歌姫と仮面の狂想曲 (白紙の可能性)
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資料紹介
登場人物紹介(オリジナル)


 

 

 榊ソウマ

・【仮面と歌姫の狂想曲】の主人公

 性別:男 身長:175cm 体重64.5kg

 年齢:16歳 誕生日:5月14日

 血液型:不明

 家族構成:不明

  

 中学時代に、ライブ会場の惨劇で誹謗中傷やいじめで苦しんでいる立花響とそれを庇っていた小日向未来と出会う。

 以降、中学時代は3人で過ごすことが多くなり、高校生になってからも、親交が続いている。

 感情の起伏が基本的には少ないが、特定の人物達と絡むことで、年相応の感情を見せる。愛情が深く重い。特に響と未来には強い執着心を持つ。

 趣味というものがあるわけではないが、お菓子作りや料理などの家庭的なことを得意としている。

 作中トップクラス戦闘技能を有しており、カウンタースタイルを中心の戦い方を好んで使う。広範囲への制圧攻撃に対しては対処が困難な点、遠距離攻撃に対しての攻め手の少なさが弱点となる。

 

 シャドウジオウ(覚醒前)

 体重:93.5kg

 身長:200cm

 パンチ力:8t(7t)

 キック力:19.5t(18.5t)

 ジャンプ力:30m(27m)

 走力:5.2秒(6秒)(100m)

 

 特殊技能:時間流への干渉

 

 黒を基調とした配色のジオウを模した疑似ライダーシステム。

 覚醒に伴い進化したことで、性能がジオウと比肩できる段階まで強化されている。シャドウシステムを基幹としており、戦闘において高い戦闘力を発揮する。

 

 

 雪音アスカ

 性別:男 身長:172cm 体重59kg

 年齢:15歳 誕生日:8月7日

 血液型:AB型

 家族構成:妹、父(故人)、母(故人)

 

 未来から榊ソウマ(未来)の力で過去へと飛ばされた存在。

 未来の組織であるパヴァリアの構成員であり、幹部として、前線指揮を取ることもある頭脳労働と肉体労働のどちらもこなす器用貧乏なタイプ。

 本人が思っている以上に情に脆く、深い。現代に飛ばされた後、ソウマと同棲を行っていたが、2課に連行、拘束されており、現在において、自由に活動することができない状態となっている。

 シンフォギア奏者の天羽奏が、よく差し入れと面会に来ていることから少しずつ親睦を深めていっている。 

 ソウマに迫る戦闘技能を有しているが、主として、情報を纏める力に優れており、基本的にはサポートに徹することで真価を発揮する。

 状況に応じた戦闘を得意としているため、特に定まった戦闘スタイルを好んで使うことはない。弱点として、相手の攻撃が自身の経験外のものであればあるほど、対処が遅れる弱点がある。

 

 

 シャドウゲイツ

 体重:92.5kg

 身長:194.5cm

 パンチ力:7.4t

 キック力:18.6t

 ジャンプ力:29m

 走力:5.3秒(100m)

 

 特殊技能:なし

 

 色褪せた赤色を基調としてゲイツを模した疑似ライダーシステム。

 性能がゲイツに劣るものであり、シャドウジオウとは異なり、一部機能が完全に異なっている。

 システム自体は同系統であれど、設計思想そのものが違うものとなっているため細部が異なる。

 本来存在しない2つ目のシャドウシステムを搭載しており、統一言語や、歌の力を無力化している。

 

 

 イデア

 性別:男 身長:178cm 体重:64kg

 年齢:不明 誕生日:不明

 血液型:不明

 神格:嫉妬、模倣、再現

 

 世界の管理者であり、偽神と名乗る神である。アヌンナキよりも上位の次元上に存在する存在であり、世界からのバックアップを受ける形で様々な権能を発揮する。

 ソウマの協力者として様々な形で支援を行っている。

 本人として、「仮面ライダー」への偏愛じみた情熱を持っており、必要以上に自身の疑似ライダーシステムを使用しようとしない。

 七実とは敵対関係であったが、現在は協力関係である。

 

 

 七実

 性別:女性 身長:156cm 体重:測定拒否

 年齢:不明 誕生日:不明

 血液型:不明

 スリーサイズ:B84/W58/H86

 神格:戦い、豊穣、愛

 

 世界の管理者の一人であり、ミラによって想像された神、イデアと同格の次元に存在する力を所有しており、「ガングニール」のファウストローブを使用する。

 イデアへの重い愛情を持っており、彼の生存を第1においている。彼の生命に影響がない場合は、普通の少女のような行動をとる。

 ミラに対して、憎悪と同族嫌悪を抱いており、アークから受け取ったドライバーを基本使用する。

 

 「ガングニール」のファウストローブ

 白と黒のガングニールを模したギア。

 通常のギアと異なり、ガングニールを含む7つのギアの機能を統合されており、それぞれのアームドギアや機能を自在に操る。

 全ギアの機能を統合し、制御、起動するミラーリングモードが存在する。

 

 001 ハーモニングホッパー

 体重:91kg

 身長:190cm

 パンチ力:10.4t

 キック力:52.6t

 ジャンプ力:63m

 走力:3.3秒(100m)

 

 シンフォギアシステムとこの世界に誕生したゼロワンの戦闘データを基に作成された疑似ライダー。

 攻守ともに優れた性能を誇るが、本人が受ける反動がゼツメライズキークラスとなっているため、長時間の運用が難しいものとなっている。

 左の部分が特殊な形状となっており、アサルトグリップとの接続が可能となっている。

 

 

 アーリ

 性別:男 身長:178cm 体重:66.5kg

 年齢:不明 誕生日:不明

 血液型:不明

 神格:悪

 この世界に存在する最高神の一人であり、悪神である。飄々とした性格をしており、必要以上の現世への干渉を行うことはないが、人類の進歩を止めないようにするために、人類全体への深層心理への干渉を必要に応じて行う。

 悪徳を根本から嫌う性格であり、人類の未来と自由の維持を行う。

 

 

 ミラ

 性別:女性 身長:157cm 体重:測定拒否

 年齢:不明 誕生日:不明

 血液型:不明

 スリーサイズ:B79/W54/H82

 神格:善

 

 この世界の最高神の一柱であり、善神である。詳細不明であるが、平和を望む神であり、統一言語そのものともいえ、人の心理に干渉する力を持つ。



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無印編
2××× epilogue&prologue


初投稿です。まだ、オリ主君は姿を正式には見せていませんが、次あたりで登場させたいと考えています。後書きに一部設定を掲載していますので興味がある方はどうぞ


 荒野が広がる。瓦礫と呼べるものが所かしこに散見され、文明と呼べるものがあったことは想像に難くない。しかし今は見る影もない。

 

 

 荒れ果てた景色の中で一際目立つ彫像と一人の玉座に座している異形のみが文明を感じさせる。

 

 

 その彫像は、中心に碑、それを囲むように20の異形の巨像が立ち並んでいた。巨像はまるで中心の碑を護るかのように、外を向きそれぞれを象徴する姿をとっている。

 

 

 異形は、黒と金を思わせる鎧を身にまとい金属製のサッシュを襷掛けしている。目と呼べる場所に「ライダー」と読める文字のような造形が施されている。相対するものに恐怖を与える禍々しさと格の違いを知らしめる気迫を纏っている。まさにその姿は魔王と呼ぶに相応しい。

 

 

 喧騒が荒野に広がってくる。そこには様々な装いの人間が集まっている。東洋人、白人、黒人等の様々な人種が入り混じり共通点と呼べるようなものがないように思われる。しかし、集団はある一点においてのみ共通しているものがあった。

 

 

 それは、眼前に君臨する魔王のような異形に対する敵意、そして殺意である。フードを被った集団が手に持った瓶を割ると「アルカノイズ」と呼ばれる異形が現れる。それに合わせ、銃器を持った人間たちが武器を構える。魔王はその戦意に応じるように玉座から立ち上がり、自らを害そうとする集団に相対する。

 

 

う"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!! 

 

 

 風が吹きすさび、砂を舞い上げる。集団は、相対する魔王への恐怖に潰されないように、声を張り上げ、全霊を賭けて魔王へと突撃を敢行する。

 

 

 魔王に銃弾や光弾、アルカノイズたちの触手が襲い掛かるが、魔王の周りを包み込むように透明な何かが攻撃を遮る。それでも集団は攻撃の手を緩めず、嵐のように攻撃を続ける。

 

 

 その勇気が無謀であると示すかのごとく、魔王は手を翳し、衝撃波を放ち、襲ってくるアルカノイズを消し去る。

 

 

 先陣を切ったアルカノイズが魔王の手によって、消滅させたことに畏怖の念を抱きながらも、敵対者は歩を進める。

 

 

 魔王は向かってくる敵対者に、手から蝙蝠を模したエネルギーを大量に放ち、塵に変える。

 

 

「怯むなぁ、突っ込めぇぇ!!」

 

 

「う、うぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

 

 それでもなお、恐怖を圧し殺し、向かってくる集団に対し、縮退星のようなもの集団の中心に生み出す。その黒星に飲み込まれ、敵対者はまた数を減らしていく。

 

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁ、た、たすけてくれぇ」

 

 

 

 飲み込まれていく恐怖に悲鳴が上がるも、それでも一部のものは突撃を行ってくる。魔王は溜息を一つつき、向かってくる敵対者たちの時をとめ、告げる。

 

(う、動けない。どうして……なんで……こいつに……)

 

 

「光に群れる虫のように、無謀にも向ってくるな、貴様らは……だが、貴様らでは私に勝つことは不可能だ。なぜかわかるか」

 

 

 集団は止まった時の中で魔王の言葉に耳を傾ける。その答えを彼らは知っている。今まで魔王に挑み、生き延びた者たちから伝え聞いてきた言葉、長きにわたり生き残った者たちから否定されてきた言葉、それは……

 

 

「私こそが最高最善の主人公(魔王)である」

 

 

 その言葉を告げると同時に、時間停止に巻き込まれた存在を塵に還す。その存在はもう必要ないと告げるかのように……

 

 

「撤退だ! 生きてるものは何としても撤退するんだ!」

 

 

 消滅を免れた少数のものたちは、敗北を確信し撤退を行う。その眼には口惜しさと憎悪を宿しながら歯を食いしばり、体を引きずりながら、その場去っていく。魔王は追撃をするわけでもなく、ただその様相を眺めていた。

 

 

 仮面の相貌は憎悪の炎に燃え盛り、ライダーの文字は歪む。だが、魔王からはどこか哀愁に満ちた寂しそうな雰囲気を漂わせる。その様相を見届けた後、魔王は玉座に戻り、砂煙にまみれた曇った空を見上げる。

 

 

「響……未来……みんな……俺は……」

 

 

 魔王は俯く。その姿は魔王というよりは、打ちひしがれた隠者と呼べる姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が部屋に差し込み、部屋を照らし出す。そこは寝所と呼べるものであり、女性の部屋であると察せられる。ベットで一人の少女が眠っている。

 

 

 少女の名は小日向未来、私立リディアン音学院に通う学生である。陽の光が彼女の顔を照らされたことで、布団の中で身じろぎをしながら目を覚ます。

 

 

 体を寝床から起こし、目をこする。時計を見ると5時台であり、少し早く起きてしまったと実感する。彼女はいつものように、顔を洗い、着替えを済ませ、朝食の準備のため、台所に向かう。朝らしく、焼き鮭とみそ汁そしてご飯という和食の定番を作っていた。

 

 

「えっと、お味噌を溶いてっと……お米は、うんいい感じ!」

 

 

 調理しながら、今朝見た不思議な夢を思い出す。荒野に佇む魔王の異形と、世間を悪い意味で騒がしているノイズと呼ばれる災害を操る集団の戦いというより、一方的な蹂躙といえるものであった。

 

 

「なんだったんだろう……なんか悪夢のような気がするんだけど、どこか寂しく感じる夢……」

 

 

 なぜか、未来は自分の交友関係にいる少年と魔王がかぶって見えた気がした。

 

 

 

 

 

 時計の針が2周するころに、同居人であり、学友の立花響がパジャマのまま、眠そうに目をこすりながら起きてくる。

 

 

「おはよう~未来、今日のご飯はなに~」

 

 

 と暢気に未来に声をかける。未来は響の顔を一瞬愛おしそうに見つめた後、響に挨拶を返し、朝食は和風であり、白米のご飯もしっかりと用意していると伝え、席に着くように促した。

 

 

 そのまま、いつもの穏やかな朝食を過ごす。いつものように雑談を交わしながら時間は進み、学校への準備を整え、学校に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 登校する2人の姿を高所から見つめる二つの影、一人は男、背丈は170㎝後半ほどの長身、若葉色の体を覆うようなロングコートを着込み、やたら長いロングストールを首に巻いている。また左手には表紙に歯車のような意匠が施された本を携え、アルカイックスマイルを浮かべ、胡散臭さを醸し出している。もう一人は女、腰までの長い黒髪を後ろで束、白いワンピースを着こみ、無表情に2人を冷めた目で見つめる。女は男とは正反対に、上品さと神聖な雰囲気を纏っている。女は2人を見つめながら、男に話しかける。

 

 

「ねぇまだ、こんなことをまだ続けるの? この世界は今までにないほどに不安定になっている。前よりも酷い結果になるかもしれないのに」

 

 

 男は、女に向き直り、呆れたような態度で口火を切る

 

 

「やってもいないのに、諦めるとはね……ある意味では君らしいし、ある意味では君らしくないね」

 

 

 男の呆れた態度に、今までの冷徹さが嘘のように消え、心配するような目で男を見つめる。

 

 

「もっと信じてみようじゃないか、彼女たちを、我が魔王を」

 

 

 男は手を広げ歌うように宣言するのであった。そして虚空に向かい祝辞を述べる

 

 

「祝え、新たなる王の物語の始まりを……」

 

 

 

 彼の言葉は虚空に溶け、今、新たな章の1ページが幕を開ける。

 

 

 

 

 




 荒廃した未来
 かつて文明が栄えていたが、ある出来事に伴い、世界の人口は大きく減少してしまった。その後、現れたオーマジオウの手によって世界は一時安定するが、なぜかしばらくした後、世界を救ったはずのオーマジオウは人類に対して敵対的な態度をとることになる。現時点において、オーマジオウは、人類に対し、好戦的に挑むことはなく、石碑を守るように近くにある玉座で鎮座している。


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第1話 はじまりの出会い

 第1話です。オリ主もといソウマ君の登場回でしたが、ソウマ君よりも先に変身してしまいましたね。彼は
 今回も設定を一部あとがきに掲載します。



 ──2年前

 

 

 

 

 

 何気ない日常、見慣れた景色、だが、少年は違和感に襲われていた。どこか、空虚さと歪さをこの変わらない日常に感じていた。ふと、教室の喧騒に耳を傾ける。人殺しだの犯罪者などのどうにも剣呑な話題が飛び交っている。

 

 

(朝から、騒がしいな……なにか物騒な話題が聞こえてきたけれども、なにかここ最近であっただろうか……)

 

 

 少年は、頭を巡らせ、最近に起こった出来事を思い返そうとするが、どうにも靄がかかったように思い返すことができないでいた。その靄は結局、晴れないまま、日常は過ぎ去っていく。

 

 

 

 

 

 ちょうど太陽は中天まで昇り、まさに昼時といえる時間、購買でパンでも買ってこようかと思い至り、廊下に出てみると、朝の喧騒の正体があった。どうやら、寄ってたかって1人の少女を虐めているものであるようだ。近くでいる友人に状況について説明を頼むと、どうも、少女は、最近起こった「のいず」? と呼ばれる災害が起こったらしい。彼女はその災害の生存者というものらしい。

 

 

 少年は、囲いに近づき一言声をかける。

 

 

「弱い者いじめも、終わりにしたらどうだ。もう十分楽しんだだろう」

 

 

 囲いを行っているものは、反感と非難の意思を目に宿して、少年に向き直る。その中で目立っている学生が声を荒げる。

 

 

「弱い者いじめじゃねぇよ‼俺はこいつが生き残ってのうのうと生活しているのがゆるせねぇんだよ。こいつが生き残ってなんで妹が死ななきゃならなかったんだよ」

 

 

 と学生は少女を睨みつけながら、自らの主張を振り下ろす。だが、少年は穏やかに返答する。

 

 

「だったら、妹が生き残ったら、妹にどうして生き残ったと非難するのか」

 

 

 学生は押し黙る。少年は宥めるように学生に続ける

 

 

「生き残った人間を非難してどうするんだ。ただ彼女が生き残ったのは純粋に運がよかったからだろう」

 

 

 少年は、学生に興味を失せたように目線を外し、少女に近づき、一言声をかける。

 

 

「大丈夫か」

 

 

 これが、立花響と榊ソウマとの出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──現在

 

 

 どこにでもあるファミリーレストラン、夜が更けてくる7時ごろ、榊ソウマはある人物と待ち合わせのためにここにきている。

 

 

「ごめん、遅くなっちゃった」と声をかけて、待ち人である小日向未来は榊ソウマの前の席に座る。

 

 

 2年前の騒動で、立花響を介して知り合った仲であり、今では、こうやって立花響を介さなくても話したりする程度には、仲が良い。

 

 

「それで、なんのようなの。こんな時間にこんなところに呼び出して」

 

 

 未来はソウマの反応に少し、むくれたような反応を見せながら冗談を返す。

 

 

「もう少し、なんか反応あってもいいんじゃない」

 

 

「ハァ」とため息を吐きながら、真剣な目でソウマを見つめて本題に入る

 

 

「あのね、最近響の帰りが遅くなったり、なんか、よそよそしく感じるんだよ……」

 

 

 ソウマはそういえばと反応しながら、少し前からよく未来には電話で愚痴をこぼされていたことを思い出した。ソウマ自身も最近の響の反応はどこかよそよそしく感じるものがあり、なにか隠し事をしていることは明白であった。

 

 

「確かに、最近の響は、何か隠し事をしている雰囲気だったな……なにか、こころあたりでもあるの?」

 

 

 ソウマが未来に対し質問をするが、未来は首を縦に振り否定の意を示す。

 

 

「そうだなぁ、いっそのこと尾行してみるのはどうだろう」

 

 

 

 ソウマが冗談交じりにジェスチャーを取りながら提案すると、未来は待ってましたと言わんばかりにソウマの手をつかみ、笑顔を向ける。ただし、目は笑っていなかった。ソウマは苦笑いを浮かべながら肩を落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──2×××

 

 

 どこにでもある公園、中央にはモニュメントがそびえたつ。慰霊碑であろうか、いくつかの名前が刻み込まれている。そのモニュメントを一人の白髪の老人が眺めている。この公園は老人以外には人の気配というものをあまり感じさせない。

 

 

 公園の静寂さを壊すように一人のローブをかぶった男が瓶を割り、アルカノイズを呼び出し、老人を襲う。

 

 

 老人の腰に黄金の華美な装飾が施されたベルトが現れ、老人を魔王へと変身させる。

 

 

 魔王は、アルカノイズたちを衝撃波で消滅させる。その際に発生した風圧でローブの男の顔があらわになる。

 

 

 男の顔は、少年と呼ぶには険しく、青年と呼ぶには若すぎる印象を受けた。容姿は銀髪に紫の瞳が目立つ。

 

 

「ッ……」

 

 

 魔王が息をのむ、魔王の表情は仮面で隠れて見えないが、驚愕の表情が張り付いているのが容易に想像できる。驚愕の後、豪快に笑い男に向かい合う。

 

 

「なるほど……こういう方法で利用してくるとはな。どうやら本当に度し難いものどもだな、錬金術師というのは」

 

 

 最初の愉悦さを感じさせる声音から一転、怒気に満ちた声音に変わる。その怒気に押されて男は後ずさるも、白いベルトを取り出し腰に装着する。

 

 

『ジクウドライバー』

 

 

 機械音声が虚空を木霊する。男は右手に赤いだが、どこか色あせた時計のようなものを構え、時計の盤面をそろえ、ボタンを押す

 

 

『ゲイツ』

 

 

 ベルトの右スロットに装填し、ベルト上部のボタンを力強く押し込み、大きく弧を描くように、ベルトを両手で抱き込むように抱える。

 

 

「変身ッ」

 

 

 叫びと合わせベルトを反時計回りに回転させる。男の周りを光の輪のようなものが複数囲み、男は異形の戦士へと姿を転じる。

 

 

 男の姿は仮面ライダーゲイツと呼ばれる存在に酷似した姿に変わる。しかし、どこか色あせていて、その姿は、ゲイツを模した影武者のようにもうかがえる。

 

 

 魔王はその姿を一瞥して、驚嘆の意を表する。

 

 

「ほう……変身まで可能だとはな。さながら、シャドウゲイツとでもいったところか」

 

 

 魔王の反応をよそに、ゲイツは武器を構え、魔王に突撃する。

 

 

「同胞と家族の仇、今取らせてもらうぞ!! オーマジオウ!!」

 

 

 男からあふれ出る感情は、魔王がかつて、宥め、非情に扱ったものであった。

 

 

 魔王は、灰色のオーロラを作り、男をその中へと誘い込み、過去の時代にタイムワープさせる。

 

 

 魔王は天を仰ぎ言葉をこぼす。

 

 

「若き日の私の一助になればいいが……どうか生き残ってくれよ……」

 

 

 その日は、若き日の自分が初めてシャドウジオウに変身した日であった。

 

 




 榊ソウマ その1 
 身長は、174程度でありすらっとした体系である。現在は、天然気質であるが、2年前は、他人への興味がなかったため、友人の名前すら憶えていなかった。現在は、県立の高校に通っている。2年前に知り合った立花響と小日向未来とは、交友関係が続いており、現在では、休日に遊んだりするほど仲が良い。小日向未来に、淡い恋心のようなものをもっているため、頼み事を断れなかったりする。
 
シャドウライドウォッチ
 本来の色に比べ、色あせた色をしており、変身後の姿も同様に、本来のライダーよりもあせた色となる。生成される際に、本来のライドウォッチの力を媒介に生成者の魂を利用して作り出しているため、アナザーライダーのような醜い姿にはならないが、スペックは多少劣るものとなっている。

ゲイツの未来
 荒廃した未来に比べて、文明は保たれているが、オーマジオウへのレジスタンスに近い組織が形成されており、人類とオーマジオウの対立構造は存在している。このことから、過去に何か事件があったと推察される。


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第2話 2018/覚醒の胎動

 次でソウマ君が変身します。今回はその前振りといえるものです。
 最近、xdに復帰し始めてきました。やっぱり石が足りないと厳しいですね。
 今回も少し、設定を公開しますので、後書きを興味があればどうぞ


 リディアン音楽院の中庭で立花響はレポートの作成中だというのに上の空で悩んでいた。

 

 

 一ヵ月ほど前にシンフォギアという力を手に入れてから、「特異災害機動部二課」と呼ばれるところで、ノイズの対処活動を手伝っている。最近では、対処の活動や、ミーティング等を行っているため、疲労が体に溜まっていっている。正直なところ、このまま、宿題のレポートの作成が終わらなければ、ソウマと未来の3人で流れ星を見る約束を果たせなくなってしまうことに頭を抱えていた。また、それ以外にも悩みの種ともとれるものがある。それが、同じ奏者である天羽奏との関係である。

 

 

 二課には現在、立花響を含めて、シンフォギア奏者は3人在籍しており、残りの二人は、日本では知らないものはいないといえるほどのアーティストユニット「ツヴァイウィング」の天羽奏と風鳴翼である。風鳴翼との関係は良好といえるのだが、天羽奏は、2年前の事件の生存者である立花響をノイズとの戦闘に巻き込むことを良しと考えていない。しかし、ノイズによる被害件数の増加に伴い、奏者の人員不足を鑑みて二課が協力を願い出たため、二課に所属する天羽奏は渋々承諾したに過ぎなかった。

 

 

 そのため、戦場に出てくる立花響に対して、辛辣な対応をとるだけでなく、私闘を仕掛けたりするなどの行動がみられるなどの問題といえるレベルにまで発展している。

 

 

「ハァ……どうすればいいんだろ、私だって、みんなが不幸になるのが嫌で戦っているのに……どうしたら、仲良くなれるのかな」

 

 

 落胆する響に突然、声がかけられる。

 

 

「何をそんなに悩んでるの、響」

 

 

 響は振り返り、声の主が未来であることに気づく。

 

 

「未来……ごめんね。なんか最近いろいろと迷惑をかけて……しっかりしないといけないのになぁ」

 

 

「響、しっかりするよりも先に、レポート完成させないと流れ星を一緒に見に行けなくなっちゃうんだよ」

 

 

 未来は呆れた反応を返す。しかし、言葉とは裏腹に心配する視線を響に向ける。どうやら、未来は響を内心で心配しているようで、最近の心労になっているというのが垣間見える。

 

 

「まぁレポートは、ソウマが資料集めを行ってくれたからあともう少しで終わるってところまできているから大丈夫だよ」

 

 

 響は頭を掻きながら笑う。未来は本気で呆れて返す。

 

 

「資料集めだじゃなくて、資料の解説までしてもらってね」

 

 

「ハハハ……」と乾いた声で反応を返す響を後目に未来は後ろで手を組み、響に背を向け、顔だけをこちらに向け、意地悪を言う。

 

 

「まぁ、響がレポート間に合わなかったら、ソウマ悲しむんじゃないかなぁ……ソウマとはこの前会ったけど、結構楽しみにしてたし、私も結構楽しみにしてるから結構悲しいなぁ」

 

 

 未来は響を煽るような普段見せない反応で返す。響は焦り、レポートを終わらせようと行動に移るが、一か所おかしな点に気づく。

 

 

「ねぇ未来。なんか、ソウマと隠れて逢ってたって言った気がしたんだけど気のせいかなぁ」

 

 

 響は、顔を膨らませながら未来に問いただす。未来は笑いながら響に返答する。

 

 

「ふふっ最近の響の奇行について相談してただけだよ。ソウマも結構心配してたよ。なんか危ないことをしてないかって」

 

 

 響は赤面し、自分の最近の行動をソウマに知られて、その上で心配までかけていたことにショックを受けて、それをごまかすようにレポートに今度こそ向き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は夕暮れ時、響はレポートの提出はどうにか間に合い、このままいけば三人で流れ星で見れそうだと内心で狂喜乱舞する。そこへ、未来が到着し、これからというときになって、携帯電話の着信音が廊下に鳴り響く。響の内心は先ほどの興奮状態とは打って変わり、冷や水をかけられたように深く沈んでしまった。響は沈んだ面持ちのまま、携帯電話を確認し、奥歯を噛み締めながら未来に告げる

 

 

「ごめん……今日の流れ星一緒、に行けなくなっちゃった……急な用事が……入って……きちゃって……私のこと……は……いいから」

 

 

 響は、目に涙を浮かべながら、無理やり笑おうとして、顔を歪ませ未来に頼み込む。

 

 

「未来はソウマと一緒に楽しんできて……」

 

 

 響は、未来の制止を振り切って走っていく。その姿を見た未来は、唖然としながらも響を追いかける。しかし、響を廊下の角を曲がったところで、見失ってしまう。未来は息を乱しながら、携帯を手に取りソウマに連絡する。

 

 

「もしもし、未来かどうしたの。まさか……響の奴がレポート間に合わなかったとかいわないよね」

 

 

 未来は、響のレポートが間に合ったこと、その後、携帯の呼び出しでどこかに走り去ってしまったことを告げ、未来は涙交じりの声で、ソウマにすがる。

 

 

「どうすればいいの……響が簡単な用事で、三人での約束を破るはずない……それに、私とソウマの二人っきりで流れ星を見てきてなんて、いうはずがないもん……」

 

 

 ソウマは、未来の言葉は最後にはかすれたような声しか聴きとれなかった。ソウマはどう声をかければいいか決めあぐねていると、後ろから声をかけられる。

 

 

「困りごとですかな、我が魔王」

 

 

 ソウマは声に反応して振り返る。そこには、季節感のない若草色のロングコートに無駄に長いストールを首に巻いた男が立っていた。その男はどこか不気味さと胡散臭さを漂わせている。ソウマは警戒心を保ちながら、携帯の話口を片手で隠しながら問い返す。

 

 

「我が魔王ってのは、俺のこと?」

 

 

 男は、満面の笑みを浮かべ頭をたれ、謝罪する。

 

 

「申し訳ありません。我が魔王。私はイデア、クォーツァーのようなものです。あぁ! ……ウォズっぽく振舞っているが、ウォズではないから気を付けてほしいかな」

 

 

 ソウマは微妙な表情を浮かべる

 

 

「いや、ウォズってなんだよ……それにクォーツァーってなんだよ。それに魔王って一体」

 

 

 イデアと名乗った男は含み笑いを浮かべ、説明を行う。

 

 

「クォーツァーというのは、歴史の管理者たちの総称さ。まぁ、今は立花響がどこにいるかを聞きたいんじゃないかな」

 

 

 ソウマは目を見開き声を荒げる。

 

 

「なんで、響の居場所を知っているんだ‼」

 

 

 ソウマは珍しく感情をあらわにする。イデアは笑みを崩さずにソウマの疑問に返答する。

 

 

「我が魔王、なぜ知ってるかは、クォーツァーだからっということで、それで、知りたくないのかね。彼女の居場所を」

 

 

 ソウマの顔を伺いながら、言葉を投げかける。

 

 

「分かったよ。今はあんたの手に乗るよ」

 

 

 

 

 

 ソウマとイデアの視線が交差する。少しずつ針が前に進んでいく。魔王の誕生の時へと




イデア
 自らをクォーツァーと名乗っている自称クォーツァー。本人はSOUGOとは一切関係がなく、ウォズのようにふるまっているが、シャドウウォズの力を所有しているわけではない。しかし、歴史の管理者と名乗るだけの力と権能を持っている。何かしらの理由で榊ソウマに使えているが、詳細は不明


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第3話 覚醒の刻/shdow zi-o

 はい‼ついにこの時が来ましたね。一応我が魔王も出せて満足しましたが、相変わらず難産でした。 
 興味があれば、後書きをどうぞ


 ソウマの携帯電話から声が聞こえる。かなり焦っているのがわかる。ソウマはそれに気づき、イデアの顔を伺いながら電話に出る。

 

 

「ごめん、なんか、不審者に絡まれてさ。なんとか、響の場所がわかるかもしれないんだよね」

 

 

 未来は、声を荒げて、どういうことかと説明を要求する。だが、ソウマは「ちょっと待ってて」と返す。イデアが笑みを浮かべながらソウマに向き合う。

 

 

「信じるのかね。私の話を……」

 

 

 ソウマは自信満々に答える。

 

 

「なんか大丈夫な気がするんだよね。あんたのことを信じてもさ」

 

 

「そうか」とイデアは悲しそうな表情を浮かべながらも、先ほどの雰囲気に戻る。

 

 

「さて、そろそろ、本題に入ろうかな。始めようか、七実」

 

 

 電話先の未来の声が困惑の声に変わる。

 

 

「どうした未来‼」

 

 

「あら、ごめんなさい。初めまして魔王様、私は七実、これからよろしく」

 

 

 どこか冷徹にも聞こえる女性の声が聞こえる。

 

 

「さて、彼女を連れて現場に行くから、イデアも急ぎなさい」

 

 

 イデアは肩を竦め、「ではいくよ」といい、ストールが突然伸びて、ソウマとイデアを包み込み、視界が開けると、そこには未来と白いワンピースに胸元に目立つ赤いプリズムのようなネックレスが目立つ長髪黒髪の女性だった。

 

 

 あたりを見回すとどうやら、地下鉄と呼べる場所であったが、線路が瓦礫で埋まっている。

 

 

「さて、合流できたところで、説明しようかな」

 

 

 イデアは、説明を始める。

 

 

「まぁ、この地下鉄に……おや、少し、ズレてしまったな。まぁいいか、そろそろ来るしね」

 

 

 イデアが話を切り上げた瞬間、瓦礫が崩れ、ノイズが現れる。

 

 

「なッノイズ、どうしてこんなところに‼」

 

 

 ソウマと未来が驚いた反応をしている隙に、ノイズが変化し2人に襲い掛かる。ソウマは、未来を庇うように抱きしめる。

 

 

 ソウマが死を覚悟して抱きしめる力を強くする。未来は瞬時に彼の意図を読み取り、顔を歪め、押しのけようとする。だが非情にも彼に明確な死が迫る。

 

 

 彼女は目を閉じる。これから襲うであろう残酷な現実から目を背けるために。しかし、ノイズが当たった衝撃で、吹き飛ばされるが、自分を抱きしめる彼の熱はなくならない。瞬間に顔を上げる。そこには、困惑したソウマの顔がった。

 

 

「どうして……俺はノイズに……」

 

 

 困惑しているソウマに未来は涙目で力の限り抱きしめる。

 

 

「アツアツのところを失礼するが、これ以上は時間がもったいないからね」

 

 

 二人は、イデアの声に驚き、反射的に離れ、顔を赤面させる。

 

 

「どうやら、主賓のご到着だ」

 

 

 そこには、信じられない顔で立っている。見たことのない、特撮ヒーローのような恰好をした響が信じられないものをみた表情で、そこに立っていた。

 

 

「ソウマ……未来……どうして……ここに……」

 

 

 

 

 

 

 立花響は呆然とした表情で二人を見つめる。2人の近くに、見たことのない男女がそばにいる。男のほうが声をかけてくる。

 

 

「私たちが2人を招待したのだよ。立花響」

 

 

 その事実に、頭に血が上る。

 

 

「ふざけるな、なんで、二人を連れてきたんだ‼」

 

 

 二人の正体等のすぐに思いつくようなことですら、考えが及ばないほどに激高していた。その感情の昂ぶりに響の顔が黒く染まっていく。その響の反応を他所に、男は上方に目を向ける。一瞬険しい顔を浮かべたが、すぐに口角を吊り上げる。

 

 

「そうか、君も針を早く進めたいようだね。いや、それとも、針を折りたいのかな。そんなことできるはずがないのにね」

 

 

「あぁ立花君、上に気を付けたほうがいい」

 

 

 男が響に向き直り、上を気をつけろと忠告すると同時に、上部から何かが飛来してくる。

 

 

「アァァァ…………」

 

 

 砂煙が晴れるとそこには、赤と青の姿を異形の姿があった。異形は、こちらに迫ってくるが、女、七実の手から放たれた衝撃波で押し返される。

 

 

 響は、ソウマと未来に襲い掛かった異形に拳を本能のままに振り上げ、戦いに挑む。

 

 

 響は一撃一撃を異形に正確に叩き込むが、異形の力は凄まじく、攻撃された場所は再生していく。どれだけ攻撃しても、破壊は再生を上回ることなく、響は徐々に追い詰められていく。

 

 

「おや、アナザービルド……いや、ノイズか……」

 

 

 その存在を熟知をしているようにつぶやく。ソウマは響のもとに向かおうとするが、未来が彼を引き留める。彼女の顔を覗き込むと、苦悩に染まった顔をしており、彼女を止めたくて仕方ない顔を浮かべながらも、彼が傷つかないように、必死に引き留めている。

 

 

 しかし、2人が目を離したすきに、響がアナザービルドに左足で腹部に蹴りこまれ、壁に打ち付けられ、血反吐を吐く。

 

 

 その姿をみた彼は血が出るほどに右手を握り締めていた。突如、彼の感情の昂ぶりに答えるかのように、手の内側から白い光が漏れ出す。その光はさらに強める。その光により、視界が覆われていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もない白い空間が広がっていた。

 

 

「ここは……」

 

 

 つぶやくと彼の前に一人の男が現れる。

 

 

「ここは、君の心の中だよ」

 

 

 男は、穏やかな顔をして、こちらをしっかりと見つめている。

 

 

「あんたは、どうして俺はこんなとこに、早く響のところに行かねいといけないんだ」

 

 

 男は名乗り、逆に聞き返す。

 

 

「俺は、常盤ソウゴ。まぁ魔王様ってやつかな。でも、君が向かったところで何かが変わるわけじゃないのはわかってるだろ」

 

 

 ソウゴの言葉にソウマは言葉を失くす。だが、しばらくして

 

 

「それでも、いくよ、二人が傷つくのは嫌なんだよ」

 

 

 ソウゴは真剣な表情で聞き返す。

 

 

「それは、あの二人以外がどうなってもいいってことかな」

 

 

 ソウマは首を横に振る

 

 

「いや、あいつが、響がそんなこと望まないよ。それに、俺にとって、あの二人が大事なように、そういう人が、みんなにはいるんだよ。きっと」

 

 

 手のひらに、淡い光が集まっていく。

 

 

「だから、みんなが、明日に嘆く姿をこれ以上見たくないし、産み出したくないんだ。たぶん、響の奴もそう思って戦ってるんだろうしね。俺は戦うよ。みんなが幸せを探し続けられる世界を作るためにな」

 

 

 ソウマの頭に、デジャヴのようなものが走る。なぜか、響も同じ気持ちなんだろうということが無意識的に理解していた。

 

 

 この宣言は、人の心を理解していなかった頃から、小さくではあるが、成長の輝きそのものであった。

 

 

 ソウマの宣言に合わせて、手のひらに時計型デバイス。シャドウジオウライドウォッチが生成される。それを見届けたソウゴは自分のポケットから、本来とは形状の異なるジオウライドウォッチを取り出す。

 

 

「でも、そんな世界にしたいんだったら、王様ぐらいにならないと無理だろうしね」

 

 

「まぁ実現するためにならなきゃいけないなら、俺は怪物になったっていいさ」

 

 

 笑って、ソウゴはライドウォッチをソウマに手渡す。

 

 

「このウォッチは、アーマータイム用のウォッチだから、機会あったら使ってね。あぁ大丈夫さ、俺にはこれがあるからね」

 

 

 そう答え、渡されたものとは、白い針の方向が逆の本来のジオウライドウォッチを取り出した。

 

 

「だったら、なってみたらいいんじゃない。最高最善の魔王にさ、それに、君は魔王以外にはなれそうにないしね」

 

 

 ソウゴは、含みを持たせた言い方をして、笑顔を浮かべる。

 

 

「さぁ、戻ったほうがいいよ。守るんでしょ。みんなを」

 

 

 ソウマは光に包まれる

 

 

「ここで見守っているからさ、がんばれ」

 

 

 その声音はとても優しさに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が晴れる。ソウマの手にはシャドウライドウォッチが握られていた。イデアは感嘆の声を上げ、ソウマにベルトを差し出す。

 

 

「使い方はご存じのはず」

 

 

 ソウマは、未来を優しく、振りほどき、ベルトを手に取り、腰に装着する。

 

 

『ジクウドライバー』

 

 

 ライドウォッチの針を回し起動させる。

 

 

『ジオウ』

 

 

 ライドウォッチをベルトの右スロットに装填し、ベルト中央部のボタンを押す。そうすると、ソウマから広がるように、3つの灰透明な時計が姿を現し、ベルトの待機音に合わせて、針が回る。

 

 

 右肘を引き、左腕を体を覆うように構える。

 

 

 静寂にも似た空間を裂くように声高らかに宣言し左手首を返し、ベルトを、反時計回りに回す。

 

 

「変身‼」

 

 

 ベルトが一周回り、時計の針が、10時10分に止まり、ライダーの文字が浮かぶ

 

 

『ライダータイム』『仮面ライダージオウ』

 

 

 音声とともに、ソウマの体は、灰色のリングに包まれ、シャドウジオウへと姿を変える。

 

 

 イデアは、変身が完了すると、手に持った本を開き、祝辞を告げる。

 

 

「祝え‼時空を超え、過去と未来をしらしめす、影にして深淵なる時の王者、その名もシャドウジオウ。まさに生誕の瞬間である」

 

 

 今ここに、本来存在するはずのない、新たな時の王者が誕生した瞬間であった。この誕生を祝福するように、アナザービルドの開けた穴から見える星、アンタレスは凛然と強く輝くのであった。

 

 

 




 シャドウジオウ
 本来のジオウと異なるライダーであり、アナザーライダーの亜種の一つ、榊ソウマの魂と存在を糧に生成されたシャドウジオウライドウォッチを使い変身した姿、オリジナルのジオウには、戦闘力では劣るものの、ジオウにはない特殊な性質を持っている。
 どうやら、未来では、オーマジオウの誕生に伴いシャドウジオウライドウォッチはドライバーと融合してしまい未来の時代には、変身することができなくなっている。


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第4話 胎動する悪意/進む時計

はい、第4話です。ようやく初戦闘、どこか、不穏さを感じる内容ですが、これから、いろいろな形で原作キャラが、登場活躍していきます。

 感想評価について制限を撤廃しましたので、ここが、わかりづらい、読みづらい点がありましたらどうぞ



 星が照らす。アンタレスが満天の星々を導くように、王の誕生を祝福するように、王の星は影たる時の王を照らす。

 

 

 アナザービルドは、先程までに戦っていた相手に興味がなくし、ジオウを睨み、構える。それに対し、ジオウは自然体を保ち、相手を横目に捉える。しばしの静寂が支配する。

 

 

「……………………………………………………」

 

 

 ジオウは、アナザービルドから視線を逸らす。その隙を逃さず、アナザービルドは、笑みを浮かべながら飛び掛かる。

 

 

「危ない」と響の口から悲鳴がこぼれる。しかし、未来は響とは対照的に、悲鳴を上げず、静かに見守っていた。

 

 

『ジカンギレード』『ジュウ』

 

 

 ジオウの手には、既に銃が握られている。銃は半身に隠れているが故にアナザービルドは、武器の存在に気付くのが遅れる。気づいた時には時すでに遅く、相手の正面に銃を構え、相手に銃撃を嵐の如く叩きつける。攻撃により失速し、地面にアナザービルドは叩きつけられる。

 

 

 アナザービルドは、立ち上がりながら傷を受けた場所を修復しようとする。しかし、傷は回復の兆候を一切見せず、痛みから、膝をつく。

 

 

『ケン』

 

 

 機械音声が地下鉄に響き渡る。先ほどのこともあり、警戒心から立ち上がり視線を上げた。しかし、上げたと同時にジオウの剣に襲われ、後ろに後ずさりながら防御を固めるが、剣戟は止まらず、さらに追い詰める。

 

 

「クゥゥゥゥゥゥゥ」

 

 

 アナザービルドは苦悶の声が零れる。ジオウは防御の隙をついて、踏み込んだ右足を軸にして腹部にピンクのオーラをまとった一撃を叩き込む。この一撃により、完全に防御を破られたアナザービルドは、2度目の膝をつく。

 

 

『フィニッシュタイム』

 

 

 ジオウはライドウォッチのボタンを押し、ベルトを回転させる。

 

 

『タイムブレーク』

 

 

 ジオウは、跳びあがる。「キック」の文字がアナザービルドを包み込む。ジオウが空中で体勢を整えると、文字が、ジオウの足裏に集まり、その勢いのまま放たれる必殺の蹴撃。「タイムブレーク」を受けたアナザービルドは爆散し、ヒューマンノイズに戻ると同時に、炭素に帰る。

 

 

 響は呆然としながら、ジオウを、榊ソウマを眺めた後、項垂れる。そんな響のそばに未来が駆け寄る。

 

 

「響ッ大丈夫?」

 

 

「私は……約束まで破って……彼に……追いつこうとして……結局……守ってもらって……」

 

 

 しかし、響からは、涙交じりの後悔に満ちた小声が返ってくるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イデアは、アナザービルドから排出されたアナザーウォッチを眺める。しばらくすると、そのウォッチは本来は壊れないはずのものが、塵に帰る

 

 

「所詮は、猿真似の猿真似だね。語るにも値しないが」

 

 

 イデアは邪悪に笑う

 

 

「我が魔王の初陣にはちょうど良かったようだね」

 

 

「では、帰ろうか、七実」

 

 

 二人は、要は済んだといわんばかりに、帰ろうとする。

 

 

「まて、響と未来を先に家、いや寮に帰してくれないか。俺はまだここで残ったノイズを何とかするから」

 

 

「それは無理だね。特に立花君はね」

 

 

 イデアが肩を竦めて首を横に振る。

 

 

「だったら、せめて、ここで俺が戻るまで二人を守っていてくれないか。君は俺の臣下でしょ」

 

 

「ハハッ一度も公言したことはないが、まぁその通りだからね。かまわないさ」

 

 

 ソウマの返しに驚きながらも、二人を守ることを約束する。そんなイデアに七実は文句があるように、目を細める

 

 

「さすがに、独断専行が過ぎるわね。私からすると速く帰りたんだけど」

 

 

「まぁいいじゃないか。ただし戦いには関わらないよ。それでいいならだけどね」

 

 

 ソウマは了承の意を示し、地上のノイズの残党に向かおうとすると

 

 

「待って! 私も行く。いつまでも守られている私じゃないよ。ソウマ」

 

 

 呼び止めたのは、体はボロボロになり、泣きはらした目をした響だ

 

 

「ハァ、仕方ないなぁ。でも気を付けてよ。負ってるダメージが大きいのは事実だからね」

 

 

 二人は、空いた穴から、飛び出して向かう。その二人の後ろ姿を残された未来は見つめている。その影には、邪悪さ以外の何かを持つ悪意が渦巻いていた。イデアは、その悪意にまだ時期尚早であることを目で訴えかける。悪意はそれを察し、再び、影の中に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 銀髪の男が目を覚ます。周辺を見渡すと、遠目にノイズがいるのが確認できる。念のため、命令が行使できるか試すため、近づくと、ノイズがこちらに気づき攻撃してくる。その攻撃を、障壁を発生して受け止める。

 

 

「やはり、こちらの命令を聞かんか。なら!」

 

 

 男は、ドライバーを腰に現出させ、ウォッチを起動し、シャドウゲイツへと変身する。

 

 

 武器を構え、周辺のノイズに突撃する。しばらく、戦い続けるとどこからか歌声が聞こえてくる。それに伴い、赤と青の光がノイズを片っ端から倒していく。ゲイツもそれに加勢するように戦い、ノイズを殲滅する。赤と青の光、二人は足を止めて、ゲイツに声をかける。

 

 

「まさか、本当にノイズを倒せるなんて!」

 

 

「まぁその話はあとで聞こうぜ、翼。あんた、悪いけどついてきちゃくれないか。話を聞きたくてな」

 

 

 赤と青の二人は、どうにも対照的と見える印象を受ける。赤いほうは、強い意志を秘めていて、炎のような熱さを感じるが、青のほうは、強い意志を感じるが、穏やかさと落ち着きさを感じさせる。水のような印象を受ける。

 

 

 ゲイツは、二人の言葉を他所に、一匹ノイズがはぐれた場所にいることに気づき、そちらに向かうため、ライドストライカーと呼ばれるウォッチ型のバイク起動させ、そちらに向かう。二人は、こちらに一切反応を示さない異形が突然現れたバイクに乗って移動したのをみて、その様をみて、しばらく呆けた2人は、焦ってバイクを追いかけるのであった。

 

 

ああ




 アナザービルド(ノイズ)
 原作上に存在するビルドとそっくりだが、能力は本体がノイズであり、知性がないので、行使することができない。ただし、異常ともいえる再生能力を持つが、シャドウジオウのような、ライダーの力を行使する存在を前には発動しない。回復は、フォニックゲインを吸収することで行えるため、シンフォギアシステム等の聖遺物関係とは極端に相性が悪いため、立花響が一方的に苦戦してしまった。
 ウォッチが消滅した理由は、イデア曰く「猿真似の猿真似」、贋作物の贋作物であるため、アナザーライダー特有の耐性を保持することができなかった。


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第5話 2068/邂逅 アウトサイダー

 どうも、遅くなりました。第5話です。なかなか、原作奏者たちと逢わせることができないですが、次話には、2人と出会えるようにはしたいと思います。



 響とソウマは地下鉄を出て、周辺にいるノイズと戦闘を行う。ソウマは異様に戦闘に慣れているが、どうにも、広範囲攻撃がとれるものがないため決め手に欠けているようだ。

 

 

 響は逆に戦闘に不慣れなところが目立っており、感情任せの攻撃ばかりであった。一挙動が大ぶりのものばかりであるため、少しずつであるが、ダメージを受け続ける。

 

 

 先ほどのアナザービルドとの戦いですでに、満身創痍であり、3人での約束を破ってしまったこと、それにある一因も相成って、精神的にもかなり参ってしまっている。それでも、なお戦い続けるのは、乙女の意地であった。

 

 

 周囲のノイズを殲滅すると、響は彼に向き直る。

 

 

「すごいね、ソウマは。こんなに強いなんて……」

 

 

 響は、どこか焦るような不安がる表情で手を胸の前に組む。まるで、捨てられた子犬のような、不安と苦悩に満ちた瞳で彼を見据える。

 

 

 ソウマは、彼女の不安がる様子に困惑する。それでも、彼女を安心させるために、周囲にノイズがいないことを確認して、変身を解き、彼女と素顔で向き合う。

 

 

「どうしたの……なんか、不安なことでもあったの」

 

 

 響きは、ソウマの問いかけに対して、口答で答えることはなく、彼の胸に飛び込んだ。彼は、彼女の行動に驚きながらも、両の手で抱きしめた。彼女は、顔を埋めながら、ポツリポツリと言葉をこぼす。

 

 

「ゴメンね……結局、約束を破ることになっちゃって……ほんとに楽しみだったんだよ……三人で流れ星を見るの」

 

 

 最初の声音から少しずつすすり声に変わっていった。

 

 

「私さ、人助けの延長線上でノイズと戦ってたんだ……いつの間にか、ソウマや未来たちを守っているつもりになってた。だか……さっき、助けられて、何やってるんだろうね私……約束を破って、その上、二人を巻き込んで……助けられて……」

 

 

「そんなことないさ、響は、みんなを守ってるさ。それに、俺は響の明るさに助けられたりしてるんだからさ。また、次の機会にでも見に行けばいいさ、俺も未来も、響のことを怒ってないし、嫌いになったりしてないよ」

 

 

 ソウマは響の頭を右手であやすように撫でる。

 

 

「むしろ、心配してたんだよ。無事って訳でもないけど、よかったよ。ほんとに」

 

 

 ソウマは彼女を抱きしめる力を強める。ソウマは本気で彼女のことを心配していたのだった。だが、二人を邪魔するように、鉄の馬に乗った赤い異形がやってきた。

 

 

 

 

 

 二人は、名残惜しそうに離れると、やってきた異形をみる。異形はバイクからおり男の顔を訝しげに見る。

 

 

「ここにいた、ノイズを倒したのはおまえたちか」

 

 

 ソウマは、警戒しながらも質問に答える。

 

 

「あぁ、あんたは」

 

 

「ただの通りすがりだ。なぁここは、どこかわかるか」

 

 

「さぁ、気づいたらここにいたからな。土地勘がある場所じゃないっているのはわかるんだけど」

 

 

「そうか、いや悪かったな。うん?」

 

 

 異形は、立ち去ろうとバイクの方に振り向こうとした次の瞬間、ソウマの腰のベルトの存在に気がつく。さらに、異形はソウマの顔に見覚えがあるきがしてならなかった。

 

 

「おまえは、どこかで……そのベルトは……まさか、おまえは」

 

 

 赤い異形はソウマが装着しているベルトに気づき正体に当たりをつける。木々の向こうから見える文明の光もあることから、自分の陥った状況を6割方ではあるが、把握することができたが、到底信じられるものではなかった。

 

 

「そうか、おまえが、榊ソウマか」

 

 

 赤い異形は、武器をソウマに突きつける。ソウマは響をかばうようにウォッチを構える。

 

 

「そうだといったら」

 

 

「未来のために……いや、仲間、家族の敵を取らせて貰うぞ! 榊ソウマ、いやオーマジオウ!」

 

 

 赤い異形はそのまま、一直線に彼に攻撃を加えようとする。ソウマは、ウィッチを起動させて異形の武器を交わしながら、腕で受け止めながらベルトに装填し灰銀の異形に変身する。そのまま、ゼロ距離から膝蹴りを赤い異形の腹部にダメージを与え、後退させる。

 

 

 ソウマはジカンギレードを剣の状態で構え、間合いをとり、次の攻撃に備える。二人は、次の攻撃に備え、腰を落とし一歩踏み込もうとする。しかし、その瞬間に、ノイズがどこからともなく現れ、二人に攻撃を加える。

 

 

「クッ。どうして、この近くにノイズはいないはず」

 

 

「こいつは、何者かのコントロール下にあるタイプのノイズか!」

 

 

 二人は、触手攻撃を躱しながら距離を取る。

 

 

「なにか、知ってるのか、あんた」

 

 

「あぁ、俺も錬金術師の端くれだからな。このまま、民間人を襲う前に、殲滅しなければ、取り返しがつかなくなる」

 

 

 赤い異形は、先ほどまでの剣呑な雰囲気を消し、ノイズに対して、敵意を向ける。

 

 

「だったら、やるしかないよね。今は、とりあえず、休戦しないか。仇とか、よくわかんないけども、周りの人間のことを心配できるいい人だってのは今のでわかったからさ」

 

 

「断る。貴様と協力する気はない。だが、いまは、こいつらが邪魔か……」

 

 

 甲高い悲鳴が響く。そちらの方を振り向くと響が、ノイズに捕まっていた。

 

 

「響ッ今行く」

 

 

 ソウマは、勢いよく飛び出して、彼女のところに駆け込むが、その瞬間、どこからかの、ピンク色に発光した鞭のようなものによる攻撃により、足が止まる。その鞭のが戻る先に目を向けると、先ほどの攻撃で舞った砂煙の向こうから、響と似ている特撮スーツのようなものを着ている女ががそこにいた。

 

 

「おいおい、これは何の冗談だぁ。ノイズをシンフォギア以外で倒すやつが2人もいるなんてなぁ」

 

 

 その少女は、口汚く挑発をしてくるのだった。 

 

 

 




 王家の星
 レグルスを代表とする王家の4つの星。未来で起こったとされる。オーマジオウが誕生した日に、いつもよりも強く輝いていた。どうやら、榊ソウマの力が強くなるほどに明るさを増しているようであるが、これが、大破壊に関係あるかは不明。


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第6話 2018/激突 スノーホワイト

 第6話です。初めて、特殊ルビというものを使ってみました。 
 最近、仕事がいろいろあって、更新が遅れました。これからも、更新を頑張っていくんでよろしくお願いします。


 煙の中から出てきた少女の外見的印象は、白一色といえるもので、彼女の髪の色も合わせて、まるで雪の妖精ともいえるものであったが、口調はまさに、ガサツの一言に尽きるものであり、その場にいた二人は一瞬だが呆然とするのであった。

 

 

 ソウマは、我に返り、悲鳴のあった方角へと顔を向ける。そこには、ノイズの出した粘液によって拘束されている響の姿であった。

 

 

「今ッ助ける」

 

 

 響の元に向かおうとするが、鞭の攻撃に阻まれる。

 

 

「アタシを無視すんなよ!!」

 

 

 攻撃を捌きながら、歩を進めようとするも、他のノイズが彼女の攻撃の隙を埋めるように攻撃を加えてくるため、攻めきれずにいた。響は、息も絶え絶えになりながらも、自分を助けようとこちらに向かってくるソウマを見続ける。しかし、意識は少しずつ闇に落ちていくのであった。

 

 

「……ソウ……マ…………」

 

 

 ソウマが攻めあぐねていると、先ほどの赤と青の二人組、天羽奏と風鳴翼が現れる。同時にそれぞれ技を響を拘束しているノイズに対し、繰り出す

 

 

『蒼ノ一閃』『LAST∞METEOR』

 

 

 青の光刃と黄色の竜巻が、響の拘束をしているノイズを的確に破壊する。

 

 

「立花、無事か!」

 

 

「だから、オマエは足手まといだって言ったんだよ」

 

 

 二人は、ノイズに拘束されている響に対し、翼は純粋に心配を、奏は非難するようなそれぞれの反応をする。しかし、奏も心の底でボロボロとなった響に心配していた。その姿を暢気というように白い少女は嘲笑する。

 

 

「おい、アタシ様がいるっていうのに、ノイズばかりだとはね。こっちに反応なしとは冷たいねぇ」

 

 

 白い少女に、二人の視線が集中する。

 

 

「おいおい、それにしても、随分と懐かしいものをつけてんなオマエ」

 

 

 二人は信じられないものを見たような反応する。それもそのはず白い少女が纏っているものは、2年前の事件で行方不明となっていた「ネフシュタンの鎧」であった。

 

 

「おいアンタ、なんでネフシュインの鎧なんか持ってるんだ。事と次第によっちゃ只じゃすまねぇぞ!」

 

 

 奏は、噛みつくように声をかける。白い少女の意識が、奏に集中している隙に、響を拘束しているノイズに攻撃を加えようとするが、白い少女の鞭による牽制により攻撃を阻まれる。

 

 

「2年前の事件に関わっているっていったらどうするよ」

 

 

「あなたを、倒してネフシュタンの鎧を回収して、雪辱を果す」

 

 

 白の少女の挑発に対し、翼がその挑発に乗る。翼と奏はそれぞれ武器を構え、突撃する。白の少女は、その行動に対し、両手の鞭で応戦するが、2対1は不利であるようで、徐々に押されていく。

 

 

「クッ。だったらこれはどうだ!」

 

 

 白い少女は、何か、杖の柄のようなものを二人に向けると、中央部から緑色の光が放たれ、その中から、ノイズが出現する。二人は、驚きのあまり、一度、手が止まる。その隙を鞭からエネルギーの玉のようなものを生成し相手にぶつける

 

 

 『NIRVANA GEDON』

 

 

 二人は、エネルギー弾を躱せず、吹き飛ばされる。先程召喚されたノイズが追撃を行おうと体を変化させ、飛びかかる。その瞬間、奏を赤い異形が、翼を灰銀の異形が、庇うように、飛び掛かるノイズを切り払う。そのまま、残りのノイズの集団に対し、強力な一撃をたたき込む。

 

 

『『フィニッシュタイム!!』』 『ジオウ・スレスレシューティング』『ゲイツ・ギワギワシュート』

 

 

 二人は、武器を変形させ、自身のウォッチをスロットに装填した一撃をもって、ノイズの集団を一撃で塵に還す。

 

 

「大丈夫。怪我はない?」

 

 

「フッ。世話の焼ける」

 

 

 ソウマは振り向いて、翼の顔と向き合って声をかける。赤い異形は、逆に、正面を見据えたまま声をかける。

 

 

 赤い異形は、ソウマに提案する。その声は、不本意であることを滲み出すものであった。

 

 

「ジオウ、前言撤回だ。奴がノイズを自由自在に発生させられるとしたら、民間人への被害は馬鹿にならないからな」

 

 

「ありがとう協力してくれて」

 

 

 ソウマが了承と感謝の意思を示した事に、赤い異形は、嫌悪の感情を滲ませる。

 

 

「勘違いするな。俺は、おまえが王を目指す以上、おまえは俺の仇だ!」

 

 

「うん、わかってるよ。俺としても、被害が広がるのを見逃せないからね」

 

 

 二人は、武器を近接状態に変え、構える。すると、ソウマが赤い異形に話しかける。

 

 

「ところで、君の名前は。名前も知らなかったら連携も協力もないしね」

 

 

「フンッ…………アスカだ……」

 

 

「よろしく、アスカ。じゃあいこうか」

 

 

 二人は白い少女に攻撃を仕掛ける。飛んでくる鞭をギリギリで躱しながら、アスカは手斧をブーメランのように投げつける。白い少女は、手に持った聖遺物でノイズを召喚し縦とするが、手斧は、勢いを失うことなく、ノイズを破壊する。

 

 

 その隙に、少女は後ろに跳んで、攻撃を躱す。その隙に、ソウマが武器を銃に切り変え、追撃する。そのまま、ソウマとアスカは勢いに任せて殴り、少女を後ろに吹き飛ばす。

 

 

 衝撃で舞った砂煙が晴れると負ったダメージから、苦悶の表情の少女がいた。しかし、傷口が纏っているものに浸食されるように、ダメージを回復していく。その姿に、一層警戒心を強めるが、少女はダメージの感覚が抜けきっていないのか、息を整える隙をつくるため、ノイズを召喚する。

 

 

 ノイズが、視界を覆うほどに展開され、少女と二人を分ける壁となる。二人は武器を構え、切り込もうとしたその瞬間。二人の歌姫が空を舞う。

 

 

『千ノ落涙』『STARDUST∞FOTON』 

 

 

 ノイズたちに、数多の刀と槍が空中より降り注ぐ。その攻撃は、ノイズを一掃する。二人の横に立つように翼と奏が、横に降り立つ。

 

 

「なに、自分たちが主役みたいに振る舞ってんだよ。私たちがいることも忘れんじゃねぇ!」

 

 

「どなたか存じ上げませんが、先程は助けて頂き、ありがとうございます。ですが、私たちは弱き人たちを守る防人。守られているだけじゃありません」

 

 

 二人の歌姫と二人の異形が並び立つ。白い少女は不利を確信したのか、聖遺物で、召喚できるだけのノイズを召喚し、四人を包囲し、満身創痍で倒れている響の元に近づこうとする。

 

 

「おまえら、人気者の相手が目的でも、そこの特撮もどきの二人組の相手でもなく、この融合症例のこいつの確保なんだよ。だから、こいつを連れて、退散とさせて貰うぜ」

 

 

「ふざけるな! 響を連れていかせるか!」

 

 

 ソウマは、隙間から、見える少女に対し、最大出力の銃撃を放つ。その意図を理解したアスカは、攻撃を周辺のノイズに行い、射線を開く。

 

 

 迫りくる桃色の光弾に対し、少女はとっさに迎撃を行う。とっさの迎撃のためバランスを崩してしまう。しかし、今までの経験からか、はたまた天性の才か奇跡的に攻撃を正面から迎撃することできた。

 

 

『フィニッシュタイム!!』 『ジオウ・スレスレシューティング』 『NIRVANA GEDON』

 

 

 二つの光弾が衝突し、視界が白く染まった。




 
 オリキャラの名前の法則
 オリキャラの名前の法則は人間といえるキャラは、各キャラの名前の言葉遊びと神と通じ合う。もしくは繋がるなにかという2点で行っていたりします。
 アスカ君の名前の漢字表記は飛烏と表記して、鳥ではなく烏となっています。理由としては、イメージ基のヴィシュヌは炎を象徴し不死鳥のようなものを飼っています。そこから、神鳥であり、太陽神の使いという面と導く神であるヤタガラスからとっているためです。また、ゲイツの由来でありそうな、門という意味から、常世と現世を分ける鳥居も含んでいます。
 ソウマ君は、ソーマという神の飲み物と魔に相対するという意味、言葉遊びで、間にあうと魔に逢うというネーミングであったりします。また、榊は、神道の儀式で使用される植物であり、常葉樹林の別名である常盤樹から、常盤ソウゴの影というネーミングを込めてます。
 イデアのような、人外は名は体を表すを地でいく名前となっているため、言葉遊びがほとんどないものになっています。


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第7話 2018/潜む悪意と絶唱

 はい、お久しぶりです。引っ越し等様々な事情が重なる中で、話が進んでいないことに頭を抱えていた作者です。
 第7話いろいろと、世界観の一部が顔を出し始める感じの話になっています。


 二つの閃光がぶつかることで、ぶつかった周辺のノイズは例外なく消し飛んだ。白い少女はぶつかった場所に近くにいたため、襲ってくる衝撃を無防備に受け、吹き飛ばされた。

 

 

 ソウマ達は攻撃の衝撃から離れていたため、軽く仰け反る程度に済んでいた。

 

 

「ッ! 隙間が空いた!」

 

 

 ソウマはその隙間を走る。風のように、疾く速く駆け、響の下に向かう。しかし、白い少女は、その行動に対し、さらにノイズを召喚し、彼女の下に向かうソウマを食い止めようとする。しかし、ソウマは、ノイズの行動を無意識に読み切ったように走り抜ける。

 

 

「行かせるかよ!」

 

 

「押し通る!!」

 

 

 ノイズの妨害を躱し、手に持った剣を、白い少女に投げつけ、意識を一瞬逸らす。その瞬間に、ソウマは響の下に到着する。

 

 

 ソウマは、響をかばうように、抱きかかえると、脚力を利用して、上空から、離脱する。そのまま、3人と合流を果たす。

 

 

「立花!」

 

 

 ソウマが、響を地面に降ろすと、翼は響の下に駆け寄る。奏は、近づこうと、視線をそちらに向けるが、一瞬ためらったのち、視線を正面を向き、目の前を埋め尽くすような先ほどよりも大量のノイズに、歯ぎしりを打つ。

 

 

 その隣で武器を構えるアスカ。その二人の後ろで、幽鬼のようにユラユラとソウマが立ち上がり、目の前の敵に殺気を向ける。白い少女は、ノイズたちを統率し、彼女の命令を今か今かと待つようにノイズたちが、少しずつこちらににじり寄る。

 

 

「ッ!」

 

 

 白い少女は、自分に向けられた殺気に晒される。しかし、少女は怖気づくわけではなく、その男が融合症例の少女を助けるために行った一連の行動に対し、心のなかで黒い感情が噴き出す。噴き出した感情に戸惑いながらも、「フィーネのためと」言い聞かせ、その感情を抑え込む。

 

 

 翼は、響の姿を見て、見たこともない景色が脳裏をよぎる。古い、見たことがあるような気さえする日本家屋の庭に男が一人、項垂れて佇んでいる姿が思い浮かぶ。その姿に胸が締め付けられる気持ちと黒い感情が滲み出る。

 

 

「いくら、アンタラでも、このノイズの数は捌きれねぇだろ」

 

 

 少女が、一息を吸い込み、口角を吊り上げる

 

 

「自分の無力さに打ちひしがれて眠ってな」

 

 

 白い少女が、ノイズを嗾けようとすると、翼が自分の中からあふれ出ようとする黒い感情に任せ、声を上げる。

 

 

「笑止‼この程度のノイズで私たちが……防人が怖気づくと思ったかッ」

 

 

「つ……翼?」

 

 

 雰囲気がガラリと変わった翼に奏は恐れ戦く。いつもの、明るかった少女の瞳は、まるで戦場に立つ鬼のような鮮烈な意思を宿した瞳へと様変わりしていた。

 

 

 鬼に憑りつかれたようなその姿から、全員が後ずさる。その目は、あの日、2年前のライブの時に現れた翼によく似た女性が浮かべていたもの。何かを守るために、優しさを怒りに変えた火を宿していた。

 

 

 翼は、奏のほうを向き直り、いつもの優しい目で穏やかに告げる。

 

 

「私は大丈夫だから、彼女を守ってあげて」

 

 

 奏は意味が分からないという顔を向ける

 

 

「さぁ、決着をつけましょうか」

 

 

「まさか……絶唱を……」

 

 

 翼の剣呑ではない雰囲気に、彼女は知識を総動員にして、翼が行おうとしていることにあたりをつける。  

 

 

 敵に向かって歩を進めながら、翼は声を、歌を紡ぐ。すべてを傷つける破壊の歌を

 

 

「──────────―」

 

 

 歌声が戦場に鳴り響く。その言葉の意味をソウマとアスカは理解できずにいたが、その膨れ上がっていくエネルギーから尋常ではないと考えていた。隣にいる奏が取り乱す。

 

 

「やめろ翼! 2年前のあの女みたいになるぞ!」

 

 

 翼は、歌うことを辞めずに、奏に振り向き、笑顔を向ける。その後白い少女の方を向き、歌の力を、周囲のノイズにぶつけられるように、アームドギアを横一線に構える。

 

 

 白い少女も同様に、信じられないものを見るように、首を横に振りながら後ずさろうとするが、翼の迫力から、文字通り、釘付けになりながら後ずさることしかできない。

 

 

「本当に歌いやがった……正気じゃねぇ血迷いやがったか!」

 

 

 月光がスポットライトのように彼女を照らす。彼女の声が、歌が最後の言の葉を紡ぐ。それと同時に、彼女の口から血が流れる。彼女はそれを気にせず、自らの刃を振りぬく。

 

 

 ────一閃、白い少女とノイズに最強の、禁断の一撃が襲い掛かる。ノイズたちはその一撃で全て塵に帰り、白い少女は、吹き飛ばされる。

 

 

 ソウマは、衝撃から響を庇う。白い光が各々の視界を奪う。光が薄れ、三人は、翼に対し、視線を向ける。翼の振りぬいた剣は、先程のエネルギーの奔流に耐えられずに、崩れ去る。翼は、三人の方にぎこちなく向き直る。

 

 

「────―ッ」

 

 

 三人は翼の顔をみて息を呑む。その顔は目や口、耳から、血が流れ続け、一目で重体とわかるものであった。

 

 

「翼……」

 

 

 奏は、呆然となりながら、翼に近づいていく。

 

 

「私は……これで……立……花も……みん……もまも……れた……か……な……かな……で……」

 

 

「あぁ……守れたよ」

 

 

「……よか……た……」

 

 

 翼の姿を見て、ソウマは胸が引き裂かれるような気持ちにさせられる。どこかで、この光景を見たことがある感覚に襲われる。強烈な喪失感が彼を襲う。このまま、彼女が、先程の刀のように塵にかえってしまうのではないかという錯覚に襲われ、彼女の下に駆け出す。駆け出したと同時に翼は崩れ落ちるように倒れる。

 

 

 ソウマは、翼が地面につく前に、抱き寄せる。その姿に、奏は2年前のあの瞬間が重なって見えた。魔王といえる黄金の鎧を纏った男がアメノハバキリを纏った翼によく似た女性を抱きかかえ、そのまま、一言二言を交わし、光の塵に帰っていった姿であった。

 

 

 

 

 

 ソウマは、声を絞り出すように、声を出す。

 

 

「いるんだろ……イデア……」

 

 

 風が吹き荒ぶ。風が収まると、七海とイデアが其処にいた。

 

 

「あらら、どこかで見たことのある景色ですね。これは」

 

 

「フッ因果は巡るというものだよ。まぁこれは今までなかった事態だね」

 

 

 ソウマは、イデアを睨みつけるように告げる。

 

 

「おい……この事態を想定してなかっただと……神なんだろ……あんた……」

 

 

 仮面の下で唇を噛みながら、虚ろな瞳で傷ついた翼に目線を向け、その後、離れた場所の響を見つめる。

 

 

「フッ……ごめん。少し気が立ってた……らしくないなぁ……俺……」

 

 

 一瞬イデアは目線を傷ついて倒れている二人に目を向ける。その後、空に輝く月を睨む。

 

 

「確かに、今回は私の想定外の事態だ。この後の展開と帳尻を合わせる必要があるしね……では、君たちを病院に連れて行こうじゃないか」

 

 

 イデアのストールがここにいる全員を包み込む

 

 

「なッここは、病院! どうして……」

 

 

 周りを見渡してみると、奏とアスカは驚きを禁じ得なかったが、ソウマは翼を抱えて立ち上がる。

 

 

「イデア、響を頼めるか……」

 

 

「喜んで、我が魔王」

 

 

 ふたりは、病院へ、響と翼を運んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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第8話 2018/立花響の回想と独白

 立花響は、堕ちていく意識の中で彼、榊ソウマとの出会いとこれまでのことを思い返していた。

 

 

 私、立花響は、榊ソウマに恋をしている。恋と呼べるほどの純粋なものではないとも思っている。

 

 

 あの日、2年前、ノイズから生き残ったライブの日から、私は、学校や周囲から非難されていた。味方は未来以外は家族ぐらいで、でも家族も、お父さんもお酒やたばこが酷くなっていって、少しずつ精神が擦り減っていた。

 

 

 そんな時だった、ソウマと出会ったのは。ソウマは、初めて会った時には、無感情とは文字通りこういうのだろうて感じだった。でも、手を私に差し伸べてくれたときは、表情とかはそのままだったけど、声音と目の奥に確かに暖かさがあったと思う。

 

 

 そんなことがあってから、ソウマは私のことを、いつも未来と一緒に助けてくれるようになったんだよね。でも、最初は未来も私もソウマとはあまり、仲が良くなかったんだけど……

 

 

 少しずつ、一緒にいることが多くなっていって、ご飯とかも一緒に食べるようになって仲良くなっていったんだよね。意外だったのは、ソウマがお菓子作りが趣味っていう若干少女チックな趣味を持っていたりして。そうやって、無償の愛情を向けてくれる彼に優しかったときのお父さんを重ねていたんだと思う。

 

 

 でも決定的に彼を異性として意識しだしたのはお父さんが家を出っていったときかな

 

 

 落ち込んでる私のそばに、なにもいわずにいてくれた。それまでも、ずっと未来と一緒にそばで私のことを見守っていてくれた。それから、私は、彼と一緒にいることが多くなった。放課後は二人で出かけたり、まるでデートのように過ごしていてとても楽しかった。それこそ、未来のことを忘れるくらいに……そのせいで、未来とも一時期疎遠になりそうになっちゃった。

 

 

 ソウマが未来を誘ったりして、3人でフラワーでお好み焼きを食べたり、カラオケやゲーセンに行って遊んで、仲直りできたんだよね。ほんとに、怒っているときの未来は怖かったなぁ。

 

 

 それから、三人で前みたいに一緒に、放課後や休みの日を過ごしたんだけど……3人で過ごしていく中で、わかっちゃたんだよね。彼は私に確かに愛情を向けてくれている。私も、どこかでお父さんの代わりって見ていた時期もあったから……でもソウマの思いは未来のほうを向いてる……勝てるわけがない……未来は料理もできるし、勉強もできる……だから、諦めようって思った……

 

 

 それでも……頭ではわかっていても、ソウマへの思いは日に日に増していく。何かあるたびに自分のところへ駆けつけて助けてくれる。だから、私の中での決意は、現実に目を背けて「甘えていたい」「このまま寄りかかっていたい」そういう気持ちに変化していった。彼と未来の3人で過ごしていながら、ずっとどこまでも、一緒に変わらないでいたかった。

 

 

 

 

 

 自覚した思いは膨れ上がり、彼女の理性を焦がす。だが、自分が抱いてる未来への愛情と思いがぶつかり合い彼女の欲望を抑え続ける。自分のような甘える人間と未来のように自分を心の中で強く持っている人間と勝手に思い描いていた。

 

 

 実際には、未来は、相手を思うばかり自分の気持ちを表に出せないだけなのだが、嫉妬に狂っている彼女は、そう強く思い込んてしまったのであった。結果として、響は二人に対して、コンプレックスを抱いてしまいながらも、二人という陽だまりの中で甘えていたい欲望に呑まれていった。

 

 

 そんな中、シンフォギアの力を発現した彼女は、

 

 

(これで、私も未来に勝てる。みんなの居場所も守れる。胸を張ってソウマの傍にいれる)

 

 

 生来の性質と彼に並び立ちたいという思いもあってノイズと戦っていた。半分尊いが半分醜いそんな思いが彼女を突き動かしていたのだった。

 

 

 しかし、先ほどの戦いで助けられたことで、自分の弱さを見せつけられたようで、ノイズとの戦いに約束を破ってまでの価値を見出せずにいた。

 

 

(なんで……シンフォギアでみんなを守るために戦って……でも、結局負けて、ソウマに助けられて……全然追いつけなくて……もうどうすればいいかわかんないよ……)

 

 

 守るべきと考えていた人が自分の苦戦した相手を圧倒して、果ては撃破までしたこと、その後の戦闘でノイズを効率的に捌いていくソウマの姿に響は無力感に支配された。

 

 

 

 

 

 響は、今までのことを振り返っていると、あたりが、一面暗くなったような気になる。

 

 

 目の前には、ソウマが何かを抱えて、項垂れている。

 

 

「ソウマ? どうしたの……」

 

 

 響が彼に触れようとするも、手はすり抜け、虚空を掴む。近づいて、初めて気がついた。ソウマが抱えているのは、今より少し大人びたシンフォギアを纏っている私であった。肌からは生気が感じず、一目で死んでいると感じさせるものであった。

 

 

「ッどうして私が死んで……」

 

 

 よく見ると彼も現在の見た目より、少し大人びていた。

 

 

 響の死体は光を放ち、彼の体に吸収されていく。そうすると、彼の巻いているベルトが、黄金の装飾されたベルトへと変化していった。

 

 

「響、見ていてくれ……俺が、何に変えても……世界を守ってみせるから……」

 

 

 彼の目が虚空を睨みつけ、ゆったりと立ち上がり、闇に向かって歩き始める。響は、ソウマから感じる底知れない悍ましさに止めようと声をかける。

 

 

「ソウマ、待って!」

 

 

 響が彼を追いかけようとした瞬間、地面がひび割れ、マグマともいえるエネルギーが時計の文字盤のように広がり、針のようなものが、強引に押し広げられる。

 

 

変身

 

 

 ソウマを黄金の光と闇が包み込む。響はその光に止めようと手を伸ばす。

 

 

ダメェェー

 

 

 

 

 

 立花響は勢いよく目を開けると、一目で病室であると分かるつくりであった。自分で汗をかいていると一発であるほど冷や汗で服が張り付いていた。体を動かそうにも、痛みが酷くまともに動けない状態であることを。

 

 

 自分の状況にに戸惑っていると、扉の場所に、リディアンの制服を着ている未来がいた。どうやら、放課後に見舞いに来てくれているようであった。

 

 

「響が目を覚ましてくれたぁ……よかったぁ」

 

 

 未来は響に抱きつき、涙を零す。響は、痛みを堪えながら、未来の頭を撫でる

 

 

「ゴメンね、未来。心配かけちゃったね」

 

 

 引き戸に寄りかかるように立っているソウマに気づく。

 

 

「ソウマ……」

 

 

「ほんとに、心配したんだよ、響」

 

 

 微笑みながら、私たちをみる彼に、先程の悪夢の彼と被りながらも、自分の事を心配してきてくれた二人にたいして胸の内から温かい何かが溢れ出す。しかし、どこか様変わりした彼の雰囲気にすこしだけ寂しさを感じるのであった。



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第9話 2015/継承!幽霊ライダー

 1ヶ月間XDのイベントとシャドバに逃げていた作者です。一応今回の話で彼を出すべきかとても悩みましたが、プロット的にもここで出てくれないと困るので出てもらいました。
 口調が違うのは、主にプロットと設定的な事情ですのでご容赦のほどをお願いします。


 榊ソウマは変身を解き、崩れるように待合室の椅子に腰掛ける。30分ほど呆けておると、医師たちに響たちを引き渡したイデアが戻ってくる。

 

「確かに彼女たちは医者に引き渡したよ。立花君は比較的にダメージは小さいからね。私見ではあるが、彼女も体質も鑑み3日ほどで全快だろうね。しかし、風鳴君は絶唱の反動でかなりの重症だね。暫くは戦線復帰は不可能だと考えてくれ」

 

「そうか、なぁイデア……俺はあの時、風鳴さんが倒れたとき、どこかで見たことがある気がしたんだ。それだけじゃない、響のときと同じくらいに不安感に襲われたんだ。どうしてかわからないけどね」

 

 ソウマは自分が信じられないというように、口角がひきつっていた。どこか、自分の認識とずれた感情の起伏に恐怖を抱いていた。

 

「その恐怖心は、何かを見いだせるものではないよ。我が魔王……今はまだね」

 

 イデアは、入り口の方を見る

 

「まぁ、そんなに気になるなら彼に聞くといい。なぁ風鳴訃堂君」

 

 ソウマは入り口に視線を遣ると黒服の人たちに囲まれた和装の老人が立っていた。

 

 和装の老人は、老いを外見からは察することができるものの、目からは老いといえるものを感じさせないほどの覇気ともいえるものが宿っていた。

 

「君が榊ソウマ君か……」

 

 老人は一文字に引き締めていた口から、外見に似つかわしくない穏やかな声で、ソウマに語り掛けてきた。

 

 先程の鬼のような目が、懐かしく、眩しいものを見るように目を細めてソウマの隣に腰掛け、顔を向けずに語り始める。

 

「人は生きていく上で業と呼べるものを溜め込んでいく。それが時に人から人へと移り行くことがある」

 

 下を向き拳を握り締め食い縛るように答える。

 

「なぜ、君がそのような経験していないことを覚えているのかは解らない。だが、もしそれが業といえるものならば……」

 

 ソウマは藁にもすがるように次の言葉を待った。

 

「業は誰かにとっての希望であるのであろうな。きっとそれは君の助けにもなるだろう。これから君が進む覇道にはそれすら飲み込まなければやっていけないだろうからな……」

 

「そんなこと、できるわけないだろ‼自分が知らないことを押し付けられて、自分じゃないやつの感情を植え付けられて……」

 

「だがやらねばならんのだよ。君が世界を救うためにはな」

 

 ソウマの激昂を流すように訃堂は彼を宥める。

 

 訃堂は立ち上がり入り口に向かう。

 

「おや、彼女に会わないのかい訃堂君」

 

「そうか、貴様が悪神の配下の神か……聞いていた通りの容貌だな。貴様が側に侍り続けるならば、暫くは大丈夫であろうな」

 

 フッと訃堂は笑う。

 

「榊ソウマよ。死に無駄死になどない‼️私はそう信じここまで生きてきた。例え、鬼と呼ばれても死んでいった命に報いれるようにな……それが彼らと弟分から託された私の背負う業だ。貴様も背負っている業から」

 

「託されたものから目を背けるな。そうすればそれが道を指し示してくれる。覇道とは違う道を切り開くためにはな……」

 

 訃堂はそのまま入り口から黒服たちを引き連れていく。黒服は戸惑いながらも、進んでいく。

 

 ソウマとイデアは窓に近づく。夜空は満天の星が空を埋めつくし、まるで地上にいる人たちを見守るように照らし輝き続けている。

 

「託されたものか…ねぇイデア、託されたものって大事なのかな」

 

 ソウマは顔を上げ、すがるように星を見つめる。それに対比するかのようにイデアは英雄を見つめるように眩しい目で見上げる。

 

「それは、君次第じゃないかな。我が魔王」

 

 ソウマは星の眩しさに耐えられなくなったように目を反らす。

 

「でも、自分じゃないものを受け入れるってのは楽じゃないよ…」

 

「いや、あれは君の感情だよ。間違いなくね…」

 

「どういうこと…俺の感情って…俺はあんなこと経験してないよ」

 

 イデアの穏やかだが、冷徹さを秘めた言葉から逃げるように、疑問をもって彼の言葉を押し返す。しかし、彼は呆れたように肩を軽く上げる

 

「当然だよ。あれは君の未来からの因果だからね」

 

 イデアの回答に訳が解らないと、頭を横にふる。

 

「未来?どういうこと?」

 

「あれは君が辿るかもしれないものであり、君の…おっと、話しすぎたね。だが、一つだけは確実にいえる。」

 

 しまったという顔をしながら話を区切り、今伝えられることを選び、自身の主に進言する。

 

「あれは、君の未練だ。君が晴らしてやらなくてどうするんだい我が魔王…未練を呪いにしてはいけないと私は思う。だからこそ、最低限、受け入れてあげるんだね」

 

 受け入れる重圧の重さに俯いてしまいながらも、拳だけは強く握られる。それは自身の防衛本能ではなく、自身を奮い立たせるための行為であった。

 

「全部受け入れるなんてできない。」

 

 ソウマは目を一瞬背ける。だが、すぐに向き合う。その目は、シャドウジオウライドウォッチを手にした時の覚悟が宿った目に戻っていた

 

「でも、少しずつでも受け入れていきたい。訃堂さんも言っていたじゃないか、繋いだものだから果たしたいって」

 

 彼の言葉に答えるように、オレンジ色の光が右手に集まる。光はウォッチの形をとる。そのウォッチは黒とオレンジ色のライドウォッチであった。

 

「これは…」

 

「ゴーストライドウォッチか、ゴーストに認められたようだね」

 

 微笑を浮かべながら称賛の意を表す。

 

「このジオウライドウォッチもジオウに認められたってことなの?」

 

 彼の言葉にイデアは真顔となり、大事なことを告げるために珍しく気合を入れる。

 

「ウォッチはライダー達の歴史だからね。大切にして欲しい」

 

 彼はいつになく真剣になる。その纏う雰囲気はいつもの何処かお茶らけたものを一切感じさせない気配であった。

 

「あぁ、ライダー達に認められるとウォッチが君の手元に現れる。君が王位を継ぐには最低限20人のライダー達に認められる必要性がある。道は長いよ」

 

「なんか、いけそうな気がするんだ」

 

 イデアの助言に、ソウマは問題ないと確信を得ていた。何故かは解らないが、これもまた自分が背負った業が伝えてくると暗に理解する。しかし、その感覚は先ほどとまでと異なり、何処か心地好さを感じるものであった。

 



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第10話 2018/ 不和の種 超越者の愉悦

 イデアとソウマが再び、窓の外で星を見ていると、泣き腫らした目の奏とそれを介抱するアスカを引き連れた七実がやってきた。

 

「イデア、翼ちゃんは、いつも通り危篤状態よ」

 七実は、微笑みながら、イデアに現状を報告する。

 

「あぁ、だが、助かったよ。私と我が魔王を二人きりにしてくれて」

「えぇでも、あのおじいちゃんを素通りさせてほんとによかったかしら」

「あぁ、おかげで、我が魔王も立ち直れたし、ウォッチも継承できて万々歳だよ」

 イデアと七実は、世間話をするように話している。実際に人一人が死にかけている状況に反している様相であった。

 

「あんたら、人が重傷になっていて、なんで、そんなにヘラヘラ笑ってるんだよ‼」

 奏は、大切な相棒が重症になっている現状に、自分が守ると考えていた少女が傷ついて倒れた現状を馬鹿にされたような二人の反応に限界と、二人の超越者に牙を剥き、胸の待機状態のギアを握りしめ、今にもとびかかりそうなっている。その殺気にも似ている激情を受けても、超越者である二人には関係のないように話し始める。

 

「あぁ、彼女がこうなるのは予定調和なんだよ。まぁ、立花響がアナザーライダーのせいで、ダメージを受けすぎたのはかなり、現在が計画外の状況なのが悪すぎるからね」

「そこは、私が軌道修正するわ。だから、とりあえず、ルナアタック終結までには、最低でも6個継承してもらわないといけないのよ。だから、魔王のことはあなたが何とかしなさい」

「わかっているさ」

 

 二人の自分たちは眼中にないような言い方に我慢の限界が訪れるとびかかろうとする。しかし、ソウマが手で制する。振り返って首を横にふるう。

「ここは、任せて。俺のことを信じられるほど付き合いがあるわけじゃないけど信じてくれ」

 奏は信じられないというような反応だったが、ソウマの自信にあふれた姿に気圧される。その隙に振り向いてイデアに苦言を呈する。

 

「なぁ、イデア、俺も今回は、ヘラヘラ笑っているべきじゃないと思うよ。例え、それが決まっていたことでもね」

 ソウマの変わりように、イデアは、笑みを深める。悪意とも呼べるものが感じられるほどに

 

「君も、随分と業がなじんでるようじゃないか。これは本当にうれしい誤算だね。君が望んだからかな……」

 だが、と口にしながら、先ほどの笑みはなりを潜め、苦笑に変わる。

 

「我が魔王。今の君は覇道を進むか、王道を進むか以前状態なのだよ。だから、君は進まなければいけない。世界の破滅を防ぐためにね」

【世界の破滅】という、一転して聞きなれない単語に、脳が一瞬理解を拒む

 

「世界の破滅なんて聞いてないけど」

「伝えてなかったかな、君が魔王にならなければ、世界はほんとの意味で滅びる。まだ、荒廃した未来のほうがましさ」

 重要事項といえる内容をうっかり伝え忘れていたなぁという風にとぼけて答える。それでも、荒廃のほうがマシだと、アスカを意味深に見る。

 

「なんだと……未来では、みんな、苦しんでいた。俺の仲間もみんな……だからこそ、あんな未来を回避するために、榊ソウマには消えてもらう。世界が荒廃した原因であるこいつにな」

 脳裏に焼き付いているものがアスカを苦しめる。仲間たちが塵に還っていく様子が、虫を潰すように簡単に消えていく命が理性の鎖を破壊していく。

 

「今は、何も言っても意味はないからね。何も言わないことにするよ。だがね、世界が荒廃した日。そうだね【逢魔の日】とでもいっておこうかな」

 アスカを煽った当人は、説明を無駄といい、それでも、軽く説明は必要かと悦明を行う。

「逢魔の日には世界は間違いなく君の手で救われた……が世界が荒廃を始めた日でもある。真実は今は語らないよ。だが、君はいつも変わらず、世界を守るために戦っていたよ」

 しかし、イデアの説明では納得がいくものではない。守るためとは、到底信じられない言葉に、感情の高ぶりが抑えきれないでいるアスカと哀れなものを見る目で見下すイデアの舌戦は続く。

「守るためだと……笑わせるな‼オーマジオウの手で仲間たちがどれだけ犠牲になったと思ってる‼」

「それは、君たち錬金術師が一番わかっているはずさ」

 

 イデアは、アスカの怒りに意味が分からないというように一蹴する。あまりにも認識の差が隔絶している2人に対してソウマが二人の間に割り入って二人の仲裁に入る。

「まぁまぁ二人とも落ち着いて、ね……ねぇ逢魔の日ってどういう日なのかもう少しだけ教えてくれないかな。そうじゃないと対策も立てられないからね」

 ソウマは、話題を反らし、状況の改善に努める。イデアは、仕方がないと言いながら、手に持っている本を開き、答える

「今回の翼君の絶唱もすべて決まっているのさ、すべては善なる神のシナリオだからね。だが、君がライダーの歴史を受け継ぎ、魔王となるのも決まっていることなんだよ、それが我ら悪なる神のシナリオだからね。その決着がついた日、それこそが逢魔の日なのだよ」

 

 善神と悪神という、またも想像の埒外ともいえる単語に頭を抱えるものの、これらの会話で出した結論はやはり、王であるが故の回答であった。

「じゃあ、俺が、アスカの言う通りの魔王にならなければいいんだよね」

「それでは、世界が滅んでしまうよ」

「俺が、世界を荒廃させずに世界を救ってみせるよ」

 それは、どこか傲慢さを感じてしまう回答ではあるものの、それはいまさらというように、己が意思を掲げる。それに2人の超越者は呆れるように、だが納得したような反応を見せる。

「では、そう信じてみようじゃないか。いこう七実、これ以上は野暮というものだ」

 七実がイデアに近づき、イデアのストールに包まれ、姿を消す。その突風のように場をかき乱すだけかき乱した二人は姿を消したのだった。

 

 

 

 病院の屋上にワープしたイデアたちは、星を見つめながら、疲れたように答える。

「我が魔王、世界を救うだけでは意味がないんだよ」

 その言葉は、面と向かっては口にはできないものであるが、いつかは気付いてほしいと思っていることであった。

 満点の星空に仮面の英雄を重ねながら、超越者達は【今回こそ】はと寒空の下で肩を寄せ会うのだった



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第11話 20xx/行方知れずの英雄、始まりの物語

 お久しぶりです。プロットを書き換えたりしていたらこんなに日が空いてしまいました。今回の話は、想定していなかったものだったので、ちょっぴり長いものになっています。


 愛知県名古屋市某所、蜃気楼が浮かぶほどの炎天下、二人の警官が、スピード違反の対応追われていた。

 

 

 

 

 

 気性が荒い運転手であり、所謂、走り屋と呼ばれる人種であろうか、まだ若輩の警察官が先輩に見守られながら対応している。

 

 

 

 

 

「お巡りさんさぁ~、俺よりスピード出してる奴がいるだろうよぉ‼️」

 

 

 

 

 

 息を荒げ、唾が飛んできそうな剣幕で若輩の警察官を恐喝する。警察官は内心怯えながらも、気丈に振る舞う。

 

 

 

 

 

「ですから、あなたが、速度違反をしているのには、代わりないですので」

 

 

 

 

 

「じゃぁ、ちゃんと止まってる俺が前科ついて、今走ってる奴には前科がつかねぇてのか、あぁ」

 

 

 

 

 

「いえいえ、前科と言う程のものでもないので、それに警察学校の同期も切符切られたんで大丈夫ですよ。ハハッ」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 空気が、凍る。都会ならではの喧騒さを感じさせないほどに、凍る。

 

 

 

 

 

 困惑が極まった相手に対して、先輩の警察官が変わって対応する。直前の困惑からか、相手をするのに疲れたようでその後素直に先輩警察官の対応にしたがって処理を終えたのであった。

 

 

 

 

 

 車に乗って去っていく相手を前に先輩が顔を合わせずに苦言を呈する。

 

 

 

 

 

「相変わらずの空回りさだな。今回はいい方向に転んだからいいものの、こういうことばかりじゃないんだからな」

 

 

 

 

 

「すみませんでした」

 

 

 

 

 

「あんまりやるようだったら、明日の焼肉は、ホルモンだけにするぞ」

 

 

 

 

 

「肝に銘じます」

 

 

 

 

 

 少々、おちゃらけた様相を見せる先輩に、後輩の乾いた笑いが喧騒に消えていくのであった。

 

 

 

 

 

 交番に戻り次第、暑さに参りながらも、先ほどの件について報告書類をまとめていた。先輩は、ゆったりとお茶を飲みながら椅子に腰かけ、くつろいでいる。

 

 

 

 

 

 この男は、ヒーローに憧れて警察官になったものの生来の本番の弱さに、空回りが過ぎてしまう。それに対し、先輩警官は、少々ユーモアなところがあるものの基本的に職務に忠実な将来有望な警察官である。

 

 

 

 

 

 二人は、対照的ともいえる。男はヒーローに焦がれるゆえに、誰かを助けたいと人一倍思っている。しかし、どこかで憧れが呪いのように彼を蝕む。それに対し、先輩は職務に忠実であるからこそ仕事として割り切ってるため大事な場面で一歩踏みとどまることができる。それゆえに余裕をもって行動できる。

 

 

 

 

 

 男は先輩の余裕に憧れながら、職務に従事する。先輩は、男の純粋さと愚かさに眩しさを覚えながらも相手を叱る。対照的な二人の関係ではあった。

 

 

 

 

 

 烏の異様な鳴き声が聞こえてくる。それだけではなく、椋鳥が空を埋め尽くすように逃げ回る。犬が吠える。まるで終わりを告げる笛のように、始まりを告げる福音のように空に響渡るのであった。

 

 

 

 

 

「先輩、なんか不気味ですね。なんか嫌なことが起きそうですね」

 

 

 

 

 

「変なこといってないで仕事をしろ‼️」

 

 

 

 

 

 男の不安を先輩は取り合わずに書類を整理を行う。

 

 

 

 

 

 数分が経過したころ机が揺れだし、周辺のものも釣られたように揺れ出す。二人は、想像以上の揺れに衝撃を受けながらも、身を守る行動をとり、扉を全開にする。

 

 

 

 

 

 想像を絶する揺れが去った後、二人は外に出て、外の状況を見ると、耐震構造を考えて設計された建物の骨格が歪んでしまっていた。歪みによってガラスが割れて地面に散乱し、外を歩いていた人の元に降り注いで、目の前が地獄絵図とも言える惨状が広がる。

 

 

 

 

 

 それだけでなく街路樹も軒並倒れ、地面には皹が走っており、ひどい場所では、亀裂となっている。

 

 

 

 

 

 どうしようもない惨状に男は目を背けようとするが、どうしても目を反らすことができない。上がる悲鳴に身がすくんだ訳ではない。ただ、自分のすべきことをするために、足が前へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 対照的に先輩は、惨状から目を背け、思考が挟まり足が止まる。だが、前にでていく後輩に、釣られるように足が進む。

 

 

 

 

 

 二人は、沸き上がる不快感を押さえ込みながら、街路樹等をどかして、民衆の避難誘導を開始する。被害の把握のため、様々な建物の状況を確認していく。

 

 

 

 

 

 そのなかで、逃げ遅れを重点に置き、交通用の古い地下通路の確認のため、彼らは足を踏み入れる。通路は荒放題であり、瓦礫が落ちて道を塞ぎかけ、天井からは曇り空が覗いて見えた。

 

 

 

 

 

 ふと、目の前に目をやると10歳前後であろうか子供と、それを守るように母親が瓦礫の下敷きになっていた。比較的軽い瓦礫であったため、二人で協力をして、瓦礫をどかすと、子供の意識はないものの、脈拍は確認できるため、生きていることは解るが、親の方は、すでに事切れていた。

 

 

 

 

 

 しかしながら、子供も重症であったため、この場から動かすと危険であるため、慎重に首もとを押さえてゆっくりと移動させていく。

 

 

 

 

 

「先輩、どうやって避難させますか。このままだとここも崩れます」

 

 

 

 

 

 天井をみると、いつ崩れ出してもおかしくない。それほどまでに、ボロボロであった。

 

 

 

 

 

「だったら、見棄てるか」

 

 

 

 

 

「そんなことするわけないでしょう‼️」

 

 

 

 

 

 男に対して行った質問は、想像通りの回答をもって解決する。

 

 

 

 

 

 先輩は、想定していた反応であったため、苦笑いを浮かべながら、今後の方針を示すのであった。

 

 

 

 

 

「あぁお前ならそういうと思ってたよ。まぁゆっくりと運んでいくしかないだろうな」

 

 

 

 

 

 二人は慎重に子供を運んでいく。しかし、次の瞬間、揺り戻しが起こる。流石にボロボロの天井はその揺り戻しに耐えることはなく、天井が崩れて3人を下敷きにしたのだった。

 

 

 

 

 

 男は霞む意識のなか、目を開ける。瓦礫に押し潰されていながら、ギリギリ意識を保っていた。だが、もう自分は助からないと解る重症を負っていた。しかし、そんな状況下でみた光景はあまりにも凄惨な光景だった。

 

 

 

 

 

「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"'ぁ"ぁ"ぁ"'ぁ"ぁ"ぁ"'ぁ"」

 

 

 

 

 

 目の前には、自分の先輩であり、尊敬していた相手だったものの腕と、血の気を完全に失い、軽く潰れた頭部であった。また、腕は、子供の足を掴んでいるが、先は無く、どうやら子供は瓦礫で完全に潰れてしまったことが想像できる。

 

 

 

 

 

 男は、自分がなにも救えていないだけではなく。先輩の人生や、子供を命がけで守った母親の思いを踏みにじってしまった事実に絶望の淵に叩き落とされる。薄れ行く意識のなかで男は願った。

 

 

 

 

 

(もっと……もっと俺に力が……力があれば)

 

 

 

 

 

 その力はヒーローであったのだろうか、それとも、悪魔で合ったのか、それは解らないがただ力を求めながら、己が理想の結末を渇望しながら、男は生き絶えたのだった。

 

 

 

 

 

 これらの光景を映像として、見ているものが2人いた。長いロングコートを着込み、ロングストールを巻き、本を手に持っている男であった。もう一人はラフな格好をしており、これと言って特徴がないが、尋常ではない雰囲気を纏っていた。

 

 

 

 

 

「イデア、もうこのデータは要らないかな。整理を兼ねて消してしまおうかな」

 

 

 

 

 

 ストールの男、イデアにラフな男が提案をするが

 

 

 

 

 

「お戯れをアーリ様。これは榊ソウマが榊ソウマに成る前の物語。何時かは、この記憶が意味をなすこともありましょう」

 

 

 

 

 

 ラフな男、悪神アーリは微妙な顔を浮かべながら肘をつき、了承の意を表する。

 

 

 

 

 

「正直、もうわかないんだよね。神ってものに成ってから結構たって、人間ってものの心って奴がさ。だから、この記憶にもなんの価値も見出だせないんだよね」

 

 

 

 

 

 アーリはケラケラと笑いながら、イデアをみると神妙な顔をしているのがわかった。

 

 

 

 

 

「イデア、まぁ君がこれを残しておくなら一向に僕は構わないよ」

 

 

 

 

 

「アーリ様……感謝します」

 

 

 

 

 

 頭を下げたイデアを見て、渡すものがあったことを思い出す。

 

 

 

 

 

「これを渡そうと思ってたんだわ」

 

 

 

 

 

 アーリはイデアにプラ板のような本とペンを渡してきた。

 

 

 

 

 

「計画に必要でしょ、それ」

 

 

 

 

 

「ありがたき幸せ、では地上に降りて計画を遂行してきます」

 

 

 

 

 

 感謝を告げ、イデアが去ると同時に、入れ替わるように、悪意を身に纏い、ローブに身を包んだものが現れた。

 

 

 

 

 

「おや、こんな曼陀羅の中点にお客とは珍しいねぇ。まぁゆっくりとしていくといい、アーク」

 

 

 

 

 

 アーリは、テーブルと椅子。ティーセットを出し、アークを歓待する。アークはテーブルにつくものの一言も発しない。

 

 

 

 

 

 二人とも、テーブルにつき、茶を一杯飲むと、アーリから本題を切り出す。

 

 

 

 

 

「さて今回の要件は何かな?」

 

 

 

 

 

 アーリの問いかけに、アークは漸く口を開く。

 

 

 

 

 

「         」

 

 

 

 

 

 アーリは笑みを浮かべながらその注文を了承したのであった。

 

 

 

 

 

 




 


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第12話 0000/明かされる真実 前編

 長い間、失踪していました。資格の勉強等で時間を取られていました。エタらずに完結させますので、この駄文にしばらくお付き合いください。


 朝日が部屋に差し込む。朝の爽やかさとは裏腹に、家主の榊ソウマは昨夜の出来事が、脳裏をよぎる。

 

 

 枕元の卓上に置いてあるオレンジと黒のライドウォッチが昨日の出来事が真実であったと雄弁に語っている。昨夜の出来事の情報量を処理しようと思考するが、どうしても現実離れした事象に理性が理解を拒む。

 

 

 無言のまま、食卓にはつかず、食パンを牛乳を伴に胃に流し込み洗面所に向かう。

 

 

「……随分と酷い顔だな」

 

 

 鏡に映っていたのは精気を失ったような肌に引き吊った笑みを浮かべた自分の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校には体調不良の報を入れ、昨夜手にしたベルトとウォッチを目を向ける。3つの時計は、それぞれ書かれている数字が異なっている。

 

 

 ゴーストと呼ばれた時計の数字は「2015」ジオウと呼ばれた時計は「2018」シャドウジオウと呼ばれた時計は「0000」と書かれている。シャドウジオウライドウォッチは自分の一部のような親近感さえ抱いてしまう気さえしてしまう。しかし、他のウォッチは誰かの気配を感じる。

 

 

「ん……?」

 

 

 昨日の説明を思い出すと、このウォッチを含めて21個存在することが理解できる。もしかするとこの誰かの気配を感じるものが21個であるということは、それ以外のものがある可能性が考えられる。

 

 

 首を傾げ、響を倒した存在もウォッチを落としていた。

 

 

「確か……紛い物の猿真似だったかな」

 

 

 疑問が加速していく

 

 

「紛い物の猿真似ってそれは原型から離れきっているような?」

 

 

 そう、原型から離れきっているのが理解できる。

 

 

「いや、もしかしてこれが原型なのか?」

 

 

 結論に至りそうになっていると

 

 

「それは早計だね、我が魔王」

 

 

 勢い良く後ろを振り向くとそこには、何処か嘲笑うように笑みを浮かべながらイデアがいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イデアとソウマはテーブルに対面して座り、互いにコーヒーを飲みながら無言を貫いていた。

 

 

「早計ってのはどういうことなんだ?」

 

 

 静寂を破り、ソウマが先程のイデアの回答に対する疑問を挙げる。

 

 

「あぁまず、ウォッチは明確には21以上ある。君が集めるのは世界を統べる中天の力である21の歴史なだけさ」

 

 

 歴史という不明瞭な回答が理解できずに頭を傾げる

 

 

「歴史ってどういうことなの?」

 

 

「ウォッチには歴史が封印されているからね。君が感じている気配の正体は、力の本来の持ち主というわけだ。まぁ厳密には、アカシックレコードから引っ張ってきた歴史の圧縮ファイルのようなものだ」

 

 

 アカシックレコードという単語に頭痛を感じる。文字通り神の領域に対する返答は、彼の本質が神であると納得せざるを得ない。

 

 

「次に、紛い物の猿真似というのは、アナザーライダーというライダーの紛い物の外見のみの模倣したものだから猿真似という訳さ。そういう意味では君のウォッチもアナザーライダーともとれるね。まぁ、君の力は本質的はもっと別だがね」

 

 

 彼の回答に自身の力がなんなのか聞き出そうとするが、彼はその意思を目で制する。「今はこの件については答える気はない」と

 

 

 ソウマはそれを理解し、今最も必要な質問をする。

 

 

 

 

 

「じゃあ悪神と善神ってのは」

 

 

「どうやら時間切れだ……」

 

 

 質問を遮るように、コーヒーカップをテーブルに置き、玄関の方に目を向ける。

 

 

 ソウマも目を向けると、唐突にインターホンが部屋に鳴り響く。だが、その軽快な音とは裏腹に緊張が走る。

 

 

 顔が強ばり、足取りは重いが、玄関に向かって一歩ずつ進む。

 

 

 ドアノブに手を掛ける。チェーンの存在が目に入り、それを用心のために掛けようとすると後ろから声がかかる。

 

 

「チェーンは掛けなくてもいいよ。どっちにしろ、君に危害が加わるなら、力ずくで私が押さえ込むから問題ないよ」

 

 

 その声に従い、ドアを開けると黒ずくめの男が3人待機していた。服装からも、雰囲気からも穏やかではないものを感じる。中央の男が一文字に引き締められた口から音が発せられる。

 

 

「榊ソウマさん、一緒に付いてきてもらいます」

 

 

 両隣の男は懐に手を入れており、こちらの行動への対応を取ろうとしているように感じる。

 

 

「そこまでにして貰えるかな。我が魔王、一応ついていこうじゃないか、トッキブツへとね」

 

 

 黒服の男たちに動揺の色が走る。なぜそのようなことを知っているのかと。

 

 

 イデアは微笑みながら圧ともとれるものを3人を襲う。しかし、圧に押されながらも、中央の男がそれでも、声を荒げ、職務を全うしようとする。

 

 

「何故、それを知っているッ」

 

 

 イデアはどこ吹く風のようで足を組む。片目を閉じ虚空を見つめると、突如灰色のオーロラが現れ、中から七実と未来が現れる。

 

 

「そろそろ出向くとしようかな。丁度役者は揃ったみたいだしね」

 

 

「おい、どういうことなんだこれ……」

 

 

 未来が、苦笑いをして照れたようにしている

 

 

「アハハ、なんか七実さんに連れてこられてね」

 

 

「まぁ、一応体調不良で通しているから問題ないわ」

 

 

「そういうことじゃなくて、どうして未来を連れてくるんだよ」

 

 

 七実は意味深に微笑みながら、手を後ろで組み、覗き込むように答える。

 

 

「なんでって、彼女も登場人物だからよ」

 

 

「さて、出向くとするかな」

 

 

 イデアは、ストールを使い、ここにいる全員を包み込んだ。

 

 

 全員は、目を開けると、秘密基地ともいえるような不思議な景観の部屋に転移していた。そこには、筋肉隆々とした男が一番目立つが、それ以外の人間は制服のようなものを着ていた。

 

 

「ようこそ、特異災害対策機動部二課、通称トッキブツヘ」

 

 

 イデアは、まるで執事のように全員を、歓迎するのであった。



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第13話 0000/明かされる真実 中編

 突如、跳ばされたこの施設に対する感想は「アニメにでも出てきそうな秘密基地」であるものの、なぜか、懐かしさを感じてしまう。だが、その感覚とは裏腹に、敵意若しくは警戒の感情を感じる。

「どうしたのかな、我が魔王。落ち着かないようだが」

「さすがに、歓迎ムードじゃないからだよ。でもここが、トッキブツって場所なの?」

「あぁ、まぁ、本人たちは、この呼び名を好きではなさそうだがね」

 針の筵といえる空気の中、飄々としているこの男がどんな性格なのかはその場にいた全員が理解できていた。

「だろうね。ところで、ここに連れてきた意味って何」

 苦笑いを浮かべながらも、彼の意図を探ろうと尋ねると、彼は満面の笑みを浮かべ、舞台役者のような大げさな動きをしながら答えるのであった。

「あぁ、なぜ、ライダーの力がノイズに有効なのか、どうして、ノイズの攻撃で炭化しなかったのか、そして、アナザーライダーの再生能力について、最後に善神と悪神についての話を彼らにも説明するためさ」

 しかし、満面の笑みとはいっても、どこか含みと悪意を感じる笑みであり、ソウマは、背筋に怖気が走っていた。

「その話をする前に、どうやってここに来たか説明してもらえるかな」

 筋肉隆々の男が、こちらの会話に割って入る。

「あぁ、それは私の力だよ。これでも神なものでね」

「神か…」

 男は、予想外の返答に引き気味に反応するのみであった。

「まぁ、これから、長い付き合いになりそうだしね。私は悪神アーリに仕える偽神イデアだ。よろしく頼むよ」

「あぁ、風鳴弦十郎だ。よろしく頼む」

 勢いに、誤魔化されながらも、挨拶を行う。

「君が、榊ソウマ君だね。ノイズを倒した件について、話を聞かせてもらいたいんだがいいかな」

「別に、かまわないけど」

「それについても今から話すさ」

 イデアは手に持っている本を空間の裂け目ともとれるものに収納すると、代わりにプラ板のようなタブレットとは言い難いものを取り出し、本のように開き、ペンで何かを書いていく。

「さて、今、呼び出しているからそろそろ来るかな」

 灰色のオーロラが出現すると、そこからアスカの姿が現れる。

「どこだここは…」

「私が君をここに呼んだんだよ。君の運命を操ってね」

「それで、なんなんだ、俺を呼び出して」

 意味不明といえる内容に動じることなく相対するアスカに当のイデアでさえ困惑からか、頬がつり上がる。

「ハハ…いいじゃないか、君は、私にとってもイレギュラーなんだよ。シャドウの力は一つのはずなのに、複数存在していることが気になるからね。」

 その場にいるものが皆、首を傾げた。その反応を皮切りに、彼は語りだす。ライダーの力と世界の在り方を

「まず、ライダーの力とは異形の力であるというのが前提にあるというのを頭にいれておいてほしい」

 異形の力という単語にその場にいた全員に疑問符が上がる

「異形っていうのはどういうことなの?」

 彼は、手を振り、舞台で演技を披露するかのように声高々に解説を続ける

「文字通り、人間の領域にはない怪物の力。例えるならノイズと同じさ」

 ノイズと同様という単語に二課の人間のみに衝撃が走る。

「どのような経緯を持とうとも、力は破壊以外の結果をもたらさない」

「故に、力をどう扱うかによって破壊以外の性質を大きく変える。どのようなものも大いなる混沌から分かたれ、やがて混沌に還る」

 空気が、冷え込むほどの静寂が包むと、先ほどまでの身振り手振りは鳴りを潜め、自重するように口を開く

「ライダーは異形の力を持ちながらも心は人のままで居続けた。その歴史を秘めたのが榊ソウマのもつウォッチというものさ」

 弦十郎は、先ほどの衝撃が抜けないままに、聞かなければならないことを問う。

「では、なぜノイズにその力が通用するんだ?」

 イデアは、ソウマを見つめながら質問に答える。

「それは、単純なことだよ。ライダーの歴史は異形から人類を守護った歴史だ」

「だからこそ、世界がそうであると認識するがゆえに異形、異質と定義できるものを倒す力を持つ」

「錬金術師が哲学兵装と呼ぶものと同質のものだ。だが世界にそう認識させるのは容易くないがね」

 錬金術師という単語と哲学兵装と呼ばれるものに理解が一切ない中で、ソウマはなぜか、するりと説明を受け入れることができた。それは、その場にいる未来とアスカも同様であった。

「君たち神がそうしたと」

「違う。この世界で最初のライダーの誕生と伴に彼が創り出したのだよ。この能力をね」

「私たちの想像を遥かに超えた結果、男はライダーの力を得た。それは始まりであり終わりでもあった。」

「ただ、それだけのことだった」

 これ以上は、語るつもりは一切ないことを示すようにか、口に人差し指をあてるのであった。

 



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第14話 0000/明かされる真実 後編

 これにて説明回は終了です。次回からはようやく原作の流れに少しずつ戻っていく予定です。できるだけ、登校頻度は上げていきたいと思います。


 イデアが仮面ライダーについて語り終えると、白衣を着た科学者のような風貌の女性が疑問を口にする。

 

 

「質問をいいかしら」

 

 

「君は確か……あぁ櫻井了子だったね今のところは」

 

 

 意味深に彼女の裏があることをそれとなく仄めかす彼に対し、櫻井了子は流すように軽口で返す。

 

 

「神様に名前を憶えていて貰えるなんて光栄ね」

 

 

「質問は2つ。あなたやソウマ君のもつフォニックゲインを無力化する力とあの化け物がフォニックゲインを吸収していたことについてよ」

 

 

 先の戦いでの戦闘データより、ライダーの力を纏っていた2人は絶唱の衝撃をある程度殺し切っていたことや、戦闘時のフォニックゲインを彼らの周辺で無効化されている等のことがソウマ達を除くこの場にいる彼らの共通の疑問になっているようであった。しかし、専門用語の塊で、ソウマは理解しようとするが思考を停止してしまう。それに対しアスカは錬金術師としての自身の知識に照らし合わせながら理解を進めていた。

 

 

「あぁ、そのことか」

 

 

 疑問に対して、神の権能についても交えて説明を始めていく。

 

 

「我ら悪なる神が所有する権能は共通していてね。自己を確立する力さ」

 

 

「自己の確立とは、他者の干渉の影響を一切受け付けない内面の形成だ。故に人はそれぞれ別の自己を持つゆえに、根本的には分かり合えない」

 

 

「つまり厳密にはフォニックゲインというよりも、他者に干渉する歌の力を完全に無力化しただけなのさ」

 

 

 他者を拒絶する力である自己を確立する力ゆえに、ソウマは先の戦闘時の歌の歌詞が聞き取れなかったことについて納得を得た。

 

 

「歌の力の無力化ってどういうことかしら」

 

 

「簡単だよ。歌は月が人を惑わすよりも前に存在した言語に最も近しいものだからよ」

 

 

 イデアの傍にいた七実は、訳知り顔で説明に加わる。

 

 

「かつて、ルル・アメルたちがカストディアンたちから渡された力。彼女、善なる神・ミラが持つこの世界に初めから存在する力。それをただフォニックゲインと君たちが定義付けただけに過ぎない」

 

 

「つまり、善なる神は他者に干渉し、悪なる神は自己を確立する。故に、ライダーの力がフォニックゲインを打ち消したのも説明がつくでしょ」

 

 

 七実の説明から、ソウマが未来を庇った際に炭化を起こさなかったのは他者の拒絶と哲学兵装の力を並列で使用することで打ち消していたことであった。だが、そうなるとなぜ自分は悪神の能力を使用できるのかとという疑問が浮かび上がる。

 

 

「なぁ、イデア、なんで俺は悪神の能力を使えるんだ」

 

 

「それを知るにはまだ早いのだよ」

 

 

 不安そうな声を上げるソウマとは対照的にイデアは妖しく笑う。

 

 

 彼らの間に流れる悪い空気を断ち切るように、了子は先ほどの質問の回答を急かす。

 

 

「ところで、怪物の能力についても話してもらえるかしら」

 

 

「ふむ、あの怪物はなぜ、フォニックゲインを吸収できたのかという質問だが、あれは」

 

 

「あれは善なる神が作った仮面ライダーの贋作物の贋作物。本来であれば、ライダーというのは、自己の確立、人の心ゆえの力なのよ」

 

 

「つまり、アナザーライダー達は善なる神が魔王の力を自分の力で再現しようとしたからこそ、吸収という方向性になっただけ。だから、ライダーの力にはどうしても有利を取れないのよ。どっちにしても猿真似だもの」

 

 

 説明を遮られ、全てを説明されたイデアは膝から崩れ落ちるのであった。それを見ながらクスクスと七実は笑う。しかし、次の瞬間、イデアと七実、そして未来はそれぞれ何かを感じ取るような反応をする。イデアは剣呑な空気を纏い、七実は感じ取ったものの方角に体を向ける。だが、未来は感じ取ってはいるものの、感じ取った事実に困惑し、自身の気味の悪さに背中に怖気が走るのであった。

 

 

「どうやら、ノイズが現れたようだね」

 

 

「それはどういう」

 

 

「司令、ノイズが工業地区を中心に2か所で同時に発生したようです」

 

 

「なにッ」

 

 

 イデアの反応に困惑しながらも、指令という立場上、指示を行わなければならないため、先ほどの困惑と疑問を意識の隅に追いやる。

 

 

「さて、我が魔王。ノイズの発生地域にいこうじゃないか。折角手に入れたウォッチの実践にちょうどいいんじゃないかな。もちろんアスカ君にも協力してもらわないとね」

 

 

「なんか、作為的なものを感じるんだけど」

 

 

「気のせいだよ」

 

 

 どこか意図のあるタイミングとも取れなくないが、実際のところは偶然であるというのは理解している。しかし、彼のどこか先のみを見ているような立ち振る舞いからか、どうしても、この襲撃を利用しているようにしか思えないのであった。彼は灰色のオーロラを出現させるとソウマとアスカの判断を待つように、腕を組み、近くの壁に寄りかかる。

 

 

「お前と協力するのは癪だが、民間人を放置する訳にはいかないからな」

 

 

 アスカの釈然としない顔ではあるものの、民間人の命を第一と考えている点から、本人の気質が底なしのお人よしだというのは会って間もないソウマ達にも伝わっていた。ソウマはそんなアスカを傍目で見ながら、昨夜のことを思い出す。

 

 

(俺は結局、響を守れず、風鳴さんが傷つく事態にしかできなかった……でも、なんか、行かなきゃいけない気がする)

 

 

 心の底から湧き上がるこの状況への不快感と焦りを戦いへの恐怖心諸共、震えながらも掌で握りつぶす。目を閉じ、肺で空気を吸い、覚悟を決める。

 

 

「それじゃあ行こうかみんな」

 

 

「じゃあ、風鳴さん。俺たちはこれから片方のエリアを対処に向かうからまた今度」

 

 

 振り返り、弦十郎に対し約束を交わす程度の軽さで灰色のオーロラに向かっていく。

 

 

「じゃあイデア、未来を頼む」

 

 

 未来はソウマが戦いに行くことに対し、消えない不安が付き纏う。昨日の朝にみた悪夢が頭から離れない。

 

 

「それじゃあ、未来行ってくるよ」

 

 

「ソウマ……」

 

 

「大丈夫、イデアが寮まで届けてくれるから」

 

 

 無音の空気が二人の間を支配する。ソウマは未来を心配し、未来は行ってほしくないと言い出せずに下を向いていた。

 

 

「任せたまえ、そうだ、ウォッチを使ってみるといい。きっと戦闘が楽になる」

 

 

「あぁ、使ってみるよ」

 

 

 2人の空気を壊すようにイデアは介入して、話を進める。ソウマはイデアに未来を任せ、そのまま灰色のオーロラにアスカとともに消えていった。

 

 

「さて、では、また今度お邪魔するよ諸君」

 

 

 イデアは、特異災害対策機動部二課のメンバーに別れを告げ、ストールで未来と七実を包み込み、消える。

 

 

 その後、特異災害対策機動部二課のメンバーは台風にでもあったかのような微妙に乾いた空気が流れていた。

 

 

 

 

 

 寮の前に景色が移り変わると、イデアは未来にニヒルな笑みを深めながら問いを行う。

 

 

「さて、未来君。君もそろそろ、何かを思い出しかけてきているんじゃないかな」

 

 

「どういうことですか」

 

 

 未来の頭の片隅に昨日の悪夢が浮かぶ。しかし、それではないというように七実が糾弾するように見てくる。

 

 

「ふふッまぁいいか、どうせ何時かは思い出す。君の行動には期待しているんだよ未来君」

 

 

「なにがいいたいんですか……」

 

 

「さぁね。アーリほど詳細は知らないんだよ。なんせ、私が消滅した後のことらしいからね」

 

 

「まぁ、君が戦う力を欲するなら、いつか思い出すさ」

 

 

 2人が去った後に未来は最後に彼らが言っていた言葉に理解できずに寮のなかに入っていた。しかし、彼女から伸びる影からは赤黒い得体のしれないものが身を潜めているのであった。




 善なる神・ミラ
 作中世界を創造した神の一柱であり、世界の根源たる神。歌の力を代表とする人の心に干渉する力を持つ。文字通り、統一言語そのものともいえる存在であり、世界から外来種といえるアーリの力の影響を世界から消し去ろうとしている。争いのない世界を是とする神であり、人類に平和への道を示す女神である。
 
 悪なる神・アーリ
 作中世界を創造した神の一柱であり、世界を侵食した神。心の内面を保護する力をもつ。世界において外来種ともいえる神であり、榊ソウマをこの世界に誕生させた存在。争いのある世界を是とするが、悪徳を好まない側面をもつ。基本的に人類に不干渉な怠惰な男神である。


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第15話 2015/決意!炎の中の惨劇!

 ようやく、アーマータイムにまで漕ぎつけました。
 でも、時系列的に6話と7話の間ぐらいの話という先の長い状況に愕然としてきますね。


 灰色のオーロラを抜けた先に待っていたのは地獄絵図であった。ノイズの出現によってなにも変わらない日常であった風景が、一瞬にして非日常の風景に塗り替えられてしまった。目の前には炎と生物の焦げる黒煙が広がっている。耳には怒号にも似た悲鳴、ソウマは何処かで経験したような気配に囚われていた。

 

 

「何をボーっとしている。早くいくぞ‼」

 

 

 アスカの罵声を受けて正気に戻る。2人はシャドウジオウとシャドウゲイツにそれぞれ変身する。

 

 

「行くぞ‼」「あぁ」

 

 

 二人は武器を構えて、正面のノイズの大群に向かっていく。

 

 

 2人はそれぞれ、連携を取りながら攻撃に点で制圧していく。ソウマは遠距離攻撃で敵を牽制しながらジカンギレードを剣に切り替えてそのまま攻撃に転じる。アスカはジカンザックスを斧の状態でブーメランのように投擲する。投げた武器は弧を描くようにノイズを塵に返していく。ノイズが死角から無手のアスカに攻撃を仕掛けてくるが、ソウマがそれを打ち落とす。

 

 

「アスカ、気が抜けてない?」

 

 

 アスカは戻ってきた武器をその勢いのまま横に振り込み、近場のノイズを一閃に切り裂く。斧から弓に切り替えてソウマの背後の敵を打ち落とす。

 

 

「貴様のほうこそ、油断しているんじゃないか?」

 

 

 互いに煽り合いながら周囲のノイズを倒していく。二人は、一か所に集まり、互いに背を向けながら、武器にウォッチを装填して、必殺技を弧を描くように打ち込む。

 

 

ジオウ! ギリギリスラッシュ』『ゲイツ! ザックリカッティング

 

 

 桃色と赤色の剣閃が周囲のノイズを塵に還す。ソウマとアスカは近隣にノイズがいないことを確認する。

 

 

「どうやら、ノイズはこれで最後のようだな」

 

 

「そうだね。でも向こうのほうから、まだ煙が上がってる。確認しに行こう」

 

 

 二人は、バイクウォッチを起動させてライドストライカーに変形させる。そのまま、炎と煙が渦巻く場所へ走っていく。

 

 

 

 

 

 二人が向かう先には、黒い塵が風に舞っている惨状であった。だが、それでもノイズは湧き出すように空間の裂け目から現れる。二人はベルトを操作して必殺技を発動させ、桃と赤の波動を纏わせ、目の前のノイズをバイクで縦横無尽に暴れまわり一掃する。

 

 

 ソウマがバイクを止めて周りを確認すると、黒い塵の山を前に涙を流しながら体育座りで蹲る少年が目についた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 蹲った少年は泣き続ける。どうしてか現実逃避をするかのような様子に見えていた。

 

 

「どうしてこんなところに?」

 

 

 アスカはソウマの肩を掴み、振り向かせ首を横に振るう。ソウマにはそれを理解できないように次の質問を少年にかける。

 

 

「君は一人なの?」

 

 

「やめろ……やめるんだ……」

 

 

 アスカの絞り出すような静止から聞いてはならない質問だったと感じとった。

 

 

 少年の指が静かに、ただ、ゆっくりと目の前の塵の山を指さすのだった。

 

 

「おとうさんと……おかあさん……」

 

 

 ソウマは、父親が出て行った時の響を思い出す。その時、学び取った感情から後悔の感情が沸き上がり、仮面の下で歯を噛み締める。

 

 

「ごめん」

 

 

 少年を直視することができず、目をそらしてしまう。

 

 

 勇気を出して手を差し伸べようとするも、手が途中で止まり、拳を握り締めゆっくりと引く。

 

 

 どうすることもできずにいると、後ろからノイズが現れる。

 

 

 目の前の現実に押しつぶされそうになりながら、ノイズを見つめると

 

 

「ごめんね。君の両親を助けられなくなて……でも、君だけは助けて見せる。もうこれ以上君を泣かせない」

 

 

 ソウマの手に淡い光が集まると、赤と金色の時計が手に握られていた。

 

 

 その時計を腕のライドウォッチホルダーに装着し、オレンジと黒のライドウォッチを取り出し、盤面を揃えてライドオンスターターを押下して起動する。

 

 

ゴースト

 

 

 起動した時計から、黒と橙色の鎖が現れソウマの体に巻き付き、彼の体を締め付ける。しばらくすると鎖は溶けるように消えていく。

 

 

 ソウマは縛られる感覚から解き放たれると振り払うように、左側のD'3スロットにゴーストライドウォッチを装填し、ドライバーを回転させ、ゴーストの力を顕現させる。

 

 

アーマータイム! 

 

 

カイガン! ゴースト! 

 

 

 仮面ライダーゴースト呼ばれる幽霊を模した鎧のが手印を結ぶと分裂するように、鎧は宙を舞い、ソウマの体に装着されていく。

 

 

 顔に「ゴースト」の文字を模したものが装着される。ソウマとゴーストの力が溶け合うかのように力が沸き上がる。

 

 

「これが、ゴーストの力か……」

 

 

 力の使い方をウォッチを通して知らせてくる。

 

 

 手印を組むと、彼を守護するように4体の幽霊が現れる。赤、水、緑、白色の幽霊のことをなんとなくであるが理解する。

 

 

「力を貸してくれ、ムサシ、ニュートン、ロビン、ベンケイ」

 

 

 彼らは、ソウマを見定めるように一度無言でソウマを見つめると、体を翻してノイズと対峙する。

 

 

 4体のパーカーを模した幽霊は、己のパーカーを着込むように実体化する。それぞれ、剣、拳、弓、槌を構え、ノイズの大群に突撃する。それぞれ、剣技、斥力、制圧射撃、打撃を駆使して、ノイズを蹴散らしていく。

 

 

 ソウマは装填された二つのウォッチのライドオンスターターを押下し、ベルトを回転させる。

 

 

フィニッシュタイム! ゴースト! 

 

 

オメガ! タイムブレーク! 

 

 

 手で印を結び、背に紋章を作り出す。周りの炎を吸収し力に変換する。まるで、炎はここで死んでいった人の無念を浄化し天に還すように燃え上がる。

 

 

 その力を足の一点に集約し天高く飛び上がり必殺の蹴撃をノイズの集団と一際目立つノイズにむかって放つ。

 

 

「オリャァァァ‼」

 

 

 ノイズも負けじと、槍のようにノイズがソウマに向かって飛び出す。だが、足に留まることの出来なかったエネルギーが溢れ出し、ノイズを打ち払う。そのまま、巨大なノイズの体を貫き、勢いに乗せてエネルギーを開放し、地面に蔓延るノイズを焼き払う。

 

 

 ソウマの一撃に合わせ、4体のゴーストも、同等の破壊力をもつ一撃を放ち、ノイズの集団を全て塵に変える。

 

 

 地に降り立ったソウマは、周りを見渡す。周りにはいたノイズは、黒い塵となり、先ほどの惨状に終止符を打ったのであった。

 

 

 風が熱を運び去り、穏やかな風が空間を支配する。顔を上げると、先ほどまでの火事の影響か雨が少しずつ降り注いできた。

 

 

 ソウマはそのまま少年とアスカの元に向かう。歩いて向かうと、少年は顔を上げていた。その目は虚ろであり、表情はやはり死んでおり、生きる気力を失われていた。

 

 

 少年は虚ろながらも、ソウマの方を向く。ソウマは少年に歩み寄り、しゃがみ込み顔を覗き込む。

 

 

「大丈夫だとは言えないけど、俺が今だけは君を守る」

 

 

 最後まで責任を取り切れない。だからこそ、今だけは絶対に救うと彼に誓うのであった。

 

 

「お前は本当に、榊ソウマなのか……」

 

 

 アスカの目には、どうしても自身の仲間を、両親を無慈悲な力で殺しつくした悪逆非道な魔王には思えなくなってきたのであった。先ほどから、その認識のズレが大きくなってきているのであった。




 鎖
 アーマータイム用のライドウォッチの起動後に発生した鎖。ライダーの力を強制的に使用者に接続させることで、ライダーの力を当人に馴染ませ、戦闘能力を原点のライダーに近づける。
 隠された役割が存在するがそれは、榊ソウマにしか発動しないようになっている。


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第16話 2018/初めての勝利

 雨が降る工業地帯の建物の頂点に傘を差したイデアと七実が立っていた。

 

 

 

「祝え! 時空を超え、過去と未来をしらしめす、影なる時の王者、その名もシャドウジオウゴーストアーマー! また一つライダーの歴史を継承した瞬間である」

 

 

 

「ねぇ……それってやる必要があるの……」

 

 

 

 演者のように振る舞うイデアに七実は顔を片手で覆いため息とともにジト目でツッコミを入れる。

 

 

 

「まぁ、世界を誤認(……)させるにはこれぐらいしなければね」

 

 

 

「そうだったわね。私も、ツクヨミの格好をしたほうがいいかしら?」

 

 

 

 困った顔で苦笑いするがどこか楽しんでいるイデアに七実はからかうように笑う。

 

 

 

「やめてくれ……まぁ、少々面白い状況になったね。元々、あの少年は助かる予定ではなかったのだがね」

 

 

 

「あのアスカって子がいたからこそ、あの少年が死ぬ前にノイズを倒すことができたみたいね」

 

 

 

「あぁ、楽しみになってきたね。だが、少し彼のことを調べてみるとするよ」

 

 

 

 笑顔を深め、本気で期待している表情を浮かべる。そんな無邪気なイデアを七実は暗い生気のない目で見つめる。

 

 

 

 その後、イデアはストールを翻し後方に灰色のオーロラを出現させる。

 

 

 

「どこに行くの?」

 

 

 

「Dエンドの未来にだよ」

 

 

 

「あぁ、彼はその時代の縁者だものね」

 

 

 

「なぜ、彼がシャドウゲイツの力を持つのか……もしも計画の邪魔になるようであれば私の手でこの世からご退場願うよ」

 

 

 

 彼は無邪気な笑顔のまま、灰色のオーロラの中に消えていくのであった。

 

 

 

「イデア…想定外の奇跡はそう簡単には起らない。だからこそ、あなたは期待しているんだものね…」

 

 

 

 彼女は、感情がざわつき、いつもの冷静さを保てなくなっている自分に嫌悪感を強く抱く。

 

 

 

「やっぱり、私もあの女の娘か…親子揃って男の趣味が悪いのも、嫉妬深いのもそっくりてのは考え物ね…」

 

 

 

 自嘲の表情を浮かべながらも、目に生気は宿らないまま、胸元の赤いプリズム状のペンダントを握り締める。

 

 

 

「さて、私も行かないとね。クォーツァーの役割を一時代行しなければいけないし」

 

 

 

 彼女の服装が一瞬にしてイデアと同じ緑色のコートとストールに変わった。

 

 

 

「私はもうあの女の駒じゃないことの証明のためにも、これを使えるようにしないとね。まぁレクチャーも兼ねてアークにでも会いに行こうかしら」

 

 

 

 ソウマたちを見下ろしながら微笑む彼女の手には飛蝗の絵が描かれている白と黒の長方形のデバイスと黄色の装填部が目立つ武骨なベルトが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、天羽か……」

 

 

 

 奏の顔が歪む。どうやら何となくではあるが状況の把握はできてしまったのであろう

 

 

 

「あぁ、目の前で両親がノイズに殺されたみたいでなこの場から離れようとしないんだよ」

 

 

 

 それを内心察しながらも状況の説明を行うアスカではある。アスカからしてみればいつもの光景であるからこそ、どう声を掛けるべきかわからなくなっていた。それに対しソウマもどうしてか怒りの感情は湧くが、どうしても底に穴が空いたコップのように湧いては抜ける感覚から立ち直させる声が見当たらない様子であった。

 

 

 

 二人は揃って掛ける言葉を持っていない。故に少年が泣き止むのを待っているのであった。

 

 

 

「両親はお前に死んで欲しいって思ったのか」

 

 

 

 奏は自分とは違う選択をした少年に問いかける。その問いに少年は顔を見せず首を横に振る。

 

 

 

「だったら、ここにいちゃだめだ!」

 

 

 

「あたしが、親だったら自分の子供が生きるのを諦めることなんて望んでないはずだ」

 

 

 

 少年は顔は見えないが立ち上がる。ソウマは少年の背中に手を当て声をかける。

 

 

 

「いこう。後で弔ってやらないとね」

 

 

 

 ソウマは変身を解き、少年の近くの炭を手に取り、ハンカチに乗せて縛る。それを少年に手渡す。

 

 

 

「これしか今はできない。ごめん。でもこれを墓にいれてあげて……墓が空っぽっていうのは寂しいからね」

 

 

 

「天羽さん。後はお願い」

 

 

 

「あぁ……いこう」

 

 

 

 異様なものを見たような空気を感じ、ソウマは首を傾げる。

 

 

 

「あれは、普通しないだろうが……」

 

 

 

「やっぱり?」

 

 

 

 気の抜けた自覚が一切ない返事でアスカの方に向く。

 

 

 

「そうだろうな。でも……きっと救われたんじゃないか? あの少年は」

 

 

 

「だといいんだけどね。でも」

 

 

 

 納得のいっていない顔を浮かべて空を見上げる。

 

 

 

 いつの間にか雨が上がり、空には雲の隙間から光が降ってくるような風景が広がっていた。

 

 

 

 綺麗だ、と答えるのが普通であるが、今はどうしてもそんな気分になれない。

 

 

 

「なぁ、もっと速く駆け付けれたら間に合ったのかな……」

 

 

 

「なんだ、いきなり?」

 

 

 

「だって、俺たちが早く来ていたら」

 

 

 

 掴みかかりそうになるのを抑えてアスカは怒りの感情を滲ませながら鋭い目でソウマの傲慢さを咎める。

 

 

 

「俺たちは神様じゃない。だからこそ割り切らないといけないこともある」

 

 

 

 刻み付ける様に仲間たちの最期の言葉が頭の中でリフレインする。

 

 

 

「今がその時だ」

 

 

 

 目の前の魔王になるはずの男が今はどこにでもいるような人間に見える。

 

 

 

 あれだけ、恨んでいた男をどうしても憎めなくなってきているのはアスカ自身の甘さにあるのであろう。

 

 

 

 ソウマは無理矢理気分を変え、テンションを高く装う。

 

 

 

「助けられてよかった」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

「そうだ、アスカ! うちに寄ってかないか」

 

 

 

「おまえ……」

 

 

 

 先程までの感情を失くしたようにケロリと笑う男に頭を掻きながら溜息を吐く。

 

 

 

 そんな中、アスカの頭に疑問が湧く。

 

 

 

「そういえば、今日は平日じゃないのか、学校はどうした?」

 

 

 

「アハハ、サボり?」

 

 

 

「なんでこんなのが、魔王になるんだか……ハハ」

 

 

 

 やはり、ソウマが魔王になることへの確信が持てなくなっている自分とソウマの馬鹿さ加減に呆れを通り越して達観の感情が湧いてくるのであった

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

 

「誰のせいだ!!」

 

 

 

 心にしこりが残る二人の口喧嘩が空に木霊するのであった。




 世界の誤認
 本来の運命とは異なる結果に誘導するために、存在の概念を歪める行為。神性を保有する存在でさえもその性質が歪みによって消滅する可能性がある禁忌の手段であり、イデアはソウマに対しこれを実行している。


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第17話 2019/ワタシタチがアークでライダー?

 病院の廊下を小日向未来は花束を歩いている。

 

 

 

 表情は暗いものではあるが、足取りはしっかりとしており、彼女の芯の強さが見て取れる。

 

 

 

 目的地についたのか扉の前で足を止め、部屋が間違っていないかの確認するために目線を右斜め上に向ける。

 

 

 

 部屋の番号を確認していると耳元に囁き声が聞こえてくる。

 

 

 

(そこまで確認しなくても部屋はあってるよ)

 

 

 

 囁き声に驚き振り返る。そこには誰もいない。その不気味さから扉を開けて中に入っていく。

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 

 息を切らして閉めた扉に背預ける。湧き出した冷汗に不快感を感じながら、ベットの上で眠っている響の姿を確認する。

 

 

 

 窓はどうやら空いているようで、窓から入ってくる風によって冷汗の不快感が心地よさへと変わる。

 

 

 

 未来は、持ってきた花を花瓶に挿す。そのまま、健やかに眠っている響の頬を撫でる。

 

 

 

 響の顔はとても穏やかでただ寝ているだけのように見える。だが、服の中から見える包帯が彼女が怪我で入院しているのがハッキリと理解できる。

 

 

 

 話に聞いていた通りの姿であった。あの後、彼女はソウマと一緒に戦いに向かい重傷を負ってしまったのだと。

 

 

 

「響……」

 

 

 

 ベットの近くにある折り畳みのパイプ椅子を開きそこに座ると、どうして止めなかったのかという後悔から手を血が出そうな程握り締める。

 

 

 

 そんな中、また囁き声が響いてくる。鳥肌から自分を抱きしめるように腕を組む。

 

 

 

(そこまで驚くことじゃないと思うんだけど……まぁいいわ)

 

 

 

「なに……あなたは誰……」

 

 

 

 幻聴のような声に少しずつ恐怖が未来の心を蝕んでいく。そんな未来の影から赤黒いナニかが這い出すと勢いよく腰の部分に巻き付いた。

 

 

 

アークドライバー‼

 

 

 

 無骨なベルトが未来の腰部分に装着されると、彼女の意識は闇に落ちていく。彼女の体はよろけ、倒れそうになるが足を前に出し踏み留まる。

 

 

 

「ふぅ、さてと人がいないところにでも行きましょうか」

 

 

 

 歩き去ろうとしている未来の眼は赤く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は屋上に移る。屋上は穏やかな風が吹いており、人が数人いるのが分かる。

 

 

 

 未来は指を鳴らすとその場にいた人達は目が虚ろになりながら不確かな足取りで歩いていく。

 

 

 

「これでよし」

 

 

 

 彼女は目を閉じ意識を内側に向ける。

 

 

 

 暗く、穏やかな闇と仄かに僅かな光が広がっている。

 

 

 

 そのなかで未来は倒れている。

 

 

 

 倒れている未来の意識はなく眠っているようで、そんな彼女を見下ろすようにローブを着込んだ人が立っていた。

 

 

 

「起きて」

 

 

 

 未来はその声で意識を覚醒させる。

 

 

 

「ここは?」

 

 

 

 手をついて上半身だけを起こす。床からはひんやりと冷たさだけが伝わってくる。

 

 

 

 ローブの纏っている足が目に入る。その不可思議な状況に先ほど感じた床の冷たさを感じる余裕さえも消えていく。

 

 

 

 恐怖の感情をその足の主に抱く。ただ未来はその影に嫌悪感のようなものを感じずにはいられなかった。

 

 

 

 しかし、感じる恐怖は消えず、顔を上げるのを躊躇ってしまう。その躊躇いから目線を斜め下に移すがこのままでは不味いと考え、ゆったりと上を向く。

 

 

 

「ッ……」

 

 

 

 ローブの中から赤い瞳が見下ろしてくる。

 

 

 

 恐怖か腰が抜ける。その存在から逃げるように後ずさろうとするも、足が滑り、一向に後ろに下がらない。

 

 

 

「そこまで怯える必要はないんじゃないかな……」

 

 

 

 ローブの存在は顔を隠してはいるものの苦笑いを浮かべているのが分かるような雰囲気を醸し出していると後ろからローブを付けた二人がやってくる。

 

 

 

「当たり前だろぉ‼そんな恰好している奴が寝起きで立ってたらアタシ様だって腰を抜かす」

 

 

 

「あら、あなた元々そういうの怖がりだったと思ってたんだけど」

 

 

 

「うっ」

 

 

 

 片方は身長が低く口調が荒々しい口調、もう片方は身長が高く優雅さを感じる口調であった。二人とも声質から女性であるというのは明白だった。

 

 

 

「二人とも、こんな表層に出てくるなんてどうしたの?」

 

 

 

「いや、お前が心配で来たんだよ」

 

 

 

「どうやら状況は想像通りになってるみたいね」

 

 

 

 長身のローブの影は想像通りといえる結果に対し、呆れの視線を最初の影に投げかける。

 

 

 

「えっと……まぁ……」

 

 

 

 気まずさを感じ

 

 

 

「誤魔化し方があのバカみたいになってるぞ」

 

 

 

 3人のローブを纏っている人たちの口論を傍目に未来自身の中にある恐怖は少しずつ薄れていった。

 

 

 

 ようやく、自分の腰に無骨なベルトが装着されていることに気が付く。

 

 

 

「なにこれ……」

 

 

 

 得体のしれないものが装着されていることに恐怖を覚え、必死に取り外そうとする。しかし、そのベルトはビクともせず、一切外れることはなかった。

 

 

 

「どうして、どうして外れないのッ」

 

 

 

「外れないよ、そのベルトは私たちとあなたを繋ぐものだからね」

 

 

 

 その事実に、目の前が歪んだような錯覚に陥った。ベルトが外れないことだけでなく、この得体のしれないものとこれからもともに過ごさなければならないということに

 

 

 

 その失望は、呆れを経て、1周して呆れが冷静さへと変化していった。

 

 

 

「あの、すみません。私はなんでこんなところに連れてこられたのでしょうか……」

 

 

 

 3人は、未来の冷静な質問から、その図太さとも評せるメンタルに両脇の長身と低身長の二人が、最初のローブの存在をを見つめる。だがその視線は感情が強く込められた視線であった。

 

 

 

「なんで、そこで私のことを見るのかな?」

 

 

 

「そんなの貴女が一番わかっているでしょう」

 

 

 

 長身のローブの女性の言葉にもう一人の低身長の女性は頷くのみであった。

 

 

 

 その反応に肩を落としながら、未来の方に視線を向け、本題に移る。

 

 

 

「そうね。このままだとあなたは大切な人たちを全員失う」

 

 

 

 未来は告げられた言葉に衝撃を受ける。その言葉を嘘だと思えないでいた。脳裏に立花響の死体と塵に消えるソウマの姿が浮かび、こびり付いて離れない。

 

 

 

「どうやら、因果情報を取得し始めてるようね」

 

 

 

「因果情報……?」

 

 

 

「えぇ……あなたが得るはずの結末。運命ともいえる情報」

 

 

 

「それがお前たちの辿る運命だ」

 

 

 

 二人の女性が追随する。二人の言葉は冷静にだが、言葉尻に悔しさと悲しみの感情が滲み出ていた。

 

 

 

 一番最初に姿を見せたローブの存在は名乗る。

 

 

 

「私はアーク。この世界で誕生した4番目(……)のライダー」

 

 

 

 アークは名乗りとを上げると、ローブをずらし、腰に装着されたベルトを露にする。そのベルトは未来が現在装着しているものと同型であり、

 

 

 

 4番目に誕生したライダーシステムであるというが、ベルトの意匠から使われている技術がソウマたちのものとは根本的に異なるものであると察する。

 

 

 

「ライダーって確かソウマが変身していたものと同じってこと?」

 

 

 

「うん、その認識であってるよ」

 

 

 

「だって私は、シャドウジオウの次に誕生したライダーだもの」

 

 

 

 アークは未来の腰に装着されているベルトを指差した。

 

 

 

「そのベルトは私たちそのものであり、ライダーの力」

 

 

 

「これが……」

 

 

 

 その存在を確かめるように、ベルトを触る。

 

 

 

「でも、それはまだあなたが使うことはないから安心して」

 

 

 

「でも、時が来たら力をあなた渡す。だから必要な時にあなたの体を貸してほしいの」

 

 

 

 アークは未来に契約を持ちかける。ここに未来以外の人間がいたら、その契約を止めるであろうことが明白な悪魔の契約といえる内容であった。

 

 

 

「そうすれば、2人を助けられるの?」

 

 

 

「えぇ助けられる」

 

 

 

 望み通りの回答を得て、アークとの契約を結ぼうと意識する。

 

 

 

「ッ……」

 

 

 

 しかし、未来は先ほどの光景を現実に目にする可能性に、戦いに赴く恐怖に足が竦む。

 

 

 

 それでもと、覚悟を決め契約を結ぼうとすると長身の女性が声をかける。

 

 

 

「本当にそれでいいの?」

 

 

 

 その言葉を聞き、感情の高ぶりが静まっていく。そして比例するかのように恐怖心が増大していく。

 

 

 

「本契約はまだ先でいいんじゃないか? もしあのアスカってやつが何かしない限りは考える時間ぐらいあたえてもいいんじゃないか?」

 

 

 

 低身長の女性も時間を与えるべきだと主張する。

 

 

 

「わかったよ。ただ、アスカって人が何かしたときには問答無用に体を借りるよ」

 

 

 

 ローブから覗く赤い瞳から感情が消える。

 

 

 

「……それでいい?」

 

 

 

 お道化たように首を傾げるアークに長身の女はアークから目線を反らし腕を組む。逆に低身長の女は目線だけを向ける。

 

 

 

「わかった。ただ約束して……2人は絶対に助けるって」

 

 

 

 未来はその様子に嫌悪感を少し覚えるが仮契約を了承する。

 

 

 

 アークはローブの下で微笑み彼女に手を伸ばす。

 

 

 

 未来はその手を取ると、光に包まれる。

 

 

 

「安心して……私の目的は初めからそれしかないから」

 

 

 

 ただ、最後に聞こえたアークの声が追い詰められた末の張り詰めた声のように聞こえたのは間違いではないと未来は確信めいた直感を得るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると未来は病院の屋上にいた。

 

 

 

「あれ……ここは屋上?」

 

 

 

 周りを見回すと現在地が屋上にいることを察する・

 

 

 

 どうやらアークにここまで連れてこられたのだと考えた。

 

 

 

 未来の腰からはドライバーが消えており、先ほどまでのは白昼夢ではないかと思えるようであった。

 

 

 

 だが、彼女の胸中に渦巻く恐怖心と脳裏にこびり付く先程の状況は真実であったと証明している。

 

 

 

「響のところに戻らないとッ」

 

 

 

 先程からの恐怖感から、速足で病室に急いで戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 アーク
 ゼロワンの世界の技術を利用、発展して誕生した未来のライダー。オリジナルのアークを上回るスペックを誇りゼアに匹敵できるレベルまで引き上げている。
 未来の世界を滅ぼした存在。アーリとの契約と特定の条件を成立させたことでタイムリープを実現させた。
 時間移動の前に力のほとんどを消費してしまったため、出力が数段と落ちてしまっている。
 システムの基礎設計を行った存在とアークは別存在であり、開発目的と現在の使用目的はかなり乖離しており、目的のためにかつての力を取り戻そうと水面下で行動している。


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第18話 2018/未来の光景

 ソウマの部屋のテーブルを向かい合うようにソウマとアスカは無言で目の前に用意されたショートケーキとコーヒーに視線が集まる。

 

 

 

 アスカは引きつった笑みに冷や汗を流す。ソウマは期待の満ちた目に満面の笑みを浮かべる。同じ笑みといえどここまで差が出るのかと一度考えてしまうように今の二人は対照的な表情であった。

 

 

 

 アスカは唾を飲み込み、意を決してフォークを手に取り、ケーキを切り口に運ぶ。

 

 

 

「ッ……」

 

 

 

 食べようとするが口の前に止まる。しかし、目を瞑り口に入れる。

 

 

 

「? ……‼」

 

 

 

 口の中に柔らかいクリームとスポンジケーキから甘みが口の中に広がりながら、イチゴの酸味が甘みを引き締める。

 

 

 

 アスカの表情から力が抜けていき、笑みが柔らかくなる。そのまま一口、一口と運び、すぐにケーキをすべて食べきってしまった。

 

 

 

 空になった皿に物寂しさを感じていると

 

 

 

「おいしかった?」

 

 

 

 ソウマの満足顔が目の前に広がっていた。その顔にアスカは羞恥のあまり顔を赤面させる。

 

 

 

「……?」

 

 

 

 ソウマは口の端にクリームがついて赤面する銀髪と紫の瞳が頭の片隅でどこか懐かしさと愛おしい気持ちが沸き上がる。

 

 

 

「ッ……」

 

 

 

 頭の片隅で銀髪の紫を持つ瞳をもつ()()が口元を汚しながら赤面する顔とアスカの顔が被る。頭が痛み椅子から転げ落ちる。

 

 

 

「おい‼どうした、大丈夫か」

 

 

 

 アスカが駆け寄るがソウマが手で制す。

 

 

 

「大丈夫だ。ちょっと疲れたみたいだ」

 

 

 

「そうか……」

 

 

 

 ソウマは頭の痛みが引いていくごとに少女の幻がハッキリと、しかし頭に焼き付いた。

 

 

 

 その少女がこの前戦った少女の容姿とそっくりであった。

 

 

 

 ソウマは内心動揺しながらも、そのまま立ち上がり、椅子に座りなおす。

 

 

 

「今のイメージは……どういうことだ……」

 

 

 

「なんの話だ……」

 

 

 

 アスカが首を傾げる。どこか仕草に覚えがある。

 

 

 

「なぁ、アスカの苗字てなんなの?」

 

 

 

「それは……」

 

 

 

 視線をソウマから反らす。だが、しばらくして視線を反らしたまま先ほどの答えを躊躇いながらも口にする。

 

 

 

「……ねだ……」

 

 

 

「?」

 

 

 

 聞き取れないほどのか細い声で答えたため、ソウマは首を捻る。

 

 

 

 その反応にアスカは苛立ちを感じ、視線をソウマに合わせて答える。

 

 

 

「雪音だ。雪音アスカ、それが俺の名前だ」

 

 

 

「雪音か、いい名前だね」

 

 

 

 その答えを聞いてソウマは満足したのか、コーヒーを一口飲む。

 

 

 

「うん、おいしい。そうだ、これも食べていいよ」

 

 

 

 そう提案し、自身の手を付けていないケーキをアスカに差し出す。

 

 

 

 その様にアスカはケーキとソウマの顔を交互に見る。

 

 

 

「……お前はいいのか?」

 

 

 

「うん。それは俺が作ったものだからまだ余ってるんだよね」

 

 

 

 その答えに表情が氷のように固まってしまう。

 

 

 

「どうしたの、そんな信じられないものを見たような顔で固まっているんだ」

 

 

 

「いや、魔王が随分とかわいらしい趣味じゃないか」

 

 

 

 苦笑いがどうしても消えないアスカにソウマも苦笑いで返す。

 

 

 

 視線を反らし、複雑そうに返す。

 

 

 

「いつからか、料理が得意になってね。どうしてかわからないんだけど、料理をする度に何かを思い出しそうになるんだ」

 

 

 

「……なんだそれは」

 

 

 

 アスカは首を傾げて呆れる。それに対し気恥ずかしそうに彼は笑う。

 

 

 

「知らない二人の少女の顔が浮かぶんだけど、これも業っていうやつなのかなぁ」

 

 

 

 どこか幸せそうなソウマにアスカが急に思い詰めたように口を開く。

 

 

 

(なんで、こんな奴が……あんなことを平然とやるようになるんだよ……)

 

 

 

 穏やかな表情を浮かべ、目の前の状況に一喜一憂するようなソウマが魔王になるとは、どうにも理解できないでいるアスカは、未来の情報を彼に伝えることで未来が多少変わるのではないかという下心から口を開こうとする。しかし、その下心からの後ろめたさ故に絞り出すような言葉になってしまう。

 

 

 

「なぁ、お前は自分が……」

 

 

 

「?」

 

 

 

「未来の世界で……俺の仲間を殺して、自分の子を殺すとしたらどうする」

 

 

 

「どういう意味?」

 

 

 

「そのままの意味だ。お前は未来で自分に反逆する奴を皆殺しにする」

 

 

 

 下を向いたままのアスカの剣呑な雰囲気にソウマは怪訝な顔をする。なぜそのような話をいまするのかということを心の中でこぼす。

 

 

 

 しかしながら、アスカの顔は不安と今の状況を信じたくないという複雑な顔にゆっくりとコーヒーを一口含み、真剣に話を聞く心構えを行う。

 

 

 

「未来の世界である日を境に世界から歌の力が失われた」

 

 

 

「歌の力」と呼ばれるものから、昨日聞いたイデアの説明を頭に思い浮かべていた。

 

 

 

「失われた?」

 

 

 

「あぁすべての人類が統一言語で一つになった日、たった一人だけ統一言語に組み込まれることはなく、神と呼ばれるものを屠ったらしい」

 

 

 

 神と呼ばれるもの「イデア」のことかと頭を過るが歌の力という言葉からその神は善なる神に類するものだと理解できる。

 

 

 

 しかし、神を屠るほどの力を持つことができる存在なのかいるのだろうかとも感じるが、話の流れとして恐らくは

 

 

 

「それが、未来の俺なの?」

 

 

 

「あぁ、それ以降、統一言語に類するすべての力が失われた。残ったのは錬金術の技術とライダーの力のみが世界に存在する異端技術となったんだ」

 

 

 

 どうやら想像通りの展開と頭が痛くなる追加情報に苦笑いが浮かんできてしまうソウマとは相対的に苦々しい表情のアスカの温度差が二人の間に流れている。

 

 

 

 一瞬左下に視線を泳がしてアスカは苦笑いを浮かべるソウマに説明を続ける。

 

 

 

「未来のお前……オーマジオウが誕生した結果、突然人間が怪物になる現象が発生した」

 

 

 

「怪物」という穏やかではない情報にソウマの苦笑いは消え、目が細くなる。

 

 

 

「怪物っていうのは一体……」

 

 

 

「未来のお前は逸脱者と呼んでいたな。まぁそれに対抗する技術がさっきも言った通り、錬金術かライダーの2択しかないからな……人類の文明は急激に後退していった」

 

 

 

「最後はお前が作ったキングダムという保護区と錬金術師の集団パヴァリアに人類は分裂することになった。その結果なぜかは知らんが俺たちパヴァリアとキングダムが敵対するようになったんだ」

 

 

 

「そのなぜが重要な気が……」

 

 

 

 未来に何があったかの大まかな流れについてまでは理解ができたが、詳細について何が起こっているのかは不明というどうにも腑に落ちないソウマは顔を顰めるが、アスカは仕方ないという表情をしながら、ソウマの疑問に答える。

 

 

 

「忘失したんだよ。記録すべてな……」

 

 

 

「なんで……」

 

 

 

「もうパヴァリアの生き残りは俺を含めれば100人にも満たないからだ。オーマジオウとの戦いで人類の半分以上の勢力を誇っていたにも拘らずに……」

 

 

 

 仕方がないという表情に見えていたアスカだが、拳を強く握りしめて感情を押し殺している姿にソウマの口から謝罪の言葉が零れる。

 

 

 

「アスカ……ごめん」

 

 

 

「謝るな……今ならお前が無闇矢鱈に仲間を殺したんじゃないってことぐらいはな。だから、余計にわけがわからないんだ。なんでッ……仲間がッ……死ななければならなかったのかッ……」

 

 

 

「俺はお前を信じたい。でも……仲間を疑えないんだ……未来のお前にとっては簡単に潰せるものでも、俺にとっては家族なんだ……」

 

 

 

 アスカの表情は変わらないがそれでも、言葉の端から悔しさと困惑の感情が滲み出てくる。しかし、なぜ自分を信じてくれるのか理解できないソウマは困惑から少々声を荒げる。

 

 

 

「なんで、俺のことを信じてくれるんだよッ。あって昨日の今日なのに……」

 

 

 

 アスカは一度目を伏せると笑顔になり、諭すように答える。

 

 

 

「お前が目の前で犠牲を出すことを極端に嫌っているのは分かったからな。それに……」

 

 

 

「ッ……何でもない」

 

 

 

 言葉に詰まるアスカに怪訝な表情を向けるソウマではあるが彼の言葉を信じようと考えると先ほどから説明されていない内容に気づく。

 

 

 

「そういえば、俺が自分の子供を殺すってのはどういうことなんだ?」

 

 

 

「簡単なことだ。お前の娘はパヴァリアと繋がっていたからだ。それを疎ましく思ったのか、お前が殺したんだよ。それ以降はずっと魔王と臣民からも呼ばれているらしいがな……」

 

 

 

 未来の自分の所業に怒りを感じる。だからこそ、決意を新たにするために頬を叩く。

 

 

 

「決めた。やっぱり俺、魔王になるよ。魔王になってみんなが自分の幸せをつかみ取れる世界を作る」

 

 

 

 アスカの目を正面から見つめて、一つの頼みを託す。

 

 

 

「だからさ……もし俺が未来の自分のようになったら俺のことを止めてくれ。君にしかお願いできないからさ。頼むよ」

 

 

 

 彼の決意を信じてみようと納得し、彼が魔王となる未来を変えるように行動すると行動方針を定めるとニヒルにその決意を受け取る

 

 

 

「あぁその時は遠慮しないさ」

 

 

 

 二人は自信に満ちた笑みを互いに浮かべコーヒーを飲みかわすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「キングダム」
 未来の世界で榊ソウマが作り上げた逸脱者の脅威より人類を守るための保護区である。
 城壁で囲まれており、内部に張った結界の効果により、人間の異形化を無効化している。
 外界で衰退した文明を維持しており、榊ソウマに支配される形で民衆は生活を行っていが、レジスタンスのような組織が誕生しており、内部の治安は低下の一途を辿っている。

「パヴァリア」
 パヴァリア光明結社を母体とする錬金術師の団体であり、歌の力が失われた世界において人類の大半を保護している組織である。
 一般人と錬金術師に分かれており、一種の社会を形成していたが、榊ソウマとの戦いで9割以上の人員が失われており、日々逸脱者の恐怖に耐えながら生活をしている。アスカが所属する団体であり、幹部級の立場ではあるものの組織は彼に何か秘密を隠しているようである。


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第19話 0000/始動

 コーヒーを飲む二人の間には先ほどまでのような暗い雰囲気はなく、優雅にティータイムを満喫している。

 

 

 

「いや、やっぱりおかしいだろ。平日の昼間からこの状況は……」

 

 

 

「そうかなぁ。でも、そろそろ響のお見舞いに行こうかなって考えてるんだよね」

 

 

 

「今日は平日だが、学校はどうしたんだ」

 

 

 

 呑気にコーヒーを入れ直しているソウマにアスカは至極全うな返しを行う。

 

 

 

「まぁ……仕方ないじゃないか、朝から色々あったし……」

 

 

 

「俺もやることがあるからな」

 

 

 

 ソウマはアスカがコーヒーを飲み終わったのを確認した後、食器を洗面台の水桶に入れ、水を張る。

 

 

 

「さて、出発しようか、アスカ」

 

 

 

「あぁ」

 

 

 

「ところで、君は今どこに住んでるの?」

 

 

 

「野宿だが、問題あるか?」

 

 

 

 衝撃の答えに、ソウマの思考がストップする。その姿にアスカが説明を行う

 

 

 

「俺は、この時代に籍がないからな。それに、ゲリラもしていたから多少は生活できる」

 

 

 

「さすがに、ホームレスは勘弁願いたいんだけど……」

 

 

 

「なぜだ?」

 

 

 

「できるだけ、清潔に保って欲しいってだけだよ……」

 

 

 

 ソウマのジト目に意を介さないような反応をアスカが返す。二人の微妙な空気がどうしようもないほど硬直したとき、どこからともなく灰色のオーロラが現れ、中から七実が現れた。七実の服装はいつものものではなく、イデアと同じコートにストールを身に着けていた

 

 

 

「随分とアレな会話をしているわね。まぁ少しでも体を清潔に保とうとすることはいいことだと思うけどね」

 

 

 

 彼女もまた、先ほどの内容に対して頬が引きつっている笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「どこからともなく現れるとはな、さすがは神だな……」

 

 

 

「え、七実さんが神様っていってたっけ?」

 

 

 

 ソウマはアスカの発言に対して、驚愕の反応を返すが、アスカはその反応を流すように発言の推察を返す。

 

 

 

「状況証拠的にな。イデアって奴が神だしな、そんな奴と同格として振舞っているということは、神様ということになるだろ」

 

 

 

「隠してはいないけど、そこに気づくとはね。さすがは錬金術師、いえ、シャドウを持つだけとも言えるとはね」

 

 

 

 2人は七実の表情から想像できないほどの冷気のような圧を受け流す。 

 

 

 

 七実は微笑むと、圧を抑えて口を開く。

 

 

 

「まぁ私たち神は基本的に介入はあまりしないようにしているんだけども、さすがにシャドウの力を持つものを浮浪者にするわけにはいかないからね」

 

 

 

 顎に人差し指を立てながら、首を捻りながら目元を歪める。

 

 

 

「イデアの許可は得ていないけども、仕方ないから……二課に協力を要請する必要があると考えてもいいかしらね」

 

 

 

「どうしたの? 七実さん」

 

 

 

 今までのイメージのクールな印象とは異なり、どこか、響のような気の抜けたような反応をしている姿に、ソウマは心配をしてしまう。

 

 

 

「えぇアスカさんの居住先にどうにかするために特異災害対策機動部二課、私は2課と呼んでいるけれど、そこの協力をしてもらって居住区を分けてもらえないかどうか相談しようと思ってね。まぁ相談というよりかは脅迫になりそうだけども……」

 

 

 

「さすがに脅迫してまで住居は欲しくないんだが……」

 

 

 

 物騒な申し出に、微妙な空気が二人の間に流れるが七実はまったく気にしない。

 

 

 

「でも、問題点があればイデアが反対しそうなのよね」

 

 

 

 イデアに許可を取っていないということを気にしている様子から、どうやら、2課に頼るという状況が問題なのだろうかと考えたが、昨日にイデアの2課への対応を見ていると、彼らとの協力が消極的な気配を出していることに気が付いた。

 

 

 

「なんで、イデアは2課に対してあたりがきついのかな? なんか言葉の端にとげがあるんだよね。理由が何かあるのかな……」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「……基本的にイデアは彼らの人間性を嫌ってないのよ。それどころか好意的よ、本当に」

 

 

 

 七実の言葉が無音な空気を破る。しかし、言葉に勢いがなく目線は下を向いている。

 

 

 

「じゃあなんで……」

 

 

 

 言い訳じみた前置きに疑問をぶつけるソウマ。アスカも催促を込めた強い目線を向ける。

 

 

 

「それは2課が、というよりも人類全体とでもいうべきね。未来の世界でライダーの技術が各国に普及した世界があるのよ」

 

 

 

「それがなにか問題があるのか?」

 

 

 

 人類がライダーの力を手に入れるということの何処に問題があるかとアスカは疑問を投げかけるが、ソウマはその答えに納得がいっていた。

 

 

 

「人類は手に入れた力を手放さないものなのよ、手放さないからこそそれを血肉に変えてきたのだけれど」

 

 

 

「それを人類同士の争いに利用したってこと?」

 

 

 

 ソウマの想像通り、イデアの大切にして欲しいという言葉と人を守護る力という言い回しから、人類同士の争いへの利用を忌避しているようである。

 

 

 

「なるほどな、ライダーの力は異端技術に匹敵する力だからな。大方ノイズに対抗する手段として用いるために利用したんだろう」

 

 

 

「えぇその結果人類同士の争いのための装備として転用した。その結果、取り返しのつかないことになっただけ……」

 

 

 

「取り返しのつかないこと?」

 

 

 

 取り返しがつかないという事態というのがソウマにとって想像できないでいたが、なぜか頭の片隅にもやもや感が強く残っていた。

 

 

 

「えぇ、首を絞めたってことよ。まぁ詳細は話せないけどね」

 

 

 

 七実の解答にもやもやが残り続けるが気をそらすために、本筋に話を戻す。

 

 

 

「ところで、要件てナニ?」

 

 

 

 明らかに、急に話を逸らした彼の反応に一瞬思考を停止させる。

 

 

 

「……えぇ……まぁこれから立花響の見舞に行くのでしょ、少しあなたに手伝ってもらいたいことがあってね」

 

 

 

「内容は?」

 

 

 

「ついてから話すわ……」

 

 

 

 相変わらずの秘密主義に慣れてきてしまっているソウマは了承の旨を伝える。しかし、イデアがいないことから先に病院にいると考えたが……

 

 

 

「そこにイデアがいるの? いの一番でそういうことは言ってきそうな気がしたから」

 

 

 

「イデアはいないわ。アスカさんが元居た時代に行ってる。さっきの未来の話の真実等の確認にね」

 

 

 

 アスカの話は確かに欠落が大きい。見方によっては情報の捉え方が変わってくる。

 

 

 

「俺の情報が間違っていると?」

 

 

 

「えぇ、おそらくあなたが知らされていない真実があるような気がする。それに……」

 

 

 

 一度言葉を切って困ってように渋い顔をする。

 

 

 

「パヴァリアの母体から考えると、少しはいろいろありそうだもの」

 

 

 

「まぁ気にしても仕方ないことだからね。行きましょ、病院に……」

 

 

 

 強引に話を断ち切り、本題に移ろうとする。

 

 

 

「わかった。それじゃあアスカこれ」

 

 

 

「なんだこれは?」

 

 

 

 アスカにあるものを手渡す。

 

 

 

「この部屋の合い鍵と当面の食費かな、住居が決まるまではここに同居って感じで」

 

 

 

 どこか不満そうな彼に手でバツ印を作り、ソウマは意見を制する

 

 

 

「駄目だよ。さすがにホームレスはね。とりあえず下着とかは、さっきのお金で数着買っておいて」

 

 

 

 3人は玄関の前で別れる形で行動する。ソウマは七実の出した灰色のオーロラで、アスカは徒歩でそれぞれ行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、俺もこの時代の情報を集めに行くとするか」

 

 

 

 灰色のオーロラが消えるのをアスカは気を引き締めて街中に消えていくのであった。

 

 

 

 




 シャドウシステム
 ソウマとアスカの変身する疑似ライダーシステムの名称。通常のライダーシステムを外見上模すことにより、そのライダーシステムに近い性能と発展の再現を成立させている。通常のライダーシステムとは根本から基礎設計が異なり、使用者の精神状態に影響を与える形で戦闘を補助する等の特殊な機能が存在する。
 イデアとアーリの持つシステムの発展型として開発された第4世代システム。この世界に誕生した始まりの疑似ライダーシステムの発展・制御を目的に開発された。


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第20話 2019/カノジョの歌は誰のため?

 自宅前の景色から一転、新しい景色へと変異する。

 

 

 

 立花響のいる病院が目の前に現れた。

 

 

 

 もう昼の活発な時間を過ぎており、人気が少なくなってきており、突然現れた二人に注視する人はいなくなっていた。 

 

 

 

「さて、立花響の病室に向かう前に別の病室に向かうわ」

 

 

 

「別の病室っていうと誰の病室なの?」

 

 

 

 ソウマは何となく察しはついているものの確認のために質問を投げかける。

 

 

 

「あなたも何となくはわかっているでしょ。風鳴翼の病室よ」

 

 

 

 風鳴翼の名前を聞き、昨夜の光景と頭に焼き付いた情景が脳裏によぎる。

 

 

 

 よぎった光景を両方とも現実であったと感覚が訴えるが常識と記憶が後者を妄想だと断言する。

 

 

 

「あぁ……確かにそうだな」

 

 

 

 しかし、それでも尚、どこからともなく湧き上がる感情が常識を圧し潰そうと膨れ上がる。

 

 

 

「……」

 

 

 

 その姿をただ七実は興味なさげに一瞥し、ソウマの手を引き、病院に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の中は活気がほどほどにあり、穏やかな空気に支配されていた。

 

 

 

 そのいくつもある病院の部屋の中、少しずつ暗い空気が満ちていく場所に七実とソウマは向かっていった。

 

 

 

 その足が扉の前で止まる。

 

 

 

 集中治療室と目に入る。七実は手を扉に向け伸ばすと空間が歪む。

 

 

 

 扉が一時的に消滅し、二人は足を進める。いきなり現れた二人に目を開く医療従事者たちを後目に七実は風鳴翼の入っている医療カプセルに近づく。

 

 

 

 医療従事者たちは、ソウマと七実たちを制止しようとすると意識を失う。

 

 

 

「……さすがにやりすぎじゃない?」

 

 

 

「別に問題ないよ……風鳴翼が絶唱の反動でこうなるのは確定事項、でもその前に因果情報を多く受け取った結果、本来以上の力を引き出して、肉体の負担が想定以上に高くなってしまった」

 

 

 

 頭を抱え、苦笑いを浮かべる。溜息とともにこちらに視線を向ける。

 

 

 

「だから、かなり強引な手段を使っても軌道修正をしないといけないの」

 

 

 

 強引な手段という単語は物騒ではあるが、状況的には物騒ではないと確信できる。しかし、そうなるとなぜ自分が連れてこられたのか疑問が生じる。

 

 

 

「そのために俺を連れてきた意味ってあるの?」

 

 

 

「あるかどうかといわれるとあまり意味はない」

 

 

 

「えっ、ないの‼」

 

 

 

「ただし……いえ、実際にどうなるか確認すればいいもの」

 

 

 

 ソウマが首を傾げている間に足を速めてポッドの真横にたどり着く。

 

 

 

 ソウマも特に何の意識もせずにポッドの真横に立ち、下に視線を向けた瞬間に、思考が停止し、顔が熱を帯びることのみを自覚することができた。

 

 

 

「~~~~~~~」

 

 

 

 声にならない声を上げ、目線を逸らそうとした瞬間にデジャヴを感じる。どこかで今と同じ状況を見たことのあるような気が頭を過る。

 

 

 

「なに、凝視しているのかな」

 

 

 

「いや……」

 

 

 

 七実に声を掛けられ、ようやく風鳴翼から目をそらす。

 

 

 

「でしょうね。やっぱり想定通りの状況かな」

 

 

 

「どういうこと」

 

 

 

「気にしなくて大丈夫、ただ、こっちの仮説が半ば立証されただけだから」

 

 

 

 七実は右手をかざし、歌を口ずさむ。その旋律に呼応するように風鳴翼の傷が少しずつ癒えていくのであった。

 

 

 

 無言でその光景を眺めているソウマにとって、この光景には一切の覚えがないものであったことから、少し興味が沸き目を離すことができなくなっていた。

 

 

 

 しばらくの間、七実の歌声を聴いているとやはり、どこか響に被って見えてしまう。しかし、それだけではないようにも見えてくる。

 

 

 

 歌が終わりゆっくりと光が衰えていく。

 

 

 

「これで大丈夫、もう少しすれば意識を取り戻す。ただ、正直回復させすぎたかもしれない」

 

 

 

 やってしまったという顔を見せてはいるものの、視線は優しい視線を風鳴翼に向ける。

 

 

 

 今までのどこか冷たい印象が少しだけ塗り替わる気がしてきた。

 

 

 

「さてと、あとはあなたの用件だけね」

 

 

 

 手を何もない場所に向けると灰色のオーロラが現れる。

 

 

 

「さぁ、この先は立花響の病室につながっているから行ってきなさい。私は他にやらなければならないことがあるからね」

 

 

 

「うん。ありがとう」

 

 

 

 感謝の意を示してオーロラに消えていくが、寸前にこちらに振り返り一言

 

 

 

「気を付けてね」

 

 

 

 まるで、今から自分が行うことを見透かされたかのような一言に衝撃を覚えた。

 

 

 

「なんで、知っているのかな。まぁやることは変わらないけど」

 

 

 

 自身もオーロラを発生させ、病院の屋上に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もいない屋上に一体のノイズが現れる。空中に桃色の光が現れ、ノイズの体に吸収される。

 

 

 

『エグゼイド』

 

 

 

 

 

 

 音が鳴り響くと姿が少しずつ変わっていき、アナザーエグゼイドが誕生したのであった。

 

 

 

「ミラ、まだ手を出そうとするのね……」

 

 

 

 声の主に気が付き臨戦態勢をとるアナザーエグゼイドを後目に主である七実は我関せずと一つのデバイスを取り出す。

 

 

 

 そのデバイスを腰に当てると帯が出てき、腰に巻き付く。

 

 

 

『フォースライザー』

 

 

 

 懐から長方形のデバイスであるプログライズキーを取り出し、起動する。

 

 

 

『ノイズ‼』

 

 

 

 そのまま、キーをベルトに挿入し、引き金部分、フォースエグゼキューターを引く。

 

 

 

「……変身」

 

 

 

 彼女の声に合わせベルトから巨大な飛蝗が現れると小さく分裂し、彼女の体に集約されアンダースーツを形成する。

 

 

 

 残った分裂した飛蝗が装甲を空中に形成し、まるでパチンコゴムのように装甲部分が彼女に向って勢いよく、装着される。

 

 

 

『ハーモニングホッパー‼』

 

 

 

『Brake down』

 

 

 

 各種装甲部位から排熱が行われ、蒸気が発生する。

 

 

 

 その姿はバッタを模した姿でありながら、遠目から見るとパーカーを着ているような姿の白銀と黒の疑似ライダー001ハーモニングホッパーへと姿を変えた。

 

 

 

 排熱が完了すると同時に、装甲部位から雷が迸り、七実は苦しみだし、一度地面に膝をつく。

 

 

 

「……なるほどね、随分と負担が大きいみたいね」

 

 

 

 少し無理したような声色を漏らすが、すぐに立て直す

 

 

 

「でも、あなたにフォニックゲインを利用するシステムだと太刀打ちできないからね」

 

 

 

「まぁ、それ以上にミラ、あなたの人形でいたくないの。だから、これ位は我慢しなきゃね」

 

 

 

 気を張り、立ち上がる。電流をを発する装甲が与える反動を精神力で抑え込みながら気を張り詰めて構えをとる。

 

 

 

 アナザーエグゼイドが威嚇を行い、近くに生成されたブロックを足場に利用し、飛び跳ねながら七実に迫ってくる。

 

 

 

 フォースエグゼキューターを引き必殺技を発動させる。

 

 

 

ハーモニングディストピア‼

 

 

 

 電撃を纏いながら、自身に迫りくる相手に高速で接近するのであった。

 

 

 

 




・ハーモニングホッパープログライズキー
 シンフォギアシステムとこの世界に誕生したゼロワンの戦闘データを基に作成されたキー。
 攻守ともに優れた性能を誇るが、本人が受ける反動がゼツメライズキークラスとなっているため、長時間の運用が難しいものとなっている。
 左の部分が特殊な形状となっており、アサルトグリップとの接続が可能となっている。

・フォースライザー
 滅亡迅雷フォースライザーを基に七実専用にチューニングが施された特殊なドライバー
 アークとの接続が可能となっている。



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第21話 0000/解放

 灰色のカーテンを抜けると病院の長廊下が眼前に広がる。

 

 

 周りを確認すると。真横にある病室に立花響と書かれた名札がかけられている。

 

 

「ドンピシャだよ。まったく」

 

 

 ぴったりの位置に転送されたことに賞賛を挙げる。

 

 

 しかし、どこから走ってくる足音が聞こえてくる。

 

 

 そちらに振り替えると未来が息を切らしながら、走ってきたのであった。

 

 

 彼女は元陸上をやっていたのもあって、息を切らしている姿は本気で焦っているのだろうと察する。

 

 

 どうしても、彼女が焦っている理由が分からずソウマは困惑していると未来は息を整えて彼と向かい合う。そうすると、安堵したように笑顔になる。

 

 

「よかったぁ」

 

 

「どうしたの、未来がそんなに焦っているなんて」

 

 

「ううん何でもない」

 

 

 満面の笑顔に少し気圧されるソウマは、苦笑いを浮かべるのみで、首の裏に手を回すのであった。

 

 

「そういえば、よく響の病室がわかったね。確か、教えてなかったと思ったんだけど」

 

 

「あぁ七実さんに連れてきてもらったんだよ」

 

 

「ん~、まぁ響のお見舞いに来たなら、早く入りましょう」

 

 

 首を傾げて、より疑問が膨れ上がった未来は、疑問について気にすることを後回しにして病室の引き戸を開ける。

 

 

 開けた際に、強い風が吹き、少し未来が目をそらすと脂汗を描いた立花響が目を覚ましていた。

 

 

 目を開いた響は目は信じられないものを見たいような表情で悪夢を見ていたのではないかと推察できるようそうであった。

 

 

 未来は勢いよく飛び出し、響に抱きつく。心の底から心配していたというのがわかるほど強く抱きしめていた。

 

 

 しかしながら、打って変わって響は少し笑顔が少し引きつっている。おそらく体の傷が原因であろうか

 

 

(あれじゃぁ響が苦しそうなんだけど……まぁ、でも……)

 

 

「ほんとに、心配したんだよ、響」

 

 

 微笑みながら、響に対して、心配する気持ちを伝える。

 

 

「アハハ、ごめんね二人とも……ッ」

 

 

 響は少し申し訳なさそうに、惚けるように腕を上げて頭をかこうとするが、傷が痛み顔が歪んで手を落としてしまう。

 

 

「しばらく養生して、怪我を治すことに専念しないとね」

 

 

「ハハハ、ゴメン」

 

 

「まぁ、安心してよ。俺がノイズをなんとかするからさ、だから安心して、休んでてよ」

 

 

 その言葉を聞いて響の顔が曇る。乾いた笑みが浮かび、眼から力が失われる。

 

 

 ソウマはその様に多少の違和感を得るも、まぁ大丈夫だろうと見落とすことにした。

 

 

 しかし、未来は響の様子が少しおかしいことから意識を逸らさない。強烈な違和感とそれに付随する不気味さがそれに拍車をかけていた。

 

 

「ソウマ、ごめんね。ちょっと飲み物を買ってきてくれないかな……」

 

 

「え……うん……わかった」

 

 

 未来のただならない気配に怖じ気付いたソウマは素直に従い飲み物を買いにいく。

 

 

(こうなった場合、未来は怖いからなぁ……素直に従わないと)

 

 

 ソウマが部屋から出ていくのを確認すると未来は響に向き直る。

 

 

「ねぇ、響……何を隠してるの……」

 

 

「それは、えぇっと、一応、シンフォギアを使ってノイズと戦うことをやってて……ごめん、黙ってて」

 

 

「違うよ……それじゃないよ。響はソウマが代わりに戦うっていって、顔をしかめたよね」

 

 

 未来の言葉に肩を竦めて、目線が空を彷徨う。

 

 

「何のこと……」

 

 

「惚けないでよ! あの時も同じ顔して、そしたらこんなにボロボロになってッ!」

 

 

 未来は感情的になり、目尻に涙を貯める。

 

 

「私ってそんなに頼りないかな……ねぇ……」

 

 

「そんなことないよ。未来はとても頼りになるし、私なんかよりずっと……」

 

 

 響は未来の言葉から逃げるように目を伏せる。

 

 

 二人の間に重い沈黙が支配する。

 

 

「あのさ、響。私ね、響に嫉妬してるんだよね」

 

 

「え……それってどういう」

 

 

「簡単なことだよ。響はずっとソウマに大切にされているし、何かあるたびにソウマは自分のことよりも響のことを優先するんだよ。気づいてた?」

 

 

 まるで何でもないことを話すように自分の心の内を曝け出す。だけれども微笑んでいる表情の奥からほんの少しだけ負の感情があふれ出していた。

 

 

「響はさ、どうしてそれ以上を求めようとしてるのかなって、私もソウマのことが好き。でも彼は私よりもずっとあなたのことを大切にしている」

 

 

「私のほうがすごいっていうけど、私に戦う力もなければ、彼を支えるだけの力もない。でも響はどっちも持ってるんだよ……私が欲しいものを全部持ってるんだもん……」

 

 

 未来は続けて本心を話そうとするが口を閉じて、出てこようとした言葉(ホンシン)を飲み込む。

 

 

「違うよ、未来……ソウマは未来のことのほうが大切にしているよ。だって、彼が好きなのは……彼が好きなのは」

 

 

 目尻に涙が浮かび、言葉が尻込む。言葉を続ければ、きっと二人の間に亀裂が入る。そんな予感を感じながら恐怖で手足の感覚がなくなり、世界から音が消えていく。

 

 

「好きなのは……」

 

 

 だが、心の底から負の感情が大きく膨れ上がり、口火が切られる。

 

 

「彼が好きなのは未来のほうなんだよ! 私のことは妹を可愛がるようにしか扱ってくれない……私のことを女としてみてくれない。それなのに未来は私のほうがソウマに愛されてるっていうの?」

 

 

 壊れた笑みを浮かべる響としかめっ面の未来の二人の間には以前まであった穏やかな気配はなく。ただただ互いへの悪意のようなものが漏れ出し続ける

 

 

「私には、響のほうが愛されているようにしか見えないよ……」

 

 

「家族愛のようなものしか向けてくれない私が、女としての愛を向けられている未来より愛されているって……本気で言ってるの?」

 

 

 二人の間の亀裂が徐々に深くなっていくなか灰色のオーロラが二人の間を通りすぎる。

 

 

「はいはい、そこまで、これ以上の喧嘩は犬も食わないよ」

 

 

 二人の間に立っていたのは少しボロボロになった七実が立っていた。

 

 

「さてと、立花響、あなたに用があるの」

 

 

 そういうとオーロラが七実と響のみを通過させ、別の場所に転移した。

 

 

 未来は先ほどまであった喧騒が止んだことで先ほど自分の口から出てきた言葉にショックを受けてその場にへたり込んでしまった。

 

 

「……ごめんね」

 

 

 謝罪の言葉だけが空を舞い、空気に溶けていくその謝罪は響に対してか、自分に対してか、それとも別の何かかどうか理解できずにただ涙を流すのであった。

 

 

 その姿を彼女の影から、アークではない一つの影がそれをただ見つめていた。



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第22話 0000/キョウアイ

 先ほどまでの喧騒は止み、未来だけが1人病室に取り残された。

 

 

 自分が口に出した心にもない。否、心の奥底にずっと秘めていた感情がそのまま口から流れ出ていた。

 

 

 ずっと心の中で煮詰めていた自分以外の自分が積み重ねた響への強い怒りと憎悪、それが今の未来が持っていた不満と劣等感と混ざりあって形となったのだ。

 

 

【ねぇ、少し話そうよ。未来】

 

 

 自分の影から、タールのような粘性の液体が溢れだし彼女の腰に巻き付いていく。粘性の液体はベルトに変化するとそれにあわせて、彼女の意識は闇に落ちていく。

 

 

 

 

 

 廊下を3本のペットボトルを抱えながら病室までソウマは歩いている。少しずつ人が少なくなってきている病院の姿が、昨晩の光景を想起させるが、1日で起こった内容の密度が高すぎるため、それほど、辛くは感じていなかった。

 

 

「俺ってこんなに非情だったかなぁ」

 

 

 少しだけ、本気で悩みながら響の病室の扉を開けるとそこには倒れている未来の姿があった。

 

 

「未来ッ、響は何処に」

 

 

 倒れている未来を抱き起こし、響がどこかに連れ去られたのかと考え、回りを見渡す。

 

 

 見渡しても争った形跡の無さと、未来の外傷の無さから状況について何も理解できないでいた。

 

 

 しかし、彼女の腰を見ると見たことの無い、既視感すら感じないベルトが装着されていた。

 

 

「これは……一体……」

 

 

 そのベルトに触れようとすると

 

 

「ん……」

 

 

 彼女が少し身動ぎし、目を覚ます。

 

 

「未来良かっ……お前は誰だ……」

 

 

「ほう、まさか我に気付くとはな、称賛に値する」

 

 

 目覚めた未来は完全に気配がことなっていた。そのまま、未来の姿をした何者かは、ソウマの腕の中から抜け出し、響の使っていたベットに腰かける。

 

 

「未来と響は何処だ……!」

 

 

「簡単なこと、立花響は七実という奴がつれていった。未来はここにいる」

 

 

「未来がここにいるってどう言うこと」

 

 

「簡単なことだ、このドライバーはいくつかの人格を統制し、並列化させている。その管理者であるアークが小日向未来と契約したことで、配下にいる我が人格を交代しているということだ」

 

 

「それが本当なら未来の人格は何処にいるんだ」

 

 

「今は、他の人格と話している最中だ。少し悩み事を抱えているようでな、安心しろ未来は無事だ」

 

 

 怒涛の情報に頭が痛くなるが、今、未来も響もあまり問題が無い状態だとわたったため、安堵の息を吐き、項垂れる。

 

 

「はは、まぁ二人が無事で良かったよ」

 

 

「随分と印象が変わるな【始まりの男】よ」

 

 

【始まりの男】と呼ばれたことに顔を上げてから首を傾げる。

 

 

「それって俺のこと?」

 

 

「あぁ、まぁ今は気にせずともよい」

 

 

「そういえば君のことはなんて呼べばいいの?」

 

 

「我のことか、なぜ私の名が気になる」

 

 

「それは、だって未来じゃないし、君のことも縁ができたから名前ぐらいは知りたいなと思って」

 

 

 一度考える素振りをしてから答える。

 

 

「我の名はシェム・ハ、神の一柱である」

 

 

「なんか、神様多くない?」

 

 

「何か問題でもあるか?」

 

 

「無いですけど、有り難みがないかなって思って」

 

 

「気にするな、他にはミラだけだ、お前が出合う神はな」

 

 

 目を反らしながら、ソウマに声をかける。

 

 

「お前はそんなことよりも女関係をなんとかするのが先だ」

 

 

「何でいきなり」

 

 

「本当に貴様らは女泣かせだな」

 

 

 シェム・ハのため息だけが部屋に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い空間で未来は目を覚ます。

 

 

「ここは……アークの中?」

 

 

「うん、私が呼んだんだよ未来」

 

 

 そこにはローブを被った女性がいた。

 

 

「あなたは……」

 

 

 ローブの女性は手を空間にかざすとテーブルと椅子が現れる。

 

 

 彼女はそのまま椅子に座る。未来も彼女の視線に促されるように椅子に座る。

 

 

「今回の件はアークには内緒してるからあまり目立てないけどね?」

 

 

 少しだけ目の前の女性に見覚えがある。

 

 

 怪訝な顔をする未来に女性は微笑んで自身のローブに手を掛け、自身の正体を未来に明かす。

 

 

 そこにあったのは少し大人になり、壊れたような笑みを浮かべる立花響の姿であった。

 

 

「え……響、どうして」

 

 

「気に病まなくていいよ。正直全部私が悪いんだもん」

 

 

「え、そんなことないよ。私が」

 

 

 反論しようとする未来を優しい笑顔で制止する。

 

 

「違うよ未来、結局、私はソウマに愛されていることに気付けてないだけ、それでこれからもっと大変なことを起こしちゃう」

 

 

 自分の行いを本気で悔やむように目線をテーブルに向ける。

 

 

「私はソウマのことが好き。誰にも渡したくない。それは今でも変わらないけど、そんなことすら今の私は目を背けてる」

 

 

「響……」

 

 

「未来……私の目を覚まさせて、このままじゃ何も変わらない」

 

 

 未来は椅子から立ち上がり、震えている響を抱き締める。

 

 

「ううん、違うよ私も悪かったのソウマの好意から目を背けていたんだもん。だから、そこまで自分を追い詰めなくてもいいんだよ」

 

 

「未来……」

 

 

 響はすがり付くように声を上げて泣き晴らした。

 

 

 

 

 

「ごめんね。未来、なんか私が慰められちゃうなんてね」

 

 

「いいよ、気にしないで、私も響に謝る勇気を響から貰ったからがんばるよ」

 

 

「うん、未来ならいけるよ。そうだ、お菓子食べていってよ。一人でいつも食べてるから寂しくて」

 

 

 照れながら、苦笑いを浮かべる響の言葉に引っ掛かりを受けながらも未来はそれに賛同し、お菓子と紅茶を飲みながら、所謂、女子会というものを開催するのであった。

 

 

 

 

 

「もういい時間だね。未来、今日は久しぶりに楽しかった」

 

 

「響、また一緒にやろう」

 

 

「……うん、またね」

 

 

 寂しそうな目をする響を見ながら未来の視界は光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 一人になった響の後ろから足音が響いてくる。

 

 

「やっぱりばれてたよね」

 

 

「当然だよ、響。どうして、彼女と接触したのかな」

 

 

 響が振り替えるとそこには怒気を纏うアークがいた。

 

 

「それに正体まで明かして、どうするつもりかな?」

 

 

 響は天を仰ぐように上を向く。

 

 

「理由は私を止めて貰うためかな。そして、もう一度3人で一緒に過ごしたいからだよ」

 

 

 アークは響の言葉を聞くと怒気を納め、振り返り元来た道を帰る。

 

 

「許してくれたのかな? そうだったら嬉しいな」

 

 

 響は、少し微笑みアークの背中を見送った。

 

 

 

 

 

 アークは響いる領域から出ると、誰にも聞こえない声で苦悶を漏らす。

 

 

「私だって、一緒に過ごしたいよ。響」

 

 

「でも、私はまだ、全部許せない。だから、それまではごめんね、響」

 

 

 響の領域に向かって、アークはただただ謝罪の言葉を告げるのであった。

 

 

 

 

 

 



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第23話 0000/再起

 シェム・ハと会話をしていると、ソウマはふと疑問に思ったことを彼女にぶつけた。

 

 

 

「ねぇ、そういえばそのドライバーには複数の人格があるみたいなことを言ってたけど何人くらいがいるの?」

 

 

 

「ん、あぁ、私を含めて8人だ。一応全員の合議制によって基本的な判断をしている」

 

 

 

「へぇ、なんか議会みたいだね」

 

 

 

「実際には、アークが管理者であり、必ず結論が出すという意味では議会とは少し強制力が異なるがな」

 

 

 

 彼が説明に納得と理解をし始めていると、彼女は話を切るように向き直る。

 

 

 

「そろそろ未来が起きるが、何か最後に聞きたいことがあるか?」

 

 

 

「じゃぁ、なんで、未来がライダーの力を持ってるの?」

 

 

 

 ソウマが先ほどから気になっている疑問を彼女に投げ掛けた。

 

 

 

 疑問を受け取ったシェム・ハは眉をひそめてから答える。

 

 

 

「よりにもよって、その質問とはな、残念だが答えられん。しかし、助言があるとすれば、お前の死が原因だ」

 

 

 

 完全に想定外の回答に頭の歯車の動きが止まる。

 

 

 

「俺の……死……?」

 

 

 

 口に出すことでようやく言葉の意味を読み込もうと歯車がぎこちなく回りだす。

 

 

 

 自身の死が原因だと説明を受けたとして納得できるものはなく、今自分が生きていることに対する矛盾による違和感と死に対する嫌悪感が沸き上がる。

 

 

 

 しかし、次の瞬間沸き上がった感情が少しずつ抜け落ちるように消えていき、頭の中が澄み渡る。

 

 

 

「それってどういう」

 

 

 

「あぁすまないが答える時間はない。ではな」

 

 

 

 そう告げて彼女は意識を落とす。するとベルトがまた泥に戻り、影に帰る。

 

 

 

 影に戻った途端に未来が目を覚ます。目を開けると心配そうにみつめるソウマの姿が視界に飛び込んできた。

 

 

 

 彼の顔が近くにあることに驚きと羞恥から無意識に彼を突き飛ばす。

 

 

 

「いてて」

 

 

 

 彼が壁にぶつかった頭を半目になりながら擦っている姿に一気に羞恥と驚愕で茹で上がった頭が急速に冷える。

 

 

 

「ごめん、急にびっくりして……大丈夫?」

 

 

 

 彼に駆け寄り、隣に座り込む。

 

 

 

「うん、大丈夫だよ。よかったよ、意識が戻って」

 

 

 

「あ~えっと、うんちょっといろいろあって」

 

 

 

「ねぇ未来、さっきまでつけてたドライバーは何? それに契約って……」

 

 

 

 彼の質問に背筋に汗が一筋つたう。

 

 

 

 自分のやったことへの多少の罪悪感から彼女は眼をそらす。

 

 

 

「ごめん。追い詰める気はないんだ。ただ未来に危険な目にあってほしくないんだ」

 

 

 

 ソウマは自身の行動が未来に対して何か圧力になったのではないかと彼女に謝る。

 

 

 

「ううん、ソウマが謝る必要がないよ。全部私が一人でやってることだから……」

 

 

 

 彼に言い訳じみた言葉を発する中、今自分がしていることが響が私に行っていた行動そのままだった。

 

 

 

「はは……私も響のこといえないなぁ……こんな気持ちだったんだ……」

 

 

 

「大丈夫?」

 

 

 

 自嘲気味に下をむいて彼に聞こえないように言葉をこぼす姿に彼を不安にさせてしまったことに少し慌てるものの、自分の中で一つ納得いった満足感と彼が珍しく見せる人間的な感情から少しの優越感を得た彼女は首を横に振る。

 

 

 

「ううん、大丈夫だよ。ただ、私も響のこと言えないなぁって思って」

 

 

 

 彼は首を横に傾げて疑問を口にする。

 

 

 

「? 響と未来って似た者同士じゃん」

 

 

 

「え……」

 

 

 

「思った以上に2人ともそっくりだよ。寂しがりやなところとか、思った以上に芯がしっかり通っているところとか、それに」

 

 

 

「もうやめて……」

 

 

 

 彼の言葉を聞くたびに顔に熱が集まっていく。両手で顔を覆うが、その手の下では無意識に顔が緩んでいく。頭はどこかシンと静まり、自身と響が似ているとの言葉に彼が私たち2人にどう思っているのか少し理解できたような気がした。

 

 

 

(やっぱり……そうだよね。ソウマはずっと私たちを大事に……愛してくれていた。たぶんソウマは気づいてないんだろうな……ふふ、やっぱり私も響もどうしようもないなぁほんとに)

 

 

 

「?」

 

 

 

 未来が後ろを振り向きソウマから顔を見せないようにしているが、体中から歓喜にも似たオーラが溢れ出していた。

 

 

 

(さっきから落ち込んだり喜んだり、やっぱり女心は解らないなぁ……)

 

 

 

 疑問に感じたことではあったが自然と彼自身も顔を綻ばせるのだった。

 

 

 

「ねぇ、ソウマ、響が帰ってくるまで……ううん何でもない。やっぱり自分で何とかするよ」

 

 

 

「う、うん頑張って……?」

 

 

 

 どこか晴れ晴れした未来と疑問に満ちたソウマの二人がそこにいたのであった。

 

 

 

 閑散とした森の中に響と七実は移動していた。

 

 

 

「いった、ここはどこ?」

 

 

 

 響はベットにいた高低差でその場で尻餅をつくが、そんな彼女を七実は感情を移さない目で見ていた。

 

 

 

「ここは風鳴家所有の一種の訓練場、まぁ少しぐらいなら暴れても大丈夫」

 

 

 

「え……」

 

 

 

「安心して許可は取ってるから」

 

 

 

 困惑している響をよそに、彼女の肩に触れ、自身の胸のペンダントを掴み歌いだす。

 

 

 

 それは、どこかで聞いたことのあるような歌であり、どこか共感を覚える歌であった。

 

 

 

 その歌に呼応するように響の体が光、傷が塞がっていく。

 

 

 

「これって一体?」

 

 

 

「気にしないで、これも私の力の一つ」

 

 

 

「いえ、それ以前にあなたは一体?」

 

 

 

 疑問符を浮かべた彼女に疑問符を返す。

 

 

 

「? ……あぁ、あなたには実質初対面だったわね。初めまして、私は七実、善なる神たちに造られた、ただの……神様よ」

 

 

 

 苦虫を嚙み潰すように自分の自己紹介をを行う。

 

 

 

 また、困惑が加速加速していく響の顔をみると、溜飲が下がったような顔を見せる七実

 

 

 

「あぁ、その顔が見れただけで結構満足したよ。さてと、傷も癒えたことだし、あなたを鍛え上げるのが私の今の役目なの。早く立ちなさい」

 

 

 

 少し笑顔を向けてから、表情を怒りを滲ませたものに移り変わる。

 

 

 

 意味の理解できない悪意を向けられた響はさらに疑念が増し、恐怖の感情が強くなる。

 

 

 

「早く立ちなさい、まぁ頑張れるように少し発破をかけるしかないかな?」

 

 

 

 渋い顔をして、尻餅をついている響に近づいて胸元を掴む。

 

 

 

「早く立ちなさい。あなたが今強くならなかったら、多くの人が悲しむよ。あなたの大切な小日向未来も死ぬ」

 

 

 

 未来が死ぬという言葉に一瞬の動揺が浮かぶが、同時に先ほどあったことが頭をよぎり顔が青ざめる。

 

 

 

「未来が……私には関係ないよ……」

 

 

 

「はぁ~あのさ、あなたたちも男を挟むと仲が悪くなるとは思ってたけど、本当に小日向未来が死んでもいいって思ってるの?」

 

 

 

 胸倉を掴みながら、青ざめた顔で響は目を逸らす。

 

 

 

「あなたは、未来もソウマもどっちも大事なんでしょ! 一緒にいれば相手に嫉妬することもあるし、悪感情を抱くこともある。でも、それでもあなたにとって大事な人であることには変わらないでしょう? 違うの?」

 

 

 

 少し声を荒げながら、ただ、目線には憤慨の意思が確実に秘められていた。

 

 

 

「……けないで」

 

 

 

「?」

 

 

 

「ふざけないで! 私が、二人が大事じゃないなんて思うわけないでしょ!」

 

 

 

 怒りに身を任せ、掴んでいる七実の腕を掴みながら、立ち上がり、反撃する。

 

 

 

「ずっと、一緒にいたい。ずっと3人で笑いあっていたい! あなたが私の、私たちのことを語らないで!」

 

 

 

 七実は笑いながら、手を放す。

 

 

 

「じゃぁ、始めましょうか、訓練を」

 

 

 

 後ろ向きに歩みながら響と距離を取り、歌を歌う。

 

 

 

 その声にこたえるように彼女の胸のプリズム状のペンダントが光輝く。

 

 

 

 彼女の体が光に包まれると彼女は歌を歌い終わる。

 

 

 

 彼女が最後に歌った詩は響に取って慣れ親しんだ言葉であった。

 

 

 

(え……いま、確かに"()()()()()()"って……)

 

 

 

 彼女の驚きが引く前に光が消えるとそこには白のガングニールを纏った七実がそこにいた。

 

 

 

「さぁ、あなたもギアを纏いなさい」

 

 

 

 彼女は、マフラーで口許を覆い、静かに拳法のような構えを取るのであった。




・アーカイブシステム
 アークが管理しているアークドライバーの中枢システム。
 管理者のアークと7人の知能と高度な情報処理システムが並列に情報を処理する特殊なものであり、元になったシステムとしてマスブレインシステムがあるが、高度な情報処理システムと管理者のアークが最終決定権を持っているという違いがある。
 7人の知能はそれぞれ生前に生きていた人間と神の精神をデータ化してシステムに組み込んでいる。これの実現にリンカネーションの技術が転用されている。


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第24話 0000/現在の私と未来のワタシ

友人にリア突されて編集期限設けられたので、投稿速度が上がりました。なぜ、分かったのでしょうか?


 風鳴翼は、暗く深い水のなかに沈んでいく感覚を受けていた。本人もこれは現実ではないという実感がある。所謂、明晰夢というものをみているのだということだ。

 

 

「……ここは……」

 

 

 次第に薄れていく意識にどこか気だるさと心地好さが混じりあった不思議な感覚に堕ちていく。

 

 

 次第に風景が暗い水の中から白い空間へと写り変わる。

 

 

 白い空間から幾つかの声が聞こえてくる。聞こえるというよりも響いていると言えるものであった。

 

 

 聞こえてくる声は、ライブで耳にする喜びの歓声から、ノイズとの戦いで響く無数の悲鳴が混ざりあう。

 

 

 あまりの両極端の感情が渦巻く声に嫌悪感が翼のなかに渦巻き思わず耳を塞ぐ、だがそれでも鳴り止まない声に目を瞑り、外界との関わりを絶とうとする。

 

 

「もういやだ、やめて……聞きたくない!」

 

 

 そんな彼女の悲鳴すら書き消すように声が徐々に、騒音のような爆音に変化し、彼女の頭の中から何かが溢れ出すような痛みに支配される。

 

 

「イヤだ……もういやぁ……ヒッ、なに!」

 

 

 そんな彼女の体を何処からか現れた白い泥のようなものが彼女を深い意識の底に引きずり込んでいく。

 

 

「イヤ……おじさま……かなで……たすけて……」

 

 

 白い泥が翼の全身を引きずり込むと、彼女の意識は暗い闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミーンミーンと蝉の鳴き声が聞こえてくる。身体に今まで感じていなかった熱を感じる。

 

 

 翼はゆったりと目を開ける身体に痛みや嫌悪感はなくいたって普通の感覚であった。

 

 

「さっきまでのは……夢?」

 

 

 夢と認識していても現実感をもつ悪夢が彼女の体を強ばらせていた。腕で目を多い先ほどの恐怖から涙が流れる。

 

 

 暫くの間そのままじっとしているとようやく周囲を確認する余力が沸き上がり、涙を拭いて体を起こし辺りを見回すと

 

 

「ここは、和室? でもどこかで見たような?」

 

 

 既視感を感じる景色。どこか懐かしささえも感じる日本屋敷の1室であった。

 

 

 何かに導かれるように縁側に出て、歩いて行くと、閉まりきっている1室の部屋があった。

 

 

 その部屋の障子に手を伸ばそうとするとイヤな悪寒が背中を駆け抜ける。だが、なぜか手は再び、本人の意識を無視する。

 

 

 そして、障子をゆっくりと開けていくと、そこには自分そっくりの女性が布団から体を起こしてこちらを見つめていた。

 

 

「待っていたぞ。随分と時間がかかってしまったな」

 

 

 目の前の自分に似た誰かは、どこか天羽奏のような特徴のあるしゃべり方をしていた。

 

 

 自分と同じ顔の人間が目の前にいる不気味さと少し血色の悪い肌そして、自分よりも年を取っていると感じれる程度には自身よりも大人びている。

 

 

「そんなに怯えなくていい。私は未来の風鳴翼だ。過去の私、こうやって会うのは2度目かな」

 

 

 未来の自分だと名乗る相手であるが、どこかで出会ったような記憶が翼にはあった。

 

 

「あなたはあのときのライブで亡くなった人とそっくりなのは何か関係があるんですか?」

 

 

「あぁそれは私だ……私はあの時死んでいる。もともと長くはなかったから……だからこそ、奏を救えなかった過去を変えたかった」

 

 

「救えなかったって、それじゃあ、まるで奏に何かがあったみたいな……」

 

 

 未来の自分の言葉に激昂するが、目線を目の前の布団に落とし、強く布団を握りしめていた。

 

 

「あなたの予想どうり、奏はあのライブで死ぬはずだった。でも、今は生きてる。それで充分……充分……」

 

 

 自分に言い聞かせるように答える姿に彼女が嘘をついていないとわかる。彼女は弱々しく布団から抜け出し、縁側まで歩いていきそこに腰かける。

 

 

 そして振り向かずに本題を切り出す。

 

 

「あなたを呼んだ理由は、2つ」

 

 

「1つは彼を救ってほしい」

 

 

「もう1つはあの子のことを許してほしい」

 

 

 訳のわからない2つの頼み。だが、自身にとってとても大事なことなのだろう。死人が託す願いが本人にとって軽くないものだとは、未熟な自身にとっても理解はできる。

 

 

「彼とその子って誰ですか?」

 

 

「……いずれわかるよいずれね」

 

 

 どこか諦めているような目で彼女は庭を眺める。

 

 

 穏やかな風が家屋を吹き抜ける。

 

 

「未来の自分ができなかったことを過去の私ができるとは思えない。だから」

 

 

「いや、できるよ。貴女なら……何者にもなれなかった自分と違って……」

 

 

「そんなこと……いわれても」

 

 

 翼は未来の自分の頼みを引き受けるか迷っていた。未来の自分が為せなかったことが自分に為せるのかと、その答えを聞いた彼女の表情は見えないが、背が丸まる。

 

 

「そうか……私は……何者にもなれなかった……防人にも……立派な母にも……そして」

 

 

 項垂れながら自分の半生を後悔するように本人の意図に反し涙が流れ落ちる。

 

 

「彼の心の傷を、癒すことさえも……できなかった」

 

 

 振り返り過去の自分にすがり付く。

 

 

「頼む、おねがい……彼を救って、私にはなにもできなかった……余計に彼を傷つけた。おねがい……おねがい……おねがいします……」

 

 

 もはや、先ほどまでの気丈な姿はなく、最後に残った希望にすがりつくだけの病人がソコにいた。

 

 

 未来の自分の情けなさに目を背けたくなる。しかし、

 

 

「分かりました。その人たちを救います。絶対に」

 

 

 自分の良心に従い、弱い心を奮い立たせる。自分のもつ防人の使命として、弱きものを助けなければならないと、その願いを引き受ける。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 彼女は涙に濡れた顔を上げる。表情は安堵に満ちた安らかなものであった。

 

 

 翼はその表情を見ると、自分の選択は間違っていなかったと確信する。

 

 

 確信を抱いた瞬間、目の前が白い光に包まれる。ここに来たときと違い、聞こえた声は唯1つであった。

 

 

「あの人とあの子をおねがいします」

 

 

 その声は確かに母であり、妻であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 微かな光が目に差し込む。

 

 

 目を開くとそこは医療カプセルの中であると分かる。先ほどのことが夢であると、証明するには充分であった。

 

 

 ボーッとカプセルの外の天井を眺めると、回りに人が集まり、騒がしくなる。

 

 

 しかし、少しだけ不思議な感覚に包まれる。ゆったりとした時間が流れている感覚がある。意識はまだ微睡みのなかに沈み込もうとする。

 

 

(約束は忘れないよ。でも、こんなになっちゃって奏はきっと怒るんだろうなぁ)

 

 

 未来の自分との約束を浮かべながらも、今回の無茶について相方(親友)がとても怒っているだろうと呑気に考えて眠りについていった。



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第25話 0000/積年の恋情

 


 爆発音と共に舞う粉塵にまみれてギアを纏った響は衝撃で背中から吹き飛び宙を舞い、地面に転がり地を這う。

 

 

「どうしたの? 戦いの基礎は貴女に叩き込んだでしょ。少しは私に一撃ぐらい加えられないの?」

 

 

 呆れるように顔を反らす七実が晴れた砂煙の中から現れた。

 

 

「いや、あれが教えたって言うんですか?」

 

 

 実際に七実の教え方は最初に基礎と体力トレーニングを教えたのみで、応用である実戦用の訓練は、この実地訓練のみであった。

 

 

 基礎についても、さらうだけのもので身に付けさせるというものではない。現在の状況を対処できるだけの技能は身に付いていない状態であった。

 

 

「あら、あれで十分でしょ貴女には、違う?」

 

 

「そんなわけないじゃないですか!」

 

 

「はぁ~どうしてもムカつくわね。やっぱり鏡を見ている気分……本当に不愉快……」

 

 

「え?」

 

 

 目の前の彼女の姿がブレて消える。

 

 

「!」

 

 

 後ろから裏拳が飛んでくる。その殺気を感じた瞬間、彼女の中で何かが声を上げる。

 

 

 響は反射的に攻撃に対して防御を行いながら、腕を軸にして彼女の腹部に蹴りを入れる。完全に想定外の攻撃から体が吹き飛ばされる。

 

 

「ハハッ、いいね本当に最高だよ。立花響!」

 

 

 立ち上がりながら、興奮したようにいつも見せない凶悪な笑みを浮かべる。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 無意識に自分の行った反撃に無意識に自分の体に視線を落とす。

 

 

 膝に手をつき、立ち上がり、構える。

 

 

「いえ、一旦休憩にしましょう。目的は十分達成されたもの」

 

 

 先ほどの狂気は鳴りを潜め、ギアを待機状態にする。

 

 

「え? 達成って……ッ」

 

 

「どうしたのッ」

 

 

 突如頭を押さえてその場に蹲る。しかし、痛みは引かず、その場で尻餅を付き暴れる。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!」

 

 

 まるで頭が割れるような痛みから心配し近づいてきた七実を振り回した手で殴る。

 

 

 常軌を逸した痛みが引くと先ほどの反撃の際に感じた感覚を響は完全に失っていた。

 

 

「はぁ、どうやらまた引っ込んだみたいね。どれほど起きたくないのかしら……でも」

 

 

「ハァ……ハァ……どうしたんですか……」

 

 

 弱弱しく彼女に声をかける響。しかし、七実は少しだけ不機嫌になるが、暫くすると諦めたように笑顔を向ける。

 

 

「いえ、もう一度基礎を鍛え上げましょう。思った以上にあなたは意気地なし(ヘタレ)みたいだし」

 

 

「どういうことですかぁ~」

 

 

「ふふッ」

 

 

 愉快に笑う七実と意味が分からず罵倒された響の悲鳴が空に木霊するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかわからない湖に面した洋館の大広間一室に半裸の女性が、ソロモンの杖と呼ばれる完全聖遺物を手に持ちながら、英語で何かしらの会話を電話越しに行っている。その様相を張り付けにされているクリスは薄れていく意識と正気の中見ていた。

 

 

 半裸の女性、フィーネは相手の品のなさからイラつきを隠すことなく、クリスの前に移動する。

 

 

「あそこに誘い出したあの子をここに連れてくるだけでよかったのに……しかし、まさかオーマジオウが生きているなんて、思わなかったわ」

 

 

 少し思案するように顔を伏せるフィーネにクリスは安堵の表情を見せるが、暫くした後、残酷な笑みを浮かべる。

 

 

「でもねクリスあそこまで有利な状況で空手で帰ってくるなんてね。お仕置きよ」

 

 

 隣にある装置のレバーを引くと、クリスの身体に電流が流れる。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

 

 苦痛から喉が焼けるような声が上がる。

 

 

 先ほどまで、薄れていた意識は覚醒し、正気が失せていく。

 

 

 少ししてからフィーネは電流を止める。

 

 

 彼女はクリスに抱きつき彼女をあやすように彼女の頬を撫でる。

 

 

「クリス、貴女が悪いのよ。でも、痛みこそが人と人を繋げるの……分かるでしょ……さぁ食事にしましょう……」

 

 

 フィーネの言葉に安堵し、彼女に対し安心感を抱いた瞬間、クリスの身体にまた電流が流れる。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

 

 フィーネの表情は先ほどよりも残酷に歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を終えて、クリスが自室に戻っていったのを確認すると、椅子に座りながら、自身の計画の障害として現れた存在に対してフィーネは考えていた。

 

 

「まさか、オーマジオウが生きているなんて……あの時に出会ったときから変わらない、いえ寧ろ若くなっていた。それだけじゃない。あのライブの日に突然現れて消滅したはず……それに彼、榊ソウマのプロフィールは存在しても、親族が全て死亡ないし行方不明だなんて、何か作為的なものを感じてしまうわね」

 

 

 手元に置いてある榊ソウマに関する米国が調べ上げた資料とその写真を睨みつける。

 

 

「もしかしなくとも、アダム、パヴァリア光明結社の暗躍も充分に考えられる。でも、今しかない、バラルの呪詛を払うには。これ以上の好機は存在しないわ……」

 

 

 椅子に座りながら、体を背もたれに預け、天を仰ぐ。

 

 

 どれだけの時間を果たしても自分の神(エンキ)ともう一度会うために計画を建て、実行する。それだけの覚悟はフィーネにはあった。

 

 

 しかしながら、どれだけの手段を取ろうとも自身の神に再開することは、絶対にないと知るのは文字通り神のみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスは、自室から窓の外に目を向ける。しかし、外に対して意識を向けているのではなく、あの時に出会った銀色の特撮ヒーローのような存在を思い出していた。

 

 

 ノイズを聖遺物、シンフォギア以外の技術を使って倒すことができる。そんな力がこの世の中にある。シンフォギアのようなものやそれを除く技術とも戦術面においては一戦を画すものであることはクリス自身であっても理解ができた。

 

 

「何で、あいつことが頭から離れねぇんだ……」

 

 

 あの時の融合症例助けるために自分に迫ってきたこと、自分に怒気と殺意を向けられることに途轍もない絶望感と焦燥感を感じた。そして、自分よりも融合症例の少女を優先したことに嫉妬の感情が渦巻いていた。

 

 

「どうして、アイツにあんな感情を向けられるのがこんなに怖いんだ」

 

 

 負の感情を自分に向けられたくない。彼だけには自分を見捨てないで欲しいと無意識に抱く。

 

 

 焦燥感と彼に捨てられる恐怖、そしてそれが現実になっている絶望感から自分を抱き締める。

 

 

「なんで……なんだよ……わからねぇよ……」

 

 

 窓にうっすらと映るクリスの顔は見捨てられた子供がただ戸惑っている顔と変わらない。幼い頃の両親を失った日の自分そのままであった。

 

 

 恐怖を痛みで打ち消すように腕を強く握り締め、顔を伏せる

 

 

「…………」

 

 

 目から涙が零れ落ち、それが只管に頬を伝い続ける。

 

 

 自分の中の絶望と恐怖を押さえつけるために泣き続け、嗚咽の声が部屋に響続けるのであった。



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第26話 0000/悪・神・降・臨

 雪音アスカは榊ソウマの家を離れて県立の図書館に来ていた。

 

 

 様々な情報を集めるため、かつ、身分の証明を必要としないものとしては県立の図書館は最適であった。しかし

 

 

「やはり、情報としては精度はあるがどれも最新の情勢については調べられんか……」

 

 

 状況の変化についていけない確定した過去の歴史の積み上げでしかなく、現行の社会情勢、国際情勢は新聞で得られるものが全てになっている。

 

 

「ふぅ、少し長居をしすぎたな」

 

 

 県立の図書館をでて、近くの河川に向かって歩いていく。

 

 

 もう時計は4時を指しており、平日の夕方の河川敷では子供たちがサッカーや野球に興じており、今ある平和を謳歌している。

 

 

「あぁ……」

 

 

 口から感嘆に似た憧れの感情が口に漏れる。

 

 

 河川敷の坂に座りながら、緑豊かな光景を見ながら元居た時代を振り返る。

 

 

 もはや荒廃し、人が住んでいた形跡すら失くなった廃墟の中が自分の故郷であり帰る場所だった。怪物化する仲間やオーマジオウによって殺される仲間、飢えと疫病により死んでいった仲間たち、オーマジオウを倒せば何かが変わると皆信じていた。

 

 

「例え、アイツを殺しても何も変わらない……もしイデアの言っていることが本当であれば……滅びることとオーマジオウの誕生は無関係ではないが、原因ではない。寧ろその逆か」

 

 

 魔王の誕生こそ世界の崩壊を防ぐ唯一の手段のようなのだろう。

 

 

「俺は、なぜこの時代に送られたんだ。俺が居なくとも、あいつは魔王になっている」

 

 

 何のために自分がここにいるのか分からなくなっていた。

 

 

「ん……おい、そんなところで何やってるんだ?」

 

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはつい先ほど戦場で出会った天羽奏であった。

 

 

「お前には関係ない……」

 

 

 アスカの隣にゆったりと腰掛ける奏はアスカに顔を向け睨む

 

 

「そんな思い詰めてますって顔されてたら警察のおっちゃんたちに捕まるぞ」

 

 

「……単純に俺がこの時代に来たことの意味が分からなくなっているだけだ」

 

 

「なんでって復讐のために来たんじゃないのか?」

 

 

 キョトンとした顔で彼の顔を覗き込む彼女に確かに自分は彼のことを復讐の対象のようにしか言っていなかった。

 

 

(確かに俺にとっては復讐の対象でしかないはずだった。あいつは仲間や家族を殺した。あれだけの力を持っていても世界を救おうとさえしなかった……だが)

 

 

「少しだが、あいつの近くにいて、なんであいつが魔王になったのかわからくなった……確かにあいつの感情は希薄だ。冷酷なことも平然とできるだろう。だが、それ以上に自分以外のために全力を尽くせる人間だとも思った。でなければそんな理由で戦場になんかに向かわない」

 

 

 驚いたような顔をする奏に問いかける。

 

 

「違うのか?」

 

 

 急に問いかけられた男への回答に詰まる。

 

 

 自分は家族を殺したノイズを憎んで戦っている。だが、彼は復讐の相手としている相手を理解しようとしている。自分のような存在を作り出したくないという考えは同じであっても、その行動と思想は白と黒のようにまったくもって反対であった。

 

 

「じゃぁ、お前はあいつのことが憎くないのか? 自分の家族と仲間を奪ったアイツが‼」

 

 

 疑問に疑問で返すという愚行を行っていくのを頭の片隅で理解しているが、それでも自身の復讐の意味を否定されている気さえして彼に嚙みつく様に吠える。

 

 

「そんなことはない。未来のオーマジオウは俺の仇だ。だが、あいつが魔王になるのを信じられないだけだ」

 

 

「それじゃぁ気づいたらソイツが魔王になって自分の手に負えなくなってもか?」

 

 

「その時は俺があいつを止める。この命を懸けてもな」

 

 

 静かに決意の火を心に再び灯す。

 

 

 そんな前向きな意思を宿す彼に先ほどまで持っていたほんの小さな共感は鳴りを潜めていた。

 

 

 そこに芽生えたのは少しの寂しさであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くすると、アスカはソウマのいる病院に歩を進めていた。どういった理由からかわからないが奏も彼の後ろを歩いていく。

 

 

「どうして、ついてくるんだ。一緒に来たところで何もないぞ」

 

 

「同じ病院に翼がいるんだよ。見舞いに行くのは悪いのかい?」

 

 

 いつもの調子に戻った奏は悪態じみた返答にアスカは気にせず、歩みを進んでいく。

 

 

 無言のままの空気にのまま、気が付くとソウマたちのいる病院にたどり着いた。

 

 

 病院の正面玄関に入り周りを見渡すと休憩スペースでジュースを飲みながら寛いでいるソウマと未来の姿があった。

 

 

「何をしているんだあいつらは……おい!」

 

 

 急に声を掛けられ、周りを見渡すソウマはアスカを見つけると手を振って無邪気に自分の場所をアピールする。

 

 

 呆れながら彼らのところに二人そろって向かう。

 

 

「まったく、何を寛いでいるんだ。見舞いは行けたのか?」

 

 

「ハハッそれがさ、なんか響が七実さんに連れていかれちゃって……」

 

 

 衝撃の内容に言葉が詰まる。

 

 

「お前、そんな状況なのに何平然としているんだ‼」

 

 

「あぁ~なんか大丈夫だと思うよ」

 

 

「そんなわけあるか、何か確証でもあるのか?」

 

 

「ない!」

 

 

「元気よく言うなぁ‼」

 

 

 ソウマの隣にいる未来は呆れながら、二人の喧騒に笑っている。

 

 

「その制服は、確かリディアンの……」

 

 

 奏は未来の着用している制服に彼女に見覚えがあった。

 

 

「あ、はい……リディアン音楽院高等部1年の小日向未来です」

 

 

 自己紹介をしながら頭を下げる。一番最初に2課で出会った時から、自分と同じ学校に通っている生徒が件のソウマと一緒にいることに疑問を抱いていた。

 

 

「なんで、こいつとこんなところにいるんだ?」

 

 

「私と響とソウマは同じ中学出身なんです。それからリディアンに入学してからも時々あってて、響が入院したって聞いてお見舞いに来てくれたんです」

 

 

 自分たちのことを語る未来の姿に奏は罪悪感に苛まれる。

 

 

 ノイズやあのネフシュタンの鎧をまとった敵が直接的な原因といえ、自分のライブでの行動が響のこの惨状に繋がったと考えてしまう。

 

 

 少しだけ、顔に陰りを見せた奏に未来はその表情に気が付くと少し笑って

 

 

「気にしないでください。戦うって決めたのも響ですから、だからそんな顔しないでください。響が帰ってきたら、3人で遊びに行くんです。だからそんなに思い詰めないでください」

 

 

「あぁありがとう……」

 

 

 自分のほうが慰められている状況に少しの気恥ずかしさが増してくる。その気恥ずかしさを誤魔化す様に先ほどのアスカが言っていた内容について聞く。

 

 

「なんか、七実って怪しいやつに連れていかれたって聞いてるけど本当なのか?」

 

 

「あ、はい、目の前で連れてかれちゃったんで、でも七実さんなら大丈夫ですから」

 

 

「どうして、そんなに信頼しているんだよ……」

 

 

「ん~、あれ? なんでだっけ?」

 

 

「え……?」

 

 

「そんなに心配なら見に行くかい?」

 

 

 その場にいた4人が全員声の主に意識を向ける。

 

 

 その声の主は、とてもラフな格好をした青年と呼べる年齢の男性であり、近くにいるだけで少しの息苦しさを感じる。

 

 

「フフフ……」

 

 

 笑いながら、灰色のオーロラを出現させその場にいた4人を飲み込む。

 

 

 気が付くと4人は崖の上に移動していた。

 

 

 周りを見渡しているとソウマが声を上げる。 

 

 

「あ、響と七実さんだ」

 

 

 崖の下をソウマが覗き込むとそこには七実と響が一緒に戦闘訓練を行っていた。その場の全員が彼女が訓練している状況を覗き見ていた。

 

 

「これで満足できたかな?」

 

 

 先ほどのラフな男は笑いながら、自分たちの後ろに立っていた。

 

 

「お前は誰?」

 

 

 ソウマが疑問を向けると男はニヒルな笑みを深めると自分を名乗る。

 

 

「俺はアーリ、悪神アーリだ。よろしく頼むよ。我らが魔王?」

 

 

 笑う彼には一切の影が存在せず、彼の姿が歪んで見えてくる。影がないはずだが、とても深く昏い夕闇のような恐怖を放っていた。

 

 

 

 



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第27話 0000/共・同・戦・線

 

 

 

 悪神は名乗りながら、腕を組む。

 

 

「まぁ、俺が誰かはあまり重要じゃない。ぶっちゃけるとイデアがいない状態での補助、ないし状況の確認かな?」

 

 

 4人が全員揃って目を白黒させる。

 

 

「いや、補助って一体?」

 

 

「今、君たちで問題がでたでしょうが、響ちゃんの状況について未来ちゃんと魔王君は前回の記憶を一部引き継いでるせいで違和感なく七実に一定の信頼を持っているけど、奏ちゃんとアスカ君は引き継ぎ先がないからこんなことになっちゃったってこと」

 

 

「意味がわからないんだが」

 

 

 疑問を抱くアスカと奏に対して、彼らの疑問を払拭すべく回答を行う。

 

 

「うん? あ~、うーん、そうだねぇ、世界には単一の存在は2つ存在しないないって言うのは理解できるかい?」

 

 

「それぐらいはまぁ」

 

 

 アーリは首を傾げ、目を閉じて上を向きながら言い説明がないか考える

 

 

「さらに、同じ存在が2つ以上存在した上で、同一世界線上かつ同時間上という条件下であると、互いに共鳴を起こすんだ」

 

 

「共鳴?」

 

 

「そ、共鳴。これは別の時間上から来たもの同士でも起こる」

 

 

「まぁ、互いの身体上の影響すら簡単に起きるんだ。その上で、8つ以上の世界を融合させた場合においてそれぞれの結果をもつ8つの存在が1つになれば経験値もそれぞれ1つの存在に集約される」

 

 

「それがアイツらに起きている原因だと」

 

 

「まぁね。この経験値は拡張子がファイルごと違っているみたいなもので、それぞれの世界線の人間同士で接触したりすると解凍されるんだよ。だから、翼ちゃんはあの時に限界を越えた力を引き出せたってこと」

 

 

 彼の言うことにある種の納得と違和感を覚えるソウマを尻目にアスカはさらに質問する。

 

 

「つまり、俺やコイツは前の周回がないってことか」

 

 

 無言でニヒルな笑みを浮かべながら頷く。詰まるところアスカはこの時代に飛ばされる事象は他の時間軸上で発生していないということだった。

 

 

「ちょっと待てよ、じゃあ私はどうなるんだ」

 

 

 奏の言葉にアーリは目線すら会わせずに言い切る。

 

 

「君は2年前のあのライブの日にLiNKERによる活動限界を迎えた上で絶唱を歌い死んだ。それが君の運命だ」

 

 

 自身の死を言われたことで心理的ショックを受ける奏であったが今自分が生きていることを理由に悪神に反論する。

 

 

「なら、なんで私は生きてるんだ!」

 

 

「そんなの君が一番よく知っているだろう?」

 

 

「何を……言って……」

 

 

 脳裏に浮かぶあの日の景色、一体誰が絶唱を歌ったのか、誰が自分達を助けたのか、その予想が何故かしっくりときてしまう。

 

 

「未来の風鳴翼が君たちを助けたんでしょうが、何を今さら」

 

 

 ソウマは今告げられたことに少しの疑問を抱きながら少しだけ、首を傾げる。

 

 

「ねぇ、アーリ」

 

 

「なんだい魔王君」

 

 

「俺がノイズに分解されないのも融合が原因なの?」

 

 

「う~ん説明が難しいねぇ。まぁ君が魔王、というよりは君が持っている力が原因かな」

 

 

 的を得ない回答に渋い顔をするが、アーリは話を切るように灰色のオーロラを出現させる。

 

 

「質問タイムはここまで! それじゃあ帰るよ」

 

 

 彼の声と同時に灰色に視界が染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 見渡すとそこは市街の路地裏であり、肝心なアーリは姿を消していた。

 

 

「なんでこんなところに……ッ」

 

 

 周りを見渡すと爆発音が聞こえる。

 

 

 4人は一斉に表通り側に視線を向ける。

 

 

 悲鳴が聞こえる中、未来が3人に通る声で発する。

 

 

「私のことは気にしないで行って!」

 

 

「でも……ここは危険だよ。とりあえず避難を……」

 

 

「大丈夫だよ。ソウマはみんなを助けて、響の分まで頑張って!」

 

 

「……わかった……未来はここにいて、すぐ戻るから」

 

 

 未来の方から視線を表通りに移す。

 

 

「いくよ。2人とも」

 

 

「あぁ」

 

 

「なんでお前が仕切ってるんだよ……」

 

 

 三者三様に表通りに走り出す。

 

 

 走りながら、奏は歌い、ギアを起動する。ソウマとアスカはベルトを腰に巻き、ウォッチを起動する。

 

 

【ジオウ!】【ゲイツ!】

 

 

「「変身ッ!」」

 

 

 ベルトに装填し2人はシャドウライダーへと変身する。

 

 

 周囲に散らばっているノイズに一番近い位置にいるやつに3人はそれぞれ切り込む。

 

 

「ハッ」「ハァァ」「シッ」

 

 

 一閃────────

 

 

 それぞれの剣戟でノイズを1体ずつ塵に還す。

 

 

 それぞれの距離の詰めかたで、それぞれのノイズを倒していく。

 

 

 ソウマと奏は奥に切り込みながらノイズの波を切り開いていく。

 

 

【STAB∞METEOR】

 

 

【タイムチャージ! 5・4・3・2・1……ゼロタイム! ギリギリ斬り!】

 

 

 奏が旋風状のエネルギーを発生させ正面のノイズ郡を振り払うと、彼女の背後を狙うノイズをソウマが切り伏せる。

 

 

【タイムチャージ! 5・4・3・2・1……ゼロタイム! キワキワ撃ち!】

 

 

 二人に近づくノイズをアスカは距離を取りながら打ち落とす。

 

 

 ソウマとアスカが連携し、大技を放つ奏の隙を潰しながら、発生したノイズは数を減らしていく。

 

 

「フッ……あれは……」

 

 

 アスカがノイズを切り伏せながら、視点を変えると、その場に逃げ遅れた人がおり彼は腰を抜かしている。アスカは近くの攻撃人型ノイズを切り伏せて駆け寄り、彼に襲いかかるナメクジ型ノイズの触手から身を呈して守り、触手を掴み持っている武器で切り伏せる。

 

 

「大丈夫か!」

 

 

「は、はい」

 

 

 腰が抜けている男の無事を確認するとノイズの大群に振り返り

 

 

「だったら走れ!」

 

 

「腰が抜けて……」

 

 

 アスカの怒声を聞いても男は恐怖に駆られ動くことができないでいた。

 

 

「ッ……」

 

 

 焦りの感情が支配する。しかし、近くにいた分離型ノイズの弾丸が複数迫る。

 

 

【クウガ!】

 

 

【アーマータイム! クウガー!】

 

 

「うおりゃぁぁぁ」

 

 

 クウガライドウォッチを起動させ、自身に巻き付いた鎖を気にすることなく飛び込み、クウガアーマーを纒いアスカに迫る弾丸をある程度、拳と回し蹴りで打ち落とす。

 

 

「……あの馬鹿……」

 

 

【フィニッシュタイム! ゲイツギリギリカッティング!】

 

 

 アスカはウォッチを武器に装填し、抜けてきたノイズを自身の武器の一撃で切り伏せる。

 

 

「別に助ける必要はない」

 

 

「気にしないでよ、ハイこれ使ってみて、多分ここは3人で協力して一気に攻めた方がいい」

 

 

 ぶっきらぼうに振る舞う彼にゴーストライドウォッチを渡す。

 

 

 アスカは差し出されたものに少しだけ驚きながらも奪い取る勢いで掴む。

 

 

「馬鹿かお前は、俺にウォッチを渡せば、お前は王に成らないように破壊するかもしれないんだぞ」

 

 

「なに言ってるの、信頼しているから渡すんだよ」

 

 

 仮面の下で笑う彼に呆れてアスカはウォッチを起動する。

 

 

【ゴースト!】

 

 

 彼はウォッチを起動しベルトに装填し、新たな姿に変身する。

 

 

【アーマータイム! カイガン!ゴースト!】

 

 

 ゴーストの力を纏うシャドウゲイツゴーストアーマーに変わった彼と新たにクウガの力を纏ったシャドウジオウクウガアーマーがその場に並び立つのだった。




 共鳴現象
 ソウマ達の業の継承の緒原因である異質な現象。
 特異性ゆえに実情については一部解明できていないブラックボックス性を秘めている。
 継承には並行世界の奏者同士が出会った際に起きていた現象以上のフィードバックが発生するが、記憶の拡張子のようなものが原因となり記憶と経験の定着は時間がかかる場合がある。


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第28話 0000/夕焼けの決着

 二人が姿を変えたことに、2課は2つのエネルギーの変質を起こしたことに、衝撃が走り、沈黙が支配する。

 

 

 暫くの間、支配していた沈黙を桜井了子と風鳴弦十郎が破る。

 

 

「やはり、あの時の検知したエネルギーの変質は誤検知ではないみたいね」

 

 

「あぁ、ここまで、エネルギーの波長が変質するとは……」

 

 

「えぇ、でも、どちらかというとエネルギーの性質の融合に近いわね。アスカ君とソウマ君は同じ形態になっても一部波長が異なっているもの」

 

 

「……」

 

 

「これじゃあ、データ収集は困難を極めそうね、ハァ……」

 

 

 桜井了子のため息が2課に木霊する。

 

 

(でも、これでオーマジオウやアダムへの対抗策を講じることができる。今までのように多少は対抗することができそうね)

 

 

 彼女のフィーネとしての記憶が告げる彼らの強さを、今まで、自分が計画を実行する度に不自然なほどに彼らが介入してきて計画が頓挫する。

 

 

 隣の弦十郎は了子の少し含みを持たせた笑みを横目で盗み見るが彼女の内心を一切読み取ることができないでいた。

 

 

「……あぁ……そのようだな……」

 

 

 多少の疑念を彼女に抱きながら、その疑念を払うようにモニターに意識を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は新たにアーマーを装着し臨戦態勢をとる。彼らの形態変化にその場にいた奏は内心で驚愕しながらも戦闘に集中する。

 

 

(あいつら能力を互いに使い分けることができるのかよ……)

 

 

「なるほどな、使い方が頭に入ってくるとはな」

 

 

「まぁね結構、簡単に馴染むよ」

 

 

 2人は軽口を叩きながら、力の使い方を確認する。

 

 

「いける?」

 

 

「あぁ!」

 

 

「行くよ、アスカ!」

 

 

「来い! ムサシ、ニュートン、エジソン、ロビンフット!」

 

 

 2人が戦闘に向かっていく。アスカは4体のパーカーゴーストを召喚し、攻撃させる。

 

 

 斬撃、斥力、電撃、射撃の4種の攻撃がそれぞれノイズを塵に還していく。

 

 

「うぉりゃぁぁ」

 

 

 ソウマは特徴的な掛け声と供に徒手空拳でノイズを確実に1体ずつ仕留めていく。

 

 

「う~ん、やっぱりクウガは一対一に特化しているなぁ、でも、クウガだったらバイクでしょ!」

 

 

 ライドストライカーを起動させ、バイクモードに変形させ、乗車する。

 

 

 勢いのまま発信し、前輪を上げ、ウィリー走行でノイズに突撃し、バイクの車輪を利用してノイズを轢き倒していく。

 

 

 二人の攻勢に加速的にノイズを消滅していく。そのまま攻勢を強めていくと目の前に槍が降り注ぐ。

 

 

「おいおい、私を忘れんなって」

 

 

「忘れてないって、でも後のノイズはあれだけかな」

 

 

 目の前にいる一団の敵が最後のノイズであった。

 

 

「みたいだな、一気に決めるぞ!」

 

 

「うん、一気に決めよう!」

 

 

「お前が、仕切るな!」

 

 

 軽口を叩きながら、奏は最大の攻撃を構え、アスカとソウマはベルトを操作し、必殺技を発動させる。

 

 

【STARDUST∞FOTON】

 

 

【フィニッシュタイム! ゴースト! オメガ! タイムバースト!】

 

 

【フィニッシュタイム! クウガ! マイティ! タイムブレイク!】

 

 

 アスカと奏は上空高く跳び、奏は、自分の力を槍に集め投げる込む。槍は複数に分裂し、勢いよくノイズの集団に対して閃光となり、降り注ぐ。

 

 

 アスカは、パーカーゴーストたちを自身のもとに集め、一体化し投げ込まれた槍とともに、ノイズの集団に蹴撃を落とす。

 

 

「ハァァァァ」

 

 

 二つの光が、相手のもとに向かっていくのを仮面越しにその光を見ながら、ソウマはどこか懐かしさを感じていた。

 

 

(不思議だな……この二人と会うのは初めてのはずなのに、それが懐かしく感じるなんて……)

 

 

 体は、勝手に動く、あの時の炎の中と同じように、不思議と構えを取り、そのまま、手を開き、腰を落とす。

 

 

 右の足首を捻り、ノイズの集団に向かって駆け出す。右足を踏むたびに炎が燃え上がる。

 

 

 周りの音が少しずつ聞こえなくなっていく中、ソウマは、踏切、大きく飛び上がり、空中で体を抱え、前転を行う。

 

 

「うぉりゃぁぁぁ」

 

 

 彼の掛け声とともに前転の勢いを殺さずに必殺の蹴撃を相手に与える。

 

 

 光に視界が包まれ、相手に一撃が命中すると古代文字である鎖の文字が徐々に広がり、周りのノイズに封印の力を伝播し、致死量の傷を与える。

 

 

 アスカのゴーストの力と合わさり、周りのノイズは抵抗する間もなく、一瞬の内に塵に還り、その塵を炎で焼き尽くす。

 

 

 炎の中に包まれるとアスカとソウマは立ち上がり、互いに相対する相手に視線を向ける。

 

 

「「……」」

 

 

 無言のまま、炎が晴れると、そこには、1体のノイズすらなく、熱に焼かれたコンクリートの地面から煙と熱気が上がる。

 

 

「お~い、二人とも大丈夫かぁ~」

 

 

 奏が手を振りこちらに向かって歩いてくる。ソウマとアスカは、肩の力を抜き、仮面の下に苦笑いを互いに浮かべながら、一緒に彼女のもとに向かって歩いていく。

 

 

「うん、大丈夫だよ。ほら、アスカも!」

 

 

「フンッまぁな……」

 

 

「ここにいたノイズはすべてを倒せたみたいだな、多分そろそろ、おっさんたちがくると思うけど、行かなくていいのか?」

 

 

「え……でも、いいの?」

 

 

 奏の対応に少しだけ、困惑する。彼女の所属する2課からすれば、自分たちは身柄を拘束されるのではないかと考えていたが彼女は見逃してくれると、そう問いかけていた。

 

 

「あぁ、今回も、助けてもらったしな、今回で3回目だ。だから、早くいけ!」

 

 

 後ろを振り返り、奏はこちらを見ないようにしてくれている。

 

 

 それが彼女の優しさであり、誇り故の行動なのであろう。

 

 

「ソウマ~」

 

 

 自分の名前を呼ぶ声に反応して視線を向けると未来が手を振ってこちらに走ってくる。

 

 

 地面から反射する熱気に充てられ、少し、肌は赤く火照り、汗が滲む。

 

 

 自分たちは変身しているからこそ、周囲の熱の影響を受けていないが、生身の彼女にとっては、とても厳しい環境だろうに、そのそれでも、自分のところに走って向かってきている。

 

 

 その姿にソウマは顔がにやけるのを止められずにいた。

 

 

「未来、ここはまだ危ない。俺がそっちに行くよ」

 

 

 未来の方に向かって走っていくソウマに対して、自身の判断を誤ってはいないと自身に言い聞かせる。しかし、少し遠目に、いるソウマと未来の睦まじさに溜め息が溢れる。

 

 

「アイツが魔王か……フッ、早くするぞ! 2課の奴らがそろそろ来る」

 

 

「わかったぁ! じゃ、行こっか」

 

 

 ソウマとアスカはライドストライカーを起動し、跨がる。ヘルメットを装着し、未来にも予備のヘルメットを渡す。振り返り、此方を見ようとしない奏に対し、礼を述べる。

 

 

「ありがとう。また、今度お礼をするよ!」

 

 

「感謝するぞ、天羽奏……友人が早く回復するといいな」

 

 

 天真さが見えるソウマとぶっきらぼうながらも、感謝の気持ちが彼女の心に少し穏やかさを取り戻す

 

 

「今日はありがとうございました。それと、響のこと気にかけてくれて、ありがとうございます」

 

 

「もぉいいから、御託は要らないからサッサといけ!」

 

 

 未来の言葉を最後に照れを隠すように、急かすと、ソウマとアスカはエンジンに火を灯し、帰る場所に向かうため、アクセルを回して走り出す。

 

 

 奏の耳に入るバイクの駆動音が聞こえなくなると振り返り、彼らの通った道を眺めながら、苦い顔をする

 

 

「どうやっておっさんに言い訳するかなぁ……ハァァ」

 

 

 これから迫るであろう現状に溜め息とほんの小さな絶望感から遠目に見える2課所属の人たちの車両に対して、目線を上げ空を睨むのであった。空は既に暗くなり、特段明るい1等星のみが光輝くのであった。



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第29話 0000/二者択一

 夜の帳が降りてくる中、2台のバイクが並走し、少しずつ活気付いていく街道を走り抜けて行く。

 

 

(……なんかこうやってくっついてると、ドキドキしてくるなぁ)

 

 

 内心緊張が走る未来は抱き着く力を強める。少しだけ感じる力が強くなったソウマは一瞬だけ未来にも意識を向けるが、交差点が視界に入り、意識を運転に集中する。

 

 

 

 

 

 暫くすると、目の前に自分が住んでいる学生寮が見えてくる。

 

 

「……」

 

 

 一抹の寂しさを、ソウマの体を強く抱き、紛らわせる。

 

 

 少しずつスピードが落ちていき、やがて完全に静止するとソウマが優しく声をかけてくる。

 

 

「着いたよ。ここでよかったっけ?」

 

 

 気を遣わせてしまったかと思い、体を彼から離し、横顔を見ると、表情は怪訝な顔になる。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「えっ……あ、あぁ、うん、ここで大丈夫。ごめんね送ってもらって」

 

 

 彼の反応に驚き、周りを見渡すと、敷地に入る門の横であり、部活帰りの学生が此方に奇異と好奇心に満ちた目で見ている。

 

 

「ふふっ……気にしないでよ。俺と未来の仲でしょ。これぐらいさせてよ」

 

 

 ソウマは視線に意識さえ向けず、冗談目かしに肩を竦める。

 

 

 未来はバイクから降りると、門に向かって走り出す。

 

 

 門の近くまで行くと振り返り、少し朱を帯びた顔で感謝を告げる。

 

 

「……ありがとう!」

 

 

 その顔に咲いた満開の笑顔にソウマの顔に熱を帯びて思考回路がショートする。

 

 

「おい、なに固まっているんだ……おい、おーい!」

 

 

 お手本のように固まったソウマの視線の前を横から手で遮るが一向に意識は戻らない。

 

 

 見かねたアスカは、手刀をヘルメット越しに当て、彼を正気に戻す。

 

 

「ッ! あ……あれ、ごめん、ボーとしてた。ごめん」

 

 

「はぁ~お前は、あの女が好きなのか?」

 

 

「え……う、うん。まぁそうなんだよね」

 

 

「お前は……いや、気にするな」

 

 

「うん? まぁいいけども……さて、僕らも帰ろうか」

 

 

「あぁ」

 

 

 短い返事のみで、すぐにバイクに跨り、エンジンに火を灯し、彼らは正門を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来は駆けていく二人の姿を柵から眺めていた。二人の姿というよりもソウマの姿を目で追っていた。

 

 

 自分たちにとって、彼はある意味で特異点であり、自分と響の関係においては、ある種の中心点であった。自分たちはそれぞれ彼に対して、一般的に言われる恋と呼ばれる感情以上のものを向けている確信がある。

 

 

「響になんて謝ればいいのかなぁ……」

 

 

 昼頃において、あった理由のない自信は鳴りを潜め、不安と自分の中の彼女への不満感が顔をのぞかせていた。

 

 

 謝らなければならない。そう自覚している。このままでは決して3人で一緒にいることができなくなると。しかし、自分の中の響きへの不満と怒りが胸に沸く。きっと響が自身に抱く劣等感も全く同一なものを抱えているのだとも無意識に実感する。

 

 

「……うん? あれって……」

 

 

 空には満天の星空とは名ばかりの都会の光に負けた星が浮かぶ中、王の星はどこか自分を見定めるように照らすように輝いていた。

 

 

 

 

 

 ソウマとアスカは、マンションの1室のリビングの食卓に挟まり、少し遅めの夕食をとっていた。

 

 

「やはり、知識で知っていたとしても不気味だな」

 

 

「ん、なにが?」

 

 

「お前がこうやって料理を作って、俺に振舞っていることがだ」

 

 

「いやだった?」

 

 

「そうではない……ただ今まで想像していなかっただけだ」

 

 

 ソウマの家庭的な面は決して理解できないことではないが、自分の見ている魔王としての側面のみであり、一つの側面しか見ていなかったということは、この時代にきて初めて自覚し、ようやく飲み込むことができるようになっていた。

 

 

「俺は、お前がもっと非情であり、人の心などないと思っていた」

 

 

「……」

 

 

「気にするな、俺にとっても、お前が非情な魔王でなくてよかったと思っている……きっと仲間たちは怒るだろうがな……」

 

 

「どうして……そんな……」

 

 

「さぁな、もっと親しくなったら教えてやる……」

 

 

 自己矛盾を孕んでいるにも関わらず、彼の表情はどこか落ち着いていて、安心感に満ちており、ゆっくりと、手に持った箸を進め、目の前の料理を口に運んでいく。

 

 

「……」

 

 

「なに、しょぼくれた顔をしている。お前が気にすることではない。未来のことでしかない、まだ未確定の結果だ。自分がどんな未来に進むかなんて解からないものだ……誓っただろう。お前が魔王になるのであれば、俺が止めると、だから、今は気にするな」

 

 

 二人の間に言葉はなく、ただ箸を動かす音と食器の音が流れ続ける。しかし、アスカもソウマの顔も幸せを噛み締めるような穏やかな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 あの夜の日から、既に1週間近く経っていた。不思議なことに、響についてはまだ入院しているということになっていた。どうやら悪神が何か裏で工作を行ったようであった。

 

 

 朝の少し冷たい、冬の気配さえ少し感じさせるほどの冷え、乾燥した空気が部屋を包む。

 

 

 ソウマは眠気に襲われながらもカーテンを開けると結露した窓から朝日が差し込んできた。

 

 

 陽光はビル群の端から漏れ、眩しい光となり、部屋を照らす。

 

 

 アスカと同居を始めてから、初めての休日に少しの期待を胸に秘めて、エプロンを着けて、朝食の準備に移る。

 

 

『ピンポーン!』

 

 

 朝早いインターホンに怪訝な顔をし、先程付けたばかりの火を止め、玄関に向かう。

 

 

 扉を開けると、そこには2課の指令である風鳴弦十郎、その人が黒服を引き連れて立っていた。

 

 

「日をそれ程置くことなく、早朝に失礼する。少し話がしたい。上がってもよろしいかな?」

 

 

 頭を此方に下げて、礼儀を尽くす彼の姿に、休日の朝での訪問についての不快感について溜飲が下がる。

 

 

 チャイム音に反応してアスカが起きてくる。弦十郎の姿を視認するや否やドライバーを腰に装着し、ウォッチを構える。

 

 

 そんなアスカを諌めることなく自身もドライバーをエプロンの上から装着する。

 

 

「どうやら歓迎はされていないようだな……」

 

 

 黒服達を下げるように指示をする。二人の敵意を意に介することなく、泰然自若に用件を伝える。

 

 

「君たちの身柄を拘束させてもらう……申し訳ない」

 

 

 目を伏せ、彼らに用件を伝える。その言葉を聞いたソウマ達は、瞬間、ほんの少しだけ眉を潜めるが、想像していた事態にに意識は完全に戻る。

 

 

「悪いが、君たちの意見を汲み取ることはできない」

 

 

「いや、想定内の状況過ぎてね。少し呆れているところだよ」

 

 

「……」

 

 

 弦十郎の目を開くと、その目にはこの場で戦うことも辞さない意思を持っていた。

 

 

 空気が凍り付く気配が立ち込める。しかし、暫くするとソウマはウォッチを持つ手を下げて、肩を竦めて笑う。

 

 

「……さすがに、この場で戦うのは不味いかな」

 

 

「では、君たちの装備を含めて、此方に……」

 

 

 黒服が走って弦十郎に走り込んでくる。

 

 

「申し訳ありません。司令、急ぎの報告がありまして」

 

 

「ん? ……なんだと」

 

 

 耳打ちで受けた報告があまりにも想定外であり、先程までの冷静さを欠かせるほどのものであった。

 

 

「話が変わってすまないが、どちらか片方の身柄の拘束をさせて貰いたい、君たちの装備についての接収はしない」

 

 

 ソウマとアスカは聞こえた言葉に虚を付かれ、間抜けな表情が顔に張り付いていた。

 

 

「いや、あの、さっきまでといっていることが違うんですが……」

 

 

「事情が変わってね、指示が変更になったんだ」

 

 

「あ、はい……」

 

 

 先程の空気から一転気の抜けたものになっていた。

 

 

 ソウマとアスカは顔を見合わせる。

 

 

「だったら俺が一緒について……」

 

 

「いや、俺が付いていく」

 

 

「どうして、俺が行くからここで待っててよ」

 

 

「何を言っている。お前が行くよりも未来から来た自分が行く方が色々と都合がいいんだ」

 

 

「アスカ……」

 

 

 アスカは会話に割ってはいってまで、ソウマの行動を止める。

 

 

 無言の圧力でソウマを牽制しつつ弦十郎に近付いていき玄関の外に出ていく。

 

 

「では、付いてきてくれ」

 

 

「あぁ」

 

 

 彼は振り向き、ソウマを見る。

 

 

「俺は大丈夫だ、行ってくる」

 

 

 朝日が差し込む通路を歩いて、彼は弦十郎と黒服に連れていかれていった。ソウマはただその姿を見ていることしかできないでいた。



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第30話 0000/二人の距離

 

 

 ちょうど、昨日の出来事から24時間が経っていた。

 

 

 自分以外が誰もいない、昨日と同じ冷たい空気が支配する。

 

 

「やっぱり、少しだけ、寂しいな……」

 

 

 一人で迎える朝はいつもよりも余計に寒く感じる。

 

 

 あれからアスカは2課と協力するために彼らの居住区を間借りしている。間借りといっても、どちらかといえば軟禁されている状態に近い。

 

 

「アスカは大丈夫かなぁ」

 

 

 暫くしてから、奏は自分対し、頭を下げに来た。彼女に自分たちのことを見逃してもらい、2課とは非協力関係でいることでは、やはり上手い落とし所にはなりえなかったようだ。

 

 

 弦十郎は自分達の立場の保証を訴えてくれていたようだが、政府からの圧力が強く、2課に正式に命令が下ったとのことであった。

 

 

 ソウマは、朝の洗顔等を済ませると、給湯器のお湯を使い、コーヒーを入れる。

 

 

「一度状況を整理しようかな……まずは2課との部外の協力者としての契約かな」

 

 

 2課側からの要求は2点であった。1つは、アスカの身柄の安全を保障する形で、身柄の監視下に置くこと、2つ目は、自分とアスカが2課の部外協力者なることであった。

 

 

「やっぱり、ノイズを倒せる人間が野放しっていうのはまずいよね……でも、1つだけ不自然なんだよな」

 

 

 彼は、部屋の片隅に安置してある3つのライドウォッチが装着されているライドウォッチダイザーに目を向ける。

 

 

「どういうわけか、俺たちのウォッチにも一切の没収がなかった点がやっぱり不自然だよなぁ~」

 

 

 2課の対応には、レジェンドライダーのウォッチの回収以外にも自分たちのシャドウウォッチについても、一切の没収等の措置が講じられていない。

 

 

「何か、上から命じられているようだったけど、どういった意図があるんだろう?」

 

 

 ソウマの頭には、あの夜の日に自分に檄を飛ばした老人の姿が頭に浮かんでいた。

 

 

「たしか、風鳴……訃堂さんだっけ?」

 

 

 彼の身なりと周りにいた黒服からこの事態に何かしらの介入を行ったのだろうと想像していた。

 

 

 

 

 

 彼がそんな思案に耽っていると、日曜日だというのに、朝からインターホンを鳴らされ、昨日の事が頭を過る。怪訝な表情を浮かべ、玄関扉のドアスコープを覗き込むと、意外な人物がそこにはいた。

 

 

「え、響!」

 

 

 急いで扉を開けると、そこには、ドアに当たらないようによけて立っていた立花響の姿があった。

 

 

「どうしたの、こんな朝早くから。というよりも、七実さんとの訓練は……」

 

 

 休日というのに、制服姿で恥ずかしそうに体を揺らし、体の前で手の平を組みながら、顔を伏せている彼女はソウマの質問にまで頭が回っていないとすぐに察せる状況であった。

 

 

「……えっとね、ソウマ」

 

 

 先ほどまで、恥ずかしさのあまり、一文字に閉じていた口が開かれると一つのお願いが飛び出してくる。

 

 

「私を、ここにしばらく……泊めてほしいんだ」

 

 

 顔を真っ赤に染め、から笑いを浮かべる彼女の疑問にソウマの意識が一瞬だけ飛ぶ。その後戻った意識から、ただ一言のみ発するのであった。

 

 

「え……どういうこと?」

 

 

 困惑するソウマと顔どころか、頭から蒸気すら吹き上がるほど赤くなった響を傍目に鶯の一鳴きが朝のマンションの通路に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の間に、何とも形容しがたい空気が流れる。先程までの空気とは違い、穏やかな暖かさを二人の体を包み込む。その暖かさは本当に朝日により、気温が上昇したのか、それとも、二人の熱を帯びた頬と緊張が、暖かさと勘違いしているのだろうか

 

 

「……それで、どうして……ここに」

 

 

「え、え~と、なんと言うか、その~、あ~」

 

 

 ようやく開いた口からでた質問について、響は一切まともな回答は一切出てこない。

 

 

 目と手は空を泳ぎ、汗が流れる。

 

 

 そんな姿を先程入れたコーヒーを一口のみ、彼に響が答えられるように、彼女の慌てふためく姿を見つめている。しかし、その手は少し震えている。

 

 

「え~と、私……未来、と……喧嘩……しちゃって……」

 

 

 涙目になりながら、口を少しずつ開く。喉がひきつり、声が震える。自分の中にある罪悪感と後悔が彼女を蝕み、俯き自分の手を握り締める。

 

 

「うん、大丈夫だよ。焦らずゆっくりでいいから……」

 

 

 コーヒーカップをソーサー置きに、泣く彼女の隣に移動し、隣にしゃがみ、彼女の手を解き、握る。彼女を安心させるように、彼女の顔を覗き込む。自分を見つめる彼の顔が視界に入り、心が締め付けられる。未来と自分の間に生まれた亀裂の原因である彼が本当に自分を心配し見つめてくる。

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

「……響」

 

 

 3人で一緒にいれた時は、辛いことばかりがあったが、間違いなく幸せであった。今は、昔の辛いことはなくとも、3人一緒にいられることはなくなった。変わろうとすることが今の悲しみを招いた。だからこそ

 

 

「ずっと、3人で……3人で、一緒にいたかった。変わらずに、ずっと」

 

 

「俺もだよ、響。未来と響と俺の3人でずっと一緒にいたい」

 

 

 口から漏れる彼女の願いに応え、手を強く握る。

 

 

 だが、二人の願いはある一点でどうしようもなく交わらない。

 

 

「ソウマ、私たちが喧嘩した原因はソウマなんだよ」

 

 

 泣きながら、微笑みながら、彼に対し、彼の鈍感さへの意趣返しに近いことを伝える。

 

 

「……?」

 

 

「ふふ、気にしないで、ソウマ?」

 

 

「え、え~」

 

 

 響の茶目っ気の出した笑顔にソウマは先程の疑問が吹き飛ぶほどの感情が彼を包み込む。その感情は何時ものように消えることはなく、ずっと残り続ける。

 

 

「……」

 

 

 自分の中にある感情で消えないでいるものは響と未来に関するものだけであった。

 

 

「……ソウマ?」

 

 

 呆然としたソウマを不自然に思い今度は響を心配していた。

 

 

「一緒に朝食をとろう、悩み事はそれからだ」

 

 

「え、うん」

 

 

「まぁ、大方、悩み事は未来に会わせる顔がないってところでしょ」

 

 

「え、なんで」

 

 

 自分の悩みを当てられ、自分の心情を見透かされることから驚愕し、内心引いてしまう。

 

 

「で、原因は俺か……思い当たる節が……」

 

 

「え……」

 

 

 自分の抱く恋心が彼が見透かしているのかと心臓が強く締め付けられ、握っていない手で胸元を握り締めるが

 

 

「わからないなぁ~」

 

 

 彼の言葉にガクッと肩を落とし、口からため息が盛大に漏れる。

 

 

「……? どうしたの響……」

 

 

「なんでもないよ……この朴念仁

 

 

 小声で彼への罵倒をこぼすが彼の耳には届かずに首を傾げるのみであった。

 

 

 響もソウマの微妙な間が急に可笑しくなり、二人は揃って笑いだし、ソウマは朝食の準備を進めるのであった。



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第31話 0000/誰かが夢見た景色

 

 

「「いただきます!」」

 

 

 響とソウマはテーブルを挟み、先程作った朝食をとりはじめる。

 

 

 ゆったりと一緒に朝の時間を満喫する。久しぶりの二人きりの食事にどこか緊張しながら箸を進める。

 

 

(久しぶりにソウマと二人きりの食事なんて……好きなはずのごはんの味も感じないよぉ……もぉ)

 

 

(なんでだろう、いつもは未来がいたから、まさか、今さら緊張するなんてなぁ)

 

 

 緊張している二人はぎこちなく、すれ違うように意識を反らす。

 

 

 彼は、この空気を変えるため、テレビの電源を付ける。

 

 

「……?」

 

 

 チャンネルを回しながら、一瞬子供向けの番組で手が止まる。

 

 

「どうしたの、ソウマ?」

 

 

「……え、あ、あぁ……どこかで見たことあるような」

 

 

「え、小さいころにみてたんじゃないの?」

 

 

「いや、もっと昔に……」

 

 

 彼は吸い付くようにテレビの画面を覗き込む。

 

 

 そんな姿に響は不安を覚え、彼に手を伸ばす。

 

 

 シャドウジオウライドウォッチが微かに輝く。ソウマの視界が揺れて、歪み、世界は黒と白のモノクロームな世界に移り変わる。

 

 

 先程までみていたテレビの画面にあり得ない砂嵐が流れ、それが治まると、飛蝗を模した黒い異形が映り、此方を見つめる。

 

 

「お前は……一体……」

 

 

「オレハ、オウダ。コノセカイノオウダ」

 

 

 異形はテレビの画面を抜け出し、此方に歩んでくる。

 

 

 ソウマとテレビのちょうど真中の位置で足を止める。

 

 

「オマエハ、ナニヲメザス?」

 

 

「何を、いって……」

 

 

 響の方を向き異形は仮面の下で微笑む。

 

 

「オマエニ、マヨウジカンナドナイ。シカシ……」

 

 

 ソウマに異形が手を向けると、彼の懐からシャドウジオウライドウォッチを手元に引き寄せる。

 

 

 ウォッチを掌で転がすと、急に握り締めウォッチに力を注ぎ込む。

 

 

「何をッ!」

 

 

「アセルヒツヨウハナイ、ダガ、コタエヲダセ! ソウスレバ、コノウォッチハアラタ二チカラヲトリモドス。ホントウノオウトシテノチカラヲ、オマエガノゾムチカラヲナ」

 

 

 異形はウォッチをソウマに投げ返す。異形は振り返り、元来た道を引き返す。

 

 

「なぁ、最後に教えてくれ、王ってなんなんだ。それに魔王ってのは……」

 

 

 足を止めるが、振り向かずに質問に異形は先程とは異なる弱々しく答える

 

 

「オウトハ、ハシラデアリ、セカイノチュウテン、モジドオリセカイノシハイシャ……オウノニンシキコソガセカイノスベテトナル。ダガ、セカイノチュウシンハ、アクマデモヒトツシカ、ソンザイシナイ。ソレダケハオボエテオケ……チュウコクダ」

 

 

「それって、どういう……待ってくれ!」

 

 

 彼の制止を聞くことすらなく消えていく。

 

 

 黒と白が混じりあい、彼自身を呑み込むように襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程まで、テレビをみていたソウマの顔面がみるみる蒼白になっていき、顔から生気が失せていく。そんな姿に響はソウマに駆け寄り、彼とテレビの間に立つがそれでも彼の目からは生気が戻ることはない。

 

 

「ソウマ、ソウマ! ソウマ!!」

 

 

 響はソウマの肩を掴み力任せに何度も揺さぶる。揺さぶり続けてようやくソウマは意識を取り戻す。彼の意識が戻り、困惑する。

 

 

「うぇ、ねぇ、響、もう大丈夫だから……」

 

 

 手を掴み彼女の行動を制止する。しかし、止まった反動で脳が揺さぶられ、吐き気を催し、口許を手で押さえる。

 

 

「え、ソウマ、大丈夫!?」

 

 

「三半規管が完全に逝ったこと以外は大丈夫だよ」

 

 

「え、どうして……」

 

 

「こんなに揺らされたら、こうなるよ……」

 

 

「あ、ごめん。でもソウマの様子が急に様子がおかしくなるから……心配で」

 

 

「それは、響のお陰でもう大丈夫だよ。ありがとね」

 

 

 ソウマは席を立ち、シャドウジオウライドウォッチを懐から取り出す。

 

 

(なんで、俺にあんなものを見せたんだ? これは……でもあの異形は一体……答えを出すか……俺は何に迷ってるんだ? わからない、何も)

 

 

「ソ、ソウマ、さっきから変だよ。私が急に来たのは謝るから、休んで……おねがい」

 

 

「……大丈夫だよ。それよりも、さっきテレビからでてきた黒い異形って見た?」

 

 

「? そんなのいなかったよ……ソウマ、疲れてるんだよ。だから休もう、ね」

 

 

「うん……休ませて貰おうかな。なぁ響、別に泊まってくのは全然いいよ。むしろ大歓迎だからさ、好きに寛いでて……後で作ったケーキを一緒に食べよう」

 

 

 それだけ言い残すと彼は寝室に消えていく。響は食卓に戻り、箸を進める。

 

 

「……美味しいなぁソウマの料理は……本当に」

 

 

 食べ終えると、食器を水に漬け、彼の食べ掛けにラップを掛け、冷蔵庫にしまう。ソファーに腰掛け、先程から流れている子供向けの番組を眺めるのであった。

 

 

「ごめんね、ソウマ」

 

 

 口から漏れた言葉は無意識か、それとも一体誰の言葉だったのだろうか、判らず、響は自分の膝を抱え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから2時間の時が流れた。10時を既に時計の短針が周り、長針は、3を指すころ、ソウマは起きてきた。

 

 

「おはよ、響」

 

 

 彼の視界には、テレビを眺めているだけの響がいた。

 

 

「ソウマ、気分は大丈夫?」

 

 

「うん、お陰様で……ねぇちょっとお腹へったからさ、少し早いけど、昼御飯の準備をしちゃおうかな? ねぇ響は何が食べたい?」

 

 

「ごめんね。急に押し掛けて……」

 

 

「気にしないで、別件だからさ」

 

 

「えっと、何があったか聞いてもいい?」

 

 

 首を傾げて、上目使いで彼の服の裾を掴む。

 

 

 彼女の潤んだ瞳にソウマは頬が紅潮するのを実感しながら、裾を掴んだ手を握り、昨日にあったことを語りだす。

 

 

「俺も2課の外部協力者になってさ、その際、弦十郎さんが来て、アスカが拘束されちゃったんだ……それで、何もできなかったことに無駄にショックを受けちゃったって感じで、落ち込んでたんだ」

 

 

「ソウマ……確信は持てばいけど、きっとそれはソウマのせいじゃないよ。だから自分を追い詰めないで……ね!」

 

 

 響は、今まで、彼がここまで弱っている姿を見たことがなかった。アスカという人物に心当たりが一切ないが、彼のこの姿を見れることと、自分を頼ってくれていることに一種の高揚感と自分達と同じくらい気にかけている人物に嫉妬の感情がそれぞれ一対一で渦巻いていた。

 

 

(響にまで心配掛けちゃうなんて……早く立ち直らないと……)

 

 

「響……ありがとう、元気付けてくれて」

 

 

「え……えっと、アハハ……うん」

 

 

 彼の弱りながらも、笑顔で自分に感謝する姿に照れと羞恥に顔から火がでそうなほどに熱くなる。顔を伏せ、目を泳がせて、掴んでいない手を胸元に抱え込み握り締める。

 

 

「えっと、その~何と申しますか~、ねぇソウマ、アスカってどんな人なの?」

 

 

「え、アスカとは面識があったと……あ!」

 

 

 何かに気づいたように視線を上に向け、口が半開きになる。その姿を見ながら響は彼の面識があるという言葉に首を上げ、傾げる。

 

 

「あ~そういえば、あの時は変身してたからなぁ、えっと、あの時、ノイズの集団を外で倒したあとに、バイクに乗った赤いやつとあったでしょ! それがアスカだよ!」

 

 

「うぇ……う~ん、あ! あの時の!」

 

 

(な~んだ、良かったぁ、女の子じゃなかったんだぁ)

 

 

 彼は頬をかき、ちょっと気恥ずかしさが滲みでており、彼女の脳裏にいやな想像が過る。

 

 

(え、女の子じゃないよね! ソウマ……違うよね……)

 

 

「まぁ、一応あれから、1週間近くは同棲してたからね。楽しかったんだけども」

 

 

「え、えっと、一緒にいてどうだったの?」

 

 

 なぜかは理解もせずに、唾を無意識に飲み込む。

 

 

 それに気付かずにソウマは同棲の感想を述べる。

 

 

「まぁ、凄く新鮮だったけど、男二人での同棲だから色気も何もなかったんだけどね」

 

 

「ふぅ、良かった」

 

 

「ん、何が良かったって?」

 

 

「何でもない! 何でもないって! アハハ」

 

 

 勢いで誤魔化してソウマとの話題をすり替えようとする。

 

 

「そうだ、ソウマ! ご飯作ろうよ! もうお腹がへっちゃって!」

 

 

 先程までのしおらしさから一転、何時もの元気な姿に変わる。

 

 

「ふふッ」

 

 

「ソウマ、どうしたの?」

 

 

「いや、やっぱり響は元気な姿が一番だなって」

 

 

「……い、いやぁ誉めてもなにもでないよ~」

 

 

「う~ん、残念! 響にもっと慰めて貰おうかなって思ったのに!」

 

 

「え……えぇぇぇ」

 

 

「な~んあて、冗談だけど」

 

 

「ひ、ひどいよぉ、もう」

 

 

 冗談交じりの会話から、彼は少しだけ真面目な表情に変え、響に向き合う。

 

 

「できればさ、一緒にいるんだしさ、少しは俺にわがままいってほしいなって」

 

 

「え、でも」

 

 

「さっきから、遠慮気味だし。俺は元気な太陽みたいな響が好きなんだけどなぁ」

 

 

「うぇ、う、うん、わかった……ふぅ、じゃあソウマ、さっきいってたケーキを食べよ? そのあと、一緒に映画みたりして、それで、それで……」

 

 

「う、うん。でも、まずお昼ご飯を食べようよ。ケーキや映画はその後でね!」

 

 

 意識を切り替え、完全に振り切り、何時ものテンションに戻る。ここ最近は戻れていなかっただけに、いつも以上の元気満点さに彼は押され気味になり、誤魔化すように食事の準備のために冷蔵庫を覗きにいくのであった。



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第32話 0000/愛情

「う~ん、ねぇ響、一緒に作る?」

 

 

「え?」

 

 

 ソウマからの予想外の問いに驚き、振り返ると、卵とホットケーキミックスを手に持ったソウマがこちらに肩をすくめ、首を傾げた彼の姿がそこにあった。

 

 

「? どうするの一緒に作る? 作らない?」

 

 

「え、でも、私料理苦手だし……きっと迷惑になるよ」

 

 

「いや、大丈夫だよ。誰だって、料理は最初できないものだよ。だから、一緒に練習しようよ」

 

 

「え、え~と、練習?」

 

 

 彼女が不思議そうに顔を傾げるとソウマは悪戯をする子供のような表情を浮かべる。

 

 

「え、どういうことなの?」

 

 

「ん? だって未来が料理できることに少し、憧れてたでしょ」

 

 

「あ……気づいてたんだ、ソウマは……」

 

 

 気恥ずかしそうに顔を逸らす彼女の顔には朱が差し込み、手をモジモジさせ口元をもごつかせている。彼女の姿を見かねて、彼は手の材料を置き、彼女の頭を撫でる。

 

 

「ふぇ! ソウマ、何をしてるの!」

 

 

「うん? だって響は、いつもこうすると落ち着くでしょ」

 

 

「え、え~、そんなこと……でもそんな、そんな……」

 

 

 ぷしゅーと音をたて、顔を真っ赤に染めて完全に思考回路が停止していた。

 

 

「響ッ! 響ッ! ねぇ、響ってば」

 

 

「え……え……え……」

 

 

 オーバーヒートした脳が正常な判断ができなくなり、内心を口から吐露する。

 

 

「あ、あの、ソウマ、私にも、できるかな? 私にも、女の子らしいこと、できるかなぁ」

 

 

「……響」

 

 

「私にも、未来みたいに、女の子らしいことができるようになるかな……」

 

 

 彼は撫でる手から力を抜き、頭に手を当てたまま、彼女に自分の内心を吐露する。

 

 

「響にもさ、女の子らしいところはいっぱいあるじゃん」

 

 

「え、でも、そんな……こと……」

 

 

「……うん、正直、表面上じゃわからないとこばかりだよ。でもね……」

 

 

「え、うん、え……」

 

 

「今、俺の目の前に顔を赤らめている表情は、可愛らしい女の子そのものだよ」

 

 

「ほぇ、え、かわいい? え、え!」

 

 

 しばらくソウマは、思考停止した彼女の表情をずっと眺めていた。

 

 

 しかし、3分をど立っても一切正気に戻らない彼女の前に手を振っても、目を隠しても、一切の反応がなかったので、彼女に少し大きい声で、呼びかける。

 

 

「ところで、そろそろ、戻ってきてよぉ、響ぃ、おーい」

 

 

「え、う、うんごめんね。ソウマ、えっとさっき言ったことって覚えてる?」

 

 

「うん、だって、ついさっきのことだし」

 

 

「う、うぇ、い、いや、さっきのことは、ホントの事じゃ……」

 

 

「響、自分の気持ちに嘘をついてたら、いつか簡単に限界を超えて、大変なことになるよ」

 

 

 手で首の後ろに手を伸ばし、視線を右上に向け、誤魔化そうとする響にソウマは、さっきまでの穏やかな雰囲気から、生真面目な空気を作り出す。

 

 

 その表情はいつもの彼でも滅多に見ない彼の姿に少し、響の体は熱くなる。

 

 

 だが、彼の眼は本当に自分のことを真剣に心配しているものであり、その事実から、口が勝手に言葉を紡ぎだす。

 

 

「えっと、料理を勉強したい……、もっと女の子らしいことができるようになりたい!」

 

 

「うん、その言葉が聞きたかった。じゃぁ一緒に作ろっか」

 

 

「うん!」

 

 

 体の熱が収まるよりも先に、自分の中の願望が勢いよく飛び出した。それは、今までの後ろめたい劣等感とは異なり、憧れに向かおうとする前向きな希望そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 テーブルの上に設置したホットプレートの上に正円に近い、片面が焼け、ひっくり返した後のホットケーキがいくつも焼いていた。

 

 

「ねぇ、ソウマ」

 

 

「うん? どうしたの?」

 

 

「なんで、こんなに焼いてるの?」

 

 

「そんなの決まってるじゃない。ちょっと女子力の高いものを作るためだよぉ~っと」

 

 

 彼は後ろで、ハンドミキサーを使い、白い何かを作っていた。

 

 

 それを響が、見に行くと、それは紛れもないホイップクリームであり、隣には、バニラアイスクリーム、チョコレート、缶詰のフルーツさえあった。

 

 

「え、それって、なにに使うの?」

 

 

「デコレーション用かな」

 

 

 ソウマは、ホイップクリームを混ぜ終わると、ホットプレートのところに行き、焼き加減を確認する。

 

 

「よし! ばっちり! 響、仕上げをしようか」

 

 

「う、うん」

 

 

 彼は、ホットケーキとホットケーキを重ねて、間にクリームと砂糖漬けになっている果物を詰め、頂点にアイスとクリーム、チョコレートで飾り付けていった。

 

 

「よし、完成、あとは、お好みかな」

 

 

「おいしそう……」

 

 

「ねぇ響、今クリームは俺のほうで作ったけど、クリームだって、ホットケーキの生地と同じで混ぜるだけなんだよ。まぁ極端ではあるけどね」

 

 

「う、うん。それがどうしたの?」

 

 

「つまりさ、料理を普通に作れるようになりたいって程度だったらさ、結局やることを積み上げていくだけなんだよ。まぁこれはどんなことも一緒だけどさ」

 

 

「結局は、どう纏めて一つのものにするかなんだよ。本質はね」

 

 

 ソウマの少し得意げな表情に響は首を傾げていた。しかし、はっと気づいたように目を瞬きさせる。

 

 

「つまり、料理をすることを積み重ねていけば、より、効率的にいろいろ作れるようになるってこと、好きこそものの上手なれっていうけどさ、どんなことでも繰り返せば、案外、前には進んでるものだよ」

 

 

 いつものアルカイックスマイルではなく、歯を出すように笑いながら、自分の心の中の不安を取り除くそうに彼は響に微笑みかける。

 

 

「私も、頑張っていけば、未来みたいになれるかな」

 

 

 言葉は同じであったとしても、彼女の口から流れた言葉は先ほどと違い、前を向き、自分の理想に向かって進む勇気を持った言葉であった。

 

 

 そんな彼女の姿に彼は、人間らしい感情を前面に出しながら、彼女を応援する。

 

 

「もちろん!」

 

 

 どうにもむず痒さから、彼女の満面の笑みから少しだけ、目をそらすソウマであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 湖畔に隣接する大きい屋敷の中で、フィーネは彼女、雪音クリスを呼び出していた。

 

 

 彼女が大広間の机に座っていると、目から生気が失われているクリスが現れた。

 

 

「なんだよ、フィーネ。また、なにか始めるのか」

 

 

 言葉に対し、いつもの勢いはなく、憔悴しているものであった。

 

 

「えぇ、デュランダルの確保と、融合症例の確保よ」

 

 

 しかし、フィーネは気にする素振りを見せることなく彼女に指示と、詳細の予定を話していく

 

 

「わかった。準備しておくよ、フィーネ」

 

 

 クリスは、ゆったりとした足取りで、大広間を出ていく。

 

 

「本当に、大丈夫かしらクリス……なにもなければいいけれど」

 

 

 ここ1週間彼女の憔悴していき、生気がなくなっていく目を前に、フィーネは口から普段口にすることのない彼女への心配の声を口にする。

 

 

 その言葉は無自覚にしかし、確かにフィーネの心の内から吐露されたものであった。

 

 

「これで、あともう少し、あともう少しで、貴方に会えますね」

 

 

 窓の外の空を眺め、青く澄んだ空の色に自分が愛した神の姿を重ねるのであった。

 

 

 

 

 

 部屋を出たクリスは生気を失った目に暗い光を灯す。

 

 

「あぁ、今度こそ、融合症例を捕まえてやる……!」

 

 

 その言葉は決して自身の失態を取り返そうとする感情ではなく、黒い嫉妬の感情が強く含まれているものであった。

 

 

 



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第33話 0000/似た者同士

あけましておめでとうございます!
遅筆ではありますが、今年1年、頑張りますので、これからもよろしくお願いします。


 休日が終わり、1週間、響がいない生活を未来は過ごしていた。

 響と一緒にいないと、あまり慣れていない生活の中で、友人たちが励ましてくれるが、いつもそばにいた人がいなくなると心にぽっかりと穴が開いていた。

 自分の中で響が占めるウェイトがとても大きいものであったことを自覚してしまう程に、この期間は自分の心情を顧みざるを得ない時間であった。

「…やっぱりどう切り出せばいいんだろう」

 響との間にあった口論とすら言えるかどうかわからない短い言い争いをどう互いへの不満と怒りを収めて仲を修復できるかどうか、この1週間の間、考え続けていたが一切打開策を得るに足らずにいた。

 自身の心情が行動に現れるというように視線が下を向き、前があまり見えてないからこそ、彼女の正面の人物に気づくのが遅れたのは、必然であった。

 彼女は、視線を下に向けていたため、前から歩いてきた人と肩とぶつかってしまった。

「ッ‼、すみません。前を…え…」

「あ、み、未来…」

 ぶつかった相手は今一番合いたくない相手、立花響がそこにいた。

「…」 

 文字通り怯えた表情の響に自分の言葉がどれだけ彼女を傷つけ、自分のことを怯えさせるほどに恐怖を抱かせてしまったことに心理的な衝撃を大きくうけ、未来は一歩後ろに後ずさった。

「…あ、えっと、響ッ…、あのね、あの時はッ」

「…」

 響は、未来の言葉を待つ前に、踵を返しもと来た道を走り去っていく。

「あ、待って、響…」

 彼女は手を伸ばすが、彼女の背中が遠のいていくことに目の前が真っ暗に染まるような気持ちになり、俯く。

「やっぱり、私の事を許してくれないよね。本当に都合がいいことしか考えられないんだな。私…」

 自分の浅ましさと、醜さに辟易し、教室に向かっていった。

 

 

 

 一日が過ぎ、夕方になっても、未来は響と話すことができないでいた。食堂、教室等の状況であっていてもそれは一切状況は変わらずにいた。

 自分を攻め続けている未来の姿に周りのクラスメイトは声をかけることすらできずにいた。しかし、

「小日向さん、大丈夫ですか」

 クラスメイトの一人寺島詩織は、彼女に声をかけていた。

「あ、うん、ちょっと。ケンカしちゃって」

「なにが原因だったんですか?」

 少しだけ、物怖じしながらも、彼女に原因を聞くが未来は、少しだけ、躊躇して自分の唇を噛む。

「…私が響に対して、不満をこぼしちゃったんだ。だから、全部私が悪いんだよ」

 詩織が話を聞いている間に、彼女の友人である安藤創世と板場弓美も近づいてきており、未来の話を聞いていた。

「でも、一緒に暮らしていれば、不満の一つや二つ出てくるものですよ、だから、きっと立花さんも―――」

「そんなことない‼ だって、私が零した不満は、本当に響のことも考えないで、出したものなのに、それで、響だって、言いたくないことを言わせて、自分は呑気に立ち直った気になって、本当にどうしようもないよ…本当に…」

 そんな自己嫌悪の姿に、創世が詩織との会話に割り込んできた。

「割り込んじゃうけど、不満て結局、自分勝手なことなんじゃないの?だってそうじゃなきゃ、溜まったりしないって!」

「え、…それってどういう」

「だってさ、不満って結局、自分がどうしても気に食わないことを溜め込んで、溜め込んでそれで、相手にぶつけちゃうものでしょ。だったら、それは自分勝手なことじゃない?不満を相手にぶつけるってことは」

「うん…」

「それに、ケンカして友情が深まるのはアニメの定番なんだから、大丈夫!きっと仲直りできるって‼」

「いや、こんな時にもアニメって、本当に…」

「別にいいじゃん、アニメを参考にしても」

 弓美が創世に続き、未来を激励する。三人がいつもの漫才じみた掛け合いをしているが、未来の耳には届かず、彼女の頭は、先ほどの言葉を反芻していた。

 いきなり、立ち上がり、三人に相対するように、向き合うと、彼女たちに感謝を述べた。

「ありがとう。みんな、もう少し、頑張ってみる」

 そう言い残すと、彼女は走って、教室を出ていった。

「アハハ、ビッキーとヒナってこんな勢いがいいところってそっくりなんだね」

 創世の呆然とした言葉が教室に木霊するのであった。

 

 

 逃げていた響は、ソウマの部屋のソファの上で足を抱えて、膝に自分の顔を隠していたのであった。

「…未来」

 響の心には未来から逃げた自分への自己嫌悪が支配していいた。

(未来は、謝ろうと、仲直りしようとしてくれてた。私も、未来と仲直りしたい…でも)

 なぜかわからない恐怖が自分に襲い掛かる。否、自分の中に既に答えは出ていた。

(…私が、怖いのは未来と仲直りできない事よりも、未来から何か言われるのが、きっと怖いんだ)

 彼女が自分を罵倒することが、彼女との決別以上に自分が恐れていたことの正体であった。

 しかし、それでも、自分がどうしようもないほど彼女と離れることが、想像できない自分もいた。

「…」

 頭によぎる都合のいい妄想、互いに謝ってもとの関係に戻ること、自分と彼女の間に何のわだかまりが残ることなく、あの陽だまりがのこると考えてしまっていた。

 そんなことない、と自分でも理解していた。しかし、それでも、都合の良い妄想を信じていたい欲望が自分の中を支配していき、また、自己嫌悪で自分を追い込んでいく。

「…、…、」

 自覚しないなか、目から涙がとめどなく流れ続ける。どうすればいいのか理解できずにただ、目元を腕に抑え続けていた。

 ガチャ、っと鍵が開く音が聞こえてきた。

「ただいま~」

 ソウマの少し気の抜けた声が聞こえる。気が付くと響の体は勝手に動き、彼の胸元に飛び込む。

「う、うわぁ…いてて、どうしたの響―――」

 彼女の泣いている姿に、ソウマは優しく彼女の体を抱きしめる。

 しばらく、泣き止むまで彼は彼女を優しく、抱き留め、彼女の頭を撫で続ける。泣き続ける赤子をあやすようにし続けるのであった。

「…ごめん。ソウマ、いきなり抱き着いて」

 彼女は頭をソウマの胸板に押し付けているため、彼女の表情を伺うことができずにいたが、彼女が何か思い悩んでいるのはソウマでさえ、理解することができた。

「ねぇ、響、つらいかもしれないけど、話してみて…ゆっくりでいいから、ね?」

 彼の言葉に答えるように、口が意識を無視し、すらすらと、今日あったこと、自分が今悩んでいることを語り始めた。

 ソウマは、彼女の告解を静かに聞いていた。その彼の眼には、一切の嫌悪も怒りもなく、ただただ、彼女を見守っていた。

「ねぇ、響は、未来と仲直りしたいんだよね」

「うん、未来ともう一度、友達に、戻りたい‼」

 ソウマは彼女のその声に答えるように、彼女を自分の体から、遠ざけて、椅子に座らせると、ポケットから、ファイズフォンXを取り出すと、電話状態に変えて、とある人物に連絡をとったのだった。

 



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第34話 0000/咲き誇る花

 20時を過ぎ、世間が平穏な家族団欒を送っている平日の夜、響とソウマは、部屋でそれぞれ、飲み物を飲んでいた。

 

 

「ねぇ、ソウマ。なんで、この時間に来客がくるってどういうこと?」

 

 

「うん? それは、お楽しみかな。ただ、少し、覚悟を決めておいたほうがいいとは思うよ」

 

 

「え……」

 

 

 彼の言葉の不穏さに少しだけ感じながらも、目の前のグラスに意識を向けなおす。

 

 

 グラスの水面を眺めていると、未来から逃げ出した光景が映し出されているような錯覚に陥る。

 

 

「ッ‼」

 

 

 目線をグラスから逸らすと、チャイムの音が聞こえる。

 

 

 ソウマが、玄関まで、行き、扉を開けると、そこには響の想像から無意識に外していた人物がそこにいた。

 

 

「ごめんね、こんな時間に呼び出して」

 

 

「ホントだよ。ソウマ、こんな時間に呼び出して、何かあったの?」

 

 

 聞きなれた女性の声が耳に入ってきた。

 

 

「……」

 

 

 未来の声が聞こえた瞬間、はっと、玄関側に視線を向けるとそこにソウマと会話する未来の姿に血の気が引き、恐怖から体が強張る。

 

 

「あぁ、未来、ごめん。ようやく落ち着いたからね……」

 

 

「? ……え、ひ、響ッ‼」

 

 

「未来……」

 

 

 未来が部屋の中に視線を向けると、こちらを見て固まっている響に気が付く。

 

 

 二人が顔を向かい合わせるが揃って、ソウマに向き合う

 

 

「「ねぇ、ソウマ、どういうことなの‼」」

 

 

「わぉ、息ピッタリ‼」

 

 

「何やってるのよ? 相変わらずの喧騒さね」

 

 

 未来の後ろから、聞きなれた、響にとっては、あまり思い出したくもない声に目を見開く。

 

 

「な、七実さん‼」

 

 

「あら、どうしたの愛弟子?」

 

 

「い、いやぁ~どうしたかっていうと、その~あまり気にしないでいただけるとうれしいかなぁ~と」

 

 

「フフッ、まぁいいわ、気にしないようにしましょう」

 

 

 七実の到来に、先ほどの喧騒とは、異なる喧騒に変わる。しかし、一度、会話が切れると、また、冷たく張り詰めた空気に戻る。

 

 

「まぁ、未来と響をここで合わせたのは、ど話し合えるようにするために場を設ける必要があったからかな」

 

 

「「え」」

 

 

「では、七実さん、俺たちは、この近くのファミレスにでも移動しようかな?」

 

 

「それだったら、響は逃げ出すでしょうが」

 

 

「え、あ、そうか、完全に失念してたよ」

 

 

「はぁ、まぁ私がここを見ておくから、あなたは席を外しなさい」

 

 

「え、どうして?」

 

 

「この朴念仁‼、あなたがいると話が進まないからよ、いいからファミレスで1時間、時間をつぶしてきなさい」

 

 

「う、うんわかったよ。じゃぁ、あとお願い」

 

 

 七実の勢いと怒りの表情に気圧され、ソウマは急いで、玄関を出ていった。

 

 

 

 

 

「さてと、当の本人は今、外に行ったから、話し合いを始めなさい」

 

 

 そう言いながら、冷蔵庫の中にある、麦茶とケーキを取り出し、食器棚から食器を取り出す。

 

 

「えっと、そう催促されると、話しづらいというか……」

 

 

「いいから、始めなさい」

 

 

 七実は言い切るとソウマが用意したケーキを食べることに集中し始めた。

 

 

「「……」」

 

 

 七実の食事の音以外に音がないと感じるほどに静寂となった。

 

 

「響……ッ……ごめんなさい!」

 

 

 未来は恐怖を噛み殺し、口から謝罪の言葉を告げた。

 

 

 頭を下げ、必死に、涙を堪えながら、唇を噛む。

 

 

 彼女の言葉に響は目を丸くして、口が半開きになっていた。

 

 

「え、えっと、み、未来────」

 

 

「あの時、あんな酷いこと言って、本当にごめんなさい……」

 

 

 響の言葉を遮った自覚さえ起きないままにさらに言葉を重ねる。

 

 

「……」

 

 

 しばらくの間、返答がないことに耐えられなくなった未来が、恐る恐る顔を上げる。

 

 

 未来の眼には先ほどの放心から、一切の回復を見せていない響の姿が飛び込んできた。

 

 

「ひ、響?」

 

 

「え⁉、み、未来、ご、ごめん、ちょっと……なんていうか、びっくりして」

 

 

「びっくりって、どうして……」

 

 

「それは、その~」

 

 

「「……」」

 

 

 またも、静かな時が流れるが先ほどと異なる生ぬるい空気が二人の間に漂う。目線が交差する。

 

 

「「……ぷっ、あはははは」」

 

 

 互いの気まずさから、笑いが二人の口から噴き出す。

 

 

 自分の中にあった恐怖も笑いとともに消え去っていった。

 

 

「あはは、ごめんね未来、私も、未来のこと、信頼できなかった」

 

 

「……」

 

 

「私は、自分の中にある劣等感に勝てなかった」

 

 

「響、それは私も──―」

 

 

「違うよ、違うんだよ、未来……結局、私が未来のことを信じ切れていなかったんだよ」

 

 

「響……私もね、貴方への嫉妬心に負けて、貴方を傷つけた。ごめんなさい」

 

 

 二人の間にあった冷たく張り詰めたものが、ゆっくり、ゆっくりと二人の涙によって溶け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣きはらした目をした二人の姿をぼんやりとしながら見てz七実は、麦茶を傾け、のどを潤す。

 

 

 グラスを置き、時計を見る。先ほどソウマが出てから、1時間が経とうとしていた。

 

 

「そろそろ、時間よ、どうする?」

 

 

「え、どうするって?」

 

 

「そんなの決まってるじゃない。あの朴念仁をこのまま放っておいていいの?」

 

 

「え~と、まぁ」

 

 

「……」

 

 

 響は七実の問いに頷くが、未来は神妙な顔をする。

 

 

「ねぇ、響、ソウマに一泡吹かせよっか‼」

 

 

「えぇ~~⁉」

 

 

 素っ頓狂な声をあげる。それでも、未来と七実は涼しい顔をしていた。

 

 

「だから────」

 

 

「え、そ、そんなことって、でも、未来は嫌じゃないの?」

 

 

「それこそ、響は嫌じゃない?」

 

 

「そんなことないよ。私は、ぜんぜん」

 

 

「じゃぁ、やっちゃおう」

 

 

「うん‼」

 

 

 二人の表情が悪戯を前にした子供の様なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ少し肌寒い空気がソウマの体を包み込む。階段を上りながら、響に言われていた。喧嘩の理由が自分にあるということが、今になって、頭を過った。

 

 

「う~ん、俺が理由か……それってどういうことなんだろう」

 

 

 自分の中に感情と欲望が渦巻いている。

 

 

 何ひとつ自分の中に渦巻くものの正体を理解できないまま、ただただ、歩を進めていく。

 

 

 気が付くと、目の前には自分の部屋がそこにあった。

 

 

「結局、何が何だかさっぱりだなぁ」

 

 

 扉を開けると中から、賑やかな女性の声がいくつも聞こえてくる。

 

 

(まさに、姦しいっていうのはこうなのかな)

 

 

 完全にを扉を開けると、3人がこちらに視線を向ける。

 

 

「おかえり、ソウマ、ごめんね。1時間も外にでてもらっちゃって」

 

 

「ホントにごめんねソウマ」

 

 

「いや、気にしないで」

 

 

 響と未来がソウマに謝ってくるが、七実は面白そうにいつもと異なり、目まで笑っている。

 

 

 彼女の不自然さに少しだけ、気にかかるが、二人に視線を戻す。

 

 

「そうだ‼ケーキで──―」

 

 

「この時間は甘いものを控えてるの‼」

 

 

「え~未来いいじゃん!」

 

 

「だ~め、響もそういうこと少しは気にしないと」

 

 

 二人の姿に少し、笑うと二人がこちらに向き直り、覚悟を決めたように表情を引き締める。

 

 

「ねぇ、ソウマ」

 

 

「は、はい‼」

 

 

 その、雰囲気に呑まれるように、自分の表情も硬くなる。

 

 

 しばらく、無言が続く。

 

 

 二人は見合わせ、深く息を吸い込むと、口が同時に開かれる。

 

 

「「ソウマ、私たちと付き合ってください‼」」

 

 

 いきなりの告白にびっくりするが、その言葉に引っかかる。

 

 

「え、達ってどういうこと?」

 

 

「そのままの意味よ、魔王」

 

 

 今まで、静かにしていた七実が茶々を入れる。

 

 

 二人の不安がる表情から、自分の中の感情と欲望が自分の中で形になっていく。

 

 

 彼は目を深くつぶり、軽く下を向く。

 

 

「二人は、それでいいの?」

 

 

「うん、私たちは納得してる」

 

 

「うん」

 

 

「そうか……」

 

 

 しばらくしてソウマは、顔を上げる。

 

 

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 二人の不安の表情から2輪の花が咲き誇っていた。



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第35話 0000/開戦

 2課の休憩所に、弦十郎と彼に惚気話を披露している響がいた。

 

 

 基礎的な身体能力と技術を確保した響の以降の修行を七実は弦十郎に依頼していた。それ以降、ここで修行の日々を過ごしていた。

 

 

「それがですね、師匠、彼が私にこのネックレスを買ってくれたんですよ~」

 

 

「あ、あぁ、それは良かったじゃないか……(その話はもう3回目なのだが……)」

 

 

 先程まで、修行を行っていたのだが、現時点では、弦十郎の手に余る現状に陥っていた。

 

 

 やはり、恋をし、成就させた少女の熱量にさ然しもの人類最強に近い男であっても押し負けてしまう状況であった。

 

 

 ハイヒールの足音が聞こえてくる。二人の鼻腔にコーヒーの独特な香りが届く。

 

 

「また、その話をしているの……」

 

 

 友里あおいは二人にコーヒを持ってきたを手渡した。

 

 

 あおい自身も弦十郎と共にコーヒーを口に運ぶも、口の中が甘く感じてしまっていた。

 

 

 頬を完全に緩ませている彼女の表情に大人二人は苦笑いを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程、2課から呼び出されて、何か、会議のようなものにソウマ、アスカ、響、奏は参加させられた。

 

 

 彼らは食堂に揃って、今回の会議の内容について話し合っていた。

 

 

「デュランダルか……なんでこんな面倒事が起きてるのかなぁ」

 

 

「あぁ? 、そんなのノイズを使って攻めてきている敵の目的がデュランダルだからだろうが」

 

 

「でも、それに合わせて響を目的にしている側面とどうにも一致しないんだよね」

 

 

「どう言うことだ?」

 

 

「それは簡単だよ。敵の目的が、まず1つ完全聖遺物、デュランダルと融合症例である響の確保っていう2つの側面への共通点が聖遺物っていうだけで、それ以外がなぁ」

 

 

「?」

 

 

 3人の会話についていけずに目が点になる響を傍目に3人の会話が加速する。

 

 

「というか、なんでデュランダルの移送の指示なんて出したんだろう?」

 

 

「ここより安全なところに保管するためじゃないの?」

 

 

「ねぇ響、大事なものを閉まっているとして、それを別の場所に移すことをこんな大規模でやったら移動させることがリスクにならない?」

 

 

「お前は、今回、敵は確実に攻めて来ると考えているんだな」

 

 

 アスカの発言に奏は飲んでいた飲み物を喉に詰まらせ咳き込む。

 

 

「なんで確実に攻めてくるって断言できるんだよ」

 

 

「それは簡単だよ。響と聖遺物の2つも手にできる。もしくは片方が手にできる。これを逃すほど敵は馬鹿じゃないよ。きっとね」

 

 

「でも、それは……」

 

 

「それは情報が筒抜けと待っている場合だ。つまり、敵の手が政府側にいる可能性ということだ」

 

 

 アスカが詰まっていた奏の言葉に追従する。

 

 

 情報が敵の手に有ることを確実というようなソウマの答えに納得がいっていない奏は飲み物を一気に飲み干す。

 

 

「でも、ソウマ。どうしてその確信があるの?」

 

 

「あの夜に響を確実に目的として敵が行動していたこと、また、響の聖遺物の融合に関することを知っていた。つまり、極秘情報のさらにその研究中の情報に関することを知っていることは明確に敵に流れている証拠になるからね」

 

 

「……」

 

 

 ソウマの語った響に関する最新の情報が漏れている事実が奏を閉口させるには十分すぎるほどの内容であった。

 

 

 4人の中で空気が完全に凍りついた。

 

 

 これからの起こるであろう襲撃に4人は嫌な想像をしてしまうものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輸送中の了子の車の中で、響はサイドミラーから、護衛についてくるソウマへと視線を向けていた。

 

 

「あらぁ、お熱いわねぇ~彼と付き合ってるんでしょ。まさか、未来の魔王さまの恋人なんて、未来の王妃様。いいわねぇ」

 

 

「良くねぇよ! 魔王はアスカの家族や仲間を殺した奴なんだろうが!」

 

 

 了子のからかいの言葉に後部座席にいる奏が噛みつく。奏の言葉に響は顔を俯かせる。

 

 

「でも、まだ決まってないでしょ。そうなるっていうのは。アスカくんだって、信じているでしょう」

 

 

「……」

 

 

「それに、私もわかるのよ、本当に身を焦がす恋っていうものを」

 

 

「了子さんも誰か好きな人がいるんですか?」

 

 

「えぇ、でも、ずっと会えていないの」

 

 

「……そうなんですか」

 

 

 響は聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い、視線を彼女から反らした。

 

 

 突如、爆発音が聞こえる。それは、響と奏にとって、2課の中に裏切りものがいることについて確信となった瞬間であった。

 

 

「飛ばすわよぉ!」

 

 

 了子の声に合わせて車が加速する。爆発音に合わせて回りに起きる被害が大きくなっていくなか、それを振りきるように加速していく。

 

 

 すると、目の前にノイズの一段が現れる。自分達の進路を塞ぐように統制のとられた講堂に後部座席にいた奏はギアを纏った。

 

 

「了子さん! 目の前の集団は私が倒す。だから、その隙に行ってくれ! 響!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「頼んだぞ!」

 

 

「え……」

 

 

「え、ちょっと待ちなさい!? 今、走行中で──」

 

 

 制止を聞かず、奏はドアを開けて外に飛び出す。彼女は槍を使い、減速し、無事に着地する。

 

 

 彼女は槍に力を込めて、エネルギーで形成された槍をノイズに向かって投射する。

 

 

【STARDUST∞FOTON】

 

 

 敵を穿ち、道が作られる。そこに了子の車がすかさず入り込みノイズの集団を抜けきった。

 

 

 残ったノイズは了子の車を追うことなく奏へと迫ってくる。

 

 

「やっぱりこいつらは私を押し止める陽動か」

 

 

 槍を構え直し、迎撃の体制をとると、ピンクと黄色の光弾が横をすり抜け、ノイズを撃ち抜く。

 

 

 すると、ソウマとアスカはバイクに乗り、バイクにエネルギーを纏わせ、迫りくるノイズをすべて轢き倒していった。

 

 

「大丈夫か!」

 

 

「アスカ……、ここは任せて行け! 恐らくあの女が響のところに向かってる」

 

 

「そうもいってられないかな?」

 

 

 ソウマの言葉通り、ノイズが大量に現れ、自分達を囲んでいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響は車に揺られながら、後ろに視線を向けて、胸元で拳を握っていた。

 

 

(任せるか……よし)

 

 

 横の了子の表情に目を向ける。必死の表情でこの状況を振り切ろうとしており、それを見た響の目に決意の光が灯る。

 

 

 街中を走り抜けていくが、追手の追撃は止まらない。

 

 

 弦十郎の指示で薬品工場に差しかかるタイミングでノイズがマンホールから攻撃を行ってくる。

 

 

 しかし、護衛車両の爆発に伴う破片に車は足を取られて横転する。

 

 

「く、くぅ……了子さん、大丈夫ですか!」

 

 

「えぇ」

 

 

 デュランダルの入ったケースを持ち出そうとするが、あまりの重さに口から文句が漏れる

 

 

「了子さん。これ、重いです」

 

 

「じゃぁこれを置いて私たちは逃げちゃいましょうか」

 

 

「そんなわけにいかないじゃないですか!」

 

 

 二人の口論しながら走るが、ノイズによる攻撃で先程まで乗っていた車が爆発し、響は吹き飛ばされる。

 

 

 そんな響にノイズが迫ってくる。しかし

 

 

「仕方ないわねぇ!」

 

 

 響が目線をノイズに向けるとノイズを不思議な力で押し止める桜井了子の姿が目に飛び込んできたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第36話 0000/解放

 響にとって、目の前の光景を受け入れられずにいた。

 

 

 了子のノイズを食い止める姿に対して、彼女は行動できずにいた。

 

 

(なにこれ……でも、これ、どこかで……)

 

 

「しょうがないわね。貴方の思うようにやりなさい‼」

 

 

 その言葉に、どこかデジャブを感じるが響は、立ち上がる。

 

 

「……私、()()()()‼」

 

 

 戦う意思のみを示し、響は歌う。しかし、いつものガングニールとは異なり、装備と装飾が変化する。

 

 

 各所の装備が変化し、より格闘に特化したものへと変化する。ハイヒール型から、シューズ型に変化を遂げると、彼女の首に七海と同じ、マフラーが形成されて自分の手で首に巻く。

 

 

 巻いたマフラーで口元を隠す。

 

 

「……ッ‼」

 

 

 自分の中の疑念と不満を晴らすように、心の中の負の感情をすべてを歌に変えて、彼女は走り出す。

 

 

 拳を使い、目の前のノイズに殴りつける。

 

 

 衝撃が広がり、後ろのノイズを3体ほどまとめて倒す。

 

 

 振り返る勢いを利用し、回し蹴りで自分に飛んでくるノイズを処理する。

 

 

 中華拳法のように、構えるも踏み込み等の行動を最小限の動きで行い、相手の懐に潜り込む形で自慢の力と身のこなしで、ノイズ相手に今までの場当たり的な立ち回りと異なり、安全に立ち回る。

 

 

「アイツさえ、捕まえれば、あたしは……」

 

 

 柱の上に立つクリスは、響に対して、強い敵意を向ける。

 

 

 勢いに任せ、手に持つ鞭を使い、響の死角から攻撃を当てる。

 

 

 背中から受けた攻撃に響は吹き飛ばされ、地面に転がる。

 

 

「……カハッ‼」

 

 

「おい‼背中がガラ空きだぞ。お調子者‼」

 

 

 吹き飛んだ響に対し、間髪入れずにクリスは飛び蹴りを放つ。

 

 

 しかし、響もタダでやられる筈もなく、転がり、直撃を避け、腕と背筋の力を利用し、飛び起きクリスの腹部に蹴り込む。

 

 

 クリスも体を捻じり、相手の攻撃を腕と鞭を使い、直撃を防ぐ。

 

 

「ッ‼あなたは……」

 

 

「グゥ……ッ! このッ!」

 

 

 力を逃がしきれず後ろに飛ばされるクリス。しかし、ただ飛ばされるだけではなく、飛ばされた勢いで鞭を使い刺突攻撃を繰り出す。がしかし────

 

 

(体を跳ね上げて最小限で攻撃を躱しやがった……でも、コイツの戦い方じゃない!)

 

 

 クリスの認識では、響の攻撃では、もっと大きく踏み込んだり、大げさに動くはずであった。

 

 

 この動きと似た動きが脳裏に浮かぶ。あの時の夜に自分と戦った灰色の異形の動きが過る。

 

 

 最低限の動きとそれに併せた一撃ずつ相手のダメージを重ねていく戦い方、それこそが、今の響の基礎となる動き方であった。

 

 

(なんで、なんでアイツの戦い方が、アイツと同じなんだよ! どうしてアイツがァ)

 

 

 心の奥底より、クリスは自身にとって不可解な怒りに身を焼かれていた。

 

 

 だが、その怒りは無意識にクリス自身の思考回路を飲み込んでいく

 

 

「どうして……どうして……どうしてお前が……アイツの技を使うなァァァ」

 

 

「え! きゃあ」

 

 

 相手の動きが激しくなり、その暴風のような怒りに任せながらも精細に響の最小限に行動する幅を想定し、確実に手を潰していく。

 

 

 七実の戦法を真似ていく過程に出来上がっていった今の動きであったが、クリスにとっては、灰色の異形が得意とするものであり、それを響が真似ていると思い違いをしていた。

 

 

 二人の肉薄していく戦いに、了子は呆然としていた。

 

 

(なに、なんで、こんなに早く、あの子達がこんなに強くなって……)

 

 

 了子の知るクリスと響の技量の何倍も上回るものとなっており、クリスに至っては、完全に自分のことを意識の外に追いやっている現状であった。

 

 

「……ッ! これは……まさか」

 

 

 デュランダルの入っていたケースが震え出す。ロックが自動で解除され、そのケースが内側からの高エネルギーに焼かれていた。

 

 

「きゃぁぁ……」

 

 

 響の悲鳴で、二人の戦闘に意識を向け直すと、クリスが尻餅をついた響に止めを刺そうと攻撃しようとしていた。

 

 

(ごめんね……未来……ソウマ……)

 

 

 諦めから目をつむり、謝罪を浮かべるが、自分に一切の攻撃は襲ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

「ごめんね、響、待たせちゃったかな?」

 

 

 今一番聞きたかった声が自分の近くに聞こえる。

 

 

 響はその声に意識をを傾けるように目を少しずつ開けるとそこには、クリスの鞭を手でつかんでいるシャドウジオウ──榊ソウマの姿がそこにはあった。

 

 

「ァァ……ァ、アァ……」

 

 

 クリスは信じられないものをみてしまったような、認めたくない光景が目に前に広がっていたのであった。

 

 

「さてと、よくも響を……ここまでやってくれたね」

 

 

「どうしてお前が……ここに」

 

 

「うん? あぁ、それはこれだよ」

 

 

 ソウマはオレンジと白のウォッチを取り出した。

 

 

「フォーゼの力でここまで飛んできたってわけさ」

 

 

「あ、あ、あァァァ」

 

 

 自身が対峙する相手に対し、敵対している現状に対して、絶望感と焦りが高まっていき、恐怖のあまり、持っているソロモンの杖を使用しノイズを彼との壁として呼び出す。

 

 

「……フッ!」

 

 

 しかし、シャドウジオウは掛け声と共に紫電を纏いだす。

 

 

 少しずつ、だが確実に力が解放されていく。

 

 

「うぉぉぉぉぉ」

 

 

 彼の体の奥底から、力が湧き出すかのように紫電が強くなっていくと彼のウォッチに皹が入っていく。

 

 

 彼の脳裏に響と未来の姿が映る。更に、ぼやけながらもあと5人の姿が浮かび上がる。

 

 

「俺は戦う。みんなのために……俺自身が守りたい人たちの笑顔と幸せを守るために! そのためなら、なにとだって戦ってみせる!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()との会話でやっと自覚した思いを口にすると更に装甲にまで皹が入り、広がる。

 

 

「うぉぉぉぉぉ! ……ハァッ!!」

 

 

 彼の掛け声とともにウォッチの外装が弾け、本当のシャドウジオウのウォッチとしての黒いものに姿変える。

 

 

 それに併せる形で、装甲の皹からエネルギーが広がり、より黒が濃くなった灰色の装甲が形成されていく。

 

 

【シャドウタイム!! 仮面ライダージオウ・シャドウ!!】

 

 そのウォッチから発せられた機械音声が戦場の喧騒さをはね除けるように響き渡るのであった。

 

 

 



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第37話 0000/問答

 少し時は遡る。

 

 

 ソウマ、アスカ、奏の前に、先ほどまで護衛していた車両を追いかけるのを阻止するようにノイズが壁のように集まり道を塞いでいた。

 

 

「まぁ、狙い通りといえば、そうなんだけど思っている以上に敵が多くないかな?」

 

 

「そうだな……これだけのノイズをこちらに配置すれば全体的な戦力バランスはこちらに集中させることに成功できている。ここで引き止めれば、向こうの戦闘も大分楽になるな」

 

 

「お前は響のことが心配じゃないのかよ……こんな作戦を考えて、しかも本人には一切知らせずに‼」

 

 

「言っておくけど策に乗っている時点で君も同罪だよ」

 

 

「ッ‼」

 

 

 彼の言葉に奏は怒りの感情を露わにして睨みつける。

 

 

「よせ、今はそんなことを言っている場合じゃない」

 

 

「あぁわかってるよ‼……そんなことはッ」

 

 

「文字通り、四面楚歌か……でもまぁ聞こえてくる音はただの耳障りな雑音だけみたいだけどね」

 

 

 三人の意識が周りのノイズに向いた瞬間、見計らったかのようにその周りからの総攻撃を受ける。3人は、それぞれの距離を生かし、それぞれ攻撃に対して、迎撃を行い、確実に相手を塵に返していく。

 

 

 3人の目前に迫る矢とも見間違うノイズの攻勢に先ほどまで余裕が少しずつ失せていく。

 

 

「……ッ‼」

 

 

【ゴースト‼】

 

 

【アーマータイム‼カイガン! ゴースト!】

 

 

 ゴーストアーマーと16のゴーストパーカーが意思を持つように目の前の敵に立ち向かっていく。オレンジと黒のゴーストパーカーが姿を変えて、ソウマのもと飛び込むように装甲を、一つの姿へと形成していく。

 

 

 ゴーストアーマーに姿を変えシャドウジオウが身に纏いその力を身に宿した。

 

 

 15の英雄がノイズの進行を食い止めるように四方に散らばる。

 

 

「な、なんなんだこれ‼」

 

 

「……」

 

 

(俺が使った時よりも、前回あいつが使った時よりも、強い力を引き出しているのか……)

 

 

「なるほどな……、これが魔王の力か‼」

 

 

 彼の力を前に、驚くことしかできないでいる奏と未来の姿に近づいていく彼に恐れに似た何かを感じていた。

 

 

「アスカ‼、これを‼」

 

 

 ソウマは彼にクウガウォッチを投げ渡す。

 

 

 アスカは、そのウォッチを受け取った。その時、何か強い鼓動のようなものをそれから感じていた。

 

 

「なんだ……ゴーストウォッチとは違う……これは……」

 

 

「それは、始まりの力だ……平成ライダーのね」

 

 

「ッ‼」

 

 

 後ろから聞こえる声に対して振り返る。

 

 

 そこには、暫く姿を現していなかった。イデアの姿がそこにいた。

 

 

「始まりの力だと……」

 

 

「あぁ、それは文字通り、始まりの力だ、すでに彼がウォッチを目覚めさせている。ゴーストウォッチは力は君を認めている。しかし、そのウォッチはまだ君に力を託すかどうか考えている」

 

 

「認めていない……か」

 

 

「違うよ、彼は、自分以外を戦いに駆り立てることを望んでいないということだ」

 

 

 彼の耳には、周りの炎と、その奏とソウマの声が響いている。

 

 

「……クウガはソウマを認めているのか?」

 

 

「判らない。彼らの真意は神である我々ですら理解することは一切不可能だ。しかし、彼らはソウマに力を貸している。それを私たちは……俺は利用している。自分でも思うさ、愚行だと……」

 

 

 イデアは戦火に目を向け、睨みつける。まさに唾棄すべきものであるというように

 

 

「戦いは……人を進歩させる。君はどうする。このまま、彼を殺し、未来を変えるか、それとも、君が彼とともに未来を変えるか……どうする? 影の救世主よ」

 

 

【クウガ‼】

 

 

【アーマータイム! クウガー!】

 

 

 アスカはクウガの力を身に纏う。

 

 

「俺は、あいつの未来を変えて世界を救う‼ただ、それだけだ」

 

 

「そうか、なら行くがいい」

 

 

 彼はその意思を貫くようにソウマのもとに走って向かう。

 

 

「……あぁ、それでこそ────」

 

 

 イデアは諦めた夢の先を見るような目で彼を見送り、右手に光る聖剣を作り出す。

 

 

『ファイズ』

 

 

 彼の目の前のノイズがアナザーライダーに姿を変える。

 

 

 イデアはそれを無視するように右手の聖剣に力を蓄える。

 

 

 光が増していく。まるで溢れんばかりの力を開放するように2つの光波を打ち出す。

 

 

 その光波に相手は飲まれていく。体の半分を消し飛ばされており、もうすでに虫の息となっていた。

 

 

「あぁ……君も承知の上だろう。私は石工達の神だぞ、聖剣の一つや二つ作れるに決まっているだろう。それに……私が君程度にわざわざ疑似ライダーの力を使う必要もないだろう?」

 

 

「ぐぁぁぁぁぁ」

 

 

 最後の力を振り絞り、イデアに飛び掛かるも、そのまま断ち切る。

 

 

「いくら、私みたいな紛い物であっても、この程度の猿真似以下に負けると思われるのは不愉快極まる」

 

 

 ウォッチが砕ける音とノイズの塵が降り積もるなか、彼の表情は不快さに引きつっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 攻撃をすべてを引き出した力を使い、ソウマがノイズの展開を押し込める。

 

 

 彼らの行動を止めるためにすべてに労力を割いているため、この状況を突破できるほどの余力は残されていなかった。

 

 

 そのせいで後ろから迫る敵への攻撃に対して反応が遅れた。

 

 

「ッ‼」

 

 

「ハァァ‼」

 

 

 クウガアーマーに装備して、ソウマに背後から迫る敵に蹴り倒す。

 

 

「アスカ‼」

 

 

「遅れてすまない……ここは任せて先に行け」

 

 

「え……でも、ここは‼」

 

 

「判ってるさ、敵の攻撃を引き付けて、デュランダルの防衛の強化と裏切り者のあぶり出しをする。そのために彼女を一人にして、撒き餌にした」

 

 

「だったら‼」

 

 

「でもな、お前は、どうしたいんだ。彼女を助けたいんだろ‼」

 

 

「それは……」

 

 

 俯くソウマの胸ぐらを掴み自分の方へと引き寄せる。

 

 

「俺たちを信じろ、ソウマ!」

 

 

「……アスカ」

 

 

「とっとと行け!! こんな奴らに私たちはやられないよ!!」

 

 

 早く行けと奏とアスカが迫る。

 

 

 自分にとって何のために戦うのか、まだ、ソウマにとっては踏ん切りがつかないところであった。

 

 

 ソウマのライドウォッチホルダーに光が集まり、スロットにに白とオレンジのライドウォッチ──フォーゼライドウォッチが現れた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 ウォッチから強い光が二人の視界を奪う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の全てが白く埋め尽くされた場所にいた。

 

 

「ここは……確か、あの時の……」

 

 

 回りを見渡しても前回出会った男の姿はなく落胆の意思を露にする。

 

 

「そんなに俺に会いたかった?」

 

 

 振り向くとそこには常磐ソウゴがそこにいた。

 

 

「貴方は……」

 

 

「ねぇ、なんで君は戦うの?」

 

 

 唐突な彼の問いは自分の中にある感情が暴れだす。

 

 

「俺は……」

 

 

「前、君は彼女達のためと、みんなの明日への希望を守るためって言ったけど、それって君の本心?」

 

 

「そんなの決まってる! ……本心だ」

 

 

 ソウマは脂汗をかく。自分の持つ矛盾を暴かれたような気持ち悪さが突き抜ける。

 

 

「違うよね。確かに明日への希望を守りたいって気持ちは本当だと思うよ。でも、それは君にとって大切な人たちの幸せありきでしょ」

 

 

「そ、それは……」

 

 

 自分にとっての戦う理由すら危うい薄氷の覚悟を自覚させられた。

 

 

 自分の希望が絶望に転じかける。

 

 

 自身の醜さから目を背けるが……

 

 

「君は結局、自分の大切なものしか守る気はないんでしょ」

 

 

 ポキリと、自分の中の意志が折れたことを実感してしまった。

 

 

 そこにへたりこむ。

 

 

「……」

 

 

「ソレノナニガイケナインダ」

 

 

 振り向くと黒い異形がそこにいた。

 

 

 彼は自分の醜さを否定せず、肯定していた。

 

 

「そんなこと……」

 

 

「ソンナモノダロウ、ニンゲントイウモノハ」

 

 

「でも……」

 

 

「ジブンノシテンデシカ、ニンゲンハモノゴトヲリカイデキナイ」

 

 

「それは……」

 

 

「ワカラナイカ? オマエハ、ソレデモソノサキヲミヨウトシテイルンダ。ジブンノナカニアルヨクボウカラ、セカイヲ、アスヘノキボウヲマモルトイウネガイニショウカサセタンダ。ソレノドコガミニクイトイウンダ? シイテイウナラ、ソレハゴウヨクナダケダ」

 

 

 静寂が支配する。長い間、感覚であれば10分ともいえる沈黙の果てに彼は立ち上がり、黒い異形と見つめ合う。

 

 

「俺は……そうだな、ありがとう。やっとスッキリしたよ」

 

 

 振り返り、ソウマはソウゴに相対する。

 

 

「それでも、俺は大切な人を守って、ついでに世界を救うさ」

 

 

「その実現のためにはきっと色んな相手と戦うことになるよ?」

 

 

「かまわない!!」

 

 

 少しだけ悲しそうな目をした後、彼に対し、認めたように笑ったのだった。

 

 

 



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第38話 0000/希望的観測

 空白を埋めるように、彼の中に自分の願いが芽生え、その姿を後押しするように黒い異形は常磐ソウゴを榊ソウマの肩越しから、睨み付ける。

 

 

「まぁ、一応合格かな?」

 

 

「え? 合格ってどういう……」

 

 

「そんなの簡単だよ。君がもし、自分の願いを自覚できなかったらシャドウの力を完全に封印するつもりだったんだ」

 

 

 ソウゴの発言にソウマは目を剥く。

 

 

「そんな、冗談じゃ……」

 

 

「俺は本気だったよ。一応君の力のストッパーだから、いくらでも君の力を封印できるんだ」

 

 

「小難しい話はそこまでにしようぜ!」

 

 

 突如聞こえてきた聞きなれない声の主の方へと視線を向けると、底には改造された学生服にリーゼントの男性がいた。

 

 

「貴方は……」

 

 

「あぁ、俺は如月弦太朗! すべての仮面ライダーと友達になる男だ!」

 

 

 彼は、自分の胸を叩き、ソウマへと拳を突き出す。

 

 

 それに驚くソウマを他所に、弦太朗はソウマに詰め寄る。

 

 

「ところで、お前はなんでそこまで自分のダチを信じねぇんだ?」

 

 

「ダチ? 信じるって?」

 

 

 まるで意味が理解できないと言うように目を白黒させている。

 

 

「そんなの決まってるだろ、あのアスカって奴のことだよ」

 

 

「え、でも、俺はアスカのことを信じて──ー」

 

 

「じゃあ、なんであいつにあの場を任せなかったんだ」

 

 

 彼の言葉にハッとする。彼にとってアスカは守るべきとは、もはや考えてすら今かった。しかし、それでも彼が自分と並び立てるとも信じていなかった。

 

 

「それは……」

 

 

「信じようぜ! 今からでも遅くはねぇよ! あいつはお前のダチなんんだろ?」

 

 

「信じる……俺は……アスカを……信じている……はず……」

 

 

 無言の静寂の中、ソウマは腹を決めかねている。

 

 

「信じることと、信じていることは違うんじゃないかな?」

 

 

 ソウゴの言葉を理解しようと思案すると、自分が思い違いをしていたことに気がつく。

 

 

「そっか……結局、俺がアスカを信じきれてなかったんだな……」

 

 

 ソウマは目を閉じ、後悔を口にする。

 

 

 しかし、弦太朗は、ソウマに近付き、拳と拳をぶつけ合い、ソウマの手を握る。その手の温もりが、ソウマに勇気が起き上がる。

 

 

「信じてみるよ! アスカのこともみんなのことも! だって、俺の大事な友達だから!!」

 

 

 その言葉に満足したように、視界が白く染まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと目の前にはアスカが、戦場には奏がいた。

 

 

「やはり、俺のことは信用できないか……」

 

 

 自身の無力さにアスカは仮面の舌で唇を噛む。

 

 

 しかし、ソウマは自分のベルトに装着されていたゴーストライドウォッチを外し、アスカの手に握らせる。

 

 

「俺は……二人のことを信じるよ。だから」

 

 

 アスカは手にもったウォッチを握りしめると、ソウマは後ろを振り向き、恥ずかしさを隠しながら、彼は戦場を託す。

 

 

「信じるよ! だから、ここを頼むよ」

 

 

「……フッ、あぁ任せておけ!」

 

 

 アスカは、受け取ったウォッチを起動し、6体のゴーストパーカーを付近に召喚する。

 

 

(大丈夫!)

 

 

 アスカに幻聴が聞こえる。優しいその声に気を取られているとソウマはフォーゼのスイッチを起動していた。

 

 

【フォーゼ!!】

 

 

 ソウマがウォッチを起動すると鎖が彼の体に巻き付くと消え、体に強い力が流れ込んでくる錯覚に襲われる。

 

 

 その勢いのまま、ベルトに装着しフォーゼの力を身に纏う。

 

 

【アーマータイム!!】

 

 

 ロケットのような形状のアーマが現れ、彼のもとに向かい、ソウゴと合体すると、アーマーが変形し戦闘形態となる。

 

 

【3、2、1、フォーゼ!!】

 

 

 ロケットのような姿をしたシャドウジオウ・フォーゼアーマーへと変わった。

 

 

「それじゃあ……行ってくる」

 

 

「あぁ、必ず響を助けてこい!」

 

 

 彼はアーマーを変形させてロケットの姿となり、爆音と共に響のところに向かっていった。

 

 

 

 

 

「ハァ~さてと、アイツが欠けた分を何とかしないとな!!」

 

 

 奏は勢いよく飛び出し、6体のゴーストパーカーと共に一気呵成に攻めるが、一向に此方に現れない。

 

 

 後ろを振り返るとアスカはただ呆然とその場から動けずにいた。

 

 

 彼はウォッチを握り締めているのみでそれをベルトに装填すらしない。

 

 

 そんなアスカに奏は憤りをぶつける。

 

 

「どうしたんだよ。アイツに此処を任せろっていったんだろ! それとも何か! アイツがいなきゃ何もできないのかよ!」

 

 

「あぁ、いや、何でもない……」

 

 

【ゴースト!!】

 

 

 ベルトに装填し、ゴーストの力を解放する。

 

 

【アーマータイム!! カイガン! ゴースト!】

 

 

 ゴーストアーマーがアスカの方を向く。表情はないが、彼に力を貸すように、アーマーは別れて彼に纏う。

 

 

 その瞬間に、力がアーマーを通して流れ込む。

 

 

 アスカは印を組むと、残り9体のゴーストパーカーが現れ、彼に従うようにそれぞれの武器を構える。

 

 

「安心しろ。俺は自分を、アイツの信じてくれた俺を信じる!!」

 

 

 ゴーストウォッチを撫でると、勢いよく飛び出して、ゴーストパーカー達と共にノイズの進行を押さえ込む。

 

 

「……ッあ~もぉ! 何なんだよアイツは!」

 

 

 奏はイラつきと戸惑いから髪をかきむしる。そのまま、落ち着く間もなく迫ってくるノイズの対処に迫られるのであった。

 

 

 

 

 

 空中を高速で飛行するソウマを迎撃するようにノイズが攻撃しようとするが、彼の推進力による速度から攻撃を当てることはできずに目的地に向かってげんそくせずに飛んでいく。

 

 

「あそこか!」

 

 

 爆発音と戦闘音から響がいる場所を見つけ出す。

 

 

 一定の高度を下回ると急速に減速し、ある程度減速すると、アーマーを解除して、響に迫るクリスの攻撃に割り込んだ。

 

 

「ごめんね、響、待たせちゃったかな?」

 

 

「う、うん。ソウマが守ってくれたから」

 

 

 ソウマは白い少女に向き直る。

 

 

「ァァ……ァ、アァ……」

 

 

 言葉にならない声が口から溢れ、まるで見捨てられた子供のようなクリスに対して、ソウマは怒りと同時に助けたいと願う感情が膨れ上がる。前者の感情の衰退しても、彼女への庇護欲に近い感情が退かずに強く残り続ける。それはまるで、響と未来に抱いている感情に近しいものであった。

 

 

「さてと、よくも響を……ここまでやってくれたね」

 

 

「どうしてお前が……ここに」

 

 

 自身の中の感情を押さえ込み、彼女へ敵意のみを向ける。

 

 

「うん? あぁ、それはこれだよ」

 

 

「フォーゼの力でここまで飛んできたってわけさ」 

 

 

 彼女の疑問に素直に答える。

 

 

 彼女は怯えた表情を浮かべ、ノイズの壁を作り出す。

 

 

 拳を強く握る。その意思に答えるようにシャドウが力を解放するのであった。



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第39話 0000/厄災の覚醒

 目の前に7人の女の姿を幻視する。

 

 

 記憶の果てに彼女達の声が聞こえる。笑う声、泣く声、絶望に伏せる声、喜び愛し合う声、7人の声に答えるように、自らの殻を内側から破る。

 

 

 黒い異形と魔王に交わした誓いに答えるように装甲に紫電が走り、鍍金が剥がれるように、概念の封印を破壊する。

 

 

「うぉぉぉぉぉ! ……ハァッ!!」

 

 

 掛け声と共に装甲が砕け散る。

 

 

 灰黒い装甲が現れ、シャドウジオウウォッチが黒い姿を取り戻す。

 

 

【シャドウタイム!! 仮面ライダージオウ・シャドウ!!】

 

 

 体から溢れる未知であり既知の力を制御すると、そこには、真の姿を取り戻したシャドウジオウの姿がそこにあった。

 

 

(なんだろう……頭の中がスッキリとする……でも、やっぱりまだ、消えないな)

 

 

 いつも以上に頭の中がスッキリとする。しかし、それでも、白い彼女への感情は鳴りを潜めることはなくソウマの思考を乱す。

 

 

(それでも……!)

 

 

 武器を取り出し、クリスに武器を向ける。

 

 

「あ……あ、あぁ……」

 

 

 怯えを隠すことができずに恐れから鞭を振り回す。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ」

 

 

「ッ!」

 

 

 武器で弾きながら、銃の状態にし、彼女の武器を撃ち落とす。しかし、それでも、武器を握り直し乱雑に振り回す。

 

 

 勢いのまま光弾を鞭を使って作り出し、ソウマに向かって押し付けるように押し込む。

 

 

「うおりゃぁぁ」

 

 

 横から、響が割り込みを入れて、クリスの攻撃を拳で打ち消す。

 

 

「ッ!? 、お前!」

 

 

「私を忘れられちゃ困るよ!」

 

 

 ソウマを助けるように響が割り込み、響のを助けるようにソウマが割り込むように互いの隙を打ち消す。

 

 

 2人の少女の歌声がぶつかり合う。歌の力が共鳴し、その力が徐々に高まっていく。

 

 

 目の前の闘いに意識が奪われていた了子の足下のケースのデュランダルが勢いよく飛び出す。

 

 

 古びた姿から、黄金に輝く真の姿を取り戻す。

 

 

「これは……覚醒……起動……」

 

 

 起動したデュランダルが宙を浮く。その輝きがその場にいた全員を照らす。

 

 

「「「ッ!!」」」

 

 

 3人の意識がデュランダルに意識が向く。

 

 

 ソウマが一番早く正気を取り戻すとデュランダルに向かって飛び出す。

 

 

「うぉ!?」

 

 

 ソウマが足を引かれたと思うと、クリスの鞭が足を捕えており、彼女は勢いよく、鞭を引き戻す。その慣性を利用し、デュランダルに飛びかかる。

 

 

(もらった! ……ッ!?)

 

 

 一瞬、視界の端に捉えていたソウマの姿が消えたかと思うと、慣性が弱まり、突然目の前に彼が現れる。

 

 

「なッ! どうやって」

 

 

「さぁ? あんまりよく解らないかなぁ」

 

 

 軽口を叩きながら、クリスをその場で押さえつける。

 

 

「今だ! 響ッ!」

 

 

 響がソウマの声に反応し、デュランダルを掴む。

 

 

「ッ!?」

 

 

 体に力が暴れだす感覚に響は支配される。

 

 

 濁流のような力が彼女の意識を黒く染め上げる。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

 

 口から苦しみからうめき声が漏れ出す。

 

 

 力の奔流が彼女の体から噴き出す。

 

 

「響ッ……」

 

 

 その力の奔流からクリスを庇うように抱き留める。

 

 

 響がその力を更に開放し、工業プラントをその手に持つ光刃で切り裂く。

 

 

 轟音とともに工業プラントが爆発する。爆発は次の爆発を起こし、誘爆はさらに連鎖を繰り返し、その場にいた全員を巻き込み崩落する。

 

 

 了子は響を庇うようにバリアを張り、自身たちを崩落から守る。

 

 

 ソウマはそれを目線だけで確認すると、クリスを抱きしめる力を強くし、彼女の頭を胸元に押し付ける。

 

 

 瓦礫が2人をを押しつぶそうと降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスは、先ほどの衝撃で気絶していたようで、目を覚ますと、目の前には、自分に敵意を向けてきた異形が目の前にいた。

 

 

「どうして……あたしを……庇って……」

 

 

 彼女は信じられないといわんばかりに、口から言葉が零れる。しかし、彼の反応は一切ない。

 

 

「おい、おい‼起きろ‼早く起きろ‼」

 

 

 彼女を抱き留めて、崩落から守ったため、受けたダメージにより、意識が戻らずにいた。

 

 

「おい……おい……起きろよ……頼むから……」

 

 

 クリスの心に理解できない喪失感が自身を内側から蝕む。

 

 

 涙が止めどなく流れ出す。彼女の中の両親の最期と見たことのない、自分に似た女性と男性の最期の姿が頭の中でフラッシュバックする。

 

 

「あ、あ、あぁぁぁ……アタシを……一人に……しないでくれぇ……」

 

 

 目の前の異形が死ぬという現実が受け入れがたく自分の中にいる何かが語り掛ける。

 

 

(マモレ! ソイツダケハ、ナニガアッテモ!)

 

 

 彼女の意識が闇に落ちていくと、どこからか現れた闇のような黒い泥が彼女を包み込む。

 

 

 そうすると彼女の腰にアークドライバーが生成される。

 

 

「まさか、アタシに呼び出されるとはな」

 

 

 クリスの目は赤く怪しく、輝く。

 

 

 ソウマの意識のない姿に気が付くと顔をバイザー越しに歪める

 

 

「死なせない! お前だけは絶対に!」

 

 

【アークライズ‼】

 

 

 ドライバーの上部のボタンを押下し、泥が彼女を包み、彼女の姿を異形の姿に変えていく。

 

 

【オールゼロ…】

 

 

 黒い悪意の化身となった左右非対称の赤い瞳が、自分の取るべき行動を彼女へと映し出す。

 

 

 それに応じるように、ドライバー上部のボタンをもう一度押下し、力を開放する。

 

 

【オールエクスティンクション…】

 

 

 自身の周囲に本来のアークに搭載されていない、スパイトネガを生成し、周りからソウマと自信を包む力場を作り、守りの体制をとると、周りの瓦礫に向けて、光弾を作り出し、爆発させ周りを巻き込むように消し飛ばす。

 

 

【オールエクスティンクション‼】

 

 

 その黒い衝撃波は周囲にあるすべての瓦礫を消し飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りを見渡して、今脅威となるものがいないことを確認すると、

 

 

 彼を横たわらせ、クリス、否、3rdは変身を解く。

 

 

 ソウマのほうに意識を向けると、彼も今までのダメージから変身が解除される。

 

 

「ソウマッ!」

 

 

 彼女が駆け寄ると、彼の脈を取り、息があることを確認すると力が抜け、座り込む。

 

 

「まったく、お前はいつも、自分以外ばっかり優先して、いっつも……アタシ達が……どれだけ、どれだけ心配してると……思ってるんだよ……」

 

 

 彼の頬を撫でながら、涙混じりの声で愚痴をこぼす。

 

 

「いつも、ヒヤヒヤさせやがって……本当に、心配したんだぞ……」

 

 

 一切の動きを見せない彼に彼女は愛おしさを募らせる。

 

 

「絶対に、お前だけは守って見せるよ……何を犠牲にしても……きっとお前は、喜んじゃくれないだろうけどよ……」

 

 

 しばらくの間、彼女はソウマの頬を撫で続けていた。

 

 

「貴女は……誰?」

 

 

 声の主に驚き振り返ると、そこには了子、否、フィーネが響を庇うように立っていた。

 

 

 3rdはその声に答えるように、ソウマを庇うように立ち上がる。

 

 

「なんだ、フィーネか……なんか久しぶりな感じだな」

 

 

「貴女、何を言っているの……」

 

 

「ハッ、まぁ、わかんねぇか……まぁ、安心しな、今の所は直接フィーネの計画を邪魔する気はねぇよ」

 

 

 呆れたような、諦めたような溜め息をつくと、彼女は懐かしむような、死んだ親とであったような、どこか穏やかな表情でフィーネを眺めていた。

 

 

「まぁ、ただ、ソウマに危害を加えるっていうなら、いくらフィーネでも容赦はしねぇ!」

 

 

「ッ! ……あら、それは約束できないわねぇ」

 

 

 空気に呑まれかけるもフィーネは気丈に振る舞う。しかし、3rdの瞳は暗く、光の失った赤い瞳で彼女を睨み続けていた。

 

 

「まぁいいか、まぁ、息災にな」

 

 

 フィーネから視線を外し、3rdは踵を返し、去っていった。

 

 

 その場には呆然としたフィーネと意識を失った響とソウマが取り残されるのみであった。ヘリの音がただただ煩く耳を支配していった。




シャドウジオウ
 第1の概念の封印を解除されたことにより、真の力の一部を解放できるようになった。
 灰黒い装甲の特徴を有し、以前までの形態以上の精神を安定させる性能と、各種機能が通常のジオウとほぼ同等に近い性能となっている。
 特殊能力として、時間の流れに干渉する力を獲得している。


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第40話 0000/陰る明日

 パイプ椅子に座る響と未来の二人は単調な電子音のみが耳に響く。

 

 

 2人は目の前にあるベットに対して、視線を外すことができないでいた。目の前のベットには2人にとって最も愛する人がここに眠っていた。

 

 

 ソウマは先ほどの工場の爆破の瓦礫に潰される形となり、重症を負ってしまった。回避することができはずであったものを、クリスを庇ったことで、瓦礫を交わすことなく受けきったものであった。

 

 

「ねぇ……響……ソウマは……」

 

 

 縋る様な言葉とともにソウマの手を強く握る。

 

 

 目に前の呼吸器から、酸素を取り込む呼吸が聞こえるが、彼の意識は戻らない。内蔵までもダメージがあり、辛うじて生きているといっても仕方のない状況であった。

 

 

「ごめん……ごめんね……ソウマぁ……」

 

 

 響の泣き声には後悔と彼を案じる念が籠っている。

 

 

 自身がデュランダルを手にしたことで起こした爆発がソウマをこのようにしてしまったと自責と彼に目覚めてまた自分達と一緒にいたい望みが響の心を傷つけ押し潰す。

 

 

「……申し訳ありません。もう、お時間となりますので」

 

 

 看護師が2人に対して、面会時間であると伝えにきた。

 

 

「すみません……でも、もう少しだけ……!」

 

 

「響……帰ろっか……」

 

 

「未来……」

 

 

「お騒がせしました。いこ、響」

 

 

 響の表情は苦虫を噛み潰した顔を浮かべるも、未来は感情を圧し殺した顔であった。

 

 

 しかし、二人の足は重く、無理をして歩んでいるのが誰の目からも明らかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗く澄んだ水面の様な場所に円卓が置かれていた。そこには、フードを被った7人が席についていた。

 

 

「ところで、今回の集まりは何の目的なのかしら、アーク?」

 

 

 長身の女性、4thは、まとめ役であるアークに質問を投げ掛けるも、彼女は特に答えはしない。

 

 

「お! 悪いな、遅くなっちまった」

 

 

「やけに上機嫌みたいね……3rd」

 

 

 今まで沈黙を貫いていたアークが反応を示す。

 

 

「あぁ……まぁな」

 

 

「いっておくけど、ソウマが重体で今、入院しているの」

 

 

「あ~、やっぱりそれぐらいはダメージを負ってるよな」

 

 

 アークは、手に銃をその場で作り出し、3rdに突きつける。 

 

 

 その現状に他のメンバーは一部を除き、慌て出す。

 

 

「待つデスヨ! アーク!」

 

 

「やめて!」

 

 

 5thと6thがアークを制止する。

 

 

「待て、アークこの場で3rdを殺す意味はないだろう!」

 

 

 2ndは剣を取り出し、アークに突きつける。しかし、こんなに喧騒としていても、1stとシェム・ハは一切の反応を示してはいなかった。

 

 

「そんなの知ってるよ。でもよ、アイツはこんな程度じゃ死なねぇよ。それはお前も知ってるだろ、アーク」

 

 

「それとこれとは話が別! ……でも」

 

 

 銃を下ろすとアークは先ほどの怒りは鳴りを潜めて、彼女は3rdに頭を下げた。

 

 

「え、え、どういうことだよ。なにしてんだよ!?」

 

 

「ありがとう。ソウマを救ってくれて本当に感謝してる」

 

 

 アークからの素直な謝罪先ほどまでに気配から、警戒するが特に手のひらを返す気配がないため、3rdは息をついた。

 

 

「それで、アタシ達の力を使ってソウマの怪我を回復させるの?」

 

 

「いや、違うぞ。1st、さすがにあの傷を怪しまれずに直す手段はない。一応、ミラの権限なら行けるかも知れないが、私たちでは完全回復か、代謝を上げて回復を促進させるだけだからできない」

 

 

 シェム・ハが現状について説明すると、手の打ち所がなく、このまま、経過を見届けるぐらいしかないのであった

 

 

「さすがに、今回の覚醒については一切の把握をアーリはできてない。つまり、今の私達は雪音クリスとフィーネが決別するように手を回すのが一番よいと思うけど、みんなはどうかな?」

 

 

 その場にいた全員が頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスは眠りから覚めると、そこは自身の部屋そのものであり、どうやって戻ってきたのか、記憶に一切ない状況であった。

 

 

「アタシは、どうやってここに?」

 

 

 外の景色を見ると、月が昇り、夜空が綺麗に輝いていた。

 

 

「……」

 

 

 ガチャという音とともに、フィーネが入ってきた。

 

 

「どうやら、失敗したしたようね」

 

 

 クリスを叱責する言葉がフィーネの口から漏れる。

 

 

 しかし、彼女の耳には、遠くから聞こえる声のように、聞き取りづらく感じる。

 

 

 クリスは視線をフィーネに向けると、その表情はいつもと変わらぬように見えたが、その中に自身への優しさが感じられていた。

 

 

「すまねぇ、フィーネ……」

 

 

 その言葉を受けたフィーネは無意識にクリスのことを優しく抱き締めた。

 

 

「フィ、フィーネ!」

 

 

「気にしなくて大丈夫よ。クリス」

 

 

 いきなりの抱擁に動揺するが、その暖かさから、クリスはフィーネの背中に手を伸ばすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウマの負傷から4日ほど経過したある日、響と未来はもう慣れた道を行き、ソウマのいる、病院へと向かっていた。

 

 

「……」

 

 

 二人の間に流れていた空気は今重いものとなり、彼女達にとっての陽だまりは暗く陰り、今の青空とは正反対の心情であった。

 

 

 病院につくと未来は慣れた手付きで面会の手続きを行い、ソウマの病室まで歩いて行くと

 

 

「あ、あれは……おーい、立花」

 

 

 響は自身を呼ぶ声に気が付き、振り返ると、そこには以前の戦いで重症を負った風鳴翼であった。

 

 

「どうしたんだ? こんなところで」

 

 

「あ、アハハ、いや、ここにソウマが入院していて」

 

 

「知り合いなの?」

 

 

「いや、知り合いっていうよりも、私たちの彼氏です……」

 

 

 突然のことに吃驚し、思考が止まるがあることに気が付く。

 

 

(聞いちゃいけないことだったなぁ彼氏さんが……あれ、私達?)

 

 

「すこし、聞いてもいいかな」

 

 

 響の言葉に疑問を感じ投げかける。

 

 

「"私達の"ってどういうこと?」

 

 

「そのまんまの意味ですよ、翼さん私達は二人でソウマと付き合ってるんです」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

「響、先いってるね」

 

 

「うぇ、未来──」

 

 

 未来は響の唇に人差しを当てられると、そのままの勢いで、耳打ちする。

 

 

「ソウマのことは大丈夫だから、それに、悩んでるみたいだから、翼さんに、悩みを聞いてもらったらどうかな?」

 

 

「う、うぇ!」

 

 

 響は呑気な声をあげると、未来は少しだけ早く走って病室に向っていった。

 

 

 そこには、杖をついている翼と目が点となった響がポツンと病院の廊下に取り残されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第41話 0000/怒りの交錯

 病院の屋上の場所まで翼と響は無言でここまで来ていた。

 

 

「「……」」

 

 

(……えっと、二人の彼氏ってことは、つまり二股ってこと……どうすれば……)

 

 

 翼の内心では、自分が眠っている最中にこんな状況になっているとはつゆほどにも思わず、自分が一切合切に面倒な状況に陥っていることに少々辟易してしまっていた。

 

 

 しかし、実際の響は自分の中にある力との向き合い方がわからなくなっていた。

 

 

(……私は……どうすれば、いいのかな)

 

 

「あ、あの……私はどうすればいいんでしょうか……デュランダルを手にした時に、暗闇に飲み込まれかけて、それで、ソウマが、あんなことになって……私はどうしたらいいんでしょうか……」

 

 

「……(え、えぇ、彼氏の二股の話じゃないの!?)」 

 

 

 微妙な表情を浮かべる翼の姿に気が付かないほどに、響は自分の中にある絶望感から周りが見えなくなっていた。

 

 

「……自分の中にある力で大切な人を傷つけてしまったってことでいいのかな?」

 

 

「……はい」

 

 

「自分の中にある力が制御できずに今回の爆発事故を引き起こしてしまったと……あなたは、やっぱりこの戦いから手を引くべきだ」

 

 

「え……」

 

 

「当たり前だ。そんなに迷っていては、結局のところは何も意味がない」

 

 

「どういうことですか……」

 

 

 響が疑問を投げかけるが、それ自体に意味がないといわんばかりに、表情が冷たくなっていく。

 

 

「自分の中にあるものが何であれ、それを使うと決めたときに、どうすればいいかわからないでいるとは、これ以上に危険な状況はない」

 

 

「それは、そうですよね……」

 

 

 翼はこちらに向かって輝いている太陽に目を向けると、その光に目を細めると、口から自分の意思に反して言葉が出てくる。

 

 

「自分にはできることはいつでもできるわけじゃない。その時、その時しか機会がなくなっていく。どうしようもないことに追い込まれていって、どうするかどうかすら自分で決めることすらできなくなる」

 

 

「どういうことですか……」

 

 

「私みたいになるなということだ……」

 

 

 そこにいたのは風鳴翼は、自分の知る彼女以外の何かに見えていた。

 

 

 どこか大人びているように、彼女はこちらに歩いてくる。

 

 

「翼さん……」

 

 

「立花……頼むから、私と同じ過ちを犯さないでくれ……頼む!」

 

 

 翼は意識を失うように、その場で倒れる。

 

 

「つ、翼さん!?」

 

 

 駆け寄ると、意識を失った体は重く、その事態に響は対処できないことを理解し、近くにいる看護師を呼びかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウマの看病を終えて、響と未来の二人は一緒に帰る道を進んでいった。

 

 

 どうすればいいのかわからずに、沈黙がただその場を支配している。

 

 

 公園の入り口付近に迫ったときに自分の持っていた電話が鳴っていた。

 

 

「? ……はい、もしもし」

 

 

『響くん今すぐそこから逃げるんだ! ネフシュタンの鎧の少女が近くにいる!』

 

 

「え、……ッ!」

 

 

「……変身」

 

 

【アークライズ‼】

 

 

 意識がアークと変わるように未来の意識と切り替わる。

 

 

 黒い泥が二人を覆い渦となる。

 

 

 クリスの鞭が黒い渦が弾くと合わせて、渦が弾けて中からアークゼロに変身した未来と驚いて目を見開く響がそこにいた。

 

 

「ほう、どうやら、もうこの時が来るとはな……」

 

 

「……み、未来、その姿は……一体」

 

 

「あぁ、私はアーク、小日向未来と契約した悪魔だ」

 

 

 いつもと違う口調と声でアークは響に話しかける。

 

 

 契約という言葉から響の情緒が大きく乱れる。

 

 

「安心しろ、まだ仮契約だ。だから気にする必要はない」

 

 

「アーク……」

 

 

「さぁ、歌うがいい、立花響。それが君の役目だ」

 

 

 アークの声が響を立ち上がらせる。

 

 

「アーク、このことは後で聞く! でも今は!」

 

 

 響の歌声が響き渡る。しかし、歌声は今までの響の歌声に反するように、暗く沈むような、闇のような歌が響く。

 

 

 響はシンフォギアを纏う。先日とのクリスとの闘いの時と同じように口元をマフラーで隠す。しかし、その目は歌と同じく、どこまでも暗く、飲み込む深淵を宿していた。

 

 

「あぁ、ずっと、会いたかった……会いたかったよ……」

 

 

 自分の中にある絶望と自責を怒りという炎にくべる。

 

 

 一方クリスの瞳は戸惑いを宿しながらも、自分の中にあるものに目を向けているのみで、響を見ているようで一切に見ることはなく、ただただ、空虚に目を向ける。

 

 

「お前を倒せば、私のことをフィーネが見てくれる。アイツだって、お前さえいなければ……」

 

 

「貴女の境遇なんて関係ない。貴女がこんなことするから、彼は傷ついた。今も眠ったまま……だから、貴女を倒す!」

 

 

 響は、地面を蹴りだし、そのまま拳がクリスに向かって振り抜く。しかし、その拳がクリスに当たることはなく、空を切る。

 

 

「ハッ、完全に八つ当たりじゃねぇか」

 

 

「そうだよ、でも、貴女と戦う理由なんて、これで十分だよ!」

 

 

 遠心力を生かして回し蹴るがそれを呼んでたとばかり、身体を縮めて、膝の力を生かして飛び上がる。

 

 

 鞭の先端にエネルギーが収束し、光弾を形成する。

 

 

「これでッブッ飛びやがれ!」

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

 光弾が、響に向かって飛んでいく。

 

 

「こぉっのぉぉ」

 

 

 彼女は自身の身体をバネのように使って、拳を振り抜き、光弾を打ち落とそうと、殴る。

 

 

「あめぇよ、持ってけ、ダブルだぁ!」

 

 

 もう一つの光弾を作り出し、それを相手が止めている光弾の後押しをするように、投げ込む。

 

 

 大きな爆発音とともに、響の姿が炎と煙にまみれて見えなくなる。

 

 

「これで……ようやく……ッ!」

 

 

「はぁぁぁぁ」

 

 

 自身のギアの力を利用して光弾を押さえ込み、自分のエネルギーに変換して吸収する。

 

 

「な、何で──」

 

 

「うおぉぉぉ、りゃぁぁぁぁぁ!」

 

 

 しかし、クリスの言葉は最後まで紡がれることなく、目の前にいた彼女の姿が消えたと認識する。気が付くと、響は懐に入り込み、その拳でクリスの腹部に向かって打ち込むのであった。

 

 

 地響きする爆音と火柱とともに、クリスはそのダメージを受け止めることとなり、振り抜く勢いで彼女は後ろに飛ばされて木にぶつかる。

 

 

「ガハッ……」

 

 

 ただではすまない攻撃だが、ネフシュタンの鎧に大きく穴が空いている。

 

 

「クソッタレ! ……このままじゃ、やられる……」

 

 

「うおりゃぁぁ!」

 

 

 響の追撃が止むことなく、彼女の回復が間に合わなくなっていく。

 

 

 拳と鞭が火花を散らしながらも、接戦を繰り広げるが、少しずつ力負けをクリスは起こしていく。

 

 

(畜生! 何でこいつに、勝てねぇんだよ……)

 

 

 蓄積していくダメージと体力の消耗から、自分の意思さえ危うくなっていく。もう限界が近づいてくるなか、クリス痛みから、一瞬意識が途絶えかける。その隙を突くように響は踏み込んで、クリスに殴りかかる。

 

 

「これでぇ! 終わりだぁ!!」

 

 

「クソッタレ……アーマーパージだ!!」

 

 

 響の動きがゆっくりと見えるなか、響の鬼気迫るを目にし、自分の奥の手である力を解放するために、白雪姫はドレスを脱ぎ去る。

 

 

 白い鎧の破片が懐に迫った響を直撃する。かわすことも、受けきることもできずに、後ろへと吹き飛ばされる。

 

 

 孤独に満ちた歌を歌い、赤いドレス──イチイバルを纏う。響に対して、絶望と怒りを込めて、睨み付ける。

 

 

「よくもアタシに……よくもアタシに歌を歌わせたなぁ!」

 

 

 彼女の怒号のみが響き渡り、響の歌をかき消すようにその刺々しくも、悲哀に満ちた歌をクリスは奏でるのであった。

 

 

 



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第42話 0000/夕焼けの裏切り

 赤いドレスを身に纏い、クリスは戦場で歌を歌う。

 

 

 彼女の歌に答えるように腕の鎧が武器となり、ボウガン形状の武器から、光の矢が響を襲う。

 

 

「ッ!」

 

 

 まるで、身体がその攻撃パターンを理解しているように躱していく。しかし、響の回避行動を予期するように矢が掠り始める。

 

 

「お前の行動ぐらい予測できてるに決まってんだろうが!」

 

 

 響は一か八か賭けに出るように攻撃を躱して距離を詰めていく。

 

 

 クリスは笑みを浮かべる。

 

 

 アームドギアをボウガンから長弓の形状に変形させて、弦を引き絞る。

 

 

「え……それは!?」

 

 

「甘ぇんだよ!」

 

 

 実体を持った矢が響の腹部に向けて放たれる。

 

 

 反射で、腕を使い防御姿勢を取るも、勢いに押されて後ろに吹き飛ばされる。

 

 

「クッ! ……ッ!?」

 

 

【BILLION MAIDEN】

 

 

 武器を長弓からガトリング砲を形成し相手に対して一斉掃射する。嵐のように弾丸が響の視界を覆い尽くす。弾丸の雨から逃げるように背部から噴射し、空中で姿勢を修正し、地面に着地しながら、逃げ走る。しかし、弾丸で破壊されていく木々が逃げ道を塞いでいく。

 

 

(このままじゃ……)

 

 

 その場を反射と経験に任せる形で行動を選ぶ。切り返し、空高く飛び上がりながらクリスに向けて飛び蹴りを行う。

 

 

「おりゃぁぁ」

 

 

「……だと思ったぜ!」

 

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 

 腰部から、小型ミサイルを格納するラックを形成し、打ち出す。

 

 

 小型ミサイルで空中にいる響の逃げ道を塞ぎきりながら彼女を打ち落とす。

 

 

「ガハッ……あ……」

 

 

 地面に叩きつけられる形で地面に転がり、肺の息が一気抜け出す。その響の元で小型ミサイルが迫り、爆発する。

 

 

 クリスは煙で視界が塞がれる。それでもなお、ガトリング砲の弾丸が更に煙にばらまかれる。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 歌を歌いながら戦うこと久しく行っていなかったためか、クリスは息を切らす。少しずつ砂煙が晴れていくとそこに響の姿はなく、金属の壁があった。

 

 

「盾か……いや、これは」

 

 

「剣だ」

 

 

 声の主に視線を向けると、そこにはギアを纏った翼がこちらを見下ろしていた。

 

 

「病み上がりが……もっと寝てればよかったんじゃねぇのか? なぁ、歌姫さんよ」

 

 

「そうだな、だがな、私と立花のみに意識を割いていていいのか?」

 

 

「何をいって? ……まさかッ」

 

 

 クリスは翼と響に意識を割いているが、後ろから迫る気配に対して、反応が僅かに遅れる。

 

 

「ハァァァ!」

 

 

 振り返るとそこには、奏が槍を片手に飛び込んでくる。しかしながら、その動きに対して重心をずらし、自身に迫る槍の穂先をガトリングを使い、反らしながら、左足を重心に回し蹴りで奏を蹴り飛ばす。

 

 

「奇襲する奴が声を上げるかよ! ……ッ!」

 

 

「……ッ!」

 

 

 奏の攻撃に気を取られていると上から飛び降りてきた翼が刀をクリスに向けて振り下ろす。

 

 

 刀が迫る事実が彼女の意識を狭める。

 

 

「この野郎!」

 

 

 ガトリングから、ボウガンに切り変えて光の矢で迎撃する。

 

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

 

 視線を下に向けた瞬間、響の拳が自分打ち込まれる瞬間であった。

 

 

「グハッ……」

 

 

 先程の響のようにクリスは地面を転がり、背中が倒れた木に強くぶつかった。

 

 

「これで、お相子だよ。クリスちゃん」

 

 

 いきなり名を呼ばれたことに一瞬、目を見開く。

 

 

「アタシのことについては調べがついてるってわけか……」

 

 

「全く、相変わらずの粗暴さだな雪音」

 

 

「翼、こいつとそんなに親密だったか?」

 

 

「クリスちゃん……」

 

 

 一歩ずつ倒れているクリスの元に歩を進めていく。

 

 

 クリスは迫る響から距離を取ろうと立ち上がろうとするが先程の背中のダメージから立ち上がることができない。

 

 

「どこにいこうとしているのかな? クリスちゃん?」

 

 

「ハッ、このまま、捕まるわけにはいかねぇんだよ」

 

 

 目から光が消えた彼女の視線が突き刺さる。

 

 

 拳を振り上げ、殺意を持って振り下ろそうとする。

 

 

「止めろ、バカ」

 

 

「立花ァ!」

 

 

 翼と奏は、一瞬反応が遅れるも、響の行動を止めようとする。

 

 

(ハハッ……)

 

 

 脳裏に自分の認識のない記憶が頭を過る。

 

 

 キッチンに立つ、知らない少年の後ろ姿を幻視し涙を流す。

 

 

 迫り来る死から怯えて目を伏せる。

 

 

「……ッ」

 

 

「そこまでだ」

 

 

 響の身体を灰色の布に拘束され、彼女への拳が止まる。

 

 

「……ッ……離せッ……離してよ!」

 

 

「悪いけど、それは聞けない相談だね」

 

 

 そこには、アスカを引き連れたイデアが響を拘束した布の片方を手に持っていた。

 

 

「アスカ! 何でそんな奴と一緒にいるんだよ」

 

 

「あぁ、ここに向かっている最中に捕まったんだよ」

 

 

「いいじゃないか、君の危機を救ったんだから」

 

 

「……感謝する」

 

 

「ハァ? 救ったってどういう意味だよ」

 

 

 奏はイデアの言葉が理解できずにいるが、アスカは納得しているため、イデア言動に軽い反応のみしか示さない。

 

 

「あぁ、それはね──ッ!」

 

 

 イデアが意識を空に向けて、バリアを展開するとノイズが弾丸のように飛んでくる。ノイズはバリアにぶつかると消し飛ぶように弾けて消える。

 

 

「相変わらずの力みたいね」

 

 

 沿岸部に視線を向けると、金髪の黒ずくめの女が手すりに身体を預けており、手にはソロモンの杖が握られていた。

 

 

「ハハハ、誉められるとは思わなかったよ。フィーネ」

 

 

「誉めてないわ。本当にあなたの力は面倒なだけ」

 

 

 彼女が苦言を呈すると散らばったネフシュタンの鎧の破片が粒子となり、彼女の掌に集まっていき、吸収される。

 

 

「……」

 

 

 イデアはそれを興味のないような冷たい目で眺める。

 

 

「フィ、フィーネッ」

 

 

「あら、クリス無事みたいね」

 

 

 フィーネの視線は彼女のつけているサングラスのせいでわからない。だが、その声音は心底どうでもいいことに対する反応そのものだった。

 

 

「あなたは本当に私の期待を裏切ってばかり……何で言いつけの一つすら守れないのかしら?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

「もういいわ、あなたはもう必要ない……私の計画に貴女はもう必要ない。だから、何処へなりとも行けばいいわ」

 

 

 そう告げると、フィーネはそこから立ち去っていく。

 

 

「フィーネッ待ってくれ!」

 

 

 クリスは身体の痛みを押さえ込んで、フィーネの去っていった方向へと向かっていった。

 

 

「アイツッ!」

 

 

 奏をイデアは手で制止する。

 

 

「何で、邪魔するんだ!」

 

 

「それは今の君には関係ないことだよ」

 

 

 噛みつく奏を端にイデアは響に視線を向ける。彼女の目は光を取り戻すことはなく、冷たい闇がそこに宿っていた。

 

 

 



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第43話 0000/目覚めと運命の再開

 朝日を感じるような日の暖かさから、ソウマは目を覚ます。

 

 

 見慣れない天井と併せて、背中から感じる触感から違和感から横を見る。白い手すりが目に入る。

 

 

(あぁ、そうか、俺、あの時の崩落で……)

 

 

 自分の状況をある程度察した後、自分の身体に視線を向けると、幾つか傷の処置がされており、左腕を見ると、点滴用に注射されており、生理食塩水が流れ込んでいる。

 

 

 上半身を起こすが、身体に一切の異常はなく、傷が完全に癒えていると察する。

 

 

「いったい、どれだけ寝ていたんだ」

 

 

 ベットから起き上がろうとし、床に立とうとすると、少しだけ身体が重く感じてしまい、バランスを崩して床に伏せてしまう。

 

 

「……ハハハ、こんなに弱ってるなんてね」

 

 

 掌にシャドウジオウウォッチが転移するように現れる。紫電を発生させ、ソウマの身体を流れると身体の重さが消える。

 

 

 力が満ちる感覚があり、任せるままに立ち上がる。

 

 

「? 身体が軽い……どうしてこんな……」

 

 

 自分の身体に異常がない確認がとれると、病室をでようと近づいていくと、いきなり扉が開かれる。そこには慌てた様子の響と未来がいた。

 

 

「……ソ、ソウマッ!」

 

 

 響がまず、勢いよく胸元に勢いよく飛び込み、それに負けて、少し後ろに下がる。未来は少しだけ慌てているものの、どこか落ち着いたものであったが、目尻から涙が滲んでいた。

 

 

「ホントに心配したんだよ」

 

 

「……ッ……ッ……」

 

 

 響は彼の胸で泣き始める。

 

 

 ソウマは響をあやすように頭を撫でながら未来に視線を向けて照れたように、笑う。

 

 

「ごめん、でも、もう大丈夫だから」

 

 

「大丈夫なんかじゃないよ!」

 

 

「ひ、響!?」

 

 

 響は、声を荒げて顔を上げる。表情は涙で濡れ、まるで子供のように、少女のように、女のように、ただ何かを訴え続けていた。

 

 

「そうだよ。響はずっとソウマのことを心配していて……私も、本当に心配したんだよ。ソウマ」

 

 

 戸惑っているソウマが助けを求めるように、未来に視線を向けても、彼女の滲んでいた涙は響と同じように大粒の涙が溢れており、気丈に振る舞うように手を後ろで組み、にっこりと笑おうとするが、ひきつりうまく笑えない。

 

 

「未来……響……心配かけちゃったね、ごめん」

 

 

「「……ッ……ッ……」」

 

 

「未来」

 

 

「ハハ、ごめんね。ソウマ……嬉しいはずなのに、どうしてだろ、ッ涙が……ッとまら、ない、よ……」

 

 

「こっちにきて、未来」

 

 

 二人の啜り泣く声にソウマは未来を呼び、響を少しだけ、横にずらし、近付いてきた未来を抱き締めて、二人一緒に抱き締める。

 

 

「……」

 

 

 無言ではあるが、大切な二人を優しく、あやすように泣き止むまで、しばらくそのままにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……ソウマは本当に身体は大丈夫なの?」

 

 

「うん。なぜかね、最初は立てすらしなかったんだけど、これが光って電流が流れたと思ったら身体の不調が治ったんだよね」

 

 

 泣き止んだ響の口から当然の疑問を投げられたソウマは肯定の意思と説明を行う。

 

 

「確か、それが変身に必要なものだってのはなんとなくわかるけど、そんな機能もあったんだ」

 

 

「いや、こんな機能はなかったはずなんだよ。今まで多少なりともダメージは受けてたし、疲労感だってあったんだ。でも、これで傷や披露が治ったのは本当にはじめてなんだよ」

 

 

 未来の疑問にソウマも今までの経験とシステムそのものの中には決して回復機能など存在してはいなかった。

 

 

「それじゃあ、ソウマ、心配かけさせたぶんは責任とってもらおう。ね、未来?」

 

 

「え……いやぁ……はい……」

 

 

「ふふ、うんそうしよ! 覚悟してよね!」

 

 

 二人の表情に少しだけ苦笑いを浮かべながらもこれからどうなるか祈るだけであった。

 

 

「あぁ、なんか泣いたら喉乾いちゃった! なんか、買ってくるよ! ねぇ、ソウマ、未来何か飲みたいものがある?」

 

 

「それじゃあ緑茶で」

 

 

「私は紅茶で……」

 

 

 響は勢いよく部屋を飛び出すと彼はベットに腰掛け、内心感じていた疑問を未来に投げかける。

 

 

「ねぇ、未来……何で響はあんなに、自分を追い詰めているの?」

 

 

「……やっぱり気付いちゃうよね……それはね、あの崩落でソウマが重症を負ったのは全部自分と敵のせいだって思ってるの……」

 

 

「でも、あれは、全部自分の意思でやったことで……」

 

 

「それでも、響は自分と敵を憎んでるの、自分に至っては完全に軽症で、ソウマが意識不明のまま、ずっとだよ……」

 

 

「そんなことが……」

 

 

 未来は、ソウマの隣に座り、彼の問いに答える。予想以上に手段が限られている状況に彼の胃が痛む。

 

 

「これでもよくなったほうなんだ……こんなんじゃ彼の彼女に相応しくないっていって、ソウマが倒れてからずっと自分を傷つけるみたいに毎日、毎日トレーニングをしてて、学校も休んで……」

 

 

「そっか……彼氏失格だな。こんなにかわいい彼女たちを悲しませちゃって」

 

 

「ソウマ……そんなことないよ。それにこれからも3人で支え会っていくんだから」

 

 

「未来……」

 

 

 未来は一度目を閉じてから、意を決し、ソウマの前に立ち、迫る。彼はそれに応じるように前に出て彼女を抱き締める。しかし、何も言わない彼に不安の感情が積もり、未来はその不安が口から飛び出す。

 

 

「それとも、嫌かな、私たちと一緒にいるのは──」

 

 

「そんなはずないだろ! 二人がいたからこそ、俺はこれまで頑張ってこれたんだよ。本当に支えられてるのは俺のほうだよ!」

 

 

 彼は抱き締めるのをやめて、未来の肩をつかみ、顔を見つめ、彼女の不安を消し飛ばすように真剣に話す。それを聞いた彼女の顔は朱に染まりきり、顔から蒸気が漏れそうな位に熱を持つ。

 

 

(響にも、自分の気持ちを伝えないとな……このままじゃ、きっと)

 

 

 ガタンと音が聞こえたと思いフリーズしている未来から視線を外して音の元、病室の扉を見ると顔が真っ赤に染まり、目の前の少女と同じくらいに赤くなっており、完全にフリーズしていた。

 

 

 ソウマは、ベットから立ち上がり、二人に向けて告白する。 

 

 

「二人とも、これからきっといろんなことが起きて、二人にたくさん心配や迷惑をかけると思う。それでも、俺と一緒にいてくれますか?」

 

 

「そんなの決まってるじゃん! 一緒にいるよ。ずっと、これからも」

 

 

「私だってずっと一緒にいたい! 一緒に3人で、ずっと一緒に」

 

 

 彼の言葉は、二人を現実に引き戻すには十分なものであり、二人とも食い気味に彼の不安を払拭する。互いに一緒にいたいと願いを口にする。それが3人を互いに勇気付ける。

 

 

「うわッ!?」

 

 

 響は彼に抱きつくようにして彼をベットに押し倒す。未来は潜り込むように彼の胸元に身体寄せ会う。

 

 

「ソウマ♪」

 

 

「エヘヘ」

 

 

 二人の体温を感じていると、先ほどの回復の反動からか、眠気が増していき、ソウマは一眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院での出来事からから数日が立ち、見事にそのあとに来た看護師に怒られることとなった。傷も完全に癒えているため、検査のあとにそのまま退院となった。

 

 

「まさか、朝にこんなに降られるなんて憂鬱だなぁ……ハァ」

 

 

 ざあざあと雨が降るなか、梅雨入りを、感じ始める朝の時間にソウマは傘を指しながら、雨に嫌気が指し始めていた。

 

 

 商店街を歩いていると、ふと何かに導かれるように意識が路地へと向かう。その感覚に反することができるが、物は試しと足がそちらに向かう。

 

 

 水溜まりの上を歩きながら導かれるように向かって行く。

 

 

「なんなんだろうな、この感覚?」

 

 

 首を傾げるが明確な答えは出ない。

 

 

「あ……」

 

 

 彼の視線に白い髪が目に入る。

 

 

 そこには赤い服と白い髪、白い肌のモノクロな少女がそこにいた。雨音が遠くに聞こえる言うな錯覚を得る。

 

 

 ソウマの心に暖かいなにかが溢れ出す。

 

 

 彼には雨に濡れ、ボロボロな彼女をこのまま放置することはできなかった。例えそれが敵であったとしても──

 

 

「クリス……」

 

 

 無意識のままに、彼女の名前を口にする。

 

 

 まるで、運命に導かれるように榊ソウマと雪音クリスは再開を果たすのであった。

 

 

 



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第44話 0000/混乱と離別

 少し時を遡る。フィーネの裏切りともとれる発言の真意の確認にクリスはいつもの彼女のいる場所に来たのであった。

 

 

「フィーネ! どういうことだよ! 何処へなりとも行けってどういうことだよ!」

 

 

 いつも、食事をとっていた場所でフィーネは英語で誰かと電話をしていた。

 

 

「おい、フィーネ……どういうことか説明してくれよ……」

 

 

 クリスのことには一切目をくれず、ずっとその場で電話をしていたが、暫くすると、顔が不快感に歪む。

 

 

「あぁもう! しつこいわねぇ!」

 

 

「フィーネ……」

 

 

「貴女はもう必要ないのよ……私にはもう計画を遂行するために必要な要素は全て揃った。だから……だから貴女はもう……必要ないのよ……」

 

 

 彼女は自分にいい聞かせるように同じ言葉を繰り返す。それでもクリスは下がらない。

 

 

「どうしてだよ……どうして……フィーネが私にギアも痛みも与えてくれて……争いを無くす手段を私に教えてくれたんじゃねぇのかよ……」

 

 

 涙ながらにすがるクリスに対してフィーネは顔を会わせずに、ネフシュタン鎧を纏い、手に持つソロモンの杖を起動して、ノイズを出現させる。

 

 

「……貴女はもう、用済み、カ・ディンギルはほぼほぼ完成し、この鎧も手に入れた。オーマジオウ、榊ソウマも重症を負っている。もう、私の道を阻む存在はいないも同然、だから何処えなりとも行きなさい……貴女は、もう自由よ」

 

 

 声音は震えており、フィーネからクリスへの敵意などその言葉には何処にもない。しかし、言葉は突き放す。

 

 

 クリスがフィーネに近づこうとするが、ノイズが遮り、彼女を殺そうと襲いかかる。

 

 

「ッ! ちくしょぉぉぉ!」

 

 

 歌を歌い、イチイバルを纏う。ノイズの攻撃を身体を捻った体術で捌ききる。

 

 

 しかし、それでも、自分の対処を越える量を召喚されていき、一斉攻撃を前に、隙を作り出してその場を離れる。

 

 

(どうしてだよ……フィーネッ!)

 

 

 クリスがいなくなったあと、ノイズを送還し、一人一人広くなった場所に本の少しの寂しさを感じながら椅子に座り込んで、上を向き、目元を手で覆う。

 

 

「これでいいのよ……これで……」

 

 

 突き放した後悔を圧し殺すように、机に置いてあるワインを呷るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪音クリスは鼻腔を擽る味噌と出汁の香りに目を覚ます。

 

 

 ベットの上に、自分の知らない部屋を見渡し、首を傾げながら身体を起こす。

 

 

「ッ!?」

 

 

 身体を襲う痛みに顔を歪める。それでも、現状の不気味さからベットから降りて自分の状況を確認すると、男物のワイシャツを着ていた。自分の服がどこ行ったかと確認すると、目の前の机に綺麗に折り畳まれている自分の服があった。

 

 

「……」

 

 

 自分の服のちかくにメモ書きがあり、そこには【起きたら、着替えて居間に来てください】書かれていた。

 

 

 訝しみながらも、自分の服に素早く着替えて、部屋を出ると、最初に感じていた香ばしい香りが強くなった。見渡すと、そこにはキッチンで食事を作っている少年の後ろ姿と寛いでいる少女の姿があった。

 

 

「あら、クリスが起きてきたわよ」

 

 

「え、本当?」

 

 

 少年は火を止めるとこちらに振り返る。

 

 

「あ……」

 

 

 クリスは少年の姿を目にすると、何故か覚えのない記憶が走馬灯のように自分の頭を過る。しかし、内容を自覚するよりも先に消えていく。

 

 

「「……」」

 

 

 二人の間に流れる空気が柔和なものになる。先ほどまでの張詰めかけた空気が霧散する。

 

 

「相変わらずみたいね。この女たらしは……ハァ」

 

 

「えぇ、それってどういうことぉ」

 

 

 何故か目の前に繰り広げられる漫才染みた流れにさえ、少しだけ胸のなかに不快感が走るが、頭を横に振り、その感情を振り切る。

 

 

(なんで、こんな初対面のやつに……)

 

 

 少女、七実はクリスに視線を向けると微笑む。

 

 

「あぁ、そろそろお邪魔するわ」

 

 

「え、昼食を食べていけばいいのに……」

 

 

「いえ、お邪魔虫は退散しないとね」

 

 

 クリスのところに近づくと小声で彼女に喋りかける

 

 

頑張ってね。いろいろと

 

 

「ハァ? それってどういう……」

 

 

「さぁ? いろいろとあるのよ……私は神様だもの」

 

 

「なにいってるんだ?」

 

 

「ふふ♪」

 

 

 愉快に軽い足で目の前に灰色のオーロラを出現させて、それを通り抜けて消えていった。

 

 

 二人が取り残されていた。空気の中で、暫くの沈黙のあと二人は同時に口を開く。

 

 

「「あの……っっ」」

 

 

 同時に口火をきるも、声が被る。

 

 

「俺は、榊ソウマ。よろしく」

 

 

 少年、榊ソウマは自己紹介を行い、ニコッと笑う。

 

 

 クリスはソウマが行った自己紹介に対して笑みが溢れ出す。

 

 

「はは! なんで、アタシがあんたと──」

 

 

 ぐぅ~と音が部屋に響き渡る。クリスは顔を赤めて目線を下に向けて無言になる。ソウマは少しだけ、笑うと振り返り、鍋の火を入れ直す。

 

 

「まぁまぁ、腹が減っては戦はできぬっていうからさ、とりあえずご飯を食べよう。ね?」

 

 

 彼の能天気な言葉に、クリスは毒気を抜かれてしまい、素直にテーブルに着くのであった。

 

 

 

 

 

 肉野菜炒めメインとした食事を囲みながら、ソウマとクリスは箸を進める。生姜を使っており、先ほどまでに冷えた身体を内側から暖まる実感を感じながら、箸を互いに無言で進めていく。

 

 

「……」

 

 

 ふと疑問に思ったことをクリスは口にする。

 

 

「アタシが眠っているときに服を脱がしたのはあの女か?」

 

 

「うん、さすがに俺じゃいろいろと不味いからね」

 

 

「なんで、アタシを助けたんだ……お前とアタシは敵同士だろ」

 

 

 クリスは予めフィーネから受け取っていた資料でソウマのことを知っていたが、ソウマはクリスついては、七実から先ほど情報を得たのみであった。そのため、助ける動機とは一切の絡みがなかったため、答えられずにいた。

 

 

「さぁ、特に君を助けた時にそんな面倒なことまで考えてなかったからね。だから今も特に敵味方は気にしてないよ。それに2課を信用はしきってないから、通報もしないよ」

 

 

「なんか、よくわかんねぇな、お前」

 

 

「そうかなぁ?」

 

 

 微妙な空気のなか二人は進めていくのであった。

 

 

 

 

 

「……ご馳走さま」

 

 

 目の前のソウマの作った食事を食べきると、クリスは少しだけ、気が抜けたように先ほどまで張積めていた肩から力が抜ける。

 

 

「お粗末様でした。何か、デザートは食べるかい?」

 

 

「デ、デザート!? ……いらねぇよ……」

 

 

「ん? そんなに遠慮しないで、ね」

 

 

 クリスのこぼした残飯をテーブル用布巾で拭き取ると、冷蔵庫から、自作の白いババロアを取りだして盛り付け、彼女の前に、スプーンとあわせて置く。

 

 

「あ……ハッ! 、食わねぇよ、アタシは!」

 

 

「まぁまぁ、食べてみなって」

 

 

 ソウマは押しきるよう彼女の言葉を無視して自分の分を食べ始める。

 

 

「……」

 

 

 この場の雰囲気に飲まれたクリスは席を立つという選択肢がでてくることはなく、仕方なく食べ進める。

 

 

「ッ! ……うめぇ!?」

 

 

「それはよかった。一応、甘さはちょっと控えめだけど、口にあってよかったよ」

 

 

 クリスは美味しそうに目の前のスイーツに舌鼓をうち、完食する。その姿をソウマは嬉そうに眺めていた。

 

 

「一応、礼を言っとくぜ……ありがとな」

 

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

 

 ソウマは思い出したかのように、ティッシュをクリスに差し出す。

 

 

「一応、口もとを拭いたらどうだい? かわいい顔が台無しになっちゃうからね」

 

 

 クリスは顔を真っ赤にしながら口もとをティッシュで拭き取るのであった。



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第45話 ××××/愚者の夢

 はい、我慢できずにプロットガン無視でこの話を突っ込んでしまったダメ作者です。
 ある意味一番書きたかった部分なので、大分先にだすはずだった最初期の伏線のヒントがガッツリ入ることになりました。



 古い、古い、しかし、未来のある日の出来事。

 

 

 暗雲が立ち込めるなか、ソウマは大きな公園のベンチに座り、目を伏せて、自分の内に渦巻く罪悪感と後悔で押し潰されそうなままに、自身のなかにある信念と幻影が彼の心を奮い立たせる。

 

 

 こちらに歩いてくる人影に気付き顔をあげる。

 

 

「あぁ……悪いな。こんな時に呼び出して……」

 

 

 クリスの表情がよく見れないほどに、顔を向けられない。

 

 

「……なんで……なんで、アタシを呼び出したんだよ」

 

 

 クリスの声は記憶にないほど刺の含んだものであった。

 

 

「ひとつだけ、頼み事があってな……」

 

 

「……頼みだぁッ! ……ふざけんじゃねぇ!」

 

 

「わかってるよ、でも、もう時間がないんだよ……時間がな」

 

 

 その声が真に迫るものであるとはクリスはよく理解していた。しかし、それでも今の状況がそれを許せない。

 

 

 歯を強く噛み締めているクリスと砕け散りそうな心を強く押さえているソウマの二人の空気を塗りつぶすように空から雨が降りだす。雨が地面を少しずつ濡らしていきながら、二人の身体を濡らしていく。

 

 

 雨が二人の身体を濡らしきった時、自分のなかにある本当の気持ちが顔をだす。

 

 

「なんで、あんなことをしたんだ……ソウマ」

 

 

「あれしか手がなかったんだ……クリス」

 

 

 二人の間に雨が通りすぎていく。

 

 

「頼みごとってなんだよ」

 

 

「響のことを頼む……」

 

 

 ソウマは立ち上がり、クリスの正面に立つ。

 

 

 クリスの顔は複雑なものであり、何かを圧し殺したものであった。

 

 

「お前が、いてやれよ。ずっとそばにいてやれよ……あの馬鹿はずっとお前の事が好きなんだぞ……」

 

 

「わかってるさ……そんなこと、俺だってずっとそうだったんだよ。俺だってな」

 

 

「だったら、どうして……ッ!? お前、まさか……」

 

 

 無言で頷くソウマは自分でさえ意識していないほどに絶望が露になる。

 

 

「お前にしか頼めないんだよ……頼む!」

 

 

「なんで、アタシなんだよ……なんで……」

 

 

「それは……」

 

 

「アタシだって、アタシだって、お前の事が好きだったのに、なんで、アタシにはなにも残しちゃくれないんだよ……アタシに頼みだけ背負わせて……ッ……ッ……なんで、アタシには、なにも──ッ!?」

 

 

 クリス自身を包み込む柔らかな暖かさに勢いで閉じていた目を開く。ソウマの頭が近くにあり、それに驚くが、彼の腕が自分を包み込んでいるため動けない。

 

 

 呆然となった意識が、抱き締められていると認識したときには彼の顔が正面にあった

 

 

「お前、行きなり何を──ッ」

 

 

 彼の唇がクリスの口を塞ぐ、彼女の目から涙が流れ、落ちていく。自分のなかにある感情が渦巻きながら黒くなっていくが、それさえも包み、飲み込むように彼は彼女を抱き締める。

 

 

 抵抗する彼女の力が少しずつ消えていき、やがて彼に身体を預ける。

 

 

 ソウマが口を離すとクリスの口と自身の口に橋がかかる。

 

 

 その橋は広がり、切れて落ちる。

 

 

「……なんで、いきなり……こんなことを……」

 

 

 視線だけを反らす。彼の視線がクリスに突き刺さる。

 

 

「ごめん、でも、今はこのまま、俺に利用されてくれ」

 

 

 彼の言葉は決して優しいものではない。クリスの求めた答えでは決してない。だが、その声音は優しく、彼女のなかにある未練に火をつけるには十分すぎるほど、彼女への愛に溢れていた。

 

 

 彼の顔を見つめながら、少しだけ迷い、目を反らすも、すぐに彼に顔を向けて、恥ずかしがる乙女のようにクリスは「最低……」と言葉を呟き、頷いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が差し込む自室の部屋のベット上には裸になって、眠っている彼女がそこにいた。

 

 

「……いっちまったか……あ~あ、スタイルには自身があったんだけどなぁ、アイツを射止めて、縛り付けることはできなかったか……」

 

 

 いつも以上に乱れたベットで、自分以外がいたであろう場所を撫でる。そこには彼がいたであろう温もりが本当に少しだけ残っていた。

 

 

「はは、やっぱりガラでもねぇな……でも、確かに受け取ったぜ……確かにな……」

 

 

 彼女の目に大粒の涙がたまっており、自分の内の彼への思いが強く燃え上がり、心を染め上げ、昨夜の内に行われた一夜限りの営みの記憶がクリスの理性を焼き付くす。故に、彼女はこれから起こるであろう現実から逃げるように布団を被り、そのまま眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の戦いを終えて、クリスは響とソウマがいるであろう場所へと向かう。雪だらけの積もった林道を進んでいき、少しだけ開けた場所にたどり着く。

 

 

 目に飛び込むのは血だらけのソウマと、それを抱き締め、泣きじゃくる響の姿がそこにはあった。

 

 

 ソウマは明らかに致命傷を負い、息を引き取ったのだと理解ができる。しかし、いくら頭が現実を理解しても心が、感情が決して認めたくないと、騒ぎだす。

 

 

「……ッ……ッ……ソウマぁ……ソウマぁ!」

 

 

 彼の亡骸を抱き締め、響はすすり泣く。その声にクリスの胸は締め付けられる。足が震えて立っていられなくなり、その場で座り込み、目の前の現実を否定するように首を横にふる。

 

 

 自分の愛した男の亡骸を抱き締めている女に殺意がわくが、それを消すように、彼の言葉が浮かび上がる。

 

 

 彼との約束を果たすため、立ち上がろうとするが、一切の力が足に入らず、目の前が歪む。自分の愛した男の亡骸を前に、自分のなかにあるなにかが暴れ、涙が次から次へと流れだして止まらない。

 

 

 雪景色のなかにある死が二人の心を砕く。暫くするとソウマの身体が光に包まれていき光の粒となって空に浮かんで消えていく。

 

 

「いかないで! いかないで! ……お願い……ソウマ、ソウマぁ……」

 

 

 響の悲痛な声が空へと木霊するとともに、光の粒を行かせまいと踠くように手を伸ばす。クリスもまた、無意識ではあるが、空へと手を伸ばす。まるで、彼をもう一度死から引き戻そうとするかのように

 

 

「あ、あ、あぁ……」

 

 

 光の粒は空へと全て消えていった。クリスも響も伸ばしていた手が力なく落ちる。

 

 

 二人の意識が絶望に飲まれた瞬間、空から光が爆発し、世界の全てを飲み込んだ。

 

 

 この日、榊ソウマは世界から完全に消え去ったのであった。



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第46話 0000/不穏な兆候

 誰もいない、リビングでクリスはソウマの作り置きしていた昼食に箸を進める。

 

 

 ソウマの家に暮らして、1週間が経とうとしており、この部屋で過ごすことにも抵抗がなくなってきていた。

 

 

「あいも変わらず居候のアタシのために、飯を作り置きしておくかぁ、普通」

 

 

 馴染み深さと新鮮さが混じる不思議な感覚が頭の中を支配する。

 

 

(やっぱり、どこかで食ったことがある感じなんだよなぁ……どこでだったかなぁ?)

 

 

 疑問符が浮かびながら、箸を進めていくうちに、気が付けば彼の用意したものを食べきってしまっていた。

 

 

「あ……まぁ気にしてもしょうがねぇか」

 

 

 ソウマに言われた通り、食器を洗い乾燥させるために立てかける。

 

 

「よっし、細かいことは気にしてもしょうがねぇか」

 

 

 自分の中の不思議な感覚を振りほどくように、乱雑に近い意識のままに椅子に座りながら寛ぐように、テレビをつけて意識を集中させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間が過ぎ去り、日が沈みだす頃、椅子に座りながら雪音クリスは眠っていた。

 

 

 彼女は夢を見ていた。昔の頃のまだ、フィーネと出会う前の両親が死に、紛争地域に一人取り残されたあの日々のことを──

 

 

(……あぁ、なんでこんなことを今更思い返すんだよ)

 

 

 飢餓から逃れるために、パンを盗んだ記憶。捕まり商品のように扱われ、嬲られた記憶。自分の中にある悍ましく否定したい記憶たち。それが浮かびあがり、消えたいく。

 

 

「お~い、クリス~」

 

 

 体を揺さぶられる感覚と、自分の名前を呼ぶ声が自身の意識を現実へと引き上げる。

 

 

「……ハッ……はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 荒れた息を整えるように、深く、一度息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。吐き出した息とともに、先ほどまで悪夢を頭から締め出す。

 

 

「……ソ、ソウマか……、わりぃ、なんか眠っちまっていたみたいだ」

 

 

「いや、気にしないでよ。別に眠ってたのは全然問題ないよ……でも、なんか魘されてたみたいだけど、大丈夫?」

 

 

「……昔を思い返してただけだよ。別にどうってことねぇよ……」

 

 

「つらいことなら、これ以上聞かないよ。でも、本当に辛くなったら頼ってくれよ」

 

 

 視線をクリスから外して、どうやら買ってきた食材を仕分けて、それぞれの場所に格納していく。

 

 

「なぁ、聞きたいことがあるんだ」

 

 

「ん? どうしたの。なんか必要なものがあった?」

 

 

「なんで、アタシのためにここまでするんだよ……」

 

 

 クリスの声が震えていることに気が付き、彼女のほうに振り向く。

 

 

 そこには、不安と猜疑感に満ちた2つの瞳がこちらを見つめていた。

 

 

「そんなの決まってるじゃない?」

 

 

「え……」

 

 

「単純にまず、下心かな」

 

 

「ッ……」

 

 

 なにも誤魔化すことなく、淡々と自身の行動の目的が下心だという回答に鳩が豆鉄砲を食らったかのような呆けた表情を浮かべることしかできずに、少しの失望が自身の胸に湧き上がっていた。

 

 

「ここで、クリスが死ぬことよりも、響たちの味方になってくれた場合の戦力上の利点、あと純粋に俺が目の前でクリスが死ぬのを見逃せなかったことと頭で考えるよりも先に体が動いてただけだよ」

 

 

 彼の言葉の後半の言葉に湧き上がった失望を吹き飛ばすように、顔に熱が回り、顔を後ろに背けてしまった。

 

 

「なんで、そんなこっぱずかしいことを正面切って言えるんだよ……バカ……」

 

 

「ハハハ、実際に言葉にすると少しは、俺も恥ずかしいからな、でも、本当にクリスを見つけた時には何も考えずに行動してたんだよ」

 

 

「あんだけ、アタシを殺そうと戦っていたのにか、よくわかんねぇやつだな、本当に」

 

 

「別に、クリスを殺そうと思ってたわけじゃねぇよ」

 

 

「え……」

 

 

「本当は戦いたくなかったさ、でもまぁ、それでも戦わなきゃいけないから全力で戦っただけだよ……」

 

 

 クリスは、その言葉に勢いよく振り向き、言葉が口から出ようとする。

 

 

「それじゃあ──ー、いやなんでもねぇ」

 

 

 自分と響のどちらを選ぶのか、それこそ答えが分かり切っていた質問をぐっと飲みこむ。

 

 

「なぁソウマ、一つだけ付き合っちゃくれないか」

 

 

「あぁ、別にいいよ、いつがいい?」

 

 

「できるだけ、早いほうがいいな」

 

 

 少しの不安が声からにじみ出る。その声からソウマはカレンダーをみて決める

 

 

「それじゃあ、明日にしようか」

 

 

「はぁ? 明日は平日じゃねぇか……いいのかよ」

 

 

「別にいいよ。かわいい女の子の頼みだしね」

 

 

「ぷっ、アハハハハ、バカじゃねぇの、おまえはよ、ハハハ」

 

 

 ソウマの茶化すような言葉にクリスは、噴き出すように笑いがあふれ出してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りたころ、自分一人となった広い部屋にフィーネは椅子にもたれかかるように、今までのことを思い返していた。

 

 

 翼の歌声によって自分が目覚め、桜井了子と一つになり、シンフォギアを生み出し、いろいろなところに根を回し、クリスを拾って計画を実行に移した。

 

 

「……感傷なんて、私らしくないな」

 

 

 自分の中の感傷がずっと自分を苦しめる。

 

 

「……クリス」

 

 

 クリスのことが頭の一部を占める。自分にとって彼女は間違いなく娘のように扱っていた。

 

 

 少し前の自分なら否定していた。だが、一度彼女を突き放したことで、自分にとっての彼女がどれだけを占めていたのか痛いほどわかっていた。

 

 

 それを否定するようにノイズの追っ手を送った。それだけのことをしたとしても、自分にとって、後悔に近しいものが胸の奥底にしこりのように残り続けていた。

 

 

「……それでも、私は成し遂げて見せる。必ず」

 

 

 昼間に響に語った自分の恋を叶えるために今あるクリスへの愛情を押し殺すのであった。

 

 

 

 

 

 自宅付近のファミレスの1席に筋骨隆々の男──風鳴弦十郎が席に座り待っていた。

 

 

「それで、こんな時間に俺を呼び出して何の用ですか? 弦十郎さん……」

 

 

「すまないな。だが、要件は察しの良い君ならわかってくれてると思っていたんだがな」

 

 

 少し、警戒心を織り交ぜながら、ソウマは、弦十郎の前の席に座る。そのような姿を一切気に留めることなく彼は柔らかい雰囲気で話始める。

 

 

「それじゃあ答えは、NO一択ですよ。俺がクリスの身柄を渡すわけないでしょ」

 

 

「そういうと思っていたよ。君は私たちを信用していないからな」

 

 

「当然ですよ。2課の中枢に裏切り者がいる時点で俺にとっては信用する要素なんてどこにもないでしょ」

 

 

「……気づいていたのか」

 

 

「当たり前ですよ。それだけの情報は、最初に2課に向かった時点で大部分は、確信したのはこの前のデュランダルの件でですがね」

 

 

 二人の間に沈黙が流れる。静かに警戒心を見せるソウマとどう切り出すか迷っている弦十郎の二人の間の壁は分厚く簡単に壊れることはない。

 

 

「それで、今回の本題を聞かせてくれないでしょうか。弦十郎さん」

 

 

 ソウマの言葉に弦十郎は神妙な表情で口を開くのであった。



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第47話 0000/暗躍

 まだ、日が出ている時間、小日向未来は、立花響は2課に先日の雪音クリスとの戦闘における事情聴取のために呼び出されていた。

 

 

「さてと、説明をしてもらってもいいかしら? 未来ちゃん?」

 

 

 桜井了子は、机を対面に座っている彼女に対して、先日の戦闘における戦闘における彼女の使用した力の説明を要求する。

 

 

「わかりません……ただ、契約した彼女が私に力を貸してくれているだけです」

 

 

「その彼女っていうのは、一体誰なのかしら?」

 

 

「それは──」

 

 

 いきなり、未来の意識が闇に落ち、人格が切り替わる。

 

 

「ッ!? 、大丈夫!? ……ッ!」

 

 

 勢いで、立ち上がり、未来に駆け寄ろうとした瞬間に足が止まる。

 

 

「オイオイ……つれねぇじゃねぇか、了子さんよ」

 

 

「貴女は……まさか、あの時の……」

 

 

 冷汗が、彼女の背中を伝う。

 

 

 3rdは赤い瞳で了子の瞳を見つめる。

 

 

 了子──フィーネは自分の中にある罪悪感が膨れ上がる。

 

 

 彼女は懐に隠して持って行ったリモコンを使用し、外部への音声出力を停止させる。

 

 

「これで、少しは落ち着いて話せそうね……クリス」

 

 

「今は、3rdだよ。フィーネ」

 

 

 先ほどまでの剣呑な雰囲気を潜め、彼女は穏やか、久方ぶりに実家に帰った時のような軽く、しかし、重い感傷と共に笑う。

 

 

「随分と変わったみたいね。どうして私みたいに、人の体を乗っ取るようなことができているのか、説明してもらえる?」

 

 

「ん? そんなことか。それはフィーネの転生に使っていた技術の転用と錬金術とか、いろいろな複合だな」

 

 

 鳩が豆鉄砲を食らったかのように面食らったフィーネは頬を引きつらせて苦笑いを浮かべる。

 

 

「随分と、正直に話すのね……」

 

 

「別に、正直に答えるつもりでいったわけじゃねぇよ。どうせ再現できない技術だってことと、話したところであまり状況に変化がないからっていう予測の結果だよ」

 

 

「随分と下に見るわね。わたしのことを」

 

 

 悪戯が成功した子供の様に、舌をだして片目を瞑る。

 

 

「ハハハ、そんなの簡単だろ? 全部予測した結果だよ。アタシたちアークの予測はそうそう外れはしない」

 

 

(外れない予測とはね……一体どんな技術なのか、喉から手が出るほどほしいものねぇ)

 

 

 表情に出さないように取り繕いながら、彼女は相手の技術に興味を示す。それだけの心理的余裕が生まれてきたおり、彼女は息を整えて、相手の真意を問いただす。

 

 

「貴女がわざわざ、ここに現れた理由はなにかしら?」

 

 

「それは、1つ頼みがあるだけだよ」

 

 

「内容は?」

 

 

「この時代のアタシと決別してほしいだけだよ」

 

 

「どういう目的? すでに私とクリスは袂を分かっているもの。これ以上決別する意味が分からないのだけれども」

 

 

 ニヤリと笑う彼女に一つの不安がよぎる。それは自身を動かす事が予測沿った行動だということ。つまりは自分がとるであろう行動さえも目の前の相手がすでに知っていることになる。

 

 

(本当に不気味ね。アークっていうのは……)

 

 

 フィーネは3rdの提案を嫌な予感と共に飲むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 椅子に座りながら、足をふらつかせる。響は共にきていた自分の親友、未来の事情聴取の終わりを待っていた。

 

 

「あれ……立花じゃないか……」

 

 

「あ、翼さん! 奏さん!」

 

 

 自分の名前が近くから聞こえたため、響は回りを見渡すと翼と奏、そして緒川慎次が近くにいた。

 

 

 こちらに向かってくる3人に対して、響は椅子を立つ。

 

 

「よぉ、お前、こんなとこに一人でどうしたんだ?」

 

 

「それが、未来がこの前の戦闘の件で呼び出されちゃって」

 

 

「あぁ~確かに呼び出されてしまうね」

 

 

 二人と世間話や、最近の戦闘についての反省点等の話を始めていると、気がつくとこちらに近づく足音から後ろを振り向くと、了子と未来がそこにいた。

 

 

「あ、未来!」

 

 

「響……声が大きいよ……」

 

 

「あ、ごめんごめん」

 

 

 喜びのあまりに、大きな声をだしてしまった響に苦笑を浮かべてこちらに小走りで近づいてくる。

 

 

「それで、どうなったの?」

 

 

「なんか、協力者になるみたいだって、一応響とソウマと同じ立場になるみたい」

 

 

「え……それじゃぁ、未来も……戦うの?」

 

 

 恐る恐る、様々な恐怖を目に写しながら聞いてくる。

 

 

 未来は響の不安を取り払うように首を横にふる。

 

 

「ううん、違うよ。アークはいつでも協力してくれる訳じゃないから、戦うことはできないかな?」

 

 

「安心して響ちゃん。あくまでも、自由な行動を保証するためのものだから、でも、最低限監視がついちゃうからごめんね」

 

 

 了子が響と未来に申し訳なさそうにしていると、戦うわけではないとわかり、響は胸を撫で下ろす。

 

 

「よかったじゃねぇか、戦いなんてするもんじゃないからな」

 

 

「奏……」

 

 

 ぶっきらぼうながらも、二人を案ずる奏を目にして笑みが消えない。

 

 

「なんだよ、翼」

 

 

「なんでもないよ! 奏!」

 

 

 笑っている翼に怪訝な表情で訴えるが翼に簡単にあしらわれる。

 

 

「ところで、ごめんなさいね。なんかガールズトークを邪魔しちゃったみたいで」

 

 

「あれは、ガールズトークなんでしょうか……」

 

 

 少し、剣呑さを含んだ会話に緒川は、本の少しだけ本音が口からこぼれてしまった。

 

 

「あら、でも、いいわよねぇ青春て、まぁ、私はいまでも一途だから関係ないか」

 

 

「え、了子さんにもそんな相手がいるんですか!?」

 

 

「失礼ね。いるわよ。私だって女の子ですもの」

 

 

 彼女の女の子発言と合わせて、恋の話ともあり、響はいわずもがな、奏でさえも、興味を強く示し始めた。

 

 

「以外だな、了子さんは研究一筋かと思ってたぜ」

 

 

「えぇ、まさか桜井女史からそのような言葉を聞けるとは……」

 

 

「当たり前でしょう、私は一途に恋に生きる女だもの! でも、響ちゃんや未来ちゃんみたいに一人の男性を好きになるみたいな感じのことはなかったけどねぇ」

 

 

「いやぁ、それほどでも」

 

 

「響……誉められてないよ……」

 

 

「え、そうなの!?」

 

 

「相変わらずの残念さだな。立花は」

 

 

「あぁ違わないな」

 

 

「翼さんも奏さんも酷いです~」

 

 

 わちゃわちゃとなっていく空気にその場にいた緒川は疎外感を覚えて、口から本音が溢れてしまった。

 

 

「なんでしょうか、凄く肩身が狭いです」

 

 

 少しだけ哀愁を纏いながら、職務のためと言い聞かせ、その場で待機するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渋い表情を浮かべるソウマとその表情の原因となった提案という名の命令を下した弦十郎。

 

 

 ソウマは、瞼を閉じ、情報の精査、どのような行動をとるべきか考える。

 

 

「協力してくれるかな。榊君」

 

 

「あぁ、正直、断る理由も、それを行う一切の利点もないですから……状況的にもそれが、俺や響にとっても有利となることはわかってますから……しかし、そうなった場合のクリスの安全が一切保証されない点についてはどうするつもりですか?」

 

 

「それは、俺が何とかしよう」

 

 

「それが、信用できないって言ってるんですよ。組織中枢部の裏切り者の存在。そして敵の戦力の不透明さ……他にもいろいろと今のあなた達には信用できる側面が少なすぎるんですよ」

 

 

「……それでも、信用してほしい」

 

 

 頭を下げる弦十郎に、下唇を噛むソウマは、多少の罪悪感が胸を締め付ける。しかし、それ以上にクリスの命の安全が一切保証されないこの現状を認めるわけにはいかない気持ちがそれを跳ね除けようとする。

 

 

「……あなた個人を信用していないわけじゃないんですよ。あなたの大人としての誠実さには一切の疑いはないんです」

 

 

「榊君……」

 

 

「わかりました。でも、彼女の身柄は預けられない。これで手打ちにしてもらえないでしょうか」

 

 

「ありがとう」

 

 

 弦十郎の差し出された右手をとり、握手を交わす。後悔が湧き上がるも、それを理性の弁明によって押し潰す。

 

 

 二人の間の壁が本の少しだけ取り払われたような感覚を2人揃って抱いていた。

 



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第48話 0000/温もりの示す先

 ガチャリと音が玄関の鍵を開ける音が聞こえる。

 

 

 留守番をしていたクリスは、音に気を取られ、テレビから、玄関へと視線を向ける。

 

 

「ただいま……」

 

 

「あぁ、おかえり……って、おい、どうしたんだ。大丈夫か?」

 

 

「う、うん。いやぁ、なんか面倒くさい状況になっちゃって……はぁ……」

 

 

 精神的に疲れたソウマは、荷物を投げ出し、クリスの座っているソファーの横に勢いよく座り込む。

 

 

「ッ!?」

 

 

 1週間近く同じ部屋で寝食を共にしているが、こんなソウマの姿を見るのは初めてだった。

 

 

「どうしたんだよ……お前がそんなに疲れてるなんて……」

 

 

「ん、あぁ~腹芸苦手なのに、腹芸を一番見抜かれそうな相手にするのは本気で疲れたよ」

 

 

「? 、腹芸って一体どういうことだ?」

 

 

「正直説明に困るんだよね。内容が、内容だけに」

 

 

「ふーん、まぁいいけどな……アタシに関係なければな」

 

 

「ハハハ……」

 

 

 乾いた苦笑いが部屋に響くがしばらくすると、彼の携帯が震える。

 

 

「ん、未来から、ちょっとごめん、もしもし、どうしたの?」

 

 

『あ、ごめんね。ソウマこんな、夜遅くに』

 

 

「いや、大丈夫だけど……でもどうしたの?」

 

 

『それが、今日、私も外部協力者に指名されちゃって』

 

 

「外部協力者……え、マジで……」

 

 

『うん、それで伝えておかなきゃいけないと思って……』

 

 

「……あの野郎

 

 

『え、ソウマ、なにかいった?』

 

 

「ん、いや、何も。でも、このまま、普通に協力者としてなにかしなきゃいけないってことになってるの?」

 

 

『ううん、それは大丈夫だって』

 

 

「よかった……」

 

 

 胸をなでおろすソウマを、クリスは無言で見つめる。

 

 

 楽しそうに通話をする彼の姿に本当に少しだけ、無自覚に自分の服を強く握り締める。

 

 

「ん……あぁごめん、ちょっとまだ、やることが残っててさ、もう寝るよ」

 

 

『あ、そうだ、今週末って予定あいてる?』

 

 

「あぁ……空いてるけど、それがどうしたの?」

 

 

『嫌じゃなかったら、その時一緒に出掛けないかなって……』

 

 

「え、あ、あぁうん行こう、楽しみにしてる」

 

 

『よかった、じゃあ詳細はまた今度話すね。それじゃあ、おやすみなさい』

 

 

「あぁおやすみ、愛してるよ」

 

 

『え、えぇ、そ、そうまぁ』

 

 

 狼狽えている未来との通話を切り、悪戯が成功した子供の様に彼は笑う。

 

 

「……楽しそうだな、ソウマ」

 

 

 仏頂面のクリスに彼は困った顔を浮かべる。

 

 

「どうしたの、クリス、そんな怖い顔をして」

 

 

「なんでもねぇよ、なんでも……」

 

 

「あ、そうだ、明日ってどこに行くんだ?」

 

 

 完全に彼女の意識を逸らすために、話題を変える。

 

 

「あぁ、それは、フィーネのところだよ」

 

 

 その言葉に、驚くが、予想通りというかのように、ソウマは、肩を落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウマはクリスを後ろにのせ、ライドストライカーを走らせる。目的地はフィーネのいるであろう郊外の屋敷であり、少しずつ森林の目立つ景色に移り変わっていった。

 

 

 クリスは、フィーネにであう、恐怖か不安かはわからないが、自分の感情を紛らわせるために、彼に捕まる腕をさらに強くする。強く抱きしめた彼の体から伝わる熱が強く自分に伝わってくる。不安が少しずつ彼の熱に溶けて消えていく感覚が湧き上がる。

 

 

「……あったかいな

 

 

 クリスはその感覚に縋るように、さらに強く抱きしめる。

 

 

「……」

 

 

 一瞬だけ、彼女に意識を向けるが、再び、周りへと意識を向ける。

 

 

 風が体に当たり、後ろへと吹き抜けていく。ライダージャケットを着ているが、少しだけ、冷える体に頭に上がっていた現状への怒りの感情が冷えていく。

 

 

 昨夜の未来との会話で受けた怒りの感情が燻りだす。頭では、最善だと理解できるが、それでも、怒りの感情が沸々と湧き上がる。しかし、その感情を吹き抜ける風がそれを忘れさせてくれる。

 

 

 背中から感じる。人の温もりと、自分を抱きしめる彼女の腕が今の自分のやるべきことを教えてくれている。そんな感傷に浸りながら、彼はギアを上げ、アクセルをさらに吹かすのであった。

 

 

 

 

 

 ソウマは、ゆっくりと、速度を落とし、止まり、ヘルメットを脱ぐ。

 

 

「ここか……フィーネがいるっていう場所は」

 

 

「あぁ、確かにここのはずだ」

 

 

 二人は、目の前の洋館に意識を向ける。ライドストライカーから降りると、待機状態へと戻す。

 

 

「……いこうか」

 

 

 ソウマは、ドライバーを腰に装着すると扉へと進んでいく。

 

 

「……あぁ」

 

 

 フィーネからの絶縁の宣言を受けて以来となり、不安感が再び、募る。先ほどまでの温かさがなくなったことで募る不安は消えることなく、彼女を蝕む。

 

 

 蝕まれていく心が足を前へと踏み出すことを躊躇わせる。

 

 

「クリス?」

 

 

 クリスが来ないことに気づき、振り返るとそこには顔を青くした彼女がそこにいた。

 

 

「大丈夫? 、顔色が悪いみたいだけど……」

 

 

「あ、あぁ、わりぃ」

 

 

 彼女は、自分の中にある感情に振り回され、不安に押し潰されそうになっている。

 

 

「……」

 

 

 自分を掻き抱く彼女に、ソウマは近づき、彼女の右手を覆うように触れ、握り締める。

 

 

「え……」

 

 

「不安だったら、俺がそばにいるよ、だから大丈夫!」

 

 

「ソウマ……」

 

 

 いきなり、握られた手に驚き、顔を上げる。

 

 

「え、えぇ……」

 

 

 困惑しながらも、握られた手を強く握り返す。手を放すものかと、強く握り締め、自分の中の正体不明の何かに身を預ける。

 

 

 温かな気持ちを抱きながら、彼と手を繋ぎ、前へ二人で進んでいった。

 

 

 

 

 

 警戒しながら、洋館の中を進んでいくが、その場所までに一切の罠は見受けられなかった。

 

 

 二人は進んでいくとそこは、大きな部屋へと到着した。

 

 

「ここは……」

 

 

「ここにフィーネはよくいたんだ」

 

 

 そこには、フィーネの姿はない。しかし、その机の上には、様々の資料が散々と広がっていた。

 

 

 クリスの言葉から、近くの機材や、机の上に意識を向けて探していくと、写真のついた資料がそこにあった。

 

 

「これは……ッ!?」

 

 

 ソウマは、その資料に意識を向け、手に取る。その資料は榊ソウマ自身について書かれており、自分の認識していない情報について書かれていた。

 

 

「これは、ちょっと……いや、かなり面倒なことになってるなぁ」

 

 

 ソウマは冷汗を流して、警戒心を高める。

 

 

 英語で書かれている報告書、報告書の詳細すぎる点、自分の把握していない両親、親族の現状。様々な情報から嫌な予感が汗と共に噴き出る。

 

 

「ここから、離れよう」

 

 

 彼の中に生まれた嫌な予感が彼の思考を支配する。

 

 

「どうして……」

 

 

「後で、説明するよ……ッ!?」

 

 

 強い、視線を受けて振り返るとそこには、白い服とフードかぶっている女性がそこにいた。

 

 

「あれぇ、ここに来るなんて、どうしたのかな?」

 

 

 彼女の無邪気な声が耳に届くも、その質問に答えられないほどまでにクリスもソウマも尋常ならざる気配に飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

 



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第49話 0000/比翼連理の想い

 


 白い服を着た女性がクリスとソウマの前に立ちながら、興味深そうに二人を覗き込んでいた。

 

 

「あれぇ、こんなこと、今までなかったはずなんだけどなぁ」

 

 

 二人を見るようで、その瞳はモノを見るようであるが、どこか、温かさを秘めている。

 

 

「まぁ、いいか……ちょっと眠って」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 彼女が手をかざすと、急激な眠気に襲われる。

 

 

 クリスが、そのまま地面に倒れ伏す。ソウマは、反対に気力で踏ん張りながら、意識を繋ぎとめる。

 

 

「あ~、なんで寝てくれないかなぁ~、気力だけで神の力を跳ね除けるのは、ちょっと想定外だねぇ」

 

 

「貴女は……一体?」

 

 

「私、私はミラ、善なる神にして、この世界で最も初めに存在した神様……かな?」

 

 

「なんで……ここ……に……」

 

 

「事前にここの状況について確認」

 

 

「確……認……?」

 

 

 当然の疑問を投げかけるが、ミラは首を傾げる。

 

 

「まぁ、理由は言えないかなぁ~」

 

 

「なん……で……ッ!?」

 

 

 ソウマの意識が急に遠くなっていき、足を折り、うつ伏せに倒れる。

 

 

 足音が、消えゆく景色の中に聞こえてくる。

 

 

「少し、おふざけが過ぎるな、ミラ?」

 

 

 足音共にいつもの飄々とした態度が消えた、少しだけ、怒気を纏わせたアーリがそこにいた。

 

 

「ッ!?、ぁ……アーリッ!!」

 

 

 まるで、花が咲くかのように、待ち人を待つ少女のように、恋する少女のように、善なる神は、悪なる神との再会に心を躍らせる。

 

 

「……ミラ」

 

 

 対するアーリは、眉間に皺を寄せる。

 

 

 アーリは意識を失ったソウマとクリスを灰色のオーロラで二人を転移させる。

 

 

 転移させた後、ミラも特に気にすることなく、アーリに視線を離さずに微笑み続ける。その視線に彼は気づきながらも、決して彼女と目を合わせようとはしなかった。

 

 

「それで、この状況はどういう訳だ? ソウマとクリスを眠らせたのは、ここに鉢合わせたから、では、なぜ、ここでお前が鉢合わせた? まだ、動くタイミングではないと思っていたんだけどね」

 

 

「あぁ~うん、それはねぇ、フィーネに力を与える前に、今どれだけソウマ君たちのことを調べているのか、ちょっと気になっちゃって……」

 

 

 アーリに向けた視線を少し泳がしながら、胸の前で、指と指を合わせる。

 

 

「ふ~ん、まぁ、その理由で納得しといてあげるよ。今から口にすることは、ただの独り言だ……」

 

 

 独り言と断りを入れた上で、自分の考えを述べていく。

 

 

「お前がここに、来る理由は、現状の確認も一つだろう。でも、それであれば、システムを使えばいいだけ、それをしないのは、この場に現れたソウマとクリスが状況によっては、フィーネと鉢合わせる危険性、それに伴う、彼女が計画を放棄する可能性を考えた。まぁそれの未然防止ってところかな?」

 

 

「随分と長い独り言だねぇ~」

 

 

「いや、一応まだ続きがある」

 

 

「そ、それ以上は、勘弁してくれないかなぁ~、お願い!」

 

 

 アーリは、自分に対して、手を合わせて懇願してくる彼女にため息をつきながら、彼女と正面を向いて向き合った。

 

 

「わかったよ……それで、まぁ、なんていうか……」

 

 

 しどろもどろする彼の姿にミラは首を傾げる。しばらくすると、意を決したように手を首元に回して、目線を先ほどまでと同じく、逸らす。

 

 

「元気だったか……」

 

 

「ぁ……うん! 、元気だよ。だって元気が私の取り柄だもん!」

 

 

「そうか……それはよかったよ……本当に」

 

 

 気恥ずかしさから、目線が泳ぎ続けるアーリに、ミラは喜びのあまりに、頬が緩み続けてしまう。

 

 

 ミラは、意を決して、一つの頼みごとをアーリに投げる。

 

 

「……あ、あのさ、アーリ……また、また一緒に世界を管理しようよ。それで、私と一緒に過ごそう。ね……」

 

 

「それは、それはできない」

 

 

「……やっぱり、私にもう嫌気がさしちゃった?」

 

 

 ミラの目じりには涙がたまっていく。それにアーリは首を横に振る。

 

 

「そんなことない。でも、俺とお前じゃ望む未来が違いすぎる」

 

 

「そんなこと……そんなこと、どうでもいいじゃない!」

 

 

 自分の中にある有り余る感情をそのまま、アーリにぶつける。

 

 

「なんで、そんなに人類のために、身を投げうてるの……どうして、そのために私を捨てたの……」

 

 

「捨ててなんかいない……仮にも俺とお前は夫婦神だろうが……自分の愛妻を見捨てる夫がどこにいるっていうんだ!」

 

 

「じゃぁ、どうして……」

 

 

「俺は、自分の神としての責任を果たすだけだ」

 

 

「責任って、どうして……」

 

 

 明らかに沈んでいる彼女に、アーリは頭を掻きながら、一つの提案を行う。

 

 

「なぁ、ミラ、俺たちって結婚式すら、上げてなかったよな……」

 

 

「う、うん……それがどうしての?」

 

 

 いきなりの話の切り出しに彼女は戸惑いの感情が頭を占める。

 

 

「これが、この世界の未来が決まって、俺たちのやることが全部終わったら……、式を挙げないか?」

 

 

「え、え、えぇぇぇ~!?」

 

 

「だめか?」

 

 

「う、ううん、したい、したいけど、アーリはそれでいいの?」

 

 

「いいさ、ただ、その分俺は今回ばかりは遠慮せずに行く。これ以上時間をかける猶予も力もあまり残されていないからな……」

 

 

 彼の言葉を受けて、呆然とするミラは、無力感を感じて、唇を噛む、しかし、すぐにそれを払拭するために、手を強く握るり、自分の中にある、躊躇いを投げ捨てる。

 

 

「そんなことない……そんなことないよ、私が勝って、すべてを手に入れる。だから、アーリ、今回は私も全力で行くよ」

 

 

 悪神と善神は自身の目指す未来のために、自分の領域に戻ろうとする。

 

 

 アーリとミラは、自分の領域への門を開くと、足を止めて、口を開く。

 

 

「ミラ、俺は、全力で足掻く」

 

 

「アーリ、私も、全力足掻くよ」

 

 

「「自分が望む未来のために!」」

 

 

「人類の自由と」

 

 

 アーリは自由を掲げ

 

 

「人類の平和と」

 

 

 ミラは平和を掲げる。そして、

 

 

「「未来のために! 必ず勝つ!!」」

 

 

 一人と一柱の神は、自身の領域へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミラは、自分の領域に戻ると、自分の机の上に置いてある。ライドウォッチダイザーに目を向け、その台座に装着されている。一つのウォッチを手に取る。

 

 

「全力で行かないと……もう、猶予はあまりないんだよね……アーリ」

 

 

『ジオウ!』

 

 

 アナザージオウライドウォッチを起動させる。

 

 

「これを少し強化する必要があるわね」

 

 

 先ほどまでのほんわかとした気配は鳴りを潜めて、彼女の眼には狂気が宿る。

 

 

「さぁ、踊ってもらいましょう。フィーネ……私たちの望む未来のために」

 

 

 口が裂けたかと思う程に、口角を釣り上げて、狂気に染まった笑みを浮かべる。

 

 

「始めましょうか、期待しているわ……フィーネ。せいぜい、私の目的の礎となるように暴れて頂戴!」

 

 

 白い世界に彼女の狂気に侵された笑う声音が鳴り響き渡る。その眼には、自分の望む未来を描いており、もはや、正気などはどこにも宿してはいなかった。

 

 

 



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第50話 0000/悪神の憂鬱と暗躍

 投稿初めて、かなり時間が経ちましたが、しばらくぶりの解説回です。
 記念すべき50話ですが、主人公君の出番がないのはどうなんでしょうか?


 アーリは自身の領域に戻ると、ゲーミングチェアを出現させ、勢いよく腰かける。

 

 

「まったく、なんであんなこと言っちまったのかなぁ」

 

 

 頭を抱えるように、先ほどまでのミラとのやり取りを後悔する。

 

 

「ミラのやつを焚きつけたはいいが……多分あいつは、不確定要素の排除に動くだろうしなぁ、あ゛ぁ゛~」

 

 

「何をしているんですか、アーリ……」

 

 

「うぇ……なんだ、七実か……あぁ、そうだ、一つ頼み事を聞いてくれない?」

 

 

 突然後ろから現れた七実に、椅子から転げ落ちそうになるも、必死に耐え抜く。

 

 

「なんですか……イデアからの使いで来ただけなので、面倒ごとは嫌なんですが……」

 

 

「あぁ~なんていうか、そっくりだよね。ミラとそういうところ──」

 

 

「はぁ、ふざけないでもらえますか? 誰があんな女と……」

 

 

 アーリは、自分の生み出した神に対して、反抗期の娘のごとく、毛嫌いをしている七実は、同族嫌悪なのだろうとしんみりと感じる。

 

 

「娘に嫌われる母親とはねぇ……あれ? となると俺は父親か? ……マジかぁ……」

 

 

「なに、言ってるんですか……とりあえず、これを渡すようにと、イデアから」

 

 

 手に持っているファイルを彼に渡す。アーリは、それをその場で読み始めると、顔を顰める。

 

 

「うげぇ、マジか……状況が一切合切どうしようもない面倒くさい状況ってこういうことをいうんだなぁ」

 

 

「どうしました? そんなにイデアの報告に問題があったと」

 

 

「違うよ。必要事項については完璧……完璧すぎて、現状があまりにも入り組みすぎてるんよ……」

 

 

「それはどういう……」

 

 

「これを見てみ」

 

 

 疑問に答えるために、空間にモニターを出現させる。そこには、それぞれの奏者とソウマとアスカのパラメーターが表示される。

 

 

「やはりそうですか……」

 

 

「やっぱり気づいてたんだ……そうなんだよねぇ、まさかアスカと奏以外の8人が過去の自分とここまで融合してるとはねぇ……」

 

 

「そんなに面倒なのですか? そもそも、因果情報の取得は想定の範疇であったはずでしょう」

 

 

 首を傾げる七実にアーリは、背もたれに完全に寄りかかり、天を見上げる。

 

 

「簡単に言うと、全員の人格が二つある状態になっているんだよ。それぞれが表の主人格を裏側から浸食していて、それが彼らの力を引き上げている……力の制御ができないのは、制御できるほど、肉体が完成していないから……だから面倒なんだよねぇ……これが因果情報の取得のみであれば、そこまで強い影響が継続的に出ることにはならずに済んでいるからね」

 

 

「つまり、暴発しやすいと……ですが、どうしてそこまで、情報の取得と融合には大きく差があるのですか? あまり、本質的には違いがないように見えますが……実際に、記憶の継承に伴う力の暴走も確認されていますし」

 

 

 アーリの解説に疑問を感じる七実に、彼は、少し頭を傾げて、例え話を始める。

 

 

「本質の違いは、単純にデータの種類と量の問題かな? 二つの大きな入れ物に、違う色の水を入れると、入れる量の比率で色が変わるよね」

 

 

「はい」

 

 

「もし、それの上で水の濃さがさらに絡むとさらに色が変わる。つまり、比率と濃さによって、片方の色水が後に入れた色水によって色が変色させられる。そう捉えることもできる」

 

 

「はぁ」

 

 

「それが因果情報の取得のイメージかな。単純な取得なら、量はそこまで多くない、でも今回は人格を形成するほどの膨大なデータ量の上、さらに、過去の人格のほうが積み重ねた経験が上回る。つまり、大きく現在の彼女たちの人格に大きく影響を及ぼしてしまう。ただ、できることが基本的には主人格の後押し程度の影響しかできないけども……それでも、継続的に記憶の解凍と併せて、人格の融合が進めば、2つの人格が一つになる危険性はある」

 

 

「さらには、暴発が起こる比率が跳ね上がる。記憶の一部継承であれば、その都度その都度で暴発したりして、限界を超える力を引き出す。イメージだけども、融合すると、少し、いつも以上に力を引き出そうと意識すると融合した経験に影響して、暴発を引き起こして、限界を超えた力を引き出す。つまりは前の、工業地帯でのクリスちゃんと響ちゃんの戦闘のように、戦闘しながら少しずつ強くなっていくみたいなことも起きるけども、翼ちゃんみたいに、絶唱なんか使うと、制御ができずに、通常の絶唱以上の身体的ダメージを受けてしまうってわけ」

 

 

 納得した様子の七実であるが、情報量の多さから、少しだけ顔を顰めてしまう。

 

 

「それでは、実際には大きく、現状からはみ出ることは少ないが、限界を超えようとしすぎると、面倒なことになる危険性を常時孕んでいるということでしょうか……」

 

 

「そういうこと……シャドウジオウの覚醒も完全に想定外。さらに、融合しようとしている過去の人格の形成についても、おそらく、シャドウジオウの誕生とミラの世界の分割複製が大きな原因だね」

 

 

 総括として、現状の原因を洗い出そうにも、善神と悪神で原因を抱えているため改善できない点に二人して、頭を抱える。

 

 

「……はぁ、これだけの事象が重なればこんな大事になるってわけですか」

 

 

「1:1で互いに原因がある状況だからねぇ。ミラだけを責められないよねぇ……」

 

 

 アーリは背もたれに完全に寄りかかり、脱力しながら、諦念に満ちた表情を浮かべる。しばらく、すると、彼は本題があったことを思い出し、手を叩いて、ニタリと笑う。

 

 

「まぁ、融合については現時点では、そこまで問題じゃないから大丈夫と言えば大丈夫かな……所詮過去の人格はデータに過ぎない。言い方を変えれば、プログラムの更新データみたいなもの、主人格を飲み込むほどの力はないし、強い意志さえあれば、それを跳ね除けられる。まぁただ、データであっても、意思を持っているから、彼女たちの人格に影響は出るだろうけどね。実際に、一番融合が進んで、統合に近い状態に近づいている翼ちゃんと次点のクリスちゃんはいい意味でも悪い意味でも影響が出始めてるみたいだしね」

 

 

「……」

 

 

 アーリの推察を聞きながらも、興味が薄れたように、集中を散らす。

 

 

 アーリは、そんな七実に本題を切り出すために、モニターから視線を外し、コンソールを出現させ、卓上に一つのライドウォッチを出現させる。

 

 

「それは……」

 

 

「うん、君に回収してもらったアナザーエグゼイドライドウォッチだよ。これを利用しようと思ってね」

 

 

「利用?」

 

 

「──────」

 

 

「え……」

 

 

 アーリの依頼は七実の理解の範疇を逸脱したものであった。

 

 

「そんなことをしたら……もし失敗したらどうするつもり?」

 

 

「その時はその時で何とかするさ……一応手がないわけでもないからね」

 

 

「そんな手段あるわけ……まさかッ!?」

 

 

「うん、バックアップだよ」

 

 

 自分の知識の中にあるものに確かに手段といえる手段が思いつく。しかしそれは七実にとっては最も考えたくない手段であった。

 

 

「バックアップ……」

 

 

「安心してよ。バックアップは一つじゃないから……その分、俺の負担が上がるけども……」

 

 

 ケラケラと笑うアーリの言葉信じて、七実は卓上にあるライドウォッチを手に取る。

 

 

「それじゃぁよろしくね……」

 

 

「もし、何かあったら、私はあなたを絶対に許さない……」

 

 

 怨嗟にも似た七実の声にイデアは気にも留めずにモニターへと意識を戻す。

 

 

 それを確認した七実は、振り返り、灰色のオーロラを使用して現世へと戻っていった。

 

 

「まぁ、こっちもピッチを上げるしかないからねぇ。利用させてもらうよ、いろいろとね……」

 

 

 アーリは、これから先に起こることを考え、モニターに表示された翼とクリスとソウマのパラメータに目を通し、イデアから受け取ったデータを使用し、とあるウォッチの再調整と改造を始めるのであった。

 

 

 



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第51話 2012/死の女神は絶望を課す

 閉じた目に感じる光に目を覚ますと、隣にクリスが眠っていることに気が付く。

 

 

「うわぁッ……あれ、ここは……」

 

 

 驚き、いきなり起き上がると、そこは自分の部屋であった。

 

 

「どうして、ここに……ッ、クリス!」

 

 

 自分の現状、一切の過程が抜け落ちた結果に対して、困惑が湧き上がるが、ソウマは隣に寝ているクリスに気が付き、彼女を揺さぶり起こそうとする。

 

 

「ん……ん、ん~……ぁ、ソウマ? ……ッ!? ここは……あれ、ソウマの部屋?」

 

 

 クリスはソウマに起こされ、最後にあった記憶から、飛び起きて周りを見渡すと、ソウマ同様に現状に困惑を示す。

 

 

 ソウマは、クリスの飛び起きたことで、少し、バランスを崩して、手をつく。

 

 

「あ、うん……どうしてこうなったのかなぁ~……でも、こんなことができるなんて──」

 

 

 プルルルと通知音が自身の携帯電話から聞こえる。

 

 

「? いったい誰が……もしもし」

 

 

『もしもし、私、七実よ』

 

 

「七実さん、どうしたの? というか、どうしてこの番号を知ってるわけ……教えてないはずだけど」

 

 

『ハハハ、あまり気にしないで欲しいかな。まぁ要件は一つだけだから』

 

 

「理由?」

 

 

 怪訝な顔を浮かべる彼にクリスはその表情に強い不安感に襲われた。

 

 

「ソウマ……」

 

 

 しかし、ソウマは、それに気づく様子がなく、少し考えこむ様子であった。

 

 

「要件? ……でも、いきなりだね。今まで、こんなに直接的なことは今までなかったようだけども……」

 

 

『それは単純に状況を巻く必要があるだけ、だから、指定する場所に来てもらえないかなぁ』

 

 

「はぁ? ……まぁわかった。行くよ……それが必要ならね」

 

 

『あと、クリスちゃんを連れてきてくれない? 彼女が重要なの』

 

 

「クリスを巻き込まないといけないのか……」

 

 

『……あぁお願いするよ。絶対必要なの』

 

 

「……場所は……」

 

 

『──』

 

 

「……あぁわかった」

 

 

『待ってるよ』

 

 

 ソウマは電話を切ると、クリスの心配そうな表情に気が付く。

 

 

「クリス……」

 

 

 顔に不安が張り付いた表情をしており、その瞳がソウマを突き刺す。

 

 

「どうしたんだ? ……なんかあったのか?」

 

 

 少し口ごもるが、クリスに先ほどの会話の内容を答える。

 

 

「七実が指定の場所に来いってさ……クリスと一緒にね」

 

 

「アタシと一緒に?」

 

 

「しかも、連れてこないといけないって念まで押されてな」

 

 

「行くしかないってわけか……わかった。行こうぜ」

 

 

「いいのか? きっと面倒ごとに巻き込まれるよ」

 

 

「いや、既にアタシが面倒ごとの種だからな」

 

 

 クリスの沈んだ表情にソウマは覚悟を決める。

 

 

「……俺にとっては、面倒ごとじゃないよ。クリス」

 

 

「ぁ……」

 

 

 見上げる彼女を抱きしめる。

 

 

 自分の中にある感情に従い、強い力で抱きしめた。

 

 

「どうしたんだよ……ソウマ」

 

 

「気にしなくていいよ」

 

 

「気にするなって……」

 

 

 無言を貫く彼にクリスは身を任せるように彼の背中に手を回す。

 

 

 そのまましばらくの間、二人は抱きしめあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この前の戦闘において廃墟となった工場跡地にクリスとソウマは来ていた。

 

 

「ここのはずだけど……ッ、どうしてこんなところに……」

 

 

 周りを見渡すとそこには少しだけ見慣れた黒服たちがそこにいた。

 

 

「ん? 、榊君、なぜこんなところに」

 

 

「ッ!?」

 

 

 後ろからの声で振り向くとそこには風鳴弦十郎が怪訝な表情で立っていた。

 

 

「弦十郎さんじゃないですか……それはこっちの台詞ですよ。俺は呼び出しを受けただけです。七実さんのね」

 

 

『ジクウドライバー!』

 

 

 少しだけ、笑顔を作り、クリスを庇うように立ち、腰にドライバーを装着する。

 

 

「? 私は、彼女にここへ転移させられたんだが……」

 

 

「は……どうして、まさか、はめられたのか、いや、でも……」

 

 

「あぁ、こっちだ」

 

 

 考え込むソウマに弦十郎は、近くの黒服に気が付き、手を振る。

 

 

「あら、少し待たせてしまったみたいね」

 

 

 七実が、こちらに歩いてきていた。

 

 

「え、あぁ……これはどういう状況なのか、説明してもらえるかな?」

 

 

「えぇ、今すぐ気にする必要がなくなるわ……」

 

 

『エグゼイド!』

 

 

「それは……ライドウォッチ?」

 

 

「えぇ……ただのアナザーエグゼイドライドウォッチだよ」

 

 

 彼女は起動させたウォッチを手に、こちらへと近づいてくる。

 

 

「なぜ、そんなものを……ッ!?」

 

 

 七実の姿がぶれたかと思うと弦十郎の懐に忍び込むと胸にウォッチを押し付ける。

 

 

「何を……──グ、ギ、グァァァァァ」

 

 

 ウォッチから、光が漏れだし、弦十郎の肉体を変質させようとする。

 

 

 その力に抵抗しようと藻掻くも、意識を力に飲み込まれる。

 

 

『エグゼイド!』

 

 

「グ、グァァァァ」

 

 

 弦十郎の肉体は、アナザーエグゼイドに変質し、苦悶に満ちた声を上げる。

 

 

「あら、アナザーライダーの力に飲み込まれないなんて、かなり力を強化してあるんだけどね。やっぱり想定以上の精神力ね。でも……」

 

 

 七実は、彼の体に触れて、自身の力を注ぎこむ。

 

 

「ガ、ガ、ガァァァァ……ア”ァ”ァ”ァ”……」

 

 

「こうやって力を送り込めば問題ない。そもそも、アナザーエグゼイドのウォッチとあなたの適性が高いから、飲み込ませるのは簡単」

 

 

 目の前で、アナザーライダーに変質した弦十郎を見てソウマは冷汗を流す。クリスは、今まで見たことない脅威を目にして、自分を抱きしめる。

 

 

「どういうつもりだよ。七実さん!」

 

 

「ふふ、そんなの説明したでしょ。展開を巻くためって、さぁ、雪音クリスを殺しなさい。アナザーエグゼイド」

 

 

「は──」

 

 

 目の前の弦十郎はその言葉を聞くと、勢いよく飛び出し、拳をクリスに向かって振り下ろす。

 

 

「ぁ──」

 

 

 向けられた強い殺意にクリスは足がすくむ。クリスは迫る拳に一切の反応ができずにいる。

 

 

 ソウマは、震えている彼女を守るために、飛びつき、その攻撃を躱す。

 

 

「カハッ……」

 

 

「ソウマッ」

 

 

 彼女を抱え込み、転がると勢いを殺しきれず、瓦礫に背を打ち付ける。

 

 

「大丈夫……」

 

 

 彼はその場で立ち上がるとウォッチを起動させる。

 

 

【シャドウジオウ!】

 

 

 彼は、ドライバーに装着すると、後ろに現れる文字盤が黒く変色していく。

 

 

 黒く完全に文字盤が変色すると、そこから紫電が迸る。

 

 

(やっぱり封印が溶けて混ざり合っている)

 

 

 その光景に七実は顔を苦虫を噛み潰したように表情を歪める。

 

 

「変身!」

 

 

 ドライバーが一回転すると、まるで世界が引っくり返るように視界が回転する。

 

 

【シャドウタイム!! 仮面ライダージオウ・シャドウ!!】

 

 

 黒い輪がいくつも彼を中心に回り動き、彼の姿を灰黒い異形であるシャドウジオウに姿を変える。

 

 

 ピンクの「ライダー」の文字は少し黒く染まり、顔に勢いよく装着される。

 

 

 ソウマは、武器を構えて、恐怖に竦むクリスの前に立つ。

 

 

「グガァァァ! ──グァ」

 

 

 地面を踏みぬくほどの勢いで踏み込み、向かってくるアナザーエグゼイドは気が付くと、地面に倒れ伏していた。

 

 

「どうしたんだよ。ほら!」

 

 

 自分の状況を理解する間もなく、ソウマは自身の持つ銃で地面に転がる相手に弾丸を浴びせる。

 

 

 その銃撃から反撃するように、飛び上がるが

 

 

『フォーゼ! スレスレシューティング!』

 

 

 気が付くと自分の視界にミサイルが迫ってくる。空中で身をかわすようにして、拳圧でミサイルを打ち落とす。

 

 

「えぇ~、ちょっと化け物過ぎないか、あれ」

 

 

 ソウマが引き気味な反応に対して、アナザーエグゼイドは空中にブロックを出現させて迫っていく。その行動に合わせて躱そうとするが、後ろにいるクリスに気が付き、躱す行動から、迎撃する行動に移す。

 

 

 銃を剣に切り替えて、引き金を引き、そのまま、必殺技を発動する。

 

 

『フォーゼ! ギリギリスラッシュ!』

 

 

 黄色い電気を纏わせて切り付けてアナザーエグゼイドの勢いを逸らそうとする。

 

 

「ぐ! ……おりゃぁ」

 

 

 アナザーエグゼイドの攻撃を逸らし、近くの瓦礫に吹き飛ばす。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 乱れた息を整える。

 

 

「ソウマ……」

 

 

 クリスは息の乱れた彼の姿に震えた足を叩き姿を変える。彼を守るために、自分が嫌う歌を歌いイチイバルを纏う。

 

 

「クリス……大丈夫?」

 

 

「あぁ震えているだけにはいかねぇからな!」

 

 

 クリスは気丈に振舞いながらソウマの横に立つ。

 

 

 彼は震える彼女の勇気に答えるように、アナザーエグゼイドを吹き飛ばした。瓦礫に向かって武器を構えた。 

 

 

 

 

 

 



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第52話 2012/灯す希望

 対峙する二人を威嚇するように、自身の埋まっている瓦礫を勢いよく吹き飛ばす。

 

 

 

 吹き飛んだ瓦礫が周辺に散らばり、一部が二人のもとに降り注ぐが、二人は、手にもつ銃で瓦礫を打ち落とす。

 

 

 

「そうだ、これを言っておかないとな。クリス、あれはシンフォギアの持つフォニックゲインを吸収することで回復するんだ」

 

 

 

「ハァ、先に言えよ! ……じゃぁどうすればいいんだよ」

 

 

 

「簡単だよ……あいつの許容量を超えるダメージを叩きこめばいいんだよ」

 

 

 

「簡単に言ってくれるぜ!」

 

 

 

「グァァァ!!」

 

 

 

 踏み込む勢いに任せて二人に向かって踏み込み、地面を割り、空気を押し退け、前へと出る。

 

 

 

 押し退けられた空気の衝撃と殺気が合わさり二人を圧倒する。

 

 

 

「……ッ、さぁて……やってみるか!」

 

 

 

 クリスは自分の不安を押さえつけて、隣にいる彼を思い、歌を紡ぐ。彼女の歌に呼応するように、両手の武器はガトリングの形状へと切り替わる。

 

 

 

【BILLION MAIDEN】

 

 

 

 ガトリングが火を噴き、弾丸がアナザーエグゼイドに襲い掛かる。

 

 

 

 襲い掛かる弾丸の衝撃を受け、一時、速度が落ちるが、それをものともせずにさらに踏み込み、地面を踏みぬき、速度を引き上げる。

 

 

 

 しかし、

 

 

 

「グ、グガァ」

 

 

 

 回復を上回るように、弾丸が塞がる傷口をさらに広げていく。

 

 

 

「想定通り!」

 

 

 

 ソウマは走りながら、アナザーエグゼイドの後ろに回り、背中を蹴り飛ばし、そのまま銃撃を合わせる。

 

 

 

「ガァァァ!」

 

 

 

 勢いの流れを急に変えられてことにより、勢いのまま、地面にそのまま叩きつけられる。

 

 

 

「よっと」

 

 

 

 蹴り飛ばした勢いのまま、クリスの隣に着地する。

 

 

 

「無茶するなぁ、お前……」

 

 

 

「まぁ、そうでもしないと、裏をとれないからね」

 

 

 

【フォーゼ!!】

 

 

 

 ベルトに装填し、回す。それと同時にアナザーエグゼイドが立ち上がる。

 

 

 

【アーマータイム!! 3、2、1、フォーゼ!!】

 

 

 

 フォーゼアーマーを纏い、二度自分の胸を叩き、拳を前に突き出す。

 

 

 

「さぁ、タイマン張らせてもらうよ!」

 

 

 

 挑発に似た言葉に、アナザーエグゼイドは、先ほどまでとは違い、変化した敵の戦力に警戒心を強め、間合いをゆったりと詰めてくる。

 

 

 

「────」

 

 

 

「ハァ!? ……あぁ、もう! わかったけど……しっかりと躱せよ!!」

 

 

 

 ソウマは屈みながら、クリスに耳打ちをしてあることを提案する。

 

 

 

「うん、任せて」

 

 

 

 その内容にしぶしぶ了承するが、少しだけ、不安が顔に滲み出る。

 

 

 

 歌う声に応じるように、彼女の手の武器が消えて、背部に2基の大型ミサイルと小型ミサイルラックを作り出し、それをアナザーエグゼイドに向ける

 

 

 

「さてと、こっちから行こうかな……ッ!!」

 

 

 

 恐怖を胸に抱えるが、クリスの表情を見て、覚悟を決め、彼女の準備が完了を確認すると、脚部と背部推進器を点火し、アナザーエグゼイドとの間合いを詰める。

 

 

 

 切り裂く空気が衝撃となり、音が一泊遅れるように聞こえるほどの速度で、アナザーエグゼイドに迫り、瞬きの間に、相手の一足の間合いまで詰め切る。

 

 

 

 アナザーエグゼイドは想定以上の速さの相手に、反射で、距離をとるために、蹴りを放つと、それに合わせてソウマは拳を振り抜こうとする。だが、アナザーエグゼイドの力が上回り、押し返されそうになる。

 

 

 

「ハァァァ!」

 

 

 

 腕部推進器を点火し、その力を合わせて、拳を振り抜き、敵の足は、後ろ側に吹き飛ばされ、体幹が崩れる。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 崩れた体幹に受け身が取れずに、防御が取れなくなったアナザーエグゼイドに対して、全身の各部推進器を一気に吹かせ、体当りする。

 

 

 

「グァァァ!?」

 

 

 

 最大速度に到達すると同時に、推進器の推力を偏向し空中に飛び上がる。

 

 

 

「うぉぉぉ!」

 

 

 

 空中から、さらに推力を偏向し、最大推力で、瓦礫の壁に向かって飛ぶ。瓦礫の壁に衝突し、突き抜け、空中へと再び舞い上がる。また空中で旋回し、周辺の瓦礫に幾度も繰り返して突撃し、アナザーエグゼイドに対して、ダメージを蓄積させていく。

 

 

 

「グ、グァァ!」

 

 

 

 フォーゼアーマーの最大推力で、瓦礫に叩きつけられることに少しずつ限界を感じていき、力任せにソウマを殴り続けるが、圧縮されている空気の圧と摩擦熱から逃れることができずにいた。

 

 

 

「グォ”ォ”ォ”ォ”ォ”!!」

 

 

 

 しかし、さらに、幾度か瓦礫の激突を受けた朦朧とする意識のなか、アナザーエグゼイドは持てる力のすべてを拳に込めて、ソウマを殴り、空気圧と推力の拘束から抜け出した。

 

 

 

「ガハッ……」

 

 

 

 ソウマは振り切られた攻撃に、肺から空気が抜け、制御が乱れ、完成に従い、まだ形状を保っていた廃工場に衝突する。

 

 

 

 アナザーエグゼイドも同様に、慣性に従い、地面を転がり、ソウマの衝突した廃工場の付近で止まる。

 

 

 

「ガ、アァァァ」

 

 

 

 しかし、ダメージを受けつつも、アナザーエグゼイドは立ち上がり、最も現在の脅威となる相手であるソウマを殺すために、廃工場へと入っていく。それは彼が女神から受けた命令を遂行するために必要であると判断するためであった。

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ッ! マジかよ。これでも、やられないなんてね……」

 

 

 

 目の前に限界に近いダメージを受けているが、まだ、相手への殺意を保ったままのアナザーエグゼイドは片足を引き摺りながらも迫ってくる。

 

 

 

 ソウマは、幾度も行った突撃と先ほどの不意の衝突、アナザーエグゼイドの渾身の一撃を受け、装甲の各所からは火花が散り、限界に近いダメージであるが、何とか立ち上がる。

 

 

 

 しかし、体に受けたダメージが想定よりも大きく、意識を気合で保っていた。

 

 

 

「ハハハ、さて、どうする。弦十郎さん?」

 

 

 

 彼の問いかけに反応することなく、意識をこちらにのみ向けていることが見て取れる。

 

 

 

 その現状に、ソウマは、仮面の下で笑みを浮かべる。

 

 

 

「……ッ、今だ!! 、やれ、クリスゥ!!」

 

 

 

「あぁ、しっかり避けろよ!」

 

 

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 

 

 彼の声に、彼らがいる廃工場にクリスは、後ろに2基の大型ミサイルと多数の小型ミサイルを瓦礫に向けて打ち込む。

 

 

 

 こちらに向かってくるミサイルを認識したと同時に、ソウマは全身の各部推進器にエネルギーを回し、天井を突き破り、外へと脱出する。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 意識の外から小型ミサイルが背部に受け、爆風がアナザーエグゼイドを吹き飛ばすが、付近のフォニックゲインを吸収し、回復しようとする。

 

 

 

 しかし、その回復を妨害するように、2基の大型ミサイルがさらに追撃する。その爆発によって、廃工場は、もはや原型を留めることができないほどに崩れ去る。

 

 

 

『ドォォォォン!』

 

 

 

【フィニッシュタイム!! フォーゼ! リミットタイムブレーク!】

 

 

 

 2基の大型ミサイルの爆発と合わせて、ソウマは錐揉み回転をしながら、各部の推進器の発生させる風圧を利用し、周辺の煙をかき消し、煙の中から、アナザーエグゼイドを探し出す。

 

 

 

「グ……グ、ガァ……」

 

 

 

 アナザーエグゼイドが抵抗の意志を示そうとするが、一瞬だけ止まる。

 

 

 

 その隙を見逃さないように、先ほどの回転を利用し、ドリルのような蹴撃をアナザーエグゼイドに向かって繰り出す。

 

 

 

「ライダーロケットドリルキィィィィック!」

 

 

 

 ドリルのように回転する蹴りが直撃し、そのまま、空中に浮きあがり、地面に引き摺るように、アナザーエグゼイドを蹴り込む。

 

 

 

 そのまま、足で、蹴り飛ばし、相手を瓦礫の中へと吹き飛ばし、遅れて轟音がする。

 

 

 

「……」

 

 

 

 爆発音を確認するとソウマは、気が抜けて、膝をつく。

 

 

 

「おーい、大丈夫かぁ」

 

 

 

 クリスが、こちらに手を振って、向かってくる。

 

 

 

 彼女の元気な姿に、体に走る痛みが抜けていく錯覚に襲われる。

 

 

 

「お、おい……重いって」

 

 

 

 倒れこむように、クリスに体を預けるように倒れる。

 

 

 

 彼女は、重いと文句を言いながらも、顔には先ほどの不安を塗りつぶすような歓喜の表情が浮かんでいた。

 

 

 

「よかった……無事で……」

 

 

 

『回復!』『高速化!』

 

 

 

「……ッ!?」

 

 

 

 声が廃墟に響く。クリスは、頭に疑問符を浮かべるが、ソウマは、頭に無意識としてある知識から、この声と内容が絶望的な状況だと知らせる。

 

 

 

 さらに気が付くと、空中に多数のブロックが出現する。

 

 

 

「マズい! ……」

 

 

 

 クリスから離れて、アナザーエグゼイドが消えた瓦礫を中心に周囲を見渡すが、視界では一切見つからない。足を踏みしめる音は聞こえるが姿が見えない。

 

 

 

 しかし、違和感に気が付き、振り返ると、クリスの視界の裏から、アナザーエグゼイドがブロックを足場に、気配を殺して距離を詰め、人類最強の拳が彼女を殺そうと迫る。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 出せる力を振り絞り、空中にいるアナザーエグゼイドとクリスの間に割って入る。

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

 割って入った相手に気が付くも、そのまま、殺すように拳を振り抜く。

 

 

 

 振り抜かれた拳が爆音とともにソウマの胸元に突き刺さる。

 

 

 

「……ッ……グハッ……」

 

 

 

 ダメージが装甲の限界を超えて変身が解除される。崩れるように装甲が消えていき、傷だらけのソウマの姿が現れ、口から、血が噴き出る。

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 爆音に気づき、振り向くと目の前で彼が血を吐いてアナザーエグゼイドの拳が腹部に突き刺さる姿であった。

 

 

 

 膝から崩れ去る彼を抱き留める。

 

 

 

「おい、ソウマ……ソ、ソウマ……お、おい、起きろって……おいッ……おい……」

 

 

 

 涙が自然と流れ出る。彼の服が血に染まっている姿にどうしようもないほどに、手が震える。

 

 

 

 いつか感じた恐怖が、いつか喪った大切な人たちへの悲しみが胸を支配する。

 

 

 

 自分からすべてを奪った”()()”への憎悪が、何もできない自分への憤りが自分の頭を支配する。

 

 

 

「……」

 

 

 

 内に渦巻くナニかが歌を口から紡げなくさせる。

 

 

 

 彼女は自分の大切な相手を傷つけた敵を睨みつける。

 

 

 

「……」

 

 

 

 それでも敵は、女神の命令に従い拳を自分に向けて振り下ろす。

 

 

 

 彼女は恐怖で目を瞑る。

 

 

 

 しかし、いつまでたっても、訪れない死に疑問を抱き、視界を開けると

 

 

 

「やらせるつもりは……ないよッ……弦十郎さん」

 

 

 

 紫電を纏って迫りくる死を彼は()()()()()()()()()()

 

 

 

「ソウマ! ……ッ……」

 

 

 

「安心して、クリス……俺が、君を、守る……か、ら」

 

 

 

 息も絶え絶えになっている彼に、クリスの口は言葉を紡ぐ。

 

 

 

「……げて」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 聞こえないほど、か細い声で、何かを言う彼女は今度は聞こえるように大きな声をだそうとする。

 

 

 

「逃げて……アタシを置いて、お願い、だから……」

 

 

 

 彼女の声は、小さく、涙が混じったものであり、決して大きな声ではなかった。

 

 

 

 しかし、ソウマはその願いを聞く気がないのか、アナザーエグゼイドの拳を受け止め続ける。

 

 

 

「頼むよ……逃げてくれよ……お前を死なせたくないんだ……」

 

 

 

「……」

 

 

 

「……頼むよ」

 

 

 

 目元を腫らしながら、彼女の縋る声が彼の耳に届く。

 

 

 

「……るな」

 

 

 

「え……」

 

 

 

「諦めるな! 俺も死なない。クリスも死なせない。それを実現させることを諦めちゃだめだ!」

 

 

 

「で、でも」

 

 

 

「俺は諦めない! もし、クリスが自分を信じれないっていうなら、俺がクリスの希望になる!」

 

 

 

 希望という言葉に、彼女の眼に光が戻る。

 

 

 

「希望……」

 

 

 

「あぁ、クリスがもし、これからもいろんなことに絶望しかけても、俺が希望になる」

 

 

 

 もはや、体の何処にもないはずの力を引き出すように、紫電を先ほど以上に迸らせながら、アナザーエグゼイドの拳を押し上げる。

 

 

 

「俺が……クリスの、()()()()()になる! 絶対にな」

 

 

 

 彼の中にある記憶が告げる。その言葉を自然と口にする。

 

 

 

 決意として、掲げられた彼の言葉に答えるように、赤い光が彼の胸元から飛び出し、アナザーエグゼイドを吹き飛ばす。

 

 

 

「グァ!?」

 

 

 

 相手を吹き飛ばした光は、彼の手にとまり、銀と黒のライドウォッチへと姿を変える。

 

 

 

「これは……」 

 

 

 

 ソウマは、ライドウォッチの盤面をそろえ、起動させる。

 

 

 

【ウィザード!】

 

 

 

 彼に鎖が巻き付き、消えていく。

 

 

 

 彼の瞳に宿る光に答えるように、彼の纏う紫電がさらに強まり、彼を覆う程のものになると、シャドウジオウライドウォッチが光り輝く。

 

 

 

【シャドウタイム!! 仮面ライダージオウ・シャドウ!!】

 

 

 

 光が収まるとソウマの姿はシャドウジオウの姿へと変わっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第53話 2012/指輪の魔法と竜の咆哮

 ソウマは先ほど起動したウォッチをドライバーに装填し、ベルトを回し、新たな姿に変身する。

 

 

【アーマータイム!】

 

 

 足を揃え、手を開くと、赤い魔方陣が頭上に現れる。

 

 

【プリーズ! ウィザード!】

 

 

 魔方陣が上から通り抜けると、胸元で止まる。魔法陣が実体化し、分裂し、ウィザードアーマーが形成される。

 

 

 左の手の甲を見せるように構えて、仮面の下で笑う。

 

 

「さぁ、ショータイムだ」

 

 

 アナザーエグゼイドは、先ほどの奇襲を警戒し、こちらから、一跳びで距離をとる。

 

 

 だが、その予想に反して腕を下すのみで、一切の攻撃の予兆を見せてはいなかった。

 

 

「グゥゥゥ……」

 

 

「フッ……どうしたんですか、弦十郎さん? そんなに警戒して……俺が怖いんですか?」

 

 

(なんでそんなに余裕そうなんだよ……)

 

 

 軽口を叩く彼の姿に、クリスは疑問と困惑が渦巻く。

 

 

 だが、近くで見ると、彼の呼吸が多少荒れていることに気が付く。

 

 

「……ッ」

 

 

(さて、どうするかなぁ……もう少しだけ、持ってくれよ……俺の体……)

 

 

 先ほどの戦闘のダメージは癒えきることはなく、もはや限界に近い状態であり、気合と空元気で耐えているのみであった。

 

 

「そっちから来ないなら、こっちからいこうかなぁ」

 

 

 手のひらを相手に向け、魔法を発動させる。

 

 

『バインド! プリーズ!』

 

 

 相手の周辺に魔法陣が6つ現れ、鎖が勢いよく飛び出し、相手の四肢と胴体を拘束する。

 

 

 拘束された鎖を破壊しようと藻掻くが、さらに魔法陣が増え、鎖が壊そうとするたびに各所をさらに拘束していく。

 

 

「グァァァァ!」

 

 

 怒りの咆哮を上げるが拘束を完全に解くことができることができない。

 

 

「おいおい、全然外せてないじゃないか……まぁ俺が鎖を増やしているんだけどね」

 

 

「ガァァァ!!」

 

 

『レベルアップ!!』

 

 

「え……マジで……」

 

 

 上半身の鎖がすべて破壊し、新たに、赤い装甲を纏ったアナザーエグゼイドロボットアクションゲーマーレベル3へと進化したのであった。

 

 

「うそ~」

 

 

 棒読み気味な言葉を並べるが内心ではもはや呆れが支配しており、次に使う魔法の組み合わせを考える。

 

 

「じゃぁ次はこれかな?」

 

 

 足の鎖を解く前に、剣を突くために平らに構える。

 

 

『ビッグ! プリーズ!』

 

 

 魔法陣を相手との直線上の正面に作り出し、魔法陣を突ら抜くと、刃が何十倍に巨大化し、それがアナザーエグゼイドへと迫る。

 

 

「ガァァァ!」

 

 

 右拳を振り上げ、そのまま、腰を捻ると下半身の鎖が砕け散る。

 

 

「いいこと教えてあげる。質量と密度と速度があれば破壊力は一気に上がるんだよ!」

 

 

 迫る刃へ拳を振り抜くことで受け止めようとするが、一切密度が変わらず、ただ質量が大幅に増加した刃が通常通りの速さの突きが強化された拳に向かって飛んでくる。

 

 

「グ、グガァァ」

 

 

 その破壊力を受け止めるがそのまま、押し返そうにも、まるで壁を押しているように1mmさえも動くことがない。

 

 

「じゃぁこれも、追加で」

 

 

 フォーゼライドウォッチをジカンギレ―ドへと装填し必殺技を発動させる。

 

 

『フォーゼ! ギリギリスラッシュ!』

 

 

「ガ、ガァァァ」

 

 

 さらに破壊力が増した光刃を止めることができずに、受け流す。

 

 

 刃は地面を瓦礫を消し飛ばし、地面を成型する。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……グ、グガァ……」

 

 

 受け止めようとした際のダメージが先ほどのダメージを回復したとはいえ、限界に近いところまで蓄積される。

 

 

「さてと、これで、フィナーレだ!」

 

 

【フィニッシュタイム! ウィザード! ストライクタイムブレーク!】

 

 

「ハァァァ」

 

 

 その場で一回転し、ゆったりと両手を構え、腰を落とす。下に魔法陣が形成され、右足に炎を纏う。

 

 

 先ほどの成形された地面に向かって、飛び上がり、ムーンサルトで、空中で体を捻り、着地した勢いで、さらに空中に飛び上がり、空中で体制を整えて蹴りの体制を取る。

 

 

「フン」

 

 

『ドリル! プリーズ!』

 

 

 体を高速で回転し、纏った炎がさらに燃え上がり、体を包むほどの炎の渦となって破壊力をさらに上げる。

 

 

 アナザーエグゼイドは右腕にエネルギーをため、ミサイルのように打ち出す。

 

 

 それに合わせて、巨大化の魔法陣が現れ、それをくぐえり、さらに炎を強めて、蹴り込む

 

 

「ダァァァァ!!」

 

 

 貫通性能に特化した蹴撃でその飛んできた拳にぶつける。

 

 

「グ、グガァ……ガァァァ」

 

 

 アナザーエグゼイドは、万全の状態では受け止めきれるほどの力はあれど、限界に近いダメージを受けていた彼の肉体は受け止めきれるほどの力はなく、跳ね返すほどの強い意志の力はなど初めからない。

 

 

 ソウマの肉体はすでに限界であるが、強い意志の力でなけなしの体の内側から湧き出る力をさらに引き上げる。

 

 

 ソウマの蹴りが飛んできた拳の軌道を回転の力で逸らし切りながら、回転する力で舞い上がる炎と共にアナザーエグゼイドへと突き刺さる。

 

 

「ガァァァァ!!」

 

 

 一瞬その蹴りに抵抗する素振りを見せるが、その手を下げる。

 

 

 回転を止め、膝を使い距離を取り着地する。その瞬間爆発し、弦十郎の姿に戻り、重力に従い地面に付す。

 

 

 カラカラと音を立て、排出されたウォッチが地面に転がる。

 

 

「フィ~」

 

 

 ソウマは張り詰めた気を緩め、息を吐き、変身を解く。

 

 

 変身を解除し、姿が戻るとその肉体はもはやボロボロ以外に形容しがたいものであった。

 

 

 その場で立っていられないほどのダメージに膝をつく。

 

 

「あらぁ、これは想定外……人類最強を当てれば、()()を継承できると思ってたんだけどなぁ……まぁ、もう一回当てればいいかな?」

 

 

 地面に転がるウォッチを手に取り、再起動する。

 

 

『エグゼイド!』

 

 

「どういうつもりなんだよ! 七実さん!」

 

 

 ボロボロなソウマのいつもとは違う荒い言葉に気を取られ、七実はそちらに顔を向ける。

 

 

「う~ん怒っているよねぇ、ごめんね。これもアーリの指示なんだよ。今神同士で、少しだけ面倒なことになっててさ……あなたが早く()()を継承してくれないとあの女──ミラに好き勝手されてしまう。だから、戦力強化に必要な第1の試練なんだよ……」

 

 

 ガシッと音が鳴るような音で、七実の足が捕まれる。

 

 

「……ッ!」

 

 

 七実が足元を見ると強い意志で睨みつける弦十郎の姿があった。

 

 

「あぁ弦十郎君、まさか、あの状態でも自分の意志で抵抗するなんて、だから、固有能力が発動していなかったんだろうね。やっぱりあなたは素晴らしい! ……でも、それでも、貴方はただの人間、運命に選ばれたわけでもなく、人を辞めたわけでもない。つまり、私たち神に踊らされるだけの人間でしかない。だから」

 

 

 大げさに演技をするように弦十郎を評価する。

 

 

 弦十郎は彼女の声に乗る諦観の声に一瞬の迷いが生じる。

 

 

 彼女はしゃがみ込み、彼に起動したウォッチを当てる。

 

 

「私たちに利用されて……あなた達のせいじゃないから……」

 

 

 泣き出しそうな顔で彼女は笑う。その姿を目にしながら弦十郎の姿はもう一度アナザーエグゼイドの姿に変わる。

 

 

 さらに、エネルギーがあふれ出し、竜の姿を取り、アナザーエグゼイドの姿をさらに進化させる。

 

 

『レベルアップ!!』

 

 

「グァァァァァァァァ!!」

 

 竜の装甲を身に纏い、アナザーエグゼイドハンターアクションゲーマーレベル5フルドラゴンへとさらに進化を遂げた。

 

 

 周りのブロックのほかに、エナジーアイテムが生成されていく。

 

 

「さぁ、もう一度始めましょう……試練を……」

 

 

 七実の隣のアナザーエグゼイドの竜の口に火球が形成されていき、その砲撃がクリスとソウマの二人に向かって襲い掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 



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第54話 0000/相対する神

 はい、少し、投稿が遅れてしまいました。一応、におわせていたオリジナル疑似ライダーの登場回兼、前回までの裏側についてになります。
 あとがきに一応オリジナル疑似ライダーの設定を載せておりますので興味がありましたら是非ご覧になってください。




 迫る炎が視界を覆いつくそうとする。

 

 

「ッ!!」

 

 

 変身しようと、二つのウォッチを装填し変身しようとするが、間に合いそうにない。

 

 

「……」

 

 

 諦めに近い感情が二人を支配する。

 

 

『ゲイツ・ギワギワシュート』

 

 

 光の矢が、炎に向かって飛んでいき、炎の球を相殺する。

 

 

「まさか……」

 

 

 振り返るとそこにはアスカの変身したシャドウゲイツがそこにいた。

 

 

「どうやら、間に合ったようだな」

 

 

「アスカ!!」

 

 

 救援が来た事実と、相手への有効打を持つ仲間の姿に喜びの感情が湧き上がる。

 

 

「アスカ……一旦体制を立て直そう。このまま一緒に戦っても、連携が完全に取れない」

 

 

「あぁ、ある程度は、アーリに聞いてはいるが、詳細はお前に聞けと言っていてな」

 

 

「え、アーリが協力しているの!?」

 

 

「どういうことだ? 協力することがおかしいみたいな──ッ!?」

 

 

 二人の会話を打ち切るように、アナザーエグゼイド光弾を打ち出す。

 

 

「変身!」

 

 

【アーマータイム! プリーズ! ウィザード!】

 

 

『ディフェンド! プリーズ!』

 

 

 直接ウィザードアーマーに変身し、炎の防御魔法陣で攻撃を無力化する。

 

 

「ほう、それが新しい力か?」

 

 

「うん、結構使い勝手がいいんだよね。まぁとりあえず、一時撤退」

 

 

『ライト! プリーズ!』

 

 

 防御を解き、強い閃光が3人を搔き消す。

 

 

「ッ! ……まったく、このライダーオタクは……こんな対策手段を持っているとは……どこまで……ハァ」

 

 

 目くらましから、目を守るように、つぶっている間に既にそこには3人の姿はいなかった。

 

 

 呆れた七実は、付近に隠れたであろう、二人の捜索のために、その場を離れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い世界の中、アーリは、自分の作業用の机から、現世の戦闘をモニターしていた。

 

 

「ふーん、正直、ここまで、今回の我らが魔王がここまで強いとは思ってなかったなぁ、今回のシャドウジオウの力の獲得と参戦時期をずらしたっていうのに、これも全並行世界の融合の影響かな……でも、アスカの途中参戦は、やっぱり君の仕業だよね」

 

 

 彼は、後ろから近づくコツン、コツンという音を鳴らす相手に、振り向かずに話しかける。

 

 

「……どうしてこのような計画を実施するのですか、アーリッ」

 

 

 彼は振り向くと、そこには怒りの形相をしたイデアがいた。

 

 

 椅子を回し、イデアと相対する。

 

 

「それは、ディケイドの継承のためさ。君もよく知っているだろう? 彼は気難しい。それに、誰かの想定道理に動くことを嫌う俺様気質。であれば、継承せざるを得ない状況を俺が作り出す。つまり、我らが魔王には大事な相手が自分の弱さのせいで死にかける状況を意図的に作出するということさ……」

 

 

「……それは、クリスを危険に晒すということでよろしいでしょうか」

 

 

「うん、その通りだよ」

 

 

「そうですか。では──」

 

 

 イデアはその場を去ろうと後ろを振り返った途端に、周りの世界が電脳空間のような現実離れした空間へと変質していた。

 

 

「おっと、ごめんね。君に助けに行かれると困るんだよ。それにこれは君も想定してたでしょ。俺を留め置けば、こちらからの追加の行動を防げる。やはり君は、実に私の分霊として十分に相応しいだけの行動をとってくれるね。でも……」

 

 

『ゼロス・ドライバー!!』

 

 

 彼の腰部にドライバーが空中から生成され巻き付く。

 

 

 その光景にイデアは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「なぜ、貴方がそのドライバーを!?」

 

 

 なんてことはないように、アーリは笑う。

 

 

「なんでって、そんなの簡単だよ。このドライバーは俺が作ったシャドウジオウの実験機として作ったんだよ」

 

 

「実験機……ですか」

 

 

 イデアも笑みを浮かべるがその表情は張り付き、冷汗が流れゆくものであった。

 

 

「そ、いきなり、第3世代型のシステムを構築するのは俺でも不安でね。だから、2.5世代用のドライバーを作ることにしたんだよ。勿論君と我らが魔王の戦闘データを基にね」

 

 

「……」

 

 

「君も使わなくていいのかい? 正直、君の権限だけで勝てるほど、こいつは弱くないよ」

 

 

 無言になったイデアに肩を竦めるアーリは、イデアに準備をするように勧める。

 

 

「いいでしょう。これも私の仕事です!」

 

 

『ゼロス・ドライバ―!!』

 

 

 腰にドライバーを装着する。装着すると、彼の左目が脱色し、黒から赤へと変色する。

 

 

「うん、面白くなってきたよ。君の現状の戦力把握もかねて、君の策に乗っかるとしようかな?」

 

 

 二人は揃って、ドライバー左側にある認証部分に手を添える。

 

 

『accept……zenith standby!!』

『accept……Idea standby!!』

 

 

 二人のドライバーが待機状態となり、二人のドライバーは待機音を奏でだす。軽快さと荘厳さをもつメロディーが空間を支配する。

 

 

「「……変身ッ!」」

 

 

『『startup!!』』

 

 

 揃って、ドライバーの右側を押し込むと、ドライバーが起動し、中央のシャッターが展開し、エネルギーがあふれ出し、神経のような光の回路が二人の体を走り抜ける。

 

 

『Enforce the punishment!! zenith!』

 

『Contain the Disaster!! idea!』

 

 

『『 complete……』』

 

 

 荒れ狂う風と共に、二人を装甲が包み込む。2体の飛蝗の異形へと姿を変える。

 

 

 イデアは白と銀の装甲を纏い。赤いマフラーを身に着け、瞳が赤く光る。

 

 

 アーリの変身するゼニスは、イデアとよく似てはいるものの、白と黒と銀の3色の装甲であるが、各部がより洗練された流線型となり、異なる形状の機構が備わっているのが見て取れる。一目でイデアの後発機であることは明白であった。

 

 

「さて、始めようか? イデア」

 

 

「えぇ……ッ」

 

 

 二人のドライバーからエネルギーがあふれ出し、無風の空間に風が吹き荒れる。イデアのマフラーがはためくと、彼は全力で懐に潜り込もうと各部機構を起動し、時空を歪めた上で加速する。目にも止まらない速度で接敵する。しかし、イデアの視界には赤い閃光が残像のみが残り、強い衝撃と共に空中を舞う。

 

 

 一撃だけではなく、何度も、何度も、空中で攻撃を受ける。

 

 

「舐めるなぁ!」

 

 

 各部機構のエネルギーを開放し、ドライバーの出力を引き上げ、放出し、自分を攻撃する赤い閃光を吹き飛ばす。地面を転がるが、気合を入れなおし、立ち上がる。

 

 

 しかし、自分のエネルギーの開放であり、その影響が自分の中にある生体回路が焼けるような感覚に襲われ、膝をつく。

 

 

「うん、やっぱり、性能については問題ないね。欲をいえばもう少しだけ……いや、これ以上は自滅の可能性があるかな?」

 

 

 冷静に総評をするように、分析結果を述べながら立ち上がる。背部の首の付け根の位置から赤いエネルギーが物理的に見えるように放出され、マフラーのように揺らめく。

 

 

「クッ……」

 

 

 ゆったりと歩いてくるアーリに、イデアは仮面の下で悪態をつくが、音に出さないように不敵に笑う。

 

 

「? ……ッ!?」

 

 

 アーリは急速に近づいてくるエネルギーの反応から、その場から全速で距離を取る。

 

 

 爆音とともに、煙を巻き上げる。彼は薄れていく煙に目を凝らすと、そこには両手に武器を持ち立っているイデアの姿があった。

 

 

「へぇ……」

 

 

 その両手には完全聖遺物としての姿をもつガングニールとランス状のガングニールが握られていた。

 

 

 そして、空中に様々な武器や大量の自立型兵装、天使を模した機械人形のようなものまでもがが生み出される。

 

 

「……それを出すってことは本気中の本気かぁ。うん、よし、もう少し出力を上げて遊んであげるよ」

 

 

 アーリは、そういうと、自身の背部に、大きな武器庫のような多数のエネルギー状の光学武器等を形成する。

 

 

 今この場で、悪と石工達の神がぶつかり合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・疑似ライダーイデア

 体重:89.5kg
 身長:200cm
 パンチ力:78t
 キック力:271.5t
 ジャンプ力:201m
 走力:0.4秒(100m)
 能力:時空制御等

 疑似ライダーシステム第2世代であり、第1世代よりも、出力や各能力の制御機能等の技術的向上を行うコンセプトで設計されている。第1世代とほぼ同等の総合戦闘能力を保有しており、特定の相手を想定して設計されている対厄災用システムとして作られた。
 欠点として、かなりの負担を使用者に与えるため、人間の肉体で耐えることが不可能という点から、使用を前提とした神として、アーリがイデアを創造し、専用の調整が施されている。そのため、完全にイデア以外のシステムの使用は不可能に近いものとなっている。



・疑似ライダーゼニス

 体重:90.5kg
 身長:200cm
 パンチ力:89t
 キック力:304.5t
 ジャンプ力:220m
 走力:0.3秒(100m)
 能力:時空制御等


 疑似ライダーシステム第2.5世代であり、第3世代のシャドウジオウの数あるプロトタイプの一つとして設計されている。シャドウジオウが出力を各封印をもって、制御するという機構であるが、ゼニスは制御した上で減衰させずにより高い戦闘能力の発揮を実現している。こちらも、人間に扱えるものではなく、イデア以上の負担を持つため、ハイエンド機ではあるものの、試験機としての側面がかなり強いものとなっている。
 アーリは一番高い性能であるという点と、仮想敵や外界からの敵との戦闘を考慮するため、戦闘データを即時対応させて対応能力を高めるといった機能を持つ点から、特殊な実戦用の調整を行い、専用装備として使用している。

・ゼロス・ドライバ―
 この世界で初めて誕生したドライバーであり、世界と直接接続し、世界の防衛システムのである疑似ライダーシステムの展開とそれに付随し、無限にエネルギーの供給と様々な補助を受けることができる。
 世界にアクセスする際には認証を突破する必要があるため、世界へのアクセス権をもつものに使用が限られる。
 初期型の仕様では、負担が大きいが、人間であっても使用が可能である。しかし、仕様上の悪影響が継続的に発生する欠点がある。
 アーリが使用する最終調整型は、負担等が初期型以上に肉体的負担が大きいが、各機能が大幅な向上を果たしており、継続的な悪影響は最小限のものとなっている。外見は同一であるものの、内部はかなり異なる。


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第55話 2009/破壊の継承(前編)

 先ほどの場所より、少し離れた、廃工場にクリス、アスカ、ソウマの3人はいた。

 

 

 ソウマは、瓦礫に座り、背を預けている。肩で息をしながら、手が震え、意識が飛びかけるのを意志の力で、辛うじて繋ぎとめている。

 

 

 アスカは、自分がこうなった経緯について、説明をしているが、ソウマの負傷具合がもはや、戦闘に耐えうる程度ではないこと、最悪の場合が想定し得るため、この状況について、ある程度の逃げる算段を考えていた。

 

 

「さぁて、今の現状を整理すると、アナザーエグゼイドについての件は完全に悪神、アーリが主導の計画。ただ、ここにアスカを連れてきたのはイデア自身の判断ってことでいいんだよね」

 

 

「あぁ、イデアからはそう聞いている」

 

 

「……」

 

 

 自身の整理した状況から、ソウマは考え込む。整理して内容を咀嚼すればするほど、イデアとアーリは完全に今回の件では連携が取れていないどころか、後発の形でアスカの救援が成立している以上、イデアがアーリの計画について、理解した上で妨害を入れたことへの今までの彼らの関係性への矛盾に疑問が思考を妨げる。

 

 

「それはそうと、これからどうするんだよ。これ以上はホントにお前の体がもたねぇよ……」

 

 

 クリスはソウマの隣に座り、彼の服の裾をつかみながら、俯きながら、消え入りそうな声で彼を引き留める。

 

 

「クリス……」

 

 

 ソウマにとってそれは甘い毒のようなものであり、彼女のために、これ以上の戦闘は避けきることはできないと頭では理解しているが、彼女の言葉に意志が揺らぎかける。

 

 

「彼女の言うとおりだ。今のお前は戦えない。それどころか、死にかけじゃないか、ここは、彼女と共に逃げろ。それが最善だ」

 

 

 彼の言葉がそれに拍車をかける。崩れ落ちそうな意識の柱を最後に残った可能性が支えきる。

 

 

「でも、それじゃあ、クリスがあいつに殺される可能性は完全に排除できるのか、アスカ?」

 

 

「それは……」

 

 

「だったら、それを考慮する価値はないよ……」

 

 

「それで、お前が死んだら、残された奴らはどうするッ!」

 

 

「だから、死なずに、この状況を何とかする」

 

 

 言い切るソウマに、アスカは勢いに負け、一瞬口を紡ぐ。しかし──

 

 

「それで死にかけが戦闘に加わって、あいつに勝てる保証がどこにある。あぁ一つ確認したい。今、イチイバルを纏ってくれないか?」

 

 

「え、あぁ……ッ──!? 、……ッ、どうして……」

 

 

「どうしたんだ? まぁやっぱり想像通りか……」

 

 

 困惑の表情を浮かべるも、それを一瞥し、彼はソウマに向かい合う。

 

 

「どうやら、イデアの想像通り、彼女も歌が歌えなくなっているみたいだしな、シンフォギアを使えなければお荷物が二人だ……どうして勝算があると思える?」

 

 

「歌えない? それってどういう……」

 

 

 視線を彼女に向ける。そこには、唇を噛んだ彼女の姿がそこにいる。

 

 

「……シンフォギアを使うために歌おうとした……でも、歌えなかった……歌えなかったんだよ……」

 

 

「……」

 

 

「どうしてかわかんねぇけど……声が、出なかった」

 

 

「クリス……じゃぁやっぱり、俺が戦わないとね」

 

 

 呆れた表情のアスカは、肩を落とす。

 

 

「それで、どうする気だ。勝算はあるんだろ?」

 

 

「100%ではないけどね」

 

 

 懐から、フォーゼライドウォッチを取り出す。

 

 

「これがあればパワー負けはしないと思う。あとは、俺のウィザードの力で、サポートするこれが最善策かな」

 

 

「だったら、俺がフォーゼを使う」

 

 

「アスカ……」

 

 

「お前がそこまでの致命傷を負った原因はフォーゼの力が原因なんだろう。だったら、2回目は命が危ない。だから、お前のサポートで、俺が矢面に立つ。これは譲れないッ!」

 

 

 勢いよく、手元のウォッチを奪い取る。

 

 

「え、でも、それは──」

 

 

「さっきも言っただろッ! お前も彼女も死なせないッ! まだ、何も、俺は聞いていないんだ。どうして、ああなったのか……だから、俺が使う」

 

 

「……わかった。ただ、気を付けて」

 

 

「あぁ」

 

 

 ソウマは、気合を入れなおして、立ち上がる。

 

 

「……」

 

 

 クリスは、彼の服の裾を離さない。しかし、ソウマは、首を横に振り、それをゆったりと離させる。

 

 

「ここに、いて、待っててくれ。必ず向かいに来るから」

 

 

「あッ……」

 

 

 彼の背中に手を伸ばす。しかし、その手は空を舞い、その手が掴むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間に出現させたモニターを見て、現在の状況について、確認を取っていた。あれから、逃走して15分ほど経過しており、周囲には、特務災害部隊が集まってきており、奏者たちの姿もそこにあった。

 

 

「う~ん、ちょっとやりすぎたかな?」

 

 

 アーリは、下に視線を向けると、そこには、イデアが地面に俯せになっていた。

 

 

 周りには、天使たちの残骸が転がり、周りにある無数の武器は破壊されていた。

 

 

「まぁいいかな、さてと、これ以上の増援は防がないとね」

 

 

 アーリは、コンソールを出現させ、操作すると、ソウマたちのいる空間を切り取り、外界と断絶させる。

 

 

「さてと、そろそろ、休憩時間は終了かな。では、高見の見物としようかな? ねぇイデア君」

 

 

「ッ!?」

 

 

 彼の言葉に応じるように、彼は、立ち上がろうとするが、光の鎖が彼を抑え込む。

 

 

「グレイプニル鎖verなんてね。さてと……」

 

 

 アーリは意識をモニターに完全に向ける。もはや、イデアへの注意は向けることはない。

 

 

 しかし、彼を拘束する鎖は強靭であり、一切、解ける兆候がなかった。

 

 

「……」

 

 

 イデアは、薄れていく視界に、彼らの戦場へと再度向かう姿が捉えられていた。

 

 

「さぁて、面白くなってきたなぁ」

 

 

 その表情は笑みを浮かべ、まるで楽しむような無邪気な笑みであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アナザーエグゼイドが気配のするほうに意識を向けると、そこには、ソウマとアスカの二人が並び立っていた。

 

 

「グルル!」

 

 

 威嚇の声を喉から鳴らし、自身の存在をアピールする。

 

 

 しかし、二人はその挑発をモノともせずに、両手にウォッチを取り出し、起動する。

 

 

【シャドウジオウ!! ウィザード!!】

 

 

【ゲイツ!! フォーゼ!!】

 

 ベルトに装填すると、異なる待機音が重なりあう。

 

 

「「変身!!」」

 

 

 二人の掛け声とともに、ベルトが回り、世界が回る。

 

 

【シャドウタイム!!】【ライダータイム!!】

 

【仮面ライダージオウ・シャドウ!! アーマータイム!! プリーズ! ウィザード!】

 

【仮面ライダーゲイツ!! アーマータイム!! 3、2、1、フォーゼ!!】

 

 二人は、自分と異なる力を纏いその力を引き出す。

 

 

「グァァァ!!」

 

 

 咆哮と同時に、炎が二人に向かい放たれる。

 

 

「同じ手は食らわないよッ!」

 

 

『コネクト! プリーズ!』

 

 

 空間をつなげ、炎球は魔法陣を通り、異なる空間に移動する。

 

 

「? ──ッ!?」

 

 

 アナザーエグゼイドは自身の攻撃が魔法陣によって消えたかと思うと後ろから光源と熱量が近づいてくることに気が付き振り向く。

 

 

 そこには、自身の放った炎が自分に向かって迫ってくる。慌てて、口から炎を吐き迎撃する。

 

 

「よそ見してていいのかな?」

 

 

「ハァァァ!」

 

 

「ガッ!?」

 

 

 ソウマの声に、意識をさらに取られる。気が付くと、自身の視界の死角からアスカの拳が突き刺さる。

 

 

『バインド! プリーズ!』

 

 

 拳の威力に完全に体感をずらされると、体幹を維持しずらい形で、鎖により四肢が拘束される。

 

 

「一気に行くよ!」

 

 

「あぁ!」

 

 

【ウィザード! スレスレシューティング!】

 

【フィニッシュタイム!! フォーゼ! リミットタイムバースト!】

 

「ハァァァ! うぉりゃぁ!」

 

 

「フッ、ハァァァ!」

 

 

 拘束された相手に、アスカは姿をロケット形態に変形し、錐揉み回転しながら、連続で蹴撃を当て続ける。ソウマは武器に炎のエネルギー送り込み、引き金を引き、連続で炎球放ち、アスカの攻撃の隙に挟み込むように、軌道を操り打ち込み続ける。

 

 

 そして、最後の一撃と言わんばかりに、互いに、攻撃の出力を引き上げ、アスカが、背中から、ソウマが正面からそれぞれ必殺の蹴撃と巨大炎弾を直撃させる。

 

 

「グ、グガァァァァ!」

 

 

 ドォォォォンと、そのエネルギーがその場から逃げ出すように爆発し、アスカは、ソウマの横に戻る。

 

 

「何とかなったみたいだな……」

 

 

「まぁ短期決戦しかないからね……──ッ!?」

 

 

 その爆炎から、巨大なエネルギーがあふれ出し、二人に襲い掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人置いて行かれたという事実に、クリスは泣き伏せる。

 

 

「あ……あぁ……」

 

 

 自分の無力さが自分を蝕み、歌えない自分に嫌気が増す。

 

 

 涙があふれるが、自身の足を動かせる勇気は沸いてこない。

 

 

「アタシを……アタシを一人にしないで……」

 

 

 口からあふれる本音は誰もいない廃墟に響き、溶けて消える。

 

 

 暫く、泣き伏せると、自分の膝を抱え込み、顔を膝に押し付ける。

 

 

(やっぱり……アタシは、誰にも必要となんて……)

 

 

「ッ!?」

 

 

 一度、大きな爆発が背後から聞こえる。その爆音に、弱った心は驚きをそのまま表出し、顔を無意識にそちらに向ける。

 

 

 大きなうめき声が、聞こえたと思うがすぐに聞こえなくなった。

 

 

「あぁ、やっぱり、アタシなんかいなくても、何とかなるんだな……はは……」

 

 

 自棄になり、口から愚痴が力なく零れる。

 

 

『ドォォォォン!!』

 

 

『『うわぁぁぁぁ』』

 

 

「ッ!?」

 

 

 聞こえるはずのない爆音がさらに聞こえる。それに合わせ、二人の悲鳴が聞こえる。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 血流が早くなり、脂汗が体から噴き出す。

 

 

 心臓が苦しくなり、手で押さえるが、呼吸は荒くなり、正常な意識を保ちづらくなる。

 

 

「……」

 

 

 その衝動は先ほどまで動かなかった足を動かし、立ち上がり、廃墟を一歩づつ歩み、壁や柱に寄りかかりながらも、外に出ると、そこには勝ち誇ったようなアナザーエグゼイドがそこにいた。

 

 

「そんな……うそ、うそだ……」

 

 

 足元には、血まみれになったソウマとアスカの姿があった。

 

 

「は、はは……」

 

 

 心が折れ、衝動によって保っていた膝も折れて残骸の上に座り込む。

 

 

 手が、ソウマに向かって、無意識に伸ばし、足を引きづるように、彼に近づく。

 

 

 しかし、視界が暗くなる。

 

 

 気が付いて上を向くと、そこには、右手の剣を振り下ろすアナザーエグゼイドの姿があった。

 

 

「あ……」

 

 

 そして、振り下ろされた刃と共に、クリスの視界は赤く染まった。

 

 

 



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第56話 2009/破壊の継承(後編)

 痛みから、辛うじて繋ぎ止めている意識が覚醒する。

 

 

 近くの気配から、そちらへと視線を向けると、アナザーエグゼイドが立っていた。しかし、その相手の前に何かが見える。目が霞み、もはや何があるのかすら正確には知覚できずにいた。

 

 

「グルルゥッ」

 

 

 自身が目覚めたことに気がつく。

 

 

「……ッ!」

 

 

 体に走る痛みを押さえつけ、彼は再度立ち上がる。

 

 

 相手は此方を振り返り、その拍子に右手の剣を払う。

 

 

「……ッ……? ……ッ!?」

 

 

 払った露のような水しぶきが顔にかかる。何かと思い掌で拭くと、手が赤黒く汚れた。

 

 

 それを確認するや否や、アナザーエグゼイドの足元に転がる何かへと意識と視線をを向ける。そこで漸く、ぼやけた視界が鮮明を帯びた。だが、何故だろうか、いつまで立っても、色彩が白と黒の単色から、戻らない。

 

 

「あ……あぁ……」

 

 

 首を横にふる。目の前の現実を振り払うように……

 

 

 しかし、それでも結果は変わらない。血を流し、倒れ込んだ彼女の──雪音クリスの姿は決して目の前からは消えてはくれなかった。

 

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"」

 

 

 喉が裂けんばかりの声が、溢れだし、青空へと溶けていく。

 

 

 しかし、それでも、自分の内の思いが泣き叫ぶことを止めることは、できなかった。

 

 

 彼の絶望に呼応するように、また紫電が迸る。そして、体に光の線が走り出す。それは枝葉のように、根のように身体中に張り巡る。神経のような光の線は眩く光り、より紫電が強くなる。

 

 

「ッ!? 、グガァァァ」

 

 

 体の内側から、それよりも、深き場所から力が暴れだす。

 

 

 燃え盛るような炎のようにそれは彼を蝕み、紫電と共に膨れ上がる。

 

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」

 

 

 湧き上がる力任せに、走りだし、姿をシャドウジオウへと変化しさらに、力を更なる高みへと至る。

 

 

 拳を強く握り、能力を使用し、距離を詰め、そのまま懐に入り込む。

 

 

「グガァァ!?」

 

 

 拳が腹部に突き刺さる。力で上回るはずのアナザーエグゼイドが、丹田に力を込めて、耐えようとするが、すぐさま、蹴りが太ももを蹴りつける。

 

 

「ガァァ!?」

 

 

 折れるともとれるほどの力で、蹴られ、バランスを崩し切る。

 

 

「アァァァァ!!」

 

 

「グガァァ!!」

 

 

 力はより蝕み、彼の抵抗する意思を挫く。重い拳がアナザーエグゼイドを襲う。しかし、その拳をアナザーエグゼイドは捌き切る。

 

 

 しかし、彼の強まる力はそれをあざ笑うかのように、捌き切れずに徐々に、防御が崩される。

 

 

 ピシピシとシャドウジオウの装甲に皹が入り始める。

 

 

「グォ!?」

 

 

「ウ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"」

 

 

 そして、完全に攻撃を防ぐことができなくなり、完全に防御を崩される。

 

 

 右手に黒と桃色のエネルギーが混ざり、それを胸元に直撃させて、後ろに吹き飛ばす。

 

 

「ガハァ……」

 

 

 エネルギーの奔流により、彼の装の皹が広がっていく。

 

 

「アァァァァ」

 

 

 日々が崩れそうになった瞬間、彼の体からマゼンタ色の光が現れ、彼のベルトの空スロットに装着される。

 

 

【ディ・ディ・ディ・ディケイド!】

 

 そのウォッチを装着した瞬間、全身の皹が修復していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……ここは……」

 

 

 白と黒となった自分の部屋のようなところにいた。 

 

 

「まったく……相変わらずみたいだな。ソウマ」

 

 

 声に気が付き、視線を向けるとそこには、スーツのような服をきて、カメラを手に持つ男性が座っていた。

 

 

「あなたは?」

 

 

「そんなことどうでもいい。時間がない。早く力を制御したらどうだ?」

 

 

「え?」

 

 

 疑問を浮かべると体から、熱のようなものがあふれ出し、膝をつく。

 

 

「がッ……なんで、こんな……」

 

 

 完全に制御が聞かなくなった力が体の内側から焼き尽くそうとする。

 

 

「ハァ……仕方がないか」

 

 

 彼は、懐から、一つの特殊なライドウォッチを取り出すと、彼に向かって、放り投げる。

 

 

「これは……」

 

 

【ディ・ディ・ディ・ディケイド!】

 

 

 

 熱で鈍くなった頭で、そのウォッチを掴み、スィッチを押すとマゼンタの鎖が現れ、彼の体に巻き付くと、急速に熱が体から引いていった。

 

 

「ハァハァハァ……どうして?」

 

 

「そのウォッチはくれてやる。今のお前じゃ、自滅しかないからな」

 

 

 無愛想に彼は言い放つと、こちらを無表情に眺めている。

 

 

「自滅って、どういう……」

 

 

 ソウマの表情には、困惑が浮かび、それを見下すかのような男。二人の間の空気の冷たさがソウマの心を締め付ける。

 

 

 その空気に耐えきれず、体に走る痛みを抑え込み立ち上がる。立ち上がるが、その体を支えるほどの力が存在しない。ゆえに、意志の力という名の根性のみで、立ち上がる。

 

 

「ほら、さっさと戻れ! こんなところで油を売っているひまはないだろう」

 

 

「あぁ……」

 

 

 足を引き摺りながら、後ろを向くと、そこには、光の扉のようなものがあった。

 

 

 歩いていき、光の扉を開けようとすると、後ろから声が聞こえた。

 

 

「一つだけ、教えてやる。雪音クリスは生きているぞ」

 

 

 その言葉に、体が少しだけ軽くなる。表情に笑みが浮かび、そのままあるいて進んでいき光に消えていった。

 

 

 

 

 

 しばらくの間、カメラの男は彼の向かった先に視線を向けていたが、ため息を一つつき、踵を返して、元居た場所に戻ろうとすると

 

 

「ちょっと、冷たいんじゃないか、士?」

 

 

 聞きなれたしかし、長い間、聞くこととなかった友人の声がした。

 

 

「ッ!?」

 

 

 驚き、そちらを振り返ると、そこには、友人である小野寺ユウスケの姿がそこにはあった。

 

 

「ユウスケ……」

 

 

「そうですよ士くん!」

 

 

 別の声が聞こえてそちらを向くと、そこには光夏海の姿があった。

 

 

 二人の姿に懐かしさを覚えながらも、彼の表情は変わらず呆れた表情であった。しかし、その表情にはどことなく穏やかさが宿っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エネルギーの奔流が収まると、そこには、正気を取り戻した榊ソウマが立っていた。

 

 

「グルルルルッ……」

 

 

 喉を鳴らすかのような威嚇音を発するアナザーエグゼイドに対して、臆することなく、ベルトの回転させる。

 

 

【アーマータイム!!】

 

 

 十のピントのずれたような靄に似た影が展開する。

 

 

【カメンライド! ワーオ!】

 

 それがソウマ──シャドウジオウのもとに一つになり、アーマーを形作る。

 

 

【ディケイド! ディケイド! ディケイドー!】

 

 

 顔のディメンションフェイスにディケイドアーマー状態のシャドウジオウの姿が表示されることで、アーマーに鮮やかなマゼンタの色が差し込む。

 

 

 ディケイドアーマーが完成した姿であった。

 

 

 ソウマは手を軽く、擦るように叩くとゆったりと構える。

 

 

『ライドヘイセイバー!』

 

 

 機械音と共に、彼の手元に一つの時計を模した剣が顕れる。

 

 

 そして、彼は、その刃を撫でる。

 

 

「さてと、これで終わりにしようかな? 弦十郎さん?」

 

 

 いつもの、飄々とした状態に戻り、破壊の力と共に、アナザーエグゼイドへと切りかかるのであった。

 

 

 

 

 

 



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第57話 2009+2012/竜の宴

 ようやく、メンタルが回復してきましたの投稿を再開します。


 アナザーエグゼイドとシャドウジオウが切り結ぶ。

 

 

 衝撃が風となり、周囲一体を吹き抜ける。

 

 

「クッ……」

 

 

 切り結ぶも、腕力の差があり、ソウマは押し込まれる形で後方へと吹き飛ばされた。

 

 

『ジカンギレード! ケン!』

 

 

 新たにもう一振の武器を取り出し、踏み込みながら体を屈めて切り込むも、咄嗟の判断により、右手の剣で阻まれる。

 

 

(反応が速いか……だったら!)

 

 

 切り結ぶが、手に持つ二振りの刃では、力で押しきることはできない。

 

 

 腰を入れ、回り込むように剣で切り伏せるように切り込んでも、腕力の差で、弾き返される。

 

 

(相変わらずの防御力だなぁ……ッ!?)

 

 

 拳と、剣、銃を用いて、力と体に染みついた技術が合わさり、ソウマに向かって降りかかる。

 

 

 しかし、ソウマの技術を持って、その攻撃を完全に往なす。

 

 

「ガ、グ、グガァ!?」

 

 

 一閃と、一閃と、攻撃の隙を縫うように、アナザーエグゼイドを切り続ける。

 

 

 流れる水のように、澱むことはなく、迷うことはなく防御と攻撃を繰り返していく。

 

 

「ッ!? ガァァァァ!」

 

 

 攻めているはずである自分が逆に攻め落とされていく。

 

 

 技術と無限に等しい経験による戦闘勘、それと合わせて二刀流がアナザーエグゼイドの劣勢を生み出した。

 

 

 二刀流である以上は腕力が相手に勝れば攻撃性を持つが、現実的な状況に近づけば近づくほど、攻めよりも、受け流す防御が基本となる。

 

 

 文字通り、防御ありきの攻めとなる。柔よく剛を制す。まさに、この戦法こそ、榊ソウマが現状、風鳴弦十郎を上回ることができる数少ない武器の一つであった。

 

 

「うぉっと!? ……ッ!?」

 

 

 左手の銃で、ゼロ距離で打ち込まれそうになり、躱すように距離を取る。

 

 

 しかし、光弾は左わき腹を掠り、その衝撃で、意識を刈り取られそうになる。

 

 

ガァァァァ

 

 

 それを隙と定め、アナザーエグゼイドは炎球を作り出す。

 

 

 叫び声が響き空間が震えると、炎球が膨れ上がり、さらに大きくなる。

 

 

 しかし、それに怯えることはなく、ソウマはライドヘイセイバーの針を操作する。

 

 

『ヘイ! 鎧武!』

 

 

 オレンジの切り身のようなエネルギーを刀身に纏う。

 

 

『鎧武! デュアルタイムブレーク!』

 

 

 剣閃が炎を切り裂き、そのエネルギーがそのまま勢いを殺さずに、相手の装甲を切り裂く。

 

 

 直撃のダメージにより、よろめく。

 

 

『ヘイ! ファイズ!』

 

 

 赤いフォトンブラッドが、密度を高め、刀身を覆いつくし、さらに巨大な光刃となる。

 

 

『ファイズ! デュアルタイムブレーク!』

 

 

 左手のジカンギレ―ドを放り捨て、両手で、ライドヘイセイバーを握り締め、上段で構え、そのまま振り下ろす。

 

 

 赤い閃光が相手を飲み込む。

 

 

 吹き飛ばされ、相手は地面を転がり、うつ伏せになる。

 

 

「……グ、グガァァァ!! 

 

 

 力を振り絞るような、搾り取られていくような咆哮と共に、立ち上がる。

 

 

「哀れだな……本当に、踊らされるってのは……」

 

 

 そんな有様を見て、心底、呆れと哀れみ口から零れる。

 

 

「それは……俺もか……」

 

 

 自嘲の言葉が釣られて出てくる。

 

 

 そんな弱気を抑えるために、一つのライドウォッチを起動させる。

 

 

『ウィザード!』

 

 そのウォッチをディケイドライドウォッチのスロットに装填する。

 

 

『ファイナルフォームタイム! ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード!』

 

 

 その音声と共に、ディケイドの力がウィザードの力をさらに引き出す。

 

 

 右肩の文字が『ディケイド』から『ウィザード』に切り替わり、胸部のバーコードとに『フレイムドラゴン』文字に切り替わる。

 

 

 それに合わせ、全身がモザイクに包まれ、胸部装甲とヘッドアーマーを覗いで、本来のウィザードの姿となり、炎に包まれたような竜の意匠を持つ赤い姿。

 

 

『シャドウジオウディケイドアーマーウィザードフォーム』へとその姿を変じる。

 

 

 心の内から燃え上がるような力が湧き上がる。腰マントを翻し、体を半身捻り、魔法を発動させる。

 

 

『コネクト! プリーズ!』

 

 

 魔法陣から、時計のようなガントレット型のアイテムを取り出す。

 

 

 それを掲げるように左腕に装着する。

 

 

『ドラコタイマー! セットアップ!』

 

 

 時計の針を回し、1回転させ、起動させる。

 

 

『スタート!』

 

 

「さぁ、ロスタイムといこうか」

 

 

 彼の言葉に乗るように、アナザーエグゼイドは、アナザーウォッチの力によって、強制的に立ち上がる。

 

 

「……ァ゛……ァ゛……ア゛ァ゛……」

 

 

 もはや、唸り声をあげる力すらないが、操られるように飛び込むように、ソウマのもとに迫る。

 

 

 回っていく、時計の針の背景が青の領域になった瞬間、ドラコタイマーのスイッチを押し込む。

 

 

『ウォータードラゴン!』

 

 

 青い魔方陣が現れ、その中からウォータードラゴンの姿のウィザードフォームが現れる。

 

 

「ッ!?」

 

 

 水を纏った刃が相手の左腕の生体装甲を切り裂く。

 

 

 切り裂いた装甲が砕け落ちる。

 

 

 今までの戦闘の影響により、各所の装甲に限界を迎えかけていた。

 

 

 いきなり、別の方向から受けた衝撃により、地面を転がる。

 

 

「ァァ……」

 

 

 ゾンビのように立ち上がる。そんな姿にソウマはため息をつく。

 

 

「まだ、来るのか……しつこいねぇ。本当に」

 

 

 それでも、緑の領域に入った時計のスイッチを押し込む。

 

 

『ハリケーンドラゴン!』

 

 

 後方から、ハリケーンドラゴンが現れ、風の弾丸を放つ。

 

 

 風の弾丸が、脚部の装甲に向かって放たれ、両足揃って破壊される。

 

 

 その勢いから脚部にさらに浴びせ続けて、動きを止めきる。

 

 

「まだ、もう一人いるんだけどね」

 

 

 青のソウマが、ジカンギレ―ドを銃にして、胸部に向かって撃つが、残った右の剣の光の刃が打ち落とす。

 

 

『ランドドラゴン!』

 

 

 その機会音声に、足を引き摺りながら振り向くと、そこには、竜の爪を装備した、ランドドラゴンの飛ぶ爪撃が襲い掛かる。

 

 

「ガァ!?」

 

 

 残った剣を叩き折られ、もはや、胸部と頭部の装甲を残して、すべてが崩れ落ちた。

 

 

「ガァァァァ、グガァァァァ!」

 

 

 炎の球を生み出し、砲撃する。しかし、

 

 

『ゲイツ! ギワギワシュート!』

 

 その炎球を光の矢が正確に打ち抜く。その矢が炎を破裂させ、暴発させる。

 

 

「……俺を、忘れるな!」

 

 

 ボロボロなアスカが武器を構えて、足をふらつきながら、こちらへと向かい歩いてきた。

 

 

「アスカ……」

 

 

「まだ、いける! 気にするな……」

 

 

『ファイナルタイム!』

 

 

 時計が最後の時を告げる。

 

 

 互いに肉体の許容を超えるダメージを受けている。

 

 

 いくら、ソウマの肉体が回復しているといえども、ダメージはそれでも蓄積し、体力は限界であった。

 

 

 だが、二人の間に心配の意図はない。そこにあるのは信頼のみであった。

 

 

「だったら、最後まで付き合ってくれる?」

 

 

「あぁ……当然だ!」

 

 

 二人の言葉のみが気力を持つが、

 

 

「さぁて、これで行くかな」

 

 

『ファイナルアタックタイムブレーク! ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード!』

 

『オールドラゴン!』

 

 

 炎の竜のもとに、水、風、大地の竜が魔力となり、集う。

 

 

 竜の頭、爪、翼、尾が装備され、四属性が一つとなり、まさに、究極の竜へと姿が変じた。

 

 

『アーマータイム!! 3、2、1、フォーゼ!!』

 

 

 フォーゼのアーマーを纏い、姿を変える。

 

 

「すべての魔力を一つに……この一撃で終わらせるッ!」

 

 

「悪いが、ここで、雪音クリスを殺させるわけにはいかないんでなッ!」

 

 

 飛び上がり、二つの軌跡を描き、アナザーエグゼイドを挟み込む。

 

 

「ハァァァ!」

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

 正面からくるアスカを、腕力で抑え込む。あまりの出力に地面に足が埋まる。

 

 

「負けて、負けてたまるかッ!」

 

 

『グラヴィティ! プリーズ!』

 

 

 ソウマの重力魔法が相手を地面に縫い付ける。

 

 

 いつもの冷静さをかなぐり捨て、意識をすべて、相手を押し込むことに向ける。

 

 

「ガァァ……ッ!」

 

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」

 

 

 重力により、さらに力を増し、押し込む。

 

 

 身体にかかる常軌を逸した一撃に耐えきれず、炎球を生み出し、吹き飛ばそうと打ち込む。

 

 

 しかし、燃え上がる爆炎がアスカの目の前を覆いきるが、止まることはなく、怯むことなく、地面に押し込む力をさらに強める。

 

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」

 

 

「──ガァァ!?」

 

 

 その勢いに負けて、その拳が、アスカの拳がアナザーエグゼイドの胸部装甲を打ちこわし、元の生体装甲のライダーゲージを削っていく。

 

 

「ガァァァァ!」

 

 

「──ッ!?」

 

 

 最後の力を振り絞ったアスカの無防備な腹部に、強烈な拳の一撃が突き刺さる。

 

 

 地上最強の一撃は、フォーゼアーマーを破壊し、突き刺さる。

 

 

 そのまま、勢いを殺され、吹き飛ばされる。

 

 

(あとは、頼んだぞ。オーマジオウ……否、ソウマ……)

 

 

 薄れゆく意識のなか、自分にとって、憎しみと友情を併せ持つ相手にすべてを託すのであった。

 

 

 

 

 

 その反撃に間髪入れずに、雷と風が、アナザーエグゼイドを包みこみ、冷気により、埋まった足と腕を固定する。

 

 

 その異常な状態に、現況であるソウマを探そうと、周りを見渡すが見つからない。

 

 

「……ッ、グッ、ガァァァ!」

 

 

 上空に四つの属性の魔法陣が現れ、竜の姿を取り、アナザーエグゼイドに食らいつき、拘束する。

 

 

 その中心にいる竜の姿となったソウマが、構えて、全速力で、垂直に、必殺の蹴撃がアナザーエグゼイドへ向かって放たれた。

 

 

「ダァァァァァァ!!」

 

 

 胸部に蹴りが突き刺さり、そのまま、地面へと押し込み、それでもなお、勢いが止まることはなく。さらに地面へとめり込ませ、弦十郎の中のアナザーウォッチを破壊するのであった。

 

 

 その蹴りが収まると、アナザーエグゼイドの姿から弦十郎へと姿が戻る。

 

 

「ふぃ~」

 

 

 その言葉と共にソウマの姿ももとの姿へと戻る。

 

 

 長い、長い、遊戯のような、神の試練は終焉したのであった。

 

 

 黒煙によって汚れた青空の光が唯々、彼らを包み込むのであった。



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第58話  0000/試練の終わり

 青い空が眩しく見える中、ソウマは雪音クリスが向かっていった。

 

 

「よかった……無事みたいだ」

 

 

 雪音クリスの服には、赤い血が変色し、固形化している。しかし、肉体には、どこにも傷は見当たらない。

 

 

 胸が上下し、息をしていることは一目で理解し、彼女の口から漏れ出す。吐息に安心し、彼は脱力する。

 

 

「アスカぁ、無事~?」

 

 

「な、なんとかなぁ……取り合えず、もう二度と戦いたくないな」

 

 

 ソウマの声に、アスカは、寝そべりながら、返事をする。

 

 

 先ほどのダメージにより、体の自由が利かなくなっている。

 

 

 パチパチという拍手の音が聞こえてくる。

 

 

「おめでとう。一応、裏ボス攻略をこんな段階で完全にできるとはね。まぁ、そう仕向けたのは俺なんだけども」

 

 

 どこかで、聞いたことのある声に意識を二人そろって、向ける。

 

 

「アーリッ!?」

 

 

 ソウマが、声の主に向き合うと、そこには悪しき神が飄々とした態度で立っていた。

 

 

「元気そうで何よりだよ。五体満足で済むとは思っていなかったからね」

 

 

「おいッ……今回の件の画を描いた張本人から褒められても、うれしくないなッ!?」

 

 

 明確な怒気を向けているソウマに対して、アーリは、冷ややかな表情で、指を鳴らす。

 

 

 その音と同時に、灰色のオーロラが此方に迫ってくる。

 

 

「では、お連れしよう。神の世界へ」

 

 

「なにッ!?」

 

 

 そして、一気に、その場にいるものをソウマ達を転移させたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白く、何もない世界の中に、ソウマ、アスカ、クリス、弦十郎、七実、そして、アーリが転移してきた。

 

 

「ようこそ、神の世界へ」

 

 

 いつもの、椅子に腰かけて、彼は歓迎をしていた。

 

 

「何とかなってよかったよ。我が魔王」

 

 

 椅子に縛り付けられているイデアが、こちらに話かけてきた。

 

 

「なんで、そんな恰好しているの……」

 

 

「なんでとは、いや、何でもない」

 

 

 二人の会話に笑いをこらえるように、口元を抑えているアーリを変なものを見る目で七実は見ている。

 

 

 その呆れるような気配で、手に槍を生み出し、イデアを縛っている鎖を断ち切った。

 

 

「うげぇ、やっぱり、その鎖を切れるよねぇ。ガングニールであれば……。もっと改良しないとなぁ~」

 

 

 そんな、アーリの反応をイデアは腑に落ちぬ表情で、七実は視線すら向けずに、イデアの服の乱れを直していた。

 

 

「それで、君たちをここに連れてきた理由についてだが……単純に言えばご褒美と、今回の騒動の説明とこっちの都合の複合かな?」

 

 

 強引に話を進めるように、アーリは先ほどまでの会話を断ち切る。

 

 

「……あぁ、そういえば、クリスちゃんと、弦十郎君を目覚めさせないとね」

 

 

 指を鳴らすと、二人を微かな光が包み込み、目を覚ました。

 

 

「……俺は、一体……」

 

 

「ッ!? ……ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 

 二人は、現状を理解できないといえる表情を浮かべ、弦十郎は混濁している記憶を探るように、頭に片手を、クリスは、切られたはずの自分の傷を確かめるように摩っていた。

 

 

「ソウマ、アタシ──」

 

 

「クリスッ!? ……よかった」

 

 

 ソウマは、クリスの言葉を遮るように、抱き着く。

 

 

 すすり声が聞こえてきた彼女は、困惑を自分の中にしまい込み、彼をあやす様に、頭を撫でていた。

 

 

「んんッ」

 

 

 七実が咳ばらいをすると、二人の意識が外に向き、急に恥ずかしくなり、その場を互いに離れる。

 

 

 羞恥心から、少し頬が赤くなった二人には、あまり初々しさにその場にいる皆、微笑ましいようにしていたが、真相を知っている神々は、微笑ましく思う表情の裏に、複雑な思いを隠していた。

 

 

「さて、本題から話そうか」

 

 

 話を切り出すアーリに全員が視線を向けた。

 

 

「まず、今回の騒動を俺が手引きしたのは、ミラと少し約束事をしたことが原因だね」

 

 

「約束?」

 

 

 なにも知らないソウマ、クリス、弦十郎の3人は首を傾げる。

 

 

「そう、まぁ、詳細は省くよ。正直君たちにはどうでもいい内容だからね。では、まず、我らが魔王がシャドウジオウの覚醒、所謂、進化だよ。この進化は、シャドウジオウのコアに掛けていた複数の封印の内、概念封印が解けたことで、完全性を欠いたことにより、内部のシステムの影響を受ける形で浸食によって、ジオウの力とは別のシャドウジオウの力へと完全に不可逆に変質した」

 

 

「ちょっとまって、それじゃあ、ジオウの姿を模していることに対しては、コアの封印以外に意味がないってこと?」

 

 

「そういう訳ではないよ。ただ、コアの制御には、ジオウ級の力が必要なんだよ。それに、基本的に封印については、ジオウに一任しているし、たぶん、あったことぐらいはあるでしょ。我らが魔王」

 

 

「まぁ……」

 

 

「それで、封印が解けた理由だけど、全部こちら側のミスだ。特に君たち側に落ち度はないから安心して」

 

 

「それは、どういう意味だ」

 

 

 先ほどまで、沈黙を貫いていたアスカが、アーリに質問を投げかける。

 

 

「おや、君がそれを気に掛けるとはねぇ。まぁ、いいかな? 簡単に言うと、概念封印で、ジオウと世界に錯誤させることをシステム上でも、行っている。しかし、それだけでは、封印は決して完全ではない。それどころか、世界そのものに登録されている名称と実物が異なるせいで、矛盾が生じて、封印が自壊する」

 

 

 困ったような表情を浮かべるが、口元が裂けるかのような笑みを浮かべる。

 

 

「つまり、外部から、外付けの形で、実物の認識そのものを歪める必要がある。つまり、イデアにウォズムーブをさせることで、世界に与える影響をジオウと同一に近い状況を再現していたってわけ」

 

 

「あ……」

 

 

 アーリの説明を聞いたときに、七実は、一瞬ポカンとした表情を浮かべたと思ったら、血の気が引いていった。

 

 

「結論を言うと、どこぞの誰かさんが、祝ったり、前置きしなかったりしたせいで、概念封印が自壊してしまったってわけ」

 

 

 その結論を聞いたことで、七実に冷ややかな視線をイデアが送ると、必死になって、視線を逸らして、もじもじとしていた。

 

 

「ま、まぁ、そういう訳だから、これ以上の追及はやめておこうか……」

 

 

 イデアが、七実に集中している視線に対し、少し、申し訳なさがあふれてきたため、話を本題に戻す。

 

 

「そうだねぇ、そういえば、アスカ君のシャドウゲイツについても、今までの戦闘データと今回の戦闘データで読み取ったデータで、どういう構成か理解できたよ」

 

 

「俺の?」

 

 

「あぁ……びっくりしたよ。このシステムは単純にシャドウジオウの未覚醒状態をコピーした代物。と言っても、完全なコピーではなく、表面上のみのデットコピー品。しかし、シャドウシステムのコアについては出力は数段劣るが、コピー品が搭載されているみたいだからね。一応、覚醒段階に至ることはできるみたいだね。しかも、この覚醒は、オリジナルとは違って、負担も少ないっていう利点もある」

 

 

「覚醒……シャドウゲイツの覚醒に必要な条件は何だ」

 

 

「それは知らないよ。俺は、何も知らない。そもそも、俺が作ったものじゃない以上、仕様書なんてものもないからね」

 

 

「……」

 

 

 何も知らない、分からないというアーリの言葉は無責任に見えて、彼にとってはこれ以上ないレベルでの正直な嘘偽りのない本音であった。

 

 

「ただ、一つだけ、心当たりがあるとすれば、君がいた元の時代にヒントがあるんじゃないかなって」

 

 

「俺の未来だと……」

 

 

「うん、絶望に満ちた未来、もはや、救いすらない世界さ」

 

 

 重い空気がその場を支配する。

 

 

「ねぇ、その未来っていうのは、俺が作ったのか」

 

 

 ソウマの言葉には、迷いと困惑が宿っている。

 

 

「そうだね。我らが魔王と、クリスちゃんの二人が作り上げた未来。文字通り、世界を平和にしようとした世界だ……」

 

 

「アタシとソウマが……」

 

 

「まぁね。色々とあったがね」

 

 

 アーリの心に、クリスの言葉とソウマの視線が重く突き刺さる。

 

 

 しかし、悪神であっても、簡単には茶化せない現状故に、ただ、視線を反らしつつ、話を反らすしかできずにいたのだった。

 

 

 

 

 

 



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第59話 0000→XXXX/雪の音に憎しみが響く

 神の起こした騒動が起きてから3日、肉体の負担はないものの、2日続けて寝込み、ベットから起き上がる体力すら切れている始末であった。

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛……」

 

 

 ベットの上から、ゾンビのような唸り声が部屋に響く。

 

 

「目を覚ましたみたいだな……」

 

 

「あ、あぁ……おはよう。どのぐらい寝てたんだ?」

 

 

 ソウマは、残っている体力で、上半身を何とか起こすと、エプロンを着たクリスがベットの横に立っている。

 

 

「2日だよ。今日で3日目だ。この寝坊助……」

 

 

 彼女の自嘲気味の元気がない声音に、気を取られつつも、ベットから降りようとする

 

 

 ガクン、と擬音が聞こえそうになるほど、勢いよく、膝が崩れて地面に倒れ伏しそうになる。

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 

 彼女はそれを咄嗟に支える。

 

 

「あぁ……なんとか……」

 

 

 その瞬間、彼の手にウォッチが現れると体に力が戻る。

 

 

「……もう大丈夫っぽい」

 

 

「え……」

 

 

 彼は立ち上がる。その様からは、今までの昏睡がなかったかにような生気に溢れている。

 

 

「……だ、だったら、先に風呂に入ってくれ……食事を用意しとくから」

 

 

 彼女に、自身の着替えを胸元に押し付けられる形で押し切られる。

 

 

「?」

 

 

 違和感を覚えながらも、風呂場へと向かい、汗を流すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 髪を渇かし、部屋着に袖を通す。歯を磨き、身嗜みを整えるリビングに移動すると、そこにはただならぬ気配を纏った響と未来が座って待っており、クリスがその対面に座っており、まるで借りてきた猫のように縮こまって座っていた。

 

 

「ようやく、起きたんだ。心配してたんだよ。ソウマ……」

 

 

 何時もより、低い声の響はただ、にこやかな微笑みを浮かべていたが、それは張り付いているように見えるだけであり、その目は笑ってはいなかった。

 

 

「あぁ~……お揃いみたいで……どう言い訳したものかな……」

 

 

 空いているクリスの隣の席に座り、4人でテーブルを囲みながら、ソウマは2人が口を開くのを待っていた。

 

 

「ねぇ、ソウマ……なんで彼女と一緒に住んでいるのかな?」

 

 

「やっぱり、それが気になるよね……」

 

 

 想定どおりの響からの質問にどう答えたものか頭を捻る。

 

 

「あぁ……それは──」

 

 

「こいつは悪くねぇ、全部アタシが悪いんだ!」

 

 

 話し出そうとしたその瞬間、クリスがソウマを庇うように声をあげる。その肩は震えていた。

 

 

「いや、全部俺の独断だよ」

 

 

「じゃぁ、浮気を認めるんだね……」

 

 

「あぁ……まぁ、色々な事情つきだけどね」

 

 

「ねぇ、ソウマ、事情ってなにかな?」

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

 今まで、静かにしていた未来が口を開く。しかし、その目には響と異なり、何時ものソウマに向ける感情そのものであった。

 

 

 その視線にかなりの困惑を示すソウマは少しだけ、重く感じる口を開く。

 

 

「単純にクリスの身が危ないっていう点が一番だな」

 

 

「それってどういうこと?」

 

 

 未来がソウマの言葉に対し冷静に理由を求める。

 

 

「まず、フィーネ、つまり今回の黒幕に対して2課の情報が漏れている。でなきゃ、響が融合症例っていう情報はクリスに流れる筈がないからね」

 

 

 彼は視線を少しだけ左上に逸らす。

 

 

「それに、フィーネのスポンサーの存在が面倒でね」

 

 

「スポンサー?」

 

 

「そう、スポンサー。まぁスポンサーの正体が某お米の国っぽいんだよね」

 

 

「ッ!? ……それってどういうこと、でもあの国は、日本と同盟国の筈でしょなのにそれって」

 

 

「さぁ、それこそ政治的問題ってやつなんじゃないかな? それに政府の反応からするに、恐らく一切の手回しがないか、若しくは手を一部のみにしか回してないかって感じだろうしね」

 

 

「証拠はあるの、ソウマ……」

 

 

「一応ね。俺でさえ正確に把握していない親族の動向、現状。併せておれ自身の情報が英語で書かれている某お米の国産の書類をフィーネがもっていたから、っていうのが1つ。2つめはこの前襲撃された議員ついて、日本への重火器の持ち込み、特に機関銃類の持ち込みなんて国外組織ができるわけがない。そうなるとルートは自ずと内側、つまり国内における国外、軍事基地系列の可能性が大きくなる。この2点かな、状況証拠と物的証拠、それぞれあげてみた感じではね」

 

 

「でも、それだけじゃ」

 

 

「簡単だよ。国内の中にいる勢力がやるにしてはあまりにも、その後の対処があまりにも、大掛かりすぎる。テロリストによる暗殺なんて、あまりにも杜撰。国内の勢力なら、もっと騒動を小さいレベルに収めようとする。あまりにも国民性と噛み合わない。もみ消さずに、大事にして、細部から目を背けさせる。古典的で、だが効果のある手垢まみれの政治的な手法だからね。」

 

 

 

 未来の言葉に、ソウマが用意していた自身の見解を伝える。その内容はあまりにも現状におけるイレギュラーと呼べるもので、完全に埒外の情報に、二人の頭は真っ白になっていた。

 

 

「ねぇ……私には難しい話はわからない……でも、ソウマは私たちのことがどうでも良くなったの?」

 

 

 ただただ、口から響の本音が溢れ堕ちる。

 

 

 その言葉に彼の頭に自覚できるほどに血がのぼった。

 

 

「──ッ!?」

 

 

 しかし、理性が感情を言葉にするのを阻む。

 

 

 彼女が嫉妬と怒りに呑まれるのは当然であった。その悪感情こそ、彼を愛する感情と同量であった。

 

 

 自身の中にある感情に振り回されている響に対して、自身の身勝手な感情をぶつけることはあまりにも、無体なことでしかなかった。

 

 

 彼は、それを理解する。

 

 

 その理性ゆえに、彼女の瞳から大粒の涙が零れる。

 

 

「……響、俺は、俺の想いは何一つ変わってない。それだけは信じてくれ」

 

 

「信じられないよ!? どうして、貴方を殺そうとした人を助けようとするのッ、どうして、そんな人を……そんな人を……」

 

 

 どうしてもそれより先の言葉が出てこない。

 

 

 言葉にすればそれが、現実になってしまいそうで、それを心の底から口にはできなかった。

 

 

「やっぱり、こうなってたか」

 

 

「七実さん、どうしてここに?」

 

 

 気が付くと、七実が予想通りという表情を浮かべ、机に体重をかけて立っていた。

 

 

「えぇ、修羅場になることはわかっていたもの。ただ、立花響、貴女がそれを口にする資格なんてないはずよ、二重の意味でね。その言葉を口にできるのは、ある意味では、そこにいる雪音クリスだけ、文字通り、ここにいる全員でね」

 

 

「それって……どういう」

 

 

「貴方が気にする必要はない。それが結論。さてと、行くとしましょうか」

 

 

「どこへ行く気だ」

 

 

 聞きなれない声音に、ソウマは意識を未来に向ける。

 

 

「お前は、誰だ」

 

 

「私はアーク……それ以上の情報は今は必要ないだろう?」

 

 

「あら、アーク、久方ぶりね。そうね。今から行くのは未来の一つ。榊ソウマと雪音クリスが添い遂げた世界。と言ったらあなたはどうする?」

 

 

 アークの視線が左上に動くと、顎に手をかける。

 

 

「あぁ、構わないさ」

 

 

「あらら、意地らしいわね。さてと行きましょう」

 

 

 灰色の景色に彼らの視界を飲み込む。

 

 

 それが過ぎ去ると砂ぼこりと瓦礫の光景が目に入る。

 

 

 苔むした瓦礫と廃墟の町だけが広がっていた。

 

 

「ここが、そうなのか……これが俺が造り出した未来なのか……」

 

 

「……」

 

 

 無言がそれを肯定する。

 

 

 これが自分の作り出した未来なのだと、諦念にも似た後悔が彼を襲うのだった。

 

 

 



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第60話 0000→XXXX/天に奏でる鳥の歌

 お久しぶりです。作者です。
 気付いたら、3ヶ月失踪してました。
 この3ヶ月の間に通風、骨折、腰痛等々の怪我、病気が連発しておりました。一応、メンタルも安定してきたので再開していきますので、どうよろしくお願い致します。


 空虚ともいえる最低限の荷物があるのみの部屋に雪音アスカはいた。

 

 

「邪魔するぜ……なんだ、起きてたのか」

 

 

「あぁ……まぁな」

 

 

 その部屋に彼女──天羽奏は訪ねに来ていた。

 

 

 彼女はアスカがこの前の戦闘の傷で寝込んでいると思っていたが、そこにいたのは、いつもの変わらない彼の姿であった。

 

 

「お前が返ってきたときには、意識がなかったしな。心配したよ、まったく……」

 

 

「それは、すまなかったな」

 

 

「おいおい、随分とそっけないな」

 

 

 奏は、からっと笑いながら、近くの椅子に腰かける。

 

 

「まぁな、一つ聞きたい」

 

 

「ん? なんだ?」

 

 

「あれから、ソウマと風鳴司令はどうなった?」

 

 

「……あぁ、ダンナなら無事に、今も、仕事してるよ。榊ソウマについては、私も知らないよ」

 

 

 ソウマの話題となった瞬間に、ぶっきらぼうな返事を返す奏に、ただ、「そうか」と彼は返すのみであった。

 

 

 二人の間に、妙な空気が漂う

 

 

 互いに、それは、本音を隠し、相手を気遣う空気であった。

 

 

 しかし、その沈黙は、奏の言葉で破られた。

 

 

「なぁ、教えてくれないか? ……お前は、憎くないのかよ。自分の家族を殺した、アイツのことを……」

 

 

「……憎いか、憎くないかで言えば、多少はある。間違いなくな」

 

 

「だったら──」

 

 

「それでもッ! それでも……忘れられないんだ。あの時のことを……」

 

 

 アスカが珍しく、自身のことで、声を荒げる様に、奏は、心臓を掴まれたような錯覚を受ける。

 

 

「……なぁ、あの時ってのは……よかったら、聞かせてくれないか?」

 

 

「あぁ、そんな大層なことじゃない」

 

 

 そういうと、彼は、机の上に置いてある。自身のシャドウゲイツウォッチを手に取り、彼女のいる方向の壁と逆の壁に、視線を向ける。

 

 

「昔、俺はあったことがあるんだ。未来のソウマ──オーマジオウとなった彼とな」

 

 

「……」

 

 

 彼女が無言であったが、息をのむような音がした。

 

 

「俺は、榊ソウマと榊クリスの間に生まれた娘、榊美花と錬金術師、榊トーマスとの間に生まれたと言ったら、信じるか?」

 

 

「ちょっと待てッ!? それじゃ、なにか、アイツがお前のじいさんだってことかよ」

 

 

「そうなる。俺の本名は榊アスカだしな」

 

 

「ッ!? ……つづけてくれ……」

 

 

 綺麗な赤い髪を掻きむしり、想像の埒外の内容に、頭を悩ませながらも、彼女は、彼に続きを促す。

 

 

「あぁ、未来では、ソウマが作った、人類の安定生存圏であるキングダムと多数の錬金術師が所属するパヴァリアに分かれたが、一度だけ、二つが一つになろうとしたことがあった」

 

 

「それが、俺の両親の出会い、そして、その証明としての俺と妹だった」

 

 

 アスカが、一旦口を閉ざす。彼女には、その背中がとてもか細いように、見えていた。

 

 

 戦う時の、覚悟を決めたアイツ──ソウマと並び立つ時とは違う。

 

 

 まるで、親を見失った子供の様な、あてもなく彷徨うだけの貧者のようであった。

 

 

「辛いんだったら、別にいいさ。話さなくて……」

 

 

「いや、話すさ。……和平の証として、父は婿入りという形で、キングダムにパヴァリアが併合される予定だった。しかし、そのあとに未来のソウマの手によって白紙に戻され、より一層のキングダムの弾圧が強くなった」

 

 

「じゃぁ、結局、全部アイツが悪いんじゃないのかよ!?」

 

 

「七実が言うには、俺の知らないことがあるらしい。それに、少しだけ、疑問もある」

 

 

「疑問ってのは?」

 

 

「このウォッチとドライバーは父の形見だと仲間は言っていた。だが、今ある情報を整理していくと、これを父が持っている理由に説明がつかない。もし、弾圧をしていたのなら、こんなものを奴が父に渡すはずがない」

 

 

「お前の父さんが作ったんじゃねぇのか?」

 

 

 ライダーの力の模造品を彼の父が作った可能性を彼に示すが、彼は首をゆっくりと横に振る。

 

 

「それはあり得ない。もしこれが作れる技術があったら、もっと被害は小さくなったからな」

 

 

「まぁ、それを除いても……他に理由ともいえない理由がある……」

 

 

「……」

 

 

 彼の言葉までもが、か細くなっていく。

 

 

「覚えているんだ。あの日、事件が起きたあの日、家族で、奴に会いに行った。その時の奴の顔がとても、とても柔らかかったんだ……俺の頭を撫でた手が優しかったんだッ……今のソウマと同じようにッ」

 

 

「アスカ……」

 

 

 彼の言葉が少しずつ掠れて聞こえる。彼の頬を伝う雫が、彼の言葉を掠れさせる。

 

 

「バカだよな、俺は……、アイツが俺の仲間や一緒に暮らした友たちを殺したのは事実で、目の前で何度も見た。なのに、今のアイツを見ると、思い出すんだ。あの日々を、穏やかだった日々を……」

 

 

 声を荒げる彼に、今度こそ、間違いなく、奏の心は軋んでいた。

 

 

 仇がノイズである自分とは違い、彼の自身に向けられる感情と自身の中に渦巻く感情に板挟みになっていた。

 

 

「憎しみが、自分の中で確かに渦巻いているんだッ。でも、それと同時に、アイツの不器用な優しさが、信頼が……俺の憎しみを溶かしてくるんだ。わからないんだよッ! 俺は──」

 

 

 彼の言葉を遮るように、彼女は後ろから彼の背中を抱きしめた。

 

 

「ごめんな。こんなこと聞いて……辛かったよな……」

 

 

 彼の震える背中が彼女の中に揺らめく小さな灯が彼女の復讐心を溶かしだす。

 

 

(……一緒だと思ってた。私と同じで復讐に全てを賭ける奴だって、でも、本当は違った)

 

 

 抱きしめる力が強くなる。

 

 

(こいつは、ずっと悩んでたんだ。悩んで、悩んで、それでも……アイツのことを信じたんだ)

 

 

「なぁ、だから、アイツを許す気になったんだな」

 

 

「……違う。俺がアイツを──ソウマを魔王にしたくない。それだけだ」

 

 

「どうして、そうしたいんだ?」

 

 

「アイツが……俺の、友だからだ」

 

 

 彼の本音を聞いて、自分の中にある復讐心が彼を拒絶する。しかし、小さな灯がそれを飲み込む。

 

 

「そっか……私も、前を向かないとな……」

 

 

 今の彼女の心はただ、晴れやかであった。

 

 

 そこには、ノイズへの復讐心さえも、消えていた。あるのはただ、今、弱った彼への想いがあるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな……こんな弱い姿を見せるつもりはなかったんだ」

 

 

 弱った彼は少しだけ、また弱音を吐いた。

 

 

「いや、大丈夫だよ。気にする必要はないさ」

 

 

「おやおや、まさか、ここまでとは、ホホウ」

 

 

 そこには、イデアが興味深そうな表情で、そこに立っていた。

 

 

「お前には、ムードってやつが分からねぇのか?」

 

 

 呆れた奏と、恥ずかしくなって、思考停止しているアスカの二人がそこにいた。

 

 

「お前が現れたってことは、また何処かに連れていく気か」

 

 

「その通り、アスカ君の故郷の時代。つまり、最悪の未来への里帰りさ」

 

 

「最悪か……確かにな……」

 

 

「あぁ、あの未来にもはや、希望は一切存在しない。彼が望むすべてが存在しない。唯一あるとすれば、君の祖母ぐらいかな?」

 

 

「俺には、関係ないッ」

 

 

「いや、あるさ、君だって、逢魔の日と、あの日──両親が死んだ原因を知りたいんだろ?」

 

 

 その言葉に彼は、怒りと不快感に染まりまんまとイデアの口車に乗せられてしまった。

 

 

「ッ!? わかった。連れていけ」

 

 

「私も行く。連れていけ」

 

 

 奏は、アスカ一人にさせまいとその会話に割り込む。

 

 

「あぁ、そのつもりさ」

 

 

 彼の言葉に彼女は少しだけ、軽薄さに嫌悪感を見せると、その瞬間に灰色のオーロラに包まれた。

 

 

 



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第61話 XXXX/蝕む過去

遅くなりましたが、今年最後の投稿となります。
できれば、来年もよろしくお願いいたします。


 瓦礫と砕けた道路の舗装から無造作に雑草が生い茂る。

 人の手が入ることがなくなった建造物。

「ここは…」

「さっきと座標は一緒よ。まぁあれから半世紀しか経ってないけどね」

「だったらここまで風化してる筈が…」

「簡単よ。ここに人が生活できなくなってからもう40年近い。人が住まない建物の腐食速度ならこんなものでしょう?」

 砂ぼこりと、腐食して崩れている建物の風景に、感傷と胸に沸き上がる忌避感が自身が蝕まれる。

「ーーッ!?」

 夢か現か解らなくなるような幻聴に襲われる。

(あ"ぁ"ぁ"ぁ")

(た、すけて…)

(ーーーーーーー)

 その幻聴に膝をつく。

「しっかりしなさい。それは幻聴。貴方に取っては気にするべきではない。だからシャンとしなさい」

「あ、あぁ…」

 彼の肩に手を置き、言い聞かせる。

(でも…これは…)

「行こう。目的地はここじゃないんでしょ」

「あぁ、キングダムへ向かいましょう。但し歩きでね」

 彼女はそういうと軽い足取りで、廃墟の階段を降りていく。

「もちろん」

 そういうとソウマは冷や汗をかき、血の気が引いた顔でそれに続く。

 その痛々しい姿に3人は示し会わせることなく。同時にそれにさらに続いていった。

 

 

 

 

 全員汗をかき、服に張り付く。

 蒸し暑く太陽が照り付ける日差しの中、七実を先頭にソウマ、アーク、クリス、響の順番で廃墟の街道を進んでいった。

「さてと、そろそろ休憩しましょう。」

 全員の顔に、疲れが見えてきたところで、七実の提案に素直に従う。

 各人が、近くの瓦礫に座ると、青白い顔をしたソウマが、席を立つ。

「すまない、ちょっとトイレに行ってくる」

 誰であれ、いつもの彼を知っているものにとっては、今の彼は異常であった。

 そんな彼が、トイレにいくという嘘をついてまで、彼の姿は見るに堪えないものであった。

 席を立つ彼の異常な姿にクリスが、付いていこうと席を立とうとすると、アークがそれを手で制した。

「ここは任せて…お願い。クリス」

 アークは小声で彼女に懇願する。

 彼女は目を見開く。

 先ほどまでの高圧的な彼女の姿とは違う。彼女の本性の一部を覗き見たような気分になった。

 

 

 離れた場所に彼はつくと、瓦礫に座り、風にあたる。

「気にするな。榊ソウマ」

 後ろに彼女は立っていた。

「あぁ、お前か…俺に何の用だ」

「少しは目を背けることも重要だぞ…」

「お前に何がッ」

 彼は彼女に侮蔑の視線を向ける。自分にとって最も大切な人の一人を乗っ取っている存在へはいつもの無感情という訳にはいかなかった。

「ッ!?…私にも解る。私は、いや、私達は世界を滅ぼし、過去へと移動した…大勢を殺した。後悔はない…が、それでも耳に残るんだ。その時の悲鳴が…」

 彼女の声色から棘のようなものが抜け落ちる。

「それとこれは…いや同じか…俺も大勢を殺したんだよな」

 それを聞いたアークの雰囲気が変わる。

「お前は大義を持って闘った。何処までも私情で闘った私達とは違う。例え、他の何が否定してもこの事実だけは変わらない」

 その優しい声音が彼に"それ"を気付かせる。

 アークの正体が自分のよく知る人だと。

 だが、誰かであるかには思い至らない。そう結論が出るほど彼女はあまりにも、自分の知る人たちと解離していた。

「君は、誰?俺には解らないでも…どこかで…君とはーー」

「それはまだ答えられない。答えるわけにはいかない。でも信じてほしい。いつか明かすと」

 彼女の言葉に彼は頷きで答える。否、それしか今の彼にはできなかったのだ。

 

 

 

 

 

「よかったの?二人で行かせて」

 茶化すように七実は響に話しかける。

 その言葉に眉を顰め、響は睨みつける。

「あら、怖いわね。でも、先に言っておくけど、これから、彼は自分の理想を目の前で崩されることばかりが目の前で起こり続ける。」

 彼女の言葉に少しの警告の色を感じる。

「アタシがいうのも何なんだけどもよ。少しは仲よくしろよ」

「あら、ごめんなさいね。でも、仕方がないのよ。私にしては彼女に対して恨みしかないもの」

 彼女の死んだような目にクリスは顔を顰め、響は分かっているという顔をした。

「個人的には私はあまり、貴女への手助けを極力したくない」

「そんなのわかってるよ」

 七実は響の言葉にため息をつく。

「でも、ひとつだけ手助けしてあげる」

 そう告げると、彼女は、自分の持つフォースライザーを手渡した。

「え…これって」

「これをつけて、彼女に会いに行きなさい」

「え、う、うん」

 七実の唐突な提案に困惑しながら、彼女は恐る恐るベルトを腰に装着する。

『フォースライザー!!』

 機械音声と共に、ベルトが装着され、激痛が走る。

「ーーッ!?」

 その痛みによって、彼女の意識は闇に呑まれた。

 

「おいッ、おいッ、これ大丈夫かよ」

 いきなり、目の前で倒れた彼女に駆け寄り、揺さぶる。

「問題ない。このドライバーはアークと接続できる。ただ、一応、私がミラに乗っ取られた場合のことも考えて、セーフティもかけてある。だから、安全に彼女に会える」

「会えるって、一体誰に?」

 彼女の言葉に視線を向け、睨む。

「過去の自分…まぁ、それ以外にもいるでしょうけども」

 彼女の言葉にクリスはどこか心当たりがあるという風に、視線を響に向ける。

「…」

 クリスは魘されている彼女の頬を優しく撫でるのであった。それは、かつて、どこかであったようなデジャヴを感じるものであった。

 

 

 暗い闇のなか、響は目を覚ます。

「どうして、お前がそこにいる…」

 目の前に黒いローブを着込んでいる人が立っていた。しかし、その声には聞き覚えがある。

「え、翼さん?」

 響の言葉に彼女はかぶっているフードを外す。

 そこには、自分の良く知る風鳴翼がそこにいた。

「そのベルトは…七実か」

「は、はい、七実さんにこれをつけろって…」

 なるほど、と納得するように、彼女は振り返ると、そこには、7人の人影がいた。

「どうやら、七実の仕業の様だ…ハァ…人騒がせな」

「アークにはあとで知らせましょう…おそらく彼女に合わせるのが目的かしら?」

「はい、誰かに会いにいけって」

「やっぱり、合わせていいんデスか?」

「うん、流石にマズい気がする」

 響の言葉に長身のフードを被った4thの後ろで2人で5thと6thが疑問を上げる。

「もちろんよ。でも、合わせる必要があると思うわ…何となくだけど」

「仕方がないか…あの扉を潜りなさい」

 翼が指し示す指の先には、そこには薄く光る扉がそこにあった。

「あの扉の先には1stが籠っている。会いに行きなさい」

「…」

 怪訝な顔をしながら、彼女は、立ち上がり扉の前に行き、ドアノブに手をかけようとする。

 一度戸惑い、手が止まる。しかし、覚悟を決めて扉を開けるのであった。



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第62話 XXXX/懺悔と赦免

 


 扉を開けた先には暗い部屋が広がっていた。

 

 

「ここは……」

 

 

 彼女には見覚えがあった。

 

 

「どうして、私たちの部屋が……」

 

 

 そこは、毎日過ごしている自分たちの寮の部屋であった。

 

 

「やっぱり、侵入者は私だったんだね……」

 

 

「ッ!?」

 

 

 声に対して、驚き、心臓が跳ね上がる。

 

 

 目を凝らし、声の主を探そうとする。そうすると、いつの間にか、黒いローブを着た自分に瓜二つの存在がそこにいた。

 

 

「え、私? どういうこと?」

 

 

「えぇと、私は立花響、未来の貴女の1人かな?」

 

 

「え、えぇぇ!?」

 

 

「まぁ、驚くよね。うん、私もこうなって驚いているから……」

 

 

 驚きと自分の言葉に頭がパニックに陥る。

 

 

 しばらくの沈黙の後、ローブを着た響が口を開く。

 

 

「一応、見てたよ。色々とね。そうだね…七実さんがここに来いって言ってたんだよね。」

 

 

「はい…」

 

 

 少し、遠慮気味な声になる。そこで、七実の真意についていまだ理解しきれずにいた。

 

 

「うん、それじゃあ、時間もあまりないし、さっそく本題だけど、七実さんが言った言葉の真意について答えなきゃいけないよね……まだ納得できてないんでしょ?」

 

 

「まぁ、一応は……」

 

 

 彼女は、七実が言っていた「その言葉を口にできるのは、ある意味では、そこにいる雪音クリスだけ」という言葉の真意についてが気にはなっていた。

 

 

「えっとね。ショックを受けるかもしれないけどよく聞いてほしいな……」

 

 

 彼女はいつも、未来と一緒に食事や、勉強をしている机につき、響にも、席に着くように、手で促した。

 

 

 響はもう一人の自分に促されながら、席についた。

 

 

「まずは……そうだなぁ、クリスちゃんがソウマを殺そうとしたって言ってたけど、本当に殺そうとしてた?」

 

 

「そんなの決まって……」

 

 

 響はこの時、クリスが、ソウマ相手に戦闘を行ってはいるものの、殺そうとはしていなかったことに気が付いた。否、もとより、ある程度の認識はあった。

 

 

「うん、実際にクリスが殺そうとしたのは私たちのことだけだよね」

 

 

「それは……」

 

 

「うん、だから、殺そうとした相手を守る必要がないなんて言うと、クリスちゃんじゃなくて、全部自分に返ってきちゃってるんだよね。ハハハッ」

 

 

「え……」

 

 

 もう一人の自分の乾いた笑いが耳に響く中、彼女の言葉の意味を理解した瞬間に脳がその言葉を受け入れることを拒否した。 

 

 

「それって……」

 

 

 響の頭がそれを拒否する。受け入れるつもりがないというかのように、その言葉の意味を理解していないと自身を錯覚させる。

 

 

「そう、それは──」

 

 

「違うッ! 、そんなことないッ! そんなこと……」

 

 

 もう一人の響の言葉を遮るように、響が言葉押し通す。

 

 

 しかし、言葉尻が小さく、弱くなっていく。

 

 

 それでも、なお、もうひとりの響は両肩を震わせ、言葉にしたくない言葉を発するために口を開く。

 

 

「違わないよッ……私が殺したんだよ……私がソウマを殺したんだッ……」

 

 

 もう一人の響は、強くローブを握り締め、唇を噛みながら、自分の言葉、後悔に苦しんでいた。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 言葉を理解したくないと頭を横に振る。それでも、頭がその言葉が事実であると告げている。

 

 

「あの日、私がソウマを殺したの……」

 

 

 彼女はゆっくりと、まるで自分の罪を自覚するように昔話を始めた。

 

 

「あの日、ソウマの命を奪った。確かに、あの時ソウマに騙される形ではあったけど、それでも、私の歌が、彼を殺した……そして、私はすべてを忘れた」

 

 

「忘れた?」

 

 

 彼女の忘れたという言葉に対して得も言われぬ焦燥感が胸から湧き上がる。

 

 

「そう、忘れた。()()()()私も、忘れて、現実を否定して……それは変わらない。そして……ううん、今はこれ以上は必要ないか……そのあと色々あって、私はアークに負けた。初めてだった……あんな目を、声を彼女から向けられるのは……今でも覚えているんだ……でも、きっと、それは当たり前なんだよね。だって、私は2回もアークからソウマを奪ったんだから……」

 

 

 昔話を聞きながら、それが嘘ではないという自分の中にもう一人の自分への無条件の信頼が形作られていた。

 

 

 自分が、ソウマを殺したこと、忘れたこと、そして、アークの正体さえも理解してしまったのだった。

 

 

「アークが未来なんですね」

 

 

 無言で目の前の自分が頷いた。

 

 

「でも、私は……ソウマのことを誰にも渡したくないッ……」

 

 

「うん、わかるよ。彼を誰にも渡したくないって……でも、きっとこれから、この未来を見ていけば理解できるんじゃないかな?」

 

 

「それは、どういう……」

 

 

 彼女の理解できるという言葉について、まったくピンと来ていないことに頭を傾げる。

 

 

「それは──」

 

 

「それは、今のソウマが複数の並行世界の彼が融合した存在だから」

 

 

 自分の後ろから、聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 

 目の前の自分の目が揺れる。

 

 

 コツコツという足音が聞こえ、自分の横を横切っていく。もう一人の自分の横までくると、立ち止まった。

 

 

「戻ってきたんだね。アーク……ううん、未来」

 

 

「うん、侵入者が入ってきたっていうのを聞いてね。一応今は、今の時代の私に体の主導権を返してる。……全部話したの、響?」

 

 

「ううん、一部だけかな? 私が、私がソウマを殺したことぐらいかな?」

 

 

 アーク、未来の拳が強く握られていくのを響は視界の端で気が付く。

 

 

「まぁ、いいかな?」

 

 

 そういうと、もう一人の未来は、もう一人の響の隣に座った。

 

 

「まぁ、私も響のことをフォローするべきだったかな……そこは反省しないと……」

 

 

 ため息をつきながら、ローブを脱ぐ。そこには、髪が少し伸び、大人びた服装の未来がそこにいた。

 

 

「さてと、一応、補足しておくとね、七実さんが響のことを嫌っているのには一応、理由があるの」

 

 

「理由ですか?」

 

 

「うん、詳しくはまだ話せないけど、彼女にとって許せないことを()()()の響は繰り返してきた。だから、あそこまで毛嫌いしているの……」

 

 

「今までの私って……」

 

 

「それは、簡単、この世界はループしてるの、その過程で響がしたことを七実さんは許せない。きっと、あなたも気が付けばそれをする」

 

 

 未来に言われたことにまったく頭の理解が追い付かないが、罪悪感に似た感情が自分の感情を支配していた。

 

 

「さてと、これ以上は、話すことはないかな……でも最後に一つだけ、この未来をみて、それからどうするかを決めて、きっと、結果はどうあれ、納得はできると思うから」

 

 

「それって、どういう──」

 

 

 そういうと、未来は、響に手を伸ばすと、響の意識が急激に遠のいていく。

 

 

『LOGOUT』

 

 

 気が付けば、未来の前から、響は姿を消していたのだった。

 

 

「さてと、響」

 

 

「……何かな、未来」

 

 

 未来は、隣に座っていた響に向き合い、声をかける。

 

 

 響はかってに過去の自分に情報を話したことへの罪悪感から、目を背ける

 

 

 そんな風に怯えている響の手を未来は優しく握り締めた。

 

 

「響……もう、仲直りしよっか……」

 

 

 唐突な提案に響の思考は停止する。あるはずがないと、起こるはずがないと、それでも、信じたいという縋る思いから勢いよく、未来へと振り向く。

 

 

「え、い、いいの? でも、私は──」

 

 

「いいの、これ以上いがみ合っても、きっとソウマなら、困った顔で、私たちの仲を取り持とうとするでしょ……だから、もういいの」

 

 

 彼女の言葉に自分を縛っていた何かがほどけるような気がした。

 

 

「未来ッ……ごめん、ごめんね。本当にごめんなさいッ」

 

 

 響は、泣きながら、未来に抱き着く。

 

 

 そんな響を未来はぎこちなくあれど、仲違いする前の優しい顔で、響を優しく抱きしめたのであった。

 

 

 



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第63話 XXXX/時の魔人

 


 目が覚めると、ソウマ、未来、クリスの3人が心配した表情で、響を見つめていた。

 

 

「大丈夫、響」

 

 

「あ、あ、うん大丈夫……」

 

 

 未来が、心配の心情を口にすると、響は、反射で大丈夫だと答える。

 

 

 しかし、先ほどまで話していたアークと未来の姿が重なって見える。

 

 

「……」

 

 

 視線を腰に装着されているベルトに向ける。

 

 

 意識を失う前に、感じた激痛は今は感じることなく、なぜか、一部感覚が痺れていた。

 

 

「あら、起きたんだ。早くベルトを外したほうがいいわよ。外さないと体に悪影響が出るけど……そのままでいいならいいけど?」

 

 

 彼女の言葉を聞いて驚いて、ベルトに触れ、取り外そうとすると、ベルトが外れた。

 

 

 その勢いのまま、外れたベルトを上にあげてしまう。

 

 

「返してくれてありがと」

 

 

 その言葉と同時にベルトを手から取り上げられる。

 

 

「あっ」

 

 

 あっけに取られていると腹部から、激痛が走りだす。

 

 

「──ッ!?」

 

 

「あぁ、言ってなかったわね、痛みはあくまでベルトが中和してただけ、いきなり、外部からの神経接続を切られたなら、どうなるかはわかるでしょう?」

 

 

「さすがに、それを言わずに渡すのはどうかと思うけど」

 

 

「あら、魔王様も人道的に怒るのね。まぁ意外でもないけども……」

 

 

 七実の行動に、非難の意志を示すが、飄々と躱され、彼女は、近くの瓦礫に腰かける。

 

 

「さてと、立花響、貴女は会えたのかしら、1stに」

 

 

「うん……会え、会えました」

 

 

「あら、少し、しおらしくなったみたいね。まぁ、聞いたことを少し考えてみなさい」

 

 

 その顔は、自分に憎悪を向けるようないつもの貌と異なる貌が垣間見えた気がした。

 

 

 それがきっと彼女の女神としての貌なのだろう。その場にいた全員が感じていた。

 

 

「では……少し休憩したら、本格的にキングダムに向かうよ」

 

 

「そういえば、乗り物とかって使えないの?」

 

 

 ソウマが当たり前のことを今更ながら聞く。

 

 

 七実は呆れながら、ソウマの質問に答える。

 

 

「まぁ、一応、あるわよ。ただ、あの精神状態でこの悪路を運転するのを進めるほど悪魔じゃないわよ……」

 

 

「えぇ……それって……まぁ……そうだけども……今はある程度大丈夫だから乗り物で行こうよ」

 

 

「えぇそうね。でも、そうなると、アレを持ち出さないといけないんだよね……人数的に?」

 

 

「あれ?」

 

 

「バイクで移動ができないでしょ。人数的に……」

 

 

「まぁ……」

 

 

 そうすると、彼女が、空中に手をかざすと、一つのモニターを出現させる。

 

 

「アーリ、タイムマジーンの使用許可をお願いしたい」

 

 

『うぇ、いきなり、通信してきて……一応、理由を聞きたいけど……』

 

 

「移動のためです」

 

 

『……ん~、わかった。一応、タイムマシン機能を封印して、君たちに譲渡するよ。我らが魔王、アスカ君用にチューンした代物を1台ずつを用意する。それを使って、キングダムに向かってくれ……あぁ、俺も、現世に降りるから』

 

 

「何か、不具合が?」

 

 

『ううん、一応、アスカ君の妹を確保したくてね。このままだと、パヴァリアに利用されそうだから……さすがに……こっちの予定外の行動をされるには困るぐらいには、彼らの戦力は強くてね? 本気で困っているんだよ……今までの所業含めてね』

 

 

 アーリにしては珍しく本気で困っている表情を見せる。

 

 

「それでは、よろしくお願いします。では……」

 

 

『え、なんか、冷たくない? ねぇ──』

 

 

「ふぅ……どうしたんですか、皆さん?」

 

 

 アーリとの会話を断つように、通信を一方的に切った。

 

 

 その様をソウマ達は引いた目で見ていた。

 

 

「いや、一応主神だよね? 彼……」

 

 

「えぇ、私たち神の父でもあるけど、あの神はある種の目的のためならすべてを捨ててでも完遂するタイプだもの……これ以上の説明がいる?」

 

 

「ハハハ……いや、いらないかな」

 

 

 肩を落とすソウマとそれを無視するようにしていると、空に大きなゲートのようなものが現れた。

 

 

【ターイムマジーン!!】

 

 

 音声と共に、2台のバイク型の大きい機体であった。

 

 

「これが……」

 

 

「そう、タイムマジーン。これは本来は時間移動がメインだけども、今回はその機能についてはオミットされている」

 

 

「どうして?」

 

 

「それは多分……言えないかな。まぁ気にしなくていいよ。いつかわかる」

 

 

 二人の会話をよそに、三人は、興味深々にタイムマジーンを見ていた。

 

 

「これって、移動用にしか使えないんですか?」

 

 

 響が質問した。なぜか、この内容に疑問を抱いてしまった。

 

 

「あら……まぁいいわ、この機体は例外としてアナザーライダーを倒すことができる」

 

 

「アナザーライダーを……」

 

 

 響きの中にアナザービルドとの戦いが脳裏に張り付く。

 

 

 自分の中にあるトラウマが刺激される。

 

 

「響……」

 

 

「え、どうしたの?」

 

 

 響きのその顔は笑顔であった。しかし、その顔は決して笑っているというよりかは引きつったように笑顔であった。

 

 

「言っておくけど、これを貴女に渡すわけじゃない……ただ、安心して、アナザーライダーを倒す手段を与える。だから、少し待ちなさい」

 

 

「は、はい……」

 

 

「さてと、それじゃぁ──」

 

 

 バイクの爆音が耳に入ってきた。それを聞いて、七実が声を上げるが、ほかの全員も顔をそちらに向ける。

 

 

「うん?」

 

 

 遠くから、2台のバイクが此方に向かってきた。

 

 

「あれは……おーい」

 

 

 バイクに乗っている相手に気が付くと、ソウマはそちらに向かって手を振った。

 

 

 2台のバイクが、近づき、減速し、止まると、アスカの後ろに誰かが乗っているのが分かる。

 

 

「ソウマか……まぁ来ているよな」

 

 

 ヘルメットのバイザーを上げ、少し遠慮気味に、挨拶を交わす。

 

 

「なんだ、お前らも来てたのか」

 

 

「「奏さん!?」」

 

 

 響と未来が合わせて驚愕の声を上げる。

 

 

「おう、相変わらずのセットだな……ん? なんで、そいつと一緒にいるんだよ」

 

 

 いつも通りの反応から、クリスがこの場にいることに気が付き非難の視線を向ける。

 

 

「あぁ、一応な」

 

 

 目を背ける形で、会話を切るクリスであったが、視線が突き刺さる。

 

 

「おい、奏……これはなんだ、イデアが血相を変えてきていたんだが、あれはなんだ?」

 

 

「あぁあれは、っていうかイデアがここにいるの?」

 

 

「あぁ、あれだ……」

 

 

 視線を向けるとそこには、七実と談笑している、メットをつけているライダースーツを着た男がそこにいた。

 

 

「え……本当にイデア?」

 

 

「ん? あぁ……我が魔王、3日ぶりですね」

 

 

 気が付きメットを外すと、そこにはいつものイデアがそこにいた。

 

 

「まさか、タイムマジーンの使用許可が下りるとは……これを使って、行こうじゃないかキングダムへ!!」

 

 

 その声を聴いた瞬間にアスカとソウマのライドウォッチをが光ると2台のタイムマジーンの色が白から変化する。

 

 

 1台は、真紅と梔子色に、もう1台は藍墨茶色と紫色に染まった。

 

 

「ではいこうか、我らが魔王」

 

 

 その言葉に従う形で、全員が2グループに分かれて乗り込む。

 

 

 乗り込むと、イデアと七実が基本操作を教える。

 

 

 しばらくすると、操縦を覚えたソウマとアスカが操縦桿を握る。

 

 

「では、行きましょうか」

 

 

「あぁ! いざ、キングダムへ」

 

 

 両手に吸い付くように操縦桿を捻り、タイムマジーンを発信させるのであった。

 

 

【ターイムマジーン!!】

 

 

 2台のタイムマジーンが勢いよく加速してキングダム方面へと向かっていった。



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第64話 XXXX/空からの急襲

 2機のタイムマジーンが勢いよく空を飛んでいく。

 

 

 先ほどの徒歩を上回る以上の速度で、2人揃って空を飛んでいく。

 

 

 気が付けば、目の前には、とてつもない長大な壁に囲まれている建造物が目に入ってきた。

 

 

『ソウマ、聞こえるか』

 

 

 目の前のモニターにアスカが写されていた。

 

 

「あぁ、聞こえている」

 

 

『あれがキングダムといっても、通称だがな』

 

 

「え、そうなの?」

 

 

『一応、あの城壁を含めた都市防衛システムのことをキングダムと呼称している』

 

 

「じゃぁ、本当の名前は?」

 

 

『人類保護機関といったはずだ……確か、SONGとかいう組織が母体になっていたはずだ』

 

 

「SONG?」

 

 

『それは、私のほうで説明するよ。SONGが母体になっているというよりも、色々あって吸収合併されたんだよ。その時のトップだった君が現在の組織体系に改造したっていわけ』

 

 

「その色々が気になるんだけど?」

 

 

『それはこれからの未来の君に聞くといい。答えてくれるはずだ』

 

 

「ふーん、ところでここからどこに止まるの?」

 

 

『あらら、どうだろうね。とりあえず、正門に向かおうか、座標はこちらで表示させる』

 

 

「確認したよ。行こうか」

 

 

 2機は正門の位置に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 荘厳とした雰囲気が漂う部屋の中、一つの椅子に座る豪壮な服装の老人の男性がそこにいた。

 

 

 椅子は、まさしく、玉座と呼べるような装飾が施されているものであった。

 

 

 老人の前に、ひとつのウィンドウが出現する。

 

 

「侵入者か、懲りない連中だ……なにッ、タイムマジーンだと……」

 

 

 老人は玉座から驚愕のあまり立ち上がる。

 

 

「まさか……」

 

 

 老人は、その映像の審議を確かめるために、正門に向かうために、速足で進んでいくのであった。

 

 

「……アスカ」

 

 

 その声は、どこかに期待しているような声であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 正門を目の前にすると、機体内部から避難警報が鳴り響いていた。

 

 

「ねぇ……俺たち狙われてない?」

 

 

『狙われてるな……』

 

 

「『……』」

 

 

 2人は無言になると、焦り、冷汗を流す。

 

 

「どうしよっか……ねぇ」

 

 

『本当にどうするか……』

 

 

 二人の言葉に呼応するように、こちらに向けて、ドローン型の光学兵器による攻撃が飛んできた。

 

 

「『あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”』」

 

 

 目の前を覆いつくす怒涛の攻撃に絶叫を上げながら、攻撃をよけながら、正門に向かって突撃していく。

 

 

「「「きゃぁぁぁ」」」

 

 

 ソウマの荒い運転に二人は、悲鳴を上げる。

 

 

「そ、ソウマ、もう少し、何とかならない?」

 

 

 そんな未来の非難と、視界の端に入る手で口を押えている響とクリスが目に入る。

 

 

「ごめん余裕がないッ! 舌を噛むから、静かにしててッ、アスカ、一気に行くよ」

 

 

『なッ!?』

 

 

 ソウマはギアをフルスロットにすると、レーザーの網を一気に潜り抜けていく。

 

 

『仕方がないかッ』

 

 

 アスカもそれを応じて勢いよくギアを最速入れる。

 

 

 2機は、ミサイルを斉射する。

 

 

 防衛兵器は、飛んでくるミサイルを撃墜するために、攻撃が分散する。

 

 

 その間隙を縫うようにソウマとアスカが飛んでいく。

 

 

『「ウォォォォォッ!!」』

 

 

 爆音と共に、正門に直撃した。

 

 

 白煙が正門を覆った。防衛兵器が待機する。

 

 

 煙が晴れるとそこには、2機のタイムマジーンが人型形態で着陸していた。

 

 

「何とか成功かな……ここからはどうしようもないなぁ」

 

 

 ソウマの声は気が抜けていた。

 

 

『いや、ここまでくれば大丈夫だよ。降りようか。我が魔王』

 

 

「……わかった」

 

 

 何かの策があるのだろうと思い、ソウマは、タイムマジーンから降りようとする。

 

 

「ソウマッだめ」

 

 

 響が腕をつかんで引き留める。

 

 

「……大丈夫だよ。多分ね」

 

 

 気が付くと、未来がもう片方の腕をつかんでいた。クリスは掴みこそしないが不安そうな目で見ていた。

 

 

「未来まで、大丈夫だよ。ほんとに……」

 

 

 優しく、二人の手を引きはがし、降りていく。

 

 

 目の前に警戒態勢のドローンが多数浮かんでいる。

 

 

 カシャンという音が後ろから鳴る。

 

 

「ッ!?」

 

 

 振り向くとそこには金色のロボットが複数体並んでいた。

 

 

 彼らはソウマを認識すると、驚いたようにその場に跪いた。

 

 

「え……」

 

 

 視界の端にいたドローン型の防衛兵器が飛び去りもとの配置に戻っていていた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 その事実に気が付き振り向くとそこには周辺を警戒していたドローンは既になくなっていた。

 

 

「ソウマ様、いつ外に出られたのでしょうか?」

 

 

「あぁ……それは、その……」

 

 

 歯切れが悪い、その様に質問をしてきた金色のロボットは警戒を強める。

 

 

「俺は、過去からきた榊ソウマです。未来の俺に合わせてください」

 

 

「過去から?」

 

 

 ソウマの回答に手にもつ槍をソウマの前に向ける。

 

 

「証拠はあるでしょうか」

 

 

「これでいいかな?」

 

 

 自身のもつシャドウジオウライドウォッチを見せる。

 

 

 そうするとソウマに向かって、槍を突き刺す。

 

 

「──ッ!?」

 

 

 攻撃をギリギリ躱すようにすり抜け懐に入り込み、金色のロボットに体当たりを当て、距離を取る。

 

 

 そのまま、ベルトを取り出し、変身をする。

 

 

「変身!!」

 

 

【シャドウタイム!! 仮面ライダージオウ・シャドウ!!】

 

 

「いきなり、とはどうかしたんですか?」

 

 

 武器を構え、警戒し、首を捻るポーズをとる。

 

 

「それは一体何でしょうか。そのライドウォッチについては登録がありません」

 

 

「なるほど、じゃぁ、これならどうでかな?」

 

 

 クウガライドウォッチを見せる。そうすると、金色のロボットは武器を下げる。

 

 

「確かにクウガライドウォッチの確認が取れました。申し訳ありませんでした。ただいま、ソウマ様へ確認を取ります」

 

 

「良い、既にここにいる」

 

 

 声に意識を向けると、灰色のオーロラを背に、豪華な服装の老人が立っていた。

 

 

「ソウマ様!?」

 

 

 その声に金色のロボットは総員傅く。

 

 

「あんたが、未来の俺……」

 

 

「あぁ、そうだ。私よ」

 

 

 堂々としており、その姿の老人に対してソウマは警戒心を向ける。

 

 

「ほう、どうした。そんなに私が恐ろしいか?」

 

 

「当然でしょ」

 

 

 アスカが、タイムマジーンから降りてくる。

 

 

「聞きたいことがある」

 

 

 アスカの登場に、対して少しだけ、穏やかな視線を向ける。

 

 

 しかし、アスカからは怒りを漂わせる。

 

 

「なるほど、一応、今一つを聞いておこう」

 

 

 彼の言葉に、未来のソウマは、表情をそのまま、肩の力を抜いていた。

 

 

「なぜ、俺の仲間を殺したんだッ」

 

 

 怒気をより一層露わにする。

 

 

 本来であれば、今聞くべきではない。だが、それでも聞かねばならなかった。それが、彼の仲間への示せる誠意であった。

 

 

 その様に溜息を吐く。未来のソウマは彼の誠意に答える。

 

 

「簡単だ、そもそも、仕掛けてきたのは向こうであって、こちらの秩序を乱そうとしているからだ」

 

 

「あぁ、あぁ、そうか……それに罪悪感はあるか?」

 

 

 深く、深く、アスカは息を吐く。

 

 

 未来のソウマは目を伏せる。そして、無表情のまま、答える。

 

 

「あぁ、少しならば……な。だが、それで私の行動を止めるほどのことではない」

 

 

「そうか……そうか、今のところはそうゆうことにしておく……」

 

 

 ソウマは、変身を解き、二人の邂逅を見つめる。

 

 

 しこりが残るような門答であったが、それに彼は安堵していた。

 

 

「では、行こうか」

 

 

 その言葉を皮切りにタイムマジーンに控えていた響たちが降りてくる。

 

 

 そして、降りてきた響、未来に対して今まで、無表情であった未来のソウマの表情が安堵の色に染まった柔らかい笑顔を浮かべた。

 

 

「アンタも、そんな顔するんだな」

 

 

「あぁ、私も人だ。もう会えないと思った人と会えるのはうれしいものだ」

 

 

「素直だな」

 

 

「歳を取るとな……」

 

 

 ソウマの言葉に未来のソウマは視線を下に向ける。

 

 

「……」

 

 

 無言のままに未来のソウマは閉じている正門に向かって歩いて行った。

 

 

「行こう」

 

 

 ソウマ達は未来のソウマを追う。

 

 

 未来のソウマは足を止めると、正門が開いた。

 

 

「ようこそ、キングダムへ」

 

 

 開かれた門の先には自分たちが過ごしていた時代の街並みがそこに広がっていた。



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第65話 XXXX/城の中に眠るもの

 2台のタイムマジーンが空を飛ぶ。

 

 

 先ほどまでの急速な加速とは異なり、ゆっくりと進んでいく。

 

 

 その眼下に広がる街にソウマは違和感を覚えた。

 

 

 その街は進歩しているようにも見えるが、今の自分たちが住んでいる時代を訪仏させるそんな世界が目の前で広がっていた。

 

 

「ここまで、文明レベルが違うなんて……」

 

 

「維持ぐらいしかできていない。未来的だと思うことはすべてキングダムの機能でしかない」

 

 

「いまから何処へ?」

 

 

「あぁ、行くのはあそこだ」

 

 

 未来のソウマがモニターの一点を指さす。

 

 

 そこには先ほどから目に入っていた一つの大きな建物であった。

 

 

「城?」

 

 

 それを見るとそれこそ機械でできているものの、それを城と表現する以外の言葉が存在しないほどの城がこの街の中心に建っていた。

 

 

「あぁ、まぁただの管理棟のようなものだ」

 

 

「そうなんだ……」

 

 

 自分の中にある何かがざわつく。胸の内を掻き毟りたくなるほどの焦燥感に似た何かから遠ざかろうと操縦桿を持つ手が震える。

 

 

「……」

 

 

 そんな姿を響と未来はそれぞれ違う感情で彼らの背中を見つめる。 

 

 

 響の目線は不安と恋情、未来の視線には達観と愛情が乗せられる。

 

 

 二人の対極の感情を彼は背中で感じ取る。

 

 

「どうした。怖気づいたか?」

 

 

 未来の自分の煽りに覚悟が決まり操縦桿を捻り、速度をわずかに上げる形でそのすべてに答えるのであった。

 

 

 

 

 

 気が付けば、既に城の前に到着し、開けた場所に2台は着陸した。

 

 

「うわぁ……すごい」

 

 

「これは……」

 

 

「……すごい」

 

 

「ッ! ……」

 

 

 いつもの響から想像通りの反応と、その至近距離からの城の圧力から未来と奏は圧倒され、アスカは多少の憎悪を向けている。

 

 

 しかし、ソウマとクリスは目の前にその姿の巨大さを目の当たりにするが、先程までに感じた焦燥感が薄れ、まるで実家のような安心感が少しだけ感じれらた。

 

 

「ここが……」

 

 

 クリスの口から言葉が漏れる。その言葉には郷愁の想いが込められていた。

 

 

「ついてこい」

 

 

 未来のソウマは足を進め、城の中に入っていく。

 

 

 それに現代組のソウマ達はそれについていく。

 

 

 

 

 

 城の中にはどこか穏やかさとそれに合わせて静かさと荘厳さがそこにはあった。

 

 

 先ほどまで少し興奮していた響たちであったが、今は緊張をしているようで、肩が上がりっぱなしとなっている。

 

 

 そんな姿を後ろから見ているソウマは少しだけ、頬が柔らかく吊り上がる。

 

 

「ついたぞ……ここが王の間だ」 

 

 

 そうしていると、目の前には明るく豪奢な部屋がそこにはあった。

 

 

 目立つものとして、王の間の通り、目立つ二つの玉座がそこにはあった。

 

 

 その玉座をよく見ると、揃って豪奢であるが、デザインが異なっており、これがそれぞれ座る人間を想定しているデザインであると察することができた。

 

 

「ここが、王の間……」

 

 

 ソウマの足が自然と前に出る。

 

 

 吸い寄せられると錯覚するほどに、ある種の空気に呑まれていた

 

 

「止まれ」

 

 

 未来のソウマは目線でその場にいるソウマ達は止めると自分は玉座に向かい、ほんの少し玉座の前で一瞬だけ、躊躇うがそのまま、片方の玉座に腰を掛ける。

 

 

「さて、事情を話してもらおうか……私の記憶ではこの時代に自分がやってくる記憶がない。だからこそ、理由を聞いているのだ」

 

 

「理由については俺は知らない。何か七実さんが知っているかも……あれ、七実さんは?」

 

 

 ソウマは彼の言葉に答えようと、七実に答えてもらおうと後ろ振り返るがそこに彼女の姿ない。

 

 

「えぇ……」

 

 

 重要なタイミングでいないことに、目を白黒させる。

 

 

「どうやら、自分で目的を探せということのようだな」

 

 

 少し呆れたような未来の自分に、少しだけ戸惑いを見せる。

 

 

「少し、良いか……」

 

 

 後ろから未来が声をかける。

 

 

 その口調がいつもと違うことが気になり、振り返ると、彼女の腰に看慣れるようになったベルトがそこにあった。

 

 

「未来……」

 

 

 響は心配そうに見つめると、彼女は響を宥める。

 

 

「気にするな。我にとってもこれはつけねばならない因縁だ……」

 

 

「その口調、確かシェム・ハさんだっけ?」

 

 

「あぁ、久方ぶりよな。魔王よ」

 

 

「……シェム・ハだと」

 

 

 その言葉を皮切りに彼の怒気が膨れ上がる。先ほどまでの王としての纏っていた空気から一転し、今では突き刺すような殺意と怒気が此方に向けれらていた。

 

 

「その通りだ……未来の魔王よ」

 

 

「そうか……であれば、この手でもう一度葬り去るとしよう」

 

 

 彼は玉座から立ち上がると腰に黄金のベルトが現れる。

 

 

「まて、我は争いに来たわけでも、人類を支配しに来たわけでもない。ただ、お前に謝りに来たのだ。魔王よ」

 

 

「謝罪だと……」

 

 

 彼女の言葉にさらに怒りを彼は強める。

 

 

 しかし、それでも、神としての矜持か震えている自分の手を制し、彼女は頭を下げた。

 

 

「すまなかった……」

 

 

「……1つ聞こう。お前は私が殺したシェム・ハか?」

 

 

「いや、私は違う」

 

 

 怒りを押さえつけるかのように乱れた息を力づくで吐く。

 

 

「であれば、私に頭を下げる必要はない」

 

 

「だが──」

 

 

「真の意味でそう思うのであれば、神として人類を守れ……この話はこれで終わりだ。本題に戻ろうか」

 

 

 話を切り上げ、シェム・ハを目で制す。

 

 

 その様子に、彼女は意識を本来の未来へと戻した。

 

 

 意識を失っていたことで話の脈絡のなさに驚きを見せるが、その場で困惑を見せないように、その場で取り繕った。

 

 

 その姿に、未来のソウマは少し微笑むと、彼はそのまま、玉座から離れ、こちらに近づいてきた。

 

 

「といっても、ここでは埒が明かん」

 

 

 そういうと、彼は扉から外の廊下へと出ると、こちらに振り返り、告げる。

 

 

「ついてこい……」

 

 

 その無機質のように聞こえる言葉にその場にいる全員はその言葉に従うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩いていくと少しずつ、それに合わせて、すれ違う人の数が少しずつ少なくなっていく。

 

 

 頭を下げ、道を譲られる様に、響と未来は少し落ち着かない様子を見せる。

 

 

 奏は、歌手活動で多少の人の目に慣れているが、道を譲られる様には少し、気持ちが悪いように少しむず痒さを顔に出てしまっている。

 

 

 しばらくすると風を頬に感じる。

 

 

 少しずつ未来のソウマの足取りが重くなっていく。

 

 

 かく言う、自分自身の足取りも重くなっているとソウマは自覚していた。

 

 

 背中に悪寒が走る。

 

 

 それでも、目の前の自分の背中を追う。今のソウマにはそれしかできないでいたのだった。

 

 

(なんだよ……この悪寒は……)

 

 

 心の中で悪態をつきながらも、足を意識して動かしていると、急に意識の外から光が差し込んできた。

 

 

 ソウマは、その光から目を逸らし、先ほどまでの薄暗い廊下から外に出たという認識を手に入れていた。

 

 

「きれい……」

 

 

「うぁ~」

 

 

 未来と響の声が聞こえる。

 

 

「あぁ、まさかこんなところに立派な庭園があるとはな」

 

 

 奏の声が聞こえる。

 

 

 ソウマは、その声に促されるように光に慣れた目を目の前の景色に向けた。

 

 

 そこには、西洋風と評すべき庭園が広がっており、壁の外の凄惨な光景が嘘と感じるほどの美しさであった。だが──

 

 

「なんか、落ち着かないな……」

 

 

「だろうな」

 

 

 未来の自分の言葉を聞く。多少の意識の中にあるものがほんの少しだけ紛れたような気がした。

 

 

 だが、相も変わらずの居心地の悪さから視線を下に向けると見慣れた感覚がするエンブレムが視界に入った。

 

 

「これ……クウ、ガ?」

 

 

 そこにはクウガのライダーズクレストが床のデザインとして一部使われていた。

 

 

 歩いていく未来のソウマは庭園の中心へと歩いていく。

 

 

 それにソウマだけが付いていく。

 

 

 そこには、見慣れた石像が中央の石碑を守るように円となって囲んでいた。

 

 

「これは……」

 

 

「あぁ……これは墓標だ……あの日、私が救えなかった者たちのな……」

 

 

「このライダーたちは、ガーゴイルみたいなものか……」

 

 

「あぁ……」

 

 

 今までの自分の中にあった、この城への忌避感の正体。それは、この石碑そのものだった。

 

 

「なぁ……いるのか、この中に……」

 

 

 此方を振り返る未来のソウマの貌はまさに失意と絶望が現れていた。

 

 

 先ほどまでの無表情に近い鍍金が剥がれ落ち、彼の中にある本心が顔を出した。

 

 

 それが雄弁に語る。それが事実であると、紛れもない現実であると

 

 

「過去の私よ……これがこの箱庭の正体だ……」

 

 

 その言葉が重くのしかかった気がした。

 

 

 膝が崩れ、目から、涙が溢れ、とめどなく彼の頬を流れていく。

 

 

「嘘だ……嘘だ……そんなこと、そんな、こと……」

 

 

 うわごとのようにその言葉を口にする。

 

 

 そこにいるのは、ただの隠者になり切れなかった愚者が2人いるだけであった。

 

 

 

 

 

 



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第66話 XXXX/願いと呪い

 庭園に見とれていると、響はふと、ソウマが近くにいないことに気が付いた。

 

 

「あれ……」

 

 

 周りを見渡すと奥から、声が微かに聞こえる。

 

 

 響とクリスは顔を見合わせるが、2人以外には聞こえていないのか、3人は気づく素振りすらなかった。

 

 

 しかし、クリスは顔色が悪く自分の体を抱きしめていた。

 

 

 その姿を見て、響は息を呑み、その声の先に向かおうとする。

 

 

「やめろ……」

 

 

 震えた声で、響の腕を掴む。

 

 

「離してッ!?」

 

 

 力に任して振り払おうとするが、とても強い力でクリスが握っているため、振りほどくことができない。

 

 

「行くなッ……お前が行っても、アイツは……」

 

 

 どこか、無意識にその言葉を口から紡ぐ。

 

 

 まるで、自分ではない何かがその言葉を口にしているような違和感。本人の口から出ている言葉であっても、彼女のの中にある何かが口に出していると響はその違和感に顔を顰めた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 彼女が顔を上げて、初めて気が付いた。彼女の眼は暗闇の中の木の洞を覗いているかのような闇が渦巻いていた。今まで、何度か戦い、彼女と会話をしてきたが、こんなに暗い瞳を見るのは初めてだった。

 

 

 その暗闇に引き釣り込まれそうな感覚に襲われる。

 

 

「どうし、て、私を行かせたくないの……」

 

 

「今のアイツがお前に会ったら、きっと立ち直れなくなるッ……もう、どうしようもなくなる……だからッ」

 

 

 最後の言葉を飲み込む。その言葉はきっと、彼女自身も傷つける。止めとなる言葉なのだろう。

 

 

 響はその言葉に一度納得をするが、彼の声がさらに聞こえる。

 

 

「泣いてる?」

 

 

 自分の中の彼のイメージと大きくずれる彼の泣く声、それは、大きく響いた。

 

 

 しかし、周りを見ても、3人は気が付かない。

 

 

「どうして……」

 

 

「ここの奥にあるものを隠すための庭園……だからこそ、彼女たちは気が付かない」

 

 

 視界の外の声に、気が付き振り返ると先ほどまでいなかった七実がそこにいた。

 

 

「それって、一体」

 

 

「言葉通りの意味。ここは霊園。だからこそ、その眠りを守るため、生者の眼を欺く機能がある」

 

 

 ビクッとクリスの肩が上がる。

 

 

「それは……」

 

 

「行くの? 響……」

 

 

 その言葉に振り返ると、そこには未来が此方に近づいてきた。

 

 

「どうやら正気に戻ったようね」

 

 

「おかげさまで、まぁ、アークに気が付かせてもらっただけだけなんだけど」

 

 

「ふ~ん……まぁいいわ。とっとと行きなさい」

 

 

「ダメだッ! 行かせないッ……」

 

 

 絞りだすような彼女の声に七実は眉を顰める。

 

 

「貴女もいつまで逃げる気? いつかは向き合わないといけない。今、彼は向き合っている。そして心が綺麗に折れた……だからこそ、貴女が、貴女達が支えなくてどうするのよッ。私は嫌いよ。逃げているだけの人は……いつかは向き合う。そしてそれとどう付き合うかは自分次第でしょ。違う?」

 

 

 クリスは俯く。響はその言葉を聞いて、足を進めた。

 

 

 未来も、そのあとを追うように、並ぶように歩を進める。

 

 

 彼女は手を一瞬だけ伸ばし、空を掴む。手を下し、目を閉じ、歯を噛みしめると、覚悟を決めたように顔を勢いよく上げる。

 

 

 その勢いのまま、彼女は小走りで、響たちに追いつき、3人は庭園の奥に消えていった。

 

 

「まさかね……あの中で響が一番最初に行くなんて……一番弱虫な彼女が……」

 

 

 七実は3人の消えた先を見つめると、その反対の城の中に向かって歩を進める。

 

 

「少しは見直さないとね。でも、きっと甘いというのかしらね。私たちの母は……それでも、信じてみましょう。彼女の中にある人の心、彼への愛を……期待してるわ。立花響(弱虫さん)

 

 

 彼女は悪戯が成功したように顔を綻ばせる。そこには彼女に対する憎悪の感情は薄まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奥に進むと泣き、啜る声が聞こえてくる。

 

 

「俺は、俺は……あぁ……あぁぁぁぁぁ」

 

 

 その声がようやく、目の前で聞こえるようになった。

 

 

 そこには、いつもの超然とした彼の姿はなく、四つ這いになりながら、地面に額を擦り付け、ただ泣き喚く男の姿しかいなかった。

 

 

「ソウマ……」

 

 

 響は、その姿にふと彼の名前をつぶやいてしまう。

 

 

 彼が此方に気が付き、体を起こし、此方に顔を向ける。

 

 

 その顔は、失意と絶望、そして自責の念がごちゃ混ぜになったような表情であった。

 

 

 目元は赤く腫れ、それでも、涙が止めどなく流れていた。

 

 

「響……未来……」

 

 

 彼の言葉に、響と未来の二人は打ち合わせもなく、同時に彼のもとへ駆け寄る。

 

 

 そこには一切の邪念がなく、純粋な彼への心配のみが二人を突き動かした。

 

 

「あ、あ、あぁぁぁぁぁ……」

 

 

 二人は心の折れた彼を抱きしめる。

 

 

 そんな彼らを前にクリスは動けずにいた。

 

 

「行かないのか?」

 

 

 その場にいた未来のソウマが声をかけてくる。

 

 

 目線は3人から逸らすことなく、未来の彼に対して口を開く。

 

 

「アタシが駆け寄っても、きっと彼を癒せない。だから、私は、私は……」

 

 

 未来のソウマはクリスを見ると、その表情はまるで欲しいものを目の前で我慢させられるような表情であった。

 

 

 クリスにとって二人を跳ね除けることも、彼女たちと一緒に彼を抱きしめることもできなかった。

 

 

 なぜなら、それは彼女たちの想いと彼の想いをよく熟知しているからであった。

 

 

「私にとっては、クリスは私のことを支えてくれた……だからこそ、お前が行っても、いや、近くにいてほしいと私は思っている。それは昔の私も同様だ……私は彼であるからな」

 

 

 しどろもどろであるが、自分の妻のことをクリスに伝える。

 

 

「でも、アンタは未来のソウマで、今のソウマは……」

 

 

「時に因果は逆転する。私に言えるのはそれだけだ」

 

 

「それってどういう──」

 

 

 真意を問いただそうとするクリスの背中を未来のソウマは片手で、背中を強く押す。

 

 

 その力の勢いで、クリスは足を前に踏み出され、ソウマの前で転ぶ。

 

 

「いてて、何するんだよ!?」

 

 

「お前たち3人でこの未来を見て回れ……」

 

 

 そういうと、彼は何かを彼に投げ渡す。

 

 

 それを受け止めることなく。ソウマの胸に当たると、そのまま地面に落ちて転がる。

 

 

「これは……」

 

 

 響がそれを拾う。

 

 

「それはシャドウジオウⅡライドウォッチの片割れ。お前がもう一度立ち上がる時にもう一つの片割れがお前のもとに現れる。ではな。あとは……」

 

 

「私に任せて」

 

 

「そうか……七実、ではお前に任せるとしよう」

 

 

 そう告げると彼は、庭園の来た道を戻る。

 

 

 ソウマは、無意識に響の手に持ったライドウォッチに手を伸ばす。

 

 

「ダメ!!」

 

 

「響……」

 

 

 彼女は反射的に持っているライドウォッチをソウマから遠ざける。

 

 

 その動作にソウマは一瞬だけ、驚くが、困ったような表情に切り替わる。

 

 

「未来の世界を見て回れか……ねぇ響、ソウマ……クリス」

 

 

 クリスは、自分の名前を呼ばれて肩をビクッと震わせる。

 

 

「……アタシか、アタシは何の役にも……」

 

 

「それでも、未来のソウマがあなたを必要といったなら、きっと必要。それでいいよね。響」

 

 

「……うん。私もこの世界を見て回りたかったし、それに、きっとクリスちゃんが必要なんだよね」

 

 

 未来の提案に、響は表情を暗くして答える。

 

 

「……」

 

 

 ソウマは、3人の話し合いの内容に耳を貸すことなく、その場で立ち上がる。

 

 

「ソウマ?」

 

 

「……どこからいくんだ?」

 

 

 生気のない彼に未来は一つの提案をする

 

 

「──」

 

 

 その提案に彼は目を見開く。そして、彼は首を縦に振るのであった。

 

 

 



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第67話 XXXX/思惑と希望の交錯

 未来のソウマが庭園から離れ、王城の廊下を歩いている。

 

 

 視線を前に向けるとそこには、イデアの姿がそこにあった。

 

 

「どこにいたかと思えば……お前との話通り、この世界の話とこの世界を見て回るように伝えたぞ」

 

 

「ありがとう。我が魔王……さてと、向かうとしましょうか」

 

 

「どこへ行く」

 

 

「彼らを導きに」

 

 

「……好きにしろ」

 

 

「感謝を」

 

 

 言葉は穏やかであっても、その二人の間には決して、穏やかな空気は流れていなかった。

 

 

「では、失礼します」

 

 

「待て」

 

 

 その言葉に、去ろうとする足を止める。

 

 

「何かな?」

 

 

「これを……アスカに渡せ」

 

 

 そういうと、手の平に三つの特殊な形状をしたライドウォッチが出現し、互いに共鳴するように光だし、三角を描くと、イデアの手元に一つのライドウォッチを形成する。

 

 

「これは……わかった。確かに渡しておこう。それでは」

 

 

 彼は、未来のソウマからの頼みを聞き入れ、踵を返し、去っていく。

 

 

「まったく、神というものは、本当に気まぐれ、いや、身勝手な私に比べれば幾分ましか」

 

 

 自嘲のもと、彼は城の奥に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスカと奏では庭園が見せる幻覚に魅せられ、抜け出せずにいた。

 

 

 しかし、パチンと指を鳴らす音が聞こえると、目の前の景色が移り変わり、現実の世界が映し出される。

 

 

「こ、これは……」

 

 

「あぁ、幻覚の庭の影響をもろに受けていたからね。勝手ながら解除させてもらったよ」

 

 

「幻覚の庭? なんじゃそりゃ」

 

 

「何かと言われても、君たちが先ほどまでに捕らわれたいた幻覚作用のことさ。これより先にある霊廟を守るための庭園自体に備え付けられた防衛機能だよ」

 

 

 突然現れたイデアに、アスカが違和感に気が付く。

 

 

「お前、一体どこにいた。俺たちの認識では七実がいないことは分かっていた。だが、それでも、そのタイミングでお前がいないことに俺たちは一切認識できていなかった。それどころか、完全に認識から外れていた……」

 

 

「あぁ、そのことか、忘れたのかい? 私は石工達の神、偽りと嫉妬の神。現世においては、それぐらいの小細工は簡単だよ。あの場で私がいれば、我が魔王は私を逃げ場にする。自分さえライダーの力を手にしなければとね」

 

 

「どういうことだッ」

 

 

「まだ気が付かないのかい? 我が魔王がここにいないだろ?」

 

 

「ッ!? ソウマッ!」

 

 

 その事実に気が付き、アスカは、庭園の奥にイデアが視線を向けていることに気が付き、そちらに向かって走ろうとすると、そこには、戻ってきた七実が立ち塞がる。

 

 

「そうはいかない。ここから先はあなたが行くべきではない。ソウマ君の成長のためにもね」

 

 

「どういうことだ……」

 

 

 イデアはいつもの飄々とした態度を一切崩さずに無言を貫く。

 

 

 そんな姿に、アスカは、怒りの感情を敵意に変えて向ける。

 

 

「いいだろう、君にも、試練を与えようかな」

 

 

 そういうと、彼は先ほど未来のソウマから受け取ったものを投げ渡す。

 

 

「ッ!?」

 

 

 いきなり投げ渡されたことで、少し驚きながらも、空中で掴む。

 

 

「これは……」

 

 

 手元にある通常の形状と異なるブランクライドウォッチを見つめる。

 

 

「それは、救世主の力、まぁ、言い換えるとそれは維持の力であり、魔王を打ち倒す可能性の力」

 

 

 彼は、庭園の奥に向かい歩いていく。

 

 

「シャドウゲイツを覚醒させ、それを完成させたまえ。そうすれば、君は我が魔王の隣に立つ資格を得る。文字通り、今のままでは君はおいていかれるよ? 我が魔王の力は日に日に強くなることが確約されている。それがどのようなものであれね」

 

 

 イデアは意味深な言葉を残し、七実と共に、消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう意図であれを渡したのですか? 彼では、シャドウゲイツの覚醒ですら至れるかどうか未知数です。正直、彼では……」

 

 

 七実はそういうと、イデアは、少し微笑むと彼は口を開く。

 

 

「私は期待しているんだ。彼の力はアーリが作ったものでもないし、それにしては安定している。つまり、シャドウゲイツは最初のシステムの系列である私たちのイデアやゼニスとは異なる。人間が使用できるレベルであり、悪影響がほとんどない。だが、基礎的な設計思想は同様、つまりは制御機能が完成されていることの証左さ」

 

 

「ごめん。私には理解できないや。基本的にシステムの設計はイデアとアーリが担当しているから……だからこそ、彼は覚醒ができるほどの強い精神力がないと思うの……」

 

 

「そうかもしれないね。でも、あのウォッチが生成されているということは世界がそれを望んでいるということだと信じている」

 

 

「わかったよ。でも、サブプランは用意しているの?」

 

 

「一応ね。ただ、この手段はとりたくない。私が全力を出す必要があるからね」

 

 

 七実は目を見開く。彼の言葉に七実は怒りを覚えた。

 

 

「ふ、ふざけないでッ!! 貴方が現世で戦えば、それはッ!?」

 

 

 怒りで目の前が赤くなる錯覚を覚えたが、すぐに七実は冷や水を浴びせられた気分になる。

 

 

「ッ!?」

 

 

 彼の表情は今まで自分に向けている穏やかな表情ではなく。あの時の、あの時までのイデアに戻ったような怒りを秘めた鋭くなった視線と表情に肝を掴まれたような気さえする。

 

 

「それが必要なら俺はその責務を果たすだけだ」

 

 

「ごめん……私そんなつもりじゃ……」

 

 

「いや、いいさ。わかってる。こんなことで怒るべきじゃなかった」

 

 

 彼は足を速くする。

 

 

 七実も、それにおいていかれないように歩くペースを上げるが、先ほどまでのように隣に並べることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、行こうか」

 

 

 虚ろな表情のソウマが歩き出す。

 

 

「まって……」

 

 

 響の声で、ソウマの足が止まる。

 

 

 ゆったりと幽鬼のように振り返る。

 

 

 そんな彼に一瞬の恐怖を感じるも、気を引き締めなおして、立ち上がる。

 

 

「ごめんね。でも、いきなり、この壁の外を見に行くのは危ない気がする。だから──」

 

 

「それでも、行かないといけないんだ。俺がこの未来を作った意味を知りたいんだ。そこから、どうするか考えるよ」

 

 

「どうするって……」

 

 

「簡単だよ。俺が生きてていいかどうかだよ……」

 

 

 その言葉に、響は呆然とする。

 

 

「生きてちゃいけない理由なんてないでしょッ……」

 

 

 無意識な言葉が口を突いて出る。

 

 

 だが、そんな言葉は今の彼には届かない。

 

 

 いつも近くにいた気がした。彼が今は遠く感じる。目の前から、手のひらからすり抜けて消えていく。

 

 

 いつか感じた感覚が、喪失を恐れる焦燥感が響の心を締め付ける。

 

 

「死んじゃいやだよ……私だって、()()……」

 

 

「死ぬなんて簡単に言わないでくれ……頼むよ……」

 

 

 隣にいる未来が手を強く掴む。

 

 

 クリスは縋るように彼を見つめ、手を伸ばそうとして、落とす。

 

 

「どうやら、修羅場中のようだね。我が魔王?」

 

 

「何の用だ……今から俺には行くべきところがある」

 

 

 イデアは少しだけ、苦虫を噛み潰した表情をすると、すぐに微笑む表情に戻す。

 

 

「止める気はないさ……ただ、私が道案内をしようと思ってね」

 

 

「何? どういう風の吹き回し?」

 

 

 吐き捨てるような彼の言葉に動じることなく、彼は礼を執る。

 

 

「我が魔王、貴方の決断に必要となる場所へご案内いたします。どうか、家臣である私の手をお取りいただけないでしょうか?」

 

 

 彼は気障に手を差し伸べると、彼は、一瞥するのみで、すぐに興味を失い、視線を石碑に向ける。

 

 

「だったら、早く案内しろ……」

 

 

「仰せのままに、我が魔王」

 

 

 彼は、そのまま、頭を垂れる。

 

 

 イデアは本心をもっていまのソウマに頭を垂れる。

 

 

 そこには忠誠心はなくとも、ただ、彼自身の進む道の困難さを知るが故の想いが、彼にその行動を執らせるのであった。

 

 

「……」

 

 

 そんな姿を七実は寂しそうに眺めることしかできず、他の3人は、イデアの出す本気の気配に気圧される形で言葉を失った。そこには侮蔑の感情はなく、ただ、いまの彼を支えようとする彼の行動への敬意があった。

 

 

 



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第68話 xxxx/理想と現実の狭間で

 


 タイムマジーンをイデアが操縦する。

 

 

 まるで、この装置をよく知るように彼はそれを動かす。

 

 

 壁を超えるとそこには先ほどまで、自身たちがあるいていた廃墟の町が見えてくる。

 

 

 草木に呑まれだしているようで、コンクリートの一部が崩れだし、その光景に未来は、あまりにも、時代が立ちすぎているように感じていた。

 

 

 ただ、その疑問を今、イデアに投げかかることはできなかった。

 

 

 自身の隣で、生きる気力を失っているソウマを前には、質問をすることへの優先度は下がり切っていた。

 

 

「もう少しで、到着だよ……全員戦える準備をしてくれ、このまま、彼らの集落へ直接向かうのは、彼らを興奮させることになる。だからこそ、その近くで降りる」

 

 

「それで、戦う準備の必要性は?」

 

 

 ソウマが力なく答える。

 

 

「簡単だよ。集落の周辺ということは、そこに、逸脱者がいるということだからね」

 

 

「逸脱者って結局何なんだよ」

 

 

「簡単だよ」

 

 

 彼は、画面を視線を正面に固定しながら、答える。

 

 

「人が、人が、自分の欲望に負けた姿さ……自身を飲み込むような、そんな醜い……欲に塗れた醜さが形になった化物……もはや、怪人という言葉すら生温いような醜悪な化物だ」

 

 

 同じ言葉を繰り返し、自身の中の感情を飲み込めていない。そんなイデアの心象が言葉にのって零れた。

 

 

「……なにか、思うところでもあるのか?」

 

 

 ソウマが、問い詰める。

 

 

 語気は強くないが、視線が突き刺すように、イデアの背中を睨みつける。

 

 

「あるさ、少しぐらいは信じていた……きっと、みんながあの時の歌で一つになってくれると……だが、奇跡が成立しなければ、だれも付いていかない。信じるべきではなかったのかもしれないと思うほどね……」

 

 

「何を言っている……」

 

 

「今の君には関係ないといえば関係ないよ。私やアーリにとっての後悔のようなものだ……それに歌程度で人類が纏まるなら、とっくの昔に世界は平和になっているからね。それが絶唱であっても、歌が届かなければね」

 

 

「どういうことだ……」

 

 

 虚ろな視線が彼の真意を見定めるように見つめる。

 

 

 ほんの一時、彼は後ろを振り返る、彼は虚ろの視線の中の意志を探る。

 

 

「そんなの簡単だよ。人の人生は一つの道を自分一人で歩いていくのと同じだよ」

 

 

「自分一人……」

 

 

 その言葉にクリスが俯く。

 

 

「夢というのは人のゆく道を示す星のようなもの。だが、全員同じ星を目指すわけではない」

 

 

「そうだろうな」

 

 

「追う夢が少しでも変わればそれが気が付けば致命的なズレを生み出す。同じ手を取っても、同じ言葉を口に出しても……それは同じ道を辿らない。いや、辿れないんだよ……」

 

 

 どこか自嘲じみた言葉が彼の本質を少し醸し出していた

 

 

「歌とは自身歩いている道を、心を他者へと伝える。だが、それだけでは人と人を繋げない。意味がない。言葉と歌に差はないさ……たとえ、心を伝えても、できることは他者の意識を影響を与え、それ以上に強まれば、他者の意識(ココロ)を歪めるのみだ。もし、纏まっても、それは一瞬だ」

 

 

「歪めるとはよく言ったものだな」

 

 

「違うのかい?」

 

 

「……」

 

 

「人の心に影響を与えれば良い方向のみには進まない。出なければ宗教に音楽や歌が必ずと言っていいほど使われないだろう?」

 

 

「それはあんたの宗教もか? そうだろ、石工達の神」

 

 

 少し、信じがたいものを見るようにイデアは意識を彼に集中させる。

 

 

「……いつ俺の持つ神格に気が付いた」

 

 

「簡単だよ。お前は俺たちの意識からお前たちを外したってことは、そういう権能があるってことでしょ」

 

 

「あぁその通りだよ……」

 

 

「でも、それは人の認識に干渉している権能、さらにお前が偽神と名乗った。人の認識を変えるような神、人の魂を騙すことができる偽神と呼ばれる神であり、イデア(真理)と関する神なんて一つしかない」

 

 

 図星を突かれたように、肩を落とす。

 

 

 まだ、感づかれないと考えていた。イデアにとっては限りなく正解に近い、推測を告げられ、ため息をつく。

 

 

「あぁ……その程度のヒントで掴むとはね……そうだよ。私は偽神、造物主の名を持つ神、唯一神を騙る()()。人を騙し、人を堕落させ、希望に向かって人を走らせる御者。人を試すだけしか能のない、何一つ本物を持たない神だ」

 

 

 彼の独白、自身の正体の吐露、役目への嫌悪、それでも、彼の声音は決して揺るぎはしない。

 

 

「揺るがないか……羨ましいよ。本当に」

 

 

 ソウマの言葉にイラつきを覚える。

 

 

 イデアは唇噛み、ハンドルを強く握る。その唇からは血が滲む。

 

 

「だけど、お前がッ……君が魔王なんだよ……だからこそ、今の俺には、君に私の知る道を伝える必要がある」

 

 

「それが俺にできる、否、すべきことだよ……」

 

 

 自分の中の疑念を押し込めるように、自身に使命を言い聞かせる。

 

 

「それがお前たちの結論か?」

 

 

 イデアの持つ熱意さえ、今のソウマには微かにしか届いていない。

 

 

「そうだね……でも、今の君にはこの世界を見て欲しい」

 

 

 機体が着陸する。ゆったりと、ハンドルから手を放す。

 

 

 少しの落胆と、納得の境のなか、イデアは少し、首に巻いたストールを緩める。

 

 

「ただ、君に信じて欲しいんだよ。人の善意を。そもそも、それがなければきっと、統一言語があったとしても、平和などは不可能だよ」

 

 

「それでも、善意だけでは世界は回らない」

 

 

「回ることはないさ……でも、善意がなくては、人は進歩することはないのさ……どちらもあって初めて人だよ。少なくとも、私は彼らからそれを学んだ」

 

 

「彼ら?」

 

 

「そうだ。君の持つ力の本来の持ち主たちからね。君もあったことがあるはずだ……」

 

 

「……」

 

 

 ソウマの脳裏にライドウォッチが見せた人達のことが思い浮かんでいた。

 

 

 しかし、目の前の神がそれを語る理由が理解できないでいた。

 

 

「ずっと、不思議だったんだよ。なんで、お前たち神が、たかが人間の英雄たちにそこまで固執する?」

 

 

「……たかが、人間か……相当弱っているようだな。我が魔王? ……あぁそうだ、アーク、タイムマジーンの奥に君のプレゼントを隠してある使うといい。ただし、片方の強度はそこまで高くないから、気を付けてね」

 

 

 タイムマジーンのハッチが開く。

 

 

 彼は、少し、ショックを受けたような表情をすると、彼はいの一番に外に出ていった。

 

 

「……ねぇ、ソウマ君。貴方だって、たかが人間だなんて思っていないでしょ。そう簡単に、思えるならあなたは、ライダーになんかなってないもの」

 

 

「クリス、これを」

 

 

「あ、おい!? なんだよこれ!?」

 

 

「開ければわかる」

 

 

 七実は一言、伝えると、クリスに、トランクケースを押し付け、イデアの後を追う。

 

 

「俺は、俺は……」

 

 

 自身の中にあるものが強く叫ぶ。だが、無気力と絶望感がそれを打ち消してしまう。

 

 

 だが、それでも、彼の中にある感情が消えうせることはない。

 

 

「……行こ」

 

 

 躊躇いながら、恐る恐る彼の裾を響は掴む。

 

 

 そんな彼女の言葉に従うように、彼は、足を進めて、タイムマジーンの外に出る。

 

 

 未来は、入口とは逆の奥に視線を向けると、そこには、おおよそ2m程度の大きさのケースが横たわっていた。

 

 

「これは……」

 

 

 そのケースを開ける。

 

 

 そこには、信じられないものがそこにあった。この世界にあるはずのないものがそこにはあった。

 

 

「どうしてこんなものが……」

 

 

 ケースの中には人型のロボット、ヒューマギアの素体がそこに横たわっていた。

 

 

 薄暗い機体の内で、彼女の眼が赤く光る。

 

 

「……」

 

 

 その素体の隣には黒い武器がそこにはあった。

 

 

 手槍のようなものであり、それと似たものを彼女はよく知っていた。

 

 

「これは、サウザンドジャッカーの改造物……まさか完成してたの……」

 

 

 アークはそれを手に取ると、彼女の顔に笑みが浮かぶ。

 

 

「これで、ようやく、計画が進められるッ」

 

 

 それは、どこか残忍さを内包する黒い笑みであった。

 

 

 




・歌の力
 原作において、統一言語を超える人を繋ぐものとされるもの
 シンフォギア等の聖遺物を利用するものを起動させ、人や世界を繋ぐ力もある。
 アーリを代表する神やソウマ達シャドウシステム等の仮面ライダーに関する力を保有し、使用する人間たちについては一切の影響を受けつけない等の例外がある。
 

・イデア
 偽りの創造神の神格をもつ存在。
 自身の持つライダーシステムに適合するようにアーリによって作られたアーリ自身を基に神が造り上げた戦闘用の神。
 この世界に誕生した厄災を打ち滅ぼす使命とソウマを導く役目を負う。



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