響け!ユーフォニアム一年目でゴールド金賞RTA (ブロx)
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序盤府大会まで
第一回


この物語はフィクションなので初投稿です。




 

 

 

 

 はーい、よーいスタート。

 

もう一回大袈裟な夢を探しにいくRTA、はぁじまぁるよー。

 

 今回走るゲームはこちら、『響け!ユーフォニアム 目指せ、ドリームソリスター』 数十年前に発売された王道を征く名作オブ名作です。

 

 タイマースタートは『スタート』を選択した瞬間。タイマーストップはトロフィー・『ドリームソリスター』入手表示が出た瞬間とします。

 

 このゲームは数多くのルート・エンディングがある事で有名で、原作やアニメ等でスポットが当たったキャラ当たらなかったキャラと一緒に青春を謳歌できる学園バラエティゲームです。

 

 そのほぼ無限大なエンディングの中でも今回目指す『ドリームソリスター』エンドはトロフィー取得率がトータル1.145141919%

 

それをRTAで走るバカ(直球)なんてこれまでの長い歴史で私しかいないでしょう。よって私が最速です。

 

 何故ならこのトロフィーは原作主人公と同じく北宇治高校吹奏楽部に高校一年で入部。その年で全国吹奏楽コンクール金賞(金!プラチナ!ゴールド!)を取る必要があるからです。

 

なんだ意外と簡単じゃん? とぼけちゃってぇ。

 

 このルートの何が鬼畜かって、自分の演奏レベルだけでなく吹部(吹奏楽部)チーム全体のレベル上げやらフラグ管理やら人間関係の修復やら強化やら急に現れる殺意(FMTOWNS版ドラッケン)回避などやることが多すぎィ!!な点にあります。

 

ホント(自分の事だけ精一杯で他に気を回す余裕なんて)ないです。どっちだよ。

 

でも走るの止めたら走者じゃないんで(天下無双)つべこべ言わずに来いホイそれではイクゾー! 

 

デッデッデデデデ!(カーン)

 

 

 スタート。タイマー計測開始です。まずは性別・学年・同級生・名前の入力。

 パパパ~ッと女性を選択し、学年は一年。同級生は加藤葉月。加藤ちゃんを選択すると低音パートと仲良くなりやすくなります(wiki知識)

 

 名前は打ちやすさ、入力の速さを鑑み帆高桃。略してホモとします。

 

 楽器選択の画面に変わりましたね。はい、ここでタイトルからみてユーフォニアム一択だと思った方、アウトです。ユーフォニアムはとある先輩ととある同級生がツートップなのを維持しなければなりません。異物が混じるとトロフィー獲得の土台にすら到達できません。

 

 タイトル詐欺がハンパないんだよなあ・・・。

 

 しかしながら女性・楽器ユーフォニアムを選ぶと選択肢によっては『貴女が私のユーフォニアム』ルートに行けるので、好きな人は選んでみても良いんじゃない? 後に部長になるあの子と切磋琢磨していく様が疾風!アイアンリーガーみたいで気持ちよかった(小並感)

 

 でも今回はそのルートを走らないのでキャンセルだ。

 

 楽器はクラリネットを選択。

 これによって直属の先輩に鳥塚ヒロネという方が出てきます。この先輩は吹部のコンサートマスター兼クラリネットパートのリーダーで絶対音感を持っており、一緒に楽器を吹くだけでこちらの演奏レベルを上げてくれます。

 

 だからクラリネットを選ぶ必要があったんですね。

 

 さあホモちゃんの初期演奏レベルを決める運命のダイスルーレット!スーパークリティカルが出ればタイムをババーンと短縮間違いなああああああああ

 

 ――クソです。ほぼ最低値が出ました。こんなんじゃRTAになんないよー(棒読み)

 

 こんななっさけない数値恥ずかしくないの?これは再走もやむなしです。は~~~

 

 ア ホ ク サ 。

 

 ここまでやった記念にキャラクリ最後を飾る幼馴染決定ルーレットでも回して終わりにしましょう。

 

 

 

 ホモちゃんの幼馴染が黄前久美子ちゃんになりました!!

 

 悪くないです。何故なら黄前ちゃんは自分の味方と思える相手には超がつくほどチョロい子で、つまりホモちゃんの言う事なんでも聞いてくれるし吹部の為にも動いてくれるスーパーキーマンなのです。

 

 はえ^~流石原作主人公。

 

 後の黄前相談所が幼馴染とかこれもう今RTAホモちゃんの大勝利ですね(手のひらドリル)

 

 なので再走は無し!いざ北宇治。

 

 もう始まってるOPはカット。ぐだぐだ長い文章もクビだクビだクビだ!(カットと首切りを掛けた激ウマギャグ)

 

 お、早速第一選択肢が出てきましたね。

 

 『あれは下手だよね』

 

 『久美子は変わらないなあ』

 

 ここは下を選びます。文章はスキップしてたので良く見えませんでしたが、ホモちゃんの近くにいた黄前ちゃんが北宇治吹部の下手くそすぎて耳が狂いそう…!な演奏を聞いて何かボヤいたのでしょう。

 

 『あ、桃だ。じゃないよ』

 

 『高校でも吹部に入るの?』

 

 序盤なのに選択肢多い。多くない? まあ黄前ちゃんの好感度は高めの方がいいから多少はね?これもRTAの為・・・(葦名復興大臣)

 

 あとは適当にボタンポチポチポチポチハッチポッチ。

さてホモちゃんが吹部に入ると決めたところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校生になれば、何かが新しく始まるのかもしれない。私はそう思ってた。

 

「あ、桃だ」

 

「あ、桃だ。じゃないよ。幼馴染もここまでくれば大したモンだね、おっこ」

 

「そのあだ名呼ばないで」

 

「黄前久美子なんだからおっこ。昔から。良いでしょ?」

 

 その矢先がこれだ。

まさか小学校からの幼馴染、いやもうここまで来ると腐れ縁の類いの人間とまた一緒になるとは思わなかった。

 

「…………」

 

「悪かったって久美子。もう呼ばないよ」

 

「…ならいいんだけど」

 

「高校でも吹部に入るの?やっぱり変わらないなあ」

 

「……桃は?」

 

「私は吹部さ。所謂高校デビューってやつ? 小学生の時から久美子には吹奏楽について散々聞かされてきたけど、やっぱり憧れは捨てられないよー」

 

「クラだっけ?好きな楽器」

 

「音と形がいいよね~…、良い」

 

「そうだね」

 

「で? 久美子は?」

 

「私は……。どうしよっかな」

 

「私はおっこと一緒にやれたら嬉しいな」

 

「………」

 

「ごめんなさいもう言いませんだからその手を下ろしてとにかく下ろして!」

 

振り上げた握り拳が行き場を失って地に落ちる。

 

 昔から相も変わらずニヘラと笑う悪友の顔は、でも今はどこか大人びて見えて。その笑顔が、何だかとても腹立たしかった。

 

 

 

 

 

 

 



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第二回

徹夜で剣聖葦名一心を倒して茶屋エンドを迎えたので初投稿です(願望)




 

 

 

黄前ちゃんと幼馴染になりたいだけの人生だったRTA、はぁじまぁるよー。

 

 元強豪の名が泣く現北宇治高校吹奏楽部(辞めたらこの部活ぅ)の演奏を聴いてガッカリな黄前ちゃんと、この吹部でテッペン取んだよ!内心息巻いてる(適当)ホモちゃんの出会い。それが前回まででした。

  

 さて早速放課後。北宇治購買の苦いコーヒー(ウド)を飲み、体力回復。入部届をもって音楽室へ向かいます。

 蒼穹じゃない早急に吹部に入ってへなちょこなホモちゃんの演奏レベルを上げなくてはなりません。早く入って練習しなきゃ(使命感)

 

・・・ん?あのシルエットは?

 

 どうりでねえ!

 前回吹部入部についてあまり気乗りしてなかったっぽい原作主人公ですが、そこは自分すらもとぼけさせるのが上手い黄前ちゃん。

 

 やっぱり居るじゃないか(音楽室前に)

 

とぼけちゃってえ。

 

『嬉しいな』

 

『久美子のユーフォが聴きたい』

 

 ここは上を選択です。

ちなみにホモちゃんでもホモ君でも下を選択すると(運がよければ)黄前ちゃんルートB『黄前久美子の音楽』に入ります(クリア出来るとは言ってない)

 

 黄前ちゃんの機嫌少しでも損ねたらバッドエンドとかちょっと厳しすぎィ!往年のパワポケでもこんな酷いルートねえよ。ただクリアの達成感は・・・・ドラゴンクォーターです(BOF)

 

 でも今回は『ドリームソリスター』ルートなんでパパパ~っとスキップアンドスキップ。

 

『サファイアちゃん?』

 

『みどりちゃん?』

 

・・・・・。

 

『そういう君は加藤葉月ちゃん』

 

『なんかチューバ似合いそうな顔してんな』

 

・・・・・。

 

『ははあ……なるほど』

 

『ジョイナス!』

 

 

ぬああああああああ選択肢多すぎもオおおおお!!!!!!

 

 選択肢ひとつでルートクリアできないとか昔からの伝統ですが、既にこの辺りから意味と地雷を持ったヤツが出てくるのでしっかり選ばないとダメってホントこのゲーム気が狂いそう・・・!

 落ち着け。落ち着いてスキップアンドゴー。まだ序盤まだ序盤。本番はまだ先。傘木さんにもポニテ先輩にも会ってない(分かる?この罪の重さ)俺が葦名、じゃなかったホモちゃんが吹部を生かす!

 

『実は私も入部しに来ました』

 

『行こっか』

 

おっぶえ!(あっぶね)寝落ちしそうだった(2敗)

 

 上を選択です。うん!おいしい!何はともあれこれで早期入部を果たしましたね。しかも同級生の黒髪ロング、高坂麗奈さんと一緒に入部です。

 彼女はトランペットパートに入る所謂ガチ勢で、黄前ちゃんの特別な人です(そのまんま)

 

『高坂さん、よろしく』

 

『一緒にテッペンを目指そう』

 

 あ、これかあ!

下を選ぶとテッペンって何?とすっ呆けられ、その後に出てくる『特別ってことだよ』という選択肢を選ぶと高坂さんルートA『とっくに特別』ルートに入ります。

 

 ヒイヒイ言わされる(意味深)ルートなんで、高坂さん好きな人はプレイするべきじゃないっすかね(3周目)大人になった高坂さんとか見れますよ。

 さて次は序盤の山場である楽器決めイベントですが今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 何だ久美子、やっぱり入るんじゃん。嬉しいな」

 

 フリフリと振る片手が私を迎え、見つめる瞳がやんわりと姫反りを模る。外面だけは可愛いもんだなあと思いながら、私は答えの代わりに頭を掻いた。

 

「いやあ…まだそこまでは……」

 

「お知り合いですか?久美子ちゃん」

 

「えっと知り合いっていうか……。腐れ縁というか…」

 

「ほほう?」

 

同じクラスのよしみで仲良くなった加藤葉月ちゃんが瞳をキランと光らせて、腐れ縁である彼女を見た。

 

「幼馴染の帆高桃です。よろしゅう~」

 

「よろしくお願いします!私、」

 

「川島サファイアと言います」

 

「葉月ちゃんっ!!みどりですぅ~!」

 

 みどりちゃんが速攻の訂正を葉月ちゃんに求めてきた。川島みどり、本名・川島緑輝(さふぁいあ)。

 果たしてこの訂正は正しいのか、とても疑問が残るけど。

 

「みどりちゃん? 可愛い名前だね」

 

「ありがとうございます桃ちゃん!!!」

 

 桃が空気を読んだ。…いや天然かもしれない。そもそも何も考えないのが得意だし。反射神経で生きている、それがこの女だ。

 

「お、おおう。何だか抱きつかれた。ところで貴女は?」

 

「………」

 

「葉月ちゃん?」

 

みどりちゃんのそんな疑問の声は、ややつり上がった眼差しの前にかき消されていた。

 

「―――君は帆高桃だね?」

 

 そういう君は、とでも言うと思ってるんだろうか。どうやら葉月ちゃんは漫画好きらしい。でもだからって何もこんな所で。

 

「そういう君は加藤葉月ちゃん」

 

あ、悪ノリした。

 

「え?それ何のネタですか?合言葉の一種??」

 

 みどりちゃんが右往左往して二人を見つめる。

件の二人は拳をグッと握り締めて取り付く島も無い。すると次第に私に向かってテルミー!という風な表情をみどりちゃんは浮かべた。

 …無視していいよみどりちゃん。

 

「話の分かる人みたいで安心したよ~、よろしくね!桃!」

 

「こちらこそ!」

 

 がっしりと握手をして更に腕相撲をおっぱじめる二人。…お友達になる為の儀式って、ボディランゲージが流行ってるのかな。

 

「あれあれ~~?もしかして見学の子たちかな~?」

 

「うわあっ!」

 

「3年生の先輩だ!」

 

「可愛い子ちゃんたちカモーン、ジョイナス!」

 

 その先輩は綺麗な黒髪と紅い眼鏡を少しも弾ませずに、かといって淡白ではない口調と態度で私達を出迎えた。

 

すごい先輩。私はそう思った。

 

「ジョイナス!!」

 

桃の眼が輝いてる。この子も同じく思ったらしい。――この先輩は何かが違うと。

 

「桃ちゃん意外とアグレッシブ…!」

 

「行くよ久美子!」

 

「う、うん…」

 

 音楽室は所狭しと楽器が置いてあり、その表面にはこれから練習ですと書いてある。ように見えた。楽器の手入れは良いみたいだけど、でもここの演奏レベルじゃあ…。

 

「失礼します」

 

「はあい?貴女も見学の方ですか?」

 

「入部しに来ました」

 

 音楽室の扉をガラリと開け、確かな足取りで床を踏みしめながら歩く姿は高嶺花。

 は~、これまた綺麗な子だなあと思った現実を直視しない私の脳内の片隅で、理性は大声を上げていた。

 

―――って、高坂さん!?!?

 

「はい!実は私も入部しに来ました。高坂さん、よろしく」

 

「よろしく。……確か同じ中学だった、帆高さん。だよね?」

 

「そうだよ。中学は帰宅部だったけどね。 クラリネットへの憧れが無くならなくて!高校デビューってやつさ」

 

「クラ希望かあ。決まるといいね」

 

「うん!」

 

 桃は他人と打ち解けるのが早い。昔から。

でもそんな桃が、今は熱を帯びてクラリネットと高坂さんを見つめてる。――名前をいつ知ったのだろう。帰宅部だったくせに。

 

 音楽室の隅でしっかりと光を放つユーフォニアムが眼に入り、小学校からの腐れ縁は何であれどうあっても切れないのだと、この時私は強く思った。

 

 

 

 

 

 

 



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第三回

気づけば刃は飛んでいたので初投稿です。





 

 

 

高坂さんが美しすぎてマジ麗奈直視できないRTA、はぁじまぁるよー。

 

 前回は黄前ちゃんと一緒に吹部見学、そして後のベストオブトランぺッター高坂さんと共に早期入部を果たした所まででした。

 

 さて早速スキップ。

楽器決めとかいうややもすれば希望楽器以外を割り振られるランダムイベントを突破し、無事クラリネットのパートに入れましたね。

 

 こ↑こ↓は序盤の山場です。最悪このホモちゃんとはサヨナラバイバイな可能性がありましたが(8敗)、一発ツモとは大したものですね。・・・どうしてランダムイベントは無くならないんだろう?

 

『先輩のクラが聴きたいんです!!』

 

 気を取り直して、この後は3年の鳥塚ヒロネ先輩に金魚の糞みたいにくっついて一緒に練習してれば、グングン演奏レベルが上がっていきます。

 

 先輩の信頼値を上げていくと、一緒に練習した時に上がるホモちゃんの演奏レベルの上昇値もアップするので先輩はyou're my 1st priority.でも上げすぎないよう注意は必要です。先輩ルートに入っちゃう、ヤバイヤバイ。

 

『悔しくって死にそうです』

 

 このゲームは登場人物全員に個別ルートがあるのでほんとフラグ管理が面倒です。その分イベントの数も豊富だからま、多少はね?

 しかも噂の域を出ませんが未だ誰も見た事のないイベントもあるとの事。なので今RTAは一瞬も油断できな、

 

『葵さん?』

 

『えっと、どなたでしたっけ?』

 

・・・・・。あああああああもうヤダああああああああああああああ!!!!!

 

 言ってる傍から来ました! 黄前ちゃんと幼馴染設定だと極々低確率で発生すると噂されてるランダムイベント、遭遇!斎藤葵です。

 

 これマジ?選択肢どっちが正しいんだよ・・・・。検証もされてないランダムイベなんて本当(wikiにすら載って)ないです。気が狂いそう・・・ッ!

 

ま、まあとりあえず上選んどきましょう。カーソル動かすのめんどいし。

 

 

 

「桃ちゃんだよね?久しぶり。私のこと憶えてる?」

 

「え?葵さん? うわぁ、お久しぶりです。小学校以来ですか?」

 

「うん、久しぶり。でも意外だな、桃ちゃんが吹部だなんて」

 

「そうですか?」

 

「う~ん…、小学生の頃は何にでも興味が無い風に見えたから。でも三日会わざればって奴かな?」

 

「私は男子ではないですけどね?」

 

「ふふ、ごめん」

 

「いえいえ。 葵さんはサックスなんですね」

 

「テナーサックスなの。…まあ、あまり人気ないけれど」

 

「?」

 

「部員も、各学年に一人ずつ。もっといっぱい居た時期はあったんだけどな……」

 

「………」

 

 

 

『音楽って、良いですよね』

 

『…以前この部に何かあったんですか?』

 

 あ、初見だからってスキップし忘れた。

けど大丈夫だってこの程度誤差だよ誤差安心しろよ~(ほんとぉ?)

 

 なるほど葵ちゃんは黄前ちゃんの近所に住んでた幼馴染の一人、つまり三段論法で(適当)ホモちゃんとも幼馴染というわけですね。

 

 ま、この人は気付いたら吹部辞めちゃうので、今回走者は特に重要視していません。ぶっちゃけこのルート走るうえでそんな暇ないって、それ一番言われてるから。

 

 ちなみにですがキャラクリで3年生+同級生が葵ちゃんだと、場合によっては先輩ルートB『葵の青春』に入れますが、ちょっとアクション洋画ちっくなのが玉に瑕で走者はそんなに好きではありません(嫌いとは言ってない)

 

とりあずここは上を選択っと。・・・・って、は?

 

 

 

「でも、」

 

「……え?」

 

「最近始めた私が言うのもあれなんですが、音楽って、良いですよね。葵さんはそう思わないです?」

 

「………」

 

「どんな楽器でもどんな人でも、出す音には違いがあって。色って言うか、その人の特徴がついてるんです。

 私、中学はずっと帰宅部で、久美子から音楽の話ばかり聞いてました。…あんな事があって久美子は少し傷付いちゃったけど、おっこは―――久美子はずっと頑張ってた。この子がこんなにも頑張れるのが吹奏楽なら、私もそれをやれば、テッペンを取れば、今から辞めないでずっと続けていけば。

 人生で初めて、――私はその辺の石ころじゃないって事を証明できるんだって。今よりもっと良い自分になれるんじゃないかって。そう思ったんです」

 

「………桃ちゃん」

 

「あ、す、すいません。長々と意味分かんない事ほざいちゃって…っ。でもこれが今の自分の本心っていうか。吹部に入った理由っていうか…! 幼馴染の人にはあまり嘘つけないし葵さん何だか悲しそうに見えたっていうか…っ!」

 

「あはは。もう、――後輩がそんなの気にしないの」

 

「すいません……」

 

「いいのいいの。先輩なのに、後輩から元気もらっちゃったな。ねえ、もう少しだけ。――もう少しだけ、後輩の背中、押させて?」

 

「へ?葵さんなら……ドンと来いですけど?」

 

「ありがとう、桃ちゃん」

 

 

・・・?

 

・・・?

 

 へ、へ~、ホモちゃんってこんな性格なんすね?ロッキー1みたいだあ(直球) しかも葵ちゃんの信頼値が爆上がりしてる・・・?なんだこのイベントは・・・たまげたなあ。

 

ままええわ。(走る上では)こんなんどうだっていいでしょう。

 

 気を取り直してスキップスキップ。さて部員全体の合奏もだいぶ上手くいった所さん!?で今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらためまして皆さん、はじめまして。この吹奏楽部顧問の滝昇です。多数決により、この部の目標は全国吹奏楽コンクール出場という事になりました。その為にはまず、この場の全員で音を合わせて奏でる――合奏をより高めていかなくてはなりません」

 

―――音が出ない。

 

「小笠原部長。ひとまずはこの曲を全員で合奏が出来るクオリティになったら私を呼んで下さい。慣れない楽器を手にしている人もいるでしょう。今すぐとは言いません」

 

「え? は、はい…」

 

―――音が出ない。

 

「では皆さん。楽しみにしていますよ?」

 

「はい…!」

 

―――クラリネットから、音が出ない。

 

「帆高さん。初心者なんだからもっと集中集中」

 

「こら、あんまり詰め込ませすぎないの」

 

「は~い、ヒロネ先輩」

 

先輩達が何度も何度も教えてくれる。でも音が出ない。

 

「頑張りますッ!!」

 

「過呼吸で急にバタンと倒れないようにね?頑張るのは良い事だけど」

 

「私、これしかやる事ないんで!!」

 

「う~ん、それは頼もしい。かなあ…?」

 

ドの音が出ない。

 

「口の形を、こう。頬はそんなに膨らませない」

 

レとミの音も。

 

「――っ!」

 

「もう一度」

 

ドとレとミとファとソとラとシの音が出ない。

 

「あのっ、もう一度吹いて下さい!鳥塚先輩!!」

 

「え?私の?」

 

ドとレとミとファとソとラとシの音が出ない。

 

「先輩のクラが聴きたいんです!!」

 

「………。オッケイ、任せて」

 

上手くいかない。上手くいかない。

 

「――っ、ズウゥェアァァアアァァァァ……っ」

 

「もっと吐いてーもっと吐いてーもっともっと吐いてー」

 

呼吸が上手くいかない頭が上手くいかない。咽喉が、全部が、うまくいかない。

 

「はい休憩。…ねえ、帆高さん。貴女はまだ初心者さんで、まだまだこれから。なのに何でそんなに急いでいるの?」

 

――でもやるしかない。

 

「それしか。これしかっ、…ないからです先輩っ」

 

「―――オッケイ。じゃあ今日の目標は?」

 

「ドとレとミとファとソとラとシの音が出るまでです!!」

 

「残念だけど一朝一夕では無理かなあ」

 

鳥塚先輩はよく分からない色を眼に溜めてそう言った。

 

 

 

 

 

 

「なんですか?これ」

 

「………」

 

 迎えた合奏初日。

張り付けたような笑みを浮かべ、滝先生は氷と炎が混じった言葉を口にした。

 

「部長、私は言いましたよね? 合奏できるクオリティになったら呼んで下さいと。それがコレですか?」

 

それがこれ。それがこれ。それがコレ。

 

―――これ。

 

「これでは指導以前の問題です。今度はちゃんと、全員で合奏ができるレベルに達したら呼んで下さい。勘違いしてほしくないのですが、私は休日のこの学校に皆さんの指導の為だけに来ているのです。私の時間を無駄にしないで頂きたい」

 

「………」

 

「帆高さん? …どこ行くの?」

 

「すいません。ちょっとお手洗いに」

 

 顔を伏せる。

鳥塚先輩には今の自分を見られたくない。その証拠に、女子手洗い所の鏡に映った自分の顔はひどく強く歪んでいた。

 

・・・・・。

 

「悔しくって死にそう」

 

 音は出てくれた。

先輩達に教わった通り、楽器は音が出る物だった。私は前より確実に上手くなってた。――なのに現実は甘くなかった。

 

「悔しくて死にそう」

 

 こんなものだ。自分はこんなものだと納得しかける。

所詮私はその辺に転がってる石ころと同じ。誰かに蹴られてどこかに行くだけのしょぼくれた石屑。久美子とは違う。…それが自分。

 

分かっていた筈だ。先ほど滝先生に言われた事も、冷めた目で見られる事も。

 

「悔しくって、死にそう」

 

 鏡の中にいる、さっきからやかましい事をのたまう自分を拳で殴って力づくで黙らせる。こういう時暴力は全てを解決する。特に自分自身に対しては。

 

「―――上手く、なりたい」

 

ペチンと出た音が他の全てをかき消して、私は私を見つめる瞳を見る。

 

「上手くなりたい」

 

そこには火が見えた。

 

「上手くなりたい」

 

拳で隠れてる筈なのに。

 

「上手く、なりたい…っ」

 

この心に、消えぬ野心の火が灯る。

 

―――このままじゃ。悔しくって死にそう。

 

「………、え?」

 

「これ。使って」

 

 果たしていつから見ていたのだろう。私の後ろには綺麗な青髪。たしかリードが二枚あるっていう楽器担当の、2年生の先輩がハンカチを差し出してそこに居た。

 

「あ、いや、その!すいません、ありがとうございます。…先輩」

 

「…気にしないで」

 

「洗って、返しますから…ッ」

 

「別にいい。………」

 

基本無口なんだろう。先輩は黙ってジッと、私を見ていた。

 

「―――泣く程」

 

「え?」

 

「泣く程。…哀しかったの?」

 

「いえ、哀しいというか」

 

「………」

 

 感情というものが欠落してる。と一瞬思わせるような先輩の眼は、よくよく見れば後輩が心配だという感情の色が見え隠れしていた。

 

この人、良い人だ。私は直感でそう思った。

 

「…私、悔しかったんです。一生懸命頑張ってるのに滝先生にあんな事言われたのでもなく、…どうせ自分はこんなもんなんだって心の底で思っちゃった事が」

 

「………」

 

「悔しくって死にそうです。でも、もう泣き言は終わりにします」

 

「……それは、何で?」

 

「追いつきたい人がいるんです。――ずっと頑張ってるあの子に。私も同じくらい頑張ってやったぞって、いつか言ってやりたい友達がいるんです」

 

「………。そう」

 

先輩はよく分からない色を眼に溜めて、でもすぐにそれを閉じて小さく俯いた。

 

「情けない所を見せてしまってすいませんでした。あの、私、クラリネットパート1年の帆高桃っていいます。先輩はたしか2年生の先輩でしたよね?」

 

「……」

 

先輩はこくんと頷いた。

 

「お名前を聞いてもいいでしょうか?」

 

「………」

 

俯いたままのか細い声で、青髪の小さな先輩は声を出す。

 

「私は2年生。楽器はオーボエ。鎧塚」

 

・・・・・。

 

「鎧塚みぞれ」

 

 

 

 

 

 

 



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第四回

 

 

 

 遥か昔、イルシールのはずれその地下に。罪の都と消えぬ火を見出した若き魔術師サリヴァーンのように。高校生の彼女の心にも消えぬ野心が灯ったRTA、はぁじまぁるよー。

 

 何ですか?これ。

そんな感じの初合奏が終わり、しかしホモちゃんと吹部メンバーの練習が光って見事二回目の合奏を乗り切れましたね。

 

 多少意味不明な点もありましたが、流れとしては順調イズ順調です。これは良いタイムが期待できる(天下無敵)

 

 さて今回待ち構えているのはサンライズフェスティバルというイベントです。

ここでホモちゃん君初心者だから楽器持たないで北宇治名物謎ステップを踏んで、どうぞ。なんて事をヒロネ先輩から言われたら再走です。

 

 ここで現段階のホモちゃんの演奏レベルを確認。

よし!あ~~いいね車でいえばセルシオくらいだね。

低いと必ず謎ステップ枠になってしまうので、それではホモちゃんの演奏レベルも周りの吹部部員のレベルも上がりません。つまり大会で負けます(終わり!閉廷!)

 

 ホモちゃんは吹部をシェイクしてくんなきゃいけないってそれ一番言われてるから。

 

だから、先輩にくっついて練習キチになる必要があったんですね。

 

・・・・ん?

 

『やらせてください!』

 

『分かったよ』

 

あああああああああああああああ↑!!!!!! クソガンモ!!!!!!

 

ふーざーけーるーなーあああああああああああ!!!!!!

 

 なんで?なんで?確率選択肢イベント発生です。下は論外。

上を選んでも運が悪ければサンフェスで楽器演奏できなくなります。

 

 選択肢を選んだ後、「さあ、練習練習!」だと終わりです。「さあ、練習練習!!」がホモちゃんの口から出れば楽器演奏が出来るわけですね。

 

・・・おまえPWPK7かよお!”!!(発狂)

 

 演奏レベル足りてんじゃーーん!問題ないじゃーーん!!

ここまで順調にやってきたのにハイヨロシクぅ最初からなんてやってられるか!私は部屋に戻る!!!本気でこのゲームイカレてきてんじゃなかろうな?って―――あ。

 

 ・・・演奏レベルが少し足りんかった?(二度見)え?本当はセルシオがあと一台必要?(セルシオばっかじゃねえかよお前ん家)

 

・・・・・。

 

上をポチッとな。

 

・・・。

 

・・・。

 

あ。

 

「さあ、練習練習!!」

 

ッ、ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

ホモちゃん大勝利!希望の未来へレディゴおおおおおお!!!!!!!

 

 失礼、取り乱しました。しかしてこの程度誤差だよ誤差!ゲームは一喜一憂してこそゲームだからね、しょうがないね!(Ludwig,the Holy BladeとかOrphan of Kosとか)

 

 さてサンフェスも上手くいってホモちゃんの演奏レベルと吹部全体のレベル、信頼値もウマウマといった感じだからまだ挽回がきくよ今回はここまで!ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 なんですか?これ。と言いたげな顔が私達を見渡す。

まるで青ざめた血の空だ。合奏が終わり、先生を仰ぎ見る私は弾む息を整えて、拳に力を込めていた。

 

……もしまたそんな事を言われたら今度は黙っちゃいられない。私はジッと、滝先生を見つめていた。

 

「いいでしょう。皆さん、ちゃんと合奏をしていましたよ」

 

 先程とは打って変わった血色のいい顔と笑みが私達を見渡す。やった、嬉しい。JKの底力みせてやったぞ!

 

「では今からサンライズフェスティバルに向けての練習メニューを配ります。小笠原部長、これを」

 

「はいッ!」

 

「やったね、桃ちゃん。嬉しい?」

 

「はいッ!やりましたヒロネ先輩!」

 

 初合奏から一週間、私は密かに特訓をしていた。

肺活量を鍛える為に早朝走り込み(タイヤにくくり付けたロープをお腹に巻いてるイメージで)を行い、ご飯を食べて学校で朝練。そして平衡感覚を鍛える為、部活帰りに公園で平均台の上を眼を瞑って歩く。あとは帰宅しご飯を食べて気絶するように就寝。といった感じで。

 

 …楽器を吹く為に身体を満遍なく使うにはどうすれば良いか。

両親にそう訊いたら上記の答えが返ってきた。特に平衡感覚は何事の基礎らしい。眉唾物だが。

 

ちなみに勉強は致し方ない犠牲になった。

 

「よしっ、と。じゃあ皆、今日の練習をしよっか」

 

「了解ですヒロネ先輩」

 

「はい!この調子でそのサンフェス?でも私吹いて吹いて吹きまくりますよ!先輩!」

 

「え? 桃ちゃんサンフェスで吹きたいの?」

 

「え? えっと、はい!吹きたいです!!」

 

「う~ん、頑張ってはいるけど…。初心者にあれはねえ?」

 

「たしかに……」

 

「………ゑ?」

 

「サンフェスって行進しながら楽器を吹くんだよ桃ちゃん」

 

「勇気凛々直球勝負って事ですか?」

 

「そうだねマーチだね。分かりづらいね」

 

「私、やりたいです!」

 

「うーん……」

 

ヒロネ先輩達3年生が悩んでいる中、2年生のりえ先輩が私達1年生を見ながら口を開いた。

 

「初心者は吹くだけでもしんどいのに、歩いて行進して楽器を演奏するなんてきっついよ?ホント冗談じゃなく路傍に倒れちゃうって」

 

「それは嫌かも…」

 

「桃ちゃん、私達初心者には荷が重いよ……。一緒に北宇治名物謎ステップを踏もう?きっと為になるよ」

 

「やらせてください!」

 

「流石は桃ちゃん、と言いたい所だけど今回ばかりは本当に…」

 

 私はもう二言は無いといった顔をする。

…どんな答えが待っていても世界中敵に回しても、必ずやり遂げる。そんな私の頭の片隅でアンタいつの時代の人?ドン引きだよと声を上げてる自分をぶん殴り、前を見据えて。

 

「――ま、いいか。桃ちゃんなら大丈夫かも」

 

「賛成」

 

「ええ!?マジですか先輩方!!?」

 

「勿論今決定ってわけじゃないよ。様子を見ながらってとこかな」

 

「練習します!」

 

「いいサンフェスになるように頑張ろうね、皆」

 

「さあ、練習練習!!」

 

ちなみに演奏の許可が下りたのは、サンフェスの一週間前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 ――迎えたサンフェス当日、私は全てをやりきっていた。

制服に着替えて少し木陰で涼みながら、息を吸う。

 

 今日は楽しかった。久美子達も心底演奏が楽しそうで、この部に入って良かったとモロに顔に出ていたし。

 

「…良かった。さてと、後は帰って平均台っ、と」

 

――そう考え、日が陰りはじめた空の下を歩く私は、なんと懐かしい同級生の顔を見る事になった。

 

「あ?何だ、あずにゃんか。久しぶりだね」

 

「桃こそ久しぶり。あとそのあだ名止めてくれる?」

 

 かつての同級生は水色のユニフォームを着て溌溂とした表情をしていた。そんなこの子の名前は努力と書いて、佐々木梓と読む。

 

「みんな私の付けたあだ名を悉く否定してくれちゃってさ。可愛いのに」

 

「いや可愛くないから。それ思ってるの桃だけだから」

 

「そう?」

 

「うん、そう」

 

さっきまで久美子と話しててさー、と笑顔を咲かせる彼女は相変わらずな風に私は見えた。

 

「進学したの立華だったっけ。どう?練習きつい?」

 

「きついなんてモノじゃないよー。桃も来れば良かったのに」

 

「う~ん、それは遠いからやだ」

 

「なあにそれー!」

 

 ポニーテールが綺麗な梓は中学で久美子と同じ吹奏楽部だった。

元帰宅部の私はクラスが三年間同じだったという事で、こうして少しは仲良く話が出来ている。 吹奏楽強豪の立華高校に進学したと以前聞いてはいたが、それは何ともこの子らしい進路だった。

 

「そういえばいつかクラリネットが吹きたいって言ってけど、え、何?桃本当に吹部に入ったの?初心者だし今回はステップ役だったんでしょ?」

 

「いや。吹いたよ」

 

「え?ほんとに?」

 

「本当。私、サンフェスで吹きたかったもの」

 

「………へ~」

 

 進まなくちゃいけない、進み続けなくちゃいけない。そうしなくちゃ押しつぶされて生きていけない。といった眼の色。

それは梓の顔に時たま現れる本音という名前の、彼女だけの色だった。

 

「スタートしてるんだ、桃も」

 

「そう言う梓は勿論相変わらず求められる要求に全部完璧に応えてるんでしょ?流石だなあ。大学は工学系とかがいいんじゃない?」

 

「あはは。う~ん、どうかな?」

 

ロボットでも造ってろ。私は眼を瞑りながら思った。

 

「あ! そういえば立華ってマーチングのカテゴリーキングなんだよね?じゃああれやるの?」

 

「え、キング?え?あれって?」

 

「皆でこんな感じで円陣組んでさ、―――俺達は誰だ? 王者立華!! 誰よりも汗を流したのは? 立華!!! みたいなやつ」

 

「そんなのやらないよー。もっともーっとカッコいいって」

 

「え~?ホントに~?」

 

 何を言ってるんだという風な顔を互いに見合って、私は笑みを深める。獰猛の二歩手前まで。

 あの時久美子を助けられなかった私と同じ穴の狢の顔は、今も好きにはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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第五回

 

 

 

待ってたぜェ‼この瞬間(とき)をよォ!!なRTA、はぁじまぁるよー。

 

 サンフェスも終わり、いよいよ大会メンバーを決めるオーディションが近づいて来ました。

 

 北宇治高校吹奏楽部は敏腕なる滝先生のもと、誰であれ実力勝負が出来る環境へと変化しています。ちなみに以前は全く(オーディションどころか練習すら真面目にやって)ないです。

 

 そして勿論これでホモちゃんがメンバーに選ばれなければ再走です。

ヒロネ先輩と一緒に練習したのにそんなことになったら分かる?この罪の重さ。

 なのでホモちゃんのステを確認。

 

 よし!よし!うん!おいしい!(指呼確認)

演奏レベルは一定値を超えているので大丈夫でしょう。本当だよ。あとは吹部メンバーの底上げです。吹部はこの部はホモちゃんの全てだ。

 

『あがた祭り一緒にいこうよ、芹菜』

 

『他の子を誘おう』

 

 あがた祭り? あ、これかあ!そんなイベントありましたね。

浴衣着たホモちゃんと黄前ちゃんと高坂さん。頬張るみかん飴。ああ~いいっすねぇ~(屈託ない笑顔)

 

 しかし二人を誘うわけにはいきません。楽しい山登りが待ってんよ~。これで(自覚が)芽生える芽生える。

 

 ・・・ていうかこの子柊木芹菜ちゃんですね。ホモちゃん手広すぎない?隠しキャラだよこの子(誰だよ兄貴は立華編読んでどうぞ)

柊木ちゃん!ジャガイモ持って佐々木に会いに行こう!

 

『トランペットのソロかあ』

 

『上手い人なら誰でもいいんじゃない?』

 

下を選択。う~む、しかしこの辺りからはスキップ祭りですね。流石に退屈。

 

 そんな み な さ ま の た め に~。

 

『 ド リ ー ム ソ リ ス タ ー 』以外のルートのちょっとした紹介をしようと思います。

 

 京都府大会を突破すると関西大会に進みますが、その間にとある先輩が吹部に加わる事になります。

フルートが得意なその人、実は一年前に吹部を辞めていたのですが、勿論このゲームにはその先輩のルートもあってそれがまた面白いんですよね。

 その【君がいる】ルートですが、なんとこのルートには挿入歌があって、要約すると俯く君の背中に降り続ける雨を遮る傘になるって感じでなりますなります!(食い気味) 

 

『選ばれなきゃ駄目なの』

 

 さてそんなこんなで次回はいよいよオーディションといったところで今回はここまで。勝てるぜホモちゃん!ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あがた祭り一緒に行こうよ、芹菜」

 

「ヤだよ」

 

「は?何で?何で?何で?」

 

「うるさい黙って」

 

同じ中学で帰宅部同士だった彼女はそう言って、机の上の文庫本に目をおとした。

 

「元帰宅部仲間じゃ~ん。よしみじゃ~ん。ね~芹菜一緒に行こうよー」

 

「黄前と行けばいいだろ」

 

「久美子はきっと先約があるんだよ~。まあ現地で会えるだろうから?その時一緒にとうもろこし食べようと思ってる」

 

「よかったね。私は行かないから精々楽しんで。あと読書の邪魔。それじゃ」

 

 高校生になってからさっぱり本を読まなくなったこの子は、本当に時たま昼休みの図書室でこんな風に過ごしている。あの頃よりも友達付き合いが増えたからだろうか?

 

「おい待てよう。…またブギーポップ読んでんの?流石に飽きない?」

 

「残念でした。今のトレンドは『しにがみのバラッド。』なんで」

 

「次のトレンドの予定は?」

 

「学校の階段」

 

「え?私一押しのこれは一体いつ読むの?」

 

「?なにそれ」

 

「『レベリオン』 サンダーヘッド初お披露目巻」

 

「……あっそ」

 

「現役を退いた隠れ読書家さん?名作は時が経っても色褪せないからそう呼ばれんのよ?知ってる?」

 

「知ってる」

 

「よろしい。あ、そういえばさ。この前、佐々木梓に会ったよ」

 

「あっそ」

 

「眼が合ったら話しかけてみたら?」

 

「あっそ」

 

不機嫌で素っ気ない芹菜のこの眼の色が、私は昔から気に入っていた。

 

 

 

 

 

 

「あの小娘高校デビューをパクリやがってなんだあの髪色は。前はもっと黒かったけど似合うからポニーテールにしやがれ」

 

「なに歩きながらぶつくさ言ってんだ?桃」

 

「………」

 

「同じ部活仲間で幼馴染を無視ってひどくないか?それ」

 

 独り言が聞こえてしまったのは久美子よろしく幼馴染で吹部の男子・塚本秀一だった。楽器はトロンボーン担当、ってこれまずい逃げなきゃ。こんな所をあの子に見られたらやばい。

 

「冗談だよシュウイっちゃん。じゃあね」

 

「おい、そのあだ名やめろよな」

 

「今日のあがた祭りは久美子と一緒に行くんでしょ?楽しんできてね!」

 

「は?行かねえよ」

 

「…―――は?」

 

「この前あいつ誘ったらもう先約がいたんだよ。だから、その、他の奴と行く」

 

・・・・・。

 

「アンタホントいい加減にしろよこっちが気を遣ったらそれか?そんなんだからいつまでたってもシュウイっちゃんなんだよ」

 

「・・・桃には関係ねえだろ」

 

「中学の時から久美子に何もできやしない所は本当変わらないね。……あーあ、あの時同じ部にいたアンタが傍にいてくれてたら。手を伸ばしてくれてたなら、おっこはあんなに傷ついて捻くれなかった筈なのに」

 

「中一の時のは。―――お前だって俺と一緒だろ」

 

「そうだよ。だから私は昔の自分が許せない。だからもうあんな自分にはならない。 クラリネットを吹き続けて、あの頃の自分なんて只の石ころだったって証明してみせるの。必ず」

 

「・・・・それがお前の高校デビューってやつか。トロンボーンの間でも噂になってるぜ? 楽器の練習にかけるお前の熱」

 

幼馴染は誇らしさとやるせなさが同居した色を眼に溜めて、私に言った。

 

「人間変われば変わるもんだな。昔の事なんて、もうお前の中では要らないゴミか?」

 

「何言ってんのシュウイっちゃん。逆に訊くけど、久美子が転校してきたあの頃、小学校3年の時。私達さわやか4組幼馴染の誓い、憶えてる?」

 

「ああ」

 

「他の皆は忘れてるだろうし、子供時分の誓いなんてほんと口約束以下。破ってなんぼ。 でも私は捨ててない。だって私達幼馴染は、」

 

「家族も同然」

 

―――家族に手ぇ出すなら容赦しねえぞ。

 

「ありがとう。憶えててくれて嬉しいな」

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「久美子~!昨日のあがた祭りどこ居たのさ~!!」

 

「え?何?桃」

 

「一緒にとうもろこし食べようと思ったの!!なのに祭り行くって言っといて居ないっておかしいでしょ!!」

 

「あ~~。ごめんその日はちょっと…」

 

「ん?なんか野暮用?」

 

「野暮用っていうか……、人生の一大事だったというか」

 

「は?え? まさか告られた?」

 

「いやあ~~?そんなまっさかあ~……」

 

「ふ~ん………?」

 

「久美子。おはよ」

 

「麗奈。おはよう」

 

「高坂さん、おはよう!」

 

「帆高さんも。おはよ」

 

・・・・・。

 

「おい、どういうこったよおっこ」

 

「あだ名」

 

「いつの間にお互い呼び捨てにするほど親しくなったん?久美子がそうするなんて余程のことがない限り無いでしょ」

 

「そうかなあ? ――あ!それよりオーディションだよ桃!ちゃんと練習してる?」

 

「話題を逸らした。何かあるな?まあそれはおいおい問いただすとして。 …まあ、私は毎日ヒロネ先輩達と練習してるからね。それに滝先生は初心者だって実力があればメンバーにするって言ってたし狙ってるよ。勿論」

 

「ソロは誰になると思う?」

 

「ソロ?」

 

「トランペットだよ。自由曲にはオーボエとトランペットのソロがあるじゃない?」

 

「? ああ、そういえば」

 

「オーボエは確か二年の先輩が一人だけだし、」

 

「鎧塚先輩ね」

 

「え? …うん、その先輩。でもトランペットは上手い人がいっぱいいる」

 

「上手い人なら誰でもいいんじゃない?」

 

「そうだけど。……私は」

 

「一番上手い高坂さんがいいかも。って?」

 

「………」

 

「分かりやすいんだから久美子は」

 

・・・・・。

 

「でもごめん、私はさっき言ったのと意見は同じ。上手い人がなるならそれでいい。―――私はね、久美子。選ばれなきゃ駄目なの」

 

「コンクールメンバーに?すごいやる気だね」

 

「久美子だってそれなりにあるでしょ?でなきゃ小中高ユーフォを吹いてなかった。違う?」

 

「………さぁ、どうかなあ」

 

「同じ部活仲間としてはっきり言うよ? 私は貴女と一緒にコンクールの場で楽器を吹きたいって思う。そして幼馴染として、久美子には伸び伸びと吹いてコンクールメンバーに選ばれてほしい。ここはもうあの中学校じゃあないんだよ」

 

「………」

 

「お互い頑張ろう。私は必ず勝って、メンバーに選ばれてみせる。そして証明してみせるの」

 

「……証明?」

 

「自分を。全国の舞台でね」

 

 

 

 

 

 

 



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第六回

 

 

 

ガバる奴(ヤツ)は‥‥“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったんだよRTA、はぁじまぁるよー。

 

 コンクールメンバーに選ばれる為練習につぐ練習を重ねてきたホモちゃん!

 奇跡はガバと努力の先にあるので(ほんとぉ?)選ばれるのは確実と見ていいですね。なので今回は布石を打ち込みましょう。

 

 府大会、関西大会、全国大会。

今RTAでは大きく三つのコンクールがありますが、その全てにレベル数値が設定されています。戦闘力か何か?

 

 北宇治高校吹部メンバーの演奏レベル合計がその数値より高ければクリア。低ければ終わりです。つまり吹部の演奏力-大会のレベル=結果という訳ですね。所謂アルテリオス計算式。古風ですね。

 

 でも知っての通りホモちゃんはおろか全てのキャラクターにもコンディションだとか精神状態だとかノリだとかがあるので、本番当日になってもこんなの誤差だよ誤差!!の領域にまで押し上げなくてはなりません。ランダムイベやら定期イベやらクソイベやらを突破してえ!(狂ぅ^~) 

 

 なので今日は居残り練習をせず駅前の和菓子屋さんに直行します。まま、そう焦んないで。この日この時間こ↑こ↓の場所へ行くと~?

 

「ええ~! もう売り切れですかあ!?」

 

「ごめんね~今さっきに」

 

「しょぼーん」      

 

 わざとらしいリアクションどうもホモちゃん。

さてここはスキップできません。スキップするとイベ自体がカットされる危険性があります。これは・・・RTAじゃな?(疑問)

 

「……。よかったらどうぞ」

 

「あ、いえいえ!そんなお構いなく!また次に買いに来ますので!」

 

「そうですか」

 

 しゃあ!来た。あとはどうだっていいので終わり!閉廷!以上スキップ!ホモちゃん君もう帰って飯食って寝ていいよ。

 

 さて、翌日。

朝は(練習しないという選択肢が)ないです。いざ学び舎。音楽室の施錠は?

 

『おはようございます。鎧塚先輩』

 

お、開いてんじゃーん!

 

 この人はみじょれ、じゃなかった吹部の孤高の奏者・鎧塚みぞれ先輩です。オーボエ吹いたら右に出るものは全国でもそうはいません。いわば彼女は北宇治高校吹奏楽部の力の象徴。左右両翼の右です(九垓天秤) 

 

 彼女は必ず朝一で楽器の練習してるので、ホモちゃんも一緒に練習して信頼値を上げておきます。早起きは三文の徳!

 

 でもこの子に必ず会えるんならタダでも喜んで早起きする、早起きしない?しかもみぞれちゃんと一緒に練習すると何故かホモちゃんの演奏レベルの上昇が著しいのです。α波でも出してんの?

 

 さてそんなこんなでオーディションも無事終わって、ホモちゃんがクラリネットパートの大会メンバーに選ばれたところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

「……。よかったらどうぞ」

 

「あ、いえいえ!そんなお構いなく!また次に買いに来ますので!」

 

「そうですか」

 

 その日。

好きな和菓子を買ってこれからの練習のモチベーションを上げようと思ったら、タッチの差でラストワンが売り切れ手遅れ。私の運のない事はこの上なく、何もかもおしまいだあ。なのでしょぼーんと声が出てしまうのも仕方の無いことだった。

 

そしてそんな時、ジッと見詰める視線に私は気が付いた。

 

「好きなんですか、栗饅頭。…若いのに渋いこと」

 

「ここの栗饅頭は別格です~!!家にストックがないと安心できないくらいで!」 

 

「……成る程。そういうあなたは、北宇治の子ですか」

 

「はい!」

 

 バリバリのキャリアウーマン然とした人だった。

私が買いたかった栗饅頭の袋を手に提げ、話しかけてきたその人は、でも弱肉強食がこの世の常でしょう?と瞳に色を映している。

 なんか怖そうな人かも。

 

「吹奏楽部かしら?」

 

「その通りです。よくご存知で!」

 

「その肺活量と息の吐き方。しゃべる時の、無意識な唇と喉のクセ。たぶん口内炎があるかしら? クラリネットでしょう、楽器」

 

「!? ご慧眼…っ」

 

 訂正、凄い人だった。

しかも誰にも言ってない筈の長引いてる口内炎の事まで。……経験者?

 

「同じ和菓子好きとしての忠告です。忙しくても、今ケアを怠っては駄目よ。特にあなたのような初心者は」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「では」

 

 スーツ姿が決まってるその女性は、素早く夜闇の中に消えていった。…また会えるかもしれない。私はひしひしと、そんな予感を感じていた。

 

 

 

 

 ネットで調べた方法をやってみたら、痛みはだいぶ治まった。

内容は生理食塩水でうがいをするというものだったけど、寝る前にうがいをして朝起きてまたうがいをしたら非常に効いた。う~ん、何事も試してみるものだなあ。あとはミントティーを飲むのが良いらしく、今度はそっちを試してみようかな。

 

「おはようございます。鎧塚先輩」

 

「…おはよう」

 

 さて、吹奏楽部員の朝は早い。

いつもの日課をこなして音楽室に来ると、2年の鎧塚先輩が既に楽器の音出しをしていた。

 

自分のクラリネットの用意をしながら、その姿を盗み見る。

 

肺と腹部の上下、呼吸のタイミング、運指、音色、足のスタンス、醸し出ている雰囲気。その全てが私にとっては新鮮で勉強になっていた。

 

「……帆高さんは、」

 

「え?は、はい」

 

「コンクールメンバーに、選ばれたいの?」

 

「はい。勿論です」

 

「追いつく為?」

 

「はい」

 

「………そう」

 

「あの、先輩は、」

 

「…?」

 

「先輩はメンバーに。選ばれたくないんですか?」

 

「分からない」

 

「オーボエ、いつもすごいですね。好きなんですか?」

 

「それも。分からない」

 

「そうですか」

 

「……そう」

 

 他人に語って聞かせるような物ではないのだろう。全ては自分の内側に。その証拠に先輩の出す音は、いつも黒い色を纏っていた。

 

「格好いいですね、鎧塚先輩」

 

「……。?そう…」

 

 全身で音楽を表現してるその姿勢。ヒロネ先輩や田中先輩とはまた違った独特の空気。でも奏でるロングトーンは、音色は皆一意専心。それこそが共通項。

 

…私は今日のオーディションで今までの全てを込める決心をした。

 

 

 

 

 

 

「失礼しますッ!」

 

 そして来たるべき放課後。ドアを開け閉め。

声を出すと、室内には顧問と副顧問の先生方が勢揃いしていた。…一礼して、顔を上げる。すると滝先生に椅子を促された。

 

「どうぞかけて下さい」

 

「はい!」

 

「学年と名前と担当の楽器を」

 

「1年・帆高桃。クラリネット担当です!」

 

「帆高さんは高校からクラリネットを始めたんでしたね?」

 

「はい!」

 

「他の楽器を吹きたいとは思わなかったのですか?」

 

「ありません。クラの音が好きなので」

 

「成る程、分かりました。では課題曲の頭から吹いてみてください。とりあえずは私が止めるまで。 メトロノームを鳴らしますので、好きなタイミングで始めていいですよ」

 

「はい!!」

 

何回も練習した。練習を見てくれた。先輩も同輩も。

聴いてくれた。こんな素人が出す音を。

負けるわけにはいかない。

 

「―――っ!!!」

 

 ヒロネ先輩も。葵さんも久美子も誰もかも。この場に来ればやらなくちゃいけないって気持ちになる。

 

じゃなきゃ嘘だ。せり上がってくる胃の奥も、縮こまってくるこの肺も。

 

 お願い言う事を聞いて。邪魔はしないから。全力以上を出させてほしい今ここで。…私は最後まで続けたいの。続けるの。

 

「はい、そこまで。では次は自由曲の―――」

 

もう負けるわけにはいかないの。

 

「はいッ!」

 

あの頃、小学校も中学も。熱中できる物なんて何もなかった。

 

 幼馴染は毎日頑張ってて、私はその子の話を聞いて自分も頑張ってる気になってただけの日々だった。

 

 …生きるって事はそういう事なんだって悟ったりもした。

だって誰かの頑張りを見聞きしてれば、自分も熱くなれる。私は生きてるんだって実感できる。

 

十代で!中学生で私は!この世の真実ってやつを知れた!!その辺の人達とは違う!!!

 

 そう思うと心は楽になった。だって目の前には壁も道もない。未来が広がってる。恐いものも無い。私は生きている。

 

 ――でもある日、幼馴染は壁にぶつかった。

いつものように吹奏楽の話を聞こうとしてあの子に会うと、暗くて冷たい断崖の底みたいな眼を久美子はしていた。

 

『どしたの? 久美子』

 

『あ~……えっとね。1年でコンクールメンバーに選ばれました』

 

 笑顔で、無邪気で、私はいつも通りです。

そう汲み取ってと書いてある顔。何も無かったよと、強張っている瞳と空気。

 

 ―――おい誰だ。

 

『いや~…、何事も、続けてみるもんだねえ』

 

 ―――誰だ。

 

『あはは~。一生懸命、やった甲斐、があったよ~』

 

 ―――こんな愛想笑いの外面を頑張ってるこの子に教えてくれやがった奴は、どこのどいつだ。

 

私はまるで自分の事のように義憤にかられた。

 

 

 

 

『この前たまたま通りかかって聞いたんだけど。黄前、3年のユーフォニアムの先輩と何か揉めたらしい』

 

『ありがと芹菜。お礼に月と貴女に花束を、今度貸すよ』

 

『それもう読んだ』

 

 

 

 

『すいません。吹奏楽部の方ですか?』

 

『? そうだけど』

 

『ユーフォの3年の先輩。何組か分かります?』

 

『………』

 

『あ、わたし帆高っていいます。ちょっと相談したい事があって』

 

『…私は高坂。たしかこの上の2組の筈だけど』

 

『ありがとうございます。高坂さん』

 

 

 

 

―――見つけた。

 

『先輩。少々お話が』

 

『何何?1年の君が何の用事?おっかない顔してるけど??』

 

―――お前か。

 

『すいません、お忙しいところ。先輩は確か吹奏楽部の3年生ですよね?』

 

『うんそうだよ?』

 

『私は今は帰宅部ですが、2年生になったらどこかに入ろうと思ってるんです。アドバイスを頂けないでしょうか』

 

『初対面の私に?』

 

『はい。他でもない吹奏楽部3年の、先輩に』

 

『う~ん。そこまで言われちゃねえ…。あ、じゃあ一つアドバイス!』

 

『はい』

 

『―――吹部だけはつまんないから止めときな。あそこ、頑張っても報われないから』

 

頑張ってもないくせに報われる事ってあるんですか? 私はそう言ってひっ叩かれた。

 

 一歩も動けなかった私は、何で頬を叩かれたのかよりも、何故こんな発言が出たのかが不思議でしょうがなかった。

 

 だってどの口が言うのか。

頑張っていたならこんな過程にはならなかった。すぐさま傷ついたあの子を抱きしめる事だって出来たし、すぐさまこのゴミクズを殴り返して幼馴染に手を出した落とし前をつけさせる事だって出来た。

 

あんなこと、こんなこと。なのに何故そんな事が出来なかったか?口だけだったのか? 

 

―――全部余所の出来事だからだ。

 

 自分の事のように?義憤? 嘘ばっかり。

心の底では所詮自分じゃないんだからと高をくくって分かりやすい悪に飛びついて、いざ自分が害されたら石ころみたいに黙って何もしない。今みたいに。

 

 でもお得意でしょう?悟るのは。生きるってのはそういう事なんだよ。

お前はずっとその辺の石ころのような存在で、毎日頑張ってる幼馴染のあの子とは違うまま。

 

絶対。一生。生涯。変わらない。

 

…それでいいの?

 

頬はもう痛くない。でも心だけは三年間痛いまま。それは今までも、これからも続いてく。

 

…それで。いいの?

 

 

「―――はい、そこまで」

 

「……っ、はあ……」

 

「お疲れ様でした。もう結構ですよ。次はフルートの人達を呼んできて下さい」

 

「…はいっ」

 

 なんとも恥ずかしい思い出を力に変えた私の演奏は、滞りなく上手くいった、と思う。少なくともミスはなかった筈。全部を出し切った感覚は、止まらない汗がその証拠。

 

 高まる心臓と肺を手で押さえ、不安を呼ぶ脳みそに何度も何度も元気と酸素を送る。そしてフルートの人たちを呼ぶ廊下の途中で、私は久美子に会った。

 

「………」

 

「………」

 

 あの頃とは違う背丈と歩幅。纏ってる緊張の色。

大丈夫?と小さくチョキをつくる右手が視界に入り、私はグーを右手でつくる。

 

―――悔いはないよ。

 

目は合わなかったけれど、それがなんだか嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 



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第七回

 

 

 

先を征く人は大きくみえるけどお!RTA、はぁじまぁるよー。

 

 前回は演奏レベルが足りていた事により、大会の正メンバーにホモちゃんが無事選ばれた所さん!?まででした。

 

 なので今回はとある先輩を差し置いて大会のメンバーになった幼馴染・黄前ちゃんへのフォロー。そしてこれまでの選択肢で多少は触れていたように自由曲のトランペットソロは誰が吹くか?問題の解決を急務とします。

 

 三年間すんごく頑張ってた最上級生と、誰よりも上手いだけが取り柄の1年生。

顧問の先生方は実力しか見てないので後者を選択しましたが人間そう単純ではないようで、現在部内の意見が割れています。さっさとそれを終息させなくてはいけません。

 

実のある合奏練習が削れたら勝てる大会も勝てないって、それ一番言われてるから。

 

 なのでデカいリボンがきゃわいい2年の先輩曰くマジエンジェル!!!! な3年の中世古香織先輩には(このルートではソロを)自分から諦めてもらうよう仕向けましょう。・・・え?そんな事したらデカリボン先輩に5656されちゃうだろ! 

 

先輩はそんな事しないから・・・(震え声)  

 

 そ、その代わり香織先輩ルートでは、どれもこれもトランペットソロを吹く為に切磋琢磨していく様が見所さん!で先輩マジエンジェルっていうかマジエスペシャリー。

 高坂さんを見た瞬間あすか先輩への想いとは違う何かが自分の中に生まれる『Age of Fire』ルートなんて熱すぎて脱水症になりますなります。

 

 しかもこのゲームはトランペットパートキャラが優遇されてるっぽくて、特に四人のルート・通称トランペット四騎士の話は全部熱いです。

 

 『加部友恵』 加部ちゃん先輩マジ筆頭。獅子。言うことなし。

 

 『笠野沙菜』 通称深淵歩きルート。香織先輩の陰に隠れて存在感薄いから?と思いきや…

 

 『滝野純一』 お前鷹の目みたいに香織先輩のことチラチラ見てただろから始まる彼の恋物語ルートは男の子男の子してる。

 

 『吉川優子』 香織先輩の刃

 

 

 ・・・これマジ?みんな香織先輩大好きすぎるだろ。ちなみにこのドリームソリスタールートのバッドエンドの一つは上記の四人から色んな意味でボコられます。失われた竜狩りみたいだあ。

 

 それだけ現北宇治高校吹奏楽部は粒揃いというわけですね。さて問題はいつ頃イベントが・・・・ん?

 

『中世古先輩、ちょっといいですか?』

 

 きたきたきた大当たりぃぃ!!! ホモちゃんに流れが来てます。

やったぜ工藤D!!デカリボン先輩がさあ!ホモちゃんに魔の手を伸ばすのが先か、ホモちゃんが勝つのか!!実験だよ実験!!

 

 といった感じの(嘲笑)香織先輩に相談イベントです。

これは部員大多数に好印象を持たれてると発生するやつで、これで問題解決に一歩近づきます。しかもこれで香織先輩の信頼値が爆上がり。

 

 後に発生する定期イベント解決に大きく影響してくるので、勿論ここは勝ちに行きましょう。やっちまおうぜ?やっちゃいますかやっちゃいましょうよ!!

 

『トランペットソロ。吹くべきです』

 

・・・・・は?

 

 え?あれ~?おかしいね、べきですってそれおかしいね?

たしかここは香織先輩の過去話を聞いてその上でホモちゃんの説得により高坂さんに潔くソロを譲る感じになるとこなのにね。何やってんのホモちゃん。

 

かなり挑戦的じゃないそれぇ? ・・・ゑ?リセ?再走案件?

 

『先輩が納得できるのなら』

 

『先輩は納得するべきです』

 

 あ、なんだちゃんと流れ来てましたね。下を選択。これでさっさとソロオーディションのやり直しが発生します。

 

あぁ~!トランペットの音ォ~~!! 生きてる証拠だよ。

 

 でも悲しいかなあ・・・。トランペットソロは正式に高坂さんで決定です。

そして練習を重ねついに京都府吹奏楽コンクール開催という所で今回はここまで!ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――アンタなんていなければ、大会で吹けたのに』

『何でアンタなんかが選ばれて。3年の私が吹けないの?ねえ、何で?』

『馬鹿にしてるでしょう。このクソ1年』

『お前さえここにいなかったら。私はAでコンクールに出れたのに』

 

 

『―――何とか言えよ。黄前』

 

 

「久美子~、調子はどう~?」

 

「………」

 

 嬉しくて天に昇ってしまいそう、みたいな顔。

やり遂げた吹奏楽部員の晴れがましい忌々しい顔で。オーディションに合格した日から毎日そいつは、私の前に現れていた。

 

「お互いAメンバーとして頑張ろうね!」

 

――何でこんな顔でいられるんだろう。他人の気も知らないで。

 

「………そうだね。じゃあ私個人練いってくるから」

 

 気持ち悪いその笑顔。心底嬉しいなと思ってる面構え。何も考えずに前だけを歩いていれば、誰に何も言われないと思ってる御目出度い精神構造。この子の頭の中には人間模様の『に』の字も無いのだろう。

 

他人の気も知らないで。

 

「あ、そうだ。 2年の中川先輩」

 

「……っ」

 

 うるさい黙れ。私は我慢なんかせずに、眉間にしわを寄せながら目蓋を限界まで開いて睨みつけた。

 

「――の、分まで。あとは頑張るしかないよね?久美子?」

 

「アンタ何言ってんの?」

 

「何って、そのまんまの意味だよ。あとはテッペンまで頑張るしかない。落ちた人も落ちなかった人も、この北宇治高校吹奏楽部員は一人以外全員がそう思ってる。思ってないのは三年前、中学で酷い目にあっちゃった幼馴染だけ」

 

「黙っててくんない?」

 

「あれ?私言ったよね。ここはあの中学校じゃないって。 ここにあんな程度の低い奴はいない。なんだかんだ言っても志が高い人間の集まり、それがここ。だから私達はもう頑張るしかない。違う?」

 

「黙れって言ってんだけど?」

 

 最近メキメキと楽器の腕を上げつつあり、時には恐ろしさすら滲み出てきている幼馴染の女は笑顔のまま舌を回していた。

 

「ははぁ~、小学校からユーフォ吹いてて無自覚の優越感持ってるどっかの誰かさんには分からないだろうけど、ここに来るまでそれなりに必死なもんだったよ?

 自分一人だけ満足してりゃあ良いような場所じゃないし、色んな人の音も聴いて合わせなきゃいけないし、色んな感情やら思惑が渦を巻いてる。それが部活なんだなって、帰宅部だった私は痛感してる。だから自分なりに常に力量を上げていかなきゃ生きていけない。だって時間だけは過ぎていくから。現状維持なんて無理。迷えば、あの渦に呑み込まれる」

 

「さっきから耳聞こえないのアンタ?」

 

「聞こえるに決まってんだろ吹奏楽部」

 

「………」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「………。迷えば、」

 

「?」

 

「迷えば、負けるって言いたいの?」

 

「勿論」

 

「迷わない人間が居るとでも思ってるの? 桃」

 

「思ってる」

 

「どこに」

 

「将来。だから私はクラリネットを吹いてる。――だって選ばれたんだから。久美子もね」

 

「………」

 

 …それは初めて見る視線だった。

全国の舞台で自分を証明する。そう話した彼女は寸分違わず、今も眼で口ほどに物を言っている。麗奈に似た雰囲気すら纏いはじめた幼馴染は、人間模様よりも何よりも、自分を容赦なんてしないと全身で語っていた。桃のくせに。

 

…いつもいっつもこちらの話を聞いてそれで満足してた、桃のくせに。

 

「ちょっと失礼ー。帆高ちゃん、ちょっと黄前ちゃん借りてっていい?」

 

「!? 中川先輩……」

 

「どうぞ~、こんなんで宜しければ」

 

「あはは、こんなんって。 ――さて黄前ちゃん、このあと時間ある?ちょっとマクド行かない?」

 

「え、ひゃ、ひゃい…っ!!?」

 

「いってらっしゃ~い。気を付けて~」

 

 ふにゃりとした笑顔。先程までの火のような真剣な眼差しは別人の誰かだったのか。フリフリと手を振るこの女を尻目に、私は心の何処かで、こいつにも負けたくないと思った。

 

 

 

 

 

 

「居残り練習お疲れ様。桃ちゃん」

 

 橙色に輝く太陽が最後の力を振り絞って私達の楽器に光を与える中。

久美子と分かれた私に向かって、幼馴染の葵さんはフリフリと手を振っていた。……柔らかいその笑顔。恥ずかしいから言った事はないけれど、私は昔からこの人に憧れている。

 

「葵さん、それはお互いに言いっこなしですよー。今日はもう上がりですか?」

 

「うん、あとは勉強の時間ってね」

 

「お疲れ様です。私ももうそろそろ上がりますね」

 

「そうなんだ。あ、なら桃ちゃんちょっといい?」

 

「?はい」

 

「飲み物おごったげるよ。何がいい?」

 

「え!いいんですか?」

 

「遠慮しなくていいよ。ヒロネにも許可はとってあるし」

 

「先輩が…?」

 

こちらを見ながら小さな手で〇をつくるヒロネ先輩マジ天使(エンジェル)。

 

「そういう事。じゃあ一緒に行こっか」

 

「は、はい!」

 

・・・・・。

 

「―――あれ?葵さん? 自販機通り過ぎちゃいましたけど」

 

「………」

 

 ついに力尽きた陽に想いを馳せる暇もなく、前を進む先輩は一度も振り返らずてくてくと歩いていた。気付けば私達を照らす人工の蛍光灯が、行く先を導いていて。

 耳をそっとすませば、仄暗く聞こえる誰かの音色。…それはこの世のものとは思えない黄金色の音で。 

 

ざわりと、その時私の背中を風が撫でた。

 

「あの――――って、あれ? この曲」

 

「香織のトランペットの音色。自由曲のソロ部分」

 

「………」

 

 立ち止まり、振り向く葵さん。

……誰だろう。私は一瞬そう思った。だってその瞳には鎧塚先輩やヒロネ先輩達がたまに見せる、私達1年生には決して宿せない何かがあった。

 

「桃ちゃんごめん。ちょっと香織と、話してみてくれないかな」

 

「私がですか?」

 

「お願い。私じゃ駄目だったけど、桃ちゃんは良い雰囲気をしてるから香織も話しやすい、と思う。それに何より納得できる筈だと思うの」

 

「納得、ですか」

 

音は未だ止む気配はない。…真摯な色。私はそう思った。

 

「この音には香織の想いが籠ってる。それを部の皆にしっかりと聴かせずに風化させちゃうのは、いけないって私は思う。コンクールまでまだ日があるうちに、それはちゃんとするべきだって」

 

「………」

 

「―――去年ね、この吹部は上級生と下級生とで割れた事があったの。上手くなりたい人とならなくてもいい人。結果的に上手くなりたい人が、…後輩がたくさん辞めていった。晴香も香織も私もそれを止められなかった」

 

「そんなことが……」

 

「私達は結局何もできなかった。だからあの頃を経験した人は、この時期こんな風に音に諦めが乗ってしまう。でも、桃ちゃんなら。 証明する為に頑張って今日も楽器を吹いてる貴女なら」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「このソロを聞いて貴女が思った事を、どうかあの子に言って欲しい。だって心底納得してるのなら、…こんな淋しい音は出ない筈だから」

 

 葵さんは火にかけたお鍋の蓋を開けて見える中身のような、煮えた何かを眼に宿しながら口にした。…冷める事も気化する事もまだ先のそれは、自分なりに形を変えようとしてるのだろう。

 

「―――分かりました」

 

「お願い。桃ちゃん。遅くなっちゃったけどあとで好きな物、何でもおごったげるから」

 

それが何に成るのかは、将来の自分にも解らないのだとしても。

 

 

 

 

 

 

「中世古先輩、ちょっといいですか?」

 

「? ああ、帆高さん。まだ帰っていなかったの?お疲れ様」

 

「お疲れ様です。あの――、」

 

 悪戯が見つかってしまってバツが悪い、とは全然見えない先輩の表情は。しかし必死になって何かを燃やそうとしているようだった。……そうやって無理矢理にでも前へ前へ、ここじゃない何処かへ進もうとしている。そんな表情。

 

なので私は思った事を口にした。

 

「? ああ、さっきの?ごめんね、未練ってわけじゃないんだけど。何だか少し吹いてみたくなっちゃって―――」

 

「トランペットソロ。吹くべきです先輩」

 

「――………え?」

 

・・・・・。

 

「さっきの音、香織先輩の音色、凄く良かったです。……綺麗な黄金色の風みたいで。こんな所でコッソリ吹いてるだけだなんて、私、駄目だと思います」

 

「何を言っているの?この前のオーディションで、ソロは高坂さんって滝先生が決めて、」

 

「だから何だって言うんですか」

 

「だから何だっ………て――――?」

 

「ここで独り、誰にも聴かせないソリストになってそれで満足なんですか?それが中世古先輩の、香織先輩だけの音楽なんですか」

 

「………」

 

「高坂さんは上手いです。出る音はどこまでも遠くを映す青空の色みたい。…もしかしたら聴く人が聴けば、この吹部で一番上手いのは彼女なのかもしれない。でもだからってそれが、―――それが自分が納得していい理由にはならない筈ですッ」

 

「納得していい……理由………」

 

「先輩は納得するべきです。だって自分から何もせずこのままでいたら、……きっと自分が自分でなくなるって。思わないんですか香織先輩!!」

 

「………!」

 

 

―――先輩は、トランペットが上手なんですね。

 

 

「………ねえ帆高さん。貴女は納得したいから、頑張ってクラリネットを吹いているの?」

 

「いいえ。証明する為です」

 

「自分を?」

 

「はい」

 

「誰に?何に?」

 

「自分に。そして幼馴染に」

 

「…そっか」

 

 ―――その時感じたのは炎のような何か。それは諦めていいものではなく、誰かに譲っていいものでもない。たとえその差は歴然と誰をも自分も口にしていても、思い出のように蓋をする事だけは決して出来ない。

 

 いつかそうなるのだとしても。いつか、あの日を空しいだけだと想う時が来ても。今だけは。

 

―――今だけは。

 

「桃ちゃん。私、ちょっと職員室に行ってくるね」

 

「付き合います。先輩、何かあれば私も」

 

「ありがとう。でも一人で大丈夫。これは私の我が儘だから」

 

「…分かりました」

 

「葵の眼の色が変わった理由が分かった気がする。ヒロネが羨ましいな」

 

「へ?」

 

「良い後輩を持って、先輩は幸せだねって言ったの」

 

「ありがたいお言葉…です…?」

 

「じゃあね」

 

……これで良いのだろうか。刹那の逡巡、頭をかすめたのは過去という名の足跡。

 

『先輩は、トランペットが上手なんですね』

 

それはいつも火のように何度も。

 

「―――。好きなの」

 

何度も。

 

「上手じゃなくて、好きなの」

 

何度も私に。

 

「お願いがあります滝先生」

 

私を思い出させてくれていた。

 

「ソロパートのオーディションを、もう一度やらせて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八回

 お陰様で何とかここまで辿り着くことが出来ました。今回でひとまず一区切りです。ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。
 申し訳程度の音楽要素を入れてみました。いつも通りよく分からないネタなのであまり気にしないで下さい。









 

 

 

ついに序盤ラスイベ府大会コンクールがもう始まってる!RTA、はぁじまぁるよー。

 

 さて何矛盾言ってんすかって指摘したい兄貴達、これは文字通りの意味で、次は北宇治の演奏順番なのです。はやくな~い?

 

 そして学園バラエティたるこのゲームは、コンクールの時のみミニゲームが発生します。

まあ簡単な音ゲーみたいなもので、画面右から左に流れてくる音符マークをテンポよくカーソル合わせて押すだけです。

 

 基準点未満だと終わりです。基準点以下でも終わりです。わかりますね?

狙うはオーバーザトップ。既にこ↑こ↓から次の大会、関西と全国への挑戦は始まっているのです。

 

 基準点を大きく超えればその分ホモちゃんの演奏レベルが上がるだけでなく、吹部メンバーのレベルも大きく上がることになります。

 

はえ^~本番は練習ってそういう意味なんすね~。

 

 なので今回は走者の音楽センスと指使いが試される回でもあります(意味深)コントローラーを握る両手が汗ばんできました。冷たい谷のサリヴァーンと煙の騎士、私に勇気を分けてくれ!(歴史に残る二刀使い)

 

さあ画面が切り替わりました。ミニゲーム特有のアラーム音。ちなみに曲はランダムで二曲選ばれます。

 

 

    WARNING

 

The decisive music is approaching at full throttle.

 

   NO REFUGE

 

 

Are you ready? 

 

イクゾー!!  デッデッデデデデ!(カーン)デデデッデ!

 

 我が校と貴校の吹部の違いが音楽性の差だけならば、コンクールの存在など不要ら!!ここを突破できなければ、全国を征覇する事など夢でしかないな!

 

さあ来い!北宇治の音楽みせてやろう!

 

 デッデッデデデデ!(カーン)デデデッデ!

 デッデッデデデデ!(カーン)デデデッデ!

 ぺーぺぺぺーぺーぺーぺーペペペペッペー

 ペッペッペペペーペペペッペッペーペペーー

(※イメージです)

 

課題曲終了!統計的に次は曲調がガラリと変わります。画面には北宇治吹部の面々、そしてホモちゃんの顔とポニテのアップが綺麗だねぇー。

 

 ――我、生きずして死すこと無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔とともに死すこと無し。

 

?なんやこれ。何の曲か分からんが、出来らあっ!

 

 テッテーレーレーレッテレーン、テテテーテテテーテーテー(テテテテン)テーレーレーレッテレーン、テテテーテテテーテテテー(テテテテン)

 ミッミーソーシーラッミミー、ミファ♯ソーラソファ♯ーレーシー(ソソラミ)

 ミーソーシーラッミミー、ミファ♯ソーラソファ♯ーレファ♯ミー(ソソラミ)

 

(※イメージです)自由曲終了!得点は!?

 

 3006・・・、普通だな。といいつつ基準点は1919点なので大きく突き放して北宇治高校吹奏楽部は府大会ゴールド金賞と関西大会へのキップを入手!こんなえっらい功績誇らしくないの?

 

 吹部部員の演奏レベルは超アップです。さて次回からはゲーム中盤、関西大会とかいう国盗り戦=コンクール打倒めざして頑張ろうとホモちゃんが息巻いてる所で今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――息を大きく吸って、1つ下の後輩が顔をキラキラさせながら、口を開く。

 

「いよいよ明日かー。府大会、緊張してきますね海松先輩」

 

「そ?私は別に」

 

 自分の左手の指が自然に、かつリズミカルに動いているのが見えて。私は目を閉じて頭の中に流れている曲の演奏停止ボタンを押した。今はその時間ではない、の。

 

「ほっほ~!流石は北宇治ホルン隊が誇るクールビューティ担当だね!」

 

「しんしんと~?降りつもる~?」

 

「清き!ココルォ!!」

 

「やめて下さい樹里先輩比呂先輩」

 

「え、何の台詞です?合言葉?」

 

「知らなくていい」

 

私は後輩の美千代に手を軽く振って答えた。

 

「――まあしかし緊張っていえば。ちょっと前の香織には驚かされたわー」

 

「再オーディションの時のですか?凄かったですよねーペット」

 

「まあそれもそうだけど。…あの香織が先生に直談判するなんて耳を疑ったよ」

 

「誰かが香織を焚きつけたらしいよ?樹里」

 

「え?マジ?」

 

「多分それ桃ちゃんですよ」

 

「あ~……、帆高か」

 

「……やっぱり」

 

 目元を静かに床に落とすと、私達ホルンパートメンバーが練習する空き教室の床目がくっきりと見えた。

 

「だって桃ちゃんだけでしたもん。あの再オーディションの場で、香織先輩と高坂さん両方に拍手したの」

 

「あれな!あれもビックリ、ていうか空気が緊張したよ」

 

「確かにどっちも良かったけどさ。…だからってあの場で1年がやるかフツー……」

 

「流石は鳥塚の城の住人だね」

 

「へ?お城?」

 

「低音の田中王国とかダブルリードの喜多村とか。ま、各パートの俗称だよ」

 

「私達は何なんです?」

 

「ホルン隊」

 

「そのまんま……」

 

「これからはいつ誰がここを率いようが、ホルンは永遠不滅だからね」

 

「!…ファランの不死隊……」

 

「美千代それこじつけ」

 

「すいませーん」

 

・・・・・。

 

「?どしたの海松。さっきからご機嫌斜めで」

 

「確かに。やっぱり緊張してる?」

 

「……いえ。帆高がちょっと心配で」

 

「この時期に他パートの後輩を思いやれるとは。悪くはないけど逆にこっちが心配だね?」

 

「………すいません。ちょっと個人練行って、頭を切り替えてきます」

 

楽器を持った私は気持ち深めに頭を下げ、教室を後にした。

 

「…あ、調べる方の井上だ。お疲れ」

 

「お疲れー。みるみる」

 

 考えが同じだったのだろう。廊下で出会った同じ2年生・フルートパート、井上調は楽器を持ってひらりと手を振った。

 

 …部全体の合奏練習は既に終わり、居残り練習組が奏でる音色が放課後の学校を十人十色に染める中。特に耳に残るのはクラリネットのロングトーン。明日本番だからこその基礎練習だ。

 

「………。似てるよね」

 

「うん」

 

誰がとは言わず、誰にとも言わず。調は顔と声色を一致させず頷いた。

 

「今の2年にしか分かんないよね。…流石にこの気持ちは」

 

「噂じゃさ。あの子、鎧塚ともよく話してるって」

 

「…は?マジ?あの鎧塚と?」

 

「朝練すんごく早く来てて、そこでって感じみたい。…行動力半端ないよね。しかもあの雰囲気。傘木達を思い出すなって方が無理だよ」

 

「………」

 

 一年前のあの頃から滝先生が指導しに来るまで。私はずっと、大きな思考の海の中にいた。―――何でこいつらはこんなにも頑張っているんだろう、無駄なのに。という名の淡海だ。

 

「優子と友恵は?何か言ってる?」

 

「あの子達は香織先輩スキーだから。発破をかけた帆高を気に入ってるみたい。先輩も何も言わないし」

 

「……そっか」

 

「………うん」

 

・・・・・。

 

「…心配?」

 

「心配」

 

 何事も、やる時はやる。そうしていれば少なくとも昔よりマシにはなれる。浮き上がれる。今は、私はそう思えるようになれた。お陰さまで。

 

「アイツらは当時の私に教えてくれたよ。世の中、何かを求めれば何かが崩れてく。それはもう音を立てながら。…帆高はそうならなければいいけど」

 

「みるみるはクールだねえ、優しいねえ。ジト目が今日も素敵だよ?」

 

「ありがとYo」

 

「まあ何はともかく明日だね。後輩達に駄目な姿は見せたくないし。――もう先輩だもんね、私達」

 

「そうだね」

 

 終わらないロングトーンが耳にこびり付きつつある中。私達は先輩としての仕事を果たそうと、楽器を力強く握って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 それは時に赤く、時に青かった。

さらに言えば偶に紺色、偶に黄緑一斤染。黄金白銀色彩十重二十重。私の眼にその色達は、とても燦然と輝いて見えていた。

 

 それらの色の正体が私達演奏者の奏でた音だという事に、私は全てが終わった後に気が付いて。合奏って、虹を創る事なんだなあと思った。

 

成る程。だから滝先生の指揮は、いつも虹みたいな色をしてたのか。

 

「桃ちゃん!!!」

 

ヒロネ先輩の瞳が会場中の光を集め乱反射しながら、でもまっすぐに私を捉えて両手を広げた。

 

「関西だよ!関西っ!!」

 

「………」

 

 北宇治高校吹奏楽部、ゴールド金賞関西大会出場。

審査員の人達とヒロネ先輩からその事を聞いても何処か心ここにあらずな私は、はいっとだけ返事をして先輩達に抱きつかれ、天を仰いだ。

 

最高の演奏。最大の色。最強の結果。意外と低い天井。

 

「嬉しいです。先輩」

 

「やったあああああああああああ!!!!!」

 

あちこちから上がる仲間達の喜びの声は、誰より上を目指そうという色で満ちていた。

 

 

 

 

「桃。やったね、関西だよ」

 

「うん」

 

「麗奈も葉月ちゃんもみどりちゃんも、皆みんな喜んでる。勿論目指すは全国だけど、段階を踏んでいかないと先へは行けないわけだし。やっぱりすっごく嬉しいよね」

 

「うん」

 

「いよいよ関西かあ…。強豪ひしめく激戦区だよ~。全国常連のあの三校を、どうやったら凌駕できるかがカギだね。頑張ろう」

 

「うん」

 

「聞いてないよね?」

 

「ううん」

 

「よかった」

 

ひどく嬉しいのだろう。すっかり見違えた幼馴染は不敵な笑顔を浮かべて、目元を少しだけ擦った。

 

「ねえ、久美子。一つ訊いていい?」

 

「ん?なに?」

 

「何で久美子はユーフォを吹いてるの?」

 

「上手くなりたいから。かな?」

 

「そっか」

 

「うん。――多分、そう」

 

「そっか」

 

だと思った。

 

 だって最近の久美子の音色はとても高揚感に満ちていたから。

この部に入部した頃とは全然違う。誰より上を目指すという気概と意志。それらは青天井を突き抜けて、きっと誰よりも高く飛ぶのだろう。そう誓ったのだろう。自分の胸に。

 

幼馴染は空を仰ぐ。いつか空に届くように。

同じようにして私も、すぐ上を見上げる。

 

「北宇治っ、記念写真撮りまーす!!皆並んでーー!!」

 

―――今よりも上なんて、あるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 



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中盤関西大会まで
第九回


 

 

 

 数多の音楽家を世に輩出した、関西の吹奏楽強豪・北宇治高校が零落して10年。関西吹奏楽コンクールは、大阪東照・明静工科・秀大附属の3つに分かれ混沌を極めていたRTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 やっとこさ関西大会に進みました今回。ならばやるべき事(こたえ)は一つぅ!

北宇治高校吹奏楽部左右両翼の一人、鎧塚みぞれちゃんを覚醒させる事です。所謂のぞみぞイベントですね。

 

 これをうま~~く消化すると、只でさえ高いみぞれちゃんの演奏レベルが3倍になります。

 システム上、みぞれちゃんはホモちゃん(主人公)がどんだけレベルを上げて追い越しても1だけ常に演奏レベルが上回る人物で、そんなキャラは北宇治にはあと一人しかいません。そして逆説的に(適当)ホモちゃんのレベルを上げまくってる現在の状態でイベントをこなせば、もうホント『虹の翼』が虹天剣。

 鳥になってこい!

 

 しかして関西大会まで一ヶ月もないこの状況。当代最強のオーボエ奏者に彼女を覚醒させなければ、北宇治が関西を勝ち抜く事は非常に困難です。というよりその先の全国で勝てません。

 

 全国大会には清良女子という強豪校がいるのですが、そこがもう皆アホみたいにレベル・ステータスが高くて、例えるなら全員ゴ集団でカテゴリーキングですね。一番強いって事です。

 

 特に低音パートにはこのゲーム最強ステの魔王がいて、ぶっちゃけジョーカーです勝てません(トラウマ)

北宇治高校吹奏楽部両翼の二人を覚醒させなければ、彼女達の足元にも及びません。つまり金賞も獲れません。

 

もう終わりだぁ!ライダー(ケンジャキ)助けて!

 

 ま、まあそれはさて置きもう一つ現状報告をしておくと、件のみぞれちゃんは傘木さんが好き過ぎるあまり目と目が合うと脱兎の如く走り出してしまいます。会話が成り立ちません。恥ずかしがり屋かな?(すっとぼけ)

 

 なので彼女を出来るだけ早く傘木さんと引き逢わせる必要があります。ショック療法だよ上等だろ。

 雌雄を決すんだよ!過去の自分を他人にする為に上手くなりたい橋走った黄前ちゃんみたいによお!(豹変)

 

 ちなみに傘木さんというのは2年の傘木希美(のぞみ)さんの事で、好きですじゃなかった北宇治吹部に必要なキャラの一人でみぞれちゃんの特別な人です。

 

 このゲームでは各キャラに二つルートエンディングが用意してあるのに対し、彼女には三つ目の隠しルートがあって、その最後である『笛聖』というエンドが走者的にはお気に入りです。

 話の出来自体は傘木さんが強くなり過ぎるだけなので嫌いですが、最後の最後にみぞれちゃんが傘木さんの吹くフルートを好きって言う所でたった今好きになった(霙並感)

 

 しかもこのエンドを迎えると、以降傘木さんのステはめっちゃ高水準な状態が維持されます。所謂笛聖モードです。システム画面でオンオフを切り替えられますが、この『ドリームソリスター』ルートではどっちでも構わないのでオンのままにしときましょう。

 

『幸せそうで』

 

『私も練習しよっと』

 

 おっ、やべえ上を選択だな!

下を選ぶとホモちゃんの演奏レベルは超上がりますが、のぞみぞイベントが終わります。ま、上の方はみぞれちゃんの信頼値も上がるし多少はね?

 

現在のホモちゃんの演奏レベルこんなに高いから問題もなしです。当たり前だよなあ?

 

 え?慢心?攻めなきゃ勝てねえから!秀大附属ミスしろとか三校怖いと思った瞬間負けなんだよ!だって全国には怪物しかいねえ!! 

 

 走者はこれ以上、真由黒江じゃなかったあの怪物達には屈したくない・・・!

 

 たとえ負けても勝つんだぁあ!

エンジン全開!!!という所で今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――続きまして、清良女子高等学校・吹奏楽部の皆さんの演奏です。

 

「………」

 

「すごい演奏ね。ここと闘うんでしょう?皆」

 

「………。全国でね」

 

「ふーん」

 

 テレビから聞こえてくる清良女子という全国大会常勝校の演奏を聴いて、私は震えていた。出る音は空を彩る雲のように、だけど風と共に消える事はなく残り続け、数多の誰かの心の風景になるのだろう。

 

音色は赤みがかった蒼の色。もうすぐ綺麗な夕空だ。

 

「こんなもんか」

 

「え?」

 

「このユーフォニアムの人と、こっちとこっちの人達くらいだね。自分の音色が出てるのは」

 

「判るの?一人一人」

 

「うん。これが全国かあ…」

 

特にこのユーフォは綺麗な深い海の色。クラゲみたいで面白い。

 

「―――へえ」

 

「? なに?お母さん」

 

「お父さんも喜ぶわね。桃に自信がついたって」

 

「自信て」

 

 母の視線が一分(いちぶ)細くなって、こちらを見る。真面目な話をする時の、いつものクセ。私は少し居住まいを正した。

 

「でも気を付けた方がいいわよ? そこに辿り着いた時、壁と試練は列をなし始める。貴女だけの何かを自覚してからが本当の始まりよ、桃」

 

「……うん」

 

「毎日頑張っているのは知っているし、応援も手伝いも勿論する。でも壁と試練を前に、逃げるか壊すか回り込むかその場で一生へたり込むかは自分次第。特に自らの意志が、強固であるほどね。いつでも私達や良い友人に相談なさい」

 

「……うん。ありがとうお母さん」

 

「―――今日の夜は貴女の大好きなスキヤキにしましょう!ちょうどお肉食べたかったのよね~~。ああ~~焼き肉の音ォ~~」

 

「あっはははー」

 

母の声と共に聞こえる全国の音色。でも北宇治の方が強い。私が居るのだから。

 

「じゃあ今日も走ってきまーす」

 

「気をつけてね~」

 

 挨拶もそこそこに、私は日課の早朝ランニングに出掛けた。

夏は夜が良いと大昔に誰かが綴ったらしいけど、私は朝が好き。それも太陽が大地を覗く前の、吹き抜ける風が汗を拭く感じが心地よくて、ずっとこのままでいいのにと思ってしまう。

 

 でも自分が何もしなくても、時間だけは過ぎていく。だから前に進めなきゃいけない。所謂もののあはれってやつ。 ちょっと違う?

 

「っふ、っほっほっ」

 

 少しきつい、でもまあだ大丈夫…。そんなペースを維持して走る。

キョロキョロ顔を上下左右に向ければ、同じように走ってる人が結構いて何だか楽しくなってきた。

 

山間からひょっこり太陽が私に挨拶をしたので、目礼する。

 

 ……若干ランナーズハイ気味だ。ペースを早め過ぎたみたい。最初から最後まで同じペースを維持しなければならないのに。

 

そう、このように走る事は肺活量・体力向上の他に自律向上にも繋がるのである。

 

 ふっふーん、であれば今すぐ論文を書いて出せばこれでノーベル賞は私んモンかもしれないなあ。

 

「ふっ、ふふ」

 

「―――ねえ。貴女」

 

「? はい、?」

 

「北宇治の吹部の人だよね? 関西大会出場おめでとうございます」

 

 綺麗な運動着。活動的な、黒いポニーテール。女性特有の柔らかい微笑み。走ってる最中に話しかけられたのは、これが初めての事だった。

 

「…ありがとうございます」

 

「この前の大会で、私確信した。北宇治は今までと大きく、本当に大きく変わったって。

差し支えなければ教えてほしいんだけど、何があったの?」

 

「練習しました」

 

「え?」

 

「練習。しました」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「――早朝ランニング。ってことはこの後朝練?」

 

「はい」

 

「キツイとは思わないの?」

 

「思います」

 

「でもやるの?」

 

「はい、勿論っ」

 

「先生がそう言ったから?」

 

「自分達が、やりたいと思っているからですっ」

 

「………」

 

あ、この眼。走る私はデジャブを感じた。

 

 観察すれば、全然息を切らしていないこの人の心肺機能と微笑は鼻呼吸だけでまだ全然余裕と伝えていて。年季を感じる背筋と走りと瞳はまるで空に浮かぶ飛行機雲。けれど決して、空には溶けてやりはしないだろう。

 

「凄いなあ、皆。ホントに凄い」

 

「………」

 

でも眼の色だけは、先輩達が浮かべるあの色に似ていた。

 

「じゃあ私、こっちだから。走ってるのにお話しちゃってごめんね。 またね」

 

「はい」

 

 また、とは。果たしてどういう意味を持つのだろう。私は一瞬疑問を浮かべたが、それは汗と一緒にどこかへ流れて消えていった。

 

 

 

 

 

 

「鎧塚先輩。おはようございます」

 

「…おはよう」

 

 ランニングを終え、ご飯を食べて今日も今日とて朝練。と思いきや、音楽室には珍しく久美子と高坂さんが既にいた。

 

「久美子と高坂さんも。おはよう」

 

「おはよー」

 

「おはよう、帆高さん」

 

「二人でなんて珍しいね?」

 

「まあね」

 

 二人が移動する。仲が良くてなにより。

自然と聴こえてくるトランペットとユーフォニアムのメロディーは青空と、それに手を伸ばす羽の生えた幼馴染。そんな感じ。安心して聴いてられる。そして面白い。

 

「ふふ」

 

「…どうしたの?」

 

「あ、いえ。すいません、ちょっと面白くて」

 

「? …面白い?」

 

「あのユーフォニアムの子、小学校からの幼馴染なんです。良い友達が出来て、あんなに輝いてる演奏が出来て、何だか面白くって。幸せそうで」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「どうして」

 

「え?」

 

「どうしてそんな風に。わらえるの?」

 

「………、えっと?」

 

「友達が。ある日急に、目の前からいなくなるかもしれない。不意に帆高さんを、一欠片も見なくなるかもしれない。それでも、」

 

「………」

 

「それでも。そんな風に嗤えるの?」

 

 咎めるような視線が、真っ直ぐに私を射抜く。そしてゆっくりと右に移動して、その先である左頬を右手で触ると、…私はそちらだけで笑みを浮かべていた。

 

ずっと。朝から。

 

「…追いつけると、いいね」

  

 眼を伏せた鎧塚先輩はスケールを吹く。

たまに速く急にゆっくり、まるで歩速と歩幅を一定にしないで走るように歩くように。高坂さんと久美子も同じように。

 

みんな綺麗な黒青黄蘗。

 

 無言で楽器を取り出して吹くと、面白いくらい良い音が出た。

指はスラスラ回り、何度も何度も吹き込む息は日々の練習の成果を感じる強さと長さ。これより上なんて無いくらいに。

 

でもそれが何色なのか、私には今も分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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第十回

 

 

 

 

To your valour,and instrument.Long may the sun shine!なRTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 あっついなあ・・・・もうじき夏合宿ですね~。千年目の夏の消える飛行機雲がって言ってる場合じゃねえ!!夏合宿前に例の二人を会わせなきゃならんのに分かるこの罪の重さ?え?傘木さんはどこ?ここ? 

 

知wらwなwいwよw

 

 ・・・おっかしいなあ?彼女はダンスが趣味って設定なので学校近くの少々大きめな公園に行けば会える筈なんですが。確率イベントは古竜と同じく滅んでどうぞ(雷の杭)その代わり観鈴ちんはスタートからゴールまで幸せに生きるから。

 こんなんじゃRTAになんないよ~。ホモちゃん毎日公園行って飽きない?もう今回も駄目だったらリセるからね。

 

ね?

 

『また、逢いましたね』

 

『何をやってるんですか?』

 

 や↑ っ た ぜ 。

なんとそこには踊ってる可愛らしい傘木さんの姿が! って・・・あれ?踊ってないし。

 しかも何で貴女制服のままなの?ダンス用の可愛い服は?ていうか初対面でしょホモちゃん何言ってんの。

 

 う~~~ん、ままええわ(思考放棄)

傘木さん登場ムービーがもう始まってるけどRTAなのでキャンセルだ。

 

 さてこれからやっと始まる連続イベントですが、ホモちゃんの演奏レベル向上には一切役に立ちません。しかし傘木さんを部に復帰させないという選択肢は、逆にみぞれちゃんの演奏レベル低下を引き起こします。このルートでそれは旨味がありません。

 

 彼女を部に復帰させるメリットは前回の通りオーボエの覚醒と、部員の質の向上です。傘木さんはフルートがとても上手なキャラで、演奏の教え方も後輩に対する面倒見も良いすんばらしい先輩なのです。

 ホモちゃん(ホモくん)が後輩キャラであればメリットしかありません。

 

 だって走者知ってるんですよォ~?貴女が立華高校編の南先輩や未来先輩にも匹敵する先輩力の持ち主だって。北宇治高校吹奏楽部九垓天秤の一人なんですよね~?昔は戎君って呼ばれてたって、俺バラしちゃいますよォ~?(大嘘)

 時間がないんで、早く復帰して毎日ポニテ拝ませて下さいよ!

 

(気付けばさっきから走者の欲望だだ漏れなの)笑っちゃうんすよね。

 

 さておきホモちゃんが傘木さんに出会った事により、これでフラグが立ちました。

次はササッとみぞれちゃんと会話して傘木さんの事を聞き出します。これはみぞれちゃんの信頼値が高くなければ出来ない芸当です。低いともう二度と話しかけられなくなりますし、無視られます。そんなの走者がまた寝込みます(2日)

 今まで毎日朝練して交流してきた甲斐がありましたねえ!

 

『あの人が、特別…?』

 

『凄い人ですね、傘木先輩』

 

下を選択。今度は部活終わりにまた公園に行って傘木さんに会いましょう。

 

『凄い人ですよね、鎧塚先輩』

 

『先輩は何故フルートを吹いているんですか?』

 

 上、と見せかけて下です。

ここで上を選んでしまうと連続イベが終わって傘木さんルートB『隣りの傘から』に入ってしまいます。通称お友達ルートです。なんで?(半ギレ)

 蕪崎詩乃ちゃん思い出す初見殺しは即刻止めて差し上げろ。

 

 ――とにもかくにもこれで傘木さんとみぞれちゃん両名と交流し、イベフラグを立てる事が出来ました。本ルートにおける名物サブイベント『Double Action』のスタートです。

 

 どうあってもどんなに頑張っても追いつけない追い抜けない人。

普通に生きてりゃそんな人間100人200人は下らないでしょうが、傘木さんにとって記念すべき一人目がみぞれちゃんだったって話です。まあお互い様なんですけどね。二人はもっとお話して?

 その為のサブイベ。最後は二人仲良く一緒に演奏して終了です。

 

 こういった交響・演奏イベントはこのゲームにおいて非常に人気が高く、みぞれちゃんルートB『雨の上がった英をみる』のラストも例に漏れません。まあ今RTAでは全部スキップするんですけどね。

 

『先輩たちの演奏が聴きたいです』

 

『…分かりません』 

 

 お、予定通りです。上を選択。これで準備は整いました。あとは演奏家同士、楽器で語ってもらいましょう。つまりケッチャコ。つまりスキップです。

 

 成功!

みぞれちゃんの演奏レベルがこれで三倍になりました。そして部に復帰した傘木さんと共に次回からは夏合宿といった所で今回はここまで!ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?悩みがあるの?」

 

「…はい」

 

「よしよしオッケイ、なんでもこの鳥塚先輩に話してみたまえー」

 

「実は…鎧塚先輩に叱られまして」

 

「――――え?」

 

鎧塚先輩に叱られたその日の放課後。私は3年のヒロネ先輩に相談事をしていた。

 

「ちょっと詳しく話してくれる?」

 

「はい」

 

…自分で自分がわからなかったからだ。

 

「なるほど。知らずに吹部の友達を見下してたと」

 

「…はい」

 

「そしてそれを鎧塚さんにちょっと強めに指摘されたと」

 

「はい……」

 

「その友達は桃ちゃんより下手だったの?」

 

「そんなことありません。 その子は私が目指してる人なんです」

 

「目標の子を、かあ……。桃ちゃんも1年生なんだねえ」

 

「?どういう事です?」

 

「私の意見だけどね、そういうのはざらだよ。所謂よくある事。気にすること無い無い」

 

「…そう……なんでしょうか……?」

 

「うん。皆上手くなりたくて練習してるんだもの。ある日ふと、この子下手だなぁとか思う瞬間くらいあるよ」

 

「………でも」

 

「うん?」

 

「あの子の音色は綺麗な黄檗色だったんです」

 

「う? うん?」

 

「どこまでも広がっていく暖かい色。でも私だけが何色なのかが解からないんです。…本当に見下したいのは私自身なのに、友達を、大切な幼馴染を、見下しちゃったんです。

 鎧塚先輩に言われるまで、私、気付けなかった。自分の色すら知らない石ころのくせに。おっこを――」

 

「ちょっとストップストップ。桃ちゃん、一個ずつ確認しよっか?」

 

「はい…」

 

「桃ちゃんは楽器の音を色で解かるの?」

 

「はい、最近は特に」

 

「共感覚ってやつだね。音楽をやっている人に、そういうのが有る人多いって聞いた事ある」

 

「え?そうなんですか?」

 

「うちの部でも結構居るんじゃないかな。まあ、ひけらかすような物でもないしね。ていうかまずもって音を自分なりに感じて表現するのが私達吹奏楽部じゃない?」

 

「そう、ですね…?」

 

「よくある事よくある事。さて次は自分の色が解からないって所だけど」

 

「はい」

 

「――ごめん桃ちゃん。それは私からは一つしか言えない」

 

「?」

 

「何か好きな物でも食べて気分転換するといいよ」

 

「ゑ? …はい?」

 

「色々なアドバイスはあるし、他の人に聞いても色々な意見とかポンポン出るとは思う。でもそんな言葉ひとつで解決するような悩みなら、そんなに悩んでない。違う?」

 

「かも………しれません」

 

「酷いとは思うけど、それは自分で解決するしかない。だって私達は吹奏楽部。音をどう出すかとか、どのように吹けばいいかとか。自分の音色はどうなのか、なんて皆死ぬほど知りたいよ」

 

そう言って、ヒロネ先輩は私の頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

「すいません。栗饅頭ください」

 

「はーい、ただ今~」

 

 その日の練習が終わり、今は綺麗な夏の夕暮れ。私はいつもの日課の前に、お気に入りの和菓子屋さんに来ていた。

 

「いつもどうもね~」

 

「いえいえこちらこそー」

 

そう言って笑みを貼り付け、和菓子を受け取る。

 

「北宇治、関西大会ですってね~。調子はどう?」

 

「ばっちりです」

 

「頼もしいわね~。応援してるわよ?頑張ってね」

 

「はいっ、頑張ります」

 

 笑みを浮かべなおす。

気持ちがふわふわとして、心と脳が何もかもをああだこうだと決め付けごちゃごちゃとしている。

 

 こういう時はこうしろ、ああいう時はこういう声と顔で。

こう話せば上手くいく、上に行けるだろと。…それは楽器を吹いている時も、音を聴く時も他人と話す時も。澱みたいに離れない。

 

「あ、すみません」

 

「いえ」

 

 …今日は急いで日課をこなして帰宅してご飯と饅頭を食べるとしよう。ヒロネ先輩の言うとおり、今日の私は気分転換しないといけない。ぐっすりと眠れば大丈夫さ。大丈夫。大丈夫だ。きっと。

 

「…………」

 

きっと。

 

「あら。貴女」

 

「――え?」

 

 店の中でぶつかりそうになって体を傾けようとした私の耳に、聞いた事のある女性の声。以前アドバイスをくれたキャリアウーマンの人が、変わらない声と顔で私の前にいた。

 

「まだ口内炎が痛むのかしら?饅頭を買ったにしてはあまり良くない顔よ」

 

「あ、いえそんな。もう口内炎は出来ていません、その節はありがとうございました」

 

「そう」

 

「はい」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「栗饅頭を買いたいのだけど。通って構わないかしら?」

 

「……?」

 

 気付けば私は店の通路を塞ぐようにしてジッと立っていて、この人にとっては邪魔以外の何者でもなかった。

 

「す、…すいません!!」

 

急いで道を開ける。大丈夫、帰って大好きな栗饅頭を食べて寝ればきっと大丈夫。

 

「………」

 

だってどうせ。明日も今日と同じだから。

 

「待ちなさい」

 

「……え?」

 

どうせ。きっと。

 

「音楽は簡単に傷む。貴女はそうは思わないかしら?」

 

「………、?」

 

「良い音、悪い音。どちらも聴く人が聴けばすぐに分かる物。だって演奏は、人間がしているのだから。そして人間が生物である以上、傷みもするし下手にも上手にもなる」

 

「………」

 

「プロとなると話は少し違うわ。でも貴女は高校生。傷んでも、下手でも、上手くいかなくても、今の全てをそれに。音楽に打ち込んでみたらどうかしら」

 

「……」

 

・・・・・。

 

「――やって、みます。ありがとうございました。 でも貴女は一体?この前もそうでしたけど」

 

「只の客よ」

 

 そう言ってその人は店の奥に進んでいった。

話す舌はもうないのだろう。一瞥もせずに。……もう少し音楽に没頭してみよう。何か見えるかもしれない。そんな気持ちが、わたしの胸には湧いてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――いつも御贔屓に。学生さんにアドバイスですか、大人ですね?」

 

「いいえ。別に何も」

 

「たしか貴女の娘さんも吹奏楽部でしょう?皆頑張ってくれるといいですねえ」

 

「? いいえ」

 

「……え?」

 

「音楽は、どうせ傷み腐って終わる物です。私の娘にそんな物は必要ありません」

 

「? でもさっきあの子には、」

 

「思い知らせてあげるのが大人という物です。現実は自分の予想通り上手くなどいかず、上には上が居て、常に打ち砕かれる物。これからあの子は音楽に対して本腰を入れる。今のうちに、それは知るべきでしょう。いつもの栗饅頭を」

 

「………。そんなものでしょうか?」

 

「学生は勉強だけ頑張っていれば評価され上に行けるのです。そんなものです。我々とは違います」

 

女性は川の流れのような瞳で、丁寧に財布から紙幣を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 …次の日の部活が終わり、これまた私はいつもの日課をこなす。

近くの公園で眼を瞑って平均台の上を歩き続けて、クルリと回れ右。また歩くを繰り返す。

 

「よっとっ、と」

 

 高校生になってから始めたこれも、ずいぶんと手馴れてきた。クラリネットの演奏も毎日上手くいっている。友人も先輩も良い人が多いし、毎日自分の成長を感じている。良い事だ。順風満帆だ。これからもずっと。

 そう、思ってしまった。先を見てしまった。

 

細く先のない平均台を歩いてる最中だというのに。

 

「!あ、っ」

 

え? 落ちる。腕守らなきゃ。―――だって、クラリネットが。楽器が吹けなくなっちゃう。

 

「おっと。 危ない、やっぱりまた逢ったね」

 

「へ?うぇあれ? 何をやってるんですか?」

 

「それはこっちの台詞なんだけどねー」

 

 足を滑らせた私は見事に抱きとめられていた。

…以前話したポニーテールの人だ。いつの間にこんな近くに居たのだろう。この間もそうだったけど。

 

「ダメだよー?平衡感覚を鍛えてる時にごちゃごちゃ考えたら。 両腕は大丈夫?痛みとか無い?」

 

「は、はい!ありがとうございます…っ」

 

「あははー、可愛い後輩の為ならえんやこら~ってね?」

 

「あ、あははは……。 後輩?」

 

 フワリと地面に下ろされてもずっと困惑してる私の眼が、眼前で笑みを浮かべてる女性の制服の柄を脳に送った。――私と同じだ。

 

「私、北宇治高校2年の傘木希美。昔からフルートを少々。貴女は?」

 

「北宇治高校吹奏楽部1年の、帆高桃です。楽器はクラリネット担当です」

 

「クラの子かー。うんうん、やっぱり」

 

「へ?やっぱり?」

 

「この前の府大会。 すっごく良かったよ?貴女のクラ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ソロがあるトランペットでもオーボエでもなく私のクラを?

全部の音の聞き分けでも出来るんだろうか。だとしたら凄い人だなーと、私は頭の片隅で思いながらお辞儀した。

 

「運指がとても上手だったよー。息も鍛えられてるし、出る音色は単色というよりいっぱいある方だったね? ヒロネ先輩に似て、練習態度は真面目で真剣って音に出てた。よく練習したねー」

 

「………は、え?」

 

――色?私のクラに?いっぱいの、色?

 

「小笠原部長も香織先輩も優子も全然音色の余韻が違うし、葵先輩やヒロネ先輩達だってそう。一年前とは月とすっぽんだよー。皆輝いてた。かっこよかった。 君達1年が、あの部を変えたんだねえ」

 

「………」

 

 

『去年ね、この吹部は上級生と下級生とで―――』

 

 

 浮かべている笑みが、先輩の笑顔の種類が変わる。対外的な微笑ではなく対内的な、でもどこかこの人にひどく似つかわしい綺麗な笑み。それは蔑むでも見下すでもなく。まるで怪物みたいだと、私は思った。

 

「うん、決めた。やっぱり今かな」

 

「なにが、ですか…?」

 

「実は私、元北宇治吹部の一員だったの。でも貴女達のお陰で決心がついた。―――私、今の部に復帰する」

 

 訳の分からない事を先輩は言って、地面に転がっているボールを手に取った。公園で遊んだ誰かが持って帰るのを忘れたのだろう。それをキシと軽く握って、笑みを深めている。

 

「こんな時が来るなんて。私、思いもしなかったなー」

 

振りかぶる。左足が、高々と上がる。空中で留まる。

 

「あの日以来悔しくて、夜も眠れないしやる事もないから寝ないでフルート吹いて。それでもなんか違うから色んな事に手を出して。

 指が回りやすくなるかなー?腸腰筋とか大事かなー?投球練習してみよう。体力付けないとなー、とりあえず走ってみよう。平衡感覚鍛えると演奏上手くなるかなー?ほんとかなー?平均台の上を歩いてみよう。他の吹部はどんな演奏するのかなー?生で聴きたいから長期休みに全国津々浦々強豪校の演奏を聴いてみよう。その他にも色々全部、やってみたよ」

 

 ぴくりとも動かない全身は、それがいったい楽器の演奏技術にどう繋がるのかと問いただして余り有るほど綺麗で途轍もなく。でもそれら全てがこの先輩の全てを形作っていると言わんばかりに格好よかった。

 

「―――もう逃げない」

 

 振り下ろされる足。同時に大地を踏みしめ、凄まじい豪球が右腕から射出された。

 

 ボールは一瞬、ぐにゃりとあらぬ方向に曲がって暴投、かと思うとそのまま真っ直ぐにXの字を描きながらまるで太陽光のように私の眼に焼きついて、突き進む球は遠くの壁に当たってやっと止まった。

 

「今度こそ、私は進む。何であの日、私達は銀賞だったのか。一体何がダメだったのか。何であの子に言葉をかけなかったのか。

 ――足りなかったんだよ何もかも。強さにかける想いが上手くなりたいって想いが、純粋に雑魚だった」

 

 頭がおかしくなるような投球を見て、私は夢の中にいるのかと一瞬思ったが、自分のありとあらゆる全てが心底足りないという先輩の表情を見て、私はここが現実なのだと再認した。

 

それはある日を境に。久美子が浮かべてる表情だったから。

 

「私は、上手くなる」

 

…自分を全うすると決めたのだろう。怪物が私の眼には、

 

「そして今度こそ、みぞれに証明してみせるの。私のフルートを」

 

どこか。将来の自分と重なっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 



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サブイベント『Double Action』上

※注意 このサブイベ編上下は作者の趣味全開です。ダメな方は第十一回へ。








 

 

 

人は二度生まれる。一度目は0歳の誕生日に。そして、二度目は。

 

 

 

『――部長』

 

『ん?なに?』

 

『なんで私たち、負けたんでしょうか』

 

『負けてなんてないじゃない? …銀賞だよ?れっきとした賞じゃん。一応』

 

『府大会ですよ?』

 

『………』

 

・・・・・。

 

『私達、全国に行くんじゃなかったんですか』

 

『……そうだねぇ』

 

二年前、私は南中吹奏楽部部長を辞めた。

 

―――だから、これ夢だ。

 

 夢の中でそう気付けたなら、それはきっと明晰夢。

ぱちりと起きれば全部忘れるのが夢だけど、怖がらず己を律してこのままぐっすり眠りこければ、ずっと夢の中にいられるらしい。

 

 …夢は第二の人生と申します。

なのでホッと一息、その続きを見る。そこには南中学校吹奏楽部の面々が、ポニーテールに髪を結った女の子・傘木希美と話し合っていた。

 

『…何が駄目だったんでしょうか』

 

『今まで私達を引っ張ってくれた部長と。一緒に全国の舞台へ行きたかった…っ』

 

『もっと楽器を奏でていたかった。……先輩と、一緒に』

 

『本当にこれで終わりなんですか。…部長っ』

 

・・・・・。

 

『終わりだよ。勿論』

 

・・・・・。

 

『私ら3年は、これでお終い。次は君たちがこの部を引っ張っていく番。全国までね』

 

そう言って笑って、手のひらに食い込む爪の痛みを握り潰していく中。彼女は空を見上げる。

 

 …眼と眼が合う。涙が零れないように、なんとも頼りない表情を後輩に決して見せないようにして引退宣言を行う二年前の自分は、弱々しいにも程があった。

 

 ――高校では金を取る。こんな悔しさは今日で最期にする。

あの日の彼女はそんな決意の灯火を胸に宿していた。ちっぽけで下らない、でも今もずっと消えない火を。

 

『……終わってない』

 

『え?』

 

『まだ…。終わって、ない…』

 

重なる声。

 

『高校で、今度こそ金。―――でしょ?希美』

 

 そんなちっぽけな灯火を上書きして余りある大火。

まるで世界が始まったかのように。あの日、鎧塚みぞれの眼には火が宿っていた。

 

 私だけを見つめて。

 

 

 

 

 ――ぱちりと眼が覚める。

夢の内容を忘れる前にむくりと起き上がり、脱力した左手の親指と人差し指で右の耳たぶをつまむ。すると自然に顔が左を向いた。

 

いつもの日課。

 

「今日は何をしようかな」

 

昨日もそう言ってたなあと、冗談混じりに私は薄く笑うのだった。

 

 

 

 

 高校2年生。今の私は帰宅部に所属している。

部の規律は特に無い。連絡網も活動目標も無いし、何かしらの大会があるわけでも勿論無い。

 

 でもただ一つ。帰宅部部員、いや総軍には絶対の任務が有る。

それはその名の通り、学校が終わったら即座に帰宅する事だ。

 

「フルート吹こっと」

 

 一年前まで部活動は吹部一本だった。けど去年辞めた。今はどこにも所属せず独学でフルートを嗜んでいる。今も忘れられない音があるからだ。

 

―――人は二度生まれる。一度目は0歳の誕生日に。そして二度目は今日この日。

 

『おはよー!鎧塚さん! オーボエ、そろそろ好きになった?』

 

『…ぼちぼち』

 

 当時の、南中学時代の彼女のオーボエ。奏でる音は万感と言って差し支えなく。

中学1年からずっと一緒に朝練をしてきた私には、どうしても真似が出来なかった。

 …凄いと思った。輝いていた。どうやったらこんな演奏が出来るのかが、私は不思議でしょうがなかった。今も今までも。

 

『…………』

 

『…? どうしたの、傘木さん』

 

『え?あ、いやー上手いね!鎧塚さん! やっぱりオーボエ好きでしょ?』

 

『ぼち…ぼち』

 

『そっかー』

 

 楽器が違う?こっちはフルートであっちはオーボエでしょ?

そんなの関係ない。ずっと聴いていたいと思えればそれは相手が凄いって事。なら負けたくないと思うのは演奏家の性(さが)でしょう?

 

…私にそんな音は出せない。だから止めないでほしい。私は今も今までもそう思っている。

 

 どうしたら並び立てるだろう。どうしたら優れるだろう。好きだからだけでそんな音色は決して出せない。だから私達は銀賞だった。

 

 中学3年の吹奏楽コンクールで、唯一特別だったのはこの子だけ。…部長の私が特別になって皆を引っ張っていかなくちゃならなかったのに。

 

 だから負けた。

 

 だから、見つけなくちゃいけない。探さなくちゃいけない。高校生になった今も。あのオーボエよりも特別になって、前に進む為に。……そう思っていた。

 

吹部を辞める前は。

 

 

 

 

 

 

「? あれ?あの女の子」

 

 先程まで吹いていたフルートをケースにしまい、中学3年の時から日課になった平均台の上を歩こうと春の夕方、いつもの公園に来るとそこには先客がいた。

 

 眉間にしわを寄せた必死の形相で、眼を瞑ってよろよろとおぼつかない足取りで歩いている。細い平均台の上は正に地獄の綱渡り。懐かしい。

 

 私と同じ北宇治高校制服のリボンは1年生のもので、その姿はまるで始めたばかりの自分のよう。

 

頑張れ、後輩。あ、でももしかしたら吹部の子かもしれない。

 

「まさかね」

 

 

 

 

 

 

「そういえば今年から吹部に新しい顧問の先生が来るんだっけ。あの部、360度変わったりして。 あ、180度だった」

 

 次の日のこれまた日課の早朝ランニング。こんな感じのご愛嬌(独り言)が風に乗るなか、見慣れた景色が雲と一緒に流れていく。

 

「お?」

 

 慣れていないのだろう、息を切らし必死の形相で一心不乱に走っている女の子がふと見えた。これまた見覚えのある、昨日見た1年生。その後輩がただひたすら走っていた。

 

「………」

 

 笑みが浮かぶ。凄いという敬意の感情が私をそうさせる。

何がそこまで彼女をそうさせるのだろう。何がそこまで、彼女を奮い立たせているのだろう。観察すると、どうやらただ走ってるだけではないらしい。

 

「なるほど、腹筋に力を入れて走ってるんだ……。確かにあれなら体勢安定に繋がるかもね。演奏に使えるなぁ。よし、やってみよっと」

 

毎朝走り続けてるその子が吹部だと分かったのは、府大会で北宇治の演奏を聴きに行った時だった。

 

 

 

 

「………」

 

 溜め息をぐっと飲み込んで、全身を支える力にする。

その合奏は何もかもが煌いていた。そのように感じて、気付けば私は万雷の拍手をただひたすら送っている。

 

 一年前とは全くと言っていいほど異なる音色。それはありとあらゆる練習、経験、錬磨、心気、執念を束ねた結果で。私は、

 

「………。悔しいなあ」

 

 やっとの事で出た言葉はずるいでもなく羨ましいでもなく。自分ひとりではあんな音色は出せないという事実だった。

 

 今まで独りで色んなものを実践して飲み込んで、自分なりのフルートにしてきた。ただひたすらに吹いてきた。

 如何に吹こうか、如何に吹くべきか。今もそう突き詰めてるけど、でもそれは合奏では決して無くて。皆で奏でる音楽が、こんなにも美しいとは思わなかった。

 

「良い部に入れたね…。クラの後輩ちゃん」

 

 ――そしてあの楽器の音色がひどく弱いことに、私は嫌でも気が付いた。…1年前。いやもっと前から聴いてきたあの音が。当時の私を粉々に砕いたあのオーボエが。

 

夢にまで出てくるあの子が。

 

「…………みぞれ」

 

 変わったのは意識だろうか。それとも練習をサボったか。

違う。後者は絶対にありえない。現に放課後、あの子の音色はそれなりに聴こえてた。

 

「今も昔も優子は傍にいる。喜多村先輩と岡先輩は凄い人たち。あの子を邪険には扱わない。夏紀もいる。となると………、1年の子達かな?なら訊いてみないといけないね」

 

部外者がいきなり?それはありえない。でも居ても立ってもいられない。

 

「よし、やってみよう。明日もあのクラの子走ってるかなー?」

 

 笑みを浮かべる。瞬間、頭の中の自分が私を罵る。

ホント自分勝手で気持ち悪い。鏡見た事ないの?あるなら一年前部活を辞めた理由を教えてよ。全部自分の為でしょう?

 

 そんな自分を心の中でフルートを吹いて黙らせ、私は私を貫く決意の炎を心に灯す。それはあの日からずっと変わらずこの胸に。そして今度こそ。

 

 

『鎧塚さん! オーボエ、そろそろ好きになった?』

 

 

今度こそ、あの日から前に進んだ事を証明する為に。

 

 

 

 

 

 

「―――ねえ。貴女」

 

「? はい、?」

 

「北宇治の吹部の人だよね?」

 

 

 

 

 

 




続く。


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サブイベント『Double Action』下

 

 

 

「傘木希美さんという人を知っていますか?鎧塚先輩」

 

「……――え?」

 

真剣な表情で。1年下の後輩の女の子は朝、開口一番にそう言った。

 

「………どうして?」

 

「昨日お逢いしまして。鎧塚先輩に伝えてほしいと、伝言を頼まれました」

 

「希美………が」

 

 元北宇治高校吹奏楽部。元南中吹奏楽部部長。傘木希美という人間は、一言でいうならヒーローだ。それは主人公と書いてもいいし英傑と書いてもいい。

 いつも皆を引っ張り、自己研鑽を惜しまない。…とにかく凄い人。それがかつての南中吹奏楽部部長・傘木希美というヒーローで。

 

 そして何も言わずに私の前から居なくなった、勝手気侭なフルート星人。一年前まで私は、ずっと一緒だと。ずっと友達だと、思っていた。

 

「―――私のフルートを聴いて貰いたい。だそうです」

 

「…………」

 

「近々会いにゆくとも、言っていました。オーボエを吹いて待っていてほしいと」

 

「………っ」

 

 怖気と真っ黒な感情が私の胃の腑と肺腑を震えさせ、居ても立ってもいられない脚は椅子を突き飛ばして朝の音楽室を後にさせた。

 

 …一年前の春。この部に入部した時、彼女はコンクールで金賞を獲ると宣言し、しかしそれは当時の部の先輩たち全員に無視された。

 

 私は応援したし、自分なりに頑張ると伝えた。この気持ちは中学からずっと変わってないよと。彼女も同じように頑張るのだと思ったし、信じた。

 

でも希美は部を辞めた。

 

「……気持ち悪い」

 

 裏切った?違う。彼女は最初から私なんて見ていない。その辺に転がっている石ころと同じ。大勢いるうちの中の一つ。

 

それが彼女にとっての私で、でも私にとっての宝石が彼女だった。

 

「……気持ち悪い」

 

 哀しかった。悔しかった。一言も無いなんてあんまりだ。

中学からずっと一緒に吹奏楽をやっている仲だったのに、相談すら無いなんて酷い以外の何があるんだ。

 

「――気持ち悪い」

 

 いつもいつもいつもそうだった。昔からいつも自分勝手でフルートの事しか頭にないフルート星人。貴女を真似して、好きかどうかも知らないこの楽器を暇さえあれば吹いているのに、一年経ってやっと私の前に現れるのかと思ったらまた楽器の話だ。他人の気も知らないで。

 

「気持ち、悪い…っ」

 

他人の気も知らないで。

 

「―――鎧塚先輩待ってッ!!」

 

気持ち悪い気持ち悪い。

 

「だってこんなに気持ち悪い私は。一体どんな顔で、希美に会えばいいの――」

 

「やっと停まった!大丈夫ですか先輩!? あんな顔色悪い先輩初めて見ましたよ!」

 

「……放って、おいて」

 

「そんなの後輩として出来るわけないじゃないですかッ」

 

「帆高さんが希美に何を聞かされたのかは知らない。けど私は希美に会いたくない、…もう会えない。一年前からずっと」

 

「…友達じゃ、なかったんですか?」

 

「思ってた。 でも違った。希美にとっての私は只の石ころだった」

 

「…石ころ………?」

 

「私は私が嫌い。只の友達にこんな気持ちの悪い感情を抱いて頭がおかしくなりそうになって、でもそんな私のことを希美は今も憶えててくれたのが嬉しくて、オーボエを吹いていて良かったって思ってる自分が心の底から気持ち悪い。大嫌い」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「昔から、私はずっと一人で本を読んでた。他人は怖い。だって何を考えてるのか分からない。でも希美はフルートを持って、私に手を伸ばして、引っ張ってくれた。

 ……嬉しかった。吹奏楽っていう知らない世界を、希美は私に教えてくれた。オーボエっていう楽器だって知る事ができた。だから私にとって、希美は特別」

 

「……。凄い人ですね、傘木先輩」

 

「希美は宝石で、私は石ころ。今も昔も。 なにも希美の特別に私もなりたかったわけじゃない………。ただ私は、あの人と一緒に、ずっと音楽をしていたかった」

 

「………鎧塚先輩」

 

「他人は何を考えているのか分からない。希美は最期に私にそれを思い知らせてくれた。

私はこれから一生それを心に刻んで生きていく。オーボエを吹いていれば、絶対忘れない」

 

だから私は楽器を吹く。今も今までも。

 

「―――石ころのままで、いいんですか?」

 

「いい。だって昔から、私は石ころだったから」

 

だから私は。

 

私が大嫌い。

 

 

 

 

 

 

「傘木先輩。先輩は何故フルートを吹いているんですか?」

 

「うん? どったの?後輩ちゃん」

 

「答えて下さい先輩」

 

「なんでって訊かれてもねー。そうだからとしか」

 

 傘木希美はそう言って、真っ直ぐに前を見た。

他は知らない。知っててもいいけど、迷ってはならない。そう書いてあるだろと帆高に伝えるように。

 

「鎧塚先輩、泣いてました」

 

「……。ふーん」

 

「あんな哀しい顔、今まで生きてきて初めて見ました。傘木先輩、何で――」

 

「何で辞めずに傍に居てあげなかったのって?」

 

「………」

 

 帆高の左手が脱力から万力に変わるように、握り拳に変化する。いけしゃあしゃあとしたこの先輩目掛けて、間違っていると伝える為に。

 

「それだよ」

 

「は?」

 

「私が傍に居たら、きっと今よりもあの子は間違ってた。――私の言う事には絶対服従。私の後を付いてきて、進路だって一緒にする。そんなの、演奏家じゃないじゃん」

 

「演奏家…?」

 

「私ね、みぞれのオーボエ好きなの。超大好き。感情爆発翼を広げた青い鳥みたいなオーボエの音色が。それを奏でる鎧塚みぞれっていう奏者が」

 

「………」

 

「演奏とは。音楽とは。楽器とは? 私が探してる答えを、強さを最初からあの子は持ってた。輝いてた。でもその理由が『傘木希美』だけじゃ演奏家・鎧塚みぞれはすぐに終わってしまう。

 ……本当なら中学の時点であの子にそれを教えなくちゃいけなかった。それじゃあ後は落ちるだけだよって。だって私、部長だもの。でも出来なかった」

 

弱かったから。 

 

傘木はそう続けた。

 

「………自分勝手」

 

「高校生になったなら、て思った。けどあの子の音色は日に日に良くなっていった。…怖くなったよ。教えたらオーボエ捨てちゃうかもって。それじゃあ駄目。絶対に駄目。私に出来たのはあの子に何も言わずに部を辞める事だけだった」

 

「………」

 

「今年、みぞれは下手になってた。だって淡白すぎるでしょ?あの自由曲のオーボエソロ。 その前のトランペットの子のソロが感情的だからコントラストになってるけど、この先の関西・全国じゃあ絶対に勝てない。でも、みぞれが。それでもみぞれが今もオーボエ捨ててないなら良いじゃん」

 

「捨ててないなら良いじゃんって…ッ!!!!だってそれは――!」

 

「府大会までは。そう、思ってた」

 

「………え?」

 

 帆高の眼に傘木の瞳が映りこむ。そこには後悔という名の色の暗月が浮かんでいたが、今の帆高には分からなかった。

 

「あの大会のオーボエのソロは、輝いてた。少しだけど、中学の頃のみぞれ以上に。あの子は楽器に対して真摯になってた。特別な感情を、みぞれは楽器に向けるようになれたんだ。――だから今度は、私があの子に対して真摯になる番」

 

 これで、と。

傘木は指先で軽く背中のケースカバーを叩いた。中身はフルートだろう。今日も肌身離さずに持っていた。

 

「正直ね?こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。私とあの子の道は違えたままで、もう交わる事はないって。―――でも違った。私のフルートとあの子のオーボエは、きっと、この日が来るのを待ってたんだ。有り難う、帆高ちゃん」

 

 笑みを浮かべる眼前の先輩の事が、帆高は理解できなかった。

そんな理由で吹部を辞めて、そんな理由で友達との縁を切る人間がいるなんて欠片も思いもしなかった。

 

 ……まるでフルート星人。

この人は徹頭徹尾、音楽しか頭にないんだ。このままじゃ自分の好きなオーボエが消えてしまうからその前に自分がオーボエの前から消えて、その後たまたま聴いたら昔よりも良くなってた。

 

 何故?どうして? 知りたい。そんな演奏家としての性(さが)。

とにかく謝るのが人としての筋だろうに、それ以上に楽器でもって語り合いたいと顔に書いてある。奏者として。他の由はなく、奏者として。

 

 音を聴きたい。聴き比べたい。私と貴女、昔の君。今の私と今の君。

こんなにも違うんだと純正に。こんなにも変わったんだよと純粋に。

 

思い知りたい。

 

 …彼女が石ころ?とんでもない。

帆高は思う。だって只の石ころがこんなにも他人を突き動かす事など出来ない。そう、彼女達こそ鎧塚みぞれと傘木希美。唯一無二の宝石と宝石。怪物と怪物。特別と特別。

 

 帆高の心臓が一際大きく高鳴った。こんな人間達が、世の中にはひしめいている事実に。

 

「先輩たちの演奏が聴きたいです」

 

「こちらこそ。どうか聴いて欲しいな」

 

見届けたい。

 

北宇治高校吹奏楽部の1年坊は、人生の先輩達の道を見てみたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの定位置に座り、早朝の音楽室の静寂がオーボエによって打ち砕かれていく中。奏者の鎧塚みぞれは小さなノック音が聞こえた方向に目線をやって、

 

そして彼女の全てが固まった。

 

「や。 久しぶり、みぞれ」

 

「………」

 

 息が止まり、目蓋が凍る。

――彼女と学校内ですれ違う事は数多くあったが。話す事はなくとも、不意にばったり会う事だって今まで数え切れなかったが。

 

 今この時。 いつも彼女を目で追っていたという真実に気付いて。そんな怖気と自己嫌悪を、鎧塚はオーボエを吹いて忘れようとした。

 

「そっち。行ってもいい?」

 

 手に持つ銀色のフルートの縁を指先で軽く触りながら。

同級生・傘木希美の表情は一欠片の悪びれもない。そう見えるよう練習した。一年にわたる日々は、短いようで長かった。

 

「………」

 

 傘木が一歩を踏み出したのと同時に鎧塚は立ち上がった。足音を消しながら、おそるおそる、かつての友に近付いてゆく。

 

 ―――何故?どうして?今更なにを?

諸々の理由と感情が彼女に罵声を上げよと何度も何度も口を開かせようとしたが、自分でも不可思議な自覚がそれらを遥か彼方の遠い虚空に追いやって。

 

ふと、自身がオーボエを持っている事を悟った。

 

「―――吹くの?」

 

「―――もちろん」

 

・・・・・。

 

「…私と?」

 

「…みぞれと」

 

・・・・・。

 

「出来るの?」

 

「出来た」

 

 互いに近寄る、その一歩に。二人の演奏家達は互いに初めて出逢った日の事を思い出す。

その一歩に旧交を。その一歩に憧憬を。その一歩に悔恨を。その一歩に観念を。そして最後のその一歩に、万感を。

 

 眼と眼が合い、思う。

或いは。もしかしたら。一年前の騒動がなくとも、私達はいずれこうなっていたんじゃないか―――

 

「元南中吹奏楽部部長・傘木希美として、私は伝えなくちゃいけない。みぞれ、アンタのオーボエ昔の方が上手かった。下手になったね」

 

「………」

 

「そして元北宇治高校吹奏楽部部員として、私は貴女に言わなくちゃならない。

みぞれ、黙って部を辞めてごめんなさい。中学からの友達の貴女に、それはちゃんと伝えるべきだった」

 

「………。いい」

 

 まっすぐに見詰めるその瞳は、彼女がずっと待ちかねていたもの。

こうやってずっとオーボエを吹いていたいと思っていた。彼女と共に。ずっと。しかし、

 

「メトロノームを鳴らします。合図は――」

 

「もう、いい。要らない」

 

「…え?」

 

「要らない」

 

「観客は、帆高ちゃん」

 

「自由曲のオーボエソロ。吹くから聴いてほしい」

 

「みぞれと一緒に私も吹くから、公平な審判をお願いね」

 

 北宇治高校吹奏楽部・今年度自由曲オーボエソロパート。三日月を模るこのパートは、百人が百人、吹奏楽器はオーボエ以外ありえないと首肯したとしても。――私のフルートはそれら下馬評を遠い彼方に置き去って、響かせる。

 

奏でる。手にもつフルートの銀光よりも冴え渡る笑みで、傘木はそう示していた。

 

「分かりました」

 

 わけが分からない。楽器が違ければ勝敗などつけようもない。

そんな帆高を余所に。肩を並べた鎧塚と傘木はゆっくりと対面に座って、静かに笑いあった。

 

 ―――それは奏演の化身者だけが放ち得るもの。

 

 音を奉じ、奏鳴を生とし、楽器を己の意味とする者、特有の芳香。純正の響気。心を震わす猛毒を浴びせあい、しかし彼女達が怯え竦むことはない。

 

 貴女が三千世界の五線譜を征覇する畏怖すべき笛聖(フラウトトラヴェルソ)であろうとも、貴女こそはその線上の常軌を逸して羽撃たく落雁閉月(ロワゾ・ブルー)に他ならぬ。

 

優劣勝敗は世人ではなく音楽の神のみが知る処。

 

 彼女は吹き込む。

 

 彼女は吹き出す。

 

交響はほんの、刹那の未来。

 

 奏でるべし。

 

楽器があるなら始まりはいつも。

 

二人の始まりは、ここにある。

 

 

 

 

 

 

 構えたオーボエに息を吹き込む。

鎧塚が過去何千何万と繰り返したその工程の完了は、時間にして0.3秒を切る。対して傘木のフルートの一連の動作はこの上なく流麗且つ緩やかに行われたよう鎧塚と帆高は感じたが、

 

否。

 

 依然自然体で楽器を構えてすらもいなかった筈の傘木が音を楽器から出した事実は、鎧塚が既に口にくわえているリードに息を吹き込み音が出るその刹那にすべてが為された事に疑いの余地はなく。

 

 それは唯一の観客の帆高と、奏者である鎧塚が己の体感時間を限りなく圧縮し自らの時を止めるに等しい状態に置く事でしか、傘木の動きを目で追えなかった事に起因する。

 

 

つまり真相は。

 

不可避の、速攻である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――あの日。彼女と初めて出逢って楽器に触れた日。それは私の全てが始まった日だった。

人は二度生まれる。ルソーの言葉。私にとって、二度目は正に今日この日。

 

中学1年の、今日この日。

 

『おはよー!鎧塚さん! オーボエ、そろそろ好きになった?』

 

『…ぼちぼち』

 

『…………そっかー』

 

『…? どうしたの、傘木さん』

 

『え?あ、いやー上手いね!鎧塚さん! やっぱりオーボエ好きでしょ?』

 

『ぼち…ぼち』

 

『そっかー』

 

・・・・・。

 

『…。傘木さん、は』

 

『え?なになに?』

 

『フルート、好きなの?』

 

『好きだよ?勿論』

 

 …これが夢だと夢の中で気付けたなら、それはきっと明晰夢。

ぱちりと起きれば全部忘れるのが夢だけど、怖がらず己を律してこのままぐっすり眠りこければ、ずっと夢の中にいられるらしい。

 

夢は第二の人生と申します。

 

『………』

 

『みぞれは?』

 

『―――え?』 

 

なので少し驚く。夢の中の人物が私に。今の鎧塚みぞれに話しかけてきた。

 

『オーボエ、好き?』

 

 奏でるフルートの音色と笑顔は至高天に輝き昇る星のように。

いつまでも変わらず昇りつめているように。私は今も今までもそれを追いかけていて。

 

 ……眼を開ける。私にとって待ちかねていた夢が、合奏の時間がついに終わる。そこには現実という名前の景色があって、でも私の瞳を心配そうに見詰めながら声をかけてきた。

 

 ―――どう?みぞれ。

 

好きだと、今度こそ言えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 



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第十一回

エス・ロイエスをやっと攻略したので初投稿です。







 

 

 

 

ポニテ三銃士がついに揃ったRTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 やっと夏合宿が始まりました。私服が綺麗だねぇ~、北宇治吹部の面々をじっくり見る余裕も無いスキップ祭りの場所はここです。

 

 ポニテ先輩こと中川夏紀先輩が居るチームもなか(ホモちゃんとは違うBチーム。Aチームの補佐もする)に傘木さんが加わり、現在ますます練習はヒートアップといった所さん!?そしてこの合宿は吹部部員全員と一つ屋根の下という事でフラグ建築の宝庫です。

 

 一般的なルートならみぞれちゃん関連、トランペット系ルートなら高坂さん関連。ダブルリード系ルートなら喜多村先輩関連。これらを進めるにはこの合宿は必要不可欠ですね。

 

 ちなみにトランペット四騎士の一人、笠野さんのルートを進みたい場合は加部ちゃん先輩とも交流する必要があります。このルートは云わば裏方ルートです。つまり見なくてもいい色々な場面を見る破目になるやつですね。

 

 目立たず、香織先輩や晴香先輩を立て、加部ちゃんといった後輩を指導し後を託して、部の内情・人間関係をつぶさに知り尽くし、問題が表面化する前に誰も知らなくていい深淵のままにするルート。

 ある意味黄前相談所の前身といった感じで面白いですよ、この深淵歩きルート。

 

 ルートB『笠』で彼女が本当にデレるシーンなんて初めてアノール・ロンド来た時思い出しますねえ!(不死並感)

 

 しかしながらじゃあこの『ドリームソリスター』ルートでは何をするのか?

全国大会で勝つ為の布石を打つ事です。そして当然!練習だッ!先達から受け継ぐ練習ッ!それが流儀ィィッ!! 知wらwなwいwよw

 まあ基本は演奏練習しつつ部員全体の信頼値を上げる感じですね。え?いつもの?これが一番難しいんだよなあ・・・。

 

『クラリネットだけです』

 

『実は他に…』

 

 あ、クソイベ。じゃなかったお排泄物ランイベ発生ですね。

これはたしかコーチの先生方に他の楽器だとどれが吹きたい?とか何とか言われるやつです。信頼値がアップするので上を選択します。

 

 コーチの橋本先生と新山先生は顧問の滝先生と同じ音大仲間です。勿論この方々のルートもありますが(あまり人気)ないです。例えば滝先生ルートだと過去から生前の奥さんがやってきて楽器で演奏対決します。ターミネーターかな?バックトゥザフューチャーでしょ。

 

『声をかける』

 

『声をかけない』

 

 っと、本命が来ました。ここの選択肢は声をかけないが正解です。声をかけると違うルートに入ります。

・・・だからPWPK6思い出させんの止めろっつってんじゃねえかよ。

 

『何という名前の曲なんですか?』

 

『先輩は何の為にユーフォを吹いてるんです?』

 

 下を選択。これで黄前ちゃんの直属の先輩、3年のあすか先輩の信頼値が上がります。

この人の信頼値は超絶上がりにくいので、確実にポイントを押さえておきたい所。流石はこの吹部のボス(北宇治高校吹奏楽部両翼の左)ですねえ!彼女を羽撃かせれば北宇治に負けは、負けは・・・・。んにゃぴ。 

 

 やっぱりまだよく分からないですね。ま、壁は大きい方がいいから多少はね?

待ってろよ全国。さてそんなこんなで合宿1日目が終わったところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

「――それで?緊急のパーリー会議って話だけど、何が議題なの?」

 

「夏合宿の話は昨日みっちり先生と話したでしょ?…となると?」

 

「もしもしぃ~?問題発生。 ってわけ?」

 

「まっさか~」

 

「皆ごめんね、時間取らせちゃって」

 

「晴香。全員集合だよ」

 

「では急ですが、臨時のパートリーダー会議を始めます。といっても議題は一つだけ。

実は去年部を辞めた2年生・傘木希美ちゃんが、吹部への復帰を希望しています。 そうだよね?副部長」

 

「はいはーい、イグザクトリー。ちょっと前に希美ちゃんと2年のオーボエ・みぞれちゃんが二人揃って部活終わりに私の前に来てね? え!?恋の相談?泥沼の三角関係?!…とか思ったんだけどいきなり部活に復帰したいんです~!って頭下げてきて。 いやーアレはびっくりした」

 

「傘木ちゃんが…?」

 

「マジ?この時期に?」

 

「嬉しい事じゃね?」

 

「だよなあ?」

 

「…みぞれちゃんと一緒に?本当?」

 

「………」

 

「希美ちゃんはコンクールに出たいとかじゃなく、ただ私達の、吹部の手助けがしたいって話です。なのでこの場で皆の意見を聞きたいと思います。

 …ちなみに私は復帰に賛成。去年色々あった上で、勇気を出してくれたんだもの。部長として無下にはできない。 副部長はどう?」

 

「私も賛成かな~。二人してあんな顔で頭下げられちゃったら断れないよ~」

 

「……。琴子は?」

 

「………」

 

「どう、思う?」

 

「……。私は復帰に賛成。それで会議はお終い、これでいい?」

 

・・・・・。

 

「晴香もあすかもさ、はっきり言えばいいじゃない?あの傘木希美が戻ってきて、フルートパートの和は乱れるけどよろしくって」

 

「乱れるって…。そんな大袈裟な」

 

「調は大丈夫じゃないかもしれないのに?」

 

「………」

 

「フルートで唯一残ってくれた2年生の調が。今はもうなんの感情も抱いてないって。言える?」

 

「それは………」

 

「ま、上手くやるよ。フルートパートリーダーとして、私は私のやるべき事をやるだけだもの」

 

「出来るの?琴子。 君がしっかりやってくれないと~、北宇治吹部全員の和が乱れるかもなんだけど?」

 

「今は私が3年でパーリーなんで。 これでいい?あすか」

 

「わお!流石は姫神さんちの琴子ちゃ~ん。勿論信じてるよん」

 

「来南は?」

 

「私も賛成かな。みぞれちゃんは特に希美ちゃんを気にしてたから。二人で、なんて凄いよ」

 

「俺も賛成」

 

「俺も」

 

「私も」

 

「では満場一致で復帰OKという事で。では解散します。お疲れ様でした」

 

「お疲れちゃ~ん」

 

 

 

 

 

 

ついにやってきた合宿当日。バスが目的地に着くと、濃い空気が私の肺をいっぱいにした。

 

「山の空気が、すごい…!」

 

「練習するにはもってこいの場所だねえ。あ、そうだ知ってる?桃ちゃん」

 

「え?何何?美千代ちゃん」

 

「あそこの石の上で座禅し続けてると古竜の頂って場所に、」

 

「へ??なんて?」

 

「ごめん帆高。ちょっとこいつ黙らせる」

 

 ホルンパートの2年生・岸部海松先輩が美千代ちゃんの腕を引いて、ていうかがっつりホールドして引きずりながら建物に歩いていった。

 

「離して下さい海松先輩! 竜狩りの剣槍が、ハベルがぁ!!楔石がああ!!!」

 

「ここに、そんなモノは、無い」

 

「あははは…」

 

「かわいそうに。あの子の人間性も限界かもね…」

 

「あ、中川先輩。お疲れ様です」

 

「お疲れー帆高ちゃん。 希美のこと、ありがとね。なんか色々協力してくれたんだって?」

 

「協力だなんて。私は何もしてませんよ、ホント」

 

「それでもだよ。帆高ちゃんが居たから決心がついたって希美は言ってたし。ありがとね」

 

「……いえ。本当に」

 

 中川先輩が煌く笑顔とポニーテールを風に乗せながら歩き去る。

そのちょっと後ろでは傘木先輩と鎧塚先輩、そしてトランペットの吉川先輩が談笑していた。

 

この合宿で少しでもあの人達に近付いてみせる。他のことは考えず、音楽に没頭する。私はそう心に決めた。

 

 

 

 

 

 

「皆さんおはようございます。今日から二泊三日の合宿のスタートですね。早速今から練習、と言いたいのですがその前に、皆さんに紹介したい人がいます」

 

「え?紹介?」

 

「……まさか滝先生の婚約者? アンリの直剣…」「おい」

 

「今日から木管を指導して下さる新山聡美先生です」

 

 現れた人物はシュッとして、だけど綿のような女性だった。浮かべる微笑は見渡す私達を、周囲をほっとさせているけれど自然と少し居住まいを正してしまう何かを持っていて。

 

「新山聡美といいます。よろしく」

 

軽くはない。ふわりとはしているけれど、この人は軽くはなかった。

 

「木管組は第二ホールで新山先生から指導を受けて下さい。では解散」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 新山先生の指導は、数をこなすという一言につきた。やる事はなにも難しい事ではないけれど、もう一回。ここはこうしてみようもう一回。あ、間違えた。頑張ろう!もう一回。もう一回。もう一回。出来るようになるまで。 

 

「ヴぁ~~~…」

 

「お疲れ、桃。なに?そんなにきつかったの?」

 

「滝先生並だよ……。詳しくはみどりちゃんに聞いて…」

 

「えぇ……?」

 

「今はとにかく飲み物ヴォ」

 

 自動販売機に小銭を入れ、出てきたオロナミンを飲む。…飲みすぎは体に良くないけど今日はご愛嬌。とにかく体が欲しているのだ。

 

「………ふうぅ」

 

 先程の練習を思い出す。そして理想とする音を、ヒロネ先輩の音色をイメージする。どう吹こうか、如何に吹けばいいか。答えは遠いけれど。

 

「…一歩一歩」

 

先へ。上へ。あの低い天井の、その上へ。だってきっと、

 

「きっと有る」

 

きっと。果てなる高みを目指して、信じて一歩一歩進んでいく事は可能なのだ。

 

「あら?帆高さん?」

 

「新山先生。お疲れ様です」

 

「お疲れ様。…休憩中でもトレーニング?」

 

財布を持って、現れた先生は綺麗に笑いながらそう言った。

 

「トレーニングだなんてそんな。ちょっと練習を思い返していただけです」

 

「たしか帆高さんは、今年からクラリネットを始めたのよね?」

 

ガコンと、緑茶が出る。飲む?と視線で問われたので、私は手と首をぶるぶる左右に振った。

 

「はい、そうです」

 

「他の楽器に興味はなかったの?あ、これ吹いてみたい。とか」

 

「ありません。クラリネットだけです」

 

「……、何か特別な思い入れでもあるの?」

 

「憧れなんです。クラリネットは」

 

「憧れ?」

 

「はい。幼稚園の頃、両親と一緒に散歩していた時、急に楽器の音が聴こえてきたんです。…もうどんな音色だったかは思い出せないんですけど、とにかく凄くて感動した事は憶えてて。後で父に聞いたらクラリネットっていう楽器だーって教えてくれて。

 それ以来、何となくクラは特別で憧れなんです」

 

「素敵な経験をしたのね。帆高さんは」

 

「……そう言われると、何だか照れくさいですけれど」

 

「あら。そんな貴女の音色、私は好きよ?」

 

「止めてください……」

 

 恥ずかしがる私。新山先生は心底嬉しいといった表情をしながら、緑茶ペットボトルのキャップをするりと開けた。

 

「貴女をはじめ、前途ある子達と関わる事が出来て私は嬉しい。ありがとう、帆高さん」

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

いつもの日課の要領で早くに起床した私は、少し外を走ってみようと顔を洗って外に出た。…やっぱり夏は朝が好い。合宿中だからか注ぐ日差しはいつもと違う感じがして、何だか太陽の光の恵みのよう。

 ここに来て良かった。走る私はほっと息を吐いた。

 

「……? あれ、この音」

 

 風と一緒に、微かに楽器の音色が流れている。走るのを止め、音の発生源にゆっくりと近付いていく。…すると、そこには。

 

「……っ」

 

 鈍色のユーフォニアム。あ、いや違う。銀色のユーフォと、それを吹く低音パートの田中あすか先輩がいた。…綺麗で不思議な深い音色。いつもは亜麻色で透き通っているのに、聴こえる音はまるで別人のような涅色をしていた。

 

「? ――あ、帆高ちゃーん」

 

「おはようございます、田中先輩」

 

「人が悪いなあ。声くらいかけてよ~」

 

「す、すいません。なんだか気が引けてしまって」

 

「ええ!?…そっかあ、帆高ちゃんにはユーフォの魅力が分からないのかあ…。ショックだなあ」

 

「いえそうではなく。 あの、先輩一つお訊きしてもいいですか?」

 

「ん?なあに?」

 

「先輩は何の為にユーフォを吹いてるんです?」

 

「………、へ?」

 

自身のユーフォニアムを一度握りなおして。先輩は眼を丸くさせた。

 

「うーん、それはどういう意味かな?」

 

「あ、すいません不躾に。でも何だか無性に、」

 

「尋ねてみたくなったってわけだ。 流石は帆高ちゃんだね~、そうやって希美ちゃんやみぞれちゃん、そして香織達を口説いたわけだ?」

 

「口説いたって」

 

「あっはっは~。まあ、可愛い後輩の質問とあらば答えてしんぜよう。ずばり、私がこのユーフォニアムさんを吹く理由は只の一つッ!」

 

「……」

 

・・・・・。

 

「――なんなんだろうね?」

 

「えぇ……」

 

私は思いっきりずっこけた。

 

「そう言う帆高ちゃんは?何の為に吹いてるの?」

 

「証明する為です」

 

「ほほー、自分をって所かな?」

 

「はい」

 

「それだけ?」

 

「…はい?」

 

「だってそれ、別にクラじゃなくてもいいじゃん?」

 

無機物じみた鉄のような瞳が、私を覗いた。

 

「―――え」

 

「好きだから。ならまだ分かる。 上手くなりたいから。ならまだ共感する。 意地だから。ならまだ納得できる。

でも帆高ちゃん、自分を証明する為の道具が楽器である必要があるのかな?」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「この合宿で何かを見つけられれば、きっと、君の力になると思うよ? 帆高ちゃんはまだピチピチの1年生!先はまだまだ長いんだから~」

 

 今日も練習頑張ろうね~。そう言って先輩はゆうゆうと歩き去っていく。でも私は一歩も歩けない。分厚い壁が四方から迫り来るように、私はただ怖かった。

 

――分からない。今は、それが頭の中の全てを支配していた。

 

 

 

 

 

 

 



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第十二回

 

 

 

そこにあるもの全部奇跡かもしれないRTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 あ、そうだ(唐突)このゲームを走る上で主人公をホモくん♂にしなかった理由!

それはこんな一癖も二癖もあるけど最高の吹部部員達と一つ屋根の下なんて奇跡走者が許さねえからです。

 

代われよ(真顔)

 

 君はほんとうに悪い子だ。走者(のコンディション)に逆らってばかりいる。ゲームになりませんねえ。

 さてそんな愛すべき猿軍団のみなさん!の中の中にいるポニテが勇気凛々直球勝負なホモちゃんの演奏レベルは着実に高まっています。他の部員のレベルも中々でこのまま渇望の玉座、求めるんでしたよね?(原罪の探究者並感)

 

いや無理っす。

 

 足りん足りん足りん足りん足りん足りんタンバリン。タンバリン!(何度見ても笑う激ウマギャグ)

関西を勝ち抜く為にはまだ足りません。こんなんじゃ三校に勝てないよ~。まあこれなら何とか関西は勝てるんちゃう?って感じじゃ駄目駄目。

 

 例えるならテストで赤点(59点以下)回避したいので60点取る勉強するのと同じです。現実が見えてません。

 もっと上を目指す必要があります。それだけ関西吹奏楽コンクール最高戦力の三校・大阪東照と明静工科と秀大附属は凄まじいポテンシャルを持っているのです。負ければ終わりです。

 

 このゲームでは脳筋よろしくプレイヤーの演奏レベルだけガン上げしていると、大会で勝つには運に頼らざるをえなくなります。仮に3年の先輩方のルートを征く場合関西で負けるとバッドエンド確定です。勿論このルートでも。

 

 このゲームでのバッドエンドはきつめなのが多いです。中にはバッドの方が良いっていう(メロンパン)兄貴たちもいますが、走者は無理です。とくに全国で負けると・・・・やっぱつれぇわ。

 

 なのでちょっと国盗り戦のトロンボーン衆、もとい塚本秀一兄貴に話しかけて彼のレベルを上げ上げします。

 ちなみにこの兄貴、走者一押しキャラの一人です。黄前ちゃんの成長を妨げるような愛し方はしない男なので。

 

 黄前ちゃん一筋な彼のルートは全部お友達ルートしかありません。徹底しすぎぃ! つまり裏を返せばホモちゃんにとってはプラスにしかならないという事。後の北宇治幹部はやっぱ違いますねえ!

 

ほらあ、言ってる傍から兄貴とホモちゃんの演奏レベルが大アップ!兄貴・・・彼女と幸せに。そして最終楽章で男、見せてください。

 

―――ん?

 

『出ていく』

 

『こっそり覗く』

 

お?木管仲間の傘木さんと調ちゃんがお話してる?

 

 あっ良い。良いですよこれ。下を選択。

これはフルートパートの井上調ちゃんにバフが掛かるイベントです。い~い子だね君らほんとに楽しそうだね~~!おいホモちゃんも混ぜてくれや!!

 

 あとはパパパ~っと練習&ウドのコーヒー飲んで苦くてむせてと。ちなみにこのコーヒー飲むと運が上がります。これでお排泄物じゃないイベがもっと来る可能性が微レ存。

 ホモちゃんの身体に染付いたカフェインの匂いに惹かれて、危険なヤツらが集まってくるってわけです。

 

さてそんなこんなで合宿二日目の夜を迎えた所で今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、さ。助けてほしいんだけど」

 

「珍しいね、琴子が真面目な話だなんて。どうしたの?」

 

綺麗な瞳を細めて、彼女は笑みを浮かべてそう言った。

 

「うちの調がさ、ちょっとまずい」

 

「え?そうなんだ?」

 

・・・・・。

 

「傘木に対してあんなコンプレックスを持ってるとは思わなかった。これは素直に私の読み間違い。…正直、」

 

「手に負えない?」

 

「……、くやしいけど」

 

 私は頭を下げる。それを見る彼女の表情は、変化も卑下も無い。そうだろうと確信できる位には、私とこの子の付き合いは浅くも短くもなかった。

 

「ん~、分かった。今日それとなく話してみるよ」

 

「…一人で?」

 

「友恵ちゃんも誘ってみようかな。同年代がいると、気も休まるだろうし」

 

「ありがと。沙菜っち」

 

「そのあだ名はやめて?」

 

親友の笑顔が、苦笑いに変わった。

 

 

 

 

 

 

「おはよう久美子。ちょっといい?」

 

「おはよー。朝早くにどしたの?桃」

 

 もうすぐ朝食だという頃。すっかり得意になった朝の雰囲気を身につけて、幼馴染は難しげな表情で現れた。今日も小綺麗なポニーテールが決まっている。横顔を見ると、最近吹部に復帰した傘木先輩にどこか似ていた。

 

「久美子はさ。――前に上手くなりたいから、ユーフォ吹いてるって言ってたよね?」

 

「うん」

 

「何で?」

 

「? 何で?」

 

するりと出そうになる答えを抑えて。私は桃の瞳を覗きこみながら尋ね返した。

 

「あ、えっと、さ。上手くなりたいと思ったのは何で?って話」

 

贅沢な悩みだなと感じながら。

 

「悔しかったからだよ。当たり前じゃん」

 

「……悔しい」

 

「だって私、ユーフォ好きだもん」

 

「………」

 

 どうやったら上手くなれるかな?でもなく。そっちはどんな練習してるの?でもない。

 理由の根幹。他人が演奏する目的を知りたいのだろう。こういう子はたまに居る。思考と実践がずれている奴が。でもそれが桃だとは思わなかった。

 

「桃は違うの?」

 

「え?何が」

 

「好きでしょ?クラ」

 

「………」

 

だって自分のクラリネットを証明する為に。貴女は今日も頑張って吹くんでしょう?

 

「―――うん。勿論」

 

やっぱり。

 

昔から嘘が下手だなと、私は思った。

 

 

 

 

 

 

「よっす。どうしたよ?暗い顔して」

 

「え?そう見える?」

 

「もしかして隠してるつもりだったのか? そりゃ無理があるだろ」

 

「ついさっき久美子にも変な顔で見られたし、……そんなに?」

 

「そんなに」

 

 朝ごはんを食べ、もうじき全体ミーティングをして練習だという頃に。高校生になって爽やかさが2割増しになった幼馴染が手を挙げながら声をかけてくる。

 相手を柔らかく包み込むように。こういう所に久美子はやられたんだろうなと周囲を警戒しながら、私は天を仰いだ。   

 

「なんだか昔のお前に少し戻ってきたな。悩み事か?」

 

「悩みってほどじゃないんだけどさ。………ねえ、シュウイっちゃんは確か中学の頃はホルン吹いてたよね?」

 

「ああ」

 

「今はトロンボーンなのは何で? ホルン、別に好きじゃなかったの?」

 

「好きか嫌いか、そのどちらかじゃないといけないのか?楽器って」

 

「いや……どうだろ?」

 

「大事なのはどう想ってるかじゃないか? ホルンはジャンケンで負けたからしかたなくだったけど、今は気に入ってるよ。トロンボーンは昔から憧れてたしな」

 

「……。どう、想ってるか…?」

 

「そりゃ嫌いでも吹かなきゃいけなくなった奴位いるだろうさ。希望の楽器に割り当てられなかったーとか、本当はこれをやってみたかったのにー、とか色々。でもま、吹いてるうちに自分なりの想いとか色々篭ってくるモンじゃないか?一応吹部だし」

 

「なにそれ。シュウイっちゃんのくせに。 久美子にもそれくらい熱く語りかけてみれば?」

 

「・・・言うんじゃなかった。余計なお世話だこんちくしょう」

 

「でもありがと。ちょっと元気でた」

 

「おう」

 

 やはりグダグダ考えるのは性に合わない。

迷えば敗れる。倒れるとしても前のめり。シュウイっちゃんと話してるとそのように感じられる。思い出させてくれる。

 

やはり幼馴染は良いものだ。

 

「――何してるの?二人」

 

でも訂正。この子の前ではUターン。

 

「吹奏楽について相談に乗ってもらってたんだー幼馴染の意見は貴重だよねやっぱりだから大丈夫大丈夫大丈夫だよおっこ」

 

「そうなんだあ。ていうか何、その早口。あとあだ名」

 

「ごめん、じゃそういうことで。アディオース」

 

たとえ幼馴染でも、私は馬に蹴られて死にたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

「あーびっくりした。あの様子じゃ二人がくっ付くのも時間の問題かなあ。いやー、ほんと嬉しい。喧嘩しあってた小学校の頃が懐かしいよ。だから帆高桃はクールに去って、」

 

「―――ねえ傘木。一体どのツラ下げて戻ってきたの?」

 

「え?こんなツラ?」

 

「一度訊いてみたかったんだけどさあ。その皮の厚さ何センチ?」

 

「3.03030303センチ」

 

「一寸法師かあ…。面白くないね?」

 

「面白いこと言ってないからね」

 

「言えてるー」

 

「………」

 

 曲がり角の前で私は頭を抱えた。

やっべえ所までクールに去って来ちゃった。修羅場とかそんな次元じゃないマカハドマを前にうずくまる。えー…? あれは傘木先輩と調べる方の井上先輩。たしか昨日は普通に接してた筈なのに何故。

 

「やっぱり許してくれないの?調」

 

「当たり前でしょ。アンタは去年逃げて、私は逃げなかった。この一年、今までお互い頑張ってきたけど私はここで。それが去年はごめーんまたここに参加しまーす? 同情はできるけど共感はできないよ」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「…ずっとさ。アンタのフルートに憧れてた」

 

「!」

 

「私と同い年で、こんなにも凄い演奏が出来る傘木を尊敬してた。アンタを追いかけて、いつか追いこして、その先の景色を一緒に見てやるって思ってた。あの吹部の空気の中でも」

 

「……調」

 

「あの日。アンタが辞めた日に、私も部を辞めようと思った。でも出来なかった。根性じゃなく、勇気が無かったから。…惰性で続けてきたのかもしれない、でもいつか自分に後輩が出来たら。その後輩達には私みたくなってほしくないなって思いながら、フルートを吹いてきた。去年を遠い綺麗な思い出にしたかった。――でも気付いたら、アンタはここに戻ってきた」

 

・・・・・。

 

「部活なんて皆自分勝手にやる物。他人は他人で、自分は自分。 琴子先輩からはそう言われた。だから私は自分勝手にこう思う。―――ねえ、何で今戻ってきたの?私の思い出」

 

 …調先輩は怒るとも哀しむとも違う表情で傘木先輩を見つめた。嬉しいとも、待望とも異なるそれは例えるなら憎悪に近かった。

 

 底知れない何か。白か黒かでは推し量れない何かがあの人の心にはあって、言葉にする事でどうにか形を成している。自分に言い聞かせているのだろう。ずっと心の中で、燻っていた何かを。

 

「傍で見てみたかったんだよ。北宇治の音楽を」

 

「――あ?」

 

「北宇治高校吹奏楽部の音を、あの子の音楽を。傍で聴いてみたかった。だから戻ってきた」

 

「………他には、何も?」

 

「無いよ」

 

 誰がどう見ても限界だった。調先輩の綺麗すぎる表情に亀裂が入り、静かだったその内側が表面上という薄氷を粉々に砕いて露わになる。眉間に集まり続けるしわがその証拠。

 

喧嘩になる。 だから私は足を踏み出して―――、

 

「ストップ。こら、喧嘩はお外でやるものでしょ?」

 

「――え?」

 

「か、笠野先輩?」

 

「私もいるよー?」

 

「! 友恵も」

 

「後輩の帆高ちゃんがこんな顔面蒼白になるほどだよ?今は落ち着いた方がいいんじゃないかな?」

 

 私の後ろから不意に現れる3年の笠野先輩と2年の加部先輩。二人とも柔らかい笑顔だけど加部先輩は少し固い。何だか年季のようなものが感じられて、私は笠野先輩の方に顔を向けた。

 

「……すみません、先輩」

 

「すみません」

 

「まあ格好よく出てきたはいいけど、3年の私から言えることは一つだけだよ、二人とも。――何かが誰かが納得できないなら聞かせてほしいな。少しは先輩を頼ってほしいんだけど?」

 

「……こいつが許せません」

 

「……こいつに許してほしい。です」

 

「なら答えは一つだね」

 

「え?」

 

 素っ頓狂な音程の声が私の喉から出る。

笠野先輩は、1×1=1でしょ?と言わんばかりの明朗明快な声を出していた。

 

「演奏しよっか二人とも。音には深さが出るってね。その人だけが持ってる特別が。それを聴けば納得できるんじゃないかな?お互いに」

 

だってもう二人は奏者でしょ? 笠野先輩は続けた。

 

「………」

 

「………」

 

 調先輩は一度眼を瞑ったと思うと、ゆっくり目蓋を開けて傘木先輩を見た。そのまま数秒が経って、北宇治高校吹奏楽部・Aメンバー、フルートパート唯一の2年生は無言で廊下を歩き出す。

 

 言葉では完全に形にしきれない何か。それは音でなら、演奏ならば表現できる筈。表せる筈。

 傘木先輩も同じく歩き出す。鎧塚先輩と奏で合ったあの時のように、奏者の瞳で。それしか知らないという風に。

 

「いやー、格好いいですねぇ。フルートの子達」

 

 そんな二人を見送る先輩達は笑みを浮かべている。

……真似出来ない。だから素直に凄いと思って、私は眼を伏せた。

 

「今日の練習が楽しみだね。帆高ちゃん?」

 

柔らかく笑みを浮かべるその人が、私にはとても大きく見えた。

 

 

 

 

 

 



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第十三回

 

 

 

飢えたる者は常に問い、答えの中にはいつも罠RTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 うーん、この楽しい合宿もいよいよ終了といった感じですね。現在は二日目の夜!先生方主催の花火大会に参加して部員の信頼値を少しでも稼いでおきたい所。みぞれちゃんとの信頼値も欲を言えばもう少し高めておきたいですねー。その為の(ウド)コーヒー。  

 

『音楽を…、楽しむ?』       

 

『先生は何故』

 

 おっと? きたきたきた大当たりぃぃ!!珍しいイベです。

これは私服が麗しい吹部副顧問の松本美知恵先生関連のやつで、下を選ぶと先生ルートに入るので上を選択します。

 

 先生のイベは部員全体の信頼値が上がる物が多いです。信頼値が上がってくるくるくるくる!先生は本当に我々走者にとっての月光ですね。My guidingムーンライト。

 

 よし、ここで一度ステを確認!ホモちゃんと北宇治全体の演奏レベル、そして信頼値をダブルチェックです。・・・・。

 

 よし勝ちました。

走者が大きなミスでもしない限り関西大会で負けはありません。計算通りですよ。あとは大した選択肢も無い筈なので、どれ、スキップがてらここでちょっと冷やしてたデューのマウンテンでも飲んでと。ヴぁ~~これカフェインすんごく効いてて弱炭酸ホント最強それでいて、

 

『参加します』

 

『参加しません』

 

・・・・・。

 

・・・・えぇ・・・(困惑)

 

 マジこれぇー、ホントにやんの?もうちょっと空気読んでくれればいいのに。もう合宿終わり閉廷の流れ来てたでしょ。

 

 これはお排泄物系ランイベ、みんなで肝試し!です。

参加した部員全員の信頼値が結構上がるので良イベと思いきや、参加者自体が超少ないので特に(やる意味)ないです。旨味も皆無なんだよなぁ・・・。

 

 まあでも? 個々人の信頼値は大会で演奏レベルにプラス変換されるので一応参加しときましょう。スキップすれば時間的にも問題ありませんよ(震え声)

 

 はい、そんなこんなで一つ屋根の下での合宿が終わりましたね。

こ↑こ↓で重要なのが体力回復コマンドです。このゲームでは何故か合宿が終わるとケガ率が上がっており、休まずいつも通り練習すると最悪大ケガして本番舞台袖から仲間たちの演奏を聴く事になります。この辺は立華編のチャート知ってると骨身に沁みますね。未来先輩、見ててくれよ!

 いかにサボるかっちゅうのも部活の・・・内や(ほんとぉ?)

 

『お邪魔します…』

 

『走って帰ります』

 

 (流れがホモちゃんに)来てますねぇ!! 

極低確率ランダムイベント、おいでよ鎧塚さん家です。ケンジャキ梨々花ちゃん、一年早く君の代わりに行っておいてあげるよ(ゲス顔)

 ちなみにだけどケンジャキ後輩?もしかしなくても君のお父さんって運命に勝ってみせたKMNライダーだよね?みぞ先輩と一緒に頑張ってコンクールに出る君のルートは運命と闘ってる感じだったよ?切り札は君の中。勇気にしてけぇ~?

 

 さ、たわ言も終わっていよいよ次回は関西大会!といった所で今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴぁ~~~…」

 

 楽しい合宿もついに二日目終盤。

合奏が終わり、ついに日課となってしまった自販機の前での溜め息が、声と一緒に渇いた喉から出る。

 ―――音楽以外考えるな。そう心に決めた縛りのような何かが、カラカラに私の喉を渇かせていた。

 

「………疲れた……」

 

 自分だけの反省会。ほうじ茶片手に冷たい壁へと背を任せ、先を征く人達の事を思う。先輩は皆凄い人達で大きく見え、先生達だって見識や懐の深さが段違いだ。

 楽器を吹いて吹いて吹きまくり、音楽と一緒に生きてきた年月がそうさせるんだろうか。私もそれに倣えばその領域へと、きっと届くのか。………でも、

 

「正直苦しい。先は見えてる筈なのに、何処をどう歩けばそこに辿り着けるのかが全然分からないよ…」

 

 悩むのは性に合わない。そう分かってるのに、まるで煮えたお鍋の中身のようにグツグツ沸々疑問が現れる。こんなんでこの先、私は石ころじゃなくなれるのだろうか。

 

 …本当にこのままでいいのか? 

実は見えてる先って奴はどん詰まりで、今からでも選べる道が有るのでは? 石ころじゃない事の証明は、別に楽器に限定する必要なんて無いのでは?

 

「………」

 

 吹奏楽に携わる事となった私の始まり。

それは胸を砕くような玄色と墨色の、クラリネットの音色だった。それだけは今も唯一憶えている。憧れている。

 …もしや私はあれを自分の手で再現したいのか? あれをもう一度聴ける事が出来たなら、全部満足なのか?それが私の音楽なのか? 

 

 ならもういいじゃないかそれで。

今日の朝を思い出せ。幼馴染との会話を思い出せ。迷うな。迷うな。

 

―――だって全部が全部、音楽の邪魔だろうに。

 

「ん? 帆高か?」

 

「…、え?」

 

 どれくらい時間が経っていたのか。目線を上げると、そこには副顧問の松本美知恵先生がいた。少しの白髪とシワのある顔立ちが特徴だけど、まだ40代くらいじゃないかなあと私は見ている。

 

 老け顔なのは、歩んできた年月が嫌でもそうさせたのか。ともすれば遺伝か。

でもそれでいてどこかチャーミングな先生は、自販機の口から私と同じほうじ茶を手に取っていた。

 

「休憩中にすまないな。私も一息だ」

 

「あ、どうも。松本先生」

 

「どうだ。部活は」

 

「ぼちぼちです」

 

「そうか。何か悩み事は無いか?」

 

「ぼちぼちです」

 

「そうか」

 

 目線を合わせずにそう言うと、対して先生はするりとほうじ茶のキャップを開け中身を一口含んで、静かにこちらを見つめ続けながらゆっくりとキャップを閉めた。

 

「思っていたのとは違うか。吹奏楽は」

 

「はい、想像以上でした」

 

「何かと想像の上をいくのが物事だが、問題はそれが時に斜めであったりする事だな。真っ直ぐは難しい」

 

「先生でもそう思うんですか?難しいって」

 

「当たり前だ」

 

・・・・・。

 

「……あの、先生は」

 

「ん?」

 

「先生が学生の時、は。…音楽や楽器に対してどう思っていましたか?」

 

「どうとも思っていなかったな」

 

目と目が合い、先生は少しも笑わずにそう言った。

 

「幻滅するか?」

 

「…。い、いえ」

 

「楽器を吹くという事が、一体この先何の為になるのだろう?何故こいつは、そして私はここに居るのだろう?面倒なだけなのに。そんな事ばかり考えていた」

 

「そうなんですか?」

 

信じられない。私はそう思った。

 

「誰にだって最初は有る。大切な事の一つは、それを忘れない事だと私は思う。それすらいつか忘れていくのだとしても、弱さを経ていない強さはない。そう思っている」

 

「………。はい」

 

先生は、そんな私と逆の表情をしていた。

 

「昔、ちょうど今の帆高のような生徒がいた。音楽に対して考え、悩み、いつか答えを得てやろうと息巻いて、クラリネットを吹いていた女生徒が」

 

・・・・・。

 

「誰にじゃなく、自分自身に。私は私を証明するとそいつは言った。この先どんな人生を歩もうとも、この楽器と一緒に特別になると。

 私はそいつが眩しく見えた。お前はとっくに特別だと、言いたかった。そして、もっと音楽を楽しめと言ってやりたかった」

 

「…言えなかったん、ですか?」

 

「まあな」

 

 眼の前にいる大人は静かに淡々と言って聞かせるように、けれど力を込めながら言葉を口にしていた。…まるで川の流れのよう。耐えて、こなして、抱えて、今の今までを生きてきた先生の瞳と言葉が、私の胸の奥をざわつかせる。

 

「音楽を…、楽しむ?」

 

「音楽とは生物だ。楽しめば楽しむだけ、楽しんだ者を活かしてくれる。今の私はそう思っているし、信じてもいる」

 

「先生自身も活かしてくれる、ですか?」

 

「当たり前だ。私は音楽教師だぞ?」

 

琥珀色のほうじ茶が、やんわりとボトルの中で弧を描いた。

 

「悩むのも良いが、今は眼の前の音楽を楽しめ。それがある日、帆高の力と財産になる」

 

初めて見る先生の笑顔は綺麗で、とても眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 二泊三日の合宿が無事終わった。

思い出深い肝試しをはじめ、何かを掴めた感はあるけどそれが演奏にどう繋がるかは、まだまだ分からない。

 

 でも関西大会は目と鼻の先へと近づいてきている。

北宇治全体の音は合宿前と明らかに変わって、その色は深みのあるものへと進化したように思えた。少なくとも私には。

 

「う~ん…。なんかちょっと息苦しい」

 

「………」

 

 合宿所という慣れない場所にいたせいか、もしくは環境に身体がついに付いてこれなくなったのか。…少々疲れがたまってきている。大会までもう日がないけど、今日は自主練をせずに帰るとしよう。

 

「上手い。流石の音色だねー、高坂ちゃん」

 

「傘木先輩。私のトランペットってどう聴こえますか」

 

「音色だけなら全国クラスだと思うよ?グッジョーブ!」

 

「だけなら……とは。そこ止まりってことですか?」

 

「それじゃ不満?」

 

「はい」

 

「流石だねー。 高坂ちゃんって、音楽の演奏に大事なのは技術だって思うタイプ?」

 

「いいえ。ただ上手さという点でいうなら、技術が一番分かりやすいとは思います」

 

「確かにね。でも私はそれだけじゃあ無いと思うな。もっともっと、音楽の引き出しもその中身も有っていいんじゃない?」

 

「お先しまーす」

 

「お疲れー」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「…お疲れさま」

 

「? あ、お疲れさまです鎧塚先輩。先輩も今日は上がりですか?」

 

「うん」

 

「…あれ?先輩のお家って遠いんです?」

 

「ううん。学校の近く」

 

「あ、だからいつも朝誰よりも早く学校に来れるわけですね?」

 

「そう」

 

「早さの秘密はそれですね~?鎧塚先輩」

 

 この先輩の演奏は、合宿前と後で特に大きく違っていた。

傘木先輩が戻ってきたこともあってか新山先生の指導のお陰か。ずっと黒色だった音は多くの色が混ざるようになっている。

 

 傘木先輩の飛行機雲のような白色と一緒の、綺麗で映える音色。私はあの日から、密かに二人の演奏のファンになっていた。

 

「帆高さん…は」

 

「? はい」

 

「合宿。どうだった?」

 

「良かったですねー。私、こういった部活とか合宿って高校生になってからが初めてなので、新鮮でしたし色んな人と話せたしで、また皆と行きたいくらいです」

 

「…それは、よかったね。…肝試しはどうだった?」

 

「楽しかったですけど怖かったですーー!!」

 

 そういえば。ふと思う。

部活の場以外で鎧塚先輩と話した事はなかった。どの辺りに住んでるんです?とか、音楽以外の話をした事も。……というより、私、音楽以外の話を吹部の人としたことないんじゃ?

 

うわっ…私のコミュ力低すぎ…?これだから元帰宅部員はなぁ。

 

「って帰宅部をバカにすんじゃねえッ!」

 

「…え?帆高さん?」

 

「あ。すみません、ちょっと自分で自分にツッコミを」

 

「せわしない、ね?」

 

「すみません……」

 

 あははと笑いながら私は何気なく空を見上げる。

今日の天気予報はたしか晴れ時々雨。もしかするとこの時期特有のバケツをひっくり返したような雨が降るでしょう。

 

 それくらいなら傘なんて要らないや。先輩もご同様だろう。空は黒い雲が何処からとも無く当たり一面に広がっていて、案の定一雨来そうかもなあと私は思った。

 

瞬間。

 

「あ」

 

「あ」

 

 バケツをひっくり返したような雨? いやどう見ても風呂桶をひっくり返したような大雨が私と先輩の頭からつま先までをザッパと覆った。

 

「ぅんにゃああぁああ!!! 先輩やばいですっ、どどどどうしましょう!!?」

 

「……っ」

 

 近くに雨宿りできそうな場所は無い。傘も合羽も無い。皆無。強、速、雨足…! 走………無理!!

 外れる天気予報を行った奴が罪にならない世界を切に願う。でなければこの世は東西南北罪人しかいなくなって晒し首がそこかしこな世紀末。

 

え?詰み?これ詰み?

 

「お、お終い?」

 

「帆高さん、こっちっ」

 

「へぇぁあ!??!」

 

「私の家まですぐそこだから、寄っていって…!」

 

「そんなご厄介になるわけには…ッ」

 

「いいから!」

 

 流石は先輩。

いざという時は意外とアグレッシブなのだなあと頭の片隅で思っていると、手を引かれながら私はざんぶらぶんと足音を立てながら鎧塚家へとビッシャビシャの状態で招かれたのだった。

 

 

 

 

「お邪魔します…」

 

「…いらっしゃい。脱衣所、あっちだから」

 

「は、はい?」

 

「お風呂。沸いてるから入って。風邪引いちゃう」

 

「沸いてるんですか」

 

「お母さんが、いつも予約してくれてるから。 どうぞ」

 

 流石に遠慮しますと言葉を出そうとしたゼロ地点、つまりは先を獲られた私は有無も言えず流されるように案内され、ホカホカと湯気が出ている湯船に浸かる羽目となった。

 

…溜め息が冷えと疲れを気化してくれる。温かい事は、何よりも良かった。

 

「鎧塚先輩。お風呂ありがとうございました」

 

「気にしないで。これ、代わりの服」

 

「何から何までありがとうございます…っ」

 

「家のお母さん。もうすぐ仕事から帰ってくると思うけど、気にしないで」

 

「――え。あの、はい?」

 

先輩の言葉はもう少しこう、何というか手心が必要だと思わなくもない。初めて会った時から。

 

「メールしたから大丈夫。私もお風呂入ってくるから」

 

「………」

 

 この人やっぱり生まれついての凄い人だ。なんて押し。一に押し二に押し三に押し、押しの一点張りだよ。久美子になら出来るかもだけど私にはとても出来ない。

 

 …止みそうにない雨の音と、シャワーの音が壁越しに弱々しく聞こえてくる。高い天井。他人の家にお呼ばれだなんて小学校以来だ。中学の頃は何故か、誰かの家に行きたいとすら思わなかった。

 しかしこれで頭が上がらない人が増えてしまった。これはもう楽器を吹いて恩を返すしかないかもしれない。

 

温かいお湯に浸かれたお陰で、私は体調が良くなった感じがした。

 

「ただいまー。 ひどい雨ねぇこれ~~…っと?」

 

「お、お邪魔しています…」

 

 正座をして、言う。見つめるその人は鎧塚先輩そっくりな顔立ちだった。でも先輩より背が高くて、先輩以上に頼もしさという色が声から滲み出ている。

 

「あ、ぁあ~~! みぞれから連絡のあった後輩ちゃんね?ずぶ濡れで寒かったでしょ~?この時期の夕立は酷いヒドイ。あ!私、みぞれの母です~」

 

「後輩の帆高桃といいます。お風呂を先輩より先に頂きまして、本当にありがとうございました」

 

「吹部の子達ってやっぱり礼儀正しいわね~。気にしないでいいのよ? ところで紅茶は好きな方?嫌いな方?」

 

「好きな方、です」

 

「淹れるから少し待っててね~」

 

「…お母さん、おかえりなさい」

 

「ただいま~。ちゃんと温まった?」

 

「うん」

 

「いつもの?」

 

「…うん。自分でやる」

 

 そう言うと、首に巻いたバスタオルを片付けた先輩はコップに少量のココアパウダーと水を入れ、スプーンでクルクルと回し始めた。

 純(ピュア)ココアだ。有るとは聞いていたけど、飲む人初めて見た。牛乳を入れて……レンジ?おいしいのかな?

 

「…制服、今、乾かしてるから。少し待ってて」

 

「ありがとうございます」

 

「ね、ね、帆高さん。吹奏楽ってどう?楽しい?」

 

「え? えっと、まあまあです」

 

「みぞれと同じ事言ぅ~。今時の子達は賢いわあ~」

 

「…ごめんね。家のお母さん、ちょっと面白いから」

 

「高校生にもなると貴女でもジョークが言えるようになるのね~~」

 

お父さんには言わないであげてね? 割とマジなトーンで、先輩のお母さんは言った。

 

「でもみぞれがちゃあんと先輩しているみたいで嬉しいわ。どうでもいいと思っていたのなら、自分の家に招待するなんてしないもの」

 

「………。帆高さん、は」

 

「?」

 

「私に、本気の言葉を言ってくれた。から」

 

「へぇ~」

 

「…応援してる。頑張って」

 

 ―――追いつきたい人がいるんです。

今年の春に言った言葉。私と鎧塚先輩に接点が生まれた時。この人は今も憶えているんだ。私は、それありきでいつも楽器を吹いてきたけどこの人はそのことを今も。

 

「怖くは…ないんですか?」

 

―――他人は怖い。だって何を考えてるのか分からない。

 

「言葉と、好きな楽器は信じてみようって、今は思えるから」

 

「………」

 

「マイドウター。貴女に、オーボエを買ってあげて良かったわ」

 

「…?お母さん?」

 

あ。 そうか、そうだった。

 

「だって、こんなにも輝いてるもの」

 

 私の瞳の奥に浮かんだのは、いつもいつも毎日毎日そして高校生の今も頑張って楽器と向き合っている幼馴染のあの子。

 

 どうして頑張っているのだろう?私も楽器を吹けば、同じように頑張れるのだろう? あの黄前久美子のように。

 

 ―――音と形がいいよね~…、良い。

 ―――追いつきたい人がいるんです。

 

そうだった。憧れだけじゃなくてこれもきっと。ずっと私の始まりだったのだ。

 

「みぞれ先輩。 私、頑張ります」

 

「……うん」

 

「先輩も私も石ころじゃないって、必ず証明してみせます。私のクラリネットで」

 

「…? そう…」

 

「頑張ってね帆高さん。みぞれと同じくらい、貴女のこれからを応援するわ」

 

「雨も上がりましたし、そろそろお暇します。先輩のお母さん、紅茶ご馳走様でした。本当に今日はありがとうございました」

 

「…気を付けて」

 

「またいらっしゃいね~~」

 

 始まったのなら進む。楽器である必要性とかこれでいいのかとか、これからもあれこれ考える事もあるけれど。

 

「綺麗な虹」

 

今は空を見上げ、自分の言葉を信じてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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番外編 暗い魂の肝試し

※注意 この番外編はホモちゃん達が夏合宿中に体験した肝試し(笑)回です。
例によって作者の趣味全開で本筋と関係無い話なので、ダメな方は第十四回へ。









 

 

 

 

 陽が暮れた山間は静かで、外で何か催し物をやるには今が絶好。

この瞬間を待っていたかのように、コーチの橋本先生は花火セットを手に持って、合宿所の外に集まった私達部員に向けて口を開いた。

 

「みんな~!!これからちょっとした余興をしたいと思いまーす!」

 

「橋本先生ー、予定表にも書いてありましたけどこれから何をするんです?」

 

「え?花火持ってるから花火っしょ?」

 

「大正解! けど、まだ半分だね~」

 

 私とあまり接点のない橋本先生は、かつて滝先生と同じ大学の同期で現在はプロのパーカッション奏者らしい。気さくで人懐っこい笑顔が特徴なムードメーカーで、そして何より目端が利いて視野も広い。 滝先生とはまた違ったタイプの大人だ。

 

「何やるんだろうね?久美子」

 

「さあ?」

 

「というと………、まだ何かあるって事ですか?」

 

「その通り!小笠原さん!」

 

「何が始まるんです?」

 

「肝試しだよ~?」

 

「ぇえええええええ!!??」

 

私を含め部員の9割が否定的な声を上げた。……怖いのは苦手だ。

 

「大丈夫!!ルートは一本道!!あの林の中を歩いて突き当たった所でUターンして、ここに戻ってくる。それだけです!」

 

「今どき肝試しって……」

 

「ないよね」

 

「無理っす」

 

「いや無理か分かんないだろ」

 

「勿論参加義務はありません。基本的にはこの用意した花火があるので、どうぞ各自自由に気分転換して下さい」

 

滝先生が苦笑いを浮かべながら、私達に言う。滝先生も怖いのが苦手なのかな?

 

「それにです先生。夜の肝試しって危険なんじゃ…?」

 

「それについては問題ありません。地元の自警団の方々が全面的に協力を申し出てくれました。今も林の中に待機してくれています。誰かがルートを外れたり、アクシデントが発生したらすぐさま駆けつけてくれるそうです」

 

「へ~、自警団ですか」

 

「自警団の方、お願いします」

 

 黒いサングラスを掛けた、え?堅気の方ですか?如何にもな人が音も無くお辞儀をして、私達にA4サイズの紙を手渡した。

 

「皆さん初めまして。炉洲理玖自警団・隊長の灰原です。我々は特殊な訓練を日々受けております。今夜、皆さんには最高の安全とスリルを約束しましょう。詳しくはこのペーパーをご覧下さい」

 

「なんだか文化祭の催し物みたいだね」

 

「今年の文化祭何しよっかなあ…」

 

「まだ夏だよ~?」

 

「ええと? ……ここは妖王の庭。悲鳴とも絶叫ともとれるナニカの声が木霊する森。その奥には特別な火が灯っている。それを見つけ、君は生きて帰って来ることが出来るか。へ~雰囲気はそれなりにありますね~」

 

「! 参加します」

 

「……私も参加しま~す」

 

「私らはパス」

 

「俺らもパス」

 

「あたしらもパスでーす」

 

「参加します」

 

 ホルン隊の二人が手を挙げたのを見て、今夜は何だか面白いことが起きそうなワクワク感が突如私の全身を震わせる。瞬時に手を挙げると、タイミングばっちり一人の先輩と声が被った。

 

「あ、桃ちゃんも?私と一緒だ」

 

「葵さんと一緒で嬉しいです~!何だか面白そうですよねっ」

 

「先生、私も参加します…」

 

「では参加者は森本さんと岸部さん、斎藤さんと帆高さんと小笠原さんの以上五名でよろしいですか?」

 

「異議なしでーす」

 

「晴香、あとで感想聞かせてね?」

 

北宇治吹部の部長は震えながら手を挙げ続けていた。

 

「………♪」

 

「………」

 

 対して、我が部が誇るホルン隊。その岸部先輩と美千代ちゃんが真逆な雰囲気を纏わせて足を動かしていた。私は夏の夜という雰囲気に酔ってしまわないように、お腹に力を込める。

 

「あの、お二人さん? 何なんですこの空気?」

 

「どうしたの?二人とも。えらく対照的だけど」

 

「妖王の庭ですよ?興奮しない方が無理ですよお~!」

 

美千代ちゃんは眼をランランと輝かせながら言った。

 

「すいません自警団さん、凍傷武器か雷武器は」

 

「ありません」

 

「援軍は?」

 

「? 貴女達ですよ?」

 

「雰囲気作りばっちりだね…。もう始まってるってわけなんだ…」

 

「レッツゴー!!」

 

 やんわりと笑みを浮かべる葵さんと、嬉々とした美千代ちゃん。クールな岸部先輩と怯え気味な部長。そして私。誰がどう見たって最強のチームだ。 

 

まるで違う世界に向かうように、私たちは歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 ……林の中は夏の夜にしてはひどく涼しく、そして淋しげ。 無風なことが功を奏しているのか葉っぱの掠れる音一つせず、生き物がいるのかも怪しい雰囲気がそこら中に蔓延っている。ように見える。

 

 

 ―――ああ、愛しいオセロット

 

 ―――どこだい?どこにいったんだい?

 

 ―――出ておいで?何も怖いことはないんだよ?

 

 

こんな不気味な声が、木霊していなければ。

 

「け、結構雰囲気やばい……ですね?」

 

「そう?」

 

「もうダメ…もうダメ…」

 

「晴香先輩しっかりー」

 

「等身大で楽しめるだなんて素敵ですぅ~~」

 

「ここだけ世界観間違えすぎじゃない……?っ」

 

 

 ―――私の愛しいオセロット

 

 ―――この子は私のすべてだ

 

 ―――だってお前は竜の御子

 

 ―――そう生まれついたのだから

 

 

「葵先輩、桃ちゃん、部長、聞いて下さい。やはりここは古の王城ロスリック、そのお庭。オスロエスっていう鱗のない竜のなりぞこないが寝床にしてる場所です。クシャクシャにしてやりたい所ですが、今大事なのはカバー命。そんな気持ちで行きましょう」

 

「で、でも装備はこのLED懐中電灯のみ。こ、心許ないよ美千代ちゃん?」

 

「ねえ。この、オセロット?って誰のことなの?」

 

「オスロエスの息子さんのことですね」

 

「探してるみたいだけど何処かにいるの?」

 

「いません」

 

「え?」

 

「ぇえ?」

 

「そんなの、いません」

 

 

 ―――ああ、愚者どもめ

 

 ―――ようやく気付いたのだろう

 

 ―――愛しいオセロット、竜の御子の力に

 

 ―――だが、そうはいかぬ

 

 

「嘘教えないの。色々諸説あるようで、一概には言えません葵先輩」

 

「へぇ~そうなんだ」

 

「な、なんでそんなに詳しいんですか?」

 

「これはとあるゲームの敵キャラクターなんだよ、桃ちゃん。古いゲームだけど未だに根強いファンがいっぱいいるの」

 

「こいつもここの自警団もその拗らせたファンの一人ってわけ」

 

「海松先輩もですよ~?」

 

「私は別に」

 

「………もうダメもうダメだって。もうダメよ絶対来るもんそのオスロエスとかいう変なの…ほら~~っもうやだよもぉぉぉぉお」

 

「あ、あの部長?怖くて駄目なんでしたらギブアップとか…、」

 

「自警団の人曰く近くに居るのでギブアップって叫べば駆け付けてくれるみたいですね」

 

「――ううん。でも頑張る!」

 

「え?」

 

 

 ―――ああ、だから、さあ、オセロット

 

 ―――My dear, little Ocelotte

 

 

「私はこのゲーム、プレイしたことないけど、部員が頑張ってるのに屈するわけにはいかない…! これくらい、耐えなきゃ…!部長だもの!! 私、絶対に負けないよ…!」

 

 そこには一人の、一つの部の長の鑑とも言える3年生がいた。これが部長というものなのか。私は尊敬の眼差しと言葉でもって、せっかくの夜の空気を切り裂いてみた。

 

「え、ちょっ、部長それすごく危ないです。フラグっていうらしいですよ?」

 

「あれが晴香なりの気合の入れ方なの。そっとしておいてあげよ?桃ちゃん」

 

「そ、そうなんですか?」

 

葵さんは困った旧友を見る表情をした。めっちゃ笑ってる。

 

「うんそう。 ところでこのゲームってたしか三部作だよね?私、エス・ロイエスっていう名前は知ってるんだけど、もしかしてオスロエスってその親戚か何かなの?」

 

「エス………ロイエス……?」

 

「え?」

 

ピタリと。岸部先輩の足と瞳がその場で停まった。

 

「―――っ!葵先輩今それ言っちゃダ、」

 

そしてグルリと。こちらを振り返り、

 

「ロイエスの騎士は屈しない!!!!!」

 

 叫んだ。いつもクールに細めてる目蓋をカッと見開きながら、叫んだ。――咆哮。まるで命を懸けて何かに挑むように、岸部先輩は右拳を夜天に掲げた。

 

「この肝試しの夜を古き混沌を食い留め続けた偉大なる白王陛下と我が同胞・ロイエスの騎士達に捧げるッ!白の都エス・ロイエス万歳!!いくぞおおおおおおお!!!!!」

 

 

 ―――オオオオオオセロオオオオオオオオオット!!!!!!

 

 

やばい何かの、スイッチを押してしまった。

 

 

 

 

「ねえ葵……仮にだよ? 仮にそこの林からナニカがそこの林から出てきたとして、………そしたら私達はどうなるの?ぶん殴られちゃう?」

 

「地味じゃない?それ」

 

「地味……」

 

「返り討ちにしてあげますよ。任せて下さい部長」

 

「いや、自警団の人達がいますから。そんな危険有っちゃいけませんから」

 

「ていうか雰囲気変わりすぎじゃないですか?岸部先輩」

 

「エス・ロイエスはそのゲームの二作目に出てくるステージ名なんだけどね、ちょっと演出が格好よくて。海松先輩はそこから抜け出せてないの。ダークソウル大学ドラングレイグ学部ロイエス学科雪原専攻なの」

 

「え?ご病気?」

 

「特に脳がね」

 

「私は何事もやる時はやる。それだけよ。その時その時のベストを尽くすの。そうしていれば浮き上がってこれる。先へ進める。帆高、憶えておいて」

 

「ベスト………」

 

「良いこと言うね、海松ちゃん」

 

「では今は?」

 

「オスロエスを粉微塵にする」

 

「だからいませんって」

 

「大丈夫。何度も潰してるから」

 

「ゲームの話ですよねッ?」

 

「ノーモーションの突進にだけ注意すれば大丈夫」

 

「そうです。だってあいつはミディールじゃないミディールじゃないミディールじゃない」

 

「眼が虚ろ!?!」

 

 同級生の美千代ちゃんが綺麗な夜空に眼を向けて何かぶつぶつ言い始めた。果たして何を見てるんだろう。虚ろにしては愉しそうな顔だけど。

 

「あ、そうか、宇宙は空にある」

 

「晴香、今度そのゲームやってみよっか。何だか楽しそう」

 

「全国で金賞獲ったあとでね…」

 

 さてそんなこんなで木に囲まれた一本道を勇んで突き進む私達。

葉っぱが化け物の手や顔に見えたとしばしば叫ぶ晴香部長に、晴香の声にビックリするよ!と葵さんが発破を掛けながら手を取り合って私達はついに、

 

「見えました!!火!火です先輩!」

 

「…しかし海松先輩。これ一体どんなストーリー設定なんでしょう?オスロエスがいる先は隠し道だけで火なんて無い筈。楽しみですね」

 

「もしや祭祀場?グンダ?」

 

「そんなまさか…」

 

「………ん?」

 

「……ゑ?」

 

 それは大きな器だった。中には猛々しい火があり、でも尽きる事なくずっと燃え盛っている。広場のような場所の中央に置いてあるそれは、安心できる色をしていた。とても暖かい。

 

「うわ!すごい熱い!」

 

「なぁるほど~、最初の火の炉ってわけですか」

 

「古竜のなりぞこないはどこ美千代」

 

「周囲360°オールグリーン。何もありません」

 

「助かったー、……夏と言っても夜の林の中は肌寒かったから」

 

暖かいのは良い事だねと、葵さんは火に手を翳した。

 

「………?」

 

 そしてその後ろ、そこには綺麗な女性が居た。眼を閉じ、座って、火が暖かいからかどうやら眠っているようだ。

 

「凝ってますね~。自警団の人たちの演出」

 

 他の皆にならって私も手を火に翳すと、その女性の長いまつ毛が、目蓋がうっすらと開き始めた。

 

「こんなこともあろうかとエストを持ってきました。コップもあるので皆で飲みましょう~」

 

「エスト? …あ、おいしい。でもこれリンゴジュース?」

 

「はい。津軽のリンゴを使っています」

 

「え?エスト瓶の中身って津軽のリンゴジュースなの?」

 

「また変なホラ話を……」

 

「いいじゃないですか美味しいんですから。 いや~世界の始まりの火ですよ~…、これは王のソウルが得られるかも!」

 

「あっそ。じゃあ今から古竜に戦いを挑んで灰の時代終わらせる?」

 

「もう全部狩ったじゃないですか~。黒も白も闇も石も」

 

「それってそのゲームの話?ちょっと聞かせて?」

 

「それより火を見つけたんだし早く帰ろうよ~…」

 

「………」

 

・・・・・。

 

 こちらを見る。眼と眼が合う。女性が、声を出す。

瞬間、チリンと鈴の音がした。その音色は分け隔てなどない無限の恩恵と憧憬が混ざった卯の花色。何だか太陽みたい。ありがたいなあと思って、私は深く頭を下げた。

 

「いや~良い体験しました!そろそろ帰りましょう!」

 

「美千代のその元気は一体何処から来るわけ?」

 

「海松先輩には言われたくありまっせ~ん!」

 

「うーん…、合宿から帰ったらちょっとプレイしてみようかな」

 

「是非1からやってください~!」

 

「2がおすすめです。最初からワープできるんで」

 

「その時は色々教えてくれると嬉しいな。 あ、そうだ桃ちゃん。急にお辞儀なんてしてどうしたの?」

 

「え?何がです?」

 

葵さんが意味不明な事を言う。あんな綺麗な女性、誰が見たって忘れないだろうに。

 

「だって何も無いのに。その奥はずっと林だよ?」

 

「――え?」

 

 眼を移す。そこには火だけがずっとあった。

他には夜の闇と、木と、暗くて灰色に見える土と岩だけで。人は私達しかいなかった。そこには誰も居なかった。

 

「―――。あの、海松先輩」

 

「ん?なに帆高」

 

「そのゲームって、どんな感じで始まるんです?」

 

「え?興味あり!?桃ちゃん」

 

「少し」

 

「そ? なら、最初だけ教えてあげる」

 

「最高のゲームの一つだよー!」

 

全て、果たして全て火が私に見せた幻だったのか。あの声も。でも、いつか。

 

いつかまた…会えるといいな。

 

 

 

 

 

 

古い時代

世界はまだ分かたれず、霧に覆われ

灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった

 

 

 

 

 

 



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第十四回

 お陰様で何とかここまで辿り着くことが出来ました。ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。
 また申し訳程度の音楽要素を入れてみました。いつも通りよく分からないネタなので気にしないで下さい。









 

 

 

ここで退いたら誇りが消える。特別になる為に命を懸ける野生の少女に味方する男スパイダーもといRTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 さて今更ながら走者が目指す物は最速と最適解です。ここで逃げたら、その誇りが失われる。次は無い。そう、ここは中盤ラスイベ関西大会。

 

 かつて幾億のプレイヤーが万全な準備を整えてなお運が悪くて負けたぁとか言うほどに我々の前に立ち塞がり続ける壁(千早じゃないよ)

 

 それを走者は全速前進DA!突破致します!

まずは切り札その1・アイテムの使用です。栗饅頭!これによりホモちゃんの演奏レベルがアップ!

 

そしてその2・話しかけるコマンド!黄前ちゃんに話しかけ、彼女の信頼値を上昇!

 

連鎖相乗効果発動により、高坂さんとあすか先輩の演奏レベルがアップ!

 

 あすか先輩の演奏レベルがアップしたことで香織先輩の演奏レベルが上がる!香織先輩の演奏レベルが上がることによりトランペット四騎士達の演奏レベルが上がる上がる!!

 

 ――完成です。現段階における北宇治高校吹奏楽部の最上。多分これが一番強いと思います。でも走者は完璧を嫌悪してるので、これよりも上を次は目指していきたい(MYR様リスペクト)

 

 このまま行けば清良女子にすら匹敵する演奏レベルの総計。数の暴力!そして走者のモチベを上げてくるぅぅ↓ふぅぅぅん↑↑(F1エンジン)

 傘木さんが舞台の幕を上げてくれました!!北宇治吹部を見ながら揺れるポニーテールと、瞳に映る輝く星は彼女が見たかった景色であり仲間達なんだよなぁ・・・。貴女の前途にも同じものを。

 

 ていうかここスキップし忘れたけどさあ画面が切り替わりました。

例によってミニゲーム特有のアラーム音。曲がランダムで二曲選ばれます。基準点未満だと終わりです。基準点以下でも終わりです。いつだってここは緊張して、汗と震えが止まりません。

 

でも意地があんだよ走者にはなあ!!!

 

 

    WARNING

 

The decisive music is approaching at full throttle.

 

   NO REFUGE

 

 

Are you ready? 

 

イクゾー!!  デッデッデデデデ!(カーン)デデデッデ!

 

さあ来い!北宇治の音楽みせてやろう!そして私の両手に勝利と栄光を!!勇気を!!不屈の闘志を!!!

 

 テレ、テレレ!テレ、テテテンッ!!

テーレレレテーテーテー、テーレーレーレーーン

テーテーテーテーレ、テーレーレーレーレーレー

テーレレレ テーテーテー、テーレーレーレーーン

テーレーレーテーレ、テーレーレーレーラ↑ーレーレーーン

 

 シシ、シシシ ミミ、ミミミ

ファ♯ーソ♯ラファ♯ミーラードー、シーラーソ♯ーファ♯ー

ファ♯ーソ♯ーラーソ♯ーミ、ラードーシーラーソ♯ーミー

ファ♯ーソ♯ラファ♯ ミーラードー、シーラーソ♯ーファ♯ー

ファ♯ーソ♯ーラーソ♯ーミ、ラード♯ーシーシーソ♯↑ーミーファ♯ーー   

(※イメージです)

 

一曲目終了!ミスなし!(ほんとぉ?)次は!?

 

 テレテテテ!テレテテテェ!

テレレレッレーレレレー(デーレレレレレレレッ)

テレテテテ!テレレレレー

レレレーーーン!!

テン!テテッテーン!

 

 ソシ♯ドドド ソシ♯ドドドォ

ドミ♯レレッレーードシ♯ドー(ソシ♯ドミ♯レシ♯ド)

ソシ♯ドドドー ドレミ♯ミ♯ミ♯ーorソシ♯ドドドー

ミ♯ミ♯レーーorミ♯ソファーー 

レ ドシ♯ッドー

 

 ~デレッレーン、デレレレレッレーン(テンッ!テーン!)

デン!デレッレーン、デレレレレッレーン(テレレレレーン)

テーレーレーレー テーテーテーテー

テーーン!テテン、テテ!テテッテーーン

テーレーレーレーレーレーレー

テレレレッッテッテッテーン!テレレーン!!

 

 ~ソファッミ♯ー、ミ♯ファミ♯レシ♯ッソー(ミ♯ーレー)

ド、ソファッミ♯ー、ミ♯ファミ♯レシ♯ッソー

(レミ♯レシ♯ソー)

ソ♯ーソ♯ーソ♯ーソ♯ー ラ♯ーラ♯ーラ♯ーラ♯ー(ドーミ♯ーソーレーファーシ♯ーレー)

ドーー、ファソ-ソファーミ♯レッドー

ドーミ♯ーソーレーファーシ♯ーレー

ドソシ♯ドッミ♯ッファッソーー ソシ♯ド!

(※イメージです)

 

二曲目終了!走者のオイルが沸騰するわこんなん!得点は!?

 

 30006・・・、普通だな。と言いつつ基準点は19190点なので大きく突き放して北宇治高校吹奏楽部は関西大会ゴールド金賞と全国大会へのキップを入手!こんなえっらい功績誇らしくないの?

 

 吹部部員の演奏レベルは超アップです。どうだい、北宇治は強いだろう。

次回からはついにゲーム終盤!全国大会とかいう上位者ども打破目指して頑張ろうとホモちゃんが息巻いてる所で今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や。久しぶりだね皆」

 

「お久~」

 

「二年ぶりだね」

 

「元気してた?部長」

 

「もう。部長じゃないってば」

 

 それは全くの偶然だった。コンクールが始まるまでの、最後の休憩時間。少しぶらつこうとして角を曲がり、道を直進したらあらバッタリ。懐かしい顔付きとその気配に、傘木は自然と笑みを浮かべて右手をヒラヒラと左右に振った。

 

「あの頃を経験した元南中生にとっちゃいつまでも希美が部長だよ」

 

「そう?」

 

「うん」

 

「そう」

 

 大阪東照、明静工科、秀塔大学附属高校。全国吹奏楽コンクール出場の常連校であり、関西三校と呼ばれている吹奏楽の強豪。その主戦力の一角である2年生達は、かつての同期であり元部長と久闊を叙していた。

 

 元南中学吹奏楽部。最後の年を府大会銀賞でもって幕を閉じた3年生達。二年が経ったその眼には、相も変わらずギラギラとした熱が宿っている。

 私も同じような瞳なのだろうか。傘木は少し、けれど深く息を吸った。

 

「ところでなんだけどさ。――なんで去年いなかったの?」

 

「吹部から離れてた」

 

「は?」

 

「部長が?」

 

「まさか怪我か何かで?」

 

「ううん。単純に、折り合いがつかなくて」

 

強豪校へ進学を果たし、今年もこの時期冬服の三人の心配と疑心が、笑みに変わった。

 

「あ~、それは仕方ないね。でも貴女がいなくて去年は退屈だった。こいつらと清良しか、コレと思う演奏は無かったもの」

 

「でも今年ならと思ってたのに、…なに?Bメンバーなわけ?希美」

 

「うん」

 

「正直詰まんない」

 

「詰まんない?」

 

「そこに吹部があるのなら、どこの高校に行ったって私達は必ず大会で逢う筈だと思ってた。あの日のこと、もう忘れたわけ?」

 

「中学では銀で終わったけど」

 

「高校の全国の舞台で。ゴールド金賞を獲るのは」

 

「アタシら南中吹奏楽部生や」

 

 それは当時の誰もが口にし、今も胸に掲げる執念だった。どの路を進もうとも、往こうとも吹部があるのならそれを選ぶ。上を目指す。特別になる。誓いはきっと、あの日から消える事は無いのだろう。

 

「去年も今年も部長が吹かない北宇治。ね、強いの?」

 

「強いよ」

 

「上手いの?」

 

「上手いよ。どこよりも」

 

「………」

 

 すれ違えば百人が百人振り向くだろう綺麗な夏服姿の傘木が、笑顔に自信を込めて言う。

 

「私ね。北宇治吹部の一員だけど、ファンでもあるの」

 

「―――へえ?」

 

「だからよっく聴いておいてね? 絶対虜になるから」

 

「貴女がそこまで言うなんて。優子とみぞれが居るだけはあるわけだ?」

 

「それだけじゃあないよ。全部の音色が良いんだから」

 

聴けば分かると、眼で伝える。

 

「それは少し楽しみ」

 

「ねえ部長?最後に一つだけいい?」

 

「なに?」

 

「音楽は。………もう嫌い?」

 

 依然変わらない彼女の姿。そう見える、かつての部長の姿。

一抹の不安が三人の胸を掠める。貴女はもう、なんとも思っていないのか。過去なんて物は、もう要らないゴミか。それだけは訊いておきたかった。

 

「―――ううん。好き」

 

「………」

 

「大好き」

 

奏者の瞳が言う。奏者の瞳が見る。

 

かつての仲間達。そして今の強敵(とも)達は同じ想いを込めて笑った。

 

 

 

 

 

 

 ―――クラリネットは、どう?

 

 ―――…はい?

 

 ―――楽器。まだ決まってないんでしょう?

 

 

懐かしい出会い。昔といって差し支えない過去を思い出し、私は閉じていた眼をすぐさま開けた。

 

「ん?桃ちゃん?何食べてるの?」

 

「ふひふぁんふうでう…!」

 

「栗饅頭? あ、もしかしてゲン担ぎ?」

 

「おおうぇふ!ふほうふぉうふぁふぁふぃふぁふふふぇ!」

 

「ブドウ糖か~賢いね~」

 

「いやなんで分かんのよ…」

 

「ヒロネは耳が良いからね」

 

 最後の休憩時間は同じパートの子達と過ごそう。

三年間の思い出という名前の昔馴染みがふとやって来ては一人、また一人と去っていく胸中で、思う。…泣いても笑っても、これが最後なのだと告げていきながら。

 

 手で口元を隠したもぐもぐ顔が可愛い後輩と、大変だった去年を凌いできた後輩。そして三年間ずっと一緒にやってきた仲間達を見渡して、私はまた少し眼を閉じた。

 

 ―――良い耳をしてるね、ヒロネちゃん。絶対音感ってやつだ。

 ―――そう…なんですか?変じゃありません?

 ―――うちの部にも何人か居るんじゃないかな。気にすること無い無い。

 

「…ねえ皆。こんな事言うと怒るかな」

 

「続けてどうぞ?」

 

「どうぞどうぞ」

 

「…わたしさ?なんだか幸せ」

 

「それは何より」

 

「ふふーん?」

 

 ―――え?悩み事?何か好きな物でも食べて気分転換するといいよ。オッケイ?

 ―――あの、先輩には悩み事とか無いんですか?自分の音色はどうなのかとか、……どう吹けばいいか、とか。

 ―――クラを好きになる理由とか?

 ―――……はい。

 

「今まで色々あったけど、私、ここで終わってもいいって思ってる。だってこんなにも後輩に恵まれてさ、友達にだって、恵まれてさ。私本当に、」

 

「嫌です!!!!」

 

「…え?」

 

 眼を開ける。少しぼやけた視線の先に、饅頭を食べ終わった後輩とその他全ての後輩が異口同音。ジッとこちらを見ていた。

 

「ここで終わったりなんてしません!私達は全国に行くんです!」

 

「もっと先輩達と一緒に吹きたいんです!!」

 

「終わりじゃありません!!!」

 

「………」

 

 ―――皆死ぬほど知りたいよ。私達は吹奏楽部だもの。

 

「ま、気持ちは分かるけどさ。ヒロネ?」

 

「私達。まだ先輩みたいだよ?」

 

「………」

 

 ―――でも、…でもね?もしかしたらさ?

 ―――…先輩?

 

「そっかー。じゃあ私達のクラ、今日金獲って全国で響かせちゃう?」

 

「勿論!!!」

 

 ―――全国で金賞を獲れたなら。それが分かるかもしれないよ?ヒロネちゃん。

 

 声が重なる。輪になる。過去が私の頭を優しく撫でて、そっと微笑む。

もう一つ。クラリネットを好きになる理由が増えましたよ。先輩。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、久美子。今いい?」

 

「いいけど何? あまり大きな声出さないでよ?桃」

 

ひょこっと。いよいよ本番間近という時に、幼馴染が顔を出す。

 

「私さ。皆を想って吹いてみるよ」

 

「それって麗奈の真似?それともみぞれ先輩の真似?」

 

「うーんと、ね。なんていうかその、……ね」

 

「?」

 

幼馴染は瞳を地面へ、そして天井へと向け、そしてついに私を映した。

 

「久美子がいたから。私は今ここにいる」

 

「…へ?」

 

「貴女と逢って、皆と出逢って。だから私はここでクラを吹ける。今日、私はそれを込めてみる」

 

「………」

 

 柄にもない言葉。馬子にも衣装。緊張して変な物でも食べたのか? そう言うのは簡単だった。でも言葉は一言も出なかった。

 

 小学校からずっと、この子と眼を合わせてはおしゃべりをしてきた。でも今まで一度だってこんな眼を見た事はない。何か良い事でもあったのだろうか。

 

 ――綺麗な色。まるで空にかかる虹の色。もっと見てみようと思って瞬きを一回すると、そこにはもういつもの顔だけがあった。

 

「頑張ろう。皆とおっこに」

 

「………」

 

乾杯のつもりだろう、拳と拳を突き合わせる。ゴツンと、グータッチの音が鳴る。

 

「痛いんだけど」

 

「後で覚えてろ」

 

 いつまで経っても直らない腐れ縁の悪癖をいつか直してやる。ちょっとの笑顔と、変わらない笑みの中で。私はそう想ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空から夜の空へ、漂う雲や風の行方。一丸と全てが収斂し物語性を醸している。―――虹色。聴き終えて最初に思ったのは、まずそれだった。

 連続写真というよりは絵画に近い。高校生の奏演にしては、全体的にやや大人びている。だからこそのギャップ。幼い容姿との食い違いが、合奏に魅力を与えていた。

 

 それを引き出す指揮者の才能。手練。まさに類稀なると言って差し支えない。

終わってみれば、この場の誰しもが三日月を心に思い浮かべるだろう。冴え渡る月。まるで夜の虹。現に視線を右左にずらせば、感極まり泣いている者も居た。

 

 万雷の拍手。審査員への印象。選曲の有利性。

これを聴かせられては、この後の学校には少々不利だ。全国に進む一校は北宇治高校吹奏楽部で間違いなく。何故なら審査という物は、人間という生物(なまもの)がしているのだから。

 

「――そう。貴女はそっちを選んだのね」

 

 ずっと手を組んでいた両拳を肘掛へとそっと広げ、拍手喝采が終わるタイミングで立ち上がる。一人娘と、とある和菓子好きの最期の演奏を聴きに来たが、どうやらあの子達の音楽はまだ最期ではないらしい。

 

 気持ちが悪くて賢しい音色。吹けた所でこの先の人生に何の役にも立ちはしない。今も昔も、私はそういったものが一番大嫌いで。

 

「つまらない方を選ぶなんてね。腐り落ちて、終わった時に泣くのは他でもない自分なのに」

 

 関西吹奏楽コンクール会場。

懐かしさどころか何の感慨も湧かない心と頭が、もうこのゴミの吹き溜まりから出ろと私の脚を動かした。

 

 

 

 

 

 

 



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終盤全国大会まで
第十五回 その1


その1を付けてみたので初投稿です。






 

 

 

ついにここまで来たRTA(最終章)、はぁじまぁるよー!

 

 

 前回は関西大会を難なく突破し、我らが北宇治高校は無事全国大会進出といった所さん!?まででした。

 

 全国に行く=強豪の仲間入りってわけですね。吹奏楽にまぐれ無し、あるのは実力のみ。戦車道かな?(しほさん!)

 

 さて今回からはラストスパート、北宇治高校吹奏楽部左右両翼にして九垓天秤の一人、通称ラスボス・田中あすか先輩を覚醒させていく工程に切り替えていきましょう。

 

あすか先輩を連れ戻すぞ大作戦です!(NSZM殿リスペクト)

 

 今走っている『ドリームソリスター』ルートではこの作戦の成功はマストです。歴代最強(走者比)北宇治吹部の力、とくと見せてあげましょう。やっちまおうぜ?やっちゃいますかやっちゃいましょうよ!

 

 さて画面ではホモちゃんが図書室に居るみたいですが、早速勉強するコマンドを選択。ここにきてホモちゃんに楽器演奏、ではなく勉強をさせます。

 ずっとクラリネットの練習漬けにしてきたホモちゃんですが、この状況で勉強させるとな~ぜ~かっ、あすか先輩の信頼値が上がります。

 

 これはホモちゃんがアホ(直球)でなければ上がりません。だからずっと暇さえあれば練習している必要があったんですね。授業の補習にも出してみましょう。

 

『……数学』

 

『……社会』

 

 ここは上を選択。何故なら黄前ちゃんと一緒の苦手科目だからです。

このあすか先輩を連れ戻すぞ大作戦は、原作では菓子折り持った(持たせた)黄前ちゃんが先輩の家に入ってどうぞされて一緒に勉強。渾身のユーフォ演奏を聴いて終わり!閉廷!

 …あれ?大作戦は?って感じなのですがこのルートにおいてはきっちりホモちゃんも参加して早期に成功させなければ全国大会で金賞を獲る事は不可能です。大会近いからね、しょうがないね。

 

 ポイントは先輩の信頼値と先輩のカッチャマの信頼値!両方を一定まで上げないと作戦がさっさと成功しません。しかもその信頼値、先輩はまだしもそのカッチャマのを上げるフラグイベントが隆盛時のプレイヤー達曰くどんなに探しても見つからなかったらしく、『ドリームソリスター』トロフィーはこれバグじゃねえかと見做されていたそうです。

 

 そう、あの和菓子屋イベントが発見されるまでは。

 

 スキップしてはいけない(戒め) 苦行か何か?

今回はそれを発生させていますので、これからは黄前ちゃんにくっ付いてってあすか先輩の信頼値稼ぎに便乗しましょう。上げすぎには注意です。先輩ルートはA・Bともに最の高だがしかし。響け!!(語彙力)

 

『まあ見てなって。びっくりするから』

 

 着々と作戦開始の土台を作っていってますね…。

まあよく言うように作戦っていうのは開始=終わり!目指すはもう始まってる!!ってわけです。

 さて次回は文化祭。先輩の信頼値をしっかり上げて行きますよ~1919といった所で今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい、注目ー。パートリーダー会議を始めまーす」

 

「この前の合宿からなのか知らないけどさ、最近晴香元気いいよね?」

 

「怖い目にあって度胸でも付いたんじゃない?」

 

「そうなの?」

 

「晴香~、全員そろってるよん」

 

「では始めます。まず最初に、関西大会はお疲れ様でした。全国大会出場という北宇治吹部十数年ぶりの快挙、ここまで来たら金賞目指して頑張っていきましょう」

 

「はい」

 

「勿論です。北宇治ですから」

 

「これからは全国に向けての練習と同時に、文化祭の公演に向けての練習も重なります。…でも私達なら、このメンバーなら行けるって私は思ってます」

 

「何事もなければね~?」

 

「不吉なこと言わないの」

 

「…あすかにしては心配性だね?」

 

「副部長ですからあ~?」

 

「ヒュー!」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「はいはい。そこで今回の議題は、文化祭公演についての打ち合わせと私達学生の義務である勉強についての話をします」

 

「今度のテスト…、範囲がなあ……」

 

「各パートのメンバーにはしっかり勉強するようにって伝えてほしいです。赤点ということになったら放課後補習が待ってるからね」

 

「この時期に練習時間が削られるのはかなり痛い……」

 

「うんうん」

 

「………。実はそれなんだけど、ね」

 

「ん?ヒロネ?どったの?」

 

「うちの子がさ、ちょ~~っと」

 

「ちょ~~~っと?」

 

「やばい」

 

「…ゑ?」

 

「やばたにえん?」

 

「やばたにえん」

 

「ちょっと茶化してる場合じゃないでしょそれ!!誰なのヒロネ?」

 

「桃ちゃんなんだよ……」

 

「あ~~」

 

「あ~~」

 

「あ~~~、って何よそれ!! 皆知ってたの!?」

 

「知ってたっていうか」

 

「ねえ?」

 

「この前、水兵リーベ僕の船憶えた?って訊いたら何の呪文ですか?って。……真顔で」

 

「そんなのただの冗談でしょ?帆高さんなりの」

 

「いやあれはガチだった」

 

「えぇ………?」

 

「あの子吹奏楽しか興味ないっぽいよな?」

 

「ああ。何かをするって事は何かをしないって事で、だからあんなに演奏上手いんだなあって感心してた」

 

「やめて!そういうそれっぽいこと言わないで!!両立できるのが私ら北宇治だってことを見せなくちゃでしょ!??」

 

「晴香があつ~い」

 

「私達は全国大会に出場する学校です!一人だって欠けずに!! 何か良い案がある人っ」

 

「とりあえず今の学力はどうなのか。直近の小テストの結果はどうだったのかを訊いて、もしも本当に駄目だったら滝先生か松本先生に相談してみようよ」

 

「まあそうなるかあ」

 

「ナイス香織」

 

「ナイスでーす」

 

「ではその方向で。申し訳ないけど会議は一旦中断します。…文化祭については帆高さんの件が終わったらまた連絡するので、その時に。 ヒロネとあすかは私と一緒に帆高さんを手分けして探すよ」

 

「はいはーい、みんなお疲れちゃ~ん」

 

 

 

 

 

 

 窓からの風が心地良い昼休みの図書室の片隅。私の前で、芹菜は一瞥もくれずに文庫本を読んでいた。

 

「――でね?やっぱりセイゴくんが一番かっこいいと思うわけなんだけど」

 

「何がわけなんだけど? 意味分かんない」

 

「『しにがみのバラッド。』読んでるって前に言ってただろうがYo!その中の私一押しを言ってんの」

 

 彼女は滅多に図書室にはこないし本も読まない。だから私は少し、口角を上げた。今日は運が良い日だ。

 

「あー…思い出した。訊いてもない事を急にしゃべりだすのがアンタの本性だった。私の頭が一酸化窒素を生み出して氷結世界(アイスド・アース)だわ」

 

「!?」

 

聞き捨てならぬその言葉に。私はしっかり小声で激怒した。

 

「おいテメエ、よりにもよってそれは全国564万人のアーレン・ヴィルトールファンに喧嘩を売る言葉だぞ。いつの間にレベリオン全巻読んだな?」

 

「あのさ。見ての通り今私は天栗浜高校で忙しいから帰ってくれる?ていうかここ図書室だからゴーアウェイ」

 

「呪文を唱えようたって無駄だ。私にエウレリアを思い出させた罪は重い。元だろうと帰宅部は仲間を見捨てないけど、言っていい事と悪い事がある。今から階段部を創って貴重な読書時間を邪魔してやろう!!ちょっと待ってろ!!」

 

「…階段部は情熱の部活動。そこには厳格なルールがあり、アンタみたいに他人に迷惑をかける事は許されてない。そんな常識も忘れたの?」

 

 ページを捲る手が全く衰えない今の彼女にはもう何を言ったって駄目だ。なので私は眼をランと輝かせながら捨て台詞を言うしかなかった。

 

「芹にゃんめ………!」

 

「芹にゃん言うな」

 

「―――いた!!桃ちゃん発見!!」

 

 これ以上芹菜の読書を邪魔するとマジで怒っちゃうので図書室を出ようと、歩いたその時。ここで会うには珍しい先輩たちが急にひょっこりと現れた。

 

「図書室ではお静かに」

 

「失礼、図書委員さん。吹奏楽部です」

 

「ドーモ」

 

「え?ヒロネ先輩?どうしたんです? それに部長に副部長まで」

 

しかも組み合わせも珍しい。やはり今日は良い日なのか。

 

「お昼休み中にごめんね桃ちゃん。今からちょっと質問に答えてくれるかな?」

 

「? はい」

 

「一番近い小テスト。点数どうだった?」

 

「40点でした。赤点(39点以下)回避です。ブイ」

 

「…最近授業についていけてる?」

 

「? 授業についていく理由がよく分かりませんが。それ楽器の演奏と関係あります?」

 

「……テストの成績が悪いと放課後補習だって話は知ってる?」

 

「先輩流石にそれくらいは知ってますよー。だから赤点は一個も取ってません」

 

「………北宇治に入学してから小テストを含めて一番良かった点数は?」

 

「40点ですよ?いつも常に自己ベストです」

 

「………」

 

「………」

 

「え?どうしたんです?」

 

 晴香部長が目の前で死火山が噴火したあみたいな顔で私を見る。ヒロネ先輩と田中先輩は笑顔で、でもどこか明後日の方向を見ていた。あれ?でも私を見てるよね?

 

え?私って明後日?

 

「――桃ちゃん」

 

「え、あ、はい」

 

「一緒に職員室。行こっか」

 

「ヒロネ先輩? ナズェそんな笑顔でミテルンディス?」

 

「松本先生に話してみる」

 

「お願いヒロネ」

 

「??」

 

「―――吹奏楽星人が」

 

耳に心地いい芹菜の褒め言葉が、やけに頭に残った。

 

 

 

 

 

 



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第十五回 その2

色々(意味深)な事を教わりたかったので初投稿です。







 

 

 

 

「今日の放課後だな」

 

「…はい?」

 

 多分信じられないといった顔をしているだろう。私は美知恵先生の顔を凝視して言った。

 職員室内はコーヒーの匂いが漂っていて、そういえば最近コーヒー飲んでないなあなんて感慨にふけることはできなかったけど、大人が飲むコーヒーはきっと全部苦いのだろう。推測だけど、そんな匂いがした。

 

「ちょうど今日、全学年向けの補習講座がある。受験生から苦手を克服したい1年生まで、全てが対象だ。それに参加しろ」

 

「あの、先生?ちょっと仰ってる意味がよく分かりませんが」

 

「簡単に言うと、お前は今日の放課後部活に出ずに補習だ。帆高」

 

「それはクラリネットを。私から――――うばう。ってことですか?」

 

「不断の努力は買うが、今の帆高の学力では永久に奪われるかもしれんという事も視野に入れろ。以上だ。 鳥塚、小笠原にはそう伝えてくれ」

 

「ありがとうございます。失礼しました」

 

「…失礼、しました」

 

 フラフラとした足取りでヒロネ先輩の後をついていく。

なんてことだ。自分なりに勉強を含めた学校生活をエンジョイしてきた筈だったのに、気付いたら硫酸のたまった落とし穴に落ちちゃうぅみたいなもんだ。冗談じゃない。

 

「ヒロネ先輩、もしかして今の私メチャクチャやばい。ですか?」

 

「やばいね」

 

「やばたに…えん?」

 

「やばたにえん」

 

「おっ、来た来た。なに?やっぱり補習?」

 

「やっぱりは余計だよ、あすか」

 

「何故ですか。赤点は取っていませんのにっ!!」

 

田中先輩と晴香先輩が、おっと、と二の足を踏んだ。

 

「落ち着いて桃ちゃん。今まで全部赤点ギリギリってことは、もしもその日上手くいかなかったら全部赤点ってことだよ。勿論可能性の話だけど、危険性は充分すぎるほどある。分かるよね?」

 

「………本番は何が起こるか分からない。ですか」

 

「その通り。でもそれって吹奏楽だってそうじゃない?これからは取りたい点数の、10~20点は取れる勉強をしてかなきゃだね」

 

「今までは全部運が良かった。とは言わないけどさ、帆高ちゃ~ん? ちょ~っと危ない橋を渡りすぎちゃってるね?」

 

「………はい。お昼休みなのに、ありがとうございました」

 

「いいって事だよ。私も昔似たような事があったし」

 

「?」

 

ヒロネ先輩は苦笑いのような微笑みを浮かべながらそう言った。

 

「私が1年生の時だったかな。あの頃は勉強なんざ知るかあ!って感じで部活ばっかりでね。でも私の2個上の先輩が教えてくれたんだよ。何事も繋げて考えていこうって」

 

「繋げて、ですか」

 

「うん。楽器一つ一つに基礎練習があるように、勉強科目にだって似た物がある。どちらも出来た時、きっと勉強もクラリネットも好きになれるってね」

 

「クラリネットも……? ですか?」

 

 まるでどちらも好きじゃなかったと言っているようで。私は少し目を張った。クラリネットパートの3年生兼リーダーを見て。

 

「ああ、ごめん。今よりもっとって意味で。 …勿論簡単な事じゃないけど、桃ちゃんなら出来る。私はそう信じてるよ。どうかな?」

 

「はい。しかと受け止めました」

 

信頼してくれている。なら頑張ってみよう。

 

「いいかな?二人とも。今日の放課後またパーリー会議をひらくけど、これは帆高さんだけの問題じゃない。誰一人だって欠けずに、私達は全国で音を響かせるんだから」

 

「油断せずに行こお〜」

 

 田中先輩が茶化して言う。けれどその瞳は、ちっとも笑ってなどいなかった。やっぱりおっかない。しっかりとしなくては。勉強も音楽も。

 

「やってやりましょう!」

 

 

 

 

「――てなわけで、放課後部活に行けなくなりました」

 

「………桃。変わったね。昔はそんな頭(アホ)じゃなかったのに」

 

「直球すぎる感想どうもありがとう幼馴染(腐れ縁)。昔はやること無かったけど、目覚めたんだよクラリネットに。今は楽器っていう私の全てが有るのだ」

 

「ふ~~ん。どうだっていいけど今日出席する補習科目は?一番苦手ってことでしょ?」

 

「……数学」

 

「ヴぁ~~~」

 

「ヴぁ~~~」

 

 もうすぐ昼休みが終わるという頃に久美子の教室に行った私は、同士(笑)仲間を見つけたような声を二人して出していた。

 

「頑張って下さい桃ちゃん!勉強は学生の本分なのです!」

 

「私も出よっかな~今日の補習」

 

「私みたいにやばたにえんじゃなければ出なくていいんじゃない?」

 

「?そのやばたにえんって何ですか?」

 

「みどりちゃん知らないの?やばいの最上級形だよ」

 

「アイコピー!そんな言語があるんですね、初耳です!」

 

「え?そうなの?何か脱出ゲームっぽい響きで怖くない?」

 

「そこはお茶漬けっぽいって言おうよ葉月ちゃん」

 

「ともかくっ!私は今日の部活を生贄に捧げ放課後補習を召喚!満足できるまで学力向上に努めます!!まあ見てなって。びっくりするから」

 

「あ、今それリリースしてアドバンス召喚って言うらしいよー?」

 

「………ゑ?」

 

なにそれ…。

 

「サティスファクションって言わなきゃダメですよ?桃ちゃん?」

 

「ねえそれって何呪文?効果は何?回復系?弾ける系?」

 

芹にゃんもみどりちゃんも今日は呪文をよく唱えるなあ。流行ってるのかな?

 

「桃」

 

「あ、はい」

 

「今日の補習は英語も受けて」

 

有無を言わさない言葉の気勢に私はコクコク頷いた。

 

 

 

 

 

 

 放課後になると一直線に音楽室に向かっていた為、いつもとは違う道を私は少しオドオドしながら進んでいた。何より皆しっかりと勉強、つまりはそれなりに学生の義務を全うしていたという事実に私は閉口して。つまりは焦燥感に駆られていたのだ。

 

「失礼しまーす。補習を受けに来ましたー…」

 

「ああ、どうぞ。そこの紙に名前と学年を書いて下さいね。ちなみに1年生?」

 

「はい」

 

「良かった。ここは主に1年生向けの内容を行います。好きな席へどうぞ?」

 

「分かりました」

 

 既に座っている人。後から来る人。その皆が皆、黙って、少し笑って、真剣な表情で筆記用具を取り出している。何かを得てやろうとしている。何だか吹部みたいだなあと思って、私はへその下に力を込めた。

 

「では時間なので、始めます。皆さん放課後にようこそ集まりました。色々な考えを持ってこの補習を受けに来たのでしょうが、一つでも二つでもいくつでもね。自身の力に加えていってほしいです」

 

「はい」

 

「元気な返事ありがとう。では早速このプリントの問題1を―――」

 

なんと私だけが返事をしていた。おっと、って感じだ。

 

「――――さて。これが因数分解というヤツですが」

 

「………」

 

 色んな?が解答欄に書いてある私のプリント問題1。

因数分解ってなんだよ勝手に分解すんなよ自然のままにしておけよ。つっこみたい心を抑えて私は耳に神経を集中させた。

 

「基礎となる計算力の向上には、因数分解が最も重要だと先生は考えています。しかしながら皆さんの中には、こんなの大人になってから使う時なんてねえじゃんと思う人もいるでしょう」

 

「……」

 

うんうん。私は頷くのを三回目で止めた。

 

「はいそうです。使う時なんて来ません」

 

「………ぇえ?」

 

「我々教師が皆さんに教えているのは、基礎の中の基礎でありテストの点数の取り方です。この数式を因数分解しなさいなんていう簡単な問題は、社会に出てからは一切出てきません。テストの問題が毎回毎回違うように、とても難しく、変わって、大人になった皆さんの前に出題されます。

 計算力が皆さんに与えてくれる物の一つは、物事を逆算して考える力です」

 

「………」

 

ほむ?

 

「例えば、この前のテストで赤点を取った。学年順位が大きく下がった。これこれこういう失敗をした。何故?どうして?原因は?あれかな?これかな?それとも? なんて一つずつ悠長に考えてられるほど人間の人生は長くありませんし、皆さんの時間の無駄です。大体二つくらいの塊に分けて、それから取り組めば良いのです」

 

このプリントの(ⅹ+y)(ⅹ−y)のように。先生はそう続けた。

 

「最終的な解。数学でいう答え。それは物事の結果と同じ意味です。どの塊達が掛け算されていってそうなったのか?それらの展開式は? さあ次の問題、頑張って解いていきましょう」

 

―――やってやる。頭が痛くなる因数分解の数字を見て、私は奮起した。

 

 

 

 

 

 

「先生。ありがとうございました」

 

「はい、気を付けて帰ってくださいね」

 

 微笑む先生に皆が会釈して教室を後にする。

………難しかった。でも何とか納得は出来た。自力で解くことも。私は身支度を整え、次の英語科目の教室へと向かおうとして、ふと先生に声をかけた。

 

「先生」

 

「はい?」

 

・・・・・。

 

「基礎の内容をもし忘れてしまったら。私は終わりですか?」

 

「そうならない為に私達は点数法を採用し、教えています。話を忘れると損をすると」

 

「……。絶対に忘れないでいる方法はありますか?」

 

「人は自分の損得に関係のない話を憶えようとしません。残念ながら。 そして損得とは、生きている内に変わっていく人もいます。得だとあの日信じたものが、実は損だと。その逆もまた」

 

「………」

 

楽器もだろうか。私は二の腕を撫でた。

 

「大丈夫。そう言うのは単純に過ぎます。 なので帆高さんには、自分から疑問を持って日々頑張ってほしいと先生は言います。頭は私なんかよりも柔らかいんですから」

 

「…逆算していきながら。ですか?」

 

先生は笑みを深めながら、私の眼を見て一回頷いて言った。

 

「はは。まあでも、これ一回こっきりでもう教えなくていいのなら、教師も学校も必要ないですよ。たくさん積み重ねていきましょう」

 

「――はい」

 

 お辞儀をしてお腹に力を入れ、私は顔を上げる。返事をすると、先生は綺麗にお辞儀を返していた。

 

 

 

 

 

 



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第十六回 その1

以下、本編になんら関係のない前書き。
 

 祝!パワプロクンポケット復活!
しかし初代がゲームボーイ(知wらwなwいwよw)のパワポケとは一体どんなゲームなのでしょう。・・・今や世界各地に散らばるpwpkファン。私は彼らを追い、取材を敢行致しました。

 ―――パワポケ1と2について一言。

pwpk1:智美さんグッドエンドルートが正史だから2以降はちょっとよく分からない。え? 今日のけっしょうせんと、じぶんの女と、どっちがだいじって?それ質問になってないよ両方だから。ちなみに幼馴染の子のルートをいくなら、絶対に甲子園優勝してドラフト1位を取った方がいい。出来なきゃ次の画面に行かずにデータを消すんだ。こたえるよ?

pwpk2:弓子おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!


 以上が取材結果です。
ご覧の通り、どうかしてます。これって野球ゲームですよね?と毎回尋ねていますが、皆笑顔でこう言いました。

これは野球バラエティだと。










 

 

 

フラグ建築が楽しすぎていざその時が来たらガバるRTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 嘘に決まってんじゃん(手のひらドリル)

順調が服着て歩いてる走者がガバるなんて(ありえ)ないです。

 

 さて現在は文化祭。

勉強と補習を行ったホモちゃんは学力が向上し、無事にこの日を迎えることが出来ましたとさ(駄文並感)吹部の公演も成功して現在の場所は・・・・ドリンク屋さん?みたいですね。

 

 出し物かな?ドリンクバー的な?おい走者もまぜてくれや! 

ズズー、うん!おいしい。自分で開けて飲む魔剤は最高です。虚しくないよ、本当だよ。

 

 さて(コスプレがまかり通る)この文化祭は信頼値稼ぎの宝庫です。あすか先輩を連れ戻すぞ大作戦早期成就の為に向かうべき場所は計3カ所。その全てに行ってRTA成就の糧にしましょう。勿論スキップ祭りはこのRTAが終わるまで開催中です。

 

 まずは黄前ちゃんがいる不思議の国のアリス喫茶!

あ・・・アニキィ~!こいつが走者たちの目指した、シャングリラでやんすか~~~!?(興奮)

 

 はい次。のぞ先輩みぞ先輩ポニテ先輩達がいる(え?天国?え?え?)メイド喫茶。

走者はねぇ!君たちみたいな、屈託ないねえ、子の笑顔が大大大大大好きなんだよ!

 

 はい次ラスト。あすか先輩と晴香部長がいる占い屋。

魔法使いのねーちゃんコスがすばら!フェアリーゴッドマザーみたい(小声)そんなあすか先輩とお話ししましょう。

 

『占ってもらう』

 

『占ってもらわない』

 

上を選択。すると~~?

 

 ―――誰との関係を占ってもらいますか?

 

『同級生』

 

『先輩』

 

 よっしゃ。下です下です! これは信頼値が一定を超えていないと選択肢すら出てこない系のやつです。第一段階は成功!

 

『田中先輩との』

 

『葵先輩との』

 

 ・・・・?葵先輩? 何で吹部辞めてる筈の葵ちゃんの名前が?え?辞めてないの?これって信頼値が一番高い先輩の名前が出るんだけど。ままええわ(思考箒)←放棄とスイープを掛けた激ウマギャグ。

 

上を選択です。日頃の感謝を伝えましょう。

 

『先輩のお陰で』

 

『ちょっと………』

 

 信頼値が上がりましたねえ!北宇治吹部最強のあすか先輩は変化球とボール球にはめちゃんこ強いですが直球ド真ん中ストレートには弱い。はっきり分かんだね。

 

だから黄前ちゃん!君の火の玉ストレートで、あの子の牙城を撃て!!(他力本願)

 

 ちなみにここで下を選ぶと先輩ルートB『きっと明日は』に入ります。

そうなるとあすか先輩を連れ戻すぞ大作戦はここで終わり、なんやかんやあって先輩のトッチャマとの対峙になります。 I am your Father.

 

愉快なルートですが今回はキャンセルだ。

 

 さて、これ以降は先輩の信頼値を上げつつ、あとは駅ビルコンサートと大作戦の開始を待つだけですね。

九月末に行われるイベント・駅ビルコンサートはカテゴリーキング清良女子がやって来ます。そこで!北宇治吹部が奴らを(合奏で)横合いから思い切り殴りつける!魔王がいるあの者らにとって北宇治は文字通りアウトオブ眼中ですが、そうはいくか。させるものか。

 

勝つのは北宇治です。現段階の演奏レベルならばそれが可能!

 

 ぶっちゃけそれくらい出来なくちゃ全国でゴールド金賞は獲れません!『ドリームソリスター』トロフィーもね。

 

 (実は人生に何度もある)一生に一度は正にこの駅ビルコンサートの時と言っても過言ではなく。しかしながら間もなくあすか先輩がカッチャマのせいで吹部を一時離脱してしまい、彼女の演奏レベル上げが出来ません。が!しかし!

 

 皆さんご存じの通り歴代左右両翼の2キャラは主人公(ホモちゃんくん)より演奏レベルが下回る事がありません。必ず常に1だけ上回ります。

 

つまり!今までガン上げしてきたホモちゃんの演奏レベルがここにきて活きるという事!

 

 狙うは駅ビルコンサートで真由黒江じゃなかった上位者・清良の度肝を抜き、その後あすか先輩をさっさとカッチャマから連れ戻して彼女を覚醒。

 北宇治高校吹奏楽部は当代最強の吹奏楽部として常しえに輝き続けるって寸法です。テッペンを獲るとはそういう事です。世界の頂点に立つ者は!ほんのちっぽけな恐怖をもッ!持たぬ者ッ!!(DIO)

 

 ちなみに走者に恐怖はありません。第一回から言っているように、私が世界最速だからです。スキップ祭りでテンションが上がりましたが走者たるもの手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に。

 

 作戦開始はどんなに急いでも件のコンサートの後。なのでそれまでは黄前ちゃんと一緒にいる時間を第一に

 

 

 『危ない!』

 

 『危ない!!』

 

 『危ない!!!』

 

 

・・・・・。

 

・・・・・。

 

 は?

 

 

 ―――危なかった。

とっさに出た右手がその柔らかい腕を掴むと、私は自分の身体の方へ思いっきり引き寄せた。

 あまり使った事のない筋肉が悲鳴を上げ、もう離せよと訳知り顔で私の脳みそに命令するが、それをまた脳内でぶん殴ってこちらの言う事を無理矢理聞かせる。

 

「危なかったですね…、私は通りすがりの吹部部員の」

 

 

 ・・・とっさに3つ目の選択肢をせんたく選択。ここれはタイム制限つきの選択肢でです。1秒以内にこっちを選ばないと、ホモちゃんの運と演奏レベルが下がりがります。 3つある選択肢、つまりこれはとあるある人物関連だけに備わってるイベント特有の物。全てが低確率ランダムダムイベントであり、その攻略の難しさとストーリーの出来具合、何よりキャラの強さと怖さから原作通りクラゲとも魔王とも称されて、称されて、

 

 

「助けてくれてありがとう。貴女、北宇治の子?」

 

 

称されてててててててててててててててててててて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――出会うお客さんには、出来る限りこう言ってね? 教わった台詞を、私ははっきりと口にした。

 

「一日を変え、一生を変えるカクテルを!」

 

「桃ちゃんいいよ~っ、もう最高だよう~~!」

 

 吹奏楽部の文化祭定期公演を終え、今私は自分のクラスの出し物に参加している。

 ここは色んな炭酸飲料や清涼飲料などの飲み物を仕入れて、そのまんまお客さんに売ったり掛け合わせてシェイクするなりステアするなりして販売するドリンクバー。衣装は勿論バーテンダー服。氷も、それっぽい器もバッチリだ。

 

 当初は普通のコスプレ喫茶でいいじゃないかという意見も出てたけど、バーじゃないと我がクラスだけのオリジナリティがない!と力説されては頷くしかなかった経緯がある。その際、髪型はツインテールにしてほしいと言われたが、髪型は変えたくないと私は拒否をした。

 

「おいおいこの店ジルがいるぜ」

 

「一杯貰おうじゃないの」

 

?ジル? おっと、お客さんが沢山。これは腕が鳴る…!

 

「・・・メニューも凝ってるね」

 

「実際のカクテルを模して作ってるのかな?」

 

「はい」

 

「……ポニーテールのジル・スティングレイ、そういうのもあるのか」

 

「ははあ……なるほど、確かに瓜二つ。正に逸材。ここの代表者は誰かな?」

 

「私です」

 

「グッジョブベリーナイス。 ウォッカマティーニ、シェイクでね」

 

「ギムレットを」

 

「それはまだ早すぎる」

 

「桃ちゃんお願い。これとこれをシェイクして、ステアじゃ駄目よ絶対。Time to mix drinks and change lives.」

 

「かしこまりました」

 

「そうだ、バーテンダーさん。カルモトリンは?」

 

「え?カルモトリン?」

 

知らない品名に、

 

「ないです」

 

このお店の発案者(店長)が即座に否定した。

 

「うちはノンアルコール専門です。雰囲気と、ドリンクの味を楽しんで下さい。 …いや~ごめんね桃ちゃん、分かってるお客さんは桃ちゃんの格好を見たら声を掛けざるを得なくて」

 

「へ~」

 

「分からない注文を言ってくるお客さんが来たら言ってね。あ、でも、お店が落ち着いたらシフト上がっていいからねえ~」

 

 そう言って自身もまたバーテン服な店長(同級生)は笑顔で踵を返していった。よし、じゃあもうちょっと頑張ってから久美子の喫茶店に行ってみよう。

 

一日を変え、一生を変えるカクテルを。

 

「すいません。キールを」

 

! 早速のお客さん。お任せあれ!

 

「どうぞ」

 

「これは美味しい。何と何を掛け合わせているんです?」

 

「はい。それは―――」

 

 これとこれの合わせ技ですと説明すると、中学生くらいかな?背の小さい女の子はちょっと笑顔になった。

 

「…座ってもいいですか?」

 

「はい、勿論。元気がなさそうですね?」

 

「……。失礼します。実は私、今年受験生なんです」

 

「それは大変ですね」

 

「これはという高校も無しで、しかももうこの時期で。少々不安で」

 

「………分かります」

 

 他のお客さんは私以外のバーテンダー生徒が対応していて。気付けば私はこの中学生の子とマンツーマンになっていた。

 

「私も去年は受験生でした。推薦で狙える何かを、やっていたわけでも無かったですし」

 

「やっぱり怖かったですか?」

 

「勿論です。第一志望が落ちたらどうしようって、頭も頬も痛くなる時だってありました。でも、」

 

「…でも?」

 

・・・・・。

 

「選択、しましたから」

 

「――選択」

 

「ずっと頑張ってこなかった分、高校では頑張ろうって。ここから、きっとここから、私は私が石ころじゃないって事を証明してみせるんだって」

 

「………、」

 

「! すいません。お客さんの前で、何言ってるのか偉そうに」

 

「…。あ、いえいえ」

 

 そう言って手を優しく左右に振る彼女の笑顔の質が変わる。やんわりと弧を描く二つの大きな目は感謝を伝えており、下げる頭は一分の隙も無い。まるで造り込んでいるように。 思わずこちらも下げた頭を上げると、百円硬貨を律儀に4枚差し出して、笑顔のまま彼女は言った。

 

「カシスソーダを。追加で二杯下さい」

 

まるで気高さを可愛さで隠してる猫みたいだと、私は思った。

 

「私と貴女に。せんぱい?」

 

 

 

 

――その後、シフトが終わった私は大急ぎで久美子の教室に行った。

 

「自分で作ってみてなんだけど、超美味しかった。久美子も後で来てみてよ。でもなんでカシスソーダなのかな?意味分かる?」

 

「さあ? 単純に好きだったんじゃないの?」

 

 可愛らしい衣装が映える彼女が、ジト目で私を見る。あからさまに暇そうだ。みどりちゃんも葉月ちゃんも、椅子に座ってこちらを見ているだけだし。

 

「ちなみになんだけどさ」

 

「はいはい?」

 

「カシスソーダって何?」

 

「ぶどうの炭酸飲料といちごの清涼飲料の合わせ技。ロングドリンク」

 

「それすっごく甘そう」

 

(注釈:実際のカシス・ソーダは黒すぐり+ソーダ水の飲みやすいカクテルです。飲み過ぎ注意)

 

「氷を結構入れるから大丈夫だよ。意外と。本当のカシス・ソーダはお酒だけど」

 

 いつか飲んでみたいね。そう言って久美子を見ると、美味しいのかな~?みたいな顔をした彼女が私にメニューを手渡した。

 

「ところで注文は?」

 

「ほうじ茶下さい」

 

「はーいただいまー」

 

 久美子が入れてくれるほうじ茶は例え中身がパックであっても美味しいに違いない。そう思って一口飲むと、やっぱり特別に美味しかった。……いや、これ本当に初めて飲む味なんだけど。いい腕だ幼馴染。

 

「キュートなアリス衣装がグッドなウェイトレスさーん。これどこ産のほうじ茶?超おいしいんだけど。それとも腕上げた?」

 

「あ、ごめんそれウーロン茶だった」

 

 

 

 

「――てな事があったんですよ!!さっき!!酷いと思いません!? よりにもよってウーロン茶とほうじ茶を間違えて客に出すだなんて幼馴染としてっていうより人としてどうかと思いますよね!!みぞれ先輩希美先輩?!」

 

「え? うーん、一口で気付かない方もどうかな~」

 

「…普通は匂いで気付く」

 

 駆け込んだ教室は2年生の先輩達がいるメイド喫茶だった。

呆れ顔の二人が、私が注文した品物を持ってきながら苦笑いと無表情のコントラストを私に見せている。なんて眼と精神の保養だろう。

 

「しかもオマケにッ!桃が英語言えててビビっちゃったあーとか平坦な声で抜かして!なんだその平坦な声は平坦なのは昔からお前の胸だろってツッコんだら私出禁くらったんですよ!?意味分かんない! ですよね?希美先輩みぞれ先輩」

 

「桃ちゃん」

 

「帆高さん」

 

「はい何ですか!?」

 

「それは貴女が悪い」

 

注文したミルフィーユを差し出されながらそう言われ、私はやけ食いモードへと急速に移行したのだった。

 

 

 

 

 

 



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第十六回 その2

 

 

 

 文化祭のパンフレットを見つめる。

そこには友達のクラスの出し物、上っ面だけの付き合いの友人知人のクラスの出し物。そして後輩の出し物が所狭しと書かれていた。

 

「じゃあ表で占いしてくるよん」

 

「え?表?ちょっとじゃあって何――」

 

「じゃあね~~ん」

 

 軽口を友達(我らが部長)に言って、廊下に椅子と机を出して道具を広げる。そう、この行動は二つの利点を持っている。

 第一に我がクラスの宣伝。そして何より私は行き交う人達がよく見える。気が落ち着く。良い事しかない。

 

「………さて、と」

 

『退部届は出したのかしら? あすか』

 

そんな私は。先日母に最後通牒を突き付けられてしまっていた。

 

『…まだ出してない。だって文化祭の公演とか、終わってないし』

 

『たしかにそうね。文化祭は学生なら誰しも参加しなければならない学校行事。誰がどう聞いても、悪くない口実ね?』

 

『………』

 

 ―――音楽は高校3年の夏で終わりにしなさい。それが高校入学と同時に母から言われた最初の言葉だった。それに対して、私はずっとイエスと言い続けてきた。

 

『ああ、ところで。あすか?』

 

『…………』

 

表向き、頷く。見る。この日、この人は珍しく笑みを浮かべていた。

 

『最近の世の中は便利になったものね?ちょっと検索サイトにワードを入れれば、知りたい情報と知りたくもない情報が一挙に羅列される。

 例えば今日の献立、異性同性との付き合い方、効率的な勉強方法、大学の偏差値。正に情報過多社会ね。そして―――』

 

『………』

 

まずいと、私は思った。

 

『全日本吹奏楽コンクール全国大会高校の部・審査員。進藤正和』

 

ありありと見せつけられるPC画面。そこには間違いなくそう表示されていた。

 

『何故?という顔ね。あすか』

 

『…………』

 

・・・・・。

 

『思い込みは良くないわね。なにもおかしくはないでしょう? 貴女と血の繋がった親はこの世にたった二人だけ、それはどんな人間であっても。

 そして貴女はこう思っている。―――顔も憶えていない父親に、自分の演奏を聴いてもらいたい。あの特別な銀色のユーフォを吹く姿を見てほしい。そんな子供の思考の帰結を、片親は一欠片も思い至らないのが当たり前かしら? あすか』

 

………読まれていた。思えば昔からずっとこの人は、私の思考を読んでいた。

 

『…お母さん。私、別にそんなつもりじゃなくて。音楽は。音楽をもう少し、…もう少しだけ続けさせてもらいたいってだけで、』

 

 ―――でも駄目よ。あすか。

 

そう言う母の顔と声は理性のように冷徹で、娘に有無を言わせなかった。

 

『小学校1年生の頃、貴女があのユーフォニアムを手に取って、吹きたいと私に言ったあの日から。私は必ずこんな日が来ると思っていた。父親から楽器という面影を貰い、コンプレックスを抱いて生きていけば必ずこんな日が来ると確信してた。音楽を、絶対に辞めたくないと。

 ――だから駄目よ?あすか。何故ならそんな感情は、もうこれからの貴女の成長には一切必要ないんだから』

 

『………成長』

 

『解かるわね?今の貴女なら』

 

・・・・・。

 

『退部届を顧問の先生に出しなさい、あすか。即刻。どうしても出せないと言うなら、私が書いて学校に持っていきます。それとも二人で一緒に提出しに行きましょうか。その方が、貴女は迷わないで済むでしょう?』

 

迷わせない。の間違いだろうに。私は小さく頷くしかなかった。

 

 

「………もう最後だろうねえ…」

 

「何がですか?」

 

「うん?文化祭が、もう高校3年生だから最後だなあってね~」

 

 笑みを浮かべる。目線を上げる。

思考の海から私を現実に戻した後輩の顔と声は、何故だかひどく面白く感じた。

 

「ウェルカ~ム、迷える子羊よ~~ぉ」

 

 

 

 

 

 

「ウェルカ~ム、迷える子羊よ~~ぉ」

 

「凄い衣装ですね田中先輩。流石としか言えませんよっ」

 

「え?やっぱり~?う~ん、帆高ちゃんはセンスあるねえ!」

 

「いえいえそれほどでも~」

 

 北宇治高校吹奏楽部3年・副部長。低音パート(王国)のリーダー。その田中あすか先輩とこうやってちゃんと話すのは、夏の合宿以来だった。

 …魔女っ子みたいな服装と笑顔がひどく似合っている。先程一瞬神妙な顔をしていたが、今はまるでパワポケ12秘密結社編に出てくるアマルダさんみたいだ。

 

「占い屋さんの出し物ですか?是非占って下さい!」

 

「オッケ~イ!料金はこちらで~す。未来を占ったげよっか?それとも人間関係?」

 

「う~~ん、そうですね。先輩との人間関係を」

 

「ほほう? 年上との関係かあ、帆高ちゃんもお年頃だね~。葵と喧嘩でもした?それとも恋!?もしかしなくても同じ人を好きになっちゃいましたあ~って!?大変!!?お客様のプライバシーは遵守致しますが職務規定ですので今ここで根掘り葉掘り訊かせて頂けま、す、か――!」

 

「田中先輩との人間関係を。是非お願いします」

 

「………――」

 

キョトンとする。先輩の顔は、何故か久美子に似ていた。

 

「…。どちらの田中先輩ですかな~?」

 

「北宇治高校吹奏楽部3年で副部長の方です」

 

「なるほどなるほどー、って私やないか~~い!」

 

「先輩のお陰で見つけられたんです」

 

「ちょいちょいjust a moment.どゆこと?」

 

「夏合宿の時、何かを見つけられればきっと自分の力になると先輩は教えてくれました。私ずっと、あの時のお礼を言いたかったんです」

 

「お礼は本番の演技だけでいいのに~。…それで?なんか珍しい石でも見つけたのかな?」

 

 ―――でも帆高ちゃん、自分を証明する為の道具が楽器である必要があるのかな?

 あの時この人に出会わなかったら。私は今でもそう思っている。

 

「私は私を証明する為に、皆を想って楽器を吹くという事です」

 

「わおっ、大胆な言葉だね~。そんなに力まなくていいのに。ちなみに皆って誰?」

 

「私は高校から吹奏楽を始めました。周りの人は皆お師匠さんです、恩人です。だから力が入らないなんてありえません。本当にありがとうございます、あすか先輩」

 

「………」

 

ずっと凝視していた水晶玉から眼を離して。先輩は私の眼を見はじめた。

 

「ん~帆高ちゃんもいずれ解かる事だから言うけど、同輩どころか先輩なんて、皆自分の事しか考えてないよ?」

 

「………」

 

それは独白のようにも、愚痴のようにも聞こえた。

 

「まあ何事も自分あっての物種だから、それが普通と言えば普通だけど。だからそんな私に感謝を言うのはおかど違い。パートだって違うし、晴香やヒロネか葵辺りにその言葉は言うべきだよ」

 

「それでも最初はあすか先輩です」

 

「そう?」

 

「はい。そうです」

 

「そっかそっか」

 

 少し無表情になった先輩はそう言って、けどすぐにニコリと笑った。

初めて会った時から変わらない、昔の久美子みたいなその表情。ユーフォ使いは皆、時々放っておけない顔をする。そこが良いのかもしれない。

 

「おっとぉ、いつの間にやら出ました!帆高ちゃんと私との人間関係は~~~っ!??」

 

「!か、関係は…!?」

 

「小吉!」

 

「まさかの和風!?」

 

「その通り。西洋の魔女っ子が和風を合わせ持ち最強にみえる。そして君の頑張り次第でこれから良い関係性を築けるかもなので、頑張りましょう。以上でした~」

 

「ありがとうございます!」

 

「さ、次のお客が来るかもだから行った行った。文化祭、しっかり楽しんでいってね~」

 

「はい!」

 

先輩は変わらない表情で。でも何処か嬉しそうな眼差しでそう言った。

 

 

 

 

 

 

「私のお陰、か」

 

・・・・・。

 

「そんな事、初めて言われた。誰かを想って吹くだなんて。居るんだね、そういう奏者も」

 

本当に? 本当に。

私は?   私は。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ~~~っ……今日は嵐かぁ~…」

 

「休みでよかったじゃないの。こんな日に外出歩かせるなんて正気の沙汰じゃないわ。桃」

 

 楽しい文化祭が終わり、次の日。

さあ全国へ向けて練習練習!!っと意気込んだのも束の間。悪天候のせいで学校が本日休校という連絡が届き、手持ち無沙汰な私は久美子に小テスト無くなってよかったじゃんYO!とメールを打ち始めていた。

 

「お父さんは仕事でさっき行ってきまーすだったじゃん。ストームレインかあ・・・ッとか呟いてたけど」

 

「大人は正気じゃやってけないのよ多少は。貴女にもいずれ解かるわ」

 

「そういうものなの?」

 

「そういうものなの」

 

 紅茶ない?と母に尋ねると、生姜紅茶ならあると言われたのでヤカンの沸騰を待ちながら久美子と携帯でやり取りをする。やはり暇なんだなと思ったけど、次第にそれは途絶えてきた。

 

「?実は忙しいのかな?」

 

「何が?」

 

「友達」

 

「もしかしておっこちゃん?」

 

「そうそうー」

 

「長いわね~」

 

「なんだかんだねー」

 

「まだユーフォニアムを続けているの?」

 

「勿論。自慢の幼馴染ですから」

 

笑いながらそう言うと、母は尊敬の色を表情に込めて同じように笑った。

 

「凄いわね。将来はきっと、偉大な大人になるわ」

 

 桃も負けられないわね? 

そう言われ、私はそんな彼女に追いつこうとしているのだと再認し、一際強く心が躍った。

 

 

 

 

 時は過ぎ去り明くる朝。早朝ランニングは今日もお休み。

父曰くストームレイン、のせいで出来た道路と歩道の水溜りが日光を反射して、地面に青空が映りこんでいた。

 

「空は綺麗に晴れあがりましたねー」

 

 ご愛嬌の独り言。そんな中注意して通学路を進んでいると、いつの間にか長い髪をした女性が前を歩いていた。

 …水溜まりの避け方がやけに上手い。平衡感覚がずば抜けてる。何者だろう?私は少しその人を注視した。

 

 見慣れない制服。女性のものだろう。おしゃれなカメラを手に持っている。何か珍しい物でもあるのか、ファインダーを覗き込みながら巨大な水溜まりの傍で立ち止まる。その時、

 

 ――――あ。

 

 虫の知らせともいうべき何かが私の耳を仄かに揺らす。口中の呟きが脳に届いたその時、私は全身全霊の力を足に込めていた。

 そして叫ぶ。猛スピードで角を曲がった車が水溜まりを踏むその瞬間に。

 

私達の身長を優に超える水飛沫が、その女性目掛けて飛んでいた。

 

「危ない!!!」

 

 ―――危なかった。

とっさに出た右手がその柔らかい腕を掴むと、私は自分の身体の方へ思いっきり引き寄せた。

 あまり使った事のない筋肉が悲鳴を上げ、もう離せよと訳知り顔で私の脳みそに命令するが、それをまた脳内でぶん殴ってこちらの言う事を無理矢理聞かせる。

 

「危なかったですね…、私は通りすがりの吹部部員の」

 

 口にしながら振り返って、右手を離す。だって凄く綺麗な人だったから。

キョトンとしたその表情。みぞれ先輩とも希美先輩ともあすか先輩とも違うその表情は、別に避けられたのにと言いたげな雰囲気を醸し出している。

 

でもそれは錯覚だったのかもしれない。

 

 ―――朗らかに笑う。造ってなんていない純粋なその笑みは、この人のアイデンティティなのだろう。だって一目で分かった。

 

「助けてくれてありがとう。貴女、北宇治の子?」

 

そこには自信しか存在していなかった。

 

 

 

 

 

 



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第十七回

 

 

 

昨日の夜。全てを失くして見えない雨に濡れていた。

今日の昼。命を的に、遺った夢の浮橋を追っていた。

明日の朝。チャチな私とちっぽけな吐息が思い出の中で楽器を吹く。

 

明後日。そんな先の事は分からないRTA、はぁじまぁるよー。

 

 

 え~皆様早速ですが謝罪致します。前回は個人的な(精神的)ショックにより途中で強制終了してしまい、まことに申し訳ありませんでした。走者反省に反省を重ね、猛省?猛省しております。

 

 さて初手謝罪も終わりました所で真由黒江ぇええ!!!!!何でお前がこんなところにいる!?!(千征令兄貴ガチ困惑断末魔並感)

 

 そう!こ奴こそこのゲーム最強キャラ、清良女子高等学校吹奏楽部1年(現時点)・黒江真由ちゃんです!語感がいいので真由黒江と走者は呼んでいます。

 彼女は黄前ちゃんが3年生になると北宇治に転校してくるキャラで、とてもとても魅力的なユーフォニアム奏者です(震え声)いやホントマジ無いわ失念してました。

 

 1年の段階ではこの子と接点が生まれる筈ないと高を括ってましたね。そういえば極低確率でランダムイベ、出会うなんて事を忘れていたとは走者一生の不覚(誰だよ兄貴は決意の最終楽章読んで震えてどうぞ)

 

 だがしかし!彼女を打破する事こそこのゲームをRTAする目的の一つ。

ここでホモちゃんと出会っちまったからといってそれは変わりません!(全国大会以外で)もう会う事はないでしょう真由黒江!お前のびっくり顔をコンクールで拝む時が楽しみだぜウッハハハハハハ!!

 

 ・・・彼女のルートほんと切なくて正直トラウマなんでホモちゃんお願い。彼女の思い出なんかにはならないで。ていうか私は思い出にはならないさって言え(片翼の豹変)

 

 さあ!気を取り直して楽器の練習練習!! 

・・・お?ついにあすか先輩のカッチャマが本格的に出て来ましたね。この人もまた恐ろしいキャラクターの一人です。あの和菓子屋でホモちゃんが出会った女性、それがこの大好き栗饅頭ーマン・田中明美さんです。

 女手一つで我が子をあの特別な田中あすかに育て上げた女傑と言えば聞こえは良いですが、子供の幸福はこうだって勝手に決めつけてる只の毒親だろというのが一般的な見解です。走者もそう思います。

 彼女のルートは好きですけどねターミネーターみたいで。あすか先輩はジョンコナーだった・・・?

 

 ともかくカッチャマ、これもRTAの為。

今回は見逃しますが次に会う時が大作戦発動の時。役割分担は原作通り黄前ちゃんにあすか先輩を、ホモちゃんらにはこのカッチャマを宛がい(ほぼ)同時攻略とします。マドラスとキリマンジャロ攻略戦みたいだあ。後で楽しみにしとけや(地獄の二方面作戦)

 

そんな走者の決意をホモちゃんに丸投げして今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ―――やっぱり京都は良い所だね。そう言う彼女は、空にレンズを向けていた。

 

「でも何でまたここに?清良はたしか九州の学校だよね?」

 

「今月の終わりに京都駅で演奏会があるんだけど、先輩たちが先生と一緒に下見に行くことになったの。偶々私にもお呼びがかかって、昨日日帰りで帰る筈だったんだけど――」 

 

「あ、分かった。ストームレインのせいだね?」

 

「スト? うん、嵐のせいで急遽ホテルに一泊する事になっちゃって。演奏会には北宇治高校の吹奏楽部とマーチングが有名な立華高校も来るって聞いてたから、もしかしたらと思ったんだけど。勘が当たってよかった~」

 

 清良女子高校吹奏楽部1年、黒江真由。

私の眼の前にいる、ひょんな事で出会った女性はそう自己紹介した。もちろん私も一緒に自己紹介。…一目で只者じゃないと思ったけど、まさに案の定。まさか全国大会ゴールド金賞常連の学校の子だとは夢にも思わなかった。

 

 もうじき帰らなければならないので、その前に記念として散歩がてらこの辺りの写真を撮っておこうと思った。そう、黒江さんは言う。

 心底楽しいと感じさせる笑顔が朝陽に照らされて、より一層魅力的だなと私は思った。

 

「清良の人は演奏が上手いだけじゃなく美人さんなんだねえ~」

 

「え?私、全然美人なんかじゃないよ?」

 

「いや~…それは謙遜しすぎだよ黒江さん」

 

「真由でいいよ?帆高さん」

 

「え、本当?私も桃でいいよー」

 

 笑みを浮かべる。多分、この人とは違う笑みを。さっきから真似しようと試しているけど、どうしたって真似が出来そうになかった。

 

「でも本当に桃ちゃんありがとう。さっき助けてくれなかったら、きっと先輩達に怒られてたよ。制服も濡れちゃってただろうし」

 

「急に手が出ただけで、お礼を言われるような事はしてないよ」

 

「だからだよ。桃ちゃん」

 

深々と頭を下げられる。本当にありがとうと、芯のある声で真由ちゃんは言った。

 

「何かお返しがしたいな」

 

「え?別にいいのにー」

 

「これから朝練でしょう?何か奢るよ」

 

「う~~ん…」

 

やる気満々なその表情を見て。私はその時ふと、細い首から下げられたカメラに目を止めた。

 

「あ、じゃあカメラ」

 

「え?」

 

「私の写真を撮ってほしいな」

 

「写真を撮るだけでいいの?」

 

「うん。そして出来上がったら、全国大会で渡してくれない?」

 

「それ素敵」

 

 瞬間、笑顔の色が変わる。大事な宝物を見るように。カメラを構える真由ちゃんは、はいチーズ。カチリと音が鳴った。

 

「絶対に渡すからね。桃ちゃん」

 

「ありがとう。でも本当、真由ちゃんは写真が好きなんだねえ。景色を切り取れるから?」

 

「そういう人もいるけど、私はちょっと違うかな。だって思い出を切り取るだなんて、何か変でしょ?」

 

「……思い出?」

 

変わらない表情で。彼女は言う。

 

「写真を見るとね、その時の思い出が甦るの。それが好き。 ――私ね?親の都合で今まで色んな学校に転校してたの。そこには私を慮る人、同情する人、無視する人、好きだって言ってくれた人。たくさんの友達がいた。けどそんな友達も、時が過ぎれば目の前からいなくなっちゃった。ううん、私がいなくなった。そんな昔が写真にはあるの。

 永遠なんてこの世に無いけど、もしも有るとするならそれだと私は思う。あの一瞬こそが永遠で、私はそれを作る為に生きてて、吹奏楽だってやってるの」

 

「………」

 

「あ、ごめん。なんか変な事言っちゃって。…本当にごめんね?桃ちゃん」

 

「ううん。良いと思う」

 

「…え?」

 

「とっても素敵だと思うよ。真由ちゃん」

 

 それは口から自然に出た言葉だった。

全国金の常連で、強豪校。そんな吹部部員は皆高坂さんみたいにギラギラとしてるのかなって何処となく思っていたけど、それは間違いだった。少なくともこの人は音楽しか頭にないんじゃなくて、音楽すら頭になかった。

 

「ありがとう」

 

「ね、真由ちゃんの担当楽器って何?」

 

「ユーフォだよ。桃ちゃんは?」

 

「クラだよ」

 

「桃ちゃんのクラはきっと良い音色なんだろうね。早く月末にならないかなあ」

 

「そうだねえ。でもきっと真由ちゃんのユーフォは、」

 

「?」

 

・・・・・。

 

「きっと。深い音色なんだろうね」

 

 

 

 

 

 

 こんな人が世の中にはいるのか。久々に味わう事になった真由ちゃんとの出会いからちょっと経ったある日。私は部活前に久美子と話をしていた。

 

「駅ビルコンサート楽しみだね」

 

「清良と立華が来るんだってね~。梓ちゃん元気かな?」

 

少し、目を動かす。周囲にはみどりちゃんと葉月ちゃんしかいなかった。

 

「あの佐々木あずにゃんだよ?大丈夫でしょ。――よし!さあっ練習練習!!立華にも清良にも私達は負けられないよッ」

 

「その意気ですよ!桃ちゃんっ」

 

「あ、ごめん私今日ノート係だから。職員室に行ってから部活に行くよ」

 

「え?そうなんだ?」

 

「先に行ってようよ、桃」

 

「行きましょう桃ちゃん」

 

「ノートって結構量あるよね?少し持とうか?」

 

教卓には山積みのノートがある。やはりと言うべきだろう。

 

「ぇえ?別にいらないよそんなの」

 

「困ってる人は助けましょうって、小学校で教わったでしょ?」

 

「別に困ってないんだけど?」

 

「いいからいいから。二人でちゃちゃっと終わらせてくるね~」

 

「いってらっしゃーい」

 

 

 

 

「おい。やっぱり重いじゃないか…ッ!」

 

「え?そう?」

 

「こんなの全部一人に持たせるなんてどうかしてるよ…」

 

「感謝してまーす。違うクラスの人ー」

 

 手分けしてノートの束を持ちながら歩いていく。よし、職員室まですぐそこだ。幸い扉は開いている。余裕しゃくしゃくな久美子と違い、私は腕をプルプルさせながら歩いている。なんなんだこれは。純粋な、腕力の違い…?

 

「久美子腕太くなった?」

 

「音楽室出禁にするぞ」

 

その時だった。

 

―――どうして受け取って頂けないんですか?滝先生。

 

―――受け取るつもりはありません。それが田中さん自身の意思で書かれたものでない限りは。

 

「………?」

 

「?」

 

 互いに顔を見合わせる。久美子はよく分からないといった風に。私は聞き覚えのある声が、何故この学校で聞くことになるのだろうという顔で。

 

「先生なら、高校3年の生徒にとって何が今一番大切か。解かる筈ではないのですか?」

 

「・・・・・」

 

「ええ勿論、お母様のおっしゃる通りですハイ」

 

教頭先生の苦笑いと声が、その場の空気を表していた。

 

「頭が良かろうと悪かろうと、子供には勉強の時間が必要です。十月の全国大会が終わってから勉強に専念すればいいなんて言葉は、負け犬の台詞になりかねない。解かりますよね?」

 

「勿論ですともハイ。しかしながらですね、今年の吹奏楽部の生徒達は本当に頑張っておりましてですね。この子たちの夢を、頑張りを、努力をここで大人が潰えさせるというのは如何なものかと思うわけでありましてハイ」

 

「この高校の吹奏楽部は関西大会を突破した。その頑張りや努力とやらは充分発揮されたでしょう。だから今度は学生の本分を、将来を見据えた高校3年生として全うさせて下さいと、この度直接申し上げに来たのです。母親として。おかしいですか?」

 

 職員室の一角。そこには滝先生と教頭先生、そしてあすか先輩とキャリアウーマン然とした人がいた。……和菓子の人だ。私はすぐに判った。でも一体何でここに。

 

「おかしいとは思いません。しかしその退部届は、お母さんの意思で書かれたものではないですか?」

 

「それはおかしいと?」

 

「はい。少々」

 

「そうですか。先生、失礼ですが貴方お子さんはいますか」

 

「いいえ」

 

「子育ての経験は?」

 

「ありません」

 

「そうですか。では分からないのも無理はありません。貴方方高校の教師は、大勢の生徒を三年間のみ管理成長させる義務と責任がありますが、私のような親は自分の子供を十年以上管理成長させる義務と責任があるのです。 昨今は、義務も責任も果たさず権利のみを主張する親が多くなっている傾向にありますが、私は違います。この子の将来は私が決める」

 

・・・・・。

 

「皆様方には興味も無いでしょうが、この子は私が一人で育てました。誰の手も借りずに、ここまで一人で。毎月振り込んでくるお金は親の義務と責任だから受け取ってはいますが、鐚一文使った事はありません。何故ならこの子は私の全てで、田中あすかだからです。飢えさせた事もお金に不自由させた事も未来を一緒に見なかった事もありません。

 この子が人外跋扈する魔境に、社会に出ても何とか生きていけるよう教育する。それが親なのです。生徒が全員無事卒業できるよう教育する貴方方教師とは、少し違います。そしてこの子は音楽の道でも推薦でもなく一般受験を控えている。 解かりますね?今何が必要で、何をさせるべきなのかが」

 

「ええ勿論、ハイ。お母様のお言葉は尤もですしかし、」

 

「私は本人の意思を尊重します」

 

「…!」

 

 滝先生が断言する。流石だ、と私は思った。

まるで巌のよう。梃子でも動かないし、動かせない。でも対峙するその人の表情をそっと見て、私は息を呑んだ。女性の表情は、あの和菓子屋で会った時と全く同じ顔だった。

 

「田中さんが望まない以上、たとえ誰が何と言おうとも私は受理しません。田中さんはこれまで、立派に部も勉強も頑張ってきました。高校3年時の学生の勉強が将来にとってどれだけ大事か、私は学生を経験した教師として弁えているつもりです。ですがその学校生活の努力の結果の一つが今、吹奏楽コンクール全国大会という形で表れているのです。・・・応援してあげる事は、出来ませんか?」

 

「出来ませんね」

 

冷徹にすぎるその声に。誰かの脚が震えた。

 

「あすか」

 

「…はい」

 

「今退部すると言いなさい」

 

「………ぇ?」

 

「今、辞めるの」

 

・・・・・。

 

「……。お母さん私」

 

 あすか先輩の横顔を見る。いつもとは違う、一握りの勇気に満ちたその顔を。まるで敢然と立ち向かう誰かのように、先輩は。娘は母親に口を開いた。

 

「ええ」

 

「私。部活辞めたくない―――」

 

そしてその瞬間、乾いた掌の音が娘の頬で響いた。

 

 

 

 

 

 



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第十八回 その1

悪役が本領発揮するので初投稿です。






 

 

 

駅ビルコンサートで北宇治の演奏を突然聴かせて、ビックリさせたる!RTA、はぁじまぁるよー!

 

 

 ついにあすか先輩が部活に来なくなってしまいました。吹部部員のやる気値はダダ下がりですね・・・。なんだかんだ言ってこの人がいるなら大丈夫ーって気にさせてくれる人って・・・勲章ですよぉ?まさに柱。支えるものがあってこそ柱は柱足りえるからね、しょうがないね。

 

 そんな大黒柱が居ない状態で迎える駅ビルコンサート。

果たして北宇治は清良を真由黒江をあっ・・・と言わせることができるのか? 出来るに決まってんじゃん。

 

 さてではその為の下準備。部長の晴香先輩に話しかけて彼女の演奏レベルを上げます。この時期はどのパートの子に話しかけても演奏レベルが上がるので利用しない手はありません。ただし演奏レベルを上げられるのは二人までなので、あとはトランペットの香織先輩に話しかけましょう。

 

 良いレベルだあ。

本番の全国大会ではここに覚醒したあすか先輩が加わるわけなのでもう最強コレ。てなわけで駅ビルコンサートのスタートです。

 

『あれって立華?』

 

 ! あの水色の麗しいユニフォーム。マーチングの強豪・立華高校の皆さんです。佐々木もとい梓ちゃんがいる高校ですね。栞先輩はどこ?・・・ここ?(小声)

 

 ファッ!?あれは素晴らしき未来先輩とクールビューティ南先輩!?

こんな所で拝めるとはいやいや落ち着け落ち着くんだ走者今は立華高校編ではない部長の翔子さんを見て落ち着くんだ。翔子さんはあの立華編の中で影が薄い=最強キャラという孤高の人。走者に勇気を与えてくれる。

 

 しかしながら未来先輩と南先輩は本当に良いキャラですよね(ファンクラブ会員並感)一昔前は、あの二人プライベートだとラブラブだよ派と、あの二人はいつまでもプラトニックで友情だよ派と、二人の間に挟まりてえ派の三つに分かれ混沌を極めていましたが、何故だか最後の派閥が一匹残らず根絶やしにされて今は二つしかないっていう経緯があります。まあ走者はあえて挟まってみたいなって思って昔立華編プレイしてみたんですけどね。無駄でしたが。

 

 ん?こんな時間に誰だろう宅配便かな?頼んでないしRTA中なんで無視だ無視!

 

 よし(ベネ)!カテゴリーキング清良に北宇治の凄さを思い知らせる事が出来ましたね。これでフラグが立ちました。ついにその時です。そう、あすか先輩を連れ戻すぞ大作戦発動の時です。

 

 無くてはならない人、特別な人。この吹部にとって私にとって。そんな彼女をたとえ親であっても奪う事は許されないんだよなあ・・・。てなわけで作戦開始です。止まるんじゃねえぞ全国が、待ってんだ!そんな感じで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――いつもどこにでもいる。

 

私にとって大事な人を傷つける人間が。

 

 大きな音。頬を叩かれ、グラリと身体が傾くあすか先輩を見て、私はすぐさま駆け寄った。何も考えられない私はただ寄り添って、顔を見つめるとそこには何も映っていなかった。

 

頭の中が割れる音がした。

 

 許せない。こんなの大人のやる事じゃない!私は握り拳を作ったまま前に向き直って思いきり振りかぶった。 

 

「――いつも、どこにでもいる」

 

しかし聞こえてきたのは、まるで地獄の底の主のような声だった。

 

「――自分が信じているモノだけを尊び、さもそれが絶対的なまでに正しいと盲目的に思い込んでいる未熟者(子供)が。そして往々に、間違いだと気付いた時には、いつもこう叫ぶ。何であの時教えてくれなかったんだ?と」

 

「………」

 

 言葉なんて行動に比べれば大したことない。なのに足が、全身が竦む。

化け物みたいな表情で、自分の子供の顔を叩いた母親はしゃべり続けていた。

 

「あすか、質問するわ。貴女を叩いたのは今回で六度目だけれど、過去五回において毎回私は何と言っていたか憶えている?」

 

「………。暴力を振るう理由について」

 

「続けなさい」

 

「言っても聞かない子供は、殴るしかないという乱暴な理屈を実践しているのです。しかし暴力を、家族であっても暴力を他人に振るってはいけませんという話は子供でも分かるものです。現に、現代社会において暴力を振るう者は例外なく排斥されています。にもかかわらず私は貴女に暴力を振るう。理屈を実践する。何故だか解かりますか?」

 

「………」

 

「それは暴力が、一時的ながらこの世で最も効率的な指導方法だからです。どんなに賢しい子供も大人も、殴られた時には脳を痛みだけに支配される。こんな指導法が蔓延ってしまえば、ただ短絡的に他人を殴るだけのバカ(人間)がこの先産み出され続けてしまうというのに。だからこそ現代では暴力を過剰なまでに忌避しているのです。

 しかし苦痛を知らない人間は、痛みを他者に与える苦しみも危うさも知らないバカ(人間)になる。よく覚えておきなさい、貴女が抱いた間違いと共に」

 

「正解よ、あすか。 さて?大衆の面前で子供を殴るなど母親のする事ではないかしら?貴女」

 

「………。はい」

 

私は拳を下ろして言った。

 

「何処の世界に我が子を殴りたくてぶちのめしたくて堪らない親がいるのかしら?もしそんな親がいるのなら、そんな奴は親でも何でもない只の犬畜生未満のゴミです。

 暴力を振るうというのはとてつもなく重い行為であり、親というのは常に自分を戒め続けなければならないのです。子供が犯罪を犯したら誰が警察に頭を下げる?子供が道を外れそうになった時は、誰がイの一番にその道を修正させる?」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「貴女達は知らない。本当に何も知らない。生きる事の意味も苦痛も屈辱も何もかも。知っていると思っているなら、それはただ知ったかぶっているだけ。 自分で選んだこの道をただ進む?誰にも文句は言わせません?人生に正解は無いのだから?子供は皆そう言って、そして世間一般の大人は皆こう言う。頑張りなさい、と。何故だか解かるかしら?」

 

「…選択したからです」

 

「何処の世界に子供を自分と同じ地獄以下の穴底に進ませる親がいる!!!」

 

悪魔のような形相で、目の前の大人は口にした。

 

「大人は社会の権化だと知りなさい。大人というものは、子供がこちらに来る事を今か今かと愉しみにしているのです。屈辱と怒りの表情が見たくて見たくてたまらないの。珍しいから、懐かしいから。そして全てを経験したあなたに、優しげな笑顔で今更手を差し伸べる。それが社会なのです。 ――であるなら?大人であり親である者は自分の子供をどんな大人に導いていけばいいか?」

 

・・・・・。

 

「そう。親のようにならなければいい」

 

・・・・・。

 

「その為に親は子供を管理する義務と責任があるのです。所詮カエルの子はカエル。おざなりに接していけば必ず自分と同じ道を歩む。そして思い知る。今いる場所が地獄以下の穴底だと気付いた時にはもう手遅れ。

 これが、私が娘に暴力を振るってでも音楽を続けさせない理由です。よく覚えておきなさい。管理とは、成長させる事。現状を維持する事ではありません。そして私のような親は、子供の為なら神にも悪魔にも化け物にだってなれるのです」

 

「………」

 

「・・・・・」

 

 職員室内の全てが水を打ったように静まった。恐ろしかったからだ。

それは貴女の被害妄想ですと反論する事は簡単だろう。でも誰も、先生たち大人すらも何も言わなかった。つまり全くの間違いではないからだ。

 

 私は数学の補習で教えてくれた先生ならと思って後ろを振り向いたが、生憎今この部屋にはいなかった。そして久美子は青ざめていて、あすか先輩はただ目を伏せていた。

 

 ……私の親もこういう風に考えているのだろうか。いつも私を優しく見つめる眼差しは、これから社会という名の地獄以下の穴底に突き進む様を嬉々として待っているからなのか。それともこの人のように、そうならないよう注意しているからなのだろうか。

 

「……。でも私は、」

 

「………?」

 

 ?私は? 何だろう、今私はなんて言おうとしたのだろう。

前を向く。そこには恐ろしい表情。独特な、川の流れのような視線。胃が縮む。…この空気で、この場で子供が何を言っても大人相手には通じないだろうに。でも何故か、

 

「……桃?」

 

久美子ならきっと。それは違うって思っている気がしたから。

 

「――職員室で誰が騒いでいるかと思えば。子供の将来と教育に親御さんが口を出すのは、三者面談の時と自宅にいる時のみでお願いしたいものですが?」

 

「……え?」

 

「子供は生まれた時から、子供の社会の中で頑張って生きているのです。ならば大人の社会でも同じく頑張っていけるよう応援し、信じ、教育するのが我々大人の、親の義務と責任。 そんな事も知らないのか?お前は」

 

「―――なに?」

 

 静寂な職員室内に颯爽と靴音を響かせながら歩き現れたのは。振り返ると、そこには副顧問の松本美知恵先生がいた。

 いつも通り一文字に結んだ口元。鋭すぎる視線は、でもほんの少し緩んでいた。……恐がってる?ううん、違う。何故だか私には分かった。でもそれは一瞬の出来事で、今は私とあすか先輩を護るように背中だけを見せている。

 

「―――」

 

「………」

 

 二人の大人が睨み合う。一触即発の空気。本当に怖い。拳ではなく眼だけでやり合うのが大人の本気の喧嘩なのか。そう思わせる程に熾烈な目線の合戦は、

 

「――――美知恵か?」

 

「久しぶりだな、明美」

 

まるで自分が自分である為に捨ててきた何かを。偶然見つけたような表情で終わった。

 

 

 

 

 

 

「成る程、お前がいる学校だったか。であるなら納得だ」

 

「何の納得だ?聞こう」

 

「黙ってそこに立っていればいいものを。ここの子供は活きがよすぎる。ちょうど、昔のお前を見るようだ」

 

「そう言うお前は変わったな。それがお前の証明の仕方なのか?率直に言って品性を疑う。大人気無いにも程がある」

 

「?証明だと?」

 

「己を証明すると。他ならないお前が言っていた事だろう」

 

「…一体いつの話をしている?己の証明だの自分とは何かだの。そんな思考は、親には大人には必要ない。そんな無駄な事をしている暇があればお金を稼ぐなり自分の子供の為になる何かをするべきだろうが。もう暇じゃないんだ私達は。背負っているんだ人生を」

 

「ご存じないようだな。人生を背負っているのは子供だって同じだ」

 

「ま、松本先生。お知り合いですか?」

 

 二人だけの空気を教頭先生が破る。それは絶好のタイミングだった。私はお陰で一息がつけた。

 

「ええ、…昔馴染みです。 申し訳ありませんが、今日のところはお引き取りを。田中さんのお母さま。これ以上はお子さんに酷ではありませんか?」

 

「………」

 

 和菓子の人。あすか先輩のお母さんはゆっくりと松本先生と先輩を見詰め、最後に私を一瞥した。

 

「あすか、帰るわよ。先生達にご挨拶なさい」

 

「…先生、すいません。今日部活は休ませてください」

 

「はい、・・・それは構いませんが」

 

「母と一緒に帰りますので。失礼します」

 

 あすか先輩が母親と一緒に歩き去る。そしてこの騒動のあいだ先輩は私にも久美子にも、一度も目線を合わせてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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第十八回 その2

 

 

 

「桃ちゃん大丈夫?」

 

「………え、はい」

 

「ヒロネ先輩がずっと見てるよ?ヤバイってあれマジなヤツだって」

 

「……すいません、りえ先輩」

 

 ――今日の合奏は本当に駄目だった。その証拠にヒロネ先輩がこちらをジッと見ている。無言の圧力は的確に何かあったの?と訊いているようで申し訳がなかった。

 

「では40分後にまた合奏の時間を設けます。各自パート練習に入ってください」

 

「はい!」

 

「…はい」

 

・・・・・。

 

「………」

 

「ヒロネ先輩、すいません。ちょっと頭を切り替えてきます。教室にはあとで必ず行きますので」

 

 集中できていない。こういう時は基礎練習あるのみだろう。私はお辞儀をしながら音楽室を後にした。

 てくてく歩き、人気の無い廊下で一人片手を伸ばす。腹式で息を吸って、吐く。肺の空気が一欠片も無くなるまで吐く。吐き続ける。

 

「ズウゥェアァァアアァァァァ…」

 

もっと吐いてーもっと吐いてーもっともっと吐いてー。

 

習った通りに、身体を使う。

 

「ァァァアアアァァァアアァァァァ」

 

すると瞬間横隔膜と肺が0コンマ5秒停まり、自然に息を吸った。

 

「、フーーーーーー」

 

 吹く。伸ばした片手の更に向こう。壁も何もかもを通り抜けて彼方の果てまで届くように息を吹く。

 

「……よし」

 

 脳裏に浮かぶあの人の顔がやっと消えた。気が少し落ち着く。二度、三度。駄目だ、もっとやらなきゃ。   

 

「肺活量のトレーニング?桃ちゃん」

 

「……!葵さん」

 

「ごめんね。何だか心配になって。 それ、やりすぎると脇を痛めるから程々にね?」

 

「…いえ」

 

「何かあったの?」

 

「………」

 

 今日部活に来てない副部長のあすか先輩が母親にぶっ叩かれてあまつさえ連れて行かれてしまいました。

 

…そんな事、言えるわけがなかった。

 

「何でもありません」

 

「そ?じゃあどうしてここに?」

 

「基礎は大事にしないといけませんので」

 

「こんな独りになれるベストポイントで?」

 

「…はい」

 

「そっか、分かった。じゃあ桃ちゃんに一言先輩からアドバイス」

 

「?」

 

「言いにくい事があったら部長に相談。晴香ならきっと応えてくれるよ?」

 

葵さんは笑みを浮かべてそう言った。心が少し、軽くなった。

 

 

 

 

 

 

 あかね雲が綺麗だなと思う今日この頃。陽が沈むのも、もうめっきり早くなった。凍てつく風も溜め息を白くさせつつあって、そのせいなのか私にはこの部の前途が少し見えなかった。

 

「今日あすか、来なかったね」

 

「………」

 

「晴香は。何か聞いてない?」

 

「てことは香織も聞いてないんだね。…私の所も何も無し。ラインも既読スルー」

 

「ただのズル休み、――なわけ無いよね」

 

「人間だもの。休むくらいするよ」

 

「あのあすかが部活を?」

 

「……。あすかだって」

 

 個人練習の最中。隣りに立つ香織は楽観というよりは真剣寄りの静かな眼差しで私を見ていた。

 

「………今日部活に来る前に噂で聞いたんだけどね?」

 

「? え?」

 

「誰かの保護者の人が、今日職員室に来たんだって」

 

「どういうこと?まさかあすかの?」

 

「分からない。でも凄い剣幕で先生方と話してたって」

 

・・・・・。

 

「――あすか先輩のお母さんです。先輩」

 

「!?」

 

「帆高さん…、どうして貴女が?」

 

「その場にいました」

 

「何があったか話してくれる?帆高さん」

 

「晴香そんな矢継ぎ早に」

 

「今日部活に来てない副部長のあすか先輩が母親にぶっ叩かれてあまつさえ連れて行かれてしまいました」

 

「………」

 

 スラスラと口にする帆高さんの表情はひどく無表情。でも語勢は彼女の心象を物語るように苛烈だった。対して私は我慢できずに唖然とした。

 

「あすかのお母さんが…。じゃあ仕方ないかもね…」

 

「知っているんですか?」

 

「以前にちょっと話した事があってね。あの人怖かったでしょう? でも本当あすかにそっくり」

 

「………」

 

そして同時に沸沸と、腹が立ってきた。

 

「あすかを殴ったの?その人は」

 

「はい」

 

「よりにもよって職員室で。吹部の仲間であるあすかを?」

 

「はい」

 

「私達の、友達を?」

 

「…はい」

 

 瞬間、香織が私の背中をさすった。するりとした感触に目を向けると、そこには笑顔。私は忘れていた我を思い出した。

 

「帆高」

 

そして秋風と一緒に。松本先生の声がこの場に流れた。

 

「練習中にすまないな。今少し話せるか?」

 

「松本先生。…はい、勿論ですけど」

 

「ではこっちで話そう」

 

 眼を細め、風が先生の髪と頬を撫でるのが見てとれたその瞬間、私は本能的に口を開いていた。

 

「待って下さい先生」

 

「ん?何だ小笠原」

 

「職員室にあすかのお母さんが来たって。本当ですか」

 

「…帆高から聞いたのか。その通りだ」

 

「帆高さんへの話ってその事ですよね。あすかは吹部に戻ってこれるんですか?」

 

「………小笠原」

 

「私達は全員で全国の舞台に立てるんですか?教えて下さい」

 

「………」

 

 お前たち次第だ、とも。大丈夫だとも言わない先生を見て。事態は相当マズい方向に進んでいることを私は確信した。

 

「先生。あの、先生とあすか先輩のお母さんって。…お知り合い、なんですよね?」

 

「!」

 

「それは本当なんですか?」

 

「――ああ。本当だ」

 

その瞳は何かを秘めていた。

 

「元・明静工科の吹奏楽部生。…なんですよね?先生」

 

「フフ。中世古は物知りだな」

 

 その表情は確かに何かを秘めていた。多分きっと、それは想い出なのだろう。

…何の意味も持たないと解かっている。でもあの頃を、あの日々を忘れる事は決してない。

 

追憶が、戻るはずもないのだけれど。そんな笑みだった。

 

「元吹部……?でもじゃあ何であんなに」

 

「分からん。ただあいつは本当に上手い部員だった。コンマスをも務めていたのだからそれは確実だろう」

 

「コ、コンマス…?」

 

「コンサートマスター。ヒロネと同じ立場って事だね」

 

「すごい…」

 

「あいつとは小学生からの、所謂幼馴染というやつだった。ずっと楽器一筋で常に自身に言い聞かせていたよ。―――己を証明する。

楽器を吹いて吹き続けて、いつかきっと私は私を証明する。他ならぬ自分に。あの頃の私にとって、あいつは特別だった」

 

「………」

 

「音大に進んだんですか?」

 

「そう聞いた。その後はたびたび会ってはいたが、いつしか疎遠になり行方も分からなくなっていった。まあ、それ自体は珍しくも無い事だが問題は、」

 

「そんな音楽の大先輩が今ではあすかを私達北宇治から離した事。ですね?」

 

「そうだ。しかしどうする気だ? 小笠原。お前の顔はいつものそれとは全くの別人だが」

 

「連れ戻します」

 

「晴香部長…っ」

 

「明日の放課後に臨時のパーリー会議を行います。香織、明日はよろしく。帆高さん、大変だけど今は駅ビルコンサートだけを考えて全力を尽くして」

 

「オッケーだよ」

 

「分かりましたっ」

 

「先生。貴重な話をありがとうございました。 さあ練習に戻るよ」

 

 

 

 

 翌日放課後・部活前。北宇治高校吹奏楽部パートリーダー会議用空き教室。

 

 

「――今日もあすか部活欠席だって。この時期に来なくなるなんて、何かあったとしか思えないよ…」

 

「低音パートの子に訊いてみたけど、連絡しても既読スルー。教室に行ってみてものらりくらりかわされるーだって」

 

「………マジ?」

 

「なあ。俺バカだから間違ってるかもしんねえんだけどさ、・・・これって一大事だよな?」

 

「誰がどう見たってヤバイ案件だよ。間違ってねえよナックル」

 

「やったぜ」

 

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ。あのユーフォ馬鹿のあすかが二日連続で部活に来ないなんて、この中にいるパーリー全員なら解かってる筈でしょ? ありえない事が起きてる。パートが違っても三年間ずっと同じ部活に居たんだから私達」

 

「香織。あすかは何か伝えてる?」

 

「…ううん。特になにも」

 

「香織でもかあ」

 

「………」

 

 

 

 

「――少佐!今香織が発言したとこ!」

 

「ご苦労軍曹。君にはマックの称号を与える」

 

「え?やだ」

 

「で何て言ってた?」

 

「ううん、連絡は特に何も。だって!」

 

「前言撤回。まだ議論すら始まってないじゃないの!」

 

「でもでも!まだ部長が何も言ってないんだよ!」

 

「こういうケースは前にもあったよね?みるみる」

 

「どうするんですかあ? あの人がいないと。このままじゃ全国で金獲れなくなっちゃいますよ?」

 

「……信じよう」

 

・・・・・。

 

「部長たちを。そしてあすかを」

 

 

 

 

「………」

 

「部長。何かない?」

 

「――皆。駅ビルコンサートには多分副部長は間に合わないと私は思います。なので私達だけで演奏する方向で練習していきましょう。演奏できる場は勿論全部本番だけど、全国大会は絶対に北宇治全員で演奏するように私はこれから動いていこうと思ってます。何か意見はありますか?」

 

「……」

 

「………」

 

「? どうかした?皆」

 

「ううん。何でもない」

 

「異議なし。部長」

 

「でも動いていくって具体的には?」

 

「あすかを連れ戻すだけだけど?」

 

「連れ戻すって・・・」

 

「絶対に、連れ戻す。私達の仲間を。何か問題?」

 

「――問題なしです」

 

「了解。部長」

 

「その言葉が聞きたかった。むしろ」

 

「では駅ビルコンサートについてですが――――」

 

必ず皆で全国へ。北宇治高校吹奏楽部部員の思いは一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十八回 その3

 

 

 

「桃。お疲れさま」

 

「お疲れ。久美子」

 

 駅ビルコンサートが明日に迫ったその日の部活終わり。

洗面所で顔を洗っている久美子を見つけて、私はつい足を止めてしまっていた。

 

「……?どうしたの?」

 

「ねえ、今から一緒に帰れる?」

 

「別に大丈夫だけど」

 

「相談があるの」

 

「………はぁ?」

 

 身支度を整えて外に出ると陽はもう見えなくなっていて、涼しいよりも寒くなってきた風が私達を力強く鼓舞してくれた。

 

明日も頑張れ。………けれど、

 

「あれからあすか先輩。どんな感じ?」

 

「たまに顔は見せてくれるけど。…それだけ」

 

「まずいよね。やっぱり」

 

「晴香先輩たちは何とかするって言ってくれてたけど。実際問題あの人を前にしたら何も言えなくなっちゃうんじゃないかな。桃は?」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「――ねえ。アンタ今何企んでるの?」

 

「企むって。なにそれ人聞き悪い」

 

「気付いてないみたいだけど今の桃の顔。中学の頃と同じだよ?」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「ねえ」

 

「なに」

 

「明日のコンサートが終わったらさ。私、殴り込む」

 

「ちょっと」

 

「言っても拳とかじゃあないよ。音楽でね」

 

「クラリネットで? まさかあのあすか先輩のお母さんに?」

 

「うん」

 

「他人の家庭環境に他人が無理矢理入ったって変わるわけ無いじゃん。今は先輩達が動いてるみたいだし、時期を待って慎重になるべきじゃないの?そんなの桃らしくないよ」

 

「久美子」

 

「なに」

 

「顔と言葉が全然違うよ?」

 

「―――は?」

 

言葉とは裏腹に幼馴染の顔には期待と書いてあった。

 

「実は美知恵先生から聞いたんだけどさ。あすか先輩のお母さん、昔明静工科の吹奏楽部だったんだって」

 

「!」

 

本当に?久美子は眼で訊いてきた。

 

「うん。 それでね?あの人当時は自分を証明する為に楽器を吹いてたんだって」

 

「………」

 

「私とおんなじ」

 

「…なに?シンパシーでも感じたわけ?それは違うよ桃。だってあすか先輩のお母さんはあすか先輩のお母さんで、桃は桃じゃん」

 

「そうだねえ」

 

「そうだよありえないじゃん。だってそれじゃ桃が将来、」

 

「………」

 

ああなるのだろうか。私はずっと抱えている不安を吹き飛ばすように声を出した。

 

「…今度は口だけじゃない」

 

「え?」

 

「――今度は迷わない」

 

 予感があった。ここで動かなければならないと。

 予測があった。きっとあの人は自分だと。

 

聴いてもらわなければならない。私の音楽を。今の私の音色を。

 

「久美子。私、後悔したくない」

 

「それは………、私だって」

 

「あすか先輩の事は任せたよ。憶えてる?だって私達、北小さわやか4組左右両翼だもんね!」

 

「お願いホントそれ止めて」

 

 恥ずかしがるなんてもんじゃない黒歴史を目の当たりにした顔で。幼馴染は私を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 迎えた駅ビルコンサート当日。

私は綺麗な水色のユニフォームの集団に眼を奪われた。部長の人だろうか、一心不乱に先頭を進む女性の顔が見てとれて、ああこの学校の吹部は何があっても絶対に大丈夫なんだなあと思った。

 

「あれって立華?」

 

「あ、梓ちゃんだ」

 

「翔子先輩ですっ」

 

「え?誰?みどりちゃん」

 

「立華の部長さん!同じ中学だったんです」

 

「へえ~どうりで」

 

 そして聴こえてくる立華の音色は、そのユニフォームが示している通り弾ける笑顔のような水色だった。部員の人達はみんな笑っていて、笑顔じゃなければ立華じゃないのさと音でも表していた。

 

「流石の音色だね」

 

「うーん。絶妙」

 

「良い音楽だったぁ!」

 

「だね。 あ、次は清良だよ」

 

「北宇治移動するよー」

 

「はーい部長」

 

 返事をして、私は真由ちゃんはいるだろうかと思って移動しながら目線を動かしてみたけど、残念。今日は会えずじまいみたい。約束通り全国大会で会うしかないようだ。

 

「……ぉおう」

 

 思わず唸る。

聴こえてきた音は、類稀なると表現している音色だった。以前テレビで聴いた時よりも格段に凄まじくなっている。赤みがかった蒼の色が今やどうだ、誰にも似せる事すら出来やしない月白色。

 

―――これが常連。これが常勝。この国で最も上手な吹奏楽部の音なのだ。

 

「ファンになっちゃうね、桃ちゃん」

 

「負けられませんね、ヒロネ先輩」

 

 笑顔で、力強く頷く憧れの先輩を見て。私は下腹部に力を込めて、それを全身に行き渡らせた。

 

 

 

 

 

 

 ―――全国吹奏楽コンクール・ゴールド金賞。

それを受け取り続ける事が常である吹奏楽部がもしあるなら、その吹部は現状維持をし続ける為の伝統と義務が生じるか。

 

否。断じて否。

 

「………、」

 

 その確信の証拠として、進み続ける足を止め、軽く右手を上げる。後ろに続いている同輩も後輩も全く同時に足をその場で止めた。

 

一応。副部長が声を出す。

 

「皆ストップ。―――部長?次のスケジュールがあるんだけど?もしかしなくてもここにイリスが入ったのかあとか言わないで下さいね?」

 

「これは好い」

 

 常連とは何か?常勝とは何か?認められるとは何か? 音楽の道を、今の己の道だと無理矢理にでも整合し定める事か?それが努力の正体であるのか?私達の。

 

否。断じて否。

 

「好い音色だ。ファンになりそうだよ」

 

「またいつもの奴ですか?部長」

 

「素晴らしい。なんて大きな虹色だろう。私達も負けてはいられないね。この吹部の演奏が終わるまで、清良はここで待機」

 

「はい。部長」

 

「みな凄く好いけれど、特にクラが好い。覚悟に満ち満ちている」

 

「そう書いて見える?」

 

「勿論」

 

「黄檗かな?このユーフォ」

 

「うん、いい色。友達になりたいね」

 

「個性がある。纏まっている。私の音がナンバーワンだって。最高にクールだよここのペット」

 

「オーボエとフルート、…格好いい」

 

「何処の学校だったかな?」

 

「北宇治高校です」

 

「北宇治高校か!全国がますます楽しみになってくるね。真由?」

 

「勿論です。先輩」

 

 ―――誰に認められなくとも、己が思いを貫き通す存在。高みを目指し続ける者共。それが私達だ。だからこそ、清良女子吹奏楽部は常勝なのだ。

 

 留まる事を知らず。この場の音楽全てを吸収し飲み込もうと、最強にして最優の集団は耳を澄まし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「栗饅頭をお願いします」

 

「は~~い。 あら、北宇治さん!この前の駅ビルコンサート良かったわよ~!全国頑張ってね!!」

 

「――はい」

 

予感があった。予測があった。…今日この日、私は人生で初の試みをすると。

 

「もう一つ。こちらにも栗饅頭を」

 

「あらいらっしゃいませ。かしこまりましたー」

 

「……この間はどうも」

 

「いいえ?別に」

 

横に並んだその人に。私は会釈した。

 

「…関西三強。元明静工科の吹部生だったんですね。姐さん」

 

「よしなさい。女子が姐さんなんて人前で。 美知恵から聞いたのね?」

 

「はい。驚かないんですね?」

 

「事実ですからね」

 

栗饅頭を受け取る。身体を横にどける。

 

「先生は。――松本美知恵先生は、貴女は自分を証明する為に楽器を吹いていたと言っていました。もう終わったんですか?」  

 

「とっくに終わったわ。あの子を産んだ時に」

 

「あすか先輩はあすか先輩です」

 

「そうよ?あの子は私の娘。私よりも強く、そしてより私を否定し続ける。母親は自分の枷なのだと。そういう風に育ててきたし、いるの」

 

「………一体何があったんですか?」

 

「は?」

 

「姐さんの人生で。 だって自分を証明する事は、一生を懸けるから出来る事の筈です」

 

「私のような憎い毒親の、そのバックグラウンドを少し聞きかじったら気になっちゃったのかしら?随分と御目出度い思考回路をしてるのね?」

 

「……恩人だからです」

 

「?何ですって?」

 

「あんな事があったとしても。貴女は私にとって恩人だからです」

 

「面白いわね貴女」

 

・・・・・。

 

「いつか、いつの日か私はその辺の石ころじゃないって事を証明する。誰でもない自分自身に。

 貴女のような未熟者は皆そう考えて、生きて、でもふと、ある日気付く。――変わっていく現実を。社会には勝てないと。世の中には、どうあっても覆せない理があるのだと。全てはそれだけの事よ」

 

「あすか先輩を部に復帰させて下さい」

 

「必要ないわ」

 

「必要です。私達にも先輩にも」

 

「直接訊いたのかしら?」

 

「訊かなくても分かります」

 

「その心は?」

 

「同じ吹部にいるから」

 

「フっ、フフ。同じ、吹部?フフ、貴女は、他人の思考が読めるとでも言うのかしら?」

 

「読めなくても分かります。皆で一緒に音を合わせて奏でているんですから」

 

「他人の思考なんて分かる筈ないわ。分かると錯覚してるのなら、それは指導者のお陰。

 よく人の上に立つ人間は下の者に向かって、あなたの思考は手に取るように分かると言うけどそれは嘘。私達は他人の思考を予測しているのではなく、思考を指定しているの。貴女達の吹部顧問のように。そして貴女のそれは、その年齢特有の万能感がもたらす勘違いよ? 正しなさい」

 

「あすか先輩の音色を聴けば解かります」

 

「解かるわよ?あの子の今のユーフォは亜麻色で、大層つまらない。前に言ったわね?音楽は傷む。腐る。人間(ナマモノ)が奏でているから」

 

「いいえ。涅色です」

 

「?」

 

「あすか先輩の本当の音色は涅色だと。そう私は聴こえました」

 

「………。なんですって?」

 

それは私が初めて見る、この人の驚愕の表情だった。

 

「全国で演奏を聴きにくれば解かりますよ、姐さん。 でもその前に、」

 

私は手に持っていた楽器ケースを見せつけるように前へと突き出した。

 

「私の演奏を聴いて下さい」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「貴女の家の前で吹いてでも。聴いて貰います」

 

「気持ちが悪い上に騒音被害。立派な犯罪行為ね?」

 

「………それでも私は」

 

「――?」

 

息を吸う。全身全霊を、言葉に込める。

 

「私は。このクラと一緒に、アイツに追いつける自分になるんです」

 

 眼前の大人の瞳の色が、刹那、変わった。それは美知恵先生に会った時と同じ色だった。

 

「ご挨拶が遅れました。改めまして自己紹介を。私は北宇治高校吹奏楽部、クラリネットパート1年・帆高桃です」

 

「………」

 

「どうか。貴女の名前を教えて下さい」

 

・・・・・。

 

・・・・・。

 

「田中あすかの母、田中明美よ。ガキ」

 

 この人に認めさせなきゃ、ゴールド金賞は獲れない。こうして私は生涯初めての、宣戦布告を行ったのだった。

 

 

 

 

 

 



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第十九回 その1

キャラが勝手に動いたので初投稿です。




 

 

これが諦めないって事だああああRTA、はぁじまぁるよー!

 

 

 ついにあすか先輩を取り戻すぞ大作戦が発動しました。恐ろしい相手であるあすか先輩のカッチャマから果たして北宇治吹部は先輩を取り戻す事が出来るのでしょうか・・・。出来るに決まってんじゃん(揺るがぬ意志)

 

 だって走者やるもん!カッチャマの目の前で絶対絶対楽器吹き鳴らし続けて勝ってやる!諦めなければやれる事見せてやるんだ!

 

 その証拠に既に手筈は整い段取りも完了ですので後は何とでもなる筈だ!スキップするだけで終わり!閉廷!以上おかえり!あすか先輩!

 

さあホモちゃん!走者に勝利の証の選択肢を!プリーズ!!

 

『それでもこの楽器を手にしていられたなら』

 

来た来たこれを・・・ってあれ?ここの選択肢こんなんだったっけ?

 

『吹き続けていられたなら』

 

???え?え?

 

『他人事じゃない人生で初めて』

 

『………』

 

う、上?

 

『私はその辺の石ころじゃないって事を証明できるんだ』

 

 ちょっとマジでこれゲームディスク間違えてないよね?こんなんしゃべりだす高校1年生がいたらやべえ奴だと思われるよ応援するけども。

 

 ま、まあとにかくステータス画面を確認です。あすか先輩の演奏レベルは・・・・・3!(ダディャーナザン)

 

 じゃなかった3倍です!凄い・・・こいつはカッコいいな!(語録無視)

 あすか先輩を連れ戻すぞ大作戦は大成功です。当代北宇治高校吹奏楽部左右両翼の覚醒は成りました!

 

 ちなみにですがこの左右両翼という名称は走者が勝手に名付けているだけです。

 このゲームはどの年代にも二人だけプレイヤーより演奏レベルが常に1だけ上回るキャラがいて、今回はみぞれちゃんとあすか先輩でした。

 

 捕捉ですが黄前ちゃんが2年生の時にはみぞれちゃんと傘木さん、3年生の時には高坂さんと秀一兄貴になります。これらキャラには演奏レベルが3倍になる覚醒パワーアップイベントが必ずあるのでRTA御用達のキャラともいえますね。

 

 2年次3年次ともに面白いこと間違いなしです。まあ走者は走りませんが。だれか走って(はあと)走者も走ってんだからさ(豹変)

 

 それはさて置きこれで北宇治吹部は清良女子に匹敵するほどの演奏レベルになりました。全国大会まではまだ日があるのでこれよりは練習練習!!あるのみです。

 

 体力とやる気に注意し、ヒロネ先輩と一緒に練習を忘れず、たまにコーヒー(ウド)を飲んで、自分と周りの音楽に毎日耳を傾けてセンス値を磨いて、と。

 

 ―――さあついに来ました!

吹奏楽コンクール全国大会。次回でこのRTAは終わりにできると思います。ま~だ時間かかりそうですかね~?(煽り)

 

 まま、そう焦んないで。

RTAに正解なんて無いですが、どの走者にも有るのは只一度も先頭を譲らなかった事実!を、偉大なる先駆者兄貴たちに倣って走者も皆様にお見せできると思いますので今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あすか先輩を連れ戻すぞ大作戦。…ですか?」

 

「うん、そう。あ、作戦名を考えたのは私じゃないよ。香織先輩」

 

 居残り練習をしようとした空き教室の片隅。西日照らす真剣な表情の先輩が口にした言葉を、私は腑に落とそうとしたんだけれどもやっぱりというか少しも出来なかった。

 

「…あ~…なるほどぉ。でも夏紀先輩、あすか先輩のお母さんってホント怖い人なんですよ?先輩に誰とも会わせないんじゃ、」

 

「それでも。私達北宇治高校吹奏楽部にはあの人が必要なんだよ。久美子ちゃん」

 

「それは………。はい」

 

「このメモの通りにやれば大丈夫!」

 

「え?メモ?」

 

―――駅前幸富堂の栗まんじゅうがいちばんオススメだよ!

 

「わぁ、可愛い字ですね~。 何ですか?これ」

 

「あすか先輩のお母さんの好物なんだって。これさえ持っていけば万事オッケーっ」

 

「本当にそう思ってます?」

 

「――え?う、うん」

 

「私の眼を見て言ってみて下さい」

 

「…オッケー………」

 

「はぁああぁぁ……。気が重いですよぉ、私にあすか先輩のお母さんを説得してこいって事ですよね?そんな事出来るわけが、」

 

「大丈夫。出来るよ、久美子ちゃんなら」

 

「どうしてそう思うんです?」

 

「だって久美子ちゃんは持ってるから!」

 

「え?一体何をです」

 

「色んな問題をクリア出来る能力だよっ! 

明日の放課後、晴香先輩は部活を休んであすか先輩の家に行って先輩のお母さんを説得するから、久美子ちゃんも一緒に行って説得してほしいんだよ。お願いっ!」

 

「は?え? 待って下さい何で明日なんです?」

 

「明日の夕方ならあすか先輩のお母さんは確実に家に居るからだよ」

 

「何でその事を知ってるんです?」

 

「香織先輩情報。あすか先輩関連の事なら何でも知ってるからね」

 

「それは……流石ですね…」

 

「でしょ? それで、どうかな。やってくれる?」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「あ、あれ?もしかして本当に、ダメ?」

 

「ああ、いえ。夏紀先輩は聞いてないんですか?」

 

「え?何が」

 

「桃の事です」

 

「帆高ちゃん?」

 

「あすか先輩のお母さんに一人で会いに行くらしいですよ」

 

「ゑ?」

 

「ですからアイツあすか先輩のお母さんに、」

 

「待ってちょっと待って。行動はともかくワケを言って。何であの子が忠臣蔵よろしく討ち入りしようとしてるの?一人四十七士なの?」

 

「やっぱり聞いてないんですか?」

 

「今初めて聞いたよ…。晴香先輩も知らないんじゃないかな……。その帆高ちゃんは?」

 

「あ~…、そういえば今日は珍しく居残り練習しないでさっさと帰っちゃいましたね」

 

「! まさか」

 

 

 

 

 

 

 銀色のキイに黄昏色の太陽光が反射して、眩しさに眼を細めるその視線の先にあすか先輩のお母さんは立っていた。

 

 現在地は和菓子屋さんから少し歩いた川の見える小高い場所。…断られると思ったけど、この人は私の後を付いて来てくれていた。

 手提げの楽器ケースから取り出したクラリネットを見つめながら、悟られないようにして、私は深く息を吸う。

 

 

『―――え?人を感動させる演奏をしてみたいの?桃ちゃん』

 

 宣戦布告をした今日のお昼休みの時のこと。

私は学校の廊下でばったり出会った一人の先輩に問いを投げていた。居ても立ってもいられなかったからだ。

 

『私じゃなくてヒロネ先輩に訊くべきじゃない?フルートパートだよ?私』

 

 貴女の演奏にはいつも感動しているからですと返すと、ポニーテールが綺麗な希美先輩は静かにお辞儀をして変わらず笑顔で私に言った。

 

『それは嬉しいな。ありがとう。――でもね?そういうのは教わったとしても、桃ちゃんには身に付かないと思うよ?』

 

何故ですか。

 

『技術で感動する人もいれば、聴いた音楽を自分はこうこうこうって解釈して感動する人もいる。単純に音が良いからって人もいる。つまり感動っていうのは、音楽と一緒で自由なんだと思うんだよ。受け取り方、聴いた人次第で無限に広がり続けるんじゃないかな』

 

それはつまり。誰かを感動させたいなんて考え自体が間違いって事ですか?

 

『それは間違いじゃないよー。そういった想いや感情があるから音には色とか重さが生まれるんじゃない? 清良の音楽なんて正にそう。あれは凄い音色だもの。北宇治だって負けてないけどね』

 

・・・・・。

 

『それでも誰かを感動させたい。――認めてほしい聴いてほしいと思うならね?桃ちゃん』

 

はい。

 

『今の自分の想いも含めた全力を音に込めるしかないよ。まあそれが、私達にとっては一番難しいんだけどね』

 

 

 ―――記憶の想起が終わる。足に力を込める。眼前に見える恐ろしい大人は、心底くだらない物を映しているような瞳で私を見ている。決めつけている。それを覆す。

 

「お願いします」

 

 勝負は、今。ここ。恐らく演奏は一度きり。次はない。

今の自分が出来る最も自信のある演奏をこの人に。最もミスをしないだろう演目をこの人に?

 

………いや、今は違う。

 

「聴いて下さい」

 

 過去現在未来。全てを含めた全力を。自信も私も何もかもを、今ここに。楽器に。

 ――その為に自分は生きていたのだと。明日も明後日もそんな先の事なんて分からないけれど今までは。そう、私の今までは今日この時の為にあったのだと。

 そして全てが終わった時、もう何もかもが真っ白になって燃え尽きて、それでもこの楽器を手にしていられたならきっと。吹き続けていられたならきっと。他人事じゃない人生で初めて、私はその辺の石ころじゃないって事を証明できるんだ。

 

 だから響け。

 

 固くなっている肺と胸を深呼吸でほぐし、眼前の大人を眼に宿して私はゆっくりと楽器に息を吹き込んだ。込める想いは、これからも今も只一つだと信じて。

 

 どうか響け。

 

 

 

 

 



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第十九回 その2

 

 

―――立ち姿とマウスピースのリガチャーと、リードの位置をみて実力を看破する。

 

「聴いて下さい」

 

 嫌でも聴こえてきたその音色は幼すぎて、稚拙に過ぎた。

これが私と言っている。奏でている。ただそれだけのうるさい音色。全国大会出場の吹奏楽部員の物だとは思えない、まるでゴミの吹き溜まりのような音だった。

 

――何度も見てきた。

 

 それで?それが一体どうした?と言ってほしいのだろう。

それとも後は腐るだけの生物(ナマモノ)の多様性でも示しているのだろう。

 それがこの先何の役に立つ?心底くだらない。

 

――何度も聴いてきた。

 

 私の音楽の全ては今ここに。そう定めているのだろう。

しかしそれは続くか?これからも。今やってやったとして学生の時分が終わった後には一体何が残る?なんにも残らない。終わったものは続かない。

 

―――だからこそこの奏者は止まらない。

 

 ここで立ち去っても力づくでも、この音色は止まらない。騒音・迷惑なんていう言葉を脳から無くして奏で続けるだけ。

 今だけが永遠。時間が終わるまでそれだけだと示している。信じている。

 

何故か。 

 

「――見つけたから」

 

 それでいいのか?と訊かれれば、いいと答えられる何かを。だからガキなんだと、言い返される何かを。

 

「肺活量だけは褒めてあげるわ」

 

 今がこの子の全盛期。

であれば集中している人間を邪魔する必要もないので、音を立てずに私はその場で踵を返した。傷み腐るだけの音など、これ以上聴くだけ時間の無駄だ。

 

 一歩一歩踏みしめて歩く度に楽器の音色のボルテージが上がる。

止まらない。振り返らずに道を進んでいるというのに、時よりこちらの手を引いてきて、こっちを見てほしいと言ってくる。どうだ、と。やり遂げてみせるから、と。気持ちの悪い事この上ない。振り払っても振り払っても何処までも付いてきて離れようとしない。本当に。

 

―――心底。

 

「―――、?」

 

 何かの異音と同時にクラリネットの音色がついに止んだ。

ハッとして後ろを振り返ると、そこには子供が倒れていた。楽器と腕を庇った形で。

 

「…何をやってるんだか」

 

 いつの間にか止めていた足を、過呼吸でぶっ倒れたガキの所まで運ぶ。

見下ろして、膝を折り、気道を確保させる。幸いにも呼吸は安定になりつつある。そのまま近くのベンチまで運んで、楽な寝姿をとらせた。

 

「過呼吸で倒れる前に自分で律しないと駄目でしょうに。馬鹿なの?貴女」

 

返事はない。しかしこのまま安静にしていればすぐに目覚めるだろう。

 

 ―――何度も味わってきた。何度も倒れては立ち上がってきた。この先にこそ求めるものがあるのだと信じた。その結果が、

 

「馬鹿よね、貴女」

 

背中をさする。かつて、自分がそうされたように。

 

 

『ずっと応援しているよ。明美』

 

『…ありがとう』

 

 

 ふと込み上げてくる、一つの会話。今思えば、それがアイツと会って話した最後の会話だった。

 

 

 

 

 

 

 居残りで練習している生徒たちの奏でる音色をBGMにして、校舎を出ると陽はもう陰ろうとしていた。

 

 外に出ても聴こえ続ける音色は綺麗で華麗な十人十色。その音は皆上手く、塩梅よく、何より力に満ちている。あの頃の自分のように。

 などという思考を今も持てる程若輩ではないけれど、不思議と今日は自然に笑みが浮かんだ。

 

「松本先生。さようなら」

 

「ああ、さようなら。充分気を付けてな」

 

 

『美知恵。私、音大に進む事になったよ』

 

 ――眼と眼が合うだけで解かる確かな事が当時の私には有った。

コイツは絶対に大丈夫だと。どんな道を選び進んでも、きっとコイツは全うできるという確信が根拠も無くあの頃には。

 

『あっそ。よかったじゃないか』

 

『…激励の言葉はくれないの?』

 

『今更要る?そんな只の言葉』

 

『要る』

 

『明美なら大丈夫よ』

 

 いつの間にか再生される自分勝手な郷愁という名の感傷。夕暮れは、懐かしむ私の足を急かせていた。

 

『ご無沙汰。最近音大はどう?』

 

『え?……どうって?』

 

『? 久々に会ったのに元気ないな。明美のクラ、また聴いてみたいんだけど?』

 

『………』

 

『? どうしたの?』

 

『実は、さ』

 

・・・・・。

 

『…気になる人が出来た』

 

『へ~、どんな人?』

 

『ユーフォが凄くてさ。なんか…気になっちゃって』

 

『今までずっとこっち何の脈もなかった明美に春が来たかあ~。なんだかワクワクする』

 

『ワクワクって。何でまたアンタが?』

 

『………』

 

 お前は私にとって特別だから。我が事のように嬉しかったから。そう言えればよかった。あの時も、そして今も。道草が、無言で私の足を撫でていた。

 

『ずっと応援しているよ。明美』

 

『…ありがとう』

 

 

「………ここは変わらないな」

 

 十年以上経っても変わらないここには、今も私に初心を忘れさせないでいてくれる景色がある。北宇治高校に赴任した日に見つけた、川が見える小高い眺めの良い場所。でもそれは過去を思い返すという事でもあり、言ってしまえば不毛でもあった。

 

「……老けていたな。あいつ」

 

 ―――互いに会って話したあの日から、私達は忙しい日々が続いた。

連絡は日に日に少なくなり、ついには途絶え、気付けば私は大学を卒業し社会人になっていた。

 右も左も分からない社会の厳しさという名の現実、社会人同士のやり取りという名のルーチンワークとアドリブ。忘れてました等と言ってはならない立場、生徒達との接し方、一つ一つ覚えていく難しさ、そして楽しさは私の精神を子供から大人に移ろわせた。 その証拠に昔の自分が、もう遠く赤の他人に見えた。

 

「…お互い様か」

 

 二十年以上前のあの頃と比べ、見る影もないあいつの表情。鋭い瞳。背筋。大人になってからの再会は劇的な物だった。どれ一つとってみても、幼馴染はもう別人になっていた。

 

「………なのに何故わかったのだろうな」

 

 緩やかに、しかしずっと流れ続ける川を眺める。時々流れに逆らい足を止めてみる。声にならない声が聴こえてくる。すると何処からか、クラリネットの音が響いてきた。

 

「? この音は――帆高か」

 

 今までのそれとは幾分違う確かな音色。こんな時間に生徒が一人でいると思うと気が気でなかったので、私は足早に音の発生源へと歩き始めた。

 

…そこには。

 

「…明美か?」

 

「――妙な所で会うな。お前とは」

 

そこには寝ている生徒と、かつての幼馴染が居た。

 

 

 

 

 

 

「――妙な所で会うな。お前とは」

 

「帆高をどうした」

 

「早合点するな。勝手に過呼吸で倒れただけだ」

 

「…そうか」

 

そう言って、幼馴染はベンチの端に座った。端と端。子供を挟んで。

 

「…老けたな」

 

「お前こそだろう」

 

「過呼吸でとはな。まるで昔のお前だ」

 

「そうだな」

 

「あの頃は皆輝いていた。先生にも恵まれ、友にも恵まれ、未来にも恵まれていた」

 

「嘘を言うな。あの中でお前はただ惰性で続けてただけだろう」

 

「そうだな。だがそのお陰で眼を離すとそこらでぶっ倒れてしまう誰かさんを、いつも介抱することが出来ていた」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「明美。一つだけ答えろ」

 

「そんな暇はありません、北宇治高校の先生。娘が家で待っていますので失礼します」

 

「お前。クラリネットはどうした?」

 

「…………」

 

・・・・・。

 

「今はもう。吹いていないのか?」

 

「捨てた」

 

「―――は?」

 

「もう、捨てた」

 

「それは嘘だ」

 

眼が合うと、そこには懐かしい顔をした大人がいた。

 

「とっくの昔に捨てた。今頃はもう海の藻屑だ」

 

「お前がクラリネットを捨てるなんてありえるわけが無い。だってお前はずっと、」

 

―――まるで子供だ。

 

「ずっと、私の特別だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 



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第十九回 その3

 

 

その眼が嫌いだ。

 

「ずっと、私の特別だったんだ」 

 

 この歳になっても、こんな事を恥ずかしげもなく言えるこの顔が。何故この大人は今も変わらずそんな眼ができる。

 

 ずっと、ずっとだ。初めてこいつと会った時から変わらない。憧れとも理想とも違う不可思議で息苦しい何かを宿した眼。隣りで寝ているガキと同じ眼。

 

あの日、楽器を抱えた娘と同じ眼が心底嫌いだ。

 

 

『――あすか?どうしたのそれ』

 

『…宅配便で今日きた』

 

『見せてみなさい』

 

『…はい』

 

 娘が楽器を手に持ちながら瞳を輝かせて、でも断られるだろうなという目付きで私を見ていたのは、娘が小学1年生になった頃だった。

 

『これって楽器、しかもユーフォニアムじゃないの』

 

 誰から?とは訊かなかった。こんなものを送ってよこす人間は一人しかいないからだ。

 一緒に暮らしていなくても腐っても父親とは親でありたいらしい。元夫はあろうことか、今更こんな物を送ってよこしていた。

 

『お母さん。私、これ吹きたい』

 

『え?駄目よ邪魔でしょう?こんな大きいだけの粗大ゴミ。捨てるからよこしなさい』

 

 習い事は多い方が良いが、これだけは別だ。そう思った私は手を伸ばして楽器に触ろうとした。

 

『―――お願い。お母さん』

 

だが娘は予想外の言葉を放ってきた。

 

『私どうしても。この楽器吹きたい』

 

『………』

 

 それは小学1年生の子供の眼ではなかった。

心の琴線に触れたとしか言いようがない、人生の指針のようなものを得た人間の眼だった。なので私は懇々と言って聞かせた。

 

『聞きなさいあすか。今の貴女は楽器という未知を知って心が弾んでいるだけなの。

解かる?ただ単にワクワクしているだけなの。そしてそれは今だけ。本当に今だけなの。

 近々貴女はこれを要らないと、捨ててとお母さんに言う日が来る。だったら最初から持たなければ面倒が無い。諦めきれるものなんて、人間の人生には要らないの。解かる?あすか。コレは貴女に幸運も幸福も与えてはくれないの』

 

『………』

 

娘は眼をパチパチさせて、けれど私から逸らす事なく言った。

 

『吹きたいの。お母さん。私、吹き続けたいの』

 

 ………愕然とした。その表情には、雰囲気には見覚えがあったからだ。

何かを信じて疑わないその姿。幼馴染と同じその瞳。クラリネットを吹き続けると決め、音大に進むと親に宣言したあの時の自分と。

 元夫と出逢った、大嫌いなあの頃の。

 

『そう。じゃああすか?お母さんと約束できるのなら、吹いてもいいわよ?』

 

『…本当?』

 

『ええ勿論。お母さんは冗談が苦手よ。ただ貴女はその代わり勉強を頑張らなければならないわ。これから一つでも、テストで点数80点以下を一つでも取ったらそのゴミは即刻捨てる。いいかしら?』

 

『分かった。いいよ』

 

 矢のような言葉が返ってきて、私は確信した。

顔も憶えてないだろう父親の面影を、きっとこの子は追い求め続けると。強くなると。何があっても私に反発してでもやり続けると。

 

同時に、きっと高校生あたりで腐ってくると。

 

『やってみせるよ。お母さんみたいに』

 

反吐が出そうな表情だった。昔の自分を見るようで。昔の自分になるようで。

 

 

 

 

 

 

「帆高?」

 

「………」

 

 気持ちの悪い回想を打ち切ってくれたのは、またしてもガキだった。ベンチから起き上がり、立ち上がり、空ろな眼で見渡してはクラリネットを手に取る。そして、

 

「安静にしていろ、帆高」

 

「………」

 

息を吹き込む。音色が夜の闇と木々と、私達の間を木霊する。

 

「………」

 

 理解する。やはりこの子供は絶対に自分からは止まらない。これは勝負なのだ。私と貴女と、私と私の。今ここでもそれをやらなければきっと後悔する。迷う。自分が自分で無くなる。

 

「………やめなさい」

 

・・・・・。音色は止まない。

 

「もういいから。………やめなさい」

 

 あの日。娘に条件付きで許可を出したあの日の夕暮れ時、私は独り川辺に来ていた。

 ちょっと出てくるから戸締りしっかり留守番していてねと娘に言うと、娘は勉強をしながら返事をした。

 

「もう…いいから」

 

 川の流れは緩やかで、しかし留まってなどいなかった。

右手に持つハードケースを握る力を緩めて、私は中身を取り出した。年季の入ったクラリネットが、いつもそこにはあった。

 

「明美?」

 

「吹くのをやめろ」

 

 押入れの奥底に隠していた、今や娘にも誰にも言っていない聴かせない私の楽器と音色。それは今までどうしても捨てられなかった過去という名のメロディーだった。

 

 川辺でこうやってひとしきり吹いて、私は小学生から大学まで。いや、今の今までの人生を振り返りながらクラリネットを吹き続けた。通行人なんて気にしなかった。こんな風に。

 

こんな風に。

 

「やめろ」

 

 良い想い出だった。悪い想い出もあった。自分はしっかり生きていたのだと、はっきりと解かった。音色がそう言っていた。

 あの子が産まれた時、私はこの世のどんな人間よりも幸運だと知った。今まで生きてきて良かったと、自分で自分を褒めた事すらあった。そんな事は私の人生で初めての事で、

 

「やめろ」

 

 ―――だからこそ。私の音色はもう腐っていた。傷んでいた。

腐るんだ。ガキのお前も大人の私も誰もかも。私は最後に、もうずっと会っていない大切な幼馴染の顔を想い出した。

 

想い出の中のその顔はずっと。ずっと変わらないままだった。

 

「やめろ」

 

『………美知恵。私はもう、特別になんてならなくていい』

 

・・・・・。

 

『娘が特別幸せになれるのなら』

 

 そう最期に言って、私はクラリネットを川へと投げた。

もう過去は要らない。神にも悪魔にも化け物にだってなる為に。親になる為にあの子の為に。

 

こんな風に、想い出さない為に。

 

「だから楽器を――――、吹くのを止めろ!!!!」

 

 音色を忘れる為に、前に進む為に。

取り上げる。美知恵の手を振り切ってかなぐるように。すると手と音色が空中に留まり、一人の奏者の眼が私を捉えた。

 

かつての自分がそこにいた。

 

「クラを返して下さい」

 

「必要ないわ」

 

もう二度と。

 

「私は吹き続けるんです。追いつく為に」

 

「もう追いついているわ。貴女のその音色は」

 

「まだです」

 

「とっくの昔に」

 

 察する。この子はまだ正気じゃない。夢うつつだ。そんな眼をしている。何かが見える。瞳の奥に。

 

「この先、貴女は自分の音色を聴いて後悔するわ。傷むのよ、腐るのよ。それが解かるの。だってそうやって私も誰もかも自分の楽器を、音楽を諦めたのよ」

 

「まだです」

 

「吹奏楽部の部員なんて全国に何十何百何千といる。でも楽器を吹き続けられるのは、吹き続けているのは一体何人? 皆諦めていく辞めていく。それが何故か分かるか」

 

「まだです」

 

「理解するからよ。もう自分の音色は傷んだと。あんなにも綺麗だった信じた音色が今はこんなにも腐っていると。差とはそういう事なのだと。世の年月とは決して前向きに未来だけを見るような子供じみた理屈ではなく、横たわり取り戻せない過去しか無いのだと」

 

発露した想い出がそっと、私に対して口を開く。

 

「―――まだです」

 

「人は綺麗なうちなら想い出にはならないの。傷み腐るから想い出になるの引きずるの。そんなもの要らないでしょう?………貴女の人生には、」

 

「まだなんです。私は、」

 

「そう思えた時点で貴女は特別なの。だからもう―――もういいでしょう!!!!」

 

―――それでも。

 

「………まだ終わってないんです」

 

―――まだ証明してないんだと、眼前の奏者は我慢せずに言った。

 

「全てが終わった時、もう何もかもが真っ白になって燃え尽きて、それでもこの楽器を手にしていられたならきっと。吹き続けていられたならきっと。他人事じゃない人生で初めて、」

 

「………――」

 

 言葉が聴こえる。何かが見える。見覚えがダブって想い出に、想い出が過去に。そして、過去が。

 

「私はその辺の石ころじゃないって事を証明できるんだ」

 

 だから返してと、子供は言った。決意と虹色の炎とで滲んだ瞳で。それは熱かった。…綺麗だった。

 

『ずっと応援しているよ。明美』

 

『…ありがとう』

 

あの頃はずっと、ずっとこの中に。

 

 

『だからきっと証明してみせて。アンタが、その辺の石ころじゃないって事を。いつか』

 

 

「………」

 

 手渡す。受け取り吹いて、また倒れこむ。今度は倒れる前に両手で支えた。

だって何度も味わったし経験したから。地面は痛い。これしか知らなかったし、信じていたから。こんなガキがいつも、

 

「バカよね。ホント子供って」

 

「お互い様よ。明美」

 

こんなガキが。いつもここに。

 

 

 

 

 

 



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第二十回(最終)

 ここまでお読み頂きありがとうございます。
お陰様でこの妄想話は次で完結です。RTA風小説の先駆者兄貴達に百万の感謝を。そしてここまで読んでくれた皆様、お気に入り登録や評価をしてくれた皆様、感想を書いてくれた皆様、本当にありがとうございます。

 
皆様方に、天下無敵の幸運を!







 

 

 

(何だよこのゲーム全然終わらねぇぞ)離さなああい諦めたくなあああいRTA最終回、はぁじまぁるよー!

 

 ぬわーん疲れたもおおおお!!!

前回はあすか先輩を連れ戻すぞ大作戦が終了し、全国の舞台に北宇治吹部が足を踏み入れた所さん!?まででした。・・・・(正直ほんへ)長い、長くない?

 

 しかし走者は真由黒江じゃなかった数多の強敵を打倒し最後までRTA走者として、責任を果たしていきたいと思います。さあやってやりましょう。

 と言いつつ、あとは一回こっきりの合奏をして終わりだからね。パパパっとやってスキップして、終わり!

 

いつも通り。それを心がけて行きましょう。ガバらない限り走者に負けはありませんのだ。

 

 ん?油断?なんのことかな?これは余裕というもんだ!(CCO様リスペクト)

 

さあ!いざ!決戦の舞台へ!!

 

 

 

    全国吹奏楽コンクール大会・頂上 

 

  響け!ユーフォニアムゴールド金賞RTA

 

       第20/20回

 

 

 

 (全国大会の舞台に)来たっ!?来たなぁ!?!

ムービーをスキップアンドスキップし、早速北宇治の演奏番が来ましたね。

 

 ここでは今RTA最後のステータス画面チェックと行動が選べます。レベル的に北宇治は清良を凌駕していますが、あとはやる気値です。・・・・みんな絶好調!!?

 

え?ここまで練習やりまくってきたの?

 

 やりますねえ!!

であれば後はホモちゃんに栗饅頭を食べさせればもはや準備&工事完了です。清良女子を筆頭に全国の常連、及びここまで進んだ吹部が目白押し。この画面は感無量ですね。

 

 ・・・今まで何度もこの画面まで進んだ事はありましたし勝ったり負けたりもしてきましたが、今回はちょっと感情的になりますねえ!

 なんかこう、私情が芽生えてくる(走者にあるまじき情け)

 

『やってやろう。久美子』

 

 ・・・北宇治高校吹奏学部は今日まで、正々堂々と力の限り練習してきました。

誰にも恥じない立派な演奏を続けて、ここまで辿り着けたんです。走者はそんな北宇治を、誇りに思う。自信を持て。お前たちは最高の奏者だ。

 

 いいか、今まで手助けしてくれたBメンバー・チームもなか11人の為に。先生の為に。そして、今まで頑張ってきたお前たち自身の為に。

 

『今日は勝つんだ!』

 

今日は勝つんだ!!!!!

 

 てな感じで気合を入れたところで、さあ画面が切り替わりました。

(いつもの)ミニゲーム特有のアラーム音。曲がランダムで二曲選ばれます。今だから白状しますけど心臓に悪いよこれホント。

 

 ――我、生きずして死すこと無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔とともに死すこと無し。Are you ready? 

 

 出来てるよイクゾおおおおおおおおおおおおおお!!!ダイナモ感覚!ダイナモ感覚!YO!YO!YO!YEAH!!

 

 

 テーレーレーレーー、レーレレレーレーレーレー。テーレーレーレーー、レレレーーー。

テテテーーン、テーテテーー、テーテテーテーー。テテテーーン、テーテテー、テーテーテテーンテテーン、テ↓ーーレーー、

 レーー、レレレレレー、テーレーーレレレレレー、テレレレレーーン、テーテーー。

テーーーレーーーテーレレー。テーレーレーレー…(テーレーーレッレーーン…)

 

 ラーラードーシーー、レードシドーラードーシー。ラーラードーミー、ソミラーーー。

ララミーー、レーラミーー、レーラシードーー。ララミーー、レーラミー、レーラーシーラミ↓ー、レ↓ードー、

 レーー、ラシドシラー、ミーレーーラシドシラー、シドミソ♯ラーー、シーシーー。ラーーーソ♯ーーーラーシラー。

ラードーミーレー…(ラーソーーファ♯ッレー…)

 

 

 

    WARNING

 

The decisive music is approaching at full throttle.

 

   NO REFUGE

 

 

 

 テッ!テーレーレーレッテレーン、テテテーテテテーテーテー(テテテテン)テーレーレーレッテレーン、テテテーテテテーテテテー(テテテテン)

 テーレーレーー、テレレーレーレーレーレーレーレーー、レレレーレレレーン。

テーレー、

 テッテレレーレ、テッテレレーレ、テッテレレーレッテテテテ、テッテレレーレ、テッテレレーレ、テッテレレーテレレレテテン!テ!テン!

 

 ミッ!ミーソーシーラッミミー、ミファ♯ソーラソファ♯ーレーシー(ソソラミ)

ミーソーシーラッミミー、ミファ♯ソーラソファ♯ーレファ♯ミー(ソソラミ)

 シーミーソーー、シレドーソーファ♯ーラー、シーミーシ↓ー、シドレーードシラー。

レーソー、

 ミッミミミーソ(ミッミミミーレ)ミッミミミーソ(ミッミミミーレ)、ミッミミミーラシラソレ、ミッミミミーソ(ミッミミミーレ)ミッミミミーソ(ミッミミミーレ)、ミッミミミーラシラソミミ!ミ!ミ!

 

(※イメージです)ラスト試練終了!得点は!?

 

 300006、普通だな。

と言いつつ基準点は191900点なので北宇治高校吹奏楽部は吹奏楽コンクール全国大会ゴールド金賞を入手!獲ったぞ!!やっ↑↑たぜ!!!

 

 画面では吹部の面々全員が肩を寄せ合って記念撮影しています。

そしてそして最後に大人になったホモちゃんの姿が映って『ドリームソリスター』トロフィーを走者は獲得。タイマーストップです。

 

 1時間20分ジャスト。ワールドレコード(世界最速)です。お疲れ様でした。『響け!ユーフォニアム 目指せ、ドリームソリスター』RTA、これにて完!

 

 完走した感想(激ウマギャグ)ですが、選択肢めんどスギィ!キャラと黒江真由(好き)やばスギィ!

 

胃が壊れちゃ↑ーう!!!

 

 それでも意外と運が味方してくれたので、最後の合奏は走者史上最高得点を叩き出せましたが(見たか真由黒江!!北宇治の勝利!!)、どうしてもスキップゲーになってしまうのでちょっと単調なRTAになっていましたね。

 しかもイベントが多かったのが玉に瑕(直球)だったので、スキップ時間をもっと短縮できれば更なるタイムが望めそうです。これからこのゲームを走るという奇特な、もといプレイしてみたいという方がいたら(人生の)時間の無駄にはならない事の太鼓判を押しますので是非プレイしてみてはいかがでしょう。そして初見の方は原作とアニメを全部見てみて、見てみて、みろ。

 

 クッソ長時間のご視聴、ありがとうございました。

 

 

 

 

 



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最終話 前

 

 

 

―――それは虹色の光と音の奔流だった。

 

 ここに音楽の全てがあると言わんばかりの音色の渦。その中に自分が加わり渦が奔流となり潮となり音色に戻る。どうどう巡りを繰り返し、でも時に音の塊が八艘飛び、観客と奏者の頭上を越えて往く。

 

 そんな演奏の傍らで、私は思った。

私の音色はきっとこれなのだと。もしかしたら実は違うのかもしれないけど、今はこれでいいのだと。きっと、何色だって好いのだと。

 

 

「ただいま」

 

「おかえり、お母さん。ご飯用意してたから」

 

「いつもありがとう、あすか。明日はお母さんが作るから」

 

「うん」

 

「………」

 

「? お母さん?」

 

私は娘を見る。

 

「あすか」

 

「…、はい」

 

「吹いてみなさい」

 

「………え?」

 

「ユーフォ。吹いてみなさい。持ってきてるんでしょう?あの楽器」

 

「………えっと」

 

「聴きたくなったから、ちょっと吹いてみなさい」

 

「…分かった」

 

 ちょっと待っててと、娘が言う。早足の足音がだんだんと聞こえなくなって、少し経ってからこちらを覗く。銀色の楽器・ユーフォニアムがこちらを覗く。

 

「貴女が一番得意な曲がいいわ」

 

「分かった」

 

 騒音で苦情が来るかもとは思わなかった。こんな時間なのに。

ただ聴きたかった、それだけだった。娘のユーフォの音色を。

 

「………好い曲ね」

 

それは綺麗で、昔聴いた事のある音に少し似ていた。

 

「あすか」

 

「…はい」

 

「部活を辞めなさい」

 

・・・・・。

 

「―――お母さん。私、部活辞めたくない」

 

「…そう。なら、頑張りなさい。全国で金賞を獲るのは難しいわよ。あすか」

 

「……うん」

 

「勉強も、しっかりね」

 

「――うん!」

 

 娘が作ってくれた晩ご飯を温めて食べる。いつも通り、これからは独りの時間だ。ラジオでも聞こうとして、箸と茶碗を置く。でも今日のご飯はやけに美味しいので、冷めない内に全部食べようともう一度茶碗と箸を手に取る。いつもは何の味もしないのに。

 

それが珍しいのか、娘は自分の部屋に戻らずにそこにいた。

 

「どうしたの?あすか」

 

「美味しい?お母さん」

 

「美味しいわよ?」

 

笑みを浮かべて、今度こそ娘は部屋に戻る。よかったと、最後に言い残して。

 

「でも本当に。――今日のご飯は美味しいわね」

 

 流れる涙を堪える事は大人には容易い。けれど零れる涙を堪える事は、大人でも子供でも難しい。そうだったなと、私は思い出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

最終話

 

 

 夢を見ている。

楽器を吹き続ける夢を。それを現実にしたいのに、身体はこれっぽっちも動かないし目覚めない。そして両親が、先生が、姐さんが、久美子が、私を見ては感想も言わずに去ってゆく。おい待てよ、待てったら。すると、幼馴染が振り向いた。

 何も言わないそいつはただジッと私を見続けている。やんわりと、微笑みながら。

 

どうだ久美子!私はやってやったぞ。私はこれからも、これからもずっと―――

 

「たとえ負けても勝つんだあああ!!!? あ?」

 

「あらびっくり。起きた?」

 

「あ………?お母さん?」

 

「演奏中に倒れたって言われて驚いたわよ。桃」

 

 夢が現実へと置きかわる。頭の中がすっきりとし始め、夢の内容と誰かの笑顔がまるで砂糖菓子のように消えていく。…いや、待て。私はお外でクラを吹いていた筈では?

 

「え?あれ?ここどこ?」

 

「貴女の家よ。大丈夫?」

 

「和菓子の姐さんは!!?」

 

「え?姐さん? 貴女をここまで連れてきてくれたのは高校の松本先生一人だけだったわよ?それとこれを」

 

「! これって」

 

 母は栗饅頭の包みを私の前に取り出した。綺麗な包装がよれている箇所は一つも無い。それが二つ。そう、二つ。

 

「貴女にだって。応援しているって言ってたわ」

 

「―――」

 

それらを受け取る、その前に。私は一つ尋ねてみたかった。

 

「ねえお母さん」

 

「ん?なに?」

 

「お母さんもお父さんも。みんな地獄以下の穴底にいるの?」

 

「……はい?」

 

「大人の世界は地獄以下の穴底なのかなって。それで私がそこに来るのをずっと待っているのかなって。そう思って訊いてみた」

 

「………」

 

 面食らう母を見ながら居住まいを正す。何を言っているの?と言われるかもしれない。分からないなと言葉が返ってくるかもしれない。…違うよと、期待に応えてくれるかもしれない。

 

でも母は、目を一分(いちぶ)細めて言った。

 

「そうねえ、待っているのかも」

 

「………そう、なんだ」

 

「でもこの世は地獄以下の穴底ではないとお母さんは思うわ。お父さんもきっとそう言うでしょうね」

 

「……?え、何で?」

 

母はうっすらと微笑んでいた。私を見ながら。

 

「さあねぇ。一緒にお酒でも呑めるようになれば、教えてあげるわ。この世界が無限の地獄じゃないとしたら、それは誰のお陰なのかって」

 

「絶対だよ?教えてねお母さん」

 

「勿論よ。だから待っているわ、桃」

 

 宝物を見るような眼差しを、信じて受けとめる。だって母が本当に偶に見せるこの表情が、私は大好きなのだ。

 

 

 

 

 

 

『てなわけで起きたら熱が出てしまいました。テヘ』

 

どういうわけだオイ。

 

 朝一番で、私は幼馴染から届いたメールを見てツッコミをいれてしまった。

いやホントどういうわけだ。昨日は夏紀先輩と必死になってお前を探していたというのに。携帯も全然繋がらないしで心配してたというのにもうほんと何なのコイツ何なの。

 

『今日は部活どころか学校にも行けなくなったので練習頑張ってね』

 

 瞬間、切り替わる私の脳内で面倒くさいのと気だるいのとがボクシングをし始めた。

今日はあすか先輩のお母さんに会いに行くのだ。部長と一緒だけれども、不安しか生まれてこない。

 

「……、そういえば」

 

『桃アンタあすか先輩のお母さんに会った?』

 

『アッタヨー』

 

気になったのでメールをしたらすぐに返事が返ってきた。…病、人?

 

『聴かせたの?』

 

『バッチリ』

 

「………マジか」

 

『え?ホントにやったの?』

 

『ヤ↑ッタゼ』

 

 高校生になってから、幼馴染は有言実行が板についてきていた。一体全体何があったらこうなるのだろう。…何だかくやしくなってきた。桃のくせに。

 

「―――やるっきゃないか」

 

私も。アイツに負けるわけにはいかないから。

 

 

 

 

「じゃあ行こうか、黄前さん」

 

その日の放課後。私は晴香部長と昇降口で待ち合わせて一緒に出発、いや出陣した。

 

「はい」

 

「…ごめんね?本当は練習したかったでしょ?」

 

「……。練習と同じくらい大事な事だとは思ってます」

 

「ありがとう。そう言ってくれて」

 

 部長は大人びた表情でそう言った。こんな顔が出来る先輩だとは当初思ってもみなかったが。失礼ながら。

 

「…正直勝率は芳しくないとは思ってる。友達の親を説得するなんて事、生まれて初めて行うんだもの」

 

「…はい」

 

けどこのままにしておくなんて事は出来ない。部長はそう言い切った。

 

「今日の事はあすかには伝えてない。もし言ったらあの子は余計なお世話だって言って止めると思うから。でも私には、私達北宇治吹部にはあすかが必要なの」

 

「………」

 

「それは全国で金を獲る為でもない、体裁の為だからでもない。だって私達は一緒に何度も、修羅場を潜り抜けちゃあの子と一緒に過ごしてきたんだから!」

 

「……部長」

 

「行こう、黄前さん」

 

「はいっ」

 

 意気軒昂な晴香部長と一緒に歩いて行った先のあすか先輩のお家は簡素な一軒家だった。不思議と結構な豪邸なのかなと思い込んでいたけど、そんな事はなかったらしい。

 

 インターホンを押す前に部長がこちらを見て、頷く。部長って大変なんだなあと私は思った。

他人の家に上がり込む。そして説得する。こんな事できる人なんて私達の代にいるだろうか。まだまだ先の事だけど。いたら凄いなあ。

 

「はい。――どなたですか?」

 

「北宇治高校吹奏楽部の者です」

 

「どうぞ」

 

 ガラリと、玄関が開いたそこには職員室で見た相変わらずの人がいた。

服装はラフでもビジネスでもなく、化粧は薄く。誰が見ても大人なあすか先輩のお母さんがいた。

 

「学生さんがなんの御用でしょうか。娘ならまだ帰っていませんが」

 

「…?」

 

? あれ、勘違いだろうか。顔色も声も相変わらずなのに、何だか眼だけが少し――

 

「突然お邪魔して申し訳ありません。お願いがあって参りました」

 

「なるほど。中へどうぞ」

 

「…お邪魔します」

 

 通された居間は質素で、良く言えば堅実な感じがした。無駄を省くと部屋というのはこんな風になるのだろう。やはりと言うべきか、ここは何処かこの親とその娘に似ていた。

 

「夕ご飯の用意をしていた所です。よければ食べていきますか?」

 

「いいえ、それには及びません」

 

 温かいほうじ茶を差し出す先輩のお母さんはやんわりと微笑んだ。対して、晴香部長はそれに手を付けず綺麗に正座した。

 

「単刀直入に申し上げます」

 

「聞きましょう」

 

「あすかを。――北宇治高校吹奏楽部副部長・田中あすかさんを部活に復帰させて下さい」

 

「なるほど、解かりました。お味噌は白味噌ですが嫌いですか?」

 

「私達にはあすかさんが必要なんで――――す?」

 

「す?」

 

おうむ返した私の言葉尻を、先輩のお母さんは笑みで受け止めていた。

 

「あら?嫌い?」

 

「………」

 

「………」

 

お土産の栗饅頭の包みを横に、私と部長は顔を見合わせた。

 

「あ、あの?」

 

「なにか?」

 

「聞き間違いでしたら大変申し訳ないんですが、……先程のお返事はあすか先輩を吹部に返して頂けるという事でよろしいでしょうか? あ、これお口に合いましたらどうぞ…」

 

「聞き間違いではありませんよ」

 

大人は続けた。

 

「あんなに部活を辞めろと言っても、娘は今まで一度も首を縦には振りませんでした。それほどまでに変わらないものであるなら、私にはどうする事も出来ない。――今更ですが、それだけの事です」

 

「…では本当に?」

 

「昨日の夜に娘と話して決めました。なので良ければどうぞ」

 

 そう言って、あすか先輩のお母さんは夕飯を薦めてきた。

…どういう事だろう。何かの罠かと勘ぐってしまうのを止められない。根負けしたような、忘れた何かを宿しなおしたその眼には綺麗で暖かな光があった。

 

やはりこの間とは違うと私は思った。だってそれはどこか、幼馴染に似ていたから。

 

「ありがとうございます、あすかさんのお母さん。それと本当にすいませんが夕飯は結構です」

 

「あら、それは残念」

 

「ただいまー」

 

「! あすか先輩」

 

「あれ?どったの二人とも。何だか珍しい組み合わせだね」

 

「――あすかぁあ!!!」

 

「うわあっ!?なになに晴香どうしたの」

 

「良かったぁぁああ…ッ!一緒に演奏できるよぉぉおお…ッ!」

 

 緊張の糸が切れたように泣き出す晴香部長を前に、あすか先輩はたじろいでいた。そういえば言うの忘れてたなあとあすか先輩は困った風に言ったけれど、私にはそれが何故か嘘であるように思えた。

 

「晴香ほんとうごめんって。あ、ねえ久美子ちゃん」

 

「はい」

 

「もう帰るんでしょ?帰り、送ってくよ」

 

話があるのだと、私は直感で理解した。

 

 

 

 

「黄前さん今日はどうもありがとおおお」

 

「気を付けて下さいねー、晴香先輩」

 

「やっぱり晴香は晴香だねえ」

 

「そですねー」

 

 帰り道、晴香部長が向こうに一人帰っていく。まだ涙ぐんでいる声と表情は何だか安心するようなそうでないような、いつもの北宇治高校吹奏楽部の部長だなと私は思って、でも恰好いいなと少し思った。

 

「――さて。どこ行こっか?」

 

「先輩が好きな場所でいいですよ」

 

「わお、流石久美子ちゃん。流石あの帆高ちゃんの幼馴染」

 

「……桃?ですか?」

 

 じゃあこっち、と指を差しながら歩き出すあすか先輩。その瞳は眼鏡で反射する陽光で見えなかった。

 

「あの子のお陰でお母さんを説得できたからね。何をしたのか昨日の夜家に帰ってすぐダメ元であの人に部活に戻りたい~って言ってみたらOK出ちゃって。いや~タイミングが良かった良かった」

 

「嘘。ですよね」

 

「ん?」

 

・・・・・。

 

「それ。嘘ですよね」

 

「OKが出たのはホントだよ?」

 

「説得なんてしてないですよね。あすか先輩は、この時をずっと待ってたんじゃないんですか?」

 

「どうしてそう思うのかな~?」

 

「昨日の夜だからといっても、いくら何でも晴香部長たちに何の連絡も入れないなんておかしいです」

 

「親から部活自粛の憂き目にあってからこっち真の意味で吹部の混乱を分かってなかったんだよー。って言ったら?」

 

「それはありえません。香織先輩がいますし何より、」

 

「何より?」

 

「その程度が読めないあすか先輩だとは、思えません」

 

先輩の瞳が見える。細められたそこには、誰も、いや私だけが居た。

 

「読む、ね。信じてくれてるんだ?」

 

「はい」

 

「嬉しいなあ、嬉しいよ久美子ちゃん」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「じつは今年の文化祭で帆高ちゃんに会った時、私は確信したんだよ」

 

「何がですか?」

 

「あの人の枷が外れる最後の時が来たってね」

 

「………枷?」

 

私達はただ歩く。

 

「うちのお母さんを久美子ちゃん達が職員室で見た時、頭おかしいって思ったでしょ?あの人はワザとあの場であんな事を言ったの。そう言えばやばい人だって思わせられるから。思考を指定できるから。まあ本音もあっただろうけど」

 

「………」

 

話をしながら、私達は歩き続ける。

 

「そんな一見おかしい人の下で、私は育ってきたしずっと見てきた。そして解かった。実の娘の力じゃどうしようも出来ない変えられないって、ずっと。でもそこにあの1年生はやってきた」

 

「桃の事ですね」

 

「初めて音楽室であの子の顔を見た時、私はピンときた。この子はしっかりとした目的を持って吹部に来たんだって。

 面白くなるって思ったよ、案の定メキメキと腕は上がっていったしAメンバーにも選ばれた。一日一日過ぎる度に、本当に高校1年生かって思うくらいあの子は成長し続けてた。傍から見れば、まるでRTA(リアルタイムアタック)だよ。ゴールド金賞RTAとかどうかな?」

 

 受けないね、これ。そう言って振り返る先輩は偽悪的な笑みを浮かべていた。これは序論だと、私は思った。

 

「そして忘れもしない文化祭の時。帆高ちゃんはね、私は私を証明する為に皆を想って楽器を吹くって言ったの。その時私は理解したんだよ久美子ちゃん。私には出来ない事を、この子ならやれるって」

 

「…出来ない事というのは先輩のお母さんへの説得、ですか?」

 

「うん。そして職員室で私はあの人に叩かれてみせた。避ける事も止める事も出来たけど、久美子ちゃんと帆高ちゃんがいるなら眼の前で」

 

「そうすれば桃が、」

 

「必ず前に出てくるから」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「そしてあの人の幼馴染である松本先生のお陰もあって、事態は良い方向に進んだよ。結果私は明日から吹部に復帰できる。晴香には直接、香織たちにはさっきメールをした。後は明日部員全員の前で謝罪すれば大手を振ってやっと私は練習が出来るってわけ。―――軽蔑した?」

 

「……わかりません。けど、少し、」

 

「少し?」

 

「なんでそこまでするのかなって、思いました」

 

「吹きたいからだよユーフォを」

 

全国の舞台でね。そう、あすか先輩は変わらない表情で言った。

 

「じつは今度の全国大会の審査員にね、私の元父親がいるんだよ。そしてその時に聴かせてやりたいの。私のユーフォを」

 

「元…父親?」

 

「そう。私がうんと小さい頃に親が離婚してね。だから田中あすか。…もう顔も憶えてないんだけど、その人の名前だけは子供の時からずっと憶えてた」

 

「………名前…」

 

「進藤正和さんって人なんだよ」

 

「! え、その人って…」

 

 それは信じられない事実だった。その進藤さんという人はこの国で高名なユーフォニアム奏者であり、初心者なら誰でも持つユーフォ教本の著者なのだ。何より私もその本を読んで学び育った初心者の一人だった。

 

「その人に今の私の音を聴かせたいの。響かせたいの。楽器を辞めた母の下で、私はこんな音色を出せるようになったって」

 

 先輩の歩みが止まる。そこは綺麗な川辺だった。ここで楽器を吹いたならさぞ気分がいいだろうなと思って、周りを見渡すと家は無く空と川と飛行機雲だけが広がっていた。あすか先輩みたいだと、何故か思った。

 

「私のお母さんね、昔はすっごく上手いクラリネット奏者だったんだって。進藤さんと結婚して、でも別れさせられて、クラを諦めちゃった人なの」

 

「?……別れさせられてって、?」

 

「進藤さんの家。すっごく古風な家みたいでさ」

 

あすか先輩はそれ以上なにも言わなかった。

 

「調べたんですか?あすか先輩。でも一体いつ――」

 

「逆に訊くけど、子供が自分の親について知りたい聞いて回りたいって考えるのはおかしい事?」

 

「それは………、」

 

「思い込みは良くないよ久美子ちゃん。私はこの北宇治に入学した時からあの人が元明静工科の吹部生でコンマスだった事も知ってたし、あの月永源一郎先生の一番弟子だった事も知ってた。だってあの人の上を行くには知らなきゃいけなかったし、指定させなきゃいけなかったから」

 

「指定……ですか?」

 

「私がお母さんを枷だと思ってるって事を」

 

 あの人にね。そう言って、あすか先輩が私を見る。そこには偽悪的な笑みなんかではなく、決意の笑みが野心のように浮かんでいた。

 

「お母さんは凄い人なんだよ」

 

そこには消えない火があった。

 

「独りで私を育ててくれた恩を私、忘れない。あの人が枷だなんて思った事は今まで一度もない。…もしかしたらそう思ってしまった別の自分が何処かにいるかもしれないけど、私は違う。

 子供の頃ね?押し入れの奥底でクラリネットを見つけた事があったの。私は直感で、お母さんの楽器だって思った。――楽しみだったよ、どんな音が出るんだろう?いつ聴けるんだろう?って毎日が。でも私がユーフォを手にした次の日に、楽器はなくなってた。

 それからお母さんはみるみる変わっていった。まるで化け物になるみたいに」

 

「………あすか先輩」

 

「あの人ね?今まで何度も私からユーフォを離そうとしたけど、その時一瞬だけ、一瞬だけ眼が泣き出しそうになるの。楽器に真摯だったんだなって、ずっとこの楽器が好きだったんだなって子供心でも解かった。だから絶対に諦めるわけにはいかなかった。ユーフォを辞めたらきっと、あの人は本当におかしくなる。独りぼっちのままになる」

 

「………」

 

「枷に囚われているのはお母さんの方だった。それを私は何とかしたかったけど、出来なかった。でも昨日帆高ちゃんが、あの人の枷を壊してくれた。…美味しいって、初めてご飯が美味しいって、笑って言ってくれたんだもの」

 

「―――、桃が」

 

「だから明日からはちょっと先輩の意地を。――田中あすかの全身全霊をみせなきゃ、ってね?」

 

 あすか先輩が座る。私もその横に。すると秋にしては暖かい風が、私達を激励した。それでいいのか?と訊くように。先輩と私はふッと息を吹いた。

 

「今度さ」

 

「はい」

 

「今度、うちにおいでよ」

 

「あすか先輩の家にですか?」

 

「うん。勉強教えてあげる。数学、ちょっとやばいんでしょ?」

 

「うぐっ……」

 

 やばいどころじゃない事を何故知っているのか、最近ひしひしと感じているのに。とは訊かなかった。

 

「あとその時、ちょっと聴かせてあげる。…ううん、聴いて欲しい、のかも」

 

「ユーフォをですか?」

 

「それはその日のお楽しみかなあ~」

 

 いつも通りに戻った、いや決意した先輩が少し笑う。私も同じように少し笑って、約束を交わす。そして1週間後、私は先輩の家にお呼ばれし、そこで一生に残る想い出の音楽を聴かせてもらうのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 



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最終話 後

I am deeply grateful to you.







 

 

その日。昼休みに図書室に行くと、そこには隠れ読書家さんがいた。

 

「やっほ、芹菜」

 

「ん」

 

「ついに全国大会明後日だよー。明日は楽器を運んで練習して現地で一泊だし、ねえ芹にゃん、私上手くやれるかな?」

 

「知らない。あと芹にゃん言うな気色ワルい」

 

「仲間の激励の言葉がほしいんだよう察せよぅ」

 

「あっそ。が」

 

芹菜はそう言うと、文庫本から眼を離さずにページを捲った。

 

「え?はい? が?」

 

「ん」

 

「?」

 

「ば」

 

「……」

 

「って。以上」

 

「ありがと芹菜。ホント持つべきものは元帰宅部仲間で隠れ読書家仲間だようー」

 

「………」

 

芹菜の表情は見えない。でもきっと無表情だろう。

 

「なのでいつもの合言葉を言ってみる。 帰宅部は仲間を見捨てねえ」

 

「それ合言葉じゃないから」

 

「――ってあれ?今度は何読んでるの?レベリオン?」

 

「ブギーポップ」

 

「原点回帰ってわけ?中々やるじゃない。…しかも水乃星さんが出るその巻。何か心境の変化でも?貴女の心に、四月に降る雪でも?」

 

「………」

 

「――自分は正しいか、と自問するより、自分のどこが間違っているのかと考える方がずっと事実に近いはずだ、ほとんどの人間はいつでも正しいことはできていない。

久々に読んでもズガンと来るね、ここ。流石霧間誠一」

 

「………」

 

ペラリとページが捲られる。芹菜はずっと喋らない。

 

「さてと。もう行くね、芹菜。それとありがとう、激励してくれて」

 

「………」

 

「持つべきものは友達だね」

 

 不意に芹菜が顔を上げる。不機嫌そうないつもの顔。でもどこか、信念を秘めた顔。

 

「九連内朱巳みたい。やっぱり芹菜、カッコいい」

 

「全然違うだろ。そいつ嫌いなんだからやめろ」

 

互いに友達が増えても、部が変わっても。仲間はいつまで経っても仲間だった。

 

 

 

 

 

 

「さあついに来ました全国の舞台。これから最後の音出し練習ですが実況は私北宇治高校吹奏楽部1年・帆高桃とっ!」

 

「同じく川島みどりがお送りします!」

 

「みどりちゃん、ここって名古屋だよ名古屋。いつもより音が響きそうな空気がヒシヒシと感じるし口から言葉がスラスラ出てくるくせして動悸がやばいのはもしかしなくても私が緊張してるせいかな?」

 

「適度な緊張は必要ですよっ桃ちゃん!いい調子です! そして御覧ください、全国から集まっている吹部の皆さんを。私達北宇治は午後の部なので、前半はもう既に終了していますが素晴らしいですっ!」

 

 私たち北宇治高校吹奏楽部は満を持して決戦の舞台にやってきた。

何かの圧とプレッシャーを肌で感じるこの空気。眼に映る人全てが強者であり覇者であり挑戦者であり奏者である。 

 それに割って入るようにして、みどりちゃんが辺りを見渡す。楽しみだと書いてあるその表情に倣って見ると、清良女子の制服が目についた。

 

あ、真由ちゃんだ。

 

「よっしゃ気合入った!みどりちゃんありがとう!」

 

「どういたしまして!」

 

「おいあんたらー、さっさと行くよー」

 

「ごめん葉月ちゃん。ちょっと緊張してた」

 

「へー、桃でも緊張することあるんだね」

 

「あったりまえだよー。だって聴いて欲しい人がいっぱいいるからね」

 

「そうなの?」

 

 そう訊かれて、私はきょとんとする葉月ちゃんを見る。みどりちゃんを見る。滝先生と同級生と先輩たちの、背中を見る。

 

「うん、いっぱい。いるよ」

 

 そして最後に幼馴染の顔を見た。いつもより二割増しで気合充分カッコいい。最近、何か良い事でもあったのだろう。

 

「やってやろう。久美子。みんな」

 

「―――うん」

 

 そこには理想があった。試練を克服した信念があった。私も同じような顔をしてるのかは多分一生解からないかもしれないけれど、それを現実にしたいからここに居るのだという事は多分一生理解できる。

 

だから今の気持ちを言葉にする為に、私は叫ぶ。

 

「今日は勝つんだ!」

 

 ゲン担ぎの栗饅頭を一口食べ、いざ。高校1年最後の大一番に私達は足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「北宇治高校の皆さん、お時間です」

 

「―――はい」

 

 係りの人が声を掛け、部長をはじめ北宇治は静かに動きだした。途中、前を歩くヒロネ先輩と目が合ってその奥を覗くと、万感の想いがそこには見えた。暗い舞台袖に到着してもそれは一欠片も色褪せない。

 

「緊張してる?」

 

「はい」

 

「正直だね」

 

「全力が出せるか、それだけが」

 

「不安?」

 

「……はい」

 

「私も不安」

 

3年の先輩は私を見ながら小声で言った。

 

「…伝わるかなって、伝えられるかなって。この大会が終わった先もずっと」

 

後輩全員をぐるりと静かに見渡して。ヒロネ先輩は言いきった。

 

「響かせよう、桃ちゃん。皆。鳥塚の城正真正銘最期の正念場、ここで発揮しよう。信じてるよ」

 

「………」

 

 目標としている先輩が小さく、でも確かな声量で言う。りえ先輩は力強く頷いてヒロネ先輩を見詰め続けていて、他のメンバーも同様に。思わず駆け寄るのを我慢して私も頷くと、心臓と血流が一際大きく高鳴った。

 

――ヒロネ先輩の言葉はいつも私の心に火を点ける。

 

 先輩の傍でずっと練習してきた。教えられてきて褒められ叱られ、この人が居たからここまでこれた。クラリネットパートが心地よかった。…この部に入って本当に良かった。

 だから私はしまい込む。辛い事がこの先あっても、この時間を思い出せばきっと進み続けられる筈だと。笑顔になれると。この胸の奥に、残るように私はしまい込む。

 

 たとえこの先未来の私が時間を裏切る事があっても忘れても、この火は消えない。そう願いを掛ける。だってヒロネ先輩の言葉は、いつも私の心に火を点けた。

 

「………私も、」

 

「ん?」

 

「信じてます。ヒロネ先輩」

 

 

『続いてプログラム十番、関西代表、京都府立北宇治高校吹奏楽部の皆さんです』

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、桃ちゃん。――やっと会えたね」

 

「うん、やっと会えた。お疲れ様」

 

 真由ちゃん。

そう言うと、綺麗な制服姿で同学年の女の子はヒラリと片手をこちらに振って、小さくお辞儀した。

 

「お疲れ様。北宇治、凄かったね」

 

「聴いてくれてたの?」

 

「最初の部分をちょっとだけね。全部聞いていたかったけど、流石に先輩達に怒られちゃうから」

 

悪びれもなく言う。笑顔なのはやはり自信なのだろうか年月だろうか。

 

「清良は北宇治の後だったもんね。お陰で私は全部聴けたよ、清良の音色。流石だった」

 

ブラボ―!そう言うと、真由ちゃんはありがとうと丁寧に言った。

 

「あ、そうだ桃ちゃん。約束のこれ」

 

 オシャレな手提げカバンから写真がすっぽり入るサイズの封筒を手渡され、私は早速中身を確認した。

 この全国の舞台で、あの日撮った写真を渡してほしい。九月にお互い交わした約束だった。写真にはぎこちない笑顔の自分がいて、台風明けの朝陽が眩しかった憶えがある。そして黒江真由という人間とのファーストコンタクトがこの日だった。

 

「ありがとう真由ちゃん!」

 

「ううん、助けてくれたお礼だし約束だもの。こっちこそありがとう桃ちゃん。思い出になったよ」

 

 変わらない笑顔で言う。嘘偽りなんて微塵も欠片もないその表情。やっぱり真由ちゃんは良い人だ。そしてもう行かなくちゃとさようならを互いに言うその前に、

 

「また会おうね!」

 

「………、?」

 

同い年で高校生1年の筈の女の子はきょとんと固まった。

 

「またここで。ううん、何処かで!」

 

「―――」

 

 ジッと、真由ちゃんは私を見詰める。何か悪い事を言っただろうか。一期一会だなあと、思っただけなんだけれど。

 

「―――そうだね、また逢おうね」

 

「うん!」

 

「またゴールド金賞を互いに獲って、笑顔でまたここで逢いたいね。桃ちゃん」

 

「約束だよ?」

 

「うん。だからその記念に」

 

手提げからカメラを取り出し、真由ちゃんはファインダーを覗いた。

 

「一枚撮ってもいいかな?」

 

「どうぞどうぞ」

 

はいチーズ。カチリと音が鳴る。

 

「ありがとう真由ちゃん。あ、私も撮るよ。携帯でだけど」

 

「私はいいよ。撮らなくて全然」

 

「え?そう?私真由ちゃんの写真ほしいのに~」

 

「気持ちだけで嬉しいよ」

 

「う~ん、じゃあ約束追加!」

 

「……え?」

 

・・・・・。

 

「来年もまたここに来れたら。今度は私が写真を撮るからね?真由ちゃん!」

 

「ふふ、…それ素敵」

 

約束と握手と言葉を交わして、私達は歩き去る。互いに笑みを浮かべながら。

 

「さよなら」

 

「またね」

 

 ユーフォ使いは皆時々放っておけない顔をする。やっぱりそこが良いんだなと、私は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

「おっす。どこ行ってたんだ?久美子が探してたぞ、桃」

 

「え?そうなの?ヤバイヤバイ」

 

「それにしても金賞かー・・・。やったぜって感じだな?」

 

「だね」

 

幼馴染の塚本秀一はそう言って眼を細めた。前だけを見つめて。

 

「・・・あいつが、」

 

「うん?」

 

「久美子が。・・・嬉しそうでよかった」

 

「それ直接言ってあげてくれる?気付いてないかもしれないから言うけどキモいからね?それ赤の他人に言うと」

 

「ほんっとにお前はホントに・・・ッ」

 

「ね、ね、いつ告るの?」

 

「はぃい?」

 

「久美子待ってると思うよ?幼馴染の勘は百発百中。大丈夫だって安心しなって、平気平気平気だから。絶対上手くいくから」

 

「桃に言われても全然説得力ねえのは何でだろうな?」

 

「それはシュウイっちゃんの錯覚だよお」

 

「そのあだ名やめろっつの」

 

「楽しい話してるね?二人とも」

 

「葵さん!」

 

「葵先輩・・・。ちょっとコイツ何とかしてもらってもいいですか?」

 

「フフ、こういうのも良いね。懐かしくて」

 

 かつての幼馴染が、北小時代の友達がここに集う。私と久美子がバカをやって、シュウイっちゃんと葵さんも一緒になって遊び回る。お互い背丈も纏う空気の色も変わったけど、良いものだと思ったものは今も良いものだった。

 

「ちょっと何してるの?皆して」

 

「久美子ちょっと後で打ち上げしようよ!んでポーズ決めよ、ポーズ!私達、左右両翼!」

 

「おいやめろ」

 

「私達!北小さわやか4組幼馴染!葵さんもあの時4組でしたよね」

 

「うん、そうだった。学年は違かったけど」

 

「だからおいやめろ馬鹿。一度聞きたかったんだけど恥って言葉知ってるのアンタッ!」

 

「あはははは~!おっこ大好きー!!」

 

「コイツ―――ッ」

 

 帰りのバスまで続く路上の馬鹿騒ぎ。迷惑この上ない、けど今だけは許してほしいと私は願う。真っ赤になって拳を握る幼馴染。いつも頑張っているその姿。

 

きっといつまでも、貴女が私の目指す場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――フフ」

 

 そうしてふと、笑いが漏れる。過去を思い出すように。

たくさんある内の一枚の写真を手に持って、そこにはぎこちない笑顔の自分がいた。これから大変な事の目白押しの高校生活が待ってるというのに、何とも面白い顔で、私は私を見ていた。

 

「……?」

 

 スマホの着信音が、メッセージの受信を私に伝える。

それにすぐに返信をして、久しぶりに見つけたなと感慨深い想い出の写真達で彩られたアルバムをパタンと閉じた。

 

「さて、行こう」

 

今日はオフの日。そして久しぶりの女子会なのだ。

 

「お疲れ様です、先生。体調は如何ですか?」

 

「お疲れ様です。いや~ぼちぼちですねぇ」

 

「身体を冷やしてはいけませんよ?ただでさえ新婚さんなんですから。今日はあまりお酒飲んではいけませんからね、塚本先生」

 

「? え、何で?」

 

「………旦那さんと塚本先生両方から愚痴こぼされる私の身にもなって下さい。私はあなた方のカウンセラーでも親でもないんですから。 あ、すいませーん!カシスソーダ二つお願いします」

 

「なにそれ。秀一アンタに愚痴こぼしてるわけ?ねえちょっと私聞いてないんだけど。内容は?ねえちょっと内容は?」

 

 ありがとうございまーす!と、注文を取った店員さんが元気にお辞儀しながらせっせと歩いていった。

 

「プライバシーなので黙秘します。ヒントはノロケがだいたい十割ですいい迷惑。…そういえばどうなんです?」

 

「は?何が?」

 

「今年の吹部の実力の程は」

 

「いい感じだと思うよ。――関西は充分狙えるかも」

 

「――全国は?」

 

「そこは練習次第かな。これからの」

 

「成る程、顧問の先生が良いからね」

 

「どうかなー…」

 

「大丈夫大丈夫!先生ならやれますよっ」

 

「そっちはどうなの?」

 

「え?私?」

 

「希美先輩主宰の社会人吹奏楽団(サークル)。今年からコンマスになったんでしょ?大変じゃない?」

 

「大変だけど学生の頃みたいに毎日やるわけじゃないし。でもやりがいは感じてるよ」

 

「良かった」

 

「そっちこそ。今年も金獲ってきて下さいね、元黄前相談所所長さん?」

 

「…やっぱ敬語ぬけないね。慣れてきたと思ったらこれだよ、元副所長さん?」

 

そう言い合って、私達は大人の笑みを互いに浮かべた。

 

「赴任してからこっち毎日同じ職場で顔合わせてるからこればっかりはねー。でもまさかまた一緒とは思わなかったよ。生徒達の前ではしっかり区別つけてね?塚本センセ」

 

「アンタにだけは言われたくないよ、保健室の帆高先生」

 

 顔を見合わせて幼馴染同士、今度は子供じみた笑みを浮かべる。偶然とはいえ腐れ縁はまだ続くらしい。困ったもんだ。

 

「お待ち遠さまでーす!カシスソーダ二つです!」

 

「ありがとうございます」

 

「ごゆっくりどうぞー!」

 

「―――何だか懐かしいね。これ」

 

「これ? カシスソーダ?」

 

「ユーフォの後輩の奏ちゃん憶えてるでしょ?あの子、昔文化祭で私にカシスソーダ頼んできてさ。何でかなってずっと思ってたんだけど、」

 

「だけど?」

 

「カクテル言葉ってのがあるらしくて。それがまた………、フフ」

 

「え?待って今調べるから」

 

「無粋なことしなーいの。飲んだ後でゆっくり調べる事をお薦めしまーす」

 

 氷をカラリと揺らして、グラスを持ち上げる。軽く傾けると相手も同じく傾けてきた。グラスとその中身で、久美子の顔は幼く見えた。あの頃のように。

 

「乾杯。おっこに」

 

「乾杯。アンタほんとに」

 

 いつか直してやるからな。そう言われて、二人して笑い合う。

幼馴染のその笑顔はとても見応えのある魅力的な顔で。やっぱりねと思うと同時に、もう一人の幼馴染である秀一に自慢してやろうと私は思った。だってやっぱりいつまでも。

 

いつまでも、貴女が私の目指す場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――それは虹色の光と音の奔流だった。

 

 ここに音楽の全てがあると言わんばかりの音色の渦。その中に自分が加わり渦が奔流となり潮となり音色に戻る。どうどう巡りを繰り返し、でも時に音の塊が八艘飛び、観客と奏者の頭上を越えて往く。

 

 そんな演奏の傍らで、私は思った。

私の音色はきっとこれなのだと。もしかしたら実は違うのかもしれないけど、今はこれでいいのだと。きっと、何色だって好いのだと。

 

「………」

 

 この光景はきっと忘れられない宝物。嘯くな、きっと忘れられない悪夢になるぞと悪寒が背中をするりと撫でたが、呼吸と音色とで霧消にさせる。だってどっちでもいい。私が知りたい私の色は、ここに残る筈だから。

 

その合奏が今、終わる。いや、終わった。

 

「………、っ」

 

残心。椅子から立ち上がるよう滝先生が合図を送るその前に。息を大きく私は吸った。

 

 

「ブラボ―!!!」

 

 

聞こえる歓声に、この涙が零れないように。

 

 

 

 

 

 




おしまい。


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