東京ロストワールド (ヤガミ)
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プロローグ
第1話


初投稿です。
この作品はジャンルとしてはダークファンタジーをメインに投稿しています。
初めての投稿なので文章がままならないかもしれませんが、もし良ければ感想お願いします。


 幼い頃に両親が離婚し、私は母親と2人暮らしをしていた。

 母親は元々病気持ちで、そんな身体でも私を育ててくれた。

 それから私が15歳の時。

 中学校を卒業した時の事だった。

 母親はその病気に耐えきれず、亡くなってしまった。

 卒業式が終わって、すぐに病院に向かったが、そこには目を覚まさない母親の姿。

 私の卒業した姿を目にしないまま、亡くなったのだ。

 

 そして私は孤独になった。

 高校には行かず、ただひたすら渋谷の街を歩き回る始末。

 そんな毎日を送っていたが、そろそろ限界を迎えてきた。

 空腹や疲労が、私を襲ってくる。

 

 

 ああ、私まで死んでしまうのか。

 

 食べ物を買うお金はない。

 

 ましてや、休む場所もない。

 

 こんな街の隅っこで、死んでしまうのか。

 

 私は、生きるのを諦めていた───。

 

 

 

 ???「…ほら。」

 

パサッ

 

 餓死寸前だった私の前に、何か渡される音がした。

 見上げると、高身長の女が、私の前に立っていた。

 

 ???「それ、やるよ。」

 

 ビニール袋の中には、コンビニの弁当や割り箸、ペットボトルのお茶が入っていた。

 彼女は、こんな私を助けてくれたのだろうか。

 

 ???「…腹、減ってるんだろ?さっきから、腹の虫鳴ってたからさ。」

 

 確かに、今はとてつもなく空腹だ。

 今すぐにでもお腹に何かを入れないと死にそうな状態だ。

 

 ???「食い終わったら、そこのゴミ箱に捨てていいからさ。それじゃ。」

 

 そう告げると、彼女は行ってしまった。

 

 それよりも、久しぶりの飯だ。

 空腹で我慢の限界が来ていた私は、弁当の食べ物を口いっぱいに頬張った。

 美味しい。

 もう、私は死んだのかと思っていた。

 涙が止まらない。

 そんな状態ながらも、私は飲み食いしまくった。

 

 

 

 翌日の昼間。

 

 ???「…お腹減った…。」

 

 今日もまた、空腹の時が来た。

 あの日から身体中もボロボロであり、何日も洗っていなく汚れている。

 

 ???「…やっぱここにいた。腹減ってるだろ?いつもの持ってきたぞ。」

 

 また、昨日の女が来た。

 今日もコンビニの袋を片手に、私の所まで来た。

 

 

 ???「あんたさ、親いないの?」

 ???「…いない。」

 

 そう。今の私には、両親はいない。

 母親を亡くしてから、ずっと孤独だ。

 

 ???「…だったらさ、うちに来ないか?」

 ???「…え?」

 ???「ここにずっといても退屈だろ?それに、困った時はお互い様ってやつだしさ。」

 

 私は、少し考えた。

 勝手に他人の家に押し掛けるのは…。

 …でも、今の私には行き場所がない。

 私の答えは…。

 

 

 ???「…わかった。そうする。」

 ???「よし、取引成立だな!」

 ???「…取引?」

 ???「まあ、細かい事は気にするな。アタシ、北乃真衣な!あんた、名前は?」

 

 女の名前は、「北乃真衣(きたの まい)」というようだ。

 私の方も自己紹介しておこうかな。

 

 ???「…千里。彩神千里。」

 真衣「千里…か。良い名前だな!彩神って苗字もかっこいいじゃん。羨ましいよ。」

 千里「そ…、そう…?」

 

 私の名前は、「彩神千里(あやかみ ちさと)」。

 いきなり名前を羨ましがられた。

 だけど、ちょっと良い気分かもしれない。

 

 真衣は、生まれて初めての友達だ。

 私には、幼稚園から小学校、そして中学校の時から、友達が1人もいなかった。

 根暗だとか言われて、皆避けていった。

 それを救ってくれたのは、今ここにいる真衣だ。

 

 真衣「よし、そうと決まれば、アタシん家に直行だな!」

 

 真衣がそう言うと、私は差し伸べられた手を取り、立ち上がった。

 

 

 

 真衣「うーん、千里が来てからやる事増えるなぁ…。」

 

 真衣がそう言うと、私の事をじっと見る。

 

 千里「…何?」

 真衣「言っちゃ悪いけど、身体中凄い汚れてるだろ?まずは洗わないとだな。」

 千里「…でも、服は…。」

 真衣「今回からアタシの貸してやっから。千里の服も買っときたいし。」

 

 真衣はそんな事してまで私の事を気遣ってくれた。

 少し悪い気もするけど、1人だけで何かするよりはマシだ。

 

 千里「…これから世話になるよ。真衣。」

 真衣「気にすんなって!それにさ、アタシはあんたを助けたかったんだからさ。遠慮しないでいいよ。杏梨も歓迎してくれるだろうし。」

 千里「…杏梨?」

 真衣「ああ、アタシの妹。アタシ今、妹と2人暮らししてるんだ。

 アタシんとこも実は両親いなくてさ、妹はアタシが育ててるって訳。」

 千里「…そっか。」

 

 杏梨ちゃん…真衣の妹。

 早く会ってみたいな。

 

 

 

 真衣「着いた。ここが私の家だ。」

 

 真衣「帰ったぞー。」

 千里「お、お邪魔します…。」

 真衣「そんな畏まるなって。今日からあんたもここが家になるんだからさ。」

 千里「そ、そうだね…。」

 

 居候ってわかっていても、他人の家に入るのは少し圧がかかる。

 と、部屋から少女が出てきた。

 あれが真衣が言ってた杏梨ちゃんかな?

 

 ???「お姉ちゃんお帰り!」

 真衣「おう。ただいま。」

 ???「…?その人は?」

 真衣「ああ、今日からここに居候する事になった奴だ。千里、こいつがアタシの妹だ。自己紹介してやってくれ。」

 千里「彩神千里です…。」

 ???「妹の杏梨です!よろしくお願いします!」

 

 なんて礼儀正しい娘なんだろう。

 よく見るとどこかの学校の制服を着ている。

 歳は自分より1つか2つ下だろうか。

 

 真衣「ああ、そうだ。杏梨、千里の為に風呂沸かしてくれないか?休む場所も無くて、身体中汚れちまってるからさ。」

 杏梨「オッケー!急いで沸かしてくるね!」

 

 杏梨ちゃんはそう言って、テテテと風呂場へと走っていった。

 

 千里「なんかごめん。私なんかの為に…。」

 真衣「いいって。もうアタシらとの仲だしさ。さっき言ったろ?“困った時はお互い様”って。」

 

 私が真衣に助けられた時に言われた言葉。

 お互い様…か…。

 そんな言葉、人生で言われた事なかったな。

 

 

~15分後~

 杏梨「お風呂沸いたよー!」

 真衣「おう、サンキュ。じゃあ千里、入ってきてくれ。あ、一応言っとくけど、湯船入る時はちゃんと汚れ落とせよ?じゃないと浴槽に溜まる羽目になって、また沸かし直さないとならないから。」

 千里「わ、わかってるよ…。」

 

 心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっと心配しすぎ…。

 そんな事を心の中で呟きながら、私は風呂場へ向かった。

 

 

 長い間洗えなかった身体を、ようやくシャワーで浴びせる事ができた。

 

 あの時は、本当に苦しかった。

 

 幼い頃は、両親が母親の病気がどうのって喧嘩して、離婚した。

 

 それを私は、陰から見ているだけだった。

 

 それから父親のいないあの家で15年間過ごし、当たり前のように学校に行ってた。

 

 友達は…いなかったかな。

 

 元々活発的な性格ではなく、1人寂しく読書する毎日が続いていた。

 

 たまに外に出て、走ったりもしていたが、その時も1人だった。

 

 そんな寂しい学校生活を送っていた。

 

 

 そして、私が中学を卒業した日。

 

 式が終わって帰宅した頃、スマホに電話が掛かってきた。

 

 

 『お母さんの容態が…。』

 

 

 それを聞いた私は、真っ先に病院へ向かった。

 

 

 病室に入ると、そこには意識が朦朧としていた母親の姿。

 

 その頃はもう、死亡寸前だった。

 

 『お母さん!!』

 

 母親に生きてほしいという願いと、私の嘆きが入り交じる。

 

 

 『千里……。』

 

 

 『千里の卒業を…見届けられなくて…ごめんね……。』

 

 『お母さん…!駄目だよ…!生きて…!』

 

 

 『千里…、生まれてきてくれて…ありがとう……。』

 

 

 

 ピー…と、心電図の音が鳴り響いた。

 

 その時わかった。

 

 

 母親はもう…、生きられないと。

 

 

 私の心は歪み始め、行き場所がなくなった。

 

 志望していた高校の入学も拒否した。

 

 心が歪むのは…、そういう事だ。

 

 

 あの時の母親の死顔は、今でも忘れられない。

 

 嫌と言う程思い出される。

 

 

 真衣の声『千里ー?』

 千里「…!何?」

 真衣の声『服ここに置いとくからそれ着てくれー。』

 千里「あ…、うん。わかった。」

 

 もうあんな過去なんてどうでもいい。

 思い出すだけで、苦しくなるだけだ。

 私は母親の分まで、強く生きると誓う。

 

 そうして私は、シャワーを浴び終え、湯船に浸かって休んだ。

 

 

 

 真衣「おう、もう飯もできた頃だから、さっさと食おうぜ。」

 

 私が風呂場にいる間、真衣は夕飯を作ってくれていた。

 テーブルの上に乗ってるのは、唐揚げだった。

 

 千里「真衣って、料理できるんだね。」

 真衣「まあ2人暮らししてるくらいだから、これくらい当然だけどな。」

 杏梨「お姉ちゃんの料理は美味しいんだよ。」

 千里「…そっか。」

 

 思えば、誰かが作った料理を食べるのは1年ぶりだ。

 母親を亡くしてから、自分の所持金だけで食べるようになったから。

 

 千里「いただきます。」

 

 私がそう言うと、唐揚げを1個口の中に放り込む。

 

 千里「…!美味しい…。」

 真衣「はは、そう言ってもらえて嬉しいよ。」

 

 私は美味しいあまりにどんどん食べる。

 その度に笑顔になる。

 

 真衣「……。」

 千里「…?どうかしたの?」

 

 食べてる間に、真衣からの視線を感じた。

 頬杖を着いて、微笑んでいるのがわかる。

 

 真衣「いや、千里って綺麗な顔してるんだなって。」

 千里「…え?」

 真衣「さっきは汚れとかでわかんなかったけど、洗い流したら案外美人じゃないか。」

 千里「え、そんな…。」

 

 今まで「美人」なんて言われた事がない。

 嬉しいけど、改めるとすごく恥ずかしい。

 無性に顔が熱くなっているのがわかる。

 

 杏梨「あ!千里ちゃん、顔赤くなってる!」

 千里「えぇ!?ちょ、からかわないでよ…!///」

 真衣「はは、可愛い奴め!」

 千里「もう…、それ褒めてるの?」

 真衣「さて、アタシも腹減ってきたし、食うとするか!」

 杏梨「はーい!」

 

 真衣はそう言って、夕飯を楽しんだ。

 

 

 

 真衣「そういやさ、千里はどこで寝るんだ?」

 

 時刻は10時を回り、そろそろ寝ようかと考えていた頃。

 

 真衣「流石にどちらかの部屋で寝るのはまずいか…?」

 千里「私は別にそれでもいいけど。女同士だし。」

 真衣「いや、アタシ達の部屋狭いしさ。足場とかが少ないんだよ。」

 千里「…そういう事か…。」

 

 そういえば言い忘れてたけど、真衣の家はアパートだ。

 それうえそこまで広くはない。

 そこで私は提案した。

 

 千里「じゃあ、ソファで寝るよ。」

 真衣「え?でも、寝ずらくないか?」

 千里「全然。小さい頃そうやって、何となく心地良かったから。」

 

 2人の部屋が狭いのであれば、リビングのソファで寝る事にした。

 ソファで寝るのは既に経験済みなので、特に気にはしない。

 

 真衣「…まあ千里がそうしたいなら、アタシは構わないよ。じゃあ布団持ってくるから、ちょっと待っててな。」

 

 そう言って、真衣は座敷の押し入れへと向かった。

 

 真衣「えーっと、確かここに…、あった!あんまり面積広くないけど、足出るくらいなら大丈夫だろ?」

 千里「それ、大丈夫なの…?」

 真衣「まあ、そこら辺は千里が調節してもいいからさ。寒くないようにしときなよ?」

 

 そう言われた私は、真衣から布団を受け取った。

 

 

 真衣「じゃ、電気消すぞー。」

 千里「うん、おやすみ。」

 

 真衣はリビングの灯りを消し、私は眠りについた。

 疲れ果てたせいか、すぐに眠りに落ちたのだ─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────ここはどこだろう?

 

 

 

 

 

 ────周りがよく見えない。

 

 

 

 

 

 ───だけど、何かに引き摺られている感覚がある。

 

 

 

 

 

 ──ゆっくりと目を開ける。

 

 

 

 

 

 

 そこには─────。

 

 

 

 

 

 

 千里(…!?私…!?)

 

 

 

 私を引き摺っているのは、もう1人の私だった。

 

 

 

 それに、ただの私ではない。

 

 

 

 真っ黒に染められている。

 

 

 

 薄らだが、外見で私だとわかった。

 

 

 

 千里(いや…!やめて…!)

 

 

 

 

 

 そう叫ぼうとしても声が出ない。

 

 

 

 

 

 ─体が動かない。

 

 

 

 

 

 ──どこに連れて行かれるのか。

 

 

 

 

 

 ───怖い。

 

 

 

 

 

 ────恐怖による震えが止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いなくなれば良かったのに!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場人物紹介(随時情報更新)

彩神千里

読み仮名:あやかみ ちさと
年齢:17歳
誕生日:5月9日
身長:161cm
血液型:A型
趣味:なし
特技:なし
好きなもの:不明
嫌いなもの:不明
ポジション:???
使用武器:???


 本作の主人公。幼少期に両親が離婚し、病気持ちである母親と2人暮らしをしていた始末、中学校の卒業式にその母親が病気に耐えきれず亡くなり、孤独となった。高校には学校に行かず、1年間所持金を切らすまで食料を買って腹を満たしていたが、17歳で限界を迎える。そこで真衣に助けられ、居候する事になる。

 一人称は「私」。外見は黒髪のセミショート、茶色の瞳を持つ。性格は基本的に物静かかつクールであり、騒ぐ事はほとんどない。


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第2話

前回の続きです。


 千里「はっ…!?」

 

 私は最後の言葉を叫ばれ、目を覚ました。

 

 千里(…今のは…、夢…?)

 

 そうとしか思いようがなかった。

 しかし、相当ヤバい夢だった。

 悪夢…と言えばいいのかな…。

 

 

 真衣「ん?千里、起きたのか。」

 千里「あ、真衣…、おはよう…。」

 真衣「大丈夫か?結構魘されてたが…。」

 千里「うん、大丈夫。ちょっと不思議な夢見ちゃって…。」

 真衣「ふぅん…、あまり無理するなよ?」

 

 真衣に、「引き摺られていた夢を見た」…なんて言えないな。

 私の額には、汗がだらだらと流れていた。

 

 千里「…そういえば、真衣は何でそこにいるの?」

 真衣「アタシか?朝飯作ってるんだ。」

 

 なるほど、そういう事か。

 時計を見ると、既に6時半を過ぎていた。

 

 千里「毎日そうやってるの?」

 真衣「まあな。オフん時でもアタシが早起きして、朝飯作ってるからさ。杏梨と2人暮らししてからずっとだ。」

 

 そうか、確か両親がいないって言ってたっけ。私と同じで…。

 

 真衣「起きたんなら、洗面所で顔洗ってきな。タオルなら用意してあるから。」

 千里「うん、そうする。…そういえば、杏梨ちゃんは?」

 真衣「あいつの事だから、まだ寝てるんじゃないか?休日はいつもそうだし。」

 千里「そっか。」

 

 まあ、杏梨ちゃんはああいう子だし、そうなるのも当然か。

 そう思いながら私は、洗面所へと足を運んだ。

 

 

 

~午前8時~

 杏梨「お姉ちゃん、今日は何するの?」

 真衣「今日は千里の服買いに行くよ。」

 

 朝飯を食べながら、今日の予定について話していた。

 思えば私は昨日、真衣の服を借りて寝ていたな。

 

 …今日もそれで過ごすのだけど…。

 

 

 

~午前10時~

 私達は現在、服屋にいる。

 そこで私の服を買いに、色々と見てみる。

 

 真衣「なあ千里、こんなのなんてどうだ?」

 杏梨「あ、それ可愛い!」

 

 真衣が見せたのは、触り心地の良さそうなワンピースだ。

 だけど…。

 

 千里「え?いや…、無理だよ、そんなフリフリなの…。」

 杏梨「えー?可愛いのにー。」

 真衣「じゃあ、何か欲しいのはあるか?」

 千里「…これがいいかな。」

 

 私が手にしたのは、黒の革ジャンとデニムのショートパンツ。

 やっぱり私には、これが一番性に合う。

 小学校の時も、こんな感じのを着ていた。

 

 真衣「それでいいのか?」

 千里「うん。私には女の子っぽい格好は似合わないから…。」

 真衣「まあ、千里がそうしたいなら賛同するけどさ。どうする?同じのを何着でもいいのか?」

 千里「そうしたいかな。」

 

 私にとって、革ジャン+ショートパンツは基本。

 何と言うか、この格好が落ち着く。

 これで服は調達済みかな。

 

 

 

~午後0時~

 杏梨「ねーねー千里ちゃん、学校はどうするの?」

 千里「学校?」

 

 ファミレスで昼飯中、杏梨ちゃんに話しかけられた。

 そういえば考えてなかったな。

 学校なんて聞いたの久しぶりだ。

 元々行きたい学校があったけど、心が歪み始めた頃はそれすらを拒否していた。

 

 千里「うーん…、特に決めてないかな…。」

 真衣「そういや、この前言ってたもんな。志望校があったけど、母親亡くしてから拒否したって…。」

 千里「うん。そうだね…。」

 

 中学を卒業してから1年、ずっと学校には行ってなかった。

 その話は、既に2人には話してある。

 そして、真衣が口を開く。

 

 

 真衣「だったらさ、うちの学校に通わないか?」

 千里「真衣の…?」

 真衣「2人共その学校に通ってるからさ。…まあ、うちから近いからっていう理由でそこに通ってたけど。」

 

 突然、真衣から勧められた。

 まあ、このまま学校に通わないよりはそっちの方がいいかもしれない。 

 

 千里「…ちなみに、学校名は?」

 真衣「“聖麗学園(せいれいがくえん)”。」

 千里「…頭良さそう。」

 真衣「実際、完璧って奴はそういないぞ?そこら中の学校と変わんないくらいだ。」

 

 聖麗学園高等学校。

 …そこら中と変わらないなら、行けるかもしれない。

 私は決心した。

 

 千里「じゃあ、そこに通おうかな。」

 真衣「決まりだな!」

 杏梨「やった!千里ちゃんと学校行けるね!」

 千里「ふふっ、そうなるかもね。」

 

 思えば、誰かと一緒に学校に行くのは初めてかもしれない。

 友達が1人もいなかった私はそう思えた。

 

 真衣「じゃあ転校手続きとして、学校にはアタシが伝えておくよ。」

 千里「…?何で転校?」

 真衣「いや、学校行かずって伝えちゃうとなんかなぁ…って。何ならいっその事、転校生って言った方が馴染みやすいかと思ってな。」

 

 学校に行かなかったのに転校生って、何だか不思議。

 まあ、真衣がそうしたいのならそれでもいいか。

 

 

 

~午後8時~

 あの後、聖麗学園に挨拶のためのスーツの手続きもやった。

 スーツは最短で1週間かかるらしいから、それまで待ちかな。

 

 真衣「千里ー、風呂沸いたぞー。」

 千里「うん、わかった。」

 

 真衣の声がけで、わたくしは脱衣所に向かった。

 ここに来て2日目の入浴だな。

 

 

 

 昨日と変わらず気持ちが良い。

 今日は沢山歩いて疲れたな。

 私の服を買ったり、スーツの手続きしたり…色々と忙しい1日だった。

 …今日は爆睡確定かな。

 

 

 

 真衣「お、千里、上がったのか。」

 千里「うん、どうかした?」

 真衣「転校手続きOKだってよ、聖学。スーツ届いた翌日に学校に来いって。」

 千里「そっか。なら良かった。」

 

 どうやら成功したらしい。

 これで私の高校生活の始まりかな。

 来週が待ち遠しい。

 

 真衣「さて、アタシも風呂入るかー。」

 

 真衣が脱衣所に向かう時、私は口を開く。

 

 

 千里「ありがとね、真衣。」

 真衣「ん?」

 千里「行き場所のない私を救ってくれて。あの時真衣がいなかったら、私は死んでた。だから…、ありがとう。私のために色々してくれて。」

 

 私がそう言うと、真衣は顔を赤らめて微笑んだ。

 

 真衣「…今更何だよ。アタシが好きでやってるんだからさ。」

 千里「…そうだったっけ。」

 真衣「千里、今日は疲れたろ?早く寝た方がいいぞ。」

 千里「わかってるって。おやすみ。」

 

 そう言うと私は、ソファに寝転んだ。

 

 

 

 ここから私の新しい生活が始まる。

 

 来週からは、普通の高校生でいよう。

 

 もう何にも縛られない、平凡に暮らしていくんだ。

 

 私は心の中でそう誓い、目を閉じ、意識が遠のいていくのだった─────。




プロローグはこれで終わりです。
プロローグで投稿した話はごく一部の内容です。
次回からダークファンタジーとなります。


登場人物紹介(随時情報更新)

北乃真衣

▽プロフィール
読み仮名:きたの まい
年齢:16歳
誕生日:6月12日
身長:167cm
血液型:B型
趣味:料理
特技:人助け
好きなもの:ラーメン(特に味噌)
嫌いなもの:甘い食べ物
ポジション:???
使用武器:???


 彩神千里の友達。

 正義感が強く姉御肌であり、困っている人を放っておけない性格の持ち主。千里が来る前は妹の杏梨と2人暮らししていた。

 餓死寸前で行き場所のない千里を助け、自分の家で居候させ、共に過ごす事になる。

 趣味は料理、特技は人助けと、なかなかに姉御らしい行動面を持っている。外見は赤みがかった茶髪のロングヘアに、青緑色の瞳を持っている。料理する時は必ずポニーテールにしている。


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Episode1 異世界
第3話


前回もそうでしたが、更新ペースが毎回遅くてごめんなさい。


 真衣「千里!スーツ届いたぞー!」

 

 あの日から1週間が経った。

 これでようやく、聖麗学園に挨拶する日が来た。

 

 

 真衣「うん、似合ってるぞ、千里。」

 千里「そう?あ、ありがとう…。」

 

 改めて似合ってるって言われると、少し照れる。

 それにしても、スーツなんて着るのはいつ以来だろうか。

 かなり久しぶりな気がする。

 

 

 

 千里「近い場所にあるの?」

 真衣「そうだな。実際にアタシが1人の時や朝練ある時は、チャリで行ってるくらいだ。」

 千里「朝練?部活でも入ってるの?」

 真衣「剣道部。中1ん時から始めたんだ。今日は練習自体ないし、千里の手続きやるには今日しかないと思ってさ。」

 千里「へえ、そうなんだ。」

 

 何か部活に入っているのかと思ってたけど、剣道部とは思わなかった。

 真衣の事だから、てっきり陸上かバスケかと。

 

 千里「杏梨ちゃんも、どこか入ってる?」

 真衣「杏梨はバレー部だよ。まあまだ高1だし、レギュラー入ってないけどな。でもさ、杏梨はこう言ってたんだ。“いつかレギュラーに入って、お姉ちゃんを驚かせたい”って。」

 千里「あはは、杏梨ちゃんらしい。」

 

 杏梨ちゃんはバレー部に入ってたんだ。

 真衣と同じで、中学から始めたのかな。

 それより前の可能性もあるけど、詳しい事はまた今度でいいか。

 

 真衣「杏梨はああ見えて、結構頑張り屋なんだよ。だけどきっとどこかで悩む事もあるから、その時はアタシが支えてやらないとって思ってな。」

 千里「良いお姉ちゃんだね。真衣。」

 真衣「当たり前だろ?何年杏梨の姉貴やってると思ってんだよ。杏梨が産まれてからずっと一緒だからな。面倒ぐらいは嫌でもやってるさ。」

 千里「…そっか。」

 

 姉妹…か。

 私にも弟や妹がいたら、真衣みたいなお姉ちゃんになれていたのかな。

 

 真衣「お、そう話してるうちにもうすぐ着きそうだ。」

 

 真衣がそう言うと、校門らしきものと建物が見えてきた。

 

 

 

 真衣「ここが聖学だ。」

 

 ようやく聖麗学園まで辿り着いた。

 それにしても大きいな。

 真衣はこんなに大きな学校に毎日通ってるんだ。

 

 真衣「じゃあ行こうぜ。くれぐれも失礼のないようにな。」

 千里「い、言われなくてもわかってるよ…。」

 

 そう言うと、私達は校内へと向かった。

 

 

 

 真衣「とりあえず、校長室まで来るように手配はしてあるから。校長室は2階だ。アタシに付いて来な。」

 

 そう言われ、私は真衣に付いて行く事にした。

 

 

 廊下を歩きながら、私は壁に貼ってある紙を見た。

 部活や行事の宣伝や、最近起きたニュースなどがずらりと並ばれている。

 まあ、これは正式な生徒になってから見ようか。

 

 

 真衣「よし、着いたぞ。ここが校長室だ。」

 千里「……。」

 

 うん、この空気…結構圧倒されるな。

 

 真衣「…?どうかしたか?」

 千里「…ううん、何でもない。」

 

 そう言うと真衣はコンコンとノックし、私達は校長室に入った。

 

 真衣「失礼します。」

 千里「…し、失礼します…。」

 

 

 

 ???「ありがとう、北乃さん。わざわざ連れて来てくれて。」

 真衣「どういたしまして。校長先生いますか?」

 

 流石真衣。ちゃんと敬語使ってる。

 真衣の性格からして、誰にでもタメ口をしているのかと思っていた。

 

 ???「ようこそ、聖麗学園へ。私がここの校長の“河野敦(かわの あつし)”だ。北乃さんから連絡が届いてね。私がここに挨拶に来るようにお願いしたんだ。君が、彩神千里さんで合ってるかね?」

 

 この初老の男性が河野校長先生か。

 何て言うか、おっとりしている感じがする。

 

 千里「あ、はい。彩神千里です。」

 河野校長「それにしても、美人だね。こんな子が転校してくるなんて。」

 真衣「でしょう?アタシもそう思ったんです。」

 

 やっぱり私ってそんな風に見られてるのかな?

 ちょっと照れる気もする。

 

 河野校長「こちらが、君のクラスの担任の佐島先生だ。実は佐島先生、今年ここに転勤してきたばかりなんだ。在校生と共に、温かく見守っておくれ。」

 佐島先生「佐島薫(さじま かおる)です。よろしくお願いします。」

 真衣(…って事は、アタシと同じクラスだな!)

 

 校長先生の隣に立っていたのは若い女性だ。

 佐島先生…覚えておこう。

 

 千里「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 それから私は学校の説明など、色々と話を聞いてきた。

 

 

 

 真衣「どうだ?千里。学校やっていけそうか?」

 

 真衣からそう質問される。

 

 千里「どうだろう…。まだ知らない事もあるからわかんないや。」

 真衣「まあ、初めての校舎だからな。じきに慣れるさ。」

 

 真衣「…なんかさ、その感想聞いて、杏梨の言葉を思い出していたよ。」

 千里「杏梨ちゃん?何で?」

 

 私と杏梨ちゃんって、そんなに似たような事言ってるのかな…。

 

 真衣「中学か、今年の高校だったっけな。入学式の時は、えらい緊張してたらしい。特に高校は、知らない生徒もいるくらいだからな。本人もかなり震えてたらしい。」

 千里「……。」

 

 あんなに元気に振舞っていた杏梨ちゃんが、実は怖がりなんて…。

 杏梨ちゃんはきっと、心のどこかで悩んでいたりいているのかな…。

 

 真衣「…っていうか、今日は妹の話ばかりしてるな。まあ、守ってやりたいのは当然だ。こんな話ばかりしてて、聞き飽きないか?」

 千里「全然。寧ろもっと聞きたいくらい。」

 真衣「はは、変わった奴だな~。

 

 真衣「明日月曜だから、早速転校初日の登校だな。忘れるなよ?」

 千里「うん。わかってる。」

 

 帰り道を歩きながら、私達は沢山会話した───。




千里がついに正式な聖麗学園の生徒になりました。
ここからどのような出来事が起こるのか。
次回もお楽しみに。
さて、毎度恒例登場人物紹介です。
今回は登場してませんが、真衣の妹の杏梨の紹介です。



登場人物紹介(随時情報更新)

北乃杏梨

読み仮名:きたの あんり
年齢:15歳
誕生日:12月19日
身長:156cm
血液型:A型
趣味:漫画や雑誌を読む事
特技:球技
好きなもの:苺
嫌いなもの:味がないもの(水など)
ポジション:???
使用武器:???


 北乃真衣の実妹。現在は真衣と千里の3人で自宅で暮らし、千里にも懐いてきている。

 外見はベージュ色のおさげに、真衣のように青緑色の瞳を持っている。性格は甘えん坊で人懐っこい。その反面目上の人物には礼儀正しく、近所や他人からも褒められている。少々内気で人見知りな少女だったが、姉の真衣の勇姿に目を焼き付け、「姉みたいな人になりたい」と意気込んでいた。

 特技が球技である理由で、聖麗学園高等学校ではバレーボール部に所属。


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第4話

~翌日~

 今日は登校初日。

 今は真衣と一緒に学校まで歩いている。

 

 真衣「今日は特別に一緒に付いてやるけど、明日からは1人で行きな。道とかは覚えてんだろ?」

 千里「覚えてる…と思う。でもわかった。その理由としては朝練?」

 真衣「まあな。だから朝は一緒にはいられないから。運動部も大変だぜ?」

 千里「…だろうね。」

 

 まあそうなるか。

 十中八九朝練だろうと思っていた。

 

 …正直、私1人で学校行けるかは不安だ。

 こんな事思えたのは、中学1年生の時以来だ。

 まあ、今は目の前の事だけを考えていよう。

 

 

 

 千里(…そろそろか…。)

 

 現在、教室の真ん前。

 先生からは、そこで待つようにと言われていたから。

 

 

 佐島先生の声『どうぞー。』

 

 呼びかけられ、私は扉を開けて教室に入る。

 

 

 

 佐島先生「こちらが、転校生の彩神さん。まだまだ知らない事だらけだから、皆仲良くしてね。じゃあ、一言お願い。」

 千里「彩神千里です。よろしくお願いします。」

 

 私は丁寧に自己紹介をした。

 今日から正式にここの生徒になったんだ。

 

 佐島先生「席は…北乃さんの後ろね。」

 千里(真衣の後ろか…。心強いな。)

 

 私はそう思いながら、颯爽と真衣の席に向かった。

 

 「あの子美人じゃない?」

 「わかる!絶対男子とかに人気じゃん。」

 「前の学校とか、すごくモテてたんじゃないかな!」

 

 なんか結構、話し声が聞こえてくるな。

 私って、本当にそう見られてるのかな…。

 正直、あまり自覚がない。

 

 

 真衣「改めてよろしくな。千里!」

 千里「うん。こちらこそ。」

 

 幸い真衣と同じクラスで、真衣の後ろの席で良かった。

 

 真衣「しかし、まさか千里が近くになるとはな。こんな偶然があっていいのだろうか?」

 千里「同感。」

 真衣「ま、何かわからない事があったら聞いてくれ。いつでも相手してやるから。」

 千里「ありがとう。」

 

 本当に、真衣は心強いな。

 真衣に世話になってから、助けてもらってばかりだ。

 と、思っていた矢先…。

 

 

 「あの子ってさ…、なんか雰囲気悪いよね…。」

 「目を合わすと殴られるかもよ…。」

 

 千里「…!」

 

 褒め言葉の反面、何か陰口を言われたように聞こえた。

 

 真衣「あいつら…。」

 

 どうやら、真衣にも聞こえたらしい。

 真衣は声をした方に睨みをきかせた。

 

 千里「……。」

 真衣「…気にするな。あいつらの被害妄想だ。」

 

 例え冗談であっても、本当にそう思われそうで何だか怖くなった。

 そりゃそうだよ。昔から無口で根暗だったもん。

 小中も、同じような理由で皆避けていった。

 そんな寂しい人生を送ってきた。

 

 

 

 真衣「なあ千里、先に帰っててくれるか?」

 

 下校時間になり、私は帰宅の準備をしていた時、真衣に話しかけられた。

 

 千里「え?何で?」

 真衣「実は食材切らしちゃってさ。丁度部活ないし、買い出し行こうと思っててさ。」

 千里「なら一緒に行こうか?」

 真衣「いや、アタシ1人で十分だ。こういうのにはもう慣れてるし。」

 千里「そっか…。じゃあ、お先。」

 

 何だか申し訳ないけど、私は先に帰る事にした。

 

 

 放課後とはいえ、校舎内はガヤガヤと話し声が響き渡る。

 その中でも静かなのは、私1人だけ。

 真衣がいないと、あの頃と変わらないままだ。

 

 

 

 『あの子ってさ…、なんか雰囲気悪いよね…。』

 

 

 

 『目を合わすと殴られるかもよ…。』

 

 

 

 千里「はぁ…。」

 

 帰り道、私はあの言葉を思い出していた。

 一部褒められ、一部悪く言われ…私は複雑な気持ちでいっぱいだった。

 

 千里(もっと…、変われたらな…。)

 

 そんな一言を心の中で呟いていた。

 

 

 

ガチャリッ!

 

 千里「…ん?」

 

 私は帰り道を歩いていると、何か物音が聞こえた。

 

 千里(あっちからかな…。)

 

 私は音のした方へ歩いた。

 

 

 

 辿り着いたのは、路地裏のゴミ捨て場だった。

 

 千里(…確かここから聞こえたような…。)

 

 私は心の中でそう思った。

 すると────。

 

 

 

ドォンッ!!

 

 千里「…!?何!?」

 

 大きな音が鳴り響く。

 そこに現れたのは、扉らしきものだった。

 

 千里「何これ…。」

 

 明らかにおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。

 私は、その扉に触れた。

 

 

ビリっ!!

 

 千里「うわ…!?」

 

 突然、扉に電撃が走った。

 私は慌てて手を引っ込める。

 そして、扉はゆっくりと開いていく。

 

 

 千里「何…?吸い込まれて…!」

 

 開いた扉は物凄い吸引力で私を襲ってくる。

 足の力が奪われていくほど。

 

 千里「うわあぁっ!!」

 

 

 扉の前に、私の姿は微塵もなかった。

 

 何が起きたのかはわからない。

 

 扉の先には、何があるのか─────。




今回もいかがでしたでしょうか?
次回から本格的にダークファンタジーとなります。

そろそろ「東京ロストワールド」に近付いてきている頃だと思います。
次回もお楽しみに。


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第5話

 千里「うぅ…ん……?」

 

 目を覚ました。

 

 横になっていた体を起こし、辺りを見回してみる。

 

 

 千里「え…?何これ…!?」

 

 私が今いるのは先程のゴミ捨て場のようだが、何だか様子が違う。

 打って変わって、建物やら、風景やら、何もかもが赤黒く染まっている。

 

 千里(…もしかして、さっきの扉のせい…?)

 

 そうとしか思いようがなかった。

 私を吸引力で襲ったあの扉に、何か関係しているらしい。

 

 千里(…とりあえず、歩いてみるか。)

 

 このままじっとしていても仕方がない。

 何かあるかもしれないから、私は路地裏を出て歩き回ってみる事にした。

 

 

 

 私は夢でも見ているのだろうか?

 いや、これは現実だ。

 頬っぺたを抓っても、何も変わらない。

 

 千里「…ん?」

 

 

 少し進んでみると、何か声が聞こえる。

 何やら、人々が争っているかのような。

 

 千里(何だろう…。気になる。)

 

 警戒心を高め、私は声のする方へ行ってみる事にした。

 

 

 

 声が近い。

 この辺りかもしれない。

 

 ???『殺せぇ!!』

 

 

 『うわああああああ!!!』

 

 千里「…!?」

 

 すると、叫び声が聞こえた。

 大きさからして、かなり近い。

 私は壁際に立ち、そっと身を隠す。

 

 

ブシュッ!!

 

 何かに切られて、血飛沫が舞う音が聞こえた。

 

 千里(何…?何が起きてるの…?)

 

 身を隠しながら、そっと覗いてみる。

 

 

 するとそこには、1人の人間が血を流して倒れているのを見つけた。

 まだ血が噴き出している。

 

 千里「!?」

 

 私は、恐怖で動けないままでいた。

 

 

 ???「誰かいるのか?」

 

 まずい。

 

 ここでバレたら確実に殺されるかもしれない。

 

 どうするか考えた末───。

 

 

 

 「見・つ・け・た♪」

 

 千里「!?」

 

 気付いた時はもう遅かった。

 ドンッと強く押され、私はバランスを崩してしまう。

 

 ???「ほう?女か。こいつぁ殺し甲斐がありそうだなぁ。」

 

 私は既に囲まれていた。

 今は物凄く危険な状態に陥っている。

 

 ???「親分、殺してもいいですかや?」

 ???「当たり前だろ?俺らの目的は“殺害”だ。女だろうが構わねえ。殺れ!」

 

 

 怖い。

 

 逃げ出そうとも逃げれない。

 

 餓死から逃れたというのに、今度は殺害で死ぬのか。

 

 ああ、もうダメだと思った。

 

 

 

 

 

 

ピカァッ…!

 

 ???「…うぐっ!?」

 千里「…!?」

 

 すると、私の体が光始めた。

 

 

 

 ???『彩神千里。』

 千里「…!誰…?」

 

 声が聞こえる。

 誰かはわからないが、女性の声が聞こえる。

 

 ???『あなたは今、危険な状況に陥っています。この危機から、助かりたいですか?』

 

 でも、何を問いかけているのかはわかる。

 確かに今は、死ぬ寸前の状況だ。

 

 

 

 千里「……助かりたい。」

 

 やっぱり私は、ここで死ぬなんてありえない。

 生きるのを諦めるなんて、そんなのありえない。

 

 ???『よろしい。その勇気を持つあなたに、この力を授けましょう───。』

 

 

 1つの小さな光が、私の前に現れた。

 

 ???『その光を握り締め、生きる為の力を得るのです。』

 千里「力…。わかった。」

 

 言われた通りに光を握り締め、目を瞑った。

 

 

 

 ???『あなたのその拳は、悪を打ち砕く鉄槌となるのです!!!』

 

 

 

バリンッ!!

 

 

 

 千里「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 ???「こ、こいつ…!?」

 

 

 千里「何これ…!?どうなってるの!?」

 

 光を握り締めた後、私の姿は変わった。

 よく見ると指には、棘らしき物がある。

 

 ???『これであなたは、奴らに立ち向かえる力を得る事ができました。これを、“契約”と言います。』

 千里「契約…。」

 

 契約を結んだ事によって、姿が変わったのか。

 心做しか、何だか力が湧いてくる。

 

 ???『この力はもう貴女の物!やり方は任せます。自由に暴れてやりなさい!』

 千里「…オッケー。やってみる。」

 

 言われた通り、私は握り拳を作り走り出す。

 

 千里「だあああああ!!!」

 

 

バキッ!

 

 ???「ぐはぁ!」

 

 1人の男を殴り付け、吹っ飛ばした。

 

 ???「この野郎!とっちめろ!」

 ???「イエッサー!」

 

 千里「負けない…!」

 

バキッ!ドゴッ!

 

 それからもう1人、2人と、襲ってくる男達を殴る。

 

 ???「おい、てめえらしっかりしろよ!女相手に負けんのかよ雑魚が!」

 千里「…後はお前だけだ…。」

 

 私は長らしき男を睨みつけ、彼も殴ろうとするが…。

 

 ???「チッ、俺ぁずらかるぞ!」

 千里「あ、待て!」

 

 逃げられてしまった。

 部下を置き去りにして…。使えない奴は用無しって事?

 

 千里(…それにしても、この力…。)

 

 私は契約で得た力に唖然としてしまった。

 それに、さっきの制服とは打って変わって、服装が赤のレザージャケットに変わっていた。

 力を得ると、服も変わるのかな…。

 わからない事が多すぎる。

 

 千里(…とりあえず、この世界から脱出しないと。)

 

 私は心の中でそう呟き、走り出した。




千里、覚醒しました。



登場人物紹介(随時情報更新)

彩神千里

読み仮名:あやかみ ちさと
年齢:17歳
誕生日:5月9日
身長:161cm
血液型:A型
趣味:なし
特技:なし
好きなもの:不明
嫌いなもの:不明
ポジション:???
使用武器:格闘


 本作の主人公。幼少期に両親が離婚し、病気持ちである母親と2人暮らしをしていた始末、中学校の卒業式にその母親が病気に耐えきれず亡くなり、孤独となった。高校には学校に行かず、1年間所持金を切らすまで食料を買って腹を満たしていたが、17歳で限界を迎える。そこで真衣に助けられ、居候する事になる。

 1年ぶりに学校に通う事になり、共学校・聖麗学園高等学校の転校生として過ごす事になるが、一部の生徒からは「雰囲気が悪い」という理由で避けられてしまう。その日の下校時に「異世界」に迷い込み、過酷な状況ながらも生き延びる事になる。

 一人称は「私」。外見は黒髪のセミショート、茶色の瞳を持つ。性格は基本的に物静かかつクールであり、騒ぐ事はほとんどない。


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第6話

毎度毎度投稿ペースが遅くてすみません。


 千里「はぁ…、はぁ…。」

 

 あれからどのくらい走ったのだろうか。

 そろそろ体力の限界を迎えてきた。

 

 

 ???『千里、ここでゴールです。』

 千里「そりゃ良かった…。」

 

 どうやらもうすぐで脱出らしい。

 ちょっとした安心感が芽生えた。

 

 ???『どうしたのです?戻らないのですか?』

 

 私は脱出する前に、ある疑問を抱いていた。

 

 

 千里「…ねえ、もう一度ここに来る事ってできるの?」

 

 理由としては、さっき私を殺そうとした長のような男を追い詰めるためだ。

 あのまま逃げられたままでは、私の気が収まらない。

 

 ???『もちろんできますよ。あなたが“ロスト”を消すまで。』

 千里「…ロスト?」

 

 新たな言葉、「ロスト」。

 何の事を言っているのかわからなかった。

 

 ???『先程の男は善良を失った人物。それが“ロスト”です。そうなった事により、この“ロストワールド”にあのような人物が生み出されたのです。』

 千里「…よくわかんないや。」

 

 ただどうやら、ここは「ロストワールド」というらしい。

 善良が失った人々が集まる場所…とでも言えばいいのかな。

 だとしたらあいつは、根っからの悪人なのか。

 …頭が追い付いていけない。

 

 千里「…まあとりあえず、そのロストって奴を消すまで、何回でも入れるって事だよね?」

 ???『ええ。あなたがロストを消すまでは…です。それともう1つ。私はロストワールドでしか会話できません。』

 千里「え?」

 

 声の人はあっちの世界にいけないのか。

 またわからない事が増えた。

 

 ???『なのでそちらの世界では私に頼らず、自分自身でどう行動するかを考えてきてから、こちらに来てください。』

 千里「まあ…、わかった。」

 

 わからない事だらけでなかなか追い付けないけど、とりあえずそういう事になるとは理解できた。

 

 ???『では、また後ほど…。』

 

 私は扉に触れ、元の世界に帰る事にした───。

 

 

 

 

 

 

 千里(戻った…の…?)

 

 辺りを見回してみると、赤黒いロストワールドから色付いた元の世界に戻った事がわかった。

 

 千里(それに…、何だったんだろう。ロストワールド…。)

 

 ロストワールドの事を知れたのは良いが、謎が深まるばかりだ。

 こんな経験、初めてだ。

 

 

 

 真衣「あれ?千里?」

 

 遠くから、真衣の声がした。

 真衣は、多く詰められた大きなビニール袋を握っていた。

 

 真衣「同じ時間に帰ってくるなんてな。先に帰ったんじゃなかったのか?」

 千里「あ、えっと…。」

 

 どうしよう。ここで「異世界に行ってた」なんて言ったら怪しまれるかな…。

 

 千里「ちょ、ちょっと寄り道してて。帰っても何もする事なかったから…。」

 真衣「ふぅん、そうか。なら丁度いいや。荷物運ぶの手伝ってくれねえ?」

 千里「あ、うん。」

 

 ヤバ、嘘言ってしまった。

 まあでも、他にどう説明すればいいかわからなかったし、結果的にははぐらかせたからいいのかな…?

 とりあえず私は、真衣が持ってたもう片方のビニール袋を受け取り、キッチンまで運んだ───。

 

 

 

~午後10時~

 千里「……。」

 

 体がだいぶ疲れてる。

 お風呂上がりでも、なかなか取れる感じがしない。

 やはり、ロストワールドのせいだろうか。

 

 千里(ダメだ、何もわからない…。)

 

 ロストワールドを出てからずっとこうだ。

 あの場所は…、本当に何なのだろうか。

 何のためにあの世界が作り出されたのか。

 その疑問に悩まされてばかりだ。

 

 千里(…とりあえず、もう疲れたから寝よう…。)

 

 私はソファに寝転がり、布団を掛ける。

 大きな疲労のせいか、すぐに眠りに落ちた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「彩神千里……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「なかなか面白い奴だね……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「もう1人の私……。光の……。…フフッ。」



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Episode2 親父
第7話


今回からEpisode2になります。
ここから残酷なので苦手な方はブラウザバックする事をおすすめ致します。

大丈夫という方はどうぞ!


 千里「う……ん……。」

 

 翌日。

 静かな空間で私は目が覚めた。

 

 千里(…あれ?早い時間に目が覚めちゃった…。)

 

 時刻は5時を回っている。

 いつもより1、2時間くらい早く目が覚めたらしい。

 

 千里(キッチンに真衣がいない…。私が一番乗りか…。)

 

 この時間には、真衣の姿はなかった。

 だからリビングはいつもより静かだ。

 

 千里(…とりあえず、洗顔しに行こっと。)

 

 私はそう心の中で呟き、洗面所へと足を運んだ。

 

 

 

~午前6時30分~

 朝ご飯を食べながら、私はテレビを見ていた。

 最近話題のニュースが流れている。

 警察すらも手を焼いている犯罪者のニュースとか、そういうのばかり。

 

 6時半を回っても、リビングにいるのは私1人だけ。

 起きてから1時間半経つが、未だ誰も起きてこない。

 あの真衣ですら遅い。

 

 

 真衣「…あ、千里、起きてたのか…。ふぁ……。」

 

 しばらくして、パジャマ姿で寝癖を付けたままの真衣が入ってきた。

 

 千里「珍しいね。いつもより30分オーバーしてるよ。」

 真衣「はは、ちょっとな…。昨夜色々考えたら遅くなっちまった。」

 千里「色々?」

 

 「色々考えた」?何か悩み事とかあるのだろうか?

 

 千里「何か困ってる事でもあるの?私で良かったら相談に乗るよ。」

 真衣「サンキュ。でも大丈夫だよ。私事情だから。」

 千里「…そっか。」

 

 話を聞こうと思ったが、はぐらかされてしまった。

 何か気になる。

 真衣が何について考えているのか。

 例え私事情でも、気になってしまう私がいる。

 

 

 

 真衣「じゃ、朝練行ってくる。また後でな。」

 千里「あ、うん。」

 

 朝食を終え、身支度完了した真衣は、さっさと行ってしまった。

 

 

 

 真衣「……行ってくるね。」

 

 

 千里「…?」

 

 

 リビング越しから、真衣の声がすぐ聞こえた。

 ドアを開けると、真衣の姿はもうなかった。

 

 千里(…気のせいかな…。)

 

 薄らだったが、真衣の声が聞こえたのは確かだ。

 それ以外有り得ようがなかった。

 

 千里「…ん?」

 

 リビングに戻ろうとすると、私は何か見つけた。

 写真だ。

 

 千里(これは…。)

 

 写真の中に写っているのは、赤みがかった茶髪ショートの女の子と、ベージュ色のおさげの女の子と…。

 

 

 

 その2人の間にいたのは、細い髭を生やした温厚そうな男性だ。

 

 千里(隣に花……。)

 

 

 

 千里(…!!もしかして…。)

 

 

 

 真衣『昨夜色々考えたら遅くなっちまった。』

 

 

 

 真衣『でも大丈夫だよ。私事情だから。』

 

 

 

 私はふと、数秒前の真衣の言葉を思い出していた。

 

 千里(この男性はもしや…、真衣の父親…?)

 

 私は心の中でそう思っていた。

 もしかすると真衣が悩んでいた理由は、これの事かもしれない。

 前に真衣から、「両親がいない」という話を聞いた事がある。

 それがこれに繋がるのだろうか…?

 

 千里(…考えても仕方ないか。)

 

 深く考察をしてみたけど、やっぱり部外者の私が首を突っ込む事ではないと思った。

 そう考え、私はリビングに戻り登校の支度をした。

 

 

 

~真衣視点~

 剣道部員「北乃さん、また踏み込みが遅くなってるよ。」

 真衣「え?そうですか?すいません…。」

 剣道部員「大丈夫?もしかして体調悪い?」

 真衣「いえ、大丈夫です。もう一度お願いします。」

 

 

 

 家出る前に千里から言われた言葉に考えすぎだろうか。

 今日遅く起きてしまったのは、親父の事を考えていたからだ。

 だけど、それを千里には言えなかった。

 本当は話したかった。だが「大丈夫」と誤魔化して、話す事から逃げていた。

 もうあの頃から、逃げないって決めていたんだが…。

 

 あのショックを受けるようになってから、全てから逃げるようになっていた。

 

 かっこ悪いのはわかってる。

 

 でも、他人に心配されそうで、怖かった。

 

 …ったく、昔から何も変わってねえな。アタシって…。

 

 

 

 

 

 

 昔のアタシは、杏梨のように怖がりだった。

 

 怖いものや、そうと予想されるものからは何もかも逃げて、すぐに物事を投げ出していた。

 

 アタシは、そんな自分が嫌いだった。

 

 だけどそんな気持ちをわざわざ隠して、ずっと生きていた。

 

 

 でも、そんなアタシに手を差し伸べてくれたのは、今は亡き親父だ。

 

 その親父は…、ヤクザをやっていたんだ。

 

 お袋がいなくなったのはそれが理由だ。

 

 お袋は杏梨を産んで5年後、親父がヤクザだと知った頃に行方不明となった。

 

 それからは、お袋はどこで何をしているかはわからない。

 

 それうえ、生きているのか、もう既に死んでいるのかもわからない。

 

 

 アタシと杏梨は、そんな親父にずっと育てられた。

 

 それから親父が所属していた組織の組長さんも、アタシ達を孫のように可愛がってくれた。

 

 欲しいものは何でも買ってくれたり、暇さえあればアタシ達の遊び相手してくれたり…、組長さんは親父のように温厚で優しかった。

 

 

 小学校時代まではそうだった。

 

 中学に入ってから、「甘えてばかりじゃダメだ」と思い、どうにか自立しようと考えた。

 

 それでアタシは、剣道部に入った。

 

 元々その理由で剣道部に入ったが、「妹も、他人を守れる人間でいたい」というのも理由だ。

 

 それから、「怖がりな自分を変えたい」。そうも思っていた。

 

 その3つが、アタシが剣道部に入った理由だ。

 

 

 それからアタシはどんどん成長していき、今のような性格に変わった。

 

 その時点で、怖がりはなくなったと思っていた。

 

 杏梨からは、「お姉ちゃんはかっこいい」って、目に焼き付けられた事もあった。

 

 その頃はアタシも、頑張った甲斐があって嬉しかった。

 

 

 

 だがしかし、その2年後。

 

 アタシが中3になった時だ。

 

 

 帰宅した途端に、机の上にあったアタシのスマホから着信が届き、画面を見た。

 

 「北乃拓郎(きたの たくろう)」。親父からだ。

 

 「親父から何の用だろう?」、「またうっかりしてるな。」と、当時のアタシはそう思っていた。

 

 しかし、アタシの考えは甘かった。

 

 

 

 『お前の親父の事務所に来い。』

 

 その言葉に、アタシは恐怖を覚えた。

 

 スマホから知らない男の声が聞こえ、何をされるかも予想できず、アタシは事務所へ足を運んだ。

 

 

 

 そこに到着すると、束縛されている親父の姿があった。

 

 

 真衣「え……、親父……?」

 

 

 親父は既に顔や身体に痣や切り傷が作られ、死亡寸前だった。

 

 

 ???「可愛い娘に、最後に言い残す言葉はあるか?」

 

 拓郎「……。」

 

 

 今の光景で、アタシはその場から動けずにいた。

 

 体が震え、ただ見ているだけでいた。

 

 

 拓郎「真衣……。」

 

 真衣「…!」

 

 拓郎「ごめんな……、こんな事に巻き込んで……。」

 

 

 拓郎「組長も……、こいつらに殺された……。」

 

 真衣「え…!?」

 

 

 拓郎「ありがとな……。杏梨とも……、俺の娘でいてくれて……。」

 

 

 

ドシャアッッッ!!!

 

 

 

 真衣「!!!」

 

 

 親父は腹を貫かれ、血を吐いて死んだ。

 

 親父の血は、床やアタシの身体に飛び散った。

 

 

 真衣「親父……!嘘だ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣

「嫌だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシは叫び出し、事務所から逃げ出した。

 

 

 

 それからアタシは中3の時、親父や組長さんが死んだショックで、進路を決めるまで不登校でいた。

 

 杏梨も後にその事を知って、アタシの近くでずっと泣いていた。

 

 

 

 あの時のトラウマは、今でも忘れられない。

 

 2人が死んでから2年経つが、ふとした途端に頭の中で蘇る。

 

 

 そんな過去が…、嫌と言うほど繰り返す。

 

 

 

 アタシはその時に決めたんだ。

 

 

 

 「もう人が死ぬのは、見たくない」と───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
もうこれはダークファンタジーというより…何て言うんでしょうかね?
自分でもわからなくなりますw

さて、本文で新しく情報が入ったので、登場人物紹介の更新です↓



登場人物紹介(随時情報更新)

北乃真衣

▽プロフィール
読み仮名:きたの まい
年齢:16歳
誕生日:6月12日
身長:167cm
血液型:B型
趣味:料理
特技:人助け
好きなもの:ラーメン(特に味噌)
嫌いなもの:甘い食べ物
ポジション:???
使用武器:???


 彩神千里の友達。

 正義感が強く姉御肌であり、困っている人を放っておけない性格の持ち主。千里が来る前は妹の杏梨と2人暮らししていた。

 餓死寸前で行き場所のない千里を助け、自分の家で居候させ、共に過ごす事になる。

 趣味は料理、特技は人助けと、なかなかに姉御らしい行動面を持っている。外見は赤みがかった茶髪のロングヘアに、青緑色の瞳を持っている。料理する時は必ずポニーテールにしている。

 真衣と杏梨の父親はヤクザであり、多量の金を使いながらも、2人の面倒を見ていた(真衣曰く、当時は組長にも世話になっていたらしい。母親が行方不明になったのはそのため)。そして真衣が15歳時、組長は暗殺、父親は真衣の目の前で殺害されたショックが隠せなくなり、杏梨と共に悲しんでいた過去を持つ。これが真衣が杏梨と2人暮らしした最大の理由である。


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第8話

お待たせしました。Episode2の続きです。


~千里視点~

 1時限目の授業中。

 真衣は机に突っ伏しているままだ。

 やはり、今朝の事で考え事をしているのだろうか。

 

 

 

 佐島先生

 「北乃さん!!」

 真衣「…!?はいっ!?」

 

 佐島先生に呼ばれ、真衣は急に体を起こした。

 

 佐島先生「また授業中に突っ伏して…。具合悪いの?」

 真衣「いえ、大丈夫です…。」

 佐島先生「そう?でももし具合悪かったら早めに言いなさいね?」

 真衣「わかりました…。」

 

 そんな真衣が、私は心配で仕方なかった。

 首突っ込む所ではないかと思うけど、真衣は今朝からこうだ。

 もう部外者とか、そんなのどうでもよくなるじゃん。

 

 

 

~昼休み~

 今の時間がタイミング良いかな。

 

 千里「ねえ、真衣。」

 真衣「うぇ!?ああなんだ、千里か…。」

 千里「なんだって何…。今朝から様子おかしいけど、何かあった?」

 真衣「…え?何もねえけど…。」

 

 真衣は嘘を言ってるようにしか見えなかった。

 でもここは粘ってみる。

 

 千里「…正直に話して。」

 真衣「……。」

 千里「本当は何か悩んでるんでしょ?正直に言った方が楽になると思うよ。」

 

 真衣は少し黙り込んだが、後になって口が開く。

 

 真衣「…まあ、千里に追い詰められちゃ逃れようがないか…。いつか話そうって思ってたし…、わかった。正直に言うよ。実はな…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…なるほどね。」

 

 真衣が悩んでいた理由は、やはり今朝見た写真の男性…。

 真衣の父親の事だった。

 

 真衣「…情けねえよな。強い自分を見せようって思い込んだ結果がこれだよ。」

 

 家族を失った悲しみは、私にもわかる。

 だが病気よりも、凶器で殺された方がだいぶショックだ。

 

 真衣「…なあ、千里。」

 千里「何?」

 真衣「千里から見て、アタシってどんな人間?」

 千里「え?どういう事?」

 真衣「時々思うんだ。自分はどんな人間なのか、何故悲しみを隠してまで生きているのか。生きる意味って何なのか…って、親父や組長さんが死んでからそう思ってた。」

 千里「……。」

 

 「自分はどんな人間か」。

 そんなの、今まで全然考えた事なかったな。

 でも私は真衣をどう見ているか、馬鹿正直に答える事にした。

 

 千里「私から見た真衣はさ…。人に気遣いできて、自分よりも他人を優先するって感じ?上手く言えないけど、真衣は心優しい善良な人って、私は思うよ。」

 真衣「……。…そうか。千里はそう見てたんだな。」

 

 そう言うと、真衣は微笑んだ。

 でもその微笑みは、どこか悲しげだった。

 

 真衣「ありがとう、話聞いてくれて。…にしても腹減ったな。どうする?パン持ってきたけど半分いるか?」

 千里「…じゃあ、折角だし貰おうかな。」

 

 そう答え、私は真衣が持ってきたパンを半分貰う事にした。

 聖学は教室でも昼食はOKだから、そこは問題ない。

 

 

 真衣にあんな過去があったとは、私は今まで知らずにいた。

 私の過去よりも辛いものだった。

 だけど、私と真衣はどこか似ている気がする。

 そう思いながら、私はパンを口に運ぶのだった。

 

 

 

~放課後~

 千里「今日は部活なんだ。」

 真衣「ああ。だから帰りは遅くなるよ。」

 千里「それならわかった。というか、今日も1人か…。」

 真衣「まあ、家帰っても何も無いしな。何なら前みたいに寄り道してから帰ってもいいし。」

 千里(…!もしかすると、ロストワールドに行くチャンスなのでは?)

 

 この前下校していた時も、1人でロストワールドに行ってた。

 今回もそのように行けるか?

 

 真衣「じゃ、アタシは部活行ってくるよ。昼間はありがとな。」

 千里「それはどうも。」

 

 そう言うと、真衣は行ってしまった。

 

 千里(…さて、作戦開始かな。)

 

 

 

~ゴミ捨て場~

 千里(…確か、この辺りだったよね?)

 

 この前ロストワールドに入ったゴミ捨て場に辿り着いた。

 ここ最近で起こった事だから、鮮明に覚えてる。

 

 千里(あの声の人とは、私がロストワールドに入ると会話できる…。じゃあ、早いとこ入らないとね。…でも、どうやって入るんだろ?)

 

 ロストワールドに入るのはいいが、もう一度入る方法がよくわかっていない。

 手を伸ばしても、空気ですり抜けるだけだ。

 

 千里(もしかしてスマホで…ん?)

 

 私はスマホの画面を見ると、何やら怪しげなアイコンが表示されていた。

 

 千里(何これ?こんなアプリいつ入れたっけ?)

 

 よくわからないけど、そのアイコンをタップしてみる。

 すると……。

 

 

 

ドォンッ!!

 

 千里「うおっ!?」

 

 驚きのあまり変な声を出してしまった。

 

 千里(これは…、覚えてる。ロストワールドへと続く扉だ。)

 

 この前入ったのと同じ扉が現れたのだ。

 怪しげな雰囲気を醸し出している扉。これがロストワールドに入るための扉だ。

 

 

 

 いざ、ロストワールドへ─────。



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第9話

真衣のために千里、始動します。


 ???『来てくれましたか。千里。』

 千里「うん。ちょっと気になる事があってね。」

 ???『気になる事?』

 千里「真衣っていう私の友達がいるんだけど、最近様子がおかしかったから相談に乗ったんだ。そしたら父親の事で悩んでたらしくて。もしかするとここに関係しているかと。ロストワールドは“善良を失った人々が集まる場所”って言ってたよね。」

 

 私は思った事を淡々と口にした。

 

 ???『なるほど…。それは一理ありますね。でも、その推理は確実に当たっているのでしょうか?』

 千里「確証はないけど…、でもロストワールドなら有り得る話でもあるかなって。」

 ???『そういう事ならわかりました。今回は調査だけ…という事ですか?』

 千里「そうなるね。」

 

 そう。今回はあくまで軽い調査。

 真衣を助けるための情報を手に入れるためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 剣道部長「よし、今回はここまで!今回教えた事を忘れないように。明日もそれの練習するからな!」

 部員一同「ありがとうございましたー!」

 

 時刻は午後5時を回っている。

 千里は今頃何をしているのだろうか。

 

 昼間は千里に親父の事を話した事で、少しは気が楽になった。

 結局千里には、迷惑かけちまったな。

 

 

 

 真衣(今日の夕飯は何にしようか…。あ、カレーにでもしようかな。)

 

 アタシは帰り道の最中、今夜の夕飯を考えていた。

 正直、この時間はなんだか楽しく思える。

 

 アタシが料理を始めたのは、13歳の時だ。

 それから料理する事がどんどん楽しくて、親父がいた頃もアタシが作ってた。

 朝飯夕飯だけではなく、休日とかには抹茶味の菓子作りとかもしていたんだ。

 

 

 

 杏梨「お姉ちゃーん!」

 真衣「ん?ああ、杏梨か。お前も部活帰りか?」

 杏梨「うん。お姉ちゃんを見かけたから、一緒に帰ろうかと思って。」

 真衣「そうか。」

 

 それからアタシは、成り行きで杏梨と夕飯の買い出しに行った。

 

 

 

 妹はアタシの大切な家族だ。

 

 もう何も失いたくない。

 

 姉貴らしく、家族を守るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 千里「これは…、今朝見た写真だ。…でも、何でこんな所に?」

 

 

 私は今朝見た写真と同じものを見つけた。

 だがしかしよく見ると、真衣の父親の顔が黒く塗り潰されているのがわかる。

 

 ???『この男性は…、亡くなったと言っていましたね。それがこれに関係しているのでしょうか?』

 千里「わかんないけど…、持って行った方が良さそう。それにこの前見たロスト…。名前はわかんないけど、そいつには関係していると思う。」

 

 私の推理は必ずしも当たっているとは限らない。

 でも、ロストワールドに落ちている物は拾っておいた方が良い。

 ロストワールドと現実の世界は繋がりがあるかも知れないから。

 

 ???『第一の証拠ですね。他に探索はしますか?』

 千里「そうだね。邪魔者が来たら倒せばいいし。」

 ???『随分と余裕がありますが、ロストワールドは軟弱な敵ばかりではありませんよ。中には強敵もいます。その辺はご注意くださいね。』

 千里「うん。だから私は警戒心を持って戦うよ。」

 

 どの世界線でも、必ずしも簡単とは言えない。

 それは現実の世界とも同じ事だ。

 

 私は探索を続ける事にした。

 

 

 

 千里「…ところでさ。」

 ???『どうしました?』

 

 私はもう1つ、ある疑問を抱いていた。

 

 千里「ここで拾った物は、現実世界に戻ったら消えちゃうの?今持ってる写真とか。」

 ???『ああ、その事ですか。確かに消えてしまいますが、それが綺麗さっぱりなくなるという訳ではありません。もう一度ロストワールドに戻ってくれば、既に持っていたアイテムが引き継がれるので、ご心配なく。』

 千里「そっか。それなら良かった。」

 

 あくまで収納みたいなやつか。

 一度拾ったものなら、次の潜入でも長持ちするという事か。

 

 相変わらず声の主は誰だかわからないけど、ロストワールドの事は色々と教えてくれるだろうから、心強いと言えばいいのかな。

 私1人だけだったら、何もかもわからない状態で彷徨っていたのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「なあ杏梨、今日はカレーにしようと思ってんだが、いいか?」

 杏梨「お姉ちゃんが作るご飯は美味しいから構わないよ。」

 真衣「ははは、そう言ってもらえると嬉しいよ。」

 

 現在は杏梨と下校中。

 アタシは妹と過ごす時間も好きだ。

 ずっと一緒に過ごしてきた妹。

 今考えれば、杏梨も大きくなったな。

 昔はよくアタシにくっついてばかりだったのに、今は一人前に成長している。

 時が経つのって、なんだか怖いよなぁ。

 

 

 

~午後6時~

 真衣「…千里、遅いな。」

 

 アタシは台所で夕飯を作っていた。

 だが、今日の千里は帰ってこない。

 昨日はアタシと同じくらいに家に着いていたのだが、今日は心無しか1時間くらい経っている。

 

 

~午後6時30分~

 杏梨「……。」

 真衣「参ったな…。どこかで道に迷っているんじゃないか…?」

 杏梨「…そうかも…。」

 

 もう夕飯の準備はできた。

 しかし、千里はいつまで経っても帰ってこない。

 

 真衣「杏梨、先に食べててくれ。アタシは千里を探してくる。」

 杏梨「お姉ちゃん…?」

 真衣「このまま帰ってこないままじゃ心配だしさ。できるだけ早く連れて帰ってくるよ。」

 杏梨「う~ん…、そういう事ならわかった。気を付けてね。」

 

 アタシはそう言うと、杏梨を残して家を出た。

 千里、無事だと良いんだが…。



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第10話

遅くなって申し訳ないです。。。


~千里視点~

 千里「…まさかこんな事になるとは…。」

 

 今の私は、相当まずい状況だ。

 うろうろと探索をしていたら、敵に囲まれていた。

 邪魔する奴は倒せたが、流石にこれは数が多すぎる。

 

 ???「お?この前の嬢ちゃんじゃねえか。」

 千里「…!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 その声の主は、この前私を殺そうとしていた、長のような男だ。

 

 ???「また会う事になるとはな。こないだはまんまとぶっ飛ばされたが、今回はそうはいかねえぜ?」

 

 その男は、ニヤリと悪意のある笑みを浮かべた。

 

 ???『…どうします?千里。』

 千里「そんなのやるに決まってるでしょ!」

 

 私は戦闘態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣(くそ、千里のやつどこ行ったんだ?連絡もつかねえし…。)

 

 あれから10分ほど経つが、千里の姿は見当たらない。

 とりあえず「今どこにいる?」とメッセージを送っていたが、一向に返事が返ってこない。

 またああいう悲惨な目に遭っていなけりゃいいのだが…。

 

 真衣(まずいな…、早いとこ見つけないと…ん?)

 

 千里を探している途中、アタシはある建物を見つけた。

 親父のヤクザ事務所だったビルだ。

 今はボロボロに荒廃されていて、廃棄寸前の状態だった。

 

 真衣「親父…。組長さん…。」

 

 ポツンと2人の名前を呟いた。

 

 あの時アタシがもう少し強かったら、怖がりでなかったら、2人は殺されていなかった。

 

 2人がこの世を去って、自分を責めてばかりでいた。

 

 今あるこのビルを目にすると、親父の死体が嫌と言うほど目に浮かぶ。

 

 

 

ドォンッ!!

 

 真衣「…!?何だ!?」

 

 悲しみに浸っていると、大きな物音が響き渡った。

 目の前に現れたのは、大きな扉だ。

 

 真衣(でっか…。何だよこれ…。)

 

ビリッ!!

 

 真衣「っ…!?」

 

 恐る恐る手を触れると、物凄い電撃が走った。

 そして…。

 

 真衣「何だこれ…!?うわっ…!!」

 

 扉は開き、恐ろしいほどの吸引力に引き込まれ、足を取られてしまう。

 逃げようとしても逃げられない。

 

 

 真衣「うわああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「……?」

 

 …目を覚ました。

 

 …ここはどこだろう…?

 

 

 真衣(赤…?黒…?…!何だこれ…!?)

 

 アタシは辺りを見回してみると、邪悪は雰囲気に塗れていた。

 さっきの扉の影響だろうか?

 

 真衣(これ…、現実なのか…?でも、目の前にあるんだからそうだよな…?)

 

 もう何が何だかわからなくなった。

 

 アタシは、歩いてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 ???「おいおいどうしたよ?前までの威勢はどこ行った?」

 千里「うっ…!くそ…!」

 

 今の私は、相当ヤバい状況に陥っている。

 数は少しでも減らせたが、後にわんさか湧き出て流石に1人では対処できなくなっている。

 

 千里(こんな時に、目に見える仲間がいれば……。)

 

 私はそう願っていた。

 だがしかし、ここにいる善良な人間は私だけだ。

 また、死に際まで来てしまった。

 

 ???「口も利けねーか。んじゃ、殺すか。」

 

 私は目を閉じ、死を待つ事にした。

 

 そりゃそうだよ。こんなにボロボロにされて、頼れる人がいないんじゃ、死ぬしかないじゃん。

 

 

 

 千里(ごめんね、真衣…。)

 

 

 

 心の中で、一番頼れる人の名前を呟いた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「千里!!!」

 

 

 

 千里「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「くそ…、どうなってんだこりゃ…。」

 

 どこもかしこも赤黒い景色ばかり。

 本当にここはどこなのだろうか?

 

 真衣「…ん?あれは…。」

 

 あちこち歩き回っていると、誰かが襲われているのが目に見えた。

 

 真衣「…!千里…!?」

 

 そこにいたのは、何者かにやられていた千里の姿だった。

 髪と顔付きで、千里だとすぐにわかった。

 だがしかし、何故こんな所に…?

 

 そんな事を考えながら、アタシは千里の所へと走った。

 

 

 

 真衣「千里!!!」

 千里「…!」

 

 ???「あ?何だお前?」

 真衣「…お前が千里をやっていたんだな。」

 

 千里はこいつにやられていたのか。

 人を見殺しになんてできねえ。むしろ、そんな馬鹿な事はしたくない。

 アタシは無理にでも、あいつを殴ろうとしていた時だった。

 

 ???「なーんか見た事あんだよなあ。お前。」

 真衣「…は?」

 

 こいつは何を言っている?

 まさか、アタシの事を前から知っていたのだろうか?

 

 ???「顔付きだろ?赤茶の髪だろ?」

 

 なりふり構わず、奴は淡々と口に出す。

 

 だが、その後はアタシも予想していなかった事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「あー思い出した。お前は北乃拓郎の娘だな?」

 

 真衣「…!!」

 

 

 

 北乃拓郎。

 

 それは2年前に死んだアタシと杏梨の親父だ。

 

 こいつはまさか……。

 

 

 

 真衣「お前…、“江田宗明”か?」

 ???「おー!覚えてたか!そーだよ!江田だよ!いやー、あれから全然会えなくて寂しかったぞー?随分大きくなったなー!」

 

 悪意のある笑みが見える。

 江田宗明(えだ むねあき)。こいつは親父が所属していた“江田組”の若頭で組長さんの息子だ。

 江田宗明という名前で、全て思い出した。

 

 江田「どうだー?妹と元気でやってるか?親父さんが死んだ後、ちゃんと学校行けてるかー?」

 真衣「……。」

 江田「ま、んなこたあどうでもいいけどよ、こいつはお前の仲間なんだろ?死に際だぜ?助けなくていいのか?」

 千里「真衣…。」

 

 そうだ、今の千里は傷でボロボロだ。

 できる事なら、千里を助けたい。

 

 

 

 江田「お前は弱虫だもんな。」

 真衣「…!!」

 江田「昔から何もできねえでただ泣いてばかりだったもんな。そんな馬鹿なまま育ってきたんだよな!…俺はな、俺の親父とお前の親父が憎いんだよ。組放ったらかしてお前とお前の妹に向き合ってばかりでよ。だから殺したんだよ。親父達をな。」

 真衣「……。」

 

 それだけの理由で…。

 

 

 アタシは、江田への憎しみを抑えられずにいた。

 

 江田「何も言えねえか!そうか!お前は弱虫だもんな!弱虫なお前が正義を見せられる訳ねえもんな!!妹ちゃんがお前の情けねえ姿見たら泣くぜ!?ハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「……黙れよ。」

 

 

 

 江田「あ?」

 

 

 

 真衣

「黙れって言ってんだよ!!!」

 

 

 

 千里「…!」

 

 もうアタシは、我慢の限界を迎えた。

 

 今まで抱いていた感情を全て吐き出した。

 

 

 

 真衣「…親父達が憎い?笑わせんな。その親父は、お前を精一杯育てた肉親だろ!!!」

 

 江田「っ…!?」

 

 真衣「…そうだよな。お前には罪悪感というものがないからな。だから自分の親父を殺したんだよな。アタシは高校に行きながらも、ずっと親父の事を考えていた。お前によって生み出された親父の死体が、ずっと目に浮かんでいた。親父達を殺したせいで…、アタシと杏梨がどれだけ悲しんだか、お前にはわからないだろうな。」

 

 

 

 真衣

「その時点で、お前は外道確定なんだよ!!!」

 

 江田「…!」

 

 

 

 アタシは、怒りと悲しみを江田にぶつける。

 

 

 そして───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『北乃真衣。』

 真衣「…!誰だ…?」

 

 声が聞こえる。

 その声の主は誰だかわからない。

 幻聴らしきものが、アタシに話しかけている。

 

 ???『あなたは今、この危機からどのように逃れたいですか?』

 真衣「…?どういう事だ…?」

 ???「あなたは目の前の彼女を、どうしたいですか?あなたは、彼にどう立ち向かいますか?」

 

 彼女…千里の事か。

 そして彼とは、今目の前にいる憎むべき男・江田宗明の事だろうな。

 

 

 

 真衣「アタシは…、千里を助けたい。それと、江田に罪を償ってもらう。自分のした事…、思う存分にわからせやりたい。それだけだ。」

 

 アタシは、昔は気弱だった。

 

 だがそれは昔の事で、今はそんなのどうだっていい。

 

 人のために、アタシは動きたい。

 

 そう誓ったんだ。

 

 ???『よろしい。では、契約を結びましょう。彼女と同じ戦う力を得るのです。覚悟はいいですか?』

 真衣「…ああ。とっくにできてるさ。こんな所で何もしないなんてできねえ。」

 ???『それではこの光を、握り締めてください。』

 

 そう言われると、小さな光が現れる。

 アタシは言われた通りに、光を握った。

 

 

 

 ???『あなたは、闇を斬り裂く騎士となるのです!!!』

 

 

 

バリンッ!!

 

 

 

 真衣

「どおおおおおりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話

~千里視点~

 驚いた。

 

 まさか真衣にも、この能力を得れたとは。

 

 思わず、見入ってしまった。

 

 

 

 真衣「……。」

 

 今の真衣の姿は、聖騎士のような白銀の鎧を纏い、赤色のマントを靡かせている。

 そして右手には、大きな剣を持っている。

 

 真衣「アタシは…、もう弱虫なんかじゃねえ。確かに昔は杏梨みたいに怖がりだったよ。だが今は違う。アタシは、お前らみたいな闇を斬り裂く騎士だ。闇を滅ぼす女だ!!!」

 

 真衣はそう叫び、奴らへと走り出した。

 

 そして───。

 

 

 

ザシュッ!!

 

 江田の部下「ぐっ!?」

 

 真衣は勢いに任せ、敵を真っ二つになる如く斬った。

 強い。

 一撃で倒れるほどの力を持っている。

 

 江田「こいつもかよ…!おい、あの女を殺せ!」

 江田の部下「イエッサー!」

 

 あの男…江田は部下に命令を出した。

 視線は真衣へと向かっていく。

 

 真衣「させっかよ!」

 

ズバッ!ザシュッ!

 

 真衣は次々と敵を斬り倒していく。

 斬って、斬って、斬りまくったのだ。

 

 

 

 真衣「はぁ…、はぁ…。」

 

 やっとの事で江田の部下達は全滅した。

 流石の真衣も、疲労が見えているのがわかる。

 

 江田「…なるほどなぁ。流石北乃の娘ってこった。昔とは大違いだぜ。」

 真衣「……。」

 江田「でもなぁ、俺もお前をとっちめてえ気山々なんだがよ。お前の成長っぷり見て満足だわぁ。」

 

 これは…、江田は真衣の実力を認めている…でいいのか?

 

 江田「また会う事があるかもな。じゃあなー。」

 

 真衣「待て!江田ぁ!!…ぐっ…!」

 千里「真衣!」

 

 真衣は江田の所へ向かおうとしていたが、跪いてしまう。

 体力の限界だろうか。

 

 千里「落ち着いて、真衣。体勢を立て直そうよ。このまま挑んでも真衣が大変な事になるだけだよ。」

 真衣「千里……。わかった…。」

 

 真衣は諦めて、ロストワールドから出る事にした。

 

 真衣が入った所に行き、帰還したのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…落ち着いた?」

 真衣「…ああ。サンキュ、千里。」

 

 ロストワールドから出た後、近くの公園のベンチで休む事にした。

 そこに自販機があったため、水を買って真衣にあげた。

 

 

 

 真衣「…それにしても、ロストワールドか…。千里の話だと、“善良を失った奴らが集う場所”…だったよな?」

 千里「そうだね。そしてその人物は、“ロスト”って言うらしいの。だから江田も、そのロストの一部だと思うんだ。」

 

 私はそう考えた。

 …まあ、あくまで予想だけど。

 

 真衣「“ロスト江田”…って事か。明らかに魔族って服装してたよな。でもあいつ、ああいうコスプレする奴じゃねえし。」

 千里「そうなんだ。」

 真衣「昔少し耳にした程度だけどな。」

 

 なんて真衣が言うと───。

 

 

 

 真衣

「あーーー!!てかやべえじゃん!!」

 

 突然、真衣は大声で叫んだ。

 

 千里「ちょ、急にどうしたの?」

 真衣「アタシ、お前を探してたんだよ。ロストワールドに迷い込んだ衝撃ですっかり忘れてたよ…。」

 千里「え?」

 真衣「お前がなかなか帰ってこないから、杏梨を家に残して出たんだよ。メッセージ送ったけど、返事来なくてさ…。」

 千里「…本当だ。」

 

 スマホの画面を見ると、1件の未読メッセージの通知が出ていた。

 恐らく私がロストワールドに行っていた間に送られていたのだろう。

 そして時刻を見ると、8時を過ぎている。

 

 千里「ごめん、迷惑かけて…。」

 真衣「…いや、こりゃお互い様だな。アタシんとこにも杏梨からメッセージ届いてる。」

 

 私は真衣のスマホの画面を見てみると…。

 

 

 

 『お姉ちゃん遅いよ。どこに行ってるの?』

 

 千里「あー…。」

 

 どうやら、杏梨ちゃんに怒られる未来が待ってるな。

 

 真衣「さっさと帰るか…。てか千里、腹減ってるだろ?もうカレー作ってあるからさ、急いで帰ろうぜ。」

 千里「…まあ、こうなる事は予想してたけど…。」

 

 そう言って、私達は北乃家に帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「ただいま~。」

 

 

 

 杏梨「あ、やっと帰ってきた!遅いよお姉ちゃん!」

 真衣「わりいわりい、思ったより遅くなっちまって…。」

 杏梨「千里ちゃんも、こんな時間までどこに行ってたの!なかなか帰ってこないから心配したんだよ?」

 千里「ごめん、杏梨ちゃん。」

 

 それから私達は杏梨ちゃんから30分説教を受けた。

 

 私、お腹減ってるんだけど…。

 

 まあ、元はと言えば私の自業自得だけどね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~午後10時~

~真衣視点~

 真衣「…ロストワールド…。」

 

 アタシは、さっきの事を思い出していた。

 善良を失った人物達が集まる場所…ロストワールドを。

 

 真衣(…あんな世界、誰が生み出したんだ?何故あのような奴らが集まるようになったんだ?)

 

 わからない事が多い。

 だけど、親父や組長さんを殺した江田もそこにいるのであれば、ケリを付けられる知れないな。

 

 真衣(…今日は疲れたな…。寝るか。)

 

 疲労感に浸っていたアタシは、速攻で眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 杏梨「…あ、またグループ退会されてる…。」

 

 私は、暗い部屋の中でスマホの画面を見た。

 何度も招待を受けて入ったはずのグループに、また退会されていた。

 トーク画面にはこう書いてあった。

 

 

 

 『☆サヤ★があんりをグループから退会させました』

 

 杏梨「……。」

 

 もう何度も入っているのに、私が入る度に退会される。

 …私は、クラスからいなくなった方がいいのだろうか。

 その気持ちを隠して、元気で振る舞おうと考えながら過ごしていた。

 

 

 

 杏梨「お姉ちゃん……。」

 

 

 

 頼りたいのに頼れない。

 

 お姉ちゃんを悲しませたくなくて、ずっと言えずにいた。

 

 

 

 私は、存在しちゃいけないの?

 

 

 

 助けて、お姉ちゃん……。




読んでいただきありがとうございます。
長らくお待たせしてしまって大変申し訳ないです。。。
そろそろこのチャプターも終わりにしようと思っています。
また長く待たせる事もあると思いますが、そこはご了承ください( ̄▽ ̄;)

↓さて、真衣が覚醒したので紹介の更新です。↓



登場人物紹介(随時情報更新)

北乃真衣

▽プロフィール
読み仮名:きたの まい
年齢:16歳
誕生日:6月12日
身長:167cm
血液型:B型
趣味:料理
特技:人助け
好きなもの:ラーメン(特に味噌)
嫌いなもの:甘い食べ物
ポジション:???
使用武器:大剣


 彩神千里の友達。

 正義感が強く姉御肌であり、困っている人を放っておけない性格の持ち主。千里が来る前は妹の杏梨と2人暮らししていた。

 餓死寸前で行き場所のない千里を助け、自分の家で居候させ、共に過ごす事になる。

 趣味は料理、特技は人助けと、なかなかに姉御らしい行動面を持っている。外見は赤みがかった茶髪のロングヘアに、青緑色の瞳を持っている。料理する時は必ずポニーテールにしている。

 聖麗学園高等学校では剣道部に所属。剣道は中学1年生の頃から部活で始め、「怖がりな自分を変えたい」、「他人を守りたい」という理由で入部したという。ロストワールドで大剣を使用している理由の一つでもある。

 真衣と杏梨の父親はヤクザであり、多量の金を使いながらも、2人の面倒を見ていた(真衣曰く、当時は組長にも世話になっていたらしい。母親が行方不明になったのはそのため)。そして真衣が15歳時、組長は暗殺、父親は真衣の目の前で殺害されたショックが隠せなくなり、杏梨と共に悲しんでいた過去を持つ。これが真衣が杏梨と2人暮らしした最大の理由である。


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第12話

~千里視点~

 昼休み。

 いつも通り私は真衣と昼食を取っている途中だった。

 

 真衣「なあ、千里。」

 千里「ん?」

 真衣「その…さ、ロストワールドって誰にでもってか、いつでも入る事って可能なのか?」

 千里「できると思うよ。真衣、スマホの貸して。」

 真衣「…?スマホが関係しているのか?」

 

 真衣がそう言うと、自分のスマホのロック画面を開いて私の手に渡した。

 

 

 

 千里「…あ、やっぱり。」

 真衣「何かあったのか?」

 千里「これだよ。」

 

 私が指をさしたのは、真衣のスマホのホーム画面に映っていたアイコンだ。

 私のにも入っているのと同じものだ。

 

 以前私は、アプリだと思ってタップしたこのアイコンで、ロストワールドに入る事ができた。

 もしかしたらと思って確認してみたけど、予想は当たっていた。

 

 真衣「何だこれ?アプリ…なのか?」

 千里「私もわかんないけど…、こないだこれを使ってロストワールドに入れたんだ。」

 真衣「なるほどな…。試しに押してみるか?」

 千里「ダメだよ。昼休みだよ?しかもここ教室だし。放課後にしようよ。」

 真衣「…それもそうか。まあ今日は部活ねえし、丁度良いよな。」

 

 

 

キーンコーンカーンコーン…

 

 私達が会話していると、予鈴が聞こえた。

 

 真衣「…と、いけねえ。そもそも昼飯全然食ってねえや。」

 千里「パンだけだから別に急がなくていいんじゃない?」

 真衣「甘いな。秒で食してやる!」

 千里「……。(苦笑)」

 

 真衣はそう言って、ガツガツとパンを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~放課後 廃墟ビル前~

 千里「確かここだったよね。」

 真衣「そんな感じだな。…つってもここに来ると、やっぱ2人の死体が目に浮かぶな…。」

 

 真衣は苦しそうに頭を抱えている。

 まあ、あんな過去があったのだから無理もないか。

 

 千里「無理に行かなくてもいいんだよ?今日がダメなら今度でもいいし。」

 真衣「…いや、大丈夫だ。どうせ部活やら何やらで忙しくなるからな。こんなチャンス、今日しかねえだろ。それにな、アタシはまだ許せねえんだ。江田のクソ野郎が。2人を死に追いやって、のうのうと生きてるんだからな。同じ痛みを与えてやらなきゃアタシの気が収まらねえよ。」

 千里「なら良いんだけど…。」

 

 江田を許せない気持ちはわかるけど、やっぱりちょっと心配だな…。

 

 

 

ドォンッ!!

 

 真衣「うおっ!?」

 

 私はこの前やった通りに、スマホのアイコンをタップした。

 同じ扉だ。

 もしかしたら、ロストワールドに続く扉なら全部同じなのか…?

 

 千里「こんな感じで扉が出てくるの。」

 真衣「びっくりした~…。これって前にも見たやつだよな。」

 千里「そういう事。どうする?もう行く?」

 真衣「当たり前だろ。今更退くなんて言わねえよ。」

 千里「了解。じゃあ行くよ。」

 

 そうして私は扉に手を触れ、ロストワールドに侵入したのだった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…相変わらず気味悪ぃ所だな。」

 

 ロストワールド。

 とりあえずは侵入する事に成功した。

 ちゃんと服も変わっている。

 

 真衣「…っていうか、千里は何も武器持たないのか?もしかして肉弾戦とか?」

 千里「そうみたい。真衣は大剣…って言えばいいのかな。」

 真衣「そういうの…かな。」

 

 私は格闘で真衣は大剣。

 これは良いチームワークにはなりそうな予感。

 

 真衣「そういや契約した時、“闇を斬り裂く騎士”って言われたな。もしかすると…ってなるが、アタシが大剣持つようになったのはそれが理由かもしれねえ。千里はどうなんだ?」

 千里「私?えっと…。」

 

 二つ名みたいな感じなのかな。

 誰かわからないあの声の主に、ああいう二つ名を言われた気がする。

 

 千里「“悪を打ち砕く鉄槌”…かな。」

 真衣「お?なんかかっけーじゃん!鉄槌ってもはや千里の拳じゃん。」

 千里「まあでも、悪くはないかな。」

 

 ロストワールドに侵入している事にも関わらず会話をしていた私達だった。

 

 

 

 真衣「よし、とりあえず江田の野郎を探そうぜ。邪魔する奴らはぶちのめせばいいんだからよ。」

 千里「くれぐれも油断はしないようにね。」

 

 作戦開始。

 

 ロスト江田には私も散々お世話になったから、その借りは返さないとね。

 

 そう思いながら、走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『─────よお、お2人さん。』

 

 千里・真衣「…!?」

 

 突然後ろから声を掛けられた。

 

 

 

 そこに現れたのは、私達の憎むべき男・江田宗明の姿だ。

 

 真衣「江田!」

 ロスト江田「待ちくたびれたぜ。お前らがこの世界来るのをよ。」

 真衣「随分余裕ぶってるじゃねえか。どうした?手下達はもういないのか?」

 

 そうだ。今の江田の周りには誰もいない。

 手下達の姿が見当たらない。

 どこかで身を潜めているのか。

 

 

 

 

 ───しかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト江田「手下ぁ?もうあんなの必要あるかっての。」

 

 

 

 真衣「…は?」

 千里「…どういう事?」

 

 必要ない?

 

 一体どういう事なのだろうか。

 

 いつもなら沢山の手下を率いて、命令を出していたというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト江田「手下なら殺したぜ。俺の手でな。」

 

 

 

 千里・真衣「…!?」

 

 殺した…!?

 

 

 

 ロスト江田「あんな奴らは使いもんになんねえよ。ただただ弱い奴らの集まりだった。俺は強い奴を求めてんだよ。あんなカス共、邪魔になるだけだ。なんならいっその事死刑行きだと思っててよ。」

 真衣「お前…!あれだけ慕われていた奴らを…!」

 ロスト江田「何だよ?使えねえ奴らを殺して何が悪い?今の江田組は俺が指揮を執ってんだ。何やろうが俺の勝手だろうが。」

 

 自分の手下を殺した。

 

 自分か指揮を執っている組なら何やってもいい。

 

 何を考えているんだ。こいつは。

 

 

 

 真衣「…そうか。お前はそういう奴なんだな。」

 ロスト江田「あ?」

 千里「真衣…?」

 

 

 

 真衣「やっぱりお前は外道だよ。本能のままに親父達も殺して…。」

 ロスト江田「…言ってる意味がわかんねえな。」

 

 

 真衣「だから外道って言ってんだよ。お前は“強い”しか求めないのか?それ以外に求めるものはないのか?」

 ロスト江田「ごちゃごちゃうるせえメスガキだな。なんならお前もあの世に送ってやろうか?」

 真衣「ああ。やってみろよ。できるもんならな!」

 

 どうやら、真衣は覚悟を決めたらしい。

 ロスト江田と、決着をつける時が。

 

 

 

 ロスト江田「いいぜ。見せてやるよ。俺の本気をな。」

 

 

 

ゴゴゴゴ…!

 

 千里「…!?何!?この地響き…!?」

 

 ロスト江田はゆっくりと手を掲げると、辺り一面が揺れ出した。

 

 

 

 真衣「…!?景色が変わった…!?」

 

 そして周りは先程と打って変わって、どこかの建物の屋上らしき場所になった。

 ロスト江田の魔族のようなあの感じからすると、城の屋上かもしれない。

 

 

 

 まさか、ロスト江田はあの廃墟ビルの事を、自分の城だと思っているのか…?

 

 

 

 ロスト江田

「何やろウが、全ブ俺の勝手だロうがああああああああアああああああああああああああああああああああああああああアアアアアあアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 ロスト江田は耳を劈くような声で叫び出した。

 

 これが、ロスト江田の本気という訳か。

 

 

 

 今のロスト江田の姿は、周りに邪悪なオーラを纏い、背中には無数の触手、鋭い爪を持っている。

 

 真衣「…なるほどな。それがお前の本気の姿か。」

 ロスト江田

「おうよ。カカって来イよメスガキ共。イ思が失ウマでヤってやンぞオラァ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 人間だった姿の江田とはかなり様子が違い、狂ったようになっている。

 

 来る。

 

 

 

 千里「行くよ!」

 

 私達は変異したロスト江田に向かって走り出した。

 

 私達の戦いは、始まったのだ。

 

 

 

 真衣「親父を殺した事…。ここでしっかりカタをつけてやる。」

 

 

 

 

 

 真衣

「今更後悔しても遅せえんだよ!」

 

 

 

 

 

 




次回から初めてのバトルシーンです。
皆さんが想像できるような描写にできるよう頑張ります。


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第13話

 ロスト江田「おうオウオう!!さっきマでノ威勢はドウしたよ!?」

 真衣「へん、こんなのかすり傷だっつの。」

 

 あれから5分くらいかかっているが、ロスト江田はビクともしていない。

 隙を見せたと思ったら触手で攻撃を弾かれたり、不意打ちを仕掛けたりと、なかなか強力な行動力を持っていた。

 

 ロスト江田「ジ獄に落トシてヤンぞオラァ!!!!!!!!!!」

 

 ロスト江田の爪が振りかぶる───。

 

 

 

ガキンッ!

 

 真衣「危ねぇな…。効かねえよ!」

 

 間一髪で真衣が大剣でガードした。

 一足遅かったら確実に斬り裂かれていただろう。

 

 千里(…しかし、素早いし強いな…。何かあいつを留める方法はないのか…?)

 

 私は戦いながら、それを考えた。

 何か…、あいつの隙が見えるものがあれば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『千里!』

 

 千里「…!どうかしたの?」

 

 あの人の声だ。

 誰かもわからないあの声。

 

 ???『今の江田を見て、何か気付きませんか?』

 千里「…?どういう事?」

 ???『今はもう1人の覚醒者…真衣に目を向けています。という事は…。』

 千里「真衣に…?…!!」

 

 そうか。そういう事か。

 今の江田は真衣しか狙ってない。

 という事は、後ろは全くのガラ空きだ。

 

 ???『ようやく気付いたようですね。それでは、銃を使うのです。』

 千里「銃?いつの間に…?」

 ???『あなたが覚醒したと共に、懐に銃を与えたのです。』

 

 そういえば気付かなかった。

 近接と遠距離を使い分けろって事か。

 それなら簡単だ。

 

 

 

 ロスト江田「ハハはハハは!!!!おいおい、それデも北乃の娘かぁ!?雑魚すギて笑エテくるぜ!?」

 真衣「ああ、くそ!どうすりゃいいんだ!」

 

 

 

 ???『心を落ち着かせて、よく狙って、撃ち抜くのです。』

 千里「わかってる。」

 

 集中して、私は遠くから江田に銃を向ける。

 トリガーに指を添え、いつでも撃てる準備はしておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『今です!!』

 

 

 

 

 

バァンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシュッ!

 

 ロスト江田「ぐっ!?」

 

 真衣「…!?」

 

 

 

 見事に命中した。

 弾は江田の背中に入り込み、血飛沫をあげる。

 

 真衣「千里か…?今、何したんだ?」

 千里「 遠距離攻撃だよ。後ろはガラ空きだったからね。」

 真衣「…なるほど。そういう事か。」

 

 真衣にもわかったようだ。

 江田は目の前の敵しか狙わない。

 だとすれば1人が囮になってもう1人が後ろから狙うという事だ。

 必ずしも成功するとは限らないが、この方法なら何とかなるだろう。

 

 真衣「おい、江田!こっちだ!」

 ロスト江田「…このメスガキ共ガ!俺の身体に傷を付けやがッて…!許さねエゾオラァッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 真衣(千里!アタシが囮になる!江田を隙を見て撃ってくれ!)

 

 作戦開始だ。

 真衣の目を見ればわかる。

 そう思い、私は銃を構える。

 

 

 

 ロスト江田「オラオラオラァッ!!!!!!!!!!」

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

 真衣「喰らわねえよ、そんなもの!」

 千里(今だ!)

 

バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!

 

 私は真衣ばかり狙っている江田を何発も撃ち込む。

 これの繰り返すだけだ。

 

 

 

 ロスト江田

「ざっけンナよてめエらああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 真衣「!?江田が…!?」

 

 何やら様子がおかしい。

 

 いや、元からおかしいけど、さっきとは打って変わったように感じる。

 

 

 

 千里(…!体勢が変わったんだ!)

 

 そうとしか思いようがなかった。

 

 

 

 真衣「何だよこれ…!あいつ、四足歩行になったぞ!?」

 千里「…ここからが本番だね。」

 

 ロスト江田「サッキカラバンバンバンバンヤリヤガッテヨオ!!血祭リヲアゲテヤロウカ!?!?!?!?」

 真衣「できるもんならやってみろよ!どうせお前を消すだけだからな!」

 

 どうやら真衣も覚悟を決めたらしい。

 

 1人が囮になる作戦を繰り返すと思いきや───。

 

 

 

 ロスト江田

「オラアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 真衣「…!危な!?」

 

 今回はそうはいかなかった。

 囮になる所か、江田は手当り次第無造作に視覚を失った人のように暴れ出す。

 このままでは裏を取れない。

 銃で撃とうともするが、動きがさっきと比べると何倍も速くなっている。

 

 千里(くそ!どうすればいい…!?考えろ…!)

 

 一生懸命に戦える手段を考えるが、動きながらだとそれすらもできなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…ん?」

 

 走り回る途中で何か見つけた。

 

 千里(あれは…大砲?いや、それにしては銃口が見当たらないな。

 弓矢…?クロスボウ…?いやでも、それより一回り大きいな。)

 

 かくなる上に私が出た答えは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…!バリスタか!」

 

 そうだ。兵器のバリスタだ。

 昔、バリスタを使って戦う映画を見たのを思い出した。

 

 千里(…でも、使った所で隙はなさそう。くそ、せっかく兵器を見つけたのに…!)

 

 と、私が心の中で叫んでいると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『千里、拘束を使いましょう。』

 千里「…え?」

 

 またあの人の声だ。

 拘束?…て事は…。

 

 ???『そのバリスタには、拘束弾が対応しています。さあ、早く!』

 千里「…!なるほどね。」

 

 よく見ると陰にロープが付いた大きなバリスタの弾が置いてある。

 あれで拘束すれば、暴れている江田の動きを止められる。

 しかしその代わり、外せば大損だ。

 

 ???『銃と同じように、よく狙って撃つのです。狙いの腕はあなたにかかっています。』

 千里「同じだね。やってみる。」

 

 よく狙って、撃つ。

 失敗は許されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「ここだ!」

 

バシュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシュッ!

 

 ロスト江田

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 真衣「…!?あれは…!?」

 千里「拘束したよ!」

 

 命中した。

 少しハラハラしたけど、何とか拘束に成功した。

 

 真衣「…!でかしたぞ!千里!」

 

 今のうちに畳み掛ける。

 煮るなり焼くなりの一心で。

 

 

 

 真衣「これで終わりだ。江田ああああああああああ!!!」

 

 

 

ズバッ!

 

 ロスト江田「ウグ…!!ガアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 江田は叫び声をあげながら、ゆっくりと倒れていく。

 

 これで、終わったのか。

 

 

 

 ロスト江田「はぁ…ぐっ…。」

 

 やっとの事で、江田は元の姿に…人間の姿に戻った。

 

 

 

 真衣「…終わりだ。江田。」

 ロスト江田「くっ……。フッフッフッ……。」

 

 江田は静かな笑いをあげる。

 真衣はその江田に、剣の刃先を向けていた。

 

 

 

 ロスト江田「やっぱすげーよな……。子供の成長ってのはよ……。」

 真衣「……。」

 

 

 ロスト江田「前にな…、親父がこう言ってたんだ。“真衣は一人前に成長した”ってよ……。“剣道やって、心も体も強くなって、俺が変に言葉かける必要はなくなっちまった”って……。」

 真衣「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 組長さんは、そんな事言ってたのか。

 

 アタシの知らない所で、そんな事を呟いて…。

 

 アタシの成長を、隠れて見てくれたんだな…。

 

 

 

 ロスト江田「いいよな……。お前は……。親父があんな事言ってたって事は…、それだけ愛されてたって事だろ…?」

 真衣「……。」

 ロスト江田「お袋がいなくなっちまって…、寂しい思いしてたお前ら…。そん時だっけか…?親父がお前らに駆け付けたのは……。」

 

 

 

 江田の言葉を聞く度に、涙が出そうになる。

 

 確かにそうだ。

 

 お袋が突然いなくなって、その時にアタシは組長さんと出会ったんだ。

 

 今でも鮮明に覚えてる。

 

 

 

 真衣「…もういいよ。思い出すだけで苦しくなる。」

 ロスト江田「…ハッ…、敗北者は黙れってか…?わーってるよ…、そんなの……。ほら……、消せよ…。お前らは俺に勝ったんだから……。」

 真衣「……。」

 

 言う通りに、アタシは大剣を上げる。

 

 こいつを消せば、善良に戻るのだろうか。

 

 いや…、そんな事はどうでもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「……じゃあな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドグシュッ!!

 

 

 

 

 

 鈍い音が、辺りに響き渡った。

 

 床には無惨に血がべったりと飛び散る。

 

 ようやく、江田は終わったんだ…。

 

 

 

 

 

~千里視点~

 やがて江田は消え、世界は静けさに覆われた。

 

 千里「…真衣、本当にこれで良かったの?」

 真衣「…いいさ。何も後悔はない。」

 

 真衣は、いつも通りの爽やかな笑みを作りながら、そう言った。

 しかしその笑みは、どこか悲しげだった。

 

 

 

ゴゴゴゴ…!

 

 真衣「…!?何だ!?」

 

 突然、床が揺れ出した。

 

 いや、これは世界全体が揺れてる…!?

 

 

 

 ???『千里!最初に入った場所へ急ぎなさい!』

 千里「…え!?」

 ???『覚えてますか?あなたは最初、ゴミ捨て場からこの世界に入ったでしょう?』

 千里「…!あそこか!」

 

 私が最初にロストワールドに迷い込んだ場所か。

 大丈夫。覚えてる。

 

 真衣「千里!どうするんだ!?」

 千里「行く道はあるよ!付いて来て!」

 

 私と真衣は、最初に入った場所へ走り出す。

 

 複数の瓦礫が落ちる中、全力で駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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北乃真衣、解決

Episode2終盤です。


 千里、真衣「はぁ…、はぁ…。」

 

 どうやら帰還できたようだ。

 

 真衣「おいおいマジかよ…。あんな目に遭うなんて聞いてねえぞ…?」

 千里「私も初めて…。あぁ、しんど…。」

 

 さっきの崩壊で、体力がとてつもなく持って行かれた。

 

 

 

 千里「…?あれ?アイコンは…?」

 

 私はスマホの画面を見てみた。

 すると、さっきまで画面に映っていたアイコンが消えていた。

 

 真衣「もしかして…、さっき江田を消したからか…?」

 千里「一理ありそうだけど…、どうだろう…。」

 真衣「…つーかもう帰ろうぜ…。足ガックガクよ…。久しぶりだぜ?こんなんなったの…。」

 千里「だね…。」

 

 考えるのは後にした。

 時刻は5時を過ぎている。

 暗くなってくる時間だし、今日はここで帰宅する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日 午前9時~

 千里「すぅ……、すぅ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 千里「ん……。」

 

 

 

 真衣「ふあぁ~…。」

 

 千里「んん……、ふあぁ……。」

 

 真衣「あ、千里…、おはよ~…。」

 

 千里「うん…。」

 

 

 ───目が覚めた。

 

 ───今日が土曜日で良かった。

 

 ───これが平日だったら確実に遅刻だっただろう。

 

 真衣「千里…、よく眠れたか…?」

 千里「まあね…。ふぁ…、眠……。」

 真衣「昨日はだいぶ疲れたからなぁ…。こんな時間だまで寝てたのも無理ないか…。さて…、コーヒー飲んで飯作ろ…。」

 千里「…あんまり無理しないでね。」

 

 あくびをかましながら、真衣は台所へと歩いた。

 正直に言うと、まだ眠い。

 私もコーヒーでも飲んで目を覚まそうかな…。

 

 

 

 ニュース『速報です。暴力団組織・江田組若頭の江田宗明48歳が、2人の男性を殺害した疑いで逮捕されました。死亡したのは江田組組長の江田宏(えだ ひろむ)さん85歳と、江田組若衆の北乃拓郎さん42歳です。江田宗明被告は2人を殺害して逃亡した後、どういう訳か自分から罪を告白して逮捕された、との事です。』

 

 …これってつまり、ロストの方の江田を消した影響なのだろうか。

 

 

 

 真衣「…なあ、千里。」

 千里「ん?」

 

 突然、真衣に話しかけられた。

 

 真衣「杏梨にこの事、黙ってた方がいいのかな。」

 千里「どうして?」

 真衣「杏梨も被害者だからさ…、これ言ったら悲しむかなって。親父が殺された事を思い出したりとかさ…。」

 千里「……。」

 

 難しい質問だ。

 でも、気持ちは何となくわかるかもしれない。

 だけど言うか言わないかは、本人次第だけど…。

 

 千里「…真衣がそう思うなら、言わない方がいいと思うよ。」

 真衣「…そうか。」

 

 

 

 

 

 真衣「何つーか…、あん時千里に話しといて良かったわ。でなかったらずっとあんな気持ち抱えたままだったし。」

 千里「……。」

 真衣「ありがとな、千里。そんでもってこれからもよろしくな。」

 

 千里「…私は真衣に助けられた身だからさ。恩返しって事にしてる。」

 真衣「ははっ、そうか。じゃあおあいこってヤツだな。」

 千里「うん。」

 

 

 

 そうして私達は、このゆったりとした時間を過ごした。

 

 

 

 私は、困ってる人を助けたい。

 

 ロストワールドで覚醒してから、その気持ちが強くなった。

 

 もう何にも縛られない、正義感のある人間でいるんだ。

 

 私は、心の中でそう誓った。

 

 

 

 

 




ようやくEpisode2完結しました!
本当にお待たせしてしまって申し訳ないです…。
m(_ _)m
次回からはEpisode3になります。
相変わらずままならない文章ですが、次章も良ければ読んでくださると嬉しいです。
なるべく早く投稿するようにしたいので、何卒よろしくお願い致します。


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Episode3 妹の苦悩
第14話


Episode3開始です。
ちなみに今回から残酷な内容にしたいと思います。
ダークファンタジーの醍醐味ですね(?)

それではどうぞ!


 7月。

 初日から暑く感じるこの季節。

 季節の変わり目って怖いよね。

 変わるだけでこんなに温度差があるもの。

 

 私が聖学に来たのは5月で、それから2ヶ月が経った。

 6月には真衣が17歳の誕生日を迎えたから、盛大にお祝いした。

 考えてみれば私は中学を卒業してから、誰にも誕生日を祝ってもらえなかったな。

 まだここに来ていない頃、誕生日を祝ってもらった人を見て、羨ましく思っていた。

 

 

 

 佐島先生「それでは、ホームルームはこれで終了です。皆さん、各自部活動へ向かうように。」

 

 

 

 

 

 真衣「なあ千里、お前も部活やらないか?」

 千里「…え?」

 

 突然、真衣に声を掛けられた。

 

 真衣「いや、別に強制してる訳じゃねえけどよ、せっかく学校行く通ってるからどっか部活入った方が貢献しやすいと思ってな。」

 千里「部活かぁ…。」

 

 思えば、私は中学の時から部活をやってなかった。

 趣味もなく、特技もなく…ただひたすらのんびり過ごしてただけの生活を送っていた。

 

 千里「そもそも、私に合う部活ってあるの?」

 真衣「まあ、十中八九あるとは限らないけど…、体験入部ならほぼ全部できるからさ。」

 千里「うーん、考えとく。」

 真衣「そこはOKしろよ!…つっても千里はそんなんだから、そうなるだろうなって思ってたよ…。」

 千里「ちょっと、今のは聞き捨てにならないよ。」

 真衣「いや、悪い意味では言ってねえよ!…と、そろそろ部活始まるから、アタシは猛ダッシュで行ってくる!」

 千里「ちょっと真衣!…行っちゃった…。」

 

 まったく、余計なお世話なんだから。

 私のために何かしてくれるのは頼もしいけど、何でもかんでも頼る訳にはいかないからなぁ。

 

 私は席を立ち教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣『面!!胴!!小手!!』

 

 

 

 千里「……。」

 

 辿り着いたのは、剣道部の武道館。

 そこには、練習をしている真衣の姿。

 その姿は如何にも、ロストワールドで戦っている騎士のようだ。

 …実際は違うけど。

 

 

 

 「あら?彩神さん?」

 千里「…ん?あ。」

 

 突然私は誰かに話し掛けられた。

 声のした方へ振り向くと、そこには私の担任の佐島先生がいた、

 

 佐島先生「どうしたの?こんな所で。もしかして剣道部に入ろうとしてる?」

 千里「いや、そういう訳ではないのですが…。というか、佐島先生は何故ここに?」

 佐島先生「北乃さんが忘れ物をしていてね。体育館に向かうついでに武道館にも来たって訳。」

 千里「そっか。佐島先生バレー部顧問ですもんね。」

 

 そう。佐島先生はバレー部の顧問を務めている。

 聞いた話だと佐島先生は、元々高校ではバレーの選手に選ばれたらしい。

 さぞかしバレーに関しての腕は良いものだろう。

 

 佐島先生「そういえば彩神さんは部活に入っていないでしょ?どこか入りたい部活はある?」

 千里「それ、真衣にも同じ事言われたんですけどね…。今の所は決めてないです。」

 佐島先生「そう…。バレー部にも来てくれたら、先生嬉しいんだけどなぁ。」

 千里「まあ、考えておきます。」

 

 部活の事になると、毎回これしか言えない。

 まあ、入るかどうかは別として。

 

 佐島先生「じゃ、私はさっさと忘れ物届けて生徒達の所行かないと。それじゃあね。」

 

 先生はそう言うと、さっさと行ってしまった。

 

 

 

 千里「…帰ろっか…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 剣道部員「お疲れ~。」

 真衣「あ、お疲れーっす。」

 

 現在休憩時間。

 千里のヤツ、部活やらないとはなぁ…。

 まあでも、あいつの事だから仕方ない…かな。

 

 剣道部員「そういえば北乃さん、妹ちゃんも夏休み大会あるよね?」

 真衣「ん?あぁ、ですね。」

 剣道部員「確か剣道部の後でしょ?大会終わったら行くの?」

 真衣「まあ、その日にもよるんですけどね…。空いてたら行くつもりです。」

 

 もし行けるのであれば、もし妹の杏梨が選手に選ばれたら、あいつの成長を見れる良い機会かもしれないな。

 中学でもそこそこ活躍していたから、腕もより良いものになっている頃だろう。

 だけどその前に、アタシも頑張らないとな。

 

 剣道部員「相変わらず妹ちゃん想いだね~、北乃さん。」

 真衣「ははは、よく言われます。これでも小さい頃から、妹の面倒見てたモンですから。」

 剣道部員「確か2人暮らししてるんだっけ?親御さんいないって聞いたけど…。」

 真衣「…え、ええ。そうですね。」

 

 …ああ、嘘言ってしまったな。

 千里が居候してるって、言えなかった。

 いや、言った方がまずいのか?

 まあでも、はぐらかせたからいいか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 バレー部員「集合ー!」

 

 

 

 佐島先生「皆さん、夏休みの大会の選手が決まりました。今から名前を言いますね。」

 

 遂にこの時が来た…。

 

 次々と番号と名前を言われていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐島先生「9番、北乃杏梨さん。」

 杏梨「…!」

 

 やった…!選手に選ばれた!

 

 ここまで頑張った甲斐があった!

 

 帰ったらお姉ちゃんに報告しよっと!

 

 

 

 佐島先生「…以上です。選手に選ばれた人達は、現在より練習量を多くしたいと思います。くれぐれも無理はしないようにね。それじゃあ、練習開始!」

 バレー部員全員「はい!!」

 

 今日は7月の始まりだから、夏休みまでまだ時間はある。

 それまでに頑張らないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「はぁ…、ホントウザ。何であいつなんかが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話

お待たせしました!
Episode3の続きです。


~千里視点~

 千里(帰ったら何しようかな…。)

 

 校舎の廊下を歩きながら、私は心の中でそう呟いていた。

 寄り道もいいけど、たまには家でゆっくりするのもいいかな。

 そういえば最近、スマホのオンラインゲームにハマっているんだ。

 確か「ミッドナイトハンターズ」ってゲーム。

 完全オンラインのハンティングアクションだ。

 

 千里(特に行く所ないし、今日はミドハンでも…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ねえ、1年にヤバい女子がいるって聞いた?」

 「ああ、あいつだろ?噂聞いた事ある。」

 

 千里「…?」

 

 何やら男女の話し声が聞こえる。

 隅っこでスマホ弄ってるフリをして聞いてみる。

 

 

 

 「なんか勝手に女王様気取って、どっかしらの教室陣取ってるとか…そんな感じの奴だよな?」

 「そうそう!ホント迷惑だよね。」

 「まあ、そういうのは大抵教師がどうにかしてるだろ。俺達は首突っ込まねえ方が良さそうかもなぁ。」

 

 女王様気取ってる…?

 そんな奴がこの学校にいるのか。

 しかも1年…そうなると、杏梨ちゃんと同い年って事になるのか。

 

 

 

ピコンッ

 

 千里「…ん?」

 

 突然、弄るフリをしていたスマホから音が鳴った。

 

 

 

 千里「…え?」

 

 画面に映っていたのは、見覚えのあるアイコン。

 これは確か…、ロストワールドに入る時に使ったような…。

 

 千里(…もしかして、さっきの会話で反応したの?)

 

 そうとしか思いようがなかった。

 とりあえず、真衣にも話しとこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~午後7時~

 真衣「ふんふんふ~ん♪」

 

 食事が終わり、私は真衣に昼間の事を話そうとする。

 真衣は鼻歌を歌いながら、食器洗いをしていた。

 

 千里「真衣。」

 真衣「ん?どうした?」

 千里「真衣はさ、この前見たスマホのアイコン覚えてる?」

 真衣「アレか?覚えてるけど…、何でだ?」

 千里「その事なんだけど、見て。」

 

 私はスマホ画面を開き、真衣に見せた。

 

 真衣「あれ?この前消えたんじゃなかったのか?」

 千里「そのはず。だけど急に音が鳴って、またこのアイコンが出てきたの。」

 真衣「千里自身がやった訳じゃなく?」

 千里「私はやってない。勝手に出てきた。」

 真衣「そうなのか…。なんかおかしいアイコンだな。」

 

 確かに、このアイコンはどこかおかしい。

 江田のロストを消してからそれっきりなのに、どういう訳か復活している。

 

 千里「これは多分私の仮説なんだけどね。」

 真衣「ん?何か心当たりあるのか?」

 千里「昼間、校舎の中歩いていたら話し声聞こえててね。真衣はさ、“聖学に女王様気取りの生徒がいる”って聞いた事ある?」

 真衣「女王様気取りの生徒…。」

 

 真衣は頬杖を着いて考え込む。

 もしかすると、真衣はこの事を知らないかもしれない。

 が、しかし─────。

 

 

 

 

 

 真衣「あ、なんか聞いた事あるかもしれない。」

 千里「本当?」

 真衣「なあ千里、その話詳しく聞かせてくれねえ?アタシもその…噂?4月辺りから気になってたんだ。」

 千里「あ、う、うん…。」

 

 私は昼間の事を遡って、真衣に全て話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数秒後、全てを話し終わった。

 

 真衣「…なるほどな。要するにその男女の話で、スマホが反応してアイコンが再び出たと。」

 千里「そういう事になるね。ただこれはあくまでも仮説だから、十中八九そうとは限らないよ。」

 真衣「だよな。信じるにはまだ情報がなさすぎる。とりあえず明日そのアイコンの事も兼ねて、女王様って呼ばれてる生徒を探さないとな。」

 千里「だね。」

 

 やる事は決めた。

 謎のアイコン、女王様気取りの生徒…。

 今回も忙しいね。

 そう思いながら、翌朝まで休む事にした。



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第16話

前回の続きです。


~翌日 昼休み~

 真衣「この時間が丁度いいな。」

 千里「大丈夫なの?授業始まるまであと15分だけど…。」

 真衣「15分あれば十分だろ?とりあえず、1年の校舎辺りで聞き込みしてみるか。その方が情報得ると思うし。」

 千里「…期待はしないけどね。」

 

 仕方なく、真衣の言う通りにやってみる。

 時間までに情報があればいいんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、真衣「……。」

 

 あれから10分くらい経つが、女王様気取りの生徒は知らないとの事……。

 

 真衣「おいおい、マジかよ…。こんだけ聞き回って知らねえとか、情報得る所じゃねえな…。」

 千里(期待はずれ、当たったな。)

 

 うーん、他に手はないかな…。

 こうなったら特徴を見抜いて、その生徒本人を探すしか……。

 

 

 

 杏梨「お姉ちゃんと千里ちゃん?何してるの?」

 真衣「…え?杏梨?」

 

 突然私達の所に、杏梨ちゃんがやってきた。

 

 杏梨「なんかさっきから廊下が騒がしくて…。何かあったのかなって。」

 真衣「ああ、それはだな…。」

 

 

 真衣「なあ杏梨、アタシの思い違いかもしれないけど、聞いていいか?」

 杏梨「え?いいけど…。」

 

 もしかして、杏梨ちゃんなら知ってると思って聞いてみるのかな。

 

 

 

 真衣「杏梨は…さ、“1年の女王様気取りの生徒”って聞いた事あるか?」

 

 杏梨「…!」

 

 …え?この反応って…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 真衣「杏梨は…さ、“1年の女王様気取りの生徒”って聞いた事あるか?」

 

 杏梨「…!」

 

 もしかしてお姉ちゃんがここにいる理由って…。

 

 あいつの事かな…。

 

 

 

 真衣「…杏梨?」

 杏梨「う…、ううん、知らない。」

 真衣「え、でもお前……。」

 杏梨「本当に知らない。じゃあ授業始まるから、帰ったらね!」

 真衣「あ、おい!」

 

 ああ、やってしまった。

 

 何も言えずにいた。

 

 

 

 

 

 本当はこの事を話すチャンスだったのに、それから逃げてしまった。

 

 絶対に心配されちゃうな、これ…。

 

 

 

 

 

 ごめんね、お姉ちゃん…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 ───昼休みの杏梨、様子がおかしかったな。

 

 一体、あいつに何があったんだ?

 

 ただ女王様気取りを探そうとしていたのに、どういう訳かそれから逃げるみたいに離れていった。

 

 くそ、また1つわからない事が増えちまったな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~放課後 図書室~

~千里視点~

 千里「…お願いします。」

 

 今日は図書室で読書しようとしていた。

 

 …だけど、昼休みの杏梨ちゃんの様子を見て、それ所ではなかった。

 

 本に集中したくても、あの様子を思い出してしまい、それができなくなってしまう。

 

 

 

 千里(…やっぱり、何かあったに違いない。)

 

 心の中でそう呟き、私は隠れてスマホ画面を覗いた。

 

 もしかしたら杏梨ちゃんはこのロストワールドに関わってる……。

 

 …そんな訳はない…のか?

 

 だけどロストワールドは、“善良を失った人々が集まる場所”だから、昨日あの場所でこれが現れたって事は、ここにそうなっている人物がいるって事は間違いない。

 

 もしそうなら、杏梨ちゃんはその人物と関わっているかも…?

 

 仮説だから何とも言えないけど、一理あるかもしれない。

 

 

 

 ああもう、ますます気になるじゃんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……。」

 

 

 

 剣道部員『じゃ、お疲れ~。』

 真衣『お疲れした~!』

 千里「…!」

 

 あの後から私は、校門で真衣が来るのを待っていた。

 理由は勿論1つだけ。

 

 千里「…真衣。」

 真衣「ん?千里?先に帰ったんじゃなかったのか?」

 千里「どうしても気になる事があって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「───今からロストワールドに行けるかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モチベーションが下がってきた気がする…。


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第17話

 真衣「…は?急に何言ってんだ?」

 

 まあ、そうなるよね。

 でも私は、調べに行きたい。

 

 千里「こうなったらって時の最終手段。アイコンを頼りにロストワールドに行く。昼間の杏梨ちゃんの事、どうしても放っておけないの。だから…、協力してくれる?」

 真衣「……。」

 

 あの様子からして、何かあったに違いない。

 絶対に、ロストがいるはずだ。

 

 

 

 真衣「…まあ、千里がどうしてもってんなら、アタシは別にいいけどさ。」

 千里「…!本当?」

 真衣「お前は杏梨と仲良いからな。そりゃ放っておけないか…。わかった。アタシもまだ体力は有り余ってるし、行くよ。」

 千里「…部活の時ちゃんとやってた?」

 真衣「何でそこ疑うんだよ!?」

 千里「まあいいけど…。じゃあ、ここでこのアイコンが出たから、今すぐ現すね。」

 真衣「お、おう。わかった。」

 

 私はスマホを取り出し、ホーム画面にある謎のアイコンをタップする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 

 

 真衣「来たか!」

 千里「やっぱり…、ここにロストがいるんだね。」

 

 さあ、2人目のロストに会いに行こう。

 

 どんな奴が来るかは、まだ予想ついていない。

 

 扉に触れ、ロストワールドへ─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…まだ、普通の学校だな。相変わらず赤黒だけど。」

 千里「そのようだね。中に入ろうか。」

 

 目の前にあるのは、現実でも存在している聖麗学園高等学校。

 全体的な見た目は、姿は変わらず赤黒い色に染まっているだけ。

 私達は颯爽と中へ入る事にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、しかし─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『………、黙っ………で何か……よ!』

 

 

 

 

 

 千里「…?」

 

 遠くから声が聞こえる。

 

 幻聴ではない。明らかに遠くから聞こえる。

 

 真衣「千里?どうした?」

 千里「ちょっと待ってて、奥から声が…。」

 真衣「…?声?あっちに何かあるのか?」

 千里「行ってみよう。」

 

 聞いただけでは、実際に何が起きているかわからない。

 声のする方へ行ってみる事にする。

 情報を得るチャンスかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…!あれは…!?」

 

 

 

 

 

 ???「痛い…!やめてよ…!」

 

 

 

 真衣「…!!杏梨…!?」

 

 隠れて覗いてみると、そこには複数の女子生徒が1人の少女を囲っている。

 囲まれているのは、間違いなく杏梨ちゃんだった。

 赤黒くて薄らとだが、あのおさげや童顔からして、杏梨ちゃんそのものだった。

 

 ???「……!」

 

 誰かもわからない奴はこちらに気付き、逃げていった。

 そして、杏梨ちゃんと思われる人物も、霧のように消えてしまった。

 

 真衣「どうなってんだ…?何でも杏梨がここにいるんだ…?」

 千里「わからない…。でも、ここに杏梨ちゃんも関係しているって事は間違ってないね。」

 真衣「…そういや昼間、杏梨の様子がおかしかったよな。それが今の状況に繋がるって事か…?」

 千里「どうだろう…。でも、一理あるね。」

 

 このロストワールドはとことん調べ尽くした方が良さそうだね。

 女王様気取りと、ここでの杏梨ちゃんの行方。

 やれやれ、今回も忙しくなるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~昇降口~

 真衣「中も今の所普通の学校だな。」

 

 辺りを見回してみる感じ、まだ私達の知ってる学校だ。

 果たしてここのロストは、ここを一体どのようなものと思ってるのか。

 女王様だから城か、それに関するものか。

 

 

 

 

 

 ???「お前ら、そこで何をしている!!」

 真衣「!?やべ!」

 

 まずい、見つかった。

 しかも、前にも後ろにもいる。

 

 ???「侵入者は排除する!」

 

 千里「ああ、くそ!こうなったらやるしかない!行くよ!」

 真衣「わかった!」

 

 私はそう叫ぶと、戦闘態勢に入った。

 

 真衣「こいつらにも試す機会だ。頼むぜ、“相棒”!」

 千里(相棒…?)

 

 私は、真衣が独り言を言っているのかと思っていた。

 でも目線の先は…、大剣?

 まあ、今はそんなのどうでもいい。

 私達は敵へと走り出す─────!

 

 

 

 

 

バキッ!ドゴッ!

 

ザシュッ!ズバッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「侵入者には死を!」

 ???「侵入者には死を!」

 

 真衣「この野郎!どれだけいやがんだ!」

 千里「これはまずい…。ここは一旦退こう!」

 

 流石にこれは数が多すぎる。

 ある程度は倒せたが、次から次へとわんさか湧いてくる。

 ここの敵はどれだけ多いの?

 これ以上の戦闘は無理だと思い、私達は隙を見て逃げた。

 

 

 

 

 

 が、しかし─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャンッ!

 

 千里「…え?」

 

 真衣「今何か……て、おわあぁっ!?」

 

 千里「…!!」

 

 何かが作動した音が鳴り響き、私達は逆さに吊るされた。

 まずい、罠だ。

 逃げる事を考えすぎて、それすらも気付かなかった。

 

 真衣「くそ!離せ!…っ!?」

 

 千里「え、真衣……。」

 

 

 

プチッ

 

 

 

 

 

 私は、首元に何かを打たれた。

 

 千里「嘘…で……しょ………。」

 

 

 

 

 

 ─視界がどんどん薄れていく。

 

 

 

 

 

 ──何が起きたかわからない。

 

 

 

 

 

 ───ダメだ、どんどん真っ暗になってきた。

 

 

 

 

 

 ────私が最後に目にしたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「─────捕まえた♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────ニヤリと笑った女の姿だった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第18話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「ぅ……ん……。」

 

 

 

 

 

 ───あれからどれくらい経っただろうか。

 

 

 

 

 

 ──意識が徐々に戻ってきた気がする。

 

 

 

 

 

ガチャッ…

 

 千里「…え?」

 

 何やら金属音が聞こえる。

 

 

 

 よく見ると、手足には錠が掛けられていた。

 

 

 

 真衣「千里…、目ぇ覚めたか…?」

 

 千里「うん、何とか…。でも、これって…。」

 

 真衣「ああ、見ての通りだ…。アタシら捕まっちまったんだよ。」

 

 

 

 

 

 ???「目が覚めたみたいだな。」

 千里「…?」

 ???「女王様がここに来る。そこでじっと待ってな。」

 

 女王様?

 

 …!今、女王様って…。

 

 

 

 

 

 ???「───ごきげんよう、侵入者さん。」

 

 

 

 

 

 真衣「…あんたは…?」

 

 見るからに派手なドレスを着ている。

 こいつが噂になってた、女王様?

 となると、こいつがここのロストか。

 

 ロスト???「正面から堂々と来たようね。でも、挙句の果て罠に掛かった…。馬鹿ねえ。そうやって逃げようとしたからこうなったのよ。うちの建物は罠だらけにしてるって知らないの?」

 

 小馬鹿にされたような言動だ。

 私は彼女を睨む。

 

 真衣「女王様ってのはあんたの事か?確かにそれっぽい格好してるけどな。」

 ロスト???「あんたさぁ、今の状況考えた方が良いと思うよ?私に口答えしたらどうなるか、わかってる筈でしょ?」

 真衣「はあ?やってみろよ!」

 

 真衣は強気に牙を剥くように叫ぶ。

 しかし、彼女は全くびびる様子はなかった。

 

 ロスト???「そんな言葉しなきゃ、心地良い快楽あげようと思ったのになぁ。でもそんな様子じゃ、必要ないみたいだね。私の事を拒否してるようなモンだし。」

 真衣「何だと…!?」

 

 こいつは一体何を言い出すんだ。

 

 ロスト???「まあいいや。思い通りにならない奴なんて、所詮壊れて使えなくなったゴミクズと変わらないし。

 この2人、焼却炉に入れといていいよー。」

 

 焼却炉…?

 

 という事はつまり…!?

 

 真衣「おい!話はまだ終わってねえぞ!」

 ロスト???「はいはい、ゴミは黙って燃やされなよ~。」

 

 ロストの女はそう言い捨て、行ってしまった。

 

 

 

 

 

 ???「連れて行け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里・真衣

 「うわああああああああっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスンッ!

 

 

 

 

 

 物凄い高所から落ち、身体中に痛みが走った。

 

 真衣「痛え~…。千里、無事か…?」

 千里「何とか…。」

 真衣「…しかし酷ぇな…。でも、あの時に顔覚えられたぜ。となると、あいつが杏梨と関係しているか…。」

 千里「うん。あいつと杏梨ちゃんとの間で何かあったに違いないね。」

 

 十中八九…とはまだ言い難いが、可能性はある。

 とりあえず後日、それっぽい人物を探ってみよう。

 

 真衣「…つーか、ここ焼却炉っつってたよな?薄暗くて気味わりぃし、ゴミだらけじゃねえか…。」

 

 あのロストの言っていた通り、私達は焼却炉に放り出された。

 これは脱出するまで相当時間がかかりそうだ。

 

 真衣「なあ、千里。」

 千里「ん?」

 真衣「確かロストワールドって、最初に入った所から出られるんだよな?」

 千里「まあ、そうなるね。見た感じ、地下っぽいけど。」

 

 ここに落とされた…って考えると、出入口はかなり上っぽいな。

 

 真衣「なら早いとこ出ようぜ。アタシら放課後にここに来たんだからよ。」

 千里「…だね。ロストの特徴は掴めたし、一旦戻る事にしよう。」

 

 私はそう言い告げ、焼却炉の出口を探す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「そういえば思ったんだけど…。」

 真衣「ん?何だ?」

 

 私はさっきの戦闘の事で気になった事を言ってみる。

 

 千里「さっき真衣、“相棒”とか言ってたけど何の事?」

 真衣「え?ああ、そういや教えてなかったな。相棒ってのは、まさにこの大剣の事だ。なんかそう言った方が馴染みやすいし、かっこいいだろ?」

 千里「…そういうものなのかな。」

 

 わざわざ人でもない物を“相棒”って言うのは、なんか独特だな。

 そういうの、“擬人法”…って言えばいいのかな。

 まあ、真衣がそうしたいのなら別にいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 杏梨「あれ?スマホがない…。」

 

 部活が終わったので、お姉ちゃんに終了報告しようとしていた。

 しかし鞄の中を漁っても、私のスマホはなかった。

 

 杏梨「どうしよう…、どこかで落としちゃったのかな…。」

 

 とりあえず準備できるものは準備し、体育館を出る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから15分くらい経っただろうか。

 自分がいた校舎を探していても、スマホは見当たらなかった。

 

 杏梨「…明日また探していてみよ。」

 

 仕方ないので、このまま帰る事にした。

 

 

 

 佐島先生「あら?北乃さん、どうしたの?」

 杏梨「あ、先生…。」

 

 諦めて帰ろうとした途端、佐島先生に声を掛けられた。

 

 佐島先生「何か忘れ物でもした?」

 杏梨「あの、部活終わった事をお姉ちゃんに報告しようと思ったら、スマホがなくて…。どこかで落としちゃったのかと思ってて…。」

 佐島先生「そう?それは困ったわね…。

 じゃあ、今日はもう遅いからあなたは帰りなさい。スマホの方は先生が探しておくから。

 見つかったら、真衣さんの方に連絡するわね。」

 杏梨「ありがとうございます…。」

 

 佐島先生にそう言われ、私は帰る事にした。

 無事に見つかればいいんだけど…。



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第19話

※注意!※
ここからショッキングなシーンが入ります。
苦手という方は閲覧を控える事をおすすめします。

大丈夫という方のみ進んでください。


~佐島先生視点~

 佐島先生「さてと…。」

 

 北乃さんのスマホが行方不明になったから、早いとこ見つけてあげないと。

 それにしても、北乃さんって姉妹仲が良いのよね。

 いいなあ、ああいう姉妹。

 一応私も姉がいるんだけど、あまり仲が良くないというか…。

 北乃さんみたいな仲の良い姉妹って、憧れちゃうなあって思うだけ。

 

 …って、大人の私が何言ってんだろ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐島先生「あら?あれって…。」

 

 体育館の前に何かが落ちているのがわかった。

 

 佐島先生「ピンクのスマホ…これって北乃さんの?」

 

 さっき北乃さんは校舎にいたはず…。

 ひょっとして北乃さん、ここに落ちていた事に気付かずに校舎に来たのかしら?

 

 とりあえず、見つかったから北乃さんに連絡─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュバッ!

 

 佐島先生「…え?きゃっ!!」

 

 何?

 

 辺りを見回してみると、網に囲まれていた。

 

 

 

ズルズルズル…!

 

 佐島先生「ちょ、何これ!?きゃあぁっ!!」

 

 誰かに引き摺り込まれている…!?

 

 恐怖でしか感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐島先生「ここは…、倉庫…?」

 

 引き摺り着いたのは、体育館の倉庫だった。

 何やら不気味な感じがする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「あーあ、引っ掛かっちゃったねぇ、佐島センセ♪」

 

 佐島先生「…!その声は…!?」

 

 どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

 

 佐島先生「…!泉田さん…!?」

 

 そう、バレー部所属の泉田沙耶(いずみだ さや)さん。

 

 彼女は悪巧みをした笑みを浮かべていた。

 

 泉田「ダメでしょ~、教師なんだし警戒心持っていかなきゃ。」

 佐島先生「…まさか、あなたが仕組んだの?」

 泉田「でなかったら何?」

 佐島先生「あなた…!教師にこんな事していいと思ってるの!?」

 

 私は泉田さんに対する怒りを表した。

 元々泉田さんは、他にも騒ぎを起こしている。

 

 泉田「元はと言えば佐島センセ、あんたのせいだよ?」

 佐島先生「…は?」

 泉田「私の方が才能あるってのに、どうして北乃なんかにレギュラーを与える訳?意味わかんないんだけど?あんたは私の才能を受け入れるべきなんじゃないの?どうしてそれを拒否して他の誰かに権利を渡す訳!?」

 佐島先生「それは…!」

 

 今の泉田さんは狂ってる。

 とても女の子とは思えない言動を言いたい放題に発している。

 生徒をこんなに怖いと思ったのは初めてだ。

 

 泉田「だからもう我慢の限界だから、あんたをここで殺すわ。」

 佐島先生「え…!?」

 

 殺す?教師である私を?

 ダメ、生徒がそんな事したら。

 

 佐島先生「泉田さん…、正気なの?」

 泉田「そうでなかったら何だよ。ここに連れて来た理由なんて、こうする他ないでしょ?」

 佐島先生「やめなさい!あなたの両親や警察に報告するわよ!」

 泉田「ああ、やってみなよ。どっちにしろあんたはここで死ぬんだし?」

 佐島先生「…!!何やってるの、あなた達!!」

 

 ここにいるのは泉田さんだけではなかった。

 彼女らは…、泉田さんの知り合いだ。

 共に騒ぎを起こしている…、それを泉田さんが指揮を執っているんだ。

 

 泉田さんの手には既に、大きな鋏を持っていた。

 

 佐島先生「泉田さん…!今すぐにやめ……!!」

 

 泉田「じゃあね、佐島センセ♪」

 

 

 

 

 

 佐島先生

 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 真衣「ふぃ~、やっと出られたぜ…。」

 

 やっとの事で私達は焼却炉を抜け、地下道を通って外に出た。

 

 千里「じゃあ、ロストワールドから出ようか。」

 

 私は扉に触れ、ロストワールドから抜ける事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「やっべ、6時過ぎてる。」

 

 時刻は6時を回っていた。

 外も既に暗くなっている。

 

 千里「ちょっと遅くなっちゃったね…。」

 真衣「…でも、杏梨から連絡は来なかったな…。こういう時はするのに、何かあったのか…?」

 千里「そうなの?まあ、とりあえず帰ろう。」

 

 私はそう言い告げ、帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「何だろう…、何か胸騒ぎがするな…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

~杏梨視点~

 あれから結局、佐島先生から連絡はなかった。

 やっぱり、行方不明だったのかな。

 そんな事を考えながら、朝練をしていた。

 

 

 

 

 

 泉田「北乃~、片付けお願いしてもいーい?」

 杏梨「ええ…、また?」

 

 私に駆け寄って来たのは、今会いたくない人物の泉田沙耶だ。

 昨日も片付けをやった気がする。

 

 泉田「お願い!同じチームなんだからさ!」

 杏梨「理由になってないんだけど…。わかったよ~…。」

 

 私は頼まれた事を断る事はできなかった。

 昔からそうだよなぁ…。本当に直さないと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「よいしょっと…。」

 

 バレー部関連の用具が入った籠を置き、ドアノブに手を掛ける。

 

 

 

 杏梨「…ん?」

 

 何やら様子がおかしい。

 

 中から鼻のつく臭いがする。

 

 そっとドアを開けてみると─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「…!!!」

 

 

 

 

 

 杏梨

 「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 何だろう、昨日から胸騒ぎが止まらない。

 練習にはある程度集中できたが、やっぱりこの胸騒ぎが気になる。

 

 剣道部員「北乃さんお疲れ~。」

 真衣「あ、お疲れっす。」

 剣道部員「もうすぐ本番だから、北乃さんも気合い入れといてね!」

 真衣「はいよ。」

 

 アタシは荷物を全て整え、武道館を出た。

 

 

 

 そして─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』

 

 

 

 真衣「…!?何だ!?」

 

 

 

 遠くから悲鳴が聞こえた。

 

 剣道部員「え?今の何!?」

 真衣「体育館から聞こえた!ちょっと行ってきます!」

 剣道部員「あ、北乃さん!」

 

 

 

 アタシは、悲鳴が聞こえた方へ走り出す。

 

 あの声からして、杏梨だ。

 

 何かあったに違いない…!

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 杏梨「あ……!ああ……!」

 

 私は、尻餅を着いて動けずにいた。

 身体中の震えが止まらない。

 そんな…。嘘でしょ…。

 

 

 

 真衣「…杏梨!!」

 

 杏梨「…!お姉ちゃん…!」

 

 私の声が鳴り響いたせいか、お姉ちゃんが駆け寄ってきた。

 

 真衣「どうした!?何かあったのか!?」

 杏梨「あ……、あれ……!」

 真衣「……!!」

 

 お姉ちゃんは、体育館倉庫の方へ目を向けた。

 お姉ちゃんも、この光景はショックだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「佐島……先生……!?」

 

 

 

 杏梨の指差した方へ顔を向けると…。

 

 

 

 そこには、血だらけで倒れていた佐島先生の姿だった。

 

 

 

 真衣「そんな…!どうして…!?」

 

 

 

 もう人が死ぬのは見たくないのに。

 

 

 

 もう誰も失いたくないって決めたのに。

 

 

 

 それが…、どうしてこんな事に…!?

 

 

 

 真衣「…!これ…!?」

 

 よく見ると佐島先生の腹には、複数の傷が作り込まれていた。

 

 この感じからすると、他殺の可能性が高い。

 

 一体誰がこんな事を…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 

 

 

 

 

 千里「……え?佐島先生が…死んだ…?」

 

 

 

 真衣から聞いた話は、とてもショックなものだった。

 

 私達の担任の佐島先生が、体育館倉庫で死体として見つかったらしい。

 

 

 

 真衣「アタシも信じられねえよ…!何であの佐島先生が…!」

 

 真衣の身体は震えていた。

 

 こんな事って…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~昼休み~

 千里・真衣「……。」

 

 昼食中。

 

 だけど、私達は会話すらもできなかった。

 

 佐島先生が殺されたショックと、他の誰かに対する怒りで。

 

 

 

 

 

 真衣「……千里。」

 千里「…!な、何?」

 

 突然、真衣の口が開いた。

 

 

 

 真衣「アタシ、佐島先生を殺したのは誰か、わかったかもしれない。」

 千里「…え?」

 

 真衣は知っているのか。

 佐島先生を殺した張本人というのを。

 

 

 

 

 

 真衣「……泉田沙耶だ。」

 千里「泉田…?」

 

 真衣の口から、知らない名前が出てきた。

 

 “泉田沙耶”。

 

 それが佐島先生を殺したのか?

 

 真衣「前に、部活から帰る時に聞こえたんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~前日~

~真衣視点~

 剣道部員「そういえば北乃さん、妹ちゃんの方はどう?」

 真衣「あいつは大会に向けて、結構張り切ってましたよ。選手になったらしいですし。」

 剣道部員「そっか。なら北乃さんも頑張らないとね!」

 

 

 

 アタシは練習後に剣道部の先輩と、何気ない会話をしていた。

 

 その時に聞こえたんだ。

 

 

 

 

 

 『泉田沙耶って知ってる?』

 

 『1年の?』

 

 『そうそう、“女王様”って言われてる奴。』

 

 

 

 真衣「…?」

 

 

 

 『暴行起こしてる奴でしょ?ホント迷惑だよね~。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~現在~

~千里視点~

 千里「……。」

 真衣「その言葉が気になってな。もしかすると佐島先生を殺したのは、あいつなんじゃねえかと思って。暴行起こしてるなら、人殺しも有り得ねえ話じゃねえだろ?」

 千里「そう…なのかな…。」

 

 確かにそうかもしれないけど、本当にそうかと言われると自信がない。

 

 真衣「……ちょっと行ってくるわ。」

 千里「…え?どこに?」

 

 真衣は突然席を立ち上がった。

 そして竹刀を手に取り、教室を出ようとする。

 

 千里「待って真衣!何する気?」

 

 真衣「…決まってんだろ。泉田を始末しに行くんだよ。アタシらの担任があいつによって消されたんだ。こいつで1発ぶん殴らねえとアタシの気が済まねえ。」

 

 今の真衣は、鬼のような形相をしている。

 泉田に対する殺意だ。

 

 真衣「千里、お前も協力してくれ。」

 千里「ちょっと待ってよ、真衣!それはまずいって!」

 真衣「止めるな!これはアタシが決めた事だ。黙って付いて来い!」

 千里「……。」

 

 もう何も言いようがなかった。

 仕方なく、私は付いて行く事にした。




いかがでしたか?
ちょっとショッキングな場面を入れてみましたが、それっぽくできたでしょうか。
これはダークファンタジーを意識して書いたものですが、もし刺激的すぎたら申し訳ないです…。
m(_ _)m


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第20話

マジでお待たせしてすみません…m(_ _)m
モチベーションがなかなか上がらなくて投稿できていませんでした。

という訳で、前回の続きです。


~屋上~

 窓から、3人の少女達が集まっているのがわかる。

 真衣はそれに睨みをきかせ、竹刀を持ちながらドアを開けた。

 

 今の真衣は番長…いや、人間の皮を被った鬼のようだった。

 

 

 

 真衣「泉田!!」

 

 大声で呼び止めた。

 真衣の声で少女達は振り向いた。

 

 泉田「んあ?ああ、北乃の姉貴?こんちゃー。」

 

 この金髪のポニーテールで、いかにもギャルって感じの少女。

 恐らく、彼女が“泉田沙耶”だろう。

 

 真衣「こんちゃー、じゃねえよ。お前、佐島先生に何をした?」

 泉田「ん?何の話すかぁ?」

 

 泉田は挑発に乗せるように話しかける。

 

 

 

ガキンッ!!!

 

 千里「…!」

 

 真衣は竹刀で、屋上の鉄柵をぶっ叩く。

 耳障りな金属音が鳴り響いた。

 傍にいた私は、少し驚いてしまった。

 

 真衣「…惚けてんじゃねえよ。お前、自分が何したかわかるだろ?」

 泉田「……。……はぁ、めんどくさ。」

 

 泉田はそう呟き、立ち上がる。

 見た感じ、真衣にびびる様子はない。

 寧ろ、自分がした事を否定されたように、怒りを表している。

 

 泉田「正直に言うよ。私が佐島先生を殺した。」

 

 

 

 千里(…!こいつが…!)

 真衣「やはりてめえがか…。何故殺した?それくらいは言えんだろ。」

 泉田「は?何でそんな事まで言わなきゃいけないの?」

 

 

 

 真衣

「さっさと言え!!!」

 

 

 

 泉田「……。」

 

 真衣は我慢の限界のようだ。

 よほど泉田への殺意が見える。

 そう思って真衣を見つめていた所に、泉田から語られる。

 

 

 

 泉田「…あいつは私の才能を認めなかったんだよ。」

 

 千里「…は?」

 

 言っている意味がわからなかった。

 泉田から出た言葉、“才能”。

 それが何かと関係しているのだろうか?

 

 泉田「北乃よりも私の方が才能があるってのに、あいつはそれを拒否して、北乃を大会のレギュラーに入れた。私をレギュラーに入れなかった罰で殺したんだよ。何か問題あんの?」

 

 それだけの理由で…。

 私はそんな泉田に怒りを表す。

 

 真衣「…そうかよ。それだけで佐島先生をあの世へ…。てめえもとんだ外道だよ。」

 泉田「…あ?」

 

 外道…江田にも言っていた言葉だ。

 確かに、泉田にぴったりの言葉だよ。

 見ての通り、泉田は頭がイカれてる。

 自分がレギュラーに入れなかった怒りで、佐島先生を殺してしまった。

 泉田は、それにしか頭になかったのだろう。

 

 彼女は、腐っている…。

 

 泉田「あのね、何か勘違いしてるんだろうけど、悪いのは北乃と佐島先生だからね?才能ないくせに、北乃はレギュラーに選ばれたんだよ?私より先にね。だから、私は何も悪くないから。それだけは理解してほしいなー、北乃の姉貴。」

 

 

 

 

 

 そして、真衣の竹刀は上がっていく───。

 

 

 

 

 

 真衣

「この腐れ脳みそがあぁ!!!」

 

 

 

 

 

バシッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたら、私の体が動いていた。

 

 間一髪で、真衣の竹刀を抑えていた。

 

 真衣「…!?…千里…?何で止めるんだよ!」

 千里「…やっぱりだめだよ、真衣。いくら仇討ちだからってこれは…。」

 真衣「けどよ…!」

 

 今ここで止めなかったら、泉田以前に真衣は確実に退学になっていただろう。

 そうはなってほしくないから、私は止めた。

 

 泉田「ん?あんたもしかして…。」

 

 泉田がそう言うと、私の顔を凝視した。

 

 泉田「ああ、あんたが噂の転校生?」

 千里「…それが何か?」

 泉田「…ていうかあんた、転校生じゃないでしょ?前まで学校行ってなくて、ここに通おうって考えただけでしょ?」

 千里「…は?」

 

 こいつは、何を言っているのかわからなかった。

 どこかで会ったか…?いや、そんな事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泉田「───腐ってるあんたを見たんだよ。あんたがここに来る以前にね。」

 

 

 

 

 

 千里「…!?」

 

 

 

 

 

 もしや、どこかで見られてた…!?

 

 

 

 

 

 泉田「あんたと北乃の姉貴が会ってたのを見てたんだよ。それで、“うちに来ないか”とか言ってたかなぁ。」

 

 泉田から語られていたのは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あんたさ、親いないの?』

 

 『…いない。』

 

 『…だったらさ、うちに来ないか?』

 

 『…え?』

 

 『ここにずっといても退屈だろ?それに、困った時はお互い様ってやつだしさ。』

 

 『…わかった。そうする。』

 

 『よし、取引成立だな!』

 

 『…取引?』

 

 『まあ、細かい事は気にするな。アタシ、北乃真衣な!あんた、名前は?』

 

 『…千里。彩神千里。』

 

 『千里…か。良い名前だな!彩神って苗字もかっこいいじゃん。羨ましいよ。』

 

 『そ…、そう…?』

 

 『よし、そうと決まれば、アタシん家に直行だな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泉田「あんた、彩神千里だよね?あの時名前聞こえたから、覚えちゃったんだよね。」

 千里(こいつ…!)

 

 私は全てを悟った。

 彼女は、私がここに来る前から知っている。

 “転校生と言った方が馴染みやすい”というのも、全てお見通しだった。

 

 泉田「“2年に転校生が来た”って噂されてさ。なんかおかしいと思ったんだよね。学校も行ってないあんたが転校生だなんて。そしたら真っ赤な嘘だったよ。不登校のあんたが転校生なんて有り得ないし?」

 千里「……。」

 

 気付いたら私の右手は拳を作り、震えていた。

 泉田に悪く言われたような感じがして、内心怒りが込められていた。

 

 真衣「泉田…、まさかお前…、影で見てたのか…!?」

 泉田「たまたまだけどねぇ。クラスでは皆騙されてんだよ。あんたみたいな不登校が転校生な訳ないじゃん。あんたも北乃の姉貴も、頭どうかしてんじゃないの?」

 千里「泉田…!」

 泉田「ん?やりたいなら遠慮しないでやれば?あ、もしかして人殴った事ないからできない系?アハハ!そういうのダサくて笑えるんですけどw」

 千里「…もういい。行くよ、真衣。」

 真衣「おい、千里!」

 

 私は泉田の言葉を無視し、校舎の中へと向かった。

 泉田を殴る行為をギリギリで飲み込み、颯爽と歩いた。

 

 泉田「あー、逃げるんだぁ♪弱ぁw」

 

 

 

 真衣「…泉田、アタシらは諦めた訳じゃねえからな。杏梨を虐めた事や、佐島先生を殺した事…、後悔させてやっからよ。」

 泉田「やれるもんならやってみなよ♪私は悪くないから無駄だと思うけどねーw」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




泉田沙耶の悪者っぷり、いかがでしたでしょうか?
ダークファンタジーなので、こういう横暴な性格の人物も入れた方がいいと思いまして。

また長い期間お待たせするかもしれません。ご了承ください。
m(_ _)m

次回もお楽しみに。


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第21話

~放課後~

 真衣「千里、さっさとロストワールド行くぞ!」

 千里「ちょっと待っててよ、今扉出すから…。」

 

 真衣は部活後、私は図書室に出た後に、ロストワールドに行こうと話していた。

 流石の私でも、泉田に言われるがままにされたくはない。

 

ドォンッ!!

 

 千里「行くよ!」

 真衣「おう!泉田の野郎を潰しに行くぞ!」

 千里(…まだそうと決まった訳じゃないんだけど…。)

 

 真衣は本当に殺意剥き出しになっているな。

 まあ、流石にあそこまで言われちゃ腹立たしくなるのも無理ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「よし、侵入成功だな。前回はまんまと罠に嵌められたからな。今回は警戒しながら行くぞ!」

 千里「あまり突っ走りすぎないでよ?真衣に付いて行くの大変なんだから。」

 真衣「ああ。ちゃんと千里に合わせるつもりだ。泉田を潰したい気持ちも山々だが、アタシはそこまで不器用じゃない。」

 千里「だといいけどさ…。」

 

 何だろ、こんなに感情剥き出しになった真衣に付いていける気がしない…。

 今はやれる事に集中しようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

バシッ!

 

 杏梨「痛…!?」

 

 突然、後ろから何かをぶつけられた。

 振り向いてみると、明らかにバレーボールを飛ばしたであろう泉田の姿があった。

 

 泉田「あ、ゴメーン、スパイクの練習しようとしたらぶつかっちゃった~♪」

 杏梨「……。」

 泉田「ホントゴメンね~、片付けの邪魔しちゃってさ。」

 杏梨「……。」

 

 私は何も言わず、ただ泉田を睨むだけでいた。

 すると、泉田は私の方へと歩み寄る。

 

 

 

 泉田「…何だよその目。」

 杏梨「……。」

 

 泉田はボールを手に取る。

 そして───。

 

 

 

 

 

 泉田

「そんなゴミみてえな腐った目で見るんじゃねえよ!!!」

 

バシッ!

 

 

 

ベチャア…!

 

 杏梨「…!!」

 

 突然ボールで私の顔面を殴った。

 その衝撃で、血が床にベッタリと付いてしまった。

 そして泉田は、私の髪を掴む。

 

 泉田「あんたさ、選手に選ばれたからって調子乗ってんじゃねえよ。才能がないくせに、自分は強いアピールしてんのマジムカつくんだけど。コートに出られないように、体もめちゃくちゃにしてあげようか?あ?」

 杏梨「うぅ…。」

 

 怖い。

 

 何をされるんだろう。

 

 泉田「いっその事、あんたみたいなゴミ、死ねば良かったのにな。そしたら今頃私は、選手に選ばれてんだよ。それをあんたは邪魔したんだよ?責任取れんの?」

 杏梨「それ…は……!」

 泉田「うるせえ、喋んな!」

 

ガッ!

 

 杏梨「がはっ…!!」

 

 泉田にお腹を強く蹴られ、吐きそうになった。

 怖くなり、痛みを抱えながら、力を出して体育館から逃げ出した。

 

 泉田「逃げてんじゃねえよ!おいあんたら、追いかけるぞ!!」

 

 

 

 杏梨「はぁ…!はぁ…!」

 

 

 

 私は、一目散に逃げる。

 

 泉田…いや、泉田達に。

 

 “女王様”に見つからないように─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 真衣「…結構歩いたな。」

 

 あれからどれくらい経っただろうか。

 罠の回避や経路の確保…色々と忙しいロストワールドだな。

 

 千里「で、ここは…?」

 

 

 

【職員室】

 

 真衣「…これって、現実にもある職員室だ…。」

 千里「入ってみる?」

 真衣「まあ、何か見つかるかもしれないしな。行こうぜ。」

 

 真衣はそう言うと、私は職員室の扉を開けた。

 

 

 

 そこにいたのは─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハロー、侵入者さん♪」

 

 千里・真衣「…!?」

 

 

 

 真衣「泉田…!?」

 

 そう、前回出会ったロスト・泉田沙耶の姿。

 それに、屋上でみた他の2人もいた。

 となると、彼女達もロストだったという事か…?

 

 

 

 

 

 ???『…千里。』

 千里「…!何…?」

 ???『あの2人は、恐らくロストの幹部。ロストと共に手下達を慕っている者達です。』

 千里「…なるほどね。」

 

 あの2人は幹部…つまり、目的はロストと一緒か。

 ロストワールドは“善良を失った人物達が集まる場所”…、そうなれば、彼女達もその1人になるのかもしれない。

 

 ロスト泉田「今度は罠に嵌らなかったんだー。なんか面白くないなー。」

 真衣「悪かったな。嵌らなくてよ。…それによ、もうわかってんだぞ。お前のやっている悪事をよ。妹をレギュラーに入れたからって、顧問を殺害。もうお見通しにさせてもらったぜ。」

 ロスト泉田「悪事ぃ?私はムカついたからあの顧問を殺したんだけど?レギュラーに入れなかった悔しさ、わかる?何なら殺したも当然でしょ?元々悪いのはあんたの妹と顧問だし?だから私はなーんにも悪くない。」

 

 どこまで自分の罪を否定するのか。

 相当正気が狂ってる。

 

 ロスト泉田「それに今日さ?あいつが私の事睨んでいたんだよ。ボールぶつかっただけなのに睨んできて。それでムカついたからあいつの顔、ボールでぶん殴った訳よ。」

 真衣「!!!!!」

 千里「え…?」

 

 泉田が杏梨ちゃんを殴った…?

 そんな…、こんな事って…!

 

 ロスト泉田「そしたら血ぃ吹き出してさぁ?見てて心地良かったんだよねぇ!だって、才能のない雑用が惨めになるの最高じゃん!?アハハ!!思い出しただけで笑えてくるよ!!」

 

 …こいつは、もうダメかもしれない。

 握り拳を作った私だが、真衣はすっと前に出た。

 

 

 

 

 

 真衣「…何て言った?」

 

 ロスト泉田「はぁ?聞こえなかった?あいつはねぇ、才能のない“雑用”だよ?何か間違った事言ったかなぁ?」

 

 

 真衣「…雑用…。」

 

 

 

 真衣「ははっ…、そうか…。雑用…ねぇ…。」

 千里「…真衣…?」

 

 真衣の目は、前髪の影で隠れていた。

 

 そして─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「てめえらぁ…!さっきから聞いてりゃグダグダグダグダ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣

「うちの妹を随分やりたい放題にしてくれてんじゃねえか、あぁん!?」

 

 

 

 ロスト泉田「なっ…!?」

 千里「…!?ちょ、真衣!?」

 

 突然、真衣は泉田に向けて怒鳴り出した。

 

 

 

 真衣

「確かにあいつは気弱で臆病だけど、それでもアタシの背中をずっと追いかけてきた!アタシみたいになりたいなんて言ってた!!そんな妹の成長を妨げるクズ共は、姉のアタシが絶対に許さねえ!!」

 

 …そうか。真衣は以前こう言ってたっけ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『杏梨はああ見えて、結構頑張り屋なんだよ。だけどきっとどこかで悩む事もあるから、その時はアタシが支えてやらないとって思ってな。』

 

 

 

 

 

 『何年杏梨の姉貴やってると思ってんだよ。杏梨が産まれてからずっと一緒だからな。面倒ぐらいは嫌でもやってるさ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 父親を失った今でも、ずっと妹を可愛がってきていた。

 

 だけども、真衣と杏梨ちゃんのやり取りは、どこか悲しげにも見えた。

 

 杏梨ちゃんが赤ちゃんの時から、“お姉ちゃん”として、ずっと見守ってたんだ。

 

 

 

 ロスト泉田「はぁ…、ここまで来てシスコンアピールかよ。マジ面倒くさ。」

 真衣「姉のアタシが相手してやる。もう妹には手を出させねえ。」

 ロスト泉田「しゃーない。2人共、やっちゃって。」

 「「はいよー。」」

 

 真衣「…来いよ。妹は雑用じゃねえって事を証明させてやる。」

 

 真衣は大剣を構えた。

 覚悟、できたんだね。

 それを見た私も、戦闘体勢に入った。

 

 真衣「行くぞ!!!」

 

 

 

 

 




ついに真衣が感情を剥き出しになりました。
真衣は妹の杏梨の事となるとこうなります。

結論:真衣は絶対に怒らせてはいけない。


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第22話

~杏梨視点~

 杏梨「はぁ…、はぁ…。」

 

 校門の前まで走ってきた。

 お腹の痛みは、まだ治まらない。

 何で…、どうしてこんな事に…。

 

 

 

 杏梨「助けてよ…、お姉ちゃん…。」

 

 

 

 今一番頼れる人…お姉ちゃんの名前を呼んで嘆く。

 

 私がまだ小さい頃、お姉ちゃんは声を震わせながらこう言った。

 

 

 

 

 

 『なにがあっても…!あんりはアタシが守る…!おねーちゃんだから…!』

 

 

 

 

 

 それが、今はここにはいない。

 

 ましてや、すぐにここに来る訳でもない。

 

 私は…、いらない存在なの…?

 

 杏梨「助けて…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨

「助けて!!助けてよぉ!!!」

 

 

 

 

 

 その一言を、私は泣き叫ぶだけだった。

 

 そんな事言ったって、誰も助けてくれる訳でもないのに。

 

 あいつと関われば終わりとわかってるのに───。

 

 人に頼れず、誰もいないこの場で、たったその一言しか言えなかった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 杏梨「ひっ…!」

 

 

 

 

 

 突然、大きな物音が鳴り響いた。

 その方へと顔を向けると、大きな扉のようなものがあった。

 

 杏梨「え…?何、これ…。」

 

 怪しげだと思い、そっと触れてみる。

 

 

 

ビリッ!!

 

 杏梨「痛…!?」

 

 手のひらに、電撃のようなビリビリとした痛みが走った。

 

 そして─────。

 

 

 

 

 

 杏梨「何これ…!吸い込まれて…!?」

 

 

 

 杏梨「きゃああああああ!!!」

 

 

 

 私の身に、何が起きたのかわからなかった。

 

 状況が把握できないまま、扉の中へと迷い込んでしまった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「うぅ…ん…?」

 

 ───意識が戻ってきた。

 

 ──辺りを見回してみる。

 

 杏梨「え…、これって…!?」

 

 そこは、赤黒くて不気味な雰囲気に塗れていた。

 でも見た感じ、学校のようだ。

 

 

 

 杏梨「…歩こう。」

 

 このまま何もしなかったら、事が始まらない。

 とりあえず、学校に入ってみる事にした。

 

 

 

 

 

 『………、黙っ………で何か……よ!』

 

 

 

 

 

 杏梨「…?」

 

 昇降口に入ろうとすると、どこからか声が聞こえる。

 気になり出し、声のする方へ行ってみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「痛い…!やめてよ…!」

 

 

 

 杏梨「!!!」

 

 そこにいたのは、誰かに蹴られてる私の姿だった。

 

 間違いない。

 

 姿形、私そっくりだった。

 

 杏梨「何これ…。本当に現実なの…?」

 

 頭がおかしくなりそうになった。

 

 本当に何が起きているのか。

 

 それすらもわからなくなってしまう。

 

 

 

 杏梨「…行こう。」

 

 再び、昇降口に入る事にする。

 できる事なら、早く状況を把握したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『どりゃああああああ!!!』

 

 杏梨「…!」

 

 歩いた先に、声が聞こえた。

 何かが何かと、やり合っているような。

 陰に隠れて、そっと覗いてみる。

 

 

 

 

 

 杏梨(…!!お姉ちゃん…!?)

 

 間違いない。

 中にいたのは、何者かと戦っているお姉ちゃんの姿があった。

 それうえ、千里ちゃんもいた。

 

 杏梨(何で…、2人がここに…?)

 

 すぐにでも2人の所に向かいたいが、状況的に無理なのかもしれない…。

 ただ隠れて、その光景を覗くだけでいた───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 ロスト幹部A「アッハハ!さっきまでの威勢はどこ行ったのかなぁ!?」

 千里「くっ…、どれだけタフなんだ…。」

 

 あれから15分くらい奮闘しているが、一向に弱っている状態ではない。

 体力が多すぎるでしょ…。

 

 真衣「千里、まだ行けるよな…?」

 千里「真衣…?」

 真衣「杏梨のためだ。アタシはまだくたばる訳にゃいかねえよ…!」

 千里「無茶だよ!このままじゃ…!」

 真衣「行くっきゃねえんだよ!ここは!!」

 

 真衣はなりふり構わず、幹部の方へ突っ走っていった。

 が、しかし───。

 

 

 

 

 

 ロスト幹部B「無駄だよ!」

 

 

 

ドゴッ!

 

 真衣「ぐっ…!?」

 

 呆気なくやられてしまった。

 流石に真衣も、体力の限界が来ているのだろう。

 

 ロスト泉田「クククク…!アッハハハハハハ!!惨めだ!!本当に惨めだねぇ!!妹の仇討ちに来たんでしょ!?なのに逆にやられてる!!所詮あんたみたいな雑魚に、正義なんてねえんだよ!!!アハハハハハ!!!」

 真衣「この野郎……!!」

 千里「真衣…!ダメ…だよ…!これ以上…行ったら…!」

 真衣「うるせぇ…!やるっきゃねえっつってんだろうが…!!」

 

 もう私の言葉が聞けないくらい、恨みを持っている…。

 真衣は再び突っ走った。

 

 

 

 

 

 その時だった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お姉ちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 千里「…!」

 

 真衣「…え…?」

 

 

 

 声のした方へ振り向く。

 

 そこには、どういう訳か杏梨ちゃんがいた。

 

 あの時見た杏梨ちゃんとは違う、純粋な杏梨ちゃんだ。

 

 真衣「杏梨…!?何でここに…!?…って、それ所じゃねえ!杏梨、お前は下がってろ!」

 

 真衣はそう呼びかけるが、杏梨ちゃんは下がる様子はなかった。

 

 

 

 

 

 杏梨「もう、いいんだよ。お姉ちゃん…。」

 

 

 

 真衣「…!」

 

 突然、杏梨ちゃんの口が開いた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 気付いた時には、体が動いていた。

 お姉ちゃんが傷付く姿は、もう見たくないと思ったから。

 

 杏梨「もう、いいんだよ。お姉ちゃん…。」

 真衣「…!」

 

 杏梨「千里ちゃんと一緒に…、こんなにボロボロになるまで…。そんなお姉ちゃん…、私は望んでないよ…。」

 真衣「……。」

 

 私がそう言うと、お姉ちゃんは悲しげな表情をしていた。

 

 杏梨「お姉ちゃんは私のために、色々としてくれていたのは知ってるよ。小さい頃からずっと一緒だったもん。それくらい気付いてるよ。」

 真衣「…杏梨…。」

 杏梨「お姉ちゃん、“何があっても杏梨を守る”って言ってたよね。だけどね、もうその必要はないよ、お姉ちゃん。私、選手に入るほど成長したんだよ。だから、もうお姉ちゃんの助けがなくても、全部やってのける。私はそれくらいになるまで、こんなに育ったんだから。」

 真衣「……。」

 

 私は言いたい事をポツポツと言う。

 お姉ちゃんは黙ってそれを聞いていた。

 

 ロスト泉田「北乃…?」

 杏梨「…あんた達がお姉ちゃん達を傷付けたんだよね。わかるよ、そのくらい。私を甘く見ないでよ。」

 ロスト泉田「はぁ?生意気な奴だな…!」

 杏梨「……。その言葉、そっくりそのままひっくり返してあげる。お姉ちゃんを…ううん、お姉ちゃんと千里ちゃんをここまでやった事…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「…後悔させてあげる。」

 

 

 

 

 

 ロスト泉田「…っ!!」

 

 もう我慢なんてしない。

 

 どれだけ恨みを抱えていても、その恨みを吐き出せばいい。

 

 大切な人を傷付けるなんて許さない。

 

 それが身近でも、世間でも…。

 

 

 

 もちろん。私だって…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨

「絶対に許さないから!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『北乃杏梨。』

 杏梨「…!この声…、誰なの…?」

 

 どこからか声が聞こえる。

 辺りを見回しても、姿は見当たらない。

 

 ???『あなたはこの危機から、どう逃れたいですか?』

 杏梨「何…?どういう事…?」

 ???『あなたは目の前の大切な彼女達を、どうしたいですか?敵である彼女達に、どう立ち向かいますか?』

 杏梨「それは…。」

 

 そんなの、はっきりとした答えがある。

 それはただ1つ。

 

 杏梨「お姉ちゃんと千里ちゃんを助けたい。そして、泉田に恨みを吐き出したい。2人にはいつもお世話になってるから、今度は私が2人を守りたい。それだけだよ。」

 

 ???『…よろしい。では、契約を結びましょう。』

 

 そう言い放たれると、1つの小さな光が目の前に現れた。

 

 ???『その光を握り締め、彼女達と同じ、ロストに立ち向かう力を得るのです。』

 杏梨「力…。うん、わかった!」

 

 言われた通りに、光を両手で握る。

 

 そして─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『あなたは、癒しを解き放つ女神となるのです!!!』

 

 

 

バリンッ!

 

 

 

 杏梨

「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第23話

最初に言っておきます。
マジでお待たせして申し訳ないです…。
いつ書こうか考えていたら結構な間が空いてしまいました。
そこは申し訳ないです。
こんな感じのナメクジ更新なので、大目に見てくれると幸いです。

それではどうぞ。


~真衣視点~

 気付いたら杏梨がいて、凄まじい波動が走る。

 杏梨も…、アタシと同じで、契約を交わしたのだろうか。

 

 そして杏梨は杖を持ち、女神のような姿になった。

 

 

 

 杏梨「私は…、もう弱くなんかない。お姉ちゃんみたいな人になるって決めたんだ。だからあんた達みたいな弱い者虐めなんかには負けない!強い人間でありたいんだ!!」

 

 杏梨はそう叫ぶと、杖先を2人のロストに向けた。

 

 そして───。

 

 

 

 

 

バアアンッ!!!

 

 「「ぐわあああああああ!!!!!」」

 

 光の束を飛ばし、2人を撃破した。

 その威力は絶大だった。

 

 ロスト泉田「何だと…!?」

 真衣「すげぇ…。」

 

 妹の本当の強さに、アタシは開いた口が塞がらない状態だった。

 あの2人を、一撃で倒してしまったのだから。

 

 ロスト泉田「…ふん、使えない幹部ね!私は退くから、また今度にしましょ!」

 

 ロスト泉田はそう言い告げ、別の扉から出ていってしまった。

 

 杏梨「待って、泉田!!…何で出ないの!」

 

 杏梨はロスト泉田にも杖先を向けるが、先程のように光の束は出ない。

 気力を使い切ってしまったのだろうか。

 

 真衣「落ち着け!杏梨…!」

 杏梨「お姉ちゃん…?」

 真衣「きっと…、今ので力を使い果たしたんだ…。これ以上無理したら逆にやられるぞ…!」

 杏梨「……。」

 

 アタシの時もそうだったが、覚醒したばかりの力はまだ完全とは言えない。

 強力な技を繰り出した後はすぐに発揮しなくなるのだ。

 

 真衣「…な?これでわかったろ?」

 杏梨「……。」

 

 千里「…とりあえず、一旦撤退しよう。真衣、動ける?」

 真衣「ああ。何とかな…。」

 

 まだ傷は癒えてないが、何とか動けそうだ。

 杏梨を連れて、ロストワールドから出る事にした─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 杏梨「学校…だ。」

 千里「戻ったみたいだね。」

 

 ロストワールドから帰還した。

 杏梨ちゃんを連れて出た時には、外はもう暗くなっていた。

 

 真衣「しかし驚いたよ。まさか杏梨も覚醒できるなんてな…。」

 杏梨「覚醒?」

 真衣「まあ、その辺の話は帰ってからな。もう遅いし、ここだと目立つしな。」

 

 真衣はそう言うと、私達は帰る事にする。

 

 

 

 

 

 が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「あ、鞄忘れた…。」

 真衣「…は?」

 

 そうだ。杏梨ちゃんは鞄を持っていない事に気付く。

 よく見ると、練習着のままだ。

 

 真衣「あー…、ならアタシが取ってこようか?」

 千里「え?大丈夫なの?」

 真衣「事情説明すれば何とかなるって。」

 

 真衣はそう言うと、小校門を開けて校舎に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数分後~

 杏梨「あ、戻ってきた!」

 

 数分かかると、校舎から出てくる真衣が見えた。

 鞄の肩がけを持ち上げながら歩いて来ている。

 

 千里「取ってこれたみたいだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~午後7時~

 杏梨「ロストワールド……っていうんだ。」

 

 帰宅後、私達は夕飯を食べていた。

 その途中、杏梨ちゃんも迷い込んだロストワールドの事を真衣は話した。

 

 真衣「“善良を失った人々が集まる場所”…とも言われている。どこの誰が作ったのかは知らねえが、アタシ達は以前からそこに侵入できるようになったんだ。」

 杏梨「じゃあ、あの力もそのロストワールドで?」

 真衣「そうだな。覚醒する時、どこからか声が聞こえたろ?そいつと契約を交わす事によって、あのような力を貰ったって訳だ。最初はまだ不完全だけどな。」

 

 そう、真衣の時もそうだったが、覚醒したばかりの力は完全とは言えない。

 ロストワールドでできる事すらも、謎が多いばかりだ。

 

 千里「杏梨ちゃんは、何て言う二つ名で呼ばれたの?」

 杏梨「二つ名?」

 千里「その人の声を聞いて契約を交わした時、杏梨ちゃんも二つ名を言われてから覚醒したと思う。」

 真衣「アタシは“闇を斬り裂く騎士”、千里は“悪を打ち砕く鉄槌”だな。杏梨も、何かそれっぽい二つ名があったんじゃないか?」

 

 杏梨ちゃんは真衣にそう言われると、じっと考え込む。

 

 杏梨「“癒しを解き放つ女神”…だったかな。」

 真衣「女神…か。」

 

 謎の声の人からは、そう言われたらしい。

 確かに、女神みたいな姿になってたもんね。

 

 真衣「杏梨にピッタリじゃないか?実際女神そのものだし。」

 杏梨「私が…女神…?ごめん、どう言う事?」

 真衣「んー、簡単に言うと…、女神のように可愛らしい…かな。」

 杏梨「…え。」

 

 しばらく沈黙が続いた…。

 真衣…、いくら妹が好きだからって本人の前でそれは…。

 

 真衣「ご、ごめんな!今のは聞かなかった事にしてくれ!!ほら、まだ飯の途中だろ!?さっさと食って風呂入って寝ようぜ!杏梨も疲れたろ?」

 杏梨「え、何?急にどうしたの?」

 千里「……(苦笑)」

 

 私は苦笑いするしかなかった。

 真衣は思った事をすぐに口に出す性格だからなぁ。

 こればかりは仕方ないかぁ…。




杏梨が覚醒したので更新です。



登場人物紹介(随時情報更新)

北乃杏梨

▽プロフィール
読み仮名:きたの あんり
年齢:16歳
誕生日:12月19日
身長:156cm
血液型:A型
趣味:漫画や雑誌を読む事
特技:球技
好きなもの:苺
嫌いなもの:味がない物(水など)
ポジション:???
使用武器:近接→杖 遠距離→魔法、ブラスター


 北乃真衣の実妹。現在は真衣と千里の3人で自宅で暮らし、千里にも懐いてきている。

 外見はベージュ色のおさげに、真衣のように青緑色の瞳を持っている。性格は甘えん坊で人懐っこい。その反面目上の人物には礼儀正しく、近所や他人からも褒められている。少々内気で人見知りな少女だったが、姉の真衣の勇姿に目を焼き付け、「姉みたいな人になりたい」と意気込んでいた。

 特技が球技である理由で、聖麗学園高等学校ではバレーボール部に所属。

 実は聖麗学園高等学校で同クラス、バレー部同所属の泉田沙耶達に虐められており、痛みや苦しみ、悲しみを隠しながら過ごしていた。その光景は真衣は知らずにいたが、千里に知らせて以来、彼女達に恨みを持つようになった。


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第24話

~泉田視点~

 …最近イライラする事が多くなってる。

 北乃がレギュラーに選ばれたから?それとも、まだ私の才能が誰も認められてないから?

 顧問の佐島先生を殺しても、そのイライラは消える事はなかった。

 

 友人A「…沙耶?」

 泉田「…何?」

 

 突然、友人が話しかけてきた。

 高校に入って、共に過ごした2人友人。

 しかし、彼女の口から出たのは、思いも寄らない事だった。

 

 

 

 

 

 友人A「もうさ、私達終わりにしようよ。」

 泉田「…は?」

 友人B「北乃の気持ち、少しはわかってきた気がするんだ。私は、もうあんな北乃は見たくもない。」

 

 …は?何言ってんの?

 

 泉田「意味不なんだけど?何で今更あんな奴の味方する訳?」

 友人A「いや、いくら北乃が憎いからって、佐島先生を巻き込むのはよくないよ。」

 泉田「ざけんなよ。あんた達だって私と協力して先生を殺したろ?何我に返って北乃の味方すんの?マジ意味不。」

 友人A「……。」

 

 私は彼女らと友達になった時、才能を認められたと思っていた。

 でもそれが終わり?ふざけんなよ。

 

 友人A「…もう、付いて行けないよ。佐島先生の死んでゆく姿見て、沙耶の才能とかもどうでもよくなった。」

 友人B「言っとくけど、これは本気だから。」

 泉田「何で…、どうしてよ!!今まで一緒に過ごしてきたのは何だったの!?私の才能を認めたんじゃなかったの!?」

 友人A「才能才能うるさいな…。全部言葉の通りだよ。何度も言わせないで。沙耶にはもう付いて行けなくなったの。こんな事に巻き込まれてる私達の身にもなってみなよ。」

 友人B「そう言う訳で…、じゃあね、沙耶…。」

 泉田「っ…!!!」

 

 私は、何も言えなかった。

 ただ、遠ざがっていく2人の背中を眺めるだけだった。

 

 

 

 泉田「誰も、私の才能をわかってくれない…。そんなの間違ってる…。この世界が間違ってるんだよ…!そうだよ、きっとそうだよ!!私以外の全てが間違ってんだよ!!!」

 

 空を見上げ、そう泣き叫んだ。

 

 世界なんて、自分の思い通りに動けばいいのに。

 

 そんな想いが、全て吐き出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 千里「ねえ真衣、大会っていつ?」

 真衣「来週辺りだな。それまでにあっちの泉田を何とかできれば良いが…。」

 

 となると、時間は限られているな。

 できれば真衣と杏梨ちゃんの大会の日までに、ロストワールドでの泉田を消す事に専念したい所。

 杏梨ちゃんを生傷だらけなままにはしたくないしね。

 

 杏梨「あっちのって…ロストワールドにいた泉田の事?」

 真衣「ああ。そういう事になるな。江田の時も上手くいった…っていうのかはわからないけど…。自ら罪を告白した事がニュースにもなるほどだしな。もしかしたら、泉田もそうなるんじゃないかってな。」

 

 今回も泉田のロストを消せば、江田のように罪を告白するのではないかと考えている。

 どういう原理でそうなるかはわからないが、自ら罪を告白するのであればやる事は同じだ。

 

 千里「今日はどうする?来週までには終わらせたいよね。」

 真衣「放課後、またいつも通りロストワールドに乗り込むしかねえな。タイムリミットもあるからな。急がねえとこっちも危ねえ。」

 千里「了解。じゃあ、昼休みも集合しよう。放課後の事で話す事も沢山あるからね。」

 

キーンコーンカーンコーン…

 

 チャイムが響き渡った。

 

 千里「…と、授業が始まるね。じゃあまた後で。」

 

 私達は予定を決定し、教室に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 誰かに覗かれている事を知らずに───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第25話

~昼休み~

 中庭で3人で昼食を取っている所だ。

 しかし、真衣は眠そうにしていた。

 

 千里「…真衣、授業中寝てたでしょ?」

 真衣「いやぁ…、色々考えすぎてるせいか眠くなりすぎてな…。」

 千里「ちゃんとしてよ。泉田のロストを消すんでしょ?」

 

 ロストワールドに侵入する予定について話そうとしていたが、真衣は口を大きく開けて欠伸をかましていた。

 こういう時くらいしっかりしてほしいもんだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「北乃!!!」

 

 杏梨「…!?」

 

 突然、誰かに大声を掛けられた。

 

 

 

 

 

 真衣「泉田…?」

 

 

 

ガッ!

 

 杏梨「…!!」

 千里、真衣「…え…!?」

 

 声の主はやはり泉田であった。

 その突如、杏梨ちゃんの胸倉を掴んだ。

 

 泉田「あんた…、私の友達に何した訳?」

 杏梨「え…?」

 泉田「何話されるかと思ったら、いきなり北乃の味方してさ。こうなったのはあんたの仕業なんだろ?絶対何かしたよ。私の大切な友達に何しでかしたんだよ!!」

 杏梨「それは…!」

 

 杏梨ちゃんは苦しそうにしていた。

 見てられない。止めないと!

 

 真衣「泉田てめえ!妹に何しやがる!!」

 泉田「シスコンは黙ってろ!!これは私とこいつの問題だから、部外者は余計な首突っ込んでんじゃねえよ!!」

 真衣「何が部外者だ。罪のない人間を責めてすっきりするのか!?」

 泉田「ああそうだよ!今日は北乃に言いたい事山程あるからな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…やめなよ。」

 

 

 

 泉田「あ?」

 

 

 

 私は、杏梨ちゃんの胸倉を掴んだ泉田の腕を引き剥がした。

 もう我慢の限界が来ていた。

 

 泉田「何だよ。クソ陰キャが調子乗んなよ。あんたまで私の邪魔する訳?」

 千里「そうだと言ったら?」

 泉田「佐島先生みたいに殺す!ここにいる奴全員ぶっ殺す!!」

 

 泉田はそう言うと、ポケットに隠していたのか鋏を取り出した。

 完全に殺すつもりだ。冗談や脅しに見えない。

 

 真衣「いい加減にしろ!!」

 

 

 

 

ガチャンッ…!

 

 真衣は泉田の腕を掴み、鋏を落とさせた。

 

 真衣

「いつもそうやって杏梨に迷惑かけやがって!もう杏梨には近付くな!!」

 泉田「っ…!」

 

 真衣はそう怒鳴り、泉田は鋏を落としたまま颯爽と行ってしまった。

 

 

 

 

 

 杏梨「はぁ…、はぁ…。」

 真衣「杏梨…、平気か?」

 杏梨「うん、何とか…。」

 

 杏梨ちゃんは苦しそうに胸元を抑えている。

 余程強い力で掴まれたのだろう。

 

 真衣「あの野郎…、ここまでやるのか…。これはロストの方も相当ヤバいんじゃないか?」

 千里「そう予想した方がいいね。とてつもなく正気が狂ってる。」

 真衣「さっさと止めねえとな。罪を告白させるんだ。杏梨を虐めた分…それと、何の罪もない佐島先生の仇討ちだ。」

 

 有言実行だね。

 

 そして私達は、放課後まで待つ事にした。

 

 絶対に恨みを晴らす。その一心で。

 

 精々人生最後の時間を楽しむ事だね。泉田沙耶───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~放課後~

 校門近くで、真衣と杏梨ちゃんを待っている所だった。

 私はスマホ画面に残されている、ロストワールドに続くアイコンを覗く。

 

 千里(…本当に、誰がこんなの作ったんだろ?前から不思議に思ってたんだけど…。)

 

 ロストを消して、アイコンも消えたと思ったらまた現れるし…。

 このアプリ、一体…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリッ!!

 

 千里「っ…!?」

 

 突然、頭の中で電撃が走った。

 辺りを見回しても、何もいない。

 下校途中の生徒が歩いているだけだ。

 

 千里「今のは…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「…私を探しているようだね?」

 

 

 

 

 

 千里「…!?」

 

 

 

 声のした方に顔を向けると、誰かが立っているのがわかる。

 

 

 

 

 

 そこにいたのは─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「もう1人の…私…!?」

 

 

 

 

 

 そう、目の前にいたのは、真っ黒に染められたもう1人の私だった。

 

 何か見覚えがある気がする。

 

 

 

 千里(…!もしかして…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数週間前~

 

 

 

 

 

 千里(…!?私…!?)

 

 千里(いや…!やめて…!)

 

 

 

 

 

 ???

「いなくなれば良かったのに!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ、あの時だ。

 

 私が真衣の家に居候したばかりの頃の夜、あの悪夢の中にいた私だ。

 

 今でも鮮明に覚えている。

 

 あれから、“あの夢は何だったんだろう”と、常に毎日頭の中でそうよぎっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里…?「あんたは、私を止められない。」

 

 千里「…え…?」

 

 千里…?「止める事なんてできない。どう足掻こうとも…。」

 

 

 

 

 

ビリリリィッ!!!

 

 千里

「うぐっ…!うあぁっ!!」

 

 もう1人の私がそう言い告げると、再び電撃のようなものを私の頭の中で走らせた。

 

 その痛みで頭を抱え、かがみ込んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「千里!!」

 

 千里…?「…!」

 

 千里「はぁ…、はぁ…。」

 

 

 

 遠くで真衣の声がし、もう1人の私は姿を消した。

 

 あれは何だったのか…?

 

 “私を止められない”…。もしかして…。

 

 

 

 

 真衣「千里!大丈夫か!?」

 千里「平気…。」

 杏梨「そうなの?千里ちゃんが叫んでたから、何かあったかと思って駆け付けたんだけど…。」

 千里「……。」

 

 一応、聞いてみる事にしようか。

 

 千里「真衣、杏梨ちゃん…、ここにもう1人の私って居なかった?」

 真衣「…は?」

 千里「さっき、そいつに襲われたんだ…。ここに来る時、それが見えなかったのかと思って…。」

 杏梨「ううん、何もいなかったよ。千里ちゃんが叫んでただけだった…。」

 真衣「何かいたのか?千里にしか見えないものとか…。」

 千里「……。」

 

 もしかしたら、私にしか見えない奴なのかもしれない。

 私の考えすぎだろうか?

 

 千里「ごめん、やっぱり何でもない。それよりも、2人は部活終わったでしょ?今日は泉田のロストを消すんじゃないの?」

 真衣「まあ、そうだな。早いとこ終わらせようぜ。時間も無限にある訳じゃねえからよ。」

 千里「オッケー。扉を出すからちょっと待ってて。」

 

 私はスマホ画面のアイコンをタップする。

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 杏梨「わっ…!」

 

 あ、そっか。杏梨ちゃんはこれを見るのは初めてだったっけ…。

 

 真衣「こんな感じで扉が現れるんだ。わかっててもちょっとびびるけどな…。」

 杏梨「そうなんだ…。びっくりした…。」

 

 まあ、初めて見るのであれば誰だってびっくりするよね。

 

 千里「覚悟はいい?ここに入ったら、後戻りはできないと思ってて。」

 真衣「ああ。アタシはもうできてるぜ!」

 杏梨「私も。ちょっと怖いけど…、頑張る!」

 千里「じゃあ行くよ。泉田を終わらせるんだ!」

 

 そう言うと、私達は扉の中へ入った。

 

 暴走している泉田を止めるんだ。私達の力で─────!



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第26話

~ロストワールド 職員室~

 真衣「おかしい…。前はここにいたはずだが…。」

 

 前回と同じ泉田のロストがいた職員室に向かったが、その姿がどこにもない。

 

 千里「あの後逃げられたから、他の階にいるのかもしれない。」

 

 あの幹部の2人を倒した後、泉田は逃げたんだ。

 

 

 

 ん?幹部の2人…?

 

 

 

 杏梨「そういえば、泉田はいつも屋上に行ってた気がする。」

 真衣「ああ、言われてみれば確かに…。とりあえずやるだけやってみるか。千里もそれでいいか?…千里?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泉田『あんた…、私の友達に何した訳?』

 

 泉田『何話されるかと思ったら、いきなり北乃の味方してさ。こうなったのはあんたの仕業なんだろ?絶対何かしたよ。私の大切な友達に何しでかしたんだよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしかすると、あの幹部を倒したから、泉田が激怒したのか?

 

 あの幹部達を倒した事によって改心し、昼間に泉田1人だけで来ていたって事?

 

 わからない事が多すぎる。

 

 でも、それは一理あるかもしれない。

 

 主だけでなく、幹部のロストを消しても、その幹部だった本人も改心するという事か…。

 

 

 

 

 

 真衣「千里!」

 

 

 

 千里「…!何?」

 真衣「大丈夫か?今日泉田のロストを消すって決めたのはお前だろ?」

 千里「ごめん…、考え事してた。それで、何の話だっけ…。」

 真衣「泉田って、いつも屋上にいたろ?そこならいるかもしれないって思ってな。」

 千里「そっか。」

 真衣「早く泉田を止めよう。ロストをぶっ潰して、江田みたいに改心させるんだよ。」

 千里「そうだね、行こう。杏梨ちゃんもそれで大丈夫?」

 杏梨「うん。いけるよ。」

 

 そうと決まれば、作戦開始だ。

 仮説は、後ででもできるだろう。

 泉田を改心させたら、真衣達にも話してみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~屋上~

 ロスト泉田「…来たか。」

 

 

 

 千里「…!泉田…。」

 

 案の定、ロスト泉田がいた。

 泉田はここをどういう風に見ていたか、それは後でわかるだろう。

 

 ロスト泉田「今の私の気持ち、あんた達ならわかるよね?相当イライラしてんのよ。あんた達が私の何もかもをぶっ壊した事にね。」

 

 彼女は、そうとうご立腹のようだ。

 幹部の2人を消したからね。

 

 杏梨「泉田…。」

 ロスト泉田「元々は北乃、あんたのせいだからね?あんたがいなきゃ、私の才能が認められてた。なのにあんたと来たら、それが全て無駄になった。あんたは私の後を追えば良かったものの…!」

 

 出たよ。“才能”。

 どれだけコンプレックスを持っているのか。

 

 杏梨「なら、その才能っていうのは何?」

 ロスト泉田「…!」

 杏梨「私、嫌と言う程聞かされてるよ。泉田のその才能っていうのを。それだけ自分に才能があるって事は、具体的にどういうものか言えるでしょ?」

 

 杏梨ちゃんはロスト泉田にそう正論を言い放った。

 確かにそうだ。泉田はいつも才能に拘っているが、結局その才能がどういうものか私達もわからない。

 

 ロスト泉田「それは…!」

 杏梨「だから私に追い越されるんだよ。いい加減認めたらどう?“自分の才能が一番上”なんて拘らないでさ。そろそろ上には上がいるっていうのを認めなよ。じゃないと泉田、本当の地獄を見るようになるよ?」

 ロスト泉田「っ…!」

 真衣「杏梨…。」

 

 虐められっ子で、言われるがままであったあの杏梨ちゃんが、悪人である泉田にほんの小さな牙を剥けた。

 

 ロスト泉田

「黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ!!」

 杏梨「あなたがそれを認めるまで黙らない!私は…、どれだけあなたに地獄を見せられ続けたと思ってるの!?少しは被害者の身にもなってよ!だから友達も離れていったんでしょ!?それくらいわかりなよ!」

 ロスト泉田「…!!!」

 杏梨

「それでいいの!?あなたはこの先もずっと、自分の才能に拘って、誰一人も近寄れなくなってもいいの!?佐島先生だって、本当はあなたを選手にしたかったかもしれないんだよ!?あなたに殺されてから、ずっと苦しんでいるのかもしれないんだよ!?あなたは、あなたよって生み出された被害者達をどうでもいいと思ってるの!?ふざけないでよ!!」

 

 杏梨ちゃんはそう言い終わった後、ハアハアと息遣いを荒くしていた。

 

 対する泉田は、杏梨ちゃんを睨むだけでいた。

 

 

 

 

 

 ロスト泉田

「黙れって言ってんだろ!!あんたは私が昔何があったか知らないくせに!!調子乗ってんじゃねえよ!!!」

 

 千里・真衣「…!!」

 

 泉田はそう言うと、涙を流していた。

 昔?泉田は壮絶な過去を経験してきたのか?

 

 

 

 ロスト泉田「それなら、どうしても私の才能を認めないって言うのなら、力ずくで認めさせてやるよ!!」

 杏梨「やってみなよ。女王様ならできるよね?」

 ロスト泉田「言ったね?後でワンワン泣いても知らないから。」

 

 ついに、泉田と戦う時が来た───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト泉田

「うおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 泉田は叫び、自身の身体を変異させた。

 

 

 

 真衣「来たか!」

 千里「これが…、泉田の本気…!」

 

 泉田は、足が鋏、腕は拷問器具と、虐殺マシーンのような姿に変わった。

 すると周りは、牢屋のような檻の中に変わった。

 なるほど、泉田は学校をこのように見ていたのか。

 

 ロスト泉田

「どいツモこいつも!才能を知ラナイで好き勝手やりやがッて!!カス共がアァ!!!」

 

 私達は、戦闘態勢に入った。

 

 

 

 杏梨「あなたは、このロストワールドから消えるべき!才能があるだけじゃ何もできない事、証明させてあげる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第27話

お久しぶりです、ヤガミです。
すごい久しぶりの東京ロストワールドの投稿です。
前回の話を見返しながら書きました。
今回は泉田との対決です。

それではどうぞ!


 今の泉田の姿は、相当やばい状態だ。

 近付いただけで大怪我だけでは済まない。

 早いとこ弱点を見つけたいものだ。

 

 千里(弱点は頭?いや、それとも腕?足?)

 

 そう考え込むが、弱点が全く見つけられない。

 銃も効果があるかもわからないので、弱点を見つけるまでは懐にしまっておくようにする。

 

 ロスト泉田「バラバラに引キ裂いてあげルカら!アハハハハ!!」

 

ドゴォッ!

 

 真衣「あっぶな!?これ…拷問器具か…?」

 千里「女王様にピッタリな形態だね…。」

 

 片腕にはジベット、片腕はチェーンカッターと、なかなかに惨たらしい姿を持っている。

 まるで、女王様に隠された素の能力が剥き出されたかのように。

 

 ロスト泉田「どうシタの!?手も足も出ない!?アハハハ!!あンなに大口叩いトイテ情けないネエ!?」

 

 すると、ロスト泉田は杏梨ちゃんの方へと向かう。

 

 杏梨「来ないで!」

 

バアアンッ!!

 

 杏梨ちゃんは魔法をロスト泉田に当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、しかし─────。

 

 ロスト泉田「そんなモノが私ニ効くトデも!?」

 杏梨「え…!?きゃっ!!」

 

 杏梨ちゃんの体に何かを取り付けられた。

 その正体は、ロスト泉田の片腕のジベット。

 そう、杏梨ちゃんは拘束されてしまった。

 

 杏梨「離して……!あ……がぁ……!!」

 

 ロスト泉田のジベットは杏梨ちゃんの体を酷く食い込み、杏梨ちゃんは苦しめられていた。

 

 ロスト泉田「アハハハハ!!惨めだ!!本当に惨めダネエ!!痛い!?ネえ痛いデしョ!?」

 真衣「この野郎!!杏梨を離せ!!」

 

 

 

 

 

バァンッ!

 

バァンッ!

 

 ロスト泉田「いっ…!?」

 

 真衣は咄嗟に、ジベットに銃を向けて撃った。

 そして、杏梨ちゃんは解放された。

 真衣が持ってる銃は、リボルバー式のマグナムだったようだ。

 

 ロスト泉田「おのれ…!せっかく殺せる所だったのに!!」

 真衣「妹に手は出させねえよ!狙うならアタシを狙え!」

 ロスト泉田「そコマデ言うなら、あンタから殺してヤルよ!精々後悔ノないヨウニ死にな!!」

 

 ロスト泉田の標的は真衣に変わった。

 

 そして私は、ある一点に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里(…ん?背中に何かある…?)

 

 ロスト泉田の背中に、何か付いている事に気付いた。

 

 よくみると、ネジのような物が縦に2つ嵌め込まれている。

 

 千里(…そういう事か。)

 

 つまり弱点は、あの中にある。

 

 やるだけやってみるか。

 

 

 

 

 

 千里「杏梨ちゃん!」

 杏梨「…!」

 

 

 

 

 

 千里「泉田の弱点、見つけた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「チッ、こいつもなかなか苦戦しそうだな…。」

 ロスト泉田「ほらほら!殺シチゃうよオォ!?」

 

 相棒(大剣)でどれだけ斬っても、なかなか歯が立たない。

 もしや、狙う部位を間違っているのだろうか?

 がむしゃらに戦っては、逆に狙われる一方だ。

 

 真衣「ああ、畜生!せめて弱点がわかれば───。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「真衣!」

 杏梨「お姉ちゃん!」

 

 真衣「…!」

 

 突然、2人の声が聞こえた。

 何か持ってる…?

 

 

 

 千里「クランクを見つけた!これで背中のネジを緩める!」

 真衣「背中のネジ…?…!そういう事か!」

 

 千里達のやろうとしている事をすぐに理解できた。

 となると、また囮役だな。

 一か八かだ。

 

 真衣「囮だろ?任せとけ!」

 

 アタシは、泉田を誘い込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 杏梨「弱点って?どこ?」

 千里「泉田の背中に、ネジが2つあるでしょ?あそこの中にあると思うんだ。」

 杏梨「でも、何だか固そうだよ?開けるための道具か何かないと…。」

 千里「それを今から探すんだ。多分銃でも開かないやつだと思うから。」

 

 私は杏梨ちゃんに、泉田の弱点について話した。

 今泉田は真衣に気を引かれている。

 そのうちに道具を探す。これが私の作成だ。

 

 千里(真衣、少しだけ待ってて。今から策を作るから。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「千里ちゃん!これ使えそう?」

 千里「それは…、クランクか!」

 

 牢獄部屋が戦場である事だから、何かしら道具があるだろうと辺りを散策した。

 杏梨ちゃんが見つけたとは、かなり大きめのクランクだ。

 1人だと引き摺らないと運べないレベルのものだった。

 

 千里「これなら使えそう。行くよ!」

 

 私達は、真衣と泉田の所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「チッ、こいつもなかなか苦戦しそうだな…。」

 ロスト泉田「ほらほら!殺シチゃうよオォ!?」

 真衣「ああ、畜生!せめて弱点がわかれば───。」

 

 

 

 

 

 千里「真衣!」

 杏梨「お姉ちゃん!」

 真衣「…!」

 千里「クランクを見つけた!これで背中のネジを緩める!」

 真衣「背中のネジ…?…!そういう事か!

 囮だろ?任せとけ!」

 

 どうやらすぐに読めたようだ。

 真衣は走り回り、泉田を誘い込んだ。

 

 

 

 

 

 真衣「来いよ泉田!いくらでも相手してやる!」

 ロスト泉田「ええ、そう来ナクっちゃねえ!ならクれグレも後悔シナイようにね!」

 

 

 

 杏梨「それで、どうやってクランクを取り付けるの?」

 千里「方法としては、気付かれずに取り付けるのがいいかも。」

 杏梨「取り付けたらその後は?このクランク結構大きいけど…。」

 千里「あー…、ちょっと待っててもいい?」

 

 私は回れ右をし、聞き耳を立てる。

 

 それは、何者かわからないあの人の声を聞くために。

 

 

 

 千里「ねえ、あの大きなクランクを回すにはどうしたらいい?」

 ???『それなら心当たりがありますよ。』

 千里「なになに?教えて。」

 ???『クランクを取り付けた後、杏梨に魔法を使わせるように指示をするのです。』

 千里「杏梨ちゃんに?」

 

 クランクを回すには、どうやら杏梨ちゃんが必要みたい。

 だけど、杏梨ちゃんに何の関係が?

 

 ???『杏梨は“プッシュウィンド”という、風の力でものを動かす魔法を持っています。』

 千里「風で押す…って事か。わかった。杏梨ちゃんに指示出してみる。」

 

 私は話を終えると、杏梨ちゃんよ方へ向いた。

 

 千里「杏梨ちゃん、クランクを取り付けたら風の魔法で動かしてもらえるかな?」

 杏梨「わかった!」

 千里「行くよ!せーのっ…!」

 

 私と杏梨ちゃんはクランクを持ち上げ、背中に取り付ける。

 

ガシャンッ!

 

 千里「杏梨ちゃん、魔法使って!」

 杏梨「うん!」

 

 杏梨ちゃんは、杖先をクランクに向ける。

 そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「プッシュウィンド!!」

 

 

 

ゴオォッ!!

 

 凄まじい風圧が起きた。

 

ガラガラガラ…!!

 

 その風圧で、クランクが勢いよく回り出す。

 狂い出した時計のように。

 

 真衣(…!この音…、あのクランクか!)

 

 

 

 

 

ガチャンッ!!

 

 ロスト泉田「ん?なンカ背中が…?」

 

 ロスト泉田の背中の蓋は外され、どす黒くボコボコとした気味の悪い物体が剥き出しになった。

 

 ???『千里、あれがロスト泉田の弱点です!銃を出して狙ってください!』

 千里「オッケー!」

 

 私は、懐からハンドガンを取り出す。

 

 千里「杏梨ちゃん、銃とかは持ってる?」

 杏梨「…?これの事?」

 

 杏梨ちゃんが取り出したのは、ブラスター(光線銃)だ。

 魔法よりは威力が低いと思うが、出も早く連射できそうだ。

 

 千里「あれが泉田の弱点!あそこをブラスターで狙って!」

 杏梨「あの黒いの?わかった!」

 

 杏梨ちゃんはブラスターを構え、弱点であるロスト泉田の背中に銃口を向けた。

 

バンッ!

 

バンッ!

 

ビシュンッ!

 

ビシュンッ!

 

 ハンドガンとブラスターの銃声が、辺りに鳴り響く。

 弱点からは、血が大量に噴き出す。

 惨いが、やるしかない。

 

 ロスト泉田「この…!背中カラ狙ウナんて卑怯ナ…!」

 真衣「アタシばかり狙ってるっていう証拠なんじゃねえか!?そのせいで背中はガラ空きって訳よ!」

 ロスト泉田「あんタハ囮って事か…!こうナッタラもうやけクソダあぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト泉田

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「…!何…!?」

 千里「気を付けて!本気出した!」

 

 ロスト泉田は耳障りな雄叫びを上げた。

 ここからが本番って事だね。

 

 

 

 ロスト泉田「コレガアァ!!ワタシノ!!最終兵器ダアァ!!!!!」

 

 ロスト泉田の頭上に、何かが上がってくるのが見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「丸鋸!?」

 

 現れたのは、円状の鋭い刃を持った、巨大な丸鋸だった。

 あんなもので斬られたら、大怪我では済まない。

 確実に真っ二つにされると察しがついた。

 

 杏梨「どうしよう千里ちゃん!丸鋸なんて正気じゃないよ!」

 千里「さっきより動きも速いから、弱点は狙えなさそう…。ちょっと待ってて!考える!」

 

 

 

 できる事なら、丸鋸を止めたい。

 あれはロスト泉田にとっては最終兵器だから、それを無くせば反撃できるかもしれない。

 

 千里(でも、そうするためにはどうすれば…?くそ!また大きな課題が出てしまった…!)

 

 考えろ…!考えるんだ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバァッ!!

 

 真衣「あっぶな!?泉田お前、丸鋸で殺すとか正気か!?」

 ロスト泉田「コウデモシナイト死ナナイデショ?サア、諦メテ真ッ二ツニナリナァ!!」

 

 

 千里(…これは、また真衣に囮をやってもらうしかないのかな…。ダメ元でやってみよう。)

 

 ロスト泉田「アハハハハ!!バラバラニ斬リ刻ンデアゲルヨォ!!!」

 

ガガガガ…!!!

 

 真衣「されてたまるかよ…!!」

 

 すると、真衣は自分の剣を盾にして受け止める。

 

 

 

 

 

 千里(…ん?)

 

 私は、何かに気付いた。

 

 真衣はロスト泉田の攻撃を受け止められてる。

 

 すなわち、ロスト泉田は相手を斬り刻むまで、ガードされようが動いていない。

 

 

 

 

 

 千里(…!これだ!)

 

 ようやく攻略方法がわかった。

 

 真衣にまた囮を頼む事になるが、最善を尽くすにはこの方法しかない。

 

 千里「杏梨ちゃん!今泉田は隙だらけだよ!」

 杏梨「…!わかった!」

 

 千里と杏梨は、泉田の背中を狙い撃つ。

 

バンッ!

 

バンッ!

 

バンッ!

 

 

ビシュンッ!

 

ビシュンッ!

 

ビシュンッ!

 

 

 

 ロスト泉田「グウゥ…!アンタラ…!小賢シイ真似シヤガッテ…!!」

 

 

 千里「真衣!トドメはお願い!」

 真衣「ああ!」

 

 真衣は背後に回り込み、高く跳び上がった。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣

「これで終わりだ!泉田ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドグシュッ!!!

 

 

 

 ロスト泉田

「……!!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、真衣、杏梨「はぁ…、はぁ…。」

 

 

 

 

 

 ようやく、終わった。

 

 後は、ロスト泉田を消すだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト泉田「ぐっ…、うぅ……。」

 真衣「…お前はもう終わりだ、泉田…。諦めてロストワールドから消えな。」

 

 真衣はそう言うと、大剣を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「…待って、お姉ちゃん。」

 

 

 

 真衣「…え?」

 

 すると、杏梨ちゃんは真衣を止めた。

 

 どうしたのだろうか。

 

 杏梨ちゃんは、倒れている泉田の前に立った。

 

 

 

 

 

 杏梨「…泉田、何でこんな事したの?」

 ロスト泉田「……。」

 杏梨「何か理由があったんでしょ?お願い、話して。」

 ロスト泉田「……。」

 杏梨「昔、何かあったからこうなったんでしょ?ねえ泉田、最後に教えてくれる?」

 ロスト泉田「……。」

 

 何を言っても、泉田は黙ったままだった。

 人には言いたくない事情があるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨

「泉田!!!!!」

 

 

 

 

 

 千里、真衣、ロスト泉田「…!!」

 

 すると、杏梨ちゃんは大声で泉田に怒鳴った。

 

 杏梨「…何で話さないの?そんなに人には教えたくないの?そこまで黙れるような簡単に解決できる事なの?1人で抱え込まないでさ…、私に話してみなよ…!」

 ロスト泉田「北乃…。」

 

 杏梨ちゃんはそう言い終えると、声を震わせて泣き出した。

 それに対し泉田は、申し訳なさそうに杏梨ちゃんを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト泉田「…わかった。あんたになら話してもいいかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト泉田「……私さ、小学校の時にピアノのコンクール出た事あったんだ…。どれも私は最優秀賞取れて…、周りの人からはかなり褒められてて…、それから私は…、“才能ありのピアノコンクール少女”なんて言われてた…。」

 

 泉田は自分の過去について語り続けた。

 しかし私は、泉田がピアノのコンクールに出ていたという事は知らずにいた。

 それは真衣も杏梨ちゃんも、同じ事を思っていただろう。

 

 ロスト泉田「……だけどさ、私の天才ってのは終わってた…。ある日…、私より腕のいい子がいて…、いつの間にか私は…、その子よりも下に行くようになってしまった……。何度も最優秀賞はその子に取られ続けて…、私の天才少女ってのはどこかに消え去って…、底辺扱いされていった…。私は毎晩親泣きついちゃってさ……。アハハ…、今思えばバカだよね…、私って…。」

 

 なるほど…。

 だから泉田は、自分より上の立場の人が許せなかったのか。

 確かに、追い越されたら誰だって悔しい。

 

 真衣「…お前は、お前なりに努力していたんだな。」

 ロスト泉田「…まあね…、だから私は…、北乃みたいな奴が許せなかった…。だから北乃を虐めてた…。それが…、私が女王様になった…、本当の理由だよ…。」

 

 これが、泉田の最大の理由か。

 泉田の中で、苦しみや憎しみ、悲しみが入り交じって、複雑な気持ちになっていたのだろう。

 

 千里「もう、あなたは終わりって事でいい?」

 ロスト泉田「いいよ…、それで…。どうせ普通に生きてたって…、何も変わりやしないんだし…。」

 

 泉田はそう言うと、杏梨ちゃんは杖先を泉田に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「バイバイ、ロスト泉田。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バアアアンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法は放たれ、やがてロスト泉田は消え去った。

 

 これで、泉田は終わったね。

 

 長い長い女王様との戦いだった───。

 

 

 

 

 

 真衣「…大丈夫か、杏梨。」

 杏梨「うん、平気。なんだかスッキリした気分。」

 真衣「…そうか。」

 千里「これで杏梨ちゃんの虐めはなくなるね。多分…。」

 真衣「多分かよ…。そこはなくなるって締めてもいいんじゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴ…!

 

 千里「…!」

 杏梨「え、何?なんか揺れてるよ!?」

 真衣「泉田のロストを消したから、このロストワールドが崩れるんだ!

 急いで最初の入口に向かおう!」

 

 真衣はそう言い放ち、私達は一斉に走り出した───。

 

 

 

 

 



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北乃杏梨、解決

 千里、真衣、杏梨「はぁ…、はぁ…。」

 

 ようやく、現実世界に戻れた。

 

 千里「2人共、大丈夫…?」

 真衣「何とか…な…。」

 杏梨「はぁ…、はぁ…、今のは何…?」

 千里「恐らくだけど、ロストを消せばロストワールドが崩れるって仕組みだと思うんだ。はっきりした答えはわかんないけど…。」

 

 これは、江田の時もそうだった。

 ロストを消せば、ロストワールドは崩れ、スマホのアイコンも消える。

 こうなる事で、ロストの主が改心される…という事だが…。

 

 真衣「…今日はもう帰って休まねえ?部活に支障出るかもしれないし、アタシももうヘトヘトだぜ…。」

 千里「だよね…。真衣と杏梨ちゃんは大会近いし、今日は早めに休んだ方がいいかも。」

 

 私がそう言うと、真っ先に帰宅した。

 

 

 

 今回も成功…って事でいいのかな。

 

 これで泉田が改心したのであれば、成功になると思うが…。

 

 明日にでも様子を見るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 私達は、朝会のために体育館に来ていた。

 大会が近いため、在校生の激励と選手の意気込みのために集まったため。

 

 

 

 『───以上で、朝会を終わります。生徒の皆さんは、速やかに教室に戻りましょう。』

 

 司会の人がそう告げると、生徒達は体育館へと出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれって、泉田か?」

 

 「1年の?急にどうしたんだ?」

 

 

 

 

 

 杏梨「…え…?」

 

 

 

 

 

 突然、ステージに1人の少女が立っていた。

 

 泉田だ。

 

 しかし彼女は、悲しげな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 真衣「…泉田?」

 

 

 

 「泉田さん、何やってるの?早く教室に戻りなさい。」

 

 泉田「……。」

 

 千里「…!これって…。」

 

 私は、すぐに察した。

 

 今から行われるのは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泉田「…今日は、皆さんに伝えたい事があります。」

 

 

 

 

 

 「え?何なに?」

 「あの1年、何かしたのか?」

 

 周りの生徒はガヤガヤと話し合っているが、私達は泉田の方に視線を向けるだけでいた。

 恐らく、杏梨ちゃんもそうなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泉田「先日、佐島先生がお亡くなりになった事、皆さんは覚えていますでしょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泉田「その佐島先生の件ですが…、あの人を死に追いやっていたのは…、私です。私が…、佐島先生を殺めてしまいました。」

 

 そして、体育館の空気が凍り付いた。

 私は、あれで泉田が改心したんだと発覚した。

 

 泉田「何故私が佐島先生を殺めたのかと言うと…、先生への憎しみでした。私は、バレー部に所属していて、ずっと選手になろうと努力していたのですが、叶わず、苛立ちが続く日々を送っていました。今思えば、許されざる行為だと思っています。それと私はもう1つ、罪を犯していました。」

 

 私は黙って、泉田の言葉を聞いていた。

 

 泉田「…私は、北乃杏梨さんに酷い事をしてきました。才能がないからという理由で、北乃さんを傷付けて…、毎日彼女を苦しめさせていました。もちろん、才能がないというのは、撤回します。北乃さんは何も悪くないのに、私は彼女を平気で傷付けて…。本当に才能がないのは、私の方だと気付きました。その理由で、仲が良かった友達も離れていって…、気付けば孤独になって、私の心は歪んでいきました。」

 

 杏梨「泉田…。」

 

 泉田「…だから私は、この学校を辞めて、自首致します。聖麗学園高等学校の皆さん、散々迷惑かけて、本当に申し訳ありませんでした……。」

 

 泉田は泣きながら、自分の罪を全て告白した。

 

 杏梨ちゃんを憎むあまり、なりふり構わず迷惑をかけていた事。

 

 それは、とても許されざる行為であった。

 

 

 

 

 

 真衣「…これで良かったんだよな?千里…。」

 千里「改心はさせた。これが正当な方法かはまだわかんないけど…。」

 真衣「まあ…、そうだよな。アタシ達も戻るか…。」

 

 私達は、教室に戻りに体育館を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…ん?」

 千里「どうしたの?真衣。」

 真衣「あれ…、杏梨じゃないか?」

 

 廊下を歩いている時、真衣は外を見ていた。

 そこには、今パトカーに乗ろうとしている泉田と、それの前に何か言いたそうにしていた杏梨ちゃんがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 警官「ほら、早く乗るんだ。」

 泉田「…はい…。」

 

 

 

 

 

 杏梨「待って!」

 泉田「…!」

 

 私は、泉田に何か言わなきゃいけないと思い、声をかけて止めた。

 

 杏梨「泉田…。」

 泉田「…もういいでしょ。今から私刑務所行くから、止めないで。あんたは笑っていればいいから。私の事バカにしてもいいからさ…。」

 

 

 

 

 

 杏梨「…そんな事、私がすると思う?」

 

 

 

 

 

 泉田「…え?」

 

 杏梨「確かに、あなたは私に酷い事をしてきた。でもさ、あなたが捕まって、私は逆の立場になって笑うのは、私的にはしたくないかな。」

 

 泉田は、紛うことなき悪人だ。

 だけど悪人だろうが、終わってしまう人を笑う事なんてできない。

 そうした所で、何も変わらないから。

 

 泉田「……。…バカ。本当にバカ。」

 杏梨「バカなりに生きてるもん。もっと言ってもいいんだよ?」

 泉田「バカ、ドジ、マヌケ。」

 杏梨「あはは、それは言いすぎだよ。」

 

 

 

 警官「おい、話は済んだか。」

 泉田「はい。」

 杏梨「あ、泉田。最後に1ついい?」

 泉田「…何?」

 

 私はまた、泉田を呼び止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「…出所したら、また会える?」

 

 

 

 

 

 泉田「…は?頭おかしいでしょ。犯罪者と仲良くする気?」

 杏梨「…なんとなく…かな。」

 泉田「…いいけどさ。てかいつ出所するかは知らないよ?」

 杏梨「それでもいい。待ってる。」

 泉田「…本当にバカだね。あんたって。あんたらしいからいいけど。」

 

 泉田はそう言い告げ、パトカーに乗り刑務所へ行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 昼休み、私達3人は中庭で昼食を食べていた。

 

 真衣「杏梨、泉田と和解したって本当か?」

 杏梨「うん。」

 

 杏梨ちゃんがあの泉田と和解したらしい。

 あれだけ痛め付けられていたのに、友達のような関係に作り上げた杏梨ちゃんも、肝が据わってると思った。

 私なら絶対しないかな。怖いし…。

 

 真衣「よくやるなぁ…。あの騒ぎ起こしてた泉田と…。」

 

 

 

 

 

 杏梨「ねえ、千里ちゃん。」

 千里「ん?」

 

 突然私は、杏梨ちゃんに話しかけられる。

 

 杏梨「いや、もう私の家には慣れたかなって。」

 千里「まあ、慣れたっちゃ慣れたけど…、何で?」

 杏梨「私のお願いなんだけど…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「“杏梨”って呼んでほしいな。」

 

 

 

 

 

 えーと、それってつまり…。

 ちゃん付けでなく、呼び捨てって事かな。

 

 杏梨「…ダメかな?」

 千里「ううん、ダメじゃないよ。そういう事ならわかった。」

 

 私は咳払いし、呼ぶ準備を整える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「杏梨。」

 

 

 

 杏梨「…!」

 

 呼び捨てに変えると、杏梨ちゃん…杏梨は驚いた。

 

 真衣「杏梨?どした?」

 杏梨「あ、ううん、お父さんとお母さん、お姉ちゃん以外の人に呼び捨てされるの慣れてなくて…。」

 千里「…嫌ならちゃん付けする?」

 杏梨「大丈夫!私が慣れればいいだけの話だから…!」

 

 心無しか、杏梨の顔は赤くなっていた。

 

 まあ、いいか。

 

 杏梨の笑顔は戻ってきたらしいし。

 

 真衣「よし!午後も頑張りますか!アタシと杏梨、大会控えてるしな!」

 千里「頑張ってね。」

 

 もう、何も失わない。

 

 ずっと思ってきた事だ。

 

 またロストは現れるかもしれないけど。

 

 それはその時の話かな。

 

 

 

 

 

 千里「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あんたは、私を止められない。』

 

 『止める事なんてできない。どう足掻こうとも…。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時現れたもう1人の私は、一体何だったのだろうか。

 

 それを知るためにも、徹底的にロストワールドの事を知り尽くすしかない。

 

 

 

 私とロストワールドとの戦いは、まだまだ続くのであった─────。

 

 

 

 

 




これにてEpisode3は終了です。
次回からEpisode4に入ります。
次はどんな物語になるのでしょうか?
また長引かせるかもしれませんが、あたたかく待っていただけると幸いです。
お楽しみに。


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Episode4 勇者になりたい
第28話


今回からEpisode4開始です!
今回はほのぼの回となります。
本編は次回から書きたいと思っています。

それではどうぞ!


 10月。

 だんだん涼しくなっていき、植物は紅葉や銀杏に生え変わった。

 

 この前の真衣と杏梨の部活は、優勝に終わった。

 私も、自分の事のように喜んだ。

 それに、2人はロストワールドで江田や泉田を消してから、徐々に明るくなっていった気がする。

 

 

 

 真衣「なあ千里!週末遊びに行かね?」

 千里「え?どうしたの、急に。」

 真衣「杏梨と話してたんだ、気分転換にって。それと、あいつはアタシと千里に恩返ししたいんだとよ。」

 千里「恩返し…か。」

 

 まあ週末は予定がないから、たまにはいいかな。

 休日はゲームするか、散歩するかのどっちかだし。

 

 千里「いいよ。丁度予定ないから。」

 真衣「お、そう言ってくれるか!じゃあ、杏梨にメールでそうやっとくな。」

 千里「うん。それで、どこに行くの?」

 真衣「隣町にある遊園地だ。ここ最近忙しくて行けてなかったからさ。週末は部活休みだから、たまにはと思ってな。」

 

 遊園地か…。

 そういえば私、遊園地は1度も行った事なかったな。

 父親は離れ、母親は病気持ちであまり長く外にはいられなくて…。

 思えば私は、家族らしい家族の生活は送れなかった。

 

 千里(…遊園地、ちょっと楽しみかも。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~週末~

 その日、私達は電車に揺られていた。

 真衣の話によると、電車一本で行ける場所らしい。

 その中で、私と杏梨は遊園地のパンフレットを見ていた。

 

 千里「結構色んなアトラクションがあるんだね。」

 杏梨「うん!この遊園地、小さい頃にも行った事あったから、大体のアトラクションは覚えてるんだ。」

 千里「へぇ、そうなんだ。」

 

 小さい頃というと、まだ真衣と杏梨のお父さんが生きていた頃に行ったのかな。

 真衣自身も、「馴染みのある遊園地」と言っていた。

 

 『間もなく~、○○駅~、○○駅~。』

 真衣「そろそろだぞ。降りる準備しようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「ここが遊園地…。」

 

 噂では聞いてたが、賑やかな所だ。

 実際に来てみると、こんな感じなんだなと実感した。

 

 杏梨「あ!ベア太君だ!お姉ちゃん!ベア太君の所行こう!」

 真衣「おいおい、そんなに急がなくても行くよ!」

 

 真衣と杏梨は大はしゃぎだった。

 馴染みがあると、やはりこうなるのかな。

 それに、杏梨はあの熊のキャラクターの元に走り出して、あのキャラクターが大好きなんだなと思った。

 

 真衣「千里ー!どうしたー?置いてくぞー!」

 千里「あ、待ってよ!」

 

 いつもは姉御な真衣だけど、こういう時はちょっと子供っぽいと思った。

 私も、目一杯楽しまないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「ねえ、最初は何乗るの?」

 真衣「最初はまあ、無難にメリーゴーランドかな。」

 

 メリーゴーランドというと…馬とかの形をした乗り物に乗って回るあれか。

 初めてだから、偏見でしかそう思えてなかったけど…。

 

 杏梨「あ、お姉ちゃん!馬車があるよ!懐かしいなー!」

 真衣「お、そうだな。小さい時よくアタシと杏梨順番に馬の方と馬車の方に乗ってたっけ。」

 杏梨「ねえねえ、今回はお姉ちゃんが馬に乗ってよ!」

 真衣「え?いいのか?何で?」

 杏梨「うん!お姉ちゃんかっこいいもん!ロストワールドでも騎士って感じで!」

 真衣「そ、そうか?なんか照れるな。」

 

 真衣は赤面してそう言った。

 となると、私は馬車の方かな。

 

 真衣「ここがロストワールドだったら、剣掲げながら乗ってたのかもなー。」

 千里「あはは、言えてる。」

 

 馬に乗って剣を掲げる。

 なんか想像できるな。如何にもダークファンタジーって感じで。

 

 

 

 

 

 馬側に乗った真衣は、こう口に出した。

 

 真衣「こうして見るとさ、“ハイヤー!”ってやりたくなるよな。」

 千里「ここではやめてね?」

 真衣「例えの話だよ!本当にやらねえって!」

 

 真衣ならやりかねないからなぁ。

 でも、気持ちはわからなくもないかも。

 

 

 

 真衣「千里!杏梨!こっち向いてくれー!」

 杏梨「はーい!」

 千里「え、あ、ちょ…!」

 

 真衣は後ろを向き、スマホのカメラを私達に向けていた。

 杏梨は私に寄り添い、真衣に向けてピースした。

 

 真衣「千里すげー顔してるぞwこれ一生モンだわw」

 千里「え、もう1回!」

 真衣「どうしようかな~?w」

 千里「うぅ~///」

 

 もう少し早く反応してればなぁ…。

 でも、真衣が楽しそうならいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「ねえねえ!次はジェットコースター乗りたい!」

 真衣「お、いいな!遊園地の定番だよな!」

 千里「そうなの?」

 

 杏梨の提案で、ジェットコースターに乗る事になった。

 結構怖いって聞いた事はあるけど…。

 

 

 

 

 

 千里「捕まればいいんだよね?」

 真衣「ああ。下る時は思いきり叫ぶんだぞ?」

 千里「…叫ぶの?」

 杏梨「気分爽快になるからね!あ、そろそろ下り坂だよ!」

 

 乗り物は頂点まで上り、遊園地全体が見える高さまで来た。

 

 千里「うわ…、意外と広いんd……。」

 真衣「千里!下るぞー!」

 千里「……え。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオッ!!!!!

 

 真衣「うおおおおおおおおおお!!!」

 杏梨「キャーーーーーーーーー!!!」

 千里「え、ちょ、待って!速い!速い!!」

 

 急な出来事で、叫ぶ事すらできなかった。

 速いとは聞いたけど、こんなに速いとは思わなかった…。

 

 

 

 私が乗り物から降りる時まで、失神していたのは内緒の話……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…千里、大丈夫か?」

 千里「…し……、心臓止まるかと思った……。」

 杏梨「あはは、お疲れ様。」

 

 まだ足がガクガクになっている。

 乗った後って、こんな感じなのかな…?

 なんか、次回ジェットコースター乗るの怖くなってきた…。

 

 真衣「そろそろ昼過ぎるし、飯にでもするか?」

 杏梨「そうだね。今日は私が奢ってもいい?」

 

 途端に、杏梨は私達の前に立った。

 

 真衣「え?何で?」

 杏梨「私、いつもお姉ちゃんと千里ちゃんにお世話になってるから、ちゃんと恩返ししたい!」

 

 あ、そういえばそう言ってたっけ。

 

 杏梨「2人共、何か食べたい物ある?」

 真衣「じゃあ、ラーメンお願いしてもいいか?味噌で。」

 杏梨「千里ちゃんは?」

 千里「なら私もラーメンにしようかな。醤油お願いできる?」

 杏梨「わかった!じゃあ買ってくるね!」

 真衣「…1人で行けるか?」

 杏梨「うん!だから座って待ってて!」

 

 杏梨はそう言うと、テテテと屋台へと向かった。

 

 

 

 

 

 真衣「杏梨…、良い子に育って…!」

 

 すると何故か真衣は、涙を流していた。

 

 千里「真衣…?何で泣いてるの…?」

 真衣「だってよ…!昔はアタシの陰に隠れてばかりだったのに…、今はこんなに成長して…!

 お姉ちゃんは嬉しいぞおぉーっ!!」

 千里「……。(苦笑)」

 

 妹の成長で泣けてきたって事か…。

 私は思わず苦笑いしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を終えた私は、真衣にある質問をしていた。

 

 千里「ねえ真衣、この遊園地って屋台なんてあるの?」

 真衣「ああ。基本的には何でもあるぞ。ラーメンは小さめだけど、ここのやつもすげー美味いんだよ。」

 千里「真衣もハマる訳だね。」

 

 なるほど、納得した。

 焼きそばとか、綿飴とか、お祭りみたいに色々あったけど、そういう遊園地なんだと発覚した。

 

 真衣「それはそうと、次はどこ行く?」

 

 

 

 

 

 杏梨「あ、私お化け屋敷行きたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…………え。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、真衣は立ち止まった。

 

 よく見ると、真衣は顔面真っ青にしていた。

 

 千里「…真衣、どうしたの?」

 真衣「あ、いや!何でもないぞ!お化け屋敷だよな!うん!」

 千里(あれ?ひょっとして…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……真衣って怖がり?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて私達は、お化け屋敷に到着した。

 

 杏梨「着いたー!」

 千里「…ねえ真衣、嫌なら無理しなくていいんだよ?」

 真衣「だ、大丈夫!大丈夫…!お化けなんて怖くない…!!」

 

 いや、怯えすぎ。

 真衣は頼れる姉御みたいな感じなのに、意外と怖がりだという事を知った。

 それでよくロストワールド攻略できたよね…。

 

 

 

 

 

 千里「うわ…、思ったより暗い…。」

 

 中に入ると、辺りは真っ暗だった。

 その暗さはまるで先が見えなくなるくらい。

 

 

 

ピトッ…

 

 真衣「ふぇっ!?あ、杏梨…?怖くなったのか…?大丈夫、お姉ちゃんが守ってやるから…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「え?お姉ちゃん…、どうしたの…?」

 

 

 

 

 

 真衣「……へっ…?」

 

 私達は真衣の方を振り向くと、真衣はあさっての方向に向いて独り言を言っているように見えた。

 真衣、もしかして何かに触られてる…?

 恐る恐る見ていると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヤァ」

 

 

 

 

 

 真衣「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣

「ぴぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、何とかお化け屋敷から出た模様…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は杏梨が飲み物を買いに行った。

 

 千里「真衣…、本当に大丈夫…?」

 真衣「……大丈夫……じゃ……ないです…………。」

 千里「…というか、真衣って怖がりだったんだね。意外な一面が見れたかも。」

 真衣「……もうお化け屋敷なんて二度と行かん…。」

 

 私は真衣の様子で、苦笑いするしかなかった。

 

 千里「ところで、真衣は何でロストワールドは平気なのにお化け屋敷はダメなの?」

 真衣「アタシ、実は昔からああいうの無理なんだよ…。ロストワールドは現実世界と似ていてまだ見慣れているからいいけどさ…。お化け屋敷みたいな所、暗くて何が出るかわからないだろ…?それに昔、ホラーもの見て寝れなかった事あったし…。」

 千里「……(苦笑)」

 

 …なるほどね…。

 そう考えれば、真衣が怖がりなのも納得できるのかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に、観覧車に乗る事にした。

 2人は行く前、「観覧車は最後に残しておきたい」と言っていたので、私もそれに賛成していた。

 

 千里「わぁ、結構高いね。」

 真衣「この高さで、街が見えるよ。」

 千里「本当だ。実際に見てみると、街ってこんなに広いんだね。」

 

 今まで高い所から街を眺めた事がなかったから、なんだか新鮮だな。

 

 

 

 杏梨「…ねえ、お姉ちゃん、千里ちゃん。」

 真衣「ん?」

 

 突然、杏梨に話しかけられた。

 

 杏梨「もし、またロストワールドが出たら、行く?」

 

 なんだ、そんな事か。

 もしかしたらまたロストワールドが出るかもしれないからね。

 

 真衣「そうだな。善良を失った人々が集まる場所だから、アタシ達で消さないとダメだ。」

 千里「その時はその時だね。誰がロストになるかは、私達もわからない。」

 真衣「…だな。さっさとロストワールドを作った奴を見つけ出したいモンだ。絶対に止めようぜ。」

 千里「うん。」

 杏梨「そうだね!」

 

 

 

 真衣「アタシ達で、ロストワールドの主を見つけ出しに行くぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、杏梨「おーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 こうして、私達の絆は深まった。

 

 絶対にロストワールドの主を見つけ出す。

 

 そして、もう誰も主のせいで泣かせない。

 

 私は、そう誓ったのだ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「……へえ、私を倒そうっていうんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「……ならかかって来なよ。その時は徹底的に締め上げてやるから…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きの通り、次回から本編となります。
章の「勇者になりたい」という事で、新キャラが出そうかと考えています。
お楽しみに!


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第29話

今回から本編開始です。


~2日後~

~杏梨視点~

 午前中、私は学校で授業を受けていた。

 あれから私は、虐められる事は無くなり、普通通りの学校生活を送っていた。

 

 

 

 しかし、気になる事があった。

 

 

 

 杏梨「……。」

 

 それは、私のクラスで1人欠席している子がいるという事。

 

 今日だけじゃない、この学校に入学した4月からずっとだ。

 

 最初は、家庭の事情で休んでいるのかと思ってた。

 

 でも、私の考えは違かった。

 

 

 

 

 

 先生『あの子なら、オンラインの方で授業を受けていますよ。4月からずっと。』

 

 

 

 

 

 ある日、先生の言っていた事が頭の中で流れた。

 

 その子は、4月から学校に来る事は一度もなく、ずっとオンラインで授業を受けていた事。

 

 理由はわからない。

 

 ましてや、先生も聞かされてないという事。

 

 それが、私はどうしても気になっていた。

 

 

 

 

 

 先生「北乃さん!」

 

 

 

 杏梨「…!はい!何ですか!?」

 先生「さっきからボーッとしてるけど、具合でも悪いの?」

 杏梨「あ、いえ!大丈夫です!ごめんなさい…!」

 先生「そう?ならいいけど…。」

 

 私の考えすぎかな…。

 

 でも、解決しないと落ち着かない。

 

 徹底的に調べないとダメかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~昼休み~

~千里視点~

 私はいつもの3人で昼食を取っていた。

 そこで、杏梨からある事を聞かれた。

 

 

 

 真衣「4月から学校に来てない生徒?」

 杏梨「うん。今10月でしょ?私も入学して6ヶ月経つけど、未だに学校に来てない子がいるらしいの。」

 

 杏梨のクラスで、入学して6ヶ月も不登校になっている生徒がいるらしい。

 それは私もおかしいと思っていた。

 普通なら入学したらずっと学校に通うはずなのに、未だに登校していない生徒がいるという事。

 

 真衣「家庭の事情でもせめて1、2週間くらいだろ?なのに6ヶ月は休むはずないもんな…。」

 千里「…なんだか、気味が悪いね。」

 杏梨「それがどうしても気になって。だから調べないとって思ってたの。」

 

 まあ、杏梨の言っている事はわからなくもないかも。

 

 真衣「放課後とかに、アタシ達も先生に聞いてみるか?」

 千里「それがいい。無理に他人の家に押し付けるのも良くないし。」

 真衣「なら、放課後調査開始だな。なんか、泉田の時と同じだな。」

 

 今回も忙しいね。

 

 江田の件といい、泉田の件といい…、ここ最近は調査ばかりだな。

 

 調査といっても、聞き込みは泉田の時以来だけど…。

 

 まあ、グズグズ言っていられないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~放課後~

~職員室~

 放課後、私と真衣は職員室に来ていた。

 

 真衣「2年の北乃真衣です!町田先生はいらっしゃいますか?」

 

 町田先生とは、杏梨のクラスの担任の先生だ。

 名前は町田亮子先生。

 私はここに通うようになってから、何回か会った事がある。

 

 町田先生「北乃さんに彩神さん?どうかしたの?」

 真衣「あの、妹から聞いたのですが…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣は、杏梨に知らされた事を淡々と町田先生に伝えた。

 

 町田先生「…なるほどね。そういえばあなたは、杏梨さんのお姉さんだったわね。」

 真衣「ええ。それで、今言った件ですが…。」

 町田先生「その件は、実は先生も気になってたの。だけど、詳しい事はわからないわ。」

 真衣「そうですか…。」

 

 町田先生も気になってはいたらしい。

 しかし、その理由は明かされていない。

 すると、町田先生は口を開いた。

 

 

 

 

 

 町田先生「あ、そういえば去年の面談の時…。」

 真衣「…!何かありました?」

 町田先生「確か、11月か12月辺りだったかしら?よく覚えてないけど、その時私の元に子供と母親が来ていたの。」

 

 となると、私がまだここに来ていない時の事か。

 

 

 

 町田先生「強引な感じで、“授業は自宅の方でお願いします”って言ってきた気がするわ。」

 千里「え?それってどういう事ですか?」

 

 オンラインで授業を受けているって事?

 わざわざ学校に行かせず、家で過ごさせているって事かな。

 

 町田先生「理由までは言われてないけど…、母親の方からお願いされたのは確かね。だけどその時子供は……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町田先生「……私に、自分を助けてほしそうな顔をしていたの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「助けて…ほしそうな顔…?」

 

 どういう事だろう。

 その子供は、町田先生に助けを求めていた。

 あの家族の方で、何かあったのだろうか。

 いや、そうに違いない。

 そうでなかったら、町田先生が言っていたあの顔はしていないだろう。

 

 真衣「その顔をしていた…でも、その理由はわからないと…。そういう事でいいですか?」

 町田先生「ええ。私が知っている事はそこまでね。」

 真衣「ありがとうございます。失礼しました。」

 

 真衣はそう告げて、職員室を出て行った。

 

 

 

 

 

 町田先生「…彩神さん、ちょっといいかしら?」

 千里「…はい?」

 

 私も職員室を出ようとすると、町田先生に止められた。

 

 

 

 町田先生「大変だったでしょう?いきなり担任だった佐島先生が亡くなったり、泉田さんの件に巻き込まれたりしてて…。」

 

 なんだ、その事か。

 

 千里「いえ、全然大丈夫です。佐島先生が亡くなったのは残念に思いましたが…。」

 

 確かにいきなりショックな出来事に巻き込まれたりしていたけど、なんとか解決はできた。

 佐島先生に関しては、すごく残念だった。

 だって、私がここに迎え入れたり、私に最初に気遣ってくれていたのは、あの佐島先生だったのだから。

 

 町田先生「それで、何で彩神さんもこの事を?やっぱり、北乃さんから聞いてた?」

 千里「ええ。事の発端は杏梨からですが、それが私も真衣も気になり出したので…。」

 町田先生「そうなのね。確か2人と仲が良かったのよね。あなたと北乃さん2人とよく一緒にいた所、前からよく見てたもの。」

 

 やはりそうか。

 確かに、2人とよくいた時間はあったな。

 

 町田先生「まあ…、さっきの件に戻るけど、彩神さんはその件について、どうするつもり?」

 千里「そうですね…。まあ一度気になったものは、解決するまで落ち着かない性格なので…。」

 町田先生「なるほどね。でも、乱暴なやり方で解決するのはダメよ?」

 千里「……。ええ、そのつもりです。」

 

 乱暴なやり方…。

 

 思えば、ロストワールドでやっている事は、本当は乱暴な事なのだろうか。

 

 今まで、よくわからないままでやってた。

 

 町田先生「引き止めてごめんなさいね。彩神さんはこの後予定はあった?」

 千里「いえ、特に何も。このまま下校するだけです。」

 町田先生「そう。気を付けて帰ってね。」

 千里「はい。失礼しました。」

 

 私は会釈し、職員室を出た。

 

 

 

 現実で悪人が現れる。

 

 そしてロストワールドに、その悪人のロストが現れる。

 

 ロストワールドでロストを消して、現実の悪人は改心する。

 

 これが、私と真衣、杏梨のやってきた事だ。

 

 

 

 しかし、それが本当に正当な事なのか。

 

 それが本当に、人を助ける事になるのか。

 

 強引なやり方ではないか。

 

 私はロストワールドで、最初のロスト…江田のロストを消してから、つくづくそう思うようになった。

 

 

 

 多分これは、真衣も杏梨も思っているのかもしれない。

 

 次またロストが現れたら、どんな気持ちで消せばいいのかがわからない。

 

 

 

 こんなんで私は、ロストワールドで成すべき事を成せるのだろうか?

 

 そんな事を考えながらも、私は歩き出した─────。

 

 

 

 

 

 

 

 




キーワード「助けてほしそうな顔」が出てきました。
これはどういう事でしょうか。
あの家庭に何があったか。
ここから明らかになっていきます。

そういう所も考えさせながら書いていきたいと思います。
次回もお楽しみに。


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第30話

気付いたらもう30話まで書いてましたw
それと、お気に入り登録してくれた人が10人超えました!ありがとうございます!

これからも何卒よろしくお願い致します!

それでは前回の続きとなります。どうぞ!


~千里視点~

 あれから私は、寄り道がてらに本屋に寄っていた。

 この前ネットで面白そうな本を見つけたから。

 当時は在庫ありの表示があったので、今日本屋に行って買ったという流れだ。

 

 

 

 その帰り道。

 5時を回った所だ。

 

 

 

 周りには、他の学校の生徒や、仕事帰りの大人達が集っていた。

 その中に紛れ込んで、私は歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……!……!!』

 

 

 

 

 

 千里「…ん?」

 

 

 

 

 

 路地裏の方で何かが聞こえる。

 

 不信に思いながら、私はそこに行く事にする。

 

 

 

 

 

 『どう………う事が………い…!?』

 

 

 

 

 

 だんだん近くなってきてる。

 

 誰かが争っているのだろうか。

 

 薄暗く、闇のような空間を、私は歩き続ける。

 

 

 

 

 

 するとそこには─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お母…さん……、やめて……。」

 「はあ?あんたが言う事を聞かないからこうなるのよ!傷を付けられたくなかったら従いなさいよ!!」

 

 

 

 そこには、母親らしき女が男の子に暴力を振るっていた。

 おまけに、男の子の体は縄で縛られている。

 もしかして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町田先生『……私に、自分を助けてほしそうな顔をしていたの。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町田先生が言っていたのは、これの事だったのだろうか。

 

 これは、本格的な犯罪だ。

 

 証拠を残そうと、私はスマホを取り出した。

 

 

 

 「痛い……。」

 「はぁ…、はぁ…。まだ殴り足りないわ。お母さんの怒りが収まるまで付き合ってもらうから。」

 「やめて……。っ…!」

 

 男の子は、この光景をスマホで撮影している私の事に気付いた。

 

 目に涙を浮かべながら、助けてほしそうに私を見た。

 

 それに気付いた女は、私の方に振り向いた。

 

 「…何?見せもんじゃないのよ。関係ない奴は消えなさいよ。」

 千里「…!」

 「消えろって言ってんだろ!!」

 

 

 

 

 

バキッ!!

 

 千里「ぐっ…!?」

 

 私は逃げようとしたが、間に合わず顔を殴られた。

 

 痛みを抑えながら、私は逃げ出す。

 

 今は、手を出せる状況ではない。

 

 怖くなり、私は一目散に走った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「痛…。」

 

 なんとか、北乃家まで帰ってこれた。

 鼻ら辺を思い切り殴られた為、鼻血がダラダラと流れ落ちる。

 ティッシュを持っていなかったので、手で抑える事しかできなかった。

 

 男の子を殴ってたあいつ…、もしかするとあの子の不登校の原因かもしれない。

 そうとしか思いようがなかった。

 

 

 

 

 

 真衣「あ、千里!」

 千里「…!」

 

 用事が終わったのか、真衣と杏梨が来た。

 

 杏梨「どうしたの!?鼻血出てるよ!?」

 千里「あ、うん、平気だよ…。」

 真衣「平気な訳無いだろ?早く鼻にティッシュ詰めとけって!」

 

 真衣はそう言うと、ティッシュの準備をするのか颯爽と家に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、鼻血を流した理由を2人に話した。

 

 真衣「虐待…?」

 千里「…うん。たまたま寄り道してたら、男の子が虐待されてた。それがこれだよ。」

 

 私はその光景を2人に見せた。

 あの時、私は動画を撮っていたのだ。

 これなら証拠になりやすいかもしれないと思ったから。

 

 

 

 『まだ殴り足りないわ。お母さんの怒りが収まるまで付き合ってもらうから。』

 

 

 

 杏梨「何これ…、酷い…。」

 真衣「相当狂ってやがるな…。これ普通に犯罪だぞ?」

 

 確かにそうだ。

 路地裏だろうが、外であればすぐにバレると思うが、当時周りには誰もいなかった。

 いや、いたんだろうけど、あの女に見つかり殺された…という事も有り得る。

 可能性は低いと思うけど、虐待しているのであれば、口止めのためにやったと私は思う。

 

 千里「ねえ真衣、町田先生から聞いた話を覚えてる?」

 真衣「え?何でだ?」

 杏梨「町田先生の所に行ったの?」

 千里「うん。私も気になっててね。町田先生に聞けばわかるかなって。」

 真衣「で?何で町田先生の話が出てくるんだ?」

 千里「町田先生、こう言ってなかった?」

 

 私ははっきりと覚えてる。

 こんな大事な事は忘れる筈が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…“助けてほしそうな顔をしていた”って。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの場にいた事で、私は町田先生が言っていた事を思い出したんだ。

 それが、これに繋がるのかもしれないから。

 

 真衣「…て事は、不登校の理由は虐待って訳か?」

 杏梨「そんな…。」

 千里「今言った事は、あくまでも仮説ね。だけど一理あると思って2人に伝えたんだ。」

 真衣「マジかよ…。」

 

 不穏な空気が漂う。

 子供に暴力を振る親。

 そんな奴が、親の資格があるのだろうか?

 いや、十中八九無いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「アタシ、思うんだけどさ。」

 千里「ん?何?」

 

 突然、真衣は口を開いた。

 

 

 

 

 

 真衣「…この世の中、何で身勝手で腐った大人がいるんだって、親父が死んでから常々思ってたんだ。」

 

 

 

 

 

 千里「真衣…。」

 真衣「大人になって、変わる事なんてほんの少ししかない。だけどさ、何で大人になれば悪い方向に変わっていくのかって思ってたんだ。誰だってそうじゃん?良い人もいれば悪い奴がいる、綺麗な心もあれば汚ねえ心もある。高校生のアタシが言えた事じゃないが、そんな汚ねえ大人が何で世の中に沢山いるんだって、嘆いてばかりだったんだ。」

 杏梨「お姉ちゃん…。」

 

 真衣の言っている事は間違ってない。

 私もそう思った。

 真衣の話を聞いて、私は過去を…小さい頃の事を思い出した。

 ひょっとしたら、私と真衣は同じ気持ちを抱えながら生きていたのかもしれない。

 

 真衣「今回の件も、そんな事嘆いてばかりだった。本当はアタシだって、ロストワールドに行かなくても、本気でぶつかりてえと思ってたよ。腐った世の中見せられ続けて、自分は何もしないなんてできる訳ねえだろ?」

 千里「それはまあ…、そうかもね…。」

 真衣「…でもできなかった。それは、アタシが無力なだけだったから。後先が怖くてぶつかれなかったんだよ…。」

 

 真衣は、今にも悔し泣きしそうな顔を作っていた。

 人間は、無力な存在だ。

 強い者もいれば、中には弱い者がいる。

 私達は、現実では何もできない弱き人間だった。

 

 千里「誰だって怖いよ。ああいう奴らに立ち向かうのは。」

 真衣「…だよな。ごめん、急に嘆いて。彼を…あの子をアタシ達で救おうぜ。」

 千里「やろう。」

 杏梨「うん。助けに行こう。」

 

 有言実行。

 

 覚悟を決めた私達は、彼を助ける事に決めた。

 

 苦しく、地獄の中で彷徨っている彼を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第31話

~土曜日~

 千里「ここが、昨日私が来た所。」

 

 私は、昨日男の子が虐待されていた所に2人を連れてきた。

 路地裏のちょっぴり狭い、行き止まりの場所。

 

 真衣「確かに虐待するには、あいつにはいいスペースかもしれないな。」

 杏梨「ここで男の子は暴力を振られたんだよね?」

 千里「うん。だから男の子の家はこの近くだと思ってる。でなかったら、わざわざこんな場所に連れて来られないから。」

 

 もしこの近くに住んでいなかったら、大抵家の中ですると私は思う。

 どっちにしろ、犯罪に変わりはない。

 

 真衣「なあ杏梨、入学式の日の事覚えてるか?覚えてたら男の子の名前ってわかるか?」

 杏梨「うーん…。」

 

 杏梨は思い出そうと考え込んだ。

 6ヶ月って言ってたから、ちょっと厳しいかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「萩…君だったかな。」

 

 

 

 真衣「萩?」

 

 杏梨から出た、「萩(はぎ)」。

 それは苗字だろうか?

 

 杏梨「下の名前は覚えてない…。だけど、萩って苗字だけは覚えてた。確か、先生が名前を呼んでいたけど、本人はいなかったんだと…思う…。」

 

 うろ覚えそうに杏梨は振り返った。

 というか、僅かに覚えているのか。

 

 真衣「じゃあ、この近くに萩って苗字を探せばいいんだな?」

 千里「…あると信じたいね…。」

 

 私達はアパートの中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「えーっと…、あった!萩!」

 千里「ここか。」

 

 ようやく見つけられた。

 アパートC102号室に住んでいたらしい。

 隅々まで探したから、思いの外時間が経かった…。

 

 真衣「んで?どうする?訪問に行くの。」

 

 問題はそれなんだよね…。

 私は昨日あそこに行って、女に目を付けられたから…。

 

 

 

 千里「じゃあ真衣、お願い。」

 真衣「…は?」

 千里「私、あの時顔覚えられたかもしれないから、代わりにお願いできる?」

 杏梨「あ、動画撮るために?」

 千里「うん。」

 真衣「しゃーねえなー…、わかったよ。」

 千里「危なくなったら逃げるんだよ?」

 

 私は真衣に訪問を任せ、杏梨と一緒に陰に隠れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 千里にお願いされて、仕方なくやってみるが…。

 暴力振るほどだもんな。気を付けて行かないと…。

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 真衣「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …インターホンを押しても、誰も出てくる気配はない。

 もう一度押してみよう。

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 真衣「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …やっぱり出てこない。

 留守なのだろうか?

 

 またもう一度インターホンを押してみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ…

 

 おっと、ドアが開いたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何か?」

 

 なるほど、こいつが例の女か。

 

 真衣「あ、どうも。今お伺いしても宜しかったでしょうか?」

 「何ですか?セールスならお断りです。」

 真衣「いえ、セールスではないんです。ちょっとお宅の事をお伺いしたくて。」

 「結構です。帰ってください。」

 

 くそ、こいつガード硬ぇな…。

 

 真衣「ちょっとだけお話するだけでもいいんです。どうかお願い申し上げ─────。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「帰れ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…え?」

 

 

 

 

ジャキンッ!!

 

 真衣「…!!」

 

 するとアタシは…、何故か包丁を向けられた。

 

 「帰れっつってんだよ!!物分りの悪いゴミ虫が!!!」

 真衣「ゴミ…!?」

 「さっさと回れ右しろ!!ぶっ殺されてえのか!?あぁ!?」

 真衣「ぐっ…!くそ…!」

 

 このままではどうしようもない。

 歯向かった所で殺されるだけだ。

 

 真衣「…失礼しました~。」

 

 あれでヤバい奴だと発覚した。

 一先ず今日は引き返すとするか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 千里「今の奴…、ヤバかったね…。」

 真衣「…ああ。本気でアタシを殺そうとしてた。あのまま歯向かってたら刺されてたかもしれない。」

 杏梨「良かった…。私が行かなくて…。」

 

 あの女、脅してまで無理矢理帰すのか。

 完全な犯罪者じゃん…。

 

 真衣「でも、一つだけ良い事があったぜ。奴の本性を見い出せた。」

 

 まあ、それが証拠に残ったって訳だね、

 録音しといて良かった。

 

 千里「動画と録音データ…。犯罪に繋がる証拠が一つ増えたね。」

 杏梨「…ねえ、やっぱりこういうのって警察に任せた方がいいんじゃない…?」

 真衣「それだとその時来た警察が殺されるかもしれない。ある程度証拠を残して、それを警察に報告するっていう流れだ。」

 

 まあ、確かにそうだね。

 もしかしたらあの女は頭が切れる奴かもしれない。

 捕まらない為の対策はしっかり練ってるのかもしれないからね。

 

 千里「とりあえず、今日は一先ず退散という事で、今度またここに……。」

 

 

 

 私はスマホをホーム画面に戻すと、ある異変に気付いた。

 

 

 

 

 

 真衣「…!これ、ロストワールドに入る為のアイコン…!?」

 

 そう、あの時消えたアイコンが、ここでまた現れたのだ。

 

 千里「ねえ、2人もスマホ見てみてくれる?」

 

 

 

 真衣「…!アタシのにもある!」

 杏梨「私のも!」

 

 どうやら、女がロストとして現れたって事だね。

 こうなるだろうとは思っていた。

 

 千里「どうする?明日またここに来て、ロストワールドに行くって事もできるけど…。」

 真衣「…いや、出てきたのなら行くしかねえだろ。」

 千里「…そう言うと思った。」

 

 どうやら、真衣は覚悟ができたらしい。

 

 杏梨「私も行く!早くこんな事やめさせたいもん!」

 千里「杏梨…。…わかった。」

 

 皆、ロストワールドに行く事に決めたね。

 

 

 

 千里「じゃあ、扉を出すよ!」

 

 そう言い、アイコンをタップした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 案の定、ここのロストが待つロストワールドへの扉が出てきた。

 

 真衣「よし、行くぞ!」

 杏梨「おー!」

 

 まだ予想もついていないロストワールド。

 

 果たして、どのようなものなのか。

 

 お手並み拝見と行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第32話

かなり間を空けてしまい申し訳ないです…m(_ _)m
いつの間にかUAが1300回超えていました。
読んでくれた方々、本当にありがとうございます!

それでは本編どうぞ!


 千里「潜入成功。」

 

 現実世界から、赤黒いロストワールドへ移り変わった。

 

 真衣「さて、どんなロストが来るか…。それと、ぜってーあの男の子を助けてやろうぜ。」

 杏梨「…あれ?ねえ、あれ見て!」

 

 私と真衣は、杏梨の指差した方に顔を向けた。

 

 

 

 

 

 真衣「何だこれ…。でっけー穴…。」

 

 そう、現実世界とは違い、アパートのほぼ全体を囲んだかのような巨大な穴があった。

 しかし、そこには空いていない穴があった。

 

 千里「あそこ、アパートCだよね?」

 真衣「本当だ。あそこだけ穴空いてねえな。」

 

 もしかすると、この穴の中を通って、アパートCの所へ向かえという事かもしれない。

 

 千里「…そう簡単には進ませないって事か。」

 杏梨「そういえばさっき、脅して帰すようにやってたよね?それがこれに繋がるのかな…。」

 真衣「わかんねえけど…、やる事は一つ。あそこのアパートCの所への道を辿るだけだ。」

 

 有言実行だね。

 この穴の中に入って、アパートCの所まで潜り抜ける。

 大変だろうけど、通らなければならない道だ。

 

 

 

 千里「あ、この梯子を伝って降りるのかな。」

 

 この穴の中に入る為には、ここから通るらしい。

 よく見るとこの穴は、底が見えないくらい深い。

 いや、黒い煙幕で隠されているのか?

 まあ、どの道降りるしかない。

 

 真衣「…律儀に梯子用意してくれてるな。」

 千里「とりあえず降りよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「いやー、かなり深いな!」

 

 やっとの事で底まで降りられた。

 途中真衣がズルして梯子を滑り降りたのは内緒の話…(※ご想像にお任せします)。

 

 千里「…これ、戻る時大変じゃない?梯子がこんなに高いと…。」

 真衣「それアタシも思ってた。ロストを消した時、一番最初に入った所から出ないとダメなんだよな。」

 

 その通り。

 ロストを消せば、そのロストワールド自体崩れるため、途中で見つけた抜け道から出ても意味はない。

 これ戻る時大丈夫かな…。

 

 千里「ロープとかあれば良かったんだけど…。」

 杏梨「都合良く見つかるかって話なんだよね…。」

 真衣「まあ、考えるのは後にしようぜ。まずはあいつのロストを見つける所からだ。」

 千里「そうだね。対策も戦略も考えないといけないし。」

 

 別のロストだから、どのように襲いかかってくるかはまだわからない。

 戦い方が全て同じとは十中八九限らないから。

 私達は長い道のりを歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???視点~

 

 

 

 

 

 『帰れっつってんだよ!!物分りの悪いゴミ虫が!!!』

 

 

 

 『さっさと回れ右しろ!!ぶっ殺されてえのか!?あぁ!?』

 

 

 

 

 

 お母さんの怒鳴り散らす声が聞こえた。

 

 僕の家に来た人が、僕を助けに来たのかな。

 

 あのお姉ちゃんが助けに来たのかな。

 

 でも、お母さんが帰してしまった。

 

 無理矢理にでも助けてほしかった。

 

 でも僕は、それをさせてあげられなかった。

 

 

 

 このまま、僕はお母さんの言いなりになるのかな…。

 

 

 

 嫌だよ…。そんなの…。怖いよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…柊太。」

 

 

 

 「…!」

 

 「ちゃんと大人しく待っていたわよね?」

 

 「あ…、う、うん…。」

 

 「わかればよろしい。でもね、これ以上お母さんに迷惑をかけるのであれば、例えあんただろうが容赦しないから。昨日のあれでわかったでしょ?」

 

 「……。」コク

 

 「頷くんじゃなくて“はい”でしょ?」

 

 「……はい…。」

 

 「お母さんご飯作るから、勝手に部屋から出ない事。いいわね?」

 

 「はい…。」

 

 

 

 僕は、たったそれだけしか言えなかった。

 

 お母さんの言われるがままに動く事しかできなかった。

 

 少しでも歯向かったり、反抗したりすると、痛い思いされる。

 

 僕はこのまま…、監視対象とされてしまっていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 真衣「トドメだ!!」

 

ザシュッ!

 

 あれから私達は、ロストを倒しつつアパートの下まで向かっていた。

 ここまでが本当に長い。

 敵の数からして、ここの主も相当強敵なのではないか?

 

 杏梨「これじゃいくら気力があっても足りないよぉ…。」

 千里「…少し休む?さっきから動きっぱなしだからさ。」

 真衣「ああ。そうした方がいい。途中でぶっ倒れたら困るからな。」

 

 そうだね。ロストワールド内でも時には休む事も大切になってくる。

 戦いの支障を出さない為に。

 

 杏梨「お姉ちゃーん、千里ちゃーん、飲み物ない?」

 真衣「ふっふっふっ、そう言うと思って、スポドリ持って来たぜ!」

 

 真衣は懐からスポーツドリンクを取り出した。

 よく運動部やスポーツ選手が飲んでるやつだ。

 

 千里「用意周到だね…。」

 真衣「水分補給は大事だぞ…って、考えてみたら先月よくこれなしで乗り越えたよな、アタシら…。」

 千里「まあ、ありがとう。あ、ちゃんと3人分用意してある。…てか、どうやって持ち歩いていたの?」

 真衣「細かい事は気にすんな!ほら、千里の分!」

 千里(あまりメタ発言しない方がいいなこれ、うん。)

 

 私は遠慮なくスポーツドリンクを受け取った。

 

 

 

 

 

 真衣「ぷはーっ!生き返るぜ~。」

 千里「おかげで回復した。てか、これさえあれば杏梨の回復いらないんじゃない?」

 杏梨「ちょっとー!私が使えないみたいな言い方しないでよー!」

 千里「ごめんごめんw」

 

 杏梨は頬をぷくーっと膨らませた。

 ちょっと意地悪しちゃったかな。

 すると、真衣は立ち上がった。

 

 真衣「よし、いい感じに休めたんじゃないか?」

 千里「そうだね。ありがとう、真衣。」

 真衣「いいって事よ!…それに、アタシは彼を閉じ込めている鳥籠の鍵を開けたいからな。あいつの本性を見たら、それこそ黙っていられねえよ。」

 

 どうやら、真衣は本気だね。

 杏梨も、真剣な表情をして真衣の言葉を聞いていた。

 

 千里「…私も同じ事思ってた。動画を撮ってた時、一発殴られたんだ。ロストワールドで借りを絶対に返してやる。」

 

 覚悟は決まった。

 他人を巻き込んでまで暴力を起こす犯罪者は、この世には必要がある訳がない。

 そうなった時点で、誰一人見向きもしないだろう。

 

 杏梨「行こう。萩君を助けに。」

 真衣「ああ。やってやろうぜ。」

 

 そうして私達は、アパートへと乗り込んだ。

 

 更なる闇を切り払う為に───。

 

 

 

 

 




少年の名前が出てきましたね。
果たして千里達は無事柊太を救う事はできるのでしょうか。
そしてロストワールドの主はどのような人物なのでしょうか。

また長く間を空けてしまうかもしれません。ご了承ください。
次回もお楽しみに!


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第33話

本っっっっっ当にお久しぶりです。
1ヶ月半ぶりくらいの投稿となります。
今まで何してたかと言うと、なかなかモチベーションが上がらず、結局投稿が長引いてしまいました。
かなり久しぶりの投稿なので、前回の話を見てから読むと、「ああ、そういえばこんな事あったな」と思うかもしれません。
主も見返しつつ書いたつもりなので、文章力とかは相変わらずかもしれませんが、是非楽しめればと思います。

前置きが長くなってすみません!それではどうぞ!


 真衣「で、中に入ってみたのはいいが…。」

 

 私達は、アパートC102号室に入った。

 しかし…。

 

 千里「何これ…、気味悪い…。」

 

 そこは、アパートの外見では考えられないくらい広い空間だった。

 しかもおどろおどろしい雰囲気が醸し出されており、頭がおかしくなりそうな感じだ。

 

 真衣「アタシら、間違えてないよな?このアパートで合ってるんだよな?」

 千里「それは確かだよ。でも、こんな空間に繋がっていたとは…。」

 杏梨「とりあえず、ロストの主を探す所から始めよう?」

 

 まあ、そうした方がいいよね。

 あの子を助けるためにも、このロストワールドの主の情報が必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…それにしても、本当に不気味だな、ここ…。」

 千里「今までこういうのなかったからね…。」

 

 今回のロストワールドは、現実と同じ建物だった筈が、かなりガラッと変わって広い空間となっている。

 まるで、これまでのロストワールドとは別のどこかの異世界に迷い込んだような。

 

 真衣「でも…、行くしかねえよな…。」

 

 よく見ると真衣は、体を震わせていた。

 

 杏梨「あれ?もしかしてお姉ちゃん、怖いの?」

 真衣「は!?べ、別に怖くねーし!!」

 千里(いや、お化け屋敷でめっちゃ怖がってたじゃん…。)

 

 私は心の中でそうツッコミを入れた。

 もう怖がりなのバレバレだって…。

 

 

 真衣

「ああ畜生!!さっさと出てこいよ、ここの主ー!!」

 

 

 千里「叫んでもどうにもならないでしょうに…。」

 

 ついには真衣は、天井を見上げて叫び上げた。

 

 すると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「私をお呼びかしら?」

 

 

 

 

 

 千里、真衣、杏梨「……!!!」

 

 突如、背後から声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 真衣「…お前、ここの主か?」

 ???「ええ、そうよ。ようこそ、萩真由美のロストワールドへ。」

 

 やはりこいつが、このロストワールドの主だった。

 見た顔だ。あの男の子を虐待していた女だった。

 どうやら、「萩真由美」というらしい。

 その女のロストは、看守のような姿をしていた。

 

 真衣「こいつから聞いたぜ。自身の子供を虐待してるってな。」

 ロスト萩「自身の子供?ああ、柊太の事かしら?何の話かわからないわね。私はただ単に教育していただけなのに。」

 千里「教育?馬鹿げた事言うな。私ははっきりとこの目で見たから。現実のあんたなら気付いた筈だよ?私がスマホで動画撮ってたのだって見たでしょ?」

 

 あれで教育とか…こいつは本当に腐ってる。

 実の子供に暴力だよ?教育な訳ないじゃん。

 

 ロスト萩「馬鹿げてるのはそっちでしょ?言う事を聞けない子供をわからせる為にやってるのよ?それの何が悪い訳?」

 

 うわ、最悪な奴だ。

 

 真衣「……てめえ…、相当狂ってるな。そこまでして育ててるって訳か。それで親の資格あんのか?」

 ロスト萩「…人の話を分からない奴なのね。ならあんた達も“教育”しないとねぇ…。」

 

 彼女はそう言うと、何か懐から取り出した。

 

 

 

 

 

バリバリバリ……!!

 

 彼女が持っているのは、電気を纏った棒のようなものだった。

 

 杏梨「…!何それ…!?」

 ロスト萩「1回痛い目に遭った方がいいって思ってねぇ。電気警棒持ってきといて良かったわぁ。」

 

 邪魔する奴はそれで駆除するって事か…!

 

 真衣「やってやろうじゃねえか、この野郎!!」

 千里「…!真衣!ダメ!!」

 

 真衣は真っ先にロストに突っ込んで行った。

 

 

 

 が、しかし───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト萩「……遅い。」

 

 

 

 

 

バリバリバリ!!!

 

 真衣

「…!!!があああああああ!!!」

 

 警棒は真衣の首筋に突き刺さり、電撃を発し出した。

 やがて真衣は動かなくなり、倒れてしまった。

 

 杏梨「お姉ちゃん!!」

 ロスト萩「安心しなさい、殺してはいないわ。当たり所が悪くて気絶しただけだから。」

 千里(こいつ…。)

 

 まさかだとは思うが、人間の弱点を知っているという事…?

 瞬時に首筋を狙ったのなら、こいつは相当頭が切れるな。

 

 ロスト萩「残り2人はどうする?彼女のように電撃もらいたいなら、別にかかって来ても構わないわよ?」

 杏梨「千里ちゃん…!」

 千里「…ここは一旦退こう。真衣のようにやられちゃどうしようもない。」

 

 相手は弱点を知り、電撃を走らせる。

 真っ向に戦おうとしても、負ける事は確定している。

 ならそうならない為にも、撤退した方がマシだ。

 

 ロスト萩「あら?逃げるの?せっかくここまで来たのに勿体無いわねぇ。」

 千里「確かにそうかもしれない…。でも、あんたの正体を知ったからには、必ずとっちめてあげるから。」

 ロスト萩「アハハハハ!!面白い子ね!いいわよ、いつでもかかって来なさい。命の保証はしないけどね!」

 

 私達は真衣を連れて、アパートから出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「悪い…、1人で突っ走って…。」

 

 あれからロストワールドの出入口の前まで来て数分。

 真衣はようやく目を覚ました。

 

 千里「本当だよ…。真衣ってあんな奴の前にすると、すぐ周り見えなくなるんだから。」

 真衣「そこは申し訳ないと思ってる。悪人に煽られて、つい黙ってられなくてよ…。」

 千里「とりあえず、情報を整理しておこう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はこれまでの出来事を整理した。

 

 杏梨「お姉ちゃん、あいつが電気警棒持ってたの覚えてる?」

 真衣「…ああ、薄らだが覚えてる。千里と杏梨が言うからには、アタシはそれで首に電撃やられたんだろ?」

 千里「普通なら死んでたけどね…。でも、真衣が生きてて良かった。」

 

 普通あんな電撃を喰らったら、気絶どころじゃない。

 最悪の場合、本当に死んでたかもしれない。

 

 真衣「となると…、あいつの本気の姿は電気纏う何かって考えた方がいいな。」

 千里「そうだね。下手したら真衣みたいに、気絶を狙ってくる可能性もある。」

 

 あの感じからして、そう来る事を予想した方がいい。

 

 千里「…とりあえず、まずは準備だね。ロストを消す為にも。」

 真衣「だな。あんな奴とっちめて、一刻も早くあの子を助けてえ。」

 杏梨「あそこまでの悪人だもん。早くやっつけないと!」

 

 なら、ロストワールドを出て準備の時間としよう。

 あの子を助ける為にも…、情報や力が必要だ。

 

 待っててね、私達がお母さんからの呪縛を解いてあげるから───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやくロストワールドの主を出せました。
本当にお待たせしてしまってすみません。
ダークファンタジーなので、看守の姿をした敵をイメージしてみました。

千里達はこの後どう動くでしょうか?
次回もお楽しみに。


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第34話

~柊太視点~

 お母さんから監視対象とされて、もう何日経ったのだろうか。

 

 そろそろ、家の生活も飽きてきた。

 

 でも勝手に外に出たら、お母さんから暴力を振られるのがオチだ。

 

 僕は一体、いつまでこの───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───自宅という監獄に囚われればいいんだろう───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美「柊太、ご飯よ。」

 

 

 

 

 

 柊太「…!…はい…。」

 

 

 

 ああ、また地獄のようなご飯の時間が来たんだ。

 

 

 

 あのお姉ちゃん、また助けに来てくれないかな。

 

 路地裏で暴力を振られた僕を見た、あのお姉ちゃん。

 

 黒い髪で、茶色い目の色して、動画か何かを撮ってた、あのお姉ちゃん。

 

 もし、本当にできるのであれば───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────助けてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

~千里視点~

 あれから私達はロストワールドを出て、作戦を立てようとしていた。

 

 千里「ねえ2人とも、考えてみたんだけどさ。」

 真衣「お?何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…もういっその事、あの男の子と話すのはどうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が考えたのは、直接あの男の子の所に行くという事。

 そもそも何故あのような虐待が起こったのか、私は気になって仕方がなかった。

 

 真衣「は?どういう事だ?」

 杏梨「話すって…、どうやって?」

 

 まあ、普通はそうなるよね。

 でも私は、それでも確かめに行きたい。

 

 千里「真正面から行けないのであれば、どこか侵入口を見つければいいんじゃないかな。」

 杏梨「窓から入るって事?それ不法侵入にならない?」

 千里「かもしれない。だけどあっちは加害者の家だよ。あいつによって、私達がどうなろうが構わない。こっちは元々証拠は2つ掴んでるようなもんだし、男の子を助ける為にはそれしかないと思ってるの。」

 

 確かに勝手に他人の家に入るのは、不法侵入として疑われるかもしれない。

 だけど、あそこは元から虐待犯の家だ。

 現実世界だから、対抗できない事はわかってる。

 だからそれを潜り抜けて、私は彼を助けたい。

 

 真衣「いいけどよ、虐待犯の家の中に忍び寄るって事は、相当覚悟がいるかもしれないぞ?下手したら、千里の方が半殺しになるかもしれない。あの動画の中には、彼と彼の母親しかいなかったんだろ?」

 千里「……。」

 

 真衣の言う通りだ。

 生け捕りにされるか、滅多刺しにされて終わり、という事も十分有り得る。

 

 

 

 

 

 千里「……それでも行くよ。」

 

 

 

 

 

 真衣「千里…。」

 

 その覚悟なら、もうできてる。

 一度は救われた命だが、男の子を助ける為だ。

 

 千里「だからやらせて。真衣、杏梨。」

 真衣、杏梨「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「……わかった。」

 

 

 

 

 

 杏梨「お姉ちゃん!?」

 

 真衣「千里、アタシがここまで言わなくてもやるつもりだったろ?」

 千里「かもね。」

 真衣「わかるぞ。お前の目、“男の子を助ける為なら、自分はどうなっても構わない”って言ってるもんな。」

 千里「うん。」

 真衣「…ならわかった。ただし、危ないと思ったらすぐ逃げろよ?あいつは一度、現実世界でも千里の顔覚えてんだから。」

 千里「わかってる。」

 

 全て承知の上だ。

 

 となれば、早速作戦開始だ。

 

 不法侵入はダメな事なのはわかってる。

 

 だけど放っておいたら、男の子の方が危ない。

 

 そう思ったから─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「真衣、聞こえる?」

 真衣『ああ、聞こえるぜ。杏梨にも聞こえるようにスピーカーにしてる。』

 

 あれから私はアパートCに向かい、通話を繋げながら作戦を実行していた。

 3人共行くと危ないから、私1人だけで行っている。

 後の2人は、自宅で待機という事にしている。

 

 千里「こっちはアパートC102号室に着いた。今から男の子の所に行ってみるね。通話はこっちもスピーカーにしとく。」

 真衣『オッケー。任せた。』

 

 私はそう告げ、窓をノックしてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 今日も退屈だ。

 部屋にはゲーム機はあるけど、今はそういう気分じゃない。

 というのも、監視対象だからその気になりたくてもなれない。

 

 

 

 

 

コンコンッ

 

 柊太「…?」

 

 窓からノックする音が聞こえる。

 恐る恐る覗いてみると───。

 

 

 

 柊太(…!あの時の。)

 

 そう、路地裏にいた、黒い髪のお姉ちゃんだった。

 こんな所まで来てどうしたのかな…。

 

 千里(─────。)

 柊太「…?」

 

 何か口パクで言っているみたい。

 「開けて」って言っているように見える。

 僕は窓を開けた。

 

 

 

 

 

 千里「…急にごめんね。大丈夫だった?」

 柊太「あ…、う、うん。」

 千里「お姉ちゃんはね、君を助けにここに来たの。君はお姉ちゃんの事、覚えてる?」

 柊太「あの時、動画撮ってたお姉ちゃん…?」

 

 僕の知る限りでは、このお姉ちゃんはあの時、路地裏で動画を撮ってたお姉ちゃんだ。

 間違いない、同一人物だ。

 

 千里「そうだよ。まあ、たまたま路地裏にいたけどね。良かったら、君の事を聞かせてくれない?」

 

 もしかしたら、この牢獄を抜け出せるチャンスかもしれない。

 

 そう思って、僕はありのまま話す事にした───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第35話

そろそろ展開が大きく変わる頃だと思います。


~千里視点~

 とりあえず、部屋には入らせてもらった。

 彼の体には、無数の傷や痣が残されていた。

 警察に伝える為、証拠にする為に写真に残しておく。

 もちろん、彼から許可はちゃんと取った。

 

 千里「それで…、君はどうして監視対象にされてるの?」

 

 まず、その理由が聞きたい。

 この家庭で何が起きたのか、どのような経緯で彼は監視されていたのか。

 全て聞いてみる。

 

 柊太「お母さんがああなったのは…、僕が6歳の時…。」

 千里(…となると、今この子は杏梨と同い年で16歳…。10年も前から続いてたのか。)

 

 10年となると、相当長い。

 そんな期間でも、一切外出は許されなかったのか。

 

 柊太「…僕が誤って道路に飛び出して、車に轢かれそうになった時、お父さんが庇ってくれたの。だけど…、お父さんは結局事故に遭って死んじゃった。お母さんは狂ったように叫んで、僕に暴力を振るい始めたの…。」

 千里「……。」

 

 幼い時にそんな事が…。

 そりゃあ、2人はショックだったよね…。

 目の前で信頼していた人が突然亡くなる事が…。

 私も母親を亡くした身だから、気持ちはわかる。

 

 

 

 …でも、それが監視対象の始まりって事?

 

 いくら教育っていう事でも、学校にも行かせず、しかもこんなに痩せ細ってまで監視し続けるなんて。

 

 …流石にやりすぎだと思う。

 

 

 

 千里「お母さんは、君を危険に遭わせたくないから、君を監視してるって事?」

 柊太「…だと…、思う…。」

 千里「そっか…。私が子持ちの母親なら、いくら何でもそこまではしたくないかな。君のお母さんは、暴力も振るってるんでしょ?その時点で、完璧な犯罪者だと思う。」

 

 

 

 真衣『ああ、千里に同意見だ。』

 

 千里「……。」

 柊太「…え?」

 

 突然、通話を開いたままにしていた真衣が喋りかけた。

 

 杏梨『萩君、私達は今、千里ちゃんのスマホに通話を繋げてるの。皆に聞こえるようにスピーカーにしてたから。』

 柊太「そう…なんだ…。」

 真衣『辛かったよな…。君の母親は、父親が死んだのは君のせいって言ったんだろ?悪意はないのに、父親を殺した訳でもないのに、罪は君の方に行っちまう…。』

 柊太「……。」

 

 真衣がそう言うと、男の子は悲しそうな表情をしていた。

 これ以上思い出したくないだろうけど、今すぐにでも聞きたい事を聞いてみよう。

 

 

 

 千里「ねえ、今君が言った事、もう警察には話したの?」

 

 

 

 柊太「…!っ……!」

 

 千里「…?どうしたの?」

 

 男の子は怯え始め、私に抱き着いた。

 

 柊太「それが……。っ……!!」

 杏梨『何?』

 真衣『怯えてるのか…?なあ、正直に話してくれ。何があったのか聞きたいんだ。』

 柊太「話した…けど…、でも……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「お母さんが…!!皆殺しちゃった…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…!?」

 真衣『は…!?』

 杏梨『えぇ…!?』

 

 男の子の口から、衝撃的な一言が出された。

 

 千里「皆殺した…?どういう事…?」

 柊太「っ…!うぅ…!!」

 

 ダメだ、話してくれそうにない。

 余程思い出したくない出来事が起きたのだろうか。

 

 真衣『なあ千里、ひょっとしたらさ…。』

 

 真衣が私に話しかけた。

 

 千里「…?何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣『彼が警察を呼んだが、その子の母親…。やっぱり口止めする為に、そこに来た警察を殺したって事じゃないか…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「え……?」

 

 真衣『邪魔する奴が現れたのなら、皆排除せざるを得ない。多分その子が言いたいのは、そういう事だと思う。アタシらがそこに来た時も、誰もいなかったろ?もしかしたら、そのアパートに住む人達は皆…。』

 杏梨『何それ、酷い…。関係ない人まで殺したって事…?』

 千里「…そうなの?」

 柊太「っ……。」コク

 

 彼は怯えながらも頷いた。

 やはりあいつは、完璧に犯罪者だった…。

 

 千里「…そういう事だったんだね。ありがとう、話を聞かせてくれて。」

 真衣『で?この後どうする?』

 千里「一通り情報は集まった。これからすぐ戻るよ。」

 真衣『おう、じゃあ後でな。』

 

 そう告げ、私は通話を切った。

 

 千里「君のお母さんは、私達が何とかする。だからもう少し辛抱してて。」

 柊太「……。」コク

 

 私は、さっき入った部屋の窓から出ようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 真由美「柊太?誰かいる…の……。」

 

 

 

 千里「…!?」

 真由美「…!あんたは…。」

 

 まずい、見つかった!!

 くそ、何でこんな時に…!

 

 真由美「ああ、思い出した。先日スマホで撮ってた女よね?何しに来たのかしら?柊太に何しようとしてたのかしら?理由次第ではタダじゃ済まないわよ。」

 千里「……。」

 

 こうなったら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げるが勝ち!!

 

 

 

 柊太「…!」

 真由美「あ!ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 彼女の言葉を無視し、私は逃げ出した。

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 お母さんは僕の部屋から出て、家から飛び出して行った。

 きっと、あのお姉ちゃんを始末する為に…。

 

 柊太「助けに…行かないと…!」

 

 もう、我慢の限界だ。

 僕は監獄から抜け出し、外に出た。

 

 

 

 

 

 柊太「はぁ…、はぁ…。」

 

 それから僕はお姉ちゃんを助けに、一生懸命走る。

 でも、毎日少食の繰り返しで、長くは続かなかった。

 

 柊太「あっ…!」

 

ドタッ!

 

 挙句には、足を躓かせ転んでしまった。

 …ああ、また自分の体に傷を付けちゃったな。

 体力の限界か、息遣いが荒くなる。

 

 柊太(このまま、死んじゃうのかな…。誰の手も届かないまま…、僕は…。)

 

 うつ伏せのまま、そんな事が頭の中でよぎる。

 もう、いいよね。どうせ助からないんだし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 柊太「…っ!」ビクッ

 

 諦めようとしたその時、大きな物音がした。

 

 柊太「何これ…。」

 

 見ると、目の前には大きな扉があった。

 

 何だろ、これ…。

 

 僕は立ち上がり、よろけながら、扉に触れた。

 

 

 

ビリッ!!

 

 柊太「いっ…!」

 

 指先に電気か何かが通った。

 

 そして───。

 

 

 

 

 

 柊太「え…?何これ…!?うわあああ!!!」

 

 

 

 

 

 ───その後は、何が起きたのかわからなかった。

 

 ────一体どこに連れて行かれるんだろう。

 

 ──────僕の意識は、ここで途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第36話

~千里視点~

 千里(…どうする…?あいつに気付かれずに戻れるのか…?)

 

 あいつに追われてから、どれくらい経ったのだろうか。

 まさか、部屋を出ようとしたタイミングで来るとは思わなかった。

 とりあえず、2人には伝えた方がいいよね。今の状況…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「遅いな、千里…。」

 

 千里から戻ると言われたが、あれから結構時間が経ってる。

 

 

 

ピロンッ

 

 杏梨「…!お姉ちゃん、千里ちゃんからメールが。」

 真衣「ん?あいつから?どれどれ…。」

 

 アタシは杏梨にそう言われ、スマホの画面を見た。

 

 

 

 しかし、それには思いもよらない事が書いてあった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「は…?」

 杏梨「お姉ちゃん?どうしたの…って!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あいつに追われてる ちょっとヤバいかも』

 

 真衣「おいおいおいおい!あいつに追われてるって、見つかったって事か!?」

 杏梨「嘘でしょ!?バレた!?」

 

 千里があの女にバレたらしい。

 早く助けに行かねえと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ん?待てよ?

 

 

 

 

 

 真衣「なあ杏梨、千里が追われてるって事は、母親も今家にいないって事じゃね?」

 杏梨「え?確かにそうだけど…。」

 

 

 

 

 

 真衣「これさ、裏を返せば男の子を助けられるチャンスなんじゃ?」

 

 

 

 

 

 杏梨「あっ…!?」

 

 つまり、そういう事だ。

 千里には申し訳ないが、あいつが追われてる今が好機かもしれない。

 

 真衣「アタシ達、事が済んだらロストワールドに行く予定だったよな?」

 杏梨「そうだけど。」

 真衣「なら今すぐ行くしかねえよ。千里を迎えて、あの子を安全な場所に連れて、ロストワールドに行こうぜ。」

 

 となれば、早速行動開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「ご勝手ながらお邪魔します!!」

 

 アタシらはあの子の家に向かった。

 

 真衣「あれ…?ガラ空きか…?」

 

 入ってみると、誰もいない。

 つまり、男の子もいないという事になる。

 

 杏梨「もしかして、萩君も出て行っちゃった…?」

 真衣「ちっ、こりゃ予想外だったな…。なら変更だ。千里を迎えに行くぞ!」

 

 即座に家を出て、千里の所に向かう事に。

 

 

 

 

 

 どうしてあの子がいないんだ?

 

 2人が出て行った時に抜け出したのだろうか?

 

 まさかだとは思うが、ロストワールドに…?

 

 でも通話越しだが、あの感じからして、彼はスマホを持っているような雰囲気はなさそうだ。

 

 ロストワールドに行っている可能性は低い。

 

 なら、彼はどこ行ったんだ?

 

 くそ、状況が追い付かねえ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「───ん。」

 

 

 

 

 

 ───ここはどこだろう。

 

 

 

 ──だんだん意識が戻ってきた気がする。

 

 

 

 ─寝慣れたせいか、すぐに体を起こせた。

 

 

 

 

 

 柊太「ここは…?」

 

 辺りを見回してみると、赤なのか、黒なのか、よくわからない所に来ていた。

 もしかして、あの扉みたいなもののせいかな…。

 

 

 

 

 

 柊太「梯子…?」

 

 目の前には、ぽっかり空いた大きな穴と、その穴に続く梯子があった。

 進める所はここしかないのかな。

 そう考えながらも、僕は降りる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穴の中には、何だかよくわからない生物がうじゃうじゃいた。

 

 柊太「何これ…、ゲームの世界に来たみたい…。」

 

 その光景は、まるで薄暗いダンジョンみたいだった。

 子供の頃にやってたゲームみたいな。

 これって、本当に現実なの…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『─────柊太。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「…!」

 

 どこからか、声が聞こえた。

 

 低めの男の人の声。

 

 だけど、何故だか聞き覚えのある声だった。

 

 

 

 

 

 『───柊太。』

 

 

 

 ああ、やっと思い出した。

 

 この声は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「…お父…さん……?」

 

 そうだ、小さい頃に死んじゃったお父さんだ。

 

 僕を庇って、車に轢かれたお父さん。

 

 柊太の父『あそこに行くんだ、柊太。大丈夫。ここの怪物には、見つからないように隠してあげるから。』

 柊太「……。」

 

 上に見えるのは、僕が住んでるアパート。

 

 僕は、導かれるままに歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「…ここは…?」

 

 あれから僕は長い道のりを歩き、アパートに入った。

 そこは、おぞましい空間で包まれていた。

 

 

 

 柊太の父『ここは、歪んだ母さんの世界だ。』

 柊太「歪んだ…世界…?」

 柊太の父『そう。柊太、父さんがいなくなって、母さんが狂ってしまっただろう?ここは、母さんが狂い出して、歪みを得て、作られた世界なんだ。』

 

 よくわからない。

 わからないけど、ここはお母さんが見ているもう1つの世界なんだ。

 

 柊太「ねえお父さん。お父さんはどこにいるの?」

 

 だけど、今疑問に思っているのは、お父さんがどこにいるかだ。

 声だけ聞こえて、姿が見えない。

 

 

 

 

 

 柊太の父『父さんはね、柊太の中にいるんだよ。』

 

 

 

 

 

 柊太「…?どういう事?」

 柊太の父『父さんは、ここでしか話せない。つまり、魂だけが残って、柊太の中に入り込めたんだ。』

 柊太「……。」

 柊太の父『それにな、柊太。』

 柊太「何?」

 柊太の父『今から父さんは、これから起きる事を予言しておくよ。』

 

 僕は耳を澄まして、よく聞いてみる。

 

 

 

 

 

 柊太の父『柊太はこれから、3人の女の子と出会うんだ。“悪を打ち砕く鉄槌”、“闇を斬り裂く騎士”、“癒しを解き放つ女神”。それがこれから、柊太と出会う女の子達。少なくとも柊太は、もうその鉄槌と出会ってる筈だよ?』

 

 柊太「鉄槌…?」

 

 柊太の父『覚えているかい?柊太を助けに来てくれた、黒髪の女の子。彩神千里ちゃんだ。柊太が1番最初に出会った女の子だよ。その子が今言った、“悪を打ち砕く鉄槌”。彼女はそう呼ばれている。』

 柊太「……。」

 

 もしかすると、あのお姉ちゃんはここで戦っていたのかもしれない。

 僕の知らない所で、そんな世界が存在していたんだ。

 

 柊太の父『柊太、お前は小さい頃、何になりたいって言ってた?』

 柊太「…!」

 

 僕はお父さんに言われ、ふと記憶が蘇る。

 

 そうだ、僕は─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「……勇者になりたい。」

 

 

 

 柊太の父『そうだ。良かったよ、忘れてなくて。』

 

 僕は、勇者になりたかったんだ。

 小さい頃にやってたゲームの主人公がかっこよくて、「自分もあんな風になってみたい」なんて考えていた事があった。

 

 柊太の父『急で申し訳ないが、今がその時だ。』

 柊太「…え?」

 柊太の父『柊太もそのような力を得て、彼女達と共に戦う。だから、もう1人で抱え込まないでくれ。』

 

 そっか、そうなんだ。

 

 僕、勇者になれるんだ。

 

 あの時、夢に見ていた、勇者に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「……うん。お父さん、僕、頑張る。僕はあのお姉ちゃんに助けられたんだ。だから今度は、僕がお姉ちゃんを助ける番。お姉ちゃんを助ける勇者になるんだ。」

 

 もう、あんな暮らしなんて散々だ。

 

 僕はやっと、あの監獄から抜け出せたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「誰かいるの?」

 

 足音が聞こえ、誰かがやって来た。

 

 見た顔だ。

 

 悪者のお母さん。姿は違うけど、僕を散々痛め付けてたお母さん。

 

 ロスト真由美「誰かと思えば柊太じゃない。何でここにいるの?まさか、彼女らみたいにここを荒らしに来たんじゃないでしょうね?」

 

 もう、僕は弱くないんだ。

 

 もう逃げない。

 

 お父さん、僕、やるよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太

「これ以上、僕や他人を痛め付けないで!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついに柊太、動き出しました。
次回はどのような展開になっていくでしょうか。
お楽しみに。


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第37話

~千里視点~

 私はまだ、あの女から逃げてる途中だ。

 遠くへ行けば見つかり、より遠くへ行けばまた見つかりの繰り返しだ。

 できれば真衣と杏梨、早く迎えに来てくれると嬉しいんだけど…。

 

 

 

♪~

 

 千里「…?」

 

 突然、私のスマホから着信が鳴った。

 画面を見てみると、真衣からだ。

 

 

 

 千里「…もしもし?どうしたの……。」

 

 

 

 真衣

『千里!大変だ!!あの子がいねえ!!』

 

 

 

 千里「…え…!?」

 

 

 

 あの子…あの男の子がいない…?

 

 もしかして、連れ去られた…?

 

 いや、女の方は私を追ってるから、その可能性は低いか。

 

 なら、誰もいない隙に出て行ったって事…?

 

 

 

 千里「…!もしかして…。」

 

 わからないけど、行くしかない。

 

 ロストワールドに。

 

 真衣『千里、今どこだ?これからお前を迎えに行く所だが…!』

 

 

 

 

 

 千里「真衣、アパートに行こう。」

 

 

 

 

 

 真衣『…え?』

 

 千里「私の考えている通りなら、あの子はロストワールドに行ってると思う。十中八九当たりとは言えないかもだけど、あの子は母親と深く関わっているし、そうなっててもおかしくないと思ってる。真衣や杏梨の時もそうだったでしょ?」

 真衣『あ…!』

 

 となれば、速攻アパートに向かうしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 真衣『そういう事か…!わかった!そこで合流しよう!』

 

 そうして、私達は通話を切った。

 

 千里(急がないと…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣『千里ー!』

 

 

 

 アパートの前に来ると、真衣と杏梨が来た。

 

 杏梨「ロストワールドに行ってるって本当?」

 千里「そう思いたい。じゃあ、扉現すよ!」

 真衣「おう!」

 

 私はアイコンをタップして、ロストワールドへの扉を出す。

 

 

 

ドォンッ!!

 

 千里(あの子がロストワールドに行ったら危ない…!無事でいて…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「おーい!どこだー!?」

 

 ロストワールドの中で、私達は男の子を探す。

 だけど、肝心な本人がいない。

 

 千里「くそ、いない…。」

 杏梨「まさか、ロストに…?」

 千里「いや、それは有り得ない。まだ可能性はある筈……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『これ以上、僕や他人を痛め付けないで!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、真衣、杏梨「……!!!」

 

 声が聞こえた。

 

 あの子だ。

 

 大きさからして、近くにいる。

 

 真衣「なあ、今のって…!」

 千里「あの子の声だ。行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 やっと、僕の本当の気持ちを言えた。

 

 お父さんの声が聞こえてなかったら、言えなかったかもしれない。

 

 僕の中に、お父さんがいてくれたから。

 

 お父さんが、励ましてくれたから。

 

 ロスト真由美「はあ?何を訳の分からない事を言っているの?」

 柊太「…言葉の通りだよ。何かあればすぐ僕に暴力振るうし、作っておきながら碌にご飯も食べさせてくれないし…。お母さんは…、どれだけ僕を苦しめさせれば気が済むの?お父さんと一緒に暮らしてて、僕にも優しかったお母さんはどこに行ったの?お母さんは…ううん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太

「お前は僕のお母さんじゃない!!!」

 

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「…!このクソガキ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里『やっと見つけた!』

 

 

 

 

 

~千里視点~

 案の定、あの子がいた。

 やはりロストワールドに迷い込んでいたんだ。

 

 真衣「…急にいなくなったから、探してたんだぞ。」

 柊太「…ごめんなさい。」

 

 彼は申し訳なさそうにしていた。

 だが、すぐにその表情は変わる。

 

 

 

 柊太「…でも、もう大丈夫だよ。お姉ちゃんに助けを貰わなくても。」

 千里「…え?」

 柊太「僕は、強くなったんだ。さっきね、お父さんの声が聞こえて、励まされたんだ。だから次は、僕がお姉ちゃんを助ける番。僕、小さい頃から勇者になるのが夢だったんだ。だから…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「僕は今、悪い人を止める勇者になるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 ???『萩柊太。』

 柊太「あっ…。」

 

 また、声が聞こえた。

 今度はお父さんじゃない。女の人の声だ。

 

 ???『ようやく、鳥籠から抜け出せましたね。』

 柊太「…うん。」

 ???『そしてあなたは、この危機を逃れたいですか?母親に、どう立ち向かいますか?』

 

 

 

 柊太「お母さんは、僕だけじゃなく、お姉ちゃんやその他の人を…沢山の人を苦しめさせてきた。だから僕は、その人達の無念を晴らしたい!お姉ちゃんを助けたい!強くなりたいんだ!」

 

 今まで吐き出したい気持ちを全て、ようやく出てきた。

 お母さんは、紛う事なき犯罪者だ。

 そんな人に、正義なんて持っていい訳がない。

 その正義があるとしても、歪みを持っている事を、今から知らさせるんだ。

 

 ???『…よろしい。では、契約を結びましょう。』

 

 僕の前には、小さな光が現れた。

 

 ???『その光を握り締め、彼女達と同じ、ロストに立ち向かう力を得るのです。そして…、彼女達を守り、ロストと戦いなさい。それがあなたの使命なのですから。』

 柊太「うん。わかった。」

 

 僕は光を取り、握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『あなたは、不穏に立ち向かう勇者となるのです!!!』

 

 

 

バリンッ!

 

 

 

 柊太

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




楽しみにしてくださった皆さん、本当にお待たせしました。
ついにこの時を迎えました。
ようやく柊太、勇者になりました。
ここからどう物語が進んでいくでしょうか。

また長く空けてしまうかもしれません。
なるべく早く投稿するよう努力しますので、次回もお楽しみにしていてください。


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第38話

この小説の投稿を始めてから1年が経ちました。
いつも読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
これからも精進していきます!

あと、結構空いてしまってすみませんm(_ _)m

今回は柊太が覚醒した所からです。
それではどうぞ!


~千里視点~

 彼はロストである母親に歯向かって、自分の想いを吐き出していた。

 

 そして、真衣や杏梨のように、あの力を手に入れたのか。

 

 

 

 柊太「…僕は、こんなに縛られる事にはもうウンザリだよ。あんなにコントロールされるほど、僕は子供じゃない!」

 

 彼は、言葉の通りの「勇者」になっていた。

 

 剣と盾を持つ、本当の勇者に。

 

 ロスト真由美「何を言い出すかと思えば…!子分共!やっちまいなさい!!」

 

 彼女は数々のロストを召喚した。

 

 このままではまずい…!

 

 覚醒したばかりの力は不完全だ。

 

 そう思い返していると、1人のロストが彼に向かって武器を振り下ろす─────。

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

 千里「…え…?」

 

 私が助けに行こうとしていた途端、ロストの体勢が崩れた。

 

 

 

 柊太「……僕を甘く見ない方がいいよ。」

 

 

 

ザシュッ!!

 

ズバァッ!!

 

 隙を見せたロストが、彼によって斬り裂かれた。

 

 真衣「あれって…、“パリィ”か!?」

 千里「パリィ…?…!そういう事か…!」

 

 なんと、彼はパリィでロストの武器を弾いていたのだ。

 パリィとは、ゲームなどの試合でよく使われ、「受け流し」を意味している。

 となると彼は、盾でパリィをしてカウンターを決めたって事か。

 

 ロスト真由美「この…!ほらそこの子分!!遠距離も出しなさい!!」

 

 彼女に命令を出されたロストは、弓矢を構え放つ。

 

 

 

 柊太「効かないよ!」

 

ガキンッ!

 

ブシュッ!!

 

 杏梨「今のもパリィ!?」

 

 彼は矢を弾き返し、その矢はロストの頭に突き刺さった。

 

 千里「すごい…。」

 

 彼の本当の力に、私は思わず見入ってしまった。

 

 虐待を受けていた子だとは思えない。

 

 ロスト真由美「ああもう!ちっとも上手くいかないじゃない!本当に使えない奴らね!!」

 真衣「てめえ!子分達にそんな事を!!」

 ロスト真由美「もういいわ!今回は見逃してあげる!次会ったらタダじゃおかないわよ!!」

 

 そう告げると、彼女は颯爽と行ってしまった。

 

 柊太「あ!待って!……うぅっ!」ガクッ

 

 彼は母親を追うべく走り出そうとしたが、跪いてしまう。

 力を出し切ったのだろう。

 

 千里「大丈夫!?」

 

 私は彼に駆け寄った。

 

 柊太「ごめんね、お姉ちゃん…。僕、ちょっと疲れちゃったかも…。」

 真衣「とりあえず、一旦ここから出よう。情報整理はその後だ。」

 千里「そうだね。」

 

 私は真衣の言う通りにした。

 

 

 

 それにしても、パリィか…。

 彼がもし仲間に入ってくれれば、この先も有利に進められるかもしれない。

 まあ、その時はその時かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「…戻った……。」

 

 私達は彼を連れて、ロストワールドから出た。

 

 真衣「…しかし、驚いたよ。君もロストワールドで力を得るなんてな。」

 柊太「ロスト…ワールド…?」

 千里「さっき君が入った異世界。あれはロストワールドって言われてるの。誰が作り出したかはわからない。私達はそのロストワールドで、悪い人達を改心させてきた。君のお母さんも、改心させるつもりでいたの。結局逃げられたけど…。」

 柊太「……。」

 

 彼は考え込んだ。

 まあ、咄嗟にそんな出来事が起きたのだから、混乱するのは当然の事だ。

 

 杏梨「…ねえ、外にいたら危ないんじゃない?どこか安全な所に行こうよ。」

 真衣「それもそうだな。それに暗くなってきたし、その子も連れて行くか?」

 

 確かに、それがいいかもしれない。

 彼はあの家に戻りたくなさそうだし。

 

 千里「このまま放っておく訳にもいかないしね…。君、それでもいい?」

 柊太「…うん。」

 千里「じゃあ行こうか。油断禁物だから、周りには気を付けて行かないと。」

 真衣「ああ。そのつもりだ。」

 

 そして私達は、北乃家へと帰った───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~北乃家~

 真衣「ちょっと待ってな。今飯作ってあげるから。」

 

 真衣は台所で料理を始めた。

 杏梨はお風呂の準備をしに浴場に行っている。

 

 千里「…そういえば、名前聞いてなかったね。」

 

 杏梨から教えてもらったが、この子は萩君というらしい。

 しかし、下の名前はまだ教えてもらってない。

 

 千里「とりあえず自己紹介しようかな。私は彩神千里。」

 柊太「僕は、萩柊太。」

 

 この子は、柊太君だ。

 先日聞いた話、柊太君は10年も虐待を受けていた男の子だ。

 私より背が低く、杏梨と同い年とは思えないくらいの童顔。

 寧ろ、杏梨よりやや幼い顔立ちかもしれない。

 碌に食べさせてもらってなかったせいか、体は痩せ細っている。

 あいつの仕業か、身体には傷や痣が残されている。

 

 千里「…2人の紹介もしておこうかな。台所にいるのが北乃真衣、お風呂の準備しててここにはいないけど、真衣の1つ年下の妹の杏梨。実は私、真衣と杏梨の家に居候してるの。4月辺りから。」

 柊太「そうなんだ。」

 

 行き場所もなくて、真衣に住ませてもらったこの家。

 今の柊太君は、あの時の私と同じような感じだ。

 

 千里「それで、ロストワールドの事なんだけどね…。あの世界は、善良を失った人々が集まる場所とも言われている。恐らく君のお母さんも、その失った人々の1人だと思うんだ。それらは皆、ロストって言われてる。」

 柊太「……。」

 

 …まあ、よくわからないよね。

 

 真衣「要するに、誰かが見てるもう1つの世界って感じだ。」

 柊太「あっ…!」

 千里「どうかしたの?」

 

 真衣の言葉で、何かわかったようだ。

 

 柊太「僕ね、あそこで死んじゃったお父さんの声が聞こえたの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太の父『ここは、歪んだお母さんの世界だ。』

 

 柊太の父『お父さんがいなくなって、お母さんが狂ってしまっただろう?ここは、お母さんが狂い出して、歪みを得て、作られた世界なんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「歪んだ世界…か…。」

 

 柊太君は覚醒する前、亡くなった父親の声が聞こえたらしく、そしてあのロストワールドは、“歪んだ母親の世界”と言われたらしい。

 歪んだ世界…それは江田や泉田の時も、そんな風に見えた気がする。

 

 真衣「そうだ、柊太は何でロストワールドに入れたんだ?スマホ持ってる感じはないけど…。」

 

 そうだ、それを聞きそびれていた。

 問題は、柊太君はどのようにロストワールドに入れたか。

 私達はスマホを持ってロストワールドに入れたけど…。柊太はもしかして…。

 

 柊太「スマホ…?確かに持ってないけど…。」

 千里「何か家にディスプレイとかある?」

 柊太「んー、パソコンかな。」

 千里「…!それかもしれない。」

 

 やはりそうか。

 ロストワールドはスマホだけじゃなく、パソコンを持っている人でも入れるのか。

 じゃあ、アパートの近くにロストワールドへ続く扉が出たのも…?

 

 真衣「ロストワールドって、パソコンからでも入れるのか?」

 千里「かもしれない。同じディスプレイに含まれるから、有り得る話ではあるね。」

 

 どうなっているんだ、あのロストワールドは…。

 最早何でもアリじゃん。

 

 

 

 杏梨「お風呂の準備できたよー!」

 

 かれこれ話をしていると、杏梨が戻ってきた。

 

 真衣「おう、お疲れ。こっちはもうすぐ夕飯できるぜ。」

 

 とにかく、わかる情報はここまでだ。

 後はどう動くか。

 それは後日決めるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第39話

~翌日~

 私達はアパート前まで来ていた。

 今回で、あいつのロストを消す。

 あれから柊太君と色々話し、ロストを消す事に協力してくれるみたい。

 

 真衣「全員揃ったな。よし、扉出すぞ。」

 柊太「扉?」

 千里「昨日話したでしょ?ロストワールドに入るには、スマホの中にあるアイコンをタップしないといけないの。」

 真衣「誰か1人でも持ってたら、皆同時に入れるって訳だ。」

 柊太「そうなんだ。そういえばそんな話してたっけ…。」

 

 思えば、柊太君がここに入るのは2回目だね。

 何だかこれ、真衣や杏梨と同じような感じがするな。

 

 真衣「皆準備は良いな?じゃあ、扉を……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっと見つけたわ!!」

 

 

 

 

 

 千里、真衣、杏梨、柊太「……!!!」

 

 

 

 ロストワールドに入ろうとした瞬間、声が聞こえた。

 柊太君の母親だった。

 

 真衣「やば…!」

 真由美「勝手に息子を拐っておいて…!タダで済むと思ってんの?」

 千里「…人聞きの悪い事言いますね。私達はこの子を助ける為に連れ出したんですよ?」

 真由美「ふん、そんな事言っても通用しないわよ。」

 千里「…?」

 

 彼女がそう言い放つと、自分のスマホの画面を見せた。

 そこに書いてあったのは───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『今日 ○○警察 5分前』

 

 彼女が警察に電話したと思われる通話履歴だった。

 

 真衣「はあ!?」

 真由美「言い訳するだろうと思って、通報しといて良かったわ。これで手間が省けそうね?」

 

 こいつ…!私達に冤罪を着せようと…!?

 

 真衣「ふざけんな!どう考えても加害者はてめえだろ!」

 真由美「ふざけてるのはそっちでしょう?大して証拠ないくせに、よく私を加害者なんて言い張れるわね?それに、あんた達高校生でしょ?将来への道が残ってるこの時期に、こんな事して恥ずかしくないの?」

 

 だめだ、もう我慢の限界だ。

 勝手に私達を犯罪者扱いして、もう許せない。

 何か言い出そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…いい加減にしろよ、毒親が。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美「……は?」

 

 真衣が前に出て、彼女に怒りを見せていた。

 

 真衣「…じゃあ聞くけどよ、あんたにとって柊太は何だ?アタシらからしたら、あんたは柊太を奴隷扱いしてるようにしか見えねえぞ。」

 真由美「奴隷?意味がわからないわ。そんな物騒な事……。」

 真衣「子供のやりたい事を見守ってやるのが親ってモンだろ。それを関係なしに虐待だ?笑わせんな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣

「見守りもできねえ奴が、子供なんて産むんじゃねえよ!!」

 

 

 

 

 

 真由美「っ…!」

 

 彼女に対して、今まで吐き出したかった想いを、真衣がぶつけていた。

 

 真衣「柊太を痛め付けて、傷や痣だらけなのは何だ?柊太が痩せ細っているのは何だ?被害者面しやがって、ならお前こそタダで済むと思うなよ?こっちには徹底的な証拠を手にしているんだからな。」

 

 真衣はそう言うと、私は彼女にスマホの画面を見せた。

 

 

 

 

 

 真由美『まだ殴り足りないわ。お母さんの怒りが収まるまで付き合ってもらうから。』

 

 

 

 真由美「…それが何だって言うの?それだけで証拠になると思う?」

 真衣「思うからやってんだろ?…杏梨。」

 杏梨「うん。」

 

 さらに、杏梨も前に出てスマホの画面を見せた。

 

 

 

 

 

 『何か?』

 真衣『あ、どうも。今お伺いしても宜しかったでしょうか?』

 真由美『何ですか?セールスならお断りです。』

 真衣『いえ、セールスではないんです。ちょっとお宅の事をお伺いしたくて。』

 真由美『結構です。帰ってください。』

 真衣『ちょっとだけお話するだけでもいいんです。どうかお願い申し上げ─────。』

 真由美『帰れ。』

 真衣『…え。』

 

ジャキンッ!!

 

 真衣『…!!』

 真由美『帰れっつってんだよ!!物分りの悪いゴミ虫が!!!』

 真衣『ゴミ…!?』

 真由美『さっさと回れ右しろ!!ぶっ殺されてえのか!?あぁ!?』

 真衣『ぐっ…!くそ…!…失礼しました~。』

 

 

 

 真衣『辛かったよな…。君の母親は、父親が死んだのは君のせいって言ったんだろ?悪意はないのに、父親を殺した訳でもないのに、罪は君の方に行っちまう…。』

 柊太『……。』

 千里『ねえ、今君が言った事、もう警察には話したの?』

 柊太『…!っ……!』

 千里『…?どうしたの?』

 柊太『それが……。っ……!!』

 杏梨『何?』

 真衣『怯えてるのか…?ねえ、正直に話してくれ。何があったのか聞きたいんだ。』

 柊太『話した…けど…、でも……!!お母さんが…!!皆殺しちゃった…!!!』

 

 

 

 真由美「……。」

 真衣「ここまで見せてもまだ口応えするか?」

 

 ついには母親は、返す言葉もなくなってしまった。

 

 真衣「こっちは徹底的な証拠を掴んでいるんだからな。警察が来たとしても、どちらにせよお前の負けだ。」

 

 真衣がそう言うと…。

 

 

 

 

 

 柊太「…お母さん。」

 

 

 

 真由美「…?」

 

 柊太が前に出た。

 

 

 

 柊太「僕はもう、この家には帰らない。」

 真由美「…!!」

 柊太「被害者面して、お姉ちゃん達に罪を負わせるなんて、そんなの僕は望んでない。僕がどれだけ苦しい思いをしたと思ってるの?お父さんが死んじゃってから、ずっとこんな思いしてるんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「だから僕は…、お母さんの所には戻らないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美「……はぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美「……もう、いいわ。」

 

 

 

 

 

 真衣「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャキンッ!!

 

 柊太「…!!」

 千里「は…!?」

 杏梨「え…!?」

 真衣「おい、マジかよ…!」

 

 

 

 彼女は懐から刃物を取り出した。

 

 真由美「あんた達が罪を認めないなら、私がここで殺す事にするわ。警察が来ても、“自殺した”って言えばいいもの。」

 真衣「てめえ…!!」

 

 くそ、それも策って事か…!

 

 真由美「まずは柊太、あんたからよ。お母さんをこんなにしたあんたのせいよ。大人しくしていれば、こんな事にならずに済んだのにね。お母さん残念だわ。」

 柊太「っ…!」

 

 今のあいつにとって、柊太君は“使い物にならない奴”。

 そうなれば、処理せざるを得ない。

 このままではまずい──────。

 

 

 

 

 

 真衣「ざっけんなよてめえ!!」

 

 私がそう思っていると、真衣が彼女を手を掴んだ。

 

 真由美「…!離せよ、このガキ!」

 

 真衣「お前ら!先行け!」

 千里「え…!?」

 真衣「先にロストワールドに行っててくれ!アタシは後から行くから!」

 杏梨「お姉ちゃん…!わかった!萩君、行くよ!」

 柊太「う、うん…!」

 

 私達は真衣を置いて、ロストワールドに入った。

 

 

 

 千里(真衣、無事でいて…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「見た事ある場所…。」

 

 私達はあの時最初に入った所から、ロストワールドへ向かっていた。

 

 千里「いい?今回の目的は、柊太君の母親のロストを消す事。」

 杏梨「うん。」

 千里「柊太君も行ける?」

 柊太「うん、大丈夫。」

 

 全員準備完了って事だね。

 真衣はあいつを食い止めてる。

 真衣の事も心配だけど…、今は目の前の事に集中しよう。

 

 

 

 

 

 千里「柊太君も、ここから降りて行ったんだよね?」

 柊太「うん。確かそうだった。」

 

 柊太君は昨日ここに迷い込んで、覚醒した。

 良かった、ちゃんと覚えてたんだね。

 

 千里「じゃあ降りよっか。」

 柊太「わかった……あれ?」

 杏梨「どうしたの?」

 

 梯子を降りようとした時、柊太君は何かに気付いた。

 

 

 

 柊太「こんなのがあった。」

 千里「それ…、ロープ?」

 

 柊太君の懐にあったのは、かなり長く巻かれたロープだった。

 そういえばあの時…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里『ロープとかあれば良かったんだけど…。』

 杏梨『都合良く見つかるかって話なんだよね…。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …丁度良いで現れたな、このロープ。

 

 千里「そのロープ、下ろせるかな?」

 柊太「え?うん。」

 

 柊太はしゃがみ、ロープを下ろした。

 よく見るとこのロープ、先端に引っ掛け部分がある。

 それに、かなり丈夫みたいだ。

 

 そしてロープを伝って降り、私達はアパートへ向かうのだった。

 

 あんな奴は早く改心させるしかない。

 

 あのまま暴れられたら、無関係な人も危なくなる。

 

 行こうか。ロストを消しに───。



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第40話

ついに40話まできました。
ここまで長い物語を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
まだまだ小説初心者なヤガミですが、最後まで楽しんでくださると幸いです。

それではどうぞ!


 アパートの中に入り、空間へ向かった。

 

 柊太「あの時の空間…。」

 千里「ここに柊太君のお母さんがいるはず。今回はしっかり仕留めて改心させよう。」

 

 今回はどんなロストだろうか。

 真衣が襲われたあの日…あの電撃だけ来るとは限らない。

 目で見て、対策を考えないと。

 

 千里「それと、あいつはあの家をどう見てるか、それも見ておかないとね。」

 杏梨「確か泉田の時は牢獄だったような…?」

 千里「そうだね。私と真衣の時に会った江田は城の屋上。今回はどのような戦場になるか…だね。」

 

 戦場の把握もしておくと、戦闘もかなり楽になる。

 一部設備もあったしね。

 

 千里「とりあえず、ロストを探さないとね。まずはそこから始めようか。」

 杏梨「お姉ちゃんはいないけど…、大丈夫かな…。」

 千里「後から来るって言ってたから、心配はないと思う。」

 

 

 

 柊太「あ、何か来たよ。」

 

 

 

 千里、杏梨「…!」

 

 柊太君の目線の先は、何か人影のようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっぱり来たのね。柊太。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「お母さん…。」

 

 そう、柊太君の母親だ。

 今回はこいつをきっちりと仕留める。

 その為に来たのだから。

 

 ロスト真由美「それと、柊太を奪った犯罪者じゃない。わざわざ捕まりに来たのかしら。」

 千里「捕まりに来た?裏を返せば、あんたを消しに来たって言えばいいかな。」

 ロスト真由美「へえ?犯罪者が楯突くって訳?相当性根が腐ったガキ共ね。」

 

 ああもう、なんて奴だ。

 こいつの正義は、相当歪んでるな。

 勝手に人を犯罪者扱いして、「自分が全て正しい」なんて思っているのだから。

 

 杏梨「性根が腐っているのは、あなたの方だよ。散々柊太君を苦しめさせて、自分は何とも思わないの?あれだけやっても、“自分に正義がある”なんて言い切れるの?」

 

 杏梨が前に出てそう言い放った。

 杏梨は前まで虐められた身だ。

 余程柊太君の気持ちがわかるのだろう。

 

 ロスト真由美「正義?あんた達と違ってあるに決まってるじゃない。歪みなどそんなのどうでもいい。私の意思で柊太を育てているのだから。なのに…、子供が反抗期を迎えるなんて、本当に起きるものだったのね。こうなったのは全部あんた達、いや…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト真由美

「全世界が狂っているせいだからよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうダメだ。

 こいつはもう、何もわかっちゃいない。

 

 

 

 

 

 千里「なら、いっその事あんたを消すに限るね。あんたみたいなのがこんな世の中にいちゃ、ロストワールドの中のあんたを消して、改心させる必要があるね。重症だよ。いくら何でも。」

 ロスト真由美「自分の非は認めないのね?なら、こっちもあんた達を殺すに限るわ。あんた達は私を怒らせたもの。自業自得よ。」

 

 来るか。

 

 ついにこいつと戦う時が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト真由美

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「え…!?」

 千里「本気出したよ、気を付けて!」

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「歪ミ!?私が犯罪者!?全部どウデもイいわよソンナ事!!全部ブッ壊す!!思い通りにナラナイものなんて!!コノ世に必要ナイノよ!!」

 

 戦場は、破れた熊のぬいぐるみ、ボロボロのロボットなどのおもちゃが置かれている。

 

 そうか、この世界は。

 

 こいつが見てるもう1つの世界は。

 

 そしてこのおもちゃ達は────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊れて使い物にならなくなった人達。

 

 あいつによって殺された被害者。

 

 狂い出したおもちゃの世界なんだ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「ふぅ、ようやく潜入できたな…。」

 

 柊太の母親の襲撃を食い止めてから、ロストワールドに潜入する事に成功した。

 

 真衣「恐らく千里達は、あのロストと戦っているかもな。急がねえと。」

 

 アタシは梯子を滑り降り、アパートへ向かうのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第41話

最初に言っときます。
本当にお待たせして申し訳ございませんm(_ _)m
気付いたら大晦日を迎えていました。
2021年最後の投稿となりますが、楽しんでいただけたら幸いです。


 真衣「…ん?」

 

 アパートの中に入ると、何やら異様な雰囲気が漂っていた。

 

 真衣「何だこれ…、前回と全く違っている…?」

 

 前回の空間とは打って変わって、ボロボロのロボットや解れたぬいぐるみなど、おもちゃのような物が置かれていた。

 一体、何がどうなっているんだ?

 

 真衣「もしや…、…いや、行ってからわかるか。」

 

 不穏に感じながらも、アタシは千里達の所に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣(ああくそ、ここにも邪魔者が来るか…!)

 

 合流しに行く途中、ロスト達がどんどん押し寄せて来る。

 無造作に相棒を振り回し、ロスト達を倒す。

 こいつぁ合流までかなり時間がかかりそうだな…。

 

 真衣「どけ!騎士様のお通りだ!邪魔をするな!!」

 

 ロストを斬る。

 

 斬る。

 

 斬り刻む。

 

 

 

 しかし、どんどん数が増えていく一方。

 

 くそ、何なんだこのロストワールドは…。

 

 江田や泉田と比べ物にならないぞ、これ…。

 

 そんな事を考えながらも、アタシは突き進む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「はぁ…、はぁ…。」

 

 ふらつきながらも、アタシは目的地まで辿り着いた。

 ツギハギが入った扉。

 この中に千里達がいるようだな。

 

 真衣(待たせて悪いな、皆…。アタシも今から参戦するぜ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 ロスト真由美「さあ、次は何ヲシて来るのかシら!?」

 

 あれから10分くらい経っただろうか。

 柊太君が盾で攻撃を抑えながらだったが、こちら側の体力もそろそろ限界だ。

 

 

 

バンッ!

 

 千里「…!」

 

 

 

 

 

 真衣「よお!この騎士様が来てやったぜ!!」

 

 ようやく、真衣が来てくれた。

 

 杏梨「遅すぎだよ、お姉ちゃん…!」

 真衣「悪いな!こっちも手が離せねえ状況だったからよ!それに千里!また囮担当してやるぜ!もう言われなくても、行動に移すつもりだったからな!」

 千里「…!…言うじゃん。」

 

 やはりそんな事考えてたんだ。

 本当に用意周到だね。

 そうと決まれば、早速お願いしようか。

 

 千里「だったら真衣、いつものお願い!」

 真衣「おっしゃあ!承ったぜ!」

 

 真衣はロストに向かって走り出す。

 

 真衣「ロストぉ!騎士様が相手だ!受けて立つぜ!」

 真由美「あんたハ殺しを止めた奴ね!自ラ殺されに来たノカシら!」

 

 ターゲットが真衣へと向いた。

 この間に策略を考えよう。

 

 今回のロストは、この前見た看守の姿のまま。

 だがしかし、背中からはどす黒いオーラが漂っている。

 武器は電気警棒、もう1つは赤い電気を纏った正宗のような太刀。

 

 …!そうだ。

 

 千里「柊太君、この前盾で武器を弾いたの覚えてる?」

 柊太「ん…、何となく。」

 千里「今のお母さんのロストを見て思ったの。今回もそんな感じでいけるんじゃないかって。」

 柊太「あ…!」

 

 私が考えたのは、あいつの武器を弾く。

 

 そう、パリィだ。

 

 杏梨「そっか!相手が武器持ちならパリィで!」

 千里「そういう事。」

 

 杏梨はすぐに読めたようだ。

 

 ダメ元でやらせてみよう。

 

 

 

~真衣視点~

 千里にはああ言ったけど…。

 

ガキンッ!

 

ガキンッ!

 

 真衣「くっ…!」

 ロスト真由美「ソンなもンカシら!?まダマだ攻めに行くワヨ!」

 

 さっきのロストの集団のせいで、体力が消耗している。

 やる気を装っていたが、正直な事を言うとかなりきつい。

 あん時もう少し加減しときゃ良かったな…。

 

 真衣「…笑わせんな。アタシはまだ行けるぜ。」

 ロスト真由美「あら?なラ何故ふラつイてイルのかしら?体力が限界ナンじゃなイ?」

 真衣「うるせえ!行けるって言ったら行けるんだよ!」

 

 だが、負けてばかりじゃいられねえ。

 アタシは、そのような生き方しかしてこなかったからな。

 

 ロスト真由美「ほらほら、防イデばかりジゃ腕も持たなインじゃなイ?」

 真衣「…腕だと?」

 

 

 

ガッ!

 

 ロスト真由美「!?」

 

 アタシは、ロストの武器に蹴りを入れた。

 その衝撃で、ロストはよろめいた。

 

 真衣「おいおい、まさかアタシが腕しか使わないと思ってないだろうな?足がまだ残ってんだよ、こっちは。」

 ロスト真由美「…それモ策って事ね。だったらソノ足も斬リ落としテアげル!!」

 

 

 

 柊太「させないよ!」

 

 

 

ガキンッ!

 

 ロスト真由美「ぐっ!?」

 真衣「…!柊太!」

 

 柊太が割って入ってきた。

 そして、奴の攻撃を弾く。

 

 

 

 柊太「───斬らせないから。」

 

ザシュッ!!

 

ズバァッ!!

 

 ロスト真由美「ガアアアッ!!」

 

 柊太がロストの腹を斬り裂いた。

 ロストからは大量の血が噴き出す。

 

 真衣「柊太…、今のはパリィか?」

 柊太「うん。千里ちゃんと考えたんだ。武器を持っていたらパリィできるんじゃないかって。」

 

 なるほどな。

 千里、良い方法考えたな。

 

 ロスト真由美「コのクソガキ共ガ…!ナメタ真似しテェ!!」

 

 

 

~千里視点~

 ロスト真由美「お前らナンテ!所詮使イ物になラナい壊れたおモチャ!!ソンナものハ私が処分してヤルンおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 千里「ここからが本番だね…!」

 

 ロストは、更にパワーアップしていった。

 この形態は…。

 

 

 

 

 

 真衣「あれ…、斧か!?」

 

 そう、警棒と太刀ではなく、棘と鎖が付いた大斧だった。

 鎖があれば、流石にパリィでは無理そうだ。

 

 ロスト真由美「1人残ラズ、斬リ刻ンデヤルゾオラアアアアアッ!!!!!」

 

ブォンッ!!

 

 千里「避けて!!」

 

 ロストは勢いよく大斧を飛ばしてきた。

 鎖が付いている為、余計にリーチも長い。

 

 真衣「このイカレ野郎!鎖付けるなんて卑怯だぞ!」

 ロスト真由美「ウルサイウルサイウルサイ!!卑怯ダロウガ全部私ノ勝手!!勝テバ何デモイインダヨ!!!」

 

 くそ、あれをどうすれば…!

 考えろ、考えるんだ…!

 

 千里(恐らく、斧に触れただけでも痛打はあると思う…。だとしたら…!)

 

 正面から近付いてもダメ、回り込んで攻めてもダメ。

 

 どちらにしても斬り刻まれたり、鎖で縛られるだけだ。

 

 ここで難関が来てしまう。

 

 他の皆も、斧の攻撃を避ける事に専念している。

 

 ロスト真由美「アハハハハハ!!ドウ!?コレナラ手モ足モ出ナイデショ!?」

 杏梨「どうしよう、お姉ちゃん!あんなの振り回されたら近付けないよ!」

 真衣「素早いし、杏梨の魔法も効かねえし…。くそ!あの斧を止める方法はねえのかよ!」

 

 ああもう、皆がピンチに陥っている。

 何かあれを止める方法…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォンッ!!

 

ズガァッ!!

 

 奴は大斧を振り回している。

 

 その大斧には鎖がある。

 

 つまりリーチが長い。

 

 

 

 千里(…!閃いた!)

 

 そうか。わかったぞ。

 

 ダメで元々だ。やってみようか。

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「ホラホラホラァ!!ソノ体ノ何モカモヲブチ撒ケナァッ!!」

 

ブォンッ!!

 

ズガァッ!!

 

 真衣「ああ、くそ!鎖さえなけりゃパリィで返せたのによ!」

 ロスト真由美「アハハハハハ!!ドウヤラコノ勝負、私ノ勝チノヨウネ!」

 柊太(…?鎖?)

 

 

 

 

 

バギィッ!!

 

 ロスト真由美「…エ…!?」

 

 真衣「何だ!?」

 

 

 

 杏梨「…!千里ちゃん!」

 

 私は、ありのまま実行した。

 

 そう、あいつの斧に付いていた鎖をぶっ壊したのだ。

 

 千里「…これでリーチが短くなるね。」

 ロスト真由美「コノ女…!セッカクノ鎖ヲ!」

 

 ロストは真っ先に斧を持つ。

 今の瞬間がチャンス!

 

 千里「柊太君!」

 柊太「…!」

 

 真衣「そうか!鎖を壊して斧を持たせるって訳か!」

 

 真衣は読めたみたい。

 鎖を壊した事で、ロストを弱体化させた。

 

 ロスト真由美「オ前ラ全員!ブッタ斬ッテヤル!!オラアアァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

 柊太「隙あり!」

 

 ロスト真由美「…!柊太…!?」

 

 柊太「これで終わりだよ。」

 

 

 

 

 

ザシュッ!!

 

ズバァッ!!

 

 ロスト真由美「グッ…!ガアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 柊太君が、最後の一撃を喰らわせた。

 

 終わったんだ。柊太君の奴隷生活が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「柊…太……、あなたは……。」

 

 やがてロストは元の姿に戻り、跪いた。

 

 柊太「…お母さん。」

 ロスト真由美「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「証明したよ。僕はもう弱くないって事。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「…!」

 

 パリィからの一撃で、全て証明できたようだ。

 柊太君自身が自分から、強い人間だと認めてもらえるように。

 

 柊太「お父さんが死んじゃったのは、僕も悲しいよ。でもだからといって、お母さんが狂う事はない。お母さんがそんなのになったら、お父さんが悲しむだけだよ。それに、僕をここに導いてくれたのは、お父さんなんだよ。お母さんの歪んだ世界に、お父さんは僕を連れ出してくれたんだ。」

 ロスト真由美「…あの人に……?」

 

 柊太君は、経験してきた事を淡々と喋る。

 

 柊太「辛かったよね。苦しかったよね。僕やお母さんだけじゃない。関わってきた人全てがそうだと思う。」

 ロスト真由美「そんなの…!」

 

 どうやら、ロストの方は納得できていないようだ。

 こうなったら、私が何とかしようと思った、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『───もうやめてくれ。真由美。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「…!お父さん…?」

 

 どこからか、声が聞こえた。

 それは、私がいつも耳を澄まして聞いていた、あの人の声ではない。

 柊太君が言うからには、どうやら柊太君の父親の声みたいだ。

 

 ロスト真由美「まさか…、篤人さん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 あの時と同じように、お父さんの声が聞こえた。

 お母さんが言っていた“篤人さん”とは、僕のお父さんの名前だ。

 萩篤人(はぎ あつひと)。僕のお父さん。

 

 ロスト真由美「どうして…あなたが…?」

 篤人『これ以上続けても、お前の方が傷を負うだけだ。柊太よりもずっと。お前は傷を抱えたまま生きる事になるぞ。』

 ロスト真由美「っ……!」

 

 姿の見えないお父さんは、お母さんに言い聞かせた。

 

 篤人『何故お前は変わってしまったんだ?何がお前を変えたんだ?俺はあれから、お前達の事を上から見ていたが、お前は柊太を傷付けるばかり…。どれだけ柊太が苦しい目に遭ってきたと思っているんだ。俺が消えて悲しんだのは、お前だけじゃないだろう?』

 ロスト真由美「………。」

 

 お父さんの言葉を聞いて、お母さんは何も返せないでいた。

 そう思っていた途端───。

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「これが…、私の全てよ…。誰が何と言おうと、私は自分自身の手で柊太を育てるって、あなたがいなくなってからずっと決め込んでいたの…!なのに─────。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篤人

『いい加減にしろ!!!』

 

 

 

 

 

 篤人以外全員「…!!」

 

 お父さんのたった1つの言葉で、僕は驚いた。

 

 篤人『それだけが…、誰もが全員望む事だと思うか?それにお前は、罪のない人々も死に追いやった。柊太だけじゃなく、彼女達もお前によって被害に遭った。10年も繰り返して、まだ“自分に正義がある”って言うのか?そんなふざけた奴に、正義なんてある訳ないだろ!!』

 ロスト真由美「………。」

 篤人『俺は…、お前を信じていた。俺がいなくなった今、お前は頑張って女手一つで柊太を育てているかと思っていた。なのに、今のこれがお前の正義か?柊太が望む正義なのか?』

 

 気付いた時には、お母さんは何も言い返せなくなっていた。

 お母さんは…、心のどこかで気付いていたのか。

 

 篤人『俺から言える事はそれだけだ。後は…、真由美自身で考えてくれ。』

 

 お父さんがそう告げると、声すらも消えてしまった。

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「…柊太……。」

 柊太「…?」

 

 

 

 ロスト真由美「ごめんなさい……。お母さん…、どうかしてたわ……。お父さんがいなくなって…、お母さんは…、ずっと柊太の事を傷付けてた……。ずっと…、自分が正しいって思ってた……。でも…、お父さんの言葉を聞いて気付いたの……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト真由美「全部……、お母さんが間違ってたって……。」

 

 

 

 

 

 柊太「お母さん…。」

 

 ロスト真由美「ずっと…、気付けなくてごめんなさい……。お母さんは…、10年も柊太に酷い事してきた……。ましてや…、関係の無い人まで傷付けていた……。本当の悪人は…、お母さんの方だった……。ごめんなさい…、柊太……。お母さんが……、こんな腐った人間で……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「…もういいよ。」

 ロスト真由美「…え…?」

 

 僕はそう言うと、お母さんの方に歩み寄り、しゃがんだ。

 

 柊太「…そりゃあ、お母さんがボクを苦しめさせたのは、今でも怒ってるよ。でも…、ようやく気付けたんだね。お母さんは、苛立ちが来ると僕に暴力振るったり…、ご飯をあまり食べさせなかったり…、そんな人だった。僕はそれで思ってたんだ。このまま僕は、お父さんの所に行っちゃうんじゃないかって。そんな時、千里ちゃんが来てくれた。お母さんも、一度は見た事あるよね?あの時…、僕が初めて千里ちゃんの顔を見た時の事。」

 ロスト真由美「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 突然、私の名前を言ってびっくりした。

 そうだね。あの時…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美『…何?見せもんじゃないのよ。関係ない奴は消えなさいよ。』

 千里『…!』

 真由美『消えろって言ってんだろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が証拠を残そうと、スマホで動画を撮っていた時の事。

 あの時私は、あいつに顔を覚えられた。

 今でも、殴られた傷は残ってる。

 直々に治ってきているが、完全にとは言えない。

 

 ロスト真由美「…そうね……。あなたにも…、酷い事をしてきたわ……。柊太を助けようと必死で…、だけどその時私は…、自分が悪人だって事を気付いていなかった……。本当に…、ごめんなさい……。」

 

 ロストは、申し訳なさそうに言った。

 

 千里「…もう、過ぎた事だし、いいよ。こちらこそごめんなさい。勝手に家に押し入ってしまって…。」

 真衣「…もういいよな。罪を認めたなら、ここから消えてもらう。」

 ロスト真由美「ええ…、そうするわ……。」

 

 ロストはそう言うと、柊太君は剣先を下に向け、構えた。

 これで…、ロストの萩真由美は…、終わるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「バイバイ、お母さん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュウゥッ!!!

 

 

 

 

 

 そうして、ロストは消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…大丈夫?」

 柊太「うん。」

 杏梨「これで…、改心したんだよね?」

 真衣「ああ、そうだな。」

 

 そう言って、私達は余韻に浸っていた。

 すると─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴ…!

 

 柊太「…!揺れてる…!?」

 真衣「…そうだ、ロストワールドが崩れるんだ!」

 

 ロストを消した事により、ロストワールドが揺れ出した。

 

 千里「最初の入り口まで急ぐよ!」

 杏梨「うん!」

 

 私達は、颯爽と走り出した。

 

 ようやく、柊太君のお母さんからの、監獄生活が終わりを迎えたのだった───。

 

 

 

 

 




ようやく改心まで行きました…。


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萩柊太、解決

年明けまでに間に合って良かった…。


 千里「…皆…、無事…?」

 真衣「まあな…、相変わらずの疲労感だが…。」

 

 全員、無事にロストワールドから脱出できたようだ。

 スマホの画面を見ると、ロストワールドの扉を出すアイコンが消えていた。

 

 柊太「これで…、お母さんは悪い人じゃなくなったの…?」

 杏梨「だと思う…。ロストの主が消えたら、そうなるって聞いたから…。」

 

 まあ、結果は明日覗くとしようか。

 気が付けば、もう夕方になっていた。

 

 千里「とりあえず、今日は休もう。明日は学校だし。」

 真衣「ああ、だな。今日はコンビニで飯買って早く寝よう。」

 

 私達はそう決め、アパートを後にした───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 千里「…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 真衣「ふあぁ~…。よく寝たぁ~…。」

 

 千里「ん……。」

 

 目が覚めた。

 

 どうやら、朝が迎えたようだ。

 

 千里「眠…。」

 真衣「だよなぁ…、まだ目が完全に覚めてねえから、アタシはコーヒー飲む…。」

 

 真衣はヨタヨタと台所へ歩み寄った。

 …そろそろ柊太君起こそうかな。

 

 千里「柊太君、起きて~。」

 柊太「んん~……。」

 

 そう呼びかけると、柊太君は寝返った。

 起きてはいるが、体は起こせないようだ。

 

 千里「今日学校でしょ…?早く起きなって…。」

 柊太「あと1時間~…。」

 千里「もう7時だって。遅れるよ?」

 

 私は無理矢理にでも、柊太君の体を起こした。

 だけど…。

 

 

 

 

 

ポフッ

 

 千里「あ、また寝た…。」

 柊太「Zzz……。」

 

 それから30分くらい、柊太君の眠気と格闘していた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「間に合って良かった~!」

 

 あれから杏梨も柊太君も起きて、急ぎめに支度を終えた。

 そして今、聖麗学園高等学校に到着する。

 

 柊太「もうちょっと寝ていたかったな~。」

 千里「…そんな事言ってられないでしょ。平日なのわかってるでしょ?」

 柊太「ん~…。」

 

 さて、柊太君を職員室へ連れて行かないと。

 

 千里「真衣、先行ってて。今から杏梨と柊太君を職員室に連れて行くから。」

 真衣「おー、わかった。じゃあ後でなー。」

 

 真衣は手を振り、廊下の階段へ向かった。

 

 千里「よし、行くよ。2人共。」

 杏梨、柊太「はーい。」

 

 

 

 

 

 あの女…柊太君の母親はどうなったかと言うと…。

 

 ロストを消した後、彼女の元に警察が来たが、自ら罪を告白して逮捕された、との事。

 

 柊太君に虐待した事、そして、アパートの住民全員を殺害した事。

 

 彼女は、懲役20年の囚人となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~職員室~

 私は扉をノックし、ガラッと開けた。

 

 千里「失礼します。2年の彩神千里です。」

 「…彩神さん?」

 

 目の前には、町田先生が立っていた。

 

 千里「ああ、丁度良かった。町田先生に用がありまして。」

 町田先生「あら?そこにいるのって…。」

 

 町田先生は、柊太君の方に顔を向けた。

 

 柊太「あ…。」

 町田先生「萩君じゃない…!どうしたの?急にここに来て!」

 千里「あー…、話すと長くなるのですが…。」

 

 私は前にあった事を全て話した。

 勿論、ロストワールドの事は内密に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町田先生「そうだったの…。お母さん、逮捕されたのね。」

 千里「ええ。やはり虐待されていたようで…。でも今は解決して、学校に通えるようになりました。」

 

 町田先生は柊太君を心配そうに見ていた。

 柊太君も辛かったと思う。

 外出が許されず、ましてや皆で授業を受ける事すら許されなかったから。

 

 町田先生「でも、ちょっと安心したかも。萩君の顔、あの時から一度も見てなかったから、先生ちょっと寂しかったから…。」

 柊太「ごめんなさい、迷惑かけて…。」

 町田先生「ううん、いいのよ。萩君が元気そうで良かった。彩神さんも、萩君の事よろしくね。北乃さんの事も。」

 千里「ええ。そのつもりです。」

 

 こうして、萩君の学校生活が再開したのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~昼休み~

 杏梨「萩君、授業着いて行けてる?」

 柊太「うん。まあまあ。」

 

 私達は、中庭で昼食を食べていた。

 杏梨と柊太君は仲良くなれた模様。

 

 真衣「それにしても…、未だに児童虐待なんてあるもんだな…。何だか世も末だな。」

 千里「それね。私だったら絶対やらない。ああいう事した時点で、何もかも終わる気がするもん。」

 

 というか、結婚できるかわからないし…。

 今の所願望はないかな。

 もし自分に子供ができたら…、そっと見守ってあげようと思ってる。

 何かあった時は支える人間でありたい。

 

 真衣「…そういや気になったけど、千里と柊太って何だか姉弟みたいだよな。」

 千里「…え?」

 

 突然何を言っているの?

 まあでも、そう言われてみれば…。

 

 杏梨「千里ちゃんがお姉ちゃん…。いいかも!」

 千里「…え?杏梨まで?」

 

 北乃姉妹が共感し合っていた。

 

 柊太「いいね~、千里お姉ちゃ~ん。」

 千里「わ、ちょっと…!」

 

 突然、柊太君が抱き着いていた。

 え、柊太君ってもしかして人懐っこいとか?

 

 真衣「ま、頑張れよ!千里姉ちゃん!」

 千里「やめてよ真衣!恥ずかしいじゃん…///」

 柊太「え~?僕は千里ちゃんがお姉ちゃんでもいいよ~。千里お姉ちゃん~、好き~♪」

 

 

 

 千里「ああもう!もうそれでいいよ!!///」

 

 真衣、杏梨「アハハハハハ!!」

 

 気付いたら、もうヤケになってた。

 

 でも、“お姉ちゃん”って言われるのは嫌いじゃないかな。

 

 こうして私は、柊太君の姉になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「変わりやがったんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「─────千里。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてEpisode4は終了です。
最後に出てきた人物は誰なのでしょうね?
先に言っておくと、次の章で明らかになります。
そして、皆さんに報告があります。






























なんと…、次が最終章となります。



























ようやく、この作品を完結間近まで進む事ができました。
ここまで頑張れたのも、読んでくれた人達のおかげでもあります。
次の章が、主人公・彩神千里の最後の活躍という事で、少々寂しくなると思いますが、是非本当の最後まで読んでくださると励みになります。

次回もお楽しみに!
今回が2021年最後の投稿となります!
2022年も、ヤガミをよろしくお願い致します!
それでは、良いお年を!



▽登場人物紹介(随時情報更新)▽

▽プロフィール



名前:萩柊太



読み仮名:はぎ しゅうた
年齢:16歳
誕生日:5月1日
身長:160cm
血液型:A型
趣味:ゲーム
特技:記憶
好きなもの:魚介類
嫌いなもの:なし
ポジション:タンク
使用武器:近接→剣盾 遠距離→弓
イメージカラー:青


▽人物
 マイペースな性格の持ち主であるが、興味のあるものにはとことん食い付く少年。成長途中で見た目が女の子っぽいため、よく女の子と間違われる。通称・「男の娘」。メンバー中唯一の少年キャラクターであり、黒一点の存在である。

 6歳時から心が歪んだ母親・真由美から虐待を受けており、苦しみを抱えながら過ごしていた。真由美の命令から外出が許されず、学校に行けずで自宅で過ごす事が多かった(授業はオンラインで受けていたとの事)。

 母親からの虐待を千里達から救われ、その後は千里と同様に北乃家で暮らす事になる。千里には姉のように慕っている。

 実は聖麗学園高等学校の生徒で北乃杏梨のクラスメイトであり、真由美が逮捕された後は進んで登校できるようになっている。

 外見はやや白みがかった黒の癖毛の髪型、丸々とした目が特徴的。瞳の色は水色。視力がメンバー中最も良いという意外性を持ち、気になる点はとことん意見を出す。更には千里と同様に服装に拘りがあり、こちらはパーカーを好んでいる。作品中では萌え袖になる事が多い。

 ゲームに対する愛は人一倍であり、主にアクションゲームを好んでいる。中でも最もやり込んでいるのは千里もプレイしている「ミッドナイトハンターズ」であり、一度語ると止まらなくなる。


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The Final Episode 操り人形
第42話


遅れましたが、あけましておめでとうございます。
2022年初投稿です。
今回からが最終章という事で、最後の千里の活躍を楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ!


 真衣「ふぃ~、今日もやりきったー!」

 

 放課後、私達は中庭に集合していた。

 真衣と杏梨は部活が終わり、颯爽と私達の所に向かったのだ。

 

 あれから私は柊太の姉(のような)存在となり、柊太自身は「呼び捨てでいい」と言われた。

 これからは彼の事は、「柊太」と呼ぶ事にした。

 

 千里「それで、この後どうする?全員予定ないけど。」

 柊太「ゲーセン行きたい~。」

 

 柊太が意見を出した。

 ゲーセンかぁ…。そういえば最近行ってなかったな。

 

 真衣「お、いいじゃん!アタシは賛成するぜ?」

 杏梨「私も!」

 

 じゃあ、それでいいかな。

 いつぶりだろうね、ゲーセンに行くの。

 

 

 

 千里「そういえば真衣と杏梨はゲーセンに行った事あるの?」

 真衣「頻繁ではないかな。ストレス発散程度に。」

 杏梨「私も、友達に誘われて行くくらいかなぁ。」

 

 なるほどね。

 なら、余程楽しみがあるね。

 ここんとこ良くない事とか起きてばかりだし、今日は思う存分楽しもうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???視点~

 そろそろだろうな。

 

 

 

 千里が学校が終わり、校門を出る頃だ。

 

 

 

 母親を手放した、哀れな奴。

 

 

 

 今は母親の事なんて忘れて、のうのうと生きているんだろうな。

 

 

 

 本当に、あいつはどんな育て方したんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 柊太「到着~。」

 

 少し離れた所のゲーセンに辿り着いた。

 

 真衣「久しぶりだなー!」

 杏梨「そうだね!あ、あれって新しいやつじゃない!?」

 真衣「本当だ!早速やってみようぜ!」

 

 北乃姉妹は相変わらず大はしゃぎだ。

 遊園地の時以来かな。

 

 千里「まったく、2人共子供みたいだなぁ。」

 柊太「今日は子供でいようよ~。千里お姉ちゃんも、もたもたしてると置いてっちゃうよ~?」

 千里「わかってるって。」

 

 柊太も言ってる事だし、今日は私も子供の気分でいようかな。

 

 

 

~レースゲーム~

 杏梨「お姉ちゃん、これでもくらえー!」

 真衣「うわ、杏梨!そこに仕掛けるとはやるな!」

 

 

 

~シューティングゲーム~

 柊太「お姉ちゃん、そっち狙ってる~。」

 千里「わ、本当だ。速攻で狙い撃ち!」

 

 

 

~UFOキャッチャー~

 杏梨「わぁ…、可愛い~!」

 真衣「取ってやるか?」

 杏梨「え?いいの?」

 真衣「任せとけって。100円入れてっと…。」

 

ウィーン…

 

 真衣(…確かアタシの記憶だと、こういうのは輪っかに引っ掛ける感じでいいんだよな…?)

 

ウィーン…

 

 真衣(お、行けそう…!)

 

クイッ

 

ウィーン…

 

 

 

ストンッ

 

 杏梨「わ、入った!」

 真衣「ほいっと、お望み通り取ってやったぞ。」

 杏梨「ありがとう!お姉ちゃん!」

 

 

 

 その後も私達は、目一杯楽しんだ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「楽しかった~。」

 

 あれから1時間くらいゲームをやり、6時を回っていた。

 

 真衣「何か食ってから帰るか?奢るぞ?」

 杏梨「いいの!?」

 真衣「ああ。ロストワールドで主を消したし、柊太も仲間に入ったしな。

 お祝いってやつでアタシが奢るよ!」

 杏梨、柊太「やった~!(。)」

 

 真衣は世話好きだなぁ。

 そういう所が真衣らしいけどね。

 

 千里「ごめんね、何から何まで。」

 真衣「構わないさ。アタシが好きでやってるんだし。」

 千里「そうだったね。」

 

 そして、私達は何を食べようか意見を出し合う───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よう!千里じゃねえか!」

 

 

 

 

 

 千里「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───そこには、私が会いたくない奴がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




千里に声をかけた人物は一体誰か?
最後のロストは誰なのか?
ここから明らかになっていきます!
そして、章の「操り人形」の意味もわかってくるような物語にもしていきたいと思うので、お楽しみに!


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第43話

~柊太視点~

 夜ご飯は何食べたいか、話していた時。

 誰かが千里お姉ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 

 そしてどうしてか、お姉ちゃんは驚いた顔をしていた。

 

 それは、ただ驚いた訳ではない。

 

 

 

 まるで、怯えているような感じがした。

 

 

 

 

 

 ???「忘れたか?お前の父さんだぜ?覚えてるか?昔、母さんと暮らしていた時の事。」

 

 千里「……。」

 

 千里お姉ちゃんは何も言わず、立ち尽くしていただけだった。

 

 この人は、お姉ちゃんのお父さんなのか。

 

 でもお姉ちゃんの方は嬉しさが見えてなく、それどころか苛立ちを見せているような。

 

 ???「おいおい、せっかく父さんが来てやったんだから、何か言ってみたらどうだ?そのままじゃ、延々とにらめっこが続く一方だぜ?まあ父さんは、千里と会えたならそれでもいいけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……どうしてあんたがいるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「…あ?」

 

 すると、千里お姉ちゃんは口を開いた。

 

 千里「昔お母さんと暮らしてた?馬鹿げた事言わないでくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「お母さんの病気の事で争って、私とお母さん突き放したくせに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 私は、ただ苛立ちを抱いていただけでいた。

 今私の目の前にいる男…私の父親、彩神賢一郎(あやかみ けんいちろう)の事でだ。

 こいつは…、私とお母さんを突き放した。

 何もかもを壊したこの男。未だに許した事はない。

 

 賢一郎「何を寝惚けた事言ってんだ?父さんはお前と会いたくてここに来たんだぞ?少しは笑って出迎えてくれてもいいんじゃねえか?」

 千里「…誰がそんな事するもんか。だったら、病気がどうのって言って、争いを始めた原因は誰なの?まさかお母さん、なんて言わないよね?」

 賢一郎「…何だと?」

 真衣「千里…。」

 

 こいつのせいで、私はどれだけ苦しい思いをしてきたか。

 どれだけ死にかけたと思ったか。

 真衣と出会うまで、そんな複雑な気持ちが続いていた。

 真衣と出会って、それが消えたと思っていた。

 だけど…、現実はそうは行かなかったのだ。

 

 賢一郎「……何を言い出すかと思えば…。やっぱりそんな奴に育ったんだな…。あいつが甘やかしてばかりいたから、お前はそんな風になったんだよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賢一郎「育ちの悪いガキが。」

 

 

 

 千里「……!!!」

 

 こいつ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太

「千里お姉ちゃんはそんな人じゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…!」

 

 突然、柊太が声を上げた───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 気付いたら、僕は大声を上げていた。

 千里お姉ちゃんの事を馬鹿にされたから。

 僕の命の恩人を、傷付けられたから。

 

 賢一郎「何だてめえ?外野は引っ込んでろ。」

 柊太「確かにあなたから見たら、千里お姉ちゃんはそういう人かもしれない。だけど千里お姉ちゃんは、行き場所の無い僕を助けてくれた。こんな僕を可愛がってくれた。」

 

 

 

 

 

 柊太

「僕の命を救ってくれた優しい人を馬鹿にしないでよ!!」

 

 僕がそう言っても、あいつは動じなかった。

 そりゃそうだよ。子供相手に怯える訳なんてない。

 そんな事はわかってた。

 でも、千里お姉ちゃんを馬鹿にした事は許さない。

 

 賢一郎「千里に救われたぁ?こんな不良になったクソガキの味方なんぞ、相当腐ってるんだろうな。こいつに着いて行った所で何も変わりゃしねえ。ましてや不良になったんじゃ、嬲り殺しにされるかもしれねえのにな?お前には地獄を見る未来しか見えねえな。」

 

 

 

 

 

 真衣「…いい加減にしろよ。」

 

 

 

 

 

 賢一郎「あ?」

 

 

 

 真衣「さっきから勝手にふざけた事ベラベラと喋りやがって…!千里を悪く言うんじゃねえよ!!」

 

 真衣ちゃんも、口を開いた───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 『あんたさ、親いないの?』

 

 『…いない。』

 

 千里が怒る理由がわかった。

 あの時、ボロボロになっている千里の姿が目に浮かび、それが原因となったのが…。

 

 『お母さんの病気の事で争って、私とお母さん突き放したくせに。』

 

 千里のこの言葉だった。

 あいつは、「母親は病気で死んだ」と言っていた。

 それであの時、街の中でボロボロになって座り込み、自分が死ぬのを待っていたんだ。

 この経歴を作ったのが、今目の前にいる千里の親父って訳だ。

 

 賢一郎「何だよ、次から次へと…。」

 

 

 

 真衣「…お前、千里の悪い所だけ見てんだろ?」

 

 

 

 賢一郎「だったら何だ?」

 

 何を言われても構わない。

 千里がああなったのはこいつが元凶なのだから。

 

 真衣「千里はな、正義感がある奴なんだよ。アタシは親父を殺されて、妹は虐めを受けて…、そんなアタシ達を救ったのは千里だ。千里がいなかったら、アタシ達は永遠に闇の中で彷徨っていたままだった。千里はそんな風に、誰かの為に動ける奴だ!そんな奴を馬鹿にするんじゃねえ!!」

 

 アタシは、思っていた事を全て吐き出した。

 アタシも、千里に救われた身だ。

 だから次は、アタシ達が千里を助ける番だ。

 

 賢一郎「…なるほどな。これが若者が言う“囲い”ってやつか。大勢出寄って集って、1人の人間を蹴落とすもんだよなぁ?だが所詮ガキだ。こっちは大人だぜ?お前らみてえに子供じゃねえんだよ。」

 

 あいつは憎まれ口を叩いて去って行く。

 その時だった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「次千里ちゃんを馬鹿にしたら許さないからね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨が前に立ち、そう言い放った。

 だが、あいつは振り向きをしなかった。

 それでもいい。後に地獄を見るのはあいつの方なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第44話

~千里視点~

~10年前~

 賢一郎『…お前の病気、もう見飽きたんだよ。』

 

 洋子『何で…?何でそんな事言うの…?結婚する前にちゃんと話したじゃない…!』

 

 賢一郎『うるせえな。言葉の通りだよ。毎回毎回薬処方しに病院に付き合わされてるこっちの身にもなってみろよ。』

 

 洋子『あなた、他の人にもそう言っている訳!?病気を持っている人を何だと思ってるの!?』

 

 賢一郎『どうでもいいだろ、そんな事。俺の言葉が気に入らねえなら、どこか遠くへ行けばいいだけの話じゃねえか?』

 

 洋子『あなたがそんな人だったなんてね…!千里!行きましょ!こんな人に着いて行くだけ無駄よ!』

 

 賢一郎『勝手にやってろ。だが、後悔するのはお前の方だからな。』

 

 

 

 

 

 洋子『ごめんね、千里…。お母さんが病気を持ってなければ、こんな事にならなかったのに…。』

 

 千里(7)『…おかあさんはわるくないよ。それにね、わたしはおかあさんといっしょにいられるの、すっごくうれしいしたのしいんだ。』

 

 洋子『ふふ、そうなのね。ありがとう、千里…。』

 

 

 

 

 

~6年後~

 千里(13)『お母さん。具合どう?』

 

 洋子『大丈夫よ。お薬飲んだら、少しは良くなるから…。』

 

 千里『無理しないでね。何かあったら何でも言って。』

 

 洋子『ありがとう、千里…。』

 

 

 

 

 

~2年後 卒業式終了後~

 千里(15)「……ただいま。」

 

……。

 

 千里「……。」

 

 千里(…お母さんがいないんじゃ、卒業式もなんだか寂しいな…。)

 

プルルル…

 

 千里「…ん?」

 

 

 

【○○市立病院】

 

 

 

 千里「もしもし…?」

 

 『洋子さんの娘さんでよろしいですか…?』

 

 千里「そうですけど…。」

 

 『お母さんの容態が…、悪化してきて…!』

 

 千里「…!え…!?」

 

 

 

 

 

 千里『お母さん!!』

 

 洋子『千里……。』

 

 

 洋子『千里の卒業を…見届けられなくて…ごめんね……。』

 

 千里『お母さん…!駄目だよ…!生きて…!』

 

 

 

 洋子『千里…、生まれてきてくれて…ありがとう……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洋子『……愛してる───。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピー……

 

 千里『……!!』

 

 

 

 そんな…、嫌だよ…。』

 

 

 

 何で…、私を置いて行っちゃうの…?そんなの…、嫌だよ…。

 

 

 

 嘘って言ってよ…。目を覚ましてよ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『…お前の病気、もう見飽きたんだよ。』

 

 『病院に付き合わされてるこっちの身にもなってみろよ。』

 

 『どうでもいいだろ、そんな事。』

 

 やめてよ…。

 

 『後悔するのはお前の方だからな。』

 

 黙ってよ…!

 

 『育ちの悪いガキが。』

 

 

 

 

 

 黙れよ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「はっ…!?」

 

 

 

 

 

 気付いたら、私は目を覚ました。

 今のは夢なのか…。

 あの頃の記憶が全て蘇った。

 

 柊太「……お姉ちゃん……?」

 

 私の隣で寝ていた柊太が目を覚ます。

 

 千里「あ…、ごめん、起こしちゃった…?」

 柊太「大丈夫……。」

 

 柊太は眠い目を擦りながら、私の顔をじっと見た。

 

 

 

 柊太「お姉ちゃん…、何で泣いてるの…?」

 

 

 

 千里「…え…?」

 

 柊太にそう言われ、私は目に手を当てた。

 本当だ、確かに温かく、濡れた感触がある。

 

 千里「あれ…?何で泣いてるんだろ、私…。」

 

 もしかすると、あの夢のせいなのか。

 私が今まで経験してきた事。

 母親の死、そして父親だった男への怒りで出てきたものなのか。

 それは私にもわからなかった。

 

 柊太「もしかして…、あいつの事…?」

 千里「…!」

 

 どうやら、柊太にはわかったらしい。

 

 柊太「お姉ちゃん、あいつに怒ってるんだよね…?あの時、お姉ちゃんが馬鹿にされてわかったんだ。きっと、お姉ちゃんは何かあったんだって。」

 千里「……。」

 

 柊太は、私と同じで苦しい思いをしてきたから、すぐにわかったのかもしれない。

 それは、真衣にも杏梨にも言える事だろう。

 

 千里「ごめんね、柊太。心配かけちゃって…。」

 柊太「僕は大丈夫だよ。僕が虐待されていた時、1番最初に助けてくれたのは、お姉ちゃんだから。だから、次は僕がお姉ちゃんを助ける番。僕はいつまでも、お姉ちゃんの味方だよ。」

 千里「柊太…。っ…!」

 

 柊太の言葉で、涙が溢れ出る。

 今まで虐待されていた柊太は、こんなにも良い子なんだ。

 そう思った私は、泣く事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 あいつだけは絶対に許さない。

 

 もしあいつのロストが出たら、徹底的に消してやる。

 

 私は柊太を抱きながら、再び眠りについた───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第45話

~翌日~

 真衣「…さみぃ。」

 

 私達はあの後、街に出ていた。

 もしかしたら、あいつのロストがいるのかもしれないから。

 現在時刻は8時だから、まだ少し肌寒い。

 

 真衣「んで?本当にロストワールド探すのかよ?こんなくそさみぃのに?」

 千里「…そう言ってられないでしょ?いつどこでロストワールドと遭遇するかわからないんだから。」

 

 そうして私達は街中色々探し回り、ロストワールドへ続く扉を探しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数十分経ったが、手掛かりは見つからない。

 ロストワールドは何かキーワードがないと出現しない。

 となれば、このスマホの音声認識が必要みたい。

 こないだの泉田の時もそうだった。

 

 真衣「…なあ、千里。」

 千里「何?」

 

 すると、真衣が私に話しかけた。

 

 真衣「さみぃからコンビニでコーヒー買ってもいいか?もちろん千里の分も奢るからよ…。」

 

 なんだ、そんな事か。

 確かに今はちょっと寒いくらい。

 12月だからね…。

 

 千里「…わかった。なら早く済ませてよね。」

 真衣「そのつもりだっての。じゃ、行ってくる。お前らはどうする?何か欲しいのあれば一緒に行くが。」

 杏梨「あ、ホットレモネード飲みたい!」

 柊太「僕はお茶~。」

 

 そうして真衣や杏梨、柊太は近くのコンビニに入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …あれ?そういえばここ、見た事あるような…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「─────あ……。」

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 

 

 ここは、私と真衣が初めて会った場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣『あんたさ、親いないの?』

 千里『…いない。』

 真衣『…だったらさ、うちに来ないか?』

 千里『…え?

 真衣『ここにずっといても退屈だろ?それに、困った時はお互い様ってやつだしさ。』

 

 千里『…わかった。そうする。』

 真衣『よし、取引成立だな!』

 千里『…取引?』

 真衣『まあ、細かい事は気にするな。アタシ、北乃真衣な!あんた、名前は?』

 千里『…千里。彩神千里。』

 真衣『千里…か。良い名前だな!彩神って苗字もかっこいいじゃん。羨ましいよ。』

 千里『そ…、そう…?』

 真衣『よし、そうと決まれば、アタシん家に直行だな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、私達は出会ったんだ。

 

 そして、杏梨や柊太とも出会えた。

 

 今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリッ!!

 

 千里「うっ…!?」

 

 

 

 突然、頭に電流が走った。

 

 これって…、前にもあった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……まだ諦めてなかったんだ。」

 

 

 

 

 

 千里「…え…?」

 

 誰かが私に喋りかけている。

 

 声のする方へ向くと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里(…!あの時の…!)

 

 

 

 そう、その声の主は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『…私を探しているようだね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時の真っ黒に染められた、もう1人の私だった。

 

 

 

 

 

 千里…?「あれからどうしてるのかなって思って、様子を見に来たんだ。随分とロストワールドを荒らしていたようだね?」

 

 千里「荒らしていた…?どういう事…?」

 

 千里…?「言葉の通りだよ。ヤクザの若頭、虐めっ子の首領、そして虐待犯の母親…。せっかくロストワールドが楽しくなると思っていたのに、あんたのせいで何もかも失った…。」

 

 千里「あなたは何者…?何が目的な訳!?」

 

 私がそう言い放つ。

 

 彼女は少し黙った後、笑いながら口を開いた。

 

 千里…?「そうだねぇ…。私達を動かしていた男のロストを消したら教えてあげる。」

 

 千里「私達を動かしていた…?」

 

 千里…?「あんたの父親だよ。」

 

 千里「…!」

 

 私は、全てを悟った。

 

 今の私と彼女は、あいつによって動かされているんだ。

 

 そう、つまり私は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───“操り人形”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里…?「私達はあいつの操り人形。この私はあいつによって作られた。だけどあなたは人形という名の皮を脱ぎ捨て、壊れたように自分の思うがままに動いている。今頃あいつは、あんたの何もかもを直そうと必死なんじゃない?」

 

 千里「っ…!」

 

 違う、そうじゃない。

 

 私はあいつと関わるのが嫌で、手を振り払って暮らしているだけ。

 

 認めたくない。あいつの操り人形なんて。

 

 千里…?「ま、どうしようかはあんたの勝手だけどね。でもこれだけは覚えといて。あんたの父親のロストを消さない限り、この絶望から逃れられないと思った方が良いよ。」

 

 千里「…何だって…?」

 

 絶望?

 

 よくわからないけど、不穏な空気を感じる。

 

 千里…?「精々頑張りな。また機会があれば会おうねー。」

 

 千里「あ、待って!!」

 

 彼女はそう言うと、煙のように消え去って行った…。

 

 

 

 

 

 真衣「千里ー!お待たせー!」

 

 すると、真衣達がコンビニから出てきた。

 

 柊太「お姉ちゃん、これ。」

 千里「…?」

 

 柊太が差し出してきたのは、ホットココアだった。

 

 真衣「言ったろ?千里の分も奢るって。」

 千里「…ああ、そうだったね。ありがとう。」

 

 私は渡されたホットココアを手に取る。

 うん、あったかい。

 ちょっとした寒さ凌ぎにはなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピコンッ

 

 千里「ん?」

 

 突然スマホが鳴り、画面を覗いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…!出た!アイコン!」

 真衣「…!マジか!?」

 

 そう、ロストワールドに続く扉を出す為のアイコンが出てきた。

 …あれ?いつキーワード出てきたの?

 

 千里(…!そうか…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里…?『私達はあいつの操り人形。この私はあいつによって作られた。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういう事だったのか。

 

 このロストワールドのキーワードは、あいつが言っていた“操り人形”だった。

 

 柊太「こんな人が多い所にロストワールドが出るの~?」

 千里「でも出たからには、あいつのロストが存在するって事だね。」

 

 早速ロストワールドに入ろうと思う。

 見つけたらとっちめる。

 

 真衣「よし、やってやるぜ!」

 杏梨「行こう!ロストワールドに!」

 柊太「出発進行~。」

 

 皆準備ができたみたい。

 

 千里「じゃあ、扉出すよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 今回はどんなロストワールドか。

 

 どんなロストになっているのか。

 

 全てはこの中にある。

 

 千里「行くよ!」

 

 

 

 あんな奴の言いなりなんて御免だ。

 

 もうあいつは、私の父親なんかじゃない。

 

 そう思い込みながらも、私はロストワールドへ潜入したのだった─────。

 

 

 

 

 

 



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第46話

お久しぶりです、ヤガミです。
最後に投稿した日からかなり長く間を空けてしまい申し訳ないですm(_ _)m
恐らくこの作品の続きが気になる人もいらした事でしょう。

理由としては小説を書くモチベがなかなか上がらず、気付けば数ヶ月も空いてしまいました。
またこのような事態になってしまうかもしれませんが、あたたかく見守ってくださると幸いです。

前置きが長くなってすみませんm(_ _)mそれではどうぞ!


 千里「ここがあいつの…。」

 

 私達は、ロストワールドに来ていた。

 赤黒く染まった、この世界に。

 

 真衣「千里の話だと、千里の親父が全ての鍵を握ってるって事だよな?」

 千里「うん。だから一刻も早く何とかしないと、絶望からは逃れられない。それは皆にも巻き込まれるという可能性もあるなら、早めに始末しといた方が良さそう。」

 

 さっき現れた私の話で、そう仮定を立てた。

 絶望は、自分だけに来るとは限らない。

 

 千里「だけど…、まずはあいつのロストを見つけないと。」

 真衣「…だな。」

 杏梨「そうだね。」

 柊太「了解。」

 

 私達は歩き出す。

 今回は、父親とは呼ぶ事ができない男が相手だ。

 あいつのせいで全て失った。

 お母さんが亡くなって、あいつは清々しているんだろうな。

 そんな奴は、黙らせるに限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこを歩いても建物、建物、建物。

 

 その景色が一向に変わらない。

 

 真衣「…なあ、これ思ったんだけどさ。」

 千里「何?」

 

 

 

 

 

 真衣「もしかするとこの街全体が、あいつのロストワールドなんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 杏梨「…え?どういう事?」

 

 この街全体が…?

 

 真衣はそう言っていた。

 

 でもそれと何の関係が?

 

 真衣「アタシの仮定なんだが、もしもロストワールドが街全体なら、ここ自体が自分のもの。つまりは、自分はこの街の持ち主になったつもりなんじゃないかって思っててな。」

 柊太「う~ん、難しい~。」

 

 一理あるかもだけど…。

 真衣の言葉が本当なら、あいつのやる事になりうるかも。

 

 

 

 『私達はあいつの操り人形。この私はあいつによって作られた。だけどあなたは人形という名の皮を脱ぎ捨て、壊れたように自分の思うがままに動いている。今頃あいつは、あんたの何もかもを直そうと必死なんじゃない?』

 

 

 

 もう1人の私の言葉が頭の中でよぎる。

 本当の私が壊れているから、あいつは私を直そうとして、近付いたのか。

 この街は自分の拠点のようなものだから、協力できる者が多い可能性もある。

 もしそうなら、今まで以上に警戒しないといけない。

 

 真衣「こんだけロストワールドが広いもんだから、手分けして探した方がいいよな。」

 杏梨「それだと見つけた時はどうしたらいい?引き付けるのも難しいだろうし…。」

 

 確かにそうだ。

 ロストワールドではスマホは使えないだろうし、連絡手段がない。

 

 真衣「ん~、そうだな…。何か音を立てられる物があると良いんだが…。」

 千里「音を、か…。」

 

 何か、このロストワールド全体に響かせる音があれば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ん?音?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…そういえば…。」

 柊太「お姉ちゃん?どうしたの~?」

 

 私は、自分の懐を探り出す。

 音って言ったら、これが役立つんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…これ、使えそうかな。」

 杏梨「銃?何で?」

 

 私は、自分が持っていたハンドガンを取り出した。

 一応戦闘でも使っていた物だ。

 

 千里「こういう銃っていうのはかなりの爆音だから、こういう場所でも響くんじゃないかと思って。」

 真衣「なるほど!その手があったか!」

 

 それが私の作戦。

 銃声は遠くまで響くから、何かしらの合図には使えそう。

 真衣の馬鹿でかい声よりも大きいから、尚更呼び出せるだろう。

 

 真衣「となれば…、柊太以外銃を持ってるって感じだな。柊太は弓矢だもんな。」

 柊太「弓矢じゃどうしようもない~。光が付いてればやってたけど~…。」

 千里「柊太は私と同行って事で。柊太1人じゃ危ないし、心配だからさ。」

 杏梨「お~、流石柊太君のお姉ちゃん!」

 柊太「わ~い、お姉ちゃん頼もし~い。」

 千里「はいはい。じゃあ、作戦開始!」

 

 そう言うと、私達は別々の方向へ散らばった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…はぁ、相変わらず気味悪い。」

 

 私は柊太と同行している時に、ポツリと呟いた。

 黒いもう1人といい自分や憎き父親といい…何だか最近憂鬱ばかりだよ。

 

 柊太「そういえば、お姉ちゃん達って前にもロストワールドに入ったんだよね?」

 千里「え?まあ…。」

 柊太「…やっぱり。」

 千里「…急にどうしたの?」

 

 柊太からそう呟かれた。

 突然どうしたのだろうか。

 

 柊太「あの時もそうだったけど、お姉ちゃんってロストワールドの事よく知ってるな~って。もしかすると、真衣ちゃんや杏梨ちゃんも、同じような出来事のせいでここに来たのかなって。」

 

 なるほどね。

 正義感が強い私を見て、そう思ったからかな。

 誰かによって閉ざされた心を開くために、その誰かのロストを消して改心させる。

 それが、今まで私達がやってきた事だ。

 

 千里「…今回は、今まで以上に厳しい相手。それに、私達を突き放した、心無い人間だよ。…絶対に恨みを晴らしてやる。そうするまでは休んだり、呑気に遊んでなんかいられない。」

 

 私はロストワールドに睨みをきかせ、そう言った。

 今回は江田や泉田、真由美以上に立ち向かわなければならない。

 

 柊太「…本気なんだね。」

 

 柊太も、覚悟の上で言っている。

 恐らく、真衣も杏梨も同じだろう。

 

 千里「まあね。…それにね、さっき柊太達には見えなかっただろうけど、もう1人の私に言われたんだ。」

 柊太「もう1人のお姉ちゃん…?」

 

 もう1人の私。

 あの真っ黒な私の事だ。

 

 千里「『父親のロストを消さない限り、この絶望からは逃れられない』ってね。なら、真っ向勝負で挑めって事。そう思ったら、簡単に手を引くなんてできる訳がない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……私は、本気だよ。」

 

 

 

 

 

 柊太「お姉ちゃん…。」

 

 もう、覚悟はできている。

 絶望から逃れるためなら、他に理由なんて無い。

 

 柊太「わかった。なら僕はお姉ちゃんに手助けしたい。あの時のお礼も返せてないもん。」

 千里「うん。期待してる。」

 

 さあ、そうと決まればまずはロストを探す所からだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『おーう、そこにいんのは誰かなぁ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、柊太「…!!」

 

 突然、後ろから声が聞こえた。

 

 振り向くとそこには─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




…と、いう事で今回はここまでとなります。
本当に長い間お待たせしてしまい申し訳ありませんm(_ _)m
この作品もそろそろ終わりが近付いてくる頃なので、最後まで頑張りたいと思います。
それではまた次回。


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第47話

大変お待たせしました、東京ロストワールド最終章の続きです。
かなり間が空いてしまったので、前回の話を振り返ってから書きました。

それではどうぞ!


~真衣視点~

 真衣「おら!これでどうだ!」

 

ザシュッ!

 

ザシュッ!

 

 アタシは今、このロストワールドのロストと戦っている。

 この街自体がロストワールドなら、こんだけ多くいてもおかしくねえ。

 

 真衣(この多さだと、杏梨とかは苦戦しそうだな…。あいつ、物理面に関しては打たれ弱いし…。)

 

 ロストを斬っている最中でも、アタシはそんな事を考えていた。

 もう杏梨はアタシがいなくてもやってのけると思うが、この状況となると心配だ。

 

 真衣(いや、考えるのは後だ。今は目の前の事に集中しねえと。)

 

 そう思いながら、多数のロストに立ち向かう。

 

 

 

 ───その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン…!

 

 

 

 

 

 真衣「…ん?」

 

 今のは、銃声…?

 

 まさか…。

 

 真衣(千里の…だよな?ロストを見つけたのか!)

 

 どうやら千里が銃を放ったらしい。

 だが今のアタシは、それどころではないようだ。

 

 真衣(すまねえ、千里。こいつら片付けてから向かうからよ!)

 

 千里には申し訳ないが、全員倒してから向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 杏梨「う~ん…。」

 

 私は、千里ちゃんのお父さんのロストを探してる最中だった。

 どこを歩いても、ビルやお店など、建物ばかり。

 ここは、本当に街全体がロストワールドなのかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン…!

 

 

 

 杏梨「…!」

 

 どこからか、銃声が聞こえた。

 距離からして、少し近め。

 

 杏梨「もしかして、近くにロストが…!?」

 

 私は、銃声のした方へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 千里「……やっぱりここにいたんだ。」

 

 今目の前にいる、道化師の姿をしたこいつは、このロストワールドの主。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───私の父親…いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩神賢一郎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「誰かと思えば千里じゃねえか~!何だぁ?父さんと会う気になったのか?」

 千里「はあ?んな訳ないでしょ?まあ、ここに来た事には変わりないけど。逆の意味で言えば、“あんたを消しに来た”って言えばいいかな。」

 ロスト賢一郎「なるほどなぁ、反抗期ってやつか。んで?そんなお前が俺を消しに来たって?そんな簡単な事できんのかよ?俺はこの世界の主だぜ?って事はな、1番権力や戦闘力がある。そんな人間に歯向かうのか?えぇ?」

 

 そんなのはわかってる。

 でも、それも覚悟の上だ。

 今まで強大な敵と戦ってきた。

 その経験を積み重ねていれば、多少厳しくなる事もわかってる。

 

 千里「あんたを消さない限り、私達は何度でも歯向かうよ。…それに、私はもう1人じゃない。私には真衣や杏梨、柊太がいる。」

 ロスト賢一郎「ほう?昨日俺に口答えした奴らの事か。だが所詮、口答えしたのは反抗期のガキらだ。そんな奴らの手だと、大人相手じゃどうしようもねえのによ。要はお前らみたいなガキは、大人に歯向かっても意味ねえって事よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……そんな事ない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「あ?」

 

 本当にこいつは、どこまで行っても悪人だ。

 

 自分が大人だからと言って、十中八九偉くなる事もないのに、そんな事を見向きせずに憎まれ口を言い放てる。

 

 だから私は、こいつを父親と思いたくなかったんだ。

 

 千里「あんた、反抗期の意味知らないでしょ。私があんたから離れるのは、小さい頃にあんたとお母さんが言い争いをして、あんたが私達を突き放したからなんだよ。…それが反抗期?ふざけるのも大概しろよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里

「あんたがお母さんとちゃんと話し合っていれば!!こんな事にはならなかったんだろ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「…何だと?」

 

 

 

 

 

 ついに私は怒りが爆発し、強い口調でそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「…確か、こっちのはずだったよな?」

 

 やっとの事でロストを蹴散らし、合流する事にした。

 アタシはとりあえず、銃声のした方へ向かっている所だ。

 …たく、街全体がロストワールドだなんて思いもしなかったな。

 お陰様でこっちからしたら迷路だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「あ、お姉ちゃん!」

 真衣「…ん?杏梨?」

 

 途中で杏梨と会った。

 杏梨も同じような目的だろうな。

 

 真衣「…何でかがみ込んでんだ?」

 杏梨「…様子見。」

 

 向こうに何かあるのか?

 アタシは、杏梨と隠れながら向こうを覗いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あんたがお母さんとちゃんと話し合っていれば!!こんな事にはならなかったんだろ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…!千里…。」

 

 視線の先にあったのは、千里や柊太、そしてロストの主と思われる奴の姿だった。

 何やら不穏な空気を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 賢一郎「今更母親の仇ってか?やっぱりあいつ、碌な育て方しなかったんだろうな。実の父親に歯向かうなど、所詮無駄だってのに。それなのにお前は…。」

 

 牙を剥けた私に、奴は呆れていた。

 どれだけ私が歯向かおうと、まるで私達の方に罪を移しているようだった。

 自分に正義があるかのように。

 

 千里「…元々、あんたはお母さんの病気の事を理解していたはずでしょ?私は、陰であんたとお母さんが言い争っているのを嫌という程覚えてる。“病気が見飽きた”、“どうでもいい”…。何事も無く生きてきた人間がよく口走れるね?でも、私なんかよりもずっと苦しんでいたのはお母さんの方なんだよ。なのに罪は私達の方にあるって事?マジでふざけんなよ…!」

 

 私は、自分がこの目で見てきた過去を語る。

 

 本当は思い出したくもない、残酷な過去。

 

 でも、歪んだ正義を持っている奴のためには、嫌でも語るしかない。

 

 どれだけ気持ちが込み上がろうと、どれだけ傷を負おうと、その歪んだ正義にわからせる他無い。

 

 千里「…そんな訳で、私達はここに来た。あんたの歪んだ正義を掻き消すためにも。あんたの操り人形から逃れるためにも…。全部ここで終わらせてやる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「…んな事できると思うか?」

 

 奴は口を開く。

 

 でも、私はそんなのに動じない。

 

 私の何もかも壊した男。

 

 今度は、私が奴を壊す番だ。

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「本当にてめえは!育ちの悪いクソガキだな!!」

 

 奴は私に殴りかかってきた。

 

 その瞬間─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!

 

 

 

 

 

 奴の攻撃を弾く鈍い音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「……。」

 千里「…!柊太…?」

 

 私の目の前にいたのは、柊太だった。

 

 奴の攻撃を盾で防いでいた。

 

 柊太「…もう、千里お姉ちゃんの事を悪く言わないで。」

 ロスト賢一郎「…あ?」

 柊太「確かにお前から見たら、千里お姉ちゃんは悪い人かもしれない。でも、本当はそんなのじゃない。千里お姉ちゃんは、お前が思っているほど悪い人じゃない。」

 ロスト賢一郎「威勢の良いガキだな。ただ、自分が何言ってっかわかってんのか?」

 柊太「その言葉、そっくりそのまま返してあげる。」

 

 柊太は盾で奴の拳を払い除けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「どりゃああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「…!」

 

ドゴォッ!

 

 すると、奴は素早く後退した。

 どうやら、真衣や杏梨も来たようだ。

 

 ロスト賢一郎「…たく、次から次へと…。」

 真衣「…千里と柊太の言う通りだと思うぜ。」

 ロスト賢一郎「んだと?」

 真衣「あんたから見たら、千里は無慈悲で哀れな人間かもしれねえ。あんたと千里のやり取りを見りゃわかる。だけどな、悪い所ばかり見てちゃ、後々後悔すると思うぜ?」

 ロスト賢一郎「後悔だと?んなもん関係ねえじゃねえか。こっちはれっきとした大人だぞ。後悔なんて馬鹿な事する訳ねえじゃねえか。」

 

 こいつは、真衣の言葉にも一切動じなかった。

 何しろ、他人に何を言われようが、歪んだ正義に拘るばかりの人間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「…本当にそう思っているの?」

 

 続いて、杏梨も口を開く。

 

 杏梨「じゃああなたは、何もかも完璧にできるの?千里ちゃんを突き放してまでも、自分には絶対に非が無いって言えるの?」

 

 杏梨はかつて、虐められていた身の子。

 自分が経験した過去を共有しようとしているのだろう。

 あの時、泉田に虐められていた、過去の自分を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「…たく、どいつもこいつもうるせえガキ共だな。」

 

 

 

 

 

 真衣「…んだと?」

 

 すると、奴はこれでもかと言うくらい憎まれ口を叩いた。

 

 ロスト賢一郎「ガキってのは所詮そんなもんだ。出来が悪いとすぐ喚くわ、何の証拠もなくすぐ悪人扱いするわ…。ま、こんな事言ったって、低脳のお前らにはわからねえ話だけどなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……もう1回言ってみろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、我慢の限界を迎えていた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 ついに千里は、怒りをはっきりと表に出した。

 

 今の千里は犬…いや…。

 

 

 

 

 

 鬼のようだった。

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「聞こえなかったか?低脳のお前らにはわからねえってんだよ。」

 

 

 

 

 

 千里「低脳……ははっ、低脳、ねえ…?」

 

 真衣「千里…?」

 

 千里「死んだお母さんの事も忘れて、のうのうと生きてる奴がよく言うよ。」

 

 ロスト賢一郎「あ?」

 

 千里にとって、自分や母親を突き放したこの男は、厄災を生み出した悪人だろう。

 

 千里の口調が悪くなっていっているのがわかる。

 

 千里「さっきからふざけた事グチグチグチグチ言いやがって…!お前は社会のゴミ…いや、人間以下の存在だよ!」

 

 もう、千里は我慢の限界なのだろう。

 

 奴の悪に塗れた正義が、千里にとって余程許されない事だった。

 

 ロスト賢一郎「ほう?なら試してみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチンッ

 

 奴は指を鳴らし、そして大勢の手下を呼んだ。

 

 杏梨「…!多い…!」

 

 その手下は、通路まで占めるほどの数だった。

 

 やはりこのロストワールドは、この街は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───奴の縄張りだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当にお待たせしてしまい申し訳ないですm(_ _)m
そろそろ終わりが近いので、早いとこ完結までいきたかった結果がこれです(´・ω・`)
次回から戦闘となります。お楽しみに。


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第48話

※シリアスなシーンがあります。苦手な方はご注意ください。


~千里視点~

 私達は、あいつの手下に囲まれている。

 それも、逃げ道を塞がれているほど。

 

 真衣「くそ!なんて数だ!」

 

 倒しても倒しても、わんさか湧いてくる。

 あいつにとっては、高みの見物だろうな。

 

 ロスト賢一郎「フフフ…、哀れな娘よ。この大人数の中で苦しめ、そして絶望しな!」

 

 何やら呟いているが、そんなの気にしない。

 今は目の前の状況を打破しないと。

 

 皆真っ向勝負で戦うが、なかなか手下の数が減らない。

 一体どれだけの手下を率いっているのか。

 これだけ数がいるって事は、やはりこの街自体が奴の縄張りだろう。

 この街の善良を失った人々が、こいつの手下なのだろう。

 そう考えるだけでも、その人々を打ち破りたくなる。

 

 杏梨「ああもう!次から次へと!」

 

 殴る、斬る、放つ…。

 それをずっと繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「はぁ…、はぁ…、はぁ…。」

 

 だいぶ数が減ってきただろうか。

 

 体力の限界が近くなってきた。

 

 

 

 

 

 いいや、そんなのどうだっていい。

 

 今はあいつを…。

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「ふむ、ここまで戦えている事は褒めてやろう。」

 千里「……。」

 ロスト賢一郎「だが、足がふらついてんぞ?そんなんでこのまま俺と戦おうってか?」

 千里「うる…さい…!やるったらやるんだよ!!」

 

 私は無理矢理足を動かし、奴の元へと走り出した。

 

 真衣「千里!よせ!」

 

 真衣の声なんかにも届かず、必死に。

 

 だが─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

 

 

 千里「が……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「哀れな奴め…。言ったろ?所詮無駄だとな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 僕は、何を見ているのだろうか。

 

 視線の先にいるのは、千里お姉ちゃんとその父親。

 

 お姉ちゃんは、首を掴まれていた。

 

 助けなきゃ…。

 

 動かなきゃ…!

 

 

 

 

 

 柊太「お姉ちゃんを…離せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!

 

 柊太「ぐっ……!!がはっ……!!」

 

 お姉ちゃんを助けようとした。

 

 だが不用心な事に、お腹を強く蹴られてしまった。

 

 ロスト賢一郎「あー、低脳な奴で助かったわ。そこのガキは盾持ってたのに勿体ねえな?」

 

 お姉ちゃんを助ける、そんな事ばかり考えていた。

 

 僕は、何のために盾を持ってたんだ。

 

 ううん、仮に盾を持ってたとしても、その盾は軽く剥がされるだろう。

 

 どちらにしろ、今の体力と状況で防御ができる訳が無い。

 

 ロスト賢一郎「つー訳で、皆纏めて吹っ飛びな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴は、千里お姉ちゃんを球の如く投げた。

 

 

 

 

 

ドゴォッ!!

 

 真衣「ぐわあああああああああ!!!」

 杏梨「きゃあああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里お姉ちゃんが投げ飛ばされた衝撃で、僕ら全員が吹っ飛ばされてしまった。

 

 それも、すごく遠い所まで。

 

 僕らは、どうする事もできなかった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「いつでも出直して来な。そん時は粉々に打ち砕いてやるからよ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 私は…、敗れてしまった。

 

 あの男の姿を見て、冷静ではいられなくなった。

 

 あの時恨みに恨んで、歯向かわなければこうはならなかっただろう。

 

 だけど、今の私はそんな事はどうでも良かった。

 

 真衣「いっつ…!」

 

 あいつによって、私達は現実世界へ戻されてしまった。

 

 私が吹っ飛ばされた衝撃で、皆がロストワールドへの扉まで飛ばされた。

 

 なんて力なの、あいつは…。

 

 杏梨「千里ちゃん…。」

 

 千里「……。」

 

 真衣「…今日はここで退くとしよう…。今のままじゃどうしようもできない…。」

 

 千里「……。」

 

 どうしようもできない…?

 

 どうにかするんじゃないの…?

 

 私は立ち上がった。

 

 柊太「お姉ちゃん…?」

 

 真衣「おい千里…、聞いてんのか…?」

 

 もう、誰の言葉も聞きたくない。

 

 私はスマホを取り出し、ロストワールドへ行こうとしていた。

 

 千里「……。」

 

 真衣「おい、千里!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里

 「黙って!!!!!」

 

 

 

 

 

 真衣、杏梨、柊太「……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 千里は無茶な事に、またロストワールドへ行こうとしていた。

 

 これ以上奴に向かってもダメだというのに…。

 

 それだってのに…。

 

 千里

 「黙って!!!!!」

 

 

 

 

 

 千里「私がやるって決めたからやってるの!!あいつを倒したい気持ちでいっぱいな時に邪魔しないで!!!」

 

 千里の言葉で、何かがぶっ壊れた。

 

 もうアタシも、我慢の限界が来てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシッ!

 

 千里「…!!」

 

 アタシは千里の顔を引っ叩いた。

 

 真衣「……ふざけんなよ。」

 

 千里「……は…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣

 「ふざけんなっつってんだよ!!!」

 

 ついにアタシは、怒りが爆発した。

 

 千里がこうなったのだから───。

 

 真衣「…あいつを倒したい?邪魔?いい加減な事抜かしてんじゃねえぞ。」

 

 千里「いい加減な事じゃない!私を突き放して、自分に非が無い奴なんて見過ごせる訳無いでしょ!?」

 

 真衣「その事を言ってんだよ。あの時お前が酷く立ち向かってたら、恨みを晴らす所か死んでたかもしれないんだぞ?ちょっとは冷静になれよ。何のために杏梨や柊太みたいな仲間がいると思ってんだ。」

 

 千里「こんな時に冷静になれる訳無い!!あんな奴なんか…!私が倒さなきゃならない!!」

 

 こいつ、ここまで…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣

 「じゃあてめえだけで行ってろ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「っ…!」

 

 真衣

 「こっちはてめえのために言ってやってんのに何様のつもりだ!!あの時周りが見えなくなったアタシを支えてた千里はどこ行った!?何故無駄な事をしようとする!!何故無駄だとわかってるのに歯向かおうとすんだよ!!」

 

 杏梨「お姉ちゃん!喧嘩はやめて!」

 

 アタシは千里の親父よりも、冷静でいられなくなった千里に腹立っていた。

 

 千里「……杏梨がいなきゃ落ち着いていられないんだね。」

 

 真衣「んだと?」

 

 千里「私の過去も大して詳しく知らないくせに、よくそんなに口が叩けるよね…!」

 

 真衣「っ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!!

 

 千里「つっ…!」

 

 杏梨「お姉ちゃん!」

 

 挙句の果てには、アタシは千里を蹴飛ばした。

 

 こうなってしまった以上、抑える事などできっこなかった。

 

 真衣「アタシは…、信じてたのに…。」

 

 千里「…!」

 

 真衣「お前がそんな奴だとは思わなかったよ…!」

 

 アタシは千里を見捨て、ズカズカと家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第49話

~千里視点~

 『あんたさ、親いないの?』

 

 『ここにずっといても退屈だろ?それに、困った時はお互い様ってやつだしさ。』

 

 『千里…か。良い名前だな!彩神って苗字もかっこいいじゃん。羨ましいよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私…、最低だ…。

 

 あの時真衣にはたかれて目が覚めた。

 

 父親を恨むあまり、仲間まで追い詰めてしまった。

 

 杏梨や柊太にも迷惑をかけた事だろう。

 

 そして、何よりも───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アタシは…、信じてたのに…。お前がそんな奴だとは思わなかったよ…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣の言葉が離れられない。

 

 私が無理矢理にでも、ロストワールドに踏み入れる事を必死に拒否していたのは真衣だ。

 

 なのに私は、頭真っ白になり、周りが見えなくなるほど立ち向かおうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『明日月曜だから、早速転校初日の登校だな。忘れるなよ?』

 

 

 

 

 

 『何かわからない事があったら聞いてくれ。いつでも相手してやるから。』

 

 

 

 

 

 『アタシ達で、ロストワールドの主を見つけ出しに行くぞー!』

 

 

 

 

 

 人情に熱くて、頼り甲斐のあるあの真衣を、私は壊してしまった。

 

 あの頃を思い出すだけでも、罪悪感が生まれてしまう。

 

 千里「ごめん、真衣……。」

 

 私は立ち上がり、北乃家に帰るのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~北乃家~

 千里「ただいま……。」

 

 北乃家に入った。

 

 そして私は、リビングに入ろうとする。

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 …と、誰かが出ようとしているみたい。

 

 

 

 

 

 真衣「…!」

 

 千里「あ……。」

 

 リビングから出てきたのは真衣だった。

 

 千里「真衣…、さっきは───。」

 

 真衣「……。」

 

 真衣は私を無視して部屋に入った。

 

 千里「……。」

 

 そりゃそうだよ。だって、強めの口調であんな事言っちゃったもの。

 

 

 

 

 

 柊太「千里お姉ちゃん…?」

 

 私をリビングから呼んだのは、柊太だ。

 

 声だけでもわかる。

 

 杏梨「お帰り…。」

 

 千里「……。」

 

 気まずい。

 

 目の前で言い争いをした事を気にしているのだろう。

 

 千里「ごめんね、2人とも…。真衣と争っちゃって…。」

 

 柊太「僕は気にしてないよ~。」

 

 千里「もうご飯食べたの?」

 

 杏梨「食べたけど、コンビニ弁当だったよ。」

 

 千里「…そっか…。」

 

 そうだろうと思った。

 

 あんな気持ち抱えてたら、料理なんて気分に乗らないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は冷蔵庫にあったコンビニ弁当を取って、レンジで温めた。

 どうやらこの弁当は、柊太が買ってきてくれたらしい。

 しかも、私の好きな唐揚げ弁当だった。

 いつもなら喜んでたけど、さっきの事もあって素直に喜べない。

 

 柊太「…ねえ、お姉ちゃん。」

 千里「ん?」

 

 すると、柊太が話しかけてきた。

 その内容は───。

 

 

 

 

 

 柊太「…何で、真衣ちゃんにあんな事言ったの?」

 

 

 

 

 

 千里「…え…。」

 

 柊太は、私と真衣が争った事を話そうとしていた。

 

 柊太「前まで仲良くしていたのに、どうして…。」

 

 杏梨「……。」

 

 千里「…ごめんね、迷惑かけちゃったよね…。」

 

 もう話すしか無いな。

 状況的に逃れる事はできなさそう。

 

 千里「あの時私は…、頭が真っ白になってた。あいつに負けるのが嫌で、あいつの顔を見る度に、殴りたい気持ちがいっぱい込み上がってきてた。今思えば、真衣はそれを必死に止めてくれてたってのに、私は見向きせずにロストワールドに行こうとしてた…。今すぐにでも謝りたい…。でも、きっと真衣は私の事なんてどうでも良いのかもしれない。だって、私は真衣に酷い事を言ったんだよ…?」

 

 杏梨、柊太「……。」

 

 真衣のいないこの場は、いつもの娯楽が失われ、寂れた空間のようだった。

 

 本当なら今すぐ仲直りしたいのだが、真衣のあの状況からしたら、それすらも厳しいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「そんな事、無いと思う。」

 

 千里「…え?」

 

 突然、杏梨が口を開く。

 

 杏梨「お姉ちゃんもきっと、心のどこかで迷いがあるんだと思う。千里ちゃんだけじゃない。お姉ちゃん、こう言ってたよ?“千里には言いすぎた”って。」

 

 千里「…!」

 

 杏梨「千里ちゃんを見た時、無視していたと思うけど、それは多分その気持ちもあって気まずかったんだと思う。お姉ちゃん、昔から嫌な事から逃げる性格だったから、今回もそうだと思うんだ。」

 

 千里「……。」

 

 そうだったんだ…。

 

 何だろう、気にしすぎてた私が馬鹿みたい…。

 

 柊太「お姉ちゃん、ずっと迷ってたんでしょ?なら仲直りすればいいじゃん~。」

 

 千里「…柊太は軽いなぁ…。でも、そうとわかったらしてみる。」

 

 杏梨「うん!千里ちゃんならできるよ!」

 

 千里「ありがとね、2人共…。」

 

 私のモヤモヤした気持ちは吹っ切れた。

 

 全く、2人は本当に良い子だなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「……。」

 

 アタシは、机に突っ伏していた。

 

 千里との争いが、嫌と言う程蘇ってくる。

 

 本当は、あんなくだらない争いなんてしたくなかった。

 

 でもアタシは怒りに身を任せ、強い口調で千里を傷付けてしまった。

 

 千里が帰ってきた時、何て言おうかわからず、目を背けてしまった。

 

 …ったく、本当に変わってねえ。

 

 幼稚なガキのまま育っちまったな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンッ…

 

 真衣「…?はーい。」

 

 突然、ドアのノック音が聞こえた。

 

ガチャッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……。」

 

 

 

 

 

 真衣「…!千里…?」

 

 開けてきたのは、千里だった。

 

 どうしよう、何を話せば良いかわからねえ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、真衣「…………。」

 

 ダメだ、会話ができねえ。

 

 何せ、喧嘩した後だったからな…。

 

 でも、今しかねえよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、真衣「真衣(千里)、ごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、真衣「……え??」

 

 

 

 

 

 え、シンクロした?

 

 …という事は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里、真衣「ぷっ…!あははははは!!」

 

 考えていた事は一緒だったって訳か。

 

 千里「何だろ、あんなに怒ってた自分が馬鹿みたい。」

 真衣「アタシだって、何で必死こいて千里と向き合おうとしてたんだろうな。」

 

 とりあえず、仲直りって事で良いのか?

 まあ、千里が心の底から笑ってるなら、それで良いか。

 

 千里「ねえ、真衣。」

 真衣「ん?」

 

 

 

 

 

 千里「…ありがとね。」

 

 

 

 

 

 真衣「え?何だよ急に。」

 

 急にお礼を言われた。

 咄嗟の事だったから、返答に戸惑ってしまった。

 

 千里「あの時、無理矢理にでもロストワールドに行こうとしてた私を止めてくれた事。真衣がいなかったら、私はそのままあいつに殺されていたかもしれない。」

 

 まあ、あの時アタシも必死だったからな。

 止めてて正解だった。

 

 真衣「…いいって事よ。それにな、お前には仲間がいるんだからよ。ぜってえ無駄にはするなよな。あいつのロストを消したいのは、お前だけじゃない。杏梨や柊太…アタシだって同じだ。だからもう迷うな。アタシ達はお前に救われて、今こうしてロストワールドにも立ち向かえている。お前がいてくれたからこそ今があるんだ。だから次は、アタシ達がお前を救う番だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「だからよ、一緒に終わらせんぞ。」

 

 

 

 

 

 千里「真衣…。ふふっ、わかった。」

 

 そして千里は、また笑った。

 

 良かった。いつもの千里に戻ってくれて。

 

 

 

 

 

 彩神賢一郎…。

 

 千里の全てを奪った極悪人。

 

 あいつのロストワールドがあの街全体なら、あいつのロストが最後と言ってもおかしくねえ。

 

 十中八九そうとは思えないが、もしそうなら徹底的に叩き潰す。

 

 それが、アタシ達の最後の役目なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 杏梨「2人共、仲直りしたみたい。」

 柊太「そうだね~。」

 

 お姉ちゃんの部屋から、2人の声が聞こえる。

 良かった。

 あの状況が続いていたら、どうしたらいいのかわからなかったもん。

 

 柊太「真衣ちゃんの言う通り、終わらせよう~。」

 杏梨「うん。終わらせよう。ロストワールドを。」

 

 私達もそう誓った。

 千里ちゃんのお父さんという強大な敵。

 私達は最後の戦いに向けて、準備をするのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第50話

気付いたらもう50話まで来てました!
もうそろそろ終わりも近付いてくると思うので、最後まで見届けてもらえると嬉しいです。

最終章は恐らくシリアスなシーンが続くと思います。ご了承くださいm(_ _)m

それではどうぞ。


~千里視点~

 私は今、教室で授業を受けていた。

 もちろん、あいつの戦略を考えながらも。

 あの時ロストワールドの出入口まで吹き飛ばされたから、今度はそうならないように対策を考えないと。

 

 

 

 

 

 真衣『お前には仲間がいるんだからよ。ぜってえ無駄にはするなよな。あいつのロストを消したいのは、お前だけじゃない。杏梨や柊太…アタシだって同じだ。』

 

 

 

 

 

 真衣の言う通り、私はもう1人じゃない。

 あの時は父親を殴りたい気持ちがいっぱいで、周りが見えなくなっていた。

 でも、今は違う。

 私には信頼できる仲間がいるから─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリイィンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「!!!」

 

 突然、窓ガラスが割れた。

 

 教室の中は、何が起きたのかとざわめいた。

 

 真衣「…!!何だ!?」

 

 私と真衣は席を立ち、窓の外を眺める。

 

 するとそこには─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賢一郎「…チッ、外したか。」

 

 

 

 

 

 千里「…!!」

 

 なんと、あの男…彩神賢一郎が立っていた。

 

 しかも、何かを構えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「おい、あいつ…!ライフルとか正気かよ!?」

 

 そう、スナイパーライフルを持っていた。

 

 一体どこから取り入れたものなのか。

 

 私は破片に気付いて避けただけで済んだ。

 

 弾はどこに行ったかというと、教室の天井に煙を出して穴を空けていた。

 

 「何だよあいつ!銃持ってるぞ!」

 

 あいつの存在に気付いた生徒が叫び出す。

 

 それに続いて他の生徒が騒ぎ出し、混沌の空間へと変わり果てた。

 

 先生「皆落ち着いて!避難命令が出るまで待ちなさい!」

 

 あいつ、面倒な事しやがって…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~賢一郎視点~

 賢一郎「……。」

 

 俺は海外から届いたスナイパーライフルを持って、娘が通っている学校の窓ガラスを撃った。

 

 娘を誘き寄せるため。

 

 きっと怖くなって逃げ出したんだろうな。

 

 賢一郎「ははっ、やっぱ天才だわ、俺。」

 

 あんなに俺に歯向かってた娘よ。

 

 お前は俺の操り人形なんだよ。

 

 お前は俺の言う通りに動きゃいい。

 

 何度も何度もあの奴らに振り回されるのは嫌だろう?

 

 ……馬鹿な奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 校内アナウンスから避難命令が出された。

 

 先生が生徒達を纏め、一斉に避難する。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賢一郎『千里ぉ!いるかぁ!!』

 

 

 

 

 

 千里「…!?」

 

 スピーカーから耳を劈くような声が聞こえた。

 

 あいつだ。

 

 まさか、アナウンスを奪って…!?

 

 賢一郎『父さんの声が聞こえるか!?今すぐ屋上来やがれ!!わかってると思うが仲間は連れてくんなよ!!1人で来い!!』

 

 真衣「…!!」

 

 …呆れた。

 

 こうなったからには、もう行くしか無い。

 

 真衣「千里…、行くのか?」

 

 千里「こうなった以上、そうするしかないかも。」

 

 真衣「マジか…。」

 

 千里「巻き込んだのは私だよ。あいつは私が何とかする。

 あの銃だって、私を誘き寄せるためだけの物だからね。」

 

 放っておいたら学校中が危ない。

 

 できれば周りの人まで巻き込みたくない。

 

 千里「先生、ちょっと行ってきます!」

 

 先生「彩神さん!?」

 

 腹を括り、私は屋上へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~屋上~

 

 

 

 

 

ガチャッ…

 

 屋上の扉を開ける。

 

 思えば、ここに来るのは久しぶりだな。

 

 最悪な状況だけど。

 

 賢一郎「来てくれたか、我が娘よ。危うく父さんはここの生徒を撃つ所だったよ。」

 千里「学校に銃持ってくるとか何考えてんの?私だけじゃなくて、周りの人まで巻き込むとか頭おかしいでしょ。」

 

 私はそう言い放った。

 

 でもあいつは、私の言葉なんかには動じなかった。

 

 賢一郎「頭おかしいのはどっちだ?母親を死なせたってのに、いい加減罪を認めろよ。お前がそんな奴に育ったからこうなったんだろ?全てはお前の自業自得って訳よ。」

 

 ごめん、真衣。

 

 私、抑えられないかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「マジでいい加減にしろよ、このゴミクズが。」

 

 

 

 

 

 賢一郎「…あ?」

 

 

 

 

 

 千里

 「お前がお母さんを殺した!!お母さんが病気を持っている事はお前が1番知ってるくせに!!犯罪者のお前が正義ぶんなよ!!!」

 

 

 

 

 

 辺りに響き渡るくらい、私は怒鳴った。

 

 こいつはもう人間以下の存在。

 

 何をしても「自分に正義がある」と思い込んでいるのだから。

 

 千里「私はお前の人形じゃない。機械でもない。ちゃんとした人間なんだよ。いつまでも私がお前みたいな奴の言いなりになると思うな。」

 

 賢一郎「……。」

 

 千里「もううんざりなんだよ。これ以上、私の過去を蒸し返すな。私がお母さんが死んだの思い出したくないの、わかってるでしょ?」

 

 私が言いたかった事は、もうこれで全てだ。

 

 

 

 

 

ウウウウウ…

 

 賢一郎「お。」

 

 遠くからサイレンの音が聞こえた。

 

 どうやら先生が通報したらしい。

 

 賢一郎「すまねえな千里。父さんが誘ったばかりに、サツが来ちまった。」

 

 千里「……。」

 

 賢一郎「だが心配すんなよな?父さんは簡単には捕まらねえからよ。んじゃ、また会おうぜー。」

 

 千里「…二度と顔見せて来ないで。」

 

 奴はそう告げると、柵から身を乗り出して飛び降りた。

 

 下を見下ろすと、奴は平然と走っていった。

 

 千里「…絶対に改心させてやる…!」

 

 私のやる事はもう決まった。

 

 気が早いかもだが、こうなった以上やるしかない。

 

 そう思いながら、私は教室に戻ったのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第51話

~午後6時~

 真衣「ほらよっと、出来上がりだ。」

 

 外はだいぶ暗くなってきた。

 私は昼間の事を考えていた。

 あの男の狂いようからして、もう流石にロストに立ち向かわないと、この街全体が危なくなる。

 あいつのロストワールドは、ここ全体なのだから。

 

 柊太「お姉ちゃん?ご飯だよー。」

 千里「ん?あ、うん。今行く。」

 

 とりあえず、皆にも話しておいた方が良さそうだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「そういえば千里ちゃん、襲撃の時1人でお父さんの所に行ったんでしょ?大丈夫だった?」

 

 杏梨が言っているのは、私が屋上に行った時の事だな。

 まあでも、あの状況であんな所に行くのは、相当勇気がいる。

 

 千里「大丈夫だよ。銃は多分、私を誘き寄せるためだけに使ってたと思う。」

 真衣「マジで肝座ってるよな、千里って…。まるでアタシらの親父みたいだ。」

 

 そっか、真衣と杏梨の父親はヤクザだったもんね。

 そうなら相手が銃を持っていようが、戦うしかないからね。

 

 千里「私は2人の親ほどじゃないよ。正直怖かった。あれが誘き寄せるだけじゃなく、プラスアルファで私の始末も有り得たからね…。」

 

 考えただけでもえげつない。

 あいつの脳みそを見てみたいもんだよ。

 

 真衣「それにあの事件が来た時、学校中すごい騒がれてたもんな。有り得ねえよ。銃使うなんてよ。」

 

 あいつのせいで、しばらく学校が休校となった。

 とんだはた迷惑で、無駄な休みを与えられた。

 

 千里「…考えたんだけどさ、もういっその事ロストワールドで蹴散らした方が良いと思うの。」

 真衣「…本気か?」

 千里「でないとこちら側が危なくなる。下手したら私が人形のままにされるか、付け狙われるかのどっちかだよ。」

 

 あいつの考えている事は大体わかる。

 でも、そんな手には乗る訳にはいかない。

 なのであれば、ロストワールドであいつのロストを消すに限る。

 それともう1つ。

 

 

 

 

 

 千里「…それに、もう1人の私の謎も突き止めたいから。」

 

 

 

 

 

 柊太「あ…。」

 

 そう、あの時の真っ黒な私だ。

 もしかすると、あいつも今回の事件の鍵を握っているのかもしれない。

 同時に2人の敵に立ち向かう感じだ。

 

 真衣「柊太から聞いた。もう1人の千里が出たって。」

 千里「そう。未だに解明されてないままなんだ。せめてこの休校期間中にとっちめたいと思ってね。もう1人の私はどこで見つかるか、見当つかないけど…。」

 

 私の話を聞いて、皆真剣な表情をしていた。

 

 千里「皆、手を貸してくれる?」

 

 真衣「やるっきゃねえだろ。立ち止まってられるか。」

 

 杏梨「あんな奴の好きになんかさせない!」

 

 柊太「僕達で、取り戻すんだ。」

 

 千里「…ありがとう。」

 

 そうと決まれば、明日行動開始だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、夢を見ているのだろうか。

 

 目を覚ますと、そこは真っ暗闇の空間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『千里─────。』

 

 

 

 

 

 千里「…!」

 

 声が聞こえる。

 

 ロストワールドで聞き慣れた女性の声。

 

 それにしても、久しぶりに聞いたな。

 

 でも、そんな呑気な事を考えている場合では無かった。

 

 

 

 

 

 ???『千里、急い───さい。───れば────…。』

 

 千里「…?何…?聞こえない…。」

 

 ???『も──人の──が、シ─────サトが、あなたに…。』

 

 千里「どうしたの?聞き取れないよ。」

 

 何やら様子がおかしかった。

 

 まるで通信の悪いトランシーバーのように、途切れ途切れになっていた。

 

 ???『どうか──でいて、千里─────。』

 

 千里「…!ねえ、どうしたの?しっかりして!」

 

 挙句の果てには、何も聞こえなくなってしまった。

 

 すると─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「久しぶりだね。“人形ちゃん”。」

 

 

 

 

 

 千里「…!」

 

 今度はあの女性ではない、私に似た声だった。

 

 まさか…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「もしかして、黒い私…!?」

 

 目の前に姿が現れた。

 

 案の定、真っ黒な私だった。

 

 千里…?「せいかーい♪しばらく見ない間にすぐ勘付くようになったね~!」

 

 千里「あなたは何なの…?何で私の前に現れるの?」

 

 千里…?「あんたがどのように絶望に足掻いているか見に来ただけ。それにさ、あんたは自分の父親のロストを消そうとしているんだってね?」

 

 千里「…あいつのせいで休校になったからね。他の生徒まで巻き込んでまで…。」

 

 そう、過去の件だけでなく、今の休校の件もあいつと関わっている。

 

 そうなれば、こちらとしては黙っていられない。

 

 それと───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…あなたは何者?どうして私に似た姿をしているの?」

 

 これが私が気になっていた事だ。

 

 そもそも何故私の姿なのか。何故その姿で生まれたのか。

 

 千里…?「そうだねぇ…。あんたが“彩神千里”ならば私は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「“シャドウ・チサト”、とでも名乗ろうかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「シャドウ…チサト…?」

 

 となれば、この私は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “影の彩神千里”……って事か…。

 

 

 

 

 

 シャドウ・チサト「あんた父親を消した後、私も消そうとしているんだって?ま、私を消せばロストワールドも消えて一石二鳥だけど、そう簡単にできるのかなぁ~。」

 

 そうか、やはりこいつが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ロストワールドを作り出した張本人って事か。

 

 

 

 

 

 千里「できるかどうかじゃない、やるんだよ。でなかったら私はここまで這い上がって来ていない。」

 

 シャドウ・チサト「望む所♪じゃ、父親のロストを消した時にまた会おうね~。」

 

 やる事は決まった。

 

 まず父親のロストを消す。

 

 そして、シャドウ・チサトも消す。

 

 それでロストワールドは終わるんだ。

 

 やるからには本気で。

 

 

 

 ───もうすぐ目が覚める。

 

 目を覚ましたら早速作戦開始だ。

 

 私の意識は遠のいていった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「ん……。」

 

 目を覚ました。

 時計を見ると、7時を指している。

 隣には、柊太が抱き着いて寝ていた。

 

 千里(……起きれないんだけど…。)

 

ガチャッ…

 

 真衣「ふわあぁ~…。」

 

 リビングに入ってきたのは真衣だった。

 それに、寝癖ボーボーのままだ。

 

 真衣「あ、千里。起きてたのか。」

 千里「うん。体起こせないけどね…。」

 真衣「まあ、知ってた。お前が柊太と寝ると大抵そうなるよな。」

 

 真衣はそう言いながら、台所へ向かっていった。

 恐らく、コーヒーを飲んでから朝食を作るのだろう。

 

 

 

 

 

 …今日はロストを消す日だ。

 

 このような状況でロストを消すのは、この休校期間の中でしか無い。

 

 放っておいたら、街が危ない。

 

 今日で終わらせるんだ。

 

 父親も、影の私も、そしてロストワールドも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~午後1時~

 千里「…皆、やり残した事とか無い?」

 真衣「ああ。いつでも良いぜ!」

 

 私達は今、ロストワールドの出入口前まで来ている。

 ここでロストワールドに入った。

 

 千里「それじゃあ、扉を出すよ。一応言っとくけど、ロストワールドに入ったら後戻りはできないと思ってて。今日でこのロストワールドも終わらせるのだから。」

 柊太「影の千里お姉ちゃんだよね?わかってる~。」

 杏梨「私も大丈夫だよ!早くこの事件も終わらせたいもん!」

 真衣「…だそうだ、千里。」

 

 皆、覚悟ができたね。

 私はスマホを構え、ロストワールドを出す───。

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

 ……。

 

 真衣「…?千里?」

 

 

 

 

 

 千里(───これで最後なんだ。)

 

 ロストワールドに入る前に、胸に刻んでおこう。

 

 ロストワールドが消えたら、この扉も消えるのだから。

 

 千里「…皆、ありがとね。」

 

 真衣「え?」

 

 千里「私1人だったら、ここまで這い上がれなかったかも。皆がいたから、ロストワールドそのものを消す事ができる。だから、ありがとう。」

 

 真衣「何だよ、別れる訳じゃあるまいし。でもまあ…、アタシらもここまで来れたのも、千里、お前のお陰でもある。お前がいたから、1人1人の悩みや苦しみを解けたんだ。だから…アタシらからもありがとな。」

 

 杏梨「千里ちゃんは正義のヒーローだよ。ヒーローがいてからこそ、私達も強くなれる。そう思えたんだ。」

 

 柊太「僕は、千里お姉ちゃんがいなかったら、僕の人生は壊れてた。お姉ちゃんは…いや、真衣ちゃんも、杏梨ちゃんも。僕の恩人だよ。ありがとう。」

 

 本当に、真衣や杏梨、柊太は良い子だよ。

 

 1人1人個性は違えど、持つべき正義は同じだ。

 

 千里「行こう。私達で終わらせるんだ。」

 

 真衣「おうよ!」

 

 杏梨「了解!」

 

 柊太「作戦開始~。」

 

 

 

 私はロストワールドへの扉に手を触れ、侵入したのだった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第52話

本当にお待たせ致しました。


 ロストワールドに侵入成功。

 いつも通りの赤黒い景色だ。

 今日でこの世界を見るのも最後だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎『千里ぉ!聞こえるか!』

 

 

 

 

 

 突然、奴の声が聞こえた。

 上の方だ。

 

 ロスト賢一郎「こっからお前が入ってきたのが見えたぜ!俺を始末するんだってな!?もう1人のお前から聞いたぞ!言ったろ、無駄な事はやめとけ!」

 

 無駄な事…。

 その言葉、そっくりそのままひっくり返す。

 私の行動は、全て無駄では無い事を。

 

 真衣「…ずっとあそこで待ってたって訳か。」

 千里「そうみたい。行くよ!」

 

 場所は学校の屋上だ。

 あのコンビニは学校の近くだからすぐにわかる。

 私達はそこに向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上で待ち構えている。

 

 なんか、泉田を思い出すな。

 

 あいつは街全体というより、学校を縄張りにしていたからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~校庭~

 千里「…ここまで来たね。」

 

 真衣「…ああ。」

 

 ようやく来た。

 

 こいつのロストを消す時が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「よっと!」

 

 屋上から奴が降りてきた。

 

 ロスト賢一郎「昨日ぶりだな。千里。要件は聞いたぜ。父さんを消しにしたんだってな?」

 

 千里「ああ、そうだよ。でなきゃここに来ていない。」

 

 ロスト賢一郎「ハッ!言うねえ。ならお前の腕を見せてみろ。お前の正義が正しい事も、父さんの方に罪がある事も、全部お前の拳で証明してみろ。お前は、“悪を打ち破る鉄槌”なんだろ?」

 

 二つ名まで認識済みか。

 

 まあいい。

 

 千里「望む所。全部終わらせてやる。」

 

 決戦の時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「てめえは操り人形だ。俺の思うがままに動きゃいいだけの存在だ。俺の娘なら、言う事を聞きやがれ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシィッ!!

 

 私は、奴の拳を受け止めた。

 

 始まった。

 

 真っ向勝負で決着を着ける!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「千里!わかってると思うが、無理だけはすんなよ!」

 千里「そのつもり!」

 

 もう、仲間は無駄にしない。

 真衣に目を覚まされた時に決めたんだ。

 私には仲間がいる。

 1人で立ち向かっている訳では無い。

 

 真衣「おらぁ!」

 

ガキンッ!

 

 ロスト賢一郎「ハハッ、ヘボい刃だな!」

 真衣「うわっ…!くっ!」

 

 杏梨「これでもくらえー!」

 

バシュッ!

 

 ロスト賢一郎「ふん、遅い遅い!」

 

 柊太「はあぁ~!」

 ロスト賢一郎「おいおい、のろくねえか!?オラァ!!」

 

ガキンッ!

 

 柊太「僕には盾があるから無駄だよ!」

 ロスト賢一郎「ほう?ならこれでどうだ!?」

 

ガシッ!

 

 柊太「え…!?わわっ…!」

 ロスト賢一郎「飛んでけぇ!」

 

ブォンッ!!

 

 柊太「わあぁ~!!」

 

 ただ攻めるだけでは通用しないか。

 ここはいつものように、作戦を練るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「千里!囮なら承るぜ!」

 千里「待って!」

 真衣「…え?」

 

 私なりに作戦を考えた。

 上手くいくかはわからないが、やってみる価値はありそうだ。

 

 千里「今回は真衣、囮ではなく攻撃に移ってくれる?」

 真衣「は?どういう事だ?」

 千里「恐らく今回は、真衣も攻撃に入ってもらわないと、戦闘が成立しないのかも。」

 真衣「……。」

 千里「作戦を教える。耳貸して。」

 

 私は真衣の耳の近くで作戦を囁く。

 

 

 

 

 

 真衣「…なるほどな。わかった、やってみる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 千里にはああ言われたが…。

 

 果たして、意味はあるのだろうか?

 

 だが千里は、「やってみる価値はある」と言っていた。

 

 駄目で元々だ。行くぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「ハハハッ!もう腕が疲れた頃なんじゃねえか!?」

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

 柊太(流石に限界かも…!)

 ロスト賢一郎「トドメのパンチを喰らいやがれ!!」

 

ブォンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「うおっ!?」

 

 

 

 

 

 柊太「!?」

 

 

 

 

 

 アタシは、真っ先に柊太を狙っていたロストに一斬り叩き込んだ。

 

 真衣「千里!」

 千里「オッケー!」

 

 そして、千里が飛び出す─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 上手くいった。

 

 ここからフルボッコにしてやる───。

 

 千里「どらぁっ!!このぉっ!!」

 

バキッ!!

 

ドゴッ!!

 

ボゴォッ!!

 

 ロスト賢一郎「ぐっ!ぐほぁっ!?」

 

 奴の顔面に、胸倉に、腹に。

 

 あらゆる箇所に拳を入れる。

 

 嫌悪と復讐に塗れた、正義の拳で。

 

 奴を滅多打ちにする。

 

 

 

 

 

 ───しかし、それだけでは収まらなかった。

 

 ロスト賢一郎「いい加減にしろよ、てめえ……!!」

 

 奴は立ち上がる。

 そして───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「レディースエーンドジェントルメーーーン!!さあさあ皆様ご注目ぅ!!これから行われるのはぁ!?正義ぶった挑戦者達の!お待ちかねの殺戮サーカスショーだあぁ!!」

 

 

 

 

 

 千里、真衣、杏梨、柊太「…………!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ワアァーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 

 

 

 

 辺りは一変した。

 

 学校の校庭が、サーカスショーの会場になった。

 

 周りには観客達がいる。

 

 それも、ただの観客じゃない。

 

 

 

 

 

 殺戮を見たがる、善良を失った者達だった。

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「まずは!空中ブランコ!!挑戦者は受け止められるかぁ!?」

 

 奴は梯子に登り、ブランコに乗った。

 

 それはかなり高い。

 

 ロスト賢一郎「そらよっと!」

 

ブォンッ!!

 

 真衣「おいマジかよ!?」

 

 奴は勢いよくブランコを漕いだ。

 恐らく空中ブランコに乗りながら攻撃をするつもりなのだろう。

 

 千里(あの戦い方からして…、杏梨が有効そうかな…。)

 

 一直線に向かって漕いでいる。

 杏梨のメイン戦法は魔法だ。

 上手く狙って、漕いでいる時に魔法をぶつければ、チャンスが生まれるかもしれない。

 

 千里「杏梨!」

 杏梨「ふぇ!?」

 千里「ちょっと来てくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 千里ちゃんに呼ばれた。

 一体何なのかな…。

 

 千里「杏梨、ブランコを漕いでいる時、魔法をぶつけられるかな?」

 杏梨「えぇ、できるのかな…。」

 千里「よく狙って打てば良い。それを意識してやってみて。」

 

 よく狙え。

 うまくいくかはわからない。

 でも当てれば、大きなチャンスに繋がるかもしれない。

 

 杏梨「…やってみる。」

 千里「お願いね。」

 

 リーダーに頼まれたからにはやるしかない。

 一か八かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「ヒャッホーーーーーイッ!!!」

 

ブォンッ!!

 

 真衣「あっぶね!?速すぎんだろ!」

 柊太「弓矢を放っても全然止められないよ~…。」

 

 よく狙って…、撃つ…。

 

 

 

ブォンッ…!!

 

 

 

 漕ぎ始めか…、漕いでる途中か…。

 

 

 

ブォンッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「クリスタルショット!!」

 

バシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォッ!!

 

 ロスト賢一郎「ぐおお!?わああああ!!!」

 

 よし!当たった!

 

 ロストは魔法の衝撃でバランスを崩し…。

 

 

 

 

 

 千里「行くぞおおおおお!!!」

 

 そして、千里ちゃんが真っ先に攻め込む…。

 

 

 

 

 

バキッ!!

 

ドゴッ!!

 

ボゴォッ!!

 

 ロスト賢一郎「ぐっ!うがぁっ!」

 

 千里ちゃんがロストを殴る、殴る…。

 

 殴り倒す。

 

 でもそれでも、ロストはまだ立つ。

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「へぇ…、面白ぇ事するじゃねえか…。おぉい!出番だぁ!!」

 千里「…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 

 奴が指を鳴らすと、何かが降りてきた。

 

 それは─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガルルルル……!」

 

 杏梨「ひっ…!」

 

 なんと、ライオンだった。

 それに、ロストワールドにいるものだから、全身が赤黒い。

 

 ロスト賢一郎「待たせて悪かったなぁ…。ようやく餌を迎える事ができたぜ。お前の思うように食らい付け!」

 ライオン「グルアァッ!!!」

 

 くそ、ここで面倒な奴が現れたな…。

 

 千里「ここは2手に分かれよう!」

 柊太「え…!?」

 千里「真衣と杏梨はライオンをお願い!私と柊太は奴を狙う!」

 真衣「ああ!任せろ!」

 

 面倒な奴は早く倒せば良い。

 そのためには、1番力が強い真衣に任せよう。

 

 真衣「囮ならもう慣れっこだ。かかって来いよ、歪んだ猛獣よ!」

 ライオン「グルアァーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「俺の相手はお前らか。いいぜ、共同作業対共同作業と行こうか!」

 千里「その憎たらしいにやけ面、二度とさせないようにしてやる…!」

 

 向こうは真衣と杏梨に任せ、私と柊太で奴を打ちのめす。

 戦力的にもその方が効率良いだろう。

 

 千里「だあぁっ!」

 

 私は奴に殴り掛かる。

 

 ロスト賢一郎「遅せぇよ!」

 

 そして奴は私に掴み掛かる。

 

 

 

 

 

 でもね───。

 

 

 

 

 

ガシッ!

 

 ロスト賢一郎「…!」

 

 殴り掛かると見せかけて、奴の腕を掴む。

 不意打ちには弱いからね。

 

 千里「フェイント…って知ってる?」

 

ガッ!

 

 ロスト賢一郎「ぐっ…!」

 

 隙を作り、私は腸を蹴った。

 今ので相当ダメージは入っただろう。

 

 ロスト賢一郎「この…ふざけやがって!」

 

 奴は全力で私に襲い掛かる。

 

 柊太「させないよ!」

 

ガキンッ!

 

 ロスト賢一郎「うおっ!」

 

 柊太がパリィを決めた。

 

ザシュッ!

 

ズバァッ!

 

 剣を突き刺し、斬り裂く。

 それでもやはり奴は倒れず、これでもかってくらい何度も立ち上がる。

 

 ロスト賢一郎「…こうなっちゃあ仕方ねえ。」

 

 奴はライオンの方を向き、ピュイッと指笛を鳴らす。

 

 ライオン「ガルルルッ!!」

 

 そしてライオンは奴の方に近付き…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「そらよっと!」

 ライオン「グルアァッ!!」

 

 

 

 真衣「…!おいマジかよ!?」

 

 なんと、奴はライオンに跨った。

 

 ロスト賢一郎「どうよ!素晴らしいパフォーマンスだと思わないか!?我ながら見事で自分が怖いくらいだ!!」

 千里「…まったく、本当に面倒な事してくれるなぁ…!」

 

 完全に騎乗状態だ。

 下手に手出しすると反撃を喰らうかもしれない。

 

 本当にしぶとい…。

 

 千里(まず、あのライオンを何とかしないと。何か方法は…。)

 

 奴を狙うには、ライオンを止めなければならない。

 ワンチャン銃で狙えそうな高さにはいるが、ライオン自体の動きが速いため狙えそうにない。

 

 千里(真衣に囮を頼みたい…。でも、真衣は1番力が強いからそれは避けたい…。)

 

 となるとここは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「柊太!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 なんとあいつは、ライオンに乗ってしまった。

 

 ライオン自体も手強いのに、乗ったとなるとより難関になってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「柊太!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「…!」

 

 突然、千里お姉ちゃんに呼ばれた。

 僕は千里お姉ちゃんの所に駆け込む。

 

 

 

 

 

 千里「真衣の代わりにライオンを引き付けてくれるかな。」

 柊太「僕が?」

 千里「今回、真衣には攻撃に移ってもらいたいからね。他に囮になれるのは柊太しかいないから。」

 

 そういう事か。

 僕には盾があるし、多少の注意は引き付けられる。

 

 なら実行するしかないね。

 

 柊太「やってみる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「“挑発の心得”~!」

 

 敵に注意を引き付け、狙われやすくなるスキルを使った。

 これなら後ろはガラ空きになるだろう。

 

 ライオン「グルル…?」

 

 ライオンは僕の方に向いた。

 

 ライオン「グルアァッ!!」

 

 そして、僕に襲い掛かる。

 

 ライオン「ガアッ!ガアァッ!!」

 

 ライオンは僕に引っ掻き、殴りを繰り返す。

 

 僕は盾を構え、金属の鈍い音を鳴らしながら防いだ。

 

 

 

 

 

 真衣「隙ありぃ!!」

 

ザシュッ!

 

 ライオン「ガアアァッ!?」

 

 その隙に真衣が一振り入れた。

 

 そして───。

 

 

 

 杏梨「クリスタルショット!!」

 

バシュッ!!

 

 ライオン「グルアァッ…!!」

 ロスト賢一郎「うおっ!?」

 

 杏梨ちゃんが追い討ちに魔法をライオンにぶつける。

 

 その衝撃で奴はバランスを崩し、ライオンから手放した。

 

 千里「これで……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里

「終わりだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォッ!!

 

 

 

 

 

 奴の腸に拳を入れ、地面へ叩き付けた。

 

 私は…、奴に勝った。

 

 今まで憎んでいた男に、ようやく勝つ事ができたのだ─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「ぐっ……はぁっ……!!」

 

 

 

 

 

 千里「…どう?殺戮ショーはできた?」

 

 私は奴に銃を向けた。

 

 ロスト賢一郎「お前…、いつの間にこんなに…?」

 千里「…道化師が情けない。今のあんたの姿は、昔の私と同じだよ。これだけ私は、あんたに心を痛め付けられたんだ。人間は脆く儚い生き物。あんただってそれくらいわかるでしょ?認めろよ。あんたは負け組だってさ。」

 

 私は銃を向けながら、最後に言い残す事はないかと問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その考えは甘かった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎「忘れ去られちゃ困るなぁ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスト賢一郎?「本当は…、倒すべき相手がもう1人いるんじゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──────“操り人形”ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……!!」

 

 

 

 真衣「おい、今のって…!」

 

 急に口調が変わったと思った。

 

 言葉の感じからしたら、ロストの男の声じゃない。

 

 そう、こいつは─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!#&*$$¥#&*¥$$$@#¥¥**¥##$$$&¥¥***』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「きゃあぁっ!!」

 柊太「何…これ…!?」

 

 

 

 真衣「千里…!これは一体…!?」

 

 千里「……!!」

 

 突然、ロストワールド全体に響き渡るような、耳障りな爆音が鳴り響いた。

 

 そして─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニ ガ サ ナ イ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…嘘……でしょ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───私は、そのまま倒れた。

 

 

 

 

 

 ────次々と倒れていく音が微かに聞こえる。

 

 

 

 

 

 ─────皆も、そうなったのだろう。

 

 

 

 

 

 ──────やがて意識が手放される時に見えたのは───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミ ジ メ ナ ニ ン ギ ョ ウ チ ャ ン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────真っ黒な“何か”だった─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第53話

~???~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……ん……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────薄暗い空間の中で、私は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 ────ようやく意識が戻ってきたような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「千里……?大丈夫か……?」

 

 

 

 

 

 同様に気絶していた真衣や杏梨、柊太も気が付いたようだ。

 

 

 

 

 

 千里「私は大丈夫……。ここは…?」

 

 私は体を起こし、辺りを見回す。

 

 

 

 

 

 千里「え…?何ここ…!?」

 

 私達がいたのは、赤黒くて薄暗く、建物や車、標識などが至る所に浮遊し、如何にも亜空間のような世界だった。

 

 杏梨「うわ…、なんか気味悪い…。」

 

 何もかもが歪んで見えるため、長居すると気分が悪くなりそうだ。

 

 千里「確か私達、あいつのロストを倒して、それから…。」

 真衣「ああ、その後突然叫び声が響いたんだ。しかしただのものではなかった。」

 

 そうだ。思い出した。

 それでいつの間にか気絶して、ここに迷い込んだんだ。

 先程のロストワールドとは違う、一風変わった空間。

 

 柊太「お姉ちゃん、あそこ。」

 千里「…?」

 

 柊太は上に指差し、私に教えた。

 

 千里「あそこだけ真っ黒…?」

 

 それは一部分だけ真っ黒…ブラックホールのような穴だった。

 

 真衣「周りは赤黒いのに怪しいな。行ってみるか?」

 千里「そうだね。この高さの感じ、かなり上だけど…。」

 

 とても簡単には登れそうにないくらいの高さだ。

 何も無いとはいえ、慎重に行かないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「本当に何なんだろ、ここ…。頭がおかしくなりそう…。」

 

 どこを通っても歪み、歪み、歪み…。

 精神的にもきつい。

 

 杏梨「…!お姉ちゃん、あれ!」

 真衣「ん?…!」

 

 杏梨が指差したのは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「あれって、江田組の事務所か!?」

 

 そう、真衣と杏梨のお父さんが所属していたヤクザ事務所だった。

 

 しかしこの空間では、歪みでボロボロに崩れ落ちていた。

 

 それを見ていたその瞬間───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「うぐっ!?」

 

 

 

 

 

 突然、真衣が跪いた。

 

 千里「真衣…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ありがとな……。杏梨とも……、俺の娘でいてくれて……。』

 

 

 

 

 

 『親父……!嘘だ……!!』

 

 

 

 

 

 『嫌だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 突然、悲痛な声が聞こえた。

 

 もしやこれは…。

 

 

 

 

 

 千里「真衣の…トラウマ…?」

 

 そう、目には見えていないが、恐らく真衣が経験したであろう過去が流れていた。

 

 あの時真衣と戦った、江田の声が聞こえた。

 

 声だけでもわかった。

 

 真衣「はぁ…、はぁ…。」

 杏梨「お姉ちゃん!大丈夫!?」

 真衣「あ、ああ…。」

 

 どうやら落ち着いたみたいだ。

 真衣はゆっくりと立ち上がる。

 

 真衣「突然頭に電撃のようなものが走って、気付いたら蹲ってた…。」

 千里(電撃…。まさかあいつが…?)

 

 確かではないが、真衣の過去を流したのは…。

 

 

 

 

 

 影の私なのではと推測している。

 

 

 

 

 

 千里「…進んでいけば何かわかるかもしれない。」

 

 私は真衣を手助けしながら、杏梨や柊太と歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩いていくと、また何かが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「きゃあぁっ!!」

 

 

 

 

 

 真衣「…!杏梨…!?」

 

 今度は、杏梨が跪いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あ、ゴメーン、スパイクの練習しようとしたらぶつかっちゃった~♪』

 

 

 

 

 

 『ホントゴメンね~、片付けの邪魔しちゃってさ。』

 

 

 

 

 

 『…何だよその目。そんなゴミみてえな腐った目で見るんじゃねえよ!!!』

 

 

 

 

 

 『いっその事、あんたみたいなゴミ、死ねば良かったのにな。そしたら今頃私は、選手に選ばれてんだよ。それをあんたは邪魔したんだよ?責任取れんの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「うぅ…!」

 真衣「大丈夫か、杏梨!」

 杏梨「うん…。私も、お姉ちゃんみたいに頭に…。」

 

 先程の真衣と同じような感じだった。

 

 辺りをよく見ると、崩れ落ちた学校のようなものがある。

 

 この空間に残された、聖麗学園高等学校だろう。

 

 今の声は恐らく、泉田だ。

 

 杏梨がまだ虐めに遭っていた頃、その時であろう出来事が流れてきた。

 

 千里「何なんだよ、これ…!」

 

 ああもう、訳がわからないよ。

 

 さっさとこんな苦痛を終わらせないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また進んだ所に、もう1つ崩れたものがあった。

 

 千里「あれは…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「うわっ…!!」

 

 

 

 

 

 千里「柊太!」

 

 その次には、柊太が跪いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『はあ?あんたが言う事を聞かないからこうなるのよ!傷を付けられたくなかったら従いなさいよ!!』

 

 

 

 『はぁ…、はぁ…。まだ殴り足りないわ。お母さんの怒りが収まるまで付き合ってもらうから。』

 

 

 

 『…何?見せもんじゃないのよ。関係ない奴は消えなさいよ。消えろって言ってんだろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の声は恐らく、柊太の母親だろう。

 

 となるとあの瓦礫は、柊太が住んでいたアパートのものか。

 

 柊太「んっ…、はぁ…!」

 千里「柊太、大丈夫?」

 

 私は頭を抱えていた柊太に駆け寄った。

 

 柊太「うん…、もしかして僕にも…。」

 千里「…そうみたい。あの時の光景、声だけでもわかった。」

 

 柊太が誰もいない裏路地で、母親から虐待を受けていた光景。

 

 ……あまり思い出したくないけど。

 

 真衣「アタシ、杏梨、柊太……この3人が頭に電撃が走ったのか…。」

 

 この3人に、無理矢理にでもトラウマを蘇らせようとしているのか。

 そう考えたら、さっさと消した方が良さそう。

 

 千里「…あ、もうすぐ着くね。」

 

 気付けば穴の近くまで来ていた。

 

 ここからが正念場だ。

 

 ここで全てを終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穴の中に入り、少し進んで行くと、誰かがいるのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???「……ようやくここまで来たんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「…あんたは…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、もう1人の私─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────シャドウ・チサトだった。

 

 

 

 

 

 千里「あんたは何なの?何が狙いな訳?」

 

 シャドウ・チサト「元々あんたはボロボロに朽ち果てて死ぬはずだったんだけどねぇ。でもそうは行かなかった。せっかくロストワールドを作って、私が真の彩神千里になりきれると思っていたのに。だから私は、この亜空間も作り出した。そして、そいつらのトラウマを蘇らせるべく、絶望に突き落とそうと試みた。それでうまく行ったと思ってたんだけどなぁ。」

 

 さっき流れた真衣達の過去か。

 

 彼女らも同じように、思い出したくもない壮絶な過去を経験している。

 

 父親の死、女王様からの虐め、母親からの虐待…。

 

 その過去が、この空間に全て詰め込まれているのだろう。

 

 真衣「絶望に突き落とすとかイカれてやがる…。それで何か得するモンはあんのか?」

 

 シャドウ・チサト「当たり前じゃん?なんたってそうしたら、彩神千里の座を奪う上、世界を私の物にできるのだから。」

 

 なるほどね。

 

 ろくでもない理由なのはわかった。

 

 千里「彩神千里の座を奪うとか…。そんな事できると思ってんの?悪いけど、そう簡単にはさせない。ロストワールドを切り抜けて来たからこそこう言える。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「所詮、あんたは私の“偽者”なんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はそう吐き捨てた。

 

 彼女は何も動じないが、それでも私は戦う覚悟はできている。

 

 シャドウ・チサト「……面白い。」

 

パチンッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は指を鳴らし、何かを召喚した───。

 

 

 

 杏梨「あれは…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャドウ・チサト「そろそろ来るだろうと思って用意したんだ。影の“私達”を。」

 

 

 

 

 

 彼女が召喚したのは、紛れもない真っ黒な人物───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───影の真衣、杏梨、柊太だった。

 

 

 

 

 

 真衣「もしかしてアタシ達か…!?」

 

 千里「全員、配置に着いて!」

 

 

 

 

 

 この感じからして、そろそろ来るだろう。

 

 最終決戦が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャドウ・チサト「私の邪魔をした偽者は、死んで後悔しな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第54話

皆さん、お久しぶりです。
大体半年以上はお待たせしたと思います。
当たり前のようにモチベが上がらず、すごく長くお待たせしてしまい申し訳ございませんm(_ _)m
最終章なので、早くこの作品を終わらせられるようにしていきます(汗)

それではどうぞ!


 真衣「くそ!めっちゃ戦いずれぇ!」

 

 光と影の存在達がぶつかり合う。

 影の3人…シャドウ・マイ、シャドウ・アンリ、シャドウ・シュータ。

 この影の存在は、私の偽者…シャドウ・チサトが生み出したものだ。

 姿だけでなく、その力も。

 つまり影の存在の戦闘能力は、光の私達の力が書き写されたもの。

 

 杏梨「ああもう!これじゃ遠距離戦が続いちゃうよ!」

 千里「自分の偽者を始末したら、他に移って!」

 シャドウ・チサト「味方を心配してる場合?目の前に集中しな!!」

 

 シャドウ・チサトは私に拳を喰らわせる。

 私はそれを受け止め、攻撃させまいと奮闘する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 真衣(こりゃあ、「あれ」を使うしかねえか…。)

 

 かれこれどれくらい経ったかわかんねえ。

 丸腰で挑んだんじゃ、逆に体力も消耗しちまう。

 だがこれなら…!

 

 

 

 

 

ジャキンッ!

 

 シャドウ・マイ「…?」

 真衣「知ってるか?本物のアタシは相棒を研ぐんだぜ?

 お前らは攻撃する事しか脳がねえから、覚えてて助かったぜ!」

 

 この前覚えた、「研ぎ澄ましの心得」。

 一時的に攻撃力が上がる優れもの。

 こいつと合わせりゃ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「“烈光連斬”!!!」

 

 

 

 

 

ズバババババッ!!

 

 真衣「オラオラオラオラオラオラアァッ!!!!!」

 シャドウ・マイ「…!!……!!!」

 

 切り札を繰り出し、猪突猛進と言わんばかりに奴を斬り刻む。

 北乃真衣という人間はアタシだけでいい。

 影の存在なんて…!

 

 

 

 

 

 真衣「この世にはいらねえ!!!!!」

 

 

 

 

 

ズバァッ!!!

 

 最後は地面と共に叩き斬り、影を消した。

 後は手助けをしてやらねえと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~杏梨視点~

 ずっと魔法の当て合いが続いている。

 放っては避け、放っては避けの繰り返し。

 このままでは体力だけでなく、精神力も下がってしまう。

 

 杏梨(冷静になって、隙を見つけないと…!)

 

 今は千里ちゃんの指示も無い。

 影の自分と真っ向勝負で挑むだけ。

 

 今まで私は、沢山の人に支えられてきた。

 でも、今は違う。

 私だってやれば出来るって、それを証明するんだ。

 

 杏梨(そういえば私の偽者、さっきから魔法しか撃ってないような…。)

 

 今の偽者は、私が覚えている結晶魔法や、魔法の剣しか使ってない。

 心無しか使いすぎて、疲れきってる様子もある。

 

 杏梨(…!ここだ!)

 

 相手が疲労してる隙に叩き込もうとする。

 

 

 

 杏梨「魔法の剣!!」

 シャドウ・アンリ「……!!」

 

ズバァッ!!

 

 見事命中した。

 そして─────。

 

 

 

 

 

 杏梨「“アブソリュートゼロ”おおおおおお!!!!!」

 

バアアアアアンッ!!!

 

 切り札であるアブソリュートゼロを偽者に向けて解き放つ。

 偽者は散り散りに消えた。

 

 

 

 

 

 杏梨(私の偽者は終わった…。後は手助けだけだね!)

 

 そう思い、私は別の場所へ移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~柊太視点~

 僕は今、影の存在の自分と戦っている。

 この影は、偽者の千里お姉ちゃんが生み出した存在。

 紛れもない敵だ。

 

 柊太(下手に攻めると防がれちゃうし、最悪パリィされちゃうかも…。)

 

 僕のコピーだからそうに違いない。

 目の前にいるもう1人の僕は、僕と瓜二つの姿をしている。

 当然、盾も持っている。

 

 剣と盾がぶつかり合う金属音が鳴り響く。

 何か策を考えなければと、頭の中で彷徨うばかり。

 すると、僕はある一点に気付いた。

 

 柊太(僕が攻撃を避けた時、少しよろけてる…?)

 

 僕が盾を使わず回避したり、パリィされると思って攻撃の方向を変えたりすると、後隙が生まれているように見えた。

 

 柊太(…これだ!)

 

 ダメ元で試してみよう。

 もしかしたら、僕の偽者を倒せるかもしれない。

 

 偽者が剣を振りかぶるのをよく見極め…。

 

ブォンッ!!

 

 柊太「見えた!」

 シャドウ・シュータ「……!?」

 

 僕は偽者の剣をすり抜け、回避する。

 そして偽者は、驚いたように体勢を崩した。

 

 柊太「(今だ!)うおおおお!!」

 

ザシュッ!

 

 シャドウ・シュータ「……!!」

 

 見事命中した。

 

 トドメはアレでいいかな。

 

ブォンッ!!

 

 柊太「甘いよ!」

 

ガキンッ!

 

 シャドウ・シュータ「……!!」

 

 僕は偽者の攻撃をパリィで弾き返した。

 

 そして─────。

 

 

 

 柊太「トドメだ!!!」

 

ザシュッ!!

 

 

 

 

ズバァッ!!

 

 シャドウ・シュータ「!!!!!」

 

 追撃を決め、偽者は消えた。

 

 偽者の勇者なんていらない。

 

 必要なのは、正義を持った勇者なんだ。

 

 柊太(これでようやく終わった…。後は…、手助けくらいかな。)

 

 残りの偽者を倒さないと。

 僕は一目散に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 千里「流石、私の真似しただけあるね…!」

 シャドウ・チサト「アハハハ!当たり前でしょ!?あなたの何もかもを奪うために生まれたのだからねぇ!?」

 

 もう皆は偽者を倒した頃だろうか。

 攻めては守り…の繰り返しが続いている。

 

 シャドウ・チサト「ほんっとにあんたは操り人形!ただ親の言う事さえ聞いていれば、今更ロストワールドには迷い込んでいなかったのにね!

 誰からにも見放され、挙句の果てには地獄に落とされ、何も出来ない無能人間なんだよあんたは!!」

 千里「うるさい!誰があんな奴に…!」

 

 死ぬ程憎い罪人の言葉になんか、耳を傾けたくない。

 あの日、あいつに突き放されてから、私の心は次第に蝕んでいた。

 真衣達と出会ってから、それがなくなったと思っていたのに。

 

 シャドウ・チサト「もう疲れてるんじゃない?これだけ殴り合いが続いてるもんだから、ふらついてきてる頃だと思うけど?」

 千里「誰もそんな事言ってないでしょ?勝負はここから─────。」

 

 

 

バシュッ!!

 

 

 

 シャドウ・チサト「ぐっ!?」

 千里「…!」

 

 影の私が、何者かに攻撃された。

 

 

 

 

 

 杏梨「お待たせ、千里ちゃん!」

 千里「杏梨!」

 シャドウ・チサト「何故!?あいつらの影は!?」

 

 奴に杖を向け魔法を放っていた杏梨がいた。

 どうやら、既に自分の偽者を消したらしい。

 

 杏梨「偽者なんてもう消したよ!自分の能力を覚えちゃえば、大した事無いからね!」

 

 そう言い、魔法を再び放つ。

 

バシュッ!!

 

バシュッ!!

 

 シャドウ・チサト「ちっ!光のくせに生意気な!!」

 

 流石に簡単にステップで避けられる。

 

 と、思いきや─────。

 

 

 

 真衣「後ろがガラ空きなんだよ!」

 

 

 

 シャドウ・チサト「…!しまった!」

 

ザシュッ!!

 

 杏梨にしか集中してなかった偽者は、まんまと引っかかり真衣の斬撃を喰らった。

 

 シャドウ・チサト「今度はお前か…!もしや盾の少年も…!?」

 

 

 

 柊太「……正解。」

 シャドウ・チサト「…!」

 

 柊太に不意を突かれ、殴り掛かろうとするが。

 

ガキンッ!

 

 シャドウ・チサト「あっ……!?」

 

 柊太「遅いよ。」

 

ザシュッ!!

 

 シャドウ・チサト「かはっ…!?」

 

 パリィされ、追撃を受ける一方。

 偽者からは、どす黒い血がボタボタと滴る。

 

 シャドウ・チサト「この…!ふざけやがって…!!」

 

 偽者はそう言うと、手を差し伸べる。

 そして─────。

 

 

 

シュウウゥ…。

 

 真衣「何だ…?アタシらの偽者の武器が…。」

 

 そう、この偽者は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───影の真衣、杏梨、柊太の力を吸収していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャドウ・チサト

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 突然、耳を劈くような咆哮が響き渡った。

 

 千里「…!これは…!?」

 

 どす黒いオーラを纏い、目は充血しているように赤黒く染まっている。

 

 そして、3人の力を取り入れたせいか、全ての武器が舞っている。

 

 その姿は、まさに─────。

 

 

 

 

 

 ─────“狂気そのもの”だった。

 

 シャドウ・チサト「オ前サエイナケレバ!!!今頃アタシハ!!!世界諸共飲ミ込メタハズダッタノニ!!!!!ナノニオ前ハ!!!アタシノ邪魔!邪魔!!邪魔!!!ソレバカリ繰リ返シヤガッテ!!!!!モウ二度ト!!!ロストヲ消セナイ動ケネエ体ニシテヤル!!!所詮オ前ハ偽者!!!偽者ハ消エレバ良インダヨ!!!!!」

 

 彼女はもう、救いようの無い狂人へと成り果てていったのだ。

 

 真衣「くだらねえ野望だな!誰もそんな結末望んでねえのによ!!」

 

 

 

 

 

 千里「…皆、準備は良い?」

 

 真衣「行けるぜ!」

 杏梨「大丈夫!」

 柊太「やっつけちゃおー。」

 

 

 

 どうやら皆、覚悟はできたらしい。

 

 

 

 本当の最終決戦と行こうか。

 

 

 

 

 

 千里「……こんな姿に成り果てたあんたにだけ、最後に言ってあげる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里

「お前は私なんかじゃない!お前なんか、私が真っ黒に染められた偽者だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この作品もいよいよクライマックスとなりました。
次回が本当の最終決戦となります。
お楽しみに。


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光の英雄、影の英雄

 狂気に満ちた影と、それに光を灯す者達の戦い。

 

 これが、本当の最終決戦。

 

 これに打ち勝てば、全てが終わる。

 

 しかしそれは、とても険しいものだった。

 

 

 

 千里「これが、最大の力…。」

 

 

 

 シャドウ・チサト「アハハハハハ!!!!!ドウダ!!!コノ力ニ怖気付イタカ!!?コレガアレバ!!!ヨウヤク野望ガ叶ウ!!!!!オ前ラミタイナ庶民ニハ味ワエナイタッタ一ツノ野望ガナアァッ!!!!!」

 

 影はそう言うと、背負っていた剣と盾を構え出した。

 

 真衣「あれは柊太の…!て事はパリィしてくるって事か!?」

 柊太「う~ん、これは僕でも攻められないなぁ~…。」

 千里「となれば…。」

 

 この中で有利な者と言えば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「杏梨!!」

 

 

 

 

 

 杏梨「え!?」

 

 そう、唯一魔法を使える杏梨だ。

 

 前がダメなら後ろから!

 

 千里「こうなれば杏梨の出番だよ!行ける!?」

 杏梨「う、うん!わかった!」

 

 杏梨は杖を影に向け、放つ。

 

バシュッ!!

 

ガキンッ!!

 

 シャドウ・チサト「フン!!!ソレガ私ニ効クトデモ!!?」

 

バシュッ!!

 

バシュッ!!

 

ガキンッ!!

 

ガキンッ!!

 

 シャドウ・チサト「何度ヤッテモ同ジ事!!!イクラデモ跳ネ返シテヤルワ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「ガラ空きだっつってんだろうが!!!」

 

 

 

 

 

ズバァッ!!

 

 シャドウ・チサト「グハァッ!!?」

 

 千里「チャンス!」

 

バキッ!!

 

ガチャンッ!

 

 隙を見て私は影の両腕に衝撃を与え、剣と盾を落とした。

 

 シャドウ・チサト「グッ!?シマッタ!!!」

 

 真衣「うおらああぁっ!!!」

 

バキィッ!!

 

 そして、それを真衣が叩き斬り、ぶっ壊れる。

 

 シャドウ・チサト「オノレ!!!ナラバ次ハコレダ!!!」

 

 影は次に、杖を構え出した。

 

バシュッ!!

 

バシュッ!!

 

バシュッ!!

 

 千里「まずい!避けて!!」

 

 この能力は杏梨のものだ。

 

 これも吸収して使い出したのだろう。

 

 千里(真っ向勝負だとまともに喰らう…。魔法を跳ね返したりできる者は…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「柊太!」

 

 

 

 柊太「はーい、柊太だよ~。」

 千里「パリィお願い!あいつをよく狙って!」

 柊太「おっけー。」

 

 魔法を放ったタイミングが、1番有利なのは柊太だ。

 

 

 

 シャドウ・チサト「ホラホラァ!!!コレデモ喰ライナアァッ!!!!!」

 

 

 

バシュウゥッ!!

 

 柊太「来た…!」

 

ガキンッ!!

 

 柊太「ぐっ…!重た…!!」

 

 柊太は大きめの魔法を防ぐ。

 とてもじゃないが、高威力のものを跳ね返すにはそれなりの力がいる。

 

 シャドウ・チサト「モット行クゾオォッ!!!!!」

 

バシュウゥッ!!!

 

 

 柊太「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

ガキャアァァァアンッ!!!!!

 

 跳ね返すと同時に、魔法同士がぶつかり合う。

 

 シャドウ・チサト「フン、コレジャアホームランニモナラ─────。」

 

 

 

 

 

 柊太「隙あり!!」

 

ザシュッ!!

 

 シャドウ・チサト「!!!」

 

 黒い煙を切り払うが如く、柊太は影に攻め込んだ。

 

 シャドウ・チサト「畜生!!!ソッチガソノ気ナラ魔法ノ剣デ…!!」

 

 

 

 

 真衣「させるかっての!!」

 

バァンッ!!

 

 シャドウ・チサト「グワァッ!?」

 

 柊太に魔法を放つ影だが、真衣のマグナムにより落とされる。

 

 そして、再び真衣に武器を壊される。

 

 これを繰り返せば、真っ向勝負まで持って行ける!

 

 シャドウ・チサト「コノ騎士女!!!次カラ次ヘト!!!」

 

 次は大剣を構える。

 

 真衣の能力だ。

 

ガキンッ!!

 

 真衣「あっぶね!?アタシの能力か!」

 

 真衣の剣と影の剣がぶつかり合う。

 

 

 

 杏梨「千里ちゃん!今度はお姉ちゃんの能力だよ!」

 千里「真衣だから、火力はかなり高いと思う…!私達は遠距離で攻めよう!」

 柊太「おっけー。弓なら持ってる~。」

 

 私は作戦を実行し、銃を構える。

 

 杏梨は魔法、柊太は弓…これなら遠距離でも攻撃できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「へぇ?アタシの影もなかなか良い剣持ってたんじゃねえか!」

 

 シャドウ・チサト「アハハハハハ!!!ソウヤッテ余裕コイタラ真ッ二ツダヨ!!!!!」

 

 真衣「余裕こいてねえよ!こっちにはしっかり策があるんだからな!!」

 

 シャドウ・チサト「ホラホラァ!!!斬ルゾォ!!!覚悟シロォ!!!!!」

 

 影は真衣に剣を振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「“カウンター”!!!」

 

ガキンッ!!

 

 シャドウ・チサト「何ィ!?」

 

 真衣は見事に影の剣を弾き返した。

 

 千里「杏梨!」

 

 杏梨「任せて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 杏梨「“プッシュウィンド”!!!」

 

 

 

ゴオオォッ!!

 

 

 

ガチャンッ!!

 

 シャドウ・チサト「何ダト!?クソッ!!」

 

 真衣の風の魔法により、偽者は剣を落とす。

 

 真衣「取らせねえよ!!」

 

バキッ!!

 

 そして、真衣が剣をぶっ壊す。

 

 これで丸腰になった!

 

 シャドウ・チサト「コノ…!!ナラ素手デオ前ラヲ消シテヤル!!!!!武器ガ無クトモ戦エルンダヨコッチハ!!!!!」

 

 千里「この時を待ってた!!」

 

 ここから真っ向勝負!

 

 正面から挑む!!

 

 

 

~真衣視点~

 真衣「これで武器が全部無くなったか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『真衣!杏梨!柊太!』

 

 3人「…!!!」

 

 声が聞こえた。

 

 アタシらが覚醒する時に聞こえたあの声。

 

 ???『私が集めた光を使って!千里に浴びせて、この戦いに勝つのです!!』

 

 真衣「…!勝ち確ってやつか!」

 

 杏梨「わかった!」

 柊太「勝とー!」

 

 彼女の力で、あいつに勝つ。

 

 これでロストワールドは消える。

 

 アタシらは、武器を掲げた。

 

 

 

 

 

 そして、光り出す……!!

 

 ???『さあ!それを千里に!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「千里!!!」

 

 杏梨「千里ちゃん!!!」

 

 柊太「千里お姉ちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人

「「「行けえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 お互いに次々と殴り、蹴り、双方ボロボロになっていく頃。

 

 シャドウ・チサト「消エロ!!!消エロ!!!!!消エロオオオオオッ!!!!!!!!」

 千里「この…!」

 

 どこからも血が流れ始め、瀕死寸前まで陥っていく。

 

 それはお互い一緒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「千里!!!」

 

 杏梨「千里ちゃん!!!」

 

 柊太「千里お姉ちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 千里「!!」

 

 3人の声が聞こえる。

 

 それに、武器が光っているようにも見える。

 

 ???『千里!!』

 

 千里「…!この声…!?」

 

 そして、あの女の人の声。

 

 ???『あの力で、影の千里に勝つのです!この悪夢にどうか打ち勝って!!!』

 

 千里「…なるほどね…!」

 

 私は、3人から力を受け取り、最後の力を振り絞る─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人

「「「行けえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「この勝負─────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里

「もらったあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオンッ!!!!!

 

 

 

 

 

 シャドウ・チサト

「グワアアアアアッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~真衣視点~

 千里は、アタシらから力を受け取り、最後の一撃を放った。

 

 その衝撃で煙で見えない。

 

 しかし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…!千里!」

 

 

 

 千里「……。」

 

 

 

 千里は倒れていた。

 

 重い一撃を喰らわせた反動か、仰向けに倒れていた。

 

 

 

 杏梨「千里ちゃん!」

 柊太「千里お姉ちゃん!」

 

 杏梨や柊太も駆け寄る。

 

 しかし、千里は目を覚まさない。

 

 

 

 

 

 そう思っていた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……う……ん……。」

 

 

 

 

 

 真衣「…!千里!」

 

 千里はゆっくりと目を開いた。

 

 体を起こし、倒れた影の千里の方に顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~千里視点~

 

 

 

 ああ、そうか。

 

 

 

 私、影に勝ったんだ。

 

 

 

 終わったんだ。全部…。

 

 

 

 

 

 ゆっくりと立ち上がり、ハンドガンを持ちながら歩み寄った。

 

 そして、銃口を影に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……これで終わりだよ…。何もかも…。」

 

 シャドウ・チサト「うぅ……。」

 

 千里「……所詮、あんたが偽者…。私の真似をした所で、何も変わらない……。

 結局は、本人に消される運命なんだよ…。」

 

 シャドウ・チサト「くっ……ふふふ……。」

 

 影は笑い出した。

 

 全てを奪われたその顔は、どこか寂しげにも見えた。

 

 シャドウ・チサト「終わり…かあ……。

 あーあ……、終わっちゃったんだ……。全部……。アハハハハ……。」

 

 千里「……もう、思い残す事は無いよね…。」

 

 シャドウ・チサト「当たり前じゃん……。ここまで痛められたらさ…、動ける方がおかしいじゃん……。」

 

 影はそう言うと、私はトリガーに指を添える。

 

 これで、本当に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「さよなら─────。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────シャドウ・チサト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァンッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影は撃ち抜かれ、散り散りに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…千里。」

 

 千里「……。」

 

 真衣「……これで良かったんだよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……うん…、任務完了だよ…。」

 

 ロストワールドの主も消し、黒幕も消し…、全て終わった。

 

 そして、この役目も、全部……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ…!!

 

 杏梨「…!ロストワールドが…!」

 

 主を消したからか、ロストワールドが揺れ出した。

 

 それもそのはず、いつもより大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『皆さん!急いでこれを!』

 

 彼女の声が聞こえた。

 

 ここは最後のロストワールドだが、出入口が見当たらない。

 

 その時に聞こえたのだ。

 

 そして現れたのが…。

 

 ???『これで脱出して!急いでください!!』

 

 柊太「階段…?」

 

 昇った先に見える光に繋がる階段だ。

 

 千里「……皆、行くよ!」

 

 疲れきった体を無理矢理動かしながら、光へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 『───これで、全て終わったのです。』

 

 

 

 

 

 『大切な人を守りたい…あなたの役目が、ここで果たせたのです。』

 

 

 

 

 『ありがとう、千里─────。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最終話 消えた異世界

本当の最終回です。
ようやく一作品が終わった感じがします。

それではどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……ん……。……あれ……?」

 

 目が覚めたら、リビングの中にいた。

 

 隣には柊太が寝ている。

 

 確か私は、ロストワールドから脱出して、それから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ダメだ、思い出せない。

 

 あれから私は、ずっとここで眠っていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 「…目ぇ覚めたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 台所から声が聞こえた。

 真衣が料理していたのだ。

 

 千里「……真衣、今何時…?」

 真衣「8時だよ。だからアタシがこうして朝飯作ってんだ。まだ休校期間だったから逆に丁度良かったよ。流石のアタシも久しぶりに長い時間寝たぜ。」

 

 私は時計を見た。

 本当だ、短針が8の数字を差してる。

 

 千里「私、顔洗ってくるね。」

 真衣「おう。」

 

 柊太を退かし、洗面所へ行こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真衣「…千里、よく頑張ったよな。」

 

 

 

 

 

 千里「…ん?」

 

 突然、真衣が喋り出す。

 

 真衣「頭回る奴だし、最後までちゃんとリーダーしてたし…。お前は本当にすげえよ。お前だからできた事を、しっかり果たせたもんな。」

 千里「…何それ。」

 

 急に話しかけたと思ったらそれか。

 

 千里「……そういえば、あれから私どうしてた?」

 

 そう、気になったのはそれだ。

 ロストワールドを出てから、何も記憶が無い。

 

 真衣「ずっと眠ってたよ。目ぇ覚まさねえんじゃねえかってくらい。」

 千里「え?そんなに寝てた?」

 真衣「覚えてねえならしょうがねえよ。あんだけやって、疲れねえ方がおかしい。まあ、端的に言ったら体力使い果たしたった事だ。」

 

 それもそうか。

 

 じゃあ、ここまで真衣は運んでくれたって事か。

 

 千里「……なんかごめん。」

 真衣「いいんだよ。言ったろ?アタシが好きでやってるって。」

 千里「そうだったね。」

 真衣「引き止めてごめんな。顔洗うんならシャワー浴びてからにしな。」

 千里「うん、そうする。」

 

 そう言い、私は洗面所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、聖学の前にいる。

 

 予想通り、立ち入り禁止となっている。

 

 真衣からは、明後日に登校開始と聞いている。

 

 

 

 

 

 「ここにいたんだ~。」

 

 

 

 千里「…?」

 

 聖学を眺めていると、隣でのんびりとした口調の言葉が聞こえた。

 

 千里「…柊太?」

 柊太「はーい、柊太だよ~。」

 千里「珍しいね。散歩?」

 柊太「まあそんな所~。」

 

 まったく、この状況でも呑気だな。

 

 柊太「ねえ、お姉ちゃん。」

 千里「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊太「あの世界って、結局何だったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里「……。」

 

 あの世界…ロストワールドの事だ。

 

 元々あの世界は、“善良を失った人々が集まる場所”でもある。

 

 でも、それ以外の意味は何も無いまま。

 

 そのまま終わってしまったんだ。

 

 千里「…私もわからないや。突然現れて、突然引き寄せられて…あの場所には謎が多いよ。」

 柊太「…そっか。」

 千里「正直、まだ実感無いや。本当に私達が、実のロストワールドを消したって思ったら、それをやった自分が恐ろしく見えてしまうくらい。特撮に出てくるヒーローみたいな人間に本当になったって考えたら、それこそ自分ってすごいんだなって。」

 柊太「……。」

 

 ベラベラと喋ってる私に対し、柊太は黙り込んだ。

 

 千里「なんかごめん、1人で喋ってばかりで…。」

 柊太「ううん、大丈夫~。」

 

 

 

 

 

 柊太「…もし、またロストワールドが現れたらどーする?」

 

 

 

 

 

 柊太が突然質問を投げかけてきた。

 物凄い質問するな。

 

 千里「…そんなの考えたくないよ。恐ろしい事聞くね…。」

 柊太「まあ、無いと思うけどね~。あれで最後って言ってたし~。」

 千里「まったく…。」

 

 苦笑いしながら、柊太と向き合う。

 これが、“いつも通り”ってやつなのかな。

 

 柊太「お姉ちゃん、ロストワールドが消えても、改めてよろしくね~。」

 千里「それはこっちも同じだよ。改めて…ね。」

 

 友人の真衣、兄弟的存在の杏梨と柊太。

 

 この3人と、これからも生きていく。

 

 私は、そう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数ヶ月後~

 ロストワールドが消えてから数ヶ月経ち、4月を迎えた頃。

 私達は1つ学年が上がり、私と真衣は3年生になり、杏梨と柊太は2年生になった。

 

 

 

 真衣『千里ー!』

 

 千里「…ん?」

 

 これが私達のいつも通り。

 今日は放課後全員空いているから、いつも通り4人集まっている。

 

 真衣「なあ千里、今から遊びに行こうぜ!」

 千里「遊びにって…、どこに?」

 柊太「ゲーセン~。」

 千里「…まあ、そうなると思ってた。」

 杏梨「今日は皆オフだし、いつもの4人で遊びに行こうって話してたんだ。」

 千里「私は全然良いよ。行こうか。」

 真衣「うし、決まりだな!じゃあ行こうぜ!」

 

 真衣がそう言うと、2人も颯爽と歩いて行った。

 私も歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???『───千里。』

 

 千里「…!」

 

 突然、私を呼びかける声が聞こえた。

 最初は、幻聴だと思っていた。

 

 

 

 千里「お母さん…?」

 振り向くと、そこにいたのは私のお母さんだった。

 

 洋子『大きくなったのね。』

 千里「…うん。」

 洋子『良かったわ。お母さんがいなくなってから、どうしているのかと思ってたけど…、心配はいらなかったわね。』

 千里「…今は沢山友達もできたよ。毎日楽しい。」

 

 私がそう言うと、お母さんは微笑んだ。

 亡くなる前と同じだ。

 

 

 

 真衣「千里ー!どうしたー?」

 

 洋子『引き止めてごめんなさいね。

 さあ、行ってきなさい。お友達が待ってるわよ。』

 千里「お母さん…。」

 

 真衣達がいるのがわかっている。

 

 なのに、体が動かない。

 

 心無しか、涙が出そうになった。

 

 洋子『まったく、あなたはいつまでも泣き虫ね…。大丈夫。お母さんがいなくても、あなたは歩き出せているのだから。』

 千里「……。」

 洋子『ほら、もう泣かないの。高校生でしょ?』

 千里「…そうだね。あのね、お母さん。」

 洋子『ん?何?』

 千里「私…。」

 

 

 

 

 

 千里「お母さんの分まで生きるから。」

 

 

 

 

 

 洋子『そうね。

 まだ若いんだから、生きなきゃね。』

 

 千里「うん。」

 

 

 

 お母さんはそう言い残して、消えていった。

 

 あれは幻影だったのか…。

 

 でもそれに限らず、久しぶりにお母さんの姿を見れた気がする。

 

 

 

 千里「ごめん、ちょっとボーッとしてた。」

 真衣「たく、全然こっち来ないから心配したぞ?もしかして体調悪いか?」

 千里「ううん、大丈夫。」

 

 柊太「千里おねーちゃーん。早く行こー。」

 千里「わかってるって。」

 

 

 

 そして私達は歩み出した。

 

 

 

 大丈夫。

 

 

 

 もう私は、1人じゃない。

 

 

 

 そう思い込みながら、毎日を過ごすのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【東京ロストワールド THE END】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて東京ロストワールドは完結と致します。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
メインストーリーが終わっても、まだ書いていくつもりなので、何卒宜しくお願いしますm(_ _)m
番外編も書くかもしれません。
改めて、東京ロストワールドを読んでくださりありがとうございました!


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