魔法とかなんとか (四季式)
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プロローグ
1話


「………飽きたな」

 

 

 

 

 

 

──第1話──

 

 

 

 

 

 

 とあるマンションの一室。

 

 見るからに高級そうなソファの上に、少年が気怠げな様子で横たわっている。

 

 広々とした部屋には、しかしその少年以外の人間はおらず、それどころかソファ以外の家具は一切ない。

 

「………とかなんとか三人称でモノローグってるけど、この部屋は暇だったからなんとなく作ってみただけなんだよね。お金なんていくらでもあるし。まあ僕のお金じゃないんだけどね。まったく、僕の『能力』は便利極まりないけど、その性質上なにごとも上手く行き過ぎるというのが欠点といえば欠点だね。この世に神なんてものが存在するとしたら、何を考えて僕にこんな『能力』を与えたのかぜひ聞いてみたいよ。『対価を払えば願いを叶えることができる能力』なんてどこの侑子さんだよ。キセルなんて使わねえぞ。しかもあれより規制が緩くて、僕自身の願いも叶えられるうえにその場合の対価は僕の気力やら体力やらで払えて尚且つある程度選択できるとか便利すぎだろ」

 

 

 とかなんとか独り言。

 

 一人暮らしだと独り言の声が大きくなるんだよね。気にする人がいないから。

 

 閑話休題。

 

「しかしこの生活………というかこの世界に飽きたな。いろいろな手段で様々なルートで多種多様な人物を使って調べたけど、どうやらこの世界には僕みたいに何かしらの『能力』をもっている人間はいないみたいだ。よくテレビでやってる超能力者はごく一部を除いて偽物だったし、本物も異質な能力というより人間にもともと備わっている能力を引き伸ばしたような、まさしく文字通りの『超』能力だったし。あーあ、僕ひとりぼっち。寂しくて死んじゃう! まあそれは気が向いた時にしよう。えーとなんの話だったっけ? そうそう、この世界にもう飽き飽きというはなしだったな。うん、なんかもうどーでもよくね? ここに来るのなんて郵便屋さん以外は政治家のおっさんくらいだし。というか思いつく知り合いのほとんどがおっさんとか鬱だわー。しかも名前なんて覚えてないし。まあ、この生活もお金持ちの政治家さんたちが対価で払ったお金だから、いないと困るんだけどね。………はあ、また話が逸れたな。つまり、この世界にさよならしてもっと楽しそうなとこに行っちゃおう、ということだ。だがしかし、いくら僕の『能力』でも人ひとりの体力やらを対価にして異世界に行くなんてファンタジー溢れることはできない。それでもどうにかできないかと、頭の片隅で片手間に考えて一週間、ついに妙案が浮かんだのだ。そのために僕以外の能力者がいないかを調べたのさ。それだけが足りない前提条件だったからね。この考えが正しければ、『僕としては』小さな対価で世界を渡れる。失敗したとしても代わりに僕の存在が消滅するくらいだから、まあ大した賭けじゃない」

 

 ふう、一息。

 

「考えてみたらなんてことはない、簡単なことさ。僕以外にこんな能力をもつ者がいなくて、しかも僕自身はほとんど対価なしで自由に物事を操作できる。それはまるで、

 

 

 

 

 

この世界が僕のための箱庭みたいじゃないか?

 

 

 

 

 

そうだとするなら、この世界は僕のもの。僕の『能力』は僕自身の『何か』を対価とする。ならば、この世界を対価に異世界に渡ることができるのでは? と考えたわけ」

 

 んじゃまあ、そんな感じで行ってみよう。

 

 

 

 

 その日、ひとつの世界が終わりを迎えた。

 



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リリなの編
2話


 気が付くと、森の中にいた。

 

「………ふぅん、どうやら成功したみたいだな」

 

 さてさて、いったいどんな世界なのやら。

 科学が発展した世界? 魔法が発達した世界? それとも僕の知らないような生物が闊歩する世界?

 いろいろ想像しながら森を散策していると何か光る物が見えた。

 

「ん? なんだ?」

 

 草木を掻き分け、光る何かに近づく。

 

「………へえ、なるほどね」

 

 すぐ足元にあるそれをひょいと拾い上げる。

 それは、不気味に青く光る宝石──。

 

 

 

 

「ジュエルシード、か」

 

 

 

 

 

 

 

──第2話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで、『魔法少女リリカルなのは』っぽい世界みたいだ。

 

 ぽい、というのはジュエルシードは確かにあったけど、それイコール原作通りというわけではないから。

 もしかしたら何かしら原作との相違点があるかもしれない。

 

 

 

「まあ、あったらあったでその時に、臨機応変に対応していけばいいか」

 

 とりあえず、ジュエルシードがあるということはユーノ・スクライアはこの世界に存在しているとみていいだろう。

 

「んじゃ、まずは宿でも探しますか」

 

 幸い、この世界ですぐにでもタダで泊めてくれそうな所は何ヶ所かある。

 

 

 

①高町家の誰かに遭遇→事情を聞かれて居候、もしくは養子

 

②フェイトの住んでいるマンションに突撃→誤魔化して共同生活

 

③図書館ではやてに親切→八神家に居候

 

④アリサとすずかの誘拐を発見→救出してお礼に住まわせてもらう

 

 などが考えられる。

 

 ①はテンプレ過ぎてなんかヤダし②は場所が分からん。④も面倒くさそうなので、③の八神家に決定。

 決め方がテキトーだけど決定ったら決定。

 

「やってみたいこともあるしね」

 

 というわけで図書館に移動する。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 図書館に着くまでに迷子になって地味に能力使ったりしたけど、なんとか到着。

 とりあえず、目的の車椅子少女を探しに図書館内を軽く一周する、が見つからない。

 時間は昼過ぎくらいだから居てもおかしくないんだけどなぁ。

 

 無印時代のはずだからまだ家でぼっちの八神はやてに優しくして取り込んで利用できるだけ利用しよう青田刈り作戦を思いついたけど、肝心のはやてがいないんじゃどうしようもない。

 

「……適当になんか読むか」

 

 僕は趣味の本(ラノベ)を探しに席を立った。

 

 

 

 

 この図書館はどれだけのジャンルの本を取り扱っているのだろう、と思うほどラノベが置いてあった。

 久しぶりに死にバラとか半月とかを読んでたら、いつの間にか結構な時間が過ぎてしまっていた。

 そろそろ本格的に探さないと、と思って本から顔を上げると対面の席の人と目が合った。その人物は、茶髪っぽいショートボブ?で車椅子な女の子。

 どう見ても八神はやてです本当にありがとうございます。

 

 まあ実際は二次元ではなく三次元の存在なので顔では判断出来ないが、背格好や車椅子に乗っていること、あとは時間帯などからこの子がはやてで間違いないだろう。

 僕が図書館に来た目的の彼女は、僕が机に積んでいる読み終わったラノベを手に取った状態で停止している。どちらも1巻を読み終わり、半月の2巻を読もうとしたらしい。

 

「あ、あの、すみません。つい手に取って読んでみたら止まらなくなってしもうて」

 

 フリーズが解けたはやては、慌てながらも勝手に読んだことを謝罪してくる。

 予想外の接触だが、悪くない状況だ。こちらから接触するよりも警戒されずに済むし、勝手に本を読んでいたことに罪悪感があるようなので主導権を握りやすいはずだ。

 

「ああ、いいよ。気にしないで読んでくれて。僕は一度読んだことがある本だから」

 

「ほんまですか? ありがとうございます」

 

 怒られると思っていたのか、ほっとした表情になる。

 

「いつもはハードカバーのばっかりなんやけど、ラノベもまた別の面白さがあるんですね」

 

「そうだね。世間では挿絵が問題なのかマイナスなイメージがあるけれど、これらも立派な小説だ。まあ、若者向けがほとんどだから大衆に理解されやすいものばかりでないのは事実だけどね」

 

「確かにそうですね。私も最初見かけた時は表紙で遠慮したんやけど、あらすじとかを読んでみると面白そうなものがよくありますもん」

 

 などラノベ談義で盛り上がったり読書に集中したりを繰り返していると、いつの間にか閉館時間になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなぁ、迷惑かけてしもうて」

 

 図書館で半月の続きを5冊程借りたはやてを、もう時間も遅いということで家まで送っているところだ。本の話で盛り上がったおかげか、はやての口調も砕けた感じになった。

 

「いやいや、これくらいなんてことないさ。それよりいいのかい? 八神ちゃん。見知らぬ人を自宅に招いたりして」

 

「短い時間やけど一緒に話して、悪い人やないって分かったから大丈夫!」

 

 悪い人じゃないからと言って、決して悪いことをしないとは限らないんだけどね。

 

 まあそんなこんなで八神邸に到着……と同時に誰かに見られてるような気が。そういえばネコ姉妹が見張ってるんだったな。

 まあ彼女らもいきなり襲いかかって来るようなことはしないだろうから、とりあえず放置。

 

「お邪魔しまーす」

 

「どうぞー」

 

 というやりとりの後、リビングでお茶を出されて一息ついてます。

 

「少し待っててなー。お礼に夕飯ご馳走するで」

 

 台所へと車椅子を走らせるはやてを眺めながら

 

「お構いなく」

 

 と言いつつも強い拒否はしない。

 ぶっちゃけありがたいからな。これで飯はゲット。

 あとはどうにかして泊めてもらえるようにしたい。

 頼めばいけそうな気がしないでもないが。

 よほど対人関係に飢えていたのか、図書館からここまでずっとニコニコ笑顔だったからな。

 ついさっき会ったばかりの年上の男──ああ、言い忘れてたけど僕18歳ね──を泊めるくらいはするかもね、うん。

 

 幸い、話のネタはあることだし。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯はカレーでした。美味しくいただきました。

 

「誰かと一緒に食べたのなんか久しぶりやな。めっちゃウキウキするわ」

 

「それは重畳。さて、そろそろシリアスパートに移りますか」

 

「なんや、今までギャグパートやったんか」

 

 ケラケラ笑ながら突っ込まれる。

 

「いやいや、ここからは真面目な話になるよ。八神ちゃんの脚の麻痺についてだ」

 

 症状とかは帰り道でだいたい聞いている。

 

「私の、脚? でもお医者さんも原因が分からへんのにどないするん? それこそ奇跡か魔法でもない限り、一生このままや」

 

 諦めの混じった視線を自分の脚に向けるはやて。

 

「まさしくその通り。魔法や奇跡でもない限りその脚は治らないはそれ故に僕は君の脚を治すことができる。奇跡も魔法もあるんだよ、八神ちゃん」

 

「え?」

 

 ぽかんとした顔をするはやてに向かって、僕はニヤリと嗤う。

 

「さあ願いたまえ。対価を払えばどんな望みも叶えてあげよう。僕の名前は坂井祐一………奇跡遣いさ」

 

 なーんてカッコつけちゃったりして!

 

 



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3話

八神はやてside

 

 

 最初は何を言うてるのか分からんかった。

 

 今日図書館で会って仲良うなった人、祐一さん曰く、彼はどんな奇跡でも起こせるらしい。

 相応の対価を払えば。

 

「つまり、私の脚も治せるん?」

 

「もちろんだよ。後遺症もなく綺麗さっぱり治せるさ。ただ、そのために八神ちゃんは何かを失う覚悟はあるかな?」

 

 対価は願いの大きさによって変わる。より大きな願いならば、対価もそれに矛盾なく比例して大きなものになる。

 私の場合、願いは『脚が動くようになること』

 今の医学では原因が解らない脚の麻痺を治すのに、どれ程の対価を払わんとならんのやろう。

 

 ……でも……それでも。

 

「それでも、私は自分の足で歩きたい。自分の足で地面を踏みしめたい。だから──」

 

 

 

 

 願いを、叶えて。

 

 

 

 

「了解したよ八神ちゃん。君の願い、ばっちりしっかり十全に叶えてあげよう」

 

 祐一さんは微笑みながら頷いてくれた。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

──第3話──

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 いやー、子どもは単純で助かるよ。

 

 奇跡とか魔法とか覚悟とかそれっぽいことを話せば面白いようにこっちの思惑通りに動いてくれる。

 まあ、いきなり超常現象を信じるのは無理だろうから僕の言葉に疑問を持たないように軽く能力を使ったんだが、それでもこの答えははやて本人が自分で導き出したものであるのは間違いない。

 

 ああ、ちなみに今使った能力の対価は自身の魔力を充てている。どうやら『世界』というのは思いのほか高価値なものだったようで、世界移動で余った分が魔力として僕の中に貯蓄されている。

 魔力は、ジュエルシードから感じたエネルギー的なものがそうかな~と思ったら、自分の中にそれと同じものがとんでもない量で存在したため分かった。

 ただ、通常魔導師が魔力を生成するリンカーコアなる器官があるのかは分からないので、使った魔力は元に戻らず使いっぱなしになる可能性もあるな。

 現在の保有魔力はジュエルシード10個分くらいはあるみたいだからとりあえず大丈夫だろう。

 

 

 閑話休題。

 

 

 さてさてはやての願いだが、ちょっと工夫するととってもお得な感じになるのだよ。

 願いの叶え方を言わないと、そこらへんは僕の裁量に任されちゃうんだよね。だから、はやてと闇の書とのラインを僕と闇の書とのラインに変えるというやり方でも、結果としてははやての脚は治るということになる。

 つまり僕としては闇の書+はやての対価が手に入るわけ。

 

 ぼろ儲けだね。

 

「というわけで八神ちゃん、君はなにを差し出すんだい?」

 

「そんなん言われても、私が持っとるものなんてそう価値があるもんやないで。精々この家くらいやな」

 

 そう言われて室内を見渡す。

 ふむ、なかなかしっかりとした家のようだ。

 

「んじゃそんな感じでいってみよか」

 

「え!? ノリ軽っ!」

 

 だって僕としては簡単なことだもん。

 えーと、願いは『八神はやての脚の回復』、対価は『八神家の所有権』っと。

 

「ん、終わったよー」

 

「………何か起こったようには見えへんけど」

 

 ジト目で見てくるはやて。

 

「因果を捻じ曲げるような願いならまだしも、これ位のものなら光とかも出ないよ」

 

 エネルギーの無駄だからね。

 

「それよりも脚に変化はないかい?」

 

「え、あ、そういえば足先の感覚がハッキリしとる………治っとる!」

 

 そう言いながら自分の脚を触っているはやては驚き、喜び、そして笑ながら泣き出した。

 

「ひっく、な、治っとるぅ、ひっく」

 

 えーと、こういう時は抱き締めたりするといいんだったかな?

 試しにそっと抱き締めてみる。

 

「ふぇ? 祐一さん、な、なにを」

 

「いやね、こういう時はこうした方がいいのかなぁと思いまして」

 

そう言うと、はやては涙を浮かべながらもにっこり笑って

 

「それなら、もう少しこうしといてぇな」

 

 自分からギュッと抱きついてきた。

 

 

 

 

 

 

 あーこれがフラグなのかなーと考えつつ、僕は自分に新たに繋がった魔力のラインを確認していた。

 恐らくこの家の本棚から来ているだろうラインからどんどん魔力が吸い取られてるのが分かる。とは言っても全量からすれば微々たるものなので特に問題はない。

 これで僕は4人と1匹の下僕を手に入れたわけだ。

 呼び出しは明日ということで、とりあえずは

 

「そういえば八神ちゃん。この家の所有権が僕のものになったけど家事とかめんどくさくてさ、どこかに凄腕の家政婦さんがいないか探してるんだけど知らない?」

 

「えっ………それなら任しとき、この家に住まわせてくれる代わりに炊事洗濯なんでもやったるで!」

 

 こんな感じで会話と契約は完了して、その日は一緒のベッドで寝ました。

 



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4話

 翌朝。

 

「それじゃ今度は魔法を見せてあげるよ」

 

「おぉー、なにが起こるんやろ」

 

「ま、それは見てのお楽しみ」

 

 というわけで、さっそく守護騎士の召喚をしようと思います。

 はやての部屋にあった闇の書を持って………。

 

「そういえば、やり方分からないや」

 

「えー」

 

「まあとりあえず魔力流し込んでみればいいかな」

 

 適当にジュエルシード1個分くらいの魔力をラインを通して流し込んでみる。

 

「おお、光った」

 

「ほんまに魔法の本やったんやね」

 

 あ、召喚は成功しましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

──第4話──

 

 

 

 

 

 

 

シグナムside

 

 

 新たな主に召喚された。

 将である私に続いて他の守護騎士たちが主に対して跪いている。

 

 目の前には2人の人物。

 青年と言える年頃の男と、鉄槌の騎士と同年齢ほどの容姿の少女。

 

 闇の書とのラインからして、恐らく主は青年の方なのであろう。

 どのような方なのかはまだ分からないが、我らのするべきことは主の守護と闇の書の完成。

 それ以外の些事は考えても意味がない。

 が、できることなら我らが仕えるべき方であってほしいものだ。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 薄着の4人の男女が跪いている光景って結構シュールだね。

 

「えっと、じゃあまずは自己紹介からかな。僕は坂井祐一、君らの主さ」

 

「私は八神はやて。この家で家政婦さんをしとります。ちなみに祐一さんとは一晩を過ごした仲や」

 

 ………いや、なにもしてないよ?

 普通に寝てただけなのにどうしてそう誤解を招くような言い方をするんだよ。

 ほら、ヴィータなんか自分も守備範囲に入っていると思って軽く震えちゃってるじゃないか。

 

「……えーと、べつに僕は幼女趣味とかロリコンとかではないし、かといって成人女性なら無理やりにでもとかはしないので安心してほしい」

 

 あからさまにほっとする守護騎士たち。

 こいつら最初はこんなに感情豊かじゃないんじゃなかったっけ?

 

「それじゃあそっちも自己紹介お願いね」

 

「はい、私はヴォルケンリッターが将、烈火の将シグナムと申します」

 

「………鉄槌の騎士、ヴィータ」

 

「風の癒し手、湖の騎士シャマルと申します」

 

「盾の守護獣ザフィーラ」

 

 それぞれ性格の出る自己紹介でした。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「君たちにやってもらうことがいくつかある。1つ目は魔力の蒐集。これは人間以外の生物からとって来てもらいたい。理由は、今は管理局に目を付けられたくないからだ」

 

「承知しました」

 

 代表してシグナムが返事をする。

 

「で、2つ目がこれ」

 

 ポケットからジュエルシードを取り出す。

 

「これと同じものがここら一帯にばら撒かれている。それを回収してほしい」

 

「分かりました。シャマル」

 

 シグナムにジュエルシードを渡すとシャマルが調べ出す。

 

「これは………主ほどの量ではありませんがとんでもない純魔力の塊ですね。これひとつで軽く次元断層が引き起こせますよ」

 

 シャマルの報告を聞いて、専門用語ばかりでちんぷんかんぷんなはやて以外は顔を引き攣らせていた。

 

「それを含めて21個あるからよろしくね」

 

「し、承知しました」

 

「ああ、あと回収のときに2人ほど邪魔する魔導師が来るかもしれないけど…………極力戦闘は避けてね」

 

「分かりました、どのような者が相手でも必ずや勝利を…………は?」

 

「いや、だから極力戦わずに逃げちゃって」

 

「しかし主、我らヴォルケンリッター、魔導師2人程度ならば歯牙にも掛けない自信がありますが」

 

 戦えないのが気に入らないのか、威圧感を出しながら答えるシグナム。

 

「僕にも僕なりの考えがあるのさ。文句があるのは分かるけど、とりあえず従ってくれないかな」

 

 この程度の威圧でビビる坂井祐一ではないのだよ。

 

 ………ちょっと足が震えてるけど。

 

「………はい、余計なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。主の言う通りに行います」

 

「うん、じゃそれでお願い。まあ時間はあるしゆっくりやっていこう」

 

 そこからははやてへの説明タイムで1日が終わりました。

 



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5話

 守護騎士たちの甲冑作るの忘れてました。

 考えるのもめんどいので原作通りのものにしました。

 

「だいたいのことは理解したんやけど、このジュエルシード集めてどないするの?」

 

「ふふふ、それは秘密さ八神ちゃん。なぜならその方がカッコいいから」

 

「キャプテンブ◯ボー!?」

 

 

 

 

 

 

 

──第5話──

 

 

 

 

 

 

 

 魔力蒐集はシグナムとザフィーラ、ジュエルシード回収はヴィータとシャマルという担当になった。

 さっそく闇の書を持って蒐集に行った2人に対して、こっちは4人でゆっくりお茶してます。まあ本当はシャマルのクラールヴィントで海鳴市中を探索してるのだが。

 

「あ、ありました。北西2キロの公園です」

 

「それじゃ行ってくるぜ!」

 

 勢い良く立ち上がったヴィータは、その勢いのまま家から飛び出して行った。

 

「ご飯までには帰ってくるんやで~」

 

 はやての場違いな言葉に苦笑する。

 

「さて、さっきのは冗談としてジュエルシード回収の目的ね。………ゲームでさポケモンってあるじゃん。僕はその中で進化するのが特に好きでさ、ジュエルシードなんていかにも進化しそうな名前だから、いっそ僕の手で進化させちゃおうと思ってさ」

 

「あの、えっと、そんなこと可能なのでしょうか」

 

 おずおずとシャマルが質問してくる。

 さすがにまだ緊張しているようだ。

 

「それなら心配ないよ、事実上僕にできないことはないからね」

 

「そうなんよシャマル。祐一さんはな、奇跡遣いゆうて対価さえ払えばなんでも願いを叶えてくれるんやで。私の脚の麻痺も治してくれたんや」

 

 はやてはまだ筋力がないから車椅子を使用しているが、麻痺は回復しているため、膝を伸ばして足の指をにぎにぎして見せた。

 

「ふぇー、すごいんですね主は。いったいどんな仕組みなんでしょうか」

 

「さあねぇ、物心ついたころからあったからね、原因とかは分からないな。すごいレアスキルだと思ってくれればいいよ」

 

 そんな感じでお話ししてたら「ただいまー」とヴィータが帰って来た。ヴィータは他の守護騎士たちより僕らに、特にはやてに懐いていてよく車椅子を押している。

 

「見て見てはやて、祐一。じゃーん、3個もゲットしたんだぜ」

 

 ヴィータの手には封印済みのジュエルシードが3個乗っていた。

 ふむ、最初の1個も含めると4個か。

 

「じゃあシグナムたちが帰ってきたらやってみようか」

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 というわけで、夕飯後に片付けたテーブルにジュエルシードを並べる。

 

「さて、これからジュエルシードを進化させるよ。今のジュエルシードはただのエネルギーの凝縮体。だからそこに指向性を付けてやろうということさ。ただ願いを叶えるのではなく、人間の闘争本能を形にするようなものにしようと思う」

 

「つまり核鉄やな」

 

 はやてよ、お前も知っているか。

 というわけでやってみようか。

 

 願いは『ジュエルシードに指向性の付与』、対価は『ジュエルシードの含有魔力の半分』でいいかな。

 一瞬ピカッと光ったと思ったら、テーブルには4つの青い核鉄があった。

 

「おおぉ、ほんまに核鉄や。青いけど」

 

「うん、ジュエルシードの進化系だから『ジュエルリーフ』と名付けてみた」

 

「あの、主、核鉄とは一体なんなのですか?」

 

 シグナムが困り顔で聞いてくる。他の騎士たちも似たような表情だ。

 

「いいか、核鉄というのはだな──」

 

 そこから2時間ほど、僕とはやてで武装錬金がいかに素晴らしいかを4人に教えた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「つまり核鉄を持ちながら『武装錬金!』と叫べばそいつに合った武装に変化するってことだな!?」

 

 その通りですヴィータちゃん。

 話が進むごとに目がキラキラしていたヴィータ以外は少し憔悴ぎみのようである。

 

「で、ちょうど4個あるから君らに1個ずつ貸与するよ、使ってみてね」

 

「おう! じゃあさっそくいくぜ、武装錬金!」

 

 ヴィータはテーブルからジュエルリーフをひとつ掴むと、思いっきり叫んだ。

 さて、どんな形になるやら。

 



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6話

「武装錬金!」

 

 ヴィータの、心の底からの叫びが大気を震わせる。100分の1秒で展開される青い核鉄『ジュエルリーフ』は変形しながらヴィータの前へ収束していく。

青い魔力光を放ちながら形作られたそれは──

 

 

 

 

 大きなぬいぐるみでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──第6話──

 

 

 

 

 

 

 

 

「の、のろいうさぎや」

 

 ヴィータの目の前には彼女と同じくらいの大きさの『のろいうさぎ』があった。

 

「なあなあ、のろいうさぎってなんだ?」

 

 まだのろいうさぎを知らないヴィータは、ぬいぐるみに興味津々な様子で聞いてきた。

 

「のろいうさぎというのはね、最近ゲーセンのUFOキャッチャーで人気のぬいぐるみさ。ヴィータの帽子にも付いてるはずだけど?」

 

「あ、ほんまや」

 

 のろいうさぎについてはよく知らないので適当に答えておく。

 さて、これはおそらく自動人形(オートマトン)の武装錬金といったところかな。自律行動して主人の補佐をするようなタイプだろう。

 

「ヴィータちゃん、ちょっとのろいうさぎに命令してみて」

 

「うん、じゃあ『バク転しろ』」

 

 すると、直立不動だったのろいうさぎが鮮やかなバク転を披露して見せた。

 

「おお! すげえ!」

 

「多分だけど、ヴィータちゃんが命令すればある程度自分で判断して行動すると思うよ」

 

 1人で特攻してしまうヴィータにはピッタリな武装錬金だね。みたいなことを他のヴォルケンズは思っているようで、得心した顔になっている。

 

「それじゃ、残りの3人もやってみようか。あ、強くイメージすればそれに近いモノが出るかもしれないからそうしてみるのもいいかもね」

 

「はい、では」

 

「「「武装錬金!」」」

 

 ピカッと光ってまずはシグナム。

 自身の武器であるレヴァンティンの強化を想像したのか、少々形状が変化している。カートリッジの部分が2つになっており、刀身が一回り小さくなっている。

 カートリッジの強化は分かるがあの刀身は………おそらく某主人公の『アレ』だろう。

 

 詳しく知りたい人は武装錬金を読みましょう。

 

 

 次はシャマル。

 シャマルは強化ではなく新武装を想像したようで、身長くらいの杖を持っている。

 さすがに杖というだけでは能力の判断がつかないな。

 

 

 最後に今のところ単独のセリフが自己紹介しかないザフィーラ。

 手甲(ガントレット)の武装錬金のようだ。能力は分からないが、まあ戦闘力の底上げにはなるだろう。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、ちょっと散歩にでも行ってくるよ」

 

「主、ならば誰かをお供に」

 

 シグナムが提言してくるけど、ちょっと今回はひとりで行かないとダメなんだよね。

 

「大丈夫だよ。それより僕が帰ってくるまでに八神ちゃんの手伝いをして夕飯作っといてよ」

 

「…………了解しました、お気を付けて」

 

 まだ何か言いたげだったが、主の命令ということで引き下がった。

 

 

 

 

 八神邸改め坂井邸から1歩出ると、怪しげな2人の男に囲まれた。

 

「貴様、一体何者だ?」

 

「何者と言われてもね。坂井祐一、奇跡遣いさ」

 

 2度ネタです。

 

「奇跡遣い? ふざけているのか!」

 

 あらあら怒られちゃったよ。

 

「あとはそうだねーーー闇の書の主とかやってるよ」

 

「「っ!?」」

 

 おー、驚いてる驚いてる。

 

「そんなはずはない、闇の書の主は八神はやてのはずだ。そもそもなぜ貴様が闇の書のことを知っている」

 

「他にも知ってるよ、リーゼロッテちゃんにリーゼアリアちゃん」

 

「「なっ!?」」

 

 さすがに自分たちの正体は知られてないと思っていたようで地が出ちゃってるよ。

 

「飼い主さんに言ってくれるかな。もう闇の書を封印する必要はないってさ」

 

「………何を根拠にそんなことを」

 

「だからさっき言ったじゃないか。僕は坂井祐一、奇跡遣いさ。どんな願いでも叶えることができる。ただし相応の対価を払えば、の話だけどね」

 

「………分かった、伝えておこう。ただ、我々は常に監視している。妙な気を起こすなよ」

 

「分かってる、こちらとしても管理局のお世話にはなりたくないからね」

 

 次の瞬間、2人はいなくなっていた。

 ………僕も魔法習おうかなー。

 



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7話

リーゼアリアside

 

 

 今回の接触の結果は、不明の一言に尽きる。

 なんなのだあの男は。

 いきなり監視対象の八神はやてに着いて来たかと思ったら、彼女の脚の麻痺を治すとか言って本当に治してしまうし、翌日には守護騎士たちを召喚して、しかも今の話が本当なら闇の書の主が変わっている。

 さらには不安要素である先日街中にばら撒かれたロストロギアの回収まで始めるし、もう何がなんだか。

 

 とりあえずお父様への連絡はしなければならない。

 だが、私たちがすべきことは変わらない。対象が八神はやてから謎の男に変わっただけだ。

 あの男はもう封印は必要ないと言っていたが、はいそうですかと信じるわけにはいかない。

 

「……奇跡、か」

 

 できるものならして欲しいよ。

 

 誰も犠牲にせずに闇の書を葬るなんて不可能なことを。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

「ただいまー」

 

 あのあと普通に散歩して帰ってきました。

 

「おかえりー、今夜はカレーやで」

 

「んじゃ辛さは極辛で」

 

「んなもん食えんわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第7話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 お子様もいるので甘口カレーになりました。

 だがただの甘口と侮るなかれ。辛すぎず、決して甘口の範疇を出ないが、その中で極限まで主張されているスパイスのハーモニーが………要するにギガうまと言うことです。

 

「ごちそうさまでした」

 

 さて、報告タイムだ。

 

「んじゃまずはシグナムから。蒐集は順調?」

 

「はい、滞りなく進んでおります。しかし、やはり人間以外の生物のみでは効率が少し悪いですね」

 

「そっかー。うんいいよそのままで。400ページに近づいたら報告してね」

 

「了解しました」

 

 次はジュエルシード組の報告。

 

「それじゃシャマル、報告お願い」

 

「はい。現在回収したのが、さきほど主がジュエルリーフに変化させた4個のみです。また、ヴィータちゃんの報告では回収したすぐ後に金髪で黒のバリアジャケットの少女が来たと言っていました」

 

「言われた通り戦わずに帰って来たけどなー」

 

 戦えなかったのが不満なのか少しぶーたれるヴィータ。

 

「次にもしその子と会ったら念話で教えてね。僕が行くまでなら足止め程度の戦闘は許可するよ」

 

「うっし! 次の探索は任せとけ!」

 

 こういう単純なところが心配になるな。頼んだよ、のろいうさぎ君。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばシャマルの武装錬金ってどんな特性なのか分かった?」

 

 報告の後は自由行動ということで、はやてとヴィータはスマブラに興じ、シグナムとザフィーラは無人世界で武装錬金の訓練兼魔力蒐集に行っている。

 

「あ、はい分かりましたよ。ただあまり使い勝手のいいものではなくて、どちらかといえば緊急時に使う様な特性ですね」

 

「へぇ、一体どんなのなんだい?」

 

「動きをトレースする、といえば良いのでしょうか。私が見たことのある動き、例えばシグナムの剣技を模倣して使用することができます」

 

「そりゃすごいじゃないか、どこが使い勝手が悪いのさ」

 

「それが………基本的に不可能な体の動きをするので自分にもダメージがくるんですよ。実際、主が散歩に行っている時に試して見ましたが、まだ肩が痛いです」

 

 それはまた使い所に悩む武装錬金だね。

 まあ、シャマルも限定的にとはいえ戦闘が可能になったな。

 これで原作の様にシャマルに敵が迫っでも多少は対処できる。とはいえシャマルの本業は魔法によるサポートだから、そっち方面の強化はなしか。

 

「そうだシャマル」

 

「なんでしょうか主」

 

「魔法教えて」

 

 

 

 

 

 

 シグナムたちが闇の書もってっちゃってデバイスがないからほとんど何も教えられないってさ……。

 

 自分専用のデバイスが欲しいとです……。



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8話

 はやてが緊急入院しました。

 

 

 

 

 

 

──第8話──

 

 

 

 

 

 

 まあ、当然といえば当然のことだ。

 今まで謎の脚の麻痺だったのがいきなり謎の回復を見せたのだ。定期検診に来た石田先生……だったかな? に見つかって即病院行きになりました。

 

「あかんっ、私がいな皆の食事がっ」

 

 とか言ってたけど問答無用でした。

 ちなみにはやてがいない間は僕だけ普通の食事で、ヴォルケンズは嗜好品──例えばヴィータのアイス──のみ許可しました。

 だって5人分も作るなんてめんどくさいじゃん。

 守護騎士たちに作らせたらどんな創作料理が出るか分かったもんじゃないからってのもあるけど。

 

「というわけで、はりきって蒐集にいきますか」

 

 今回は、場合によっては僕も直接出向く必要があるからね。

 一応の為にシャマルからジュエルリーフを返してもらっておく。

 使う機会がないのが一番なんだけど。

 

【祐一、例の黒い奴が来たぜ。今から戦闘に入る!】

 

 おっと念話だ。

 

【了解、今からそっちに行くから合図したら僕のところに来てね】

 

 んじゃシャマル、飛行魔法よろしく。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサside

 

 

 97管理外世界、現地名『地球』でのジュエルシード蒐集。

 それが母さんに頼まれたこと。

 始めは順調に進むかと思っていたが、予想外にも他の蒐集者が現れた。

 

 その数は2人。

 

 1人はいかにも初心者で脅威には思えなかった白い魔導師。

 そしてもう1人は──

 

 

「うらあぁぁぁぁっ!」

 

「くっ!」

 

 ──私の目の前で鎚型デバイスを振り回す赤い魔導師だ。

 こっちは玄人どころではない。

 自分より格上だとはっきり分かる。今も避けるだけで精いっぱいだ。

 でも、それでも負けられない。

 

 母さんの為に。

 

 母さんの願いが何なのかは分からないけど、それにジュエルシードが必要なんだったら──

 

「負けないっ!」

 

「はっ、上等!」

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

「おぉー、白熱してるねぇ」

 

「ですが圧倒的にヴィータちゃんの方が有利です。武装錬金を使うまでもないですね」

 

 冷静な分析のシャマル。

 確かに無印初期のフェイトのレベルではどう頑張ってもヴィータには勝てないかな。

 

 さて、そろそろ介入しますか。

 

【ヴィータちゃん、近くまで来たからこっち来てー】

 

【分かった!】

 

 ヴィータがいきなり後退したので不審がっているが、フェイトも続いてついて来た。

 

「っ! さらに2人も」

 

 敵が増えたことで苦い顔をしながらも、しっかりとバルディッシュを構えるフェイト。

 

「いやいや待ってくれよお嬢ちゃん。僕らは別に戦いに来たわけじゃないのさ。まあ、ヴィータちゃんには足止めしてもらっていたけど」

 

 両手を上げて敵意がないことをアピールする。

 

「なら、なにが目的なんですか。ジュエルシードが欲しいなら戦うしかありません」

 

「そうでもないさ。僕らと君らの目的は、似ているようで根本のところでは違っている」

 

「え?」

 

「君らはジュエルシードを使ってしたいことがあるだけで、ジュエルシード自体は別の物でも構わない。対して僕らはジュエルシード自体を目的としている。ほら違うじゃないか」

 

「…………あなたが何故こちらの目的を知っているんですか」

 

「目的以外も知ってるよ、フェイト・テスタロッサちゃん」

 

「っ! どうして私の名前を」

 

 だから目的以外も知ってるって言ったじゃないか。

 

「プレシア・テスタロッサに伝言があるから、伝えてね。『彼女の蘇生という願いを叶えたかったら僕のところに来てね』」

 

「蘇生? いったい何のことを」

 

「ああ、これは伝言のお駄賃だよ」

 

 そう言いながらヴィータが回収したジュエルシードを投げ渡す。

 

「え? あっ」

 

「それじゃ伝言よろしくね~」

 

 そう言い残して、シャマルの転移魔法で坂井邸に飛んだ。

 



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9話

フェイト・テスタロッサside

 

 

 伝言を残してジュエルシードをくれた人は、仲間の転移魔法でどこかへ行ってしまった。

 

「なあフェイト、今日の探索で何かあったのかい?」

 

「ううん、何もないよ」

 

 あの後合流したアルフにも分かるくらい、私は動揺していた。

 結局誰だったのかは分からなかったが、私や母さんのこと、更には恐らく──母さんのしたいことを知っていた。

 彼女の蘇生とはどういう意味なのだろう。

 お腹の中に重い物を抱く感覚に苛まれながら、私は時の庭園へと転移した。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プレシア・テスタロッサside

 

 

 フェイトがジュエルシードの探索から帰ってきた。

 いつもは数が少ないと言ってムチで叩くのだが、今回は別の理由でムチを振るっていた。理由は、謎の男からの伝言である。

 ふざけているのかと思ったら、その内容は私の悲願を正確に表していた。なぜこちらの情報を知っているのかという疑問より先に怒りが込み上げてきた。

 

 ふざけるな!

 

 私がどんな思いでアリシアの蘇生を研究しているか分かっているのか! それをさも簡単なことのように!

 腸が煮え返るような怒りをフェイトにぶつける。

 それが代償行為だと分かっていても。

 

「か、母さ、ん」

 

 フェイトが渡されたジュエルシードには、ご丁寧に謎の男──坂井祐一の自己紹介と家までの地図がプログラムされていた。こんな芸当はそんじょそこらの魔導師では不可能だ。

 

 いいでしょう、その話乗ってあげるわ。

 けれど、失敗した時は貴方の命が消えると思いなさい、自称奇跡遣い。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

──第9話──

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 フェイトとの邂逅から3日が経ち、はやてが退院してきました。

 検査の結果は筋力以外問題なし。

 まあ問題があったら困るんだけどね。

 

「結局お見舞いに来んかったな」

 

「結果の分かる検査入院にわざわざお見舞いなんて行かないよ」

 

「それもそうやね。ところでこの3日間、何があった?」

 

 はやてがキラキラとした目で魔法関係の話をせがんでくるので、ありのまま話してみた。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょい待ち、なんで祐一さんはそのフェイトちゃんの家庭事情を知っとるん?」

 

 んー、誤魔化すのも面倒だからぶっちゃけちゃうか。

 皆さんお待ちかねの信頼ブレイクだぜ。

 

「僕はね八神ちゃん、実は異世界人なんだよ。その世界をぶっ壊してこの世界に来たんだ。もともとの世界のアニメに『魔法少女リリカルなのは』というのがあって、ここはそのアニメに酷似した世界なんだよね。だからテスタロッサちゃんや八神ちゃんの事情ももちろん知っていて、それを利用したんだよ」

 

 軽蔑した?

 

「………」

 

 はやてはしばらく真剣な表情で僕を見つめると、

 

「たとえ利用されたんやとしても、祐一さんは私の願いを叶えてくれた。私に希望をくれたんや」

 

 だから、と言いながら車椅子から立って僕の方へゆっくりと歩いて来た。

 

「対価を払ったからこの言葉はお門違いかもしれへんけど、それでも、ありがとう」

 

 まるでゴールにたどり着いたかのように、はやては僕に抱きついてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 あれ? なんかぶっちゃけたことで更に信頼度上がってない?

 あれか、あのフラグっぽいヤツのせいか。

 まあ、話し相手と料理人が改めて手に入ったと思えばいいか。

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

「おっと、お客さんかな」

 

 やんわりとはやてを離しながら玄関へ向かう。

 

「はいはーい、今出ますよー」

 

 ガチャっと扉を開けると、

 

「やあ、いらっしゃいテスタロッサさん」

 

 そこには怖い顔をしたプレシア・テスタロッサがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 はやては自室にいるように念話で伝え、客人は居間に案内した。

 守護騎士たちは皆プレシアに対してかなり警戒している。

 

「おいおい皆、そんなに殺気立つなよ。お客さんに失礼だろ」

 

「は、失礼しました主」

 

 とは言いつつも最低限の警戒は怠らないようで、シグナムの視線は常にプレシアに向いている。

 まあ無理もないか。

 突然魔力ランクSだかSSの魔導師が訪ねてくれば警戒くらいするさ。むしろ、これでよく戦闘が起こらないものだよ。

 

「そいつらは何?」

 

 今度は警戒したプレシアが尋ねてきた。

 

「ああ、彼らは僕の守護騎士だよ」

 

「4人のベルカ式の守護騎士って、まさか貴方、闇の書の主なの?」

 

 さすが天才、ほんのわずかな証拠から真実を導き出すなんてね。

 

「なるほど、闇の書ならば死者蘇生の方法も載っているかもしれないわね」

 

「いやいや闇の書の主までは大正解だけど、それは違うよテスタロッサさん。僕の自己紹介ちゃんと聞いてた? 僕は坂井祐一、奇跡遣いさ。どんな奇跡だって叶えることができる。それと同等の対価があれば」

 

「ならあの子を、アリシアを生き返らせて! 何でも差し出すわ。あの子との幸せな生活がまた送れるのなら何でも!」

 

 とはいっても、死者蘇生はかなり大仕事なんだよね。まあできないわけではないんだけど。

 

「死者蘇生は本来願う者の全存在が対価なんだけど、肉体は残ってる?」

 

 知ってることだけど一応確認。

 

「ええ、生体ポットの中で腐敗しないように保存しているわ」

 

「なら少しは対価を減らせそうだね。えっとそうだな、僕らの持っていないジュエルシード17個とテスタロッサさんの魔力全て、そして人造魔導師フェイト・テスタロッサの所有権、そんなものかな」

 

「いいわ、ジュエルシードもフェイトも私の魔力も、アリシアが生き返るならすべて捧げるわ、だから──」

 

「うん、契約成立だ。ジュエルシードが全部集まったらまたここに来てね」

 

 ということで、解散。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕の言葉を信じるように『能力』を使ってたんだけど効果抜群だな。はやての時も使ったけど、心理誘導系は低燃費のようだ。

 さて、これでうまく行けば残りのジュエルシードとフェイト・テスタロッサという有能な魔導師が手に入るわけだ。

 まあフェイトは魔導師としてよりもオモチャとして欲しいという理由の方が強いんだよね。

 

 ああ、オモチャと言っても性的な意味じゃなくて弄ると面白そうだなという意味なので大きなお友達は間違えないように。

 

 

 

 

 

「主祐一、あの者は一体誰だったのですか?」

 

「死者蘇生とか、なんなんだよ一体」

 

 という感じにシグナムやヴィータに問い詰められたので、はやてと同じことを話しました。

 

 信頼ブレイクその2だぜ。

 もし本当にブレイクしたら『能力』で傀儡にするけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「主祐一、あなたはやはり我らが仕えるに値する方でした。改めて忠誠を誓います」

 

「ぐすっ、そっか、はやてもフェイトって奴も大変だったんだな」

 

「プレシア女史は、正直いい感情は持てませんでしたが、それでもお救いになるとはさすが私たちの主です」

 

 えー……なんでこっちも評価あがってんのさ。

 



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10話

「武装錬金!」

 

 どうも、坂井祐一です。

 只今、ジュエルシードを取り込んだ謎生物の相手をしています。

 ああ、ちなみに僕の武装錬金は不定形(アンノウン)の武装錬金、名前はとりあえず見た目からスライム君です。

 

「行け、スライム君」

 

 にゅるにゅる~と近づいて相手を拘束する。

 

「今だよ、高町ちゃん」

 

「うん! ディバイィィィィン、バスタァァァァー!」

 

 取り込んでたのはヤモリでした。

 

 

 

 

 

 

 

──第10話──

 

 

 

 

 

 

 

「手伝ってくれてありがとうございますなの」

 

「本当にありがとうございます」

 

「いやいや気にすることないさ」

 

 僕も実験が目的だったわけで、ちょうど相手を探してたんだよね。

 

 

 というわけで、高町なのはとユーノ・スクライアと会いました。

 そろそろこっちサイドにも接触しようと思ってたから丁度良かったけど。

 

「自己紹介がまだだったね、僕は坂井祐一、奇跡遣いさ」

 

「高町なのはといいます」

 

 奇跡遣いはスルーですか。

 

「ユーノ・スクライアです。あの、奇跡遣いってなんですか? 今まで聞いたことないんですけど」

 

 だって僕が自称してるだけだもん。他にいるわけがない。

 

「んー、それは秘密。なぜならその方がカッコいいからさ!」

 

「キャプテン○ラボーなの!」

 

 君も分かるのか高町ちゃん。

 

「じゃ、じゃあさっきの武装錬金って言ったのも」

 

「ああ、これが核鉄だよ」

 

 と言ってポケットからジュエルリーフを取り出す。

 

「キャー! 本物なの! 青いけど!」

 

「な、なのは落ち着いて。核鉄とか武装錬金って一体なんのことなのさ」

 

「ん、知らないのか。いいか、武装錬金というのはだな──」

 

 そこから2時間ほど、僕となのはによる武装錬金談義が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、どうして本物の核鉄があるんですか?」

 

 談義を終えたなのははようやくまともな質問をしてきた。

 ちなみにユーノはグロッキーな感じで地面に横たわっている。

 

「ああ、それはジュエルシードを変化させたからだよ」

 

「へえ…………ええ!?」

 

「そんな、危険です!」

 

 お、ユーノが復活した。

 

「大丈夫だよ。ジュエルシードの保有魔力の半分を使って魔力に指向性を持たせたから暴走なんかは起こらないよ」

 

「それでも、もとはジュエルシードだったんですから封印して回収しないと」

 

「つまりあれかい? 僕と戦って奪い取ると」

 

「そ、そういうわけでは」

 

「あはは、冗談だよ。そうだ高町ちゃん、高町ちゃんが持ってるジュエルシード、ひとつだけ核鉄にしてあげようか」

 

「ほ、ホントですか!? ぜひお願いします!」

 

「な、なのは………」

 

 なのはは目をキラキラ光らせながらレイジングハートからジュエルシードを出してきた。

 

「それじゃいくよー」

 

 ピカッと光ってはい終了。

 

「意外と簡単にできちゃったの……」

 

「そ、そうだね」

 

 2人とももっと派手なのを期待してたみたい。

 地味で悪かったな。

 

「ということで高町ちゃん。その核鉄は君が使うといいよ」

 

「え、いいんですか?」

 

「うん。ただしピンチの時以外は使っちゃダメだよ」

 

「はいっ! じゃあさっそく練習なの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方までなのはは魔法と武装錬金の練習をしていた。

 僕? 僕はただ見てただけ。だって練習なんて面倒じゃん。

 

「暗くなってきたし、終わりにしようか」

 

「はい、師匠!」

 

 適当にアドバイスしてたら呼び方が師匠にランクアップしていた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー、今夜はすき焼きやで」

 

「シメはうどんを希望」

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけで、ジュエルシード蒐集は中止して書のページを埋めるのに集中しようと思います」

 

「分かりました、主祐一」

 

 うん、返事はいいんだけど僕の狙った肉をとっていくのはやめてくれないかなシグナム。

 

「祐一さん、食卓は戦場なんやで。自分の箸以外は信じたらあかん」

 

「くっ」

 

 シグナムだけではない。他の守護騎士たちも皆、鍋の中の肉を奪い合っている。

 主として命令すれば肉は食べられるだろう。が、それをすれば奴らに敗北したことになる。

 

「負けて、たまるか!」

 

 これが第一次すき焼き戦争の幕開けである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なわけないに決まってるじゃないか。

 普通に皆仲良く食べたよ。

 

「さて、こっちの世界の食事は口に合ったかい? テスタロッサちゃんに使い魔ちゃん」

 

「は、はい。とても美味しかったです」

 

「うん、すっげー美味かったよ。あんたいい人だな!」

 

 というわけで、フェイトとアルフが居候することになりました。

 この間のプレシアとの契約でフェイトをもらえることになったから、先払いとして連れて行って欲しいと言われた。

 もちろん本人には契約のことは伏せてある。

 フェイトはもっと絶望したところで僕に依存するように刷り込まなくちゃね。プレシアには原作通りあのメッセージを最後に言ってもらう予定だ。

 

「そうだテスタロッサちゃん、君にいい物を貸してあげよう」

 

「? 何ですか?」

 

 ポケットからジュエルリーフを取り出した。

 

「これは何ですか?」

 

「これは核鉄と言ってね、『武装錬金!』って叫ぶとその人固有の武装を形成するロストロギアさ」

 

「すごい。でもそんな大事な物お借りしていいんですか?」

 

「もちろんいいよ。ただし、ピンチになった時以外は使っちゃダメだからね」

 

 フェイトは核鉄を握り、じっと見てから

 

「分かりました、お借りします」

 

 と言って頷いた。

 

「ねえねえ祐一、あたしのはないのかい? その核鉄ってやつ」

 

「アルフ、ダメだよ無理言っちゃ」

 

 フェイトがアルフをたしなめる。

 

「ごめんね、今君らに貸せられるのはそのひとつだけなんだ」

 

「そうかい、それがあればあのババアからフェイトを守れると思ったんだがねぇ」

 

「アルフ」

 

 核鉄があったとしてもアルフじゃプレシアには勝てないと思うけどね。

 

「僕らは契約の関係上、テスタロッサちゃんのジュエルシード集めを直接は手伝えないからね。そのお詫びみたいなものだよ」

 

「なんで手伝えないんだい? あんたらがいた方がフェイトも楽なのに」

 

「テスタロッサさんの願いの対価に残りのジュエルシードが含まれているからね、それを僕が集めちゃダメさ」

 

「『願い』に『対価』ねぇ。あのババアにどんな願い事があるのやら」

 

「………」

 

 不思議がるアルフと押し黙るフェイト。

 君らが考えても答えは絶対出ないのに。

 



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11話

「行ってらっしゃい」

 

「い、行ってきます」

 

「行ってくるよ」

 

「暗くなる前に帰ってくるんやでー」

 

 フェイトとアルフがジュエルシード集めに行くというのでお見送りです。そろそろ2人がガチでぶつかるあたりかなーと思いながら家に戻ろうとすると

 

「待て」

 

「うん?」

 

 後ろから呼び止められた。

 

「2人から話を聞いてね、交渉に来たのだが」

 

 

 

 

 

 

 

──第11話──

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、今日のお客さんはギル・グレアムさんです。

 今回ははやても関係者なので居間には坂井家全員集合となっている。

 

「それじゃ貴方が私に援助してくれとるグレアムおじさんなんですか」

 

「ああ、今まで一度も顔を出せずに申し訳なかった」

 

 まあ自分で氷結封印して殺そうとしていた相手に情が移るわけにはいかないからねぇ。

 

「そこにいる猫姉妹から聞いてると思うけど、まずは自己紹介からかな。僕は坂井祐一、奇跡遣いさ」

 

 このセリフ何回言ったかな。

 

「どんな願いも相応の対価があれば叶えられる、だったね。それは闇の書の消滅さえ可能なのかい?」

 

 顔を強張らせながら聞いてくるグレアム。

 

「まあ可能といえば可能だし、不可能といえば不可能なんだよね」

 

「…………それはどういう意味だね?」

 

 おお怖い怖い、さすがは管理局のお偉いさんだね。

 

「というかさ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう闇の書無いんだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 グレアムサイドの3人はぽかんと口を開けている。

 はやてはよく分かってないようで首を傾げている。

 

「なあなあ祐一さん。それどういうことなん? 闇の書言うんはそれなんやろ」

 

 と言いながらはやては僕が脇に抱えている書を指さす。

 

「この間リインフォースが出て来ただろ? その時ついでにバグの部分だけ消したんだ。だからこれは闇の書じゃなくて夜天の書なんだ」

 

 え? そんな描写は出ていないって?

 プレシアが来た時に一番殺気立っていたのはリインだし、そのあと2人の境遇を聞いて号泣してたのもリインだし、すき焼きで何気に一番肉を取ってたのも実はリインだったりする。

 ああ、プレシアの時の『4人』の守護騎士はリイン、シグナム、ヴィータ、シャマルのことで、ザフィーラは犬形態ではやてにもふもふされてたよ。

 

 バグの消去は簡単だったな。

 バグ、というか闇の書の闇はそれも含めて闇の書だから、願いは『闇の書の正常化』で対価は『闇の書の闇の魔力』とかもできちゃって全部書の中でどうにかなっちゃいました。だから外から見てると、書が光ったと思ったらリインフォースが登場っ! みたいな感じだった。

 

「そ、それでは私の望みは、闇の書の完全封印は……」

 

「うん、全くどうでもいい計画になっちゃったよ。残念でした」

 

 はっはっは、ざまぁ。

 あんたの計画なんて全部パァだぜ。

 と思っていると

 

「ありがとう、本当にありがとう」

 

 と涙を流しながら感謝されました。

 

 

 

 なぜに?

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと何故か友好的になったグレアムさんと歓談してデバイスが無いと言ったら「だったらこれを使うといい」と言われてデュランダルをもらいました。

 これでやっと魔法が使えるよ。

 

「それではそろそろお暇しようか。祐一君、本当にありがとう」

 

「いやいや僕の都合でやったことだからね、気にしないでいいよ。その代わり管理局には報告しないでね」

 

「ああ、約束するよ」

 

 そう言ってグレアムさんは帰宅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変だっ、フェイトが!」

 

 帰りが遅いなーと思っていたらやっぱりなのはとジュエルシードの取り合いで怪我する日でした。

 

「シャマルー、テスタロッサちゃんの治療頼むよ」

 

「はい、分かりました」

 

 さて、そろそろ管理局が介入してくる頃だな。

 なのはが僕の事を話しちゃうだろうから探されるより自分から出て行ったほうがいいかな。

 

「というわけで、次の探索は僕もついて行くからねー」

 

「は、はあ」

 

 治療の終わったフェイトは気の無い返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサside

 

 

 あの白い魔導師──高町なのはとのジュエルシードの取り合いで怪我をした。

 幸いジュエルシードは手に入れられたけど、バルディッシュが破損してしまったからしばらく捜索ができない。

 

 ──怒られる。

 

 そう思って帰ってみると誰も怒ることはなく、シャマルさんは治療までしてくれた。更に祐一さんは次の探索について来てくれると言う。

 それがどんな考えからなのかは分からないけど──私のことを心配してくれてたら、嬉しいな。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 壊れたバルディッシュは能力で直せるけど原作とタイミングがズレると悪いので、あえて自己修復機能に任せることにした。

 次はクロノの登場か。

 よくKYと言われているけど、別にそういうわけではないと思うんだよね。管理局員としてあそこで止めるのは正当なことだろう。そこにタイミングなんて関係ない。

 まあ、ジュエルシードが落ちてきてかなり時間が経ってから来たんじゃ管理局としてどうよとは思うけどね。

 

 さて、問題はストップをかけてくるクロノに対してどういうアクションをとろうか、である。クロノは恐らく逃げ出すフェイトを攻撃するだろうから、それを邪魔する感じでいいかな。

 僕のことは構わず逃げろ!的なことしてフェイトの好感度を上げられたら儲けもんだね。

 そうすると取り敢えずは防御系の魔法が必要だな。

 

「シャマルー、魔法教えてー」

 

「分かりました。どのような魔法にしますか?」

 

「んー防御系のと、できれば飛行魔法かな」

 

「あ、でも主のデバイスはミッドチルダ式ですよね。私たちのはベルカ式なので……」

 

「え」

 

「え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調べてみたらデュランダルの中に術式が入っていたので普通に使えました。



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12話

「ストップだ! ここでの戦闘は危険すぎる!」

 

 ということでクロノ君の登場シーンです。

 

 え? それまでの描写はないのかって?

 原作とほとんど同じなんだから飛ばすに決まってるじゃないか。僕はフェイトについて行ったけど、なのはに見つかると面倒だから草むらに隠れてたし。

 さて、そろそろ僕の出番かな。

 

「デュランダル、セットアップ。あ、テスタロッサちゃんはすぐに逃げてねー、僕が足止めしとくから」

 

「え? でも」

 

「フェイトっ、引くよ!」

 

 いきなりで戸惑うフェイトだったが、アルフが強引に連れて行った。

 

「そう簡単に行かせると思うのか」

 

 デバイスを構えるクロノだが、

 

「まあまあ、こっち側の事情なら僕が話すからあの子は見逃して頂戴よ」

 

 と言ってデュランダルを手放して両手を上げたらなんとか了承してくれた。

 

「な、なんで師匠がフェイトちゃんと一緒にいるのぉー!?」

 

 おっと、まだなのはに説明してなかった。

 

「ま、その辺は艦に行ってからでいいかな? 管理局員君」

 

「ああ、君らの身柄は一時的に拘束させてもらう」

 

 そんなわけでアースラへ移動。

 

 

 

 

 

 

 

──第12話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースラ艦内でのユーノ人間化イベントを消化し、日本風の部屋へご招待された。ちなみになのはは僕のこととユーノのことで頭がぐるぐるになっている様だ。

 

「アースラへようこそ。私はこの艦の艦長、リンディ・ハラオウンです」

 

「高町なのはです」

 

「ユーノ・スクライアです」

 

「ご丁寧にどうも、僕は坂井祐一です」

 

 年上なので一応敬語で。

 

「さて、自己紹介も済んだところで、あなたたちの事情を説明して欲しいのだけれど」

 

 

 ユーノ君説明中。

 

 

「なるほど、あなたたちの事情は分かったわ。立派だわ」

 

「だが無謀でもある」

 

 でも次元震があるまで分からなかった管理局は無能だと思います。

 

「では、あなたの方の事情も説明してもらえるかしら」

 

「いいですよー。まあ簡単に言っちゃうとプレシア・テスタロッサが黒幕で僕はそれに巻き込まれた感じですね」

 

 みたいな感じに僕が不利にならないように説明した。

 

「あと祐一さんにはレアスキルがあるようです。ジュエルシードを別のものに変化させるような能力でしたよね」

 

「ジュエルシードを変化? 詳しく教えてくれないかしら」

 

「ちょっと誤解があるようなので訂正しますね。僕は奇跡遣いと自称しています。どんな願いでも対価さえ払えば叶えることができるという能力なのでね」

 

「そんなレアスキル、聞いたこともないわ。しかも本当なら破格の能力ね、事実上なんでもできるなんて」

 

 驚愕するアースラメンバー。

 

「だからジュエルシードを高町ちゃんが持っているようなものに変えるなんで朝飯前なわけですよ」

 

「ふぇ!?」

 

 いきなり自分の名前が出て驚くなのは。

 

「なのはさん、良ければそれを見せてくれないかしら」

 

「は、はい。レイジングハート」

 

 レイジングハートから取り出したジュエルリーフをリンディさんはまじまじと見ている。

 

「封印処理はされてないようだけれども大丈夫なのかしら?」

 

「平気平気。変に願いを叶えるなんてこともないし暴走することもないよ。それはね、人の闘争本能を具現化するのさ。僕はジュエルリーフと呼んでいるよ」

 

 あ、敬語取れちゃった。まあいいか。

 

「え? 核鉄じゃないんですか?」

 

「正確には違うよ高町ちゃん。これはあくまで核鉄を模しているだけさ。まあ性能的にはあまり違いはないけどね」

 

「あの、その核鉄というのは一体なんなの?」

 

「ああ、核鉄というのはね──」

 

 僕は武装錬金についてリンディさんたちに2時間程語ってから能力で家に帰りました。

 クロノがバインドで止めようとしたみたいだけど無駄無駄、魔法では僕の能力は抑えられないよ。

 

「というわけで、ただいまー」

 

 はやてに帰りが遅いと怒られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと何回かジュエルシード蒐集に行ったフェイトの証言からすると、結局なのはは原作通りに管理局の手伝いをしているみたい。

 

 「そろそろ2人のガチ勝負かな? 楽しみだねぇ」

 

 これを盛り上げるためにわざわざ両陣営に接触してジュエルリーフを渡したからね。

 

「仕掛けは上々。はてさてどんな戦いになるのやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサside

 

 

 海鳴市内は何度も探索した。

 それでも残りのジュエルシードは見つからなかった。これだけ探してもないということは、きっと残りは……。

 

「海にあるかもね」

 

「祐一さん」

 

「残りのジュエルシードのこと。高町ちゃんもまだ気づいてないみたいだから早めに行った方がいいかもね」

 

「は、はい。じゃあこれから行ってきます。アルフ、行くよ」

 

「ああ! じゃあ行ってくるよユーイチ!」

 

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 

 母さんのために、絶対に手に入れないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 海上に到着した。

 探し方は前にもやったことのある、魔力を流して無理やりジュエルシードを暴走させる方法しかないだろう。

 バルディッシュに魔力を込めたその時、空から紫色の雷撃が海に落ちた。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

【もしもし、テスタロッサさんですか?】

 

【……何の用かしら奇跡遣い】

 

【うん、テスタロッサちゃんがさっきジュエルシードを探しに海に向かったんだけど、ちょっと手伝ってあげて欲しいんだ】

 

【……具体的には?】

 

【簡単だよ。海に向かって雷撃を時間差で2発ぶちこんでくれればいいだけさ】

 

【なるほど、1発目で暴走させて2発目で魔力ダメージを与えるのね。でも断るわ。それは契約にないもの】

 

【だから契約に追加しようと思ってね。それをやってくれたらテスタロッサさんの病気を治してあげる。せっかく娘が生き返っても自分が病気で死んだら意味ないでしょ?】

 

【……分かったわ】

 

 念話終了っと。

 

 よし、これでだいたいのジュエルシードがフェイト側に集まるな。フェイトが鞭で打たれることもないだろう。

 僕のオモチャになる予定なんだから傷がないほうがいいもんね。

 

 まあ、心の方には特大の傷をつけてもらうつもりだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレシアの雷撃で暴走した7つのジュエルシードは2発目の雷撃でほとんどが封印できる状態になり、慌てて出てきた管理局員(たぶんクロノ)が回収するよりも先にすべて奪取できたらしい。

 

「じゃあ果たし状でも送っておくかな」

 

 なのはに念話を送る。

 

【やっほー元気? 坂井祐一だよ】

 

【わわ、びっくりしましたよ師匠。何か用ですか?】

 

【うん、テスタロッサちゃんがね、明日ジュエルシードを賭けて決闘しようって】

 

【……分かりました。最初で最後の本気の勝負、やらせてもらいます】

 

【じゃ、伝えておくから。明日の正午、海上でね】

 

【はい!】

 

 ということで念話終了。

 次回は2人の決闘だね、お楽しみに。

 



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13話

 翌日。

 

「というわけでテスタロッサちゃん、高町ちゃんとのガチバトルだけど大丈夫かい?」

 

「はい。母さんのためにも、祐一さんのためにも絶対に勝ちます」

 

 なんで僕のためにが入ってるのかは謎だけど、とりあえずモチベーションは高いみたいでなによりだ。

 

「さてと、それじゃそろそろ時間だし行こうか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサside

 

 

 約束の場所にはすでに彼女がいた。

 

「フェイトちゃん……」

 

「賭けるのは互いの持つジュエルシード全て。異論はある?」

 

「……ううん、ないよ。じゃあ始めよっか、最初で最後の、本気の勝負」

 

【カウントダウンは僕がするね】

 

 祐一さんの念話。

 ここに来る途中で別れた海辺の公園から見てくれているんだろう。

 私とアルフを家族みたいに迎えてくれた、私の大事なひと。

 

【3】

 

 彼が見ていてくれるというだけで気持ちが昂る。

 

【2】

 

 きっと私は、彼の事が好きなのだろう。

 

【1】

 

 この戦いが終わったら伝えられるかな、私の気持ち。

 

【0】

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

──第13話──

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 うーん、管理局に見つからない様に飛行魔法は使わずに海辺から見ているけど、びゅんびゅん飛んでばしばし撃っているようにしか見えない。

 やっぱりアニメみたいにアングルが良くないとイマイチだな。

 まあ、見た限りではフェイトの方が優勢かな。

 逃げるなのはと離れる事なく近接攻撃を繰り出し、なのははシールドでなんとかしのいでディバインシューターで反撃している感じ。

 でも近距離すぎてタメの必要なディバインバスターとかは撃てないでいる。

 

 逆にフェイトは得意の近接戦闘で優位に立っていてダメージもまだない。このまま押し通せばフェイトの勝ちだが、そう簡単にはいかないのが人生です。

 

「さあ、見せてあげな高町ちゃん。君の新しい力を」

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高町なのはside

 

 

 戦いが始まって、フェイトちゃんは私から離れる事なく金色の魔力刃を振るっている。私はなんとか防いでいるけど、もうそれも限界に近いの。

 

「師匠、使わせてもらいます」

 

 ディバインシューターでわずかな隙を作り、懐から核鉄を取り出す。

 

「それは!」

 

 驚愕するフェイトちゃん。それが私にこの言葉を叫ぶ時間をくれた。

 

 

 

 

「武装錬金!」

 

 

 

 

 レイジングハートに青い核鉄が重なり新たな姿になる。

 隙間の開いた大きな槍状の刀身が形成され、その上下の桜色の刃の間から銃口が覗いている。

 

銃槍(ガンランス)の武装錬金、スターライトハート!」

 

 未だに驚いているフェイトちゃんにスターライトハートで切り込む。

 さすがに反応してバルディッシュで防ぐが、今までにない力によって大きく距離が空く。

 これは、私の距離なの。

 

「ディバインバスター!」

 

 スターライトハートになったことで今まで必要だったタメが大幅に短縮されたの。だから──

 

「3連、ディバインバスター!」

 

「くっ!」

 

フェイトちゃんは持ち前のスピードで避けているが、連続のディバインバスターによって再び距離を詰められないでいる。

 

「このまま撃ち落と──えっ!?」

 

 突然空中でバインドによって拘束された。

 

「私は別に遠距離が苦手なわけじゃないよ。フォトンランサー・ファランクスシフト」

 

 フェイトちゃんの周りには数えきれないほどの光球が浮いている。

 

「撃ち砕け、ファイア!」

 

 光球から雷の槍がこちらに向かって撃ち込まれる。

 

「防げるかどうか分からないけど、やってみるの。連続、ディバインバスター!」

 

 金色の槍と桜色の砲撃がぶつかり合うが、あちらの方が数が多いため撃ち漏らしが私の体に直撃する。

 

「ああああっ! ディバインバスター!!」

 

 次第に被弾数が増えていき、ついには金色の弾幕に飲み込まれていった。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサside

 

 

 残りの魔力のほとんどを使ったフォトンランサー・ファランクスシフト。

 

「これでダメなら後は……」

 

 大量の魔力弾で巻き起こった煙が晴れると、そこにはまだ彼女がいた。

 バリアジャケットはぼろぼろで満身創痍な様子だが、それでもまだこちらをまっすぐ見ている。

 

「なら、こうするしかないね。武装──なに!?」

 

 ジュエルリーフを取り出そうとした左手がピンクのバインドによって止められた。

 さっき私がした様に。

 

「使わせないよフェイトちゃん。今度は、私の番なの」

 

 彼女のデバイスの先に魔力が集まっていく。

 あれは──

 

「集束魔法!?」

 

 高難易度の技術を魔法に触れて数ヶ月でモノにするなんて。

 などと考えている余裕はない。早くバインドを解除しないと。

 しかし──

 

「なっ!」

 

 残りの四肢もバインドで拘束されてしまった。

 

「行くよ、フェイトちゃん。スターライトハート、ランスモード」

 

 先が開いていた槍が閉じられ、鋭い先端になる。

 

「この集めた魔力全部を推進力にするの。エネルギー全・力・全・開!!」

 

 集めた魔力が彼女の全身を包む。

 

「スターライトォォォ、スマッシャァァァ!!!」

 

 ドンッ!という音と共に彼女は凄まじい速度で私に突っ込んできた。

 こんな攻撃、当たれば間違いなく負ける。

 でも、バインドで拘束されている私に回避は不可能。

 

(ごめんなさい母さん、祐一さん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガキン、と金属どうしがぶつかる音がした。

 自分の胸元を見ると、しまっていたはずのジュエルリーフが彼女の突撃と拮抗していた。

 

 戦え。

 

 そう言われている気がした。

 

 戦え。

 

 ううん、気のせいじゃない。

 

 戦え。

 

「うん、戦う! 武装錬金!!」

 

 彼女と拮抗していたジュエルリーフがその姿を変える。

 



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14話

フェイト・テスタロッサside

 

 

「武装錬金!」

 

 彼女の突撃によって表面に罅の入ったジュエルリーフを手に取り、叫ぶ。

 無理に使用して壊れるのではないかという考えは、なぜか起きなかった。この罅は破損というよりもむしろ孵化に近いと感じた。

 ジュエルリーフから青い魔力光に混ざって黒い魔力光が放たれる。

 

 これは、なに?

 分からない。でも強い力を感じる。

 ならば何だっていい。

 彼女に勝てるなら、母さんのためなら、祐一さんのためなら、私は悪魔に魂を売ってもいい。

 

 だから──

 

「力をください」

 

 ひび割れた表面は砕け散り、黒いジュエルリーフが姿を現した。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

──第14話──

 

 

 

 

 

 

 

 

高町なのはside

 

 

 私の最大の一撃が核鉄で止められた。

 それだけならまだいい。某主人公も使った手だ。

 でも、突撃によって破損した核鉄の中から黒い魔力光が出た時、嫌な予感がした。

 

「力をください」

 

 フェイトちゃんがそう呟いた直後に、黒い核鉄が姿を現した。

 それを手に取った左手から、フェイトちゃんの白かった肌が赤銅色に変わっていく。

 その変化は全身にまわっていき、金色だった髪は淡く光る蛍火色になった。

 これを、私は知っている。

 

これは──

 

「ヴィクター化、なの」

 

 全身が震える。

 

処刑鎌(デスサイス)の武装錬金、バルディッシュ・ブースト」

 

 左右の太腿に巻かれた帯状のアタッチメントにそれぞれ5本ずつ、計10本のアームの先にはフェイトちゃんのデバイスの縮小版がついていた。

 その内の2本が一瞬ブレたと思ったら、私は海面に叩きつけられていた。

 

「くっ」

 

 スターライトハートで反撃しようと銃口を向けた直後、体から残り少ない魔力が抜けていくのが分かった。

 これも知識としては知っている。

 これは、エナジードレイン。

 厳密には、それの魔力版。

 究極の集束魔法と言ってもいい。自身の周囲の魔力を自動で吸い取る『習性』

 ああ、この『生物』に勝つのは無理だ。

 

「アークセイバー」

 

 私に向かってくる11個の魔力刃を見て、私は思った。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 というわけで、なのはvsフェイト戦の勝者はフェイトでした。

 いやぁ確かに能力で黒い核鉄を仕込んでおいたけど、まさかこうも上手く発動するとは思わなかったよ。

 ああ、ちなみにこのヴィクター化は戻れなくなるなんてことはない安心設計だよ。

 

 さて、これで守護騎士が持っているもの以外のジュエルシードはフェイト陣営が手に入れたことになる。

 あとはプレシアにフェイトの心を壊してもらってアリシアを蘇生させれば終わりかな。

 



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15話

 海に落とされたなのはを回収したフェイトがこっちに飛んできた。

 

「テスタロッサちゃん、ヴィクター化を解除しないとせっかく回収してきた高町ちゃんが虫の息だよ」

 

 間近で魔力を吸われてるなのははぐったりしていてそろそろ限界みたいだ。

 僕? 僕はまだ魔力がジュエルシード8つ分くらいあるからこの程度の吸収は全然平気さ。

 

「あ、はい」

 

 闘争心を抑えてヴィクター化を解除するフェイト。

 

「さて、レイジングハート、でよかったかな? 約束通り残りのジュエルシードを出してもらうよ」

 

「………put out」

 

 レイジングハートから4つのジュエルシードが出てきた。

 

「じゃあテスタロッサちゃん、それらとジュエルリーフを回収してお母さんと一緒にウチに来てね。僕は先に帰ってるから」

 

「はい、分かりました」

 

 では管理局が来る前に撤収しますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

──第15話──

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト・テスタロッサside

 

 

 今私は回収したジュエルシードを持って母さんのいる時の庭園にいます。

 これで母さんの願いが叶う。

 嬉しいことのはずなのに、なぜか私の心は沈んでいる。

 

 何か嫌な事が起こる。

 そんな予感がする。

 

「どうしたんだいフェイト。どこか調子でも悪いのかい?」

 

「大丈夫だよ、アルフ」

 

 そう、きっと気のせい。

 そう自分に言い聞かせて母さんの所まで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん、ジュエルシードを回収して来ました」

 

 これで祐一さんが持っているもの以外のジュエルシードが集まった。

 

「バルディッシュ」

 

「put out」

 

 バルディッシュから取り出したジュエルシードは母さんの方へ飛んで行き、周りを囲むように公転している。

 16個のジュエルシードと1個のジュエルリーフ。

 

「これで全ての対価が集まったわ。ようやく、ようやく願いが叶う」

 

 母さんの願いが何なのか、私は知らない。

 だから……

 

「……母さんの願いって、何?」

 

「ああ、あなたは知らなかったわね。いいわ、教えてあげる。私の願いは、アリシアの蘇生よ」

 

 アリ、シア……?

 

「そうよ、あなたのような出来損ないのお人形さんじゃない、完全なアリシアを取り戻せるのよ」

 

 出来損ない?

 人形?

 

「いい事を教えてあげるわ。フェイト、あなたはねアリシアを元に作られた人造魔導師なのよ」

 

 人造、魔導師?

 

「アリシアの蘇生の対価が手に入った今、あなたは用済みなの。ああ、そうそう言い忘れてたわ。フェイト、私はあなたがずっと大っ嫌いだったのよ!」

 

 母さんが私を見る目は、何の興味のない無機質なものだった。

 ああ、母さんは本当に私が嫌いなんだ。

 アルフが母さんに向かって行ったが、私は動くことができなかった。

 

 

 もう何もかもがどうでもよくなってしまった。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

【もしもしテスタロッサさん、準備はOK?】

 

【ええ、今から転移するわ】

 

 部屋ではアリシアの生体ポットを置く場所が無いので庭に転移してもらう。

 お、フェイトがいい感じに壊されてる。

 

「では対価を払ってもらおうか、テスタロッサさん」

 

「ええ、受け取りなさい」

 

 そう言うとプレシアの周りを回っていたジュエルシードとジュエルリーフがこちらに来る。

 続いて僕とプレシアの間に魔力のパスが繋がり、こちらに魔力が流れてくる。

 

「くっ、さすがに全魔力の譲渡はキツイわね。あとは、フェイト」

 

「……はい」

 

 虚ろな目をしたフェイトが返事をする。

 

「対価にはあなたも入っているわ。せいぜい奇跡遣いに可愛がってもらうのね」

 

 フェイトがおぼつかない足どりでこちらへやって来る。

 

「……祐一さん」

 

「うんうん、分かってるよ。お母さんに捨てられちゃったんだよね。大丈夫、僕は『フェイトちゃん』を捨てたりしないよ。目一杯愛でてあげる。いくらでも依存させてあげる。だから僕のものになってよ」

 

 僕はフェイトを抱き寄せた。

 フェイトは僕の目を見て、

 

「……はい」

 

 とはっきり応えた。

 

「……茶番はもういいかしら。対価は払ったんだから早くアリシアを蘇生しなさい!」

 

「まあそう興奮しないで。対価を払ったのなら願いは叶っているはずだよ」

 

 そう言うとプレシアは生体ポットを開け、アリシアのバイタルを確認した。

 

「アリシア!」

 

 ふぅん、どうやら生き返ったようだね。

 

「これはサービスだよ。時の庭園まで送ってあげよう。魔力が無いんじゃ帰れないだろう?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 んじゃ能力で転移、と。

 

「奇跡遣い、最後に礼を言っておくわ」

 

 ありがとう。

 

 そう言い残してプレシアとアリシアは転移して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばフェイトちゃん、使い魔ちゃんはどうしたの?」

 

「……分からないです。母さ……あの人に向かって行って、その後どこかに行っちゃいました」

 

 原作みたいにプレシアにつっかかって返り討ちにあってどこかに転移したのかな?

 

「それじゃあ能力で使い魔ちゃんを召喚しちゃおう」

 

 というわけで、適当な魔法陣で召喚~。

 すると傷だらけのアルフ(犬形態)が出てきました。

 

「使い魔ちゃん、大丈夫?」

 

「ユーイチ! フェイトが大変なんだ! ってフェイト!? 大丈夫なのかい!?」

 

「うん、祐一さんがいるから大丈夫だよ」

 

「フェイト?」

 

「祐一さんは私を捨てない祐一さんは私を見てくれる祐一さんは私を愛してくれる祐一さんは────」

 

「ゆ、ユーイチ、フェイトはどうしちゃったんだい?」

 

「フェイトちゃんはね、今まで心の支えだったテスタロッサさんに捨てられて心が壊れちゃったんだ。だから僕が新しい支えになってあげたんだよ」

 

 まあお膳立てをしたのは僕なんだけどね。

 

「そうだったのかい。クソッ、あのババアめ! ……ありがとよユーイチ、これからもフェイトを支えてやっておくれ。もちろんあたしも支えるけど、あたしだけじゃできないことだからさ」

 

「もちろんさ、だってフェイトは──」

 

 ──僕の(オモチャ)なんだから。

 

「だってフェイトは、何なんだい?」

 

「いや、なんでもないよ。それよりその傷をシャマルに治してもらわないとね」

 

 僕らは家の中に入って行った。

 



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16話

「祐一さん、今日は何が食べたい? 好きなもん作ったるで」

 

「祐一さん、今日はふたりで外食にしましょう。ついでに街も見て回りましょう、ふたりで」

 

 こんにちは、坂井祐一です。

 現在僕はソファーの上ではやてとフェイトに挟まれています。更にふたりとも僕の腕を掴んで体を密着させてくる。

 いや、僕別にロリコンじゃないからそんなことされても特に嬉しくないんだけどな。

 

「フェイトちゃん、いい加減諦めたらどうや。祐一さんの胃袋は既に私が握ってるんやで」

 

「はやてこそ諦めたらどう? 私はこの間のご褒美にデートしてくれるって約束してるんだ。邪魔しないでくれる?」

 

 確かにはやてのご飯は美味しい。最近ははやてのご飯じゃないと満足できないくらいになっている。だが、フェイトがなのはに勝ったご褒美になんでも聞いてあげると言ったのも事実である。

 それがデートになるとは思ってもみなかったが。

 

「まあまあ、ふたりとも落ち着いて。そうだね、お昼はフェイトちゃんと一緒にどこかで食べてくるよ」

 

 それを聞くと、はやてはしょぼんとして下を向いた。

 いや、そんなに残念がらなくても。

 

「ああ、でも夕飯は八神ちゃんが作ってくれるご飯が食べたいな。どう? 作ってくれる?」

 

「も、もちろんや。びっくりするくらい美味しいもん用意するから楽しみにしててや」

 

 これではやての機嫌は大丈夫だろう。と思ったところで反対側からぐいぐいと腕を引っ張られる。

 

「じゃあ行きましょう、祐一さん」

 

 そう言ってフェイトは僕の腕を引っ張って坂井邸を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

──第16話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけでフェイトとデートです。

 

「~♪」

 

 僕の腕に自分の腕を絡めて若干歩きにくいくらい密着してくるフェイト。

 プレシアに捨てられて僕のものになってからのフェイトは、一言でいうとべったりだ。

 朝のおはようから夜のおやすみまで──時には寝てる時まで──可能な限り僕と一緒にいようとする。

 そのことに何故かはやてが反発して、ウチはさっきのようなことが日常茶飯事になっている。そこにたまにリインが「私もかまってください」みたいな感じで混ざってくるからもうカオスだ。

 

「祐一さん。祐一さんは何が食べたいですか?」

 

 そんなことを考えていると上機嫌なフェイトが話しかけてきた。

 

「そうだね、一度行ってみたかったお店があるからそこに行ってみようか」

 

「はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カランカラン、と店のドアに付いているベルを鳴らしながら僕とフェイトは目的のお店に入った。

 

「いらっしゃいませー」

 

 メガネをかけた女性の店員さんが席に案内してくれる。

 

「えーと、サンドイッチセットひとつと、フェイトちゃんは何がいい?」

 

「私も祐一さんと同じものを」

 

「じゃあ、サンドイッチセットふたつでお願いします」

 

「はい。当店自慢のシュークリームはご一緒にいかがですか?」

 

「あー、じゃあそれもふたり分」

 

「ありがとうございます」

 

 さて、勘のいい人は分かると思うけど、僕が来たかった店というのは『翠屋』のことだ。

 さっきの店員はおそらく高町美由希だろう。

 ここのシュークリームは絶品との噂だから一度食べてみたかったんだよね。ほんとは帰りにお土産として買って行こうと思ったんだけど、ここでひとつ食べるのもいいだろう。

 

 

 

「じゃあ、なのはが抱えていた問題は一応は解消されたってことね」

 

「うん、ちょっと不本意な終わり方だったけど」

 

「でもアリサちゃんとなのはちゃんが仲直りできてほんとに良かった」

 

 

 

 ん?

 後ろからなにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り向いて見てみると、

 

「やあ、高町ちゃん。奇遇だね」

 

「え? し、師匠!? それにフェイトちゃん!?」

 

 なのは、アリサ、すずかの仲良し三人娘がいた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、紹介するの。私の師匠、坂井祐一さんとフェイト・テスタロッサちゃん。師匠、フェイトちゃん、こっちは私の親友のアリサ・バニングスちゃんと月村すずかちゃんなの」

 

「どうもご紹介に預かりました坂井祐一だよ、よろしくね」

 

「フェイト・テスタロッサです」

 

「あたしはアリサ・バニングス……です」

 

「はじめまして、月村すずかです」

 

 あのあと店員さんに頼んで全員が座れる席に移動して、まずは自己紹介ということで両方のことを知っているなのはを仲介しておこなった。

 にしても、アリサはあからさまに警戒しているし、すずかは笑顔だが若干硬い。

 まあ、自分の友達にこんな年上の怪しげな知り合いがいれば警戒もするよね。

 

「そう緊張しなくてもいいよ、バニングスちゃんに月村ちゃん。高町ちゃんとは、そうだね、同好の士といったところかな」

 

「それで『師匠』ですか」

 

 とアリサ。

 

「そ、だから君たちが心配しているような怪しい関係じゃないよ」

 

「……一応信用します。なのはの知り合いなら大丈夫でしょ」

 

「あの、なのはちゃんとは何の同好の士なんですか?」

 

「ん? ああ、それは秘密。なぜならその方がカッコいいから」

 

「「キャプテンブラ○ー!?」」

 

 君たちも知ってるのか。

 何? 海鳴市では武装錬金が流行ってるの?

 

「ということで、武装錬金についての師匠だよ。ほら、これが自作した核鉄だよ。青いけどね」

 

 そう言って僕はポケットからジュエルリーフを取り出して見せた。

 

「うわ、材質から装飾まで凝ってるんですね。なぜか青いけど」

 

「ほんと、よくできてますね。青いですけど」

 

「で、これが原材料の石さ」

 

 ぶふぉー、となのはが勢いよく紅茶を吹き出した。

 

【な、なにさらっとジュエルシード出してるんですか! もし暴発したらどうするんですか!】

 

 念話で文句を言ってくるユーノ。

 というか居たのね、君。

 

【大丈夫大丈夫、ちゃんと封印処理はしてあるから】

 

「ど、どうしたのよなのは。急に吹き出したりして」

 

「なのはちゃん大丈夫?」

 

「だ、大丈夫なの。ちょっとむせちゃっただけ」

 

「まあ大丈夫ならいいけど。それで、坂井さんとの関係は分かったけどそっちの子とはどういう関係なの?」

 

「えっと……」

 

 ちらっと僕の方を見てくるなのは。

 

【師匠、どこまで話せばいいですかね】

 

【んー、魔法以外のことなら喋っちゃってもいいんじゃない?】

 

とはいえ、魔法を絡めないでなのはとフェイトの関係を説明するのはなかなか難しい。前言撤回、面倒だからバラすか。

 

「イッツ、マジック」

 

 パチンッ、と指を鳴らす。

 すると辺りはモノクロの世界になり、店内にいた人は消えた。

 

「な、なによこれ」

 

「どうなっちゃってるの?」

 

 驚いて席から立ち上がるアリサとすずか。

 

「まあまあ、落ち着いてふたりとも。これから僕たちが本当はどういう関係なのかを説明するよ」

 

 僕は紅茶を一口飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「つまりあんた達は魔法使いでこのジュエルシードってのを巡って争ってたってことね」

 

「まあ、概ねそんな感じだね。で、最終的にフェイトちゃんが勝利してジュエルシードを総取りしたのさ。そしてその中のひとつがこれ」

 

「今まで黙っててごめんなさい。魔法関係は一般人に話しちゃいけないの」

 

「ボクもごめん。ボクがジュエルシードをばらまいちゃったせいでふたりが仲違いしちゃって」

 

 すまなそうにしているなのはとユーノ。

 

「ああ、もういいから! そんな風にしない! この話はもう終わったんだから! ね、すずか」

 

「うん、なのはちゃんもユーノ君ももう気にしないで」

 

 うんうん、仲がいいのは良いことだ。

 この友情がぶっ壊れるのも見てみたいと思うけどね。

 

「さて、話も終わったことだし、僕らは帰るよ」

 

「え、もう帰っちゃうんですか? 師匠」

 

「うん。それともなにか話したいことでもあったかい?」

 

「えっと、師匠にじゃなくてフェイトちゃんに……」

 

「……──え? 私?」

 

 今まで会話に参加せずにずっと僕の腕に絡まっていたフェイトは、きょとんとした顔をした。

 

「うん。それでできればふたりきりで話がしたいんですけど、できますか? 師匠」

 

「お安いご用だよ高町ちゃん」

 

 能力を使ってふたりを隔離した。

 

「き、消えちゃった」

 

「う、うん」

 

 残ったアリサとすずかは、いきなり消えたなのはとフェイトにびっくりしている。

 

「あの、これも坂井さんの魔法なんですか?」

 

 おずおずとすずかが質問をしてきた。

 

「ああ、これは魔法じゃなくて僕固有の能力、レアスキルと呼ばれるものさ」

 

「えっと、空間を隔離する能力なんですか?」

 

 確かに今のを見ただけじゃそういう風に見えるね。

 

「いやいや、僕の能力はそんな限定的なものじゃないよ。僕の能力はね、『対価を払えば願いを叶えることができる能力』さ」

 

「対価、ですか」

 

「それって、対価を払えば何でもできるの?」

 

「そうだよ。不治の病も大きな怪我も特異な体質も何でも治せるよ」

 

 などと伏線を張ってみる。

 

「特異な、体質……」

 

 それを聞いて俯くすずか。

 

「へぇー、すごい便利なのね」

 

「そうとも限らないよ、バニングスちゃん。大きな願いを叶えるにはそれ相応の対価が必要だからね」

 

「あ、あの!」

 

「ん? 何だい、月村ちゃん」

 

「この後、お時間ありますか?」

 



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17話

 暖かい陽気の中、広い庭を一望できるテラスで飲む紅茶は、良い茶葉を使っているというのもあるけどなんだか美味しく感じるな。

 

「紅茶のお代わりはいかがですか?」

 

「ありがとうメイドちゃん、いただくよ」

 

 空になっていたカップに綺麗な琥珀色の液体がそそがれる。

 

「私ももう一杯貰おうかしら」

 

 テーブルを挟んで僕の対面にいる人物も、同じく紅茶をお代わりした。

 

「それで、坂井さん、でよかったかしら? そろそろ本題に入りたいのだけれど」

 

「いいですよ、月村さん。ああ、既に月村ちゃんから聞いていると思いますが、一度ちゃんと自己紹介をしておきましょう。僕は坂井祐一、奇跡遣いです。」

 

「私は月村忍。この月村家の当主よ。それで、私たちの『体質』を普通の人間と同じ様にできるというのは本当?」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第17話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、現在僕はすずかの家である月村邸にお邪魔している。

 翠屋でのお茶会のあと、僕とフェイトはすずかを迎えに来た車に同乗した。ちなみに、なのはとアリサはここにはついて来ていない。

 最初は2人とも一緒に行くつもりだったみたいだけど、それをすずかは断固拒否した。

 なんでも『ふたりは親友で、だからこそ話せない』らしい。

 

 うんうん、大切な友達だからこそ話せないことってあるよね。

 僕は友達いないけど。

 

 ああ、そういえばなのはとフェイトの対話だけど、どうやら上手くいかなかったみたいということがなのはの表情からうかがえた。

 そのことについてフェイトに聞いてみたんだけど、フェイト曰く『特に問題ありませんでしたよ』とのこと。

 

 問題ないなら放置でいいかな、ということで若干落ち込んでいたなのはへのフォローは特にしなかった。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 さて、現在の状況だが、さっき言ったように僕の対面には月村忍がいる。そしてその左隣にはすずかが、右隣には忍の彼氏である高町恭也が座っている。

 さらにその背後にはメイドのノエルとファリンが控えている。

 対して僕の左隣にはフェイトが座りながらも僕の腕に引っ付いている。

 

「ええ、できますよ。綺麗さっぱり跡形もなく。超人的な身体能力も吸血衝動も」

 

 具体的な例を述べると月村姉妹は驚いて互いを見て、恭也は剣呑な目つきでこちらを睨む。

 

「なぜ君が彼女達の体質について知っている? すずかちゃんはそこまで詳しくは説明してないはずだ」

 

 恭也の殺気に反応してフェイトが臨戦体制になったが、左手で頭を撫でて落ち着かせる。

 

「ふにゃ~」

 

 うん、こうしていると猛獣を手なずけた気分になるな。

 

「簡単なことですよ。僕は奇跡遣い。対価さえ払えば基本的になんでもできます」

 

 まあ、実際は原作知識によるものだから能力はあんまり関係ないんだけどね。

 

「……なるほどね。すずかから聞いたときは半信半疑、どころか9割方疑っていたのだけれど、すずかが体験したという不思議な空間のことも考えるとどうやら本当みたいね」

 

「なんならその不思議空間を作りましょうか?」

 

「いいえ、結構よ。それより気になるのはあなたの言う『対価』ね。もし私の、私たちのこの体質を治すのに、いったいどれだけの対価が必要なの?」

 

「それは程度によりますね。あなた達『夜の一族』全員とその子孫の全てというのなら莫大な対価になりますが、個人だけならばそんなに大きなものにはなりません」

 

「具体的にはどんな対価になるのかしら?」

 

「そうですね、一族全体ではあなたの存在全てで足りるかどうかというところですね。個人の場合は金銭でも支払い可能ですね。ざっと2億円くらいですか」

 

 個人のものは、子孫には夜の一族の体質が受け継がれる場合の値段だ。

 個人及びその子孫もだと金銭だけでは対価が足りないな。

 

「一族全体の場合の『私の存在全て』というのはどういう意味なの?」

 

「ああ、それはですね、過去・現在・未来におけるあなたの全てが僕の支配下になるということです。過去の軌跡も現在の存在も未来の可能性も全て僕の思いのままになるんです」

 

「それは……ぞっとする話ね。──分かったわ。現在連絡がとれる月村家の者と相談して結論を出そうと思うから、しばらく猶予をくれるかしら?」

 

「ええ、ただ最近ちょっと暇してて、そのうち別の世界に行くかもしれないんで結論は早めに出してくださいね」

 

「……ちょっと出かけるみたいに別の世界に行くなんて、対価は大丈夫なの? 聞いた分には能力者であるあなたでも例外なく対価を支払わなくてはならないようだけれども」

 

「まあ、対価に当てはあるので多分大丈夫ですよ」

 

 当てというのはもちろん残っている魔力だが。

 

「では、結論が出ましたらここに電話してください」

 

 そう言って僕はウチの電話番号を記した紙を忍に渡す。

 

「ええ、ありがとう」

 

「なに、お安い御用ですよ。対価さえ頂ければ願いを叶えるのが僕のスタンスですからね」

 

 さて、そろそろお暇しますか。

 

「フェイトちゃん、帰るよー」

 

「はい」

 

「おかえりですか? 今車を出しますので少々お待ちください」

 

 とノエルが言うが。

 

「いえいえ、僕の能力で瞬間移動できるので気になさらず」

 

「……本当になんでもできるのね。まるで魔法使いみたい」

 

「魔法はこの能力とは別に存在しますよ。ね、月村ちゃん」

 

「ふぇっ!?」

 

 今まで会話に不参加だったすずかに話をふってみた。

 

「それ本当なの? すずか」

 

「えっと、うん。そこにいるフェイトちゃんとなのはちゃんが魔法使いらしいの」

 

 一応僕もなんだけど茶々は入れないでおこう。

 

「なに? なのはが絡んでるのか?」

 

 と恭也。

 

「えっと、ジュエルシードっていう青い宝石みたいなのを取り合ってたらしいです。そうですよね、坂井さん」

 

「まあ大筋は合ってるよ」

 

「何か隠し事があるのは分かっていたが、魔法か……予想外だな」

 

「そこら辺は高町家で話し合うのがいいと思いますよ。では僕たちはここらでお暇させていただきますね」

 

 ということで、能力を使って家まで転移する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば祐一さん」

 

「ん? 何かなフェイトちゃん」

 

「どうしてあの人達に魔法のことまで話したんですか?」

 

「んー、いろいろ理由はあるけど、一番の理由は面白そうだったからかな」

 

 「そうですか」と、もうその事には興味はないようでフェイトは僕の腕に自分の腕を絡めることに集中した。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー。今夜はスペシャルハンバーグやで!」

 



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18話

 結局。

 結局、月村家で僕の能力による体質の正常化を求める者はいなかった。

 月村すずか唯一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

──第18話──

 

 

 

 

 

 

「じゃあ月村ちゃん、準備はいいかい?」

 

「は、はい!」

 

 どうも、坂井祐一です。

 時は深夜、場所は月村邸。

 空には満月があり、僕たちをその光で照らしている。

 

 とかまあ、詩人っぽく始めてみたけど似合わないので却下だな。

 さて、先ほど言ったとおり僕は再び月村邸にお邪魔している。

 時間が時間なので、お子様組は夢の中。

 坂井家のメンバーはヴィータとザフィーラ以外の守護騎士がいる。

 ああ、ザフィーラは坂井邸の防犯のために置いてきました。

 

 決して彼の出番を減らそうとか思ってるわけじゃないヨ。

 

 

 

 

 

 

「すずか、本当にいいの? 後悔しない?」

 

 忍がすずかに対して最後の意思確認をしている。

 

「うん、もう決めたことだから。なのはちゃんやアリサちゃんと同じ、普通の体になりたいの」

 

「すずか……」

 

 少し、悲しそうな顔ですずかを見つめる月村家の人たち。

 

「坂井さん、お願いします」

 

 すずかはこちらに向き直る。

 

「最終確認だ、月村ちゃん。『願い』は一般的な人間のスペックになること。『対価』は2億円。これで間違いないかい?」

 

「はい」

 

 すずかが答えると、忍がアタッシュケースをこちらに持ってきた。

 

「リイン、確認して」

 

「かしこまりました」

 

 リインは忍からアタッシュケースを渡されると、それを魔法で宙に浮かせ、中身の札束を得意の演算で数えた。

 その間、わずか0.5秒。

 

「はい、確かに2億円あります」

 

「じゃあ月村ちゃん、こっちに来て」

 

 恐る恐るこちらに寄ってくるすずか。

 

「そんなに怖がらなくてもいいよ。頭に手を乗せてピカッと光れば完了だから」

 

「は、はい」

 

 ポスン、と僕はすずかの頭に手を置いて能力を発動する。

 紫色の光が放たれ、しかしそれはすぐに収束する。

 残ったのは夜の一族としての力を失い、そのせいか髪が黒くなったすずかと、その頭に手を置く僕。

 

「うん、どうやら成功したみたいだね。ちょっと体がダルいかもしれないけど、それは体が普通の人と同じスペックになった証拠だから」

 

「はい。確かにちょっとダルいです。……これが普通の人の感覚……」

 

 両手をにぎにぎして感覚を確かめるすずか。

 その顔は、満足感で満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、と言うべきなのかしらね」

 

 普通の人間になったすずかはあの後すぐにお眠になったため、ノエルとファリンに連れられて寝室に向かった。

 なので、ここにいるのは守護騎士たちと僕、忍だけである。

 

「対価をもらっているのだからお礼の言葉は不要だよ、月村さん。……そういえば、今日は彼氏くんはいないんだね」

 

 先日一緒に話を聞いていた恭也は、なぜかこの場にはいなかった。

 

「あちらはあちらで家族会議があるようで、今日は来ていませんよ」

 

 家族会議、ねぇ。

 まあ十中八九、どころか確実になのはの魔法関係の話だろう。

 もしかしたらリンディさんも同席しているかもね。

 まあそんなことはどうでもいいや。

 

「じゃあ、僕は明日あたりに他の世界へ行こうと思うから、これ以降は僕の能力で何かを解決できないと思ってね」

 

「ええ、分かったわ。私が言うのもなんだけど、気をつけてね」

 

「よほどのことがなければ僕の能力でどうにかなるから大丈夫だとは思うけどね。でもその心遣いには感謝するよ、月村さん」

 

 じゃあね、と気軽なあいさつで、僕らは月村邸を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「主、異世界に行くというのは聞きましたが、それは別の次元世界に行くということですか?」

 

 帰り道。

 僕の隣を歩くリインが尋ねてきた。

 

「うーん、どうなるかは分からないけど、どんな世界に行くかは大体決めているよ。前にも話したけど、ここは僕の元いた世界では物語として存在していた。なら、他の物語も別世界として存在しているんじゃないかと思ったのさ。多少『対価』を多くすれば、行く世界もランダムじゃなく僕の意思で変えられるだろうしね」

 

「そうですか。……その際は私たちも同行できるのでしょうか?」

 

 心配そうな顔つきで僕を見つめるリインと守護騎士たち。

 

「皆が夜天の書に入ってそれを僕が持って行く、という方法なら『対価』も安く済むから、それで良ければ連れて行けるよ」

 

「そうですか。安心しました」

 

 さて、そうすると明日中にやることをやってしまわないとな。

 とりあえずあの世界でも通じるように、手に入れた2億円で宝石や貴金属類を買わなければ。

 確かあの世界では金が貨幣に使われていたし、宝石の類も高価だったはず。あと、一応グレアムさんにしばらくいなくなることを言っておかないとな。

 坂井邸が管理局に見つからないようにいろいろしてくれてるから、あいさつくらいはしようと思ってる。

 これでもある程度の常識は心得ているんだよ。

 まあ、その常識に沿って行動するかといえば、そうでもないんだが。

 

 そんな訳でリリなの編はここらで終わり。

 次からは別の世界へ行くよ。

 

 え? どの世界かって?

 それは次回のお楽しみ。

 



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19話

「というわけで、今日あたりに別世界に行こうと思うから、準備するのを手伝ってね。フェイトちゃん、八神ちゃん」

 

「は、はい」

 

「なあ祐一さん。それはもちろん私らも一緒に連れてってくれるんやろうな?」

 

「え? 違うけど?」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第19話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにやらショックを受けて立ち直れないでいるフェイトとはやて。

 一緒に連れて行かないのがそんなにダメなのかな?

 

「ここまで依存させておいて、これでお別れなんて鬼畜の所業ですよ? 主」

 

 と、リイン。

 

「いやいや、僕の能力では連れて行かないけど、これでお別れってわけじゃないからね? ちゃんと別の方法で連れて行くことを考えてるからね?」

 

「ほ、ほんまに?!」

 

「祐一さんは私を見捨てない祐一さんは私を見捨てない祐一さんは────」

 

 はやては涙目状態で縋りついてきて、フェイトは虚ろな目でこちらを見ながらブツブツと呟いている。

 

「主祐一、お申し付けの通りの宝石類を買ってまいりました」

 

「どこの世界でも宝石って高価なんですね。昨日のお金がほとんどなくなっちゃいました」

 

 と、そこへ宝石を買いに行っていたシグナムとシャマルが帰ってきた。

 

「ああ、お疲れ様。問題なく買えた?」

 

「はい。買い物の途中に強盗が入ってきましたが、無力化して警察に引き渡しました。そうしたらお礼だと一番高価な宝石を店主からいただきました」

 

 うん、それは問題なかったとは言えないよね。

 まあ、ただ得をしたのなら問題ないといえばないのだけれども。

 

「ただいま! 祐一、言われたとおりのコート買ってきたぜ!」

 

「おかえり。ヴィータ、ザフィーラ」

 

 シグナムたちに続いてヴィータとザフィーラも買い物から帰ってきた。

 二人には黒いマント風のコートを買ってくるように頼んでいた。

 探すのに時間がかかるかと思ったけど、意外と早かったな。

 

「スーツとか売ってるところにあったんだ。確かトレンチコートとか店員が言ってたかな?」

 

 受け取った袋からコートを取り出すと、なるほど、確かにマントっぽいトレンチコートだな。

 

「デュランダル、このコートの形をバリアジャケットとして登録できる?」

 

「OK boss」

 

「じゃあデュランダル、セットアップ」

 

 展開されたバリアジャケットは、もちろんマント風のトレンチコート。インナーとズボンも同じ黒で統一されている。

 

「さて、あとは細かい荷造りだけで完了かな」

 

 荷造りとは言っても、着替えやら日用品やらは持っていかない。『能力』でどうにかなるしね。

 持っていくのは、フェイトの持っているもの以外の20個のジュエルリーフ、デュランダルと夜天の書、そしてさっき買ってきてもらった宝石類くらいかな。

 

「んじゃあ、久しぶりに真面目に能力を発動しようかな。『対価』は残りの魔力の半分。『願い』は僕が想像している作品の世界への転移」

 

 僕の中にある残りの魔力は、おおよそジュエルシード7個分くらい。その半分を使用した大掛かりな能力の発動。

 まあ、対価が不十分ということはないだろうから失敗はしないと思うけど。

 フッ、と僕の中から魔力が抜けたかと思うと、目の前には光る鏡のようなものが現れた。

 なるほど、どうやらこれがあの世界への入口らしい。

 

「フェイトちゃん、八神ちゃん。多分明日になるだろうけど、同じような入口が出現すると思うからそれまでに自分の準備をしておいてね」

 

 では、と二人の返事も聞かずに鏡の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 鏡を抜けると、そこはクレーターの窪みの中心のようで、周りには数人の人間が確認できた。どうやらあの世界の、予定通りの場所に着いたらしい。

 

「あんた誰?」

 

 桃色がかったブロンドの髪を靡かせて、こちらを鳶色の目で見つめる女の子が問いかけてきた。

 

 

 

 

「僕はユウイチ・サカイ。奇跡遣いさ」

 

 

 

 

 さてさて、ここからゼロ魔編が始まります。

 



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ゼロ魔編
20話


ルイズside

 

 

「あんた誰?」

 

 言ってから気付いた。

 私の失敗魔法の爆発で窪んだ地面に立っている男は、変わったマントを着て、変な杖と本を持っていた。

 

 メイジ。

 

 恐らく彼はメイジ、私たちと同じ、この世界の人間のヒエラルキーの頂点にいる存在だろう。

 まずいことになった。

 あの上等そうなマントから察するに、彼は上級の貴族だろう。ということは、私はどこかの貴族を使い魔召喚という名の拉致をしてしまったのだ。

 これが自国の貴族ならまだどうにかなる。しかし、もし彼が異国の貴族であったなら、最悪、戦争が起こる。

 

 嫌な汗が身体中から溢れる。

 使い魔召喚の立会いをしていたコルベール先生も同じ結論に至ったのか、焦っている様子が見て取れる。

 そこまで思考したところで、問題の彼が口を開く。

 

「僕はユウイチ・サカイ。奇跡遣いさ」

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

──第20話──

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 さて、予定通りルイズの使い魔として召喚された坂井祐一です。

 

 いやー『能力』で召喚主をルイズに設定していたから大丈夫だろうとは思っていたけど、イレギュラーがなくて良かった良かった。

 とりあえずいつもの名乗りをしたけど、周りの人は皆硬直というかあんまりこっちの話を聞いてないみたいだ。舐められないように貴族っぽい格好をしたけど、ダメだったかな?

 うーん、と唸っていると、ハゲ……もとい、恐らくコルベール教諭と思われる人が話しかけてきた。

 

「失礼、ミスタ・サカイ。私はコルベールという者です。確認なのですが、貴方は貴族の方ですか?」

 

「ええ、そうですが」

 

 そう答えると周りがざわめきだす。

 

「ヴァリエールが貴族を召喚したぞ!」だのなんだの騒ぎだしたガキ共。

 

「うるさい」

 

 不機嫌さを醸し出すために低い声色で、『能力』を使ってその場の全員に声が届くように呟いた。

 しーん、と静まりかえる草原。

 

「せ、生徒たちが失礼しました。どうかお怒りを収めてください」

 

 コルベールが焦った様子で謝ってくる。

 

「うん、まあいいけど。それで、ここはどこだい?」

 

「はい、ここはトリステイン魔法学院です。失礼ですが、ミスタ・サカイはどこの国の方なのですか? ここトリステインでサカイ家という貴族は聞いたことがございません」

 

「ああ、ここはトリステインなのか。私の国はここより東、極東の島国のニホン。ここではロバ・アル・カリイエと言った方がいいかな?」

 

 と、嘘をつく。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するコルベール。

 近くにいたためルイズにも聞こえたのか、鳶色の目を大きく見開いている。

 

「で、状況から察するに、私は使い魔として召喚されたと見て間違いないかな?」

 

 分かっていることを質問するのって意外と面倒な作業だな。でもこれしないと『なんで知ってるの?』ってことになってしまう。

 

「申し上げにくいのですが、その通りです。彼女、ミス・ヴァリエールが貴方を召喚しました」

 

 名前を挙げられたことでビクッと反応するルイズ。

 

「あ、あの、ミスタ・サカイ。無茶なお願いだと分かっているのですが、どうかこの私の使い魔になっていただけないでしょうか」

 

 おおう、直球で来たね、ルイズちゃん。

 コルベールが「ミス・ヴァリエールッ!」と叫ぶが、ルイズは真っ直ぐ僕の目を見据えている。

 

 覚悟のあるいい目だ。

 僕は笑顔でこう答えた。

 

「いいよ。だってそのために僕はここに来たのだから」

 

「へっ?」

 

 ポカン、とするルイズ。

 まさか受け入れられるとは思ってなかったのだろう。

 

「ミスタ・サカイ? 使い魔になるということがどういうことか理解した上で仰っているのですか?」

 

 コルベールがそう尋ねてきたが、

 

「ええ。主か使い魔のどちらかが死ぬまで、両者は主従の関係で結ばれるのでしょう?」

 

 と、大したことないように言う。

 

「分かっているのなら、なぜ?」

 

 と、ルイズ。

 

「僕の二つ名は『奇跡』。僕は君に奇跡を起こすために来たのさ」

 

「奇跡?」

 

「まあその辺の話は後々ということで、さっさとコントラクト・サーヴァントしちゃおうか」

 

「は、はい」

 

 ルイズは、手に持った小さな杖を僕の目の前で振った。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 

 すっ、と杖を僕の額に置いた。

 そしてルイズはゆっくりと顔を近づけてくる。

 その顔は、林檎のように真っ赤になっていた。

 

 チュッ、と軽いキス。

 

 そういえば僕ファーストキスだなぁ、なんて思っていると、胸元が熱くなってきた。僕は直ぐに『能力』で痛覚を遮断し、ルーンが刻まれるのを待った。

 しかし、予想はしてたけど四番目の使い魔のルーンか。

 ガンダールヴって感じじゃないしね、僕。

 まあ『能力』でいつでも消せるし放置でいいかな。

 

「さて、コントラクト・サーヴァントも無事終わったことだし、行こうか」

 

「え? あ、うん。……えっと、どこへ?」

 

「もちろん、トリステイン魔法学院の校長のところさ」

 



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21話

「よくぞいらした、異国のメイジよ。ワシはオスマン。ここ、トリステイン魔法学院の校長をしておる。この度は我が校の生徒が迷惑をかけたようで──」

 

「いやいや、校長さん。ヴァリエールちゃんの召喚に応じたのは僕の意思だよ。使い魔になることも同じくね。だから僕は迷惑だなんて思ってないさ」

 

「ほっほっほっ。それなら安心ですわい。しかし異国のメイジ、それも貴族を他の使い魔と同様の扱いというわけにもいかんのでの、とりあえず来賓用の部屋を使ってもらうことになるが、良いかね?」

 

「構わないよ。というか、そこまで良い扱いでなくともいいんだけどね。でもまあ、お言葉に甘えてその部屋を使わせてもらうよ」

 

「それでは今日はこれで。後日改めて話を聞かせてもらおうかのぉ。ああ、ミス・ロングビルや、ミスタ・サカイを部屋まで案内してくれんかの」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

──第21話──

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、来賓用の豪華な部屋に案内された坂井祐一です。

 

 うん、中世ヨーロッパくらいの文化レベルと思ってたけど、そこは魔法使いかつ貴族の学校。なかなか良い部屋じゃないか。

 

 

 コンコンコン。

 

 

 と、部屋を見渡していると、誰かがドアをノックした。

 

「開いてるよー」

 

「し、失礼します」

 

 緊張した声で返事をしながら入ってきたのは、黒髪のメイドさんだった。

 

「こ、この度ミスタ・サカイのお世話をさせていただきます、シエスタと申します。必要なものなどが御座いましたら何なりと私めにお言いつけください」

 

 と言ってメイドさん──シエスタは深々と頭を下げた。

 

「ああ、よろしくねメイドちゃん。僕のことは気軽にユウイチとでも呼んでよ」

 

「そそそ、そんな、滅相も御座いません!」

 

 あわあわと慌てるシエスタ。

 うん、弄ると面白いね、この娘。

 

「まあ、しばらくの間、お世話よろしく頼むよ」

 

 そう言いながら、僕は懐からエキュー金貨を取り出しシエスタに握らせる。いわゆるチップというやつだ。

 ああ、この金貨は『いろいろと物要りだろう』というオスマンからの気遣いでいくらか貰った内の一部だよ。

 

「こ、こんなに!? いただけません!」

 

 あれ? 金貨3枚だけなんだけど、多かったかな?

 まあいいから、と押し付けるようにして手を離す。するとシエスタは、

 

「……分かりました。精一杯お世話させていただきます」

 

 と、何かを覚悟したような面持ちで、また深々と礼をして退室した。

 そういえば、こういう豪華な部屋には隣に世話役の人が待機する部屋があるって聞いたことがあるけど、そこに行ったのかな? などと考えていると、再び部屋のドアがノックされた。

 今日は千客万来だな。二人目だけど。

 

「開いてるよー」

 

「失礼します、ミスタ・サカイ」

 

 入ってきたのは我がご主人、ルイズだった。

 

「ヴァリエールちゃん、君は僕のご主人なんだからそんな他人行儀な話し方じゃなくてもいいよ。気軽にユウイチとでも呼んでね」

 

「そ、そう? なら普通に話させてもらうわ。それで使い魔についてなんだけど、ユウイチはどういう役目か分かってるの?」

 

「ああ、主人の目や耳になるとかのこと? 知ってるよ。まあ、視点の共有とかはできないみたいだけどね」

 

「ええ、そのようね」

 

 ここに来る前に試したのか、少し落胆するルイズ。

 

「でもコントラクト・サーヴァントが失敗したってわけじゃないよ。ルーンも出たしね」

 

 僕は服の胸元を開けてルーンの一部を見せる。

 

「そ、そうね。あと、あなたの二つ名について聞きたいのだけれど」

 

「うん?『奇跡』のこと?」

 

「ええ、具体的に何ができるのか教えてくれない?」

 

 

 

 

 

「なんでも」

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

「僕はね、ヴァリエールちゃん。対価さえもらえればなんでもできるんだよ。本来実現不可能な夢も叶えられるし、達成困難な目的も果たすことができるんだ」

 

「な、なんでも、できる」

 

「そう、だから僕は奇跡遣いと自称している」

 

「だ、だったら!

 

 

 

 

 

 だったら私を、魔法が使えるようにして!」

 

 

 

 

 

 

「いいよ。なんたって僕はそのために来たんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。魔法が爆発する、か」

 

「ええ、それで皆からは成功確率ゼロだから『ゼロのルイズ』なんて呼ばれてるわ……」

 

 うん、知ってる。

 しかし前も思ったけど、知ってることをこまごまと説明されるのってすごくめんどくさいね。

 

「じゃあヴァリエールちゃん。君は何を『対価』にして、何を『願う』のかな?」

 

「……その『対価』というのは必ず払わないといけないの? ご主人様だから特別にタダにとかは──」

 

「ダメだね。これは僕の気持ちの問題じゃないんだ。その人の『願い』を叶えるには、それと同じ価値の『対価』が必ず要る。そういうシステムなんだよ」

 

「うーん、でも私があげられる物といってもお小遣いとかしか無いわ」

 

「物じゃなくても良いよ。形がなくてもそれが『対価』足りうるモノならばなんでもいいのさ」

 

 例えば魔力──この世界では精神力だったかな?──とか。

 

「そんなモノも対価にできるの?」

 

「うん。あとは、例えば『未来の可能性』とかね。これはヴァリエールちゃんの、あったかもしれない未来の栄光を対価にする。だから、これを差し出せば魔法は使えるようになるけど、本来あったはずの輝かしい未来が訪れることは永遠にないってことさ」

 

 うーん、と僕の言葉を咀嚼するルイズ。

 

「……なら、私はその『未来の可能性』を対価にするわ。魔法の使えない私に栄光なんて訪れるわけないし。だったら、たとえドットでもいいから、私は皆みたいに普通に魔法を使いたい」

 

 本当は虚無の使い手としての未来が待っているのだけれど、ルイズがそれを知ることはない。

 

「分かったよ、ヴァリエールちゃん。君の『願い』、僕が叶えてあげよう」

 



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22話

「じゃあヴァリエールちゃん、準備はいいかい?」

 

「え、ええ」

 

 では今回はそれっぽいセリフを言いながらにしようかな。

 

「汝、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは何を『対価』とする?」

 

「えっと、『未来の可能性』を」

 

「では、何を『願い』とする?」

 

「『普通の魔法の才能』を願うわ!」

 

「よろしい、これで契約は成った」

 

 僕を中心に、周りが見えないほどの光が発せられる。

 まあこれはそれっぽい演出なんだけど。

 

「ゆ、ユウイチ? これで終わりなの?」

 

「うん、終わりだよ。もう失敗魔法の爆発は起きない。保証するよ」

 

 だってルイズの中にあった虚無の力は、

 

 

 

 

 

 僕の中にあるもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

──第22話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、はやて同様にルイズも騙してその力をいただきました坂井祐一です。

 

 方法は簡単。

 僕の魔力とルイズの虚無の力を入れ替えたのさ。

 前も説明したけど、細かく指定しない限り、願いの叶え方は僕に一任される。だから、僕の中にあった魔力とルイズの中にあった魔力を、その性質ごと入れ替えたんだ。

 そんな感じで僕は虚無のメイジとなり、ルイズは属性は分からないけどかなりの魔力を持ったメイジになったとさ。

 

「今まで使えなかったコモン・マジックも問題なく使えるはずだよ。試しに『ライト』でも使ってみたら?」

 

「え、ええ。えっと、杖の先が光るイメージ……『ライト』!」

 

 先ほどの光とは比べものにならないほどの光量がルイズの杖から発せられる。

 うおっ、眩しっ!

 

「ヴァリエールちゃん、もっと込める魔力、じゃなくて精神力を少なくして」

 

「わ、分かったわ」

 

 光はだんだん小さくなっていき、蛍光灯と同じくらいの光量で落ち着いた。

 

「──た」

 

「えっ?」

 

「できた! できたできたできたぁ!!」

 

 初めてまともに魔法が使えたことがよほど嬉しいのか、ぴょんぴょん跳ねながら「できた、できた」と繰り返している。

 

「ヴァリエールちゃん。嬉しいのは分かったから、とりあえず落ち着こうよ。それに君がどの属性が強いかも調べないと」

 

「はいっ! 先生っ!」

 

 いつの間にか先生にクラスチェンジしていた。

 一応、君の使い魔なんだけどな。

 使い魔が先生とか、まるで意味が分からんぞ?

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 結局、ルイズはテンションの高いまま各属性の簡単な魔法を使った。

 結果は、風>土>水>火、という感じになった。

 とは言ってもその差は微々たるもので、どの魔法も問題なく行使できていた。

 魔力量はだいたいジュエルシード3個分くらいあるから、訓練次第では属性的に万能のスクウェアクラスになれるかも。

 そう言うとルイズは、

 

「これもユウイチ先生のおかげです!」

 

 と言って目を輝かせながら僕を見つめてきた。

 なんか知らないけど、ルイズの好感度が天元突破しちゃってるんだけどー。

 ……まあ困ることでもないし、放置でいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろ試していたため、日は沈み夕食の時間となった。

 

「ユウイチ先生は貴族だから『アルヴィーズの食堂』で夕食を食べますよね? 案内します!」

 

 そう言ってルイズは僕の手を掴み、部屋の入り口まで引っ張っていった。

 と、そこで。

 

 

 コンコンコン。

 

 

 とドアがノックされた。

 

「失礼します。ミスタ・サカイ、お食事の準備ができましたので食堂までご案内いたしま──」

 

「その必要はないわ」

 

 ドアから現れたシエスタを、ルイズは言葉でバッサリと切り捨てた。

 

「ユウイチ先生は私が案内するわ。メイドのあなたは隣の部屋で待機してなさい」

 

「で、ですが、ミスタ・サカイのお世話はオスマン校長より仰せつかった仕事ですので、それを放棄することはできません」

 

 むむむ、とシエスタを睨むルイズ。

 それに萎縮しながらも、シエスタは自分の職務を全うしようとしている。しょうがない、折衷案を出すか。

 

「ヴァリエールちゃん。案内はメイドちゃんに任せて、君は歩きながらこの学校の事とかいろいろ教えてくれないかな?」

 

「むー、ユウイチ先生がそう言うなら……。そこのメイド、私たちを食堂まで案内しなさい」

 

「は、はい。かしこまりました!」

 

 僕はルイズによる学院講座を右から左へ聞き流しながら、シエスタに先導されて食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルヴィーズの食堂は、豪華絢爛という言葉がピッタリなところだった。

 

「どう、先生。驚いた?」

 

 ルイズはイタズラが成功した子供のような顔で僕を見やると、繋いでいた手を引っ張り、手頃な席に座るよう促した。

 僕が座ると、ルイズは僕の隣に座り、シエスタは僕らの食事を配膳するために調理場へ小走りで向かって行った。

 

「おい、『ゼロ』のルイズが使い魔を食堂に連れてきてるぞ!」

 

 シエスタが料理を運んでくるのを待っていると、小太りの男の子が周りに聞こえるように声を上げた。

 

「かぜっぴきのマリコルヌは黙ってなさい! それに、もう私は『ゼロ』じゃないわ!」

 

「ぼくは風上のマリコルヌだ! だったらいつもの失敗魔法以外のを使ってみろよ!」

 

「後悔しても知らないわよ! 『ウィンド』!」

 

 ルイズが呪文を唱えると、マリコルヌと言う名の男の子は突風に飛ばされたかのように食堂の壁に激突した。

 すると、周りがざわつく。

 

「嘘! あのルイズが」「爆発じゃないぞ」「しかもただのウィンドであの威力」「うわっ、マリコルヌの奴お漏らししてやがる!」

 

 

 

 

 

「何事かの?」

 

 

 

 

 

 と、そこでオスマン翁が登場した。

 

「ミス・ヴァリエールが魔法を使ったんです!」

 

 近くにいた生徒が、今見たことをオスマン翁に伝えた。

 

「ここは皆が利用する食堂じゃ。諍いは外でやりなさい。……時にミス・ヴァリエール、君の魔法は全て失敗すると聞き及んでいるが、一体どういうことかの?」

 

 その視線は、しかしルイズではなく僕を捉えていた。

 

「そうなんです、校長先生! 私、魔法が使えるようになったんです! ユウイチ先せ、じゃなくてミスタ・サカイのお陰で!」

 

「ほう、それはそれは」

 

 長い顎髭に手をやりながら、オスマン翁は僕に尋ねた。

 

「ミスタ・サカイ。一体どうやってミス・ヴァリエールが魔法を使えるようにしたのだね?」

 

 その目は鋭く僕を見ていた。

 

「そんな剣呑な目で見ないでよ。僕はただヴァリエールちゃんの『願い』を叶えただけだよ?」

 

「『願い』とな?」

 

「うん、僕の二つ名は『奇跡』……対価さえ払えばどんな願いも叶えるメイジさ」

 



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23話

タバサside

 

 

「うん、僕の二つ名は『奇跡』……対価さえ払えばどんな願いも叶えるメイジさ」

 

 それを聞いた時、私は食べようとしたハシバミ草を取りこぼした。

 彼は今、何と言った?

 彼を視界に入れる。中肉中背の、至って普通な男。変わったマントを着ているが、それ以外に目立った特徴はない。

 二つ名は『奇跡』? 何でも願いを叶える?

 確かに彼女──ルイズは例の失敗魔法以外の、ちゃんとした魔法を今見せた。それは彼の能力が本物であることの証左だと言える。

 

 ならば、彼は本当にどんな願いも叶えることができるのではないか?

 

「どうしちゃったの? タバサ。異国のメイジをじっと見つめて」

 

 隣に座っている親友──キュルケが私に声をかける。

 

「はっ! まさか恋なの!? あの異国のメイジに恋してしまったのね!?」

 

「違う」

 

 親友を軽くあしらい、私はこの後どのように彼に接触するかを考えていた。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

──第23話──

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 あの後、オスマン翁から注意を受けた。

 とは言っても「今後はこういうことのないように」と軽く言われたくらいだ。そこへシエスタが料理を運んできてくれたので、僕とルイズはその料理に舌鼓を打った。

 うん、ちょっと油っこいものが多いけど、料理自体ははやてといい勝負だな。

 美味でした。

 

「さて、お腹も膨れたし、部屋に戻るか。メイドちゃん、案内お願いね」

 

「は、はい!」

 

「あの、ユウイチ先生。私も……」

 

「もう夜だし、続きは明日にしよう。それに寝不足はお肌に悪いよ?」

 

 と言ったら、ルイズは渋々と自分の部屋に戻って行った。

 

「じゃあメイドちゃん、改めて案内お願い」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻ってベッドの上でくつろいでいると、本日三度目のノックが聞こえた。

 

「どうぞー」

 

「し、失礼します」

 

 ドアから現れたのは、シエスタ。

 けれどもそれはただのシエスタではなかった。

 薄手の生地で作られ、体のラインがはっきり見えるようなシースルーの服を着たシエスタだった。

 

「よ、夜伽に参りました。ミスタ・サカイ、ど、どうぞ私の身体を存分にご堪能ください」

 

 耳まで真っ赤にしながらシエスタはそうのたまった。

 いやいや。

 

「メイドちゃん、何の真似だい?」

 

「で、ですから夜伽を……」

 

 これは、アレだろうか。

 チップを多めにあげたことを夜のお世話もしろよ的な意味に捉えちゃったのかな。

 

「メイドちゃん。あのチップは『これからよろしく』という意味であげたのであって、こういうことをしろというような意味じゃなかったんだけど」

 

「え? あ………。し、ししし失礼しました!」

 

 真っ赤だった顔を、今度は真っ青にしながら急いで出て行こうとするシエスタだが、

 

「『ロック』」

 

 ガチャリ。

 

 と、ドアの鍵が閉まる。

 

「まあまあ、そう慌てなくても大丈夫だよ。勘違いは誰だってするものさ」

 

「み、ミスタ・サカイ……」

 

 僕はベッドから降り、シエスタのいる方へと向かっていく。

 シエスタは後ずさりするが、壁がありそれ以上後ろに進めない。

 僕とシエスタの距離が限りなくゼロになる。

 

 そして──

 

 

 

 

 

「なんてね」

 

 

 

 

 

「へ?」

 

「別にメイドちゃんを美味しくいただこうなんて思っちゃいないよ。まあ、君がどうしてもというなら考えないでもないけど」

 

「は、はぁ」

 

 よくわからない、というような表情で頷くシエスタ。

 

「じゃあ、ひとつお願いをしようかな。最近よく使ってた抱き枕がないから眠れるか不安なんだよね。だから今晩僕の抱き枕になってよ」

 

 抱き枕一号ははやて、二号はフェイトである。

 

「えっと、それは……」

 

「ああ、もちろんついでに夜伽もしろ、というような意味じゃないよ。純粋に抱き枕になってほしいというだけさ」

 

 ダメかな、と尋ねる。

 

「そ、そのくらいなら、はい。あ、で、では着替えてきます」

 

「いやいや、僕はもう眠いからそのままでお願いしたいな」

 

 ニヤニヤとプチセクハラをする僕。

 こういうキャラじゃないんだけどな。

 

「わ、分かりました、ミスタ・サカイ。えっと、存分にご堪能ください?」

 

「うん、堪能させてもらうよ」

 

 もちろんエロくない意味で。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「んあ?」

 

 目が覚めると、抱き枕にしていたシエスタがいなくなっていた。

 たぶん水くみに行ったのだろう。

 

「失礼します」

 

 小声でそう言いながら、洗面器のようなものを持ったシエスタが部屋に入ってきた。

 

「あ、ミスタ・サカイ。おはようございます」

 

「ああ、おはようメイドちゃん」

 

「顔を洗うための水をくんで参りました」

 

 そう言うとシエスタは洗面器を僕の顔に近づけて「顔を俯かせてください」と指示した。

 僕が指示通りにすると、シエスタは僕の顔を丁寧に洗った。

 洗面器を床に置くと、タオルで優しく顔を拭いてくれた。

 

「うん、ありがとうメイドちゃん。スッキリしたよ」

 

「はい! 他にご要望はありますか?」

 

「特にないかな。あ、着替えるからちょっと外に出ててくれる?」

 

「着替えでしたら私がお手伝いを」

 

「いや、僕の国では貴族でも着替えくらいは自分でするんだ。だから手伝わなくても大丈夫」

 

 着替えると言ってもバリアジャケット展開するだけだからね。

 

「かしこまりました。では失礼しました」

 

 そう言って、シエスタは退室した。

 

「よし、デュランダル、バリアジャケット展開」

 

「OK boss」

 

 例のマント風コートのバリアジャケットを展開した後、シエスタの待つ廊下に出た。

 

「では、食堂までご案内いたします」

 

「あ、その前にやりたいことがあるからヴァリエールちゃんを呼んできてもらえるかな?」

 

「は、はあ、かしこまりました」

 

 よく分からないといった風のシエスタだったが、とりあえず僕の指示通りにルイズを呼びに行った。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

「何ですか? ユウイチ先生のやりたいことって」

 

「うん、僕もメイジだからね。使い魔を召喚しようと思うんだ」

 

 もちろん、ガンタールヴなどの虚無の使い魔『たち』である。

 

「ユウイチ先生の使い魔! どんなのが出るのか楽しみです!」

 

「うん、じゃあ召喚するね」

 

 すでに展開してあるデュランダルを振り上げる。呪文は適当。

 

「どこかの世界にいる僕の使い魔『たち』よ。呼びかけに応え、ここに参上せよ」

 

 すると、等身大の光る鏡のようなものが『3つ』現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっこいしょ、あ、祐一さんや」

 

 

 

 

「ゆ、祐一さん!!」

 

 

 

 

「ふぇ? なにこれ? あ、師匠!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで、僕の使い魔は『八神はやて』、『フェイト・テスタロッサ』、そして『高町なのは』の3人である。

 

 



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24話

「ゆ、祐一さん祐一さん! 祐一さぁぁん!!」

 

 と言って抱きついてくるフェイトをあやしながら、はやてとなのはに現状を説明中。

 

 どうも、奇跡遣いの坂井祐一です。

 

はやては「ここゼロ魔の世界」と言うと、「おk、把握」と返してきた。適応力の高い奴だ。

 持ってきている荷物も、一日で用意したとは思えないほどの量である。着替えや食料をこれでもかと言うほどリュックに詰め込んでいるらしく、その外側は鍋やお玉などの調理器具でジャラジャラしている。

 なんでもはやては僕が通った鏡から、おそらくゼロ魔の世界であろうと予想して必要そうな物を大量に買い込んで持ってきたらしい。

 

 一方なのははと言うと、背中に少し大きめのリュックと胸元のレイジングハート、そして肩にユーノを乗せている。

 その表情は、最初の驚き以外は暗く、彼女らしくない感じである。

 

「どうしたのさ、高町ちゃん。そんな暗い顔して。何かあったなら僕に相談してごらん?」

 

 そう言うと、なのはは堰を切ったように泣き出して、途切れ途切れながらも身の上を話してくれた。

 話を統合すると、なのはの兄、恭也が魔法について問い詰めてきたので、さすがに隠し切れないと思い、ユーノとともに粗方のことを家族に話したそうだ。

 

 これが二次創作の小説とかならオリ主くんがとりなして家族の絆がより深まる、みたいなことが起きたかもしれないが、現実は甘くはなかった。父や兄からは、そんな危ないことをしていたのかと怒られ、母や姉からはレイジングハートを取られそうになったらしい。

 そこでユーノが念話で呼んでおいた管理局の方々が乱入し、とりあえず明日ゆっくり話しましょう、ということになった。しかし、このままでは魔法の力が取られてしまうと焦ったなのはは、荷物をまとめて家をこっそり抜け出した。

 

 つまりは家出である。

 

 そして、当てもなく彷徨っていたところ、目の前に光る鏡が突然現れ、勢いのまま中に入ってしまったとのことだ。

 

「そうかそうか、頑張ったんだね、高町ちゃん」

 

「し、師匠ぉー!!」

 

 フェイトに並んで僕にしがみついてくるなのは。

 うんまあ、とりあえず。

 

「三人とも、僕とキスしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第24話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、コントラクト・サーヴァントは無事終わったよ。

 ルーンが刻まれる時の痛みは僕の能力で快感に変換したのだが、三人とも小学生とは思えない喘ぎ声をあげていた。

 まったく、僕がもしロリコンだったらその場で襲っていたところだよ。

 

 そんな場面を赤面しながら見ていたルイズとシエスタには、僕の故郷の知り合いでメイジだと説明しておいた。完全には納得していなかったが、それぞれに浮かび上がったルーンを見て、とりあえず僕の使い魔であることは分かってもらえた。

 ちなみにルーンは、フェイトがガンダールヴ、はやてがミョズニトニルン、なのはがヴィンダールヴだった。

 

 とりあえず朝食にしよう、ということで食堂に向かうことにした。

 道すがら三人にはこっそり念話で元の世界の魔法は極力使わないように、と伝えた。下手すると異端認定されちゃうからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に着いた僕らは、席につく前に教師たちが食事をとっているテーブルまで行き、オスマン翁に3人が僕の使い魔だということと召喚までの経緯を軽く説明した。

 

「ほう、なるほどのぅ。ミス・ヴァリエールの使い魔であるミスタ・サカイが使い魔を召喚したのも驚きじゃが、それがまた人であったことも驚きじゃわい。して、ワシらはこの3人の少女にどのように接すれば良いのかの?」

 

「あ、この子たちはメイジだけど貴族じゃないから、僕のお付きだと思ってくれていいよ。部屋は僕が使っている部屋で十分だと思うから特別用意しなくても大丈夫さ」

 

「そうかそうか、ではそのように取り計らおう。ではさっそく朝食だがの、このアルヴィーズの食堂は貴族たちの場所じゃ。なので申し訳ないが、その少女たちは厨房の賄いで済ましてもらえるかのぉ」

 

「いいよ。でも次からは部屋に持ってきてもらうようにしてもらえるかな?」

 

「あい分かった。そのように手配しよう」

 

 というわけで、三人娘はシエスタに連れられて厨房へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 食堂で朝食を済ませた僕とルイズは、厨房に行った三人娘を迎えに行くことにした。

 その途中、薔薇がどうのこうのと言っている男子のポケットから小瓶が落ちたのを見かけたが、とりあえず無視してみた。

 おそらくあれがギーシュとかいう主人公の踏み台だろう。

 

 僕は主人公じゃないのでパスするけど。

 

 と、そこへ配膳をしていたシエスタが通りかかった。

 落ちている小瓶を見つけてギーシュに渡そうとしたが、彼は拒否した。そこに二人の女子が来て、何か喚きながらギーシュにビンタと小瓶の中身をぶちまけるという暴挙に出た。

 

 二股かぁ。うーん、青春だねぇ。僕は経験したことないけど。

 

 そんなことを思っていると、ギーシュは小瓶を拾ったシエスタに罪をなすりつけてきた。

 

 うーん、僕の専属メイドにあまり傷をつけてほしくないのだが。

 

「シエスタさんになにしてるの!」

 

「そうやで、二股かけた自分が悪いんやろ!」

 

「あ、祐一さん!」

 

 と、そこへ三人娘が登場。約1名を除いてギーシュを責めている。

 というかフェイト、君には協調性がないのかい?

 まあ、依存させて狂わせた僕が言うセリフじゃないけど。

 

 そしてまたギーシュが薔薇がどうのこうのと言っているが、なのはとはやては更に罵倒し続けた。そのうち周りもギーシュが悪いと言い出したので、彼は怒り心頭だ。

 

「い、いいだろう。そこまで言うなら決闘だ! 君らの主人とね!」

 

………ん? 僕?

 



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25話

 え? 決闘?

 そんなのやるわけないじゃん面倒くさい。

 なので、僕の代わりにフェイトがすることになりました。

 というか、僕の敵ということでフェイトがヒートアップしちゃって。

 

 女の子に守られて恥ずかしくないのか! みたいなこと言われたけど、いやガンダールヴは虚無のメイジを守るものだからなぁ、と思ったので『この子は僕の使い魔だ。僕が戦うほどのことではないからこの子が相手になるよ』と適当に言っておいた。

 するとギーシュはなぜか怒りだし、フェイトを倒したら僕と戦うという約束を取り付けられた。まあ、フェイトが負けることは無いだろうから『いいよ』と返事をした。

 

 そして僕らは今、ギーシュの取り巻きに連れられて決闘の場所であるヴェストリの広場に来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

──第25話──

 

 

 

 

 

 

 

 

「先に忠告しておく」

 

 前髪をかきあげながらギーシュは言った。

 

「降参するなら今だよ、小さなレディ。僕も本来なら君のような可愛らしい女性を傷付けたくはないのだよ」

 

「祐一さーん!」

 

 フェイトは後ろにいる僕に振り向き、笑顔で手を振った。

 ギーシュをガン無視である。

 さすがのギーシュも我慢ならないようで、引きつった笑顔で、

 

「僕を無視したことを後悔させてやる」

 

 と低い声で呟いていた。

 

「あー、フェイトちゃん。勝ったら何かご褒美あげるから集中しようか」

 

「ご、ご褒美!?」

 

 『ご褒美』という言葉でフェイトは()る気を出したようで、好戦的な雰囲気を纏ってギーシュと対面した。

 

「やっとやる気を出したようだね。では自己紹介だ。僕はギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』だ」

 

「私はフェイト。二つ名は……ありません」

 

「ふん、僕は貴族でメイジだ。だから魔法を使うが構わないだろう?」

 

 そう言うとギーシュは薔薇の花を取り出し、花弁を周りへ振りまいた。するとその花弁は青銅の戦乙女となり、フェイトに対峙した。

 

「さあ、君も野良とはいえメイジなんだろう? なら魔法を使いなよ」

 

「……ブレイド」

 

 フェイトがそう呟くと、バルディッシュから金色の魔力刃が形成された。

 

 ヴェストリの広場に来る途中、3人に念話で伝えた決め事がある。

 それは、こちらの世界では元いた世界の魔法の使用を一部制限する、というものだ。

 主な制限内容は、

 

・同時に2つ以上の魔法を使わない。

 

・元いた世界の魔法に似ている魔法は使用可能。ただし発声する魔法名はこの世界のものとする。

 

・魔法は非殺傷設定だが、殺傷設定だと想定して使用する。

 

・緊急時以外のヴィクター化及び核鉄の使用の禁止。

 

 といったものだ。

 

 この世界ではまだお尋ね者じゃないから、できるだけ表では穏便に事を運びたい。なのでこのような規制を設けた。

 

「……ブレイドのみで戦おうと言うのかい? それでは平民を相手にしているのと変わらないじゃないか。僕を馬鹿にしているのか?」

 

 ギーシュが少しキレ気味で問いかけた。

 

「いいえ、あなたにはこれで十分だと判断しました」

 

「くっ、行けっ! ワルキューレ!」

 

 ギーシュの周りにいた戦乙女の1体が、フェイトへ武器を構えて特攻する。

 しかし、フェイトはさして問題ないかのように、バルディッシュを特に構えることもなく、自然体で立っていた。

 

 そして戦乙女とフェイトの間が1メートルを切った時、一瞬金色が煌めいたと思ったら、次の瞬間戦乙女はバラバラの青銅に成り果てた。

 

「なっ!?」

 

 ギーシュや観客が息を飲むのが分かった。

 何が起こったか分かるのは、その現象を起こしたフェイト自身と僕、はやてくらいかな。

 

 まあ、僕とはやてはどうしてそうなったかが分かるだけで、どうやったのかは速過ぎて全く見えなかったのだが。

 簡単に言えば、バルディッシュを持ったことでフェイトの『ガンダールヴ』が発動して、超高速で戦乙女を切り刻んだ、ということだ。

 

「一体、何が起こったんだ……?」

 

 目の前で起こったことが信じられなくて呆然としているギーシュ。

 だがそれも数秒のこと。

 

 ギーシュは相手が自分以上の実力者と分かると、残っている薔薇の花弁を全て散らし、6体の戦乙女を作り出した。

 

「どうやら君はかなりの実力者のようだ。本気で行かせてもらうよ」

 

 そう言うとギーシュは先ほどの無闇な特攻とは違い、時間差で攻撃するように戦乙女に指示を出した。

 剣や槍を持った戦乙女たちがフェイトに向かっていく。

 今度はフェイトも動き出し、その距離は急激に狭まっていった。

 

 1体目、構えた剣ごと真っ二つに切り捨てる。

 

 2体目、返す刀で首と腕をきり落とす。

 

 3、4体目は同時に攻撃したが、フェイトが身体をかがめて避け、足を切り落とした。

 

5体目、盾を構えていたが、高速で動くフェイトを捉えきれずに後ろを取られて袈裟斬りに。

 

6体目、ギーシュの近くに残っているそれを、フェイトは一歩で近づき切り伏せる。

 

 

 

 

 

 

「参った」

 

 

 

 

 

 

 精神力も切れ、自慢の青銅の戦乙女たちも全て破壊されたギーシュは、そう言って負けを認めた。

 



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26話

「祐一さん! 勝ちました!」

 

 えへへ、とはにかむフェイトは、先程までメイジを圧倒していた存在とは思えないほど可憐だった。

 とかなんとかそれっぽいことを言ってみた。

 

 どうも、坂井祐一です。

 

「よしよし、よくやったねフェイトちゃん」

 

 と言いながらフェイトの頭を撫でる。

 再び「えへへ」とくすぐったそうに笑うフェイトを見て、なのはとはやては「いいなぁ」と指を咥えていた。

 

「それで、グラモン君と言ったかな? 君はどうするんだい?」

 

 精神力が切れたためか、満身創痍な感じのギーシュに僕は問いかける。

 

「ああ、僕の負けだよ。完敗だ。モンモランシーとケティ、それにさっきのメイドにも謝るよ」

 

 どこか清々しい笑顔でギーシュは答えた。

 でもね……

 

「潔く負けを認めるのはいいけど、君はブレイドの魔法のみを使用した、言わば平民同然のフェイトちゃんに負けたんだ。その意味は分かっているかい?」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第26話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけるな」

 

 始まりは、決闘を見にきていた一人の生徒の言葉だった。

 

「ふざけるなよっ! 誇り高き貴族が、ブレイドしか使ってないメイジくずれに負けただとっ!? 冗談じゃない!」

 

「そうだ! しかも平民に謝るだと? 馬鹿も休み休み言いたまえ!」

 

 そんな怒鳴り声と野次が聞こえる中、ギーシュはどうすることもできず、その様子をただ見ていた。

 

「エア・ハンマー!」

 

 不可視の風槌がギーシュを吹き飛ばす。

 数回バウンドして、ギーシュの身体は観客の近くで止まった。

 どうやら激昂した観客の一部が魔法を放ったようだ。

 

 観客はピクリともしないギーシュに寄ることはなく、近づくのはひとりの金髪の女の子──おそらくモンモランシー──だけだった。

 急いで何かの薬を飲ませようとしているようだが、あれは手遅れかもしれないね。

 

 その姿を見て更に魔法を放とうとする輩が現れたところで、鐘の音が広場に響いた。すると、興奮していた観客たちは次々と崩れ落ち、眠り出した。

 

 僕は能力で呪文を省略して『ディスペル』を唱え、僕の周りを魔法無効地帯にした。

 僕にしがみついているフェイトと、近くにいるルイズ・なのは・はやても範囲に入っているので周りの観客が昏倒していくのを不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、いかんのう」

 

 僕ら以外の広場にいる人間が全て眠ったところで校舎から教師と思われる人たちが飛び出してきて、ギーシュをレビテーションで運んで行った。

 

「ミスタ・サカイ。こうなることが分かっていて使い魔の彼女にブレイドのみを使わせたのかの?」

 

 オスマン翁は剣呑な目つきでこちらを見てきた。

 

「いやいや校長さん、そんなわけないじゃないか。確かに極力魔法は使わないように指示は出したけど、こんなことが起こるなんて露ほども思ってなかったよ。で、薔薇の子の容体はどうなの?」

 

「……どうやら背骨が折れたらしく、身体に麻痺や障害が残るかもしれんようじゃ」

 

 障害、のところではやてがピクリと反応するが、それだけで何も言わない。

 

「水の秘薬ってのが確かあったよね。それを使えば治るんじゃないの?」

 

「秘薬の効果にも限界はある。それに我が校には水のスクウェアメイジはおらんでの。水の秘薬はミス・モンモランシーが飲ませたようじゃが、水の使い手がおらねば完治には至らないじゃろうて」

 

「祐一さん……」

 

 はやてが僕のコートの袖を掴んで言った。

 

「どうにか治してあげられへんやろうか」

 

「ん? 対価があればできるよー」

 

 僕は軽いことのように言う。

 

「それは本当かの?」

 

「うん。僕の二つ名は『奇跡』だからね。どんな願いも叶えることができる。対価さえあれば、の話だけど」

 

「ならば対価はわしが払う。だから生徒を助けてはくれないか」

 

 オスマン翁が頭を下げる。

 

「いいよ。来る者拒まずが僕のモットーだからね」

 

 初めて使った言葉だけどね。

 

「そうか……感謝する、ミスタ・サカイ」

 

「いやいや、感謝はお門違いだよ、校長さん。別に僕はタダでチカラを使うわけじゃないんだ。願いと同等の対価があって初めて発動するんだ。だからこれは、言うならば『契約』のようなものなんだ」

 

「契約、とな?」

 

「そう、契約。等価交換と言ってもいい。つまりプラマイゼロ。そこに感謝はいらないよ」

 

「そうかの。では、わしは何を差し出せば良いのかの? この学校には宝物庫があっての。そこから見繕ってもらっても構わんよ」

 

「うーん、それは校長さんの私物? 対価は願う人のモノじゃないとだめなんだけど」

 

「大方のものがわしの私物じゃ。中には学校へと国から賜った物品もあるがの」

 

「うん、それなら大丈夫かな。じゃ、薔薇の子のところへ行こうか」

 

 僕らは学校の医務室へと向かった。

 



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第27話

 さて、医務室に到着した僕らがまず目にしたのは、薔薇の男の子に泣き縋る金髪縦ロールな女の子だった。

 

「……──っ! ギーシュ、ごめんなさい。私のせいで……!」

 

「あー、ミス・モンモランシや」

 

 オスマン翁が話しかけると、その女の子──モンモランシーは目に涙を浮かべながらこちらを振り向いた。

 

「こ、校長先生……。ギーシュを! ミスタ・グラモンを治してください! お願いします……!」

 

「もとよりそのつもりじゃよ、ミス・モンモランシ。しかし治してくださるのはワシではなく、ミスタ・サカイじゃ」

 

「え……?」

 

「そういうことだよ、香水ちゃん。大丈夫、僕の二つ名は『奇跡』……世界の理だって捻じ曲げることができる。怪我を治すなんて簡単さ」

 

 ただし、相応の対価が必要だけどね。と付け加える。

 

「そ、それなら、対価は私が払います! どんなことでもします! だから、ギーシュを……!」

 

「いやいや、その必要はないよ。対価は校長さんから貰うことになったからね。君は薔薇君の側にいてあげな」

 

「……はいっ! ありがとうございます、ミスタ・サカイ」

 

 ということで、対価を貰うために宝物庫へ行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

──第27話──

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンロック」

 

 オスマン翁が杖を構えてアンロックを唱えると、ガチャン、と鍵が開く音がした。

 

「ここが宝物庫じゃ。ミスタ・サカイの気に入るものがあると良いのじゃが」

 

「うーん、僕が気に入るとかじゃなくて『奇跡』と同価値のものを貰わないといけないから、必ずしも僕の欲しいものが対価になるというわけではないんだよ、校長さん。まあ、ある程度は僕が決めることはできるけどね」

 

「なるほどのぅ。では入るかの。宝物庫の中の物は全てに固定化がかけられているが、万が一破損などしないように注意しておくれ。特に小さなレディたち?」

 

 オスマン翁はチラリとこちらを振り返り、なのは達3人にウインクした。

 

「は、はい! こ、転ばなければ大丈夫なの……」

 

「祐一さん、ご褒美は何なんですか?」

 

「私はお宝より珍しい食材とかが欲しいなぁ」

 

「……監督責任はミスタ・サカイが負うということで。では入るかの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー」

 

 薄暗い宝物庫には、様々なものが保管されていた。

 煌びやかな宝石。

 屈強そうな鎧。

 美しい宝剣。

 そして何より目をひいたのは、

 

「し、師匠。これって、ロケットランチャー?」

 

「そうだねー。他にも色々と地球産の武器があるね」

 

「なんと! ミスタ・サカイたちはこれら『場違いな工芸品』が何だかわかるのかね?」

 

 オスマン翁は目を見開いて驚いた。

 

「うん。これらは、僕たちの故郷の兵器だよ。とはいえ、一般市民は早々見ることはないけどね」

 

「そやなぁ。テレビや本で見ることはあっても、実物はなぁ」

 

「これが、質量兵器。初めて見ました、祐一さん」

 

 はやてとフェイトも驚いていた。

 まあ、はやては『ゼロの使い魔』を読んだことがあるため、そこまで驚きはしなかったが。

 逆にフェイトは魔法世界では見ることのない質量兵器に興味があるようだ。

 

「成る程のぅ。では、ワシの命の恩人もミスタ・サカイらと同郷なのかもしれんな」

 

「命の、恩人?」

 

なのはがオスマン翁の呟きに反応した。

 

「ああ、あれはワシがまだ若造だった頃、凶暴なワイバーンに襲われての。もうダメかと思った時、爆音と閃光が走り、気がつくとそのワイバーンは死んでおった。そして、この『破壊の杖』を持った奇妙な服を着た男がいた。それがワシの命の恩人じゃ」

 

 そう説明しながら、オスマン翁はロケランの前まで来た。

 

「彼は深い傷を負っていて、手厚く看病したがワシではどうにもならんかった。彼の最期を看取ったワシは、この『破壊の杖』を形見としてここに保管しているのじゃよ」

 

 うん、知ってる。

 長い説明あざっしたー。

 

「で、対価なんだけど」

 

「おっと、そうであったな。……彼と同郷のそなたたちならば、この『破壊の杖』を譲っても大丈夫であろう。これで対価になりうるかの?」

 

「んー、全然ならない」

 

「ほ?」

 

 ポカンとするオスマン翁。

 

「この場合の対価の選別は僕に一任されるんだけど、これら『武器』は要らないよ。特に、僕らの故郷から流れ着いた『場違いな工芸品』系の武器はね」

 

「そ、それは、なぜかの?」

 

「だって、これらの武器って消耗品なんだよ。弾が無くなったらおしまい。将来性のない武器に魅力は感じられないな。その『破壊の杖』も単発式だしね」

 

 それに対して魔法系の武器は整備さえキチンとすれば、動力源も弾も自分の魔力だからね。

 みなさーん、魔法はクリーンでエコなエネルギーですよーww

 

「で、ではミスタ・サカイ。この宝物庫の中に対価になりうるものは無いのかの…?」

 

「ううん、それは早計というものだよ校長さん。僕が対価に決めたのは、これさ」

 

 そこにあったものは──

 



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第28話

「なあ、祐一さん。ホンマにこれがつり合う対価なん?」

 

 宝物庫で薔薇君の治療の対価をもらって、僕らは途中で合流したシエスタの案内で充てがわれた部屋に戻るところだ。

 

「先生、私も分かりません。この煤けた指輪がそんなに価値のあるものなんですか?」

 

 はやてとルイズが頭に疑問符を浮かべながら質問してきた。

 

「そうだよ。これは一見何の変哲もない指輪だけど、ヴァリエールちゃんやメイドちゃんにも分かるように言うと、これは『場違いな工芸品』かつ『インテリジェントアイテム』なんだよね」

 

「という事は、師匠。まさかこれって……」

 

「デバイス?」

 

 うん、さすがはデバイスを持っているなのはとフェイトだね。

 

「その通り。これはおそらく地球からではなく、ミッドチルダから流れ着いた『場違いな工芸品』だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第28話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に到着し、シエスタは隣の待機するための部屋に入ろうとしたが、一緒に部屋に入ってもらうことにした。

 今後シエスタが今回のような騒ぎに巻き込まれないとも限らない。

 だから、平民である彼女にもある程度の抵抗ができるようにしようと思ってね。

 

「というわけで、第1回ユウイチ先生の魔法講座〜」

 

 パチパチパチ〜と拍手を受けながら、僕は先程の指輪を取り出した。

 

「それではいきなりだけど、第1問! このデバイス──ああ、東方ではインテリジェントアイテムのことを『デバイス』と呼ぶんだよ──はなぜ喋らないのでしょうか?」

 

「はい!」

 

「はい高町ちゃん」

 

「無口なデバイスさんだからなの!」

 

 ブー、ハズレ〜。

 

「は、はい!」

 

「はいヴァリエールちゃん」

 

「『固定化』のせいですか?」

 

 ピンポーン! 正解!

 

「正解したヴァリエールちゃんには、祐一くん人形をあげよう」

 

 僕はどこからともなく手のひらサイズの人形を取り出し、ルイズに渡した。

 

 周りの女性陣は『いいなー』とか『ズルいー』とか言ってるが気にしない。

 

「では第2問! 固定化とはそもそもどういう魔法でしょうか? あ、最初に解答できるのはヴァリエールちゃんね」

 

「え!? えーと、固定化をかけたモノが壊れないようにする魔法、だと思います」

 

 んー、半分の半分くらい正解かな?

 

「ほい」

 

「はい八神ちゃん」

 

「たぶんやけど、物理的・魔法的に動かなくする魔法やないかな?」

 

 おお、ほぼ正解!

 

「正確には『その状態を物理的・魔法的に維持する魔法』だね。だからこのデバイスは変形も喋ることもできないのさ」

 

「ほんなら、どうすれば動けるようになるん?」

 

「それなら簡単だよ。『ディスペル』をかけてあげればいいのさ」

 

 なるほど〜、と納得するのははやてのみで、後はちんぷんかんぷんのようだ。

 

「まあ簡単に言うと、僕ならこれを動けるようにできる、ということさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、発言してよろしいでしょうか」

 

 一旦休憩するため、人数分のお茶を入れたシエスタがおずおずと手を挙げた。

 

「なんだい? メイドちゃん」

 

「は、はい。あの、違ったら大変失礼なことなのですが、もしかしてミスタ・サカイの系統は失われたとされている──虚無、ではないですか?」

 

 ほう?

 

「なぜそう思ったんだい? メイドちゃん」

 

「ええと、貴族様と接する機会が多い仕事をしているいとこから聞いたのですが、固定化を施したものを破壊するには、その固定化の術者の力量を超えた力でないと無理なのだそうです。そしてその指輪に固定化を施したのは、オールド・オスマン。あの方を超えるメイジは伝説の虚無くらいしかいないとされています。ので、えと、申し訳ありません。私の勝手な想像ですので的はずれですよね……」

 

 んー、合格だ。

 

「メイドちゃん──いや、シエスタ。君は素晴らしいね」

 

「ふえ?」

 

「君の洞察力と思考力、判断力は賞賛に値するよ。はい、ゴールデン祐一くん人形を進呈するよ」

 

 僕はどこからともなく金色に輝く祐一くん人形を取り出し、シエスタに渡した。

 

「更にこれを渡そう。これは、そうだね。僕からの親愛の証みたいなものさ」

 

 僕はデュランダルからジュエルリーフをひとつ取り出した。

 

「師匠……」

 

「祐一さん……」

 

「先生……」

 

 ……ん?

 

「なにかな? 高町ちゃん、八神ちゃん、ヴァリエールちゃん」

 

「フェイトちゃんとシエスタさんだけズルいの!」

 

「一番付き合いが長いのは私やで!」

 

「私を差し置いてメイドが先なんて! おっぱいですか? そんなにおっぱいがいいんですか!?」

 

 こらこら、年頃の女の子がおっぱいなんて連呼しないで。

 シエスタが赤くなって縮こまってるじゃないか。

 

「一体どうしたんだい? 3人とも。まるで僕がフェイトちゃんとシエスタを贔屓してるみたいじゃないか」

 

『してます!!』

 

 えー。

 

 

 

 

 

 

 

 協議の結果、なのは・はやて・ルイズを名前呼び(ちゃん付け)することになった。

 

 呼び方なんてどーでもいーのにね!

 



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第29話

「それで祐一さん、そのデバイスは誰が使うの?」

 

 ルイズ・なのは・はやてに何度も名前呼びをせがまれている中で、フェイトが尋ねてきた。

 

「ん? ああ、このデバイスははやてちゃんに使ってもらおうと思ってるよ。なのはちゃんにはレイジングハート、フェイトちゃんにはバルディッシュがあるけど、はやてちゃんはデバイスを持ってないからね」

 

「え、わ、私!?」

 

 驚くはやて。

 

「さて、もう固定化は解除したから喋れるはずだね。まずは自己紹介してよ、デバイス君」

 

『OK, meister. My name is ”Baron”』

 

 ふむ、バロンというのか。

 

「バロン……男爵いう意味やね。これからよろしゅうな、バロン」

 

『Nice to meet you too, master ”Hayate”』

 

 

 

 

 

 

 

──第29話──

 

 

 

 

 

 

 

「で、まずはどないしたらええんや?」

 

「えっと、まずはバリアジャケットを設定して──」

 

 デバイス初心者のはやてがなのはに色々教わっている間に、こっちではジュエルリーフ講座を開いていた。フェイトは僕の左腕に絡まっている。

 

「──という感じで、自分に相応しい武装になるのがこのジュエルリーフというものなのさ」

 

「み、ミスタ・サカイ。そんなすごいもの頂けません!」

 

 話を聞いたシエスタは、顔を青くしてジュエルリーフを僕に返そうとした。

 聡明な彼女には分かってしまったのだろう。

 ジュエルリーフが、平民が貴族と対等以上に戦うための武器になり得るということに。

 だがしかし、

 

「だからこそ、シエスタにはこれを持っておいてほしい。いつかこの力が必要な時が来るだろう。これは自分を、そして大切な人を守るための力だ」

 

「ミスタ・サカイ……」

 

「せ、先生!」

 

「ん? なんだい、ルイズちゃん」

 

「なんで先生はそんなにこのメイドを贔屓するんですか! 先生は、私の使い魔なのに……」

 

 そう言って悲しそうに顔を伏せるルイズ。

 

「ルイズちゃん」

 

 ルイズは肩をビクッと揺らす。

 

「シエスタは──平民は、魔法が使えない。そのことを誰よりも知っているのは、貴族であるルイズちゃんたちのはずだね。魔法を使える貴族は平民を守る義務があるんだ。大きな力を持つということは、相応の使命があるんだよ」

 

「使命?」

 

「そう。とはいえ、すべての平民を守りきるなんてことは到底できない。だから僕は手の届く範囲はせめて守り抜こうと思うんだ。……今回の決闘騒ぎで、僕はシエスタを守りきることができなかった。体は守れたけど、心までは守ることができなかった。だから、彼女にジュエルリーフを渡すのさ。貴族に怯えることなく、今まで通りの生活を守るために」

 

「ミスタ・サカイ……」

 

「もしここで働きづらくなったらいつでも言ってね、シエスタ。校長さんに話を通して僕が直接雇うことにするから。そうすれば、他の貴族も手を出せなくなるからね」

 

 この世界の常識に染まっているルイズとシエスタには、ちょっとずつ僕らの常識に同調してもらおうと思います。

 

 ルイズは真剣な顔で何かを考えているようだったが、覚悟が決まったのか、シエスタに真正面から向き合った。

 

「メイド──ううん、シエスタ。私は先生の言葉を全部理解できたわけではないわ。でも、先生が守ると言ったあなたを、私も守ることにするわ。だからシエスタ、私と友達になってくれないかしら」

 

「ミス・ヴァリエール……!」

 

「ルイズでいいわよ。友達は名前で呼び合うものよ」

 

 そう言ってルイズは、シエスタに右手を差し出した。

 

「ルイズさん、ありがとうございます。こんな私でよければ、友達になってください!」

 

 シエスタはその手を握り返し、二人は固い握手を交わした。

 

「ミスタ・サカイ──いえ、ユウイチ様。貴方様は私とルイズさんに平民と貴族の垣根を越えた繋がりを作ってくださいました。だから私はその恩に報いるために、そして何より私の意志で貴方様に仕えたいのです。もしご迷惑でなければ、貴方様のお側に居させてもらえないでしょうか」

 

 シエスタはルイズから僕に向き直り、臣下の礼をして跪いた。

 

「もちろんいいよ、シエスタ。今日から君は僕専属のメイドとして働いてね。他の貴族からの干渉は、校長さんに言ってさせないようにしてもらうよ」

 

「ありがとうございます、ユウイチ様」

 

 シエスタは立ち上がってスカートの端を摘み、見事なカーテシーをしてみせた。

 

「これからよろしくお願いします、マイ・マスター」

 

 にっこりと笑うシエスタを見て僕は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チョロ過ぎじゃねww? と思った。

 



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第30話

 やあやあやあ! 皆のアイドル、祐一さんだゾ☆

 

 ……うん、このキャラは封印だな。

 というわけで、忠誠心高めなメイドさんを入手した後。

 

 僕とルイズはシエスタが学院から僕に鞍替えしたことを報告するために校長室へ、シエスタはなのはとはやてをボディーガードとして連れてマルトーさんなどお世話になった人へあいさつのために厨房へとそれぞれ向かった。

 

 え? フェイト? いつも通り僕の腕にひっついてるけど?

 まあ、そんなことはどうでもいい。いつものことだ。

 問題なのは、校長室に着いたはいいけど中からロングビルさんの怒鳴り声とオスマンさんのセクハラ発言の応酬がドア越しの廊下まで響いていることだ。

 

「失礼しまーす」

 

 でもそんなことに臆しないのが祐一クオリティ。

 ガチャリ、とドアを開ける。

 

「おお、これはミスタ・サカイ。何か用事かの?」

 

「あれ、校長さん。さっきまで秘書さんとお楽しみだったみたいなのに、どうしたの?」

 

「ギクッ! い、いや、何のことじゃろうな。ワシには何を言っているのか分からんよ」

 

「ふーん。あ、学院のメイドをひとり身受けしたから。事後報告になってごめんね」

 

「ひょっ? ……ああ、決闘騒ぎに巻き込まれたメイドかの? ワシもどうにかしてあげようと思っておったところじゃて。むしろこちらこそ、学院の生徒が迷惑をかけてしまって申し訳ない」

 

「うん、気にしてないから大丈夫だよ校長さん。じゃあこの話はもうお終い。で、今回訪ねたのはメイドの報告と、ひとつ頼みたいことがあるからなんだ」

 

「ふむ。内容によるが、大抵のことなら許可しよう。して、その頼みとは?」

 

「なーに、簡単なお願いさ。1週間ほど秘書さんを借りたいってだけだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第30話──

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、私を借りたのは何のためなのでしょうか、ミスタ・サカイ?」

 

「そう身構えなくても大丈夫だよ、秘書さん。別に取って食いはしないさ」

 

 ロングビルさんを借りて、僕らはシエスタの案内で僕の部屋に戻った。

 

「そう言われましても、『ロック』と『サイレント』をかけられた部屋では寛げませんわ」

 

 そう言って警戒するロングビルさん。

 ちなみに『ロック』と『サイレント』は修行の一環としてルイズにしてもらった。

 

「何分、他には聞かれたくない用事でね。こちらとしても、そちらとしても」

 

「……私にとっても、ですか」

 

「うん。まずは自己紹介といこうか、ロングビルさん。いやマチルダさんと呼んだ方がいいかな?」

 

「──ッ! 驚いたよ、まさかあっち(フーケ)でなくこっち(マチルダ)の名で呼ばれるとはね。それで、あたしに何の用だい?」

 

「簡単な用事だよ。マチルダさんの妹分と会うために渡りをつけてほしいのさ」

 

 そう言った瞬間、マチルダさんの杖が僕に向けられ──、ることなくフェイトに取り押さえられた。

 さっきまで僕の腕に絡まってたのに素早い行動だ。

 

「くっ、どこから嗅ぎつけた! あの子に何をするつもりだ!」

 

「特に何かをするわけではないよ。ただ、少しお話とお願いがあってね。害意や敵意があるなら、わざわざマチルダさんに取り次がずにそのままアルビオンに直行すると思わない?」

 

「それは、確かに」

 

「だから早まった行動はやめてね。マチルダさんも首を切られたくないでしょ?」

 

 仕事的にも、物理的にも。

 

「……はあ、分かったよ。あたしらの隠れ家に案内すりゃいいんだろ。で、いつ出発するんだい?」

 

「明日の朝一番に」

 

「はいよ、了解した。もう抵抗しないからこの嬢ちゃんを退けてくれないかね」

 

「フェイトちゃん、おいで」

 

「はい、祐一さん!」

 

 マチルダさんから離れ、再び僕の腕に絡まるフェイト。

 

「まったく、とんだ災難だよ。この貸しは高く付くからね!」

 

「んじゃこれで支払っとくよ」

 

 僕は懐から前の世界で購入しておいたブリリアントカットされたダイヤモンドを取り出し、マチルダさんに渡した。

 

「こ、これは、見事な水晶だねぇ」

 

「いや、これは水晶じゃなくダイヤモンド、金剛石さ」

 

「はあ!? 金剛石だって!? それをこんなに緻密な装飾にするなんて、あんた、何者なんだい…?」

 

「僕は坂井祐一。ただの奇跡遣いさ」

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌朝。

 

「おはようございます、ミスタ・サカイ」

 

「おはよう、秘書さん」

 

 誰が見てるか分からないからロングビルさんモードだ。

 ちなみにこの旅行に着いてくるのは、なのは、フェイト、はやて、シエスタの4人で、ルイズは授業があるため居残りである。

 むくれるルイズに「魔法が上手くなってたらご褒美あげるよ」と言ったら「頑張って授業を受けます!」と居残ることを快く了承してくれた。

 

「馬車は学園のものを借りておきました。港町まではこれで向かいます」

 

「んじゃしゅっぱーつ」

 

 馬車の席(僕の隣)で揉めたのはご愛嬌。

 

 



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第31話

 そんなこんなでアルビオンに無事到着しました。

 原作と時期が違うのでアンポンタン姫からの命は受けてないし、髭子爵もいないため、スムーズに移動できた。

 

「さて、ここからはこの馬車で隠れ家のある森まで向かうよ。御者はあたしがするから、あんたらは荷台に乗ってな」

 

「うん、案内よろしくね〜」

 

「ふん、対価の分は働くさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第31話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車に揺られる中、シエスタに膝枕させながら三人娘と戯れていると、

 

「おい、山賊だ! 囲まれてるぞ!」

 

 とマチルダさんからお声がかかった。

 

「さ、ささ、山賊ですか!? ど、どうしましょうユウイチ様!?」

 

「も、もちつくんや、シエスタさん! こういう時は素数を数えるんや! あれ? 1って素数やったっけ……?」

 

 慌てるシエスタとはやて。

 対してなのはとフェイトは落ち着いている。

 これが自分の力量を把握しているかいないかの違いかな?

 

「ということで、山賊の鎮圧はシエスタとはやてちゃんにやってもらうよー。何事も経験経験、行ってみよー」

 

「行ってみよー、やないわ! 山賊やで? 可愛い私なんか、捕まってとんでもないことされてまうんや。エロ同人誌みたいに。エロ同人誌みたいに!」

 

 大事なことなので二回言ったんですね分かります。

 

「とは言っても、はやてちゃん。君はインテリジェントデバイスのバロンとジュエルリーフを装備してるんだぜ? 手加減を忘れて相手を殺してしまうことはあっても、負けてどうにかなる可能性は皆無だ。だから今のうちに、安全に戦えるうちに『経験』を積んでおかなければいけない。戦いとはどういうことなのか、相手の何かを奪うとはどういうことなのか、理解しなくちゃ」

 

 とそれっぽいことを言って、二人を荷台からポイっと降ろした。

 山賊の男たちは二人が獲物に見えるのか、ぐへへ、と下卑た笑いを浮かべている。

 狩られるのは自分たちだとは知りもせず。

 

「……そうやな。私は今まで、ずっと誰かに守られてきた。でも今は自分の足で立って歩ける。自分の力で困難に立ち向かえる。だから、戦う為の武器(チカラ)を貸してくれへんか、バロン?」

 

「All right. My master!」

 

「よっしゃ、行くで。バロン、セット・アーップ!!」

 

 その言葉と同時に、はやては自らが思い描いたバリアジャケットを身に纏っていく。

 黒地の長袖長ズボンに金色のラインが走っていて、所々に十字架のような金具が見てとれる。

 一見地味な感じに見えるが、それで終わるはやて(オタク)ではない。

 

「バロン、『ヘカントケイル』展開!」

 

 そう言うと、十字架の金具が光り、機械的な多関節の腕が伸びた。

 その数は10本。

 

「まだまだ、これで終わらへんで。武装錬金!」

 

 次いではやてはジュエルリーフを掲げ、発動した。

 そこに現れたのは様々な形の刀剣の類い。

 その数もまた10本。

 

「今は10個しか出さんかったけど、最大1000個の武器をイメージ通りに作り出せる『千日手の英雄(センノツルギ)』が私の武装錬金!」

 

 多数の腕を持つバロンの『ヘカントケイル』と多数の武器を出せる『千日手の英雄(センノツルギ)』はまさに2つで1つ、同時使用が前提の武装。

 

「千手観音プラス阿修羅、って感じだね」

 

 厨二臭ェ(ボソッ

 

「バロン、ジュエルリーフとリンクして非殺傷設定にできる?」

 

「Sure」

 

「よっしゃ。じゃあ、手加減とか考えずにいけるな。──山賊さん、武器の貯蔵は十分か?」

 

 そしてそこからははやてによる武器の投擲の乱舞。

 魔力ダメージのみで、しかし吹き飛んでいく山賊たち。

 まあ、襲ってきたんだから返り討ちにあう覚悟があるのだろう。

 むしろ命はあるんだからこちらに感謝すべきだ。

 

「きゃあっ!」

 

 という短い悲鳴に振り向くと、なのはが山賊に捕まっていた。

 前方ではやてが無双している時、後ろから1人の山賊が近づいてきていたようで、捕まったなのはは首元にナイフを突きつけられていた。

 レイジングハートがバリアジャケットを展開すればすぐに無効化できるが、ここはシエスタに任せてみることにした。

 

「シエスタ、確かに戦うのは怖い。襲われるのは怖い。傷つくのは怖い。でも、本当に怖いのは、大事な人が傷つくことだ。そうならないために、僕は君にジュエルリーフを託したんだ。君は、大事な人のために他人を、そして自分を傷つける覚悟があるかい?」

 

「……ユウイチ様。私はユウイチ様の専属メイドです。これしきの事で挫けるわけには参りません。なのはちゃん、安心してください。すぐに助けますね。──武装錬金」

 

 すっ、とシエスタの姿が見えなくなった。

 いや、それどころか『シエスタという存在そのもの』が消失したかのように感じられた。

 そして次の瞬間には山賊は気を失い、なのはは自由になっていた。

 

「アサシンナイフの武装錬金、『エニグマブレード』でございます」

 

「ありがとうなの、シエスタさん」

 

「いいえ、ご無事で何よりです」

 

 それが最後の山賊だったようで、馬車の周囲には気絶した男たちが散らばっていた。

 

「……あんたらと敵対しなくて良かったと、心の底から思うよ」

 

 マチルダさんはそう呟くと、再び馬車を走らせた。

 



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第32話

「着いたよ。ここがウエストウッドの森さ」

 

 マチルダさんが馬車を止めてそう言ったので、僕はシエスタの膝枕から起き上がった。

 

「ここからは歩きだ。迷わないようにしっかり着いて来るんだよ」

 

『は〜い』

 

 となのはとはやて、シエスタが返事をした。

 フェイトはいつも通り僕の腕(以下略)

 そしてしばらく歩くと、少し開けた場所に家が建っていた。

 

「テファ、居るかい?」

 

 マチルダさんの声が聞こえたのか、家のドアがゆっくり開かれ、そこからフード付きのマントを被ったひとりの女の子が出てきた。

 

「……マチルダ姉さん? その人達は誰?」

 

「あー、えーと……とりあえず敵ではないよ。あと耳を隠さなくても大丈夫。こいつらは既に知ってる」

 

「え? 姉さんが話したの?」

 

「いや、私は話してない。なぜか元から知っていたんだ」

 

 そこまで話したところで女の子は、僕を不安そうな目で見つめてきた。

 

「はじめまして、お嬢さん。僕はユウイチ・サカイ、奇跡遣いを自称しているよ」

 

「奇跡、遣い?」

 

「僕はね、対価を払えばどんな願いでも叶えることができるんだ」

 

「どんな願いでも……? あ、あの、それなら私……」

 

「うん、分かってるよ。叶えたい願いがあるんだよね。僕はそれを叶えに来たんだ。確か、君の名は……」

 

「あ、ティファニアっていいます。長いからテファって呼んでください」

 

「分かったよ、テファ。フードをとってもらってもいい?」

 

「は、はい」

 

 テファは緊張した面持ちでゆっくりとフードを下ろし、マントを脱いだ。

 そこにあったのは……

 

「な、なんちゅうデカさや……! これはもう『胸革命(バスト・レボリューション)』や!!」

 

 あ、その単語はそのまま流用するのね。

 なのはもシエスタも、そしてフェイトでさえ、テファの胸部装甲(おっぱい)に釘付けだった。

 

「えっと、わ、私エルフなんだよ?」

 

 テファの前情報はある程度みんなに伝達してあったので、エルフであることは『そういえばそうだった』レベルの反応だった。

 

「あ、あれ? 姉さん、エルフって人に怖がられてるんじゃなかったっけ……?」

 

「ああ、そのはずなんだが。まあこいつらに常識を求めるのは諦めた方がいいよ」

 

「は、はあ……」

 

「とりあえず、家にお邪魔していいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

──第32話──

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の中には何人か子供たちがいた。

 知らない僕らが入ってきて警戒していたが、テファとマチルダさんの様子から危険は無いと判断したようで、近すぎず遠すぎずな位置でこちらを見ている。

 

「どうぞ、お茶です」

 

「ありがとう、テファ」

 

 それっぽい笑顔でお礼を言うと、テファは長い耳を真っ赤にしてマチルダさんの陰に隠れた。

 こらフェイトちゃん、テファを威嚇しないの。

 

「さて、落ち着いたところで本題に入ろうか。僕は君の願いを叶えにきたんだ。隠れることなく普通に暮らしたいんだよね」

 

「は、はい。でもこの耳はエルフであるお母さんとの繋がりでもあるの。ありのままの姿で普通に過ごしたい、っていうのは欲張りかな……」

 

「そんなことあるもんか! テファは今までいい子にしてたんだから、少しくらい欲張ったってバチは当たらないよ! なあアンタ、テファの願いを叶えに来たんだろ? 対価ならあたしが払う。どんなことでもしてやる。だから、だからテファの願いを叶えてやってくれよぅ」

 

「姉さん……」

 

「ふむ、テファは耳を人間サイズにするではなく、世界の認識の改変を望むのか。それは対価が高くつくよ? そしてマチルダさん、対価は願う本人が払わなければならなくてね。『テファの願いを叶える』という間接的な願いもアウトなんだ」

 

 苦い顔をするふたりに、僕は続ける。

 

「でも大丈夫。テファが払える対価のアテはあるよ。それは君の魔法。『虚無』の魔法さ」

 

「え? 虚無って始祖ブリミル様の魔法だよね。ハーフエルフの私が虚無だなんて」

 

「森に迷い込んだ人の記憶を消す『忘却』の魔法。それは四つの属性のどの魔法にもできないものだ。逆に君は普通の魔法がコモンスペルのものすらできない筈だ」

 

「エルフを敵とするブリミル教の象徴の『虚無』がハーフエルフのテファに宿るなんて、なんて皮肉なことなんだい……!」

 

「でも姉さん、この人はそれが対価になるって言ってるわ。あの、奇跡遣いさん。私の魔法なら差し上げます。だから、どうか願いを叶えてください!」

 

「ユウイチ」

 

「え?」

 

「ユウイチと呼んで、テファ。僕たちはもう友達じゃないか」

 

「ゆ、ユーイチ……?」

 

「うん、友達のテファの願いなんだ。バッチリ叶えるよ」

 

「うんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

◻️◻️◻️◻️◻️◻️

 

 

 

 

 

 

 

 

「では確認だ。願いは『テファの耳を当然だと世界に誤認させる』、対価は『テファの虚無の魔法の力』──間違いないね?」

 

「はい」

 

「では始めるよ」

 

 うーん、世界改変は久しぶりだから楽しみだな。

 僕は奇跡遣いの力を行使する。

 

 地面が、空が、空間が、時間が、世界が、少しだけ変わった。

 

「これで完了。ここで改変を見ていた者以外は全てテファの耳が長いのは当たり前、ただの人だと思うよ」

 

「ほ、ほんと?」

 

「嘘だと思うなら、今から人前に出てみよう」

 

「えっ⁉︎ そ、それはまだ勇気が足りないというか……」

 

「ではテレポートするよ。場所はトリステイン魔法学院の僕の部屋」

 

「え、ちょ」

 

 ぐるん、と世界が回る。

 視界が正常に戻ると、目の前には驚いた顔のルイズがいた。

 

「え? 先生? アルビオンに行ってるはずじゃ……?」

 

「ただいまルイズちゃん。ところでこの子を見てどう思う?」

 

 ルイズにテファを見せる。

 

「すごく、大きいです……! な、なにこのおっぱいお化け! 私に喧嘩売ってるの⁉︎」

 

 ふんがーっ! と激昂するルイズに更に問いかける。

 

「他には? 特に顔つきとか」

 

「え? あ、はい。えーと、すごく可愛い子だと思います。ま、まあ私には敵わないけどねっ!」

 

 ルイズは隠していないテファの耳を見ても反応することはなく、顔の造詣を褒めるだけだった。

 

「姉さんっ!」

 

「テファっ!」

 

 抱き合って喜ぶ二人。

 いやー、いいことした後は気持ちがいいなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐一さん。なんでこんな無意味なことしたんですか?」

 

 とフェイトが問う。

 

「だって、僕の周りが最近ロリロリしいから大人っぽい&巨乳属性を追加しようと思って。ダメだった?」

 

「んー、祐一さんがしたいならそれは最優先ですべきことです」

 

 ならいいかー。

 



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第33話

「というわけで、その後なんだかんだすったもんだあってテファをトリステイン魔法学院に入学させることに成功した坂井祐一です」

 

「祐一さん、誰に話しかけてるん? はっ、まさか読者がいるんか⁉︎ 私たちよりも上の次元の存在が……‼︎」

 

 ははっ、厨二乙ww

 

「ゆ、ユーイチ、みんな私のこと見てくるの……。も、もしかして、耳が違うって気づかれてるのかも……!」

 

 僕の能力行使に抗えるとすれば、それこそ神の御業(みわざ)だ。

 

「大丈夫大丈夫。きっとテファが可愛いからみんな見てくるんだよ」

 

 と適当に答えておく。

 

「そんな、か、可愛いだなんて! ……ユーイチは可愛いと思う?」

 

「あー、可愛い可愛い」

 

 再び適当な返答。

 

「むぅー、祐一さん。私も可愛いですか?」

 

 いつも通り腕に引っ付いているフェイトが聞いてくる。

 

「あー、可愛い可愛い」

 

「むふぅ〜」

 

 テファと全く同じ返答をしたけど満足そうにしているフェイト。

 女心って分からないなぁ。

 

 ちなみに今僕らがいる場所は魔法の授業を受けるための教室の一角。

 本来、生徒ではない僕とフェイトはいるべきではないのだが、ルイズの使い魔と、更にその使い魔ということで、僕+三人娘の誰かひとりなら授業参加を認められている。

 

 初めは異世界に興味津々のはやてが来ようとしたのだが、少しでも僕と離れると死んでしまう病(命名:なのは)であるフェイトが猛反対し、ルイズが魔法について教える時間を設けることではやてはフェイトに出席権を譲ったのだ。

 

「……ッ!(イライラ)」

 

 フェイト、僕、テファに続いて並んで着席しているルイズが、こちらの様子を伺いつつ、静かにイラついていた。

 きっと昨日に引き続きテファの胸部を部位破壊したい衝動と戦っているのだろう。

 

 そんな若干カオスな僕らを見つめる視線──他の好奇な視線とは質の異なる、観察するような視線に気付きつつも、

 

(そういえば、夜天の書ってこっちに来てから開いてなかった気がする)

 

 と出待ちし続けている守護騎士たちの存在をふと思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──第33話──

 

 

 

 

 

 

 

 

タバサside

 

 

 先日、どこからか金髪の少女を連れてきて学院の生徒にしたミスタ・サカイは、その少女と仲良く会話をしている。

 反対側に座って腕に引っ付いているのは、以前の決闘騒ぎで土メイジを圧倒した少女。

 その子も金髪。

 近くに座っているが、全く会話をしていないミス・ヴァリエールの髪は、ピンクブロンド。

 

(彼は金髪が好き?)

 

 もしそうならば、このままでは何かしらの支障が出る可能性がある。

 私の髪は、金色には似ても似つかない青。

 ピンクブロンドでも冷遇される様子を見て、金色の染髪剤の購入を即座に決定した。

 

(次の休みに、王都に買いに行かないと)

 

「あらタバサ、また(くだん)のミスタを見つめて……。やっぱり恋、と言うとあなたは否定するだろうから、そうね……、気になるというか、いつの間にか目で追ってるようなことがあるのではなくて?」

 

 私の唯一の友人が、そんな質問を投げかけてくる。

 彼女の言う恋とか愛とかでは無いが、確かに見える範囲にいる時はその様子を見るようにしている。

 という意味で問いに頷くと、

 

「ああ、まだ恋が何なのか知らない若い蕾は、気になる相手のことを知っていくことでその花を開いていくのね! イイ! すごくイイわ!」

 

 と叫びだす。

 友人がこの手の話で暴走することはよくあるので、とりあえず放置しておく。

 私は私の目的のために、まずは彼と友好的な関係を築く必要がある。

 

(そのためにもまず、早急に金髪に染めなければ)

 

 そういえば、友人は異性との交流を円滑にするために自分を着飾る『おしゃれ』というのが得意だったはず。その『おしゃれ』は頭髪に及ぶものもあったと記憶している。

 

「キュルケ」

 

「そしていつしかその気持ちは明確な恋心に──、って呼んだかしら、タバサ?」

 

「次の虚無の曜日、買い物行きたい」

 

「あら、あなたからお出かけしようと言い出すなんて珍しい。何が欲しいの? 本?」

 

「染髪剤」

 

「髪色を変えたいの? ──はっ⁉︎ つまりオシャレをして新しい自分に生まれ変わるのね! いきなり髪を染めるのは冒険し過ぎかな、とは思うけど……、タバサ本人のやる気があるなら私は止めないわ。何事も経験だもの! 良いわタバサ。次の休みは髪が傷みにくい染髪剤を買いに行きましょう!」

 

「ん、案内、お願い」

 

 これで迅速に染髪剤を購入できるだろう。

 私は金髪になってから彼とどう接触すればいいかを頭の片隅で考えながら、未だ大小の金髪たちと話している彼を眺めていた。

 

 

sideout

 

 



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第34話

「そうだ、王都に行こう」

 

 そう言ったのはぁ、坂井祐一ぃ、であったぁ。

 

「どうしたんや? 藪からスティックに」

 

「はやてちゃん、さすがにそのネタは古いの……」

 

「なん……やと……」

 

 なのはに突っ込まれ項垂(うなだ)れるはやては置いといて。

 

「ということで、今日は休みの日らしいので王都に遊びに行こうと思う」

 

「先生、それは賛成なのですが、学院の馬の予約はしてあるんですか?」

 

 馬の予約とな。

 そんなものは必要ないよ。

 そもそも乗馬なんてできないし。

 

「じゃあどうやって行くの? 私は道も距離も分からないから全部お任せになるけど」

 

「テファさん、ユウイチ様のことです。私たちでは思いつかないようなお考えがあるのでしょう」

 

 まあ確かに、この世界の住人では思いつかない方法で行こうと思ってるね。

 

「フェイトちゃん、そこの夜天の書取ってー」

 

「はい、どうぞ!」

 

 いつも通り僕の腕に引っ付いているフェイトに、机の上に放置されていた夜天の書を取ってもらう。

 

 さて、しばらくぶりの登場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

──第34話──

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃリイン、このメンバーの移送よろしく」

 

Yes, my majesty(了解です、我が君)

 

 リインフォースが事前に渡しておいたジュエルリーフを取り出し「武装錬金」と発声すると、それは青い光を放ち、彼女の背中にメカメカしい翼を形成した。

 

翼型推進装置(ウィングスラスター)の武装錬金、『自由飛行(フリーダム)』です」

 

 形状はお察しの通り某モビルスーツの背部なので細かい描写は省略。

 この武装錬金の特性は『重量・体積に関わらず任意のものを自身と共に飛行させる』というもの。

 

「うわ、わわわ。浮いとる」

 

「じ、自分で飛ぶのと感覚が違うの」

 

「これは『フライ』の魔法ですか?」

 

「他の人を浮かせるなら『レビテーション』ね。でもこんなにたくさん飛ばすなんて規格外よ」

 

「すごーい! みんな飛んでる!」

 

「きゃー祐一さん、高いの怖ーい」

 

「いやフェイトちゃん、そんな棒読みで怖がらなくても引っ付いてていいから。んじゃ出発〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都近くの街道わきに着陸し、そこから出入口の門を目指して歩くことにする。

 いきなり街中に着陸するほど常識知らずじゃないからね。まあ、必ず常識に従うとも言っていないけど。

 

 門番による検問で「このハーレム野郎がッ!!」という眼差しを向けられたが無視して街に入る。

 そこには王都と言うだけあって、広い道と煌びやかな店が──

 

「なんや、王都いう割にはショボいな」

 

「想像してたのとなんか違うの」

 

「わぁ♪ 祐一さんとデートだぁ」

 

 三人娘の3分の2には不評な街並みだが、中世ヨーロッパレベルの文化ならこんなもんだろうさ。

 ちなみにテファはほぼ初めての街の賑やかさに「わぁ、うわぁ〜」と完全に上京したてのお登りさんの反応だ。

 

「そういえば先生。王都に遊びに行くとは聞きましたが、具体的には何をするんですか?」

 

 うーん、全く何も考えずに来たからなぁ。

 しかも文明レベル的に満足できなさそうな子が約2名。

 

「よし、とりあえず武器屋を冷やかしに行こう」

 

「分かりました。武器屋は……確かあっちの方、だったかな?」

 

 武器屋の方向に自信なさげなルイズ。

 まあ、テキトーにぶらつくだけでも問題ないさ。なにせ目的が無いんだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らっしゃい」

 

 こちらを見ずに気のない挨拶をした武器屋の店主に、ルイズは

 

「お客を見ようともしないなんて、失礼にも程があるわ!」

 

 と憤慨した。

 驚いてこちらを向いた店主は、僕とルイズのマントから貴族であると察したらしく、へりくだりながら慣れない敬語で謝ってきた。

 

「すいやせん。ですがウチはお上に目をつけられるような商売はしてませんぜ?」

 

「客よ。武器を買いたいわ」

 

「へえ、お貴族様が剣をお振りになるんで?」

 

「……先生、剣を買うんですか?」

 

 ここに来て何の武器が目当てなのか聞いていない事に気付いたルイズ。

 まあ、種類としては剣の類いだね。

 という意味を込めて僕が頷く。

 

「そうよ! この店で一番良い剣を見せなさい!」

 

 なにやら見栄を張ってそんな事を言い出したが、貴族の子どものお小遣いでは厳しい値段だと思うよ。

 というか、そんな言い方すると店側は絶対ぼったくろうとするよ?

 

「へえ、これがウチの店で一番お高い剣でさぁ。かのシュペー卿が打った逸品で、鉄をも切断する切れ味ですぜ」

 

 そう言って店主が持ってきた剣は、ゴテゴテした装飾だらけの金ピカな物で、見るからに儀礼用だ。

 まあ、値段は一番だろうね。宝石たくさんだし。

 

 

 

「へっ! まともに剣も握った事のない貴族のボンボンなら、そのナマクラがお似合いだな!」

 

 

 

 僕でも店主でもない男の声が店内に響く。

 その存在を知っている僕とはやて、店主以外はキョロキョロと周りを見回す。

 

「え? ここら辺から聞こえたような……?」

 

 特価品の剣が乱雑に入れてある樽の近くにいたテファがその樽を覗き込むが、もちろん中に人などおらず首を傾げていた。

 

「やいデル公! お情けで置いてもらってる分際で商売の邪魔するんじゃねえ!」

 

「はっ! こんな阿漕(あこぎ)な商売しているようじゃあ、この店もお終いさあ!」

 

「なんだと! もう容赦ならねえ! 鋳潰して喋れねえようにしてやる!」

 

「できるものならやってみろってぇんだ!」

 

 店主と激しく口論しだした声を頼りに、今度はなのはが樽を覗き込み、1本の錆だらけの剣を手に取った。

 

「ボロボロなの。えっと、あなたが喋ってるの?」

 

「おうよ、その通りだぜ嬢ちゃん。──ん? この感じ……まさか使い手、じゃ、ねぇな。嬢ちゃん、アンタ『右手』か?」

 

「右手? 私、左利きだけど……?」

 

「いや、分からねぇならいいんだ。だがそうすると、そっちの貴族様のどっちかが『担い手』なんだろ?」

 

 分かる奴にしか分からない、意味深な喋りをする剣だな。

 僕は物語でこういう意味深な事を言いながらも核心の部分をなかなか明かさないキャラが大嫌いなんだ。

 

「はいはい、謎深め乙。こっちは全部分かってるし、君の使い手もここにいるから大人しく買われるように。店主さん、コレください」

 

「へ、へい、まいど」

 

 隠語が多くて意味の分からない会話で混乱しながら、店主はなんとかそう口にした。

 

 



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第35話

タバサside

 

 

 今日は虚無の曜日。

 普段なら部屋に篭ってずっと読書をするが、今日は予定がある。

 

「さあタバサ。お買い物に行きましょ♪」

 

 友達のキュルケと買い物のために王都へ行く。

 キュルケとの外出自体は初めてではないが、私のための、しかもおしゃれについての物の購入が目的となるのは初めての事だ。

 

「……今呼ぶ」

 

 使い魔との繋がりを利用して、音による伝達よりも素早くシルフィードを呼びつける。

 

「改めて見ても、あなたの風竜は立派ねぇ」

 

 感想を述べるキュルケと共にシルフィードの背に移る。

 

「……あっち、大きい人の街」

 

 手短に目的地を伝え、私は今日の分の本を開いた。

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

 ─第35話─

 

 

 

 

 

 

 

祐一side

 

 

 〜ルールル♪ルルルラーララ♪〜

 今日のゲストは坂井祐一さんです。皆様盛大な拍手を。

 〜パチパチパチパチパチパチ〜

 

 閑話休題。

 

 デルフリンガー購入後、大通りにある貴族御用達の喫茶店に入ってお茶してます。僕とルイズ以外もきちんとした服装だから止められることなく入店できた。

 

「うーん、まあまあやな」

 

「家の紅茶の方がもっと美味しいの」

 

 異世界現代組が容赦なく批評する。

 そりゃ淹れ方云々だけじゃなくて茶葉の質の限界もあるだろうね。魔法以外の文明は中世ヨーロッパ程度だし。

 

「なのはちゃんのご両親は喫茶店を経営されているんですか?」

 

 シエスタが僕たちに給仕をしながら問いかける。

 ちなみに「専属メイドである私以外にユウイチ様のお世話は任せられません」とのことで配膳などは店員から品物を受け取ったシエスタがやっている。

 

「あ……う、うん。そうなの」

 

 話題が自分の家族の事に移ると、とたんになのはの口は重くなる。

 異世界にまで家出した手前、後ろ暗い気持ちがあるようだ。

 まあ、異世界に来ちゃったのは僕のせいだが。

 

「せや、この後魔法の道具のお店行かへん? この世界の魔法も使うてみたいわ」

 

 なのはの様子から気を遣って、はやてが話題を変えた。

 

「杖や書物を売ってる店はあるけど、魔法は貴族の血筋じゃないと使えないと思うわよ。まあ、先生や貴方達はここの常識に当てはまらないから分からないけどね」

 

 見事な所作で優雅に紅茶を飲むルイズはそう言うが、僕にこの世界の魔法の適性があったように、リンカーコアを持つこの三人娘なら問題なく使えるはずだ。

 

「まあ、他に目的があるわけでもないし、行ってみようか」

 

 もうちょっとくつろいでからねー。

 

 

 

 

 

   ■■■■■■

 

 

 

 

 その後1時間ほど優雅に駄弁ったから、颯爽と重い腰を上げて、一直線に寄り道しながら、目的の魔法道具店に到着した。

 店の入り口は大通りから少し奥まった所にあり、そうと知らなければ素通りしてしまいそうな店構えだ。

 

「いかにも魔法使いの怪しいお店やな。ノク◯ーン横丁的な」

 

「知ってる! ハ◯ポタなの!」

 

 現代っ娘2人は分かりやすい異世界感にwktkしてるが、他はそこまで盛り上がることかと変な人を見る目をしていた。

 ちなみにフェイトはいつも通り右腕装備品になっている。

 

 店内に入ると他にもお客がいたが、案外と広い作りなのか狭苦しい感じはしない。

 僕ら以外には、金髪ショートカットに眼鏡をかけた少女と、見覚えのある気がする赤毛に褐色のグラマー。

 

「ん?」

 

「げ、キュルケ」

 

 あからさまに嫌そうな声をあげたルイズ。

 それとは対照的に「あらあらあら」とこちらに寄ってきたキュルケはこちらのメンバーを見回し「強敵揃いね」と謎の呟きをした。

 

「あらルイズ。素敵なミスタとお仲間を連れてどうしたの?」

 

「あんたには関係ないわ。用が済んでるならさっさと帰りなさいよ」

 

「そんなことより、ミスタ・サカイ♪ この子のことなんだけど、どう思われまして?」

 

 ルイズの挑発を華麗にスルーしたキュルケは、隣にいた金髪の子を僕の正面に立たせて、何やら紹介を始めた。

 

「この子はタバサ。ちょっと無愛想だけど、慣れれば微かな違いを見分けるのが楽しくなるわ。身体付きはそこのルイズよりも小柄だけど今後に期待ね。あと魔法は『雪風』の二つ名を持つ風のトライアングルでかなり優秀よ。よろしくしてあげてね」

 

 本人をぐいぐいと押し付けられながら色々言われたが、右腕のフェイトシールドがオートガードしていた。

 話し終えると同時に押し付けも終わり、本人が「……タバサ」とひと言呟き、ぺこりとお辞儀をした。

 後方で「お辞儀は大事やな」とハ◯ポタネタを引っ張る約2名は無視するとして、僕は左手をタバサに差し出した。

 

「………」

 

 タバサは右腕のフェイトをちらりと見てから、おもむろに僕の左腕に同じように引っ付いた。

 

 右腕のフェイトの力が少し強くなったり、キュルケがキャーキャー、ルイズがギャーギャーと喚いていたが、うん。問題ないな。

 

「ほら2人とも、お店で騒ぐと迷惑だよ。静かに」

 

 当たり前の注意をすると、キュルケは素直に、ルイズは悔しげに従って黙った。

 

 

 

 

 

   ■■■■■■

 

 

 

 

 

「しかし両腕に金髪少女をくっつけてると、まるで僕が金髪フェチみたいに見えるね」

 

 魔法道具店を出てそろそろ帰るかな〜、とみんなで思案している中、ふと思ったことを口に出してみた。

 

 一瞬、左腕にくっついているタバサがピクリと反応し、「……違うの?」と聞いてきたので「違うよ」と返しておいた。

 すると少しだけ目が見開かれ、「……そう」とだけ小さく言った。

 よく分からないが、これがキュルケの言う『微かな違い』なのだろう。分かっても別に楽しいことはなかったな。

 

「んじゃあリィン。帰りもよろしくー」

 

 そんなこんなで休日を過ごした。

 やっぱ遠出は性に合わないなぁ。



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