月の女神に溶かされて (宿身代の悪魔)
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月の女神に溶かされて

初めまして、宿身代の悪魔と申します。どうしても我慢できなくて、衝動的に書いてしまいました。処女作品ということで色々至らぬ点はありますが、お楽しみ頂ければ幸いです。
本文中、特に冒頭部分に原作より抜き出した部分が幾つか見られますが重要な部分は全て自分で書いており、またなるべく完全コピーにならないように表現等を工夫しておりますので規約違反にはあたらないかと思います。何卒ご理解の程を宜しくお願い致します。


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 私は、悠太くんが大好きだ。それは、彼との関係を私が終わらせてしまった後でも変わらなかった。彼との幸せだった記憶を抹消しようと、なんでもした。でもダメだった。自分の心は誤魔化せなかった。心に入ったヒビは、日を追うごとに、似合わないことをする度に、だんだんと大きくなっていった。零れ落ちていく心の欠片を埋めるために彷徨っていると、悠太くんに再会した。最初は心底嬉しくて、次に彼の表情を見て絶望した。これまでになく大きな亀裂が心に刻まれるのがわかった。

 ーー彼は、私を忘れようとしている。

 それはそうだ。あんな別れ方をした人との想い出を、ずっと大事にとっておくなんてありえない。

 至極当たり前の話。……でも、それにしても。私の記憶の中で生きている悠太くんと、目の前にいる彼は……全然違う。

 そんな冷たい表情になるんだね。

 そんな冷たい声が出るんだね。

 悠太くんの様子から、彼の心は既にある程度整理がされていて、私という存在が磨耗していっているのは明らかだった。

 認めたくない。認められるはずもない。私はこんなに貴方のことが好きなのに、どうして!

 ひび割れた心が赴くままに、考えるより先に行動していた。忘れられないように。そしてまた、一緒に。

 

「その、また会える?」

 

 絞り出すように言ったその言葉に、は?という声が聞こえた。酷く怜悧な声色に、背筋が凍る。

 

「あんた、正気?」

 

 悠太くんから視線を外す。予感が外れてほしいと、強く、強く願った。

 でも、彼女は。

 彩華さんは、当たり前のようにそこにいた。

 

 逃げることしか出来なかった。彼女は心底怒り、侮蔑していた。そこでようやく理解した。私が、悪者なんだって。彼らにとって私はもう、迷惑でしかない存在なんだって。私の胸中なんて、どうでもいいんだって。

 

 ーーああ。私は、月が嫌いだ。決して自分では輝けず、太陽の光を反射するだけ。

 自分は、悠太くんにとっての光だから告白されたのかと思ってた。でも、それは単なる思い上がりでしかなかった。悠太くんの近くにはずっと太陽があって、目が眩んで月の麓に迷い込んだだけ。

 悠太くんにとっての私は、多分その程度の存在だった。だからきっと、別れても心の整理を付けるのは簡単なことだったんだ。

 私の心が欠けていくのは当たり前だ。だって、月は満ちたら欠けるんだから。常に天高く輝き続ける太陽になんて、最初からかないっこなかったんだ。このまま一周して元通り、新しい月が始まっていくのを指を加えて見ているしかないのが私の運命なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌だよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 ……嫌だ。このまま悠太くんから忘れられるなんて嫌ッ!運命がなんだ。太陽の輝きには叶わなくても、太陽の輝けない影に住むことは出来るんだ。このまま消えるくらいなら……。

 そう、覚悟を決めた時。図ったかのように悠太くんからあって話したいって連絡が来た。きっとこれは、神様がくれた最後のチャンスなんだ。絶対に……つかんで見せる。

 

 

 

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「ねえ、悠太くん。私のこと、嫌い?」

 

 そう問いかけられ、俺は思わず目を見開く。好きか、嫌いか。「浮気」の真相、そして礼奈の苦悩を知った今、口に出して嫌いだなんて言えるはずがない。

 

「嫌いとか好きとか、選ぶ立場じゃないだろ俺は」

「ううん、選んで」

 

 今日初めて強い口調になった礼奈は、俺の頬に両手で触れた。その冷たさにはっとする。同時に、触れた手の小刻みな震えにも。

 

「悠太くんって優しいから、きっとこれから自分を責めちゃうかもしれないね」

「優しくなんかない。俺はまず、お前に謝らないとーー」

「謝らないで!!」

 

 礼奈が大きな声を上げて制止した。頬に触れた手を離して、肩の上に乗せてくる。震える瞳には、確かな決意が垣間見えた。

 

「謝ったら、許さない」

「なっ……」

「悠太くんは、ちょっと鈍感なところもあるかもしれないけど、すごく良い人。だから、謝りたいんだよね。自分の失態を何とかして償いたいんだよね」

 

 でも、と礼奈は続けた

 

「悠太くんが今謝ったら、その後の私たちの関係ってどうなるの?清算されるの?今までの時間が良い思い出として残って、終わりなの?」

 

 礼奈はそこでいったん言葉を切ると、軽く目を瞑った。そして目を見開くと、決然と言い放った。

 

「……そんなの、許さない」

 

 礼奈が俺の膝上に跨がり、身体を寄せてくる。露わになっている脚線が、紅潮した顔が、そしてなにより……柔らかい身体の感触が、艶やかな雰囲気を漂わせる。

 

「……好き。好きだよ、悠太くん」

 

 微かに、しかし確かに熱を孕んだ声に囁かれる。礼奈に魅力に圧倒されて、なによりどこか哀願するような響きが混ざっていることに気づいてしまって、目が放せない。

 

「悠太くんが告白してくれたあの日から、悠太くんが私の心から離れない。あの時、悲しくて、虚しくて、絶望して。それでも、忘れられない。忘れたくない。だって、こんなに大好きなんだから」

 

 囁きは止まらない。耳朶を震わす声から、徐々に触れ合う面積が増えていく身体から、近付いてくる瞳から。まるで魔力が注がれていくかのように伝わる礼奈の熱に蕩ける意識がふと、まだ礼奈が俺の彼女だった時を思い出した。

 

『うん、いいよ。私が幸せにしてあげる』

『悠太くん、ジャケットかっこいいね』

『ううん、悠太くんだから似合うんだよ。私はそう思う』

『……実は、初めてなんだ。その…優しく、してね?』

『悠太くんっ…悠太くん!』

『うん、確かに痛いけど……悠太くんとの愛の証だって思えたら、何故だか痛みすら幸せに感じるの。不思議だね』

『悠太くん……もっと私を愛して。私に、悠太くんをもっと注いで欲しいの』

 

 幸せな思い出。いつまでも浸っていたくなる、温かい記憶、だが俺は、俺たちは……もう恋人じゃないんだ。俺は礼奈と積み上げてきた一年を信じなくてはならない。だがそれは、今の礼奈の気持ちに応えるという応えに繋がるわけではない。俺たちの関係は、一度終わったのだ。だから……俺は礼奈の熱を、受け入れる訳にはいかない。

 

「やめーーっ!??」

「拒まないでっ……」

 

 礼奈を拒絶しつつ俺の肩に触れている礼奈の手を振り払おうとして……一気に距離をゼロにした礼奈に言葉を封じられた。そのまま舌が口腔内に侵入してくる。懐かしくて、大好きだった柔らかい感触を感じるが…俺はそれすらも意識から外していた。

 

 礼奈は…泣いていた。必死に舌を動かしつつも、こぼれる涙が止まらない。

 

「……ぷぁっ。お願い……拒まないでっ…貴方のいない日々にはもう耐えられないの…悠太くんっ……」

 

 唇を離してすがりついてくる礼奈を突き放すことは、俺には出来なかった。それに、俺の中のなにかに、今のキスで火が付いたような感覚がある。無意識に彼女を抱き締めていたことに気づき、更に動揺する。彼女を離したくない、そんな気持ちが確かに存在しているんだ。俺は……俺は、どうすれば良い?

 

「……悠太くん」

 

 思考が定まらず、礼奈を抱き締めたまま動けない俺に、少しは落ち着いたらしい礼奈の声が聞こえた。

 

「私は本気だよ。本気で、悠太くんともう一度やり直したい。悠太くんと愛し合いたい。……お願い、悠太くん。もう一度、私に貴方を幸せにさせてください」

 

 

 

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 堪えられなかった。悠太くんに拒絶されるなんて、受け入れられるはずがない。無我夢中になって、気付いたら唇を奪ってしまっていた。久々の快感。息の続く限り舌を動かし続ける。

 

「…ぷぁっ。お願い…拒まないでっ…貴方のいない日々にはもう耐えられないの…悠太くんっ……」

 

 必死ですがりつくと、悠太くんは私を優しく抱き締めてくれた。これまた久しぶりの幸せな感触に包まれて、暴走しかかっていた心が少し落ち着いた。悠太くんは私を抱き締めたまま動かない。見上げると、真っ赤になった顔が見えた。耳を澄ませば、自分の心臓が早鐘を打つ音が聞こえるようだった。悠太くんへの溢れる愛につき動かされるようにして口を開いた。

 

「私は本気だよ。本気で、悠太くんともう一度やり直したい。悠太くんと愛し合いたい。……お願い、悠太くん。もう一度、私に貴方を幸せにさせてください」

 

 想いは込めた。後は届くのを祈るだけ。目を悠太くんの顔から逸らさずに、返事を待つ。

 …実際にはもっと短いであろう時間も、体感では数十分以上。募る不安に押し潰されそうになり、逃げるように顔を逸らして身体を離しかけたその時。

 ぎゅっ、と。私の背中に回っていた悠太くんの腕が急に力を増した。

 

 

 

 

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 頭が真っ白になっていた。俺は礼奈の彼氏じゃなくて、もう好きじゃないはずで、だけどこの身体を離したくない。矛盾する想いがぐるぐると回るばかりで動けない。月明かりの下、俺たちは見つめあったまま、二人だけの時間を過ごした。

 

 永遠にも思える時が流れて。不意に、礼奈が目を逸らして身体を離そうと身動ぎした。

 ーー気付いた時には、その華奢な身体を捕まえて強く抱き締めていた。礼奈の息を飲む音が聞こえる。ようやく自覚した。礼奈が離れていく瞬間、俺の心は一色だったんだ。

 

「もう離さない。離したくない。ようやく気づけたんだ。蓋をして、自分で封印しちまった想いに。……やり直したい、なんて、どの口で言ってんだって話だけどな。もう一度、俺の隣に立ってくれるか?」

 

 腕の中から微かに聞こえる嗚咽。震える背中。全てが愛おしい。やがて俺の背中に手が回り、礼奈が顔を上げた。

 

「……うん!」

 

 涙の残る顔に浮かんだ満面の笑みを見て、何かが満たされるのを感じた。久しぶりの礼奈の笑顔は、やっぱり綺麗だった。

 

 

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「……ねえ、悠太。真由ちゃんのことなんだけど」

「わかってる。合鍵は返してもらうさ」

「え?…なにそれ、聞いてないんだけど?」

「えっ……あいつから聞いてたんじゃないのか!?」

 

 同じ布団で並んで横になって、他愛ないお喋りをする。たったそれだけで、どうしようもないくらい満たされる。一度砕けた私の心は、悠太くんによって再構築された。次に悠太くんに捨てられるようなことがあったら、恐らく私は命を絶つだろう。そんな確信がある。でも、同時にそんなことは起こり得ないだろうとも。だってーー

 

「……ふふっ。悠太くん、愛してるよ」

「なんだよ急に……お、俺も愛してるよ」

 

こんなに愛し合っているんだから。久しぶりにたっぷりと注いで貰ってまだ温かい気がするお腹を擦りつつ、私は心からの笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「……それはそうと、真由ちゃんとのことはしっかり教えてもらうからね?」

「げ…わ、わかったよ、わかったから脱がそうとするのはやめろ、色々限界だから!」




実は本来この作品は書く予定はなくて、別の連載作品を処女作として投稿する予定でした。しかしせっかく書きましたので、続編というかカットした部分や別のifルートも書いてみたいと思います。乞うご期待…

評価、感想などいただけますと発狂して喜ぶので何卒…何卒…


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