短編集 (いかあげ)
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やはり彼女との昼休みは間違っている。

 はじめまして。初投稿になります。渋には投稿済みです。
 原作完結、アニメも最後までやりましたが、どうやら円盤特典の新が正統続編になるみたいですね。文庫化されたら読みたいと思います。
 なんか渡先生、俺ガイルはライフワークにするとかおっしゃってたし(?)流石にするんじゃないでしょうか、文庫化……。
 ところで、海老名さんってあまり人気ないんですかね?他のヒロインに比べてssを全然見かけない……。眼鏡っ娘好きとしては是非推していきたい所存です。
 まえがき長くてすみません。
 では、本編どうぞ。


 季節は秋。木枯らしがカラカラと音を立て、学校の喧騒の中にひっそりと秋を感じさせる。

 俺はこの季節が嫌いではない。朝や夕方に吹く乾いた冷たい風は、厳しかった夏の暑さを身体から程よく奪ってくれるのだ。なんなら修学旅行帰りで未だにお熱いリア充共の熱も奪って欲しい。何?あいつらのところだけ常夏なの?一年中地上で生きられる蝉なの?俺が蝉だったら一生外に出ないまである。因みに羽化した蝉の寿命は一週間より長いらしい。うん、どうでもいいね。

 そんな心地よい秋のある日、俺は昼食を食うべく、いつもの如く一人でベストプレイスへと向かっていた。

「はろはろ〜」

 謎の部族の挨拶が聞こえた気がしたが、気にせず備え付けの自販機に小銭を入れ、"あったか〜い"の文字の下にあるボタンを軽く押し込む。

 すると、ガランガコンッと音を立て、見慣れた黄色の缶が落ちて……こない……だと?押したボタンをよく見るとそこには無情にも赤く"売切"の文字が。

「ヒキタニくーん、…聞こえてる?」

 いつの間にこの学校にマッ缶教が布教していたのか……。恐るべしマッ缶の魔力。さて、どうしたものか……。

 ふっ、しょうがない。たまにはブラックコーヒーでクールに決めてやるか。

「ヒッキタッニく〜ん?」

 "売切"の文字の無い隣のボタンを押すと、今度こそ、ガランガランガコンッと無機質な金属質音を立てて缶コーヒーが落ちてくる。 

「あっち」 

 温かい缶を握ってぬくぬくと肌を温めながらひんやりと冷たいコンクリートにそっと腰を下ろすと、ちょうど昼を境に吹き始める潮風がそっと頬を撫でる。すると、コートで練習に励む天使の姿が不意に遮られた。

「ヒ・キ・タ・ニ・く・ん?」

 ……さて、そろそろさっきから俺の至福の時間を邪魔する愚か者を粛清しなければ。

「……な、なんれしょうか?」 

「どれだけ無視すれば気が済む訳?流石の私でも怒るよ?」

 んー、なんでこう女子って笑顔で怒れるのかしら。ほんと怖い。

「あ、いや、その……別の人を呼んでるのかと思ってな。すまん、気づかなかった」

「そっかー。……なら仕方ないね。ヒキタニくんだし」

 だしってなんだよ。だしって。ちょっと酷くありません?

 あと、名前違うからね。まあもういいけども。

「あー、ごめんね。名前、呼び間違えてるの気にしてた?」

「……いや、別にいい。その呼ばれ方も慣れてるしな」

 名前知ってたのかよ……尚の事質悪いじゃねぇか……。まあ、海老名さんだしな。彼女の闇を垣間見た気がしましたまる。

「そっか。でも今は2人だけだし、ちゃんと比企谷くんって呼ぶね。あ、それとも八幡がよかった?」

 うわ、あざとっ。

 いきなり名前とか、マジでドキがムネムネするからやめてもらえますかね……。

「比企谷で頼む。下の名前呼びとかちょっとアレだから。ほんと勘弁してくださいマジで」

 これが原因で心臓病とかになったらどうするの?心疾患って日本人の死因第2位だよ?俺死ぬよ?殺したいの?

「そ、わかった。比企谷くんね」

「あ、ああ……。ところで、俺に何か用か?いつもはここに来ないだろ」

 何の風の吹きまわしなのやら。もしかして葉山グループで何かあったのかしらん?

「ううん、別に。比企谷くん昼休みいつもすぐ教室出ていくから、どこに行ってるのかなーって気になって、ちょっと後付けてみただけだよ」

「さいですか……」

 だけ……とは?

 まあ、何もなさそうでよかったけども。

「比企谷くんは、いつもお昼ここで食べてるんだね」 

「まあな。教室と違って静かだし、健気に練習に励む天使の姿も拝めるし、一人で食うのには最高だな。まさにベストプレイス」

「愚腐腐……お昼休みに汗ばむ戸塚くんに熱い視線を送る比企谷くん……ジュルリッ‼とつ×はち、キマシタワーーーー!!」

「何も来なくていいから。おい鼻血拭け、鼻血」

 はち×とつなら、俺はアリだと思います(切実)。ラブコメの神様、どうか戸塚に奇跡を起こしてください。

 あー、戸塚が女の子な世界線に生まれたったなー。レンジで世界線変わったりしねーかなー。

「ん゛っ!ってことで、私もここで食べていい?」

 その声どっから出してんの?と一瞬聞きそうになったが触れちゃいけない気がするのでやめておこう。うん、触らぬ神に祟り無しだね。

「まあ、お好きにどうぞ、としか言えないが。別に俺の場所でもないし」

「じゃあ、お好きにさせてもらうね」

 そう言って流れるように俺のすぐ隣に腰掛ける。あまりに自然すぎて八幡びっくり。

 ……ちょっと近くない?

「近い……」

「君が普段から人と遠すぎるんじゃない?」

「えぇ……」

 俺のパーソナルスペースが……。ATフィールドがぁ……。

「そういえば、三浦達は大丈夫なのか?いつも一緒に昼食ってるんだろ?」

「部活あるんだーって言ったら簡単に抜けられたよ。優美子、私が嘘つくと思ってないんだろうね。いい人だなー」

「うわぁ……」

 腹黒過ぎんだろ……。

「てへぺろっ☆」

 いや全然緩和できてないから。むしろ悪化してるまである。

 あと、てへぺろっ☆は無駄にあざといのでやめましょうね。例の後輩みたいだし。というかアレの元ネタって伝説のBB……ゲフンゲフンッ。

「あ、いま別の女の子のこと考えたでしょー。ダメだぞ〜、女の子と2人きりのときは他の女の子思い浮かべちゃ」

 女の子というかおばさ……お姉さんというか。まあ一人は後輩だけども。それにしても俺の心筒抜け過ぎません?

「なんでわかったんだよ。こえーよ。普通に怖い。なに、エスパーなの?」

「そうかもね〜。でも比企谷くん、意外と顔に出やすいから、すぐわかるよ。それに私、キミのこと割とよく見てるし」

 それはどういう意味ですか?BLのネタ的な意味ですか?そうですか。そうって言え(迫真)。

「そういうこと簡単に言われると勘違いしそうになるんだが……」

「いいよ、勘違いしてくれても。むしろそれもアリかなー」

「……」

 何がアリなの?俺ってアリさんだったの?マジかよ通りで人に無自覚に傷つけられる訳だ。

「あのとき言ったこと、別に嘘じゃないよ」

 海老名さんと話す機会自体あまりなかったので、必然的になんとなく予想がついてしまう。

 でも嘘じゃないって、どういう……?

「……あのさ、比企谷くん、私と付き合わない?」

「……は?」

 おっと、つい間抜けな声が。ツキアウ?つきあう……突き合う……いやそれ絶対違う……あー付き合うね。はいはい。

 …………ん?

 付き合うってそれつまり付き合うってことじゃね?やばいゲシュタルト崩壊してきた。

「ごめんね、聞こえなかった?もう一回言うから」

「あ、いや、大丈夫だ。ちゃんと聞こえたから」

 難聴系ではないことに定評があります。どうも八幡です。でもこればっかりは難聴系主人公が少し羨ましい……。だって聞こえたら聞こえたで気まずいじゃん?

「そっか。で、どうかな?私のことまだ、好き?」

 先程までとは打って変わって、真剣な表情で顔を近づけてくる彼女。

 急な変化に頭がついていかず、身体が硬直し動けない。

 魂まで吸い込まれるような真っ黒な瞳から、目が離せない。

「ずっと前から好き、だったんでしょ?」

 肩と肩が触れる。

 制服ごしに感じる体温が、正常な思考を狂わせていく。

「っ……それは依頼の為で」

 鼻の先が触れそうな程近い。

 彼女の吐息を肌に感じる。

 あ、やっぱり近くで見ると結構可愛いな……いやそうじゃねーだろ!どう考えてもまずいだろこれ!

「ちょ、まっ!」

 その瞬間、ペチッと額に衝撃が入った。

「……なーんてね♪」

「は?」

 どうやら海老名さんにデコピンされたらしい。

「どう?ドキドキした?」

 いてーなと額を押さえながら伏し目がちに彼女を見ると、悪戯っぽく楽しげな表情を浮かべている。

 コイツ……流石の俺でもイラッときたぞ。ものには限度ってものがあるでしょう、限度が。

 熱を持ったままの頬を隠すように、コーヒーのプルタブをカパッと開け一気に煽る。……あーにっっっが。

「……してねーよ。アホか」

「でも、お顔はばっちり赤くなってたよー。いつもだいたい女の子と一緒にいるのに、意外とカワイイ反応……。ちょっと興味湧いてきちゃった」

 やめてください。興味湧かなくて大丈夫なんで。嫌な予感しかしないから。

「悪かったな。生憎慣れてねーんだよ、こういうのには。こちとら恋愛経験ゼロでね」

 フられた経験ならあるけどね?でもそれ恋愛経験って言わないじゃん?自分で言ってて悲しいよぉ……。

 そもそも好きとかキスしようとか言われてない時点でからかってるって気付けよ……非鈍感系が泣いて廃るぞ。もういいや、今日から鈍感系で。ところで鈍感系の反対って、敏感系なの?何それちょっとエロくないですか?

「まあまあそう怒らないでよ〜。怯えながらも頬が赤くなっていく比企谷くんの表情、よかったヨ〜。今後の参考になりますなぁ……愚腐ッ!」

「…………なんの参考かは聞かないでおく」

「もちろん、はや×はちだよ!」ムフッ

「聞かないって言ったろ……」

 なんで言っちゃうんですかね。俺の気遣い返せよ……。

「それより、俺にこんなに絡んでて大丈夫なのか?」

「なんで?」

「それは……こんなとこ見られたら、色々勘違いされんだろ。それこそ付き合ってるんじゃねぇか、とか」

 近頃は2人で帰ってるともう付き合ってるみたいな風潮あるよね。そうすると、俺は毎朝小町を乗せて登校してるから、兄妹で付き合ってるということに……?やばい勘違いされちゃう。今度からは遠慮してもらおう。でもやっぱり乗せちゃうんだよなぁ。お兄ちゃんの血には勝てない。

「うーん、それは全然大丈夫。むしろ告白してくる人も居なくなって好都合かも。まあ、戸部くんには悪いけど……」

 戸部ェ……強く生きろ。

 あとやっぱり海老名さん、モテるんですね。顔はいいですもんね。他はちょっとアレだけども。まあ全く俺が言えたことではないですねごめんなさい調子乗りました。

「いや、でもアレじゃん?俺、悪い噂とか結構あったりするじゃん?」 

「まあ、そうだね。でも関係ないよ。私は知ってるから」

「は?何を?」

「君は、優しい人だって」

 マジか。俺優しいのか……。

 ってことは俺モテないとおかしくね?世間一般では女の子のタイプって大体優しい人じゃないの?ピコン!あれれぇ、おっかしいぞぉ〜(某名探偵風)。

 …………泣きたいです。

「別に優しくした覚えはないけどな」

「そうかな……でも君は優しいよ。他人のために、自分を犠牲にできてしまうくらいに……」

「……」

 犠牲。

 違う。犠牲なんかじゃない。俺はただ……

 喉まで出かかった言葉を、ぐっと飲み込む。

 一度出してしまった言葉はもう元には戻らない。小さな探偵さんも言ってたな。真実はいつも一つかもしれないが、解釈は人の数だけ存在する。そう考えるのも、逃げなのかもしれない。でも、今はそれでいい気がする。

 今すぐわからなくてもいい。理解し合えなくてもいい。いつかきっと、問い直すから。

「……あのときは本当にありがとね。感謝してるよ、比企谷くん」

 ストレートに言われると少し……いやかなり照れくさい。

「……どういたしまして」

 でもまあ、感謝は素直に受け取っておくべきだ。

「うん。私も、頑張るね」

「……なら、まあ上手くやってくれ。俺がやったことなんて、精々一時的なものに過ぎない」

 それで壊れてしまうなら、その程度のものでしかない。

 その考えは変わらない。でも、壊したくないと望むのであれば、その人にとってそれだけの価値があるのだろう。たとえそれが欺瞞に満ちたものであったとしても。

「言われなくても、わかってるよ」

 彼女は表情一つ変えずにそう答えた。

「なら、安心だな」

「そ、安心。もう、君の優しさを無碍にはしたくないから。結衣にも、悪いことしちゃったしね」

 その一言を聞いた途端、俺が見て見ぬふりをしてきたものが、そこに形を現した気がした。

 僅かな傷口からほつれ始める糸を、なんとか繋ぎ止めようと意識を戻す。

「……」

 なんと言うべきだろう。返す言葉が見つからないまま、目線は虚空を彷徨う。

「あ……もしかして、結衣達と」

「いや、なんでもない。こっちのことは気にしなくていい。俺がやったことの責任は全て俺にあるからな。それに、元々こういうのには慣れてる」

 矢継ぎ早に吐き出した言葉は、答えになっていただろうか。今一度、自分の言葉を振り返る。

「……」

 自分のことは自分で。ごく普通で、当たり前のことだ。でも、それができないから、人は人に助けを求めるのだろう。そして彼女もまた、その一人だったのかもしれない。

「……そっか。比企谷くんがそう言うなら、大丈夫かもね」

 何故かわからないが、俺は彼女に信頼されているようだ。そんなに信頼してもらっても困るのだが……。

「ずいぶんな信頼だな」

「だって、私を助けてくれたもん。きっと、困っている人がいたら助けずにはいられないんだよね、君は。」

 そう言って、どこか壊れかけたものを見るような目で、俺の瞳を真っ直ぐに捉える。

 けれど、勘違いしないでほしい。俺は別に聖人君子でも何でもない。理由がなければ動かないし、誰でも助けたいと思っているわけじゃない。

「そんなことはない。俺だって都合が悪くなったらすぐ逃げるし、卑怯な言い訳だってする。今までだってそうやって色々回避してきた。……それに、必ずしも手を差し伸べることが、正しいとは限らないだろ」 

 そう。助けてあげる、やってあげることが誰かのためになるとは限らない。何もしないほうが、その人のためになることだってある。それに、なんでもやってあげようとすることは、こちらが勝手にできないと決めつけているようなものだ。

 だから手を差し伸べることは無条件で正しいと思っているのであれば、それはただのエゴ、自己満足に過ぎない。

「ふふっ。やっぱり君は屁理屈にかけては一流だね。勝てる気がしないよ」

 屁理屈だって理屈。筋が通ってるだろ。いつか言った言葉だったな。

「そうやって肝心なことは言い繕って、本心を簡単に晒さないところ、嫌いじゃないよ」

「奇遇だな。俺も自分のこういうところ、嫌いじゃない。」

「やっぱり、君とは上手く付き合えるかもね」

「前も言っただろ。冗談でもやめてくれ。うっかり惚れそうになる」

 このやり取りも、いつかの焼き直し。人はそうやって、何度も自分がやってきたことを振り返って、やり直して少しずつ成長していくのだろう。

 だが、予想できないことが起きると、人は成長どころではなくなるようだ。

「惚れちゃえば?」

「は?」

 え?俺に惚れて欲しいの?やっぱり俺のこと好きなの?

「……冗談だよ?」クスッ

 このアマぁ……。

 そう思って彼女の顔を恨めしく見るが、そこにあった普段見せない笑顔に、一瞬心が惑わされる。

「海老名さんはその……顔は可愛い方なんだし、そんな軽はずみな言動はやめたほうがいいぞ」

 可愛いとか俺なに口走っちゃってんの?アホなの?これ絶対家で悶え苦しむやつだ……。

「おろ?私のことカワイイって思ってたんだ。ふーん……意外とやるね。ちょっとドキッとしちゃったよ」

「いや、別に今のはそういう意味で言ったわけじゃ」

 

〈♪キーンコーンカーンコーン……〉

 

「ありゃりゃ、随分話し込んじゃったね。じゃ、私はこれで」

 そう言って海老名さんは立ち去る。

 ほんと、嵐のように来て去って行ったな……。

 やはり、秋は木枯らし位がちょうどいい。でも、たまには強い風が吹く日もあっていいかもしれない。

 

「あ、昼飯……」

 放課後部室で一人弁当を食べ、何があったのかしつこく問い詰められるのはまた別のお話。




 時系列あんまり気にせずに書いてたのでおかしいところあるかもしれません。まあ、生徒会選挙辺りだと思えば大丈夫かな?
 ではまた。


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