火力こそ正義! (小狗丸)
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主人公設定(ネタバレ注意)

「ロボ・バイロート」

 

種族 ホムンクルス

分類 プレイヤー

異名 火力至上主義の移動砲台

役職 なし

住居 なし

属性 中立

カルマ値 -50

種族レベル ホムンクルス:Lv1

職業レベル 戦士(ファイター):Lv1

      マーセナリー:Lv1

      野伏(レンジャー):Lv10

      ガンナー:Lv10

      スナイパー:Lv10

      トリガーハッピー:Lv5

      アーマースミス:Lv10

      アルケミスト:Lv10

      ガンスミス:Lv10

      エースパイロット:Lv5

      エキスパート:Lv1

      コマンダー:Lv1

      デストロイヤー・オブ・ウォール:Lv5

      パイロットLv10

      マシーナリー:Lv10

 

 この物語の主人公。

 最初はロボットゲーム「アーベラージ」のみを遊んでいて「ユグドラシル」にはそれほど興味がなかったのだが、アーベラージの上位ランカーである知り合い達からパワードスーツの話を聞いて「ユグドラシル」を始めた後発プレイヤー。

 パワードスーツ目当てでユグドラシルを始めた事からスキルビルドもパワードスーツの製造・整備・操縦に特化しており、名前も「ロボットのパイロット」を変形させたものと徹底している。

 アーベラージで遊んでいた頃から高火力重装甲の機体を使用していて、ユグドラシルのパワードスーツも高火力重装甲の機体で、自作のパワードスーツに「火力コソ正義~号」という名前をつける程に火力至上主義。

 外見は上下共に黒の軍服を着た黒髪で二十代後半ぐらいの男。上着は前を開いて着崩していて、頭部には「面頰」という日本のマスクみたいな防具を装備して顔の下半分を隠している。イメージは「元軍人でワケ有りの傭兵」らしく、ユグドラシルのアバター紹介文にはそれらしい自作の設定をかいていた。

 異形種のホムンクルスを選んだのは、ユグドラシルに誘ってくれた知り合い達が異形種であった事と、異形種の持つメリットデメリットに頼らずパワードスーツの力だけで強くなろうと考えたため。

 

 

 

「火力コソ正義八号」

 

 ロボ・バイロートが作り出したパワードスーツで彼の最高傑作。

 装備としてのランクは神器級(ゴッズ)

 全身が漆黒で両腕と両脚が長い、日本の甲冑と西洋の全身鎧を合わせたような外見をしている。元々ユグドラシルのパワードスーツはアーベラージのと同じ、いかにもロボットといった外見をしていてあまり外見を変えられないのだが、ロボは課金アイテムを使用してこの外見にした。

 背中のバックパックの両側に、バックパックから延びているサブアームと胸部から延びているケーブルで機体と繋がっているガトリングガンが一丁ずつある。この二丁のガトリングガンも機体同様神器級(ゴッズ)で、無属性を含めた全ての属性の魔力による弾丸を高速で発射する。

 接近戦の対策として両腕にはそれぞれ一丁ずつ伝説級(レジェンド)の魔導銃が取り付けられている。

 右肩、左肩、胴体、頭部にそれぞれ異なる第十位階魔法が組み込まれた魔法武装を装備している。当然組み込まれているのは広範囲の火力重視の魔法である。

 このパワードスーツ「火力コソ正義八号」を作るのに、モンスターからドロップするレアなデータクリスタルと課金アイテムを大量に必要として、その課金額は二十万近く。まさにロボの血と汗と涙、そして課金の結晶とも言えるパワードスーツである。

 

 

 

「オリジナル設定」

 

 トリガーハッピー…射手系クラス。銃系の武器を連続で使用する度に攻撃の威力が上がるのだが、その反面、攻撃の命中率が下がるというデメリットがある。

 

 ガンスミス…銃職人の生産系クラス。

 

 パイロット…操縦士のクラス。パワードスーツと同時にユグドラシルに追加されたクラスで、パワードスーツを装備している時にしか使えないがそれなりに強力なスキルを習得できる。

 

 エースパイロット…パイロットの派生クラス。パワードスーツを装備して高レベルモンスターを一定数倒すことで修得条件が得られる。

 

 デストロイヤー・オブ・ウォール…直訳すると城壁の破壊者。防御を固めた相手に対して与えるダメージが増加するスキルを持つ。

 

 マシーナリー…機械工の生産系クラス。複雑な機械のアイテム等を生産できるようになる。この作品ではパワードスーツはマシーナリー、アーマースミス、アルケミストの三つのクラスを高レベルで修得しなければ生産できない設定となっている。



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第一話

 DMMO-RPG「ユグドラシル」。

 

 西暦2126年に発売されたこのゲームは、その精巧な世界観とキャラメイクの奥深さから日本全国、そして外国でも熱狂的なファンを獲得して大勢のプレイヤーがユグドラシルをプレイしていた。

 

 しかし俺は最初、ユグドラシルにはあまり興味を持っていなかった。確かに自分の理想通りのキャラクターを作ってファンタジー世界を自由気ままに遊び回るというのは魅力的ではあったが、俺はどちらかと言うとファンタジーよりロボットの方が好きだったので、ロボットゲーム「アーベラージ」だけを遊んでいたのだ。

 

 そんなある日、俺はたまたま知り合ったアーベラージの上位ランカーの二人から、ユグドラシルで「パワードスーツ」という装備が登場することを聞いた。このパワードスーツは種類は全身鎧なのだが、外見はアーベラージに登場するロボットそのもので、これを知って俺はユグドラシルにプレイすることを決めた。

 

 ユグドラシルをプレイする前にネットとかで調べてみると、複数の職業のスキルを合わせたり課金アイテムを使用すると自分で自分だけのパワードスーツを製造できることを知り、俺は早速パワードスーツを製造して操縦するためのキャラクターを作ることにした。

 

 最初は給料の半分を課金することでユグドラシルの運営が販売しているパワードスーツを購入して、ひたすらモンスターと戦い職業を習得するためのスキルポイントを集めた。そうしている内にユグドラシルとパワードスーツを教えてくれたプレイヤー二人と、その二人が所属しているギルドのプレイヤー達とも知り合い、彼らの協力も得て俺は自分が予定していた職業を揃え、自分だけのパワードスーツを自力で製造することに成功したのだった。

 

 アーベラージでもパーツを組み合わせて自分だけのロボットを作り出すことは可能なのだが、作れる自由さはユグドラシルの方がずっと上であり、ユグドラシルで造り上げたパワードスーツは正に俺の理想の機体と言えた。だからなのか気がつけば俺はアーベラージよりもユグドラシルで遊ぶ時間の方が長くなり、パワードスーツに乗ってソロでモンスターを退治して、たまに協力をしてくれたプレイヤー達と大型ボスに挑むという日々を送っていた。

 

 その日々は今思い出しても充実していたと思うのだが、どんなものにも終わりは訪れる。

 

 多くの熱狂的なファンを獲得していたユグドラシルも時が進むに連れて過疎化が始まりプレイヤーも次々と離れていき、ついには発売から十二年が経った西暦2138年の今日、ユグドラシルはサービスを終了することとなった。

 

 しかしそれでもサービスが終了する最後の時までユグドラシルで遊ぼうとするプレイヤーも、少数ではあるがいた。

 

 俺、プレイヤー名「ロボ・バイロート」もそんなプレイヤーの一人だ。

 

 その日の俺は、今まで戦ってこなかった強力なモンスターとソロで戦っていた。

 

 俺が戦いを挑んだモンスターは複数のパーティーが協力して戦う、いわゆるレイドボスで、本来ならソロで戦って勝てる存在じゃない。しかし俺はユグドラシルの最終日だということで、今までもったいなくて使えなかった高レベルのアイテムや課金アイテムを惜しむことなく使い、数時間の死闘の末にレイドボスのソロ攻略という偉業を成し遂げたのだ。

 

 今日でユグドラシルは終わるのだが、それでもレイドボスを一人で攻略したという事実に、俺は達成感で胸が一杯だった。その時ドロップしたアイテムが、レイドボスを少人数で倒す事を条件に得られる「ワールドアイテム」という最上級のアイテムであったことも、嬉しかった。

 

「最後の最後で良いものが手に入ったな」

 

 そう言って俺がタイマーを確認すると、すでに時刻はあと一分で午前零時、つまりユグドラシル終了の時間にまでなっていた。

 

「ゲームバランスやらPK(プレイヤーキラー)やら辛い事も色々あったけど、それ以上に楽しかったよ……。ありがとう、ユグドラシル」

 

 俺は目を瞑ると、今までの思い出を思い返しながらこのユグドラシルの世界に別れの言葉を告げた。

 

 こうしてユグドラシルでの俺、ロボ・バイロートの冒険は幕を閉じるはずだったのだが……。

 

 この数秒後、俺の人生を大きく変える出来事が起こり、ロボ・バイロートの冒険はまだ終わっていない……いや、新しく始まったことを知るのだった。



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第二話

「………ん?」

 

 目を瞑ってユグドラシルでの思い出に浸っていた俺は、ふと全身から感じる違和感を感じた。

 

 何だ? まるで重たくて硬い服を着ているような気がするんだけど?

 

 違和感を感じて目を開くと、そこは自宅の部屋ではなく霧が立ち込めるどこかの平原で、俺はその光景をモニター越しで見ていた。そして俺はどうやら服の上に鎧みたいなもの着込んでいるようだった。

 

「……え? ここ何処? というか、俺は何を着て……これは?」

 

 俺は見覚えのない周囲を見回した後、自分の手を顔の前に持っていくと眼前のモニターに映ったのは、どこか見覚えのある機械の手。

 

「何なんだ、コレは? 何とか脱げないのかって……おおっ!?」

 

 俺が呟いた瞬間、急に体……というか着ている鎧みたいなのが動かなくなり、続いて胸と頭部の辺りが展開された。

 

「俺の声に反応したのか?」

 

 正直何で急にこの鎧みたいなものが開いたのか分からない。とりあえず鎧を脱ぐ……と言うより抜け出せるようになったので、俺は鎧から抜け出してからその鎧の方を振り返り……そして思わず驚き絶句した。

 

「………!? こ、これは……!」

 

 俺がさっきまで着ていたのは、身長が三メートル程ある漆黒の鎧で、この鎧には見覚えがあった。というよりもついさっきまで見ていたものだ。

 

「……か、『火力コソ正義八号』?」

 

 火力コソ正義八号。

 

 それは俺がユグドラシルで作ったパワードスーツで、つい先程ユグドラシルが終了する時まで、ゲームの中の俺はこのパワードスーツを着てモンスターと戦っていたのだ。

 

 この日本の甲冑と西洋の全身鎧を合わせたようなデザイン。背中にある、バックパックのサブアームと胸部から伸びているケーブルで機体と繋がっている二丁のガトリングガン。間違いなく火力コソ正義八号だ。

 

 ……え? 名前がダサい? 別いいだろう、分かりやすくて! それに知り合いにいる見た目骸骨の死霊魔術師に比べたら俺なんかまだマシなネーミングなんだからな!

 

「火力コソ正義八号がここにあるってことは……?」

 

 俺はある可能性に気づいて自分の体を触ったり見てみたりした。すると予想通り、今の俺は上下共に黒の軍服を上着を開いた状態で着て、顔には「面頬」という日本のマスクのような防具をつけていた。

 

「俺……ロボ・バイロートになってる……?」

 

 火力コソ正義八号が目の前にあるからもしかしてと思ったけど、本当にユグドラシルでのアバターになっていると分かると驚かずにはいられなかった。

 

 これってもしかして昔、家にある文献(ラノベ)で読んだ、ゲームのキャラクターに異世界に転生するってアレか? 確かあの手の話に登場する転生者って、行動次第ではハッピーエンドにもバッドエンドにもなるんだっけ?

 

「……どうしよう? こんな事になるんだったら、もっと熱心にラノベを読んでおくべきだったかな? ……ん?」

 

 俺がほとんど現実逃避する気持ちで馬鹿な事を呟いていると、何処からか金属と金属がぶつかり合う音や、人の怒鳴り声が聞こえてきた。

 

 ……まさかこれって、異世界転生モノでお馴染みの、転生直後に戦闘に巻き込まれるイベントだったりするのか?



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第三話

「さてどうするべきかな……」

 

 俺は金属同士がぶつかり合う音や人の怒鳴り声が聞こえてくる方を見ながら呟く。

 

 今だに信じ難い話だがここはゲームのユグドラシルではなく、現実の世界のようだ。そんな世界でいきなりゲームと同じノリで戦いをする気は俺にはない。

 

 しかしラノベの知識によれば異世界に転生して最初にすべきことは、ここがどの様な世界なのかを確認することだ。そう考えればここは危険を覚悟で行ってみるべきかもしれない。それに……。

 

「お前と一緒なら大丈夫かな? 火力コソ正義八号?」

 

 俺は自分が心血を注いで作り上げたパワードスーツ、火力コソ正義八号を見上げて話しかけた。

 

 それに、俺の心のどこかにこの自分の自信作であるパワードスーツを実際に着て、その力を試してみたいという欲求があった。

 

「……よし。それじゃあ行くか」

 

 俺は少し悩んだ後に、戦闘が起こっているであろう音が聞こえて来る方へ向かう事に決め、火力コソ正義八号を再び装着することにした。最初は驚いたが、自分から火力コソ正義八号を使おうと考えると、まるで長年行ってきた行動のように体が自然に火力コソ正義八号を装着していく。

 

 パワードスーツには様々な特殊能力が備わっていて、その中には飛行(フライ)よりも速く空を飛べる飛行能力がある。パワードスーツを装着した俺は、その飛行能力を使って空を飛ぶと音が聞こえてくる方へと向かうのだった。

 

 

 

「全く! いくら何でも多すぎだろ! これはよぉ!」

 

 一部に赤がはいった金髪の男、ヘッケランは両手に持つ二本の剣を振るいながら大声を上げる。彼が剣を振るう先には武器を持つ骸骨のモンスター、スケルトンの大群の姿があった。

 

 ヘッケランが今いるカッツェ平野は、常に霧に覆われてスケルトンを初めとする様々なアンデッドが多数出現する場所だった。カッツェ平野では常にアンデッド掃討の仕事があり、今回彼は仲間達と共にアンデッド掃討の仕事を受けたのだが、予想を超える数のアンデッドの大群に囲まれていた。

 

「ヘッケラン! 無駄口を叩いていないで手を動かしなさいよ!」

 

「しかしこのままではマズいですよ……!」

 

 ヘッケランの仲間であるハーフエルフの女性、イミーナが自分も目の前のアンデッドを攻撃しながら彼に向かって大声を出すが、それに対して胸に聖印の首飾りを下げた男、ロバーデイクが額に汗を流しながら返事をする。

 

 ヘッケラン達がアンデッドの大群と戦闘になってからすでに二、三時間が経過している。アンデッドは一体一体ならそれほど強くないのだが、それでもいくら倒しても数が減らず、このままではヘッケラン達が先に力尽きてしまうのは明らかだった。

 

「クソッ! おい、アルシェ! お前は逃げろ! お前一人だったら『飛行(フライ)』の魔法で逃げられるだろ!」

 

 ヘッケランはいよいよチームの全滅を覚悟すると、仲間の一人である杖を持った十代前半くらいの少女、アルシェに逃げるように言う。

 

「そ、そんな……! そんな事、出来ない」

 

「出来ない、じゃなくてやるんだよ! お前には……何?」

 

 一人だけ逃げることを拒むアルシェにヘッケランが何かを言おうとした時、突然彼らの前に光の雨が降り注いだ。光の雨はその一つ一つがアンデッドの体を貫き、ヘッケラン達を取り囲みアンデッドの大群を瞬く間に掃討していく。

 

 そして光の雨が降り注ぎ始めてから僅か数秒で、アンデッドの大群は圧倒的な力の前に一体残らず殲滅されたのだった。

 

『『…………』』

 

 ヘッケラン達が突然起こった出来事に言葉を失っていると、そこに空から声が聞こえてきた。

 

「あんたら無事か?」

 

「え? ……何だありゃ?」

 

 ヘッケランが空を見上げるとそこには宙に浮かぶ漆黒の鎧がこちらを見下ろしていた。



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第四話

 音がする方に来てみると、そこで見たのは百を超えるアンデッドの大群と、それと戦う四人の人間達。リアルで見るスケルトンやゾンビは、ゲームのユグドラシルで見たそれ以上に不気味であったが、それ程嫌悪感を抱くことはなかった。

 

 おかしいな? 俺はホラー系は苦手なはずなのに、ロボ・バイロートになったことで感性が変わったのかな?

 

 それはとにかく、アンデッドの大群の方は明らかに野良のモンスターみたいだし、この世界の情報を得るには四人の人間の方がいいと判断した俺は、アンデッドの大群に向けてガトリングガンを発射した。するとガトリングガンが放たれる無数の魔力弾は、呆気ないくらい簡単にアンデッドの大群を一掃していく。

 

 俺が今使っているガトリングガンは神器級(ゴッズ)の高威力の銃なのだが、それにしても簡単すぎる。どうやらあのモンスターの大群は、数だけで低レベルのモンスターしかいないみたいだ。しかしそれだと何故あの四人の人間達はあそこまで苦戦しているのだろう?

 

 だけどこうして圧倒的な火力で敵を次々に倒していく光景はやっぱりいいな。見ていてスカッとする。やっぱり最後にものを決めるのは火力だよね。つまり火力こそ正義。それが真理だ。……ん?

 

 何だ? 今、「それは違う」と首を横に振る純白の鎧をきた聖騎士と「やれやれ、分かっていませんね」と肩をすくめている仮面をつけた悪魔の幻が見えたと思ったんだが……気のせいか?

 

 まあ、いいか。それより今はあの四人の人間達からこの世界の情報を聞くのが先だ。

 

 

 

「いや~、本当に助かったぜ。ありがとうな」

 

 それからしばらくした後、俺はアンデッドの大群から助けた四人の人間の一人、ヘッケランから礼を言われた。

 

 今、俺とヘッケラン達は日が暮れてきたので、このカッツェ平野で野営することになった。

 

「別に気にしないでくれ。あれぐらい大した事はないよ」

 

 実際本当に大した事じゃなかったし。いくらなんでもあのアンデッドは弱すぎである。見た感じレベルは十前後といったところか? あんなの何千何万いても俺と火力コソ正義八号の敵ではない。

 

 そう考えながら言うと、ヘッケランとその仲間達は驚いた顔で俺を見てきた。

 

「あれだけのアンデッドの大群を瞬殺しておいて大した事はないって……」

 

「いやはや、凄い人ですね」

 

「うん。それにあの鎧……」

 

 ヘッケランの仲間、イミーナとロバーデイクがそう言うと、続いてアルシェが何かを恐れるような目で火力コソ正義八号を見る。

 

「あの鎧からは信じられないくらいの力を感じる。……あの、ロボさん? 貴方はあの鎧をどこで手に入れたの?」

 

「あれか? あれは俺が作ったんだよ」

 

『『作ったぁ!?』』

 

 俺が答えるとヘッケラン達四人は声を揃えて驚き、アルシェが信じられないといった表情で首を激しく横に振る。

 

「あ、あり得ない! さっきも言ったけど、あれには信じられないくらいの力……魔力を感じる。だけど貴方には魔力が全く感じられない。そんな貴方があの鎧を作ったとは考えられない」

 

 魔力が感じられない? もしかして俺に気づかれないように感知系の魔法でも使ったのか? ……あの程度のアンデッドの群れに苦戦するような初心者だけど、初対面の相手の情報を得ようとする基本はできているみたいだな。

 

 俺はアルシェの評価を上げると同時に、彼女が俺から魔力を感じられないと言った理由に思い当たり、その疑問に答える事にした。

 

「それはこの指輪のせいだな」

 

「その指輪は?」

 

「この指輪は所有者のステータスを隠蔽してくれるマジックアイテムだ。その証拠に……」

 

俺は両手の指全てに何らかの効果を持つマジックアイテムの指輪をつけている(ユグドラシルの上級者なら常識だな)。その中で右手につけている指輪の一つをアルシェに見せてから答えると、右手を天に向けて魔法を使ってみた。

 

「『龍電(ドラゴンライトニング)』」

 

 俺が魔法を発動した瞬間、右の掌から電撃の龍が空へと昇っていった。

 

 俺はアルケミストのクラスを修得している。アルケミストは生産系のクラスなのだが、アルケミストの技で生み出したものを組み合わせた応用という設定で魔術師(ウィザード)が使える。まあ、その代わりに威力は本職の魔術師(ウィザード)に比べて弱いし、クラスレベルを最大まで上げても第五位階の魔法しか使えないんだけどな……って、ん?

 

『『…………!?』』

 

 俺が「龍電(ドラゴンライトニング)」をヘッケラン達四人は、全員大きく口を開けて腰を抜かさんばかりに驚いていた。

 

 コイツら、何でこの程度の魔法でそこまで驚いているんだ?



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第五話

「ここがバハルス帝国の帝都アーウィンタールか」

 

 ヘッケラン達と出会い、話をした日の翌日。俺はこの辺りを治める国、バハルス帝国の帝都へとやって来た。

 

 昨日、俺は遠くから傭兵をしながら旅をしてきた傭兵という設定で、ヘッケラン達からこの世界について色々と聞くことができた。その結果、この世界はユグドラシルの世界と似ている点がいくつもあるが、違う点も多くあることを知った。

 

 違う点の中で一番大きいのが、人間を初めとするこの世界に生きる全ての生物の力量(レベル)だ。この世界の住人はユグドラシルに比べて圧倒的に低いのだ。

 

 その証拠に昨日ヘッケラン達に見せた「龍電(ドラゴンライトニング)」の魔法。ユグドラシルではせいぜい初心者か中級者が使うありふれたものなのだが、この世界では使えるのは住人もいない「英雄」が使う魔法だと昨日アルシェが顔を青くしながら説明してくれた。

 

「ゲームのキャラクターになって異世界に転生……しかも現地の住民は圧倒的に弱いとか……。どうやら俺ってば、一昔前に大流行した『俺様強い』系小説の主人公になったみたいだな。……そうなれば俺がこれからすることは一つ、『冒険者』となることだな」

 

 異世界転生するラノベで転生先がここみたいなファンタジー世界の場合、主人公は十中八九、冒険者となる。そして実力さえあれば社会的地位が得られる冒険者の世界で、転生特典で得たチート能力で一気に成り上がるのだ。

 

 幸いヘッケラン達の話ではこの世界にも冒険者や、冒険者組合に属さず報酬次第でどんな仕事もやる何でも屋みたいな「ワーカー」という職業があるらしい(ちなみにヘッケラン達もワーカーだと言っていた)。

 

「冒険者となって名声を得られればこの世界での生活に色々と役に立つはずだ。……だけどその前に『アイツら』を『出す』とするか」

 

 そう言うと俺はアイテムボックスから、掌に収まるサイズの小さな棺のようなアイテムを二つ取り出した。

 

 このアイテムの名前は「小人の棺(リトル・コフィン)」。使えば味方のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)を仮死状態にしてから収納し、アイテムとして持ち運ぶことができるマジックアイテムだ。

 

 そしてこの二つの小人の棺(リトル・コフィン)には俺が製作したN P Cが二人入っており、俺はここでその二人を外に出した。すると俺の目の前に、従来のメイド服をエロくて可愛らしいデザインに改造したメイド服を着用した、髪の色が金色と銀色である事以外全く同じ容姿のメイドが二人現れた。

 

『『おはようございます。ロボ・バイロート様』』

 

「ああ、久しぶりだな。シャルロットにシャイン」

 

 二人のメイドは全く同じタイミングでお辞儀をして口を揃えて俺に挨拶をしてくれて、俺はそれに満足気に頷いて挨拶を返した。

 

 金髪のメイドはシャルロットで、銀髪のメイドはシャイン。二人とも俺と同じホムンクルスで、同時期に作られた双子という設定だ。

 

 ……それにしても火力コソ正義八号を実際に見た時も感動したが、現実のものとなって俺に挨拶をしてくれるシャルロットとシャインを見るのもまた感動するな。

 

 シャルロットとシャインは、数年前に自分のキャラクターの名前と外見でブラックジョークをする黒い粘体の知り合いが「これが私の自慢の子なんですよ〜。私好みの美人でしかも私と同じ種族。羨ましいでしょう?」と、ドヤ顔で自分が製作したNPCを紹介してきてイラッとしたのきっかけで製作したNPCで、それならば俺もと自分の好みの外見にしたのだ。

 

 シャルロットもシャインも、俺が一番気に入っているエロゲのヒロインを参考したその外見は素人が作ったにしてはかなりのモノだと思う。特にこの巨乳と小柄な体のバランスは我ながら会心の出来だ。

 

 俺の永遠の宿敵であるエロゲに命をかけているバードマンは「ロリで貧乳こそ至高。巨乳? あんなのただの脂肪じゃないですか?」と目を開けたまま寝言を言っていたが、俺はそんな妄言は絶対に認めない。

 

「寝ているところをいきなり起こして悪かったな。実は今、俺達はかなり奇妙な状況にあるんだ」

 

 俺はそう前置きをするとシャルロットとシャインに今の状況を説明するのだった。

 



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第六話

「なるほど」

 

「事情は理解できました」

 

 ここがユグドラシルとは別の世界で、これからの活動の足がかりとして冒険者になる予定であることを説明すると、シャルロットとシャインは同時に頷いてくれた。どうやら今のところ俺の決定に不満はないらしい。

 

「それで私達を呼んだということは……」

 

「ロボ様と私達で冒険者のチームを作るということですね?」

 

「そういうことだ」

 

 シャルロットとシャインの言葉に今度は俺が頷いた。

 

 流石俺が作成したNPC。話が早くて助かる。

 

 正直この世界では俺一人でも充分だと思うのだが、万が一にも俺一人だけでは対処できない場面があるかもしれない。それを警戒して俺はこの二人を呼び出したのだ。

 

 シャルロットとシャインは俺の戦いのサポートをする為の職業とスキルを揃えてある。

 

 シャルロットは探知系、そして召喚系の職業とスキルを揃えた周辺の探索を担当。

 

 シャインは回復系にポーション専門の生産系の職業とスキルを揃えた直接的な回復と回復アイテムの生産を担当。

 

 つまりシャルロットとシャインは、俺にとってのレーダーと補給物資のようなもので、二人のサポートを得られたら複数のレベル百のユグドラシルプレイヤーとも戦える自信がある。常に充分な情報収集と戦力の補充ができるのなら常に戦いに勝てると、俺をユグドラシルに誘ってくれた二人のプレイヤーの一人で「孔明」と呼ばれていた知り合いも言っていたからな。

 

 それに何よりシャルロットとシャインみたいな超がつく美少女を連れて冒険者をやればすぐに注目を得られるだろう。ラノベの知識によれば注目を集めれば大きな仕事がくる確率も上がり、冒険者として大成しやすくなるらしい。

 

「じゃあ二人の装備を出すぞ」

 

 そう言って俺はいつもシャルロットとシャインの装備をアイテムボックスから呼び出した。そうして現れたのは、手足が長く女性型のデザインをした漆黒のパワードスーツが二体。

 

 これがシャルロットとシャインの装備、「火力コソ正義六号・改」と「火力コソ正義七号・改」だ。

 

 元々この二体のパワードスーツは俺が以前自作して実際に使っていたもので、それをシャルロットとシャインのイメージ合わせて外見とサイズを変え、武装を追加したのだ。

 

 昨日ヘッケラン達から聞いた話では、この世界でパワードスーツは非常に珍しく、こことは別の国で活動している最高位の冒険者しか所有していないらしい。そんなパワードスーツを三体も揃え、美少女で双子のメイドを従えている、仮面で顔を隠した冒険者。注目を集める要素を盛りすぎな気もするが、ここでもう一つ演出を入れてみようと思う。

 

 注目を集めると決めた以上はとことん派手にやった方が楽しいからな。



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キャラクター設定(ネタバレ注意)

「シャルロット」

 

種族 ホムンクルス

分類 ノンプレイヤーキャラクター

異名 戦闘もできる探索担当メイド

役職 なし

住居 なし

属性 中立

カルマ値 0~-20

種族レベル ホムンクルス:Lv1

職業レベル 野伏(レンジャー):Lv10

      ローグ:Lv10

      ガンナー:Lv5

      スナイパー:Lv5

      インマスター:Lv10

      ゴギョウツカイ:Lv10

      スピリット・シャーマン:Lv10

      サージェント:Lv10

      フウスイシ:Lv10

      フォーチュンテラー:Lv10

 

 ロボ・バイロートに製作されたNPC。

 戦いにおけるレーダー役として探索に関する職業やスキルを揃えてある。

 占いのスキルで敵の大体の位置を調べ、その後はスキルで召喚した精霊に自分の探索系能力を貸し与え、敵の詳細な情報を調べさせるというやり方をよく行う。

 戦闘ではロボが作ったパワードスーツ「火力コソ正義六号・改」を着て戦う。

 外見はメイド服を着た金髪の少女で、その外見はロボの好みを反映させたもの。

 シャインとは双子の姉妹という設定で、シャルロットが姉。

 

 

 

「シャイン」

 

種族 ホムンクルス

分類 ノンプレイヤーキャラクター

異名 戦闘もできる回復担当メイド

役職 なし

住居 なし

属性 中立

カルマ値 0~-20

種族レベル ホムンクルス:Lv1

職業レベル 野伏(レンジャー):Lv10

      ガンナー:Lv5

      スナイパー:Lv5

      神官(クレリック):Lv10

      バトルクレリック:Lv10

      アイテムスミス:Lv10

      アルケミスト:Lv10

      セージ:Lv10

      ハイ・セージ:Lv10

      ファーマシスト:Lv10

 

 ロボ・バイロートに製作されたNPC。

 戦いにおける補給物資として回復や回復アイテムを生産する職業やスキルを揃えてある。

 主にポーション系のアイテムを生産しており、彼女の作るポーションはHPやMPの回復だけで様々なバッドステータスも解除する事が可能。

 戦闘ではロボが作ったパワードスーツ「火力コソ正義七号・改」を着て戦う。

 外見はシャルロットと全く同じだが、シャルロットが金髪であるのに対してシャインは銀髪である。

 シャルロットとは双子の姉妹という設定で、シャインが妹。

 

 

 

「火力コソ正義六号・改」

 

 シャルロットが装備しているロボ・バイロートが作り出したパワードスーツ。

 背中のバックパックの右側に狙撃銃、左側にガトリングガンを装備している。

 元々はロボが使っていたもので最初は狙撃銃だけしか装備していなかったが、シャルロットに譲る際に外見とサイズを彼女に合うように変えて、ガトリングガンを追加した。

 新たに装備したガトリングガンは「火力コソ正義八号」が装備しているガトリングガンの試作品。

 装備としてのランクは聖遺物級(レリック)

 

 

 

「火力コソ正義七号・改」

 

 シャインが装備しているロボ・バイロートが作り出したパワードスーツ。

 背中のバックパックの右側にバズーカ、左側にガトリングガンを装備している。

 元々はロボが使っていたもので最初はバズーカだけしか装備していなかったが、シャインに譲る際に外見とサイズを彼女に合うように変えて、ガトリングガンを追加した。

 新たに装備したガトリングガンは「火力コソ正義八号」が装備しているガトリングガンの試作品。

 装備としてのランクは聖遺物級(レリック)



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第七話

 この世界にユグドラシルのキャラクター「ロボ・バイロート」として転生してから早いもので一ヶ月が経った。この世界にやって来てすぐに俺は、自分が製作したNPCであるシャルロットとシャインの三人で冒険者登録をして、それからは順調に冒険者としてのランクを上げて……いくことはなく。

 

 何故かバハルス帝国の「魔法省」という所に雇われることになった。

 

 魔法省というのは文字通り、魔法を様々な分野で活用するための研究をしている部所で、魔法省の活動はバハルス帝国の国力を向上させている。そして魔法省という名前から分かるように所属しているのは全員、魔法の腕を認められた者ばかりで、ユグドラシルとは比べ物にならない程魔法技術が劣っているこの世界では、エリート中のエリートが集まる超重要な部所だったりする。

 

 そんなバハルス帝国の中枢といっても過言ではない魔法省に、何故得たいの知れない俺達が雇われることになったかと言うと、事の始まりは冒険者登録をするためにバハルス帝国の首都アーウィンタールに訪れたことであった。あの日、せっかくだから派手に登場しようと思った俺は火力コソ正義八号を着て、同じくパワードスーツを着たシャルロットとシャインと共に、空からアーウィンタールの街中に降り立ったのだ。

 

 突然空から奇妙な全身鎧を着た人物が三人も降りてきた事で、アーウィンタールの通行人達は全員例外なく信じられないといった表情で大騒ぎ。今思えばこの時点で自重して大人しくしていれば良かったのだが、この時の俺は自重するどころか、冒険者組合までの距離を低速飛行して火力コソ正義八号の姿を周囲に見せびらかしながら進んだのだ。

 

 そしてパワードスーツを着たままだと冒険者組合の建物に入れないので、一度パワードスーツを脱いで建物に入り、無事に冒険者登録を終えて建物から出ると……。

 

 

 よだれを垂らさんばかりの恍惚の表情を浮かべた老人が、鼻息を荒くしながら俺の火力コソ正義八号にべたべたと手で触れていたのだ。

 

 

 どこからどう見ても変質者であるこの老人はフールーダ・パラダインというこの世界で最高位の魔法詠唱者(マジックキャスター)で、バハルス帝国の魔法省のトップであった。

 

 魔法省のトップをしているせいかフールーダは魔法に関する好奇心が非常に強く、突然空から現れた全員鎧、つまり俺達のパワードスーツが魔法の力を使われていると知ると、「飛行(フライ)」の魔法を使って文字通り飛んできたらしい。……目撃者の話によると、その時のフールーダは音よりも速い砲弾のような速度で飛んでいたらしく、着地の時も地面に着地したというよりも地面に激突した言うべき勢いだったそうだ。

 

 その後、火力コソ正義八号を作ったのが俺だと知ると、フールーダは俺達に魔法省で働くように言ってきたのだ。正直、この世界で最高位の魔法詠唱者(マジックキャスター)とされるフールーダでも俺達から見たら全然弱く、力ずくで誘いを断ることもできたのだが、頭の血管が今にも破裂しそうな顔をして鬼気迫る勢いのフールーダに押し負けて今に至る。

 

 いや、まあ……。冒険者になろうと思ったの社会的な地位が欲しかったからで、魔法省に雇われたことでその社会的な地位も手に入ったのだが……なんか予定と違う。



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第八話

「おはよう」

 

 朝。魔法省に出勤して、すでに出勤をして研究をしている皆に挨拶をすると周りから挨拶が帰ってきた。

 

 一ヶ月前にフールーダに連れてこられたばかりの頃は得体の知れない者(実際にそうなのだが)を見る目を向けられていた。しかし俺がパワードスーツ関係、シャルロットが探知系、シャインが回復関係の魔法に長けているとこの一ヶ月で知られるようになると、魔法省の職員達は歓迎と尊敬の目で見てくるようになって、こうして挨拶を返してくれるようになった。

 

 そして魔法省の職員達に挨拶をしながら今日は何をしようかなと考えていると……。

 

「やっと来たか、ロボ・バイロートォッ!」

 

 ……朝から元気な老人の大声が聞こえてきた。

 

 俺が内心でうんざりしながら声が聞こえてきた方を見ると、俺達をこの魔法省にスカウトした白いローブを着た老人、フールーダが血相を変えてこちらに向かって全力で走ってくるところであった。

 

 あー……。何だか朝から面倒臭そうな気配がするな……。後ろにいるシャルロットにシャインも俺と同じ気持ちなのか苦笑いも浮かべているぞ。

 

「おはようございます。フールーダ様。そんなに急いでどうしたのですか?」

 

 一応こんなのでも俺達の雇い主なので敬語でフールーダに挨拶をする俺だが、フールーダはそんなのを気にする事なく、俺達の前に来ると大声を出した。

 

「どうしたもこうしたもないわ! 早くお主らが持つパワードスーツを儂に見せるのじゃ!」

 

 フールーダの言葉は予想した通りのもので、それを聞いた俺は正直うんざりとした。

 

 フールーダが俺達を魔法省にスカウトした最大の理由は、俺達のパワードスーツを間近で見て研究をする為だ。パワードスーツはこの世界にとって……いや、ユグドラシルでもすでに失われたとされる高度な魔法工学の粋を集めて作られた兵器なので研究したい気持ちは分かるが、毎日顔を合わせる度にパワードスーツを見せろ見せろと同じことを言われるといい加減うんざりしてくる。

 

「何をしている!? さあ、早く『魔力コソ正義八号』を儂の前に!」

 

「火力コソ正義八号だって! 何、人の愛機を改名してんだこのジジイ!?」

 

 フールーダの言葉に俺は思わず敬語を忘れてフールーダに怒鳴り返すが、フールーダはそれに怯む事なく言い返してきた。

 

「パワードスーツが魔法工学によって作られ、魔力で動くのなら別に『魔力コソ正義八号』でもいいじゃろう! むしろ火力コソ正義八号なんて無骨な名前よりずっといいわい!」

 

「はっ倒すぞこのジジイ! そもそも! 別に火力コソ正義八号を出さなくても、すでに火力コソ正義一号を貸しているんだから、そっちで研究しろよ!」

 

 そう俺は一ヶ月前、魔法省にスカウトされたばかりの頃、あんまりにもフールーダが火力コソ正義八号を見せろとうるさかったので、俺が最初に製作したパワードスーツ「火力コソ正義一号」をフールーダに貸したのだ。当然フールーダはそのことにこちらが引くくらいのハイテンションで喜び、今も火力コソ正義一号を研究している。しかしそれでもフールーダは、今のように火力コソ正義八号を見せろと言うのをやめなかった。

 

 ……本当にどれだけ魔法に対して貪欲なんだよこの爺さん?

 

「〜〜〜! 嫌じゃ嫌じゃ! 魔力コソ正義八号も見せてくれんと嫌じゃ!」

 

 俺の言葉にフールーダは床に倒れて手足をバタつかせ子供のような駄々をこね出した。

 

「こんのジジイはぁ……!」

 

 駄々をこねるフールーダに対して俺は握り拳を作って怒りに震え、その様子を離れて見ていたシャルロットとシャイン、そして魔法省の職員達が苦笑いを浮かべる。

 

 これが俺のこの一ヶ月でほぼ毎日繰り広げられる朝の光景であった。



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