凡矢理高校の不良くん (icy tail)
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第1話

ニセコイ好きなので書いちゃいました!
よろしくお願いします!


「ふぁ~。あー、ねむ」

 

欠伸をしながら歩いている男の名前は時藤橙(ときとうだい)

背は少し高めで、短めの黒髪を後に流し、カチューシャをしている。

顔は中の上くらい。見る人によって好みが分かれそうな顔だ。

見た目は少しガラが悪めだが、何かをされない限り害はない、まぁ言うなれば硬派な不良だ。

橙は転校先である凡矢理高校に向かっている。

そうして歩いていると、前からいかにも不良っぽい3人組が歩いてきた。

 

「どーするよ?学校サボっちまうか?」

 

「そーだな。ゲーセンでも行くか」

 

そんな会話をしながら、前から歩いてくる橙に気づかず歩いてくる。

橙も眠かったためか注意が散漫になっており、通りすぎ様に肩がぶつかってしまった。

 

「ああ。すんません」

 

橙はこちらの不注意もあったため、謝ったが…

 

「いってぇな。どこ見て歩いてんだよテメー」

 

「あん?謝ったろうがよ。大人しく行けや」

 

案の定、突っかかってきた。

橙は嫌そうな顔で続ける。

 

「面倒くせぇなぁ。こちとらお前らと違って忙しいんだよ」

 

その言葉でキレた不良の1人が殴りかかろうとした所で、後から声がかかった。

 

「おーおー!ウチの島で喧嘩たぁ度胸があるじゃねぇか!」

 

「次はどちらさんだよ、全くよぉ」

 

「なんだてめぇ…ひっ!しゅ、集英組の…!」

 

(集英組?…っつーことはヤクザ者かよ。面倒なことにならなきゃいいが…)

 

振り返った不良3人は、相手の顔を見るや否や逃げ出してしまった。

橙は取り敢えず礼を言うべく振り返る。

 

「すいません。助かりました」

 

(この人…相当強ぇな)

 

頭を下げて顔を上げると、右肩に入れ墨をいれた顔に傷のある男が人の良さそうな顔でこちらを見ている。

 

「おう!いいってことよ!気を付けろよ、坊主!」

 

「うす。それじゃ俺はこの辺で」

 

(この辺はこの集英組とやらのお陰で平和なんかね。まぁ怖がられてはいるだろうけど)

 

そんなことを考えながら歩き、ようやく凡矢理高校に到着した。

到着したはいいが、何やら門の前が騒がしい。

 

「坊っちゃん!!今日も元気に行ってらっしゃいやせ!!」

 

『行ってらっしゃいやせ!!!』

 

門の前にはリムジンが停まっており、その前に先程の集英組の人が立っていた。

 

「ありゃあさっきの…行ってらっしゃいってこたぁこの学校に組長の息子でも通ってんのかねぇ」

 

よーく見てみると、髪の毛にピンをつけた男子生徒が肩を落としながら立ち尽くしている。

どうやら組の人達に物凄いお節介を焼かれて困っているようだ。

 

「ははっ。ちと可愛そうだな…行ってやるかね」

 

そう言って橙は近寄っていき、声をかける。

 

「どうも。さっきは世話になりました」

 

「ん?おー!さっきの坊主じゃねぇか!」

 

「竜、知り合いか?」

 

「いや、坊っちゃんを送る前に不良に絡まれてたのを助けたんすよ!んで、坊主はこんなとこでなにしてんだ?」

 

「俺、今日からここに通うんすよ。転校生ってやつっす」

 

橙が転校生であることを言うと、こちらを不思議そうに眺めていた男子生徒が急に大声を上げた。

どうやら、橙はこの男子生徒のクラスに入るようだ。

 

「ああー!もしかしてウチのクラスに来る転校生ってお前か!?」

 

「まぁ、多分そうだ。俺は時藤橙。よろしくな」

 

「おう!俺は一条楽だ!よろしくな、時藤!」

 

「ああ。ってか呼び辛ぇだろ?橙でいいぜ」

 

「そうか?んならよろしくな、橙!俺の事も楽で構わねえ」

 

「ああ。ってかそろそろ行かないと間に合わなくねぇか?」

 

橙に言われ時計を確認する楽。

 

「そうだな。竜、行ってくる!」

 

「竜さん、また」

 

「はい!行ってらっしゃい!坊主も頑張れよー!」

 

結構時間が押しているようで、校舎に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校門をくぐってから、楽の案内で話ながら歩いている。

 

「橙はさ…竜とか回りにいた奴らが怖くねえのか?」

 

「あん?世間一般から見たらそりゃ怖ぇんじゃねえか?」

 

楽はやはり回りからの目を気にしているようで、少し緊張した様子で橙に質問をした。

 

「そう…だよな」

 

「まぁ俺からしたら、あんな良い人達捕まえて怖ぇとか失礼だと思うけどな。やっぱり普通の人は側を見て怖い怖い言ってっけど、実際になんかされたのか?っつー話よな」

 

「橙…」

 

「それによ、あんだけ誰かに愛情を注げるような人達が根っから腐ってるとは俺は思わねぇ。まぁ、その誰かさんは迷惑がってるみたいだがな」

 

「はは…そりゃ感謝はしてるさ。でも、少しいきすぎてる時があるんだよなあ」

 

楽は少し緊張がほぐれたようで、先程よりかは普通に話せている。

結構、橙の言葉が嬉しかったようだ。

ヤクザは名前だけで怖がられている節があるから、橙のような人は結構珍しく仲良くなれそうだと思っているのだろう。

実際にこの2人は波長が合うらしく、話が途切れることなく進んでいた。

もう少しで校舎と言うところで、橙がすぐに横の壁の向こうから何やら音が聞こえるのに気づいた。

 

「あん?」

 

「ん?どうした…え?」

 

橙が上を見上げると学生服を着た女の姿がある。

それも壁の上に。

さらには、今まさにこっちに飛び降りようとしていた。

楽も橙につられて上を見上げ驚いた顔をしている。

 

「…げ」

 

女の方もこちらを驚いた顔で見ているが、もうとまれないみたいで、楽の方に向かって真っ直ぐに落ちてきている。

 

「ちっ…仕方ねぇ」

 

「うおっ!?だ、橙!?」

 

橙は瞬時に判断を下し、楽を軽く押して移動させ、軌道上に入って腰を落とす。

そして…

 

「きゃっ!」

 

「…っと。危機一髪ってとこか」

 

見事にキャッチすることに成功した。

橙は女を降ろし安否確認をする。

 

「よぉ。ケガはねぇかよ」

 

「…えっ?う、うん!大丈夫よ…ってやば!私急いでるから!ありがとう!」

 

「おう。気ぃつけろよー」

 

なにが起きたのか分からないのか、数秒呆けていた女だが焦ったように走り去ってしまった。

結構失礼なことをされているのだが、橙は気にすることもなく手を上げて応えている。

 

「いっつつ…な、何だったんだ?今の…」

 

「んー、空から女が降ってきた」

 

「なんで橙はそんな平然としてんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのあと、楽と分かれて橙は職員室に向かった。

取り敢えず担任の所に行くように言われているためだ。

職員室の前に着き、ノックをして扉を開ける

 

「失礼します。今日からこの学校でお世話になる時藤橙です」

 

「おー、きたきた。こっちだこっち」

 

橙が中に入ると、女の眼鏡をかけた先生が手招きをしている。

歩き出そうとしたところで…

 

「あー!あなた、さっきの!」

 

「ん?おー、さっきの」

 

聞き覚えのある声が聞こえ、見てみると先程の女がいた。

俺の顔を見るや否や結構大きめの声で話しかけてきた。

どうやら、さっきの事を少し気にしていたみたいだ。

 

「いやー、さっきはごめんね?助かったわ!」

 

「まぁ落ち着けって。ここは職員室だぜ?」

 

「あっ…!」

 

「ははっ!元気でなにより!そんじゃ教室行くぞー」

 

こうして、先生の先導の元、教室に向かった。

その道中で…

 

「まさかあなたも転校生だったなんてね」

 

「だな。しかも同じクラスたぁ…運命だったりしてなぁ。出会いも劇的だったしよ」

 

橙が冗談交じりに言うと、顔を赤らめている。

 

「ちょっ!じょ、冗談やめてよ!///」

 

「くくっ…んな照れんなっての」

 

(それにしても…改めて見るとめっちゃ綺麗だな。モデルかなんかか?)

 

「もう!…な、なによ!」

 

見られていることに気づいたのか、警戒したように聞いてくる。

橙は隠すこともないかと思い、思ったことを言った。

 

「お前、すげー綺麗だよな。モデルかなんか?」

 

「…へっ?///ち、違うけど…」

 

照れながらも何とか取り繕うことに成功した。

だが、特に下心があったわけではない橙は気がついたように自己紹介をした。

 

「ふーん。そーいや、俺は時藤橙だ。好きに呼んでくれ」

 

「あっ!私は桐崎千棘!私も好きに呼んでくれていいわよ!よろしくね!時藤!」

 

「ああ。こちらこそ、千棘」

 

そうして、少し歩き教室に到着した。

 

「そんじゃ2人はここで待っててくれ。私が呼んだら入ってくれ」

 

「はい」

 

「ハイ!」

 

転校初日から盛りだくさんだが、まだ始まったばっかりだ。

この物語は凡矢理高校に転校してきた不良くんが青春を謳歌する物語である。

 

 

 




主人公紹介

時藤 橙(ときとう だい)

身長
181㎝

誕生日
10月15日

性格
良い意味でさっぱりしている、表裏のないタイプ。
意外としっかりしていて、集団でいると世話役になりがち。
喧嘩っ早くはないが、基本的に売られた喧嘩は買う主義。




衝動的に書きたくなって書きました!
質問などありましたら是非聞いてください!
感想、評価もお待ちしてます!


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第2話

教室の前で橙と千棘は待機してよばれるのを待っている。

 

「中が騒がしいな。そろそろか」

 

「そうね!緊張してきたー!」

 

橙は冷静に、千棘は緊張すると言いながらも楽しそうな顔をしている。

そして…

 

「入って桐崎さん、時藤くん」

 

「「はい」」

 

声がかかり、2人並んで教室にはいった。

ざわめきを受けながらも、教壇の横に立ち正面に向き直り、千棘から自己紹介を始めた。

 

「初めまして!アメリカから転校してきた桐崎千棘です。母が日本人で父がアメリカ人のハーフですが、日本語はこの通りバッチリなので、みなさん気さくに接してくださいね!」

 

そして、最後に笑顔をばらまいて終わりだ。

練習をしてきたのか、お手本のような自己紹介だったし、最後の笑顔で男子のほとんどが堕ちた。

教室中でかわいいだったり美人だったり色々な褒め言葉が飛び交っている。

普通であればこの後に自己紹介など地獄でしかないが、橙は全く気にしてない。

 

「んじゃ、次は時藤くんね」

 

言われて一歩前に出る。

千棘の時とは違う意味で好奇の視線を向けられているようだ。

 

「〇〇高校から転校してきました時藤橙です。趣味はアニメ鑑賞と読書。特技はスポーツ全般です。あー、あと見た目はこんなんですが普通の安全な人間なんで仲良くしてやってください。よろしくお願いします」

 

無難に自己紹介を終えた橙。

千棘程ではないがざわざわしている。

橙がふと教室を見渡すと楽を発見したようで、手を上げて応えている。

だが、どうやら楽の様子がおかしい。

視線は千棘に向いていて驚いた顔をしている。

そして次の瞬間…

 

「あーーーーー!」

 

急に立ち上がり千棘を指差して叫んだ。

千棘も気づいたようで口を開こうとしたが…

 

「あなたさっきの…」

 

「さっきの空飛ぶ女!!」

 

「はい?何よ空飛ぶ女って!」

 

「さっき校庭でオレと橙に向かって飛んできたじゃねえか!」

 

「ちょ…あ、あれは遅刻しそうだったから壁を飛び越えようとしただけで…」

 

「はぁ!?普通そんな発想になんねえよ!橙がいなかったらどうなってたことか!」

 

こんな感じで、だんだんとエスカレートしていき喧嘩が始まりそうになっていた。

まぁ、橙が黙っているわけもなく止めにはいる。

 

「おい。楽も千棘もそこまでだ」

 

「橙!?いや、でもよ…」

 

「時藤!だってこいつが…」

 

「でももだってもねぇよ。楽は俺が庇ったからケガもねぇし、千棘はさっきちゃんと謝ってくれたから問題ねぇ。これでまだ何か揉めることあんのか?」

 

「「うっ…」」

 

橙に論破された2人はなにも言えないようで終わりが見えた。

 

「うし。ほれ、楽は座れ。千棘は横に来い」

 

「あ、ああ」

 

「う、うん」

 

これで解決したと思っていると、何故か拍手が起こった。

どうやら、橙の手腕に向けての拍手のようだ。

 

「ははっ。あんがとなぁ」

 

少し嬉しそうに無邪気に笑ってお礼を言った橙。

今ので女子の何人かが堕ちたのは余談だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介が終わり、指定された席に着く。

席は橙と楽で千棘を挟むような席順になった。

 

「何かと縁があるな。よろしくな千棘、楽」

 

「ええ!同じ転校生だし心強いわ!」

 

「ああ!何か分かんないことあったら頼ってくれ!」

 

楽と千棘はまだ先程の事を少し引きずっているようで、少しいがみ合っているみたいだ。

お遊びみたいなものだから橙はスルーしているようである。

休み時間になると橙と千棘はクラスの人達に囲まれて質問責めにあう。

まぁ転校生の通例の様なものだろう。

ある程度おさまった頃、数人の生徒が寄ってきた。

 

「どーもどーも!転校生のお二人さん!」

 

「やっと話せるよー」

 

「そうね。私は宮本るり。こっちが小野寺小咲で、あの胡散臭そうなのが…えーっと、なんだっけ?」

 

「ちょっと!ちょっと!それはひどいんじゃないの~?俺は舞子集だよ~ん!よろしくぅ!」

 

やけに元気なのが舞子集。

なんかポワポワしてる美人さんが小野寺小咲。

舞子に辛辣な態度をとっている背が低い眼鏡っ娘が宮本るりだ。

 

「おう。舞子に小野寺に宮本な。よろしく。俺の事は好きに呼んでくれ」

 

「みんなよろしくー!」

 

橙と千棘は挨拶を返し、少し話をしていると唐突に舞子が口を開いた。

 

「ダイちゃんと桐崎さんは仲良さげだけど…もしかして付き合ってたりー?」

 

「なっ!?つ、付き合ってないわよ!///」

 

「まぁ付き合ってないぞ。出会って初日だしな。でも出会いに運命的なものを感じたのは確かだな」

 

「ちょっ!時藤!?」

 

橙は面白がって言っているのだが、実際に運命的な出会いを体験した千棘からしたら気が気でない。

 

「あー。あの空から桐崎さんが降ってきたって言うやつね」

 

「あれ本当なんだね。私びっくりしちゃったよー」

 

そうして他愛もない話をしていると急に楽が大きな声を上げた。

 

「あーーーーーーー!!?無い!!オレのペンダントが無い!!」

 

「どうした、楽?」

 

「ぺ、ペンダントが無くなった!」

 

どうやら楽が大事にしていたペンダントが無くなってしまったようだ。

思い当たる節は…

 

「ペンダント?…もしかしてあん時か?」

 

「あん時?…はっ!」

 

朝の一件。

楽も思い当たったようで千棘に非難の視線を向ける。

 

「な、なによ…?」

 

「…こんの疫病神がぁぁぁぁ!!」

 

「やくっ…!?ちょっとあんたねぇ!!」

 

自己紹介の時の続きが始まるかと思われたが、橙がまたしても間に入った。

 

「おい、楽。今のは言い過ぎだ」

 

「だってよぉ…」

 

「おめぇは女相手に謝れねぇようなダセぇ男なのか?」

 

「っ!き、桐崎!今のは言い過ぎだった!ごめん!」

 

橙がそう言うと、楽ははっとなり千棘に頭を下げた。

橙はその光景を頷きながら見ている。

こう言う男らしい所は非常に好感がもてるようで、素直に頭を下げた楽を暖かい目で見ている。

 

「別にいいわよ。私も悪いわけだし…」

 

「まぁ、とりあえず放課後にでも探してみようぜ」

 

「そうだな」

 

「そうね。私も手伝うわ」

 

こうして話がまとまった頃、先生が教室に顔だけだして用件を伝えにきた。

 

「そうだ。ひとつ言い忘れてたよ一条」

 

「へ?」

 

「桐崎と時藤に学校の事色々教えてやって欲しいからさ2人をお前と同じ飼育係にしたからよろしく!」

 

「ええっ!?」

 

そんなこんなで初日の授業は終わり、放課後。

橙と楽と千棘は飼育小屋の前にきていた。

 

「こりゃあすげぇな…」

 

「何よこの生き物の数は…」

 

「仕方ないだろ。ケガとかしてたんだから」

 

目の前にはたくさんの檻があり、犬や猫から蛇やイグアナのような動物までいる。

もはや、小さい動物園だ。

 

「うだうだ言ってても仕方ないわね。さっさと終わらせてペンダントとやらを探しましょ」

 

そう言って千棘はバケツいっぱいに汲んだ水を量も気にせずに花壇にぶっかけた。

 

「何してんだーーー!!?」

 

楽の絶叫が響く。

そして次は楽が動物にエサをやるのだが…

 

「えーっと…にわとりのエサの適量は…」

 

「細かぁぁぁ!!?」

 

本で調べで、秤でいちいち計ってエサをあげている。

千棘の絶叫が響く。

 

(こりゃだめだな)

 

さすがに見ていられなくなり、橙が動く。

 

「はぁ…お前ら。見てられん」

 

「「うぐっ…」」

 

「まずは、千棘」

 

「は、はい!」

 

「えーっと…まぁ、分かりやすく人間に例えるぞ?さっき千棘がやってたのは、喉乾いたーって言ったら顔面に口に入りきらない量の水を無理矢理ぶちまけられてるようなもんだ」

 

「た、確かに…。すいません…」

 

千棘はがっくしと肩を落とす。

続いては楽。

 

「次、楽」

 

「は、はいっ!」

 

「お前がやってたのは、毎日同じ量の飯しか目の前に出されないようなもんだぞ。本人は満足しているのかすら分からないのに」

 

「うっ…確かに」

 

楽も同じように肩を落とした。

まぁ、問題はここからだ。

 

「んじゃ、改善するぞ。まずは水やりな。水やりは、まぁ…結構浸るまであげてもいいが、満遍なく行き渡るようにしろ」

 

「イエッサー!」

 

千棘は敬礼をしてジョウロをもって水道に向かった。

 

「エサやりは、本じゃなくてコイツらそれぞれの適量を俺達が探してやらなきゃだめだ。あげすぎもだめだし、あげなさすぎもだめだ。難しいがある程度時間をかけてやってくしかねぇな」

 

「了解!」

 

楽は力強く頷き、本を閉じてエサの入った袋をもってそれぞれの檻に突撃していった。

その後、係の仕事を終えてペンダント探しをして1日目は終わった。

結局、楽のペンダントは今日は見つからなかったようだ。

 

 

 




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第3話

橙と千棘が転校してきてから1週間がたった。

学校には馴染めているが、楽のペンダントの捜索は未だに難航している。

 

「ふぅ。ちと遅くなっちまったな」

 

橙は委員会の説明を受けていて遅くなり、後から合流することになっていた。

今は説明が終わり、廊下を歩いている。

 

「ん?おー、小野寺。何してんだ?」

 

「あっ、時藤くん。えっと、委員が早く終わったから一条君の探し物手伝おうかと思って」

 

橙が校庭に向かって歩いていると、前の方に小野寺を発見して声をかけた。

どうやら、ペンダント探しを手伝ってくれるみたいだ。

 

「そりゃ助かるな。俺も行くから一緒に行こーぜ」

 

「うん。行こ!」

 

そうして、2人で楽達の所に向かい歩いていると、千棘の声が聞こえる。

何やら揉めている様子だ。

 

「なーにやってんだ?あの2人は」

 

「ど、どうしたのかな…?」

 

少し足早になり、向かっていく。

そして次はハッキリと聞こえた。

 

「どーせ昔好きだった子に貰った物とかなんでしょーけど!あーやだやだ。昔の事ズルズル引きずって女々しいったら無いわ!!」

 

千棘の非難の声が響いている。

ハッキリと物を言えるのは美徳であるが、いきすぎると相手を傷つけてしまう。

現に楽の顔には少し怒りの感情が見える。

さらには、橙の隣にいる小野寺も痛々しげな表情で2人を見つめている。

だが、千棘は止まらなかった。

 

「どーせその相手だってあんたにそんなもんあげた事なんて忘れてるにきまってんのに!ホンットダサ!!バッカみたい!!」

 

(ちっ…こりゃよろしくねぇな)

 

橙が止めに入ろうと踏み出す頃にはもう遅く、楽の怒号が響いた。

 

「うるっせぇな!!!!」

 

(くそっ…遅かったか)

 

「だったらもう探さなくていいからどっか行けよ!!!」

 

今のこの最悪な状況を後押しするように雨が降り始める。

 

「………分かった…」

 

楽の言葉を受けた千棘はこちらに振り向くことはせずに立ち去ってしまった。

橙は立ち尽くしている楽に近づいていき声をかける。

 

「楽」

 

「橙…俺…」

 

「それ以上は言うな。誰にだって大切なもんはある。千棘もそれは分かってるはずだ。ただ、上手く噛み合わなかっただけの事だ」

 

「そう…なのかな」

 

「ああ。それより探そうぜ。大事なもんなんだろ?今日は小野寺も手伝ってくれるみたいだしよ」

 

そうして、橙達は3人でペンダント探しを再開した。

結局この日も見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。

橙はいつもより少し早く学校に向かっている。

 

「んーと…おっ、やっぱりいたな」

 

学校に到着した橙は、楽がペンダントを失くしたであろう場所に出向いている。

目の前には1人でペンダントを探している千棘の姿があった。

 

「おーおー。随分と働き者じゃねぇの」

 

「と、時藤…!な、なによ!説教でもしに来たの?」

 

「まぁ、説教の1つでもしてやりたいところだが…千棘も分かってんだろ?」

 

「それは…」

 

「例えば…お前がいっつもつけてるそのリボンとかよぉ。大事なもんだろ?失くして見つかりませんーで諦められんのか?」

 

橙がそう言うと、千棘は少しうつむきながら首を横に振る。

 

「ま、そーゆうこった」

 

千棘も悪気があってあんなことをした訳ではないだろうし、橙はこれ以上追求するつもりもない。

だが、千棘は少し気にしてしまっている様子で浮かない顔をしている。

 

「いつまでもしけた面してんじゃねーよ。美人が台無しだせ?」

 

「う、うるさい!」

 

「くくっ。まぁ探そうぜ?手伝うからよ」

 

「…うん!ありがと!」

 

元気が出たようでなによりだ。

そして、2人で探しはじめて30分後。

もうそろそろ切り上げようと思っていると…

 

「あーーー!!!」

 

「おっ?あったのか?」

 

「うん!あった!ほら!」

 

そう言って千棘が見せてきたのは鍵穴のついた大きめのペンダントだった。

 

「これでひと安心だな。んじゃ楽が登校してきたら返すか」

 

「ううん。放課後に返すわ」

 

「ん?…りょーかい」

 

少し不思議に思った橙だが、千棘に任せるようで了承した。

そして放課後。

橙は楽と一緒に校庭に向かって歩いていた。

 

「悪いな、橙。毎日付き合わせちまって」

 

「んな事気にすんなって。困ったときはお互い様だからよ。俺に何かあったときに助けてくれりゃそれでいいさ」

 

(まぁ、もう見つかってんだけどなぁ)

 

「ああ!その時は任せてくれ!」

 

そうして歩いていると…

 

「一条君!時藤君!」

 

「小野寺?」

 

「どうしたんだ?」

 

「あの…桐崎さんが来て欲しいって…」

 

橙達は少し嫌そうな顔をしている楽の背中を押して千棘が待つ場所へと向かった。

着いたのは校舎の裏側。

 

「ここだよ」

 

「なんだってんだよ…こんなところに呼び出して」

 

「まぁまぁ、いいじゃねーかよ。…ん?あれ千棘じゃねぇか?」

 

橙が指差す方を見てみると、少しはなれたところで千棘が何やら構えている。

 

「…なにやってんだ、アイツ」

 

楽が不思議そうな顔で眺めていると、千棘が何かを楽の顔に向かって投降した。

それは物凄いスピードでまっすぐに飛んでくる。

 

「…っと」

 

「おわっ!!?」

 

楽は驚いて尻餅をついたが、投げられたなにかは橙が手を付き出してキャッチしたようだ。

 

「ほれ。楽、手出せ」

 

「お、おう…これ!俺の!」

 

「な、なんか鍵穴に入ってるよ?」

 

小野寺が鍵穴を指差して言う。

見てみると、折りたたまれた紙が出てきた。

 

「紙だな。楽、見てみろよ」

 

「ああ。…英語…読めねぇ」

 

「あん?ちと貸してみろ」

 

紙には英語で何かが書かれていて、楽は読めないようなので橙が受け取った。

書いてある事を読んでみると…

 

「ぶふっ!」

 

「だ、橙!?」

 

「時藤くん!?」

 

「だ、大丈夫だ!」

 

(あんにゃろー!思わず笑っちまったじゃねーかよ!ほんっとに素直じゃねーなぁ)

 

「んんっ!読むぞ…『あんたがあまりにも鈍くさいから私が代わりに見つけておいてあげたわ!感謝しなさいよね!それと…ごめん』だってよ」

 

「そっ…か。はぁ…本当にかわいくねーなあ」

 

楽は橙と同じことを思ったようで、ため息をついている。

だが、少し嬉しそうだ。

 

「まったくだ」

 

「…それに、あいつの言ってる事ももっともなんだよなぁ…オレもいいかげんこんな約束忘れちまった方がいいのかなぁ…」

 

(このアホは…)

 

橙が口を開こうとすると、意外にも小野寺が口を開いた。

 

「そっ…そんな事ないよ…!」

 

「っ!?」

 

「一条君…誰かと約束したんでしょ?たとえそれが10年前の子供の約束だとしても…その人にとっては大切かもしれないよ…?」

 

楽は驚いたようにして話を聞いている。

橙は楽のもっているペンダントの事を少ししか知らないが、今の小野寺の話で大体察することができていた。

 

(へぇ…昔の約束で楽自身が相手の事を覚えてないか。でも肌身はなさず持ってるってことは…そー言うこった)

 

橙が考え事をしていると、小野寺は感情的になって自然と言葉にしてしまっていたらしく、顔を赤くしてあたふたし始めた。

楽もなんとも言えない表情をしている。

橙はそんな2人に向かって口を開いた。

 

「小野寺の言う通だな。たとえ相手が忘れちまってても、自分が大事だと思うなら、誰になんと言われようと、自分だけはその約束を忘れちゃいけねぇ」

 

橙がまっすぐに楽に向かって言うと、楽は数秒考えた後にスッキリした顔で言った。

 

「…小野寺も橙もありがとな。なんか元気出たわ。そうだよな…もし今後、その子に会えても会えなくてもオレにとって大事な約束なのは変わんねぇ。大事に持っとくよ」

 

こうして、ペンダント探しは終わり解散となった。

楽は足早に帰って行き、橙も帰路に着こうと思ったが、少し感じた違和感を確かめるべく先程の場所へと戻った。

すると…

 

「ハァ……また、聞けなかったな…私のバカ…」

 

小野寺が手に持った何かを見ながら呟いていた。

橙はゆっくりと近づいていき後ろから声をかける。

 

「なーにが聞けなかったんだ?」

 

「ひゃあぁっ!!?」

 

案の定驚いた小野寺は手に持っていた物を落としてしまう。

それは、鍵だった。

 

「…へぇ」

 

「こ、これはっ、その…」

 

「小野寺が約束の子なのか?」

 

「…分からないの。だから聞きたいんだけど…なんか聞けなくって」

 

橙は単刀直入に聞くが、小野寺自身も答えが出せていないようだった。

これ以上は聞くのも悪いと思い、話を終わらせて橙は歩き出す。

 

「そっか…まぁ、頑張れよ?応援してっからよ」

 

「う、うん!ありが…えっ?応援?」

 

普通に手を振ろうと思ったが小野寺だったが、気になる単語を見つけて疑問を投げ掛ける。

橙は振り返りながらなんともなしに言った。

 

「ん?そーだぞ。好きなんだろ?楽の事」

 

「ええぇっ!!?な、なんで分かったの!!?」

 

「いや、見てりゃ分かる。だから頑張れってこと。そんじゃ俺は帰るな」

 

「えっ?…う、うん!バイバイ!」

 

そうして、2人とも帰路に着いた。

小野寺が家に帰ったあと、宮本に連絡したのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小野寺が家に帰ったあと、宮本との電話で…

 

「ね、ねえ…るりちゃん!わ、私って分かりやすい…?」

 

『なに言ってんのよ小咲………だだ漏れよ』

 

「やっぱりぃぃぃ!!!」

 

こんなことがあったそうな。

 

 

 




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第4話

ペンダントの一件が終わり、翌日。

今日は学校が休みだ。

橙はとりあえずすることもないため、街に出ていた。

 

「どーすっかなぁ。来たはいいがする事ねーよ」

 

考えながら歩いていると、前の方で男の集団が女を囲んでいるのが目にはいった。

 

「あん?ナンパか?…って千棘じゃねーか」

 

千棘は無視してやり過ごそうと思っているみたいだが、結構しつこく話しかけられている。

 

(1人か?何にせよ行くか)

 

橙は少し足早に千棘の方に向かっていき声をかける。

 

「よぉ、千棘。待ったか?」

 

「とき…だ、橙!待ってないわ!」

 

「ならいいけどよ。…ってかあんたら何か用?」

 

千棘が乗っかってきたのを確認した橙は、千棘を囲んでいた男達を軽く威圧しながら話しかけた。

 

「べ、別になんもねえよ!おい、行こうぜ!」

 

すると、男達は足早に立ち去っていってしまった。

逃げ出した男達を見ながら橙はため息をはいている。

 

「はぁ…だっせぇ。逃げ出すくらいなら初めからやんなっての」

 

「と、時藤!ありがとう!」

 

「ありゃ?もう橙って呼んでくれねぇのか?」

 

「なっ!?///」

 

助けてくれた橙にお礼を言った千棘。

橙はニヤニヤしながら茶化すように返した。

 

「ははっ!冗談だっての!」

 

「うう~///」

 

もうこの2人は千棘が橙にからかわれると言った構図が出来上がってしまっているようだ。

千棘は顔を赤くして唸っている。

 

「ってか1人なのか?」

 

「い、いや…それはその…」

 

橙が気になっていた事を聞くと、明らかに動揺しはじめる千棘。

すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「おーい!買ってきた…げぇっ!?」

 

「ん?楽?…マジかお前ら?」

 

飲み物を持って現れた楽を見て、ある1つの答えにたどり着いた橙。

驚き半分、呆れ半分といった顔で2人を交互に見ている。

 

「そ、そんなわけ!」

 

「っ!あ、あるに決まったんだろ~!!」

 

(…ふーん。このうざってぇ視線が原因か…って竜さんもいんじゃねーかよ!?)

 

千棘が否定をしようとした瞬間に2人の後ろから視線を感じた。

橙が気づかれないようにそっちを見ると、この前世話になった竜が建物の影から顔を出しているのが見えた。

それにより、橙はある程度の事情を察したようで騙されたふりをすることにした。

 

「…へぇ。そりゃめでてーな」

 

「サ、サンキュー!そんじゃ俺達はこれで!」

 

「あっ!ちょっ…ちょっと!」

 

これ以上聞かれるのを嫌がった楽が千棘の手を引いて走り去ってしまった。

橙は想定内だったようで、ある場所へと歩き出した。

 

「…行ったな。んじゃ行きますかねぇ」

 

橙が向かったのはビルとビルの間の薄暗い路地。

路地に入り少し歩くと、後ろから声をかけられた。

 

「おい、貴様」

 

(やっぱり釣れたな。この人の視線だけ少し妙だったしなぁ)

 

「やっぱり来たかよ」

 

「気づいていたのか」

 

橙の前に現れたのは、スーツに眼鏡をかけた男…クロードだった。

橙に接触するために追ってきたようだ。

 

「あん?1人だけ別の視線を向けてりゃ当たり前だろ」

 

「…ほぉ。貴様、何者だ」

 

「はぁ?ただの高校生だけど?」

 

「何を言うか。ただの高校生が私の殺気を受けて平然としてられる訳がなかろう」

 

「…それもそうか。俺はあんたらみたいな血生臭い生き方はしてねーよ」

 

「…そうか」

 

「まぁ、俺があんたに言いたいことは1つだけだ」

 

「言ってみろ」

 

「千棘と楽。あの2人に危害を加えるってんなら…捻り潰すぞ」

 

橙が全力で殺気を飛ばしながら言うと、少し驚いた顔をした後、思案顔になり数秒してから口を開いた。

 

「…ふむ。君は敵ではないようだな。試すようなことをして悪かった」

 

「…はぁ。ま、お互い様でしょう。あー、あともう1つ言うことがあります。…本当に千棘が大切なら判断を誤らないようにしてくださいね」

 

「…肝に銘じておこう」

 

その言葉を最後にクロードは去っていった。

緊張の糸が切れた橙は深いため息をはく。

 

「はぁーーーーー。疲れた…」

 

(楽に向ける視線はあれだったが…あんだけ千棘に優しい視線を向けれてんだ。悪い人じゃねーんだろうな)

 

「それにしても…喧嘩にならんくて良かったぜ。あの人には多分勝てねぇ。いやー、世界は広いな」

 

そんな事を言いながら、橙は今度こそ帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街で楽達と遭遇した日の翌々日。

学校に登校すると何やら騒がしい。

取り敢えず中心になって騒いでいる舞子に話を聞くことにした。

 

「うーっす。なんの騒ぎだ?」

 

「お!ダイちゃん!聞いてくれよー!それがさ!楽と桐崎さんが付き合うことになったらしくてさ~!」

 

「ふーん。ほどほどにしとけよな」

 

(あいつらバレんの早すぎ。事情があるにしてもフォローできねーぞこれじゃあ)

 

「ありゃ?あんま興味ない感じ?」

 

「まー、お前らよりかはねぇよ」

 

そんな事を話していると、楽と千棘が一緒に教室に入ってきた。

教室にいる生徒の視線が2人をとらえる。

そして、待ってましたと言わんばかりに一斉に騒ぎだした。

 

「おめでとーーー!!!」

 

「お前ら付き合うことになったんだってな!!」

 

「末永くお幸せにーーー!!」

 

「「なっ…なあっ…!!?」」

 

まさかの事態に楽と千棘は絶句している。

どうやら、一昨日に2人でいるところをクラスの奴に見られていたらしい。

この空気は既にどうにもならないところまできてしまっている。

 

「ちょちょちょ!待てよみんな!全部誤解なんだってば!!」

 

「おいおい照れんなって~」

 

「だから話を聞けって…!これには色々と深い訳が…」

 

どうにか誤解を解こうと、楽が皆に言い聞かせるように話し出したが途中で言葉が止まり、絶望した表情で窓の外を見ている。

視線を追ってみると、クロードが窓の外に生えている木の枝にのって双眼鏡で様子を伺っていた。

 

「はぁ…何してんだあの人は…」

 

(こりゃ終わったな…御愁傷様)

 

結局、監視されている中で本当の事が言えるはずもなく、誤解は急速に膨らんでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日。

この日もどうすることもできずに2人は演技を続けていた。

昼休み、楽と千棘は人があまり来ない屋上で、軽い話し合いのようなことをしている。

 

「…ハァ。これじゃあ…いつまでたっても…」

 

「まぁでもよ、別に秘密を守れるような親しい友達になら言ってもいいんじゃねぇか?」

 

2人で抱えるには大きい問題のため、共有できる人が欲しい。

そんな時に屋上に現れたのは…

 

「んなら立候補していいか?」

 

「橙!?いつの間に…!」

 

「時藤…」

 

橙だった。

2人を心配した橙は、2人の後を追って屋上に向かっていたのだ。

 

「まぁ、聞かせてみ?」

 

「…ありがとな。実はーーー」

 

そうして、2人は橙に事の成り行きを話し始めた。

 

「ーーーって言う訳なんだ」

 

話を聞き終わって、第一声。

橙は…

 

「大変だなぁ、お前ら」

 

「そうなのよ!」

 

「もうどうしたらいいか…」

 

「まぁ…できる限り手助けはするから、上手くやれよ」

 

「ああ。サンキューな」

 

「本当に助かるわ…」

 

2人はしみじみと橙にお礼を言った。

橙は気にするなと言うような感じだが、2人からしたらありがたいことこの上ないのだろう。

 

「あー。あと、いざと言う時にお前らに自由が与えられなかったら俺に言ってくれ。ヤクザだろうがマフィアだろうがぶっ飛ばす」

 

この先2人がどうなって行くかはわからないが、心強い味方がいるのは確かだ。

 

 

 



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第5話

橙が千棘と楽から恋人のふりの話を聞いた翌日。

 

「うーっす」

 

「おっはよー!時藤!」

 

「おーす、橙」

 

教室に着いて取り敢えず挨拶を交わす。

なにやら千棘の機嫌が良いみたいだ。

 

「なんか良いことでもあったのか?いやに元気じゃねーの」

 

「聞いてよ!今日、調理実習あるでしょ?」

 

「そーだな」

 

「そこで今日こそは友達を作るの!」

 

「おー、いーじゃねぇか。俺も手伝ぜ」

 

「本当!?そこのバカもやしと違って頼りになるわ~!」

 

「けっ…言ってろ」

 

そうして調理実習の時間。

 

「課題はケーキか」

 

「これまた手間の掛かるものを…」

 

「よ~し!みんながびっくりするような美味しいケーキを作るわよ!」

 

橙達は上手く班になることに成功し、準備を始めている。

千棘は人一倍意気込んでいる様子だ。

 

「…つーかよ…なんだお前、そのカッコ」

 

「し、仕方ないじゃない!クロードが用意したのがこれだったんだから!」

 

「ははっ。可愛らしいじゃねーの。似合ってんぞ?」

 

「そ、そうかしら?///」

 

「おう。…それにしても、楽はエプロン似合いすぎだろ。なんかこう…毎日着けてるっつーの?そんな感じだよな」

 

「あながち間違ってないんだよな…」

 

確かに、楽は毎朝組の全員分の朝食を用意しているから間違ってはいない。

そんなこんなで、材料等の準備も終わり調理に入る。

だが、その前に…

 

「んじゃ、先に1つ聞いとくぞ?お前ら料理できっか?」

 

「まぁ、俺はそこそこ」

 

「わ、私は…す、少しなら…」

 

「オーケーオーケー。楽はできて千棘はできないな」

 

「うっ…」

 

「くくっ。んな気にすんなよ?まぁ、俺と楽が教えながらやりゃあちゃんとできんだろ」

 

肩を落とす千棘を軽く慰めながら調理に取り掛かる。

取り敢えずレシピを見ながら…

 

「いいか、千棘。料理ってのはな下手なアレンジはいらねぇんだ。基本に忠実にってのが失敗しない方法だったりする」

 

「ふむふむ…じゃあまずはこの薄力粉?を90グラムね!」

 

「ちゃんと計れよー」

 

「もちろんよ!えっと…このくらいかな」

 

分量は千棘に任せて目を離し他の材料を出していると、バサッという音が聞こえた。

 

「バサッ?…あちゃー」

 

「橙…」

 

「言うな楽よ…根気強く付き合ってやろう」

 

「…はぁ。仕方ねえか。そしたら橙はあいつを見といてくれ。俺は材料取ってくる」

 

「りょーかい」

 

そうして二手に分かれて作業を続けることにした。

橙は薄力粉を全部ぶちまけた千棘に近寄り声をかける。

 

「千棘。そーゆうのは少しずつ足していって計るんだぞ?だから袋に入れる切り込みも少しでいいんだ」

 

「そうなの?全部出しちゃった…」

 

「まぁ失敗はしゃーない。千棘が投げ出さない限りは付き合うからよ」

 

「時藤…。よしっ!私がんばる!」

 

そう言って気合いを入れる千棘を横目に橙は楽を探していた。

少し視線を彷徨わせると楽は舞子と話ながら百面相している。

 

「何してんだ?あいつら…ま、いいか。千棘ー、次いくぞー」

 

「はーい!…えーっと、次は卵をゆっくりかき混ぜる…ああっ!」

 

回りを気にせずに作業を続ける。

千棘が卵の入ったボウルをかき混ぜようとしたのだが…

力の入れすぎで卵が宙を舞う。

 

「おっ…と!千棘…もうちっと優しくな?」

 

「うっ…はい…」

 

橙のお陰で床に落ちることはなかったが、千棘は落ち込んでしまっている。

橙はもう一度ボウルを渡した。

 

「ほれ、もう1回やってみろ」

 

「こ、こうかしら?」

 

「んーと…ちょっと失礼」

 

「え?…ひゃっ!と、時藤!?///」

 

「いいか?かき混ぜる時はこのくらいの力加減でだな…って聞いてっか?」

 

「き、聞いてる!けど…ち、近い///」

 

なんとなくまた同じことの繰り返しになる予感がした橙は千棘の後ろから手を伸ばす。

半ば、無意識での行動だった。

そうなるとどうしても密着する形になるわけで千棘は顔を真っ赤にしながらオロオロしている。

幸い、誰にも見られていなかったようだ。

 

「うおっ!?わ、悪ぃ!無意識だった!」

 

「えっと…い、嫌ってわけじゃない…から…///」

 

「そ、そうか」

 

自分がしていることに気づいた橙は即座に千棘から離れる。

お互いに顔を赤くして、初々しいカップルのようだ。

そんな時、やっと楽が戻ってきた。

 

「すまねえ!遅くなった…ってどうしたんだ?」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

「そ、そうね!なんでもないわね!」

 

橙に比べていまいち取り繕えていない千棘。

楽は不思議そうに2人を見ていた。

 

「まあ、いいけどよ。そんなことより材料持ってきたから早く作っちまおうぜ」

 

「そうだな」

 

そして、そこから橙と楽の2人で千棘をフォローしながら作業を進めていった。

その途中でフライパンから火があがったりオーブンが爆発しそうになったりとなかなかに壮絶な時間だった。

橙は終始楽しそうにしていたが、楽は疲れすぎて魂が抜け掛かっている。

 

「うへぇ…つ、疲れた~」

 

「くくっ。おつかれさん」

 

「橙は余裕そだよな…」

 

「まーな。なんか楽しいじゃねーか。こーゆうのもたまにゃ悪くねぇ」

 

「ま、それもそうか!…って桐崎は?」

 

「ん?千棘はオーブンとにらめっこしてんぞ」

 

2人でそんな話をしていると、焼きあがったようだ。

橙と楽は千棘の元へと歩み寄る。

そして、オーブンを開けてケーキを取り出してみると…

 

「嘘でしょ…」

 

「真っ黒…」

 

「ははっ!まぁこんなこともあるわな!」

 

真っ黒に焦げたケーキが完成していた。

3人ともそれぞれ別の反応をしている。

クラスの連中も若干引き気味で変な空気になっている。

 

「ううっ…」

 

すると、ケーキを持っている千棘の目に涙が溜まっていき誰が見ても分かるほどに落ち込んでしまっている。

 

「ら、楽!愛しの彼女の手料理が食べられるなんてうらやましいな~!」

 

「はぁ~!?」

 

「いやー!俺も食べたいけど、やっぱりここは恋人の一条が食べるべきだよな~!」

 

「ちょっ!おい…」

 

そんな様子の千棘を見た舞子が率先して楽にケーキを押し付けようとしている。

楽も仕方ないと決心しようとしたところで橙が動いた。

 

「なに?お前ら食わねぇの?んじゃ俺がもーらい!」

 

「えっ…あっ!それ…焦げて…」

 

「ん?まぁ見りゃ分かるぞ」

 

「それに美味しくないと思うし…」

 

「はぁ?んなの食ってみなきゃ分からんだろ。それによぉ…一生懸命作ってたじゃねーか」

 

「それは、そうだけど…」

 

「そんなら見た目が悪いからって食わないでポイなんてこたぁしねーさ。ってことで…いただきます!」

 

そう言って橙はケーキを1口。

もう千棘は観念したのか、緊張した様子で橙の反応を待っている。

そして…

 

「…ちょーうめぇ!!!」

 

「へ…?」

 

「いや!だからうめぇって!ほれ、食ってみろよ!」

 

橙は興奮した様子で千棘にケーキを差し出す。

そして1口…

 

「えっ!?う、うん!…あむ…っ!?お、美味しい…」

 

まさかの反応にクラス全体も驚いている。

そして結局、ケーキはクラスの全員が食べた。

クラスの皆が自分のケーキを誉めているのを見ながら千棘は最初こそ戸惑っていたものの、今は嬉しそうにしている。

 

「これでクラスには馴染めそうか?」

 

「うん!ありがと!」

 

「そうか。なら良かった」

 

こうして調理実習は終わり、千棘の友達大作戦は無事に成功した。

片付けが終わったあと、なぜか楽が倒れていたがまぁそれは良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調理実習があった日の夜。

千棘の部屋。

 

「今日は楽しかったな~!」

 

千棘はベットに寝転がりながら今日のことを思い出していた。

 

「ケーキも美味しかったし…ってあれ?あの時………っ!?///」

 

楽し気にしていたと思ったら、顔が急激に赤くなり始めた。

その原因とは…

 

「ちょっ!あ、あれって…!か、間接キス!!?///」

 

千棘がケーキを食べた時、橙は自分のフォークでケーキを差し出してきていた。

今更ながらそれに気がついたのだ。

 

「うう~///」

 

千棘が悶絶したのは言うまでもない。

尚、橙は自然な流れすぎて気づいてすらないもよう。

こんなことがあったとさ。

 

 




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第6話

調理実習があった日の翌日。

千棘は皆と仲良くなれたようで休み時間に色んな人と話しているのを見かけた。

そして、放課後。

係の仕事を楽と千棘に任せて屋上に来ていた。

 

「…あの2人。ほんといつも一緒にいるのね」

 

「だよな。本当に良くやるよなぁ」

 

「…うん。いいよね…ラブラブで…」

 

「いいわけないでしょ。あんたはどうするのよ」

 

「そうだぞ、小野寺。楽にアタックしてこい」

 

「ええ!?」

 

「そうよ。そうしなさい…って言うか…時藤君はいつからいたの?」

 

「ん?最初から?」

 

「わわっ!?と、時藤君!?気づかなかった…」

 

そして、何故か小野寺と宮本と一緒にいた。

 

「あなたもあの2人と同じ係よね?なんでここにいるの?」

 

「あの2人に世話の仕方を教えたのは俺だからよ。俺がいない時でもちゃんとできてるかをここで監視してんのさ。んで、監視してたら小野寺と宮本が来て俺に気づかずに話を始めたって訳だ」

 

「そう…。この際、時藤君も聞いてちょうだい」

 

宮本は小野寺が楽のことを好きだと言うことを知っているのを理解したのか話に加える方向でいくみたいだ。

 

「構わんぞ。ってことで小野寺、行ってこい」

 

「む、無理だよ~!」

 

「まあ、冗談はさておき…気持ちは伝えねぇのか?」

 

「…だ、だって…一条君は彼女がいるんだよ…?」

 

「んなもん理由にならねえっての。結局自分の気持ち次第だ」

 

「そうよ、小咲。相手に好きな人がいるからってアタックしちゃいけない決まりなんてないんだよ?」

 

「…それは…そうだけど…」

 

やはり小野寺は迷っているようで、いまいち煮えきらない様子だ。

そこで…

 

「…ふむ。宮本、ちょっといいか?」

 

「どうかしたの?」

 

橙は小野寺から少し離れたところに宮本を呼び、作戦会議を開いた。

 

「あの様子じゃあ、ただ背中を押して行ってこーいってだけじゃ意味ないよな?」

 

「まあ…そうね」

 

「そこでだ……………ってのはどうだ?」

 

「それいいわね。お願いできる?」

 

「おうよ!まーた楽しくなりそうだ!」

 

「…時藤君はなんで小咲の応援をしてくれるの?桐崎さんと仲良いわよね」

 

「ん?まぁ、友達思いの誰かさんに感化されたってところかね」

 

「…そう言うことにしとくわ」

 

宮本は納得していなさそうだが取り敢えず諦めたようだ。

そうして、会議は終えた2人は即座に行動を起こす。

 

「んじゃ着いてこーい!」

 

「小咲、行くわよ。チャンスぐらいは作ってあげるから」

 

「え…!?ちょっ…!待って何する気…」

 

橙を先頭に自分のクラスに向かう。

そして…

 

「到着!宮本、作戦通りでいくぜ?」

 

「ええ」

 

「も、もう何がなんだか…」

 

混乱する小野寺をよそに橙は教室の扉を開いた。

 

「楽~!」

 

「ん?どうした、橙?」

 

「今日、楽ん家で勉強会しよーぜ!」

 

「俺ん家?別にいいぞ」

 

楽からの了承を得た橙は教室の外で待っている2人に声をかける。

まぁ橙だけなんて言ってないからな。

 

「マジ?やったぜ!いいってよ…宮本、小野寺!」

 

「……はい?」

 

「良かったじゃない、小咲」

 

「ええっ!?る、るりちゃん!?」

 

「言質はとったぜ、楽!」

 

「は……はぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

そんなこんなで、強制的に勉強会が開催されることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

楽の家…集英組の玄関には先程のメンバープラス、千棘と舞子がいる。

集英組の面々は楽の友達が来たと言うことで超歓迎ムードだ。

強面の男達が笑顔で迎えてくれている。

 

「お待ちしてやしたぜ坊っちゃぁ~ん!!」

 

「…ああ。茶ァ頼む…」

 

「了解しやしたァ!!」

 

楽の一声で全員が動き出す。

橙は指示を出している竜の元へと挨拶に向かった。

 

「竜さん。ご無沙汰してます」

 

「おー!今日はゆっくりしていってくれや!」

 

「はい。あと、自己紹介が遅くなりました。時藤橙です。改めてよろしくお願いします」

 

「おう!橙な!ま、上がってくれ!」

 

「それでは、お邪魔します」

 

そうして、橙は少し遅れて楽の部屋に向かい全員が集まったのを確認して勉強会が始まった。

少し時間がたった頃、小野寺が口を開いた。

どうやら分からないところを宮本に聞くつもりらしい。

 

「ねぇるりちゃん。ここ解ける?」

 

「んー?………ねぇ一条君。ここ、小咲に教えてあげて欲しいんだけど」

 

「えっ!!?」

 

「るっ…!!るるる、るりちゃ…」

 

「いいから行け」

 

すると、機転をきかせたと言うか…強制的にと言うか宮本が小野寺を楽の元へと向かわせた。

橙は取り敢えず宮本に向かって親指を立てる。

 

(グッジョブ!宮本!)

 

(小咲は押しに弱いから楽勝よ)

 

そんなことをしていると、楽と小野寺が解こうとしている問題に千棘が横から目を通している。

なんとなく、割り込みそうに思えた橙は行動を起こした。

 

「千棘ー」

 

「なにー、時藤?」

 

「英語得意だろ?教えてくれよ」

 

「いいわよ!任せてちょうだい!」

 

実際はそこまで困っていないのだが、取り敢えず千棘を呼ぶことに成功した。

千棘は橙に頼られたのが嬉しかったのか鼻歌交じりに寄ってくる。

その後も勉強会は続いたが、勉強だけで終わるわけもなく次第に話し声が増えてきた。

そんな時、ふと千棘が口を開く。

 

「ねーねー小野寺さん!小野寺さんは好きな人とかいないの?」

 

「「っ!!?」」

 

(天然ってこえー)

 

大袈裟に反応したのが2人。

言わずもがな小野寺と楽だ。

 

「な…お前いきなり何聞いてんだよ…」

 

「何って…ただのガールズトークじゃない」

 

「わ…私は今はそういう人は…」

 

小野寺のこの言葉で楽は元気を取り戻したようだ。

小野寺に好きな人がいないと分かったのが嬉しかったらしい。

そんな楽をよそに千棘は小野寺に便乗するように続けた。

 

「…そっかー。私もまだそういう人いなくてさー。早く素敵な恋とかしてみたいんだよねー」

 

(このアホは…。自分達の設定忘れてやがんな)

 

千棘は素で恋人のフリのことを忘れて話しているようだ。

そういう人はいないと言いながらも、視線はチラチラと橙に向いている。

だが、今はそんなことを気にしている暇もない。

その場にいる全員の時間が停止しているなか、やっと気づいた千棘が誤魔化しにかかる。

 

「っ!!!!ジョ…ジョーク~!!ジョークです今のォ…!!」

 

「こ…こらひどいぞハニー!!僕という人がありながら…!!」

 

慌てて乗ってきた楽もこれまた酷い。

2人揃って誤魔化すのが下手すぎる。

 

「はぁ…だめだこりゃ」

 

(あーぁ。小野寺はまだしも宮本は勘づいたろーな)

 

現に宮本は怪しげな視線を2人に向けている。

小野寺は何がなんだか分からないといった様子だ。

舞子はニヤニヤしながら成り行きを見守っていたが、唐突に口を開く。

 

「なぁなぁ桐崎さん!オレもちょっち聞いていい?」

 

「へ?」

 

「お前らってぶっちゃけどこまでいってんの?」

 

舞子の質問に千棘と楽は思いっきり吹き出しさらに動揺が加速していく。

 

「なぁっ!?ど…どどどど…どこまでとおっしゃると…?」

 

「それはもちろんキ…むぐっ?」

 

「お前ちょっとこっち来い…!!」

 

これ以上はさすがにまずいと思ったのか、楽が舞子を連れて物理的に離脱していった。

やっと嵐が去ったが、場の空気は悪い。

橙はいまだに顔を赤くしている千棘を見てため息をはいていた。

 

(自業自得だから助け船はださなかったが…あの2人は本当に隠すつもりあんのかねぇ)

 

数分後、楽と舞子が戻ってきて勉強会は再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勉強会を再開して数十分がたった頃。

 

「…なぁ。あの2人、やけに遅くねぇか?」

 

「2人でなにしてるんでしょ~かねぇ?」

 

「あんたは黙ってろ。まぁ…でも確かにそうね。もう20分はたってる」

 

「探しに行く…?」

 

今、部屋にいるのは千棘と楽を除いた4人。

2人は竜に呼ばれて蔵?に何かを取りに行っている…らしい。

 

「いや、俺が竜さんに聞いてくるわ」

 

橙はそう言って立ち上がり1人で部屋を出た。

取り敢えず、組の人を探して歩いていると声が聞こえた。

 

「ん?話を…」

 

「坊っちゃんと嬢ちゃんを蔵に閉じ込めて急接近作戦は成功だ!あとはあの2人次第だぜ!」

 

「いやー!仕事したわ~!」

 

話を聞こうと近寄ろうとしたところで不穏なワードが耳にはいり足を止めて耳を澄ます。

 

「はぁ…先に助けに行くか」

 

(これが楽の言ってた行きすぎたお節介か…)

 

橙は今度は組の人に見つからないように蔵を目指す。

近くにあった窓から庭に出て裏に回る。

 

「確か裏って言ってたよな………おっ!あれか!」

 

蔵を発見した橙は回りに誰もいないことを確認して近づいた。

見上げると、上の方に窓のようなものがある。

 

「ふむ。開け方が分からん…扉をぶっ壊すのはさすがにまずいか…んならコッチだな」

 

そうして橙は蔵の横にはえている木を登り、窓に飛び移って行った。

その頃中では…

 

「お前…怖いのか…?」

 

「わ、悪い!?昔から苦手なのよ…こうゆう暗くて狭い場所」

 

閉じ込められた2人は座り込んでいた。

楽は平気そうだが、千棘がよろしくない。

どうやら暗くて狭い場所が苦手なようで涙目になって少し震えている。

楽もさすがに心配なのかからかうことなく対応している。

 

「そ、そうか…」

 

「アンタなんかとこんなところに閉じ込められても何も起きないってのよ…!」

 

「失礼なやつだな!?」

 

その後も話をしながら怖さを紛らわしてはいたが、結構限界が近いのか千棘が弱々しく呟いた。

 

「ううっ…時藤…助けてよぉ…」

 

ほんの小さな希望にすがるために、橙の名前を呼んだ。

その時…

 

「よぉ。呼んだかよ、お嬢さん」

 

「えっ…?」

 

求めていた声が上の方から聞こえた。

半ば放心状態で上を見上げると窓の所に橙が立っている。

降りてきた橙は座り込んで泣いている千棘の頭を優しく撫でながら言った。

 

「二度ある事は三度あるってか?ま、助けに来たぜ…千棘」

 

橙に触れてもらったことにより、今起こっていることが現実だと分かったのか感極まって千棘は橙に抱きついた。

 

「…ううっ…ぐすっ…時藤~!!!」

 

「おっと!おーよしよし…んな泣くなっての。綺麗な顔が台無しだぜ?」

 

橙は千棘を受け止めて、頭を撫でながら慰めにかかる。

数分後、泣き止んだ千棘を確認してやっと空気と化していた楽の出番がやってきた。

 

「…ってことで、楽も無事だなー?」

 

「扱い酷すぎだろぉぉぉ!!!」

 

「うるさいわよ!時藤のお陰でやっと慣れてきたんだからビックリさせないでよ!」

 

「わ、悪ぃ…じゃねぇぇぇ!!!お前もだこのヤロー!俺との態度の違いすぎだろ!」

 

少しキャラ崩壊気味だが…まぁ正当な叫びだわな。

本当に空気だったもん。

まぁ、今は言い合いをしている暇はない。

早く脱出することが先決だろう。

 

「まーまー。2人とも落ち着けって。取り敢えずここを出ちまおうぜ」

 

「…はぁ。ま、そうだな。つってもどうやってここを出るか…」

 

どう脱出するか頭を悩ませている楽だが、橙はもう思い浮かんでいるみたいだ。

後は、家主の楽に許可をもらうだけ。

 

「それなんだが…楽よ、この扉ぶっ壊れても問題ねぇか?」

 

「ん?まぁ、大丈夫なんじゃねーか?」

 

「りょーかい。んじゃお前らちっと下がってろ」

 

言質をとった橙は2人を下がらせて扉の前に立った。

楽は今更ながら橙のやろうとしていることに気がついたようだ。

 

「はーい!」

 

「おまっ!?まさか…」

 

「ふっ…オラァッ!!!」

 

楽は慌てて止めようとしたが、もう遅く、橙の蹴りで扉が吹き飛んだ。

 

「ふぅ~。脱出成功だな」

 

「そ、そう…だな」

 

「やった~!外だ~!」

 

これにより無事に救出が成功した。

楽が肩を落としていたのはまぁ、仕方がないだろう。

自業自得なわけだからな。

さらに、集英組の若頭が高校生に説教されるという珍事件も起こっていたらしいが、そこは割愛しよう。

 

 



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第7話

勉強会があった翌日の休み時間。

橙は宮本に呼ばれて教室で小野寺を加えた3人で話をしていた。

 

「いやー、昨日は悪ぃな。結局なんもしてやれなくってよぉ」

 

「まあ昨日は色々とあったから仕方ないわよ。…それにしても小咲…いつまで落ち込んでるのよ」

 

「だって…やっぱり恋人のいる人にアタックなんて…」

 

「本当に煮え切らないわね。それじゃあ諦めるの?」

 

「うっ…」

 

宮本も小野寺のために動いてくれているのだが、如何せん押しが強い。

ほぼダメ出しのような状態だ。

 

「まーまー、宮本も落ち着けって」

 

「はぁ…本当にこの子は…ってあんたその鍵まだ持ってたの?」

 

「え?」

 

「…それとも今更、その10年前に約束した男の子でも探してみるつもり?」

 

「…」

 

話をしているときに、ふと宮本が指差したのは小野寺が昔から大事に持っている鍵だ。

橙はその鍵を見ながら考えを巡らせていた。

 

(…やっぱりなんか気になんだよなぁ。絶対に楽が持ってるペンダントと関係あると思うんだけどな…)

 

そんなことを考えているうちに宮本が次に起こす行動を思い付いたらしく、またまた強引に作戦へと移るようだった。

 

「ん?なんか決まったのか?」

 

「ええ。時藤君も来てくれる?」

 

「おう。もちろん行くぜ」

 

「ありがとう。そしたら、放課後に学校のプールに来てちょうだい」

 

「りょーかいした」

 

こうして話し合いは解散となった。

小野寺の意思とは別のところでまたもや強制イベントだ。

どうなるのか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。

橙は更衣室に着替えに来ていた。

 

「うーっす。楽と舞子も呼ばれたのか」

 

「おー、橙も呼ばれてたのか!」

 

「へーい!ダイちゃん!ってゆーかそろそろ集って呼んでくれよ~!」

 

「確かにそうだな。んじゃ集も楽も早く着替えちまおうぜ」

 

どうやら、橙の他に楽と舞子も呼ばれていたみたいだ。

挨拶もそこそこに着替え始める。

 

「ふぅ…ってなんだよ2人揃って」

 

「いや…橙ってなんかスポーツとかやってんのか?」

 

「オレも気になるな~」

 

「まぁ、格闘技とか色々だな」

 

「へぇ~。ならあの蹴りも頷けるな」

 

「ほーほー!格闘技がその肉体の秘訣でしたか!」

 

そんな話をしながら3人とも着替え終わりプールに向かった。

プールに着くと、まだ宮本だけしかいない。

 

「宮本ー。来たぞー」

 

「来たわね。それじゃ小咲が来たら…って、なんで舞子君がいるの」

 

「はぁ?集も呼んだんじゃねーの?」

 

「呼んでないわよ」

 

「でへへ!来ちゃーった!」

 

「帰れ」

 

どうやら、集はどこかから聞き付けて自主的に参戦してきたらしい。

宮本の辛辣な態度をものともせずにはしゃいでいる。

集の性格からして水着目当てだろう。

 

「まーいいじゃねぇか。変なことしたら俺が沈めるからよ」

 

「あら、それいいわね。お願いできるかしら…今すぐに」

 

嫌そうにしていた宮本は手の平を返したように言った。

橙は宮本の願いを聞き、集を担ぎ上げた。

 

「お任せあれ」

 

「あ、あれ?ちょっと!?まだなにも変なことしてないんですけどぉ!?」

 

「どうせするんだから先払いよ」

 

集は抜け出そうと暴れるが、橙はものともせず集をプールに向かって投げ飛ばした。

 

「すまんな集よ。わがままな姫さんの命令なんだわ。ってことで…そーらっ!」

 

「ああぁぁぁぁぁ!!?」

 

悲鳴をあげながら着水し大きく水飛沫が上がった。

宮本は少し晴れやかな顔をしている。

 

「これで良かったか?」

 

「ええ。スッキリしたわ」

 

「お前らは何をしてんだよ…」

 

水から浮かんできた集を眺めながら宮本と橙は握手を交わした。

悪者は成敗しなきゃいけないから仕方ないな。

楽は疲れたように肩を落としていた。

その後、千棘がやってきた。

 

「おーす。千棘も呼ばれたんだな」

 

「そうなのよ!なんでも私に助っ人を頼みたいらしいの!」

 

「へぇ…まぁ、壁飛び越えるくらいだもんな。運動神経いいんだな」

 

「まあね!…それにしても良い体してるわね~!クロードと良い勝負じゃないかしら?」

 

「クロードってのはあの時の…そりゃあ嬉しいねぇ」

 

「あれ?クロードのこと知ってるの?」

 

「まぁ…色々あってな」

 

橙はあの時、路地裏で対峙した男のことを思い出し嬉しそうに言った。

そんな話をしていると少し遅れて小野寺が到着した。

 

「る…る…るりちゃぁあん…!!な…なんで私が選手登録されてるの…!?私…カナヅチなのに…」

 

「おっ、きたきた」

 

「っ!!?」

 

「私じゃ戦力になんか…あ、あれ!?一条君!?」

 

楽も小野寺もお互いに誰が来るのかを聞かされていなかったようで、両方が同じような反応をしている。

それにしても…

 

(分かりやすいねぇ、2人とも)

 

色々と事情を知っている橙は呆れたように笑いながらそんなことを考えていた。

そんな時、宮本が今回の本題を語る。

 

「一条君。あなたにお願いしたいのは、明日の練習試合までに小咲を泳げるようにしてほしいの」

 

なんとも大胆な作戦だが、お互いにもう逃げることはできない。

 

(くくっ。強かだねぇ宮本さんよぉ)

 

(押してダメならもっと押せっていうでしょう?)

 

(そりゃあいいな。結構好きだぜ?そーゆうの)

 

何かアワアワしている楽と小野寺をよそに、橙と宮本は悪い笑みを浮かべながら小声で話をしていた。

案外、この2人は気が合うみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮本の作戦通り楽と小野寺はプールに入っている。

橙と千棘もインストラクターという名目で補助にまわっている。

集は…自由に動きまわっている。

 

「えー…というわけで…これから小野寺に泳ぎ方の指導をする一条と…」

 

「はい!インストラクターの桐崎千棘でございます!!」

 

「右に同じく、インストラクターの時藤橙でーす」

 

「よ…よろしくお願いしま~す…」

 

楽と小野寺は緊張した様子で、逆に千棘はワクワクしているようだ。

そこから練習を始める前に少し話をしてやっと始まる。

ちなみに、集は千棘にセクハラをしようとして橙に投げ飛ばされていた。

 

「…そしたらどーすっか?小野寺はからっきしなんだろ?」

 

「う、うん…」

 

「ふむ…先生どーする?」

 

「はっ!?せ、先生!?…とりあえず見本を見せるか…?」

 

「はーいはい!私がやる~!」

 

「んじゃ千棘頼んだ」

 

話し合いの結果、まずは見本を見せることになり千棘が見本をかってでた。

 

「りょーかい!じゃあ見ててね!」

 

「は…はい…!お願いします…!」

 

そして、飛び込んで泳いだのだが…

 

「わー!すごい…!」

 

「ハイレベルすぎて見本にならねぇ…」

 

「ぷっ!加減を知らねぇのかよ!」

 

どう考えても泳げない人に見せるような泳ぎ方ではない。

 

「小野寺さ~ん!見てた?できそう?」

 

「あ、あはは…」

 

「あんなのできるわけねぇだろ…」

 

「感覚派の千棘じゃ教えるのは無理そうだな」

 

意気揚々と戻ってきた千棘にその事を伝えたところ、プールサイドで体育座りをしてへこんでしまった。

 

「ありゃあダメだな。千棘の事は俺に任せて2人でやっててくれ」

 

「ええっ!?」

 

「マ、マジか…!」

 

橙はへこんだ千棘のご機嫌取りに向かうために一時離脱することに。

そのため、楽1人で教えることになる。

橙は嬉しいのかなんなのか良く分からない表情をしている楽に近寄り、小声で話しかけた。

 

(2人っきりにしてやるんだから頑張れよ)

 

(お、おうよ!感謝するぜ、橙!)

 

(おう。…あっ、それとよ…お前小野寺が持ってた鍵が気になってたみたいだけど、あれは多分女子更衣室の鍵かなんかだから下手なことはすんなよ?)

 

(うえっ!!?あっぶね!隙を見て確認しようとしてたわ!マジでサンキューな!)

 

作戦通りに進めつつ、フォローも忘れない。

流石のお手並みと言ったところか。

メインを達成した橙は千棘のもとへ向かった。

 

「おら。いつまでしょぼくれてんだ」

 

「う~。だってぇ…」

 

「しゃーねぇな。んなら勝負と行こうじゃねーか!」

 

「?」

 

「泳ぎで1回でも俺に勝てりゃ…なんでも1つ言うことを聞いてやる!」

 

「っ!!?き、聞いたわよ!!後でやっぱなしとかダメだからね!!」

 

「はっ!勝てればの話だかんな?」

 

「やってやろうじゃない!」

 

こうして、一方では何故か勝負が行われようとしていた。

まぁ、これも橙の掌の上の出来事なのだが…。

千棘は無茶なお願いはしないと確信した上での行動なので、もし負けてもデメリットはほとんどないのだ。

そして、数十分後…

 

「か、勝てない…」

 

「はっはっは!甘いぜ千棘!」

 

かれこれ10本以上25メートルを泳いでいるのだが、橙は息1つ乱していない。むしろ、どんどん元気になっているようにも見える。

皆は体育の授業等でなんとなく察してはいただろうが、橙は運動神経、体力ともに化け物のようだ。

そんなことをしていると、今まで楽と小野寺の方を眺めていた宮本が橙と千棘の方に来た。

 

「おー!宮本ー!」

 

「あなた達はなにしてるのよ」

 

「いや、実はなーーー」

 

宮本に状況を説明すると…

 

「私も参加しようかしら」

 

「別にいいぞ。んじゃ次で最後な」

 

「最後は勝つわよ!」

 

意外や意外、宮本も参加すると言ってきた。

何か考えがあるのか、はたまたただの気まぐれか…。

 

「むふふ!なんか面白いことになってるね~!ってことでオレっちが審判をしてしんぜよう!」

 

これまた、いつの間にか横にいた集が審判をかってでた。

 

「位置について~」

 

橙は今まで通りに、千棘は今日一番に気合いが入っている。

宮本は無表情だがやる気はある様子だ。

 

「レディ………ゴー!!!」

 

一斉にスタートを切り、全力で泳ぐ。

一番始めに壁をタッチしたのは…

 

「ふぅ……ブイ」

 

「だぁ~!宮本めっちゃ速ぇな!普通に負けたぞ!」

 

「さ、最下位…」

 

宮本だった。

流石、水泳部と言ったところと思いたいが、実際に橙に勝てる時点でめちゃくちゃ速い。

 

「しゃーねぇ…宮本、願いを聞こうか」

 

「そうね…まず1つ目は…」

 

「ちょい待て。いくつ言うつもりだよ」

 

「2つね」

 

「………分かった」

 

橙は負けたと言うことで、2つ聞くことにしたらしい。

宮本の1つ目の願いは…

 

「今から私の事は名前で呼んで」

 

「りょーかい……るり。これでいいか?」

 

「ええ。ありがとう、橙君」

 

名前で呼ぶこと。

意図は分からないが、千棘の様子を伺っていたのを考えると楽と千棘の関係を見抜くための一手なのかもしれない。

真相は本人にしか分からないが。

 

「むぅ…」

 

実際に千棘に効果はあるようで、頬を膨らませて2人を見ている。

 

(まぁ、多分宮本が思ってるのとは違うだろうがな)

 

「どうしたの?桐崎さん?まさか、一条君という彼氏がいるのに…」

 

「ずるい!!」

 

「は…?」

 

「ぷっ…!やっぱりなぁ」

 

思っていた反応と全く別の反応が返ってきて、るりは訳が分からないといった様子で千棘を見ている。

 

「それじゃあ私だけ仲間外れじゃない!」

 

「くくっ…んなら千棘も名前で呼べばいいんじゃねぇか?」

 

「うん!そうするわ!るりちゃんって呼んでもいい?」

 

「…え、ええ。私も千棘ちゃんって呼ぶわね」

 

「あんたもよ!だ、だ、橙!」

 

「うーい」

 

「なんだか良く分からなくなってきたわね…」

 

顔を赤くして橙の名前を呼ぶ千棘を見て、るりは頭を傾げた。

そして少し悩んだ末に2つ目の願い…

 

「2つ目はまだ取っておくわね」

 

「はぁ?んなのありかよ…」

 

まさかの持ち越しと言うことになった。

その後、時間ギリギリまで小野寺に教えるのを手伝ってこの日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の練習試合当日。

千棘達は受付を済まして一旦合流した。

 

「おーす。るりと小野寺も受付は済んだのか?」

 

「おはよう。橙君も来てくれたのね」

 

「おう。るりが負けるとは思わねぇけど応援してるからな」

 

「ええ、ありがとう」

 

そんな話をしていると、楽と小野寺が橙とるりの顔を交互に見ながら驚いたような顔をしている。

 

「お前らそんなに仲良かったか?」

 

「るりちゃんもしかして…」

 

「まぁ…昨日色々あってな」

 

「そうね」

 

「橙~!おはよ~!」

 

「おーす、千棘」

 

「「…」」

 

「だから色々とあったんだっての」

 

実際はただ名前呼びになっただけなのだが、奥手な2人からすると劇的な変化に見えるようだ。

そんなこんなでもうすぐ練習試合が始まった。

次のレースに千棘と小野寺が出る。

そして…

 

『よーい…スタート!!』

 

審判の合図で一斉に飛び込んだ。

プールサイドでは橙と楽とるりが3人で集まって観戦している。

 

「そーいや…わりー宮本。小野寺、1日じゃ完全に泳げるようには出来んかった」

 

「え…ああ…まぁ、大丈夫でしょ。あの子が溺れるような事さえなければ」

 

「るり…それフラグ」

 

「…でも小咲、昔から死ぬ程不器用だからなぁ」

 

「フラグの後押しをするな…っ!?」

 

冗談半分でそんなことを話していると、橙がプールの方に視線を向けた瞬間に走り出した。

 

「え…?」

 

「橙っ!!?」

 

『ねぇ…あ、あの子溺れてない?』

 

楽とるりは何が起こったのか理解するよりも早く、プールサイドで観戦していた他の学校の生徒の声が聞こえた。

そしてやっと、橙が助けに走ったのを理解したのだ。

一方、プールに飛び込んだ橙。

上がってきた橙が抱えていたのは千棘だった。

準備運動をせずに挑んだために、足をつって溺れてしまったようだ。

 

「ぶはっ!…おい!大丈夫か!千棘!」

 

「…ゲホッ!ゲホッ!だい…じょぶ」

 

「良かった…じゃねぇ!バカ野郎!心配したじゃねぇか!」

 

「ごめんなさい…」

 

助けたのが早かったお陰で少し水を飲んだだけで済んだようだが、橙に怒られて落ち込んでいる様子だ。

 

「はぁ…ま、無事で良かった。戻っからつかまっとけよ」

 

「うん!」

 

千棘を抱えてプールサイドに上がると、楽達が駆け寄ってきた。

楽は準備運動をしなかったことを千棘にグチグチ言っていたが、やっぱり心配していたようだ。

珍しく言い返してこない千棘にやりずらそうな顔をしていたが…。

まぁ、こんな事件があったものの、無事にプログラムは全て終わり練習試合は幕を閉じた。

 

 

 




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第8話

水泳部の練習試合の翌日。

放課後、教室には橙とるりと小野寺の3人がいる。

 

「よぉ。今日はどうしたんだ?」

 

「千棘ちゃんから話を聞いたのよ」

 

「ん?あー、恋人のフリのことか?」

 

「…やっぱり知ってたのね」

 

「ええっ!?し、知ってたの?」

 

どうやら、ついさっきに千棘から恋人のフリのことを聞いたらしく緊急会議を開いたらしい。

るりははじめから怪しいと思っていたのだろうが、小野寺は鈍すぎて橙が知っていたことすらも全く予想もしていなかったみたいだ。

 

「当たり前だろ。もし、あの2人が本当に付き合ってたら俺は小野寺の事は応援しねーよ」

 

「まあいいわ。それで、話って言うのは…」

 

「負い目がなくなった小野寺が、いかにして楽にアタックするか。ってとこだろ?」

 

「ふふっ。話が早くて助かるわ」

 

「ちょっ!ま、待ってよ!そんな話聞いて…」

 

当の本人を置いて、話を進める2人に小野寺は慌てながら止めにはいる。

すると間髪いれずに、るりが小野寺に核心をつくような質問を投げた。

橙へのアイコンタクトもセットで。

 

「ふーん。なら小咲はせっかくのチャンスなのに、一条君が誰かに取られてもいいんだ?」

 

(援護お願いね)

 

(言われなくても)

 

「普通に考えても楽って優良物件だからなぁ…顔も悪くねぇし、料理も出来る、男らしいところもある。楽のことを好きなやつがいてもおかしくねぇもんな」

 

「…た、確かに。ど、どどどうしよう!?るりちゃん!?」

 

橙の話を聞いて、明らかに動揺する小野寺。

効果は的面のようだ。

 

「やっぱり…告白するしかないわよ」

 

「俺も賛成」

 

取り敢えずぶっこんだが、ここから小野寺を上手く説得するのが今回の会議の要点だ。

そう思っていたのだが…

 

「…そう、だね」

 

「小咲…?」

 

小野寺は少しの沈黙のあと言った。

慌てて否定をするかと思っていたるりは、小野寺の決意のこもった声を聞いて少し驚いた表情になって小野寺の顔をみている。

 

「私…思いを告げることは半分諦めてた。それに…もうこんな苦しくて寂しい気持ちになるのは嫌だから…!」

 

るりと橙が無言で見つめる中で、小野寺は続ける。

普段は一歩引いている所がある印象を受ける小野寺だが、強い女の子だ。

るりも初めて見る1面だったから驚いているのだろう。

 

「がんばるよ。るりちゃん、時藤くん。私…この気持ち伝えてみる…!!」

 

こうして、大きな一歩を踏み出した小野寺。

るりと橙はここまできたら大人しく見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小野寺が大きな決断をした後、少し教室で話をしている。

そして、もう帰ろうかという話になった所で楽がたまたま教室にやってきた。

 

「あれ?橙?…と小野寺、宮本。お前ら今帰るとこ?」

 

「一条君…!」

 

なんというタイミングの良さ。

 

(橙君!離脱!)

 

(お任せあれ)

 

橙とるりは一瞬にしてアイコンタクトを取り、離脱することに。

 

「ああっ!もうこんな時間じゃねぇか!るり、行くぞ!」

 

「ホントだー。そう言うことで急用があるからすぐ帰らなきゃバイビー」

 

るりの棒読みでぐだぐだになったが脱出成功だ。

残された2人は変な空気になったが、頑張って欲しいものだ。

教室から脱出をした橙とるりは、ゆっくり歩きながら校門の方へ向かっていた。

 

「…む。うーん…」

 

「そわそわしてどーした?」

 

「…小咲上手くやれるかしら?」

 

「ははっ。本当に小野寺が大切なんだな」

 

「…ええ。親友だもの」

 

「そうか。なんかるりって小野寺のお母さんみたいだよな。世話の焼き方が」

 

「あなたも人のこと言えないわよ。お父さん」

 

「くくっ、それもそうだな」

 

2人は校門の近くの壁に背中を預けて話ながら小野寺を待っているようだ。

何てない話をしていると、急にるりが話を切り出した。

 

「橙君は千棘ちゃんのことどう思ってるの?」

 

「ん?千棘?そーだな…」

 

るりの中では、千棘と楽が付き合っていないと言うことが分かってからずっと気になっていたのだろう。

千棘の矢印が向いている方向を。

そして、橙自身がそれをどう思っているのかを。

実際、橙は小野寺や楽のように鈍感ではない。

千棘から向けられているのが好意の1種であることは気がついている。

それが異性としてのモノかは別としてだ。

さらに、るり自身も自分の中に生まれつつある知らぬ感情の正体を探りたいと言う気持ちもあるのだろう。

ここまで異性と気が合うこと自体初めてなので戸惑っている部分もあるのかもしれない。

 

「まぁ…ダチとして好きだぞ」

 

「異性としては…?」

 

「うーん…今はそう言うのはないな。魅力的な女の子だとは思うけどよ」

 

「…そう。まあ、千棘ちゃんは綺麗だしスタイルもいいしね。男子は放っておかないでしょうね」

 

転校してまだあまり時間もたっていない状況だ、仕方がないことだろう。

だが、るりはこの答えを聞いて少しホッとした。

それに加えて少し胸がチクッと痛んだ。

何故か少し嫌な気持ちになり、嫌味のような事を口走ってしまう。

だが橙は…

 

「なーに私は関係ないみたいな顔してんだ?るりも十分綺麗だぞ?」

 

嫌味とは全く受け取らず、思った事を口にする。

 

「…セクハラ」

 

「はぁ!?そりゃねーぜ!」

 

るりの物言いに橙は抗議するように言った。

だが、るりは橙に背を向けてこれ以上話を聞き入れない姿勢を取っている。

流石の橙もこれが赤くなった顔を隠すためだとは気がつかなかったようだ。

この2人の間でも何か動き出そうとしている…のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橙とるりが待つこと、20分。

ようやく小野寺がやってきた。

 

「…どうだった?」

 

「…ごめん。るりちゃん、時藤くん。やっぱり言えなかった…」

 

「そう……このヘタレ!」

 

「ううっ…」

 

「ははっ!辛辣だなぁ!めちゃくちゃ心配してたくせによぉ?」

 

結果はある程度予想はついていたのだろう。

辛辣な物言いだったが、橙は横から補足をした。

それを聞いた小野寺は少し嬉しそうにるりを見ているが、るりは橙を睨んでいる。

 

「橙君、後で覚えときなさいよ…」

 

「おー、こわっ」

 

「…はぁ。でも、小咲にしては良くやったんじゃない?」

 

「るりちゃん…」

 

「そーだな。今回は駄目だったけどよ…小野寺が諦めない限りいくらでも手は貸すから、また頑張ろうぜ」

 

「時藤くん…」

 

「仕方ないから私も付き合うわよ」

 

「…っ!うん!私頑張るよ!」

 

そうして、失敗に終わったものの少し前に進めた小野寺。

加えて、この3人のグループの仲も良くなったようでなによりだ。

3人はそれぞれ帰路に着いた。

 

 

 




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第9話

朝のホームルームの前。

どうやら転校生が来るらしいく、教室が少し騒がしい。

 

「え?今日転校生が来るの?」

 

「らしーよ。なんか突然決まった事らしくてさ」

 

「へぇ。俺が言うのもなんだが、このクラス転校生多くね?」

 

「ははっ。確かに」

 

そんなことを橙達が話していると、先生が転校生を連れて来たようだ。

 

「よーしお前ら。突然だが、今日は転校生を紹介するぞー。入って鶫さん」

 

「はい」

 

先生が教室の外に声をかけると、1人の生徒が入ってきた。

 

「初めまして。鶫 誠士郎と申します。どうぞよろしく」

 

鶫が自己紹介を済ますと、クラスの女子連中が絶叫した。

それもそのはず、鶫と名乗った生徒は整った顔立ちをした中性的な見た目をしているからだ。

そんな中で、違和感を覚える者が1人と、一目見て『女』だと気がついた者が1人いた。

 

「へぇ。とんでもねぇのが来やがったな」

 

(少し、クロードさんに雰囲気が似てる…か?こいつもヒットマン…)

 

気がついた橙は、男か女かと言うことよりも鶫が相当な使い手だと言うことに興味を示していた。

歓声冷めやらぬ中、空いている席に座るように先生からの指示が出て、鶫が動き出す。

すると急に千棘が立ち上がり…

 

「つぐみ…!?」

 

「お嬢…!」

 

(やっぱりか。クロードさんの手回しで間違いねぇな)

 

鶫の名前を呼んだと思ったら、鶫が千棘に抱きついた。

それにより、またもや女子連中の絶叫が響く。

まぁ、見る人からしたら楽の前に現れたライバルのように映ることだろう。

取り敢えず、ホームルームのため収まったものの、話題は鶫の事で持ちきりだった。

その後の休み時間。

 

「…しっかし。なんであいつあんなカッコしてんだろーなぁ」

 

「同感。そーゆう趣味なのかねぇ」

 

「は?今言ってたろ?制服無かったんだってよ」

 

「あ?ああそーじゃなくて…」

 

「楽、あいつ女だぞ」

 

「はい?なに言ってんだよ。男子の制服着てんじゃねーかよ」

 

橙は楽と集と一緒に話をしていた。

どうやら集は既に気がついているみたいだ。

全く信じていない楽にちゃんと説明をしようとすると、千棘に呼ばれて行ってしまった。

 

「完全に男だと思ってやがんな」

 

「まーまー!そっちの方が面白そうだしいーじゃん!」

 

「くくっ。それもそーだな」

 

橙は集とそんな話をしながら、千棘と鶫の元へ向かった楽に視線を向ける。

 

(…何か企んでやがんな)

 

「…はぁ」

 

「あり?どーしたの?ダイちゃん?」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

(ちゃんと忠告したんだがな…あいつの独断だったら嬉しいぜ)

 

楽に笑顔を向ける鶫を見ながら橙は深くため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

鶫の千棘へのスキンシップはとどまることはなく続いている。

流石の千棘もたじたじだ。

 

「…あーもう!私ちょっとトイレ行ってくる…!付いてこないでよね!!」

 

「ごゆっくり………一条さん」

 

「ん?」

 

「少し聞いても宜しいですか…?」

 

「あ、ああ」

 

「では、ここでは何ですので…付いてきてください」

 

「は?お、おい!」

 

千棘は教室から出ていったのを確認した鶫は楽を連れて教室から出ていった。

 

「動いたな…」

 

橙はこれから起こるであろう事を考えて席を立ち、楽達の後を追った。

場所は移って屋上。

橙は扉の外で待機している。

話を聞いていると…

 

(まぁ…疑ってるっつーか、認めたくねぇんだな)

 

そんなことを考えていると、急に鶫から殺気が溢れだした。

 

「…ちっ。しゃーねぇ」

 

橙は舌打ちをしながら扉を開き走り出した。

一方で楽と鶫は…

 

「お嬢のためなら死んだっていい?」

 

「おう!当然その覚悟だ…!!」

 

楽は誤魔化すために取り敢えず鶫からの質問を強気で肯定していた。

すると次の瞬間、鶫は袖から銃を取り出しすごい勢いで楽に詰め寄った。

 

「…そうですか。安心しました…では、死んでください」

 

「…ってどええ!!?ちょっ…ちょっと待って…くっ………あれ?」

 

楽は対応できるはずもなく、やがてくるであろう衝撃に目をつぶったが衝撃はこなかった。

おかしいと思い目を開けると…

 

「よぉ。随分なご挨拶じゃねぇか…転校生のお嬢さん」

 

「貴様は…」

 

「だ、橙!」

 

橙がすんでのところで鶫の手首を掴み動きを封じていた。

 

「ほう…貴様がクロード様が言っていた時藤橙か」

 

「やっぱりあの人が差し向けたのか。おい、これは指示されての行動か?」

 

「いいや違う。私がこの男をお嬢に相応しくないと判断したまでだ」

 

「そりゃあ良かった…んじゃ存分に後悔してもらおうか」

 

「…っ!?ぐうっ!!は、離せ!」

 

この一連の行動が鶫の独断の行動としった橙は、内心でホッとしたと同時に体から怒気が溢れ出す。

掴んでいる手を強く握ると、鶫は顔を歪めて逃げ出した。

 

「俺のダチに手ぇ出したんだ。ちょっと痛い目にあってもらうぜ」

 

「くそっ…!」

 

後ろに飛び退いた鶫の手首にはくっきりと跡がついていた。

痺れた手を抑えていると、すぐ上から声がかかる。

 

「よそ見してる暇があんのか?」

 

「なぁっ!?くっ…」

 

鶫は避けることを諦め目を閉じる。

そして、橙が鶫目掛けて拳を振り下ろそうとした次の瞬間、千棘が屋上の扉を勢い良く開き声をあげた。

 

「橙!!!やめてっ!!!」

 

「……わーったよ。これで勘弁してやる…よっと!」

 

「ううっ…い、痛い…」

 

ギリギリの所で拳をとめた橙は、未だに目をつぶっている鶫にデコピンをした。

今回の件は千棘をたてて水に流す事にしたみたいだ。

 

「橙、つぐみ…ごめんね!私、こうなるかもって思ってたの…」

 

「お嬢…」

 

「…はぁ。俺こそすまなかった。千棘が止めてくんなかったらお前の大切なダチを傷つけるところだった」

 

「ううん…橙が本気で殴るわけないのは分かってたから!」

 

「ふっ。そーかい」

 

鶫は2人の話を聞きながら申し訳なさそうに縮こまっている。

そんな鶫に橙は声をかける。

 

「おい、鶫。2人で話がしたい。放課後時間作れるか?」

 

「…分かった」

 

「ちょっと!喧嘩とかしないでよね!?」

 

「大丈夫だ。んじゃ俺は戻るな」

 

「お、俺も戻る!」

 

橙はそう言って背中越に手を上げて歩いていってしまった。

今まで放心していた楽も橙を追いかけて屋上を後にした。

 

「もう!つぐみ!反省しなさいよ?」

 

「は、はい!」

 

「さ、私たちも戻るわよ!」

 

「お、お嬢!お待ちください!」

 

こうして、少し遅れて千棘たちも教室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

場所は先程と同じ屋上。

 

「来たか」

 

「…話とはなんだ。先程の続きでもするのか」

 

「くくっ。そりゃ魅力的な提案だが、俺とお前が全力でやりあったらこの学校がなくなっちまうと思うぜ?それに…千棘が喧嘩すんなって言ってたからな」

 

「…それもそうか」

 

橙は楽しそうに、鶫はホッとした様子だ。

そうして本題にはいる。

 

「まぁ、簡単な話だ。お前が楽を認めないってのは別に構わねぇ…けど、千棘が悲しむようなやり方はすんな」

 

「貴様…」

 

「分かってるぜ?千棘を思っての行動だってのはよ」

 

「そんなもの当たり前だ!」

 

「だがよ、それを千棘が望んだのか?」

 

「それは…!」

 

「いいか?そーゆうのは一定の域を越えちまうとただの押し付けになる。本当に大切ならそこを間違えちゃいけねぇ」

 

「なら…なら!私はどうすればいい!?このやり方しか知らんのだ!」

 

橙は穏やかな様子で話しているが、鶫が話を聞かずにまた楽に牙を剥くようなら実力行使するつもりでいる。

いかに千棘の関係者といえ、そこは譲れないラインだった。

 

「そんなもんこれから知っていきゃあいい。丁度いいじゃねーか。せっかく学校に通うんだからよ。千棘だって必死に普通の日常に溶け込もうと頑張ってるじゃねーか。それをお前が壊してどうするよ?」

 

「だが私は…お嬢を守らねば…」

 

「心配ねぇさ。千棘は誰かに守られなきゃ生きていけないような柔なヤツじゃ決してねぇよ。俺たちはどっしり構えて見守ってやるくらいでいいんだ。そんで、どうしようもない時は俺たちで支えてやりゃあいい」

 

「…っ」

 

「だから、まずは千棘の隣で普通に高校生として過ごしてみろよ。普通ってのも案外良いもんだぜ?」

 

「普通…か。だが私には友人と呼べるような者は1人も…」

 

どうやらいい方向に転んでくれたようだ。

やっと橙は肩の力を抜き、ふざけたように言った。

 

「おー!そりゃ丁度いい!ここに友達募集中の不良生徒がいるぜ!」

 

「…ふふっ。不思議な男だな、貴様は」

 

「んだよ、普通に笑えるじゃねーか。あんな張り付けたような笑顔じゃなくてそっちのが100倍ましだぞ。せっかく綺麗な顔してんだから」

 

「なぁっ!?///な、何を言っている!///」

 

「いやな、クロードさんの直属の部下?だろ?どんな冷徹人間かと思ってたけど…普通の女の子で安心したっつーんだよ」

 

「お、女っ…か、帰る!」

 

「おー。また明日なー」

 

こうして、争い事が起こることもなく無事に話しは終わった。

 

 

 




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第10話

鶫が転校してきた翌日。

橙が登校してくると…

 

「お、お嬢…なぜ私がこんな格好を…」

 

「何言ってるのよ!女の子なんだからそれらしい格好しないと!」

 

どうやら鶫が千棘に女子の制服を着させられたようだ。

 

「おーす。…お?」

 

「と、時藤橙…!」

 

「ふーん…」

 

「な、なんだ…?///」

 

鶫は顔を赤くして恥じらいながら橙の様子をうかがっている。

橙は制服姿の鶫を頭から足まで見ると一言。

 

「なんつーか…エロいな」

 

「エロっ!!?///ううっ…お嬢~!」

 

橙のセクハラ染みた発言に鶫はたまらず千棘に泣きついた。

橙はそれを見て笑っている。

千棘は困ったように橙に非難の視線を向けた。

 

「つぐみ!?ちょっ、もう!橙!」

 

「あっはっは!冗談だ!似合ってんぞ?かわいいぜ、鶫」

 

「かわっ…!///お嬢~!」

 

「だ~い~!!!」

 

「今のは俺悪くねぇだろ!?」

 

次のシンプルな感想も鶫は恥ずかしかったらしくさらに千棘に泣きついている。

千棘は鶫を慰めながら橙への非難の視線を強めた。

それに加え…

 

「なぁ、るりさんや」

 

「何かしら?橙君」

 

「さっきから無言でスネを蹴るのをやめてはくれんかね?」

 

「あら?ごめんなさいね。丁度いいところにあったものだからつい」

 

「なんだそりゃ…。小野寺もこーゆう時は止めて良いんだからな?」

 

「え、えっと…るりちゃんそろそろ…」

 

なぜか、るりが橙のスネを攻撃していて、それを止めるか止めないかで小野寺があたふたしている。

こんな感じでなかなかおかしなことになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに翌日。

結局、鶫が女と分かってからもクラスの皆の反応は変わることはなくすぐに馴染めたようでなによりだ。

 

「うーす。はよー、鶫」

 

「む、時藤橙か。おはよう」

 

橙は登校した際に教室の前で鶫と鉢合わせた。

自然と挨拶を交わし何の気なしに話を始める。

 

「ありゃ?男子の制服に戻したんだな」

 

「ああ。あんなヒラヒラしたものではいざと言う時にお嬢を守れないからな」

 

「そーか。…ってかよ、フルネームで呼ぶのやめね?結構俺の名前って呼びづらいだろ?」

 

「ふむ…しかしなんと呼べば…」

 

「橙でいいぞ。俺達はダチだからな」

 

「それもそうか。…んんっ、だ……だ…ぃ///」

 

「乙女かオメーは!こっちまで恥ずかしくなるわ!」

 

「う、うるさい!仕方がないだろう!ゆ、友人など初めてなのだ!」

 

こんな話をしながら2人で教室に入る。

教室に入ると、千棘が振り向き様に鶫に声をかけた。

 

「つぐみ、遅かったじゃない!」

 

「すみません、お嬢。少し…だ、橙と話しておりまして」

 

「おーす、千棘」

 

鶫の返事に次いで橙が挨拶をする。

それに普通に返した千棘だったが何か違和感を感じたようだ。

 

「そーいうことね!おはよー!…って橙?いつの間にそんなに仲良くなったのよ!?」

 

「あっ、いえ…これには色々と事情がありまして…」

 

千棘の質問に対し、少し言いよどむ鶫。

橙は冷静にあったことを話せば良いと言っているが…

 

「なーに照れてんだよ。んなの隠す必要ねぇだろ」

 

「そ、そうだな。実は橙と2人で話をした時に…」

 

ここでまさかの爆弾投下。

それも核爆弾レベルの…

 

「俺から告白してな?付き合うことになったんだよ~!」

 

「そ、そうなんですよ!…へ?」

 

とっさの事で鶫は流れのままに肯定してしまう。

これがトドメとなり教室は一瞬の無音の後に爆発的に絶叫が響き渡った。

 

『はぁぁぁぁぁぁ!!!?』

 

『えぇぇぇぇぇぇ!!!?』

 

この状況で笑っているのは橙だけだ。

様々な反応がある中で特に動揺しているのが3人。

1人は鶫だ。これはもちろん、目の前で巻き込まれた張本人だけあって顔を真っ赤にして橙に詰め寄っている。

 

「な…ななななな!///何を言っているのだ貴様はぁ!?」

 

「あっはっは!ちょっとした冗談じゃねーか!」

 

「ど、どうすれば…!ってお、お嬢!?しっかりしてください!」

 

「橙とつぐみが…橙とつぐみ…」

 

「お嬢~!!」

 

鶫がこの状況をどうにかするべく、頭を悩ませていると真顔になりぶつぶつと何かを呟いている千棘の姿が。

鶫が揺すっても戻ってこない。

さらにもう1人…

 

「へぇ~。お似合いだね、あの2人」

 

「…」

 

「るりちゃん?」

 

「…」

 

「あ、あれ…?るりちゃん?おーい!……き、気絶?ど、どどどどうしよう…」

 

少し離れたところにいたるりと小野寺。

小野寺が普通に素敵だと思い、るりに話しかけたが反応が返ってこない。

不思議に思った小野寺がるりの顔の前で手を振ってもなにも反応がなかった。

るりは、どんな感情でかは分からないが立ったまま気絶しているようだ。

そこから数分後、ようやく落ち着いてきたのを確認して橙がネタバラシをして一応は終息したのであった。

 

「はぁ~!面白かったぜ!」

 

「勘弁してくれ…」

 

正気に戻った千棘とるりから一撃ずつもらったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

飼育係の仕事で飼育小屋に来ている。

 

「なぁ、千棘。そろそろ機嫌なおしてくれよー」

 

「ふんっ!」

 

「お前らいつまでやってんだよ…」

 

千棘は先程の一件でご立腹だ。

朝からずっとご機嫌取りに追われている橙である。

だが、ここで秘策を使うようだ。

 

「あーあ。映画誘おうと思ってたのになぁ…千棘が口聞いてくれないからるりか鶫でも誘って…」

 

「行くっ!私が行く!」

 

「でも千棘怒ってるしなぁ…」

 

「何言ってるのよ!私が怒るはずないじゃない!」

 

「ホントか?良かったぜ」

 

(ふっ…チョロいな)

 

単純な千棘は素直に喜んでいるようで橙の思惑通りのようだ。

そんなやり取りをしていると楽が気の抜けた声で言った。

 

「堂々と浮気かよ、ハニー」

 

「はんっ!あんたみたいな甲斐性なしは用済みよ!しっしっ!」

 

「こんのゴリラ女が!こっちから願い下げじゃボケェ!」

 

「くくっ。仲良いなぁお前ら!」

 

「「良くない!」」

 

こうして、茶番が終わり作業に入ると…

 

「うん?…まじか…」

 

「どうしたのよ?」

 

「エサが今日の分しかない…」

 

まさかのエサがないと言う事態に。

簡単に言うと楽が忘れていたらしい。

 

「しっかりしてくれよ、委員長」

 

「わ、悪ぃ」

 

「ホントに使えないわねー!どうする?注文するの?」

 

「いや、こんだけ珍しい動物がいるからな。買いに行くしかねぇだろ」

 

「めんどくさーい。ダーリン1人で行ってよね」

 

「いや…持てねーよ」

 

千棘は面倒くさいみたいで、楽1人に押し付けようとしているが世話焼きの橙が行かないはずがない訳で…

 

「しゃーねぇ。俺も行く」

 

「えっ?なら私も…」

 

それに千棘が乗っかろうとしたところでうしろの草むらから声が聞こえた。

 

「お待ちくださいお嬢!」

 

「え?」

 

「ん?」

 

キョロキョロと回りを見渡しても鶫の姿は見当たらない。

千棘と楽が首をかしげていると、草むらから鶫が登場してきた。

実は、橙は最初から気づいていたりする。

 

「「どわあ!!」」

 

「お嬢!そのような買い出しならこの私が!!お嬢にそのような雑事をさせるわけにはいきません!…行くぞ!橙!」

 

急に参戦してきた鶫は、橙がどうこう等は関係なしに100%善意でこの提案をしている。

だが、これに千棘はたまらず抗議しようとした。

 

「ん?鶫が一緒に行くのか?」

 

「はぁ!?ちょっ!私が…」

 

「いえ!お嬢は是非恋人とお2人で」

 

「ぐっ…」

 

だが、恋人のフリを知らない鶫にこう言われてしまうと下手に言い訳もできない。

結局、買い物は橙と鶫で行く事になったのであった。

 

 

 




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第11話

買い物に行く事になった橙と鶫は一度帰って着替えてから集合することになった。

待ち合わせ場所に着いた橙は…

 

「あん?人だかり…へぇ」

 

待ち合わせ場所に人だかりを見つけた。

よく見てみると、その中心には私服に着替えた鶫の姿がある。

鶫は恥ずかしそうにしながらうつむいているようだ。

これ以上待たせるわけにはいかないため、橙は少し足早に向かった。

 

「おーす!鶫!」

 

「だ、橙…な、なんだかさっきから妙にジロジロ見られている気がするんだが…」

 

「ははっ!んなもん鶫が可愛いから目を引いてるだけだろ」

 

「なぁっ…!///」

 

「まぁ照れんなって。ちゃんとエスコートすっから行こーぜ」

 

「ひゃあっ!?///だ、橙…手っ…!///」

 

「せっかくのデートなんだから楽しもーぜ!」

 

「デっ!?こ、これは買い出し…」

 

「細かいことは気にすんなっての。ほれ、行くぞ!」

 

終始テンションの高い橙に腕を引かれて2人は移動を始めた。

これも橙の気遣いで、明らかに緊張して回りの視線に敏感になっている鶫の意識を別のところに向けるための行動だったりする。

取り敢えず2人は大型のペットショップに歩いてむかうことに。

 

「なぁ、鶫。その服は自分で選んだのか?」

 

「いや、お嬢がな…」

 

道中、何気ない話をしながら歩いている。

鶫は千棘に無理やり服を着させられたらしく若干不満そうだ。

 

「くくっ。せっかくだから女の子らしい服着ろってか?」

 

「よく分かったな…はぁ、こんな格好…」

 

「私には似合わない…か?」

 

「ああ…」

 

鶫は自分の容姿が優れていることを理解していないようで、オシャレなどにも悲観的だ。

別に無理やり分からせるつもりもないが、橙はいつも通りに思ったことをそのまま口にだしている。

 

「ふーん。まぁ、俺は似合ってると思うぞ?鶫の自己評価は置いといて俺の意見だ」

 

「へっ?///…そ、そうか…ありが…とう///」

 

こう言われると否定するわけにもいかず、鶫は顔を赤くしながら小さい声でお礼を言った。

まだ、恋と言う感情を理解していない鶫は、妙に早い心臓の鼓動や顔が熱くなる感覚に頭を悩ませている。

 

「おう。ま、行こーぜ」

 

「ま、待て!先に行くな…!」

 

2人はこの後も途切れることなく話ながらペットショップに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペットショップに到着した2人。

取り敢えず店内を回ることに…

 

「すげーな!この店!珍しい動物めっちゃいるぞ!」

 

「いやにはしゃいでいるな…。動物が好きなのか?」

 

「もちろん!可愛いじゃねーか!」

 

「ふふっ…子供みたいな所もあるのだな」

 

「俺だってまだ高校生のガキだっての!」

 

「そうだったな。まあ、見て回るか」

 

「ああ!…鶫!あっちにフクロウいるぞ!行こう!」

 

「そんなに慌てなくても逃げないと思うぞ?」

 

橙の無防備な一面を目にした鶫。初めの緊張はどこへやら、顔には笑顔が浮かんでいる。

そうして1通り回り終わった2人は目的の品を購入した。

 

「うし!…鶫?」

 

「彼女さんならあちらに…」

 

「ん?ああ、すんません」

 

会計を済ませた橙が店を出ようと振り替えると、鶫の姿がない。

辺りを見回していると、会計をしてくれた店員さんが犬のコーナーを指差した。

そこでは、ショーケースに張り付いている鶫。

橙は近づいて声をかける。

 

「鶫、行くぞー。ほれ」

 

「了解した…ん?」

 

「ヒール慣れてねぇだろ?手ぇ貸すぜ」

 

「あ、ああ!す…すまないな!///」

 

鶫は女の子扱いに顔を赤くしながらも、手を取り立ち上がった。

そうして2人は店を出て帰路に着く。

しばらく歩いていると…

 

「…ん?鶫、ヒール脱いで足見してみろ」

 

橙が何か違和感を感じて鶫に足を見せるように言う。

鶫は一瞬驚いた顔になり弱々しく呟いた。

 

「…っ!橙には隠し事はできなさそうだな」

 

「ちょっと歩き方が変だったからよ。ほれ、見せろ」

 

「あ、ああ。……つぅっ…!」

 

違和感の正体は靴擦れによるもので、結構な時間我慢していたのか赤くなってしまっている。

鶫は隠したままやり過ごそうと思っていたらしく、橙も気づくのが遅れてしまったようだ。

 

「あちゃー。靴擦れか…悪ぃな、もっと早くに気づいてやれなくて」

 

「謝らないでくれ…私も隠していたのだからな」

 

「そうか…んじゃ、乗れ」

 

橙の中でこのまま歩かせる選択肢は消えた。

橙は当然のように片ひざをつきおんぶの体制をとった。

それを見た鶫は不思議そうな顔で数秒見つめた後に、橙の意図に気がつき顔を真っ赤にしている。

鶫も痛みより、恥ずかしさの方が大きいのは確定しているために必死だ。

 

「へ…?い、いやいやいや!自分で歩ける!」

 

「…ふーん。そんなこと言って良いのかな?」

 

「な、なにがだ…?」

 

「大人しくおぶさるか…強制的にお姫様抱っこか。選ぶと良い」

 

もうこの時点で橙の思惑から逃れることができないのは決まっていたようだ。

鶫は慌てながら言うが、もう諦めるしかないだろう。

 

「なぁっ!!?///お、おひっ!!?///ひ、卑怯だぞ!橙!」

 

「ふっふっふ…その足で俺から逃げられるのかなぁ?」

 

橙は悪い笑みを浮かべながら言う。

鶫は諦めたようで恥ずかしそうにしながら了承した。

 

「くうっ……お、お願い…します…///」

 

「ははっ!それでいい!…ほれ」

 

「ううっ…こんな…!///」

 

結局、橙に背負われた鶫。

なんだかんだ言いながら嬉しそうだ。

 

「なぁ…鶫」

 

「…なんだ?お、重いか…?」

 

そんな鶫を知ってか知らずか、橙は急に真剣なトーンになり鶫に背中越しに声をかける。

そして…

 

「いや、お前さ……胸でかくね?」

 

「っ!!!///い、今すぐ降ろせー!!!」

 

まさかのセクハラ発言に鶫は涙目になりながら暴れだすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩きながら話をしていると、話題は千棘と鶫の子供の頃の話になった。

 

「鶫と千棘って子供の頃から一緒なのか?」

 

「…そうだな。10年程前になるな」

 

「へぇ。千棘は昔から今みたいな感じでお転婆だったのか?」

 

「ふふっ…ああ。どうやらお嬢は初コイをしていたらしくてな、1人で屋敷を抜け出してその男の子に会いに行っていたよ」

 

千棘は昔から活発で皆を困らせてたのが容易に想像できる。

加えて、10年前に初コイの男の子がいたらしい。

 

「初コイ…ねぇ」

 

「そ、その…だ、橙の初コイはいつなのだ?」

 

橙が少し考えていると、鶫が口を開いた。

おぶっているから橙には見えていないが少し顔が赤い。

 

「俺の?えーっと……まだだな」

 

「そうか…。橙のような男に好きになってもらえる人はさぞ幸せなのだろうな……っ!?///わ、私は何を…」

 

安心したような不思議な感覚に襲われる鶫。

少し考えた後に鶫が言葉をこぼした。

どうやら、無意識のうちに思っていたことを口にだしてしまったようで、顔を真っ赤にして口を押さえている。

それが、おんぶされている状態で橙に聞こえないはずもない。

 

「ははっ!嬉しいこと言ってくれるじゃねーか!」

 

(おぶってて良かったぜ…多分顔赤ぇわ今)

 

「ううっ…///」

 

やはり橙も年頃の男なようで、鶫が自然と発した言葉に少しドキッとしたようだ。

そんな橙に、気がつくことなく、鶫は顔を赤くして唸っている。

 

「んじゃあ、鶫はどうなんだ?」

 

「わ、私は……ないよ。今までも…これからも」

 

次いで、自然な流れで橙が聞くと、一瞬戸惑ったような雰囲気から一変して静かに、どこか自分に言い聞かせるように言った。

橙は黙って鶫の話を聞いている。

 

「…」

 

「お嬢に仕えることが私の使命であり、お嬢の幸せが私の幸せだからな……私には必要のないものだ」

 

どこか悲しげに感じた橙は自分の考えをまっすぐ鶫にぶつけることに。

 

「…そうか。鶫が本心でそう思うんなら俺が口出しする権利は無ぇな………けどよ、千棘の幸せを考えるんなら、鶫…お前も幸せにならなきゃいけねーんじゃねぇか?」

 

「それはどういう…」

 

「千棘はよ…自分だけが幸せならそれでいいなんて、薄情なやつじゃねぇだろ。きっと、お前も一緒に幸せにならないと千棘は心から笑えねぇさ」

 

「っ!」

 

橙は説得どうこうは関係なく、本心で言っている。

 

「それによ、俺も鶫が幸せになってくれたほうが嬉しいぜ?」

 

「良いのだろうか…裏の世界で生きてきた私のような汚れた人間が、人並みの幸せを願っても…」

 

鶫は今までの自分の生き方、生きてきた環境を考えて幸せとは無縁の人生だと決めつけていたのだろう。

だが、橙はそんなこと知らないし、知るつもりもない。

橙にとっては今の鶫が全てなのだから。

 

「んなもん良いに決まってんだろ」

 

「だが、私は……っ!?だ、橙!?」

 

橙はいまだに納得できずにいる鶫の手を優しく握り言い聞かせるように言った。

 

「良いんだよ、鶫。もし、どうしても自分を許せねぇってんなら、俺が許す。世界中のどこの誰がなんと言おうと、俺だけはお前を許して、お前の幸せを願ってやる」

 

「…っ!……やはり卑怯だ…橙は」

 

胸が温かくなるような不思議な感覚。

鶫は今だけは考えることをやめて橙の背中に体を預けた。

 

「ははっ!卑怯で結構!ほれ、ちゃんと捕まっとけよ?」

 

「ああ。…ありがとう、橙」

 

「おう」

 

鶫が自分の初コイに気がつくのはそう遠くないのかもしれない。

 

 




鶫が素直すぎるかな…?
変じゃないか心配だ…


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第12話

ある日の学校のホームルーム。

 

「今日は林間学校での班決めをするぞー」

 

今日は1週間後に行く林間学校の班決めをするようだ。

先生がそう言うと、教室がざわめきだす。

 

「今から10分時間やるから好きなやつと組めー。6人1組な」

 

皆、思い思いに動き出した。

橙達は自然といつものメンバーでかたまる。

 

「楽ー!千棘ー!組もうぜ!」

 

「おう!もちろん!」

 

「いいわよ!」

 

初めは橙が、隣の席の楽と千棘を誘い、快く了承をもらう。

 

「お嬢がおられるのであれば、私もここの班に入るのは当然だな!」

 

「そんなに自己主張しなくても誘うつもりだったっつの」

 

「う、うるさい!///」

 

次いで、鶫がやってきてこれで4人だ。

さらに、るりと小野寺もやってきた。

 

「橙君。私達もいいかしら?」

 

「よ、よろしくお願いします…」

 

「もちろんだ。歓迎するぜ」

 

「これで6人…」

 

これで6人揃ったたのだが、誰か忘れているような気がすると言った表情で楽が頭を捻っていると、遅れて集がやってきた。

 

「へーい!オレっちを忘れてもらっちゃ困りますぜ!」

 

「もう定員オーバーなのよ。ごめんなさいね」

 

「残念だったな、舞子集。お嬢に害をなす貴様は班には入れん」

 

ある程度は冗談だろうが、なかなか辛辣なるりと鶫。

橙は2人をなだめて先生の方に歩いていった。

 

「るりも鶫もんなこと言うなっての。ちょっと待ってろよ、集」

 

「さっすがダイちゃん!頼りになる~!」

 

橙が戻ってくると…

 

「人数的に1人余るから俺たちの班は7人でいいってよ」

 

「やた~!」

 

「「ちっ」」

 

「舌打ちっ!?」

 

「くくっ。随分嫌われてんなぁ」

 

こうして、いつものメンバーで班になることが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後。

林間学校当日。

クラスの全員がいることを確認してバスに乗り込む。

 

「席どーすっか?」

 

「だ、橙!私と…」

 

「橙君、一緒に…」

 

「私が一緒に座ってやらんことも…」

 

いち早く乗り込んだ橙が振り返って聞くと、千棘とるりと鶫がほぼ同時に言葉を発する。

だが、そこに集が割り込んできた。

 

「はいはーい!ダイちゃん、1番うしろの5人席を確保してきて!並びはくじで決めるよ~!」

 

(多分くじの方が早くすむからねー)

 

「ん、りょーかい」

 

席順で揉めることを予期していた集の提案でくじ引きで席順を決めることに…

 

「んじゃ、皆選んでね!一斉に引いてもらうから!」

 

「1…2…3…うん?6本しかねぇぞ?」

 

「ま、いいからいいから!」

 

そして…

 

「「「「「「せーのっ…」」」」」」

 

6人で一斉に引き、集の説明のもと席に着くことになった。

席順は…

 

 

 

鶫 橙 千棘 楽 小野寺

 

 

 

の並びになった。

照れ等もありながらそれぞれ満足そうに席に着いた。

だが、1人まだ立っている人物が…

 

「…舞子君。これはどういうことかしら…?」

 

くじの際に使った割り箸を折りながら集に詰め寄っている…るりだ。

随分、ご立腹のようである。

 

「まーまー!るりちゃんの引いたくじにはなんて書いてあったのよ~?」

 

「…特等席」

 

「ふむ…それでは、説明しよう!特等席を引いたるりちゃんは………ダイちゃんor楽の膝の上に座れる権利を掴み取ったのですっ!!!」

 

集の謎に力強い言葉がバス内に響いた。

一瞬静まり返った後に、男子陣の絶叫と女子陣の黄色い声が響き渡る。

 

『はぁぁぁぁぁぁ!!!!?』

 

『キャァーーーー!!!!』

 

橙達の班のメンバーはと言うと…

 

「「ほっ…」」

 

あからさまに安心した様子の楽と小野寺。

 

「な、なななななぁっ!?///う、羨ま…じゃないっ!ハレンチだぁ!!!」

 

「ちょっ…ちょっと!舞子君!そんなの聞いてないわよ!」

 

それと、明らかに動揺する鶫と千棘。

鶫に関しては心の声が出かかっている。

橙は…

 

「まぁ…席が足りないんなら仕方ねぇか」

 

相変わらずの様子で、受け入れ体制万全だった。

 

「さすがに膝の上は…!」

 

「そ、そうですよねお嬢!きっと先生なら…」

 

千棘と鶫の2人は頼みの綱と先生の方を見るが…

 

「はっはっは!青春だねぇ」

 

むしろ楽しそうに笑っている。

これでなにも言えなくなった2人は肩を落としていた。

そして結局…

 

「それでは!るりちゃん!好きな席へどうぞ~!」

 

集の合図で動き出したるりは、もちろん…

 

「失礼するわね…橙君」

 

「はいよ。特等席にようこそ」

 

「結構…恥ずかしいわね…///」

 

「ははっ。るりも照れるんだな」

 

「ちょっと、橙君。私をなんだと思ってるのよ」

 

るりの肩越しに話をしているためか、どうしてもイチャイチャしているように見えてしまう2人。

こうして、取り敢えず席順がこれに決まり、バスは出発した。

数十分後、ようやく橙の上にるりが座っている光景にクラスの連中がなれた頃。

 

「…っと。カーブ多いな」

 

「そ、そうだな…///」

 

(さ、さっきから肩があたって…///)

 

「そ、そうね…///」

 

(橙が…ち、近い…///)

 

ガーブの度に橙の肩が触れただなんだで、ずっとドキドキしっぱなしの千棘と鶫。

ちなみに楽と小野寺も顔を真っ赤にして初々しくしている。

この状況にいい顔をしないのが、上に座っているはずのるりな訳で…

 

「…むっ……だ、橙君」

 

「ん?どうした?」

 

るりは大胆な行動にでることを決心した。

 

「カ、カーブが多くて落ちそうになっちゃうから…こうしてて…?///」

 

橙の手を取り自分のお腹の前に持ってくると、指を組んで落ちないように抑えてもらうと言った何とも大胆な行動を起こす。

さすがに橙も恥ずかしがっているようだ。

 

「分かったが…ちと恥ずかしいな」

 

「ふふっ…橙君が照れてるなんて珍しいわね」

 

両サイドの2人はと言うと…

 

「み、宮本様…何をなされているのですか…?」

 

「るりちゃん…さすがに…ね?」

 

動揺を通り越して少しイライラしている。

これに対してるりは…

 

「……ふっ」

 

ドヤ顔で答えた。

恥ずかしがりながらも、案外余裕があるるりだった。

 

「「…っ!?」」

 

橙が納得している以上はやめるようには言えない2人。

怒りの矛先は橙に向いた。

 

「千棘、鶫…痛いんだが…」

 

「知らないっ!」

 

「…ふん」

 

結局、目的地に着くまで橙は鶫に足を踏まれ、千棘に脇腹をつねられていた。

ちなみに、集はニヤニヤしながらこの修羅場をずっと眺めていた。

 

 

 

 




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第13話

バスで色々あったが、ようやく目的地に到着した。

橙は上手いこと千棘と鶫のご機嫌を取り、2人はいつも通りに戻ったようだ。

バスを降りて早々に、班ごとに飯盒炊飯でカレーを作って食べることに…

 

「鶫!千棘を見張っててくれ!」

 

「わ、分かった!」

 

「るりは小野寺を頼む!」

 

「任せてちょうだい」

 

ここでは、橙が上手く立ち回り、犠牲者を出さずにすんだ。

食事を終えた後、またバスで本日泊まる旅館に移動した。

 

「へぇ。良いとこじゃねーか」

 

「おお~!ここが今日オレ達の泊まる部屋か~!」

 

「思ったより広いね~」

 

旅館着いてからは班ごとに割り当てられた部屋にそれぞれ向かう。

橙達も自分達の部屋に到着した。

 

「いやー、ふすまごしとはいえ女子と同じ部屋で寝られるなんて…オレこの学校入ってホントよかったよ…!!」

 

「…正直な奴だな」

 

集の言った通り、ふすまで仕切っているだけで男女同室だ。

心の声を隠そうともしない集にきつく当たるのはもちろんるりで…

 

「えっ…舞子君がこの部屋で寝れるはずないじゃない」

 

「あれ!!?オレは部屋で寝れないの!?」

 

「はっはっは。それは冗談として…集、変なことしたらベランダに吊るすからな」

 

「それも冗談なんだよね!?ダイちゃん!?」

 

そこに加勢した橙の宣告に震え上がる集。

まぁ、橙がいるから大胆なことはできないだろう。

そんなこんなで荷物を置いた橙達は自由時間がまだあるためにトランプをすることになった。

 

「普通にやってもつまんねぇし負けた奴は罰ゲームってのはどーよ?」

 

「…罰ゲーム?」

 

「そう!負けた人は自分のスリーサイズ…」

 

「…橙君。お願い」

 

「はいよ」

 

最下位の人に罰ゲームを与えると言うことで、集が欲望のままに戯言を抜かすと…るりが橙に合図を送る。

返事をした橙は集の頭を片手で掴み締め上げた。

 

「いだだだだだ!!?ちょっ!ダイちゃん!う、浮いてるっ!し、死んじゃう~!!!」

 

「よーし。もう一度チャンスをやろうではないか」

 

「は、初コイのエピソード…」

 

「るり」

 

橙は集を持ち上げたままるりの方に視線を向ける。

るりは少し考えた後に了承した。

罰ゲームの内容が決まった途端にいままで静観していた千棘達から声が漏れ、一斉に顔が赤くなり焦りだした。

 

「…初コイの……………それでいいわ」

 

「「「「えっ…」」」」

 

「んじゃ、始めっか。種目はババ抜きで」

 

のんきにトランプを用意している橙と、楽しそうに4人を眺めている集以外の羞恥とプライドをかけた戦いが幕を開けた。(注・ただのババ抜きです)

 

「では、ゲームスタート!」

 

集の掛け声で始まったババ抜き。

初めのうちはみんな順調に減ってゆき、手元には4、5枚といったところだ。

このゲームを進めていって分かったことは…

 

(千棘と小野寺がくそ弱ぇ…)

 

ポーカーフェイスができない2人は、ジョーカーが手元にくる度に思いっきり表情に出て丸分かりだ。

そして、その2人に挟まれている楽も…

 

(また小野寺のジョーカーをわざと引いたな………決めた)

 

千棘の逆隣に座っていた橙はある作戦を思いつき実行に移す。

ゲームが進み続々とあがる人が出てきた。

 

「あっがりー!」

 

「私も」

 

「あ、あがりだ!…ふぅ」

 

集とるりと鶫があがり、残りは4人に…

ここからが本番だ。

まずは隣の千棘を上手くあがらせる。

 

「ほれ、どーぞ」

 

「え、ええ……っ!やった~!!!」

 

千棘の嬉しそうな声が響いて残り3人。

 

(楽には悪ぃが…抜けてもらうぜ)

 

「……よし!あがり!」

 

「ふぅ…これで俺と小野寺の一騎討ちだな」

 

「そ、そうだね…!」

 

楽もあがって後は、橙と小野寺の2人になった。

作戦は最終段階へ…

その頃、外野では。

 

「ダイちゃんが残るとは思わなかったな~」

 

「…そうね」

 

(そういうこと…ふふっ、橙君も抜け目ないわね)

 

橙の思惑に気づいたるりが、集の話に相槌を打ちながら橙と小野寺の方を見つめていた。

そして…

 

「引くぞ……ふむ、コッチだな」

 

「ああっ…!」

 

「あがりだ」

 

「ううっ…ま、負けました…」

 

これにて決着。

まぁ、橙が何をしたかったかと言うと、小野寺と楽の背中を押す一貫としてこの罰ゲームを利用した。

なぜ楽じゃなかったのか…それは楽よりも小野寺の方がここぞと言うときにかましてくれると思ったからだ。

実際に小野寺がどういったエピソードを語るかは分からないが、楽が感づけば上々だろう。

と言うことで…

 

「そんじゃ、罰ゲームだな」

 

「そうね。小咲、キリキリ吐きなさい」

 

「る、るりちゃん!?」

 

橙の思惑を察したるりは、橙に加勢し背中を押している。

今のメンバーで一番興味を示しているのは、もちろん楽だ。

そわそわしながら祈るような顔で見守っている。

そして…

 

「…わ、私の、初コイは……じゅ、10年前…」

 

「それはなしよ、小咲。相手の名前すら覚えてないんでしょ?」

 

「そ、そう…だけど…」

 

あからさまに逃げようとした小野寺をるりが捕まえる。

小野寺は楽の方をチラチラと見ながら一度大きく深呼吸をした。

 

(おっ、いい顔してんじゃねーか。言うぞこりゃ)

 

橙の思った通り、小野寺は決心した顔で口を開く。

 

「私の初コイは…中学校の時で…今も変わってない…」

 

真剣な雰囲気を察知した他のメンバーも黙って聞く姿勢をとっている。

 

「その人は…自分に何かあっても、当たり前のように相手のことを心配するようなお人好しで、困っている人がいたら自分がどんなに急いでいても寄り添って一緒に悩んでくれる優しい人…です」

 

(小咲…頑張って…)

 

(楽は幸せ者だな)

 

ここまで一息で言いきった小野寺は、震えながら腕をあげていく…

どうやら、この場でカミングアウトするつもりのようだ。

 

「その人は………」

 

そして後もう少しと言うところで、部屋のドアが勢いよく開いた。

 

「コラァーーー!何時だと思ってんだ!集合時間とっくに過ぎてるぞ!」

 

「うおっ!?やっべ!」

 

「かぁーっ!いいところで!」

 

遊びに集中しすぎでいたらしく、集合時間を過ぎてしまっていたみたいだ。

先生が怒りながら注意しにきた。

皆が慌てて部屋を出ていく中、残ったのはるりと小野寺。

 

「小咲…よく頑張ったわね」

 

「…うん」

 

るりは座り込んだままの小野寺に近寄り抱き寄せて頭を撫でる。

今回ばかりは、るりも小野寺の勇気を認めているようだ。

一方で、橙は楽と集と一緒に部屋を出て歩いていた。

 

「…なぁ」

 

「どうした?楽?」

 

楽は思い詰めた様子でくちをひらく。

ようやく気づいたかと橙が安堵していると…

 

「いや…さっき小野寺が言ってたのってさ…」

 

(やっと気づいたか)

 

「…橙のことかと思ったんだけど、中学一緒じゃないもんなあ…誰なんだろってさ…」

 

深刻そうに予想の斜め上のことを言った。

あまりの鈍さに、橙はため息を吐き、集は吹き出した。

 

「ぷっ…!」

 

「はぁ…このニブチンは」

 

「だ、橙!?集もなんで笑ってんだよ…!」

 

2人の恋路はまだまだ長そうだ。

 

 




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第14話

先生に怒られて集合した後、飯を食って次は風呂の時間だ。

 

「風呂行くか」

 

「行く行く~!」

 

「…集。覗きしようとかいわねーだろな」

 

「言わないって!そんなことしたらダイちゃんにお仕置きされちゃうしね~!」

 

「くくっ。懸命な判断だな」

 

こんな話をしながら歩き風呂に到着した。

 

「ふぅ」

 

「相変わらずすごい体してるね~!スポーツ用品店に置いてあるやたらムキムキなマネキンみたい!」

 

「例えが的確だし嬉しくねぇよ!」

 

「ははっ!まー行こうぜ!」

 

手っ取り早く服を脱いで風呂に入る。

学生の団体を受け入れてるだけあって風呂も結構広い。

 

「うお~!結構広いな!」

 

「うちの学校はこーゆうところは気前がいいからねぇ!」

 

橙達は話もそこそこに湯船に入り、一息着いた。

 

「はぁ~、極楽極楽」

 

「おっさん臭ぇぞ~楽~」

 

「いや~気持ちいいねぇ……むむっ!」

 

しばらく湯船に浸かっていると、壁を隔てた向こう側から女性陣の声が聞こえてきた。

いち早く反応した集は橙と楽以外の男子とアイコンタクトをとり壁際に移動した。

 

「集ー。覗きはすんなよー」

 

「もっちろんさ!覗きはしないよ…覗きはね!」

 

「あいつらすげーな…聞こえてくる声だけで楽しんでるぞ…」

 

「まぁ、あれくらいは許してやるさ」

 

移動した男子は全員で壁に張り付いて声を聞きながらだらしない顔をしていた。

楽はそんな欲望丸出しのクラスメイトを顔をひきつらせながらみている。

 

「楽は行かねぇのか?今日くらいは目ぇ瞑っててやるぞ?」

 

「お、俺はいい!……っ///」

 

そんな皆を眺めながら橙が口を開くと、急に楽の顔が赤くなり慌て始めた。

 

「んなこと言って今、小野寺の裸を想像したろ?」

 

「う、うるせぇ!そ、そういう橙はどうなんだよ?興味無いのか?」

 

「めっちゃあるぞ。鶫とかすごそうだよなー。こないだおぶった時の胸の感触がなかなか…」

 

「そ、そうか…い、一緒に行くか?」

 

なんだかんだ興味があるのか、橙を誘った楽だが橙のよく分からない主義を聞いて逆に呆れている。

 

「くくっ。いや、俺はそーいうのはいい。覗くくらいなら直接見せてくれって頼む」

 

「それもどうかと思うんだが…」

 

そんなことを話ながら橙と楽はいまだに音を聞いている集達をおいて風呂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻った橙達は寝る体制にはいる。

それぞれ、男女分かれてふすまごしに布団を敷くはずなのだが…

 

「…よし」

 

「よし…じゃねぇ。るりはなんでナチュラルに俺の隣に布団を敷いてんだよ」

 

るりは迷いのない足取りで橙の隣に布団を敷きはじめた。

 

「だめ?」

 

「そんな可愛く頼んできてもだめだぞ…っておい、そこの2人も何してんだ」

 

るりを嗜めていた橙が振り返ると、千棘が逆隣に、鶫が上に布団を敷いている。

2人ともなぜか堂々としているのがなかなかシュールだ。

 

「なにって、布団を敷いてるのよ!」

 

「そ、そうだ!特に意味はない!」

 

「いや、3方向から囲まれてるんだが…」

 

どうするかと橙が頭を悩ませていると、集が口を開いた。

実際に一番の常識人のるりが暴走している時点でほぼ詰んでいるが…

 

「もー雑魚寝でいいんでねーの?」

 

「あら?舞子君はまだいたの?」

 

「扱いが雑すぎるっ!?」

 

るりの集への当たりが強いのは置いておくとして、結局雑魚寝することになった。

 

「それじゃ電気消すぞ~」

 

部屋の電気を消して、全員が布団にはいる。

寝るまでに雑談が始まるかと思ったが、皆疲れていたようで、自然と瞼が閉じていった。

そして、翌朝。

 

「絶対にこうなると思ってたんだよなぁ…はぁ。俺はいつからハーレム物の主人公になったんだ」

 

橙が目を覚ますと体が動かせない状態になっていた。

金縛りなどではなく、物理的にだ。

 

「役得ではあるんだけど…この状態で理性を保ってる自分を褒めてやりてぇわ」

 

現状…千棘と鶫が左右の腕に抱きついており、るりに至っては上にのっている。

なかんもうとりあえず柔らかい。

 

「んなことより…集、お前はなにをしてるんですかね?」

 

「むふふ…羨まけしからんですな~!」

 

橙がほぼ諦め状態で時間を確認するために視線を巡らせると、少しはなれたところでカメラをまわしている集を見つけた。

 

「ダイちゃん!感想をどーぞ!」

 

「めっちゃやわっこい」

 

結局、この後一番早く起きた鶫の絶叫により全員が目を覚ました。

 

「わ、私は何てことを…!///」

 

「よく眠れたわ」

 

「ううっ…///」

 

恥ずかしがっている千棘と鶫をよそに、るりは晴れやかな表情をしている。

 

「千棘と鶫はともかく…るりは確信犯だろ」

 

「そうよ」

 

「なんで誇らしげなんだよ…」

 

るりはもう色々と隠すつもりもないようでどんどん積極的になっている。

さすがの橙もたじたじだ。

拒絶するほど…というか嫌ではないからなお困る。

結局、この後数分で朝食の時間になり全員で移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日目の夜はどうやら肝試しをやるようだ。

珍しいことに男女のペアで必ず手を繋いでまわらなければいけないらしい。

そんな中で燃えている人物が4人。

1人は言わずもがな集だ。

後の3人は…

 

「小咲…あんたはなんとしても一条君とペアになりなさい。いいわね?」

 

「…なりなさいって……ペアってクジで決めるんじゃ…」

 

「根性でなんとかしろ。どんな形にせよ仕掛けなきゃ何も変わらないよ?勇気出すって決めたんでしょ?」

 

「…るりちゃん」

 

「もし私が一条君とのペア券引いたらあんたに譲るから…あんたが橙君とのペア券引いたら譲りなさいよね」

 

「絶対にそれが目的だよね!?私の感動を返して!」

 

「ふふっ…これで確率は2倍ね」

 

るりはお互いにギブアンドテイクと言うことで準備万端のようだ。

一方で千棘と鶫は…

 

「お嬢。どうやら肝試しとやらは男女のペアで行うようです。しかも手を繋がなければいけないとか…」

 

「そうなの?そしたら…」

 

(橙とペアになって…よしっ!)

 

「お、お嬢!私が一条楽とのペア券を引いたらお譲りするので…だ、橙とのペア券を引いたら是非とも私に…」

 

「なっ…だ、だめよ!クジは公平にしないと!」

 

「…そう…ですか…」

 

「うっ…」

 

(そんな悲しそうな顔しないでよ~!)

 

こっちもこっちで大分ワチャワチャしている。

千棘は鶫の前だと楽と付き合っている風を装わなければいけないために大変そうだ。

橙達、男子陣は…

 

「楽は小野寺とのペア券引けよ?俺が引いたら譲ってやるからよ」

 

「い、いいのか!?」

 

「もちろん。なぁ…集?」

 

「モチのロンですとも!…2000円でいかが?」

 

「………買った」

 

「毎度~!ちなみにダイちゃんは誰とがいいの~?」

 

「ん?そーだな…千棘か鶫かるりだったら嬉しいかね」

 

「ほ~ん!オレが引いたら…」

 

「買わねーよ」

 

「ちぇ~」

 

そんなこんなで時間はあっという間にすぎ、夜になった。

 

 

 

 




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第15話

あっという間に時間がすぎ、夜になった。

生徒は全員で旅館の近くの森のような場所に来ている。

 

「よーし、全員注目!これより恒例の肝試し大会を開始する!」

 

先生が音頭をとり、進める…のではなく、後の事は生徒に任せて先生達は先生達で一杯やるらしい。

なんともまぁ適当だ。

 

「う~…肝試しかぁ…」

 

「暗いの苦手だもんな。千棘はあんまし無理すんなよ?」

 

「1人きりじゃないから大丈夫だとは思うんだけどね…」

 

橙が千棘とそんな話をしているとペア決めのくじ引きが始まった。

まずは女子からだ。

 

「ん?…始まったみたい!行ってくるわね!」

 

「おー。いってらー」

 

(本当に大丈夫かねぇ?俺が一緒になれりゃいいんだが…)

 

そんな事を考えて頭を悩ませていると、るりが不自然に小野寺の引いた番号を連呼し始めた。

 

「へ~。小咲は12番だったんだ~。小咲は~12番~」

 

「…る、るりちゃんはじゅ…10番なんだ~」

 

やらされているのかは分からないが、小野寺もるりの番号を不自然な音量で言い始めた。

橙は呆れ気味にるりと小野寺の奇行を眺めていた。

 

(露骨すぎんだろ…まぁ、楽はラッキーくらいにしか思ってないだろーがな)

 

実際に楽は…

 

(なんかよく分からねーけど、番号ゲット!12番だな!)

 

なんて思っている。

鈍感すぎるのも考えものだ。

そして、女子が全員引き終わり男子の番。

数人が引き終わって次は楽だ。

 

「ふぅ~。…よしっ!」

 

深呼吸をして気合いをいれた楽は箱に手を突っ込んで引き抜いた。

結果は…

 

「……じゅ、12…!」

 

見事に狙っていた番号を引いて見せた。

小野寺は興奮してるりをめちゃめちゃに揺さぶっている。

 

「ほぉ~。これぞ愛の力ってか?」

 

「ホントに引いちゃうとわね~!」

 

橙ほ集と少しはなれたところでニヤニヤしながら成り行きを見守っていた。

そして、次ぎは橙の番だ。

 

「んじゃ行ってくる」

 

「行ってら~!ちなみに…桐崎さんが8番で誠士郎ちゃんが14番だよ~ん!」

 

「ん、サンキュ」

 

いつ調べたのかは分からないが集から情報をもらいクジを引きに向かう。

 

「次の人ー」

 

「はいはいっと……おっ、14か」

 

橙が引いたのは14番。

鶫とペアだ。

橙がクジを引くのを固唾を飲んで見つめていた3人は…

 

「っ!やった…じゃない!ク、クジで決まったのなら仕方ないな!」

 

「鶫さん嫌なの?なら私が変わってあげる。ほら、早く、ほら」

 

「だ、だめです!宮本様!橙の友人として私が責任を持って一緒に行きます!」

 

「無理しなくていいのよ?…ってかちょうだい」

 

もはや取り繕えていないが、鶫は嬉しそうだ。

そこにるりが突っかかりに行っている。

千棘は…

 

「ううっ…あんなこと言った手前何も言えない…」

 

少し離れたところで肩を落としながら鶫とるりのやり取りを眺めていた。

そんな時千棘のすぐ近くの茂みから何やら話し声が聞こえてきた。

 

「…ねぇ、どうする?」

 

「困ったなぁ…代役なんていないし…」

 

「ん?……あれ、どうしたの?」

 

「わ!桐崎さん。…実はーーー」

 

話を聞いた千棘は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肝試しが始まり、番号順にスタートしていく。

橙は自分達の番まで時間があるため、ペアの鶫と話をしていた。

 

「鶫、よろしくな」

 

「あ、ああ!こちらこそよろしく頼む!」

 

「おう。鶫は怖いの大丈夫なのか?」

 

「む…得意ではないな」

 

「そうか…怖かったら抱きついていいからな?」

 

「なぁっ!?///な、なななにを…!」

 

「くくっ。その間俺は胸の感触を楽しんでるからよ」

 

「…っ!///き、貴様と言う奴は!」

 

「ぷっ…!冗談だっつーの!」

 

「ううっ…///」

 

橙が鶫をいじって遊んでいると、集が近寄ってきた。

 

「おーい!ダイちゃーん!」

 

「ん?どした?」

 

「桐崎さん見てない?さっきから探してるんだけど見当たらないんだよね…」

 

「あん?千棘が…?」

 

「お嬢がどうかしたのか?」

 

どうやら千棘がいなくなってしまったようで探しているらしい。

 

「あー、桐崎さんならさっき森のなかに入ってくのみたよ?オバケのかっこして」

 

そんな時、近くにいた他の生徒が脅かす役として森にはいった千棘を見たと話してくれた。

それを聞いた橙は、最悪の事態に思い当たり即座に行動を起こす。

 

「オバケの?なんでまた…」

 

「ちっ…悪ぃ、鶫。一緒に行けそうにねぇわ。今度埋め合わせすっから」

 

「ふっ…ああ。楽しみにしているからな」

 

「おう。行ってくる」

 

意味が分からないといった集をよそに、ある程度の事態を把握した鶫は橙のしようとしていることを理解し送り出すことに。

本当であれば自分が1番に飛び出して行きたいだろう。

だが、この暗がりだ…橙のお荷物になるわけにはいかない。

それに…

 

「橙になら安心してお嬢を任せられる…頼んだぞ、橙」

 

鶫は走り去っていく橙の背中に向かって呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橙は森のなかをひたすら走っていた。

 

「はっ…はっ…!安達の話だとこの辺なんだが…」

 

そんなに広くない森だが、如何せん暗すぎる。

 

「くそっ…早く見つけてやらねぇと…!」

 

橙は1人で泣いている千棘の姿を頭に浮かべながら足を止めずに走る。

一方、千棘は…

 

「ううっ…ぐすっ…どうすればいいのよ…」

 

なんとか気を紛らわそうと色々とやっていたが、結局手に着かず、いよいよ限界が近づいていた。

足が震えて歩くこともできず、明かりは月の光だけ。

どんどん涙が溢れてくる。

こんな時に思い浮かべるのは…橙の顔。

だが、期待すればするほど、時間がたつのが怖くなってくる。

 

「橙ぃ…」

 

千棘は最後の勇気を振り絞って自分が今出せる精一杯の声量で橙のことを呼ぶ。

その声に反応したように近くの茂みが音を立てる。

 

「…っ!……風…か」

 

慌てて振り返る千棘。

顔には少しの期待が込められていた。

だが、その分期待が外れた時の絶望感は大きいもので…

 

(もう…一生このままなのかな…)

 

思考が一気に暗闇に飲み込まれるような感覚。

すべての感情が下を向く…

と思ったその時。

 

「お前の声…しっかり届いたぜ。千棘」

 

「だ…ぃ…?」

 

「おう。俺だ」

 

橙が千棘の前に現れた。

千棘は放心したように橙の名前を呼び、顔を上げる。

そして、橙の姿を確認した瞬間、感極まったように橙の胸に飛び込んだ。

 

「うっ…ううっ…橙ぃぃぃぃぃ!」

 

「おーよしよし。怖かったな」

 

橙は落ち着かせるように優しく頭をなでた。

それにより千棘は安心したためか、弱音が漏れてくる。

 

「怖かったよぉ…もうずっとこのまま1人だと思った…」

 

「そりゃあり得ねぇな」

 

「…なんで?」

 

「んなもん俺がお前を見つけるからに決まってんだろ」

 

「ホントに…?」

 

「ああ。お前がどこにいたって必ず見つけてやる。だから…もう泣くな」

 

「うんっ…!」

 

橙はそれが当たり前かのように言って、千棘の涙を指で拭う。

千棘は堪らなく嬉しそうに笑った。

信じる理由なんて『橙だから』で充分なのだ。

 

「皆心配してるから早く戻るか」

 

「そうね!ありがとう!橙!」

 

「ははっ。やっぱり千棘は笑った顔が1番似合うな」

 

「っ!/// きゅ、急に恥ずかしいこと言わないでよっ!///」

 

「悪い悪い。ほれ、行くぞ」

 

顔を赤くしている千棘をよそに、橙は手を取り歩き出す。

繋がれた手は皆のところに戻るまで離れることはなかった。

 

 

 




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第16話

橙が千棘を連れて戻った後、皆に心配されながらも無事に終わり、そのまま林間学校も終了した。

翌日から、学校では衣替えの季節のためちらほらと夏服が見受けられる。

そんなある日の学校で、橙と楽とるりと小野寺の4人で廊下で話していると、鶫が教室からでてきた。

 

「橙、お嬢を見なかったか?」

 

「おう、鶫。千棘は…」

 

「ん?ハニーならさっき理科準備室に向かってったぞ」

 

「そうか。それは都合が良いな…皆さん少し宜しいですか?ちょうどお揃いのようですし」

 

どうやら、千棘には内緒で話があるらしく話を始めた。

 

「実は、今日は千棘お嬢様のお誕生日なのです!なので私、お嬢を楽しませて差し上げたくサプライズパーティーを計画中でして…ぜひ皆さんをご招待したいのです」

 

「おー!いいねぇ!行くぜ!」

 

「私も行くよ!もちろん!!」

 

「ふーん…じゃあプレゼントとか用意しなきゃな」

 

話を聞いてみると、今日が千棘の誕生日のようでパーティーに参加してほしいとの事だ。

断る理由もないため、4人とも参加となった。

 

「よし。なら放課後に小咲と一条君でプレゼント選んできなよ」

 

「そーだな。2人で行ってこいよ」

 

「「えっ…!?」」

 

すると、急にるりが楽と小野寺の2人でプレゼント選びに行くように提案した。

橙も取り敢えず乗っかることに。

 

「るるる、るりちゃん!?」

 

「橙まで!?」

 

2人は顔を真っ赤にしながら慌てだす。

 

「楽、ちょっち来い」

 

「うおっ!?」

 

すると、橙が楽の肩を組み少し離れたところに連れていった。

 

(せっかくのチャンスなんだからよ。ここは男を見せろっての)

 

(で、でもよぉ…)

 

(いいか?小野寺みたいな大人しめな子は引っ張ってくれるような人にときめくと見た。ってことは…分かるよな?)

 

(っ!…行ってくる!)

 

小声で作戦会議?というか、助言をする橙。

楽はそれを聞いて決心したのか小野寺のもとに向かった。

 

「お、小野寺!プレゼント選び一緒に行かねーか…?」

 

「えっ…!?えっと……う、うん///」

 

上手く誘えたようで、楽は小さくガッツポーズをしていた。

橙が2人を眺めていると、いつの間にか近くに来ていたるりが話しかけてきた。

 

「橙君」

 

「ん?どした?」

 

「…この前のプールの時に保留してたお願い…使っていい?」

 

こちらもこちらで動きがありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わった後、橙は私服に着替えて近くの商業施設に向かうことになった。

 

「るりも律儀な奴だよな。誘ってくれりゃ普通に行くのによ」

 

先程のお願いは、一緒に千棘のプレゼントを選びに行くことだった。

るりは、普通に誘えば来てくれるのを分かっていながらお願いとして橙を誘ったのだ。

 

「取り敢えず着替えて早く行かねぇとな。待たせちゃ悪い」

 

橙はパッと準備を済ませて家を出た。

待ち合わせ場所に到着すると、まだるりは来ていないみたいだ。

 

「ちと早かったか…本でも読むかね」

 

橙はそう言って眼鏡を取り出して小説を読み始めた。

るりはと言うと…

 

「ふぅ…緊張するわね…」

 

ちょうど待ち合わせ場所にむかって歩いていた。

 

「人を好きになるって不思議ね…もう、小咲のことからかえないわ」

 

そんなことを考えながら歩き、待ち合わせ場所に到着したるり。

橙を探そうと視線を巡らせると、木陰で立ったまま本を読んでいる橙を見つけた。

 

「…っ」

 

いつもとは違う雰囲気の橙に息を飲むが、数回深呼吸をして心を落ち着かせて橙の元へと向かった。

本に集中している橙にるりは声をかける。

 

「橙君。お待たせ」

 

「…ん?おう、るり」

 

橙は本をしまい、るりの方に視線をやる。

できる男として褒めるのを忘れない。

 

「おー!服おしゃれだな!かわいいぜ」

 

「ありがと///…橙君もかっこいいわよ。とっても」

 

「だろ?気合いいれたからよ」

 

るりは少し顔を赤くしたが、すぐに持ち直して返す。

橙は誕生日パーティーと言うことで、革靴にパンツにジャケットと軽い正装のような格好だ。

さらに、今日はカチューシャもはずして髪はワックスでセットしている。

もう、橙の纏う雰囲気と格好が相まって高校生には見えない。

 

「ふふっ…あら?カチューシャはずしたの?」

 

「ああ。この格好でカチューシャは似合わんだろ」

 

「それもそうね。それじゃ行きましょ」

 

そうして、2人は話もそこそこに歩き出した。

そこまで時間がないため、目的の品だけ見繕うことに。

 

「るりは渡すもん決まってんのか?」

 

「ええ。おすすめの小説」

 

「ほーん。るりらしいな」

 

「橙君は?」

 

「俺も決まってるぞ。そしたら…先に俺の方行っていいか?受け取りまでに時間空いちまうからよ」

 

「分かった。行きましょ」

 

お互いにプレゼントするものは決まっているとのことで、効率よく回るために橙の方から行く事になった。

そして、店に到着する。

 

「ここだな」

 

「…フォトフレームかしら?」

 

到着したのは写真屋だった。

 

「正解。急だったから昼休みに携帯で調べたんだよ」

 

「へー。すごいわね…こんな事もしてくれるんだ」

 

「普通の雑貨屋だと手を加えられないからな。ま、取り敢えず会計してくるから適当に見ててくれ」

 

「はーい」

 

そうして、橙はあとは受け取りのみになり、次はるりのお目当ての物を探しに本屋に向かった。

 

「えーっと…これと、あとは…」

 

「…ふむ」

 

橙は色々と物色しているるりを眺めながら考える。

そして、店内に視線を巡らせると…どうやらなにか思い付いたようで、るりの元へと向かった。

 

「いざ選ぶとなると迷うわね…」

 

「るり。迷ってんならよ、本は1冊にしてこれとセットにってのはどうだ?」

 

「ブックカバー?」

 

「おう。千棘は初心者だろうし、何冊も渡すよりかはいいんじゃねーか?」

 

「…たしかにそうね。そうするわ」

 

こうして、るりもプレゼントを購入し、目的は達成した。

取り敢えず2人は本屋を出る。

 

「受け取りまで少し時間あるな…るり、ちょっとそこのカフェで休憩しよーぜ。奢るからよ」

 

「いいの?」

 

「おう。行こーぜ」

 

「それじゃお言葉に甘えるわね」

 

橙のプレゼントの受け取りまで少し時間があると言うことで、近くにあるカフェで休憩することに。

席について手早く注文を済ませた2人は、どちらともなく話し始めた。

 

「今日はありがとう。プレゼント選びに付き合ってもらっちゃって」

 

「礼なんていらねーよ。むしろ助かったぜ」

 

「ふふっ。それでも、ありがとうよ」

 

「ははっ。相変わらず律儀なこって」

 

こんなやり取りをしながら話し、時間になったためカフェを出る。

2人は橙のプレゼントを受け取り、千棘の家に向けて移動を始めた。

 

 

 




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第17話

橙とるりの2人は買い物を終えて、千棘の家に到着。

その後、数分で全員が集まり鶫が外まで出迎えてくれた。

 

「こりゃすげーな。楽ん家よりデケーぞ」

 

「ホント…千棘ちゃんの親って何やってる人なんだろ…」

 

鶫以外の面々は目の前の豪邸を見上げながら声を漏らしている。

少しの間外で話をしていると、千棘が出てきた。

サプライズと言うことで千棘は橙達が来るのを知らないため、驚いた表情を浮かべている。

 

「おーす、千棘!誕生日おめでとさん!」

 

「あ、ありがと……じゃなくてっ!な、何で皆が…」

 

明らかに動揺している千棘。

実際はギャングの娘と言うことを隠しておきたいだけなのだが、鶫は気にした様子もなく言った。

 

「本日はお嬢のお誕生日と言うことで、恐れながら私、お嬢に内緒で皆さんをご招待させて頂いたのです」

 

「うぐっ…」

 

(ど、どうしよう…まだウチがギャングだって皆に言ってない…)

 

千棘は後ろを向いて頭をかかえている。

ここは楽に任せたいところだが、楽は千棘が何に悩んでいるのか理解していない様子のため橙が動くことに。

 

(千棘、ぜってぇ大丈夫だから言っちまえよ)

 

(で、でもぉ…)

 

(あのなぁ…楽がヤクザの息子って知ってて仲良くしてる奴らだぜ?拒絶なんてされねーって)

 

(…そ、そうよね!大丈夫よね!)

 

橙から言わせれば今さら何を心配してるのかと言った感じみたいだが、やはり当の本人は結構抵抗があるらしい。

取り敢えず、橙の説得で決心がついたようだ。

 

「おーい!皆ちょっといいか?」

 

早速、橙が皆を呼び、千棘のまわりに集まった。

そして、千棘が意を決したように言うと…

 

「千棘ちゃん?どうしたの?」

 

「あ、あの…じ、実は私のウチ、ギャングなのっ!」

 

聞いた小野寺達は聞きなれない単語に首を傾げている。

 

「……ギャング…?」

 

そんな中、楽はやっと気がついたようだ。

 

「…あっ、そーゆう……ってか、お前そんなこと気にしてたのかよ」

 

「う、うるさいわね!仕方ないでしょ!」

 

「…ったく……あー、まぁ簡単に言えば日本で言うところのヤクザと同じだと思ってくれりゃいい」

 

結局、楽が軽く説明をした。

すると…

 

「やっぱりお嬢様だったんだ」

 

「すごいね~!一条君と同じなんだ~!」

 

「…へ?」

 

どうやら本気で拒絶されるかもしれないと思っていたらしく、小野寺達の反応に呆けている千棘。

 

「な?大丈夫だろ?」

 

「う、うん!ありがと!」

 

安心したのか、緊張がほどけて笑顔が戻っている。

そうして家に通してもらうことに…

 

「…さぁ、こちらが本日のパーティー会場になってますので」

 

鶫を先頭に扉を開けると、ギャングの構成員の強面の男達がクラッカーを鳴らしながら出迎えてくれた。

 

『ハッピーバースデーお嬢~~~~!!!』

 

『お誕生日おめでとうございま~~~~す!!』

 

千棘はクラッカーのやけにキラキラしたゴミを頭に被りながら、恥ずかしさやらなんやらで白目を剥いている。

 

(なんか…平和だなぁ)

 

橙はバカ騒ぎするギャングの連中を眺めながらこんなことを思っていた。

そして、中に入るとクロードがこちらに気づいて寄ってきた。

 

「これはこれはお嬢のご学友の皆さんもいらしてくださったのですか。ようこそ、歓迎致します」

 

「あ、はい!本日はお招き頂きどうも…!」

 

全員が挨拶を済ませると、橙は別で1人クロードの元へ向かった。

 

「クロードさん、ご無沙汰してます」

 

「時藤君、よく来てくれた。あの時以来か」

 

「ええ。それにしても…皆さん良い方達ですね。千棘を本当に大切にしているのが伝わってきます」

 

「ふっ…そう言ってくれると嬉しいよ。お嬢も友人に恵まれたようでなによりだ」

 

「はい。良い奴らばっかですから。…それじゃそろそろ戻ります」

 

「ああ。楽しんでいってくれ」

 

こんな話をして橙は千棘達の方に戻った。

橙が戻ると、プレゼントを渡し始めている。

どうやら、楽以外は渡し終わったようだ。

 

「はい、どいたどいた。彼氏さんは最後なー。集、おさえといてくれ」

 

「ほ~い!」

 

「いやっ!ちょっ…橙の後とか絶対嫌なんだけど!?」

 

集に連行されていく楽を横目に橙は千棘に歩み寄る。

 

「千棘、改めて誕生日おめでとう。これ、プレゼントな」

 

「ありがとう!本当に嬉しいわ!」

 

橙からプレゼントを受け取った千棘は胸に抱いて本当に嬉しそうにしている。

 

「橙、開けていい?」

 

「おう」

 

開けると、少し大きめのフォトフレームが出てきた。

特殊な型で、真ん中に1枚とそれを囲むように小さい写真が4枚入れられるようになっている。

 

「わっ!フォトフレーム!かわいい!」

 

「だろ?それな、真ん中は皆で撮ったやつにして、他のは好きな写真いれるのがいいと思うんだよ。例えば、小野寺とるりとのスリーショットとかな。ちなみに、カメラマンも呼んでっからよ」

 

「ふっふっふ!オレの出番だぜぃ!」

 

橙はある程度見越した上で集にカメラを持ってくるように言っておいたのだ。

まぁ、そのお陰で呼ばれていなかった集も参加できたのだが。

 

「さすが橙君ね。こう言うのはセンスが問われるもの」

 

「うわ~!千棘ちゃん嬉しそう!」

 

「良かったですね!お嬢!」

 

一連の流れを見ていたるり達も絶賛している。

 

「ありがとう!橙!一生大切にするわ!」

 

「おう。どういたしまして」

 

さらには、まわりのギャングの連中も感化され、さらに盛り上がっている。

 

『やるじゃねーか!あんちゃん!』

 

『こりゃあ俺たちも負けてられねーぜ!』

 

パーティー的には最高の状態だが、この状況で1人だけ絶望している人物が…

 

「な、なにからなにまで…ハードルがどんどんあがっていく…」

 

もちろん楽だ。

しかも、橙の次に渡すつもりがどんどん後に回されて、本当のトリになりつつある。

その間も、プレゼント渡しは続き…なぜか演歌のCDとバナナを大量に貰ったり、クロードが高級車を用意したが乗れないからと拒否されて撃沈したりと色々とあった。

そしてやっと楽の番。

 

「渡しずれぇ…」

 

楽は顔をひきつらせながら、立ち尽くしている。

控えめに言ってかわいそうだ。

 

「ほれ、行ってこい」

 

「お、おう」

 

橙に背中を押されて千棘の前に立ち、プレゼントを差し出す。

 

「…おめでとさん、ハニー」

 

「…ありが…と…」

 

そうして、覚悟を決めた楽が千棘に渡したプレゼントは、赤いリボンをしたゴリラのキーホルダーだった。

案の定、クロード達に詰め寄られて今にも発砲されそうだったが、意外や意外、千棘が嬉しそうに笑ったことによって無事におさまったのであった。

 

 

 

 




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第18話

久しぶりの投稿です!


無事にプレゼント渡しを終えて、今は皆思い思いに動いている。

橙は、バルコニーで風を浴びながら休憩していた。

するとそこに…

 

「橙」

 

「ん?…主役がこんなとこにいていいのか?」

 

「疲れたからちょっと休憩。隣いいかしら?」

 

「おう」

 

千棘がやってきた。

どうやら抜け出してきたようだ。

2人はしばらくの間なんてない話をしていたが、少し話が途切れたのを見計らって千棘が話を切り出した。

 

「あ、あの…橙に相談…って言うか、その…見てほしい物があるんだけど…いい?」

 

「もちろん構わんぞ。どうした?」

 

「ありがとう!これなんだけど…」

 

そう言って千棘が見せたのは鍵だった。

 

「鍵?家のとかじゃなさそうだな」

 

「うん。この前、昔の日記みたいのを見つけて読んでたらこの鍵が出てきたの」

 

千棘の話を聞いた橙は少し考えた後言った。

 

「ふむ……あのよ、この際だから言っちまうけど…千棘と楽と小野寺は昔会ってるんじゃねーか?」

 

「そう…なのかな」

 

「勘だけどな。そんな気がしてならねーんだよ」

 

橙の中では前々から可能性として思い当たっていたことだ。

ただの勘だが、偶然で片付けるにはあまりにも共通点が多すぎる。

橙が言うと、色々と思うことがあるのか少し頭を悩ませている千棘。

 

「そしたら…私の初コイって…」

 

「まぁ…昔の思い出として大事にしたらいいんじゃねーの?あくまでも1番大事なのは今なんだからよ」

 

「うん…」

 

「納得いかねーか?」

 

「そんなことは…ない…と思う」

 

どうにも歯切れの悪くなってしまう千棘。

忘れてしまっていたとは言っても、やはり気になってしまうようだ。

 

「ならよ、もし初コイの相手を思い出したとして、そいつが目の前に現れたら、千棘はそいつのことを好きになんのか?」

 

「それは絶対にないけど…モヤモヤするのよね」

 

「まぁ、昔のことをハッキリさせるのも大事だしな。そしたら俺も手伝うからよ、なんか分かったら相談してくれ」

 

取り敢えず、今悩んでも仕方がないと言うことで一旦は保留。

 

「うん!ありがとう!」

 

「いいってことよ。んじゃ先に戻っててくれ。俺はもう少し風に当たってから戻るわ」

 

「はーい!いつもありがとね!橙!」

 

「おう。……………もー行ったぞ、楽」

 

橙は嬉しそうに駆け足で戻っていく千棘を見送ってから、通路の影になっている部分を見ながら言った。

すると…

 

「気づいてたのか…。悪いな、盗み聞きみたいになっちまって」

 

「くくっ。あんな話してたら出てこれねーわな」

 

気まずそうな顔をしながら楽が出てきた。

どうやら、橙達と同じく休憩しようと屋敷をうろついていたら、たまたま2人が話しているところに出くわしてとっさに隠れてしまったようだ。

橙は聞いていたんならと、直球で楽に問いかけた。

 

「ま、聞いてたんなら話は早ぇな。楽はどう思うよ?」

 

「俺は…正直、アイツの事も小野寺の事も、偶然で片付けられるような簡単な話じゃねえと思ってる」

 

「偶然にしちゃ出来すぎてっしな」

 

「ああ。俺はてっきり、小野寺が約束の子だと思ってたんだけどよ。謎が深まっちまったな…」

 

楽は楽で、色々と考えていたことがまた振り出しに戻ってしまったらしく、苦笑いをしている。

 

「まぁ、昔の事を考えるのも大事だけどよぉ…あんまし約束の子に現を抜かしてっと小野寺がどっかいっちまうぞ?」

 

「うぐっ…それは…確かに…」

 

実際に、約束の子が誰であったとしても、楽が好きなのは小野寺だ。

橙は約束の子への負い目等で楽に遠回りをしてほしくないのだろう。

だから今回も…これからだってそうだが、背中を押して前に進ませる…と言うよりは、抱えて強制的に進ませると言った、ほぼ通り魔のようなお節介を焼く。

 

「曖昧な過去より目先の恋愛。小野寺なんて美人で優しい、料理以外はほぼ完璧。…いっそのこと俺が貰っちまうかねぇ」

 

「はぁっ!?そ、それだけはやめてくれ!橙に勝てる気がしねぇって!」

 

「ははっ!冗談だ!冗談!俺から見たら小野寺は妹ポジだから安心しろって!」

 

橙の冗談に本気で焦る楽。

橙はそんな楽を見て、笑いながら背中を叩いている。

 

「び、びっくりさせんなよぉ…!寿命縮むっつの!」

 

「ぷっ!やっぱりからかいがいがあるなぁ!楽は!」

 

(ま、もし俺が何したって小野寺が俺に振り向くことはねーだろうがな。罪な男だぜ…全く)

 

橙は未だにお互いの好意に気づかない2人を思いながら内心でため息をついた。

その後、話もそこそこに2人は会場に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場に戻ると、楽は集に呼ばれてどこかに行ってしまった。

 

「うーし。んじゃ、食いますかね」

 

橙はと言うと、少し休憩して腹が減ったらしく食事を取りに向かう。

ある程度取ってテーブルを探していると、何やらビーハイブの構成員が数人で1つのテーブルを囲んでいる様子が目にはいった。

 

「ん?なんだ?」

 

近づいてみると…

 

「このチビッ子よく食うな…」

 

「どこに入っていってんだ?」

 

「…?」

 

るりが数人に囲まれて食べるところを観察されていた。

構成員達は皆驚いた様子で見ている。

実際にるりの前には皿が山のように積まれていた。

 

「…んっ。橙君、どこ行ってたの?」

 

「ちょっと風に当たりにな。ってかよ…それ全部るりが食ったのか?」

 

「そうよ」

 

「すげぇな。俺よか食うんじゃねーか?」

 

話もそこそこに一緒に食べ始めた2人。

初めは興奮気味にフードファイターばりに食べる2人を見ていた構成員達は、時間がたつにつれて見ているだけで胃もたれすると言いながら去っていった。

 

「ふぃ~。食った食った。にしても…どこに栄養行ってんだぁ?」

 

橙はいまだに食べ続けているるりを見ながら呟く。

結構失礼なことを言っているが、そう思ってしまうほどに体に反映されていない。

 

「なんかハムスターみたいで可愛いな」

 

「ん?」

 

橙が微笑ましげに眺めていると、るりは食べながら首を傾げている。

 

「ははっ。美味いか?」

 

「んっ、んっ」

 

橙が聞くと、フォークを口に含みながら頷くるり。

なんとなく頭に手を伸ばし優しく撫でると気持ち良さそうに目を細めている。

本当に懐いているペットみたいだ。

 

「なぁ、るり」

 

「?」

 

「今度…るりの誕生日かなんかに飯作ってやろうか?」

 

「!?」

 

橙がそんな提案をすると、器用にも食べながら表情を変えている。

普段無表情なだけになかなか新鮮だ。

 

「この間の調理実習以来少し料理にハマっててよ。食うか?」

 

「んっ!んっ!」

 

「せっかく作るんなら誰かに食って貰いてぇしな」

 

激しく首を縦に振るるりを微笑ましげに見ながら橙はもう一度頭を撫でた。

その後、約束をした2人は、お互いの誕生日を教えあってから別々に会場を回り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティーが終盤に差し掛かった頃、橙はトイレに向かうために廊下を歩いていた。

 

「…にしても広ぇな…あん?」

 

ふと何かに気づいた橙。

視線の先では…

 

「楽と…ありゃあ千棘の親父さんか?」

 

楽と、恐らく千棘の父親であろう人物が何か話をしている。

引き返そうかとも思った橙だったが、挨拶をしていない事と、楽の表情が気にかかりそのまま接触することに。

ある程度まで近づくと会話が耳に届く。

 

「まさか君たちだけじゃなく、あの子までこの歳で再会する事になるなんてね」

 

「あの子…?」

 

「ほら、今日君と一緒に来たあの子だよ。…これも運命なのかねぇ…」

 

話を聞いた限り、昔の話のようだ。

 

(あの子ってのは小野寺だよな…んで、君たちってのが楽と千棘…この場合は鶫もか?)

 

橙が考えを纏めながら2人に寄っていくと、千棘の親父さんがこちらに気が付き声を掛けてきた。

 

「おや、君は…」

 

「どうも。千棘のクラスメートの時藤橙です」

 

「ああ。娘のためにありがとう。…ん?時藤…?」

 

挨拶を交わすと、何やら考え込むようにして橙を観察している。

橙は特に嫌な視線ではなかった為、黙っていることに。

そして数秒後、何かを思い出したのか千棘の親父さんは口を開いた。

 

「橙くん、君は…陣さんの子供…いや、お孫さんかな?」

 

「うん?じいちゃんを知ってるんですか?」

 

「ギャングのボスなんてやっていると嫌でも情報は入ってくるんだ。…時藤陣、非公式の地下格闘技の大会で10年間無敗のまま引退した伝説の男」

 

正直、橙は名前くらいは知っているくらいのものだと思っていたようだ。

だが、なんだかんだ裏社会で生きてきただけあって思ったよりも詳しい情報が出てきた。

橙は少し驚いたようにして、改めて言う。

 

「…そこまで知ってるんですね。はい、僕は時藤陣の孫ですよ」

 

「ま、まじか…!橙のじいちゃんってそんなにすごい人なのか!?」

 

驚く楽をよそに、千棘の親父さんは言った。

どうやら、橙の知らないところではた迷惑な思惑が動いているらしい。

 

「ははっ!納得したよ!クロードが一目置く訳だ!」

 

「クロードさんがですか?」

 

「そうだよ。いずれはビーハイブにってさ。どうやら、誠士郎とタッグを組ませたいみたいだ」

 

「勘弁してくれ…」

 

橙はため息を吐きながら呟く。

この後、もう少し話をしてから会場に戻りパーティーは終わったのだった。

 

 




特に橙の過去を詳しく書くつもりはないです!
橙の強さの秘密は陣にあるくらいに思っててください!


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