」

 

(えっと、何かな……?)

 

セラスティアが他の皆と同じく薬の影響を受けてしまわないよう、少し離れた扉の位置でそう聞き返した指揮官だったが、セラスティアは首を横に振った。

 

「言葉で説明するよりも、直接見てもらった方が早いから……こっちに来て」

 

(そう? いいけど、あんまり顔を見ないようにしてね)

 

モニターの前に誘われ、仕方なく、指揮官は部屋の中へと踏み出した。そして、指揮官がモニターに映し出されたそれを見ようとセラスティアの直ぐ後ろに来た時……

 

 

 

カチャリ……

 

 

 

(…………?)

 

突然、背後から聞こえてきた物音に指揮官が振り返ると……開けっ放しだったはずの部屋の扉が、ひとりでに閉じてしまっていた。しかも、立て続けに鳴り響いた小さな金属音……

 

(……セラスティア?)

 

……扉に鍵をかけられた? 突然のホラーゲームにありがちな展開に、指揮官がセラスティアへと振り返った……その瞬間

 

「…………っ!」

 

(……うわっ!?)

 

次の瞬間、なだれかかってきたセラスティアによって、指揮官は床の上に押し倒されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊おねショタサーガ

第7話:ショタとキスと天才ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

平時ならまだしも、小さな子どもの体では少女1人の力すらまともに押し返すことができず、指揮官は床の上に仰向けの状態となってしまった。

 

(せ、セラスティア……!?)

 

驚いたのも束の間、セラスティアはその上に馬乗りとなり、壁ドンならぬ床ドンをして目と鼻の先まで顔を近づけた。

 

そして指揮官は、にわかに赤く……いや、今まさに爆発しそうになっていると思われるほど、頰を紅潮させた彼女の姿を目撃することとなった。

 

(ま、まさか……)

 

セラスティアは薬の効果を受けてしまっていた。

甘々な表情で見下ろされ、指揮官は胸の高鳴りを感じつつも、平静を保つためにどうしてこうなってしまったのかを心の中で考え始めた。

 

これまでの経験則から、指揮官は薬の異常性に暴露する要因として、そのキャリアになっている自分自身と女性が直接的に接触してしまうことと、自分の顔を至近距離から直視してしまうことが条件だと考えていた。

 

しかし、セラスティアの場合ではそのどちらも当てはまらなかった。一度、薬の異常性が明らかとなった初期の段階で、朧と共に彼女の元を訪れた際に、僅か一瞬ではあるが顔を見られはしたものの、周囲が薄暗く距離も遠かったため、その段階ではセラスティアはまだ薬の異常性に暴露していないと推測できた。

 

では、いったいどこで……

指揮官がそこまで考えた時だった。

 

「ねぇ……これ、なに?」

 

そう言ってセラスティアは端末を取り出すと、その画面を指揮官へ向けた。

 

(……っ!?)

そこに流れている映像を見て、指揮官は言葉を失った。それは、密室の中で指揮官が朧の豊満な胸を揉みしだいている映像だった。

 

(な、なんで……)

 

「まだまだあるわよ?」

 

セラスティアが画面を切り替えると、次に映ったのは食堂でアリスと延々抱きしめ合っている映像だった。

 

(これも見てたの!?)

 

「まだよ!」

 

セラスティアはさらに画面を切り替える。すると、扇情的な衣装に身を包んだ臙脂と黛に両側から挟まれて、赤面する指揮官の姿が映し出された。

 

(うわぁぁぁぁぁ!!!!)

 

まさか監視カメラで見られていたとは……!

画面上に映る自身の痴態に、指揮官は絶叫した。

 

「私が部屋にこもって薬の分析で忙しくしてたっていうのに、いいご身分ねぇ……これなんか、おっきな胸に囲まれて思いっきり鼻の下伸ばしまくってるじゃないの」

 

(い、言わないで……)

 

どうやらカメラ映像越しでも、女性を魅了する効果は広がってしまうようだった。

 

不可抗力だったとはいえ、指揮官は第三者目線で見る自分の姿に情けなさを感じた。自分で見てこうなのだから、セラスティアにしてみればさぞや幻滅したことだろう……

 

しかし、薬の異常性に暴露してしまったセラスティアは指揮官に対して幻滅するどころか、むしろその逆だったようで……

 

「私だって、指揮官とイチャイチャしたいのに!」

 

(…………あ、結局こうなるのね)

 

想いの内を訴えたセラスティアに、指揮官は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「か、感謝しなさいよね! 徹夜明けですっごく眠かったんだけど、指揮官の為を思って、頑張って薬の解析をしてあげたんだからね!」

 

恥じらい気味に、セラスティアは続ける。

 

「だ、だから……お礼くらい、しなさいよ……」

 

(……お礼? えっと……どうすればいいの?)

 

「……じゃあ、他のみんなにしてたこと、私にもしなさいよ」

 

(……みんなにしてたこと?)

 

胸を揉んだり、抱きしめたり、脚を触ったり……心当たりが多過ぎたこともあり、指揮官はセラスティアが何を求めているのかイマイチよく分からなかった。

 

「もう! 察しが悪いんだから!」

 

(ご、ごめんね……)

 

「悪いと思ってるんだったら! さっさと………………し、しなさいよ……」

 

セラスティアは必死な様子でそれを伝えようとするが、しかし重要なところで恥じらいの心を抱いたのか、聞き取れないほど声のトーンが小さくなってしまう。

 

(するって、何を……)

 

「だから…………キ…………キ…………」

 

(き?)

 

「…………キス……し、しなさいよ」

 

(ああ……なんだ)

 

てっきり、アレな意味でもっと凄いことを要求されるのだと思っていた指揮官は、セラスティアの言葉に安堵の溜息を吐いた。

 

これまで、服越しどころか直接胸の谷間に顔を埋めさせられたり、濃厚な口移しをさせられたりと、ハードな展開が多かったこともあって感覚が麻痺してしまい、最早キス程度ではあまり驚かなくなってしまっていた。

 

「はあぁ!? な、『なんだ』って何よ!」

 

だが、指揮官の薄い反応がセラスティアの怒りを買った。

 

「さては、キスくらい適当に終わらせてさっさと帰ろうっていう魂胆ね!?」

 

(え……い、いやそんなことは……)

 

「逃げようったってそうはいかないわよ! 無理やり働かされて、色々と我慢させられた分、キス以外にもあんたには体でたっぷり支払ってもらうんだから! あんたに拒否権なんてないんだから!」

 

セラスティアは逃げられないよう股の間で指揮官の体を挟み込み、指揮官の上に四つん這いの姿勢になった。そして、指揮官の頬を両手でホールドし……

 

(セラスティアっ!? ちょ待…………)

 

「あんたが可愛いすぎるから、悪いんだからね」

 

指揮官の制止を聞き流し、セラスティアはそう言って指揮官の唇に狙いを定め、唇をすぼめて目を閉じ、顔を前に倒した。

 

唇と唇が触れ合……

 

 

 

カチン☆

 

 

 

「〜〜〜〜〜ッッッ!?」

 

(ッッッッ!?)

 

次の瞬間、お互いに鈍い衝撃と痛みを前歯に感じ、2人はその場で悶え苦しんだ。

 

「痛ぁ……」

 

(ぐおおお……歯が……)

 

セラスティアはあまりこういったことに慣れていなかったのだろう。指揮官とセラスティアのキスは、セラスティアが急ぎ過ぎていたこともあり、前歯をぶつけ合ってしまうという結果に終わった。

 

(いたたた……)

口の中の痛みに呻きつつも、セラスティアが痛みで仰け反ったことにより自由の身となった指揮官は、ゆっくりと上体を起こした。

 

「もう! なんで上手くいかないのよ!」

 

(セ、セラスティア……口の中、大丈夫?)

 

「何も言わないでよ! 私だって初めてだったんだから!」

 

(え、そうなの?)

 

怪我していないかと、セラスティアの身を気遣った指揮官だったが、そこで彼女の口から飛び出してきた思いもよらぬ言葉にちょっぴり意外そうな顔をした。

 

「な、何よ……私が誰とでもキスするような尻軽な女だとでも思った!? ま、まあ確かに……普段からこんな服着てるからそういう風に見られても仕方ないとは思うけど」

 

その言葉に、指揮官は思わずセラスティアの服に視線を向けた。今更ながら胸の谷間が大胆に開き、肩出し&ヘソ出しスタイルのドレスはあまりにも露出が多すぎる上に、ミニスカートというのは無防備すぎてちょっと心配になった。

 

「あ、あんまり見ないでよ……」

 

(ご、ごめん……)

 

指揮官の視線に気づいたセラスティアが、頰を赤らめながら慌てて胸元を手で隠すのと、指揮官が視線を逸らしたのはほぼ同時だった。

 

「でも、こんな私だって……初めてのキスは大切にしたいなって思ってたんだから……って、何言わせるのよ!」

 

顔を真っ赤にして憤るセラスティア

そんな彼女に、指揮官は優しく笑いかけた。

まるで付き合って間もないカップルのような……キスの仕方で戸惑い、四苦八苦するような初々しい感じが、甘酸っぱくて、どこかおかしかった。

 

「な……何笑ってるのよ……」

 

指揮官の笑みに、自分のウブな様子を笑われているのだと思ったセラスティアはツンツンとした態度を取るも、それだけではないことに気付いて静かになった。

 

(やり直す?)

 

「え?」

 

(こんな自分でよければ、だけど……)

 

指揮官がそう提案してみると、セラスティアは驚いた表情を見せ……恥ずかしそうに俯きがちになり、それから小さく頷いた。

 

「じ……じゃあ、目を閉じてよ」

 

(ん、分かった)

 

指揮官が目を閉じると、セラスティアは高鳴る心臓を言い聞かせるように深く息を吐くと、意を決して指揮官の頬へ手を添えた。

 

(セラスティア……)

 

「うん?」

 

(ゆっくり、落ち着いてね)

 

「……うん」

 

 

 

 

 

ちゅ……

 

 

 

 

 

やがて短いリップ音と共に、指揮官は自分の唇に柔らかいものが触れる気配を感じた。

 

押し付けるだけのプレッシャーキス

セラスティアの唇は程よく潤っているにも関わらず、柔らかいものが触れたところには、まるで火が灯っているんじゃないかと思ってしまうほど発熱した、彼女の体温が感じられた。

 

「ふぁ……」

長い長い口づけが終わり、セラスティアはふやけた吐息を漏らした。

 

「えへへ……しちゃった、ね」

 

(…………)

 

セラスティアは微笑みを浮かべ、キスの余韻に浸るように唇に触れた。その一方で、彼女のそんな表情と仕草に心惹かれるものを感じ、指揮官の心臓がドクンとはねた。

 

朧や黛などの時と同じように、満足すればいつかは解放されると思い、キスを受け入れた指揮官だったが……まるでセラスティアの受けている薬の効果がキスを介して伝染してしまったかのように、ここに来て自分でも抑えが効かなくなっていることに気づいた。

 

抑えが効かなくなっているのはセラスティアも同じだったようで、2人はうっとりと熱っぽい視線を交わし……

 

「ん…………ちゅ…………」

 

それから、どちらともなく……まるで想いが通じあっているかのように身を寄せ合い、2人は再び唇を重ねた。

 

「はむ……んちゅ、ちゅ……ちゅぅ……んんぅ」

 

触れるだけだった先ほどとは違い、今度は舌を絡めてより深く繋がる。

 

セラスティアは指揮官と限界まで繋がろうと、首の後ろに両腕を回した。舌の粘膜が擦れ合う度に、脳に電気が流れるような感覚……

 

2人は波のように押し寄せてくる快感に打ち震えながらも、キスを止めようとしない。

 

「ぷはっ……はぁー……はぁー……」

 

やがて息も絶え絶えになったところで口を離すと、2人の結合部から混じり合った唾液が糸を引いて垂れた。そんな光景が、さらに指揮官の情欲を掻き立てる……

 

「はぁ、はぁ……キスって、こんなに気持ちいいんだ」

 

セラスティアは指揮官を抱きしめ、大きく開いた胸の谷間に顔を埋めさせた。その規格外のサイズもさながら、指揮官が小さくなったしまったことにより、顔どころか頭全体が双丘に優しく包み込まれてしまった。

 

大きくて、暖かくて、いい匂いがして、ふわふわで、この世のものとは思えないほど柔らかな胸に包まれ、指揮官は何も考えられなくなってしまう。

 

「それとも、相手が指揮官だから?」

 

そんな指揮官の頭に口を寄せ、セラスティアはいたずらっぽくそう囁いてきた。

 

 

 

「もしかしたら私たち、体の相性……いいのかもね」

 

 

 

……なんてね

と、冗談めかしてそう告げたセラスティアだったが、それが冗談ではないことは誰の目に見ても明らかだった。指揮官の目の前で早鐘を打つ、彼女の心音がいい証拠だった。

 

(…………)

セラスティアが薬の効果を受けていることは、指揮官も重々承知していた。薬で操られているだけであって、これが彼女の本心ではないことを知っていた指揮官は、最後の理性を振り絞って、抗い難い誘惑に耐えようとするのだが……

 

「ねぇ、指揮官」

猫撫で声で、セラスティアは続ける。

 

 

 

「ベッド……行こ?」

 

 

 

(…………)

 

いっか、欲望に流されても……

その一言で、指揮官の理性は完全に溶けてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

セラスティアに連れられ、指揮官は彼女の寝室へと移動した。

 

勝手の分からない薄暗い部屋の中、ヨロヨロとした足取りだったこともあり、指揮官は床に転がっていた何かに足を取られ、あわや転倒しかけるも……それをセラスティアが抱きとめた。

 

それにより彼女の体から発せられる、ふんわりとした甘い香りが指揮官の鼻孔を刺激した。最早、ベッドに辿り着くまで我慢しきれず、2人は熱い抱擁を交わし……そのままベッドの上に倒れ込んだ。

 

最早、薬の効果を受けているだとか、そんなことはどうでもよかった。恋愛感情の有無に関係なく……ただ、目の前にいるセラスティアが欲しくて欲しくて堪らない

 

……そんな情欲に動かされるまま、指揮官は彼女の体を優しく撫でた。すると、セラスティアは目を細め気持ち良さそうな吐息を漏らした。

 

「ちゅ……れる……あむっ…………んちゅぅ」

 

その状態で、何度も何度も貪るようにキスを繰り返し、舌を激しく絡め、お互いに口の中の唾液を交換し合い、己の体内へと流し込んだ。

 

「はぁ、はぁ……きしゅ、きもちぃ」

 

目にハートマークを浮かべ、呂律の回らなくなった口調になりながらも、セラスティアは尚もキスをねだって指揮官の唇を甘噛みした。

 

「もっと、さわってぇ……ちゅー、してぇ………ふむぅ」

 

指揮官は、そんなセラスティアの唇を唇で塞ぎ、さらに求められるがまま、彼女の豊満な胸を遠慮なく揉みしだいた。

 

今まで、指揮官は会うたびに激しく存在を主張してくる彼女の大きな胸に対して、邪な気持ちを抱いたことはなかった……というわけでもなく、それなりに意識することも少なくはなかった。

 

しかし、いざそれを目の前にして……理性を失った指揮官は、今までに募らせてきた彼女への邪な想いをぶつけるかのように、胸を触る手つきを荒々しいものへと変化させた。

 

「んぅ!? ぢゅ……ちゅ……んぅぅぅぅぅ!!!」

 

それまで穏やかだった胸への快感がより一層強くなったことに戸惑い、悲鳴を上げかけたセラスティアだったが、唇を塞がれていることでくぐもった嬌声が部屋に響くだけに終わった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

そのうち、指揮官は指でセラスティアの敏感な部分を刺激すると、彼女はビクンと体を大きく震わせ……それから脱力したように、力なくベッドの上に倒れ込んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息を切らしながら、しばらくの間、仰向けの状態でぼーっと部屋の天井を見上げていたセラスティアだったが……

 

「ひっく……」

 

(……え!?)

 

突然、セラスティアが大粒の涙を流し始めた。

あまりにも唐突な出来事に、流石の指揮官も正気を取り戻す。

 

(セラスティア……もしかして、正気に戻ったの?)

 

「……もう、嫌ぁ…………」

 

(……っ!)

 

セラスティアが涙ながらに発した言葉に、指揮官は心の底からショックを受けた。それと同時にセラスティアに対して自分がやってしまったことを思い出し、酷い罪悪感に苛まれる。

 

(ごめん……嫌だったよね)

 

「ち、違うの!」

 

セラスティアは涙を振り払い、上体を起こした。

 

「私が嫌なのは……指揮官の役に立とうって頑張ろうとしたのに、結局、指揮官に迷惑をかけちゃった私自身のことを言ってるの!」

 

驚いた表情を浮かべる指揮官のことを、申し訳なさそうな表情で見据え、セラスティアは続ける。

 

「指揮官の迷惑になっちゃうことは、自分でもよく分かっていたはずなのに……でも止められなくて、指揮官のお願い1つすら聞けない私でごめんね……ごめんね、役立たずで…………こんな役立たず、生まれて来ない方がよか…………んっ!?」

 

いつになく弱気なセラスティア

負の言葉が漏れ出る彼女の唇を、指揮官は唇で塞いだ。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

やがて彼女が落ち着くのを見計らってキスを終えると、優しく手を取り、そこからたっぷり時間をかけてセラスティアを慰め、泣き止むのを待った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

(今回は、部が悪かった……だから仕方ないよ)

 

「……うん」

 

セラスティアの顔から泣き腫らした目が消えた後も、指揮官はずっと彼女の手を握り続けた。

 

「ねぇ、指揮官」

 

(うん?)

 

「何か、私にして欲しいことはある?」

 

(いや、今は特にないかな……ありがと)

 

「そう? 無理してない? 指揮官がしたいなら……遠慮なくしてもいいよ。えっと……私の体を使って、保健体育とか」

 

(魅力的な提案だけど、やめとく……今は、そういう時じゃないから。それに徹夜明けなんでしょ? 今は、ゆっくり体を休めてくれると嬉しいかなって……)

 

「……意気地なし」

 

(いいよ、そう思ってくれても)

 

「でも、最後まで私のことを気遣ってくれるんだ……指揮官は、やさしいね」

 

(これくらい、普通だよ)

 

「じゃあ、私が眠るまで……一緒にいて?」

 

(…………いいよ)

 

そうして、2人は抱き合いながらゆっくりと……

まどろみの中へ落ちていった。

 

 

 

続く……




前半の薬云々のやり取りについては適当に検索したもの自分の言葉でまとめただけなので、何か間違っているなどご指摘があればすぐ直させていただきます。

今回はムジナ的にもかなり際どいラインを攻めてみましたが、まあ大丈夫ですよね? 某なろうには、これよりも酷いR18クソ汚物作品を堂々と一般向けで出版しているのですから……それに比べれば多少はね?

次回、白髪美女2人と熱々になります。
それでは、また……


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第8話:ショタとお風呂と白髪お姉さん

お帰りなさい! 指揮官様!

温泉編です。
正直言って、今回は読むのキツイと思います。
でも、これを書くのはもっとキツかったです。

でも、何度でも言わせて下さい
ムジナはただ、こういう話を書けって依頼主様に脅さ……いえ、お願いされただけなのです! (何が言いたいかというと、ムジナはわるくないよねぇ〜)なので、投げ出さずに最後まで書ききれたその頑張りだけは評価していただけると幸いなのです!

まあまあまあ
それでは、続きをどうぞ……


 

 

 

 

指揮官は今、大浴場の中にいた。

ついでに言うと、女湯である。

 

 

 

(どうしてこんなことに……)

 

湯気が立ち込める湿潤な空間の中、腰にタオルを巻いた幼い姿の指揮官は、顔を真っ赤にして俯きがちになり、浴場の隅にある洗い場の……さらに隅の方に腰掛けていた。

 

大浴場の中には指揮官以外にも、今日一日の疲れを癒すために訪れたのだろう……数名ほどのスタッフたちの姿があった。

 

当然のことながら、その全員が女性である。

 

(み、見られてる……)

 

背中にひしひしとした視線を感じた指揮官は、無遠慮に振り返るのではなく、洗い場の鏡を使ってこっそりと自分の背後の様子を伺った。

 

裸の女性スタッフたちの姿がそこにあった。

一応、浴槽に浸かるなり、バスタオルを体に巻くなり、タオルでさりげなく隠したりしているので大切なところが丸見えになっているということはなかったのだが……女性スタッフたちは皆、好奇な眼差しを浮かべて小さい指揮官のことを見つめていた。

 

 

「誰? あの可愛い子?」

 

「さあ? でもどことなく指揮官さんに似てるような」

 

「え〜? もしかして指揮官さんのお子さんとか?」

 

「子どもいたの?! だとしたらショック〜〜」

 

 

(…………)

背後からうっすらと聞こえてくる黄色い歓声と熱っぽい視線の集中砲火を感じ取り、指揮官は思わず顔がさらに熱くなるのを感じた。

 

……いや、そんな事よりも早く体を洗わなくては!

身体中にこびりついた白濁を落とそうと、お湯を張った桶の前で指揮官が悪戦苦闘しながら体を洗っていると……

 

「ねぇねぇ、君〜?」

 

(は……ひゃい!?)

 

少しだけボーッとしていた為に、指揮官は女性スタッフたちの接近の気づくことが出来なかった。突然、背後から声をかけられ、指揮官はびくりと体を震わせた。

驚きのあまり声が裏返る。

 

「どうしたの〜? こんなところに1人で〜」

 

(そ、それはその……っ)

 

女の花園とも呼ぶべきこの場所に、男である自分が紛れ込んでいることを叱責されるのかと思っていた指揮官だったが……

 

「体洗ってるの? もし良ければ、お姉さんたちがお手伝いしてあげるわよ?」

 

(……え?)

 

だが、スタッフたちの指揮官に対する反応は拒絶どころか、明らかに好意的なものだった。

 

「そうそう〜、お背中流してあげるってね!」

 

「なんなら〜、お姉さんたちと体の洗いっこしようよ?」

 

そう言って、3人の女性スタッフたちは指揮官の周りに集まってきた。1人目は指揮官の手を取り、2人目が指揮官の背中に密着し、3人目はあろうことか、指揮官の前でバスタオルに包まれた魅惑的な胸の谷間を見せつけた。

 

(……ッ!?)

 

「あはっ! お顔真っ赤だよ〜、可愛い〜」

 

スタッフたちからほっぺたを悪戯っぽくツンツンとされ、指揮官は自分の心臓が高鳴るのを感じた。

 

(……ッ、そ、その気持ちだけで十分……)

 

「まあまあ、遠慮しないの〜」

 

「そうそう〜。洗い場の使い方とか、大浴場でのマナーとか、お風呂での楽しみ方とか……お姉さんたちが手取り足取り〜、色々教えてあげるよん♪」

 

3人のお姉さんたちに言い寄られ、指揮官がまたしても理性を失い、欲望に身を任せようとした……その時だった。

 

「ご婦人方、少し宜しいでしょうか?」

 

大浴場の入口の方から、そんな声が聞こえてきた。

 

「悪いが、指揮官殿のお体を洗うのは拙者たちに与えられた責任であり、役目でもあるのだ。だから、ここは引いて貰えるとありがたいのだが……」

 

「……うん」

 

女性でありながら、独特な一人称の語り口。

続いて、少し躊躇いがちな声。

指揮官にとって、とても馴染み深い2人の声が大浴場の中に響き渡った。

 

「何よ? 貴方達……」

 

「ヤバっ! い、行くよ2人とも……」

 

「え……ち、ちょっと……っていうか、やっぱり指揮官だったんだ〜」

 

2人の存在に気づいた女性スタッフたちは、そそくさと指揮官の周りから離れて行った。

 

(り、理性が……あ……危なかった……)

 

「指揮官殿、どうかされましたか?」

 

(いや、何でもないよ……それよりも)

 

お礼を言う為に2人の方へと振り返った指揮官だったが……次の瞬間、振り返ったことを激しく後悔することとなった。

 

(……ッ!?!?!?)

それに気づいた指揮官は、顔を真っ赤にして即座に2人の姿から視線を逸らした。一瞬だけだが、その衝撃的な光景は指揮官のニューロンに深く刻まれることとなった。

 

 

2人の美女の姿がそこにあった。

雪のように白い肌、赤い瞳、長い白髪……

 

 

そして、2人は本当の意味での一糸纏わぬ姿をしていた。

 

 

他の女性スタッフがそうしていたように、体にバスタオルを巻いているだとか、タオルで必要最低限大切なところを隠しているということはなく……全くの、生まれたままの姿でそこにいた。

 

今、2人の体を包み込んでいるのは、大浴場の中を満たす濃密な湯けむりくらいしかない。薄っすらとしたベールの奥には、非常に美しく、魅力的、それでいて豊満な2人の体つきがハッキリと露わになっている。

 

2人は腕の間からこぼれ落ちそうになっているそれを、隠そうともせず……あろうことか恥ずかしそうな素ぶりすら見せず、大胆にも指揮官の前にさらけ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊おねショタサーガー第8話ー

ショタとお風呂と白髪お姉さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡る事、数分前……

 

 

セラスティアに添い寝すること10分あまり……やがて彼女の口から穏やかな寝息が聞こえてきたところで、指揮官はゆっくりと身を起こした。

 

居心地の良い彼女の元から離れたくないという気持ちをぐっと堪え、彼女のことを起こしてしまわないよう静かに寝室から立ち去り、そのまま研究ラボを後にした。

 

薬の開発も期待できず、いつ来るかも分からない薬の効果が切れるまでの間、少しでも薬の効果が広がってしまわないように自己隔離をしようと、少しだけフラフラとした足取りのまま、指揮官は自室へと向かった。

 

こんな体になっても、デスクワークくらいなら出来る。戦術指揮は各機動部隊の隊長たちに一任して、それ以外のことはシェロンたちにお願いすればなんとか……

 

そんな感じでテレワークについて考えて考えていた指揮官だったが……そのせいで、周囲への注意が疎かになるという結果を生み出してしまった。

 

(うわぁ!?)

 

「え?」

 

「……!?」

 

自室へと辿り着く一歩手前の角を曲がろうとした次の瞬間、指揮官は前から歩いてきた2人組とぶつかり……体格差があった為に、指揮官は床に突き飛ばされてしまった。

 

(ぶっ……!?)

 

その瞬間、指揮官とぶつかってしまった2人組は、弾みで持っていたバケツを取り落としてしまい、その中身が指揮官の体に盛大にぶちまけられてしまう。

 

(な、何これ……白い、ペンキ……?)

 

バケツの中身は白い液体だった。それを全身に被り、髪の毛や顔だけでなく、アリスが指揮官の為に用意したフォーマルまで真っ白に染まってしまっていた。

 

「ああ、申し訳ありませぬ!」

 

「……ごめん」

 

指揮官にバケツの液体を浴びせてしまった2人は、慌てて指揮官の元へ駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!? お怪我は……」

 

「痛く……ない?」

 

2人は心配そうな眼差しを浮かべ、指揮官の体についた白い液体を払おうとするが、いかんせん量が多過ぎるため、べっとりと張り付いた液体を全て落とすのは不可能だった。

 

(うん、大丈夫……って、エレナ? それにリンダ)

視界を埋め尽くす白濁を拭うと、そこには2人の白髪美女の姿があった。

 

 

 

エレナ

元機械教廷出身の騎士で、今は賞金ハンターとしてシャロとアルトと共に活躍している。また、本人は数百年前に一度死亡しているため、極めて現代社会への知識が不足しているという一面を持っている。

 

リンダ

ヴァルハラ同盟の六大公国の1つ、今は亡きティルヴィング公国の王族の唯一の生き残り。人とのコミュニケーションが苦手で、戦闘になるとその凶暴な性格が露わになるが、本当は優しい心の持ち主である。

 

2人とも、いつもの刺々しい黒い装束に身を包んでいた。赤い瞳に美しい白髪……外見的な特徴以外、とくに共通点のないはずの2人が珍しく並んでいるのを見て、指揮官は目の前に立つ2人がまるで姉妹か双子のように思えた。

 

 

 

「その声……もしや指揮官殿でございますか?」

 

声色から目の前の少年が指揮官であることに気づいたエレナとリンダは、驚いた様子で指揮官のことを見つめた。

 

「指揮官……小さい?」

 

「どうしてそのようなお体に……?」

 

(うん、まあ……色々あってね)

 

 

指揮官はことの事情を説明した。

ついでに、薬が女性に与える副効果についても説明するも、真正面からモロに見られてしまっているので、時既に遅しなのだが……

 

 

「それは災難でございましたね。しかし、何という愛らしいお姿に……はぁぁ……拙者、指揮官殿を見ていると心の昂りを抑えられませぬ……」

 

「指揮官……かわいい……」

 

さっそく薬の効果を受けてしまっているのか、2人は頰を赤く染め、うっとりとした眼差しで指揮官のことを見つめた。

 

(ところで、これ……本当にペンキ? なんか変な匂いがするんだけど……)

 

「それはプラシーボ臭なのです!」

 

(その声は……!)

 

声がした方向に目を向けると、そこには1匹のタヌキの姿があった。一見するとペットだが、これでもBMを自称している

 

「どーも、ムジナ(作者)なのです!」

 

(何でいるの……?)

 

「そりゃあ、この2人にペンキの入ったバケツを持って、この場所を通るように指示したのは何を隠そう、このムジナだからなのです! あ、そのペンキはアスモデウスの外観塗装に使う為のものだったのです」

 

……なんでアスモデウス?

色々とツッコミどころ満載なムジナの言葉に、指揮官は心の底から嫌な予感を覚えた。

 

「それで、あつらえ向きにこのすぐ近くには大浴場があるのです。因みに女湯ですが、今の指揮官様は立派なお子様なので、女湯に入っても全然オッケーなのです」

 

(えっと……何を言って……)

 

「要するにですね、お二方には指揮官様を汚した責任を取って、一緒にお風呂に入って貰ってですね……!」

 

(…………は?)

 

そこでムジナの企みに気づいた指揮官は、慌ててエレナとリンダへと振り返った。

 

「成る程。それが拙者たちの贖罪になるのですね」

 

「責任……取る」

 

罪を償うとは言いつつも、そこにはどこか嬉しそうな表情を浮かべる2人の姿があった。

 

(ムジナ……もしかして図った?)

 

「んーーー? 何のことだかさっぱりですなぁ? あ、床のお掃除はムジナがやっておくのです! それでは指揮官様、ごゆるりとおくつろぎください、なのです!」

 

都合よく濡れた雑巾とワックス缶、そしてワイパーを取り出したムジナを見て、確信犯であることに気づいた指揮官は、少しだけ青筋を浮かべるも……次の瞬間、エレナとリンダに両脇を掴まれてしまった。

 

「分かりました。さあ指揮官殿、さっそくお風呂へ向かいましょう!」

 

「お風呂、一緒に……入ろ?」

 

(ま……待って! 男が女湯って、やっぱり駄目だから! 犯罪だから!)

 

「でも、子どもならばいいのでありましょう?」

 

「犯罪……ならない」

 

(それは心身ともに子どもな場合だけであって…………ああああああああッッッ)

 

まるで超有名な『宇宙人捕獲』の写真のように、背の高い2人に引きずられるようにして、指揮官は女湯へと連れられてしまった。

 

 

 

そして、物語は今に至る……

 

 

 

(な、なんで……裸……ッ?!)

 

一糸纏わぬ姿になったエレナとリンダ。

一瞬とはいえ、彼女たちの大切なところをモロに見てしまった指揮官は、爆発してしまうんじゃないかと思うほど顔を赤くして、2人から目を逸らした。

 

「そう言われましても……お風呂なのだから裸になるのは当然のことでありましょう?」

 

「うんうん……」

 

(いや、そうじゃなくて……その……)

 

大浴場には異性である指揮官は勿論のこと、他にも女性スタッフが何名かいた。他にも人がいるのだから、見られることに対する恥じらいはないのだろうか……

 

「それに、お風呂の中ではタオルを取りましょうって言うではありませんか」

 

(いや、それは浴槽の中でっていう話で……)

 

2人とも常識に疎いところがあり、さらに言えば知識が偏っているようだった。

 

「でも……タオルで隠しても、隠しきれない」

 

(あー…………)

 

リンダの困ったような言葉から、圧倒的な質量を持つ2人の双丘のことを思い出し、確かにタオルではそれを隠すことは出来ないだろう……そう考えたところで色々と思い出してしまい、指揮官は羞恥心から両手で顔を覆った。

 

その間にエレナとリンダは指揮官の元へ歩み寄り、左右から挟み込むような形で洗い場の床へ腰を下ろした。

 

「では指揮官殿、さっそく体の汚れを落とさせていただきます」

 

「指揮官、体……洗うね……」

 

(う…………うん…………)

 

猛烈な胸の高鳴りを感じつつも、指揮官が頷くと……2人はまず、シャワーで指揮官の体を軽く流し、程よく水気がついたところで石鹸を手に取り、泡立てたそれを指揮官の体につけ始めた。

 

「んしょ……んしょ……指揮官殿、力の加減はいかがでしょうか? 拙者、こうして誰かのお背中を流すのは、なにぶん初めてなもので……痛かったりしたら遠慮なくおっしゃって頂けると有り難いのですが」

 

エレナは指揮官の左半身を洗いつつそう告げた。

しかし、直手で洗うエレナの手つきはとても繊細で、痛いどころかマッサージをされているかのような感覚になるほど、とても心地良いものだった。

 

(大丈夫……とっても気持ちいいよ)

 

「そうでありますか! いえ、少しだけ嬉しくてですね……普段は騎士として剣を握るだけしか能のないこんな私でも、ちゃんと指揮官のことを気持ちよくさせてあげられるのですね……」

 

(…………)

 

美女2人に体を現れているというシチュエーションもそうだが、エレナが無意識に発してしまった問題発言に指揮官の理性がどんどん削られていく……

 

「ん……指揮官」

 

ふやけた表情を浮かべる指揮官を見て、右半身を洗っていたリンダがアピールをする。

 

(ふぇ……?)

 

「私の手も……きもちい?」

 

そう言って、リンダは指揮官のことを真っ直ぐに見つめた。洗う手つきは拙さがあるものの、その瞳には指揮官のことを気持ちよくさせたいという意思が存分に込められていた。

 

「君のこと……きもちく、できてる?」

 

(うん……もう、凄い…………)

 

「そう……よかった…………」

 

そう言ってリンダはふわりと微笑んだ。

邪な想像を掻き立てられる言葉遣いと、普段は中々見ることのできない彼女の貴重な笑顔を直視したことで、指揮官から語彙力が消えていく……

 

指揮官が理性を保とうと必死になっている間も、2人のご奉仕は続く。首筋や脇の間など、1ミリの洗い残しもないように体が洗われ、さらに「洗いやすいから」と、その豊満な胸の谷間の間に指揮官の腕を挟み込んで洗ったりするものだから、溜まったものではない。

 

「むぅ……指揮官殿、背中にも白いのがこびりついているようです。拙者は指揮官殿の背中を洗うので、リンダ殿は前の方をお願いします」

 

「……まかされた」

 

2人はそんな言葉を交わし、それぞれポジションを変わる。エレナは背中を洗うべく指揮官の背後へ、そしてリンダは指揮官のお腹を洗うために指揮官の前へ……

 

「えっと……よろしく?」

 

(なんで……?)

 

指揮官と対面する形となったリンダは、気恥ずかしさを感じたのか、そう言って小さく頭を下げた後、再び指揮官の体を洗い始めた。

 

彼女が腕を動かす度に、指揮官の目の前で美しい巨峰が魅惑的に揺れるのだ。目のやり場に困った指揮官は、仕方なくリンダの顔を見ることにした。

 

「んっ……指揮官、そんなに見られると……恥ずかしい」

 

(…………)

 

「……顔、見ないで…………ちゃんと、洗えない」

 

(…………)

 

「見ないでぇ……もぅ……みない で……よぉ……」

 

(…………)

 

「うぅ…………もう、我慢…………できない」

 

(え?)

 

顔を見られる恥ずかしさに耐えかねたリンダは……次の瞬間、何を思ったのか指揮官の体に抱きついた。

 

(ちょっ……リンダ!?)

 

「これなら、顔……見られない」

 

そう言ってリンダは手で洗う代わりに、自身の体を擦り付けることで指揮官の体を洗い始めた。指揮官の背中に手を回し、胸板から腹部にかけて、石鹸の泡を纏ったリンダの巨峰が往復する。

 

(…………ッッッ!!!)

 

絶妙な柔らかさと、石鹸のヌルヌルとした感触が交わり、反射的に指揮官の腰が浮きかける。

 

「ふぁ…………なんか、変な感じ」

 

リンダの口から困惑したような声が漏れ出る。

 

「君のこと洗って、きもちくさせているはず……なのに、私の方が…………きもちい? ふぅぅ……胸……君に……擦り付けてるだけなのに…………なんでこんなに…………きもちく?」

 

 

 

「成る程、その手がありましたか!」

 

自分の体を使って指揮官のことを洗うリンダの姿を目撃したエレナは、納得したような顔をしてポンと手を打つと、自分の体に石鹸の泡を塗りたくった。

 

(エレナ……何を……?)

 

「それでは、こちらもそのように洗わせて頂きます」

 

(ち……ちょっとまッッッッッ!?!?!?)

 

指揮官が止める間も無く、エレナは指揮官の肩を掴み……そして自身の体を密着させ、上下に体を揺すって指揮官の体を洗い始めた。

 

(……ッッッ!!!)

 

泡を纏ったエレナの白い柔肌が優しく触れ、美しい巨峰が指揮官の背中でいやらしく潰れた。正面と背中、両面に生じた奇妙で心地良い感触に挟まれ、指揮官は天にも昇る心地を抱いた。

 

「ん……はぁ……成る程……これは、凄い」

 

口から色っぽい吐息を漏らし、エレナは続ける。

 

「んっ……新婚の夫婦というものは、お互いの親睦を深めるために湯を共にするというのを聞いたことがありますが……つまり、こういう事だったのですね?」

 

(…………え?)

 

「こうすることで、1人分の石鹸で2人の体を洗うことができる……それに、お互いのお風呂にかける時間を節約する事ができるし、浴槽の湯が冷めることもない。……非常に理にかなった風習だったというわけですね」

 

(…………)

最早、ツッコム気にもなれなかった。

 

「ああ、でもそれだと……親睦を深めるという意味の説明がなされていませんね。ん……では、指揮官の体を擦るたびに体の奥底から湧き上がるこの疼きが、親睦を深めることに繋がっているのでしょうか?」

 

「ん……君の体、洗うの……きもちい」

 

(も……もういいよ! 十分体は洗えてるから!)

 

このままだと延々とこの状態が続いてしまい、いつか彼女たちと一線を超えてしまうのではないかという懸念を抱いた指揮官は、声と理性を振り絞って2人を押し留めた。

 

「そ、そうでありますか……むぅ……拙者といたしましては、もう少しばかりあなたと一緒に、この不思議で心地良い感覚に浸っていたかったところではありますが」

 

「うん、もっと……洗いたかった」

 

少し残念そうな様子で指揮官の体から離れた2人だったが、まだ何かを待っているかのように、指揮官の前後から退こうとはしなかった。

 

(えっと……?)

 

「それでは指揮官殿、次に行きましょう!」

 

「体の次は……脚…………」

 

2人の視線が指揮官の下半身に向けられる。

腰に巻いたタオルの下は、まだ石鹸がついていない。

 

(いや……流石に脚は、自分で洗うよ)

 

「そう遠慮なされないで下さい。あなたの体を洗うことは、拙者たちに与えられた役目であり、お体を汚してしまったことに対する贖罪でもあるのです。ならば是非、お勤めを最後まで果たさせては貰えないでしょうか?」

 

「責任、とらせて……」

 

そう言って2人は、指揮官の腰に巻かれたタオルに手をかけた。

 

(……ッッッ!? 待って待ってそれは駄目ッ!!)

 

慌てて腰のタオルを抑えるも、子どもの力では2人のお姉さん……もとい、元機械教廷の騎士と凄腕の魔剣使いに力で勝てるはずもなく……

 

「安心して下さい指揮官殿。騎士の名にかけて、指揮官殿の苦になるようなことはいたしません!」

 

「……うん、ただ……洗うだけ」

 

(裂けちゃうから、引っ張らないで! 本当にッッッ!!! 本当に駄目だからッ……こんな事やめっ…………あああああああああああああああッッッッ!!?!?!?!?)

 

 

 

布が破れる音と共に、

大浴場に指揮官の絶叫がこだました。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

数分後……

 

(うぅ……見られたぁ、触られたぁ……っ)

 

ひとしきりエレナとリンダに体を洗われた後、指揮官は浴槽に浸かって羞恥に嘆いていた。なお、その両脇にはエレナとリンダがぴっとりと寄り添っている。

 

「まあ、そう落ち込まなくてもいいではないですか! 見られて減るものでもないのですから、ねえリンダ殿?」

 

「…………うん」

 

リンダは小さく頷き、頰を赤く染め……

 

「指揮官の、かわいくて……立派……だった」

 

(うわぁん!)

 

「ああ、泣かないで下さい。指揮官殿の小ぶりなお尻も、とってもきゅーとで……拙者、洗っていて心の昂りを抑えられませんでした」

 

(フォローになってないから!)

 

指揮官は思わず顔を両手で覆った。

 

(しくしく……もう、お嫁に行けない……)

 

「その時は、拙者が指揮官殿のことをお嫁に貰うであります! 騎士の名にかけて、あなたの幸せは保証します。そうですよね、リンダ殿!」

 

「うん……私たちで、君のこと……幸せにする」

 

(〜〜〜〜〜ッッッ)

2人の口から突然飛び出してきたまさかの逆プロポーズに、指揮官は何も言えず、お湯に顔を半分ほど沈めブクブクと息を漏らした。

 

「指揮官殿」

 

「指揮官……」

 

そんな指揮官のことを、エレナとリンダは両側から優しく胸に抱き、極上の包容力でたっぷりの愛情と温もりを表現した。

 

出来ることならば、もう少しだけこの温もりの中に包まれていたい。そう思っていた指揮官だったが……

 

「それでは、拙者たちはこれくらいにして……指揮官殿、ご婦人方が待っておられる」

 

(……え?)

 

エレナが指差した方向を見ると、そこには目を爛々と輝かせ、熱のこもった瞳で指揮官のことを見つめる女性スタッフたちでいっぱいだった。

 

最初、数名程度だったはずのスタッフたちはいつのまにかその数を増しており、大浴場は満員になっていた。また、集まったスタッフたちの中にはBMパイロットたちの姿もちらほらと見られた。

 

「体を洗ってあげることの心地よさと楽しさは、拙者たちだけで独占するのではなく、やはり他の皆様と共有すべきだと思うのです! なので、あの方々にも是非それを教えてあげて下さい!」

 

「指揮官……頑張って……」

 

そう言って2人はザブザブとお湯の中を歩き、そのまま更衣室の中へと消えていった。後に残されたのは、浴槽の中で呆然とした様子になっている指揮官と、今にも飛びかからんとばかりに目をギラつかせた女性スタッフたちだけだった。

 

(もう、勘弁して……)

 

既にのぼせ気味になっている指揮官は、自分の体力と理性がもつのか心配になるのだった……

 

 

 

 

 

指揮官の受難はまだまだ続く……




ほんとにごめん
キツかった? 書いててムジナも何回か頭を抱えたのです……

作中のムジナがノリノリなのは……それは……そう! プラシーボ効果なのです! きっと薬の効果でそう見えるだけなのです。決して、指揮官が大変な目にあっているこの状況を楽しんでいるなんてことは……誓って無いのです!

次回はもっとマイルドに、甘々に書き(書き起こし)たいと思います。
ご意見、ご感想などがありましたらお気軽にどうぞ

次回……自室で喫茶店の2人とスヤァします。
それでは、また……


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第9話:ショタと女神と耳かきリフレ

お帰りなさい! 指揮官様!

本作は、アイアンサーガのASMR……いわゆる音声作品への転用を意識したお話なので、作中には水音や物が擦れる音などといった、様々な「効果音」を意識した文章が多く見られます。

また、本作はムジナの著作の1つである『12の月の小夜曲』(非公式クリスマスイベント)内にある、『べサニーに耳かきしてもらうお話』を先に読んでおくことを推奨します。読んでなくても読めるように工夫してはいますが……その方がより一層楽しめるかと思うのです。

それでは、続きをどうぞ……


 

 

頭部に心地よい冷んやりとしたものを感じ、指揮官は目を覚ました。気がつくとそこは自室で、指揮官は子ども用のバスローブ姿で、ベッドの上に仰向けの状態になっている。

 

しかし、指揮官がいくらここまでの出来事を振り返っても、自分の部屋に帰ってきたという記憶はなかった。

ベッドの上に横になったという記憶もなければ、バスローブに着替えたという記憶もない。

 

一体いつのまに、自分はここに来たのだろうか……頭の中でそんな思考を巡らせかけた指揮官だったが、自分が枕にしている柔らかいものの存在に気づき、思考を中断させられた。

 

「あ、起きたみたいね〜」

 

指揮官が目を開けると、ちょうど目の前にいたその女性と目が合い、彼女は微笑みを浮かべた。艶のある長いアッシュブロンド、美しい金色の瞳、金の刺繍が目立つ真っ白なドレスに身を包んだその姿は、まるでギリシャ神話に登場する女神(アルテミス)のようだった。

 

「おはよう、ダーリン〜」

 

(ヴァネッサ……? お、おはよう……)

 

それは喫茶店バビロンのマダム、ヴァネッサだった。

ベッドの上に腰掛けた彼女は、指揮官のことを膝枕で介抱しながら、手にした団扇で指揮官に涼しげな風を送っていた。

 

(何でいるの……?)

 

「あら〜? 私がここにいたら、何かまずいことでもあるのかしら〜?」

 

(いや、そういうことではないけど……)

 

そう言って少しだけ視線を逸らすと、ヴァネッサは女神のような微笑みと共に指揮官の頬を悪戯っぽく撫でた。

 

「大丈夫よ〜、ダーリンがベッドの下に隠してある秘蔵本なんて見てないから〜」

 

(いや、そんなものないよ……)

 

「ふふふ。そう隠さなくてもいいのよ〜? 健全な男の子だったら、誰だってそういう本の一冊や二冊……持っているのが当たり前なんだから〜」

 

(いや、それはそうかもしれないけど……)

 

そこで、指揮官は部屋の中に2人目の気配を感じた。それと共に、どこからともなくチャプチャプとした水音が響き渡る。

 

「ヴァネッサさん、指揮官様の秘蔵本とは何のことでしょう?」

 

(あ、べサニーもいたんだ)

 

指揮官が声の方向に目を向けると、部屋のバスルームから桃色の髪の少女……べサニーが出てくるのが見えた。

グレートブリテン出身の地方長官令嬢で、ペンタスをモチーフにした桃色のドレスが似合う彼女は、なにやら水の入った桶を抱えている。

 

「おはようございます、指揮官様。それでヴァネッサさん、指揮官様の秘蔵本とは一体……」

 

べサニーはきょとんとした表情を浮かべていた。ここまで言って、まだピンと来ていないところを見ると、やはり高貴な身分なだけあるんだな……と、指揮官は密かに思った。

 

「要するに〜、女の子のあられもない姿がたくさん描かれたエッチな本ってこと〜」

 

「なるほど……つまり、春画ということですね」

 

(春画は知ってるんだ……)

 

「はい。一応、知識としてはですけど……」

 

そこでべサニーは難しそうな表情を浮かべた。

 

「ふふふ。べサニーさん、大丈夫よ〜。さっきも言ったように、エッチな本なんて年頃の男の子ならみんな持っているものだから〜」

 

「いえ、趣味は人それぞれと言いますし……指揮官様がそういう御本をお読みになられているからと言って、私は決して幻滅したりなんかは致しません」

 

そう言ってべサニーは桶をベット近くの棚に置き、少しだけ照れた様子で「ただ……」と続けた。

 

「ですが、指揮官様がどのような女性にご興味があるのか……ちょっとだけ、気になると言いますか……よければ中身を拝見させて貰って、参考にしたいなと存じます」

 

「熱心ねぇ〜。うーん、私としては〜 ブロンドのお姉さんがヒロインの本を、ダーリンが愛読してくれていると嬉しいんだけどな〜」

 

指先をチョンチョンとさせるべサニーに、ヴァネッサはそう言って優しく微笑みかけた。

 

「うーん、そうじゃなくても……そうねぇ、胸が大きかったらポイント高いかも〜」

 

「胸ですか?」

 

「そうそう〜。世の中の男の子はみんな大きな胸に惹かれちゃうものなのよね〜、ダーリンもそうでしょ〜?」

 

(いや、その…………それは……)

突然話を振られ、指揮官が困惑していると……

 

「言い淀むってことはつまりそういうことなのよね〜? でも、それだったらべサニーさんも嬉しいんじゃないかしら?」

 

「私がですか……?」

 

(あの……何も言ってないんだけど……)

困惑する指揮官を置いてけぼりにして、話は続く

 

「そうそう〜! 貴女だって中々大きいし……えっと、カップ数はどれくらいだっけ?」

 

「えっと……[個人情報につき削済み]ですけれど?」

 

「だってさ〜、聞いた? ダーリン〜」

 

(…………ッ)

 

「あ〜、ダーリンのお顔真っ赤っか〜 可愛い〜。それじゃあ、後でダーリンの秘蔵本を一緒に見てみましょうか〜」

 

「はい、そうしましょう!」

 

(なんで持っているのが前提になってるの……?)

 

2人が抱いた誤解を解きたかった指揮官だったが、このままでは話が変な方向に進んでいきそうなので、早目に話を変えておくことにした。

 

(というか、どうしてこうなったんだっけ?)

 

「あら? 覚えてないの〜?」

 

(確か……部屋に帰る途中だったと思うんだけど……ここに来るまでの記憶がすっぽりと抜け落ちているというか、なんか体も火照ってるし)

 

指揮官は先程感じた冷んやりの正体を探ると、自分の額に濡れたタオルが置かれていることに気づいた。恐らく、これで火照った体を冷やしてくれていたのだろう。

 

「あ、タオルをお取り替えしますね」

 

そう言ってべサニーは温くなったタオルを取り上げ、桶の中から新しい濡れタオルを取り出し、指揮官の額に乗せた。

 

(ありがと。それで、何があったの?)

 

「それはもう大変だったのよ〜? 騒ぎを聞きつけて来てみたら、ダーリンが女湯の中で倒れているものだから〜」

 

(お、女湯……ッ!?)

 

 

指揮官はそこで全てを思い出した。

白いペンキを頭から被ってしまい、それに責任を感じたリンダとエレナと一緒にお風呂に入ることになってしまったことを……

 

そして、2人が去った後……

飢えた肉食獣の如く目を輝かせた裸の女性スタッフたちに囲まれ、これでもかと体をもみゃくちゃにされ、ついに湯あたり(オーバーヒート)してしまったことを

 

 

(〜〜〜〜〜ッッッ)

 

衝撃的な光景の数々が、指揮官の脳裏にフラッシュバックした。額には冷たいタオルが乗っている筈なのに、冷却されるどころか、指揮官は顔全体がさらに熱くなるのを感じた。

 

「指揮官様、お顔が大変赤いようですが、ご気分が優れないのでは?」

 

(うん、大丈夫……)

 

「うふふ……顔赤くしちゃって可愛い〜〜〜、それで、急いで指揮官を部屋の中に運び込んで、今の今まで2人で熱冷ましをしてたってワケ〜」

 

(そっか……2人とも、ありがと)

 

指揮官がお礼を言うと、2人は満面の笑みを浮かべて……

 

「いえいえ、お礼を言うのはこちらの方です」

 

「そうねぇ〜。小さくなったダーリンをお世話できる機会なんて、中々滅多にないだろうから〜、貴重な体験をさせてくれてありがとうね〜〜ダーリン♫」

 

そんな2人の言葉に、指揮官は嫌な予感を覚えた。

そういえば……と、自分の体を見下ろし、いつのまにかバスローブが着せられていることを思い出した。

 

当然、自分で着た覚えはない。

指揮官はそれを2人に尋ねてみるも「やあねぇ〜」と、2人は笑って話を逸らすばかりで、答えるつもりはないようだった。

 

「でも、みんながダーリンに夢中になるのもわかる気がするわぁ〜。だって、こんなに可愛いんですもの〜」

 

「そうですね。平時の凛々しくてカッコいい貴方も素敵ですけど、幼子の姿になった貴方はまるで生まれたばかりの子猫のように可愛らしくて……つい見惚れちゃいます」

 

(…………)

2人からうっとりとした目で見つめられ、気恥ずかしさから、指揮官は何も言えなくなった。

 

「んー……指揮官様のお体、熱いです……」

 

顔を赤くした指揮官の身を案じたべサニーが、ゆっくりと指揮官の額に手を当てた。細くしなやかでひんやりとした彼女の指が、指揮官の額をくすぐる。

 

「タオルももう温くなって……今お取り替えしますね」

 

指揮官の体温で早くも温くなってしまったタオルを交換するために、べサニーは冷水で満たされた桶から新しいタオルを取り出し、桶の上で水を絞った。

 

「よいしょ……よいしょ……」

 

べサニーの小さな息遣い、水気を含んだ微かな布擦れ音、そして水の落ちる涼しげな音が、静かな部屋の中にひときわ大きく響き渡った。

 

「はい、指揮官様……ちょっと冷たいですよ?」

 

(うん、ありがと)

 

新しいタオルが額に乗せられたことで、火照った体が急激にクールダウンして行く気配を感じ、指揮官は心地良さげなため息を吐いた。

 

「ふふふ。べサニーさん、ダーリンが汗掻いちゃったみたいだから、タオルで軽く体を拭いてあげて?」

 

「あ、はい! よいしょ……よいしょ……」

 

ヴァネッサの言葉に、桶の冷水で温くなったタオルを冷やしていたべサニーが返事をした。再び、指揮官のすぐ近くでタオルの絞られる音が響き渡り、空間を涼しく演出した。

 

「指揮官様。汗を拭きたいので、お召し物の前側を少しだけ開けさせていただきますね?」

 

(自分で拭きたいんだけど?)

 

「いえ、指揮官のお手を煩わせるわけにはいきません! 是非、私にお任せくださいませ」

 

(そ……そう? じゃあ、お願いしようかな……)

 

「はい、それでは失礼しますね♫」

 

べサニーは嬉しそうな表情を浮かべて頷くと、ベッドの上に登って指揮官の隣に腰掛け、着ていたバスローブを脱がしにかかった。

 

「冷たいので、少しずつ拭かせていただきますね」

 

指揮官の胸元が露わになるまで広げられ、べサニーは指揮官が驚いてはいけないと、まずは冷たいタオルの端の方を使って指揮官の首筋と胸板を伝う汗を拭い始めた。

 

「お加減はいかがでしょう?」

 

(うん、冷たくて気持ちいいよ……ふわぁ……)

 

「ふふっ……気持ち良さそうなお声、可愛いいです」

 

それから、指揮官の体が冷たいのに慣れてきた頃を見計らって、タオルの全面を使って指揮官の体を大胆に拭き始める。

濡れた布と肌の擦れる音が響き渡った。

 

「んしょ……んしょ……」

 

指揮官のことを一心に想った丹念な手つき、タオル越しに伝わるべサニーの体温、そして彼女の口から時折漏れる熱のこもった吐息。

ただ汗を拭いているだけだというのに、指揮官はべサニーのそんな様子にドキッとするものを感じた。

 

(ところで、2人はどうして基地に?)

 

気を紛らわせるべく、指揮官は先程から気になっていたことを聞いてみることにした。商人であるべサニーはともかく、いつもならヴァネッサは喫茶店バビロンの運営に勤しんでいるはずだった。

 

「実は仕事中、指揮官様が小さくなってしまったという噂を耳にしまして……それをヴァネッサさんにお伝えしてみたところ、一緒に様子を見に行こうという話になりまして」

 

(え……店は?)

 

「お休みよ〜」

 

べサニーの言葉に指揮官がヴァネッサを見上げると、彼女はふんわりとしたお茶目な笑みを浮かべてそう告げた。

 

24時間営業、いつどんな時でも……大雨や大嵐の時でも、例え世界の終わりが明日に迫っていても開店している筈の喫茶店バビロンが、珍しく閉店しているという事実に、指揮官は驚きを隠せなかった。

 

「小さくなったダーリンの事が気になって仕方なくて〜 でも、お店を開けっぱなしにして外に出るわけにもいかないし……つい」

(そ、そんな理由で……?)

 

「それに、この感じだと今日はもうダーリン来てくれなさそうだなって思って〜。だから〜 たまにはいいかなって、今日は臨時休業ということにしちゃったの〜〜」

 

(いいのかな……)

 

「あらあら〜? ダーリンは私にヨボヨボのお婆ちゃんになって働けなくなるまでずっとバビロンで働けって言いたいのかしら? 」

 

(いや、そういうわけじゃないけど……)

 

機嫌を損ねたのか、少しだけ怒った様子を見せたヴァネッサに指揮官は戸惑うが、次の瞬間、彼女は表情を明るくさせた。

 

「ふふふ……冗談よ〜。でも私だって、たまにはゆっくり休みたいの。こうして、身分や立場を忘れてのんびりと……ダーリンと一緒の時間を過ごしてみたいなって、前々から思っていたの」

 

いつ睡眠を取っているのか分からないほど、昼夜を問わずバビロンを営み続けるヴァネッサのことは、指揮官も前々から働き過ぎだとは感じていた。

 

そんな彼女のことを気遣い、出来れば何かしてあげたいと考えていた指揮官だったが、お互いに忙しい身分である以上、それが叶う機会は今の今まであまりなかった。

 

(あ……)

 

なので、こんな自分でよければ……と言いかけたところだったのだが、そこで女性を魅了するという薬の副効果のことを思い出し、指揮官は喉元まで出かけた言葉を押し止めようとした。

 

……なのだが

 

「ああ、指揮官様の姿を見た女性は魅了されてしまうという噂もちゃんと聞き及んでおりますので!」

 

「だから〜 私たちに遠慮なんかしなくてもいいわよ〜?」

 

指揮官の顔に浮かぶ微妙な表情の変化を察知したのか、2人は交互にそう告げた。

 

(知っててここに来たの……?)

 

「そういうこと〜。と、いうわけでダーリン……久しぶりに『アレ』やってあげようか〜?」

 

(『アレ』って……?)

 

「ふふふ、それはね〜 ダーリンも大好きな……とーっても気持ちよくなれる『アレ』のことよ〜?」

 

熱っぽい瞳を浮かべたヴァネッサは、指揮官の耳元に顔を近づけ、その抗いがたい誘惑を囁いた。それからまもなく、指揮官が頷くことになるのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊おねショタサーガー第9話ー

ショタと女神と耳かきリフレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ……それじゃあダーリン、横向いて〜♫」

 

指揮官は少しだけ顔を赤くしつつ、小さく頷いた。それを見たヴァネッサは温かみのある笑顔を浮かべ、自分の膝を枕にしている指揮官の向きを少しだけ変えさせた。

 

その間、べサニーはというと……

「それでは、こちらも準備をしますね」

そう言って、慣れた手つきで部屋のリモコンを操作し、照明の光をうっすらとしたものに変えると、さらに持ってきた鞄の中からアロマキャンドルを取り出し、火を灯した。

 

すぐさま、部屋中に落ち着いた感じのアロマの良い香りが広がった。薄暗い部屋の中、甘い香りを放つキャンドルの灯が妖しく揺らめき……指揮官はまるで、リフレで施術を受ける時のような魅惑的な雰囲気を感じた。

 

「ヴァネッサさん、これをお使いください」

 

「うん、ありがと〜」

 

べサニーは鞄から取り出したそれをヴァネッサへと受け渡し、それから水の入った桶を持つと、部屋のバスルームに向かって歩いて行った。

 

「それじゃあダーリン〜 準備はいい〜?」

 

(……うん)

 

頷き、指揮官が目を閉じると、ゆっくりと何か細い棒のようなものが左耳の中に差し込まれる気配を感じ……まもなく、耳の中でゴソゴソと響き渡るものを感じた。

 

「どう? 痛くない?」

 

(うん、大丈夫……)

 

「そう? それじゃあ、力の入れ方はこれくらいで続けるわね〜」

 

そう言って綿棒を手にしたヴァネッサは、指揮官への耳かきを再開した。綿棒が耳の淵をなぞるように移動すると、綿棒のカサカサとした質感と耳の薄肌が擦れ、先ほどよりも軽やかな音が響いた。

 

左耳を優しく擦られるくすぐったさと、脳裏に反響する耳かき特有の音、そしてヴァネッサの真心のこもった手つきを間近に感じ、指揮官は絶妙な心地よさを感じた。

 

「ふふふ……ダーリン〜 癒されてる?」

 

(ん…………とっても)

 

「そっかぁ……よかったわぁ〜 こうしてダーリンに耳かきしてあげるのは、かなり久しぶりってことになるから〜。本当のこと言うとね、ダーリンのことをちゃんと気持ちよくできるかちょっと心配だったの」

 

(そっか……)

 

リラックスした状態で耳かきを受けつつも、指揮官はヴァネッサの繊細な手つきに力が籠るのを感じた。

 

 

指揮官とヴァネッサ

実は、両者の関係は他の誰よりも古く、実質的に最も長い付き合いとなっていた。ヴァネッサが耳かきの最中に漏らした言葉にもあったように、かつて2人には2人だけの日常があり……目まぐるしく移り変わる日々の中で、多くの絆を育んできた。

 

しかし、そんな日常は唐突に終わりを迎えた。

 

かつて世界を騒がせた『あの事件』

[最重要機密に抵触するため削除済み]

その結果、指揮官はヴァネッサの前からいなくなり、2人は離れ離れの身となってしまった。

 

 

 

 

ーーー私とあったこと、あるでしょ?

 

 

指揮官の脳裏に、彼女と再会した時の記憶が蘇る

 

 

ーーー人違いかしら、ダーリン?

 

 

 

 

 

「ダーリン」

 

ヴァネッサの言葉に、指揮官の意識は現実に引き戻された。思わず、彼女の顔を見たい衝動に駆られるも、耳かきの最中なので顔を動かすことができなかった。

 

「今……何考えてた?」

 

(……よく分かったね)

 

「うふふ……だって私とダーリンの仲だもん」

 

(ちょっと……初めて会った日のことを思い出してね)

 

「そっかぁ……」

 

そこでヴァネッサは小さく息を吐くと共に、指揮官の耳から綿棒をゆっくり引き抜くと、その場で身を屈め、指揮官の耳元に自分の唇を寄せ……

 

「もう……黙って私の前から、いなくならないでね」

 

(大丈夫……ここにいるから……)

 

ヴァネッサの囁きに指揮官がそう返すと、ヴァネッサは小さく微笑み……そして、指揮官の耳に軽く吐息を吹き込んだ。

 

(……!?)

突然の出来事に、指揮官の体がびくりと震える。

 

「ふふふ……カッコつけちゃって〜」

そう言って、指揮官の頬に手を添えた。

 

「どこへ行っても、必ず帰ってきてちょうだいね。私はあの店で、ダーリンの帰りをずっと待ち続けるから……」

 

(…………うん)

 

 

 

それからしばらく、ヴァネッサは耳かきを続けた。

 

 

「それにしても……ダーリン、ちょっと耳の中汚れ過ぎじゃない? 自分ではお手入れしないの〜?」

 

綿棒で指揮官の耳に溜まった汚れをかき出していたヴァネッサは、耳の中を覗き込みながらそう呟いた。

 

(本当はそうするべきなんだろうけど、最近はべサニーがよく耳の掃除をしてくれるから……つい、それに甘えちゃって)

 

指揮官は傭兵業を営むに当たって、これまで商人であるべサニーとは数え切れないほどの取引をしていた。そのうち彼女から「いつもご贔屓にしているから」と耳かきのサービスを提案させるようになり、今では1ヶ月に1度の間隔で耳かきのサービスを受けるまでになっていた。

 

そのため、耳かきをするべサニーの手つきは回数を重ねるほどに上達していき、今では指揮官が心地よいと思える箇所を的確に、適度な力加減で奉仕できるまでになっていた。

 

「ああ、だからあの子にたくさん耳かきして貰えるよう、たくさん溜めてたってことね〜?」

 

(ま、まあ……)

 

「じゃあ、今日私がここに来なかったら〜 ダーリンの耳はべサニーさんのものになる予定だったってこと?」

 

(それは……)

 

「ふふ……冗談よ〜」

 

2人がそんな会話をしていると、ちょうどバスルームからべサニーが姿を現した。桶を両手に抱えているが、先程のものとは違い、桶の中からうっすらと温かな湯気が立ち上っている。

 

「お待たせいたしました。ヴァネッサさん、どうぞ」

 

「ありがと、べサニーさん」

 

べサニーは桶を再び棚の上に置くと、保湿用オイルが入った瓶を取り出し、ヴァネッサへと差し出した。

瓶を受け取ったヴァネッサは、チャプチャプと瓶を数回振った後、蓋を開けてオイルを掌に浸すと、指揮官の左耳をマッサージし始めた。

 

オイルのヌルヌルとした質感が耳を伝い、指揮官の脳裏に快感をもたらした。桶の温水で程よく暖められたことで指揮官の肌に抵抗なく馴染み、そしてヴァネッサのマッサージの腕も相まって、指揮官は極上の心地よさを感じた。

 

一通りマッサージし終えると、ヴァネッサはべサニーから温かいタオルを受け取ると、耳の表面に残ったオイルを拭き取った後……仕上げとばかりに、指揮官の左耳に優しく吐息を吹き込んだ。

 

「ふふふ〜 お疲れ様、ダーリン♫」

 

そう言ってヴァネッサは指揮官の肩を支え、優しく抱き起こした。右耳は? そう思っていた指揮官だったが、すぐさまヴァネッサの意図に気づくこととなった。

 

「それじゃあべサニーさん、ダーリンの右耳をお願いね〜」

 

「え……? わ、私がですか?」

 

ヴァネッサから綿棒の入ったケースを差し出され、べサニーは少しだけ驚いたような表情を浮かべた。

 

「でも、今日はヴァネッサさんのお手伝いということでここに来たのですが……」

 

「いいからいいから〜 さあ、ここに座ってね」

 

ヴァネッサはべサニーをベッドの上に手招きして座らせた後、オイルで濡れた手でベッドを汚してしまわないように気をつけながら、入れ替わりでベッドから降り立った。

 

「それじゃあ、私はちょっと手を洗ってくるから〜」

 

「あ、それでしたら桶の水で……」

 

「いいのいいの。

それじゃあ〜 しばらくの間、2人で仲良くね〜」

 

べサニーは桶の温水で手を洗うことをすすめるも、ヴァネッサはそう言ってバスルームの方へと歩いて行った。

 

「……気を遣わせちゃったみたいですね」

 

ヴァネッサの心遣いに感謝するようにして、べサニーはブロンドの後ろ姿をしばらく見送った。その後、ベッドの上で態勢を変え、自らの膝に指揮官を誘った。

 

誘われるがまま、指揮官はべサニーの膝を枕にするようにしてベットの上に横になり、右耳が上に来るように寝転がった。

 

「それでは、耳かきを始めさせていただきますね」

 

(うん、お願いね)

 

べサニーはケースから綿棒を取り出すと、丸くなった先端を慣れた手つきで指揮官の右耳へ差し込み、ゆっくと耳掃除を始めた。

 

カリカリ……とした音が指揮官の耳に響き渡った。耳の中で綿棒が細かく擦れる音と質感、そしてべサニーの優しい手つきに、指揮官は心の底から癒されるものを感じた。

 

「よいしょ……よいしょ……」

 

(……ふぅ)

 

べサニーは熱心な調子で耳の溝をゴソゴソとした。綿棒の先端がいたずらっぽく敏感な部分に触れ、指揮官は思わず体の奥底から息が漏れるのを抑えられなくなった。

 

「指揮官様、どうですか?」

 

(うん、とっても気持ちいいよ……)

 

「ふふ……はい、ではこんな感じで続けますね」

 

 

 

それからしばらく、べサニーは耳かきを続けた。

 

 

 

「ところで指揮官様、先程はヴァネッサさんに耳かきをされつつ、楽しそうにお喋りをなされていましたよね? 何をお話になられていたので?」

 

(ん……ちょっと、昔話を少しね……)

 

「昔話……ですか? そういえば、指揮官様とヴァネッサさんって……」

 

(うん、それなりに長い付き合いになるかな……)

 

指揮官はヴァネッサとのやり取りを思い出し、小さく微笑んだ。

 

「前々から思ってはいたのですが、指揮官様はかなり広めな交友関係をお持ちなのですね……女王陛下ともお知り合いのようですし、他国の方々とも」

 

(まあ、昔は手広くいろいろやっていたからね。そうしていると、自然とたくさんの人たちにお近づきになれる機会があったから)

 

「あと、女性がやたら多いような気もします」

 

(ま、まあ、いろいろやってたから…………)

 

「ふふ……そうですか」

 

べサニーの微笑みに、指揮官は少しだけヒヤリとするものを感じた。耳かき中なので顔は見えないが、耳掃除をする彼女の手つきがうっすらと攻めたような調子に変わったからだった。

 

「指揮官様って、ヴァネッサさんと同じくらい『謎の多い人』ですよね?」

 

(ん……そうかな?)

 

「ええ。ヴァネッサさんも、自身の過去についてあまり語りたがらない人ですし……そういう意味では、貴方も同じかなって思いまして」

 

(秘密にしているってわけじゃないけど……)

 

「でも、語ってはくれませんよね」

 

(ん……まあ、そうだね)

 

最も、自分の過去なんて話しても楽しくなるようなものではないので、話すつもりはないが……指揮官がそう思っていると

 

「ヴァネッサさんはよく、秘密が多い女は魅力的と語ってはいますが……貴方が語ろうとしてくれない貴方の過去が、私と貴方を隔てている壁になっているような気がして……ちょっぴり、寂しいような気持ちになったりします」

 

(べサニー……)

 

思わず、声をかけようとした指揮官だったが、べサニーは指揮官の唇に人差し指を当て、やんわりと止めた。

 

「指揮官様……」

 

そう言ってべサニーは身を屈め、指揮官の耳元に唇を近づけた。

 

「ヴァネッサさんや女王陛下に嫉妬するつもりはありませんが……それでもやはり、貴方が他の女性と一緒にいるところを見てしまうと、心の中にモヤモヤとしたものを感じてしまうんです……」

 

熱のこもった吐息と共に囁かれたその言葉に、指揮官は心の高鳴りを感じた。

 

「どうしてだと……思います?」

 

(…………)

 

指揮官がどう答えたものか迷っていると……

ふと、べサニーは小さな微笑みと共に顔を上げ、指揮官の唇から人差し指を離した。

 

「ふふ……貴方があんまりにも秘密の多い魅力的な殿方だったので、ちょっとだけ……いじわるしたい気分になっちゃいました」

 

べサニーはお茶目な感じでそう告げると、指揮官の頬を愛おしげに撫で上げ……ヴァネッサがやったように耳の中に優しく吐息を吹きかけた。

 

「ただ、私の気持ちを……ほんの少しでもいいから分かってくれると、その……嬉しいです……」

 

至近距離で囁かれたその言葉に、顔は見えないが、べサニーの顔は今頃真っ赤に染まっているのだろう……指揮官には、容易にそれを想像することができた。

 

「ふふふ……2人とも、たくさんお話出来たかしら?」

 

べサニーが姿勢を正したちょうどその時、ヴァネッサがバスルームから姿を現した。あまりにもタイミングが良すぎる展開に、指揮官は彼女がこっそり会話を聞いていたんじゃないかと、一瞬だけ疑った。

 

「はい、お陰様で」

 

べサニーはオイルの入った瓶を取り出し、中の液体を手に取ると、先程と同じように指揮官の耳をマッサージし始めた。

 

それが終わると温かいタオルで余ったオイルを拭き取り、仕上げにとばかりに吐息を吹きかけ……これで、指揮官に対する2人の奉仕は終了という運びになった。

 

「指揮官様、どうでしたか?」

 

(ありがとう! とっても気持ちよかったよ!)

 

「ふふっ……それは何よりです」

 

(ヴァネッサも、ありがと)

 

「うーん……」

 

お互いに大満足といった感じで向かい合った指揮官とべサニーだったが、それを見ていたヴァネッサは何やら考えるようなそぶりを見せ……

 

「ねぇ、べサニーさん」

 

「はい、何でしょう?」

 

「まさかとは思うけど、これで終わりじゃないよね〜?」

 

「え……?」

 

ヴァネッサが浮かべた色っぽい挑発的な視線に、べサニーは何のことだか分からず、戸惑った表情を浮かべた。

 

「とぼけなくてもいいのよ〜? いつも、2人が耳かきの最後にやっているところ……私にも見せて欲しいな〜」

 

「ですが、耳かきは…………っ!?」

 

そこで思い当たる節があったのか、べサニーはハッとした表情を浮かべると……それから指揮官のことをチラチラと見やった。

 

(えっと……もしかして…………アレのこと?)

 

耳かきの終わりにべサニーが必ずしてくれる『アレ』の存在を思い出し、2人だけの秘密だったそれを何故ヴァネッサが知っているのか疑問に思った指揮官だったが……最初にされてからというもの、癖になってしまったこともあり、今回もやって欲しいということを正直にべサニーに伝えることにした。

 

「〜〜〜〜〜ッ」

 

指揮官が希望を伝えると、べサニーは爆発してしまうんじゃないかと思うくらい顔を真っ赤にして、声にならない声を上げた。

 

「ほ〜ら、ダーリン……して欲しいって顔してるわよ?」

 

ヴァネッサはベッドの上に腰掛け、期待に胸を膨らませて待っている指揮官のことを示しつつ、べサニーへと語りかけた。

 

「ですが……見られながらするのは……」

 

「私のことは気にしないでいいから、やってみて〜?」

 

「うぅ……」

べサニーは指揮官のことをジッと見つめた。

 

(嫌なら、別にいいんだけど……)

 

「い……いえ、嫌だなんてそんなことはありません! 決して! むしろ……私の方がしたいくらいで……そ、そうですよね…………ちゃんと、最後まで……やり遂げないとですよね……」

 

べサニーは小さく息を吐き、それから指揮官の右側へ移動すると……その豊満な胸の谷間を指揮官の右腕に押し付け、体を密着させると、頭の反対側に両腕を回して固定し……

 

「それでは……し、しますね?」

 

(……うん)

 

「ん…………ちゅ……」

 

べサニーの唇が、指揮官の右耳に触れた。

控えめで、それでいて甘酸っぱいリップ音が指揮官の心を激しく揺さぶった。

 

吸い付くような耳へのキスが数回続いた後……

 

「ん……はぁ…………はむぅ…………」

 

べサニーは舌を出し、綺麗になったばかりの指揮官の耳に舌を這わせ始めた。チロチロと這い回る彼女の舌はヴァネッサに見られていることもあってまだ遠慮がちで、刺激は少なかったものの……それが初々しいものを感じられるという逆効果を生み出し、指揮官は初めて彼女から耳舐めをされた時のような興奮を覚えた。

 

やがて、彼女の方も吹っ切れてきたのか……べサニーは徐々に耳舐めを激しいものへと変化させていった。

 

べサニーの舌が耳の奥底へと侵入する。

耳かきの時とは比べものにならないほどのゾクゾクが指揮官の背筋に走り、耳の中に響き渡る水音は頭頂部まで響き渡り、息継ぎのための吐息ですら、指揮官の耳を痺れさせた。

 

「はぁ……はぁ……指揮官様のお顔…………ふにゃふにゃになってて…………はぁ……とっても、お可愛らしいですよ……」

 

(そういうべサニーだって、蕩けた顔してる……)

 

「ふふっ……指揮官からは顔、見えない筈なのに……どうして分かるんでしょう……? んっ……」

 

耳舐めをする合間を練って、べサニーは囁く

 

「ねぇ、指揮官様……」

 

(な、何……?)

 

「私……耳舐めをするために、今……貴方の顔をとても近くで見ているのですが……今の貴方は本当に幼くて、初々しい姿をしていますよね……」

 

(う、うん……)

 

「それで……目の前にいるこの子を見ていると……つい、思っちゃうんです。私も……いつかこの子みたいな可愛い子を産みたいな……いえ、産んであげたいなって……」

 

(そ、それって…………うっ!?)

 

「はむはむ……」

 

指揮官は彼女の真意を尋ねようとするも、その瞬間……べサニーは指揮官の耳を甘噛みし始め、突然の刺激に言葉を失った。

 

「へぇ〜〜〜、最近の若い子って進んでるのね〜」

 

すぐ近くで2人のそんな光景を目の当たりにしていたヴァネッサだったが、経験豊富な彼女にとっても目の前で繰り広げられる耳舐めの光景は刺激が強すぎたのか、頬を赤らめ、両手で口を押さえていた。

 

「ちゅ…………はぁ、はぁ……よければ、ヴァネッサさんもどうですか? 今なら左側が空いてますよ……んっ……」

 

「そうねぇ〜 それじゃあ、遠慮なく〜〜〜♫」

 

(……!?)

 

突然、左耳に走った刺激に指揮官は体を震わせた。ただでさえ右側だけで精一杯だというのに、それが両側からともなると、到底耐えられるものではなかった。

 

しかし、そんな指揮官の想いを知ってか知らずか、ヴァネッサは複数回キスを落とし……熱い吐息を吹きかけると共に、指揮官の耳へ舌を這わせ始めた。

 

(はうぅ…………ふ……2人とも! まって!)

 

少しだけ呂律の回らなくなった口調で、指揮官は叫び声をあげた。

 

(こ、これ以上はダメ! お、おかしくなっち……)

 

「はぁ…………ヴァネッサさん、指揮官様は耳の奥の方が敏感みたいで……んぅ……その辺りを重点的に舐めてあげると……はぁ…………とっても喜んでくれるんですよ…………んっ……」

 

「ちゅ……耳の奥ね〜 それじゃあ…………えい!」

 

(二穴は……ッッッ!? ふああああああ…………)

 

 

 

 

 

それからしばらくの間、幼い指揮官は2人の女神に両耳を攻められ続けましたとさ

 

 

 

 

 

次回、最終回

衝撃の事実が明かされる……!

そして、指揮官の運命やいかに




【お断り】
今回、2人のやっていた耳舐めは、ASMRを用いた音声作品では定番ネタで、あのVtuberでありアイサガのパイロットの1人であるユメノシオリの得意技でもあります。

なので、読んでいて「えぇ……」となった指揮官様は一度ユメノシオリのASMR生放送を見にいって貰ってですね、耳舐めの気持ちよさを感じて貰った上で改めて本作をお読みになって下さい。(あの人、ほんと上手い)

それでは、また……


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第10話:おねショタサーガ

お帰りなさい、指揮官様!

おねショタサーガ、ここに堂々完結なのです!
やりましたよクランクニー……!
じゃなくて、依頼主様!
私……じゃない、ムジナは見事、貴方の依頼を完遂させることが出来たのです。ねぇ、返事をしてください……依頼主様……依頼主様っっっ!?(失踪してるっぽい?)

まあまあまあ……
それでは、最後の甘々なひと時?をどうぞ……


機動戦隊おねショタサーガー

第10話:おねショタサーガ

 

 

 

21時32分

基地内アナウンス

 

 

 

おーい、指揮官ー

いつまで司令部を留守にしてる気?

そろそろ出撃していた部隊が戻ってくる頃だから、いい加減、司令部に顔出しなよ。

 

今、指揮官がどういう状況なのかは大体察しているけど、そんなのあたしには関係ないことだから。

 

それより、あたしはもう疲れたの!

感謝してよね! 指揮官がどこにもいないから、今日一日、あたしが指揮官の仕事を代わりにやってあげたんだから!

 

はぁ、だからさぁ……指揮官、これ聞いてたら……いや、もういいや聞いてても聞いていなくてもどっちでもいいや。あたしはもう部屋に戻って寝たいから、帰還してくる部隊の出迎えくらい自分でやってよね!

 

3分間だけ待つから

というわけで早く来てよね、それじゃあ

 

 

 

司令部に待機していた少女の声が、全館放送によるアナウンスを通じて基地全域に響き渡った。声色と口調からして、発信者はシェロンであると思われる。

 

それから数分後……

 

 

 

「だから……ここに指揮官はいないってば!」

 

シェロンは司令部のメインエントランスに集まったパイロットを含む、数十名の女性スタッフたちを前に、げんなりとした表情を浮かべていた。

 

彼女らは皆、アナウンスで呼び出しがかかったことにより、指揮官が司令部に顔を出すと予想したのだろう。

司令部に押しかけてきた者たちの大半が、薬の作用で小さくなってしまった指揮官をお目当てにしていた。

 

「確かに指揮官のことを呼び出したけど、結局来なかったから帰ろうとしているのが見えない? あーもうッ、だからいないものはいないの!」

 

業務を終え、自分の部屋に帰ろうとしていたシェロンだったが、メインエントランスに集まったスタッフたちに阻まれ、とても帰れる雰囲気ではなかった。

 

一刻も早く帰りたかったシェロンは、疲労と猛烈なめんどくささを感じつつ、スタッフ達に対して必死に説得を続けた。しかし、スタッフたちはまるで聞く耳を持たず、一向に解散する気配はなかった。

 

「そうだ、ここに指揮官様はいらっしゃらない! そして貴方達に神聖なる司令部への立ち入りは許可されていない、今すぐお下がりになって!」

 

シェロンの隣でブリテン出身の騎士・イーディスも集団に対して引くように促すも、まるで効果はなかった。

 

司令室へと続くゲート前には規制線が張られ、壁になるようにしてイーディスを始めとする薬の効果に暴露していないスタッフたちが立ち塞がり、ひしめき合うようにしている女性スタッフたちを押し留めている。

 

「……なんでこうなんの?」

シェロンの瞳は、死んだ魚の目のようになっていた。

 

「まじでめんどくさ……はぁ、もういいよ。あんたらが指揮官のことをどう思ってるとか、指揮官のことをどうしたいだとかあたしには全く関係ないし、興味ないね。あたしは何がなんでも寝るから」

 

開き直ったシェロンは、そう言って逆に司令室の中へと踵を返した。

 

「んじゃ、後よろしく〜」

 

「なんで私がこんなこと……」

 

エントランスからシェロンが去り、残されたイーディスとスタッフたちは、押し寄せる女性スタッフたちを前に絶望するしかなかった。

 

 

 

……数分後

司令室

 

 

 

「ふわぁ〜、眠っ……」

 

帰宅を諦め、司令室へと戻ってきたシェロンは、我が物顔で指揮官専用の多機能シートへと腰を下ろした。背もたれを倒して眠りの姿勢になると、部屋が薄暗いのをいいことに、そのまま眠りにつこうと目を閉じる……

 

「で、どうすんの?」

 

部屋の隅に人の気配を感じたシェロンは、目をつぶったままその人物へと問いかけた。

 

(……さあ?)

 

「さあって……無責任すぎない?」

 

部屋の中、すぐ近くから聞こえてきた声にため息を吐き、シェロンはうっすらと目を開けた。そして前列の席で、監視用のレーダーモニターを真っ直ぐに見つめる小さな人影へと視線を向けた。

 

(だって、この状態がいつ治るか分からないし)

 

シェロンが薬の効果を受けてしまわないよう、指揮官は彼女に背を向けたまま会話を続ける。

 

「もう、何とかしてよ。指揮官でしょ?」

 

(や、そう言われても……というか関係なくない?)

 

「大アリだっての。ほら……指揮官が持っている幅広い交友関係をフルに活用して、色々と元に戻る方法を考えてよ。全く……早く元の指揮官に戻ってよね。じゃないと、このあたしが困るから……」

 

シェロンはそう言って盛大なため息を吐いた。

そんな彼女の様子をチラリと見て、指揮官は思わず苦笑いをこぼした。

 

「言っとくけど、このままずっと指揮官の代わりを務めることなんて、あたしには出来ないしヤだかんね? ましてや尻拭いなんて絶対やらないから」

 

(そうだね。今日一日、本当にありがと)

 

そうして「今度、ご飯奢ってあげる。ついでにジュース付きで」と持ちかけた指揮官だったが、それを聞いたシェロンは微妙な表情を浮かべた。

 

「もう……そう言えばあたしが何でも言うことを聞いてくれると思って……あ、でもジュースはありがたくもらうかんね、もち1番良いやつで!」

 

(はは……了解)

 

なんだかんだ言いつつも、さり気なく条件を突きつけてくる強かな彼女に、指揮官は微笑みを送った。

 

「ねぇ、1つ聞いていい?」

 

今にも眠りかねない姿勢になっているシェロンだったが、一向に眠る気配はなく……それどころか、目をパッチリと見開いてそんな事を聞いてきた。

 

(何かな?)

 

「指揮官はさ、なんでみんなから逃げるの?」

 

(なんでって、それは……みんなが薬の影響を受けてしまわないようにって)

 

「や、それは分かるよ。でもさ、男ってこういうの嬉しいんじゃないの? あたしが読んでるラノベでもよくハーレムっていう言葉が使われてるくらいだし、沢山の女の人に迫られることって指揮官的には嬉しくないの?」

 

(…………それは)

 

「あ、もしかして指揮官って……大人の女性よりも、そっちの方に興味があったり?」

 

指揮官が答えようとする前に、シェロンは納得したような顔をしてポンと手をついた。

 

(……いや、違うよ。確かに龍馬君とかは可愛いと思ったことはあるけど、それくらいで……)

 

「違う違う、ロリの方。指揮官ってロリコン?」

 

(もっと違うから。人を何だと……ゴホン)

指揮官は小さく息を吐き、そして言葉を続けた。

 

 

(ハーレム云々はさておき、自分も1人の男だから……正直、みんなが好意を寄せてくれるのは素直に嬉しいし、いつか誰かとそういう関係になりたいとは思っているよ)

 

「じゃあ、何で逃げるのさ?」

 

(それは、みんなこうして言い寄って来てくれてはいるけど……でも、それはあくまでも薬の影響によるものであって、彼女たちの本心じゃないから。そういうのに流されて、なし崩し的に彼女たちと関係を持ってしまうのはあんまり良くないと思う……それが自分にとって大切な仲間だったら尚更のこと)

 

……それに、自分は彼女たちのことを守ってあげる『指揮官』という立場にいる。だからこそ、不用意に彼女たちのことを傷つけるような真似は出来ない……指揮官は自身の言葉にそう付け足した。

 

(ここで欲望に流されて、みんなとそういう関係になるのは簡単かもしれない……だけど、それじゃダメ。お酒で酔わせて正常な判断力を失わせた後、行為に及ぶのが犯罪になるのと同じでさ……薬なんかに頼らず、やっぱりこういうのはちゃんと合意を得た上で、筋を通してこそのことだし)

 

「ふぅん……」

黙って指揮官の言葉に耳を傾けていたシェロンだったが、そこで小さく声を漏らした。

 

(意気地なしだって思った?)

 

「いや、指揮官も指揮官なりにちゃんと考えてんだねって……ちょっと見直したかも」

 

(失礼だなぁ……ははは)

 

そこで静かに笑い合った2人だったが、ふと……指揮官の瞳に真剣そうな色が映り込んだ。そんな指揮官の気持ちを感じ取り、シェロンも笑みを引っ込めさせた。

 

(それにさ……例え添い遂げたとして、いざ家庭を持つとなると、それを温める時間と場所が必要になってくるし……でも傭兵として活動している以上、家族にその機会を十分に与えてあげられるとは到底思えないから)

 

「…………」

 

(まだ、自分にはやるべきことがある……そう思うと、恋人が欲しいだとか、家庭を持ちたいとか……まだそういう気にはなれなくて、だから逃げているのかも)

 

「…………そっか」

 

指揮官の言葉に頷きを示したシェロンだったが、そこで何やら考えるような素ぶりを見せた後……

 

「それじゃあ、今度から指揮官のことアニキって呼ばせてよ? 」

 

(え? 突然どうしたの?)

シェロンの発した突然の提案に、指揮官は疑問符を浮かべた。

 

「そのまんま、指揮官が私のアニキになるってこと。普段は色ボケして、事あるごとに仕事を怠ける人だけど、やる時にはやるあたしの自慢のアニキ……みたいな?」

 

(別にいいけど……それだとシェロンは妹ってことになるけどいいの? 普段はぐーたらで、ゲームばかりしている子だけど、やる時にはやる自慢の妹……みたいな)

 

お返しとばかりに指揮官がそう提案してみると、シェロンは「うへぇ」と、微妙そうな表情を浮かべ、シートの上に体育座りになりながら指揮官を見下ろした。

 

「妹ぉ……? 指揮官の……? えぇ、やだぁ……」

 

(そっちから言っておきながら、その反応はないでしょ……)

 

「あはっ……冗談だよ〜、冗談〜♫」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女に、指揮官は肩をすくめることしか出来なかった。

 

というか、今の縮んだ自分に対してアニキと呼ぶのはどうなのだろか? むしろ弟と呼ぶ方がしっくり来るような……指揮官がそんなことを考えていると、何やらシェロンが小さく頷いた。

 

「でも、いいかもね……それ。指揮官といると楽しいし、落ち着くし、たまにゲームで一緒に遊んでくれるし、趣味も合う。あのさぁ、本当にアニキになってあたしのこと一生養ってよ」

 

(えぇ……アニキって呼ぶのは構わないんだけど、それとこれとは話が違うような……)

 

「どうせ今のところ指揮官にとってそういう人はいないんでしょ? だったらアニキとして、あたしのこと一生養え〜」

 

(いや、そんなことは……)

 

「え? じゃあ誰かいるの? アニキの好きな人」

シェロンは意外そうな顔をして指揮官のことを見つめた。

 

(いや、みんなのことが好きだけど?)

 

「いや、そっちじゃなくて……ラブの方」

 

(ああ……さあ? どうだろ)

 

「折角だから聞かせてよ。もし……仮にだよ? 指揮官が付き合って恋人になりたいって思うとしたら、アニキは誰を選ぶの?」

 

挑発的なシェロンの問いかけ。指揮官は思わず心の中で何人かの女性の姿を思い浮かべかけるも、咄嗟に頭を振って自分を誤魔化すことにした。

 

(……だから……自分にはまだやるべきことがあって)

 

「それが終わった後の話ってこと。どうせここにはあたしたち以外には誰もいないんだし、素直に言っちゃいなよ。大丈夫……あたし、どうせいつも引きこもってるし、指揮官の好きな人のことをゲロッちゃうほど仲良い人なんて、指揮官の他にいないから」

 

(そう言われても……っていうか、眠たいんじゃなかったの?)

 

「んー、指揮官と話してたら目が冴えちゃった感じ?」

 

(気にしないで、眠ってていいよ?)

 

「もー……またそうやって誤魔化そうとする……」

 

思わず天井を仰ぎ見たシェロンだったが、

「あ……」

そこで、何かに気づいたかのように声を発した。

 

(シェロン、どうしたの?)

 

「スイッチ……切り忘れてた」

 

(え……?)

 

多機能シートの手元に設置されたタッチパネルを操作するシェロンを見て、指揮官はとてつもなく嫌な気配を感じた。次の瞬間、どこからともなくブツンという、何かが切断されるような音が響き渡った。

 

(ねぇ、シェロン……)

 

「んー? 何ー?」

 

(…………スイッチって、何の……?)

 

「え、ああ。放送のスイッチだけど?」

 

(……ッ!?)

 

シェロンの言葉に、指揮官は驚愕した。

先程、シェロンは指揮官のことを司令部へ呼び出すために全館放送を行なっていた。

そして、それが正しく切られていなかったということは、つまり2人のプライベートな会話が放送によって、基地全体に筒抜けになってしまっていたということを表していた。

 

そして、それが意味することは即ち……

 

「まー、大丈夫じゃない? マイクから離れているから指揮官の声はあんまり入ってなかったと思うよ?」

 

(いや、問題はそれだけじゃなくて……)

 

自分の発言に何か問題はなかったかと振り返りながら、指揮官が別の懸念を抱いた……ちょうどその時だった。

 

(…………ッッッ!?)

 

どこからともなく、猛烈な地響きが響き渡った瞬間……司令室の扉が勢いよく開かれ、そこから多数の女性スタッフたちが姿を現した。

 

先ほどの放送を聞いていたのだろう、指揮官を探すべく扉をぶち破って現れた彼女たちの動きには、一切の迷いがなかった。

 

「あー、やっぱり指揮官いた!」

 

そのうちの1人が、モニターの前に座る指揮官の姿を見つけると、それに連動するようにして、その場にいた全員の視線が集中した。

 

(ひっ……!?)

 

美味しそうな匂いを発する獲物を前にした肉食獣の如く、目を爛々と輝かせた彼女たちのプレッシャーに押され、指揮官は短い悲鳴を発した。

 

何とかこの場から逃れようと、指揮官は裏口の方へ目をやるも……次の瞬間、固く施錠されていた筈の扉がもの凄い力で蹴り破られ、さらに複数の女性スタッフたちが司令室に姿を現した。

 

「こ……これが指揮官? なんて可愛らしい……」

 

「ハァ……ハァ…………興奮を抑えられないわ〜」

 

「キャー、可愛いー! 抱っこしたい〜!」

 

たちまち、司令室が人の群れで埋め尽くされてしまう。戸惑う指揮官を前に、女性スタッフたちは口々に黄色い歓声を放った。

 

「うわっ……すごい熱量だねー」

 

当初驚きはしていたものの、時間が経つにつれて状況を理解したのか、シェロンはさも他人事かのように指揮官の席に寝そべり、高みの見物を決め込もうとしていた。

 

(な、なんで……こんなに沢山……?)

 

司令室を埋め尽くすかの如く集結した女性スタッフたちに、指揮官は疑問符を浮かべた。人前にはなるべく姿を現さず、薬の効果に暴露してしまうのを極力抑えていた筈の指揮官だったが……司令室に集まった彼女たちは、明らかに昼間見られてしまった人の数を大きく上回っていた。

 

(あんまり見られないようにしてたのに……)

 

「んー……ねこですみたいに、影響を受けている人から指揮官の状態を伝聞して、ある程度理解しただけでも暴露しちゃう的な? ってか、魅了の域を超えて認識災害……もといミーム汚染だよねこれ」

 

そんな話をしている間にも、スタッフたちはジリジリと指揮官めがけて前後から距離を詰め始めた。

 

(シェロン、た……助けて)

 

「やだ。疲れた。というか眠いから無理」

 

(さっきまで目が冴えたって言ってた人が何を……)

 

「あーあー聞こえなーい。アニキー、頑張って〜」

 

(う、裏切り者……)

どうやってもシェロンが何もしてくれないことを悟った指揮官は、冷や汗をかきつつ女性スタッフたちを見やった。

 

 

「指揮官ー、私たち、放送聞きましたー」

 

「まだこんなに小さいのに、先のことを考えて偉いですね〜」

 

「でも、心配はいらないですよ! 薬の効果を受けていたとしても、指揮官さんのことは好いているので!」

 

「ねえねぇ指揮官様! 指揮官様の思い人って誰なんですか!?」

 

「そうです! それを聞かないと……私、夜も眠れなくなりそうです」

 

 

シェロンとの会話は完璧に聞かれてしまっていたようで……スタッフたちは皆、息を荒くした状態でそれぞれの感想を述べ始めた。

 

(えっと……み、みんな落ち着いて……)

 

「はぁ……はぁ……もう我慢できない、抱くわ!」

 

「は? あたしが先に抱っこしてあげるんだから」

 

「いいえ、指揮官君と先に致すのは私よ!」

 

指揮官が見ている前で、スタッフたちは誰が先に小さな指揮官のことを独占できるかについて話し合いを始めた。

 

「だったら! 最初に指揮官さんを抱きしめた人が勝ちってことでどう!」

 

「へぇ……それ、いいわね」

 

「分かりやすくていいわね……それじゃあ」

 

スタッフたちの視線が、一斉に指揮官に向いた。

(ちょっ……待……)

慌ててスタッフたちに制止を呼びかけた指揮官だったが、その言葉は目を光らせたスタッフたちに届くはずも無く……次の瞬間、女性スタッフたちは指揮官へと飛びかかった。

 

(や、やめ…………うわぁ!?)

 

しかし、その時だった。

スタッフたちの手が指揮官の柔肌に触れようとした瞬間……轟音と共に、巨大な黒いマニピュレーターが壁を突き破って司令室の中に出現した。

 

あまりにも突然の出来事に、指揮官はおろか周りにいた女性スタッフたちも驚愕し、思わず動きを止めた。

その間に、巨大な手は指揮官の身柄を確保すると、壁の中へと消え……そのまま外の世界へと指揮官を連れ去った。

 

(え……え……?)

 

黒い手の中で訳も分からず指揮官が困惑していると、指揮官のことを優しく包み込んでいた指がゆっくりと開き、やがてその正体が明らかになった。

 

(あ、アガレス……?)

 

それはソロモン製の人型機アガレスだった。

黒い装甲と高機動ウィング、そして右手に保持した長射程のライフルが特徴的な機体だった。

そして……そのパイロットは

 

(もしかして、アマンダ?)

 

「正解よ〜」

 

指揮官の言葉に、アガレスのコックピットから妖艶な女性……アマンダが姿を現した。彼女は指揮官に向かって手を振ると、優しげな微笑みを浮かべた。

 

(助けてくれたの?)

 

「そうよぉ〜、あのままだったら流石の指揮官くんでも耐えられそうにないって思ったから〜」

 

(そ、そっか……ありがと)

 

「別にお礼なんていいのよ〜。お礼は、後で体で支払ってくれるだけでいいから〜」

 

(『だけ』って何!?)

 

アマンダもアリスと同類であったことを思い出し、ここまで来てもいつも通りなアマンダを前に、指揮官はため息を吐いた。

 

「それにしても、今の指揮官……とっても可愛いわぁ。流石の私でもぉ、まさかこんな風になるとは思ってなかったわ〜想像以上よ〜」

 

(そうだよね、本当に…………ん?)

 

その時、指揮官はアマンダの言葉に引っかかるものを感じた。彼女の言い方は、まるで薬の効果をあらかじめ知っていたかのようなものだった。

 

(あのさ……アマンダ、1ついい?)

 

「なぁに?」

 

(もしかして、部屋に薬を置いたのって……)

 

「おほほほほ、私よ〜」

 

(…………えぇ?)

 

アマンダの口から語られたまさかの事実に、指揮官は深く脱力するものを感じた。

 

(はぁ…………理由を聞いてもいい?)

 

「いいわよ〜。それは遡ること300年前……」

 

(あ、長くなるならいいです)

 

「もう、つれないわねぇ……短くするからぁ」

 

目からハイライトの消えた指揮官を見て、アマンダは渋々といった様子で、指揮官の机に薬を置いた理由の説明を始めた。

 

 

アマンダの説明を要約すると、こうだった。

仲間たちから『色欲の化身』と評されるほどの魔性の魅力の持ち主であるアマンダ。その淫魔的な体質のせいで不用意に男が近寄ろうものなら一瞬にして彼女の虜になってしまい、その能力を用いて彼女が骨抜きにしてきた男の数は計り知れなかった。

 

そして、それは指揮官と知り合ってからも変わらなかった。これまでと同じように、男である指揮官を魅了しようとありとあらゆる手を使って誘惑を仕掛けたアマンダだったが……しかし、何故か全くと言っていいほど指揮官が自分になびかなかったのを見て、彼女は愕然とするものを感じていた。

 

ホモのベカスや玉無しオーシンとは違い、異性に対して明らかに興味を持っているはずの男性を落とすことが出来なかったのは、指揮官が初めてだった。

 

指揮官を落とせないことは、彼女にとって『色欲の化身』の名折れでもあった。なので、アマンダは指揮官をメロメロにすることを目標にして、日々、指揮官を落とすための研究を続けてきた。

 

そして、彼女が行き着いたのが『性転換薬』で有名なオスカー製薬だった。同年代や年上の男を落とすよりも、穢れを知らない無垢な子どもを落とすことの方が得意で、何よりも趣を感じるタイプであるアマンダは、オスカー製薬で『性転換薬』の副産物として誕生したとある薬品の存在を知り、研究所から勝手に持ち出したのだと言う。

 

 

(じゃあ、その薬品っていうのが……)

 

「そうそう、指揮官の机に置いたやつよ〜」

 

全く悪びれもせずケラケラと笑ったアマンダだったが「というわけで」……そう言って彼女は、そこで何を思ったか、突然服を脱ぎ始めた。

 

(ッッッ!? な、何を……!?)

 

何の脈絡もなく脱ぎ出したアマンダに、指揮官は顔を真っ赤にして慌てた。アガレスのコックピットから上半身だけ身を乗り出した状態ではあるものの……言うまでもなく、ここは野外である。

 

指揮官は何とかしてアマンダが脱ぐのを止めようともがくも、しかし、アガレスのマニピュレーターにがっしりと掴まれてしまっていてはどうすることも出来なかった。

 

「ウフフ……指揮官のいやらしい視線、感じるわぁ」

 

やがて、アマンダは一糸纏わぬ姿になった。

暗闇の中、月光を受けて青白く輝くアマンダの肌は幻想的でとても美しく、それでいて何とも言えない魅力があった。

 

「指揮官の指揮官をいっぱい[削除済み]で[削除済み]って〜、[削除済み]して〜、それが終わったら下の[削除済み]で指揮官を[削除済み]が[削除済み]になるまで[削除済み]ってあげる〜」

 

(いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!)

 

ぷるん……

そんな音が聞こえてきそうなほど、豊満なバストをダイナミックに震わせ、アマンダは指揮官のことを手招きした。

すると、その動きに合わせてアガレスの腕が動き、指揮官のことをコックピットへと引き寄せ始めた。

 

(た、助けて……誰か……)

 

助けを求めて下を見た指揮官だったが、いつのまにかアガレスは空中へと飛翔しており、真下の基地が小さく見えるほどだった。

最早……誰も手出し出来ない状況である。

 

「ウフフ……夢にまで見た指揮官との野外[削除済み]……しかも、夜空には満点の星々とムードは完璧…………こんなロマンチックな場所で指揮官と出来るだなんて……はぁぁぁあん、想像しただけでもイッちゃいそうよ〜」

 

(…………ッッッ)

 

今まさに、指揮官の貞操が奪われようとした……

まさに、その時だった。

 

「…………え?」

 

(うわっ!?)

 

突如、アガレスの上空から一条のビームが飛来した。

アガレスの高機動ウィングを狙ったその一撃は、機体の周囲に展開されたFSフィールドによって無力化されるも、指揮官とアマンダを引き離すことには成功した。

 

「な、なに……!?」

 

「でえええええええい!!!!」

 

困惑しつつも、アマンダは右手に保持していたライフルを上空に照準した。しかし、アマンダに捕捉されるよりも早く、美しい黄金の輝きを放つ人型機が月の光を背にアガレスへと肉薄……指揮官を拘束していたアガレスの左腕めがけてブレードの刃を叩き込んだ。

 

「ウァサゴG!? まさか……!?」

 

「指揮官を、離しなさあああああああい!!!」

 

少女の力強い叫びと共に、黄金の人型機の放った斬撃が、アガレスの左腕を切り落とした。

 

(うわぁ!?)

 

指揮官の体はアガレスの腕もろとも落下を始めた。

このままでは、地面に叩きつけられてしまう

 

「指揮官殿ッ!」

 

その時だった。

基地の格納庫から、緋色の閃光を伴って1機の黒い人型機が発進したかと思った瞬間、それは驚異的な跳躍力を発揮し、落下を続ける指揮官のことを空中で優しく受け止めた。

 

「指揮官殿! 怪我はないか……!?」

 

(うん……大丈夫)

 

「よかった……今、降ろしてやるからな」

 

無事、地上に降り立った指揮官は、助けてくれたお礼を言うべく、目の前に佇む黒い人型機……カグヤを見上げた。

 

(朧、ありがと)

 

「これくらいお安い御用だ」

 

「ちょっと! 私のことも忘れないでよね!」

 

見つめ合う2人の元へ、ウァサゴGがゆっくりと降り立った。そのコックピットからは、青い髪の毛の少女が身を乗り出していた。

 

(セラスティアも、ありがと)

 

「ふふん、それでいいのよ♫」

 

指揮官がお礼を述べると、セラスティアは満更でもなさそうな笑みを浮かべた。因みに、彼女は1年前のクリスマスでの一件以来、それまで指揮官の専用機であったウァサゴGを勝手に私物化していたりする。

 

「チッ……邪魔を……」

一方、あと一歩で指揮官を落とすという目標を達成するところで、あっさりと指揮官を奪われてしまったアマンダは、悪態を吐いて2人の敵を見下ろしていた。

 

「話は全て聞かせてもらった……指揮官を誑かそうとする雌狐め」

 

「そんなの、私たちがいる限り許さないんだから!」

 

指揮官の優しさに触れ、指揮官のことを護ると誓った朧とセラスティアは、それぞれ武器を構え、上空をホバリングするアガレスを油断なく見据えた。

 

「私と指揮官の蜜月を邪魔しないで貰えるかしらぁ?」

 

「諦めろ、たった1機で何が出来る?」

 

「それはどうかしらぁ?」

 

「何……!?」

 

その瞬間、自分に向けられる殺気を感じ取った朧は反射的に刀を振った。今まさにカグヤに直撃しようとしていたミサイルが空中で全て叩き落とされ、無力化される。

 

「あらら、惜しい……」

 

「流石は剣聖さん、一筋縄ではいきませんね」

 

朧がミサイルの弾道を辿ると、そこには2機の極東共和国製BMの姿があった。巨闕改と竜胆改、近距離と遠距離のオールマイティなコンビ

 

(その声……黛に臙脂?)

 

「ふふっ……正解よ〜」

 

「声を聞いただけで分かるなんて、流石ですね!」

 

巨闕改に搭乗する黛と、竜胆改に搭乗する臙脂は

、そう言って手を振り、遠くの方にいる指揮官へとアピールした。

 

(なんでこんなこと……)

 

「おほほほほ……妨害が入るのは予想済み。だから予め、邪魔者を排除して指揮官を独占する為に、あの姉妹とは協力関係を築いていたのよねぇ」

 

指揮官の抱いた疑問に、アマンダが答える。

 

「まあ、協力関係って言っても一時的なものだけど」

 

「はい。そこの2人を倒した後は、改めて誰が指揮官を独占するか雌雄を決するつもりです」

 

アマンダの言葉に姉妹が補足を入れると……

そこへ、新たな乱入者が現れた。

 

「まあ、敵は少ない方がいいって言うしね〜」

格納庫の方からゆっくりと姿を現した青いバルキリーが、姉妹と協力するかのように朧とセラスティアを囲むべく位置取った。

 

(バルキリー……アリスまで!?)

 

「まあ、可愛い男の子を独り占めできる機会があって言うんだったら、そりゃあ参加するよね〜。それが指揮官だったら、尚更ね」

 

エンジンドリルを轟かせ、アリスは戦闘態勢を取った。

 

「ウフフ……これで戦力は4対2、形勢逆転ね」

 

「あはっ……それはどうかしら!」

 

嘲笑を浮かべるアマンダに、セラスティアは余裕の表情で天高く指差した。すると……月の光に照らされ、ウァサゴGと同様に美しい黄金の輝きを放つその機体が徐々に降下してくるのが見えた。

 

(アルテミス……!? まさかヴァネッサ……?)

 

「たまには私にも、ダーリンのこと護らせてよね〜?」

 

金色の光を放つその機体、アルテミスに搭乗したブロンドの女性……ヴァネッサは、地上に降り立つと同時に指揮官へと振り返り、優しく微笑みかけた。

 

 

 

セラスティア「協力関係を築いていたのは、そっちだけじゃないのよ!」

 

アマンダ「それでも、戦力はこっちの方が上よ」

 

朧「ならば教えてやろう……戦いは数ではないということを」

 

黛「ふぅん、その余裕……いつまで保つかしら?」

 

臙脂「ふふふ……現役を退いた身ではあるけど、まだまだ若い子には負けないってことを証明してみせるわね?」

 

アリス「他の奴らをぶっ倒して、指揮官とイチャイチャするのはこのあたしだよ〜!」

 

ヴァネッサ「ふふっ……そう上手くいくかしら〜?」

 

そして、戦いの火蓋が切って落とされた。

小さな指揮官を巡って、7人の美女たちは一斉に動き、砲火を交え、剣と拳を交錯させた。

 

 

ーーー

 

 

「アンタみたいなオバさん、指揮官に似合わないわ!」

 

「誰がオバさんですって!? この生娘が……!」

 

上空ではセラスティアの乗るウァサゴGとアマンダの乗るアガレスが激しいドッグファイト……いや、キャットファイトを繰り広げている。

 

しばらくの空中で間撃ち合っていた2人だったが、双方ともFSフィールドを展開していたことで、砲撃戦が無意味だと判断すると、お互いにブレードを装備して接近戦へと移行した。

 

「き、生娘で悪かったわね! 年増のくせに……!」

 

「言ったわね! 大人しく死になさい!」

 

 

ーーー

 

 

「面倒だ、2人まとめてかかって来い!」

 

「へぇ……舐められたものね。それじゃあ、姉さん!」

 

「うふふ……姉妹の力を、見せてあげるわ!」

 

カグヤに搭乗した朧が挑発を仕掛けると、姉妹は息の合った連携攻撃を繰り出し始めた。巨闕改に乗る黛は、極東武帝顔負けの鮮やかで激しい打撃を繰り出し、竜胆改に乗った臙脂の的確な援護射撃は、朧から反撃の機会を奪った。

 

「やるな……!」

 

「そっちこそ!」

 

「ですね!」

 

数的に不利ではあるものの、機体性能やパイロットの技量的に言えば朧の圧勝で終わるかと思われた3人の戦いは、意外なことに硬直状態が続いていた。

 

 

ーーー

 

 

「くっ……」

 

「うふふっ……遅い遅い〜」

 

意外な戦闘が繰り広げられているのはアリスとヴァネッサの方でも同じだった。世界最大級の傭兵社G.O.E.の看板娘であり、エリートでもあるアリスだったが、ヴァネッサの操るアルテミスを前に押され気味になっていた。

 

「なんなんだお前、正規パイロットでもないくせに……ただの喫茶店のマダムなのに、なんでこんなにBMの操縦が上手いんだ……?」

 

「それは……ひ・み・つ〜♫」

 

ヴァネッサはふわっとした笑みを浮かべ、アルテミスの両腕に装備されたブレードを振り下ろした。絶え間ないヴァネッサの斬撃に、アリスはエンジンドリルで耐え凌ぐことしか出来なかった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

(い、一体どうすれば……)

 

目の前で繰り広げられる3つの攻防戦を前に、指揮官がどうしていいか分からずオロオロしていると、そこへ数名のスタッフたちが駆けつけてきた。

 

「指揮官様、こっちです……!」

 

(あ、みんな……!)

 

そこにはべサニーを筆頭に、イザベラ、エレナ、リンダ、ウィオラ、コンスタンス、そしてイーディス……と、少し前に色々とお世話になった人たちが集結していた。

 

ウィオラ「早く来て、戦闘に巻き込まれるよ」

 

(うん、分かった)

 

ウィオラの言葉に従い、指揮官が彼女たちの元へたどり着くと、すかさずイーディスは反射フィールドを展開し、指揮官が戦闘の余波に巻き込まれないようにした。

べサニーは彼女の後ろに立ち、バックアップの為の小型反射シールドを準備している。

 

エレナ「指揮官殿は……!」

 

リンダ「私たちが、護る……!」

 

さらに、エレナはブラックチェーンを、リンダは魔剣を構え、流れ弾が来ないかを警戒し始めた。

 

コンスタンス「指揮官殿、お手を!」

 

ウィオラ「離さないでね」

 

イザベラ「指揮官様、お怪我は……」

 

コンスタンスとウィオラは指揮官を安全圏まで避難させる為に左右から両手を引き、さらにイザベラが指揮官を治癒する為に、ナノマシンの蝶々を飛ばした。

 

(か、過保護……)

 

まるで大統領を警護するSP達のようだった。

自身の周囲を取り巻く7人の女性たちの行動に、指揮官はありがたいものを感じつつも、どこか複雑な気分になるのだった。

 

コンスタンスとウィオラに連れられるまま、指揮官は安全圏へと避難した。そこから戦場と化した司令部付近へと振り返ると、未だ戦闘は続いていた。

 

(この後どうしよう……)

指揮官がそんなことを考えている時だった。

基地の上空に、3機のプトレマイオスタイプの大型輸送機が飛来してきた。

 

それは戦地に出撃していた部隊だった。

『スカーレット隊(仮)』の異名を持つ精鋭部隊で、ベカス・シャーナムを始めとする複数の名パイロットと、異世界の機体で構成された、まさしく最強の部隊……

 

基地へと帰還した彼らは……早速、基地の異常に気づいたのだろう。無意味な戦闘を繰り広げる女性パイロットたちを鎮圧すべく、プトレマイオス輸送機から、スカーレット隊の面々が次々とBMが降下を始めた。

 

「やれやれ、何やってんだか……」

 

それは儲けにならない事でもいちいち首を突っ込みたがる性格のベカスも同様だった。長大なビームソードを装備したウァサゴAWAKEに搭乗し、輸送機から降下を始め……空中で激しく斬り結んでいたアガレスとウァサゴGを見やった。

 

「オイお前ら、今すぐ戦闘をやめ……」

 

 

 

「「うっさい!!!」」

 

 

 

しかし、ベカスのその性格が今回ばかりは仇となった。

指揮官をめぐる戦いに水を差してしまったことにより、アマンダとセラスティアの顰蹙を買ってしまい……2人の放った砲撃が、ベカスを襲った。

 

ウァサゴGとアガレスが同時に放った高出力のビームは空中で一体化し、より高出力のエネルギー波となった。

 

「なっ!?」

 

ベカスはそれをFSフィールドで無力化しようとするも、合体ビームは予想以上の威力で、FSフィールドをあっさりと貫通……回避する間も無く、そのままウァサゴの装甲を引き裂いた。

 

「……や、やられ千葉ァ!!!」

 

ドカーン

ウァサゴAWAKEは爆発四散した。

 

 

 

(ええ……っ!?)

 

ベカスの乗るウァサゴAWAKEがあっさりと撃墜されてしまったのを目の当たりにして、指揮官は驚きを隠せなかった。

 

(べ、ベカス……どうしてこんな……)

 

「あー……主人公補正がなくなっちゃったんだねぇ」

 

(あ、シェロンいたの?)

 

「うん、ついさっき来たばかり」

 

指揮官が横を見ると、いつのまにか隣にシェロンが立っていた。状況確認を行っているのか、何やらPDA(個人用端末)を操作している。

 

(ベカス、大丈夫かな……)

 

「や、ちゃんと生きてるっぽいよ。端末に表示されてるバイタルは正常みたいだし……上の2人が手加減してたのかも?」

 

(あれで手加減……!?)

指揮官は再び、戦場へと視線を向けた。

 

黛「邪魔よ!」

 

臙脂「うふふ……(指揮官は)あげません!」

 

ベカスに続いて、戦いを止めるべく地上へと降下を始めたスカーレット隊の面々だったが、無防備な降下中を極東出身の姉妹によって狙撃され、次々と撃ち落とされていった。

 

朧「邪魔をするなァ!!!」

 

アリス「ちょっと〜、射線上に出しゃばるから〜」

 

運良く、2人の放った対空砲火をすり抜けて地上へと辿り着いた機体もいたが、それらは朧の作り出した戦闘の余波と、アリスの放った流れ弾に当たって、呆気なく撃墜されてしまった。

 

輸送機オペレーター『スカーレット隊、全滅!』

 

(……嘘ぉ!?)

こうして、複数の名パイロットと異世界の機体を擁する最強のスカーレット隊(仮)は、僅か1分にも満たない時間の間に全滅してしまうのだった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

しかし、スカーレット隊の面々が次々と撃墜されていく中、実は1人だけ生き残っていた者がいた。

 

「…………」

 

それはテレサだった。

ディアストーカー(略)に搭乗した彼女は、輸送機の下部ハッチから半分だけ身を乗り出し、下方向へ狙撃を仕掛けようとしていたのだが……基地の中を猛スピードで動き回る機体の動きについてこれず、さらに誤射の危険性もあったことから早々に狙撃を諦めていた。

 

代わりに、テレサの興味は別のものに向いていた。

 

テレサはEMPキャノンの照準をずらし、基地司令部から少し離れたところをライフルスコープで覗き込むと……そこには、何故か小さくなってしまった指揮官の姿があり……

 

「…………」

カシャ……シャシャシャシャシャシャ……

 

コックピット内のモニター上に表示された指揮官の姿を、テレサは無言でスクリーンショットした。しかも、連写である。

 

「…………可愛い」

 

ライフルスコープから顔を離したテレサの表情は、非常に蕩けたものになっていた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

(えっと……じゃあ、みんな無事なんだね?)

 

「うん。今、スカーレット隊全員分のバイタルを確認してるけど……うんうん、みんな余裕で生きてる。凄い生命力だねー」

 

(そっか……ならよかった)

 

撃墜されてしまった全員の無事を確認したところで、指揮官は安堵のため息を吐いた。しかし、問題はこれからだった……

 

指揮官はシェロンからPDAを借りると、撃墜されてしまったパイロットたちの救出を指揮しつつ、輸送機へ着陸を待つよう指示を送り、さらにはケガ人のための病床確保、そして被害の拡大を抑える為に防衛用のBM小隊を司令部周辺に展開させ、非戦闘員を地下シェルターへ退避させるなど、同時並行で基地のスタッフたちに向かって次々と指令を送り始めた。

 

それが一通り終わったところで、今度は未だ激戦を続けるアマンダや朧たちを止めるべく、指揮官が呼びかけを行おうとした時だった……

 

(うっ…………!?)

 

「うえ?! 指揮官どうしたの……?」

 

突然、地面に膝をついた指揮官を見て、シェロンが焦ったような声を上げた。その場にいたべサニーやウィオラたちも慌てて指揮官へと駆け寄った。

 

(か……体が熱い……)

 

「ちょっ……あ、アニキ大丈夫!?」

 

(い、いや……これはもしかして……)

 

体の内側から、血液の流れを通じて焼けるような熱さが全身を駆け巡った。痛みこそないものの、心臓が高鳴る度に、体が何かに対して拒否反応を起こしている時のように、強烈な不快感が押し寄せてくる。

 

指揮官は、この感覚に覚えがあった。

そして、指揮官はそこで意識を失った。

 

(うぅ……)

 

意識が混濁する中で、自分を心配する複数の声を耳にして、指揮官が目を覚ましたのは倒れてから数十秒後のことだった。

 

「あ、指揮官起きた……」

 

(…………ここは)

 

「あ、まだ起きない方が……」

 

(いや、大丈夫)

 

シェロンの言葉を受け流しつつ、指揮官はみんなが見ている前でゆっくりと立ち上がった。そして、いつも通りの視線の高さを感じ取り、ついに確信した。

 

(ふぅ……やっと元の姿に戻れた……)

 

薬の影響で、いつ直るとも知れなかった体の縮小が終わり、無事元の姿に戻ることが出来た指揮官は、そこで安堵のため息を吐いた。

 

(みんな、ありがとう。お陰で元の姿に戻れたよ)

 

みんな「…………」

 

指揮官は笑みを浮かべてそう告げた。

元の姿に戻ったことで、てっきりその場にいた全員が祝ってくれると思っていた指揮官だったが、すぐさまみんなの様子がどこかおかしいことに気づいた。

そのうちの数名は、どことなく視線を逸らしている。

 

「ねぇ、アニキ……」

 

(ん、どうしたのシェロン……そんなに顔を赤くして)

 

「か、隠さないの…………それ」

 

(え? 隠すって何を…………あ)

 

気まずそうな表情で、シェロンは指揮官の体の一部分を指をさした。指揮官がそれを辿ると、そこには……一糸纏わぬ姿となった自分自身がいた。

 

ふと、地面に目をやると……そこには、今まで指揮官が身につけていた洋服の破片が散乱していた。なるほど、突然体が大きくなってしまったことで洋服がはち切れてしまったのか……指揮官がそれに気づいた時には、すでに遅く……

 

(…………ッッッ!!!!)

指揮官は、露わになったそれを慌てて隠した。

 

「指揮官の、お風呂で見た時よりも……立」

 

(言わないで!!!)

 

指揮官のアレを間近で目の当たりにして、思ったことを口にしようとしたリンダを、指揮官は慌てて止めた。

 

イザベラ「…………指揮官様、最低です」

 

イーディス「は……破廉恥な!」

 

イザベラとイーディスはじっとりとした瞳で指揮官のことを見つめた。淑女らしく平静を装ってはいたものの、2人の顔はどこか赤みが増していた。

 

「指揮官にも、私と同じく尻尾が……?」

 

指揮官のそれを尻尾と勘違いしたのだろう、ウィオラは興味深そうな瞳で指揮官が隠したそれをジッと見つめていた。

 

「…………ッッッ!!!」

 

その一方で、べサニーはというと……顔を真っ赤にして瞳の奥にグルグルとしたものを浮かべ、明らかに動揺を隠しきれていない様子だった。

 

(みんな、ごめんね……ほんとに、うわああぁ……)

 

基地の片隅で、指揮官は絶叫した。

また、その様子を上空から見つめていたスカーレット隊の生き残りの1人が、コックピットの中を自らが流した鼻血で汚してしまっていた……というのは、完全に余談である。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

この後……無事に元の姿に戻った指揮官の説得と、基地に帰投した機動部隊アルファ『薔薇騎士団』及び機動部隊ベータ『十字騎士団』の活躍により、基地内で発生した指揮官を巡る暴動は鎮圧され、事態は終息した。

 

被害報告

司令部に甚大な損傷、滑走路上に大穴が開く、帰投したスカーレット隊が全滅するなど、本事案によって基地は甚大な被害を受け、また負傷者多数となった。(なれど死者は0名だった)

 

翌日、基地臨時司令・シェロン立ち会いの下で『風紀・倫理委員会』代表である五十嵐命美によって事態の把握が行われた。その結果、事案発生の張本人であるアマンダと、事態を悪化させた黛以下2名には数週間の営倉行きが言い渡されたものの、指揮官が(自分が迂闊だったのも責任があるから)と、庇い立てを行い、黛、臙脂、アリスの3名は無罪放免という形になった。

 

また、指揮官は本事案の責任を取って3名の代わりに数週間の営倉入りを希望。しかし、基地司令という立場を鑑みて、最終的に2週間の自室謹慎[テレワーク]という形に落ち着いた。

なお、指揮官が謹慎中の間は司令代理としてシェロンが選出されることとなった。

 

「なんでそうなるのさ! もうやだぁ!」

ーーーシェロン司令代理

 

最後に、結果はどうであれアマンダの魔の手から指揮官のことを護り抜くことに尽力した朧、セラスティア、ヴァネッサ、他7名はその功績を称え、後日表彰されることとなった。

 

「司令代理! いくらめんどくさいからと言って、表彰式くらいちゃんとしてください!」

ーーービアンカ(機動部隊アルファ隊員)

 

 

 

最終決定

ソロモンとの関係性を考慮して、事案発生の張本人であるアマンダには2週間の営倉行きを言い渡す。

 

また、SCP-647-ISは女性スタッフたちをそそのかして指揮官の元へ誘導し、事態を悪化させたとしてアマンダと同様に2週間の営倉行きを言い渡す。これは決定事項である。

 

「な、なんでムジナまで……」

ーーーSCP-647-IS

 

なお、本事案に使用された薬品を『SCP-053-IS』として、オスカー製薬立ち会いのもと各種実験を行うことを提案する。

ーーーSCP委員会代表

 

「いいよー」

ーーーシェロン基地司令代理




ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
感想等ありましたらお気軽にコメントをお願いします。(どんな形であれコメントしてくれるとムジナがとっても喜びます……多分、お手柔らかにお願いします)

お話はこれで終わりですが、後日談があります。
そこでは、短めにSCP-053-ISについてのインタビュー記録と補遺が語られることとなりますので、もう少々お待ちくださいませ。

それでは、次の話ですが……
最近暑いですよね。そんなわけで、指揮官がみんなと無人島?に行ってバカンスする話を書きたいと思っています。ですが、そこでまた一悶着ありまして……って感じなのです。

乞うご期待を!
それでは、また……


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おまけ

お帰りなさい! 指揮官様!

というわけで後日談です。
あと関係ないのですが、つい最近実装された崑崙製の黒い飛行機もどき(名前忘れた)を擁護コメントしたらバット評価が高くなったのです。色々と妥協するなってことなのです……?

まあまあまあ……少ないですが
それでは、続きをどうぞ


 

 

 

データーベースのアクセスにはレベル3以上のセキュリティクリアランスが必要です。なお、シェロン司令代理の指示により、指揮官は本データーベースの閲覧を禁じられています。

 

 

 

 

 

クリアランスレベル確認。

ファイル読み込み中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SCP-053-ISについて情報の更新があります。

詳しくは[インタビュー記録:053−IS]を参照ください。

 

 

 

[インタビュー記録:053−IS]

 

以下は、事案発生の張本人であるアマンダを対象としたインタビュー記録の抜粋です。なお、インタビューはインシデント:053−ISの翌日に行われました。

 

インタビュー対象:アマンダ

インタビュワー:五十嵐命美

場所:基地内尋問室(3番)

 

 

 

[文字起こし開始]

 

 

 

命美「全く……こんな大変なことをしでかしたというのに、たった2週間の営倉行きなんて……指揮官も甘いんだから」

 

アマンダ「ん〜、何の話?」

 

命美「薬の副効果についてよ。指揮官からの報告では、あの薬……SCP-053-ISには、女性を魅了する効果があるっていう話よ。これについて、何か知っている情報があれば……」

 

アマンダ「副効果? そんなのないわよ?」

 

命美「え? でも証言によると……」

 

アマンダ「アレはただ体を小さくする薬ってだけで、それ以外に効果はなかったはずよ〜。効果のほどを確かめる為に、指揮官のデスクに置く前にそこら辺にいたオトコを捕まえてテストしてみたけど……特にこれといって何も感じなかったわ」

 

命美「そんなはずは……現に、大勢のスタッフたちが指揮官へ好意を示してたっていうし、証拠だってあるわ。指揮官に対するスタッフたちのセクハラ行為が、監視カメラの映像に残されて……」

 

アマンダ「セクハラねぇ……それっていつものことじゃないの? ここには指揮官狙いの子が沢山いるから〜。私みたいに色仕掛けをするなんてよくあることでしょ?」

 

命美「いやいやいや! だとしても保健体育を実技でとかはあり得ないから!」

 

アマンダ「あら? シラフでも私はやるわよ? 」

 

命美「く、狂ってるわ……」

 

アマンダ「おほほほほ。褒め言葉と受け取っておくわ〜」

 

命美「(頭を抑えながら)まあいいわ……それじゃあ、貴方はSCP-053-ISに女性を魅了する副効果なんてないって言いたいのね?」

 

アマンダ「さっきからそう言ってるじゃない」

 

命美「つまり……指揮官が薬の副効果だって思い込んでいたのは、ある種のプラシーボ効果(思い込み)だったとでも……?」

 

アマンダ「そういうことになるわね〜」

 

命美「女性スタッフたちが熱狂したのは……小さくなった指揮官のことを、ただ単に可愛いがりたかっただけということ?」

 

アマンダ「そうそう〜。やけに過激だったのは……まあアレじゃない? 他の子が指揮官とイチャイチャしているのを見て、その色気に当てられたんじゃないの〜? 私だって指揮官が[データ削除済み]を見ていると子宮が疼いて……」

 

命美「(恥ずかしさを誤魔化すように咳払いをして)と……ということは認識災害もミーム汚染もなかった……?」

 

アマンダ「そんなのあるわけないじゃない」

 

命美「……いえ、まだよ」

 

アマンダ「はぁ……今度は何?」

 

命美「薬の効果に暴露したとされているスタッフたちが、驚異的な戦闘力を発揮していたことよ。非戦闘員のスタッフが司令部の堅固な扉を蹴り破って侵入していたり……何より、強力な機甲で編成され、かつ精鋭揃いだったスカーレット隊を一蹴したあの力……それについての説明がされていないわ!」

 

アマンダ「あー……それねぇ……」

 

命美「いくら機体のランクが同等で、出撃していた分パイロットたちが疲弊していだとは言え、普通ここまで一方的な戦いにはならない筈よ! 貴方とセラスティアさんが展開した合体攻撃だって、事前に打ち合わせしていた訳でもないのにあんな風になるはずがないわ!」

 

アマンダ「うーん、強いて言えば……そうねぇ」

 

命美「何かあるの……?」

 

アマンダ「ほら、昔から恋する乙女は綺麗になるって言うじゃないの。それと同じで、指揮官に対する想いが彼女たちを強くさせたって事なんじゃないの〜? 分かんないけど」

 

命美「えぇ…………そんな非科学的な……」

 

アマンダ「おほほほ……そうよねぇ〜。でも、これに関して他に考えられる原因なんてないでしょ?」

 

命美「はぁ……納得がいかないわ……」

 

アマンダ「指揮官がモテモテなことが〜?」

 

命美「違うわ……これにてインタビューを終了します。お疲れ様でした……」

 

アマンダ「あ、最後にいいかしら?」

 

命美「何かしら?」

 

アマンダ「貴方、この基地に来ることになってから、前よりも美容とか身だしなみとかに気をつかうようになったでしょ?」

 

命美「な……なんでそれを……!?」

 

アマンダ「おほほほほ、分かりやすい子だねぇ。それで、その原因はやっぱり……?」

 

命美「ち……違うわ! そ……そう! インターシップとはいえこうして社会に出ている訳だから、美容や毎日着るものに気を遣うのは当たり前のことで、今の内に社会人として必要最低限のマナーを身につけようと……そう! 私は社会に出る訓練をしているだけであって……決して、少しでも指揮官の気を引きたくってやってる訳じゃ……」

 

 

 

[インタビュー終了]

 

 

 

補遺:

アマンダへのインタビューを受けて、SCP委員会調査部主導の下、オスカー製薬と共同でSCP-053-ISに関する実験が行われました。

指揮官と同年代の成人男性3人を用いて実験が行われましたが、いずれの実験結果においても「女性を魅了する」もしくは「効果を受けた(実験対象を目視した)女性の能力を向上させる」などといった現象は観測されませんでした。

 

この結果から、インシデント:053−ISは指揮官がSCP-053-ISを服用したことにより、複数のプラシーボ効果と集団心理が働いたことによるものであって、体の収縮以外の異常性はなかったと推測されます。

 

指揮官と3人の被験体には数日間の経過観察の後、他の異常性が確認されなかったことが確認され次第、SCP-053-ISのオブジェクトクラスはEuclidからSafeへと再分類が行われます。

 

現在、オスカー製薬によってSCP-053-ISの製造方法の研究がなされています。製造方法が発見され、一般的な流通が開始された場合にはオブジェクトクラスはExplaindに指定されます。

 

 

 

報告は以上です。

 

 

 

 

 

数日後……

 

命美「司令代理……」

 

シェロン「んー……何?」

 

命美「アマンダさんの証言を元に、ウチのSCP委員会がオスカー製薬と共同で残されていたサンプルを使って実験を行いました」

 

シェロン「それで?」

 

命美「白でした。3回に分けて行われたどの実験結果でも……女性を魅了する効果は確認されませんでした。はい、驚異的な能力を発揮するということも同様に……です」

 

シェロン「あ、そう」

 

命美「あの……このことは、指揮官に……」

 

シェロン「あー……言わなくていいよ」

 

命美「何故ですか?」

 

シェロン「だって、チョーシに乗りそうだから」

 

命美「まあ、ですよねー」

 

シェロン「うん。アニキがこれを知って、誰かとくっつくことになったら大変だよ。指揮官には、アニキとして今後もあたしのこと養ってもらうんだから……」

 

命美「えぇ……そっち……?」

 

シェロン「そういうわけで、1つよろしく〜」

 

命美「……ん……まあいっか……ただでさえアレなのに、これ以上、指揮官の色恋沙汰で基地の風紀が乱れるのは困るからね」

 

 

 

 

 

なお、この事件の影響で

指揮官の部屋の扉には最新のセキュリティが導入される(なお、数ヶ月後に破られる模様)。

朧のバストサイズがアップする。

黛の指揮官に対する色仕掛けが悪化する。

セラスティアが睡眠不足になる。

コンスタンスが禁煙を決意する。

ウィオラが指揮官の尻尾について調べ始める。

(上二つが原因で)スロカイの顰蹙を買う。

……など、色々と起きるがそれはまた別のお話

 

 

 

 

 

機動戦隊おねショタサーガ

おわり

 

 




しかし、アレですな。
ダッチーは夏イベ作らないんですかね?

……って、ボヤいている人がワルチャにいたので、今度夏イベ(海イベ?)をムジナの方で作ろうと思うのですが、何かリクエストがあればコメントなりで送ってください。なのです。

例によって登場キャラは水着スキン所持に絞りますが……いかんせん数か多い……これだけのキャラを一度に動かすのはムジナには無理なので、いくつかの陣営に絞りたいと思っています。

それと、オリキャラを1人登場させるつもりなのです。

まあまあまあ……
それでは、また……別の作品でお会いしましょう。


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