吸血鬼なのに血が不味すぎて困る。 (ねりづき)
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帰還

エタる
字下げ忘れてました


 この私、ギルバート・スカーレットは、転生者である。

 といっても、生まれて何年も経ち、前の人生は流行り病での病死で、どうこうなるものでもなかったので、過去は過去で因縁もなく、生活に役立てているレベルである。

 

 この私、ギルバート・スカーレットは、吸血鬼の名門スカーレット家の長男であり、姉が一人、妹が一人居る。

 といっても、生まれて50年ほどした辺りで、妹の能力で破損した魔導書から漏れ出た空間の歪みに呑み込まれて、恐らく魔界の辺境に叩き落されて以来、出る事も叶わず概算400年以上、家族と顔を合わせる事すら出来ていない。

 

 私が迷い込んだ谷は、魔力や妖力がほぼ制限されてしまう場所だったのだ。

 更に言えば、この場を離れようとすると、ここを囲う形で魔力が一切存在しない地域──虚空域と呼んでいる──が、かなりの距離続いている。

 

 しかもこの虚空域、詳細に言えば存在しないのではなく、存在出来ないが正しいらしく、肉体の一部を魔力で構成している悪魔などは、肉体を維持出来ず、私も初めに足先が無くなったのに驚いて、しりもちをついた。

 もし踏み込んでいたら、私は消滅、死んでいただろう。

 

 

 魔力と妖力、更に前世の事情か妖力と反発するはずの霊力をも互いに変換出来る私は、地面から伝わる微弱な3種のエネルギーをなんとかやりくりしながら蓄える事で、消滅を免れつつ、長い間出る術を探していた。

 試していないが、遠い地で使われるという法力なども変換出来るだろう。

 

 時たまに、近くに魔力反応があることがあるが、それも虚空域で感知したもので、恐らく同じ事情で飛ばされてきた者が居たのだろう。

 妖力と霊力で動く探査機を作り、その度に飛ばしているが、纏まった妖力のみがそこに残っている。

 無論妖力は回収し、糧とさせて貰っている。

 

 

 

 飛ばされてから正確に何年経ったか分からないが、やっと知っている魔力を座標として転移する魔法を完成させることが出来た。

 何せ下手に転移して、虚空域に飛んでしまってはたまらない。

 

 その魔法の応用で連絡を入れる事も可能だが、この場所では1秒話すのにも数ヶ月、下手すれば年単位のエネルギーを消費してしまう。

 もう400年も経てば今更だろう、私も早く帰りたいので、家族に連絡はしていない。

 

「実験も探査機相手に試して、念のためのエネルギーも必要量の1.5倍ある。やっと帰れるぞ……。」

 

 長い孤独の中で、独り言を言う癖がついてしまった。

 なるべく言わないように最近は気を付けているが、どうしても漏れ出てくるものだ。

 人形師の真似事をして、探査機を人型にして、会話機能を追加したことがあるが、その時に自分や家族の声の模倣しかできず、虚しさで死にたくなって以来、会話機能は封印されている。

 

「おや?フフフ、分かるか!もうすぐ私の家族に会えるぞ……、そして、お前の家族にもなる。」

 

 探査機にマントの端を引かれたので、抱き上げてやる。

 学習機能付きのこいつは、未熟だが言葉も理解し、まさに私の子供というに相応しい。

 容姿も少しずつアップデートされており、姿は記憶の中の我が姉妹に近く、綺麗な鮮血のような髪と眼をしている。

 羽は一般的な吸血鬼の羽の形だが、魔力の通りやすい金属を使用したせいか、赤色だが光沢が強い。

 

「そういえば結局、背はあまり伸びなかったな……。飛ばされる前に見た父上は大人サイズだったが、環境のせいかな。……こら、頬を叩くのはやめなさい。」

 

 しばらく戯れることで心を落ち着かせ、いざ本番に移る。

 探査機……モニカと共に、安定させるための魔法陣を、私の血を触媒に地に描く。

 

「第三紋……転移エネルギー充填回路構築、完了。」

 

 魔法陣の一番外に書かれた文字列が光る。

 

「第二紋……ゲート生成準備、完了。」

 

 第三紋より一段内側の文字が光る。

 

「第一紋……、転移先特定…………転移先……ぐぬ…………来たッ!レミリア・スカーレットへの設定、完了!」

 

 姉が生きている事への喜びと、魔法の成功がほぼ確定的になった事への喜びが胸に溢れる。

 

「あぁ……!やっと帰れる!帰れるぞモニカ!!」

 

 そして、モニカと共に、魔法陣へ乗り、魔法を実行する。

 

「全紋発動!……あっ、モニカ、手をつな───」

 

 

 私とモニカの姿は、長く住み着いた魔の領域から消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レミィも飽きないわねぇ。」

「そう言わないでよパチェ、もう日課みたいなものよ、これも。」

 

 幻想郷、紅魔館。

 文明の進歩により、妖魔の存在が人の世から疎んじられつつある現在。

 その波に負けた訳ではないが、先を見越して吸血鬼でも一番早いつもりの段階で、妖魔の最後の希望の地とも言われる幻想郷へやってきたスカーレット家。

 

 スカーレット現当主、レミリア・スカーレットは遥か昔に消えた弟、ギルバートを探し続けていた。

 そのギルバート捜索に度々付き合わされている紅魔館図書館の主、魔法使いパチュリー・ノーレッジは、彼女の唯一無二の友人である。

 

「四世紀かけても見つからないんでしょ?最近随分気合が入ってるみたいだけど、よくやるわね。」

「ふふん、私が上機嫌なのには理由があるわ。この前、紫ババアの弱みを握って、冥界とか地獄へギルの生存確認させたのよ。」

「へぇ。つまり、生きてるって?」

「閻魔サマ曰く、地獄か魔界か……。少なくとも人が住むエリアには居ないらしいけどね。」

 

 いつになくウキウキで語る翼の付いた子供といった姿の友人に、パチュリーも嬉しくなる。

 パチュリーも話に聞く、ギルバートの特異な能力や、魔法の才能には興味があったし、何より友人の家族であるのだ。

 

「ふぅん?地獄と魔界ね……ちょっと使い捨ての使い魔でも飛ばしてみましょうか、少し血を貰うわよ。」

「吸血鬼から血を貰うなんて、面白い話ね……。はい、お願いするわ。」

「ありがとう、機嫌がいいと血の質もいいわね。それじゃあ、さっそく……って、何かしらこれ。」

 

 パチュリーが、高位の悪魔でもあるレミリアの血を触媒に、使い魔召喚の魔法を行使しようとすると、特殊な魔力反応を感じる。

 魔法研究が存在意義のような種族、魔法使いの中でも更に魔法へ対する好奇心が強いパチュリーは、ついその魔力反応を掴んでしまった。

 

 その途端、触媒にした血を入れたロザリオと、その触媒元のレミリアの肉体が強く光る。

 パチュリーはそれに加えて感じる、強い魔力反応に慌てた。

 

「ッしまった!レミィ!?急いで触媒とのリンクを切って!……レミィ?レミィ!」

「…………パチェ、大丈夫よ。」

 

 明らかな異常事態にも関わらず、レミリアの表情は穏やかである。

 

「何が大丈夫なの……って、あら?これ、貴方たち姉妹に近い魔力波ね……。」

「忘れもしないわ!ギルよ!どんどん強くなってくる!……ああ、帰ってくるのね、私の愛しい弟……!!」

 

 床に置いた触媒入りロザリオが、カタカタと震え、中身が零れる。

 零れた血が床に広がり、広がった血から吹き出るように立ち上る魔力が、人の形を作り出す。

 

「ああ!ギル……ギル!あの時の大きさのままなのね、それだけでどれだけの苦労をしてき……たか?」

「……レミィ、私ずっと弟だって聞いてたんだけど、スカーレット家は男児に女装させるのが趣味なのかしら。」

 

 出てきたのは、血のように赤い髪と眼をした、レミリアより少し小さな吸血鬼の少女であった。

 出てきた少女は、レミリアとパチュリーを一目見て、目をぱちくりさせると、辺りを何かを探すように見渡した。

 

「でも、魔力は間違いなくギルだわ。転移の時に何かあったのね……、でも帰ってきてくれて、これほど嬉しい事は無いわ!」

「う~ん……感じた反応の割に魔力が小さいような……。まぁでも、長年の願いが叶ったのなら喜ばしい事だわ。」

 

 涙を流して少女を抱きしめるレミリアと、抱きしめられながらも何かを探す少女、そして少女について訝しむパチュリーだったが、その直後に地下から悲鳴を聞く。

 

「きゃぁ~~~~~!!!」

 

「今の、フランの声……?何かあったんだわ!ギル、行くわよ!」

「あっ!せめて足元の血を拭いてから……もう、吸血鬼がどうこうなるようなものなんてそうそうないわよ!待ってレミィ!……むきゅう、走るのは苦手なのだけれど……。」

 

 吸血鬼の剛腕で宙を舞いながらレミリアに連れられる少女と、後を必死な小走りでついていくパチュリーは、スカーレット家次女の暮らす、地下室へと向かった。




自己満で衝動的に書いたので、明らかに文字が抜けてたり、誤字とかで見苦しかったら申し訳ないです。
最後喘息持ちが走ってますけど次回飛びます。

読んでくれてどうもありがとう!


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