将棋初心者による幼女から始める転生生活 (よしどら)
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プロローグ
「……四六歩」
「はい。二歩」
「…?二二歩ですか?」
「いや反則で二歩だって話なんだけど」
「あ」
「衣ちゃんよわーい!」
「いや皆強すぎるだけなんですけど」
最近小学校で将棋が流行っている。
どうやら最近新しい竜王が決まったらしい。世界の全てを支配したのだろうか?
そんな訳で私も流行りに乗っかって将棋をやっているのだが…如何せん地頭が悪かった。
唯の馬鹿の私が転生した結果、天才幼女になって大会蹂躙!なんて事は出来ず、小学生の平均より下ぐらいの頭しかない。
「しょうがないなー!私が教えてやるよー!」
「いや、別に興味ないですし…」
「えー!あんなに賢いのに!」
「…流石に掛け算出来て賢いは無いと思うんですけど…」
小さくため息を吐きながら、私は近くの少女に手を振る。
…それを見て頬を赤らめて私の方に寄ってくるのを見ながら、私は小さくため息を吐いた。
「あんな風に毎日来るのは諦めてくれないですかねー」
「…いや、衣が手を振ってるから来るんじゃないの?」
「な訳ないでしょう。小学生から色恋に耽ってたら将来大変ですよ?」
そう言いながら私は少女の頭を優しく撫で、紙に書いてある内容を勉強する。
……えっと、んー…。
「……私もその一人なんだけどなぁ…」
「?今何か言いました?次の授業漢字テストだから私覚えないといけなくて…」
「うえぇぇ!?次漢字テストなの?!範囲何処から?」
「漢字スキルノート7と8だった気がしますよ」
私の言葉と同時にチャイムが鳴り、終わったという声が聞こえ…私は思わず苦笑した。
…それと同時に先生が入ってきたのを見て、私はゆっくりと手を振る。
私の方をちらっと見た後に先生が頬を染め、優しく手を振り返してから教卓の方に移動した。
「っ…かわ……ぁ…コホン。授業開始するから席ついてねー!」
「…つくづく思うんですが、この学校の先生ロリコン多くありません?」
私が思わず呟いた一言を聞いて隣の少女が首を傾げるが、私は気にせずに漢字スキルを取り出した。
…そして漢字を指でなぞってため息一つ…
「…この辺り、転生特典とかがあれば楽だったんでしょうけどね…」
今度は隣の少女にも聞こえない様に最大限の注意を払ってから呟きつつ、私は広げたノートを見て思わず口を緩ませた。
…其処には先程の少女達が自分の夢を勝手に書いていて、やれ竜王だのやれ女流棋士だの将棋に偏った夢が多かった。
その中に一つ、全員が微笑みながら可愛い可愛いお願いをしていたのを見て私は次のページを開き…
-目指せ衣ちゃんあまえんぼう作せん。
-衣ちゃんをにーとにさせてどろどろにあまえさせたい。
-竜王になって衣ちゃんを買う。
思わずノートを閉じて私は周囲の少女達を眺める。
…あれ?私が可笑しいのか?と言うか私は販売物でもないし甘えん坊でもないんだけど?
…と言うかニートにさせてってなんだ。私は不慮の事故でニートになるのか?
「ひっ」
-まず初めに私が竜王である八一さんに弟子になりにって、その座を変わります。(此処が大変かも)
その後衣ちゃんを私の妻として紹介して、旅館にご招待します。(これは絶対だよ)
もっとやばい奴居たんだけど、私の書ける漢字の方が少ないしこれ本当に
絶対私と同じ様に転生してる奴だってこれ!と言うか旅館こんな字なんだ知らなかった。
今日のテストお蔭で何とかなりそうだよありがとうね!
「…こ、これくらいの考えを持ってる人よりは、ニート一本道〆の方が良いですね…うん」
「それじゃあテスト開始しまーす!皆覚える為に開いたノート仕舞ってねー!」
『はーい!』
「……あ」
私が将来の夢を見ている間にどうやら漢字の勉強が終わったらしい。
…昔の記憶を頼りに解くしかないと諦めてペンを持ちつつ、私はテストを書き始めた。
……結果は90点。普通だった。
-------------------------------
天才とは何だろう?
一人の少女を見つめながら、私は少しだけそう思う。
約束された美貌、約束された将来、約束された力…そして、私達に慈悲を与えてくれる心の広さ。
本物の天才とはこうあるべきだ。
そんな期待を思わず彼女に背負わせてしまうほど、私達は非凡すぎる。
「はーい。衣ちゃんは90点でしたねー!漢字の止め撥ね払いはちゃんと書かないと駄目ですよー?」
「ごめんなさいお母さ……ケホ。ごめんなさい先生!」
「…ぁー、私この学年の先生で良かった…」
「忘れてくださいお願いします!この年でお母さん呼び間違えとか絶望しちゃいます!本当に駄目ですから!いざとなったら腹斬りますからね!切腹ですよ!」
こんな風に、私達の知らない単語をどんどん喋りだす。
それなら将棋を指せば日本一になれるのでは?と思って挑戦させたのだが…
「…ふふ。楽しいですね」
「……そう、だね」
あの子は、私達に花を持たせ続けた。
最初は全力で勝とうとした。…勝った、当たり前だ。
次は手加減して負けようとした。…勝った、少しだけ違和感が残った。
最後は全力で負けようとした。…勝った。そして私は漸く理解したのだ。
あの子は私達の“お遊び”に付き合っているだけなのだと。
先程の二歩もそうだ。四六歩じゃなくて六四歩に置けば其処から逆転の一手が始まるのに。
「…暗に分かってるって、そう言ってるのかな」
「はい。香苗ちゃんは75点だよー。ちゃんと覚えてね」
「……はい」
私には将棋があるから。
…最初にそんな事を考えていた私を殴りたかった。
将棋があった所で凡才は凡才、天才は天才なのだ。
だから、昨日始めた筈なのにもう将棋のいろはを知っているあいにいらいらしたこともある。
「何で私は!」
そうすると決まりが悪くなって、皆から離れて叫ぶのだ。
私が天才になりたかった。そうすればあの子を引っ張っていけるのにと。
「…あ、香苗ちゃん。此処に居ましたか」
「っ!?」
「お昼ご飯の時間ですよー!今日はココ揚げパンですって!」
そう言いながら純粋無垢な笑顔でこちらにやってきたあの子を見て、私は胸を締め付けられた。
…どうして、すぐに怒ってるとかは察する事が出来るのに…こんな風に悲しんでる時は小学生のままなのだろうか。
此処に何時もいる理由位、分かっている筈なのに。
「香苗ちゃん」
「……なに」
「ぎゅーして下さい。いっぱいハグです」
あの子の言葉を聞いて、私の身体が勝手に動き出す。
それと同時に私の両手は衣ちゃんを掴み、そのまま胸に顔を押し付けた。
「…小学三年生から大変ですね。もう天才と凡才について考えるなんて…香苗ちゃんは賢いです」
「……衣ちゃんの方が賢いよ」
「何言ってるんですか。今日二歩で負けた凡才少女ですよ?」
そんな風にふざけた様な喋りをして、衣ちゃんは微笑んだ。
…そしてそのまま私の手を優しく剥がした後にお姫様だっこをしてくれて、私の耳元に唇を近づけた。
「…今日も将棋を教えてくれるんですよね?」
「あいちゃんから教えて貰うんでしょう…天才なんだからいいじゃない」
ああ、なんて事を言うんだろう。
折角の機会なのに、私は感情のまま断って…
「香苗から教わりたいんです。私に初めてを教えてくれたのは、香苗ですよ?」
「っ!?っ~!」
「あれ急に顔が…熱出ちゃったから保健室行く途中で迷ってたんですか?」
果たして今の一言は態とか素か。恐らくは態とであり素であろう。
こんな反応を楽しみたい事は知っているが、それでも私達に悪戯を出来ない優しい女の子なのだ。
「…因みにココ揚げパンは来週だよ。今日はコールスロー」
「一緒に保健室で休みませんか?私味蕾が復活しちゃって…」
「じゃあ保健室であーんしてあげる」
「……一口だけなら」
天才少女の弱弱しい一言を聞きながら、私はゆっくりと後ろで見つめている一人の少女を見つめる。
…じゃあねもう一人の天才。
幾ら将棋の盤面が天才的で強かったとしてもさ。
「…恋の戦争に、盤外はないんだから」
「あれ?私二歩のついでに新しく駒作ってました?」
衣ちゃんの一言を聞いて私は思わず笑いだし、それを見た衣ちゃんが頬を膨らました。
…後ろからの視線が更に強くなったが関係ない。
もし後ろの玉を射止めたいなら、私を打ち破ってからにしなさい。
まぁ最も…
「…やっぱり香車を無理矢理相手に指すのは…香苗の漢字もあって嫌なんですよねー」
「穴熊とかどう?」
「もう片方が可哀想で…でも香車をうまく使うには一度相手の
私に優しい衣ちゃんの前で、私が易々と倒れるとは思わない事だよ。雛鶴。
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押しかけ弟子
「という事で明日からは春休みです。羽目を外さず安全に風邪をひかずに健康で元気な四年生として……」
先生からの
まぁまぁ良いのだがお片付けに△が付いているのが納得できない。
大体汚して帰るのは他の友達なのでそいつらについていて欲しい物だ。
…いや、遠目で見えたけど普通に△ついてた。良かった。
「それでは東さん、号令お願いします」
「はーい。きりーつ…れいっ!さようなら!」
『さようなら!』
「はいさようならー!」
号令が終わり私達は漸く小学三年生が終わるらしい。
…良かった、どっかの世界みたいに一生三年生だったらどうしようかと…
「あっ!衣ちゃ…」
「衣ちゃん一緒に帰ろー?」
「はーい」
お隣のクラスに呼ばれた気がして振り返ったが、其処には私の友達である香苗しかいなかった。
…そのことに少しだけ首を傾げながらも、提案自体は有難いので頷いた。
「明日から春休みだけど、やりたい事って決まったー?」
「…やりたい事ですか?」
私が首を傾げながら問いかければ、香苗は少しだけ首を傾げた後に…
「この後竜王を消し飛ばすって話したよね?」
突然ゲームでも聞かないような一言が聞こえ、私は思わず表情が固まった。
…あれ?そんな話してたの?全く別人に話してません?それ…
でももしかしたら私に対して話してたかもしれないし、取り合えず頷いて…
「そ、それって九頭竜八一さんの事ですか!?」
おこうとした矢先に知らない少女から話しかけられた。
竜王と言ってもそっちだったのかなんて考えながらも、私は隣の香苗の返事を待つ。
「そうそう。最近11連敗してるって噂の竜王」
「名前に入っている9も8も超えてそろそろ言い訳も出来ないとかネットで散々な事言われてる竜王さんの方でしたか」
中学生で竜王になる。
一時期は不正やらなんやらを疑われたが、これからの戦いで実力を見ていきたい。
…みたいな事を考えた矢先に10連敗だ。そういえば今日も大会だったがどうだったのだろう?
「あ、今日は勝ってますねはい」
「あれ?携帯持ってきてるんですか?」
「えっ?今日勝ったの?」
隣に居た少女が私の手を繋ぎ、反対側に持っていた携帯を見つめる。
それを見た香苗が私の方を見て頬を膨らませてきた。……いや、どうしようもないんだけど?
「えぇまぁ。…色々事情があるんですよ」
「…事情?」
「それは兎も角として、恩返しは成功したんだね」
「らしいですね。…まぁ、公式戦ではないので連敗記録は更新中なんですけど」
そんな事を言いながら私は携帯を仕舞うと、すぐにその手を香苗が奪って指を絡めた。
それを見た少女が頬を膨らませる…といった可愛い事はせずに笑みを浮かべながら…私の指を同じ様に絡め始めた。
それと同時に私達は駅に辿り着き、其処を素通りせずに入っていきサンダーバードに乗り込み……え?
「あ、あの?御二人共何処に行くんですか?というかどうして乗り込んだんですか?」
「?竜王倒しに行くからに決まってるじゃない」
「わ、私は弟子になって…ごにょごにょ……」
「…あの、住所知ってます?」
「それは大丈夫です!旅館に来た時にちょろっと誤魔化して覚えましたので」
「……え?」
突然犯罪行為をゲロった少女を見つつ、私は少しだけ香苗の方を見つめた。
…それと同時に香苗が視線を逸らした。どうやらこっちは大阪住というだけでやって来たらしい。
阿保かな?
「…そういえば自己紹介してませんね。改めて自己紹介しますか」
「……え?ああ…そうね」
「そ、そうですね…」
「私の名前は
「…えっと…てんい…?」
「次行くわよ」
無視するんだ。
この状況で唯一竜王の手がかりを持ってる人を無視しちゃうんだ香苗。
…いや、私はすぐに帰っても良いからそれでも良いんだけどさ。
「私の名前は白石香苗。この中では一番凡人よ」
「凡人って、普通に将棋上手いじゃないですか。テストでも7割取ってますし普通に天才の部類だと思いますよ?」
「…9割取ってる人が言うと嫌味ね」
寧ろ二度目の人生で9割しか取れない現実に笑う事しか出来ない。
多分一周目の三年生は30点とかしか取れなかった気がするし…はは。本物の凡人って辛いんだよなぁ。
…後見知らぬ人を天才扱いするのも吃驚だ。香苗は自分の力に自信を持っていた気がする。
「……えっと、最後ですね。私の名前は雛鶴あいです」
「雛鶴…えっともしかしてひな鶴の…?」
「はい!ひな鶴は私の両親がやってるんです!もしかして泊まった事があるんですか?」
「ううん。唯偶に良い所だと聞いていますね。ご飯がとても美味しいとか」
私の一言を聞いて嬉しそうな表情を浮かべたあいちゃんが、私の手に両手を合わせて手を振り始める。
それを見た何人かの乗客がぎょっとしたような表情を浮かべるが、許してくれ。
「そうなんですよ!私も実は両親から教えて貰ったので料理には自信が…!」
「えっと此処、電車の中だから…ごめんなさいしてから小さい声で喋りましょうね?」
「…あっ!ご、ごめんなさい……」
私の一言を聞いて大きな声で謝った後に、私の肩に頭をのせてランドセルから本を取り出した。
…というかこの人達は両親に連絡をしているのだろうか?
……絶対してないな。だってもししてたらランドセルを持ったまま電車に乗らないだろうし。
「…捜索依頼…されるんですかね」
「……衣?」
不安そうな声を聴いて、香苗が小さく首を傾げながら私の方を見つめた。
…それを見て私は苦笑しつつ香苗の頭を優しく撫で続ける。
「んっ…」
「何か困った時は私の名前出してくださいね。その程度の評価はある筈ですから」
「…どういう事?」
香苗が少しだけ不満そうな表情を浮かべながら私の方を見つめるのを見て、私は思わず苦笑しながら頭を撫で続ける。
その感触に浸って、嬉しそうに私の手に頭を擦り付けてくる香苗を見ながら…私は次の駅を見続けた。
…というかあいちゃんその本何?詰将棋にしてもおかしいレベルだよね?
実際に適当な盤面から王将消して出題しましたとか言われても私は納得しちゃうレベル…うわぁ…解くんだそれ…
しかも脳内盤面だけで解くの?…うわぁ…。
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「御邪魔しまーす」
「はーい。上がって上がってー」
「…いえ、香苗さんの家じゃないんですよ?」
あいちゃんの突っ込みを受けながら私はゆっくりと伸びをします。
…うーん。成人男性みたいな生活してますね。
郵便受けにも大量の手紙が入ってますし…全くもう。しょうがない竜王ですね。
「…あれ?衣ちゃん何やってるんですか」
「えっと、折角なので郵便受けにある物をちゃんと揃えておこうかなと思いまして。無断で此処に来ちゃいましたし」
「大丈夫です!一応衣ちゃんと一緒に来ることは手紙で……あれ?」
あいちゃんが私の持っている手紙を見て、少しだけ首を傾げた。
…其処には自分が書いたのであろう『ひなづるあい』という文字が書かれた手紙が私の手にあり…
「…だらぶち…」
突然の暴言を吐いたあいちゃんを見ながらも、私は大量の手紙を振り分け始める。
…将棋連盟、ファンレター、近くのスーパーのチラシ、ファンレター、
「…これは竜王でも精神病んじゃいますよねぇ」
私が呟きながら燃えるゴミを捨て続け、時々入っているカッターナイフに指を傷付けてしまいながらも必死に分別をし続けた。
…そして丁度終わった後に、外の方から誰かが帰ってくる様な音が聞こえ…私は普通のファンレターだけを机の上に置く。
「ただいま~!なーんて、どうせ誰もいねえええええええええええええッ!?」
扉を開けた途端、突然男性の叫び声が聞こえて私は思わず微笑んだ。
…それを見つつゆっくりと向こう側に移動すれば、私達の待ち人である竜王の姿が…
「ちょ!?なんでその子は血を流してるの!?」
「あっすみません。ファンレターに入ってた奴で怪我しちゃって。絆創こ…」
「手を貸して」
私の一言を聞いて目からハイライトが無くなった二人が私の手を奪って絆創膏を貼る。
…それと同時にあいちゃんが移動して燃えるゴミ袋を持ってきて、そのまま冷めた目で竜王を見つめる。
「御知り合いですか?」
「い、いえ全く……はい」
「じゃあとっとと燃やしてくださいね。もう二度と衣ちゃんの手が傷付かない様に」
「…ア、ハイ…」
小学三年生に恐喝される竜王を見ながら、私は巻いてもらった絆創膏を見て微笑んだ。
…そのまま感謝の一言を伝えようとした瞬間…
「…衣ちゃんの血が…えへへ。ハンカチに…えへぇ…」
何かトリップしてる様子の香苗に目を逸らしつつ、私はこの家の家主である竜王の方に声を掛けた。
「えっと、九頭竜……818段さん?」
「其処まで覚えてるのにどうして名前の部分はネットで拾われた単語なんだよ!」
「いえさっきまで実はそのスレを見てまして。因みに名付け親は私です」
「よしちょっとお仕置きしてやるから家の奥行こう。将棋でフルボッコにしてやるわ」
その言葉を聞いて私は思わず苦笑してしまう。小学生に本気で勝ちに行く竜王ってどうなんだろうか…と。
まぁそんな事を考えつつ、もう一つの方でどうすればこの戦いを二人に押し付けられるか考え始める。
「まぁまぁ。私みたいな将棋初心者の凡才は放っておいて大丈夫です。それよりも今此処でトリップしてる二人が戦いたいらしいんです」
「……はっ!?そういえばそうだった!」
「私もそうでした!こんなゴミに感情ぶつけてる場合じゃなかったんです!」
「「
「お、おう!?」
二人が名前を呼んだ…あいちゃんは言えてなかったけど…のを聞いて、竜王が驚きながら二人の方に顔を向ける。
其処には二人共真面目な顔をしながら…
「「私達を弟子にしてください!」」
その言葉を聞いた竜王が今度はこちらを向く。
…その視線の問いかけは、お前はどうするのか?といった疑問だろう。
その疑問についてだけは私は首を横に振って否定する事しか出来ない。
私は真の凡人だからね。
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何だ今日は。
そんな思いをしながらも俺は目の前の少女に将棋を差し続ける。
師匠は放尿姉弟子はその片付けを任せ何処かに高跳び。おまけに不名誉な
正直棋士じゃなくてお笑いにでもなれば良いんじゃないかと思う程のセンスを感じながらも、俺は唯相手の動きを見て……頭を抱えていた。
(初心者かよ…)
動かす駒はボロボロ、こんなの詰将棋をさせる前の問題。
この子は定跡を全く知らないのだ。せめて此処に来るまでに棒銀とかを覚える隙はあった筈だ。
…それともこの子は将棋を覚える気すらなく、唯友達に言われるがままというだけだったのだろうか?
「……はぁ」
少々強引だが、こんな小学生に時間をかける気はない。
初心者を一方的に殴るのも悲しいが、それでも試合は試合なのだ。
初心者特有の王手の対処力の無さをせめて、それで終わりだ!
「……その手は、昔見ましたね」
小さく呟かれた一言と同時に、この子の王将が下がっていく。
それを見て俺は首を傾げながら一歩前へ。半端な逃げでは後ろで睨みを利かせている馬で終わ……
「っ!?」
「同玉。確かこれが一番良い結果だった気がしますね」
それを見て慌てて俺は選択肢を考える。
このまま王手を掛ける?それをした所で余り意味はない筈だ。そもそも入玉を初心者が……っ!?
まさか此処まで散らばった様な駒の動かし方は入玉をする為だけ動かし方なのか!?
このままいけば歩を二枚、銀を一枚桂を一枚とられて…計算上は?どっちが勝つ!?
「…」
少女の冷たい目は、その程度なのか?という様な嘲りが見て取れた。
竜王なのにも関わらず、入玉させてそのまま点数計算をするのか?といった嘲笑だ。
「…いいぜ。やってやろうじゃねぇか」
眼鏡を付けて、これから相手を詰ます手順を考え始める。
最悪詰将棋は得意だし、そもそも固い将棋は俺の得意技なのだ。
師匠も破れなかったこの居飛車穴熊、破れる物なら破って見ろよ!
「…っと。今回は右でしたか。……藤井さんのしすてむがどうとか昔聞きましたけど…もう忘れちゃいましたね」
なおこの後、俺はトマホークと呼ばれる戦術にフルボッコにされ穴熊がボロボロになった。
「楽しかったですね」と微笑みながら飛車・香車・歩兵・桂馬で熊が掃除され尽くし、最終的に姿焼きにされた俺の系譜を紙一重と言う少女を見て…俺は恐怖を覚えた。
「入玉?狙ってませんよ。唯王様守るよりこっちの方が楽だったから真ん中置いただけですよ?」
「いや、飛車角…」
「はい。皆取りやすい位置に置いてくれるんですよね。えへへ…」
という事は最初の初心者ムーブは態とだったのか。
偽物の初心者ムーブに騙されたとか竜王として恥ずかしくないの?みたいな表情で見つめている少女二人を見て、俺は焦りながら二人の方を見つめた。
「じゃ、じゃあ次は二人と戦おうか!」
「はい。二人は私以上の天才ですし、竜王の方も優しくしてくれますから」
「じゃ、じゃあ最初は私が戦いますね!」
勝てた事を偶然と感じている少女の一言に胸を抉られながらも、俺達は順番順番でずっと将棋を指し続けた。
夜が更けるまで、ずっと。
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初めての朝
目が覚めると私の目の前には幼女が居た。
…繰り返しお伝えします。めっちゃ可愛い幼女が私の目の前で安心しきった様子で私の身体を抱きしめてすやすやと眠っていた。
「…んー。4二ひしゃぁ…」
「昨日まで居飛車派だったのに四間飛車にジョブチェンジしていらっしゃいますね…取り合えず諦めて居飛車で戦いましょう?」
「ふぁーぁい……んぎゅー…」
夢の中でもアドバイスを聞いたのか、嬉しそうな表情で私を抱きしめたあいちゃんを見つつ…私は嬉しそうに頬を緩ませながら周囲の音を聞く。
パチンパチンと真剣な音と同時に、香苗の息遣いが聞こえて私はゆっくりと起き上がった。
…其処には珈琲を飲みながら片手で本を読み、もう片方の手と目で竜王と戦いをしている香苗の姿があった。
「…香苗。まだおきてたんですかー?」
「う、うん。もう少し打っておきたくて…一応竜王から許可は貰ってるの」
「ふーん……じゃあ私と一緒に寝てくれないんですね」
「あっ違…いや、一緒には寝たいんだけど……えっと、もう少し練習したくて…」
私の言葉を聞いて慌てて私と竜王を見つめる香苗を見て、私は少しだけ微笑みながら冗談ですよと優しく撫でてから香苗の身体を抱きしめた。
まだ夜の冷たさに身体が冷えたのかひんやりとした香苗の身体を、私は優しく抱きしめて温もりを与える。
…と言うか将棋に夢中で体温調整出来なかったら駄目だろう。竜王はそこら辺しっかりと叱ってほしいものだ。
「…」
「……」
パチン、パチン。
将棋の駒を指す音を聞きながら、私は香苗の盤面を見て…そして思わず顔をしかめてしまった。
…やばい、全然わからない。
唯お互い良い勝負と言った感じだろうか?いやもしかしたらそれも竜王の策略によってそう見せかけている状態で…
「…?どうしたの?」
「ああいえ。なんというか危ない橋を渡ってそうだなぁって思いまして」
「……?…どうしてそう思ったの?」
香苗が首を傾げながら私に聞いたのだが、私も正直分からない。
取り合えず中盤で戦いが発生してたら危ない橋渡ってると言えば正解っぽく聞こえるのだ。
今まで培った知ったか知識の内、上位のランキングに位置する程の要らない知識だ。
取り合えず今の質問には答えないと知ったか野郎と言う烙印を押されて好感度が下がる事になるので…取り合えず此処は何か答えておこう。
…なんて答えようかな。
「…なんかこう、竜王の動き方に違和感があったから」
「……龍王?」
私の言葉を聞いて必死に盤面を見つめる香苗を見ながら、私は心の中で香苗に謝り続けた。
…ごめんなさい香苗。私別に何も考えてないんです!本当に何もないから安心して打って!ほら今言われた竜王だって「えっ俺変な動きしてた?」みたいな目でこっち見てるじゃないですか!
私の所為で変な空気になったこの空気に耐えきれなくなり、私は思わず布団に戻ってあいちゃんに引っ付き始める。
そろそろ寒くなってきたし普通に限界だった。後正直二度寝したいのだ。
「…あ。えい」
「うぐっ…」
パチンと音が鳴るのと同時に、竜王が何か辛そうな声を上げる。
どうやら香苗は竜王にクリティカルヒットを与える事が出来たらしい。私の言葉なんて聞かずに自分らしい将棋を打とうね。香苗。
そのままパチンパチンと音が鳴り続けるのを聞きながら、私は眠っているあいと見つめあって……見つめ、合う?
「…あの、あいちゃん?何時から起きてたんですか?」
「何時からだと思いますか?将棋してる香苗ちゃんに甘えながらアドバイスを行った挙句今日は一緒に寝ないんですか?と襲われても文句言えない台詞を吐いていた衣ちゃん」
「……全部、見てたんですか?」
「全部じゃないですよ?えぇ」
ハイライトが無いあいちゃんを見ながら、私は一歩後退りをする様に布団から出ようとして…そのまま私はあいちゃんに捕まる。
それはまるで頭金の練習問題の様にあっさりと、一手で詰められた私は…
「…私じゃ駄目なんですか」
あいちゃんの頬が膨らんだままお説教をされ始める。
…お蔭で眠気が一気に吹き飛び、私は二人の方を確認しながら逃げる方法を考えていたのだが…それが分かったあいちゃんが最終手段を行う。
「…むぅ。ふぅ…」
「…ぁっ、ひゃう…」
耳に息を吹きかけられ私は小さく身体を捩らせてしまう。
それを見たあいちゃんが新しい玩具を見つけたという様にニコニコと微笑みながら、私の耳に顔を近づけてくる。
「やめ…ぁ…」
「えへへ。かわいい……んっ、ふっ」
「…っっ!」
「ほら、向こうで感想戦始まってるよ?静かにしないと駄目ですよね?」
こうして、転生して二回りも三回りも下の幼女に耳を責められて許しを請い続ける残念な幼女になりながら…私は気絶する様に眠りに落ちていった。
-------------------------------
「……」
トントントン。
まな板の上で何かを切っている音を聞いて、私はゆっくりと目を開く。
昨日は私の上に乗って全力で耳を責めて来ていたあいちゃんの姿は既になく、私の傍には香苗が私のお腹に頭を当てて眠っているのが見えた。
…更に向こうには布団で眠っている竜王の姿が見え…私は二人を起こさない様にリビングからキッチンへ移動する。
「おはようあいちゃん。今日は何を作っているんですか?」
「あっ…おはよう衣ちゃん。えっと今は佃煮の海苔を作ってるんだよ?」
「そうですか」
佃煮の海苔を作ってると言われても分からないので、私は適当に相槌を打ちながらあいちゃんの料理の光景を見つめる。
最初は暇じゃないんですか?と聞かれたが「あいちゃんが楽しそうにしてるのを見てるのは楽しいですよ」と言ったら顔を真っ赤にしてしまった。
…よくよく考えたら今の一言はかなり変態チックだったかもしれない。ごめんねあいちゃん。
「…そういえば衣ちゃんって将棋の勉強はやってるの?」
お味噌汁に火を掛けながらあいちゃんが質問するのを聞いて、私は少しだけ首を傾げた。
「将棋の勉強…と言っても何をすれば良いか分からないんですよね」
「詰将棋とかは?」
その言葉を聞いて、私はあいちゃんが持っていた本を思い出して思わず苦笑してしまう。
…いや、あれをやるのはもう少し大人になってからだろう。
今の私は一手詰めですら偶に間違えるのだ。あんなに長いのをやったら途中で駒が分身するに違いない。
「考えておきますね」
「はい!ごゆっくりどうぞ!…あ、お風呂はそろそろ沸くのでわたしのランドセルから入浴剤いれてくれますか?」
「はーい」
取り敢えず万能の言葉で返事をしておき、私はあいちゃんのランドセルから入浴剤を取り出した。
…あっこれ高い奴だ。
心の中で竜王に合掌しながら、私は入浴剤を適当に入れて…そのまま香苗から貰った(何故かサイズもあっている)寝巻から何時もの私服(これも香苗が持ってきていた)に着替える。
「……うーん」
やる事がない。
長期の休みは一人で色々やる予定だったのに全部今回の一件でなくなってしまった。
取り合えずもうひと眠りをするか、それとも折角だし将棋の道具でも磨くか…どっちにしよう?
「よし、面倒ですしもうひと眠りし始めましょうか」
「私服に着替えてからもうひと眠りはしわが出来ちゃうから駄目だよ?」
私の一言を聞いて目が覚めていた香苗が、私を抱きしめながらゆっくりと喋る。
…寧ろ何時も抱きしめている方が皺が出来そうな気がするが、彼女も言っただけで別に皺が出来ようが出来ないが気にしないのだろう。
私も勿論気にしない。
「それだったらどうしますか?」
「……そうね。暇だし将棋の勉強でもする?」
「香苗が教えてくれるんだったらやりますけど…それよりも良いんですか?」
「良いって、何が?」
私の一言を聞いて首を傾げる彼女を見ながら、私は思わずため息を吐いて…
「親に言ってないんでしょう?」
「親には言ったわよ」
「じゃあ許可は貰えたんです?」
「……それ、は…」
私の一言を聞いて困った様な表情で私の手を掴む香苗を見ながら、私はやっぱりと小さく溜息を吐いた。
それを見たあいちゃんが頬を膨らませていたのだが…話の内容を聞いてやっぱり同じなのだろう…あいちゃんも料理を置いてから困った様に私の手を握った。
「…二人とも家出みたいに出て行って…私も結構大変なんですよ?お二人の両親と将棋連盟から電話が掛かってきましたからね。所でお二人書置きの一つくらいは残さなかったんですか?」
「「…あ」」
「お二人の両親が心当たりがあったからよかったものの、もし本当に無ければ警察に通報されて…最終的には竜王が誘拐騒ぎに巻き込まれていた可能性もありますからね。
竜王のお師匠様も将棋連盟の方も大きな騒ぎにはしたくないらしいですし、諦めて帰りましょう?」
「「嫌!」です!」
私の一言を聞いて駄々をこね始めた二人を見て、私は思わずため息を吐いてしまった。
…いやまぁ、確かに竜王はイケメンで格好良いし優良物件ではあるんだけど…そんな小学生の頃から逃避行覚えちゃ駄目でしょうに。
まぁ、それだけ将棋に対する想いが強いという事だろうか?でも勝率3割なんだよなぁ…。
「…三人ともどうしたんだ?」
「ああ、お騒がせして申し訳ありません。実は将棋連盟の方かんぐっ…」
「なんでもないです!ねぇ香苗!」
「そうだよ!そうだよね?あい!」
私の口を塞いで二人が捲し立てる様に喋るのを見ながら、私は思わず苦笑してしまった。
「…ふーん…って、これ全部三人で作ったのか!?」
「んっ……んー…」
私が答えようとするが、二人の手の所為で口をもごもごとさせるだけだ。
そのまま私があいちゃんと香苗の指を優しく舐めた瞬間、二人がびくっとさせて手を緩めた隙に…私は喋り始める。
「んっ…これはあいちゃんが作ってくれたんですよ。なんてったってあいちゃんは旅館の天才女将ですからね」
「へ?…て、天才じゃないよ…これくらい出来て当然だから…」
「でも昨日読んでた本は結構難しそうな奴じゃありませんでした?確か…」
「『将棋図巧』の寿ね。確か…611手じゃなかった?」
「そうですよ」
私達の言葉を聞いて目の前の竜王が驚いていた。
…と言うか私も驚いた。611手って何。下手な勝負より手数多いんじゃないの?
「…さ、三人ともそれを解いているのかい?」
「私は勿論解いたわ」
「私も昨日の電車で解きましたー!解けたら解けた!っていうと衣ちゃんが撫でてくれるんです!」
二人解いてて私が解いてないというとなんか可哀想な子と思われるので曖昧に微笑んでおく。
別に解いたとは言ってないのだから嘘は言ってない。
というか二人共解けてるの?えぐっ…
「…三人は将棋を何時から始めたんだ?」
「「三ヶ月前」」
「私は香苗がゲームで無双している頃に知ったので…約一ヶ月半ですかね?」
「……嘘、だろ?」
何か竜王がダメージ喰らってる。
落ち着いて竜王、最年少竜王は伊達じゃないからね。私じゃ多分後五回転生しても無理だと思う。
他の二人?知らん。私は二人が明日プロになってても可笑しくないって思ってるからね。
「…ま、まぁ所詮は江戸時代の作品だから。現代詰将棋にはもっと長手数の物が…」
「『ミクロコスモス』ですね改作前は1519手で6二桂成スタート。改作後は1525手で4一歩成開始ですよね?」
「……えっ、覚えてるの?」
「一番長いって言われたら覚えません?バンコクの儀式的正式名称とか、世界で一番高い山ベストテン10とか」
「…あ、うん…ソウダネ」
やはり竜王も覚えていたらしい。実は『メタ新世界』とか覚えてたけどあっさりと『ミクロコスモス』に抜かれてがっかりしたのかな?
私が生まれた頃にはもう『ミクロコスモス』は発表されていたらしいけど。
「…さて、冷めない内に食べちゃってくださいね。此処の主は竜王ですからね」
「それもそうだな。頂きます……どうして名前で呼んでくれないんだ?…上手いな」
「逆に聞きますが私の様な小学生から-やいちおにいちゃぁん?って呼ばれたら喜ぶんですか?」
私が声を作って竜王にそう問いかければ、竜王は喉に何かが詰まったのか咳込み始めた。
ほらね?これするぐらいなら竜王の方が良いだろう?
「ふ、普通に呼んでくれ!」
「でもこの歳の差で八一って呼び捨てにしたり八一さんって言ったらハイエースとかパパ活疑われますよ?」
「っ!?ゴホッゴホッ!」
私の一言に香苗は首を傾げ、あいちゃんは頬を赤らめた。…ませてるねぇ。
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「…あの二人の事どう思います?」
二人が風呂に言っている間、俺達は将棋を打っていた。
理由は単純に彼女の才能が本物か見たかったのと、お風呂が幼女二人で一杯一杯だからだ。
「……才能はある。正直、あんまり認めたくないけど。悔しいけど」
「分かりますね。あんな才能見たら私なんて燃える生ゴミみたいな物ですよ」
正直お前が言うなと言いたかった。
あんな悪魔みたいな二択を選ばせてきながら結局トマホーク使ってくる様なお前の方が異常だと。
そう思いながら俺達は将棋を指し続け…そしてもう一度彼女の才能を図っていたのだ。
「私としては二人をプロにしてあげたいんですよね。竜王としてではなく、貴方個人としてはどうですか?」
「…それはわかる。あれだけ才能があれば女流棋士にはなれるだろう」
「あいちゃんは詰将棋の天才ですからね。終盤は気を抜けば一瞬で詰められますよ。あの時の貴方みたいに」
「うるせぇ」
声と共に駒を指せば、目の前の少女はノータイムで最善手を打ってきた。AIかよ。
ちらりと見れば彼女は
「…そして竜王から見ても、その才能は本物ですか?」
「……」
俺は持っている駒の手を止めて目の前の少女を見つめた。
…そして、少しだけ考える様に視線を動かす。
「……香苗ちゃんも才能はある。でも…」
「同世代に
「…
「……ああ、
魔王を認めた目の前の少女を見て、俺は苦笑しながら
…全部ノータイムで打ってきたから時間が全然余ってるんだよ!もう少し俺と同じくらいまで減らせ!
「あいちゃんは記憶力が異常なんです。今日の料理を食べたらわかったでしょう?」
「…?」
「あの料理、旅館で出された料理と殆ど同じ味付けなんですよ。多分ちょっと違う部分は此処には無かった食材や調味料なんでしょうけどね」
その一言を聞いて、思わず俺は驚き駒を落とす。
…丁度落ちた場所が置く場所だったから良かったが、もしこれが大会で別の所に落ちてたら大変な事になっていただろう。
因みに驚いていた理由はあいの記憶力が異常な事ではなく、目の前の魔王の記憶力だ。
「あいちゃんが終盤力だったら香苗ちゃんは序盤から中盤だね」
「余り使われて居ない戦術を使っているのもありますよ。香苗は」
「…そうなのか?俺の時は相掛かりで一般的な…」
「…竜王戦相掛かりで勝った人相手に相掛かりをするのは一般的じゃないと思いますよ?」
それもそうだわ。
「…余り整備されていない戦術を研究し、相手がそれに乗っかればそれでよし。もし乗っからなくても別の研究した戦術を使って乗っけて…」
「待て待て待て待て。どれだけあるんだ?」
「さぁ?私が確認した限りでは一場面に約五十くらいでしょうか?」
「ごじゅ…」
小学三年生は化物しかいないのか?
…もし、香苗ちゃんが前線から引いて二人に全ての研究を渡した場合……どんな化物が出来上がるんだ?
というか其処までの研究なんて出来ねぇよ!俺の人生全部研究しかやってなくても無理だわ!
そんな事を考えながら俺は次の手を考えようとして…
「…ん?」
「チャイムなりましたね。私が行くので竜王は次の手考えてて下さいね」
「おう」
相手の手番の
…やべぇ。これ詰んでね?
此処置いたら…あっ駄目だ。同玉で詰み?合駒して…いや絶対気付いているだろこれ!どうする?どうする?
「…ん?何か忘れている様な……」
「私とのVSの予約忘れて小学生とVSなんて、良いご身分ね八一」
「……あっ」
その声を聴いて俺は思わず振り向く。
其処にはニコニコと微笑んだ
…やべぇ。これは…
「竜王とお知り合いと聞いたので扉を開けてみました。良いお嫁さん候補が居るじゃないですか」
「…ちょっと…」
「違うんですか?てっきりそうなのかと?」
「……もう…」
頬を赤らめて
…これが俺の命日かと思いながら、俺はそっと目を閉じた。
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