ドレアム様の暇つぶし!!異世界に我は行く! (プロトタイプ・ゼロ)
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第一章・NO!!ウサギは魔王を呼んでません!!
ようこそ魔王様!初めまして異世界よ!


「……暇だ」

 

 

 

 

常闇の世界にある古い城の中で、一人の王がそう呟いた。それを聞いた配下の一人が「え!?」と声をあげる。

 

「暇だ。暇すぎるぞ!」

 

「お、落ち着いてください!!」

 

配下が必死に暴れそうになっている王を宥める。

 

「これで落ち着いていられるか!レイドックの王子とミルドラースを討伐してもう百年が経つが、あれから新しい魔王や勇者が現れたという話を聞かん!これではいつか来るかもしれぬ強者達が来なくなるではないか!!」

 

「そ、そんなことを仰られても、今の時代はだいぶ平和になり、今の所勇者の存在が必要ないんです!」

 

「では、魔王が現れてから出てくるのか勇者というのかっ!?違うだろう。魔王が現れてからでは遅いのだ!そんなのだからいとも容易く世界が征服されかけるのだぞこの世界は!」

 

王の言いたいことは配下にも理解出来る。だからと言って自分に愚痴られても困る。そう思った。

 

「だからこそ!我は旅に出るぞ!この暇すぎる世界で暇を潰す為にもな!」

 

「いやいやいや!落ち着いてくださいよ!ドレアム様が旅に出たら世界が混乱しますよ!?」

 

「んなもの分かっておる。だから我は人の姿となり旅に出るぞ!」

 

「あーもう!好きにしてください」

 

一度言い出したら何も聞かない我儘な王に呆れ返った配下がやけくそになる。王は素早く準備に飛び掛った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後……

 

 

 

 

十六歳ぐらいの少年の姿となった破壊と殺戮の神ダークドレアム(以下ドレアム)は、自らが住む常闇の世界を出ると、煌々と輝く太陽の光が彼をの体を照らす。

 

あれから配下達に「おやめ下さい!!」と何度も何度も止められていたドレアムは、それらを簡単にふりきって人間の住む世界へ暇潰しの旅に出かける。

 

「さて、まずは何処へ向かおうか?あいにくと百年間ずっと城に篭もっておったからな……人間がどこに住んでおるのか全く検討もつかん」

 

ドレアムが発したこのセリフ、リアルで聞いたらただのニートである。まぁ、魔王様なので許されるのかもしれないが……。

 

とにかく魔王の感を信じて適当な方向へ旅を進めることに決めたドレアムは、自由気ままに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適当に歩き初めてもう二日も経った。一向に村どころか人間ひとりも見つけられないことにイライラし始める。

 

ドレアムは暇を嫌う。何百、何千年も生きるドレアムからすればスリルのない生活というのは退屈なのだろう。何しろ彼は破壊と殺戮の神だからだ。

 

だがこの時代の人間も魔物も勇気が無さすぎる。そしてミルドラースを葬り、勇者を殺し、そして人類に求められたために地獄の帝王エスタークをも仕留めた。

 

人々は彼を賞賛したが、彼の表情に浮かんだのは哀れみと怒りだった。勇者のいない今の人間達に自分を殺すことなど出来ないと理解している。だが、それでもやはり受け入れられないものがあった。

 

(何故人間達は自分達の力で解決しようとしない?)

 

破壊と殺戮の神と言っても、ドレアムは一人の武人だ。当然自分に媚びを打ってまでエスターク討伐を依頼した時には本気で滅ぼそうかと考えたことがあった。

 

まぁ、なんだかんだで優しすぎるところがあるからこそ、勇者を殺したいミルドラースを葬り去り、人間が恐れた勇者を殺し、地獄から這い上がってこようとしたエスタークを滅ぼしたのだが……。

 

そんなドレアムだからこそ、彼の配下達はダークドレアムと言う悪夢の化身であり武人であり、破壊と殺戮の神である魔王ダークドレアムについて行こうと忠誠を誓った訳だが。

 

「む?なんだこれは?」

 

旅に出てから三日がすぎたお昼頃だった。ドレアムは空間に小さなヒビ割れがあるのに気づく。

 

「何かの魔法か?いやでも魔力を感じない……どういうことだ?この先に何がある?」

 

警戒しながらも空間のヒビ割れに向かって手を伸ばす。もしかしたらなにか危険な魔法なのかもしれない。ドレアムでも感じないほどの魔力で作られたものなのかもそれない。でも、それでも生活にスリルが欲しい魔王ダークドレアムは警戒しながらも躊躇い無くヒビ割れを触れる。

 

その瞬間、ヒビ割れが酷く荒れ、パリンッと音を立てて空間に穴を開ける。そしてドレアムでさえも立ち止まるのに苦痛の顔をうかべるほどの吸引力のある風邪が吸い込まれていく。

 

「な、なんだこれは!?やはり何かの罠だったのか?」

 

周りを見ればその辺に転がっている石や木などが空間の中に吸い込まれていく。立っているのがやっとなドレアムは、後ろから飛んできた言わに衝突されられほぼ強制的に穴の中に吸い込まれていく。

 

「うわあああああああああああああああああぁぁぁァァァァァァァァッ!!??」

 

ドレアムを吸い込んだ穴は、辺りに誰もいなくなると突然吸い込むのをやめ閉じていく。穴の閉じた空間は先程のようなヒビ割れは全くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

空間に吸い込まれたドレアムが見たものは、自分のいる世界の滅びによって赤く染った大地や空ではなく、綺麗で見惚れるほどの美しさを持つ空と大きな湖だった。

 

穴から追い出されたドレアムは、自由落下の法則に乗っ取り、綺麗に真下に向かって落ちていく。

 

「む?まさか穴の先がこうなっ「「「うわあああああああああ」」」……子供が三人に、猫が一匹?」

 

そう、空から地面(湖です)に向かって落ちているのはドレアムだけではなく、少年一人少女二人に猫一匹と言うなんとも奇妙な光景だった。

 

(助けてやる道理もないが、一応助けてやるか。あのような子供ではたとえ湖に落ちても死ぬことになるだろう……ここは低級風魔法のバギを……)

 

気づいた頃には湖はもう目の前だった。それを見たドレアムは、

 

(あっ、無理だこれ)

 

もう既に助けられないほど落ちていることを察したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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魔王は問題児達と自己紹介するそうですよ?

 

 

突然空に放り出され湖に自由落下よろしく落っこちた四人と一匹は、陸に上がると同時に(ドレアムと猫を抱えた少女を除いて)、悪態をつき始める。

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだマシだぜ」

 

「……いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

意志の強そうな炎を宿した瞳を持つ金髪の少年、見るからに(ドレアムから見たら)高級そうな服を着込んだ黒髪ロングの少女が愚痴を零す。

 

ドレアムからすればあの放り出された空と地面の距離的に、湖に落ちたこの三人と一匹が生きていることに驚きだった。

 

「此処……どこだろう?」

 

湖に落ちて濡れてしまった猫を丁寧に吹いている少女が小さく呟く。

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

ドレアムは素直に感心した。人間とは自分の理解できない状況に陥ると戸惑うのが普通だと言うのに、この少年はその落ちている間に把握した。

 

(まだまだ人間も捨てたもんではないようだな)

 

ドレアムが一人感心している間に、話が進んでいく。

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちにも変な手紙が?」

 

「そうだけど……まずは『お前』って呼び方を訂正して?私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで……そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「……春日部耀。以下同文」

 

少年を除き自己紹介をした久遠飛鳥と春日部耀の二人。飛鳥はどこかのお嬢様なのか威圧的に少年を見る。耀は興味が無いようだ。

 

「そう。よろしく春日部さん。野蛮で凶悪そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶悪な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよお嬢様?」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ……十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけよ、お嬢様?」

 

十六夜の自己紹介に少し引いた顔をする飛鳥と、挑戦的に言う十六夜。

 

この三人を見て、ドレアムはこれから面白い生活ができそうだと、期待を胸に膨らませる。

 

「それで、そこで一言も話さない旅人のような貴方は?」

 

そこでようやくドレアムの番が回ってきた。

 

「我が名はドレアム。特にこれと言った特技はないが、これから仲良くしようと思っている」

 

もし配下達が聞いたら顔を青くしてと目に入りそうなセリフを堂々と言い切る。

 

三人(耀は興味なし)は少し引いた顔になる。

 

「お、おう。そうか……うん。厨二病なのかお前」

 

十六夜が何か言っているような気がしたが、取り敢えず無視しておこう。ドレアムの知らない単語を使う十六夜が悪いと考える。

 

(うわぁ……なんだか扱いずらそうな人達ですねぇ。あの黒髪の少年に至っては召喚すらしてませんよ)

 

こっそり隠れてこの状況を見ていた現況黒ウサギは、静かに頭を抱えそうになっていた。

 

それから数分が経ち、自己紹介を済ませた四人は自分たちを呼び出した張本人が未だに現れない事に、苛立ちを募らせる。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだ?この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「……この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うんだけど?」 

 

「貴様……ブーメランと言う言葉を知ってるか?」

 

(全くですと言いたいところですが……あなた達二人もですよ!?)

 

全く持って緊張感のない四人組。そのうち二人が放った言葉に、黒ウサギは心の中でついツッコミを入れてしまう。

 

黒ウサギ的にはもっと慌ててくれていれば、なんの躊躇いもなく場に出て説明しに行けるのだが、四人のうち三人の殺意の篭もった目にうっかり出ていくタイミングを逃してしまった。

 

そんな時、呆れた様子を見せた十六夜がため息を吐きながら黒ウサギの方を睨む。

 

「仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

物陰に隠れていた黒ウサギは、まるで心臓を捕まれたかように飛び跳ねてしまう。

 

「なんだ、あなたも気づいていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も気づいてたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「隠れているにしては気配を隠しきれていない。あんなのは自分から見つけてくださいと言っているようなものだな」

 

「……へえ?面白いなお前ら」

 

軽薄そうに笑っている十六夜の目は笑っていない。

 

突然の理不尽な行為を受けた三人と一匹は殺意を込めた目で黒ウサギを睨みつける。その様子に大量の冷や汗を掻きながら草むらから出てくる。

 

「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「ならば我が引導を渡し、冥界を見せてやろうか?」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪……って!?最後の方だけ物凄く怖いこと言われたんですけど!?まだ死にたくないので両手に不思議なエネルギーを溜めないでください!!」

 

バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギは、すぐさま涙目になると後退りする。

 

しかし、その目は冷静に四人を値踏みしていた。

 

だが、それはいつの間にか黒ウサギの隣に来ていた耀によって突然終わらされた。

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

耀は不思議そうな顔をしながら、未だに耀の存在に気づいていない黒ウサギの耳を思いっきり引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

今度は薄く笑っている十六夜が右から掴む。

 

「じゃあ私も」

 

面白そうなおもちゃを見つけたかのような顔をした飛鳥は左から。

 

その二人に揉みくちゃにされながら、最後の手段としてドレアムの方を向く。

 

「……ふむふむ。このような湖にも魚は存在しているのか。なんとも美味しそうな魚達だ。城に帰って配下達にも見せてやりたいものだ」

 

……こちらの状況に全く持って興味を抱いていなかった。ある意味最強の問題児だと黒ウサギは確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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箱庭の説明。この世界は我にとって面白そうだな!

 

 

 

三人の問題児達によって揉みくちゃにされてから一時間弱が経過した。泣きそうになっている黒ウサギを見て、ドレアムは心の中で呆れながらため息を吐く。

 

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ。」

 

半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。

 

四人は黒ウサギの前の岸辺に思い思いに座り込み(一人ドレアムだけは木に背中を預けて立っているが)、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。

 

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

 

「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ? 言いますよ?さあ、言います!ようこそ『我らが箱庭の世界』へ!我々は皆様にギフトを与えられたものたちだが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召還いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその『恩恵』を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。飛鳥は質問するために挙手した。

 

「まず初歩的な質問からしていいかしら?貴女の言う『我々』とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある『コミュニティ』に必ず属していただきます♪」

 

十六夜が当然の如く、属することを拒否する。

 

「嫌だね」

 

黒ウサギは地味に怒りを乗せた声で話す。

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者は主催者側が提示した商品をゲットできると言う、とってもシンプルな構造となっております」

 

今度は、耀が控えめに挙手した。

 

「……『主催者』って誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として前者は自由参加が多いですが『主催者』が修羅神仏名だけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな『恩恵(ギフト)』を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て”主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者はかなり俗物ね」

 

飛鳥の言葉に少しだけドレアムは同意する。

 

「我からの質問だ。この世界のゲーム自体はどうやって始めればいいんだ?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

飛鳥は黒ウサギの発言に片眉をピクリと上げる。

 

「……つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お?と少し驚く黒ウサギ。

 

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞の輩は悉く処罰します―――が、しかし!先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの!例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし“主催者”全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギは一通りの説明を終えたと思ったのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいです?」

 

「待てよ、俺がまだ質問してないだろ」

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。

 

ずっと浮かべていた軽薄な笑顔が無くなっている事、視線が鋭さを増したことに気がついた黒ウサギは、身構えるように聞き返した。

 

「……どんな質問でしょうか?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギここでお前に向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは……たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見回し、巨大な天幕によって覆われた都市に向けた。

 

彼は何もかもを見下すような視線で一言。

 

「この世界は……面白いか?」

 

黒ウサギは神妙な顔になり、他の二人も無言で返事を待つ。

 

彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

 

それに見合うだけの催し物があるのかどうかが三人+αにとって重要なことであった。

 

黒ウサギは一瞬目を瞬かせると、笑顔で言った。

 

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

それを聞いた十六夜は取り敢えず納得のいった表情で頷く。だがドレアムだけは違った。

 

(手紙だと?我はそのようなもので呼ばれてはいないぞ?一体どうなっている?)

 

ドレアムだけが気づいたこの違和感に、他の四人を見て正直に話す気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界には、魔王として解決しなければならない事がある。長年歴代最強の魔王として君臨してきたダークドレアムのこの予感は正しい。

 

なぜなら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ。ようやく魔王がこちらの世界に来たようね。でも残念ね。指定した場所を間違えたかしら?」

 

薄暗い部屋の中で、少し大きめの水晶に映し出された映像を見ていた少女がそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 



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逆廻十六夜は我の期待通り面白い奴だ

ここからはドレアム視点に変わります。


 

異世界より召喚された我らは、黒ウサギに連れられて箱庭と呼ばれる天幕巨大都市の前まで来た。最後まで妙に上機嫌な黒ウサギに違和感を抱きつつも、彼女が犯した『失敗』に気付かないことに呆れてしまう。

 

「ジン坊ちゃ〜ん!新しい方を連れてきましたよー!」

 

階段で待っているまるで魔術師のようなローブを着た少年に黒ウサギが話しかけた。少年も笑顔を浮かべる。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三方が?」

 

「はいなこちらの御四人様が―――」

 

黒ウサギがクルリ、と三人を振り返り、

 

「…………………………え、あれ?」

 

面白いほどにカチン、と固まった。うむ滑稽だな。

 

「もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児”ってオーラを放っている殿方が」

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出していったわ。あっちの方に」

 

意外にも飛鳥があっさりとバラし、指差すのは上空4000メートルから見えた断崖絶壁。

 

黒ウサギは飛鳥に詰め寄る。迫力はある。迫力は。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

 

何故か満足げに飛鳥が答える。

 

すると今度は興味なさげな耀に詰め寄る。

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

 

興味なさげな割にはこのノリに乗っかっている。無表情な顔している割には案外心の中は表情豊かなのかもしれんな。

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう皆さん!」

 

「「うん」」

 

そしてまるでお前らは勇者なのかと思いたくなるほどの息の合った二人に、ガクリとした黒ウサギが前のめりに倒れる。大変そうだな。

 

「た、大変です! “世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が居るんですよ!!」

 

「……幻獣?」

 

耀がキラキラとした眼を向ける。先程の猫に対する扱いから、耀は動物が好きなのだろう。

 

「幻獣と言えば、有名どころは麒麟だな。武器の銘としても存在するぐらいだからな。あとはリヴァイアサンやバハムートなどが居るか」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます……って、最後の二体のような災害級の幻獣がそうホイホイと居てたまるもんですか!!居たら箱庭崩壊しますよ!?」

 

それは残念だ。適当に言ってみただけだがもし居るのなら、武人として一つ試合をしてみたかったのだがな。無理もないか。

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」

 

「やはりこの世界は飽きることがないようだな」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、三人は叱られても肩を竦めるだけである。

 

黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

 

「はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、皆様の御案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかった。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、つやのある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

 

外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、柱に水平に張り付くと、

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」

 

黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に我らの視界から消え去っていった。

 

巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。

 

「……。箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」

 

飛鳥はそうと呟き、心配そうにしているジンに向き直った。

 

それはいいことを聞いた。今度機会があれば試合を申し込もう。よしそうしよう。

 

「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」

 

ほう。まだ若い子供でありながらもう一つのコミュニティのリーダーをしていると言うのか。感心感心。我のいた世界ではそのような子供はいなかったな。

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱き抱えているのが」

 

「春日部耀。こっちが」

 

「ドレアムだ。好きに呼べ」

 

ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥、耀、ドレアムもそれに倣う

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

飛鳥がジンの手を引いて外門をくぐり、何故か不思議そうにこちらを見つめている耀と我はそれに着いていく。少し嫌な予感がするな。

 

誰も面倒事を持ち出してこないことを祈るしかないようだな。

 

魔王なのに、祈るのっておかしい気がするが気にするなよ読者共。

 

 

 




次回に、あの虎が出てきます。本物の魔王の怒り買わないでね?書いてる作者でも扱いきれないぐらい強いから。


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怪しげな虎風情が同席など万死に値するぞ!

なんか最近書いててドレアムのキャラがブレッブレな気がしてきた今日この頃


箱庭に入り、我ら四人は手近にあった『六本傷』の旗を掲げている店に入った。

 

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出てきた。

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶を二つと緑茶にコーヒー。あと軽食にコレとコレと」

 

《ネコマンマを!》

 

猫がネコマンマを食べていいのか?いや、猫なのだからいいのだろう。名前からして共食いに入らないのか?

 

「ネコマンマも追加だそうだ」

 

「はいはーい。ティーセット三つとコーヒーを一つ、ネコマンマですね~」

 

「「「えっ!?」」」

 

我以外の者共が驚いたように首を傾げる。何かわからぬことを言ったかな?

 

その中で耀だけは信じられないと言った目で我を見る。

 

「三毛猫の言葉が分かるの?」

 

「うむ。動物との会話など造作もないが?そこの猫店員も見た目からして分かるのであろう?」

 

「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳の割に随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」

 

《ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ》

 

「やだもーお客さんお上手なんだから♪」

 

「箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」

 

三毛猫を抱かえた耀は嬉しそうに話しかける。やはり我らがこの世界に招かれてから思ってはいたが、どの世界でも特殊な力を持っているのは少ないようだな。

 

我が知る中でも勇者の力に目覚めたものも少なかった。それと同じ事などだろうな。

 

「ちょ、ちょっと待って。あなたもしかして猫と会話できるの!?」

 

珍しく動揺した声の飛鳥に、耀はこくりと頷いて返す。

 

「もしかして猫意外にも意思疎通は可能ですか?」

 

「うん。生きているなら誰とでも話はできる」

 

「耀のその能力はこの世界を生き抜いていく中でかなり貴重になるな」

 

「じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が?」

 

「うん、きっと出来……る? ええと、鳥で試したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど……ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

 

「「ペンギンッ!?」」

 

予想外の動物の名前が出てきたためか、二人が驚いたように耀を見る。

 

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

 

「随分と幅が広いな。いい事ではあるが」

 

「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言葉の壁と言うのはとても大きいですから」

 

「そうなんだ」

 

「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」

 

「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

感心されたように褒められた耀は困ったように頭を掻くが、その対照的に飛鳥は憂鬱そうな声と表情で呟いた。

 

その様子は、出会って数時間の耀にも、飛鳥の表情はらしくないと思わせるものだった。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね、春日部さん」

 

「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」

 

「私?私の力は……まあ、酷いものよ。ドレアム君は?」

 

「ドレアムで良い。そうだな。我の能力はかなり特殊だな。下手に使えば……」

 

「おやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」

 

ウザったらしい声音で我の話は遮られた。少しイラついた我はその方に顔を向ける。そこには見るのも嫌になるほどピチピチになったタキシードを着た虎男がいた。

 

「僕等のコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

ジンはガルドと呼んだ男を睨みつける。

 

だが、男はその視線を気にせず、

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人員を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ―――そう思わないかい、お嬢様方に、紳士様」

 

四人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろした。

 

なんだこの底辺な男は?

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗った後に一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている……ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧オォ!」

 

ジンに横槍を入れられ、牙をむいたガルドの姿が変わっていく。いや、見た感じ烏合の衆で割とあっているような気がするのだが……。

 

肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。

 

「済まないが喧嘩がしたいのであれば他でやってくれ。我らは貴様と喧嘩がしたくてここにいるのではないぞ?」

 

我の言葉に冷静さを取り戻したのか、ガルドの姿は元の姿に戻った。なるほど変身型の獣か。そこまで強くはないな。

 

「これは失礼しました。用というほどではないのですがこちらのジン君が喋りたがらない箱庭のことについて教えて差し上げようかと」

 

「ガルド!それ以上口にしたら」

 

「口を慎めや小僧ォ、過去の栄華に縋る亡霊風情が。自分のコミュニティがどういう状況におかれてんのか理解できてんのかい?」

 

「ハイ、ちょっとストップ」

 

険悪な二人を飛鳥が遮った。

 

「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえた上で質問したいのだけど―――」

 

飛鳥が鋭く睨んだのは、ガルド=ガスパーではなく、

 

「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私たちのコミュニティが置かれている状況……というものを説明していただける?」

 

ジン=ラッセルの方だった。

 

「そ、それは」

 

飛鳥に睨まれたジンは言葉に詰まった。

 

「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティとはどういうものかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」

 

「そうだな。我らを呼び出した同志になんの説明もないのは頂けない。貴様のコミュニティに入って欲しいのであればどんなもの(・・・・・)でも構わん。我らに説明をするのが道理だと思うぞ?」

 

それを見ていたガルドは含みのある笑顔と上品ぶった声音で言う。腹が立つ顔だな。

 

「レディに紳士様、貴方達の言うとおりだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし、先ほども言ったように、彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ“フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧―――ではなく、ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

飛鳥は訝しげな顔で一度だけジンを見る。

 

ジンは俯いて黙り込んだままだ。

 

「そうね。お願いするわ」

 

改めて座り直した我は、ガルドから説明を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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エセ紳士トラごときが我に勝てると思ったのか?

 

 

 

我らが改めて席に着いた頃、ガルドは椅子をミシミシ鳴らしながら話し始める。

 

それからガルドが得意げに喋ったコミュニティの現状は散々と言っていいものだった。

 

「なるほどね。コミュニティの象徴でもある名も旗もないと。さらに魔王の存在ね。」

 

魔王……我のいた世界では力ある闇の世界のものを指すが、どうやらこの世界では魔王と呼ばれる名の理由が違うらしい。魔王の名は安くないのだがな。

 

「そうです。だからこそコミュニティは名無しになることを恥とし、避けるのです。一方で、コミュニティを大きくするのなら、旗印を掲げるコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティも実際にそうやって大きくなりましたから」

 

「両者合意……なるほどな」

 

言葉から色々察した我は意味深な目をガルドに向けるが、自信に溢れたガルドはそれに気づかず言葉を続ける。

 

「そもそも考えてもみてくださいよ。名乗ることを禁じられたコミュニティに、いったいどんな活動ができます?商売ですか?主催者ですかしかし名もなき組織など信用されません。ではギフトゲームの参加者ですか?ええ、それならば可能でしょう。では、ゲームに勝ち抜ける優秀なギフトを持つ人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティに集まるでしょうか」

 

「普通に考えれば集まる理由がないな。当たり前のことだが」

 

「そう、だからこそ彼はできもしない夢を掲げて過去の栄華の縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」

 

「なるほどな……しかし、ならば黒ウサギは何なんだ?あやつは『箱庭の貴族』という貴種、と聞いているが、それがなぜその『ノーネーム』に居る?」

 

「さあ、そこまでは。ただ私は黒ウサギの彼女が不憫でなりません。“箱庭の貴族”と呼ばれる彼女が、毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティを遣り繰りしている」

 

「……そう、事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私たちにそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」

 

飛鳥は含みのある声で問う。

 

その含みを察してガルドは笑いを浮かべていった。

 

「単刀直入に言います。もしよろしければ、黒ウサギ共々、私のコミュニティに入りませんか?」

 

「な、なにを言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

「黙れや、ジン=ラッセル」

 

怒りのあまりテーブルを叩いたジンを、ガルドは獰猛な瞳で睨み返す。

 

「そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材は残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘で追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」

 

「そ……それは」

 

「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら……こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」

 

ジンが僅かに怯んだ。

 

その様子にガルドは鼻を鳴らすと、

 

「……で、どうですか。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴方達には箱庭で三十日の自由が約束されています。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達“フォレス・ガロ”のコミュニティを視察し、十分に検討してから―――」

 

我ら三人を勧誘し始めた。こいつはどうやら頭が悪いようだな。少し前に飛鳥から手紙の内容を聞かせてもらったが、

 

「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」

 

ここに彼女らがいる時点でどう言葉を返すのか分かり切っている。

 

「「は?」」

 

断られたガルド、俯いていたジンは思わず声を上げてしまった。

 

誘いをばっさりと切り捨てられ、ガルドもジンも飛鳥の顔をうかがう。

 

飛鳥は何事もなかったように紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。

 

「春日部さんは今の話をどう思う?」

 

「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」

 

「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら?私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」

 

飛鳥は自分の髪を触りながら耀に問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。

 

「うん。飛鳥は今までの人たちと違う気がする」

 

《よかったな、お嬢……お嬢に友達ができて、ワシも涙が出るほど嬉しいわ》

 

「我もその友達に立候補していいかな?」

 

「う~ん。ドレアムも違うしいいかな?」

 

「疑問形なのが少し気になるが……飛鳥はどうだ?」

 

「えっ?私も?……別にいいけど」

 

「では改めてよろしく頼む」

 

ガルドとジンを放って話を進める

 

「理由をお聞かせていただいても……?」

 

ガルドが口を開く。

 

「なぜ私たちのコミュニティではなくノーネームに?」

 

ふむ。こやつは何も分かっていないようだな。

 

「私、久遠飛鳥は―――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。」

 

「我も同じだな。組織の末端で縛られるより自由気ままなノーネームの方が動きやすい。耀も似たようなもんだろ?」

 

「私は友達を作りに来ただけだから。それにしても耀って……」

 

「我は友達というのは初めてだが、呼び名などどうでもよかろう?それとも名で呼ばれるのは不愉快だったかな?」

 

「……別にいい。」

 

ん?何故そこで頬を赤らめて俯く?不愉快などないのであれば堂々としてればよかろう?

 

「ということだ。誰も貴様のコミュニティになどに入らない」

 

「お……お言葉ですが、みなさま……」

 

「黙りなさい」

 

言葉を続けようとしたガルドの口はガチン!と音を立て勢いよく閉じられた。汚い音だ。

 

本人は混乱したように口を開閉させようともがいているが、まったく声が出ない。 

 

「貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方はそこに座って私たちの質問に答え続けなさい」

 

飛鳥の言葉に反応して、ガルドは椅子にヒビを入れる勢いで座る。

 

「ガルド=ガスパー・・・・・・?」

 

ジンは突然のことに口を挟めずにいた。

 

ガルドは完全にパニックに陥っていた。

 

どういう手段かわからないが、手足の自由が完全に奪われていて抵抗さえできない。それが謎などでだろう。

 

「お、お客さん!当店で揉め事は控えて」

 

ガルドの様子からただ事じゃない雰囲気を感じ取ったのだろう。驚いた猫耳の店員が急いで我らの元に駆け寄ってくる。

 

「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも第三者として話を聞いてくれないかしら。たぶん、面白い話が聞けると思うわ」

 

店員は首を傾げる。

 

「ねぇジン君。コミュニティの旗印を賭けるギフトゲームなんてそんなに頻繁に行われるものなのかしら?」

 

「い、いえ。そんなことはありません。旗印を賭ける事はコミュニティの存続を賭ける事ですからかなりのレアケースです」

 

「そうだよね。それを強制できるからこそ魔王は恐れられる。だったら、なぜあなたはそんな勝負を相手に強制できたのかしら?」

 

「ほ、方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。コレに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」

 

「なるほど。だが、そんな方法では、組織への忠誠なんて望めないはずだ。どうやって従順に働かせている?」

 

「各コミュニティから、数人ずつ子供を人質に取ってある」

 

ピクリと飛鳥の片眉が動き、コミュニティに無関心な耀でさえ不快そうに目を細める。

 

「ほう?大した仁義の持ち主だ。流石は紳士の皮をかぶった虎なだけはあるな?」

 

我が薄く笑いながら軽口を叩いていると飛鳥が続ける。

 

「それで、その子供たちは何処に幽閉されているの?」

 

「もう殺した」

 

場の空気が凍りつく。

 

「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食……」

 

「黙れ」

 

ガチン!と先ほど以上の勢いでガルドの口が閉じられた。

 

「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。さすがは人外魔郷の箱庭の世界といったところかしら……ねえジン君?」

 

飛鳥に冷ややかな視線と凄みを増した声を向けられ、ジンは慌てて否定する。

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

 

「そう?それは残念。それよりジン君。箱庭も法を犯せば裁くようだが、この件は裁けるのかしら?」

 

「難しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのはもちろん違法ですが……裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」

 

「そう。なら仕方がないわ」

 

パチンと指を鳴らす。それが合図だったのか、ガルドを縛り付けていた力は霧散し、自由が戻ったガルドはテーブルを砕き、

 

「こ……この小娘ガァァァァァ!!」

 

雄叫びとともに虎の姿へ変わった。この程度の事ですぐにキレてしまうとは……紳士が聞いて呆れるぞ?

 

「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が……」

 

「黙りなさい。私の話はまだ終わってないわ」

 

また勢いよく黙る。だが、それでは意味などない。ガルドは丸太のように太くなった腕を振り上げて飛鳥に襲い掛かった。

 

ガルドの勢いの乗った拳が飛鳥の顔に迫ったのを見て、瞬間移動で拳を受け止める。

 

「うむ。随分と軽い拳だ。かつて我と激闘を繰り広げた勇者の仲間に武闘家がいたが、そやつの方が拳は重かったぞ?」

 

ガルドの拳は我がギリギリと力を込めて握っているから動かない。後ろで定員を含めた四人も驚いている。

 

「それに魔王がどうとか言ったな。それなら願ったり叶ったりだ」

 

我の言葉に飛鳥が我に返り威圧を込めて言い張る。

 

「それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」

 

飛鳥の言葉にジンは大きく息を呑んだ。魔王の名が出たときは恐怖に負けそうになったが、目標を飛鳥に問われて我に返る。

 

「……はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。いまさらそんな脅しには屈しません」

 

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

 

「く、くそ……!」

 

ガルドは悔しそうに拳を引く。それに合わせて手を引いてやる。

 

「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。貴方のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ」

 

「その通りだな」

 

「そこで皆に提案なのだけれど」

 

飛鳥の言葉に頷いていたジンや店員達は、顔を見合わせて首を傾げる。

 

飛鳥はガルドに視線を向け、

 

「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」

 

堂々と宣戦を布告した。

 

その気迫勇者の如き。

 

 

 

 

 

 



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我らに対する侮辱。変態な女

 

 

 

ガルドと一悶着あった後、店で壊したお代に我らの頼んだお題をガルドになすりつけて黒ウサギと十六夜を待つ。

 

「そう言えば思ったのだけど、ドレアムのギフトはなんなの?」

 

「私も気になる」

 

二人が聞いてくる。我にどのようなギフトがあるかは把握してないが、さてどう説明しようか?何しろ我は破壊と殺戮の神。夢の世界を支配する悪夢の王だ。

 

絆を合わせて戦う勇者を一瞬にして葬り去る力で暇潰しで魔王を滅ぼすことが出来る。暇潰しに付き合わされた魔王達は惨めではあるが。

 

仕方ない。適当に低級魔法でも見せて納得してもらおう。威力を極限にまで抑えた魔法でな!じゃないとこの辺り全てを地獄の更地にしてしまうからな!

 

「ならば見せてやろう。我の力だ……メラ」

 

掌を上に向け小さな炎を浮かびあげる。ふむ。ここまで抑えたメラは初めてだ。今後魔法を使って戦うことがあるかも知れぬし、いい練習となるだろう。何事も鍛錬無くして強くはなれんからな!

 

「発火能力ですか?」

 

ジンが興味津々に掌を見る。

 

「それに近いが少し惜しい。確かに自在に炎を出せる。しかしそれだけじゃない。灯した炎を自在に操れる。こんな風にな。」

 

そう言って我はメラを草むらに向けて放つ。

 

「うきゃあ」

 

すると草むらから黒ウサギが声をあげて飛び出した。

 

「やはり隠れていたか」

 

「なにするんですか!」

 

「そして、あれを消すには自然に消える。威力は抑えてあるからそのうち消えるだろう」

 

「って無視して話を進めないでください、このお馬鹿様ぁ!」

 

どこからかハリセンを取り出した黒ウサギが我の頭を叩こうとするが瞬間移動で椅子ごと避ける。

 

「うぅ……避けないでくださいよぉ。それより皆様なぜここに?箱庭を堪能してくださっていたのでは?」

 

「それは向こうにいる奴らに聞いてくれ。」

 

そういってジン達の方を指さした

 

それを聞いて黒ウサギはジンたちの方に行った。

 

「面白いな、お前のギフト」

 

「そうでもない。そんな事より世界の果てはどうだった?貴様の興味を引く面白いものでもあったか?」

 

「おう。そりゃあ凄かったぜ。」

 

「そうか。それは良かったな」

 

そんな話をしていると、

 

「な、なんであの短時間に”フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

 

黒ウサギが大声を出した。どうした?狂気にでもやられたか?

 

「しかもゲームの日取りは明日!?それも敵のテリトリー内で戦うなんて!準備している時間もお金もありません!!一体どういう心算があってのことです!聞いているのですか三人とも!!」

 

「「ムシャクシャして腹が立ったので後先考えずに喧嘩を売った。今は反省しています」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この“契約書類”ギアスロールを見てください」

 

“契約書類”とは”主催者権限”を持たない者達が“主催者”となってゲームを開催するために必要なギフトである。

 

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており“主催者”のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。黒ウサギが指す賞品の内容を十六夜が読み上げる。

 

「“参加者”が勝利した場合、主催者は参加者の言及する罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”―――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥達のチップは“罪を黙認する”こと。それも、今回だけでなく今後一切について口を閉ざすことだった。

 

「時間さえかければ彼らの罪は暴かれます。だって肝心の子供たちは……その」

 

黒ウサギが言い淀む。彼女も“フォレス・ガロ”の悪評は聞いていたが、そこまで酷い状態になっているとは思っていなかった。

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まあ……逃がせば厄介かもしれませんけど」

 

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

ジンが力強く宣言したことにより、黒ウサギは諦めたようだ。

 

「それに、安心しろ黒ウサギ。あやつの実力は大してない。それもそこの二人だけで物足りるぐらいにはな」

 

「はぁ……仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす。

 

黒ウサギは慌てて二人に食ってかかった。

 

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギを制した。

 

「いいか?この喧嘩は、こいつらが売って、奴らが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

ふむ。十六夜は武人としての心を持っているのかもしれない。見た感じ強そうには見えぬが、その風貌は計り知れない。実力というのはその人を見ただけでは分からない。是非ともこいつと戦ってみたい。

 

「……もう疲れました。ああもう、好きにしてください」

 

四人の召喚とその時の騒動、さらに十六夜を追いかけたりと丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

あれから我らは黒ウサギの提案で各々の持つギフトを鑑定してもらうことになった。

 

そこで、ノーネームと交流があったコミュニティを訪ねることになった。

 

その名は、

 

「“サウザンドアイズ”?」

 

「YES。サウザンドアイズは特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「そのギフトを鑑定すると何かメリットがあるのか?」

 

「自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」

 

同意を求める黒ウサギに、十六夜、飛鳥、耀の三人は複雑な表情で返した。我は自分の持つ力はだいたい把握しているため堂々としているが。

 

道中、黒ウサギを除く四人は町並みを興味深そうに眺めていた。我から見れば新しい物ばかりだな。なにしろ我の世界にはない物だからだ。

 

日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、飛鳥は興味深そうに眺めて呟く。

 

「桜の木ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「……?今は秋だったと思うけど」

 

「我の世界にはそのサクラ?と言うのがそもそもないのだが」

 

ん?っと噛み合わない四人は(一人は自分の世界にはない木について)顔を見合わせて首を傾げる。

 

事情を知る黒ウサギは笑って説明する。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召還されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

平行世界か……これは面倒だ。我自身夢の世界を支配しているからこそわかる。あれらの世界は一回で説明するのは難しい。

 

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけども……今からコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

十六夜の疑問を黒ウサギは曖昧に濁して振り返る。どうやら着いたらしい。

 

“サウザンドアイズ”の旗は、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。

 

店の前では、看板を下げる割烹着の女性店員の姿があって、黒ウサギは慌ててストップを、

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

……ストップをかける事も出来なかった。と言うより、我らを見て店を閉め始めたから最初から無理だったのだがな。

 

黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

 

飛鳥も意を同じくする。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「……う」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

「俺たちは“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

十六夜たちは知る由もなかったが“サウザンドアイズ”の商店は“ノーネーム”の入店を断っている。

 

全員の視線が黒ウサギに集中する。

 

彼女は心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

「その・・・・・・あの・・・・・・私たちに、旗はありま」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィ!」

 

「きゃあーーー・・・・・・!」

 

黒ウサギが店内から爆走してきた着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱きつかれ、少女と共に街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛び、ボチャン、と転がり落ちた。

 

……なんだアレは?

 

それを、十六夜達は目を丸くし、店員は痛む頭を抱えた。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

このアホな会話に頭が痛くなってきた。

 

「ここは濡れた黒ウサギを我らを水に濡らした罰と思って笑う所ではないか?」

 

「確かに。因果応報」

 

我の言葉に耀がすぐさま反応する

 

耀、根に持ってたのか?

 

視線をもどすと黒ウサギが何やら言い合ってるみたいだった。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

「なんだあの変態は」

 

黒ウサギは胸に顔を埋めている白夜叉を引き剥がすと、頭を掴んで店に向かって投げつける。

 

クルクルと縦回転した少女を、十六夜が足で受け止めた。

 

「てい……か〜ら〜の〜パスだドレアム!!」

 

「いらん!」

 

十六夜から飛んできた白夜叉の頭を掴むと勢いよく地面に投げ捨てる。

 

「ゴバァ!お、おんしら、飛んできた初対面の美少女を足で受け止め、そこから地面に叩きつけるとは何様のつもりだ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「ドレアムだ」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

 

距離を取って自己紹介をするドレアム。

 

一連の流れの中で呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉と呼ばれていた少女に話しかけた。

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉さまだよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

 

ちょうどその時、黒ウサギが濡れた服を絞りながら水路から上がってきた。

 

「うう……まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「自業自得という言葉を知ってるな?」

 

濡れても気にしていなかった白夜叉は、店先で黒ウサギ達を見回してにやりと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは……」

 

不敵な笑顔を浮かべる白夜叉に視線が集まり、

 

「遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

ウサ耳を逆立てて黒ウサギが怒る。

 

「まぁ、冗談はさておき話があるのじゃろ。話があるなら店内で聞こう」

 

何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店へ招く。

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない“ノーネーム”のはず。規定では」

 

しかし、女性店員が眉を寄せながら水を差す。

 

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方がない事だろう。女性店員に睨まれながら五人は暖簾をくぐった。

 

「貴様は自らの仕事をしただけだと言うのに悪い事をしたな」

 

心を込めた我の謝罪に最初は唖然としたものの、その後女性店員は薄く微笑みを浮かべた。

 

「早く入ってください」

 

どうやら噂に聞くツンデレのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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曲がりなりにも神というわけか

 

 

 

 

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人が通されたのは白夜叉の私室。

 

香のような物が焚かれており、風と共に五人の鼻をくすぐる。

 

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから五人に向き直った。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げ遣りな言葉で受け流す黒ウサギ。

 

その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています。ちなみに、白夜叉様がおっしゃった三三四五外門などの四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する人外魔境と言っても過言ではありません」

 

「おんしも、恩人に対して言うな」

 

物言いに苦笑する白夜叉に慌てて頭を下げる黒ウサギ。

 

手を振って白夜叉が気にしていない旨を示すと、黒ウサギは紙に上空から見た箱庭の略図を描いた。

 

「……超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

超巨大タマネギとはなんだ?それはどれほどの大きさなのだろうか?まさか、千年に一度現れるとされる最強の魔物巨大オニオーンの事を指すのか?あやつは強いぞ!魔物としてのランクはだいぶ低いくせにずる賢いせいで何度も我の配下が傷つけられたものだ!

 

「巨大バームクーヘンとはなんだ?それはなんだ?新手の魔物なのか?それはどれほど強いのだ?」

 

「ドレアム、一つ言っておくぞ?バームクーヘンは食べ物だ」

 

な、なんだと……!?その名前からしてどんなものか想像もつかない物が食べ物だと!?という事はそれは美味しいのか!?貴様らがわざわざ例えに出すぐらいなのだ!?それはもう美味いのだろうな!?

 

見も蓋もない感想と見当違いな事に驚いているドレアムの様子を見てガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 

対照的に、白夜叉はカカカッと笑い声を上げて楽しそうに何度も頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例えるが、私はバームクーヘンに一票だ。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのはトリトニスの滝を棲みかにしていた、十六夜が素手で叩きのめした蛇神のことだろう。

 

我も少しだけ話は聞いたが、その蛇神はそうな簡単に倒せるものでは無い。黒ウサギに聞いた時に三つの試練を受けなければならないという事だ。だと言うのに十六夜はそれをたった拳で叩き潰したという。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り、カカカッと豪快に笑う白夜叉。それを聞いて我はやはりなと確信した。

 

最初に姿を見た時から思っていたが、彼女から発せられるプレッシャーは我ら魔王の持つものと同じ。ましては破壊と殺戮の神として君臨している我と同等だ。

 

だが気がかりなのは、それほどまでの力を持っているのに何故このような場所に留まっているのか。興味がなかったためそこまで真面目に話を聞いていなかったが、恐らく黒ウサギが関係しているのであろう。ガルドから聞いた話によればノーネームはかつて名のある有名なコミュニティだったらしいし。

 

「神格ってなんだ?」

 

「神格とは、生来の神そのものではなく、種の最高のランクに体を変化させるギフトのことだ。人に神格を与えれば現人神や神童に。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。更に神格を持つことで他のギフトも強化される。コミュニティの多くは目的のために神格を手に入れるため、上層を目指して力をつける。」

 

「へぇー。そんなもんを与えられるってことはオマエはあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

“最強の主催者”―――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせた。我?我はこのような弱者になど興味はない。

 

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。まるで熱い闘志を漲らせた闘牛のようだ。闘牛と言えばバッファロンは元気にしているだろうか?

 

我が偶然拾った魔物だったが今はコロシアムの王者に着いたんだったな。強くなりたいという心は武人として嬉しく思うぞ。

 

そんな闘志に溢れた今にも戦いたいという目をした三人に、白夜叉は高らかに笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

「後悔すんなよ。」

 

全員が嬉々として白夜叉を睨む。つまらん事に楽しむのだな人間というのは。

 

「そうそう、ゲームの前に確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か―――もしくは、“決闘”か?」

 

五人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。

 

黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

 

五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「……なっ……!?」

 

あまりの異常さに、十六夜達は息を呑んだ。驚いた様子がないのは我だけか……一人だけだと少し寂しいものがあるな。今度からは驚いたふりでもしておこうか。

 

遠く薄明の空にある星は、世界を緩やかに廻る白い太陽のみ。

 

唖然と立ち竦む三人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度息を呑む四人。

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽とこの土地はオマエを表現してるってことか」

 

十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」

 

何を驚いているのやら、魔王であるならばこれぐらいできて当然であろうと思うのだが?

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「……っ」

 

白夜叉がいかなるギフトを持つのか定かではない。だが四人が勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。

 

「降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。あんたには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪えきれず高らかと笑い飛ばした。

 

プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。

 

一頻り笑った白夜叉は笑いをかみ殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく……して、他の童達も同じか?」

 

 

 

「……ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。

 

黒ウサギが顔を青くして騒ぎ出す。

 

「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!」

 

「いいじゃねえか。大事になる前に止めたんだし。ほら、今回は空気呼んで止めただろ」

 

十六夜はそう言うが黒ウサギの言いたいことはそうではないと思うぞ?

 

「黙らっしゃい!そもそも、“階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う“階層支配者なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

「ふふふ」

 

なんとも愉快な会話につい笑い声をもらしてしまう。それを見た白夜叉が聞いてくる。

 

「それで、お主はどうする?」

 

「はっきり言って貴様の遊戯に興味はない。我が求めるのは強き猛者との戦い」

 

「ならば決闘を挑んでみるか?その後の生死は保証できんがな」

 

「し、白夜叉様!?」

 

何を驚いている黒ウサギ。命懸けの戦いなど我からしてみれば普通だぞ?

 

「よかろう。貴様の実力がどのようなものか知るのもいいだろう。我は貴様の決闘を選ぶとしよう。せいぜい我が楽しむことも無く終わるなよ?」

 

思いっきり挑発を込めて言う。白夜叉は一見なんともないように見れるが、僅かに青筋を浮かべている。隣であわわとあたふたしている黒ウサギは殴って黙らせる。

 

「では、我の前に十六夜達の試練を終わらせようか?」

 

我のその言葉と同時に、鳥のような獣の鳴き声が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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我が魔神の力得と知るがよい!

 

 

獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ……あやつか。おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。

 

すると体調五メートルはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の元に現れた。

 

「グリフォン……うそ、本物!?」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”、“知恵”、“勇気”の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

「なるほど……合成獣(キメラ)か。確かにこの三人を試すのにうってつけの者はいないであろうな」

 

我の言葉に頷いた白夜叉が手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。そして何故か睨まれた。

 

「肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで“力”、“知恵”、“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようか」

 

すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

 

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

 

四人は羊皮紙を覗き込んだ。

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名:鷲獅子の手綱

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

 

          久遠 飛鳥

 

          春日部 耀

 

 

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

 

                              “サウザンドアイズ”印』

 

 

______________________

 

 

 

 

 

「私がやる」

 

読み終わるや否やピシ! と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。

 

動物好きな耀からすれば、グリフォンという存在はやはり憧れになるのであろうな。

 

『お、お嬢……大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

三毛猫は凄く心配そうに耀を見つめる。飼い猫ってわけではないと思うが、それでも長年一緒にいたのだろう。心配するのも無理はない。

 

「大丈夫、問題ない」

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。

 

キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。

 

隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん、頑張る」

 

二人は耀に言葉をかけ送り出す。

 

ふむ、あまり人の試練に手を貸すのは好きではないが万が一ということもなるか。

 

「少し待て」

 

ここまでの会話の中で圧倒的に会話に加わることの少なかった我が呼び止めると、耀達五人は驚いたようにこちらを見る。

 

「白夜で湖畔を回るにはその服装は寒すぎる。これでも羽織っているといい」

 

そう言って空間魔法から取り出した紅蓮のローブを取り出し、耀が寒くならないように被せる。

 

「あ、ありがと……」

 

耀は一瞬ポカンと分からなかったようだが、自分に被せられた紅蓮のローブを見て頬を赤らめる。

 

そしてそのままグリフォンの前まで行く。

 

「随分と優しいじゃねぇか」

 

ニヤニヤと悪い笑みを浮かべた十六夜が近づいてくる。その隣には同じように笑みを浮かべた飛鳥が居る。

 

「これからともに戦う仲間がこのような所で戦闘不能になってもらっては困るからだ」

 

それだけ言って我は前を見る。

 

耀がグリフォンに駆け寄るが、グリフォンは大きく翼を広げてその場を離れた。

 

戦いの際、白夜叉を巻き込まないようにする為だろう。

 

耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をぎらつかせるグリフォンを、追いかけるように耀は走り寄った。

 

数メートルほどの距離で足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。

 

やはり憧れの動物に会えて嬉しいのであろうな。我にそのような者は……あるとすれば勇者達の見せた絆の輝きぐらいか。

 

何やらグリフォンと話していた耀は、グリフォンに跨ると「あなたの背に乗るのが夢だった」と言う。なるほどやはりな。

 

グリフォンがその言葉に何を思ったのかは知らないが、気高き勇猛なグリフォンはひと鳴きして空に飛び立つ。

 

さて、このようなことを語っていても時間の無駄だ。結果だけ言わせてもらおう。

 

ギフトゲームの勝者は耀だ。

 

グリフォンに振り落とされないように踏ん張っていた耀は、何かの力でも得たのかグリフォンから落ちた時にまるで空を踏み歩くように宙に浮いていた。

 

恐らくグリフォンの力を得たのだろう。

 

地に足をつけた耀はみんなから賞賛されている。

 

途中白夜叉が訳分からんことを喚いていたが、それらを振り切った耀が我に紅蓮のローブを返しにくる。律儀なものだな。

 

「これ、返すね。ありがとう。助かったよ」

 

「礼はいらん。貴様はこの試練に勝った。それは我からの褒美として受け取っておけ」

 

一瞬だけ惚けたようにボーとしていた耀は、直ぐに我に返ると嬉しそうに頷いて紅蓮のローブを抱きしめる。

 

「さて、では始めようか白夜叉よ」

 

我は今にも戦いたくてうずうずしている。あまり我をガッカリさせてくるなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名神との戦い』

 

プレイヤー一覧 ドレアム

 

・クリア条件 白夜叉との一騎打ちに勝つ。

 

・クリア方法 白夜叉との一騎打ちで降参させる。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ”印』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程まで我らがいた場所とは少し離れた場所に、我らが立ち睨み合う。それ以外は先程の場所で待機している。念の為我の魔法でこちらの状況がわかるように映し出してある。

 

「さて、準備はいいかの?」

 

「いつでもこい」

 

我は空間魔法を使い我の愛用する武器両切天秤刀を取り出し、何度か試しに振ってみる。長らく使ってなかったが、そこまで心配するぐらい腕は落ちてはいないようだ。

 

これなら存分に戦える。一人の武神として貴様の強さ見極めさせてもらおうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に動いたのは白夜叉だった。白夜叉は何もせずただたっているだけの我に高速で近づくと、勢いをつけて殴りかかってくる。

 

我はその拳を余裕を持って躱すと、ふっと笑みを浮かべる。正直今の(・ ・)白夜叉の強さはそこまでない。我の世界にいる魔王にも及ばない。

 

だからそこまで本気を出すまでもない。

 

「お主、もしかして私をなめてないか?」

 

少しだけ怒りをのせた白夜叉の言葉。

 

「だったらどうした?貴様には多少期待していたのだが、ガッカリだな」

 

「なんだと……?」

 

目にも止まらぬ速さで白夜叉の前まで移動した我は、驚いている白夜叉にはやぶさ斬りを放つ。だが、白夜叉間一髪避けることに成功した。

 

そんな白夜叉に掌を向けメラゾーマを放つ。くらっている様子はない。ふむ、あまり炎系の魔法は効果的ではないようだな。

 

なら、少し技を変えるか。

 

「マヒャド」

 

我が氷結系魔法を唱えると、白夜叉の真下から勢いよく凍てつく氷が現れ白夜叉を包み込む。

 

「イオグランテ」

 

動けない白夜叉は我の放った爆発系最強魔法イオグランテをまともに受けてしまう。だがそれでも白夜叉は立ち上がった。

 

白夜叉は懐から扇子を取り出すと、いつでも襲いかかれるように身構えた。そんなものに意味などないというのにな。

 

「ギガクロスブレイク」

 

かつて勇者が大魔王ゾーマと戦った時に編み出した技ギガスラッシュ。自らの剣に光系魔法を使いその光を使って勢いよく振る最強の技だ。

 

本来なら勇者にしか扱えない光系魔法で我の両切天秤刀に光を乗せ、白夜叉に向かって二度振り回すことにとって両切天秤刀に載せた光を斬撃として飛ばす。

 

一つ目の斬撃は避けることが出来たようだが二つ目があることを失念していたのか、二つ目の光の斬撃が白夜叉を襲う。

 

「くぅ〜……さすがに強いのぉ。お主本当の名はなんとと言う?」

 

技をくらいながらもなんとか立ち上がる白夜叉に敬意を払い名を名乗らせてもらおう。それも本来の姿でな。

 

「我が名は魔神ダークドレアム!全ての悪夢に住まう破壊と殺戮の神である!」

 

本来の姿に戻った我は自らの存在を世界に認めさせる為にも名を名乗る。白夜叉は最初こそは驚愕していたが、落ち着いたのか大声で笑った。

 

「そうかそうか!なんともまぁ、黒ウサギの奴はとんでもない奴を呼び出してくれたものだな!私が勝てそうにないと思ってしまうほどの強さを持っているとは!いやぁこれは参った参った!降参だ」

 

若干黒ウサギの方を睨んだ白夜叉は自らの負けを認める。ほとんど白夜叉が何もしていないのにも関わらず、我が少し力を示しただけで勝ってしまった。

 

ふむ、今度からは勝負を楽しむ為にも力の加減をするとしよう。我ならすぐにできるでだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドレアム達がいたサウザンドアイズから離れた場所アンダーウッドに居る青色の服装をした少年が、何かを感じたのか花屋の外に出る。

 

(今の気配はなんだ?随分と懐かしい感覚がしたけど)

 

少年はいつの間にか自分の背にある剣の柄を握っていた。

 

「あれー?どうしたの?」

 

「ん?あぁ、なんでもないよ」

 

少し赤色の交じった茶髪をポニーテールにした少女も店から出てくる。

 

「早く仕事を終わらせようよー。またおばさんに怒られちゃうよ?」

 

「それは怖いな。あのおばさん怒ったら怖いからな」

 

「でしょー?じゃあ早く終わらせよ?」

 

ニコッと満開に咲いた桜のように微笑んだに少女を見て、少年も少しだけ微笑んだ。

 

「早く行こ?テリー君」

 

そう言って少女は手を繋いで店の中に入っていく。

 

少年……テリーは店の中に入る前にもう一度感覚の感じた方角を睨む。

 

(なにか、良くないことが起こる気がするな)

 

そう考えたテリーは少女を手伝うべく考えを一度捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ギフトカードというのは便利かつ高価なものらしいな

白夜叉とのギフトゲームを終えた我が人間体に戻りみんなの元に戻ると、いきなり十六夜にヘッドロックをかまされた。

 

「いやぁ〜強いなお前!まさかあそこまで強いとは思ってなかったぜ」

 

「そうね。あんな力を隠してたなんて酷いじゃない」

 

「でも、ドレアムって魔王だったんだ?」

 

「あわわわわわわわわわ!!どうしましょうどうしましょうみなさん!私はとんでもない人を呼んでしまったようです!」

 

上の順から十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギが個々で感想を言う。我とて別に隠してた訳では無いのだが、人間体でこの世界に来たから別にいいかと思っていただけだ。

 

だが黒ウサギ。貴様は許さん。後でメラ撃ちの刑だ。覚悟しておけ!

 

「ヤレヤレじゃあのぉ、まぁいいか。さて、お主らがここに来た理由を聞かせてもらおうかの?」

 

思い出したかのように白夜叉がこちらを見た事で、今日ここに何をしに来たのかを思い出した黒ウサギが手を叩く。

 

「そうでした!白夜叉様!ギフト鑑定をお願いします」

 

その言葉を聞いた瞬間、白夜叉の顔が気まずそうにそっぽを向く。なるほど、あの顔から察するに鑑定が苦手なのだな?

 

「よ、よりにもよって鑑定とは……専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

ふむ、まさかの無関係と来たか。だがそれでも多少はできるのであろうな?我のいた世界では自分の属性とは無関係な魔法を使う魔道士や魔女などわんさかいたぞ。

 

白夜叉は困ったように白髪を掻きあげ、着物の裾を引きずりながら四人の顔を両手で包んで見つめる。

 

「どれどれ……ふむふむ……うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどの程度に把握している?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「殺すぞ?」

 

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、 それじゃ話が進まんだろう……っておい最後のまて!なんだ殺すぞって!」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く飛鳥と耀。

 

困ったように頭を掻く白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

 

「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩 恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉がパンパンと拍手を打つ。

 

すると十六夜・飛鳥・耀・ドレアムの四人の眼前に光り輝くカードが現れた。

 

カードを見てみるとそれぞれの名前と、体に宿るギフトを表すネームが記されていた

 

 

 

 

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜

 

□ギフトネーム“正体不明(コード・アンノウン)

 

 

 

ワインレッドのカードに久遠飛鳥

 

□ギフトネーム“威光”

 

 

 

パールエメラルドのカードに春日部耀

 

□ギフトネーム“生命の目録(ゲノム・ツリー)”、“ノー フォーマー”

 

 

 

 

ダークグリーンのカードにドレアム

 

□両切天秤刀、光系魔法、闇系魔法、炎系魔法、水系魔法、雷系魔法、爆発系魔法、重力系魔法、究極魔法、マジェス・ドレアム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な、なんだこれは?いや確かに暇すぎて魔法の修練を怠ることなく極めていたが、なんだ究極魔法って!?

 

我の使う剣技は両切天秤刀があればなんとかなると思うが、これは異常なのではないか?流石にかの勇者達も属性魔法のカンストはしてなかったぞ。

 

「な、それはギフトカード!」

 

我らの持つカード……ギフトカードというものを手にした我らを見て、黒ウサギが声を上げる。そんなに珍しいものなのか?我に言わせればそこまで価値あるものには見えんが。

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「……」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息があってるのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードなのですよ!耀さんの″生命の目録″だって収納可能で、それも好きなときに顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

「ふむ、そんなにも高価なものだったとは……勇者の剣の方がもっと価値あると思うのだが……」

 

暫くすると、白夜叉が言った

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、お主らは″ノーネーム″だからの。少々味気ない絵に成っているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

我のカードには魔神ダークドレアムを表す紋章が描かれているのだが……これはいいのか?

 

「ふぅん……もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

十六夜は水樹の方へカードを向けた

 

すると、水樹は細かな光の粒子となり、十六夜のギフトカードへ吸い込まれていった

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「出せるとも。試すか?」

 

黒ウサギが急に二人の会話に割り込んできた

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティの為に使って下さい!」

 

チッっと苛つく十六夜の後ろでハラハラする黒ウサギ

 

それを見る白夜叉は高笑いをした後、解説をする

 

「そのギフトカードは、正式名称を″ラプラスの紙片″、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった″恩恵″の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

十六夜は不敵に笑いながら言った

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ」

 

十六夜は笑みを浮かべたまま、白夜叉にカードを見せる。カードを見た白夜叉は驚嘆した。そしてひったくるように奪うと信じられないような目でカードを睨む。

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

白夜叉は十六夜のギフトカードを見てみるとそこには確かに正体不明(コード・アンノウン)の文字があった。

 

正体不明(コード・アンノウン)だと……?いいやありえん、全知である″ラプラスの紙片″がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方が有り難いさ」

 

十六夜は白夜叉からギフトカードを取り上げると、ギフトカードを懐に戻す。

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「ああ、中々に良かった。ついでにいろいろとわかったしな」

 

「あら、駄目よドレアム君、春日部さん。次に挑戦するときは対等な条件で挑むんだもの」

 

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好つかねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

 

「我ともまた遊んでもらおうか?」

 

「誰が二度とお主と闘うかぁ!!コホン!……ところで」

 

最後に我が言った言葉に、白夜叉は焦りながら全否定すると顔を真剣にすると問う。

 

「今更だが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

 

「ああ、名前とか旗の話か?それなら聞いたぜ」

 

「ならそれを取り戻す為に″魔王″と戦わねばならんことも?」

 

「聞いてるわよ」

 

「………。では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな」 

 

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

 

ん?それだと我もその中に入るのでは?考えて物言ってるのか?

 

「″カッコいい″ですむ話ではないのだがの……全く、若さ故のものなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものなのかはコミュニティに帰れば分かるだろ。それでも魔王と戦うことを望むというなら止めんが…………その娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

白夜叉は威圧を込めて言う。その威圧に女二人は喋れなくなる。

 

白夜叉の言っていることは正しい。魔王というのはそんな簡単に倒せる存在ではない。夢の世界に住まう我も『破壊と殺戮の神』だとか、『魔神ダークドレアム』だとか『魔王ダークドレアム』だという名で呼ばれていたからだ。

 

今では我の世界で我に勝てる者などいない。それこそ我を超えるほどの修練をしてきた者だとしてもだ。あの勇者でも勝つことなく死んで逝ったのだぞ?

 

この世界の魔王がどれほどの強さを持っているかは知らんが、恐らく十六夜ですらも勝つのは難しいだろう。我の感じる所、どこからに封印されているであろう魔王の力には、な。

 

だが、それを理解していても我は不敵に笑ってしまう。

 

「何を言っている?この我がいる限り、無様に死なせるわけがなかろう?破壊と殺戮の神であるこの我『魔神ダークドレアム』の敵ではないわ!」

 

「ま、まぁ、お主が出たらこの世界の魔王なんぞ誰も勝てんだろ」

 

我の言葉に一瞬だけ白夜叉がたじろぐ。

 

「安心しろ白夜叉。どのような魔王が現れてもこの我が守ってやる。武人の言葉に二言はない」

 

「そうか。なら安心じゃな。」

 

方の力を抜いた白夜叉は少し大人びた顔で言う。

 

「まあ、何はともあれ。魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。ドレアムのような人外はともかく、おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様はいつ見ても悲しいものだ」

 

飛鳥は不機嫌そうな顔をして答える。自分でも今の実力ではまだまだ足りないということがわかっているのであろうな。だからこそ飛鳥も耀も自分にイラついてくる。それはいいことだ。

 

自分の実力を大して理解せず大物と戦って死んでいく戦士など大勢いた。我はそんなものをいつも見てきた。だからこそ自分の実力をちゃんと理解している二人を見ると、武人として共に鍛えたくなる。

 

「………………ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次は貴方の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

 

「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い……ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」

 

「嫌です!」

 

「よかろう!」

 

「よくありません!ドレアム様も悪ノリしないでください!」

 

即答する黒ウサギ、悪ノリする我、それにハリセンをして避けられる黒ウサギ、その光景を見て拗ねる白夜叉。

 

「つれないことを言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし」

 

「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!」

 

そんな漫才の様なことをした我らは、サウザンドアイズの二一○五三八○外門支店を後にした。

 

 

 

 

 



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ノーネームの本拠地か……魔王の実力も大した事ないな

 

 

 

 

 

白夜叉とのギフトゲームを終えて『ノーネーム』の本拠地だという場所に向かっていた我ら。噴水広場を越えて三十分歩くと随分とボロついた門が顔を見せる。

 

「この入口が我々ノーネームのコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないのでご容赦ください。この付近はまだ戦いの名残がありますので…………」

 

「戦いの名残?噂の魔王っていう素敵ネーミングな奴との戦いか?」

 

「……はい」

 

「丁度いいわ。箱庭最低最悪の天災が残した傷痕、私達に見せてもらおうかしら?」

 

申し訳なさそうな顔をする黒ウサギに、どこか挑戦的な笑みを浮かべる十六夜と飛鳥の二人。

 

我もこの世界の魔王がどれほどの実力があるのか興味がある。こういうのは直接見なくては分からないものだからな。

 

黒ウサギが門を開ければ乾ききった風が数量の砂と共に吹き上がる。それを見た我が咄嗟の判断で低級風魔法バキを発動させ中和する。

 

「なっ…………!?」

 

現れた本拠地を見て先程まで挑戦的な顔をしていた二人が言葉を失う。一番感情に乏しいまで耀までもが開いた口が塞がらなくなっている。

 

まぁ、そうなってしまうのも仕方なき事だ。

 

なにせ、

 

辺り一面が廃墟化(・・・・・・・・)しているのだからな。我は元の世界で人間達の街や国が魔物によって廃墟と化するのを何度も見ている。だからそこまで感情が揺さぶられる事もなったが、今まで平和な世界を過ごしてきた三人は違う。

 

十六夜が近くにあった残骸から木材を掴み取り少しだけ力を入れる。ただそれだけで木材はまるで砂のように崩れ去った。

 

「…………おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは―――今から何百年も前の話だ?」

 

「僅か三年前の話でございます」

 

「はっ!そりゃ面白いなおい。いやマジでな。この風化しきった廃墟がたった三年前だと?」

 

震えた声で十六夜が言う。流石にこの光景は心にくるものがあるのだな。

 

「…………断言してやる。どんな力がぶつかろうが、こんな風に壊れ方をするのは絶対にありえねぇよ。この木造なんて膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えねぇ崩れ方だ」

 

それを聞いた飛鳥が複雑な表情で呟くように言う。

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がそのふっと消えたようじゃない」

 

「………………生き物の気配が全くしない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないのはおかしい」

 

悲しそうな瞳を浮かべる耀はギュッと三毛猫を抱きしめる。

 

ふむ。なるほど。この程度(・・・・)か。この世界の魔王の実力は。これから順調に十六夜達が力を高めていけばそのうち勝てるな。もし勝てなくても我がいれば勝利は完全だ。

 

だがつまらぬゲームをするつもりはない。この三人にはいつか我を超えるほどの実力を持ってもらわなければ困るからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後黙り込んでしまった三人と我は黒ウサギの案内の元本拠地に辿り着く。するとそこには二十を超える子供達とそれを束ねるジン・ラッセルが我らの到着を待っていた。

 

子供達は我らの存在に希望と尊敬の輝きを込めて眺めていた。これには我も苦笑いを浮かべてしまうな。これまでの人生……いや魔生では絶望と恐怖を込めた視線ばかり向けられてきたからな。ここまで輝かしい目を見るのは初めてかもしれない。

 

「右から順に逆廻十六夜さん。久遠飛鳥さん。春日部耀さん。そして此方にいらっしゃるのは異世界の魔神ドレアム様です。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼等のために身を粉にして尽くさねばなりません」

 

おい黒ウサギよ。なんだその紹介の仕方は?なぜ我だけ別の紹介方をされなければならぬ?

 

「あら、別にそんなのは必要ないわよ?もっとフランクに接してしてくれても」

 

「それではダメなのであろう。恐らく我らがギフトゲームに参加して、買った戦利品で生活が成り立つってことが大事なのだ。わかりやすく言うのであれば、我らは戦争で戦いから勝ち帰ってきた者。その戦利品を貰い生活をしている子供たちには将来の為にも厳しくする必要がある。だから黒ウサギが許さないのだろう?」

 

「YES!甘やかせば、将来この子達の為になりません」

 

そこで黒ウサギは一拍置く。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言い付ける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

耳鳴りするぐらいの高い声で二十人前後の子供達が叫ぶ。

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか」

 

「そ、そうね」

 

(…………これから、私やっていけるかなぁ)

 

十六夜は元気そうに高笑いをし、飛鳥は苦笑いを浮かべて返事をする。

 

耀は少し心配そうな顔をしていた。

 

見た感じ無口な燿は子供が苦手そうな印象を受けるからな。今後の生活が大丈夫かどうか心配なのだろう。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

 

「あいよ」

 

水路は骨格だけだが残ってはいた。しかし、ひび割れしていたところ等もあったがそこも頑張って掃除してくれていたようだ。

 

子供達も健気ながら生活の為に頑張っているのだな。これは我も頑張らなけれはな。まぁ、我を楽しませるほどの実力とギフトゲームには出会うことはないだろうが。少なくとも今のところは、な。

 

耀が隣で水路を見る。

 

「大きな貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

 

『そやな。門を通ってからあっちこっちに水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろなあ。けど使ってたのは随分前の事なんちゃうか?どうなんやウサ耳の姉ちゃん』

 

黒ウサギはクルリと振り返る。

 

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

 

龍の瞳というところで十六夜の目が輝く。

 

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

 

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 

黒ウサギがはぐらかしたところでジンが口を挟む

 

「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開きます。此方は皆で川の水を汲んできたときに時々使っていたので問題ありません」

 

「あら、数キロも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

 

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

 

「半分くらいはコケてなくなっちゃうんだけどねー」

 

「「「ねー?」」」

 

ふむ。元気があって大変よろしいことだ。

 

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

 

「………………そう、大変なのね」

 

「それでは苗の紐をといて根を張ります!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

 

「あぁ、わかったぜ」

 

黒ウサギがそう言って苗の紐を解くまるで波乗りの如くに水が溢れ出てくる。

 

「ちょ、少しマテやゴラァ!!流石にこれ以上は濡れたくねけぞオイ!」

 

慌てて石垣まで跳躍した十六夜。そして残念な事に間に合わずに全身ずぶ濡れになってしまったようだ。

 

「うわお!この子は想像以上に元気です♪」

 

嬉しそうな声で叫ぶ黒ウサギ。後で十六夜に何されても我は助けぬからな?助けを求めるなよ?

 

水樹から流れた水は勢いよく水路を埋めていった。見る見るうちに水路は溜まり場となった。

 

隣から感嘆の声が響く。

 

「凄いですよ!これなら生活以外にも水が使えるかかもしれませんね……………!」

 

「なんだ、農作業でもするのか?」

 

「農作業に近いです。例えば水仙卵花などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これならみんなにも出来るし…………」

 

「ふぅん?で、水仙卵花ってなんだ御チビ」

 

十六夜が嘲笑と尊敬の混ぜた言い方で呼ぶことにジンは驚く。十六夜も悪い奴だ。意味を知っていながら敢えて聞くのだからな。

 

ジンをリーダーとして認めぬのは十六夜の勝手だが、個人的な気持ちを押し付けてならぬぞ?

 

「す、水仙卵花は別名アクアフランと呼ばれ浄水効能のある亜麻色の花の事です薬湯に使われることもあり、観賞用にも取引されています。確か噴水広場にもあったはずです」

 

それからしばらく経って黒ウサギが我らの住む場所まで案内する。元々が最強の座を持つだけはあり、名を失っていても本拠地は大きかった。

 

「遠目から見てもかなり大きいけど…………近ずくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には順列を与え、上位から最上階に住むことになっております………………けど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

 

飛鳥が屋敷のすぐ近くにある別館を指さす。

 

「そう。そこにある別館は使っていいの?」

 

「あれは子供達の館ですね。いくつか空き部屋がありますから泊まろうには泊まれますが……………」

 

「遠慮するわ」

 

即行で断りを入れた。

 

「それより今はお風呂に入りたいわ」

 

「私も」

 

女は風呂好きだと言う話は聞いていたが本当の事だったのか。

 

「分かりました!少々お待ちを」

 

黒ウサギはそう言うと大浴場へと向かった。しかし、大浴場を見た黒ウサギは唖然とする。長い間使っていなかった大浴場は汚れに汚れまくっていた。

 

「一刻程お待ちください!すぐに綺麗に致しますから!」

 

黒ウサギが大浴場の掃除に取り掛かっている間、談話室と呼ばれる部屋で我らは思い思いに寛いでいる。

 

『お嬢………………ワシも風呂に入らなアカンか?』

 

「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」

 

「……………ふぅん?話には聞いてはいたけど、オマエは本当に猫の言葉が分かるんだな」

 

「うん」

 

『オイワレ、お嬢をオマエ呼ばわりとはどういうことや!調子に乗るとオマエの寝床を毛玉だらけにするぞコラ!』

 

なんだその子供のイタズラ程度のしょぼい仕返しは。

 

「駄目だよ、そんなこと言うの」

 

飛鳥が聞きにくそうに耀に問う。

 

「出すぎたことを聞くけど…………………春日部さんに友達ができなかったのはもしかして」

 

「友達は沢山いたよ。ただ人間じゃなかっただけ」

 

拒否の意思がこもった声で耀は言った。過去に嫌なことでもあったのだろう。

 

その空気を壊すように黒ウサギが登場する。お前はいちいち空気を壊さなければいけない病気にでもかかっているのか?だが今回はナイスだ。

 

「ゆ、湯殿の用意ができました!女性様方からどうぞ!」

 

『や、やっぱりイヤやー!』

 

そう三毛猫は叫ぶと耀の腕の中から脱獄のち逃走を開始する。

 

「こら、三毛猫」

 

だが耀は三毛猫よりも早く行動し両手で逃げられないように抱きしめる。そして大人しくなった三毛猫を連れて風呂に入りに行った。

 

流石は動物の恩恵を貰い受けているだけはあるな。

 

そして十六夜。お前は笑いすぎだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は進んで翌日。我らはギフトゲームのために″フォレス・ガロ″の居住区に向かっていた。

 

コミュニティ″六本傷″の前に来たとき、前に注文を聞きに来た三毛猫いわく鍵尻尾のねーちゃんが声をかけてきた。

 

「あー!昨日のお客さんじゃないですか!もしや今から決闘ですか!?」

 

『お、鍵尻尾のねーちゃんか!そやそや今からお嬢達の討ち入りやで!』

 

耀の初めての参加のためか興奮した三毛猫が大事にするかのように調子に乗るので睨んで黙らせる。

 

鍵尻尾の猫娘はこちらに来ると一礼をして話し始める。

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一○五三八○外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

両手を振り回しながら応援される。応援されるのは初めての経験だな。

 

飛鳥は苦笑いしながら強く頷き返す。

 

「ええ、そのつもりよ」

 

「おぉ!なんて心強い!!」

 

満面の笑みで返す猫娘。しかし、急に声を潜めて呟く。

 

「実は皆さんにお話があります。″フォレス・ガロ″の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」

 

「居住区画で、ですか?」

 

飛鳥は小首を傾げる。

 

「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」

 

「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ」

 

「しかも!傘下に置いているコミュニティや同士を全員ほっぽり出してですよ!」

 

「…………………それは確かにおかしな話ね」

 

「まあ、用心に越したことは無いだろ」

 

「はい!何のゲームか知りませんが、とにかく気を付けてくださいね!」

 

そして、我らは″フォレス・ガロ″の居住区画へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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