シャニマスバトルロワイヤル (ナツアキ)
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第一話

 アイドルたちが能力や武器で戦いを繰り広げるユニット対抗バトルロワイヤルゲームの開幕です!
 ルールは簡単、各アイドルにはHPと能力・武器が割り当てられていて、HPが無くなったら脱落です。フィールドとなる島から離れなければ基本的に何をやってもOKで、最後までメンバーが残っているユニットの勝利です。
 それではさっそく始めていきましょう〜!


 目隠しをされてヘリから降ろされた真乃はゲームの開始を待つ間、わずかな不安を抱いていた。うまく灯織やめぐると合流できるだろうか、自分は何もできずに脱落してしまうのではないか……。

 しかしゲーム開始の合図が島中に鳴り響き、目隠しを外すと、その不安は和らいだ。真乃の目の前に数羽の鳩が佇んでいたのである。周りを見渡せばさらに何羽もの鳩が真乃の周りで戯れている。そこで真乃ははづきからの伝令書を開き、自分の能力を確認する。

 ピーちゃんはいないけど、この島の鳩たちが自分を助けてくれる。それだけのことだったが、真乃は随分と安心できた。

鳩たちと少しおしゃべりをしたあと、真乃はゲームへと気持ちを切り替える。

「鳩さん、鳩さん、みんなの居場所を教えて……!」

 彼女の言葉に呼応するように、鳩達はバサバサと飛び立って行くーー

 

櫻木真乃

鳩と話すことができる

 

 

 フィールドは島だと聞いていたのでどんなところかと三峰は思っていたが、少なくとも彼女が降ろされた場所はかつて人がいた様子である。ゲームの開始の合図と目隠しを外すとすぐ隣に灯台があったことからそれは明らかであった。味方であるユニットメンバーの位置もわからないこのゲームにおいて情報が最も大事だと判断した三峰は、真っ先に灯台の階段を登り始めた。

 素早く島の全貌を記憶し、あわよくば仲間を見つけ、人が集まりやすいであろうこの場所から急いで離れよう。階段を駆け上がりながら彼女はそう考えた。少し息を切らしながら展望台に着くと、彼女ははづきからの伝令書をポケットから取り出した。伝令書で自分の能力を確認した三峰は、それを再びポケットに収めて島を見下ろした。

 

 灯台の明かりは灯らず、まだ早朝ということもありはっきり見えるというわけではなかったが、辺りを見渡すには十分だった。

 島には北側と南側がそれぞれ小さめと大きめの山があり、島の形はその2つの山の真ん中がくびれた、歪んだひょうたんのようなものだった。三峰がいる灯台はその南側の山にあり、周りを森で囲まれていた。というより、大小複数の道やところどころ開けたところがある以外は、山のほとんどは木々が生い茂った森であった。島の北西部の沿岸部には集落のようなものがあり切り開かれている。沿岸部の多くは砂浜となっていて、島の東西のくびれた部分は特に広め。また、島の南西(このあたりもまた森だったが、)から北東に向けて鳥のようなものがいくつか飛んでいた。

 

「……となると、ヘリを使ったんだし沿岸部にまだみんながいる可能性が高いかな」

 しばらく辺りを見渡した後、三峰そう呟いた。そして展望台で見つけた懐中電灯を手にして、彼女は再び階段を駆け下り出した。とりあえず誰かが居そうな場所に向かうという方針が取れるのは、人数が多いアンティーカならではと言えるだろう。灯台に留まることも考えたが、人が集まりやすいであろう灯台に誰かが来るとすれば、他のユニットの誰かが味方と合流してから安全に来る可能性が高いため、危険と判断したのである。

 階段を下りきり、灯台から足を踏み出したその時。

 声が、響いた。

「甜花ちゃーん、早くしないと誰か来ちゃうよー!」

 

三峰結華

窮地に立たされるほど、身体能力が向上する

 

Tips

アイドルたちは攻撃を受けると、怪我をするかわりにHP(体力)にダメージを受けますよ〜。

 

 

 あまりにも、早すぎた。

 三峰は自分が灯台から離れるまでに誰かに遭遇することは想定していた。その可能性をなるべく減らすためにあらゆる行動を出来るだけ素早く行ったつもりであった。しかし、彼女が想定していたのはあくまで「誰か一人」との遭遇であって、島を見渡すだけの間に「既に合流をしている敵」と遭遇することは無いだろうと思っていた。しかしその想定外が現実となってしまったのである。

「アルストロメリア……!」

 敵は二人、いや三人かもしれない。戦うか、逃げるか、それとも……

 幸運なことに、この時灯台の入り口にいた三峰に、わずか十数メートル離れたところにいた甘奈は気づいていなかった。さらに五十メートルほど後ろを、自分の身長くらい長い木の棒を杖にしながらのろのろと歩く甜花に呼びかけていたためであり、この隙は三峰が逃げる絶好のチャンスといっても過言ではなかった。

 しかし、その隙が三峰を惑わせた。後ろを向いている甘奈と、歩き続けてかいかにも疲労がたまっていそうな甜花。千雪が居る気配は無い。甘奈に奇襲で攻撃を与えてその後逃げれば、甘奈は甜花を置いてまで自分を追うことは無いだろうと、そう考えたのである。

 この考えは半分合っていた。三峰が甘奈に向かって走り懐中電灯で全力で一発殴ると、甘奈は大きく体のバランスを崩した。慌てて振り返り手刀で三峰を狙うも躱され、再び攻撃を食らう。完璧な奇襲だった。敵が、甘奈だけであれば。

 二発の銃声とともに三峰の体は大きく傾き、地面に落ちた。疲れていて、離れていて、甘奈の足を引っ張るであろうと三峰が見積もった甜花は、その二丁拳銃で寸分の狂いもなく三峰の急所を撃ち抜いたのである。

 

三峰結華 脱落

 

大崎甜花

おもちゃの二丁拳銃を持つ

 

Tips

甜花ちゃんが疲れているのは平常運転ですよ〜

 

 

「いい?この3人の中ではあんた一番身軽なんだから、あんたが積極的にふゆたちを探しに来なさい」

 芹沢あさひはゲームの前にストレイライトの3人で話していたことを思い出していた。

「あんたなら誰かに追いかけられても逃げ切れるでしょ?ふゆたちはあんたと合流するまでは基本的に目立たないようにして動くわ」

「いいんすか?目立たなくて」

「馬鹿ね、アイドルなんだからちゃんと目立つわよ。でもふゆがそのかわいさを魅せるのは最後。他の奴らが消耗しきったところでドッカーンと優勝決めてやるのよ」

「なるほど〜」

「愛依、あんたも手伝うのよ。聞いてる?ーー」

 あさひは閉じていた両目をゆっくり開き、目の前の現実に再び思考を戻す。

「うん、愛依ちゃんと冬優子ちゃんと一緒なら負ける気がしない」

 そう呟いて駆け出して行った。

 

大崎甘奈

望んだ時に甜花とテレパシーができる

 

 

「何か……気配を感じる」

 小さな山小屋で一休みしていた智代子は気付く。ゲーム開始後、山道を下って放クラとの合流を目論んでいたところでこの小屋を見つけ、何か使えるものが無いかと中を物色していた時である。

 小屋はたった一部屋、それも十畳も無いものであり、どう見ても中には智代子しかいないはずである。智代子しかいない、そのはずなのに、他に何か気配がするのである。

 何もいないのに、何かいる。その気配は少しずつ、少しずつ近づいてきているようで、そしてーー

「わっ」

 突然、智代子の耳元で叫び声がした。

「わあああっ!!!えっ何!?」

 飛び上がって再び声がした方を見ると、さっきまで何もなかったはずの空間にいるのは透だった。

「……驚いた?」

 そう透は問う。智代子は心臓の高鳴りが収まらないまま、震える声で答える。

「お、驚いたよ!透ちゃん何してるのもー……ってあれ?」

 智代子の右隣にいたはずの透はいつのまにか居なくなってーー

「わっ」

「わああっ!」

 今度は智代子の左に透は現れた。

「ふふ、なにこれ、たのしい」

「もう……」

 智代子は驚きで透に疑問を問うこともできず、呆然としていた。

 そして、少し間をおいて、

「なんか私、消えられるみたい」

 透はそう言うと、

「ふふふ」

 と笑いながらすうっと消えていった。

 

 呆然としていた智代子はしばらくしてからようやく落ち着きを取り戻した。

「なんだったんだろう……」

 わからん。

 

浅倉透

姿を消すことができる

 



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第二話

一日目 未明

 

 甘奈と甜花が灯台の下で結華を倒した時、そばの茂みには彼女らを隠れて観察する影があった。樋口円香である。

 結華の次に灯台の近い位置でスタートした円香は、誰かと遭遇する危険を冒してまで灯台に登るべきか考えあぐね、ひとまず身を隠して様子を見ることにしていた。そこに大崎姉妹が現れ、結華との戦闘が始まった。結果的に先の判断によって彼女は不要な戦闘を避けることができ、また敵の情報を得ることにも成功した。ゲーム開始から10分としないうちに大崎姉妹が合流した状態で現れたことで灯台はひとまず彼女らが制するだろうと考えた円香は、次に自分がすべきことは甘奈たちに気づかれないようにその場を離れて身の安全を確保することだと判断した。

 が、それができなかった。結華たちの戦いの間に円香の後ろから樹里がやってきて、近くの木の中に隠れたためである。

幸い樹里は円香に気づいていない様子だったが、開けた道にいる甘奈・甜花と、森の奥の方からやってきた樹里に挟まれた円香は、茂みの中でしゃがみ込んだまま気づかれないよう祈ることしか出来なかった。樹里一人が相手であれば逃げることは可能だろうが、戦い始めれば大崎姉妹に気付かれるのは明白だった。甜花の銃の腕を見てキメ顔で「へえ、やるじゃねえか」などとつぶやく樹里に対して円香は早く去ってくれという感情以外持っていなかった。

 戦いが決着して双子が灯台に入ったのを確認した後、樹里はようやく離れていった。近くに誰もいないことを確かめると、円香は大きく息を吐き、地面に寝転がり木々の隙間から見える空を仰いだ。明け始めた夜の空を、鳩が一羽横切って行った。

 

 

一日目 朝

 

 夜が明けるとともに黛冬優子は隠れながら動き出すことにした。

 暗いうちにやたらめったら動き回ることは思いがけない敵との遭遇につながる、そう考えた冬優子はスタート時の海岸から離れて森の中に入るとしばらく身を隠していた。戦いや逃げ足に自信があるのであれば序盤から動き回るのは有効であり、あさひにはそうするよう指示していた。しかし奇襲を受ける可能性などを考えて、そしてなによりも自分の能力を見て、冬優子は自分はあまり動くべきでなく仲間を待つべきだと考えた。そのおかげか、実際に彼女はここまで誰とも遭遇せずに済んでいる。

 それでも夜が明けた後に移動することにしたのは、見つかってしまった時に周りの状況がわかっていなければ「どこに逃げるべきか」がわからないからである。自分が勝てない相手から逃げている時に下手に開けたところに出てしまえばその瞬間脱落は必至である。他にも相手を撒けるポイントや行き止まりなどを探しながら冬優子は四つん這いで少しずつ森の中を進んでいく。

 そのとき、微かにではあったが、冬優子の前方から銃声が聞こえた。冬優子は少し警戒するも、ある程度離れていることが分かるとふたたび落ち着きじっと耳をすます。

(撃ち合っている……?いや連射している、これは……)

 向かうべきか、向かわないべきか。冬優子の脳内を駆け巡った思考は前者を選んだ。待つべきと判断したにも関わらず銃声の方へ向かうことにしたのは、そこにいるのが誰なのか、思い当たる節があったからである。

(でもふゆが見つからないことが最優先、誰か確認するのは二の次)

 周りを警戒しながら彼女は先程よりわずかに急いで進んでいった。

 

 

 このゲームにおける優位とは何なのか、小糸は考えていた。

 もっともわかりやすいのはおそらく人数の優位である。仲間が多ければ当然有利であり、誰もが最初はユニットの合流を目指すはずである。特に、5人組ユニットは全員が集合すると強力であり、アンティーカと放クラは合流される前に叩く必要がある。

 では、個の優劣を決めるのは何か。一つは素の身体能力であろう、移動にも戦闘にも情報収集にも体力は最重要となる。全23人のアイドルたちの中でこれが特に優れているのは樹里やめぐる、あさひだろうか。

 そしてもう一つ、極めて重要なのが各々に割り当てられた「能力」である。この能力に関しては誰が優れたものを持っているかわからず、しかもその性能の個人差がどれほどのものかもわかっていない。もしかしたら人数差を覆すほどのものかもしれない、いやそうに違いない。自分の能力を確認しながら小糸は確信した。自分、そして他人の能力が何なのかを知ることがこのゲームで勝つために必要不可欠と言っていいのである。

 そう考えていたからこそ、小糸は自分が今見つけてしまったものに困惑していた。歩いていた山道の傍の茂みに、伝令書の封筒が捨ててあったのである。伝令書には自分の能力が何なのかが書いてあるのだから、その重要性をわかっているのであれば当然大事に持っておくべきものであるが、それが無造作に捨ててあったのである。いくらなんでも不用心すぎはしないだろうか、苦笑いしながら小糸は封筒を拾う。しかし、流石に捨てた者もそこまでの考えなしでは無いようで、中身は空っぽであった。

「ま、まあそりゃそうだよね……!」

 そう小糸は言って自分を落ち着かせる。しかし、この封筒が落ちていたことは、小糸に何も与えなかったわけでは無い。「誰かがこの場所にいた」、そのことがわかっただけでも大きな情報なのである。味方であれば合流することができるかもしれないし、敵であればあらかじめ警戒できる。何のリスクもなしにこの情報を得られたのは、良いスタートだといえるだろう。

 小糸はそう思いながら封筒をポケットにしまおうした時、視界の隅に入った白い何かに気付き、それを二度見してさらに当惑する。山道からさらに少し外れた茂みに伝令書が捨てられていたのである。そんな馬鹿な、と思い目を凝らしてみるが、どう見ても伝令書である。封筒の持ち主は本物の不用心者だったか、と思いながら小糸は拾いに行く。

 しかし伝令書の内容を見た瞬間、小糸は自分の過ちに気付く。しまった、と引き返す間もなく、彼女の両足は勢いよくロープに絡め取られ、逆さまに木に吊るし上げられてしまった。

「ひっかかった〜」

 声の方を見ると、摩美々が木の上でいたずらっぽく笑っていた。

 

田中摩美々

「お手軽!罠設置キット」を持つ

 

 

 灯織は他の多くのアイドルと同様に海岸に降ろされ、冬優子と似たような考えで森の中に入って周囲を探っていた。ただ他のユニットと比べて人数が少なく、体力が他のアイドルより優れているのがめぐるだけであることから、うまく作戦を練る必要があると考えていた。

 その時、灯織が考えていたことを全て忘れさせるほどのものすごい勢いで、後方から影が近づいてきた。それはおそろしい速さで接近して来ており、灯織の本能が告げた。逃げねば死ぬと。灯織の判断は早かった。全力で影と反対方向に走りだす。しかし、迫りくる影との距離はどんどん短くなり、灯織は息を切らし始めた。

「冬優子ちゃーん!冬優子ちゃーん!見つけたっすよー!」

 追ってくる影、いや、あさひは叫ぶ。

「冬優子さんじゃないよ、わ、私だよ……!」

 逃げながら必死に灯織が答えるとあさひは「あれ?」という顔をしつつもその足を止めない。

「ひっ灯織だよ……」

「あー灯織ちゃんでもいいや!ちょっと聞きたいことがあるっすー!とまるっすよー!」

「ひいっ」

「待つっすよー!」

 絶対に捕まってはならないという恐怖による必死の走りもむなしく灯織は木の根につまづいて転んでしまう。倒れこんだまま後ろを振り返ると、あさひが満面の笑みで近づいてくる。

「待って、待って……」

 あさひはすこしずつ近づいてきて、座り込んだ灯織に目線を合わせるためにしゃがむと

「冬優子ちゃんか愛依ちゃん見なかったっすか?」

 そう聞いた。

「え!?いや、見てない、見てないよ」

「……本当っすね?」

 あさひはじっと灯織の目を覗き込む。

「ほ、本当だよ」

 しばらく沈黙した後、あさひは立ち上がり、

「ありがとうっす!」

 そう言って灯織に背を向けた。そして離れた木の後ろから見ていた影に向かって

「樹里ちゃーん!見つけたっすよー!ちょっと聞きたいことがあるっすー!」

 と叫びながら駆け出していった。

 戦いにならなかったことに安堵しつつ、灯織は深くため息をついた。

 



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