進撃の巨人 もしもこんな世界があったのならば (molte)
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私立ウォール・マリア高校!

取り敢えず書きたかったので、ご覧下さい。

──────────────────────────

 

 

 

 だんっだんっとボールが床を激しくつく音が鳴り響く。

 

キュッ!

 

 1人の少年が体育館のような場所で汗を流しながら素早い動きでゴールリングに向かう。

 

「ふっ!」

 

  パサッ

 

「…よし、そろそろ時間かな?」

 

 少年は朝の日課を終え、バスケシューズを履き替える。

 履き替え終えた矢先、彼の母親が慌ただしく少年を呼びに来る。

 

「エレーン!アルミン来たよー!」

 

「はーい!」

 

 

俺は家の地下にある体育館の電気を消して、こけないように階段を駆け上がる。途中で両親に声を掛けて玄関を飛び出し、幼馴染の金髪女子アルミンと一緒に…

 

「金髪女子ってなんだよエレン…」

 

「わりっ。声に出てたか」

 

「もう、またバスケしてたんでしょ朝から。今日から高校生なのに」

 

 可愛く言うが彼は正真正銘の男である。

 

「むっ、別にいいだろ。バスケしても」

 

 まぁねとアルミンが返事をして、今まで通っていた道とは反対方向へと足を踏み出す。

 

 ここマリア県のシガンシナ市は、マリア県の県庁所在地であり、日本の首都と比べると都会ではないが、田舎でもない場所である。

 だが、住みやすやランキングでは今の所3年連続で全国1位だ。

 エレンたちが通う、私立ウォール・マリア高等学校は、一学年300人ほどのマンモス校であり、更に新設校ということで今年で開校して3年目なのである。

 つまりエレン達はマリア高校の3期生と言うことになる。

 

 (はっ!そう言えば聞きたいことがあったんだった!)

 

「アルミン!」

 

「っ!…そんなに大声で呼ばないでくれよ…」

 

 呼びかけると同時に振り向いた俺の大声がちょうどアルミンの耳に響いてしまった。

「あぁ…ごめん。それでライナー達もいるんだよな?」

 

「うん。みんなマリア高校に進学だったはずだよ」

 

 アルミンが微笑んでそう答える。俺はその旨を聞いてホッとする。

 

「いやぁー、楽しみだなぁ」

 

 雲一つない快晴の空を見ながら俺は思わずしんみりしてしまい、それと同時に笑ってしまう。

 

「僕は彼女とか作って青春してみたいよ。もちろん勉強も頑張るけどね!」

 

「彼女かぁ」

 

「どうしたのエレン?」

 

 小声で呟いた俺の声はどうやらアルミンには届いていたみたいだった。

 

「いや高校生になって彼女の1人もいないってちょっと寂しいなって思って

 

「でも僕にできるかな…」

 

 アルミンは不安そうに呟く。だが、確かに俺たちは今まで女子と接点を持ったことがあまりない。それこそ先程挙げたライナーの幼馴染のアニくらいなもんだ。

 

「まぁアルミンなら頭いいからできるだろ」

 

「理由になってないよエレン…」

 

 2人が雑談しているとついに、マリア高校の姿が見えてきた。

 シンボルマークである女神象の横顔が校章の五階建ての校舎。校庭や体育館のスケールはもちろん言うまでもなく、テニスコートや柔剣道場、更には文化系部活動の部室など国公立大学並の施設の良さに2人は驚きを通り越してむしろ清々しい顔であった。

 

「おっ!あれライナーじゃね?」

 

 前方には筋肉質金髪頭でみんなの兄貴分ことライナーと高身長で引っ込み思案のベルトルトと思わしき後ろ姿が、新入生の人混みからでも分かる特徴的な2人がいた。

 

「おーい!ライナーにベルトルトー!」

 

 どこからかぬっという効果音が聞こえてきそうな感じで2人は振り向いた。

 

「おっ、エレンにアルミンじゃないか。お前らもマリ高か」

 

 マリ高なんて言うのは初めて聞いたが、多分こいつだけだろう。

 

「当たり前だろ?日本一取るんだから」

 

「2人とも3年間よろしくね」

 

「うん!もちろん2人ともバスケ部でしょ?」

 

「「あぁ(うん)」」

 

アルミンの問いに頷く2人であったが…。

 

「そういえばアニはいねぇのか?」

 

「アニなら先に行くってLINEがあったぞ」

 

「あ、そーなんだ。いつも3人でいるから僕も気になってたよ」

 

「やっぱライナー制服姿似合わねぇな」

 

 ライナーは中学生の時、筋肉質が過剰すぎてワイシャツから筋肉が隆起し、はちきれんばかりであったため、彼だけ特注の制服を着ていた。その際に材質上デザインを変えることができないために冬はブレザーではなく学ランであった。

 マリア高校の制服は藍色ベースのブレザーであり、ネクタイの色は学年ごとに違う仕様にしてあるのは現校長が今年から変えたらしく、一年生は濃紺色(ネイビーブルー)のデザインとなっている。

 

「絶対それだけは言われると覚悟してた…」

 

 この学校は柔軟対処してくれたらしく彼だけ学ランという事態は避けられたみたいだ。

 

「僕も朝ライナーと待ち合わせした時に吹きそうになったよ」

 

 エレンの意見に賛同するベルトルトも事の成り行きを述べる。それを聞き、ライナーは落ち込み、エレンとアルミンがライナーの落ち込み姿に笑ってしまう。

 

 雑談は進み、春休み中に何があったやら、アルミン女子説を立証しようと企てようとするやら、人混みにいる女子生徒の胸のサイズを推し量ったライナーをベルトルトがツッコミ(物理)を入れるなどと、側から見ると彼らは仲睦まじい男子達であった。

 

「やっと、クラス表が見れるな」

 

「ライナーは後で警察に自首してね」

 

「なんでだよ!」

 

 ベルトルトとライナーの論争はまだ続きそうだと思ったアルミンはエレンとクラス表を見に行った。

 

「えーっと、俺のクラスは────」

 

「やった!エレン!一緒のクラスだよ!」

 

 なかなか自分の名前を見つけれずにいたエレンはアルミンの言葉を聞き安堵に陥ったと同時に喜びの声を上げた。

 

「おっ!やったな!よろしくなアルミン!」

 

「エレン!俺はどこのクラスだった!?」

 

 やっとの事で論争を終えた2人は、他の生徒に当たらないように走ってきた。

 

「ここいる4人はみんなおんなじクラスだぜ!」

 

「アニも一緒だよ」

 

 それの旨を聞いたライナーとベルトルトは、受験生が第一志望に合格したような嬉しさで熱い抱擁をしていた。

 

 それを見ていたエレンとアルミンは、アルミン女子説立証よりもゴリ金&薄ノッポホモ説立証を企てようとしたのはまた別の話だが。

 

「アルミン!はやく教室に行こうぜ!」

 

「うん…、2人とも置いてくよー」

 

「「まってくれー!!」」

 

 

☆☆☆

 

 

 in1-A

 

 

 

「今日から貴様らの担任となるキース・シャーディスだ!1年間よろしく頼む!」

 

 

 エレン達が教室に入って10分ほどすると、強面の髭を生やした、まるで軍隊の教官のような先生が入ってきた。

 1-Aの生徒は皆、こいつは怒らせたらヤベェという認識を全員がリンクし、先生が入ってきた途端に生徒らは私語を慎み、指定されている席に座った。

 

「この学校はまだ新設校で歴史が浅いが、部活動を筆頭に様々な結果を残している!貴様らも先輩達を見習い、勉学並びに、部活動など、今にしかできないことに一生懸命取り組め!」

 

 私からは以上だと言い残し、「15分後に廊下に並ぶように」というメモ書きを黒板に書き示して、先生は退出した。

 

 なんとも言えない気まずい空気が漂う中、一人の生徒がある提案を促した。

 

「ちょっといいかな?これから1年同じクラスだし、自己紹介でもしないかな?」

 

 如何にも正義感の強そうな高校生の平均身長くらいの男子生徒が提案をした。

 

「俺は賛成だぜ!」

 

「特に反論はないかな?」

 

 彼の問いに否。と異議を唱えるものはもちろんおらず、自己紹介が始まった。

 

「では言い出しっぺの僕から行くよ。僕の名前は、マルコ・ボット。さっき僕の提案に賛成の声を上げてくれた子と同じ学校だ。部活動はバスケ部に入ろうと思ってる。彼共々よろしくみんな!」

 

 パチパチと拍手の音は大きくはないが小さくもなく、よろしくーなどの声援をマルコは貰っていた。

 

「じゃあ次はオレだな!」

 

 先ほどのマルコの提案に賛成の意を表していた彼が勢いよく立ち上がった。

 

「オレはジャン・キルシュタイン!部活はバスケ部に入る予定だ!趣味は音楽鑑賞とバラエティ番組をみることだな。みんなよろしくな!」

 

 彼の自己紹介後もまた声援と拍手が送られていた。

 

 ジャンの自己紹介から席順で進んでいき、ベルトルトやライナーも卒なく自己紹介をこなしていた。ライナーに至っては男子からの声援が熱く、早速席の近いマルコと仲良くなっていた。

 

「私の名前はクリスタ・レンズです。部活動は何に入るか決めていませんがみんなと仲良くできるようにがんばります!1年間よろしくね!」

 

 彼女の自己紹介後の天使スマイル(ゴリ金命名)の矢が男子のハートに突き刺さり、男子は皆声援を送っていた。というかほとんどライナーだった。

 

クリスタ、アルミンときて最後はエレンだった。

 

「エレン・イェーガーだ!みんなよろしくな!部活はバスケ部に入るぜ!さっき自己紹介したアルミンと幼なじみだ。仲良くしてくれ!」

 

 エレンの自己紹介がちょうど終わった後、キース先生に言われた15分が近づいてきたので生徒たちは廊下に並ぼうと移動している最中だった。

 

「よっ!シガンシナのエースさんよ」

 

 誰かがそう声を掛けたのをエレンが反応した。そして恥ずかしそうに

 

「その呼び方はよしてくれジャン」

 

「ははっわりぃな。んだがお前と同じチームで戦えるとウズウズしてな」

 

 ジャンはエレンの肩に手を置き、そう答えた。

 

「あぁ俺もだよ。いやアルミンもライナーもベルトルトも皆んなお前と同じチームになれる事を喜んでたよ」

 

「よろしくなエレン!」

 

 エレンとジャンが熱い握手を交わしたと同時に、キース先生が戻ってきた。

 

「ちゃんとならんでいるな?…よし!では今から入学式の会場に行くので私についてこい!」

 

 先生が登場するや否や、一瞬で話し声がなくなり皆先生について行くのであった。

 

 

 



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自宅訪問!

2話です。よろしくお願いします。

────────────────────────

 

 

 入学式を終え、その後のHRも終えた新入生は、そのまま解散ということになった。

 家に帰宅するものもいたり、仲良くなった友達と一緒に遊びに行く者もいたり、まだ学校に残って校舎内を見回ってみるなどと思い思いに高校生最初の放課後を過ごしていた。

 

 エレン達はバスケ部を覗いてみよう、あわよくば混ぜてもらおうという精神でバスケ部専用の体育館Aに総勢8人で乗り込もうとしていた。

 

 その8人の中には、エレン達4人はもちろんのこと。ジャンとマルコ、坊主頭でお調子者のコニー、更には、マネージャー志望で先程走ってきたクリスタが加わり、大所帯で移動していた。

 

「こんな大人数で押し掛けても大丈夫なのかな?」

 

「ったくー。正義感が強いんだから〜マルコはよ。ここは先輩達に新入生として気合を見せないとな!」

 

「おぉ!もちろんだぜ!そのために俺は練習着にバッシュも持ってきたしな」

 

「エレンはバスケがしたいだけでしょ」

 

 そうとも言うと聞いたこのあるセリフをエレンが発し、場が和む。

 

「ね、ねぇエレン?」

 

「っ、クリスタか。何か聞きたいことでもあるのか?」

 

 8人の大所帯の後方にいるエレンにクリスタが話しかける。エレンも唐突に話しかけられてびっくりしたのかそれとも女性耐性がないのかは分からないが、少ししていつも通りのエレンに戻る。

 

「エレンはなんでそんなにバスケが好きなの?」

 

「あー、まだ小さかった頃にな、父さんに連れられてストリートバスケの試合見に行った事があるんだけど、その時に当時の俺と同じくらいの背の子が高校生相手に圧倒してて、それでかっこいいなって思って始めたんだ」

 

「純粋だねエレン!」

 

 キラキラとエフェクトが出そうな感じの上目遣いで見上げてくるクリスタをエレンは直視出来なかった。

 

「その人この学校にいるんだ」

 

 アルミンの発言にクリスタがびっくりして「そうなの!?」とびっくりした様子で返す。

 

「確かリヴァイって名前の人だったかな」

 

「ん?それって確かミカサのお兄さんじゃ?」

 

「ミカサって?」

 

 エレンがクリスタに伺うと、彼女は怪我の影響で今週は休みで来週から学校に来れるようになるという事を教えてくれた。

 

「ミカサとっても美人さんだからみんな惚れちゃうと思うよ」

 

「へぇー、怪我か大変だなぁ。俺らでサポートしてあげねぇと」

 

 ジャンがミカサという子のサポートに転じる旨を言うとみんなは賛成の声を挙げ、ライナーは一人で「俺はクリスタが1番可愛いけどな」とぶつぶつ言っていた。

 

「そういえばクリスタはなんでマネージャーに?」

 

 アルミンがクリスタに質問するとすかさずクリスタは答える。

 

「んー、本当はバレーやってたからバレー部にしようと思ったんだけど、私じゃついていけれないかなぁと思って」

 

「それと今日の朝に男子達がバスケ部入るからって言ってたから面白そうだと思ってついてきちゃった」

 

 えへへと可愛らしくいうとエレン以外のほとんどの者が天使や女神など呟いていた。ライナーはというと、いや辞めておこう。

 

「すごい行動力だなクリスタは、尊敬するぜ!」

 

 エレンがそう言うとクリスタは照れながら、上目遣いで「ありがと」と可愛らしく(本人にその意思はないが)言っていたが女性耐性が弱いエレンにはなぜか通じず、他のものには効果抜群のダメージであり、ライナーはというと、いや辞めておこう。

 

 そうこう雑談しているうちに体育館に到着した。が、人の気配は全くなくもぬけの殻であった。

 

「流石に勝手に使うのは良くないから今日はやめておこうよ」

 

 マルコが他7人にそういうと皆んなも入学初日から羽目を外すのは良くないと自負しているのか、流石のバスケ大好き人間エレンも常識は弁えているのでマルコの発言に反論はしなかった。

 

「別に使ってもいいんじゃねーかー?」

 

 が、それもこの8人の中には常識の通じない"例外"がいる。

 

「なー、最近動いてないからよー、誰か付き合ってくんねーかー」

 

 1人で弁舌をかます坊主頭のチビこと、コニー・スプリンガーは声変わりをしてるのかしてないのかよくわからないラインの声で皆んなに自分の意思を伝える。

 

「コニー。流石に今日は辞めとこう。正式に入部が認められたらまた来ようよ」

 

「それもそうだな」

 

 アルミンが上手くコニーを丸め込むとコニーは馬鹿なのかいや馬鹿であるが、すぐに納得した。

 

「じゃあエレンの家は?バスケットコートあるし」

 

 ベルトルトがエレンの家に行こうと提案した。同じ学校であった4人は違和感は感じなかったが、他の4人は家にバスケコートがあるってどんな家だ?と少しばかり驚いていた。

 

「ん?俺の家か?別にいいと思うけど…母さんに聞いてみる」

 

 ベルトルトがコニーの為にエレンの家へと選択したが、それに伴いエレンに手数をかけたとベルトルトは申し訳なさそうとしてた。

 が、エレンは気にすんなと言って携帯を取り出し、母へ友達と遊んで良いか承諾の確認の電話をした。

 

「オレもエレンの家行っていいのか?」

 

 ジャンが家にバスケコートがあると聞いてウズウズした様子でアルミンに話しかける。ライナーとコニーは当然行くと豪語していたが…

 

「おっけー。ん、わかったよ」

 

「どうだった!?」

 

「おい落ち着けよ?」

 

 ジャンは承諾の結果が気になるのか、エレンを急かそうと近寄るがエレンがすかさず窘める。

 

「取り敢えずはおっけーだったぞ、ライナーとベルトルトは来るんだろ?」

 

「もちろんお邪魔さしてもらうよ」

 

 ライナーは1人でなにかぶつぶつ言っているので反応しなかったが、代わりにベルトルトがエレンの問いに返答してくれた。

 

「クリスタもくる?」

 

「へっ!?い、いや私は…」

 

 突然話が振られたのに驚いたのか、それとも男子の家に行くのに抵抗があるのかは知らないが、クリスタは返答にこまった様子だった。

 

「……今回はやめとくよ。また次の機会に女子のみんなも連れてお邪魔さしてもらうね」

 

「ん、了解」

 

 流石に友達になって1日で異性の家に行くのは気が引けたのか、クリスタはアルミンの誘いを丁寧な言葉で断った。エレンもそれがなんとなく分かって聞いたので特に気にすることもなくのほほんして、自分の家に帰るのであった。

 

 

☆☆☆

 

 

 エレン達御一行はクリスタと教室で別れ、そのままエレンの家に行くのであった。

 クリスタは、同じ学校であったユミルとミーナと、そしてライナーらの幼馴染のアニと共に、エレン達に挨拶をして帰宅して行った。ライナーだけ何故かユミルに睨まれていたが…それはまぁ言及するまでもないことなので割愛する。

 

 帰宅途中にコニーの提案で、コンビニに寄っておやつやジュースなどを調達して、エレンの家に到着した。道中にアルミンとライナーとベルトルトは一旦家に戻り、着替えを持ってやって来た。

 

「ジャンとマルコが固まってるけど…」

 

「いや概ね、察しはつくけどな」

 

「まぁ最初はこうなるよね」

 

 エレンの家は大富豪の家のようなイメージで規模がとても広く市役所よりも広いとアルミンが豪語するほどなのだ。

 

 ハンターハンターの某暗殺家のように玄関から家までが果てしなく遠いわけではない。

 流石に比較対象が規格外であったが、それは置いといてエレンの家系が医者の血筋で且つ、歴史に名を残す名医であるために、自ずと資産も増えてしまい、エレンの曽祖父が経済を回すという名目のために、適当に土地を選んで建てたらしい。(真意はどうであるかは定かではないが…)

 

 外観は、木で覆われて外からは見えないようになっているが、中に足を踏み入れると、初見の人は絶対に固まるらしい。事実、ジャンとマルコは硬直状態である。

 

「にしてもコニーは驚かないんだな」

 

 ライナーが怪訝な目でコニーに問いかける。

 

「いやでかいけどそれよりもめっちゃ綺麗だなって思った」

 

「あ、そう…」

 

 ライナーは馬鹿の考えることはよく分からないと胸に刻み、一部始終を見ていたアルミンも今回ばかりはライナーに少し同情したのであった。

 

「固まってないで行くぞー。母さんが飯作ってくれてるからさ」

 

 エレンがそういうとエレン母の料理の味を知っているアルミン達3人は、我が我がと駆け出して行ってしまった。ジャンとマルコもようやく正気を取り戻し、エレンに誘導されながら、走って駆けて行った。

 

 

 7人全員が居間に着くと、エレンの母カルラと挨拶を交わし、少し遅い昼食を摂った。

 

 アルミン達3人は、獲物を狙う獣のような状態で、今にもかぶりつきそうによだれを垂らしていた。(比喩)

 ジャンとマルコは少し遠慮気味であったが、それでも美味しそうに料理に魅入っていた。

 

「んじゃっ、いただきまーす」

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

 それからはまぁ何というか、特に会話もなく猛スピードで、料理が彼らの胃に消えていった。

 エレンは、昼食を少量で済ましてシャワーを浴びに行ってしまった。他の男どもはいまだにヤケ食いを続けているが。

 

 

 

「ふぅー。」

 

 いつもより少ないメシを済ませた俺は、少し汗をかいたのでシャワーを浴びてゆっくりすることにした。

 

(アイツらも当分母さんのメシに釘付けだろうしなー)

 

 今日はたくさん友達ができたし、最高の日だった。クラスも賑やかで楽しそうだし、部活も念願のあの人と同じチームでプレイできることに俺はワクワクしていた。

 

 慣れた操作でスマホのLINEアプリに1-Aのグループ招待が来ていたので参加して、今家にいるメンツを招待して物思いにふけていた。

 

(アルミンも言っていたけど、誰かと恋人関係になりたいよなぁ)

 

 ライナーやアルミンはよく恋愛沙汰の話をしているが、俺も全く興味が無いわけではない。将来、独身だけにはなりたくはないと思ってる。

 

(かといって、誰かれ構わずそういうアプローチをするのは良くないってアルミンが言ってたしなぁ)

 

「まず俺を好いてくれる人が今後現れてくれるかどうかが問題だけど…」

 

 そんな心配はまぁ杞憂に終わるのだが、それは"神のみぞ知る"ということである。

 

 兎にも角にも、高校生活は今日から3年間もある。時間はたっぷりあると自分に言い聞かせて、俺は浴室を出ようとした時

 

ピロンッ

 

 あまり鳴らない俺の携帯が珍しく鳴った。

 

 恋愛について思考していたため、女子からのLINEかと期待を寄せつつ、自分が妙に恋愛沙汰に取り込まれつつあることに悪態をつき、メールの旨を見る。

 

〈クリスタ〉

 

『来週の金曜の祝日に皆んなで入学お祝いパーティーしない?今日行けなかった分その日に行くって言うことでいいかな??』

 

 クリスタからのメールを読み、速いフリップで返信の旨を送る。いや送ろうとしたが女子とのLINEということで変に緊張してしまい、数十秒程度で打った全文を消し、熟考する。

 

(というか女子は仲良くなるのが早くないか?)

 

 まぁ仲良いに越したことはないけど、取り敢えずクリスタの提案には了承するということで、少し考えて返信した。

 

〈エレン〉

 

『了解!来週から復帰するミカサも招待してみんなでワイワイしようぜ!』

 

 ふぅ〜。

 

(いやたかが女子とのLINEだぞ)

 

 なんでこんなに気を張っているんだろう、いやこれはアルミンが悪いと自問自答して、今度こそ浴室から出た。

 

 

 

 昨日は結局バスケをせずに、メシを食った後みんなで映画を見た。

 なんの映画かはお察しの通り、たまたま列車に乗った新米剣士が鬼を倒すという人気漫画の続編映画を見た。

 ここで発見したことがマルコが意外とアニメや漫画が好きということなのだ。アルミンとライナーとで大分盛り上がっていたが…。

 

 映画を見た後は、みんな寝てしまって起きた頃には太陽が沈みかけていた頃で、みんな急いで帰っていった。

 

 因みにクリスタとのLINEはまだ続いている。

 俺がパーティーの了承の意を伝えてミカサの招待を促すと、クリスタは賛同してくれて「女子の方は任せて!」と文面からは自信に満ち溢れていた。

 

 「今日から本格的に授業が始まるんだよなぁ」

 

 俺は決して勉強が苦手ではないけど得意でもないし、好きでもない。

 アルミンとよく模擬試験で勝負していたが、相手にならず毎回ジュースを奢る羽目になっていたのは1年前の懐かしい話だ。

 

 ただ、俺の夢の実現には勉強という分野は避けては通れない道であり、かなり憂鬱ではある。

 

 ピロンッ

 

(ん?こんな朝から誰だ?)

 

 執拗に明るいスマホ画面の明暗を操作し、メールを確認する。

 送信主は、クリスタだった。

 

〈クリスタ〉

 

『おはよう!昨日の帰り際にキース先生に聞いたけど1年生は新入生歓迎会があるまで部活には出れないらしいよ!』

 

(オーマイガー…)

 

 朝からなかなかに重いニュースを持ってきたクリスタに罪はないが、それでも内心かなりショックであった。

 

(これは当分自主練か…)

 

 〈エレン〉

 

 『そうなのか!?ショックだけど家で自主練するよ。情報提供ありがとな!』

 

 無意識に出たため息に気付く訳でもなく(いやむしろ気づかないのが普通だが)充電プラグをスマホに挿し忘れるほどショックだったのかと後から気づくのだが、スマホをベッドの上に置き、いつも通りの日課をこなして、アルミンと合流するのであった。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 校舎中に鳴るチャイムの音がHRのスタートであり、生徒が教室の自分の席に座っておくタイムリミットを指し示すわかりやすい合図である。

 

 1-Aの教室にはあの坊主バカですら、遅刻せずに来ている。めちゃくちゃ眠そうな様子だケド。

 空いている席はミカサの席のみであって、今ちょうど先生がミカサの話をしているのだ。

 

 (はぁー。部活できねぇーのかぁ)

 

 朝のクリスタからメールで、今日のモチベーションはパワプロ君でいう紫状態である。

 

 まぁいつもの3人はどうせ放課後家に来るので楽しいに越したことはないが、やっぱり早く部活動はしたいし、あの人にも早く会ってみたいのだ。

 

 あぁでもないこうでもないと頭を悩ましていると学級委員やら、学級の目標やら、色々決めて終わってしまっていた。

 本当は1時間目の授業がこの係員決めだったのだが巻いて決まってしまったため、キース先生の表情はなんら変わりは無く、1時間目が暇なので自分が受け持つ、世界史の授業をするということだけを伝えて、退室していった。

 

「はぁ〜。今日から授業が始まるのかぁ」

 

 コニーは自分の机にうつ伏せてしまい現実逃避していた。

 

「なんだ〜コニー。勉強苦手なのか?」

 

「元気だしなよコニー」

 

 立候補して学級委員になったジャンと、ライナーとベルトルトの幼馴染であるアニが、落ち込んでいるコニーを、励ましに(?)行っていた。

 

 俺は俺とて、昨日配られた教材に名前を書き、世界史の準備をして、1人1つずつ廊下に設備してある、ロッカーの整理をしていた。

 

「あっ、エレン。おはよっ」

 

「ん?クリスタか、おはよう」

 

 俺がクリスタに挨拶した途端、後ろからすごい殺気を感じた。多分ライナーだと思うけど。

 

「あ!そうそう、パーティーのことなんだけど…」

 

「ん?あぁ…そのことね」

 

 少しぼーっとしてしまったが、クリスタの話に耳を傾けようとした瞬間

 

「おうおうおうおう!私の嫁に手を出してるのはどこのどいつだぁ!?」

 

 ドシドシと相撲取りのような足踏みをした、クリスタの護衛役ユミルがなにやら高圧的な態度で俺たちの元へやってきた。

 

(というより嫁って…)

 

「エレンさんよ〜。あんたにはまだ、このレベルは早いんじゃないかい?なぁサシャ?」

 

 俺には理解できない言いがかりをつけたユミルは、サシャに誘発させる。

 サシャはコニーと幼馴染で2人は恋人関係にある。2人のラブラブな姿は見たことがまだないが2人にとってそれが丁度いい距離感なのかも知れない。

 

「え、えぇ?エレンならいいんじゃないですか?」

 

 サシャのお眼鏡に俺は適しているのかそれともユミルに巻き込まれるのが面倒なのか彼女の真意は読み取れない。

 

「んなっわけねぇーだろ!芋女!私のお眼鏡にこいつが合うと思ってんのか!?」

 

 怒髪天を衝きたてユミルはサシャに詰め寄る。何を見せられてるのか俺にはさっぱりわからない…。

 

「ちょっとユミル!サシャが困っているでしょ!それにそんなあだ名はよくないよ!」

 

(これが修羅場というやつなのだなアルミン)

 

「え、えぇ。と、取り敢えずエレン助けてください!」

 

「いや、急にそんなこと言われても無理があるだろ」

 

 ましてや知り合って数十時間の関係であって、明らかに理不尽な要求だとその時エレンは思った。

 

(なんか人も集まってきそうだし…。)

 

「えっと〜」

 

「ユミルとクリスタは付き合っているのか?」

 

「「えっ?(はっ?)」」

 

「えっ?なんかまずいこと言った?」

 

「はっはっはっそんな親身になって真に受けるなよ!」

 

 どうやら俺の発言がツボに入ったらしく、ユミルはチャイムが鳴るまで、笑いすぎて声が出ていなかった。

 

 

 

 

 

 



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やっとの邂逅

3話です。

因みに浜辺美波さんが好きです。

──────────────────────────

 

 あれから1週間が経った。あれからと言われても、いやいつからやねんって思わずツッコミたくなるかもしれないが、登校初日の俺の浴室シーンからである。

 

 女性耐性のない俺でもなんだかんだクラスの女子とは学校でもよく話すし、LINEでもクリスタだけじゃなくアニともよく会話するようになった。

 

 決してこれはアプローチでは無いので行き過ぎたというか、狙い過ぎた発言は自重している。(まぁそのような発言を考えようとも思わないが)

 

 今日は、入学後初めての休日明けの学校。

 意外と遅刻してしまいがちの月曜日であるが、気を抜かずいつも通りの日課をこなして、シャワーを浴びる。

 

(そういえば今日からミカサが来るんだっけか)

 

 怪我で先週1週間まるまる休みだったミカサは、今日から初登校ということで、ジャンが昨日遊びに来た時に何やら張り切っていた。

 

 (まぁ恐らくはクリスタがミカサのことを美人と言っていたのを思い出して、刺激されたのだと思うが…)

 

 そういえば昨日クリスタからLINEで、いつメンの女子達でミカサと遊んだというメールがあったのを思い出し、ミカサも少しは不安を和らげれたのだろう。

 

 アニからのLINEでは、楽しそうにミカサの家で遊んでいるのを写真付きで送られてきた。もちろんミカサも写っていて、クリスタが言うように本当に綺麗な人だった。

 他の男どもに拡散すると、変な気を起こすかもしれないのでやめておくことにした。主にジャンとライナーが

 

(確か今日は俺が日直だったよな)

 

 金曜の日直が1つ前の席のアルミンだったことを思い出し、今日は早く家を出ようと考え、いつもより早く支度を済ませる。

 

 毎週月曜日は、母さんが父さんの病院の方へ行っているので丸2日ほどいない。まぁこれもいつもの事なので特に気にはしてない。

 

(むしろ家事スキルが上がるから、正直願ったり叶ったりなんだよなぁ)

 

 父さんが運営する病院は、世界でもトップレベルの医療技術を誇り、母方の父(祖父)が現在、父さんの病院の医院長を勤めている。

 母さんは、その病院の手伝いにというより、父さんがいつも1人で仕事をするため、精神的に病んでないか毎週確認をしに行く名目上でイチャイチャしているのだ。

 この歳になってまでまだ若年のカップルと引けを取らないラブラブさは正直、見るに耐えない。

 

 だが、母さんが居ないため、必然的に俺が留守番をするのは、両親が俺に1人の時間を与える為と価値のある時間をくれたのである意味俺としてはありがたい。

 

 玄関を開け外に出ると、いつもより大分早い時間なのにアルミンがいた。それも怪訝な表情で。

 

「な、なんだよ」

 

 アルミンが俺に向ける表情が微妙に怖かったので思わずたじろいでしまった。

 

「ちゃんと分かってたんだねエレン」

 

 どうやら俺が今日日直で早く行かねばならない所を教え(叩き起こし)に来たアルミンであったが、予想が外れ残念げな声を掛けた。

 

「まぁな、何故かアニからも昨日寝る前にLINEが来てたからな」

 

「へぇー、アニと仲いいんだ」

 

 良いと思うぞ?と適当にあしらって、アルミンより先に通学路を進んでいく。

 

 アニとは中学校が同じだったが、別段仲が良かったわけではない。2年生の体育祭でフォークダンスのペアになった以来、ちょいちょい話をするくらいであって、高校生になってからよく話をするようになった関係なのだ。

 

(むっ、というか俺ってそんなにだらしないのか?)

 

 わざわざ釘刺しのメールが来るということは、アニからして俺の印象は単純にだらしない男ということなのか?

 近所のお年寄りに挨拶しながら、そんなことを考えているとアルミンが

 

「いいなぁ、エレンは選り取り見取りで」

 

「なんだよ唐突に、選り取り見取りってなんだそれ?」

 

「エレンには知らなくていいことだよ」

 

 またアルミンが俺を馬鹿にしてマウント取ってこようとする。くそったれ金髪少女が…。今度こそ許さn「金髪少女じゃないよね?」……すっごい目力でアルミンは俺を睨んでくるので、邪悪な考えはよして無言で先に進んでいく。

 

「今日からミカサが来るんだよね。エレンはどんな人か見たことある?」

 

 マリア高校の校門をくぐったあたりで、アルミンから今日の主題ともいえる質問をされる。

 

(まぁアルミンになら見せてもいいか)

 

 ポケットから取り出したスマホの電源をつけ、パスコードを打つ前に顔認証により先程まで見ていたYouTubeの画面が現れる。マルチタスクにしてLINEを選択し、アニのトーク画面から少し上にスクロールして、件の写真を拡大してアルミンに見せる。

 

「へぇーこの人が…。なんていうかモデルさんみたいだね」

 

「まぁ確かに…。」

 

 アルミンの言うことは確かに的を射ている。多少スレンダーで、美人の少し東欧な顔立ちの写真に写っているユミルと同じくらいの長身の人だ。

 

(確かあの人の妹だとか言ってたっけか)

 

 先日のクリスタからよる情報では、ミカサは3年生のリヴァイさんと御兄妹らしい。ミカサは長身なのにリヴァイさんは背が低いらしい。あとめちゃくちゃ潔癖症って言う噂もあるが本当なのだろうか。

 

 そうこうしている内に教室に着いたので、日直の仕事である、窓の換気と花瓶の水換えをして、教卓の上に置いてある日誌を手に取って名前欄に自分の名前を記入する。

 

 欠席欄には今までミカサの名前が載っているが、俺は書かずに今日の予定を記入して、自由執筆欄に自己紹介文と今年一年の抱負を書いて、日誌を机にしまう。

 

「んー、暇だなぁアルミン」

 

「そーだね、学校探検でもする?」

 

 現在の時刻は7:45分。HRが始まるまでちょうど1時間もある。2人とも授業の予習復習は既に終えているので、特にすることもない。

 既に一回キース先生から、学校案内はされてるものの、省かれている施設も多いので、エレンはアルミンの提案に乗ることにした。

 

 

「にしても、まじで綺麗だなこの校舎」

 

 生徒らの教室がある教室棟と職員室や実験室などの特別棟の間に挟まれている中庭は、最上階の教室棟と特別棟を結ぶ渡り廊下から覗くと、噴水があがりエレン達からは、淡く虹が掛かっているように見えた。

 

 他にも、屋内のプール場と水球部専用の屋外プール場や学校内にコンビニスペースがあったり、宿泊用のホテルと天然の温泉があったりと、月曜の朝のテンションではついて行けない程びっくりしてしまい変に疲れてしまった。

 その際、俺とライナーの大好きなフィンランドサウナがあったので気分上々になってしまった。

 

 アルミンは柵に体重を預けて黄昏ているみたいだった。いい感じに太陽の光と金髪が反射して、童顔白髪にしか見えないのは言わないでおこう。

 

「エレンってクリスタの事好きなの?」

 

 唐突の問いにすぐ反応できるわけもなくもう一度聞き返してしまい、アルミンは淡白に同じ質問をしてきた。

 

「どうしてそう思ったんだ?」

 

 いや2人とも仲良いから両思いに思ったよ、などありがちな回答ではなく、アルミンの回答は、幼馴染の勘らしい。

 

「友達としてなら好きだぞ?恋愛の観点で言えばそういう感情はないけど」

 

 ありきたりな答えだが、本当にクリスタに対しては恋愛感情を抱いていないのは事実である。

 それに、もしクリスタに伝わると今後の人間関係やら、ユミルやらライナーが突っかかってくるのが目に見えているので、正直に答えた。

 

「そうなんだ!?じゃあ僕狙っていいよね!」

 

「なんで俺の確認がいるんだよ…アタックすればいいだろ」

 

「狙うって言っても具体的に何をすればいいのかよく分かってないんだよね」

 

 なんでやねん!って思わず尼崎生まれのツッコミ芸人の声がどこからか聞こえてきそうだが、アルミンより恋愛に疎い俺に相談とかされても困るしな。

 

「あっ、そういえば今週末の祝日あるだろ?その日にうちの家で入学お祝い&ミカサ復帰パーティーやるんだけど来る?」

 

「なんでエレンは毎回大事なことを言い忘れるの?はぁー、もちろん行くに決まってるでしょ」

 

 アルミンも参加と…。パーティー専用のLINEグループにアルミンのアカウントを招待する。

 

「って、僕以外みんないるじゃん!」

 

「わりっ完全に伝え忘れてた」

 

 もうっ!と可愛らしく怒っているが興奮するのはライナーだけなので適当に無視しとく。

 一応パーティーに参加するのは、さっき伝えたアルミンと、ライナー、ベルトルト、アニそして1-A唯一カップルとジャンとマルコにクリスタとユミル、ミーナで、主役のミカサである。

 

「教室戻るか」

 

「そうだね」

 

 ぼちぼちと校門をくぐる生徒の数が増えてきたのを見て、アルミンと教室に戻った。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 HRの開始のチャイムが鳴るや否や、ガラガラっと扉を開ける音と共にキース先生と女子生徒が入ってきた。

 1-Aの生徒全員もこの女子生徒が、ミカサである事はわかっている(既にLINEほんの少しで絡んでいる為)のである。

 

「今日から貴様らと苦楽を共に過ごす仲間を紹介する!!」

 

 月曜の朝からあんなに馬鹿でかい声出してすごいなとか無駄なことを考えつつ、ミカサの自己紹介が始まった。

 

「えっと、今日から復帰しました。ミカサ・アッカーマンです。知ってるお友達もいますが皆さんよろしくお願いします!」

 

 キース先生がいるので声援は飛ばせないが、大きな拍手が教室中に巻き起こる。ミカサも照れながら席につき、後ろの席のミーナと楽しそうに挨拶を交わしていた。

 

「漸く全員揃ったわけだが…、来週の水曜日にみんなが待ちに待っていると思う新入生歓迎会が執り行われる!内容としては、生徒会長の挨拶から始まり、部活動紹介、そして体育祭の色決めなどミニゲームも沢山あるぞ!」

 

 その旨を聞くと、バスケ組はウズウズしていた。もちろん俺も楽しみで仕方ないし、あの人と練習できることを想像すると説明のつかない何かが込み上げてくる。

 

「ではこれでHRとする!皆!ミカサと仲良くするように」

 

 いつもより柔らかい表情でキース先生は生徒にそう伝え退出していってしまった。

 

 

 案の定ミカサの席には、人だかりが出来ていた。やれ何処から来ただの、モデルさんですかと聞くやつだの、ミカサは嬉しさ半分、困惑半分といった感じだった。

 

 エレンはその様子を遠目で見ていたが、ミカサの事よりも新入生歓迎会があることを告げられて、嬉しそうに「今日から特訓だ!」とかライナー達に言っていた。

 

 一方でミカサは、転校生のような扱いを受けると思っていたが、時間が過ぎるごとにそんなこともなくなって、もともと仲が良かったクリスタやユミル、ミーナと一緒にいることで、つい数時間前に紹介された生徒とは思えないほどの溶け込み具合で、サポート役のジャンはする事もなく困っていた。

 

 他クラスからは、めちゃくちゃ綺麗な人がA組にいるらしいぞと話題になっていたため、ミカサに迷惑が掛からないようにジャンが必死に対応していた。

 

 

「君がエレン君だよね?」

 

 3時間目の数1の授業が終わるとミカサがエレンの席まで赴き、声をかけた。

 

「ん、よろしくなミカサ。俺のことはエレンって呼んでくれ」

 

 エレンもかしこまって正しい姿勢で返事をし、分かったとミカサは承諾するとそれで、と切り返した。

 

「私の兄がエレンに用事があるみたいなの。それで放課後体育館まで来てくれって事を伝えろって頼まれたんだけど、放課後大丈夫かな?」

 

 首を傾げ可愛らしく、いや愛嬌のあると言った方が的を射ているが、ミカサがエレンに頼み込んだ。何処からか鼻血が出た音が聞こえたが、気のせいだと思いたい。

 

 それよりも本題であるあの人からのお誘いにエレンもそっちから来るとは夢にも想ってなかったのかどこか浮き足立って大丈夫だとミカサに伝えていた。

 

「そうだミカサ。今週の祝日空いてるか?うちの家でみんなと入学&ミカサ復帰祝いをやるんだけど」

 

 主役の参加を改めてエレンはお願いする。エレンも来ることは分かっているが、一応形式上と言うか建前上は直接伝えた方がいいと思ったらしい。

 

「うん。もちろんお邪魔させてもらうよ」

 

 ミカサは満面の笑みでエレンに向けてそう答えた。ミカサも直接言って貰えてどこか安心した部分もあるみたいだ。

 

「僕らいつも大人数で昼飯食べるからミカサも参加しなよ」

 

 どこから嗅ぎつけて来たのか、アルミンが2人の会話に介入してきた。アルミンもミカサと自己紹介を交わし、雑談を再開し始めた。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 予鈴が鳴るまで夢中になっていた雑談を止め、教室にだれもいないことに今気づいた3人は急いで、移動教室へと向かうのであった。

 

 

 4時間目が終わり、昼休みになるとほとんどの生徒たちが、食堂へ向かう。エレン達仲良しグループは、食堂を利用せず、教室で机をくっつけて昼食を取っていた。エレン達以外に教室で食べている者はおらず、昼休みはエレン達専用の部屋となっていた。

 

 10人ちょっとの仲良しグループにミカサが新たに加わり、いつもより会話に花が咲いた。

 ミカサも参加できることに嬉しそうにしていた。

 

「皆んなは入りたい部活動とか決めた?」

 

 アルミンが全員に向けて質問した。

 

「まぁ俺たちは皆んなバスケ部だけど女子陣が気になるな」

 

 男子を代表してライナーが女子陣の部活動について、興味を示す回答をした。

 

「んー私は今の所男バスのマネージャーかな?」

 

 クリスタは、初日にもエレンに言った通り男子バスケ部のマネージャーの希望の旨を伝えた。

 

「私達はバレーかな、今までずっとやってきたし」

 

 アニが代表して、ユミルとミカサとサシャでバレー部に入ることを伝えた。

 

「ん?ミーナはどうするんだ?」

 

 エレンは答えなかったミーナが気になった思わず聞いてしまった。

 

「うーん、それがまだ迷ってるんだよねー。いろんな部活あるし今のところは決めかけてるって感じかな」

 

 そうなんだと言って大好物のチーズハンバーグにかぶりつくエレンであった。

 

「私もクリスタもバレー部だったけどやっぱりレベルが違うしねー」

 

「まぁでも、マネージャーは一回やってみたかったんだよね!」

 

 ミーナはクリスタを誘発させて言うが、クリスタはあまり触れず自身の意思を主張した。

 

 だが、この高校の部活動のレベルは高く、特に男子バスケ部と女子バレー部は新設2年目でありながら、共に全国大会出場を果たしている。

 バレーに至っては現状、春高2連覇の最強高校と記者やスカウトマンが毎週くるほどの最高峰であり、校長は優勝が決まった途端、腰を抜かして入院したとか…。

 

「バレーはでも、シガンシナ中もストヘス中も強かったよな?」

 

 エレンと同じアニが出身のジカンシナ中とミカサ、ユミル、クリスタが居たストヘス中は、3年連続で全中の決勝カードとなるくらいの常勝校であった。

 

「てか、エレンの家何時くらいに行けばいいの?」

 

 話題は変わって今週末みんなで行うパーティーの話になった。未だに計画を大雑把にしか決めていなかったので、本格的に決めようとLINEでも話が挙がっていたのだ。

 

「とりあえずBBQをする事に異論はなかったよな?」

 

 皆がエレンの発言に一斉に頷く。サシャは何故か話を聞かずにポテトチップスを頬張っているが…。

 エレンもいちいち突っ込んだら長くなるので放っておく。

 

「じゃあこうしよう。買い出し班とエレンの家で準備する班の2チームに分けて行動しよう」

 

 マルコの提案に否と言う者はおらず、話がとんとん拍子に進んでいく。

 なぜ今までこれをしなかったのかとエレンは疑問に思ったが、ミカサにも具体的な説明もいるだろうし、そういうことにして自分に言い聞かせておいた。

 

「準備班は正味3、4人で十分だ。うちの庭そんな広くないからちょっとぎゅうぎゅうになるかもしれねーけど」

 

 エレンの発言に思わず十分広いだろ!とツッコミたくなるが、我慢して話を進める。

 

「じゃあ、くじ引きで編成決めようよ。僕ちょうど持ってるし」

 

 ベルトルトがスマホのアプリにくじ引きがあるらしく、ここで活用しよう(ここ以外ない)と陽気だっておもむろに皆んなの前に携帯を指し出した。

 

 エレンは準備班確定なのでエレンを除いた、12人がベルトルトの携帯に各々の名前を記入して参加した。

 ベルトルトの合図で、くじ引きをするという選択をタップすると、振ったら棒が出てくるタイプのくじ引きが画面に出てきた。

 

        〈結果〉

 

      準備     買い出し

 

      アニ     ミカサ  ユミル

 

      アルミン   ライナー ベルトルト

 

      クリスタ   ジャン  マルコ

 

      ミーナ    サシャ  コニー

 

 

 となった。 

 ジャンはめちゃくちゃ喜んでた、アルミンもかなり嬉しそうな表情だったが、ライナー落ち込んでいた。

 

(そういえばあいつクリスタ狙うって言ってたな)

 

 今朝の学校徘徊でアルミンのクリスタアタック宣言を思い出し、クリスタほどの美少女の陥落は難しいと一人でうんうんと頷いていた。

 

 

「準備班の方は少し力仕事がいるかも知れないが、まぁアルミンにがんばってもらおうぞ」

 

「頼りにしてるよアルミン!」

 

 クリスタから言われたその一言で、アルミンの目はメラメラと燃えていた。ただのアホであるが、男は単純なのだ。ユミルも「勉強以外はアホなのか」と呟いてたし…。

 

「買い出し班の方は、マルコの裁量に任せるぞ」

 

「うん、任せてよエレン」

 

 一番信頼できそうなマルコにエレンは采配を任せた。別にジャンやライナーでもよかったのだが2人とも女の子にホの字なので使えないとエレンは判断したのだ。

 

「みんな着替えも持ってきておいてくれ」

 

「え?なんで、お泊まりじゃないんでしょ?」

 

 エレンに対するミーナの質問は至極当然である。まぁ次の日が休日なので、可能ではあるが、女子としてはいきなり異性の家に外泊するのは抵抗がある。

 

「いや、BBQの煙で臭くなるだろ。うち大浴場あるから」

 

「あ、そっかエレンの家お金持ちなんだよね」

 

 まだエレンの家に行ったことがない女子陣は、エレンの家柄を思い出したと同時に、ミカサはエレンも意外と兄に似て潔癖症に近い人かな?と思ったのであった。

 

 

 

 放課後、エレンはどうしてかは知らないがミカサの兄である、リヴァイ先輩に呼び出されたいたのをHR中に思い出し、急いで体育館に行くのであった。

 

 

 だんっだんっだんっだんっ

 

 

 そこには俺の憧れの人である先輩が、汗ひとつかかずシューティングしていた。

 

(シュートフォームもあの時から変わってねぇ…俺の憧れの人がこんなにも近くにいるなんて)

 

 エレンがしんみりしていると視線を向けているのに気づいたのか、こっちはやって来た。

 

「おい、お前がエレン・イェーガーだな」

 

 身長に似合わない、声の変わり具合にエレンは少し驚いたがそれよりも驚いたのが……、

 

(この人間近で見ると半端ないオーラだ…。筋肉のつき方といい身体の作りが運動選手のレベルじゃねぇ)

 

 思わず見惚れてしまった、高校生でこの身体つきは見たこともない、アスリートレベル、いやそれを超えそうなほどのポテンシャル。全てにおいてこのリヴァイはやばいとエレンは彼を畏怖の対象に見てしまっていた。

 

「オレと1on1をしろ」

 

「…えっ?」

 

 



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大事件!!

4話です

──────────────────────────

 

 

 いよいよパーティー当日の日に近づいてきた。

 というよりもうすでに前日の放課後であるが、時が進むのが早すぎるとは思ってしまうのは無理もないと思うがそこに突っ込まないで欲しい。

 

 参加者は皆、楽しみで仕方ないようで授業中も浮き足立っている様子であった。

 ジャンがいろんな企画を考えてくれているらしく主催者(仮)のエレンも楽しみにしてた。

 

 ミカサが来て2日経った水曜日から雨足が強く、参加者の殆どが雨でパーティー中止にならないことを懸念していた。

 

 けどまぁ無理もないだろう。誰だって楽しみがある前日には嫌なことが起こらないように祈ってしまうものだ。

 

 まぁ当然明日は台風や何十年に一度の大雨が来るわけもなく雲ひとつない晴天ではあるが、それは神のみぞ知るというやつである。

 

 今日は、準備班の人達に集まってもらって(ミーナは用事があるという事で欠席)下準備を行う。

 

 エレンの家に着くとやはり、覚悟はしていたが想像以上の広大さにアニとクリスタは凍結してしまった。無理もないだろう。

 

 

 下準備としては、バーベキューグリルと炭の準備、一応着火確認をするので、火事にならないように水の準備をしておくだけのことだ。まぁ正直、やる意味があるのかはよくわからないが、これをしないとストーリーが良い方向に展開されないので、ある意味ここがパーティーよりも重要かもしれない。

 

「んっしょ、よいしょっと……はぁ、ふぅー」

 

 アルミンが大分重そうに炭を運んでいた。たった5キロくらいしかないのに…どんだけひ弱なんだよとエレンとアニは、アルミンを見て笑ってしまった。

 

「もう!2人とも!アルミンも頑張ってるんだから笑っちゃダメだよ!」

 

 その様子を見ていたクリスタは、アルミンを擁護するような立ち位置に回る。が、クリスタも苦笑しながら言っていたため、アルミンはショックだったみたいで、落ち込んだ顔色が炭の色と酷似していた。

 

 その顔を見てまたエレンとアニは爆笑してた。

 

 そんなこともありながら下準備は順調に進んでいき、後は着火の確認をするだけであった。

 

 エレンはグリルの下に炭を少し入れ、新聞紙を適当にバラして入れ、チャッカマンで火をつけた。

 

 取り敢えず火はつくことが確認できたので、準備してあるバケツの水をクリスタが少し重そうに持ってきた。

 

「よし。もう消していいぞ」

 

 そろそろ火も大きくなってきたので、クリスタにバケツの水をグリルにかけるようエレンは指示を出した。

 

(ちょっと高い炭を選んだからか、火がかなり勢いよく燃えてるな)

 

 炭を出す時に、パッケージを確認したら諭吉が3人分くらいのお値段だった、決して脱臭炭ではない。

 

 グリルを突き抜ける炎がチラホラ上がり、クリスタも少し怖気付いてしまっている。

 

「クリスタバシャッとやっていいから早く!」

 

 火事になるかもと思ってしまったアニはクリスタを急かすように声を荒上げてしまった。

 

 さっきまではチラホラ突き抜ける炎であったが、ほんの数秒で炎は完全にグリルを突き抜け、轟々と声をあげている。

 

「ッ!え、えぇい!!」

 

 クリスタがどうにでもなれとばかしに投げた水バケツは、綺麗な放物線を描き、それと同時に水も完璧に放出され火は完全に消された。

 

 それはそれで良かったのだが、エレンとアニはクリスタに代わって自分がバケツの水をかけようと近寄りに行っていたため、必然と放出された水のラインに自身が入ってしまいよって…

 

 バシャ!

 

 2人ともバケツの水を被ってしまい、全身ずぶ濡れになってしまった。

 

「な、ナイスシュート、、、」

 

 思わずアルミンが呟いてしまった言葉に、責める者はいるだろうか、いやいない。

 

 クリスタは2人に猛省していた。

 

 

 別に時間帯をずらして入ればいいのに、何故かエレンとアニはアルミンの(粋な?)計らいとさっき笑われた復讐として2人とも言いくるめられてしまい一緒に入ることになってしまった。

 

 エレンの家の風呂はなかなか趣のあるつくりで、ニ○コイの露天風呂の様な感じである。このようなつくりはどこの銭湯でも見たことがないので、恐ろしい財力だと改めて私は驚かされてしまった。

 

「悪いなアニ、アルミンのやつが熱心に言うもんだから」

 

 しきたりのある個人スペースのシャワー室に入りながら、エレンは私に申し訳なさそうに言った。

 

 特段私も気にしてないし、アルミンの説得ぶりには少し引いてしまったけど、クリスタアタック(水)をくらってしまい気持ち悪くて早くシャワー浴びたかったので、勢いで了承してしまった。

 

 けど冷静に考えてみると同級生、それも異性と一緒にお風呂に入るってかなり大胆なことをしてしまったと後悔している私がいる。

 

「い、いや、私は別に…」

 

 むしろ良かったと喉から出そうになる言葉を抑え、私もエレン同様にシャワー室に入る。

 

 エレンも私に気を遣ってくれたのか、五つあるシャワー室のうち入り口側から見て最奥のシャワー室に入っていった。

 

 何気ない優しさに私は惚れているのだろうと考えながらもその思考止め、体を洗う。

 

 けどどうしてもエレンがそばにいるとニヤけてしまう。

 

 中学生時代にあるキッカケで話をしてから、私とエレンは友達という関係になった。けどそれ以上無関係には発達しなかった。エレンが私のことをどう思っているかは知らないけれど私はエレンのことが多分…好き

 

 エレンは中学生時代、常勝校なのに優勝がいままでなかったシガンシナ中を全国優勝に導いた立役者のうちの1人でとっても凄い人だ。

 そのうえ、勉強もだけど色んなものに一生懸命で男子からも女子からも支持がすごくて、熱狂的なファンが多かったため、告白とかよくされるのを見てた。

 

 エレンは全ての告白(私が見た中で)を真剣に向き合って断っていた。なるべくその人が傷つかないように。

 色んないざこざもあったみたいで大変だったらしいけど、そこも乗り越えたのはエレンという人格が凄いのだと思う。

 

 それに…

 

「おーいアニ!そっちにシャンプーないか?」

 

 急にエレンから話しかけられて、深い思考に陥っていた私はハッと脳を現実に戻し、エレンにシャンプーがあると答える。

 

「今から取りに行くからついたての外に置いといてくれないか?」

 

「うん、わかった」

 

 急に話しかけられドキドキしてしまって、返答がおかしくなってないか不安だったけど、エレンの反応的に大丈夫だったと思うというか信じたい。

 

 ペタペタとエレンの足音が聞こえ、彼が近づいてくるのがわかる。

 

 私は置かれてあるシャンプーをついたての外側にそっと置き、椅子に座ろうと視線を床から上げた時、ちょうどエレンの姿が私の視界に入り…

 

 「うわっ!?」

 

 エレンが、急についたてから現れた私にびっくりしたのか足を滑らしてしまい、私の方へ倒れてきた。

 

「きゃっ!!」

 

 自分でもびっくりするぐらいの大きい声が出てしまい、というかそれよりも!

 

「ん、ちょっ、え、エレン」

 

「ご、ごめん!今すぐどくから!」

 

 エレンがびっくりして滑ってしまい、それに巻き添えをくらった私も滑り倒し私はエレンに床ドンされている状態になってしまったのだ。

 

 悠長に説明している暇もなく、ドタドタと荒々しい足音×2が聞こえ

 

「どうしたの2人とも!!」

 

 エレンが風呂に上がるまでリビングでゆっくりしててくれと言っていたけど、そのリビングにまで私の声が聞こえて来たことで、何か危険なことでもあったのかと心配になったクリスタとアルミンが走って風呂場まで来た。

 

 勢いよく扉を開けたクリスタは、エレンとアニの床ドン態勢を見てしまい、

 

「ご、ごゆっくり〜」

 

「誤解だぁぁぁぁーーー!!!!」

 

 エレンがそう叫んだ後、エレンも私もお互いに猛省して、すぐに風呂から上がった。

 大事な部分は見えなかったので大丈夫だったと言いたいが取り敢えずこの話はこれで終わろう。

 

 

 

 前日に濃い出来事が複数準備組ではあったことなどつゆ知らず、コニーやジャンはのほほんと食材調達を謳歌(?)していた。

 

 マルコの方は買い出しの材料をミカサやユミルと相談して、完璧に決めていたので、スムーズに買い出しが終了した。

 

 ちなみにエレアニの2人はというと、会話もできずにお互いが意識しあって、準備中指が触れただけで、お互いに顔真っ赤にしていた。

 

 そんな2人を見てアルミンはミーナと(アルミンが事情を説明したから)悪魔の笑みを浮かべていたのは言うまでも無い。

 ミーナはクリスタないす!と言って喜んでいたみたい(アルミンより)。

 

 

 買い出し班がエレンの家に到着すると初見のミカサとユミルは驚いていたが、固まるほどびっくりしなかった(サシャは固まっていた)ので、2人の家もそこそこの豪邸なのかなとアルミンは考察していたりする。

 

「準備も一通り終わったし、あとはゆっくりして11時半くらいからBBQ始めるかなー」

 

 意外とスムーズに準備が進行したので、時間は押すかと思っていたエレンは皆んなにゆっくりしてくれと指示を出して、飲み物取ってくるからと言ってみんな分の飲み物を取りに行った。

 

「ねぇアニ、手伝いに行ったら?」

 

「えっ?なにを?」

 

 ミーナがアニにエレンの手伝いに行くよう催促させるが、アニはミーナの意図が伝わらなかったのか何か手伝って欲しいことがあるの?と付随して聞いた。

 

「ううん、私じゃなくてエレンの。みんな分のコップもあるし大変でしょ?」

 

「…う、うん。わかったよ」

 

 アニはしぶしぶまだ姿が見えるエレンを追いかけて、部屋を抜けていった。

 

 

「ッ!?あ、アニか…どうしたんだ?」

 

「え、えっと、エレンが飲み物取り行くって言うからその手伝いをと思って…」

 

 ぱたぱたと足音を立て少し顔を俯き気味に俺の元へ来たのは昨日一悶着あったアニであった。その姿を見るだけで可愛いと思ってしまった。

 

 顔もスッゲー赤いし何かあったのか尋ねてみると、どうやらみんな分の飲み物の準備を手伝ってくれるらしい。

 

「そっか。ありがとう助かるよ」

 

 こんなにも優しい子をなぜ俺は押し倒してしまったのか、昨日の俺を殴りたい…。

 

 昨日の事があってからアニの顔がまともに見れねぇー!あぁどうしよう…けど完全に俺のせいだしなぁ…。

 

 ふとアニの方を向くと、可愛らしく首を傾げてどうしたのと言わんばかりの上目遣いで俺に視線をやる。

 

 そんな事をされると思わず大声でチャンカ○イの名言が出てきそうなので、思考を止め少し深呼吸をし、アニに邪険されない程度の早足で今日分の飲料が保存してある場所へと急いだ。

 

 

「ねぇエレン、やっぱ昨日の事怒ってる?」

 

 保存場所に着くや否や、アニはそう俺に尋ねてきた。

 

「へっ?…い、いや全然!むしろ、俺の方こそアニを怒らせてしまったとずっと思ってたから!」

 

 急も急で何の準備も(いや特に準備とか無いけど)してなかったので、変な日本語になってしまったが、どうにかなったようだ。

 

「そ、そっか。私も実はエレンがどう思ってるか気になってて…」

 

 えっ?どうってそりゃあ

 

「えっと、そのー、めっちゃ綺麗だった気がする」

 

「へっ!?……そ、そっかぁ」

 

 なにやら機嫌が良くなったがあの返答でよかったのだろうか。いやまずい気がする。もしかして俺今、アニの体のことを褒めた気が……。

 

「エレンって結構その…、変態さんなんだね///」

 

(終わったぁぁぁぁーーーー!!!!)

 

 変態扱いだけはされたく無いと切に!!願っていたのに…。くそぉ、ユミル達からはライナーと同じ扱いを受けてしまうではないか。それだけはなんとしても避けたい。

 

「い、いや別にそういうわけで言ったんじゃ…」

 

「ふふっ、それくらい分かってる。エレンって前からずっと純粋だから」

 

 アニは俺の慌てた反応を見て笑みを溢しそう答えた。

 

(アニにまでからかわれてしまった…。俺ってそんなにそういうおばかキャラなのか?うちのグループにはすでに2人いるはずなのに…)

 

 坊主チビとこの前キース先生に怒鳴られていたサシャの顔を思い出す。

 

「エレンってちょっと天然と言うか、一生懸命になりすぎて凄んでしまうから」 

 

 見透かしたように言われるが確かにそうだなと納得してしまう。それだけアニは俺を見てくているんだと少し嬉しく感じた。

 

「けどそれが欠点だと高校生になって思ったんだ。…アルミンみたいな冷静な姿勢が羨ましいし、ジャンやマルコのリーダーシップ力だってすごい。コニーもいつもあんな感じだけど小さな気遣いができてそれだけでいい奴なんだなって分かる。みんなそれぞれいい個性を持ってる。けど俺は…」

 

「エレンには突出した多彩な才能があるでしょ?誰にでも欲しいものをエレンは持ってると私は思うなそれに人間誰にだって苦手なところがあると思うよ?」

 

 少し自分の本心を曝け出してしまったが、それでもアニは真剣に答えてくれた。アルミン以外初めてかもしれない、自分語りをするタイプじゃ無いと思っていたのに…、何でだろうと疑問に思う。

 

『僕も彼女とか作って青春してみたいよ』

 

 登校初日のアルミンの一言を思い出し、俺は少なからずアニの事を意識しているのだと理解してしまう。

 

 それが良い事なのか悪い事なのかはよく分からないが、そういう事を経験するのも悪く無いぞと祖父も言っていたし、少しは良いのかなと思ってしまう。

 

 けどやはり、今後の人間関係なども考慮してしまったりする。

 もし仮に、俺とアニがそういう関係になったとして、他の俺の周りにいる人はどうなる?

 

 今までのようにいるのか、それとも気を遣ってそっとしておいてくれるのか、はたまた虐げられるのか、最後のは極端だが可能性の一部ではある。

 

 それに恋人関係になったとしてもいつか別れるかも知れない…。それによって少なからずその時の人間関係に支障は出るだろう。

 

(うーーん、難しい)

 

 これ以上考えても無駄なので、現実へと自分を引き戻す。

 

「と、とりあえずこれ運ぼっか」

 

 微妙な雰囲気になったのを気を遣ってアニは俺に促してくれた。

 

 けどこれじゃあ気まずいままだ。どうしたら…。

 

「エレン」

 

「ん?」

 

 唐突にアニが俺の名前を呼んだ。それは今まで通りごく普通に名前を呼んでくれる時と少し違和感を感じた。

 まるでこう昔出会った子供同士がお互いの再会を分かち合うようでもなく、今生の別れ際に呼ぶわけでもなく、ごく自然にアニは俺の名前を呼んだ。

 

「ゆっくり考えていけばいいよ?エレンには素敵な仲間がいるんだから」

 

 アニは微笑んでジュースの入った段ボール箱を持っていった。



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Party Time!!

5話です

進撃の巨人完結おめでとうございます 

──────────────────────────

 

 

「「「「かんぱーーーい!!!!」」」」

 

 俺とアニがリビングに戻ってからBBQをすぐに始めた。

 皆待ちきれずお腹が空いてたみたいであった。帰ってきたらミーナとアルミンがこっちを凄いニヤニヤして見てきたがさっきの話と何か関係あるのだろうか。

 

 まぁそれ後で考えるとして、今はBBQを楽しもう。因みに昨日の反省としてグリルの炭を少し安っぽいものに変えた。

 

「うまっ!?」

 

 ライナーがおもむろに齧り付いた肉はどうやらお気に召したようだ。他にも釜炊きしたご飯や近所のおばちゃんから貰った新鮮な野菜、冷蔵庫にはデザートとして高級メロンを用意してある。

 

「サシャの勢いすごいな…」

 

 マルコが呟いた一言にみんな同意せざるを得なかった。明らかに動きがおかしい残像しか見えない。

 

「そんな動いたら腹痛くなりそうだけど」

 

「いっつもあんな感じだから気にすんなよ」

 

 アルミンの発言にコニーが答えて、アルミンの心配は杞憂に終わった。そういえばコニーとサシャってどのくらい付き合っているんだろう…。学校で見せている彼らは特別仲がいいというイメージはない。だけど彼らは恋人関係にある。幼馴染で子供の頃から今までずっと一緒、ギスギスした感じもなくそんな関係が羨ましいと思ってしまった。

 

(そういえば俺も昔幼馴染がいたなぁ)

 

 ジャンの一発芸で盛り上がっている中大笑いしながら黒髪の女の子の顔を思い浮かべる。少し今のミカサの面影に似ていた気がしたが彼女に教室で会った時に特に反応はしなかった。ただ俺が忘れている可能性があるかも知れないが…。

 

(名前が思い出せねぇんだよなぁ)

 

 よく俺とアルミンとその子で遊んでいた記憶がある。川でロブスター捕まえたら母さんに危ないと怒られたり、花火大会に3人で行ったらアルミンが迷子になって花火そっちのけでずっと探してたり、その頃は純粋無垢で遊んでたなぁと回想してたりする。彼女は小学校に上がる前に引っ越ししてしまってそれ以降は連絡を取らなくなった。

 

「エレン?どうしたの?」

 

 俺が記憶を呼び起こしてたらミカサが話しかけてきた。どうやら随分と考え込んでいたみたいで、気づいたのはミカサだけだった。現在、ライナーとジャンの即興漫才で盛り上がっている。

 

「今日は呼んでくれてありがとね」

 

 ミカサはそう言って微笑んでくれた。笑顔もやっぱりあの女の子とどこか似てるな。

 

(聞いてみるか)

 

「なぁミカサ。俺と昔会ったことがあるか?」

 

 そう言うとミカサはキョトンとして初対面だよ?と言って女性陣の方へ行ってしまった。

 

「何か引っかかるんだよなぁ…」

 

 俺の呟きは誰にも聞かれる事はなくそのままBBQは終わりを告げた。

 

 

☆☆☆

 

 

 BBQが終わり片付けの途中、小雨が降ってきたのであとは男子がやるからと言って女性陣にはお風呂に入ってもらっていた。

 

「ちょっと強くなってきたな」

 

 先ほどまで晴れていた空は黒雲に変わり、雨も大分強くなってきた。

 

「マルコが持ってるやつは俺が持ってくよ。みんなは休んでて」

 

 流石にお客様をこれ以上鳴らすのは良くないと思ってエレンは率先して動くようにしていたが、彼らの人柄が良いのかよく家に来るアルミンにも聞きながら片付けをしてくれていた。

 

「よし!これで終わりだな」

 

「おっけー。そろそろ女子も上がってくるかな?」

 

 アルミンの予想は的中し、ユミルとミーナが筆頭に続々とリビングに現れた。男達はシャンプーと女の子の香りに少し顔が赤くなり、ライナーに関しては風呂上がりのクリスタを見て「oh…」と鼻血を垂らしながらボソッと呟いていた。

 

「めっちゃ濡れてんじゃん早く入りなよ」

 

 ユミルの催促により男性陣そそくさと脱衣所の方へ駆けて行った。あの場にいると理性が欠けると判断したのだろう。昨日といい今日もアニの妖艶な姿を見て眼福と思ってしまった自分がいる。

 

「アニのこと見過ぎだよーエレン」

 

「へっ?い、いやそんなつもりは」

 

 ミーナに言われた一言により慌てて口答えしてしまった。早く抜け出そうこの空間から。そうそれがいい。

 邪な考えを振り払い脱衣所までなるべく早足で行った。その時に視界に入ったアニの赤面した顔により余計、足を早めたのであった。

 

 

「へぇ〜エレンの家サウナあるんだ」

 

 俺がちょうど脱衣所(銭湯のロッカーのような場所のイメージ)に着いた時マルコがこのような事を言っていた。というかマルコもサウナ好きなのか気になるな

 

「マルコもサウナが好きなのか?」

 

 脱衣所に着くや否や、マルコがサウナーかどうか聞くとマルコは少し高揚した声で

 

「もちろん!学校の銭湯にあるサウナにも早速行ったよ」

 

「マリ高サウナあんの!?」

 

 やはりサウナ大好き男だったか俺の目に狂いはなかった。…ちょっと痛いなやめよう。

 

「というかあれって学生が使っていいのか?」

 

 ガラガラガラと浴室の扉を開けつつ、ジャンが疑問を零す。

 

「一般の人もよく出入りしてるよね?」

 

「学生証出したら無料で入れたよ」

 

 ジャンの後アルミンも付随して言う。そしてマルコが答える。

 

 マリア高校の全生徒と職員は学生証と職員カードと言う物の携帯が義務付けられている。授業の出席確認をする時にこの学生証を教室の扉の前に置いてある端末にバーコードを見せることで後に教科担当がそれを確認すると言った大学のようなシステムになっている。

 但し、全ての教室が当てはまる訳ではなく例えば生徒のクラス教室や空き教室、部室など他にも行事で使う講堂や体育館がそれに当たる。

 

 そして国道から学校まで続く坂を登り続けると大きなビジネスホテルのような施設がある。一応名目上は部活の遠征や合宿で他校から来た団体の外泊施設だと思うが、マルコの話では生徒がそこに立ち入るには学生証が必須みたいだ。ない場合は料金を払えば入れるだろう。

 

「改めて思うけどめっちゃ環境いいな」

 

「それなーまじ入学出来てよかったわー」

 

 他にも食堂には有名チェーン店やフードコート、誰もが聞いたことのある高級店を全て500円で食べることができる。それだけ良い環境を提供してくれるのは理事長の意向らしい。

 

「おー!まじで銭湯みたいじゃん!」

 

 走ってやってきたコニーは家の風呂を見て歓喜の声を挙げていた。

 

「勢い余って滑るなよー」

 

 おー。とライナーの忠告通りにコニーは歩いて掛け湯をして浴場に入ってきた。

 

「ん、丁度いい湯加減だね」

 

「お気に召したようで何よりだ」

 

 マルコも早速うちの風呂を気に入ったみたいで鼻歌まで歌っている。こういうゆっくりした時間も大事だなぁとしみじみ思う。

 

「雨だんだん強くなってきたね」

 

 ベルトルトが露天風呂の方を見ながらそう言うと、確かに雨足が大分強く露天風呂の外にある小石が雨に打たれて時折弾けている。

 

 現在の時刻は17::37と記されている。浴場の反対、ジャグジーがある側の壁に掛かっているアナログ数字とプロジェクターは俺が好きなGoogle Homeが連携してある。もちろん防水機能も搭載してあるぞ。

 

「今日は多分親帰ってこないから、もし帰れそうになかったら泊まってもいいぞ」

 

 俺のその言葉を聞いた瞬間、浴室にあるテレビから視線を逸らし、戦国時代の武将の様な勢いで

 

「「「「泊まります!」」」」

 

「お、おう」

 

取り敢えず男子全員は外泊確定という事で決まったが、女子をどうするかだよなぁ。流石にこの雨で帰れと言われたら酷だし、異性の家にそれも今日はコイツらも居るし変な気起こさないか心配だが…。

 っとここであることに気づいた。

 

「なんでコニーはサウナハット被ってんだよw」

 

「あ、これサウナハットなの?ただのオシャレな帽子置いてあるから何かと思った」

 

「別に被らなくてもいいだろw」

 

 何故被るのか彼の精神は到底理解できないが、それより裸のマッチョ少年(ハゲ)が帽子を被った姿を想像してみて欲しい。これこそ本当の頭隠して尻隠さずである。

 

 そんな一悶着もあって話はアルミンにより恋愛話に変わった。

 

「ジャンってさ」

 

「どうした?」

 

「絶対ミカサのこと好きでしょ」

 

「っ…い、いやどうかなぁ?」

 

「絶対好きだろ」

 

「まぁ見てれば分かるからね」

 

 ジャンの分かりやすい反応にツッコミをするライナーとマルコ。ジャンは分かりやすい反応こそするけど、隠せないほどミカサの事が好きってのがわかる。そういう所はジャンのある意味長所なのかも知れない。

 

「あぁそうだよ!大好きだよ!」

 

 お手上げと言わんばかりか隠し切ることができないと判断し、ジャンは自分の気持ちを曝け出した。

 そのジャンの反応を見てか、アルミンとライナーとコニーはひゅーひゅーとジャンを煽っていた。

 

「ジャンはミカサのどこに惚れたの?」

 

 ベルトルトが率直にジャンに質問する。と同時にライナー達も煽るのをやめた。

 

「ミカサが来た当日の放課後だったかな?あいつ学校の近くのコンビニで柄悪いやつ絡まれてたんだよ」

 

「モデルみたいな人が学校に居たらナンパもするだろうなぁ」

 

「エレンも?」

 

「いやしねぇよ」

 

 俺がミカサの容姿に触れると何故かアルミンが突っかかってくる。なんなんだコイツは…。

 

「それでミカサも結構嫌がっててな。それが気に召さなかったのかは知らないがそいつら強引にミカサ連れて行こうとしてて、それ見てたら腹立ってきてな」

 

「どうやって助けたの?」

 

「流石に不意打ちでも殴るのは学生だし良くないと思っから警察のサイレン音をBluetoothに繋いで爆音で鳴らしたら逃げてったわ」

 

「おぉ。ジャンにしては頭使ったな」

 

 ライナーが茶化す。

 

「俺にしてはってなんだよ!こっちは真剣に…」

 

「いやーこういう所に惚れちゃうんじゃない?」

 

「エレンとジャンってちょっと似てるよね」

 

「はっ?俺とジャンが?」

 

 ジャンの必死な弁明にベルトルトは何事にも直向きなジャンに魅力を感じると言う。確かに俺もそう思うけど決して俺とジャンが似ているという発想には至らないだろう。

 

「いやいや俺はそんなジャンのように必死になれないぞ」

 

 手振りを加えてジャンと似てないと否定するが…

 

「謙虚だねぇ」

 

「中学校の頃はエレンの一生懸命な所が好きって色んな人が言ってたのに…そんなエレンさんがこんなに丸くなっちゃって」

 

「へぇー、羨ましいぜ全くよー」

 

 確かに俺は中学時代色んな人に告白された。けどほぼ全員が俺の外見を見ただけで、まともに話した人なんて誰一人として居ない。

 

 付き合ってからお互いに人を知っていくというのもアルミンのアイデアとしてあったが、それでもし自分に合わなくて振ってしまったら絶対にその人を傷つけてしまう。

 

 俺は中学3年の夏に1人彼女ができた。けどその人はマウント癖でエレン・イェーガーの彼女という肩書きを色んな人に言いふらし、それも裏では全く関係ない後輩の子に顎で使うような人だった。

 

 そのような事実があったというだけでもかなりショックなのに、実際にその場面を見てしまって本当にショックだった。彼女の本心は俺への好意ではなく悪く言えば自分の地位向上。

 

 そんな出来事あったからか、性格が変わったと両親にもアルミンにも言われるようになった。

 無鉄砲に突っ走っていくタイプが物事を俯瞰するようになったねとアルミンに言われた。まぁ少しは前より考え事をするようになった。

 

「でもエレンは昔よりちょっと情熱魂が無くなったよね」

 

 どうやらベルトルトもなんとなく気づいているみたいだ。

 

「そうかな?それより俺はコニーとサシャの話を聞きたいな」

 

 あまり自分の過去をほじくって欲しくないため、コニーにはすまないが話を逸らした。

 恐らく俺だけじゃなくみんなも気になるだろう。

 

「あっ!そうだよ!コニーとサシャっていつからそういう関係なの?」

 

 話の急展開に突っ込まれるかと思ったが、アルミンが俺の事情を知ってくれているが為にか同調してくれた。やはり持つべきものは小悪魔親友だなと思ったりする。

 

「俺とサシャか?去年の花火大会で俺が告白して付き合ったぞ」

 

「コニーとサシャってあまり学校で話すイメージがないんだけど」

 

「そうか?毎日登下校してるし…今日だって一緒にここまで来たし」

 

 どうやら不仲説というのは全くなく俺達が知らないところで2人は過ごしているらしい。おバカキャラなのにちょっとミステリアスなのはどうなんだろうか。いや別にどうでもいいんだけど。

 

「でもそういうのって羨ましいと思うぜ。友達とかといる時の顔と大好きな人に見せる顔って違うって言うしな?」

 

「あぁ〜、確かに違うと思うぞ」

 

 ジャンのさっきまで風呂で流れていたテレビ番組の話にコニーは全く気づかず少し賛同する。

 

「でもさ、こんな若い内から一生を添い遂げれるような相手を見つけれたら最高だよね」

 

 マルコが意外にもこんな話についてくるとは意外だったが、俺もマルコと同じで高校生くらいの内に見つけておけば将来的に楽だろうと思う。打算的かも知れないが人間皆そういうものだ。

 

 というかうちの両親が幼馴染結婚で更に、アルミンの両親も同様に幼馴染結婚という少し特殊な家柄であった為にそのような傾向が強いかも知れない。

 

「それなー。マルコは今いる女子の中だったら誰がいい?」

 

「そうだなぁ…」

 

 またも話題が変わり風呂だけで何分話すんだとツッコミたくなるがこんなにも友達と喋れるのが一番最高だと俺は思った。

 

 

☆☆☆

 

 

「あっ映画見てるよー」

 

 風呂での長話が続いた結果、気づいたら1時間ほど話し込んでいたみたいだった。しかもそろそろ出ようと声を挙げたのがコニーである。いや別にいいんだけどね。もうバカにはできない。

 

 上がってリビングに出ると女子達は恋愛映画を見ていた。恐らくクリスタが昨日来た時に見ていたので、同じ用途で付けたのだろう。

 

「そうだ。なかなか食べれない高級なメロンを貰ったからみんなで食べよう」

 

 俺がそういうと女性陣は目をキラキラさせながら餌をねだる犬の様に(比喩)今か今かと待ち望んでいた。

 

「エレン手伝うよ」

 

「ん。助かる」

 

 俺もアルミンも手慣れた包丁さばきでみんなが食べれるように一口サイズに切っていく。

 

「普通にすげぇな」

 

「ずっとやってたら誰でもなれるよ。僕だってエレンに教えてもらってやるようになったから」

 

「四角く切ったメロンをサイコロステーキのように扱いながら言われても…」

 

 アルミンは昔から言ったらすぐに覚えてしまう才能マンだったからな。唯一魚を捌くことはできないらしいけど

 

 数分程で10数人分切り分けた俺たちは、ガラスの大皿に高級メロンとスモールライトを点灯させて盛り付けを終える。オシャレかどうかは分からんが俺とアルミンが満足したのでいいでしょう。

 

「じゃあ二次会的な奴で、かんぱ〜い!」

 

 やはり甘いものは別腹なのかあんだけ昼食べたのに、さらに盛り付けられたメロンがあっという間に無くなってしまった。

 

「あ、そうそう今天気大荒れだけど女子たちはどうやって帰る?」

 

 アルミンが思い出したように女性陣に聞いた。

 

「流石にこの雨では帰れそうにねーな。電車も止まってるし」

 

「エレンが良ければもう少しここに置いてくれない?」

 

 ユミルが電車運行の状況を見ながら言い、アニが申し訳なさそうに俺にお願いしてきた。

 

「うちは全然いいけど、もし天気がこのままだったら…」

 

「じゃあ泊めてもらおう!」

 

「「「「へっ?」」」」

 

 天使の一言でまだまだ波乱は続きそうだ

 

 

 

 

 



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お楽しみ?

6話です

 

──────────────────────────

 

 

 クリスタ突然宣言のお泊まり会は、各々親御さんとの連絡がスムーズについたみたいで取り敢えずは確定となった。

 少し難航している者もいたが、どうやら上手くいったみたいであった。ミカサの兄がすごく心配していたことは書き記しておこう。

 

「まだ夜まで時間あるし、何かゲームでもする?」

 

「いいね!」

 

「じゃあ王様ゲームやろうよ!」

 

 エレンの提案に首を振る者は居なかったが、クリスタの提案にクリスタ以外の女性陣はやや困った表情になっていた。

 

「お、おいクリスタ。考え直さないか?」

 

「ユミルはやりたくないの?」

 

「グハッ!」

 

 クリスタの暴走(?)を止めようとしたユミルであったが、天使スマイルに耐えることはできず、見事成仏し「死んでねー!!」…なかったみたいだ。

 

「王様ゲームってどういうゲームなんだ?」

 

「僕も聞いたことないね」

 

 どうやら1番知ってそうな博識のアルミンは知らず、エレンは単純に聞いたことがない感じだった。

 

「じゃあ説明するより実際にやってみた方が早いかもね」

 

「エレン。クジみたいなものはあるか?」

 

「ないけど紙で作ればいい?」

 

「人数分の紙とそれをいれる袋の様な物がいるね」

 

「わかった。持ってくるよ」

 

 王様ゲームの概要を全く知らないエレンはベルトルトとライナーとマルコとの会話により、なんとなくそれっぽいものを頭に浮かべ上げたらしい。アルミンはこのやりとりの間にミーナに説明してもらっている最中であった。

 

(運試しみたいなもんか)

 

 エレンが考えている物と王様ゲームは近いようで遠い存在にある。そして運試しなんて生易しいものでは無いということをこの後、大きく身に染みる事になることを彼はまだ知らない。

 

 

「うん!これで準備完了だね」

 

 クリスタが綺麗に切ったクジをミーナから説明を聞き終えたアルミンが不正がないように封筒に入れ、それを無地の袋にエレンが入れた。

 

「ルールを確認しよう。まず王様の命令は絶対であること。でも出来ないような命令した場合は、その人は今後のゲームに参加が出来ないこととする」

 

「結構厳しいルールだね」

 

「でもこれくらいしないとライナーが何しでかすかわからないからね」

 

 そう言われ、ライナーはユミルに睨まれていた。

 身振り手振りで否定していたが、効果はないだろう。

 

「続けるよ?…そして命令は"○番が△番に(全員でも可)□□□をする"と言った形にしてもらう。けど特定の1人か全員のみの2つの選択しかできないよ」

 

「あんまり融通が効かないんだね」

 

「何回かやってみてルールは変更するかもね」

 

「次に原則として男子から女子へのお触りは禁止、けど双方の同意があれば目は瞑るよ」

 

 アルミンの説明にまたもやライナーはユミルに睨まれていた。

 

「最後に不正がないように自分が引いたクジを隣の人に渡してその人が持っている封筒に入れる。以上が今回の王様ゲームのルールだよ」

 

(アルミンのやつよくこんなの思いつくな)

 

 ミーナから王様ゲームの概要を聞いただけでアルミンはパッと思いついたらしい。末恐ろしいとエレンは改めて自覚させられた。

 

「みんな確認した?」

 

 アルミンの一声に参加者全員が頷く

 

「せーの」

 

「「「「王様だーれだ!!」」」」

 

 数秒の沈黙の後…ゆっくりと手を挙げたのは

 

「私だな」

 

 どうやら初回の王様はユミルのようだ。フフンと少し自慢気な顔をしているのは彼女が余程、嬉しかったことを示唆している。

 

「じゃあ2番が10番の上に乗って10番が腕立てをする。で」

 

「俺が腕立てか」

 

「私がエレンの上に乗ればいいのね」

 

 最初にしては盛り上がりには欠けるお題であったもののいきなりどでかいの持ってこないあたり、ユミルは場の流れをよくは分かる人間である。

 

 とは言いつつもこの命令に風呂入った後に汗かくような事はしたくないと思ったエレンと少し乗り気なクリスタがいた。

 

「回数はどれくらい?」

 

「んまぁ、10回で」

 

 エレンがユミルに回数を聞いた後、クリスタは急に恥ずかしくなったのかエレンの上に両肩を持ちながら座った。

 

「クリスタ落ちそうになったら言ってくれ」

 

「わ、わかった」

 

 エレンは平常心を装っている様に思えるかも知れないが、当の本人の心拍数は数字を数えると共に増加して、彼の女性耐性が低いのを知っているアルミンはエレンの無理している様子を見て一人で笑っている。

 

「9…10。思ったより早かったね」

 

「?」

 

 アルミンが悪魔の笑みを浮かべてエレンに話しかけている時、彼らにしか分からない謎の会話にマルコは首を傾げていた。

 

「「「「王様だーれだ!!」」」」

 

 特に何の余韻もなく、次のゲームが始まる。

 

「次は俺だぜ!」

 

「ジャンか…それでなにを命令するんだ?」

 

 そうだなぁと呟いてから5秒程の長考をして少し訴え掛けるように

 

「手を繋ぐってのはどうだ?」

 

「ま、まぁいいと思うけど」

 

 まだ入学してミカサが復帰する以外に目立ったイベントというイベントがない。(個々人ではあるかもしれないがジャンはおそらくそこまで考慮してないだろう)

 

 そこでこの機会にジャンによる命令で一石投じようとしている魂胆である。

 

「5番と9番が手を繋ぎこれから2ゲーム終了するまで続ける。ただし2ゲームの間にもし離さなければならないのなら離すのを許可するけど、なるべく手をつなぐことを遵守してほしい」

 

 ジャンの意外にしっかりとした説明にこの場にいる皆は少々面食らってしまったが、特に咎めることもなかった。

 

「ジャンが恋のキューピットになるんだね」

 

「まぁそういうことになるのか」

 

「で、5番と9番は誰だなんだ?」

 

 ユミルの問いに口頭で答える者はおらず、そっと2本の腕が高々と上がった。

 

「ベルトルトと…ブフゥwwライナーかよw」

 

「ふふっ」

 

 当事者の2人は萎えて意気消沈し、王様のジャンも同性同士のペアを頭に入れてなかったためかどこか悔しそうにして、ホモかよとユミルにいじられていた。

 

「この絵面やばいな」

 

 思っているよりこの状況は酷いものである。金髪ゴリラと薄ノッポが正座をして手を繋ぐなど誰が得するだろうか、いや誰も得しないだろう。

 

「つ、次にいこうか」

 

「「「「王様だーれだ!!」」」」

 

「次は…クリスタか」

 

「んーじゃあ3番と6番がハグ!!」 

 

 クリスタの意気揚々とした声に

 

「お、俺が6番だ」

 

 ライナーが周りを伺うような姿勢で数秒間を開けて犯人が白状するかのように恐る恐る声を上げた。

 

「チッ…私だ」

 

 不満げにユミルがライナーを一睨みした後、降参とばかしに両手を挙げる。

 

「けどルールにある通りにお互いの同意が必要だからね」

 

 少し気まずい空気に気を遣ってか、マルコが2人に助け船を出した。

 

「じゃあ私もライナーもこの命令に同意しない…これでいいだろう?」

 

 ユミルはため息をつくそぶりをし、ライナーの方を向いて彼の頷きを見てから2人の総意を口にした。

 この2人は高校一年生にして大人っぽさと言うか他の人と比べて頼りがいがある。ライナーはよく軽口を言われるものの、大事な場面では皆の兄貴分というか頼りがいがある一面があり、実際エレンもアルミンも中学生時代によく助けられていた。

 ユミルは女子高生にしては平均を超える長身にしてクールビューティーな外見と性格、絡んでみれば喜怒哀楽が分かりやすい表情豊かなギャップも一部の男子生徒に人気があるらしい…。

 

「アルミンこの場合はどうなるんだ?」

 

 エレンは混乱したこの状況の打開案と疑問をぶつけたが、本人的にはアルミンがどのように対応するか楽しみにしているみたいだった。 

 

「命令は変わらずユミルとライナーが今回のゲームだけ抜けたということになるよ」

 

 アルミンはこのような展開を予想していたのか、もしくは即興で考えたのかは本人しか分からないがすぐさま対応して見せた。

 

「クリスタもう一度番号指定をお願い」

 

「じゃあ7番と11番で!」

 

 クリスタが再度指名した2人はまさかのエレンとアニだった。

 

「えっとどの位の時間ハグすればいいの?」

 

 相手がエレンであってホッとしたアニは直ぐにクリスタに時間の旨を聞く。

 

「10秒くらいでいいよ」

 

「わかった…」

 

(やべぇめっちゃ緊張する)

 

 顔が赤いエレン、先程まではいつも通りのアニも赤面。そしてこの状況を楽しんでいるギャラリー総11名。

 

「お、俺からいくぞ…アニ」

 

「う、うん…」

 

 少し蕩けた表情にエレンの理性がゴリゴリと削られていく。

 

「んっ…」

 

(エレンの吐息が耳にかかってなんか変な感じする…しかも皆に見られてるし…)

 

(な、何で抱きついた瞬間に変な声出すんだ!?てかもうそろそろ10秒経つ気がするんだけど…)

 

「な、長くないか?」

 

「ごめんごめん。これくらいにしとこっか」

 

「ふふっ。そうだね」

 

 小悪魔なアルミンとクリスタは満足したみたいであり、当の2人は小悪魔によってハグしている映像が2人の端末に納められていることを知らないだろう。

 

「じゃあ次のゲームに―――」

 

 

「ジャンの一発ギャグマジおもろいな」

 

「いやミカサのギャグセンもなかなかよ」

 

 先程行われていた命令はミカサが考えたギャグをジャンがやるというもの。ミカサが考えたギャグはお世辞にも面白いとは言えないがジャンによる持ち味と改良で上手くフォロー出来たみたいだ。

 

 その一つ前のゲームでは、サシャが王様になり全員でホットケーキを作るという命令だった。既に効果は切れているのにライナーとベルトルトが手を繋ぎながら皿を準備する様は見物であった。

 

「もう時間も遅いし寝るかぁ~」

 

「そーd…フアァ~」

 

「これやばいな」

 

 エレンが呟いた一言にアルミンは同意しようとしたが思わずあくびが出てしまったみたいだ。ライナーは何かに察したみたいだったが

 

「寝る場所どうしよっか」

 

 よくエレンの家に来るベルトルトは家の間取りを頭の中で思い浮かべる。

 

「男子はいつもの部屋でいいんじゃない?」

 

「女子は和室があるから案内するよ」

 

 男子はベルトルトと案の定危惧していたことが的中し、寝てしまったアルミンを背負っているライナーが先導して案内。

 女子は歯磨きをするといって脱衣所に向かった。サシャはなぜかブドウを片手に向っていったが彼女の行動理念は何なのだろうか…。

 

 そのうちにエレンは和室に布団を敷きに行った。

 

「ふぅ~これで良しと」

 

 布団を敷き終え大きく伸びをしたのも束の間、スーっと障子が開く音が聞こえ女性陣が和室へ入ってきた。

 

「あっ!エレンありがと」

 

 クリスタの開口一番にあげた一言にミカサとアニが少しびっくりしていたが、取り戻して皆でお礼を言った。

 

「もし何かあったら電話なり呼びに来るなりしてくれ、できる限りで対応するぞ」

 

「うん!助かるよ」

 

 そうしてエレンはおやすみと行って退室していった。

 

「アニ顔がにやけてますよ」

 

 突然に言われた一言、それもサシャから投げかけられた一言はアニのエレンフィルター(?)をうち破るには充分だった。

 別にサシャに悪気はないと思うが彼女はどうやらタイミングという言葉を知らないらしい。いやむしろ今のタイミングで良かったか。

 

「い、いや全然!そっ、ソレヨリモウネナイ?」

 

「すっごい片言だけど…」

 

 アニは逃げるようにして入り口から一番奥の布団を勢いよくかぶった。

 

「ま、今日だけは勘弁してやるか」

 

 ミカサがウトウトしているのを見てユミルは言及しないことにして、各々適当に布団の中に入った。

 

 場面は変わって

 

「いよっしゃー!」

 

「いやライナーのドンキー強すぎない?」

 

 エレンが部屋に戻る数分前、男子部屋ではスマブラで盛り上がっていた。因みにアルミンは既に寝ている。ライナーが叫んでもアルミンが起きないのは彼の寝付きがよすぎるのと一度寝ると当分起きないからであってそれは周知の事実だ。

  

 ガチャッという音を立てエレンが戻ってきた。

 

「おっマルコ、お前プリン使うのか」

 

 ガチキャラじゃないけどねといってエレンにコントローラーを渡す。

 

「そういえばジャンは?」

 

 皆が大画面に向ってゲームをする中で一人いないことにエレンは気づく。

 

「ジャンなら寝てるぞ」

 

 ライナーが指を指した方に視線を向けるとお客様用のベットに正しい寝息を立てて寝ているジャンの姿があった。布団がグチャグチャになっているのは彼の寝相が悪いことを物語っている。

 

「エレンもやろうぜ」

 

 ジャンに布団を掛け直そうとしたがコニーに呼ばれたのとマルコが首を横に振ったのでスマブラに参戦することにした。

 

「エレンってうまい?」

 

「最近買ったから全然よ」

 

 不意に投げ掛けられたコニーからの質問に何故かライナーが得意気に答えた。

 

「お前に聞いてねぇよ」

 

 これが深夜テンションと言うやつなのかいつもよりウザいライナーがいる。

 

「一回やって寝るからな」

 

 端から見れば早く寝たいと思うかもしれないが、本人的にはテレビゲームにあまり興味がないのと早く起きないと朝練ができないこと危惧する意味が込められている。

 

「その攻撃は効かないよーん」

 

「ウゼェー」

 

 ちなみに開始2分ほどでエレンは残機0。大人げないライナーにコテンパンにやられてしまっていた。

 

「はいここ!」

 

「うわー!!」

 

 日付が変わってもいつまでも元気な奴らだ。画面にはライナーによるドンキーの一撃でコニールキナは復帰出来ることなく撃墜。どうしてかマルコはずっとベルトルトを煽っている。何の意味があるのだろうか。彼らにしか分からない何かがあるのだろう。

 

 4人ともゲームに夢中でエレンが既に寝ていることなど気づくはずもないだろう。

 

 そうやって夜は更けていく

 

 

☆☆☆

 

 

 目を覚ますと初めて見る天井だった。頭を回転させてある結論に辿り着く。

 

(そっか…エレンの家に泊まりに来ているんだっけ)

 

 無理矢理に頭を起こそうとするが春になっても朝の肌寒さは抜けず、もう少し寝ていようと布団を頭が見えなくなるくらいまでかぶる。

 

 すると私の隣からスゥスゥと正しい寝息音が聞こえてきた。おそらくミカサだろうと布団の中から覗いてみると私との距離僅か20cm程の所に昨日何かと色々あったエレンがいた。

 

 思わずえっ?といつもより大きな声に彼を誘発していまい目を覚ます。何故ここにいるのかそんなことを聞く前に彼の言葉が私の言葉を遮った。

 

「ん…おはようアニ。よく眠れた?」

 

「う、うん」

 

 どうして?と理由を聞こうとするも思った通りに口が動かない。

 

 彼が自分の布団から出て、そのまま彼は私の布団に入ってくる。何故かは理解できない。

 しかもお互いに旅館浴衣のような物を着ている。脳をフル回転させても昨日の今日でこんな展開になることなんてどう考えてもあり得ない。

 

 すると何の予兆もなく突然囁くように

 

「アニ愛してる」

 

 嘘かと思った、彼にそんなことを言われるなんて。とても聞きたい言葉だけど今は聞きたくない言葉。何故かは分からないこの気持ち。

 

 何もすっきりしないまま私の視界は暗転した。

 

 

 

 再び目を覚ました場所はさっきと全く同じの天井。だけど隣にアニの姿はない。

 

 先程自分が見ていた光景は夢なんだと自覚した。さっきはいなかったアルミンやライナー達が寝室にいるし、今と夢の中ではベットの大きさが明らかに違う。

 

 夢の中でキャミソール姿のアニとそして昨日は現実の方のアニとハグをしてしまった。

 

(いや…いくらなんでも意識しすぎだな)

 

 過剰にアニの事を意識する自分に心の中で悪態をつく。頭を冷やすため少し男臭がする部屋から音を立てないように出て行く。

 

 階段を降り、リビングで誰もいないこと確認して脱衣所に向う。その時ちょうど母さんからLINEが来た。要件は特筆する必要のない内容なのでここでは割愛する。

 

 顔洗い終えた俺は使ったタオルを洗濯機に上手く投げ入れて、小走りで地下にある体育館を目指す。体育館といっても学校にあるような大層な物ではなく、普通の1コートあるだけの物で別室に筋トレ器具が並んでいるだけの物である。要はジム施設だ。

 ただ、1コートだけだと物足りないため入って奥側の壁には皆大好きGoogleHomeがプロジェクターを経由して映し出すことも可能で、休憩スペースの冷蔵庫にはキンキンのアイスが入ってる。

 

 朝の日課としてラジオ体操をする。起床後のラジオ体操はとても効果があるらしい。詳しい事はよく分からないけどアルミン曰く、ラジオ体操第1と第2両方やると良い効果があるよと言われたのでやってるだけで深い意味はない。

 

「エレーン!」

 

 っとここでアルミンが来たみたいだ。後ろには眠そうなジャンもいる。

 

「おはようアルミン」

 

「フアァ~眠ぃ~」

 

 あくびと共にジムに入ってきたジャンの頭が爆発して滑り台みたいにエグい角度に斜めってた。

 

 眠そうにもラジオ体操特有の音楽が流れるのを聞きジャンも参加する。

 

 それにしても昨日の男子部屋は酷いものだった。夜中2時頃、一度トイレに行った時に皆寝ていたものの余程疲れていたのかライナーのいびきがすごくて排水溝の音みたいだった。

 他にもジャンの寝相が悪いのは再認識したけど、コニーの寝言がうるさすぎた。コントローラーのコマンドずっと叫んでてちょっとむかついた。

 割とマジで部屋分割を検討する必要があるなこれ

 

 女性陣の方は恐らくまだ寝ているのだろう。トイレに行った後、飲み物を取りにリビングへ行った帰りに通り過ぎた時、特に物音もしなかった。一瞬通っただけだから断定は出来ないけども。それでも夜更かしはお肌の天敵って言うし、その辺りも危惧して早く寝たのかなと考えてみたりする。

 

 でもウチの母は化粧品とかそういうの持ってなかった気がする。けど化粧はしている。いつどこでやっているかは知らないけど父さんに会うときには仕上がってるんだよな。

 

 余談だけど確か4年目くらい前に一度母さんの部屋に無断で入った時、滅茶苦茶怒られた。その頃はボールを母さんが管理していたため、秘密で練習するためにこっそり入ったのだ。エレン?と呼ばれた時優しく呼ぶように聞こえるかも知れないが振り向くと赤鬼がニヤリと笑みを浮かべ、当時小6の俺は見事大目玉を喰らった。

 

 未だに小6のバスケットボールを母親が管理するのは理解できない。まぁそれほど心配してくれていた、と言うことにしよう。

 

 とここでようやくラジオ体操が終わった。

 

「じゃあ各々適当に」

 

 終わると同時に音楽アプリのお気に入りプレイリストを再生する。もはや趣味の領域を超えていると言われる程音楽関連にハマっている。

 毎回アルミンに気持ち悪いと言われるのは案外心に来るのでなるべく控えるようにしている。が、最近父さんにレコーディングマイクを買ってもらった事をアルミンに文句言われること覚悟で紹介したら案の定文句を言われた挙げ句、数時間ほど無視された。

 

 そんな余談より、因みにこの場所。母さんと俺以外アルミンと今日始めて来たジャンしか知らない。アルミンが他のメンバーに言ってなければだけどアルミンはそういうタイプじゃないからおそらく4人だけ。

 

 同じ中学のライナーとベルトルトはジムの存在は知ってるけど来たことがない。あいつらが来る時はほとんどの場合で大所帯なのでここより広い屋外のコートを使う。別に秘密にしてるわけじゃないけどタイミングが異常に悪いんだと思う。

 

 朝練は大体30分ほどしかしない、もちろんラジオ体操も含まれるので実質20数分ほどだが、あまりやり過ぎるのはよくない。これもアルミン博士の教えである。

 

「エレンもう終わろっか」

 

 今日はジャンがいたためか1時間弱で練習を切り上げた。

 

「そういえばエレンってあの人とサシでやったんだっけ?」

 

 シューズを履き替えて脱衣所へ行く時にジャンが無駄に物々しくしかもストレートに聞いてきた。

 

「誰から聞いたんだよ」

 

 少し聞いて欲しくなさそうに不機嫌っぽく言う。アルミンにも言ってないことなので正直聞いて欲しくない。

 

「いやまぁ、直接見たって感じだけど」

 

 俺の中のあの人なんてリヴァイ先輩しかいない。アルミンはそのことを知っているのでなんとなく察知されただろうな。

 

「ならそれに触れるのはなるべく控えて欲しいけどな」

 

 脱衣所の扉を開け服を脱ぐ。そのまま少し逃げるようにしてシャワールームに入った。

 

「エレンどうだったの?」

 

 俺の隣のシャワールームに入るや否や早速聞いてきた。

 

「全く歯が立たなかったよ」

 

 アルミンには隠し事をしても直ぐばれてしまうので正直に言った。恐らくジャンにも今の発言は聞こえているだろう。

 入学初っぱなから少しへこんでしまった。

 

「全然落ち込んでいる感じがなかったけどね」

 

「やっとアルミンを欺くことができたかー」

 

「その様子だと大丈夫みたいだね」

 

 俺の小ボケ(?)でアルミンにガラス張り越しにでも気に留めていないことが伝わったみたい。

 

「お前ら仲いいな」

 

 ジャンが何か言ってたけどよく聞こえなかったのでスルーした。

 

 

 

──────────────────────────

終わり方適当ですが悪しからず。

後半シリアスな部分を入れましたがどうだったでしょうか

次回もお楽しみに

 

 



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とくしゅなすけじゅ〜る?

7話です。

 

──────────────────────────

 

 

 

「久しぶりですね。お爺様」

 

「うむ。久しいなカルラよ」

 

 そこは薄暗く不気味な空間に、口調と容姿が似合わない三十路に突入したような男性とエレンの実母であるカルラがいた。男性の方の実年齢は75。年齢と容姿が全くもって違うのは彼の美意識の高さに秘訣がある。

 

「エレンは元気か?」

 

「えぇ。元気にしてますよ」

 

 彼らがいる場所はエレンの父が経営する病院の一角にある病室。石造りのようになっているのは、VIPな方専用なのかもしれない。いや不気味な空間はVIP違うか。

 

 ご老人の病が再発したとのことで、カルラは寂しい思いしていないかとお見舞いに来てみたが杞憂だったようだ。

 

「あの人に伝えなくて…」

 

「必要ない」

 

 カルラが恐る恐る聞いてみるが言い切る前に被せるよう、いや正確には、唾棄する雰囲気を醸すように吐き捨てた。

 カルラの言うあの人というのは、エレンの実の父でこの御仁の実の息子。この病院の医院長を務めるお爺様とは違うので間違えないように。

 

 その後カルラはお元気で。と言って音を立てないように病室から退室した。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 月曜日の朝というのは何故こんなにも憂鬱になるのだろうか。恐らくこの世を生き抜く人間全員が一度考えることだろう。

 ただなんとなく面倒くさいだけで学校に行けば楽しいのはわかっている。だけれども、いやどうしてか行きたくない。こんな気持ちになった人いないだろうか、いや確実にいる。

 

 けど最近、俺はそんな憂鬱を忘れる快感に気づいた。朝起きた時の伸びをした瞬間。これが一番気持ちいいんだ。(普通)

 

 そんなことはどうでもよくって…。

 

 一昨日のパーティーの影響でみんな夜遅くまで起きていたためぐっすり眠ってしまい、全員が起きてきたのはちょうど正午。帰宅したのは3時ごろだった。

 

 ショックだったのが、最後見送りするときにアニに声をかけたのに無視されてしまった。

 

 もしかして俺は嫌われているんだろうか。

 確かに思い返せば最近アニとの距離が近い気がするし、思い当たる節もいくつかある。

 

 けどアニは表立って否定はしていなかったはず…。

 

 いやもしかして内面でめちゃくちゃ嫌がっているかも知れない。

 

「はぁ~」

 

「どしたの?」

 

 最近よく考え事をしてる気がする。「ーぃ!」特にアニについて。

 

 中学では少し話すだけの関係で多分、お互いに親友の幼馴染で幼馴染の友達。みたいな認識だっただろう。「ェエーン?」けど今はどうなんだろうか?異性の友達?よく一緒にいる仲間?もしくは意識している異性の…

 

「こらー!」

 

「うわぁぁ!?」

 

 びっくりした…。

 

 不機嫌そうなアルミンが俺の進路を阻むようにして怒鳴り上げた。

 

「な、なんだよ」

 

「なんだよじゃないよ!珍しく考え込むエレンを心配して声をかけてあげてたのにさ!」

 

 そ、そんなに考え込んでたのか。

 

 流石に俺が悪いのでウチの父さんがよく母さんにする誠心誠意を込めた土下座をする。

 

 地面が夏のような少しカラカラとした暑さが制服を通り越して、俺の脛にじわじわとダメージを与えてくる。

 

 数秒ほどの土下座でアルミンは許してくれた。

 

 起き上がるときに行きつけのクレープ屋全種類奢りを添えて…。

 

「散財確定か…」

 

 俺の呟きにアルミンは反応することなく無邪気に走り去っていった。

 

 

 

 今日の時間割は1、2時間目に普通の授業を行い、昼前の2時間の授業は調理実習。昼休憩を挟んで、残り2時間はフィールドワークに出掛けるといった一年に一回あるかないかのような特殊な時間割である。

 

 3,4時間目の調理実習はペアになって料理を作るというもの。テーマはお昼のランチ。

 

 ただし、条件として調理室にある食材(在庫無限)だけで作ることと男女ペアで作ることくらいだ。まぁ思春期真っ只中の高校生には盛り上がること間違いなしのイベントだろう。

 

 この学校の家庭科の授業は生徒に絶大な人気を誇る。

 

 その所以として思春期男女の心をくすぐる教育方針があるという噂もある。因みに担当の先生はあんまり来ない。

 

 1年A組では今日の家庭科の調理実習のペア決めが行われていた。

 

 やはり彼らも高校生。大げさかもしれないがこのイベントで大きく将来が変わる人間がいるかもしれない。

 

 念の為にもう一度言うが、大げさかもしれない。

 

「エレンは誰とだったー?」

 

 今まで見たことない程の上機嫌なステップでアルミンはエレンの下へ駆け寄った。

 

「なんか今日休みの人いて余ったから一人でやる事になった」

 

 アルミンの上機嫌さに引きながらもエレンは冷静に答えた。

 

「一緒にやる?」

 

 魅力的な誘いに承諾しようとしたが、かつてないほどのアルミンの機嫌の良さにエレンは思考を張り巡らす。そこから導き出した末…。

 

「遠慮しとくよ。クリスタと当たったんだろ?」

 

 ビンゴ。アルミンは顎がみぞおちに付きそうなほど頷いた。

 

 以前、アルミンからは直接クリスタアタック宣言を受けていたエレン。当時は特に気にしていなかったものの今となっては意中の人と共に過ごす(予定)親友の姿に羨ましく思えてしまう。

 

 少し憂鬱な気分になるのは今日が月曜日だからなのか、もしくは違う理由であるのか。よくわからない自分の気持ちに前者であって欲しいと思うエレンであった。

 

 

 

「なんでミカサが?」

 

「まぁまぁ」

 

 憂鬱なまま迎えた3時間目の授業を知らせるチャイム。

 

 俺が使うキッチン席の隣には空席のはずなのにミカサが座っていた。

 

 疑問が解消することなく授業が始まる。先生は自由人なので、出欠確認をとり終わるとすぐにどこかへ行ってしまう。

 

 今日も今日とて、火事あったら呼んでねー。と走り去りながらどこかへ行ってしまった。てか火事が起きてからじゃ遅いだろ。

 

「なに作ろっか」

 

 卓上に備え付けられているiPadを操作しながら、頭を抱えるミカサ。

 

 どうやら答えてくれないらしい。もしくはミカサには大した事でもないのだろう。俺自身も別に大層な疑問でもないので授業の方に切り替える。

 

「これなんてどうかな?」

 

「ガパオライス?」

 

 ミカサがガパオライスの画像を見せてくる。

 

 分からない側の人間が説明すると、豚ひき肉や赤パプリカ、玉ねぎなどの具材をご飯の上にのせ、さらに目玉焼きをのせるといった見た目はカレーの様な感じ。タイ料理と説明欄に記載してある。

 

「どうやって作るんだ?」

 

「エレンなら動画見せるより私が一旦作ってみるよ」

 

 iPadの操作を終え、自信あり気に腕まくりをして準備をするミカサ。

 

 今日使うこのキッチン、パッと見どこにでもある白タイルキッチンかと思ったら、iPadに連携させることで指定した人数分の食材が届くようになっているらしい(返品可)。大体、教室内にクラス人数÷2分余るぐらいある。

 

 とんでもない費用だな。てか絶対お届け機能いらんだろ。

 

 ……実は他にも調理室が2つあって、今俺たちが使っている教室はビギナー用の部屋。

 

 多分学年ごとに使うんだろう。1ヶ所だけでいいと思うのは俺だけだろうか。

 

「食べてみてよ」

 

 そうこうしているうちに出来上がったみたいだ。画像より美味しそうに見えるのは単純にミカサの料理スキルが高いのだろう。

 気のせいかキラキラ輝いているようにも見える。

 

「うまっ!」

 

 案の定めちゃめちゃ美味かった。もう一口行こうとしたら既に人だかりができて入り込めないようになってしまった。

 

 どうやら俺のリアクションで呼び寄せてしまってたみたいだ。すまんミカサ。

 

「次エレン作ってみてよ」

 

「少しアレンジしてもいいか?」

 

 否。と言う訳もなく優しく微笑んでくれた。

 

 …少しジャンの気持ちがわかった気がする。

  

 というわけで気を取り直してガパオライス作っていきます。

 

「手際とか参考にさせてもらうね」

 

「そんな期待しないでくれ…」

 

 ではまず玉ねぎ、にんにく、生姜をみじん切りに赤パプリカは1センチの角切りにしておきます。

 

 玉ねぎを切ってる時に何故かミカサの目が丸くなっていたのも補足しておきます。

 

 ついでに酒、ナンプラー、みりん、オイスターソース、鶏がらスープの素。これらの調味料を合わせておくと後で楽ですよと。

 

 次にフライパンにサラダ油を入れ弱火で熱し、にんにく、生姜を炒めて香りがたったら中火にして、ひき肉と豆板醤(トウバンジャン)も加えて炒める。

 

 肉の色が変わったら玉ねぎと赤パプリカと少しスパイスが欲しいので唐辛子を加えて炒め、合わせた調味料も加える。

 

「すごいね…」

 

 少し人だかりが出来始めて緊張する。しかもミカサの横からの期待の眼差しにより余計に緊張する。

 

 放送事故にならないようにしないと。

 

「味見していい?」

 

 突然ミカサが顔を覗き込んできた。

 

「おわっ!?」

 

 あぶねぇ。アツアツのガパオをぶちまけるとこだった。マジで冷や汗かいたぞ今。

 

「ん-、美味しいー」

 

 喜んでくれるのは嬉しいが驚かせないでほしい。本人にその自覚が無いのは分かりきってはいるんだが…。

 

 あとはバジルの葉と目玉焼きをのせたら完成だ。

 

「ふぅー」

 

 なんかどっと疲れたな。

 

 ふと視線を逸らしたらアルミンが楽しそうにペアのクリスタとなにか作っていた。羨ましいやつめ。ライナーの気持ちも知らないで。

 

 とここで授業終了のチャイムが鳴った。

 

 普段の時間割ならやっとの思いで一息つけるが、今日は調理実習。休む間もなく自らが手掛ける料理に取り掛かる。

 

 ざっと見るにほとんどペアがまだ料理を作っているみたいだ。

 

 時間もまだもう1時間分残っているので、ミカサとデザート作り対決することになった。

 

 なぜか聞きつけてきたライナーが罰ゲーム有りと提案してきやがったので乗ることにした。

 

「審査員もつけようよ」

 

 面白そうなモノを見つけてきたかの様にアルミンがクリスタと共に場へ躍り出た。

 

「私とアルミンとライナーと…」

 

 クリスタが誰かを探すようにして

 

「アニで!」

 

 呼ばれた当の本人はユミルと話しているみたいで、どういう状況なのかサッパリわかってない感じだった。

 

 アニが審査員か…尚更負けられん

 

「ふふっ」

 

「どうした?」

 

 不敵に笑うミカサ。いやこの場合は余裕の笑みか…。

 

「聞こえてたよ?」

 

「えっ?」

 

 結局それが引きずってしまい惨敗した。

 

 罰ゲームは…えっと~何だっけ?

 

 

 

 そんなこともありつつ午後のフィールドワークへ出かける。

 

 目的場所は市内の建造物や伝統ある老舗。今後の授業で関わる事なのだが初回は町の雰囲気と情景を覚えてもらうということらしい。

 

 実はマリア高校、全体的に見ると県内進学者より県外進学者の方が多く、エレン達の中でもジャンやマルコがこれに当たる。

 

 なので敷地内にあるホテルとは別に1,2,3年ごとに学生寮がある。歩いて5分ほどで学校に辿り着くことができるので県内進学者でも入寮してたりする。因みにホテルより質は劣る。

 

 少し脱線したが、1年次から自主的に外へ出かけて行くため、早くマップを覚えろとのことなんだろう。

 

 今日は学校専用の大型バスで移動する。最初の移動で30分かかるため、エレンは午前中に蓄積した疲労を帳消しにしようと寝ることに決め込んでいた。

 

「やっぱ一番後ろだよなぁ」

 

 ドカッとライナーは最奥の5人席に座る。真ん中は空けて左にライベル、右にアルエレ。

 

「カラオケ大会?」

 

 どうやらドリンクホルダーの隣に備え付けられているiPadの画面にはカラフルなカラーでカラオケ大会と描かれていた。

 

「これすごいよ!」

 

 なんとこの機器、学籍番号を打ち込むことでその人の個人データを閲覧することができ、個人情報も編集することも出来る。今はNo recordとなっているが歌えば歌うほどデータが更新されるのだ。

 

 このiPadにはカラオケアプリの他に、音楽アプリや映画などを取り扱う事もできて周りの影響も考えてイヤホンもある。

 

「久々にエレンの歌が聞きたいなぁ、なんて」

  

 ウザい振りを振ってきたライナー。が、イヤホンをして寝る気満々のエレン(というか寝てる)を見て思いとどまるかと思いきやアルミンに指令を出して

 

「にゅふぁっ!?」

 

 脇下20センチにかけてアルミンの器用な指先でくすぐるそれは通称こちょこちょ。

 

 彼の弱点を知る者はこの場にいる当のエレンを含め4人のみ。

 

「寝てたかったのに…」

  

 エレンの願いは叶わず、先に歌っていた女子達からマイクが回ってきた。

 

「これさアルミン口パクでエレンが裏で歌ったら皆信じることない?」

 

 なにやらライナーが面白そうなことを思いついたみたいだ。

 

 現代社会、SNSが発達して通信環境があればどこでも情報を得られる時代。アルミン(エレンの歌)の歌声が全国ないし世界に届けられることだろう。

 

 実際、このバスに乗る1-Aの全員がインスタやTwitterなどを使用しているし、高校生なら誰だってSNSに触れているだろう。

 

 それを踏まえた上でのワンチャンのバズり狙いも加味してライナーが説を唱えたのだ。

 

「ちょっと気になるわそれ」

 

 ライベルの1つ前に座るジャンが参戦してきた。

 

「アルミンめっちゃ本気で歌ってるフリしてよ」

 

 先程まで大人しかったマルコもノリノリみたいだ。

 

「これめっちゃみんなの反応気になるわ」

 

 因みに補足しておくが、アルミンは歌がそんなに得意ではない。そのため今まで人前で歌うことを忌避してきた。

 

 が、今回の場合は別に歌ってもいいらしい。後で何言われても知らない。

 

 バスが学校を出てから10分ほど。

 

 車内のボルテージはミカアニの美しい声により上がり、クーラーが必要なほど熱している。

 

「次は誰だー!」

 

 誰よりも盛り上がっているのが先生なのに誰も突っ込まないのは単純に怖いからである。あと声が馬鹿デカい。

 

「アルミンいきまーす!」

 

「「「イェーイ!!」」」

 

 初手の人からの流れで宣言制となった(初手はクリスタ)。

 

 因みに先頭座席と中間にあるモニターにはiPadで打ち込んだ個人データが映し出される(名前など)。

 

 エレンが歌うのはいま話題のドラマの主題歌。

 

「僕が~見つめる~景色の~そのな~かに~♪君がは~いってから変わ~りは~てたせか~いは~♪」

 

 初っ端からの高い音。だがエレンは表情変えることなく歌い続ける。

 

「い~つもそつ~なく~こなした~日々の真ん中~っ♪不思議な~引力に逆らえ~ずく~ずれ~てく~♪」

 

 まるでアルミンが出しそうな声に寄せるエレン。聞いてる身からすればあまり高くはないのだが、いざ歌ってみれば難しい。

 

 そんな難しさも感じさせず当の本人は外の方を見ながらたまに採点バーを見て歌い、アルミンはかなりフリが様になっているが本人はキツそうだ(精神的に)

 

 恐らく1-A全員がアルミン歌うめぇってなってるはず。ライナーの予定では。

 

「た~か~ま~るあ~いの中変わ~る心情の中~♪」

 

 サビに入ってもエレンの歌声が衰えることはない。

 

「こ~ん~なに~鮮や~かな~しきさ~いに~♪」

 

 妖艶な地声と裏声の併用。難易度の高い曲を難無く歌い上げるのは、恵まれた声と日々喉の筋力使うことにある。

 

「アイラ~ブ♪ そのつづ~きをおくら~せて~~♪」

 

 曲の性質上、めっちゃ盛り上がる訳では無いので歓声は沸かないが、それでも歌いだしやすごく高い所を歌いきった時は感嘆の声が最後尾の席まで聞こえた。

 

 午後のフィールドワークなどは頭のどこかへ追いやって今はカラオケを楽しむ1-Aとキース先生だった。

 

 因みに点数は95点だった。

 

 

 今日のフィールドワークのタイトルは散策。何の変哲もないタイトルである。

 

 一年全員の移動になるので、班ごとに振り分けられる。クラス関係なくシャッフルされ1班5人の編成。

 

「今日はよく合うね」

 

 どうやら今日はミカサとの縁起がいいらしい。

 

 班は他クラス男子3人とミカサ。ミカサ以外は誰も知らないのでこの場合はラッキーだった。

 

 地図がスマートフォンに転送され、全員が確認する。

 

「おかしいな」

 

「どしたの?」

 

 学校側から指定されたコースは、地元民しか分からないようなそれも人通りが忙しくなく寧ろ、1日に数回人が通れば良いよう路地。

 

 そんな気にすることでもないか。というかそれよりも…。

 

「よ、よろしくね。ミカサちゃん。ヘヘッ」

 

 低身長で髪がボサボサの手入れをしてない様な気味の悪い男子生徒がミカサにすり寄りながら声を掛ける。

 

 他2人の男子もミカサに直接話しかけないものの舐めるような視線を向ける。見ていて気持ちのいいものではない。

 

 ほぼ毎日顔を合わせているので目が肥えてしまっているかもしれないが、ミカサは美人の部類であるということを頭に入れといてほしい。

 

「無理しなくてもいいぞ」

 

 こちらからは少し怯えているようの見えたので、声をかけた。

 

 風呂場で聞いたジャンの話で、ミカサが不良に絡まれたのは最近の大きな出来事。もしそれが尾を引いているのであればサポートする必要がある。

 

「4班どーぞー!」

 

 うちの班が呼ばれた。三人衆とは少し距離をとって俺とミカサが先導して進んでいく。

 

 何もないと良いんだが…。

 

 

──────────────────────────

 

→日常生活でよくお世話になっています。

https://instagram.com/kurashiru?utm_medium=copy_link

 

曲はofficial髭男dismさんの『I LOVE...』です。

 

 



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初恋の味?

 

8話です。

更新が空いたので前話の視聴を推奨します。

──────────────────────────

 

 

 何もなかった……。

 

 いやマジで。本当に。

 

 スタート前はすっっごい嫌な予感したけど実際は何もなかった。

 

 アクシデントがないに超したことはないのだけれどいかにも何か起こるだろという雰囲気醸し出して、ない方が余計不気味だ。

 

「アニには秘密にしておくね」

 

 俺の隣にいる高身長美女は少し上機嫌に囁く。

 

「何でちょっと嬉そうなんだ…」

 

 ミカサとの縁がありすぎる今日。

 

 横の彼女は眩しいほどにニコニコしている……アレ以来。

 

 そうアレさえなければ今日のスケジュールにしこりが残ることはなかったんだ。

 

 メタいが少し特殊な入りをする必要もなかったんだ。

 

 それを説明するには時間を遡らなければならないのだが…。

 

 仕方ないか…。

 

 

~~~

 

 

 時刻は30分ほど前に戻る。

 

 

「昼なのに暗いね」

 

「まぁ日差しが通ってないからな。この辺」

 

 スタートして10分ほど。

 

 今歩いている場所は京都の裏路地を思い出させるような風情がある所。イメージで言うと。

 

 だが、風情とはなんら関係ない営業してない旅館や昔から住んでないような空き家ばっかりで。

 

 且つ、その建物たちが両サイドにそびえ立ち、太陽の光を遮る事により不気味な空間を創り出してしまった結果、風情というヤツはどこかへ飛んでいってしまった。

 

 不気味といえば同じ班の男三人衆の声が時折、後ろから聞こえる。トークで盛り上がってるっぽいがどんな話かはよく分からない。

 

「何かすごく楽しそうだね」

 

 後ろをチラリと脇見してミカサがそう言う。

 

「でも私、ああいうタイプは苦手かも…」

 

 数秒間を開けて呟く。過去に何かあったのだろうか。

 

 過去といえば…。

 

 どうも昔、俺はミカサと出会った事がある気がする。

 

 アルミンはそんな訳ないでしょ。と言ってたけど…なんだろう。別に確固たる根拠なんてないのだけど、どうも自分の直感がそう告げている。

 

 なんかこう清楚な雰囲気が昔のあの子と似てる気がするんだよなぁ。

 

「昔のエレンは突っ走っていくタイプだったよね」

 

 ??……今なんて

 

「変わったねぇエレンも…どしたの?」

 

「昔の俺?…やっぱり会った事あるよな?」

 

 もしかしたら聞き間違いかも知れな…あっ、頷いてくれた。

 

「BBQで聞いてきた時はびっくりしたよー」

 

 光が通らない空を見上げ、指を絡ませ、両手を前にして伸びをしながら告げる。

 

「じゃあ何であの時否定したんだ?」

 

「…でも気づいてくれて嬉かったよ?」

 

 問うた質問とは違う回答をするミカサ。なんか引っかかるなぁ。

 

 その後、何で分かったのと付随して聞かれたが、ミカサの雰囲気があの子と似ていた、ただそれに限ると答えた。

 

 でも何でこのタイミングで?もしかしたらミカサの嘘かも知れない。それにさっきの反応により余計…うーん混乱してきた。

 

「あっ、やっと路地から抜け出せるね」

 

 ミカサもこの景色に飽きていたのか前方の大通りが見えた瞬間、走り出していった。

 

 てか出会い頭に人とぶつかったらシャレにならないぞ。

 

 国道何号線かは忘れたが、人通りが多くて有名な道なのでよく渋滞が起きる。

 

 そのため自転車を利用する人が多く、サイクリング部なんて市内の学校ではメジャーな部活動としてあるくらいだ。

 

「嫌な予感満載なんだけど…」

 

 本人は恐らくこの地にチャリ通がたくさん居るなんて知らないだろう。長くこの地を離れていた…かもしれないし。

 

 勢いをつけたミカサが両足ジャンプして歩道に着地しようとしたとき。

 

「おっと、ごめんよ~姉ちゃん」

 

 丁度、そば配達のおっちゃんの姿が見えて…。

 

「ほら、言わんこっちゃな……」

 

 ぶつかると思って、危ないと思ってミカサの手を引いたら、まさかこっちに倒れて来ると思わなくて…。

 

 結果として

 

「んむっ!?」

 

 お互いの唇が触れてしまうことになった。

 

 

~~~

 

 

 話は冒頭に戻る。

 

 兎にも角にも、キスの件は誰にも見られてないと思う。周りに人居なかったし、路地だし。

 

 横にいるヤツがずっとご機嫌なのは未だに理解出来ないが…。

 

「エレンの唇柔らかかった…」

 

 思いっきり聞こえてるし、清楚とはかけ離れた言動してるよ彼女。

 

「お、エレン。もう帰っていたのか」

 

 ミカサの呟きを聞き流しているとジャンの班が帰ってきた。

 

 彼がミカサに好意を寄せている事はもちろん知っている。だが致し方なかったんだ。ごめん…ジャン…。

 

「なんか元気ねぇーな。何かあったのか?」

 

 なんでだろう。ジャンの優しい気遣いでこんなにも胸が痛くなるのは…。

 

 ある事なす事を話したら俺は大バッシングを受けるだろう。それだけは避けたい。

 

 入学直後、みんなの敵になるのは、学生生活において即ち死。

 

 大好きなバスケで全国制覇なんて夢のまた夢になってしまう。

 

 先ほどの件は胸の裡に閉まっておこう。

 

「いや、少し歩き疲れただけだよ」

 

「そうか。帰りのバスでしっかり休めよ」

 

 そう言って、帰ってきた事を先生に報告する為に、立ち去って行った。

 

 ジャンと話し終えた時に気づいたらミカサも居なくなってた。

 

 現在は、駅前近くの公園に一年生のほとんどが集まって雑談している状況下にある。

 

 時間的に大分巻いてしまったらしく、あと2班帰ってきたらバスで気持ち回り道をして学校に帰るらしい。

 

 なんて有難いのだろうか。寛大な先生方の施しでやっとゆっくり休めます。

 

 その後はまぁ、数分して全員揃ったのですぐにバスに乗って学校に着いた。

 

 

☆☆☆

 

 

【帰りのバスでの一幕】

 

 

「タバコ?それがどうかしたのか?」

 

 アルミンの問いかけにより、ここから長い長い議論が始まる。

 

「いやー、みんなが大人になったときに吸うのかなぁって」

 

「俺は吸わないな。体に悪いし」

 

 真っ先に答えたのは意外にもライナー。

 

 まぁ確かに彼の筋肉がタバコの影響で劣る可能性もあるかも知れない。どうでも良いけど。

 

 因みに話し合いに参加しているのは、エレンを除く男子メンバー6人。

 

 エレンは行きのバスで最後尾の角に陣取っていたが、一つ前の席で一人で座っていたコニーと代わって寝ている。

 

「えぇ~、でも一回くらいなら経験してみたくない?」

 

「その僅かな気持ちがベルトルトをヘビスモの道へ誘うんだよ」

 

 そんな略し方聞いたことはないが、ベルトルトはややタバコ肯定派みたいだ。

 

「ジャンはどうなんだよ」

 

 ここまで無言だったジャンにライナーが話を振った。

 

「俺は断然否定だな。タバコなんて体は壊れるし、迷惑はかかるし、費用だってバカにならないからな」

 

 どうやらジャンは過激な否定派のようだ。

 

「それに吸ってたら柄悪いし、蚊取り線香のように人なんて寄ってこなくなるぞ」

 

 ジャンの言い分は最もだと同調する様に全員が頷いた。

 

「じゃあ、お酒はどうよ。タバコより被害がないと思うぞ」

 

 コニーにより話は将来の飲酒事情へと変わった。

 

「因みにコニーはお酒飲む?」

 

 アルミンがすかさず、コニーに聞き返す。

 

「まぁ飲むかな。ほどほどにするけど」

 

「ま、それが普通よね」

 

 でも度数が低いのならいっぱい飲むかもと言っていたが、コニーよりもサシャの方がかなりの暴飲暴食気質があるので心配である。

 

「エレンとか絶対飲まなそう」

 

 マルコが偏見をぶちかました。

 

「酒飲んだら歌下手になるらしいよ」

 

 今のアルミンから雑学を聞いてジャンは一生、酒を飲まないと決めたらしい。

 

 何故か、それは行きのバスでエレンの歌声を聞いて練習することに決めたそうだ。

 

 意外と流されやすいタイプなのか、それともエレンに少し憧れを抱いているのか、彼の性格的に後者の方が可能性が高い。

 

「アルミンめっちゃ酒豪になりそう」

 

「え?なんでよ?」

 

 ベルトルトはそう言うが、酒豪という表現より酒は飲むが常に理性は保っているの方が適切である。

 

「俺は多分めっちゃ飲むわ」

 

 ライナーは自分自身を未来予知する。

 

「ライナーは仕事終わって帰ってきてビール一口飲んだ後にめっちゃ溜息長そう」

 

「ド偏見やないかい」

 

「それはすっごい分かる」

 

 マルコの偏見にライナーはツッコミをいれるものの、共感する者が多く、反論できないでいた。

 

「でもさ、酔ってダル絡みされて、ごめん覚えてなかったわーとか言われたらさ、一生ソイツと飲み行かなくない?」

 

「間違いないな」

 

 またまた共感出来る意見がしかもコニーから出てきてしまった。

 

「ごめんライナー。一人で飲みに行ってきて」

 

「ダル絡み前提かよ!」

 

 同郷がなせる技で笑いをとっていた。

 

「てかあれは……」

 

 

☆☆☆

 

 

 一年生を乗せるバスが学校に着くと同時にバス内での仮終礼が終わった。

 

 普通なら教室まで戻って終礼するだろうが、キース先生は意外と合理的主義のようだ。

 

 というかめちゃくちゃ寝てたな俺。腕にすっごい痕ついてる。

 

「おっ、エレンやっと起きたか」

 

「ん、おう」

 

 ジャンの顔が少し赤いがどうしたのだろうか。

 

 どうせライナー辺りにからかわれたのだろう。

 

「みんなはもう帰る?」

 

 突然、アルミンが問いかけてきた。

 

 この後の予定を聞いているように思うが、この発言の隠れた意はこの後エレンの家に行かない?と言わんばかりのニュアンス。

 

 ま、特段俺は用もないし、家に誰一人としていないので来てくれるとありがたい。

 

「わりっ、この後はサシャと帰る約束してるから」

 

 自慢するようでもなく、ほんの少しウキウキした声音で断りを入れるコニー。

 

「羨ましいな畜生…」

 

「小声だとガチ感出るからやめて」

 

 ライナーの妬ましい発言はコニーに聞こえていたみたいだ。 

 

「俺とマルコはなにもないぜ」

 

 この2人、一応寮生のはずなのにすんごいアグレッシブだな。

 

 そういえばウチの寮の仕組みってどうなっているんだろう。

 

 2人とも外出多めの印象が強いので、あまり詳しくないのだろうか。また今度聞いてみよ。

 

「僕とライナーも勿論お邪魔させてもらうよ」

 

 流石と言ったところか。ベルトルトにはアルミンの発言の意味に気づいていた。ライナーもその発言に異を唱える事はなかった。

 

「ん?どっか行くのか?」

 

「うん!楽しみにしててよ」

 

 あ、そういう隠していくスタンスなんですね。

 

 すると突然…。

 

「ブラウン!忘れ物がないか確認してくれ!」

 

 うおっ、びっくりした…。

 

 キース先生はたまにデカい声で頼み事をするんだよな。これは一生慣れる気がしない。

 

「どうかしたか、イェーガー」

 

「いえ、自分もライナーの手伝いをしようと…」

 

 俺の反応に気が触ったのか問い詰められかけたが、咄嗟に切り返したら特に咎められなかった。

 

 はぁ。全く、ヒヤヒヤさせてくれる…。

 

「エレン災難だね」

 

「うっせ」

 

「これからもっと災難が起こるかもよ」

 

「はっ?」

 

 もっと災難?…ちょっと理解できないのだけどアルミンのよくある戯言だとスルーしておこう。

 

 そのままアルミンはバスを降りていった。

 

「ん?何か落ちてるな」

 

 バス内には俺とライナーのみの状況で、前列の女性陣が座っていた場所に手紙のような物が落ちていた。

 

 恐らく女子の私物(?)なので、中身は気になるけど見ないでおこう。

 

「先に降りてるぞ」

 

 おう、という男らしい返事が耳に入った所で乗降口に足を掛けて降りる。

 

 ライナーは未だに黙々と真摯に最後尾の席から忘れ物の確認をしている。

 

 普段ははっちゃけた言動をしているが、こういう真面目な所を見せたらギャップがあって女子ウケが良い方向に進むと思うけどなぁ。

 

 少し大げさか。

 

 けどライナーはクラス委員の仕事やちょっと面倒くさい仕事を率先して手伝っている姿を昔からよく見る。

 

 彼の仲間思いな性格が俺は大好きなのだが、体には気をつけてもらいたい。

 

 バスを降りた矢先、一応先生を呼び止めて落とし物の手紙を渡しておく。

 

「む、忘れ物か。ありがとうなイェーガー」

 

 一応終礼も終わって解散なのだが、ライナーがまだバス内に残っているのと終礼は終えているもののキース先生の口から明確な解散の合図が出されてないからか、これって帰って良いの?っていう空気感が漂っている。

 

 しかも下手に行動に移すとキース先生に大目玉を食らうか、否かの賭けなので、誰も動けないでいた。

 

 まぁ、今から忘れ物についての確認をとると思うので残っていれば問題ないだろう。

 

「少し確認事項が増えたので、伝えるぞ」

 

 ライナーがバスから降りてきて先生に何もなかったと伝えると、ちょっといいかと挟んでキース先生は声を上げた。

 

「バスに手紙のような物が落ちていた。該当していると思う者は後で職員室まで来るように」

 

 容姿は強面であるもののプライベート事項は1対1とキチンと配慮しているので、俺としては非常に好感の持てる先生だ。

 

 当たり前の事かもしれないが、それをしない先生も勿論いる。ま、状況にもよるが…。

 

「最後に明後日の水曜日に行われる新入生歓迎会でお前たちは部活動に正式に所属する事が出来る」

 

 鼻からフンスッと蒸気が出そうな勢いだが、事前に伝えてくれるのは助かる。

 

「申請書は希望した部活の顧問の先生に頼めばもらえると思うから各々、先生方に言ってみるといい」

 

 以上だ。と言って先生は学校屋内の方へ足を向けた。

 

「じゃあ、帰るか~」

 

「今日は美味しいクレープ屋さんに行こう」

 

 アルミンの催促でクレープ屋に行くことに決定された。

 

「いいね!楽しみ~」

 

 美味しいクレープ屋さんか~。久々に食べるなぁ。

 

 ここから徒歩5分の駅前に構えるクレープ屋は癖のあるお店で、名前がまず"美味しいクレープ屋さん"と豪語しているだけの提供はしてくれるのだが、(ちなみに駅の名前はマリア高校前)更に、店長さんのテンションのアップダウンが人気で度々メディアに取り上げられることがあった。

 

 店長さんがお酒も提供してくれるらしく、昼はクレープ、夜はbarと年齢層に富んだ経営をしている為か、食べログは4.2以上をここ数年キープしていることから、市内でもトップクラスの人気店である。

 

 ただ、高校生のお小遣いでは払えないクレープもあったり、夜は20歳以上は入店不可(年齢確認必須)だったりする所がネックらしい。

 

 まぁ昼の方は仕方ないが、夜はお酒も回って変な客も来るという事があってかのトラブル対策だろう。なんとなくbarは静かでおしゃれなイメージだし。

 

 実際、ウチの父さんや母さんは1人で飲み行くことがあるらしい。本人的にも静かで落ち着くとか。

 

「一番高いの食べたいなー」

 

「2000円くらいするんだっけ?」

 

 ベルトルトの回答で、そんなすんの!?とジャンとマルコは驚いていた。2人は待ち合わせがないのかな。

 

 1番安いのでも500円くらいだった気がしたが…。

 

「安くて美味しいのもあるけど、男子高校生の腹が満たされるかと言ったら微妙かも」

 

 ベルトルトに続いて500円くらいだよ。とアルミンが言うと2人は安心したみたいだった。

 

「エレンはどうする?」

 

「ん〜、安定のバナナチョコホイップかな」

 

 たしか、お店のチラシに学生No.1人気って載ってた気がした。

 

 コストも味も学生にちょうど良いのだろう。

 

「エレンは昼も甘いデザート作って食べてたよな?甘いの好きなのか?」

 

 おっと、そういえばミカサとの料理対決でチョコケーキ作ったな。完全に忘れてたわ。

 

「甘いものに目がない訳ではないけど好きだな」

 

 エレンのチョコケーキ美味かったなぁー。とジャンは言うが、一応審査員票は3-1で負けてるからな。ちなみに、1票はアニだったお陰で、大分傷が癒えた

 

「で、結局罰ゲームはなんだったの?」

 

 興味本位で聞いてくるが、アルミンそれは爆弾だろう。ジャンが居ることに気づいてないのか?

 

 そういえばコイツよくスマブラでスネーク使うな。その影響なのか?

 

 ジャンもなんの話だ?みたいな顔してるぞ。

 

 コイツは罰ゲームの件、というか俺がミカサとペアになった経緯まで知らないんだぞ。いや俺も知らんけど。

 

「なんか保留って言われたぞ」

 

 言い方は違えど取り敢えず正直に答えておいた。ミカサは然るべき時にって言ってたが、果たしていつ来るのだろうか。

 

「こき使われないように…つってもミカサはそんなタイプじゃないか」

 

 ライナーが言うことが最もだと思う。マルコやベルトルトも頷いているし。

 

 俺としてはミカサの色んな面を見てしまったので、素直に頷くことは出来ないが…。

 

「エレンはどんな罰がいい?」

 

 出た。悪魔の尻尾を生やしたアルミン。

 

 大体、罰なんて好むヤツなんかいないだろ。隣で、マッチョが「クリスタになら〜」なんて言ってるから説得力は皆無だけど。

 

「罰を受けたくないのが本音だよ」

 

 ようやく視界に入った美味しいクレープ屋さんに目を向けつつ、気怠そうに答える。

 

「おいエレン。お前なんて羨ましいやつなんだよ…」

 

 目をウルウルさせながら縋り付いてくるジャン。アルミン曰く、その背中には哀愁漂ってたとか。

 

 今日の日本社会は、多くの場合で女性が強い立場になる傾向が高いんだぞ。(※個人の感想です)

 

「くっつくなよジャン!」

 

「先入ってるぞー」

 

 無視して入って行きやがったアイツら。

 

「クレープ食べて落ち着け。な?」

 

 渋々了承してくれたが…、てかここの描写いる?

 

 からんからんとTheおしゃれ感を象徴する音(?)が俺たちを迎えてくれた。

 

 はぁ〜。月曜日の憂鬱なんてクレープ食べて忘れよう。

 

「あ、そうそう エレンの奢りだよ今日は」

 

 開口一番にアルミンの口から確かにそう聞こえた。

 

「え?なんで?」

 

 皆目見当もつかない。なぜ高級クレープを俺が奢る羽目に…。

 

「今朝のこと 忘れてないよね」

 

 間といい、本心のない笑顔といい、アルミンはもしかしたら役者向きかもな。

 

 いやそんなことより、今朝のことってなんだ?今日一日衝撃的な事が起こりすぎて記憶を辿っても出てこない。

 

「もしかして忘れたの?」

 

「いや……思い出せない」

 

 アルミン以外が憐れんだ目で見てくるのがムカつく…。

 

「正直者で結構! けど勤めは果たしてもらうよ」

 

 店長あんたも何か言ってくれよ…。この件静観してるだけじゃねえか。

 

「グリシャの息子か!お前んとこの親父には世話になってるからな。お・ま・け しといてやるよ」

 

 ありがてぇ。なんて思っていた俺がバカだった。少し値引いてくれるのかなとか思ってたら、全員分の飲み物代が追加されていて1,000円オーバーしてた。

 

 ま、そんなのは冗談で、このお店キャッシュレスなので、恐らく俺のカードで払った代金は後で父さんのとこに請求されるのだろう。

 

 ウチとしてはこれからも親子構わず良い関係を築いていきたいと思っているので、変に不機嫌になることはない。

 

 ついでに落ち着ける個室に案内してくれたので、このお店が昼夜問わず人気なのは、店長さんの人柄もあるのだろう。

 

 そんなこんなありつつ特殊な日の終わりは落ち着いて有意義に過ごせた。

 

──────────────────────────

タバコの件は正直書く必要はあまりなかったのですが、キャラの定着というか皆さんにキャラの印象を与えたかったんです。

次回はエレンたちが待ちに待った新入生歓迎会です。

お楽しみに…。



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新入生歓迎会と・・・。

9話です。

 

──────────────────────────

 

 

 今日は水曜日。待ちに待った新入生歓迎会当日。

 

 学生にとって至福である昼食の時間が終わり、現在は体育館に学年ごと並んで、右前方には生徒会の人だろうか,顧問の先生っぽい人の横に数人並んでいる。

 

 こうしてみるとウチの学校の人数が半端ない事に痛感させられる。

 

 この場にいる生徒、先生以外にも警備員の人や事務員、ホテル関係の方や銭湯管理人もいる。自分がまだ知らない人役職の人も居るだろう。

 

「にしても少し寒いな」

 

 受付で貰った歓迎会のパンフレットを体育座りしている膝下に置いて、少し長い袖が手の甲を覆う世間一般で言う、萌え袖というやつにする。

 

 4月の中旬に差し掛かろうとしているにも関わらず、未だ肌寒さは抜けない。

 

 もしかして氷河期でも来るのだろうか。風邪は引いたことがないけど寒いのは嫌いだ。

 

「それではお時間になりましたので新入生歓迎会を始めたいと思います」

 

 司会役の女生徒が一歩前に出て、綺麗なソプラノ声で開会の宣言をする。(ちなみにこの女生徒

風の噂では、2年で1番人気らしい。名前は存じないですが…。)

 

 開会宣言後、司会の声で生徒会顧問の隣にいた生徒会長が挨拶の為に壇上へ上がった。

 

「新入生の皆さんご入学おめでとうございます。生徒会長のエルヴィン・スミスです。後ほど詳しく説明があると思いますが、この日を持って部活動の入部が許可されます。本校は部活動に力を入れておりますので、学業共々皆様のご健闘お祈りいたします。」

 

 高身長で綺麗な顔立ち、そして貴族のような立ち振る舞い、言わずもがな彼がエルヴィン財閥の長男であるのは周知の事実だが、とても高校生とは思えない貫禄だった。

 

 エルヴィンが檀上から降りると司会役の人が一歩前に出て。

 

「部活動紹介の前に、今から昨年の体育祭の映像を流しますのでしばしお待ちください」

 

 男子が司会の人にメロメロになっている事はほっといて、新設校で今年で三年目って事は去年は1,2年さらに言えば一昨年は、一学年だけでやったのか。

 

「なんだ~エレン。難しい顔して」

 ちょうど正面のスクリーンに体育祭の様子が映し出されたと同時に隣に座っているユミルがニヤニヤしながら話しかけてきた。

 

「どうせアニの事でも考えてたんだろ」

 

「なんでそこでアニが出てくるんだよ」

 

 ユミルは最近アニの事アニの事と口を開けばそればっかり言ってくるが、もしかしてユミルはクリスタじゃなくてアニが好きなのだろうか。

 

「そういえばこの学校の体育祭フォークダンスあるらしいぞ。アニとペア組んだら?」

 

「ニヤニヤしながら言うなよ。たとえ誘ったとしても断られるだろ」

 

「まぁそれに関しては誘ってみないと分からないなぁ」

 

「なんだよそれ…」

 

 ユミルって正直苦手なんだよな…。からかってくるし、その時の距離が近いし。

 

「そんな落ち込むなって」

 

 落ち込むことなどはないが女子との会話は思ったより精神的に疲れるのだ。

 

「あ、そうそう」

 

 映像は綱引きや、リレーの様子を映し出している時にユミルが俺の肩をチョンチョンと指で叩いた。

 

 なんとなく嫌な予感がする。なんか分からんけど…すっごく怖いぞ。

 

「ミカサとキスしてたのは黙っといてやるよ」

 

 ……なんでそれを知っているんだ?

 

「なんでそれを知っているんだ?と言いたげな顔してるな」

 

「…もしかして見てたのか?」

 

「まぁ、そうだな。正直意外だった」

 

 お、終わった…。せめてもの弁明をするしか俺にはもう………。

 

「いやあれは事故で…」

 

「嘘つけよ。お前の方から手引いてたくせに」

 

 急に強張った表情で吐き捨てるようにユミルは言う。もしかして機嫌を損ねてしまったのだろうか。いやそれはそうか。聖夜でもないのに外でやることではない。

 

「確かに俺から手を引いたのは事実だけど…ぶつかった位置が悪かっただけで」

 

「ま、からかうのもここまでにしとくか」

 

 なんだよ…。ユミルにしては意外にも早く引いてくれて、強張った表情もみるみるうちに溶けていった。

 

「クリスタ泣かしたら許さないからな」

 

 今度はクリスタか…。やっぱりユミルはアニよりクリスタのことが好きなんだな。まぁ人それぞれの好みがあるし、とやかく言う必要はないか。

 

 兎にも角にもそんな下世話をしつつ、前に目を向けると体育祭の映像などとうに終えていて、現在は部活動に関しての動画が流れていた。

 

 映像と並行して流れる音楽にリズムをとりつつ、バスケ部の紹介はないかなと気長に待つ。

 

 もしかしてユミルと話している間に終わったっていうオチ?

 

「おっ、始まったか」

 

 そんな心配も杞憂で、画面に大きく男子バスケットボール部と映し出される。

 

 数秒後、普段の練習風景やこれまでの成績が2分ほど垂れ流される。どうやら凝った編集はせずにこれまでの部と同じような内容だった。

 

 個人的には軽音楽部も気になったが、高校はバスケ一筋でやるつもりなので兼部をするという選択肢は脳内から除外する。

 

 恋愛をするという選択もないことはないが、そればっかりに左右されるとどんな制裁があの人やキャプテンさん(後で知ることになるキャプテンのエルヴィン)から下るか分からない。 

 

 ただ、暑い男たちに囲まれて友情を育むのも良いかもしれないが、如何せん高校生としては華に欠ける。

 

 うーん。なにが正しいのかは分からないが、そんなことは未来の自分にでも放り投げておこう。

 

「パンフレットにもあるように今から今年の体育祭の色決めを行います。各学年の代表者は前へ」

 

 司会の人が代表者が出てくるように促す。てかパンフレットに『司会:ペトラ・ラル』って名前書いてあったわ。

 

 何やらミニゲームで色決めするらしく体育館の入り口から檀上手前まで障害物のような物が置かれている。その際、代表者以外の全校生徒は壁際に座っている。

 

 てか1年の代表ジャンかよ。2,3年は知らないけど登場した時の盛り上がりを見る限り、ムードメーカー的立ち位置なのだろう。

 

 1年のこのアウェー感はどの学校も同じだと思うが、入学してすぐのイベントでジャンがかわいそうだった。

 

 結果、1年赤組 2年黄組 3年青組となった。『果たして、ミニゲームなんてやる必要があるのか』ぜひこれを聞いてみたい。

 

 ちなみに最後の障害物である小麦粉アメ探しで、2年の人がなかなか見つけれなくてすごい微妙な空気なっていた。

 

 というか大前提に、半年も先にある行事に足突っ込むのって気が早すぎないか?もしかして俺だけなのかこの疑問抱えているのは。

 

 なんか後味が悪いが今に始まったことでもないか。

 

 

☆☆☆

 

 

 翌日の木曜日。悪天候の中でも屋外で受ける訳でもない限り授業は通常通り行われる。

 

 時刻は5限目の授業が始まる15分前。

 

 少しジメジメさも感じながら、先生に頼まれた教材配達をベルトルトとコニーと3人で資料室(2階)に取りに行く。

 

 階段を登る時に昨日の部活で蓄積された疲労が筋肉痛となって現れてしまい思わず顔を顰めたくなる。

 

 朝練を毎日やっているにも関わらずあんなにも部活がキツいとは思わなかった。

 

 隣にいる2人は既に満身創痍のようだが…。

 

「エレン…もう少しゆっくり」

 

 登る最中、ベルトルトが視界から突然消えると同時に嘆いた。

 

 コニーもベルトルトも手すりを使わないと登ることが出来ないらしい。

 

 仕方ないここは男気を見せてやるか。

 

「2人とも俺が教材持って行くから教室に戻っていてくれ」

 

「いや、流石に悪いだろ…」

 

 申し訳なさそうにコニーが言うが…そんなにふらついていたら怪我してしまうかもしれない。

 

「んじゃ、いってくる」

 

 有無を言わさず、階段を早足で登る。

 

 上級生の階に行くのは何だか気が引けるな。少しばかりの緊張と言うか。何というか。

 

 2年生クラスの廊下をヒソヒソと歩いていたら、なぜか複数の女子から奇妙な目で見られた。

 

 もしかしてチャック全開?それならめっちゃ恥ずいんだけど。

 

「あ、あのー」  

 

 突然、その奇妙な目を向けていた女子生徒の集団の1人がこちらに来て話しかけてきた。

 

 もしかしてこのタイミングで全開ですよって言われるのか?

 

「なにか?」

 

 ここは冷静に。仮に空いていたとしてもスマートに答えよう。

 

 彼女の容姿は薄褐色で黒髪のポニテ。顔立ちは…綺麗な方だと思う。ネクタイの色からして2年生だ。

 

「えっとその…」

 

 む、なんか歯切れが悪いな。もしかして今まで見たこと無いほどの全開?

 

「2年の廊下をチャック全開で闊歩する1年生現る!?」なんて記事が新聞部から出回るかも知れない。

 

 ただ、このタイミングで確認なんて出来るはずが無い。目視ならまだしも手で確認なんて滑稽この上ない。

 

「ら、LINEとか貰えないかな?」

 

「LINE?」

 

 と、取敢えずは安堵した。彼女から発せられた言葉は予想外であったが。

 

「やっぱりダメだよね…」

 

 そんな悲しそうな顔されたら流石に断るわけには…。というかなんで俺のLINEが欲しいんだろう。

 

 まあLINEくらいならいっか。

 

「それくらいなら」

 

 そう答えると彼女は喜んでくれた。

 

「では」

 

 直ぐにLINEを交換して、短く返事をしてから別れた。

 

 その後、手配した人数の割に量の少ない教材を手に取り、教室に運んだ。

 

 ちなみにチャックは全閉だった。

 

 

「じゃあ問題集やってろよ~」

 

 聞き馴染みのある呼び出し音が鳴り、数学の授業を執っていた教師が教室から出て行った。

 

 5限目も始まって15分弱。

 

 難題の解説の途中で授業が途切れたので、多少の遣る瀬なさを感じるも、先程から感じていた睡魔が本格的に襲ってきたので机に突っ伏した状態で目を瞑る。昨日の部活が響いているに違いない。

 

 静かだった教室は1人の生徒の発言によってだんだん話し声が際立つように変わっていく。

 

 ここで機内モードにしていたはずのスマホから通知音が鳴る。その際、振動とバイブ音は喧噪によって掻き消された。

 

 画面にはついさっきLINE交換をした先輩の名前が表示されている。

 

 席が廊下側のため、通りすがりの先生に見られないよう注意しつつトーク画面を開くとスタンプと共に「よろしくお願いいたします」と丁寧に綴ってある。

 

 こっちは中断しているからいいものの、あちらは普通に授業しているはず…。

 

「こちらこそよろしくお願いします」となんの変哲もなく返しておいた。

 

『呼び捨てでいいかな?もちろん私のことは名前で呼んでね』

 

 数十秒ほど間が空いて返信が来た。

 

 またスマホを手に取って返信しようとしたが、ガラガラガラと音を立てて先生が教室に戻ってきた。

 

「ちょっと長引きそうだから今日は自習にするな~」とだけ伝えてまた出て行った。

 

 先生の一言に少々の盛り上がりを見せるも少数の範疇であった為、すぐに抑まった。

 

 この学校では入試の成績でクラスが決まるという。上からABC順に7クラス。

 

 ただ、最優秀のA組にも勉強が嫌いな人だっている。俺だってそんなに好きじゃ無い。

 

 自習なんて望んで手に入れられるならば、そんな物は願ったり叶ったりだろう。

 

 そんなことを考えている間に目が冴えてしまった。

 

「LINE返すか……あっ」

 

 先輩とのLINEが既読無視の状態まま5分経過。早く返さねばと、焦ってしまってスマホを落としてしまう。

 

 左手からこぼれた電子機器は隣の席に座る彼女の椅子の下に流れるようにして飛び込んでいった。

 

「ん?」

 

 不思議そうにこちらへ顔を傾げる彼女の名前はクリスタ。

 

 真剣に問題集に取り組んでいる彼女に申し訳ないなと思う。

 

 はやくスマホを取らなければならないが。女子が座る椅子の下に何の躊躇も無く手を伸ばせることは到底出来ない。

 

 ここは本当に申し訳ないがクリスタに取ってもらうしかないか。

 

「これエレンの?」

 

 持っていたシャーペンをノートの上に置き、トーク画面が上向きに照らされているスマホを拾い、持ち主確認をする。

 

「ごめんな。集中してたのに」

 

 頷いて、正直に謝った。

 

「アカリって人とLINEしてたんだ」

 

 スマホを返すと同時にクリスタは問いかけてきた。

 

「うん。丁度暇だったから」

 

 周りと同じように俺もクリスタと雑談を始める。

 

「同級生?」

 

「いや一つ上の先輩だ」

 

「好きなの?」

 

 なぜ?

 

 ほんの30分前に会った人好きになるって…余程な事が無い限り有り得ない気がするけど。

 

 否定して取敢えずは納得してもらったが、本当に理解されているのだろうか。

 

 その後根掘り葉掘り聞かれたが、前の席にいるアルミンがちょっと不機嫌だった事はここに記しておく。

 

 ごめん。アルミン。

 

 

☆☆☆

 

 

「かわいいランキング?」

 

 アルミンはコニーに携帯の画面を見せながら満足そうに頷く。

 

「匿名で投票出来るマリア高生限定のwebサイト。マリア高校の新聞部が運営しています。興味がある方は是非部室まで来てください。ってこんなサイトあんのかよ」

 

 部活が終わり、昼間の土砂降りの雨と打って変わって綺麗な夕日が雲の間から顔を覗いている頃。

 

 ジャンとマルコの姿は無いが、中学時代の4人とコニーがプラスされ、いつもの5人という認識が強くなっていった。

 

 その5人で帰路についている最中。

 

 アルミンが学校の公式サイトを見ているときに面白い物を見つけたらしく、早速5人の中で話題になった。

 

 高校の公式サイトの中には生徒が自由に閲覧発信が可能な掲示板があって、そのサイトは全て新聞部の管轄内にある。

 

 アルミンが見つけたのは昨日更新された生徒に人気のランキングサイト。

 

「1年はミカサが1位か」

 

 ライナーが自分のスマホで件のサイトを見てみるとミカサが大々的に取り上げられていた。いつ撮った?という宣材写真と共に。

 

 だが、全校ではこの間新入生歓迎会で司会役だった2年のペトラさんが1位。

 

「男子の方はどうなんだ?」

 

 コニーはこのランキングにかなりの興味を寄せているらしい。

 

「えっと…。学年1位は…」

 

「おぉ~」

 

「まあ分かってたよね」

 

 一同が画面から呑気に鼻歌歌っているエレンに目を向ける。

 

 彼は学年部門でも全校部門でも1位。

 

 これならばナンパされて連絡先を聞かれるのも頷ける。

 

 彼らはその背景を知らないが、中学時代の栄光(?)から鑑みると激動のSP隊を組む必要があるかも知れないと腹を括る3人と全く知らないコニーであった。

 

「羨ま憎いぞエレン」

 

「え、なに?」

 

 行き当たりのないライナーの嫉妬がエレンへ飛び火する。

 

「くそっ、いつみてもイケメンだなおい」

 

「え、なんだ急に、流石に引くぞ…」

 

 完全なホモ発言にエレンのみならず他の3人がライナーから距離をとる。

 

 ただまぁ、エレンの容姿はアイドルの様な顔立ちにすらっとしたスタイルで高身長。男から見ても惚れると言う人も居るかも知れない。

 

 決してライナーをフォローしているわけではないぞ。

 

「ていうかこの写真どこで撮ったの?」

 

 アルミンがエレンの宣材写真をスマホの画面に大きく映して詰め寄る。

 

「なんか写真部の人に連れ込まれて…」

 

 エレンはやや辟易して答える。

 

 エレンが言うには写真部の部室に宣材写真を撮れるような撮影場所があるらしい。

 

 だが、お願いして撮ることは不可能らしく、写真部の部長が勝手に連れ去っていくらしい(ちなみに条件は分からないため学校七不思議の一つらしい)。    

 

「よくわからねーな。この学校」

 

 坊主頭が手を頭の後ろに組んで空を見ながら言う姿を、ライナーは今ハマっている大人の漫画(か○み○かり)に出てくる人物に当てはめていた(ついでにあいつは嫌いとブツブツ言っていたが、他のメンバーは歯牙にもかけなかった)。

 

「話は戻るけどさ、5人の中でかわいいランキング作ってみようよ」

 

 やはり色恋沙汰は終わらない。思春期男子にとって恋愛というものは避けては通れない道なのである。

 

「1位やっぱクリスタだろ。容姿はいうことなく抜群だし、性格もちょっと小悪魔でかわいいし」

 

 ライナーの熱弁激しく同意するアルミン。だがベルトルトは…。

 

「僕はクリスタよりミカサやユミルみたいなクールビューティーな人がかわいいと思うな」

 

 しかしエレンはこのかわいいランキングに物申したい気分だった。だが決して口には出さなかった。なにせ…。

 

(かわいいの定義から決めないといけないし、そんなことからやってたら日が暮れそうだ)

 

『自分の感性を押しつけるのは良くない。誰かが必ず妥協しなければならないから』なんて言葉を。自分の見える世界が必ずしも人と同じとは限らないからと中学時代の恩師の顔を思い出しながらエレンはあきれた顔をして、4人を置いて帰路につくのであった。

 

 

 翌週(木)

 

「大丈夫なのかそれ」

 

「気をつけた方が良いよ」

 

(ん?なんだ?)

 

 教室の片隅を陣取る我がグループの女子メンバー。

 

 だがいつものほのぼのとした雰囲気はなくどこか角が立っているような、または不安そうな雰囲気だった。

 

「エレンなにかあったのか」

 

「ん、なにが?」

 

 両手を俺の肩へ伸ばしズイッとライナーが近寄ってくる。

 

「いやエレンが女子を凝視するなんて珍しくて、ついな」

 

 あー、ばれてたのか。なんとなく俺がホモ扱いされるのかと思っていたが杞憂だったか。

 

「ミカサたちが思い詰めている様な顔をしててな」

 

 そういうとライナーはミカサたちの方へ視線をやる。

 

「うーん。俺たち男子が触れて言い話題か分からんからな、大事になりそうなら俺らを頼ってくれるだろ」

 

(まあそれもそうか)

 

「取り返しがつかなくなる前になにもなければいいんだが」

 

「お前が言うとフレグにしかならん」

 

「は?なんでだよ」

 

「今まで俺たちがどれだけの困難を乗り越えたことか。主にお前の女性問題で」

 

 くそっ。ぐうの音も出ねえな。

 

「そういえばエレンの元カノここにいるんだろ?」

 

「えっ、それ本当なのか…」

 

「いやベルトルトが一昨日見たって」

 

 その話がマジだったら…。うかつに恋愛なんてしてられん。

 

 教室も早足で抜けだしてベルトルトを探す。背が高いから見つかるはずだが…。

 

 教室棟1階にはおらず、中庭を挟んだ特別棟の方へ足を伸ばす。

 

「そうだ。あいつ何の役員だったっけ」

 

 教室に戻ろうとして渡り廊下にでた俺は踵を返した。今思えば直ぐにベルトルトを探す必要なんて無いと思った。

 

「あっ、ベルトル…ト?」

 

 2階へ続く階段から降りてきたのはベルトルトと元か…件の女性。目を疑った。

 

 その女性は以前の派手な金髪から黒髪のショートへとイメージ変化されている。着崩した様子も無く、交錯する群衆からも2人の姿はしっかりと確認できた。

 

 ふと彼らが降りてきた2階へ続く階段へ目をやると、ニヤッと不敵に笑うアカリ先輩の姿があった。

 

 その笑顔に囚われている間に彼らの姿は無くなっていた。

 

 謎だ……。

 

 ベルトルトと彼女が2人でいることもだが、それよりも俺には先輩の笑顔に大きな違和感覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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