ウンエイ・ブレイク・オンライン 〜狂人がVRゲ運営を壊すまで〜 ※2020/12/04~更新休止 (毒肉(どくにく))
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おはようございま死ね篇
#1 サヨナラ青春、サヨナラ課金額


連載開始します。
毎週金曜日0時と日曜日13時に更新したい……多分きっとメイビー出来る気がしなくも無いことも無いです。


 終わった

 10万が消し飛んだ。

 俺の一番の楽しみが……

 順を追って説明しよう。

 まず話は昨日に(さかのぼ)る。

 

 俺はテストもそれなりの点数をおさめ、自分へのご褒美として意気揚々(いきようよう)と自室へ向かったのだ。

 そうしてベッドの横に置かれた怪しげなフルフェイスヘルメット──没入型VRゲーム用ハード「ダイヴァーチャル」を頭にすちゃっ、とはめたのだった。

 10万を電子マネーから引き下ろし、それを俺は迷う事無く全額ゲームへとぶち込んだ。

 そのゲームの名は『Dive Life Online』

 俺が一番最初に始めたVRゲームであり、一番好きなVRゲームである。始めたのが小六で今が高一だから、もうかれこれ4、5年近くの付き合いになるのだろうか。

 

 さっそく課金アイテムを購入し、武器の強化に取り掛かる。このDive Life Online、略してDLOで俺は【暗殺者(アサシン)】という職業に就いている。

 足靴の隠密性と短剣の毒性を課金ブーストし、掲示板で見つけた適当な晒されクン達にそっと忍び寄り、首をはねる。

 驚愕の表情をしながら宙に舞う生首と飛び散る赤オレンジ色のポリゴンを見ながら達成感に包まれる。

 ひと仕事終えた俺はログアウトし、その日はそのまま眠りについた。

 

 そして事件は起こった。

 

 俺は朝の通学電車の中でスマホの進化系、ホロボードを取り出した。

 半透明の液晶に映し出されたのはSNSサイト。

 俺は立派なネット依存性(ネチズン)であるからして、こうしてタイムラインを警備するのが朝のルーティンなのだ。

 そこに、信じられないニュースが飛び込んでくる。

 

 

『Dive Life Online終了のおしらせ』

 

 

 その時、俺の視界は真っ白になった。

 終了?は? 何が? DLOが? 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!

 昨日課金したばっかりだぞ! しかも10万だぞ10万! 学生の10万は高ぇんだぞ、この野郎!

 そんなのあんまりだ! やだやだやだやだやだやだ!!

 その時、ブッダかイエスかはたまたラヴクラフトかは知らないが、俺の脳裏には神の啓示としか言えない、鋭い勘が過ぎる。

 何か裏があるはずだ。あのDLOがいきなり終わるなんて有り得ない、と。

 検索欄に打ち込まれたのはDLOの開発会社。

 俺は血眼になってホログラムに指を滑らせる。

 そして見つけた。

 

「クソがァァァッ!」

 

 俺は雄叫びを上げる。

 仕事の始まりに憂鬱(ゆううつ)になるサラリーマン、和気藹々(わきあいあい)と話し合うギャル、ソシャゲ団欒(だんらん)をしている男子中学生。その他有象無象が一斉にこちらをギョッとした目で見つめて来たが、とにかく今はそれどころでは無い。

 見つけたまとめ記事にはこう書かれていた。それもデカデカと。

 

 

【悲報】ソークリさん、DLO運営を買収【サービス終了】

 

 

 ソーサリー&クリエイツ株式会社。略してソークリ。

 我が楽園を崩壊させた諸悪の根源にしてこの世の絶対悪(フィクサー)。現代のアンラマンユである。

 どんな卑劣で極悪非道な手を使ったかは知らないが、数年前にいきなり出てきたかと思えばゲーム業界の一位二位を争う超大手へと急成長した界隈の突発性悪性腫瘍(ガン)だ。

 前々からおかしいとは思って居たんだ。それが今回の騒動で明るみに出た。

 まとめ記事ではDLOは最近売れ行き不足だったとか、社長がセクハラしてたとか言われちゃいるが、これは全て悪しきソークリの印象操作なのだ。

 レスバトルとソース確認をしないと生きていけない彼等が情報操作に踊らされるなんて。おのれソークリ。

 

 俺がコメント欄で真の情報を教え(さと)そうとしていると、ふと関連記事が目に入る。

 

 

【ソークリ】新ゲーAnother World Life Online、マジで面白そうwwwwww【死ぬ気で作る】

 

 

 

「あ、あ、あ……」

 

「あの、大丈夫ですか? さっき凄い声で……」

 

「クソ野郎ォォォッ!」

 

「ひぇっ!?」

 

 オイオイオイ、信じられるか? これが大手のやり方か?

 タイトルをよく見て欲しい。

『Dive Life Online』

『Another World Life Online』

 そう、パクリなのだ。

 そう!LifeOnlineと言う二単語が完全に被っている!

 これは重大な著作権法違反に当たる。決してありふれた単語を使ってたまたま被ってしまった、なんて事では無いだろう。

 ふざけるな! DLOをどれだけ侮辱すれば気が済むんだ!

 俺の宝を良くもぉ、良くもォ! ソークリ許すまじ!

 DLOはなぁ、無課金勢にはちょっと厳しかったけど、ランカーの過半数は重課金勢だったけど、それでもDLOどこまでも楽しかったンだよォ!

 DLO君はなぁ……DLOくんはぁなァ……!

 くそぉ……。ソークリめぇ……!

 なーにが「夢のような体験、魔法のような技術、笑顔を創作する会社」だ! 悪夢と黒魔術の間違いだろ!

 あぁ、ムカつく。この担当チーフとやらがドヤ顔で「今までのどのゲームよりも死ぬ気で作りました」とかが言ってやがるのが凄くムカつく。

 ぶん殴りてぇ……。

 

 その時、俺の頭に雷の落ちたような衝撃が走る。

 そうだ、壊せばいい(・・・・・)

 しかし俺には犯罪に走る度胸も無ければ権力も無い。ならばどうする?

 答えはすぐに出た。

 

 内側からゲームをぶっ壊す

 模倣(パク)るなら、壊してみよう、ゔゐあゝる。織田信長もそう言っていた。

 Another World Life Online──AWLOはプレイヤーの個人情報に関する問題行動以外のいかなる行動を許可している。

 これが何を表しているのか、それは実に単純明快だ。

 PKも可。窃盗も可。詐欺もリスキルも何でもあり。これが壊して下さいと言うことでなければ何だと言うのだ。

 俺は硬い決意と共に、大手通販サイト──Jungle(ジャングル)でAWLOをカートに入れる。

 

「あ、あのー」

 

「はい、どうされましたか?」

 

「えっあの」

 

「何かお困りですか?」

 

 俺はオロオロとしているサラリーマンに物腰柔らかな口調で対応する。

 まだ完全にでは無いが、ひとまず可能性(キボウ)を見つけ出す事が出来た。俺の気持ちは晴れやかだった。

 ところで、何故彼はそんなにも戸惑っているのだろう。痴漢の冤罪でも吹っかけられたのだろうか?

 怯えきった表情のサラリーマンを横目に、俺は再度心に誓う。

 

 

 

 ──絶対に潰してやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




ソークリを許すな!


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#2 バーチャル美少女創肉

マクドって旨いけど胃もたれするよね(高校生)
バ美肉はいいゾ。マ〇ロナさんとか〇鞠まりさんとか伊東〇イフさんとかそこら辺の絡みが好きすぎるんじゃ


 次の日、ポチッた例のブツが届いた。

 

 先程ドローンで運ばれて来たカセットの包装を丁寧(ていねい)に丁寧に開ける。ソークリ改めソークソは確かにクソだ。だが包装君に罪は無い。彼は哀れにもトイレットペーパーとして選ばれてしまった悲しい包装なのだ。

 AWLOのカセットを専用ハードに挿し込み、ダイヴァーチャルを頭に装着する。

 可哀想なダイヴァーチャル。うんこが挿入(そうにゅう)されているが、少しの間我慢してくれよな。

 

 サービス開始は四日前からだ。出遅れた感はあるが遅くは無いだろう。

 だが既に初日組やベータ組とは大きな差が開いているはず。こころしてかからねばなるまい。

 設定を終えてゲームを開始すると、軽快でキャッチーなオープニングが流れ始める。無駄に綺麗で繊細なグラフィックだな。だが俺のDLOも負けてはいない。

 あのツブツブザラザラしたグラフィックがまた(クセ)になるのだ。素人(しろうと)には分からないだろうな。

 ソクソのゲームを持ち上げる為だけに曲を作らされた作曲者に作詞者、編曲者やボーカルの人に合掌しながらスキップする。これ以上聴くと洗脳されてしまいそうだ。

 意識は暗転し、次の瞬間。俺は知らない空間へと飛ばされる。

 水色の半透明な正方形で床が埋め尽くされた、いかにもサイバーって感じの空間だ。

 正方形の板は淡く輝いており、吸い込まれそうな程に真っ暗な空間を幻想的に照らしている。

 

「こんにちは、竹島(たけしま)琉真(りゅうま)様。ワタクシは管理AI-019号の『ゴッディー』で御座います。」

 

 話しかけて来たのは鹿の角が生えたタコの頭部に人間の胴体、五対十枚の真っ白な翼が背中から生え、腕は六本ある。ゼウス的なのが着てそうな服を着た怪人だった。

 後ろからは光が刺しており、ジャラジャラと身につけた金と青のアクセサリーと(ひたい)についた真珠が乱反射している。

 きもちわるっ。

 しかし何だろう、この世界中の神様を集めたキメラは。暗黒神話(クトゥルフ)要素が神々しさを全てかっさらって居る気がしてならないのは俺だけだろうか? どう見たって邪神じゃないか。

 こういうのは普通美少女が定番であり一番求められている物だろう。やはりソクソは頭がおかしいな。

 

「まず、竹島様にはアバターを作ってもらいます。体格や顔、それから種族をお選び下さい。」

 

 神キメラがそういうと、目の前には人型の模型のようなものが現れる。多くのVRゲームの場合、この模型をコネコネして自分が世界へ降り立つ身体を作るのだ。

 俺は迷う事無く肉体性別を女に変えた。

 

「やっぱネカマに限るよな」

 

 決して変な趣味があるという訳では無い。これにはれっきとした理由が存在するのだ。

 一つ、女キャラは警戒されにくい。むさ苦しい野郎だと詐欺かなにかを疑っちまうモンだ。

 二つ、女キャラは囲みを利用し様々な局面で優位に立つことが出来る。信者ってのは便利だ。情報も頭数も一人でやるより何倍も多くなる。ネカマ歴4年の俺は自慢じゃないが演技が上手い。暗殺対象に近づく技術を磨く為だけに動画サイトで演技の練習をしたあの頃を思い出す。泣けてくるな。

 三つ、バ美肉をいっぺんやってみたかった。趣味だ。

 

 という訳で、俺が求める程々に可愛く、程々に背が高くて程々に胸なんかがあるキャラクターが完成した。

 その間なんと脅威の2時間36分。

 

「うん、完璧」

 

 程々にしたのにも理由がある。決して自分の性癖では無い。

 世の中の陰の者って言うのは、程々に可愛い守って上げたくなるような女子がタイプなのだ。これは統計学的な結果がある。つまり経験則だ。

 それにあんまり絶世の美女過ぎると逆にネカマ臭い。ネトゲでは割と美少女がゴロゴロいるわけで、逆に陳腐(ちんぷ)になってしまうのだ。

 そして何より俺の好みだ。

 以上の事からこの完璧な形態を完成させたのだ。異論は認めよう。俺は性癖戦争を起こしたく無いからな。この手の話題で血みどろの紛争が繰り広げられたのを俺は何度も見て来た。

 

「あ、あ……ホワァァァァッ!!!」

 

 oh!フ〇ック! 種族を決める前にアバターを作っちまったぜ! ジーザス!オゥメィグァ!

 俺は種族欄をスワイプし、品を見定める。

 そして恐る恐る〈半精霊人(ハーフ・エルフ)〉を選択する。するとどうだろう。益々(ますます)いい具合になってしまったよ最高か。

 通常、アバターは種族を変えるとその印象はガラリとかわる。まあ、それは普通だろう。問題はこの2時間半をかけた芸術品が台無しになってしまわないか、そこだった。

 しかし、ハーフエルフという未成熟さを感じさせる種が見事にアバターのデザインコンセプトにマッチし、圧倒的な美を創り出したのだった。

 いやぁ我ながら素晴らしい。

 ちなみにハーフエルフにした理由は

 

 一つ、エルフ特有の肉体的ハンデが軽減されるから。

 二つ、人間(ヒューマン)よりも魔力と器用さに秀でているから。

 三つ、かわいいから。

 

 である。我ながら天才的な発明をしてしまった。トーマス・エジソンかニコラ・テスラかにでもなった気分だ。

 

「では、次にアバターネームを決めて下さい。」

 

 キメラがセリフを言い終わると同時に入力欄が現れる。バンブー……っと。

 由来は苗字が竹島だからだ。竹は英語でバンブーらしいが、英語圏に竹があるのだろうか。地理に詳しくない俺には一生答えの出ない疑問だ。

 それに偏見だが、何となく響きが女子っぽい。

 

「バンブーで。」

 

「バンブー様、次にスキルをお選び下さい。異邦人(プレイヤー)の皆様には初歩的なスキルを最大八つまで選んでいただく事が可能です。

 この場で選択しなくとも、プレイ中に空き枠を使って自由に選ぶ事が可能です。ただし、選んだスキルは選び直す事は不可能ですので、お気をつけ下さい。」

 

 異邦人(いほうじん)、というのはこのゲーム世界でのプレイヤーの名称みたいな物だ。他のゲームで言う「彷徨い人」や「異世界人」に近いだろう。

 早速スキル一覧に目を通す。

 流石は超大手と言われる会社が作ったゲームだけあって、スキルの数も膨大だ。

 ソクソはクソだが厄介なクソくらいの価値はあるという訳だろう。

 

【隠密】【挑発】【契約】

【短剣術】【疾走】【闇魔法】

【[空欄]】【[空欄]】

 

 これでよし。

 俺のプレイスタイルは暗殺者。AWLOに職業システムは無いが職業っぽく出来る事を統一した方が良いのは明白だろう。

 それにいきなりやった事の無い事をすれば当然動きは素人なので、これまで(つちか)って来た技術を無駄にする事となる。だから俺はこのやり慣れたスタイルで挑むとしよう。

【契約】については、色々考えた破壊シナリオの一つに重要な役割を(にな)っている。それを除いても便利だと思う。もっとも、このゲームのテイムについての仕様が明確にならない事には作戦はフワッとした物になるのだが。

 二つの空欄、これは保険だ。

 こうしておくことで絶望的な状況に(おちい)った時、打開策になるようなスキルを習得することでそれを回避できる。我ながら完璧な作戦だ。

 

「それでは最後に装備をお選び下さい。」

 

 目の前にはペラペラの服やちょっと分厚い程度の革服、それらの色違いなどがズラっとならぶ。

 黒の長上下、革靴、武器はナイフで良いだろう。せっかく【短剣術】のスキルを取ったのだから。

 

「では、バンブー様。改めましてようこそAnother World Life Onlineへ。本ゲームプレイのお祝いとお礼として、スキルポイントを5ポイント、通貨を2500Gお渡し致します。我々は貴方の来訪(らいほう)を心から歓迎します。それではまたお会いしましょう……」

 

「チッ、」

 

 俺はキメラに向かって軽く舌打ちをした。

 意識が徐々に暗転する。うっすらと目の前の異形の姿が霧散(むさん)して行く。

 こうして俺はされたくも無い歓迎をされ、これから終わらせる世界へと降り立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




唯一神って意味のGodと多柱の神々を表すDiiをかけあわせました


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#3 魔王(生後15分)

戦闘描写ムズぃゎまぢむりリスカしなぃ


 ハローニューワールド(こんにちは新世界)グッバイオーダー(さようなら秩序)

 という訳で、俺はめでたくこの呪われた地へと降誕した。

 この世界で俺はゲーム世界を破壊する魔王として行動する。長くした首を洗ってろソクソ

 

 俺が目覚めるとそこは何方向にも道が分かれ、中心に噴水がトレードマークの丸い交差点的な場所(ラウンドアバウト)だった。

 道路、と言って良いのかは分からないが、道路は石レンガで敷き詰められており、そこを様々な種族の歩行者、馬車、その他謎の生物がキャリッジを引いている馬車もどきがそこら中を闊歩(かっぽ)している。

 中でも如何(いか)にも弱そうな革鎧や無骨な長剣なんかを持った異種族同士の4人組が居る。恐らく異邦人だろう。余談だが、異邦人とはこのゲーム世界のプレイヤーの呼び方だそうだ。

 

 このゲームの住民は生きている。

 より正確に言うならば、異世界と言っても疑わない程に高度なAIや複雑な文明がなされている。地球と同じように世界が回っている(・・・・・・・・)のだ。

 ウンコの声明文によれば、AIは現実の人間やその他の動物の知性をほぼ完全に模倣(もほう)する事に成功したらしい。

 そんなのをたかがゲームごときに使うのか、AI人権問題はどうしたのか、ヘタすれば社会問題にまで発展しないのか、と小一時間問いただしたい訳ではあるが、頭に糞尿の詰まったソクソの事だ。そんな意見は毛ほどにも気にしないだろう。

 話を戻そう。とにかくこの世界の住民(AI)は現実の人間とほぼ変わらない知性知能がある。

 だと言うのに、あんな弱そうなヤツらが笑顔で談笑しながら狩りに行くとは何とも不自然である。

 行動の迷いのなさから察するに、ゲーム初心者は無いだろうし、初期装備とは違うものを着ている事からも彼らが初日組である事が(うかが)える。

 

 そういう訳で、尊い犠牲は選ばれた。そうと決まれば善は急げ。

 適当な裏路地で肩まで掛かった髪をナイフで荒々しくバッサリと切る。

 切った髪を適当な物陰に隠し、早速露店で仮面を買った。この間、【隠密】の発動を常に心がける。理由はみんな大好き熟練度稼ぎだ。

 ちなみに、【隠密】は説明を見た感じ気配を抑えたりするスキルのようなので、相手に印象を与えないようにする事も()ねている。

 そして服も購入する。黒とはなるべくかけ離れた物が好ましい。ので、白のワイシャツと茶色のスカートというオーソドックスな物を買っておく。ちなみに節約の為、この店で安価なものを選んだ。

 

 さてさて、異邦人(プレイヤー)達の向かった方の通りに【疾走】と【隠密】の併せ技で向かった訳だが、まだ同じ所で駄弁(だべ)っていた。

 俺は設定ウィンドウを開き、空き枠を消費してあるスキルを習得する。そして、ある行動をショートカット設定をする。

 念の為、彼らを見失わない程度の路地裏に入り動作確認をする。よし、問題なし。

 

 それでは、行きますか。

 俺は【隠密】と鍛え抜かれた演技力で普通の通行人を演じる。

 そうして異邦人四人衆の後ろに丁度さしかかった所で、腰からナイフを抜き出し【疾走】とを使って一気に加速する。狙いは神官風のエルフの男。ヒーラー潰しは鉄則だ。

 

───〔ビギン・スライド〕

 

【短剣術】に内包された技が、男の(うなじ)に直撃する。

 

「なッ……!!」

 

 グロ描写ONの俺の視界には、噴水の如く吹き荒れる血潮と、驚きで目の見開いた他三人が映っていた。神官風の白装束が紅く染って行く。

 唖然とした雰囲気に似つかわしくない軽快な音楽が脳に響く。リザルトだ。

 相手が動揺している隙に今度はローブを着た男に肉薄する。が、流石は初日プレイのゲーマー共。手に持った大きな杖でガードしながら後退、さらには魔法の詠唱らしきものをブツブツと唱えている。

 俺の攻撃は杖の持ち手をズタズタにするだけに終わった。

 呪文を制止する為に再び魔術師に遅いかかろうとした所、それを邪魔するように危険が忍び寄る。

 振り返って来たのは一本の剣。斬撃を(すんで)の所で(かわ)すと、それに連携するように槍の刺突が二つ同時に(・・・・・)繰り出される。

 幻術か!? 厄介な。確率はフィフティ(五分)フィフティ(五分)、選ぶんだ俺。よし、右だ!

 賭けに出た。その賭けは見事に成功し、槍を掴んだ俺はそのまま槍を踏み台に【疾走】で加速し、その勢いのまま、無事槍士の脳天にナイフを刺し込めた。勢い良く漏れ出た血液は槍士の髪と獣耳を真紅に染めていく。

 パンパカパーン! とまたもや軽快な効果音が流れる。体から少しだけ力がみなぎる感覚、レベルアップである。

 どうやら【隠密】【疾走】【短剣術】のスキルも同時にレベルが上がったようだ。

 しかし勝利に酔いしれている暇などない。ここは戦場と化したのだ。

 

「──焦がせ、焼き払え、『火の球(ファイア・ボール)』!!」

 

 レベルアップとほぼ同時に魔術師が叫ぶと、俺の顔面目掛けて火の玉が飛んでくる。火球を躱したのは良いものの、またもや剣士の男が攻撃を仕掛けられる。

 

「〔ポイズン・スラッシュ〕!!」

 

 俺の左腕はバキリミシャリと音を立てながらちぎれ、鉄錆臭い液を吐き散らしながら空中散歩する。

 ナイフを持った右だったら、今頃詰んでいただろう。そこが不幸中の幸いというヤツだろうか。

 しかし、安心しては居られない。ある異変に気づく。

 傷口から流れる血液が黒紫に変色し、HPバーが細かく赤く点滅を繰り返しているのだ。毒だ。俺は思わず顔を(しかめ)る。

 長居はしていられない。直ぐに決めなくてはならなくなった。

 俺は左腕の無い体にバランスの悪さを感じながらも、恐らく見物人の援護であろう矢をいなして毒剣士にキックからの冷却時間(クールタイム)開けたてホヤホヤの〔ビギン・スライド〕を胸元にお見舞する。

 チィッ!やはり元々ナイフでそこにバランスの悪さ、浅いか! クソッ!

 毒剣士のカウンターを弾いて、すぐさまタゲを魔術師に変更し、今度は両手首、横唇と舌の切断に成功する。カランと音がして杖が落ちる。これでコイツは魔法を使えない、戦えない。そう思っていた時期が私にもありました。

 

「〔ウラゥァァッッ(ビギン・ハイキック)〕!!」

 

 (ほほ)が裂け、血をダラダラ流し、発音の不自由な口で魔術師が叫ぶと俺の(あご)目掛けてハイキックが飛んでくる──不味い!仮面が外れる!!

 咄嗟(とっさ)に体を乗り出し、文字通り身を(てい)して仮面を守る。しかし、その代償は大きい。

 体は大きく後ろに吹き飛び尻もちをつくが、直ぐに体勢を整える。跳ね起きた時に、明確な違和感を胸に感じる。胸骨か、肋骨か、ピシリと嫌な音を立てる。呼吸をする度、不愉快な感触が肺の上をなぞり、喉からカヒューと妙な音が鳴る。痛覚を遮断しているとは言え、触覚は失われていないのだ。

【格闘技】か!【体術】か?! いや、今はスキルの種類なんてどうでもいい。

 格闘魔術師をどうにかする事が先だろう!

 くそ!失念していた! 俺のスタイルは暗殺スタイルへの一点特化。相手が自分の脆弱(ぜいじゃく)性を埋めている可能性をすっかり見落としていた!

 くそ!剣がウザい! カスっただけでも毒が悪化しそうで邪魔だ! スリップダメージの所為で時間をかける事も出来ない!

 くそ!外野が邪魔臭い! 矢や魔法がちょこちょこと飛んでくるのが敵チームの連携の外側からくるから不規則で読みづらい! だが逆に言えば相手もこのチームの連携に慣れていない。当たらないよう気を配るが(ゆえ)に弾数が少ないのが不幸中の幸いか?

 くそ!くそ!くそ! HPが無くなる!

 いやダメだ。冷静になれバンブー、焦りは禁物だ。

 意識を集中すると、詠唱句が頭の中に浮かび上がる。

 蚊の羽音のように(かす)かな声量で詠唱を呟く。

 

 黒の坩堝(るつぼ)幾千(いくせん)もの手、我バンブーなり。我が真名の下に闇の力を奮い給へ。堕とせ、陰れ──

 

 

 

───『影縛(シャドウ・バインド)

 

「……!」

 

 石レンガに黒い水溜りのようなモヤが張り付き、そこからゲソのような物体が生え、それらが這う触手のように格闘魔術師の足を(から)めとる。

 格闘魔術師を【闇魔法】で捕縛する。

 このゲームの闇魔法は直接的な攻撃力が低い代わりにイヤらしい効果の物が多い。ありたいていに言えばデバフである。

 体術を使うとはいえ相手は魔術師。このゲームはスキルやプレイログに基づいてレベルアップ時にステータスが自動上昇する……とされている。

 この考察が正しければ魔法抵抗力は強いと推測出来る。この捕縛に強力な効果は見込めない。

 しかし、隙があればそれで十分。

 

───〔ビギン・スラッシュ〕!

 

 格闘魔術師の喉仏が両断されると同時に、その隙を逃すまいと毒剣士の斬撃が背中を抉る。それに合わせるかのように無数の矢、槍、魔法が俺目掛けて放たれる。

 俺は最後の手段を使う。

 次の瞬間、俺の首は横一線に裂けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




PvPの基本戦術。キル防ぎ


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#4 ふぇぇぇん、こわいですぅぅぅう

荒〇行動とTwitterで金を巻き上げるネカマのリア友が居ます


〖プレイヤーネーム:”バンブー”が死亡しました。〗

 

〖蘇生可能時間の超過を確認。〗

 

〖30秒後に復活します。〗

 

〖デスペナルティ-1:6時間のステータス半減〗

 

〖デスペナルティ-2:6時間の経験値獲得無効〗

 

〖ビギナープロトコル:初ログインより72時間の間、デスペナルティの破棄〗

 

〖素体再生─Now Loading…〗

 

 

 

 目が覚めると、建物の中に居た。

 大理石らしき物で作られた柱を見る限り、教会的な場所だろうか。

 俺は指をパチンと鳴らした。

 すると仮面が虚空(こくう)へと消え、黒ずくめの衣装からどこにでもいる女の子、と言った風貌(ふうぼう)に早変わりだ。

 これは【早着替え】という瞬時に装備を変更する(かゆ)い所に手が届くスキルだ。これで消費ポイントがたったの2というのだから、(もう)けものだろう。

 予想通り、生き返った拍子に髪はズタズタの盗賊ヘアからセミロングに戻っている。この辺は他のゲームと変わらないんだな。陰キャワなヘアスタイルも、ハーフエルフの小さく伸びた耳を隠すのに一役買ってくれている。

 教会で感知スキルを発動するヤツなんて居ないだろうし、人がごった返す中で【隠密】を発動しているから、きっと俺の衣装が変わったのを認識したやつなんて居ないだろう。

 故に(美少女)(殺人鬼)である事を、誰も気付かないだろう。

 あの戦闘で俺自身のレベルは4、【隠密】が4、【短剣術】と【疾走】が3、【闇魔法】が2にまで上昇した。

 先刻の戦闘はこのゲームの体の動きになれる事、暗殺プレイの肩慣らし、異邦人の今の平均的な戦力や膨大すぎて全て確認できていないスキルの確認等、様々な思惑があっての事だった。

 目的は無事成功し、収穫も十分だ。最後の自殺に成功し、相手に経験値を多く取らせない事が叶ったのも素晴らしい。

 難はあったが順調な滑り出しと言えるだろう。

 

 さて。下調べも済んだことだし、そろそろ本腰を入れよう。

 俺は歩きながらこれからの事について思考を(めぐ)らせる。

 まず、この最初の街。ここは異邦人の最初のスポーン地、セーブポイントとして設定されているが、その特性はこの街に限らない。

 ゲーム開始時に複数ある始まりの街ポジションの場所からランダムで決まるらしい。これはソクソの公開したいくつかのゲームルールの内一つだ。アンチは対象を良く調べるべし。常識だ。

 しかしこの街以外にもセーブポイントがあるとはいえ、そこを潰されては少なくない被害が出る。それにβ組の見解によれば、始まりの街はある程度(にぎ)わった都市である事が判明している。NPC達の都市が潰れれば経済が狂う。経済が狂えば異邦人も只事(ただごと)では居られない。そこを突く。

 ではどうやって潰すか? もし、俺が何かの偶然で超チートスキルを会得しようとも、街一つ潰す事は容易では無いだろう。この世界は回っている。都市が襲われればレベルの高いNPCの騎士団や冒険者達が出しゃばってくるのは火を見るより明らかだろう。

 安心して欲しい。作戦はある。

 それは──

 

「オイ、ネーチャン。あんた俺達のパーティに入らないか?」

 

「ひゃ、ひゃいっ?! わ、わたしですか?」

 

「そうそう! その格好、アンタ初心者だろ? 俺が手取り足取り教えてやるからさ」

 

「ちょ、お前言い方きもっ!」

 

「ハハハ!」

 

「え、あ、その……」

 

 チッ、

 面倒なヤツらに絡まれた。考えに集中するあまり【隠密】を切らしていたか。

 出会い厨めが。お前らの脳ミソはソクソでも詰まっているのか? いや、曲りなりにもゲーム界のトップであるウンコとゲーム内でしか出会いを求められない哀れなウンコでは月と(すっぽん)だな。いや、それだとスッポンが余りにいたたまれない。ノミとかダニに等しいと言えるだろう。

 俺は生まれて初めてソクソに謝罪の意を(いだ)いた。

 

 それにしても我ながら素晴らしい演技力。オドオドとした女子の口調、声色、動作、仕草、目線の向きや移り変わり、その他諸々(もろもろ)に至るまで細部までこだわり抜いた完璧な仕上がり。

 ちなみに声はキャラクリでイジれる。鍛え抜かれた小動物感あふれる至高の声調整である。

 

 確かにこの声も容姿も全て姫プによる情報収集や味方陣営の人員増加する為に、俺が丹精(たんせい)込めて作った物だ。しかし、このような不粋なヤツらに振る舞うための物では断じて無い。

 それに多分、コイツらは使えない。主導権がこちらにある事に腹を立てて反乱を起こすだろう。それが無いにしても、ネカマも疑わず出会い厨をやっているような馬鹿だ。チームに馬鹿が一人居るだけで勝率がグーンと下がる。

 真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である。かの有名なナポレオンもそう言っている。

 こんな馬鹿が身内にいれば、いつヘマをこくか心配で夜にしか眠れない。

 

 ちなみに夜しか眠れないのは駄目な事だ。

 学びの徒でありながらネットに住む者共の正しい就寝リズム。それは授業中にたっぷりとエネルギーを貯蔵(ちょぞう)しておき、そのエネルギーを深夜帯に解放する事である。

 それが正しいネットとの向き合い方だ。

 

 話を戻そう。このバカ三人衆をどうにかしなければいけない。しかしこの手の馬鹿は下手に反対意見を出すと逆ギレして怒鳴りつけてくる。

 恐らくコレらを(ひね)り潰す事は簡単だ。しかし、それでは折角の変装大作戦が全ておじゃんだ。(美少女)(殺人鬼)だとバレてしまう。はてさてどうした物だろうか。

 

 そうして悩んでいると、思わぬ助け舟が出される。

 

「おい、君たち! 彼女困ってるじゃないか!」

 

 声の主はさわやかな好青年、と言った印象を抱かせる男だった。

 黒髪に白のメッシュ、目の色は白い右眼に黒い左目のオッドアイ。

 腰には長剣を背負い、左腕には小盾が取り付けられている。革の胸当てと膝当ては、そこまで高価そうに見えない。この世界の住民(NPC)はアジア系とは似ても似つかない顔立ちをしている。だが彼はどこからどう見ても日本人だ。

 俺は確信する。異邦人(プレイヤー)だな。

 

「俺達の邪魔しよってのか?」

 

「面白ぇ、やれるもんならやってみな!」

 

「そこのネーチャンの意見も聞かずにンな事言って良いのかよ! あ?!」

 

「あ、わ、私は……」

 

「大丈夫だよ。君は下がってて」

 

 お、オレ君カッコイイ〜! 惚れてまうやろ?

 俺はトテトテっと小走りでオレ君の後ろに回った。

 チンピラ共は剣を抜いた。

 オイオイ、マジかよ正気か?馬鹿なの?死ぬの?

 ここは街中だぞ? 街中で刃を白日の元に晒すなんて頭がおかしいんじゃないのか?

 ヒトを殺める時はね、誰にも邪魔させず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。

 オレ君がゆっくりと長剣に手をかける。しかし、それは(さえぎ)られる。

 

「騎士団だ! これは何の騒ぎだ!」

 

 現れたのは騎士様だった。恐らく、さっき俺が起こした騒動でここら辺に来ていたのだろう。俺をお縄ちょうだいする為に駆けつけたのに、俺を知らず知らずの内に助けているとは実に滑稽(こっけい)だ。ふぁ〜おもろ。

 チンピラ達は脱兎(だっと)の如く逃げて行く。オレ君は騎士の人に事情を話した後、駆け寄って来た。

 

「遅くなっちゃったね。大丈夫?」

 

「あ、ありがとう……ござい…………ました……」

 

 俺が身を(よじ)りながら顔を紅潮(こうちょう)させる。俺レベルになると涙を流すのはもちろんの事、顔を赤らめる事なんざ御茶の子さいさいなのだ。

 これにはイケメンにキメてるオレ君もおもわず赤面。

 

「あ、おう……」

 

 思わずニヤけそうになるのを抑えながら、俺はしおらしく微笑んだ。

 こいつァ、使えるなァ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




ネカマこゎぃぃ……どくにく人間不信になっちゃうめぅ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )



は?


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#5 老人会ンゴねぇ

みんな大好き!掲示板!


【早くも】AWLO公式総合スレ 19世界目【4日目】

 

1.名無しの異邦人

ここはAWLOの総合雑談スレです。

自由に書き込みましょう。

最低限のルールは守らないと運営に消されます(運営談)

荒らしは基本無視。荒らしに反応するもの荒らしだゾ

前スレ:sokuri://████.awlo

>>980 次のスレ立てお願いします。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

121.名無しの異邦人

 にしてもやっぱつれーわ。俺骸骨ってだけで騎士団に殺されたんだぞ?

 

122.名無しの異邦人

>>121 逆になんで行けると思ったのか知りたいw

 

123.名無しの異邦人

>>121 当たり前なんだよなぁ……

 

124.名無しの異邦人

>>121 それが仕事だからね。そりゃ辛えでしょ

 

125.名無しの異邦人

>>121 だってガイコツだもの

 

126.名無しの異邦人

>>121 ちゃんと言えたじゃねぇか

 

127.名無しの異邦人

 やべえ、始まりの街にPK出たぞ!

 

128.名無しの異邦人

>>126 草

 

129.名無しの異邦人

>>127 そマ?kwsk

 

130.名無しの異邦人

>>127 どこ? 始まりの街も色々あるでしょ

 

131.名無しの異邦人

>>129~130 テルムエス王国の都市ニーシャルナで突然PK。いきなり四人パーティに攻撃。仮面を付けて髪もボサボサだったから計画的なものと思われ

 

132.名無しの異邦人

>>131 仮面は顔を隠すためって分かるんだけど、髪ボサボサってのは何? ゲーム初心者なんやけど。。。

 

133.名無しの異邦人

>>131 それをやるって事は、他ゲーでもPKerしてたとみてほぼ確やな

 

134.名無しの異邦人

>>132 ggrks

 

135.名無しの異邦人

>>132 「死に髪」でググれ

 

136.名無しの異邦人

>>132 ゲームで復活する時にアバターが完全回復するのは分かるよな? そこで髪型も元に戻るんだよ。だから髪を粗く切る事で、もし死んだ時に追跡を避ける為にPKがよく使うんだよ。死に髪ってよく言われるね

 

137.名無しの異邦人

 絶対に他ゲで忍者的なのやってたクチやろな

 

138.名無しの異邦人

 やられたやつらは?

 

139.名無しの異邦人

>>138 例の辻ヒールさんがいるパーティー

 

140.名無しの異邦人

>>139 アイツらか……β組でそれなりに強なかった?

 

141.名無しの異邦人

>>139 辻ヒールさん? 誰やねん

 

142.名無しの異邦人

 選ぶターゲットを間違えたな……

 

143.名無しの異邦人

>>141 テルムエスでは結構有名なテスター。死にかけのパーティの元へ颯爽(さっそう)と現れては回復魔法で助けてくれるプレイヤー。結構な人がお世話になってるからアソコを敵に回したらヤバい

 

144.名無しの異邦人

>>143 ()ールの会ってのもあるくらいだしな。非公式ファンクラブみたいなの...本人は困ってたけど

 

145.名無しの異邦人

>>143 へぇ、なんかすごい人なんですね。ありがとうございます。

 

146.名無しの異邦人

>>137 汚いなさすが忍者きたない

 

147.名無しの異邦人

 あ、暗殺者ちゃん自決したわ

 

148.名無しの異邦人

>>146 そのネタもう75周年なんですが……

 

149.名無しの異邦人

>>148 古スギィ!

 

150.名無しの異邦人

 ん?まてよ、今暗殺者”ちゃん”って言ったか?

 

151.名無しの異邦人

>>148

 それ言うならやっぱつれぇわも60年前くらいじゃね?

>>149

 それもや、、、

 なんやここ、インターネット老人会かなにか?

 

152.名無しの異邦人

>>150 暗殺者……女の子……ひらめいた

 

153.名無しの異邦人

>>150 結構胸あったからね

>>152 通報した

 

154.名無しの異邦人

>>152 やってる事が完全に悪役だけど、何故か刺さるものがあるよね。通報した

 

155.名無しの異邦人

>>152 通報しかけた。やっぱ通報した

 

156.名無しの異邦人

>>152 分かる。アサシン萌だよな、通報した。

 

157.名無しの異邦人

>>156 自害しろ!アサシン! 152通報しました

 

158.名無しの異邦人

>>157 アサシンが死んだ!この人でなし!

>>152 通報した

 

159.名無しの異邦人

 草

 

160.名無しの異邦人

>>152~158 コントするなw

 

161.名無しの異邦人

>>152~158 謎の一体感

 

162.名無しの異邦人

>>153~158 ちょ、マジで通報すんな! 他ユーザーから多数の通報を受け……ってメッセ来たやろが!

 

163.名無しの異邦人

>>162 流石に草

 

164.名無しの異邦人

 これだから掲示板はやめられねぇんだ

 

165.名無しの異邦人

 こうしてスレ民たちは楽しくニーティングしていくのだった……

 

166.名無しの異邦人

>>165 全体攻撃やめろ

 

167.名無しの異邦人

>>166 wwww

 

168.名無しの異邦人

>>165 無職、やっぱつれーわ・・・

 

169.名無しの異邦人

>>168 そりゃ辛ぇでしょうよ

 

170.名無しの異邦人

>>168 ちゃんと言えたじゃねぇか

 

171.名無しの異邦人

>>168 聞けてよかった…

 

172.名無しの異邦人

>>168~171 コントするなw

 

173.名無しの異邦人

>>168~171 謎の一体感

 

174.名無しの異邦人

 これだから掲示板はやめられねぇんだ

 

175.名無しの異邦人

>>168〜174 無限ループって怖くね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




ネタの年代を調べるとこれがいつ頃の話なのかを知れるという地味な演出


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#6 兎に角(とにかく)

 さてさてセーターの欲しい肌寒い季節になって参りました。もう幾つ寝ればクリスマスに正月とイベント満載でございますがリア充しね。
 イ〇ンモールに群れる不愉快な蛆虫共を駆逐せよ!


 次の日、俺はオレ君と公園のベンチでしゃべっていた。

 

「俺はシーラカンス。シーラって呼んでくれ。そっちは?」

 

「ノ、ノココって言います……ノココって呼んでください」

 

 オレ君の名前は「シーラカンス」というらしい。

 ウブなのかフレンドになろうとは誘って来なかった。ので、偽名を使っておいた。ノココちゃんでーす。いぇい

 恋愛には奥手なのかな? かわいげのある奴はモテるぞ良かったなリア充死ね。

 素直に俺がリア充の祝福をするとでも? 呪詛吐き散らかしてやるよ覚悟しておけ! カーッ、ペッ!

 チッ、自然な流れでハニカミなんてしやがって。クソ!

 ま、いいさ。せいぜいネカマである俺に(もてあそ)ばれるがいい。リア充撲滅委員会の俺が必ず対人恐怖症に陥れてやる。

 

「あんまり詮索は避けたいんだけど、ノココさんって初心者だよね?」

 

「はい……すいません」

 

「謝らないで。さっきのはノココさんに非は無いよ。それよりも、レベル上げとかで困ってない?」

 

 オレ君改め深海魚君には俺がゲーム初心者に見えたのか、こちらから聞くまでもなくギョギョギョな情報をくれた。

 気が利く男はモテるよヒューヒュー。主にネカマと女尊男卑アネキにはね。大体なんですかその気を使える男アピは。本当に気を使えてるから余計ムカつくよハッキリ言って死ね!

 でもまあ、死ねは良くないよね。もう少しオブラートに包んで言おうか。地獄に落ちろ!くだばれ!

 話を戻そう。その情報とは狩場だ。ある程度弱く経験値もまあまあという魔物の生息域を助言してくれた。やっぱり持つべきモノはカモ背負ったネギだよね!

 

「い、色々教えていただいて、ありがとうございますっ!」

 

「うん、またね」

 

 てなワケで早速よさげな狩場、ニーシャルナ森林へ向かおう! 善は急げだスタコラサッサ

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 到着。うっそうと青々しく生える木々は、正しく森林の名に恥じないと言っても過言ではないだろう。

 ここに住む魔物は〈一角兎(アルミラージ)〉という獣だ。ウサギに角が一本生えたような姿の肉食小動物である。

 モフモフの見た目に反して性格は獰猛(どうもう)かつ凶暴。【隠密】で慎重に近づく必要がある。

 

 俺は森で周りに他の一角兎がいない事を確認し、ボッチウサギへと忍び寄る。ウサギちゃんは独りだとさみちくて死んじゃいまちゅからね〜。

 俺が【契約】を使うと、一角兎はこちらを振り向く。

 この為の【契約】だ。魔物を配下にする。いかにも魔王っぽいだろう。ほーら、ウサちゃんおいで〜。

 俺の気持ちが伝わったのか、ウサギさんは嬉しそうに跳ねながらこちらへ向かってくる。胸の中へ飛び込んで来たウサギさんを精一杯受け止め、俺は微笑する。

 ウサギさんは俺に顔をスリスリして、そのモフモフを押し付けてくる。

 ウサギさんの角が喉元や肺胞を蹂躙し、俺は口から鉄錆色の液体を吐露しながらその場に倒れた。

〖支配状態下にありません〗というアナウンスを横目で見ながら、俺は息を引き取った。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〖プレイヤーネーム:”バンブー”が死亡しました。〗

 

〖蘇生可能時間の超過を確認。〗

 

〖30秒後に復活します。〗

 

〖デスペナルティ-1:6時間のステータス半減〗

 

〖デスペナルティ-2:6時間の経験値獲得無効〗

 

〖ビギナープロトコル:初ログインより72時間の間、デスペナルティの破棄〗

 

〖素体再生─Now Loading…〗

 

 

 

 目が覚めるとそこは見た事のある天井だった。

 なんでやねん! 聞いてないぞ支配状態とか! やっぱクソゲーだわ。

 なんだあの殺意の高い兎は。完全に仲間になったものだと思って油断したよチクショウ!

 しかし、こんな時のために空けておきましたとさスキル枠。支配で検索したすぐに出てきた【支配】ちゃん。

 というわけで、俺は森に向かった。そこに向かうまでは幾多もの困難が立ちはだかった。

 からんでくるチンピラを【疾走】でかわし、さっき襲った四人組にすれ違ってビビり、四人組を避けようと遠回りをした若干道に迷いかけた。

 そうしてようやっとニーシャルナ森林へと着いた。無駄に広いし複雑な道しやがって。やはり都市ニーシャルナは潰すべきだな。俺が道を迷うことのない更地にしてやる。

 そんなこんなでその為に第一歩として、ウサギさんよ。君には我が支配下へと下る権利をやろう。

 今度の俺は一味違うぞ! 【支配】!【契約】!行けっ! テイマーボールっ!

 

「ウサちゃんゲットだぜ!」

 

「ピョン」

 

 俺はお約束のセリフを叫びながら、昇天した。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

〖プレイヤーネーム:”バンブー”が死亡しました。〗

 

〖蘇生可能時間の超過を確認。〗

 

〖30秒後に復活します。〗

 

〖デスペナルティ-1:6時間のステータス半減〗

 

〖デスペナルティ-2:6時間の経験値獲得無効〗

 

〖ビギナープロトコル:初ログインより72時間の間、デスペナルティの破棄〗

 

〖素体再生─Now Loading…〗

 

 

 

 Why?? What?! FaQ!!

 何故だ、何なんだ、氏ね!!!

 俺の作戦は完璧だったはず。くそぉ……なーにが〖魅了状態下にありません〗だとぉ? どんだけテイマーに厳しいんだこのクソゲーはよォ!

 いやまてバンブー。落ち着けバンブー。俺はまだやり直せる。そう、スキルポイントは12ポイントもある。ちなみにスキルポイントはレベル上がる度に3ポイント貰える。

 俺は気持ちを落ち着かせると、3ポイント消費で【魅了】のスキルを習得した。

 しかし、森までの道は更に過酷を極めた。

 騎士団に呼び止められてヒヤヒヤし、なんだチンピラの事かと安心した瞬間さっきのPKについて知らないか(たず)ねられてヒヤヒヤし、かと思えば四人組と騎士団が合流して談笑を初めてヒヤヒヤした。

 なんで一緒にいやがるんだよ馬鹿野郎。まあ十中八九俺のせいなんだけどなチクショウ。

 聞いてませんよ、そんな指名手配犯みたいな事されるなんて。なんか最初にキルした神官が異邦人の軍隊引き連れてたし。なんで神官が大軍率いてるんだよおかしいだろ。アレなの? 隣人を愛せよ、と神は言ったとかで隣にいる人を片っ端から仲間にしたの?

 ちょっとした出来心だったんだ、信じてくれよ!

 まぁ、謝る気は無いんだけど。バレたら逃げるが勝ち。勝てばよかろうなのだ。

 そんなこんなで三度やってきたぜウサ公。ここであったが百年目。

 

「【魅了】【支配】【契約】ッ!」

 

 ウサ公の体からハートのエフェクトが舞い、目がグルグル模様になって、変な紋章が一瞬身体中に光った。

 

〖〈一角兎(アルミラージ)〉がプレイヤーネーム:”バンブー”の従魔になりました。〗

 

〖名前を入力して下さい。[____]〗

 

「ピャァァァァァァッッッ!!!」

 

 喜びのあまり、俺は叫んだ。それはまるで鷹の如く、甲高い鳴き声だった。

 おや? 契約したての従魔のはずが、ログがやけに長い。

 そう。こいつだったのだ。俺を二回も(ほふ)ったキラーバニーは。

 俺は再び叫んだ。

 という訳で名前を付けよう。今日からお前はムホン(謀叛)だ。俺に逆らったその愚行を名前に刻んでやる。俺の下調べ不足? いいや違うね。全部ムホンが悪い。悪いったら悪いのだ。

 

「……ピョン」

 

 するとムホンはキッ、と(にら)んだ。今に見てろよいつか必ず、と言いたげな目だった。なんだその反抗的な目は。教育が必要そうだな。

 買っておいた人参をムホンにチラつかせながら次の事を考える。

 斯くして俺は、次なる作戦への第一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




ちなみに辻ヒールさんのプレイヤーネームは”辻ヒール”ではありません。


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#7 特訓と書いて禁忌と読む

小説のストック切れそう


 さて、無事ウサちゃん、もといムホンを味方にした訳だが。次にやる事はもう決まっている。

 その為にはまず俺とムホンのレベルを上げておく必要がある。

 てなワケで特訓だ! 気合いだ!気合いだ!気合いだー! ……んだよムホン。なぜそんなやる気の無い目でコチラを見ているんだ。お前は従魔、俺は主人。俺が上でお前が下だ!

 分からないか? お前は俺の言うことを聞くしか無いんだよ。残念だったな。ウサギ畜生が人類様に逆らえるはず無いんだよ。へっ。

 

「ピョォン」

 

 ククッ、そう。それでいいんだ。睨んでいたって何も変わらない。せいぜい無駄な足掻きをしているんだな!ハッハッハ!

 ん?なんだ? ニンジンが欲しいか?ならまずお手だな。

 

「アビャァ、!」

 

 こ、コイツ……! 俺の指を噛みやがった! 親父にも噛まれたこと無いのに!

 主人の指を噛むとは何事か。

 この俺を怒らせるとは良い度胸だな。ならばと、俺はとっておきの特訓でムホンをシゴいてやろうと決意したのだった。

 主従関係を分からせてやる。

 

 俺は森を少し歩いた所に一体の〈一角兎(アルミラージ)〉を見つける。

 

「おい、ムホン。あれが何か分かるか?」

 

「ピョン。」

 

 俺の質問にムホンはそっぽを向く。まぁいいさ。その反抗心がいつまで持つか見ものだな?

 

「そうさ、お前の同族さ。今からお前にはアレを殺して貰う。そう、同族狩りだ。」

 

「……ピョンピョン!」

 

 ムホンは俺に悔しげに訴えかける。しかし、この世に慈悲は無い。残念ながら、お前はあの忌々しきソクソの作ったNPCなんだ。恨むならソクソと自分の運命を恨むんだな。

 

「ヒヒッ、好きに言えばいい。何を言っているのか全く伝わらないからな。何故なら……俺様が人類様だからだよ、なァ兎畜生。」

 

「ピョンッッ!!!」

 

 ムホンは眉を歪ませより一層強く俺を睨む。

 余談だが、精霊人(エルフ)山小人(ドワーフ)小人(ハーフリング)猫獣人(ワーキャット)などの人型の生物も人類に分類されるようだ。

 

「さぁ、殺れ! 命令だ!」

 

「ピョ、ピョン」

 

 普通に殺した。しかもスキルを使って。

 更にお代わりとばかりに近くの他の一角兎もあっさりと(ひね)る。

 

「え?」

 

 顔に付着した血がポリゴンになって砕ける。ムホンがコチラを向いてニヤリと笑って見せた。

 コイツ……! 俺に何とも思ってない事をさぞ苦しそうに演技し、俺のリアクションを楽しみやがった……。ち、畜生風情がァァァッ!

 

「ピョンwピョンwピョンwww」

 

「ホワァァァァッッ!!!!」

 

 ゲラゲラと、いやピョンピョンと笑い転げるムホンを前に、俺は奇声を上げる。小賢(こざか)しい子兎めがァ!

 ひとしきり叫んで正気を取り戻した俺は、この糞兎にスパルタレベリングをすることを誓った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 俺とムホンはレベル上げに(いそ)しんでいた。

 俺のレベルはいつの間にか8にまで到達し、ムホンは9だ。おかしい。俺がご主人様のはずだ。

 従魔が()た経験値の一部は俺に流れる。しかし俺のレベルはムホンより一つ下。納得できない。

 まぁ、テイムした時には既にレベル6だったんだけどねコイツ。だから俺よりレベルが上なのだ。

 だから、俺の好きに出来るコイツのスキルポイントも多い。知性無き魔物はスキルポイントを使う手段が無いからな。9×3で27ポイント。中々に貯め込んでいる。

 ので、コイツには今からスキルを大量に詰め込んで貰うとしよう。

 

【アクロバット】消費3ポ。立体的な動きを補助する。

【物理耐性】消費4ポ。物理攻撃による総合的な耐久性を強化!

【指揮】消費3ポ。これは配下へのバフや配下NPCへの行動の強制力などだ。

【魔法耐性】消費4ポ。【物理耐性】の魔法版。

【回復魔法】消費3ポ。回復を中心としたバフ魔法を使えるようにする。

【体術】消費3ポ。ステゴロで戦える技を使えるようになる。

【筋力値上昇】消費3ポ。隠し要素(マスクデータ)であるステータスを上昇させるらしい。

最後に【槍術】消費3ポ。槍の扱いみたいに角もいけるかな、と思って入れてみた。

 

 ご覧のビルドを見て分かる通り、ムホンには今から群れのボスになってもらう。当然、コイツ自身の力も上げておく。ムホンには重要な役割があるんだ。

 その為に、俺はただいま絶賛一角兎を乱獲中だ。しかし、十体ほど捕まえた所で異変が起こる。

 

〖! 配下量キャップの残量が少ないです !〗

 

〖配下のレベルが上昇が阻害されますが、〈一角兎(アルミラージ)〉と契約しますか?〗

 

〖>>[Yes]/No〗

 

 答えはもちろんノーである。何の量だかキャップだかは知らないが、イエスだと悪い事が起こるのはわかる。ゲーマーの勘というやつだ。

 とりあえず仲間になる予定だったウサギ殺しておいた。

 チッ、こうなりゃムホンのレベルを上げてコイツも配下を作れるようにするしかないな。という訳で仲間確保のために中断していたムホンのレベル上げを再開せねばなるまい。

 いけっ!ムホン! たいあたり! こうかはバツグンだ!

 ムホンが兎畜生達に素早く突進する。兎畜生Aは逃げようとするが背を向けた瞬間、背に大きな穴が開きそのまま出血して倒れる。兎畜生Bはそれをみて応戦しようとする。

 ムホンへ向かい素早い頭突きを試みるが、ムホンの方がレベルは上。即ち兎畜生Bに勝てる可能性はゼロである。

 頭突きを躱された挙句、一気に腹の皮を突き破られ、Bは死んだ。

 

〖配下:”ムホン”がレベル10に到達しました。〗

 

〖”ムホン”は進化が可能です。進化先を選択して下さい。〗

 

 なんと、この度めでたくムホンが進化を遂げることとなった。この世界の魔物はある一定のレベルに達すると進化、と呼ばれる変態をする。

 この進化は魔物によって条件レベルが異なっている、とソクソは言っている。

 進化先を確認してみよう。さてさて、ウチのかわい子ちゃんはどんな姿に進化するのかしら?

 

 

一角大兎(ビッグ・アルミラージ)

 体と角が一回り大きくなった一角兎。全体的な能力が向上している。

・種族スキル【大跳躍】

 

二角兎(ジャッカロープ)

 大きさはそのまま、ヘラジカのような二本の角の生えた兎型魔物。魔法や素早さに特化している。二本の角は一角兎達の憧れの的。

・種族スキル【角の威厳】

 

 

 ほほう、面白そうだな。

 これは〈二角兎(ジャッカロープ)〉を選ぶのが正解だろう。理由はいくつかある。

 一つ、大きさがそのまま。大きければ質量を使った攻撃を使えるが、その分大きな的となる。更に言えば、の俺のプレイスタイルに見つかる危険性の高まる〈一角大兎(ビッグ・アルミラージ)〉のデカい図体は向いていない。

 二つ、素早さ特化。これは兎畜生の重要な攻撃要素、突進にかなり大きな強化が見込めそうだ。

 三つ、【角の威厳】。俺は今ムホンに配下を作らせようとしている。そんなタイミングで同族に憧れられる【角の威厳】だ。使わないわけが無いだろう。

 という訳で、早速二角兎に決定だ。

 

〖〈二角兎(ジャッカロープ)〉が選択されました。決定しますか?〗

 

〖>>[Yes]/No〗

 

 俺は迷うことなくイエスを押した。すると、ムホンの体が明るく輝き出す。角が伸びて分裂し、イッカクのような角からヘラジカのような角に形が変わる。

 

「ピョン!」

 

 心なしかムホンも嬉しそうに鳴く。周りの弟配下達も目を輝かせてムホンを見つめている。自慢げに胸を張り、角を強調するムホンを他配下はおおーっと、いやピョンと感嘆の息を漏らす。そんな珍妙(ちんみょつ)な光景が俺の目の前に広がっている。なんだこれ

 俺は進化ボーナスの2ポイントとレベルボーナスの3ポイント、残り1ポイントの計6ポイントで【支配】【契約】のスキルをムホンに取らせる。

 ちなみに【魅了】は【角の威厳】で、代用されるようで必要無い。

 配下くん達や。お主らはムホンが大好きじゃろ? ならムホンの配下におなり。

 こうして、配下量キャップとやらはグリーンゾーンになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




いらないと思うけどバンブーとムホンのスキル一覧的なやつ載せときますね。


本名:竹島 琉真
ネーム:バンブー
レベル:9
性別:女(ネカマ)
種族:〈半精霊人(ハーフ・エルフ)
スキル:
【隠密-8】【挑発-3】【契約-4】
【短剣術-7】【疾走-7】【闇魔法-5】
【魅了-2】【支配-2】【早着替え-1】
スキルポイント:32


ネーム:ムホン
レベル:10
性別:女
種族:〈二角兎(ジャッカロープ)
スキル:
【突進-8】【刺突-5】【跳躍-7】
【アクロバット-3】【物理耐性-2】【指揮-1】
【魔法耐性-1】【回復魔法-1】【体術-3】
【筋力値上昇-2】【槍術-1】【角の威厳-1】
【支配-2】【契約-2】
スキルポイント:0


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#8 あつまれ!ウサゲコの森!

説明台詞と戦闘描写が大半を占めとる……


 ムホンは十匹の子分を引き連れて森を練り歩いている。見つけては倒し、たまに子分の子分にする。

 そうしていくうちに、我が軍はみるみる大規模部隊へと進化を成していった。ムホンを除くとその数なんと1480匹。

 しかし、それが強いのかと言われれば俺は首を縦にも横にも振ることが出来ない。

 

 例えばムホンの弟配下を①番、弟配下の配下を②としたとしよう。

 するとレベルキャップは①が10レベ、②が5、③が3で、④がわずか2レベルとなってしまう。

 配下の数だって、ムホンが10体、①が7体、②が5で③が3。④に関しては0体となる。恐らく無限に仲間の勢力を伸ばせないように設計されているのだろう。

 そうなると1050体、約70%を占める〈一角兎(アルミラージ)〉達はレベル2で頭打ちとなるのだ。

 

 いくら、戦いは数だよ兄さん、という名言があるからと言って、流石に心許無(こころもとな)い。塵も積もれば山となるとはよく言うが、ここはゲーム。レベルが全事象の4~6割を左右すると言っても過言では無い。

 ギリギリ山になっているかどうかも分からないラインなのだ。

 

 ではこのまま計画を実行するか? んな訳ない。このままでは確実に大敗する。

 確かに俺の兎は数が多い。それは間違い無くそうであろう。しかし、数が多いのは向こうも同じだ。

 サービス開始直後というのは多くのゲームの場合、最もアクティブユーザーの多い時期の一つであろう。

 新しいとはそれだけで影響力がある。

 それが忌々しくも超大手企業ともなれば話題性としては一級品である。

 いくらランダムな国家、ランダムな土地に()()りになるからと言っても、頭数が多ければそれだけ一点に集まるものだ。

 例えば国民アンケートなんかで反対意見は数パーセントと言っても、数えてみれば数万人はくだらない。パーセントや乱数に全てをあてにするのは危険と言えるだろう。

 ではどうするか? 答えは実にシンプル。兵力を底上げすればいい。

 でもどうやって? 数もレベルも限界まで上がっているのに?

 お忘れか?これはゲームだ。

 つまり、俺のレベルが上がればムホンのレベル上限が上がる。ムホンのレベルが上がれば配下①のレベル上限が上がり、①のレベルが上がれば②の上限が…………と、俺のレベルこそがものを言う。

 当然と言われれば当然だ。これはレベルシステムのあるゲームで、コイツらは俺の配下なのだから。

 ただ、配下量キャップに関しては配下の配下的な方程式によってレベルよりも厳しい制限がかかっているので、兵数は現状維持で行く。それにこれ以上増えると俺のスキルポイントの管理する手間がかかり過ぎる。時間は有限だ。

 

 てなワケでコチラの物件、あつまれウサギ(無差別)さんの森(徴兵)をしていた時に偶然見つけたダンジョンちゃんでーす!

 まだ中には入っていないが、恐らく初心者用フィールドの中に入口がある事から弱い魔物の住むダンジョンなのだろう。

 このゲームのダンジョンの定義、それは何らかの原因によって出現した<迷宮の心臓(ダンジョンコア)>と呼ばれる核があり、それが作動している事。

 <迷宮の心臓(ダンジョンコア)>とは魔物を半永久的に産み出す謎の物体だ。ソースは例のごとくソクソ公式だ。

 このゲームの世界は回っている。全ての生物は、一部の例外を除きみな平等に死ねば生き返らない。死ねば死ぬ、極々(ごくごく)自然な摂理(せつり)である。

 壊れた建造物や木々岩々がいつの間にか元通りになっていたり、地面からいきなりポリゴンと共に〈小鬼(ゴブリン)〉や〈粘魔(スライム)〉が生えてくる事も無いだろう。

 しかし、ダンジョン産の魔物はそれに該当(がいとう)しない。ニョキニョキ生えてくる。ここなら倒しても倒しても魔物の在庫切れを心配する必要は無い。

 それに罠や宝箱等のギミックはあれど基本的に魔物以外は存在しない場所である。

 魔物は探すまでも無く向こうから無限にやってくる。最高の狩場であると言えよう。

 いわばレベルを上げるにはこれ以上無い優良物件なのだ。

 

「念の為に、変装しておくか」

 

「ピョン」

 

 このダンジョンの最初の発見者が俺であるという保証は一ミリも無い。念には念を入れるべきだろう。

 俺は指をパチンと鳴らす。美少女の生着替えだぞ、喜べ。ネカマだがな。

 するとなんと言う事をしてくれたのでしょう。あんなに可愛らしかった服装は、一瞬で黒ずくめの不審者に。匠の(いき)(はか)らいにより付けられた仮面はより一層不気味さを際立(きわだ)たせて居ます。

 

 ちなみに服は一定以下の防御力、もしくは特殊能力が無いかぎり死に戻り(リスポーン)時にアバターと共に治る仕様だ。

 ボロボロになって死んだ異邦人を全裸(マッパ)寸前の状態で教会という公共施設に転移させるなんて鬼畜シュチュをさせない為だろう。

 

 髪をバッサリと切り捨てた俺はダンジョンへと足を踏み入れたのだった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ダンジョンはゴツゴツとした岩が天井や壁を担う洞窟だった。足元は()み慣らされた様な不自然なフラットさがあった。

 ちなみにムホンと配下①番以外の配下は森に散らせておいた。この洞窟で千の大群を動かすのは(せま)過ぎる。逆に邪魔だ。

 歩き進めて行くと、ポリゴンが地面から飛び出す。蚊虫の群れの様に(うごめ)くソレは集束(しゅうそく)して行き、生き物の形を成す。

 

「……ゲコォ」

 

 目の前に現れたのは紫色のきっしょい(かえる)だった。

 

「ピョン」

 

「あ〜、悪いなムホン。ちょっと俺一人で戦わせて。色んな魔物と戦っておきたい。このゲームのNPCで戦った事あるのが兎だけってのも、何となく不安要素なんだわ」

 

 目の前の紫蛙はまだこちらに気付いていない。【隠密】とムホン達の気配のおかげで俺の存在を認識出来ていないのだ。背後から一気に潰す……!

 

───〔スライド〕

 

〔ビギン・スライド〕の進化系、〔スライド〕で紫蛙の背中を斬り付ける。グェ、と不愉快な濁音と粘液が紫蛙の口から漏れる。

 距離を取りながら振り向いた蛙は、口から紫色の泥団子のような物体を勢い良く吐き出す。

 俺はそれをナイフでいなそうとするが、液体なのか刃先に当たった途端に弾け飛んでしまった。

 

「これは……毒かっ!?」

 

 飛び散った液体が付着した部分は煙を立てて黒紫に変色し、体力バーは点滅を繰り返している。

 俺は思わず顔を(しか)めて舌打ちする。状況を改善するため、俺は飛んでくる毒弾を(かわ)しながらウィンドウを操作する。

 

 残りポイントは44。まだまだ余裕がある、なら!

 

 ウィンドウに映し出されるのは【毒耐性】の文字。体力バーの点滅速度が(ゆる)やかになる。これで多少はマシになった。

 俺は再び攻撃を躱しながら紫蛙へと斬り掛かる。紫蛙は逃げようと跳ぶが、すかさず右太腿(ふともも)に〔ビギン・スライド〕を叩き込む。

 

「ゲクォッ!」

 

 バランスを崩した紫蛙はそのまま地面に顔を打ち付ける。そのまま背中に刃を立てる。

 

「ゴエェェッ!」

 

「滑るッ! クソッ!」

 

 ヌルヌルとした蛙の肌の所為(せい)でナイフを上手く刺す事が出来ない。ズルッ、と滑った刃先は蛙の横腹を裂くに(とど)まった。クソが。

 舌打ちをする顔に蛙の左脚が迫る。()れた布を叩き付けられたような感覚が左頬(ひだりほほ)(おそ)う。

 

「ブベッ!」

 

「ゲココッ!」

 

 間の抜けた声を出し姿勢の(かたむ)く俺に、紫蛙はここぞとばかりに毒弾を吐き出した。

 俺は腕を地面にバネのようにして大きく突き上げて姿勢を戻し、低姿勢狙いのゲロを躱す。

 起き上がる勢いで、俺は蛙の右眼を目掛けてナイフを滑らせる。先程のことから突き付けるのではなく斬り付ける感じで。

 俺の目論(もくろ)み通り、蛙の口の上から片目、首の手前までが緑の液体を撒き散らしながら大きく裂ける。

 やはり粘液は刺突を邪魔できるが斬撃に対してはほぼ無力の様だ。(もだ)える蛙を見ながら俺は内心ガッツポーズをキメる。

 

「ゲロォッ!!」

 

 一度自分の攻撃の通った相手に痛手を負わされた事に腹を立てたのか、はたまたピンチを感じ取った生存本能故の焦燥(しょうそう)からか。

 蛙は右面から体液を垂らしながら、俺に決死の特攻を仕掛ける。しかし、暗殺者にとって気の確かでない相手ほど容易(たやす)い相手は居ない。

 今まで切っていた(・・・・・・・・)【隠密】を再度発動させる。

 認識されている状態からの発動は効果が(いちじる)しく低下する。これはまぁ当たり前だ。だがここで重要なのはゼロでは無い事だ。

 一瞬()らいだ気配に戸惑(とまど)う紫蛙。俺はその隙を逃がさない。逃がせない。そのままスルリと背後へ周り、背筋に沿()って蛙の皮膚を脳天から一気に切断する。

 

───〔スライド〕

 

 (のど)の潰れたようなグェェ、という声と共に蛙はポリゴン状に散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




某でび×3る様大好き


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#9 みんな仲良くプレイしましょう!

ゴリッゴリに戦闘じゃ!

会話劇がどうしても安っぽくなってしまうのは、どうしたらいいのだろうか……


〖YOU WIN!〗

 

〖経験値を獲得。〗

 

〖素体の経験値貯蔵量が一定量超過を確認しました。〗

 

〖レベルアップ開始─Now Loading…〗

 

〖プレイヤーネーム:”バンブー”がレベル10に達しました。〗

 

〖スキルポイントが3ポイント贈呈されます。〗

 

〖ビギナープロトコル解除:条件-2”素体レベルの一定レベルまでの上昇”が達成されました。〗

 

〖以降から死亡後にデスペナルティが適応されます。〗

 

 

 

 俺は地面に転がる仮面を拾い上げる。(ひび)が入っていないか確認し、装着する。

 ムホンの【回復魔法】を浴びながら、俺は顎に手を当てる。

 

「意外と強かったな。やっぱり毒がデカいか?……まぁ、だいたい分かったし、お前らが居れば余裕か」

 

「ピョン」

 

 自信満々な音でムホンは鳴き声を上げる。

 

「よし、早速レベル上げだ」

 

 俺達は再び集まり出した光の欠片(かけら)に目掛けて走り出した。

 

「次から次へと、全く……最高かよ!」

 

 配下①達はピョンピョンと可愛らしく詠唱する。

 その間に俺とムホンは二人(1人と1匹)で左右から紫蛙へ突っ込む。

 ムホンが注意を引きつつ、()ぎ払うようにその無駄にゴテゴテとした角を振りかざす。

 

───〔スライド〕

 

 それを避けるべく後ろに飛び跳ねた紫蛙の背骨をスキルの威力が上乗せされたナイフで斬り付ける。

 ゲコォ、そんな間の抜けた雑音を喉から()らしながら、紫蛙は口に毒々しい色の液体を栗鼠(リス)のように(ほほ)(ふく)らませ始める。

 水風船のようにパンパンに膨れ上がったそれをムホンが飛び退()いた瞬間にナイフで突いて破裂させる。

 顔の左から()()の液体を噴水のように射出する紫蛙は激痛と憤怒(ふんぬ)に狂ったかのように我武者羅(がむしゃら)に暴れ出す。

 紫蛙は俺目掛けて跳躍する。かかったな馬鹿が!

 それを阻止したのは配下①のそれぞれ別属性の魔法スキル達。

 

「グェ?!」

 

 俺の目の前に先刻まで(せま)っていた両生類は色とりどりのエフェクトと共にに吹き飛ばされ、ズタボロになって壁にへばりつく。

 一人でまあまあ苦戦した相手を、チームだとこうもあっさり(ひね)る事が出来る。やはり数とは偉大な物だ。

 

 

 休憩を済ませた俺達は再びダンジョンの奥へと進む。しばらくした所で、ふとある事に気付く。

 

「……ピョン」

 

「お前も聞こえたか、今の声」

 

 それな紛れもなく人の声だった。新手の魔物か、それとも異邦人か。ダンジョンのコンセプトを察するに後者(異邦人)の方が可能性は高いだろう。

 俺は慎重に【隠密】を発動させると配下①のうち一匹、イチノイチ(①-1)イチノニ(①-2)を先行偵察させる。

 ちなみにイチノイチくんは【火魔法】、イチノニちゃんは【闇魔法】の使い手だ。先手高火力&デバフは暗殺者の基本のキ。いかに早い段階で相手に深手を負わせる事が出来るかが勝負を大きく左右する。ここテストに出ます。

 暗殺とは準備。準備こそ暗殺の極意なのだ。

 

「だ、誰だッ!」

 

「な、なぜここに〈一角兎(アルミラージ)〉が?!」

 

「『ピョンピョン(ファイア・ウェーヴ)』」

 

「『ピョピョン(ルックス・ダーク)』」

 

 混乱する異邦人達を飲み込むのは焔の濁流(だくりゅう)

 焼け焦げながらも構えようとする彼らを、黒い色のモヤが(まと)わり付く。

 

「今度はなんだよ!」

 

「前が見え辛ぇぞ、オイ!」

 

「クソ!落ち着け! オロオロしてちゃやられ……」

 

───〔スライド〕

 

 先ずは指揮系統から破壊していく。指揮を失った軍隊は驚く程に(もろ)くなる。

 思い出すな、今は亡きDLO。忘れもしない、あれは確か大規模ギルドを一人でぶっ壊す遊びをしてた時だったな。

 まずは簡単なのからって事で、後衛のサブマスと指示を出してるヤツを片っ端から殺して回った。

 するとどうだろうか、統率の取れなくなったプレイヤー達は連携もバラバラに頓珍漢(とんちんかん)な作戦をそれぞれが立て始めた。中にはいがみ合って喧嘩まで発展してるヤツらも居たな。

 とうのギルマスはカリスマはあるものの根っからの脳筋で、上手く事態に対処しきれなかった。

 俺は殺されてしまったものの、ギルドはその時の(わだかま)りが原因で多くのメンバーが脱退。その後間もなくとしてそのギルドは無事解散した。肉を切らせて骨を断つとは正にこの事だ。

 

 さて、話は目の前の異邦人達に戻る。

 彼らは今視界の大変よろしくない状態にある。これは【闇魔法】『御先真暗(ルックス・ダーク)』が引き起こしたものだ。この魔法の効果は低度の盲目とステータスの微量な低下だ。

 地味と思われるかも知れないが、人間の脳が周りの事を把握(はあく)するのに使う情報の約八割は視界情報と言われている。それがいきなり心(もと)ない物になってしまう事の、なんと恐ろしい事か。

 そこに身体の力がいきなり抜けたらどうだろうか。

 更に更にそこへ居るはずの無い魔物、いきなりの全体攻撃を上乗せすれば、情けなく尻もちをつくパーティの一人を責める者も少しは減るだろうか。まあ、結局ダサいものはダサいのだが。

 ムホンは異邦人のうちの一人の脚をスキルで大きく抉る。それに続くように①達も魔法や角で攻撃を開始する。

 しかし、相手も黙っている訳では無い。

 盲目状態でも見える範囲までやってきた瞬間に剣を振る者。

 我武者羅に槍を振り回す者。

 結界のようなものを展開させて自分を守る者。

 尻もちをついたまま起き上がれず、へその上から角が生える者。

 実に個性的な様々な対応をする。

 しかし消耗戦なら深手の4対、絶好調の11で俺達の勝ちだ。

 

「ちっ、ダメだ勝てねぇ!」

 

「諦めんのかよ」

 

「だってよ……」

 

 オイオイ、俺達を前にして仲間割れとはいい度胸じゃねぇか。こういう時こそ一致団結の時だと俺は思うね。

 

「ピョン」

 

「グァァッ!」

 

「アルト! クソ、アレを使うしか……」

 

 ムホン達は異邦人を一方的に蹂躙(じゅうりん)する。

 残りの一人にナイフを刺しかかろうとした所で異変に気付く。

 何故反撃しない(・・・・・)

 戦意喪失? 抵抗しても無駄と分かったから? いや、違う。コイツは今笑ってる。

 

「なぁ。アンタ、例の仮面の暗殺者だろ? ウワサは聞いてるぜ、自殺したんだってな。なら……」

 

「不味い! みんな逃げ──」

 

「……殺されるのは初めてか?」

 

 ダンジョン中に、轟音(ごうおん)が響き渡る。

 直撃を避けたはいいものの、俺達は爆風の余波で吹き飛ばされ、硬い岩壁に叩き付けられる。

 衝撃で空になった肺に空気を、大きく深呼吸して流し込む。咄嗟(とっさ)に【早着替え】した事で仮面は砕けなかった。

 まだ計画は終わっていないのに、勝手に壊れてもらっては困るからな。

 多分あの仮面屋は例の一件で使えない。次使えば確実に足がつく。こんな事なら予備の仮面でも買っておくべきだったか?

 まあ何はともあれ。結局、自爆太郎くんは俺達を誰一人として殺せず、(はかな)く散っていった。が、侮れない奴だった。

 異邦人の中にはこういう捨て身覚悟のヤツも居るだろう。気を引き締めていこう。油断大敵だ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 その後も俺達は目立った困難も無く、順調にレベルを上げていった。ただ一つ不可解なのは……

 

「……なぁ、なんか蛙強くなってきてない?」

 

「ピョピョン」

 

 俺にはウサギ語が分からないが、今のは恐らく肯定だろう。多分。

 魔物の強さだけでなく、姿形まで変わってしまっている。紫蛙の肌のイボのような物は大きくギザギザした形になり、大きさも一回り二回りデカくなっている。おそらく上位種として間違いない。名前分からないし、仮に強紫蛙と名付けよう。

 それに洞窟自体だって変だ。最初は普通の岩だったのに段々とグラデーションがかかって行き、今ではすっかり紫色の不気味でファンタジーな目に悪い壁になってしまった。

 

「グゲゲコ、」

 

イチノヨン(①-4)、『水波動(ウォーター・ウェーヴ)』だ」

 

 配下①の水属性担当、イチノヨン君がウサギ語で愛くるしい詠唱を終えると、強紫蛙の顔面に直撃する。

 コイツらの意外な弱点も分かった。それは「水」だ。

 紫蛙共は蛙であるにも関わらず、水属性の魔術が大の苦手としている。水に触れただけで暴れ回ったり痙攣(けいれん)したりする。

 なんだかシャワーを嫌がるイエネコみたいでキモすぎて笑ってしまった。猫は可愛いがコイツらは可愛くは無かった、蛙だからな。

 そんな訳で、イチノヨン君は大活躍。配下①の中で一番最初に〈一角大兎(ビッグ・アルミラージ)〉となった。エリートだ。その他の配下①達もそれを追うように進化して行った。いやぁ、めでたいめでたい。

 ちなみに、配下のレベルキャップは俺やムホンのレベルが上がる度に上昇している。なので①達は進化する事が可能だ。

 

 閑話休題(話を戻そう)。ダンジョンの難易度が高くなって来ている。

 この洞窟がどこまで続いているかは知らないが、そろそろ<迷宮の心臓(ダンジョンコア)>のあるダンジョンの最深部、いわゆるボス部屋に辿り着くのでは無いか。

 AWLOにとってダンジョンボスとは<心臓(コア)>の守護者。初めて倒した者には特別なアイテムやらスキルが特典としてついてくるらしい。ソースはソクソだ。

 それにこのボス装備、なんと他人譲渡(じょうと)不可。つまり、盗難完全防止機能のついた超強いアイテムが手に入る、という事だ。

 

「…………これは……」

 

「ピョンピョン……」

 

 途中から明らかに人の手が加えられた石レンガ造りの壁床天井。

 重苦しい存在感を放つ大きな大きな鉄扉。

 その扉には装飾がなされており、人々がデカい蛙に喰われる様子が描かれている。

 扉の左右に鎮座(ちんざ)する阿吽(あうん)の強紫蛙が(かたど)られた石像は、今にも動き出しそうな迫力を感じさせる。

 

 扉の前に立つと、システムウィンドウが現れる。

 

 

 

〖プレイヤーネーム:”バンブー”がボス部屋を発見しました。〗

 

〖扉を開けるとダンジョンボスとの戦闘が開始されます。〗

 

〖扉を開けますか? Yes/No〗

 

 

 俺は思わず息を飲む。それから口角を上がらせる。

 

「そんなの、一つしか無ぇだろ」

 

 

 

〖>>[Yes]/No〗

 

〖BOSS:”毒蛙の長老(エルダー・ポイズントード)”との戦闘を開始します。〗

 

 

 

 無機質に読み上げられた声に、気分が高揚する。

 俺は仮面の中で歯を向き出してニヒル、と笑う。

───さぁ、戦い(ゲーム)の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




チーム戦は大事だよね!と、ぼっちが申しております。



星が欲しい(激ウマギャグ)!


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#10 ぶっ潰す

前書きを書く気力が、もう、無い……ガクッ、


 ギィ、と音を立てて重たい扉が開けられる。

 謎の引力が部屋の中へと俺達を誘う。逃げる事は叶わない、という事か。上等だ。

 俺は詠唱を呟きながら構えを取る。ムホン達も同様に戦闘に備える。

 部屋は石レンガで出来た円形の大広間。だだっ広い空間には、魔法の詠唱だけが響き渡る。今にも消えてしまいそうな声量の詠唱達が大きく聞こえる事が、この場の静寂さを表している。

 

 部屋中央、突如として如何にも魔法陣といった印象の紋様が床に浮かび上がる。

 魔法陣から(あふ)れ出した無数のポリゴンが渦を巻き、その巨体を形創って行く。

 やがてその禍々(まがまが)しい姿は、五体の強紫蛙と共に完全に形成され尽した。

 

「グゴルァォォォォオッッッ!!!」

「ゲコォ!」

「ゲッグゲゲック……!」

「ゲロゴォッ」

「コゴロロロゲォ」

 

「『ピョンピョンピョン(ブースト・ジェネラリィ)』」

「『御先真暗(ルックス・ダーク)』」

「『ピョンピョピョン(エア・ブラスト)』」

「『ピョンピョン(シャドウ・バインド)』」

「『ピョンピョピョン(ウォーター・ウェーヴ)』」

 

 蛙の雄叫(おたけ)びを上げた瞬間、蛙達の毒弾と俺達の魔法がぶつかり合う。

 俺は【隠密】で取り巻きの一体に近づき、背後から猛攻を加える。

 

───〔スライド〕

───〔ツイン・スライド〕

 

「グゲェ!」

 

 三連撃を打ち込んだ取り巻きは背中から紫の液を垂れ流し、その場に大きく崩れ落ちる。

 な、体力バーが、点滅してる?

 ! コイツ、普通の強紫蛙じゃない……血が毒(・・・)だ!

 

「お前ら! コイツらの血に触らないように避けろ! 毒だ!」

 

 兎達はヒットアンドアウェイを繰り返す。毒血を浴びないよう慎重な頭突きや魔法発射が求められ、普通の戦闘よりも精神を削られる。

 その時だった。ボス蛙の舌がしなる鞭のようにイチノゴを襲う。

 咄嗟にイチノサンとイチノロクが駆け出しボス蛙に体当たりを仕掛ける。その巨体に頭突きを当てる事は容易だったが、問題はその後だった。

 ボス蛙の身体のイボが破けると同時に、大量の毒液が辺りに撒き散らされた。

 突然の出来事に反応出来る訳も無く、サンとロクは真面(まとも)に毒を被ってしまう。

 

「チィッ! ムホン、解毒を!」

 

「『ピョピョン(アンチ・ドート)』!」

 

 呪文を唱えるムホンに迫る強紫蛙を【短剣術】で応戦する。

 

───〔スピン・スライド〕

 

 俺の身体は回転しながら地面に垂直に空に弧を描き、そのまま強紫蛙の頭部から背中にかけてを抉る。

 クソ、倒せたは良いが血を浴びてしまった! 【毒耐性】のレベルも高いしヒーラーを潰されるよりかはマシだが…………面倒なヤツらだよ本当!

 誰だよ、ここは初心者の狩場近いからダンジョンとしてレベル低そうとか言った奴は!俺だよクソッタレ!

 兎も角、ムホンの魔法が間に合って無いのが一番の難点だ。

 それにまだ不味い事がある。ヤツらの弱点である【水魔法】を使えるイチノヨン、【支援魔法】のイチノシチをさっきからやたらしつこく狙っている気がする。一々面倒臭い相手だ。

 何か、何か打開策は無いか? きっと手段はあるはずだ。考えろ、考えろ。

 

「ヨン、なるべく広く『水波動(ウォーター・ウェーヴ)』、ロクは地面に『強電撃(パワー・ライトニング)』、俺とニは足止め、それ以外は……イチ以外攻撃!」

 

 イチノヨンの魔法が蛙共の頭上で(はじ)ける。蛙共は降り注ぐ水滴が当たると、まるでそれが猛毒かのように激しくのたうち回り逃げようとした。逃がすかよ、大人しくしてろ。

 

 闇の手引き、暗に堕つ視線、我バンブーなり。我が真名の下に闇の力を奮い給へ。堕とせ、陰れ──

 

 

───『御先真暗(ルックス・ダーク)

 

「『ピョンピョン(シャドウ・バインド)』」

 

 黒い霧と触腕が蛙達を絡め、逃走を阻害する。そこに追い討ちをかけるべく電流が流される。『水波動』の所為でずぶ濡れになった蛙達に、激痛と痺れが襲いかかる。

 二体の取り巻きは口から煙を吐いて息絶える。こんがり上手に焼けましたってね。

 肝心のボスだが、当然のように生きている。仕留め切れなかった。だが、狙いはそこでは無い(・・・・・・)

 

 ボスのイボはその(ほとん)どがことごとく潰れている。今の『強電撃』で破けたのだろう。

 くっくっくっ、しかもヤッコさん、アンタ今動けねぇでしょう。そりゃそうさ、だって感電しちまったんだモンなァ!

 動けねぇ上に武器も無くすとは惨めな姿じゃねぇかデカガマさんよォ。

 ひゃひゃっ、ここまで上手くいくたァ思わなかったぜ。随分手こずらせてくれたじゃねぇか…………行けェ野郎共ォ!あのウスノロをぶちのめせッ!

 

 俺と兎達が一斉にけしかけようとした、その時だった。

 

 

 

「GEROGYUEAAAAAA!!!!」

 

「!?」

 

 ボスは雄叫びを上げて舌を大袈裟に振り上げ、油断していた俺の腹にめり込ませる。

 

「ゴバッ、?!」

 

 壁にめり込んだ体を動かしながら考える。これ結構骨行ってんね……

 なんだ、何故動ける? そんな事を考える暇に、舌(さば)きは激化する。

 くっ、何故だ!俺の計画は完璧だったはず。クソッタレがァ!やっぱAWLOはクソゲーだ!滅ぼさねばァ!

 まずはあのクソガエルを、クソガエルを殺さねば!

 俺は目をギラつかせながらクソガエルを睨みつける。まずは兎達をけしかけようそうしよう。幸いクソの攻撃は当たって…………ない?なんで?Why?

 

 俺は油断してた。それは兎達も一緒だ。あの暴走は完全に不意を突かれた。なのに俺だけしか被弾していないとはあまりにも不自然では無いか?

 俺は壁に(はりつけ)になったままボス部屋を俯瞰(ふかん)する。兎達は激化する攻撃に処理が追い付かずギリギリの避けで精一杯だ。何故当たらない?

 俺は思考を巡らせて行く。パズルのピースがはまるような、そんな感覚がある、確信を持った。

 

 忘れていた。これはゲームでコイツはボス。なら当然あるに決まってるよな。見落としていた、失態だ。

 一定の体力を下回った時にある暴走(バーサク)状態……!

 

 コイツの動きは前にも増して素早いものになっている。恐らく攻撃力も。これは俺が舌で殴られた時からくる感覚的な物だが、多分おおよそ当たってる。クソガエルは強くなっている。

 なら何故攻撃が不意打ち以外に当たらないのか。それはクソガエルは今、理性を欠いた状態に居るから。

 これらの状況証拠から導き出される可能性はただ一つ。ボスの暴走ギミックだ。

 ソクソめ、やけに色んな情報公開してると思ったら、ボスのバーサクに油断させる為のカマとはな。やられたよ。認めよう、そして叩き潰そう糞運営!

 

 俺はパラパラと落ちる壁の欠片に見送られ、全力【疾走】する。勿論【隠密】も忘れずに。奴は兎達を捉える事に集中して、吹き飛んだ俺の事なんざ眼中に無い!

 俺はクソガエルの背後に忍び寄り、跳躍して背中を抉る勢いでナイフを振り下ろす。

 

───〔パワー・スライド〕!

 

 

 

 ガキン、と甲高い金属音が響く

 

「は?」

 

 全く刃が通らなかった。一ミリもダメージを与えられなかった。防御力も上がってやがる! クソが!

 

「ッ!」

 

 俺は慌てて舌の横薙ぎをしゃがんで(かわ)す。クソ、悠長には考えさせねぇってか?

 俺は大きく舌打ちをする。魔法を発動する暇を与えない、かと言って物理攻撃は通らない。強過ぎるだろクソガエルッ!

 考えろ、考えるんだ俺。いくらバフってるからって不死身じゃない。弱点はきっとあるはずなんだ。

 水魔法で弱点を突くか? ダメだ、詠唱する暇が無い!

 関節を狙うか? ダメだ、そもそも刃が刺さらない!

 目なら柔らかいんじゃ? ダメだ、的が小さ過ぎてこの猛攻の中では真面に狙えない!

 

「!!」

 

 ベロンと伸ばした舌が俺目掛けて素早く真っ直ぐ突き進む。背中を撫でられた事が気に(さわ)ったのか、槍のような刺突で俺の身体を穿(つらぬ)かんと迫る。

 それもしつこくしつこく!全くしつけぇんだよクソガエルッ! ウザったくて仕方無ぇんだよクソがッ!!

 アホみてぇに口開けて毒吐いたり舌伸ばしたり忙しいヤツだよクソッタレ!!!

 

「何か、策は……」

 

 クソ、クソクソクソ! 考えが(まと)まらねぇ、休んでる時間が無ぇ! あのクソガエルが口さえ閉じ、れ、ば…………

 

 ……あるじゃねぇか! 体かってぇ敵を倒すド定番!

 俺は打倒(だとう)クソガエルの為、息を大きく吸って肺を膨らませる。

 

スキル(おいデブガマ!)──」

 

 コイツは今、暴走状態で理性がぶっ飛んでる。攻撃は速いが動きは単調そのもので作戦もクソも無い。そんでコイツは怒ると……

 

 

 

「──【挑発】(お前雑ッ魚いよなァ)!!!」

 

「GYURUAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

 舌真っ直ぐ伸ばすんだよなァッ!!! 読めてんだよ デブガエルがよォ!!!!

 

───【疾走】、アンド〔スライド〕!!!

 

「GAU?!」

 

 俺はピンと張られた蛙の舌に切り込みを入れながら駆け抜ける。

 そして、ちゅぽんと音を立てて蛙の口にダイブインした。

 

「GYYOOOOOOOOOO?!?!」

 

 いやぁ〜、あったけぇな口の中。少し生臭い良い感じに湿っぽい。いや、褒めてるんだよ?ホントホント。

 にしても狭くて暗いね、流石体内。さてと、胃酸に着く前にちゃっちゃと終わらせますか。

 

「GOO!! GOO!! GYAAA!!!!」

 

 暴れてんじゃ、ねぇ!

 

───〔スライド〕!

───〔スピン・スライド〕!!

───〔ツイン・スライド〕!!!

───〔パワー・スライド〕!!!!

 

「GAAAA!!! GAAAA!!!」

 

 騒いだって無駄だぞデブガエル。お前はもう時期、死ぬんだから、よォッ!

 

「GUAA!!!」

 

 俺はナイフでクソガエルの肉を内側からズタズタにして行く。血を浴びる事になるが、毒がどうこう四の五の言ってたらコイツは倒せねぇ。それは分かる。ならやる事は一つだろ。

 

「決死の覚悟でェ! ぶっ殺すだけだよあァァァァッッ!!!!」

 

 

 部屋に血飛沫(しぶき)とポリゴンが舞い、満身創痍の俺はバタリと倒れ込んだ。

 

「ピョン!」

 

 ありがとよ、何言ってるか分かんないけど……

 

「ハハ、ハハハハハハハッ!!! 勝った!勝てた!勝ってやったぞソクソォ!」

 

 俺は勝負に勝てた喜びを、声を荒らげて表した。

 

「アオォォォォォォォォン!」

 

 俺は叫んだ。勝利の狼煙の代わりとして。

 ムホンはそれに続くようにして叫び、①達も更に続いて鳴いた。

 俺は勝った。勝てたんだ、あの理不尽な強さのクソガエルに! これで近付いた。運営をぶっ潰す計画にィ!

 俺が深呼吸して再び雄叫びを上げようとした。その時だった。何処からともなく、拍手が聞こえて来た。

 

 誰だッ!

 

「いやぁ、凄いよ君。まさかアイツをその人数で倒しちゃうなんてさ、しかも主戦力アサシンて! それに口の中でナイフ振り回すとか! どんだけぶっ飛んでんだよ、アハハハッ」

 

 声の主は──フードを被った骸骨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




ホネホネ〜
次回は息抜きでっせ


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#11 辻ヒールの憂鬱

ストック無いし頭痛いし更新少し止まります


 ここはとある会議室。

 石造りの分厚い壁には、ご丁寧な事に防音の魔法が付与されている。

 長机を囲むように配置された十の椅子(いす)には(かた)や洋風、片や和風の古風なファッションから学ランと、何とも統一性の無い服装の集団が座っていた。

 座れなかったのか、はたまた座らなかったのか、それらの椅子の後ろには、これまた統一性に(とぼ)しい大勢のがいる。

 統一性がないのは何も服装だけではない。

 性別、年齢、肌や髪の色に至るまで、その集団は誰の目から見てもチグハグ、といった印象だろう。

 誰もが真剣な面持(おもも)ちをしているが、誰もがその重たい唇を動かそうとはしなかった。

 静寂(せいじゃく)を切ったのは、神官服を(まと)った〈精霊人(エルフ)〉の男だった。

 

「これより、恐らくこのゲーム最初のPKである、通称”仮面の暗殺者”についての情報共有会議を始める。」

 

 ザワ、と一斉に音が()れ、それがしばらく続く。

 集団───異邦人達が近くの者達とひそひそと話を始めたのだ。

 一部から神官服の男を褒め(たた)える声が出るが、当の本人は不機嫌そうな表情で眉をひくつかせる。

 

 ドン、

 濁っていて、それでいて良く通るような重低音が会議室中に響く。

 集団は一斉に音の鳴った方向へと首をひねる。神官男の横。そこには、長剣を横に置き机上で拳を握る筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の大男が居た。

 静寂が再び訪れる。

 大男はチラリ、と目線をわざとらしく動かすと、神官男は再び口を開く。

 

生暖炉(なまだんろ)、続けろ」

 

「そうだね……みんなに集まってもらったのは他でも無い。例の仮面の暗殺者の、第二の犠牲が出たからだ。……前へ出てくれ」

 

 生暖炉と呼ばれた神官がそう言うと、五人組の男達が神官の椅子の横へと進む。

 

「君達の襲われ時の状況を、説明して欲しい。出来るかい?」

 

「俺が一番長く残っていたから、俺が話そう」

 

「では寝寝寝(ねるねるねる)君、頼むよ」

 

 ローブを纏った男が名乗りをあげ、集団の目線は彼に集中する。寝寝寝と呼ばれた男は語り始める。

 

「俺達はニーシャルナ森林の奥にある〈毒蛙(ポイズン・トード)〉が出るのダンジョンを探索してたんです。そしたら、曲がり角からいきなり〈一角兎(アルミラージ)〉に襲われたんです。しかもそいつら魔法を使いやがって……」

 

 ローブの男はその時の状況を細かく語り始める。

 

「それはいつの事でござるか?」

 

 椅子に座る者達の内一人、紺色の忍者の格好をした男がローブの男に問う。

 

「え、あぁ。昨日の事だけど」

 

「そうでござるか、ならもう居ないでござるかな……。念の為、隠密部隊は向かわせるでござるか。となると拙者の───」

 

 頭巾(ずきん)の結び目から伸びた(ひも)を手で()ねながら、忍者姿の男はブツブツと呟く。

 

「なら私も一つ、質問して良いか?」

 

 手をピンと挙げて声を張り上げたのは、これまた和風の侍のような格好の少女だった。

 桃色の羽織をピラピラさせながら、少女は鼻息を粗くする。

 

「そ、その暗殺者とやらは……つ、強かったか?! 斬りごたえがありそうか! 斬っていいのか、いいんだよな??」

 

 身をよじらせ顔を赤らめ、口に手をあてながら言う姿はまるで恋人を思う乙女のようであったが、その内容は極めて血腥(ちなまぐさ)いものであった。

 猫のような耳と尻尾をピクピクと揺らしながら高揚気味にローブの男の返答を待つ。その姿は猫ではなく犬のようであった。

 顔を引きつらせる者、またかと呆れる者、反応はこの二色に分かれた。一名、例外を除いては。

 

「し、師匠! こういう時は大人しくしてるッスよ! ほら、みんなから変な視線向けられてますッスよ!」

 

 侍姿の少女に慌てて忠告するのは、制服姿の女子高生だった。長い黒髪に白シャツ、深緑のミニスカート、腰にはセーターらしき物を巻いている。右眼の下にはハート型のタトゥーが刻まれている。

 腰には少女と同じ刀剣が携えられている。

 

「ぴぇ。静かに。私は今、大事な話をしている」

 

「私の名前はぽぇッスよ! いい加減覚えて下さいッス!」

 

「はいはい分かった。うるさいぞ、ぷぉ」

 

「わざとッスか?? わざとッスか?! わざとッスよね、それ!!」

 

 ぽぇと名乗る刀女子は自らの師匠に嘆くが、返事は返って来なかった。

 ローブの男は気まずそうに小さく「自分達は弱いので何とも……」と呟いたのを知る者は、生暖炉以外に存在しなかった。

 

騒々(そうぞう)しいぞ、小娘共! 生暖炉様がお困りだろうが!」

 

 その様子に腹を立てたのは、坊主頭の矢筒を背負った男性だった。白と金の神聖さを感じさせる色合いの服のデザインは、それとは対照的に動き安さや身軽さ、それでいて最低限の防御面までも考慮されたような鎧の配置をしている。

 彼の後ろに立つのは、同じく白を基調とした服を着用した者達。彼らは坊主頭の男に頷いて共感を表した。

 

「なんだ、言わせておけばセミロング。やはり弓なんて遠距離からの姑息な戦術に見合った性格をしているな」

 

 言い返してやったぞ、ふん。と言わんばかりの態度とドヤ顔で、侍少女はその場の空気を凍てつかせた。それを解凍したのは、またしてもぽぇであった。

 

「貴様ァ……!」

 

「ま、まあまあ落ち着いて下さいッス、ウチの師匠もわざとやってる訳じゃないんスよ……ほら、謝って下さいッス!あとセミロングじゃなくてボウズさんっすよ! あの野球部に居そうなフォルムの何処にセミロング要素があるんスか!」

 

「ふん、お前まで奴の味方をするかぽぉ。恩を仇で返すとはいい度胸だ、かかって来い」

 

「いやいやいや、どうみても師匠が悪いッスよ! それと決闘したいだけッスよね? ちょっとはTPOをわけまえて欲しいッス! あとぽぉじゃなくてぽぇッス、何回言わせれば気が済むんスか!!」

 

 ぽぇは再び師匠を嘆いた。しかし効果は無かった。

 坊主頭の狩人──ボウズは呆れてものも言えないと言った表情で悪態をつく。そして、何を思ったか八つ当たりを始めた。

 

「全く、(しつけ)がなっとらん。フクベ、貴公に責任があるのでは無いか? 最近、そこの小娘と話をしておったように見えたが?」

 

 フクベ、と呼ばれたのは先刻、侍少女より先に質問をしていた忍者男であった。フクベは戸惑いながらも身の潔白を主張する。

 

「いや。あれはでござるな、その…………というか!そもそも拙者が一度話しただけで斬霧(ざんむ)殿の性格が変わるわけ無いでごさろう!」

 

 会話内容を避けるかのような口振りで、侍少女──斬霧の保護責任は自分に在らずと声を荒らげる。

 

「だいたい、そういうのはぷりぷり★ぷりてぃ〜殿の領分でござろう? 拙者は見たでござるよ。何か親しげにしていたではごさらんか」

 

 忍者は早口で、それでいてロールプレイを忘れない巧みな話術を披露する。そして華麗に他人に責任を押し付け、地獄の様な会話パスを回す。

 

「あらぁ、アタシの所為って言いたいのぉ? たしかに斬霧ちゃんとは仲良くやってるけど、それはアクセサリーとかの趣味が合うからよぉ。戦闘系ならやっぱりデストロイちゃんじゃなぁーい?」

 

 名指しされたのは、ピンクの派手なスパンコールの多い衣装をした男、いや正確には女だった。厚化粧と無精髭という何ともアンバランスな組み合わせが、独特の雰囲気を出している。

 彼女の背中からは、その派手さにある意味似つかわしくない白い翼が生えている。

 派手なオカマ──ぷりぷり★ぷりてぃ〜はあくまでの関係を主張し、モヒカンに着崩した学ランを着たヤンキー風の男を人差し指で撫でるように指差した。

 

「アァ? 俺ァ、キリキリと一回も喋った事すらねェんだがよ。それでも俺が悪ィって言うのかゴラ」

 

 ヤンキー風の男は額に青筋を立てて周囲を威嚇する。その恫喝(どうかつ)に場の者達は思わず恐怖を覚えた。

 しかし、残念な事に斬霧は空気が読めなかった。

 

「キリキリでは無い、ザンムだ! 何度言えば分かる、漢字の読みも真面に出来ないのか! ドッティ・アストロイッ!」

 

「ダーティ・デストロイさんッス。もうツッコミ疲れたッス。あと師匠も人の事言えないッスよ……」

 

 周囲の異邦人達はこう思った。勝手にツッコんで勝手に疲れただけは無いか、と。

 しかし同時にこうも思った。彼女が居なければ、この強者達に誰が割って入って話を修正するのかと。

 彼、彼女らは熱い目線をぽぇに向けた。

 

「え、なんスかなんスか」

 

 戸惑うぽぇを他所(よそ)に、喧嘩腰の両者は最悪のフェーズへと移行しようとしていた。

 

「なんだこの糞ガキ、やんのかゴラァ!」

 

「やる?やるとはまさか決闘の事か! いいぞ戦おう、戦おうともパンティ・バストレイ!」

 

「ナメてんのかテメェ!キリキリィ!」

 

「貴様……! よもや生かしておけん!斬る!」

 

 互いが互いの地雷の上でヒップドロップ大会を繰り広げ、激しい戦いが始まろうとした瞬間、ドン! と叩き付けるような音が会議室に響く。

 

「うるせぇ、」

 

 舌打ちをしながら連中を(にら)むのは、最初に生暖炉に司会を促した男だった。

 その顔は怒気によって酷く歪んでおり、今にも爆発しそうな何かを抑える様子である。

 机は男の拳型に沈んでおり、初めて見る親友の本気の怒号への動揺と、弁償代の事で生暖炉の頭は埋め尽くされていた。

 

(こ、こぇッス……)

 

 ぽぇの感想はここで終わった。悲しいかな彼女の脳はこれ以上の文書を生み出す事は出来なかった。馬鹿だからだ。

 しかし、恐怖を感じるだけ師匠よりマシという事実を、異邦人達はまだ知らない。

 

「ま、まあまあ。皆落ち着きましょうよ」

 

 固まる生暖炉に代わり、場を和ませようと努力する。

 トンガリ帽にマントを羽織り、ボディラインを強調するような露出の多い服を着ている。長いマスカット色の髪の横からは、特徴的な尖った耳がはみ出している。

 その風貌(ふうぼう)は神話や伝承の魔女を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 いつもは妖艶な微笑みを浮かべている顔も、今では若干引きつっている。

 

「ほ、ほら! こういう時こそ仲良くって言うじゃない? ね、ね? アンタもそう思うでしょ?」

 

「ワシに振ってくれるな……まあ同感はするぞ」

 

 答えたのは、長い髭がトレードマークの背丈のやけに低い老人だった。頭に被った兜を外し、その小さな手でぐしゃぐしゃと髪を乱している。

 彼の横には人一人程ある大きなハンマーが置かれている。

 

「ね、アンタもそう思うでしょ?」

 

「ァ? ババアのゆぅコトなんざ……」

 

「おい、テメェ今なんつった?」

 

「……素敵なお嬢様、貴方様の意見に賛同致します。」

 

「よろしい」

 

 モヒカンの男──ダーティ・デストロイは魔女の気迫に圧されて縮こまった。

 周りの冷ややかな目線がダーティのモヒカンに刺さる。ダーティは(うつむ)いたまま魔女──ウィッチェ・ソーサリィを見つめる。

 ウィッチェは「何ガン飛ばしてんだ?」とドスの効いた声でダーティを威嚇する。すっかり縮こまったダーティは更に首の角度を下げ、やがてそのまま動かなくなった。

 

「ほ、他に案がある者は居るかい?」

 

 若干の苦笑を顔に浮かべながら、生暖炉は再び己を殺した”仮面の暗殺者”についての話題に切り替える。それに少々の強引さが残るものの、不満をあげる者は居るはずが無かった。

 黒髪に白のメッシュの少年がゴクリと唾を飲み、浅く息を吸う。

 

「あ、あの……僕に「今からそのダンジョンに特攻こうするのはどうだろうか!」」

 

 その勇気ある提案は呆気なく掻き消された。

 

「師匠それさっきフクベさんが「私はそれがいいと思うのだがな!な!」」

 

「人の話を聞けッスよ! すいませんッスねフクベさん、ウチの師匠は空気が読めないっていうか」

 

「ん、いや、別に良いんでござるが……」

 

 ぽぇの謝罪に対し、フクベは素っ気無く返した。

 

「ほら、師匠も謝って下さいッスよ!」

 

「う〜ん、ん……」

 

 斬霧は唸り声を上げながら眉にシワを寄せる。

 

「何を悩む必要があるッスか、四の五の言わずに謝って下さいッス!」

 

「いや、いいでござるから!ホントにいいでござるよ!ね、斬霧殿も反省してるみたいでござるし!ほら!」

 

「……そうッスか? まあ本人がそこまで言うなら……」

 

「思い出したぞ!」

 

 斬霧が謝罪する事を強く、強く否定するフクベに困惑するぽぇの横で、斬霧はまるでモヤが晴れたかのような顔になった。

 

「わー!わ〜ッ!!わァァ〜〜〜ッッツ!!!」

 

 突然騒ぎ出した忍者に、異邦人達は困惑の目を向ける。

 

「ハラベ様、ごめんなさいにゃん」

 

 瞬間、その場の空気が凍った。

 

「だったか? 確かこうだったな、ハラベの教えてくれた最大級の謝罪! 上手に出来ていたか、ぱぁ?」

 

 斬霧は純朴な眼差しで弟子を見つめ、褒められる事を今か今かと待っている。

 突然名指しされた忍者に、異邦人達はゴミを見るような目を向ける。

 ぽぇの表情は、見る見るうちに鬼の形相へと変貌していった。

 

「ち、違うでござる! いや、本当でござるよ! そう、そう!ロールプレイの話でござるよぽぇ殿! い、いやだな〜そんな事をする訳無いではござらんか。斬霧殿はリアル中学生でござるよ? あ、いや本人から聞いたし隠す気も無いって言ってたしストーカーとかじゃないから本当だから。そんな事をしたら拙者がロリコンみたいではござらんか! ざ、斬霧殿ってほら、種族が〈猫獣人(ワーキャット)〉でござるし?そう、だから皆もそんな目で拙者を見ないで欲しいでござるよ! そうだからつまりその……だって、ほら、ここゲーム的な?ロールプレイングゲームじゃん的な?RPGなんでござるよ! えー、あー、ロール!そうそうロールなんでござるよ、な! 斬霧殿! 斬霧殿は拙者を(とが)めたりなんてせんでござろう!そうでござろうよ?ね?」

 

 焦りからか、口調の乱れ始めたフクベは斬霧に救いの手を求めた。

 後にこの場にいた異邦人達はこう語る。被害者に(すが)り付く加害者という構図は、正しくこの世の地獄のようであった、と。

 

「そうであったか、てっきりゲーム外でもかと思っていたが……すまぬなフクダ、私の勘違いだったようだ。」

 

「師匠……」

 

 俯く斬霧に、ぽぇはかける言葉を失くした。

 

「ところで…………なんであったか、そうだ! ご主人様と言うのだと教わったのに、間違えてしまった。咄嗟のことでな、私は物覚えが悪い故、謝罪に謝罪を重ねてしまった。不覚だった」

 

「キィィィサァァァァマァァァァァッッッッッ!!!!!!」

 

「ひぃ!」

 

「?」

 

 ぽぇは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の忍者を除かなければならぬと決意した。

 生暖炉は処刑台へと連行されていくフクベを見つめながら、一向に進む気配の無い会議を悟ったように達観する。

 やがて目を(つむ)り、誰にも聞こえない微かな声で、ポツリとこう呟く。

 

「憂鬱だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>to be continued… ⌬




やっぱり忍者は汚い


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