卯ノ花さんの光源氏計画 (木野兎刃(元:万屋よっちゃん))
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血染めの花嫁
元柳斎、閃く


ついに書いてしまった。久しぶりに書く小説がBLEACHで良いのかと思ったりもしますが、はちみつ梅さんの『親の七光り』に触発され自分も書いてみたいと思って書く事にしました。

拙い文章ですが、僕なりに書きたい事を書いていくので楽しんでもらえたら嬉しいです。


中央四十六室。尸魂界において護廷十三隊が軍隊であるとするなら四十六室は内閣といった所だろう。

 

山本元柳斎は問題児集団を纏めて尸魂界を守る刃として護廷隊を組織した。組織の編成も無事に完了し、護廷隊は荒々しくも仕事をこなして何とか軌道に乗りつつあった。

 

しかし、四十六室には一つ大きな悩みがあった。

 

十一番隊隊長にして元大罪人、卯ノ花八千流の存在だ。斬り合いを好み、自分よりも強き者を求め仕事すらせず暴れ回っているモンスターだ。

 

回道を習い、落ち着きを見せたかと思えばより長く斬り合いを楽しむ為で根本的な解決には至っていない。

 

本来であれば護廷隊に加えるのも拒否したかったのだが、山本元柳斎からの強い推薦と卯ノ花本人の高い実力を支配下に置ければ自分達の安泰が待っている筈だった。

 

当初は卯ノ花八千流を支配下に置く事が目的だったが、次第に変化していき本人が落ち着きを見せればそれで良いと思ってきた四十六室の面々。

 

 

「という訳で、山本元柳斎よ。卯ノ花八千流をなんとかせよ」

 

 

「意味が分かりかねます」

 

 

「アレは自身の快楽の為にしか戦わん。それを従える事ができれば尸魂界は益々の安寧が約束される。どのような手段を使ってもかまわん、アレを落ち着かせよ」

 

 

元柳斎は辟易とする。確かに卯ノ花八千流は制御が利かず問題ばかりではあるが、戦場に出れば誰よりも戦功を上げる頼れる部下なのだ。

 

元柳斎としても多少の問題には目を瞑ってきた。仕事をせず暴れ回る卯ノ花を落ち着かせようとしたのは一度や二度ではない。

 

それをどうにかせよとは何と無茶を振ってくるのか。

 

 

「委細承知しました、必ずや卯ノ花八千流を落ち着かせ護廷の刃として仕上げてみせましょう」

 

 

こう宣言をしたは良いものの、元柳斎に名案というものは無かった。こうなったら実力を以って上から押さえつけるしか無いかと思ったが、瞬間………元柳斎に閃きが生まれる。

 

 

「あやつとて女。男を作らせれば大人しくなるだろう」

 

 

結婚させて引退したとしてもその子供が才能を受け継いでいれば良い。大切な者が出来れば誰でも落ち着きを見せるものだろうと自身の閃きに嬉しさを覚える元柳斎。

 

しかし、男所帯な護廷隊においてそういった桃色の噂どころか血みどろな話しか聞かない卯ノ花に結婚させる事が如何に難しい事か、この時の元柳斎は全く考えていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、この中から男を選べ。見合いの手筈を整えてやろう」

 

 

「何を仰ってるのか全く分からないのですが」

 

 

「お前も良い年だ、家庭を作って大人しくしたらどうだ?」

 

 

「何言ってるのですか?斬りますよ」

 

 

元柳斎は頭を抱えたくなった。これ程まで難易度が高いとは。用意した男性死神の見合い写真はどれも見目だけは悪くない筈だ。

 

 

「私を満足させられるような男でもない限り一緒になる事は到底出来ません。かと言って貴方は私の趣味じゃありませんし」

 

 

「ならどのような者なら良い?条件を述べてみよ」

 

 

「最低でも斬術に自信のある方が好ましいですね。他の隊長達ぐらいの強さは無いと話になりません」

 

 

「ふむ……………そういう事なら1人心当たりが無いでもないが…………」

 

 

今の隊長達程ではないがその才覚は決して引けを取らない人物がいた事を元柳斎は思い出していた。

 

「その者の名は…………痣城双盾」

 

 

「痣城といえば斬術と鬼道で貴族になったという者達でしたか。一度見た事がありますが、あそこの当主は戦士の顔では無く、ただの商人でした。私が鍔を鳴らしただけで震え上がる程の体たらくでしたよ」

 

 

痣城家、斬術と鬼道に優れた家系で武力のみでのし上がった成り上がり貴族だ。当然卯ノ花もこの痣城家の事は知っていたし期待をしていた。

 

力のみでのし上がった痣城ならば自身を満足させられるかもしれないと。しかし、結果は酷いものだった。

 

ちょっとした冗談程度のつもりで解放した霊圧に腰を抜かし、鍔を鳴らすだけで震え上がる程度だったのだ。聞けば現痣城の当主は始解すらまともに行えない雑魚とのこと。

 

将来性すら感じさせない雑魚に構うほど卯ノ花は優しく無かった。

 

 

「当主では無い、その弟じゃ。病弱故当主にはなれなかったが、その才覚は一族始まって以来とも噂されておる。一度ワシが手解きをしてやったがその才は光るものがあった」

 

 

「なる…………ほど…………」

 

 

護廷隊を組織し始め山本元柳斎という男が他人の実力を褒めるという事を滅多にしないのを卯ノ花は理解していた。

 

だからこそ驚いたのだ。卯ノ花自身が痣城家に押し掛けた際はそのような霊圧微塵も感じなかった。それなのに元柳斎が認める程の才覚をもった男がいた事に驚いたのだ。

 

 

「わかりました、一度会って話をするとしましょう。ただし、私がその双盾とかいう男と結婚するかは別の話です。構いませんね?」

 

 

「うむ、手筈は整えておく」

 

 

では、と元柳斎に別れを告げ瞬歩でその場から消える卯ノ花。その去り際の表情はそれなりの長い間戦場を共にしてきた元柳斎が見たことの無いような笑顔だった。




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卯ノ花、震える

まだ戦闘はしない。

一番好きな隊長は京楽さんと卯ノ花さん。

好きな副隊長は勇音と七緒ちゃんです。




卯ノ花は痣城の屋敷にいた。やたら距離を取る痣城の者や使用人達だが、卯ノ花とて斬る相手は選ぶ。

 

未だ満足の相手は見つけておらず、暴れ回っている毎日ではあるが、まともに剣を振れぬ者を斬るほど狂ってはいない。

 

 

「こ、ここが双盾の部屋だ。この穀潰しを貰ってくれるとは万々歳だよ」

 

 

「貴方の弟君では無いのですか」

 

 

痣城家の当主に案内されるが当主は双盾をよく思っていなかった。痣城始まって以来の天才で人格にも優れていた。

 

病弱でなかったら当主に、と望む声が未だに出ているのだ。才覚があり、人望がある双盾は当主にとって弟ではなく、自分の地位を脅かす存在でしかなかった。

 

卯ノ花との見合いが無ければ病気に託けて暗殺か罪を被せて処刑していただろう。

 

 

「い、いくら弟と結婚しようが貴様が痣城の恩恵を受ける事は無いぞ」

 

 

「落ちぶれていく貴族の恩恵なぞ邪魔でしかありません。さっさと通しなさい」

 

 

当主としてこの見合いはチャンスだった。結婚に託けて双盾を痣城から追放する事が出来るのだ。しかし、目の前の卯ノ花に双盾を使って痣城を揺すろうとしても無駄と言ったが、護廷隊の隊長として地位を持っており、戦闘が出来れば良い卯ノ花にとって貴族の地位は全く興味は無かった。

 

 

「ふ、ふん!!後悔しても遅いからな!!おい、双盾!!お前に客だぞ、寝てないで部屋に通せ穀潰し!!」

 

 

「あぁ………もうそんな時間か。兄さん、ありがとう。卯ノ花さんですよね、お入りください」

 

 

部屋の奥から聞こえてきたのは優しくか細い、しかしながら強い意志を感じさせる声が聞こえてきた。

 

襖を開け入ると布団が一枚敷かれただけの殺風景な部屋となっていた。その布団から体を起こした状態で双盾はいた。

 

 

「後は2人で勝手にやっておけ!!私はこれから他の貴族と会合があるというのに時間を取らせおって!!」

 

 

「ありがとう、兄さん」

 

 

双盾の礼を聞かずに去っていく当主。

 

 

「卯ノ花さん、見合いだと言うのにこのような状態で申し訳ない。僕が病弱なばかりに整った席を用意出来なかった」

 

 

「確かに、そのような身体では日常生活を送るのもやっとと言ったところでしょう」

 

 

卯ノ花は痣城始まって以来の天才だと言うのに大した霊圧を感じなかった理由に納得した。

 

回道を習得した事で人体に関する理解を深めた卯ノ花。その知識と双盾の霊圧の揺らぎから体調をある程度把握出来たのだ。

 

 

「では、まず自己紹介をしようか。僕は痣城双盾、趣味は斬魄刀との対話かな」

 

 

「私は卯ノ花八千流、護廷隊十一番隊の隊長を務めています。貴方とは総隊長からの命令で貴方とお見合いする事になりました。正直に言って貴方には毛ほども興味がありません」

 

 

そう、卯ノ花としてはちゃんとお見合いだけはした事にして適当に終わらせようと思っていた。興味の無い結婚に興味のない人と一緒になる事、どちらも卯ノ花としては拒否したい事なのだ。

 

かといって命令を無視も出来ない、という事で形だけ終わらせて結婚しませんでしたと報告するつもりだった。

 

 

「僕としてはこのお見合いを成功させたいんだけどね」

 

 

「あの当主ですか」

 

 

病弱であるが能力と人望に優れた双盾は当主にとって地位を脅かしかねない存在。見合いが成功すれば追い出され、失敗すれば殺されるという事を双盾自身理解しているのだ。

 

 

「結婚してもしなくても僕は長くない。最期くらいは誰かと過ごしたいんだ」

 

 

「確かに貴方には才能があるのでしょう、当主と比べてですが。その才能が私の興味を引くかは別問題です」

 

 

「じゃあ、試してみようか」

 

 

双盾はそう言うと立ち上がり斬魄刀を手に取る。

 

 

「何を試すというのです」

 

 

「今日は体調が良いんです。一試合だけ手合わせしませんか?それで駄目なら諦めましょう」

 

 

「竹刀などではなく斬魄刀を手に取った意味が分かっているのですか?この私に試合を申し込んだ意味を理解しているのですか?」

 

 

卯ノ花八千流に斬魄刀を用いた試合を挑む事、それは殺し合いをしようと言うのと同義だ。竹刀ならまだ加減のしようがあるが、斬魄刀で試合をする事は殺し合いの場で生きてきた彼女にとって死合う事になるのだ。

 

その彼女の問いに対して双盾は柔らかく笑い答えた。

 

 

「貴女に認めてもらう為なら命だって賭けてみせましょう」

 

 

瞬間、双盾の霊圧が鋭く強くなった。卯ノ花は珍しく身震いした。そして身震いした事に驚いた。

 

霊圧だけで身震いしたのは山本元柳斎と戦った時以来だった。霊圧の強さ、大きさは元柳斎と比べるまでも無いが秘められた鋭さはそれに匹敵する程だ。

 

これはひょっとするとひょっとするかもしれない。自分を満たしてくれる男と出会えたかもしれないという喜びが卯ノ花を満たしていった。




実は双盾のモデルというかイメージは鬼滅の刃のお館さまに近いです。

コメント、評価、ご指摘等お待ちしてます。


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卯ノ花、喜ぶ


誤字指摘ありがとうございました。指摘してもらえたのが初めてでよく分からない感じだったので名前を控えるのを忘れてしまいました。本当にありがとうございました!!

今回は戦闘回です。

楽しんで貰えたら嬉しいです。

というか戦闘描写って難しいのね!!


痣城邸、双盾の部屋の裏にある空きスペース。ちょっとした観賞用の樹木が植えられているが軽い運動をする広さはある。

 

 

「体調が良い時はここで軽い運動をしてるんですよ」

 

 

「御託は結構。さっさとかかってらっしゃい」

 

 

それを聞いた双盾は斬魄刀を抜刀する。浅打と始解している斬魄刀とでは見た目が違う。能力を解放していなくても始解した斬魄刀は一目で分かるのだ。

 

双盾の斬魄刀も浅打とは見た目が違っている。

 

 

「それじゃ、遠慮なくいかせて貰います!!」

 

 

卯ノ花は驚いた。病弱という割に鋭い踏み込み、そしてそこから繰り出される斬撃も思ってた以上に鋭かった。

 

しかし、まともに鍛えられない故の弊害か鋭い踏み込みと斬撃も脅威というレベルには到底なり得ない。

 

 

「なるほど、思ってた以上ですね。ですが騒ぐほどのものでもない」

 

 

「これは手厳しいですね」

 

 

驚いたと言っても思ってたよりも数段良かった程度の事。もう少し鍛えれば楽しいと思える位には強くなるかもしれない。

 

病弱な双盾と遊ぶには時間が足りない。もっと時間をかけて強くなってくれればと口惜しく思う卯ノ花。

 

この試合も長引かせてはいけないと思った卯ノ花は殺さないギリギリの加減で一撃入れることにした。しかし、双盾は卯ノ花の斬撃を皮一枚のところで避けた。

 

 

「今のは危なかった」

 

 

「余裕で避けておきながら何を言いますか」

 

 

今度は逃すまいと、三回斬魄刀を振るうがそれも華麗に躱していく。それは舞でも舞っているかのようだった。

 

これまで数多の剣士と戦ってきた卯ノ花をもってしても完璧と言わざるを得ない程の回避。より速く…………より鋭い攻撃も去なし、躱し、避ける。

 

防御面の技術だけで言えば山本元柳斎を超えているのではと思うほど完成された技術。

 

まさに天衣無縫。縫い目の無い天女の羽衣のよう、その技術には隙も綻びも一切存在しなかった。

 

卯ノ花は体の奥底から溢れ出す喜びを抑えられなくなっていた。

 

しかし卯ノ花は忘れていたのだ。双盾は病弱であることを。その完璧な動きに綻びが生じた

 

 

「カハッ‼︎」

 

 

突然の事ながら卯ノ花は刃を止めた。そして二つの意味で驚いた。一つは双盾が突然血反吐を吐いた事、もう一つは、とどめをさせる相手を前に刃を止められた事。

 

 

「大丈夫ですか⁉︎大丈夫ですか、双盾‼︎」

 

 

次の瞬間、卯ノ花の身体は勝手に動いていた。自身の羽織っていた隊長羽織を包み枕代わりにして頭の下に敷き、双盾を寝かせる。

 

回道をかけ、双盾の体調を安全圏内まで持っていく。

 

 

「貴様、何をしている⁉︎痣城に仇をなすつもりか⁉︎護廷の者といえどやはり罪人に痣城の敷居を跨がせるべきで「黙りなさい」ふ、ふん‼︎その者を死なせてみろ、貴様の命は無いぞ‼︎」

 

 

護廷隊が結成された事で、貴族の発言力と言うものは弱まっていた。その事から中級から下級貴族の中で反護廷の風紀が高まっていた。

 

痣城当主はこのまま双盾が死んだことを機に護廷隊を意のままにするチャンスである事、護廷隊の力で他の貴族の先に行けるというチャンスと睨んだ。

 

それ故の言葉、決して弟を気遣っての言葉などでは無い。

 

回道の効き目が明らかに弱い。より長く斬り合いを楽しむ為修めた卯ノ花の回道はかなりのレベルだ。

 

その卯ノ花をもってしても双盾が回復する兆しは見えてこない。傷ついた器官を修復はするが、回復までは繋がらない。

 

 

「やはり、このままでは埒が明きませんね…………気乗りはしませんが、あそこに連れて行くしかありませんか」

 

 

「貴様‼︎そいつを何処へ連れていく⁉︎何処かへ連れ去ろうというのなら然るべき所へ出てもらうぞ⁉︎」

 

 

「どきなさい、彼は専門的な医療を受けさせる必要がある、見たところ碌に薬すら与えていなかったようですね。心配するふりなど止めて、つまらない銭勘定でもしてなさいな」

 

 

双盾の部屋には薬らしきものは見当たらなかった。痣城当主としては適切な医療で双盾の病弱が改善される訳にはいかない。その為、碌な治療をさせず死ぬのを待っていた。

 

その事を指摘された痣城当主は激昂した。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

斬魄刀に手をかけ抜刀しようとする痣城当主。しかし、その場に倒れ込んでしまう。

 

 

「この程度の霊圧に耐えきれないようでは話になりません。雑魚は雑魚らしく地べたに這いつくばっていなさい」

 

 

卯ノ花の霊圧解放に耐え切れなかったのだ。卯ノ花としてはちょっとした威嚇程度のつもりだったが倒れ込む程解放したつもりはなかった。

 

隊長羽織を双盾に被せ、卯ノ花は瞬歩で痣城邸を後にした。

 

 

「全く…………何故こんな事をしているのでしょうね」

 

 

卯ノ花は自分に起こりかけている変化に戸惑っていた。取るに足らない羽虫と思っていた双盾を必死に助けようとする自分に戸惑っていた。

 

大罪人と恐れられ、敵味方に容赦も慈悲も見せず暴れていた剣の鬼としての自分が変わりつつあるのを実感していた。

 

ただ自分を満たす相手であれば良いと思っていたが、今の卯ノ花の中には双盾を助けたいという想いしか無かった。

 

 

「絶対に死なせませんからね。絶対に貴方を助けてみせます」

 

 

四番隊隊舎にたどり着いた卯ノ花。四番隊は殺し屋集団と恐れられている護廷隊には珍しく医療を請け負っている隊だ。

 

 

「麒麟寺さん‼︎助けてください‼︎」

 

「久しぶりに顔出したと思ったら何事だ?」

 

 

リーゼント頭の男性死神、麒麟寺天示郎。卯ノ花に回道を教えた張本人だ。

 

 

「助けてほしい人がいます。私の力だけでは助けられません。礼なら何でもします、彼の命だけは助けてください‼︎」

 

 

息を切らして頼み込む卯ノ花を見て麒麟寺は驚きを隠せなかった。

 

戦う事以外に興味を示さず、より長く斬り合う為だけに回道を教えてくれと頼み込んで来た時は何度か断った事もあった。

 

回道は傷を癒す為の技、戦う事しか頭にない卯ノ花では修める事が出来ないものだと思っていたが根負けして教える事になった。これまで卯ノ花に回道を教えたことに後悔しない日は無かった。

 

自分が教えた技術で更に暴れ回り、罪を重ねるのではないかと思っていたのだ。

 

 

「良いぜ、奥の部屋に連れてきな。その優男を助けてやるよ」

 

 

そんな卯ノ花が必死に誰かを助けようとしているのだ。麒麟寺はそんな彼女の変化に応えてみたくなった。

 




素敵な恋愛描写が出来ねぇ…………………


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双盾、語る

可愛い卯ノ花さんを書きたくなってきました。




治療室の前にある長椅子に卯ノ花は静かに座っていた。

 

双盾は無事なのだろうか、自分の応急処置は間違っていなかったか……………そんな不安が胸に渦巻いていた。

 

 

「あの剣の鬼が男を連れてくるとはなぁ………ここ、救護詰所だけど」

 

 

「どうだったんですか!?あの人は、双盾さんは!?」

 

 

「ちょ、落ち着け。落ち着けって」

 

 

治療室から出てきた麒麟寺天示郎に掴みかかる卯ノ花。麒麟寺は自分が知っている卯ノ花との違いに戸惑いを隠せない。

 

 

「あの優男、相当弱ってたぜ。外傷が無い所を見るとお前が斬った訳じゃねえのは分かる。ただ、あそこまで弱った貴族ってのは聞いた事ねぇぞ」

 

 

麒麟寺とて護廷隊の隊長、霊圧の質や量、身なりを見ればどういう者か判別する眼力はある。

 

 

「あの人は、痣城当主の弟です」

 

 

尸魂界における怪我人、病人の治療を目的としている四番隊を利用する殆どは護廷隊の隊士なのだが、貴族も利用する事がある。

 

その為病気を患っている貴族の情報は麒麟寺の元に集まるようになっているのだ。

 

そして、双盾が痣城当主の弟と聞いて納得した。痣城は斬術と鬼道にて貴族になった珍しい成り上がり貴族。そこの有望株の噂話は聞いた事があった。

 

 

「先日、総隊長より見合いをせよと命令がありまして」

 

 

「見合い⁉︎お前が⁉︎冗談は顔だけにしとけよ‼︎」

 

 

「ぶった斬りますよ?」

 

 

「いやいや、男に興味ねぇって言ってたお前に何で見合いさせるんだよ」

 

 

「私の知った事じゃありませんよ。ただ…………初めて興味を持てた人だったので。死んで欲しくないだけです」

 

 

麒麟寺としては弟子たる卯ノ花の精神的な成長の兆しがそこはかとなく嬉しくなっていた。斬る事しか興味の無い女が人らしい表情を浮かべているのだ。

 

総隊長命令という事は護廷の上、四十六室なりの思惑があったのだろう。その思惑に踊らされているのだとしてもこの変化は師匠として嬉しかった。

 

 

「お前さんの応急処置のおかげで一命は取り留めてる。今日中に病室に移せる筈だから見舞いなら明日きな」

 

 

「側にいるのは駄目なんでしょうか?仕事の邪魔はしません。あの人が目覚めるまで側にいさせて貰えませんか?」

 

 

「わーったよ、とりあえず一旦隊舎に戻って支度してこい。一週間くらいは入院するから必要な事は済ませておけよ」

 

 

「恩に着ます」

 

 

足早に去る卯ノ花。弟子の変化は嬉しいといってもあまりの乙女っぷりは複雑な心境の麒麟寺。

 

 

「貸し一つだからなぁー‼︎」

 

 

それを聞いたのか、聞いていないのか卯ノ花は瞬歩で麒麟寺の視界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双盾が目を覚ますと双盾の手を卯ノ花が握ったまま眠っていた。

 

 

「よぅ、目が覚めたかい?色男」

 

 

「貴方は……………」

 

 

「四番隊隊長、麒麟寺天示郎。そいつの師匠ってとこだな」

 

 

「そうですか、霊圧の質がこの中では卯ノ花さんと同じくらい洗練されたものだったので只者ではないと思っていましたが………」

 

 

麒麟寺は素直に感心した、この四番隊舎には二百人程の隊士がいるがその中で最も強い者を双盾が瞬時に知覚出来ていた事に。

 

 

「しかし、卯ノ花に試合申し込むたァ………お前さん怖いもの知らずだな」

 

 

「彼女にアピールするには試合するしかありませんでしたから。斬魄刀には結構止められたんですけど、男なら美人の前くらい格好つけたいものでしょ」

 

 

爽やかな笑顔で言い放つ双盾に驚きを隠せない麒麟寺。確かに卯ノ花の容姿は整っている、文句無しで美人と言えるレベルで整っている。

 

しかし、敵を斬る事にしか興味を示さない剣の鬼を前にして美人と言えるその胆力は、尸魂界中探しても中々見つかるものではないだろう。

 

 

「凄いな、お前さん。お家の事情だとしても俺ならこんなガサツな女口説くなんてごめんだぞ」

 

 

「何を仰るんですか。こんなに優しい女性はそんなにいませんよ」

 

 

卯ノ花が握っていた手を解き、卯ノ花の頭を優しく撫でる双盾。護廷隊に強者多しと言えどそんな事は山本元柳斎ですら出来ないだろう。

 

大抵の男は頭に手が届く前にこの世とおさらばしている事だろう。

 

 

「彼女と試合した時、彼女の攻撃は殺気こそ含まれていましたが、本気で殺す気は無かった。彼女程の実力なら何時でも殺せたのにそうしなかったし、僕の見栄に付き合ってくれました。本気で僕を救おうとしてくれたんです」

 

 

「そりゃまぁ、回道学んだ者としちゃあ当然の事だし卯ノ花からしたらお前らは殺す価値も無い雑魚って認識だったんじゃねーのか?」

 

 

「仮にそうだとしても、僕は彼女に惹かれてしまいました。色々な思惑が絡んだものだとしても、僕は彼女と残りの人生を添い遂げたいと思います」

 

 

先ずは好きになってもらわないと、と照れながら言う双盾。それを聞いた麒麟寺は満足そうに頷く。

 

 

「そうかい、あんたになら卯ノ花を任せられそうだ。ガサツで斬り合う事しか頭にない女だが、幸せにしてやってくれ」

 

 

「もう、お帰りですか?」

 

 

「そろそろ逃げないと俺の命が危ないんでな」

 

 

そう言い残すと麒麟寺は瞬歩で消えてしまった。すると、双盾は隣から荒々しい霊圧を感じた。

 

卯ノ花が顔を真っ赤にして霊圧を荒げていたからだ。

 

 

「す、すいません。無作法にも頭を撫でてしまって…………」

 

 

「い、いえ。それは別に構わないのですが…………今日はこれで失礼します。また明日見舞いに来ますので」

 

 

卯ノ花も麒麟寺と同様に瞬歩で消えた。

 

卯ノ花の心拍数が上がっているのは麒麟寺に対する怒りか、はたまた双盾の話を聞いてしまったからなのか。

 

卯ノ花自身もそれが分からなかった。長く生きてきた中でこのような事は初めてだったのだ。

 

男の話に心躍らされ、男に触れられ胸を高鳴らせるなど初めての事だった。

 

 

「それはそれとして麒麟寺天示郎‼︎貴方のそのご自慢のリーゼント叩き斬って差し上げましょう‼︎」

 

 

この気持ちの高鳴りは麒麟寺にぶつける事にし、一日中麒麟寺を追い回した卯ノ花だった。

 

2人の喧嘩により、山本元柳斎自慢の庭園が吹き飛び麒麟寺と卯ノ花は始末書を書かされた。




ちなみに、卯ノ花さんは双盾と麒麟寺さんが話し始めた辺りから起きてましたが、なんか気不味くて寝た振りをしていました。麒麟寺さんはそれに気付いて卯ノ花が真っ赤になってるのを見て内心楽しんでいました。

双盾さんはその辺、ラノベ主人公ばりの鈍感さで気付いていません。イケメンだからこそ許されるムーブを天然で決めるトンデモネー男です。多分護廷隊抱かれたい男ランキング、抱きたい男ランキング1000年連続一位です。


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卯ノ花、迷う

何時からだろうか。修羅となった貴女に惹かれていた。どんなに血に塗れようとも人らしさを捨てきれなかった修羅にどうしようもなく惹かれた。

そんな修羅が今、人になろうとしている。愛する事を覚えて修羅は人になろうとしている。

この寂しさはなんだ、この苛立ちはなんだ。

嗚呼、そうか。この気持ちはきっと…………………


「それで、だ。あの優男は屋敷じゃまともな治療が受けられねぇ。この四番隊隊舎で預かる事にした」

 

 

「それを聞いて安心しました」

 

 

「しかしだなぁ…………生憎どれだけ期間が必要か分からねぇ奴に割けるほどこの隊舎も広くねぇ」

 

 

四番隊隊舎は総合救助詰所。隊士は勿論、時々であるが貴族の利用もある。隊士が負う怪我は命に関わるものである事も少なくはない。

 

さほど空きがある訳では無いのだ。卯ノ花もそれを理解していたのか、若干の悔しさを顔に滲ませる。自分がもっと回道を極めていれば、もっと薬学の知識があれば彼を助けられたかもしれないと。

 

 

「自惚れんなよ、卯ノ花。ちょっとそっと回道習った程度で死にかけの人間治せるほど治療ってのは甘くねぇんだよ。お前はお前がすべき事を充分に成した」

 

 

「それでも……………もっと私に実力があれば」

 

 

ありとあらゆる剣術流派の流れは我に有りと名乗ってきた卯ノ花ハ千流が力を渇望する。どれほど珍しい変革か。

 

四十六室の目論みはある意味達成されているのかもしれないと麒麟寺は思い、そして決心した。

 

 

「そんなにてめぇを責めたければ罰をくれてやる」

 

 

「なんでしょうか」

 

 

「お前が四番隊の隊長になれ」

 

 

「何を言っているのですか。私には十一番隊がありますし、貴方だって隊長でしょう。そう簡単に自分の責務を投げ出して良い筈がありません」

 

 

「零番隊への昇進が決まったんだよ。後任のやつを探してたんだが、丁度良い。お前が隊長やれ」

 

 

零番隊、王族特務の特別な部隊。霊王宮にて霊王を守護する最後の砦。

 

尸魂界の歴史そのものと認められたものだけが資格を持つとされ、その強さは護廷十三隊を凌ぐとも言われる、都市伝説級の噂となっている。

 

 

「零番隊ですか、実在していたのですね」

 

 

「お前が四番隊の隊長になればあの優男の部屋はキープ出来るし、医学も学べる。俺が回道を教えた中じゃお前に勝る使い手もいないしな」

 

 

卯ノ花が四番隊の隊長として移籍した場合、十一番隊の後任を決めねばならない。しかし、卯ノ花自身十一番隊を辞めるという事を考えた事が無かった為、後任については一切考えていなかった。

 

 

「ハ千流の名を…………剣八の名を絶やす事は出来ません」

 

 

十一番隊は山本元柳斎に任された戦闘専門部隊。護廷隊最強の部隊の長が弱くては務まらない。

 

ありとあらゆる剣術流派を超え、全ての刃の流れを収める者…………即ち剣八でなければ任せられない。

 

 

「俺が零番隊へ行くのは決定事項だし、総隊長には次期四番隊隊長はお前しか居ないと進言した。近い内に正式な内示が出る筈だ。それまでに候補を探しとけ」

 

 

そう言われて、卯ノ花は十一番隊隊舎へと帰っていった。

 

双盾の事を思えば、四番隊の隊長となって医学を学び側で治療をした方が良いだろう。しかし、好き勝手に暴れてきたとはいえ任された隊士達を捨てる事も出来ない。

 

どれだけ考えようともその答えは出てこない。まるで深い霧の中に迷い込んだかのように思考に靄がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は四番隊の隊長となる事が決定したようです」

 

 

「良かったではありませんか、隊長。何故そのような暗い顔をなさるのですか」

 

 

十一番隊の隊舎には全ての隊士が集まっていた。重大な発表があると卯ノ花が召集をかけたのだ。

 

 

「しかし、どうしたら良いのか分からないのです。一時の気の迷いで貴方達にまで迷惑をかけてしまっても良いのかと…………………」

 

 

卯ノ花自身、自分の発言に矛盾のようなものを感じていた。今までは誰の迷惑や使命など考えず、自身の快楽を満たす為だけに暴れてきた。

 

それを満たしうるかもしれない人物を見つけた瞬間から自分の中の何かが変わっているのは確信していた。今の隊士に迷惑をかけたくないという思いも自身に起こった何かしらの異常として捉えていた。

 

 

「何を仰るのですか、隊長。隊長に迷惑をかけられるなんて今更ですよ」

 

 

副隊長の言葉に他の隊士達もそうだと頷いていた。十一番隊の隊士は卯ノ花の性格を反映してか、戦闘狂な一面が強いがそれ以上に苦労をしてきた。

 

卯ノ花が暴れた事後処理に追われ、訓練と称した憂さ晴らしに付き合わされてきた。それでも隊士が卯ノ花についていったのはその圧倒的な強さに惹かれたからだ。

 

今更どのような無茶振りをされようが隊士達にとって大した問題では無いのだ。

 

 

「それに隊長、惚れた相手なんでしょ?だったら一緒になるべきですよ‼︎隊長みたいな人は家庭を持って落ち着くべきです」

 

 

「は、ほほほほ惚れ⁉︎何を言うのですか⁉︎私はべべ別に双盾にそういう感情は抱いていません‼︎」

 

 

顔を真っ赤にして声を荒げる卯ノ花。隊士達は初めて見る卯ノ花の一面に思わずほっこりしてしまった。

 

 

「何をほっこりしているのですか‼︎」

 

 

「あっはっは、照れちゃって隊長。可愛いとこあるじゃないですか」

 

 

「ぶった斬りますよ貴方⁉︎」

 

 

「じゃあ、やります?」

 

 

冗談のつもりで副隊長に言ったのだが、副隊長意外にも乗ってきた。副隊長が冗談で無い事は霊圧の揺れを見れば分かる。

 

 

「本気で言ってるのですか?」

 

 

「流石に真剣じゃ勝ち目無いですし、木刀での試合形式といった感じでやりましょう。俺が勝てば隊長は四番隊の隊長となってもらいます」

 

 

「負けたらどうするのですか」

 

 

「それはその時考えます」

 

 

副隊長とはいえ他の護廷隊の隊長とも互角以上に戦える実力を持った副隊長、決して弱い雑魚では無い。

 

しかし、卯ノ花と勝負するには実力の差があり過ぎる。

 

一般隊士から木刀を手渡される。隊士達は2人の邪魔にならないようにと2人から少し距離を取る。

 

隊長になるには幾つかの方法がある。護廷十三隊が結成された時に定められた規定には定められた試験に合格する事、隊長複数名からの推薦を得ること、二百名以上の立ち会いのもと現隊長と戦い勝利する事。

 

護廷十三隊が結成されてから暫く経ち、特例で繰り上げ昇進した隊長以外は皆現隊長との勝負で勝って隊長となっている。

 

より強き護廷十三隊をつくるためにその試験の難易度は高く、他の隊長は基本推薦などしない。

 

現実的に考えて今の隊士達が隊長になるには隊員立ち会いの元、隊長に勝つしかないのだ。

 

 

「本当に私と戦うつもりですか?今なら冗談という事にしてあげても良いのですよ」

 

 

「この虎徹天音、隊長にそんな冗談を言うほど不忠ではありませんよ」

 

 

十一番隊が旗上げされた当初から副隊長として卯ノ花を支えてきた男、虎徹天音。彼は卯ノ花の戦う事に対する思いというのを理解していた。

 

戦闘専門部隊として戦闘においてふざける事は絶対にしてはならない。戦いを冗談とするのは今まで築き上げてきたものを愚弄する事に等しい。

 

虎徹は今培ってきたプライドと実力、そして卯ノ花への忠誠心に従って卯ノ花に勝負を申し込んだのだ。

 

 

「これまでの恩、纏めて返させていただきますよ‼︎」

 

 

虎徹はこれまでの全てを懸けて卯ノ花に戦いを挑んだのだ。




ランキングに名前が載ったり、沢山の人から評価してもらえたり嬉しくて嬉しくて。

前書きに書いたオサレ風ポエムは虎徹天音さんの心情です。虎徹天音さんはあれです。勇音と清音の血縁です。勇音ちゃんが千年決戦編の時に卯ノ花さんが剣八だった事を知ってる風な感じだったのでこうして親族とかから聞いてたりしてるかな?と思って出して見ました。


かなりガバガバなこの作品を読んでくれて本当にありがとうございます。これからも早いペースでというのは難しいですが、皆さんの期待に応えられるよう更新していきますのでよろしくお願いします。

感想、評価等お待ちしております。



p.s オサレポエムってどうやって書くんや。久保帯人先生の頭の中を覗いてみてぇ。


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卯ノ花、ときめく?

ランキングに載ったり、評価沢山してもらえたりこの作品をアップしてから嬉しい事が沢山ありすぎてやべぇです。

僕の作品がここまで皆に読んでもらえて評価が高くつくのは本当に嬉しいです。

僕が仲良くさせてもらってるはちみつ梅さんの『親の七光り』『不知火の幻想曲』両方とも面白い作品なのでご存知ない方は是非読んでください。


隊首会。定期的に開催される隊長達による報告会のようなもの。四十六室の決定の通達、総隊長命令の通達や重要案件の会議などが行われる。

 

 

「これより新隊長を発表する。四番隊隊長卯ノ花烈」

 

 

ハ千流という名を捨て、本来の名を語る事にした卯ノ花。強き者への拘りを捨てた訳でも無く双盾の為だけに捨てた訳でもない。

 

更に強くなる為であった。戦闘だけではない、助けるべき時に助けられない弱い自分にならない為の決意の表れだ。

 

 

「卯ノ花烈、麒麟寺天示郎、儂の推薦により虎徹剣八を十一番隊新隊長とする」

 

 

卯ノ花は虎徹との試合を通して彼の覚悟と成長を認め隊長に推薦したのだ。麒麟寺には四番隊に移る条件として、山本元柳斎には見合いをした報酬として虎徹を隊長に推薦させた。

 

隊長になる方法に二百名以上の立ち会いの元、現隊長と戦闘をし勝利するという方法があるが、他にも隊長三名以上の推薦がありその手法をとったのだ。

 

 

「一通りの必要事項は伝えた。これにて隊首会を終了とする。卯ノ花は暫し残れ」

 

 

隊長達がぞろぞろと退室していく。以前あった滅却師の尸魂界への侵攻以来大した事件は無く、これといった変革も無い。

 

それ故に隊首会は早く終わる事が多い。

 

 

「して、その後痣城双盾はどうだ?」

 

 

「痣城邸にいた頃よりは体調は安定していますが、油断はならない状況ですね。最近は暇潰しに鬼道や白打、斬術の修練法の提案などしています。今、四番隊の一般隊士で実践している所ですので次の隊首会にはそれなりの報告が出来るかと」

 

 

「うむ、それは結構。恋仲としてはどうなのだ?多少の進展はあったのだろうな」

 

 

「セクハラですか?総隊長といえど斬りますよ」

 

 

「鍔を鳴らすな、鍔を。四十六室への報告もある。中には貴様が四番隊の隊長になった事に嫌悪感を示す者もおる。貴様が変わった事を証明せねばならん」

 

 

「恋仲も何も私にそう言った感情は無い筈です。そんなものとうの昔に捨てました。用がないなら今日はこれで」

 

 

卯ノ花はその場を後にした。四十六室から命令された卯ノ花を大人しくさせろという命令は四番隊に移籍し、卯ノ花ハ千流なら烈と名乗った事で解決されたと言って良いだろう。

 

しかし、四十六室の中には元大罪人である卯ノ花が瀞霊廷の救護詰所である四番隊になった事に否定的な者もいる。卯ノ花が変わったと思っていない者の方が多いのだ。

 

 

「''無い筈''か………………これはこれで前進したと言えるか」

 

 

女として、人として当たり前の愛するという感情を捨ててきた卯ノ花が無いと否定し切らなかった。今まで卯ノ花を口説こうとした死神は居ない訳では無かった。

 

そんな相手に卯ノ花は能面のような表情を浮かべながら斬り捨てていた。

 

そんな卯ノ花が自身に愛するという感情が無いと思っていた事に疑念を感じ始めている。

 

麒麟寺天示郎を始めとする他の隊長達も卯ノ花が変わってきたと言っていた。

 

 

「変わったというより…………抜き身の刃が鞘に収まった分余計に危なくなったような気もしないでもないな」

 

 

触れるもの全てを斬ると言わんばかりだった雰囲気が鞘に収まった事で、その刃が抜かれた時以前よりも切れ味を発揮してしまうのではなかろかと感じ、今後卯ノ花の堪忍袋の緒が切れないよう注意しようと決心した元柳斎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四番隊隊舎にきて以来双盾の体調はすこぶる良くなっていた。ちゃんとした診察に基づく薬の処方、規則正しい生活のお陰なのだろうか。

 

 

「双盾さん、体調は良いようですね」

 

 

「ええ、おかげさまで。最近は白打の練習もしているんですがやっと型が定まってきたところなんです」

 

 

自作したのか、いつのまにか病室に置かれていた木人椿に拳打を打ち込む双盾。

 

 

「病弱な僕や力に劣る女性が扱い易い武術なんですけど、どうですかね?できれば実践で試してみたいのですが………………」

 

 

「あまり無茶をしないでください。また血反吐を吐いて周りに迷惑をかけるつもりですか」

 

 

「これだけ身体の調子が良いと何でも出来ちゃいそうで……………最近考えてるのは白打と鬼道、鬼道と斬術を合わせた戦術が出来ないかと考えてはいるのですがどうもしっくり来ないんですよ」

 

 

入院してから暇潰しに書き記した斬術、鬼道、白打の修練方法は卯ノ花から見ても舌を巻く程の完成度だった。

 

これが死神の間に普及すれば護廷十三隊の戦力の総合値は間違い無く高くなるだろう。

 

 

「それはそれとして、先程の白打は悪くありませんね。近距離での殴り合いになれば有用なのかもしれませんが、基本的に死神が戦うのは虚ですし護身術程度なら良いですね」

 

 

「烈さんにそう言って貰えると自信が出ま……ゴホッ‼︎」

 

 

突然咳き込む双盾、卯ノ花は慌てて駆け寄る。血を吐き出してる訳では無い為然程酷い訳では無いのだろうが咄嗟に回道をかけていた。

 

 

「だから無茶はしないでと言ったでしょう‼︎また貴方に倒れられたら私は………私は……………」

 

 

初めて会った時の事を思い出したのか卯ノ花は悔しげに唇を噛む。

 

自身の不甲斐なさが産んだ状況。あんな思いは二度としないと武力以外の力を求めてきた卯ノ花。

 

 

「そんな顔しないでください。僕がこうしていられるのは烈さんのおかげなんです。貴女のお陰でこうして毎日が楽しいんです。だから笑ってください、貴女の笑顔を僕に見せてください」

 

 

「全く、貴方はいつもそうやって………………そんな貴方だから私は惹かれているのでしょうね

 

「え、今なんと」

 

 

小さく溢した言葉に卯ノ花は笑みを浮かべた。自分がもう言い訳のしようがない状態にある事を。

 

 

「ふふ、教えてあげません。自分で考えてください」

 

久方ぶりに笑顔を浮かべた卯ノ花。戦闘中の愉悦からくる獰猛な獣を思わせる笑顔では無く、心から来る爽やかな笑顔だ。

 

 

「やっぱり美人は笑顔が似合いますね」

 

 

「な、ななな何を言うんですか‼︎そんな冗談を言ってないで大人しく寝てなさいな‼︎」

 

 

笑顔に見惚れた双盾が何気なく呟いた一言に顔を真っ赤にする卯ノ花。

 

 

「薬はそこの棚に入れてありますので、食後にちゃんと飲む事‼︎運動するのは良いですが、無茶はしない事を徹底してください‼︎お大事に‼︎」

 

 

卯ノ花は飛び出すかのように病室の扉を強く閉める。救護詰所であるというのに声を荒げ、顔が熱くなり、心拍強く脈打つ。

 

最早この気持ちを誤魔化す事は出来ず、無視する事も出来ない。

 

卯ノ花烈は、恋に落ちた。

 

 




双盾さんはナチュラルにスゲー天才です。何百年単位で開発される戦術を、ポンポン出しちゃう系の天才です。なろう系か?いいえ、天才です。病弱じゃなかったら藍染と互角にタイマン張れちゃうでしょう。

優しくて理知的で理想的な人格のナチュラルボーンいけめんと過ごしてみろ。惚れる以外の選択肢はねぇぞ。剣八ですら関係ねぇ。

双盾のかっこよさを伝えられてるか、卯ノ花さんはちゃんと可愛く書けてるかそれが心配です。

これからも感想、評価お待ちしております。あと毎度誤字の指摘ありがとうございます。


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双盾、覚悟決める

卯ノ花が四番隊隊長となり数年が経過した。双盾も屋敷にいた頃に比べて体調は良くなっていた。

 

しかし、未だ1日の大半はベットの上で過ごしており定期的に散歩や軽い運動が出来る様になった程度だ。

 

 

「それで、僕に要件ってのは何かな?虎徹隊長」

 

 

「やめてください、貴方は護廷隊じゃないし身分だけで言えば貴方の方が上なんだ」

 

 

「そんな怒気を含ませた霊圧でここに来ているんだ。僕に何か言いたい事があるんだろう?」

 

 

双盾の病室に来ていた虎徹の霊圧には明確な怒気が含まれていた。殺気とは別のものだが、そこに含まれている感情はとても強いものだ。

 

 

「一つ、聞きます。貴方卯ノ花隊長に惚れてるんですよね?なんで本人にその事伝えないんですか」

 

 

「迷惑をかけちゃうからね」

 

 

双盾は自身の病弱さを理解していた。幾ら体調が良くなっているとはいえ、日が経つ毎に死に近づいている事を実感していた。

 

いつ死ぬかも分からない自分が想いを告げる事は卯ノ花を縛り付ける事にしかならない。未来ある彼女に自分という重荷を背負わせてはいけないと双盾は思っていた。

 

 

「迷惑だと……………貴方それ本気で言ってんのか?」

 

 

「仮に僕の想いを伝えて一緒になれたとしても、長くはいられない。僕が病弱でなかったら隊を移る必要も無かったし、彼女自身の願いも果たせたかもしれない。こうして彼女を縛ってしまっているのにこれ以上迷惑を「歯ァ、食いしばれ」ッグ‼︎」

 

 

双盾が想いを語っている最中、虎徹は我慢の限界とばかりに双盾を殴った。

 

殴った虎徹の目には涙が浮かんでいた。

 

 

「迷惑?腑抜けた事言ってんじゃねぇよ‼︎俺達の隊長が貴方程度を背負って潰れる弱い人だと本気で思ってたのか⁉︎俺達みたいな馬鹿200人を纏めてた人だぞ‼︎」

 

 

殴られた頬を押さえ双盾は虎徹の話を黙って聞いていた。

 

 

「隊長は貴方に惚れてる‼︎あの人は護廷の者としての責任感の強さと貴方への罪悪感のせいで想いを告げられないでいる。貴方から行かなくてどうすんだよ‼︎想いを告る事が出来るのに何でしないんだよ‼︎」

 

 

それは双盾への怒りだけでは無かった。虎徹自身が感じていた悔しさの表れでもあった。同様に想いを抱きながら伝える事が出来なかった虎徹と伝えられる立場にいながら言おうとしない双盾。

 

自分に出来なかった好きな人を幸せにするという事を叶えられるのにしようとしない事に悔しさと怒りを感じていたのだ。

 

 

「あの人を幸せに出来るのは貴方しかいない。あの人に安息を与えてやれるのは貴方しかいないんだ。もし、日和るような事があれば痣城当主に殺される前に俺が貴方を殺すからな」

 

 

それだけ言い残し虎徹はその場を去っていった。双盾はその後も暫く頬を押さえ黙り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四番隊の隊舎には隊士達の訓練の為に道場が設置されている。しかし、入院し復帰する隊士達のリハビリ用の施設として利用されることの方が多い。

 

そんな道場に卯ノ花と双盾は2人きりでいた。お互い腰には斬魄刀を差している。

 

 

「話があるからと来てみればどういうつもりですか」

 

 

「以前、出来なかった試合の決着をつけましょう」

 

 

「そんなことが出来る体調ではないでしょう」

 

 

「以前麒麟寺さんからいただいた丸薬のお陰で短時間なら大丈夫です。貴女と本気で語るなら''コレ''しかないでしょう」

 

 

そう言いながら抜刀する双盾。その霊圧は卯ノ花が初めて会った時とは比べ物にならないほど高まっていた。

 

 

「もし、何か躊躇っているようなら…………ちょっとの怪我とかじゃ済まないですからね」

 

 

そう言いながら瞬歩で距離を詰める双盾。卯ノ花に戦う意志は無いのだが、剣八としての本能が双盾の攻撃に反応したのか、瞬間的に抜刀し双盾の攻撃を受けていた。

 

 

「辞めなさい‼︎これ以上は抑えきれなくなる

‼︎今の貴方にはあまり抑えて戦う事は出来ません‼︎」

 

 

全快に近い状態の双盾の力は並の隊長格よりも数段上だった。少なくとも卯ノ花がハ千流として殺すに見合う実力である事は確かだ。

 

そんな状態では長らく抑えてきた鬼の部分を抑えきれなくなってしまう。

 

そんな事はお構いなしと双盾は攻めを苛烈にしていく。

 

 

「いくら薬の力で万全に近いものだとしても、何故命を賭けるような真似をするのですか⁉︎」

 

 

麒麟寺から渡された丸薬とはいえ、副作用が無いとは言えないし、効力がどれだけ続くかわからない。このまま戦っても卯ノ花に殺されるだろう。

 

 

「貴女に惚れてるからです」

 

 

「な⁉︎」

 

 

咄嗟の告白。体が硬直するのと同時に赤面していくのを感じた卯ノ花。時間にして数瞬、まさに刹那といえる時間。しかし、戦闘の最中ではその刹那の隙すら命取りとなる。

 

双盾の一撃は卯ノ花の肩を切り裂いた。すぐさま回道をかけ治癒していく。

 

 

「初めて見た時から僕の頭の中には貴女しかいない。貴女を惚れさせる為なら命の一つや二つ、喜んで賭けてやりますよ」

 

 

「あの、ちょ、やめてください‼︎」

 

 

顔から火が吹き出るほど赤面した卯ノ花。多くの戦闘を経験してきた卯ノ花だが、戦いの中で告白してきた者は1人もいない。

 

ましてや双盾は初めて好きになった人である。その人から自分への想いを告げられ嬉しさと恥ずかしさのあまりどうにかなってしまいそうだった。

 

 

「〈破道の一 衝〉」

 

 

今の双盾は何がなんでも卯ノ花と戦う気でいる。そんな双盾を出来るだけ傷つけ無い為に斬魄刀目掛け鬼道を放った。

 

 

見定めろ『◼️◼️◼️』

 

 

しかし双盾は自身に放たれた鬼道を着弾する直前に斬った。

 

鬼道を弾くのでは無く斬った。そして双盾の霊圧先程までと違い更に大きくなった。

 

 

「なるほど、それが貴方の始解ですか」

 

 

「これが僕が今出せる全力です」

 

 

「分かりました。一撃、ただの一撃だけ本気で参ります。死なないでくださいね」

 

 

直後卯ノ花が解放した霊圧に双盾は生まれて初めて冷や汗が出た。

 

始解して霊圧を上げていなければ前に立つ事すら出来なかったかもしれない。並の死神では近寄る事すら許されない冷たく、恐ろしい霊圧。

 

意思を持った死がそこに立っていた。

 

次の瞬間卯ノ花は双盾の目の前に現れ、剣を振り下ろしていた。明確に迫る死。その中で双盾の頭の中はこれまでに無いほど冴え渡っていた。

 

 

「うぉぉぉぉぉあ‼︎」

 

 

これまで上げた事ないであろう雄叫びを上げながら卯ノ花の刃をその身で受け止めた。そして卯ノ花の腕を握り斬魄刀を引き抜けなくする。

 

血を吐き出しながら左手に握った斬魄刀を卯ノ花へと突き立てる。

 

双盾の視界はそこで暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双盾が目を覚ますと病室の中だった。攻撃を受けた筈の部分は綺麗に治療されていた。

 

隣には卯ノ花が立っていた。

 

 

「貴方は大馬鹿者です。勝てる筈も無いのに私に薬を飲んでまで勝負を挑み、私の太刀をその身で受け止めて………………」

 

 

「烈さん…………」

 

 

「貴方みたいな大馬鹿者には私が必要のようですね。貴方の病弱さとは別の馬鹿の虫を一生かけて治して見せます」

 

 

頬を染めながらそういう卯ノ花。卯ノ花なりの一生を添い遂げたいという告白なのだろう。それを察した双盾は小さく微笑み、そして手を取る。

 

 

「貴女が知るように僕は貴女と最期まで一緒にいる事は出来ないでしょう。これは僕の我儘だ。貴女には僕の側にいて欲しい、僕の妻となってくれますか?」

 

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 

卯ノ花の心を写したかのように、病室から見える夕日は美しく輝いていた。




素敵なプロポーズってどうすりゃいいんだよ………………

まぁ2人の言動がヤベェなって思うかもしれませんが剣八流の婚活は基本血みどろです。剣を通してじゃないと無理です。

やっと結婚させれたわ。


感想、コメントなど待ってます


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護廷、動く

8話

 

祝言を終え、無事夫婦となった双盾と烈。これにより双盾は痣城から離縁する形となり、2人の苗字は卯ノ花となった。

 

双盾は病室から、四番隊舎にある烈の屋敷に移動出来るまで回復していた。

 

 

「名を名乗るがよい」

 

 

「卯ノ花双盾と申します。以後お見知り置きを」

 

 

烈が結婚して以降初の隊首会が開かれた。そこには各隊の隊長達だけではなく、双盾もいた。

 

珍しい参加者に威嚇を込めてなのか普段よりも強めに霊圧を解放している隊長達。一般隊士であれば息を詰まらせる程の高密度の空間であっても双盾は凛としていた。

 

 

「ふふ、皆さん。そのように双盾を警戒しなくても彼は敵ではありませんよ。話があるのなら私が聞きますが?」

 

 

双盾の名乗りで夫婦である事を実感したのか烈はご満悦だった。しかし、次の瞬間には冷たい霊圧を解き放つ。

 

能面のような無表情でいた烈が笑顔を浮かべているだけで他の隊長達にとっては恐怖だ。それに加えて他者を殺さんとする冷たい霊圧で隊長達は冷や汗が止まらなかった。

 

 

「皆の者、気を鎮めよ。して、双盾よ…………お主が提案した若手隊士の教育制度の導入だが大変興味深い」

 

 

元柳斎の一言で警戒を解く烈。烈が霊圧の解放をやめた事で隊長達も安堵した。元柳斎がいなければ自分達は死んでいたかもしれないと思うほどだった。

 

双盾が病室にいた時、暇潰しにと考えていた鬼道や斬術の練習方を他の隊でも導入すべきと烈を通して元柳斎に提案したのだ。

 

 

「机上の空論でしたが、烈の意見も加えてみたら思っていた以上のものになりました。現在、烈の許可を得たうえで四番隊の隊士で実践しています」

 

 

「うむ、成果が出たならまた報告するがよい」

 

 

今の護廷十三隊は強い。滅却師の侵攻を防ぎ、数多の虚や逆賊を討伐してきた。

 

しかし、若い隊士の実力不足や次世代の隊長副隊長の候補が中々決まらないという課題を抱えていた。平均的な戦力で一番劣っている四番隊の実力が底上げされれば他の隊では更なる効果が見込める。

 

元柳斎は双盾の言葉を聞いて若干だが目を細めた。

 

 

「この提案聞いた上で儂は死神の育成機関の設立を宣言する。また、この若手隊士の育成案を各隊実行せよ‼︎異論のある者はこの場で申してみよ‼︎」

 

 

勿論異論は無い。どの隊も次世代の育成は急務なのだ。隊士の強化案が成功したならそれを使って自身の実力を更につける事もできる。

 

どの隊も十一番隊ほどでは無いが戦闘狂の一面を持っている。より強くなってより強い者と戦うという事に心が躍らない訳が無かった。

 

 

「といっても育成機関の方は今すぐに出来るものでは無い。先ずは各隊の隊士の育成を任務とする」

 

 

幾ら次世代の育成が急務だからといって死神の育成機関を作るのは容易ではない。場所の確保、人員の確保、貴族への根回しなどやる事を挙げればキリが無い。

 

それにいきなり育成機関を作ると言っても貴族達は承認しない。そこで貴族達を認めさせる為に双盾の育成案が正しい事を現役の隊士で実践して結果として示す事が必要になってくる。

 

 

「では、以上をもって此度の隊首会を終了とする。解散‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊首会が開かれていた時と同時刻、痣城邸に複数の貴族が集まっていた。

 

 

「あの忌々しい愚物を放り出せたと思ったが、一部の者達の間では卯ノ花を痣城の分家として迎え入れ愚物を当主にという輩がいる」

 

 

痣城当主は、自分の地位を脅かす双盾を追い出す為に卯ノ花との見合いを承諾し実質的な追放に成功したが、反対派は護廷の隊長と結婚した事で逆に勢い付いていた。

 

 

「ワシらにどうせよと言うのじゃ」

 

 

「あの愚物を殺さねばならん。あの愚物を生かしておいては貴様らとてその地位が危ぶまれよう」

 

 

双盾の噂は貴族の間では相当なもので、その才能から自身の家系に加えたいと考える貴族もいる。

そうなれば今の当主達は地位を追われる事になる。

 

 

「かといってあの者はあの卯ノ花ハ千流の手元にあるのだろう。暗殺者を送り込むのは得策とは言えんぞ」

 

 

「濡れ衣を被せようにも四番隊に移動した事でそれも難しくなった」

 

 

双盾を殺す上で最大の壁となるのが烈だ。しかし、そこらの暗殺者程度では相手にもならない。

 

罪を被せようにも好き勝手やっていた十一番隊の時とは違って罪の被せようが無い。

 

 

「愚物とあの罪人の間に子が産まれるのを待つ。産んだ直後であればあの罪人も弱っている。貴様らにはあいつらの監視と暗殺者を見繕ってもらう」

 

 

「ふむ、ならば四十六室へ多少の根回しも必要か」

 

 

万全の状態の烈を殺す事が出来るのは瀞霊廷の中では元柳斎しかおらず、一介の貴族では彼を簡単に動かす事は出来ない。

 

産後の体力が無くなった状態であれば殺す事は出来る。そして烈を殺せれば病弱な双盾を殺す事は容易。

 

 

「そういえば…………流魂街の更木に恐ろしく強い奴が居ると聞いたが」

 

 

「ふん………誇り高き痣城が、そんな流魂街の名も知れぬ者を使うなど出来んわ。兎も角、この計画が上手くいった暁には相応の報酬をくれてやる」 

 

 

「いざとなれば四十六室を通して強引にでも殺せばよい。そう構えずともワシらに任せるが良い」

 

 

集まった貴族達は下卑た笑顔を浮かべ暗躍しようとしていた……………………

 




双盾結婚して反対派が活発に………貴族達不安よな。痣城、動きます。の巻

中央霊術院の創設フラグと怪しげなフラグの建設……………更木にいる強い奴とは………………この先の展開を書けると思うとなんかワクワクしてきました。皆さんに楽しんでもらえるような激アツ展開を書ければと思ってるので楽しみにしていてください。

コメント、評価等お待ちしております


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卯ノ花、産まれる

兄の奥さん、まぁ僕にとっての義理の姉が双子ちゃんを妊娠したんすよ。しかも超レアな感じらしいです。

あと内定ゲット出来ました。一安心。あとは卒論だけ。しにてぇ。

尸魂界に転生して護廷隊に入りたい。四番隊に入って勇音さんと卯ノ花隊長が2人でいる所を眺めてたい


双盾考案の訓練法が各隊にて実践され幾年が過ぎた。上位の席官のみ始解を習得していたが下位の席官も習得者が増えていた。また、鬼道では詠唱込みの発動可能な番数が平均で5も増えていた。

 

飛躍的といえば飛躍的、隊や個人によっては思いの外伸びないといった結果にはなったが各隊の平均値は段違いに伸びたといって良いだろう。

 

その成果が認められ、四十六室は死神の育成機関、真央霊術院が創設される事となった。

 

各隊で教材の作成、指導要領の纏めなど仕事が増え大忙しだった。それは四番隊も同様で普段の仕事に加え真央霊術院関連の仕事も増え大忙しだ。

 

 

「馬鹿野郎‼︎お湯の温度が高すぎるだろうが‼︎」

 

 

「薬草の用意完了しました‼︎結界の術師も用意出来てます‼︎」

 

 

「隊長が病室に入ります、各員ここが山場です‼︎落ち着いて各々の任務をこなすのです‼︎」

 

 

大慌ての隊士達を副隊長が号令をかけ、落ち着かせる。烈が怪我をした訳でも大病を患った訳でも無い。

 

 

「僕はどうしたら良いのかな?」

 

 

「貴方は別室で待っててください。父親になるのでしょう、シャキッとなさい‼︎」

 

 

そう、烈は双盾との子を授かったのだ。術師の解析によれば男子との事。通常の出産であれば隊を挙げて大仕事にする程のことでないのだが今回は特殊だった。

 

出産予定日が近づくにつれ烈から霊力を吸収していた。母体の霊力を吸収するということ自体は珍しい訳では無いのだが、その量が通常よりも多く烈の体力はかなり消耗されていたのだ。

 

母体の霊力を吸い過ぎて、母体が耐えきれず出産をする事が出来ず母子ともに絶命するリスクや胎児自身が吸収した霊力に耐えきれず死んでしまうといった事例しかないのだ。

 

 

「そ、そうだね」

 

 

「そうだぜ、落ち着きなよ。俺がいるんだ、母子共に健康体で返してやるよ」

 

 

特殊な出産に加え、過去の事例と比べてやり取りされる霊力の規模の大きさから四番隊副隊長は元柳斎を通して麒麟寺に救援を要請。

 

零番隊が霊王宮から降りてくる事はほぼ無いのだが、この要請は無事に承認された。

 

 

「麒麟寺さん、烈を………烈とまだ見ぬ息子をよろしくお願いします」

 

 

深々と頭を下げる双盾に麒麟寺は烈が変われたことを喜んだ。

 

 

 

「ぃよっしゃ‼︎いくぞ野郎共‼︎俺が手伝ってやるんだ‼︎絶対に成功させんぞ‼︎」

 

 

「「「「「「「「はい‼︎」」」」」」」」」」」

 

 

男らしい麒麟寺の背中を見送りながら双盾はもう一度頭を深く下げお願いしますと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麒麟寺が分娩室に入ってから三時間が経過した。点灯していたランプが消え、中から麒麟寺と隊士が出てきた。

 

 

「あの、烈は……………」

 

 

「安心しな、母子共に健康………って言いたいが卯ノ花の奴はちょっとばかし消耗してる。回復するのに暫くかかるぞアレは」

 

 

「そうですか…………良かった、本当に良かった」

 

 

通常の出産だとしてもかなりの疲労感を生む、それに加え烈の場合はかなりの霊力を吸収されたのだ。その疲弊具合は相当なものだ。

 

一先ず母子共に安全であることを伝えられた双盾は安堵のあまりその場に座り込んでしまう。

 

 

「この後、病室に移すからそれまでちょっと休憩しときな」

 

 

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます………………」

 

 

「ったくよぉ、こっちは零番隊で忙しいってのに手間かけさせんなよな。色々あるだろうが頑張れよ」

 

 

ひらひらと手を振りながら隊舎を出て行く麒麟寺。隊士達はそれを見送りながら深々と頭を下げた。

 

 

「さ、双盾さん。隊長の病室の用意が整ったので行ってあげてください」

 

 

隊士に声をかけられ移動し始める双盾。病室の扉を開けると産まれたばかりの赤子を聖母の如き暖かい笑みを浮かべ抱いている烈。

 

 

「双盾、見てください。元気な男の子です」

 

 

「あぁ、そうだね。元気に産まれてきてくれて良かった」

 

 

「抱いてあげてください、貴方の息子ですよ」

 

 

そう言ってまだ首も座ってない産まれたばかりの赤子を烈から受け取る双盾。

 

ちょっと前まではいつ死ぬのかしか考えていなかった自分が烈と出会い、命の誕生に立ち会い、そしてその命が自分の腕の中にいる。

 

 

「その子の名前は双護、卯ノ花双護です。貴方の名前の一部分をもらって誰かを護れる刃であってほしいと思ってこの名にしました」

 

 

「そうですか、とても良い名前です。よろしくな、双護」

 

 

こうして卯ノ花家に家族が増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烈が分娩室に入ったのと同時刻、痣城邸に貴族が集まっていた。

 

 

「あの大罪人がついに子を産むようだな。用意は問題無いな?」

 

 

「抜かりは無い。それより産まれた赤子はどうする」

 

 

「ふん、そんなもの幾らでも使いようがあるわ」

 

 

「せいぜいあの大罪人に殺されぬよう気をつけるのだな」

 

 

「お前らが計画通りに準備をしたのなら愚物も大罪人も両方殺せる」

 

 

そう吐き捨てる痣城当主を尻目に貴族は痣城邸を後にした。

 

1人になった部屋で痣城当主は楽しげに酒を呑む。

 

 

「やっとだ、やっとお前を殺せるぞ………双盾」

 

 

下卑た悪意が平和な世界を蝕もうとしていた。




なんか痣城当主をはじめ下衆貴族の描写に気持ちが乗ってこないのでこのひとたちはスカッとする感じで卯ノ花さんに倒されて欲しい。

感想、評価お待ちしております


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隊士、覚悟を決める

サブタイトル上手いこと思いつかなくて適当につけてたのに気がつけば形式化している………………

私事ですが、内定がとれました。このご時世、就職活動の開始が遅いのにも関わらずホワイトな会社の内定をいただけました。これも縁なのかなとおもい、大切にしていきたいです。

卒論が迫っているので更新は不定期というか、今までのように3日か4日に一回というわけにもいかないので週一で更新出来るようしていきますのでよろしくお願いします。


「伝令、伝令‼︎流魂街更木にて八番隊が賊に襲撃を受けた‼︎四番隊隊長卯ノ花烈は今すぐ救援に向かえ‼︎」

 

 

必死の形相で四番隊の隊舎に走ってきた一般隊士。

 

 

「隊長は現在出撃禁止なのです、霊力の回復のため暫くは安静にしていなければいけません」

 

 

「これは中央四十六室よりの勅命である‼︎繰り返す、これは中央四十六室よりの勅命である‼︎」

 

 

烈は双護の出産により霊力をかなり消耗していた。日が経つにつれ回復はしてきたが現場に出る類の任務は禁止されていた。

 

この烈の特定任務の禁止令は副隊長が元柳斎に上申し、隊首会を通して通達されたものだ。

 

しかし、一般隊士が言ったのは瀞霊廷の全権を握る中央四十六室よりの命令。

 

 

「出撃している隊士の人数と賊の人数は?」

 

 

伝令に来ていた隊士に詳細を聞きつつ斬魄刀を腰に差し、支度をする烈。

 

 

「隊長、何をしているのですか‼︎貴女は今安静にしていなければ‼︎」

 

 

「わざわざ私を指名して救援要請が出ているという事は八番隊の被害は相当なものでしょう。賊が討伐されていないのであれば怪我人を守りつつ討伐出来るのは四番隊で私しかいないでしょう」

 

 

副隊長は必死の形相で烈を止めようとする。烈が消耗した霊力を回復できたのは万全の状態の七割程度。

 

隊舎内での治療や事務仕事であるなら問題は無いが、何が起こるか分からない戦場での任務を行うには危険な領域だ。

 

 

「だとしても‼︎隊長1人を指名した命令なんて危険すぎます‼︎」

 

 

「どのみち中央四十六室からの命令であれば断る事は出来ません。一先ず、八番隊の安否を確認するとしましょう」

 

 

そういうと烈は自身の腕に紋様を刻み込む。幾何学的に刻み込み、詠唱を唱える。

 

 

「黒白の羅、二十二の橋梁 、六十六の冠帯 、足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ〈縛道の七十七 天挺空羅〉」

 

 

霊圧を網状に張り巡らせ複数人に対して伝言を行える鬼道。霊圧を捕捉出来るのなら多少距離が離れていても情報の伝達が行える鬼道である。

 

 

「ふむ、反応はありませんね。そこの隊士、案内しなさい」

 

 

こちらですと瞬歩で隊舎を後にする隊士について行くようにして瞬歩でその場を去る烈。

 

その背中を副隊長はなんとも言えない表情で眺めていた。

 

烈が隊舎を出て二時間後、十一番隊隊士が四番隊隊舎に雪崩れ込んできた。

 

 

「いやぁ〜、久々に激しい戦闘訓練だったわ〜」

 

 

「まじで隊長容赦無さすぎっすよ」

 

 

「これは今日一日、四番隊隊舎から出れそうにないな〜」

 

 

わざとらしく大声で騒ぎながら大量の隊士が入り口を中心に陣を敷くように待機し始める。

 

 

「ど、どうしたのですか?」

 

 

何かが起きている様子に警戒しながら四番隊副隊長が十一番隊の隊士に聞く。

 

 

「お構いなく、我々の治療は後回しにしてもらって構わない。普段の仕事を優先してくれ」

 

 

「虎徹隊長‼︎し、しかしこんなに十一番隊士がいるのはいったい…………」

 

 

隊士達をかき分けるようにして現れた虎徹天音……もとい虎徹剣八。虎徹の話に納得できない四番隊副隊長。

 

 

「ちょっと激しめの訓練をしてしまいましてね。先に俺だけ診察してもらおうかな」

 

 

そう言いながら何かしらの書状を副隊長に手渡す虎徹。

 

その場で書状を開こうとする副隊長の手を掴み、瞬歩で隊首室へと入る虎徹。

 

隊首室に入った虎徹と副隊長。虎徹は周囲を一頻りに警戒すると何かしらの結界を貼る。

 

 

「ふむ、その子が卯ノ花隊長の息子か…………霊圧だけじゃなくて顔までそっくりだな」

 

 

虎徹は副隊長の手を掴んだタイミングで霊圧による探査を行い、双護がいる部屋を特定していた。

 

 

「あの………説明していただけるんですよね?」

 

 

「ん?あぁ、そうだな。先ずはその書状を見てみな」

 

 

「''我々十一番隊は卯ノ花烈隊長の救援要請に伴い、卯ノ花双護及び四番隊隊士の守護にあたる''………ってこれはまさか⁉︎」

 

 

烈が数刻前に天挺空羅を使ったのはこの為だ。ただの安全確認なら別の縛道を使えば良いのにと僅かばかりの疑問を感じていた副隊長だったが、合点がいった。

 

天挺空羅で十一番隊に救援要請を行なっていたのだ。何故十一番隊に救援要請を出したのか?新たな疑問が生まれた。

 

 

「双盾殿が縁切りされた本家から呼び出され留守の中、まだ回復しきってない卯ノ花隊長に単身出撃の任務が来た…………普通に考えたら怪しいのは誰にでも分かるわな。何かしらの裏があるから2人の留守を守る為に俺らがきたって訳だ」

 

 

普段外出する事は滅多に無く、瀞霊廷で双盾を呼び出す人物が殆どいない中で最も双盾を嫌悪していた痣城当主からの呼び出し。それに加えて総隊長命令を飛び越えての単身出撃の命令。

 

これを警戒しないほど烈は馬鹿では無かった。伝令にきた一般隊士が本当に隊士か分からない、何かしらの敵である可能性が高い中、味方を増やす為に烈は護廷隊において最も信頼出来る虎徹に救援を申し入れたのだ。

 

貴族からの圧を跳ね除け、黙らせる事が出来るのは一番隊を除けば十一番隊のみだ。

 

 

「卯ノ花隊長と双盾殿は何かしら罠に嵌められてる。本当なら俺も一緒に行きたい所だが…………あの人に任されたからな。死んでもアンタらと坊ちゃんは守る」

 

 

「事情は把握しました。何があるか分からない状況のようですしこの場の守護はお任せします。私の方でも手伝わせて貰います」

 

 

虎徹が貼った結界に重ねるようにして更に強固な結界を貼る副隊長。霊圧の隠蔽、物理的な防御、鬼道といった攻撃から守る為の結界を一瞬のうちに貼り直したのだ。

 

 

 

「私もただ守られるだけではいられません。あの人達が戦うのであれば私も戦います」

 

 

副隊長の瞳には強く硬い意志が宿っていた。

 

 

「お、おう。そうだな、一緒にあの人の守りたいものを守ろう」

 

 

こうして急な形ではあるが、四番隊と十一番隊の協力体制が築かれたのだった。

 




四番隊の副隊長(女性)さんは鬼道が得意のようですね。虎徹さんも鬼道は出来るけど大した事ない感じです。フラグよ立て!!

何かしら動き出してますねぇ〜。貴族くん達の頑張りをお楽しみください!!

YouTubeでジンさんというBLEACHの解説をしている方の企画でオリジナル斬魄刀を募集しているという動画をあげていたので自分もその企画に一つオリジナル斬魄刀を提案させてもらいました。採用してもらえたら嬉しいです。

感想、評価お待ちしてます


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兄上、お労しや

こちぬか無作法。


卒論ってシステム生み出したやつに一発ビンタしてやりたい。


烈が隊士に連れられ出陣したのとほぼ時を同じくして、双盾は痣城邸にいた。

 

当主の私室にて双盾は兄と対面していた。

 

 

「子が生まれたそうじゃないか、おめでとう」

 

 

「ありがとう、まさか兄さんに祝って貰えるなんて思わなかったよ」

 

 

「思ってもない事を……………」

 

 

「何を言って「黙れ‼︎昔からお前はそうだった‼︎」」

 

 

双盾の言葉を遮り当主は怒りを露わにする。昔から溜め込んでいたものが一気に吹き出したかのように。

 

 

「そうやって出来た人格を装って周囲に愛想を振り撒き、俺を見下していただろ‼︎父も母も貴様が当主になれば比べられていた俺を憐んでいただろ‼︎」

 

 

双盾の才能は痣城始まって以来のもの。平凡以下な当主の才能とは比べるまでもなかった。先に生まれただけで当主になれる、双盾が病弱でなかったら…………幼少期から腐るほど聞かされてきた言葉。

 

どれだけ努力しようと、どれだけ成果を出そうと誰も見ない。誰も認めない。常に比較されてきた当主にとって双盾の優しげな瞳は自身を見下しているとしか思えなくなっていた。

 

 

「哀れなお前に教えてやろう!!あの大罪人は流魂街の更木にて化け物と殺し合いをしている。仮に殺せなくても我が痣城の財力で雇った腕利きを配備している‼︎それにガキの方にも暗殺者を送り込んでいる‼︎どうだ、双盾‼︎お前を嵌めた、俺はお前を超えたんだ‼︎」

 

 

この作戦を思いついた時、当主は初めて双盾に勝てた気がした。

 

 

「あとはお前を殺すだけだ‼︎大罪人やガキを殺せなくてもお前を殺せばあの女の絶望した顔を見られるからなぁ。どのみちお前たちは俺に負けるんだぁ‼︎」

 

 

「残念だよ、兄さん」

 

 

計画を聞かされた双盾の顔には焦りや苛立ち、恐怖といった感情は一切無かった。そこにはただの憐れみしかない。

 

 

「またお前は俺をぉぉぉぉぉぉお‼︎やれぇ、こいつを惨たらしく殺せぇ‼︎」

 

 

当主が大声で叫ぶとどこからともなく斬魄刀を構えた男達が双盾に斬りかかる。

 

しかし、双盾は慌てる事なく蚊でも払うかのように二度三度斬魄刀を振るう。すると双盾に斬りかかっていた男は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 

しかし当主が呼び出した刺客はまだ多くいた。

 

 

「お前が化け物じみているのはよく知っている‼︎だがお前は長時間戦う事は出来ない‼︎ここにいる奴らは一番金を掛けて用意した強者揃いだ‼︎お前のような化け物でも耐えきれないだろうなぁ‼︎」

 

 

双盾を警戒してか痣城の傭兵達は斬魄刀を始解させている。炎熱系、氷雪系、直接攻撃系………さまざまな斬魄刀がただ1人のために向けられている。

 

 

「お前達のせいで、使用人も部下も俺を見なくなった‼︎皆痣城の名に畏怖を感じなくなった‼︎お前のせいで俺はぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

「やっぱり当主は兄さんで正解だったんだ…………家名を守ることを最優先にして他貴族にも負けず一族を守ろうとするなんて僕には出来ない」

 

 

「殺せェェェェ‼︎殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセェェェェェェェェ‼︎」

 

 

当主の声を号令にして一斉に斬りかかる傭兵達。双盾は1人ずつ丁寧に斬って落とす。

 

避けて、斬る。躱して、斬る。防いで、斬る。傭兵達は必死に双盾を殺しにかかるが誰も双盾に傷をつけられない。誰も双盾の表情を崩す事は出来ない。

 

 

「当主として重圧にも負けず、当主として頑張ってきた兄さんを本当に尊敬してた」

 

 

また1人、斬って落とす。

 

 

「僕を憎んでいたのも知っていたし、殺そうとしているのも知ってた。それが兄さんの為になるならそれも仕方無いと思っていた」

 

 

当主にゆっくり、ゆっくりと近づく。襲い掛かる傭兵達を虫でも払うかのように斬って落とす。

 

 

「だけど一つだけ許せない事がある。僕の家族に手を出した事だけは絶対に許さない」

 

 

その言葉には普段の双盾ならば考えられない程の怒気が含まれていた。

 

怒気を撒き散らしながら双盾はゆっくりと当主を間合いに捉える。周りにいる傭兵達は動く事が出来ない。少しでも間合いに入れば死ぬという事を本能で理解してしまったからだ。

 

 

「さよならだ、兄さん」

 

 

無慈悲に刃を振り下ろす双盾。当主の目には能面の如く無の表情をした双盾が写っている。怒りはしているがその瞳に当主は全く写っていない。

 

道端の石ころをどかすような、特に意味の無い事をするような顔で斬ろうとしている。

 

しかし、その刃が当主を斬ることは無かった。当主の眼前で刃が止まっていたからだ。

 

 

「ゴフッ……………これは………………」

 

 

大量の吐血に困惑する双盾。戦闘になる事を想定し、麒麟寺から貰っていた丸薬を飲んでいた双盾。霊圧を解放したからといって効果が切れるような時間は経っていない。

 

 

「フフフ、フフフハハハハハハ‼︎やった、間に合った。間に合ったぞ‼︎あの貧乏人がちゃんと仕事していたようで助かった‼︎」

 

 

「どういう………事だ……………」

 

 

「お前が飲む薬に仕込みをしたんだよ‼︎大罪人に気付かれないように少しずつ仕込んできたがやっと効果を表したか‼︎」

 

 

「なるほど、だから薬が変わったのか…………」

 

 

双盾が服用していた薬はある日を境に変わっていった。普段薬を運んでくる隊士が別の薬を持ってきたのだ。烈が別の薬を処方したのだろうと思い特に警戒もせずに服用していた双盾。

 

しかし、その隊士は痣城当主によって多額の借金を背負わされていた。その借金を帳消しにする代わりに薬のすり替えをさせていたのだ。

 

 

「やれぇ、貴様ら‼︎今ならお前らのような役立たずでもあの愚物を殺せるだろう‼︎やれぇ‼︎」

 

 

「うん、元々死ぬつもりなんて無かったけど……………彼の為にも余計に死ねなくなったな」

 

 

双盾に薬を運んで世話をしていた隊士は付き合いこそ短いが烈からも双盾からも信頼される人格を持った青年だった。仕事熱心で優しい男。

 

そんな彼が外道の片棒を担がされるには深い理由があったのだろう、自分がここで死ねば彼は自分を責めるかもしれない、何も悪く無い彼に大丈夫だと一言伝える為に死ぬわけにいかないと無理矢理霊圧を上げ斬魄刀を構える双盾。

 

傭兵の攻撃を斬魄刀で防ぐ、しかし少し前のような圧力は出ていない。その間に背後から一太刀、振り向きざま一太刀貰いながらも反撃で後方にいた傭兵を斬る。背後から突き刺さされ腹から斬魄刀が突き出ている。

 

一太刀を受けて斬るというのを繰り返す双盾。双盾自身にもどれほどの時間斬魄刀を振り続けているのか分からなくなっていた。

 

背中には針山のように斬魄刀が突き刺さっており、両手両足は辛うじて繋がっている程。身体中探して傷を負っていない所を探す方が難しいレベルだ。

 

「ば、馬鹿な………ニ百人以上用意したというのに………ば、化け物め」

 

 

当主が用意した傭兵、実に二百四名。その全てを殺し切ったのだ。息も絶え絶え、大量に血を流し意識も朦朧としている双盾。

 

それでも双盾は一歩ずつ進み、四番隊隊舎へと向かう。

 

罠に嵌められようがそれを蹴散らす実力が烈にはある。しかし今は万全な状態ではない。今の状態でも列を殺せる存在は尸魂界中探してもそういない。それを分かっているが心配しない理由にはならない。

 

烈がいない間双護を守るの誰か。自分しかいない。四番隊を信用していない訳ではない。それは父として譲れない家族を守るという役目からくる思いだ。

 

烈が帰ってきた時笑顔で迎える為にも、あの隊士を安心させる為にも死にたくない、死ねない。その想いだけで一歩ずつ進む双盾。

 

あと少し、あと少しで隊舎に着く。その想いだけが今の双盾を動かしている。

 

 

「双盾‼︎大丈夫ですか、双盾‼︎」

 

 

双盾を呼ぶ声、それは烈だった。結んでいた髪が解け、烈ではなくハ千流と名乗っていた頃の格好だ。隊服のあちこちは破れ血が滲んでいるが、烈自身に怪我は無いようだった。

 

 

「烈………さん?」

 

 

「はい、私です‼︎卯ノ花烈です‼︎もう無事です、今貴方を治してみせます」

 

 

「ただ………いまです。いま、帰りました」

 

 

「…………はい、おかえりなさい。双盾」

 

 

何よりも聞きたかった一言、それを聞いた双盾は今まで張り詰めていたものが途切れた。

 

かろうじて保っていた双盾の意識はブラックアウトした。




詳しいことは伏せますが僕の友人が誹謗中傷されました。
自分の作品(二次創作も含む)を作り、世間に発表している身であれば誰しもある経験でしょう。

技術的な指摘は心にくるけど、実際その通りだし勉強になるからありがたいんです。でも妄想乙とか、文才無いくせに小説書くなとかそういう人を傷つけようとする言葉指摘でも無いですからね。大体の人が言うけど好きじゃなければ見なければ良いんです。でも、何かしら感想送りたいなら言葉を選んで建設的なやりとりをしてください。

誹謗中傷され、傷ついている方へ。世の中は基本賛否両論です。自分に良いことを言ってくれる人ばかりじゃ無いです。どうしても誹謗中傷する輩は出てきます。そういう輩が出てくるのはあなたがより多くの人から注目されるようになったからです。次のステージに進んだ証拠なのです。誇りましょう。その輩すら黙らすくらい素晴らしい人間となって見返してやりましょう。
でも傷つくものは傷つきます。そういう時は家族や友人に相談しましょう。望む答えを持ってないかもしれませんが少しは楽になります。

僕で良ければいつでも愚痴を聞きます。個人メッセで良ければ気軽に送ってきてください。あなたが次の一歩を踏み出すお手伝いが出来れば良いなと思います。

感想、評価お待ちしてます。


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少年、楽しむ

瀞霊廷を抜け出し、更木を目指し走っていると久しく感じていなかった悪寒を感じる烈。

 

霊圧だけでは無い、強者の匂い。初代剣八としての本能がこの先にいる存在に喜びを感じていた。

 

 

「案内ご苦労さ……………逃げ足だけは速いようですね」

 

 

烈は元から気付いていた事だが、伝令にきた隊士は護廷の者では無い。貴族お抱えの懐刀だ。

 

お互いの利権争いを繰り返している一部の貴族は暗殺対策に専門の傭兵を雇う事がある。

 

烈からしたら取るに足らない雑魚ではあるが、暗殺を生業としている相手に隙を晒す程烈は衰えていない。

 

本性を現したら即座に首を刎ねようと斬魄刀に手をかけていた。しかし、彼の任務は烈の暗殺では無かった。更木に烈を連れてくる事だった。

 

霊圧を頼りに暫く歩いていると、たどり着いた。

 

 

 

「なんだァ?てめぇは…………………」

 

 

そこには、山のように積み上げられた死体の上に腰を下ろす少年の姿があった。

 

少年の手には何処で手に入れたのか、刃毀れした斬魄刀が握られていた。

 

 

「四番隊隊長卯ノ花烈と申します」

 

 

死体の山を見ると身なりの高そうな身なりの死体が複数あり、大半が死覇装を纏っていた。

 

 

「そちらの死体の方々に用事があったのですが………………これは貴方がやったのですか?」

 

 

「うるせぇから斬った。だけど詰まらねぇ雑魚だった」

 

 

貴族が雇う傭兵なだけあってそれなりの実力者だ。しかし、少年の実力は大量の席官クラスを相手取って雑魚と言えるほど。

 

低く見積もっても隊長クラスなのは理解出来た烈。

 

 

「てめぇなら俺の遊び相手になってくれそうだなぁ‼︎」

 

 

獣の如き咆哮を上げながら烈へと斬りかかる少年。反応が遅れ、一瞬で間合いを潰された烈。いくら弱っているとはいえ反応し切れない程のスピード。

 

なんとか攻撃を防ぐが、少年は荒れ狂う嵐のように攻撃を続ける。

 

 

(この少年、''強い''ですね…………………)

 

 

激しい剣戟の中、烈の思考は驚く程冷静になっていた。自分の中の本能が強者と認めながら暴れず、理性を保っていて少年の強さを分析すらしていた。

 

単純な戦闘力は烈よりも上だろう。流魂街にいる者にしては破格の霊圧。その強大な霊圧は例えるなら獣、腹を空かせた肉食獣のようだ。

 

その戦い方は野蛮そのもの、双盾が完成された技術であるなら少年の剣はその真逆だ。理も術も無いただの暴力。

 

 

「面白ぇ‼︎全力で斬ってるのに壊れねぇ奴なんて初めてだ‼︎」

 

 

「それは、どうも‼︎」

 

 

少年は笑っていた、楽しくて楽しくてしょうがないといったように。心から強者との戦いを求めているその姿はかつての自分を見ているようだった。

 

それを悟った時、烈は自身の口角が上がっていることに気がついた。

 

 

「なんだ、てめぇも楽しんでんじゃねえか‼︎そうだよなぁ、こんな斬り合い楽しくねぇ筈がねぇよなぁ‼︎」

 

 

ハ千流であった時の自分が求めた自分よりも強い者との戦い。双盾と結ばれてから大人しくなったとはいえ目の前の少年は烈の胸をときめかせるには充分すぎる程だった。

 

 

「ええ、楽しいです。楽しくて楽しくてしょうがないです。もっと早く貴方と会っていたかったと思うほどに楽しいです」

 

 

しかし、少年の斬撃を烈は捌ききれないでいる。避けきれなかった一撃が少しずつ烈を傷付けていく。

 

 

(全快であれば……………いや、無理でしょうね)

 

 

烈は七割程度の力しか出せない。双護を産んだ時の消耗が回復しきっていない。

 

三割の身体的機能の制限は深刻な問題だ。並外れた能力を持つ烈であるからこそ戦えている。

 

 

「最高だぜ‼︎楽し過ぎてどうにかなっちまいそうだ‼︎」

 

 

「私も楽しいですよ?ですが、節度を持つ事が大事なんですよ」

 

 

「説教垂れてんじゃねぇ‼︎お前は俺と同じなんだろ⁉︎なら、この瞬間を楽しめぇ‼︎」

 

 

少年は感じていた、烈は自分と同類である。斬り合いに愉悦を感じ、満足のいく戦いを求めて彷徨う者であると。

 

烈は少年の言葉を無視したが、否定できないでいた。戦闘において満足した事は一度も無く、双盾との戦いでも自身を満足させられなかった。

 

目の前の少年との戦いは自分に欠けていたものを埋めるだけのものがある。対応出来ているだけで明らかに負けているのに楽しくてしょうがない。

 

 

(この剣にも慣れてきましたか………いや、剣速が明らかに落ちている)

 

 

斬られたそばから回道をかけ傷口を塞ぎながら戦っていた烈だったが途端に攻撃を捌けるようになり、傷を負うことも無くなっていた。

 

負けていた戦いが互角のものになったのだ。烈の攻撃は少年に当たっておらず、消耗している様子は無い。それなのに剣速が落ちてきた理由は明白だった。

 

 

「手加減とは舐められたものですね‼︎」

 

 

「あぁん?何言ってんだ。おら、もっと来いよ‼︎もっと斬り合おうぜ‼︎」

 

 

手加減。少年は初めての満足のいく戦いをより長く楽しむ為に無意識で加減をしていた。楽しい戦いだが自分の方が強いと本能的に少年は理解したのだ。

 

それに対して烈が感じたのは怒りだった。少年に手加減をさせてしまった弱い自分への怒り、剣八であった自分に手加減をする少年への怒りが烈の中で湧き上がっていた。

 

 

「〈縛道の六十二 百歩欄干〉」

 

 

複数の光の棒が少年に向かって飛んでいく。少年はそれを横へ飛び避けるが烈は更に追い込んでいく。

 

 

「〈縛道の六十三 鎖条鎖縛〉」

 

 

霊子で構成された鎖が少年を縛り上げ、動きを止める。少年は引きちぎろうとするが、この隙を烈は逃さない。

 

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ〈破道の七十三 双蓮蒼火墜〉」

 

 

極大の蒼い炎が少年1人に襲いかかる。剣八であった頃なら使わなかった鬼道。双盾と会っていなかったら手加減させた事を嘆きながらも剣術だけで闘っていただろう。

 

 

「何やってんだ‼︎折角の楽しい斬り合いに水を刺してんじゃねぇよ‼︎」

 

 

「貴方との戦いは楽しいですが、あまり長い間楽しむ訳にもいきません。子供の世話もありますし」

 

 

「俺の知った事かよ‼︎もっと俺を楽しませろ‼︎そんな技使わないでもっと楽しい斬り合いをしようぜ‼︎」

 

 

鬼道を使われた事に怒る少年。その怒りに呼応するように霊圧が上がる。

 

 

「本気になるのが遅いですよ。〈縛道の六十三 鎖条鎖縛〉〈縛道の六十一 六杖光牢〉」

 

 

鎖条鎖縛によって少年を捕縛、そしてその後に六つの帯状の光が胴に突き刺さり捕縛を補強する。

 

霊圧を上げ鎖条鎖縛を引きちぎろうとするが六杖光牢により動きを封じられ引きちぎれない。

 

 

「貴方は強い。ですが、戦いを楽しもうとし過ぎた」

 

 

勝負を決めにかかる烈。幾ら六十番代の縛道二種類とはいえ消耗した烈の縛道では少年を縛りきれないのは理解出来ていた。

 

それに消耗した今の状態では戦闘を長引かせる訳にはいかなかった。短時間での決着………始解はあまり戦闘向きのものでは無く、鬼道では決め手に欠ける。

 

卍解、死神の戦闘術における切り札。斬魄刀の本来の力を解放する事で戦闘力を10倍以上に引き上げる。卍解を使わなければ勝つ事は出来ない。

 

それほど強力な卍解も欠点は存在する。強力な卍解だが、隊長格であっても卍解の維持には莫大な霊力を消費する為長時間の発動は出来ない。

 

 

(今の状態で使えるのは保って一撃……………発動出来なければ負けて死ぬ。発動出来たなら一撃で決めなければ負け。なんとも分の悪い賭けですね)

 

 

ただでさえ消耗している烈にとっては卍解の発動すら危うい。発動出来ても一撃で勝負決めなければ霊力の消耗で瀕死になるか、少年に殺される。

 

分の悪い賭けだというのに楽しくなっている自分がいた。命を賭けたひり付く勝負、忘れていた感覚。剣八であった者として自分より強い者との命を賭けた勝負を楽しまない理由は無い。

 

少年を縛っていた縛道が軋み出した。霊圧の上昇で無理矢理縛道を解除しようとしている。

 

 

「良いでしょう、これにて座興は終いです」

 

 

烈の言葉が鍵となったように少年は無理矢理縛道を解除した。ただ戦いを楽しんでいた先程とは違い、目の前にいる烈を殺す獣となった少年。

 

 

「      卍解  皆尽        」

 

 

烈が卍解をすると、烈を中心として血のような液体が流れ落ちる。そして流れ落ちた液体は収束し、刃を形成する。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

言葉にすらならない咆哮を上げながら列に突撃する少年、その速度と気配はまさに獣。一つ間違えれば死ぬというのに烈の思考は今までに無い程落ち着いていた。

 

 

「さらばです、私を満足させた子よ。せめて安らかに眠りなさい」

 

 

少年が振り下ろした刃をギリギリで避け、斬魄刀を振るう。その一閃は少年の首を跳ね飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年を埋葬し、少年が使っていた斬魄刀を墓標代わりに突き刺す。

 

手を合わせた後烈は急いで走り出した。十一番隊の救援で息子の無事は保証出来ている。

 

無事に帰ってくる筈の双盾を双護と共に笑顔で迎える。その為にも急いで帰らなければならなかった。しかし、消耗している状態で無理に卍解をした事で七割程であった霊力は四割程まで低下していた。

 

瞬歩は出来ない事も無いが、長い距離の瞬歩をする程余裕が無い。

 

双盾は無事であると信じている烈だが、とてつもない不安にかられていた。

 

やっとの思いで瀞霊廷にたどり着き、四番隊の隊舎の方へ急いで走る。すると視界の先に見覚えのある背中を見つけた。

 

その背中は針山のように斬魄刀が突き刺さっており、足取りは今にも倒れそうであった。

 

その背中を見た瞬間、烈は瞬歩を使い側によった。

 

 

 

「双盾‼︎大丈夫ですか、双盾‼︎」

 

 

「烈………さん?」

 

 

「はい、私です‼︎卯ノ花烈です‼︎もう無事です、今貴方を治してみせます」

 

 

今の烈の霊力では気休め程度にしかならないが回道をかけ双盾を担ぐ。

 

 

「ただ………いまです。いま、帰りました」

 

 

「…………はい、おかえりなさい。双盾」

 




まず、一言。ごめんなさい。更木剣八は好きなんですけど、双盾や双護がいてやらなければやられるという状況で卯ノ花さんがトドメを刺さないという選択肢は取らないだろうと思いこの展開にしました。

ショタ八と卯ノ花さんの勝負がどんなだったかは分からないけど、卯ノ花さんは多分鬼道とか卍解は使ってなかったと思うんですよ。加減したショタ八をなんとか剣術のみで押し切って撃退したって感じだと思うんです。家族の為に生き残らなければいけない卯ノ花さんは鬼道も卍解も持てる手札は全部使うと思いました。八十番代の鬼道を詠唱破棄するくらいの鬼道の実力はある訳だし、一時的とはいえショタ八を抑え込むくらいの鬼道は使えるとふんでこんなバトル展開にしました。

拙い戦闘描写でしたが、楽しんでもらえたら幸いです。

次回は山じぃの胃がストレスでマッハな回の予定です。因みに、ショタ八が殺してた貴族は兄上と話してた貴族です。本来の予定はショタ八と傭兵という数の力で圧倒する予定でしたが、痺れを切らしたショタ八にあっさりやられました。


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元柳斎、煽る

待たせてすまねぇ。卒論も落ち着き、この作品に打ち込める環境にあったにも関わらず何故更新が遅れたのか…………………………

やっとの想いで買い直したSwitch lightとポケモンで遊び倒してたからです!!チクショウ、周りの人間ポケモンやってないからハッサムが手に入らん!!!!!!

今回短めですけど許してクレメンス………………次はもうちょい早く更新するから許してクレメンス


中央四十六室、瀞霊廷の司法機関だ。四十六十室は現在険悪な雰囲気に呑まれていた。

 

貴族は暗殺計画の後始末に追われていた。貴族達は責任を全て双盾と烈に押し付けのだ。証拠の偽装をし、更木に住む少年に虐殺された貴族を烈が犯人という事に仕立て上げた。

 

痣城邸の惨状は実質的縁切りをされた腹癒せとして双盾が犯人という事になった。

 

 

「して、卯ノ花ハ千流と痣城双盾の見合いを段取りしたお主に責任の所在はあるとし、我々四十六室は卯ノ花ハ千流と痣城双盾を極刑、山本元柳斎を蛆虫の巣へ無期限の投獄とする‼︎」

 

 

「何か弁明はあるか?護廷十三隊の創設、中央霊術院の創設という功績を讃えて聞いてやらん事もないぞ」

 

 

「では、幾つか言わせて貰いましょう。まず一つ、そもそもあやつの名は卯ノ花烈。あやつはハ千流という名を捨て護廷に身を尽くすと誓っております。二つ目、そもそも卯ノ花隊長の事を命令したのは貴公らですぞ」

 

 

今の瀞霊廷は貴族の権力争いが激しい。四十六室は瀞霊廷最高位の意思決定機関だが、その実権は貴族が握っていると言っても過言ではない。

 

 

「三つ目、殺された貴族では卯ノ花隊長をあそこまで消耗させる事は出来ません。彼女をあそこまで追い込める者がいたのでしょう。その者がやった可能性もあります」

 

 

「何を言うか⁉︎卯ノ花ハ千流は出産の影響で霊力を消耗していたのだろう。ならば貴様のいう消耗具合にもなろう」

 

 

「お言葉ですが、戦場のせの字も知らないボンクラ程度に追い込まれる卯ノ花隊長ではありません。幾ら彼女が消耗していようとあの貴族程度なら小指だけで十分でしょう」

 

 

貴族は瀞霊廷に住む中でも比較的、強力な霊圧を持っている。しかし、剣を握らず研鑽を怠っている貴族では烈を始めとする隊長格に傷一つ付けられない。

 

この貴族との戦力差こそ、護廷隊が成立出来ている理由である。

 

 

「卯ノ花隊長の話では四十六室からの勅令により八番隊の救援要請があったとの事ですが、現場の死体はどれも護廷隊士に所属している者ではありませんでした」

 

 

「それは貴様の確認不足であろう‼︎我らの捜査に不備があると申すか⁉︎貴様は我らが卯ノ花を殺す為に仕組んだとでも言うのか⁉︎」

 

 

「貴公らが仕組んだとは言っていないし、そんな事はどうでも良い。儂はただ自分達の正当性を示したいだけだ。それでも儂らを断罪するというのならすればいい。それで貴公らの面子が保たれるのなら好きにしろ。儂と卯ノ花隊長を失えばどうなるか考えたうえでの結論ならば文句はない」

 

 

護廷隊は元柳斎のカリスマで成り立っている。貴族がいかに元柳斎や烈達の罪をでっち上げようと護廷隊士は彼らが無実である事を知っている。

 

無実の元柳斎を投獄、烈を処刑したとなれば護廷隊士達は反乱を起こすだろう。場合によっては零番隊を動かす事態に発展するかもしれない。

 

零番隊であれば護廷隊の反乱があろうとも鎮静化させる事も出来るだろうが相当な被害が出て起きる。

 

それを理解出来ない中央四十六室では無かった。

 

 

「そこまで言うのなら仕方ない。卯ノ花ハ千流と山本元柳斎、貴様らの処分を取り下げとする」

 

 

「卯ノ花烈です。そして双盾はどうされますかな?彼奴を処刑されたとあっては四番隊と十一番隊が瀞霊廷で暴れ回る事になるでしょうなぁ。儂は総隊長として多忙であるし、貴公らを守る事も出来ないでしょうなぁ」

 

 

わざとらしい物言いに青筋を浮かべる四十六室の面々。双盾を処刑すれば初代剣八と最強の戦闘部隊が暴れ回るが自分たちでなんとかしろよと宣言されたのだ。

 

発言する際に若干霊圧を解放した事で何人かは冷や汗をかいていた。

 

 

「卯ノ花烈と山本元柳斎の刑を取り下げ二人の給料を十年間減給、卯ノ花双盾が痣城邸で当主相手に斬魄刀を振るったのは事実。故に、斬魄刀の強制返還とする」

 

 

「ふむ、そう言う事なら仕方ないでしょう。その処分甘んじて受けましょう」

 

 

元々護廷隊の隊長は破格の給料を貰っている為多少の減給は大した問題ではなく、双盾は戦闘することが稀であり、基本的に戦闘してはいけないため実質的に無罪放免と言う事になった。

 




一番隊ディヴィジョンの山本元柳斎と中央四十六室のラップバトル回でしたね。貴族の権力が強いこの時代において護廷隊ってクソ邪魔な組織だと思うんすよ。無駄に強くて言う事聞かない暴力集団なんてお偉い様からしたら厄介極まりないでしょうに。

好きなラッパーはKREVA、焚巻、KEN THE 390、R指定です。ヒプノシスマイクはほぼ知らないっす。

次回辺りから双護くんの出番が増えます。やったね、主人公だよ!!!まぁアレです。ジョジョでいう所のジョセフみたいなもんです。第一部「血染めの花嫁」主人公卯ノ花烈から第二部「嵐を呼ぶ問題児達の学舎」へとなります。うむ、章タイトルがダサい。


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双護、迷う

待たせたな(cv.大塚明夫)

いやほんと遅くなってすいません。卒論やら就活やらでなんやかんやバタバタしたりやっとの思いで買いなおせたポケモン剣盾やってたり、fgoやったりとで更新が遅くなりました。

今回からが本編みてぇなものです。この作品のほんちゃんです。スターウォーズで言うところのルークみたいなものです。親子の物語の子供が主人公のターンになる感じです。いや、それやと双盾か烈さんがダークサイドに落ちるやん。配役的には双盾がパドメで烈さんがアナキンになってまう。


卯ノ花家の朝は早い。朝食の前に双護は烈との訓練をこなす。

 

 

「やぁぁあ‼︎」

 

 

「踏み込みが甘い」

 

 

「はぁあぁぁぁ‼︎」

 

 

「もっと頭を使って攻撃なさい」

 

 

四番隊隊舎に竹刀の音が響く。朝と夕食前に1時間から2時間の稽古をしている。元剣八の訓練を受けようと他の隊の隊士などが参加したがあまりのハードさに3日で通わなくなる程ハードな稽古を毎日こなしている。

 

 

「やぁぁぁあ‼︎」

 

 

「な⁉︎」

 

胴を狙った一撃を防ごうとする烈、この後のカウンターで今朝の訓練を終わろうと思った矢先、視界から双護が消えていた。

 

烈の訓練へ向けられていた集中が一瞬、ほんの一瞬無くなった瞬間を狙い瞬歩で背後に回り込んだのだ。瞬歩というにはあまりにもお粗末なスピードと技術ではあるが、剣を握り始めて数年の子供が瞬歩を使い烈の隙をついた。

 

''獲った''そう確信した瞬間、双護の意識は暗転していた。

 

 

「隊長〜、朝メシの時間…………って今回もこっ酷くやられてますね、双護くん」

 

 

「天音、ウチを旅館かなにかと勘違いしていないですか?」

 

 

天音とは公共の場以外では以前の時のように隊長と部下として話すようになっていた。剣八として十一番隊を率いている時は隊長として扱うが、それ以外の時は以前のように接して欲しいと天音が頼み込んだのだ。

 

 

「病室は使ってないっすよ。ちゃんと隊士の宿舎の方に泊まりましたよ」

 

 

「避妊はちゃんとなさい。ちゃんとした手順を踏まなければ貴方の首を斬り落としますからね」

 

 

「笑顔で怖い事言わないでくださいよ………………って何言ってるんですか‼︎」

 

 

烈は元部下であった天音が今の自分の副官と男女の付き合いをしているのを知っていた。更木の少年と死闘を繰り広げた日を境に天音は四番隊の隊舎に頻繁に顔を出すようになった。

 

理由は毎度違うのだが、毎回副隊長に土産を持ってくる事から何となくは察していた。

 

 

「まぁ、隊長が気付いてるのは分かってたことなんで良いですけど……………一瞬だけ本気になったのはどうしてです?」

 

 

天音は元烈の副官で現在の剣八だ。他の隊士では気がつかない程微弱な霊圧の変化にも気がつく。双護への反撃で烈が僅かにでも実力を発揮する事は今までは一度も無かった。

 

 

「貴方は今の双護くらいの年齢で瞬歩は使えましたか?」

 

 

「俺が瞬歩使えるようになったのは席官になったくらいの時ですし、こんなガキの時にそんな細やかな霊力のコントロールなんてできませんよ。

まあ、隊長の息子なら出来ても驚きはしません」

 

 

「そうですよね…………………双護を医務室に運びます。天音、貴方はどうするのですか?朝食を食べまで行きますか?」

 

 

「そうしたいのは山々なんですけど、仕事があるもんで今日は遠慮しときます。それじゃ、また」

 

 

そう言い残して天音は自分の隊舎へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双護が目を覚ましたのは病室だった。目の前の机には朝食が並べられており横には双盾が座っていた。

 

 

「父さん………おはよ」

 

 

「あぁ、おはよう。今日もこっ酷くやられたようだね」

 

 

「僕って才能無いのかな?」

 

 

「何故そう思うんだい?」

 

 

「母さんと試合しても一撃当てる事も出来ないし、今日はしっかりと作戦立てて成功させたのにいつのまにか意識を失ってた」

 

 

双護は今朝の稽古にかなりの数の作戦を考えてきていた。しかしどれも今の双護では烈に攻撃を当てる事は叶わない。

 

そこで稽古を終えようとする直前に勝負を仕掛ける事で一撃を与えようとしていた。見様見真似でやってみた瞬歩を活用し、背後という死角からの攻撃ならば勝てると踏んだのだ。

 

 

「鬼道も霊力の玉だけなら作れるけどそれまでだし、瞬歩も普通に走るよりちょっと速い程度で何をやっても母さんが求める水準に行かない………」

 

 

「双護は期待されてるんだね、正直羨ましいよ」

 

 

「羨ましいって…………どういうこと?」

 

 

「僕じゃあ、烈さんを満たしてあげる事は出来なかった。きっと双護にその可能性を見たんだろうね」

 

 

双護は子供としてかなり大人びており、その紳士さたるや十一番隊隊士よりも紳士なのではと四番隊の間で囁かれるほど。

 

その精神年齢で忘れがちになるが、双護の年齢では鬼道や瞬歩といった霊力の細やかなコントロールはまともに行えない。剣の腕も烈の稽古についていけてる時点で一般隊士レベルはあるというのも才能の凄さが現れているといえる。

 

しかし、その彼に稽古をつけているのは護廷隊最強の死神。幾ら才能があろうとその高い壁は簡単に超える事はできない。

 

 

「双護に訓練をつけるようになってから烈さんは毎日が楽しそうなんだ」

 

 

双盾は嬉しそうに語る。双盾は烈にとって自身を満足させ得る可能性を持った異性だった。しかし、双盾の病弱さから満足のいく戦闘が出来ないまま夫婦となりそういった対象から外れてしまった。

 

 

「多分双護にはいずれ烈さんを満足させ得る才能があるんだと思う。そうじゃなきゃあそこまで厳しい稽古はつけないはずだよ?期待されているんだ。それを実感するのは今は難しいかもしれない、だけどいつか分かる時がくるさ」

 

 

「母さんを満足させる?どういうことなの?」

 

 

「そうだね…………いずれは知らなきゃいけない事だし教えておこうか」

 

 

双盾は烈の事を語った。尸魂界史上空前絶後の大罪人であった事、強き者と戦う事だけを願ってきた半生であった事、自身との出会いを。

 

双護にとってはあまりにも荒唐無稽な話で全てを理解する事はできなかったが、今の烈が愛情深い人でいることは理解出来た。

 

 

「大罪人とか、剣八の使命とかよく分からないけど………………僕もっと頑張るよ。頑張って母さんと父さんを護れる強い死神になる」

 

 

「あぁ、双護なら絶対になれるよ。なにせ僕と烈さんの息子だからね」

 

 

「よし‼︎朝ごはん食べたらお爺ちゃんの所いって稽古つけて貰ってくる‼︎」

 

 

「あぁ、そうするといい。烈さんには僕から伝えておくよ。ただ、総隊長に迷惑だけはかけちゃいけないよ?」

 

 

「はい‼︎」

 

 

双護は目の前の朝食を素早くかき込み、手を合わせてからお盆を持って足早に病室から飛び出した。

 

 

「いってきまーす‼︎」

 

 

「あぁ、いってらっしゃい」

 

 

元気に駆けていく双護を見て微笑ましく思ったのか、笑みを浮かべていた。

 

 

「さてと、僕も調子が良いし今日は少し身体を動かすかな」

 

 

双護の姿勢に感化されたのか、普段よりもそこはかとなく積極的な気分になった双盾は道場の方へと向かっていった。




スターウォーズ自体そこまでちゃんと見た訳では無いんすよ。ただ、小さい時にロードショーでやってたのをおばあちゃんが「ほら、ウルトラマンだよ。あんたコレ見とき」と言われて見てました。小さいながらオビワンとアナキンの戦いにはテンションぶち上がった記憶はありますが、どっからどう見てもウルトラマンには見えないわなぁ…………なんでウルトラマンとして見てたんやろ俺。ちなみに好きなジェダイはオビワンです。

双護くんですが、大人びたクール目の黒髪イケショタって感じです。現在の強さは斬術だけなら下位の席官と戦えるレベルで総合的な戦闘だと席官には勝てないレベルです。霊術院に通う前から隊士レベルとかチートかよ。いや、スーパー天才マンでした。それなのに天狗にならない理由は烈さんが徹底的にシゴいてるからっす。自分より圧倒的に強い人がいるって知ってたらイキることなんて出来ないですよね。あと双盾がヤベェ子事も理解はしています。
年齢感でいったら5〜7歳くらいのつもりです。2人の影響受けてクッソ大人です。俺の画力はクソなのでイラストに出来ませんが、皆さんの中で最高にイケショタな双護くんを創り上げてください。最終的には浮竹さんや京楽さんと同期になる予定です。

毎度誤字訂正ありがとうございます。めっちゃ感謝してます。
それでは感想、評価お待ちしております


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雀部、指導する

エタらんぞぉ……………俺はエタらんぞぉ………………………


卒論が佳境を迎えたり、パワプロやったり、ポケモンやったりしていて、ポケモンのTRPGシナリオを作ったりと中々更新出来ないでいました。

遅くなってもエタる事だけは絶対しないのでこれからもこの作品をよろしくお願いします。



一番隊、護廷十三隊の中で総合力において最強とされる山本元柳斎が率いている隊。滅却師の侵攻時には十一番隊よりも獣じみた集団とされていた。

 

元柳斎のカリスマ性と圧倒的な実力によって統率が取れた集団で現在の護廷では最も荘厳な雰囲気を出している隊でもある。

 

 

「お爺ちゃんー‼︎僕に稽古をつけてください‼︎」

 

 

「おぉ双護や、よう来た。稽古か…………つけてやりたいのだが儂はこれから仕事がある………長次郎‼︎」

 

 

「ここに」

 

 

元柳斎が呼びかけると元柳斎の背後に彼の副官である雀部長次郎が控えていた。

護廷隊結成前から元柳斎の右腕として居続けている男である。

 

 

「長次郎、貴様が双護に稽古をつけてやれ」

 

 

「御意」

 

 

「双護に死神がなんたるかを教えてやれ」

 

 

「早速失礼いたします」

 

 

その瞬間、双護を傍に抱えその場を後にした雀部。彼は卍解を一ヶ月で習得し、元柳斎に認めさせる程の卍解を披露したが、元柳斎のまだまだという評価を受け10年の修行をした男。

 

そのストイックさを買って隊士の訓練の教官を任せているが、その結果一番隊の訓練は護廷十三隊の中で最も厳しいと噂されるようになった。

 

そんな護廷隊きっての鬼教官として知られる雀部に指導を任せた事を卯ノ花に知られたら烈に怒られるのかと思った元柳斎は密かに言い訳を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番隊の訓練所は四番隊のそれと比べて遥かに立派なものだった。

 

 

「今の時間は任務に出ている者が多い。隊士の邪魔になる事は無いから安心すると良い」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

雀部は警戒をしていた。今までも何回か一番隊には顔を出してきていたが、まともに対応するのは今日が初めてだった。

 

あの大罪人卯ノ花ハ千流の息子なのだ。烈が隊長であった頃を知っている雀部として、あの乱暴者の子供がここまで礼儀正しい子に育つものなのかと驚愕していた。

 

 

「まずはお前の実力を確かめさせてもらう」

 

 

雀部はそう言うと浅打を双護に手渡す。いきなり浅打を手渡された事に驚く双護。烈との訓練では基本的に竹刀しか使っていない。素振り用の重い竹刀を使ったりする事もあるが真剣は持った事が無かった。

 

 

「その浅打を使って私と戦ってもらう。心配せずとも私から攻撃はせん」

 

 

「いや、でも…………真剣での訓練って危険じゃ無いんですか」

 

 

「その浅打を私に向ける事が出来なければお前は死神に向かん。ご両親には『貴公らの息子は刃を持てぬ軟弱者。死神には向かぬ』と伝えておいてやろう」

 

 

竹刀や木刀を用いた訓練で幾ら良い動きが出来ても斬魄刀は真剣なのだ。本物の刃を使いこなせ無ければ訓練の意味が無い。

 

実践に出た際に本物の斬魄刀を持っている事に怯んでいてはその身だけでなく仲間も犬死する事になる。そういった理由から一番隊の新入隊士は適正を見極める為、雀部相手に浅打での訓練をする事が通例となっている。

 

意思が弱い隊士は抜き身の刃に恐怖し、動けなくなる者や鈍る者が多い。

 

 

「…………………分かりました、いきます」

 

 

(切り替えの速さは一般隊士のソレと比べて遥かに上か。そしてこの気迫………卯ノ花隊長と似ている。手を抜き過ぎるのも危険か)

 

 

素早い踏み込みから斬りかかる双護。攻撃自体は簡単に防がれたが、めげずに連続で攻撃する。

 

 

(単調な攻撃にならないよう緩急をつけている………………段々と攻撃も鋭くなってきている)

 

 

「ここです‼︎」

 

 

瞬歩によって雀部の背後に周る双護。しかし、瞬歩を使いこなせていない双護の瞬歩では、雀部相手に不意打ちにすらならない。

 

目で追えていた雀部は背後に周り不意打ちを狙った双護に感心した。斬術だけでは無く、瞬歩を使い背後を取ろうとする戦術眼は目を見張るものがある。

 

 

「不意打ちをするなら声を出すのは悪手だぞ」

 

 

振り返り防御しようとするがそこに双護の姿は無かった。

 

 

(しまった‼︎)

 

 

「はぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

 

圧倒的に格上である雀部の反応速度を逆手にとった戦術。烈との訓練で使った戦法と似ているが今回は瞬歩を2回使用している。一度目の瞬歩は五割程度に抑え、分かりやすく背後に周り声を出した。

 

訓練という事で実力を極限まで押さえている雀部であっても反応する事は楽勝である。しかし相手が反応してから二度目の瞬歩をして再び背後を取れるほどのスピードは双護に無い。

 

そこで雀部の反応を見る前に全力の瞬歩で再び背後に周る。そして威力よりも発動の速度を最大限に考えた霊力の玉をぶつけたのだ。

 

 

 

(ふふ、なるほど。総隊長が気にかける訳だ)

 

 

「僕の実力は……………どうでしたか?」

 

 

「駄目だな、全く話にならん。霊力の操作がてんで駄目だ。それに斬術もまだまだだな」

 

 

今持てる全力を尽くした双護であったがその評価は散々なもの。双盾には頑張ると言ったがショックを隠せなかった。

 

 

「卯ノ花隊長との訓練が無い時にまた来い。お前が護廷隊に入る頃には多少マシになるように私が鍛え直してやる」

 

 

「さ、雀部さん‼︎」

 

 

「私の事は今後、師匠若しくは先生と呼びたまえ‼︎良いな、双護‼︎」

 

 

「はい、先生‼︎」

 

 

こうして、双護は新たな師を手に入れたのだった。その後暫く斬術の指導や瞬歩の訓練をした。

 

訓練が終わる頃には夕日も沈んでおり辺りが暗くなっていた為急いで汗を流し、雀部が四番隊隊舎まで送っていった。

 

隊舎の門には顔こそ笑顔だが、近くを通る隊士が冷や汗をかくほどの霊圧を解放していた。

 

その後、双盾が止めに入るまで雀部と双護は門前で正座をさせられ烈の説教を受けていた。




雀部さん、つよつよな死神のはずなのに原作では地味だったからこの作品ではそれなりに活躍させてあげたい。

山じぃは孫が出来たら甘々になると踏んだ。後日談ですが雀部さんに訓練を放り投げ帰りを遅くした事を山じぃは卯ノ花さんに怒られます。3時間くらい正座説教コースです。

初めて弟子が出来てウキウキな雀部さん。双護の事を全然駄目と言ったのは自身の卍解を山じぃに初披露した時に大した事ないって言われたのと似たような感じです。そういう所の思考は似るんでしょうねっていう妄想。


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その少年、京楽

こちら前描きにて双護くんのイラストを掲載します。

描いてくれたのは現在『童貞死神のスローライフ計画書』を書いてるはちみつ梅さんです。


【挿絵表示】


これはまごう事なきイケメンショタですね。


その日、烈や雀部との訓練が無く、暇を持て余していた双護は瀞霊廷を練り歩いていた。

 

 

「ん〜、こっちの方になんか感じるな」

 

 

烈との訓練による気配の察知、雀部との訓練による霊力の操作によって微弱ではあるが、双護は霊圧知覚が出来るようになっていた。

 

双護が向かった先は貴族が住まう区画であった。貴族は非貴族と比べて霊力が高い傾向にある為双護は反応した。

 

双護は基本的に四番隊の隊舎周りと一番隊隊舎周りしか行かない為瀞霊廷の土地勘はあまりない。

 

 

「迷った…………………」

 

 

貴族が住まうという事で、それなりに複雑になっている貴族街で目的も無く練り歩いていれば迷うのは必然であった。

 

 

「やぁ、君……………四番隊の隊長の息子だろ?貴族街に何のようだい?」

 

 

双護がどうしたものかと頭を捻っていると、双護と背格好が似た少年が声を掛けてきた。

 

 

「えっと、君は………………」

 

 

「ボク?ボクは京楽次郎総蔵佐春水。長いから京楽でも春水でも好きに呼んでくれていいよ」

 

 

「僕は卯ノ花双護っていうんだ。よろしくね、春水君。暇で散歩してたんだけど道に迷っちゃってさ、どうしよかと思ってたんだよ」

 

 

双護の話を聞いた京楽は少し考え込む素振りを見せると

 

 

「ならボクが一般区画まで案内するよ。ボクも今暇だし」

 

 

「ありがとう、助かるよ‼︎」

 

 

「気にしなくていいよ。同年代の子供って貴族街にはあんまり居ないし、居ても気持ちの良い連中じゃないしね。君みたいな感じなら好感が持てるのにね」

 

 

「でも貴族街に居たってことは春水君も貴族なんだよね?」

 

 

「一応上級貴族さ。大した権力を持ってる訳でも、一昔前の痣城みたいな武力がある訳でもない、ちょっとお金持ちなだけさ」

 

 

「昔の痣城の事知ってるなんて物知りなんだね」

 

 

痣城はかつて斬術と鬼道に優れた家系であったが今は見る影も無くなっており、不動産で築いた権力の方が知られている。痣城の武勲を知っているのは教養ある者か、一部の血縁者のみである。

 

 

「ボクの両親は君のお父さんのファンだからね。色々と調べてたみたいだよ」

 

 

痣城を追い出された今でも双盾の貴族達の人気は高く、一部の過激な者達からは卯ノ花家を貴族として迎え入れようという者までいる。

 

天音や四番隊の隊士から双盾の話を聞いていた双護は疑っていた訳では無いが、自分の父が本当に人気者なのだと実感した。

 

 

「そうなんだ…………一つ聞きたいんだけど良いかな?」

 

 

「ボクに答えられることなら良いよ」

 

 

「なんでそんなに警戒してるの?」

 

 

今2人の位置関係は双護の少し前を京楽が歩いている状態だ。

 

 

「さっきから後ろをボクが一歩踏み込んでもギリギリ届かない位置をずっと保ってる。顔はこっち向いてないけど意識はずっとこっちを向いてる」

 

 

双護が一歩を踏み込み手を伸ばしてもギリギリ届かない間合いを京楽は保っていた。その証拠に双護が距離を半歩詰めたら京楽も半歩距離をとる。

 

烈との訓練の成果なのか、気配というものに非常に敏感な双護。一対一であれば相手の意識がどこに向いているのかある程度であれば気配で察知する事が出来る様になっていた。

 

 

「ふぅん……………思ってたよりも鋭いんだねぇ。いやぁ〜、ごめんごめん。"あの''剣八の息子って言われてどんな奴か気になってね。気を悪くしたなら謝るよ」

 

 

「気にしなくても良いよ、他の隊の隊長さんとかがいつもそんな感じだし慣れてるから」

 

 

救護詰所である四番隊の隊舎には他隊の隊士だけでなく、隊長も顔を出す事が良くある。基本隊舎にいる双護は隊長達に出くわす事が多い。その際、挨拶をするのだが微妙に距離を取られている。

 

それを聞いた京楽はあははと軽く笑うと双護の肩に手を置き、サムズアップしながら

 

 

「お詫びに良いとこに連れてってあげるよ」

 

 

と言った。そうして京楽は双護を引き連れ京楽のおすすめだという場所を回った。

 

茶屋ではお茶とだんごしか頼んでいない筈なのに、女性店員からあんみつをサービスされたりしていた。

 

双護があんみつの分の代金を支払おうとすると京楽がそれを阻止し、女性店員に「お姉さん、ありがとね」とウインクした。

 

とっておきの場所があると言って双護を引っ張る京楽。京楽が向かっていたのは大人のお姉さんが沢山いる花街だ。何が何だかよくわかっていない双護にも自分には早過ぎるということだけは理解出来た。

 

京楽が花街に入ろうとした時、虎徹天音と遭遇した事で花街への侵入は無しに終わった。京楽曰く花街に美味しい定食屋があるらしく、そこに行こうとしていたとのこと。

 

花街に入ろうとした事は何故か卯ノ花へ伝わっており、双護が帰宅した後の訓練は通常の3倍厳しいものになった。




あの、京楽くんも双護君も君らほんとに子供か???????

京楽さんって絶対子供時代かろ自分の顔の良さを理解して利用してたよねって思ってます。スーパー美少年だったんでしょうね‼︎



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雀部、懐かしむ

サブタイの形式固定してる訳じゃないんですけど…………気が付いたらなんか方向性が決まってた件について。

そういえば最近、トレーナーになりました。ゴールドシップ、オグリキャップ、ライスシャワーは推してます。

アニメ神回多すぎてやべぇ。


 

流魂街、更木の外れにある空き地で雀部と双護は訓練をしていた。通常であれば一番隊の隊舎で行っているのだが、死神の任務を見学するのも悪くないだろうという元柳斎の発案で流魂街の任務に帯同したのだ。

 

 

「双護、随分と瞬歩が速くなったな」

 

 

「まだまだです‼︎」

 

 

報告が来ていた程の虚がおらず、予想以上に任務が素早く終わった為訓練を始めたのだった。

 

残った隊士は任務の後始末と調査をしており、終わり次第雀部を呼びに来る算段となっていた。

 

2人が今やっているのは瞬歩と立ち回りの稽古として双護が瞬歩を駆使して雀部に触れるというもの。雀部は双護に触れられる前に躱すか、反撃をする。

 

 

「進歩を認める事も修行の一環だぞ。お前の瞬歩は一般隊士と同じくらいには上達している」

 

 

「ありがとうございます‼︎」

 

 

自分に厳しい修行を課してきたように双護にもそうすべきと思っていた雀部は当初厳しくあたっていた。しかし、双護との訓練風景を見た元柳斎に少しくらい甘やかさんかと叱られた事で考えを改めた。

 

上達している所は素直に褒める、できていない所はしっかりと教える。このスタンスを守って指導すれば双護は間違い無く強くなると思い指導している。

 

 

「そろそろ休憩にするぞ」

 

 

「は、はい‼︎」

 

 

連続で瞬歩を使用した事で息を切らしている双護、うっすらとであるが、汗もかいている。雀部は双護の様子を確認すると持参した袋から水筒と手ぬぐいを渡す。

 

 

「腹は減っているか」

 

 

「いえ、あまり……………」

 

 

「食え、食わんと強くなれんぞ」

 

 

遠慮している双護に大きめの握り飯を渡す雀部。本当は腹が減っていたのか、凄い勢いで握り飯にがっつく双護。

 

 

「豪快なのは悪くないが、男なら慎みを持て。ほら、水ちゃんと飲め」

 

 

「ップハ‼︎美味しいです、ありがとうございます‼︎先生‼︎」

 

 

喉が詰まる程頬張った握り飯を流し込むように水を飲む双護。

 

 

「双護よ、お前は何の為に強さを求める。何と戦おうとしている」

 

 

双護は少し、考える素振りを見せた後口を開く。

 

 

「何の為にと言われると難しいんですけど…………僕の大事なものを護れる死神でありたいです。父さんや母さん、春水くん、先生を護れるくらい強くなってもしもの時に後悔しないようにしたいです」

 

 

雀部は思わず目を丸くした。長い間、元柳斎の為に強さを磨き続けてきた。死神として無辜の民や世界の安定の為に戦い続けてきた。

 

自分は護る者であり、護られる立場では無い。剣をとったばかりの未熟な自分ならまだしも、今の自分に対して面と向かって護ると言われたのは初めてだった。

 

 

「そうか、護ると言うのか。この私も護るというのか」

 

 

「多分死神としての矜持とか、剣八の息子としてとか色々考えなきゃいけない事があるのは分かってます。でも…………今の僕じゃそんな事を考える事は出来ません。色々な人が僕に期待してくれてる、その期待や恩に応えるにはその人達を護れるくらい強くなる事くらいかなって」

 

 

「ふっ、ふはははは‼︎」

 

 

 

「な、何で笑うんですか⁉︎」

 

 

「いやぁ………悪い悪い、未熟な小童に護ると言われたんだ。可笑しくてな」

 

 

双護の話を聞くやいなや腹を抱えて笑う雀部。幼いながらも強い意志を語った双護に昔の自分を重ねたのか。元柳斎の右腕でありたいと語った若き自分と双護に似たモノ感じ、懐かしくなったのだ。

 

初心忘れるべからず。物事に慣れると慢心してしまいがちだが、最初の頃の志を忘れてはいけないという意味の言葉。雀部自身慢心している訳では無い、寧ろ常日頃から己を厳しく律し研鑽に励んでいる。

 

双護を指導するようになってから、初めて出来た弟子に恥ずかしくないように鍛錬も厳しくしてきたつもりだった。

 

 

「お前の考えはとても大事な事だ。だが、護たいものがあるなら強くなれ。力なき正義は無力でしかない。そして心を鍛えろ、正義なき力は暴力だ」

 

 

正義なき力……………十一番隊の隊長になる前の烈がまさにそれだった。手当たり次第に刀を振り回し、近づく者全てを斬り捨てていた。

 

雀部も元柳斎の右腕として当時の彼女を見ていたが故に心が伴わない力が如何に危険なのか、それを知っている。

 

隊長となってから大人しくはなったが、それでも危険である事には変わらなかった。双盾と出会い変わった。

 

双護は変わった烈と双盾の2人によく似ている。それ故に烈が抱えていた危険なものを孕んでいる可能性もあるのだ。

 

危険性を理解している為正しく導かねばならないと強く感じていた。

 

 

「はい、頑張りま…………先生、この感じって」

 

 

「これは……………双護よ、今日の訓練はこれまでだ。お前は急いで瀞霊廷に戻れ。私は隊士を回収してから戻る」

 

 

突如として2人の身に降りかかる身を潰すような冷たく、重い重圧。雀部にとっては慣れた感覚であり、双護にとっては初めての感覚だった。

 

 

「いやでも、これだけ近いと僕の瞬歩じゃ………」

 

 

「確かに、これ程の数の虚。特殊な奴もいるな……………それならお前を1人にする方が危険か。良いか、双護。絶対に私の側を離れるんじゃないぞ」

 

 

2人が感じたのは大量の虚の霊圧だった。任務で討伐した虚の数の数十倍はいるであろう数だ。一番隊の隊士は他隊の隊士に比べてエリート揃いだが、2人が感じた量の虚に対処しきれる物量では無かった。

 

雀部は双護を抱き抱えると瞬歩で虚が発生した場所へ向かった。

 

 

 

 




雀部さんが何故双護くんを逃さずに一緒に虚の所に行ったかと言うと、

・大量の虚を感知した以上双護を1人にするのは危険。雀部単身で隊士の元に向かっても撃ち漏らしなどがあり取り逃せば一人で逃げる双護に対処する事は出来ない

・天挺空羅を使ってる隙がない

・双護を逃してからでは隊士の救出には間に合わない

・隊士と合流出来れば大量に虚がいるとはいえ、双護を守りながらでも戦える。最悪の場合は隊士を護衛につけて双護を離脱させる事が出来る


以上の点からの行動です。雀部さんがそう言う言動するかは分からないですがこの作品の雀部さんはそう判断しました。

俺は何としても雀部さんをオサレに活躍させてぇんや‼︎楽しんでくれぇ‼︎


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姫乃、頑張る

今回、はちみつ梅さん作の「親の七光り」の主人公、如月姫乃ちゃんが登場します。

はちみつ梅さんからは出しても良いよと許可をいただいています。

「親の七光り」「BLEACHの世界でウサギに転生したお話」に関してのネタバレ要素も含むので、読んでいない場合は是非読んでください。ドチャクソ面白いです。


任務如月姫乃にとって今回の任務は簡単な任務の筈だった。

 

更木で虚複数発生している虚の討伐と原因の調査、三席に昇進したばかりの姫乃にとって最初の任務だった。

 

小隊を伴っての任務で姫乃の指揮能力の試験でもあった。発生していた虚は報告よりも多かったが、手早く討伐することが出来た。

 

監督官として来ていた雀部も残りの調査は姫乃に任しても問題は無いと双護を連れその場を離れた。

 

これといった原因も見つからず、瀞霊廷に帰ろうと支度を始めた時、何処からか任務時とは比べ物にならない程大量の虚が現れた。

 

 

「陣形を乱すな‼︎1匹ずつ確実に対処していけ‼︎」

 

 

「しかし、如月三席‼︎数が多過ぎます‼︎」

 

 

「喋る隙があるなら手を動かせ‼︎」

 

 

任務での消耗もあり、突如発生した虚の対応で状況は推されていた。

 

既に複数の隊士は戦闘に参加できない負傷を負っている。

 

 

「如月三席、たすけ…………………」

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

「〈破道の四 白雷〉」

 

 

負傷した隊士を鷲掴みにし、大口を開けている虚に向かって鬼道を放つが、その虚が咆哮をあげると別の虚がそれを庇った。

 

そして虚はそのまま掴んだ隊士を口へと運ぶ。隊士の断末魔は戦場に響く事なく、虚の唸り声に掻き消される。

 

虚は1人、また1人と隊士を口へと運んでいく。助けだそうと攻撃を仕掛けるが咆哮する度に周囲にいる別の虚が庇う。

 

統率し、群れを成す虚自体は珍しくない。規模の大小はあれどよくある話だ。しかし、これ程の規模を率いるというのは前例が無かった。

 

 

「あれが統率者……………あの変化はなんだ?」

 

 

死神を食す度に姿を少しずつ変えていく虚。巨大虚としては小柄な方であるが巨木のような両腕、背中からは斬魄刀を思わせるような刀状の棘が無数に生えている。何の変哲もない能面のようだった仮面もいつのまにか般若の面のようになっていた。

 

群れを成す虚の対処は統率者を発見し、迅速に討伐するというのが定石である。

 

 

「総員、聞け‼︎これより戦線からの離脱を測る。私が隙を作るから動ける者は負傷者を抱え戦線を離脱しろ」

 

 

「三席‼︎我々はまだ戦えます‼︎それに雀部副隊長もいらっしゃる筈です‼︎まだ立て直しは出来ます‼︎」

 

 

「副隊長は双護殿の避難を優先するだろう、そうなると合流は遅れる。それを待っていては被害は増すばかりだ。議論の余地は無い、上官命令だ。拒否する事は許さん」

 

 

護廷隊士は瀞霊廷における軍隊である。上官からの命令は絶対なのだ。若いながらも精鋭揃いの一番隊の三席を任せられる姫乃の指示を拒否する事はこの場にいる隊士には許されないのだ。

 

 

「〈破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)〉」

 

 

鬼道は番号は後半に行けば行くほど高い効力を発揮する。破道となれば威力に直結する。高位の破道を統率者の虚に向けて放つ。

 

虚は咆哮し周囲の虚を盾としようとしたが、詠唱破棄したとはいえ一番隊三席が放った八十番代後半の破道だ。有象無象の虚如きでは壁にすらならない。

 

姫乃の飛竜撃賊震天雷砲が直撃し、統率者の虚の周囲は白煙に包まれ、周囲の虚は動きを止めた。それを確認した隊士達は一斉に動き出し、戦線からの撤退をした。

 

 

白煙が晴れると半身が吹き飛んでいる統率者の虚がいた。しかし、吹き飛ばされた筈の半身を補うようにして周囲の虚が取り込まれていく。

 

再生するに伴い巨腕は右腕が刃こぼれした刀のような形状、左腕が斧のような形状に変化した。

 

 

 

「周囲の虚を使って再生………………いや変化した。まさか大虚?いや、再生前はあれほどの霊圧は……………⁉︎」

 

 

しかし、今姫乃は囲まれている。動きを止めている獲物は格好の的になってしまう。

 

再生と変化が完了した事で周囲の虚が一斉に攻撃を再開したのだ。姫乃は瞬歩の要領で空中へ飛び上がる。

 

 

「数が多い…………先ずはまとめて吹き飛ばす‼︎ 千手の涯、届かざる闇の御手、映らざる天の射手、光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ〈破道の九十一 千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)〉」

 

 

無数に形成された三角状の光弾が群がる虚を殲滅すべく発射される。

 

高位の破道は威力が高い分、範囲が広い。高威力の鬼道を扱うには周囲の被害を考えて使わなければならない。隊士が固まっている状況では高位の鬼道を扱うのは難しい。しかし、姫乃1人となった今は存分に発動出来る。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

統率者の虚が雄叫びを上げると、口元に赤色の霊圧が収束されていく。

 

死神の鬼道のような綿密なコントロールがなされたものではない単純な破壊の光線。

 

 

「虚閃⁉︎くっ、〈縛道の八十一 断空(だんくう)〉」

 

 

空中にいる今の姫乃は格好の的である。その隙を逃さず、統率者の虚は虚閃を放ったのだ。虚の中でも上位の存在、大虚が放てる技を。

 

着地を狙って攻撃して来た通常の虚を斬り捨て無事に着地をする。

 

 

「死神を喰らった事で霊圧が変質している………いや、元からなのか。隊士を喰らう前よりは変わっているがそれほどじゃない。落ち着いて見てみれば無茶苦茶混濁した霊圧してるな」

 

 

姫乃は特殊な斬魄刀であり、斬術による白兵戦はさほど得意ではない。しかし霊力の綿密なコントロールを要求される鬼道が得意という事は霊質解析も得意という事。

 

並外れた解析能力と霊力操作。この2点で如月姫乃は一番隊の三席へとのし上がった。

 

 

「隊士の霊圧、その他にも……………これは⁉︎」

 

 

姫乃は統率者の虚の霊質解析を始めて気付いた。この虚の中には虚とは別の化け物がいると。

 

血に飢えた獣、殺意に満ちた悪鬼羅刹。並の隊長格とは比較にならない程威圧的な霊圧を感じたのだ。

 

統率者の虚の霊圧は喰らった魂魄が混濁し過ぎてなのか安定していない。

 

 

「時間をかけ過ぎて霊圧が安定したら……………これはやるしかないかな」

 

 

周囲に群がる普通の虚を斬り捨てながらも冷静に解析をしている。統率者の虚も自身の霊圧が安定しない事を自覚しているのか自ら積極的に攻撃しようとはしない。

 

背中に生やした斬魄刀のような棘を僅かに震わせている。そうする事で周囲の虚が動き出している。咆哮による指示とは別の指示方なのか、それとも咆哮はフェイクなのか。

 

何はともあれ、周囲の虚の攻撃を辞めさせるには統率者の虚に攻撃を仕掛け、指示させないように立ち回るしかない。

 

 

「謀れ 鬼毒丸(きどくまる)

 

 

なんの変哲もない斬魄刀は銀色の弓と鎖の付いた矢に変化した。瞬間、周囲の虚達が若干ではあるが反応を見せる。

 

かつて瀞霊廷を襲撃した滅却師(クインシー)、彼らは弓を武器として扱う。死神と違い滅却師は霊力を持つ人間であり、彼らの目的は虚を消滅させること。

 

護廷十三隊結成当時に死神と抗争を起こして滅ぼされているが、それまでに数多くの虚がその存在を消滅させられている。

 

その本能の片隅に残った何かを感じたのか、それとも姫乃の斬魄刀の異質さを悟っての反応なのか。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

「〈破道の十一 綴雷電(つづりらいでん)〉」

 

 

姫乃は弓を引くような動作で統率者の虚に狙いを定めると矢を放つ。狙い通り姫乃の攻撃は統率者の虚に当たり、突き刺さる。痛みなのか咆哮を上げながら、なんとかして矢を引き抜こうとするが、矢に付いている返しが引き抜けないよう食い込んでいる。

 

そして、隙は逃さないとばかりに物体に雷撃を沿わせる鬼道を叩き込む。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

「くっ、この馬鹿力が‼︎」

 

 

統率者の虚は引き抜くのを諦め、鎖を使い姫乃を引き寄せた。大虚(メノスグランデ)が使う虚閃を使っている以上、この統率者の虚は最低限でも最下級大虚(ギリアン)、強くて中級大虚(アジューカス)相当の力はある。

 

見るからに白兵戦向きな大虚相当な統率者の虚相手に姫乃は舌打ちをする、また自身の手札をきらねばならぬのかと。

 

 

「砕け 天魔」

 

 

姫乃がそう呟くと刺さっていた矢は斧、弓はハンマーへと変化した。

 

統率者の虚は姫乃の斬魄刀が変化した事はお構い無しに左腕の斧を姫乃に向かって振り下ろす。

 

虚の間合いに入る直前に、瞬歩で間合いを詰める。そしてそのままハンマーを虚の顎に向け振り上げる。

 

「得意じゃないってだけで近接も出来るんだよ‼︎」

 

 

「◼️◼️◼️‼︎」

 

 

顎をかちあげられた事で耐性を完全に崩す統率者の虚。姫乃は統率者の虚の身体を足場に頭上へと飛び上がる。

 

 

「天面砕きぃ‼︎」

 

 

斧とハンマーは鎖で繋がっており、斧の方は未だに虚の体に突き刺さっている。鎖を引き寄せながらハンマーに綴雷電を流し、仮面に向かってハンマーを振り下ろす。

 

姫乃渾身の一撃は般若の面にも似た仮面を砕き割った。姫乃はそれを見て勝ちを確信した。虚の弱点は仮面であるとされ、若手隊士には積極的に仮面を狙うように教育するのが常である。

 

 

「◼️◼️◼️…………………‼︎」

 

 

先程までの肌を指すような圧力など微塵も感じられない咆哮。姫乃は雀部の到着する前に統率者の虚を討伐出来たと確信し、始解を解除する。

 

 

「ッ!?しまっ…………カハッ‼︎」

 

 

突如、背後から腹部にかけて虚の尾が貫通していた。

 

周囲にいる虚を警戒していないわけではなかった。統率者の虚という変異体にばかり気を取られていた事が災いしたのか、周囲の虚の中に特殊な能力を持つものがいる可能性を考えていなかった。

 

隠密性に優れた虚の死角からの一撃、勝ったと油断していなければ対応出来ていた可能性もある。姫乃は己の未熟さを呪う。

 

 

仮面を砕かれた虚は再生はしているが、そのスピードは飛竜撃賊震天雷砲で半身を吹き飛ばした時に比べればかなりゆっくりであった。

 

 

「くっ…………そぉぉぉぉぉ‼︎」

 

背後から尾による攻撃をしてきた虚を振り向きざまに斬り捨てる。

 

覚えたばかりの回道で止血を試みるが、いくら霊力の綿密な操作が得意な姫乃といえど戦闘中の応急処置も時間がかかってしまう。

 

 

「毒は効いてる…………い、今のうちに………」

 

姫乃が最初に放った鬼毒丸は毒によって相手の能力を謀るというもの。死神や周囲の虚と言った魂魄を乱雑に喰らっていた事で死神と虚両方の因子を獲得していた統率者の虚に死神の因子が毒となるように仕向けたのだ。

 

滅却師にとって虚の因子が毒であるように死神の因子が統率者の虚にとって自身を蝕む毒となるように仕向けた。

 

 

「くそ、血を流し過ぎてる……………」

 

 

不意の一撃で致命傷に近いダメージを負った姫乃。本来であればまともに動ける身体ではなく、四番隊の隊士による専門的な治療が必要なレベルのダメージだ。

 

再生を終えた統率者の虚が血を流し、今にも倒れそうな姫乃を見つめていた。自分を殺し得る攻撃を二度も放っている。その姫乃と戦えているのが嬉しいのか、今にも倒れそうな姫乃相手に勝ち誇っているのか笑みに似た表情を浮かべていた。

 

トドメを刺そうと刀のような右腕を振り上げ、ゆっくりと姫野に近づく統率者の虚。

 

 

「勝ち誇ったかのような笑みだな……………だが、この勝負私の勝ちだ」

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

突如、轟く雷鳴。次の瞬間、統率者の虚や周囲の虚を狙ったかのように雷が落ちる。

 

一体、また一体と雷が降り注ぎ虚達を薙ぎ倒していった。

 

そして、姫乃の側に降り立つ二つの影。

 

 

「よくぞ、私が来るまで持ち堪えた。如月三席、応急処置の次いでで構わん。双護の事を頼む」

 

 

「全く……………この弟子馬鹿は。双護殿、こちらへ」

 

 

雀部が到着した事で姫乃は止血をしながら双護を抱き寄せ、結界を張る余裕が生まれた。

 

霊圧の影響を和らげる結界、衝撃を和らげる結界、熱を遮断する結界と三種類の結界を立て続けに張った。

 

 

「三重の結界をこんな簡単に…………」

 

 

「止血しながらでなければ瞬きする間にやってみせるのですが……………双護殿ならすぐに出来る様になります」

 

 

現在の双護が苦手としている複雑な霊力の操作をハイレベルで披露した姫乃に尊敬の眼差しを向ける双護。

 

 

「ウォッホン‼︎双護よ、お前には師匠として死神に必要な技術、心構えを教えて来た。今日はこれから死神の戦闘における切り札というものを見せてやろう、お前の師匠としてな」

 

 

そんな双護を見てなのか、わざとらしく咳き込み注意をひく雀部。自分こそが双護の師匠であると姫乃にアピールするかのように師匠と言う度に姫乃の方を見る。

 

入隊してから威厳と実力、人格を兼ね備え近づき難いと感じていた副隊長が露骨なアピールをしてくる普通の人だと知った姫乃。

 

姫乃としてはここまでイメージが急変すると笑うしか無かった。

 

 

「2人とも、そこで見ておけ。これが卍解だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

卍解(ばんかい)     黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)

 




姫乃ちゃんが使った斬魄刀の詳しい能力についてははちみつ梅さんの作品をご覧ください。鬼毒丸は重要な場面での登場ですので。

天魔という斧とハンマーのやつは僕が考えたやつですのではちみつ梅さんの作品に登場しません。マイティ・ソー見たらやっぱハンマーとか斧を武器として使うのってええなって。


姫乃ちゃんが思ってた5倍くらい活躍してくれたので今回は筆が進みました。
師匠アピールする英国紳士風男性可愛くね?可愛いよね。

次回、雀部さんが卍解で大暴れします。


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雀部、戦う

もっともっともっと雀部さんのカッコいい所が見たいでごんす。

入社日でした。僕のデスクが社長の目の前なのは精神的に辛いです


黄煌厳霊離宮、雀部長次郎が習得した卍解。楕円形の霊子を上に一本、下に十一本伸ばした形をしている。

 

 

「ふむ、先ずは周りの雑魚から片付けるか」

 

 

雀部はレイピア状に変化した自身の斬魄刀、厳霊丸を真っ直ぐに振り下ろす。すると霊子の帯を伝い、上空から雷が落ちる。

 

先程雀部が姫乃を助ける際に放った落雷とは威力が段違いであった。一度の落雷で十数体の虚を消し炭としていく。

 

 

「双護よ、以前始解について教えたな?」

 

 

「はい、斬魄刀との対話を通して斬魄刀の名を知る事です」

 

 

「うむ、上出来だ。卍解を習得するうえで必要なプロセスは二つだ。具象化と屈服、この二つの工程を経て卍解と習得となる」

 

 

始解をするには斬魄刀との対話を通して斬魄刀の名を知る事で可能となるが、卍解は斬魄刀の本体を自分がいるところに呼び出し、そして屈服させる事で斬魄刀本来の力を卍解という形で引き出せるようになる。

 

その戦闘力は始解の五倍から十倍になると言われている。

 

 

「しかし、卍解は習得して終わりという訳では無い。使い熟す為の修練をせねばならん」

 

 

双護に授業をしながら片手間で虚を殲滅していく雀部。雨かのように次々と落ちる雷に虚達はなす術もない。

 

ここで雀部を危険と判断したのか、虚閃を放つ統率者の虚。虚閃は雀部に着弾する前に落雷によってかき消される。

 

 

「如月三席の力で消耗させてもこの威力か…………よくぞ1人で押し留めたな如月三席」

 

 

「お褒めの言葉はいいので早くちゃんとした治療受けさせて貰えませんか?貧血なのか少しフラフラするんです」

 

 

「ふっ、その減らず口がきけるなら大丈夫そうだな」

 

 

現在、統率者の虚は姫乃が使用した鬼毒丸の能力によって死神の因子が毒であると誤認した状態である。

 

死神を喰らい変化した虚にとって死神の因子が毒になるということは自身の存在そのものが自身を滅ぼす毒となるという事。統率者の虚の霊圧は徐々に下がってきていた。

 

降り注ぐ雷の中、足を止めていては雀部に勝てないと判断した統率者の虚は咆哮を上げながら雀部へと突撃した。

 

 

「間合いを詰めてきたか。馬鹿の一つ覚えで虚閃ばかり撃ち続けていれば楽なものを」

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

「その斧の方は取り上げさせてもらうぞ」

 

 

統率者の左腕を斬り捨てた。斧であった左腕を斬られ、痛みからか悶え苦しむように唸る統率者の虚。再生させようと自身の霊力を高めるが再生は行われない。

 

厳霊丸によって斬られた左腕の切り口に厳霊丸の霊子の残滓が帯電しており、それが再生を阻害していたのだ。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

再生を諦めたのか、右腕の刀で攻撃をする統率者の虚。しかし、雀部は慌てる事なく紙一重で避ける。そして、後ろ回し蹴りで統率者の虚を蹴り飛ばす。

 

 

「倒せる敵は倒せるうちに倒せ。下手に追い込んで限界を超えた力を出され負けるという事がある。我々の戦いにおいて敗北とは死に繋がる。追い詰めたのなら最後までトドメを刺せ」

 

 

目にも止まらぬ速さで厳霊丸を振るう。すると統率者の虚の身体は少しずつ斬り刻まれていく。

 

 

「戦闘に娯楽を見出すのも結構だが、獲物の前で舌舐めずりするような者は三流でしかない」

 

 

統率者の虚はなんとか反撃しようとするが、姫乃の放った毒によるダメージと雀部による再生の阻害によってダメージは少しずつ増えていた。

 

 

「この一撃をもって今回の授業をお終いとしよう。変異体の虚よ、避けれるものなら避けてみろ」

 

 

厳霊丸を天に掲げると統率者の虚の上空に雷雲が集まり出す。天相従臨、一部の斬魄刀に備わっている天候すら支配してしまう程の能力。

 

雀部の厳霊丸にもその天相従臨がある。雀部はこの天候すら変えてしまう程の力を持って元柳斎に消えぬ傷を与えている。

 

 

「はぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

 

雀部が厳霊丸を振り下ろすと上空からこれまで降らせてきた落雷とは比べ物にならないほど濃密な霊子を圧縮させた巨大な雷が統率者の虚を襲う。

 

雷に焼かれながらも統率者の虚はなんとか動こうとするが徐々に体が焼き切れて消し炭となっていく。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

断末魔のような咆哮を上げながら消えていく統率者の虚。しかし、その咆哮は何処となく満足しているかのようなものにも感じた。

 

統率者の虚が消え去った後、そこには刃こぼれした斬魄刀が地面に突き刺さっていた。

 

 

「これは………………如月三席、この斬魄刀を結界で覆い瀞霊廷へと持ち帰れ」

 

 

「了解しました」

 

 

雀部の指示を聞いた姫乃が一瞬のうちに刃こぼれした斬魄刀を結界で覆う。

 

 

「双護よ、卍解とは己の心の在り方を写す鏡のようなものだ。身体的な強さ、技術は当然鍛えていかねばならないが、それ以上に心の強さを鍛えるのだ。そうすればお前も卍解に至る事が出来るだろう」

 

 

「はい‼︎」

 

 

雀部は本当であれば卍解は秘匿したままだった。彼の卍解は元柳斎の為のものなのだ。そんな自分の信念を曲げてまで卍解を使ったのは双護に対する期待からなのだろうか。

 

先程の光景が目に焼きついているのか、興奮した様子の双護を見ておもむろに双護の頭を撫でる雀部であった。




今回の話って雀部さんを活躍させてぇ!!っていうマインドで書き始めたんですけど書いてみたら足りないですわ。

もっと雀部さんのカッコよさを表現してぇです。

そろそろ双護くんの霊術院編です。京楽さんだけじゃなく浮竹さんも出てきますね!!頑張ろ


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隊首会、開く

隊首会というのは基本的には月に一度開かれるものである。しかし、瀞霊廷を揺るがしかねない事件などが起きた際に一部の隊長の呼びかけで緊急に開催する事が出来る。

 

 

「これより緊急の隊首会を開催する。議題は流魂街は更木に出現した大軍の虚とそれを統率していた変異体虚についてだ」

 

 

変異体の虚というワードにざわつく隊長達。滅却師の襲撃以来、隊首会が開かれるような虚の出現は無かったからだ。

 

 

「事件の詳細については一番隊三席如月姫乃から語ってもらう」

 

 

後方で控えていた姫乃が前へ出てきて一連の流れについて語る。

 

小隊を率いて大量発生したという虚の殲滅と原因の調査という任務の為更木に赴いたこと。

 

突如報告を受けていた数倍の虚、数にして100は超えているであろう虚の大群。それを率いるかのように存在する特異な虚。

 

詠唱破棄とはいえ八十番代後半の破道を受けても高速で再生し、虚閃を放った事、最終的に別行動していた雀部が合流後討ち取った事、虚の死骸からボロボロになった斬魄刀が現れた事。 

 

 

「その斬魄刀というのはどのようなものなのです」

 

 

焦る様子も見せず沈黙を貫いていた烈が発言する。顔には出さないが彼女には嫌な予感がしていた。

 

姫乃が持ってきた木箱の中から結界で封じているが漏れ出している霊圧を烈は知っていた。

 

 

「これが、その斬魄刀です」

 

 

木箱を開けると刃こぼれをした斬魄刀があった。形状から浅打ではないというのが分かるが、嫌な霊圧を放っているというのは何も知らない隊長達にも理解出来た。

 

 

「私なりに霊質解析をしたところ、この斬魄刀が放つ霊圧と変異体の虚の霊圧は極めて酷似していました。その上で私の結論はこの斬魄刀を持つ死神を虚が喰らった事で変異し、軍を率いる程になったと言うことです。しかし、これほどの霊圧を放つ斬魄刀を持つ隊士がそうそう負ける訳がない、そしてこの霊圧を持つ隊士を私は知らない」

 

 

「その斬魄刀を持っていた者は流魂街に住んでいた少年でしょう」

 

 

烈の発言にどよめく隊長達。姫乃の霊質解析の腕前は隊長達の間でも話題に上がる程のものであり、その姫乃の解析から知り得ない情報を烈が出したからだ。

 

 

「ふむ、その口ぶりからすると何か知っておるようだな」

 

 

「あれは私が双護を産んだばかり頃の話です。出産の影響か霊力の回復が出来ていない状態で私単身の出撃命令がありました」

 

 

「血染めの花嫁か。して、その話と今回の事件の関連性は?」

 

 

「私が更木に着いた時には貴族の死骸の上にいる少年がいました。その少年の持っていた斬魄刀がその斬魄刀です」

 

 

血染めの花嫁、瀞霊廷では有名な事件である。卯ノ花双盾と烈による貴族の大量虐殺事件とされている。烈は結果的に証拠不十分という事で罪に問われなかったが血だらけの双盾を抱えて瀞霊廷を歩いていた姿を目撃されていた。

 

その様子からこの事件は血染めの花嫁事件として瀞霊廷の語るべきでないものとして扱われている。

 

 

「霊力の回復が追いついていなかったとはいえ、当時の少年の単純な戦闘力は全快時の私以上でしょう」

 

 

護廷最強の称号、剣八の名を語ってきた烈の強さは隊長達の知るところ。その烈よりも上の実力であると言うことは元柳斎ですら瞠目した。

 

より強い者との戦いを求め強さと言うものに誰よりも貪欲であった烈が認めた己より強き者。

 

今の瀞霊廷において烈より強いといえる人物は元柳斎しかいない。

 

 

「鬼道、卍解…………私の持ち得る全てを使ってようやく勝つ事が出来る相手でした。あの少年が成長すれば私以上の剣八になっていたでしょう」

 

 

「なるほど、それ程の死神を喰らったのであれば今回の事態も把握は出来た。この斬魄刀は儂の方で預かり後日零番隊へと提出するが良いな?」

 

 

「私は構いません。少年の弔いは既に済ませています」

 

 

烈の言葉を追うようにして隊長達が同意を示す。

 

 

「如月三席、この斬魄刀を持って下がるがよい。それでは次の議題だ。仮称ではあるが真央霊術院についてだ」

 

 

姫乃が斬魄刀を木箱に戻して部屋を出て行くのを確認した元柳斎は次なる議題に入った。

 

死神の育成機関、真央霊術院の設立の目処が立ったのだ。貴族の根回しや教員、教材の手配などやる事山積みであったがそれも無事に終了した。

 

今回の隊首会を通して瀞霊廷に生徒の募集がかかる事になった。

 

 

「才能のある者は流魂街出身でも可能な限り推薦せよ。任務のついでで構わん。それでは今回の隊首会はこれで終わりとする、解散‼︎」

 

 

隊長達がぞろぞろと部屋を出て行く中、烈はその場に残っていた。

 

 

「お主をそうさせる程その少年は強かったのか」

 

 

元柳斎から見た烈の表情には悔恨の色が見えた。

 

 

「強さだけならいずれ貴方を超える死神になったでしょう。かつての私と同じ血に飢えた獣としてですが」

 

 

「双護では儂を超えられないと?」

 

 

元柳斎にとって孫にも等しい双護であるが、贔屓目無しに見てもその才能は圧倒的なものだ。真っ当に訓練と経験を積めば自身を超えると元柳斎は考えていた。一部の隊士からは総隊長が孫馬鹿になったと噂されているが。

 

 

「まさか、私と双盾さんの息子です。初代剣八の名において史上最強未来永劫無敵の死神にしてみせます」

 

 

「ほっほっほ、そうなれば儂も隠居が出来るのぅ。2人目は女の子だと嬉しいのう」

 

 

快活に笑う元柳斎はまさに孫の成長を期待する祖父そのものだった。

 

 

「現世でのハラスメント行為は死罪ですよ?私が介錯してさしあげましょうか?」

 

 

「お主はいつまで経っても辛辣だな。双盾も苦労するな」

 

 

「そんなに斬られたいのならはっきりと仰ってください。スッパリといってあげます」

 

 

落ち込んでいた様子の烈がいつもの調子を取り戻したのを確認した元柳斎はこの後、烈を煽るだけ煽って全速力で逃げた。

 

その結果、一番隊の隊舎が一部半壊するという事件が起こり雀部の胃に穴が空いた。

 

 




隊舎の一部が半壊していますが元柳斎先生も烈さんも斬術と白打しか使用していません。化け物ですね。修繕に関する手続きとか諸々雀部さんに丸投げするので雀部さんの勤務時間が伸びます。一番隊は意外とブラック。



烈さんと2人きりの時は元柳斎先生はパパモードになります。双護くんに対しては常時お爺ちゃんモードです。一番隊隊舎に来る度に秘蔵の茶菓子とかあげてます。

・隊舎に顔を出し元柳斎から秘蔵の茶菓子を貰い、元柳斎の立てた抹茶を飲む。

・雀部と座学という名のお茶会その後訓練

・夕飯前におやつを食べた事が烈にバレ、元柳斎と雀部が怒られる。


割とこんな流れが多いです。これに如月姫乃という鬼道の先生が加わりますね。双護くんの先生&保護者がどんどん増えていきます。


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嵐呼ぶ三羽烏と学舎
双護、入学式!!


四番隊隊舎にある道場。普段であれば負傷した隊士達のリハビリなどに使われているが、今は双護と烈の2人だけだった。青の袴、白い着物を着た儚げながらも力強い瞳をした青少年へと成長した。

 

2人は今道場の中央にて木刀を構えて相対していた。

 

 

「母さん、今日は入学式なんだからお手柔らかに頼むよ」

 

 

「手加減をして欲しいならそう言いなさい。なら片手でお相手しますか?」

 

 

「それはちょっと嫌だな」

 

 

「来なさい」

 

 

烈の言葉が引き金となったのか、双護は瞬歩で烈との間合いを詰める。素早く振り抜いた一撃を烈は容易く受け流す。

受け流された事で体制が崩れた双護だったが倒れる前に瞬歩で背後へと回り込む。

 

 

「狙いは良いですがバレていては意味がありませんよ‼︎」

 

 

烈は振り向きざまに木刀を横一閃に振り抜くがそこに双護はいない。

 

 

「そう何度も同じ手は使わないよ〈破道の三十三 蒼火墜〉」

 

 

間合いを詰めていた双護だったが一瞬での間合いから離脱していた。そして詠唱破棄の鬼道を唱え、蒼い炎が烈を襲った。

 

 

「室内では火気厳禁ですよ」

 

 

小規模であるとはいえ鬼道を霊圧のみで掻き消す烈。

 

 

「母さんにはあの程度効かないんだから良いじゃんか。威力抑えて撃ったし火事とかにはならないでしょ」

 

 

「全く…………誰に似て減らず口が上手くなったのか」

 

 

ため息を吐きながら双護との間合いを瞬歩で詰め、攻撃する烈。成長した双護は小さい頃のように何も出来ず一方的に打ちのめされるという事が無くなった。

 

その技量は斬術と瞬歩だけでいえば烈の六割の実力に届いている。

 

下手に手を抜けなくなり嬉しくなる烈。元柳斎や雀部といった護廷隊の中でもトップクラスの死神達に指導を任せた事で柔軟な思考活かしながら戦えるようになった。

 

 

「勝負中に考え事は駄目でしょ‼︎」

 

 

「なら今の貴方なら余裕ですからね。悔しかったらもっと攻めてらっしゃい」

 

 

「ならその余裕無くして見せるよ‼︎」

 

 

烈の木刀と双護の木刀がぶつかる瞬間、烈の木刀が爆ぜた。

 

 

「な⁉︎」

 

 

すぐさま追撃しようとする双護。しかし、双護の木刀は双護が振ろうとした時にはボロボロの炭となった。

 

 

「双護…………今のは………?」

 

 

「前に姫乃姉さんが綴雷電を斬魄刀に纏わせて虚を斬ってるの見せてもらって思いついたんだよね。春水君から聞いた話だと白打と鬼道を合わせた戦術もあるらしいし斬術と鬼道を合わせるのも面白いかなって。練習してみたらコントロールが難しいから一瞬だけならと思ってやってみたけど失敗だった」

 

 

烈は驚愕を隠せなかった。双護が披露した技術は瞬閧というものだったからだ。高密度に圧縮した鬼道を手足に纏わせ攻撃の瞬間に炸裂させる白打の最高戦術であり、隠密機動の総司令のみが扱える技術。

 

綿密な霊力のコントロールと技の負荷に耐えられる身体、白打の技術が必要とされる超高等技術だ。

 

烈も現在の隠密機動の総司令と戦っており、その威力は目の当たりにしている。護廷の隊長でも限られた者しか知らない技術を発想のみで未熟ではあるが、実現してみせたのだ。

 

烈は我が子ながら恐ろしいと感じると同時に嬉しくなった。自分の息子は間違いなく烈や双盾を越えた死神となると確信した。

 

 

「発想は悪くありませんね。ただし、霊力のコントロールがまだ稚拙です。その技は少しずつ練習していきなさい………………そういえば霊術院の入学式は何時からなのですか?」

 

 

「あ」

 

 

「もう始まってますね、急いでいってらっしゃい」

 

 

驚いた表情を取り繕いながら母親として振る舞う。急いで片付けて道場を飛び出す双護。

 

この時点で双護の遅刻は確定している。双護が飛び出していったのを確認した隊士がおそるおそる道場へ入ってきた。

 

 

「申し訳ありません、隊長。お時間だと伝えようとしたのですが…………お二人の霊圧が凄過ぎて気絶しかけてました」

 

 

烈が剣八であった事を知る隊士は少なくなっており、現在の烈しか知らない者が多くなってきている。知っている者も烈が剣八であった事を忘れかけている節すらある。

 

優しい隊長としての印象が強くなってきている烈。新人隊士達の間では「あの優しい隊長が血染めの花嫁事件なんて起こすわけがないだろ」などといわれるようになっていた。

 

しかし、この隊士は知った。普段の霊圧は相当抑え込んでいるのだろういう事を。

 

 

「そうですか、それは失礼しました。身嗜みを整え今日の隊務をするとしましょう」

 

 

双護との試合をする際は実力の制限をするとはいえ、霊圧や殺気の込め方は実戦に限り無く近い事をしている。普段であれば軽く結界などを張っているだが、どうやら双護の最後の一撃で結界の一部に亀裂が生じた事で呼びに来た隊士に漏れ出した霊圧を浴びせてしまったようだ。

 

 

「あっ、旦那様がお呼びです」

 

 

「そうですか」

 

 

双盾と双護は隊士ではない。しかし、双盾の病弱故に隊舎内に烈達の居住区が設けられている。

 

隊舎の敷地内で長い時間を過ごして来た双盾は隊士から旦那様と呼ばれるようになった。

 

隊士から旦那様と呼ばれている双盾を見て自分はあの人の妻であると実感し内心ニヤついている所をかつての部下、天音に見られ逃げた天音を追いかけた末一番隊隊舎の一部が破壊された。

 

 

「双護君の入学式があるから訓練はほどほどにと…………………あっ、逃げた」

 

 

双護にとって烈との試合は訓練であるが烈にとっては遊びに近い。遊び過ぎで双護を大事な入学式に遅刻させたとあっては双盾から説教待った無しだろう。

 

烈は霊圧感知で悟られないうちに逃げ出した。しかし、逃げた先に双盾が待ち構えており結局説教されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、であるからして。貴殿らは今日より映えある霊術院の生徒として研鑽に励み立派な護廷隊士になる事を期待している」

 

真央霊術院、貴族への根回しやその他諸々の雑務に追われて忙しかったが無事に開校できた事を元柳斎は感慨深く思っていた。

 

元柳斎にとって強い隊士を育てる為に霊術院を作ったが育成だけでは成長に限界があり、才能は重要な要素となる。

 

そういう意味で元柳斎は生徒たちを値踏みするように生徒達の霊圧を探った。大半の生徒の霊圧は取るに足らないものが多かったが中には元柳斎を唸らせるものも数名いたのが収穫材料だった。

 

しかし、この中に双護の霊圧が無かった。体調が悪いなどは聞いておらず寝坊などするような者でも無いと知っているが生徒の中にはいない。

 

 

「そもそも、この学院を設立したのは…………」

 

 

「すいません‼︎遅れました‼︎」

 

 

突如双護の霊圧が近づいたのを感じた元柳斎。次の瞬間、双護が講堂の扉を突き破って飛び込んできた。

 

いきなりの展開に唖然とする一同。

 

 

「アッハハ‼︎双護、やるじゃないか。君もそういう事が出来るんだねぇ」

 

 

「寝坊したとかじゃなくてちょっと訓練してたら時間を忘れてただけだよ」

 

 

「遅刻してるなら変わらないさ」

 

 

「それもそうだね」

 

 

唖然とする一同にお構いなしで談笑する春水と双護。2人は気付いていなかった。元柳斎がワナワナと怒りに震えていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「莫迦者ーーーーーーーーーーーーーー‼︎」




双護君の瞬閧モドキはマジで未完です。やってみたらそれっぽい感じになったくらいのものです。木刀が耐えきれなかったのは二つの属性の鬼道を一瞬に込めたことでまだ未熟な双護には扱いきれなくて木刀を燃やし尽くす結果になった感じです。

入学式への乱入シーンはダイナミックエントリーですが、なんとか間に合わせようとコントロール出来ないレベルの霊力込めた瞬歩した事で講堂の扉を蹴破る形になりました。

という訳で次回から霊術院編です。お楽しみに


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双護、出会う

霊術院という事であいつが出ます。みんな大好きなあの男だよ!!

ヒントは顔が良く、声が良く、強い!!権力もあるといえばあるお貴族さまよ!!


霊術院での授業が始まり、生徒達も初めての環境に慣れ始めた。

 

しかし、双護は授業に関して苦労していた。鬼道の授業で破道の三十一である赤火砲の実演で詠唱せずに放ち、教師からは詠唱もしなきゃ意味が無いと怒られ、斬術の授業では対戦相手の竹刀をへし折り備品を壊すなと教師から怒られた。

 

今まで護廷隊の中でも最上位に位置する者達を見てきた双護にとって加減出来る相手がいなかった為加減というものを知らないのだ。

 

かといって手を抜くという事はしない双護はあまりにぶっ飛んだ実力から教師からはある意味問題児とされている。

 

しかし、そんな双護だが生徒の間で浮くと言うことは無く人気者となっていた。

 

 

「やぁやぁこの色男め、羨ましいじゃないか」

 

 

「揶揄うのは辞めてくれよ、春水」

 

 

「さっきまで女の子達に囲まれてたじゃないか。裏では貴公子なんて呼ばれてるって噂だよ」

 

 

両親に似た美形、スマートな対応、圧倒的な実力。これだけ兼ね備えた双護に人気が出ない訳は無く実は何処かの貴族なのではと囁かれている。

 

 

「よう、双護に京楽。京楽、元柳斎先生が探していたぞ」

 

 

「十四郎、体調は大丈夫はどう?」

 

 

「あぁ、お陰様で絶好調だ」

 

 

2人が話している間に入ったのは浮竹十四郎。白く長い髪を一つに束ねた美男子だ。小さい頃に患った肺病のせいで生死の境を彷徨った経験をしている。

 

四番隊の治療によって肺病の症状はかなり改善されたが、未だに喀血するなど完治には至っていない。

 

 

「それは良かったねぇ。で、山じぃは何の要件なんだい?」

 

 

「あぁ、そうだったな。詳しい要件は聞いていないがとりあえず学長室に来るようにと言っていた」

 

 

「あぁ〜、なるほどね。分かったよ、伝えてくれてありがとう浮竹」

 

 

京楽に思い至る内容があったのか浮竹の話を聞くと納得した様子だった。

 

 

「え?春水が素直に呼び出されるなんて……………どんな内容か分かってるの?」

 

 

京楽、双護、浮竹は霊術院において生徒や教師陣から一括りにされる事が多い。何か問題が起き、3人のうちだれかが説教される時は3人同時に説教されるほどだ。

 

京楽は元柳斎から説教を受ける時、毎回逃走する。大抵の場合双護と浮竹は巻き込まれて一緒に逃げる羽目になり、3人纏めて元柳斎に捕まりゲンコツをくらうというのがよくある流れなのだ。

 

そんな京楽が元柳斎からの呼び出しに素直に応じようとしているのだ。双護が疑問に思うのも無理はない。

 

 

「まぁ2人も無関係って訳じゃ無いけど関わらないにこした事は無い問題かな。まぁ貴族関係の問題と思ってもらえればいいかな」

 

 

京楽の口振りから何かを察した様子の浮竹。京楽は上級、浮竹は下級とはいえ2人には貴族という共通点がある。

 

貴族には複雑な問題が多いという事を理解している双護は深掘りするべきで無いと判断し、ひらひらと手を振り去っていく京楽を見送った。

 

 

「体調が良いならこれから一試合してく?」

 

 

「すまない、これから診察があるんだ。また次の機会に誘ってくれ」

 

 

「そっか、それなら仕方ないね」

 

 

症状が改善されているとはいえ浮竹は定期的に診察を受けなければいけなかった。

 

双護ら浮竹と別れ、京楽と試合をしてから帰るつもりであった為、道場の予約をどうしようかと考えながら歩いていると1人の男子生徒とぶつかった。

 

 

「あ、ごめん‼︎考え事してて…………怪我とかしてない?」

 

 

「怪我とかはしてないから気にしないでくれ、卯ノ花双護君」

 

 

「そっか、それは良かったよ。えっと、ごめんね?君とは初対面だと思うんだけど…………」

 

 

「君は有名人だからね。この霊術院で君を知らない奴なんかいないさ」

 

 

「そうなんだ。知ってるみたいだけど、僕は卯ノ花双護。よろしくね」

 

 

「私は綱彌代時灘だ、よろしく」

 

 

綱彌代、その家名には双護も聞き覚えがあった。尸魂界を統べる貴族の中でも最も権力のある五つの貴族、五大貴族の1つだ。

 

 

「綱彌代⁉︎ごめ………申し訳「そういうのはいい」え……………?」

 

 

「五大貴族といっても私は末席も末席。権力なんてものは無いに等しいんだ。それこそ、君の親友の方が立場的には偉い」

 

 

余りにもフレンドリーに話しかけていた自分に後悔しながら謝ろうとするが、時灘はそれを静止した。浮竹はともかく京楽は発言力のある上級貴族。

 

京楽自身が貴族らしい振る舞いをしていない事もあるが、双護は京楽相手には上級貴族ではなく1人の親友として接しているし、京楽自身もそう望んでいる。

 

 

「そっか、これからよろしくね。時灘」

 

 

「あぁ、よろしく。それにしても話題の卯ノ花双護とこうして話す事になるなんてな」

 

 

「話題?まぁ悪目立ちしちゃってる節があるのは否めないけどそんなにかな」

 

 

「凄く話題になってるよ。コネで入学した卑怯者だってね」

 

 

双護の母親が四番隊の隊長である烈という事は周知の事実。それに加え元柳斎や雀部といった護廷隊の中でも上位の者と交流があるのも知られている。

 

双護を快く思わない一部の者から陰口をされている事を双護は理解していた。

 

 

「まぁ母さんが護廷隊の隊長なのは事実だからね、多少の忖度もあったかもしれないね」

 

 

「怒ったりしないのかい?」

 

 

「別に怒るほどの事でも無いよ。口だけの雑魚が僕の事をなんて言おうが何も感じない」

 

 

なんでもない当然の事だ言わんばかりに淡々と答える双護。

 

 

「そうか、君は強いんだな。私なら耐えられないかもしれないな。他人事とはいえ私としても快く無い、私の方から陰口を辞めるよう呼びかけよう」

 

 

「気にしなくていいよ。どうせ口だけだし」

 

 

「そういう事を平気でする輩というのは相手の反応なんて関係無い。今は良いかもしれんがそのうち君への陰口や虐めは増すだろう。そういう種は早いうちに刈り取るべきだ」

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

「君からはこれからも面白い話が聞けそうだからね、これはその対価みたいなものだ。私はこれで失礼するよ、卯ノ花双護くん」

 

 

そう言いながら踵を返し去っていく時灘。何かを取り繕っているようなのだが友好的に接してきた事が不思議だが、京楽や浮竹以外の友人が出来るかもしれないと少し嬉しくなった双護であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない路地裏。綱彌代時灘は先程まで話していた相手、双護の事を思い浮かべて嗤っていた。

 

 

「ふふふ、ふはははは‼︎あれが卯ノ花双護か‼︎思ってた以上に嬲り甲斐があるじゃないか」

 

 

普通の感覚であれば今の自分はコネや忖度で成り立っていると知れば多少なりとも苛立ちを見せる。ましてやそれを言っている本人ではなく他人から言われれば余計に苛立つ。

 

他人が狂う様を見るのが何にも勝る愉悦である時灘からすれば実力があり、人望がある双護が狂った時どんな様を見せてくれるのか楽しみしかない格好の玩具なのだ。

 

 

「あぁ、本当に楽しい学園生活になりそうだよ」

 

 

時灘は誰もいない路地裏を鼻歌を歌いながら歩いていった。




もっとゲスに……………もっとゲスにせねば……………………

霊術院で起こる問題

・京楽が女の子を追いかけ回し騒ぎになる→教師陣では止められない為双護君と浮竹さんが出陣→京楽に言いくるめられなんやかんや教師と山じぃを巻き込んだ鬼ごっこに→3人仲良くお説教。この場合浮竹さんと双護君はちゃんと京楽を止めろと怒られます。

・双護君が剣術の授業で対戦相手にトラウマを植え付ける(本人はそれなりに加減したつもり)→京楽か浮竹ぐらいしか試合相手がいなくなる→エキサイトし過ぎて備品を壊したりする→生徒間での賭けも発生(京楽主催)→山じぃからの説教


のパターンが多いです。生徒の中では3人は抜きん出てます。圧倒的ですね。双護くんは六割ぐらいの卯ノ花さん(not剣八モード)と良い勝負するくらいですから上位席官くらいの実力はあります。京楽さんも割と近いところにいますがまだ未熟です。駆け引きとか立ち回りで双護くんと互角に戦います。
浮竹さんはまぁ霊力が凄いんで。死神の戦闘は霊圧の戦いという事で技量的には2人に劣っていますが自力で?2人に追いついてる状況です。


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浮竹、戦う‼︎

生徒達は霊術院にある授業の中で斬術の授業が最も嫌な時間となっている。斬術の授業は基本的にペアを組んで試合をする事になっている。

 

組み合わせは男女でランダムなのだが、一部例外がいる。双護と京楽だ。京楽は女子相手なら紳士的に加減するが男子生徒が相手ならあまり加減はしない。双護は加減しているつもりはあるのだが、全力でしか剣を振るった事がない為か加減下手で相手にトラウマを植え付けてしまう。

 

女子に人気な事に腹を立てたとある男子生徒は双護に本気の決闘を挑み3分後には四番隊隊舎へと担ぎ込まれた。因みに、この試合で竹刀を5本を割り、壁を3箇所壊した。

 

そう言った理由から双護との試合は京楽か浮竹がするようになっていた。

 

 

「双護との試合は久しぶりだな」

 

 

「十四郎は体調どう?」

 

 

向かい合う双護と浮竹。浮竹は病弱である為体調の良し悪しによって双護の相手が出来るかどうか決まる。

 

 

「絶好調だが悪かったら加減してくれるのか?」

 

 

「そっか、なら良かったよ。手加減するのも疲れるんだ」

 

 

朗らかに笑いながら肩を回し絶好調をアピールする浮竹。それを見た双護は小さく笑い、一瞬で距離を詰め竹刀を振る。

 

しかし、浮竹は分かっていたのか何事もなかったように双護の一撃を受け止める。

 

 

「はしゃぐのは良いけどさ。せめて試合開始の合図くらい待ってよお二人さん………………」

 

 

京楽の呆れたような呟きを他所に2人の試合は激しくなっていく。霊力即ち霊圧の高さは死神そのものの強さを示す。技術を含めた総合力なら双護と浮竹では双護に軍配が上がるが、霊圧の高さに限定すれば浮竹の方が上だ。

 

緩急をつけ、フェイントを織り交ぜた双護の攻めに防戦一方になりがちな浮竹だが力技で双護の耐性を崩し反撃をする。

 

 

「腕を上げたね、十四郎‼︎」

 

 

「負けてばかりもいられないからな‼︎」

 

 

「そっか、ならこれはどうかな?〈破道の四 白雷〉」

 

 

威力は低級の破道らしく大したものではないが、その速さは相当なものであり、一部の隊長格の間では密かに人気のある鬼道だ。

 

浮竹は一瞬驚いた様子を見せるが、冷静に竹刀で受ける。受けた竹刀は砕ける。

 

浮竹の竹刀が砕けたのを見て双護は勝ちを確信した。あとは竹刀を突きつけ、勝利宣言をするだけだと。

 

 

「な!?」

 

 

「少しばかり詰めが甘いんじゃないか?」

 

 

砕けた竹刀を双護に投げつけ双護との距離を詰める浮竹。投げつけられた竹刀を払うと、浮竹は何処からか取り出した小太刀サイズの竹刀を双護へと向けて振るう。

 

 

「こういう事があるから奥の手って必要だよね」

 

 

竹刀が当たる瞬間、双護の身体から霊圧が爆発するように吹き荒れる。

 

その余りにも爆発的な霊圧に吹き飛ばされる浮竹。先程まで自分が持っていた筈の竹刀が焼け焦げ崩れるのを見て驚愕した浮竹。

 

 

「双護、今のは……………?」

 

 

「さぁ?勝負を続ければ分かるかもよ」

 

 

「それもそうだな」

 

 

先程の爆発的な霊圧に備え自身の霊圧を高める浮竹。両者の霊圧がぶつかり合い、周囲の緊張感が高まる。

 

 

「あの〜、盛り上がってるとこ悪いんだけど今こっちにもの凄い勢いで山じぃが来てるよ」

 

2人の間に割って入るように京楽が2人に声をかける。緊張を解くと、元柳斎の霊圧がこちらに迫ってきている事を感じた双護と浮竹。

 

 

「あー…………………授業って事忘れちゃってたな」

 

 

「今日ばかりは俺も一緒になって怒られるとしよう」

 

 

「君達が怒られるってなると僕まで怒られるんだよ。という訳で……………逃げるよ‼︎」

 

 

京楽はそう言って2人を掴み瞬歩しようとするがそれはかなわかった。

 

 

「お主らの考えそうな事くらい分かるわい」

 

 

京楽が逃げようとする際に3人に向け縛道を放っていた元柳斎。京楽が2人を掴んだ瞬間の隙を逃さなかったのだ。

 

 

「さて……………儂の言いたい事は分かるな?」

 

 

「お爺ちゃん、竹刀とかもっと丈夫なやつにしない?」

 

 

「すみませんでした、元柳斎先生」

 

 

「今回ばかりは僕関係無いし、帰って良いかな?山じぃ」

 

 

「ばっかもぉぉぉぉぉぉぉぉん‼︎」

 

 

こうして授業の終わりには元柳斎の怒鳴り声が響くというのが霊術院の日常となっていた。

 

後にこの斬術の授業を担当していた教官は「あの子達以降の生徒が大人しすぎて正直心配になる」と語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊術院の校長室。そこには元柳斎と京楽の2人がいた。

 

 

「首尾はどうじゃ」

 

 

「概ね山じぃの予想通りだよ。現時点で本家の影響が少ないってのが唯一の好材料かな」

 

 

「ふむ、そうか……………………」

 

 

「単純に生徒間のやり合いで済ませてくれるような奴じゃないから山じいが介入するんでしょ?僕の方でも貴族側に呼びかけはするから山じぃからも頼むよ」

 

 

2人が話しているのは双護の陰口の件だ。今はただの陰口で済んでおり、本人が気にしていない為問題にする程の事でも無いのだが、これを主導しているのが五大貴族の関係者であるとの情報を元柳斎は掴んでいた。

 

五大貴族が絡んで来るのなら血染めの花嫁事件で護廷ならびに卯ノ花家に恨みを持つ中央四十六室が絡んでいる可能性が高い。

 

そうなればどんな些細なきっかけで家族纏めて処刑という事になりかねない。護廷の戦力としても、祖父としても双護並びに卯ノ花家はなんとしても護らなければならない、そう決心している元柳斎。

 

表立って動けない為、学生側の協力者として京楽と浮竹がいる。と言っても浮竹は体調の問題もある為メインで動いているのは京楽で浮竹は事情を知っているだけになっている。

 

 

「同輩を疑うような真似をさせて済まなんだ」

 

 

「謝らないでよ。双護はこれからの尸魂界に必要な人材だからね。なんとしても守ってみせるよ」

 

 

「うむ、頼りにしておるぞ」

 

 

「まぁ今回のやり口を見るに、かなり陰険で気に入らないけど本家を使えるほどのタマじゃないから最悪のケースってのは無いと思うよ」

 

 

そう言って校長室を出る京楽。その様子を見て普段からこのように思慮深く行動していれば叱る必要も無いのにとため息を吐く元柳斎であった。




京楽さんあんな言い方してますけど翻訳すると

「ボクの親友を虐めようだなんて許されないよね。あとやり方が姑息で気に入らない。許さん」

って感じです。

男の友情って良いですよね


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時灘、キレた‼︎

正直このサブタイトル付けたかっただけな節はある。


薄暗い部屋にいるのは綱彌代時灘。娯楽の為に双護の陰口を広めた主犯だ。しかし、思っていた反応が返ってこず怒りすら覚えたが難易度が高い方がゲームは楽しいもの。考えを改め更なる方法で双護を蔑めんとしていた。

 

彼の手元にあるのは授業のカリキュラムだ。一般生徒が手に入れらるものでは無いが、時灘が独自で作り上げたルートから入手したのだ。

 

その表紙には流魂街遠征授業についての概要と記されている。生徒達に浅打を携帯させ、実際に虚の討伐を体験するという実習授業だ。

 

数人のグループに分かれての授業、教官と数人の護廷隊士が帯同する事になるが、普段の学校生活でなにかを仕掛けようにも自分を警戒する京楽の目がありなかなか動けていない時灘。

 

いくら教官や隊士の目があるからといって普段よりも警戒の目が薄くなる機会。これを利用しない手は無かった。

 

「癪に触るが本家からあれを借り受けるか……………………ククク、お前はどんな顔をするんだろうなぁ。卯ノ花双護」

 

 

そう言い残し、綱彌代時灘は本家へと赴いた。

場所は変わり、綱彌代の本邸。時灘は当主に謁見をしていた。いくら血筋とはいえ時灘は分家の分家で立場は限りなく弱い。

 

 

「お前のような者に貴重な欠片を譲れというのか」

 

 

「欠片の実験の一旦と思っていただければ」

 

 

「貴様のような者からの提案など聞く価値も無いわ」

 

 

「元柳斎を失脚させる事も可能になるかもしれません」

 

 

「なに?」

 

 

「護廷隊など言っていますが元柳斎がいなければ剣を握るしかしない猿の集まり。ただの謀略では元柳斎を失脚させる事はできません。元柳斎を超える存在を作り出せればそれも叶いましょう」

 

五大貴族の中綱彌代は護廷隊に対して否定的であった。貴族でもなんでも無いチンピラ集団が自分達に堂々と物を言うのだ。貴族としては面白くない。

 

そのため四十六室を通して卯ノ花烈を使い事件を起こさせた。その後始末を元柳斎になすり付ける為に。しかし、結果的にそれは上手くいかなかった。

 

罠に嵌める程度でどうにかなる相手では無かったのだ。自分達貴族には無い圧倒的な武力が必要だった。

 

 

「ふむ、話してみよ」

 

 

そんな当主の心情を知っていた時灘はニヤリと笑みを浮かべた。護廷の武力を手中に収め他の五大貴族よりも優位に立ちたい当主の心情など時灘からしたらどうでも良い事だった。

 

卯ノ花双護、並びに浮竹十四郎そして京楽春水を狂わせる事が出来れば何でも良い、それしか無いのだ。

 

自身の計画を当主に話す時灘。それを聞いた当主は大笑いした。荒唐無稽な計画ではあるが実現出来れば元柳斎を殺し護廷隊を手中に収める事が可能だろうと。

 

もし計画が暴かれた際は全て時灘になすり付ければ文句を言える者は瀞霊廷には存在しない。成功しようが失敗しようが見せ物として愉快になると確信した。

 

 

「良いだろう、欠片とアレをお前に預けよう。しかし失敗したとしても我々は貴様を見捨てる」

 

 

「存じております。この時灘、必ずや当主様のご期待に沿えるよう尽力いたします」

 

 

「ならば良し、では下がるがよい」

 

 

「はっ、失礼ます」

 

 

そう言って部屋から出る時灘。分家の分家の出身として本家の人間は時灘に後ろ指を指す。時灘としては気分の良いものでは無く足早に本邸から飛び出した。

 

そして誰も居ない路地裏で耐えてきた怒りを爆破させた。

 

 

「あの狸め………………言わせておけば‼︎碌な利用法も思いつかない低脳のくせに」

 

 

「時灘どうしたの?随分イラついてるみたいだねど」

 

そんな怒りを爆発させている時灘に近づく双護。暇つぶしに一番隊の訓練に参加した帰りに時灘と遭遇したのだ。

 

霊圧の荒ぶりから只事では無いと心配になった双護は思わず声をかけた。

 

 

「さっき本家に挨拶にいっていたんだ」

 

 

「あぁ、五大貴族だもんね。そういう事もあるんだね」

 

 

「あぁ、分家の私には居心地が良い場所では無くてね。こうして人目憚らず怒りを露わにしてしまった。見苦しい姿を見せてしまってすまない」

 

 

「霊術院では時灘ってずっとニコニコしてる印象だっからびっくりしたけど色々事情があるからしょうがないよ。そうやって発散させないと返って危険だ」

 

 

「あぁ、確かに発散させないとどうにかなってしまうな」

 

 

「僕で良かったら相談に乗るからね、それじゃまた霊術院で」

 

 

そう言って去っていく双護。怒りで忘れかけたが恥を忍んでも本家の手を借りたのは明確な目的があったからだ。

 

 

「あぁ…………その偽善に満ちた顔が絶望に歪むのか、怒りで溢れるのか楽しみだよ。卯ノ花双護」

 

 

双護もいなくなり、今度こそ誰も居なくなった路地裏で時灘は嗤うのだった。




ゲス書くの楽ちぃ。某童貞とかうさぎさんの人に影響を受けたのかもしれん。この作品読んでる人は知ってると思うけどはちみつ梅さんの作品は良いぞ。

童貞もだけどこの作品にゲスト出演した如月姫乃ちゃんが主人公の作品がリメイク中だ!!リメイク前も面白いけどリメイク版は更に面白いぞ!!!




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悪魔の罠 其ノ壱

双護くん、京楽さん、浮竹さんでスリーピースバンド組んだらギターは京楽さん。スキルは半端無いけど女性ファンの多さによってテンションが分かれる。

浮竹さんはドラム。安定感抜群過ぎるリズムキープと時たま見える腕の筋肉で女性ファンだけじゃなくて男性ファンも死ぬ。

双護くんはベース。なんか凄く上手い。女装するベースおじさんぐらい上手い。

ボーカルに関しては双護くんと京楽さん2人で交代交代。顔が良過ぎる。


「それでは、これより流魂街遠征授業の説明をする!!」

 

 

教官が語ったのは5人で1つの班を作り、班ごとにコイン型の撒き餌によって集まった低級の虚の討伐数を競うゲーム性のある授業。

 

各班の計測係の者は護廷隊の現役隊士となっており、有事の際の安全は確保されている事が説明された。

 

 

「それにしても京楽達と別の班かぁ………………班長なんて柄じゃないんだけどなぁ」

 

 

「同じ班で協力するのも悪くは無いが、班の成果で競ってみるのも悪くないだろう。俺は負けるつもりは無いが双護は自信が無いのか?」

 

 

「へぇ…………浮竹にしては面白い冗談を言うね、やってやろうじゃん。絶対負けないよ」

 

 

「お二人さんが熱くなられたらボクに勝ち目が無くなるから程々にして欲しいんだけどなぁ」

 

 

今回の実習では双護、京楽、浮竹はそれぞれ別の班の班長をする事になっている。浮竹と双護は普段通りの様子で会話しているが京楽は幾つか気掛かりな事があった。

 

 

「それじゃ、僕はあっちだからまた後でね‼︎数誤魔化したりしちゃ駄目だからね‼︎」

 

 

そう言って班員のところへ元気に駆けていく双護、それを不安気に見つめる京楽。

 

 

「何か気になる事でもあるのか、京楽」

 

 

「いやさ、ボクと浮竹の班の担当地区は双護の担当地区の真反対だし双護の班の計測係って貴族派の隊士なのが気になってね」

 

 

「それなら心配無いだろ。計測係係も含めてあの班で双護をどうこう出来る奴は誰も居ない」

 

 

「それは分かるけど余計に気になっちゃうんだよねぇ」

 

 

双護の実力と潜在能力はこの場において京楽が一番知っている。この場にいる計測係の隊士と生徒全員で襲ったとしても双護を殺す事は出来ない。

 

仲間、家族といった身内に対しては警戒心を持とうとしない双護は貴族達の汚い部分を知らない。権力を喰らい合う蛇の巣穴を見てきた京楽だからこそ心配なのだ、武力だけではどうにもならない怪物が動こうとしているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卯ノ花双護、お前は生徒の中でも実力が抜きん出ている。よってお前自ら戦闘行動を取ることを禁ずる」

 

 

「了解しました」

 

 

「え!?卯ノ花攻撃参加しねぇの!?俺達だけ不利じゃん!!」

 

 

「卯ノ花くん居るから勝ったと思ったのになぁ」

 

 

双護の自主的な戦闘参加の禁止に文句を言う班員達。

 

 

「黙れ‼︎貴様らも護廷隊を志すというのなら上官の命令には従え‼︎」

 

 

それでも不満気な目で計測係の隊士を見ている班員達。しかし、双護としては納得出来ていたし別の訓練と思えば理解出来た。

 

1人での戦闘に関しては言うまでもないが、チームを組んでの戦闘は経験が無い双護。京楽や浮竹であれば双護の動きに合わせて対応が出来るがそれを他の生徒がやるのは無理がある。

 

 

「まぁまぁ。戦闘は出来ないかもしれないけど班長として指揮はちゃんとするから」

 

 

「いくらなんでも優等生すぎるぞ卯ノ花」

 

 

「優等生だったら元柳斎先生に怒られたりしないんだけどね」

 

 

あまり話した事が無いクラスメイトだった班員達だったが任務前にコミュニケーションを取れたのは双護にとって嬉しい事だった。

 

普段は京楽か浮竹が隣にいる為、2人以外の友人と呼べる存在がいない双護にとって怖がられないで話せるのは新鮮な気持ちもあった。

 

 

「いつまで話している‼︎もう任務は始まっているんだぞ‼︎」

 

 

そう言って計測係の隊士がコイン型の撒き餌を折り曲げる。新しく入隊した隊士に経験を積ませる為に作られた虚を呼び寄せる撒き餌。

 

誰が作り出したかは不明であり、呼び出せる虚はあらかじめ捕獲しておいた低級の虚だけである為訓練にならないという理由で護廷隊の訓練に採用されなかったものだ。

 

しかし、戦闘経験も技術もない霊術院の生徒には格好の相手となる為カリキュラムに採用された。

 

 

「総員、抜刀‼︎相手は大した事ない。全員で落ち着いてかかれば負けない」

 

 

撒き餌に釣られたのか、両腕が鎌のような形状になっている虚が現れた。初めて見る虚にパニックになりかける班員達。しかし、双護の激励によって冷静さを取り戻し浅打を抜刀する班員達。

 

 

「高松くん、大山田くんは敵の注意を引きつけて。高澤さん、西宮くんは鬼道の詠唱、護衛は僕がするから落ち着いて詠唱するんだ‼︎」

 

 

「「「「了解‼︎」」」」

 

 

「西宮くんは詠唱破棄出来る鬼道を出来るだけ連続で叩き込んで‼︎高澤さん、自分が撃てる最高火力を‼︎」

 

「「了解‼︎」」

 

 

両腕の鎌を双護たちに振り下ろすが高松と大山田がガードする。そこに生まれた隙を逃さず低級破道の代表格でもある白雷を放つ。

 

高松と大山田もそれぞれ虚に一太刀いれていく。それぞれは決定的なダメージにはならないが敵を怯ませるには充分だった。

 

 

「高松くん、大山田くん退避‼︎」

 

 

「〈破道の三十一 赤火砲〉‼︎」

 

 

2人が離脱すると高澤が詠唱を終えていた。未熟な完全詠唱ではあるが赤火砲が着弾し、虚の仮面を砕いた。虚は呻き声を上げながら消えていった。

 

 

「よし、この調子でドンドン倒していこう‼︎」

 

 

不穏な幕開けではあったが、この後も双護達は双護の指示の元着々と数を減らしていった。




うまぴょい!!!うまぴょい!!!

モブに名前を付けると愛着湧くんだよなぁ…………………雑に扱えねえわ…………………よし、ゲスは許さん。覚悟しておけよゲス。

ゲス狡猾に書こうと思ったけどいざ書いてみたら思いの外あっさりとした作戦な気がしてきた……………頑張らないとな。


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京楽、脅す

今回は短めです。


双護達が着々と虚を倒している中、時灘は計画の進行を間近で見れないのを残念に思っていた。

 

時灘の班の計測係は時灘の息がかかった隊士ではあるのだが、任務の位置が京楽の班の隣であった為計画の進行を確認出来なかった。

 

 

「まったく……………やってくれたよね時灘」

 

 

「何が言いたいんだい?京楽。私は身に覚えが無いのだがね」

 

 

「分家の分家である君が恥を忍んで本家の力を借りるとは思わなかったよ」

 

 

「何が言いたいか全く分からないな」

 

 

「惚けなくても良いよ。ボクは双護のように鈍くも無いし浮竹のように甘くも無い。あまりボクを舐めない方が良い」

 

 

声をかけられる前から時灘は京楽が自分を警戒しているのをわかっていた。貴族界でも発言力の強い上級貴族の次男坊。謀略渦巻く貴族界を間近で見てきただけあり、時灘の動きを察知していたのだ。

 

 

「護廷隊が創設した学校に隊長の息子が入ってくれば早かれ遅かれそんな噂は流れていただろう。それだけで私と判断するのは早計過ぎじゃないか?」

 

 

「ボクが言いたいのはその事じゃないよ。君、何を企んでいるんだい?場合によっては出るところに出てもらう事になるけど」

 

 

この京楽の発言に思わず口角が上がる時灘。京楽は自分が何かしようとしているのは掴んでいるが詳細を把握出来ていない。

 

京楽が元柳斎の指示で動いている事を時灘は知っている。つまり、京楽が知っているという事は元柳斎が知っているという事になる。京楽が掴んでいないのなら時灘の計画を護廷隊は把握出来ていないのだ。

 

 

「何が言いたいか全く分からないけど、私に何を訴え掛けたいんだい?優しさか、それとも思いやりか?」

 

 

「訴えかける?違うね、これは脅しさ。君が何をしようとしてるのかは分からないけどこのまま行けば君は怒らせちゃいけない人を怒らせる事になる」

 

 

「総隊長殿や初代剣八といえども無実の私を斬る事など出来ないだろう。そんな事をすれば血の花嫁の非じゃない処分が下されるだろう」

 

 

双護を目的としている以上、最大の障害となるのが元柳斎と烈だ。2人を怒らせて生き残れる者など尸魂界中を探しても見つからないだろう。

 

奥の手を使ったとしてもマトモな勝負にはならないのは時灘としても理解していた。だから元柳斎や烈が武力介入できない形で計画を進めていた。

 

 

「ボクが言ってるのは双護の事だよ。彼を本気にさせない方がいいよ。本気で怒ればボクや浮竹の比じゃないくらい大変な事になるよ。まぁそんな事になる前にボクが君を殺しちゃうかもしれないけどね」

 

 

「ははは、それは怖いな。恐ろしくて夜も眠れなくなりそうだ」

 

 

時灘は確信した。やはり自分が見つけた卯ノ花双護(玩具)が自分にとって最高最良の愉悦になる事を。

 

実力、人格共に誰よりも秀でている者が怒りや殺意に呑まれる姿は時灘が想像するどんな娯楽より胸躍る愉悦になるだろう。

 

 

「京楽‼︎………と綱彌代くんか。どっちでも良いから双護を助けてやってくれ‼︎あいつ俺達を‼︎」

 

 

慌てて駆け寄ってきた双護の班の一員、大山田。彼の話によれば強い虚の攻撃を受け班員の1人である西宮が大怪我を負い、救援を呼ぶ為計測係の隊士と双護を残して逃げてきたのだ。

 

 

「おっとそれは大変だね、私は教官殿に報告して隊士を派遣してもらうとしよう。それでは京楽、また会おう」

 

 

 

急を要する要件だと言うのにあまりにもあっさりとした返事であるのに疑問符を浮かべる大山田。

 

 

「うん、双護の方の霊圧を見るに班員はちゃんと離脱したようだね。ボクは双護の救援に向かうよ。君は他の皆と合流して隊士の指示を仰ぐんだ」

 

 

大山田の肩を叩き安心させる京楽。大山田は大きく頷き走り出した。彼が走っていくのを確認した京楽は大きくため息を吐く、自身の友人はトラブルに巻き込まれる星の下に生まれたのだと。

 

 

「全く……………これはボクがしっかりしてないと駄目だな。あとで双護に文句言ってやらなきゃな」

 

 

そう呟き、京楽は大急ぎで双護の元へと向かうのだった。

 




う〜む。やっぱり京楽さんとゲスを書いてるとIQが上がった気がする。

もしIQをあげたい人はBLEACHの二次創作を書くんだ。IQは上がるし、BLEACH界隈は盛り上がるし、面白い作品が増えてROM専門も俺も嬉しい。



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悪魔の罠 其ノ弐

暗い……………寒い………………冷たいよ。

でもなんか暖かい。誰かがヨミを読んでるの?

ご主人なのかな?ご主人だったらヨミは嬉しいな。

早くご主人がヨミに気付いてくれると嬉しいな


時は少し戻り、順調に虚を減らした双護達。特に問題が起きることも無く予定の数を減らした。

 

最初は双護が戦闘参加できないことに文句を言っていた班員達だったが双護の指示の元チームとしてのまとまりを見せていた。

 

 

「いや〜、しっかし流石卯ノ花だなぁ‼︎これな

俺達の班が一番とかあるんじゃないか?」

 

 

「いやいや、京楽とか浮竹の班もあるからな。双護が戦闘出来てないの考えると難しいだろ」

 

 

「指示を出すなんて初めてだったけど良い経験になったよ」

 

 

幼い頃に双盾に誓った強い死神になるという事。尊敬する雀部や元柳斎のような死神になるには自分の戦闘だけではいけない。リーダーとしての立ち振る舞いも覚えなければいけない。

 

 

「本当に態度だけは優等生だな」

 

 

短い付き合いではあるが、この双護の発言が謙遜や冗談などではなく本心から言っているものだと理解できる班員。

 

 

「態度だけって………………高澤さん、西澤くん伏せて‼︎」

 

 

「グゥッッ‼︎」

 

 

双護が霊圧を知覚した時にはもう既に遅かった。突如現れた虚の一撃をモロに受けた西澤はその場に倒れ込む。運良く攻撃されなかった高澤だが、突如現れた事と死の危険に晒された恐怖で動く事が出来なくなってしまった。

 

西澤を斬った虚はその隣にいた高澤に狙いを定める。動けなくなった獲物は虚にとって餌でしかない。

 

 

「高澤さん‼︎」

 

 

高澤が攻撃される直前に瞬歩で近づき高澤を抱き上げ離脱する双護。

 

 

「おい、卯ノ花双護。気をつけろよ、貴様は戦闘行為が禁止されている。今のも判断によっては戦闘行為ととらてもおかしくはないぞ」

 

 

目の前の虚には目も暮れず双護に警告する計測係の隊士。

 

 

「お前、ふざけんなよ⁉︎西澤がやられてんのにそんな呑気な事言ってんのかよ⁉︎もう授業とかやってる場合じゃねぇだろ‼︎」

 

 

「黙れ、文句を言うのなら貴様を落第にしてやっても良いのだぞ」

 

 

空気を読まない隊士の発言に腹を立てたのか班員の1人が隊士に詰め寄るが双護が間に入る。

 

 

「大山田くん、高松くん。2人を連れてほかの皆と合流してくれないかな?そろそろ他の班も予定討伐数には達してるだろうし」

 

 

 

「でも、この虚はどうすんだよ‼︎こいつは全員でかからないとヤバいって‼︎」

 

 

「全員で戦うにしても卯ノ花双護の参加は認めんがな」

 

 

「お前、本当にいい加減にしろよ⁉︎あんなスピードで動く虚を卯ノ花無しにどう戦えってんだよ‼︎予定数達成してるなら双護がさんかしてもかわらねぇだろ‼︎」

 

 

「口の聞き方を知らんのか。今はまだ演習中だ、演習終了までは認めん」

 

 

「まぁまぁ、大山田くん。僕なら大丈夫だから。助けが来るまで逃げ切ってみせるよ」

 

 

戦う素振りを見せないのに高圧的な態度でいる隊士と班員がこれ以上一緒にいれば虚をどうこうするという話じゃなくなってしまうと思った双護はなんとか班員を落ち着かせる。

 

 

「大丈夫、僕強いから」

 

 

「伊達に毎日元柳斎先生に追いかけられてないもんな。待ってろよ、すぐに助けを呼んでくるからな‼︎」

 

 

まだ動く事が出来た大山田と高松に動けなくなった2人を任せ離脱させる事に成功した。

班員達が遠ざかったのを確認した双護。双護が班員達を逃す間、動く気配を見せなかった虚を尻目に双護は隊士に詰め寄る。

 

 

「な、なんだ⁉︎何をするつもりだ⁉︎」

 

 

「えっと、ごめんなさい白伏‼︎」

 

 

相手を昏睡させ、一時的に霊圧反応を消し仮死状態にさせる鬼道の技術白伏。新たに設立された鬼道衆の総帥となった姫乃によって開発された技術だ。

 

開発されたばかりの技術である為具体的な方法がよく分かっておらず、存在自体が噂レベルの技術だった為隊士は白伏の存在を知らなかった。

 

 

そういった技術があると姫乃から教えてもらっていた双護はやり方を知らなかった為がら空きであった隊士の腹に拳をめり込ませて気絶させた。

 

 

「さて、待たせたね」

 

 

そう言って虚と向き合い支給された浅打を抜刀する双護。虚は双護が抜刀するのを待ってたかのように動き始めた。

 

 

「虚が瞬歩……………変異体ってやつかな」

 

 

死角から死角へ一瞬で移動するその歩法は間違い無く瞬歩そのものだった。よくよく霊圧を見てみればわずかではあるが死神の霊圧を感じた。

 

姫乃が戦った虚の中にも死神のように戦う変異体の虚がいたという。その事を知っていた双護は驚きはしなかった。

 

 

「初めての実戦かぁ…………思ったより楽しめそうな気がするな」

 

 

同級生が攻撃されたというのに目の前の強敵相手に笑う余裕がある自分に驚く双護、戦いを楽しもうとしているのだ。

 

 

「駄目だな、冷静にならないと‼︎」

 

 

死角からの繰り出される攻撃を一つ、一つ確実に捌いていく双護。霊術院に来てからというもの自分の限界を遥かに超えている相手と真剣に戦うという事が無かった双護。京楽と浮竹がいたとはいえ霊術院に来てから双護は暇していたのだ。

 

小さい頃から自分よりも格上の者とばかり戦ってきた双護にとって限界に挑む事は子供が遊ぶ事と同じだった。

 

 

口元がニヤけるのを抑えがら少しずつ反撃していく双護。虚と双護の霊圧は比較しても双護の方が上である。しかし、瞬歩まで使う虚というのは護廷始まって以来の事にワクワクが隠せなくなっていた。

 

 

「正直埒が明かないな………………初めてだけどやってみるか」

 

 

そう言って双護は虚と距離を取り集中力を高め鬼道を放つように霊力を練り上げる。そして練り上げた霊力を斬魄刀に一気に流し込む。双護や浅打から溢れ出る霊圧はまるで激しく燃える炎のようだ。

 

 

「まだ技の名前は決めてないけどせめてカッコいいのがいいなぁ」

 

 

そう言って開けた距離を一瞬で詰める双護。あまりの加速力に数歩後ずさる虚。そのまま虚の右腕を斬り捨てる双護。

 

斬られた虚の右腕と身体の切り口は焦げ臭くプスプスの臭いがしていた。

 

 

「京楽達が近づいてきてるし、これ使ってるんだから京楽達が来る前に終わらせないとな」

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

「結構効いてるみたいだね良かった、良かった」

 

 

痛みからなのか怒りの咆哮をあげる虚。そのままとどめを刺そうとした双護だったが、纏っていた霊圧が霧散してしまった。

 

 

「あらら……………やっぱりまだ改善点は多いな。今度姫乃姉さんに相談しないと」

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

双護が纏っていた燃えるような霊圧が霧散したのを好機と見たのか襲いかかってくる虚。

 

呑気にしている双護だが先程の技の反動なのか身体が若干硬直していた。

 

 

「不精独楽‼︎」

 

 

霊圧の乗った斬撃が飛んできて双護を守った。

 

 

「春水、遅刻だよ」

 

 

「全く世話が焼けるんだから。ほら、双護動けるかい?」

 

 

「あぁ、大丈夫そうだ」

 

 

硬直が解け、2人で虚と向き合う。京楽の手には支給された浅打ではなく始解された斬魄刀が握られていた。

 

 

「その斬魄刀の事って聞かせてもらえたりする?」

 

 

「詳しい説明は後でするから今はこっちに集中しないかい?」

 

 

「賛成」

 

 

2人は虚に向かって走り出した。狙ったか狙わずなのか時灘が思ってた光景になりつつあった。時灘の狙いに乗るのは癪に触る京楽だったが親友との共闘に胸を躍らせていた。




前書きの謎ポエム?ですがまぁそれは次の話で明かす事にしますね。

こんな時間に更新すんの初めてだわ……………………ぶっちゃけはちみつさんと通話してなかったら適当に映画見てfgoのイベント周回してたわ。

更新出来てよかった。あと自分が思ってた以上にこの作品を色んな人に評価してもらえてると知ってモチベが上がりました。次も頑張ります。


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悪魔の罠 其ノ参

「しっかしまぁ……………瞬歩使う虚だなんてボク達の手に余るんじゃないのコレ」

 

 

「その子の能力ってどんなの?」

 

 

「説明してる暇は無いみたいだから双護は好きに攻めてくれ。フォローはボクがするよ」

 

 

「そう、じゃあいこうか」

 

 

瞬歩を使う変異体の虚。通常の虚でさえ経験の無い霊術院生が1人で相手するには無理がある。それが変異体であるなら尚更だ。

 

 

「瞬歩だけじゃなくて普通に強くないか?コイツ」

 

 

「なんか段々の霊圧も上がってるし早い所仕留めないとね。春水‼︎」

 

 

「嶄鬼」

 

 

虚と距離を詰めて瞬歩をさせず攻め立てる双護はただの浅打では決定打に欠けると京楽と攻守を交代する事にした。

 

頭上からの攻撃に対応しきれず斬られる虚。ダメージは受けたがそのまま京楽へ反撃しようとする。すると京楽の背後から双護が飛び出して腕を切り落とす。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

「影鬼」

 

 

いつのまにか消えていた京楽が虚の背後に出来ていた影から現れ斬りつける。

 

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ〈破道の三十三 蒼火墜〉」

 

 

京楽が離脱すると同時に双護が放った蒼い炎が虚を呑み込む。

 

 

「駄目だね…………少しずつだけど霊圧が上がってる」

 

 

「春水の手札でなんとか成りそうなのはある?」

 

 

「この子は我が儘だからね。ボクの方はあまり期待しない方が良いよ。双護こそ、さっきのやつはやらないのかい?」

 

 

京楽の斬魄刀は癖が強い。それは使う本人ですら苦労する程だ。

 

 

「素直に十四郎の合流を待った方が良さそうだね」

 

 

双護が見せた鬼道と斬術の組み合わせは不完全であり、消耗が激し過ぎる。技が失敗する可能性もある中で連発するようなものではないのだ。

 

 

「あらら、もう再生が終わるよ。嫌になっちゃうね全く」

 

 

2人の斬撃で斬り刻み、蒼火墜によって半身を焼き尽くしたが、それでも短時間での再生をしている。

 

 

「さっきより霊圧の上がり方が凄い。春水、分かってると思うけど油断しないでね」

 

 

「当然」

 

 

2人同時に駆け出す。再生直後の隙を狙うのだ。浮竹も合流すれば勝率は上がり、救援まで時間を稼ぐのが楽になる。

 

双護は京楽の前に出て先手を取ろうとした。

 

 

「〈縛道の一 塞〉‼︎」

 

 

双護の動きが硬直した。気絶させた隊士が目を覚まし、縛道を双護に向け放ったのだ。通常時なら簡単に弾く事が出来る程度の完成度。しかし、今は戦闘の最中である。一瞬の隙が命取りとなってしまう。

 

京楽がすぐさま双護を守ろうとするが虚の拳は双護を捉えていた。後方へ吹き飛ばされ岩山へ叩きつけられる双護。

 

 

「は、ははは‼︎やった、やったぞ父上‼︎憎き卯ノ花に一矢報いる事が出来-------------------」

 

 

隊士は歓喜の声をあげていたが、最後まで言いきる事は出来なかった。上半身を虚に喰われてしまったからだ。

 

因果応報とはいうが、時灘に利用された挙句虚に喰われて死ぬ。京楽はこの名も知れぬ隊士が少しだけ哀れに感じた。

 

 

「やれやれ、無事に帰れてもボクが怒られる羽目になるじゃないか。この貸しは高くつくからな双護」

 

 

京楽は再び斬魄刀を強く握りしめ虚と対峙するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………きて…………お…………て………ん』

 

 

 

『起きて、起きてご主人』

 

 

虚に殴られ岩山に叩きつけられた双護はいつのまにか全てが真っ黒に塗りつぶされた空間にいた。

 

 

「ここは……………………」

 

 

『ここはヨミの場所だよ。ご主人がヨミを起こしてくれたから呼ぶ事が出来たの』

 

 

双護の目の前に現れたのは黒い布を纏った少女。黒く塗り潰された空間であってもその顔は何故か認識出来た。

 

 

「えっとヨミちゃん?僕今戦ってる最中なんだけど…………ここから出る事って出来ないかな」

 

 

『ヨミの事呼んでくれたらここから出れるよ』

 

 

名を呼ぶということ、現実とはかけ離れた空間。この場所が斬魄刀の精神世界であるという事が理解出来た。

 

 

『この場所、暗くて冷たくて怖い所だけどご主人が居てくれるなら寂しくない。お仕事も頑張れる』

 

 

「僕はここから出て戦わなくちゃいけないんだ。僕と一緒に戦ってくれるかな?」

 

 

『いいよ、ご主人の為にヨミ頑張る。ヨミはね◼️◼️◼️◼️っていうの』

 

 

ヨミと名乗る少女がそう告げると双護の視界は突然クリアになり、意識は現実に戻ってきた。

 

 

「おぉ、なんとか生きてるみたいだな‼︎」

 

 

「全く……………寝坊が過ぎるんじゃないのかい?」

 

 

双護の前には双護を守るようにして戦っている浮竹と京楽がいた。どれだけ長い時間双護は意識を失っていたのかはっきりしないが2人の身体はボロボロになっていた。

 

 

「寝起きな所悪いんだが、後は任せても良いか?少し疲れたみたいだ」

 

 

「うん、お疲れ様十四郎。あとは僕がなんとかするよ」

 

 

双護が肩に手を置くと糸が切れた人形のようにその場に座り込む浮竹。その様子を見ると京楽は始解を解除し浮竹と同様にその場に座り込む。

 

 

「ボクも疲れたし、さっさと決めてくれよ。あと、貸し一つだからね」

 

 

普段通り飄々とした振る舞いの京楽だが、霊圧の消耗が激しく疲労もピークを迎えているようだった。それもそのはずで、霊圧が上がっていく虚相手に浮竹が合流するまで単独で押し留め、浮竹と合流してからも双護が目を覚ますまで全力で闘っていたのだ。

 

双護は小さく笑い浅打の刃を軽く触れ、その名を呟く。

 

 

「暗闇より出で、宵闇より我が声に応えよ」

 

解号を唱えるとただの浅打は鍔が変化し、刃は墨で塗りつぶしたような黒色に染まった。そして双護を取り囲むように影が大きく広がった。

 

 

 

月詠神楽(つくよみかぐら)




という訳で双護くん始解ですね。京楽さんが始解してるのに関してはお家の話が関係してるって事で個人的な解釈になるんですけどこの人なら霊術院生の時既に始解しててもおかしくないなと思いまして。

次回は双護くんの始解バトルです!!お楽しみに!!!


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悪魔の罠 其ノ四

今回はあの男が登場!!護廷十三隊の隊長の中で最も人気と言っても過言じゃ無くBLEACHにおいて一位二位を争う有能マン!!!


双護を中心に展開された黒い影。黒く染まった斬魄刀、跳ね上がる双護の霊圧。先程まで対峙していた者と明らかに変わっている事に虚は警戒しているのか攻めてこようとしない。

 

 

「さぁ、行こうか。ヨミちゃん」

 

 

『うん、ヨミに任せて』

 

 

虚に向かって駆けていく双護。虚は背中からミサイルのように種子のような物を撃ち出す。双護はその攻撃に対して防御しようという姿勢を全く見せない。

 

 

「双護‼︎気をつけろ‼︎」

 

 

「まぁ落ち着きなって浮竹。双護なら大丈夫だよ」

 

 

浮竹が警戒を促した時双護を中心として展開されていた影が種子を弾くように双護を守った。

 

懐まで潜り込み、虚を一刀両断しようとするが虚は瞬歩で背後へ回り込んだ。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

雄叫びを上げながら拳を双護に向けて放つが、その拳は双護に当たることはない。

影の中から姿を現した少女ヨミがその拳を受け止めていたからだ。

 

 

「ヨミちゃん、そのまま」

 

 

「な、おい‼︎」

 

 

虚の腕をヨミごと斬り落とそうとする双護。その事に驚いた浮竹だっが斬り落とす瞬間、ヨミが影に消え周囲に展開していた影が斬魄刀に収束した。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

痛みか、怒りか。雄叫びを上げ双護を威嚇している虚。その瞬間、虚の霊圧は爆発的に上昇する。

 

瞬歩で双護の視界から消え、背後に周り攻撃しようとする虚。拳に霊圧を乗せ、防御されないようにしている。

 

 

「しまっーーーーーーーーーー」

 

 

不意をつかれる形で拳が双護の身体を貫いた。拳が双護を貫いた瞬間、双護の身体は黒く変色し溶けた。

 

双護と入れ替わっていた影が虚を拘束する。虚は必死に抵抗しているが拘束を解く事は出来ない。

 

 

「これで、お終い‼︎」

 

 

双護が斬魄刀に練り上げた鬼道を放つようにして流し込むと双護の斬魄刀から爆炎が吹き出す。

 

そしてそのまま虚を一刀両断した。双護の一撃を受けた虚はそのまま塵となり消滅した。

 

 

「やぁ、お疲れさん」

 

 

「全くヒヤヒヤさせやがって………………さて、帰って元柳斎先生に怒られるとするか」

 

 

「それだったら虚と戦ってる方がマシだな〜」

 

 

「2人とも、肩貸してくれないかな?最後ので少しはしゃぎ過ぎたみたいでもう動けないや」

 

 

戦いの緊張感から解放されたからか、霊力の消耗が激しいからか動けなくなってしまった双護は京楽と浮竹に肩を貸すように頼んだ。

 

この事件は教員と関係者生徒の間で箝口令が敷かれる事となった。しかし、噂話と事件が好きな貴族出身が多い霊術院において情報統制をするのは容易ではなく事件の話はすぐに広まる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時灘の屋敷にある誰にも使われていない土蔵にて時灘の計画は進められていた。

 

 

「おい、どうしてくれるんダネ。ワタシのサンプルが壊されたそうじゃないカネ」

 

 

白塗りの道化師のような化粧をした男性が時灘に問い詰める。

 

 

「確かに卯ノ花双護の始解は予想外だが、あの程度で元柳斎を殺せると思ってる訳じゃ無いよな、涅マユリ?」

 

 

「ワタシにとって総隊長殿は関係無いヨ。ワタシが苛立っているのは貴重なサンプルが無くなった事だヨ。貴様は研究というものを舐めているのか?」

 

 

一般の隊士であれば青ざめ動けなくなるであろう濃密な霊圧を解放して時灘を脅そうとするマユリ。しかし、時灘はそんなマユリに屈する事無く飄々としている。

 

 

「舐めている訳じゃないさ。まだ欠片は残っているし計画は概ね順調に進んでいる。君は今まで通り研究を進めてくれ」

 

 

「それなら別の素材を所望するヨ。今回のはバランスが悪かった。虚と死神、欠片の要素だけじゃバランスが取れていない。滅却師の素材でも寄越したまえヨ」

 

 

欠片を用いて死神と虚の要素を掛け合わせる事で死神の力を扱う虚を生み出した。しかし、得られたデータでは死神の要素と虚の要素のバランスが取れておらず、素材が持っていた力を引き出せて居なかった。

 

 

「随分と厚かましいな貴様。誰に物を言っているのか理解しているのか?」

 

 

マユリの貴族相手にも物怖じしない発言に苛立ちを覚える

 

 

「名前だけの貴族相手にワタシが怯える理由が見当たらない。貴様の計画とやらはワタシの研究無しには成立しないんだ。黙って素材を持ってきたまえヨ」

 

 

「素材は持ってきてやる。だが、覚えておけ。卯ノ花双護で遊び終わったら次は貴様だ」

 

 

「期待して待ってるヨ」

 

 

怒りのまま土蔵を飛び出す時灘に目も暮れず研究をしているマユリ。時灘が居なくなり1人となった土蔵でマユリは時灘背中に語りかけるのだった。




双護くんの斬魄刀、月詠神楽(つくよみ かぐら)の能力は影を操る事です。影を用いた事は大抵出来ます。卍解も考えていますが剣八の息子という肩書きに恥じぬチート斬魄刀に仕上げれていると思います。

細かい質問とうはコメントや、個人メッセージに送っていただければお答えします。では最後に一言。


マユリさまの描写難し過ぎるじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!


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雀部、試す‼︎ 其ノ壱

一番隊隊舎、訓練室。幼き頃より双護が通ってきた場所だ。今この場には双護と姫乃と雀部の三人がいた。

 

 

「双護よ、始解出来たことを師匠として喜ばしく思う」

 

 

そう語る雀部の口調はいつにも増して真面目な口調だった。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「お前に卍解を見せた時、そして今回の事件。どうやらお前はそういった異常事態に巻き込まれる星の元に産まれたらしい」

 

 

血の花嫁事件、統率者の虚との一戦、遠征実習でのトラブル…………双護の意思とは別の所で巻き込まれてしまっている双護を少し哀れに思う雀部。

 

陰謀が絡んだ出自ではあるが、双護は大人達の要らぬ戦いに巻き込まれつつある。

 

雀部も双護が一部の貴族に目をつけられている事を把握している。血の花嫁事件で貴族の薄汚なさを再確認した雀部としては可能であるなら双護を貴族と関わらせたくは無かった。

 

しかし、生まれ持った血筋や運命がそれを許さない。ならばその運命に争うだけの力をつけさせたいと願い己を師匠たらんとしてきた。

 

 

「卍解については以前も教えたが、始解も基本的な所は変わらん。習得がゴールでは無い。力を手に入れたなら技と心を磨かねばならん」

 

 

「はい、分かっています」

 

 

「宜しい。ならば今お前が持つ全力を私に見せてみろ‼︎お前がこれからの戦いで生き残れるか私が見定める‼︎」

 

 

斬魄刀を抜刀する2人。それを見た姫乃は訓練室全体に結界を張る。物理的な保護や霊力による衝撃を緩和する結界など数種類の結界を同時に展開する。

 

 

「流石姫乃姉さんだね。こんな質の高い結界を同時に複数展開するなんて」

 

 

「鬼道衆っていう看板を背負ってるからね。これくらいはこなさないと。それよりも集中しないと双護君、死んじゃうよ」

 

 

統率者の虚との戦いやその他の功績が認められ姫乃は新たに創設された鬼道衆の初代総帥という役職を与えられた。鬼道に優れた者を集め、瀞霊廷の更なる守護と鬼道の発展の為に作られた部隊のトップを務める事になったのだ。

 

 

「大丈夫だよ、姫乃姉さん。この結界のお陰で心置き無く戦える」

 

 

朗らかに笑っているように見えるが、その笑みは獲物を前にした獣だった。瞬間、双護の霊圧が膨れ上がり姫乃は冷や汗をかいた。

 

統率者の虚との戦闘で感じたものと似通っている。もし、今の双護が自分の目の前にいれば殺すつもりでいなければ自分が死ぬというプレッシャーを感じる姫乃。

 

 

「穿て、厳霊丸‼︎」

 

 

「暗闇より出で、宵闇より我が声に応えよ。月詠神楽‼︎」

 

 

雀部の斬魄刀はレイピア状に変化し、双護の斬魄刀は黒く染まり影が展開される。

 

双護は先程から嬉しくて堪らなかった。今の自分がどうやっても勝てない相手。全霊を尽くしても尚追いつけない高みにいる雀部と木刀では無い真剣勝負ができるからだ。

 

 

「なるほど、中々良い始解のようだ。分かっていると思うが私はお前を殺すつもりでいく。くれぐれも死ぬな、双護」

 

 

「先生こそ僕に負けて泣いても知りませんからね」

 

 

「私を泣かせようなぞ千年早いわ‼︎」

 

 

先に動き出したのは雀部だった。レイピアを帯電させ凄まじい速度で突きを放つ。

 

しかし、雀部の突きは姿を現したヨミが受け止めていた。

 

 

「ヨミちゃん、この前の虚なんかよりも強い人だ。油断せずにいこう」

 

 

『大丈夫、ヨミはご主人をちゃんと守るよ』

 

 

自身の斬魄刀と心を通じ合わせている双護を見て雀部は安心した。始解は自身の名を持ち主に伝えるというもの。気に入らなければ違う名をいう事もある。

 

双護の斬魄刀のように自立するタイプの斬魄刀であれば尚のこと心を通わせる行為が重要となる。

 

愛弟子の成長を目の当たりにして顔が緩みそうになるが必死で堪える雀部。

 

 

「よろしい、次からは本気で行くとしよう」

 

 

 

「よろしくお願いします‼︎」

 

 

こうして姫乃が見守る中、二人の戦いは幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双護と雀部が戦いを始めた頃、時を同じくして中央四十六室。瀞霊廷の実権を握っている意思決定機関に不穏な空気が流れて居た。

 

 

「やはり、剣八の息子は瀞霊廷にとって危険になる存在だ」

 

 

「隊士でもない小僧が始解をするなど……………」

 

 

彼らは先日起きた事件の後始末について話していた。虚が現れ生徒が大怪我をしたというだけならば大した問題にはならない。しかし、双護が始解した事は彼らにとって大問題だった。

 

現在の隊士でも始解が出来る者はそう多くない。そんな中で剣八、卯ノ花烈の息子が始解をした。若くして開花し始めた才能はいずれ瀞霊廷にとって貴重な戦力になる。

 

そう考えるのが普通だが、その力が自分達に向けられる可能性を考えてしまっているのだ。

 

 

「理由など後付けで構わんから斬魄刀を没収してしまえば問題なかろう」

 

 

「元柳斎めが許すとは思えん。奴の管理下にある限り我らから直接手を下す事は出来ない」

 

 

権力を行使すれば上から元柳斎を押さえ込む事は可能ではある。しかし、五大貴族のうち志波、朽木、四楓院が元柳斎に対し好意的に協力している以上発言力もある元柳斎の管理下にあるものに迂闊に手を出せば手痛い反撃をくらうことになる。

 

元柳斎に反発する大義名分を与える訳にいかない四十六室の面々は頭を捻った。

 

暫しの間沈黙が流れるが、その中の1人が口を開いた。

 

 

「綱彌代の分家の小僧が何かを企んでおるようだ、少々力を貸すとしよう。ワシに考えがある」

 

 

「なるほど、聞かせてみろ」

 

 

尸魂界における最高の賢人達は暗躍する時灘に手を貸す事を決めたのだった。

 




京楽さんに関しては京楽さんが上手いこと自分の始解を隠した事で目をつけられずにいます。双護の始解に関して何とかしようとてをつくしましたが、隠しようが無かったのと、時灘が手を打って居た事もあり隠せませんでした。京楽さんゲキ怒カウンターが一つ溜まりました。

書いてて思ったけど四十六室クソ過ぎひん?やべぇわ。


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雀部、試す‼︎ 其ノ弐

あとがきにてアンケートを行います。

3人のイケメン具合

京楽さん:昼ドラ、月9に出てくるやたら色気のあるイケオジ。なんなら主人公より人気が出る。男とカップリングされがち

浮竹さん: 学園もののギャルゲーに教師枠で出てくる。非攻略対象ながら人気爆発して次のシリーズで隠し攻略対象となる。

双護くん: ハリウッド、イケメン枠。魔性の美おじ。


訓練室に響く激しい剣戟。これは一介の学生と副隊長がしていいレベルの戦いでは無かった。

 

 

「どうした双護⁉︎先程から攻めのパターンが少ないぞ‼︎せっかくの能力を使わんか‼︎」

 

 

「今から使う所なんですよ‼︎〈鳥獣戯画・因幡の黒兎〉」

 

 

双護が技名を告げると影から愛らしい姿をした黒い兎が次々と現れる。

 

 

「厳霊丸‼︎」

 

 

現れた黒兎を警戒したのか、雀部は厳霊丸の能力である雷撃を放つ。厳霊丸の雷撃を躱しきれずに何体かの黒兎は消えてしまうがその他の黒兎が雀部へと突撃する。

 

 

「むん‼︎」

 

 

雷撃を放ちながら厳霊丸を横凪に振るう。襲いかかってきた黒兎を全滅させるが、背後には月詠神楽を構えた双護が迫っていた。

 

 

「そんな甘っちょろい背後の取り方は教えていないぞ‼︎」

 

 

振り向き様に厳霊丸を振り抜く。双護は切り裂かれるが、すぐさま黒い影となる。そしてその影は雀部を捕らえようとするが逃げられてしまう。

 

 

「〈破道の三十三 蒼火墜〉」

 

 

しかし、逃げた先に回り込んでいた双護が蒼火墜の詠唱を済ませていた。低い階級の破道とはいえ双護の霊圧で放てばそれなりの威力にはなる。

 

蒼い炎に飲み込まれた雀部だったが所々が焼けただけでマトモなダメージにはなっていなかった。

 

 

「動きを読んだ上での立ち回り…………成長しているようだな」

 

 

「まだまだこんなものじゃないですよ〈鳥獣戯画・月詠影狼〉」

 

 

双護の隣に黒い体毛の狼が現れる。狼となったヨミは雀部に突っ込んでくるが雀部は連続で雷撃を放つ。しかし、ヨミは雀部が放った雷撃を全て躱した。

 

 

「私の攻撃を全て躱すとはやるじゃないか‼︎」

 

 

『出る前にパチパチなってるし、当てる気ない攻撃に当たるヨミじゃない』

 

 

ヨミのいうパチパチとは空気中に放電が開始される際におきるストリーマの事を言っている。いつ雷撃が放たれるか分かっていれば躱すのは難しい話ではない。

 

そして雀部も別に様子見のつもりで放った為当てるつもりは無かった。その事すら斬魄刀に見抜かれて居たことに自分もまだまだだと実感した。

 

 

「ヨミちゃんだけじゃなくて僕もいますからね」

 

 

「声を出しては不意打ちにならんと言っているだろう」

 

 

背後に回って居た双護。月詠神楽から爆炎のような霊圧が溢れ出ていた。雀部は双護が姫乃に鬼道を習っていたのを思い出した。

 

かつて滅却師との大規模な戦闘があった時、現在の二番隊の隊長であり四楓院の当主が使用していた技と似通っている。身体に鬼道レベルでコントロールされた霊力を流し、己の拳打の威力を爆発的に上昇させる技。

 

その時の溢れ出る霊圧は荒れ狂う暴風のようだったが双護のは爆炎。その霊圧から感じる圧は元柳斎の流刃若火のようだった。

 

 

「狡いですぞ、元柳斎殿……………」

 

 

目の前にいる双護にすら聞こえない程小さな声で呟く雀部。烈や双盾を除き、双護の師として長い時間側にいたが自分の能力である雷などではなく、元柳斎の炎に似たことが悔しかったのだ。

 

そして小さく笑った。目の前の弟子はまだ自分を越えた訳では無い。だが、自分がものを教える段階を飛び越えているのだ。後は弟子自身が経験し、己の糧としていく段階にある。

 

弟子の成長を喜べない師匠など居ない。だが一抹の寂しさはある。何十年としないうちにその実力は追いつかれ百年もすれば越えられるだろう。

 

雀部は自分の霊圧を限界まで高め、双護が放とうとする全霊の一撃に応える。

 

 

「それがお前の全霊か⁉︎ならば、私も全霊を持って迎え撃つ‼︎」

 

 

これまで放った雷撃とは比べるまでも無いほどの帯電、雀部が放てる最大の一撃。今の双護では受け切る事が出来ないであろう一撃。雀部は自分の弟子であるならこの程度の試練楽に乗り越えて見せろとばかりに雷撃を放つ。

 

 

「〈縛道の八十一 断空〉‼︎」

 

 

双護と雀部、両者の全霊がぶつかり合う事はなかった。姫乃が両者の間に割って入ったのだ。

 

雀部が放った一撃を八十番代以下の鬼道を完全に防ぐ防壁を築く断空を3枚同時に貼る事で防ぎ、双護の一撃は纏っていた鬼道を掻き消す事で防いだ。

 

雀部の一撃を防ぐ為に放った断空は2枚が破壊され3枚目にはヒビが入り壊れかけていた。双護の一撃は鬼道を反鬼相殺でかき消し、月詠神楽を自身の斬魄刀で受け止めた筈だが腕が痺れる程の重さを感じた。

 

 

「これ以上はどちらかが死ぬ事になりかねません、よってこの試合は私の預かりとさせていただきます」

 

 

「これからって時なのに…………」

 

 

 

「双護君、道場に貼った結界は割と前から壊れてるし、異変を感じた隊士が集まって来てるんだよ?もしかしたら誰か巻き込まれてたかもしれないんだよ」

 

 

勝負に水を差された事にむくれる双護だが、姫乃は双護を諭すように話す姫乃。

 

双護はエキサイトしすぎて気づいていないようであったが、姫乃が貼った結界を壊していたのだ。一部訓練室に焼け焦げた跡が見える。

 

冷静になり、集まってくる隊士の霊圧を感じた双護は渋々姫乃の話に納得した。

 

 

そ・れ・よ・り・も。雀部副隊長…………貴方明らかに途中で結界が壊れたの気付いてましたよね?」

 

 

雀部の方を向きながら笑顔で詰め寄る姫乃。そのこめかみには青筋が浮かんでいる。

 

 

「いや、それはだな……………そう‼︎如月鬼道長総帥の実力を信じてだな」

 

 

「言い訳はそれだけで良いですか?」

 

 

「こ………………」

 

 

「こ?」

 

 

隊士としての階級は姫乃の方が上だが、普段の姫乃は雀部を上官として慕っている。長い間世話になってきたというのもあり、自分が出世しようとも雀部は姫乃にとってずっと上官のままなのだ。

 

しかし、今の姫乃には有無を言わさない迫力があった。双護がまだ幼い時に隊士の訓練に参加させようとした時、任務に帯同させようとした時と似たような顔で詰め寄られたのを雀部は思い出した。

 

 

「これにて、さらば‼︎」

 

 

「待てぇ‼︎逃げるなぁ、雀部副隊長‼︎」

 

 

瞬歩で逃走した雀部と追いかける姫乃。この後騒動を聞きつけた烈が参戦した事により、雀部は無事に捕縛され姫乃と烈からお説教された。

 

ついでに、どんな事が起こっていたか知りながら見ているだけだった元柳斎も巻き込まれ説教されるのだった。




姫乃ちゃん強すぎね?とか雀部さんが弱いのか?となりそうですが、断空3枚でギリギリ止められたのは姫乃ちゃんが鬼道衆の長として成長しているからですね。あと雀部さんも全力とはいえ、マジの殺す気で放ったものではないってのもあります。双護君に関しては実力的にまだ姫乃ちゃんのが上なのでなんとか反鬼相殺出来ます。

それとなくこのヒロインが言いという声を聞いたので需要があるか分かりませんが、チキチキ!!双護君の心を射止めるのは誰だ!?ヒロインダービー開幕します!!!!!


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時灘、動く

「それじゃ、卯ノ花君また勉強教えてね」

 

 

「うん、俺で良かったらまた頼ってね」

 

 

双護に別れを告げ去っていく女子生徒。先日起きた遠征実習での虚が出た事件で双護が始解をしたという情報が出回るようになった。

 

実際霊術院生で唯一特例で斬魄刀の携帯が許されている。

 

 

「全く、モテモテで羨ましい限りだよ」

 

 

「みんな始解出来る同期がもの珍しいだけさ」

 

 

霊術院生のほとんどは現役隊士との接点が少ない。双護や京楽のように明確な接点をもっているものは珍しい。よって始解が出来るというのはそれだけで興味の対象となる。

 

双護としては、浅打でない斬魄刀を見る機会が少ないから声をかけられるのだと解釈していた。

 

 

「だったらボクがモテモテになっても良いんじゃないの」

 

 

「表向きは使えないって事にしてるんだから。あんまり大っぴらに言っちゃ駄目だよ」

 

 

京楽の始解は斬魄刀の能力なのか、始解されていた事がバレていない。

 

 

「そういえば双護はボクがどうして始解出来るのか、聞かなくていいのかい?君と浮竹なら話すのもやぶさかでは無いんだけど」

 

 

「別に聞きたい訳じゃないからね。春水が話したくなったら話せばいいよ」

 

 

「そう…………………じゃあボクはこれで失礼するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と遅い帰宅じゃないか、高澤」

 

 

「つ、綱彌代君………………」

 

 

双護と別れた女生徒高澤が帰宅すると、屋敷の中には綱彌代時灘がいた。

 

 

「霊術院の王子様との蜜月は楽しかったか?親が借金の為に身を削って働いているというのに怠惰に青春を貪るのはさぞ楽しいだろうな」

 

 

高澤の家は商人をやっていた。軌道に乗っており順調に商売していたが時灘が話しかけてくるようになってから何故か業績が落ちるようになった。

 

同時に不審火、店を荒らす輩などが現れ資金は底をつきついには借金する事になった。その借金も異様な程高利子がつけられた。

 

どうしようもなくなったかと思った時、時灘が現れ借金を肩代わりしたのだ。高澤の両親は泣いて喜び頭を下げて泣きながら礼を言った。

 

高澤も時灘に礼を言おうとしたが見てしまった。頭を下げている両親を見て愉悦の笑みを浮かべているのを。

 

 

「何をしにきたの…………………」

 

 

「なに、君のご両親と少し雑談をしていただけさ」

 

 

「そう、用が済んだなら帰って」

 

 

「あぁ、そうさせてもらうよ。それはそれとして一つ相談なのだが、治験というものに興味は無いか?」

 

 

帰ろうと門を潜ったが、高澤に向き直り話しかける時灘。その顔は高澤の両親に借金の肩代わりを申し入れた時と同じものだった。

 

 

「そんなもの興味はない‼︎お金なら卒業して、護廷隊に入ってからの給金で支払うって話でしょ」

 

 

「それとは別の話さ、君のご両親も治験には賛成なんだ。是非とも受けて欲しいと言っていたよ」

 

 

時灘が何かを企んでいる事に気付いた高澤は借金の返済は護廷隊に入ってから支払うと約束を取り付けた。それまでは低金利で少しずつ返せば良いと言う事になっている。

 

契約書を用いた正式なものである為でまかせも言えないだろうと高澤は安心した。

 

 

「それとね、事情が少し変わってね。役所の制度が変わった関係で契約書が一部変更になってね。金利が少し高くなってしまったんだ」

 

 

「このっ‼︎」

 

 

思わず掴みかかりそうになるのを必死に抑える高澤。相手は末端とはいえ五大貴族に連なる者。その気になれば人の命すら好きに出来てしまう。

 

高澤の両親は自分の娘を差し出さねばならない状況まで追い込まれていたのだ。

 

 

「その治験受ける代わりに借金の金利を元に戻す事と返済以外に高澤家と関わらない事を誓って」

 

 

「あぁ、勿論だとも。綱彌代の名に誓う。契約書までは後日送付する」

 

 

「どんな治験なの」

 

 

「覚悟が決まったなら、ここに来るといい」

 

 

そう言って場所の詳細が書かれている地図を手渡す時灘、彼は楽しみにしていると言って姿を消した。

 

高澤が家の中に入ると高澤の両親は泣き崩れていた。

 

 

「ごめんね……………ごめんね…………ごめんね……」

 

 

「許してくれ、許してくれ、許してくれ」

 

 

壊れた人形のように只管謝罪を続ける高澤の両親。明るく、優しかった両親の面影はどこにも無い。

 

 

「大丈夫だよ。お父さん、お母さん。あとは私が何とかするから」

 

 

血が滲む程強く拳を握りしめて、家を飛び出し地図が指し示す場所へと高澤は歩み出した。




ゲスすぎるぅ…………………………

霊術院編最終章動き始めました。本編は勿論進めていきますが、ヒロインダービーも開催しているので活動報告の方に何かありましたら送ってください。


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悪夢のような一日 其ノ壱

サブタイトルがオサレに出来ない俺を許せ…………サスケ


五大貴族が一同に会する行事があり、霊術院が休校となった日。双護は北流魂街80地区「更木」にきていた。

 

同級生である高澤に呼び出されたからだ。男女が出掛けるにはあまりにも殺風景で危険な場所。万が一の事を考え、月詠神楽の携帯許可を得た双護。

 

 

「あぁ、卯ノ花君。良くきてくれたね、ありがとう」

 

 

「たか…………さわ…………さん?」

 

 

待っていたのは同級生の高澤だった。しかし、その変貌ぶりに双護は動揺した。

 

色が抜け落ちたかのような白髪、痩せこけ皺だらけになった肌。魄動は著しく弱くなっている筈なのに霊圧は異様なまで高まっている。

 

そして、高澤の右手にはボロボロに刃毀れした斬魄刀が握られていた。

 

 

「ごめんね、卯ノ花君。お願いだから………私を殺して」

 

 

そう言うと高澤は双護にまっすぐ突っ込んでくる。最初の一振りを避け、月詠神楽を抜刀する双護。

 

 

「暗闇より出で、宵闇より我が声に応えよ。月詠神楽‼︎」

 

 

刀身が黒く染まり影が展開される。高澤の攻撃をヨミが受け止めて双護が反撃する。しかし、双護の反撃を難なく躱す高沢。

 

 

「どういう事か説明してくれるかな…………時灘」

 

 

「おぉ、私がいる事に気付くとは流石は卯ノ花だ」

 

 

高澤以外の霊圧を感知していた双護は近くにいた時灘に問い掛ける。目の前の高澤の身に何が起こっているのか、それを知っていると確信して問いかけた。

 

 

「それにしても説明してくれるかだなんて………随分な言い掛かりじゃないか。私は別に何もしていないさ、ただ割の良いバイトを紹介しただけだ」

 

 

「そっか、詳しい事は後でゆっくり聞く事にするよ。だから…………………逃げるんじゃねぇぞ」

 

 

普段の双護からは想像が付かないほどドスの効いた声と殺意に満ちた霊圧を受ける時灘。そして自分がやっていた事は成功していると確信した。

 

同期の中では飛び抜けて優秀な実力と人格を有している双護が殺意に顔を歪ませる瞬間を拝めたのだ。

 

時灘にとっては、ここで双護が高澤に負けようと勝とうとどうでも良い。ここからはただの余興でしか無い。

 

 

可能であるならこの場で時灘に問い詰めたい双護だが、そうもいかない。高澤が双護を攻撃するからだ。

 

 

「〈鳥獣戯画・黒羽天魔烏〉」

 

 

ヨミを巨大な烏に変化させて高澤へ突撃させる。途中で小さく分裂するヨミ。その全てを斬り落とそうとする高澤。

 

高澤によって弾き飛ばされた二羽の烏が瀞霊廷の方へと飛んでいった。

 

 

「わた………わ……………◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

人格だけは保っていた様子であったが、何かに塗り潰されたような声で叫ぶ高澤。斬魄刀は高澤を取り込むように触手が伸び高澤の腕に絡みつく。

 

 

『ご主人、あのひと………….もう半分くらい虚になってる。もう半分は………よく分からない』

 

 

「どうにか出来るとおもう?」

 

 

虚になりつつある高澤を助ける事が出来るかどうか、それをヨミに尋ねるがヨミは小さく横に振る。

 

 

「ほらほらぁ、殺すなりしないと君が危ないぞ卯ノ花‼︎そうなると親子揃っての人殺しになるがなぁ‼︎血は争えないとはこの事か‼︎」

 

 

「黙ってろ」

 

 

「何だって?聞こえないなぁ?殺人鬼の息子の声を聞くほど私の身分は低くないものでな。もっと大きい声で言ってくれないと分からないぞ‼︎」

 

 

「黙ってろって言ってんだよ‼︎」

 

冷静に対処しようとする双護の思考を乱すように時灘が双護を煽る。双護は自身の迷いを振り切るように時灘に一喝する。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️………………………『目が覚めたら訳の分からねぇとこにいるじゃねぇか』」

 

 

「ほぉ」

 

 

時灘は高澤の変化に興味深そうにする。高澤が虚に飲み込まれかけ、声にならないような呻き声をあげるといきなり少年の声に変化したのだ。しかも、少年の声は高澤の声と重なって聞こえている。

 

 

「『ってなんだよコレ。女の身体になってるじゃねぇか………………あん?見覚えのある顔だな』」

 

 

高澤は目の前にいる双護に気がつくと少し考えるような素振りを見せる。高澤を乗っ取った人格に何やら心当たりがあるようだった。

 

 

「僕は君に全く心当たりが無いんだけどな」

 

 

「『まぁ、何でも良い。俺と遊ぼうぜ‼︎』」

 

 

斬魄刀を振り上げ攻撃する。その接近速度に驚く双護。先程までの高澤とは別次元の速さ、そして力強さだった。

 

 

「『んだよ。女の体のせいで思ったより力入らねぇじゃねぇか』」

 

 

「これは本格的に拙いな…………………」

 

 

乗り移られた高澤の膂力は現在の双護よりも上だ。膂力が高いという事は霊力、即ち霊圧が双護より高いということになる。霊圧の高さは死神の戦いにおいて最も重要な要素となる。

 

 

「ははっ、意図せずもう一つの実験も成功したのか‼︎これは本家の奴らもさぞ喜ぶだろうな‼︎」

 

 

綱彌代家が望んでいるのは元柳斎よりも強い戦力。初代剣八である烈よりも強いと烈本人に言わせた更木の少年の霊圧を宿し、雀部に卍解させた虚が残した斬魄刀に眠っている意識を復活させる事が出来たとなれば、器次第では最強を生み出せるという事になる。

 

本家の喜ぶ事をするのは時灘としては望む事では無いが、点数稼ぎにはなるだろうと考える時灘だった。

 

 

『ご主人‼︎こいつ凄く強い、ヨミも手伝う?』

 

 

「いや、ヨミちゃんは頼んだ事をお願い。ここは一人でなんとかする」

 

 

「『何を喋ってんだぁ‼︎もっと向かってこいよ‼︎この時を楽しもうぜェッ‼︎』」

 

 

''更木の少年''の膂力は双護よりも上だが、技量は双護が上をいっている。

 

 

(このくらいならまだ捌ける。時間を稼げば僕の勝ちだ)

 

 

「時間を稼げば援軍が来るとでも思ったか?雀部長次郎や如月姫乃が来てくれると思ったか?母親が助けてくれるとでも?残念だったな‼︎五大貴族の警護の任から離れる事は出来ない‼︎」

 

 

''更木の少年''の攻撃を捌いている双護の狙いを知っているかのように語る時灘。

 

 

「それは、分からないだろ」

 

 

「私がそこに手を回していないとでも思ったのか?おめでたいな。お前の為に動く隊士は全て瀞霊廷から出れないようにしてある‼︎」

 

 

「そう?じゃあ僕がこいつを倒すしかないね」

 

 

「あぁ、倒すが良いさ。母親と同じ人殺しになりたいのならな‼︎」

 

 

「何を言いたいんだ」

 

 

「おや?知らなかったのか?お前の母親は尸魂界史上類を見ない大罪人。護廷とは名ばかりの人殺しなんだよ」

 

 

烈が元々大罪人であった事は双護は知っていた。烈が殺すという事を誰よりも知っている事も分かっていた。

 

その事に驚く事はなく冷静に''更木の少年''の攻撃を捌く。

 

 

「元柳斎はその大罪人に家族を持たせる事で制御しようとした。お前はそうした打算の上で生まれた謂わば卯ノ花ハ千流を制御する為の付属品に過ぎない‼︎」

 

 

その言葉に思わず動きが止まってしまう双護。そして双護は時灘の言葉に気を取られてしまった事を後悔した。

 

次の瞬間、''更木の少年''の一撃により、双護の身体から鮮血が舞った。

 




聖人メンタルで普段は優しいイケメンオブイケメン君がクソイケボでブチギレるとゾクゾクくるよね。俺はゾクゾクする。俺の中ではcv中村悠一になってるんだけど皆さんはお好きなイケボで脳内再生してください


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悪夢のような一日 其ノ弐

結末としてはみんなスッキリしないかも……………………


あ、2話連続投稿です。


「『おい、次はテメェが俺と遊んでくれんのか?』」

 

 

倒れた双護を見てもう動かないであろうと次のターゲットを時灘へと向ける''更木の少年''。

 

時灘では''更木の少年''では勝負にすらならない。刃を向けられればその瞬間、時灘の首が飛ぶ事になるだろう。

 

だが、時灘の顔に焦りや恐怖といった感情は無かった。

 

 

「私と遊ぶなどとほざくか……………それならば自分の獲物くらい仕留めてみせろ」

 

 

時灘の言葉に疑問を浮かべる''更木の少年''だっが、次の瞬間その意味を理解した。

 

斬られて倒れ込んでいた双護から霊圧が迸っていた。月詠神楽を杖代わりにして立ち上がる双護。

 

 

「礼を…………言うよ、時灘。クソほどどうでも良い野次ごときに動揺してるようじゃ僕もまだまだだよ。これで僕はまた強くなれる」

 

 

そう言うと更に霊圧を上げる双護。斬られ、大量に血を流していた双護だったが、霊圧で無理矢理止血をする事で立てるようにしているのだ。

 

 

「しまったな…………姫乃姉さんに回道習うんだったな」

 

 

「『は、ははは。ハハハハハハ‼︎最高だな、最高過ぎるぜテメェ‼︎まだまだ遊べるなァア‼︎』」

 

 

''更木の少年''も双護の上昇した霊圧に呼応するように霊圧をあげて双護へと突撃する。嵐のような連撃を繰り出す''更木の少年''。

 

双護はその攻撃に対し、全てを完璧に捌く。そして、''更木の少年''の頬を掠める一撃を放つ。

 

 

「あぁごめんね。ここからはちゃんと本気出すよ」

 

 

「『良いね、良いねェ‼︎お前最高だぜ‼最高に楽しくなってきっ………⁉︎』」

 

 

「楽しんでるところ申し訳ないけど、君には死んでもらう」

 

''更木の少年''の左腕を斬り落とす双護、突然斬り落とされた左腕を見て驚愕する''更木の少年''。

 

 

「これでお仕舞いだ。〈神奈月〉」

 

 

周囲に展開されている影が月詠神楽に収束される。そして振り下ろされた刃は''更木の少年''を袈裟斬りに捉えた。

 

糸が切れた人形のようにその場に倒れる''更木の少年''。それを確認すると膝をつく双護。

 

霊圧で強制的に止血をしているが、あくまで応急処置にしかなっていない。霊圧が解除されてしまえばまた血が噴き出すだろう。

 

 

(頼むから…………起き上がってくれるなよ……)

 

 

縋るように祈る双護。今の双護に戦う力は残っていなかった。''更木の少年''が再び立ち上がれば双護はなす術もなく殺される。

 

しかし、その願いはあっさりと裏切られることになる。

 

ギギギという効果音が聞こえて来るような立ち上がり方をし、斬り落とされた左腕が圧倒的な速さで再生した。

 

 

「嘘…………だろ………」

 

 

斬魄刀を構えなにかを解放しようとする''更木の少年''。''更木の少年''から放たれている霊圧は先程とは変質していた。

 

双護が戦っていた''更木の少年''は死神の霊圧に限りなく近いものであったが、今の霊圧は虚のソレだ。

 

 

「◼️◼️◼️◼️、◼️◼️………………」

 

 

「お待たせ、待たせたかな?」

 

 

しかし、その斬魄刀が解放される事は無かった。''更木の少年''から伸びた影の中から現れた京楽が首を跳ね飛ばしたからだ。

 

 

「遅すぎる……………よ。きょ、う、ら……」

 

 

「ごめんね」

 

 

''更木の少年''が再生する事なく倒れたのを確認した双護は安堵の言葉を言い切る事なく倒れた。

 

地面とぶつかる前に京楽が双護を受け止め、何かしらの薬を飲ませた。

 

 

「これは言い逃れ出来ないよ、時灘」

 

 

「ふふふはははは‼︎そうか、助けを呼んだのは元柳斎でも無く、卯ノ花ハ千流でもなくお前だったか‼︎私もまだまだだな。卯ノ花ごときに出し抜かれるとはな。次はこうならないようにするとしよう」

 

 

「生憎、次は無いよ」

 

 

京楽が睨むが時灘はただ、嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして到着した護廷隊士によって時灘は捕縛された。双護は生死の境を彷徨いかけたが、霊圧で止血をしていた事が功を奏し、何とか生き延びる事が出来た。

 

後日、時灘は裁判にかけられる事になる。京楽が証拠を用意し、高澤の両親を証人に時灘を追い詰めるが、主犯である涅マユリが全てを計画し、時灘は巻き込まれただけという弁護によって全てが覆された。

 

結果としては涅マユリは反逆罪で地下特別管理棟、通称蛆虫の巣へ送られる事になる。一方、時灘はというと、霊術院を退学し自宅にて長期間の謹慎という事になった。

 




更木の少年が「」の後に『』なのはそういう仕様です。可愛い女の子ボイスにcv立木文彦が乗ってる感じです。

ゲスには後々ちゃんと天誅してぇんや。いや絶対する!!!!


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卯ノ花、贖罪す

とりあえず、これにて霊術院編は終了となります。それに伴って幕間の物語は一度消します。完結したり、ある程度目処がついたらまた載せることにします。

サブストーリーだけ纏めた作品を投稿するか、ここに掲載するから決めかねてますがまたいつか何処かでお見せします。ヒロインダービーの候補者分はサブストーリーをつくってやりたい。


双護が目を覚ました時、病室のベッドの上だった。点滴がさされ、ベッドの脇には烈が椅子に腰を下ろしていた。

 

 

「随分と無茶をしましたね」

 

 

「母さん………………」

 

 

「霊圧を上げて無理矢理止血をするなんて。全く、誰に似たのか……………………ですが、よく帰ってきました」

 

 

「うん、ただいま」

 

 

無事に烈の元へ帰る事が出来た双護はあった事を話し始めた。高澤という同級生に呼び出され、向かうと刃毀れした斬魄刀を持った高澤に襲われた事、その場に時灘がいた事、高澤を斬った事。

 

あの時、身体を完全に乗っ取られていたとは言え、初めて人を斬った双護。それも仲良くしていた同級生をだ。

 

 

「私は隊長として、貴方が彼女を斬った事に関しては正しい事をした。それしか言いません」

 

 

仲間を盾に取られているのならその仲間ごと斬れというのが護廷隊の理念だ。傷ついたものを癒すのが目的である四番隊であってもその理念は変わらない。

 

虚に乗っ取られた死神がいるのなら殺すしかない。それが如何に仲の良かった者であっても、同じ窯の飯を食べた仲であってもだ。

 

 

「一部貴族の中では、事情が事情とはいえ殺人を犯した双護を処すべきとの意見も出ました。ですが………………友人に感謝なさい」

 

 

「そうだね…………………そう言えばさ、母さん達が結婚したのってお爺ちゃんからの命令だったのって本当なの?」

 

 

予想外の質問では無かった。双護が自分たちの馴れ初めを聞く位の事は予想出来ていた為驚きはしなかった。

 

普段であれば適当に誤魔化して有耶無耶にしていた烈だが、今回起きた事件から考えるにある程度は聞かされていると考えるのが自然だ。

 

 

「四十六室からの命令で私に見合いの段取りをさせたというのは総隊長から聞きました。今だから言えますが、総隊長の司令が無くても私は双盾さんと一緒になっていたでしょう」

 

 

これは嘘だ。元柳斎から見合いをしろと言われなければ粛清という名の下に敵を殺して回る荒んだ日々を過ごしていただろう。その果てに更木の少年と出会っていた確率の方が何倍も高い。

 

 

「貴方が何を聞いたのかは知りませんが、私と双盾さんは貴方を愛しています。この気持ちは嘘偽り無く真実のものです」

 

 

 

「うん、それは知ってる。それが聞けただけで僕は嬉しいよ。それでね、今回の事件を通して決めた事があるんだ」

 

 

「何をですか」

 

 

「僕は剣八になる。母さんよりも強い剣八になって護りたいものを護れる死神になるよ」

 

 

剣八という称号は尸魂界において最強の意味を持っている。その最強を受け継ぐと言うのだ。伊達や酔狂で名乗れるようなものではない。

 

そしてそれを語る双護の目は真剣そのものだ。

 

 

「そうですか…………………それは、楽しみですね」

 

 

双護の言葉を噛み締めるように頷く烈。子として、弟子として自分を超えると宣言する事、この事が堪らなく嬉しく、そして誇らしいのだ。

 

卯ノ花ハ千流のままであれば感じる事の無かったであろう感情。自分のやってきた事を認めて貰えたような気がして烈は嬉しかった。

 

剣八という称号は自身こそが最強であると証明する為に烈が名乗り出したのだが、その名前には殺人鬼、大罪人といった負の側面もあった。

 

当時の副隊長であった虎徹天音には押し付けるような形で二代目の隊長、即ち剣八の座を引き継がせたが天音本人がその名を名乗ろうとしないことから二代目の座は形式だけのものとなっている。

 

烈は自分が名乗る分にはなんとも思わなかったが、部下にそうした負の側面を押し付ける事を申し訳なく思っていた。

 

自身が犯した罪が無くなるわけではないが、自分を目標として目指してくれる事は烈にとってこれ以上ない喜びだった。

 

烈自身が心の底から望んだ『自分よりも強い死神と戦いたい』と言う願いが現実味を帯び始めようとしているのだ。

 

 

「ですが、剣八になるというのなら今のような生温い訓練では駄目です。退院したら訓練はもっと厳しくしますから、今はしっかりと身体を休めなさい」

 

 

ただでさえ、自身と双盾が背負うべき業を背負わしてしまっているのだ。

 

親として烈はこれから息子がこれから迫ってくるであろう悪意と戦えるよう、自分と同じ道に走らないよう導くのが烈にとっての贖罪となる。

 

 

「ははは、頑張るよ」

 

 

現状でも半分くらい死ぬ目にあっている双護。更に厳しくなるとなれば訓練の度に今回のような怪我をするのではと苦笑いしか出てこなかった。

 

そんな双護の頭を撫でると、烈は病室から出ていった。病室から出て行く烈の表情は何処か晴れやかだ。




「それにしてもお主らが卒業とはの」


「元柳斎先生のおかげです」


「お主らは3人揃えば向かう所敵なしじゃった…………本当に、色々な意味で無敵じゃったな。今思い出すと胃がっ…………‼︎」


「そこは普通に褒める所じゃないの、山じぃ」




3人が卒業する時、こんなやり取りがありました。

さて、次回から時間がズバッと飛びます。原作突入していきます!!双護君の所属隊は一体どこになるのか⁉︎

それはそれとして………………一角さんと砕蜂の卍解はなんとかならんかったのか………………


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双護、嬉しい

砕蜂美少女すぎ。すこ。


双護が霊術院を卒業してからかなりの年月が過ぎた。それぞれ入隊してから目覚ましい活躍を見せ、京楽は八番隊、浮竹は十三番隊、双護は二番隊の隊長となった。

 

次世代を担う若手だった双護達だが、気が付けば古参の死神になっていた。

 

二番隊の隊舎にある訓練場に双護は副官といた。

 

 

「はぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

「かなり鋭い蹴りだね。うん、良くなってる」

 

 

「まだまだです‼︎」

 

 

隊長となってからは隊務も始まらない早朝、副官である砕蜂と訓練をするのが日課となっている。

 

お互い斬魄刀を帯刀せず、白打のみでの試合形式の訓練。

 

 

「これからお見せする技はまだ誰にも見せた事の無い技です」

 

 

「へぇ………………これは、なかなか」

 

 

そういうと砕蜂は数歩下がり、霊圧を高める。濃密に練り上げられていく霊圧の高まりを双護は知っていた。

 

練り上げた霊圧を右腕に集中させる。すると、霊圧は暴風を思わせる風へと変化する。それに伴い、砕蜂の死覇装の右腕の袖が切り裂かれる。

 

 

「行きます‼︎」

 

 

「うん、おいで」

 

 

手のひらを差し出し、軽くクイっと曲げ挑発する双護。

 

 

「その余裕、崩してみせます‼︎」

 

 

目にも止まらぬ速さで双護へと突っ込む砕蜂。走り込んだ勢いを利用して飛び上がり、体重を乗せた一撃を放つ。

 

 

「うん、良い技だ。だけど………………今の砕蜂ちゃんにはちょっと危ないかな」

 

 

砕蜂の霊圧と体重を乗せた全力の一撃を左手で軽く受け止め、地面に倒れないよう砕蜂を抱き止める双護。すると、砕蜂が纏っていた霊圧が霧散した。

 

 

「反鬼相殺……………ですか」

 

 

「うん、その技は今の砕蜂ちゃんじゃ少し難しい技なんだ。もう少し霊力のコントロールを訓練してからにした方が良い」

 

 

「はい、そうします。それはそれとして……………些か近く無いですか?」

 

 

飛び上がっていた砕蜂の一撃を受け止めた事で彼女を抱き止めている事で2人の距離は限りなくゼロに近く密着している。

 

 

「あぁ、汗臭かったかな?」

 

 

砕蜂をおろし、自身の匂いを嗅ぐ双護。見た目は青年な双護であるが、良い年齢に差し掛かっている。京楽は自身の副官に体臭を指摘され落ち込んでいた。

 

その話を聞いていたからか、部下や一緒に過ごす相手に不快な思いをさせないようにと双護は身嗜みは気をつけるようにしていた。

 

 

「あ、いえ決してそのような事はありません‼︎ただ、私が汗をかいているのでご迷惑かと………」

 

 

「大丈夫、気にならないよ」

 

 

「そ、そうですか。それなら良かったです。それで、「隊長〜、副隊長〜。そろそろ仕事のじか…………アブフォッ⁉︎」」

 

 

 

訓練場の飛び上がりを開けて入ってくる三席大前田希千代。しかし、彼が訓練場に足を踏み入れた瞬間、砕蜂が大前田に接近し顔面にハイキックをいれた。

 

 

「痛ってー‼︎何すんスか、副隊長⁉︎」

 

 

「この程度避けられないようでは話にならんな。死ね」

 

 

「いきなりひでぇ‼︎いや、朝の定期報告始まるってお知らせに来ただけなんすけど⁉︎」

 

 

「そうか、なら死ね」

 

 

「やっぱり酷い‼︎」

 

 

双護はそんな大前田と砕蜂のやり取りを微笑ましく見ていた。双護は入隊してから世話になっていた恩人であり、大前田の父親でもある希乃進から息子を頼むと言われていた。

 

父親譲りの才能はあるのだが、臆病なところがあり、金持ちを見せびらかすような振る舞いから一般隊士からは敬遠されがちであった。しかし、砕蜂とは仲良くやれているようなので安心した双護だった。

 

 

「稀千代くん、何か緊急の報告はある?」

 

 

「い、いえ‼︎緊急なものは無いッス‼︎」

 

 

双護は大前田に話しかけると怖がられる為砕蜂と大前田の距離感を羨ましく思っていた。特に砕蜂がいる時には更に怖がっている節があり、同性の部下とどうにか仲良くなれないか日々悩んでいた。

 

 

「よし、僕は適当に着替えてから隊首室に向かうから。砕蜂ちゃんはお風呂沸かしてあるからゆっくり汗流してから業務に戻るように」

 

 

二番隊隊舎にはそこそこ豪華な風呂があり、二番隊隊士であれば誰でも使える。双護の前任の隊長の我儘で設置され、当初は隊長しか使えないものだったが双護が増築し、隊士全員で使えるようにしたのだ。

 

余談ではあるが、他の隊の隊士も格安で使うことが出来る。二番隊との合同任務や訓練があった際は無料で使える。他の隊からも人気は高い。

 

 

「ありがとうございます‼︎」

 

 

砕蜂は頭を下げると訓練室を出て行った。大前田も砕蜂に続くようにして訓練室を飛び出して行った。

 

 

「さて………と」

 

 

そうすると双護は自身の左手に回道をかける。反鬼相殺で霊圧を掻き消し、軽々と受け止めてみせたが砕蜂が放った一撃は双護が思ってた以上の威力だった。

 

 

「少しひびが入ってるかな?これからはもうちょっと気合入れないと不味いな」

 

 

砕蜂が放った渾身の一撃は双護の左手の骨にひびいれた。前任の隊長が居なくなってからの砕蜂の成長はめざましいものがあり、双護も白打に関しては手を抜けなくなっている。

 

何十年かすれば白打では砕蜂に勝てなくなる時がくるかもしれないと思うほどの成長率だ。

 

 

「先生もこんな気持ちなのかな」

 

 

師である雀部も自分のように弟子の成長を嬉しく思っていたのか考える双護。

 

もしそうであるなら憧れの師に少しでも近づけている気がして口元が緩まるのを感じた双護。これから仕事なのだからと気を引き締めなおして訓練室を出て行った。




なんやこのプレイボーイ‼︎これはアレですね。幼い素直ショタ時代に京楽から悪影響を受けたおかげで対女性に対してはナチュラルに口説いてんのか?ムーブかまします。


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双護、飲み会す。

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八番隊の隊舎の近くは飲み屋街となっている。日が落ちれば、護廷隊隊士だけで無く、一般人なども含めて数多くの人が集まり賑わいを見せる。

 

 

「大将、春水達来てる?」

 

 

「おぅ、双坊。春坊達なら奥の座敷だよ」

 

 

双護はそんな賑わいを見せる大通りから少し離れた静かな裏路地にある居酒屋に来ていた。

 

この店は双護達が入隊してから通っている店である。その事もあって、大将と呼ばれている男は古参の死神となっている双護達を子供扱いする数少ない人物なのだ。

 

双護が指定された座敷の襖を開けると料理が並べられ、京楽と浮竹が既に食事を始めていた。

 

 

「お〜、遅かったじゃないの。先始めてるよ〜」

 

 

「お疲れ、双護。仕事頑張ってるみたいだな」

 

 

「遅くなってごめん。少し立て込んでてね」

 

 

そう言いながら双護は席に着くと京楽がいつのまにか酒を注いでいたグラスを駆けつけ一杯とばかりに飲み干す。

グラスを机に置くのと同時に京楽が酒を注ぐ。

 

 

「双護が刑軍も兼任する様になって50年になるか…………………彼女達は元気にやってんのかね」

 

 

「京楽」

 

 

京楽の発言を諌めるように浮竹が呼び止める。しかし、京楽は気にする様子もなくグラスを傾けている。

 

 

「気にしなくて良いよ、十四郎。あれは彼女が選んだ事だから。僕が言うことは無いよ」

 

 

元々、二番隊は前任者の影響もあり隠密機動としての側面を持っている。隠密機動は護廷十三隊とは別の組織であるが、二番隊の役職に就くものは隠密機動での役職に就くものが多い。

双護は隠密機動に所属していた訳では無いのだが、とある事件が原因で隠密機動のトップであった四楓院夜一が失踪した。

 

それにより、双護が代理で隠密機動の刑軍軍団長代理を務める事になった。

 

双護にとって四楓院夜一は同僚というだけでなく、京楽や浮竹以外の数少ない友人と呼べる人物だった。

 

親しい間柄だった双護はあらゆる方面から責められており、その事に気を使った浮竹と京楽が沈黙する事を決めた。それ以来、3人の間では50年間、四楓院夜一という名前は禁句となっていた。

 

 

 

「まぁ軍団長って言っても僕は代理だしね。基本的な事は砕蜂ちゃんがやってくれてるから」

 

 

「あぁ、双護の副隊長の子か。彼女優秀らしいじゃない」

 

 

「俺も聞いたぞ。隊首試験の内示を受けたそうじゃないか」

 

 

隊首試験、それは護廷十三隊の隊士が隊長になる手段の一つである。

 

護廷隊の隊長は一般隊士とは別次元の強さを持つ。その強さの理由の一つが卍解の習得である。卍解は限られた才能を持つ者が努力の末に獲得出来る死神の最高戦術だ。卍解を習得すれば等しく尸魂界の歴史に名を残す事になる。

 

隊首試験を受けるという事はそれだけの実力があると判断された事になる。

 

 

「本人は隊首試験受けるつもりが無いみたいだし、僕も受けるには卍解の修練が足りてないから受けさせるつもりは無いよ」

 

 

雀部から卍解とはなんたるかを学んだ双護にとって習得したばかり卍解は意味が無い。時間をかけ、修練を積んだ卍解だからこそ死神の最高戦術としての力を発揮出来るからだ。

 

この後、酒が進んだ双護は部下との距離感についての悩みなどを吐露した。

 

 

「だから僕にとって砕蜂ちゃんは妹みたいなものなんだよ」

 

 

「随分可愛がってるんだね〜。まぁ、あんなプリティーな子だったら尚更だよね。そんな調子で彼氏とか出来たらどうすんのさ」

 

 

ピシリとグラスを傾ける手が止まる双護。直後、双護から溢れ出した霊圧によって空間が軋む様に震え出す。

 

 

「砕蜂ちゃんに彼氏とかまだ早いよ。もし砕蜂ちゃんを彼氏にしたいなら僕よりも強くないと認めないからね」

 

 

「お、おい双護。落ち着け、な?」

 

 

「ならボクが立候補しちゃおっかな〜」

 

 

「京楽‼︎」

 

 

双護を宥めようとする浮竹だが、横から京楽が面白がるように手を挙げる。

双護が身内に対して甘々な事は隊長格が知る所だが、京楽はそれを誰よりも理解している。

 

霊術院時代から2人の喧嘩を見てきた浮竹は何とかして京楽を止めようとする。

 

しかし、京楽を静止しようとした時双護が握っていたグラスが割れた。

 

 

「面白い冗談だね、全く笑えない事以外は凄く面白い冗談だよ」

 

 

「落ち着け、双護‼︎頼むから落ち着いてくれ‼︎」

 

 

「十四郎、僕は落ち着いてるよ。それはそうと七緒ちゃんは元気かな?今度ご飯にでも誘いたいから予定空いてたら教えてくれないかな、春水」

 

 

「幾ら双護でもさぁ……………冗談が過ぎるよ?」

 

 

「ブーメランって知ってる?」

 

 

「分かった‼︎殴り合うなら外でやれ‼︎他のお客さんに迷惑だろ‼︎」

 

 

この後、浮竹の必死の説得により外で決着をつけようとなった。しかし、浮竹が大慌で地獄蝶を飛ばした事で駆けつけた姫乃によって事なきを得た。

 

 

この居酒屋での乱闘騒ぎで心労が溜まっていると思った砕蜂が溜まっていた休暇を消費するという名目で双護を強制的に休ませることを決心した。

 




活動報告で双護君への質問コーナーを開設します。双護くんの趣味や好きなものなど気軽に質問してください。

更新する時、後書きに返答を書きます。

双護くんだけで無くこの作品に登場する原作キャラへの質問でもOKです。


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双護、有給消化す。

浦原さんもだけど関西弁難しい。

間違ってたらごめんネ






重霊地。それは現世において最も霊なるものが集まる場所とされており、何十年か何百年単位で場所を変える。現代では空座町がそれにあたる。

 

半強制的に休暇を取る事となった双護は空座町に降りたっていた。

 

 

「これが現世か…………………住みやすそうな町で良いな」

 

 

「でしょ?アタシ達も割と気に入ってるんス」

 

 

「元気にしてた?喜助」

 

 

「えぇ、アタシも皆さんも相変わらず元気ッス」

 

 

浦原喜助。50年前、複数の隊長格が失踪するという事件が起きた。その際、当時の鬼道衆総帥大鬼道長を勤めていた握菱鉄裁が浦原喜助と共に禁術である時間停止と空間転移をしようした。

 

その処罰として第三地下監獄『衆合』に投獄されかけたが四楓院夜一と共に脱走した。

 

 

「あの時、双護サンに見逃して貰ったおかげッス」

 

 

「なんからしくない言い方だね」

 

 

「アタシだってちゃんとお礼くらいは言いますよ」

 

 

脱走した浦原達を双護は捕縛、抵抗する場合はその場での処刑が命じられた。その際、双護の手引きによって無事現世へと逃げる事が出来た。

 

 

「まぁ良いけど。真子くん達は?」

 

 

「次の拠点が決まるまではウチに居ます。今の時間は平子サンしかいないっすけど会ってきますか?」

 

 

「そうだね、せっかくだし会ってこうかな」

 

 

50年前に失踪した隊長格の1人、元五番隊隊長平子真子。他の隊長格も浦原のお陰で生き延びていた。

 

彼らは現世で普通に暮らしながら生き延びている。周囲に怪しまれない様定期的に拠点を移しているのだ。

 

浦原の拠点に移動中、平子達含め現世に逃げた者達の50年の動向を聞く双護。

 

浦原達が現世で生き延びている事は元柳斎含め、ごく一部の隊長は把握している。

 

 

「あっ、ここっス。アタシの家ッス」

 

 

浦原が案内した先にあったのは浦原商店という駄菓子屋だった。

 

重霊地であり現世へと出向してくる護廷隊士もいる。そんな場所でデカデカと自分の名前を分かりやすく表札にするというのはいかがなものかと双護は苦笑した。

 

家の中に入ると駄菓子屋らしく菓子が陳列されており、居間の方に人影があった。

 

 

「おぅ、遅かったやないか。喜助、双護」

 

 

「気付いてたんだ。流石だね、真子くん」

 

 

「アホ抜かせ。そっちこそこっちに気付いて隠す素振りすら見せへんかったやんけ」

 

 

今の双護は尸魂界にいる時の2割程度の霊力しかない。現世への悪影響が無いように隊長格は限定霊印を施されその霊力を制限されるのだ。休暇であるとはいえ双護も例外ではない。

 

そんな制限された霊力であってもそれを察知する平子も隊長格に相応しい霊圧知覚能力を有している。

 

 

「アイツはどうしとる?」

 

 

「少しの隙も見せてくれないね。流石だよ」

 

 

「そうか、俺らはアンタに恩義を感じとる。もしもの時は連絡せえ。気分が乗ったら協力したるわ」

 

 

それを言うと立ち上がり出て行こうとする平子。それを意外そうに呼び止める浦原。

 

「もう、行っちゃうんスか?今晩は鉄斎サンが腕によりをかけるって張り切ってるんですが」

 

 

「拠点が決まったんや。今日からそっちで飯食う事になった」

 

 

「え〜、今日はお好み焼きなのに」

 

 

「アホ。鉄斎が作るのは広島焼きやろ。俺らが食いたいんは関西のお好み焼きや。それに俺は馬に蹴られる趣味はあらへん」

 

 

「そうさせてもらいます。それではまた近いうちに」

 

 

馬に蹴られるという言葉に疑問符を浮かべる双護だったが、浦原も平子もその詳細な意味を言うつもりは無いようだ。

 

 

「おお。短い間やけど世話になったわ、おおきに。双護、後のことは頼んだで」

 

 

去り際に双護の肩にポンと手を置き店から出て行く平子。瞬間、平子の姿は消えた。

 

双護は霊圧で感知をしようとするがすぐに霊圧が追えなくなってしまった。

 

 

「ま、そういう訳なんで…………ここで寛いでいてください。アタシは鉄斎サンの手伝いに行ってきます」

 

 

「う、うん。じゃあそうさせてもらうよ」

 

 

浦原が今から出ていってからすぐ、懐かしい霊圧を感じたい双護。

平子と浦原、鉄斎の霊圧でも他の隊長格の霊圧でも無い懐かしい霊圧だった。

 

 

「おーい、喜助ぇ‼︎儂の着替えは…………………」

 

 

バァンっと気持ちの良い音をさせながら勢いよく襖を開ける夜一。双護と目が合い、固まる夜一。

 

 

「あー………………着替えるなら外でようか?」

 

 

居間に来た夜一からは湯気がたっており、肌は上気している。双護が来ていた事に驚いているのか夜一の目は点になっていた。

 

 

「何じゃ、来るなら来ると連絡しろと言っておるじゃろうが。着替えるから少し背を向けておれ」

 

 

そして次の瞬間には冷静さを取り戻したのか夜一は双護に後ろを向かせその間に着替える。

 

 

「女の子って着替え見られたらキャーッて叫ぶものじゃないの?」

 

 

「お主も恥じらいが無いじゃろうが。お互いそんな初心な訳でも無かろう」

 

 

「でも良かったよ。元気そうで」

 

 

夜一達を現世へ逃がしてからマトモな連絡を取れていなかった双護。隊長という立場がある為そう簡単に現世にも行けずだった。

 

今回は降って沸いたような休暇を利用して現世に来た双護。こうして夜一と会うまでは無事であると知っていても心配だった。

 

 

「髪伸ばしてるんだ」

 

 

「お主は長い方が好みなのじゃろう。似合っとらんか?」

 

 

「似合ってるよ。綺麗だ」

 

 

そう言いながら長い髪を一つに束ねポニーテールにする夜一。50年前、夜一が尸魂界にいた頃はショートカットだった。

 

 

「またお主はそうやって歯の浮くような台詞を…………刺されてもしらんぞ」

 

 

何の躊躇いも無く容姿を褒める双護。双護が変化の機微にいち早く気付き、欲しい言葉を投げかける伊達男っぷりは知り合った頃からだった。

 

夜一と双護はほぼ同年代ではあるが双護の方がやや年上だ。2人が知り合ったのは霊術院時代に遡るが、本格的に話すようになったのは2人が護廷隊士になってからだ。

 

 

「刺される前に腕ごと斬り落とせば良くない?」

 

 

「そういう事を言っておるのでは無いわ、たわけ‼︎」

 

 

そう言って双護を小突こうとする夜一。しかし、双護が避けようとした事で勢い余りバランスを崩してしまった。

 

そのまま倒れかけるが、双護が夜一を抱き止める。

 

 

「受け身くらい取れるわ、たわけ」

 

 

「知ってるけど心配くらいはさせてよ、夜一」

 

 

「全く………………お主は変わらんの、双護」

 

 

「夜一は綺麗になったよ」

 

 

「もう良い、ちょっと黙っておれ」

 

 

夜一が双護首に手を回す。目を瞑りゆっくりと顔を近づける夜一。しかし、2人が口付けをする事は無かった。

 

鼻先がぶつかりそうな距離で夜一が動きを止めたからだ。

 

そして怒気を孕ませながら目を開ける夜一。

 

 

「何をしとるんじゃ喜助」

 

 

「お構いなくドーゾ。なんならアタシと鉄斎さんは外で食べてくるんで…………あっ、でも声は抑えてもらえると助かるっス。それと、ちゃんとゴムはしてくださいね」

 

 

双護は何事かと思い夜一の視線の先を見ると、襖から顔を覗かせた浦原が扇子で口元を隠しながらこちらを見ていた。

 

口元が見えていないが憎たらしい顔でニヤニヤ笑っているのが想像出来た。

 

 

「喜助ぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

 

「それじゃ、ごゆっくり〜」

 

 

この後浦原と夜一による数時間の鬼ごっこの末双護が晩飯にありつけた時には既に深夜を回っていた。




ヒロインダービーで他の候補をぶっちぎった夜一さん回でした。正直夜一さんの恥ずかしがる姿も幻視したけど夜一さんは裸見られたくらいじゃ恥ずかしがらんのよ。

夜一さんと双護くんの関係性に関しては皆さんのご想像にお任せします。

平子さんの会話難易度たけぇ。


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双護、お泊まりす。

ヒロインダービー参加ありがとうございました。今回はヒロインダービーの勝者たる夜一さんのメイン回です。




「まさか本当に喜助達外に食べに行くとはね」

 

 

「どうせ平子達の所じゃろ。この時間じゃ店は開いておらんからの」

 

 

積もる話もあるだろうからと鉄斎を連れて外へ出た浦原。

 

 

 

「鉄斎もおらんし、仕方が無い。儂が作ってやろう」

 

 

「いや、俺が作るよ‼︎」

 

 

「お主は客人じゃろうが。それに儂だって乙女の端くれじゃ。料理の一つや二つ軽くこなして見せるわ」

 

 

立ちあがろうとする双護を制止する夜一。夜一の言い分は正論で動くことが出来ない双護。

 

夜一は五大貴族の令嬢である。料理はおろか身の回りのあれこれは使用人などがしていた。それもあってか夜一は若干ずぼらな所がある。

 

料理は決められた調理法などがあるが1番は慣れが重要である。恐らくその経験が少ないであろう夜一の料理は心配になるのも仕方が無い。

 

 

「美味すぎて腰を抜かすでないぞ」

 

 

「う、うん。楽しみに………しておくよ」

 

 

鼻歌を歌いながらキッチンへと向かう夜一。夜一とは入隊してからそれなりに長い付き合いだが、夜一が料理をしている姿を見た事が無かった。

 

 

「なんか…………こういうの良いな」

 

 

エプロンをつけながらご機嫌に鼻歌を歌っている夜一を見て思わず呟く双護。同時に楽しそうに調理場へ向かう烈を見て双盾は楽しそうに見ていたのを思い出した。

 

当時は双護も幼く、双盾が何故楽しそうにしているのか分からなかったが今ならその気持ちが少し理解出来る気がした。

 

リズミカルに聞こえてくる包丁の音、食欲を煽る香ばしい匂いに何かを焼く音。

 

暫く待っているて皿を抱えた夜一が戻ってきた。

 

 

「四楓院特製野菜炒めと生姜焼きじゃ。たんと食え」

 

 

「おぉ…………凄く美味しそうだよ」

 

 

「冷める前に食べてしまえ」

 

 

双護は手を合わせていただきますと呟いてから食べ始めた。

 

一口食べると、その後は黙々と食べ始めた。夜一は黙々と食べている双護を横目に見ながら茶を啜る。

 

 

「どう………………なんじゃ。感想くらい言わんか」

 

 

「美味しいよ。なんて言ったら良いか分からないけど…………こう、シンプルに美味いって感じ?」

 

 

「そう…………か。気に入って貰えたなら何よりじゃ」

 

 

双護の感想を聞くと夜一は安堵の表情を浮かべる。尸魂界にいた頃は料理する事が無かった夜一は現世に来てから必要に迫られ料理をするようになった。

 

大雑把な性格か、結局は鉄斎が食事を担当する事になったのだが多少なりとも料理しておいて良かったと安心する夜一。

 

 

しかし、安堵の表情から一転する。

 

 

「お主には本当にすまない事をした」

 

 

「謝られるような事はしてないよ」

 

 

「夕四郎の事も、砕蜂の事もお主に押し付けわしは喜助を助けた。儂らを見逃した事でお主がどんな目に合ったかも知っておる」

 

 

罪人の逃亡幇助という決して軽くは無い罪を犯した夜一の捕縛を見逃した双護はお咎め無しとはなったが裁判にかけられ、中央四十六室お抱えの貴族からはこれでもかと嫌がらせを受けた。

 

無意味な勾留、規則違反な尋問など例を挙げればキリがない。

 

 

「まぁ隠密機動と兼任になって書類仕事が増えたのはちょっとイラッとしたけど夜一達を見逃した事は僕が選んだ事だ。僕が夜一達を信じた。だから夜一は謝らなくて良い」

 

 

「儂は………………卑怯な女じゃな」

 

 

双護の言葉に涙する夜一。夜一は双護が怒っていない事を分かっていたし怒っていたとしても許してくれるという事を分かっていた。

 

謝る必要が無いと言うことも想像は出来ていた。しかし、夜一は分かっていたとしても謝らずにはいられなかった。

 

幼馴染を助けたいというエゴから双護を巻き込み、許されたいという自分勝手な願いから謝る。最初から最後まで自分という女は卑怯だと心底思う夜一。

 

 

「大丈夫、大丈夫だよ夜一。夜一が助けなくても僕が喜助達を助けてた。君は正しい事をしたんだ。だから、泣かないで今の自分を誇って欲しい」

 

 

涙を流す夜一を優しく抱きしめる双護。夜一は双護の両頬を掴むと自分の顔を寄せる。

そしてゆっくりと唇を重ねる。

 

 

「お主の唇、なんかギトギトしとらんか?」

 

 

「いや、野菜炒めとか食べてたし」

 

 

「まぁ良いわ。双護よ、今日は一緒に寝てくれんか」

 

 

「いや………………泊めてもらうつもりだったけどなんかそれは喜助達に申し訳ないし、客の立場でそういうのは……………」

 

 

「どうせ喜助の奴は平子の所じゃ、帰ってこん。すぐにそっちに話がいくのは助平すぎんか?」

 

 

「はいはい、もうスケベでも何でも良いよ」

 

 

「じゃあ儂は寝床の準備でもしてくる。食器は流しに置いて水でもつけとけ。明日、喜助が洗うからの」

 

 

そう言うと今から出て行く夜一。そんな夜一を見送った双護は黙って食器を片付け、洗い物まで済ませた。

 

食器を洗っている最中、双護自身よく理解していなかったが顔が熱くなるのを感じていた。

 

寝支度を済ませ、夜一の寝室へ入るがその後はこれといった事が起きた訳でなく2人で一つの布団に包まりそのまま朝を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、平子達の新居にて。

 

 

「このハゲ真子ぃぃぃ‼︎なんでウチらが喜助泊めなアカンねん‼︎」

 

 

「しゃーないやろひより‼︎俺かて馬に蹴られるんはごめんや‼︎」

 

 

「馬が蹴る前にウチが蹴り飛ばしたるわ‼︎」

 

 

掴み合いながら喧嘩する平子と失踪した元十二番隊副隊長猿柿ひより。

 

 

「落ち着きや2人とも。双護がこっちに来とって泊まりならもう夜一とコレやろ、ほっといたり」

 

 

左手で輪っかを作り、右手の人差し指を出し入れしながら平子とひよりを制止する元八番隊副隊長矢胴丸リサ。

 

 

「その動きやめーや。やらしいわ」

 

 

「別にええやろ。あの2人がコレなのは結構有名な話やろ」

 

 

「だからその指止めろ言うとるやろ‼︎」

 

 

「はぁー、これだからお子ちゃまは敵わんわ………喜助、鉄斎。勝手に寛いどけや」

 

 

「何がお子様や、ハゲ真子‼︎」

 

 

頭を掻きながら奥へと消えて行く平子。その平子を追いかけてドロップキックをするひより。

 

その他の者も日常的な光景なのか、我関せずに各々好きな事をしている。

 

浦原と鉄斎は平子の言葉に甘えて寛ぐ事にしたのだった。




両親譲りの美系な顔と雀部仕込みのジェントルムーブ、色々な経験を得て築きつつある黄金の精神。こんなんモテない方が無理あるよな。

夜一さんと双護くんがどこまで進んでるかはご想像にお任せします。言っとくけど俺はR18なんて書かないからな。

平子さん達のくだりはおまけです。


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護廷動乱
双護、出立す


いよいよ原作合流ぞ。マユリさまに違和感を持ちつつもまぁこれで良いかなと。



「これより、緊急隊首会を開催する」

 

 

隊首会は定期的に開催される定例隊首会と緊急時に開催されるものと二種類ある。

 

今回開かれた隊首会は緊急のもである。前回の緊急隊首会が開かれたのは魂魄消失事件の時から100年以上経過する。

 

 

「十三番隊の隊士である朽木ルキアが現世の駐在任務最中に消息を経った。詳しい話を卯ノ花二番隊隊長からしてもらう」

 

 

 

「ではまず、隠密機動主導で技術開発局に協力してもらった結果から報告します」

 

 

現在の隠密機動の総司令を務める双護から調査の報告が入る。

 

死神がなんらかの理由で現世へ渡る際には追跡可能な義骸を渡しており消息が掴めなくなるという事は無い。十二番隊隊士が空座町の映像を確認したところ朽木ルキアらしき姿を発見したとのこと。

 

双護からの報告に驚きを見せる隊長達。

 

それもそのはずで、朽木ルキアは六番隊隊長である朽木白哉の妹で四大貴族朽木家の令嬢。そのルキアが護廷隊の確認できない義骸に入っている可能性があるからだ。

 

隊長達の頭の中には15年前に起きた志波一心の現世への出奔が過ぎる。

 

 

「また五大貴族………おっと、四大貴族だっかネ。自分達で決めた事すら守れないとはご立派なことだヨ」

 

 

「まだ僕の報告が終わってないんだけど?涅隊長」

 

 

「それはすまなかったネ、卯ノ花二番隊隊長殿。朽木ルキアが駐在していたのは重霊地たる空座町。空座町といえば同じ五大貴族の御令嬢殿が消えた場所と同じだったと思いだしてネ」

 

 

「それで?どうするつもりなんだい、山じぃ」

 

 

双護とマユリの間に割って入るように京楽が元柳斎へと質問する。

 

 

「まずは現世へ三席以上の者複数による捜索隊を結成する」

 

 

「それはちょっと過剰過ぎないかい?」

 

 

京楽の問いに淡々と答える元柳斎。京楽の過剰ではないのかという問いも理解しているのか元柳斎は一度うむと頷き口を開く。

 

 

「お主の言いたい事は理解しておる。しかし、朽木ルキアは報告によれば実力だけでいえば席官相当。席官相当で対処しきれない何かが起きているのであれば三席以上、場合によっては隊長の出動を検討せねばならぬ」

 

 

死神において霊力は実力に大きく関わってくる。霊力が捕捉出来ない程譲渡したのなら一般隊士や下位の席官では手痛い反撃に合う可能性もある。

 

三席以上の実力であれば個人差はあるが、隊長格と肩を並べて戦う事も出来る。

 

 

「では、その役目私が請け負う」

 

 

沈黙を貫いていた六番隊隊長、朽木白哉が挙手しながら発言する。

 

 

「妹さんが心配なのは分からなくも無いけど私情で動くのはお勧めしないよ」

 

 

「黙れ、兄だけには言われる筋合いは無いぞ。卯ノ花双護」

 

 

「何が言いたいのかな」

 

 

「四楓院夜一を見逃した裏切り者が私情などとほざいた事を言いたいんだヨ。だが、卯ノ花二番隊隊長殿が言うのも強ち的外れじゃない。渦中の朽木ルキアの親族が捜索するのは辞めた方がいい。どこぞの二番隊隊長殿と同じ目に合うヨ」

 

 

「静粛にせよ‼︎総隊長命令で卯ノ花二番隊隊長主導で捜索隊を結成したのち、ただちに出動せよ‼︎この決定に異論は一切認めん‼︎そして、涅隊長。卯ノ花二番隊隊長の容疑は既に晴れている。これ以上は己の立場を悪くするだけとしれ」

 

 

「ちょっとしたジョークだヨ。全く、これだから……………」

 

 

白哉と双護の間に入り茶化すマユリを一喝する元柳斎。一喝されたマユリはやれやれと言いながら引き下がる。

 

総隊長権限で朽木ルキアの捜索を双護に一任し場を何とか治める元柳斎。これ以上マユリが双護を茶化していればこの場で隊長同士の戦闘が始まっていた可能性もあった為なんとか治った事に安堵する。

 

 

「それではこれで緊急隊首会を終了とする。解散‼︎卯ノ花二番隊隊長は残るように」

 

 

ぞろぞろと退出していく隊長達。全員が出払い、霊圧の反応が遠くなったのを確認すると元柳斎は咳払いをする。

 

 

「それで、進捗は如何程じゃ。敵の名前を教えてくれんと手伝う事も出来んぞ」

 

 

「まともな証拠が一つも無いんだ、前出してもどうにもなんないよ。それより今回の捜索だけど僕1人で行っても良いかな?」

 

 

「それは何故だ」

 

 

「向こうのやりたい放題ってのも納得行かないしちょっとした仕込みをしようかなって。お爺ちゃんには少し時間を稼いで欲しい」

 

 

何かを企んでいるかのような、何かを楽しんでいるかのような表情で元柳斎に時間稼ぎを強請る双護。

 

そんか双護に深くため息を吐く元柳斎。霊術院時代だけでなく、もっと幼い頃からそれこそ産まれた時から双護を知っているが双護は何かとトラブルの渦中にいる。

 

その多くは何故かそこにいるというのばかりだが、時たま自分から問題を起こす事もある。そういった時は必ず問題が起きる。それもかなり大規模な問題である。

 

 

「どれだけ欲しい」

 

 

「どれだけ時間があっても足らないと思うけど………………最低でも一週間、出来れば二週間は欲しい」

 

 

「分かった、一週間は保証しよう。じゃが、それ以上は難しいからの」

 

 

「ありがとうお爺ちゃん‼︎それじゃ、準備が出来たらすぐに出発するから‼︎」

 

 

双護はそう言うと慌ただしく一番隊の隊首室を飛び出していった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、現世と尸魂界を繋ぐ穿界門にて。双護の見送りに京楽が来ていた。

 

 

「十四郎は……………定期検診か」

 

 

「浮竹が気をつけろってさ。ボクも同意見で、何するつもりか分からないけど気をつけなよ」

 

 

「心配ありがとう。だけど向こうでは無茶するつもりないから大丈夫。それよりも、こっちの事は任せたよ」

 

 

「山じぃに怒られるかな」

 

 

「それはいつもの事だからね。夕四郎には事情話してあるから。すぐにでも取り掛かって欲しい」

 

 

「山じぃは良いけど七緒ちゃんに怒られるのは何か嫌なんだよなぁ………………それじゃ、いってらっしゃい」

 

 

京楽の見送りに軽く手を振りながら穿界門を潜る双護。

 

双護が消えたのを確認すると京楽はため息を吐く。双護が主導起こす問題は碌なことが起こらないのを経験則から分かっていた。

 

既に京楽の知らない所で大きな何かが動き始めている。

 

 

「隊長‼︎こんな所にいた‼︎これから四大貴族の当主と会うのに何油売ってるんですか‼︎」

 

 

「そう怒らないでよ、七緒ちゃ〜ん。仕事に行く親友を見送るくらいは許してよ〜」

 

 

「仲が良いのは結構ですが仕事はしっかりとしてください」

 

 

はいはいと言いながらぷりぷりと怒る七緒についていく京楽。動き始めた何かと戦う為に親友が頼ってくれているのだ。

 

双護が助けを求めている。それだけで京楽は元柳斎にどやさられるのもやぶさかでは無いと思い、拳を少しだけ強く握りしめた。

 




双護くんが煽られてる間、烈さんは沈黙を貫いていますが内心かなりブチ切れてます。抑えていますが、隊舎に帰って双盾が宥めるまで勇音の胃が大変な事になります。

あとマユリさんは双護くんのこと自体は嫌いではありません。研究には割りかし手伝ってくれるし面白いデータが取れるからです。ただ母親や浦原さんの影がチラついてイラッとする事はよくあってそれで煽ります。双護くんは乗りませんが。



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双護、邂逅す

ランボー/怒りの休日出勤

ランボー/怒りの残業


同時公開☆


クロサキ医院。開設されてから10年以上町の診療所として経営を続けている。

 

瀞霊廷の監視の隙を突き、現世在住用の義骸を浦原が制作したものと入れ替えた双護は問題の中心となっている“謎の死神”に会う事にしたのだった。

 

 

「えっと…………チャイムってこれかな」

 

 

技術開発局の発展があるとはいえ、尸魂界と現世では技術の発展の方向性が違う。チャイムというのも尸魂界には無いものであるし、瀞霊廷内であれば大抵の者は門を叩かずとも来客を察知する事が出来る。

 

恐る恐るチャイムを押す双護。軽快な音が鳴るが誰かが出てくる気配は無い。そもそも押せているのかも分からない双護は自分が来たことが伝わっているか不安になりチャイムを連打する。

 

 

「だーっもう‼︎朝っぱらからうるせぇなぁ‼︎今日は休みだって表の看板にも書いてあんだろ‼︎変な営業のつもりならぶっとば……………………………」

 

 

「へぇ、誰が誰をぶっ飛ばすって?」

 

 

「あは………あはは………元気そうっすね、双護さん」

 

 

「あぁ、久しぶりだね。一心」

 

 

双護は突然の出会いに驚いていた。玄関を開け、出てきたのはかつての同僚にして霊術院時代の後輩、旧五大貴族志波家出身の十番隊隊長志波一心だった。

 

 

「あーもしかして………倅の件ですか?」

 

 

「喜助から聞いてたんだ、話が早くて助かるよ。一心とはゆっくり話したい所だけど…………こっちも時間が無いからごめんね」

 

 

「良いんです。本当なら俺も戦えれば良かったんすけど………………倅を、一護の事をよろしくお願いします」

 

 

深々と頭を下げる一心。双護は何も言わずに一心の肩に手を置く。

双護としても一心が仲間として戦ってくれたならどれだけ心強い事だったろうか。しかし、彼はとある事情により死神の力を失っている。

その事を浦原から聞いていた双護としては、本来戦う必要の無かった少年を巻き込んでしまった事に対する罪悪感があったが、一心の頭を下げる姿を見て決心する。

 

 

「卯ノ花の名に掛けて一護君を強くしてみせるよ。ちょっとやそっとじゃ負けない強い男にする」

 

 

「そうですか、安心しました。一護は今の時間は学校なんでそっちの方に行ってもらえれば会えます」

 

 

「了解、あとは任せて」

 

 

一護が通う高校を聞いた双護はクロサキ医院を出た。滅多に来ることがない現世で地理はあまり分かっていないが大まかな位置が分かれば人探しには事足りる。

 

朽木ルキアによって死神となった一護は霊力のコントロールも出来ていないのか、霊力が垂れ流し状態にある。

 

 

「一心と似た霊圧………それ以外にもチラホラいるな。とりあえずは一護だけで良いか。先ずは霊力のコントロールからかなぁ」

 

 

一護の育成をどうするか考えながら霊圧を感じる方へ歩き始める双護だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空座第一高校に来た双護はセキュリティの甘さを感じながらも現世と尸魂界は全く別だと考え直し、用務員に事情を適当に話し、一護がいるという教室へ案内してもらう。

 

 

「というわけで黒崎一護くん、帰るよ」

 

 

「どういう訳だよ、てか誰だアンタ?今授業中だぞ」

 

 

教室のドアを勢いよく開くと教師が黒板に何やら書いている最中であった。幾ら現世と尸魂界が違うとはいえ、双護にも学生の経験がありこれが授業中である事は理解できた。

 

一護の人相を聞き忘れていた双護であったが、すぐに誰が黒崎一護かは理解出来た。オレンジ色ではあるが、志波家らしい精悍な顔つきと滲み出ている霊圧。

 

 

「そ、そそそそそそ双護殿⁉︎」

 

 

一護に声をかけると席に着いていたルキアが勢い良く立ち上がる。ルキアの霊圧が極端に感じられなくなっていたのと一護の霊圧の大きさでルキアに気付かなかったのだ。

 

護廷隊士で隊長の人相を知らぬ者はおらず、ましてや一時期教えを受けていた双護の出現に驚くルキア。

 

 

「あっ、ルキアちゃんもいるのか丁度良いね。ルキアちゃんの実家の事で話があるから浦原商店に行くよ。僕は校門の方で待ってるから。あ、先生授業邪魔してすみませんでした、どうぞ僕はお気になさらず授業を続けてください」

 

 

勢い良く開けたドアをぴしゃりと閉めた双護。そのあと教室にはなんとも言えない空気が流れた。

 

 

「黒崎、朽木。あれ誰だ」

 

 

突然現れた自分の生徒を何やら知っている風な男に対して疑問を持つのは教師として当然だろう。

 

一護はあの男事は何も知らないと首をブンブンと横に振る。

 

 

「えーと、あの………そう‼︎習い事の先生だった方ですわ‼︎おほほほほほ‼︎」

 

 

「まぁ知り合いってなら良いけど。気ぃつけて帰れよ」

 

 

大慌てで帰る支度をするルキアと何が何やら分からない一護。この後一護はルキアに引っ張られる形で教室を後にするのだった。

 




一心さんと双護くん達はほぼ同年代ですが多分双護くん達のが年上です。双護くんに対して敬語なのは霊術院時代に双護に突っ掛かったところをシメられたからです。

双護くん的には可愛い後輩です。

次回からやっと一護とまともに会話させられる………………


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ルキア、送還す。

浦原商店はかつてないほど重い空気に包まれていた。双護と合流し、浦原商店に着いた一護とルキアは双護が来た理由を聞いたのだ。

 

死神の力の譲渡は瀞霊廷において重罪である。死神代行という制度は存在したが、とある事件により瀞霊廷はその制度を実質的に廃止した。

 

それ以降人間の死神化というのに敏感になった上層部は死神の力の譲渡は重罪とした。

 

 

「つまり、ルキアが俺にした事は犯罪で裁かなきゃいけないから尸魂界に帰らなきゃいけない。そして俺は殺されるって事なのか?」

 

 

「かなりざっくりだけど概ねその通りだよ。ルキアちゃんのした事は重罪だけど大貴族の令嬢だからそこまで重い刑は無い筈なんだけどね」

 

 

「それはまぁわかりたくねぇけど分かった。けどよ、何で俺が殺されなきゃいけねぇんだよ」

 

 

一連の話を聞いても一護の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。それもそのはずで、一介の高校生に瀞霊廷の事情や法律を話した所で理解できる訳が無く、いきなり殺されるから強くなれと言われても納得は出来ない。

 

 

「君みたいな死神みたいに虚と戦える人間が居たんだけど…………ちょっとトラブルがあって上層部は少しナイーブになってるんだ」

 

 

「あれは俺たちを助ける為に仕方なかった事で情状酌量?てのとかは無いのかよ」

 

 

「現世ではどうか知らないけど僕達は過程よりも結果なんだ。理由や原因よりも結果の裁定が先にくる。情状酌量が適用出来たとしても証明する証拠が無い」

 

 

「なんだよそれ‼︎アンタはルキアの知り合いなんだろ‼︎そんな理不尽許せるのかよ‼︎」

 

 

「言いたい事も気持ちも理解は出来るよ。でも何も証明出来ない今はこうするしかないんだよ」

 

 

「辞めんか、一護‼︎双護殿を困らせるでないわ‼︎」

 

 

双護に掴みかかる勢いで身を乗り出す一護を静止するルキアは倫理観も何もかも違う現世の少年には理解は出来ないが、護廷隊士として戦ってきたルキアには双護の言っている事は納得出来た。

 

状況的に一護に死神の力を譲渡するしか無かったとはいえ自身が罪を犯したのはわかっていた。本来であれば有無を言わさず捕縛され、一護はその場で斬り捨てられていただろう。

 

こうして話してくれている時点で双護が如何に慈悲をかけてくれているのか分かっているルキア。

 

 

「出来る限り時間は稼ぐ。それまでに身の振り方を考えておくんだ……………っと、そろそろ時間だね。喜助、黒崎くんの事よろしく」

 

 

奥から扇子を構えた喜助現れ、「了解っス」というと一護を連れて何処かへ消えていった。

 

 

「さて、行こうかルキアちゃん」

 

 

「はい」

 

 

店の外へ出るルキアと双護。外には既に穿界門が開かれており、隠密機動の隊士が二名と双護の副官である砕蜂がいた。

 

 

「ご苦労様、砕蜂。後ろの子達もご苦労様」

 

 

「「は、はい‼︎おつかれさまです‼︎」」

 

 

双護に声をかけられペコリと頭を下げる砕蜂とびくりと全身を硬直させながら挨拶をする隊士。二番隊はそれほど礼節に厳し訳では無いのだが、双護への挨拶を怠ったり、ちゃんとした挨拶をしないと砕蜂の蹴りが容赦なく飛んでくる。

 

現在は三席である大前田は入隊当日に父親の関係で知っていた双護に馴れ馴れしく話しかけ四番隊隊舎送りにされている。

 

その事から二番隊で最も大変な任務は双護への挨拶と報告であるとされている。

 

 

「手筈は整っております」

 

 

「そう、みんなにはよろしく言っといて。僕はこのまま休暇取る事にするから。もしもの時は頼んだよ」

 

 

「委細承知しました。朽木ルキア、ついてこい」

 

 

ルキアに手枷をはめながら催促する砕蜂。一瞬、浦原商店の方を見て怒りの表情を浮かべるがすぐにルキアの方をみる。

 

 

「道中、簡単な尋問をする。嘘偽りを言うとは思わんが自白剤を飲んでおけ」

 

 

そう言って白い錠剤をルキアに手渡す砕蜂。ルキアは何も言わずに手渡された錠剤を飲む。

 

飲んだ瞬間、何かしらの違和感を感じるルキアだったが自白剤を飲んだことなどない為こういうものなのだと納得した。

 

 

「じゃあ、砕蜂。あとは頼むね。もしもの時は一番の棚開けて良いから」

 

 

「そのような事はありえませんが承知しました。隊長も休暇を楽しんでください。雑事は全て私が済ませておきますので」

 

 

何か含みを持たせたような会話にクエスチョンマークを浮かべる隠密機動の隊士。思わず1番の棚の事を聴きたくなってしまうが二人のプライベートに踏み込んだ大前田が四番隊送りになった事から砕蜂と双護の間を詮索するような事は死に繋がるとして我慢した隊士たち。そういうと穿界門を潜る砕蜂達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、質問だ。貴様、喋る猫と会った事はあるか?」

 

 

「しゃ、喋る猫……………ですか。見たことありませぬ」

 

 

「そうか、なら良い」

 

 

穿界門を潜り、尸魂界に到着する砕蜂達。どのような質問がくるのか身構えていたルキアだったが、来た質問はルキアにとって全く身に覚えの無い質問ばかりだった。

 

今回の死神の力の譲渡よりも別の人物について聞きたいのかと思うような質問であったが、砕蜂の剣幕から余計な質問はすべきで無いと判断し黙っていた。

 

そして、ルキアは自身の体に違和感を覚える。やけに強く感じる倦怠感、そして動悸。

 

それは時間が経つにつれて強くなっていく。

 

 

「ハァッー、ハァッ………………………」

 

 

気が付けばまともに呼吸する事すら難しくなっていた。意識も朧気になっていく中で2人の隊士がやけに慌てているのと砕蜂がため息を吐いているのはなんと無く見えたルキア。

 

 

「お前達は朽木ルキアを四番隊隊舎まで連れていけ。後のことは卯ノ花隊長に指示を仰げ。私はこの事を報告しにいく」

 

 

「「りょ、了解しました‼︎」」

 

 

ルキアを抱えた隊士達は慌てて四番隊隊舎のほうへと向かっていった。2人が去っていったのを確認すると砕蜂は再びため息を吐く。

 

 

「全く………………双護殿の頼みでなければこんな犯罪の片棒など担ぎたくなかったのだがな。私があの棚を開けることが無いよう全力を尽くすか」

 

 

砕蜂はこの後、元柳斎への報告と四十六室へ提出する書簡をせねばならない。

 

双護と砕蜂の言う1番の棚とは二番隊隊首室にある棚の事であり、その中には隊長羽織が収納されている。

 

その棚を開けても良いと言うことは隊長の座を任されたという事だ。力に自信を持つ双護が敗北を覚悟するほどの相手に自分が勝てるとは思わない砕蜂だが、その敗北の原因に自分がなるのだけは何よりも許せない。

 

双護から隊長羽織を預かる時は相応しいタイミングがある。

 

 

「しかし、私が現れたというのに姿すら見せんとは……………………まぁ良い。次に会うことがあればその時こそ覚悟しておけよ、四楓院夜一………」

 

 

砕蜂は拳を強く握りしめ、ゆっくりと歩き出した。




双護が言った棚を開けて良いよというのは「もし僕が負けて罪に問われ裁かれるような事になった時、若しくは殺された時は砕蜂ちゃんが隊長になってね」という事です。



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双護、関心す

勉強部屋。浦原商店の地下にある巨大な空間。浦原が現世に来た際に尸魂界に作っていた秘密基地のような場所を模写して作った。

 

 

「さっきはルキアちゃんが貴族の令嬢だから重い刑罰は無いって言ったけど多分処刑されるだろうね」

 

 

「はぁ⁉︎くそ、こんな事してる場合じゃねぇ‼︎」

 

 

「どこ行くの?」

 

 

「助けに行くに決まってんだろ‼︎なぁ、浦原さん。尸魂界にい……………」

 

 

ルキアが処刑される可能性を知らされ、居ても立っても居られなくなった一護は浦原に詰め寄るが、双護の放った白雷が一護の頬を掠めた。

 

 

「まだ刑罰どころか裁判も開かれてないし、尋問もしなきゃいけない。処刑の日取りが決まっても準備に数日はかかる。刀握って数週間の雑魚が尸魂界に飛び込んだって死ぬだけだよ?」

 

 

幾ら一心の息子とはいえ、一護は死神になってから日が浅い。現世で普通に過ごしてきたのなら武器を手に取る経験も少ない。

 

一般隊士であっても何十年と剣を手に取り研鑽を積んでいるのだ。幾ら才能があろうとその差が簡単に埋まる訳は無く、隊長格に至っては剣の腕だけでは無い差が生まれてくる。

 

始解も鬼道も瞬歩すら満足に出来ず、まともな知識が無い一護がどうこうできる訳が無いのだ。

 

 

「それでも、見殺しには出来ねぇよ‼︎」

 

 

「君が殴り込んでもルキアに近づく事も出来ずに殺されるよ?」

 

 

「関係ねぇ‼︎邪魔する奴は全員ぶっ飛ばしてルキアを助けに行くんだ‼︎」

 

 

再三の忠告も一護の意思は変わらない。鍛えるという事は元から決めていた双護であったが、思っていたよりも愚直な意思にかつての教え子を思い出した。

 

 

(血ってのは争えないね…………海燕、一心)

 

 

双護はため息を吐く。忠告を聞くような性格であればある程度丁寧に教える事が出来るが、今の一護は猪突猛進する猪武者だ。ただ死に急いでいるようにしか見えない。

 

虚との戦闘経験をある程度積んだ事からくる自信。今の一護の言動はその多少の戦闘経験からくる自信で成り立っている。

 

 

「分かった。今から少し試験をしようか」

 

 

「試験?」

 

 

「喜助、監視ってどうにか出来る?」

 

 

「それなら問題無いっスよ。流石に限定霊印は誤魔化せませんけどそれ以外は大体なんとかなるッス」

 

 

首を傾げる一護を他所に話を進める双護と浦原。休暇という体で現世に残った双護だが、義骸を脱いで死神状態になれば尸魂界にバレる。

 

一護に修行をつけるのであれば尸魂界の監視はどうにかして振り切らなければいけない。その誤魔化しを浦原き任していたのだ。

 

 

「よし、じゃあ義骸を脱いでっと」

 

 

「他人がやってるの見ると幽体離脱みてぇだな」

 

 

「うん?まぁ…………そんな感じなのかな。そんな事より集中しなよ。そんなんだと…………死ぬよ」

 

 

義骸を脱いだ事に驚いたのか、しみじみと呟く一護だったが、双護から放たれたプレッシャーに冷や汗をかいた。咄嗟に双護から距離を取り、斬魄刀を抜く。

 

 

「うん、危機管理能力は上々かな。よし、じゃあ好きに斬りかかっておいで。僕は一切反撃しないから。あ、でも峰打ちにしようとか考えない方が良いよ」

 

 

「あ、あぁ。行くぜ」

 

 

最初は峰で双護に打ち込もうとしていた一護だったが、考えを見透かされ、そのまま峰打ちしようとしていたならどうなるか分かったものではなく咄嗟に刃を返すのをやめた。

 

 

「心配しなくても今の君程度じゃ僕に傷つける事すら出来ないから。安心して斬りかかるといい」

 

 

「そうかよ………………怪我しても泣くんじゃねぇぞ‼︎」

 

 

 

双護の言動は明らかに一護を下に見てのものだ。霊圧からはよく分からないが、隊長という立場から強いのだろうというのはなんとなく察していた一護。しかし、自分も虚と戦ってきたのだ。

 

双護が思うほど弱くないというのを示すとばかりに全力で踏み込み、双護目掛けて斬魄刀を振り下ろす。

 

 

「まだ迷いがあるかな?その程度じゃルキアちゃんを助けるなんて夢のまた夢だよ」

 

 

一護の渾身の一振りは簡単に受け止められてしまう。舐められたままではいられないと全力で刃を振り続ける一護。しかし、双護は最も簡単に避けてしまう。

 

 

(素人ながら足捌きはそれなりに出来てる…………体幹のブレも思ってた以上に無い。死神になってからの期間を考えると……………才能有る子って凄いな)

 

 

戦いに対する意識や、霊力の操作などは霊術院の生徒よりもできていないが近接戦だけでいえば思ってた以上の強さだった。

 

双護の当初の予想では一般隊士くらいの実力であると思っていたのだが、下位の席官になら充分勝てる可能性があるくらいの実力はありそうであり、場合によっては上位席官とも戦えるだろう。

 

 

(このがむしゃらな感じは刳屋敷さん好きそうだな………………気質だけなら十一番隊向きかも)

 

 

「へっ、死神の隊長ってのがこの程度なら案外何とかなりそうだな」

 

 

反撃されないとはいえ、思ったよりも動けている自分に自信がついてきたのか動きにキレが増してくる一護。

 

実際、一護の動きはこの短い時間の中で少しずつ良くなっている。上手く成長していけば隊長格にも負けない死神になるだろう。

 

 

「よし、少しなれたところで僕もちょっとだけ反撃するよ」

 

 

双護が放った突きは一護の心臓を狙うが、反射的に斬魄刀で受けた事で一護が貫かれる事はなかった。

 

しかし突きの勢いに負けて吹き飛ばされてしまう。

 

 

「ここで一つ豆知識ッス黒崎サン。隊長格と言われる死神が現世にくる際は現世への影響を考慮してその霊力に8割ほどの制限をかけます。まぁ、簡単に言うと今の双護さんは2割程度の実力しか出せないッス」

 

 

「んだよ……………………それ」

 

 

勝てるとは思っていないが、隊長というものの実力が今の双護くらいならばルキアの救出はなんとかなるかもしれないと希望的観測を持っていた一護。

 

しかし、今の双護は限定霊印によって2割の実力しかない。あまりの力の差に絶望感すら覚えた。

 

 

「まぁでも、双護サンは死神の中でも5本の指に入るくらいには強い人なのでそこまで悲観する事は無いっス」

 

 

「まだこの上に4人もいるのかよ」

 

 

「大丈夫ッス。黒崎サンならなんとかなるッス。それよりも集中した方が良いっすよ?」

 

 

浦原との会話で集中が途切れたのか目の前に迫っていた双護への反応が遅れてしまう一護。振り下ろされた刃を受け止めようとするが斬魄刀は真っ二つに折られてしまう。そして、そのまま一護の身体から鮮血が舞った。

 

 

「双護サン……………ちょっとやり過ぎじゃないですかね」

 

 

「ちゃんと浅めに切ったし、手当てすれば後も残らない筈だよ。手当て頼んだよ」

 

 

月詠神楽についた血を振り払い、鞘に収める双護。今回こうして一護を斬ったのは一護に今の自分の位置と戦おうとする相手の差を明確に知ってもらう為だった。

 

今回で諦めるのならそれはそれで良し。立ち上がるのなら徹底的に鍛えるだけと割り切っていた。

 

手当てを任せご飯でも食べに行こうかと勉強部屋を出ようとする双護。しかし、思わず足を止めた。

 

斬って捨て、気を失ったはずの一護の霊圧が跳ね上がっていたからだ。良くて下位席官程度の霊力しか無かったのに今は上位席官、下手をすれば副隊長クラスの霊圧はある。

 

 

「目覚めろ……………………『斬月』‼︎」

 

 

振り返ると斬魄刀を構え振り抜く一護の姿。振り抜かれた斬魄刀は巨大な出刃包丁のようであった。

 

双護に向かって放たれた圧縮された霊圧の斬撃にに対して咄嗟に月詠神楽を解放する双護。

ヨミが現れ瞬間的に壁を作るが一部ら影が弾かれてしまった。

 

 

「ざまぁ………………見やがれ、ってんだ………」

 

 

最後の力を振り絞った弊害か、再び倒れ込む一護。双護の想定を再び超えた一護。

 

 

「これは…………面白い事になりそうッスね」

 

 

「うん、これから忙しくなるよ。喜助、ちゃんと手当てしてあげなよ」

 

 

「了解ッス」

 

 

最終的に上位席官と戦える程度になれれば良いと思っていた双護と浦原だったが想像を遥かに超える成長速度にもしかしたらという思いが生まれる。

 

浦原は大慌てで手当てを始め、双護は授業メニューの検討を始めるのだった。そんな2人がこれからの計画に希望を見出している中、ヨミは倒れている一護を見て1人何かを堪えるように拳を握りしめた後、斬魄刀に戻っていった。




空手やってたとはいえ、刀握ってちょっとの高校生が何十年戦士続けてきた奴らと渡り合えてるのって控えめにいって異常だと思うの。

双護くんは内心一護に対して「これが天才か。羨ましい」とか思ってます。お前も大概やぞ。


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一護、修行す

なんか想定したよりも1500文字くらい多くなった。


黒崎一護は初めてキツい修行というのを体験した。ルキアとの修行は大した事なかったと痛感していた。

 

 

「ほらほらぁ、もっと集中しないと死んじゃうよ〜」

 

 

「いや、いって‼︎こんな、目隠しして攻撃防げとか、無茶が、アダッ‼︎」

 

 

一護は双護が想定していた以上の強さを見せたが、それと同じ位想定外の不器用さであった。

 

多少不器用であっても多少のコツと方法を教えれば霊力の球を作る事は出来る。ましてや始解をするものであれば程度の差こそあれど中位の鬼道を放つ事くらいは出来る。

 

しかし、一護はまったく出来なかった。霊力の球はそもそも作れないか、作れても暴発して弾ける。試しに瞬歩を教えた際、唯一の成功例が岩山に激突した。

 

双護もそれなりの数の隊士を育ててきたがここまで不器用なのは誰もいなかった。

 

そこで方向性を変え、戦闘の中で霊力の操作を体に馴染ませていく事にした。今行っているのは、目隠ししながら迫り来る竹刀を防ぐ事で霊圧知覚の感覚を身につけさせるという修行だ。

 

 

「いやね、僕もこんな馬鹿げた修行はしたくないんだけど黒崎君、不器用だから…………ついイラっとして」

 

 

「今馬鹿げたって言ったな⁉︎じゃあこれはストレス発散かよ‼︎」

 

 

少しずつではあるが双護の攻撃に対応できるようになってきた一護。軽口をたたく双護だが内心では驚いていた。本能的なものに近いが少しずつ霊圧知覚をモノにし始めており、齧った程度の体捌きも洗練され始めている。

 

 

(僕にも黒崎君くらいの才能があれば……………高望みしすぎかな)

 

 

「そこだぁ‼︎」

 

 

「おっと、今のは中々良かったよ」

 

 

「掠った感じも全く無いのにそう言われてもな………………」

 

 

「黒崎君の斬月はかなり大きいからね。今のがむしゃらに振った攻撃くらいなら簡単に避けられるよ。それよりも、今君は目が見えない状態で僕の位置を当てた。これは死神の基本的な技術の一つで霊圧知覚っていうんだ。姿が見えなくても方向と位置の把握が出来たりする」

 

 

「じゃあ、これでルキアを助けに‼︎」

 

 

「君が斬月を呼んだ時の一撃を好きなタイミングで好きなように放てるようにならなきゃ犬死するだけだよ。あの技があってようやく隊長格と戦える可能性が出てくる」

 

 

「まじかよ…………死神って化け物ばっかなんだな」

 

 

「僕が可愛く見える化け物だって結構な数いるからね。僕も頑張らないとね」

 

 

嘘だろと呟く一護。2割程度の実力しかないという双護にさえ遊ばれるているというのにそんな双護が可愛いくみえる化け物がまだいるというのだ。

 

辟易とする一護だが、両頬を叩き気合いを入れる。ルキアを助けるために必要な事は強くなる事。泣き言を言ったところで戦うべき相手が弱くなるという訳でもないし、自分が強くなるというわけではない。

 

今必要なのは前を見て強くなる為に一歩、一歩を確実に踏み出すことなのだ。

 

 

「よし、続きを頼む双護さん」

 

 

「うんじゃあ目隠し外して只管僕と戦おっか」

 

 

「まじで?」

 

 

「今日と明日は一日中僕と戦って、明後日から別の人達と戦ってもらうから」

 

 

「まぁ、なんでも良いけどよ。ちゃんと強くしてくれよ」

 

 

「何処まで強くなれるかは君次第だけど…………最低限のところまでは意地でも強くしてあげるよ」

 

 

双護がそう言うと一護が真っ直ぐ斬りかかる。今の一護には技術や霊力操作など足りないものは多いが、1番足りていないのは経験だ。

 

技術などは一護程の才能と根性があれば誤魔化しは効くが、経験だけはどうしようも無い。

 

動きによるフェイント、言葉による精神的な揺さぶりやブラフ。そう言った事は経験しなければ対処する事も出来ない。

 

双護はリズムやある程度の太刀筋を変えながら一定にならないよう訓練しているが、双護だけでは限界がある。

 

 

「何時迄も余裕でいさせねぇぞ、双護さん‼︎」

 

 

そして何より、一護の異常ともいうべき一護の成長速度の前に2割の制限があってはそうした余裕を持って訓練をつけるという事が難しくなってくる。限定霊印をした状態では手を抜けなくなり始めているのだ。

 

始解をする前から巨大であったが、始解をした斬月は人1人分くらいの大きさはあったり

 

護廷隊士は始解をしない状態の斬魄刀の大きさは通常の日本刀程度の長さしか無い為、スピードで劣る事になる。

 

しかし、リーチと一撃の重さであれば一護に軍配が上がる。下位の席官以下であれば一護の一撃を受け止めるだけで吹き飛ばされるであろう。

 

 

「うん、まだ一撃が軽いな。今の僕でも簡単に受け止められるよ?まだ斬ることに迷いがあるのかな?そんなんじゃ合格はだしてあげられないな」

 

 

この発言は嘘だ。先を急ぐのであれば今の段階で尸魂界に突撃させてもそう簡単には死なないという確信がある。現に2割の双護が手を抜けなくなっているのだ。

 

三席といい勝負が出来るようになってきている。下手をすれば勝つことすら出来る可能性がある。

 

 

「う、る、せぇ‼︎」

 

 

一護が横凪の一振りで双護を後退させる。そして自身の霊圧を高める。修行を始めて2日目、目隠し訓練と並行して行っていた霊力の操作訓練によってある程度霊圧の上げ下げを自分で行えるようになった。

 

始解をした時の一撃以来放っていなかったが、一護はぶっつけ本番で双護に放とうとしていた。

 

 

高まった霊圧が斬月に収束され、凝縮される。

 

 

「怪我しないでくれよ……………月牙天衝‼︎」

 

 

双護は思わず目を見開いた。ちゃんと技を発動させられた事にも多少は驚いたが、一護口にした技名は一心の得意技と同じだからだ。

 

技の性質として似ているとは思っていたが何のヒントも無しにその名前に辿り着いた一護に才能とは別の何かがあると感じた双護。

 

 

「拗ねてないで助けて欲しいな、ヨミちゃん」

 

 

『………………………………』

 

 

普段であれば双護が始解してほしい時に応じてくれる月詠神楽であるが、一護が始解してからは能力の行使をヨミが渋るようになった。

 

一護が放った月牙天衝が影の壁とぶつかる。始解時は弾かれてしまったが、来ると分かっていれば受け止める事は出来る。

 

 

『やっぱり………………あいつ嫌い』

 

 

「確かに、この威力は嫌になるね」

 

 

月牙天衝を受け止めながら双護にそういう事では無いと言いたげに視線を向けるヨミ。

 

ヨミの無言の抗議に首を傾げたくなる双護だが、ヨミ自身が話そうとしない為聞くことが出来ないでいた。

 

月牙天衝を受け切ると地面は抉れていた。2割とはいえ、月詠神楽で受けることが精一杯な一撃と異常な成長速度。

 

 

(卍解出来れば………………………いや高望みし過ぎかな。でも、戦うには十分か。後は経験を積むだけだね)

 

 

「何ニヤついてんだよ」

 

 

「若いって良いなって思ってさ」

 

 

「いや、双護さんも見た目結構若いだろ」

 

 

「現世の人間で言えば君のお父さんよりも年上くらいなんだけど僕」

 

 

「まじかよ……………………うちの親父が老け過ぎなのか、いや双護さんが若く見え過ぎって可能性も……………」

 

 

「若く見えるってのは嬉しいけど手は抜かないから。というかそれでご機嫌取ろうとしてるならもっと厳し目でいくからね」

 

 

「いや、理不尽‼︎」

 

 

こうして一護の濃密な修行は進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦原商店の電話を借り、双護はとある人物に電話をしていた。

 

 

「ほんで?その黒崎一護っちゅーガキを鍛えたったらええんやな?」

 

 

元五番隊隊長、平子真子だ。

 

 

「うん、ひよりちゃんの遊び相手くらいにはなれるから」

 

 

「なら尚更おのれが鍛えたらんかい」

 

 

「そうしたいのは山々なんだけど、ヨミちゃんが黒崎君の事……………というより斬魄刀の方が苦手みたいで」

 

 

「俺らと同類かもしれんっちゅーことか」

 

 

ヨミが斬月を苦手にしていると聞いた平子は興味深そうに唸る。

ヨミは魂魄消失事件で失踪した隊長格の斬魄刀を苦手としている。それは彼らがその身に虚を宿しているからだ。

 

 

「他にも理由はありそうだけど………………その可能性は高いと思うよ」

 

 

平子達を苦手にしているのは一護と同様だが、一護ほど毛嫌いしているわけでは無い。

訳も無く誰かを毛嫌いするような斬魄刀では無いと知っているからか平子達以上に一護を毛嫌いしているのは理由があると双護は考えていた。

 

 

「そういう事なら引き受けたるわ。あのアホ共がビビり散らかす位には強くしたる。虚の屈服までは保証せんで」

 

 

「うん、それで十分。むしろ虚の屈服には手をつけなくて良い。今の黒崎君なら仮面付けなくて大丈夫だと思うから変な刺激いれたりしないでね」

 

 

平子達は虚に身を侵食され命の危機を迎えていたが、浦原の協力も有り身に宿した虚を屈服させその力を自由に行使出来るようになった。

 

まだ虚の気配すら見せていない一護が平子達と同じであるとするなら何かの拍子に目覚めてしまうということが起きかねない。

 

平子達と同じように虚を屈服出来れば心強いが、それをするには時間が足りなさすぎる。

 

余計な問題も引き起こしかねない為念を押した双護だった。

 

 

「ひよりのアホにはよく言っとくわ……………例の件頼んだで」

 

 

平子達は基本的にマイペースで個性が強いが、分別ある大人である。しかし、猿柿ひよりは感情が表に出やすく人見知りをする傾向がある。

 

一護がひよりの逆鱗にふれるような事があればひよりは一護を殺す為に虚の仮面を被るだろう。

 

一護の中に眠っているであろう虚の力を余計なトラブルで呼び覚ます事は避けたいのだ。

 

 

「準備進めてるところだし大丈夫だよ、それじゃ黒崎君の事よろしくね。おやすみ」

 

 

そう言うと双護は受話器を置いた。

 




まぁある程度強くなってから尸魂界いこうね?って感じです。

まぁ黒崎くぅんの成長速度はチートが過ぎる。そして双護君はお前が言うなオブザイヤー受賞。


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刳屋敷、出陣する

刳屋敷さんずっと出したかった


一護を平子達に預け、尸魂界に帰還した双護。すぐさまルキアの裁判が執り行われる事になっていたのだが、ルキアが原因不明の体調不良により一週間の延期が決定し、数日が過ぎた。

 

 

「これより、緊急隊首会を行う。早速本題じゃが………………現世より謎の死神一行、旅禍の侵入が確認された。それに伴い、巡回中であった斑目副隊長、阿散井副隊長が敗北した」

 

 

隊長達は各々違った反応を見せていた。大体の隊長は目を見開き、驚いている。京楽は菅笠を深く被り、表情を見られないようにして小さく「へぇ………」と興味深そうに呟き、浮竹は何か心当たりがあるのか少しだけ納得した表情をした。

 

副隊長格の中でも実力が高いとされている斑目一角と成長中の有望株阿散井恋次が敗北した事はそれだけ衝撃的な事だった。

 

 

「そういえば、卯ノ花二番隊隊長殿は数日前に朽木ルキアを捉えに行った筈。その旅禍について何も知らないのかネ?」

 

 

「さぁ?朽木隊員はすぐに見つけられたけどそれらしい人物は知らないな」

 

 

「前回の隊首会でもそうだがネ、裏でこそこそやっているのは明白なのだヨ。正直に言いたまえヨ卯ノ花双護……………自分が旅禍を引き込んだのだと」

 

 

「涅隊長、今はそのような事を議論する場合ではありませんよ?それに''私の息子''が離反を企てるような不届き者だと言いたいのですか?」

 

 

前回の隊首会同様、マユリが双護に噛み付くが烈が割って入る。普段の隊首会であれば必要な時以外は沈黙を貫く烈だが、双護の散々な言われように堪忍袋の緒が切れたのか怒気を孕ませながらマユリを威圧した。

 

 

「まぁ、姐さんの言う通りだな。その旅禍の始末…………俺が受け持とう。斑目もだが阿散井はウチにも居た事だしな。部下の不始末は隊長の俺がつけるべきだろ。爺さんもそれで良いだろ?」

 

 

張り詰めた空気感を破るように十一番隊隊長、刳屋敷剣八が旅禍の討伐に名乗り出た。

 

 

「うむ、刳屋敷隊長であれば問題はあるまい。各隊警戒レベルを一段階上げ、警戒にあたれ。意見が無いのであればこれで解散とする‼︎」

 

 

最強の戦闘部隊の隊長を務め、剣八としても歴代上位とされている実力者が討ち取ると宣言したのを邪魔する者はいない。

 

各隊長は無言で肯定を示し隊首会は終了した。

 

 

「刳屋敷さん、これから旅禍の所行くの?」

 

 

「あぁ。あんまりモタモタしてたら他の奴らに取られるからな」

 

 

「そう、気をつけてね」

 

 

「なんだ、やっぱお前の仕込みか」

 

 

一番隊の隊舎を出た所で双護が刳屋敷に声をかける。現役の隊長の中でも指折りの実力者である刳屋敷を心配する者はいない。

 

双護も刳屋敷であれば剣八を名乗るに相応しいと思っており、戦闘面での心配をする事は無い。

 

それを分かっている刳屋敷は珍しく双護が心配するかのような言葉をかけてきた事で気がついた。

 

 

「仕込みって………………別に僕は現世行ってルキアちゃんを連れて帰っただけだよ」

 

 

「現世にいる謎の死神の映像は俺も見たが、どう考えてもあいつに一角や阿散井を倒せる力は無かった。そんな奴に一週間やそこらである程度やれるように仕込めるやつなんざお前くらいなもんだろうよ」

 

 

双護の指導で成長した死神は結構多く、今の若手隊士で双護の指導を受けた者は皆昇進している事から若手隊士の間では卯ノ花塾と言われ人気を博している。

 

 

「分からないよ?若い子ってのはちょっとのきっかけと努力で化けるからね。油断してたら刳屋敷さんでも足元掬われるかもよ」

 

 

「そいつは楽しみだな」

 

 

双護から来た忠告に獰猛な笑みを浮かべる刳屋敷。圧倒的な実力で前任の剣八を倒し十一番隊の隊長及び剣八を襲名してからというもの刳屋敷は暇をしていた。

 

最上級大虚の単身討伐など刺激的な任務はあったがそれ以外は刳屋敷にとって取るに足らない相手ばかりだった。

 

はるか昔にあったという滅却師の襲撃に参加したかったと何度嘆いたか分からない。それ程までに刳屋敷は暇を持て余していた。

 

 

「それじゃ、僕はこれで。休んでた分仕事が溜まってるんだ」

 

 

「そいつは大変だな、手土産に旅禍の首持ってってやるから頑張れよ」

 

 

「刳屋敷さんも一角が戦線離脱してるんだから書類仕事くらいはちゃんとやりなよ」

 

 

隊長業務の大半は書類仕事である。戦闘部隊である十一番隊も例外ではなくやらなければいけない書類仕事は多い。

 

そういった雑多な仕事が苦手な刳屋敷は度々仕事を一角に放り投げており、十一番隊の書類仕事は一角が回しているといっても過言ではない。

 

その一角が倒され、療養すると言う事はその間の書類仕事が増えるという事である。

 

 

「あー旅禍見つけなきゃなー、一角の敵ぃ〜」

 

 

「あっ逃げた」

 

 

驚くほど抑揚の無い声を出すと、刳屋敷はそのまま瞬歩で何処かへ姿を消した。

 

そして暫くすると刳屋敷の霊圧の側に一護の霊圧を感じた双護。

 

一護は現世にいた頃よりは霊圧の制御が出来る様になったのか、霊圧が探りにくくなっていた。平子達に預けた成果なのか、新しい弟子の成長を垣間見えた事で少しだけ嬉しくなる双護。

 

 

「さて…………と。ある意味ここが1番の山場だぞ黒崎君」

 

 

一護からしたら化け物のように強い奴らの巣窟である護廷隊において指折りの化け物との勝負。隠密機動の隊士を使って人払いを済ませている為他の隊の隊長が介入する可能性は低い。

 

双護達が想定している敵もまだ動いていない状況で、一護が刳屋敷相手に生き残るか勝ちさえすれば戦力的に相手にプレッシャーをかけることが出来る。

 

双護は裏路地に入り霊圧を遮断する外套を纏い、一護と刳屋敷の方へと向かっていった。




刳屋敷さんと双護くんの仲は良好です。隊長になったのは割とほぼ同じくらいですが年齢的には刳屋敷さんのがちょい上という自己解釈。

平子さん達との修行で少しだけ霊圧を隠すという事と霊圧知覚ができるようになった一護。只管かくれんぼ(仮面の軍勢VS一護のサバイバル鬼ごっこ。見つかったらしばかれる。逃げながら戦って、戦いながら逃げて、逃げながら隠れるというのを3日間ぶっ通しでやった成果です。本来なら一日休養日を挟んで尸魂界突入する予定だったけどなんやかんや最後に始解した仮面の軍勢全員とタイマンやってから来ているので一護くんかなりハードスケールです。なむ)

双護くんの仕込みは協力者以外に何人か気付いてる風な人はいます。マユリさんとか刳屋敷さんとかですね。証拠は無いけどなんかやってる違和感はあるみたいな感じです。だけど証拠が無いからなんも言えんって感じです。
藍染さまとの違いは絡め手において藍染様のように違和感持たせずパーフェクトにこなすって事が出来てないので絡め手に関しては藍染様の方が一歩上を行ってる感じ。


次回は刳屋敷さんVS一護やぞ!!!!!!!


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刳屋敷、戦闘する。

「よう、坊主。部下が世話になったな。俺とも遊んでくれよ」

 

 

「誰だ………………あんた?」

 

 

「こいつは失礼したな。十一番隊隊長刳屋敷剣八ってもんだ。よろしくな、坊主」

 

 

 いつのまにか斬魄刀を引き抜き一護に斬りかかる刳屋敷。反応は遅れてしまったが反射的に刳屋敷の一撃を受けた。

 

 咄嗟に刳屋敷から距離を取る一護。

 

 

「反応は悪くねぇ、距離とって様子見ようと考える頭もあるか」

 

 

「何ぐだぐだ喋ってんだよ」

 

 

「いやいや、双護がお前の事お気に入りっぽいだからよ。どんなもんか試してみたんだよ。思ってたより楽しめそうで安心したよ」

 

 

「そいつは、何よりだ」

 

 

 ある程度の霊圧感知を覚えた一護は目の前にいる刳屋敷が自分よりもはるか高みにいる存在である事を察知していた。

 

 例え、霊圧感知をしなくとも本能が刳屋敷には勝てないと告げていただろう。

 

 現世にて、格上との戦闘をこれでもかとこなしてきた一護。

『自分より強い者と戦う時、重要になってくるのはどう倒すかでは無くどう一撃を入れるかを考えるべし』一護が双護から教えてもらった事の一つだ。実力だけでは刳屋敷に勝つ事はまず不可能、であればそれ以外の要因を手繰り寄せるしかない。

 

 一護は双護を唯一、瞠目させた技を放つ準備をする。連続で放てるものではないが、幸いな事に刳屋敷は一護の出方を伺っている。

 

 

「怪我しても………………知らねぇからな」

 

 

「ほぉ……………………」

 

 

 刳屋敷は思わず感心した。濃密に練り上げられていく一護の霊圧。そしてその霊圧が斬魄刀に収束していく。

 

 そして納得もした。これ程の霊圧であれば一角と恋次を倒す事も可能だろう。場合によっては隊長にすら届くかもしれないものだと。

 

 

「月牙……………………天衝ぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 

 振り下ろされた刃から放たれる濃縮された隊長格にすら届こうとしている霊圧の塊。

 

 防御しないで受けたら刳屋敷とて危ないだろう。

 

 

「良いじゃねぇか。最高だぜ坊主‼︎」

 

 

 多少の遊び相手程度になればそれで良いと思っていた刳屋敷。しかし、一護が見せた一撃は自分に届く可能性を持った刃だった。今はただの遊び相手でも自分を越えうる好敵手になるかもしれない。強さ故に抱いていた退屈が裏返る予感がした。

 

 月牙天衝が刳屋敷に着弾し、大きな土煙をあげる。土煙で見えないが刳屋敷の霊圧は依然として揺らいでいない。

 

 しかし、動揺もショックも無かった。一護自身この一撃で倒せていない事は分かっている。相手は自分よりも格上、そして護廷隊の中でも指折りの化け物。そんな相手がこの程度で倒せる訳が無い。

 

 煙が晴れると、隊服が所々焼け焦げた刳屋敷がこれ以上ない程楽しそうに笑っていた。

 

 それは決して愉快な笑みなどでは無く、極上の餌を前にした獣が浮かべる笑みだ。一瞬で火照っていた体が冷え切ってしまうほどの汗をかくのを感じた一護。

 

 

「おい、坊主………………名前はなんて言うんだ?」

 

 

「黒崎一護だ‼︎」

 

 

 自分を鼓舞するように名前を叫ぶ。この状況では逃げる事も隠れる事も出来ない。立って戦うしかない。『ルキアを助ける』『みんな揃って現世へ帰る』といった考えを持っていては殺されてしまう。生き残る為に一護は自分の名前を吠えるように叫んだ。

 

 

「そうか、良い名前じゃねぇか一護。一つお前に謝らなきゃいけねぇ事がある。ただのガキと思って遊ぶような真似して悪かったな。ほんのちょびっとだけ………………本気で相手してやる。だから死ぬんじゃねぇぞ」

 

 

 そういうと刳屋敷は初めて斬魄刀を構えた。刳屋敷から押さえ込んでいた霊圧を解放したからなのか、空間自体が揺れた。

 

 刳屋敷から放たれる重圧に今にも押しつぶされそうになるが必死に抵抗する一護。そんな一護の姿を見てまた笑みを浮かべる刳屋敷。

 

 尸魂界において刳屋敷と戦う奴は少ない。そして戦おうとしても少しの霊圧の解放で気絶するか戦意を失っていた。

 

 それでも戦う意思を捨てない一護は刳屋敷にとって稀有な存在となる。

 

 

「瑞祥屠て生まれ出で、暗翳尊び老いさらばえよ『餓樂廻廊』」

 

 

 瞬間、刳屋敷の背後から巨大な牙を生やす『口』を備えたヒグマほどの大きさの白い球形の化け物が三十体近く現れる。

 

 双護や平子達との修行で幾つかの始解を見た一護だったが、刳屋敷のソレは今まで見たものとは違っていた。

 

 対峙する者を容赦なく喰らい尽くすであろう化け物の蠢く様はそれだけで一護に恐怖感と絶望感を与える。

 

 しかし、一護は斬月を構える。戦いとは結局のところ勝つか負けるかしかなく、死神の戦いは勝てば生き、負ければ死ぬ。そんな戦いだという事を双護から教わった。

 

 退けば老い、臆せば死ぬ。始解を会得した時、斬月から教わった言葉が一護の頭の中を駆け巡る。

 

 

「どうした一護、ビビったか?」

 

 

「ビビってねぇよ…………今からその化け物諸共ぶった斬れるって思うと嬉しくて震えてくるんだよ」

 

 

「そいつは重畳。是非ともぶった斬ってくれ。俺もこいつも解放すんのは久しぶりでな‼︎」

 

 

 刳屋敷が斬魄刀を振るうと餓樂廻廊の一体が一護目掛け襲う。一護は迫り来る化け物攻撃を避け、そのまま斬り捨てようとするが餓樂廻廊に刃は通らず、ただ弾くのみとなった。

 

 

(斬れなくても弾く事は出来る………………全部弾いてアイツを直接…………いや、弾く前に食い殺される。ならもう一回月牙撃つしかねぇか)

 

 

「考えは纏まったか? 何時迄も遊んでやりたいんだがな、こっちもめんどくせぇ書類仕事があるんだ。あんまり待ってやれねぇぞ」

 

 

「うっせぇ‼︎その書類仕事も病院のベッドの上でゆっくりやらせてやるから覚悟しとけ‼︎」

 

 

「面白ぇ‼︎やってみろ‼︎」

 

 

 刳屋敷としては双護の事だからある程度始解した斬魄刀との戦闘経験は積ませていると嶄を括っている。その理由として、生物型の斬魄刀を操るものは尸魂界を探してもそうはいない。それを現世で瀞霊廷に干渉されないように用意するのは無理だからだ。

 

 よって一護にとって未知である可能性が高いとして、一護は飛び込んでくるような真似はしない。そうなると一護にとっての攻撃手段は鬼道か先程放った月牙天衝となる。

 

 

(鬼道撃てるならもう撃ってるだろうしな。さっきの斬撃だろうな)

 

 

「力を貸せオッサン‼︎舐められっぱなしじゃお前も悔しいだろ⁉︎俺とお前でアイツに目に物見せるんだよ‼︎」

 

 

 一護は再び斬月を構え、霊圧を練り上げながら斬月に問い掛ける。その声に呼応するようにいちごの霊圧が膨れ上がる。

 

 ハッキリと視認できる程に強力な霊圧を斬月に喰らわせる。刳屋敷によって震えていた空間に静寂が取り戻される。

 

 霊圧の強さで言えば刳屋敷の方が断然上である。しかし、その差を補う何かが今の一護にはあった。

 

 

「は、ははは、ははははははは‼︎最高だぜ、最高だぜ黒崎一護‼︎よし来い‼︎お前の全霊、俺が見定めてやる‼︎」

 

 

「あぁ………………これが、俺達の………………月牙天衝だぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

 

 一護から放たれた月牙天衝は一度目のそれとは比べ物にならない程圧縮されて威力と大きさだった。刳屋敷は餓樂廻廊で防御するが、防御に回った餓樂廻廊の三分の一が斬り飛ばされた。

 

 

「これは……………………たまげたなぁ」

 

 

 これだけでも十分驚くべき事なのだが、刳屋敷は更に驚かされる事になる。

 

 月牙天衝を放った一護がいつの間にか目の前に移動してきており、斬月を振り上げていた。

 

 

「あぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

 

 振り下ろされた刃は刳屋敷を捉えるがその一撃にもう力は無く、斬月も刳屋敷の肌に傷一つつけていない。

 

 刳屋敷の目の前に来た時に一護は己の霊圧を使い果たし、気を失っていた。

 

 自身に触れている斬月をどけ、一護を担ぎ上げる刳屋敷。

 

 

「お前すげぇよ黒崎。今回は俺の負けだ」

 

 

 一護を担ぎながら、賞賛を送る刳屋敷に声をかける者がいた。

 

 

「一護をどうするつもり?」

 

 

「こんなおもしれぇ奴、そうそう他のやつに渡すのも癪に触るしな。適当に四番隊にでも放り込んで来るさ。姐さんなら治してくれんだろ。それなら文句ないだろ、双護」

 

 

「霊圧遮断のやつ使ってるのによく分かったね」

 

 

「こんな状況で声かけてくる奴なんてお前くらいなもんだぞ。で、黒崎は姐さん所で良いんだよな?」

 

 

「それよりも………………いつもの店に放り投げてもらっていいかな? 大将には話してあるから」

 

 

「あそこの店か、分かった。それにしても、わざわざこいつをここまで育てて送り込んだんだ。何か面白い事でもするんだろ? 俺も乗せてくれよ」

 

 

 先程までの獣のような笑みとは違い、悪戯好きの子供のような笑みを浮かべる刳屋敷。双護もそれに釣られて笑みを浮かべる。

 

 

「うん、やってほしい事は色々あるけど…………近い内に今回の旅禍侵入の比じゃない位の大事件が起こるから、その時は旅禍の子達を守ってほしいかな」

 

 

「よく分かんねぇけど分かった、俺に出来る範囲でやってやるよ。代わりにまた遊びに付き合えよ?」

 

 

「うん、僕もちゃんとした運動したいと思ってたし良いよ。ただ、今は立て込んでるから一通り終わった後でね」

 

 

 瀞霊廷では強くなればなるほど戦闘から遠ざかる傾向に有り、刳屋敷も双護も強い者との戦いを欲していた。

 

 そんな2人が瀞霊廷内で一度戦えば、一帯は更地となる為日取りを決め、被害の出ない場所で戦わなければいけないのだ。

 

 

「あぁ、それで良いよ。約束守れよな」

 

 

「うん、分かってるよ。それじゃ、僕はこれで」

 

 

 そう言うと双護はその場から姿を消した。刳屋敷は双護に何か思うところがあるのか双護がいなくなった場所を暫く見つめ、ため息を吐く。

 

 そして一護を回復させる為双護達の行きつけの居酒屋へと向かうのだった。

 




多分刳屋敷さん、一護の事めっちゃ気にいると思うんよ。

双護君達行きつけの居酒屋は浦原、姫乃と共同で結界を仕込んでいるのでマユリ様の監視も誤魔化せます。この作品において姫乃ちゃんは如月ってだけなので特に浦原さんとは関係ありません。←はちみつ梅さんの作品を読んでください。

次回は…………………どうしよっかな。ちょっと迷い所。とりあえず次の更新はR18の方にする予定なのでよろしくお願いします。


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恋次、決意する/砕蜂、拳を握る

 一護達、旅禍の侵入というのは瀞霊廷に激震を走らせたが、それ以上の震撼を走らせることとなった。

 

 五番隊隊長藍染惣右介の殺害。現場検証をした双護、検死をした烈の報告では正面からこれといった抵抗も無く殺されたとのこと。一応現場には戦闘の形跡らしきものがあったが、隊長が正面からの殺害を受けたという事で四十六室は犯人を旅禍と断定。

 

 旅禍の存在を危険視した四十六室はルキアの裁判を省略し、死刑を宣告した。理不尽かつ横暴な決定に複数の隊長達が反対を表明、しかし綱彌代家と朽木家という四大貴族のうちの二つが賛成を表明した事で反対を唱えていた隊長達は渋々引き下がる事となった。

 

 

「………………というのが君が寝てた間に起きた事。理解してね」

 

 

「色々聞きたい事はあるけどよ、死刑はいつだよ」

 

 

 双護の行きつけの居酒屋の奥にて目を覚ました一護を待っていたのは神妙な顔をした双護だった。

 

 そして突然の報告と飛び込んでくる情報量からパニックになりそうになるがその中で最も重要な項目であるルキアの処刑について聞いた一護。

 

 

「一週間後。という事でこっちの予定も変更する事になった。黒崎君にはこれから卍解を習得してもらう。詳しい話は向こうで指導役の人がしてくれるから」

 

 

「いや、さっきから重要な情報がサラッと流れ過ぎなんだよ‼︎というか井上達はぶ………………」

 

 

 騒ぎ出す一護に白伏をかけ静かにさせる。そして双護は指を鳴らし隠密機動の隊士を呼ぶ。

 

 

「この子を砕蜂副隊長の所まで運んでくれ。後の事は砕蜂副隊長に任せてある」

 

 

 膝をついた状態で現れた隊士は小さく頷くと一護を担ぎその場を後にした。

 

 

「さ、これで邪魔者はいなくなったし要件は何かな? 阿散井君」

 

 

「双護隊長、お話…………というより、お願いがあります」

 

 

 隊士が離れていったのを確認すると双護はいつのまにか背後に立っていた恋次に声をかける。

 

 双護が恋次の方を向くと、深々と頭を下げた恋次の姿があった。

 

 

「俺を鍛えてください‼︎」

 

 

「確かに今は塾もやれてないからね。けど僕もちょっと忙しくてね。訓練なら白哉君にでも頼み「ルキアを救う為です‼︎」ふぅん………………」

 

 

 若手隊士向けに開催されている卯ノ花塾は双護が独自で行なっているものであり、若手隊士で入塾する者は多い。

 

 恋次も卯ノ花塾の受講生であり、優秀な生徒の1人である。

 

 

「ルキアちゃんを救うって事は護廷隊に叛逆するって事だけどいいの?」

 

 

「良い事じゃ無いってのは理解出来ます………………ただ、一護の奴と戦ってからこのままじゃいけないって思ったんです。やっぱり俺はアイツを、ルキアを助けてぇ‼︎その後の事はその時考えます」

 

 

 力強く訴える恋次。その意志の強さを秘めた瞳は血は繋がっていないが一護と似たものがあった。

 

 双護はルキアと恋次の関係を知っていた。流魂街きいた時からの付き合いで、霊術院の同期である事も。

 

 また、ルキアが朽木と名乗る事になるきっかけも知っている為恋次の気持ちも分からない訳では無かった。

 

 

 

「君は今ここで僕に斬り捨てられる可能性は考えて無かった?」

 

 

 恋次からすれば一護を匿っていたとはいえ、双護がルキア救出の為に手を貸すかどうかは別の話である。ルキアを助けるという瀞霊廷に叛くという事でそれを守護する護廷隊の隊長たる双護にも敵対の意思を示す事となる。 

 

 隊長としてこの場で反逆者として殺される可能性もあるというのに迷いなく指導を頼む恋次。

 

 

「双護隊長が教えてくれた事です。男の仕事8割は決断する事、そこから先はおまけみたいなものだって。俺はルキアを助けると決めたんです。ここでアンタに斬られることになっても一矢報いてみせます」

 

 

「白哉君は僕みたいに甘くないよ」

 

 

 恋次は熱血で直情的なところがあるが馬鹿では無い。一護のように護廷隊関する情報がない訳でも無い。ルキアを助ける上で最も大きな障害となるのが隊長の存在である。

 

 各自任務がある為複数の隊長を相手取るという事は基本的に起こらないが、それでも大きな障害である事に変わりない。

 

 そんな隊長の中で恋次が最も知る隊長は双護を除けば上官である白哉となる。斬魄刀、戦い方などを最も知る白哉を狙うのは自然な流れと言える。

 

 

「問題有りません。俺はあの人を倒してルキアを救う」

 

 

「そっか、じゃあいつもの''教室''行こうか」

 

 

 そういうと双護は恋次を連れて居酒屋を出た。双護のいう教室とは、卯ノ花塾で双護が使っている道場の事だ。ぱっと見はただの屋敷であるが、地下室があり、そこは浦原商店の地下と似たような空間となっている。

 

 一部の生徒からは青空教室とも呼ばれており、土地の管理者である双護と生徒以外は立ち入れず監視の目も緩い。

 

 隊士を訓練するだけであれば怪しいことは何も無いため使用が出来る。

 

 入り口の戸を閉め、教室のある屋敷へ向かう二人。

 

 

(思わない所で手札が増えちゃったな………………でも黒崎君達の侵入で向こうもこれは予想済みかな?)

 

 

「双護隊長? どうしたんすか、急に黙り込んで」

 

 

「時間が無いからね。めちゃくちゃハードモードで行くよ。大丈夫、手足が繋がってるなら何とかなる」

 

 

 尻尾らしい尻尾を出していない敵を警戒する双護。急な変化を察知したのか、恋次が心配そうに声をかける。

 

 双護は咄嗟に恋次の修行メニューを考えていたような言い訳をする。

 

「望む所っす‼︎」

 

 

 すると、納得したのか恋次は力強い瞳でしっかりと答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、浦原や夜一達が使用していた秘密基地にて。

 双護に指定された洞窟にたどり着き、どうしたら良いのか分からなかった為とりあえず一護を放り投げた。未熟であるとはいえ、刳屋敷剣八と戦って五体満足で生き残れる一護なら多少雑に扱っても問題無いだろうとの判断だった。

 

 

「なるほど、確かに志波海燕に似ているな」

 

 

 仮死状態となっている一護の寝顔を見てそう呟く砕蜂。かつて十三番隊に所属していた天才。数少ない霊術院を飛び級して卒業し、噂では近々浮竹に成り代わって隊長になるとも言われていた。

 

 しかし、虚の襲撃に遭い殉職した。京楽、双護、浮竹の連名での要請により隊葬は行われなかったという事までは記憶していた砕蜂。

 

 海燕と面識が無いわけでは無いが、見た事ある面影に何か感じる砕蜂であった。

 

 

「元気そうじゃの、砕蜂」

 

 

「四楓院………………夜一‼︎」

 

 

 霊圧があるのは感じていた砕蜂。双護の命令で目立つような戦闘はいかなる場合も避けるようにと言われていた為抑える事が出来ているが、その命令が無ければ今すぐ夜一に殴りかかっていた。

 

 

「久しぶりの再会というのにつれないの」

 

 

「抜かせ。双護殿命令が無ければ貴様などこの場で縊り殺している所だぞ、せいぜい感謝しろ」

 

 

「双護の奴が白伏をかけたのならあと半日は目を覚まさんじゃろ。どうじゃ、少しゆっくりしてかんか?」

 

 

 砕蜂は自身に青筋が立つのを感じた。馴れ馴れしく双護の名前を出し、自分は良く双護を知っているというような発言に聞こえた砕蜂。

 

 

「お前のような奴があの人名を口に出すな‼︎せいぜい双護殿の足だけは引っ張るなよ。もし、足を引っ張るようならそこの旅禍共々貴様を殺す」

 

 

「この奥なんじゃがな、かなり広いスペースがあっての。昔は双護も喜助もここで訓練を積んだもんじゃ。どうじゃ? 少し''ゆっくり''してかんか?」

 

 

 砕蜂の怒りなど知った事では無いとばかりに普段通りに話す夜一。そんな夜一に対して更に怒りが増す砕蜂だが、夜一の言うゆっくりの意味だけは素直に理解出来た。

 

 

「茶とかは出してやれんが、多少のもてなしならしてやるぞ?」

 

 

「構わん、代わりに私が貴様のニヤケ面に一発お見舞いしてくれる」

 

 

 そう言うと砕蜂と夜一は洞窟の奥へと姿を消していった。




恋次君の台詞で言っていた「男の仕事の8割は決断、そこから先はおまけみたいなものだ」は仮面ライダーWの主人公、左翔太郎の師匠的存在にしてWのおやっさん枠、鳴海壮吉さんのお言葉です。みんなも仮面ライダーシリーズ見ようね!!

という訳で次回は砕蜂VS夜一さんだぞ!!書きたかったバトルその2!!

最近砕蜂のイラストめっちゃ練習してるせいか俺の中の砕蜂のヒロイン力が高い。

そしてやっぱり双護といる時の甘々砕蜂よりツンツンしてる方がイメージしやすい可愛い。いや両方可愛いけど。


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砕蜂、本音を語る

砕蜂は四楓院夜一を敬愛していた。支えるべき主として、1人の女性として四楓院夜一を敬愛していた。

 

それが、双護と出会い砕蜂の中の夜一への想いは少しずつ変化を見せていく。最初は夜一に纏わりつくいけ好かない男と思っていたが気が付けば異性として双護を異性として意識するようになる。

 

双護を意識し始めてからも夜一への憧れは変わらなかったが、忠誠心や敬愛の心とは別に対抗心のようなものが芽生え始めた。

 

しかし、幸せそうに身を寄せ合う2人を見て自分はこれで良いと納得させるようになっていた。

 

しかし、起きてしまった魂魄消失事件。これにより夜一は失踪。双護は四十六室と一部貴族による嫌がらせや精神的な喪失で自我すら危うい状態に陥る。

 

それからだった。砕蜂が夜一に対して殺意すら覚えるようになってしまったのは。

 

 

「さぁ、何処からでもかかってこい砕蜂」

 

 

「何時迄も自分の方が上と思うなよ、四楓院夜一‼︎」

 

夜一は人差し指をクイクイと折り曲げ、かかってこいと誘った。それに対し砕蜂は自身の斬魄刀を勢い良く引き抜き、地面へ突き刺す。

 

その瞬間、夜一の視界から砕蜂の姿が消える。夜一は慌てる事無く、身を屈め砕蜂の背後からの攻撃を避けた。

 

 

「随分と速くなったものじゃな」

 

 

「貴様こそ、現世で腑抜けていた割にはよく避けた」

 

 

「白打も昔より鋭くなっとるしの。これはうかうかしてられんな」

 

 

「隠密機動総司令を捨てた貴様と違って私はこの100年間研鑽を積み重ねて来た‼︎戦士としての格の違いを見せてやろう」

 

 

そう言って砕蜂は地面に突き刺した斬魄刀を抜き取り、構える。

 

 

「尽敵螫殺『雀蜂』」

 

 

砕蜂の右手に蜂を模した様な形に変化し、中指には針を思わせる刃が現れる。

 

始解をした砕蜂を見て思わず息を呑む夜一。砕蜂の斬魄刀はどういうものか知っているし、その能力も把握している夜一。

 

しかし、今の砕蜂は夜一の記憶にある砕蜂では無くなっていた。練り上げられた霊圧、技量を増した白打、そして何より目の前の相手を絶対に倒すという気迫が今の砕蜂を形作っていた。

 

 

「雀蜂の能力は知っているだろう?降参するというのなら顔面に一発で済ませてやっても構わんぞ」

 

 

「知らんうちに物騒になったの………………まぁ正直お主には殴られるのも致し方無いとは思っておる。じゃが、大人しく負けてやるつもりは無いぞ」

 

 

瞬歩で距離を詰め拳を放つ夜一。夜一の攻撃を受け流し、砕蜂が雀蜂で攻撃をするがそれを最小限の動きで避ける。

 

砕蜂の猛攻を捌きながら雀蜂を警戒する夜一。砕蜂が持つ雀蜂の能力とは弐撃決殺。

 

雀蜂で攻撃した箇所に二度目の攻撃を与えると対象を殺すという能力である。

 

 

「どうした、雀蜂を警戒しているせいか攻めが疎かになっているぞ」

 

 

「蜂紋華に時間制限があるとはいえ弐撃決殺は警戒すべき力じゃからの」

 

 

蜂紋華とは砕蜂が雀蜂で攻撃した際に現れる紋様であり、その箇所をもう一度攻撃する事で弐撃決殺が完成する。

 

 

「やはり貴様はその程度という事だ。私が成長した可能性を考慮していない‼︎」

 

 

「しまっ‼︎………………」

 

 

油断していた訳でも無く、警戒を怠っていた訳でもない。しかし、反応が遅れてしまった夜一。砕蜂の鋭い一撃が砕蜂の胴体を貫く。

 

すぐさま反撃するがその時には砕蜂は夜一の間合いから離れていた。

 

攻撃を受けた夜一の胴体には腹部を覆う様に蜂紋華が現れていた。

 

 

「蜂紋華が消えるまで逃げようと考えるなよ?それにもう時間制限は無い」

 

 

「双護の奴め……………厄介なものを仕込みおって」

 

 

夜一は思わず砕蜂を鍛え上げた双護に毒付く。白打の技術は兎も角、瞬歩のみでいえば夜一に並んでいる。瞬間的なスピードのみでいえば砕蜂に軍配が上がる可能性すらあった。

 

しかし、この呟きは砕蜂に聞こえており、確実に怒りのツボを押さえていた。

 

 

「そうやってまたあの人の事を知った口を…………恥を知れ裏切り者‼︎」

 

 

「知ってるも何も彼奴とは入隊の頃からの付き合いじゃしの」

 

 

「ならば、何故双護殿を捨てた⁉︎答えてみろ‼︎」

 

 

「こうして一護を連れてきたという事は何があったかは知っておるのじゃろう?お主らを巻き込む訳にはいかんかっ「巫山戯るな‼︎」」

 

 

夜一の言葉を遮り砕蜂が怒りを露わにする。砕蜂の拳は僅かにだが血が滲んでいた。

 

 

「巻き込む訳にはいかない?詭弁を語るな‼︎あの人は貴様を助ける為に必要であれば何だって投げ出す。貴様がどれだけ裏切ろうと笑って許すと知っている癖に勝手に背負い込んだ事を私は責めているんだ‼︎」

 

 

「砕蜂……………」

 

 

「本当に貴様が浦原喜助を助ける必要があったのか⁉︎貴様の権力でも使ってどうにかする事が出来た筈だ‼︎貴様がそうやって双護殿を裏切って消えた事であの人がどんな目に遭ったかは知っている筈だ‼︎」

 

 

瞬歩で距離を詰めながら夜一へと猛攻を仕掛ける砕蜂。夜一はなんとか雀蜂の一撃を捌いているが捌き切れなかった攻撃により、身体のあちこちに蜂紋華が現れる。

 

 

「砕蜂、本当にすまんかった」

 

 

「その謝罪は私に向けるべきものではない‼︎それは貴様があの人に言うべき言葉だ‼︎消えぬ十字架として一生背負って死ね‼︎」

 

 

「喜助を助けた事自体に後悔は無いし正しかったと思っておる。ただお主のいう通り他に手段があったかもしれないのも事実。あの時の儂はアレしか思い付かんかった。お主がどうしても許せんというのならその刃を受けるのも構わん。しかしの、彼奴の為にもまだ死ぬ訳にはいかん。じゃから、全力で抵抗させてもらうぞ」

 

 

「貴様が消えてからもあの人の心にはいつも貴様がいた‼︎仕事をしている時も、私といる時もあの人の心には貴様がいた‼︎」

 

 

砕蜂は依然として猛攻をしかけているが夜一は違和感を感じた。雀蜂での攻撃を出来るだけ避け、攻撃したとしても蜂紋華が出ていない所を狙っている。

 

怒りや殺意に満ちていた気配が変わり、目尻に涙が浮かび始めていた。

 

 

「私だってあの人の心の拠り所で在りたかった‼︎あの人の側にいたかった‼︎」

 

 

「砕蜂………………」

 

 

砕蜂が異性として双護を慕っている事を夜一は知っていた。自分から消えておいて何様だとなるが、双護が知らない女と一緒になるというのは嫌だった。砕蜂ならば憂う事は無い。そう考えていた。

 

 

「あの日、貴様が消えた日。消えたのが貴様で無く、私であったならとどれだけ思った事か」

 

 

目尻浮かんでいた涙が大きな雫となって落ち始める。ぽたり、ぽたりと落ちる涙。気が付けば砕蜂は雀蜂を解除し、納刀していた。

 

 

「……………………」

 

 

「どれだけ近くに居ても心は何処か遠くにある。肌が触れ合う距離いるというのに何処か遠くに感じる。こんか思いをするのであれば私が消えたかった‼︎どうして………………どうして私に命じてくださらなかったのですか、夜一様………………」

 

 

泣き崩れる砕蜂。夜一は砕蜂に近づき抱きしめた。

 

 

「すまん、儂の我儘がお主を傷付けたんじゃな。お主の言う通り、双護を傷つけ、お主傷つけた罪は一生掛けて償う」

 

 

砕蜂は泣いた。この100年間溜まっていた涙を出し尽くすように泣きじゃくった。




最初の構想だと瞬閧使って殴り合うみたいな展開にしたかったけど流れでこうなった。

夜一さん、中々悪い事してるけどその分覚悟決めてやった事なので許してあげてほしい。本人もちゃんと罪悪感感じてるし罪を償おうともしてます。

砕蜂としては夜一に連れて行ってもらえなかったの事よりも、双護に酷い目を合わせた事に憤り過ぎてブチギレしてる感じです。夜一も敬愛してるし、双護の事は異性として好きではあるけど2人が幸せならOKですの精神でいたら夜一居なくなって隙が生まれて攻め込んだら自分は全然相手にされてなくて逆に辛くなるという。

ぶっちゃけ夜一と砕蜂の組み合わせに割り込む双護くんは殴られた方が良い。
夜一と双護の組み合わせは本筋なので変えられませんし変えませんが、他の人との組み合わせが見たい人は僕の活動報告から双護は致したいの所にリクエストを書いてください。


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藍染と時灘、煽る

 十番隊隊長である日番谷冬獅郎は今回起きている一連の騒動に疑問を感じていた。旅禍の侵入は兎も角、四十六室の決定が通常よりも早く、横暴であったからだ。

 

 それに加えて五番隊隊長藍染惣右介の殺害、そして副官雛森桃の錯乱。事件の背景には三番隊隊長の市丸ギンが関わっている事は分かっており、何か決定的な証拠が無いか探っていた冬獅郎。

 

 そんな時、牢へ入れられていた雛森が脱走したと通報を受けた。行動を制限されたといえど雛森は護廷隊の中でも鬼道の達人として有名であり、看守程度なら白伏をかける事など造作も無い。

 

 副官の松本乱菊と共に雛森の霊圧を追いかけると中央四十六室にたどり着いた。

 

 

「門番もいねぇし………………妙だな」

 

 

 通常であれば席官相当の実力を持つ門番が警備をしているのだが、居らず四十六室から妙な雰囲気が出ていた。

 

 

「松本、下がってろ」

 

 

「ちょ、隊長⁉︎何やってんですか⁉︎」

 

 試しに門を破壊する冬獅郎。普段であれば門を破壊すれば警報が鳴り、瞬時に囲まれてしまうのだがその様子が一切ない。

 

 乱菊が冬獅郎の後ろであたふたしているがお構い無しに奥へと進んでいく。乱菊も諦めたのか、冬獅郎について四十六室へと入っていく。

 

 

「隊長………………これって…………」

 

 

「あぁ。俺たちが思ってる以上に大変な事になってるみてぇだな」

 

 

 四十六室の中は凄惨な事になっていた。四十六室の面々は惨殺されており、辺りは流れ落ちた血が池のようになっていた。

 

 いつでも抜刀出来るようにしておき警戒しながら奥へと進もうとした時、冬獅郎は視線を感じた。

 

 振り返ると三番隊副隊長の吉良イヅルが冬獅郎と乱菊を見ていた。気づかれたからなのか、その場を後にするイヅル。

 

 

「隊長‼︎」

 

 

「松本、逃すなよ。何か手がかりを持ってるかもしれねぇ」

 

 

 冬獅郎の指示を聞くと乱菊は逃げていったイヅルを追って四十六室を出て行った。一方、冬獅郎はというと斬魄刀を握りながら奥の方を見ていた。

 

 

「出てこいよ…………藍染‼︎」

 

 

「ふむ、私の霊圧を捕捉出来る程度には冷静なのか…………これは想定外だ」

 

 

 奥から出てきたのは死んでいたとされている筈の五番隊隊長藍染惣右介だった。

 

 

「雛森が脱獄してまで会いに行こうとする奴なんざテメェ以外いねぇしな。むしろ、隊長がほぼ無抵抗で殺されるなんて話信用ならなかったしな。スッキリしたぜ」

 

 

 冬獅郎を始め、事情を知らない隊長達は藍染の死に対して懐疑的ではあった。尸魂界において誰よりも死と向き合っている烈と事件の捜査を担当した双護が殺されたと結論付けている事から渋々納得したという事になっていた。

 

 

「大袈裟にやり過ぎたとは思っているんだ。だけど、双護隊長は僕を疑っていたようだからね。双護隊長が暴走してくれたらって思ってたけど思ってた以上に冷徹になれる男で安心したよ」

 

 

「そんな事より………………雛森を何処にやった?」

 

 

「君のように話しを聞かない子供は嫌いだよ」

 

 

 冬獅郎から放たれている霊圧は殺意に満ちており、その強大な霊圧から周囲の空間は震えていた。霊圧の小さい者が近づけばそれだけで押し潰されてしまう程の重圧の中でも藍染は爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「いいから答えろ、藍染‼︎」

 

 

 藍染を脅す為か、冬獅郎が怒号と同時に斬魄刀を引き抜くと藍染の真横に氷の壁が走った。

 

 笑みを絶やさず、藍染は自身の斬魄刀を引き抜くとボソリと何かを呟いた。しかし何と呟いたか冬獅郎には聞き取れ無かったが、抜刀した状態で行うことと言えば始解ぐらいである為警戒心は強く保っていた。

 

 

「ほら、お探しの雛森君はここだよ」

 

 

「な⁉︎」

 

 

 藍染の持つ斬魄刀が砕けそこには血だらけとなった雛森がいた。

 何が起きたのか、冬獅郎には理解出来なかった。理解は出来なかったが目の前にいる雛森が人形や幻などでは無く本物である事は理解できた。

 

 

「彼女はよく働いてくれたからね。これ以上重荷になる前に捨てさせてもらったよ」

 

 

「どうしてだ………………どうしてこんな事をした⁉︎どうして裏切った⁉︎雛森はテメェに憧れて「やはり君は何も分かっていないね日番谷君」何だと?」

 

 

 藍染に吠える冬獅郎だが、何の起伏も無い冷淡な声で冬獅郎の話しを遮る藍染。

 

 

「僕は誰も、誰の事も裏切っては居ない。ただ誰も僕の事を理解していなかっただけだ。そして良い事を教えてあげよう。憧れは………………理解から最も遠い感情だよ」

 

 

「霜天に坐せ『氷り…………「雛森君を気にせず卍解しなかったのは失策というやつだよ。日番谷くん。最も、卍解したとしても君は僕を斬れない」あい…………ぜん…………」

 

 

 冬獅郎の斬魄刀は氷雪系最強の氷輪丸。その卍解を使えば藍染の側にいる雛森にも被害が出ると考えた冬獅郎は咄嗟の判断で始解を発動しようとしたが間合いに入った瞬間冬獅郎は斬って落とされた。

 

 何とか抵抗しようと必死の力で氷輪丸を振おうとするが再び藍染に斬られてしまう。

 

 藍染は胸元から懐中時計を取り出し、時間を見ると冬獅郎にトドメをさそうとする。

 

 

「季節外れの氷というのも悪くないな」

 

 

「それは僕も同感だよ」

 

 

 藍染の背後から双護が現れ月詠神楽を振るう。しかし、藍染は瞬歩で距離を取り避けていた。

 

 

「思ったよりお早い到着だ。双護隊長、卯ノ花隊長」

 

 

 双護の影から勇音を連れた烈が現れた。双護と烈がここに来るのが予想通りといったリアクションを取る藍染。

 

 

 勇音は冬獅郎と雛森を確認するとすぐさま回道をかけ治療を始める。烈はそんな勇音に目線を送り、勇音が頷いたのを見ると再び藍染を見据えた。

 

 

「なるほど、月詠神楽の力か。中々優秀な斬魄刀だ」

 

 

「お褒めの言葉素直に受け取っておくよ」

 

 

「双護隊長は兎も角、卯ノ花隊長はよく分かったね」

 

 

「あれ程までに精巧な死体人形を用意する程用意周到な者が隠れられる場所は限られています」

 

 

 どこに目があるか分からず、霊圧知覚を持つ死神から隠れる方法は限られているがそれなりの数ある。

 

 双護のように適当な屋敷や家屋を拠点にする事は出来るがマユリの目を誤魔化しながら用意するのはほぼ不可能に近い。蛆虫の巣もその一つではあるがそれは二番隊の領域である為利用は出来ない。

 

 

「四十六室が不可解な事はいつもの事ですが、判断が早過ぎるのは疑問でした。ですが、貴方が四十六室を騙っていたのなら納得です」

 

 

「なるほど、理知的な貴女らしい推論だ。概ね正しいが幾つか間違いがある。私が用意し「射殺せ『神槍』」はぁ………………全く」

 

 

 藍染が斬魄刀を構え若干身構える烈。しかし、それを遮るように奥から斬魄刀が勇音を狙って伸びてきた。

 

 斬魄刀はヨミが受け止めた事で勇音は事なきを得たが、腰を抜かしそうになってしまった。

 

 

「全く手緩いなぁ………………藍染惣右介。そんな雑魚さっさと殺せば良いものを」

 

 

「余計な事をしないでくれるかな? 時灘」

 

 

 奥から出てきたのは綱彌代時灘だった。藍染は突然攻撃をしかけた時灘を諫めるが時灘はヘラヘラと笑い聞き流していた。

 

 

「惣右介………………」

 

 

「彼はあくまで協力者というだけだよ、双護隊長。僕は必要の無い事はしない主義ですよ」

 

 

 烈と勇音の前に立つ形で藍染と時灘と相対している双護の表情は薄暗いせいか藍染もよく読み取れなかった。

 

 烈も勇音も双護の表情は分からなかったが、双護から溢れ出ている霊圧が今にも爆発しそうに揺らいでいるのは感じる事が出来た。見た事もない双護の殺意を持った霊圧に声も出せなくなる勇音。

 

 

「母さん」

 

 

「この場は受け持ちます、貴方も程々になさい」

 

 

「ありがとう。ごめんね………………勇音ちゃん。冬獅郎君達のことよろしくね」

 

 

「どうした? 卯ノ花双護。この場に相応しくない雑魚を少し脅かし「少し外で話そっか」ガッ⁉︎」

 

 

 双護の怒りを感じ取ったのか双護を煽ろうとする時灘。しかし、いつの間にか双護は時灘の間合いに入っており、顔を掴みそのまま近くの壁に時灘を叩きつける。

 

 そして、追い討ちとばかりに壁に叩きつけられた時灘へ勢い良く飛び蹴りを入れる双護。その瞬間、壁は耐久の限界を迎えたのか砕け、双護と時灘は2人して四十六室の外へ出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりの再会というのに容赦無いな、卯ノ花ぁ………………」

 

 

 外へ出た2人がいたのは四十六室からほど近い場所にある空き地だった。

 

 

「お前、誰に手を出そうとしたのか理解してるか」

 

 

「死神であるなら多少の危険は覚悟の上だろう。ましてや副隊長を名乗るなら死の危険など尚更だ。それで私に怒るというのは筋違いだろう」

 

 

「それはそうだね。護廷隊として生き死には日常茶飯事だよ。僕もそれは理解してる………………理解してるけど僕個人の感情とは別の話しだろ」

 

 

 唐突に時灘は霊術院時代、京楽に言われた言葉を思い出した。

 

『このまま行けば君は怒らせちゃいけない人を怒らせる事になる』時灘はこの言葉の意味がよく分かっていなかった。高澤を使った実験の際の双護は間違い無く怒っていた。怒った双護を見れたことで満足したのか京楽のこの言葉を忘れていた。

 

 

「時灘、お前は高澤さんの事は覚えてる?」

 

 

「高澤? そんな奴もいた気がするなぁ。悪いが、私の人生に関係無い奴を気に留める殊勝な趣味は無いものでね」

 

 

「僕がお前に対してムカツいてるのは惣右介みたいに明確な意思や目的がある訳でも無いのに愉悦の為だけに周囲に理不尽を振り撒くとこだよ」

 

 

 双護は元から理不尽な暴力というものを嫌う性分であった。謂れのない誹謗中傷、虐めなどは最たる例で霊術院時代には虐めの主犯を京楽と浮竹が止めに入るまで殴り続けトラウマを植えつけたり、入隊したばかりの新人をいびろうとする隊士には拳を持って対話をした。

 

 暴力を振るわれるだけの理由がある、若しくは助けに入らなくても対処出来るのであれば助けないというスタンスを貫いており、自分から誰かを助けるために泥沼に突っ込んでいった夜一や浦原達の事はある意味自業自得であると割り切っている。

 

 そんな双護からすれば時灘のように自身の愉悦の為だけに暴力を振り撒く男はなによりも許しておけない存在だ。

 

 それに、双護自身の近しい者ほどその被害に遭っている。双護の我慢も限界を迎えていた。

 

 

「抜きなよ、斬魄刀。君の持てる手段全部使って僕を殺してみせろ。僕はその全てを踏み潰してお前を殺す」

 

 

 時灘も自分と双護の差については理解していた。だからこそ双護を倒す為の手段を用意して藍染の計画に乗ったのだ。

 

 

「大した自信だな。油断していると私相手でも足元掬われるぞ」

 

 

 時灘は素早く抜刀し瞬歩で双護との距離を詰め、心臓目掛け突きを放つ。大貴族は他の死神と比べて巨大な霊圧を有する。時灘も例に漏れず霊圧だけで見れば並の隊長よりも頭一つぬけている。

 

 

「油断? これは余裕ってやつだよ」

 

 

 双護は抜刀する事もなく時灘の突きを避けるとカウンターとばかりに時灘の顔に拳を叩き込む。

 

 

「手を抜く相手は選んだ方が良い。無抵抗の雑魚を斬るのは趣味じゃないんだ」

 

 

 他者の絶望に染まった顔や怒り狂った様がなによりも好きな時灘。普通の相手であれば自分よりも弱いと思った相手には手を抜く。

 

 そして本当は手を抜いた自分の方が格下であった事を知った時の絶望感に満ちた顔を見るのが戦闘に於いてはなによりも愉しかった。

 

 

「私をその辺の雑魚と同じにするなよ」

 

 

「君よりもまだ一般隊士の方が本気でくる分マシだけどね」

 

 

「やはり貴様は気に食わない男だよ、卯ノ花。良いだろう、もう少しお前で遊びたかったが仕方ない」

 

 

 

 そういうと時灘は斬魄刀を構えた。すると時灘が持っていた斬魄刀の刀身が霧に包まれたように消えていく。

 

 

「四海綴りて天涯纏い、万象等しく写し削らん『艶羅鏡典』」

 

 

 姿を現した時灘の斬魄刀に双護は特に反応する訳でもなく、無言で月詠神楽を展開する。

 

 2人だけの決闘が始まろうとしていた。

 




藍染くん、双護相手に有効かと思って時灘を引き込むも余計な事をして双護の逆鱗に触れてしまった為難易度が上がる。

うん、BLEACH史上最も有名シーンだっただけに中々難しかった。でもIQ高いキャラは勝手に喋ってくれるから楽です。それはそれとして下衆くんはこんなんでええのかな?って思いはずっとある。

次回は双護くんと時灘のバトルでいきます。


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双護、キレた⁉︎

ぶっちゃけると天候操作する能力って強いか?と思ってたけど雷雨の時とか台風の事思うとやっぱ天候操作ってチートだわ。


「貴様の事だから私の斬魄刀の能力はある程度気づいているのだろう?」

 

 

「面白い能力だとは思うよ。使い手のせいで能力を活かしきれてないのが可哀想だよ」

 

 

「言うじゃないか………………これならどうだ? 穿て『厳霊丸』」

 

 

 始解した艶羅鏡典には刀身が無い。時灘が厳霊丸の解号を唱えると無だった刀身がレイピア状に変化した。

 

 そして時灘が艶羅鏡典を突き出すと刃先から雷が飛び出す。しかし双護は防御する事なくその雷を避けながら距離を詰めていく。

 

 

「万象一切灰塵となせ『流刃若火』」

 

 

 レイピアとなっていた艶羅鏡典は燃え盛る炎へと変わる。時灘が横凪に振るうと炎は双護を焼き尽くさんと双護に向かっていくが双護は飛び上がりその攻撃を回避する。

 

 

「何が狙いか知らないけど、厳霊丸も流刃若火も話にならないね」

 

 

 幼い頃から師事していた雀部の厳霊丸や元柳斎の流刃若火は誰よりも見てきた双護。使い手には遠く及ばない威力しか出ていない時灘の攻撃では双護に掠らせる事すら叶わない。

 

 

 

「これなら、どうかな? お早う『土鯰』」

 

 

 艶羅鏡典は再び形を変え、円状の武器チャクラムのような形になった。そして時灘がそのまま地面を殴ると双護に目掛け巨大な土で形成された槍が隆起する。

 

 

「〈神奈月〉」

 

 

 双護の周囲に展開していた影が刃に収束される。そして双護はそのまま横凪に振るい土鯰が形成して土槍を破壊する。

 

 

「流石は卯ノ花だよ。この程度じゃ擦り傷すらつかないか」

 

 

「始解そのものを模倣する斬魄刀…………模倣する種類に上限が無いなら少し怖いけど使い手によってここまで変わるならそこまでかな」

 

 

「確かに我が斬魄刀、艶羅鏡典は使い手の霊圧によって模倣する斬魄刀の威力に差異が生まれる。だが、私の霊圧なら大抵の雑魚の斬魄刀よりはマシな威力になる」

 

 

 

「僕が言いたいのは霊圧の話じゃないんだけどね」

 

 

 時灘は四大貴族の血筋らしく霊圧は一般的な死神のそれを遥かに凌駕しており、隊長クラスの霊圧を持っている。

 

 艶羅鏡典は使い手の霊圧によって模倣する斬魄刀の威力が大きく変わる為霊圧で劣る元柳斎や雀部の斬魄刀を模倣したところで劣化にしかならない。

 

 

「何が言いたい」

 

 

 双護の冷静な反応は時灘の思っていた反応とは違っていた。大抵の死神であれば複数の斬魄刀を扱う事に少なからず動揺が生まれるし、総隊長の斬魄刀を使われれば驚愕する筈だ。

 

 威力も元柳斎や雀部に及ばないとはいえ、充分すぎる火力が出ていた。それなのに事前に知っていたかのように楽々と避けた。

 

 知り合いの斬魄刀を使われ驚きや怒りで動きが鈍った所を叩くつもりであったのに楽々と避け、上から目線で時灘に指摘をする余裕もある。

 

 時灘としては面白くない。

 

 

「お粗末なのは威力じゃなくて技量だよ。斬魄刀は何の訓練も積んでないボンボン崩れに扱える代物じゃないんだよ」

 

 

「私は君みたいに年がら年中棒切れを振り回してるような猿じゃないし、棒切れに時間を使ってられる程暇じゃないんだよ」

 

 

「その猿にちょっと言い返されただけで青筋浮かべてるようじゃお忙しい貴族様も底が知れるね」

 

 

「もう少し遊ぶつもりだったが………………お前を殺す。瑞祥屠て生まれ出で、暗翳尊び老いさらばえよ『餓樂廻廊』」

 

 

「やってみなよ〈天魔影狼〉」

 

 

 時灘が次に繰り出したのは刳屋敷の斬魄刀、餓樂廻廊。特殊な事情により瀞霊廷内での卍解を禁じられている唯一の斬魄刀。

 

 その威力は始解といえど他の斬魄刀の卍解と同等である。刳屋敷本人の解放であれば双護も戦い方を考えなければならないほどの威力である。

 

 それに対して双護は展開していた影を媒介に黒く巨大な狼を呼び出す。

 

 

「ヨミちゃん、頼んだよ」

 

 

『大丈夫、ホンモノじゃないならヨミは負けない』

 

 

 月詠神楽という斬魄刀は能力の応用はかなり利くのだが、斬魄刀としての火力はさほど高くない。それこそ、刳屋敷が操る餓樂廻廊や元柳斎の流刃若火には力負けしてしまう。

 

 巨大な狼となったヨミは十数体に分裂し、そのサイズは人程の大きさとなる。分裂し終えると餓樂廻廊目掛けて突撃をする。

 

 時灘は背後に蠢く餓樂廻廊の全てを双護とヨミに向けて放つ。

 

 

「瞬閧」

 

 

 双護が呟くと斬魄刀から爆炎が吹き荒れる。瞬閧とは隠密機動総司令に代々受け継がれてきた鬼道と白打を合わせた高等技術なのだが、双護はそれを独学で覚えた。

 

 夜一や砕蜂も瞬閧を扱えるが双護のソレは少し特殊であり鬼道の斬術を合わせたものとなっている。

 

 

「隠密機動の秘技か。四楓院に取り入ってまで覚えた価値はありそうだな」

 

 

「これは独学で覚えたんだけどね」

 

 

 餓樂廻廊を掻い潜りながら一体ずつ斬り落とす双護。双護の瞬閧にはもう一つ特殊な面がある。

 

 瞬閧は高い練度での鬼道が求められる為、その属性は使い手の得意なものになる。双護は炎と風の属性を同時に使用する。

 

 

「なるほど、2つの属性を混ぜて高威力にしてる訳か。通りで私の餓樂廻廊が斬られる訳だ」

 

 

「刳屋敷さんのだけどね。これで、お終い」

 

 

「いや、まだだよ」

 

 

 時灘の懐に飛び込みそのまま袈裟斬りしようとするが双護の攻撃は時灘が変化させた斬魄刀によって受け止められていた。

 

 

「しまっ「双魚の理」」

 

 

 尸魂界に二振りしか存在していない二刀一対の斬魄刀、双魚の理。使用者は十三番隊隊長の浮竹十四郎。

 

 その形状の特殊さと能力を双護は浮竹を除く誰よりも把握していた。その能力は鬼道系の霊圧が込められた攻撃を吸収し跳ね返すというもの。

 

 また、双魚の理を繋ぐ五枚の札と綱により跳ね返すタイミングを調整し相手のタイミングをずらす事が出来るという厄介な能力。

 

 直接的な攻撃には意味を成さないが、今の双護の攻撃は高密度の鬼道を纏った状態であり、それがそのまま自分に跳ね返るのだ。

 

 

「やられたよ………………」

 

 

「ふむ、影のガードで致命傷になるのは避けたか」

 

 

 餓樂廻廊が消えたことでフリーとなったヨミが咄嗟に防御に入るが若干遅れてしまった事で直撃では無いにしろダメージを受けてしまった双護。

 

 隊長羽織の一部は焼け焦げ、一部やけどが出来ていた。双護は時灘から距離を取り、やけどしてしまった箇所に回道をかける。

 

 

「おや、来客のようだね」

 

 

「双護殿‼︎助太刀に参りました‼︎」

 

 

 双護の霊圧に異変を感じた砕蜂が現れ、双護の前に立つようにして時灘と対峙する。

 

 

「これはこれは…………二番隊副隊長殿じゃないか。ご主人のピンチに駆け付けたという事か。お勤めご苦労だな、忠犬」

 

 

「双護殿から聞いていたが、四大貴族の分家とやらがどんな奴が気になっていたが聞いてた以上に小物だな。こんな小物に付き纏われて双護殿、心中お察しします」

 

 

 蛆虫の巣を二番隊が管理している以上、過去の大きな事件についてある程度の把握をしている砕蜂。双護の霊術院時代に起きた事件について調べている際時灘について知ったのだ。

 

 自分よりも位の低い死神に小物呼ばわりされた事に若干の苛立ちを感じる時灘であったが双護の交友関係について把握している彼はすぐに冷静さを取り戻し、咄嗟に思いついた作戦に口元が緩むのを感じた。

 

 

「良かったじゃないか卯ノ花、自分のピンチに駆け付けてくれる部下がいて。貴様が取り入ってる四楓院家の長女も尸魂界に帰ってきたし、疑いも晴れて万々歳じゃないか」

 

 

「貴様…………何が言いたい」

 

 

 砕蜂は雀蜂を解放し、構える。時灘の斬魄刀の能力は砕蜂にとって不明であるが、双護がダメージを負わされている以上砕蜂にとって時灘はこれ以上無い警戒すべき相手となっている。

 

 

「私はお前には話しかけて無いんだ、肉便器は黙っていてくれないか。そうだ、四楓院夜一も帰ってきた事だし私があいつを貰ってやろう」

 

 

「貴様……………………」

 

 

「性格は気に入らんが顔と身体は悪くない。どうせお前は四楓院夜一に捨てられてるんだ。今更誰が貰おうと関係無いよなぁ。それにお前には情けない自分を守ってくれる肉便器があ「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」………………隙ありだ」

 

 

「しまっ⁉︎」

 

 

 砕蜂が現れた時、時灘は艶羅鏡典を双魚の理にしていた。砕蜂としては浮竹と同じ形状である事に疑問は抱いていたが、情報がない以上気をつけるという事以外警戒のしようがなかった。

 

 迂闊に突っ込むのは危険であり、精神的な揺さ振りから生まれる隙は命の危険に直結する事を知っている筈の砕蜂。

 

 自分が肉便器と蔑まれるのは思う所が無いわけではないが特に気にはしていなかった。双護や二番隊、護廷隊をよく思わない一部の者たちの間でそう揶揄されているのを知っていたからだ。

 

 しかし、敬愛していた夜一に対しての下卑た発言、双護と夜一2人の想いを知ろうともしない輩が2人の関係を語った事、そして何より誰よりも慕っている双護を蔑んだ事が許せなかった。

 

 怒りの限界点を迎えた砕蜂は高速で時灘との間合いを詰め雀蜂を突き出す。

 

 しかし、怒りにより単調になった砕蜂の動きは如何に速くても時灘にとって対応するのは簡単な事だった。

 

 

「掻きむしれ…………『疋殺地蔵』」

 

 

 赤子の顔の意匠がされた金色に輝く毒々しい刃の斬魄刀に変化する艶羅鏡典。

 

 警戒を忘れ、怒りのままに時灘へ突っ込んだ為、回避出来ない体勢になっていた砕蜂。

 

 防御出来ない状態であった為、反射的に目を瞑ってしまう。

 

 

「そう………………ご殿………………」

 

 

 しかし、いつまでも痛みが来ない事を疑問に思い、恐る恐る目を開けると砕蜂を庇うように時灘の攻撃を背中で受ける双護の姿があった。

 

 

「間に合って良かった」

 

 

「も、ももももも申し訳…………」

 

 

「砕蜂ちゃん、謝罪とか反省は良いから夜一と合流してくれるかな」

 

 

「は、はい」

 

 

 自分の不注意で余計な傷を負わせてしまった事実にパニックになりかけるが双護の声で若干、落ち着きを取り戻す。

 

 砕蜂は双護に言われた通り、この場を離脱し夜一の霊圧がする方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 砕蜂が離脱したのを確認すると双護は月詠神楽を杖にしながらゆっくりと立ち上がる。

 

 

「あの程度の軽口で取り乱すようじゃ隠密機動も底が知れるな」

 

 

 双護の雰囲気が変わった事に気が付いていないのか、全く気にする様子も無く嘲笑する時灘。直後、時灘から鮮血が舞った。

 

 

「立てよ、お前に人を怒らせたらどうなるかってのを教えてやる」

 

 

 

「ばけ…………ものがっ‼︎」

 

 

 時灘が使った疋殺地蔵の能力は脳と四肢の神経を麻痺させ、動かすという動作を封じ痛覚だけを残すという斬魄刀。

 

 今の双護には斬られた痛みと疋殺地蔵の能力で半身が動かせない状態にあるはずなのだ。

 

 それなのに双護から放たれる霊圧は殺意に満ちており、空間の震えが止まらなくなっていた。

 

 そして時灘は再び京楽の言葉が過った。

 

 

『このまま行けば君は怒らせちゃいけない人を怒らせる事になる』

 

 時灘背に久方ぶりの冷や汗が流れ落ちた。

 

 




砕蜂は煽り耐性が低めな気がするの俺だけ?沸点低いのが可愛い。ちゃんとメンタル面も成長するから許してにゃん。

、砕蜂が突撃した事で双護と砕蜂、時灘の間に距離が出来て割と反射的に瞬歩で砕蜂庇いにいってます。咄嗟の事で慌ててたのと反応が遅れた事でヨミちゃんガードが間に合いませんでした。

次回で時灘VS双護決着です。


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時灘、死す!!

やめて!!死なないで時灘!!

また月詠神楽で斬られたら時灘は死んじゃう!!お願い死なないで時灘!!疋殺地蔵の毒はまだ残ってる。ここを堪えれば勝てるんだから!!



次回、時灘死す!!


「ヨミちゃん、どれくらい持つ?」

 

 

『無理矢理毒を押さえ込んでる状態だから長くは厳しい』

 

 

双護にとって不思議な感覚だった。痛覚があるというのに半身が全く動かないのだ。疋殺地蔵の使い手の事はそれなりに長い付き合いである為ざっくりとした能力の把握はしていたが、実際に受けてみると想像していたよりも意地の悪い能力であった。

 

 

「解毒の条件もよく分かってないしね。これ以上長引かせるつもりもないよ」

 

 

 

「笑わせてくれるな、卯ノ花‼︎少なくとも半身は麻痺してる筈だというのに私に勝つつもりなのか!!!!!」

 

 

「確かに、ヨミちゃんに動かせるようにしてもらってはいるけど、体半分はまともに動かせない。けど、僕が弱くなったってお前が強くなった訳じゃないだろ」

 

 

「餓樂廻廊‼︎」

 

 

「ヨミちゃん、合わせてね」

 

 

『もちろん』

 

 

吠えるように艶羅鏡典を餓樂廻廊に変化させる時灘。時灘の背後に現れた怪物は双護を捕食しようと一斉に動き出す。

 

半身の操作をヨミに任せている為天魔影狼のような技で相殺する事は出来ない為今の双護に取れる選択肢は餓樂廻廊のようや高火力の斬魄刀が満足に振るえない近距離戦しかない。

 

襲ってくる餓樂廻廊を弾きながら少しずつ距離を詰めていく双護。体半分をヨミに無理矢理動かしてもらっているせいなのか反応は出来ていても若干の遅れが見えてしまう。

 

 

「どうした、どうした⁉︎あれだけ大口を叩いた割に傷だらけじゃないか‼︎」

 

 

幾ら本来の餓樂廻廊よりもスケールダウンしているとはいえその威力はかなりのもの。本来の動きが出来ない今の双護では捌ける攻撃も捌けない。

 

なんとか防いでいるが少しずつ傷は増えていく。

 

 

「やっと良い顔をするようになったじゃないか、卯ノ花‼︎お前も高澤も善人ですといった顔をする奴らの苦しむ顔はいつ見ても最高だよ‼︎」

 

 

「お前、高澤さんの事覚えてるのか」

 

 

「忘れる訳が無い‼︎お前程では無いにしろアレはそれなりに良い玩具だったからな。もっとアレで遊べなかったのが悔やまれる」

 

 

「それを聞いて安心したよ」

 

 

突如、双護を襲っていた餓樂廻廊が全て爆ぜるような爆炎に呑まれ、焼け落ちた。

 

月詠神楽からは一度目の瞬閧とは比べ物にならないほどの炎が吹き荒れている。

 

 

「お前の事だから高澤さんの事忘れてると思ってたけど覚えてるなら良かった。忘れたまま死なれちゃ高澤さんに申し訳が立たない」

 

 

「美味い話には裏があるというだろう。なんの警戒もせず、目の前にぶら下げられた人参に飛びつくからあんな目に合う。あんな法螺話を信じるような親では高澤は遅かれ早かれ死ぬ事になってただろうさ」

 

 

「清々しいまでのクズだな、改心の余地があるって信じてた浮竹が不憫に思えてきたよ」

 

 

「お前じゃなくてあいつを玩具にするのも面白そうだ。お前を殺した後にでも遊ばせてもらおう‼︎」

 

 

再び餓樂廻廊を繰り出す時灘しかし、現れた化け物は一瞬にして消し炭となってしまう。

 

 

「僕が言うのもアレだけど浮竹は怒らせない方が良いよ。あ、でもお前にこの後なんて無いんだから気にする事じゃないか」

 

 

纏っている影と合わさって黒く揺らめく双護の炎。いつのまにか時灘を間合いに入れた双護は二度と月詠神楽を振るう。

 

すると鮮血と共に時灘の両腕が宙を舞った。

 

 

「ッッッーーーーーー‼︎‼︎‼︎」

 

 

突如走る激痛に痛がる声すら出ない時灘。ヨミの影で止血されている為そのまま死ぬ事も出来ない。

 

 

「何か言い残す事はある?」

 

 

「はっ、尸魂界の歴史たるつなーーーーーーー」

 

 

「別に言わせてあげるとは言ってないけどね」

 

 

時灘が言い切る前に首を刎ねる双護。夥しいほどの血を流しながら糸の切れた人形のように力なく倒れ込む時灘の身体。

 

 

「続きは地獄でゆっくりと話すと良い」

 

 

破道の五十四である廃炎でこときれた時灘の遺体を焼き尽くす双護。時灘の遺体が灰になったのを見届けると双護の体を異様な脱力感が襲った。

 

 

『ご主人、無茶したから大分霊力使ってる。疋殺地蔵の毒も残ってるからちゃんと治してもらった方がいい』

 

 

双護の使う瞬閧は歴代の瞬閧と比べかなり特殊なものである。炎属性の鬼道の威力を底上げする為に風の属性を無理矢理捻じ込んだ事で霊力の消耗がかなり激しくなってしまっている。

 

 

「四番隊に戻らなきゃな…………あーやばい、半身どころか体全体動かしにくくなってきた」

 

 

『ヨミが無理矢理止めてて、その間にご主人が動き回ってたから毒の回りが速くなってる』

 

 

「ごめん、ヨミちゃん……………斬魄刀に戻っててくれ…………る………………か、な」

 

 

意識が薄くなっていく中でなんとか言い切った双護はその場に倒れ込む。

 

 

(やったよ、高澤さん…………みんな、あとはたの………)

 

 

「無茶する所は烈さんに似たのかな?」

 

 

「と、父さん⁉︎」

 

 

地面に倒れようとしていた双護を抱きとめたのはいつのまにか現れていた双盾だった。

 

普段は病弱ゆえに四番隊隊舎で寝たきりの生活をしている双盾がなぜか自分のまえに現れた事に薄れかけていた意識が目覚める双護。

 

 

「なんでここにいるの⁉︎寝てないと‼︎」

 

 

「なんでって言われても迎えにきたからとしか答えられないな…………今日は凄く体調が良いんだよ。でも、後で烈さんへの言い訳一緒に考えてくれると嬉しいかな」

 

 

「やっぱり病室抜け出してきたんだ」

 

 

双盾の体調が良い時は病室を抜け出し隊舎内を散策したり、訓練中の隊士にアドバイスしていき烈に見つかり怒られると言うのが四番隊の日常風景である。

 

当初は隊長の夫という事で扱いを躊躇う隊士が多かったが、本人の温和な雰囲気と優しい口調によりすっかり人気者となっている。

 

 

「その話は置いといて何か言う事は無いかい、双護?」

 

 

「迎えにきてくれてありがとう?」

 

 

「それもそうだけど、違うかな」

 

 

「えっと………………ただいま、父さん」

 

 

「おかえり、双護」

 

 




CV山寺宏一におかえりなさいとか言われてぇ人生だった。



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仮面の軍勢、出陣す

なんか緊迫した場面ってテンション上がるから書きやすい気がする。

最近イラストちょこちょこ練習してるけど自分が思ってるよりも成長しててびっくり。でも自分でポーズとか考えて描いたりオリキャラとかは描けんのよ。




朽木ルキアの処刑が行われるはずだった。しかし、それはルキアを助けに来た一護と双極の真の姿、燬煌王を破壊した京楽と浮竹によって未遂に終わった。

 

 

「はぁ…………はぁ…………全く嫌になっちゃうね」

 

 

「元柳斎先生、もう辞めにしませんか?我々の話を聞いてください」

 

 

双極を破壊した浮竹と京楽は乱戦になる事を避ける為、元柳斎を引きつけるようにして双極の丘から離れた。

 

しかし、いつのまにか先回りしていた元柳斎と戦闘する事になった。

 

古参の隊長二名とはいえ、元柳斎相手には敵わなかった。お互いに殺すつもりが無いからか京楽達は傷こそ出来ているものの致命傷は負っていなかった。

 

 

「今までお主らの悪戯はゲンコツ程度で済ませてきてやったが今回の件は許すわけにはいか………む、この霊圧は……………」

 

 

霊術院時代から頭痛の種であった京楽と浮竹と双護達であったがその為人は誰よりも知っている元柳斎。

 

日常的に問題を起こしていた3人だが、大きな問題であるほどその理由は深いものであった。それを知っているから元柳斎は浮竹と京楽を殺すのではなく無力化しようとしていたのだ。

 

しかし、普段霊圧を荒げる事のない双護の霊圧が怒りを表すように荒ぶっているのを感じ、手を止める元柳斎。

 

 

「そっか、もう始まったんだね。分かるでしょ山じぃ。僕らだって思い付きとかでこんな事してる訳じゃない。双護がここまで霊圧を荒げるような奴が相手なんだ、話くらいは聞いてよ」

 

 

「今回の件、元柳斎先生だって疑問に思う事はあったはずです‼︎」

 

 

「…………………」

 

 

元柳斎は沈黙しているが、浮竹の言う通りだった。今回の旅禍の侵入から藍染の殺害など朽木ルキアから始まった一連の事件は不可解な事が多過ぎた。

 

ただの隊士であるルキアへの双極を用いた処刑やいつにも増して理不尽な決定をする四十六室、そして双護からの時間稼ぎのお願い。

 

ここまでくれば尸魂界を脅かす巨悪が潜んでいるというのは元柳斎とてわかっていた。しかし、組織のトップとして気軽に動く事が出来ない為何かを知ってる風な双護に任せていた。

 

 

『瀞霊廷内にいる全隊長格に四番隊、二番隊より連名で通達します‼︎中央四十六室は全滅。今回の一連の事件の首謀者は藍染惣右介。藍染惣右介は我々の敵です‼︎』

 

 

双護の霊圧が荒ぶりを見せた直後、四番隊副隊長である虎徹勇音により通達された事実に瀞霊廷内は混沌の渦に巻き込まれる事となった。

 

そして、衝撃は更に大きくなる。

 

 

「おいおい、この霊圧は……………」

 

 

 

「元柳斎先生、これは……………」

 

 

京楽の呟くのと同時に瀞霊廷の外で複数の巨大な黒腔が開いた。そこから雪崩れ込むように数十の中級大虚、数百の虚や巨大虚が現れる。

 

 

「京楽、浮竹。動ける隊長を全員集めろ。北と南に分けて配置しろ」

 

 

「西と東はどうするんだい?」

 

 

 

「東は一番隊で受け持つ。西側も「ほんなら西はオレらで受け持ったるわ」久しいの、平子真子」

 

 

「久しぶりじゃないの平子くん」

 

 

京楽達と戦っている場合では無いと判断し、指示を出していたら突如現れた平子真子。

 

 

「京楽、早く準備を進めよ。北と南の指揮は任せたぞ」

 

 

「はいはいって浮竹もういないじゃん。僕も急がないとね。それじゃあね平子くん、また後で」

 

 

手を振り挨拶だけしていく京楽には目も暮れず平子は元柳斎を睨んでいた。

 

元柳斎としても恨まれるだけの心当たりはあった。理由が理由とはいえ、一方的に殺そうとし結果的に現世へと追いやったのだ。

 

味方というよりも敵として現れたと考える方が自然である。

 

 

「お主らは味方か、敵かどちらじゃ。返答次第によってはこの場で貴様を殺す」

 

 

「アホ抜かせ。オレらはアンタらの味方でも敵でもあらへん。オレらは藍染の敵、んでもって双護の味方や」

 

 

「ならば好きにせい。貴様らの処遇はおって決める」

 

 

「好きにするも何も許可なんか求めとらへんわ」

 

 

そういうと平子は元柳斎の目の前から消えた。元柳斎がこの瀞霊廷において最も信用している人物は雀部をおいて他にいない。

 

他に挙げるのであれば双護だけだろう。その双護の味方である事を自分の前で宣言したという事以上に信用する材料は無い。

 

最も、どれだけの隊長が動ける状態か分からず人手が少しでも欲しい今は平子の言葉を信用する他ない。もし裏切るのであればその場で殺すだけだ。

 

 

「身体は大丈夫か、長次郎」

 

 

「休息は十分に取りました。私を含め一番隊総員準備は整っております」

 

 

双極の丘においてルキアの処刑に割り込んできた一護を捕らえようと際に反撃にあい気絶させられており四番隊隊舎にて治療を受けていた。

 

本来であれば一護に気絶させられるような実力差は無いのだが、あえて攻撃を受けたのは一連の事件に懐疑的であった雀部なりの反抗の意思だ。

 

軽く受け流して倒れるつもりだったが一護の予想外の実力に反応が少し遅れ一護の拳が深く入ってしまったのだ。

 

 

「さて、終わったら3人まとめて説教してやらねばな」

 

 

「お付き合いします」

 

 

二人は笑い合いながら隊士達が待つ東方面へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでウチらが死神共助けたらあかんねん。こんなん無視してさっさと藍染のハゲぶち殺しに行こうや」

 

 

「文句ばっか言うなよひより。双護に借りを返すんだろ?」

 

 

向かってくる大量の虚と対峙しながらプンスコと怒る様子を見せるひよりを大柄の少し変わったアフロヘアーの愛川羅武。

 

 

「おう、お前ら待たせたな。用意はええか」

 

 

「このハゲ真子‼︎こないな面倒な仕事受けんでも無視して藍染のハゲぶち殺しにいかせんかい‼︎」

 

 

「どのみちアレをどうにかせん限りは藍染のアホ殺したくても邪魔されるだけや。本番前の軽い準備運動ぐらいに思っとけ」

 

 

そう言って斬魄刀を引き抜き目と鼻先に迫っている虚の大群を指す。

 

 

「仮面の軍勢出陣や。ほな、行こか」

 

 

同時に虚の仮面を付ける仮面の軍勢の面々。それがトリガーとなったのか各地で戦火が上がり始めるのだった。




アニメでメノスの森ってあったじゃないですか。あれ使わないの勿体無いなって思ったんす。

反膜の感じを見るに割と前から虚園にいってた感じがするので仕込んでました。これで双護くんがメノスや虚の討伐に向かうなら良し、他の隊長が食い付いてくれたらなおよし、ここで可能な限りの邪魔を虚退治に向かわせようという藍染戦略です。なお、時灘くんはこの作戦を全く知らされておりません。

ぶっちゃけ双護に対する一つの札として交渉(艶羅鏡典を餌に)しただけなのでぶっちゃけ要らない駒です。勝手に動くので双護にダメージを負わせればラッキーそれが無理でも双護に無駄駒を処理してもらえるので割とバンザイな藍染さん。

仮に色々うまくいったとしても反膜タクシーは使えないので時灘くんはここで終わりでした。

この瀞霊廷動乱編ですが次かその次くらいまでの予定です。その次から仮面編入りますのでよろしくお願いします。


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砕蜂、卍解す⁉︎

「しっかし、冗談みたいな数じゃの」

 

 

「夜一様、こちら側は二、七、十三番隊で連携し迎え撃つという事になっています」

 

 

 夥しい程の虚の大群に思わず笑ってしまう夜一。そんな夜一に砕蜂が報告をする。

 

「となると、こちら側の指揮官は浮竹か。砕蜂、各陣営への連絡係の手配と鬼道衆に応援を頼むんじゃ」

 

 

「既に浮竹隊長に許可を取り、連絡員として各陣営に隠密機動を配備。西を除いた各陣営に鬼道衆の精鋭を準備させています」

 

 

 今回のように各陣営が複数点在し、混戦となる事が予想される場合は鬼道による連絡は推奨されていない。混沌とした戦場の中で伝えるべき人物の霊圧を正確に捕捉する事は至難の業であり、失敗すれば敵に情報を与える事となってしまう。

 

 その為、身軽でフットワークの軽い隠密機動が必要となってくる。

 

 自身の怒りをコントロール出来ず、双護に余計な手傷を負わせてしまった事は砕蜂自身にとって許せる事ではないが、一瞬の判断が命運を分ける今の状況で失敗を引きずっていてはそれこそ取り返しがつかない事になってしまう。

 

 考えを切り替え、今の状況双護であればどうするかを考えた砕蜂は各隊の連携と援軍の用意をしたのだった。

 

 

「本当に逞しくなったの、砕蜂」

 

 

「双護殿のお陰です。それでは、一番槍…………行かせてもらいます‼︎」

 

 

 そう言って雀蜂を解放し、霊圧を高める砕蜂。砕蜂は斬魄刀が特殊である事から斬術というものが然程得意では無かったが白打と歩法にはそれなりに自信があった。

 

 どちらも同世代には負けるような事は無かったがそんな白打と歩法よりも自信があったのが鬼道である。

 

 鬼道であれば護廷隊の中でも上から数えた方が早いくらいには出来るという自負があるし、もっと上を目指せるように努力もしてきた。

 

 

「はぁぁぁぁぁあ……………………瞬閧‼︎」

 

 

 全ては双護と肩を並べる為に。その為に努力した全てはこうして瞬閧という形で実を結んだ。

 

 鬼道と白打を練り合わせた隠密機動の総司令に代々受け継がれてきた戦闘術。綿密にコントロールされた鬼道の能力と磨かれた白打の技術があってこそ成り立つ秘技に自力でたどり着いたのだ。

 

 

「砕蜂、お主………………その技は」

 

 

「双護殿と並ぶ為に自力で習得しました。名は双護殿から教えて貰いました」

 

 

 夜一は双護が瞬閧を使えると知った時別に驚くという事はしなかった。双護は元々夜一の父が気に入っていた為、秘技である瞬閧を授けていても可笑しくは無いと思っていたからだ。

 

 

 しかし、砕蜂は実質的な刑軍軍団長であるとはいえ、資料も何もない状態で鬼道と白打を合わせようという思考に至れるのかと開いた口が塞がらなかった。

 

 しかも驚くべきはその瞬間の完成度である。霊圧の出力では負けていないがコントロールという面だけでいえば夜一を越えていた。

 

 

「全く…………双護の奴め。ここまで仕上げておいて儂に仕向けてくるとはの。儂もウカウカはしておれんな」

 

 

 夜一は1人呟くと上着を脱ぎ捨て、瞬閧を発動させる。砕蜂の瞬閧が荒れ狂う暴風であるとするなら夜一の瞬閧は轟く雷鳴である。

 

 夜一が瞬閧を発動させたのを見ると砕蜂は敵陣へと突っ込んで行った。

 

 大虚は王族特務案件、つまりは零番隊の領分とされているが最下級大虚であれば強さ的には隊長格であるなら充分に対象できるとされている。

 

 夜一と砕蜂が暴れ回る事で陣形を掻き乱し、討ち漏れた虚を浮竹の指揮のもと狩っていくという流れが出来ていた。

 

 各隊合同での訓練をする事はあるが、隊として連携するという事はあまり無いため求められているのは正確な連携では無く、お互いの邪魔をしない範囲での大まかなもの。

 

 少しずつ減らしていくが虚の大群が減る気配は一向に無い。

 

 

「しっかし、全く減らんの………………どうする浮竹。このままではキリが無いぞ」

 

 

「確かに四楓院の言う通りだ。このままではこちらが消耗するばかりだな」

 

 

 夜一と砕蜂が率先して最下級大虚を中心に狩っても減る気配が無い。それに加えてこちら側は慣れない大規模な連携である。

 

 消耗戦になれば不利なのは死神側である。

 

 

「京楽の方は十一番隊がいるから問題無いだろうが……………………正直なところこちらの陣営は火力が無いのが少し痛い」

 

 

 流刃若火のような火力があり、広範囲に効果を発揮できる斬魄刀を持つものがこの場にはいない。砕蜂の雀蜂は相手に触れなければ意味は無く、浮竹の斬魄刀も特殊である為あまり期待が出来ない。

 

 かといって浮竹のいるこの陣営に集まっているもので鬼道が得意といえるのは砕蜂と夜一、そして鬼道衆くらいなものだ。

 

 

「ようは数を減らせば良いのでしょう。私がやりますので後は夜一様、よろしくお願いします」

 

 

 

「たしかにお主の瞬閧はかなりの出来じゃ。瞬閧と雀蜂が合わされば大抵の敵には負けんじゃろ。しかし相手は大群、幾ら雀蜂とはいえあの数は無茶じゃぞ」

 

 

「始解なら無理でしょう」

 

 

「始解ならって…………お主」

 

 

「そうか、双護のやつが許可を出してたのか」

 

 

「今まで出す機会が無かったので。双護どの以外には初お披露目です」

 

 

 双護は護廷隊の隊長の中で斬魄刀の扱いに関して最も厳しいと言われている。古参の隊長らしく、現隊長の中の何人かは双護の指導を受けた経験があり、卍解習得時はある程度の修練を積むまで実戦での使用を禁止するといった事もしていた。

 

 砕蜂が卍解に至っているというのは知られた話だが、双護がその使用を固く禁止にしていたのだ。

 

 卍解を習得するには天賦の才能と血の滲むような努力、見合った経験が必須となる。そして習得してから使い熟すまで10年以上の月日を必要とする。

 

 

「いや、お主が卍解出来る事に驚きはせんがあの大群をどうにか出来るのか」

 

 

「それなりに消耗しているので全滅は出来ないかもしれませんが多少間引くくらいなら雑作もありません」

 

 

「前線に出ている隊士は退却させろ‼︎鬼道衆は隊士の退却を援護しろ‼︎完了次第可能なものは壁を作れ‼︎」

 

 

 砕蜂の高まる霊圧を見て指示を出す浮竹。双護は斬魄刀の扱いに厳しいのはよく分かっているし卍解であればより一層高い理想を持っている事も知っている浮竹は双護が許可を出した砕蜂の卍解というものを警戒していた。

 

 多数を相手に出来る火力が欲しい場面での卍解宣言。双護が許可を出しているとはいえ味方にまで被害が及ぶ火力である可能性は十分に考えられた。

 

 

(ばん)(かい)‼︎‼︎‼︎」

 

 

 砕蜂が吠えるように叫ぶと瞬閧で纏っていた風が砕蜂へと集まっていき、砕蜂を包む繭のように形作られていく。

 

 繭の中心に集まっている霊圧の濃度はでも目を見開く程だった。低級の虚であれば近づくだけでズタズタに切り裂かれ消滅するであろう程の密度となっている霊圧。

 

 そんな高密度の繭を切り裂くように極太の霊力の波動が飛び出る。

 

 飛び出た波動は射線上にいた虚達を容赦無く灰へと変えていく。

 

 

雀蜂雷公鞭蜂王兵装(じゃくほうらいこうべんほうおうへいそう)

 

 

 風の繭が晴れると砕蜂の様相は変わっていた。両腕には砕蜂の腕には大き過ぎる程の籠手と手甲。武骨な脛当てと腰当て。

 

 背面には蜂紋華のような羽根が生えており、背後には小太刀サイズの始解時の雀蜂のような針を持った蜂のようなものが六匹控えていた。

 

 

「チッ、思ったより数が減らんか…………まぁ良い。一度で駄目なら何度でも叩き込むだけだ‼︎」

 

 

 そういうと砕蜂の背後に待機していた六匹の蜂が集合し形を変え、巨大な砲身へと変化する。

 

 

「凄まじい卍解じゃの」

 

 

「卍解は心を写す鏡と言います。貴女が居なくなってからの100年は貴女を越える為、あの人に並ぶ為に全ての時間を費やしてきました。そんな私の心を汲み取ってくれた雀蜂のお陰で私はこうして戦える」

 

 

 砲門に霊力が収束していく。それに合わせるように砕蜂は右腕を突き出して構える。すると、黄金色に輝く籠手に掘られたいる溝から排熱する様に霊子が噴き出す。

 

 そして背面に輝く羽根が砕蜂を支えるように地面へと突き刺さる。

 

 

「私望みを叶えてくれるだけの力はあるんですが、一つだけ難点がありまして…………いや、まぁそこも良い所なのですが…………」

 

 

「なんじゃ、その難点は」

 

 

「これは暗殺と呼ぶには派手過ぎる‼︎」

 

 

 砕蜂が言い切るのと同時に限界を迎えた砲門から卍解発動時に出した波動のよりも更に高密度かつ極太な波動が発射される。

 

 そして霊力の波動が着弾し、虚の大群がいた場所に巨大な爆発が起きた。




原作では砕蜂の長所である機動力が潰れ、他の長所も行かせない残念よりな卍解な砕蜂の卍解ですが、この作品では双護との出会いによって心持ちが違うので卍解の形態にも変化は出るだろうという判断で変えました。

ただ、名前はしっくりきてないというね。久保帯人先生のネーミングセンスどうなってんのよ。

次回、砕蜂卍解披露回其の2と別陣営でのお話を書く予定です。お楽しみに待っててくださいな


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砕蜂、八つ当たる

BLEACH読み切りやばいっす。読んでないBLEACHの民は是非読んでくれ


「これまたデタラメな威力じゃの」

 

 

「数も減らせたし、後は俺達に任せて休んでおくといい」

 

砕蜂の砲撃に関心しつつも、砕蜂との戦いで卍解を使われないで助かったと冷や汗を流していた。対処出来ない訳ではないが、それでもまともに喰らってはいけない一撃であるという事を目の当たりにしてしまったからだ。

 

 

「数はそれなりに減らせましたが、霊力にはまだ余裕があります。先程の失態の分、もう少し暴れてきたいと思います」

 

京楽の労いに首を振る砕蜂。砕蜂の卍解、雀蜂雷公鞭蜂王兵装の一撃でかなりの数の虚を葬った。しかし、砕蜂は自身の未熟さで双護に余計な手傷を負わせてしまった事を悔いていた。

 

切り替えなければいけないのは理解しているし、後悔している場合ではないというもの分かっているが、挽回できる機会があるならば挽回しておかなければ自分を許せなくなってしまうからだ。

 

その後悔の一念から浮竹の労いの言葉に対し首を振る砕蜂。

 

 

「さっきの瞬閧も卍解も消耗が少ない技じゃないことくらいは分かる、だから無理はするな。双護だってこれだけ頑張れば許してくれるさ」

 

 

浮竹は砕蜂の起こした失敗を知っている訳では無いが、部下の失敗程度で怒るほど小さな男ではない事を知っていた。仮に怒っていたとしても功績は功績でちゃんと褒める事が出来る男である事を知っている為。

 

 

「それに、ガス欠で敵にやられたんじゃ双護に申し訳が立たない」

 

 

「心配は無用です。引き際は弁えていますから‼︎」

 

 

そう言うと砕蜂が展開していた巨大な砲身は再び蜂へと姿を戻し、蜂紋華を模した翅を展開する。そして敵陣へと飛んでいった。

 

一条の流星が最下級大虚の仮面を貫いていき、断末魔をあげながら姿を消す最下級大虚。

 

 

 

「雀蜂、機甲蜂の操作は任せた。私はデカいのを間引く」

 

 

砕蜂は独り言のように呟く。すると砕蜂の周囲で待機していた蜂のようなもの、機甲蜂が1人でに動き出した。

 

卍解は心を写す鏡と言われているが、斬魄刀本来の力とも言われている。この話を聞いた時、砕蜂は自身の卍解が本来のものと違っているのでは無いかと考えるようになった。

 

双護がいなければ心の形は今と違うものになっていた事は砕蜂自身がよく知っている。

 

卍解が変質した事で雀蜂とより綿密なコミュニケーションが取れるようになり、果てには共闘出来る様になった。他の隊長や歴代の卍解使用者を見てもそのような卍解を使うものはいないとされている。

 

 

「虚相手に言うことでは無いが、先に謝っておく。悪いな、私の八つ当たりに付き合わせて」

 

 

後悔や自責の念はある。しかし、それ以上に砕蜂は自分自身への怒りが抑えられないでいた。夜一や浮竹、戦力が揃っている今なら卍解をする必要はあまりない。

 

しかし、情けない自分への怒りと早く失敗を取り返したいと言う思いから卍解を決意した砕蜂。

 

 

「あの人ならこんな事で卍解をするなと叱るんだろうな」

 

 

浮竹は砕蜂の功績をみれば双護も失敗を帳消しにすると言った。しかし、砕蜂は使う必要の無い状況での卍解をしようした事は双護に叱られると確信していた。

 

砕蜂が最下級大虚や巨大虚を狩っている隣で六体の機甲蜂が下級の虚の身体に風穴を空けていく。

 

 

「「砕蜂、下がれ‼︎」」

 

 

順調に数を減らしていく砕蜂。危機を感じ退却したのと夜一と浮竹が叫んだのは全くの同時だった。

 

直後、虚達の上空から複数の黒腔が開き、光の柱が降りた。

 

 

「なるほど、これが反膜というやつか」

 

 

資料で確認する程度だった事象に興味深そうに呟く砕蜂。反膜とは、大虚が同族を助ける際に発する光とされている。

 

生き残った下級大虚や虚が纏めて回収されるように光の柱を登っていく。この現象は虚が大量発生したとされる各所で起きていた。

 

 

「一先ず、汚名の返上は出来たか」

 

 

虚が去っていく。それは戦闘が終了した事を意味する。裏切り者の討伐は叶わなかったようだが、護廷隊士の被害は程度に差はあるが、負傷者がいる程度で死者はいない。

 

 

「ある程度課題も見えた。これから忙しくなるな」

 

 

卍解を使用した訓練は積んでいるが実戦で使う機会は今までまともに無かった。訓練との違いを実感しながら自分が今より強くなる為次の可能性を模索する砕蜂。

 

そして、今回はこうして比較的被害の少ない状態で戦闘を終えられたが、こうして離反者藍染惣右介との戦争状態に入った以上大変になるのはこれからである。今回の戦闘の事後処理、戦力の強化と再編。やる事は山積みだ。

 

しかし、砕蜂としては浦原喜助という余計なおまけが付いてきているが夜一が双護の元に戻れる事になるのを確信し、それを今回の戦闘で一番の収穫と考えていた事もあり小さく笑みを浮かべ夜一の元へ戻るのだった。




高速機動、高火力砲撃、多角的な攻撃…………砕蜂のおニュー卍解は割と幅広い事が出来る一対多数向きな卍解っすね。

次回で今回の章を締めとします。その次からは仮面編です!!!一番気合い入れなきゃなところ!!頑張ります!!!


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父との語らい

最近友人とやるようにポケモンのオリジナルTRPGシナリオを書いたりしてます。

色々好きなポケモン、カッコいいポケモンいるけど俺の相棒というか、マイフェイバリットはバクフーン一択なんだよなぁ。
理想の旅パ(このパーティーでポケモン世界を旅したい)

・バクフーン

・エアームド

・エーフィ

・ニドキング

・ラグラージ

・ハッサム


他にも好きなポケモンおるけど旅をするならコイツらとしたい。


藍染惣右介が尸魂界にもたらした混乱の傷跡は深かった。多数の負傷者、意思決定機関たる四十六室の壊滅、四大貴族の関与とあげればキリがない。

 

四十六室に関してはメンバーの再編が終わるまでは元柳斎が代行を務める事となり、綱彌代家は時灘を切り捨て関与の一切を否定した。

 

藍染惣右介、市丸ギン、東仙要。3人の主要人物はそれぞれが五、三、九番隊の隊長であった。3人の隊長が抜けた穴というのは戦力的にも隊士の士気という面でも放置しておける問題では無かった。

 

双護の提案により、かつて隊長を務めていた平子真子が五番隊、鳳橋楼十郎が七番隊、九番隊には六車拳西が隊長として復帰する事になった。

 

緊急で行われた隊首会の結果を一通り語った浦原は被っていた帽子を脱ぎ、深々と頭を下げる。

 

 

「今回は本当迷惑をかけました」

 

 

夜一が双護に対して罪悪感を感じていたように浦原も双護には罪悪感を感じていた。遅かれ早かれ巻き込まれるとはいえ夜一と双護にさせる必要のない苦労と背負う必要のない重責を背負わせてしまった。

 

死ぬ訳にはいかなかったが殴られる位は覚悟していた浦原だったが双護は責める事なく浦原を頼った。

 

 

「良いよ、俺だって喜助を頼った訳だしお互い様だよ」

 

 

 

「そうですね。アタシとしては納得出来ない所もありますがキリが無いのでそういう事にしておきましょう…………………それにしてもかなり多いっスね」

 

 

果物や酒、本などの見舞いの品が双護のベッドの横には数多く置かれていた。

 

艶羅鏡典の模倣とはいえ、疋殺地蔵の毒を受けた双護は暫くの間絶対安静という事になっていた。多くの見舞い客が訪れたが、烈が笑顔で送り返していた。

 

 

「そういえば、母さんがキリが無いからって面会謝絶にしてるのによく来れたよね」

 

 

「そこは…………ホラ、これで忍び込ませて貰ったッス。どうせバレてるので帰る前にお説教受けてきます」

 

 

そう言うと浦原は懐から霊圧を消せる外套を取り出す。霊圧での感知さえされなければ四番隊の警備くらい浦原であれば忍び込むのは造作も無い。

 

 

「本当に護廷隊に復帰するつもりは無いの?」

 

 

「いいんスよ。こっちにはマユリサンがいるし、空座町にくる駐在隊士のサポートだって必要でしょ」

 

 

「まぁそれはそうだけど……………」

 

 

「良いんスよ。アタシらの容疑を晴らしてくれただけで充分ッス。尸魂界に居なくたって護廷隊士としての役目は果たせます」

 

 

藍染惣右介が全ての主犯であった事が判明し、夜一と浦原の罪人としての容疑は晴れた。

護廷隊としては浦原の復隊を認めても良いとの報告であったが、一部の貴族連中から物言いがあったのだ。

 

護廷隊の全権は元柳斎が持っている為貴族の戯言程度であれば無視する事も可能なのだが、先頭きって否定しているのが綱彌代である為元柳斎としてもあまり強く出れなかった。

 

浦原本人が希望した事もあり、浦原の復帰隊は無かった事になった。

 

 

「さて、と。そろそろ黒崎サンがお帰りなるんでアタシは失礼します」

 

 

「これからもよろしくね、喜助」

 

 

「ええ、それじゃまた」

 

 

そう言うと外套を被り、窓から飛び出ていった。その数秒後、隊隊士の喧騒と烈の霊圧が四番隊隊舎に響いた。

 

 

 

「思ったより元気そうだね、双護」

 

 

「父さんのお陰だよ」

 

 

浦原が去るのを待っていたかのように双盾の霊圧を感じた双護は助けてもらった礼を告げる。

 

 

「烈さんに似て強いのにボロボロになるのは僕に似ちゃったのかな」

 

 

「父さんがボロボロになる事なんてあったんだ」

 

 

古参の隊長でありながら双護は双盾がまともに剣を握っている姿を見た事が無い。霊圧はそれなりに高いが、突出している訳でも無いのに双護は今でも双盾には勝てるイメージが湧かなかった。

 

強くなり、技術を学び、モノにすればする程双盾の凄さを実感する。隙の無さだけでいえば元柳斎にすら勝ると感じている双護。

 

 

「僕ってひ弱だからね。今の双護にも勝てないかも」

 

 

「現役だからね。そう簡単にはやられないよ」

 

 

冗談めかしている双盾だが、双護としては双盾と戦うのだけは拒否したい所であった。

 

 

「それで………病室抜け出してまでどうしたの?何か用件でもあったんじゃないの?」

 

 

「ん?そんなものは無いけど?」

 

 

双護からの問いにあっけらかんと答える双盾に思わずずっこける双護。家族として仲が悪い訳では決して無いが、護廷隊に入隊してからは会話はかなり減っていた。

 

話す時は隊士の育成についてだったり、仕事をする上での心構えや双盾の体調についてだった。

 

 

「ただ僕は息子と普通の話をしにきただけだよ」

 

 

「無茶した事とか、父さん達に詳しい事話さなかった事に対して怒ってないの⁉︎」

 

 

双護としてもかなりの無茶をした事は分かっていた。藍染にバレないように必要最低限の理由すら話さず、元柳斎や烈や双盾を巻き込んだのだ。

 

自分の話であれば信じてもらえるという事も分かってはいたが、バレて逃げられるリスクを考え何も言わなかった。

 

それでも何も言わず快く自分の頼みを聞いてくれた事に双護は多少なりとも罪悪感を感じていた。

 

 

「双護が無茶するのは昔からだからね。元柳斎殿はまだしも母さんからゲンコツくらいはもらうかもね。でも、僕は嬉しかったよ」

 

 

「嬉しかったって?」

 

 

「昔から双護は自分でやろうとする所があったからね。強くなろう、強くあろうとしてる気持ちが強すぎるせいなのかな?あまり頼って貰えてなかったけど今回こうして頼ってくれた事が凄く嬉しいんだ」

 

 

そう言いながら優しく微笑む双盾。

 

 

「双護だってもう立派な大人だし、沢山の部下と仲間がいる。それでも僕と烈さんにとっては可愛い息子なんだ。何かあったら遠慮せず、頼りなさい」

 

 

優しく頭を撫でる双盾。双護は死神の中でもかなりのベテランである。現世の人間でいえば働き盛りといった年齢で大人である。

 

そして、双護は多くの隊士を部下に持つ護廷隊の隊長でもある。より強く、より誰かを護れる死神となる事を望まれ、また自身で強く望むようになってから誰かに甘えるなんて考えは持った事が無かった。

 

これまで長く生きて涙を流した事など、片手で数える程度しか無かった双護だが久しぶりに目尻に涙が溜まるのを感じた双護。

 

 

「とは言っても僕からもちゃんと怒っておかないと僕が烈さんに怒られるからね。ということで……………えい」

 

 

撫でていた手で軽く拳を作り、双護の頭をコツンと叩く。痛みなど無いが反射的に「痛っ」と呟いてしまう双護。

 

目尻に溜まっていた涙も咄嗟に引っ込んでしまった。

 

少し真面目な顔になっている双盾に対し、双護は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっていた。

 

目が点になった表情がおかしくなったのか双護には分からないが、すぐに優しい笑みを浮かべる双盾。

 

 

「双護も仕事があるだろうし、僕はこれで失礼するよ。双護、頑張るんだよ」

 

 

「ありがとう、父さん」

 

 

最後に肩を軽く叩き、激励してから病室を出ようとする双盾。そんな双盾に双護が礼を言うと双盾はそれ以上何も言わずに小さく手を振り病室を出て行った。

 

父との会話でやる気が出たのか、病室で書類仕事をしている所を烈に見つかり、強烈なゲンコツと共に強制的に眠りにつかされる双護であった。




最近パッと書いた文字数が増えてきた気がする……………………


次回より、仮面編へ行きます!!ここからかなり気合を入れなきゃなんで頑張ります!!

双護君と絡ませたいエスパーダが多過ぎる……………………それはそれとして、ずっと双護君呼びだけど年齢的に双護さんなんだよなぁ


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仮面と闘争
双護、虚園へ降り立つ!!


友人と作っているポケモンTRPGのシナリオを書いていたり、栄冠ナインやったりと更新が遅れました。  
お陰様で、調整平均の評価が7.0になったりと好調です。これからも、更新していくのでよろしくお願いします。

仮面編始まります。


藍染惣右介の離反から一年。事態は再び動き出した。

 

浦原や夜一達に恩赦が与えられた事がトリガーとなったのか現世と尸魂界のアクセスは良くなった。

 

藍染が護廷全体を敵に回してまで手に入れた崩玉が再び目覚めるまでの一年で現世にいる一護と護廷隊の連携を蜜にしておく事が必須であるとされ、浦原とマユリ両名によって通信設備が整えられた。

 

一年が近づき護廷隊は十番隊隊長日番谷冬獅郎を始めとする日番谷先見隊を派遣し、仮面を名乗る藍染の配下と戦闘をした。

 

それから程なくして現世にて一護の仲間である井上織姫が姿を消した。

 

 

「ならん‼︎黒崎一護よ、お主が井上織姫の救出へ向かう事を総隊長として認められん」

 

 

定期連絡にて一護は元柳斎に対し織姫の救出を宣言。しかし、元柳斎はこれを却下した。

 

 

「なんでだよ、じーさん⁉︎なんで井上を助けに行っちゃいけねぇんだよ‼︎」

 

 

「もうじき崩玉が目覚め、藍染が本格的に動き出してくるじゃろう。貴様は貴重な戦力、勝手に動かれる訳にはいかん」

 

 

「この手にはまだアイツの霊圧が残ってんだ‼︎井上が何で消えたのか分からねぇけど、残った霊圧が俺に助けてくれって言ってんだよ‼︎」

 

 

「護廷隊としては貴様らが井上織姫の救出に向かう事は絶対に許さん。分かったのなら藍染との一戦に向け英気を養っておけ、これで通信を終了とする」

 

 

一方的に通話を終わらせようとする元柳斎に納得が行かないのか一護がモニターに寄るが次の瞬間にモニターはブラックアウトした。

 

 

「どうするのさ山じぃ。彼、あの様子だと1人でも虚園に行っちゃうよ?敵の規模は分からないけど先見隊くらいの規模の援助はしてあげても良いんじゃない?」

 

 

「彼はまだ若い、衝動のまま敵陣に突っ込んで事態を悪化させかねません。彼に多少の援助をしても良いのではありませんか、元柳斎先生」

 

 

通信に同席していた京楽と浮竹が元柳斎に意見をする。浮竹も京楽も黒崎一護という少年に対して好感を持っていた。才能に恵まれ、情に熱く、仲間には甘い一面を持つ好青年を自分達の友人と重なるところがあったからだ。

 

長年隊長を務めてきたものとして元柳斎の言う事には納得出来る浮竹と京楽。出来る事なら井上織姫救出に人員を割くよりも打倒藍染に戦力を割くべきであると分かってはいるのだが、老婆心からか少しくらいならと京楽も浮竹も手助けを提案したのだ。

 

 

「護廷を預かる者としてそのような命令は出来んと言っておる…………………ところで、双護よ。一つ頼まれてくれんか」

 

 

「人員はこっちで決めるけどいいね?」

 

 

奥の方で控えていた双護に要件も言わずに“お願い”をする元柳斎。それに対して双護は分かっていたかのようにしている。

 

双護も元柳斎も仕事と普段の使い分けというのを大事にしている。元柳斎が命令すれば意見する事は出来るが基本的に上司である元柳斎の命令は厳守である。しかしそんな元柳斎が命令ではなく個人的に頼んだ。

 

 

「構わん」

 

 

「それじゃ適当な人員集めてくるよ、それじゃ」

 

 

そういうと双護はその場を後にした。京楽と浮竹はやれやれと言ったように笑みを浮かべる。2人が黒崎一護という少年に親友を重ねているように、元柳斎も誰かを重ねたのかもしれないと考え笑みが浮かんだ。

 

 

「ボク達も大概だけど山じぃも中々甘いね」

 

 

「察するに俺達の問題児っぷりは先生の影響なのかもな」

 

 

「自覚しておるなら直さんか‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事で虚園行くからお願いしますね、涅隊長」

 

 

「なんだネ、貴様ら。私を舐めているのかネ」

 

 

双護の不躾な物言いで青筋を浮かべるマユリの視線の先にはニコニコと嫌な笑みを浮かべる双護と烈、マユリの圧に押されている勇音とルキアと恋次、そして我関せずといった白哉がいた。

 

 

「要件は分かってるでしょ?涅隊長の事だから虚園へ行く手段も用意出来てると思ってね」

 

 

「ふん、出来ていたとしても貴様らに使わせると思うのカネ」

 

 

技術開発局では様々なものが開発されており、その基礎を作ったのは初代局長であった浦原である。

 

そして現在の局長であり、十二番隊の隊長を務めるマユリはその浦原を嫌悪している。浦原と親しい双護の頼みを快く受ける訳が無い事を双護もよく分かっていた。

 

 

 

「それなら喜助に頼むからいいよ。その方が安全そ「待ちたまえヨ‼︎特別に使わせてやらんでもないヨ」ありがとう、涅隊長」

 

 

そんなマユリに浦原の名前を出せばどのような反応をするか分かっていた双護は表情を悟られないよう踵を返してから浦原の名前を出した。

 

予想通りの反応だった事で思わず笑みが溢れる双護。この時の双護の笑みとマユリの鬼のような形相を見て背筋を強張らせる勇音とルキアと恋次。

 

 

「軽い手遊び程度のものだからネ、送れてもせいぜい2人が限度だヨ」

 

 

マユリの案内で連れて行かれた先には少し大きめの門があり、その中は黒腔のようになっていた。

 

 

「流石の涅隊長でも一度に全員は無理なんだ」

 

 

何かしらの装置を弄りながら説明をするマユリに喧嘩でも売りに来たかのように煽る双護。

 

そんな2人のやり取りに勇音達、副隊長組はもうやめてくれと苦笑いするしか無かった。

 

 

「馬鹿を言うんじゃ無いヨ。当然可能だガネ、動力が足らない。何処かの誰かがもう少し予算を増やせば一度に全員を送る事も可能なんだガネ」

 

 

「なら、恋次とルキアちゃんから行くといい。黒崎君と比較的距離が近いのは君達だし合流するならその方が黒崎くんもその方がやり易いだろうし」

 

 

「「は、はい‼︎」」

 

 

「どこかの放蕩息子の監査が無駄厳しいせいで動力が足りてないんだヨ。さっさと入りたまエ」

 

 

マユリに押し込まれるように門へと入るルキアと恋次。押し込まれる際、ルキアは白哉に何かを言おうとしたが白哉はこくりと頷くだけで何かを言うことは無かった。

 

ルキア達が門の中に消えたのを確認するとマユリは機械を弄り始める。

 

 

「白哉くん、何か言ってあげても良かったんじゃない?」

 

 

「ルキアは兄や私が守られるだけではない。自分の足で進むだけの力はある。私から何か伝えずとも自分で見つける」

 

 

白哉と双護の付き合いはかなり長い。白哉が護廷に入隊する前からの付き合いで夜一のお気に入りだった事で小さい時から知っている。

 

白哉が背負っているものや抱いてきた感情も全て見てきた双護は前に進めている事に安堵していた。

 

 

「僕がいるから死ぬような事にはさせないのに、ついてくる辺り心配なの?」

 

 

「兄やルキアに対して案ずる事は無い。私がここにいるのは黒崎一護への恩に報いる為だ」

 

 

白哉がルキアとの間にあった確執を取り除けたのは一護がルキアを助けに来たからだ。白哉が一族としての誇りや隊長としての責務、ルキアの兄としての想いに折り合いをつけられたのは一護と本気でぶつかったからだ。

 

隊長として、貴族の長として、兄として受けた恩に報いなければと言う思いで白哉は井上織姫救出作戦に協力した。

 

 

「場所の設定と動力の再装填で少し時間がかかるヨ。モルモットになっても良いのならお茶をだしてやってもいい」

 

 

機械をひたすら弄っていたマユリが双護達に話しかけ奥へ消えていった。

 

 

「じゃあお言葉に甘えようか、阿近くんお願いしてもいいかな」

 

 

近くに控えていた十二番隊三席で技術開発局現副局長の阿近にお茶を出すように頼む。阿近はめんどくさそうにへいへいと言いながらお茶の準備をする。

 

暫くして阿近が人数の湯呑みを持ってくる。烈や双護、白哉は特に気にせず飲み始める。 しかし、この場において唯一の副隊長である勇音は恐る恐る口をつけていた。

 

二時間後、動力の再装填が終了した事で双護達も虚園へと出立するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだテメェは⁉︎」

 

 

第5十刃ノイトラ・ジルガは驚愕していた。十刃最強を自負している自分の殺すつもりで振り下ろした一撃な片腕で簡単に防がれる事は今まで数える程度しかなかったからだ。

 

第6十刃であるグリムジョーとの戦闘を終えたばかりの一護を狙い襲撃し追い込んだ。

 

トドメのつもりで放った一撃はいつのまにか現れた双護によって受け止められていた。

 

 

「お疲れ様、黒崎君。ここはぼくに任せてくれて良いから君は自分のやるべき事をやりなさい」

 

 

「双護さん‼︎助かった‼︎」

 

 

双護に対して一言礼を告げると一護は再び走り出した。

 

一護が離脱した事を確認すると双護は受け止めていたノイトラの一撃を振り払う。

 

 

「紹介が遅れたね。二番隊隊長、卯ノ花双護だ」

 

 

「そうか、テメェが卯ノ花双護か………………悪くねぇ」

 

 

「お眼鏡にかなったようで何より。それじゃあ……………戦おうか」

 

 

この一言を引き金として第5十刃ノイトラと双護の戦いが始まるのだった。




煽り煽られるマユリ様は最高なんじゃ。

初戦はノイトラさんです。がんばれ!!


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ノイトラ、キレた⁉︎

たまたま見かけたあのイラストが運命を変えた………………


「オラオラ、その程度じゃ俺を殺せねぇぞ‼︎」

 

 

「そっちこそさっきから隙だらけだよ」

 

 

巨大な三日月状の鎌が上下対称についている特殊な武器による連撃を回避しながらノイトラの身体を袈裟斬りにする。

 

回避する素振りも防御する姿勢も全く見せないノイトラに疑問を抱いていた双護だったがその答えは次の瞬間に知る事となった。

 

 

(なるほど、これは…………)

 

 

「オレの鋼皮は歴代十刃最硬なんだよ」

 

 

本気ではなかったが、普通の敵であれば簡単に真っ二つになる一撃だった。しかし、双護の一振りは傷をつけるには至らなかった。

 

攻撃を真っ向から受け止める形となったノイトラは反撃とばかりに大きく口を開け、舌を突き出し黄色の虚閃を放った。

 

 

「今のを避けやがったか」

 

 

「お喋りなんかするからだよ。避けて欲しくないなら相手を動けなくさせないと」

 

 

「何上から目線で話してんだよぉ‼︎」

 

 

瞬歩でノイトラの背後に回った双護は解放していない月詠神楽を肩に担ぎ若手隊士の訓練をする時のような優しい口調でノイトラに話しかける。

 

ノイトラとてただの虚閃一発で隊長が殺せるとは思っていない。しかし、あの間合いで、あのタイミングで掠りもさせずに避けられるとは思わなかったのだ。

 

ノイトラは双護と戦い始めてから謎の苛立ちを感じていた。

 

 

「うん、細身の割に良い膂力してる。まともに食らったら僕もやばいかもね」

 

 

命のやり取りをしているというのに相対している敵は自分を全く見ていない。十刃であるノイトラ自身を敵として見ていないかのようであった。

 

 

「ふざんけじゃねぇ………………ふざけんじゃねぇ‼︎オレを見ろぉ‼︎」

 

 

謎の苛立ちは次第に既視感をノイトラに感じさせていた。敵として戦っているのに相手にされず、あしらわれ、戦士として認められてない感覚。

 

かつて、第3十刃であったネリエルのそれと似ていたのだ。自分よりも上に立ち、歯牙にも掛けないような振る舞いが何よりも腹立たしかった。

 

最強を自負しているノイトラにとって舐められたままではいけない。雪辱は晴らさねば気が済まない。ネリエルには正攻法ではない方法を用いた。

 

 

「良いぜ、やってやるよ。祈れ…………『聖哭蟷螂』ァ‼︎」

 

 

破面も死神と同様に斬魄刀を持っているがその在り方は死神とは大きく違っている。斬魄刀に自身の力を封じ込め刀の形としているのだ。故に破面の斬魄刀の解放は帰刃といって虚の姿に回帰するような形となる。

 

ノイトラの帰刃、聖哭蟷螂はノイトラの頭に左右非対称な角を三日月のように生やし、4本に増えた腕は節足動物のような外骨格に覆われ、腹部を囲むようにして角のようなものがいくつも形成される。

 

また解放した事で仮面が剥がれ、その名残なのか、歯が牙のようになり顔に黄色い紋様が浮かび上がる。

 

 

「へぇ、これが帰刃ってやつね。でも……………ちょっと足りないな」

 

 

 

「そうかよ、これなら足りるかよ⁉︎」

 

 

4本だった腕が6本に増え、巨大な鎌を6本を持つ異様な姿となるノイトラ。

 

彼の信条として、敵としてあったのなら戦いは始まっておりあらゆる手段を用いて殺す事こそが正義であるとしている。故にノイトラは敵を罠に嵌める事や騙す、不意打ちを決めるといった事に躊躇いが無い。

 

しかし、ノイトラは短い攻防で本能的に悟っていた。目の前の男は手札を隠した状態で勝てる敵では無いと。

 

 

解放する素振りすら見せていない双護に違和感を感じるノイトラであったが、その違和感を振り払うように鎌を振るった。

 

ノイトラにとって双護がどのような斬魄刀を解放しようとも間合いにさえ入れてしまえばどうとでもなるからだ。

 

 

「助かったよ、ヨミちゃん」

 

 

『ご主人、こいつ強いよ』

 

 

6本の鎌が双護を襲ったが、ノイトラが間合いに入った瞬間に月詠神楽を解放し、ヨミが展開した影で防いだのだ。

 

 

「〈破道の八十八 飛竜撃賊震天雷砲〉」

 

 

攻撃に全ての鎌を使っていた事でガラ空きとなったノイトラに向け、無詠唱ではあるが鬼道を叩き込む。

 

バックステップで距離を取る双護。解放していなかったとはいえ自分の斬撃を受けて傷すらつかなかった相手が八十代後半の破道とはいえ詠唱破棄した鬼道で倒せる筈が無い。

 

煙が晴れ、ノイトラの姿が再び現れるがほぼゼロ距離で当たったというのに傷にすらなっていなかった。

 

 

「どうした、隊長ってのはその程度か?」

 

 

「姫乃姉さんなら今ので片腕飛ばすくらいはしたのかな?僕もまだまだだな」

 

 

「無視すんじゃねぇ‼︎こっちを見ろ、余裕ぶってんじゃねぇぞ‼︎」

 

 

ノイトラに見向きもせず、自身が放った鬼道について反省する双護。勝つ為にはどんな卑怯な手でも使うノイトラだが、これほどコケにされたのは初めてだった。

 

ネリエルも同様にノイトラを戦士と認めず見向きもしていなかったが、戦っている時はノイトラを意識していた。しかし、目の前の双護は相対しているが意識がノイトラに向いていない。

 

ノイトラの嵐のような連撃も斬魄刀で捌き、影で何事もなかったかのように受ける。防戦一方である筈なのに、ノイトラを道端の羽虫のようにしか見ていないかのような振る舞いに苛立ちが募る。

 

 

「まともに攻めてこれねぇのに何で余裕ぶってんだよクソが‼︎俺を見ろ、俺と戦え‼︎」

 

 

「確かに君の攻撃は厄介だよ。これだけの質量をこんなに振り回されたら攻めるに攻めれない」

 

 

「あ?何が言いてぇんだ」

 

 

「失礼な態度を取った事は謝る。十刃には君よりも強いやつが4人もいるんだろ?君程度に手こずっていたらいつまで経っても僕は刳屋敷さんを越えられない」

 

 

当代の剣八、刳屋敷。彼は最上大虚を斬り、その実力から正式では無いとはいえ零番隊からの勧誘を受けている。

 

剣八の息子として、尸魂界史上指折りの実力者達に鍛えられてきた者として怪物のような強さを持つ刳屋敷に負けているとは思っていない双護。

 

実際に戦えば双護の方が勝つ確率は高いとされているが、それは卍解抜きの斬術のみの勝負であった場合である。

 

本気の殺し合いとなれば負けるつもりはないが勝てる気がしないというのが双護の本音だった。

 

 

「僕は僕の目指すものの為に君程度に躓いていられないんだ。ここからは少しだけ本気でいかせてもらうよ…………………………瞬閧」

 

 

双護がそう呟くと月詠神楽から黒い炎が吹き出し、双護から漏れ出していた霊圧も月詠神楽に呼応するようにして黒炎のように変化する。

 

ノイトラは自身に冷や汗が流れるのを感じた。先程までは怒りだけが自分の中に渦巻いていたが、双護の霊圧を受け生まれて初めて恐怖や焦りといった感情が自分の中に芽生えているのを本能で感じたのだ。

 

 

「まずは一本」

 

 

双護がそういうといつの間にかノイトラとの距離を詰めており黒い爆炎に覆われた月詠神楽を振るっていた。

 

何が起こったのか分からなかったノイトラだが次の瞬間左腕が宙を舞っていた。すぐに再生させようとするが、切り口こびりつくようにチロチロと燃えている黒い炎によって再生が阻害されていた。

 

 

(ヤベェ、ヤベェヤベェヤベェヤベェヤベェ‼︎)

 

 

「そんな苦し紛れの攻撃、意味無いよ」

 

 

一本、また一本と宙を舞って灰となっていくノイトラの腕。

 

 

「たしかに君の6本の腕からくる攻撃は厄介だったよ。でも、一本の武器をまともに扱えない奴がどれだけ武器を持っても意味は無いんだよ」

 

 

(巫山戯るんじゃねぇ…………巫山戯るんじゃねよ‼︎)

 

 

芽生えていた恐怖や焦りといった感情が再び別の感情に変わろうとしていた。

 

それは断じて怒りでは無い。怒りであった感情に薪をくべるかの如く恐怖や焦りなどの感情が怒りを大きくし、別の感情へと変えていた。

 

 

「もし、来世があるなら基礎からやり直すと良いよ」

 

 

「巫山戯るんじゃねえええええええええ‼︎」

 

 

唯一残った右腕を全力で振り抜くのと同時に自身の中の何かが爆発した。

 

突如響く轟音。危険を感じた双護は瞬間を維持したままノイトラと距離を取った。

 

ノイトラが巨大な鎌を振り抜いた事で砂塵が起きる。そして砂塵が晴れるとノイトラの姿は大きく変化していた。

 

 

「ここまで誰かを殺してぇと思ったのはお前が初めてだ……………………」

 

 

ノイトラの抱いた感情とは殺意だった。純粋に高まった殺意がノイトラの中の何かを変えたのだ。

 

切り捨てたはずの腕が再生し、両腕とも肘の辺りから巨大な鎌のような刃が生えている。またノイトラの周囲を黒く禍々しい鎌が旋回していた。

 

変化はそれだけではなく、身体が黒く刺々しい見た目となり、尻尾が生えている。また、角が纏っている黄色い霊圧が異様な見た目を更に禍々しくさせていた。

 

 

「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

 

「これは…………ちょっとやばいかもしれないね」

 

 

先程はノイトラが冷や汗をかいていたが、今度は双護がノイトラから感じる霊圧に思わず冷や汗をかくこととなった。




ブレソルの十刃達のオリジナル形態のイラストを見たらあれ使わないの勿体ないなって思いました。

この作品においてノイトラの刀剣解放第二階層は感情の爆発による限定的なものです。他の十刃はこうはならないかもです。

という訳でノイトラ戦はもう少し続きます。


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ノイトラ、本望

それはまさに絶望と呼ぶに相応しかった。見るものに恐怖を与える容姿、生半可な物では近づく事すら出来ない霊圧。

 

 

「テメェはさっきオレに足りないって言ったよなァ?これならどうだ⁉︎」

 

 

先程とは段違いのスピードで接近するノイトラ。警戒していた双護ですら反応が遅れるほどのスピードで不用意な接近を許してしまう。

 

圧倒的な膂力から繰り出される攻撃。双護に反撃の隙を与えない絶望の嵐。あまりの攻撃に防ぎきれない攻撃によって少しずつ傷を負っていく双護。

 

 

(全部は無理か……………しょうがないか)

 

 

ヨミと2人で防御に徹しても防ぎきれない程の怒涛の攻め。双護は守りきる事を諦め致命傷を防ぎ隙を伺う事にした。

 

 

『ご主人、このままだと危ない。卍解で一気に決着つけた方が良い』

 

 

(まだこいつ以外にも十刃はいるみたいだ卍解は使えない。敵がどれだけいるか詳細が分からない、せめて黒崎君達の安全の確保出来てからかじゃないと)

 

 

ジリ貧となってしまった双護にヨミから卍解の使用についての提案を即座に否定さるする双護。

卍解とは死神が使える最強戦術であるのだが、その分燃費が悪い。

 

連発出来るようなものでもない為卍解の使用はここぞという時にしか使わないというのが卍解が出来る者の共通認識である。

 

加えて双護の卍解は少し特殊であった。一部の卍解には周囲の味方すら巻き込む強力なものもある。刳屋敷のように周囲に被害を出し、尚且つ莫大な霊力を消耗するという卍解も存在する。

 

そう言った事から双護は卍解に関して他人よりも慎重になっていた。

 

 

「さっきまでのツラはどうしたァ⁉︎あれだけ余裕かましておいて血だらけになる気分はどうだァ⁉︎」

 

 

「最悪な気分だよ。君程度に大事な手札を切らないといけないなんて」

 

 

「テ、テメェ‼︎」

 

 

(ヨミちゃん、僕が合図したら一瞬で良いから防御全部任しても良いかな)

 

 

『大丈夫、いつでも良いよ』

 

 

(オッケー。一、ニ………………三、今‼︎)

 

 

双護は攻撃を防ぎながら袖の奥からとある物を取り出す。そしてそれと同時にヨミに合図を出しヨミが双護を覆うように影を展開する。

 

しかし、ヨミの影では今のノイトラの攻撃を受け止めるだけのパワーは無い。影は一瞬にして風船のように破れ去り双護が晒される。

 

 

「何しようとしたか知らねぇが、これで終わりだァ‼︎」

 

 

「しまっ----------」

 

 

トドメとして双護に鎌を突き刺すノイトラ。勝利を確信し、笑みを浮かべるが若干の違和感を感じ怪訝な顔を見せる。

 

直接鎌を突き刺したというのに余りにも手応えが無い。そう思った瞬間、双護の身体が風船のように破裂した。

 

 

「流石喜助、でもこれ扱いが難し過ぎるな。上手くいって良かった」

 

 

「テメェ、なんで生きてやがる」

 

 

「携帯用義骸。知らない?こうすると、ホラ」

 

 

いつの間にか距離を取って生きていた双護に疑問をぶつけるノイトラ。それに対して双護は袖の奥から一つの球を取り出す。そしてそれに息を吹き込むと双護の体が現れた。

 

携帯用義骸。持ち運びに不便な義骸を携帯用に浦原が開発したものだが、義骸としての性能はあまり高くなく、現状は戦闘時の身代わり人形として浦原は用いている。

 

しかし、この方法はタイミングが難しくまともに扱えるのは浦原のみである。

 

 

(危なかった……………上手くいって良かった)

 

 

『ご主人にこんな危ない事させるあいつ嫌い』

 

 

浦原にもしもの保険として渡された携帯用義骸だが、双護も練習したうえで成功率は10回に1回成功すればマシなレベルの確率であった。

 

親しい間柄の者でギャンブルをするようなマッドな思考と普段の振る舞いはヨミは好きでは無いようで浦原の隊士時代に共闘する際はいつも渋々であった。

 

 

「見た事あるような気もするが……………まぁいい。オレから距離をとったって事は何か策でもあるんだろ?」

 

 

携帯用義骸に既視感を感じるノイトラ。ウルキオラが見せた戦闘データで見た筈なのだが、自分を強者だと信じて疑ってこなかったノイトラにとって死神の使う小細工程度耳に入れるまでも無かった。

 

警戒するようなものかと言われたらそうでもない。次は使う前に殺せば良いまでの事である。そんなことよりもノイトラは双護がそんな小道具を使ってまで距離を取った理由に興味があった。

 

 

「卍解ってやつか?良いぜ、それでオレが斬れるってんならやってみろよ」

 

 

「悪いけどこれから使うのは卍解じゃない。あれは君よりも強い奴に使う為のものだからね」

 

 

「あ?」

 

 

霊圧の強さで言えばノイトラは今の双護を完全に上回っていた。先程の攻防も双護に余裕というものは一切無かった。

 

 

(卍解じゃねぇだと?何するつもりなんだ………)

 

 

卍解が死神にとって切り札である事は藍染から聞いているノイトラ。全ての死神が使える訳ではないが隊長であれば例外無く使えるという事も知っていた。

 

二番隊の隊長である事をなのった双護であれば卍解が使えない筈は無い、そんな双護が追い詰められた状況で何故卍解を使わないのか。そんな疑問がノイトラの頭の中を駆け巡った。

 

 

「瞬閧明王戦形黒焔炎生三昧」

 

 

双護がそう唱えると、双護と月詠神楽が纏っていた黒い炎が大きくなる。これまでは黒い炎を双護が纏っているような形状であったのがまるで双護から炎が生まれているかのようになっていた。

 

双護が傷を負っていたであろう箇所からは黒い炎がチロチロと燃えていた。

 

双護の背中からは不動明王が背負っているような火炎が立ち上っている。

 

 

「おもしれぇ‼︎少しは楽しめそうじゃねぇか‼︎」

 

 

ノイトラの霊圧が近づくもの全てに恐怖を刻み込む絶望の霊圧であるなら今の双護の霊圧は全てを焼き尽くす炎そのものであった。

 

この霊圧であるならば先程までよりは楽しめる戦いになるだろう、と自分の中の闘争心が高まるのを感じた。

 

 

「悪いけど、これまで使ったんだ。一撃で決めさせてもらうよ」

 

 

「一撃で死ぬのはテメェだよ‼︎」

 

 

霊圧を撒き散らしながらもの凄いスピードで双護に近づくノイトラ。全力の霊圧を自身の鎌へと込め双護を切り裂こうと腕を振るった。

 

 

「黒曜倶利伽羅剣」

 

 

黒い炎が収束された月詠神楽を上段の構えから一気に振り下ろす双護。

 

双護の放った一撃は鎌を振り下ろしていたノイトラを鎌ごと切り裂いた。

 

月詠神楽を振り抜くと瞬閧を解除して納刀する双護。

 

 

「悪くねぇ、オレの望みは果された。礼は言わねぇ。リベンジしにいくからその時までせいぜい首を洗って待ってやが………………………………」

 

 

最後のセリフを言い切ることもなく灰となって消え去るノイトラ。ノイトラの霊圧が消えた事でホッと息をつく双護。

 

 

「危なかった。あの2回目の解放に慣れてたら卍解を使うしかなくなるところだった…………やっぱり僕はまだまだなんだなぁ」

 

 

元柳斎や刳屋敷など自身が超えるべき背中を思い浮かべながら双護は救援を待つであろう方角へと向かって歩き出した。



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白哉、一歩踏み出す

ウルキオラと一護の戦いに割り込んだ第10十刃のヤミー。滅却師である石田雨竜の仕掛けた罠によって引き離すことに成功した。

 

その後、帰刃をしてルキア達に襲いかかるヤミーだったが、ルキア達を助けにきた一護と交戦する事になった。

 

一護は虚化の力を使い一撃で勝負を決めようとするが渾身の一撃はヤミーに擦り傷程度のダメージしか与える事が出来なかった。

 

簡単に勝てる敵では無いと悟った一護が気合を入れ直し戦おうとした時、白哉が合流したのだった。

 

 

「黒崎一護…………兄にはやるべき事があるだろう。この場は引き受ける」

 

 

「待てよ‼︎こいつの強さは尋常じゃねぇ。協力しねぇと勝てねぇ‼︎せめて双護さんが来るまで耐えようぜ。卯ノ花さんは戦力になるか分からねぇし…………………」

 

 

一護の発言を鼻で笑う白哉。烈は最古参の隊長であり、初代剣八である事を知っている者は現役の護廷隊士の中では数える程度しかいない。

 

普段は物腰柔らかく霊圧もかなり抑えている為若手の隊士からは怒らせると怖いが強さ的にはそうでもないとされている。

 

一護としては双護の母親なのだし弱い訳では無いのだろうが後方支援がメインで戦闘には向かないと考えていた。

 

 

「そうか、兄は知らぬのだったな。無理もないか」

 

 

「何が言いてぇんだよ、白哉」

 

 

「兄が心配せずとも兄の仲間の安全は護廷の名のもとに誓ってやろう」

 

 

「だから‼︎そういうことじゃねぇんだって‼︎あいつは「さて、行きましょうか。黒崎さん」うわぁ‼︎」

 

 

一護の話を無視して斬魄刀を引き抜く白哉の肩を掴んで話を続けようとする一護の肩をガッシリと掴む烈。

 

一護を引きずりながらその場を離脱する烈。一護は抵抗しようとするがなす術もなくただ引き摺られていた。

 

 

「全く……………早く来ねばこの虚は私が貰うぞ、卯ノ花双護」

 

 

敵陣地の中で戦の最中というのに緊張感の無い顔をする一護に対してなのか、その一護の師匠である双護に対してのため息なのか、はたまたその両方へなのか分からないながら呆れたといった言葉が浮かぶ白哉。

 

双護の霊圧は確実に近づいてはいた。何者かに妨害を受けているようではあるがこちらに向かっている。

 

白哉とて目の前にいるヤミーの実力を侮っている訳ではない。霊圧は明らかに白哉が戦った第7十刃のゾマリよりも上であり、驚くべきはそのサイズ。

 

万全の状態であっても楽に勝てる相手でない事は確かである。白哉としては不服だが自分1人では勝てないかもしれないとい考えが浮かぶ程。

 

 

「しかし、貴様を倒せれば私はあの男にまた一歩近づける」

 

 

「別にお前みてぇなカスが一匹いようが、百匹来ようが俺には勝てねえ‼︎」

 

 

「貴様が本当に十刃最強であるなら藍染惣右介も大した男では無いようだ」

 

 

「あぁ?何が言いてぇんだ」

 

 

「卯ノ花双護や黒崎一護の足止めに貴様程度では格が足りぬという事だ」

 

 

「やっぱりてめぇら死神はムカつくぜ…………俺をここまでイラつかせるなんてよ。そのカスも纏めて殺してやるよクソがぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 

「だから格が足らぬというのだ」

 

 

白哉の挑発めいた台詞が頭にきたのか拳を振り上げ、白哉へと叩きつけるヤミー。

 

しかし、その拳は白哉へと到達する前に大量の桜の花弁によって消し飛んだ。

 

 

「うぉあぁぉあぉあ‼︎イテェ、痛えぇぇぇぇえ‼︎」

 

 

「卍解、千本桜景厳。億を超える刃に呑まれ格の違いを知れ」

 

 

拳を飛ばしたからとて白哉は油断をしない。黒崎一護の一撃ですらヤミーにはかすり傷程度のダメージしか与えられていない。

 

不意打ちにより拳を落とす事に成功したが、霊圧で言えば相手の方が白哉よりも上。パワーもサイズが圧倒的なヤミーに軍配が上がる。

 

勝っている点はスピードと手数のみで決定打にはなり得ない。

 

 

「許さねぇ、ぜってぇ殺す‼︎」

 

 

再生する前に追撃を考えた白哉だったが怒りの咆哮と共に巨大化するヤミー。更に一回り大きくなっており落とした拳も再生していた。

 

 

「吭景・千本桜景厳」

 

千本桜景厳には幾つかの技がある。この吭景もその一つである。数億にも及ぶ刃で敵を完全に包囲し、斬砕するという技。

 

 

「ちまちまちまちま鬱陶しい‼︎‼︎」

 

 

大概の敵はこの技で細切れになるのだがヤミーは腕を振り回すだけで自身を包囲していた千本桜を弾き飛ばした。

 

ただの力技で簡単に破られたが、白哉は表情一つ変えなかった。今白哉が相手にしているのはそこらの雑魚などではない。デカく、強い。霊圧も敵の方が上であるなら簡単に斬れる訳は無いのだ。

 

 

「ここでも貴様の教えが活きる事になるとは………………卯ノ花双護。良いだろう、今ここで貴様の教えの一つ先を行くまでだ」

 

 

戦いにおいて絶対というものは存在しない。双護に剣を習うようになり、卍解を習得した時真っ先に言われた言葉。

 

攻防において万能な性能を誇る白哉の千本桜景厳は白哉の念一つで操作が出来、手掌で操る事で2倍の速度を出す事が出来る。

 

一見攻略は難しく思うが双護はその弱点をすぐさま指摘した。

 

卍解を習得した事で双護を越えられたと思ったが壁は白哉が思っている以上に高かった。それから修練を積んで何度も挑んだが結果は勝てた事は一度も無かった。

 

これなら絶対に当たる。これなら絶対に負けない。こういった考えは自身の視野を狭めるだけでなく危険を引き寄せかねないという事を身を持って知った白哉。隊長として成熟しつつある今であってもヤミーのような強敵に出会えた事に感謝の念すら覚えていた。

 

超えるべき背中として前を走る双護を越す為の一歩を白哉は今踏み出そうとしていた。

 

 

「やはり吭景では駄目か。仕方あるまい」

 

 

そう呟くと散り散りになっていた数億の刃がそれぞれ一本の斬魄刀に圧し固められていく。そうして出来上がった千の斬魄刀がヤミーを取り囲むようににして展開される。

 

 

「殲景・千本桜景厳」

 

 

数億にも登る刃が千の斬魄刀になる事でその攻撃力は爆発的に高まっている。景厳の防御能力を捨て、その全てを相手を斬る事にのみに向けた超攻撃型の技である。

 

白哉自身の手で斬ると決めた相手にのみ使用すると違っている技で見たものは黒崎一護という例外を除けば卯ノ花双護のみだった。

 

しかし、相手は自分よりも格上であり倒すにしても双護を待つにしても攻撃手段に欠ける白哉にとって取れる手段はこの技を置いて他に無かった。

 

大貴族の当主として、六番隊隊長としての誇りや責任から自身と先祖に対しての誓いを守る事に全力を尽くしてきた白哉。

 

しかし、ルキアを助けにきた一護と全力でぶつかった事で自分の中に掛かっていた靄が晴れた白哉。

 

 

『誓いは大事だろうけど死ねば何も残らないよ?守りたいもの、勝ちたい相手がいるならなり振り構うな。もっと死ぬ気で戦え』

 

 

ルキアの処刑が有耶無耶になった後、治療を受け、四番隊の隊舎に入院した際双護に言われた一言。

それ以降、目を瞑る度に千本桜を握る度にこの言葉が白哉の頭の中を反芻するようになっていた。

 

 

「緋真、この一撃をもって私はお前に誓う。もう二度と迷わぬと」

 

 

白哉がヤミーに手を翳すと展開されていた千本の斬魄刀がヤミーへとその刃を向ける。

 

 

「奥義・一咬千刃花」

 

 

翳した手を握りしめると千本の斬魄刀がヤミー目掛けて飛んでいく。

 

振り払おうとするヤミーだったが防御を捨て、攻撃する事に全てを割り当てた千本桜は強靭な鋼皮を誇るヤミーの体を貫いていく。

 

痛みに抗うように吠え、腕を振り回すが次々と貫く斬魄刀によるダメージが嵩んだのか次第にその動きは鈍くなっていく。

 

展開していた全て斬魄刀がヤミーの体を貫き終えると卍解を解除し、納刀する白哉。

 

 

「これでもまだ殺せぬか…………………あの男、一体何処で道草を食っている」

 

 

そう遠くにいる訳では無いのになかなか合流しに来ない双護に若干の苛立ちを募らせながら徐々に再生を始めているヤミーに警戒を強めていた。

 




ヤミー戦始まります。


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白哉、飛び立つ

「ったくよぉ〜、クソ雑魚のくせにちまちまウゼェんだよ。マジでイラつくぜ…………………」

 

 

「下を見ようとせぬから貴様のよう雑魚に足元を掬われる。その事をあの世でじっくりと学べ」

 

 

「イラつくイラつくイラつくぜぇぇぇぇ‼︎テメェだけじゃねぇ‼︎テメェら死神は1人残らずオレが殺してやる‼︎俺は第0十刃ヤミー様だぞ‼︎」

 

 

白哉の奥義を使用してまでの猛攻を耐えきり、その怒りによって再生するヤミー。その大きさはすでに文字通り山のような体躯であった。

 

今のヤミーからしたら白哉を殺す事など蟻を潰すように簡単にこなすだろう。スピードで優っていた白哉だがこれほどの体格差となればスピードどうこうの話ではない。

 

 

「全く、兄は遅すぎる」

 

 

これ以上1人での時間稼ぎは無理があるかと腹を括ろうとした白哉だったが、この場に迫ってくる霊圧を感知し思わず笑みが溢れた。

 

一方、白哉とヤミーの戦いを離れていたマユリは辟易とした顔をしていた。

 

 

「あぁ⁉︎何が言いてぇんだ‼︎」

 

 

「白哉、マユリさん‼︎縛道‼︎」

 

 

双護が小脇に勇音を抱え上空から現れた。双護が叫ぶのと同時にヤミーに巻き付くようにして黒い帯と鋲が展開される。

 

 

「くっ………うぅ………‼︎これじゃ抑えきれません‼︎」

 

 

勇音が縛道の九十九、禁によってヤミーを縛り付けたのだ。勇音は副隊長の中でも下から数えた方が早いくらいに戦闘力が低いが、その才能は他の副隊長に全く見劣りしていない。

 

少なくとも烈が見込んで副隊長に任命したのだ。鬼道に関してはまさしく天才であった。詠唱さえすれば九十番代後半の鬼道すら発動させられる程の才能があった。

 

 

「大丈夫、2人が詠唱する時間さえ稼げればいいから。ヨミちゃん、勇音ちゃんを安全圏まで退避させて」

 

 

『了解だよ、ご主人』

 

 

大きな烏の姿となったヨミが勇音を掴みヤミーから距離を取り始めた。元々勇音の鬼道の拘束力では帰刃し、怒りで力を増しているヤミーを抑え続ける事は出来ない。

 

それに加えて術者である勇音がヤミーと距離をとった事で縛道が解除された。時間にして僅か数秒の事だが、白哉達にとってその数秒で充分だった。

 

 

「全く、ワタシを使うんだ。見返りはちゃんと求めるヨ〈縛道の六十三 鎖条鎖縛〉」

 

 

「-----光もて、此を六に別つ〈縛道の六十一 六杖光牢〉」

 

 

勇音が放った九十九番の縛道に比べたら六十番代前半と低いように見えるが、白哉とマユリ、2人の隊長による完全詠唱の縛道の威力は生半可なものでは抜け出す事は出来ない。

 

 

「ウォォォォォォォォォォ‼︎‼︎」

 

しかし、そんな隊長二人の完全詠唱による縛道では縛り続ける事は出来ない。ヤミーが唸り声を上げ体に力を入れるとヤミーを縛る六枚の光の弁と鎖がギチギチと音を立てながら少しずつ崩れていく。

 

マユリも白哉も完全にヤミーを止める事は目的としていない。あくまで時間を稼ぐのが目的だからだ。

 

 

「開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、死門、八門潜て迎えるは五度の入滅。六道廻りて至るは五度の入滅、逆鱗に触れ、至るは五度の入滅。天を翔け、地を這い迎えるは五度の入滅。五度洛陽を迎え至るは五度の入滅〈破道の九十九 五龍転滅〉」

 

 

双護が狙いを定めるようにヤミーへ掌を向けると大地を割って巨大な龍が五匹現れる。

 

これこそが鬼道における最強の技、〈破道の九十九 五龍転滅〉である。地脈から霊力を無理矢理汲み上げ、自身の霊力を上乗せしその巨大な霊力の塊で相手を飲み込む時間停止や空間転移などの禁術に限りなく近いとされている鬼道である。

 

そのような強力な鬼道を隊長の中でも上位の霊圧を保有する双護が放てばどうなるか。

 

五頭の巨大な龍は空間が歪む程の咆哮をあげながらヤミーを飲み込もうとする。

 

 

「クソがぁぁぁぁァァァァァァァァァァァ‼︎」

 

 

『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎』

 

 

苦し紛れのつもりなのか、虚閃を放つヤミー。ヤミーの放った虚閃によって五頭のうち、三頭が相殺される。

 

しかし、逃れた二頭の龍がヤミーの半身を喰い潰した。

 

 

「痛ぇ、痛ぇえええええ‼︎もう油断もしねぇ、全力でテメェらを殺すぅ‼︎」

 

 

「マユリさん‼︎」

 

 

「はぁ………………試作品だが効果に関しては保証してやるヨ。だが、副作用に関しては知らんがネ」

 

 

双護が仕事を終え見学モードに入っているマユリに呼びかけるとマユリはめんどくさそうに謎の液体が入った注射器を双護へと投げ渡す。

 

双護はその注射器を受け取ると迷い無く自身へと注射する。

 

 

「ボーッとしてる暇はないよ、白哉。長引けば長引く程の僕らの勝率は減っていく。ここで使い切るつもりで振り絞れ」

 

 

双護が月詠神楽を引き抜きながら白哉の隣に立つ。双護と白哉の視線の先には既に再生を始めているヤミーの姿があり、その再生速度はこれまでの比では無かった。

 

 

「兄に言われるまでもない。卍解、千本桜景厳」

 

 

ヤミーの再生に制限や限界があるのか分からない現状、デカくタフなヤミーを相手に長時間戦っても既に消耗している双護や白哉は不利になるばかりである。かといって最強の破道ですら倒し切る事は出来なかったのだ。

 

短期決戦のつもりで戦わなければ殺される。それを分かっている白哉は本日3回目の卍解を発動する。

 

卍解の発動と同時に数億にも及ぶ千本桜の刃が美しく舞う。その様子を見て双護は白哉に問いかけた。

 

 

「どれくらいいける?」

 

 

「保って数分が限界だ」

 

 

卍解というものは莫大な霊力を消耗する。一部の例外を除いて隊長格の霊圧ですら卍解を長時間発動し続ける事は出来ない。

 

その消耗の激しい卍解を三度も発動している白哉は既に限界が近かった。

 

 

「おっけー、薬の効果がどれだけ続くか分からないからある程度節約したかったけど、全開で行くしかないか……………瞬閧明王戦形黒焔炎生三昧」

 

 

展開された黒い炎を纏い、背後には不動明王を思わせる火炎が立ち込める。

 

 

「僕が隙を作るから止めは任せるよ」

 

 

「しくじるなよ」

 

 

「大丈夫、任せて。でもあんまりモタつくなら僕が倒しちゃうからね」

 

 

それは白哉なりの激励なのか聞くものが聞けば重圧にしかならない一言に双護は笑って答え、ヤミーへと向かっていった。

 

 

「良いところだけ兄に渡す訳には行かん」

 

 

走っていって双護の背中を見つめながら1人呟く白哉。白哉がまだ霊術院に通う前のこと、双護は夜一と共にそれまで白哉が築いてきた自信の全てを打ち砕いた。

 

それ以来、目の敵にしつつも越える背中として追いかけてきた白哉。卍解の習得も修練も双護の尽力が大きかった。何度も挑み、何度も負ける中で白哉は悟った。数億も数千も駄目ならば全てを纏めた究極の一で勝負すれば良いのではないかと。

 

白哉が掌を広げると千本桜の刃が一枚、白哉の掌にひらひらと落ちる。そしてそれを強く握り込むと数億に展開されていた刃が白哉の全身を包み込む。

 

白哉を包む桜の花弁を蹴散らすように白く美しい一対の翼と濃密に圧縮された白い霊剣。

 

 

「終景・白帝剣」

 

 

殲景・千本桜景厳の奥義、一咬千刃花が数億の千本桜を千に押し留め攻撃力に全振りした姿であるならこの白帝剣はその究極。

 

千本桜景厳の全てを一撃に込めて放つ正真正銘白哉の必殺技なのだ。

 

 

「僕も負けてられないね、行くよヨミちゃん」

 

 

白帝剣の姿を見た双護は嬉しくなるのと同時に少し寂しさも感じた。

 

白哉が霊術院に通う前から剣の訓練などをつけており、入隊し始解や卍解の入手した時も訓練に付き合った。白哉は双護にとって初めて出来た弟子のような存在だった。

 

彼にとって最愛の人だった緋真と死別し、死神の矜持と貴族の誇りや誓いに苦しんできた姿をを見ながらも何もしてやれない事を双護は歯痒く思っていた。

 

それが一護との戦いできっかけを掴みかけ、双護なりに激励の一言を送ったつもりだったがその一言が効いたのか双護には分からないが、白哉の顔にもう迷いは無くなっていた。

 

双護が感じている一抹の寂しさは初めての弟子である白哉が立派になり、弟子などではなく1人の剣士として一人立ちした寂しさだ。

 

可愛い弟子というだけではなく、決して負けられない好敵手としての一歩を踏み出したのだ。

 

 

「黒曜倶利伽羅剣‼︎」

 

 

向かってくる双護との白哉を握り潰そうと掴み掛かってくるが、双護がその腕を斬り落とした。

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎」

 

 

咆哮をあげながら腕を再生させようとするが、切り口に残った黒い炎がその再生を阻む。

 

痛みの咆哮をあげるヤミーの隙を突くようにして白哉の最終奥義、終景・白帝剣がヤミーを貫いた。

 

そのまま倒れたヤミーは咆哮をあげることもなく、糸の切れた操り人形のように倒れた。

 

そして何度にも渡る再生の余波なのか、ヤミーの身体は少しずつ灰になり始めた。

 

折角良い実験材料を仕入れられると思い観戦をしていたマユリは消えゆくヤミーの体を見ながら残念そうにため息を吐くのだった。




五龍点滅のオリジナル詠唱回でした。

とりあえずこれでヤミー戦は終わりです。

次回どうすっかなぁ……………………………


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ギン、責任をとる⁉︎

一護達が虚園で激闘を繰り広げている中、藍染惣右介は王印を造る為に軍団を引き連れ空座町へと進軍したが、そこには元柳斎を含めた隊長格の面々が待ち構えていた。

 

現世への被害を減らす為、浦原は流魂街に空座町とそっくりの模型を作り、結界にて空座町と偽の空座町を入れ替えていたのだ。

 

織姫を救出した一護が参戦するも、護廷隊は敗北。浦原や一心、夜一らも戦うが崩玉と融合を始めた藍染に歯が立たなかった。

 

手持ちの駒を使い護廷隊を撃退した藍染は腹心である市丸ギンを引き連れ尸魂界にある本物の空座町へと向かった。

 

 

「胸に穴が空いて死ぬんや、本望ですやろ?」

 

 

「な………にを、す………る」

 

 

しかし、藍染の隙を窺っていたギンに謀反を起こされた。藍染は彼の幼馴染である十番隊副隊長の松本乱菊の魂魄の一部を奪っており、ギンはその復讐の機会をずっと窺っていた、目的の大半を達成し隙が生まれるその瞬間を。

 

ギンの斬魄刀、神鎗の卍解である神死鎗は一見始解と大差無く、伸縮のスピードと距離が伸びただけのように思えるが隠された本当の能力があった。

 

伸縮する際、一瞬だけ塵になりその一部を相手の体内に残す事で刃に含まれている魂魄の細胞を溶かす猛毒を相手の体内に忍ばせる事が出来る。

 

そして「殺せ」の解号でその毒を回らせ相手を内部から破壊させる事が出来る。

 

 

「乱菊……………終わったで…………」

 

 

やっと終わったと一息つくギン。藍染に復讐すると決めたその日から長い年月をかけてきた。本音を晒す事は滅多にせず、藍染に取り入り隙を窺う為に全てを費やし、全てを捨ててきた。

 

可愛い部下や最愛の幼馴染すら捨て復讐の為に全てを費やしてきたギン。護廷に叛逆した罪は重くこのまま捕らえられれば重い罰が課せられるのは確実であった。

 

もう乱菊と再開する事出来ないであろうが、自分がいなくなった世界で彼女が笑っていられる世界を祈りながらゆっくりと目を瞑る。

 

 

「まだ終わってないよ、ギン」

 

 

そう言われ、ハッと我に帰ると目の前には殺した筈の藍染が斬魄刀を振り上げていた。

 

ギンは死を確信するのと同時に自分の浅はかさを呪った。藍染惣右介の全てを警戒していながら、油断した隙を狙っておきながら殺し切れていなかったのだ。油断していたのは自分の方だったのだと。

 

しかし、いつまで経っても斬られた痛みが来なかった。ギンがゆっくり目を開けると自身と藍染の間に割って入るように双護が現れ、藍染の攻撃を受け止めていた。

 

 

「なん「邪魔」ガッ⁉︎」

 

 

いきなり現れ、何故か助けてくれた双護に何でと聞こうとしたギンだったが邪魔という一言共に双護に蹴り飛ばされてしまった。

 

 

「君には色々と取ってもらわないといけない責任があるんだ。一先ずはそこでゆっくり休んでなさい。あ、逃げないでよ?君を探すのは面倒くさいんだから」

 

 

瓦礫に埋もれているギンに対しビシッと指を差しながら話す。

 

 

「んなアホな。双護さんが思いっきり蹴ったせいで暫く動けませんわ。ここでゆっくり見させてもらいます」

 

 

「さて、もう良いかな?」

 

 

ギンと双護の会話がひと段落するのを待っていた藍染が双護に声をかける。

 

 

「あぁ、ごめんね惣右介。ここじゃなんだから少し移動しようか」

 

 

そう言うと双護は懐から白布を取り出し自分と藍染の周囲を旋回させる。千反白蛇という技で白布を自身と対象の周囲に展開させ、瞬時に遠くへと移動するというものである。

 

ギンは双護と藍染の霊圧が遠かったのを確認する

と小さく笑みを浮かべた。

 

 

「ボクもまだまだアカンなぁ…………………双護さんは大丈夫やろうけど、あの子大丈夫やろか」

 

 

思い浮かべたのはまだ幼さの残る少年、一護だった。初めて見かけた時に比べ様々な経験を経て段違いに強くなっているが、それでもギンから見ればまだ未熟な部分が多い少年だった。

 

勝負に勝つという強い意志とそれを叶える為の技術と力を身につけつつあるが、命をかけたやり取りの経験値が足りていなかった。

 

端的に言えば相手を殺すという意思に欠けている上に自分の力を全て使い切る事に迷いが感じられた。

 

一護の経緯や能力の事を考えれば迷う気持ちも分からないでもなかったギン。

 

双護や藍染が高く買う程の才能があるのは確実だが、未だ未熟なこの少年をこれ以上巻き込めないと逃そうとしていた。

 

 

「まぁ、あとは双護さんが何とかしてくれるやろ」

 

 

「あんたは人任せにする前に言う事あるんじゃないの」

 

 

起き上がって逃げる事も出来ない為、少し寝てしまおうかと考えた矢先、見知った霊圧が現れた。

 

 

「なんや、来てたの。乱菊」

 

 

十番隊副隊長、松本乱菊だった。現世での戦いの際、藍染に殺害を命じられギンは白伏で乱菊を仮死状態にしていた。

 

白伏の持続時間はそこまで長くない為、追いかけてくるかもしれない。なんて考えがあったが本当に追ってくるとは思ってもみなかった。

 

 

「私はあんた追いかける為に着いてきただけよ」

 

 

乱菊の視線の先には伸びたオレンジ色の髪をたなびかせ、黒い死覇装と漆黒に煌めく斬魄刀を携えた青年、黒崎一護だった。

 

現世で戦った時はまだ幼さの残る顔立ちだった一護だったが、今、ギンの目の前にいるのは歴戦の戦士のような雰囲気をしていた。

 

 

「着いてきた?何を言うて……………あぁ、なるほど」

 

 

乱菊とほぼ同時に来ていたのだろうが、一護の霊圧を全く感じられなかったギン。

 

崩玉と完全に融合し覚醒した藍染の近づくだけで息の詰まるような霊圧は無い一護だが、その雰囲気は剣を握っている時の双護と似通っていた。

 

死神の強さは霊圧で決まると言っても過言ではなく、霊圧の低さは戦闘力の低さに直結する。ギンが今感じている霊圧の無さでは藍染に勝つビジョンは到底見えないのだが、不思議と納得出来たギン。

 

 

「悪ぃけど、ここは頼むぜ。乱菊さん」

 

 

乱菊に一瞥する事もなく、双護と藍染の霊圧がする方へと目線を向けている一護に乱菊は無言で頷く。

 

 

「ちょ、待ちぃや」

 

 

身体を起こしながら一護を呼び止めるギン。それに対し一護はギンに視線を向けるだけで何も言わない。

 

 

「良い目になっとる、今の君なら大丈夫や。頑張りや」

 

 

「あぁ」

 

 

一言答えると一護は藍染と双護が戦っているであろう方角へと飛び去っていった。

 

 

「若いってエエなぁ……………なんか羨ましくなってきたわ」

 

 

「何が羨ましいよ」

 

 

「なぁ…………乱菊」

 

 

「何よ」

 

 

「今までごめんな、何処か行くのもこれで最後や。もう少し待っててくれるか?」

 

 

ギンの後方に隠密機動の隊士が数名現れた。

 

復讐の為に護廷を裏切った罪の重さというのをギンも分かっていた。仮に藍染を首尾よく殺せたとして、生き残ったとしても罪に問われる事は間違いないと分かっていた。藍染の指示とはいえ多くの隊士を傷つけたのだ。

 

その報いは受けなければならなかった。

 

 

「ここまで待ったもの。あと少しくらいどうって事無いわ」

 

 

乱菊は笑顔でギンに応える。乱菊もギンが罪に問われるであろう事は分かっていた。

 

ギンが行ってきた今まで行動はよく分からなかったが、昔言われた「乱菊がもう泣かんでもエエようにしたる」という言葉から自分の為に何かをしているということは察していた。

 

ただ、乱菊としては側にいてほしかった。少しでも近いところに居たくて護廷の門を叩いた。しかし、近づこうとすればするほど自分の手の届かない所行こうとするギン。

 

必死で伸ばし続けてきた手がようやく届きそうな所まできたのだ。今、乱菊の中にあるのは安堵だけだった。

 

 

「市丸ギン。護廷叛逆の罪で貴様を連行する」

 

 

「ほなな、乱菊」

 

 

手枷をかけられる隠密機動の隊士がギンを引き連れていった。ゆっくりと遠ざかるその背中を眺めながら乱菊は目尻から流れる涙をゆっくりと袖で拭った。




ギンむずいっす。

自分の中でやっと完結までの道のりが明確に見えました。もう少しお付き合いください。


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決死の時間稼ぎ、其ノ壱

流魂街にある本物の空座町から離れた場所。周りには岩山しか無いが、そこに藍染と双護はいた。

 

 

「虚園で黒崎一護とその一味を助け、ここまで来るとは……………今の私を止めようとする最後の砦が貴方である事は少し予想外だった」

 

 

「そう?惣右介でも予想外の事なんてあるんだね」

 

 

「刳屋敷剣八、山本元柳斎、卯ノ花双護。貴方達は私が警戒するに相応しい相手だ。だから対策に対策を重ねてきた。貴方と戦うにしてももっと消耗している筈だったのだけど…………」

 

 

藍染が現世へと侵攻する際に最も警戒していたのは刳屋敷と元柳斎、双護だ。刳屋敷は最上大虚の十刃、第3十刃のハリベルとその従属官をぶつけ、元柳斎も流刃若火を徹底的に対策した。

 

しかし、それでも双護が合流していれば崩玉と融合していなかった自分では負ける可能性があった。双護を遠ざける為に一護の仲間である織姫を誘拐し、一護が虚園に来るように仕向けた。

 

ルキアの一件で一護と関係を構築した双護であれば助けに行く事は分かっていた。虚園に双護と一護という護廷にとって大きな戦力を幽閉する事で成功率をあげようとしたのだ。

 

侵攻の為に上位の十刃を引き連れた藍染だったが、ある程度十刃を残しておかなければ双護にすぐ合流されてしまう恐れがあった。合流されるにしても双護を削る為に強化を施したウルキオラとノイトラ、そしてヤミーを残しておいた。

 

うまくいけば3体、最低でも1体の十刃と戦うため消耗は避けられない筈だった。

 

 

「今の貴方の霊圧は全開時のそれに近い。とても十刃と戦った後とは思えない」

 

 

「知りたい?答えはこれだよ」

 

 

そう言って双護は懐から空になった注射器を取り出し藍染に見せつける。

 

 

「なるほど、涅マユリか」

 

 

空の注射器を見て納得する藍染。浦原喜助は技術者、科学者として万能な男ではありその技術力は瀞霊廷の長い歴史において上位となるほどである。

 

しかし、こと薬学、毒に関してマユリの知識と技術は浦原のそれを上回っている。

 

仮に浦原が霊力を回復させる薬を開発していたとして現世での戦闘において使わない訳が無かった。量産出来ていなかったとしても使わない理由は無かった。

 

 

「そう、消耗した霊力を一時的に回復させる薬。それでこれはおかわりってやつだ」

 

 

そう言って懐からから似たような注射器を取り出し、自分に打ち込む。

 

瞬間、爆発的に膨れ上がる双護の霊力に小さく唸る藍染。双護の霊圧は隊長の中でも上位にあり、元柳斎や烈に並ぶ霊圧を持っている。

 

マユリの薬によって消耗していた筈の霊力がほぼ全開していたが追加で打ち込んだ薬によってその霊圧は倍近くまで膨れ上がったからだ。

 

 

「私に勝てもしないのに余計な手段に頼るとは………………実に貴方らしい選択だ」

 

 

「確かに今の惣右介に勝てるとしたら未知数な一護くらいなもんだよ。でも、あんまり僕を舐めないで欲しいな」

 

 

普段通り和やかな口調で話す双護だが、その言葉に含まれた苛立ちかなりのものであった。

 

瞬間、藍染の視界から双護が突然消え、現れたと思いきや月詠神楽を喉元目掛け振るっていた。しかし、藍染はなんでもないように双護の奇襲を受け止める。

 

 

「幾ら貴方の霊圧を倍増させようが今の私には叶わない。貴方も理解している筈だ。死神の戦闘は霊圧の強さで決まる」

 

 

「死神も虚も超越したって存在が死神の戦いを語るってのは中々良いジョークだ。あと、相手より霊圧が低くても戦い方次第で割と何とかなるもんだよ?僕の親友はそういういやらしい戦いが得意でね」

 

 

「良く知っているよ。だからこうして私が直接戦っている」

 

 

まるで道端でしている雑談のように話ているが、2人の戦闘の余波で岩山が崩れるなど地形が秒単位で変わっていく。

 

現世にて元柳斎を撃退された今、防衛に回った刳屋敷を除き戦闘可能な死神の中で双護は最強である。そんな瀞霊廷で上位に位置する双護を倒せれば自身の計画を阻む者は零番隊くらいしか残らないと考えていた藍染。

 

隊長達の平均霊圧の3倍近くの霊圧があり、圧倒的な実力を持つ藍染だが、刳屋敷剣八と山本元柳斎、そして卯ノ花双護の3人だけは敗北の可能性があるとして長い間警戒してきた。

 

こうして崩玉と融合した今では負ける可能性は微塵も考えていない藍染。覚醒した力を試す相手にしては充分な相手だと考えていた。

 

 

「斬魄刀の能力も瞬閧も使わない所を見ると薬の効力には多少の不安があるみたいだね」

 

 

「薬の効果が切れるまで粘ってみる?いいよ、そうしたければすれば良い。君が遊んでる間にその首を斬り飛ばすから」

 

 

「今なら貴方程度にそんなことをする必要は無い。時間稼ぎが必要なのは貴方だろう?時間があれば刳屋敷剣八なり頼みの黒崎一護が救援にくるかもしれないからね」

 

 

双護はあらゆるフェイント、持ちうる技術を使ってもなお今の藍染と勝負になっていなかった。側から見れば互角の戦いであるが、双護は遊ばれていた。その証拠に双護の傷は僅かに増えているのに対し、藍染に対して有効な攻撃を与える事が出来ていなかった。

 

覚醒した藍染の霊圧はドーピングで霊圧を倍増した双護よりも圧倒的で如何に技術でカバーしようとその差は中々埋められなかった。

 

藍染が本気で殺すつもりであったなら深手を負っていた可能性もある。しかし、どういったつもつもりか藍染は双護との戦いを楽しんでいるようだった。

 

 

「あんまり舐められるも癪に障るし、少しギアを上げてくよ」

 

 

「たかだか瞬閧如きでこの差を埋められると思っているのか?おめでたい考えだ」

 

 

「おめでたいのは君の頭だろ。瞬閧瞬閧明王戦形黒焔炎生三昧」

 

 

双護から立ち登る爆炎。藍染は自身の見立てが少しばかり甘かった事を感じた。

 

通常時の瞬閧ですら双護に爆発的な戦力を齎す。それだけであるなら今の藍染が警戒する必要は無い。しかし、今の双護はマユリの薬により霊圧を倍増している。

 

容量が増え、一つの技に掛けることの出来るエネルギーが増えるのだ。今の瞬閧はこれまで使ってきた瞬閧の倍以上の霊力を注ぎ込んでいる。

 

藍染としては双護1人で自分を止める事が出来ない為無茶をせず可能な限り救援を待つだろうと思っていた。だから効果時間の不明な薬を使っている状態で消耗の激しい技は使わないだろうと嶄を括っていた。

 

 

「行くよ、惣右介」

 

 

「ふふ、やはり貴方は面白い」

 

 

倒せる保証が無いというのに捨身にも思えるような選択肢を選ぶ双護を愉快に思うのと同時に油断をし過ぎるのは良くないと己を戒める藍染。

 

目の前にいるのは最強の剣鬼の息子であり、護廷最強の男に鍛えられ、幾度も死線を潜り抜けてより強くなってきた男なのだ。下手に追い込み余計な手傷を負う訳にはいかない藍染。

 

完膚なきまでに双護を打ちのめす事で瀞霊廷に対して自分へ歯向かおうとする意思を摘み取る斬魄刀を構えたのだった。




ここまできてエタるなんて事はしないからね。



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決死の時間稼ぎ其ノ弐

「これが地獄の業火というやうなのかな?大した炎だ。元柳斎にすら追い付くかもしれないね」

 

 

「そう、本音なら嬉しいな」

 

 

「本音だよ、嘘偽りの無い」

 

 

黒い焔を纏いながらの斬撃。十刃であっても今の双護と戦えるのは最上大虚級の者だけだろうと分析した。

接敵するもの全てを焼き尽くす元柳斎の炎にも似たその焔に覚醒前であれば元柳斎と同様の対策が必要であったと藍染に思わせる程の焔。

 

しかし、今の藍染は崩玉により死神と虚の境界を取り去り別次元の存在になりつつある。これまで双護が戦ってきた相手の中で間違い無く最強、普通ならいくら足掻こうと勝負にすらならない筈なのだ。

 

 

「それなのに…………何故貴方はこうして私と剣を交えていられる」

 

 

藍染にはそれだけが不可解だった。瞬閧も卍解を使わない双護の切り札で今の火力も薬によるブーストと考えればなるほどと理解出来るものだった。

 

しかし、並の存在であれば自身の霊圧すら感知出来なくなる程異次元の霊圧を手にし超越した存在となったのに双護は自分に対等では無いにしろ追いつこうとしている。

 

 

「多少霊圧が増えた位で驕りが過ぎるよ、惣右介。どれだけ君が強い霊圧を手にしても君の太刀筋までは変わらない。というか覚醒して慢心してるからかな?前よりも分かりやすい太刀筋になってるから読みやすいよ」

 

 

「なっ…………」

 

 

確かに藍染としても多少の驕りが合ったというのは否定出来ない。元から他と隔絶した実力を持っていた藍染だが覚醒した事で文字通り次元を超えた存在となったのだ。

 

刀を振るえば相手は受け止めることも出来ずに消し飛ぶ。理から外れた存在となった藍染にとって剣術というものは不要なものとなっていた。

 

 

「剣士としてって考えれば前の方が強かったかもね」

 

 

「それだけの力を持ちながら何故貴方は死神という存在でいる⁉︎何故尸魂界なんぞを守ろうとする⁉︎」

 

これまで少しも表情を動かす事なかった藍染が初めて感情を吐露する。

 

 

「それは僕が護廷十三隊の隊長だからだよ」

 

 

「それは偽善でしかない‼︎元柳斎や卯ノ花烈のように守ってくれるものに対して瀞霊廷は何をした⁉︎守られる者たちは何をした⁉︎ 奴等は守られる事を享受する癖に強大過ぎる力には恐怖する。貴方だって本当は感じている筈だ‼︎」

 

 

藍染は生まれながらにして周囲のものと比べ圧倒的な霊圧を保有していた。競える好敵手も、分かち合える友もおらず、愛してくれる両親も化け物じみた彼を愛そうとしなかった。

 

そこで彼は周囲を欺き、迎合したふりをする事で今日まで生きてきた。

 

 

「それを言われると少し弱いな。好ましい連中ばかりじゃ無いのは否定出来ない…………というか、死ねば良いのにとか思う事もあるよ」 

 

 

「それなら何故戦う⁉︎何故剣を取る⁉︎」

 

 

「君にとってどうかは分からないけど………この世界に僕の大事な物や人が多い。特に僕の大事な人達には笑顔でいてほしいからね。そして何より僕は僕自身が誇れる死神でありたいから。それが僕の剣を握る理由だ」

 

 

双護も周囲の者と比べればずば抜けた霊圧を保有しており、なおかつ両親は瀞霊廷の歴史に残る大事件を引き起こした中心人物である。普通ならば迫害に遭うのだが、藍染と違う点は彼の周りには常に人がいた。

 

京楽や浮竹(分かち合える友)夜一に砕蜂(愛してくれる異性)雀部や元柳斎(教え導く師)、そして烈と双盾(慈愛を与えてくれる両親)

 

こうした人々に恵まれ双護は真っ直ぐに育つ事が出来た。

 

 

「下らない、実に下らない。そんな取るに足らない者の為に命を擲つなど………………」

 

 

「そうでもないよ。惣右介も一度くらい自分じゃ無い誰かの為に剣を取ると良い。案外悪くないよ?」

 

 

「誰かに剣を預けるなど御免だ。それに、今の徐々に弱っていく霊圧では説得力というものも無いだろう」

 

 

激しい撃ち合いをしながらも藍染は気付いていた。双護の攻撃が少しずつ弱まっていくのを感じていた。

 

霊圧も瞬閧を発動した時に比べれば明らかに下がっている。最初は防げていた攻撃も受け切れずダメージとなる場面も増えてきている。

 

 

「そうだね、今の僕じゃ何を言っても君には意味ないだろうね。これから先、ゆっくり考えるといいよ。いつか理解出来る時がくるからさ」

 

 

「あぁ、貴方を殺し黒崎一護を屠った後にゆっくり考えさせてもらおう」

 

 

そう言って藍染は斬魄刀をゆっくりと振り上げ、そのまま振り下ろす。双護は受け止めようとするが今の双護にそれだけの力は残されていなかった。

 

薬の効果時間が来たのか、過剰な摂取による副作用なのか不明だが、霊圧は急激に下がり始める。

 

振り下ろされた刃を受け止められず、月詠神楽ごと双護は袈裟斬りされてしまった。鮮血が飛び散り、そのまま地面に倒れ伏す双護。

 

双護が纏っていた黒い爆炎は見る影も無く、双護の周囲でチロチロと蝋燭の火のように小さく燃えるだけだった。

 

 

「なるほど、真っ二つにしたつもりだが致命傷を避ける技術を活用したか…………………しぶといな」

 

 

「そ、そりゃそうだよ……………子供の時からいつも死にそうな目に合ってきたからね。そういう術は身につくよ」

 

 

息も絶え絶えになり、足元は流した血が溜まり小さな池のようになってもなお双護は立ち上がる。

 

折れた月詠神楽を構えるが、肩で大きく呼吸をしており、剣先は震え普段の隙の無い構えは少しも残っていない。

 

しかし、藍染は迂闊に踏めこめなかった。おおよそ構えの体をしていなくとも、歯牙にかける必要の無い霊圧であってもその瞳に宿る意思の強さはより一層輝いていた。

 

 

「来なよ、惣右介。もし僕を殺したいなら一撃で決めろよ。撃ち漏らしたらその瞬間にお前の首を刎ねる」

 

 

今の双護であればどんな攻撃であれ致命傷となりうる。藍染でなくとも殺す事が容易だ。

 

しかし、藍染はここにきて自分の勘が正しかった事を確信した。覚醒前に対峙していたならば、双極の丘において対峙していたならば負けていたのは自分であると理解出来た。

 

 

(やはり、剣八というものは油断ならない。ならば、私が取るべき手は一つ)

 

 

現剣八は刳屋敷に譲っているが、実力でいえば伯仲しており一部の死神の中では双護も剣八である事を名乗るべきという者もいる。双護は今の自分は相応しく無いと頑なに否定しているが、藍染にとって目の前の双護はまさしく剣八であった。

 

 

「開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、死門、八門潜て迎えるは五度の入滅。六道廻りて至るは五度の入滅、逆鱗に触れ、至るは五度の入滅。天を翔け、地を這い迎えるは五度の入滅。五度洛陽を迎え至るは五度の入滅〈破道の九十九 五龍点滅〉崩玉と融合し、覚醒した私の完全詠唱の五龍点滅だ‼︎灰すら残さず消え去れ‼︎」

 

 

大地を裂き、現れた五匹の龍。その巨大な龍達はまさにこの世の終わりを形容するに相応しいかった。

 

 

「ヨミちゃん、今出せるありったけを」

 

 

『うん、分かった。ヨミは最後まで一緒だから』

 

 

「最後の一踏ん張りだ」

 

 

度重なる戦闘と負傷、薬による副作用で双護の霊圧はまともに残っていなかった。ヨミは内心双護をこの場から連れ出せるなら連れ出したいという気持ちがあった。

 

しかし、それは双護が許さない。双護を生かしたいという想いもあるが、それ以上に双護の意思に沿いたいというのがヨミにはあった。

 

ヨミは双護に残った霊圧を全て刀身へと集めた。藍染の鬼道を相殺する事は愚か、技として成立もしていない。

 

五匹の理由が双護の視界を覆い尽くそうとした時、黒い彗星が双護の横を通り過ぎた。

 

 

「悪ぃ、双護さん。遅れちまった」

 

 

現れたのはオレンジ色の髪の少年、黒崎一護だった。いつのまにか成長していたかのように身長と髪が伸びていた。一護の斬魄刀、その卍解である天鎖斬月の鎖は右腕に巻きつくなど普段の様子と明らかに違うのだが、それ以上に違うのは一護の表情だった。

 

双護が知る一護は大人びた風貌ながらも少年らしい顔立ちが残っており、性格も戦闘において致命的な甘さを出すことが良くあった。

 

しかし、今の一護からは普段の甘さを感じさせるような雰囲気は無く、歴戦の戦士のソレに近い。

 

 

「後は任せてくれ」

 

 

そう言うと一護は天鎖斬月を横凪に振るう。すると、藍染が放った五龍点滅を掻き消したのだった。

 

弟子の成長を喜びつつも一護の変化について思い当たる節があるのか双護は納得したように小さく頷いた。

 

 

「何故だ、何故貴様がここにいる黒崎一護‼︎」

 

 

「決着をつけに来たぜ、藍染」

 

 

藍染を見据える一護。自身の放った最強の鬼道を完全に防がれ、焦りからなのか恐怖からなのか怒りが湧き上がる藍染。

 

 

(駄目だ…………この戦い、見届けなきゃいけないの………に……力がはいらない……………あとは頼んだ、よ………黒崎君)

 

 

一護の師匠として、護廷の隊長として、藍染と戦いを見届けなければと身体に力を入れようとするが無茶に無茶を重ねた事が原因か意識が途切れようとしていた。

 

薄れゆく意識の中でこの戦いの結末を一護に預け双護の意識は完全に途切れてしまうのだった。




VS藍染、これにて終了でございます。
マジでクライマックスというか最終回まで秒読みなのであと少しですけどお付き合いください


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双護、言った‼︎

 双護が目を覚ますとそこは見慣れた天井だった。四番隊隊舎の一角にある病室だった。隣に気配を感じ、目を向けると椅子に腰をかけた夜一が柔かな笑顔で双護の顔を覗いていた。

 

 

「やっと起きおったか、この寝坊助め」

 

 

「うん、おはよ」

 

 

「体調はどうじゃ」

 

 

「全然力入らないね。剣は触れそうにないけど、日常生活を送る分には問題無さそう」

 

 

「まぁ二週間も寝っぱなしじゃったからな。体が動かせるだけで御の字じゃろ」

 

 

「そっか、二週間か………………思ったより長いね。僕が倒れた後はどうなったの?」

 

 

 そこから夜一は双護が倒れた後の事を語り始めた。

 

 双護が倒れた後、一護は藍染を倒し浦原の施した封印によって力を抑え込む事が出来るようになった。崩玉の影響か藍染を殺す事が出来なくなった為無間に収監される事になった。

 

 一護が死神の力を失う事になったがそれ以外に護廷隊側に目立った損害は無かった。

 

 一部隊士が重症を負ったが、無事に通常業務に復帰している。

 

 

「ギンはどうなった?」

 

 

「市丸か? 彼奴はお主の仕込みのお陰で極刑は免れた。一定期間監視付きで限定霊印を施し、いかなる場合も瀞霊廷外へ出る事を禁止されたくらいじゃ」

 

 

「思ったよりも軽かったんだね。四十六室の事だから現世追放とかすると思ってたよ」

 

 

「京楽と浮竹は勿論じゃが白哉坊が朽木家として援護してくれたおかげじゃの。しかしかなり骨が折れたぞ、二番隊の密命の証拠を作るのは」

 

 

 ギンは藍染の副官として瀞霊廷への反逆に加担していたが、全ては藍染を殺す為の事だった。ギン自体に叛逆の意思は無く、ギンが直接手を下した件の被害が比較的軽度であった事とから双護はギンを生かす事を選択した。

 

 人脈や権力を総動員し、ギンは双護の密偵として藍染に擦り寄ったという証拠を捏造した。急拵えであった事と時灘を殺したことで双護へのヘイトが思いの外集まっており、ギンの裁判は難航した。しかし、白哉がギンの弁護に回ったことで形成が逆転した。

 

 

「それにしても随分と無茶をしたの」

 

 

「まぁ無茶でもしないとどうにもならない状況だったしね」

 

 

「本当ならそのすまし顔を引っ叩いている所じゃが今は病み上がりじゃし勘弁してやる。あぁ、でも京楽のやつが今回の件の慰労会と祝勝会という事で大宴会の準備をしとったの。嬉々として高い酒を買い占めておったわ」

 

 

 双護との付き合いが長い夜一や京楽達は双護の性格を熟知していた。無謀な事はしないが無茶をするというのを知っていた。そしてそう簡単に死ぬ男でないことも知っていた。

 

 しかし、それとこれでは話が別であり人知れず命をかけて死にかけた事には双護をよく知る者は怒っていた。

 

 

「ははは、経費で落ちないよね」

 

 

「砕蜂の奴かなり怒っておったからの。それは無理じゃろうな」

 

 

 砕蜂も双護の生還を信じて疑わなかったが自分の預かり知らぬ所で無茶をして死にかけた事に関してはかなりご立腹であった。

 

 

「色々任せちゃってるし………………やる事多いなぁ。まだ戦ってる方が楽だよ」

 

 

「書類仕事が面倒くさいのは同意じゃな」

 

 

「夜一はよく逃げてたもんね。希乃進さんに捕まってたけど………………あの人の鬼道の技術は本当勉強になったよ。あの人なら鬼道衆の要職にもつけたよね」

 

 

「彼奴は賢い奴じゃからの。どっかの馬鹿と違って自分から命の危険がある所に飛び込まんからの、家族を大事するなら危険のある仕事は選ばんじゃろ」

 

 

 双護を揶揄うように小突く夜一。そんな夜一の様子に少し安堵する双護。普段は天真爛漫で揶揄い癖がある夜一。

 

 しかし、平子達仮面の軍勢の事件から全てが変わってしまった。それから暫く会う事も出来ず、再開してもお互い戦うべきがいて普段通りに振る舞うような暇は無かった。

 

 やるべき事は山積みとなっている状態だが、瀞霊廷としては若干の余裕が出来た。ずっと戦ってきた夜一が普段通りに振る舞えるようになったという事は暫しの平和が訪れたと思い安心した双護。

 

 

「しかし…………アレじゃの。そんな馬鹿に惚れた儂も大概じゃな」

 

 

 少し照れくさいのか、頬を掻きながら目線を逸らす夜一。惚れたと言ったのが恥ずかしかったのか耳はほんのりと赤みを帯びている。

 

 

「それで…………その、お主のような馬鹿には支えてくれる存在が必要だと思う」

 

 

 何かを言おうとしているのか、何かを双護に言わせようとしているのか夜一の話はハキハキと自分の意見を述べる彼女には珍しく歯切れが悪い。

 

 肝心な時の察しが悪いと言われることの多い双護だが、この時ばかりは自分が何すべきかを理解していた。

 

 

「えっ…………そ、双護?」

 

 

「あはは…………いや、ね。その………………」

 

 

 咄嗟に夜一の手を握っていた。突然手を握られ驚く夜一と言うべきことは分かっているが無計画に行動してしまった為この後の展開を特に考えておらず固まる双護。

 

 

「結婚しようか」

 

 

「は?」

 

 

 時間にしてほんの数秒だが、双護の頭の中は戦闘時よりもフル稼働していた。オーバーヒート寸前の脳みそのフル稼働の末出した結論はたった一つのワードだった。

 

 余りにも突然の事すぎて驚きと疑問が混じる夜一。

 

 

「あはは、春水みたいにそれっぽいこと言おうとおもって凄く考えたんだけど全然思いつかなくてさ」

 

 

 照れ臭そうに微笑みながら頭を掻く双護。そんな双護の笑みを見て双護らしいと夜一は思った。仕事や戦闘の時はしっかりしているのにそれ以外はどこか少し抜けている。

 

 結論から言えば期待していた通りの言葉だ。しかし、夜一としても理想の言われ方というものがある。貴族社会な尸魂界では恋愛から結ばれるというのは少ない。ましてや四大貴族ともなるとその可能性は限りなく低い。

 

 現世暮らしが長くなっていた夜一は現世のそういった文化に触れ自分もこんなプロポーズをされてみたいという乙女らしさが芽生えていた。

 

 

「僕は無茶をしなきゃいけない状況なら無茶だってするし、使えるモノはなんでも使う。それでもこうして間違わずに来れたのは春水達や母さん達、そして何より夜一の存在が大きいんだ」

 

 

「…………………………」

 

 

「これからも僕を支えてほしい、これからも間違わないように。勿論僕だって夜一をちゃんと支えるし、何があっても守ってみせる。だから、僕と結婚してくれますか?」

 

 

 優しく手を握り、真っ直ぐに夜一を見据える双護。

 

 双護た男女の関係にあり、顔を見るだけで心拍数が上がるようなウブな女ではないと自覚している夜一だったが、この時ばかりは双護の顔を直視できなかった。

 

 ずっと望んできた事だが、自分には縁の無い事と思ってい半ば諦めていた。しかし、双護はそんな事お構いなしに自分の望みを叶えようとしてくれている。望みが叶おうとしているこの状況に年甲斐も無く浮かれていると自己分析する夜一。

 

 握られている手を振り払い両手で双護の顔を掴み逃げられないようにする夜一。

 

 

「……………………これが儂の答えじゃ」

 

 

 そしてそのまま口付けをする。呆気に取られたのか目を見開いたまま固まる双護。

 

 

「儂を後悔させるなよ? 旦那様」

 

 

 そういうと夜一は固まっている双護を放置して部屋を出た。その後、烈が様子を見にくるまでの数分間、双護は固まったままだった。

 

 何事かと思い双護に問い出した烈はことの顛末を知ると息子のおめでたい事に嬉しくなる反面、相手が友好的であるとは言え四大貴族一角である事を知りこれからの事を考え頭を抱えた。

 

 そして関係者を呼んで行われた宴会で双護と夜一の婚約が発表された。大半の参加者は知ってたといった顔をしていたが、元柳斎と雀部は孫のように可愛がってきた双護がそこまで育ったのかと男泣きを見せた。




ついに言っちゃいましたねぇ…………………もっと大人なプロポーズとかさせたかったんですけどね。うん、まぁこれはこれでいいかな。赤面照れ照れ夜一さんとかクッソ可愛いよね。最高案件でした。

という訳でうまくいけば後2話、長くても5話以内で完結する予定です。あと少しですがお付き合いください


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卯ノ花家、団欒

卯ノ花双護と四楓院夜一の婚約発表は瀞霊廷を大いに賑わした。護廷十三隊の中で三大独身貴族の一角として人気を博していた双護の婚約発表で一部の女性隊士は喪失感に苛まれ、瀞霊廷通信の一面に卯ノ花ロスと大きな見出しが掲載された。

 

そんな珍事もあったが、男女問わず慕われている双護の婚約に瀞霊廷に住む大半の者は肯定的な意見を持っていた。しかし、皆が皆祝った訳では無い。

 

血の花嫁事件に関わった貴族は勿論、四大貴族のうち朽木だけでなく四楓院までも完全に護廷側に回られる事を厄介に思う四十六室、時灘の件を根に持つ綱彌代家からはどうにかして婚約を解消させられないかと策を弄する者まで現れた。

 

四十六室や綱彌代、その他の上級貴族を敵に回すことを恐れた四楓院家の意見役達は当初婚約を認めないとしていたが、現当主である夕四郎や先々代の当主、即ち夜一の父の後押しがあり婚約は無事に成立した。

 

四大貴族の結婚というのは煩瑣な手続きが連続する。途中限界を迎えた夜一が逃走し、希乃進に捕獲されたり、孫のように接してきた双護の結婚に感極まった元柳斎や雀部の暴走があったりとトラブルはあったが、なんとか結婚式の前日を迎えることが出来た。

 

 

「前に話しましたが、私は元罪人です。殺した人数だけで言えば藍染惣右介の比にならない程です」

 

 

四番隊隊舎にある道場に双護と烈は向かい合っていた。烈は結婚式を前日に控えた双護を道場まで呼び出した。

 

双護が道場についてみれば斬魄刀こそ帯刀していないが、戦闘時と同程度の霊圧を解放している烈がいた。

 

 

「うん、知ってる」

 

 

「双護、貴方はあの時私に言った事を覚えていますか?」

 

 

烈の問いに無言で頷く双護。烈が言っているのは双護が霊術院生時代に烈の過去を聞いた後の事だ。烈の過去を知ってもなお剣八を目指すこと、烈を超え強い剣八となる事を宣言した日のことを言っている。

 

年数で言えば二百年以上も前の事だが双護は一言一句余さず覚えていた。自分が剣を取る理由を忘れた事など一度もない双護。

 

 

「忘れるわけが無い、僕は剣八になるよ。母さんも、刳屋敷さんも越えて護りたいものを護れる剣八になる」

 

 

「それを聞いて安心しました。鬼道衆に頼んで準備した甲斐があるというものです」

 

 

烈はそう言うと木刀を2本取り出し、一本を双護へと投げ渡す。それと同時に道場を覆うように結界が展開される。

 

いきなりの事で面食らった双護だが、烈の雰囲気で理解した。道場に呼び出された以上試合でもするのだろうと思っていた双護だが、烈は死合うつもりである事を。

 

 

「今だけは親子というものを忘れ本気できなさい。木刀だからと舐めているのならその頭蓋砕いてあげます。もし、双護が勝ったら今日の晩御飯のおかずを一品増やしてあげましょう」

 

 

「じゃあ僕が勝ったら母さんはコンビニスイーツ一週間禁止で」

 

 

冗談口調で話しながら構える双護。口調こそ軽いが構えは戦闘時のそれだった。烈から感じる殺気や霊圧はこれまでの訓練の時とは全く別であり、少しでも気を抜けば殺されると本能的に察知したのだ。

 

真剣ではなく木刀での勝負になるが、真剣同様危険である事には変わり無くあたり所によっては死ぬ事も十分ありえる。

 

ましてや烈と双護からすれば相手を殺すだけならば使う得物は斬魄刀でなくとも問題は無い。最終的に相手を動けなくすれば良く、過程が変わるだけで斬るのも砕くのも変わらない。

 

 

「先手は貰うよ‼︎」

 

 

「踏み込みは悪くありませんが、無駄口は叩いてはいけません」

 

 

双護の踏み込みからの一撃も烈はなんでもないように受け止める。そこから連続で仕掛けるが烈は全てを捌き切る。

 

そして次は自分の番とばかりに突きを喉元目掛け放つ烈。なんとか受け流す双護だが普段訓練で見る烈の太刀筋との違いに戸惑っていた。

 

 

「どうかしましたか?動きに迷いが見えますよ」

 

 

烈の太刀筋は幼少の頃から数え切れないほど見てきた双護。本気を出そうが手を抜いていようが太刀筋というものが変わるという事はあまりない。

 

藍染ですら隊長を名乗っていた時と離反した後の太刀筋に多少の差異はあれど別物と感じるような事は無かった。

 

普段の烈の太刀筋はまさに教科書のようなもので攻防のバランスが取れており、常に最善手を狙うような太刀筋をしている。しかし、今の烈は一振り、一振りが相手の首を刎ねる事だけが考えられた太刀筋だった。

 

 

「様子見ってやつだよ」

 

 

普段の烈や雀部、元柳斎の影響を受けた双護は基本に忠実で、防御やフェイントこそいれるが太刀筋としては素直なものである。

 

話として烈の剣鬼っぷりを知ってはいたが目の当たりにして多少の戸惑いはあった。しかし、似た雰囲気をした者との戦闘経験が頭をよぎる。

 

 

(荒々しさこそあまり感じないけど感じは刳屋敷さんに似てるな)

 

 

刳屋敷とはこれまで5回戦っている双護。回数だけでいえば少ないのだが、過ごした時間の濃密さは烈との訓練に引けを取らない。

 

一度目はたまたま入り込んだ十一番隊隊舎にて。烈の事を知る刳屋敷が双護に喧嘩を売り、道場を大破させ辺り一帯が大変な事になるほど激しい戦闘となった。

 

それ以降被害の出ない瀞霊廷外でしか戦わなくなったがそれでも余りの戦闘の激しさと被害規模から二人が試合をする際は日取りを決めて元柳斎に提出しなければいけなくなった。

 

そんな2人に対する周囲の評価は同格の化け物と言ったようにご確認見られている、双護は刳屋敷にはまだ一歩劣っていると思っている。

 

そんな刳屋敷との戦闘を思い返せば烈の今の雰囲気に懐かしさすら感じ戸惑いが消えた双護。

 

 

「我が息子ながらスイッチが入るまで時間がかかりますね」

 

 

「控えめな性格なもんでね、育ちの良さが出ちゃったかな」

 

 

ぶつかり合う木刀の甲高い音が道場に響く。最初こそ普段の烈との違いに戸惑った双護だが、同じ剣八である刳屋敷の事を思い出し戸惑いが消えた後は烈の剣技に着いていけるようになった。

 

しかし、それでも剣士としては烈の方が上である為少しずつ烈の攻撃を受ける双護。

 

 

(大分良くなりましたが……………やはり甘いですね。この子らしいといえばらしいですが、剣八としては少し物足りない)

 

 

技術だけでいえば双護の剣技は現在の剣八である刳屋敷よりも勝っており、鬼道の実力も含めるのなら戦闘力は双護の方が上だと考える烈。

 

しかし、本気の殺し合い、実際の戦闘でいえば刳屋敷の方が驚異に感じるし双護も中々勝てないだろうとも感じており、その原因は二つあると考えている烈。

 

一つは双護の性根の優しさにあった。双護は敵には容赦なく剣を振れるが、一度でも交友関係を持った者に対して剣を振れなくなってしまう。斬らなければいけなくなれば斬る事は出来るが、殺す決断は出来ない。

 

 

(甘さに関しては昔に比べれば…………という感じですね。藍染惣右介との戦闘経験が活きている。もう一つの方もかなり良い感じですね……………)

 

 

もう一つの原因は強敵との戦闘経験だ。他の者に比べれば経験している方であるといえる双護だが、烈からすれば足りていない。双護と対等以上に争える好敵手が居なかった事が大きい。

 

京楽や浮竹は双護と肩を並べてはいるが、競い合うような仲ではない。いざ戦えば良い戦いをするであろうが双護が負ける事は無い。

 

時灘の悪辣さは隊長として良い経験にはなったかもしれないが格という面では数段落ちる。

 

こいつだけには負けたくない、格好悪い所を見せられないといった気持ちでぶつかれる相手が居なかった事が双護の成長に歯止めをかけているのではと考える事もあった烈。

 

 

「随分と良い目をするようになりましたね」

 

 

「そうかな?」

 

 

「断言しましょう、貴方は着実に近づいています」

 

 

「!?」

 

 

「ですが、まだ認めてあげられませんけどね」

 

 

双護は肉体的な強さや技術的な強さに関して剣八を名乗るのに十分な素質を持っている。双護に足りていないのは競争心やいざという時の決断力だった。様々な経験を経て、双護は着実に近づいていた。烈が待ち焦がれた存在に、双護自身が目指す理想に。

 

烈はいつのまにか自分が笑顔になっている事に気が付いた。目の前の双護も釣られたのか楽しげな顔をしている。

 

側から見れば真剣こそ使っていないが木刀で殺し合っているようにしか見えない光景だが、2人はとても楽しそうに笑っていた。

 

 

「ここまで楽しいと思ったのは初めてかもしれない」

 

 

「やはり、貴方は私の息子ですね」

 

 

より強い者との闘争を望む事こそ剣八らしさなのかもしれないと木刀を振りながら考える烈。

 

双護が自分から剣八になりたいと言うまで剣八であった事にそれ程誇りに思えなかった烈。剣八は最強の証であるのと同時に自身の罪の証でもあるからだ。

 

かつての副官であった虎徹天音がその座を引き継いだ事で十一番隊隊長=剣八という流れが出来た。後進の剣八達に関して自分の罪を背負わせてしまっている事に後ろめたさすらあった。

 

だが、双護のお陰で剣八であった事に誇りが持てた烈。そして、それと同時に烈は再び剣を握るようになった。息子の成長の為にも、何時迄も目標であり続ける為、そして何より成長した双護と満足した戦いが出来る様に。

 

多少実戦から離れているからといって腕が落ちるような鍛え方をしていない烈だが、剣八としての感覚を少しでも維持する為に隊士の目を盗んでは剣を振り続けた。

 

今の双護が烈より強いかと問われれば答えは否である。烈にとって今の双護は満足いく相手になり得ない。しかし、それでも剣を振り続けた事に後悔は無かった。

 

 

(双護はまだ私が望むような相手にはなっていない…………だというのに、こんなにも楽しい‼︎)

 

 

「そんな笑顔の母さん初めて見たよ」

 

 

「そうですか?まぁ確かにこんなに楽しい戦いは久しぶりですね」

 

 

「怒った時よりも笑顔だからね。正直怖い」

 

 

「その整った面凹ましてあげましょうか?」

 

 

「僕の結婚式明日なの忘れてる?」

 

 

「そういえばそうでしたね……………あら、随分と時間が経ってしまいましたね。次の打ち込みで最後にしましょうか」

 

 

「そうだね、腹も減ってきたし次で決めるよ」

 

 

双護が道場に入ってから既に数時間が経過していた。烈も双護も外を確認すると日が落ち始めていた。

 

双護は腰を低く落とし、木刀の持ち手が烈に見えないように少し腰を捻る。

 

 

(剣八と呼べる領域に片足を踏み入れている………それにあの気迫に霊圧の雰囲気、やはり双盾さんと私の子です。この戦い今までで一番楽しい‼︎)

 

 

その構えを見た烈は顔がニヤけるのを感じた。普段の烈からは想像も出来ないような笑みだ。まるで獣ような笑みで知らない者が見れば別人を疑うような笑みである。

 

普段の烈は水平に構えるのだが、双護の狙いが分かった烈はその狙いごと切って落とす為上段に構える。

 

 

「いくよ」

 

 

「来なさい」

 

烈の一言がトリガーとなったのか、双護は強く踏み込み、烈との間合いを詰める。踏み込みが強過ぎたのか、双護が構えていた場所の床は壊れている。

 

そして烈に近づいた勢いのまま木刀を振り抜く双護。烈も上段に構えた木刀をそのまま振り下ろす。

 

 

「「え」」

 

 

両者の木刀はぶつかる事は無かった。気が付けば双護と烈は縛道の六十三である鎖条鎖縛を打ち込まれ身動きが取れなくなっていた。

 

 

「烈さんも双護もやりたがってるみたいだからある程度は見逃してたけどそれは流石にやり過ぎだよ」

 

 

いつのまにか開かれていた道場の扉の先にいたのは青筋を浮かべた双盾だった。

 

 

「あ、あの双盾さん?これは、ですね……」

 

 

「少し体を動かすだけって言ったよね?なんでこんな結界なんて張ったのかな?霊圧知覚を誤魔化す結界なんて要らないよね?」

 

 

普段は温和な双盾の態度に冷や汗を流す烈。自身が怒られている訳でもないのに双護も双盾の覇気に冷や汗が止まらなかった。

 

 

「双護もさ、明日があるのにここまでやる?良い大人なんだから自制しようね」

 

 

自分の首はこれ程速く動けるのかというほどのスピードで頷く双護。

 

 

「分かったならよろしい。もう着替えて明日の準備でもしてなさい」

 

 

鎖条鎖縛を解かれ足早に道場を出て行く双護。そんな双護の背中を見送った後烈にかけていた鎖条鎖縛を解く。

 

 

「それで、どうだった?」

 

 

「思ってた以上でした。あれなら近いうちに私や刳屋敷隊長よりも強くなるでしょう」

 

 

「そっか、それは良かった」

 

 

「なので、おかずを一品増やしてあげても良いかもしれませんね」

 

 

「それは楽しみだなぁ」

 

 

烈の望みは知っていた双盾。しかし、病弱な自分ではそれを叶えてやれないという事を歯痒く思っていた。

 

双護にその可能性を見出し、満足したわけではないが自分では引き出せなかった烈の笑顔を引き出した双護に対して少し複雑な思いがある双盾。

 

しかし、自分の息子と妻の望みが叶えられそうな事への喜びが大きいのか双盾はどこか嬉しそうだった。

 

双盾の嬉しそうな顔を見て烈も笑みを浮かべる。先程までの獣のような獰猛な笑みではなく優しく柔らかい、花のような笑みだ。

 

その日の卯ノ花家の食卓にはおかずが二品増えていた。




これにて卯ノ花さんの光源氏計画は一旦完結とさせていただきます。
今後は1〜3話程度の番外編を書きつつリメイクや新作を書いて行く感じになります。

この作品は最初はとある方………まぁ読んでくださった方ならご存知でしょうけどはちみつ梅さんへのファンアート的なものでした。一作目が完結した後に次回作のアイディアになればと簡単なあらすじとかを書いて送ったら「面白そうですね、楽しみにしてます」的な返信が来て「あ、俺が書く流れなのね」てな感じで書き始めました。

そんな始まりでしたがここまで書けたのは読んでくれた皆様のお陰です。暖かいコメントや誤字の指摘などをしてくれたお陰でここまで辿り着けました。
これからも作品の掲載は続けるのでよろしくお願いします。


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番外編
双葉、迷う。


という訳で完結後の番外編です。

双護くんと夜一さんの娘さんののほほん話です。


その日、白哉は朝から慌ただしく瀞霊廷を走り回っていた。いつのまにか屋敷に侵入し、何故か自分の分の朝食を食べていた少女を問い詰める為だ。

 

 

「卯ノ花双葉、待たぬか‼︎」

 

 

「へへーん、待てって言われて待つ奴は居ないよーだ」

 

 

少女の名は卯ノ花双葉、護廷十三隊総隊長である卯ノ花双護と夜一の娘である。

 

藍染との決戦後、滅んだと思われていた滅却師が瀞霊廷へと攻めてきた。結果的に護廷隊は勝利したが少なくない犠牲を払う事になった。

 

多くの一般隊士の戦死、一部ではあるが非戦闘員である一般人の犠牲も少なからずあった。元柳斎と副官である雀部は辞任を表明し、次代の総隊長として双護が指名された。元柳斎の退任を受け、数人の隊長が引退しそれぞれのセカンドキャリアを築いていた。

 

双護と夜一の間に生まれた双葉は両親の血を受け継いだからなのかかなりのお転婆娘になりつつあった。

 

白哉の元に現れてはちょっかいをかけ、逃げるというのは日常茶飯事である。

 

 

「よし、撒いたな」

 

 

双護や夜一の才能を受け継いだ彼女は幼いながらも高レベルな舜歩をマスターし、夜一や砕蜂直伝の隠密技術を手に入れていた。

 

上位席官以上の者が本気を出せば簡単に見つかるし追いつかれる程度の瞬歩と隠密技術だが、年齢を考えれば天才と呼べるものだった。

 

白哉とて霊術院に入ってもいない子供相手に本気を出す程大人気ない真似はしないが、夜一がそのまま小さくなったかのような見た目に日を追うごとに洗練さて行く技術を見るに自分が本気で双葉を追いかける日が近いのではと思うようになっていた。

 

白哉が近づいていない事を確認した双葉は特に目的も無く歩いていた。そんな時、見知った顔を見かけた。

 

「お、双葉ちゃんじゃないか‼︎」

 

 

「あ、十四郎さん」

 

 

十三番隊の隊長羽織ではなく、無地の白い羽織を着た浮竹。浮竹は引退した隊長のひとりで現在は霊術院の学長を務めている。

 

 

「こんな所で何をしてるんだ?」

 

 

「散歩だよ。十四郎さんは?」

 

 

「ちょっと京楽に渡すものがあってな…………そうだ‼︎お菓子をあげよう、沢山あるぞ‼︎」

 

 

「ご飯食べれなくなるとお父さんに怒られるし一つだけ貰うね」

 

 

そういうと浮竹は懐からガサッと大量の菓子を取り出す。双葉は菓子の山から棒付きキャンディを手に取る。

 

最古参の隊長の娘という事で双葉の現役護廷隊士の顔見知りはかなり多い。隊長格とは全員顔見知りであり、大半は可愛がられている。

 

 

「あまり遅くならないように帰るんだぞ」

 

 

「分かったー、ばいばーい」

 

 

大きく手を振りながら浮竹に別れを告げる双葉。飴を舐めながら目的も無くブラブラと歩く。

 

悪戯好きで誰かと遊ぶのが好きな双葉であるが1人の時間も好きであった。夜一が元大貴族という事もあり、護廷隊に関係無く普段から双葉の周りには人が多い。

 

用事がない日は決まって1人で散歩するのがお決まりとなっていた。

 

 

「なんか面白い事ないかな」

 

 

「なら、私が貴様に説教をくれてやる」

 

 

双葉は呟くと背後に強い霊圧を感じた。冷や汗を流しながらゆっくりと振り返ると青筋を浮かべ怒りをあらわにする白哉が立っていた。

 

 

「何か言い残す事はあるか?」

 

 

「ルキアちゃんが言ってた通り朽木家のご飯って美味しいね」

 

 

「やはり貴様はしほうい………卯ノ花夜一の娘だ。親子揃って私の神経を逆撫でするのが好きらしい」

 

 

双葉は咄嗟に瞬歩で逃げようとするが、警戒した白哉から逃げるほどの技量が無い双葉はすぐに回り込まれ捕まってしまった。

 

襟首を掴まれぷらぷらとぶら下がる双葉。頭には大きなたんこぶが出来ていた。

 

 

「ねぇ、何処に行くの?」

 

 

「昼餉だ、総隊長には連絡をいれてある。話たい事があるのだろう」

 

 

「なんで分かるの?」

 

 

白哉の指摘通り双葉は白哉に相談したいことがあった。気づかれるとは思っておらず驚いたのたま。

 

 

「今の貴様は昔のルキアと似ていた。普段の貴様なら一回撒いた程度で油断する事もないだろう」

 

 

ルキアが朽木家に引き取られた当初、何故引き取られたのか、突然兄となった白哉との距離感などについて悩んでいた。

 

しかし、不器用な性格でルキアを引き取った後は一族の当主としての責務や六番隊隊長としての責任感でルキアを気にかける余裕が無かった。

 

一護と双護のお陰もあり、そういったしがらみから解放された。

 

白哉が入った店は貴族御用達の料理屋だった。店員の案内で座敷に入ると手慣れた様子で注文する白哉。

 

 

「私はいつもの。貴様はどうする」

 

 

「え〜と……………ミックスフライ定食、ご飯大盛り。あと刺身盛り、ポテトサラダとあら汁」

 

 

高級な店構えに臆する事なく、大人顔負けの量を注文する双葉に驚愕する店員をよそにメニューを立て掛ける白哉。店員は一礼すると座敷をあとにした。

 

 

「それで、話とはなんだ」

 

 

白哉は店員が離れたのを確認すると口を開いた。

 

 

「白哉さんは私の事どう思ってる?」

 

 

「どういう意味だ」

 

 

「私、鬼道と瞬歩は自信あるんだよ。お姉………砕蜂さんにもそこは褒められたの」

 

 

双葉の言葉に頷く白哉。霊力の操作能力に関して双葉のソレは天才という言葉では足りぬ程である。既に上位席官以上の本気には及ばないが年齢と経験値を考えるのなら充分過ぎる程の実力があるのだ。

 

護廷隊の隊長の中でも鬼道に秀でており、瞬歩に関して夜一と並ぶとされる砕蜂が認めているのならばその才覚は疑う余地も無い。

 

 

「白打に関してはそれなりだけど戦術と経験次第だって。でも斬術に関しては才能無いんだって」

 

 

鬼道や瞬歩、白打は砕蜂から教えを受けている双葉。斬術は十一番隊の副隊長を務める斑目一角に師事している。

 

鬼道や瞬歩に関しては砕蜂に褒められるのと同時に自分でも手応えを感じている双葉。白打も砕蜂の言う通りそれなりの手応えを感じていた。

 

斬術に関して自分の中で全くしっくり来るものが無かった。それでも自分なりに少しずつではあるが成長してると思っていた。

 

 

「一角さんとお父さんが話してるのを聞いちゃったんだけどその時に一角さんが『あそこまで剣の才能が無い奴は初めてっすね』って……………」

 

 

「人には得手不得手と言うものがある。貴様は瞬歩や鬼道が得手で斬術が不得手というだけだろう。そもそも武器を使った戦闘は素手の延長に過ぎない。砕蜂隊長の言う通り戦術を練り、経験を積むしかない」

 

 

「でもさ、私……………剣八の娘だよ。お父さんの娘なのに剣の才能が無いのって失格じゃん。私のせいでお父さんが馬鹿にされちゃう」

 

 

「やけに才能という言葉に固執しているな。才能とはそんなに大事なのか」

 

 

「だって…………才能が無かったら、意味無いじゃん‼︎私が笑われるだけじゃ済まないんだよ⁉︎お父さん、お母さん、他にも色んな人が笑われちゃうんだよ⁉︎私が出来損ないなせいで‼︎みんな言ってるもん、親の才能を受け継いだ優秀な子だって‼︎全然そんなんじゃないのに‼︎」

 

 

机を思いっきり叩く双葉。堰き止めていたものが吹き出したかのように感情が溢れ出した。

 

双葉は夜一の娘という事で貴族と会う事も多かった。幼いながらに瀞霊廷の闇ともいえる部分を見てしまっているのだ。

 

周囲の貴族が見る双葉は元大貴族当主と現役護廷隊士最強の男の娘であり、間違いなく良縁となる子供である。

 

双護や護廷をよく思っていない貴族も双葉の利用価値は認める所があるようで、双葉は瀞霊廷において今最も注目されているといえる。

 

 

「その“みんな”とやらは誰の事だ。“みんな”とやらは誰1人として貴様を見ていない。そんな奴らの言葉を鵜呑みにして大切なものを見失っているのではないか」

 

 

「でも、私のせいで父さんたちが否定されるのには変わりないじゃん‼︎私が中途半端な出来損ないにせいで‼︎父さんたちだけじゃない、白哉さん達も「驕るなよ、卯ノ花双葉」っ‼︎…………」

 

 

双葉の言葉を遮る白哉。その声は怒りなどは無いのにその迫力に押され言葉が詰まる双葉。

 

 

「貴様の父も母も、そして我々護廷十三隊が築いてきたものは貴様の風評如きに揺らぐものではない。今貴様に必要なものは剣の才能でも、強さでも無い。誇りだ。貴様の家族は誇るべきものだ」

 

 

「何それ、意味わかんないんだけど」

 

 

「いずれ分かる」

 

 

白哉が手を叩くと料理が運ばれてくる。先程までのやり取りは聴こえていた筈だが何事も無かったように皿を並べていく店員。

 

 

「食え、文句は食事の後に聞いてやる」

 

 

「あっ、これ美味しい」

 

 

「がっつくな。はしたないぞ」

 

 

白哉の話がよくわからないながらも、自分の思っていた事を曝け出した事で安心したのか運ばれてきた料理をガツガツと食べ始めた。

 

 

「ご飯おかわり!」

 

 

大人顔負けに食べる双葉の顔を見てため息を吐きつつ、白哉はおひつを持ってくるように店員に頼むのだった。

 

 

「デザートであんみつくださーい」

 

 

「もう好きにしろ」

 

 

夜一と同様に何を言っても無駄だと諦めた白哉。成人顔負けな食べっぷりを見せながらも年相応の笑顔を見せる双葉に夜一と双護の面影を感じ再びため息を吐くのだった。




山じぃは千年決戦での双護くんの立ち回りと成長を見て後を任せる事にしました。

双護くんは自分で自信を持って剣八であるといえるようになりましたが、剣八は最強の戦闘部隊の隊長である十一番隊の隊長が名乗るべきものと考えており自らは名乗っていません。称号として獲得したって感じなのかな?

多分刳屋敷さんはまだ現役。ノリノリで双護くんのライバルやってます。

沢山食べる褐色元気な女の子とか最高よな。

双葉ちゃんは自分に瞬歩と鬼道の才能があるのは分かってます。ただ、完璧超人なお父さんとか瞬神なお母さん、その他の身内が尸魂界において最強なメンツのお姫様って事で周囲からの期待で少し押しつぶされかけてます。

自分のやれる事を理解してるからこそ周囲からの期待に応えられない事に悩んでる感じですね。


さて、ほのぼの回はもう少し続きます。具体的には後1話か2話。
その後は双盾&烈さんの卯ノ花夫妻の話で締めです。


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双葉、嵌められる?

真央霊術院の授業は瀞霊廷の歴史や常識、現世について学ぶ座学と斬術と白打などを学ぶ実習の授業がある。

 

座学だけでなく、死神の基礎とされる斬拳走鬼についても細かく分けて授業しておりランキングをつけている。六学年に分けられているが飛び抜けて優秀な者は飛び級制度も入れられている。

 

 

「飛び級………ですか」

 

 

「あぁ、双葉ちゃんの成績なら上の学年でもやれるからな。砕蜂からは今すぐ卒業させて隠密機動に‼︎とか言ってるがもう少し経験積んでからの方が良いと思ってな。だから上の学年で頑張ってくれ」

 

 

霊術院に入る前から鍛錬に励んでいた双葉は同学年の中でも飛び抜けていた。

 

学長である浮竹に呼び出された双葉は予想出来ていたのか特に驚く様子も見せずに浮竹の話に頷いた。

 

 

「どうした?やっぱり、いきなり別の学年に移動っていうのは抵抗があるか?」

 

 

「いえ、不満も抵抗感もありません。私を評価してくださりありがとうございます」

 

 

現在の護廷隊士は全員が霊術院の卒業生であるが、その中で飛び級をしたものは極めて少ない。歴史を辿っても片手で数える程度しかいない。

 

双葉自身、その中の1人となれたことは光栄とは思っているが中には一年で卒業した者がいる事を双葉は知っている。

 

自分が一年や二年で卒業出来ないのはやはり斬術のセンスが無いことが原因なのだろうと思い落胆せずにはいられなかった。

 

 

「戦場で大事なのは積み上げたものと強い意志だ。双葉は今その積み上げていく段階だ。焦る必要は無いさ」

 

 

双葉の表情を見て何かを察したのか頭を撫でながら話す浮竹。

 

その後、双葉は頭を下げると学長室から出て行った。出て行った双葉の顔を思い出し、落ち込んだ表情もそれを隠そうとするのも父親譲りだなと微笑ましくなる浮竹。

 

飛び級者というのは霊術院の創設から数えても貴重な存在でそんな生徒が現れれば情報は一瞬にして回る。霊術院から発表は特に無かったが一日経てば霊術院中の生徒が知る所となった。それなりの数の生徒が飛び級した双葉を祝福した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は卯ノ花だな‼︎」

 

 

「在学中に護廷隊の内定も取れるかもしれないな‼︎」

 

 

「君のお父さんも凄かったが、君も負けずに素晴らしいよ」

 

 

飛び級先でも双葉の実力は飛び抜けていた。斬術は下級生であった時と比べて苦戦する事が多くなったがそれでも上位の実力である事には変わらない。白打も余裕とはいかないが同学年となった生徒達に負ける事は無かった。

 

優秀で驕らず愛想良く接する双葉の周りには飛び級したばかりだというのに人集りが出来る。しかし、それを良く思わない者も少なからずいる。

 

 

「なんかさー、卯ノ花ムカつくよね」

 

 

「やっちゃう?ちょいとシメちゃう?」

 

 

「学長のお気に入りっぽいし、総隊長の娘なんでしょ?手出したらまずくない?」

 

 

教室の隅で輪の中心にいる双葉を睨みながら話す女生徒達がいた。

 

十人十色という言葉があるように双葉を認める者がいれば認められない者もいる。注目されているだけであるなら見向きもしなかったが双葉は自分達では勝てる要素が無いと女生徒はうっすらと分かってしまった。

 

女生徒達が感じた敗北感は次第に嫉妬へと変わっていった。

 

 

「どうせ今の総隊長嫌ってる貴族は多いし大丈夫でしょ。むしろ先に手を出させれば向こうの方が不利になる訳だし」

 

 

「それもそうだね。どする?」

 

 

「まずは人集めっしょ。男子は宛にならないから貴族出身の女子集めよ」

 

 

女生徒は伝令神機をカタカタと触り何かしらのメッセージをうつ。そして双葉の視界に映らないのを確認し、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女生徒達が何か悪巧みを始めてから数日、双葉は違和感を感じるようになる。人とすれ違う度に陰口を叩かれるようになった。

 

物心ついた時から貴族社会と関わってきた双葉にとって多少の陰口はなんて事ない事だが、霊術院に入ってから陰口を言われるようになったのはこれが初めてだった。

 

 

「おはようございます」

 

 

教室の扉を開け中に入ると既にいた生徒達が一斉に双葉の方を見てヒソヒソ話を始める。

 

何事かと思い黒板を見ると、双葉に向けた罵詈雑言が黒板を埋め尽くしていた。そして双葉が使っている机にも似たような罵詈雑言が描かれていた。

 

双葉はため息を吐きながら黒板消しで落書きを消していく。

 

 

「教師と不倫してるって………………」

 

 

「おやが賄賂渡して飛び級したとか…………」

 

 

「貴族の娘が気に食わないからって半殺しにしたって………………」

 

 

落書きを消している双葉の背後ではヒソヒソと双葉に聞こえるか聞こえないか程の声量で話していた。

 

根も葉もないただの戯言であり、噂とゴシップが好きな貴族社会ではよくある事である為双葉は聞き流し、落書きを消していった。

 

 

(この霊圧の感じ…………………)

 

 

双葉は黒板消しで文字を消しながらふと違和感に気付く。文字に残っていた僅かな霊力の残滓を感じ取ったのだ。

 

普段であれば気にする程でもない事であるが双葉の中で何かが引っかかった。

 

 

「卯ノ花さん、だいじょーぶ?消すの手伝うよ」

 

 

双葉が文字を消していると後ろから女生徒が黒板消しを手に取り文字を消し始めた。

 

 

「お構いなく。私の問題ですので貴女に迷惑は…………「いいって。授業が始まるまでに消さなきゃだし」じゃあ、お願いします」

 

 

黒板の落書きを消し終わる頃には授業の開始を告げるチャイムが鳴り響く。それと同時に担任が教室へと入ってくる。

 

教室の異様な雰囲気を感じ取り、教室を見渡すが双葉の机を見たところで担任は何かを察する。しかし、何かを言い出す事なく見て見ぬ振りをする。

 

 

「それじゃあ、今週末にある流魂街遠征実習について話していくぞ」

 

 

そんな様子の担任を見た双葉はなるほどと頷いた。霊術院は流魂街からであったり一般の家系から入学する事もあるが基本的には貴族の方が多い。

 

護廷隊が母体になっているとはいえ、貴族の影響力というのは小さくなく機嫌を損ねるような事をすれば厄介な事になりかねない。

 

成績等について問題になる事は少ないが虐めといった厄介事に関して、教師は基本的にスルーしている。虐めなどはなく勘違いでしたなどと言われては深く踏み込めないし、下手に踏み込めば自身の問題だけでは済まなくなってしまうからだ。

 

浮竹が学長をするようになってから多少の是正はされたが、それでもそういった問題は横行していた。

 

 

「という訳で、4人で一つの班を作ってくれ。今回の実習は卒業の査定にかなり響くからそのつもりで班をつくれよ」

 

 

担任が手を叩くと生徒達は一斉に動き出し、それぞれに班編成を進めていく。

 

しかし、双葉の周りには誰も集まろうとはしなかった。一部の生徒はチラチラと双葉に視線を送っているが、双葉と目が合うと途端に視線を逸らす。

 

 

「卯ノ花さん、良かったらアタシらの班に入る?」

 

 

「良いんですか?助かります」

 

 

「良いの、良いの。卯ノ花さんって、ちょー優秀みたいだからさ。楽させてもらおっかなって思ったから」

 

 

「折角誘ってくれたのですから、全力を尽くしますが……………変な噂がたってるみたいですし「アタシらとしては噂とかどーでも良いし、卒業査定とかちょー大事だからそっちの方が優先みたいな?」そうですか」

 

 

双葉の話に食い気味に割り込む女生徒。

 

 

「アタシ、津白時乃。親は結構凄めの貴族の血筋だけどほとんど一般人みたいなものだから。気軽に時乃って呼んでくれて良いよ」

 

 

「私も双葉でいいです。よろしくお願いします、時乃さん」

 

 

時乃が差し出した手を握る双葉。その時、時乃は小さく笑みを浮かべたが双葉はその笑みに違和感を覚えたのだった。




貴族だらけの霊術院で凄めの血筋を名乗るって中々ですよね。

いじめはダメ絶対。いじめ自体無くす事はかなり難しい事ですよね。個人的な経験からいじめへの対策を言わせてもらうと

・打ち込める趣味を見つける←多少いじめられてもそれが気にならないくらい熱中しちゃえばいいのでは???スポーツでも映画でもアニメでもなんでもいいんだよ。個人的にはコマンドーとかみたいな筋肉モリモリマッチョマンが無双する爽快映画をお勧めする。

・相談できる人をつくる←担任の先生は色々な事情があって難しかったりする。先生も大変な立場だったりするから無能とか責めないでやってくれ。全部の先生がクソな訳ではない。先生達はちゃんといじめを回避する努力はしている。まぁ親とかもだし、友達とかでも良し、なんならネットでも良い。兎に角ストレスを溜めずに吐き出すこと。爆発させたらとんでもないことになる。場合によっては法律家に頼る事も検討するんだ。

・筋トレをする←ようは自分に自信をつけようということ。不思議と筋トレすると自信に満ち溢れます。出来なかった回数や重さを出来る様になった時の達成感やムキムキになっていく過程が楽しい。
大体の人が想像するゴリマッチョになるのは金と努力と時間が必要になります。目に見えて体型が良くなります。素晴らしいですね。


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双葉、覚悟決める

時乃が双葉と話すようになってから陰口自体は減っていた。露骨に目線を外されたり、ヒソヒソ話していたりはするがいじめの被害としては減っている。

 

教室の雰囲気は未だに歪なものではあるが、多少元に戻ったからなのか担任は双葉への陰口を気にする素振りすら見せなくなった。

 

そして流魂街遠征実習の日を迎えた。

 

 

「そう固くならなくていいよ双葉。虚は捕獲された雑魚だし護衛代わりに護廷隊から席官クラスが来てるみたいだし死ぬような事はないって」

 

 

以前は虚の撒き餌を使って虚を呼び寄せていたが、滅却師との決戦以降虚園側とある種の和平条約が締結され捕獲された虚を指定ポイントに用意するというシステムになっている。

 

弱目の個体を捕獲している事と、虚の位置を決めている事で監督役の隊士が直ぐに救助出来るようにしている。

 

 

「うん、でも私の頑張りに時乃さん達の成績がかかってる訳だから」

 

 

「私達は私達でちゃんと仕事するから、安心しな」

 

 

そう言いながら双葉の頭を撫でる時乃。

 

 

「うん。でも、さっきから先行してる2人の霊圧がはっきり捉えられないのが不安。捉えられないわけじゃないけどなんか所々ボヤけてる感じがする」

 

 

「調子が悪い日だってあるでしょ。私は2人の霊圧追えてるから。ま、無理しない事だね。ヤバくなったら監督役の隊士呼べばいいし」

 

 

双葉の霊圧知覚は現役隊士のソレを遥かに凌駕している。双葉がその気で探れば瀞霊廷内で探せない人物はいない。

 

そんな双葉がはっきりと知覚出来ないのは異常な事だった。それ故に双葉の中で警戒心が高まっていた。

 

霊圧知覚とは言ってしまえば霊力操作の一環である。双葉の霊力操作能力は、多少調子の良し悪しはあっても違和感を感じる程の誤差が起こることはあり得なかった。それ故に警戒せざるをえなくなっている。

 

 

「時乃さん、もう合流ポイントだし気を引き締め………………時乃さん‼︎退却‼︎監督役を呼んで‼︎」

 

 

合流ポイントに到着するというのに、口笛すら吹く余裕のある時乃に警戒を促そうとした瞬間、双葉の目にあり得ない光景が広がっていた。

 

先行していた二人、それぞれ身体の半分を貪っている虚がいた。幾ら調子が悪いとはいえこの距離になるまで察知する事も出来ない程の虚がいるのだ。

 

 

(こんな近くにくるまで全く霊圧を捉えられなかった………………私1人じゃ勝てない。せめて監督役の隊士と合流しなきゃ)

 

 

「大丈夫だって双葉、別にビビるような事じゃないって」

 

 

「時乃さん⁉︎何やってんの‼︎」

 

 

鼻歌交じりに2人を貪る虚へと近づく時乃。斬魄刀も抜かず、鬼道の詠唱をするでも無く無警戒に近づくその様はまるで自殺行為のようである。

 

 

「大丈夫、大丈夫。だってさ、この虚…………」

 

 

止めようとする双葉に軽い調子で答えながら虚に触れる時乃。

 

その瞬間、双葉の視界はガラスに割れるかのように崩れた。

 

 

「幻覚だもん。鏡花水月の噂なんて私でも知ってる位だし、アンタなら分かるでしょ?」

 

 

虚に触れていた手には刃の無い斬魄刀が握られていた。時乃が握っている斬魄刀を双葉は知らないが鏡花水月の事は知っていた。

 

 

「何を………………そっか。やっぱり時乃さんだったんだね」

 

 

鏡花水月による完全催眠が解除された事で双葉の催眠状態が解けて、霊圧知覚が普段の調子を取り戻した。

 

そしてそれ同時に確信した。

 

 

「何?何のこと?心当たりが多過ぎて検討つかないんだけど」

 

 

「落書きの事だよ。黒板の文字から若干だけど霊圧は感じ取ってたの。誰の霊圧かまでは分からなかったけどね。でも時乃さんがその斬魄刀を使った事で確信したよ」

 

 

「仲良い友達がいじめの主犯でショックだった?」

 

 

「ううん、正直何とも思わない」

 

 

「チッ、少しくらい堪えてくれてたら可愛げもあるのにさぁ。だからアンタはムカつくのよ」

 

 

 

芝居がかった大袈裟な話し方で双葉を煽ろうとする時乃。時乃としてはいじめを助けてくれた友人が主犯だと分かれば絶望するなり何かしらの反応が見られると思っていたのだ。

 

しかし、双葉の表情は無だった。道端に転がる石でも見るかのように無だった。

 

 

「もう良いわ。遊んでやろうかと思ったけど死ね。弾け『飛梅』」

 

 

刃の無かった部分は七枝刀のような見た目へと変化する。そして、切先から大きな火球が出現した。

 

時乃はそのまま斬魄刀を振り下ろし火球を放つ。

 

 

(桃さんの飛梅…………能力は模倣とかなのかな?注意しないと)

 

 

双葉は八十番代以下の鬼道を完全に防ぐ縛道、断空を発動し飛梅の攻撃を防ぐ。

 

 

「この斬魄刀さ、魂魄を削る代わりに他の斬魄刀の能力コピれるんだって。うちの本家に伝わる斬魄刀なの」

 

 

「斬魄刀を継承って結構大きな貴族なんだね。その話嘘だと思ってたよ。時乃さん品が無いもん」

 

 

「……………アンタも名前くらいは聞いた事あるんじゃない?綱彌代っていうクソみたいな貴族」

 

 

双葉を煽るつもりが逆に煽られ面白くないのか、一瞬苦虫を噛み潰したような顔をする時乃。

 

 

「なるほど、それが艶羅鏡典なんだ。でも効いた話だと威力は使用者の霊圧に依存するらしいのになんでこんな威力あるの?」

 

 

「浦原喜助とか涅マユリをよく思ってない技術者って結構いるの。だからあの2人の魂魄を使ってノーリスクでコレを使えるようにして貰ったの。いざ殺すってなったら日和る奴はいらないし。てか、リサイクルしてあげる私優しいじゃん」

 

 

「そっか、聞きたいこと聞けたしもう喋らなくていいよ。続きは裁判でするのをお勧めする」

 

 

「なに?監督役の人に私を捕まえてもらうの?無制限に色んな始解が使える私には勝てないもんね。でもざぁんねぇん…………その人私の下僕なの」

 

 

監督役までがグルと知らされ若干表情を崩してしまう双葉。双葉はその監督役を頼っていたからだ。

 

鉄面皮を貫いていた双葉の表情が崩れたのが嬉しかったのかケタケタと笑い始める時乃。

 

鬼道や白打といった手段があるが死神の戦闘方法の基本は斬術だ。霊術院生とはいえ死神の卵、そこは現役の隊士と変わらない。

 

鬼道と瞬歩なら双葉が時乃に負ける道理は無いが始解された斬魄刀があるならば話は変わる。

 

斬術では双葉と時乃の実力はかなり近いところにある。始解どころかただの浅打しか持っていない双葉では幾ら鬼道が使えても不利な事には変わらない。

 

艶羅鏡典の事を噂程度にしか聞いていない双葉は艶羅鏡典の詳細を知らない。どれだけの斬魄刀をどれだけの威力で扱えるか分からない以上下手に攻められない。

 

 

「瞬歩で逃げようとしても無駄だから。雇った用心棒で辺りを囲んでるからね。アンタは今ここで殺す」

 

 

酷く冷たい声でそう告げると時乃は艶羅鏡典を構える。それを見た双葉は両頬を叩き、自身に気合をいれる。

 

勝てる見込みは薄く、逃げる事も難しい。それならばどうにかして時乃を倒すしかないと腹を決めたのだ。

 

腰に差していた浅打を鞘ごと抜き、その場に投げ捨てる。斬術で戦えない双葉にとって浅打は邪魔にしかならない。

 

深く深呼吸し、自身の霊力を練り上げ霊圧を解放する。そして重心を低く落とし構えをとる。

 

 

「いいよやってみなよ時乃さん。私を殺すのは無理だって教えてあげる」

 

 

「私戦闘狂とかじゃないけど、アンタの自身に満ちた面を絶望に染められるって思うとワクワクしてきたよ」

 

 

「寝言にしてはハッキリしてるね」

 

 

「殺す‼︎」

 

 

両者が同時に駆け出し、戦いの幕が開けた。




時が経つのは早いものでこの作品を投稿して一年経ちます。

皆様の温かいコメントなどに支えて貰ったおかげであります。という訳で自分なりに双葉ちゃんを書いたのでみてください。



【挿絵表示】



隊長羽織を着ていますがデザインは白哉です。普通の隊長羽織の3倍くらいの値段はします。髪型は砕蜂リスペクト。
双葉は砕蜂を姉さんと呼んで慕ってます。余談ですが砕蜂は双葉が絡むと張相になります。


それはそれとして、現在とある企画に参加させてもらっていてこちらの更新頻度は落ちます。まぁワートリ杯なんですが。

ワールドトリガー好きな人もそうで無い人も参加してみてください。楽しいですよ。読む専門でもいいですし作品を出すのも楽しいです。


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双葉、意地を見せる

時乃に対し啖呵を切ってみせた双葉だったが、かなり追い込まれていた。

 

戦闘開始時は瞬歩で背後に周り白打による打撃でダメージを与えていたが、時乃は艶羅鏡典の能力で斬りつけた回数だけ対象の重量を倍にする侘助を再現。

 

スピード自慢の双葉からすればそれを封じられるのは不利なるのは目に見えていた。必要以上に警戒し、踏み込みが甘くなった隙をつかれ手を一回、脚を一回斬りつけられてしまった。

 

 

「あんだけ人を煽っといてそれだけ?ここまで仕込んだ私が馬鹿みたいじゃん」

 

 

「座学も私の方が成績は上だしね。実際バカだと思うよ」

 

 

「まだ減らず口叩けるんだ。もう、体動かすのも辛そうだよ?」

 

 

「他人の褌でしか相撲取れないバカに負けるほど私は落ちぶれてないよ、時乃さん」

 

 

「ッ‼︎お早う『土鯰』」

 

 

時乃がチャクラムのように変化した艶羅鏡典を地面に突き刺すと岩の槍が双葉を目掛け隆起する。

 

 

「〈縛道の二十一 赤煙遁〉」

 

 

双葉は土鯰による攻撃を回避しながら縛道の二十一である赤煙遁を発動した。これは、煙幕を発生させる術で目眩し程度にしか使えない。しかし、双葉は時乃にバレないように笑みを浮かべていた。

 

時乃が艶羅鏡典で使用している能力が侘助のものであるならこれ以上傷をつけられないように倒さなければいけないがそれは無理な話である。

 

既に双葉の右腕と左脚の重量は4倍となっている。マトモに動くのも限界な状態である。そこで、双葉は時乃を煽る事で効果範囲の派手な斬魄刀を使わせることにした。

 

土鯰の岩槍と赤煙遁による煙幕で時乃は双葉の正確な位置を把握出来ないでいるが、霊圧知覚に優れる双葉は何処にいるかというのははっきり分かっている。

 

 

「雷鳴の馬車、糸車の間隙、散在する獣の骨、君臨者よ」

 

 

位置を悟られないよう動きながら双葉はゆっくりと詠唱を始める。

 

鬼道には幾つかの技術が存在する。定められた詠唱を唱え放つ完全詠唱。詠唱する事で霊力のコントロール性と威力を完全な状態で発動する鬼道に於いて最も基本的な技術だ。

 

そしてその詠唱を省略する事で発動までの時間を短縮する詠唱破棄。こちらは完全詠唱に比べ威力は落ち、霊力のコントロールも難しくなるという難点がある。しかし、鬼道は詠唱が隙となってしまう為それを省略するのは大きな利点である。

 

そしてもう一つの技術が重唱である。これは複数の鬼道を詠唱しながら連続で放つ技術である。完全詠唱の鬼道を連続で叩き込める技術であるがコントロールの難易度は単純な完全詠唱の比ではない。

 

 

「幾らアンタが鬼道出来るって言っても重唱なんて出来る訳ないでしょ‼︎」

 

 

「光もて此を六に別つ」

 

 

六枚の光の帯が時乃の動きを封じる。そしてその直後、光の鎖が更に動きを封じる。

 

 

「二重詠唱⁉︎あり得ない‼︎」

 

 

時乃は驚愕した。単身による重唱が可能なものは鬼道衆の上位席官ならまだしも護廷隊にそうはいない。

 

幾ら鬼道が得意といっても一介の霊術院の生徒が鬼道の重唱など出来るわけが無い。

 

 

「蒼火の壁に双蓮を刻む」

 

 

霊術院では鬼道は破道と縛道どちらも学ぶのだが、優秀なものでも四十番代までしか学ばない。それ以上は卒業後、自分の努力で学ばなければならない。

 

そのため、双葉が唱えている鬼道が縛道なのか、破道なのか時乃には分からない。しかし、それが自分の知り得ない高位の鬼道である事は理解出来た。

 

 

「万象一切灰塵と成せ『流刃若火』ァ‼︎」

 

 

時乃は自分が知っている中で最強の斬魄刀を再現した。縛道で動きを封じられている自分には斬魄刀を振るう事は出来ず、鬼道を詠唱している暇も無い。

 

ならばせめて流刃若火の大火力で周囲を焼き尽くしてしまえと解放する。

 

 

「そんなチャチな炎で私は殺せない‼︎〈破道の五十八 闐嵐〉大火の淵を遠天にて待つ〈破道の七十三 双蓮蒼火墜〉」

 

 

五十番代後半と七十番代の破道の合わせ技。竜巻が放たれた直後蒼い爆炎が時乃目掛け吹き荒れる。

 

しかし、いかに双葉が天才といえど四つの鬼道を同時に操れる技量はまだ無い。闐嵐と双蓮蒼火墜が発動したと同時に時乃の拘束は解けてしまう。

 

しかし、時乃には逃げるという選択肢は残っていない。なぜなら、双蓮蒼火墜の炎が闐嵐の竜巻によって威力をより高められており、効果範囲も通常の双蓮蒼火墜よりも広い。時乃の瞬歩の技量は霊術院生の間でそこそこ程度な為範囲外へと逃げる暇がないからだ。

 

そんな時乃に残された手段は既に発動している流刃若火に可能な限り霊力を注ぎ込む事だけだ。

 

 

「あぁあぁあぁあぁあぁあ‼︎」

 

 

最早言葉にすらならない咆哮。生贄とした2人分の魂魄など既に喰らい尽くし、時乃自身の魂魄をくらい始めているが時乃はお構いなしに霊力を注ぎ込む。

 

どのみち、ここで双葉を殺せなければ時乃の身には破滅しか残っていない。自身の破滅を呼び水に本家に仕返しが出来るのなら願ったり叶ったりであるが、それは時乃にとって別の問題。

 

今はいけ好かない卯ノ花双葉を殺す。その為ならば本家や自分の破滅など知った事ではない。目の前の女を殺す。その一念だけが時乃を動かしていた。

 

 

「負けて…………たまるかぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

 

双葉の炎と時乃の炎がぶつかり合う。双葉は侘助によるダメージで体を動かすのも限界であり、回道をまともに習っていない状態では止血もままならない。

 

腕と脚にかかる倍の重量と失血による倦怠感で既に双葉は限界に近い。

 

それでも双葉は負けられなかった。卯ノ花家としての誇りと自分を鍛えてくれた人達に報いる為、そして自分が血筋だけの人間じゃないことを証明する為に。

 

 

「うんうん、2人ともよう頑張ったわ。お疲れさん」

 

 

瞬間、ぶつかり合っていた二つの炎が掻き消された。時乃も双葉も今出せる限界で霊力を振り絞っていた為、そのまま気絶してしまう。

 

薄れゆく景色の中で双葉が見たものは銀色の髪をした死神が脇差のような斬魄刀を持っている姿だった。

 

 

「ボクも天才とか言われとったけどやっぱり本物はちゃうなぁ…………………それにしてもみんなが過保護になる気持ちも分からんでもないな。両親に似てエエ面しとるわ」

 

 

そう呟きながら2人の少女を抱えた死神は何処かへ消えていく。

 

そして、誰もいなくなった場所には焼け焦げた匂いだけが立ち込めていた。




双葉がやったのは六杖光牢と鎖条鎖縛の二重詠唱、闐嵐の詠唱破棄、そして双蓮蒼火墜の完全詠唱を立て続けに行いました。

海燕(アーロニーロ)がルキアの二重詠唱に驚いていたので双葉ちゃんの受け継いだチート才能を披露するならこれだろうと採用しました。

まぁ威力は護廷隊の鬼道得意な人たちに比べると一段落ちます。ただ鬼道の才能に関しては藍染さまが「鬼道に関しては天才と言わざるを得ないね。順調に成長すれば鬼道のみだが私を越え得るよ」と褒めるくらいです。

それでは、次回で番外編完結します。そしてリメイク版の更新に入っていくのでよろしくお願いします。


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双葉、宣言する

一番隊隊舎にある隊首室。双護はそこで自身の副官である市丸ギンの報告を聞いていた。

 

 

「……………とまぁ、こんな感じですわ。艶羅鏡典の封印手続きと綱彌代への取引もこっちで済ませときました」

 

 

双護は今回、時乃が起こした事件の事後処理をギンに一任していた。その結果として、綱彌代を含めた一部の貴族に護廷への関与を禁止させた。事件に綱彌代の本家は直接関与していない。

 

そのため、綱彌代本家は当初時乃の被害者として護廷を脅そうとした。

 

しかし、艶羅鏡典をただの霊術院の生徒が簡単に持ち出せた事への責任として財産と綱彌代本家の解体をチラつかせた途端意見を180度反転させた。

 

今の綱彌代は艶羅鏡典があるといっても護廷を相手に出来るほど戦力を持ち合わせていない。ギンは武力行使も辞さないとばかりに霊圧を開放させながら交渉した事で綱彌代も退かざるをえなかった。

 

 

「ご苦労さま、ギン」

 

 

書類を片付けながら自分の報告を聞く双護に小さくため息を吐くギン。上司としての双護に文句は無い。斬拳走鬼、どれ一つとっても自分よりも数段は上でありどんな策謀すら捩じ伏せるだけの力がある。

 

ギン個人としても双護には返しきれないだけの恩がある為、忠誠を誓わない理由がない。

 

しかし、不満はあった。双護が仕事をし過ぎる事だ。総隊長というのは基本的に激務である。

 

各隊から上がってくる報告書の確認、霊術院の護廷隊内定者の資料確認と入隊先の確認と調整、隊士の訓練と定期的に開催する隊首会の準備………ざっと挙げるだけでこれ程あるのだが、部下の分の書類仕事をやってしまったりと一番隊の隊士で双護が休んでいる姿を目撃した者は居ないとまで言われている。

 

部下の記念日であったり、体調を崩していると知れば仕事を取り上げて無理矢理休ませる姿が目撃される。

 

そんな仕事ばかりな双護を心配してか、夜一や浮竹、京楽、烈などから仕事をセーブさせるように言われているギンは双護のワーカーホリック振りに辟易としていた。

 

報告ついでにとギンはちょっとした憂さ晴らしを思い付きニヤリと笑う。

 

 

「それにしても双葉ちゃんはええ子ですわ。鬼道だけならボク敵いませんし、ご両親に似て美人さんやし、ボクの見たところによると奥様ぐらいのスタイルにはなりそ………………って冗談ですやん。ヨミちゃんもそんな怒らんといてや」

 

 

『次そんな事言ったら殺すから』

 

 

書類仕事をしていた筈の双護だったがいつの間にか自身の斬魄刀を解放しており、ギンの背後から現れたヨミがギンの首筋に刃を当てていた。

 

 

 

「ヨミちゃんが言ってくれたから僕から言う事は無いけど、とりあえず乱菊には報告しとくね」

 

 

「んな殺生な‼︎ちょっとした冗談ですやん‼︎」

 

 

「確かにギンに迷惑はかけてるけどそれとこれとは別問題だからね。もしあの娘に手を出すなら乱菊の同意と僕を倒してからにしてね」

 

 

「乱菊程じゃ無いけど双葉ちゃんもかわええからなぁ…………双護さんと本気でやり合えるならそれも有りですわ」

 

 

飄々とした口調で冗談なのか本音なのか分からない事がよくあるギンだが双護と戦ってみたいというのはギンが口にする数少ない本音の一つだ。

 

ギン自身双護に勝てるとは思っていないが、男として一度は本気で戦ってみたいと思っていた。

 

ギンも双護も霊圧を解放する事で備え付けられている机や箪笥などがガタガタと震え出す。しかし、ギンは突然霊圧の解放を止め、パンと手を叩く。

 

 

「ま、ボクって一途なもんで。そんな機会一生来る事あらへんです………………って、どうやらボクはお邪魔みたいですし、今日は早退させてもらいますわ。別に乱菊の機嫌取るつもりとかやないけど酒屋寄ってから帰りますわ」

 

 

「ギン、これ僕からのお詫び。明日返してくれればいから」

 

 

「おおきに、ほな」

 

 

隊首室の窓を開け飛び出していくギンに自身の財布を投げ渡す双護。

 

ギンは財布を受け取ると何処かへと消えていった。

 

ギンが窓から退出してから暫くすると、隊首室のドアをノックする音が響く。

 

 

「どうぞ」

 

 

双護が入室を許可すると双葉がドアを開けて入ってきた。

 

 

「ギンさ…………市丸副隊長は帰られたんですね」

 

 

「この前の事件で働き詰めだったからね。少し無理矢理だったけど早退してもらったんだよ。それで?わざわざ隊首室まで来たのはなんでなのかな?」

 

 

双護は書類を片付け、双葉の目を真っ直ぐと見つめる。

 

仕事ばかりの双護だが、家族の時間をとっていないかと言われれば答えは否である。日中は難しいが夕食は必ず夜一と双葉と3人で食べている。

 

その為、話であるなら双葉が隊首室へ出向かずとも家で出来る。それをせずにわざわざ隊首室へ来たと言う事はよっぽどの要件だと双護は考えた。

 

 

「まずは私の不手際で起きてしまった事件の後始末ありがとうございます。その上で私の我儘を聞いていただき感謝します」

 

 

「礼には及ばないよ。総隊長としては瀞霊廷の平和の為にそうするべきと判断したからそうしただけだから」

 

 

今回の事件の主犯である時乃は数週間の停学程度の処分になった。

 

同級生2人を殺害しており、艶羅鏡典の強奪や贈賄などおよそ停学程度で済むような物では無い。通常ならば被害者である双葉からの嘆願があったとはいえ、蛆虫の巣への投獄に相当する刑になる筈だった。

 

しかし、綱彌代本家の力を削る事を優先した結果、時乃は停学処分となった。

 

停学が明け、日常生活に戻ったとしても時乃の生活は今までのようにはいかない。人殺しの犯罪者というレッテルが一生ついて回る事となる。霊術院卒業後の進路、そしてその後の出世にも響く事になる。

 

霊術院生のうちに起こした犯罪であればそうした社会的制裁があれば投獄は必要無しとして中央四十六室を無理矢理納得させたのだ。

 

 

「まぁ、普段あんまり頼ってくれない娘の我儘くらい叶えてやりたいっていう父親心っていうのもあるんだけどね」

 

 

真面目な表情から一転して普段の温和な表情へと戻る双護。

 

双護は仕事とプライベートは切り分けるべきというのを信条にしているが、普段大半を自分で何とかしようとする娘が珍しく自分を頼ってくれて思わずはしゃいでしまった。

 

双護は本来、時乃を蛆虫の巣へ投獄するから霊力を剥奪した上で現世へと追放させるかの二択を考えていた。綱彌代本家への制裁とは別として考えていたのだ。

 

しかし、滅多に無い娘の我儘を叶えるべく双護は必死で頭を働かせた。ギンの「わざわざ投獄させんでもええんやないです?本家の動きを封じれば貴族なんて何も出来んですよ」という一言で決心したのだ。

 

 

「で?話ってそれだけじゃないよね?」

 

 

「うん。今回の件で決めた事があるんだけど、父さんにはちゃんと伝えとかなきゃって思ってさ」

 

 

双護が表情を崩したのを確認し、双葉も口調を崩す。

 

 

「私、父さんには護廷隊には入らないって宣言してたよね」

 

 

「そうだね、最初は反抗期とか思ったけど双葉が決めた事だから応援するって決めたし、そのスタンスはこの先と変わらないよ」

 

 

双葉は砕蜂の二番隊、京楽の八番隊、平子の五番隊からうちの隊にこないかと非公式ではあるがスカウトを受けている双葉。

 

その話を双葉に伝えると双葉は全力で拒否した。総隊長の娘という事で奇異の目で見られ、必要以上の期待が掛けられている双葉にとってそのスカウトは迷惑でしかなかった。

 

剣の才能が無く昇進が遅くなれば叩かれ、早く昇進すればコネという事で叩かれる。中途半端な自分が特別扱いされて良い筈が無いと拒否した。

 

そんな双葉にかけるべき言葉が見つからなかった双護は黙って双葉を応援する事にした。

 

双護自身そういった視線を気にしては居なかったし、そうした反論をねじ伏せるだけの力と自信があった。しかし、自分の才能に負い目を感じている双葉にそれを求めるのは酷な話である。

 

 

「私、護廷隊に入るよ。斬術の才能が無くても戦えるって事が分かったし、いつまでも才能が無い事に甘えて逃げてちゃ駄目だって思ったから」

 

 

「そっか、双葉が考えて決めた事なら応援するよ」

 

 

双葉は大抵の事を自分でやろうとし、あまり頼ろうとせず、周囲からの評価を気にして自分だけでなんとかしなければと考え込んでしまう事が双護の思う双葉の欠点だった。

 

 

(僕が時灘に感謝する日が来るなんてね…………お供物くらいはしてやるか)

 

 

しかし、その欠点を払拭するきっかけはあろう事か殺したい程ムカついた時灘の姪だった。

 

時灘本人とは大した関係は無いのかもしれないが双護は双葉が前に進めた事を時灘に感謝していた。

 

 

「よし、今日はもう仕事も片付いてるし久しぶりに僕が訓練みてあげるよ。斬術でも瞬歩でも鬼道の訓練でも何でも付き合うよ」

 

 

「じゃあ………….久しぶりに父さんと鬼ごっこがしたいな。抵抗、妨害有りで」

 

 

双葉はニヤリと笑うと指を弾く。すると突然双護を縛る鬼道が発動した。

 

そして更に手を翳すと六杖光牢が双護の動きを封じる。

 

 

「時間は晩御飯の前まで‼︎私が勝ったら今日の父さんのおかず全部貰っちゃうから‼︎」

 

 

満面の笑みでそういうと双葉は瞬歩で逃げた。双葉の姿が目では確認出来なくなったのを確認して縛道を解除する双護。

 

 

「あぁいうとこは夜一に似たのかな」

 

 

双護は小さく笑みを浮かべると双葉の霊圧を追って駆け出した。

 

その後数時間に及ぶ壮絶な鬼ごっこの末、朽木邸の壁と襖をブチ抜き親子共々白哉に説教される羽目に合った。

 

結果として、双護の勝利に終わったのだが、双葉の更には2人分のおかずが盛られていた。




随分と長くなりましたが、本作はこれにて完全に完結とします。

今後はリメイク版として新しく投稿していくので良かったら読んでください。
自分で納得いかなかったところとか、もっと出来たなって思うところを直して皆様に楽しんでもらえるような作品にしていくので今後とも万屋よっちゃんとこの作品をよろしくお願いします。


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