司会者に座布団を求めるのは間違っているだろうか (はげちゃびん)
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死亡ネタは司会の誉れ


永世名誉司会で在らせられる桂 歌丸 師匠宜しく死亡ネタが出ますが、(作品内部司会者に対する)アンチ・ヘイトのタグを入れているので勘弁してください。

時代→歌丸ジェノサイド中期
司会→フェルズ(死亡ネタで過去に何度もイジられている)

青色→ゼウス(下ネタ担当)
桃色→ヘスティア(貧乏ネタ)
黄色→該当なし(非登場)
白色→ベル(色々)
紫色→ヘルメス(腹黒)
橙色→該当なし(非登場)

山田君→命(なんだか日本名+3文字じゃないと違和感あったので採用)
観客→オラリオの住人+ハーメルンの皆さん

初期座布団→3枚


■この放送は、豊饒の女主人の提供によりお送りします。

 

 

 チャッチャカチャカチャカと流れる、特徴ある“いつものテーマ”。舞台袖からカラフルな六名が颯爽と登場し、既に敷かれている座布団の横に辿り着く。

 一列に並んだ光景に対し、観客席から割れんばかりの拍手が送られるのもまた週に一度は定番となっている光景だ。

 

 そして最後に、わっと一段と大きくなる拍手の渦。司会であるギルドの影、フェルズが足取り軽く登場し、舞台を正面にして左端にある司会者用の座って使う机へと足を運ぶ。

 

 今週もまた、いつもと変わらない面構え。しかしそれが至高であり、日々の疲れを取り除くべく。

 とある者は、会場前から座席券を買い求め。とある者は、自宅で家族と放送用の水晶へと顔を向ける。

 

 今週もまた、いつもの挨拶から各々の紹介が始まってゆく。そして全員の挨拶が終わると、フェルズが今週のお題の第一問目を読み上げるのだ。

 

 

■一問目

 

 日本人ならば、うなぎ屋というのは匂いだけで誘われてしまうものである。うなぎ屋の前を通ると、渋団扇でパタパタパタパタ扇いで威勢のいい光景を目にしたことも多いだろう。

 ヨダレと共に財布の中身を見て、落胆に暮れるものだ。ウナギの価格が高騰している昨今においては、輪をかけて切実な光景である。

 

 

「そこで皆さん、お配りした団扇(うちわ)をバタバタ扇ぐなどして下さい。数秒してから“どうした?”と聞きますので、何か答えて下さい」

 

 

 お題が出され、暫く悩む六名の回答者。

 まず最初は、ヘスティアが挑むようだ。身体の前で一生懸命に団扇をパタパタとさせており、数秒程してからフェルズが問いを投げている。

 

 

「どうした?」

「マズいぜ、ジャガ丸くんを揚げる油の温度を上げすぎた!」

 

 

 シンプル・イズ・ベスト。神である彼女がアルバイトをしていることは広く知られているために、適度な笑いと拍手が沸き起こる。

 次はベル・クラネル。ヘスティアとは違って鼻をつまみながら、かなり必死に扇いでいた。

 

 

「どうした?」

「誰ですか、芳香剤と間違ってモンスター避けのお香を置いたのは!」

「そりゃキツイぜ……」

 

 

 ヘスティアのツッコミと共に、冒険者を中心に笑いが起こる。モンスター避けのお香は、本当に強烈な臭いを発するのだ。

 続いてヘルメスとゼウスの手が上がり、フェルズはゼウスを指名した。ゼウスは強くもなく弱くもない強さで、団扇を使って仰ぐ様相を見せている。

 

 

「どうした?」

「こうやって、下界に新しい風を吹き込んでおるのだ」

「ゼウス様のは如何わしい香りなのでいけません」

「何故じゃ!」

 

 

 まさかの司会者ツッコミが発生したものの、共感できるのか観客から笑いが沸き起こっている。下半神が吹き込む風、確かにロクでもないモノだろう。

 そして次はヘルメスのようであり、手を下ろすと彼の右隣りにいるベルに対して要望を行っていた。どうやら、一緒に小さく扇ぐような動作をするらしい。

 

 

「ベル君、ちょっと一緒に」

「へ?あ、はい」

 

 

 団扇の動きからするに、二人して何かを焼いている様相だ。秋刀魚か、もしくはバーベキューで火を起こしている様相にも見えるだろう。

 その光景が数秒続いたのち、これ以上は何もないと判断したフェルズは問いを投げた。普段は誰かを攻撃するような回答ばかりしているヘルメスながらも、今回ばかりは誰も回答が予想できないために、会場も静まり返っている。

 

 

「どうした?」

「フェルズ君の焼骨あがったよー!」

「ヘルメス様ぁ!?」

 

 

 笑っちゃいけない、でも笑わずにはいられない。「そうきたか」と言わんばかりに会場に笑い声が木霊しており、遅れて拍手が鳴り響いた。

 無い表情ながらも全力のジト目が容易に想像できてしまう雰囲気を纏うフェルズは、じっとヘルメスを見つめている。巻き込まれた向かってその左横、アタフタしているベルは「僕は関係ありません」オーラが全開であり、必死に巻き添えを避けている。

 

 

「命さん、“アレ”から2枚持って行きなさい!」

「“アレ”ってヒドイなぁ」

「あーあ」

 

 

 「そりゃそうなるよ」と言いたげに言葉を残したゼウスが横目向ける先で、再び沸き起こる会場の笑いと共に2枚の座布団が消えてゆく。残り一枚、既にあとがない状況だ。

 巻き込まれたベルはセーフだったようで、ホッと胸を撫で下ろしている。直後、脳裏に回答が浮かんできたようで手を挙げた。

 

 

「はいクラネル君」

 

 

 何かを思いついたようにバッと団扇を掲げたベルだが、そのままヘルメスの方へを向いて全力で団扇を仰いでいた。顔にも力が入っており、不等号(>と<)で現わせそうな顔を見せている。

 「えっ、何?」と思うヘルメスながらも、回答者(ベル)に指図されない限り、他の者が回答前に口を挟むのはNGだ。数秒程して、司会のフェルズが問いの言葉を口にする。

 

 

「どうした?」

「陰謀に、巻き込まれないようにしているんです!」

 

 

 どっと沸き起こる、一斉の大喝采。今までにヘルメスがやってきたことを知っているからこそ、先ほどのワンシーンがあったからこそ、この回答が最大に生きるのだ。

 

 やられたと言わんばかりに、ヘルメスは片手で頭を抱えて苦笑中。一方のフェルズは、先程の仇をとってくれたベルに対して満足げな表情を浮かべている。

 レベル4の身体能力を生かして拍手しているのは、ヘルメス・ファミリアの団長アスフィ・アル・アンドロメダ。「よくやった!」と、ベルを褒め称えている様相を隠していない。

 

 

「命さん、クラネル君に3枚あげて」

「やった!」

 

 

===

 

■二問目

 

 男ならば、恋愛ドラマの主人公のような台詞を一度は口にしてみたいと思うこともあるだろう。そこで、即席の恋愛ドラマというわけだ。

 回答者は、格好良い主人公になりきって歯の浮くような台詞を言う。それに対して、司会者のフェルズが一言返すことになるのだが――――

 

 

「えー……で、私がヒロインになって「うーん、もう……ばかあ」と恥ずかしがりますから更に続けて頂き、って何だこのお題は!?」

 

 

 「おい出題者!」と舞台裏に文句を言って細やかな笑いを取っているフェルズだが、お題はお題だ。さっそく手を挙げたゼウスを指名したフェルズだが、さっそく後悔することとなる。

 

 

「君は、ワシの太陽じゃ」

「うーん、もう……ばかあ」

「だから夜はどっか行ってくれんかのぅ」

「浮気する気満々かい!!」

「あいだっ!」

「命さん一枚持って行って!!」

 

 

 間髪入れずに横に居たヘスティア渾身の物理的なツッコミが入り、ゼウスは座布団没収。腫れ物(ごみ)を見るような目を向けるベル・クラネルだが、残念ながら客の笑いは喝采だ。

 「まったく……」と呟くフェルズに苦笑いを浮かべるゼウスだが、心の中では“してやったり”。数秒後、今度はベル・クラネルが手を挙げた。

 

 

「はい、クラネル君」

「はい。寒い冬の夜だってのに、耳まで真っ赤だよ。僕と一緒で、心が炎のように燃えてるんだろ?」

「うーん、もう……ばかあ」

「以上、ヴェルフさんとヘファイストス様とのやり取りでした」

 

 

 先程と比べて負けず劣らず、笑いと拍手の渦が会場を包み込む。フェルズを含めた回答者の全員も大爆笑であり、ヘスティアに至っては床を叩いている程だ。

 “不冷(イグニス)”の二つ名を持つヴェルフ・クロッゾ故の、先の内容。会場に居るヴェルフは顔を真っ赤にしてベルに向かって思いっきり叫んでいるが、残念ながら笑い喝采の中では届かない。

 

 その横で、ヘファイストスは両手を顔に当てて悶えている。そんな光景が映像として会場のスクリーンに映し出されるのだから、盛り上がりは最高潮だ。

 ともあれ無限に続くわけでもなく、次はヘスティアが手を挙げる。他に誰もいなかったので、フェルズは彼女を指名した。

 

 

「もっと人通りの少ない、暗い道を歩こうじゃないか!」

「うーん、もう……ばかあ」

「もしかしたら小銭が落ちているかもしれないよ!」

「資金繰りが厳しいのは分かりますが犯罪はやめてください」

 

 

 すかさずベルからの鋭いツッコミ。ゼウスと揃ってこの体たらく、血は争えないのだろう。

 笑いと拍手については上々だ。フェルズもまた、「犯罪はいけませんよ」と言葉を残している。続いてはヘルメスが手を挙げた。

 

 

「はいヘルメス様」

「ゴホン!やぁ麗しの姫、僕と一緒に夜景を見ないか?」

「胡散臭いのでダメです」

「なんで!?」

 

 

 フェルズ・カウンターの炸裂である。言いたいことは観客も分かっており、先程に負けぬ笑い声に包まれた。

 そして再び、ベルが元気よく手を挙げた。

 

 

「はい、クラネル君」

「んんっ!君のことが大好きです。僕は、本当に君を食べちゃいたいくらいです」

「うーん、もう……ばかあ」

「あ、でもフェルズさんは骨だけでしたね」

 

 

 あの優しいベルによるまさかの攻撃ネタだけに、客の笑いと拍手も一入(ひとしお)だ。ホワイトラピッドならぬブラックラピッドと化したベル・クラネル、渾身の一撃である。

 とはいえ、攻撃されたフェルズは物言いたげな顔を向けている。骨だけとはいえ彼女も乙女、故に下される決定はただ一つ。

 

 

「命さん、クラネルさんの座布団を一枚取ってください」

「やっぱりー!」

 

 

 座布団にしがみ付くベルだが、引っぺがされて回収済み。司会者の命令は絶対であり、覆ることはめったにない。

 しかし、どうやらベルはリベンジをするようだ。プンスカ気味に指名するフェルズの言葉に咳払いしたベルは、幼さが残るながらもイイ声で回答を口にする。

 

 

「今晩、僕の家に来ませんか?」

「うーん、もう……ばかあ」

「教会ですから、そこで想いを伝えます」

 

 

 鳴り響く拍手、ハンカチを噛むヘスティア。ヘスティア・ファミリアのホームである廃教会をネタにした答えは、十分に歯が浮くシチュエーションと言えるだろう。

 これによって美の女神を含む巷の奥様方が数名(メンタル的に)死亡しており、フェルズ的にも、この答えは合格のようだ。そこで、先ほどの損失をチャラにすることとなる。

 

 

「命さん、クラネルさんに一枚差し上げて」

「やったー!」

 

 

 座布団の枚数が戻ってきて喜ぶベル・クラネル。先のヘルメス相手の答えにより、現在一位を独走中だ。次の答えがないかと、フェルズは「誰かいませんか?」と問いを投げる。

 がしかし、手を挙げたのは回答一発目でやらかしたゼウスだけ。恐る恐る指名することとなるフェルズだが、やはり歴史は繰り返す。

 

 

「このロウソクの炎のように、ワシの心は燃えておるのだ」

「不安が拭えませんが、うーん、もう……ばかあ」

「あとは君が、このロウをワシに垂らしてくれれば」

「「アウトぉー!!」」

「命さん1枚持って行って!!」

 

 

 会場は拍手と共に大爆笑ながらも、オラリオ全土に中継されている為に教育によろしくない。言葉を遮ったベルとヘスティアはゼウスに飛び掛かっており、元凶の首を落としにかかっている。

 プロレスが開催されているが、未だ拍手は鳴りやまない。ともかく時間も押しているために、フェルズは次の問題へと手を伸ばす。

 

 

「まったく、下品なネタから離れてくださいよ……それでは三問目」

 

 

====

 

■三問目

 

 童謡「くつがなる」。おーてーてー、つーないでーと始まる、誰しもが一度は耳にしたことのある最も有名な童謡の一つと言えるだろう。

 そこで今回は、手と手を繋ぐ問題となる。回答者が他の回答者の誰かと手を繋いで、「お手手繋いで○○行けば」のフレーズを歌うのだ。

 

 

「そのあと、私が“どうなったの?”と聞きますから、何か返事をしていただきたい」

 

 

 シンプルな問題であり、さっそく手を挙げたのはゼウスだ。フェルズが指名すると、「先の延長線上」と前置きをして言葉を発する。

 一人ではなく、手を握っている相手はヘスティアだ。しかしなぜだか、ヘスティア“が”ゼウスの手首を握って引いている風に見えるように指示している。

 

 

「おーてーてー つーないでー けーいさつーしょー(警察署)へーゆーけーばー」

「どうなったの?」

「手錠が掛かっとるんだから逃げられんわい!」

 

 

 先ほどのお題も含めて、よくある自虐ネタである。孫ベル・クラネルから「またですか」と合いの手が飛んできており、確かに再犯を犯したと捉えることもできるだろう。

 「執行猶予中だろ!」とヘスティアからヤジも飛んでくるなどして盛り上がっており、観客の笑いも上々だ。最後にベルが「ヘルメス様も連れていってください!」と叫ぶなど、まだまだ笑いは収まりそうにない。

 

 一度会場を鎮めたのちに、「こうなっちゃうので、犯罪はいけませんよ」と苦笑いで観客に応対するフェルズ。次に手を挙げたのはヘスティアで、ベルを隣に呼び寄せて手を繋いだ。

 

 

「ヘスティア様、どうぞ」

「任せてくれ!おーてーてー つーないでー さーんぽー(散歩)へーゆーけーばー」

「どうなったの?」

「こうしていれば冒険者と勘違いされて、ベル君と一緒にダンジョンに行けないかなー」

「神がダンジョンへ行入ってはいけません」

 

 

 素でツッコミを入れるフェルズだが、それも仕方のない事だろう。神を中心とした面子ながらも、客からの反応も上々だ。

 続いては、ベルがヘスティアと手を組むようである。二人して仲良く、歌の出だしを口ずさんでいた。

 

 

「おーてーてー つーないでー ほーうじょうのおんなしゅじん(豊饒の女主人)へーゆーけーばー」

「どうなったの?」

「どれだけ気分が落ち込んでも、頬が落ちる程の美味しい料理と奇麗で可愛いウェイトレスがお出迎え!皆さん、お食事はぜひ、豊饒の女主人で!」

 

 

 スポンサーに関するダイレクトマーケティングである。笑いもソコソコ確保できているうえに、この名前を口にされては、司会であるフェルズは、とあることを行わなければならないのだ。

 

 

「あげないワケにはいけませんね。命さん、一枚差し上げて」

 

 

 ベル・クラネル、「計画通り」と言わんばかりに“してやったり”顔。乱発はNGながらも、時たま出されると笑い声を誘うものだ。

 そして、自分がトリを飾るのだと言わんばかりに。満を持して、問題児ヘルメスが手を挙げる。

 

 

「はい、ではヘルメス様」

「よし。ちょっと、全員、全員で」

「全員で?」

 

 

 座布団運びの命まで出てきて、七人は横並びに手を繋ぐ。そして前後へと動かしつつ、お題の歌を口にした。

 

 

「「「「「「おーてーてー つーないでー」」」」」」

 

 

 七人による即席の合唱コンクール。しかしタイミングをつかみやすい歌のために、ハモり具合もバッチリだ。

 しかし、団らんもこれまでだ。問題は、このあとヘルメス一人で口にする回答である。

 

 

おーつーやー(お通夜)にーゆーけーばー」

「……」

 

 

 観客を含めた全員が、回答を察する。既に会場は爆笑の渦に包まれており、まさにテンションは最高潮。

 言われるままに手を繋いでしまった回答者達は、ニッコニコのヘルメスを除いて表情が引きつって治らない。今にも手を放したい衝動に駆られている。

 

 

「……一応、聞きましょう。どうなったの?」

「遺体が喋った!」

「「「「「おおっ!?」」」」」

 

 

 予測可能、回避不可能。ヘルメスの口から出された予想通りの一言によって、先ほどの焼骨と同じく笑っちゃいけないと思う観客ながらも、笑わずにはいられない。

 観客が一部予測できなかったのは、まさかのベルや命も含めたほかの六人が「おおっ!?」と合いの手を見せてきた点だ。これにより、笑い声と拍手喝采はいつも以上の熱気に包まれている。

 

 何も言わず、微動だにしない司会者フェルズ。そちらへと顔を向けたままのヘルメスは、してやったり顔を隠していない。

 

 そして、判決は下された。

 

 

「命さん、全員の全部持って行きなさい!」

「「「「「ええーっ!?」」」」」

「全員!?ええーっ!?」

 

 

 結果、フェルズ・ジェノサイド発動である。全員が「おおっ!?」とノリを見せたのだから、連帯責任というわけだ。一番驚いているベルは、声が上ずってしまっている。

 なお、生まれた光景は草木一本ない“焼野原”。どこに座ればいいのか目安がないために、座布団を回収されるために立ち上がった全員は少し位置がずれて板の間に正座している。

 

 そして、ここで時間が来たようだ。硬い板の間ということで辛そうにしている神々を尻目に、フェルズはお別れの言葉を口にする。

 

 

「神々への信頼を表現しているかのような、あっさりとしたところでお別れします。どうも皆さま、ありがとうございました」

 




年齢ネタでいえば司会がリヴェリアかなと思ったのですが、見た目が若々しいのでフェルズとなりました。ウラノスはテンションが低すぎるのでNGに。
黄色とオレンジは似合う人が思い浮かびませんでした……。

ともあれ歌丸師匠、どうか安らかに。


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