鬼滅の刃 鬼滅の鬼武者 (始まりの0)
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プロローグ

鬼滅の刃を読んで思いついた作品です。


 ~深夜~

 

 現代の東京のシンボル、スカイツリー。それが今、異形の姿へと変貌していた。そんな巨塔の前に1人の少年がいた。

 

「はぁ……幻魔め、なんで期末テスト前に出てくるんだよ」

 

 右手に篭手の様な物を着けた学生服の少年がそう呟きながらしゃがんでいる。

 

「文句言うんじゃないよ!」

 

 その後ろに尼僧の格好をした少女が少年を叱りつけた。

 

「《阿倫》ばあちゃん、現代になんで戦えるのが俺だけしかいないんだよ?」

 

 

「こんな若い女にばあちゃんとは何事だよ!? それに戦えるのは《血》と《鬼の篭手》を継いだアンタしかいないんだから仕方ないだろ」

 

 

「いやいや、子孫に年齢偽っても仕方ないでしょ。ジャックさんが戦ってくれりゃいいのに」

 

 

「ジャックは今は鬼の力を失って只の人なんだから無理でしょ!」

 

 

「そうでした……はぁぁぁ」

 

 少年は大きなため息を吐くと、ガチャンガチャンと鉄の音が耳に入ってきた。

 

 少年は音のする方向……変貌したスカイツリーの方向を見た。するとタワーの方向から無数の怪物……幻魔達が現れる。

 

「愚痴ってても仕方ないか。よっと」

 

 少年は立ち上がる何処からか刀を取り出すと、鞘から刀を引き抜いた。

 

「ばあちゃん、結界宜しく。さっさと終わらせる」

 

 

「はいよ、しっかりやりな! 武!」

 

 武と呼ばれた少年は怪物の群れへと斬り込んで行った。

 

「おらっおらっ! 雑魚共! さっさと俺に斬られろ!」

 

 武の刀が大剣や双剣、斧などに変化し幻魔を斬り伏せていく。

 

 斬られた幻魔からは魂の様な物が現れ周囲を漂っている、彼は幻魔の魂を右手の篭手に吸い込み封印した。

 

 ードオォォォンー

 

 何かの爆発音と共にスカイツリーの半分程の大きさの幻魔が現れる。

 

「うっわぁ……マジか。こんなんまでいるのかよ。仕方ねぇ」

 

 篭手が光を放ち、武の身体を黒い光が包み込む。

 

【オォォォォォ!】

 

 そのまま光球と化した武は巨大な幻魔を貫いた。

 

「ふぅ……」

 

 巨大幻魔を倒しその魂を封印すると、スカイツリーの方を見上げる。

 

【おのれ、忌々しい虫けらめ。よくも私の息子を斬ってくれたな】

 

 彼の前に言葉を発する新たな幻魔が現れた。

 

「げっ……このマッドサイエンティストめ。また性懲りも無く出てきやがったな!」

 

 

【五月蝿いぞ、この虫けらめ。何故貴様の様な者が存在している!? この穢れた存在め!】

 

 

「放っておけ! テメェには関係ないだろうが、取り敢えずそこを動くな俺が叩き斬って封印してやる。テメェとも因縁も今日で終わりにしてやる!」

 

 現れた幻魔に刀を向けながらそう言う武。そして彼は駆け出した、目の前の幻魔を斬る為に。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 こうして彼は今も戦っている。人知れず戦い続けている。



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第1話 時を越えて

 ー??? ー

 

 真っ暗な空間に灯りが1つ。何かのモニターの様だ。

 

 カチャカチャと何かの音が響く。

 

「だぁぁぁ! また出ないドロップ率低すぎだろ!」

 

 どうやら暗闇の中の人物はゲームをしている様だ。

 

「ってアンタは昼間からこんな暗い部屋で何してんだい?!」

 

 バーンと扉が開かれ、少女が飛び込んできた。

 

「げっ、阿倫ばあちゃん」

 

 

「武! 高校生にもなってゲーム三昧かい!?」

 

 

「だって幻魔との戦いが一段落してやっと普通の学生らしい事が出来るんだから、別にいいだろ。成績だってそこそこ取ってるし」

 

 

「だったら学生らしく友達と遊ぶなり、恋するなりしたらどうだい? 部屋に籠っているよりいいと思うけど……」

 

 

「友達とは現在、ゲーム内で遊んでるよ。それに何処かの誰さんが俺の都合考えず仕事を取ってくるから……この間も遊びの途中で呼び出されたし、しかもアレ絶対ヤのつく職業の家だろ。一体幾ら取ったんだ?」

 

 と武にジト目で言われると阿倫はすっと視線を反らす。

 

「いやぁ……その……あぁ言う人達は支払いもきっちりしてるし……その」

 

 

「まぁ、多少なり生活費の足しになるならいいけど。それで何か用?」

 

 

「あぁ……ちょっと宝物庫の整理を手伝って欲しくてね」

 

 

「ぁあ……成程」

 

 武は阿倫の言葉に納得のいった様で、ゲームをスリープモードにしてコントローラーを置き立ち上がり着替え始める。

 

「ここここらっ! 女の前でいきなり着替えるじゃないよ!」

 

 

「あのねぇ……阿倫ばあちゃんは俺の先祖でしょ。ばあちゃんは子孫に興奮するわけ?」

 

 

「する訳ないじゃないか! でもねぇ、これでも女なんだよ! 少しは遠慮したらどうだい?!」

 

 

「とは言っても……俺が小さい頃は風呂とかも一緒だった訳だし、今更感がなぁ」

 

 こんなやりとりをしながら武の着替えが終わると、2人はそのまま部屋を出る。そして家の中の厳重に施錠された扉の前に立つ。そして鍵を開けた。その扉の奥には地下へ続く階段があり、2人は下へと降りていくと大きな鬼の装飾がされた門が現れる。

 

 武はその門に触れると、鈍い鉄の音と共に門が開く。門の向こうには光の渦が広がっており、阿倫と武は迷うことなくそこへとはいった。

 

 

 光の渦へと入った2人は真っ直ぐ歩いていき、少しすると薄暗い空間に出る。そこには数多くの機械の様な物や水晶、武具が所狭しと並んでいた。

 

「それにしても不思議なものだよな、この術は。比叡山と家が繋がってるなんて」

 

 

「街中にこんな危険な代物たちを置く訳にもいかないからね」

 

 

「此処の物もどうにかして処分する方法を考えないとな」

 

 

「それが出来れば苦労しないけどねぇ。鬼の一族の遺産だから下手に処分もできないし、中には危険な物もあるからね」

 

 

「どれもこれもあまり使えないしな。使えるのは普段俺が持ってるし……」

 

 と言うと武は腰に着いてる小さい袋に手を当てる。

 

「さて片すか」

 

 そうして2人は掃除と整理を始めた。

 

「おっ……と……と……ふぅ危なかった」

 

 ーガチャン……ゴォォォー

 

 数分して少し片付き始め、阿倫が荷を持ち上げた際によろけて、後ろの機械に当たる。すると何かの作動音がなり始めた。

 

「「……」」

 

 武と阿倫は目を合わせると当たった機械を見る。

 

「阿倫ばあちゃん……これって」

 

 

「多分……試作段階の【時のねじれ装置】かな」

 

 

「作動してるよなこれ……っておぉい! 俺か!?」

 

 武の足元に黒い光が現れ、彼を飲み込み始める。何とかそこから出ようとするものの、全く出れない様だ。

 

「ぬおぉぉぉ……やっぱ無理かぁぁ!」

 

 武はそのまま、その場から消えてしまった。

 

「悪いねぇ、武……これもアンタの為でもあるんだよ」

 

 武が消えた場所を見つめながら阿倫はそう呟いた。

 

 

 

 

 ~??? ~

 

 時のねじれに飲み込まれた武は次の瞬間、森の中にいた。

 

「全く……何処だ此処?」

 

 周りを見渡すが木、木、木ばかりである。

 

「何処か分かんないけど、時間帯は夜か……」

 

 武は木々の間から覗く星空を見て夜だと言うことは分かった。

 

「後の手掛かりは……すんっすんっ、花の匂い?」

 

 何かの花の香りを感じた武は周囲を見回してる。すると少し離れた場所に花があるのを見つけた。

 

「こいつの匂いか……確かこれは【藤の花】だっけか?」

 

 

『うわぁぁぁぁ!』

 

 

「なんだ?」

 

 武は叫び声を聞くと、その方向を向く。

 

「叫び声? 取り敢えず行って見るか」

 

 武は声のした方向に向かい駆け出した。

 

 数十秒走ると、2人の少年の姿が見えた。少年達は刀を持っており、異形の怪物と対峙していた。



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第2話 介入

 ~森の中~

 

(なんだあの怪物は? 幻魔……にしては気配が妙だけど)

 

 武は怪物を見てこれまで対峙してきた者達とは違う事に気付く。

 

(よく分からんが……このままじゃあの子供達が)

 

 怪物がその手を伸ばし1人の少年の胴体と腕を掴み引きちぎろうとしていた。

 

 武は右の拳を握り締めると、彼の手の甲にある【鬼】の文字を崩した様な痣が光始め、光と共に腕に篭手と刀がその手に握られる。

 

 それと同時に武の身体が変化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「怨むなら俺をこんな所にぶちこんだ鱗滝を怨むんだなぁ!」

 

 巨大な体躯に何本もの太い腕がまとわりついた怪物は少年達にそう言う。

 

「逃げろ! 義勇! 此処は俺が引き付ける!」

 

 

「でっでも錆兎!」

 

 

「いいから早くいけ!」

 

 錆兎と呼ばれた頬に大きな傷のある少年はもう1人の少年義勇を怪物……手鬼から逃がそうとしていた。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 錆兎は高く跳躍し迫りくる手鬼の腕をすり抜け刀でその首を斬ろうとしたが、手鬼の頚は硬く刀の方が折れてしまった。この時、錆兎は過ちをおかす。直ぐに回避行動をするべきであったが、刀が折れたことで動揺していた。その隙を突いて、手鬼の腕が伸び錆兎の腕と胴体を掴む。

 

「しまっ……ぐぅ」

 

 

「ひひひっ、お前らのつけてるその面。厄除の面とか言ったか。それは目印だ、鱗滝の弟子だってなぁ。10くらいは喰ったかなぁ。フフフフフフッ、鱗滝が殺したようなもんだ」

 

 

「おっお前!」

 

 

「安心しろよぉ、直ぐに会わせてやるよ。俺の腹の中でなぁ!」

 

 手鬼がその手に力を籠める。このままいけば錆兎は引き千切られるだろう。

 

【オォォォォォ!】

 

 だがそうはならなかった。横からきた何かにより錆兎を掴んでいた手鬼の腕を斬り飛ばす。

 

「なっなんだぁ!?」

 

 そこには錆兎を抱えた【赤い鎧の鬼】が立っていた。【赤い鎧の鬼】は錆兎を下ろすと手鬼に向き直る。

 

「おっ鬼……」

 

 助けられた錆兎もそれを見ていた義勇も驚いた。目の前の鬼は何故自分達を喰わずに助けたのか分からなかったからだ。

 

「なっ何者だ、お前ぇ……あれ?」

 

 手鬼は気付く、自分の視線が段々とズレていくのを。どさっと言う音と共に己の上半身が落ちた。

 

「いっいつの間に……くっ、くそっ、なんだ。身体が再生しない!? なんで!? なんで!?」

 

 手鬼は焦る、傷が全く治らない事に。

 

「なんで同じ鬼にやられて」

 

 ボロボロと己の身体が崩れていくのが感覚で分かる。しかも同じ【鬼】にやられるとは思わなかった。

 

(クソッ、クソッ! なんでこんな……なんだ、こいつ?)

 

 手鬼は自分を斬ったであろう【鬼】を見た。その眼は哀しみに満ちていた。

 

【……】

 

【赤い鎧の鬼】は何も言わず手鬼に篭手を向けた。その篭手が光を放つと手鬼の身体から光の球が現れ、篭手に吸収されていく。

 

(身体の力が抜ける……とても心地いい……あっ)

 

 手鬼の意識が薄れいく中、光の中に1人の子供が現れる。

 

『おそいぞ』

 

 

『兄ちゃん!』

 

 手鬼は異形の姿から小さな子供の姿へと変わり、兄の元へ駆け出す。

 

『兄ちゃん、手ェ握ってくれよ』

 

 

『しょうがねぇなあ。いつまでも怖がりで』

 

 兄弟は手を繋ぎ、光の中へ消えていった。

 

【赤い鎧の鬼】は錆兎と義勇の方を向く。

 

 2人は今度は自分達の番かと思い逃げ出そうとするが、【赤い鎧の鬼】の足元に黒い光の渦が現れ、その場から消えてしまった。

 

「いっ一体なんだったんだ?」

 

 

「分からないけど……助かったのか」

 

 本来の歴史であれば錆兎は此処で手鬼にやられる筈であったが、【赤い鎧の鬼】の介入により、生き残った。

 

 後に錆兎と義勇は共に水柱と呼ばれる様になるのはまた別の話である。




と言う訳で錆兎が生き残りました。


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第3話 蝶と出会う

 はい、どうもおはようございます、それともこんにちは? こんばんわ? 皆さんどうお過ごしかな? 

 

 俺? 俺は現在、星空を見ながら野宿中である。

 

 二人の少年を助けてから、何回か飛ばされたが何とか時のねじれ装置が安定した様で現在に至る。

 

 マジで此処は何処なんだろう? 

 

 これまで見かけた少年少女達は皆若かった。俺の方を見てめっちゃ脅えるし、刀向けてきた。

 

 確かに鬼武者に変身した俺は怖いと思うけど……ぁあも怖がられると心にくるよな。まぁ……平成の時でも何度かあったけど。

 

 言葉と会話からするに多分日本で大正時代だろうけど……転移した先はバラバラだが多分時間軸的には殆ど変わっていないと思う、感覚的にだが。

 

 だが此処は一体何処なんだろう? そしてあの怪物達は何だったんだろう? 確か同じ様な服を着ていた「鬼殺隊」と言う奴等の会話から怪物達は「鬼」と呼ばれている。

 

 多分俺も同じだと思われてるんだろうなぁ……だけど何で奴等を斬ったら魂出てくるんだ? それに篭手で封印も出来るし……幻魔ではない筈だけど……分からないことだらけだ。

 

 時を越えた時の対処法ってどうすればいいのかな? 情報収集しようにもこれまでは変身してたから会話など無理な状況だったしな。

 

 取り敢えず、途中で狩った鳥を焼いたのでそれを食べよう。まずは腹ごしらえだ。

 

 

「もぐっもぐっ……ん、塩と胡椒がきいてる。本当にこう言う時便利だよなぁ、アイテム袋(これ)……ん?」

 

 武はこれからどうするか考えながら食事をしていると、遠くから何かが近付いてくる音が聞こえた。

 

「また鬼か?」

 

 

『ぇぇ……』

 

 

『……ぃ……な……て』

 

 

『ま……い……』

 

 耳を澄ますと聞こえてきたのは2人分の声だった。

 

「あっ」

 

 空から降ってきたの小さな赤子を抱えた鬼と軍服の様な服を着た刀を持った少女だった。

 

「くっ、しつこ……あちっ! あちちっ!」

 

 鬼は居ってきた少女に気をとられており、武の焚き火に足を突っ込んだ。

 

「そりゃ熱いよ」

 

 

「人!? 危ないので逃げて下さい!」

 

 

「くっ! 近付くな! 近付くとこのガキとコイツを殺すぞ!」

 

 やって来た鬼は直ぐに武の後ろに回り込むとその爪を彼に突き付ける。

 

「っ!」

 

 少女は苦い表情をする。

 

「これって……俺、人質に取られてる? 人質取られてる事はあっても人質になる事のは始めてだな」

 

 

「うるせぇ! 黙ってろ!」

 

 

「もぐっもぐっ」

 

 

「なに呑気に飯くってんだよお前!」

 

 武は鬼に人質にされているのに、平然と焼いた鳥を食べていた。

 

「こりゃ、失礼……腹が減っててな。取り敢えず確認なんだが……これって俺、人質になってるよな?」

 

 

「当たり前だろ! この状況分からないの、お前!?」

 

 

「だよね、人質になるの始めてでな。それで赤ん坊はどうするつもりだ?」

 

 

「そりゃ喰うに決まってんだろ、俺は鬼なんだから」

 

 鬼にそう聞くと武は納得した様に首を縦に振り黙る。そして聞こえるのは赤ん坊の鳴き声だけ。

 

「……他にも色々と聞きたい事はあるけど、一先ずはその子を助けるのが先決か」

 

 武はそう言うと、右手に鬼の篭手を装備する。たが鬼からは死角になっており見えていないが、鬼は変わった雰囲気を肌で感じた。

 

「なんかやべぇ!」

 

 鬼は危険を感じ爪で武を切り裂こうとした。鬼を追ってきた少女も直ぐに駆け出そうとするが、到底間に合わない。爪が武に当たる瞬間、視界を光で埋め尽くされる。

 

 

 

「はぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩い光と共に鬼は縦に両断され、その身体が崩れだす。

 

「な……に……が」

 

 鬼は薄れいく意識の中、最後に見たのはいつの間にか後ろに周りこんだ武が刀を振り下ろしている姿だった。

 

 鬼の身体は完全に消滅し無数の魂が周囲に散らばる。抱えられていた赤子は投げ出されるが武が左手で受け止めた。

 

「おっとと……さてと」

 

 武は篭手に意識を集中させ、周囲の魂を篭手に封印した。

 

《とう……あり……と……う……ありがとう》

 

 封印の最中、何処からか声が聞こえた。

 

「ふぅ……分からないことだらけだな」

 

 

「ぁ~う~」

 

 赤子は自らを抱えている武に手を伸ばし笑う。

 

「あなたは……」

 

 

「取り敢えず……はい」

 

 

「えっ? えっ?」

 

 

「この赤子を助けようとしてたんでしょ?」

 

 

「えぇ……そうですけど」

 

 

「なら早く親御さんに届けてあげたほうがいい」

 

 そう言うと武は赤子を少女に渡す。

 

「怪我はないようね……良かったぁ」

 

 少女は赤子を受け取ると、赤子が無傷であることを確認すると安堵した。

 

「えっとあなたにも確認したいことがあるのですけど」

 

 

「そうなるよね。俺も色々聞きたいこともあるし……「あぅ~」まずは母親の所に連れて帰ろうか」

 

 

「そうですね」

 

 無邪気な笑みを浮かべ手を伸ばしてくる赤子を見て、話より先にこの赤子を母親の元に連れて帰ろうと思う武と少女。

 

 

 

 

 武と少女は近くの村まで赤子を届けた。

 

 母親と父親、そして村の者一同が鬼を倒し赤子を助けてくれた事を感謝され、持て成しをしてくれると言うので空腹だった武はそれを受けた。

 

「こんなのも悪くないな……」

 

 

「何か言いました?」

 

 

「いや、何も……取り敢えずは自己紹介か。俺は天宮 武だ」

 

 

「天宮さんですね。私は鬼殺隊の花柱の胡蝶カナエと申します」

 

 

「鬼殺隊……成程、奴等を倒す部隊か。取り敢えず胡蝶さん、俺に説明してくれるか、【鬼】のことや君らのこと。

 

 俺も自分の置かれた状況はある程度、把握しているが……【鬼】と言われる奴等は詳しく知らないから」

 

 カナエはその言葉に驚いた、【鬼】の事を知らないのにその鬼を簡単に斬ったからだ。

 

「分かりました」

 

 武は村長に頼み、人払いをして貰い話を始めるのであった。




と言う訳で主人公はカナエと会いました。


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第4話 勘違い

 鬼殺隊の花柱・胡蝶カナエと出会い数日、話をしながら俺と彼女は彼女の屋敷へと向かっていた。取り敢えず住む場所がなければ動くに動けないからだ。

 

【鬼】……俺の知る【鬼の一族】とは違う存在で、元は人間であり、昔から出現しているらしい。

 

 普通の武器では討つことは不可能な不死性を持ち人を喰らう、弱点は太陽の光だそうだ。他にも藤の花を苦手としており、その鬼を討つのが鬼殺隊だそうだ。彼等は日輪刀と呼ばれる刀を使用しており、それで斬れば回復が困難になるらしい。

 

 ただ、俺の斬った時の様に魂が出たのを見たのは始めてらしい。

 

 正直俺もなんでアイツ等から魂が出るのか分からない。【幻魔】か【鬼の一族】に関わりあるなら分からなくもないんだけどなぁ……あのマッドサイエンティストが関わってない事を祈ろう。

 

 元凶の奴が何の目的か分からんが鬼を増やしてる様だ。

 

 平成の世の中より、文明が発達していない。胡蝶カナエよると現在は大正時代らしい。

 

 これからどうしたものかと考えながら、歩いていると、胡蝶カナエが声をかけてきた。どうやら着いたらしい。

 

「アンタが姉さんに近付く男ね! 姉さんは騙せても私は騙せないわ! このケダモノ!」

 

 と胡蝶カナエに似た少女に刀を突き付けられる。何でこうなったのだろう? 

 

 

 

 

 

 ~少し前~

 

 胡蝶屋敷……胡蝶カナエの屋敷で、現在は彼女の妹……胡蝶しのぶと住んでおり、そして此処は鬼殺隊の療養所となっていた。

 

 しのぶは少しイラついていた。原因は姉であるカナエの帰宅が予定より遅くなっているからである。

 

 緊急事態であれば、鎹鴉(かすがいがらす)と呼ばれる人語を理解し、話す鴉から連絡がある筈で、それがないので少し安堵するしのぶ。

 

(姉さんが弱い鬼にやられることはないだろうけど……美人で、誰にでも優しいとくれば勘違いする下衆な男共にひっかかって……流石の姉さんもそこまでは)

 

 等と考えているしのぶ。すると、鎹鴉が飛んできた。

 

「カァーカァー、しのぶ! カナエカラノ手紙ダ!」

 

 どうやら鎹鴉はカナエからの手紙を持ってきた様だ。

 

「ご苦労様」

 

 しのぶは鎹鴉から手紙を受け取るとそれを開いた。

 

「……はっ?」

 

 しのぶはその手紙を見て唖然とする。手紙を置き、横に置いていたお茶を飲む。そして一度庭に出て深呼吸する。

 

「すぅ~はぁ~……最近忙しかったから疲れているのね」

 

 そう呟くともう一度部屋に戻り、手紙を見た。そこには……

 

 事情のある男の人を連れて帰ると書いていた。

 

 そして、しのぶの中では優しい姉が騙されたり、乱暴されてたりと言う姿が浮かぶ。

 

「姉さんは私が守る!」

 

 これが武とカナエが少し前の事である。

 

 

 

 

 ~現在~

 

「しっしのぶ? どうしたの?」

 

 

「姉さん下がって! 男は皆、ケダモノよ!」

 

 

「なんか物凄く勘違いされているような」

 

 突然の事で驚くカナエと武。

 

「えっとしのぶ、どうしたの?」

 

 

「どうしたの? ……じゃないわよ! いきなりあんな手紙を寄越して!」

 

 

「だっていきなり男の人を連れて帰ってきたら驚くでしょう?」

 

 

「そりゃそうよ! ちょっとアンタ!」

 

 

「はっはい」

 

 

「姉さんをどうやって誑かしたは知らないけど、姉さんにその気はないわ! とっとと去りなさい!」

 

 

「「????」」

 

 武とカナエは互いに顔を見合わせる。そして2人共、頭の中は疑問で一杯である。

 

「ねぇ、しのぶ。何か勘違いしてないかしら?」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「彼とは鬼殺のお仕事で出会ったのよ……それで住む所がなかったから一先ず家でお世話しようと思って連れてきたのだけども」

 

 

「えっ?」

 

 

「えっ?」

 

 しのぶは姉の言葉を聞いて、彼女の頭もまた疑問で埋まった。

 

「えっと……何か行き違いがあったみたいだな。俺と彼女が出会ったのは数日前だ。さっき彼女が言った様に鬼関係で会ったんだ」

 

 

「えっでも……手紙には」

 

 

「取り敢えずその手紙とやらを見せてくれるか?」

 

 武はしのぶからカナエの手紙を受け取った。そして、手紙に目を走らせる。

 

 そこには武との出会いを簡略的に書いており、どういう人物なのか、(子供が)危ない所を助けて貰ったこと等も書いていた。

 

 そして極めつけは「紹介したい男の人がいます」だった。正直これだけみれば、危ない所を助けて貰って、色恋に発展、紹介する為に連れて帰るね……と言う意味に取ってしまう。

 

「これは……胡蝶が悪いな」

 

 

「ぇ!?」

 

 武はじっーとカナエを見た。

 

「姉さん……」

 

 しのぶもまたじっーとカナエを見た。

 

「出会って数日だけど……胡蝶妹は普段から苦労してそうだな」

 

 

「そうなんですよ……姉さんはこんな性格で人を疑う事をあまりしないし、下心がある男共も多くて……ついこの間も……」

 

 と愚痴を言い始めたしのぶ。

 

 そんなこんなもあり、武は蝶屋敷に到着した。

 

 

 

 

 ~産屋敷~

 

 この屋敷で2人の男女が向きい合っていた。

 

「あまね……間違いないんだね?」

 

 

「はい。花柱・胡蝶カナエ様の手紙にはそう書かれております」

 

 

「そうか……では直ぐにカナエに彼を連れてくる様に頼んでおくれ。それと柱の皆にも召集を……あまね、私はね、これは兆しだと思っている」

 

 

「兆し?」

 

 

「これまで動かなかった情勢が動き始めた……【義勇】や【錆兎】【実弥】達から聞いた時はまさかと思っていたけど、書物にあった人物と関係ある者ならきっと私達の力になってくれる筈だ」

 

 あまねと呼ばれた女性は、夫であり、鬼殺隊の頭・産屋敷耀哉の言葉を頷いた。



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第5話 しのぶとの一刻

 ~蝶屋敷~

 

 武が胡蝶の屋敷に着いて2日が経った。

 

「ん……くぅ~ふぁ~」

 

 早朝、武は目を覚ますと布団から起きた。武は布団から出ると首や肩を回す。

 

「ふぅ……取り敢えず起きるか」

 

 武は洗濯された自分の服を着て、布団を畳むと襖を開け部屋を出た。そのまま、彼はある場所へと向かう。

 

 それは大きな道場だ。

 

 この蝶屋敷は鬼殺隊の療養所であり、治療を受けた後の機能回復訓練も行っている。

 

「さてと……」

 

 武は準備体操を始めた。

 

「よく体を解しておかないと…………これでよしっ」

 

 準備体操を終えると、何処からともなく刀を取り出す。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 深呼吸すると抜刀の構えを取る。そして凄まじい速度で抜刀を行った。

 

 そのまま、連続で斬撃、突き、斬り払い、時に回避行動や防御の構えを入れつつ、実戦さながらの鍛練を行う。

 

「うおりゃ!」

 

 最後に大きく飛び上がり刀を振り下ろした、そのままゆっくりと刀を鞘に納めた。

 

「すぅ……ふぅ……!」

 

 武は背後に気配を感じ、振り返り際に抜刀した。

 

「ちょ……ちょっと待って下さい! 私です、しのぶです!」

 

 どうやら後ろにいたのは、胴着を着たしのぶだった様だ。刀身はしのぶに当たる前に止まっていた。

 

「なんだ、胡蝶妹……じゃなく、しのぶか」

 

 武は直ぐに刀を下ろし鞘に納めた。

 

「気配を消して背後に近付くな」

 

 

「それはごめんなさい。つい……それにしてもまだ慣れませんか、名前呼び」

 

武は始めの内はカナエとしのぶを胡蝶と胡蝶妹と呼んでいたが、2人が名前で呼ぶ様に言ったので名前で呼ぶことになった。

 

「何か用だったか?」

 

 

「いぇ……随分と熱心に鍛練しているのだなと思いまして」

 

 

「そりゃ……ある程度、動けないとな」

 

 

「ある程度……ですか……」

 

 しのぶはそう聞くと、顔を俯かせる。

 

「?」

 

 

「1つ手合わせ願えませんか?」

 

 

「別に構わんぞ」

 

 武としのぶは手合わせする事になり、互いに向かい合い、一礼すると木刀を構えた。

 

「はぁ!」

 

 先に動いたのはしのぶの方だった。

 

 まずは武の胴を狙った一撃を繰り出すが、武は平然と受け止めた。

 

「ッ!」

 

 しのぶは一度退いて、追撃を繰り出す。武はそれを最小限の動きで回避し続ける。

 

「息が乱れ始めてるぞ」

 

 

「こっこのぉ!」

 

 しのぶは今までの細かな連撃から、少し大振りの一撃に変えて攻撃を始めた。

 

「次は足元が疎かに……剣先がぶれているぞ」

 

 

「っ!」

 

 指摘される度にしのぶの額に青筋が増えていく。

 

「よっ……と」

 

 武はしのぶのほんの少しの隙を突き木刀を弾き飛ばす。

 

「勝負あり」

 

 

「……私の負けですね」

 

 木刀を突き付けられしのぶは負けを認め、その場にへたり込む。

 

「筋はいいが……感情的になると、隙が出来てた。それに大振りになると体幹がぶれてる」

 

 

「それに力がないですか……」

 

 

「自覚はあるのか……」

 

 

「えぇ……今まで鬼の首を斬れた事はありませんから」

 

 武はそれを聞くと疑問に思う、カナエから聞いた話では日輪刀と呼ばれる特殊な鋼で出来た刀で鬼の首を斬る事でしか鬼を倒す事が出来ないと聞いたからだ。

 

「鬼の首の斬れないのに鬼殺隊を続けているのか……と言う顔ですね」

 

 

「気に障ったなら謝ろう」

 

 

「別にいいですよ……慣れてますから」

 

 そう言うと立ち上がり天井を見上げる。

 

「圧倒的に体が小さく筋力が足りない……鍛えても筋力つかないし」

 

 

「まぁ……それに関しては生まれながらの物だしな」

 

 そこである事に気付く。彼女が鬼殺隊に居続ける理由だ、もし自分の考える通りなら気持ちも分からなくないからだ。

 

「鬼に対しての強い憎しみか……」

 

 

「えぇ……私と姉さんの両親は鬼に殺されました。ある日突然、私達の日常は奪われました。それから努力して2人で鬼殺隊になりました。

 

 姉さんは私に鬼殺隊を舐めて普通の女として生きて欲しいと言いますが……でも消えないんです、私の中の憎しみが」

 

 しのぶはそう言いながら胸の辺り強く握り締め、苦虫を噛み潰した様な表情をする。

 

 その様なしのぶを見て己の過去を思い出した。

 

 かつて自分もそうだったからだ、武もある事情から幼い頃に幻魔に両親を殺された。そして当時は幻魔に対する憎しみから血反吐を吐く様な修行の末、力を手にした。

 

「そう言えば……しのぶは医学に精通しているんだったな。胡蝶……カナエが自慢気に話していた」

 

 

「姉さんたら……えぇ、それがどうしましたか?」

 

 

「ならそちらの方で戦いをすればいい。人には向き不向きがあるからな、医学は薬も作れるが転用すれば毒にもなる」

 

 

「鬼に効く毒ですか……確かに私は藤の花から毒を作る研究をしています、けどあまり芳しくありません」

 

 しのぶはどうやら毒の研究をしていたらしい。

 

「ならこれがあればもっと進むだろう」

 

 武はそう言うと、腰の巾着袋を取るとその中に手を入れ中から色々な物を取り出した。

 

 顕微鏡、ピンセット、遠心器などテレビで出てきそうな研究に必要な機材がしのぶの前に並べられた。しかもどれもこの時代にはない未来の物だ。

 

「何処から出したんですか……っ! これ凄い! こんなの何処で手に入れたんですか?!」

 

 

「まぁこの時代の物じゃないからあまり大っぴらに出せないけどな」

 

 

「確かに……どれもこれも今の時代では出来ない物ばかり……未来から来たと言うのは嘘じゃなかったんですね」

 

 どうやらカナエとしのぶには時代を越えた事を言っていたらしい。

 

「アレ? ……信じてなかったのね。普通の反応だと思うけどな」

 

 目の前の未来の研究機材を見て目を輝かせているしのぶ。

 

「ん? ……天宮 忠志?」

 

 しのぶは機材に書いてる名前を見つけた。

 

「ぁあ……これは全部父さんのだからな。形見だが俺は使わないし、お前の役に立ててくれ」

 

 

「形見って」

 

 

「俺もお前らと同じさ。ある日突然、怪物共に日常を奪われた……気持ちも分からんでもないのさ。だから俺は協力するよ」

 

 

「……どうして……どうしてですか? 本来であれば貴方には関係ない事なのに」

 

 

「まぁ……そうなんだけどな。でも」

 

 武は天井を見上げると鬼の篭手を出現させる。

 

「助ける力があるのに助けなくて後悔したくないからね」

 

 そう言った武の目は何処か悲しそうだった。

 

 

 



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第6話 産屋敷 前編

 ー私、天宮 武は現在鬼殺隊のトップのいるデカイ産屋敷に来ています。

 

 カナエと共に隠と呼ばれる者達におぶられて此所にやって来た。目隠しで……何でも場所が分からない様にする為らしい。

 

 広い庭で待っていると何やらデカイ坊主の格好をした男、やたらと派手なのを主張する男など、濃い奴等が集まってきたー

 

「あ゛なんだお前ぇ」

 

 白髪の傷だらけの男が俺に絡んできた。

 

「ちょっと不死川(しなずがわ)君」

 

 

「胡蝶ぉ……コイツは誰だぁ?」

 

 

「この人はお館様のお客さんよ」

 

 

「な゛にぃ?」

 

 何やら白髪が此方を睨んできている。他の者達もカナエの言葉で此方に注目している。

 

 ー周りの視線が気にならないのか? こう言う状況は今までに何度かあったので問題ないー

 

「「お館様のおなりです」」

 

 と声が聞こえた、そちらを見てみると日本人形の様な少女達が並んでいた。そして奥から美人な女性に手を引かれ1人の男がやってくる。

 

 横を見てみるとカナエを始めとする全員が膝を突き、頭を下げている。

 

「ごめんね、待たせてしまったね」

 

 男は穏やかな声でそう言うと笑みを浮かべる。

 

「以前の柱会議から時が経たずにで呼び出してしまって申し訳ない。柱が誰も欠けずに揃ってくれて嬉しいよ」

 

 

「お館様におかれましても御壮健で何よりです……益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

 

 並ぶ者達の中の1人がそう言った。そして男は武に目を向ける

 

「始めましてお客人。私は産屋敷耀哉……この産屋敷の当主であり、彼等柱を始めとする鬼殺隊を支援する者だ」

 

 

「これはどうも御丁寧に……俺は天宮武と言う。色々とあって今はカナエの所に世話になっている者だ。状況から見るに俺の事を知っている様だな」

 

 ギロッとカナエを覗く柱達から睨まれる。

 

「……それで俺に何か?」

 

 柱達の視線を流しながら耀哉の方を真っ直ぐ見た。

 

 肩くらいまでの髪、整った顔立ちをしている。だが一番始めに目につくのは顔の上が爛れており、左目が白濁としていた。それでいて彼から感じるのは穏やかな気配だった。

 

(顔の爛れに眼球の白濁……見えてはないだろう。本人から感じる気は穏やかでいて慈愛に溢れている。カナエや他の連中の態度、余程の信があると見た。だが体を蝕むこの黒いのは……呪いか?)

 

 と武は耀哉を見て思った事を整理しながら、信用にたる人物であることを直感で理解した。

 

「カナエから君の事は聞いているよ。何でも呼吸や日輪刀を用いず不思議な力で鬼を倒したと……そして君はこの時代の者ではなく未来から来た存在だと」

 

 それを聞いた柱達は騒ぎだす。未来から来たと言うのは置いておいて日輪刀を使わず鬼を倒すのは困難であると彼等が良く知っているからだ。

 

「へぇ……よく信じたな」

 

 

「カナエからの報告もあるし……それに私の一族に伝わる書にある事が書いてあったんだ。

 

 戦国の世……彼の信長を始めとする多くの戦国大名が活躍した時代に不思議な篭手を持った侍が異形の怪物を倒していたと。

 

 私も始めは鬼の事かと思っていたけど……当時の当主達の書を見返して見ると違っていた。その異形達は日中も活動していたとある。そして当時の当主の1人がその侍らしき者に会っていてね。

 

 当時は少し戦も落ち着いていたらしく……その者は侍ではなく法師の姿をしており不思議な形をした篭手を持ち、1人の少女を連れていたとあった。彼等は鬼に襲われた当主を倒したそうだ」

 

 武はそこまで聞くと目を細める。耀哉の言う人物に心当たりがあったからだ。

 

「南光坊天海」

 

 

「そう……その法師はそう名乗ったとらしい」

 

 武の言葉に耀哉はそう答える。それを聞いた武は頭を押さえながら天を仰ぐ。

 

「成程ねぇ……と言う事は今回俺がこの時代に来たのは偶然ではなく、必然と言う事か」

 

 

「君はその法師の事を知っているのかな?」

 

 

「知ってるも何も……俺の先祖だからな」

 

 それを聞いた周りの者達は騒ぎ出す。

 

「篭手を見せて貰ってもいいかい?」

 

 耀哉がそう言うと武は素直に鬼の篭手を呼び出した。

 

「ぁあ……書記に書いてあった篭手にそっくりだね」

 

 耀哉は鬼の篭手を見て笑みを浮かべる。

 

 だが柱達の反応は違った。

 

「その篭手は?!」

 

 

「あの時の!」

 

 

「テメェ゛あん時の鬼かぁ゛!」

 

 

「それは!?」

 

 特に反応したのは水柱の冨岡義勇、錆兎、風柱の不死川実弥、炎柱の煉獄槇寿郎だった。

 

「実弥、少し落ち着いて……彼は人だよ。少なくとも太陽の下で生きている時点で私達の知る鬼とはかけ離れているからね」

 

 

「しっしかしお館様!」

 

 

「それに少なくとも義勇と錆兎、実弥は彼に助けられているだろう?」

 

 耀哉は実弥にそう言うと、彼は刀を抜刀しようとした手を止める。

 

「確かにお館様の言うとおりだ、不死川。俺と義勇は最終選別の時に……お前は下弦討伐時、粂野匡近と共に謎の鬼に助けられたと聞く。正体が分からない上、怪しくはあるがまずは感謝すべきだと思うぞ」

 

 

「俺もそう思う……」

 

 実弥にそう言った錆兎と義勇。実弥は耀哉の前とも言う事もあり、大人しく手をひき、その場に膝をついた。

 

「武……だったね。実弥がごめんね」

 

 

「別に気にしていない。俺がいた時代でも良くあった事だしな。取り敢えず……アンタと話すのが優先事項か」

 

 武と産屋敷一族とは奇妙な縁で繋がっていた様だ。

 

 

 

後編へ続く



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第7話 産屋敷 後編

 武は話しあいの途中、天候が悪くなってきたので、屋敷の中に通され、再び話し合いが始まった。

 

 広間に武の前に耀哉、その後ろに耀哉の妻あまね、子供達、そして柱が座っていた。

 

 まずは【鬼】の事、それに【鬼】の始祖【鬼舞辻無惨(きぶつじ むざん)】についてだ。

 

 鬼の始祖【鬼舞辻無惨】は唯一、鬼を生み出せる存在であり、未だにその姿を現していないと言う。

 

「そして鬼舞辻無惨は我が一族の汚点だ……鬼舞辻無惨は我が一族の出でね。

 

 それ以来、一族は呪われている。神職の家系から妻を貰って、それでも30まで生きれた者はいない」

 

 

「成程……道理でな。アンタとそこの子供達を覆うのは呪いと言う訳か」

 

 

「?」

 

 

「俺は先祖の血の影響か、そう言うものがよく見えるのさ。俺の目にはアンタとそこの子供達を覆う黒い靄が見える。

 

 特にアンタとそこの黒髪の坊っちゃんが顕著に出てる」

 

 耀哉と周りの者達は驚いた。何故なら耀哉の後ろに並ぶ耀哉の奥方とその子供達は皆、女の子の格好をしていた。なのに武は一度見ただけで黒髪の子供が男だと見抜いたからだ。

 

「さてと……【鬼】の始祖に、【鬼】、鬼殺隊、産屋敷、柱……加えて大爺さんが関わっていたとは……はぁ、阿倫ばあちゃんも分かってやったのか……と言う事は幻魔関係になるのか? なら斬った後の魂については説明がつく……でもなぁ、幻魔蟲でもないし……」

 

 武はブツブツと言いながら頭の整理を始める。

 

 考え始めて数分、武はカッ! と目を開く。

 

「………………分からん!」

 

 溜めるに溜めて出たのがこれである。皆、その場に転んだのは言うまでもない。

 

「【鬼】が何か、何で封印出来るか分からんが…………俺をこの時代に導いたなら此処で戦えということか」

 

 武は鬼の篭手を見ながらそう呟いた。

 

「武、私には君がどの様な力を持っているのか、どの様な人生を歩んで来たのかへ分からない。

 

 でも、君はその力で多くの私の子供達を助けてくれた。

 

 遅くなってしまったが、本当にありがとう」

 

 耀哉は武に頭を下げた。その後ろにいた耀哉の家族もだ。

 

「別に大した事はしてない」

 

 

「それでもだよ……君にとっては大した事ではないことかも知れないけど、私の子供達の命を救い、多くの未来を守ってくれた。どうか、これからもその力を貸して貰えないかな?」

 

 

「まぁ……元の時代に戻るまでだからな。出来るだけの事はしよう」

 

 そう言うと、武は立ち上がると刀を引き抜いた。

 

 それを見た柱達は武に向かい刀を抜こうとするが、耀哉が止めた。

 

「取り敢えず……組織の頭が潰れたら困るだろうから、先に片付けておくか」

 

 そう言った瞬間、武は耀哉に対し刀を振り下ろした。

 

 その瞬間、バキッと何かが砕ける音が鳴り響く。

 

 全員がその音と彼の行動に対して驚くが、武は続き鬼の篭手を耀哉に向けた。

 

 鬼の篭手の先端が光り出す。すると耀哉の身体から黒い靄の様な物が現れ、篭手に吸収されていく。

 

 靄が完全に吸収されると、武は刀を鞘に納め、篭手の方の手を耀哉の頭に翳すと、淡い光が灯る。光が収まるとその場を離れ座った。

 

「ふぅ……呪いを断ち斬るのは久しいな。仕事ではあまりなかったしな、上手くいってなによりだ」

 

 

「一体なにが……呪いを断ち斬った?」

 

 

「かっ耀哉様!?」

 

 

「「「「父上!?」」」

 

 近くにいた妻のあまねと子供達が耀哉を見て驚いた。何故なら爛れていた顔が元に戻っていたからだ。

 

 あまねは鏡を持ってきて、耀哉に見せた。本人も顔が治っていることに驚いている。

 

「ぁ~疲れた。残りは子供達の方か……取り敢えず影響はまだ少なそうだな、後で御守り作って様子見って所かな」

 

 

「これは一体……」

 

 

「言葉通りだ……アンタを呪いを大本から斬り離して、残っていた呪いを吸い出して、篭手の中で生命力に変換、それを与えた結果、治ったと言う事だ。視力に関しては後々戻るだろうさ」

 

 武はそう言うと、篭手を消しその場に座り込む。

 

「結界やら、何やら準備しないと……」

 

 武はそう言うと、ポケットから手帳とペンを取り出し、何かを記入し、そこを破ると、耀哉に渡す。

 

「取り敢えず、そこに書いてるのを準備してくれ。後、疲れたから食事を用意して貰うと嬉しいんだけど」

 

 そう笑いながら言う彼に驚きながらも、この場にいる全ての者が感謝したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 



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第8話 炎の母

今回は煉獄家との話です。


 おっす! 俺は武、平成の世から大正時代にタイムスリップした高校生だ。

 

 今日も人を襲う鬼を狩ってる! と言うか! マジでなんなの!? 何で俺、こうも毎日出ないと行けないんだぁ!? 休みなしって何よ!? 今日で1ヶ月だよ! 休みはどこ行った!? 

 

 俺も耀哉さんに訴えたけど、あんなに申し訳なさそうな顔をされると怒るに怒れないじゃん! 

 

 確かに俺からすれば、厄介な鬼も瞬殺だけどさ! こうも毎日だと、俺も疲れるよ! まぁ、幻魔みたいに朝も昼も関係なしに襲ってこないのが救いだけどね! 

 

 

 

「どうしたの武君?」

 

 

「いや、ちょっと考え事……それで、今から何処に行くんだったかな?」

 

 カナエに話しかけられ、我に帰った武はそう尋ねる。

 

「代々炎柱をしておられる煉獄家を尋ねるのよ」

 

 

「なんで行くんだった?」

 

 

「現炎柱、煉獄槇寿郎さんを尋ねるようにとお館様に言われたじゃない」

 

 

「そうだったか……?」

 

 

「聞いてなかったの?」

 

 

「……座りながら寝てないよ?」

 

 

「寝てたのね」

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「まぁ、仕方ないわよね。武君、あっちにこっちに引っ張り凧だし。でもそのお陰で犠牲者が減ってるってお館様も言っておられたわよ」

 

 そう笑みを浮かべながら言うカナエ。

 

「ならいいんだけどな……それで、何でその煉獄家を尋ねるんだ?」

 

 

「現柱である、槇寿郎さんの奥方が病で臥せっておられるの。そこで未来の医学の知識を持っている武君に見てほしいとの事よ」

 

 と言うことらしい。

 

「成程ねぇ……」

 

 それから数分で煉獄家に到着した。

 

 

 

 

「……デカッ!?」

 

 到着した煉獄家は予想以上に大きく声を上げる武。

 

「カナエの屋敷も大きいけど、あれは医療所をかねてるから分かるけど……個人でこれか。俺の家の五倍の敷地はあるな」

 

 

「あらっそうなの?」

 

 そして2人は門を潜り抜け中へと入る。

 

「こんにちは」

 

 カナエが玄関でそう言うと奥から走ってくる音と共に10歳を越えたくらいの子供が現れた。と言ってもカナエより少し下と言うくらいだろう。

 

 その子供は炎の様な髪色をしていた。

 

「はい……貴女は花柱様! 今日はどういった御用でしょうか?」

 

 

「声……デカッ」

 

 

「お久しぶりです……槇寿郎さんはいらっしゃるかしら?」

 

 

「父上なら」

 

 ドタッドタッと大きな足音をたてながら男が現れる。

 

 子供と同じ炎の様な髪色の男は顔を赤くしており、片手には酒瓶を持っていた。

 

「杏寿郎、何をして……花柱か……それにお前は!?」

 

 

「この間も居たな……酒臭っ」

 

 煉獄槇寿郎、現炎柱である彼はカナエと武の姿を確認すると、武を睨む。

 

「……何の用だ?」

 

 ドスの効いた声で、そう尋ねる槇寿郎。

 

「奥様は如何ですか?」

 

 

「変わらずだ……それがどうした」

 

 

「実は武君……彼は医学の知識に長けているので、奥様を診ていただk「「なにっ!? それは本当か!?」」」

 

 槇寿郎と杏寿郎は武に詰め寄り、彼の肩を掴み揺さぶる。

 

「ちょ……ま……」

 

 

「本当に瑠火を治せるのか!?」

 

 

「槇寿郎さん、杏寿郎くん、そんなに揺さぶったら武君も答えられないですよ」

 

 槇寿郎と杏寿郎はそう言われ、我に帰り手を離し、2人を奥へと案内した。

 

 

 

 

「瑠火、入るぞ」

 

 槇寿郎がそう言い、襖を開け部屋に入る。武は襖を開けた時、一瞬顔を歪めた。

 

(この匂い……)

 

 部屋に入ると、そこには痩せ細った女性が床に着いていた。武は彼女から漂ってくるある匂いに気付く。

 

「槇寿郎さん、杏寿郎、それに……確か貴女は花柱様」

 

 

「お久しぶりです、瑠火さん」

 

 

「そちらの方は……?」

 

 皆が部屋に入ってた中、武だけがその場に止まっていた。

 

「えっと……その彼は鬼殺隊の仲間で、医学の知識を持っているので、是非瑠火さんを診て貰おうと連れてきたんです」

 

 カナエがそう説明する。

 

「そうですか……お客様にお構いもできず、この様な格好で申し訳ありません」

 

 瑠火はそう言うと、咳き込み始めた。

 

 この女性は煉獄瑠火、槇寿郎の妻だ。彼女はこの時代の医療では治せない病にかかり臥せっている。それもかなり長い期間を。

 

「天宮 武と言う。それにしても……奥さん良く生きてるな、そんな身体で」

 

 武はそう言うと部屋に入り彼女の横に座る。

 

「貴女は今この瞬間に死んでもおかしくない様な状態だろうに……気力で持ってると言ってもいい状態か」

 

 そう言うと武は杏寿郎と瑠火の横に寝ている幼い子供を見た。と言うか煉獄家の遺伝子強いな。

 

「母は強し……か」

 

 武はそう言うと、瑠火の全身を見渡す。

 

(本当によくこの状態で生きてるな……既に半分、死んでる様な身体で……)

 

 武の頭にはある1人の女性が浮かぶ。自分をこの世に産み、愛し、護ってくれた女性……己の母親の事を。

 

 そんな母親と、目の前の夫の為、子供の為に1日でも長く生きようと懸命な瑠花の姿が重なった。

 

「えっと……瑠火さんだったか。

 

 普通の医学で治そうと思えば貴女の命がもたないだろうけど、幸いにも俺にはそれを補う方法がある。

 

 だけど治療事態、かなり苦しいし、辛い。それこそこのまま死を迎えた方が楽になるだろう。苦痛なく逝く方法も知ってる。

 

 それでも生きたいか?」

 

 武は瑠火に選択肢を2つ与えた。

 

 苦痛を伴う治療を行うか、それともこのまま苦痛なく最後を迎えるか。

 

「……私はもし可能性があるならば生きる方に賭けたいと思います。例え苦痛があったとしても、この子達や夫と生きる為ならば私は耐えてみせます」

 

 

「そうだよな…………貴女達(母親)はそう言うよな」

 

 武は何処か悲しそうな目をしている。

 

「貴方は優しいのですね……初めて会ったと言うのに貴方は私の事を案じてくれている。

 

 ですが、大丈夫です。母親というのは子供の為ならばどんな苦痛にも耐えれるのです」

 

 武はそれを聞くと諦めた様にため息を吐くと、カナエに何かを書いた紙を渡す。

 

「しのぶに頼んでこれを持ってきて貰って……俺はその間に生命力の補填をしとくから」

 

 そう言うと武は鬼の篭手を呼び出す。

 

「生命力の補填?」

 

 

「俺にはこれまで封じてきた幻魔……アンタ等で言う所の鬼の様な存在の魂をこの篭手に封じている。それを生命力に変換して貴女に注ぎ込む。

 

 取り敢えずアンタは水ても被ってその酒の匂いを消してこい、気が散る!」

 

 

「はっはい!」

 

 武に凄い剣幕で言われて、槇寿郎は直ぐに出ていった。

 

「申し訳ありません。あの人はあぁではなかったのですが、私が病に倒れてから……」

 

 

「気を落とし、酒に逃げるか……分からなくもないが……まぁ人それぞれか」

 

 

「ですがどうして、貴方は私のためにそこまで?」

 

 

「救える命は救いたいし、貴女は何処か俺の母に似ているから……助けたいと思ってしまう。例えこれが運命への反逆だとしてもね」

 

 武はそう言うと篭手を撫で、笑った。




と言う訳で瑠火生存ルートです。



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第9話 カナヲ

「お買い物行きましょう!」

 

 と満面の笑みで言うカナエ。

 

 1日の始まりからテンションの高いカナエに対して

 

「……寝る」

 

 疲れた顔の武はそう言うと部屋に戻ろうとする

 

「えっ?」

 

 

「いや寝る。この時代に来て約2ヶ月、鬼殺と瑠火さんの治療で休みなかったんだから1日くらい寝てす……ごしたいと思っていたけど、少しくらいなら」

 

 断ろうとしたが、凄く残念そうな顔をするカナエを見て罪悪感で了承した武。決して後ろにいるしのふが「姉さんの誘いを断るんですか?」と怖い顔をしていたのに屈した訳ではない。

 

 と言う訳で買い物に行くことになったのだが……

 

 

「あの……ちょっとよろしいですか?」

 

 買い物に行く途中、カナエは子供を連れてる男に話しかけた。

 

「ぁあ?」

 

 男は一般人ではないのは一目瞭然、子供の方はボロボロの服でかなり汚れ縄に繋がれていた。

 

「人買か(こうも大っぴらにやるとは)」

 

 2人を見てそう呟く武。

 

「その子はどうして縛られているのでしょうか? 罪人か何かなのですか?」

 

 

「汚ねぇから繋いでるだけだ」

 

 

「こんにちわ、私は胡蝶カナエ……貴方の御名前は?」

 

 カナエは子供に話しかけるが、子供の方は全く反応しない。

 

(これは……心を閉ざしてる。見た目からするにも随分酷い扱いを受けていたみたいだな)

 

 武は反応しない子供を見て、ある程度この子供の状態を分析していた。

 

「おい、もういいだろ!?」

 

 ヤクザ風の男はカナエを突き飛ばそうとするが、しのぶがその間に入り男の手を払った。

 

「姉さんに触らないで……お金を払えばいいんですよね」

 

 しのぶは懐に手を入れる。恐らく金を取り出すつもりだろう。

 

「はい、ストップ……その金は買物分だろう。ほらっ」

 

 武はしのぶを止めると、自分の財布から札束を取り出す。ヤクザ風の男はその札束を見てゴクッと喉を鳴らす。

 

「そっ……そんなんじゃ足んねぇな」

 

 どうやら男は欲を出したのか更に金を要求してきた。武はそれに対してタメ息を吐き、気付かれない様に御札を取り出し札束の間に挟む。

 

「あんまり欲を出すと痛い目をみるぞ」

 

 と笑みを浮かべて男に札束を押し付けた。だが彼の顔は笑っているものの、ヤクザ風の男はひぃと悲鳴を上げて札束を持ち走り去った。

 

「全く……」

 

 

「良かったんですか?」

 

 

「別に使い道ないしね……さてと、取り敢えずこの子を連れて帰るか」

 

 

「そうですね……」

 

 

「武君」

 

 

「ん?」

 

 

「ありがとう」

 

 

「あぁ」

 

 一度家に戻る事にした。

 

 

 ~数日後~

 

 

「カナヲ~」

 

 数日前に保護した子供はカナヲと名付けられた。

 

 そして分かった事はカナヲは感情がないと言う事だ。産まれ育った環境故か、感情が失われていた。

 

「姉さん、この子全然ダメだわ。言われないとなにも出来ないの」

 

 しのぶはそう言う。カナヲには自分で物事を決める事が出来なかった。

 

「あらあら……まぁまぁそう言わずに。ほらっ、笑って。姉さん、しのぶが笑った顔好きだなぁ」

 

 しのぶはカナエにそう言われ顔を赤くする。

 

「だって自分の頭で考えて行動出来ない子はだめよ、危ない」

 

 

「じゃあ1人の時はこの硬貨を投げて決めればいいわよ。ねーカナヲ」

 

 そう言ってカナエはカナヲに硬貨を握らせる。

 

「そんなに重く考えなくていいじゃない……カナヲは可愛いもの!」

 

 

「理屈になってない!」

 

 

「切っ掛けさえあれば人の心の花は開くから大丈夫。何時かカナヲが好きな男の子でも出来れば」

 

 

「えっ?!」

 

 ガチッンと音を立てて何が落ちた音がした。そちらを見ると絶望の表情をしている武がいた。

 

「武君、どうしたの?」

 

 

「かっカナヲが……恋? おっお兄ちゃん許しません!」

 

 どうやら武はシスコンに目覚めた様だ。

 

「あらあら……」

 

 

「武さん……」

 

 

「なんだ、その目は……だって考えてもみろ、何処の馬の骨とま知れない男にカナヲを渡したくない!」

 

 そう言ってカナヲを抱き上げる武。それを嬉しそうに見ているカナエと呆れた顔で見ているしのぶ。

 

「そう言えば……武さん」

 

 

「ん?」

 

 

「この間の男に渡していた札束に何か挟んでいたみたいですけど

 」

 

 しのぶはこの間の事で武に訪ねた。

 

「ぁあ……アレね。ちょっとした呪いをね」

 

 ニヤッと笑う武、何をしたのか分からないが深くは聞かない方がいいと思い追求はしなかった。

 

 



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