裏切り異界人は学徒の守護を (ゆずぽん)
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最期の告白
断頭台へ男の首は納められ、斬首を任された年若き騎士が台へと上がる。上がってきた騎士の顔を見ると、男は懐かしいように、笑って声をかけた。
「よお、エノーラ。…積もる話もあるが、まぁチャチャっと済ましてくれ」
「私には…なぜあなたがあちらに着いたのかが未だに分からないよ…」
「…何もおかしい事じゃない。エノーラ…君がそちらに着いたように、俺はこちらに着いたってだけの話だ。俺が男に生まれたように、君が女に生まれたように…受け入れるしかないものだ」
艶やかな金髪を靡かせ、白い鎧に身を包んだ女性、エノーラはその言葉を聞き、何も言わずに俯く。腰に携えた剣を握りしめ、今この状況を理解できないでいる。
「何故…何故なんだ!君は違うだろう!君は卑怯で野蛮なアルマの奴らなんかとは違うのに…。優しくて…強くて…」
「それは君が俺を十分に理解していなかっただけだろう?君は俺の何を理解して、俺を語るんだ? 子供の頃一緒に森で遊んで怪我したことか? 聖騎士となり苦楽を共にしたことか? なあ、教えてくれ、エノーラ・サジリアス」
「知らないよ…知らなかったんだ…。君が抱えていた闇も、抱いていた我々への不信感も…不満も。 全部…全部君と向き合うことをしなかった我々がいけないんだ」
エノーラのその言葉に男は一つため息をつくと、視線を彼女から外し、下を向く。
「早く首を刎ねろ、そろそろ上が黙っちゃいないだろう」
彼女はその言葉に体を震わすと、少々垂れた青い瞳に涙を浮かばせる。腰に差した剣を抜き、天高く剣先を掲げた。
「…裏切り者“ウルエラ・ヴァーラル”の処刑を執行する! この者は我らが祖国ククーダを守護する聖騎士団長でありながら、アルマはと寝返った大罪人! よって、斬首刑に処す!」
エノーラが剣を構えると、待っていたかのように副団長が民衆へと叫ぶ。ウルエラは民衆からの罵声をこれでもかと浴びせられる。
「早く殺せ」「ククーダの面汚し」こんなものはウルエラには何一つ響かなかった。
「エノーラ…戸惑うな。得意だろ?思いっきりやるんだー」
静かに、一向に刑を執行しないエノーラに告げる。その言葉にエノーラは涙を腕で拭い、剣を構え直す。
「ウルエラ…私は君を愛していたよ…」
「俺もだよ」
そう言いきったかは分からない。彼らの小さな告白は民衆の歓声にかき消され、エノーラの涙に流される。民衆達の中には転がり落ちた首を蹴りつけたり、踏み潰す者もいた。だが、斬首された裏切り者は笑顔で、その顔が潰れ、肉塊へと成り下がるまで、天を見続けていた。
「おい、ここはどこだ。ククーダでもアルマでもないだろう。おい、聞いているのか、半人半馬!」
「今夜は火星が明るい」
「ああ、ダメだ、聞いちゃいない」
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