東方風祝録 (井戸ノイア)
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プロローグ

 世の中不思議なことがあるものだと思う。俺は17歳、受験を間際に控えている時に交通事故で死んだ。ぶつかったのはトラックだったし、最後に見た景色から考えると数十メートルは吹っ飛んだので即死だと思われる。頭が割れるような感覚もあった。

 何が不思議かって俺は記憶を持ったまま新たな生を受けたのだ。前世の名前などは思い出せないがほとんどのことを思い出せる。俺が目を開けて始めに見たのは優しそうな女の人と蛙みたいな帽子を被った女の子、注連縄みたいなのを担いだ女の人だった。

 こうして俺の第二の生は始まったのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 生まれてから五年ほど経った。この五年間は驚きの連続だった。まずは、性別が女だったこと。そして、母親が死んだこと。他の二人が本物の神様だったということ、そして前世の記憶があるとばれたことだ。

 性別に関してはまあ仕方ない。二分の一の確立でなってしまうのだから。現在は口調を直し中である。別にそのままでもいいのだが、注連縄の人、八坂神奈子様が直さないと怒るのだ。ちなみに名前は東風谷早苗である。

 親が死んだのは妖怪との戦いでだった。たまたま、神様である二人がいないところを妖怪に襲撃されて、力及ばず死んでしまったらしい。らしいというのは実際に見ておらず、蛙帽子の女の子、洩矢諏訪子様に聞いたからだ。この世界、神様がいれば妖怪もいるというのは当たり前のようだ。

 最後に、前世の記憶があるということだがこれは生まれて数日でばれた。おとなしすぎたらしい。神奈子様に前世の記憶があるのか?と聞かれてうなずいてしまってばれた。流石、神様なだけあって、じっと目を見つめられたら嘘はつけなかった。ただ、後に聞いたのだが記憶を残して次の生に進むということは可能なようで当時はそこまで驚いていなかったようだ。ただ、そんなことはしていないし、神様や妖怪がいない世界だったと言ったら多少なりとも驚かれたが。

 

 今日から五歳になったので、霊力というものの使い方を学ぶことになった。うまく使えば空を飛んだりできるらしいので楽しみだ。ちなみに、精神年齢が高いので五歳から行うというだけで本来なら十歳くらいから始めるようだ。

 

「集中して自分の中にある力を見つけ出すんだ」

 

 神奈子様がそう言う。こういった練習の類は必ず神奈子様が行ってくれる。諏訪子様は飽きっぽいので大抵どこかへ行っていたり、面倒がるからだ。

 集中してって……瞑想みたいなのでいいのかな。目を閉じ、自分の身体に眠っているはずの力を感じようとする。……見つけた。

 

「見つけたようだな。それじゃあ、その力をゆっくりとでいいから手のひらに集めてみろ」

 

 力をゆっくりと動かす。集中が乱れるとすぐに力を見失ってしまいそうだ。ゆっくり、ゆっくりと移動させ、手のひらに集めるとだんだんと手のひらが熱くなってきた。と、同時に集中力が途切れてしまった。

 

「はぁはぁ」

「最初にしては上出来だな。これからは毎日この作業を行って自然とできるようにすること。他のことに関してはこれが完全にできるようになってからだ。ほれ、疲れただろ」

 

 神奈子様が手を差し伸べてくる。神様なのにすごくフレンドリーだ。その光景に少しだけ笑って

 

「ありがとうございます」

 

 手を掴む。そして起き上がるといつの間にか諏訪子様が来ていた。

 

「暇だからご飯作っておいたよー」

「暇なら早苗の修行に付き合ってやればいいのに」

「わたしがいなくても神奈子だけで十分でしょ」

「せっかく諏訪子様が夕飯を作ってくださったのですから冷めないうちに食べに戻りましょうよ。もうお腹ぺこぺこで」

 

 なんだか口論になりそうだったので話題を逸らした。うまくいったようで三人で部屋に戻っていく。転生した当初はいろいろ戸惑ったが、こんな前世から考えると非日常的な毎日でも続いていくといいなぁと思う。



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入学式

「……わふ」

 

 欠伸をかみ締めて起き上がる。床に敷いていた布団を手早く折りたたみ台所へ向かう。

 神社の中に台所があるなんて似合わないかもしれないがどうせ私と神様以外はここに上がってこれないので問題ない。今日の朝食はパンにレタスとスクランブルエッグを挟んだ簡単なサンドイッチだ。私は少食だし、神様はそもそも食べなくても特に問題はないので、食事は自然と軽いものが増えるのだ。

 転生してからはや12年。今日から私は中学生だ。五歳から始めた修行のおかげで今では空を飛ぶことも簡単にできるし、弾幕だって撃つことができる。体力もだいぶつけた。ただ、まだ実際に妖怪と戦ったことはないのだが。神奈子様は中妖怪程度ならなんとか倒せるくらいにはなったと言っていた。

 

「諏訪子様ー、神奈子様ーご飯出来ましたよー」

「はいよー」

「うーまだ眠いよー」

 

 上から順に私、神奈子様、諏訪子様だ。昔は私がまだ小さかったということもあって食事は神奈子様か諏訪子様が作っていたが、いつの間にか私が作るようになっていた。諏訪子様は一番長生きしているはずだがその言動にはどこか子供っぽいものがある。

 三人で卓袱台の前に座る。卓袱台で洋食というのもおかしな気がするがいつものことで、もう慣れてしまっているので気にならない。

 

「「「いただきます」」」

 

 諏訪子様はまだ眠そうだったがこれもいつものことだ。というか神様に睡眠って必要なのだろうか?今度聞いてみよう。

 すぐに食べ終わって学校へ行く準備をし、玄関で靴を履いていると神奈子様に声をかけられた。

 

「忘れ物だよ」

 

 そう言ってお札を渡してくる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 このお札は私お手製のお札だ。といってもたいした効力は無く、霊力を込めると妖怪に対して霊力だけの弾よりも威力が上がるというものだ。それでも霊力の節約と威力増加を同時に行えるので使い勝手はいい。

 私は外出するときはいつもこのお札を持ち歩いている。何故なら、私はこの神社に使える風祝(かぜほうり)というものをやっているからだ。正確には違うのだが巫女のようなものと思ってもらえればいい。この風祝をやっていると主に神奈子様や諏訪子様を恨んでいる妖怪に狙われやすくなるそうだ。今まで狙われたことはないが確かに神様を狙うくらいならその下で働く人間を狙ったほうがよっぽどやりやすい。そんなわけで護身用としていつも持ち歩いている。

 

「それでは、行ってきます!」

「行ってらっしゃーい」

 

 諏訪子様も見送りに来てくれた。まだ眠そうだが。まあ今日は入学式と簡単な説明だけで終わるのでまたすぐに帰ってくるが。

 

 神社を出て階段を駆け下りていく。守矢神社は山の上に立っているので出かけるときは必ず多少長めの階段を登り降りしなければならない。まあ、鍛えているからなんの問題もないのだけれど。最初のうちはずいぶんと苦労した。変わりに神社からの眺めはいいので仕方ないが。

 そんな長めの階段を数分で降りきって学校へ向かう。小学校はすぐ近くにあったが、中学校は結構遠いので自然と早歩きになる。初日から遅刻とかは嫌だし。

 登校中は特に何もなく学校に着く。学校では既にクラスなどが決められていて、壁に名簿が張ってあったので見てから教室に向かう。私は一組だった。クラスの座席は番号順になっていて分かりやすい。周りに知り合いを探しながら席に着く。

 

「お、早苗じゃん。また一緒のクラスになったな」

 

 声をかけられてそちらを見ると小学校からの友人である谷川夕菜がいた。彼女は黒髪ショートで活発な女の子である。

 

「おはよ、夕菜」

 

 挨拶を返す。小学校は一クラスしか無く、人数が少なかったので親友とも呼べる一人と同じクラスになれたのは幸運と言ってよいだろう。夕菜と他愛も無いことを話していると先生が教室に入ってきた。

 

「体育館に移動するので番号順に並んでくださーい」

 

 中学生とはいえ、小学校から上がったばかり、すぐに整列などできずにもたもたしたがなんとか整列を終え、体育館に移動する。体育館に入ると並び直され、それが終わると校長らしき人物が壇上に出てきた。礼をして体育すわりをする。

 

「えー新入生の皆さん……」

 

 校長先生の長ーいお話しが終わると親睦を深めるとかで簡単なレクリエーションを行い、終えてから教室に戻った。レクリエーションでまた新たに友達が出来たがこれは後でいいだろう。

 

 教室に戻ってしばらく待っていると先生が入ってきた。そして、ある程度連絡などをした後に

 

「最後に、知っている人もいるかもしれませんが自己紹介をしましょう」

 

 と言った。なんとなく分かっていたことだが私は自己紹介が苦手なので少しだけ憂鬱だ。どこまで話せばいいか、何を言えばいいのかなど悩む。そんなことを考えているうちに私の番が回ってきてしまった。番号順が女子からで私は『こ』なので早いのは当然と言えば当然だろう。まあ、最低限のことだけでいいか。

 

「東風谷早苗です。よく言われますが髪は染めたりしていません。よろしくお願いします」

 

 席に戻ると先生も含めて私を知らない人は地毛だということに驚いていたが髪のことを話すたびにみんなが同じ反応をするのでもう慣れた。その後は他の人の自己紹介などをぼんやりと聞いていた。

 初日から授業はあるはずもなく、先生の言葉通り自己紹介だけして解散になった。私は夕菜と一緒にもう一人の友人を待つ。レクリエーションのときの子だ。

 

「ごめーん、待ってもうた?」

「今来たところだよー」

 

 関西弁っぽい喋り方の彼女は如月美奈、二組だ。髪の色は黒でロングヘアーだ。この世界、一般人はたいてい黒髪なのだ。というか黒髪以外会ったことがない。逆に神様は黒髪の人を見たことがない。

 

「それじゃあ帰ろうぜ」

「そうやなー」

 

 その後、レクリエーションでは話せなかったことなどを話しながら帰った。どこに住んでいるかなどを話していて、神社に住んでいると言ったときの美奈の反応はおもしろかったなー。そんなことを思いながら階段を駆け上っていくのだった。




関西弁はエセ関西弁になると思います。なるべく調べながらやりますがどうも難しい。


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神力と奇跡

多少強引かもしれません。
それと、独自解釈を含みます。ご注意を。


「たっだいま戻りましたー」

 

 そう言って神社の中に入っていく。神奈子様と諏訪子様は居間でコタツに入ってテレビを見ていた。テレビは一昔前のもので、昼間なので番組もあまりいいものが無いらしく暇そうにしている。ちなみにコタツはいつも梅雨の辺りまで出ている。

 

「ご飯作りますねー」

「あ、今日は作っておいたよ」

 

 どうやら神奈子様がお昼ご飯を作ってくれたらしい。今から作り始めると若干遅くなりそうだったので嬉しい心遣いだ。

 神奈子様が作ったお昼ご飯をコタツへ持っていく。テレビは相変わらず付いたままだ。どうせ誰も見ていないがなんとなく付いている。食事をし終えると神奈子様が話しかけてきた。

 

「うーん、やっぱり持っているな」

「何がですか?」

「あー、いや早苗がちょっと前から神力を持ち始めたなーと思ってね」

 

 神力?私が持っているのは霊力だけのはずだ。神力が神様、霊力が人間、妖力が妖怪という具合にそれぞれが違う力を一つづつ持っているはずだ。

 

「どういう意味なんですか?」

「まあ簡単に言うと早苗も神様の仲間入り、現人神になったって感じかな」

 

 そうして神奈子様の説明が始まった。神力というのは他の二つの力と違って少し特別な力らしい。他の二つの力が自身の持つ力なのに対して神力というのは他人からの信仰によって発生する力らしい。つまり、信仰さえあれば人間でも妖怪でも持つことができる力ということだ。

 

「でも、何で私に?」

「そりゃあ、小さいころからここに住んでいるからだろうな。普通の人には私たちは見えないから幼い子が一人で神社に住んでいるように見えて、そんな小さい子が一人で生きていけるはずがないという考えから神の使いみたいな存在に思われてたんじゃないか?」

 

 言われてみればそんなこともあるかもしれない。母は小さい頃に亡くなったし、父は見たこともない。ずっと神奈子様と諏訪子様と私の三人で暮らしてきたのだ。普通の人には二人は見えないので数歳の子供が一人で暮らしているように見えたのだろう。そんな子を見たら私だって神様の使いか何かと考えるかもしれない。

 

「確かにそういう可能性もあるかもしれませんね。でも、何でそれを今?」

 

 先ほどやっぱりと言ったということはだいぶ前から持っていることはなんとなく分かっていたはずだ。ならば、確認も兼ねてその時に言えばいいのに今いうということは何かがあるはずだ。

 

「いや、前話した私と諏訪子の能力、乾を創造する程度の能力、坤を創造する程度の能力のことを話しただろ?たぶん今くらい神力を持っていれば早苗も似た様なことができるはずだ」

 

 最初に気づいた時は量が足りなかったってことか。

 

「歴代の風祝(かぜほうり)で神力を持った子達は皆、奇跡を起こせるようになっていたよ。たぶん早苗も神力さえ使えるようになれば起こせるはずだと思ってね」

 

 奇跡か……すごそうだ。それに最近、霊力の修行も慣れてきて時間が余るようになっていた。タイミングがいい。

 

「ぜひ教えてください!」

「よし、裏に行くか」

「はい!」

 

 私たちは神社の裏側に移動する。諏訪子様は話しを聞いていただけで特に何も無かったが付いてきた。ここは一般人は入れないし、なかなか広い。大きめの湖があるからだ。空を飛べる私たちには湖の上も広さのうちに入る。

 

「それじゃあ始めようか、と言っても霊力と同じようなやり方だけどな」

 

 そう言って神奈子様は手を出してきた。

 

「私が神力を流すから同じような力を見つけるんだ」

 

 手を取ると神力と思われる力が流れてきた。霊力よりだいぶ濃く、強い力だ。私は霊力を見つけた時のように集中する。見つけるべき力の感覚は分かっているのでだいぶ楽だ。そこまで苦労せずに見つけることができた。

 それを身体の全身に満遍なく行き渡らせる。身体が温かくなってきた。

 

「そこまで使えればもう大丈夫だろ」

 

 神奈子様が言って私は目を開ける。心の中でそよ風をイメージしながら神力を使うと実際にそよ風が吹いた。これが奇跡の力か。

 

「おお、もう使いこなしてる」

 

 諏訪子様が驚く。教えてもらって十数分で使えるようになったというのは自分でも驚いている。

 

「今みたいな簡単な奇跡なら一言で起こせるが、もっと大規模なのを起こそうとすると長い詠唱が必要だから気をつけてね」

「大規模というと……嵐とかですか?」

「そんなもんじゃないよ、起こそうと思えば天変地異だって起こせるね」

 

 ただ、数日かけての詠唱がいるけどねと諏訪子様は笑う。まあどのみちそんな大災害を起こすつもりはないから問題ない。しかし、良い能力だな。授業中暑い時に風を吹かしたり、面倒な体育の授業などを雨で中止にできるではないか。そんなことを思っていると神奈子様に叩かれた。

 

「しょうもない使い方はしないように」

 

 ばれていたらしい。確かにしょうもないので使うのは控えようと思った。

 

「早苗も神力を使えるようになったし三人で撃ち合いでもするか?」

「いいですねー」

「それじゃあやろっか」

 

 修行のための霊力弾、神力弾の撃ち合いだ。特にルールは無いが最初に当たった人から抜けていく。

 

「私、新しく技作ったんですよ!」

「ほう、見せてもらおうじゃないか」

「行きますよ!奇跡『ミラクルフルーツ』!!」

 

 

    場の空気が固まった。

 

 

 

 その後、復活した神奈子様と諏訪子様にその名前だけはやめろと言われた。良い名前だと思ったのに……




最後の撃ち合いは弾幕ごっこと似て非なるものです。
簡単に言うとボム無限の弾幕ごっこです。スペルカードはありませんが。


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初めての妖怪退治

 ある日、学校に行き教室に入るなり急に夕菜が話しかけてきた。

 

「学校の七不思議って知ってるか?」

「七不思議?」

「そうそう。よくあるじゃん夜中に動き出す二宮金次郎像だとか理科室の人体模型が動くとか」

 

 確かにそういったものは昔からよくある。ただ、この学校でそう言った話しはいまのところ聞いたことはなかった。

 

「それってもせやけど鏡の亡霊のこって?」

 

 何時から聞いていたのか美奈も話しに混ざる。

 

「それそれ、最近噂になっているよねー」

「人気のへんところで一人で鏡を見ると不気味な顔が浮かび上がってくるってやつやろ?」

「それで、二人には他の七不思議について知らないかなぁって。七不思議って言うくらいだからあと六つあるでしょ。まあ反応を見てる限り早苗は知らなさそうだけど美奈はどう?」

「うーん、私もこれ以外には知らんかな」

「そうかー、面白そうだと思ったんだけどな」

 

 話題としてはそれだけですぐに他の話しに移ってしまったが私には一つだけ思い当たる節があった。もしかしたらこの噂は妖怪の仕業かもしれないと。前世だったらただの噂として気にもしなかったが、私は既にそういった存在がいることを知っている。現に神様も実在するくらいだから妖怪の一匹や二匹いてもおかしくはないだろう。

 

(……後で調べてみるか)

 

 放課後、私はいつも一緒に帰っている二人に適当なことを言って図書館に来ていた。言わずもがな鏡に潜む妖怪について調べるためである。本棚から妖怪について書いてある本を無差別に取っていく。ただ、その日はどんな妖怪か見つけることはできなかった。神社(うち)にはパソコンもないので調べものは明日までお預けである。

 

 神社に帰ってそのことを話すと神奈子様や諏訪子様も同じ意見だった。

 

「確かにそれは妖怪の仕業っぽいねー」

「妖怪は人間だけでなく、恐怖なども糧とするからな。もし、また噂を聞くようなことがあればいるのは確実と考えていいだろう。人間に物理的な被害が出ていないことから考えても力の弱い妖怪なんだろう。早苗の初陣にはぴったしだ。しっかり退治してやれ」

 

 その次の日、噂は収まるどころかより広がっていて、目撃情報も増えていた。そうして私が退治に出向くことが決定した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 昨日と同じように図書館で調べ物をした後、私は風祝の正装に着替えていた。初の妖怪退治である。緊張しないほうがおかしい。呼吸を整えつつ、準備をする。

 

「お札、お払い棒、懐中電灯……よし。準備完了!」

 

 まだ人がいる時間帯に行くのはまずいので今は夜中である。

 

「それじゃあ行って来ます!」

「始めてだし、私たちも近くにいるけど気をつけなよ」

「はい!」

 

 風祝の仕事とは主に諏訪子様達に仕えることだが、私はそこに妖怪退治も加えられる。神社が妖怪に襲われた時などに即座に対応できるようにするためだ。本来なら学校まで行って妖怪退治などしなくてもよいのだが実践をするのは重要だ。神奈子様の意思で人に害を為す妖怪はなるべく退治するというのも含まれている。

 

 神社から飛び上がり夜の学校へ向かう。風祝の正装というのは案外目立つので歩いて行きたくないのだ。飛んでいるのを見られるのはまずいが高めに飛べば白っぽい鳥のようにしか見えないはずだ。特に何事も無く学校へ着き、校舎内に入る。うちの学校は夜間誰もいなくなる。変わりに入り口である門には多少の防犯装置が付いており、校舎の周りも高いフェンスに囲まれている。防犯カメラもまさか相手が飛んでくるとは想定されていないので避けるのは簡単だった。

 校舎内に入り、鏡を一つづつ確認していく。人気の無いところで一人という条件を満たしているのでいつ出てきてもいいはずだ。夜の学校を一人で探索するのは怖いのではないかという人もいるかもしれないが霊や妖怪といった存在を知っている私にとっては怪奇現象はほとんどそいつらの仕業ということで片付けられる。正体が分かっていれば怖くもなんともないのだ。

 

 しばらく鏡を見て回っているととうとう現れた。鏡を覗くとそこには私の顔ではなく少々不気味な顔が浮かびあがったのだ。

 

「はー疲れるんだからもっと早く出てきてよね」

 

 私はその顔を見ながら言う。その顔は全く怖がるそぶりを見せない私を見てこう言った。

 

「ナ…ゼ……コワガラナイ!」

 

 その瞬間、鏡の中から妖力弾が飛んでくる。ただ、本当に力の弱い妖怪のようで一発の威力は弱く、密度も薄い。その攻撃を予期していた私は軽く避けて言った。

 

「何故って人を怖がらせている悪い妖怪を退治しに来たからに決まってるじゃない」

「!」

 

 妖怪は急に怯えた顔になって鏡の中から消えた。もしかしたら他の鏡へと移ることができるのかもしれない。昼間に調べた情報には載っていなかったのでこれは完全に私のミスだ。また同じ鏡に移られると面倒なのでお札を鏡に貼り、小さな結界を作る。これでもうこの鏡には入ってこれないだろう。

 私は鏡を封印すべく次から次へと鏡にお札を貼り付けていく。時折、妖力弾が飛んでくるが避けるのは容易い。後でお札の回収が面倒だなぁと思いつつ今回の妖怪について考える。事前に調べて分かった妖怪の名は雲外鏡(うんがいきょう)、鏡自身が妖怪というものだ。と言っても専門家によって書かれたものではなさそうだったので多少の違いはあるかもしれない。

 

「うーん、おかしいなぁ」

 

 十数分後、全ての鏡にお札を貼り終えたと思ったのだがまだ妖怪は出てこない。教室には鏡はないのでトイレや知っている特別教室などを周ったのだがどこかに見落としがあるようだ。

 

「あと私が知らないところで鏡がありそうな所かぁ」

 

 考えてみるがなかなか思い浮かばない。探しながらうろうろしているとふと校長室が目に入った。そういえばどうなっているか全く知らない。校長室の扉を空けると中から一段と濃い弾幕が急に飛び出してきた。流石に避けきれなさそうだったので霊力弾で一部を相殺する。

 

「ようやく当たりでしたか」

「ク……」

 

 どうやら校長室にある鏡が最後の鏡のようで雲外鏡は逃げるために窓から飛び出そうとした。

 

「逃がしませんよ!奇跡『客星の明る過ぎる夜』!」

 

 中心に相手を追尾する弾と左右から行動を制限する細長いレーザーが飛ぶ。雲外鏡はそんな弾幕を避けれるはずもなく当たって消えてしまった。なんていうか追い詰めるまでが大変だったのにあっさりしすぎてがっかりである。まあこれも余裕があるから言えることなのだが。ちなみにこの弾は妖怪以外には効かないように調整してあるので物を壊してしまうとかはない。しかし……

 

「はぁ……。片付けが面倒だ」

 

 当然壊れないだけで散らかりはする。それを直した後は今度は学校中の鏡からお札を剥がさないといけないのだ。結局、三十分ほどかけて片づけを終えた私は再び空に飛び上がった。

 

「お疲れ、早苗」

 

 どこから見ていたのか私が外に出るとすぐに神奈子様が声をかけてくる。辺りを見回したが諏訪子様はいなかった。どうやら飽きて帰ってしまったようだ。私が見てたなら片付けくらい手伝ってくれればいいのにと言うと後片付けまでできて、ようやく一人前と言われた。妖怪を退治できたからといって、その度に街を壊して直しもしなければ意味がないのと一緒である。

 

「それじゃあ帰ろうか」

 

 私は神奈子様と飛んで神社に帰った。後になって考えてみると霊力をあまり使わないという珍しいほど楽な妖怪退治だった。この後、私はいつも以上にぐっすり寝てしまい学校に遅れそうになってしまった。




いろいろ付け足したり変更しているうちに初の3000字超えです
ところどころ説明不足な気がしますがあまり細かくし過ぎるとうっとうしいかなと思ったので……
……ただの言い訳です。本当に文章力ある方々が羨ましい!
がんばるので応援よろしくお願いします。


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スペルカードルール

感想に関してですが何故か毎回、返信を忘れます。ただ、返信は必ずするつもりですので間が空いてしまったらすみません


 六月ももう終わるころ私が神社に帰ると知らない靴が二組置いてあった。

 

「お客さん?」

 

 長年神様として生きてきた二人の下にはたまにだが他の神様が来ることがある。私が見ただけでも数回はあったはずだ。大抵の場合、先輩である二人への相談で経験が少ない私は他の部屋で邪魔にならないように過ごしている。

 今回も邪魔にならないようにと思い、中央にある部屋を避けて他の部屋へ向かっていると神奈子様から声がかかった。

 

「お、早苗帰ってきたか。ちょっとこっちに来てくれ」

 

 そう呼ばれて部屋に入ると神奈子様と諏訪子様の他に二人の女性がいた。金色の髪の大きな九本の尻尾を持つ女性と茶色っぽい髪で二本の尻尾を持つ女の子だ。私はその二人を見た瞬間、御札を取り出して警戒をした。妖力が二人から漂っていたからだ。それも金髪のほうからはとんでなく強い。

 しかし、すぐにこの状況に気づいて御札を降ろす。私よりもよっぽど強い神奈子様と諏訪子様が通しているのだからこれは無礼だと気づいたからだ。

 

「すみません、突然」

 

 二人に向かって謝罪をする。

 

「いや、かまわないさ。帰ってきていきなり妖怪に出くわしたのだから無理も無い」

 

 余談だが金髪のほうは妖力を意図して出しているわけではない。しかし、どんな妖怪でも妖力は多かれ少なかれ漏れ出すものなのだ。そして少しでも漏れていればその妖力の質でなんとなく力量が分かる。金髪の妖力はまさしく大妖怪のものであったのだ。

 

「さて、早苗も帰ってきたことだし始めようか」

 

 神奈子様が言う。ここにいたのは私を待っていたのか。

 

「そうしようか。まずは自己紹介からだな。私は八雲藍(やくもらん)、とある方の式であり見ての通り九尾の狐だ。そして、こちらが(ちぇん)。ほら、挨拶しなさい」

「橙です。藍様の式です。よろしくお願いします」

 

 金髪は八雲藍という九尾だったらしい。九尾……有名な大妖怪だ。それでも誰かの式なのか。主人は恐らく別格の強さだろう。式というのは動物や妖怪に式神という妖力を込めた御札を埋め込んでその者を式として使役するというものだ。昔、教えてもらった。ただ、式は主人とかなりの力量の差が求められたはずだ。大妖怪を式にしているのは異常とも言える。

 

「私は八坂神奈子だ。ここで信仰を集めている」

「私は洩矢諏訪子、よろしくー」

「……あ、東風谷早苗です。風祝でいちおう現人神です」

 

 考え事をしていたせいか少々呆けてしまった。それにしてもこの二人は何をしに来たのだろうか。妖怪は普通、神社などには来たがらないものだと思っていたが。

 

「それじゃあそれぞれの自己紹介も終わったし、本題に入ろう。といってもここに来た目的はただ一つ、幻想郷のあり方についての話しだ」

「……幻想郷?」

 

 私は聞き覚えのない言葉に思わず口にだして呟いてしまった。藍さんは話しを続ける。

 

「幻想郷、現代では既に忘れ去られつつある妖怪や神、人間などが共存して暮らしている結界によって隔離されている土地だ。この結界は現代で忘れ去られ幻想となったものを流れ込むようにしているのだが……」

「なるほど。私達神は忘れ去られたらその地点で信仰を失い消滅してしまう。そういうことだね」

 

 諏訪子様が話しを遮る。

 

「物分りが早くて助かる。まあそこの現人神以外は存在にはもう気づいていただろうけどね」

 

 え、そんな所があるなん知っていたんですか?と神奈子様に問う。すると当然のように気づいているさと返答が来た。

 

「それで最近新しくスペルカードルールというのを制定してね。それについて知ってもらうために来たのさ。橙」

「は、はい」

 

 そう言うと橙はポケットの中から一枚の半透明な紙のようなものを取り出した。

 

「スペルカードルールとはこのスペルカードに弾幕を閉じ込めて戦う新ルールです。通常弾幕と予め決めておいた弾幕を相手が死なないよう手加減して行い。先に何回か被弾したほうが負けというルールです。幻想郷では物事の取り決めなどを全てこのスペルカードルールにて取り決めることになりました」

 

 非殺傷の弾幕バトルで取り決め事を決めるということなのかな。

 

「まだ現代にいるがもし幻想郷に来るならそのルールに従えってことですか?」

「その通りさ。まあ一度やってみるといい。橙はそのために連れてきたんだ。私がやってもいいのだがこの子もあまり慣れていないからいい機会だと思ってね」

「ふむ、なら私たちからは早苗を出そうじゃないか」

 

 神奈子様に指名された。スペルカードルール、弾幕ごっこと言うのだがなかなか楽しそうである。私はではやりましょうと外へ出る。もし何かあっても神奈子様と諏訪子様がいるので安心だ。

 スペルカードの作り方を教えてもらいつつ移動する。

 

「このカードに弾幕を思い浮かべながら霊力、妖力、神力のいづれかを入れれば自然と撃てるようになります。ただ、もう一度使おうとすると力は込めなおさなければならないので注意してください」

 

 そして一枚だけカードを渡された。むむ、一枚だけか……。どうしようかなと考えながら歩く。しばらくして一つ決めて神力(・・)をカードに注ぎ込む。するとカードが光ってスペルカードとなった。

 神社の裏の湖の上に飛び上がる。橙も飛んできた。藍さんはなんとなく年上な気がするが橙にさんを付けるのは何か間違っているような気がした。

 

「それじゃあお互いスペルカードは一枚、先に一回でも被弾したほうが負けだ」

「いきますよー」

 

 声をかけて通常弾に分類されるであろう弾の塊を出した。私の周りに星型の弾幕が広がりそれが一気にばらけていく。それを見ながら私は追撃とばかりに丸い弾を連ねて細長い弾幕を撃っていく。橙はそれらを必死に避けながら弾幕を無造作にばらまいていく。そして時折、私を狙って追尾してくる弾もあり非常に避けづらかった。

 

「わわっ」

 

 弾が服を掠る。危なかった。橙はそれを見てにやりとしながらスペルカードを宣言する。終わらせる気だ。

 

『鬼神「鳴動持国天」!』

 

 いままでの弾幕が消え、上下左右、全方向からとんでもない数の弾幕が迫ってくる。確かにこれは避けれそうに無い。だが、私だってまだスペルカードが残っているのだ!

 

『私だって負けません!開海「モーゼの奇跡」!!』

 

 宣言すると私と橙の左右から波のようにたかい壁が波打ちながら出現する。これだけで橙の弾幕は左右のものが全て消され上下だけとなった。これなら避けれる。そう思いつつ、橙に追尾をする弾をどんどんと送り込んでゆく。橙は始めこそ避けていたがだんだんと壁際に追い込まれ、波打ってきた壁に当たってしまった。

 墜落していく橙を藍さんが抱きかかえて戻ってくる。私の勝利だ。

 

「これでスペルカードルールの事を分かってもらえたか?」

「ああ、よく分かったよ。もし行くときはこれで勝負をすればいいんだね」

「まあそういうことになるな。よろしく頼むよ。それじゃあ私はこれで失礼する」

 

 突然、空間に切れ目が入ったかと思えば何やら目玉がたくさん浮かんでいる奇妙な空間の中に橙を抱えたまま戻っていく。二人が完全に中に入ると空間は閉ざされた。

 

「ああ、そうそう忘れていたよ」

 

 藍さんの声が響き、再び空間に穴が開いたと思えば先ほどのカードが落ちてきた。穴はすぐに閉じてしまった。

 

「スペルカードか……なかなか面白そうだね」

 

 諏訪子様が呟く。確かにスポーツ感覚で楽しかった。

 

「あんなただの化け猫にやられそうになってたし、早苗を鍛えないとね」

「それもそうだな」

 

 諏訪子様が提案し、神奈子様もそれにのってくる。

 

「せっかく勝ったのに!」

「あれは式の式だ。そんなのに負けそうになっていてはいかんだろう。避けるという意味でも私と諏訪子で鍛えてやろう」

「むむむ」

 

 そんなことを話し合いながら神社へと戻っていく。なんだかんだで今日は疲れた。いい夢が見られるだろう。

 後日談だが数日後、スペルを作った諏訪子様と神奈子様に同時に弾幕を撃たれて私は涙目になりながら避けた。まあすぐに当たったけれど。しかも、しばらくこの形で訓練するらしい。地面にへたり込んでしまった私は悪くないだろう。



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初夏のころ

 七月の終わりごろ、私は朝食を食べながら憂鬱な気分になっていた。

 

「はぁ……」

 

 別に朝食を作るのに失敗したとかではない。今日は珍しくご飯と味噌汁、それに焼き鮭だ。これに納豆でもあれば日本の朝食って感じだが生憎私は納豆が苦手だ。

 

「どうしたんだい早苗、今日は元気ないね」

 

 朝食の席には私と神奈子様の二人だけ。諏訪子様は用事があるとかなんとかで朝食も食べずに出かけていってしまった。相変わらず自由な神様の諏訪子様である。

 

「面倒なことになってしまいまして……」

「何があったんだい?」

 

 

 私は神奈子様に説明をした。

 

 昨日のことだ。終業式も終わって明日から夏休みだと少しだけ浮かれていたころ、夕菜と美奈が明日学校の行事として肝試しが行われるから一緒に行かないかと誘われたのだ。当然、自由参加である。

 私ははじめ面倒なので行かないと答えた。二人には悪いが本当に面倒なのである。第一、幽霊や妖怪の存在などを普通に知っている私にとっては肝試しなどしても全く怖くない。妖力などの有無で本物かどうかもすぐに分かってしまうし、ただの幽霊は脅しなどしようとしない。

 第二に夜中に出歩くと妖怪に襲われる可能性が高いことだ。自覚はあまりないのだが現人神である私は妖怪に狙われやすい。夜は妖怪の力が高まるのでなおさらだ。そんな状態で人気の少ない場所に行けば結構な確率で襲われる。いままでも数回に一回は襲われていた。私一人ならばいいのだがもし参加することになれば確実に三人で行くことになるだろう。別に力を見られるのはいいとしても少しでも二人に危険が迫るというのは忌避すべき事態といえる。

 

 そんな理由から断っていたのだがどうやら二人はどうしても一緒に行きたいらしくこんなことを言ってきた。

 

「もしかして、怖いの?」

 

 実に心外である。全く怖くない。むしろ心霊スポットなどで普通に寝泊りできるくらい怖くない。何せ怖がるべきものがはっきりと見えるのだから。そして言葉を返してしまった。

 

「怖いわけがありません!」

 

 と。本来なら軽く受け流しておけばよかった。そうでなくても用事があるなどと言えばよかった。そしたら諦めてくれたかもしれない。結局、その言葉を皮切りにあれよあれよと言う間に行くことが決定してしまったのである。

 

 

「どうしましょう?」

「どうしましょうってそりゃあ行くしかないんじゃないかい?この辺りに大妖怪がいるとかも聞いたことはないし二人には護身用の御札でも持たせておけば大丈夫だろう」

「うーん、まぁそうですね。これ以上考えても仕方ないですし飛びっきり強い御札でも作りましょう!」

 

 まだ多少の不安はあるがそこらの木っ端妖怪くらいならば簡単にあしらえる程度の力は持っている。そうそう強い妖怪が襲ってくることもないだろうし、いざとなれば神奈子様に助けを求めればいい。その間持ちこたえるくらいなら私にもできるはずだ。

 

「まあ、絶対に襲われるってわけじゃないんだから楽しんできなよ」

「はい」

 

 そうして朝食を終える。今日から夏休みで学校が無いのでこの後は自由だ。修行するのもいいけれどたまにはゆったりと御札でも作ってみよう。いつの間にか憂鬱な気分は晴れていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 夜になった。私はいつものように巫女服で出かける。なぜなら私はこれ以外に私服を持っていないからだ。残念ながらうちの神社は財政があまりいいとは言えない。毎日のご飯だって半分くらいは諏訪子様と神奈子様の能力の応用で野菜を作っている。そのため私服を買う余裕はあまりないのだ。私自身、お洒落に興味がほとんどないというのも影響している。

 また、この服が大変使い勝手がいいというのもある。普通の服ではない御札を仕舞う内ポケットがたくさん付いているし、お払い棒だって入れておくことができる。さらに霊力を通しやすいというおまけ付きである。正直、普通の服などいらない。温度の調整だって霊力で簡単に行えるのだからなおさらだ。

 

 集合場所である学校のグラウンドへ向かう。別に疲れるわけではないのだがどうしても飛んで行くほうが早いと思ってしまう。それでも無闇に飛んでいる姿などを見せるわけにはいかないので仕方なく歩いていく。

 学校に着くと夕菜がこちらへ駆けてきた。近くに美奈がいないのを見るとまだ来ていないようだ。

 

「……またその服か」

 

 夕菜が呆れたかのようにこちらを見てくる。

 

「この服以外持っていませんから」

「毎度思うんだがもう少しお洒落したいとか同じ服ばかり嫌とかないのか?」

「?」

 

 私の反応に夕菜は「ダメだこりゃ……」と呟く。何故そんなことになるのだろう。これほど使い勝手がよくて快適な服など他にないだろうに。そんなことをしばらく話していると美奈も来て、その後に肝試しの説明が始まった。こんかいは少しだけ離れたところにある廃病院を使うようだ。予め安全確認も済ませ、使用の許可も取っていると言う。数人で組になってゆっくりと入っていく。私たちは三番目だった。建物内なら襲われる心配もないだろうし、不意打ちをされにくいと考え、昼間に作った御札は渡さなかった。渡しても臆病だとか言われそうだというのが一番の理由だが。

 

 肝試しは特に何事もないまま終わろうとしていた。途中、幽霊が集まってきて気温が急に下がってしまったりしただけだ。ちなみに私以外の二人はその現象にとても怯えていた。実害はないので大丈夫だろう。幽霊が集まってきてしまったのはおそらく自分達の事を認識できる存在がいると気づいたからだ。もしかしたら未練があってそれを聞いて欲しかったのかもしれない。

 そんなこんなで廃病院の奥までやってきた。そこには机が置いてあってその上にある蝋燭を持ち帰れば終了というものだ。目当ての蝋燭を取ろうと机に近づく。

 

 

            がっ

 

「!?」

 

 急に左足を誰かに捕まれた。何の気配もしなかったのに!咄嗟に右足に霊力を込め、掴んだ手に蹴りを浴びせようとする。当然の如く手は蹴られまいと左足を離す。その瞬間、私は後ろに飛んで二人がいるところまで下がる。そしてすぐさま御札を取り出して構えた。

 状況はかなりまずい。それなりに警戒していたはずなのに全く気づけなかったというのは実力が完全に上だ。二人に注意をする暇も無い。それが命取りになるかもしれないからだ。冷や汗が流れる。そしてそいつは机の下から出てきた。

 

「……諏訪子様?」

「ぷはぁ、ようやく来たぁ」

 

 机の下から出てきたのは諏訪子様だった。それからのことはあまり覚えていない。神力の応用で一般人には姿が見えないようにした諏訪子様と二人と廃病院から出て気づいたら肝試しは終わっていた。

 

 帰りに聞いたのだが諏訪子様は私が肝試しに行くという噂をミジャグジ様から聞いたらしい。何でも神社の周辺ならば噂などはほとんどミジャグジ様を通して聞くことができるらしいのだ。それで朝から出かけてどこでやるかなどを調べた後に驚かそうと思い、隠れていたそうだ。なんとも人騒がせな神様である。

 




えーなんというか自分で書いてて矛盾がたくさんあるなぁと思った話しです
できればそこに突っ込まないで欲しいです……豆腐メンタルなので

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夏休みの一日

過去最高文字数の5000字超えです


 ピピピピピピッ

 

「……」 目覚まし時計を止めて布団から起き上がる。時刻は午前6時、夏は布団が恋しくならないので起きるのが楽だ。寝ていたときに着ていたパジャマを脱ぎ、風祝(かぜほうり)の服に着替える。神奈子様も諏訪子様もまだ眠っているだろう。あまり音を立てないように神社の外へ出る。

 

 神社の脇にある倉庫から竹箒を取り出し、境内の掃除をする。秋や冬ほどではないが夏だって葉や枝がよく落ちているのだ。信仰のためには少しでも来る人の数を多くしなければならない。そのために掃除はかかせないのだ。また、毎日の習慣となってしまっている部分もある。

 掃除が終わると神社に戻り、シャワーで汗を流す。表の神社は最低限の物しかないが奥のほうは生活感満載である。汗を流した後は朝食の準備だ。今日は食パンに蜂蜜を塗った蜂蜜トーストとヨーグルトだ。蜂蜜トーストが甘いのでヨーグルトには特に何も入れない。

 

「早苗、おはよー」

「おはよ~」

 

 そうこうしているうちに神奈子様と諏訪子様が起きてきた。諏訪子様はいつもどおりの格好だが神奈子様は

 

注連縄を背負っていない。前に一度聞いたところ取り外しができるとか言っていたので置いて来たのだろう。普段付けているのは力を見せ付けるためとも言っていた。確かに私たちの前でまで見せ付ける必要はないだろう。

 

「おはようございます、朝食できてますよー」

 

 そのまま席に着き、朝食を食べ始める。食べながら当たり障りの無い会話をする。二人よりも一足早く朝食を終えた私は外出する準備を始めた。

 

「あれ、今日どこか行くの?」

「まだ宿題が終わってないので図書館にでも行って終わらせてしまおうかと思いまして」

 

 諏訪子様の疑問に答える。中学生の勉強くらいならなんの問題も無いが宿題は別だ。いくら簡単とはいえ時間がかかる。特に長期休暇の宿題などは面倒なのだ。別に神社(いえ)でやってもいいのだが図書館はクーラーがかかっている。うちには扇風機しかないし、霊力で涼しくしようにもずっとしていればやはり疲れる。宿題をしなければならないだけでも面倒なのにより疲れることをしたくはない。

 

 

「ま、気をつけて行っておいで」

「はい!」

 

 準備を終えて出て行く。昼ごろには帰る予定だ。がんばればなんとか終わらせることができるはず。ついでにアイスか何かを買って帰れば二人も喜ぶだろう。神様といえど暑いものは暑いのだ。

 そんなことを考えながら歩いているといつの間にか図書館に着いていた。学校よりも近く、行くのが楽でいい。適当な席に座って宿題を始めた。

 

 

              少女宿題中……

 

 

「ふう」

 

 お昼手前、ようやく残っていた宿題が終わった。予め読書感想文などの大きい宿題を終わらせておいてよかった。少し辺りを見回すと他にも数人宿題をやっている人が見られる。そんな光景を見ながら帰りの準備をしているとある一冊の本が目にとまった。

 

『画図百鬼夜行』

 

 見たところさまざまな妖怪について書かれた辞典のようなものだ。この前、調べに来た時には無かったはずだ。妖怪についての知識をもっと得ることも重要かもしれないと借りていくことにした。

 途中でコンビニに寄り、アイスを買っていく。三つとも同じものだ。溶けないように早く帰らなければ。

 

「戻りましたー」

 

 家に着き、解け始めているアイスを冷蔵庫に仕舞う。アイスは一番暑くなる二時くらいに食べよう。今日の昼食は夏らしく冷やし中華だ。野菜や卵などを適当に切って、茹でて流水で冷やした麺の上に乗せる。たれは市販のものを使う。麺と一緒に付いてきたやつだ。

 

「それじゃあ食べましょう」

 

 揃って冷やし中華を食べ始める。

 

「早苗、この後弾幕勝負やらない?」

 

 食べながら諏訪子様が話しかけてくる。スペルカードルールを用いた弾幕勝負はあれ以来諏訪子様のお気に入りとなったらしい。頻繁に誘ってくる。私自身も宿題も終わったので断る理由がない。

 

「いいですよ。今度こそ私が勝ちます!」

「そうこなくっちゃ」

 

 昼食を食べ終わり神社の裏手へ出る。一般人に見られると困るので結界を貼り、見られないようにする。

 

「スペルカードはこの前と同じで三枚、一度の被弾で負けでいいかい?」

「はい」

 

 お互い飛び上がって構える。私は未だに一度も諏訪子様に勝つことができていない。なんとか夏が終わるころまでには一勝くらいはしたいものだ。ちなみにスペルカードの枚数が三枚なのは短過ぎず長過ぎない程度の時間で勝負ができるからである。

 

「それじゃあ行くよー」

 

 諏訪子様の掛け声と同時に大量の御札を模した弾幕が放たれる。全方位に無差別にばらまかれているように見えるがいくつかの弾幕はこちらを狙っているので注意が必要だ。こちらを狙っているかわさなければならない弾だけをその場で小刻みに移動することで被弾を防ぐ。

 

「むう、やっぱりこれだけじゃ当たらないか」

「私だって鍛えているんだから当然です!」

「じゃあこれならどうかな」

 

神具「洩矢の鉄の輪」

 スペルカードの宣言と同時に諏訪子様の手に巨大な錆びた鉄の輪が現れる。そしてそれをこちらへと投げつけてくる。あまりに巨大なそれは先ほどのように小刻みに動くだけでは避けることができない。諏訪子様はどんどん鉄の輪を生み出し私に向かって投げてくる。回避するために大きく避け、諏訪子様の後ろまで回りこむ。

 

「回避しているばかりじゃ勝てないよ!」

「私だって!」

 

 負けじと弾幕を生み出す。星の形をしたそれは形を崩しながら諏訪子様の元へと向かっていく。

 

「甘い甘い」

 

 諏訪子様は軽くそれを避けると再び鉄の輪を投げつけてきた。またもや大きく回避しようとすると最初に投げられた鉄の輪が戻ってきて道を防がれる。

 

「ッ!」

 

 当たると思った私はすぐさまスペルカードを宣言する。

 

秘術「グレイソーマタージ」

 私を中心に三つの星型の弾幕が出現する。そしてすぐに散開。至近距離だったためほとんど散っていない私の弾幕に当たった鉄の輪は砕け散り、残った私の弾幕が諏訪子様を襲う。しかし、鉄の輪を砕くために使われたそれは避けるのは容易いほど薄くなっている。

 

「いいねぇ、楽しいねぇ」

 

 諏訪子様はまたもや軽々と避けていく。私は追い討ちをかけるようにさらに星型の弾幕を放ち、散らしていく。だがそれでも諏訪子様を捕らえることはできずにスペルカードの時間が終了する。

 

土着神「ケロちゃん風雨に負けず」

 再びスペルカードを宣言した諏訪子様から雨のような弾幕が降り注ぐ。小さな小雨を思わす弾と大降りを思わす大きな弾、そして途絶えることなく降り注ぐレーザー。三種類の雨が私に降り注ぐ。私はそれをなんとか避けながらどうしても自分に当たりそうな弾だけを自身の弾で相殺していく。何度も掠り(グレイズ)しながらも避けスペルカードを宣言する。

 

「行きます!」

 

準備「神風を喚ぶ星の儀式」

 このスペルカードは次のスペルカードで奇跡の力を使うための準備のための弾幕だ。ただ、準備だからといって侮ってはいけない。十分に濃密な弾幕だ。星型弾幕を再び出し、ばらけさせていく。そのうちの一部は完全にばらけずに一本の線として行動を制限していく。諏訪子様も少しだけ避けるのが厳しそうだ。

 

「やるねぇ」

「絶対勝ちます!」

 

 諏訪子様に当たることは無かったがようやく準備が終わった。これが正真正銘のラストスペルだ。諏訪子様はまだ二枚しか出していないがこれで押し切る!

 

奇跡「神の風」

 宣言すると私の周りに弾幕が球状に張られ回転し始める。そしてしばらくの回転の後、全方位へ向けて弾幕が広がる。私はそれに合わせて一定間隔ごとにおおきめの弾を放ち、この弾幕が完成した。避けられる隙間はほとんどないはずだ。だが、それに諏訪子様が少しだけ笑って

 

「だから早苗は甘いんだよ」

 

 一発だけ神力弾を放ってきた。それは私の展開した弾幕を避けながらゆっくり進んでくる。そんなゆっくりな弾が当たるはずが無い。私はそう思い、余裕を持って避けようとしたところで気がついた。あ、これ自分の弾幕で身動き取れない。この弾幕は私を基点に展開しているのではなく私のいる場所を基点にしているため私が移動しても球状の弾幕が付いて来たりすることはない。

 

「ちょ、諏訪子様待って、ヘルプ、助けて」

「いやあ、どちらかが被弾するかスペルカードが切れるまでが勝負だからね」

 

 諏訪子様が意地の悪い笑みを浮かべて言う。威力を加減してあるといってもあくまで攻撃技、当たれば痛い。そんな弾が目の前まで迫ってきている。

 

「あわわわわわ、ぐっ」

 

 思いっきり腹に神力弾が直撃した私は意識が遠のいていくのを感じた。ああ、また勝てなかったな……。

 

 

 

 

「ん……」

 

 目が覚める。脇に時計が置いてあり、時刻を確認するとあれから30分ほど経っているようだった。私が気絶したのは諏訪子様が原因ではない。最低でもそれくらいの威力は込めないと弾幕として保つことができないからだ。まあ直撃でもしなければ気絶はしない程度の威力なので危険はない。最後のスペルカードは改良しないとなぁと思いつつ身を起こす。

 

「あ、早苗起きたんだ。もう大丈夫?」

「はい、もう何ともありません」

「今回は直撃したからちょっとだけ心配しちゃったよ」

 

 諏訪子様が笑いながら話しかけてくる。

 

「ほれ、買ってきてくれたんだろう。せっかくだから一緒に食べようじゃないか」

 

 神奈子様がアイスを持ってこの部屋に入ってくる。私はそれにうなずきアイスを受け取った。

 

「今度こそ勝てると思ったんだけどなぁ」

「あはは、まだ負けないよ」

「諏訪子は弾幕勝負は私よりも強いからねぇ」

 

 アイスを食べながら話す。実は神奈子様には一度だけ弾幕勝負で勝ったことがあるのだ。そして諏訪子様は私にも神奈子様にも一度も負けていない。しかし、諏訪子様は神奈子様の言い方が気に入らなかったらしい。

 

「何さ、『弾幕勝負は』って。本気の勝負でも勝てるからね」

「ほう、誰かさんに負けて神社を明け渡した神はどこの誰だったかなぁ」

「そんな昔のことをまだ言っているのかい?時代は進んでいるんだよ」

 

 二人とも喧嘩腰のようになってしまっているが目が笑っている。なので問題ないだろう。そうこうしているうちに諏訪子様が、なら久しぶりに本気で勝負してみようじゃないかと言い、神奈子様がそれに応じる。そして神社の裏の湖のほうへ飛んでいった。

 私は見学するためについていく。せっかく弾幕を使わない勝負が見られるんだから見なければ損だ。湖に着くとすぐに勝負は始まった。神奈子様の御柱があちこち飛び回り、諏訪子様の鉄の輪やミジャグジ様が縦横無尽に駆け巡る。勝負は30分ほど続き、とうとう決着が着いた。神奈子様の勝利だ。

 

「まだ、諏訪子には負けんよ」

「むぅ」

 

 諏訪子様は一瞬すねたような表情を見せたがすぐにいつもの感じに戻って言う。

 

「早苗はこの後何か予定ある?」

「いちおう図書館で借りてきた妖怪の本を読んでみようと思ってますが」

「ようし、じゃあ実際にその妖怪達を見てきた私が解説を加えてあげよう」

 

 思っても無い申し出であった。現代にまで残されている書は基本的にどういった妖怪であるかのみが書かれ、対処法などは書かれていないものが多い。実際に戦っていた人が書いた本は少ないので当然だ。そこに実際に見てきた人の解説が加わるのだから有用でないはずがない。ついでに言うとこういったことを調べたり聞いたりするのは私自身結構好きなのだ。

 

「それじゃあよろしくお願いします」

 

 そうして妖怪についていろいろな話しを聞くことができ、また途中途中で面白話なども入ってとても楽しく過ごすことができた。一通り読み終わって時計を見るといつの間にか6時になっていた。そろそろ夕食の準備を始めなければ。

 

 

 夕食を食べ終え、お風呂に入った。そして今は三人でテレビを見ている。見ているのは夏らしい心霊番組だ。フィクションなどではなく心霊写真などを体験談と供に載せているやつだ。私たちはこういったことには専門家以上に専門である。テレビに映った写真を見ればなんとなくは分かる。

 

「んーやっぱりほとんどがガセだねぇ」

「光の反射とかたまたま写っちゃったとかどうして分からないんでしょうね」

「いや、後者は一般人に求めてはいけないと思うぞ」

 

 呟いたら神奈子様にそう言われた。明らかに無害そうな顔をしているのに時々、凶悪な霊だなどと言われて少々可哀相だ。前世ではこういった番組もそれなりに怖かったが今では正体が分かっているので全く怖くない。

 

「……そろそろ眠くなってきたので寝ますね」

 

 そう言って寝室へ向かう。今日はいろいろと動き回ったので疲れてしまった。ゆっくり寝て疲れを取ろう。そう考えながら、布団に寝転がる。すぐに強烈な眠気が襲ってきて目も開けていられなくなった。

 ……おやすみなさい




適度な所で話しを終えようと思った結果後半が少し雑になってしまいました(反省です
次回は出来れば蓮メリを出したいのですが二人の口調がよく分からないんだよなぁ(というか守矢一家もなんとなくのイメージですので合っているかどうか
とりあえずがんばります


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