可愛いだけじゃないビーストさん (ishigami)
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可愛いだけじゃないビーストさん




 世界中のクエスチョン・マーク
 賑やかな夏の午後のパレード
 そこら中危険ノーマーク 
 ごめんなさい 生まれつきノーテンキで

 ―――スガシカオ/午後のパレード

























 

 

 

 際立った美人というわけではない。

 

 身長は同年代の女子と比較しても平均的で、性格は思慮深い沈黙よりも穏やかな賑やかさを求める傾向にあり、ことさら運動が得意というわけではなかったが、笑うと快活な印象を与えるため周囲には自然と人が集まりやすい。

 性格は今でこそ明るいが、しかし幼少の頃は内気で、(たちばな)立香(りつか)は常に何かに怯えて過ごしていた。

 

 原因は、物心つく前から立香に宿っていた、ある恐ろしい記憶(ゆめ)のためだった。

 今ではなく此処でもない場所で繰り広げられた、御伽噺さながらの華やかな記憶(ゆめ)

 

 平和な日常を生きていた、あくる日に突然家族と離されて見知らぬ場所に連れ去られ、そこでいきなり世界の終わりを告げられ。

 人類最後の“マスター”となり、仲間と共に戦って、多くを死に追いやって、救ったと思えば仲間たちに裏切られ、仲間たちを失い。

 生き残るために多くを踏みにじり、駆け抜けた最後には守った/取り戻した人々の手によって捕らえられ、暗がりに閉じ込められ。

 故郷に帰ることもできず、非業の死を遂げた(やみにうもれた)――そんな、ありふれた英雄の記憶(ゆめ)

 

 およそ絵本や小説の知識がない時代に見た克明な情景が立香の心象と大脳に強烈に作用し、一歳の頃には言語を理解するまでになっていたが、立香は意思を言葉として外部に出力することが、五歳になっても満足に行うことができなかった。子供らしい遊びをせず、自分を害そうとするものを恐れ、時として怪人(・・)なる災害が跋扈する外の世界に出ることさえも恐れ……、

 

 “だいじょうぶだよ。もうすぐ、キミに好いことが訪れるから”

 

 記憶とは異なるユメのなか、目覚めれば忘れてしまう“誰か”との会話のおかげで発狂こそ避けられてはいたが、困り果てた両親が相談したのは、とある精神病院(メンタルクリニック)だった。

 

はじめまして(・・・・・・)、リツカさん。ずっと、ずぅぅうっと(・・・・・・)、あなたとお会いしたかったんですよ」

 

 そこで立香が出会ったのが、院長の娘でありのちに立香の大切な友人となる少女、殺生院(せっしょういん)加愛摩(かあま)だった。

 

 愛らしい娘だった。躰からは蜜花のような好い香りをさせ、小生意気で相手を見透かしたような双眸には深淵のような感情を隠し潜め、「今回は女の子なんですね。いいんですよ、私、男にもなれますから」蕩けるような声をして、娘は出会ったばかりの立香の耳元に囁いた。

 

「仲良くしましょうね……」

 

 カーマ(・・・)と――そう呼んでほしいと本人に請われた――立香は、それから瞬く間に親しくなった。

 

 カーマとの接触は立香の現実世界側の精神を立て直すのに大きく貢献し、カーマに誘われるかたちで家族ぐるみで外出する機会も増えていき、あるとき言葉を話せるまでに復調した頃、自身の恐ろしい記憶(ゆめ)について――記憶のなかで、カーマとよく似た存在が助けてくれていたことを思い出しながら――打ち明けると、彼女は(おそろ)しい顔をして立香を抱擁し、告白した。

 

「私は、あなたを幸せにするためにこうしてやり直すことにしたんです。今度こそ、私があなたを幸せにしてあげますからね。いつまでも守ってあげます。安心して私に溺れてください。ずっと、ずぅぅうっと、あなたを愛してあげますから……」

 

 記憶の影響もあってか、朧気ながらも当時から性自認が男であった立香は子供らしく「ぼくもきみを幸せにしてあげたい」と告げ、「ち、ちがいますう。私が幸せにしてあげるんですう」とカーマをあたふた赤面させながら、二人は交流の頻度を深めていくことになった。「ほんと、そういうところは変わらないんですから……女神(わたし)との約束は、軽くないんですからね。覚悟してくださいよ?」

 

 そうして周りからは立ち直りつつあると思われ、ところが内実は依存しかけていた立香に歯止めをかけたのは、近所に引っ越してきたお姉さんだった。

 

「本当は遠くから見守り続けるつもりだったのだけれど、ここまで干渉されて、染められてしまうのを横から見ているだけなのは、あまりたのしくないものね」

 

「……あなたは」

 

 カーマは、立香には見せたことのない表情で、現れたその人物を見上げる。

 

 たおやかな貴人だった。晴れやかな着物姿でやわらかな物腰をしており、慈愛に満ちた眼差しの裡側には本来(・・)の彼女では抱くはずのない感情を秘め、「こうして会うのは初めてね、私に愛しいものを教えたひと」貴人はカーマを視線で縫い留めると、膝を屈めて出会ったばかりの立香の耳元に囁いた。

 

両儀(りょうぎ)(しき)よ。これからよろしくね、マスター……いいえ、リツカ」

 

「あなたも来ていたんですねえ、セイバーさん。いえ知っていましたけど。ずっと隠れてこそこそしてたのにあなたの大事なマスター……元マスターさんが私に取られちゃうからって慌てて出てきたんですかあ? もう遅いですけど。この人はこの先もずぅぅうっと私が愛してあげるので、あなたに用はありませんよ? ざんねん……」

 

「まるで、縄張りに入って来た相手を必死に威嚇する猫みたいね、カーマさん。お久しぶり、元気そうでなによりだわ。でもちっちゃな子猫さん、あなたの許可は私には要らないの。私に命令できるのは、あなたではなくて――」

 

 貴人は、立香の手を取ると微笑みかける。どぎまぎして「お姉ちゃん」と言ってしまう立香に、「そう呼ばれると、なんだか心がくすぐられるような感じがして、ちょっと新鮮ね」と背景に花でも舞い上げていそうな彼女の挙措は、記憶のなかでカーマと同様にずっと自分を助け続けてくれていた存在と重なり、その“懐かしい”瞳に吸い込まれそうになる。「でも、私のことは、式、と呼び捨てにして?」

 

「ちょっといきなりなに連れ去られそうになってるんですか。おかしいですよね今は私と過ごしているのになんで急に視線を奪われてるんですか。あなたが見るべきなのはそっちの「 」(チート)じゃなくて可憐で完璧で最良幼馴染の私のほうですよね? ね?」

 

 がしっと引き寄せられた立香は、立香を挟んで向かい合う二人の花の攻防に付き合わされることになった。

 

「私はこの人の幼馴染なんです。この人を監督する責任がありますしご両親からも直々に頼まれているのでー、ほら、ぽっと出のあなたとは違って? 信頼されているので? だからとつぜん現れてぐいぐい来られても正直めいわく……」

 

「私は、かつてあなたが迎える結末を許容してしまったことを後悔しているの。後悔を覚える、なんて人並みの思考を覚えさせたのは、あなたよ。だから私は、あなたに責任を取ってもらうことにしたの。なにも選ばなかった――選べなかった私が、自分でそれを望んでね」

 

「聞けよ」

 

 無敵お姉さんとの邂逅以来、立香の日常には幼馴染がもう一人増え、こうして両親の懸念事項は、緩やかな時の流れと共に表面的には解決されることとなった。

 

 今では記憶(ゆめ)を受け入れて明るい性格になり、二人の麗しい幼馴染と過ごしながら、立香は日々を暮らしている。

 

「リツカさん、どうしました?」

 

 制服姿のカーマが、スカートをひらりとさせながら言った。

 

「帰りますよ」

 

 鞄を持ち、校舎を出ると、背後には金曜の夕焼けが差している。

 

 歩道に、二つの影が並んで歩いている。

 並んでみると、カーマの影のほうが身長が微妙に高かった。制服越しでも、カーマは立香よりも発育の富んだ身体つきをしていることが判る。

 そして立香は、普段は服の下に隠された彼女の肉体が如何に素晴らしいものであるのかも、体験として知っていた。

 

「そういえば今日、また告白されちゃいました。新しい人です。懲りない人たちですよねえ、思春期の男の子たちって本当に考えることが皆おんなじで。少しは視線を隠せばいいのにって思っちゃいますよ。隠してるつもりなのが可愛いですけどねー。男の子だけに限りませんけど。一部の教師なんてかなり露骨ですし。あっ、もしかして嫉妬しちゃいました? 不安になっちゃいましたかあ? ボクだけのカーマなのにって。うーん、でもでも、確かにい、あんなに断り続けるのも可愛そうですしい、次あたり来たらお試し感覚でオーケーしちゃおうかなあって思ったりして……」

 

 ちらちら見てくるカーマを引き寄せると、立香はにやにやしている唇を、自身の口で黙らせた。

 

「ん、ちゅ……」

 

 重なる影。

 

 顔を離すと、カーマは煽りまくし立てていた桃色の唇を、ぷるぷるとわななかせている。

 頬には、河津桜が咲いていた。愛らしさと、それ以上に妖艶な空気が醸し出されている。

 

 その表情を受けて、立香の裡で愛おしさと情欲がもたげかけたが、外であるから即このまま続き(・・)をするというわけにはいかない。

 

「なるほどなるほど、ここにもお猿さんがいたんですねえ。……いいですけど。べつに。あなたになら」

 

 自然と足が速まると、立香に手を引かれるカーマも素直に従った。

 

「もういっそ、学校側にも大々的にばらしちゃうのも手かもしれませんねえ。隠しているよりもずっと楽になりますし。いちいち呼び出されて断る手間も減るだろうし」

 

 到着したのは、マンションの高層階だった。

 

 立香の実家ではない。父親の海外赴任に母親が付き添っているため、現在の立香はカーマが借りているマンションから登校して帰宅するという、親公認の同居生活を送っているのだった。

 

「あれ?」

 

 中に入ると、かぐわしい香りが廊下に漂っていた。

 玄関にはこの家のものではない――しかし見慣れた――靴が置かれている。

 

「おかえりなさい」

 

 リビングでは、式が菜箸を持ちながら料理をしていた。着物の上に割烹着を纏っており、立香たちを見ると相好を崩す。

 

「なんでいるんですか」

 

「もうすぐ出来上がるから。手は洗った?」

 

 しぶしぶなカーマ共々、立香は洗面台に向かった。

 

「で、なんでいるんですか」

 

 皿を並べ、水桶に浸してある用済みの皿を立香が洗っていると、先に座ったカーマがぶつぶつと訊ねる。

 

「明日はデートじゃない?」

 

「そうですね。私とリツカさんのデートにあなたが勝手についてくるだけですけど」

 

「待ちきれなくって、来ちゃった」

 

「来ちゃった、じゃないんですけどっ」

 

 可愛い(プリティー)

 思わず呟くと、のほほんと式が笑みを浮かべた。

 

「ほんっとにっ、チョロい性格してますよねあなたって人は!」

 

 完全なブーメランではあったが、それを指摘する者はいない。

 

 

 その日は結局、式も一泊していくことになった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日、朝早く起床した立香たちは、県内の大型遊園地(テーマパーク)に出向いていた。

 

「さて、どこから始めます?」

 

 休日であるため家族連れなどが多く、非常に込み合っている。カーマはフリルのついた白いブラウスにショートパンツ姿であり、立香はパーカーとデニムのタイトパンツ、式に関しては鴇色無地の着物に半幅帯という装いなので、しばしば周りからは注目を――しかも大和撫子の楚楚とした立ち姿と、彼女の秀抜な容姿が相まって――惹いて目立ってはいたものの、本人たちはそれらの反応には大いに慣れている。気にせずフィールドマップを開くが、水族館やショッピングモールも併設されているため、見どころ総てを満喫するには一日では流石に足りそうもない。

 立香たちは、ひとまず手始めに絶叫マシンから挑むことにした。

 

「こ、こここ怖くないですよ別に? 私は? ぜんぜん怖くないですけどでもお上品な式さんは流石に難しいんじゃないですか? ほら着物ですし。べつのやつのほうが……」

 

「面白そうね。乗ってみましょう? カーマさんが乗れないっていうのなら、私はリツカと二人で乗ってくるけれど」

 

「乗りますよ乗れますよ乗ればいいんでしょ、でもなんで初っ端からこれなんですかっ? 朝食にラーメンとカツドンとカレーを頼むようなものですよ!? もっと浅いところから徐々に上げていくものなんじゃないんですかこういうのってっ?」

 

 わーわー言っているカーマの手をしっかり握りしめ、見つめ合いながら立香が真剣な声で言う。かつて交わした、大事な約束を。「君を放さない」。

 

「それっていま言うことなんですか!?」

 

 順番が来ると、問答無用でジェットコースターに乗り込んだ。横列が三人用なので、外側から式、立香、カーマの順で座る。動き出した。引き攣った顔のカーマも可愛いと愉悦しつつ、逆側では式がわくわくを隠し切れない様子であることにほんわかしながら、山なりのレールが登頂に差し掛かるのを待った。

 

 上る。登る。

 まだ昇る。まだまだ進む。あと少し。

 今。

 浮遊感。――落下。

 

 風が駆け抜け、絶叫が轟いた。

 

「人間って不思議ね。闇を恐れるのに、自分で恐怖を作り出しては、愉しむだなんて。でも、味わってみると、すこしわかる気がするわ」

 

 施設から降りると、初っ端でありながらぐったり髪を乱しているカーマとは対照的に、式が笑顔になりながら言った。

 

「さあ、どんどん行きましょう?」

 

 ―――。

 ―――。

 

 気が付くと、正午を回っていた。

 腹の虫がくうと鳴り、苦笑いを浮かべる。

 

 顔色の回復したカーマは屋外レストランに入ると、テーマパーク特有のなかなか割高なメニューを選び、腰を落ち着けた。

 

「へー、このテーブル、キャラクターが彫ってありますよ。細かいですね。小さい子供とかが喜びそうです。大きな人たちもはしゃいでいますけど」

 

 ここに来るまでの途中、歩いていると見目麗しい女子三人組であるためか声を掛けられることもあり、無粋な悶着は式がふんわりとした指先で相手の意識を殺す(・・)のでパークには気絶した男たちが白目で寝転がるという局所的惨状が起こっていたが、カーマの揶揄するような口ぶりからしても、愚連雑多の輩は記憶の勘定には入らず、なんだかんだでデートを満喫できているようだった。

 

「これは……どう飲むのかしら」

 

 困惑しながら透明な容器に入ったタピオカを覗き込む式に説明し、立香もランチの手を進めていた、その最中だった。

 

「怪人が出たぞ!」

 

 遠くから、人が走ってくる。

 

 一人や二人ではなかった。

 大勢。大人も子供も混じっている。

 何かから、逃げていた。

 

 悲鳴。

 

 立香たちは、顔を見合わせた。

 カーマと式は、立香の表情に言いたいことを汲み取り、やれやれと立ち上がる。代金をウッドプレートに挟み込むと、人たちの来た方向へと走り出した。

 

 怪人だ! 逃げろ!

 助けてくれ!

 誰か!

 襲われてる!

 ヒーローはいないのか!

 

 破壊され停止したメリーゴーランドの付近に、ずんぐりした異形が立っていた。

 パークを代表するマスコットの巨大な着ぐるみが、団体らしき集まりを襲っている。ふかふかでファンシーな顔が血に染まり、横たわる父親らしき男の傍で、小さな少女が泣き叫んでいる。

 怪人(・・)で間違いない。路面が赤黒く濡れている。怪人が手に握る鋭利な大鉈から滴っている。近くには、何人も倒れ伏している。

 

 壮絶な光景。

 

 救助や制圧に乗り出そうとする者はいない。

 ヒーローを請う声に応える者は、現れない。

 

「せっかくの楽しい時間を、汚さないでくれます?」

 

 不機嫌そうに、カーマが前に出た。彼女から放たれる蠱惑的な気配に吊られ、振り被ろうとするマスコットが振り返る。一瞬で、距離を詰めていた。死角に位置取り、コンクリートをも粉砕する強烈な蹴撃を背部に叩き込むと、カーマは仰け反った怪人の腕を掴み、回転木馬に思い切り投げ飛ばした。

 激しい音で叩きつけられ、鉄柱が折れ曲がるが。「あら、意外と頑丈なんですね」怪人は、震えながら立ち上がると、甲高く哭き喚いた。口腔に生え揃った凶悪な牙を剥き出しにしながら。「あれあれ、もしかして怒っちゃったんですかあ? へー、こわーい。興味なんてないですけど」

 

 遠ざけた隙に、立香は傷ついた人たちの下に駆け寄った。

 呻き声。涙。出血が激しい。躊躇っている暇はない。

 力を使う(・・・・)しかない。目を瞑った。

 

 闇。立香の脳裏に、矢継ぎ早にイメージが浮かび上がる。

 

 瞬間。光を放つ暗闇の(そら)に、扉が並んでいた。

 

 “それ”は、捉えようによっては何がしかを象徴するモザイク調の絵画のようでもあり、あるいは解読困難な法則によって単語と文法を埋め込まれた石板のようでもある。はたまた精緻な集積回路、もしくは七色に呼吸するイトによって裁縫された衣服のようでもあり――さながら蝟集渾然とした、文字とも数列ともつかない複雑な方程式の塊のようでもある。

 

 一〇を超える(イメージ)が並び、立香はそのうちの一つに触れた。

 

「【事象展開/人理の残影(ロード・カルデアス)】」

 

 鋭い光が全身を包み込む。光を躰に(まと)い、光は、立香の要請を受けて装いをちから(・・・)を揮うに相応しい姿へと“変身”させる。

 

 “それ”は、記憶(ゆめ)を自分のものとして受け入れた立香に発現した懐かしき(・・・・)能力。

 

 “それ”は叡智集いし時計塔より贈られる、より研鑽を求める者を庇護する礼装。

 その残滓。

 

 光が収まったとき、立香は“変身”を遂げていた。

 

 黒いケープ。橙色のトップス。赤いリボン。肩には権威ある紋章が印されている。

 紛れもない――すなわち記憶(ゆめ)のなかで共に困難を駆け抜けたあの頃(・・・)のものとは性別からして異なるが効果は同一である、今は懐かしき戦闘衣装(コンバット・ドレス)へと。

 変身し、告げる。

 

 

「【魔術協会礼装/限定降霊(クロック・タワー)】――【起動(プラグ・セット)】」

 

 

 【全体回復】。

 

 直後、立香から魔力が失われ、負傷者たちの躰に超常の現象が満ちた。

 

 傷口が、魔法のように消えてゆく。引き裂かれていた患部が瞬く間に癒着し、噴きこぼれていた出血が止まる。呻き声を上げていた顔色が、多少なりとも和らいでゆく。

 傷ついた人たち全員が。立香の魔力と引き換えに、まったく同時に。

 

「おねえちゃんは」

 

 ひとまず死から遠ざかった父親の娘が、一瞬で装いを改めた立香を呆然と見上げた。

 

「ヒーローなの?」

 

 ヒーロー(・・・・)

 三年前に設立された民間団体。ヒーロー協会に所属する、市民を守り、時として怪人とも戦う者たち。

 

 確かにこのちから(・・・)は、一部のヒーローが引き起こす超能力に近しい部分もあるかもしれない。立香の“これ”は科学ならざる形而の理によって、現実を歪め特定の事象を導き起こす魔術の残影であり、そのすべてを、言葉として精確に理解しているわけではなかったが。

 違う、と立香はかぶりを振った。立香はヒーロー協会には登録しておらず、また自身がヒーローであると名乗るつもりもなかった。

 

「でも」

 

 言い募る子供を尻目に、立香は他の負傷者の状況を見回す。出血は止められたが応急処置に過ぎず、重ね掛けしようにも同一スキルの再使用(リチャージ)には半日を要するうえ礼装(スタイル)を変えるのは日に三度が限界であるため、いずれにせよ彼らを早く医者に診せる必要があった。 

 

「ほらほら、どうしたんですかあ? ただ固いだけですか。つまんなーい」

 

 破砕音。

 怪人が暴れ、周囲の壁面が粉々に抉れているが、カーマには傷一つ付いていない。嗜虐的な笑みを浮かべながら。惨状を作り出したファンシーな怪人の必死の攻撃を悠然と躱しつつ、弄び、残酷な女王のように、妖艶にわらっている。

 〈人理継続保障戦闘特化服/限定降霊(コンバット・スタイル)〉の〈ガンド〉を使って援護するまでも無かった。

 立香は、式の名を呼んだ。

 

「ええ。わかったわ」

 

 傍らに控えていた式の手には、虚空(どこ)からか取り出された日本刀が、いつの間にか握られている。

 立香は、カーマに下がるよう言った。「えー?」水を差されたことで、少し不貞腐れてしまうが。「はいはい、お優しいことですねえ」

 

 鞘から引き抜かれた美しく冷たい刃身が、落ちる木の葉のように静かに揺れる。

 式の表情に変わりはない。その双眸が、蒼く変じ瞬いた(・・・・・・・)こと以外は。

 

「【直死】――」

 

 ふわり、と式が跳んだ。

 

 擦れ違っている。

 振り下している。

 

 それだけで、終わっていた。

 

 断末魔は上がらない。派手な刀風も起こらない。呆気なく。

 死へ振り下された刃、死を振り下した式の背後で、怪人が(くずお)れる。

 

 竹割のように。怪人は頭頂から二つに分断され、それで終わっていた。

 

 鞘に刀を収めた式は、ぱたりと音の消えた静寂のなかで、立香に振り向き――

 

 ふと、空を見上げた。

 

「あら」

 

 釣られるように、立香も見上げる。カーマも。小さな少女も。少女の父親も。

 

 快晴。蒼穹。

 そこに、雲はない。

 

 雲ではない(・・・・・)ものが、ぽつりとあった。

 

「なんです、あれ」

 

 点のようなもの。光を放つ染み(・・)のようなものは、ちょっとずつ大きくなっているようにも見える。

 

「ヒーロー協会からお知らせします」

 

 だが実際は大きくなっているのではなく、それは地表へと近づいているために、そう見えているだけだった。

 

「緊急避難警報。災害レベル:竜」

 

 響き渡る公用拡声機。

 

「やばいので逃げてください。巨大隕石(・・・・)落下まで、あと――」

 

「いんせき?」

 

 ぽかんとしたように、少女が呟いた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 混乱が起きている。

 悲鳴が轟いている。

 

「専門家の話では、Z市は丸ごと消滅するとのこと。対象地域の方は、可能な限り遠くまで逃げてください。繰り返します――」

 

 誰も彼もが空を見上げていた。その双眸に宿るのは明日への希望などではなく、むしろ真逆の性質のもの。

 

「世界ジュウ危険のマーク」

 

 巨大隕石の予測落下時間まで、残り一〇分。

 

「ごめんなさい、生まれつきの敵で」

 

 懐かしい曲の、間違えた歌詞を口ずさみながら歩く立香たちの姿は、怒号と騒乱とで掻き混ぜられる街の渦中にあった。

 避難しようとしているのではない。探している。「パレードが、ほら、やってくる……」ちょうど条件の合う、無人となった高層ビルヂングの屋上に鍵を壊して出ると、破滅を齎そうとしている隕石の輝きに目を細めた。

 

 カーマが、流し目に振り返る。

 パーカー姿に戻っていた立香は、挑発するようなカーマの視線を正面から受け止めた。

 

「それで。あなたは、どうしたいんですかあ? わたしに、どうしてほしいんですか……?」

 

 オゾン層突入を経てなおも巨大原型を失わない隕石ともなれば、質量掛ける速度の二乗が生み出す衝撃はZ市のみならず周辺の街、ひいては県や国を粉々に壊滅させかねない。

 必然的に。立香の暮らす日常(せかい)も、粉々に砕け散ることになる。

 

 立香に、隕石をしりぞける程の力はない。

 ならば、力を持つ者に頼み込むしかない。

 

 いつかのように。此処ではない何処かで、かつてそうしていたように。「どうか、助けてほしい」と。

 

「お願い。へえー、私に、助けてほしいんですかあ?」

 

 立香は頷いた。もはやサーヴァントとマスターの関係ではないにも関わらず、しかもカーマたちにとってはさほど重要ではない立香以外の存在のために、そのちから(・・・)を使ってほしいと。

 彼女たちの善意に縋りつき、好意につけ込んで。お願いする。

 

「……わかりました」

 

 ため息を一つ。ふっと笑う。「この女神(カーマ)さまが聞いてあげましょう。――まあ、こうなるのはわかっていたことですし」

 

 カーマの手には、一瞬で虚空から現れた、“さとうきびの弓”が握られていた。

 立香もそれに合わせ、本日二度目の戦闘衣装(コンバット・ドレス)に変身する。

 

「【事象展開/人理の残影(ロード・カルデアス)】」

 

 “それ”は気高く(たっと)い信念を貫くため、戦いに臨むものを補助するべく生み出された最初の礼装。

 その残滓。

 

「【人理継続保障機関礼装/限定降霊(フィニス・カルデア)】――【起動(プラグ・セット)】」

 

 光が収まる。

 目蓋を開く。

 

 ダブルピンベルトの懐かしき白いコートと、スカート姿に変身を遂げていた。代わりに、タイトなデニムパンツは消えている。この瞬間何処に消えたのかは分からないし、変身を解けば元に戻るという原理も不明ではあったが、立香はあまり気にしたことがなかった。重要なのはこの状態になりさえすれば立香にも幾つかの超常の魔術が使えるようになるという、そのことだけ。

 

「ただ、どうなっても知りませんよ? あれを破壊するには流石に宝具でないと厳しいでしょうけれど、この世界で宝具を使うのは、今日が初めてなんですから」

 

 失敗する可能性を言ってそう脅してくるが、立香は、実は欠片も心配していなかった。やる気になったカーマが失敗するなど、ありえないのだから。

 彼女のちからを信じることこそが、今の立香が何よりもすべきことだった。

 

「はいはい、暑苦しいくらいの信頼ですねー。……式さん」

 

 視線を逸らし、照れと少し優越を含んだ声をして、カーマが呼んだ。

 

「こっちは任せて」

 

 式は立香の後ろに回り込むと、悪戯めいた笑みを浮かべた。「あの子が失敗したときは、私と一緒に逃げてしまいましょうね」と、こっそり囁く。

 

 弓に“花の矢”をつがえながら、カーマが口を尖らせた。「聞こえてるんですけどー。私が失敗したら、この辺り一帯灰燼になっちゃうんですけど?」

 

「そうね。そうなったら、たいへんなことね」

 

 大きなため息。「私以上に他人事ですね。ほんと、この人は……」

 

 立香は苦笑する一方で、普段と変わらない二人の様子に気が休まるのを感じていた。そして隕石を破壊したあと、隕石を破壊したのが誰なのかを探られないようにするために、この場にはいないが立香たちを見ているはずのもう一人(・・・・)に呼びかけた。

 

 “しかたないなあ”

 

 いつも笑みを浮かべていそうな間延びした声が聞こえ、ビルヂング周辺が、高度な〈幻術〉に覆われた。

 これで外部からこちらに気づくものがいたとしても、立香たちが知られることはなくなった。

 

 カーマが口を開きかけたそのとき、遠くで何処かのビルヂングから、何かが空へ向かって放たれるのが見えた。

 白煙を曳いて、それは昇ってゆく。無数のミサイル。恐らくはこの事態に対応するべく動いたヒーローによる兵器群。

 

 命中/炸裂。

 爆轟がビルヂングを揺らす。黒煙が雲のように覆い広がる。

 

 その黒雲を貫いて、隕石は降ってきた。

 速度も衰えず健在であり、ミサイル程度ではまるで効いていない。

 

 ミサイルに続き、凄まじい光熱が隕石に照射されるが。

 やはり意味はなかった。

 

「射ちます。これが私の、情欲を呼び起こす愛の矢。天に咲き乱れなさい――」

 

 カーマの躰が宙に浮かび上がる。

 

「【瞬間強化】」

 

 カーマの躰がぶれる(・・・)と、彼女の隣にまったく同じ姿のカーマが浮かんでいた。

 本体の背後には魔法陣が蕾を開くように広がっていき、弓を携えた二〇を超すカーマの分身体(・・・)が魔法陣の外輪に陣取ると、一斉に弓矢を構える。

 

 魔力の吸い取られる感覚に、一瞬、立香は眩みそうになった。

 迸る魔力の渦が研ぎ澄まされ、ついに放たれようとした刹那。

 焼却光線に勝るとも劣らない速度でビルヂングから“何か”が飛び出し、隕石に突き刺さった。

 

 

 次の瞬間、隕石が割れていた(・・・・・・・・)

 

 

「はい!?」

 

 果実を弾丸で撃ち抜いたが如く、隕石が破裂し、飛散する。

 

 超巨大ではなくなった隕石は、しかし粉微塵ではないために形状を維持したまま、地上へと降り始めた。

 驚いている暇はない。このままでは街が地図から消滅することは避けられても、街の壊滅はまぬがれない。

 

 

「わかっていますっ。――【愛もてかれるは恋無きなり(カーマ・サンモーハナ)】!」

 

 

 宝具解放。

 夥しい魔力でかたち造られた“矢”が、天へと解き放たれる。

 

 花の矢(サンモーハナ)。それは、ただの美しい“矢”ではなかった。それは鋭く、大いなる宇宙の恒星の如き煌めきを放ち、第六天魔王の指先となって狭隘なる空へと駆け奔る。

 その威力は、勢いを減衰された石ころ(・・・)の破片如きに耐えられる代物ではない。

 

 矢は隕石に命中するや、内包した魔力を放出し大爆発を引き起こした。本来は対人宝具でありながら分身体に狙いを分散させることで広範囲に手を拡げると、花の矢(サンモーハナ)の引き起こす芸術的な連鎖炸裂効果は、効率的に落下物を破壊してのけた。

 

「……ふう」

 

 魔法陣が消失し、弓を下ろしたカーマが降りてくる。

 すべてを撃ち落とせたわけではなく、細々としたものがビルヂングのガラス窓や放置されたボンネットに降り注いでいたりするが、想像し得る最悪の事態は回避できたようだった。

 立香が思わず駆け寄ると、カーマは何故だか皮肉るような視線をしていた。

 

「どうです? こんなことできてしまう私って……」

 

 立香が飛びついて礼を言うと、カーマは意表を突かれたように固まった。口がへんな形になっている。強く抱きしめ、深く感謝の想いを告げると、再起動した彼女は顔を背けながら、はいはい、と気だるげに背中を叩いた。

 

「離れてください、わかりましたから。……あーあ。ここまで見せても、恐ろしいとか、なんで思わないんでしょうねえ、あなたって人は。そんなことを考えた私がばかみたいじゃないですか」

 

 もう一度礼を言うと、「もういいですから、しつこいっ」と嫌そうにされる。それでも、突き飛ばされはしなかった。赤らんだ頬も、はにかむような眼差しも、うまく隠せていない。

 

 弓矢を消すと、カーマは「……ごほん」と咳をつき、じろりと立香を覗き込んだ。

 

「私をこんなに働かせたんですから、かくなるうえは、たっぷり支払ってもらいますからねえ?」

 

 露悪的な笑みを浮かべるが、取り立てられる側の立香が良い返事を返すと、カーマは呆れたように嘆息し、ついには降参したように相好を崩した。

 

 彼女の表情に、卑下したり皮肉るような色は残っていない。

 

「行きますよ、ほら」

 

 やわらかな手に引かれ、立香たちは屋上を去る。

 

 あとには誰も残っていない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 テレビでは、三日前の隕石落下騒動について報じられていた。

 

 コメンテーターたちが隕石破壊に貢献したS級ヒーロー「メタルナイト」や新進気鋭のS級ヒーロー「ジェノス」について薄味な議論を交わしており、県内に構えるとある喫茶店でも、そのニュースは流れている。

 

「そういう次第でして」

 

 ソファーに腰かける若い女が、若い男から相談を受けていた。

 語られた内容は、三日前の隕石落下騒動の同日に県内のテーマパークで起こっていた怪人事件について。

 

 隕石というインパクトのために半ば情報の海に埋もれかけていた事件だが、相談を持ち掛けた男の叔父と娘がヌイグルミ怪人の被害者になってしまったらしく、事件そのものは解決しているが、叔父たちは「自分たちを助けてくれた人に礼を言いたい」のだという。だが助けてくれた人たちは直後の隕石騒動でいつの間にか消えてしまい、名前を聞くことも出来なかったうえ、ヒーロー名鑑にも載っていなかった。

 その“ヒーロー”の特徴は三人組の少女であり、いずれも可愛らしい容姿をしていたが、一人はヌイグルミ怪人を片手で投げ飛ばし、一人は日本刀でヌイグルミ怪人を一刀両断したらしい。そしてもう一人は、立ち上がれず逃げられなかった負傷者たちの傷を、魔法のように一瞬で治してくれたのだという。

 

 若い男もヒーロー名鑑や知り合いの伝手などで調べてみたものの手掛かりは得られず、そこで自身が所属するヒーロー陣営の看板にして女王である、女――B級ヒーロー・ランキング一位で名を通す「地獄のフブキ」に相談することにしたのだった。

 

「面白いわね」

 

 聞き終えたフブキは、脚を組み替えながら考え込んだ。

 

「おそらく超能力者……“変身”して魔法を使うヒーローなんて聞いたことはないけれど、デビューして間もないのかしら。芽は、あるわね」

 

 顔を上げる。

 

「探してみましょうか、その子たち。場合によっては、私の傘下に入れるのも、悪くないわ」

 

 自信たっぷりの笑みを浮かべ、フブキは頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そよ風。

 

 花の揺れる気配がしている。

 

「やあ」

 

 ゆるい声。

 

 立香は、やさしい光を感じ、瞼を開いた。

 

「リツカ」

 

 目の前に、ローブを羽織る女が座っている。

 

 辺りには、幻想的な花の海が広がっていた。

 見渡す限りに花が咲き誇り、どこまでも果てしなく連なり、香り、たゆたっている。

 

 立香は柔軟なレジャーシートの上で足を伸ばしており、眼前の銀髪の女は、湖を想わせる深く美しい朱色(インカローズ)の双眸を細めると、くすりと笑った。

 

「たいへんな一日だったね、きょうは」

 

 立香が笑い返すと、女は楽園のようなこの場所の雰囲気には似つかわしくない水筒を取り出し、白磁のティーカップに湯を注いだ。湯はカップの底で跳ねると色づいて紅茶へと早変わりし、立香が受け取ると、いつの間にかシートには、今度は白磁の皿とクッキーが並べられている。

 女の視線に勧められるままに、一くち頬張った。

 

「どうかな」

 

 感想を言うと、女はゆるやかに微笑した。「それはよかった」

 

 立香はクッキーを一つ摘み、女に差し出した。きょとんとされる。「ボクは――」口元に近づけると、観念したように薄い唇を開いた。「……あーん」

 

 おずおずとくわえ、もぐもぐと食べている。感想を聞くと、まずくはないね、と人に勧めたわりには素っ気のないものだった。

 

「さて、と」

 

 女が姿勢を正し、改めるように言った。

 

「それじゃあ、聞かせてくれるかい。――君のはなしを」

 

 立香はもう一口食べると、紅茶を飲み、素直に頷いた。

 

「……君の好きなお菓子や紅茶は、まだまだあるからね。ゆっくり、聞かせておくれ」

 

 花のように、女は笑った。

 

 

 

 ―――。

 ―――。

 

 

 

「おや、もうこんな時間だ」

 

 話に夢中になっていると、不意に女が呟いた。

 

「残念だな。キミの声を、もっと聞いていたかったのに」

 

 立香が謝ると、女はかぶりを振り、笑みを見せた。

 

「いいんだよ。今日のお茶会はこれでおしまい。さあリツカ、目覚めなさい。そして夜になったら、またキミのはなしを聞かせてほしいな」

 

 だんだんと、瞼が重たくなってゆく。此処にいる自我がほどけ、輪郭が曖昧になり、意識が溶暗してゆく。

 

 消えてしまう前に、立香は一つ、女に訊いていた。ずっと、気にかかっていたことを。

 女が、無理をしていないか、ということを。

 

 女は、笑みを浮かべている。

 女の笑みに見守られながら、立香の躰は溶けるように薄れ、花の空間から消えていった。

 

「………、」

 

 シートには、使い手の消えた白磁のカップが取り残されている。

 

 女は立香が座っていたところを見つめ、そっと手元のカップを口に運んだ。

 

「無理なんて、していないさ」

 

 湯気は冷めきっている。

 紅茶には、何の味も残っていない。

 

 風が止んでいた。

 芳香も消えている。

 

 見渡す限りに咲き誇っていた花は、しかしどこまでも果てしなく(しお)れ、朽ち、蕾を落としている。

 

 魔法がきれてしまったかのように。

 幻が終わってしまったかのように。

 

 ぽつり、と。一人きりになった、女が言った。

 

「リツカ」

 

 俯き、消えた少女の名を。

 リツカ、と。口にし、何度も、何度も、〃々、つぶやく。つぶやくほどに、女の口角は吊り上がってゆく。

 

「リツカ、リツカ。ボクの親友。ボクの英雄。ボクの……最愛なるキミ」

 

 キミに誓うよ。何度でも。

 キミを幸せにするよ。きっとしてみせるから。

 

 ボクが。

 今度こそ。

 

 

 

 ――この特異点で

 

 

 

 呟きが聞こえることはない。

 

 魔術師は、枯れぬ花のように、いつまでもわらい続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ◇リツカ
 ・主人公。変身能力を持つ。
 ・なんやかんやあって転生した。幸せになることが約束されている。

 ◇両儀式
 ・たおやかな貴人。無敵お姉さん。どこからともなく日本刀を取り出したり収ったりする。あと「かたち」あるものの「死」を見ることができたりもする。
 ・実家は歴史ある一族ながら、隙あらばカーマのマンションに泊まりに来るという奔放っぷり。
 ・ゆいつ執着する主人公のためならば、笑顔で神さまだって殺してみせる素敵ナデシコ。

 ◇殺生院加愛摩(カーマ)
 ・棘のある花のような笑顔が特徴の少女。魔法さながらの「ちから」の使い手にして、主人公とは幼馴染であり、よくわからせたり逆にわからせられたりする間柄。
 ・母親がおっとりした性格でオンオフ関わらず無自覚にえっちな雰囲気を垂れ流すので、この親にしてこの子ありという眼差しを周囲から向けられていたりもする※なおカーマ自身はスキル「愛神の神核」のおかげで、気分によっては伸びたり縮んだり生やしたりすることもできる。まさしく古今東西最先端の可変式美少女。
 ・報われないはずの愛が報われた結果、色々と捻じれながらもさいきょうヒロインと化した。





























 ◇マーリン(プロト)
 ・愛に染まった夢魔。魔術師。
 ・絆Level上限突破:■■■■(測定不能)

 ・すべては、キミの幸せのために――





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