ゆゆゆ「その後の物語」 (ゆゆゆSS制作委員会!!)
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天の神との戦い後
第1話 復興


当初は絶望的だった。

地の神の消滅後、資源は限られ故郷は崩壊し、それでも人類は復興への道を一歩、また一歩と着実に歩んでいた。 

天の神が退いたことにより、バーテックスと戦う必要がなくなった勇者部員達だったが、復興のために全力で人助けをする彼女らの姿はまさしく勇者と呼ぶのに相応しかった。

勇者部一同は復興支援の手伝いで、讃州中学校の体育館へうどんの炊き出しに足を運んでいる。部活動の一環なのでもちろん全員制服を着用しているのだか、変わったことと言えば、東郷が友奈からもらった青色のヘアゴムで髪を後ろにまとめていることぐらいだろう。東郷が宝物にしている物である。

友奈「はいはーい!肉うどんの方はこの列に、きつねうどんの方はこっちの列に並んでくださーい!」

友奈が明るく響き渡るような声で一般市民に呼びかける。

樹「ペットボトルのお茶は一人一本まででーす!赤ちゃん用のミルクもありまーす!」

樹も友奈に負けじと後に続く。

風「すごい数の人達ね…さすがの私も少し驚いたわ。」

東郷「皆さん、あの日の戦いの影響で十分な物資を頂戴できていないようですから。

もちろん、勇者部に必要な備品なども最近は不足気味です…」

東郷の声は心なしか疲れているようだが、それでもうどんを湯がく手が止まることはない。

夏凛「これぐらいの列、完成型勇者の私にとってはどーってことないわ!」

夏凛は得意げな顔で宣言するが、その額は汗でびっしょりと濡れている。

園子「あれ?にぼっしーの袋、もう空になってるよー?」

夏凛は透明になったにぼしの袋をハッとした顔で見つめる。

風「夏凛ー、うどんの匂いで夏凛もお腹すいてきてるんじゃなーい?少し休憩してきな。夏凛は朝からずっと立ち仕事してるんだし。」

風がニヤリとした顔でかつ優しい声で夏凛に話しかける。

夏凛「大丈夫よ!てゆーか、さっきからずっとお腹鳴らしてるあんたにだけは言われたくないわ!列の終わりも見えてきてるし、もう少し頑張るわ。ありがと。」

夏凛は風から目を逸らしながら口を尖らせて答える。

風「夏凛がお礼を言うなんて、えらく素直ね…雪でも降るんじゃないかしら。」

夏凛「失礼ね!」

樹「おねーちゃんも夏凛さんも目立ってますよ…」

樹が困り顔で二人の耳元で小さくささやく。

夏凛「コホン、とりあえずあと少し頑張るわよ!」

夏凛が自分に言い聞かすように呼びかける。

園子「エイエイオー!」

園子が満面の笑みで答えた。

そのとき、一人の少年と赤ん坊を抱えた母親が園子たちの前に現れた。

少年「お姉ちゃん!うどん、とっても美味しかったよー!どうもありがとう!」

母親「忙しい中、ボランティアありがとうございます!勇者部の皆さんのおかげでこの子達の未来がつながったと思うと、いくら感謝しても足りない思いです!本当に…本当にありがとうございました!」

そう告げると親子は深々と頭を下げてその場から去って行った。

風「実を言うとね、私達が勇者としてでなくただの友達として出会っていたら、あんなに辛い思いをしなくて済んだんじゃないかって思うこともあったの。でも、私達が頑張ったおかげで救うことができた命も確かにあったのよね……うん!頑張って良かった!」

樹「お姉ちゃん、泣いてるの?」

風「やーねー、玉ねぎが目に染みたのよ。」

夏凛「もう…何言ってんのよ、良かったわね……風。」

夏凛の温かい微笑みが広がる。



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第2話 旅の計画

何とか来客者全員にうどんを配り終え、今日のノルマを達成した勇者部一行はすがすがしい気持ちで亀屋(うどん屋)に打ち上げに来ていた。

風「みんなお疲れ様!おかげ様で今日は体育館に来た人達全員にうどんを食べてもらうことができたわ。完全な復興にはまだまだ時間がかかるかもしれないけど、これからも勇者部として少しでも困ってる人々の力になれるように頑張っていくわよ!それでは、かんぱーい!」

夏凛「水だけどね。」

夏凛がツッコむ。

友奈「そういえば風先輩、3年生の友達と行くって言っていた卒業旅行ってどうなったんですか?」

平日の夕方であるせいか店内でうどんをすする人は少なく、勇者部メンバーの声だけが店内に響いていた。

風「ああ、それがね………中止になっちゃったのよー!行く予定だった小豆島が神樹様がいなくなった影響を受けて少し被害が出たみたい。丸亀城に行こうかって案も出たんだけど、流石に卒業旅行で丸亀城ってのはちょっとねー。その代わりに私の家で卒業パーティすることになったわ。」

風が悔しそうに机をダンダンと叩くが、隣に座っている夏凛は我関せずといった様子で釜玉うどんをすすっている。

樹「おねーちゃん、すっごく楽しみにしてたのにねー。張り切りすぎて友達全員分の旅のしおりまで作っちゃって。」

風「まだ作りかけだったけどね。」

東郷「風先輩、素晴らしい心がけだと思います!旅をいかに楽しいものにするかは、入念な準備と綿密な計画によって決定されるといっても過言ではありません!」

東郷が鼻息をフンと鳴らして風の手を取る。

園子「そういえばわっしーも小学校の遠足のとき、とーっても分厚いしおりを作ってきてくれたよねー。みのさんもすっごく驚いてて、楽しかったなー。」

園子がどこか悲しそうな笑顔を漏らす。

東郷「銀…懐かしいわね。元気にやってるかしら。」

園子「みのさんのことだから天国でも思いっきり楽しんでると思うなー。また会いたいなー…。ごめんね!なんだか湿っぽい空気にしちゃって!」

風「いいのよ、銀ちゃんはとっても明るくて楽しい子だったのね。私たちもみんなでいられることに感謝して思いっきり楽しんでいきましょ!」

友奈「そうだ!風先輩!」

風「ん、どうしたの?友奈。」

友奈「勇者部全員で風先輩の卒業旅行に行きませんか?」

友奈が期待に満ちた表情で風にたずねる。

樹「いいですねー!勇者部全員が揃う機会もこれから少なくなってきますし、最後にみんなで思い出作りがしたいです!」

東郷「楽しそうね!」

園子「さんせーい!」

夏凛「風がどうしてもって言うなら、一緒に行ってあげないこともないけど…」

そう言いながらも夏凛の口角は上がっている。

風「ありがとうみんな、でも旅行ってお金がかかるし…みんなに申し訳ないわ。」

夏凛「ふっふーん、完成型勇者はそこんところも対策ずみよ!」

夏凛が自信満々の顔でそう告げる。

風「対策って何よ?夏凛。」

夏凛「アルバイトよ!」

全員「……」

東郷「夏凛ちゃん、アルバイトではなく非正規雇用契約よ。」

風「東郷、あんたってほんっとにブレないわねー。」

樹「あのー……中学生ってアルバイト禁止だったと思うんですけどー……」

園子「大赦が経営している旅館を使わせてもらうのはどうかなー?さすがに全額負担って訳にはいかないけど、少しは安くしてもらえるはずだよ〜!」

風「今年の夏に行った旅館ね。私が夏凛に水泳勝負で圧勝した。」

夏凛「記憶を改ざんするな!私の圧勝だったわよ!」

友奈「でもいいの?大赦も今は色々と大変な時期なんじゃない?」

友奈が心配そうな顔でたずねる。

園子「私約束したんだー。1年前まだ病院のベッドで過ごしていた時、大赦の人達に何が欲しいって聞かれたんよ〜。だから私答えたんよ〜。「友達との思い出が欲しい。」って。

じゃあ大赦の人達は約束するって言ってくれたんだ〜。今その約束を果たしてもらいたいな〜。」

わずかな沈黙が流れた後、口を開いたのは風だった。

風「よーし!今年の勇者部卒業旅行は大赦旅館に決定!夏から乃木も加わったことだし、もーっと楽しい旅行になるわよ!」

樹「やったー!」

友奈「わーい!楽しみだね、東郷さん!」

友奈が東郷の両手を握る。

東郷「楽しみね、友奈ちゃん!」

夏凛「今回も圧勝してやるわ、風!見てなさい、完成型勇者の超速バタフライを!」

風「季節を考えな……夏凛。凍るわよ。」

五人を見つめる園子の目は嬉しくてたまらなそうにキラキラと光っていた。



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第3話 勉強会

真っ赤な夕陽が差し込む放課後の勇者部室は、今日も勇者部員たちの明るい会話でにぎわって……いなかった。高校入試を目前にした風、期末テストで追い込まれている友奈と樹が黙々とシャーペンを走らせていた。園子が風に、東郷が友奈に、そして夏凛が樹にマンツーマンで勉強を教えている。

園子「そこはね〜円周角の定理を使って証明すればいいんよ〜。」

風「ふむふむ、乃木の説明は本当に分かりやすいわね〜。」

友奈「東郷さん!できたよ、合ってるかな〜?」

東郷「友奈ちゃん、正解だわ!さすが私の友奈ちゃん!」

夏凛「樹、頭が回らないときはサプリよ!

これ、キメときなさい!」

樹「え、遠慮しときます〜…」

3人とも放課後を目一杯に使って課題に向き合っていたが、それでも終わる気配はなかった。

風「私、不安になってきたわ。本当に合格できるかしら?」

園子「ふーみん先輩なら大丈夫だよ〜。この問題集だってほとんど満点だったし〜!」

園子が笑顔で風を励ます。しかし風の顔から不安の色は消えない。

風「ねえ、乃木!」

風が園子の両手をとる。

園子「は、はいっ!」

風「今日の夜、何か用事ある?もし良ければ、泊まり込みで家庭教師をして欲しいんだけど……ごめんね!無理しなくていいからね!」

園子の目がキラリと光る。

園子「ビュオーッ!ふーみん先輩のおうちでお泊まりだ〜!私張り切っちゃうよ〜!」

風「遊びじゃないんだけどねー……まあよろしくお願いするわ!」

園子「うん!任せてよ〜!」

風と園子の会話を聞いていた東郷も友奈の方をチラチラと見る。

東郷「友奈ちゃんはテストで不安な所とかない?私は今日の夜、空いてるのだけど……」

東郷が少し期待をこめた様子で友奈にたずねる。

友奈「うーん、東郷さんに頼りすぎるのも申し訳ないしー。どうしようかなー?」

東郷「大丈夫よ!ぜんぜん申し訳なくないわ!むしろ人は他人に教えることでより理解が深まるのよ!」

東郷が机から身を乗り出して友奈を説得する。

夏凛「必死ね、東郷……」

夏凛がやれやれといった顔で東郷を見つめる中、樹が少し顔を赤らめて夏凛につぶやく。

樹「夏凛先輩、もしよろしければ私にも家庭教師をしてくれませんか……?」

夏凛も顔を赤らめてあたふたと取り乱す。

夏凛「し、仕方ないわね!完成型勇者は文武両道!その代わりビシバシいくから、覚悟しておくことね!」

話し合いの結果、今晩は園子が風に、東郷が友奈に、夏凛が樹に家庭教師をすることになった。

(東郷の家)

東郷「ここはtoの後に動詞の原型がきてるから不定詞と考えるといいわよ。」

友奈「そーゆーことなんだ!さすが東郷さん!ありがとう!」

東郷「いえいえ、どういたしまして!(友奈ちゃん……横顔もとっても可愛いわ!)」

(2時間後)

友奈「ふぅ〜。やっとテスト範囲の課題が終わったよ!東郷さんのおかげだね!」

東郷「そんなことないわ!友奈ちゃんが頑張ったからよ!」

友奈「東郷さんに何かお礼がしたいな〜。東郷さん、何か私にしてほしいこととかある?」

東郷「お礼だなんて……(友奈ちゃんにしてほしいこと……たくさんありすぎて決められないわ!)こほん、では1つだけいいかしら?」

友奈「うん、何でも言ってよ!勉強以外なら大丈夫だと思うから。」

東郷「今日はずっと友奈ちゃんと一緒にいたい。」

友奈「……」

東郷「ダメ……かしら?」

東郷が心配そうな顔で友奈にたずねる。

友奈「ご、ごめん!予想外のお願いで少しフリーズしちゃった!それだけでいいの?

美味しいデザートとかマッサージとかでもいいんだよ?」

東郷「いいのよ。友奈ちゃんと一緒にいる時間が私にとって一番の宝物なの。」

友奈「わかった!じゃあ今日はずーっと東郷さんと一緒にいるね!お風呂も夜寝るときも!」

東郷「お風呂!ブホッ!」

東郷が鼻血を吹き出す。

友奈「東郷さん!大丈夫?」

東郷「大丈夫よ。さあ、早くお風呂に行きましょ!」

こうして2人は浴室へと消えていった。

(風の家)

園子「まる、まる、まる、まるっと〜。すごーい!ふーみん先輩、全問正解だよ〜!女子力満点です!」

風「ふっふーん。女子力の鬼の私からしたら簡単なもんよ〜。と言いたい所だけど、乃木の手助けがなかったらここまで出来なかったわ。本当にありがと。助かったわ。」

改まって風が園子に感謝を告げる。

園子「いやいや、それほどでも〜。」

風「何かお礼がしたいわ。何か私にしてほしいことない?乃木。」

園子「うーん、あ!一度皆からうわさで聞いたことがあるんだけど、ふーみん先輩の恋話が聞いてみたいな〜!」

風「オッケー!じゃあ夜寝るときにしてあげるわ!先にお風呂入ってらっしゃい。」

園子「わーい!風先輩の恋話が聞けるんよ〜!楽しみだな〜。」

そう言って園子は浴室に向かう。

風「乃木……いろいろと大変だったみたいだけど、これからは最高の青春を送ってほしいわ。」

風が優しく微笑んだ。

(寝室)

風「あれは私が中学2年生のとき、チア部の助っ人で野球部の応援に……」

園子「zzz……」

(夏凛の家)

樹「ここはxに1、yに3を代入してと……できました!」

夏凛「正解よ。なかなか筋がいいわね。数学の才能があるんじゃないの?」

樹「いえいえ、夏凛先輩の教え方がとっても分かりやすいからですよ!」

樹が夏凛に尊敬の眼差しを向ける。

夏凛「そ、そうね!完成型勇者は自分だけでなく、他人に教えるのも上手いのよ。」

夏凛の顔は少し赤くなっている。

樹「夏凛先輩って私の第2のお姉ちゃんみたいですね!私のお姉ちゃんもよく勉強を教えてくれるんです。」

夏凛「お、お姉ちゃんだなんて何言ってるのよ!」

樹「嫌ですか……?」

樹が心配そうに夏凛にたずねる。

夏凛「嫌じゃないわよ!ただ…私は兄貴しかいないから、姉呼ばわりされるのに慣れてないだけよ。」

夏凛が即答する。

樹「じゃあ今日だけ夏凛先輩のこと、お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」

夏凛「……いいわよ。」

樹「やったあ!じゃあ今日は一緒に寝よ!お姉ちゃん!」

夏凛「仕方ないわね…樹は甘えん坊なんだから…(悪くないわね。)」

そして2人は同じベッドで一夜を過ごしたのであった。

樹「おはよう、お姉ちゃん!!」



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第4話 最後の依頼

風「最近、勇者部への依頼もすっかり落ち着いてきたわねー。」

昨日、高校入試を終えた風がほっとした様子でつぶやく。

園子「ほんとだね〜。こうしてるとだんだん眠くなってきちゃうよ……」

机のサンチョに頭を乗せた園子のまぶたがゆっくりと閉じていく。

友奈「わあ〜。園ちゃん、気持ち良さそうだね!」

夏凛「そうね〜……じゃないわよ!まだ活動中よ!園子、起きなさい!」

樹「さすが夏凛先輩、ツッコミも切れてますね!」

夏凛「何か嬉しくないわね……」

そのとき、勇者部のパソコンに1通のメールの受信音が鳴り響く。

東郷「風先輩、勇者部宛の依頼メールが来ました!」

東郷が少し興奮気味に風に伝える。

風「勇者部にとっても今年度最後の依頼になるかもね、どれどれ〜?」

6人が一斉にパソコンの前に集まる。依頼内容は「不登校の小学生の息子を立ち直らせて欲しい」というものであった。

6人全員が言葉を失う。

友奈、東郷、風、樹、夏凛、園子「……」

最初に静寂を破ったのは夏凛だった。

夏凛「やるわよ…!」

友奈「そうだね…!ずっと辛い気持ちだなんてかわいそうだよ!」

夏凛と友奈の表情に迷いはない。

風「ちょっと待って、心の悩みっていうのはとても繊細なものよ。掛ける言葉を間違えるだけで一生立ち直ることができないかもしれないのよ。」

風は数年前に両親を亡くした際の、ずっと部屋でふさぎ込んでいた樹の姿を思い出していた。

東郷「私たちに何かできることはあるのかしら……ねえ、そのっち?」

東郷からの問いに園子からの返事は無かった。

東郷「どうしたの、そのっち?」

園子は微かに震える声で答える。

園子「依頼主の名字、三ノ輪って書いてる……」

 

(三ノ輪家)

 

三ノ輪母「乃木さん、鷲尾さん、お久しぶりです。勇者部の皆さん、今日はどうか鉄男のことをよろしくお願いします。」

風「鉄男君の今の状況を教えて頂けませんか?」

三ノ輪母「はい、私たち三ノ輪家の長女、銀は2年前の御勤めの際に戦死いたしました。鉄男はそのことをまだ引きずっているみたいなんです。とてもお姉ちゃんっ子だったもので…」

風「そうなんですか……分かりました、私たちにできる限りのことをさせて頂きます。」

三ノ輪母「ありがとうございます!」

 

(鉄男の部屋の前)

 

風が鉄男の部屋をコンコンとノックする。

風「お姉さん達、鉄男君とお話ししたいことがあるんだー。」

鉄男からの返事はない。

友奈「どうしましょう?直接会ってお話しできないと…」

夏凛「無理やり入るわよ。」

樹「やめてください!夏凛先輩。」

樹が慌てて夏凛を制止する。

そのときドアの向こうから少年の声が聞こえる。

鉄男「姉ちゃんの友達だけ入っていい……」

皆の視線が東郷と園子に集まる。

東郷と園子はお互いの顔を合わせて小さく頷くと、ドアノブに手をかけた。

園子「失礼しまーす…久しぶりだね、鉄男君。」

鉄男「お久しぶりです…鷲尾さん、乃木さん。」

東郷「お久しぶりね、鉄男君。」

園子「元気だった…?」

園子が様子を伺うようにたずねる。

鉄男「はい、体の方は全然…」

東郷「学校……行ってないの?」

東郷がさっそく切り出す。

鉄男「はい……」

園子「どうして…?」

園子が心配そうな表情でたずねる。

鉄男「人に会いたくないんです。」

東郷「銀のことが原因…?」

鉄男「……」

鉄男は黙って下を向く。

東郷「私たちに話してくれないかしら…?」

少しの間をとった後、唐突に鉄男が口を開く。

鉄男「みんな、どーせ姉ちゃんのことなんて他人事だったんだよ。」

園子「どういうこと?」

園子の心配そうな表情は変わらない。

鉄男「姉ちゃんが死んで心から悲しんでたやつなんているのかな?みんな3日経ったらもう笑ってやがったよ。姉ちゃん誰のために命を懸けて戦ったんだって感じだよ。」

鉄男があざ笑った。

東郷「その皆の笑顔こそ、銀が命を懸けてでも守りたかったものじゃないのかしら?」

鉄男の形相が変わる。

鉄男「姉ちゃんを勝手に英霊扱いするな!姉ちゃんは身体中穴だらけになって血まみれになって死んだんだ!誰が好きでそんな死に方するんだよ!怖かったに違いない!辛かったに違いない!誰もそんなこと分かろうともしないじゃないか!」

園子、東郷「……」

鉄男「姉ちゃんが死んでから2年間、毎日姉ちゃんに会いたいって思うよ。

でも思っても思っても、もう姉ちゃんは帰ってこないんだよ……」

鉄男「ただいまって言ってくれないんだよ……まだお別れも言えてないのに……」

鉄男の頬を涙が伝う。

東郷はぐっとこらえていたが、溢れ出す涙を止めることはできなかった。

園子「てっつー……」

園子が目を閉じたまま鉄男を優しく抱きしめる。園子の頬には一雫の涙が伝っていた。

園子「あの後の戦いでね、わっしーは記憶と下半身の機能を、私は身体中の機能をほとんど無くしちゃったんだー。そのことに気づいたときはすっごく怖かったけど、それでも戦い続けることができたのはみのさんが私たちに「頑張れ…!」って力をくれたからなんだよ。みのさんは最期まで絶望じゃなく希望を見てたんだよ。その希望はてっつーや弟くんの幸せな未来なんだよ。」

園子「私ね、イネスの前を通るたびにみのさんとわっしーと一緒にジェラートを食べたことを思い出すんだー…」

園子「でもね、全然悲しくなんてならないよー。だってそれは最高に楽しい思い出だもん!みのさんが命を懸けて私たちに遺してくれたものなんだから!」

鉄男「姉ちゃんが遺したもの……」

園子「そうだよ!悲しみなんかよりも、ずっと大切な思い出や幸せな未来をみのさんは遺してくれたんだよ!」

園子「てっつー、ずっと悲しい顔してたらみのさん心配しちゃうよ?みのさんのこと思い出して悲しくなる時もあるかもしれないけど、みのさんはてっつーの笑顔を見て喜んでると思うなー、「私、頑張ってよかった…!」って!」

鉄男がゆっくりと顔を上げる。

鉄男「姉ちゃんは絶望じゃなくて希望をもって戦ってた……」

鉄男「うん……!俺、姉ちゃんの分まで頑張るよ!」

鉄男の瞳にもう曇りはなかった。

「うん、頑張れよ鉄男!須美と園子もありがとな!」

東郷、園子「うん……!」

夕焼けが空を真っ赤に照らしていた。



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第5話 卒業

「ピピピッ……!」

7時ちょうどにセットした目覚まし時計で目が覚めた。

「う〜ん……」

まだ眠い目をこすりながらカーテンを開けると、外には真っ青な空が広がっていた。

「いい天気ね。」

「あ、お姉ちゃんおはよう!」

愛しの我が妹も目を覚ましていたようだ。

「おはよう樹、今日は早起きなのね。」

「もちろん、だって今日はお姉ちゃんの卒業式だもん!」

「でも、卒業式に出席するのは2,3年生だけじゃなかったっけ?」

「そーなんだよ〜。せっかくのお姉ちゃんの卒業式なのに〜。だから私は部室で待ってるよ。」

少し不満そうな顔をした樹が制服の袖に腕を通す。

「大丈夫よ!最後にちゃんと部室にも顔を出すから。」

「最後」という言葉で少し寂しい気持ちになってしまった。意識しないようにしていたのに。

「もしかしてお姉ちゃん、少し寂しい…?」

我が妹ながら、なかなか鋭いものだ。

「少しだけね〜。でも、同じくらい次の高校生活も楽しみなの。とうとう私の女子力が存分に発揮される場所にいくんだわ!」

「発揮できるといいね〜、お姉ちゃん♪」

この屈託のない笑顔に何度救われたことか。本当に大好きだよ、樹。

 

最後の通学路は、桜並木を樹と2人で並んで歩いた。

1年前よりも身長差が縮まった樹の成長をひしひしと感じた。

 

学校に着くと、卒業式は粛々と行われた。

仲の良かった友達と別れることを考えると心臓がつかまれたような気持ちになったが、それでも私は泣かなかった。

自分の3年間に想いを馳せると、真っ先に勇者部での思い出が蘇る。

「1年生の頃は毎日1人で部活してたわね……懐かしいなー。」

放課後になると1人で誰もいない部室に向かい、静かな部屋で淡々と依頼をこなす日々。やりがいはあったが、味気ない毎日だった。

「2年生になると、友奈と東郷が勇者部に入部したんだったわねー。」

友奈と東郷の第一印象は「礼儀正しく、とてもいい子たち」だった。

でも実際に一緒に活動していると、それだけではないことも分かった。

東郷は愛国心のかたまりで、横文字を使うとすぐに訂正させようとしてくる。

友奈は友奈で困ってる人を見ると、自分のことなんて一切考えずに助けようとする。少女の帽子を拾うために、急に川に飛び込んだときなんて本当に焦った。

「全く…世話のかかる子たちだったわね。」

自然と笑みがこぼれる。

この頃からだったか、「勇者としての使命を果たしたいという気持ち」と「お役目に当たらなければみんなで楽しい日常を過ごせるという気持ち」が葛藤するようになったのは。

「そして3年生になって、樹と夏凛、最後に乃木が入ってきたのよねー。」

最初は樹が友奈と東郷と仲良くできるか少しだけ心配だったけど、2人とも本当に樹には優しく接してくれた。

夏凛との初対面は樹海化のなかで斬新なものだったが、日が経つにつれて私たちに素の姿を見せてくれるようになって嬉しかった。

そして何より、私は夏凛を1人の戦士として信頼していた。

乃木は…初めて会ったとき、お人形さんみたいで可愛い子だなと思った。

でも色々あって少し心に何かを抱えているのではないかとも感じた。

そんな乃木にとって少しでも勇者部が安らぎの場となっているのなら、私は心から良かったと思う。後は残された1年を勇者部の仲間たちと全力で楽しんでほしい。

頑張ってね、みんな。

「ぐすっ……」

部室の前までやってきたが、ドアに手を伸ばすことができない。だってこんな顔みんなに見せられる訳がない。

溢れ出しそうな涙を拭っていると、唐突にドアが開いた。

「何やってんのよ、みんな待ってるわよ。」

いつになく優しい顔をした夏凛がゆっくりと私の手を引く。

部屋に入ると、

「風先輩、ご卒業おめでとうございまーす!!」

みんなが待っていた。

 

それからはみんなが用意してくれた料理を食べながら、思い出話に花を咲かせた。

「友奈ったら、いきなり私にグーパンチ喰らわしてきたのよ!」

「だって〜、演劇のセットが倒れるなんて想定外でパニックになっちゃって。」

「お姉ちゃん、私もかける音楽間違えたんだしお互い様だよ。」

「そういえば樹、初詣のとき甘酒で思いっきり酔っ払ってたわよねー」

「夏凛さ〜ん、そのことは触れないで下さ〜い!」

「いっつんは酔うと笑い上戸になるんだね〜」

「それをいうと風先輩は泣き上戸ね。」

「東郷、すごく恥ずかしくなるからそれは言うな〜!」

 

しばらくして、真っ赤な夕日が部室を照らし始める。

そろそろみんなが終わりを意識し始める頃だろう。

盛り上がった思い出話もすっかり落ち着き、部室はしんと静まり返る。

ああ、終わっちゃうなぁー、最後の部活動が。

寂しい。今すぐ声を上げて泣きたいぐらい寂しい。

でも今日までは部長なんだから、最後まで部長らしくしなきゃね。

さあ、いつも通りに締めよう。

「みんな、今日の部活はここまでー!お疲れ様!」

でも誰もその場から動かない。

隣を見ると友奈が下を向いて泣いている。

「友奈……」

「うう……風先輩、寂しいよ……」

やめてほしい、そんな顔されたら私もう我慢できないよ……

私は溢れ出しそうな涙を必死にこらえながら、友奈を抱きしめた。

「友奈、今までありがとう。大好きだよ。」

 

夏凛も下を向いて顔を上げようとしない。

「夏凛、今までありがとう。勇者部を任せたわよ。」

夏凛を抱きしめる。

「ぐすっ……、絶対に、絶対にまた来てよね。」

「当たり前よ、毎日来てあげるんだから。」

最後に夏凛の頭を撫でる。

 

東郷の方を見る。

「風先輩、今までお世話になりました。私、風先輩の後輩で本当に良かったです。これからもお元気で……」

「うん、東郷もありがとうね。勇者部の司令塔を任せたわよ。」

東郷と強く抱き合う。

 

乃木の方を見る。

「ふーみん先輩、今までありがとう…。私だけ入部の時期が遅くて、部に馴染めるか不安だったけどふーみん先輩のおかげで私、今とっても勇者部楽しいよ……!」

その一言で全てが報われた気がした。

「最後の1年、みんなと思いっきり思いっきり楽しんで、最高の青春を送ってね。今までありがとう、乃木。」

乃木を抱きしめる。

 

最後に樹の方を見る。

樹が悲しそうな笑顔を私に向ける。

「お姉ちゃん、私泣かないよ。だって、これからはお姉ちゃんの隣を歩けるくらい強くなるって決めたんだから。勇者部だってお姉ちゃんがいなくても、このメンバーでしっかりやっていけるよ。だから……安心して高校にいってね。」

樹の目から涙がこぼれる。

「お姉ちゃん、今までありがとう、大好きだよ……、高校にいっても私たちのこと忘れないでね……」

私は正面から樹を抱きしめた。涙なんてもう気にならない。

「ばかね……、私があんた達のこと忘れるわけないんだから。」

「樹、十年後も百年後もあんたは私の大切な妹よ。ずっと愛してるわ……」

 

「ふーみん先輩、最後にみんなで写真撮ろうよ!」

「いいわね!乃木。」

「さんせーい!」

「思い出になるわね!」

「ちょっと風、押しすぎよ!」

「いいじゃないの〜」

「みなさーん、セットしましたよ〜!」

「では、5、4、3、2、1、」

「はい、チーズ!」

「パシャッ!!」

 

こうして、楽しくて、大変で、幸せだった私の勇者部での3年間は幕を閉じた。

 

友奈、東郷、夏凛、樹、乃木。本当にありがとう、大好きだよ……!



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銀とのわゆ組
第6話 出会い


銀「ここは…どこだ??」

銀が目を覚ますと、そこは慣れ親しんだ神樹館小学校の教室だった。

真っ先に須美と園子の姿を探したが、見当たらない。

銀「私、バーテックスと戦ってて、死んじゃったんだな……」

銀がつらい気持ちを紛らわそうと学校の外に出ると、前から何やら言い争いをしながら6人組が歩いてきた。

杏「もう!タマっち先輩も真面目に探してよー!」

球子「ごめん!いろんなお店があって目移りしちゃうんだよなー!」

千景「そもそも、乃木さんを信用したのが間違いだったのよ。やっぱり高嶋さんを信じるべきだったわ。」

友奈「ありがとー!ぐんちゃん♪」

若葉「何を、私は最後までひなたの勘を信じるぞ!」

ひなた「ありがとうございます、若葉ちゃん♪

おかしいですねー、神樹様の神託によるとこの辺りに居るはずなのですが。」

6人の様子を見ていて、居ても立ってもいられなくなった銀は彼女たちに声をかける。

銀「あのー、何かお探し物ですか?私でよければ手伝いますよ。」

ひなた「ありがとうございます!少しこの辺りで人探しをしているのですが、なかなか見つからなくてー。」

銀「人探しですかー、もしかしたら力になれないかも…」

球子「三ノ輪銀って名前なんだけどなー、1日中探し…」

銀「私だ!!」

銀が球子のセリフを遮るように被せた。

全員「えー!!」

若葉「君が三ノ輪銀さん?」

銀「はい!」

球子「やっと見つかったー!タマこのまま死ぬまで見つからないかもと思ったゾー。」

千景「もう死んでるけどね。」

友奈「はははー…」

銀「幽霊???」

若葉「しっかり説明した方がいいな。」

ひなた「そうですね。三ノ輪さん、少しお時間を頂いてもいいですか?」

銀「はい、大丈夫ですよ!」

ひなた「まず三ノ輪さん、ここはどこか分かりますか?」

銀「死後の世界…?」

ひなた「いいえ、実はここは神樹様の中なんです。神樹様が造った特別な世界。」

銀「でも私、バーテックスと戦って死んだはずじゃ…」

ひなた「確かに…三ノ輪さんはバーテックス

との戦いでお亡くなりになりましたが、神樹様は三ノ輪さんの蘇生を神樹様の内部でずっと続けていたみたいです。蘇生後は体全体が御姿となってしまいますが、それでも神樹様は三ノ輪さんに生きて欲しかったと。」

銀「そんなことが…」

ひなた「ですが最近、本気で攻め入ってきた天の神に対抗する力を勇者に与えた代償に、神樹様はいつ散華してもおかしくない状況にあります。そこで蘇生にエネルギーを使うことに反乱する神樹様の一部の神(反乱神)が蘇生を止めさせようとしているのだそうです。その反乱を鎮めるため、私たち西暦組の勇者が召喚されたということです。もちろん私たちを含め、この神樹内部の世界にいる人々はすでに昔に亡くなっている方々です。魂だけを呼び寄せた仮の姿とでも思ってくださいね。」

銀「うーん、少し難しいですねー。」

若葉「急にこの世界に呼び寄せられたのだし、無理もないな…」

友奈「銀ちゃん、私は高嶋友奈!この世界では中学2年生だよ、よろしくね!

不安なこともあるかもしれないけど、一緒に頑張ろ!」

球子「タマの名前は土居球子っていうんだ!趣味はアウトドア全般だな!よろしくなー!」

杏「私は伊予島杏です。中学1年生です。体を動かすことが苦手で、休日は家で本を読んで過ごすことが多いです。よろしくね、銀ちゃん♪」

千景「郡千景よ。趣味はゲームね。RPG、FPS、その他何でもやるわ。気になるゲームがあったら言ってちょうだい、貸してあげるから。」

ひなた「上里ひなたです。私は勇者ではなく、神樹様のご信託を聞く巫女をやってます。趣味は若葉ちゃんコレクションの収集です。よろしくお願いします、三ノ輪さん♪」

若葉「乃木若葉だ。趣味は特にないが、あえて言うなら居合だな。三ノ輪が無事に生き返られるように、私たちも死力を尽くして戦おう。よろしくな。」

銀の中で生き返られるかもしれないという希望と、再び戦わなければいけないという緊張が交差する。だか、再び愛する人々と再会するために覚悟を決める。

銀「神樹館小学校6年生、三ノ輪銀です。皆さんの足を引っ張らないように全力で頑張ります!よろしくお願いします!それと私のことは銀って呼んでください!」

ひなた「それでは、銀ちゃんの歓迎会も兼ねてこれからみんなでどこかお出かけしませんか?」

球子「いいなー!タマ、うまーいうどん屋に行ってみたいぞ!」

杏「もう、タマっち先輩ったら。銀ちゃんの歓迎会なんだから!銀ちゃん、何か食べたい物とかある?」

銀「私もうどんが食べたいです!この近くに美味しいうどん屋さんがありますよ!」

若葉「ならそこに行くとするか!」

千景「そうね。」

友奈「レッツゴー!」

銀「私、案内します!」

ひなた「よろしくお願いします!銀ちゃん♪」

こうして7人は夕日の向こうへと消えていったのだった。



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第7話 アウトドア

球子「いーや、銀はタマとサイクリングに行くんだ!」

杏「だめだよ!今日は銀ちゃんのお洋服を買いに行くんだから。」

銀「あはは…」

若葉「やめるんだ2人とも、銀が困っているぞ。」

球子、杏「ごめんなさーい…」

銀が西暦組に加わってから1週間、今まで妹のいなかった西暦組の彼女らにとって銀は本当の妹のような存在になっていた。

明るくて人当たりの良い銀ならなおさらである。

ひなた「仕方ないですねー、それなら間をとって銀ちゃんに似合うトレーニングウェアを買ってからサイクリングに行くというのは?」

友奈「すごいよ、ひなちゃん!ナイスアイデアだね!」

若葉「銀はそれでもいいのか?」

銀「はい!私も一度本格的にサイクリングをやってみたかったんです!楽しみだな〜!」

杏「銀ちゃんに似合うトレーニングウェアかー、銀ちゃん可愛いからなんでも似合いそう♪」

球子「山沿いを走るか海沿いを走るかどっちがいいかな〜?」

千景「私はインドア派だし、家でお留守番しておくわ。」

友奈「えーっ、ぐんちゃんも行こうよ!きっと楽しいよ!一緒にサイクリングしよ?♪」

千景「行くわ。」

球子「切り返しはやっ!」

杏「私も普段はあまり外で遊ばないけど、今回は少し頑張ってみようかな!」

球子「無理はするなよー、杏。」

杏「分かったよ、たまっち先輩。ありがとう♪」

若葉「よし、では早速トレーニングウェアを買いに行くとするか!」

友奈「レッツゴー!♪」

 

(スポーツ用品店)

友奈「うわ〜、すごいね!こんなに種類があるんだ。目移りしちゃうよ〜」

ひなた「本当ですね、青に緑、あ〜んピンク色も若葉ちゃんに似合います〜」

若葉「ひなた…できるだけ派手じゃないやつにしてくれ…頼む。」

千景「高嶋さん、このピンク色の服とっても高嶋さんに似合うと思うのだけれども…」

友奈「本当だ!かっわいい〜!ありがとう、郡ちゃん!郡ちゃんはこの紫色のウェアが似合うな〜私とペアルックだよ♪」

千景「高嶋さんとペアルック…最高だわ!」

千景がふんっと鼻息を鳴らす。その横では杏が銀に試着させながら鼻息を鳴らしていた。

杏「あーん、赤に黄色にピンクに緑、何でも銀ちゃんに似合いすぎて決められないよ〜」

球子「タマは赤色が銀に似合うと思うけどなー」

銀「確かに、この赤色のウェアかっこいいですねー!これにします!」

若葉は青、友奈はピンク、ひなたと千景は紫、杏は黄、球子はオレンジ、銀は赤色のウェアを買い、サイクリングのために近くの山道に来ていた。

球子「よーし!ではこれからタマ特製のサイクリングコースについて説明する!」

銀「イェーイ!」

若葉「よろしく頼む、球子。」

球子「まず、山頂まで自転車をこいだ後、山頂から山のふもとまで一気に駆け下りる、そして海岸沿いの道を直進しながら学校まで帰るんだ!」

千景「初めに山頂まで行く必要があるのかしら?」

球子「それが気持ちいんだよー!風がフワーッとしてさ!」

友奈「そうだねー!風がフワーッときて、ビューってなりそうだね!」

若葉「球子と友奈には独特のセンスがあるな…」

ひなた「では早速行きましょうか!」

彼女たちは十分程度自転車をこいだ後、山頂に到着した。

球子「みんなで一斉に山を下るとぶつかるかもしれないから、若葉とひなた、友奈と千景、杏と銀とタマ、この3ペアに分けてスタートしようと思う。」

若葉「いい案だな、賛成だ。」

ひなた「(若葉ちゃんと自転車デート♪)」

千景「(高嶋さんと2人っきり…)」

友奈「楽しみだね、郡ちゃん♪」

杏「楽しんでいこうね、銀ちゃん♪」

銀「はい!思いっきり楽しみましょう!」

球子「どの班からスタートする?」

若葉「私たちの班から行こう。」

ひなた「はい!」

若葉とひなたが山頂から自転車を走らせる。

ひなた「風が気持ちいいですね、若葉ちゃん。」

若葉「ああ、ひなた!本当にいい気持ちだ!」

山頂では千景と友奈がスタンバイしていた。

千景「ここから、一気に下るのね。」

友奈「郡ちゃん、怖い?」

千景「いいえ、高嶋さんと一緒なら大丈夫よ。」

友奈「私も郡ちゃんと一緒ならどこまでもいけそうだよ♪」

銀「アツアツですね、あの2人。」

銀が小声で嬉しそうに杏に話しかける。

杏「そうだね、見てるこっちまで妬けちゃいそう♪」

球子「よーし、じゃあそろそろ千景と友奈もスタートだ!」

友奈が千景が後の配置で自転車を一気に走らせる。

友奈「うわー!風が気持ちいいね、郡ちゃん!」

千景「本当ね、高嶋さん。」

流れる風に黒髪をなびかせながら千景は考える。一度逃した機会は二度とやってこないかもしれない。そう考えた千景は後ろから友奈に向かって口を開く。

千景「高嶋さん!」

友奈「どうしたの?郡ちゃん。」

後ろを振り向かずに友奈が返事をする。

千景「いつも私の隣にいてくれてありがとう…!」

普段は恥ずかしくて言えない、胸の奥にしまっていた想いを伝えられた千景は清々しい気持ちだった。

友奈「私も!郡ちゃんのこと!だーい好きだよ!」

友奈は千景にはっきり聞こえるように大きな声で返したのだった。

少し間を開け、最後に杏、球子、銀のペアが出発する。

球子「ヒャッホーイ!楽しいなー!銀、杏!」

銀「はい!サイクリングしながらの景色も最高です!」

杏「待ってよー、たまっちせんぱーい。」

後ろから必死に杏が追いかける。

球子「ぎーん!」

銀の前を走る球子が声をかける。

銀「はい!どうしたんですか?」

球子「タマたちは頼りない先輩かもしれないけど、不安なこととかあったら遠慮なく頼ってくれよな!」

銀「はい!ありがとうございます!」

山道を下る3人を夕日が後ろから照らしていた。



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第8話 訓練

銀「す、すげ〜」

銀は圧倒されていた。

西暦の時代から時は経てども、勇者システムが十分に整備されていない時代の四国を守り抜いてきた5人の勇者の身のこなし、陣形、コンビネーションは生前の銀、須美、園子のそれに勝るとも劣らない凄まじいものであった。

杏「千景さんと若葉さんは交代して下さい!」

若葉「流石だな千景、全く衰えていない。」

千景「乃木さんにそう言ってもらえると嬉しいわ。」

球子「友奈ー、後ろから輪入道がいったぞー!」

友奈「了解!」

友奈が軽やかな身のこなしで球子の輪入道もとい羅針盤を避ける。

千景が銀に近づく。

千景「大丈夫三ノ輪さん?少し顔色が良くないけど。」

銀「いえ…体調は万全なんですけど、皆さんの動きが凄すぎて、ついていけるか少し心配になっちゃって〜」

千景「心配ないわ、訓練だから動きが少し派手に見えるだけよ。本番になったら、もう少しスピードも落ちるわ。」

銀「ありがとうございます!千景さんって優しいですね。」

銀が嬉しそうな表情を千景に向ける。

千景「な、何を言ってるの。ほら、早く行きなさい。乃木さんが呼んでるわよ。」

銀は若葉のもとに駆ける。

若葉「以前の陣形や作戦はこんな感じだ。

3人で三方向を守り、1人は待機、杏が後ろから支援する。銀を含めたフォーメーションもこれから考えよう。」

球子「どうした、銀?少し顔がかたいなー」

友奈「緊張してるのかな?大丈夫だよ!みんながついてる!」

若葉「緊張するのも無理はない。初めての相手との連携でそれが年上ともなれば尚更だろう。」

銀「いえいえ、大丈夫ですよ!」

銀は心配かけさせまいと明るい表情で返す。

若葉「今からみんなでレクリエーションをしないか?」

球子「ん?レクリエーション?」

友奈「いいね!楽しそう!」

若葉「レクリエーションといっても模擬戦だがな。」

銀「おー!銀さん、張り切っちゃうぞー!」

若葉「名付けて、勇者王決定戦だ!」

ひなた「生前にも同じようなことをしたことがありましたね。」

千景「あの時は伊予島さんが優勝したのよね。」

球子「う〜、思い出しただけで寒気がする。二度とあんな罰ゲーム受けたくないぞ〜」

銀「トラウマになるレベルの罰ゲーム!」

杏「たまっち先輩大げさだよ〜」

球子「いいや、銀も気をつけろよ。杏に負けると何をさせられるか分かったもんじゃないぞ。」

ひなた「戦場は神樹館小学校の敷地全体、優勝者は他の者に自由に命令できる、でいいですか?」

若葉「ああ。銀、全力でかかってこい。」

友奈「負けないぞー!」

球子「杏だけは倒す。」

杏「たまっち先輩、目が怖いよ〜」

千景「ふふ、懐かしいわね。」

銀「よーし、本気出しちゃうぞ〜」

ひなた「では、勇者王決定戦、開幕です!」

 



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第9話 勇者王決定戦

ひなた「では、勇者王決定戦、開幕です!」

「キィィン!」

空気を断ち切るような金属音が鳴り響く。

誰もが驚きの色を隠せない。

戦闘が始まるや否や、若葉が無言で銀に斬りかかったのだ。

殺気一つ漏らさないあまりにも自然な若葉の居合に、銀も受け止めるのがやっとであった。

若葉「よく反応したな、銀。」

球子「手加減なしかよ…若葉。」

銀「へっ、これでも反射神経には自信があるんですよ!」

銀が両手斧で若葉の模擬刀をはね返す。

銀がお返しにと言わんばかりに若葉に連撃を加えようとするが、全て受け止められる。

若葉「速さはなかなかのものだが、一撃ずつの重みが足りないな。」

銀「それなら!」

銀はとっさに体勢を下げ、そのままの位置から体を回転させ、両手斧で若葉に2連撃を加える。

間一髪のところで若葉は後退し、その攻撃を避ける。

若葉「今の攻撃はなかなか良かったぞ。

とっさに身をかわさなければ危なかった。」

千景「せーいっ!」

千景が若葉に大鎌で斬りかかるが、若葉の

模擬刀で防がれる。

千景「まずは乃木さんを倒すわよ、三ノ輪さん。」

銀「分かりました!」

銀と千景の間で一時的な協定が結ばれる。

友奈「こっちも忘れちゃいけないよ!」

友奈が球子に向かって右拳を繰り出す。

球子「知ってるか友奈?タマの羅針盤は防御にも使えるんだぜ。」

球子が得意げに友奈の拳を羅針盤で受け止める。

そのとき友奈と球子の間を一本の矢が駆け抜ける。

友奈、球子「うわわっ!」

杏「こっちも忘れないでね、いつでも狙ってるから♪」

杏が遠くから二人を狙撃する。その横では

ひなたがカメラを構えていた。

ひなた「模擬刀を振るう若葉ちゃん、素敵です♪」

 

互いに手を組んだ銀と千景だが、それでも若葉を攻めあぐねていた。

近接戦において、刀と大鎌なら大ぶりになりやすい大鎌の方が不利である。

しかし、若葉とて銀が両手斧を構えている以上、千景を迂闊に攻め入ることはできない。

均衡を破ったのは若葉だった。

若葉は思いっきり踏み込むと、千景目掛けて大きく模擬刀を横に振った。

千景は大鎌でそれを防ぎ、好機と見た銀は両手斧の片方で若葉に斬りかかる。

だが若葉は腰につけていた刀を納める鉄製の鞘で斧を防いだ。

銀「な…」

銀は声を出す暇なく若葉の模擬刀に当てられてしまった。銀が負けを確信した瞬間、耳元で千景の声が聞こえる。

千景「ナイスよ、三ノ輪さん。」

若葉は下腹部に大鎌の先が刺さっていることに気づく。

若葉「一体どこから…」

千景「あなたが三ノ輪さんに気を取られた

一瞬、彼女の背後から大鎌を回したのよ。」

若葉「鎌刃の形状を活かしたという訳か…」

千景「あなたの負けよ、乃木さん。」

銀「痛てて……あちゃー負けちゃったかー」

銀が心底残念そうにつぶやく。

千景「 いいえ。」

千景が優しそうに銀に微笑む。

千景「私たちの勝ちよ。」

若葉「千景…変わったな。」

若葉が嬉しそうに話しかける。

千景「そうかしら?」

生前、死ぬ間際に若葉に対する胸中の想いを伝えられたこと、自分は孤独ではないことに気付けたことが千景は心から良かったと思えた。

 

勇者王決定戦の最終的な結果は最後に残った千景と友奈の一騎討ちになる予定が、千景が友奈に鎌を振るえないと言う理由で友奈の

優勝になった。

ひなた「友奈さんの優勝です!さあ、何でも一つ皆さんに命令して下さい。」

友奈「うーん、、、」

友奈が悩む。

そして満面の笑みで答えた。

友奈「みんなでお泊まり会がしたい!!」

 



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