日曜の午後に動画見てたら幼女になって配信する件について (二三一〇)
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01 俺氏、幼女になる

 やや見切り発車気味にいきます。
 


「んー……面白いのねえなぁ……」

 

 たまの日曜日の昼下り。

 

 やる事のない休日の午後はまだまだ時間がある。ちなみに俺は酒もタバコもやらない。なので、酒に逃げる手もないのだ。

 

 暇を持て余して動画サイトの巡回をしているのだが、ヨーチューバーに興味がある訳でもない。

 なんとはなしに眺めて、次の動画へ。

 いわゆる波乗り(サーフィン)しているだけであった。

 

「にしても、ゲームアプリの広告、ウゼェな。どんだけ出てくんだよ」

 

 動画を見る度に、新しいゲームの紹介が次々と現れる。

 麻雀とか落ち物とかはともかく、RPGとかクソ長そうなのやってられんのよ。絵はいいんだけどね、だいたいかわいいし、カッコいいし。

 

 それはさておき。

 一つ見る度に代わる代わる出てくるのは正直ウンザリである。なんとかならんかと思っていたら、うっかりタップしてしまった。

 

「あーもう、めんどいっ!」

 

 慌ててバツをタップして止めようとするけど、なぜかダウンロードは止まらない。

 

「質悪いゲームだなぁ……どこだよ、コレ」

 

 スマホのアプリを閉じようとしても受け付けず、ホームにすら戻れない。こんなわけあるか、訴えるぞコラ。

 

「あーあ……始まっちまった。てか配信画面みたいだな」

 

 先程見ていたヨーチューブと酷似した画面に、すでにどこかの映像が流れている。

 

 なんだが豪華な作りの部屋である……ホテルかな? 俺も泊まったこともないような高級感溢れる部屋だ。

 小さめのシャンデリアとかシーリングファンとか……視点が横を向いているようだ。

 

 ようだ、というのは暗くてよく見えないせいもある。仄暗い常夜灯の光が僅かに部屋の形を浮かび上がらせているからだ。

 

「寝てる最中の視点かな? ちょっとボヤケてる」

 

 すると、部屋の窓がきい……と、開いて黒い影のようなものが入ってきた。

 

「え……心霊系かよ……?」

 

 それはまっすぐにこちらに寄ってくる。

 黒い影の中に朧気に二つの光が灯っていて……それは目のようにも見えた。

 

「うわ、ちょっ、マジで勘弁。こういうの苦手なんだよ!」

 

 黒い影が画面を埋め尽くし、微かにくぐもった声が聞こえる。思わずヘッドセットを外そうと思ったのだけど、その声が小さな子供の声に聞こえたので躊躇ってしまった。

 

『……く、あぐ……ひっあ……』

 

 うええ。

 ガチで苦しんでる声にどうしようもなく焦る自分がいた。なんか、なんかやる事はないのか?

 ゲームならこういうとき、『QTE』とか出るんじゃねえの?

 

 そう思っていたら、画面に何かが出たのでとっさにタップした。

 

『リーセロット=ファン=ハーゼルツェットは死亡しました。引き継ぎますか?』

 

 なんか、そう書かれていたような。

 

 考えが纏まる前に、俺の視界が暗転して。

 

 気がつくと、そこは先ほど見た光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ? なに、ここ」

 

 えっと……まず状況確認。

 画面にあった風景とおんなじだ。

 

 え、意味分からん。

 なんでこんな所に俺はいるんだ?

 

 つか、なんか濡れてる?

 背中というか、腰のあたりというか。

 

 慌てて跳び起きると、ベッドを降りる。

 つうか、ベッドが大きいな。

 キングサイズという意味じゃなくて、リアルに大きい。

 

 部屋の中は薄暗いけど、明かりがないわけじゃない。先ほどの影みたいのが入ってきた窓は開いていて、風で微かに音を鳴らしているだけ。影の姿はどこにもない。

 

「なんなのですか……コレ」

 

 呟く声がやたらと幼く、高い気がした。

 なんかおかしいので手を喉に当てると、特に妙な様子はない。

 

 その流れで気付いたけど、着ている服が違っていた。俺はさっきまで部屋着のスウェットの上下だったはずだけど、なぜかひらひらしたパジャマを着ている。しかも、女の子の着るようなものだ。

 

「げぇっ……」

 

 おまけに、漏らしていた。

 道理で気持ち悪いはずだ。

 それにしても、この年で漏らすとか……会社の人間に聞かれたら絶対に笑われること間違いなし。

 今日が休みで本当に良かった。

 

 ……現状が理解できているのか判断ムズいな

 冷静だけどズレてるなw

 子供の頭で考えてるにしては論理的だと思うけどな

 せやな

 

 途端に、そんな文字が目の前に現れる。視界の端によってるから邪魔にはならないけど、いきなりなので驚いた。

 

「……チャット?」

 

 お、驚いてない?

 やっぱ適性ある子なんやね

 たぶん似たような文化が発展していた世界の子だと思うよ

 そういや、取り乱してないし

 おねしょの方がダメージでかいみたいだしw

 いや、そらしゃーなしや。殺された後やで?

 おっきい方も出ててもおかしないモンな

 もまえら、幼女はうん○しない、オーケー?

 あ、はいはいサーセン

 おねしょはええんか?

 それはご褒美w

 コイツ、あかんやつや……

 

 それには禿同。

 つか、何なのこのコメント書いてる奴ら。

 まるで見てるかのように書き込んでるけど。

 

 見てるんよ

 バッチリ見てたよ

 幼女が悶け苦しむ様はご飯3杯はイケます

 ( ・ิω・ิ)

 ヤベーのしかいなくて草

 

 ええ……。

 状況もさることながら、コイツラの発言がヤバすぎてマズい。なに、見てた? どこから? ここには俺以外いないし、監視カメラみたいなものも見当たらない。なのに見てるって、どーいう?

 

 それはほら、神の視点で

 神様はいつでも見ていますよホホホ

 気持ち悪くて草

 

 はあ……? 神様? んなものいるわけ無いだろ。

 

 神様ってのは所謂概念の一つで……上位の存在っていう方が正しいかも

 世界の管理者、なんだよねぇ……

 各々が自分の世界の管理をしてるよ

 この世界は観測できる仕様なんよ

 

 はあ……いみ分からん。

 とりま敵ではないってことでおk?

 

 おk

 むしろ君を手助けするためにいると言っても過言ではない、かな(笑)

 自分でハードル上げてるの草

 

 うん。やっぱよくわからん。

 とりあえず気持ち悪いから服をどうにかしたいけど……着替えとかあるん?

 

 その部屋には無いね

 私室に服置くのは庶民だけだよ

 人を呼ぶといい

 たしか今日はアンゼリカがいる日の筈。リーセロットのこと大好きだから甲斐甲斐しく世話してくれるよ

 

 は? 人に世話任すの? そんなん恥さらしやん。大の大人がおねしょとかありえんやろ。

 

 状況、飲み込めてなかったw

 静かにパニクるってやつか

 きみ、自分の身体見て大の大人だと思う?

 

 そのコメントを見て、あらためて見直す。

 女の子用のパジャマを着て、おねしょ。

 よく見ると手足もちっこい。

 

 ああ、なるほど。

 

「おれ、幼女になってますぅー!?」

 

 草

 ほんとうに草

 見れば分かるだろ 常考

 一般人には無理やろなぁ……

 

「どうかなさいましたか、お嬢様?」

 

 ヤッバ

 思わず大声出したから人が来ちゃったよ!

 

「な、なんでもないのっ 入ってくるなですわぁ!」

「! 失礼いたしますっ」

 

 入ってくるなと言ったら、強引に入ってきた。子供の力で対抗できるわけもなく、ドアを押し開けられて、ついでに転がる俺。

 

「も、申し訳ありません、お嬢様っ!」

「い、たた……ちから強すぎましてよ」

「お嬢様が入ってくるなと仰るときは、ああやっぱり粗相でございましたね」

 

 ひょい、と抱え上げられてしまうおれ。

 このお姉さん力つえーなぁと思っていたけど、単純にこっちが幼すぎただけらしい。普通にお姫様抱っこされてしまうとは。

 

「お嬢様はお小さいのですから、粗相くらい普通です。恥ずかしがる必要はありませんよ」

「そこを諦めたらげぇむおーばーですわっ」

「? また、難しい言葉を覚えたんですね? スゴイです、お嬢様っ」

 

 アンゼリカ、相変わらず脳筋だね

 知力低すぎて草

 教育度高くて知力低いとかSANチェック有利すぎて草

 這い寄る混沌とかは、まだいないから(震え)

 その理屈だとリーセロットたんガチよわw

 

 あああ、コメントうっとおしい。

 そんな最中にも洗い場に連れて行かれて温かいお湯で身体を洗われる。

 アンゼリカよりも年のいったメイドさんとかいっぱい居て草生える……てか、この子、貴族かなんかのお姫様かよ。

 

 リーセロットたんは貴族で間違いないぞ?

 ハーゼルツェット家は侯爵家だ。国の中では上から数えた方が早い家柄だよね

 そんでもってようやく出来た一人娘。ワガママ放題の五歳児だよ

 イカ腹カワイイw

 

 はー。

 五歳か。それなら納得。姪っ子が同じくらいだったけど、このくらいだった気がする。

 

 ちなみにその姪っ子と比べると天と地ほども差のある容姿であったりする。姿見で見てみたら、本当に天使かと思うほど愛らしい。

 

 長めの金髪は緩くウェーブしてて艶がスゴイし、顔のパーツも完璧。翠色の瞳はキラキラしてるし、肌ももちもちしてて潤いが違う。

 

 あれよあれよと泡だらけになり、お湯でざばざば流されるので、ゆっくり鑑賞など出来るはずもないけどね。

 

 風呂場から出るとふかふかなタオルにくるまれて、丁寧に身体を拭うメイドさん達。手慣れ過ぎてて少し怖いw

 

「お嬢様、お着替え致しましょう」

「あ、はいですわ」

 

 ときに。

 今俺は『はい』としか答えなかったんだけど。

 なんでこんな言葉づかいなの?

 

 そりゃあリーセロットたんだからだろw

 中身が変わってもガワはそのままだからな。

 たぶん記憶とか習慣とかが残ってるだけ

 そのうち、消えると思うよ

 

 着替えている最中に、彼らに聞いてみる。

 

 この身体の子は、本当に死んだのか? と。

 

 魂が分離させられちゃったからね

 エゲツない魔物送ってきたなぁ

 コスト高いだろ、スピリットイーターとか

 確か10000くらい使う。おまけに儀式も必要だし。でも、確殺なら選んでもおかしくないかも

 私のファインプレーに感謝しろよw 暇そうな魂ねじ込んでリセたん救助とかミラクルじゃん

 あ、バカ

 

 ほう……どうやらここに犯人がいるようだな。

 テメエから暴露するマヌケがよっ!

 

 あ、イケね。ちょっと落ちるわw

 

 ちょっと待てや、オラあっ?

 てめ、人の魂を勝手にねじ込むとか頭おかしいだろっ!

 

「お、お嬢様? なにか気に障りましたか?」

「そうではないのよっ! あなた達は悪くないけど、少しほっといて下さる?」

 

 着替え終わったあたりで怒り始めた俺のせいで、メイドさん達がオロオロし始めた。別に君たちは悪くないから、気にしないでと言いたいけど、なんだか子供の癇癪みたいに言ってしまってた。

 

 部屋に戻るとアンゼリカをはじめメイドさんたちも退室する。部屋は明るくなっていて、ベッドもきちんと整っていた。

 

「はう……どうしましょう」

 

 口から出るのは、幼女の言葉。

 沈黙していたチャットにまた文字が現れる。

 

 すまん、デリカシーのない奴で本当に申し訳ない

 悪い奴じゃないんだけど、少々刹那主義でね

 考えなしとも言う草

 物語が始まるって時に速攻主役リタイアとか、許せなかったんだろ

 アイツがロリコンなだけだろw

 それは、否定しない

 

 どうも、他の奴はまだチャットから外れてないようだ。

 

 君は巻き込まれただけのようだが、どうかその子として生き抜いてほしい。

 がんばって

 僕らが共通で見られる世界は少なくてね

 その世界を守るためにどうか頼む

 うまくいったら元の身体に戻させるから

 

 え?

 そんなの可能なん?

 

 まあ、なんとかなるだろ

 アイツがムリさせたんだし。責任取らせないと

 そんなわけで、よろしゅう頼んま

 

 むう……よくわからないけど、眠くなってきた。

 とりま、おきたら考えるぅ……

 

 おやすみw

 いい夢みてね

 ねがおかわいい……

 

 がち、きもいわ……ぐうzzz

 

 




 異世界に飛ばされて(魂だけ)、神様に見守られて(コメントで茶々入れて)何やかやするTSファンタジー。
 すごくニッチな気もしますが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m


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02 朝食を取る、管理者と、変な場所で

 第2話です。
 大きなイベントもなく進みます。


 目が覚めるといつもの日常。

 

 電子ポットを仕掛けて卵一個とハム数枚のハムエッグ。パンは今日はクロワッサンにしていたと思う。サラダも作っておいたので冷蔵庫から出せばすぐに頂ける。手作りのマヨはそろそろ無くなるので、次の休みには作ろうかな。

 

「きみ、意外とマトモな子だったんだね」

 

 そうかな? まあ、面白みのない人間とは言われたけどさ。後輩ちゃんに。

 

「二十歳そこそこで酒もタバコもやらないで、朝はきちんと余裕を持って食事の用意とか。普通の子とは言わないかな」

 

 さいですかね。

 家に居たときから続いた習慣だから、あんまり気にもしてなかったし。

 

「ていうか、あんただれ?」

「ようやく気付いてくれたかい。僕は君たちの父であり母さ」

「ちぇんじ」

「グハッ! きみ、容赦ないね……」

 

 だって、もろにおっさんなのに母とか言われたら……がち、きもいわ。

 

「この姿はあくまで君に分かりやすく具現化した姿である。キモいと言うなら君の持つ概念がキモいということだ。あと『がち、きもいわ』と言われるのすごくイイねっ!」

 

 人に指を指して偉そうに宣うとか、態度だけは神様だなぁ。でも言われてみれば人間っぽくはない。

 この理不尽な言い草と言い、やり方といい、感覚といい。たしかに神様だよ。

 

「その節は、大変迷惑をかけたと思います。なのでこうしてお詫びに参った次第です。どうか平にご容赦を」

 

 手のひらの返し方も神がかってるね。

 やっぱり神様だな。

 

「そういう所で感心しないでくれるかな。情けなくなってくる」

 

 あ、泣き始めた。

 意外にメンタル弱いッスね。

 おお、よしよし。

 頭撫でてやるから泣きやめや。

 

「……ありがとうございますぅ!」

 

 ええ……なんでそこで泣くの?

 

「リーセロットたんに撫でられるなんて、わたし大歓喜っ!」

 

 今度は喜び始めたよ……何なの? 情緒不安定? 更年期?

 

「まあ、とりあえず食べながら話していこう。せっかく手ずから用意したんでね。私もご相伴、いいよね?」

 

 どーぞご自由に。作ったのアンタなんだし。

 なかなかに美味しそうだね。あれ? これ、夢じゃないのかな? 普通に美味しい。

 

 というか、ここって俺んちじゃないね。どこ?

 

「ここは夢のようで夢でない空間。管理者たちの領域でね。君の精神だけを飛ばしてもらったのさ。そして僕は地球の管理者。名前は多すぎるので割愛します」

 

 ……つまり。

 あれは、夢じゃなかった、ということなんスか……

 

「君の今の姿を見てもらえばわかる通り、すでに君の魂はリーセロットたんに固定してしまっている。本来なら前の姿のはずなのだが、すんなり固着してしまったようだ」

 

 はあ……

 なるほど、うまい。このハムいいッスね

 

「喜んでくれて嬉しいよ。これで一つチャラにして貰えたらもっと嬉しいけど」

 

 それは都合良すぎじゃないッスかね?

 こっちはいきなり人生ドロップアウトですよ?

 

 親や友達にもお別れも出来てないし、結婚とかも……まあ、相手いなかったけど。そんな人生のイベントのほとんどをやれなかったわけで。それをハムエッグで許せとかおかしくないですかね?

 

「ごもっともです、はい。と、とりあえず君の身体に関しての凍結はしておいたから、全部終わった後に戻れるようにしてある」

 

 ほんとう? だって時間とかどうすんの?

 

「こと管理内であれば時間操作とか出来るんでそれは問題ない。それに君が介在することで与える影響はほぼ無い。戻っても特に影響は与えないよ」

 

 ……巧みなディスりに聞こえたんですが。

 どーせなんの影響も与えない一般ピーポーッスよ。

 

「こ、言葉尻を取るのはやめてほしい。これは私に出来る限りの最大の贖罪だ」

 

 それは、有り難いですよ。もぐもぐ……ところで、全部終わったらって言ってたけど。

 実際はいつまでリーセロットをやればいいの?

 

「まあ、あの世界の平穏が守られるまで、かな?」

 

 ……すごい、アバウトな条件ッスね。

 もっとこう……魔王を倒すとか、世界のバランスを崩してるシステムを直すとか。目的は無いん?

 ゲームならありそうなんだけどな。

 

「きみにはゲームっぽく感じるかもしれないけど、実際は普通にファンタジーな世界だし。まあ、次代の英雄が育つまでって辺りが妥当じゃないかな? それなら死んでも問題ないからね」

 

 結局、死ぬ以外にリタイア無いじゃないスか。

 

「一度身体に固定された魂は死なない限り離れないんだ」

 

 ……そういや、最初の子はどうなったんだ? あの影みたいな奴に殺されたって言ってたけど。

 

「スピリットイーターは魂を直接攻撃してくる上級魔族でね。抵抗が高くないと簡単に魂を分離させられてしまう。セーブソウル系の術が使えるなら助かったのだろうけど、あいにくあの場には使える母親が不在でね。ああするしかリーセロットを助ける手が無かったんだ」

 

 いや、身体は助かったかもしれんけど。

 元のリーセロットの魂は消えちゃったじゃないか。それじゃあ意味ないだろ。

 

「そこは抜かりはないよ! あの世界の管理者に頼んで魂は確保したから。ちなみにすでに母親の中にいる子供に固着したらしいし」

 

 ……それが本当ならめでたい話だ。

 あっさりリタイアした分、長生きさせてあげないとね。

 

 問題は俺がリーセロットをやるって事だけどな。そもそも、なんでリーセロットがそんな立場にあるんだよ。

 

「それは単純に高い魔力の為だよ」

 

 強いから、という意味か。

 勇者的な特別な力では無いんだな。

 

「そうだね。魔力じゃないと倒せない敵というのはいるけど、特定の人物じゃないと倒せない奴はいない」

 

 なら、こんな事しないで次に強い奴にやらせりゃいいだろ。俺を巻き込むなっ!

 

「……リーセロットたんが可愛いからさ」

 

 ……マジで言ってんの? 神様とか管理者とか、みんな頭湧いてるのか?

 

「超絶可愛い女の子が無双するとか最高に格好いいじゃないかっ!」

 

 お前ら人間とは違う感覚の持ち主なんだろ? 人の見た目だけじゃなくて、魂の本質とかも視えてるんだろっ? いい年した男が中身の幼女でいいのかよっ!

 

「それは、それでありっ!」

 

 ダメだ、こいつら……魂の奥底まで腐ってやがる。

 

 大声で叫ぶ地球の管理者は、それはそれは自信満々であった。だけど、俺としてはそう簡単には受け入れられない。

 

「どうしてもイヤならば、もう一度殺して別の魂を送り込む。君の魂も戻してやろう」

 

 いきなり聞き分けが良くなったな。

 なんか、あるのか?

 

「別に、特には。ただ、君のように綺麗に固着するのは珍しいのでね。何度繰り返すか分かったものじゃない」

 

 それはアレか?

 リーセロットを死なせて、俺みたいな奴の魂をねじ込み続けるって事か?

 

「理解が早いな」

 

 たちが悪いっ!

 

 リーセロットが好きなのに何度も殺すとか、何人も俺みたいな奴の魂を奪うとか、人の命をなんだと思ってんだっ!

 

「君が引き受けてくれれば、そうはならない」

 

 いや、本当にたちが悪いっ!!

 

 神様とか管理者とかにとって、人の命なんてゴミ屑みたいなもんなのかよっ

 

「そうとは言わないが、リーセロットたんのためならそれくらいはするよ」

 

 もうだめだ、お前ら。

 社会的規範がおかしいっ サイコパス!

 

「いやだって、ウチら人間じゃないし……」

 

 そうだよね。

 人間じゃなかったよ!

 

 ああもう、なんて言ったら通じるんだろうか。そこまでやって恥ずかしくないのか?

 

「べつに……他の管理者も同意見だし。魔王側の管理者もぜひそうしろって言うし」

 

 ツッコミどころが多いなっ!

 なんで敵側の奴まで俺にやらせようとしてんの? リーセロットを殺さなかったら良かったんじゃんっ!

 

「ああ、後から連絡あってさ。謝罪してきたよ。まさかスピリットイーターが入れるとは思わなかったそうだよ」

 

 はあ? どういうこと?

 

「あの屋敷には魔力結界が張ってあって、魔王だろうと侵入できないほど強いヤツらしいよ」

 

 そうなん? そのわりにあっさり侵入してきたけどな。

 

「あの窓、鍵が壊れてて簡単に開いちゃうんだって。閉じる事で効果を出す結界だから、物理的に開いてると効果が半減するんだ。んで、スピリットイーターは強い魔物だから不完全な結界には効果が無かったんだと」

 

 ええと。

 少し整理しよう。

 

 結界が壊れていたってのは、向こうも知らなかった。結果、リーセロットを殺してしまった。それに対して先方は謝意を示したと。

 

 おかしくないか?

 

 魔王側が自分たちに対抗する存在であるリーセロットを倒すのは、必然なんじゃないのか?

 

「いや、序盤で消しちゃうのはダメでしょ。悲劇的ではあるけど、人類の希望だよ? 主役を退場させるなんて人が許しても管理者達(僕たち)が許さないよっ!」

 

 後ろに『ドンッ』という書き文字が出るほどに、強く言い切った地球の管理者……ヤバい、コイツらマジでおかしいよ……

 

「魔王側の管理者も、『これは失敗だわ、やり過ぎよ、魔王ったら何スピリットイーターなんて送ったのよ。折檻してやるわっ!』とか言っていたよ。指示したのは自分なのにね」

 

 人類の希望を殺せと命じて魔物を送り込んだのに、成功したらしたで怒られる……魔王が可哀想になってきた。

 

 人類も魔王も、コイツらに振り回されてるだけじゃないかな。真の敵はコイツらなんだと思うけどな。

 

「おおっと。リーセロットたんのジト目頂きましたっ! ひゃっほうっ♪」

 

 …………もう、会話するのも、つかれた……

 倫理とか規範とか道徳とかがあまりに乖離しすぎて話が通じないんだもん。

 

「魔王側の管理者の言う事も一理あってね。この時期に無駄にポイント使っておけば、しばらくは強い魔物を送らないだろうって読んでいたらしいんだよ。今は家の中にいる事のほうが多いだろうけど、その内学校とかにも行くようになるし。そんな時にやたらと強い魔物が送られたらマズいと考えたらしいのさ」

 

 ……一応、スジは通っている。というか、マジでこっちのこと考えてるとか魔王側の管理者ってカウンタースパイなのかよ。

 

「まあ、そんなとこかな。ほら、魔王とか勝手にやらせると効率よく世界を滅ぼしちゃうからさ。睨みを利かせる存在が必要なわけ」

 

 魔王の歯止めが利いてるなら世界が滅ぶなんて起こらないだろ? これ完全にヤラセじゃんっ!

 

「ま、まあ……物語はある程度、お約束のようなものもあるし……」

 

 本気で思って言ってるならこっち見ろよ。

 なんで目を背けてんだよ。

 

「は、恥ずかしいし……」

 

 顔赤らめて寝言言うなボケェッ!

 思わず飛び上がって頭を叩く。

 

「ありがとうございますっ!」

 

「もうやだっ 管理者なんて変態ばっかりーっ!」

 

 

 

 

 そう叫んで、目覚めた朝。

 

 晴れやかで小鳥の囀りも心地良い筈なのに、気分は最悪だった。

 

 

 おはよう

 おっはー♪

 なんか元の管理者と会ってたらしいね

 裏山……次は私と会ってくれないかい?

 相変わらずキモいと言わざるを得ない草

 

 朝から元気な奴らだなぁ……

 俺ら人間は配信とか見るのはだいたい仕事終わってから寛ぐ時に見るもんなんだぞ。朝っぱらから張り付いてんじゃないよ。

 

 仕事しながら見てるからへーき(^^)v

 朝とか昼とか無いから、ウチら。

 ついでに言うと休みも有給も退職も無いな

 

 想像以上にブラックで草。

 年中無休で仕事とか人間には無理だな。

 

 まあ、リフレッシュの為に見てるのは本当だよ。娯楽が無いからね

 下界の子どもたちを見るのが一番の娯楽なんだけど……自分の持ち場は他の管理者は見れないから。

 だからこそ共通で見られるこの世界が大事なんだよ(๑•̀ㅁ•́๑)✧

 こういう場が広がってくれれば、我々も過ごしやすくなるんだけどなぁ

 

 だから、朝から世知辛い話はやめーや。

 

「おはようございます。お嬢様」

 

 昨夜からの泊まり明けのアンゼリカだけど、眠そうな様子は見えない。夜勤なのに元気なことだ。

 

「おはよう、アンゼリカさん。今日も元気ですわね」

「……!」

 

 あ、びっくりしてる。

 なんかオレ間違った?

 

 貴族が使用人に敬称は付けないよ

 名前を呼ばない事すらあるし、基本呼び捨て

 リーセロットたんもそうだったからね。そりゃ驚くよ

 

 あー、そういうのか。七面倒だなぁ。

 

「昨夜はまた世話になりましたので。感謝の気持ちを伝えたいの。いつもありがとうございます、アンゼリカさん」

 

 そう伝えると、何故か彼女はドギマギしていた。

 

「も、勿体ないお言葉です」

「これからも迷惑をかけてしまうかもしれないけど、宜しくお願いします」

 

 お辞儀するアンゼリカに近寄って、手を握る。感謝の印としての握手をした。

 少々フレンドリーにし過ぎかもしれんが、世話になってるわけだしこれくらいエエやろ。

 

 さらっとアンゼリカの手を握る俺氏w

 リーセロットたんがやってるんだから、無問題

 あー、アンゼリカの好感度が上がっていきますぅーw

 

 好感度とかあるの? やっぱゲームじゃねぇの、コレ。それはともかくパジャマからお着替えだそうで……てかこのチャットって閉じれないの?

 

 右上に□があるでしょ。そこにメニューがあるから、そこから不可視化出来るよ

 コメントの読み上げも出来るよ

 ゆっくりしていってネッ!

 

 えっと、窓消し、音声読み上げ……うわ、本当にSoft○lkみたい(笑) 後は、カメラ閉じ?

 

 あっ、バカ! そのメニュー見せたら……

 

 ははあ……なるへそ。

 では、お着替えの最中はカメラを切るか。

 

 アアーッ!

 リーセロットたんの、裸がぁっ!

 おのれ、俺氏! 血も涙もないのかっ

 お前の血は、何色だぁっ!(血涙)

 ……ノリ良くて草

 

 あのさ。

 俺にとっても、この身体って他人の子供みたいなモンなんだよ。だから、目ぇ瞑ってるんだし。

 お前らに見せる理由もないよな。

 

「あの、お嬢様? なんで目を閉じていらっしゃるのですか?」

「アンゼリカにおまかせだからですっ」

「! はい、おまかせ下さいっ」

 

 アンゼリカ、嬉しそうで草

 主人に尽くすのが楽しいんだろ

 てか、俺らと同類な気がするな彼女(アンゼリカ)

 

「終わりました、お嬢様」

「ありがとう、アンゼリカさん」

 

 目を開けて部屋にある姿見の鏡を見ると、そこにはおしゃまな外国人のお嬢様が立っていた。アンゼリカは手早く髪を梳いていく。髪が長くて綺麗なのはいいんだけど、少し長いなぁ。

 

「アンゼリカさん、髪を纏めて下さらない?」

「畏まりました」

 

 そう言うと、彼女は手早く髪を編みあげていく。いわゆるひっつめという感じでくるんと巻き上げる。

 うん、首筋から背中が開放されていい感じだ。

 

 お、リーセロットたんのアップw

 意外にお洒落さんだね

 

 いや、お洒落じゃなくて、慣れないロングヘア対策なんだけどね。

 

 アンゼリカに聞くと、今日も父親や母親は居ないらしい。ちなみに爺様とか婆様とかもここにはいないので、この屋敷には家族はリーセロットしかいないという。

 

 警備とか大丈夫なの? あの結界を過信し過ぎてない? そう聞くと、アンゼリカが頼もしく胸を叩いて答える。

 

「内部の警備は私どもが行っております。外部は警備担当の従士達が常時おりますので、ご安心下さい」

 

 ここはメイドさんも格闘訓練してるし、従士は専任の奴等を雇っているからね。

 他の貴族の家より相当金かけてるよ

 親父さんは魔法省の大臣だし、お袋さんも高名な魔術師だからね

 

 それって超サラブレッドじゃねえの……リーセロット、すげえな

 

 魔力値が五歳時点で発動可能なレベルにあるのは本当に珍しいから

 普通の貴族でも十歳前後くらいだからね

 

 ほう……つまり、もう使えちゃうわけか、魔法。これは、試してみるかなぁ

 

 少しテンション上がってきた。

 

「今日も一日がんばるぞぃ♪」

 

 

 リーセロットたんの、ぞぃ♪

 ちょっと古くないですか(笑)

 可愛くて草

 

 

 ……媚びるつもりは全く無かったんだ。

 あと、アンゼリカも喜ぶのやめて。

 

 




 管理者達がただの変態集団になりつつあります(笑)
 こんなはずじゃなかったんだが……


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03 魔法練習、ときどき実戦

 俺氏は元は二十歳の青年ですが、オタクなのは言わずもがな。


「は? 表に出るだけでお着替え? そんなの必要ないですわ!」

 

 多少汚れても服なんて洗えば済むやろ。アンゼリカの制止を振り切り、庭へと飛び出そうとするおれ(リーセロット)

 

 その服、庶民の何着分か知ってる?

 市場価格で計算したら標準の仕立て済みで五十着近くらしい

 古着だと千着くらいだって草

 

 はあっ? たしかに高そうなドレスだけど、それはボリ過ぎじゃないか?

 

 工業化された世界じゃないし

 まあ、そんな世界でもそんなオーダーメイドの服は手縫いだろうからね

 服って高いんだぜ?

 ちなみに庶民が新品の服を買うのはかなり稀

 普段着はだいたい古着だよ

 子供の服なんてすぐ使えなくなるし、古着なのが当たり前なんだ

 

 俺に無い常識を教えてくれるのは有り難いが、なんかマウント取られてるような気がする。そんな常識知るかいっ

 

 貴族の子女も十になるまでは主に古着だね

 伯爵以上の上級貴族の子女は何着か作るよ

 そんでその子達が着れなくなったら、貴族用の古着屋が買い取って、下級貴族の子供たちが着たりするわけ。

 下級貴族に子供の服を作る余裕なんて無いからね。

 上級貴族の義務みたいな感じ

 

 はえー。

 なるほど、ちゃんと循環してるんだね。

 

 アンゼリカが止める理由は分かったかい?

 

 ん……この服は売り払うのが決まっているから、傷を付けられない。監督者として彼女が責任を負うってこと?

 

 まあ、そんなとこ。

 そうやってメイドを奴隷に落とす馬鹿な貴族も多いし、その事は彼女も知ってるからね

 

 うん、分かった。

 こんな気立てのいい娘さんが奴隷落ちとか後味悪いどころじゃないよ。

 

「アンゼリカさん。運動するための服は用意してありますか?」

「あ、はい。ございますよ、お嬢様」

「では、それに着替えましょう」

 

 よく考えたら、こんなひらひらドレスで魔法の実践もないだろう。リスクしかないなら素直に着替えるよ。

 ぽち(画像off)

 

 あー、また(´・ω・`)

 使い方覚えたからって……

 サービス精神というものはないのかぁっ

 

 乙女の柔肌なんて、そんなにさらけ出すもんじゃないだろ? つか、サービスなんかするかいっ(ぺっ)

 

 着替えてみると、普通にいい感じだったりする。スカートじゃなくてズボンだし、余分な布もあまりない。実にいい。

 

「わたくし、ずっとこれでもよくてよっ」

「それは、わたくしが叱られますので……」

 

 かわいい子は何を着てもかわいい(小並感)

 ブレないな、こいつら草

 

 俺もそう思う。

 けど、実際こういう服の方が動きやすい。

 いつもこんな服装でいたいというのは結構マジだ。

 

 さて。庭に出てみたけど、当然魔物なんかいるわけないし。魔法の実験は……あの石でいいか。

 

 そこでおれはハッと気付く。

 

『……あのどなたか、魔法の使い方をご存じないかしら?』

 

 まあ、そうくるよねw

 リーセロットたん、基礎講座もまだやってないし

 まずは体内の魔力を感じる所から、かな?

 

 体内の、魔力を感じる?

 

 どういうこった……?

 

 両手を前に出して、輪っかを作るように曲げて、右手から左手に動かすような感じをイメージして

 まずはイメトレから

 

 なるほど。やってみよう。

 えっと、こうかな?

 言われた通りに型を作り、右手から左手に移すイメージ……なんも起こらんな

 

『こ、コレであってますの?』

 

 うん、出来てる

 つか、密度すげぇw

 

 あってるらしい。

 けど、俺には全く分からない……なんで?

 

 首ひねってるね?

 流れを感じ取れてないらしい

 こんだけ流れてるのに分からんとかイミフw

 

「えっと、アンゼリカさん? 私の手の間に手を差し込んで下さらない?」

「は? あ、はい。ただいま」

 

 アンゼリカになら分かるのかもしれない。

 差し込まれた手のひらは何かを感じ取ったようで、アンゼリカ自身も驚いている。

 

「何か分かりまして?」

「少しだけ、温かいです」

「魔力の流れ……温かいんですの?」

「それより、凄い流れが強くて。驚きです」

 

 やっぱりちゃんと流れてるらしい。

 でも俺には分からない、と。

 

 人によって感じ方は違うらしいよ

 温かい人、冷たい人、イガイガするとか、心地よいとか……人によってはイク人もいるとか

 それより強い流れ、の方が大事だね

 

 危ないワードが出たので、アンゼリカには離れてもらう事にする。この年で女の子イカせるとか洒落にならん。

 

 それはそれで見たいなw

 幼女にイカされるメイドさん、(・∀・)イイネ!!

 本当に変態ばかりで草

 

 禿同。草の人は比較的マトモっぽいコメントが多いな。

 

 それはともかく、困った。

 魔力の流れ自体が感じ取れないのはなんで? この状態で魔法とか使えるの?

 

 たぶん今まで無自覚で回してた可能性アリ

 ああ、それでこの魔力値なのね

 ざっくり言うと、呼吸するようにやってるから自覚出来てない、という事

 魔法を使う事自体に問題はないはず

 

 ふむ。ならやってみるか。

 時に呪文とかあるの?

 

 あるよ。無くてもいけるけど

 本質的にはイメージを補足する為のモノ

 唱えた方が精度は上がるよ

 けど、リーセロットたん、呪文とか覚えてないよねw

 

 おまえら……そこに気付いていながらやらせてたのか。

 いい根性してるじゃねえか(ーー゛)

 

 ょぅι゛ょが睨んでるわ……ドキドキ

 顔文字使いこなしてきたw

 どうやって書いたのか草

 そんなんウチラと同じやろ

 

 ええい、無駄話をしてても始まらん!

 とりま広い庭の中にある物を標的になんかやってみる。あの花でいいかな? 目の前、1メートルくらいまで行って、指先を花びらに向けて……イメージはそうだな。

 

霊○(レイガン)

 

 ガンドじゃなくて草

 懐いw

 俺まだうちに単行本あるわ……

 買いに来てんなよw

 あ

 

 指先に光をためて、撃ち込むイメージ。さっきのより具体的だったようですぐに光が集まってくる。

 

「お、面白いですわねっ♪」

 

 ちょっとためてたら拳大の大きさまで膨らんだ。これ撃ち込めばいいんだよな?

 

 ちょ、マズいw

 それデカイよ、そんな近距離で撃ったら自分巻き込むよっ!

 もっと遠くの目標に変えなさい、早く!

 

 なんかコメントが荒ぶってる。

 しゃーないから……あの石にするか。最初に目星をつけていた大きな石に向けて照準を合わせ……

 

「発射」

 

 ドキュウウンッ

 瞬間、眩い光が視界を遮り。

 

 庭に置いてあった大きな石に、先ほど光の玉と同じくらいの大きな穴が開いていた。

 その先の木や茂みも同様に削られていたけど、庭を仕切る塀には穴は開かなかった。黒ずんではいたけど……

 外にいかないで良かったぁε-(´∀`*)ホッ

 

「お、お嬢様ぁ?」

「ああ、うん。ゴメンなさい? 少し出力を間違えましたわ」

 

 ○丸かと思ったらビームライフルでワロタ

 初期ガンダ○音懐い

 この威力はないわw

 外壁の魔力防壁、一枚割ってるからな

 イメージがズレてて草

 

 いきなりの閃光と音に、人が集まってきた。

 広い屋敷なんでまあ、いるわいるわ。メイドさんたちに厨房の方や雑役とかしてるみたいな使用人に、外からは警備の従士も来たらしい。

 

 ちなみに、途中からガ○ダムに変わったのはなんとなく光がピンク色っぽかったから。

 

 そんな理由で変わるのか

 発想がフリーダムw

 ガンダムだけにと言いたいのか草

 

「お嬢様、いかがなさいましたかっ」

 

 執事風のお爺さんが声をかけてきた。

 だれ?

 

 家令のヴィッセルさんだよ

 侯爵家に代々仕える家系の人で、ここの責任者かな

 ちな、お爺さんだけど結構強い

 

 なるほど。じゃあ、謝っておこう(強者には媚びる)

 

「ヴィッセルさん、ごめんなさい。魔法の練習をしていたら、ちょっと間違えてお庭を壊してしまったわ」

「えっ!? アンゼリカっ、どういう事だっ?」

「えと、お嬢様が魔力の練習をなさっていて、魔力の流れが分からないと仰られて……、それで」

「お嬢様が呪文を覚えておられないのは知っているだろうっ! 呪文も杖もなく魔法を扱うなど、暴発したらどうする気だっ」

「ま、まさか本当に発動出来るとは思いませんでしたので……申し訳ありません」

 

 ヴィッセルさんの剣幕にアンゼリカが頭を下げる。

 む、これは良くないな。

 アンゼリカの前に立って止めないと。

 

「お、お嬢様?」

「勝手なことをしたのはこのわたくしですわよっ アンゼリカを責めるのは筋違いでしょう!」

 

 そう言うと、ヴィッセルさんは言い淀みながらも答えてきた。

 

「で、ですが。もしもの事があれば、わたくし共が旦那様や奥様に叱られます」

 

 まあ、そうだよね

 ちなみに杖と呪文が無いと普通はかなりの確率で失敗するんだ

 それも魔力次第だけど。高い魔力なら強引にねじ伏せるし、イメージがしっかりしてればそもそも失敗はしないから

 

 そういう事はもっと早く言えよ。

 傍から見たら無茶なことしたの俺じゃん。

 

 私達から見たら失敗確率は分かるから安心してたけど、下界の人間には分からないからなぁ

 ごめん、考えてなかったw

 サーセン

 

 サーセンで終わらすなっ

 

「お、おい。何だあれ?」

 

 集まってきた人の内の誰かが茂みを指差す。

 そこには黒い影のようなものが揺蕩っている。

 

「げ」

 

 それは昨夜襲ってきたあの魔物だった。スピリットイーターとか言ったか? リーセロットを殺したからもういないと思っていたのに、なんでまだ居るんだよ?

 

「ま、魔物かっ?」

「なんで、ここに?」

 

 おや、帰ってなかったのか

 てっきり任務完了で送還したと思ってたら

 これは残飯あさりかな?

 

 こちらを確認するやすごい速さで突っ込んできた。ヴィッセルが杖を取り出して呪文を唱えるけど間に合いそうもない。

 

「きゃっ……」

 

 アンゼリカが悲鳴をあげつつも抱きしめて盾になろうとしている。その気持ちはありがたいけど、ちょっと動きづらいよぅ!

 

 とっさに思い起こしたのは、ロボットのような生命体のこと。何気にサンラ○ズ作品の好きな俺はそれを魔法として起動する。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 私の防御術式は間に合いそうもない。

 まさかスピリットイーターなどという上級魔族が侵入してくるとは思わなかった。お屋敷の中ならばたとえ魔王だろうと侵入させない結界ではあるが、庭や別棟はそれほどではない。

 

 完全に虚を突かれた。

 

 旦那様と奥様の留守を守ると息巻いていたのに、これでは示しがつかない。

 アンゼリカが身を持ってお守りしようとしていた。良い気概だ。そうでなくてはいかん。お前の死は無駄にならんから往生しろ。

 

 間に合わない防御術式を取りやめ攻撃術に切り替えた瞬間、スピリットイーターが二人を包み込む。奴が一度に食える魂は一つだ。アンゼリカが盾になっている間に、奴を仕留めれば問題は無い。私は自身で一番早く、効果的な術を組み上げ、解き放つ。

 

斬魔刀(アークセイバー)!」

 

 実体がおぼろげなスピリットイーターには光属性の攻撃がよく効く。光の軌跡が影を切り裂きダメージを与えるが、倒すには至らない。

 

「ちいっ! 者共かかれっ お嬢様を引きずり出すんだっ」

 

 あのままではアンゼリカを食い終わったあと、お嬢様まで食われてしまう。集まっていたメイドや従士に命じて飛び込ませる。

 

「その必要は、ありませんわよっ」

 

 鈴を鳴らしたような声が響く。

 どこかと思えば、それは空からだ。

 上を見ると、アンゼリカとお嬢様がいた。

 

「お、おじょう……さま?」

 

 七色に輝く光を纏い、神々しいお姿はまさしくリーセロットお嬢様だった。小さなお嬢様を守っていたはずのアンゼリカは、何故か取りすがっているように見えた。

 

「シャオオッ」

 

 スピリットイーターが影の手を伸ばしてお嬢様に攻撃をかける。が、信じられない事が起こった。

 

 七色の虹の輝きが強くなったと思ったら、その場からかき消えてしまったのだ。

 そしてすぐ側に姿を現すお嬢様(とアンゼリカ)。

 

「ひいいっ、おおじょうさまぁ、これは一体?」

「喋ると舌を噛みますわよ?」

 

 そんな余裕の表情でアンゼリカに答えるお嬢様。

 

「お嬢様っ ご無事ですかっ!」

「見れば分かりますでしょ? ヴィッセル、こいつには何が効きまして?」

「は、私の扱った光属性の術が効果的かと存じますが、まさか?」

「分かりましたわ。皆さんの退避をお願いしますね!」

 

 そう言うとお嬢様は空高く舞い上がる。それを追ってスピリットイーターも飛び上がった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「と、と、飛んでます、お嬢様っ」

「飛んでいるのですから当然ですわ」

 

 飛行術はかなり高レベルの術なんだがw

 発想が自由過ぎ

 バイタ○ジャンプとか懐いw

 けど、こうして見ると綺麗だな

 リーセロットたんだからなっ

 禿同w

 

 瞬間的な高速移動を行い、あたかも消え去ったかのように見せるバイ○ルジャンプ。緊急回避的な行動だけど、魔力は意外と使うので困るな。

 そう言ってる間にも何度が影の腕が飛んできてるけど、バイタルジャン○的な回避で次々と避ける。この辺り、普通の回避で避けられるものもあったりするのだろうけど……身体が子供過ぎて無理だと思う。

 実際、今でもかなりツラい。なのでさっさと終わらせよう。

 

「アンゼリカさん、あなたの魔力を放出して下さいませ」

「えっ? わた、私そんなに強くはありませんが」

「わたくしだけでは少々心許ないので」

「……わ、分かりましたっ」

 

 リーセロットに抱きついているアンゼリカから、魔力が注入されていく。他人の魔力というのがどういうものかは分からなかったけど、ぽかぽかするおひさまの様な感じが満ちてくる。

 

「いきますわよっ」

 

 くるりと振り向き、左手を差し出す。

 そこに、先ほどのようにピンク色の光がたまり始める。アンゼリカの魔力も複合して、さらに鮮やかな光彩を放つ。

 

「チャ○ラ、エクステンション!!」

 

 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 まさかのチャクラエクステンションっ!

 俺氏、ブレ○パワード派か

 ガ○ダム派かと思ってたら草

 

 コメントウザいなっ

 身体の中にある魔力の殆どを使っての一撃だ。一直線に追ってくるスピリットイーターは避ける事もできずに光の奔流に飲み込まれ、盛大に爆発した。

 

 一撃?

 ヴィッセル氏の攻撃で七%しか食らってなかったのに?

 ……おう、ホントに倒したな。

 余剰ダメージ104%……オーバーキルじゃんw

 スピリットイーターって何レベルだっけ?

 確か60。王国騎士の精鋭でも一対一じゃ勝てない

 レベル1にすらなってない子供が出すダメージじゃねぇな

 

 ほー。そんななのか。

 管理者どものどよめきも今の俺には届かない。

 なんでかというと、すっごい疲れたからだ。

 

「お、お嬢様……汗がすごいです」

「ちょっと……加減がわからなかったですわね……もしもの時は……ゴメンね」

「え?」

 

 あ、アカン。

 集中が途切れて、視界が暗転した。

 まだ空中なのに、マズったなぁ……

 

 ちょっと、俺氏! そこで落ちるなよ!

 落ちる、堕ちるッ!

 あ”ーーッ

 

「あったかいなぁ……」

 

 アンゼリカが固く抱きしめてくれる感覚に抱かれながら、意識を落とした。

 

 

 




 スピリットイーターさん、退場。
 イメージとしてはディメン○ーですが、黒い霧に包まれた不定形の存在です。魂の強制分離という超強力な一発死にスキルと影を伸ばしての多数の物理攻撃が可能で、魔法や魔力を付与した武器じゃないと傷付かないというかなり強い上級魔族です。

 というか、コメディと言いつつバトルとかタグ足さないとアカンですかね(笑)


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04 管理者たちの会話とあくる日の過ごし方

 前半と後半では場面が違います。


「どうしたの? なんか気分悪そうね?」

「そりゃ気分も悪くなるわよ。魔王に送らせた魔物の話あったじゃない?」

「ああ、リーセロットの件ね。こっちも大変だったよ。分離した魂がすごい早さで往生しようとして。慌てて捕まえて前世の記憶だけは消して、母親の子供に入れたけど」

 

 薄ぼんやりした事務所らしき部屋で私と彼女が話をしていた。機嫌がすこぶる悪そうだが、まあそれも分かる。

 

 私が愚痴ると、彼女はため息をつきながら椅子を回して正面を向いた。

 

「あいつ、送還されてなかったらしいの」

「えっ? それじゃ、まだ暴れてんの?」

「そうみたい。先輩たちからクレームがすごいきて……もう泣きたい」

 

 ぐすん。

 鼻を鳴らす彼女は、黒髪を少し揺らして涙ぐむ。こういう仕草は卑怯だよなぁ。

 

「あちゃ〜……召喚設定間違えてたの?」

「……どうもあたしへの当てこすりみたい。リーセロットを狙えって言ったから、確実にその家の奴を全滅させるよう命令したんだって」

 

 スピリットイーターが間違った目標、例えば使用人の子供を仕留めて帰ってしまわないように、そこにいる人間すべての抹殺、と命じたらしい。

 

「ふざけんなっての。遠く離れたアークステインまで態々送るのだから戦果を残したいとか言ってたけど、こっちはそんなん望んでねーから! 小競り合いで貯め込んだコストを減らそうって魂胆と、リーセロットたんのお披露目イベントの為なんだから。配慮しろっての!」

「言えたら苦労ないけどね」

 

 愚痴は留まるところを知らない。まぁまぁと頭を撫でると、少しは落ち着いたのかこちらを見やる。

 

「悪かったわね。リーセロット殺しちゃうとか面倒かけて」

「んー、まあそっちよりかは大分マシよ。それにあの子、不安定だったから。その内潰れちゃってたかもだし」

 

 これは本当だったりする。内包する素質とかは問題ないのだけど、いかんせん環境と本人のメンタルが弱すぎた。世界の救世主として立つにはまず心が強くないと話にならないと思う。

 

 そういう意味では、あの魂は変えて正解だったのだ。

 

「そんで、あの新しいリーセロット(ピンチヒッター)たんはどうなの?」

 

 涙を拭いてそう聞いてくる。私はそれにどう答えるか少し思案して、率直な感想を述べた。

 

「ちょっと、ヤバいわね」

「ヤバい? 適合してないの?」

「むしろ適合しすぎててヤバいのよ」

 

 現状の適合率はおよそ百。普通の人間はだいたい二十から三十。稀に出てくる英雄でも、だいたい四十くらいが普通だ。つまり、あの子はそんな奴らよりも馴染んでいる。

 

「うそ……魔王だって三十五なのに」

「魂と肉体の適合率は高くなればなるほど相乗していくわ。あの年齢であれ程の魔力を引き出したのも、それゆえね」

「よく言うチートって奴?」

「適合率はチート能力とは関係ないわ。後付だからね」

「そっか……」

 

 私たち管理者も、転生とか異世界からの転移者にチートを授ける事はある。でもそれは後から付与されたものであり、本来の性質を歪めてまで課せられるものでは無い。

 

「この魂とリーセロットの能力が噛み合わされた結果が、これよ」

 

 端末を動かして先ほどの戦闘の動画を見せる。黒髪の彼女は口をあんぐりと開けて呆然としていた。あんまり開けてるから、何か入れてあげようと思ったので飴玉を一つ放り込む。

 

「もがっ あら、美味しい♪」

「地球の管理者さんがお詫びに持ってきたのよ? いっぱいあるからね」

「うん、ありがと。でも、五歳でこの出力とかありえんでしょ?」

「自分のだけじゃなくてメイドさんの魔力も拝借したらしいけど、それにしてもこんな威力にはならないわ」

 

 1レベルにすらなっていない者が魔法を扱う段階でおかしいのだけど、それが60レベルのスピリットイーターをほぼ一撃で仕留めるとか明らかに摂理がおかしい。

 

「まあ、私としてはありがたいわね。スピリットイーターが無双して侯爵家の屋敷が全滅とか、コストボーナスやんなきゃならなくなっちゃうから」

「クスッ そうだね。減らすために送ったわけだし」

「結果的にお披露目も成功だし! 魔王管理者としては言うこと無しよっ」

「魔王くん、グレない?」

「元々グレてるようなモンでしょ? 魔王なんだから」

「それもそうかw」

 

 彼女の機嫌が良くなったのだから、まずは良かった。

 私はとりあえず、現状を確認するためにモニターを続ける。

 

 ほんと。

 世界の管理者(中間管理職)もツラいよね。 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 目を覚ましたのは、翌々日だった。

 今回は夢の中で管理者に呼ばれなくて良かったけど、起きたらコメントがウザすぎてキツかったなぁ。

 

 ちょっと俺氏。ょぅι゛ょに無理させんなや

 体内の魔力全開放とか無茶させ過ぎて草

 場合によったらまた死ぬ案件やからねw

 ヴィッセルいなかったら墜落死だったよ?

 風魔法でクッション作ってくれたからね

 せめて飛行維持する魔力はのこそ?

 魔法少女だってそのくらい頭回るから

 前のめりすぎて草

 

 かなり言いたい放題だが、軽率だったのは認める……リーセロットにはすまんことした。

 

 今はベッドの上で横になっている。時刻は早朝……かな? 外が朝焼けのように見える。

 身体自体は傷一つないけど、すごくダルい。

 これが魔力の全開放の反動なのだろうか?

 

 そう言えばアンゼリカは無事なの?

 

 君に魔力搾り取られて向こうもダウンしてるよw

 メイドの何かを搾り取るょぅι゛ょハアハア

 高度な変態がいる草

 

 確かに変態だ。でも、無事でよかった。

 

 まあ、ヴィッセル氏だけだとあれは討伐ムリだったからしゃーなしだけどw

 リセたん殺したから還ったと思ってたら、まだ居たとか

 何人か使用人もやられてたらしい。

 魔王側の殺意の高さにワロタ

 

 やっぱ犠牲者はいたのか。俺のせいではないんだけど、助けられなかったのは悔しいなぁ。

 

 コンコンとノックをされたので、どーぞと返事をする。か細すぎて聞こえてないだろうけど、扉が開いてメイドさんが入ってきた。

 

「あのー、お水を頂けますかしら?」

「お嬢様っ お目覚めになられたのですね!」

 

 アンゼリカよりも年上の黒髪のメイドさんが、奥様と旦那様にお報せをとか別のメイドさんに指示していた。彼女自身は部屋に残って吸い飲みを取って水を飲ませてくれる。

 ちょっと照れるが、手が動かしづらいからありがたい。

 

「ありがとうですわ、えっと……」

 

 だれ?

 

 最近うちらをマニュアル代わりにしてる気がするw

 まあ、やむなし。

 その人はメイド長のイルセさんだよ

 もう二十五のいき遅れで仕事に生きる事に決めた才媛だよ

 

 二十五でいき遅れとか言うなよ、可哀想だろ!

 

 ここの女性の平均的な結婚時の年齢は十七。二十歳だとかなり焦った方がよくて、二十五になるとよほどでない限りムリ。

 どこの世界も文明レベルが低い頃は総じてサイクルも早い。生殖活動は若い方が好ましいからね

 ちな、リーセロットたんにもすでに婚約者が決まっているw

 

 はあっ?

 そんなん無理だろっ 俺男だぞ? 男に抱かれる趣味はねーわっ!

 

 ま、そうだよねw

 まあ、その辺はおいおいかな?

 

 そんな雑談をしていたら、部屋に二人の男女が入ってきた。どちらも仕立ての良い服を着て、美男美女ときたらなんとなく分かる。

 こちらを見て、喜んだかと思ったら厳しい顔に戻ってつかつかと近寄ってきた。何ぞ?

 

「目が覚めたようだな、リーセロット」

「……おはようございますですわ、お父様」

 

 とりま挨拶はしておく。初対面の人とは挨拶はきちんとしろってバイトの店長も言ってたし。

 

「ヴィッセルから聞いたが、無茶をしたものだ。そもそも魔法の基礎すら教えてないのに」

「……ごめんなさい。でも、放っておいたらみんなが」

「言いたい事は分かったが、お前の命とは替えられない。これ以降は勝手な魔法の使用は禁止する」

 

 ……あ”? 何言ってんのこのオッチャン? 俺が倒さなかったらみんな死んどったぞ?

 

 ようやく出来た娘だからね

 たとえ全滅してでも娘だけは守れと命じてるし、ヴィッセルさんもそれで叱責されてるから

 

 はあ? あのじーちゃんいなかったら、俺死んでたやん。褒めるトコだろ?

 

 そもそも戦わせちゃダメだからね

 五歳の幼児がスピリットイーターさんとタイマンとかありえんからw

 どうみても勝てんからな

 

「……ゆっくり休め」

 

 そう言って、父親は出ていった。

 代わりに母親らしき人が枕元に椅子を寄せて座る。

 

「……気分は悪くないかしら?」

「お外に出ても問題ありませんわ。身体はあまり動きませんけど」

「魔力の放出のし過ぎよ。あと一日はかかるから寝てなさいね」

 

 そう言って、額を撫でる。少し冷たい手が心地よいなぁ。ちなみに俺は母親にこんな事されたことなかったけど。

 

 寂しい幼少期に草

 そこ笑うのは人としてどうかと

 不謹慎だがわかりみw

 

「基礎も習ってないのに魔法とか、あなたは天才ね」

「そうなのですか? 普通に扱えましたが」

 

 そう答えた瞬間、母親が眉をひそめた。

 マズったかな?

 

 何度も言うけど、呪文なしとか杖無しで魔法とか本当は無理だからw

 

 そのコメントが証明するように、母親は立ち上がって部屋を出ていった。さっきまで優しかったのに……なんだろう。このやるせなさは。

 

 リーサンネ様は努力の人だからね

 天才とかガチ嫌いだし

 そういう意味では旦那とかリーセロットとかは嫌いなんだよ

 

 嫌いなのに結婚とかすんの、おかしくない?

 

 貴族社会はそんなモン

 自分、政略結婚とか知らんの?

 

 あーいわゆるマトモな結婚の末に出来た子供でないから、結婚の事自体よく分からん(笑)

 

 あ……(冊子)

 空気読んで字間違うとか草

 ちゃうねん、笑かそうとかじゃなくて……

 

 気ぃ使わんでいいよ。どうせ、家出てからオカンとも会ってなかったし。

 しかし、産んだ子供を嫌うとかは流石に理解できん。

 

 別にリーセロットを嫌ってはいないよ?

 才能があって妬ましいってところじゃない? どちらかというと旦那の方に不満があるみたい。

 あれも天才肌の人間だしな。

 愛してはいるんだけど、リーサンネには伝わってないよね

 あっちもマトモな愛情受けてないし、歪んでて当然だよな

 貴族にマトモな人はあんまりいない草

 

 んん……なんか複雑そうだね。

 親父さんの方も何だか煮え切らんし。

 子供の心配するなら無事で良かったとか抱きしめるとかすんのが普通じゃねえの?

 

 リーセロットたんが抱きしめるとかっ!

 これは録画だなぁ(REC)

 草。私にも頂戴

 

 草の人はマトモだと思ってたんだが同類か……そもそもたとえで言っただけで感情とか乗ってないのに単語だけでいいとか……折角なので感情込めて言ってみようか。

 

「抱きしめて、ですわ♡」

 

 ヨオオッシッ

 でかしたっ!

 ちゃんと取ったか? 切り抜き班!

 ∠(`・ω・´)(`・ω・´)ゞビシッ

 俺氏、GJ○!

 

「お嬢様……」

 

 すると、メイド長が何故か抱きしめてくれました。お、ありがとう♪ でも、気軽に野郎に抱きつくとか危険がアブないぜっ?(動転中)

 

 動画班っ

 ∠(`・ω・´)(`・ω・´)ゞビシッ

 G○部っ

 その件、ずっとやるの草

 

「イルセ……さん? あの……」

「す、すみませんっ あの……抱きしめてと仰られたので、つい……」

「いえ、良いのですが。暖かくて、気持ちいいですので」

 

 これは本心。下心は無し。柔らかな膨らみが顔に当たるとかは関係ない。いいね?

 しばらく抱いていると、気が済んだのか離して布団を整えてくれた。

 

「今日のお嬢様は、とても大人しいですね」

「……動けませんので致し方なしですわ」

 

 そういや、リーセロットってどんな子だったの? ワガママって言ってたような気がしたけど。

 

 どっちかというと構ってほしいって感じかな?

 ご飯を一緒に食べたいとか、ご本読んでとか両親に言うけど、忙しいって断られていじけてるなんてあったな。

 承認欲求って言うとあれだけど、愛情を感じられてないのが不安だったのかもね

 

 ははあ……こっちも厄介だったんだな。

 ちと、イルセに聞いてみよう。

 

「イルセさん。わたくしはお父様とお母様に愛されておりますか?」

「!……そ、それは、私にはお答えできません」

 

 周りから見ても、愛されてるようには見えなかったということか。

 

「で、ですが……そうであると信じたい……と思っております」

「もってまわった言い方ですわよ」

 

 くすり。

 イルセのその様子を見て、少し笑ってしまった。両親の愛情は届いていなくても、周りの人からはちゃんと愛されていたらしい。

 さらに言えば、歯がゆく感じていたんじゃないかな? 自分は使用人だから進言するのも憚られるし。

 

 さて、どうするかね。

 まあ身体も動かんし……なんか見れるアニメとか無い?

 

 あるぜっ(^o^)b

 地球の管理者、速すぎw

 私らを便利に使いすぎて草

 

 夕方くらいには身体が起こせるようになったけど、どうせだからその日はそのまま過ごしたのだった……

 

 




 世界を管理しているとは言っても、どこも変わらなかった(悲報)
 それはともかく、ご両親登場です。


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05 父親との触れ合い

 お気に入り登録がいつの間にか30越えてました。
 皆様、ありがとうございます。
 ちな、感想などもいいのですよ|д゚)チラッ


 ヤバ……眠い。

 ファーストあるって言うからついつい見てたら、二十……三話くらいで落ちたッス(笑)

 

 幼児に夜更しさせんな、ボケ(-_-メ)

 十時間近く見てて草

 

 その辺はサーセン。だってじっくり見たこと無いんだもん。

 いや、けどホントすげぇなアムロ。ジェットストリームアタックとか初見で避けらんないでしょ。

 

 トリプルドムまで見てた模様

 ちな怒ったんは地球の奴やで。

 まあ、面白かったけどなw

 ほんまサーセン……おトイレ間に合った?

 

 おまそういう事言うのやめろよ無言で切ったのにばれんだろうがよ

 

 あ、いきなり切ったのはそういう……

 地球の管理者、推理力が高いな

 生理現象はなんとも出来んよね

 

 お、おう……あれ? こいつ等の事だからゲスい感想聞いてくるかと思ってたのに。

 

 言いたいの?

 聞くよ?

 むしろ待ってたw

 訓練された変態草

 

 ぬあーっ、やっぱ変態ばっかじゃん!

 でも、明日の夜も続き見せてねっ!

 

 おねむになったら止める!

 観測によると十時前後からかなり船漕いでたよ?

 子供はしっかり寝ないとダメ

 

 昨日は昼間はほぼ動かなかったからなぁ。おかげで睡眠だけは取れてたからあそこまで見れたけど……わかったよ。ちゃんと寝るよ。

 

 朝になるとアンゼリカがやってきて、いつものようにお着替えとか身支度とか。そんで朝食となるのだけど……

 

「あれ? 誰もいませんの?」

「旦那様と奥様はすでにお済ませになっております」

「そう……」

 

 ふむ。家族で食事を一緒に取らないとか、ウチみたいだな。

 

 (´;ω;`)ブワッ

 おい……やめろよ、哀しい話はよぉ……

 俺氏、一人で朝ごはん食べる

 お母さん朝からお仕事なんだね……

 

 いや、あんま気にしてないから。

 ……本当だからね?

 

 いや、顔に出てるから

 すっごい哀しそうな顔してるし

 ゴメン、スパチャ投げるわ →G500

 

 え……そんな顔してるの? やべ鏡ないから分からん。とりあえず無理に笑っておこうw

 

 ゴチソウサマデシタ →10000

 泣き笑いNo切ない感じエエナ →1500

 →30000

 無言やめーやw →2000

 

 ちょっ……シャリンシャリンうるせーんだけどっ!

 なんだよ、投げ銭まであんのか、これっ!

 

 メンバーシップの特典とかお待ちしてます!

 出来ればお歌とかがいいなっ

 アイドル的な恰好で、こうフリフリな奴w

 

 やらねーよっ!

 

 さて、こうしててもあれだから飯食って……まあ美味いんだが、和食の方が好みなんだよなぁ……この世界、和食無いの?

 

 ヴァランシェはそれに近い料理の文化あるよ

 魔王の国に一番近いけどな

 

 へえ、そうなんだ(モグモグ)

 ところで今もシャリンシャリンきてるこのスパチャって、金なの? 俺、使えるの?

 

 →500

 グスグスしながらご飯食べてる(*´∀`*)→1500

 カワイソス→350

 →50000

 上限きたw

 使えるよ

 君の保管庫(ストレージ)に送ってある。

 

 なんぞそれ。あれか、異次元空間にしまう能力とかのやつか?

 

 そんなもんかな。ただ、呪文を知らないと開けられないから今は出せないよ

 それに五歳児が買い物とか無理だし。あと貴族はあんまり自分でお金を払わないよ

 

 自分で払わないって……ツケ?

 

 そんなとこかな。高額取引は大概為替で行うし、細かいものも似たような感じで処理する所が多いよ。

 収入も支出も多いからね。紙面でのやり取りになるのは仕方ないんだ。

 

 はえー……電子化の波は異世界にも来てるんだね。

 

 いや、来てないよ(愕然)

 為替という単語でオンライン取引とか連想してて草

 これが時代って奴かねぇ……

 

 う、バカにしてんのか? アレだろ? 金額書いてサインしてほいって渡すの

 

 うん、分かったw

 もう少し後になってから覚えようねっ

 

 うう……子供扱いしやがって。でもちょっと理解出来てないから仕方ないか。これはリーセロットが小さいから理解出来ないんで、俺のスペックのせいじゃないからね……?

 

 まあ確かにそういう側面もあるかもなw

 頑張ってお勉強しましょうね(クスッ)

 ともかく、今はそのお金は使えない。少なくとも高等学院に入るまでは無理

 

 また新しい言葉が出てきたぞ。

 コイツらに聞き続けるのもなんだし、アンゼリカに聞いてみよう。

 

「アンゼリカは、高等学院ってご存知かしら?」

「高等学院ですか? あいにく、私ども平民には縁遠いもので……よほどの才能のある方なら入れるらしいのですが、推薦は受けられませんでした」

「へえ、そうだったの」

 

 知ってるけど情報は少なかったな。

 やはり君たちに聞く方が有用そうだね

 ( ゚∀゚ )ニコッ

 

 あざてぇ笑顔だなぁ……教えてやろうw

 高等学院とはアークステイン王国の王立教育機関であり、魔術を中心に様々な方面に渡り教育を施し、魔王軍に対しての戦力を確保しつつ国内の発展に寄与する人材を育成する為に存在している。

 

 気合入れて喋ってんなぁ。そんな中、アンゼリカがニコニコしながら続きの話をしていた。

 

「お嬢様は十二歳になりましたら、お進みになるかと思います。在学期間は三年で、その間は寮住まいになるかと。当然、わたくしも身の回りの世話の為に同行致しますわ」

「はあ……あ、なるほど」

 

 だから、入るまでは無理って言ってたのか。

 親元を離れるからなんだな?

 

 イグザクトリィー

 親御さんが幾ら渡すか知らんけど、お小遣いとしては使えるからそれまで貯めとき

 

 それは、かなり楽しみだなぁ。

 正直言うとすでに屋敷の中で生活してるのに飽きつつあるんだが(笑)

 

「ご馳走様でした」

 

 両手を合わせて一礼。自然にやってしまった動作だけど、アンゼリカの奇妙なものを見るような目が分かる。

 

「読んだご本にあった、どこかの国の作法らしいの。食べ物と農家の方と、作ってくれた方や、配膳してくれた方々等に、感謝を送るものらしいのよ。素晴らしいと思わない?」

 

 つらつらと並べる嘘。これはただの習慣で、本当に感謝して言ったことなど一度もない。

 でも、アンゼリカはそれを信じた。

 

「そうなのですか……お嬢様は博識ですね♪」 

 どきん……

 その屈託のない笑顔に、ちょっと浄化されかかりました(笑)

 

 アーッ(光になって崩れる)

 ここにも浄化されたヤツが……

 とっくに腐っちまってただけさ

 ( ゚Д゚)y─┛~~スパー

 浄化される奴はまだマトモってことなの草

 

 それから後は、勉強のお時間。

 教育係のおじさんからの課題は書き取り。

 

 書き字板(黒板の小さい物)に石墨で字を書くという果てしない無限地獄である。

 

 なんでかというと、全部読めるし、書けるのだ。つまりやれる事はもう出来るのに延々と一時間近くやらされるという……もうやめていい?

 

 それは君に付与されたチート“自動翻訳”によるものやで。

 君は書いてる字は本当はひらがなじゃないし、読んでるのもいろはじゃない。勝手に変換してるだけなんだ。

 

 へえ……あれ? それってこの国の言葉だけ?

 

 いや、全世界共通w

 君はこの世界に限って言えば、どんな通訳よりも流暢に話せるはず

 でも、意思疎通が出来るのと限らないから気を付けてね

 言葉が通じても、人はわかり合えないから

 

 まあ、そんなもんだよな。

 そんなグローバルな話はともかく。つまりこの作業は俺には全く無意味だよね?

 

 イグザクトリィ

 でも、少しはやんないと『知らん言葉話すぞコイツ』ってなるよw

 天才アピールもやり過ぎ注意な

 

 まあ、そうやね。

 しゃあないなぁ……カキカキ

 

 

 神経をすり減らすとは言わないけど、ダルい作業はお昼まで続いた。

 

「お昼はパンと豆のスープ、卵焼きです」

 

 程よく焼かれた卵焼きは塩だけ。甘いのが好きなわけじゃないけど、こうも塩のみだと単調だなぁ。豆のスープもやはり塩味のみ。調味料とか無いのかね? ズズー

 

 あるけど君まだ子供だし

 あんまり味付け濃くしてないんだよw

 ちな砂糖とか胡椒とかはあるよ

 逆に醤油や味噌は遥か彼方にしかないけど

 

 うーん……そのうちなんとかしたいなぁ。

 このパンはわりとマシだけど。

 

 市場に出てるパンの十倍以上する白パンだからね

 

 ちょ……マジで?

 

 殆ど小麦で作られるパンは高級品だよ

 しかもそれ、果実由来の天然酵母使ってるし

 ちな平民は黒パンが普通

 黒パンはライ麦多め。少し酸っぱいし固いし、スープとかでふやかして食べるのが一般的。これ豆なw

 

 あー、豆のスープだけにか?

 面白いことおっしゃいますのねクスクス

 

 あ、その顔(・∀・)イイネ!!

 少し蔑んだ感じが堪りませんねッ!

 (REC)

 

 お前ら、ホントに何でもいいのな……

 

 ご飯を食べ終わる頃に、父親が食堂に入ってきた。どうもこれから食事らしい。

 

「リーセロット。エーリクから進捗を聞いたが、文字はだいたい終わったらしいな。よくやった」

 

 顔を合わせずにそんなことを言う父親。

 なんだかムカついたのでトン、と椅子を降りてトコトコと父親の前に向かう。

 

「……どうした?」

「褒める時はきちんと褒めて下さいませ、お父様」

「……!」

 

 すると、今まで表情を変えなかったヤツが明らかに狼狽えた。

 

 俺は椅子に座る彼のズボンが汚れるのも構わずによじ登り、ちょこんと横座りをする。

 俺を踏み台にしたぁっ? 等と思われるかもしれないけど、意気地の無い男にはこれくらいせんと分からんだろ。

 

「な、なな……」

「淑女にここまでさせたのですから、きちんとお褒め下さいませ♪ それとも、壊れ物を扱うようで怖いですか?」

 

 にっこりと笑って言ってやる。

 たぶん、コイツは子供と関わるのがとことん苦手なタイプなのだ。

 リーセロットにも直接触れるどころか、近寄ることが精一杯なのだろう。

 

 汗を流し、端正な顔を歪める父親。

 自身の上に乗ってしまったのだから、無理にどかせば怪我をさせるかもしれない。それが怖いので身動き出来ない。そんなところだろう。

 

「……く」

「さあ♪」

 

 そう言って、目を閉じて待つ。

 

 ……やってて思うけど、これってすごく恥ずかしいなぁっ! でも、必要な事だろっこれ?

 

 うん……てぇてぇw

 これは保護欲かきたてますねぇ……

 娘にこんな事されたい……娘いないけど

 俺らそういうの居ないからねっ(自爆)

 (REC)

 お前さっきからずっと録画してないか?

 

 やがて、意を決したような感じにぎこちなく、父親が頭を撫でてくれた。

 同時に、少し嬉しい気持ちも浮かび上がってくる。……そういや、親父に撫でてもらった事なかったからなぁ……

 

「よくやった……リーセロット」

「はい、お父さま」

 

 あー、リーセロットたんがすげぇ嬉しそうで感動です!

 これまで、こんなに嬉しそうな顔しなかったからなぁ……俺氏、○J部

 もうそれは、やめよ? ね、やめよ(懇願)

 

 こ、これで少しは打ち解けてくれたんじゃないかなって思うんだけど。どうかなぁ。

 

「り、リーセロット。午後は、私が魔法の基礎について教え……ようか?」

「はいっ♪ 宜しくお願いしますっ!」

 

 ん……どうやら、大丈夫っぽい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいじゃないか、リーセロットっ! こんなに魔力が流れてるなんてっ! さすが僕の娘だよっ」

「た、大したことではありませんわ。それより、あの……」

「ひゃっほーいっ! 僕の娘は、世界一だーっ!」

 

 

 キャラ崩壊待ったナシ(笑)

 仮面剥がれたら子煩悩すぎて草

 ヤベェ、こっちよりの臭いがする……

 ま、よかったね草

 

 

 大喜びするお父様が俺を抱えてぐるぐると振り回し、メイド長やアンゼリカ達が、目をグルグルとさせていた。

 

 いやまあ、嬉しいけどさ。

 ……なんかウザい(笑)

 

 




 やっぱり子煩悩な人だった親父さん。
 俺氏も嬉しそうで何よりです。


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06 ホームビデオとは拷問、これは真理

 幼い頃の自分を眺めるのは、感慨もありますがおそらくほとんどの方は羞恥を覚えるのではないでしょうか?

 自分? 卒アルとか封印すべき黒歴史だゾw


 僕はアデルベルト=ファン=ハーゼルツァット。

 ハーゼルツァット侯爵家の当主である。

 あとを継ぐ前から婚約していたリーサンネも妻に迎え、順風満帆な人生を謳歌している……筈だった。

 

 妻が身籠るまでに五年かかり、私もすでに三十代になる。幸いにして妻からは側室に関しては構わないとの返答は得ているが、私にはそんなつもりはなかった。

 

 上級貴族が側室を持つのは当たり前だと言う風潮があるが、僕はそれには異を唱える。

 

 側室などいれば家の中で勢力争いが起こる。

 それを僕はイヤというほど味わってきた。

 母が違うとはいえ同じ兄弟と啀み合い、殺し合う。側室の子である僕が継ぐことになったのも、正室の側がやり過ぎた結果の自爆に他ならない。

 

 だから、僕は側室は取らないと決めている。

 王国の法では婚姻ののち十年以内に嫡出子が無ければ、養子を取れと決められている。親戚筋の人間にはこの地位を狙う人間には事欠かないので、候補は幾らでも募れる。

 

 それより、僕は純なる愛に生きたいのだ。

 もう、勢力争いとかはウンザリなのである。

 

 リーサンネはとある男爵家の娘でありながら、高い魔力と美貌を備えた人であり、私は高等学院の頃から見初めていたのだが……どうにも良い返事が貰えなかった。

 

 世間的に見れば、確かに侯爵家の嫁としては格が足りないのかもしれないが……そんな事は些細な話だ。

 

 私は家の格で伴侶を選ぶつもりはなかったし、そもそもその頃は跡継ぎ候補ではなかった。そういう理由から、彼女もようやく絆されてくれたのだと思う。

 

 話は戻るが、そんな私もようやく子供を授かった。なんて可愛い娘なんだろうか……とてもか細く、小さなその姿を見て、僕は不安に苛まれた。

 

 同じ子供と競い合い、いがみ合うのが常だった私は……子供に接する事が殊の外苦手だと、自覚してしまった。

 

 妻が手ずから渡してくれた我が子を受け取るとき、手が強張り落としそうになってしまった。幸いにしてメイド達がフォローしてくれて大事には至らなかったが……私にはもう、リーセロットに触れる事すら出来なくなってしまった。

 

 いっそ、妻が我が子が可愛くないのかと(なじ)ってくれたなら、まだ良かったのかもしれない。

 

 だけど彼女はきみ(リーセロット)を大事そうに抱えてしまい……その機会は失われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出張から帰ると、ヴィッセルが慌てて不在の間に起こった顛末を報告し、私は激怒した。

 

「リーセロットを守るためにお前たちを置いていたのに、魔族と対峙させるとは何ということかっ!」

「ははっ……面目次第もございません」

「あの子は無事なのだろうな」

「傷はどこにも無いとの、事です。ですが 魔力欠乏(マインドダウン)を起こされました」

「……あの子はまだ、魔法は使えない筈だ」

「どうも我流にて習得していたご様子で……その」

「言い淀むなっ はっきり言え!」

「スピリットイーターを……一撃で仕留めましてございます」

「……はぁ?」

 

 我ながら、間抜けな声を出していただろう。

 しかし齢五歳の幼子が魔法を使い、スピリットイーターなどという上級魔族をうち滅ぼすなど到底は考えられまい。

 しかし、ヴィッセルは退役したとはいえ近衛で頭角を表していた傑物である。誤った報告をするとは思えなかった。

 

「ひ、被害は? リーサンネは無事か?」

「奥方様はその日はギルドの定例集会のためおりませんでした。使用人と従士が何人かやられたようですが、ご家族には被害はありません」

 

 被害にあった者の家族に報せ、金を支払うようにと伝える。リーサンネやリーセロットに害が及ぶよりは遥かにマシだ。

 

 

 メイド長のイルセから、リーセロットが目を覚ましたとの報告が入る。私はすぐに私室から出るとリーサンネと廊下で出会った。向こうも報告を聞いて来たのだろう。

 

 数日ぶりに会うリーセロットが、ベッドの上から疲れていたにもかかわらず、気丈に挨拶をしてきた。

 いつもは塞ぎこむ様子が見られるあの子が……普通に話してくれた。

 

 これだけでも飛び跳ねんばかりに喜ぶべき出来事だったのだが。

 

 次の日の昼に、エーリクから書き取りがすこぶる早く終わったと聞いた。昨日から比べるとまるで別人のように真面目に取り組み、基礎の文字は全て完璧にこなせるようになったそうだ。

 

「リーセロット様は学問に才があるかもしれません」

 

 わりと気難しい彼が手放しで褒めるのはなかなかない。私とリーサンネの娘なのだから当然だと内心は思ってはいたが、彼に言う必要はあるまい。

 

 そのあと食堂でリーセロットと鉢合わせして、その事を褒めた。

 

 すると、何が気に入らなかったのか不機嫌な表情を見せて近寄ってきた。どうかしたかと聞くと。

 

「褒める時はきちんと褒めて下さいませ、お父様」

 

 そう、答えてきた。

 

 僕は頭を殴られるような感覚を覚えた。

 言われて初めて気付いたが、僕は娘を褒めるときに目を合わせて言ったことは無かった。

 

 そしてそれよりも驚いた事は、娘が自分からそう言ってきた事だった。

 

 何事にもオドオドとした彼女にいったい何があったのか。毅然とした振る舞いは、まるでリーサンネの若かりし頃に良く似ていた。

 

 そう思った次の瞬間、それは間違いだと気付かされた。

 

 あろうことか、椅子に座る私に手をかけ、よじ登ると膝の上に横に座り、こう言った。

 

「淑女にここまでさせたのですから、きちんとお褒め下さいませ♪ それとも、壊れ物を扱うようで怖いですか?」

 

 ……見透かされたと、感じた。

 絶句というのはあの時の僕が感じたもの、そのものだ。

 

 怖くて触れる事も出来ないの?

 幼いながらも蠱惑的な笑みで僕を見ると、今度はそっと瞳を閉じる。

 

 まるで、『あなたの決心がつくまで待ちますよ』と訴えかけるように。

 

 渾身の勇気をこめて、その柔らかな髪に触れ、優しく撫でながら、言葉を紡ぐ。

 

 娘の瞳がゆっくりと開き、穏やかに、そして、華やかに微笑む。

 

「はい、お父さま」

 

 僕は、なんで今まで何をしていたのだろう。

 手に触れて、言葉を交わす。

 それだけで、娘はこんなに嬉しそうに笑ってくれるのだ。

 子供に関わるのが面倒とか、迂闊に触れて壊すのが怖いとか。

 

 そんなことを言い訳に、今までして来なかった事を後悔し、猛省した。リーセロットに陰鬱な顔をさせていた過去の自分に、助走をつけて殴ってやりたい。

 

 そもそも愛に生きるとか抜かしていたのに、娘や妻に笑顔を与えてやれなかったのだ。これは僕の不徳であり、改めなければならない。

 

 妻とも話し合おうと決意をしつつ、娘の真なる力に興奮を禁じ得なかったのは、仕方のない話だ。

 今の僕に迫る魔力の流れなど、この王国にも殆どいないはずだ。しかも、まだ五歳なのである。この力なら、スピリットイーターとやり合ったというのも信憑性は出てくる。

 もっとも、下級のシャドウホーント辺りと見間違えたのだろうと思う。さすがにスピリットイーターは無理だろう。

 

 まあ、だからといって危険な真似をさせるつもりはない。この子は私が守る。妻もだ。

 

 僕はようやく、天命を知ったと感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 いや、なんスか? これ……?

 

 ここの管理者に頼んで父親の心ン中を視覚化してPVにしてみたんだ

 なかなか良く出来てて草

 アデルベルトって名前だったんだねw

 

 いや、その。

 折角作るなら声はso○talkはやめようよ……親父さん、速○奨っぽい声でカッコいいんだからさぁ。

 

 これ仕様だからw

 

 わりと真面目に出来てたのに、台無しだよぅ……

 それよりもさあ。

 この映像の中のリーセロット、可愛すぎない?

 

 そこは加工してないですw

 あくまでアデルベルトから見たリーセロットだから、多少は美化されてるかもしれんけど。

 リセたんは可愛い。オーケー?

 

 ま、まあ。そのへんは置いとくとして。

 この内面とかって。

 この管理者には筒抜けなの?

 俺の知らんところでこんな感じに作られてたりはしてない?

 

 ( ゚д゚)ハッ!

 その手があったか……

 ちょ、ちょ、管理者に聞いてみよう!

 

 や、やめ、やめろーっ!

 お前ら、そんなことしたらただじゃおかんぞ?

 

 フリフリ衣装でお歌配信してくれたら考え直す

 ゲスい要求で草

 お前、天才だなっ!

 さすが地球の管理者! 俺たちに出来ない事を平然とやってのけるっ そこに痺れる憧れるぅ!

 ちょ、匿名コメにしてんのにバラすなっ!

 サーセン(笑)

 

 地球の管理者か……お前とはゆっくりお話しないといけないみたいだなぁ……

 

 ユックリシテイッテネ!

 お前の事は忘れないゼッ(^o^)d

 ヒイッ あ、あのリーセロットたん……?

 

 アイツは今度あったら泣かせる。方法は問わない。

 

 ど、どんなコトすんの?

 (((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル)

 少し期待

 

 そうだなぁ……男らしい恰好でタバコでも吸ってみる? 野郎っぽいことしたら幻滅すんだろ、お前らでも(クスッ)

 

 あ……ひ、ひぃっ! なんて事を!

 清楚可憐な幼女になんて、ごほ……辛い仕打ち!

 この鬼畜、おにっ、幼女っ!

 

 おおぅ……珍しくうろたえるコイツらに気を良くするおれ。やっぱり、野郎アピールは堪えるようだな フフフ

 

 いや、きみチョロいな草

 

 え? 草の人、何言ってんの?

 

 コイツらがその程度で怖がるとかない草

 『まんじゅう怖い』という落語に酷似した状況だと気付いてる? 本当に草

 おいっ、黙れよ草ぁっ

 幼女のイキリ顔コスプレ見れるとこだったのにっ

 

 忘れてた。コイツらは高度な変態だったよ……

 

 夕食のあと、そんな動画を見せられて。

 あの父親の事を少しだけ見直した。

 

 身内との壮絶な争いの果てについたトラウマだ。簡単に消え去るものではないと思う。

 それでいて自身の子や妻には愛情を以て接しようと決意していたのだ。

 それが出来なかったのは単に心が弱いからと言うのは、かなり厳しい話ではないのか。少なくとも俺はそう感じた。

 

 そんな奴の想いに応える為になら、俺の羞恥心くらいなら安いものかもしれない……コイツらが煽りさえしなきゃ、我慢できる類のものだし。

 

 しかし、それならば。妻のリーサンネさんがいまいち分からなくもある。

 

 家柄のバランスの良くない所への婚姻とはいえ、そこに愛情が無ければ承諾はしなかったと思う。なにせ、当時は跡を継ぐべき正室の子とやらはいたのだ。アデルベルトは貴族とは名ばかりのただの人だったわけで、そこに打算的な思惑は少なかったと思うんだが。

 

 貴族の子女って、跡継ぎ以外どうでもいいのは三人目以下なんだよね。二番目の候補のアデルベルトは万が一の替えのコマでもあった。

 そのため、周りからの反発は当然あったんだよ

 先代の正室ってのもたち悪い女でさ。家柄の事でいつもいびってたよ

 でも、彼はいざとなれば家を捨てるつもりで強行した。リーサンネはその男らしさに感じ入って受け入れた、というわけ。

 実際、市井に出ても二人なら職にあぶれる事は無いからね

 

 はえー。つまり、ちゃんと恋愛結婚だったわけか。

 じゃあ、なんでギクシャクしてんのかな?

 なんだかリーセロットに対しても壁あるし

 

 ま、その辺は直接聞いた方がいいんでない?

 家庭内の問題だしw

 

 それ言うたら俺だって部外者やんけ!

 中身リーセロットじゃないんだから!

 

 周りからは分からんのだよなぁ……

 頭おかしくなったと思われるだけw

 

 せやな……まあ、成り行きだけどリーセロットに悪いしな。前のリーセロットは母親の中の子供に入ってんなら、夫婦は仲良くやってくれんと都合が悪いし。

 

 んだば、ちょっくらお母さんとこ行くべか。

 ドアを開けると、すぐ側の控室からメイドさんが出てくる。

 

「お嬢様、いかがなさいましたか?」

「お母様の所へ参りたいのですが、お部屋はどちらになりますの?」

「それでしたら先触れを出しますので、しばしお待ち下さい」

 

 ん、それはよくないな。

 避けている人間から『会いたい』と言われても断るだけじゃん。親子なんだし。

 

「それではいけませんの。わたくしはお母様に避けられてますでしょ? 断るに決まってますもの」

「は、はあ……しかし」

 

 渋る若いメイドさん。リーセロットは子供であり、リーサンネさんは奥方だ。どちらの言を重きに置くかと言うとそれは歴然である。

 

 じゃあ、どうしようか。

 

 バイタルジャンプで抜けるのは容易いけど、探すとなると面倒だ。屋敷内は夜とはいえ人は多いし、どこかで見つかる可能性もある。

 表に出れば捜索もしやすいだろうけど、窓の鍵はきっちり閉められているのでバイタルジャンプをもってしても抜けるのはかなり難しい(実際やってみたから)

 

 少し悩んでいたのだけど、救いの手はすぐに差し伸べられた。

 

「わたくしが同行いたします」

「イルセ様っ……」

「……めいど長?」

 

 偶然通りかかったメイド達のトップ。イルセさんが引き受けてくれたのだ。

 

「で、ですが。奥様は……」

「あなた達はこのまま待機していて。さ、お嬢様。参りましょう」

 

 失礼します、と断って抱きかかえる。

 わりと普通なイメージだったのだけど、やはりメイドさんは体力仕事なんだろうか。

 

「お世話になります、イルセさん」

「過分な敬称はいりません、お嬢様」

「わたくしよりも先に生きているだけで、皆様は先達。それに敬意を表しているのはいけないこと?」

「……! それは大変宜しい事かと存じます」

 

 顔を近くしての会話は少し照れるけど、イルセは柔らかく笑ってくれた。それだけで大満足だ。

 

 こんな人がいき遅れとか……周りの野郎どもは見る目がねえなぁ。

 

 同意。

 禿同

 実際、完璧すぎて近寄れん所もあるらしいw

 元は子爵家の令嬢だし

 

 は? そうなんだ。

 貴族もメイドとかやってんの?

 

 跡取りとかじゃない限り、家に残るのは難しいからね

 魔術師とか騎士とか冒険者とかやってる元貴族もいるよ?

 だからこの世界、貴族といって鼻にかけてる連中は思ったより多くないよ

 アデルベルトがリーサンネを強引に娶って、そのまま侯爵家を継いだのもよくある話だし

 市民の方が実権強い街とかあるしw

 

 意外と実力主義でワロタ。

 つまり、母親は権力とかそういうので引け目を感じてというわけではない、か。

 そうしてる間にリーサンネ様の部屋に到着した模様。この乗り物、人に優しいね(ニッコリ)

 

「奥様、少し宜しいでしょうか?」

 

 俺の意図を見抜いたか、用向きを言わずに部屋の中に入ろうとするイルセ。普通は不敬な行為かもしれないけど、先ほどの話からすると貴族がいきなり無礼打ちとかしなさそうなんで安心して静観する。

 

「? いいわ、入りなさい」

 

「失礼します」

 

 かちゃり。

 

 ドアが開かれる。部屋はリーセロットの私室よりも広く、調度品もそれなりに多い。そんな中の一つである椅子に座り、こちらを見て固まる美女。

 女の子一人産んでもその美貌は全く損なってないであろう彼女は、こちらとそれを抱えるイルセを見ていた。

 

 

「夜分に失礼いたしますわ、お母さま」

「リーセロット……」

 

 さて。

 母娘の語らいといこうかね。

 片方はニセモノなんだが、そこは固いこと言わんでねw

 

 




 愛が重すぎる父親の熱意にヤラれる俺氏(笑)
 そういうわけで次はお母さんとの語らいです。


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07 とりま話してみた結果

「わたくし、今日はお母さまのお話しを聞きに参りましたの」

「お話し……?」

「はい。今日はわたくし、お父さまに手ずから魔法のご指導を頂きまして。その折に色々とお話ができました。そして思ったのです。お母さまとはあまり話していないということに」

 

 私によく似た娘が、わたしを非難がましくそう宣う。しかし、それは当然の主張だった。

 

 産まれたばかりの頃は、可愛くてかわいくて。片時も手を離したくなかった程だ。

 

 愛らしい顔も、小さな手も、ふわふわの産毛のような髪も。すべてが愛おしい。

 

 産まれたばかりのこの子を、あの人が落としそうになった時は世界が終わるかと思ったほどだ。

 

 その時のように、イルセはリーセロットを抱きかかえている。落ちそうになったリーセロットを我が身を顧みずに抱きかかえ、自身はベッドに頭をぶつけて血を流したにもかかわらず守り通した彼女。

 

 私よりも若く、忠誠心に溢れたこの女を。

 私は、恐れていた。

 

 

 

 

 

 私は可愛げのない女である。

 見た目はかなり良いと評判だったが、実際に会話をしてみると殆どの男性がそう言ったそうだ。

 

 私はそうあろうとしていたのだから、それは至極当たり前な話だった。他の貴族の娘のように、きらびやかに着飾り育てた花や刺した刺繍の出来に一喜一憂する事はなかった。

 

 それは私の生い立ちに起因していた。辺境の男爵領など、平民の並の商家よりも困窮する事が多い。

 当然、着飾るドレスや装飾品に回すお金など有りはしない。私はそうした事から無縁の存在であったのだ。

 

 だから、初めはアデルベルトの事も嫌いだった。というより、憎んでいた。

 

 侯爵家という高い身分の出で、高い魔力を持っている。さらに言えば、端正な顔立ちも響くその声も、全てが妬ましかったのだ。

 

 

 

「自分に似合ったご令嬢に言い寄りなさいなっ!」

 

 

 

 そう言った事があったが、『だから君なんだよ』と笑って答えるだけ。

 

 それでも、ついて回ってくるのなら情が湧くというのものだ。いつしか、彼のことを信じてみようと思い、彼と添い遂げるつもりで結婚に承諾した。

 

 思えばそれは、やはり間違いだった。

 

 婚姻を済ませた頃にお家騒動が起こり、なんと正室の息子が姿を隠す事になった。

 先代の正室も放逐されて、先代は責任をとって隠居して……なんとアデルベルトが侯爵家当主となってしまったのだ。

 

 こんなはずではなかった。

 

 男爵家という家格も釣り合わない私が侯爵家の正室なんて無理だ。そもそも、礼儀作法なんて落第しなければいいと思い適当にこなしてきた私だ。

 

 社交界には理由を付けて出ないにしても、彼の妻という肩書から魔術師協会の副理事という役職まで与えられてしまい逃げ出す事は不可能になった。

 

 そうしたストレスのせいか、私が望んだせいかは知らないが、子供が出来るのに5年以上かかってしまった。

 そうして産んだ娘はというと、目に入れても痛くないという言葉通りに可愛い娘であった。

 

 しかし、その娘は私以上の魔力を、赤子のうちに秘めていた。

 

 幼い頃の私は大して強くない魔力しかなかった。

 総じて家柄というのは魔力の強さを表すバロメータとも言われているのだが、たしかに私は男爵家の人間にふさわしかった。

 

 家柄というものを実感してしまうと、途端に我が子への愛情まで薄れてしまった。

 

 そしてそれを助長したのが、若く美しく私よりも身分の高い出身のメイドの存在だった。

 

 イルセは優秀であり、かつ美しかった。

 母である私よりも包容力に富み、リーセロットはいつも彼女やメイドに懐いていた。

 

 これ幸いと育児を乳母やイルセ達に任せ、仕事に精を出すようになり……いつの間にか娘との溝は埋められない程に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな娘が、イルセを伴い、夜分に部屋にやって来た。

 

 日頃の不満をぶつけに来たのか、母としての仕事の放棄を詰りに来たのか。

 

 身構えていると、娘は笑顔でこう言った。

 

「お母さまのお仕事の話を聞きたくて、参りました」

「……え?」

「お外で何をなさっているのか、聞きたいのです。わたくし、まだ子供ですので表には自由に出られませんから。せめてお話を聞きたくて」

 

 興味深そうに、瞳をきらきらさせて。

 こちらに不満があるような素振りも見せずにそう言ったのだ。

 

「面白い話なんか無いわよ?」

「そうですか? 知らないことを知るというだけで、わたくしは楽しいのですが?」

 

 いつの間にかイルセの手から降りて、私の近くに来ていた娘は。

 

「よっと」

 

 椅子に座る私の上によじ登ってきて、こちらを仰ぎ見るように顔を上げた。

 

「な……」

「淑女としては行儀悪いですが、母娘ですもの。いいでしょう?」

 

 その仕草に、私は自分の子供の頃を思い出した。

 

 

 ──男爵家なんて、貴族とは名ばかり。

 

 平民のような暮らしの私の家は、乳母なんていなかったし育てるのも母が付きっきりで世話をしていた。そんな昔の事を思い出しながら、かつての母のように私も娘に語りかける。

 

 

「……仕方のない子。つまらないわよ?」

「どんとこいですわ」

 

 その口ぶりが、貴族らしくなさ過ぎて面白かった。

 

 私と同じ身分の低い人間の感性があると分かり、私はなぜか嬉しくなった。

 

「今回の会議はね……」

 

 

 

 

 気付けば。

 

 娘に対して抱いていたわだかまりも、いつの間にか感じなくなっていた。

 

 私のつまらない話にも、適当にではなく相槌を打ちながら聞いている娘。

 

 分からないだろうに、さも知ってましてよ、といった体裁を整える姿は微笑ましい。

 

 私も単純だなぁと感じる一方、難しい話についてくる我が子の素養に驚嘆を感じた。

 

 リーセロットはまだ五歳であり、話したとしてもそれは至極幼稚なものだったはずだ。

 

 しかし、いつの間にか彼女は一端の淑女のような話し方をしている。メイド達との関わりの中で学んだとしたら、これはとんでもない話である。

 

 自分がこの年の頃は野山をかけていた。

 育ちの差というのは既に決まっていたのだなぁ、と今更ながらに理解した。

 

 

 

 そんな普通ではない娘も、夜も遅くなれば眠くなり、船を漕ぎ始めた。

 

「今日はもう眠りなさい」

「むう……しかた、ありませ、ん……」

 

 答えきる前に、眠りに落ちるリーセロット。

 その姿は高い魔力も、子供とは思えない知性の高さも感じ取れない……普通の子供だ。

 

「奥様、今日はご一緒にお休み致しますか?」

「……やめておくわ」

「畏まりました」

 

 来たときと同じようにリーセロットを抱きかかえて、イルセが部屋を出るとき。

 

 私は聞きたかった事を聞いてみた。

 

「あなた。夫から声をかけられた事は無いの?」

 

 意味は、分かるはずだ。

 

 イルセもそれは理解したようで……笑顔を崩さずに答えてきた。

 

「旦那さまの心には奥様しかありません。また、わたくしがこの家に勤めていられるのも、それゆえでございます」

 

 ……一切、そういうことはない。

 

 そう断言した。

 

「ご不快ならば職を辞させて頂きますが……リーセロット様の傍を離れるのは少し寂しいです」

 

 そう言いながら、リーセロットを見つめるイルセ。

 

 彼女にとって、娘はとても大事な存在になっていたらしい。それはとても好ましい事なはずだ。

 

「リーセロットが哀しむ事を強要するつもりはないわ。これからもお願いね」

「畏まりました、奥様」

 

 ──彼女たちが部屋から居なくなってから。

 

 この部屋は、こんなに寒かったのかと気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。早く目が覚めたので昨夜の母親との話を振り返ってみる。

 

 話の内容は、本当に仕事の事であった。

 

 五歳児にガチな業務報告めいた事を言い、役員への愚痴や文句を言うところを見るに……リーサンネという女性は家庭に収まるタイプの女性とは思えなかった。

 

 そりゃあ子供のこと、かなり放置するよな。

 面倒みるメイドとか居るんだし。

 

 こういう人は家庭に縛り付けても良いことはないからやりたいようにやらせた方がいい。仕事が気分転換になるという人もいたりするんだ、この世の中には。

 

 幸いにして今のリーセロットは俺であり、子供らしく扱えと駄々をこねたりはしない。

 お互いのいい距離を図っていくことにしよう。

 

 方針を定めてからコメントをonにする。

 ずっと出てると気が滅入るし、寝てる最中見られてるのも嫌なのでカメラも切ることにしている。

 

 やっぱプライバシーは大事でしょ(ドヤ顔)

 

 いや、良かったな。イルセたん

 そうだよな、あれだけの才媛が嫁にもいかずにメイドとか疑うもんなw

 いつの間にか浮気疑われてたとかワロス

 けどなんでお嫁いかんの? イルセたん

 二十歳過ぎにたんはちょっと……まあいいか

 イルセたん草

 働き甲斐ってのもあるけど大概リーセロットのせいw

 イルセたん、お人形好きで部屋にはいっぱい集めてるよ

 趣味の人だったか……まあ、理想的な職場だな(笑)

 完璧で抱けるお人形だからな、今んとこw

 リーセロットたん、最近カメラ切っちゃうから寝姿見れなくてツライ

 馬鹿め(弁慶感)ワイ既にプリントしてあるw

 ちょっw

 い、い、いくら?

 言い値で買うぞっ(男気)

 食い付き良すぎて草

 後でうちのクラウド上げるんで、気に入ったの落として

 お前、太っ腹だなぁっ!

 ワイ、太って……ないよ、たぶん(汗)

 あ、スマソ

 

 いなくても盛り上がってて草。

 

 しかし気になる単語があるな。

 

 浮気を疑われる? 父親のアデルベルトの事だよな? この文脈の中ではイルセくらいしか当てはまらない……もしかして、やらかしたかっ? の、わりには和やかな雰囲気だし……なんやねんw

 

 とりま、寝顔の画像に関しては追及するとして。まずはそっちの方を聞いてみよう。

 

 『皆様、おはようございます。浮気がどうのと言われておりますが、どういうことでしょうか?』

 

 はっ、お、おはようリーセロットたん!

 きょ、今日もカワイイね♪

 (+_+) オロオロ

 ぼ、ぼくは浮気なんてしてないよ?

 動揺しすぎ草

 

 いや、お前が誰に浮気しようが知らんし。そうではなく、イルセが疑われてたってどういうこと?

 

 どうもリーサンネは、イルセと旦那の間を疑ってたらしい……

 未婚で奇麗な年の若いメイドだから、誤解しても無理はないと思うよ

 側室の話からそう連想したという事だって

 

 あー、そーいうのか……まあ、イルセさん可愛いし優しいからなぁ。それで余計に壁作ってたのか。で、仕事にかまけるようになった、と。

 

 それで? まさかケンカとかしてないよな? 俺が寝てる間にとんでもない事になってないよな?

 

 そしたら俺らもっと焦ってると思うw

 家庭崩壊だもんな

 和解、とまではいってないけどイルセの事は疑わなくなったかな

 君のこともちゃんと撫でていたし、リーサンネさんも柔らかくなってたよ

 正直、なんでそうなったかはウチらも分からんw

 

 俺も分からんから気にすんなw

 お話して、どんな人なのか、どうすりゃいいか対策を考えようと思ってたのに。

 あれか? 天使のような微笑みが……いや、んなわけないか。それならとっくに関係修復してるだろ。

 

 天使なのは認める(確信)

 ウチの天使たちって、使徒みたいな奴らなんだが……

 Σ(゚Д゚) コワッ

 旧? 新? まあどっちでもクリーチャーやんw

 いっそ、リーセロットたんの形にするか……

 それ見たいっ!

 出来たら見せて

 

 ……俺はマトリエルが好き♡

 多脚戦車みたいで。

 

 俺氏、それはちょっと……

 でもデザードガンナーかっけぇよな!

 ……そう?(クリッ)

 蜘蛛、手に載せられるヒロインいたな

 なんだ? また、○J部の話か?

 そういや、名字も天使だなw

 小生意気な方かと思った草

 俺は紫音さんかなぁ……

 

 推しキャラの話とかしてんなよ(笑) ちな、GJ○なら俺は姉の真央が好き。

 ちみっ子かわいい♪

 

 幼女が幼女好きで幸せ♪

 世界は平和だなぁ……

 

 平和なのは、お前らの頭ン中だろ?

 

 

 

 食堂でアデルベルトとリーサンネが話しながら食事していたのを見て、本当に解決してたと分かった。

 

 ま、まあ。

 深いことは気にしないでいこう。

 

 産まれてくる妹に、ちゃんと義理が果たせたわけだし。

 

 



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08 婚約者とやらに会う

 婚約者登場です。
 ナチュラルなんかにっなんて言わないです、はいw


 そんなこんなで二年の歳月を経た夏のある日。父親のアデルベルトから来客があると知らされた。

 前に聞かされた婚約者というやつらしい。

 

「ヘルブランディ伯爵とその次男がお見えになる。粗相のないように……ま、リーセロットには必要のない心配かな」

「はあ……どちらかと言うとお父さまの方こそ心配ですわね?」

 

 そう答えると淑やかにカップを持ち紅茶を嗜む俺。

 対するアデルベルトは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 夏の午後ティーを嗜む家族一同。

 母親のリーサンネの手には妹のヘンリエッテが抱かれている。

 

 すやすやと眠る妹の姿を見ると、とても心が安らぐ。かつての自分には、兄弟はいなかった。勝手に魂抜かれてやって来た異世界で、妹が持てるようになるとは思わなかった。

 

 咳払いをして、話の続きをするアデル。

 

「伯爵は私の部下でなかなかに有能なのだが……私と違ってやや子供の躾が宜しくなくてね」

「あら、自分はきちんとしていたと言っておりますよ? リーセロット」

 

 うん、そういうパスはいらんから、リーサンネさん。

 

「お二人のお名前を伺ってもよろしくて?」

 

 お母さま(リーサンネ)の視線をするっと躱し、お父さま(アデルベルト)に向き直る。伯爵の名前はホドフリート、子供の方はイザークというらしい。

 

 イザークとか絶対イキりキャラ(笑)

 おま最後まで見とらんだろ? アアン?

 惚れ直すやろっ ボケッ!

 

 そうなんだよなぁ……いや、種とか種死の先入観で見ちゃいかんよな。

 

 しかしな……本当に婚約者、いたんだな。

 この年で相手決められてる事実も痛いが、この俺が男に全く興味が無いっていうのが一番の問題だったりする。

 

 そのうちメス堕ちするんでしょ?

 リーセロットたんはそんな事にはならない!

 うお……お前キモいな。けど禿同w

 メス堕ちも見たいけど……分かる

 いや、身体の本能に逆らえなくてって葛藤も見たいとは思わんかねっ!?

 それも、分かるw

 熱弁古い杉草

 ……? あ、杉と草で植物繋がりか。古いは誤字?

 解説すんな草

 

 わかるよ、草の人。突っ込まれると辛いときあるよな。今の俺が正にそうだもん。

 

 たしかに今の身体には随分馴染んだ気はするけど、心の奥底がまだ男なんだよなぁ……そんな事より魔法の練習とか修練のほうが面白いし、興味がある。

 子供なんだから色恋よりも遊び優先になるだろ?……つまり、婚約者とか萎えるワケ。

 

「上級貴族というのも面倒なのですね? 私の家なんてそんなのありませんでしたよ? 父も母もそんな事より領地の普請の方に掛かりきりでしたし」

 

 母親がそうボヤくと父親もげんなりとした感じで答えた。

 

「まあ、ウチだからという側面もあるんだ」

「どういう事ですの?」

「リーセロットが女の子だからだよ」

 

 家を継ぐのが娘なので『入り婿』を取る必要があるのと、侯爵家というこのアークステインという王国の中でもかなり上位の格というのが問題なのだとか。

 

 家の存続は血族の保存を優先するらしく、女性が嫡出子なら婿を取る事で当主となるらしい。俺の場合、女侯爵って事になる。夫人じゃなくてね。

 

「王家にも近い我が家の門地を狙う輩は多い。そのために先んじて婚約者を選定しておいたのさ」

 

 苦渋の決断のような表情で言うお父さま(アデルベルト)

 そう言ってこっちに手を伸ばすので、近寄ると俺の手をとってこう言った。

 

「お披露目が済めば、君に言い寄ってくる輩は増えるだろう。イザークはその為の盾として扱えばいい。無理に好きにならなくていいし、僕は君の意思を尊重するよ」

 

 おっと。

 貴族の当主とは思えない発言きましたよ?

 いいのかね? 上級貴族の人間としては。

 

 彼自身、愛に生きると宣言してたし(笑)

 婚約者がいれば断るのに角は立たんからね

 たしか王族とか公爵にも何人か適齢期の奴いるからなぁ

 でも、伯爵家の子供には少し荷が重いかもね

 

 まあ、弾よけなら有り難く使わせて貰うけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二人がやって来たのは数日後。

 

 勉強の最中だったので喜々として飛び出し、父と一緒に迎えに行く。

 

「そ、そんなに楽しみかい?」

「いいえ? 勉強から開放されるのが嬉しいだけですの♪」

 

 教師たちには悪いけど、語学も算術も退屈だし。歴史とかの方がまだ面白い。

 

 本邸の門から屋敷までにはかなり距離があるので、たいていアデルは馬を出す。それに乗るのが楽しいというのもあるのだ。

 

「魔法で作るお馬……わたくしも早く作りたいですわ」

「初等学院の課題だから、君にはまだ教えられない……魔力から言えば全く問題ないのだが、協会の定めた法を破るのは問題なのでね」

「じゃあ、しばらくはお父さまが乗せてくださいね?」

「ああ、もちろん」

 

 とーちゃん顔だらしねえ(笑)

 ノセテクダサイネ? (ニッコリ)

 この笑顔には勝てんわなw

 俺氏、あざてえ顔できるじゃん♪

 

 いや、そんなつもりないんだが(困惑)

 感情の振れ幅が大きすぎる気がするなぁ……

 

 あっという間に玄関まで来ると、二頭引きの馬車が来ていて、一人の男性と男の子がいた。

 

 男性の方は凡庸そうな貴族であるが、子供の方はやや目立つ。何故かというと、よそ行きの服装ではなく簡素な服に革で作られた鎧を纏っていたからだ。

 さらに言うと、顔はいい方……というかカッコイイのかもしれない。斜に構えた感じであり、前の世界なら少年系のアイドルとかでデビューしてそうだ。

 

 アデルと男性が挨拶しているので、こちらも子供同士で挨拶しようと声をかける。

 

「はじめまして。リーセロットと申します」

 

 猫の皮を何枚も被って、精一杯可愛らしく挨拶する。

 

 あー、イイですねぇっ!

 まさに貴族のご令嬢の見本w

 でも、少し物足りなくない?

 いつものリセたんとは違うからかな?

 

 キモいなぁ、こいつら(笑)

 少し飾ってるのを見抜くのが余計にキモい。

 なんなの、おれ(リーセロット)マニア?

 

 マニア、フリーク、オタクなんとでも(笑)

 そのためにこの配信見てるからねw

 なんか面白いことするから目が離せない草

 

 ……おっと。

 彼が返事をしてきた。

 

「イザークだ」

 

 そっけなくそう言った彼は、つまらなそうに言葉を続ける。

 

「父上の顔を立てて婚約者として振る舞ってやるが、俺にはその気はない。そう思ってもらおう」

「……はぁ?」

 

 そんな事を言ってツカツカと馬車へ戻る。

 慌てて伯爵が連れ戻し、父親(アデルベルト)と挨拶していた。

 

 なかなかに愉快な子ですこと(笑)

 

 コワッ

 俺氏、鏡出して見てみ?

 

 え? 俺変な顔してる?

 って、怖っ!

 ナニコレ、どうしてこんな怖い顔してんの?

 

 ……たぶん、歯牙にかけられなかったのが気に入らなかったんじゃない? 知らんけど。

 三尋木プロちーすw

 

 ま、まあ、カチンときたのは間違いないが。

 ふむ……

 

 

 

 

「愚息が本当に失礼しました。わたくし、ホドフリートと申します。リーセロット様」

「リーセロットでございます。わたくしは子供ですので敬称はいりませんわ?」

「は、いえ……そのような」

 

 オロオロする伯爵に父親が助け舟を出す。

 

「リーセロット。家格の下にあるものが敬称も無しに呼ぶのは失礼に当たるのだよ」

「そうですか。失礼しました、ホドフリート様」

 

 ぺこりと頭を下げると、向こうも恐縮したのか頭を下げてくる。わりと善良そうなイメージである。

 

 応接間にいるのは男爵と私たち父娘だけであり、あとはメイドさんが何人かいるだけだ。

 イザークは来てそうそう剣の鍛錬をするとか言って庭に出たまま帰ってこないらしい。

 

 自由に生きてていいなぁ。

 こっちは毎日毎日勉強詰めで、たまに運動とかするくらいだ。魔法の練習も一週間に一回と制限されてるし……内緒で初級の呪文を教えてもらえるのは有り難いけど。

 

 そうだ。

 

「そうですわ。わたくしも行ってみます!」

 

 そう言ったら、二人ともなんか嫌そうな表情をした。庭なんだから魔物とか出てこないし平気だろ? そう言うとアデルが渋々交換条件を出した。

 

「アンゼリカを同行させなさい。あと、君は木剣を持ってはいけない」

「え〜、ダメですの?」

「今日は剣の師範が来ていない。彼の自己鍛錬の邪魔になる」

 

 むう。

 まあ、いいか。

 たまに表の空気を吸うのもいい気分転換になるし。

 

「では、参りましょう。アンゼリカ」

「はい、お嬢様。まずはお着替えですね」

 

 簡素な服に着替えてから表に出る。

 簡素といってもごてごてとした装飾が無いだけのワンピースはかなり上品に見える。夏の日差し避けの麦わら帽子を被れば、すっかり避暑地のお嬢様スタイルだ。

 

 定番の恰好だね パシャ

 無防備そうな感じがたまりませぬw

 

 本当はショートパンツがいいんだけど、今日は運動しないのでと、ゴリ押しされた(笑)

 まあ、最近はスカートにも慣れてきたし……正直夏場は暑いからこうした恰好の方が過ごしやすい。

 

 季節的には盛夏というには早い時期だけど、表に出るとうっすら汗が滲む。気温でいうと三十度より少し低い位だろうか?

 

 芝生も丁寧に刈り揃えてあって、サンダルで歩くとさくさくと小気味いい音を立てる。

 異世界であっても生態系というものはあまり変わらないのか、地面の上は蟻がせっせと動いている。

 夜になれば蚊がうるさいし、果物の置かれたテーブルとかには蝿とかも寄ってくる。何度か叩いて潰していたけど、イルセに止めるよう注意された事があった。

 

「虫は汚いので触らないで下さい、お嬢様」

「でも、虫がたかるわよ?」

「皿や器に虫除けの術が施してありますので、平気ですよ」

 

 なんと。虫がたからないようにする術があるそうだ。蚊取り線香のように殺すのではなく、近寄らないようにするためのものらしい。

 

「寝台などにも備えてあります。お外に歩く時に付ける護符もありますよ?」

「へえー、便利なものですのね」

 

 その話にあった護符を首にかけ、イザークの後を追う俺とアンゼリカ。

 庭といっても相当広いので探すのは大変なのである。使用人たちの目撃情報から、南の端の欅の近くにいるとの事。早速行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せいっ! せいっ!」

 

「こちらから声が……お」

 

 小さな木立の向こうから声がしたので覗いてみると、先ほどのイザーク少年が木剣の素振りをしている最中だった。

 

 暑いさなかにやってるものだからかなり汗だくである。剣筋もブレてないし、目もしっかりしてそうなので日射病とかは平気だろうが、子供にはなかなかにキツそうではあるな。

 

 とことこ近づいていくと、こちらに気付いたのか素振りをやめる。

 

「ふぅ……、何しに来た?」

「陣中見舞いでしてよ。この暑いのに精が出ますわね」

 

 様子を見に来たと言ったのだが、相変わらずなリーセロットの変換である。

 

「アンゼリカさん、差し入れをお渡しして下さい」

「畏まりました、お嬢様」

 

 携えていた水筒には、井戸から汲んだ冷たい水が入っている。彼は何だか変な顔をしながらそれを受け取る。

 

「……ありがとう」

「もう何回振りましたの?」

「え? 百五十位かな……」

「そんなにですの? わたくしなんて三十回も振れませんのに」

 

 これは本当である。

 幼女ボディ、ナメんなよ(笑)

 

「は? 流石に貧弱すぎじゃね?」

 

 ……スゥー。

 

 あ、やべ(笑)

 煽り耐性なさ過ぎワロタ

 

「誰が貧弱ボディかっ!?」

 

「え?」

 

 wwwwwww

 これは大草原w

 俺氏、そいつそんなこと言ってねえ(笑)

 草草の草

 

 自分に自虐的に言うのはともかく、他人、しかも失礼なガキに言われるのは我慢ならん!

 

おらあっ!

「わ、ちょっ……」

 

 体内の魔力を高め、身体強化。

 貧弱ボディでもこれくらい出来らぁっ!

 左右のジャブを放つが、とっさに奴も反応して避ける。

 だが、甘いっ! 大きく右足をあげ、振り下ろす。

 

「せえぃあっ!」

「……し、しろ……」

 

 頭頂部にキレイに入った踵落とし。

 素早くヤツの意識を刈り取ったのだけど、残心を残し構えは解かない。

 

「……え? い、イザークぼっちゃまー?」

「……あ」

 

 アンゼリカの悲鳴じみた声に、ようやく正気を取り戻す。

 

 そこには。

 

 ヤムチャのように倒れてピクリともしないイザーク少年の姿があった(笑)

 

 ヤムチャしやがってwww

 でもこいつ、リーセロットたんのパンツ見たぞ

 タヒれ

 逝っちゃってええぞ、小僧w

 俺らでも最近見れないのに……

 カメラ、なんで回り込まなかったの!

 お前ら必死過ぎ草

 

 管理者どもは平常運転でしたとさ……

 はぁ、どうしよ(嘆息)

 

 




 聞き間違えでダウンさせられたイザーク少年……合掌(まだ死んでません)


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09 叱られ、謝り、教えて、守る?

 何だかPV増えてるから何かと思ったら日間ランキング5位になってて驚き。お気に入りもいつの間にか百五十超えてるし……少しこわっ(笑)

 途中で父親のアデルベルト視点が挟まりますが、前後はいつもの俺氏でございます。


 かつての俺は、まあ男だったのはご存知かもしれない。でも、その容姿やら性格やらを語ったことがなかった。

 まあ、顔は十人並みと言っていい感じだったかもしれない。実際、後輩ちゃんには言い寄られた事があったし。

 

 しかし、そこに最大のデメリットもあったのだ。

 全くというほど筋肉のつかないヒョロガリ体型。

 

 直そうと一念発起して高校の時分には空手部なんかにも所属したが、結果としてはあんまり変わらず。背もあまり高くなく、細いからか、高校の文化祭では三年連続メイド喫茶で女装接客というトラウマものの傷痕まであった。

 

『そういうわけでして……貧弱という単語にはいささか過敏に反応してしまうわけなのです』

 

 www

 てっきり身体のこと言われて怒ったのかと思ったら、俺氏のトラウマとかw

 涙を誘うところもあるけどやはり草

 どうしてそうなったとしか言えない(笑)

 あ、でも踵落とし出来たのはそういう訳ね

 ナンデヤって思ったw

 てか魔力操作も上手くなったね

 

 こんなナリだから身体鍛えてもどうせ筋肉つかないだろうし……魔法がある世界なら身体強化とかあるだろうと思って。

 

 呪文もあるけど我流のせいか出力凄くて草

 たぶん筋力が倍近くなってたね

 体型が貧相な娘にはもってこいだとは思うよ

 

 そっか(ニコッ)

 

「叱責を受けているのにニヤついているというのはどういうことかね、リーセロット!」

「ひゃ、ひゃいっ! すみません、お父さま……」

「そもそも君は行動するときになんでよく考えない? 決して頭が悪いわけではないのに、何故脊髄反射的な行動をする……」

 

 はい。

 

 今、俺はアデルベルトによって叱られている最中です。いい加減面倒になって来たのでコメントを見てたら、つい顔がにやけてしまいました。そしたらさらに炎上中なうw

 

 誰だって誉められたら嬉しいもんねw

 まあ、怒られてる最中にコメント読むとかいい性格はしてるよね、俺氏。

 にしても長いな。もう一時間くらいだぞ。

 

 基本甘々なアデルベルトだけど、こういう時は本当にしつこい。泣き落としでやめさせてもいいけど、今回は俺が悪かったのでちゃんと聞いてはいるけど……正直つらたん(;_:)

 

 項垂れる顔もまた悩ましくかわいい……

 こういう表情を見ると叱る奴の気持ちも分かるなw

 

 ウチの親父はしっかりしてるんだ。お前らと一緒にすんなっ(ペッ)

 ただ、少し長いよなぁ……と思ったら救いの手が差し伸べられた。

 

「侯爵閣下、もうその辺りでよろしくはありませんか?」

 

 来室したヘルブランディ伯爵が口添えをしてくれたのだ。

 

「しかし、ホドフリート殿。それではご子息に示しが付きません」

「あれは騎士を目指しておりますゆえ身体は頑健です。むしろあれを昏倒せしめたリーセロット様の技量を褒めるべきかと小生は愚考致しますなぁ」

「……それは結果論であり、行いを正当化する理由にはなりません」

「アンゼリカ君でしたか? 彼女の治癒術のおかげで大した怪我でもありませんでした。これ以上の叱責は互いの溝を深くしますゆえ、ご寛恕願えませんか?」

「……ホドフリート殿に感謝しなさい、リーセロット。あと、イザーク君への謝罪もきちんとしてきなさい」

 

 おうっ? イザークのとーちゃん、やるじゃん! 凡庸そうとか言って悪ぃ!

 

「今から、謝ってきますわっ!」

 

 そう言って、礼をしてから部屋を飛び出していく。ひゃっほうっ、これで自由だっ!

 

 意外とストレスだった模様

 泣きそうだったのにもう笑ってるとか、子供ってくるくる変わるよなぁw

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 しょげかえっていたリーセロットが元気よく部屋から飛び出していく。僕は彼の方を向いて頭を下げる。

 

「ありがとうございました、先輩」

「君の説教グセは変わらずだね」

 

 にこりと笑って応えるホドフリート先輩。身分では上位だけど、人としての器では彼に勝てるとは思えない。

 

「君とリーサンネさんの子供だからさぞ可愛いのだろうと思っていたが、想像以上だね」

「そうでしょう? 自慢の娘ですよ」

「恥ずかしげもなく言い切る所も変わらないな」

 

 学院の先輩である彼との付き合いもかなりの年数になる。お互いの子供を結婚させるなどと夢想したこともあったが、本当になるとは思わなかった。形だけだとしても。

 

「宜しかったのですか? イザーク君のことは」

「まあ、次男だし。元々騎士志望だからね。本人は不貞腐れていたけど、その後の支援を条件に納得してくれたよ」

「我儘を言って、申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げると、彼は周りをキョロキョロと見ながら慌てて止めさせる。

 

「当主に頭下げさせるとか、私を悪者にする気かい?」

「素直に感謝したまでです」

 

 顔を見合わせ、破顔する。そんな所は学生の頃と変わりなかった。

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

「彼は元気かしら、アニカさん」

 

 部屋の廊下に椅子を置いて、静かに座っているメイドはアニカさん。今年で二十歳になるメイドさんで少し……おっとりしている感じのお姉さんである。

 

 ちなみに私の後ろに付き従うアンゼリカは今年で十五。元気な子犬系の愛くるしさと溌剌さを感じさせるかわいい人である。

 

 この国の労基法とかどうなってるん?

 

 他の国よりはマシな程度の法はあるけど、罰則とか厳密には無いなw

 年齢を制限には加えていないね

 貴族出身の連中はともかく、平民は数え年だし本人すら忘れるレベル(笑)

 

 あ、そう……ちなみにウチのメイドさん達はみんな貴族出身なの?

 

 たぶん近侍に使ってるのはそうだよ

 ほら、男爵とか子爵とか子供多くて行き場のないのが多いから。

 男爵家のメイドに伯爵家出身の子供とか普通だしw

 その辺はドライ草

 

 ……世知辛い感じだなぁ。

 つまり妹のヘンリエッテもそうなる可能性があるのか……

 

 女の子は政略結婚の駒にもなるから

 むしろ男の子の方が潰しきかんよ。

 騎士とか文官とか……後は冒険者かな

 

 ヘンリエッテを嫁に出すなんて有り得んっ!

 妹は姉が守るものだろうっ!?

 異議は認めないっ(ドンッ)

 

 予想通りの姉馬鹿で草

 いや、けど実際ヘンリエッテたん可愛いよな

 リーセロットたんの子供の頃みたいで……控えめに言って天使かなっ?

 お前ら……ウチの天使共がクリーチャーなの知ってて煽ってんのか、アアン?

 まだ直してなかったのか草

 二年あって直せてない無能乙

 こっ、コッチにも都合があるんだよぉっ……

 コチラの天使を眺めて餅付けw

 ア、ハイ(^◇^)

 

 随分と話がそれたな。

 アニカが中に居ないのは、イザークに一人にしておいてくれと頼まれたかららしい。ま、そういう時もあるだろうからね。

 

 原因が訳知り顔で言うとかw

 傷心の少年……フッ

 HHEMギャグはヤメロ草

 草は私のアイデンティティ。勝手に使うのは許さん草(# ゚Д゚)

 草付けて怒るとかw

 

「イザーク様。リーセロット様がお会いになられております」

「……放っておいてくれ」

 

 アニカの声にも変わらない様子。中から内鍵掛けてるらしい。どうも意固地になってるなぁ……こういう時は強引にいってみるか。

 

「では、勝手に入りますわ」

 

 体内の魔力を活性化させてやると、身体の周りに虹のリングが現れる。魔法的な障壁以外は突き抜ける俺だけの魔法、バイタルジャンプを使うと一瞬で姿が消え、扉の中に現れる。

 

 ブレンパ○ードのは厳密には瞬間的な高速移動だけど、俺のこれはどうも空間転移になるみたい。こっちのが便利だからいいけど。

 

「お、お嬢さまっ?」

「消えましたの?」

「おそらく中ですわ」

 

 扉の向こうから二人の声が聞こえるけど、ドアは内側から掛かってるので手出しはできない。フッフッフ……

 

 それ、ブリンクやんw

 この国だと使える奴かなり少ないぞ

 ちな、とーちゃんは使える

 

 扉の外の騒ぎを知って、イザークがベッドの上からこちらを伺う。そして、俺を見て仰天する(ここまでワンセット)

 

「な、なんで、ここにっ?」

「それは秘密ですわ?」

 

 にっこり笑ってそう答える。

 驚いただけらしく、こちらを怖がる素振りはないので笑ったまま近くに寄る。そして、床に座ると頭を低く下げた。

 

「先ほどは乱暴を働いてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 きっちりとした、土下座。

 この世界にあるのか知らんが、俺の知るもっとも格の高い謝罪方法だ。

 

 なぁーーっ!?

 リーセロットたんが、土下座ぁ?

 

「ばっ、ばかっ、やめろ!」

「許して下さいますまで、やめるわけにはいきません」

 

 慌てて止めるイザークにそう言った。

 

「許すよ、だからやめろって!」

 

 おや、あっさり許してくれました。

 許してほしければ何かあるだろ? アアン? みたいなコト言ってきそうだと思ったんだけど。

 

 俺氏の方がゲスいw

 何を要求されると思ったんですかねぇ?

 そりゃ……チラッ

 

 いや、ガキなんだからお前らの想像するような事は言わんだろ? まあ、言われたら今度は本気で処す(ニッコリ)

 

 ヒイッ

 この幼女、こわいわぁ……

 

「では、水に流して下さいますね?」

「ああ、男に二言はない」

「ほっ……ありがとうございます。イザークさま」

 

 見せかけの安堵に彼も緊張を解いたようで、咳払いをして離れる。

 

「それに……悪かった。貧弱とか言って」

「え……?」

「女の子なんだから、力が弱いのは当たり前だよな。そんな事も分かんなかったのは、俺が悪い。だから、ごめんなさい」

 

 こちらに向いて頭を下げるイザーク少年。

 なんだ。いい子じゃん、この子。

 

 むしろ君の方が悪いw

 どう見ても彼は被害者草

 

 コメント、うるさいなぁw

 分かってるよ、俺が悪いのくらい。

 

「で、でも。あの連撃からの蹴りは、凄かった。あんなに力あるのになんで素振りはダメなんだ?」

「あー……あれは、ちょっとズルをしまして♪」

 

 感心する彼に近寄り、耳打ちする。

 

「ま、まほう? お前、もう魔法が使えるのか?」

「まだまだですけど」

 

 お、いいシーン(パシャ)

 ここは投げ時 →1500

 お、そうだなw →30000

 

 シャリンシャリンコメントがうるさいのでちょっとコメント非表示にしておこうw

 

「おれ、まだ魔力の流れが分かんなくて」

「あ、わたくしもそうでしたのよ」

「それで、なんで使えるんだよ」

「身体の中の流れは把握出来ますのよ」

 

 あの方法だと俺は分からなかったけど、身体の中にある魔力は分かるのである。この辺は感覚の差としか言えないと思う。

 そうだ。

 

 ベッドに座る彼の横に座って、顔を覗き見る。

 

「わ、な、なんだよ」

「わたくしの魔力の流れを感じてもらえれば理解して頂けると思いますの」

 

 アンゼリカには分かったんだし、彼にも分かるとは思う。それに魔力の流れが実感出来るなら魔力の発動がしやすくなるはずだ。

 

「た、たしかに父上もそう言ってはいたけど」

「では、参りますわ」

 

 型を組んで、ゆっくりと魔力を流していくイメージをする。すると、イザーク少年が驚いた。

 

「……わ、何だこれ……?」

「分かりまして?」

「あ、ああ。何だか温かいけど、凄く重い感じが、する」

 

 重い? アンゼリカは温かいって言ってたけど……人によって違うのかな? そういや違うって言ってたな。コメント消してるから確証はないけど、ウザいからしばらく消しとこうw

 

「宜しかったら、実践してみては? わたくしが見てますから」

「そ、そうだな……よし」

 

 手を前に出して少し曲げ、輪っかを作るようにする。これが基本的な形だ。

 精神を集中するように彼が目を閉じる。

 

「……んう……ダメだ。分かんねえ」

 

 間に手を入れても、流れの感じは分からない。アンゼリカやアデルベルトがやっている時の感覚は分かるので、本当に流れてないのは間違いない。

 

 才能として魔力を扱えない人もいるらしいけど、イザークは違う気がする。なんとなくだけど。

 

「わたくしの流れを参考にしてみては?」

 

 そう言って彼の手を握る。正対して右手で左手を。左手で右手を。

 

「わっ!?」

「? どうかなさいまして?」

「お、おまえ……いや、なんでもねえよ」

 

 そうして、魔力を流してみる。

 どうだろうか?

 

「え? なんかおかしくないか?」

「そうですか……あ」

 

 右手から左手だと、彼からすると反対なのか。

 

 それなら。

 

「わ、わっ! 何してんだっおまえ?!」

「こうすれば分かりやすいでしょ?」

 

 ベッドに乗っかり、イザーク少年の後ろから両手を添えてやる。これなら右手は右手、左手は左手になる。

 

「ん? 届きませんわね?」

「お前のほうがちっこいんだから届くわけないだろっ いいから離れろ!」

 

 身体を離そうと暴れるので、身体強化をかける。ふふふ、この体力(魔力で上増し)に勝てるものかっ!

 

「お、ホントにちから強っ!」

「んー、身体強化しても腕は伸びないのですわよね?」

「当たり前だろっ いいから離れろって」

「そうですわ♪」

 

 ちょっとだけ足りないのなら、俺が内側に入ればいいんだ。超あたまいーじゃん、おれ♪

 少しだけ手を離してバイタルジャンプでイザーク少年の内側に移ると、すぐに腕の下側から手の甲を掴む。

 

「なあっ?」

「これなら大丈夫ですわね?」

 

 形としては、2人羽織のような感じである。さっきは俺が覆う感じだったけど、こちらの方がしっくりくるね。

 

「あわわ……」

「さ、やってみましょう? イザークさま」

 

 後ろを振り向くと顔を赤くしたイザーク少年が慌てている……ん? なんで?

 

「なにをしているのかね、ふたりとも」

 

 語りかけるように、よく通る声が響く。

 

「え? お、お父さま?」

「こ、侯爵さま……」

 

 個室の扉は開いてはいないし、窓も今は閉じてある。なのに、部屋の中にいるアデルベルト。俺と同じように転移で入って来たのであろう。手には杖が握られていて、わなわなと震えているのが見える。

 

「……最近の子供は早熟と聞いたが、流石に許すわけにはいかないな……死ね」

「ヒイッ!」

 

 杖が光り、閃光が室内を真っ白に染めたのはそのすぐあとだった。

 

 

 

 

 

 

 ──今日の収穫。

 

 父親(アデルベルト)の魔法がかなり強いと実感できた。とっさに守らなきゃイザーク死んでたよ、マジで。

 そんでまだ怒ってたから殴って気絶させた。

 

 子ども相手になにマジで怒ってるの?

 ひと(リーセロット)のこと、叱る資格無いと思うけど、どう思う?

 

 親父が正しい

 てか俺氏がゆるい

 女子的にガバガバw

 なんかヒワイに聞こえる(笑)

 やりたい事は分かったけどやり方がおかしい

 ま、まあまだ子供だしセーフ

 絶許ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!

 絶対許さないマン

 微笑ましくて草

 俺氏、これ見て彡サッ

 

 画像が送られてきたので見てみた。

 

 あー……

 少女を後ろから抱きしめる少年……

 これはギルティ、かなぁ……(;^ω^)

 

 

 




 ていうかランキングってすごい効果あるんですね。
 今まで乗った事なかったから自覚無かったんで……都市伝説かと思ってましたw

 まあ、これからもゆるゆるといきますので、よろしくお願いします(>ω<)


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10 とある次男の独白

 風邪を引いてしまいました。
 冬場は風邪を引きやすいのですが、コロナのせいか医者にも行きづらいのでツライっす

 今回はイザークくん視点になります。


 俺はイザーク。こんなナリだけど一応貴族の息子だ。もっとも、次男で兄貴も健在。ゆくゆくは家にいられなくなる定めの人間だ。

 

 立派な魔術師である父上や兄貴と違い、どうも俺は魔法が苦手らしい。そんなわけで身体を鍛えて騎士への道を進もうかと思っている。

 

 七歳だけど、既に素振りは百回を超えて振れるようになった。剣の師範に言わせるとやり過ぎらしいけど、力なんて強い方がいいに決まっている。だから、こっそり自己練は欠かさない。

 

 そんな時に父上が大事な話があると呼ばれた。なんの事かと思えば、縁談の話だ。

 

「私の上司に当たる侯爵様に娘さんが居るんだ。君と同じ七つで、大層可愛らしいそうだ」

 

 俺は次男だから家は継げない。

 相手にも申し訳ないし。

 そう考えて断ろうとしたら先を越された。

 

「形だけの婚約者、という不憫な立場になってしまうから無理強いはしないよ」

 

 ……どういう事なんだろう。

 でも、父上がこう言うだけの理由がある気がした。俺はバカだけど、義理を欠いた事だけはしたくないと思っている。だから、話を聞いてみることにした。

 

 

 

 話によると。

 侯爵様の所は女の子しかいないらしい。

 で、婿として家に入るには嫡男以外でないとダメだから、俺みたいな奴にはうってつけらしい。

 

 では、なぜ形だけの婚約者なんてのになるのかというと。珍しい事に自分の意思で決めてほしいと考えているから、らしいのだ。

 

「……? それなら婚約者なんて立てなくてもいいんじゃないですか? そいつ……いや、侯爵様のお嬢様が好きな相手が出来るまで独り身で居させれば良いと思うのですが」

「それでは押し通せない相手がいるからなのですよ」

「……ええ?」

 

 それからどこどこの某、誰々の息子だのと色んな人の名前が出てきた。正直、憶えてられない。で、そういった人達が侯爵家の権勢を得ようとあの手この手で狙っているらしい。

 

「なんというか、浅ましい話ですね」

「私もそう思うけど、それだけの価値があると考えているのだろう。ハーゼルツァットは先々代には公爵家であり、王族の傍系でもある。おまけに現当主のアデルベルト氏は魔法省の大臣、お内儀は魔術師協会の副理事だ。王国の中枢に影響力を持つ名家なんだよ」

 

 ……なんだかとんでもない話がまぎれてきた。

 

「無論、断っても構わない。そういった面々を相手にリーセロット様を守り抜くというのは、やはり重責だろうからね」

 

 リーセロット……それがお嬢様とやらの名前なのか。その子自体には興味はないけど、この話には興味が出てきた。

 

 か弱い女の子を守る。

 こんな言葉を出されては引くわけにはいかない。俺は騎士志望であり、騎士とは国や貴人を守るための戦う存在だ。

 

「タチアナみたいに喧しくないですよね?」

「侯爵様からは聡明な子供と聞いているよ」

 

 タチアナというのは僕の二つ下の妹なのだが、事あるごとに構って欲しがる困った奴なのだ。

 

 引き受ける条件は騎士学校への進学するための資金の援助である。婚約者としての体裁を整える必要もあるだろうし、この位はしてもらわないとなぁ。

 

「今度の週末にお呼ばれしているので、一緒に来なさい」

「! わかりましたっ」

 

 父上と表に出られる機会は意外と少ない。用件はともかくそこだけは楽しみだった。

 

 

 馬車で二日ばかりかかる所に侯爵様の屋敷があるらしい。道中、何回か魔物と戦う事になって、父上は戦うことを許可してくれた。今まではダメだったのに……認められたと思って張り切っていたら手痛い反撃を受けてしまった。

 

「慎重なのはいい事だけど、勢いで行動するのも時には重要だよ」

 

 治してもらいながらそう語る父上はさすがだ。魔術師なのに剣も体術も出来る。自分はまだまだだと落ち込んだ。

 

「まだ七つと考えれば、ゴブリン一匹倒したのは十分な成果だよ」

 

 十匹以上を相手にしていても余裕な父上に、少しだけ羨ましく……焦りを抱いた。自分と同じ頃の父上は、もっとうまく戦えていたのではないか。そう、思えて仕方がなかった。もっと鍛錬しないと。

 

 次の日には侯爵領に入り、村や街を抜けて大きな都市に入った。ここがファーセロット、侯爵領の中心だと聞き驚いた。

 

「凄い大きい街ですね」

「公爵家より大きいと評判だよ。どことは言わないけど」

「へえー……」

 

 高さ四メートル近くの壁に囲まれた街の中には人が溢れかえっていた。ウチの街も大きいだろうと思っていたけど、比べ物にならない。

 

 街の中心に向かっていくとニメートルくらいの高さの塀に囲まれた所にぶつかった。旧市街なのかな、と思ったらここが侯爵家の屋敷らしい。

 

「敷地広くないですか?」

「そうだね。本邸、別邸、使用人や、従士たちの宿舎、農園や池も含めて小さな村のようになっているからね」

「街の中に村とか意味分かりません……」

 

 それだけ広い所に家族は夫婦と子供二人らしい。隠居した先代は別の街で暮らしていて、その他の兄弟もやっぱり別の街の代官などをしているそうだ。

 

「先代は側室を含めて奥方を四人囲っていてね。広い敷地はそのために必要だったらしいよ」

 

 ちなみに、父上にも側室はいない。兄貴のロンバウトと俺、妹のタチアナに一番下の弟ディルクの四人の子供がいるから必要はないのだとか。

 

 中に入る門の前には従士が居た。貴族の馬車だと分かると中へ伝令を送り、ほんのしばらくすると中に入るよう促された。

 

「侯爵閣下がお出迎えに来られるようなので、今しばらくお待ち下さい」

「分かりました」

 

 そう答えてから独り言のように「義理堅いなぁ」と呟く父上。何がですかと聞く。

 

「普通は家主は迎えになんか来ないものなんだよ」

「……そう言えばそうですね」

「侯爵になっても、そういう気安い所は有り難いけど……少し困るよなぁ」

「なぜ、困るんですか?」

 

 そう聞くと、父上は困ったようだった。

 

「私と彼の間柄は部下と上司であり、爵位も伯爵と侯爵なんだ。同列に扱うのも、親しげに扱うのも間違いなんだよ。世間的にはね」

 

 どうも、よく分からないな。

 親しい友人同士なら別に問題ないと思えるんだけど。頭を捻っていると、その侯爵閣下が馬を走らせ到着したらしい。表に出て迎える事になった。

 

 ……

 

 言葉を失うというのは、こんな感じなんだろう。

 

 侯爵閣下がカッコいいのはともかく。

 その前に座って微笑んでいる女の子は……悪いけど妹なんか比べ物にならない美少女だった。

 

 ふわりふわりと揺れる髪は金色に輝き、肌は日焼けなんかしたことないんじゃないかと思うほどに白い。少し丸みを帯びた顔立ちに、興味深そうに翠色の瞳をキラキラと輝かせていた。

 

「はじめまして。リーセロットと申します」

 

 ドキリとしたのを隠すように、素っ気なく挨拶をする。何か気の利いた事を言わなきゃいけないと思い、そのあとの言葉を繋ぐ。

 

「父上の顔を立てて婚約者として振る舞ってやるが、俺にはその気はない。そう思ってもらおう」

 

 ……失敗した。

 思っていた事が口をついてしまった。

 兄貴みたいに気の利かない俺にお世辞とか言うのは無理だけど……よりによってこれはないだろう。

 

 ポカンとした顔に耐えられなくて踵を返し馬車へと戻るけど、父上に捕まってしまった。侯爵様に挨拶はするけど、アイツの方を向くことは出来なかった。怒っているに違いないから。

 

 屋敷に連れてこられたけど、日課の練習があると言ったら侯爵様は快く庭を貸してくれた。リーセロットに会うのを躊躇ったわけでないけど、これ幸いと抜け出してきた。

 

「アイツ……怒らなかったのかな?」

 

 別れ際にちらりと見た時には、にこにこと笑顔を振りまいていたけど。

 

「可愛かったなぁ……」

 

 ポツリと呟き、キョロキョロと周りを伺う。使用人がいたけど、遠いので聞こえなかっただろう。修練に使う木剣を携え、良さそうな場所を散策する。

 

 少し大きめの欅の側で、剣を振り始める。剣の型は教わったけど、まずは日課の二百回をこなさないと。

 

 ちらちらと脳裏に浮かぶあの子の姿を打ち消すように素振りに精を出す。ようやく雑念が消えた辺りで、また邪魔が入った。

 

「……何しに来た」

「陣中見舞いでしてよ。この暑いのに精が出ますわね」

 

 先ほどまでのドレス姿ではなく、普段着に着替えていた。裕福な平民の着るような白いワンピースに麦わら帽子という装いだけど、この娘が着るととても上品に見える。素肌の見える範囲も増えたせいか、少し目の毒だ。

 

「アンゼリカさん、差し入れをお渡しして下さい」

「畏まりました、お嬢様」

 

 そう答えてメイドが水筒を渡してきた。

 コイツ、なんでメイドにさんとかつけてるの? もしかしてメイドじゃないのかな? いや、メイドだよなぁ……とりあえず礼を言うと何回振ったかと聞いてきたので回数を答える。

 

 ところが。

 リーセロットはいきなり怒り始めたのだ。

 なんで怒ったのかはじめは分からなかったが、どうも『貧弱』と言われたのが問題だったようだ。

 

 素早く放ってきた拳をなんとか躱した。三十回の素振りも出来ないようなヤツの拳撃とは思えない鋭さ。それだけで精一杯だった俺には、最後の攻撃に対処出来なかった。

 

 というか、対処が遅れた理由はそのやり方のせいもあった。スカートなのに何故か大きく上に脚を振り上げたのだ。

 当然、その中も見えてしまうわけで……ほっそりとした太股と、その奥の白い布が見えてしまい。

 俺の意識はそちらへ向けられてしまった。

 

 上に上げられた脚をそのまま落とし、踵が俺の頭の上に当たり、それで俺は気絶した。

 

 

 

 

 気が付いたら、ベッドの上。

 

 頭は痛むけど、たんこぶのようなものもない。リーセロットの側にいたのとは別のメイドがいたので聞いてみる。

 

「イザーク様のお怪我はアンゼリカが治しました。痛みが少し残る程度かと思われますが」

 

 アニカと名乗ったメイドはそう答えた。

 ここはあてがわれた客間であり、リーセロットは父親に説教されている最中らしい。

 

「済まないが、一人になりたい」

「承知しました。お部屋の前におりますので必要の際はお声をかけて下さいませ」

 

 一礼して下がるメイドを確認してからベッドの上に転がる。気づけば、寝間着姿だった。気絶している間に水浴びさせられたのか、汗の匂いも埃っぽさもない。子供扱いされた事に腹が立つが、実際に子供なんだと思い直してベッドに横になる。

 

 不甲斐なさに打ちのめされた気分だった。

 

 三十も素振りが出来ないあんな女の子に、不意打ちとはいえ完敗したのだ。それも……あんな白いぱ……いや、何思い出してんだよ、おれっ!

 

 頭をかきむしり、雑念を追い出す。

 そうだ、あんなものを見せられたせいでやられたんだ。俺は悪くないっ!

 

 でも、思い出すのはその女の子のことばかりだった。

 綿のようにふわふわと揺れる金色の髪。大粒の宝石のようにきらきらと輝く翠玉(エメラルド)のような瞳。花が咲いたような笑顔。

 気が付けば、そんな言葉が出てくるほど。

 いったい俺はどうしてしまったんだろうか。

 

 そんな時に表にいるメイドが声をかけてきた。あの女の子が見舞いに来たようだ。苦し紛れにほっといてくれと言うと扉から顔を背けてベッドに転がる。

 

「ふっふっふ……」

 

 そんな笑い声に振り向くと、どうやって入ったのかアイツが手の甲を口元に当てて含み笑いをしていた。なんで居るんだと聞いたら秘密と言われた。何がどうなってるんだ? 内鍵を掛けてあるのだから外鍵だけを開けても駄目なはずなのに。

 混乱していた俺は、その後の彼女の行動に完全に思考できなくなった。頭を床に擦りつけて謝ってきたのだ。

 

「ばっ、ばかっ、やめろ!」

「許して下さいますまで、やめるわけにはいきません」

 

 平民が懇願するようなやり方を平気でやるとは思わなかった。いくら何でもやり過ぎだ。部屋着とはいえドレスが汚れるだろっ

 慌てて謝罪を受け入れると、彼女は心底安心したかの様に微笑んだ。

 

 どくん……

 

 思わず咳払いをして距離を離す。取り繕うようにこちらも謝る。貧弱と言って悪かったと。

 

 すると、彼女は少し呆けたようにこちらを見てきた。

 こ、これは……謝るなんてしない奴だと思われていたのか? そんな狭い了見の男だと思われていた。

 コレはいかんと少しおべっかを使う事にした。さっきの攻撃は凄かったぞとおだてると、今度は頬をバラ色に染めて喜んで……いきなり近寄ると耳元でこう呟いた。

 

「あれは、魔法を使いましたの♪」

 

 ……魔法だって?

 俺は修練を始めたばかりなんだけど、彼女は既に実践出来ているらしい。すごいっ!

 

 話を聞いているうちに、彼女の基礎の修練を見せてもらうことになった。右手から左手に魔力を流すのだけど、魔力自体は見えない。だからそれを放出し、受け取るという事を感じる必要があるのだとか。詳しい理屈は知らないけど、俺はこれが一度も成功していない。同い年の彼女が成功しているなら、何か掴めるかもしれない。

 

 ベッドに横座りして、こちらに見えるように実践する彼女。その手の間に手を入れてみると、その重さに驚いた。

 他人の魔力に関しての感じ方は人によって様々だそうだ。ともかく、感じることが出来るなら魔法を扱う基礎は出来ている、ということらしい。

 

「宜しかったら、実践してみては? わたくしが見てますから」

 

 自分より小さな女の子が出来たんだ。なら俺にでも出来るかもしれない。そう思ってやってはみたが……結果はいつもどうりだった。

 

「わたくしの流れを参考にしてみては?」

 

 そう言うと、いきなり手をつないでくる。目の前にいるだけでもどきどきしてるのに、なんてことするんだ、このオンナっ!?

 

「? どうかなさいまして?」

「お、おまえ……いや、なんでもねえよ」

 

 こいつ……なんでそんな不思議そうな顔してんだよ、カワイイだろっ!

 いや、ちげえ。そうじゃない。オレだけドギマギするのはみっともないので平気の平左でやり過ごすっ!

 

 そうして彼女の魔力の流れを感じてみたが、なんだか変な感じだ。なにかが右手に流れ込んでくる感覚が強い気がする。右手からは放出するモンじゃないかなと思っていたら、彼女もそれに気付いたようだ。

 

 と、思ったら今度はベッドに乗っかって後ろから手を回してきた。てか、これ抱きついてきてるだろっ、バカッ!

 

「ん? 届きませんわね?」

「お前のほうがちっこいんだから届くわけないだろっ いいから離れろ!」

 

 彼女の手はオレの手の甲に届かないで二の腕の辺りを掴んでいる。外から回すのなら俺より大きくないと無理だと分かるだろっ

 

 てか、ああ。やわらかい、耳元から吐息が、髪の香りがヤバすぎるっ!

 

 離そうとするけど手がガッチリと掴んでいて離れない。こいつ本当に身体強化使ってやがる。

 

「そうですわ♪」

 

 声を弾ませてそう言うと。

 俺の前に虹がかかり、そこに突然彼女が入ってきた。瞬間的な移動って術があると父上に聞いた事があったけど、それをこんな子供が使うなんて。

 けど、驚いている暇はなかった。

 腕の下から伸ばした手が外側から手の甲を掴む。

 

「これなら大丈夫ですわね?」

 

 肩越しに振り向いて微笑む彼女。

 

 ……っ

 

 かおが、近い。

 ぱっちりとした瞳に、俺の顔が写っているのが見えるほどだ。

 身体を清めたあとなのか、ほのかな石鹸の香りに、わずかに残る蜜柑なような甘酸っぱい匂い。

 

 その表情には、屈託がない。

 ちょっと前に会ったばかりの、他人の子供に。なんでこんな笑顔で接する事が出来るのか。

 

 そんなふうに考えていたら、視線を感じた。

 

「なにをしているのかね、ふたりとも」

 

 いつの間に入ったのか、侯爵様が杖を構えて立っていたのだ。先ほど会った時のように笑ってはいないけど。その瞳に射竦められてしまう。

 

「……最近の子供は早熟と聞いたが、流石に許すわけにはいかないな……死ね」

 

 低い声音でそう言われた。

 

 これ以後、俺は侯爵様だけは怒らせないように心に決めた。

 

 

 




 別サイドからの視点というのは中だれするのでやり過ぎ注意ですが……内心ドギマギしっぱなしのイザークを書きたかったんだ(断言)


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11 食事は楽しく、あとは夜食にラーメンを

 チラホラ日間オリジナルに出たり出なかったりしてますな(笑)お気に入りもいつの間にか250超えてるし。
 本当にありがとうございますm(__)m


「日頃自慢していたけど、七つの子にのされるとか。あの人も大した事ありませんね」

「その程度で済ませるのですか……?」

 

 イザークの泊まっていた客間で、母親(リーサンネ)とヘルブランディ伯爵がそう話している。イザークと父親(アデルベルト)は別室に運ばれていて、ここにはあとは(リーセロット)しかいない。

 

「リーセロットは天才ですからね。この年で魔力量はあの人を上回っているのよ? 負けても不思議はないわ」

「……そ、それほどとは思いませんでした」

 

 狼狽える伯爵をよそに、近づいて俺を抱き上げるリーサンネ。

 

「あの人を犯罪者にしなくてよかった。偉いわね、リーセロット」

「とうぜんですわ」

 

 ふふん、と笑って答える。

 実際には結構マジでヤバかったのだ。

 

 あの親父、単体個人への最強呪文“デスサイン”を使うとは思わなかったからな。管理者たちに感謝だよ。

 

 いえいえ♪ とんでもない

 サイン系の術は抵抗が難しいからねw

 とーちゃん、殺意高杉w

 対抗術式を教えたけど、一発成功するとは思わなかったな。適合率の高さ故だね

 おかげで部屋ン中はぐちゃぐちゃだけどねw

 

 同い年のようやく出来た友達なんだから、殺しちゃダメだろ。全く。

 

 防いだあと、また呪文を唱え始めたから攻撃して黙らせることにした。

 身体強化をかけて飛び込み、手の先に貯めた魔力を内側から放出する荒業『内から壊す迷宮職人(ダイダロスアーム)』を打ち込んだ。

 

 アデルベルトの魔法障壁はかなり強いから中に打つ必要があったんだけど、これがドンピシャ。中からの魔力爆発に吹き飛んで、車田落ちを決めてくれた……死んではいないハズ(汗)

 

 急いで駆けつけたアニカやアンゼリカの治癒術で落ちた時にぶつけた頭の傷は治したものの、魔力爆発は魔力を損耗させる。マインドダウンを起こしたアデルベルトはベッドへゴーで、現在に至るわけ。

 

 キレイに顔面から落ちたよな親父w

 しばらくそのまま立ってて草

 奇跡の瞬間。ホラッ彡サッ

 

 撮られた写真は、大判にして貼り出したいくらいの出来映え。人ってこんなふうに立つんだなぁー(小並感)

 

 ちなみにイザークも魔法の余波で気絶していた。ころころ気絶するな、キミ(笑)。どこかの主人公みたいだぞ?

 

「イザークを守ってくれたのはありがたいけど、なんでこんな事になったのかを教えてくれないかな?」

 

 伯爵が控えめにそう言ってくるので、包み隠さず教える事にした。

 

「ただの勘違いですわ。イザーク様に抱きつかれた様に見えたのでカッとなってしまったのです。思い込みの激しい父で、本当に申し訳ありませんでした」

「まあ、そんな所でしょう。娘バカも大概ね」

「……あなた方、本当に身内ですよね」

「「自慢の人ですけどね!」」

「……あ、はは……」

 

 嫌いにはならないけど、愛が重いのは確かである。正直に言って過保護すぎるんだよ。

 もっとお外で遊びたいのに、なんで出してくれないのか? そんな思いも一緒に叩き込んでみた次第です♪

 

 笑顔がコワイw

 お外行きたかったんだね

 ま、まあ……広いけど庭だもんね(笑)

 リセたんそういや街に行ってないもんな

 箱庭に閉じ込められたままは嫌だろうて

 

 そう。実はこの屋敷があるのは街らしい。ずっと村だと思ってたけど、実は人口十万近くを擁する国内でも有数の大都市らしいのだ。

 

 こんな広い敷地だから村だと思ってたのに。騙された気分だよっ!

 

 で、そんな事を知った俺は何度か街を見たいと両親にせがんだけど、まあ結果はお察し。そんなわけで同い年の友人というのは、俺にとってすごく貴重なのである。

 

 イザークを守るというのは必然だったわけなのだ。それに野郎だしね!

 

 これが女の子とかだとどう接していいか分かんないけど、基本男はバカだから適当で構わない。殴り合ってケンカしても次の日にはなんとなく仲直りしてるモンなのだ……特にガキの頃はね。

 

 友達に飢えてた様子にホッコリ

 まーそうだよな。基本大人ばっかだし

 ヘンリエッテはまだ二歳だからね

 『ママ』『パーパ』『ねーね』くらい話せるけど、これは会話とは言わんよなw

 

 ウチの妹は天使枠だから友達とは呼ばないっ! オーケー?

 それはともかく、イザークがいれば表に出やすくもなるんじゃないかな? ほら、ガキ同士ならつるんでてもおかしくないじゃん?

 

 ま、保護者同伴で動いてると目立つのは確かだよな

 なるほど。父親を暴走させたのもそれを通しやすくするためか……この幼女策士かっ?

 うまく行けば『はじめてのおそと』だね

 コレは切り抜き待ったナシw

 

 オマエら本当に……まあ、応援してくれるならサンキューな(^^)v

 

「イザーク様は怪我はないのでしょう? 夕御飯は私が腕をふるいましたので、是非ともご一緒にね♪」

「……あなたはまだ厨房に立つなどという……」

「お母さまのお料理はぜっぴんですのよー?」

「はあ……畏まりました」

 

 げんなりとした伯爵が、退室していく。母子二人で顔を見合わせ笑う。そんなにイザークが心配なのかな?

 

 ちゃうちゃう。リーサンネが厨房に入って料理してる事にショック受けたんよw

 上級貴族の女性は料理なんてしないからね

 男爵家とかだとある話。つまり未だに男爵家のやり方が抜け切ってないから驚いたんだよ

 

 ……ウチの母親(リーサンネ)をディスってるワケ(ギロリ)

 

 ヒエッ

 その笑顔でハイライト消すのやめてよぉっ!

 ゾクゾク……これはヤンデレ化?

 どっちかというと父親(アデルベルト)の事をディスってるかもね。妻をコントロールできてないってw

 

 嫁にも娘にもダダ甘なとーちゃんが、そんな事できるわけ無いだろ?

 

 然り

 言わずもがな

 全くもってそのとおり

 親父が不憫で笑うw

 

 うーん。ひょっとすると伯爵とは馬が合わないかもしれないなぁ。わりと普通そうだったのに。

 

 普通だから、かもね。

 世間一般の貴族は古い慣習に逆らえないよ

 ちなみに嫌ってはいないよ? それなら高等学院出てからも付き合ってないし

 厄介な問題児二人の保護者枠、みたいな人だよ

 

 なるほど……そう言われるとたしかにそんな雰囲気あるな。なんか振り回され慣れてそう。

 では、敵と認定するのはやめておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に現れたアデルが深々と頭を下げて謝罪する。まあ、俺に対してはどうでもいいけどイザークと伯爵にはきちんと謝って欲しかったし。

 

 てか、マインドダウン起こしたのにもう復活とか速えな、親父(笑)

 

 そりゃあ奥さんが魔力都合したからねw

 お熱いことでw

 

 ……前に俺が倒れたときは放っておかれたんだが……泣いていい?(;_;)

 

 ハブられたとかじゃないから(笑)

 つうか、魔力の補填は夫婦しか出来ないのよ

 やり方が少し……今の君には出来ない

 これで察してw

 

 あ……そ、そーいうこと?

 じゃあ……ま、いいか(//∇//)

 

 おう……パシャ

 →30000

 →2500

 →15000

 無言で投げんなやw →30000

 恥じらうリーセロットたんとか激レアw

 ここは投げ時っ →50000

 

 あー、シャリンシャリン うるせーっ!

 

 

 

 

 テーブルにはリーサンネお得意の品々がズラリと並ぶ。

 

 葉物野菜とベーコンのキッシュ。

 アンチョビみたいな魚とキャベツを煮込んだにんにくの風味豊かなスープ。

 ボロネーゼ風のドリアは俺の大好物である。

 お米があるとは思わなかったよ〜(^O^)

 

 ご飯として炊くのはないんだけど、ドリアとかリゾットとして使うのは有るんだよ。

 お米のデザートもあるよ

 

 マジかっ?

 ちょ、ちょっとママンに言って今度作ってもらおう! それはともかく、炊いた米も食いたいなぁ……

 

 ウーン(゜-゜) 今度調べておくよ

 どっかに外国人いるだろうし、ヴァランシュの奴らなら米炊くだろうからな

 あんま期待しないでねw

 

 するよっ!

 超期待して待ってるからね(ニッコリ)

 

 ! お任せを、マムッ

 のせられやすくて草

 

 神様へのお祈りのあとに、俺はいつもの言葉を付け加えてから食事を始める。

 

「いただきますっ」

「「いただきます」」

 

 アデルベルトとリーサンネが揃って続いたので、伯爵とイザークがきょとんとしていた。

 

「あの……その文句はいったい?」

「これはリーセロットが始めたのだよ。何でも地方の古い習慣で、食べ物や作った者たちへの感謝を表す言葉だとか」

「いい事だと思いましてね。とかく貴族は平民の事を軽視しがちですが、彼らが仕事をせねばこうした食材も揃いませんもの」

「はあ……なるほど」

「お客人に押しつけなどは致しませんゆえ、どうぞ。妻の料理は相変わらず絶品ですよ」

 

 隙あらば嫁を褒めるアデルベルト。いつまでもお熱いことですねぇ。このぶんならもう一人弟か妹が出来るんじゃないかな?(ニヨニヨ)

 

 ともかく、食事だ。

 手前のスープを優雅にやっつけながらキッシュに取り掛かる。

 

 料理人さんたちのと違ってその日の気分とある物でメニューが変わると言うのが家庭料理の醍醐味ってものであり、その辺りリーサンネさんの料理は完璧だ。

 

 前回食べたときより微妙に塩が濃かったり薄かったり。具材が変わるから風味も違ってくる。外す事もたまにあるけど、それも家庭の味なのだ。

 

「リーセロット。もう少しゆっくり噛みなさい」

「モグモグ……コクン。お母さまの料理が美味しすぎるから悪いんです!」

「まあ。お世辞ばかり上手くなるわね〜」

「むう……お世辞なんかではありませんの」

 

 アデルが注意して、俺がそう答えてリーサンネが嬉しそうにヘンリエッテの口へ料理を運ぶ。まだあんまり喋れない妹も美味しそうに口を動かして食べているのを見ると、とても幸せな気分になる。

 

 それは来客の伯爵とイザークもそうだったようで、先程までの様子とはうってかわり和やかな雰囲気だ。

 

 やっぱり、一緒に食べるご飯はいいね!

 

 なんともなごむ……

 俺もメシ食いたくなってきたな……必要ないけど(笑)

 必要なくても食うよ。下界に注文する

 届けられる奴居んのかよw

 東方○敗ならラーメン届けてくれそう(笑)

 あの人、宇宙人の時もあったしなw

 お、ピザ届けてくれるってよ ヒヤッホウ

 お前ンとこ、何気にスゲえな……

 ワイもダメ元で頼んでみよ。ラーメンいいな……

 

 くっ……チャットの向こうも少し楽しそうだなっ! たまにそっちに招待してくれてもいいのよ? д゚)チラッ

 

 呼びたいけど一人しかお相手出来んの

 人のキャパで管理者複数とかSAN値直葬になるかもしれないw

 

 んじゃあ、いまラーメン頼もうとしてた奴っ! 久しぶりにラーメン食べたいっ!

 

 アッハイ

 突然のご指名で草

 お、おい地球の管理者、リーセロットたんと会う時の注意点とか説明プリーズ!

 とりまおっさん顔で母とか言ったら怒られたw

 www

 

 あと、なんか動画配信とかみたいな。それぞれの世界は見れるんだろ? 他の世界がどうなってんのか見てみたい!

 

 それはちょっとヤメた方が……

 ワイのトコ、こないだカタストロフ来て人類ほとんどいないんだよなぁ……

 ウチの人類、結構SAN値下がるぜ(キメ顔)

 人の感性には耐えられない可能性はあるw

 

 そ、そうなのか……それは残念(ショボン)

 

 コメントを眺めつつ、夕食は終わった。

 人が多いと食卓も賑やかでいいなぁ……

 

 

 

 

 

 

 さて。

 眠りに落ちると、俺のお楽しみタイムだっ!

 

 久々のラーメンを食べながらアニメを見る。 けど、その管理者の選んだのは『ザンボッ○3』……お前の世界のカタストロフってまさかAIの暴走とかじゃないだろうなっ?

 

『よ、よく分かりましたね?』

「つか口調変えるなよっ いつもワイって言ってたろ? あと、なんでそんな美人のお姉さん顔なんだよっ 作り過ぎっ!」

『ヤダ……ツッコミはげしくてワイ大歓喜……』

 

 頬を赤らめる黒髪美人さんとか俺的にはグッとくるけど、どうせ作りもんだろうし。

 アニメはチェンジで『○ップをねらえ!』にしてもらった。やはりノリコかっけーっ!

 

 あと、ラーメンは普通だった。

 なんか期待し過ぎたかもしれないけど、懐かしいから一気に食べちゃったよ♪

 




 管理者たちが意外とリーセロットを気遣っているのは、自分の世界があんまりうまくいってないからなんです。まだ知的生命体の出来てない世界とか見てても飽きますし、カタストロフ起こった後とか投げ出したくなるでしょうしね(笑)


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12 おそとへゴーッ!

 美味しいご飯食べてたのに、夢だと分かったときの絶望感。私は絶望しか感じないのに俺氏ときたら……うらやましい。


 管理者の世界で食べる食事というのは、実は一番いいのではないかと思う。

 

 美味しいのだ。普通に食べてるとしか思えないのに、実は食べてない。一見すると損のように感じるかもしれないが、美味しい感覚は味わえるのに腹にはたまらない。

 

 それはつまり、太らないという事だ。

 

 まあ、俺は今のところ関係のない話である。元は男なのでそこまで神経質にならないし、リーセロット自体もまだまだ成長する子供だ。

 偏った食べ方さえしなければ多少は目を瞑って貰えるだろう。ではなんでこんな事を考えているのかというと。

 

「ほ、ほ、ほ、ほ……」

「お母さま、あと一周ですわ。ガンバってー!」

「あんあえー」

 

 木陰で休む俺の横でヘンリエッテが見様見真似の言葉で応援する。その母親(リーサンネ)は、現在屋敷の周りを走っていた。三周とはいえここの本邸はバカでかい。おまけに増改築した区画もある。正確に測ってはいないけどかなり苦しそうだ。

 

 このところ体重が増えていたのを気にしていたので、走ってみては? と提案したらすぐに食い付いた。一人で走るのはアレだろうからと伴走しようしたら、婚約者のイザークが挙手して来た。

 

「持久走やったことないだろ? 俺は鍛錬でやってるし」

 

 言われてみればトレーナーのようなペース配分とかは分からない。なら、任せてしまおうとイザークに投げた。そしたら、嬉々として運動着に着替えてきた。

 

 こいつ、さては鍛錬したいだけか。

 

 伯爵と父親(アデルベルト)は朝方から出掛けてて、今日は夜まで戻らないそうだ。今日も剣の師範は来ないので、イザークは基礎鍛錬を続ける様子だ。

 

 なんだかつまらなそうな顔してる?

 お外行きたいのにアデルベルトいないから交渉できん。不満が募るという感じか

 

 そうですよー。

 せっかくイザークという支援ユニットがいるのにさ。こいつ何日かしたら帰っちゃうんだぜ? 少ないチャンスはモノにしたかったんだよなぁ……

 

 そんなに行きたいなら行けばいいじゃん?

 せやな

 おまっ……ああけど問題ないか

 スピリットイーターさんワンパンのお嬢が街のゴロツキとか相手にならんw

 

 え……でも、悪くない? ( ゚д゚)

 

 そんなトコ気になるのかw

 人から見たら子供だけど、実際大人より強いし

 ワイはちゃんと了承得てから出た方がええと思うけどなぁ

 でも、下手すると初等学校通うまで出させてくれない可能性もあるよ?

 親バカ拗らせてるから有り得るかもしれんw

 この辺で一回反発しといて、折り合いつく形を模索してみるのも手かもしれない。

 

 勝手に出歩くくらいなら、月に何回か遊ばせろみたいな感じか。アイデアとしては悪くないね。

 

 なら、やってみるか ( ゚д゚ )クワッ!!

 

 

 とりま恰好だけは何とかした方がいい

 ドレス姿とか確実に目立つw

 運動着みたいに少しよれてる服がベスト

 

 よし。アンゼリカに頼んで着替えよう。あとは何か用意するのある?

 

 保管(ストレージ)開ける呪文って教わったっけ?

 俺氏、分かる?

 

 確か『セーフボックス』だったかな? 杖もあるし開けるのは問題ないと思うよ? 中の物とか確認してないけど。

 

 そういやウチラのスパチャいくらなん?

 あー、こっちからは確認できないんだよな……ここの管理者に聞いてみるか

 

 あ、そーいうの調べられるんだ。手で数えるのかと思ってた(笑)

 

 投げた分全部じゃないしね

 あの世界の運営リソースに大体五割くらい持っていって、魔王と人間の管理者リソースに一割ずつ、通貨両替に一割で手元には二割くらいかな(笑)

 

 ……地球の方が良心的だったとは思いたくなかった (´Д⊂グスン

 

 お、管理者から来たでw

 えーと、16363ゴルダだって。

 

 ……そういや貨幣単位って知らなかったな。

 誰か知ってる? コテン

 

 あざとい仕草あざーすっ

 ゴルダは金貨の単位。日本円での換算だとグラム四千円として……十六億ちょいくらいかな?

 

 は……(つд⊂)ゴシゴシ……( ゚д゚ )……オイ

 ちょっとまて。多過ぎないか?

 

 無論日本での価値なので等しくはないけど。

 でも、男爵領とかだと一万ゴルダいかないか

 ハハワロス

 

 いや、笑い事じゃねえ(マジ顔)

 子供に渡す金額じゃねえし、この世界の金相場とかに影響出ないか?

 

 まあ、一度に出すと変わるかも。

 でもそれ、全部出すと500kgくらいになるよ?

 

 重っ!

 つかそんな量入るもんなの?

 

 実は金貨としては入ってないんだ。

 取り出す時に自動的に物質変換してその分の貨幣を作る。ウチらのスパチャはそういう仕様やねん

 もっとも適合率の高い君だと普通の人より多く入るのは間違いないよ

 

 はえー……

 リアル錬金術って、たまげたなぁ……

 

 今のアークステインのゴルダ金貨の含有量は最新のものは85%。それに合わせてるから鑑定してもホンモノなんだよ

 

 ……ま、いいや。

 俺が手を付けない限り流通しないなら問題もない。金貨数枚位なら出しても問題はないだろうし。

 

 そうと決まればイザークに声をかけよう。

 

 おーい、今ひま?

 ちょっち、オレと付き合わなーい?

 

「えっ? ひ、暇じゃないぞ。これから素振りを」

「何回素振りすれば気が済みまして? それよりあなたのお力添えがほしいのですの」

「な、なんだよかしこまって……分かったよ」

 

 ぶつくさ言いながらも素振りはやめてくれるらしい。スマンね、少年。

 ちなみについてこようとしたアンゼリカにはお願いをして二人きりにしてもらった。

 

「イザークぼっちゃまと二人きりになんて……」

「ヒミツの特訓ですの。お父様やお母様をびっくりさせるためです。それに、イザーク様が紳士なのはご存知でしょう?」

 

 あと、本気を出せばオレなら瞬殺出来るし。

 その辺りをよく知っているアンゼリカは、渋々納得してくれた。

 

「ありがとう、アンゼリカさん♪」

「もう……仕方ないですね」

 

 ちなみに特訓という事で服は多少薄汚れている物にしてもらった。ちゃんと長袖長ズボン、大きなキャスケットのような帽子まで被っている。ベルトではなくてサスペンダーなのが、実にショタっぽくてナイス(笑)

 

「お待たせですわ」

「おう……今日は本格的だな」

「いつものひらひらした恰好では少々困りますのでね♪」

「……その髪、邪魔じゃないか?」

「用意はしてありますのよ。細工は流々仕上を御覧じろ、でございますわ」

 

 パチリ、とウインクしてからゴム紐をいくつか、ヘアピンも数本取り出す。この辺りの品はメイド達が管理してるけどちょろまかすのはわけない話だ。

 

 まとめて上げて、ピンで留めて。帽子を被ればすっかり消える。帽子が大きいので後ろ髪も隠れるから、髪を上げた女の子には見えないだろう。

 

「いかがかしら? 男の子に見えまして?」

「うーん……遠目から見れば」

 

 会心の出来だと思ったけど、イザーク少年の評価は意外と厳しい。なんで?

 

「顔が可愛すぎる」

「え……」

 

 ん? 不意打ちみたいに褒めるなよ、驚くだろ?

 

 驚くと言いつつ喜ぶリセたん イイデスネェ!

 イザークてめえ……ライン越えたな?(ギロリ)

 サラリと言うところがイケメンっぽい

 

 ……面と向かって言うとは思わなかった。コイツやっぱ勝ち組イケメン野郎だな。ナチュラルに人を誑していくタイプだぜ。

 ま、俺はほら。野郎だからそんなの効かないけどな!

 

「ほ、ほら。行きますわよっ」

「おう」

 

 

 

 イザークを連れて東の邸宅を目指す俺。そこは今は空き家であり、管理するために使用人が清掃している以外はほとんど人が寄り付かない。

 

 なんでここに来たかと言うと、壁との境にも近いからだ。

 

 ? 俺氏、バイタルジャンプで抜ける気?

 アレは魔法障壁を突破できないぞ?

 

 ふっふっふ……そこも実は考えてある。立木や地面が焦げている辺りを見れば分かるだろ?

 

「この辺は……出火でもしたのか?」

「火ではありませんが……ちょっと手違いでして」

 

 ほほほ……と笑うと壁の前に立つ。

 そこには直径一メートル前後の黒い円が形造られていた。絵ではなく、これは焼け焦げた後なのである。

 

 俺氏。ここってアレか?

 ○丸(レイガン)もとい、ビームライフルの弾着点か

 まだ直してなかったんだね

 そうか。ここの障壁も直ってないんだ

 スピリットイーター関連でゴタゴタしたから忘れてたのかな?

 

「これは……魔法の跡か? なんて強力な」

「子細はわたくしも存じません」

 

 しれっと嘘をつく。俺がやったと言ったらまた呆れられるだろうし。

 イザークの手を掴んでおく。離れるとバイタルジャンプで飛べないので仕方ないね。

 

「お、おい」

「行きますわよ?」

 

 くすりと笑って前を向く。虹の輝きがリング状に現れ、それが前から俺とイザークを包み込み……

 

 

「目を開けて下さいませ、イザーク様」

「え……ここは」

「屋敷の外ですわ。ようやく、成功ですわっ♪」

 

 ヒャッホウッ

 

 飛び跳ねて快哉をあげる俺をよそに、イザークはポカーンと口を開けていた。

 

「すごい……石壁も抜けちゃうんだ」

「身体強化でジャンプしてもいいのですけど、上の辺りの障壁は残ってますし。それに……」

 

 すぐさま路地に向かって走る俺に、イザークも慌ててついてくる。そのあと、しばらくすると槍を持った従士が二人来る。巡回で回っているらしい彼らは、壁の側にいた子どもたちに気づかずに立ち去った。

 

「人の目もあると思いましてね。正解でしたわ」

「き、君は……まさかこのために?」

 

 やや呆れ顔のイザーク少年。俺は悪戯の成功した悪ガキのように口角をあげて笑う。

 

「社会科見学の特訓ですわよ? イザークさま」

 

 どう見ても小悪魔の微笑み(笑)

 あー……こんな子なら悪戯されてぇ……

 もまえらイタズラする側やろ草

 

 とりま、周りの風景を覚えておく。『飲んだくれウォリーの酒場』と『ガイバーズ’バー』の間だな。ちょうどあの辺りのはず。

 従士がいなくなってから再度試してみると、ちゃんと中に戻れた。あの穴から少しズレても入れるので魔法障壁は少し広く壊れているらしい。

 戻ってくると、イザークが慌てて聞いてくる。

 

「ちゃ、ちゃんと戻れたのか?」

「ええ、問題ありませんわ。なんならお戻りになります?」

 

 そう聞くと、少し考えてからこっちを見てきた。

 

「つまり、君は戻らないつもりかい?」

「まだ何も見学してませんもの」

 

 コテン

 首を傾げると彼は額に手を当て、ため息をつく。

 

「日暮れまでには帰らないと。たぶんメイドにも迷惑かかるから」

「! それはいけませんわね。では、さっさといきましょうか」

 

 アンゼリカに迷惑はかけたくないしね。

 時間を守って戻ることにしよう。

 

 




 変装して脱出とか、秘密の通路からの脱出とか考えましたが、性格的にこうするだろうと思ったのでやめました(笑)

 あと、この後の話を書くにあたりアンケートを取ってみます。ちなみにモノによっては時間かかる可能性も微レ存(笑)


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13 別の国の別の人の話

 アンケートで次回の話を決めると言ったが、アレは嘘だ。あ、いや、嘘ではないんですが、間に一話挟ませて頂きました。


「あ”ーッ! もうやってられんっ!」

 

 静謐な空間だった漆黒の聖堂に、男の怒号が木霊する。

 

「魔王さま。当たり散らすのは確認済みの書類だけにして下さいませ」

「分かっておるわっ!」

 

 聖堂の一室。おそらく執務をする為の部屋に居るのは、年若い男とフードを被ったローブ姿の人影。おそらく女性であろうその人物は、散らばった書類を集めて決済印を確認する。

 

「たしかに。本日の分はこれで終了です」

 

 トントンと書類の束を整えると、フードがそう言った。男の方は面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

「我は最も強き魔族として先代より魔王を拝命したのだぞ? それが来る日も来る日も書類書類書類書類……こんな作業に強さは必要ないだろっ!」

「魔王様の印璽が無ければ魔神様に提出出来ません。何度もご説明申し上げたかと思いますが?」

「この印璽押すだけでも魔力使うんだぞ? こんな枚数押してたら、カラッ欠になっちまうよ」

 

 そう言って彼は自らの右の手の平を見せてくる。そこには禍々しい紋様が描かれてはいるが、フード姿は特に気にもせずにべもない。

 

「書類が届かねばコストの配分は来ません。方方で戦い、陣地を攻略したり、人間たちを殺したりした部下たちに報いる事ができません。損耗した魔物の召喚や治癒に必要なコストは、どう捻出されるのですか?」

 

 ねちねちと正論を展開するフード姿の人物。男は頭を抱えて耳を塞ぐ。

 

「分かってるよぉっ! でもさぁ、なんかオレ、スゴく扱い酷くない?」

「先代様も仰られたではございませんか。『我々は魔神様の手足となる為の存在。辛いかもしれぬが、お前なら立派にやり遂げられる』と」

「う、ぐぅ……」

 

 悔しさに歯噛みする男。言葉の端々にこの男が魔王であると示されてはいるが、いかんせん威厳がまるで無い。激務に耐えかねてふて寝をかます一歩手前のただの人間にしか見えない。

 

「そもそも。ここ数年の劣勢は魔王様が魔神様の不興を買ったせいではありませんか」

「うぐっ!」

 

 痛い所を突かれたらしく、男は胸を押さえる。

 

「『コスト6000程度の魔族を召喚して、アークステインのハーゼルツァット侯爵の屋敷を襲え。そこの子供を殺せばコスト8000の報酬。』」

 

 フード姿が語るのはその時に伝えられた指令の内容。

 

「なんでこの案件で10000も払ってスピリットイーターなんて上級魔族を送ったんですか?」

「……アークステインのハーゼルツァット侯爵と言えば最重要人物の一人だ。そこを殲滅出来ればコスト12000は硬いと踏んだ。だから万全を期してアイツに任せたんだ」

「それで? 結果はどうでした?」

「……スピリットイーターが撃退されて依頼は失敗」

「魔神様から下知がありましたよね。『あんな強い魔物を寄越せとは言っていない。言うことを聞かないならコスト配分は見直す』と」

 

 バァンッ

 左の拳を机に叩きつける男。机の天板は大理石のような光沢を放っていたのだが、今は無惨にひび割れてしまっている。

 

「それもコストがかかってるんですよ? 備品は大事に扱って下さいませ」

「分かってるっ!」

「ちなみに。領地として確保してコストを得る事は出来ますが。その際に運営に支障が出るとマイナス査定になる事もご存知ですよね?」

 

 魔王軍が領地として接収した土地は、十全と活かせる事が条件になっている。つまり、焦土と化したり、人間を皆殺しや不当な苦役によって経済活動が阻害されるような状態での接収では意味がない。

 

 多大なコストを用いて上級魔族を召喚するより、多くの低級魔族を使う方が正しいとされるのは魔王軍の行う最も基本的な行動規範にされているのは、こういう側面があるからだ。

 

「フォーセロットを落とせばアークステインの産業に打撃を与えられる。あそこは国内の経済の約18%を動かしているからな。こちらの前線への支援物資の多くもあの辺りからの援助が大きいとの報告もある。潰しておけばこちらも楽になると考えたのだ」

「欲をかいて魔神様の心象を悪くするとか、魔王様はひょっとしてお知恵が足りませんか?」

「くぅうう……」

「仰ることはもっともですが、我々は魔神様の命令により人間界を統治するという一大事業を任されているのです」

 

 フード姿のいう事はすべて正しく、魔神の命により人間の世を掌握するのが彼らの任務である。

 

「こんな中間管理職のような事をするために、我は力を磨いたのではないっ!」

「そうですね。ではたまには運動でもなさってきては如何ですか? 幾つかの地区の魔物の反発が強まっているとの報告がありますので」

「ようしっ! 行ってくるッ!」

 

 言うが早いか、男はマントを翻して飛び跳ねながら部屋を出ていった。

 

「ふう……」

 

 後に残されたフード姿のため息が響く。

 

「飛んでいく魔力は残してるじゃないですか……」

 

 それまでの感情のない言葉と違い、そのセリフにはこころが籠もっているように聞こえた。

 

「魔神様は、何がいたしたいのか。下賤なわたくしには図り知ることも出来ません。ですが、どうかあの方に辛いことはなさりませんよう願うばかりです……」

 

 漆黒の聖堂に響くその言葉は……祈りにしか聴こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、スッキリした」

 

 男は清々しい顔をして流した汗を拭っている。その後ろには、死屍累々の様子のオーガー、オークなどが転がっている。すでに死んでいるのだが、気にした様子はない。

 街の人間に乱暴を働いたり、食い殺したりするような奴らなので手加減などはしないのである。

 

「魔王様、お疲れ様でした!」

「ああ、気にするなラミロ。こっちもムシャクシャしてたから丁度いい」

 

 鎧姿の部下が近寄って頭を下げる。

 朗らかに笑いそう答える男には、魔王と呼ばれる荒々しさは感じられない。むしろ、好青年と呼べるほど爽やかだ。

 

「魔物は戦力としては必要だが……魔人以外には従わないからな。領民には済まないと思っている。手厚い保護をしてやってくれ」

「アリアドナ様のご指示のどうりにしております」

 

 ゴブリンに陵辱された婦女子には早急な処置を。家族をオーガーやオークに食われた家族にも法に則った方法で救済するようにと指示した筈だ。

 

 魔物達は労働などはしない。

 戦力としては使えるのだが、生産性のある事は全く覚えないのだ。

 

 魔王の国の本来の国民というのは、魔人達だけである。魔物というものは国民ではなく、ただの戦力。統治した後に必要な人間とはその価値は比べ物にならない。

 

 その人間に害をなした魔物にかける情けは無い。そうした魔物の粛清も魔人達の責務であり、義務。やるべき事をやらないのは、統治者として失格なのである。

 

 魔王は軽い運動と言ってこなしたが、オーガー六匹、オーク八匹、ゴブリン三十匹というのはかなりの戦力である。普通の魔人兵なら分隊位は必要だ。

 それを片手間に片付けたのだから、流石に我らが魔王様と傅くラミロであった。

 

 先程のフード姿、アリアドナが文官の長なら、ラミロは軍務を司る長である。

 

「ラミロ、久々に手合わせでもするか?」

「いえいえ、滅相もない。もう魔力も残っていない魔王様の権威を失墜させるなんてできませんよ」

「おう? それは挑戦と見た! 魔術無しでの立ち合いならばまだ出来るぞ?」

「では、お相手致しましょう。日がな一日、書類責めの魔王様がこの私に勝てますかな?」

 

 剣を構えて二人の男が対峙するのを見て、周りの魔人たちも声援をあげる。自らの国のトップと軍を束ねる将軍との立ち合いなんて、めったに見れるものではないからだ。

 

「どぅりゃあっ!」

「つぇぇあっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「魔王様、そろそろ身を固める決心はつきましたかな?」

 

 ところ変わって、酒の席。

 男の前には年を食った老人がいる。

 酌をする乙女を侍らすわけもなく、手酌をする男は鼻息を荒くして笑う。

 

「そんな気はないな?」

「それは、いけませんな。王国を支えるのは王の血統であります。それを絶やすなど、国が滅びますぞ?」

 

 そう語る老人に、男はかんらと笑う。

 

「我は孤児であるし、親の情というのも知らん」

「そ、そうなのですか?」

「人の王であった貴様には分かるまいが、魔王国では王は血筋で選ばれない。もっとも強いものを先代の王が選定し、魔神様の加護を受けた者が魔王としての座を得るのだ」

「な……」

 

 愕然とするかつての王に、男が語るように聞かせる。

 

「ちなみに王が倒れても、魔神様が直接魔王を選定するので、我が跡継ぎを選ばなくても構わんのだ」

「それでは……」

「お前の娘や孫を我に差し出して、内より魔王国を治めるなど不可能ごとよ。下らぬ奸計をするより人間たちの統治にこそ尽力するべきだよ、ダヴィド国王陛下」

 

 ニヤリと笑い、酒をあおる男。ダヴィドと呼ばれた老人は、少し気色ばんだ様子で語りかけてきた。

 

「それでも……。世継ぎは残すべきだとは思いますぞ」

「ほう……なにゆえに?」

「魔王陛下のお心に潤いをもたらすため……とでもいいましょうか」

「うるおい?」

 

 怪訝な顔をする男に、老人は目をそらさず続ける。

 

「妻を持ち、子を成す。それが王として継がなくても、あなたの存在を後世に残すために必要になります」

「そうして次の魔王と争えと? 内部分裂を望むとはなかなかに陰湿で汚らしいやり口だな?」

 

 威圧を込めた視線に、老人の額に汗がにじむ。しかし、彼は言葉を止めず言い続ける。

 

「お気に触ったのであれば、どうぞ処断下さいませ。国を捨て、王の地位を開け渡したわたくしには、すでに捨てるものはこの命以外はありませぬ」

「……そこまでの覚悟で何を言うのだ?」

「わたくしも人に説教出来るような人間ではありませんでした。奸計を用い、策略をもって人を殺め、遠ざけていた人非人でございます。それによって得られるものがなんであるか、その素晴らしさを説く事など許されません」

 

 自らのしてきた事を悔いるような事をつらつらと述べる老人。それは懺悔をする罪人のような風情だった。

 男は酒の笏を振り、老人の前に突きつける。

 

「俺をお前たちの神父と勘違いするなよ? お前たちの国を滅ぼした魔王だぞ?」

「……左様でございますな。老人の戯言とお笑い下さいませ」

 

 頭を垂れる老人に、男は酒の龜に笏を戻して外を向く。

 

「もし、結婚するとしても……俺は自分の気に入った奴以外はイヤだ」

「わたくしの娘や孫とは申しません。もちろん魔人の方のほうが宜しかろうと存じます」

 

 そう答えた老人は、ひと仕事終えたような顔をしていた。男はくっくっと笑う。

 

「なんでそんなに俺のこと気にすんだよ? 侵略した魔王なのに」

 

 その言葉に老人は。

 にこりと笑って答えた。

 

「国に尽力するのは、家臣の務めでありましょう?」

 

 その言葉に毒気の抜かれた男は、大きく笑った。それから、少し考えてみることにした。

 

 自らの伴侶、というものを。

 

 




 敵方のお話でした。なんか魔王軍、意外とマトモ?


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14 街で色んな人に会う

 とりあえず、街中での買食いルートに入ります。
 ご投票ありがとうございましたm(_ _)m


 さて。よーやく街へやってきたぜ。

 したらばどーすんべか?

 

 フォーセロットのマップあったっけ?

 管理者が持ってる

 ちょっと待ってて

 

 コメント送ってくれてる連中は、この世界ではないところの管理者達だ。リアルタイムでこの世界のことを知るのはなかなかに難しいかもしれない。

 

「この辺りは子供が彷徨く場所じゃないよ」

 

 イザークがそう言って来たので周りを見ると。ああ、たしかに。

 

 さっきも二軒の酒場があったが、昼日中だというのに屋台に椅子を並べて酒を飲むおっちゃん達がいたりする。

 

 向こうの酒場からは、男前の兄ちゃんがケバい化粧のお姉ちゃんを腕に絡めて出ていった。お持ち帰りというやつか……昼間からお盛んなことで。

 

「? なんか気になるものでも見つけたのか?」

「な、何でもございませんのよ?」

 

 おっと。少し動揺が出てしまった。

 顔が火照っているので、ぱんぱんと叩いて、と。

 

 リーセロットたん、マセてるぅ(笑)

 そらそうよ、俺氏だもん

 俺氏もお持ち帰りしたことあるん?

 

 ねぇわっ!

 そんな金無かったしな。

 

 管理者と話してたらイザークが声をかけてきた。

 

「一度も出た事無いなら、俺の方がまだ分かるか」

「そうですの?」

「たぶん。行こう」

 

 酔客達の横を通り過ぎる。ちらりと見たら、屋台の中には何やらモツ煮のようなものがぐつぐつと煮込まれている。

 意外と旨そうな匂いに釣られて見ていると、周りのおっちゃん共もこちらを気にするように見返してきた。

 

「ん? なんでぇ、腹減ってんのか?」

「ずいぶんちっけぃなぁ。肉食ってねえだろ?」

「一口ならいいぜ。ほら」

 

 中大小といった感じのおっちゃん三人衆が、砕けた感じでそう話してきた。ちっこいおっちゃんがなんだかよく分からない肉の塊をフォークの先に突き刺して出してくる。

 

「んーと、ゴチになりまーす♪」

「わ、バカ……」

 

 イザークが止めるのを待たずにフォークに食らいつき、口の中に納める。

 

 あー、このバカやろども(# ゚Д゚)

 リセたんと間接キスとか氏ね

 タヒれっ!

 なんの肉かも知らんのに食うとかワロタ

 管理者にコイツらのID聞いてくるか……ユラァ

 

 オマエらちょっと騒ぎすぎだろ。人が食ってんだから毒のわけないし。子供に分けてくれるいい人なんだから報復とかやめとけよ(-.-)ムッ

 

 あ、はい

 サーセンした

 

 全く大人気ない連中だなぁ。

 もっきゅ、もっきゅ……感じからするとやっぱモツ煮。ただ下拵えがテキトーで硬いやら切れないやら。臭味は残ってるけど、食べられない程ではない。独特の匂いがするのでたぶん香りの強いハーブを山ほど入れてんじゃないかな? 味はそこまで悪くないけど、硬さと臭いのでそこがマイナス。

 

「ありがとうございます」

「お? おう……」

「そっちのアニキもいるか?」

「い、いえ。急ぐんで」

「ちゃんと食わせてもらえよー」

 

 イザークが腕を取るので、三人のおっちゃんに手を振りつつ後にする。慌てる必要ないのに。

 

 しばらく行くとイザークが振り向いて怒ってきた。

 

「バカッ、知らない人から出された食い物、食べてんなよ!」

「えー? だって、厚意で下さったのですよ?」

「……自分が貴族の子供だって忘れてるのか?」

 

 小声で叱るイザーク。

 そりゃあ忘れてないけど、そんなに怒ることでもないと思う。俺が不服そうな様子なのを見ると、彼は呆れたように肩をすくめた。

 

 普通は警戒するものだと思うよ

 まあ、初めて自分を知らない平民を相手にだしなぁ

 屋敷では平民の料理人が作ったもの食べてたから、あんまり抵抗はないのかも。

 

 チャットの方でも俺は否定派が多いらしい。

 そうかなー(^^ゞ

 

「貴族は敵が多いって教わらなかったのか? 食べ物なんて一番警戒しなきゃいけないものだろ」

「……? あの方たちが食べていた物ですし、毒なんて入ってるはずありませんよ?」

「うぐ……で、でも。無警戒に口にするのはダメだ。平民の食べ物は衛生的でないと父上も仰っていたから」

 

 ああ、なるほど。たしかにそういう危険性はあるな。食べ慣れないものを食うと腹を壊すとかあるし。

 

「それに奴らの食器で食べるなんて……」

「? どうかしまして?」

「い、いや。なんでもない! とにかく、物を食べる時は俺が先に食べる。安全を確認してからだ」

「分かりましたわ(クスッ)」

 

 イザークもそこは気になったらしいw

 少しほっこり(笑)

 気付かなかったのは俺氏だけか

 

 ……そんな乙女回路、

 ないから分からんよ( ´Д`)=3

 まあ、気にはしてくれてるってのはポイント高いかな。どうやら毒見役も買ってくれるらしいし。頼もしいことで。

 

「あと。その口調もやめた方がいい」

「口調……ですか?」

「ただでさえ声が可愛いんだから、そんな口調じゃあ女だってバレバレだ。貴族の子供だってバレたら誘拐されるかもしれないんだ」

 

 少し凄んでこっちを睨む。

 意識してないかもしれないけど……可愛い声とか言うなよ。ちょいと恥ずかしくなったんで、答えるのにまごついたじゃん。

 

「そ、そうですわね」

「違う。そうだな、だ」

「んと……そうだな、イザーク」

 

 リーセロットたんの男の子声来たっw

 これはイイね!

 わりと低い声も出せるんだね

 ボイス販売してくれないかな……д゚)チラッ

 

 コイツら……今でも金余りまくってるのに販売なんてするわけねーだろ(笑)

 

 意識してみると、ちゃんと男言葉で話すことが出来た。少し低い声でと言われたので何度か練習すると、うまく出せるようになった。

 

「それと呼び名も変えよう。リーセロットって名前は、この街だと特別な意味を持つからな」

 

 それも尤もだ。

 しばし考え、頭文字の同じ男の名前に決めた。昔の俺にも関わるものだ。

 

「それじゃ、俺のことはレオと呼んでくれ」

「うん。よくありそうでいいと思う」

「あなたは変えなくてよいのですか?」

「戻ってるぞ」

「あ……変えなくていいのか?」

 

 クックッと笑うイザークを睨めつけ、言い直した。こいつ、意外と性格悪い。

 

「イザークは結構いるだろ」

「それじゃあ面白くないで……ないよ」

 

 そう言って、少し考える。確か英語だと違う読み方になったはずだけど。

 

 レオ君か。イイね

 そっか。俺氏、八月生まれだっけ

 星座かー、こっちは違うからな色々と

 十二宮はあるけど星も形も全然違うからねw

 

 そうなのか。こんど本で調べてみよう。

 それはともかく何だか出てこない。有名な人と同じ名前だったはずだけど。

 

 もしかして。アイザック?

 アイザック=ニュートンか

 

 それだっ (`・ω・´)シャキーン

 

「アイザック、なんてどう?」

 

 そう聞くと彼は少し考えて頷く。

 

「語感も変わるし、いいかもな。じゃあ、俺はコレからアイザック。君はレオだ」

「おう、頼むぜ。相棒(バディ)

 

 拳を出してやると、向こうもそれに合わせてコツンとぶつける。

 

 お、悪ガキムーブしてますね♪

 イザークも少し楽しそうだし

 動き出したな。

 管理者、マップ早く持って来いよ

 マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

 

 

 確かにマップあると便利だけど、まあダンジョンとかじゃないんだし平気やろ(笑)

 

 路地を歩いてると一人の男が壁に寄りかかって倒れていた。気になって近づこうとしたら、アイザックに止められた。

 

「ただの酔っぱらいだよ。ほら」

 

 彼の指差す所には素焼きの壷が転がっている。下の部分に編みの付いた物で、たしか庶民が酒を買う時に使う物だったはず。

 

 なるほど。

 

「酔っぱらいの相手は従士か警吏の仕事だ。ほっとけ」

「まあ、そうですね」

「く・ちょ・う」

「そうだな(キリッ)」

 

 あれ……ま、いいか。

 余計なこと言うと面倒ごとに巻き込まれるからね、たぶんw

 いちいち突っ込まれるな、リセたんw

 ……その言い回し、すげぇ刺さるわ

 そういや、今日は草の人いねえな

 いつもならキモいとか突っ込むんだけど

 ツッコミ待ちなのはウチラも同じかw

 

 いや、ツッコミ待ちとかじゃねえから!

 素で間違えただけや、一緒にすんな(笑)

 

 今日もキレキレリーセロットたんw

 今はレオ君だろ?

 そやな。お、人が多くなってきたな

 

 

 コメントの通り、行き交う人が少し増えてきた。

 小太りのおばさんやかごを担いた腰の曲がったお爺さん、別のおばさんが持つ編みカゴには大根とかレタスみたいな野菜が満載している。俺らみたいなガキも両手に荷物を抱えて行ったり来たりしている。

 

 どうやら市とか商店街が近くにあるらしいな。

 

「ときに、レオ。お前金持ってんの?」

「ありますわよ、っと、あるよ。ほら」

 

 そう言って保管(ストレージ)を開ける呪文を小声で唱える。杖はあるけどここで取り出すのはマズイ気がしたのでやめた。どうせ俺がミスする訳はないので。

 

 アデルベルトの注意を思い出したので、両手で囲って周りに見えないようにする。

 保管(ストレージ)を開ける時に魔力の光が出るので、それを隠すためだ。ぱっと手をどければ、そこには金貨が一枚乗っていた。

 

「はい」

「はいって……お前、これここで使えると思ってんのか?」

 

 アイザックが目をジトっとさせて見てくる。

 う……なんかやらかしたっけ?

 

「つ、使えませんの?」

「戻ってる」

 

 アイザックがいわゆるデコピンをしてきた。

 思わず声が漏れる。

 

「あうっ」

「あ、ごめん……痛かったか?」

 

 心配するように言ってくるので、平気と答える。それに、ちょっと嬉しかったりもする。

 こういう何気ない友人のやり取りって、懐かしい。

 

「つい、妹にやるみたいにやっちまった。悪い」

「気にしてないぜ。それより、使えないってどゆこと?」

「ああ、それはな」

 

 平民の間では金貨はあまり使われないからなんだとか。なので換金の必要があるそうだ。

 

 さりげなくイチャつくw

 本人たちは気にしてないけどな

 俺もリセたんと話したいなぁ……

 ワイは話した事あるけどな

 俺もだな

 地球の管理者はともかく、お前はラーメン頼んだだけだろっ!

 それはともかく、どうだった?

 えっとなあ……気さくでエエ子やったで? 確かに天使ってのはああいうのを言うんやろなぁ(陶酔)

 裏山氏ね

 炎上すればいいのに

 ワイの世界、今炎上中やさかいw

 そういう意味ではない( ー`дー´)キリッ

 

 コイツらに聞こうかと思ったけど、声をかけてくる人がいたから止めた。

 

「そんなモノ出してると碌なことにならんぞ?」

「え?」

 

 サッ

 そう返事をする俺の前に、アイザックが立ちふさがる。

 

「警戒するのは分かるが、それでは失格だな」

「なにぃっ?」

「この間合いに入られた段階で既に君らに勝ち目はない。そうだろう? 小さき魔術師よ」

 

 坦々と呟くような言葉を発するのは、背の高い兜を被った人だった。腰には長剣を佩いているが、防具のような物は着けていない。

 なのに、兜だけは面頬まで下ろして顔が見えないようにしている。怪しいことこの上ない。

 

 冒険者か?

 うん、コイツ怪しいw

 IDが見えないな。偽装してる、しかもかなり高レベルだ。

 ウチラでさえ欺くとか、ただモンやないで。注意せえや、お嬢!

 

 なんと。こんなでも世界を管理している連中の目を欺くなんて、普通の人間にできるのか?

 にわかに緊張が増すけど、当の本人は殺気のようなものを微塵も出さずにこちらを、見下ろしている。

 

「君たちを害するつもりはない。換金するのだろう? 両替商の所へ連れて行ってあげよう」

 

 そう言うと、ついっと振り返り歩き始める。

 

「おいっ、またお前は勝手に」

「騙すつもりはないみたい、だぜ?」

 

 そう答える俺には確証があった。何故なら。

 

 ようやく間に合った……これがフォーセロットのマップだよ〜

 一応最新版らしいけど、一週間くらい前のらしい

 

 これによると、あの冒険者風の奴が進む先には確かに両替商がいる区画があるらしい。

 さんくすっ! オマエら。愛してるぜぃ!

 

 ぬわーっ、マジですか♡

 レオ君状態でのウインクとか、新鮮だなw

 ショタに目覚めそう……ドキドキ

 大丈夫だぞ、アレはリーセロットたんだからな。間違いなくお前はロリコンだ!

 

「本来、店を構えてる奴の所に行くのが正しいのだが……私のツテで構わないかな?」

「あなた……あんたが間に入ってくれるんなら話が早そうだ」

「おい、あんまり信用するな、レオ。何者かも名乗ってないんだぞ?」

 

 兜と話してるとアイザックが割り込んでくる。彼を一瞥すると兜は「ディーデリックだ」と名乗った。そして、アイザックに向かってこう言う。

 

「人と話している時に猜疑心を出すのは悪手だ。もっと泰然と構えることも必要だぞ」

「……く」

 

 アイザックが悔しそうに呻く。どう考えても俺のこと心配して言ってたんだよなぁ。

 でも、男の子としてのプライドもあるだろうから、敢えて無視します(キリッ)

 そういうのも含めての社会勉強だもんね。

 色々学んでいい男に育ってくれぃ。

 

「しかし、少年の危惧も分かるな。君はもう少し警戒するべきだと思うがね?」

「おや? 今度はこっちにダメ出し? あんたも意外とお節介焼きだね」

「ふふ。しかも口は減らないか。存外肝が太いようだな」

 

 そんな会話をしつつ歩いていると、橋の袂に座る男の前で立ち止まった。その男の前には天秤計りのような物が置かれていて、立て看板には『両替します』とだけ書かれている。

 

「リューク、仕事だぞ」

「なんでぇ、ディードの旦那かい。昨日両替したばっかなのにまたかい?」

「正確には仲介だ。ほら」

 

 そう言って、俺の背中を押すディーデリック。口振りに反して優しげな押し方なので、転げる事はなかった。リュークと呼ばれた両替商は、やや胡乱げにこちらを見る。

 

「こいつを両替してくれ」

 

 リュークの手のひらに金貨を置く。ひと目見てぎょっとして、目を剥くとディーデリックへと文句を言った。

 

「こいつはなんの冗談ですかい?」

「ははっ、すまない。こいつらはとある大店(おおだな)の子供でな。丁稚をさせるわけにはいかんが、両替くらいは覚えさせたいと頼まれて来たんだよ」

 

 ディーデリックがすらすらと話している。アイザックが違うと言おうとしたので、しがみついて黙らせる。

 

「何で止める?」

「まあ、見てなさいな」

 

「ああビックリした。未使用のゴルダ金貨とかなかなか見ませんぜ?」

「手垢の付いてない逸品だ。色を付けてもバチは当たらんかもな」

「旦那にゃかなわねえなぁ。手数料半分でいいッスか?」

 

 ここで兜の男は肩を落とすような仕草をした。

 

「お前の気持ちはそんな程度だったのか……次から別の奴に頼むとするか」

 

 ため息をつきつつそんなことを言うと、両替商が頭をかきながら喚くように答える。

 

「かあーっ! 七分! 旦那との仲だからだぜ?」

「ふ、良かろう。銀貨二枚分を大銅貨にして、残りは銀貨だ。それで良かったんだよな?」

 

 こちらを見下ろしながらディーデリックが言うので、うんうんと頷く。両替商が天秤に金貨を置いて重さを確認している。

 

「よし。間違いなく上物だ。待ってろ、坊主ども。えーと……」

 

 そう言いながら、ジャラジャラと貨幣を取り出して並べていく。銀色の貨幣、銀貨が七枚。銅色の少し大きめの銅貨が二十七枚並べる。

 

「大銅貨三枚は手数料だ。両替する時はだいたい一割が相場だから出来るだけ細かい銭を持つようにするんだぜ?」

「ありがとな、おっちゃん」

 

 革の袋に銀貨と銅貨を分けて入れる。というかかなり重いな。アイザックが数の多い大銅貨を持つと言ってくれたのでありがたく受け渡す。

 

「あ、そうだ。アイザック、中から大銅貨二枚、取ってくれない?」

「ああ、いいぜ」

 

 取り出した大銅貨をディーデリックに差し出す。

 

「仲介料とか分からんから、アンタが値切った分、渡すよ。相場教えてくれたら、そっちでもいいですけど」

 

 すると。兜の男は肩を揺らして笑い始めた。

 ん? なんか、間違ったかな?

 

「いや、スマン。こういう場合、取引の三分から五分くらいは請求出来る。商業組合や王国商業法にも記載されている」

「そうなのですか……その辺りはまだ教わってないので」

「おいっ、レオ! 口調、戻ってる!」

「あうっ?」

 

 口に手を合わせて塞ぐけど、出した言葉は戻らない。ちらりと上を仰ぐと、兜を細かく揺らしている。また、笑ってる?

 

「クックッ……なるほど。これは奴らの言い分も分かるな」

「やつら?」

「ああ、これは失言だ。この金はもらっておくよ。ちなみに買い物には大銅貨を使いたまえ。君らの年では銀貨はやや釣り合わないからな」

 

 そう言って、彼は手を振って街の雑踏に消えていった。

 

「何だったんだ……アイツ」

「物好きで親切な人だろ?」

 

 気にはなるけどそんな詮索をしてもしょうがないし、それに今は街を満喫しないとなっ!

 

 おい、アイツの身元調べるって出来る?

 管理者なら可能かもしれんが

 あんまりアレコレ言うのもなぁ

 さっきマップ要求したし

 ふむ……害が出るまでは放置するか

 ホントにいい人の可能性も微レ存

 だよな。レオ君、可愛いしw

 お、市場の方に行くみたいだぞ

 

 




 自分に置き換えるとかなり考え無しですね、俺氏(笑)
 アイザックことイザーク君の胃が心配です。


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15 屋台巡りを堪能なうw

 


 マップによると、メインストリートには市場とは別に露店の店が多いとある。夏場なせいか果物や野菜なども豊富だ。買食いをするにはこの辺りが最適だと思われる。

 

 メインストリートには馬車やらロバやらが通行するエリアが真ん中にあって、露店はそれを背にする感じで並んでいる。

 

「来た時も思ったけど。やっぱり活気があるな、この街は」

「そうなのか?」

「まあ、俺もここ以外は自分の所しか知らないけどな」

 

 アイザックも俺もまだ七歳。

 このあたりは似たりよったりなはず。

 ならば、この胸の高鳴りも理解できるだろう!

 

 そ、それを知るには……触らないとっ

 (笑)

 (冷笑)

 オマエ、過度なセクハラは赦さんぞ?(ニッコリ)

 は、ハハ……サーセンm(_ _)m

 ここはガチ勢いるから気ぃつけや?

 

 自治厨乙。

 てか、あんま目クジラ立てんな。

 どうせほら。まな板やぞ?

 アンゼリカに洗われててもこそばゆいくらいしか感じないしなw

 

 アンゼリカ……アイツに憑依すればその感覚を……(゚A゚;)ゴクリ

 それならイルセたんがいいなぁ、ワイ

 

 ……おい。ソレこそライン超えだからな

 (# ゚Д゚)

 ウチの関係者に手を出したら絶許。

 

 アッ ハイ

 スミマセンデシター(_ _;)

 デキゴコロナンデスー

 ユルシテクダサイ……

 

 まったく……くだらん話のせいで屋台を見るのがおろそかになったじゃんか!

 

 

 まずはと、割と大きめの果実に目を向ける。

 見た目はメロンとか瓜のようだ。なんとなく甘い香りがする。

 じー、と見てると露店のおっちゃんがこちらに気付いたのか声をかけてきた。

 

「どした、坊主。お使いか?」

「これ、食べられる?」

「シロウリとアカウリ、どっちも銅貨五枚、半分なら三枚だな。川で冷やしてから食った方が美味いが、そのままでも十分甘いぜ?」

 

 うん、やっぱりスイカみたいな果物らしい。アイザックに聞くと、食った事が無いらしい。

 

「おっちゃん、一個買うから四つくらいに切ってよ」

「それくらいはやってやるよ。食い方、知ってるか?」

「齧りつくんじゃないの?」

「あってるが、種は食うなよ? 腹を壊すかもしれん。あと、皮のあたりは味がないからな。ほらよ」

 

 ザクッ、ザクッと包丁で切ると、中が真っ赤なまさにスイカである。てことはシロウリは身が白いのかな?

 

「お、おい。匙はないのか?」

「アイザック、これはそのまま……」

 

 と言って、がぶりと齧りつく。

 食感はスイカだけど味はメロンに近い。甘みもそれなりにある。ただ、やっぱり種が邪魔だね。もごもごと口の中で選り分け、吐き出そうとするとおっちゃんが待ったをかけた。

 

「どうせ捨てんなら種くれないかね?」

 

 と言いつつ、側に置いてある桶を指差す。竹のような物を編んだ籠がその上に置いてあって、種がそれなりの量溜まっていた。

 

「ん」

 

 頷いて、そこへ種を吐き出していく。ちなみに種は白い色をしている。シロウリの場合、分からないかも知れんな(笑)

 

「お、おまえ……なんて下品な」

「ん? そう?」

 

 アイザックが驚いているが、スイカはこうして食べるもんだ。おっちゃんも当たり前だと言わんばかりに彼を見ている。

 

 おっとこ前やなぁ

 ほれぼれすんね、この食いっぷりw

 貴族の娘の所作ではないな(笑)

 

 今は平民のガキRP(ロールプレイ)なんだからコレで合ってるだろ? フンスッ

 

 

「うまいぜ。食ってみなよ?」

 

 と奴に勧めつつ、もう一口。子供なせいか、それとも女のコだからなのか、一度に入る量が少ないので時間がかかりそうなのだ。

 俺の食べてるのを見て、意を決したようにかぶりつくアイザック。

 

「!」

どうだ(ろうら)? 美味いだろ(ふわいらろ)?」

 

 口に含んだまま喋ったら、わけ分からん言葉になった(笑)

 

 これも家では叱られるのだけど、今ここにそれを咎める大人はいない。

 いやー、自由ってイイなっ!(小並感)

 

 咀嚼して、ザルの上に種を吐いてからアイザックが驚いたようにつぶやく。

 

「おいしい。こんな果物、食べた事が無かった……」

「ありゃ? アカウリ食った事もないとか珍しいな」

「わた……俺も食った事なかったけど?」

「はあー、さてはお前ら他所から来たんだな? よく見りゃいい(べべ)着とるしなぁ」

 

 屋台のおっちゃんが顎を擦りながらそう言った。えー……、この恰好でも良い感じに見えるか。

 

 そらそうやな。おっちゃんなんて黄ばんだランニングみたいだし、行き交う人も大概そんな感じ。女の人はそれなりに露出は少ないけど、まあ似たような感じだ。

 

「アカウリもシロウリもこの辺じゃあよく取れるけど、他の地方だとあんま食えないからなぁ。北の方だと、種しか食わんとか言うし」

「へぇー、そうなんだ」

 

 受け答えする間ももぐもぐと口は動かす。それはアイザックも同じ。マジ旨そうに食うなぁ。

 

「この侯爵領は農産物も良く出来るけど、そのお陰で畜産にも力を入れてるぞい。その辺の屋台を覗いてみな?」

「うん、ありがと。おっちゃん」

 

 ちなみに代金は先払いしてある。こういうとこだと持ち逃げとか普通にありそうだし。

 食べ残した皮をザルの下の桶に捨てると、今度は煙を上げてる屋台へと向かう。

 

「次はあそこ、行こう」

「ちょ、ちょっと待てよ。残りのアカウリ、どうすんだ?」

「あ、そっか。悪い」

 

 アイザックに持たせたままなの忘れてた(笑)。半分に割ったアカウリに口を拭いた手巾(ハンカチ)を被せ……ぱっとどけるとそこには何もなくなる。見た目からはただの手品だけど、タネも仕掛けもありますよ?

 

保管(ストレージ)の発動早っ?」

「呪文唱えてないからね♪」

「相変わらず、とんでもねえ」

 

 彼のボヤキを聞くよりも、先に屋台に行こう♪

 

 扱いが雑でワロタw

 この世界だと無詠唱ってかなりの熟達者じゃないと出来ないんだよな?

 魔力とイメージ力が双方高くないと無理。

 魔力はともかく、イメージ力が基準に達するのはなかなかに難しいかもね

 

 煙を上げている屋台は、思ったとおりやきとりだ。炭火で焼かれる細かく切った鳥肉がジュワジュワ脂を落としながら焼かれていて、見るからに食欲をそそる。

 

「おっちゃん。二、いや四本くれっ」

「あいよ。36セルダだ」

 

 セルダというのはこの国、アークステインの通貨単位である。セルダ銅貨一枚が十セルダ。セルダ大銅貨が百、シルダ銀貨が千、ゴルダ金貨は一万セルダとなる。

 銅貨を四枚出して、お釣りに小さな板を四枚渡してくる。これが最小貨幣、セルダ賤貨だ。

 俺も見るのは初めてだ(笑)

 

 銅貨、大銅貨は中に図柄もあるし数字も描いてあるが、賤貨には花の図柄を打ってあるだけだ。

 

 賤貨も銅貨も実は青銅だね。

 大銅貨はニッケルが入ってるよ。感じから言うと百円玉とかに近いね。

 詳しく聞きたきゃアデルベルトが詳しいはず。

 

 そういうのは別にいいや。その内嫌でも教えられるんだろうし。

 それよりも今は焼鳥である。おっちゃんが炙っているのはどれも部位が違う。一つの串に皮と肉が、砂肝とももがなんてやり方だ。

 むむむ……なんてテキトーな!(怒)

 

 そんなに食文化発展してないからね、ここw

 さっきのモツ煮でお察し

 たぶん、これもそんなには旨くないと思うに100

 ガンバレ リーセロット!!→100

 他の奴が投げるの(笑)

 上手くないから俺も投げる→100

 

 あー、シャリンシャリン、相変わらずうるせーなw

 

「おっちゃん、これとこれ。あとそっちの並び二つ」

「お? 坊主、部位とか分かんのかい?」

「ないぞーは分かんないけど、肉と皮は区別つくだろ?」

「はは、違いない♪ そういうあけすけな奴は嫌いじゃないぜ。ほらよ」

 

 分厚い葉っぱに串を四本並べて渡してくれる。薬味や香辛料の類いは置いてないので店の味付けだけが頼りだね。

 

「待て。俺が先に食うって言ったろ?」

「……そうだったな。わりぃw」

 

 

 アカウリの時、忘れてたよなw

 言ってやるな。少し面食らってたし

 

 

 アイザックに差し出すと、彼は皮の方を掴んだ。エイヤッと口に含み串を引き抜く。半分くらいを残して咀嚼……そして、彼の顔色が変わる。

 

「うまい……うまいぞ、レオッ」

 

 おお、かなりな好感触♪ これは期待できますねっ!(フラグ?)

 

 いざ、口に含んでみる。

 くっちゃ、くっちゃ……うん。

 やはりお察しか。

 

 ──味の塩梅は悪くない。でも、部位毎に焼き方を変えてないから、皮は焼け焦げてて、腿だか胸だかの肉は中まで火が通ってない感じだ。

 あと、唐辛子みたいな香辛料も無いのが地味にキツい。わりと脂が多いようで炭火で焼いてるにも関わらずかなり残っている。

 そのため、若干のクドさがマイナス要因と言える……でも、安さを考えたらこんなものか?

 

 グルメみたいに語ってる……え? リセたんそんなキャラだっけ?

 お嬢は食には並々ならぬ執着しよるで……ラーメンダメ出しされたからのw

 ワイ氏、そこんとこ詳しくw

 地球の管理者、食いつき早っ

 出汁が足らんとか、麺が良くないとか……初見醤油やないとイヤとか訳分からんかったw

 ああ……けっこう拗らせてますねw

 →1500

 

 そこで無言スパチャやめーやw

 人間なんて一生に食える量なんてたかが知れてるんだから、拘ってもおかしくないだらぁっ?

 

 スイマセンm(_ _;)m

 サーセン(._.)

 ペコリ →3000

 詫びスパチャ →2000

 

 お前ら困るとスパチャだよな。ありがとー♪

 

 にしても、イザーク、いやアイザックはこんなの、よく旨いとか言ったな?

 

「アイザック、美味しそうに食べるな」

「温かい肉って旨いよな。俺も父上と出かける時の料理が一番好きでさ」

 

 爽やかに笑いながら、かなり寂しい事を言いやがる……あ、目から汗がw

 

 あー、貴族のご飯て大概冷めてるからね

 スープくらい? 後は作り置きのを並べてるだけだし

 

 そうなんだ。

 ウチは母親(リーサンネ)が作ること多くて、他の料理とかも温め直したりして出せと命じているせいか、気にもしなかったけど。

 

 君んとこは特殊なんだよw

 リーサンネは男爵家といっても貧困寄りだし

 平民は温かい料理食うのが普通だからね

 

 なんでなん? なんか理由があんだろ?

 

 それこそ、毒殺とかだよw

 そういうのを警戒してたのが慣習になって、料理を作る人間は限られるようになる。

 メイドが料理に触るのは、給仕の時だけだし

 そうして温める事すら出来ない状況が作られるのさ

 

 なーる……んじゃあ、アイツがうちの料理に喜んだのもそういう理由だったのか。

 

 まあ、かーちゃんの料理は旨いと評判だったしね

 伯爵も内心楽しみにしてたんだよw

 あれも素直じゃないからな

 

 ふむぅ……

 ま、とにかくこのやきとりはちょっと頂けないかな。俺の残りは保管(ストレージ)にしまってと。

 

 さて、次に行こう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何軒か梯子してみて分かったことは、やっぱりそれなりというところだった。

 

 素材が良いけど調理がまずいとか。

 野菜や果物も良い物と悪い物の混在が激しい。品もよく見ると似たりよったりな物が多い。

 

 そんな中で声をかけてきた子供がいた。

 

 と言っても、こっちよりは年上。たぶん十二くらいかな? 黒っぽい髪が少しアフロっぽく見える。ヒョロいけど筋肉はそれなり。

 そして何より。この暑さに薄手とはいえジャケットを羽織っていて、その下に僅かな膨らみ。

 

 これは乗るべきだろうね♪

 

「ココより旨いメシがあるとこ、知ってるぜ? よかったらどうだい?」

「ああ、いいぜ。ウマイ獲物を探してたんだ♪」

「? お、おい。レオ、お前はまた勝手に……」

 

 アイザックが止めに入るけど、ここはご招待に応じたい。なので。

 

「行こうぜっ アイザック(≧∀≦)b」

「……お、おう……(ポッ)」

 

 だんだん操縦が上手くなっててw

 あー……イイね。この笑顔 →15000

 パシャ →3000

 トラブルに飛び込んでいくスタイルか……GJ○

 お前さぁ……嫌われる前にヤメよ?

 

 

 さて。

 次は社会科見学か。

 それとも運動の時間かな♪(クスッ)

 

 

 




 文化水準もあるけど、基本として食に旨さを追求する平民は少数派です。食えればいいというのが基本的なスタンスなので、俺氏の期待に応えるのはなかなか難しいかと(笑)


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16 まちの子どもたちとのバトル

 クリスマス更新出来ずにスイマセンでした。
 忙しくて体力も底をついて頭が回りませんでした。
 


「ノコノコ付いてくるとか、おめでてぇガキ共だぜ」

 

 俺たちをここまで連れてきたアフロ髪がそんなふうに嘯く。彼の周りにはボロを着た子供たちが取り囲むようにいる。その数はたぶん三十人くらいだ。大人の姿が見えないところを見ると子供ばかりのギャング団といったところか。

 

「レ、レオ……」

 

 さすがのイザークでも、この人数となると怖じ気づくらしい。まあ、そりゃそうだな。

 とある映画では見た貧困街の子どもたちは、人殺しを屁とも思わないギャング相手に平気で殺し合う事だってしたのだ。彼らがそうしないとは言い切れない。

 

 もっとも、ここの子供達はそこまで追い詰められてはいない感じがする。むしろアフロや取り巻きの何人かに強制されてここに来ている感じにも見える。

 

「有り金全部置いてけば、命は取らないさ」

 

 アフロがそう言って、手の平を上に向けて出してくる。イタズラ心が刺激されて、この上に俺の出せる金貨全部ぶちまけてやろうかな、なんて考えてしまった。

 

 手、潰れるからね

 手だけじゃ済まないと思うな……

 ま、まさか本気じゃないよね? ビクビク

 

 いや、やらんけど。

 

 けど、実のところ。

 俺はテンションが下がり始めているのを自覚している。

 

 俺としては、悪ガキの鼻っ柱を折るつもりだったのだ。

 

 このアフロと取り巻きの三人、合わせて四人はそうしてもいいかもしれない。それなりにガタイも良いし、悪い事と知っていても金目のものを奪いにいく前のめりな姿勢はいっそ清々しく思える。コイツラは叩けばその分伸びるかもしれない。

 

 でも、その他の子どもたちはというと……そんな覇気もない様子だ。アフロと取り巻きが金をせしめても、彼らにはほぼおこぼれはいかないという事が日常的に行われているのであろう。

 

 そんな子供たちを暴力をもって相対するのは、人としてどうかと思えてしまうのだ。

 

 リーセロットたん、クソ真面目(笑)

 そこがいいトコだろw

 アフロと取り巻きが悪いなら排除する?

 

 まあ、それか。ガチでやると瞬殺出来るけど、それもなんか大人気ない気がするな。

 弱いものイジメイクナイ(゜゜)

 

 傍から見たら勝ち目なさそうだけど……なw

 スピリットイーターニキ軽くのしたリセたんに勝てるわけない(笑)

 いっそ魔法無しで戦う?

 

 流石にそれは無茶。

 体格も違うし、女のコやぞ?

 (`・ω´・)+ ドヤァ

 

 オフッ…… →300

 ありがてぇ、ありがてぇ…… →500

 そしてこのドヤ顔である →1500

 

 そうだ。これならいけるか?

 考え込む俺に業を煮やしたアフロが胸倉を掴んで恫喝してくる。

 Σ(゚∀゚ノ)ノキャーコワーイ

 

 全然怖がってなくてw

 むしろ楽しげだね

 

「こわくてビビっちまったかぁ?」

「おいっ、その手を離せっ!」

「うっせぇっ!」

 

 アフロの怒号に、取り巻きが手に持った棒切れでアイザックを殴りつける。身を引いて避ける彼は焦りを滲ませ叫ぶ。

 

「リー……レオを怒らせるなッ! 死ぬぞ?」

 

 ええ……心配するのソコですか?(呆)

 うっすら呆れ顔の俺をほっといて、アフロがせせら笑う。

 

「なんだぁ? こんな貧弱なガキに何が出来るってんだ?」

「あ、バカ……」

「……あ?」

 

 ……きたぜぇ。

 久々に聴いたよ、この単語。

 

 だがね。オレだってせいちょーしてるんだ(笑)

 この程度で相手をボコして血に沈め……いや、地に沈めるなんてことはせんのだよ。

 

 何日か前に聴いたはずだよなぁ……

 政調……いや、清澄か?(すっとぼけ)

 言い直しても変わらないんだよなぁ……

 

 コメント、うっさい。

 魔力を一気に拡散させ、子供たちを包み込む。

 

「ぐわっ!?」

「な、なんだっ?」

「か、体がうごかねぇ……」

 

 周囲に展開した魔力をコイツらの身体に纏わせる。

 手や足までもしっかり包んで、その身体を掌握。

 俺の意思でしか動けないようにしたのだ。

 

「……な、なんで俺まで?」

「あ、勢いでまとめてやっちゃった。

 メンゴメンゴ(*・ω・*)」

 

 俺氏、謝る気がないw

 いや、子供って三十五人いるぞ?

 魔力ゴリ押しの原初魔法かー……

 

 この空き地にいる子供たちをまとめて縛る。ここまではなんて事ないが、こっから先は俺も成功するかは分からない。

 けど……まあやってみよう。

 

「ほっほっ……」

「うわ、なんだ?」

「か、体が、勝手に?」

「おい、レオッ 何だコレ?」

 

 なんだって……ラジオ体操だが?

 大きく腕を上げて背伸びの運動からー♪

 

 すげえ(笑)

 一糸乱れぬラジオ体操……マスゲームかw

 テラワロス

 つかどうやってんのマジで?

 

 ∀のアレを魔力でやってるみたいなモンだよ。身体の上を魔力で覆って、外側からむりやり動かすってワケ。

 

 はー……え? IFBD?

 何ぞソレ(笑)

 いや、それをやってるって……魔力もそうだけど、よく制御出来てるねぇっ!

 

 自分の動きにシンクロさせるだけなら何とか。もう少し上手くなったら百人くらいまでなら動かさそうだな(笑)

 

 さらっと怖いわ、この子……

 操り人形(マリオネット)みたいな精神操作系じゃなくて、力技って所がなんともw

 

 この準備体操で脱落するのはいないと思ってたけど、何人かの子供(俺よりちっちゃい子)が息を上げてるので開放する。途端に頽れ、息をついてるので大事には至ってないと思う。

 

 そうだよなー、暑いもんな。

 子供にゃあ過酷かも知んないな。

 

 でも、やる!

 

「はっ!」

 

 腰を低くして右手を前に勢いよく出す。

 同時に同調している彼らも同じ姿勢を決める。離脱した何人かの子供は乱れた息を整えながら、何が起こったのかと皆を仰ぎ見る。

 

「とぅーるる、とぅるるる、とぅーるるるー♪」

 

 音楽を口で奏でるのはかなり恥ずかしいのだが、ここには音源もないし演奏する人間もいない。リーセロットの音感はかなり良いようで、思ったようなイメージの曲を歌う事ができている。

 

 お……コレはひょっとして?

 なに、なに? ダンス?

 いや、これ地球の動画で見たことあるぞw

 ああ、間違いないっ! これはっ

 

「はぁーっ、どっこいしょぉ、どっこいしょッ!」

 

 ソーラン節、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 なんや、それぇ(笑)

 本来は民謡なんだけど、それをアレンジした楽曲に合わせた南○ソーラン節っ!

 地球の管理者、解説乙!

 俺氏、よく踊れるなっ!

 

 母方の実家にいた頃に練習させられたからなっ

 それはともかく、よく考えたら中段の奴らはミラーリングしなきゃいけないんだっけ。

 まあ、今回はそのままいこうっ(楽)

 

「な、なんだっ? この変な動きはっ」

「身体が勝手にぃ!」

「止めてくれぇ!」

「りー、れおっ、なんで俺までぇっ!」

 

 アイザック、まだちゃんと言い直してる(笑)

 彼を巻き込んだのはただ単にどれだけ体力があるか知りたかったからである。間違ってなんていないのだよ。

 

 ほら、か弱い女の子より体力ないとか。

 貧弱じゃない?(クスッ)

 

 ちゃっかり仕返ししてる……コワ

 もう許してたんじゃないのかよ……

 

 それはそれ、これはこれ。

 ライバルとして認定するには、それなりに張り合えるようじゃないとなっ!

 

 イザーク、君は泣いてもいいw

 許嫁とか恋人じゃなくてライバルかよ(笑)

 ま、まあ俺氏らしいよ、うん

 

 中盤に入ってかなりの奴が脱落している。

 アイザックは当然のように残っているが、アフロもなかなかに体力はあるようだ。

 

 ていうか、俺の方が疲れてきたな。

 やっぱり歌いながらはちとキツイか。

 魔力の消費に関しては問題なさそう。離脱した奴らを動かさなくて済むから、その分余裕が出来たわけだ。

 

「ソーランッ、ソーランッ!」

「だからなんだよ、その掛け声!」

 

 アイザックのツッコミは無視して歌を大きく叫び踊り続ける。

 いや、俺も意味は知らんし(笑)

 

 腕を振り、低く屈伸し、くるっと回転。足を上げつつ回転……何度か練習をすれば出来るとは思うけど、この炎天下に強制的に動かされるのは相当キツい筈だ。

 

 そうして。

 

 気が付けば、アイザックとアフロしか残ってなかった……なんかゴメン(・_・;)

 

 いまさらあやまってもなぁ(笑)

 死屍累々かあ……誰一人殴ってもいないのに

 →4989

 うまい。俺も投げる →4989

 ? あ、4989(四苦八苦)ね!

 

 

「はいっ!」

 

 最後のキメポーズの前で、魔力を止める。

 前の二人が糸が切れたように体がブレるが、何とか崩れないように踏ん張った。

 

「や~、おつかれお疲れ♪ バチッと根性、見せてもらいましたよッ!」

「ぜ……ひぃ……ぜぇ……ひぃ……」

 

 アフロ君にそう爽やかに笑いかけると、息も絶え絶えなご様子。

 

「おま……かげん、しろ……し、しぬ……」

 

 アイザックの方は若干マシか。でも年齢差を考えるとコイツはこいつで凄いよな。だって俺と同い年なんだぜ? そんなんで年上のアフロより体力あるとか、やっぱ鍛えてんだなぁ。

 

 88888888

 ちょっと本家の方を見てくるわw

 正直、違うと思った

 リセたんらしくはないが、俺氏だもんw

 こっちでも漁師とか村とかでは踊るらしいからね。

 次はイザークと社交ダンスヨロ

 

 コメントの方は賛否両論のような感じ。

 まあ、久々に踊ったから俺的には問題ナシ!

 

「さて。後始末しておくか」

 

 倒れたガキ共を放置して帰るわけにもいくまい。

 

 杖を出して石畳の上に、大きめの浴槽のような箱を石工(メイスン)で作り、その中に水召喚(サモンウォーター)で水を満たす。

 

「ほらほら、動ける奴は動けない子供に水を運んでやれ。自分で動ける奴は、勝手に飲みな」

 

 水があると分かると、みんなわしゃわしゃ動き出して水を飲み始めた。いちおう、脱水症状を起こしてる奴はいなさそうで一安心だ。

 

「おい、アフロ」

「あ?」

 

 水を飲むのに必死なアフロに革袋を投げつけ、奴の手元に狙い違わず収まる。

 

「こいつら、お前の子分なんだろ? それでなんか食わせてやれ。大変だろうが親分ならちゃんと面倒みてやれや」

「お、おう……」

 

 いきなりだったせいか、かなり驚いた様子だ。

 いや、金をやらないなんて一言も言ってないからな? ちゃんと最後まで残ってたわけだし。

 

「てか、本当にガッツあったじゃん! 見直したぜっ」

 

 胸元を小突くと、少し嬉しそうな顔をする。

 その顔は、年相応な少年らしい笑顔だった。

 そんなアフロが、ぽつりと呟く。

 

「お前……女だったのか?」

「え?」

 

 何言ってんだよ、俺は七歳の男の子。

 やんちゃ坊主なレオ君だぜ?

 いきなり正体見破ってくるとか、てめえさては名探偵か?

 

 いやいや、俺氏気付いてないの?

 髪、解けてるよ?

 帽子も取れてるしw

 パシャ →1000

 

 コメントを見て、髪を触ってみる。

 うん、さらさら♪

 

 

 ……

 

 

 

「ずらかりますわよっ、アイザック!」

 

 言う必要は無かったと思うが、そう叫んでいた。

 だいぶ混乱してるな、オレ(笑)

 まだ横になったままでどうやら寝コケているようなので、首元をむんずと掴んでジャーンプ!

 

 マップが入ったから位置は分かる。例の魔力障壁の壊れてるエリアの近くに現れて、そこからもう一度、壁の中へと戻る。

 こうしないと最短距離を飛ぶので障壁に引っかかるのだ。

 

 

 敷地内に入って、ようやく一息。

 かなり時間が過ぎたような気がしたけど、まだ夕方までは二時間くらいかかりそうだ。

 

「おい、イザーク。そろそろ起きろー」

「ぐう……」

「しゃあねえなぁ……」

 

 むりやり動かしたせいか、体力の消耗が激しいようだ。肩に担いでと。

 虹のリングが背中側に展開され、身体がふわりと浮かぶ。わりと俺も体力がカラッ欠なので、イザーク背負って屋敷までは歩きたくないんだよ。

 

 

「まあまあ、汗だくじゃないですか。アンゼリカ、イザーク様をお運びして」

「はい、イルセ様」

 

 屋敷の前でイルセとアンゼリカに会えた。

 どうも探していたらしいが、表に逃げていたとは気付かなかったようだ。

 

「今日は何をなさってたのですか? リーセロット様?」

「うふ♪ 今日はダンスの練習をしてましたの。とっても有意義でしたわー」

「そ、そうでしたか。お外でダンスの練習ですか」

 

 イルセが妙な顔をしている。子供なんだからお遊戯のダンスとかやると思うけど?

 

 貴族にとってダンスと言えば社交ダンスだからね

 農村とかではフォークダンスみたいなのあるだろうけど、イルセには馴染みないのかな?

 イルセたん子爵家の娘だからね。わりと平民の暮らしは分からないよ

 

「今度はイルセもやってみる?」

「! はい、ぜひとも」

 

 あー……

 被害者一名追加ーw

 

 

 

 後日。

 イルセと巻き添えのアンゼリカは、足腰立たなくなった。

 イザークがあの年のわりにスゴいと再確認できたのは良かったのだが……ほんと、ゴメンなさい。

 m(_ _;)m ペコリ

 

 



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17 しがない潜入調査員の独り言

 新年、あけましておめでとうございます。
 今年も宜しくお願い致します。

 m(_ _)m


『やあやあ、すまないな。本来ならきちんと命令書なり何なりを書かなきゃならんのだが、アリアドナが面倒くさくてな』

『……けっこうですよ。慣れてますし』

『おう、さすがは諜報部の隠し刀って二つ名は伊達じゃねぇな』

『おだてないでください、陛下』

『おだてなんかじゃねぇよ』

 

 軽口を言うのは陛下の悪い癖だ。

 臣下に気安いのは忠誠心を育むにはいいのだが、距離感を誤る輩がいないとも限らない。

 さらに臣従させた人間たちにすらそのようなやり様なのだから、直接の家臣である魔人族から見たら気が気ではない。

 

 とはいえ、アリアドナ様の舌鋒に晒されてなおその在り方を変えないのだ。言うだけ無駄、とは正にこの事だ。

 

「では、通信を切ります」

『ああ、緊急時はいつでもかけてくれ』

 

 俺はさる任務についている潜入調査員である。入り込む所はだいたい人間の国なので魔人族である俺は大概入り込めない。

 

 なのでその証である角を引っこ抜いている。

 

 ちなみに簡単に抜けるモンじゃないので死ぬほど痛い。あと、魔人族での追放刑みたいなモノなので本国に帰ると冷やかな扱いを受けたりもする。そうしないのは諜報部の連中と陛下くらいなモノだ。

 

 俺のようにあえて角を抜いた魔人族はけっこういろんな所にいるらしいが、相互に情報交換する事はあまりない。魔術による念話で報告は事足りるからだ。

 

 角を失っても魔力は変わらずに人よりも多いのだが、もう一つ大事な能力が失われる。妖魔に対する使役権が無くなるのだ。つまり、人間と同じように奴らは俺を喰おうとするわけ。

 

 まあ、遅れは取らないとは思ってはいるが、何があるかは分からない。なので、人間と共同で撃退したり、駆逐したり、殺戮したり。

 そういう事をしていくためには冒険者という資格を取っておかねばならない。とはいってもそんな難しいモノでもなく、出身と名前、性別位しか自分で書く所はない。レベルとかスキルとかは勝手に足されていくし、角無しの俺らはご丁寧に『人間』扱いされる。

 

 

 

 拍子抜けする程に楽な入国審査を何度も経て、俺はようやくアークステイン王国まで辿り着いた。

 

 俺に下された使命は『調査』である。なんの、とは具体的に示されていなかった。後ほど諜報部の長からの連絡で『とりあえずハーゼルツァット侯爵領を目指せ』と言われた。さらに国内の産業、流通、金融、名産などなど。なるべく事細かに調べろと言われた。

 

 ……まあ、分かっちゃいたけどな。

 前線より相当離れているこの国で陽動を起こして何になるやらだ。ほぼ全ての情報を欲しているとなると潜入調査員はかなり少ないはず。もしかしたら俺だけかもしれない。

 

 急ぎの仕事でも無さそうだし、適当にこなしていけばいいか。その時はそう楽観していた。

 

 

 

 

『侯爵領に着いたら、領主を探れ。気取られぬように、深入りはするな。念話も防諜をかけろ』

 

 長からの指令は、かなりの難度と見ていい。やはりそうかとつばきを呑み込む。

 

 この大きな街の外周に巡らされた領域結界は相当な魔力の持ち主でないと維持出来ない代物だ。

 

 それとは別に、城壁には簡易魔力防壁と障壁が一枚ずつ。さらに中の領主公邸は二重の防壁と障壁である。

 

『偏室的なまでに囲っている……?』

 

 魔力防壁と魔力障壁を兼ね備えた城壁など、魔物程度では絶対に破れない。二重となれば下位龍などに対する防御策である。

 少なくともこの国の他の領地の街では、ここまでの防御策を講じた街は存在しなかった。

 

『この国は……ひょっとするととんでもない魔窟かもしれんな』

 

 ざっと確認出来た事を防諜をかけた念話で伝える。長からの返答は『しばらく調査せよ』だ。長く繋げると感づかれやすくなるのですぐに切り、ほうっと息を吐く。

 

「ま……逆に考えれば、骨休め出来そうだし」

 

 領域結界によって魔物は弱体化しているし、この街は交易も盛んなようだ。人間の冒険者として生活するなら、食いっぱぐれる事は無さそうだ。

 

 こうして俺は、このファーセロットの街を拠点として活動する事にした。およそ一週間ほど前のことだ。

 

 

 着実に成果を上げて、町民や従士とも知り合いが多くなり。気になる若い娘も出来たりと、人間の真似事もすっかり板に着いた頃。

 

 俺は雑踏の中で魔法の発動を感じた。

 周囲に気取られぬように警戒する。

 詠唱はとても小さく、雑等の中だと判別はつかない。

 杖を振る者も近くには居ないようだ。

 

『どういうことだっ?』

 

 そして偶然。

 手の平に保管(ストレージ)を繋げている少年を見つけたのだ。

 

『杖が……ない?』

 

 手と手を合わせて、その隙間に展開させていたのだから使っている筈もない。つまり、杖無しで保管(ストレージ)をこじ開けていたのだ。

 

『む、無茶しやがって!』

 

 そんな事をすれば魔力を暴発させる。

 急いで止める為に近づこうとする俺の前にふらっとマントの男が入り込んだ。

 

「おまっ……」

「下がれ」

 

 呟くような言葉に思わず、動きが止まる。その気配はまるで魔王様のような威厳を感じさせるものだった。

 

 そいつはその子供たちに近寄り、気さくに会話を始めた。もう一人の子供は明らかに警戒していたが、魔術を使った方はまるで気にしていないようだ。そいつの方は兜の面頬を上げもせずに会話している。

 

 どちらも非常識で有り得ない。

 子供でも魔術を扱うのは魔人族ではある事だ。だが、杖無しでやらせるなんて絶対にさせない。暴発するのが目に見えているからだ。

 

 また面頬を下げずに会話する事も有り得ない。不審すぎるので警戒されるのが普通だ。

 ただ、こちらに関してはよく知った知人とか有名人ならあるかもしれない。事実、子どもたちを両替商へ導き、そこで正規の取引を見守って別れたのだ。

 

 自分が介入する必要が無かった事に安堵はするものの、あの兜の男は気になった。その迫力に只者ではないと感じたからだ。

 

「ではな、次に会う時は酒でも飲もうか」

「そんときゃゴチになりますぜ、ディードの旦那」

 

 両替商と兜の男が離れてから客を二、三人挟んでから、両替商に声をかける。

 

「両替を頼む」

「へい、なんでやしょ旦那」

 

 両替商は下卑た笑いを浮かべてこちらを仰ぎ見る。手元から銀貨を二枚出し、大銅貨へ両替を依頼する。手つきから見るにどこか大きな両替商で働いていた様子だ。店を構える資金を貯める段階なのだろう。

 

「はいよ。大銅貨十八枚。二枚は手数料で頂きますぜ」

「ふむ……少し話を聞きたいが、これでどうだ?」

 

 彼の手元に大銅貨を一枚置く。こちらを見てから彼はニヤリと笑い手元の箱ではなく懐にしまう。

 

「あっしは情報屋じゃないんで。世間話くらいしか出来ませんぜ?」

「それでいい。先程来た兜の男について聞きたい」

「ん? ファーセロットははじめてかい?」

 

 む……街のものなら誰でも知る人物だったか。これは失敗したかもしれない。

 

「ディーデリックの旦那は、この街の従士団の総指揮官様だよ。爵位はないが、実家は子爵家だったかな?」

「なっ……そんな人物が、護衛も付けずに街に出ているのか?」

「生半な奴にゃあ、やられやしないよ。剣も魔術も収めた魔法剣士らしいからな」

 

 その言葉に、ようやく合点がいった。

 しかし街に出る理由は分からない。聞いてみると至極まともに答えてきた。

 

「そりゃあ、防犯のためさ。ああして回って街のことを見てんだよ。俺みたいなチンケな両替商が不正をしてないか、お前さんみたいな胡乱な奴がいないかとか、な」

「……勤勉なことだな」

「部下にやらせてもうまくいかない事があるんだろ? そんなわけで、兄さんも下手な真似はしない方がいいぜ? おそらく、何人かはもう張り付いてるだろうからな」

 

 にひひ、と笑い毎度ありと答える両替商。会話は終わりということだ。

 

 そこを離れる際に、確かに尾行がいる事が分かった。とりあえず、今日はおとなしくしておこう。

 

 

 

 

 

 メインストリートからほど離れた辺りの宿屋に居を構えていた俺は、買いだしてきた食材をテーブルに並べてからベッドに横になった。

 

 この辺りは経済が安定しているのか、ベッドには綿を使った布団が使われていた。この規模の宿でこの環境というのはなかなかに珍しい。大概は藁だからな。

 

 水も、清浄とは言えないまでもそのまま飲めるレベルを維持している。水利にも気を掛けているようだ。

 

 総括してみると、この街は今まで見てきた街では随一と言っても良い。我が魔王国本土にも、属国にも、その他巡った国々にも、ここほど民草にとって住みやすい環境は無いだろう。

 

 

 なるほど、『アークステイン第二の都』と呼ばれる理由は分かる。領主の事も調べが済んでいた。

 この国の魔法省の大臣を務める人物らしい。街の住人達からの支持は半々といったところだ。これはこの国でも他の国でも珍しく高水準、という意味である。

 

 街の施策を見れば、それは当然と言えた。

 平民から支持される貴族などおよそ考えられないのだが、かの領主はそれを実現してしまっていた。

 

 もっとも、その原動力はというと博愛精神の賜物とかではない。我が子が住む所をより良くしたいという単純な愛情故のものらしかった。

 

『えらくかわいいお方でね。月に一度やる侯爵様の姿見の式典でも、最近顔をお見せになるの』

 

 知り合った酒場の娘の言葉だ。その日に公邸のテラス前に行けば、侯爵自身の姿も見れるそうだ。その絵も送ろうと思っている。あと、二週間くらいあるのだが……まあ、その間は怪しまれない様に本業に精を出すか。

 

 ここまで思い浮かべた文字を綴り、念話を繋げた際にこの文書を送るようにしておく。緊急時に送る準備というわけだ。

 

 そこまでやって、ようやくひと息ついた。

 この作業はいつも疲労がたまるので長くはしたくない。そのまま眠ることにしよう。

 

「!?」

 

 眠りに落ちる寸前に、魔力の高まりを感じた。

 跳ね起きて窓から方角を見る。

 魔術による爆音や悲鳴などは感じないが、この規模は俺自身感じたことの無いモノだった。

 

「マジか……? あの方でも感じたこと無い規模だぜ?」

 

 人の雑踏の中に、微かに歌声のようなものが聞こえるが……民族的な歌か?

 

 急いで戸締まりをして、宿の主人に出掛けると伝えて路地を不自然じゃない様に早歩き。尾行には気付いているが、撒くほど切迫してる訳でもない。

 

『攻撃術式でないなら……儀式術式? そう言えば歌と踊りで儀式をする部族がいるとは聞いたことがあるが……』

 

 方向を特定していくと、次第に弱まってきた。

 これはマズいかと思ったが、尾行の手前走るわけにはいかない。目的地前には魔力はぷっつり切れてしまった。

 

『この辺りか?』

 

 それでも来た以上は現場は確認しよう。場所は貧民街と思しき区画の広場だ。こういう所は酒をカッくらって寝てる野郎とか、夜の商売の女とか、そいつらのせいで出来た子供が住んでいるはず。案の定、子供達が何人かいる。

 

「え、?」

 

 そこで俺は信じられないものを見た。

 

 転移術を行使したのだ。杖も無く、詠唱も無しで。

 そいつは……昼間見かけたあの子どもだった。魔力で作り出した虹の輪に飛び込み、一瞬で消え去る。それは俺も見たことのない術式であり、とても綺麗に見えた。

 

 目の前で消えた二人に驚く子供達と違い、俺は呆然としていた。

 

 杖無し詠唱無しで、転移術を容易く扱う。魔王国でも有り得ない事だ。魔王様辺りならやりかねないが。だが、問題はそこではない。おそらく五〜六歳の女の子が行った事こそ、驚くべき所なのだ。ゆるく波打つ金の髪を煌めかせていたのだから、間違いはない。

 

『何者なんだ……あの少女は……』

 

 このとき俺は失策していた。後ろに立つ兜の男の気配に気付けなかったのだ。

 

「次に会うのは外の草原辺りだと思っていたのだが」

「!」

 

 そいつは右手に杖を、左手は剣の柄に手を添えていた。

 

「すこし、話をしようか」

「……い、いそぐん、だがね?」

「なに、すぐに済むさ」

 

 右手で杖を取るフリをして、頭の中で呪文を詠唱……うまくいけ。

 

「動かないで貰おうか」

「ぐ……」

 

『む……どうした?』

 

 うまく起動できた。出たのは魔王様。最後の情報をお受け取り下さい。

 

「! 貴様ッ」

「グアッ」

 

 俺が無詠唱で術を使っている事に気付くと、奴は素早く左の腕を振るう。腹部に強烈な一撃をもらい、急速に視界が暗転する。その代わりに浮かぶのは、俺が念話で送った最後に見た印象画のような記憶。

 

 ……ああ。

 

 幻想的で、きれいだな。

 

 そこで、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

「……陛下、何をなさっておりますか?」

 

 アリアドナが朝の出仕をすると、魔王と呼ばれる男は、大きな木の板の前で頭を捻っていた。

 

「……ああ。潜入調査員から報告を受けてな。そこにあった印象画を再現しようと思っていたのだが……」

「見ても宜しいですか?」

「ん? ああ。まだ素描のような状態だがな」

 

 見てみると、そこには小さな少女が少年の首元を掴んで引きずるような絵が描かれていた。

 

「……失礼ですが、これは?」

「補足の念話は無かった。以後、長にも呼び出させているが応答はない」

「何でしょう……女の子はとても可愛らしく見えますが、なんの意味があるのでしょうか?」

「そうだな。この娘は可愛いかもしれんが……男の首根っこを捕まえて引きずるというのは、意味が分からん」

 

 ふーむと首を捻る男に、アリアドナはやや呆れたように息をつく。

 

「では、そちらの解析は他のものに任せて政務を行いましょう。クリスタルに移しておいて下さい」

「え? 俺やっちゃダメ?」

「専門に任せるべきかと。魔王様の決済印は魔王様にしか出来ませんので」

「ええ……」

 

 おもちゃを取り上げられる子供のような顔をする男に、アリアドナは少しだけ微笑む。その顔はフードの中で分かりはしないが。

 

「ご自分でなさるのなら、政務の後になさいませ」

 

 潜入調査員も少し吟味した方が良いかもしれない。軍事機密や要人ではなく、平民の子供の姿などなぜ送ってくるのか。

 

 今日も今日とて、魔王国は平和であった。

 

 




 ディーデリック視点にしようかと思いましたが、こちらの方が後腐れなくていいかな、と。
 あ、ちなみに今のところ、死んではいません。間者なら何処のやつか、調べないといけませんからね。


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18 スパイな大作戦 その1

 途中で視点が変わります。
 最初はリーセロット、※からは前回捕まった彼の視点となります。


 次の日。イザークと伯爵が帰っていった。

 

「次に会うときは……負けない」

「それでこそ騎士ですわよ、イザーク様。では、わたくしも研鑽に励むと致しますねっ?」

「いや、出来れば、テキトーにしててくれた方が……」

 

 つい本音が出てしまうほど気安くなった彼は、それでも別れ際には寂しそうな顔をしていた。

 俺だって、寂しくないと言えば嘘だったりする。

 

「イザーク様。お手を借りてもよろしいですか?」

「え? ああ」

 

 彼の手を小指だけ立てるようにして、俺も同じようにする。その指を絡めれば、『指切りげんまん』の完成だ。

 

「♪ゆーびきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます♪」

 

 日本のみんながよく知るリズムで唄う。なんかぽやや……とした光がイザークを包むが、周りは誰も気付かなかったみたいだ。なんだ?

 

「うおっ……なんか怖いこと言われたっ」

「失礼ですね。おまじないですよ、ただの。約束守らないと拳で一万回殴って針を千本飲ましますからね♪」

「具体的で怖っ!」

 

 

 あの、俺氏。今、何したん?

 イザークのパラがやたらと伸びたし、お嬢の魔力が少しだけ減ったけど。

 

 特に何も。おう、強くなれよってカンジで約束かましただけなんで。

 

 明らかに恒常バフかかってるで? フィジカルの伸びが+2とか、スキル習熟率+25%とか。

 チートだな(笑)

 管理者以外がチート授けるなw

 リーセロットたんならエエか

 ……ま、俺らの世界じゃないしw

 席外してたらまたしても草

 お、草の人。久々やん

 

 えー……。そんなのやった覚えはないんだが……ま、いいか。イザークが強くなるんならそれはそれで。

 

「次に会うのは年越しの儀辺りになりますか。ご息災をお祈りしております、ハーゼルツァット侯爵令嬢(レディ・ハーゼルツァット)

「肩書より名前で呼ばれる方が素敵だと思うのです。そう思いませんか? ヘルブランディ伯爵閣下(ロード・ヘルブランディ)

「左様でございますな。それではご元気で。リーセロット様」

 

 こまっしゃくれた子供にも優しく応対している伯爵は、まあ人間が出来てるなぁと思った。

 社交辞令だというのに手の甲にキスの真似をするだけでイライラしているどこかのバカ親父も見習ってほしい(笑)

 

 あー、リーセロットたんにキスを?

 伯爵絶許

 おめぇ、ライン超えたな?

 

 お前らもなっ! m9(^Д^)

 

 

 

 彼らを見送った時に、入れ違いで馬車が入ってくるのが見えた。アデルベルトがすぐに近くに寄るところを見るに知り合いだろう。とことこと歩いて近寄ると、馬車から降りてきたのは街で会ったあの兜の人だった……ヤベッ(慌)

 急いでアデルの後ろに隠れると、アデルの奴わざわざ前に出して紹介しやがった。

 

「紹介しよう。私の娘のリーセロットだ。直接会うのは初めてだろう」

「は。ディーデリック=ラーエマーケルスと申します。ご拝謁の栄誉を賜り、心よりの感謝を」

 

 片膝を付いたままそう述べる男は、どうも俺と分かっていない様子だ。そういや、一応男の子の恰好してたしな。挨拶されたら返すのが礼儀、しゃあないな。

 

「リーセロットで御座います、ラーエマーケルス卿。今日(こんにち)の出会いを心より喜び申し上げます」

 

 両手を胸の辺りに添えてのお辞儀は、淑女としての礼の作法では初歩である。きっちり覚えるまでに三日掛かったけど、今となっては素で出てしまうよなぁ。

 

 パシャ

 →350

 →500

 やっぱこういうのキマるよなリセたんw

 うむ、見惚れた →800

 

 

 どうも急用があったために来たようで、本邸に着くと早々にアデルと一緒にどこかに行ってしまった。

 

「ふふん。そうは問屋がおろしませんことよ? ( ̄ー ̄)」

 

 お、悪いこと考えてそうな顔w

 なんかすんの?

 

 実は街のマップ、もらったじゃん? アレってファイルみたいなもので新規で白地図とかも書けるんだよな。で、昨日夜中に試しに書いてみたのがこちら。

 

 ちょ……これ、屋敷のマップじゃないスか!

 抜けてる所もあるけど、だいたい合ってる……のか?

 視覚での構築とか、適応力高いなw

 

 間取りとかは適当だけど、意外といいよね? 後これ、3Dにして見れるらしいよ。 ほら。

 

 うへぇ……VR内見みたい(笑)

 なんぞ、ソレ?

 いや、ウチの世界で不動産物件見るときにやる方法でな

 ハイテク過ぎて草

 ハイテクって今日びあんまり聞かねぇなぁ……

 

 さらになんだけど。これ、登録した人間とかの動向も見えるわけ。親父をマークすると、ほら。

 

 居るとこが分かるのかっ?

 すげぇ、どうやってんのか、さっぱり分からんw

 GPS機能まであるとか草過ぎるw

 ちょ、ここ、魔法障壁が三重にかかってるんだよな? ホントどうやって無効化してんの?

 

 そこらへんは俺も皆目。このマップを扱うアプリになんかされてるかもしれないかな?

 ともかく、これで居場所は分かった。後は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間諜か。よく来るものだが、僕のところに来たということは……」

「は。魔王の手のものかと」

 

 そんな声が聞こえてきた。どうにかうまくいったらしい。蜘蛛型使い魔スパくんが部屋に侵入したおかげで、中の音声も視界もクリアになった。

 

 一般的に使い魔というのは蝙蝠とか烏とか、蛙とか鼠、猫などの小型の鳥や哺乳類、両生類などが使われる。虫を使う人はあまりいない、というのは感覚を繋げづらいという点が挙げられる。あ、蜘蛛は節足動物だっけ。

 

 まあこの辺りも魔力ゴリ押しなんだけど、使ってみると意外と便利だったりする。壁だろうと天井だろうと歩く走破力とか、糸を使ったワイヤーアクションとかかなりスリリングなのだ。

 聴覚もよく空気の振動とかもよく分かる。ただ、視界だけはちょっと酔うかな?

 なので、なるべく音を頼りに使うつもりだ。

 移動する盗聴器とでも言うべきスパくんが調度類の影に隠して耳を澄ます。

 

「当人は黙秘を続けています。読心術の許可を頂きたく参上いたしました」

「それは構わんが、執行者は?」

「自分が執り行うつもりです」

「……ふむ。何なら私がやろうか?」

「それには及びません。御身をご自愛下さいますよう存じます」

 

 ふむ。魔王の手の者が街に潜入してたのを捕まえた。で、調べるのに非協力的なので心を読む術の許可を貰いに来た、ということでおk?

 

 おk

 読心術は相手との同調とか必要だから、精神が弱いと引っ張られてしまう事もあるんだよね

 レベルとかパラとかは分かるから、他の人には任せられないと判断したのか

 

「ふむ……それほどの者をよく捕縛出来たものだ。素晴らしい手腕だ、ラーエマーケルス卿」

「いえ……あの時は勘働きが優れてました。それにあの……」

「……どうかしたかね?」

「いえ、なんでもございません。不明瞭な発言、お許し下さい」

「情報が入ったら教えてくれ」

「御意」

 

 会話は終わったとアデルが席を立つ音。ていうか、ディーデリックさん、俺だって気付かなかったのかな? それとも敢えて言わなかった?

 

「そうだ、イルセを呼ぶから会っていくといい」

「! それは、有難き事なれば……」

「姉妹なんだから会いたいのは分かるさ。茶でも飲んで寛いで行きたまえ」

「は……勿体なきお言葉、ありがとうございます」

 

 扉を開けてメイドにメイド長を呼ばせる父親(アデルベルト)。なんとも世界って狭いものだな。

 

 いやいや、俺氏。姉妹って所に驚かんの?

 ディーデリック……女やったんか……

 

 なんとなく、そんな気はしたんだ。

 今の感じだと、俺だって気付いてたみたい。

 でも見逃してくれたんだから、いい人なのは間違いない(笑)

 

 えっ? そうなん?

 そらそうやろ、手垢無しの金貨なんて出す子供なんてめったにおらんだろうし。

 あと、男の子の恰好してても、分かる人には分かるだろうな。

 

 そういうこと。

 さて、せっかくの魔王の手先なら会ってみたいな。

 きのう露店で買った良さそうな古着を出して着替える。当然、カメラはoff!

 

 あー、また……

 最近ガード固いよなあ……

 そんなリセたんもかわいい →800

 お、着替え終わったかな?

 子供用のディアンドルみたいだな →1500

 いつものドレスも良いけどなんか新鮮♪

 

 子供の女の子の仕事着としては上等なモノらしいけど、2500セルダだった。本当なら一万セルダくらいすると言ってたけど。まあ、着てみるとなんとなく分かった。裏地とか継ぎが当たり過ぎてるし、表も生地がかなり薄くなってる。それをカバーするために裾にフリル付けたりとかエプロンや頭巾は新しくしてあったりとかしてあるけど。

 

 まあ、いいんでない?(クルリン)

 

 似合ってるよー パシャ

 パシャ →3000

 おう、かわいいなぁ

 →1000

 こんな町娘いたら買うわw

 セクハラ発言NG 乂(>◇< )

 アッ ハイ サーセン(_ _)

 

 来たな、ゲスい人(笑)

 それはともかく、ありがと♪

 

 さて、どこだろか? 従士団の施設は……

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 ヤキが回るというのはこういう事なんだろうな。

 まだ潜入初めて五年くらいの、ようやく卵の殻から出られた経歴なのだが。まあ、ドジッたのには変わりない。

 

 牢獄に入れられて、魔法封じの首輪を嵌められて。今のところ、身体を痛めつける尋問等はされていないが……いつまでもこのままとは思えない。

 

 晩飯や朝の飯もキチンと出すし、しかも意外にも豪勢だった。絆そうという気なのだろうが、そんなもので魔王様を売るつもりはない。

 

 しかしながら、じめじめとした牢屋というのは些か心を萎えさせるようで、わずかに気が滅入ってはいた。

 

 そんなとき、扉から鍵を開ける音が聞こえてきた。ああ、また尋問か。次こそは指の一つでも落とされるかな。そんな覚悟を持って開くのを眺めていると、そこには意外な人物がいた。

 

「あら。思った以上に虐められていないようですのね?」

「……なんだぁ?」

 

 そこには、仕事着姿の子供がいたのだ。

 しかも。

 

『あのときの……!』

 

 見間違えようもない。

 あの時、虹の輪に入って消えていった幻のような少女だった。

 

「魔王軍の手先だと伺ったのですが、お間違いありません?」

「なんでそんなこと言わなきゃならんのだい? おチビちゃん」

「このわたくしが用があるからに決まってますわ」

 

 なんだぁ……この娘。尊大な態度がやけに板についている。まるで貴族みたいな……まさか!?

 

「ハーゼルツァット侯爵が嫡子、リーセロットと申します。密使様のお名前を伺っても宜しいかしら?」

 

 スカートの裾を持ち上げ、優雅にカーテシーをこなすその少女は……不敵に微笑んでいた。

 

「密使、だと? 俺はそんな事は言い付かっていない」

「あら、そうなのですか。先だっての襲撃に関しての申し開きや、賠償などのお話かと思ってましたのに」

「……襲撃? 賠償だと? そんな事はしていない!」

 

 俺がこの任務につく時には、そんな話は無かった。秘密裏に行われていたのかもしれないが、今の俺には分からない事だ。だから俺は否定した。

 すると、少女は口元を手の甲で隠しながら微笑む。十にも届かぬ幼女でありながらも、なんと蠱惑的な笑みであろうか。

 

「まあ、二年も前の話ですし、証拠の魔物も討伐されてます。だんまりを決め込めば追及されないとお思いになられても仕方ありませんわね」

 

 二年前? そんな事があったのかは分からない。俺は末端の人間であり、魔王様の行う事全てを熟知出来る立場には無い。

 

「それにしても、魔王というお方は随分とセコいやり方がお好きなようですわね」

 

 くすり。

 その笑い声が、妙に癇に触った。

 

「このっ!」

 

 元より手足の拘束はされていない。

 こんな子供を仕留めるのに魔術など必要ない。

 右手で胸ぐらを掴み、ぐいっと引き上げる。

 

「く……手の早い殿方は嫌われますよ?」

「減らず口を叩くな、小娘っ! 自分の立場を分かってないのかっ?」

 

 素手で子供を殺めた事は無いが、必要ならば行うのが我らの仕事である。

 

「立場ですの? よく弁えておりますわ」

 

 彼女の翠の瞳が煌めくと、俺は力が抜けるのを自覚した。そうだ、この娘は……無詠唱で……

 

「立場をご存知なかったのは貴方の方ですわ。恫喝などせずに首でも締めればよろしかったのに」

「く……」

 

 体勢を維持出来なくなり、牢の床に倒れ伏す俺。彼女は俺を仰向けにすると、俺の頭を両脇を掴み、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 

「な……なにを……」

「別に取って食べたりはしませんわ。うまく事が回れば、開放して差し上げられます」

 

 彼女が額をくっつける。そこで、俺は気を失った。

 

 




 悪いリーセロットが出てきました(笑)


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19 スパイな大作戦 その2

 途中で視点が変わります。
 最初は三人称視点、※以降はリーセロット視点となります。
 三人称ムズいよぅ……
 
 追記:サブタイトル、変更しました。


 その日、魔王国王都アルムシェルドの城下町への正門を警備するメランデルは、奇妙な少女の応対をすることになった。

 

「お嬢ちゃん、それは死体かい?」

「ただ眠っているだけですの」

 

 大の男を引き摺った七つほどのとびきり可愛い女のコが来たからだ。当然周りの平民たちも物珍しさから見つめているが、当人は至って普通ににこにこしていた。こざっぱりした仕事着姿だが、育ちは良さそうなので、およそどこかの商家の娘であろうか。

 

「付き添いのくせにグースカ寝ちゃったのよ。だからここまで引きずってきたの」

「あ、ああ。そうなのか。そいつは大変だったな」

「それで、おいくらかしら? あいにくと外国の通貨しか無いのですけど」

「ど、銅貨一枚なんだが、他国のだと銀貨一枚で二人までは入れるぞ」

 

 あいにくと両替商の真似は出来ないので規定どおりの額面を言う。少女はふんふんと頷いて革袋から銀貨を取り出すと、彼の手に置いた。

 

「ん? どこの国のだい? 見たことないけど……」

「アークステインという国の銀貨ですわ。ここからずっと西にある国ですの」

 

 知らない国の貨幣だが、見た感じ銀なのは間違いない。ためつすがめつ見ていると、少女は当然のように通り過ぎて行った。

 

「あ、お嬢ちゃん。宿の紹介とか……」

 

 彼がせめてもの駄賃にといい宿を紹介しようと声をかけた時。そこにはまたたく間に空に飛び上がり、虹の輪を残して消え去っていた。

 

「……え?」

 

 その場にいた殆どの者がそう口走っていた。むろん、彼もその一人だった。

 

 

 

 

 

 

 魔王城の警備をするのはいわゆる精鋭の部隊であり、人間は一人もいない。その日も警備をしていたパトリクソンは、怪しい人影に槍を構えた。相棒のホルムグレーンも同様にしたが、彼のほうは、やややる気がなかった。

 世間的に見れば、相棒の態度の方が正しいと彼は思ったが、職務に忠実たれと教育されたからには手加減は出来ない。たとえ相手がいたいけな少女であったとしても。

 

「そこで止まれ!」

 

 言うとおりに素直に歩みを止める少女。

 

「魔王城へ近づくことは禁止されている。さっさと引き返しなさい」

 

 少女相手に恫喝気味な言い方も出来ず、声音も優しくなる。相棒は少し楽しげな感じであり、暇な勤務の息抜きみたいに感じているのかもしれない。

 しかし、彼女が手に持つものが何であるか理解すると緊張に変わる。

 

「な……それは、死体かっ?」

 

 もしそうなら警邏に引き渡さねばならない。こんな年端もいかない子供が引きずるような事態など、考えもつかない。

 

「そこの方で宜しいですわ。陛下をお呼びになって下さいませ」

「何をバカはことを……!」

 

 同僚はその後の言葉を告ぐ事は出来なかった。代わりに出た言葉は「仰せのままに(イエス アイ マム)」だった。

 

「なっ……ホルムグレーンっ?」

 

 同僚は槍を捨て、そのまま反転して城門の中へと入って行く。脇の控室にいた兵士たちが何事かとわらわら出てくるが、事の次第が分からずにこちらを見るばかりだ。

 

「さて。陛下がおいでになるまで、お遊戯に付き合って下さいな」

 

 

 

 

 

 城内を走る兵士に、使用人やメイドも驚きを隠せない。何か起こったのかと思えばクーデターなどではなく、その兵士はひたすらに階を上がっていく。本来、要所には番がいるのだが彼は兵士で有る故にその配置なども凡そ知っていた。なので、最終的な魔王の執務室前まで停められることはなかったのである。

 

「止まれっ」

「ま、魔王様に言上仕りたき儀ありますれば、何卒!」

「無理を申すなっ! 無礼打ちだぞ」

 

 現在の魔王がそうした理不尽な暴力を好まない事は周知の事実だが、物には限度というものもある。他の国の例で言えば、彼は間違いなく不敬罪に当たる。

 

「何を騒いでいる?」

 

 ところが、この兵士は命を存える事に成功した。扉の奥から魔王本人が姿を表したからだ。生来どっしりと座るという事が苦手なたちであり何か事があれば首を突っ込む。

 そんな彼の性質を理解した上での計略か、はたまた偶然か。兵士は少女に託された言葉を忠を尽くす主君に申し上げた。

 

「正門前にて客人がお待ちしております。誠に恐縮至極に存じますが、ご足労願いたく申し上げますっ!」

 

 頭を垂れて片膝をつく兵士に、男はマントを翻して近づく。

 

「ほうっ! 魔王を呼びつけるとはなかなかに豪気な奴よ。何者なのだ?」

「私めも伺ってはおりませんが、服装はごく普通なれど高貴な方とお見受けしました」

「なるほど、大儀であったっ! では、参るとするかっ!」

 

 兵士はよどみなく答え、彼も立て板に水の如く応対する。まるで芝居でも見せられているかのようであり、警備の兵は動くことは出来なかった。なので、飛行術を使って飛び出す男を止める事は出来なかった。

 

「……余興かなんか、かな?」

「……俺は知らん。アリアドナ様の雷が落ちなきゃ何でもいい……」

 

 狐につままれたような気分の兵士たちは、とりあえず開きっぱなしの執務室の扉を閉めた。

 

 

 

 

「おおうっ! どうした、お前らっ! 踊りの練習か?」

 

 滑るように飛んできた彼の見たものは、兵士たちが一糸乱れぬ様子で踊る様であった。

 右手を振り上げ、左手を振り上げ、横を向いたと思ったら前に進むように後ろへ下がるという奇妙な動きをする。と、次には小さく飛び跳ね回転し、着ているチェニックを掴み開けたり閉めたりし、脚もクネクネとリズミカルに動いていた。

 最後に右手を真上に突き出し、大股でピタリと止まる。

 

 そこで、兵士らはバタバタと倒れていった。彼は拍手をするが彼らはとても苦しそうであり、それに応えることは出来なかった。

 

「ん?」

 

 倒れた兵士たちの中に一人だけポーズを決めたままの少女がいた。

 風に揺らめく金の髪は光を放つようであり、その白い肌には珠のような汗が伝っていた。日も高くなり、気温も上がるこの時刻に炎天下で踊るというのはかなりの体力を消耗する。ましてや、少女はまだ十にもならぬ幼子であった。同じ踊りを踊っていた兵士たちがこの有様なのに、息を少し荒げているだけで立ったままなのだから大したものだと男は感心した。

 

 少女は居住まいを正すと、彼に歩を進める。その距離が十歩ほどの辺りで止まると、鷹揚に礼の姿勢を取った。きちんと格式に則った作法を示す少女だが、あいにくと彼はそちらの国の作法は知らない。しかしその貫禄は感じ取ったようで、自然彼も姿勢を正した。

 

「不躾な上に非礼なやり方にも関わらず応対して下さった魔王国国王陛下に対し最大の感謝を示したいと存じます」

「年若いわりに優れた魔力、そして胆力を示したゆえ許す。……と言いたいが些か無法が過ぎるな。用向きによってはその命散らす事になろうが、それを顧みずにここまで来た理由はなんだ?」

 

 普段細かい事には拘らない、悪く言えば適当な彼は珍しく理に適った物言いをした。しかし、その言葉とは裏腹に噴き出すような覇気が周囲に満ちる。

 魔力は精神の強さにも繋がり、その箍を外す事で周囲を威圧する事すら可能だ。魔王の覇気を久方ぶりに感じた兵士たちは、強制的に動かされていた事もあり半数ほどが気絶し、残り半数は意識は保つものの身動きは取れなかった。

 

「……ほう」

 

 そんな最中でありながら、少女は身動ぎしなかった。穏やかな表情を崩さず、叩きつける覇気をそよ風のように受けている。

 

「陛下は二年前、ハーゼルツァット侯爵領へスピリットイーターをお放ちになった事は覚えておりますでしょうか?」

「……覚えておる」

 

 彼は王としては戦略も政略もこなす者ではあった。

 しかし、こと魔神よりねじ込まれたあの案件はそのどれにも属さない類いのものだ。

 上役に押し付けられたから行った事であり、俺に責任は無い。そう言いたかったが、矜持としてそれは出来なかった。

 そして知らぬとも言えなかった。彼にも自尊心があり、存ぜぬとは飲み込めなかった。

 

 ゆえに行った事実のみを認めたのだ。

 それを聞いた少女はほう、と息をつく。

 

「では、殴らせていただきます」

 

 虫も殺さぬ聖女のような声色。

 しかしその内容は剣呑であった。

 その落差に理解が追い付かず、一瞬の隙を与えた。

 

「!?」

 

 少女の前に虹色の輪が出来たかと思うと、その姿が消えた。彼はブリンクの類いだと気づくのに僅かな時間を要してしまった。ゆえに。

 

内から壊す迷宮職人(ダイダロスアーム)!!」

「ぐわあっっ!?」

 

 懐に入った少女の体重の乗ったボディアッパーを避ける事は出来なかった。魔力障壁と魔力防壁を突破するのに特化した術式が、男の防御術を易易と突き破る。

 

 彼はその膂力に驚愕する。

 自分に比べ幼くひ弱そうなその身体から放たれたとは思えない、重い一撃。魔術の防御が突破されたとしても有り得ない。

 

 しかし、これで終わらない。突き抜けた拳の先から別の術式が起動し、対象の中へと送り込まれる。この術式は体内の魔力に対して反応し、その魔力を拡散、消滅させる。その際に発生したエネルギーは身体自体へのダメージとなるが、それは副次的な効果である。

 

 実際には、相手の魔力を根こそぎ消失させるための対魔術師用術式なのである。

 

「……!」

 

 強烈な一撃を打ち込まれ膝をつく魔王に対して、少女は微笑んでいた。その表情には幾分か不敵な要素が含まれていた。

 

「な……なんだ? ……魔力が無くなった、だと?」

「初見で防ぎ切るとは……流石ですわね、陛下」

 

 少女はそう言うが、彼としては既の所であった。

 体内の魔力を瞬時に切り分け、防げたからこそ意識を保っている。まさに僥倖としか言えなかった。

 

 追撃が来ると思っていたのだが、彼女は立ったまま語りかけてきた。その声音は、先ほどの必殺の一撃を放った猛者とは思えないほど弱々しい。

 

「あの襲撃になんの意味があったのか、それはわたくしには分かりかねます。でも、あれでわたくしの妹が死にかけました」

「ぬ……」

 

 彼もそれは理解していた。戦とはそうしたものだと分かった上で送り込んだのだ。命を刈り取るのはやむなき事、そう思っていた。

 

 だが、目の前の少女の妹であればもっと幼いはずだ。乳飲み子でさえあったかもしれない。魔王と呼ばれ国を治める者だとしても、赤子に手をかけたという事実は容認し難かった。

 

 この世界の魔王とは魔人族を束ねる王のことであり、そのメンタリティは人と何ら変わらない。非人道的な行いな事は明白であり、どんな大義名分があろうとも許される筈はない。

 

 彼は少女を見据えた。

 そして、瞳をそらさずに謝罪の言葉を述べる。

 

「……すまな……」

 

 謝罪の言葉は、最後まで紡がれなかった。

 少女のちいさな指が彼の言葉を止めていた。

 

「謝罪の言葉は要りません……貴方の頭はそう軽いものではありませんでしょう?」

 

 カサつくくちびるに添えられた人差し指。

 その小ささに驚く。ほのかに伝わる暖かさも、彼が感じたことの無いものだった。

 

「謝らなければならないのはわたくしの方です。立場を考慮せずに暴力に訴えたのですから」

 

 そう言うと、彼女は深々と頭を垂れる。地に額を付ける程に。貴族であれば平民のように地に這いつくばるような真似はしない。なのに、この少女はあっさりと行った。

 

『なんなのだ……この少女は……?』

 

 彼は混乱の渦中にあった。

 突然来たかと思えば王たる自分を呼び付け、幼子でありながら殴り倒し。己の所業に悔いて謝罪しようとすればそれを止めて、あまつさえ自分が平民のように這いつくばって謝まってくる。

 行動に整合性が見当たらない。あるのかもしれないが、思い当たらなかった。

 

「妹になされた仕打ちを返したかった。それ自体は正当と思っております。ですが、自分の都合を押すあまり、陛下の都合も考えませんでした。また、兵士の皆様にも手出ししてほしくない為に過度な運動を強要してしまいました」

 

 訥々と自分の罪を語る少女。確かにその通りだが、今更言うべき事なのだろうか。王に狼藉を働いた事より重いとは思えないのだが……周りの兵士たちはそう思った。

 

「お詫びの印に我が領においで下さった密使様をお返ししたいと存じます。あのままですと、おそらく酷い目にあうかもしれませんからね」

 

 立ち上がり、側に倒れていた男の首元をむんずと掴み、男の前へと引きずってくる。その光景に僅かな既視感を覚えたが、引きずられてきた男の顔を見るとそんなものは吹き飛んだ。

 

「スタッファン!?」

「あと数刻は眠っている筈です」

 

 それは諜報部の隠し刀と呼ばれた男だった。変装を解かれた素顔なのだから、間違いはない。男に彼を渡すと、少女はニッコリと笑う。

 

「それでは、長居はできませんので帰りたいと思います」

 

 くるり、と回ると彼女の身体が宙に浮いた。

 その背には虹色に輝く光の輪があり、おぼろげに明滅している。

 

「ちょ……待てっ」

「アッリヴェデルチ♪(またお会いしましょう)」

 

 

 

 彼女はそのまま光の輪に突っ込むとかき消えてしまった。残された男や兵士たちは、しばし呆然とその場に佇んでいた。

 

「魔王さまっ! どうなされましたっ」

 

 常にない驚きの声に彼が振り向くと、アリアドナが駆け寄って来ていた。いつもはフードで隠したままの素顔も晒されている。慌てていたためフードが外れた事に気付いていないのだろう。

 

「ああ……アリアドナか」

「執務室から居なくなったと思えばこんな所で兵たちと座り込んでいて……何かあったのかと思ったではありませんかっ」

 

 少し上気した顔をぷりぷりと怒らせて言うアリアドナ。そう言えばこんな顔だったんだな、と暫く見なかった副官の顔をぼんやりと眺める。その視線に気付いて慌ててフードを被り直す。

 

「し、失礼しました」

「あ……? いや、顔を見せるくらい失礼なもんか」

 

 本当の失礼というのは、先ほどの子供であろう。いきなり来て、やるだけやって、言うだけ言って、すぐに帰る。まさに子供の所業であった。よくアリアドナに言われていたが、あれに比べれば自分はまだまだおとなしい方だったと自覚せざるを得ない。

 

「ふっふっ……」

「ど、どうされましたか? 陛下」

「いや。世の中には面白いことがまだまだあるのだなと思ってな?」

 

 蒙が啓かれたというべきか。

 王となって多くの臣民を導く立場にはなったが、知らぬことや分からぬ事も多いと理解できた。あの少女の存在自体もさることながら、その行動理念にも思うところはある。

 

『妹を殺されかけたと言っていたな。その鬱屈を晴らすためだけに、ここに来たわけか』

 

 要するに一発殴っておきたかった。それだけだ。そのあまりに簡単な理由は、彼にとって理解しやすいものだった。彼だって自身の臣下、例えば目の前にいるアリアドナが危機に陥ったとなれば心穏やかではいられまい。

 

「あ、あの……?」

「ふふ……()い奴よな」

「ふえっ?」

 

 自然に出た言葉だが、それは彼が一度も意識した事のない言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いで戻ると、こちらではすでに日が傾きはじめていた。体感時間では一時間程度だと思っていたのだけど、時差というものなのだろう。

 

「フォーくんはと……ああ大丈夫だった?」

『読書してましたー♪』

 

 身代わりとして置いてきたフォーくんと意識を繋げると朗らかに返事をしてきた。フォーくんとは魔法で作った分身体で、自律行動もちゃんとしてくれる。不在の間の身代わりが必要だと思って調べていると、父の蔵書の中に使えそうな術の記述を見つけてのだ。

 

 『分け身』というものだが魔人族の秘儀とされていて、詳しい記述は何もない。魂を分けて実体を魔力で作るというものなんだとか。

 ものは試しとやってみたら、うまくいった。高すぎるスペックに呆れるばかりである。

 

 その身代わりのフォーくんが、緊張感のかけらもないように報告をしてきた。

 

『ディーデリック様は急用が出来たと帰られましたぁ。イルセ様のすこーん、美味しかったです♪』

「ん、よかったな」

 

 この感じならうまく騙し仰せたみたいで一安心だ。まさかこの短時間に魔王国まで小旅行してたとか思うまい、フッフッフ(ゲス顔)

 

 出た時と同じように頭巾を被って門を潜ると、いつもの場所を目指して走る。バイタルジャンプは魔法障壁を突破出来ないので少々面倒なのだが、これくらいは仕方ないか。

 穴の空いた所から領主屋敷に戻ると、メイドたちに見つからないように隠れて移動する。一階の応接間の表にに着くとフォーくんが窓を開けて手招きするので素早く入る。

 

「お疲れ様でした、ご主人様」

「うん、そっちもおつかれ♪」

「わたくしは特に何もしてませんからぁ。お茶を飲んでお菓子を食べて。ディーデリック様やイルセ様とのおしゃべりをしていただけですので」

 

 にこにこと微笑むフォーくんだが、見た目はリーセロットそのものだ。むしろ俺よりお嬢様してるすらある。

 とはいえこのままではまずい。

 

「それじゃ、解除するぞ」

「またのお呼びをお待ちしてますね、ご主人様♪」

 

 身代わり(フォールガイ)を解除すると、フォーくんの身体が溶けるように消えていく。

 ちなみに初期設定の形はまんまあの形だ。変なゲームに巻き込まれて跳ね飛ばされたり落ちたりしなくてよかった(笑)

 

 

 いつものドレスに着替えてから、妹の部屋へと行く。

 

「リーセロット様」

 

 中にはメイドのアニカがいた。ベッドで眠るヘンリエッテの枕元にいたので、あやしていたのだろう。

 

「ヘンリエッテ、寝ちゃった?」

「先ほど寝入りましたばかりで……」

「起こすつもりはないから」

 

 可愛い妹が安らかに眠っている。その手を優しく掴んで、小さく呟いた

 

「かたきはとってきましたわ」

 

 眠っている彼女が少し笑ったように見えたのは、たぶん気のせいだろう。まあ、自己満足でやった事だし。俺がこっちに来る事になった発端を作った奴なんだから、一発殴るくらいいいだろ?

 

 側で聴いていたアニカにはまるで意味が分からなかったようで、それもまたおかしかったので笑ってしまった。

 




 一発入れてやったぜ(ドヤ顔)
 えええ……(管理者ドン引き)

 今回はコメントの表記はしませんでしたが、終始こんな感じだったかと。


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20 安全確認っ ヨシッ(ΦωΦ)

 スタッファンを逃した事がバレるかな? とも思ったけど、『目撃者も無く』『アリバイもある』『しかも子供』を疑う筈もなかったらしい。

 あの施設に入る際に『透明化(インビジビリティ)』を使ったし。牢を開ける鍵は正規のもので、番をしてた従士は眠らせたし。

 ディーデリックは失敗を報告しに来たけど、切腹でもしそうな勢いだったので止めさせてもらった。

 

「ディーデリック様は悪くないのです。相手が上手だっただけですわ」

「ふむ……人的被害も無いし。以後、気をつけてくれたまえ」

「ご温情痛みいります」

 

 フォーくんの記憶から、彼女がイルセによく似た優しい女性だと言うことは分かっている。有能で綺麗なお姉さんなんだから大事にしなきゃ。

 

 そうなんか

 ワイらリセたんのとこしか見れんからな

 活動的なイルセといった感じで草

 笑うとこか、そこ?

 面頬くらい取ってほしいなあ……

 

 イルセといた時は取ってたらしいよ?

 フォーくんが部屋に入ろうとしたら慌てて被ってたらしい。

 

 フォーくんの記憶もワイら見れないんだよな……

 ウチラ傍観者だもんねw

 

 配信を見る=ストーキングじゃないからな、お前ら(笑)そこを履き違えないでくれよ。

 

 執務室を二人で出てから、少し話を聞いてみる。当然、あの件だ。アデルベルトには聞かせられないからね。

 

「街で出会った少年のことは覚えているかしら?」

「……はい。凛々しい男の子と連れ立っていた美しい子の事でしたら、覚えております」

 

 面頬の奥で笑っている事が分かる声色だ。

 やっぱ気付かれていたのかと思ったのだけど、実はそうでもなかったらしい。

 

「その時は、何故か声をかけるべきだと思ったのです。その子の正体に気付いたのは、貧民街での子どもたちとのやり取りを見てからです」

「あー……踊っていたのは見ましたの?」

「いえ? 私はその子が消える場面を目撃しましたので」

 

 やっぱ見られてたか。イルセと接点のあるディーデリックなら俺が転移出来るって知ってるはずだし。あんな方法が取れる子供なんて他にいるわけないからね。

 

「……お父様に、報告……する?(コテン)」

 

 あざてぇ…… →100

 何気ない仕草が萌えますねw

 

「お嬢様は聡明でありますし、妙な真似はなさらないと信用しております。それに……」

 

 彼女はしゃがみこんで耳打ちをしてきた。

 

「私も、脱走の経験がございますので」

 

 いたずらっぽく彼女は言った。まだ二十歳そこそこで剣も魔法も扱える彼女は、かなり活動的な子だったのではなかろうか。

 

「でも、目に余る事をなさりますと報告せざるを得なくなります。程々が肝要かと存じます」

「心得ましたわ。ありがとう、ディーデリック様♪」

 

 ディーデリック、脱走系お嬢だと判明w

 なるほど。同じく街へ繰り出してたのか

 好奇心旺盛な子供だとやるだろうなぁ

 

 控室のアンゼリカを伴って公邸から出る。

 屋敷と公邸の間はいわゆる官公街であり、各種商業組合や下位貴族の別邸などが建ち並んでいる。そのため歩く人はまばらで、移動はもっぱら馬車だ。

 公邸の使用人が馬車を運んでくるとアンゼリカが杖とカードを出す。

 

騎獣召喚(ゴレム・トランスポート)

 

 カードが光を放つと大きな馬を作り出す。

 親父であるアデルベルトの使う物より雑な作りだけど、これは魔力とレベル、さらにイメージ力といったところの差であるらしい。

 街へ乗り入れる事のできるのはこうした『魔力を以て作られた馬』だけだそうだ。そういや通りを歩いていても落とし物が少なかったのはそういうことなんだなぁ。

 

 中世の街のわりに清潔感あるよなここw

 てかこの世界、大きな街はだいたい上下水道完備だぞ? マップで確認したわw

 下水施設はスライム利用だっけ?

 便利すぎて草

 

 騎獣召喚で作れるのは地上を走る物なら何でも良いとか。農民とかは牛にする事が多いらしい。労働力としてはそっちの方が好まれるそうだ。目立ちたい奴は大狼とか獅子とかにするって。そういうのは冒険者とかアウトローな人間が多いらしい。

 

 つまり、一般的な形が馬というだけの話である。

 

「アンゼリカさんはなぜ馬になさりましたの?」

「父も母も馬でしたので。それに、他の動物はあまり存じませんでした」

 

 まあ、無難な選択というのも悪い事ではない。特に権力機構の中だと目立つのは色々と拙かろう。

 御者台でそう答えるアンゼリカだけど、なんか落ち着かない様子だ。

 

「あの……お嬢様。出来れば席の方へお戻り下さいませ」

 

 そう。俺はアンゼリカの横に座っていたりするのだ。

 風が気持ちいーねえ♪

 

「良いではありませんか。ちゃんと掴まっていますから」

「は、はあ……」

 

 彼女のメイド服のしっかり掴んでいるし、何なら手を回してもいい。この馬は彼女の意思で動くので機嫌が悪くなって暴れたりはしない。手綱も不要なのだ。

 

 あー、イイですねぇ……

 あえて御者席乗って衆目に晒すスタイルおk

 馬車の部分は作れないんだっけ?

 あれは魔術装具扱いだね。

 

 お屋敷までは三分ほどで着いてしまう。それでも俺はこの時間が好きだった。なにせ公認で街に出ているのだ。目的としてはまあぼちぼち侯爵令嬢として職場に慣れるという側面もあるから萎える所もあったりはするけど(笑)

 

 そんな折、前の歩道を歩く少女の持っていた布袋の紐が切れ、路面に野菜やら果物を散乱させてしまった。

 

「あっ!」

 

 慌てて拾いに馬車の前に出てしまう少女。

 とは言っても馬車はそんな簡単に止まれるものではない。

 

 なのでいつもの方法を使うことにする。瞬間的に消えて、少女の傍へ。馬車に怯える彼女に抱きついてそのまま転移。歩道へと跳んで着地する。乗っていた馬車はその場を十メートルほど進んでようやく停まった。

 

「お、お嬢様っ?」

「わたくしは平気ですわよ、アンゼリカさん♪」

 

 御者席から飛び降りる彼女にそう答える。

 この辺りは比較的高級住宅街とも言えるので通行する人はあまりいないが、それでも仕事で動く平民などはちらほら見かける。

 馬車の事故に、人が集まってくるが誰も怪我をしてないところを見ると早々に去っていく。

 

 如何にも高そうな馬車だし、関わりたくないだろうねw

 平民にとって貴族は祟り神みたいなもんだし

 

 野次馬はどーでもいいよ。それより女の子の方が大事だ。

 

「怪我はありませんか?」

「は、はひっ! ありましぇん」

 

 俺の腕の中で女の子は顔を真っ赤にしてそう答えた。テンプレみたいなキョドリ方に少し笑ってしまう。俺が抱きかかえているのが原因っぽいので手を離すと彼女は平伏してしまった。

 

「き、貴族のお嬢様のお手を煩わせてしまいましたっ! ど、どうかお慈悲をぉ」

「ええ……いや、ちょっとやめて下さいまし。なんかわたくしが悪いことしてるみたいじゃありませんの」

 

 往来で同い年くらいの子供に土下座させてるなんて見た目に宜しくない。急いで立たせると、スカートに付いた埃をはたく。

 馬車を停めたアンゼリカが寄ってきて俺のことを同じようにするけど、こっちはそんなに汚れちゃおらんから(笑)

 

 それから、彼女に向かって毅然とした様子で言った。

 

「いきなり馬車の前に出るのは犯罪です。貴方の名前は?」

「ひぃっ!?」

「故意にやったとなれば重い罪にもなりますっ! 親や一族にも塁が及ぶかもしれませんよ」

「あわわ、お、お許しをぉっ!」

 

 またしても平伏する少女にアンゼリカは容赦がない。遠巻きに人も見てるし、あんま大事にすんなやっ!

 

 轢かれそうになったのに女の子の方が悪いの?

 そう(よそ)おって貴族が襲撃された事があったらしい。ホントに草

 他の国でも同じ感じだよ。馬車は急には停まれない。

 身分差に慣れていないリセたん、ドギマギしててカワイイw

 

 人に頭下げるのは出来ても、下げられるなんて慣れてねぇよ(笑)

 そんな事言ってる間に警吏が来ちゃった。こっちを見るといきなり敬礼だもんだから俺もビックリ(´゚д゚`)

 

「こ、侯爵令嬢様に敬礼っ!」

「「はっ!」」

「ええ……」

「こ、侯爵令嬢さまって……」

 

 お、俺のこと知らないみたい。わりと街の人の前には姿見せてるし、この辺りの子供ならだいたい知ってると思ってたんだけど。

 

「この子はリーセロット様の馬車の前に転がり出て進路を妨害しました。早急に逮捕し取り調べ下さい」

「はっ」

 

 アンゼリカ、てきぱきし過ぎぃっ!

 涙目の女の子を大の大人が無理やり立たせてる姿はあまりにも痛々しい。

 

「お待ちなさいっ」

「リーセロットさま?」

 

 近寄り、彼女の手を取る。警吏は空気を読んで彼女から手を離した。俺は彼女の右手を握りしめて警吏にこう言った。

 

「彼女は馬車の前の物をどかそうとしただけです。幼さゆえうまくいかなかっただけでわたくしを害そうとする意図は見受けられません。アンゼリカは早とちりなさってないかしら?」

「は、えっと……」

 

 ワタワタする彼らがアンゼリカの方を見る。

 彼女は少しバツの悪そうな顔をすると私に頭を下げる。

 

「どうも私は先走っていたようです。お嬢様が仰るように問題はなく、逮捕や拘禁は必要ありません」

「はっ、畏まりましたっ!」

 

 とりまなんとかなりそうなので、今度はこっちのケアだ。涙ぐんでる女の子に声をかける。

 

「怖かったかしら? でももう平気ですわ」

「あうぅ……ひゃい……」

 

 ……む。

 涙ぐむ少女ってなかなかイイな。

 てかこの子、可愛くない?

 

 リーセロットたん程ではないが足し蟹

 ちょっとタレ目で愛嬌あるねw

 着てる服はちょっとアレだけどな

 ん、野暮ったい草

 

 下働きかなんかの子供だろ?

 ばら撒いたのも野菜とかだし。夕飯の買い物頼まれてたんだろうな。そうだっ!

 

「あなた、買い物帰りだったのでしょう?」

「あっ! そうでした!」

 

 言われて気付くと、場所に轢かれた野菜の元へと向かう彼女。幾つかは平気そうだけどほとんど踏み潰してしまっていた。

 

「これは弁償しないといけませんわね♪」

「お嬢様ぁっ?」

「さあ、アンゼリカさん。この子を乗せて市場へ向かって下さいませ! あ、ここの掃除はあなた方お願いね♪」

 

 俺の言葉に目を白黒させるアンゼリカと少女。ちなみに掃除を命じた警吏は何故か喜んでいた……ホワイ?

 

 

 

 

 

 結論から言うと、市場には行けなかった。

 アンゼリカが頑なに引き留めるし、少女の方も嫌がったからだ。

 

 まあ、そうだよな(笑)

 『畏れ多いですぅ!』ここヨカッタ

 警備とか考えると市場は辛いよな。オマケに一人だし

 さすがのお嬢も無理強いすぎw

 

 アンゼリカが代金を払って、その場を離れる事になった。あんまり引き止めて夕飯に間に合わなくなるとかマズイしね。

 

「あなた、お名前は?」

「わ、わたくしはマルレーンと申します」

「そう。なら、マルレーンさん。明日、わたくしのお屋敷にいらっしゃい。時間はいつ頃なら空いてますの?」

「ふえっ? ああ、あの、それは……」

 

 俺の言葉を聞いてガクガク震えてるマルレーンだけど、アンゼリカがぴしゃりととどめを刺す。

 

「侯爵家ご令嬢のお誘いを断るという事がどういう意味かはご存知ですよね? ニッコリ(^_^メ)」

「……ひゃい……、午後のはじめ辺りでしたら……」

 

 午後のはじめとはだいたい十二時から十五時位のことを指す。厳密な時計がないのでこんな呼び方になるのだ。

 

「では、門でそう仰って下さいませ。お茶とお茶菓子を沢山用意しておきますわ♪」

 

 そう言って彼女と別れたのだけど、心配なのでスパくん(蜘蛛型使い魔)をこっそり忍ばせておいた。ほら、お金渡したからさ。ろくでもない連中に絡まれたりしないようにね。

 

「お嬢様……あの子をご友人となさるのですか?」

 

 アンゼリカが隣から聞いてくる。少し心配そうな顔をしているな。ちな御者席にいるのに文句は言わなかった模様。

 

 もう諦めたんだろw

 なんだかんだと隣にいてくれるの嬉しいみたいだね

 

「あら? 何か問題でも?」

「見たところ、あまり貴族らしくなかったので……お嬢様には相応しくないかと愚考しました」

 

 おっと。アンゼリカも貴族の出だからかこういう事は気になるんだろうね。

 

「わたくしも人のことはあまり言えないですわよ?」

「そんなことはありません。お嬢様には神々しい気品が満ちております。そうしたものがあの少女には感じられません」

 

 アンゼリカが少し唇を尖らせながら言う。あれ? ちょっとカワイイ仕草だなw ひょっとして拗ねてる?

 

 これはてぇてぇw

 リセ✕アンですか

 これはイケる (;゚∀゚)=3

 →3000

 

「アンゼリカさんは心配性ですわね♪ 別にメイドにするなんて言ってませんわよ?」

 

 そう言って抱きつくと、少し驚いたようだ。

 

「お、お嬢様。危のうございます」

「ふふーん。ぎゅーですわっ♪」

「もう……仕方ありませんね」

 

 アンゼリカの機嫌が良くなったみたいなので、一安心。あとは……あの子の確認かな?

 

 

 

 自室に戻るとスパくんとの接続を試みる。とりあえずちゃんとくっついているようだ。

 

 使い魔にした時点で魔法生物になってるから、スパくんに食事は必要ない。その他の害虫にやられるほどヤワでもないんだけど、人間に叩かれるとかなりヤバいのでそこだけは注意しないとね。

 

 んで、確認してみたんだけど。

 マルレーンちゃん、何やらぐすぐす泣いてるみたい。

 

『お父さん……お母さん……かえりたいよう……』

 

 どうも、厄介な身の上の子だったらしい。

 (´Д`)ハァ…

 

 




 現場猫のポスターを見るとどうしても笑います。
 他意はありません()


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21 お茶会の準備と彼女の事情

 


 その日の夕食の席で、俺は父親(アデルベルト)母親(リーサンネ)に話を振った。

 

「お父様、エイク男爵家をご存知ですか?」

「ふむ。配下だから知ってはいるが……あまり交流はないかな? ……そういえば報告があったな。そこの娘をお茶会に招待したと」

「あら、そうなの? こ、これはどうしましょう、あなた」

「落ち着きなさい。正式にお呼びした訳でもないし、相手は男爵家だ。気負う必要はない」

 

 そういや、リーサンネはあんまり上流貴族との関わりがないと言ってたな。お茶会とかも開かないから有り難いけど、いざというとき困るよね。

 

 実は親父の悩みの種でもある(笑)

 まあ、それでもいいと結婚したんだから大きな声では言えないよなw

 ゆくゆくはリーセロットがやってくれるならそれの方がありがたいと思ってるだろうし

 

 いや、俺だって面倒ごとはイヤだぞ?

 でもまあ、やらなきゃいかんならやるけどさ。

 

「お母様、わたくしがおもてなし致しますからご心配なく。イルセさんと……アニカさんをお借りしますが構いませんか?」

「ああ、構わない。しっかりと主催の心得を学ぶと良い」

「ほ……」

「はぁ……君も少しはご友人を呼ぶとかしたまえ。仕事関係の方以外と会食も出来ないというのは些か問題だ」

「うう……分かりましたわ」

 

 なんか飛び火させてごめんな、ママン。

 

 本来、貴族の家計の三分の一は社交費と言われているほどだ。

 ところがうちはその半分にも満たない額しか使っていない。大抵の貴族は奥方のお茶会の開催を心中穏やかに迎えられないとか何とか。

 

 経済的にはいいけど、周りからは突き上げ食らってるよな

 ハーゼルツァットは国でも上位の収益を出してるしお近づきになりたい連中は山ほどいるからね

 お披露目過ぎたらわんさとくると思うよw

 

 鬱になる情報あんがと。

 はぁー、めんどい

 ε-(‐ω‐;) 

 

 したらば明日の件で用意があるからと、食事が終わるとイルセを呼ぶ。あらましを告げるとイルセは少しだけ思案して語り始めた。

 

「……非公式のお茶会でしたら然程用意は必要ないかと存じます」

「そうなのですか?」

「茶器や茶葉の厳選は必要ありませんので、常用のもので良いかと。お茶菓子に関しては、今から用意するなら大概のものは作れるはずです。花は今の時期なら花壇の物が幾らでも使えますし」

 

 すらすらと答えるイルセだけど今回はそこまできっちりするつもりはないと答える。

 

「そのお嬢様さんは養子縁組なさった方なの。元は平民らしいので堅苦しいお茶会だと萎縮してしまうと思うから、ホームパーティのような形で行いたいのよ」

「左様でございましたか。でしたら、奥方様がいつも取り仕切るような形がようございますね」

 

 顔色一つ変えずに微笑むイルセに貫禄を感じます……やっぱ年の功だな(暴言)

 

 何故かディスられるイルセたんw

 アンゼリカと比べるとやっぱ包容力の差が出るね

 

 それから細かい事を決めていく。

 茶葉はいつものでいいけど、茶器や調度類はメイドたちの使う物の備品から(ランクとしては丁度いいらしい)

 

 迎賓館の一室を借りて、清潔感を意識しつつ過度な装飾は外して。あと、子供用のテーブルと椅子のセットに変えてもらう(うちらじゃ大きい椅子に座るのはなかなか大変なのよ)

 

 お茶菓子に関しては料理長のフェルヘールに聞いてみると、オリボーレンが宜しいと言われたのでそれに決めた。

 

「オリボーレンなら私も作れるわよ? 教えてあげますわ、リーセロット」

「ええ……お母様?」

 

 料理長とお話してる最中に割り込んできたのは我が母親リーサンネ。料理長もこれには苦笑いです()

 

 リーサンネさん、料理はガチ勢

 魔術と料理に関して極ブリだけど他はへっぽこな美人……属性多いなw

 

 そうなんよ。

 マジで料理うまいから困るんだよね。

 

 

「あなたも料理出来れば、旦那様を射止めるのもわけないですわよ、リーセロット」

「ハア……まあ、それは構いませんが」

 

 まあ、いいか。家では自炊してたし、厨房に入るバイトも経験はある。料理自体も嫌いじゃないしね。

 

 リーセロットたんの手料理食いてぇw

 マジか。残念系にならんといいが

 リーサンネの娘なんだし平気やろ?

 俺氏も出来ると言ってたし……あれフラグ立ちすぎてね?

 これはヤバい流れかもしれんでぇ……

 

 不穏な流れ作んなや (ー。ー#)

 

 それではと下準備にかかるオカンに続いて初めての厨房入り。ドライフルーツをお酒に漬け、粉やバターとかの確認をしている。

 俺は料理長に声をかける。彼が溜息をついたようだからだ。

 

「あの、ご迷惑ですよね?」

「えっ? ああ、いえ、迷惑だなんてありませんよ」

 

 年の頃は三十そこそこの彼は、王都の一流の料理店で腕を磨いていた料理人で、前任の料理長の弟子でもある。平民出とはいえ上流階級とも付き合う事の多いので、この屋敷のアットホームさにすごく驚いていた。

 

「先輩からも聞いてましたけど、奥様が料理なさるというのは珍しいですからね。でも、良いことだと私も思います」

 

 夫や子供の食に対して敏感になる事は悪い事はない。体調の把握もしやすいし、何より家庭が円満になる。下級貴族の家がわりと長生きだったりするのもそういう側面があるのだと語った。

 

「子爵様となると少ないのですが男爵様のお家は半々位と聞き及んでいます。私の友人の料理人は、男爵家に赴いて嘆いておりました。『旨い料理より腹にたまるものを作ってくれ』とのご指示に頭を抱えたそうです」

「まあ、正直な方でしたのね(クスクス)」

「そ、そうですね(ヘヘッ)」

 

 実直そうなわりにこういう事も言えるので、俺はわりかし気に入ってたりする。

 

 あのさあ、フェルヘールくんさぁ……

 間違いとか起こすとマジで一族皆殺しなるぞw

 照れてんじゃねえよ、おっさんw 

 

「私の所もそうでしたわよ。石高なんて良い所と悪い所は天と地ほども違うもの。ここは良い土地が多くていいわよね」

「左様でございますね。小麦の質もよく、ライ麦や米も取れますし、何より大麦が宜しいです。今年の初物のエールが楽しみですよ」

「あら、あなたもイケる口なのね。ここのエールは酸味も少なくて芳醇よ」

 

 リーサンネが戻ってきて酒の話とか始めたよ。うーん、この年だからまだ飲めないんだけど気になるよなぁ。

 

 お酒に興味津々な幼女……ありですねw

 俺氏は飲む方だったっけ?

 

 付き合いなら何回か。ただ、酔いやすいせいかいつも後輩の女の子が家まで付き添ってくれてたよ。

 

 ……なんだかロマンスな流れで草

 男と女が逆転してるけどなw

 ひょっとしてその子といい仲だったりしたの?

 

 そんな事ない……と思うけどな。

 まあ、言われてみればそうなのかな?

 高校卒業後もなんだかんだでくっついてきてたし。

 

 寂しい人生かと思ってた俺氏に実は春が来てた件について

 ナシやなw

 もげろ……あ、今は無いか(笑)

 ええやん。人間としてはそれが正しい在り方やで

 マジレスすんな、ワイ氏

 なんやこらぁ、やるかボケッ

 火ぃつくの早すぎて草

 

 リーセロットがどれくらい飲めるかはともかく、飲めるようになったら飲んではみたいな。

 たしかお披露目の後はワイン飲めるようになるんだよな

 

 王国法ではそうなってるよ

 でも、家庭内とかでは飲んでる子もいるとか

 リーサンネやアデルベルトはその辺は固いから無理そうだけどね

 

「行きますよ、リーセロット」

「お休みなさいませ、お嬢様」

「お休みなさい、フェルヘールさん」

 

 いつの間にか話が終わってたので厨房から出る事にする。明日は色々とやる事があって大変だけど、スパくんの様子を確認しないと。

 

 

 

 

 

 マルレーンはもう寝てるみたいだ。

 うちと比べると……かなり粗末な感じの寝室だ。ベッドも藁敷きだし、灯りはランプだけで消してあるから真っ暗。

 スパくんの視界には関係ないけど、小さい子供には怖いんじゃないかな?

 

 やはり泣き腫らした感じであり、それでも疲れたように眠っている。よく見ると手は傷やマメが目立つ。平民の出というのは間違いなさそうだ。彼らは動けるようになると仕事をさせられるからね。

 

 スパくんの画像とか音とか分からないのがもどかしいw

 俺氏の語りだけだから……これ実質AMSRでは? ( ゚д゚)ハッ!

 ああ、そう解釈すればいいのか。お前天才だなっ! (・▽・❖)<しゅげえ

 

 ……独り言やめようかな(笑)

 

 とりあえず、手とか身体の傷とか治しとくか。スパくん経由で治癒の術……うん、何とか出来た。ついでに身体の疲労とかも取っておこう。

 

 想像するとちょっとコワイなw

 ちっこい小蜘蛛から治癒やらなんやらかけられるのか……

 魔術の使い方が曲芸みたくなってきたねw

 

 せっかくだから気分爽快で来てもらいたいだろ?

 

 終わったらちょっと階下に降りてみるか。

 えっと……ここ屋根裏か。マジで養子扱いなのかね? なんか使用人みたいだけど。

 

 下の部屋には……人が寝てる。

 けど、うなされてるみたい。熱が出てるのかな? 流行病とかじゃなければいいけど。

 あんまり近づかんとこ。

 

 スパくん、使い魔やから病気にはかからんよw

 でも、回収した時にリーセロットに移るかもしれん。用心はしたほうがいいよ

 

 一番下の階にいるお爺さんは起きてるみたいだ。でも、なんだか怖い顔でろうそくを見つめてる。……なんか言ってるな。

 

『あんな平民の小娘に頼る事になろうとはな。しかし、侯爵閣下のご令嬢直々の茶会となれば覚えもめでたくなろう』

 

 うお。

 なんか欲望だだ漏れなこと呟いてる。

 俺がマルレーンと仲良くなってもお前には関係ない話だろうに。

 

 アデルベルトとの繋がりが出来ると考えてるんだろ?

 養子として引き取った子でそれを考えちゃうのは浅ましいと思うけどね。

 この人がエイク男爵なのかな? 年齢が高過ぎる気がするけど

 

 どう見ても六十以上だよね。白髪だし皺多いし。

 

 王国法では六十五になったら強制的に隠居させられる。跡取りが居ないなら親族から養子縁組。それも出来なければ、世襲出来ずに王国が管理する事になる。

 詳しすぎて笑うw

 なんか専門家おるな(笑)

 まあ、普通は子供なり親戚なりおるし。滅多には起こらんわなw

 

 上の階に寝てた病気の人は息子なのかな?

 あんな人がマルレーンを養子にするのか……まさか光源氏計画とか(笑)

 

 無いとは言えないけどw

 でも手順が必要だよね。平民を正式に妻に迎えるには貴族としての箔が必要だから

 妾、という形なら問題ないけどそれなら養子に迎える必要はない。

 

 そもそも平民の子供を養子にするってどういう事なのよ? よく分からん(コテン)

 

 一般的には社会福祉的な意味合いだよね。余裕のある人間がそうでない人の子を育てる慈善事業的な感じかな

 ただ、この世界には魔力があって、平民にもまれに魔力持ちが出たりする。そういう子を育てるには平民には難しいから貴族や組合なんかが引き取って学校に通わせるんだ

 

 学校……あ、初等学校か。

 魔術の基礎はそこで習うんだっけ。

 

 組合での奨学金で通うとその職種に制限されるよ。冒険者組合なら冒険者、魔術組合なら魔術師、教会なら聖職者って具合にね。

 一方、貴族の養子として引き取られた子供は選択の幅は多いよ。でも、大概はその貴族の望む形になる。パトロンの言うことは聞くものだからね

 

 あー、つまり邪な考えでマルレーンを受け入れたんじゃないんだな?

 

 国から補助金も出るし貴族側も助かる事もある。雀の涙だけど(笑)

 けど、邪な考えが出来なくもないんだよなぁ、コレが

 

 えっ? なんか抜け道でもあんの?

 

 貴族の養子は平民のままだけど、貴族としては迎えられている。つまり貴族と婚姻関係になれるのさ

 マルレーンを囲いたい貴族が男爵に命じて養子にさせて、成人したら娶るなんて事も可能なんだよw

 

 はえー……面倒な手だけど、あるんだな。

 でも、まあそれなら当面は問題ないかな?

 

 

 爺さんはそのまま眠ってしまったようだし、今日はこの辺にしておこう。まだ分かんないことだらけだし、俺が深入りする理由も今んとこあまり無いしね。

 

 あるとすれば。

 あの子の笑顔が見たいだけ、かな?

 (*´ω`*)

 

 



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22 まどろみの少女と調理中の少女

 ※より前はマルレーン視点。後はリーセロット視点となっております。


「う……ん。あさ……?」

 

 少しだけひんやりとした空気に、ちょっとだけ微睡みたいなと思い……そうしても良いのだと気が付いた。

 

 私はマルレーン。

 

 今はエイク男爵家に養子としてフォーセロットの別邸へとやってきた。ここからかなり離れたサラト村の父ヘリーと母フェンケの二番目の娘であった。

 

 本来なら夏は日が上がる前から起きて野良仕事に出なければならない。夏場は野菜も果物も成長が早く、収穫時期を間違えると売り物にならなくなる。常ならば母や父に起こされて手押し車を押したり、弟たちの面倒をみたりとしなければならない。

 

 それをしなくてもよい環境になった事は、たぶん良いことなのだろう。

 手の傷や毎日の筋肉痛に苦しめられないのは、やはり楽だと感じてしまう。そんな自分が怠惰だと詰られる気がしていたたまれなくなるのも、心が弱いせいだと思い込んで閉じ込める。

 

 それでも漏れ出てくるのは、母の暖かい抱擁に父の無骨な掌を懐かしむ感傷。

 彼らの為に身を投げ出したつもりはないけど、やはり売られたようなモノだと感じてしまう。それは五つ年上の姉が奴隷として売られていくという……寒村の子供にはよくある、なんて事ないことを経験してきたからだと思う。

 

『元気でね。遠い空から、あなた達を見守っているわ』

『……おねえちゃん……』

 

 私の父や母にどうにもできない事が、子供の私に出来るはずもない。私はゴトゴトと揺られる馬車を眺める事しか出来なかった。

 

 そんな姉を見送った自分なのだから、売られるのも仕方がない。そう思った。

 あの時姉はなんと思っていたのだろうか。

 今の私と同じ気持ちの訳はないだろう。

 

 私は貴族に養子として引き取られたのだから。

 

 初めは少しだけ誇らしく思ってもいた。

 自分には魔力が備わっていて、男爵様が目をかけて下さったということを。

 

 ただの奴隷とは違うと……少し思い上がっていた。

 

 父や母を恨むのも筋が違うと分かっている。

 男爵様のお召に逆らうなんて出来るはずもなく、私に選択の余地はなかった。

 

 そういう意味では、私は姉と何ら変わらなかった。

 

 実際のところ、奴隷とは違って強制的な労働はあまり無い。魔力を高めるための訓練や勉強の他にやる事は多少の家事手伝いだけ。

 文字も少しずつだけど覚えて、賢くなっている気はする。

 

 でも。

 親元を遠く離れて暮らすという事がどれほど心細くなるのかと言う事は知らなかった。

 

 旦那様はご病気で立つことも出来ず、ご隠居されていた大旦那様はイライラしてばかり。

 領地のお屋敷には奥様がいるけど、旦那様に愛想をつかせているせいか、お見舞いにも来ない。

 そんな人たちの下で働く方たちも、私に同情してくれる人はいない。それもその筈だ。私は彼らと同じ平民なのに、貴族の養子となっているのだから。

 

 この広いとは言えない男爵家別邸には、居場所がなかった。

 

 せめて買い出しくらいはすると言って、まさかあんな事故を起こしてしまう事になるとは思わなかったけど。

 

 あのとき。

 私を助けてくれたあの方は……まるで絵本の中から出てきたような方だった。

 

 罪科を問われて震える私の手を取って。

 悪くないときっぱりと大人に言う姿は、とても凛々しくて。

 女の子だと分かってはいても、ドキドキが止まらない。

 

「リーセロットさま……」

 

 そんな愚にも付かない事を考えて微睡んでいたら、枕元に小さな蜘蛛が居たのに気が付いた。

 

「……?」

 

 私の小さな小指の上に乗って、まるで船を漕ぐように頭を上下させている。蜘蛛はあんまり好きではないけれど、この子はなんとなく愛嬌があって可愛いと思った。

 

「あれ?」

 

 よく見ると。

 昨日ぶつけた左手の怪我がなくなっていた。

 

 男爵様に夕ご飯を持って行って、いつものように食べないと仰って……その器を払われた時にぶつけたのだ。

 

 赤く腫れていたけど、大旦那様に言うほどでも無いと思い、そのままにしておいたのだけど……?

 

「あなたが治してくれたの?」

 

 うつらうつらと頭を動かす小さな蜘蛛に、そう言った。すると、こちらに気が付いたのか私の方に顔を向けた。

 

「……?」

 

 少しの間、見つめあっていたと思う。

 すると、小さな蜘蛛は前の脚を片方だけ上げた。まるで挨拶をするようにぴょこぴょこ動かす様がすごく可愛くて、思わず笑ってしまった。

 

「くすっ……君はとってもかわいいですね♪」

「……」

 

 前の両脚をぶんぶんと振って、まるで『違う、可愛くなんかないっ』とでも言っているみたい。

 

「ふふ……あ」

 

 小さな蜘蛛は、ぴょん、と跳びはねて明り取りの窓へと跳んでいってしまう。表はもう、朝の光に満ちていた。

 

「うーん……」

 

 身を起こして、大きく伸びをする。

 昨日までの疲れが嘘なように消えている。

 これもあの小さな蜘蛛さんのご利益なんだろうか?

 

 今日の午後は侯爵様のお嬢様とのお茶会に呼ばれている。それまでに今日の分の課題を済ませておかないと。

 

 小さなお客さんのおかげで、鬱々とした気分もどこかへいってしまった。やっぱり朝蜘蛛は幸運の使いなのかもしれない。

 

「よーし。やるぞ!」

 

 私は急いで身支度をして、屋根裏から降りるのだった。

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 今朝は危なかった。

 スパくん繋げたまま寝落ちして、マルレーンとバッティングするとは思わなかったよ。

 

 苦し紛れに挨拶とか、我ながらバカな真似をしたな……マトモな蜘蛛じゃないってバラすようなモンじゃないかよ、まったく。

 

 そんなわけで。

 朝食を食べてから日課の魔力鍛錬に今日の課題を終わらせる。午後はマルレーンをお呼びしてるので何もないけど、その分午前に回されてるんだよね。

 

「リーセロット、厨房に行くわよ」

「……宜しいのですか?」

「私に聞かれましても……」

 

 答えたのは歴史を教える先生である。雇い主である侯爵家の奥さんが言ってるなら授業は中止だよなぁ。権力の横暴、いくない。

 

 と言いつつ喜ぶリーセロットたんでした。

 ニッコニコやないかw

 

 そりゃあ、嫌いじゃないけど。

 でも今日は初めてのお茶会だからね。

 それに母親(リーサンネ)が料理を教えてくれるんなら行くに決まっている。本と筆記具をしまい、そそくさと勉強部屋を出るとアンゼリカが待っていたので移動……あれ? ここ衣装部屋じゃん。

 

「お仕事着に着替えましょう」

 

 そういうことね。

 この間着ていたディアンドルもここに仕舞っているのでそれに着替える。頭巾やエプロンは別の物が誂えてあって、金色の糸で刺繍がされていた。アンゼリカによるとそれはリーサンネが刺したものらしい。

 

「この刺繍……」

「奥様が刺したものですよ。相変わらず綺麗ですね」

 

 家庭的な彼女だけにこの方面も得意なのだ。

 榛の実を掴んだ鷹というのはうちの紋章にもなっている図柄であり、金糸での刺繍はとても精緻である。ぶっちゃけ普段使いの物にするレベルでないと思う。

 

「お母様はスゴイですわ。それにひきかえわたくしときたら……」

「お嬢様、あの……」

 

 アンゼリカが言い淀む。その意味はとても残念だからである。

 

 運針は問題無いんだけどね

 下絵が、なぁ……

 

 コメントにもあるように、どうもリーセロットは『画伯』のようである……あ、俺はちゃんと鷹を描こうとしてたよ? でもなぁ……

 

 あれはどう見ても怪生物でワロタ

 今の絵、ヒドかったね……

 ちな俺氏の部屋から昔の描いた絵が出てきたけど、こんなの 彡サッ

 ん……まあ、酷くはない。上手くもないけどw

 普通。でも、そこはかとなく中二臭

 これ、なに描いたの?

 

 あり職のハ○メ……のつもり。てか、勝手に人の机イジるなよっ

 ヽ(`Д´)ノプンプン

 

 なるほど……俺氏とリセたんに相違点はあるのか。興味深い。

 そのうち眼帯付けて真っ黒なコート着たりw

 リボルバー片手のリーセロットたんか……アリやなw

 今の容姿だと吸血鬼の方が合ってるね

 

 ……やんないからな(プンスカ)

 

 コメントを無視して厨房へ。

 粉を(ふるい)にかけているリーサンネがいるけど、他には誰もいない。この朝食後の時間は厨房に詰める料理人たちの休憩時間に当てられているのだ。

 

「来たわね。始めましょうか」

「宜しくお願いしますわ、お母様」

 

 思わず握る手にも力が入る。

 それを見て少しだけ笑う母親だが、指導はそれなりにスパルタだった。粉と砂糖を混ぜて、牛乳を流し込む。そこで一緒に生のイーストを入れようとしたら注意さたのだ。

 

「いっぺんに入れちゃだめよ」

「ふぇっ? な、なぜですの?」

「うまく混ざらなくなるし、味や食感も固まってしまうわ。手間がかかるけど、一つずつ混ぜていくの」

「はぁい、分かりましたわ」

 

 溶き卵と、溶かしたバターと、お塩。

 これも別々に入れて混ぜていく。

 腕力が無いので身体強化をこっそり使って何とかこなす。

 最後に酒に漬けていたドライフルーツを混ぜていく。

 艶々とした葡萄がとても美味しそうで、つい手が伸びる。

 

「♪ うん、おいしい♪」

「つまみ食いしないのっ(ポカッ)」

「はうっ」

 

 ラムレーズン、マジうまい。

 アイスとかに混ぜて食べたい♪

 こんど作ってみよう(フンス)

 

 リセたんのつまみ食い……かわいい

 叱ってる本人も食べてるがなw

 あ、ちょっと顔が赤くなってるなリーセロットたん

 

「いや、本当にダメだからね」

「あーん、お母さまぁ。もうちょっと〜」

 

 そそくさと冷蔵庫に仕舞うお母さま……もうちょい食べたかったなぁ

 ( ̄¬ ̄*)ジュルルル

 

 あっ、こりゃあ……

 お酒だいすきっ子フラグですな(笑)

 すっげえ見てるしw

 

 その後、ボウルを保温庫に入れて一時間ほど。時間は砂時計で計ってるな。保温庫は発酵させる為のものだろうけど、この世界って微生物の認識ってあんのかな?

 

 一部の博識な人達は知ってるよ

 パンの発酵に関しては経験則らしいけどね

 

 待ってる間に包丁の持ち方、扱い方なんかを教わる。この辺はすんなり出来た。

 

「私の娘だけあって、スジがいいわね」

「ありがとうございます、お母さま」

 

 使った野菜は煮込んで使うらしいからそのまま置いておく。すごい膨らんでた生地を取り出してきてかき混ぜ、またちょっとおいたら油で揚げていく。

 

「魔術装具?」

「リーセロットは魔術式のコンロは見たの初めて?」

 

 厨房の一角にあるそれは、まさに現代のガスコンロみたいなものだった。燃料は何かと聞いたら魔力そのものだとか。

 

「火の強さを自在に調節出来るの。すごく便利なのよ」

 

 俺にとってはそれは当たり前の話なんだけど、火をつけて竈で煮炊きする世界ではこれは革新的なモノなのだろう。開発に夫が関わったのも大きいようでしきりに自慢する言葉が出てる……ごちそうさまです。

 

 油が煮立ってきたら、生地を一口大にスプーンで分けて入れていく。感じからするとサーターアンダギーのようだけど、こちらの生地は少し滑らかだ。

 

「今年の年越しにはリーセロットのオリーボーレンが食べられるかしら?」

「! が、がんばりますっ」

 

 いやまだ七歳児なのに油使う料理させるつもり? まあ、いいけどさ。

 

 ……聞いたか、諸君。

 ああ。何とか潜り込めないかな?

 とはいえ憑依するのはリーセロットたんに止められてるし……

 

 ……管理者世界でなら作れると思うぞ。

 材料用意しておけばね。

 

 ひゃっほーい\(^o^)/

 これはたくさん用意しないと……

 リーセロットたんありがとう →3000

 

 あそこでは地球の管理者が料理してたし、作るの自体は問題無いはずだよな。

 問題はキャパだけど、それは預かり知らん。

 せっかくだし地球の食材色々集めておいてくれよ。ラーメン食いたいし、醤油や味噌も味わいたい。俺から出せる条件はこんなトコだな。

 

 おk 任せろ (๑•̀ㅂ•́)و✧

 年末にイベントか……ヨシッ

 やべえみなぎってきたw

 とりま残業にならんように……

 お前んとこ管理者なのに残業あんのかよ(笑)

 マジで急がないと草

 

 なし崩し的に年末年越しの管理者パーティが決定したけど、俺的には問題無い。

 

 さて、オリーボーレンも出来たようだし。

 あとはお客さんを待つだけだ。

 

 




 スパくんのイメージは、SAOのシャーロットみたいな感じです。ちっこくてちょこちょこ動くけど、蜘蛛は蜘蛛なんだよね……


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