疑心暗鬼な親友と、たぶん呉牛喘月な私 (美羽様可愛いヤッター!)
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黄巾の乱
1


とりあえず恋姫を題材にして書きたかったから書いた。それだけです。
不定期の不定期です。


真に尽くしたいと思った主には命の危機になるような任務を言い渡されても、誠心誠意尽くすのが忠臣なんだそうだ。

 

「なので~、街の見回りと荒地の開墾、河川工事と城壁工事の監督をお願いしますね~♪」

 

「えぇ…(困惑)」

 

こんな無茶振りされても誠心誠意尽くすのが忠臣だ!と言うのなら、私は別に忠臣じゃなくて良いんだよなぁ。だからそんな無茶振りしなくて良いから…(良心)

 

――――

 

15歳になった日、両親や近所の人からもお祝いされていた私は足を踏み外して階段から転げ落ちた。石造りの階段に頭から落ちたのもあって私の意識は一瞬で飛んだ。

 

『ふむ。遂にこの時が来たか。娘っ子よ起きよ』

 

気付けば真っ白な空間に私は寝ていた。壁も床も天井も真っ白で何も無さすぎて気が狂いそうな部屋だったのを覚えている。

 

『まずは15歳の誕生日おめでとうと言っておこうかの。プレゼントは用意しておらんがね』

 

「ぷれぜんと?あなたは誰?」

 

なにやらよく分からない言葉を言っていたのは本に出てくる仙人の様な風貌の小柄なお爺さんだった。

 

『あぁ、そうか…。そうだったな。プレゼントと言うのは祝い事の時に相手へ渡す贈り物の事じゃよ。それでじゃ、ワシはのう神様じゃ』

 

「神様?」

 

『うむ。お主の今までを見守っていたのじゃよ。色々と申し訳ないから見守っていたと言うのが正しいがのう』

 

「? …私はあなたに何かされた覚えは無いのですが?それとも足を踏み外した件はあなたの仕業だったと?」

 

『それは主の責任じゃよ。本当は夢にでもお邪魔しようとしとったんだが丁度良い機会があったから早めに来ただけじゃ』

 

はえ~、なんのこったよ(無理解)

 

『ま、とにかくワシが今から言うことを聞くのじゃ。嘘偽り無い本当の話だから気を強く持てよ?』

 

おかのした。よくは分からないけれど私にとっては辛い話になるって事だと思う。理解全然出来てないけど…。まぁ、とにかく(重い話)いいよ、来いよ!

 

『主は前世を持った人間、いわゆる転生者と言うやつじゃ。元の人間は今から2千年先の未来で生きている青年じゃった』

 

え、何それは…(ドン引き)

 

『本来、転生させるならある程度の力を持たせたりするのじゃが彼は能力はいらないし、記憶や経験も必要ないと言ってきた。ただ1つだけ残して欲しいものがあると言ってきた』

 

…。

 

『彼は若くして天才と呼べる才能を持っていてのう。勉学も武道にも精通しており、老若男女に差別の無い非常に好青年じゃった。そんな彼の望みは何なのか気になったから快く引き受けたのだが…全ての『淫夢語録』と『レスリング語録』に関する記憶だけは残して欲しい、いや、魂に刻み付けて欲しい。と言うものじゃった』

 

いんむごろく?れすりんぐごろく?

 

『分からんじゃろうから一言で言うと未来で流行している言葉じゃな。彼はそれがあったから自分は今まで頑張ってこれたと言っていたよ。詳しくは本編見せてやるから理解してくれ。クッキー☆もあるから楽しみにしとくのじゃぞ』

 

「あ、おい待てぃ。大事なこと聞き忘れたゾ。…その才能って私に引き継ぎ少しも無いの?」

 

『無いのう』

 

あ ほ く さ

 

―――

 

何て事があった。原初の語録使いになりたかったとか言う傍迷惑な野望を持った前世を告げられ、気がつけば周りの風景は元に戻っていた。幸運なことに頭から落ちた割には傷1つ無かったらしい。

 

そこからはダラダラっと時間が過ぎていった。友達の七乃(張勲の真名)が袁逢様の所に文官として試験に行くって聞いたから多少は腕が立つからってことで私も武官の試験を受けた。

 

2人とも受かってテキトーに過ごしてたら袁逢様の娘である袁術様に一目惚れした七乃が本気を出し始めて、袁術様を利用しようとしてるのを片っ端から取っ捕まえて牢屋にブチ込んでいった。

 

その頃には私も空いた将軍の席に座れる程度にはなっていたので、助けを求められて賄賂がチョコチョコ来るようになっていた。私としては助けてもよかったけど、眼をギラギラさせている七乃にバレるのが怖くて金はアチコチ回して綺麗にしてから手元に、腐敗の根元達は七乃へと差し出した。

 

「さっすが私の親友ですねぇ~♪そんな感じでドンドン捕まえちゃってくださ~い」

 

大捕物が終わってみると軍の規模がガッツリ小さくなっていた。確認してみれば、おおよそ6割強が七乃に捕まって首と胴が泣き別れていた。中には先日まで隣で共に飯を食べていた初老の将軍の首もあった。チョロっと罪状を聞いてみれば3年前に横領をしていたことが発覚したんだとか…。

 

「今日も平和平和ですね~」

 

今日も夜に七乃と酒盛りをしているけれど、私は気付いている。最近、七乃が私の動向を探っていることに。そして今も周りに兵が潜伏している事に。

どうも我が親友は袁術様のためならば誰彼構わず消そうとする覚悟があるようだ。参ったね。

 

「平和だしさぁ、七乃っち。兵下げてくんない?」

 

「えぇ、明日も平和なら下げますよぉ?」

 

ファッ!? ニッコリと笑ってこっちを見ているけれど、目がマジだった。お前は裏切らないよな?という圧をバリバリ感じる。

 

「大丈夫。明日も平和さ」

 

「陳紀さんがそう言うなら平和なんでしょうねぇ~。皆さ~ん今日は解散で良いですよ~」

 

1つまた1つと私を見ていた視線が減っていく。重く張り詰めていた空気も緩んだのを感じたから警戒は解いてくれたっポイ。

 

「明日からも美羽様のために頑張りましょうね?」

 

おう、考えといてやるよ。なんて言うとK(禁固)B(罰則)S(処刑)って感じで!になるのでちゃんと協力する姿勢を見せるが吉と見た。結果、後世に悪名が残るかもしれないけど今を生きるのが大事に決まってるだろ!いい加減にしろ!だから覚悟決めろ。

 

「おっ、そうだな」

 

七乃っちから笑顔が消えたぞ…。これはダメみたいですね…(諦観)

 

「明日は袁逢様の元配下を漁るから手伝ってくださいね」

 

まさかの明日の予定についてだった。さて、明日からの仕事が終わったときに何割残ってるのやら…。頼むから私を過労死させない程度には残っていてくれよ?



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2

本来なら袁紹軍所属の武将が名前だけですが何人か出てきます。
袁家の跡継ぎ争いで美羽様派になった人達ってことで出しております。


「はい処刑、処刑、処刑~♪」

 

 家捜しの成果を報告に来たら、楽しげに赤い✕印をポコジャカ量産している親友を見せられている。汗と体の震えが止まらないぜ…。一昨日は意外と仲の良かった同族の陳震が、昨日は私に兵法を教えてくれている郭図と審配が街の中央で見せしめに吊るされた。郭図に至っては妻子も捕らえられ、今もなお投獄されている。

 

「ん~、後は証拠不揃いですね~」

 

 怒涛の✕印は終わったようだけど、七乃はさっさと不穏分子を消したいらしく不満気な顔をしている。横領、恐喝、強姦…今までに挙げられ消された連中は確かに罪人だった。投獄は分かるけど、処刑までする必要があったのかと言う疑問が日に日に大きくなっていく。

 

「陳紀さん、この人達なんですけどいけますかぁ?」

 

 差し出された竹簡に眼を向ければ、少し前に庇護を求めてきた連中の名前が載っていた。どこに七乃の眼があるか分からないってのに人の家の前で騒がれていたのは流石に肝が冷えたし、死を覚悟してしまったよ。

 ジッと私を見ている七乃は私の反応を確認している。その眼はここ数年で始めて見るほど冷たく何の感情も感じられず、何を考えているのか読み取れない。でも何が求められてるのかは付き合いから大体分かる。ここに書かれている連中を処刑できる証拠を探してこいと言っているんだ。

 

「…コイツとコイツ、あとコイツもかな」

 

 見せかけで超ビビってるな? そうだよ(自問自答)

 自分はもうすぐ捕まるだろうから託す。と無理矢理渡された反袁術派の血判書を差し出そう。そもそも自分は拒否してたのに『将軍の力をお貸しください!』としつこく迫って押し付けてきた連中が悪いのだ。

 

「流石ですねぇ~、何か動きあるのを掴んでました?」

 

「うん、まあね」

 

「凄いですね。参考までに何処から情報仕入れたんですか?」

 

「あー、秘密…かな」

 

 これ以上、詰問されたら(ボロが)出、出ますよ…。

 サッと席を立ってチャカチャカ部屋を出てきたけれど絶対怪しまれただろうなぁ~。とにかく血判書を取りに家へと向かう。

 ここ最近、よく仕事を回してくれるから一応は信頼されてるんだと思いたいけれど、ああも街中で吊るされてる人を見てると私も何時かは仲間入りするんじゃないかと不安になってくる。

 当面はとにかく信頼と功績を挙げて、役に立って切るには惜しいと思われるような存在になるのを目標にしていこう。そうすれば命の危機を感じないで安心して過ごせるハズなんだ。

 

「おお!将軍!この様なところでお会いできるとは!」

 

 家まであと少しと言ったところで七乃の処刑したい一覧に載っていた陳蘭がいた。私や陳震と同じ陳一族だし助命嘆願してやろうと思っていたけれど、やけに偉そうでムカつくしコイツも反袁術派の一員で私を引き込もうと大分チョッカイを掛けてくる。

 結論から言うと同族の情けよりも私怨の方が上回っているので、引っ捕らえられたら即切り捨てる事にした。それまでは精々、情報を引き出して七乃へのお供え物にさせてもらおう。

 

「こちらの手筈は整っておりますぞ。いつあの小娘供に思い知らせてやりますかな?」

 

 はぁ~(クソデカ溜め息)、何故かは知らないけれど、コイツは七乃を出し抜けていると信じてやまない。何が刺さったのか反袁術派のアチコチとコネがあるコイツは纏め役みたいな立ち位置なのかな?とにかく会合だ何だとよく私にも誘いを掛けてくるし、集まりの日程も教えてくれる。

 

「陳紀殿を重用するのは分かるが、武に関してはワシの方が優れておるのに気付かぬとは大将軍として情けない!そう思いませぬかな?」

 

 あ、ふーん(憤怒)

 後方指揮しかしないような貴方に一番槍で最前線にいる私が劣る、と。

 何百もの兵を犠牲にして鍛えられた私の武を、捨て駒のように兵を死なせるお前がバカにするだと?

 

 あったまきた、もう許さねぇからなぁ?陳一族とか関係無いわ。コイツが繋がってる反袁術派も道連れにしてやろう。街中で命乞いしながら愉快なカラス避けになるのを拝んでやる。

 

「陳蘭殿、七乃はアンタを吊るす材料を探してる。あんまり派手に動くと何処で見られてるか分からんぞ?」

 

 例えば私とかな。

 

「はっはっは!心配無用!この陳蘭、小娘に恐れなど成しませんぞ!」

 

 あっそ。どんな言い訳して処罰から逃れようとするのか楽しみにさせてもらおうか。可能ならお前の死を切っ掛けに私が生きるための糧になる情報が転がり込んでくることを願って。

 

「あいよ、これで吊るせるか?」

 

「…フムフム。これなら完璧ですね~」

 

 さようなら、陳蘭殿。

 

 ―――

 

「んぎゃあああ!?」

 

 翌日、ニコニコと七乃が兵を連れて陳蘭含めた反袁術派を芋づる式に引っ捕らえに行った。序でに空きが出きるところに信頼できるのを入れたらしいけど、今の声からして『紀霊』が昇格したらしい。

 

「やばたにえん…。陳紀さん、私が将軍になっちゃいました…。陳紀さんの副将だから仕事も少なくて楽できてたのにー!」

 

「おめっとさん。七乃には楽できないよう仕事回してって言っとくから」

 

「待ってくださいよぉ!私って全然読み書き出来ないんですよぉ…。副将やりながら少しずつ勉強してたんですから、突然将軍やれって言われても書簡整理から出来ないんですってば!」

 

 面倒だから立ち去ろうとすると、私の視線が何時もより高くなっていた。腰には紀霊の腕が回され、私より背が高いのを良いことに抱き抱えるように捕まえられていた。

 

「陳紀さん、お願いだから私の書簡処理手伝ってくださいー!新人の育成だと思ってお願いしますよー!」

 

「分かったから早く下ろせ!私が小さいように見えるだろ!」

 

「マ?やったぜ」

 

 ポスッと地面に下ろされた私の前で紀霊が小躍りして喜んでいた。金髪、褐色肌、よく分からないけどド派手な化粧と初見のヤツは近寄りがたい見た目をしている。訳を聞けば田舎から出てくる時に仲の良かった友達から『阿蘇阿蘇』とか言う雑誌で流行りだと教えてもらったらしい。

 

「睨んで凄んでも陳紀さんは小柄で可愛いだけですよ?」

 

「お前がデカいんだよ」

 

 え~!とか言ってる目の前のコイツは少し前に6尺より少し足りないくらいとか言っていた。私なんて5尺にあと2寸足りないのに…。背が低いとか言われてる七乃だって5尺3寸とか言っていたっけ。現状、軍の中で私より背が低いのは主君である袁術様だけってのが悲しい。

 

「ひとまず陳紀さん、明日から手伝ってくださいね!頼みますよー!」

 

 そう言って紀霊は廊下を走って行った。私も読み書き得意じゃないのに人の仕事も面倒見ないと行けないのか…。紀霊は兵からも人気だし、珍しく七乃も重宝してるから手元に置いておこうと思ったんだろう。

 

「兵に人気があって重宝してる…。まさか、な」

 

『一緒に頑張りましょうねぇ、陳紀さん』

 

あの言葉を信じてるのは私だけとか言わないよな?



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3

真恋姫はプレイしましたが革命は未プレイなので、孫堅ママの言葉遣いとか分からない…。


 

「陳紀さん、紀霊さん誘って食事に行きませんか?」

 

 兵の調練と書簡処理が終わって部屋で休息を取っていたら七乃が袁術様と一緒に部屋を訪ねてきた。寝台でダラッと寝そべっていたので慌てていると昼食の誘いに来たらしい。なんでも、最近出来たと噂の飯屋だとか。

 

「私も一緒で良いんです?」

 

「うむ!七乃の友なら歓迎じゃ!それに陳紀が護衛なら安心出来るからのう!」

 

「そう言うことです。ほらほら、チャッチャと準備してくださーい。正門集合ですからね~」

 

 そう言って袁術様と七乃は出ていった。袁術様と食事って事はアレだよな、暗殺者みたいなのが来ることを想定して守れるようにした方が良いよな?なら弓持ってくか?いや、食事処に弓なんて持ってったら邪魔だよなぁ…。

 

「陳紀さーん!準備できましたか?そろそろ行かないと袁術様と張勲様に怒られますよー!」

 

「はいよー」

 

 持ち物を考えていると、ドンドンドンと部屋の扉を叩く音と紀霊の催促が聞こえてきた。小回りと仕舞い易さを優先して短剣を持っていこう。それなら邪魔にはならないし。用意も出来たから扉を開けると、得物である十字槍を担いだ紀霊が待っていた。

 

「あれ?弓持ってかないんですか?私も護衛しますけど過信されたら困りますよ?」

 

「いや、短剣は持ってるから大丈夫かなって。ご飯食べるときに邪魔でしょ?」

 

「逃げられた時を考えたら陳紀さんは弓あった方が良いですって。私の槍じゃ屋根の上とか無理ですし」

 

 …確かに一理ある。短剣だけだと対処しきれない事態が起きたら確かにお仕舞いだ。なら、邪魔になっても良いから弓を持っていくべきか。

 

「うん、なんかその通りな気がしてきたし弓も持ってくわ」

 

「その方が良いですよ」

 

 部屋へと戻り弓と矢筒を手に取る。鉄製の矢をブッ放す用に作られた特注の鉄弓は木製の物より当たり前だけど重い。それに素で引くにはクッソ硬いから気功に頼る必要があるけれど、その代わりに威力と飛距離は半端じゃない。

 

「うっし!行こうか。正門で集合らしいから急ごう」

 

「かしこま!」

 

 ビシッ!と敬礼した紀霊と一緒に正門へと急ぐ。最近は七乃の眼にビビりながら過ごしてきたけど、こうやって昼食に誘ってくれるなら少しは警戒が和らいだんじゃないだろうか?

 

「むー!遅いのじゃ!」

 

「遅いですよ~。これは陳紀さんの奢りですかね?」

 

「ファッ!?…余り高くなければ良いですけど」

 

 将軍ではあるけれど武器の都合上、戦闘があると出費が激しくなる。繰り返し使ってはいるけれど段々、矢に歪みが出て精度が悪くなっていくので替えが必要になってくるのだ。

 

「その追加分を昨日出したから懐が少し、ね…」

 

「あー、足りなかったら私も出しますよ?」

 

 持つべきものは一番槍で突っ込む戦友か。それに何だかんだ足りなかったら七乃も出してくれるに決まってる。昔から奢り奢りと集ってくる癖に自分の分はチャッカリ払ってたりするし、余裕ある時なんか半分出してくれた時もあったくらいだ。

 

「ここじゃな!」

 

「ここですね~」

 

「…ところで紀霊、コイツを見てどう思う?」

 

「スゴく、大衆食堂です…」

 

 え、本当にここであってるの?新しく出来たからか随分と小綺麗な店だけど、民も普通に利用してる食堂じゃんか。これなら余裕で足りるだろうけど、ここで袁術様飯食うの?

 

「何にしても人多いっすね」

 

「飯時だしね、仕方無いね。袁術様に七乃、外の席でも良い?中だとかなり込み合ってて席取るのもキツそうだけど」

 

「外ですか…。まぁ、良いと思いますよ。美羽様もそれで良いですか?」

 

「時には外で食うと言うのも面白そうじゃ!良いぞよ」

 

 人混みを避けて店外にある席を確保する。通りにも面して見渡すのも容易だから紀霊に護衛を頼んでおこう。変なのがいればアイツは見逃さないだろうし。

 

「んじゃ紀霊、護衛よろしく。美羽様と七乃は何食います?何でも良いならいつもの感じで行きますけど?」

 

「いつもの感じとな?」

 

「美羽様、陳紀さんはこういう時頼りになりますから任せておくと良いんですよ~。午後もありますし余り重くないと良いですねぇ」

 

「はいはい、余り重くないのね」

 

 ほんじゃ、注文しに行きますか。

 

 ―――

 

「張勲様って陳紀さんと仲良いんすね」

 

「七乃で良いですよ?まぁ、小さい頃からの付き合いですからねぇ」

 

 陳紀さんが注文しに行ってる間は私が護衛を。と事前に決めてたから周囲に警戒しつつ、ちょっと気になっていたことを聞いてみた。反袁術派を処刑し続ける冷酷な人と兵や民に人当たりの良い温厚な人。正反対な性格してるのに、2人が共に行動している姿がよく見られてるからか『陳紀さんが弱みを握られている』とかいう根も葉もない噂が飛び交っていたりする。

 

「七乃、紀霊と陳紀は信じて良いのじゃな?」

 

「紀霊さんは大丈夫ですよ。裏の繋がりがないのは確認済みですし、友人関係にも不穏分子ありませんでしたから」

 

 どうやら私も監視されていたらしい。陳紀さんに人付き合いは気を付けろって何度も注意されてた意味が漸く分かった気がする。あの時の注意は今生きていられるか、吊るされているかの運命を左右するモノだったんだ…。

 

「…陳紀さんはまだ難しいですね。私としては友達ですし信じたいんですけどね」

 

 七乃様は机に頬杖を付きながらチラリと列に並んでいる陳紀さんの背中を見つめていた。その眼には珍しく悲哀とかの感情が宿っていた。

 

「七乃ー!焼売と餃子で良い?」

 

「それで良いですよ~!」

 

 声を張って聞いてきた陳紀さんに、これまた珍しく声を張る七乃様。そんな姿を初めて見たのか袁術様も眼を丸くしている。

 

「あの人自身は良いと思うんですけど、関わりを持っている人達が問題なんですよ。血判書を押し付けられたり助命嘆願を依頼されたりしてるみたいですから」

 

 その視線の先では唐辛子まみれの『何か』を頼んでいる陳紀さんがいた。…何だアレ

 

「ほい、おまちどおさまっと。これ七乃と袁術様のです。これはもちろん私のね」

 

「またソレですか?いい加減やめないと体壊しますよ~?」

 

「大丈夫大丈夫。こんぐらいなら余裕余裕。…あ、レンゲ無いや」

 

 もう一度列の中へと戻っていく陳紀さんの背中をジッと見つめる七乃様。信頼、疑心…。色々な感情が見え隠れしている。

 

「だから紀霊さん。陳紀さんをお願いしますね?」

 

 こっちを向いた時にはいつもの笑顔に戻っていた。何も読み取れない笑顔に。

 

 ―――

 

「あー、暑い」

 

「あんだけ唐辛子食ったら暑くなるに決まってますって」

 

 いや、ビタビタってスゴいや。1口運ぶ度に凶器と化した辛さが口の中を何度も焼き払い、飲み込めば喉を焦がし、今も腹の中で燃え盛っている。でもそこを乗り越えた先にある深い味わいが手を止めることを許さない。

 

「これが食欲増進ってヤツか」

 

「違うと思いますよ~」

 

「う、美味いのかの?…陳紀よ、妾も1口」

 

「美羽様は食べちゃ駄目ですよ~。あれは人が食べる物じゃありませんからね~」

 

 アァンヒドゥイ

 

「隣、空いてるかい?」

 

 突然掛けられた声の方を向くと、何がとは言わないがデカい人がいた。紀霊みたいな褐色の肌に桃色の長い髪、やたら布面積の少ない扇情的な赤い服、そしてソレを押し上げる巨大な山脈。…半分私にくれないかな?

 そんな艶やかな見た目よりも際立つのは獰猛で鋭い目付き。あれは虎の様な肉を食う獣と同じ眼をしている。

 そして何より、強い。お盆を持っているだけなのに戦場いるような気配がビシビシ伝わってくる。

 

「ええ、私の隣で良ければ」

 

 出来るだけ袁術様と七乃から遠い席に座らせ、壁となるように私が真横に座る。対面に紀霊が陣取ることで私にもしもがあっても対処してくれるだろう。

 

「そんな警戒すんな。ここじゃ何もしねぇよ。さて、と袁公路殿と配下の方々とお見受けする」

 

 突然の言葉に紀霊は呆然、私は唐辛子を飲み込む途中で止まってしまった。瞬間、とんでもない痛みが鼻を喉を刺激して咳き込んでしまった。喉の刺激を排そうと咳をすればソレが更に喉を刺激する無限地獄へと叩き落とされた。

 

「私が意見できる立場で無いのは重々承知しているが、可能ならばどこか人目のつかぬところでお話しできないでしょうか?」

 



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4

孫堅ママって一人称オレなんですね…。

結構無理矢理ですけど、それでも良ければ


声を掛けてきた謎の女性は孫堅文台と名乗った。

孫堅と言えば『江東の虎』と呼ばれ、どっかの警備隊長だかに任命されていたハズだ。朝廷にいる朱儁が最近出てきた黄巾賊とかいうのを討伐するのに声を掛けたとかで話題になっている武に優れた人だとか。

 

「で、その話題の人が何をしにここへ?」

 

「あぁ、朱儁に呼ばれて顔を出す途中に噂を聞いてね」

 

「噂?」

 

人目のつかない場所で選ばれた七乃と袁術様の執務室へと通された孫堅へ茶と菓子を出しながら、私は重要性の高い書簡を棚へと仕舞う作業を、紀霊は誰が来ても通さないよう扉の前で見張りをしている。

突然の事態だったので机上の片付けもされておらず、軍備拡張だのの書簡が出しっぱなしのままだった。

 

「強盗、殺人は当たり前。裏路地は死体が転がる死の街があるってね。そりゃどんな街だよって興味が湧いたのさ」

 

「…なるほど」

 

「なんじゃその噂は…」

 

七乃は苦い顔を、袁術様は聞いたことがない噂に首を傾げていた。今でこそ七乃の大粛清で改善へと向かっているけれど、私と七乃が来た当時は噂通りの魔境だった。

 

「それがどうだ。いざ街へ来たら道行く人は笑顔だし、裏路地も見てみたが猫くらいしか歩いてない。広場にはデケェ絞首台みたいなのがある。何がどうなってんだって話よ」

 

「袁術様も七乃も頑張りましたからね。あの絞首台は噂の元になってる連中への牽制ですよ。何かやったら吊るすぞってね」

 

「待て、待つのじゃ!妾はそんな噂を聞いたことが無いぞよ!」

 

私が絞首台の説明をしていると、話に付いていけていない袁術様が声を挙げた。

 

「…秘密にしていた訳ではありません。伝える必要性が無いと判断して伝えていなかっただけです」

 

「ハッ、知らぬが仏ってヤツかい?世間では無知は罪らしいぜ?」

 

苦い顔をしたまま七乃は袁術様へ説明をする。それを聞いた孫堅は呆れたように鼻で嗤った。

 

「…ならば最近、審配や郭図、高覧に雷薄を見ぬのは」

 

「…私に陳紀さん、紀霊さんで彼らの証拠を掴み吊るしたからです」

 

「…そう、か。妾はもう休む故、話はお主達で進めて良い。それと七乃、妾は暫くお主の顔を見とうない」

 

そう告げた袁術様はフラフラと部屋を出て行った。いつもより小さく見えた背中を見送る七乃は珍しく涙を流していた。袁術様を救うまでは泣く暇なんて無い!なんて決意を固めていたけれど、袁術様本人から言われたらソレも揺らぐか。

 

「ありゃ、袁術殿行っちまったな」

 

「…あなたが、あなたが美羽様に余計なことを言わなければ!こんなことにならなかったんだ!」

 

他人事のように言った孫堅の言葉に七乃が激怒しバン!と執務机を叩く。視線だけで相手を殺せるなら孫堅は既に何回も殺されているだろう。それ程までに七乃の眼には怒りと憎しみが籠められていた。

 

「七乃!落ち着けって!」

 

「そうそう。冷静になって貰わないとオチオチ話も出来やしねぇ」

 

「孫堅殿は少し黙っていてください!」

 

冷静さを失い暴れる七乃を羽交い締めにしていると、そこへワザとなのかそれとも天然なのか自ら火に油を注いでいく孫堅。それを聞いて更に暴れる七乃。

普段は理性的な癖して少し冷静さを欠くと七乃はこんな感じに激情にかられる。

 

「…陳紀さん、もう大丈夫です。落ち着きましたから」

 

「本当に?この場で頭良いの七乃しかいないんだし頼むよ」

 

「ええ、分かってますよ」

 

少し暴れて落ち着いたのか怒りは残っているけれど理性的な眼に戻っていた。しかし孫堅を見る眼は変わらず怒りと憎しみに燃えている。

 

「で、何でしたっけ?美羽様に余計なことを伝えた孫堅さんは都に呼ばれてるんですよね?早く行けば良いじゃないですか」

 

これ以上、話しているのも嫌になったのか七乃は、早く出ていけ。と伝えるが孫堅は冷めた茶を飲み菓子を頬張っている。

 

「ハハハ、嫌われたもんだなぁ!んで、重要な話というか本題はこっからなんだが」

 

笑っていた孫堅は笑みを消すと、空気が張り詰めた。それでも眼は出会った時から変わらず爛々と得物を狙う虎のように輝いている。

 

「この戦、いや乱か。それが終結した際にオレらを食客でも何でも構わねぇから軍に入れて貰えねぇか?」

 

「…はぁ?」

 

「今回は呼び出されたから行くが、娘達は寿春に残してるし朱儁の犬になるのはゴメンだ。だからって今の領地もアッチコッチで黄巾が出てるから村も何もボロボロ、それにウチの軍師とオレの勘がこの後もデカい戦が起きると読んでる」

 

孫堅が言うとそれまで黙って聞いていた七乃がピクリと眉を動かした。え?今ので何か分かったの?私には只の愚痴にしか聞こえてないんだけど…。

 

「だったら近くて確りとした軍に加わるのが一番だろ?そっちは強い配下に優秀な軍師と土地が増える、オレらは軍に属するから呼び出されず家族でいれるし援助も貰える。互いの利になると思うぜ?」

 

現状、武官も文官も減った私達にとってはとても嬉しい提案な気がする。七乃だって戦場では策を練って軍を指揮して剣を振ってと八面六臂の働きをしてるのだから、その負担を減らせるし、人手不足で埃を被っている土地の開墾も着手出来るようになるハズだ。

 

「少し協議しますから今は保留で」

 

「ま、そりゃそうだわな。どうせ当分は治まらんだろうし、ゆっくり考えてまた後で答えてくれりゃ良い。ただ、オレ達は恩義には恩義をもって報いる。絶対にだ」

 

それだけさ。そう言って茶と菓子を食べきると、御馳走さんと言って執務室から出て行った。後に残されたのは目を瞑り顎に手を当て考える『軍師』の七乃と、七乃の返答を待ちながら茶を啜る私、喉乾いた~と言って入ってきた紀霊の『護衛担当』2人だった。

 

―――

 

「どう思います?」

 

「どうって、さっきの?」

 

「はい」

 

七乃が少しも動かず考えはじめてから半刻が経つ頃、漸く目を開けたと思えば私と紀霊に意見を求めてきた。

 

「え、どうって…。陳紀さんはどうっすか?」

 

「え…どうって言われても…ねぇ?」

 

いつの間にか自室から持ってきた『阿蘇阿蘇』を読んでいた紀霊は戸惑いながら私へ振ってくる。私だって七乃に薦められた兵法書を読んでたから全く考えてなかった。

 

「人がいないのは事実だし、受け入れても良いんじゃないの?…あれ?ダメ?」

 

「あっぶね、同じこと言うとこだった」

 

思ったことを答えたら七乃は笑顔で額に青筋を立てていた。てか紀霊のヤツ、同じこと考えてたなら私が睨まれる前に同調しろよ。

 

「前々から思ってたんですけど、陳紀さんと紀霊さんってちゃんと考えて発言してます?その首に乗ってる頭は飾りじゃないですよね?」

 

ひでぇ言われようだ

 

「受け入れるのはアリですけど、無償で受け入れるのは流石に無しですねぇ。…保険で家族か配下を陳紀さんと紀霊さんの補佐にでも付ける条件付きとか良いかもしれませんねぇ。その辺は後日、…美羽様を加えて考えましょう」

 

「そうっすね。まずは袁術様と七乃様の仲直りが先っすわ」

 

「重い空気の執務室とか行きたくないから早く仲直りして」

 

「…善処はしますよ」



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4.5

「走れ走れ!あと一周!」

 

『はい!』

 

練兵場に響く陳紀さんの声。その声に応えるのは陳紀さんと私の兵士達。今日は私が陳紀さんに頼んで訓練内容の勉強をさせて貰っている。

ほんの数日前までは今走っている兵と一緒に走っていた私は、唐突な昇格で走らせる側へと代わってしまった。突然すぎて右も左も分からないから真っ先に陳紀さんに泣きつ…相談したら、場所と武具の使用手続き、訓練日時と内容の通達など事前に行う手続きを手取り足取り教えて貰った。

 

「いや、将軍って大変すね。副将やってましたけど一般に毛生えた程度だからダラダラ出来てたんですね。これじゃ化粧直す余裕も無いっすわ」

 

「バカ言ってないで覚えれた?」

 

覚えたか?と言われるとどうだろう。手順なんかはその都度、携帯してる竹簡に書き込んではいたけれど頭には入りきってない。見ながらなら多分、手続きなんかは出来るハズ…。

 

「コレ見ながらなら手続きは何とかなるんじゃないかな~って思います。多分ですけど。内容を考えろって言われたら無理ですけど」

 

「内容ねぇ。私だって内容なんか余り考えてないけど?走り続ける体力と攻めを捌く守りの技術。戦で生き残るのに大切な術を高めさせてるだけだし。…よし!次は盾と木剣持って2人組になれ」

 

生き残らせる術、か。余り考えたこと無かったな。敵は斬って陳紀さんの指示に通りに動く、ただそれだけだった気がする。

 

『前々から思ってたんですけど、陳紀さんと紀霊さんってちゃんと考えて発言してます?その首に乗ってる頭は飾りじゃないですよね?』

 

先日の七乃様が言った言葉を思い出した。言われた時はムカッてしたけどよくよく考えたら言い返せない。だって、私は指示に従っているだけでソコに私自身の考えは無かったから。

 

「守る側は抜かれないように、攻める側は防がれないように色々考えながら打ち合うように。んじゃ、開始!…ほら紀霊、私らもやるから準備準備」

 

「…あ、はい!」

 

気落ちしてないで気持ちを入れ替えよう。気付くことが出来たんだったら今から変えていくことだって出来るハズ。

 

「うし!行きます!」

 

「おお?気合い十分じゃん。かかってこいや!」

 

―――

 

「…暑苦しいですねぇ」

 

吹っ切れた紀霊さんと、陳紀さんの打ち合いを見ていましたけど、本当に暑苦しいですねぇ。あれで友情とか絆が深まるってんだから頭の中まで筋肉の人達は楽で良いですよ。

 

「…小さい頃は私がいたハズだったんですけどね」

 

私の隣にはいつも彼女がいて、彼女の隣にはいつも私がいて毎日一緒に遊んでいました。ちょうど今の陳紀さんと紀霊さんの様に気兼ね無く…。気が付けば彼女の隣には紀霊さんがいて、私の隣には美羽様がいました。

 

「あの人が変わらなすぎなのか、私が変わりすぎたのか…。いつも近くにいるハズなのにスゴく遠い所へ行ってしまった気もしますね」

 

だからと言って今さら昔のように戻りたいとは思いません。戻ってしまったら私がやってきた事、その全てが無駄になってしまう気がします。

 

「本人に言ったらそんなこと無いって言われそうですけどね」

 

『一緒に頑張りましょうねぇ陳紀さん』

 

『もちろん!七乃に負けないように頑張るさ』

 

「…また一緒に笑いあえたりしたら…。ダメですね、切り替えなきゃ。先ずは美羽様を何とかするのと」

 

今朝届いた竹簡を懐から取り出して中を見ますが、あの孫堅が言っていた通り治まる気配がしないじゃないですか。それどころか範囲が広がってますし…。

 

『黄巾征伐に参戦されたし』

 

お2人が一生懸命訓練してる軍の力試しにちょうど良いと思うんですけど、冀州というのが難点ですね。かなり遠いですし、何と言っても

 

「美羽様と袁紹さんを会わせたくないんですよねぇ。それに陳紀さん連れてくと、また消さないといけない余計なのが釣れそうですし」

 

ただ、参戦しないと周りからの心象は間違い無く悪いでしょう。それこそ孫堅が不参戦なのを良いことに『朝廷への反逆』なんて言って攻め込んでくるなんて事もあるかもしれません。

 

「名代として私が出て、お2人のどっちかを守備に当てれば良いですかね。今の美羽様にはお気持ちの整理をして頂きたいですし、その為にも遠征させる訳にも行きませんからね」

 



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5

主人公の戦闘スタイルは一騎で当千の典偉ちゃんです。




「漸く半分くらいですかね」

 

朝廷から正式な黄巾討伐の勅命が出たらしく、袁術軍も参戦することに決まった。とは言えど、前回の一件から袁術様と七乃の間は顔見せはするけど率先して話そうとはしないギクシャクして重苦しい仲のまま。

時間があれば何とかなる。と七乃が言うので特に関わりはしていないものの、ホントかよ?と日々思う。

 

「急いで飛ばしすぎないようにしてくださいね~」

 

そんな傷心中の袁術様を連れて行くのも憚れたので、みょーだいって言うので七乃が代わりに行くらしい。みょーだいって何?って聞いた時の七乃の顔は笑顔じゃなくて久しぶりに見る本気の困惑顔だった。

 

「馬持ってこなくて良かったんですか~?」

 

「…それさ、足届かないの分かって言ってない?」

 

テクテクと七乃の乗る馬に負けない速さで隣を歩いていると、珍しくニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた七乃が話し掛けてきた。いつもはよく分からない笑顔を貼り付けていたのに私や紀霊に対しては意外と素を見せ始めている気がする。

 

「なんか陳紀さんとこうして歩くの久し振りな気がしますね」

 

「確かに。何だかんだ互いに忙しいわ、袁術様と仲違いするわで機会が無かったっけ」

 

「…それ持ち出すのはズルくないですか?」

 

「なら早く仲直りして」

 

人の気にしてることをネタにするならコッチだってお返しするのが私流。そんなジト目で見てきても振って来た七乃が悪いのであって、私は絶対悪くない。

 

「…守備隊のついでに美羽様の話し相手も頼んじゃいましたけど紀霊さん大丈夫ですかねぇ。性格とか考えると前に出て戦うのが得意そうでしたし籠城戦出来ますかね?」

 

「攻めてきたら籠城しろって伝えてあるんでしょ?事前に言われてるならアイツは出来ると思うけどねぇ」

 

露骨な会話変更だったけど、気にせずそのまま会話を続ける。何だかんだ突撃思考の私と紀霊だけど、突撃が得意なだけであって籠城しろと言われれば人並みかそのくらいには出来ると思っている。実際は経験無いから想像でしかないけど。

 

「伝令!前方から黄色い布を巻いた1団が接近中!黄色い旗に程と鄧の文字!」

 

「…誰?」

 

「知りませんよ。聞いたこと無いですし黄巾賊じゃないですか?」

 

「なーるほど。数は?コッチより多そう?」

 

「…私が見た限りでは倍近くかと思います」

 

コッチが3000でそれより倍くらいで6000。最悪を考えて8000って可能性もある。森とかなら兎も角、平原で会いたくはなかったなぁ。

 

「出来るだけ被害が出ないように避けるか」

 

「陳紀さんと紀霊さんの成果を確認するのにちょうど良さそうですね。手始めにその分からない1団を潰しちゃいましょう」

 

「…それ本気?倍だよ?」

 

「今から行くのは敵の本隊ですよ?倍程度で怯んでたらダメじゃないですか」

 

「……そりゃそうかもしれないけどさ。分かったよ、前哨戦と行くか。お前ら!戦闘準備だ!訓練の成果を見せてやろうぜ!覚悟決めろ!」

 

さて、気合い入れたし私も弓の用意をしよう。本当は専用の道具があれば良いんだけど生憎、弦を張るので苦労するのは私の弓くらいだからか、使い途が無いって事で提案は却下された。

だから弦を張るのは手と足でやらなきゃ*1だけど、如何せん背が低いからかメチャクチャ苦労する。馴れるまでは弦が外れて跳ね返ったり、跳ね返ったのが顔にベチンと当たったりと痛い想いを良くしたものだ。

 

「準備完了!軍師七乃、どうすれば良い?指示をください!」

 

「あの立派な鎧着て馬に乗ってる人を射抜いてください。あとは適当にやっちゃいましょう」

 

「…え、それだけ?兵法書にあった鶴翼とか鏑矢とかの陣形は?」

 

「…その訓練ってしたことあります?私見た覚え無いんですけど。そもそも地形に適した陣形とか理解してます?」

 

「…了解しました、軍師殿。そんじゃ、いっくぞー!」

 

―――

 

それは突然だった。官軍に連戦連勝を重ね、意気揚々と進軍していると前方から『袁』と書かれた大きな旗と張と陳の旗を掲げた軍がやってきた。

この辺りの軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ、1合も打ち合うことがなかった。だが前から来る軍は自分達を見ても逃げる素振りを見せない。

 

「ちょうど良い。久し振りに暴れるとしよう!身の程を分からせてやれ!」

 

馬の腹を蹴り、副将である鄧茂が真っ先に飛び出していく。腕が立つヤツが兵よりも早く敵陣へと切り込み撹乱させる。ソコへ兵が雪崩れ込み敵を蹂躙する。

このやり方で幾度も官軍を打ち破ってきた。だからこそ、ヤツが飛び出した時点で価値を確信していた。

 

「そんじゃ、いっくぞー!」

 

そんな声が微かに聞こえたような気がした時には鄧茂の頭を細い物が貫いていた。続けて腹に激痛が走ると馬がグラリと揺れ、地面へと投げ出された。

 

「いてぇぇぇぇ!?」

 

腹を見ると見たことの無い捻れた羽根の付いた鉄製の矢が俺を貫いていた。

 

―――

 

「あ、外した」

 

「…何してるんですか、当ててくださいよ」

 

「60間くらいあるし許して」

 

先頭に出てきたヤツとその脇にいたのを狙ったら片方は頭を射抜けたけど、もう片方が少し遠かったっぽいようで、乗ってた馬の頭を撃ち抜いたようだ。ただ、悶えてるようだから腹かどこかに当たったんだと思う。

 

「さて、向こうが慌てふためいているうちに私達も迎え撃つ準備をしましょうか。先頭には何を持たせますか?」

 

唐突な質問に少し悩んだけど、私や紀霊目線で考えたらアレしかない。

 

「…剣とか?」

 

「盾です」

 

違いました。

 

「盾兵前へ!おら、早く早く!…次は?」

 

「槍ですかねぇ」

 

「槍持ってるの盾持ちの後ろに付け!長いのでも短いのでも良いから槍持ってるのは早く!…で?」

 

「最後は弓兵ですかねぇ」

 

「弓兵はその後ろ!…あれ?弓より弩兵のが多い?…七乃、弩兵でも良いの?」

 

「どっちも変わらないですよね?2段くらいに構えて間断無く撃てるようにしてください。で、最後尾に剣兵を配置してください」

 

弩と弓って結構違うと思うんだけど…。いや、矢を飛ばして敵に当てるって点では一緒かな?

 

「弓と弩持ってるのは2列に並べ!えっと、弩兵は前で弓持ちはその後ろ!弩兵は撃ったら弓兵と交代!次の矢つがえて待機しておけ!その後ろに剣兵待機!…で良い?」

 

「それで良いですよ~。陳紀さんも弓兵のところに入ってください。合図出したら撃ってくださいね~。ある程度近付かれたら剣兵の人達と打って出て貰って構いませんので」

 

「りょーかい!」

 

七乃の指示通りに弓を持って隊列に並ぶ。だいぶ適当に並ばせたからかソワソワしてる連中も垣間見られる。

 

「それじゃ弩兵の皆さん構えてくださーい。合図するまでは撃っちゃダメですよ~?」

 

正面の奥からは大将を射抜かれた弔合戦のつもりなのか、撤退どころか砂埃を立てながら(恐らく)黄巾賊が突撃してくる。

 

「まだですよ、まだ。…今でーす!撃っちゃってくださーい!」

 

合図と共に振り下ろされた剣にあわせて弩兵が一斉に矢を放つ。撃って下がってくるのと交代し前に出て戦場を見るとバタバタと敵兵が倒れているのが見える。

 

「次、構え~。…撃て~!次の矢が撃ち終わったら剣兵さんと陳紀さん先頭に切り込みますよー!」

 

構えられていた盾が避けられ、私や剣兵の道が作られた。それぞれ緊張した面持ちだけど覚悟を決めた良い顔をしている。

 

「よーし!切り込むぞ!大丈夫、訓練を思い出せ!私や紀霊が仕込んだんだから賊なんかには負けやしないよ!」

 

檄(のつもり)を飛ばし、弦を外した弓を半分から分割させる。久し振りだけど陰ながら特訓はしてたし問題なく扱えるハズだ。

 

「いくぞー!私に続けー!」

*1
アーチェリーで言うプルプッシュ




イメージはHOYTのGMXのレッドフュージョン、リムはWINEXですね(作者の手持ち)


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6

読んで、書き直してを何回かしてるのにコレとか…。涙が出、出ますよ…。


 

「ふん、ふんぬ!」

 

 間合いとか甘いけれど、そんなのは剣が何とかしてくれる。腕は二流、三流でも得物は名も無き超一流の名剣だ。

 

「そりゃそりゃそりゃ!」

 

 相手に当たるギリギリを剣が通れば剣圧みたいなので鎧や武器ごと人体を両断していく。過去にふざけて墓石を両断したり、城の柱を斬った斬れ味は伊達じゃない。

 我流剣術は隙が大きいから熟練の将には次の動きが分かるらしい。実際、紀霊にも訓練で何度も木剣を叩き落とされたりしている。しかし、それが木剣ではなく少し離れたところの物を簡単に両断する剣だったら?しかもそれが初見だったらどうだろう?

 答えは今目の前で起きている。完全な初見殺しだ。

 

「良いですねぇ。敵は総崩れって感じですか?」

 

「どうも大将が逝ったみたいだしね。…追い討ちかける?」

 

「無しです。少し休憩したら冀州へ向けて再出発しますよ」

 

「あーい。負傷者の手当てと小休止が済んだら再出発するぞ!」

 

 負傷者は出たものの死者は出なかったようだ。少し前までは腑抜けだった連中がここまで成長したと思うと涙腺が熱くなってくる。

 

「久し振りの戦はどうでした?」

 

「…今になって震えが来てるよ。終わったから良いけど脚ガックガクだわ」

 

 ふぃー、と息を吐きながらへたり込むように座る。これが訓練ばっかりで実戦の機会が少なかった弊害か。剣を振ってる間は必死だったからそんなに意識してなかったけど、人を斬った感触だったり鉄臭い血の匂いだったりを今になって鮮明に思い出し、軽い吐き気を催していた。

 

「参ったね。これから冀州行ったらこんなのが何日も続くのか…」

 

「…そうですねぇ。ですから馴れて貰うしかないです。だから前哨戦を行えたのが非常に良かったと思ってますよ。向こうに着いたらこんなことしてる余裕はありませんからね」

 

 少し落ち着いたからグルッと見回すと、私のようにへたり込んでいる兵が多く見られる。顔を真っ青にしてるのもいれば、訓練しか行っていない若い連中は木陰で吐いているのも見受けられた。

 

「…これで少しは楽になると良いけどね」

 

「終わって帰ったら退役届け出されるかもしれませんけどね…」

 

 初めて人を斬ったのもいるから、その感触と血の匂いはかなりキツイものがあるだろう。弓なんかとは違って直接『自分が』剣で斬るのだから。

 

「ソコは仕方無いね。これが兵士って仕事なんだから乗り越えられるかはソイツ次第だ。まぁ、願うならソイツが堕ちて人斬りにならないことくらいだな」

 

 兵士は上からの命令で人を殺す。そこに個人の私情は挟まれないし、兵士は人形のように無感情のまま命令を果たせば良い。理想を言えばだけど。

 だけど人斬りはダメだ。連中は人を斬ることに取り憑かれている。女子供、親、親友そんなの関係無く、己の斬りたいと言う欲を満たすためだけに剣を振るう。それじゃ、人間じゃなくただの獣でしかない。

 

「七乃も気張ってないで休みな。顔真っ青だよ?」

 

「そう、ですねぇ。…不安でした。私の指揮が正しいのかどうか。陳紀さんも兵達も指示に従って動いてくれるのを見ていて、指示を間違えたら全滅してしまうんじゃないかって。いくら書を読んでても机上と実戦は別物ですねぇ」

 

 馬から降りて私の横に座った七乃はポツリポツリと語った。…その不安を感じた責任は私にもあるか。私は頭良くないから陣形なんかは七乃に頼るしかない。そんで私の下にいる兵士は私の命令に従って動く。七乃の考えは軍全体の動きになって、勝つも負けるも七乃の采配次第になる訳だ。

 …帰ったら私も最低限、指示をできるくらいには勉強しよう。

 

「だねぇ。私達の最大の失敗は経験が少なすぎた事か」

 

「この経験不足は冀州で取り返します。それに陳紀さんと紀霊さんには帰ったら用兵を学んで貰いますから。…よし、休憩終わり!弱音も終わりです」

 

 そう言って立ち上がった七乃は、不安を溢していたさっきまでの表情とは違い、いつもの笑顔の仮面を被っていた。

 

「さぁ、冀州までもう一走り頑張りますよ~」

 

「あいあい軍師殿。んじゃ、出発だー!」

 

 ―――

 

 討伐軍の天幕では軍議が難航していた。

 敵の総数、本陣、地形と攻めるのに必要な情報は全て出揃っていたが、敵の本隊の練度は未だ不明のままであり、その為か先鋒を引き受ける軍が決まっていなかった。

 自軍の消耗を恐れてか、援護や後詰めに立候補する者が多く、それは討伐軍で最大兵力でもある朱儁の軍も例外ではなかった。

 

 未だ小勢力であり発言権の小さい曹操は全く進展の無い軍議に呆れ果て、袁術と同じ袁家である袁紹は自身の考えである『華麗に大胆に前進』を否定され怒りを露にし、朱儁に召集された孫堅は退屈な軍議に飽きてアクビをしていた。

 

「報告!袁術殿が到着されました!」

 

「正しくは名代ですけどね~」

 

 袁術の名代を名乗る女性は背の低い将を側使えにして案内された席へと座った。

 

「主君である袁術の名代として参りました、張勲と申します。こちらは護衛の陳紀。これより参加させていただきますが、残る議題は何でしょうか?」

 

「私が教えるわ。そうね、あとは戦の先鋒を決めれば終わりよ」

 

 飽きてきたのもあって隣に座る曹操がウンザリとした顔で残りの議題を伝えると、張勲も察したのか面倒臭そうな顔をした。そのまま側使えの将に2言3言話すと

 

「先鋒は私達がしますね~」

 

 そう宣言した。

 

 ―――

 

「孫堅さんを借りますから先鋒で良いですか?」

 

 小声でそう七乃に聞かれて、無い頭で考えていたら既に宣言をしていた件について。そんな猫じゃあるまいし借りるとか無理でしょ。一応、あの人の所属は朱儁のところなんだし。

 

「その代わりですけど、そこの赤い服の人をお借りしたいんですが朱儁殿良いですよね~?」

 

 孫堅を指差しながら七乃は朱儁へと笑顔を向ける。でもその笑顔はアレだ。罪状告げて絞首刑を伝える時の酷く冷たい笑顔だ。

 貸さなくても良いけど、後で覚えてろよ?言外にそう朱儁に伝えている。

 

「う、うむ。孫堅は張勲殿の軍に合流し先鋒を勤めよ…」

 

「承知いたしました」

 

 借りる宣言をした途端から欠伸をしていた孫堅の眼は、私達と初めてあったあの日と同じように爛々と輝き、朱儁をジッと見つめている。肯定しか受け付けないと言わんばかりに。…板挟みとか可哀想。

 

「へぇ、なら後詰めは私と麗羽がしようかしら。良いわよね、麗羽?」

 

「も、勿論ですわ!この袁本初にお任せなさい!」

 

 七乃の一声で止まっていた軍議が進みだし、呆れていた曹操が面白そうだと笑みを浮かべてそこに追従してきたことで誰の横槍も入れさせること無く軍議は解散になった。

 

「で、オレを借りるってのはどういう魂胆だ?」

 

 天幕を出たところでニヤリと猛獣のような笑みを浮かべた孫堅に声を掛けられた。

 

「前に言ってたじゃないですか。受け入れてほしいって。なのでその前にどのくらい強いのか試験ですね~。弱い人を受け入れるほど私達も余裕ある訳じゃありませんから」

 

 七乃が敢えて挑発するような言葉を孫堅へ投げ掛けると、その笑みがより凶暴なものへと変化した。

 

「おもしれぇ、どんだけ強いかだと?良いぜ、オレの力を見せてやるよ。ついでだ一緒に来てる祭も参加させるか」

 

「楽しみにしてますよ~。あ、先陣切るのと後陣のどっちが良いですか?可能なら先陣を任せたいんですけど」

 

「あぁ、それで良いぜ。そっちの陳紀は見たところ弓なんだろ?なら後ろから援護してる方が馴れてるハズだ。それに後ろならオレ達の力もちゃんと見れるだろ?」

 

「なら決定ですねぇ~。改めてお知らせしますのでそれまでは休んでてくださーい。陳紀さん、私達は曹操さんの所へ行きますよ~」

 

 ―――

 

 曹操殿の陣営に来たけれど、私達と違って将が多い気がする。いや、私達が少なすぎるのか?猛将って訳じゃないけど普通に強い部類のがアチコチでチラホラ見受けられる。そこで料理してる小さい子も半端無く大きい鍋振ってるし、なんかキラキラした見たこと無い服着てる人もいるし、個性豊かな軍だな。

 

「来たわね」

 

「お邪魔しますね~」

 

 一際大きい天幕へ入ると頬杖を付いて脚を組み、楽しそうな顔をした曹操殿が迎えてくれた。その両脇にはデコの広い人と片眼を隠している人がキッチリと警護していた。

 

「改めまして主君、袁術の名代として来た張勲です」

 

「その護衛の陳紀です」

 

「さっきも話したけど私が曹操よ」

 

「私は華琳様の剣である夏候惇だ!」

 

「姉者、もう少し静かにだな…。その妹の夏候淵だ」

 

 何やら夏候惇さんの自己紹介の時に天幕が震えたような…。あんな声量を毎回近距離で聞いている曹操殿って見た目によらず丈夫なんだな。

 

「さっきは助かったわ。あの場でも言ったけれど後詰めはしっかりと務めるから安心して前に出て貰って構わないわ。人手が足りないようなら1部隊くらいなら貸すわよ?」

 

「いえいえ~、そこまでは不要ですよ。後詰めと袁紹さんの手綱を握ってさえ貰えればコチラとしては充分ですから」

 

 やけに機嫌の良い曹操殿は将兵の貸し出しを申し出てきたけれど、七乃は恩を作りたくないのかそれを断った。

 

「あらそう?で、いつ頃仕掛けるのかしら?」

 

「そうですねぇ。明日中には仕掛けるとしか言えませんね。準備できたらコチラからお知らせしますよ~。さ、陳紀さん帰りますよ~。今日は挨拶に来ただけですから目的達成です」

 

「あ、そうなの?そんじゃ帰ろっか」

 

 ボケーと成り行きを見ていたけれど、目的は達成したようだ。よく見れば夏候惇さんもボケーとしてる…。なんか同族の匂いがするし、あの人ももしかして頭弱い人なんじゃ…。

 

「それでは明日からよろしくお願いしますね~」

 

「失礼しました!」

 




でも書きたいと思っている間に書いていかないとモチベ落ちるかもしれないからね。


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7

お気に入りが100越えてる…。

文章とか変なとことかポコポコあると思いますが、コレからもよろしくお願いします。


「さて、それじゃ開戦といきましょうか。目標は首を1つですね~」

 

「1つぅ?そんなんじゃ足りねぇだろ、2つだな」

 

「ただの目標ですからね~。挙げれるなら幾らでも良いですよ?」

 

「そうこなくっちゃな。出るぞ祭、粋怜!オレに付いてこい!」

 

「な!?大殿、お待ちくだされ!急ぐぞ粋怜!」

 

「あぁ、もう!」

 

 うわぁ…。自分が先頭で切り込むどころか単騎駆けしてるし。それに振り回されている黄蓋さんと程普さんも大変だろうに…。

 

「え、馬から降りたんですけど何考えてるんですか?…人ってあんなに吹き飛ぶものなんですかね?」

 

 孫堅の戦い方を見てる七乃は普通じゃないソレに頭が付いていけてない様だ。確かに突然馬から降りて馬より早く走るわ、轟音と共に敵兵が空へ巻き上げられるわで戦場と言うより大嵐の中って感じだ。一緒に来てた黄蓋さんや程普さんも猛将ってのは分かるけど、孫堅のソレは頭1つ抜けている。

 後ろで良かった。アレと前に出てたら私は今頃、宙を舞ってたに違いない。

 

「…アレが江東の虎ね」

 

 恐らく暇なのだろう曹操殿が夏候惇さんと夏候淵さんを連れてやってきた。その後ろでは前も見た白くキラキラ光る不思議な服を着た男性と部下だろう3人の女性が周囲の警戒をしている。

 

「ほう、見たときから思っていたが凄まじいな」

 

「姉者、一緒にいた2人もかなりの手練れのようだぞ」

 

 ここからでも感じる気配に夏候惇さんは楽しげに、夏候淵さんは黄蓋さんと程普さんの強さに興味を持ったようだ。

 

「すげぇ、あれが孫堅か…」

 

「どないしたん隊長、怖じ気ついたん?」

 

「ビビってるのー」

 

「こら!2人とも!」

 

 後ろで見てる4人組も前方で起きている大嵐に魅入っているらしい。それにしても近くで見れば見るほど不思議な服だ。ああいうのは紀霊が詳しそうだし、帰ったら聞いてみよう。

 

「あら、虎から逃げたのがこっちに来るわね。春蘭、秋蘭、一刀達も準備良いわね?」

 

「陳紀さん、用意できてますか~?」

 

 何となく過剰戦力な気もするけれど、少ないよりは良いか。ここで馴れてしまえば訓練の成果も発揮できるハズだし。

 

「勿論です!華琳様!」

 

「姉者…」

 

「よし、3人とも行くぞ!」

 

「「おー!」」「了解!」

 

 超絶ヤル気満々な夏候惇さんに呆れる夏候淵さん、何か気の抜ける4人組。傍目から見たらダメみたいですね…。って感じなのに非常に心強い。

 

「私も行きますよー!」

 

 ―――

 

「はぁぁぁぁ!猛虎、蹴撃!」

 

「やるな凪!私も負けていられん!」

 

 凪の気弾が爆発し、地面に叩き付けられた春蘭の大剣が爆風を生み出す。さっき遠くから見てた孫堅ほどじゃないし何回か見てるとは言え、近くでやられると身の危険を感じてしまう。

 

「春蘭様も凪ちゃんも張り切ってるのー」

 

「いつもの3割増しってところやな」

 

 呑気な事を言いながらドリルみたいな槍を振り回す真桜と双剣を巧みに操りながら敵を倒す沙和。普段の姿からは想像できないほど彼女達は強い。

 

「北郷、余所見は危険だぞ」

 

 姉である春蘭の援護をしていた秋蘭が、俺の近くに来ていた敵兵を撃ち抜いた。彼女達の戦闘を見ていて気付かなかったらしい。

 

「すまん、助かった」

 

「姉者達を見ているのは良いが、自身の周囲にも気を配っておけ」

 

「あぁ、気を付ける。…さっきの陳紀さんだっけ?彼女は?」

 

「陳紀殿なら…あそこで戦ってるぞ」

 

 秋蘭が指差したのは春蘭達がいる反対側。戦闘前に見ていた限りだと彼女は弓を持っていたハズなのに前に出ているのか!?場合によっては真桜と沙和に向かって貰う必要が…

 

「…ウソだろ」

 

 秋蘭が指差した方向では手に持った矢で敵兵の喉を刺し、抜いた矢を放つ陳紀さんの姿があった。弓はその場に立って遠くの敵を射抜く武器、そんな風に捉えていたけど彼女の戦い方は俺のそんな考えを真正面から否定するものだった。

 

「…弓ってあんな戦い方も出来るんだな」

 

「私が姉者を援護する戦い方を選んだように、彼女は先頭で戦うやり方を選んだと言うことさ。遠当てなら私は負けないだろうが近い距離なら彼女の方が当てるのは上手いだろうな。それに恐らくだが…」

 

 秋蘭が言葉を続けようとすると、陳紀さんは眼にも写らないスピードで弦を外すと弓を中央から2つに分割させた。…弓の中に剣を仕込んでるのか!

 

「ああいう手練れは大体、他の武具も使えるように練習しているものだ」

 

 ―――

 

「…スゴい強いな」

 

 楽進ちゃんは気功を弾にして撃ち出して爆発させるし、夏候惇さんは剣の叩き付けでソレ以上の爆発を起こし、夏候淵さんは突っ込みがちな2人を守る精密な援護をしている。

 

「気功を撃ち出すのってかなり難しいハズなんだけど、ボカボカ撃ってるな…」

 

 気を全身に纏わせて肉体を武器と鎧にする。それなら私だって出来るし、強度を考えなければ気功を使い始めた初心者だって出来る芸当だ。簡単に言ってしまえば思いっきり力めば鎧に出来るし、握りしめた拳は鎧を貫く矛に早変わりする。

 そして気功の奥義とも言えるのが、彼女の使っている漲らせた気を体外に放出するというモノだ。玉状の気を掌に作るのだって数年かかる芸当と聞いていたんだけどなぁ…。

 

「…私だって特訓すれば出来る様になる、ハズ。たぶん、きっと」

 

 見てる限りだと気功の強度や量は私の方が高いようだから、練習方法が間違っているのかな?練習の成果もあって手刀は鎧を裂くし、矢に纏わせて撃てば3人抜きくらい出来るから無駄ではないけど、飛び道具が増えるのは結構大きい。

 

「後で聞きましょう。そうしよう」

 

 ―――

 

「へぇ、陳紀だったかしら?彼女も相当出来るわね」

 

 噂は聞いていたけれど、間違いではなかったようね。『技の陳紀と力の紀霊』どっかの2枚看板みたいな例えられ方だから信用してなかったけど、実際に見ると『技の陳紀』が嘘ではないのがよく分かるわ。

 

「弓が得意だけどソレ以外も扱える器用貧乏な人ですからねぇ」

 

「もう1人の『力の紀霊』はどうなのかしら?今回は来てないみたいだけど」

 

「その呼び名、紀霊さん嫌みたいなんですよねぇ~。実際、力押しがヒドイのは陳紀さんの方ですから「それ逆だし…」って落ち込んでましたよ」

 

 どっちもどっちなんですけどねぇ~と笑う張勲は陳紀が誉められていることを喜んでいるように見える。ここに来てから主君の名代とその配下にしては仲が良いと言うか距離感が近い感じがしていたのだけれど、随分と仲が良いみたいね。

 

「えぇ、あんなに優秀なら是非とも我が軍に来て欲しいわ」

 

「…それは笑えませんねぇ」

 

 楽しげな空気が一瞬でピシッと凍りついたのを感じた。笑顔のまま私を見ているけれど、眼には怒りと意図を図ろうとしているのが感じられた。

 

「何て眼をしてるのかしら。冗談よ、今はね」

 

「今は、ですか」

 

「えぇ。今は、よ。欲しいと思った物はどれだけ掛かっても絶対に手に入れるわ。例え何年掛かってもね」

 

「…」

 

「朝廷の力は地に落ちた、予言にある『天の御遣い』も現れた。この戦乱が乱世の幕開け、ここから大いに荒れるわよ。…もし、貴女達が今の朝廷の様に堕ちた時は覚悟なさい。貴女の大切なモノを全部奪いに行くから」

 

「…それは、随分と言ってくれますねぇ。でも気を付けてくださいね?いざ、攻めてきた時に味方を信用しすぎてると寝首掛かれちゃいますからねぇ~」

 

 彼女達が私の前に平伏している姿を考えて笑みを浮かべてしまった。そんな私を見て張勲は一瞬、笑顔の仮面が外れた様子だけど面白い返しが返ってきた。

 

「ふふ。やっぱり貴女、面白いわ」

 




笑顔の華琳様かわいい。
覇王の笑みを浮かべる華琳様かっこいい

両方こなせる華琳様は万能ヒロイン。


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8

待たせたな!(小声)

お久しぶりです。また投稿頑張っていきますのでよろしくお願いします。

あ、あと明けましておめでとうございます(激遅)


 

 昼夜問わず現れては、迎撃されて蜘蛛の子を散らすように退散していく黄巾賊。初戦の勝利が本隊へ伝わると労いの言葉と共に縮こまっていた朱儁とかが前線へと躍り出るようになった。

 

「あ~あ、呼び出されちまったよクソ…。まぁ、今度は暴れられるんだから少しはマシか?」

 

 朱儁が先頭を走るということは配下になっている孫堅も追随する必要がある訳で。生き生きと先鋒を走っていた彼女は軍義で見た時と同じように退屈そうな顔で欠伸をしていた。

 

「そんじゃ、また後でな」

 

 ヒラヒラと手を振って去っていく彼女を見送った私達は本隊から礼と休息を取るように言われたので、曹操さんと袁紹さんの軍の人達と顔合わせをしていた。

 

「だー!くそ!夏候惇、もう一回だ!」

 

「ふん!何度やっても私の勝ちは変わらん!」

 

 休息をもらって暫く経つけども、連戦連勝の様で私達にお呼びが掛からなくなっていた。今日も今日とて夏候惇さんと袁紹さんとこの文醜ちゃんが大剣をぶつけ合っている。

 力同士のぶつかり合いでは夏候惇さんに分があるのか、ぶつかり合う度に文醜ちゃんが少しずつ後ろへと押されている。振り回しているのが互いに身の丈もある超重量の大剣だから小手先の技なんか無く、己の腕力に物を言わせて振り回しあっていた。

 

「食らえ!斬山斬!」

 

「ぬお!?」

 

 下からのカチ上げを受け、宙へと浮いた文醜ちゃんだったけど体勢を整えて大剣を振りかぶると、落下に合わせ全力で振り下ろした。その一撃は流石の夏候惇さんも受け止めきれず吹き飛ばされ、立ち上がる所へ首元に文醜ちゃんが剣を突きつけていた。

 

「アタイの勝ちだ」

 

「ふん、3勝1敗。今日も私の勝ち越しだな」

 

「んだとぉ!…お、陳紀いるじゃん。なら、陳紀も混ぜて仕切り直しだ!」

 

「…へ?」

 

 突然名指しされたかと思ったらグイッと腕を捕まれ、ズルズルと文醜ちゃんに引き摺られていく。なんとか抜け出そうと暴れましたがビクともせんです。

 

「新たな挑戦者の登場だぜ!」

 

「陳紀、お前は弓だけでなく大剣も扱えるのか!…面白い!」

 

「何も言ってないですよ!?」

 

「行けー!陳紀!」

 

 無理矢理大剣を渡されると、それが合図になったのか夏候惇さんが猛烈な早さで突っ込んでくる。弓なら余裕を持って避けることが出来るけど渡された大剣がクソ重く、引き摺らないと運ぶことが出来ない程だ。

 

「どおりゃあああ!」

 

「あふん」

 

 少し前の文醜ちゃん同様に下からのカチ上げで宙へと吹き飛ばされた私。でもこれは絶好の機会なのでは?

 ここで文醜ちゃんは体勢を整えて夏候惇さんへ一撃を入れていたし、それに習って私も!

 

「無駄だ、2度目は食らわん!」

 

「陳紀~、猿真似は無謀だって」

 

「うおあああ!?」

 

 落ちてくる私に合わせて夏候惇さんが既に大剣を上段に振り上げ待ち構えていた。直撃は避けられないし、刃潰しされてるとは言え、あの振り下ろしを食らったら真っ二つになるのは確定だろう。

 

「はぁぁぁ!」

 

 だから剣にありったけの気を流し込み、腹を盾にして真っ二つだけは避ける!耐えてお願い!

 

「ぬん!」

 

「やったああああ!?」

 

 結果として、剣は折れること無く夏候惇さんの振り下ろしを耐えきってくれた。ただし、私がそのまま剣ごと背中から地面へと埋まりましたが。

 

「む?どうした陳紀!」

 

「立てー!立つんだ陳紀ー!諦めたらソコで試合終了だぞ!」

 

「いや、あの…限界です」

 

 埋まった穴から這い出した私を見つめる脳筋2人は、限界と言った私の言葉を理解できていないのか何を言ってるんだ?と首を傾げる。いや、限界だって言ってるのに何で剣を突き付けてくるんですかね?

 

「…少し軟弱すぎんか?」

 

「そんなんじゃ生きていけないぜ?もっと鍛えねぇとサクッと死んじまうぞ?」

 

「…基本的に後衛だから問題ないんですよ」

 

 渡された剣を文醜ちゃんに返し、服に付いた土を払い落とす。背中も腰も何なら後頭部も地面に叩きつけられてメッチャ痛い。大分ハデにいったけど出血はしてないようだから、今だけは丈夫に育った体に感謝感謝。

 

「にしても、そろそろ飽きてきたよなぁ…。最後に出たのって何時だっけ?」

 

「2週間くらい前だったと思いますよ。連勝続きみたいですから手柄を稼いでおきたいんでしょう。そうしないと朝廷の軍としての面子も立たないでしょうしね」

 

 剣を放り投げてくあ~っと大きな欠伸をしながら寝っ転がる文醜ちゃん。ボリボリと太股を掻いてる姿が美少女なのに只のオジサンにしか見えない。

 

「アタイらがボコボコにしたんだから締めもやらせてくれっての。舞台作るためにワザワザここまで来た訳じゃないってのにさ」

 

「それは同感だ。手柄を挙げに来たのであって渡しに来たわけではない。何時までもここに留まっていては華琳様の目的も達成できんしな…あ」

 

「んあ?」

 

 言ってはいけないことだったのか、しまったという顔をする夏候惇さんはバッと文醜ちゃんを見るけれど、ボケッとしている文醜ちゃんを見て、気付かれていないとホッとした顔を浮かべる。私のことは気にしないんです?

 

「兎に角だ!ここで何時までも待機ならば私は単騎駆けでもしに行こうかなと思っている!」

 

「え~…。それ曹操さんに止められるっしょ?アタイだってやりたいけど姫と斗詩が許可出すわけねぇもん」

 

 フンフン鼻息が荒い夏候惇さんに向かって何言ってんだと言う顔をしている文醜ちゃん。

 

「あら、文醜も陳紀もこんな所にいたのね。麗羽と張勲が探していたわよ。そろそろ乱の締めに掛かるらしいわ」

 

 暇だった日々に終わりを告げる曹操さんの言葉。それを聞いた文醜ちゃんは飛び起き、夏候惇さんも顔に笑みを浮かべる。

 

「お!ようやくか!アタイは先に戻るぜ。陳紀、夏候惇また戦場でな!」

 

 ヤッホーイ!と愛剣の斬山刀を担いで文醜ちゃんは陣地へと走っていく。暇を持て余していたとは言え戦と聞いて喜ぶのはどうなんですかね?

 走り去る文醜ちゃんの背中と戦と聞いて生き生きとした顔をしている夏候惇さんを見て曹操さんは若干呆れ顔になっている。

 

「それじゃ私も戻りますね」

 

「陳紀、私達の軍から于禁と李典を貸すわ。張勲には伝えてあるから連れてって頂戴。孫堅ほどではないけど其処らのよりも頼りになるハズよ」

 

「于禁さんと李典さんですね?了解です。その2人はもう準備できてるんですか?」

 

「必要な荷物は纏めてると思うわ。着いてきなさい」

 

 ──

 

 曹操さんに連れられて顔合わせをした于禁ちゃんと李典ちゃん。統率に優れているものの戦闘特化の人に比べて実力的にも経験的にも劣ってしまう于禁ちゃんと、今回の遠征であまり活躍の場が無い工兵隊を率いる李典ちゃん。

 鬱憤が溜まっているせいで味方の苛烈さが増すだろう総攻撃に不安を感じていた曹操さんの頭に浮かんだのは、孫堅を使って戦っていた私達へ援護に向かわせることだったらしい。

 

「貴女達は助力を得られる、彼女達は経験を得られる。互いに良いことしかないと思うのだけれど?」

 

 そう言って七乃を説得したんだそうだ。頷かせるのに苦労したわってボヤかれたのを曖昧に笑って誤魔化し、2人との自己紹介から始めた。

 それで知ったのだが、紀霊のド派手な見た目は于禁ちゃんもとい沙和ちゃんが原因だった。素材は良いのに着飾りもしない紀霊を連れ回し、着せ替え人形の如く合う合わないを教え込み、化粧の仕方を叩き込んだらしい。

 

「紀霊ちゃん元気なの~?」

 

「阿蘇阿蘇読み耽っては遅刻したり話聞いてなかったりでよく怒られてますよ。あと天気が良いときは服脱いで肌焼いてますね」

 

「良かった。元気そうなの」

 

「後半もやけど、前半のはアカンヤツやろそれ」

 

 ポワポワとした雰囲気で間延びする話し方をする沙和ちゃんですが、紀霊の友達だけあって仄かに香るヤベェ奴感がある。それに比べて見た目が露出的にヤバい割りに常識とかがしっかりしてる李典もとい真桜。そんな彼女も何故かガリガリと木製の何かを削ってはカチャカチャと手元の人形?に嵌め込んでいる。

 

「おっしゃ、からくり夏候惇の修復終わりや」

 

「…からくり夏候惇?」

 

「真桜ちゃんはからくり弄りが好きなの~」

 

「後は武具とか作るのも好きやで?先の戦闘でオモロイ武器使ってるの知っとるで陳紀はん?弓に剣仕込むとか何食ったらそんな考え湧いてくんねん」

 

 ニィっと笑っている真桜の眼は私ではなく背負っている弓を見つめ続けている。触りたい、弄りたい、可能なら分解したい!そんな視線がバシバシ注がれている。眼は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。

 

「な、少ぉし弄ってもエエ?お礼に弦とか作るし調整するで?」

 

 グイグイ顔を近づけてくる真桜。気恥ずかしさと圧に圧されて下がると下がった分、詰めてくる。私が壁に追いやられてるのにズイズイ近付いてきて口付けが出来そうな距離まで詰められる。と、そこで腕に違和感を感じる。具体的にはスゴく柔らかい何かがこれでもかと主張してきている。

 …これはまさか私には無い大きく豊かな双丘か!?理解した途端にスッと熱かった気持ちが冷えきる。

 

「分かりましたよ。壊さなければ幾らでも見てください」

 

「ホンマか!おおきに!」

 

 早速カチャカチャと弓を引いてみたり、分割して双剣にしてみたりと弄り倒されていく私の弓。隣にいる沙和ちゃんにも剣を持たせた感じとかを聞いてはフンフンと何かを考えている。

 

「まぁ、言わんでも分かっとると思うんやけど負担が大きいわ。そもそも弓に仕込むってのが難しいんやな。特に陳紀はんの弓は張力が半端無いから繋ぎ目に掛かる力が普通のに比べてデカ過ぎるわ」

 

「でしょうね。解決方法は弓と剣を別にした方が良い。でしょ?」

 

「ま、そう言うことやな。オモロイ物見れたしウチ特製の弦張っとくで?ボロボロの弦で射つよりずっとエエやろ?」

 

「例えば弓を作って欲しいって言ったら作ってくれます?素材とかはコッチから出すんで」

 

「エエよ。ウチの気を引けるような素材なら、ヤル気も湧くから良い物作ったるよ。無いなら無いでウチが素材選びからしたるけど?」

 

 ならこの乱が終結したら依頼でもしよう。紀霊の槍も結構痛んでたハズですしこの気に買い替えてしまえば良い。

 

「だいぶ話し込んじゃいましたし、そろそろ行きましょうか。我々、袁術軍の陣地へと」

 

 



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9

こそこそっと更新しますね。




 

「遅い」

 

「はい、スイマセン」

 

「弱っ!?」

 

 七乃の愚痴とか駄弁りながら歩いていたら熱が入りすぎてしまい、冷ますのに余計な時間を食ってしまった。

 なんか私が七乃を打ち倒す!とか、かの邪知謀逆の軍師を討たねばならぬとか色々口が滑って言ってた気もしますが、あれは若気の至りってヤツだ。

 

 実際問題、立場的にも軍内部の権力とかでも七乃が上で私が下ですし、謀反なんざしようものなら間違いなく紀霊も七乃側に着く所までは予想できている。そもそも謀反に賛同して着いてくるヤツは大体、反袁術派の連中だけであって、嬉々として七乃が滅ぼしに来るのが見える見える…。

 

「で、そちらの2人が」

 

「ウチが李典で」

 

「沙和が于禁なの~」

 

 今更ですけど、沙和ちゃん自分のことを真名で呼ぶのってどうなんですかね?親しくない人が真名で呼んだら殺されても文句は言えないってのが常識ですけど、初対面の相手は沙和なのか于禁なのか分からないですから半分の確率で殺されるのでは?

 

「そこの陳紀さん、アホな顔してないで現実に戻ってきてください。今から布陣について話すのでちゃんとしてもらわないと困ります」

 

「…アホな顔ってヒデェや。でも、やることって門破って中を制圧するって感じでしょ?布陣とか必要ある?」

 

「弓兵の配置は必要ですよ?衝車にしろ丸太にしろ城壁にいる弓兵が射ってきますから彼らを守らないといけません」

 

 あー、確かに。

 

「なら提案あるんやけど」

 

 スッと手を上げる真桜。若干不安そうな顔は私を言葉でボコボコにしている七乃に対する恐怖と見た。私の目は誤魔化せんぞ。

 

「投石車を改良して低めの弾道で飛ぶ様にしたらどうやろうか?それか衝車の走行速度上げるとか」

 

「言うは易し行うは難しって知ってますか?改良するのにどのくらいの時間を見積もってます?」

 

 おぉ、今日の七乃は怖い。他所の軍とか関係無くバシバシいくねぇ。

 

「…2日やな。ザックリとしか計算しとらんけど」

 

「2日ですか…。城へ仕掛けるのは2日後なんですけどそれならやらない方が良いんじゃないですか?」

 

「仕方無いやろ。投石車は3台くらい衝車も2台予備も考えて3台は必要やろ?それを組んで改良してたらそんだけ掛けるわ」

 

「…それ本気で言ってます?作業工数と日数の計算おかしいですよね?盛られても困るんですけど?」

 

 その一言に和気藹々としていた空気は重くなる。手を挙げたままの真桜はユックリと手を降ろし、ダァン!と机を思いっきり叩いた。背後に阿修羅が見えてきそうな程、怒り狂っているのが分かってしまった。

 

「あんな?ウチは確かに不真面目に見えるかもしれへん。せやけど、ウチにも職人として工兵としての矜持ってモンがあんねん。ソイツを張勲さんは盛るだの言いおったな?…エエで、信じられん言うなら2日で終わらせたるわ」

 

「あ、ちょっと!」

 

 それだけ言って真桜は陣幕を出ていった。沙和ちゃんや私の声にも反応しなかったので相当お怒りらしい。もう止めるのも無理だろうし、好きなようにやってもらうのが吉かな?

 

「あ~あ、ありゃ大分キレてたぞ?」

 

「私は工数と日数が合わないことを指摘しただけだったんですけどね。…何ですかその目は、私が悪いんですか?」

 

「いーや、何も言ってないよ軍師殿。ねー、沙和ちゃん。私達も細部詰めるために真桜の所に行こっか」

 

「りょ、了解なの」

 

 出る時にチラッと見たけど、スゴいムッスゥとした顔の七乃が私を恨みがましそうに見ていた。

 

 ───

 

「何やねん、何やねん、何やねん!やったるわ見ときぃや!」

 

「…おおう」

 

 鬼気迫る顔した真桜が工兵隊と共に投石車を組み立てている。そんな隊長の気迫に圧されている工兵隊員たちは時折チラチラとトンカチを振り下ろす真桜と作業の見学をする私達を交互に見てきた。

 

「真桜ちゃん、スゴい気合いなの…」

 

「七乃の言葉、かなり頭に来たんだね…」

 

「おらぁ!2番隊早よせぇや!手ぇ止まってんで!」

 

『は、はいぃ!』

 

 荒々しい怒鳴り声、ガンガンガン!と真桜の怒りを表すようなトンカチの打音が工兵達を急かす。慌てて作業速度を上げるが雑な作業になら無いよう丁寧に素早く組み立てていく。

 沙和ちゃん曰く、早さばかりで雑な作業をすると真桜による説教と鉄拳制裁が入るらしい。

 

「ああやって真桜ちゃんが爆発するのは希によくある事なの」

 

 希なのか、よくあるのか分からないけどチョクチョクああやって爆発しているらしい。特に真桜自身の技術力に関する事が原因なんだとか。…今回は七乃が原因なのでは?

 

「ソコ!沙和に陳紀さん、見とるだけなら手伝えや!」

 

 こそこそ話をしてたら気に触ったのかビシィ!とトンカチで差されてしまった。

 沙和ちゃんもうげぇ…。って顔をしている。

 

「諦めるしかないの…。目を付けられたら春蘭様や凪ちゃんでも逃げられないの」

 

 全てを諦めたような顔で沙和ちゃんが近くで作業している工兵達に近付いていく。そして妙に手際よくトンカチを振るい始めた。

 

「陳紀ちゃんも手伝うのー!」

 

 そんな手際の良さを見ていたら、真桜と同じように沙和ちゃんもガンガンとトンカチで叩きながら急かしてくる。

 

「でも私、やったこと無いから足手まといになると思うよ?」

 

 腕捲りをして置いてあったトンカチを手に沙和ちゃんの隣に立つ。

 

「あ、トンカチは必要無いと思うの。陳紀ちゃんは凪ちゃんや春蘭様の役目になると思うの。つまり」

 

「陳紀さん!コッチ来てや!」

 

「重い物持って支える係なの」

 

 ───

 

「ふんぬー!」

 

「陳紀さん、も少し上に上げて!…ソコで少し保っといてや!」

 

 ヒュゴー!と真桜の持つ道具から火が噴き出すと、鉄材が熱せられて徐々に赤く発光していき、赤くなった鉄材に真桜の持っている細長い棒と道具を近付けていく。噴き出していた火を止めると私が持っていた鉄材と真桜が押さえていた鉄材がピッタリと固定されていた。白く輝く服を着ている北郷って人が真桜に教えた『溶接』って技術らしい。

 

「おー、スゴい」

 

「やろ?隊長から聞いたのをウチが形にしたんよ」

 

 隊長、色々教えてくれるけど仕組みについては何も分からんからなぁ。と呆れる様に言っているけれど、スゴく嬉しそうなのを感じる。これは…その北郷に惚れてるな。惚れてなくても気はあるんだろう。そんな気がする。

 

「次はコイツやな。薄肉同士は結構難しいんよ。熱し過ぎると簡単に穴開いてまうし、やからって足りないと母材が溶けんくて全然固定出来んし」

 

「で、真桜は出来るの?」

 

「ま、見ときや」

 

 真っ黒の眼鏡に皮で出来た厚手の手袋、前掛けを身に付けた真桜が道具と棒を持つと鉄板の溶接を始めた。側で見てる私でも暑く感じてるのに、間近で作業してる真桜はどんだけ暑いんだろうか。

 難しいとか言ってたのに余裕でもあるのか鼻歌交じりで作業を進めていく。火を止め、眼鏡を外した真桜が溶接の終わった鉄板を見せてくる。

 

「どや?ウチにかかればこんなモンやな。溶接はコイツで終わりやから、後は他の隊がやっとるのと組み合わせるで」

 

 前掛けと手袋を外して作業台に置いた真桜はトンカチを持って沙和が作業している隊の元へと向かっていく。

 

「陳紀さんも早よぅ来てや!今日中に組めるだけ組んでまうで!」

 

「うぃー、…気合い入れるかぁ」

 

 元気な真桜の背中を眺めつつ、部材を長時間支えてたからかバキバキに凝り固まった肩を解す。父さんとかの肩がよく凝ってたから揉んであげると喜んでたけど、まだ若いうちから肩こりの気持ち良さを体感するとは思わなかった。

 

「…まだ若いのになぁ」

 

 ゴキゴキバキ(逃げてはダメですよ?)

 

「…私は、若いんだよ」

 

 ゴキゴキ(ほんとぉ?)

 

 ───

 

「完成や!」

 

「…おお、出来たねぇ」

 

「…なのー」

 

 組めるだけ組むとか言っていたけれど、夜通しやるなんて聞いてない。途中から意識が飛び始めるし、軽く落ちれば肩叩かれて無理矢理起こされるから疲労がドンドン積み重なっていった。

 

「ほなら、少し休もか。そっから改良を始めるで」

 

「おー」

 

「なのー」

 

 フラフラと休憩用の陣幕へ入り、寝床へ飛び込む。服とかそのままだけど、飛び込んだら疲れが一気にやってきて直ぐに意識が無くなった。

 

「少しやで?」

 

 意識が戻った。

 寝た途端に体揺するの止めろって、ホントにさ…。

 

「すいません休ませてください、何でもしますから!」

 

「ん?今、何でもする言うたよね?じゃあ、ウチと一緒に改良作業しよっか?」

 

「えっ…。それは」

 

 おい、休む話はどこへ行った?ニコニコ笑顔の真桜が私の肩を抱き陣幕の外へと歩き始める。ならばと、一緒に休憩をとっているハズの沙和ちゃんを探すと、彼女は真桜から死角になる位置で息を潜めていた。

 

「沙和は陳紀ちゃんの味方だゾ!(小声)」

 

 スゴい良い笑顔で親指を立てていた。あの野郎、私を囮にしやがったな?

 

「すいません、すいません!ちょっと止めてもらって良いですか?」

 

「ダメやで」

 

 私の主張は聞き入れてもらえなかった。陣幕から外へ出るとき見えたのは、アクビをしながら床へと潜り込み始める沙和の姿だった。

 

「よっしゃ、昼前には試作機作り終えてまうで!」

 

「休ませて~」

 

 張り切る真桜に私の嘆きが届くことは無かった。



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10

連勤、深夜残業は色々くるからやめちくり~

誤字脱字とか怪しい文は愛嬌だから、
すいません許してください!何でも許してください!


「あー、アレやな。失敗やわ」

 

改良したハズの投石車は予定より威力不足の物になった。予定していた石を投げることが出来ず、投げた石は城門にぶち当たり凹みは作るものの、門の前に石が積み重なり城攻めをしにくくするだけだった。むしろオマケ感覚の即興品であるデカい弩の方が優秀ですらある。

 

並の弩に比べたら大型なぶん、張力も重量も大きくなり地面に据え置きして撃つ形の物に仕上がった。持ち運びは不便になったがそのぶん精度は格段に向上している。

今も城壁の上にいる敵兵を射ち倒しているし、石や鉄球など矢でなくても射つことが出来るので城壁をガリガリと削り取っている。

 

「ほほう。案外、優秀やな」

 

カリカリと竹簡を手に性能を記録していく真桜。いや、記録する前に現状をどうにかしようよ。

 

「…どうしましょうねぇ」

 

真桜の行動に呆れた様な視線を向ける七乃は、打ち破れる予定だった城門を見て眉をしかめている。狙いを城壁に変えて射ち崩す案は朱儁ら朝廷の軍から却下され、門を打ち破る案も先ほど失敗した。残すは梯子で直接城壁を乗り越え中から門を開ける方法な訳なのだが。

 

「こんなところで消耗するのもバカらしいですし、被害は極力抑えたいですねぇ」

 

「私と沙和ちゃんで乗り込もうか?身軽に動けるし、休んでたから体調も万全だし」

 

「んだら、その間にウチが地面に穴掘ったるわ。…城門破るの失敗しとるし何か別の事で成果挙げんとイカンやろ?」

 

私と沙和ちゃんの精鋭(自称)で城壁を登り、戦闘をして敵の気を引く。その間に真桜が穴を掘って城壁の下を通り抜け城内へと通ずる通路を作る。そしてその通路を使って兵を雪崩れ込ませ、制圧してしまう。というゴリ押しの力業計画だ。

 

「…私としてはもっと知的な戦いをしたいんですけどねぇ」

 

「まぁ、仕方無いね。次の機会までのお楽しみってことにしようや」

 

「…分かってます。まずは目の前のことに集中しますよ。私はここで城壁上の制圧射を指示してますので、陳紀さん達はササッと登って思いっきり暴れちゃってください。なんならソチラで門を開けてくれて構いませんので」

 

了解~。と七乃に返事を返し、弓と矢筒を背中に背負う。長めの梯子を担ぎ、頭を上げてこなさそうな城壁に当たりをつける。あの辺かな?

 

「よっと。沙和ちゃん行くよー?」

 

「sir,yes,sir!なの~!」

 

「さーいえっさー?」

 

え、何それは…(困惑)

謎の掛け声とビシッと音が出そうなほど見事な敬礼をした沙和ちゃんが私の横を通り抜け、先陣として梯子を駆け上がっていく。

 

「ズルい!私が一番乗りしようと思ったのに!」

 

「油断した陳紀ちゃんが悪いの!于禁、一番乗りー!なの~!」

 

ギャーギャー騒ぐ沙和ちゃんの声を聞き付けた敵兵がワラワラと城壁へ集まる。運悪く階段が側にあるせいで次から次へと登ってきては、あっという間に大勢の兵に取り囲まれた。

七乃も私や沙和ちゃんを巻き込むのを考慮してか、この辺りだけ矢が飛んで来ていないため伏せていた兵士も武器を構えて臨戦態勢になっている。

 

「…これはキツくない?」

 

「クソ虫め、気合い入れろー!お前のようなクソ虫は口からクソ出してないで目の前の敵を黙って倒してれば良いのー!」

 

えぇ…。

突如、罵詈雑言が溢れ出した沙和ちゃん。さっきよりもヤル気に満ちた眼をしているのは何故なんだろう。

 

「ウジ虫共、掛かってくるのー!」

 

『うおおおお!』

 

「ヒエッ!?…オラオラ、来いよオラァ!!」

 

謎の挑発に乗った敵兵が憤怒の表情を浮かべて私と沙和ちゃんへと殺到してくる。下から聞こえるゴリゴリギャウンギャウン鳴ってる"何か"はもはや無視されてるようだ。

 

 

「本気で怒らしちゃったねぇ!私のことねぇ!陳紀さんのこと本気で怒らせちゃったねぇ!」

 

「ぐへぇ!?なんだこのチビガキ強いぞ!」

 

「チビ↑ガキ↓だとォ?ふざけんじゃねぇよお前!お姉さんだろォ!?」

 

「お姉さんやめちく(パァン」

 

「誰が声出して良いつったオイ!」

 

群がってくる敵兵を射抜き、矢を突き刺す。時には敵の持つ槍や剣を奪って切り伏せ、斬りかかってくる敵の勢いを利用して城壁から放り投げる事もあった。

 

「陳紀ちゃん、数多いのー!」

 

「分かってます!それでも切り抜けるしかないですよ!…動くと当たらないだろ、動くと当たらないだろォ!」

 

奪い取った短剣を敵の首に刺し、柄を殴り付けて確実に止めを刺す。ゴポリと血を噴き出しながら敵は倒れ、それを見ていた周りのヤツは死の恐怖からか2、3歩後ろへと下がった。

 

「隙アリなのぉ!」

 

そんな大きすぎる隙を見逃すハズもなく沙和ちゃんが双剣を振り上げ斬りかかる。舞うように剣を振るうと首やら腕やらが切り落とされ、絶叫が辺りに響く。

 

「今のうち!」

 

「門を開けに行くの!」

 

絶叫で疎んでいる兵の間を縫うように走り、沙和ちゃんと共に城内へと飛び降りる。ビーンと足の先から頭まで痺れるような衝撃が走るけれど、我慢して上でワーワー騒いでいる間に城門を押さえている閂へと駆け寄る。

 

「「せーの!」」

 

閂を外し、2人で門を引いて開け放つ。城門前に積み重なっていた岩は沙和ちゃんとの友情蹴りで粉砕しようとしたけれど力不足で少しずつしか砕けないし、ビクともしなかった。

 

「お、エエ感じに来たわ」

 

予定通りにならなかった岩に焦っていると、ボコッと近くの城壁の下から真桜が通路を開通させて出てきた。岩をゲシゲシ蹴っている私と沙和ちゃんを見て察してくれたのか体に着いた土も払わずにコチラへと駆け寄ってくる。

 

「そんき、石ころウチに任せぇ!」「そんな」では?

 

また槍を回転させると道を塞いでいた岩を片っ端からガリガリと削り破壊していく。あっという間に粉砕した真桜は返す槍で私達の後方から迫ってくる敵兵を凪払う。

凪払ったのだ『岩を簡単に削り取る槍で』。

 

「ぎゃああああ!」

 

その声は敵兵か、それとも色々と飛び散るのを見た私か。とにかく色々と飛び散った。赤い液体やら白っぽい固形物やら腕やら足やらと。

 

「い、嫌だ!あんな死に方はしたくねぇ!」

 

真桜の槍によってアチラコチラが抉り取られた惨たらしい死体が量産されると、見ていた敵兵が恐れて逃げ始める。

 

「今が好機ですねぇ。全軍、突撃でーす!」

 

逃げる兵を見て七乃が突撃の号令を出した。岩の無くなった通路、真桜の開けた地下通路を通って兵士達が雪崩れ込み、数にモノを言わせて残っている敵兵を打ち倒す。ここまで来れば勝ったも同然だな。

 

「お疲れ~。沙和ちゃんは前に出て良いよ。可能なら首の1つでも挙げてくれたら嬉しいんだけど」

 

「陳紀ちゃんはどうするの~?」

 

「真桜の頑張りを一緒に見た後、軍師殿の護衛でもするよ。城門制圧したって言っても流石に指揮官を裸にしとくのはマズイしね」

 

「頑張りも何もただの穴やし、見せれるモンやないで?」

 

分かったの~!と前線へと走っていく沙和ちゃんを見送り、私と真桜は城壁の辺りへと移動する。

 

「おー、良いじゃん。(1度に通れる人数は)ナンボなん?」

 

「こちら、5人用となっとります」

 

真桜が出てきた地下通路を覗き込む。突発的な作業だったにも関わらず、均一幅に掘られた穴は崩れないように木材の支えが立てられており安全にも配慮された職人技があった。

 

「5人用、ウソでしょ?あんな突貫工事なのに5人用とか何が軍1だ、漢1だお前」

 

「ありがとうございます」

 

馬鹿みたいなやり取りを真桜としながら七乃が来るのを待つ。ポコ、ポコとメチャクチャ歩みの遅い馬がジロジロと城壁やら目につく物を警戒する七乃を乗せていた。

よく見て気付いたけれど馬が遅いんじゃなくて、七乃が1歩進んでは止めて、1歩進んでは止めての繰り返しをしているようだ。そのせいか馬も嫌気がさしてダルそうな顔をしている。

 

「…ここで何してるんです?」

 

「ん?真桜の頑張りを見てたのさ。あと、七乃が来るのを待ってた」

 

「軍師を1人にしとくのは不安やろって陳紀はんが言っとったわ」

 

「…そうですか」

 

警戒しすぎて人間不信が見え隠れしている七乃は、一定の距離を保ったまま私達に話し掛けてくる。まだ味方だと分かっているからか、少しトゲはあるけれど会話として成り立っているから問題ないだろう。

 

「そんじゃ、沙和ちゃんが頑張ってるだろうし前へ行こっか」

 

「えぇ、護衛は任せますよ陳紀さん、真桜さん」

 

「任しとき」

 

またポコポコ歩みを始めた馬の前を私が、後ろを真桜が守るように着いていく。七乃の顔は険しくアッチコッチ警戒しているけれど、さっきみたいに1歩歩いて止まる事は無くなった。




頑張って書きます


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11

書ける内に書きましょう。
手直しは、まぁ、ボチボチやります…。


「敵将、波才討ち取ったのー!」

 

前線へ追い付いた時には私達の兵が敵を圧倒し、沙和ちゃんが敵将を討ち取っていた。それに近場からも怒号の声とか聞こえてくるから他の軍も城内へと入ってきたらしい。

 

「あ!陳紀ちゃん、陳紀ちゃん!沙和が敵将倒したのー!」

 

私達に気付いた沙和ちゃんが喜色満面の顔と声で近付いてくる。なんか懐いた子犬みたいで可愛いなぁ~なんて思ったけれど、真っ赤になった服と頬に付いた赤い何かで完全に台無しだった。

 

「ちょちょ、待ちぃや!血だらけのまんま飛び込んで来んなや!」

 

抱き付かれた真桜なんて沙和ちゃんの顔をグイグイ押して、引き剥がそうとしている。沙和ちゃんの頬とかグニッとなって面白可愛い顔になっている。

 

「貴様らか!我らの軍をここまで痛め付けおったのは!」

 

轟ッ!とクソデカい声量で怒りの声を上げるのは無精髭を生やした筋骨粒々でガッチリとした体型の(恐らく)武将。得物であろう丈八蛇矛を手にコチラへと向かってくる。

 

「アンタ、誰や?」

 

「我が名は孫夏!南陽黄巾軍が大将よ!」

 

名乗りすらも煩い孫夏を見ながら私は七乃に聞いた。

 

「…南陽黄巾軍って何?」

 

「南陽の辺りで暴れてた連中ですね。ただ、何度も孫堅に蹴散らされて崩壊したって聞いてたんですけど生き残ってたみたいですねぇ」

 

「ほぇ~」

 

よぐわがんにゃいけどね

 

「ふん!」

 

蛇矛の石突きで地面を突くと、ビリビリッと地面が振るえたような気がした。おー、気合いがスゴい。夏候惇さんや文醜ちゃんと手合わせしたときみたいな感覚がする。

 

「貴様らは生かして帰さん!たとえワシがここで死ぬとしても貴様らは道連れよ!」

 

七乃を後ろに下がらせて私と真桜、沙和ちゃんが孫夏の前に立つ。私と沙和ちゃんは早さと手数、真桜は槍での削り。対する孫夏は明らかに槍の長さと本人の地力による力を主体にした戦闘だろう。

先制で矢を射掛けるが腕に刺さったハズの矢は、浅くしか刺さらなかったのか地面にポトポト落ちた。

 

「…勝てるんかコレ?」

 

「…さ、さぁ?」

 

「…手の数では勝ってるの~」

 

想定以上の相手に私達は浮き足立つ。正直、こんなのと戦うことになるなら遠征を紀霊に任せれば良かった。

 

「…行くでー!」

 

「負けないのー!」

 

「3人に勝てるわけ無いだろ!」

 

「馬鹿者!お前ワシは勝つぞお前!」

 

 

「食らうのー!」

 

飛び出す沙和ちゃんは右へ左へと動きながら孫夏へ肉薄する。その後ろでは真桜が槍の回転出力を上昇させているのか回転音と唸りが大きくなっていく。

 

「甘いわー!」

 

沙和ちゃんの連撃を軽々受け止めたと思うと蛇矛を凪払うように振る。沙和ちゃんは防ぎつつ衝撃を抑えるために跳んではいるようだけど、かなり後方まで吹き飛ばされている。

 

「…真桜、まだ終わりませんか?」

 

「…もうちょい。あと少しや」

 

「なら私が抑えます。沙和ちゃんが来たら手伝ってくれるよう伝えてください」

 

始めに射った矢より多くの気を込め、胴目掛けて4本放つ。当たるかどうかは置いておいて、弓を剣に切り替える。沙和ちゃんより弱いだろうけど真桜の準備が出きるまでなら耐え凌げるハズだ。

 

「次鋒、陳紀行きます!」

 

「うおおおお!」

 

あれ?なんかさっきとは違って突っ込んできてますけど?

あ、右腕と左太腿を撃ち抜いている。筋肉を収縮させて止血しているようだけど、滲んだ血と庇うような動きは隠しきれていない!

なるほど矢を警戒して距離を詰めに来たのか。

 

「双剣乱舞ぅ!(ただの連撃)」

 

「ギャアー!」

 

必殺、いや、ただブンブン振り回すだけみたいなモノですけど何合か打ち合い、大振りの一撃を避けて孫夏の胸を鎧ごと切り裂いた。その事実に驚いているのか胸から噴き出す血を見て固まっている。

 

「なんと…。我が鎧を切り裂くとは。超人強度460万のこの鎧を」

 

なんだ超人強度。しかも460万とか随分と高い?数字だな。

フーッと息を1つ吐いた孫夏は蛇矛を構え直し、油断無く私を見据える。その間に吹き飛ばされた沙和ちゃんは合流し、真桜は準備を整えきったようだ。

真桜の槍からは火花が散り、回転による唸りは伝説上で語られる龍の咆哮かと思わせるほど凶暴な音を発てている。

「お待たせや。準備完了やで!出力の制限装置取っ払ったから半暴走状態やけど威力は未知数や!まさにウチの螺旋は天を突く螺旋やで!」

 

下がっときぃ!と真桜が吼えながら槍を構えて孫夏へと突撃する。槍に加速装置でも取り付けられているのか、1歩跳んだ真桜は宙を殺人的な速度で孫夏向けてかっ飛んでいく。

 

「うおらぁぁぁぁ!」

 

「ぬぅん!」

 

超回転する槍と蛇矛がぶつかる。ドーンとぶつかり衝撃波が走った。一瞬だけ拮抗していたけれど真桜の未知数という言葉に嘘は無く、孫夏が少しずつ後ろへと押され始める。

防御に移行した孫夏の足は踏ん張る体制のまま地面にめり込む。地面を抉りつつも歯を食い縛り、槍を握る手に力を込めて真桜の突進に抵抗を続ける。しかし、そんな抵抗を嘲笑うかのように真桜が更に出力を上げたのか後方へ押し込んでいく。

背中から緑の光を撒き散らしながら。

 

「ぐうう!?」

 

「諦めぇや!」

 

孫夏は必死の形相と咆哮をあげて耐え凌ぐ。戦況は限りなく真桜が有利で進んでいる様に見えるが、何か真桜の声にも焦燥を感じた。

 

「ッ!?アカン、負荷掛け過ぎたか!」

 

そんな真桜の声と一緒に緑の光は弱まり、槍からは煙が発ち始めて回転音も小さくなってきている。それを孫夏も感じ取ったのかニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ほう、そうか。あと幾ら耐えれば良い?どれくらい耐えればお主の限界が来る?教えくれんか女子よ」

 

「ッ!やっかましいわ!」

 

かなり出力が落ちたのか既に孫夏は余裕の笑みで真桜の槍を受け止めている。恐らく、そろそろはね飛ばして真桜を斬ろうとしているんだろう。

 

「なかなか楽しかったぞ、女子よ!」

 

拮抗が崩れ、孫夏は蛇矛で真桜の胸を刺し貫こうとする。自分に迫る蛇矛を見た真桜は目を瞑り、手を顔の前に突き出す。

 

「させないのー!」

 

「援軍だ!」

 

「ン何だコイツら!?」

 

完全に忘れられている私と沙和ちゃんがソコへと飛び出す。熱い戦いの余韻に浸る孫夏は蛇矛を防ぐ沙和ちゃんと双剣を振り回しながら突っ込む私に呆気にとられている。

 

「おとなしくするのー!」

 

「抵抗しても無駄だぞ!」

 

「ゲッホゲッホ!(致命傷)」

 

既に体力の限界、肉体の限界が来ていたのか孫夏は最初の頃に比べかなり弱っていた。二流、三流の私達の攻撃も捌ききれず鎧の傷が増えてきている。

 

「お前ら2人なんかに負けるわけ無いだろ!お前オゥ!」

 

気合いを入れるかの様に吼える孫夏。気合いとか根性で粘り強く戦うことは出きるかもしれない。

ただ気合いだけでは何ともならない事態があるのもまた事実。

 

「螺旋槍!」

 

「何ィ!?」

 

「さっきみたいな大出力は使えへんし、ガタが来とるからキツいけど!無理させればまだ動かせんねん!」

 

真桜が槍を無理矢理動かして帰って来た。軸はぶれ、ひび割れている槍を振るい続ける。そして、

 

「「ッ!?」」

 

真桜の槍は爆散、孫夏の蛇矛は刃が砕け柄が折れた。

 

「今や!」

 

その声に答えて私が孫夏の胸を✕の字に斬り、沙和ちゃんが首へと剣を走らせる。胴から大量出血しながらも丸太のように太い腕で首を守り、沙和ちゃんの腕を掴んで風車のようにグルグル回して投げ飛ばす。

 

「主と槍の女子が脅威になる!お主ら2人はワシと共に死ねい!」

 

ハナから私と真桜狙いかよ!

剣で斬るか?一撃で仕留められなかったらアイツと心中確定だ。なら、弓にするか?組み立てて撃つ前にアイツが辿り着くのが先に決まってる。

 

「どうすりゃ良い!?」

 

「答えは簡単ですねぇ~」

 

間延びした声が聞こえ、正面にいた孫夏が血を吹き出して倒れる。その体を槍のような矢が3本貫いていた。

 

「こんなところで立ち止まってる暇なんてありませんよ~?さっさと制圧して美羽様の元に帰るんですから~」

 

さっきまでの激闘なんて無かったように言ってくる七乃の後ろには城外に置いていたハズの弩が3台設置されていた。

 

「あと、この人は邪魔ですから。よいしょっと。…あら?斬れないですね。も~、無駄に頑丈ですね!」

 

心身ともに尽き果て、倒れ伏す孫夏へと歩み寄った七乃は容赦なく首へ剣を突き立てた。軍師ゆえの非力さと孫夏の鍛えられた体が災いし、剣は肉を少し切り裂く程度にしか刺さらなかった。

 

「えい、えい」

 

グッグッと体重を掛けて剣を刺していく七乃。ゆっくりと入り込んでいく剣と、それに合わせて口から首から噴き出す血を見て戦いで熱く滾っていた血が一瞬で冷えた。

 

「…七乃、私がやるよ」

 

「ダメですよ。陳紀さん達はソコで見ていてください」

 

フゥ、と額の汗とか返り血を拭った七乃が孫夏の首を切り離す。

 

「貴女達がどう思ってるかは知りませんけど、私にとって熱い戦いだとか誇りある戦いだとか、どうだって良いんですよ」

 

剣の血を布で適当に拭き取りながら静かに七乃は話す。剣撃や怒号が聞こえているのに、その声はハッキリと聞こえた。

 

「結局はただの殺しあい。違いますか?」

 

冷めた眼で切り取った首を眺めた七乃は袋に放り込み、鐙に結びつける。そのまま設置していた弩の撤収指示を出し始めた。

 

「さ、邪魔者も片付きましたし先へ進みましょう」

 

何事もなかったように、いつもの笑顔を貼り付けて馬を歩かせる七乃の後ろ姿を真桜と沙和ちゃんは顔に恐怖を浮かべて見つめていた。




本日のMVPだった武将

武将名:孫夏
破壊力:A(呂布並み)
スピード:C(モ武将)
射程距離:C(槍のみ)
持続力(スタミナ):B(三羽烏くらい)
精密動作性:C(モ武将)
成長性:E(超早熟型)


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12

美羽様を強化しました。



私達が孫夏と戦っている間に黄巾の首魁である張3兄弟は曹操さんに討ち取られたらしい。どうも七乃は腑に落ちない顔をしていたけれど、やっと帰れる事に喜んでいるようだった。

 

「世話んなったわ」

 

「楽しかったの~」

 

現地解散らしいので真桜と沙和ちゃんとも此処でお別れだ。後々、真桜には私用の弓を作ってもらう約束をしたので、帰ったら何か良い感じの素材を探そうと思う。

 

「片付けが終わり次第、美羽様の元へ帰りましょうか」

 

「あいさー。ついでに孫堅殿と弩も回収しないとな」

 

攻城用に作った弩は1台を真桜が持ち帰り、残りの2台は私達が持ち帰って改良だの何だのして互いに情報共有をしたいらしい。

陣幕やら弩やらを畳んでいく兵を見ながら、目的である孫堅殿を探す。まだ朱儁の所にいるなら良いけど勝手にアッチコッチ出歩かれてると、いざ帰る時に余計な時間を食うので場所だけは把握しておきたい。

 

「よぉ、陳紀。どうしたコソコソキョロキョロして」

 

フラフラ探していたらお目当ての孫堅殿がいた。その手には杯と酒瓶を持ち、顔は赤くなっていたけれど。

 

「帰るので用意をー、と思ったんですけど。結構呑んでますよね?馬乗れます?」

 

「は、バカ言え。こんなのオレにとっちゃ水みてぇなモンだ。まだまだ酔いやしねぇよ」

 

そう言いながら杯を傾け、注いであった酒をグッと一息で飲み干した。そして空いた杯に注いで~って、

 

「いや、帰るって言ってるじゃないですか!早く準備してくださいよ!」

 

「ギャーギャー喧しいなぁ!分かった分かった。準備するから少し待ってろ」

 

面倒くせぇと言いながら孫堅殿は恐らく自軍の方へと歩いていった。酔って無いって自分で言ってたんだし、ちゃんと帰れるんだろう。

 

 

「祭~、水~」

 

やっぱり酔ってるじゃないか(呆れ)

あんだけ豪語していた孫堅殿は今、馬にもたれ掛かりながら隣の黄蓋さんから竹筒を受け取って水を飲んでいる。赤かった顔が真っ青になって水を飲んでは鮮やかな色の物を口から吐き出している。

 

「ヴォエ…」

 

「酔って無いって言ってたじゃないですか」

 

「…酔ってねぇって」

 

「何だお前根性なしだなぁ」

 

若干1名のせいで当初の予定より早めの休息を入れる。顔色が少し良くなった様な気がする孫堅殿は軽口くらいなら叩ける程度には復活した。

 

「あー、さっぱりした」

 

色々吐き出したからか、死んだ魚みたいな目には生気が宿り直した。まだ頭が痛いのか米神を押さえて眉をしかめているけれど、行動するのには問題無さそうだ。

 

「よっしゃ、さっさと行こうぜ。雪蓮達の顔も早く見てぇしな」

 

ヒラリと馬に跨がるとサッサと先頭へと馬を走らせていく。元気になったら元気になったでホントに騒がしい人だなぁ。

あ、七乃がキレて追い掛けてる。

 

 

無駄に長い道程を乗り越えて、ホントに数か月ぶりの南陽の街が見えてきた。

 

「やっと見えてきました…」

 

「早く帰って寝たい…」

 

なれぬ遠征と野営で疲労が溜まっている私と七乃は幽鬼のようにフラフラになりながらもギリギリ落馬せず耐えきれていた。

 

「…おい、ありゃどういうこった?」

 

何かを見た孫堅殿が指差す方を見ると、南陽の城に黄色地に『袁』の旗と赤地に『孫』の旗がはためいていた。

心なしか城壁に傷があったり周りの地面に陥没した跡や槍や矢が散乱している。

 

「これは…」

 

より近付いて見れば完全武装をした赤鎧の兵士と黄色鎧の兵士が協力して城壁の修復や見張りを行っている。

 

「あ!張勲様達のお帰りだ!紀霊様と孫策様に伝えろ!」

 

見張りをしていた兵が私達に気付いたらしく、城内に向かって叫ぶ。それにしても紀霊様と孫策様、か。

こっちは遠征通したのにギスギス感が残ってるというのに、アッチは兵士同士も打ち解けてるみたいだなぁ。

 

「…雪蓮か?いや、冥琳の発案か?」

 

珍しく考え込んでいる孫堅殿をチラチラ観察しながらギャーギャー何か騒がしい出迎えを待つ。

漸く開いたと思えば何やら奇妙な組み合わせ。

 

「長旅お疲れーす。戦果はどうでした?」

 

「ええい、雪蓮離すのじゃ!」

 

「ちょっと美羽、暴れないでよ!」

 

槍を担いで手をヒラヒラさせながら近付いてくる紀霊、その後ろを袁術様と、その袁術様を抱き抱えている孫策が出て来た。

 

「え、どういう状況?」

 

思わず言ってしまった私は悪くない。

 

 

「つー訳で、黄巾との攻防戦があって以来の仲なんすよ。雪蓮さん、あー、孫策さんは美羽様にベタ惚れっすけど」

 

謁見前に着替えとか風呂とかを済ませることになったので、その間に紀霊に疑問をぶつけると遠征中にあった戦闘の事を言われた。

 

「えぇ…?そんな事ある?んじゃ、その妹の孫権さんは?」

 

「蓮華さん?あの人とは友情?みたいなヤツっすね。上で守る時は蓮華さんを指揮者に、外出て戦う時は私を指揮者にしてたんで、指揮者同士なんか仲良くなりました」

 

その間、孫策さんは袁術様の護衛をしていたらしい。というか惚れた以来、何かと袁術様を抱き抱えたり頭を撫でたりして周瑜に怒られているんだとか。

そんな周瑜もキリッとしている癖して、袁術様と戯れる孫策を見ているときは家族を見るような穏やかな顔をしているんだとか。

 

「んで末妹のシャオちゃんは大体、美羽様の遊び相手になってもらってます。あと余裕ありそうなときは要望があったんで、戦闘に参加してもらったりしてましたわ」

 

そんな感じの事があったんすよー、と話す紀霊。要は袁術様の魅了(無意識)と紀霊の交流ってスゲェと言う訳だな。うん。

…え、どういう事?(自問自答)

 

「て事で、七乃様が不安視していた城空けてる間の守りは完璧だったわけっすね。あとついでに孫家の人も取り込んだんで、戦力的な問題も解決すよ」

 

ナッハッハ!と笑う紀霊だけど、孫家を取り込んだってのは本当なんだろうか?なんか和気藹々としてたら後ろから刺されそうな気がするんだが。

 

「あ、信じてませんね?親の孫堅さんは分からないですけど娘の孫権さんと孫策さんは本当に信じて大丈夫ですよ。城を奪おうと画策してるようなら私達と冥琳で説得するって意気込んでましたから」

 

そこが今一信用できないんだよなぁ。紀霊は孫策さん達の事を信用してるみたいだけど、あの孫堅殿の娘だぞ?そんな簡単に取り込めるとは思えないんだよなぁ。

 

「ま、そこは見てのお楽しみってことで。期待しててくださいよ?」

 

 

「面を挙げてくださーい」

 

風呂だの休憩が終わり、いつも通りの緊張感が無い七乃の声を皮切りに会議が始まった。いつもと違うのは孫堅殿とその娘さん、配下の人達がいることだろうか?

 

「なんかこんなに人いるの久し振りだね」

 

「まぁ、殆どのが街の飾りになりましたからね。次は我が身っすよ」

 

ボソボソと紀霊と話をしていると本題である孫堅殿が袁術様の前に歩み出て膝まづき拱手をする。獣のような獰猛さ?が無くなったからか凄い落ち着いて見えるし、娘を思う母親って感じの雰囲気を醸し出していた。

 

「家族で、軍として話し合い決定いたしました。袁公路殿、我ら孫家を食客ではなく貴殿の軍の末席へと置いていただきたい!」

 

孫堅殿が頭を下げるのと合わせて、孫家家臣の人達も美羽様へ頭を下げる。七乃は少し目を見開いているし、美羽様は突然の事に慌てている。

 

「あ、頭を挙げよ!…との事じゃがお主らはどうじゃ?戦力の件もそうじゃが、妾は雪蓮やシャオ、冥琳のように善き友になれると思うぞよ。紀霊、お主はどうじゃ?」

 

ん?そこは七乃じゃなくて紀霊に聞くの?…あ、ふーん(察し)

これは確定演出ってヤツだな。間違いない。七乃も苦虫を噛んで味わってそうなほど渋い顔してるし。

 

「あーしは…。ごほん、私は蓮華さんもですけど思春とか明命と仲良くなれましたし大歓迎っすね。陳紀さんも七乃様も交流しないでイヤだってのはどうかと思いますし、1度話してみれば仲良くなれると思いますよ?」

 

「陳紀はどうじゃ?」

 

うわ、私に来ちゃうか…。えっと何て答えよう。

…あっそうだ(天啓)

 

「私はマトモに会話したのが孫堅殿しかいませんから何とも言えないですね。言えるとしたら主である袁術様の意見に付き従うって事でしょうか」

 

必殺の『どっちでも良いよ、指示に従うから』戦法だ!効果は答え辛い質問を受け流す。代償として周りから白い目で見られるし、七乃からスゲェ目で見られる。

…代償デカくねぇ?

問題である七乃へと袁術様が顔を向けるも、少し顔が強張っている感じがする。あれは聞き辛いと言うよりか顔を合わせるのが気まづいって感じだな。まだ仲直りしてねぇのかよ。

 

「…七乃はどうじゃ?」

 

「…そうですねぇ。戦力としては期待していますよ」

 

うわぁ、はの部分だけスゲェ強調した。

 

「…私は信用していませんよ。一緒に行動していたから感じましたけど、あの人は誰かの下に付くような人じゃありません。虎を御せないのと同じように組み込んだが最後、喉に噛み付かれます」

 

孫策達を信用している美羽様の前だから少し躊躇いがあったようだけど、七乃の答えは断固拒否だった。確かに戦場で見た孫堅殿を考えればそうなるだろう。目のギラつきが無いのは虎視眈々と首を狙っている虎にしか思えない。

 

「えー、そうかなぁ。じゃさ七乃様、こういうのはどうすかね?」

 

紀霊が挙手をしながら七乃の否定論へと割り込む。…スゲェよ、紀霊は。

 

「陳紀さんの副将に蓮華さん、あーしの副将に雪蓮さんを置くってのはどうっすか?そうすれば孫家の戦力分散になるし、あーしらの戦力増強になる。どうよ?」

 

あー、結構前に七乃が言っていたっけ。人質として~ってヤツな。

 

「ちなみにだけど、蓮華さんには思春って隠密が、雪蓮さんには冥琳が専属で付いて来るんで戦略性挙がりますよ?」

 

おー、いつも言われっぱなしの紀霊が七乃を押してる。

 

「それが牙を向く可能性があるから信用できないと言ってるんですよ。それとも紀霊さんは絶対に裏切らないと言うことに命でも張れるんですか?」

 

「張れますよ。友達を信じるのは当たり前でしょう?」

 

即答だった。ムキになっているという事でもなく本気で信じているんだ紀霊は。

 

「七乃様だって陳紀さんの事、最後は信じてるでしょう?それと同じですよ」

 

「…美羽様。私は彼女達をまだ信用できませんが、美羽様を信じています」

 

紀霊の言葉に考えた七乃は美羽様へそれだけ言うと口を閉じて何か考える様に俯いた。

 

「うむ。初対面の者も多いゆえ全部受け入れろとは言わぬ。じゃがこの出会いが良き事であるのは確信しておるのじゃ!…と言うわけでのう、乱の鎮圧も含めて祝勝会じゃ!」

 

おー、なんか良い感じに纏めたところがスゴく君主ッポイ。蜂蜜水飲んでグータラしていなければ袁術様も立派なんだよなぁ。

 

「…祝勝会ですか。陳紀さん、紀霊さんお願いしますね?」

 

…これも暗殺対策の1つだから仕方ない、か。

 




美羽様をこんな感じに召喚したい

美羽様
筋力:E- 耐久:E-
敏捷:E- 魔力:E-
宝具:EX

蜂蜜姫のカリスマ(A)
味方全体の攻撃力を上昇(3T)、敵全体に蜂蜜効果(攻撃力ダウン、防御力ダウン、ターン開始時確率で魅了効果)(消去不可)を付与

軍略(張勲)B+
味方全体の宝具威力アップ(1回)、宝具威力アップ(3T)、敵全体にスタンを付与

勇猛(孫策)B+
自身にARTS、BUSTER、Quickアップを付与(3T)、指定した味方の攻撃力アップ(3T)

宝具:天上に奏でし讃歌(美羽様・オン・ステージ)
黄金の蜂蜜水(蜂蜜効果の魅了を確定にする状態)を自身に付与(消去不可5T)、味方全体にターン開始時に攻撃力アップ、防御力アップ、HP回復(1500)、NPチャージ(10%)、蜂蜜(状態異常を1つ回復する)を付与


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12after

主人公強化イベント

鱗×3、胸殻×3、角×2、大宝玉×1、眼×2で作れるそうです。


「炎蓮殿、珍品堂に行きませんか?」

 

祝勝会の翌日、皆さん2日酔いらしいので今日は休みになりました。あと、孫家の皆さんに真名教えて貰いましたので警戒はすれど、七乃みたいに何でも噛み付く必要が無くなったのは良き事。

 

「珍品堂?んだそれ」

 

「名の通り、珍品ばかり仕入れてる変な店ですよ。蓮華さんも行きますか?何か目ぼしいものあるかもしれませんし」

 

「私も良いの?」

 

昨日、お2人は私作の辣子鶏で火を吹いたからか酔いが残っていないようです。食べていなかった雪蓮さんは見事に2日酔いなんですがね。

 

「まぁ、1人増えたところで客少ないですし問題ないですよ。この後、紀霊も呼びに行くつもりでしたし」

 

「なら同行させて貰おうかしら」

 

珍しい物と聞いて若干ルンルンしてる蓮華さんに七乃の執務室前集合と伝えると、小さな鞄だったりを持ってくると小走りで部屋へと戻っていきました。

 

「炎蓮さんは何も持ってこなくて良いんですか?」

 

「まぁ、何かあったら後で買いに行けば良いだろ?」

 

それもそうか。紀霊の部屋の前に来たのでドンドン扉を叩く。

 

『ちょっ!?化粧してるんで待ってくださいよ!』

 

「いや知らんし」

 

何か中から聞こえた気がしたけれど構わず開く。姿見の前では見慣れた姿の紀霊が立っていたけれど、これで途中なの?

 

「いつも通りじゃん」

 

「違いますぅ。髪結ってないですぅ」

 

「うっざ」

 

妙に間延びした喋り方はクソ腹立つなオイ。チャチャッと髪を纏めて結った紀霊は、もう一度姿見の前でクルクル回ったりして確認をしている。

 

「キラーン☆いや、ちぇるーん♪…今日の私もキレイかつカワイイ!準備完了、行きましょう!」

 

「…あー、まぁなんだ?よろしくな紀霊」

 

紀霊の勢いに炎蓮さんは結構引いている。武官になったのならこの勢いに馴染まないと訓練も戦も一緒なんだからキツくなるぞ?

 

「んで、目的の品ってあるんすか?」

 

「特に無いかなぁ。あればだけど珍しくて弓とかの素材になりそうなのあったら嬉しいけどね」

 

「あ?新調すんのか?」

 

こうやって歩いていると嫌でも2人と自分の身長差が分かってしまう。紀霊と炎蓮さんが同じくらいだから約6尺、蓮華さんは七乃と同じくらいだったから約5尺3寸、雪蓮さんがその間くらい、シャオちゃんは美羽様と同じくらい。その他孫家の人は蓮華さん以上、炎蓮さん未満って感じでしたね。

 

「え、私って小さくないですか?」

 

「…あ?小せぇよ?」

 

「ちょっ!?炎蓮さん!」

 

…やはり、やはり私は小さいのか。クソォ、立派な山脈まで持ちやがって私に対する嫌がらせか何かか?

 

「ふーんだ!紀霊と炎蓮の木偶の坊!胸と背デカくする前に頭を鍛えろ猪武者!」

 

 

「ずびばぜんでじだ」

 

あの後、スゲェ形相でスゲェ速度の炎蓮さんに顔を掴まれ壁に埋められました。叩き付けられた後頭部が1番痛いのに掴まれていた前面が陥没したように変形して前が見えねぇ…。

 

「ひー、ひー、陳紀さんその顔でこっち見ないで…。あっひゃひゃひゃ!」

 

限られた視界で確認すれば同僚は私の顔を見て笑い転げている。一瞬、チラッと見えた限りだと炎蓮さんはスゲェ形相から不機嫌の形相に格落ちしているので許して貰えたと思って良さそうだ。

 

「…ふん!」

 

ギュポンと謎の異音が鳴ると、潰れて見えなかった視界が一気に開け、顔の陥没が嘘みたいに無くなっていた。…私の顔は包子生地か何かだった?

 

「…何かスゴい音したのだけど」

 

曲がり角からチラッと顔を覗かせた蓮華さんが私の埋まっていた壁と、笑い転げる紀霊、未だに若干怒っていそうな炎蓮さんを見て、心配そうな顔から呆れ顔へと変化した。

 

「母様、暴れるのは良くないと言ったじゃないですか。我らは仲間なのですよ?」

 

「ハッ!それはコイツに言うんだな。突然黙りこくったと思えば木偶の坊だの猪武者だの言いやがって」

 

私の頭をバシバシ叩く炎蓮さん。やめろや余計に背縮むだろうが。

 

「ひー、ひー、蓮華さんも来ましたし行きましょ」

 

目の端に涙を浮かべた紀霊が笑いを堪えながら出立を促す。笑ってるのは腹立つけど、時間は有限だしサッサと出発しよう。

 

 

南陽の賑やかな市場を通り抜け、人通りの少ない路地を抜け、人や猫などの気配すらしない薄暗い路地にその店はある。

扱う品は全て市場では出回っていない謎の品。入手経路も何もかもが謎に包まれ、決して詮索をしてはいけない。

 

「ようは違法店じゃない!」

 

案内と説明をしながら歩いていると蓮華さんが怒鳴った。さっきの説明とかを振り替えると確かに違法店だわ。取り締まるべきか?

…あれ?ホントに違法店なのかな?違法店じゃないかもしれないな。取り締まるのやめとくわ。(シャム構文)

 

「分かってないっすね~蓮華さんは。良いっすか?バレなきゃ違法店じゃないんですよ!」

 

ビシッと人差し指を突きつける紀霊。勢いと妙にカッコ良い顔で言っているけれど、結局それは違法だよ。店の前でギャーギャー騒いでいれば店主にも聞こえているわけで、カラカラッと戸が開いて中から顔馴染みの爺さんが出てきた。

 

「お客さん、店の前で騒がれんのは困るんだけどねぇ」

 

「あ、貴方がここの店主ね!これは違法よ!違法!後でンー!ンー!」

 

いきなり爺さんに詰め寄る蓮華さんを私が後ろから羽交い締めにし、紀霊が口を手で塞ぐ。全く、今からここで物を探そうと言うのにこの堅物は…。

 

「…南陽周辺の珍しい物はここにしかないすっよ。しかも取り潰されたら何処の好事家に買われるか分からないんすから」

 

「ンー!ンー!」

 

隅っこまで引っ張っていき蓮華さんを説得する紀霊。スゴい不満そうな顔だけど、拝み倒す紀霊の熱意と、そこまでする物を置いている店への好奇心が勝ったようだ。

 

「お客さん、騒がしい人連れてこられるのあんまし…」

 

「分かってますよ。ひとまず大人しくなったみたいですし今回は多めに見てください」

 

「まぁ、常連だから今回は良いですけど…」

 

危ねぇ。蓮華さんで出禁になんてなったら笑えねぇぞ。掘り出し物が多いから重宝してるし、それこそ出禁にでもなったら摘発するのも難しくなっちまう。

 

 

「これ銅鏡かしら?なんか妙に圧を感じるのだけど…」

 

「そいつは玉藻鎮石って名前でっせ。ちぃっと前に手に入れたモンでさ」

 

「鏡なのに石なの?」

 

「らしいでっせ」

 

堅物が1番楽しんでいる件。手に取ってはコレは何?アレは何?と爺さんに訊ねまくっている。爺さんも綺麗な少女がキラキラした目で聞いてくるのに、悪い気はしていない様で機嫌良く質問に答えている。

 

「星熊盃?爺さん、コイツはどういうモンなんだ?」

 

炎蓮さんが手に取ったのは1尺はある丁寧な朱塗りがされた美しい杯。値段を見れば普通の杯よりも少し高い気がするけれど、大きい分の値段と考えればこのくらいなのかな?

 

「そいつは注いだ酒を旨くするんだそうで。あっしは酒の味が良く分かんねぇんですがね。お姉さん試してみますかい?」

 

「…ほう、ソイツは面白え杯だな。試飲はいらねぇ、見た目も気に入ったしコイツは買っていくぜ」

 

「まいど」

 

炎蓮さんも何か良いものを見つけたようだ。そして私と紀霊は───

 

「コレとかどう?」

 

「なんか故郷の街で似たような物を真桜が扱ってたの見ましたよ」

 

真桜が見たこと無いような珍しい素材探しをしていた。ガサガサと色々詰め込まれてる棚とか箱とかの中から素材になりそうな物を探しているけれど、どれもこれもパッとしない。

 

「爺さん、何か珍しい物で弓とかに使えそうなもの無い?」

 

「…また変な注文で。あー、使えるかは知りやせんけど珍しいモンならありますよ。すぐ持ってきますわ」

 

店の奥へと入っていった爺さんは暫くすると大きな籠に鱗とか色々詰めて戻ってきた。

 

「コレです。嘘かホントかは知りやしませんが龍から取れた物だそうで」

 

「龍?あの伝説の生き物?」

 

「へぇ、その龍でさ。しかもこの龍は飛びっきりの悪いヤツだそうで国を滅ぼしたとか」

 

「うわぁ、そこまで行くと嘘臭いっすねぇ。これは角?牙すかね?コレ」

 

紀霊が籠から取り出したのは恐らく角と思われる黒く鋭い物。私も鱗を手に取り見てみるが、こんなに大きな鱗を持つ生物が存在するのだろうか?炎蓮さんが持っていた杯並みに大きく、短剣では傷が付かないほど硬い。

 

「んで、コイツが話だと眼だそうでさ。確か邪眼?魔眼?そんな風に呼ばれてるそうでっせ」

 

箱に納められていたのは宝石にしか見えない石のような物。宝石とか興味ない私が見ても吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る。紀霊は眼が離せなくなっていてずっと凝視している。

 

「…これは想像以上の物ですね。買いです。2度とお目にかかれないでしょうから言い値で買い取りますよ」

 

「ヘッヘッヘ、毎度あり!」

 

籠ごと素材を買い取り店を出る。正直、ここまで予想外の物が買えるとは思っていなかった。こんな変わったスゴい物なら真桜もヤル気が湧くだろう。

 

「良いもの買えたじゃないすか!それなら真桜だって気合い入りますよ間違いなく」

 

「そりゃ気合い入れて貰わないと困るんだけどね。ただ、かなり硬いけど加工できるのかな?」

 

「そこは真桜ですし何とかするっしょ。アイツ、こういうのは何がなんでもやりますから期待して待っとけば良いんすよ」




RISEやるためだけにSwitchを買う?
RISE終わったら埋もれるの確定だしなぁ~。

まずはmhw:iの勲章埋めでもするか


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反董卓連合
13


反董卓の始まり


「はぁ、どうしたものですかねぇ」

 

黄巾征伐が終わり、残党狩りも漸く終息の目処がたったと言うのに都から内密で書簡が届いた。

書簡の相手は張譲。十常侍の1人で謀略渦巻く朝廷内でも有数のやり手と噂されているヤツだ。

 

「よう、七乃。頼まれてた資料持ってきたぜ。…どうした?んな渋い顔してよ」

 

「…あぁ、炎蓮さんですか。朝廷からの面倒事が増えましてね」

 

「またぁ?名ばかりの勲章に黄巾の残党狩り、襲われた村への施しやらされてて今度は何やらされるんだ?え?」

 

連日駆け回っている疲労が滲んだ顔に不機嫌を浮かばせた炎蓮さんは尋ねてくる。こういうときは私が説明するより、直接見て貰った方が早いだろう。私が書簡を差し出すと引ったくるように受け取り、ザッと眼を走らせると彼女風に言えば渋い顔をした。

 

「なぁ」

 

「はい?」

 

「董卓ってのが洛陽にいるんじゃなかったか?」

 

黄巾征伐が始まった頃に西涼から呼び出され、都の防衛と周辺の賊討伐を行っていたのが董卓だった。西涼での評判はかなり善く、洛陽入りしてからは治安も良くなったと噂になっていた。

 

「えぇ、善政を行い民から人気のある董卓さんがいますねぇ」

 

「んじゃあ何だ?その善き指導者が実は悪人だったってか?余りにも出来すぎだろ。んなのは物語の中だけにしとけ」

 

ポイっと投げ返される書簡を畳んで執務机の上に放り投げると、まるで狙ったかのように書簡は開き、中に書かれている文が見えていた。要約すれば───

 

『董卓により都は荒れ、民は絶望を抱えている。此を読みし諸侯は陛下を洛陽を守るべく逆賊董卓を討つべし』

 

と言うことらしい。

 

「まったく、美羽様との安寧を邪魔するのが好きな人達ですねぇ」

 

「オレらにも休息をくれってんだよ。指示だけ出してテメェらは都に引き込もっているだけ。何かあったら助けよ諸侯?ふざけんじゃねぇよ」

 

やってらんねぇ、と毒付きながらいつの間にやら椅子に座っている炎蓮さん。彼女の意見は最もだけど私としては真偽はともかく他の点で困っていた。

 

「ただですね。この前まで洛陽に潜入させてた密偵さんから連絡が途絶えてるんですよねぇ。それまでは定期報告もちゃんと来ていたんですが」

 

「…書簡の話はともかく、洛陽で何か起きてるのは確実って言いてぇのか?」

 

「そう言うことです。今は保留にしますけど、何かあったら動こうと思いますから用意だけはしておいてください。私も陳紀さんと紀霊さんを呼び戻しますから」

 

「はぁぁ、面倒くせぇ事になりそうだ」

 

「それはいつもの勘ですか?」

 

「あぁ、無駄にデケェ話になるぞコイツは。ま、戦になりゃ暴れられるからオレとしては歓迎なんだけどな。戦いなら任せとけ」

 

ニッと獰猛に笑う彼女を頼もしく思い、架け橋になってくれた紀霊さんと美羽様には感謝してもしたりない。合同の演習を行ったり軍師間での情報共有を経て間違いなく黄巾の時よりも戦力は充実している。

 

「陳紀と紀霊ねぇ。あの2人は今何処にいるつったっけ?」

 

「曹操さんがいる陳留ですよ。紀霊さんの昔馴染みに凄腕の技師がいるので新しく武器を作って貰うそうですよ」

 

「あぁ、あん時に買ったヤツか。どんなのになるかは知らねぇけどスゲェ物にはなると思うぜ。見てるだけで圧を感じるような物ばっかだったからな」

 

「それは頼もしいですね。なら戦になっても何とかなるかもしれませんねぇ。董卓軍には不確定要素の『飛将軍』呂布がいますから」

 

 

帰還命令の早馬が来たのは真桜の所を訪ねて3週間たった頃だった。渡した素材で弓の製作は済んでいたが、細かな調整が残っているとの事なので真桜に預けて私と紀霊は帰路に着いた。

 

「にしても陳紀さん良かったんすか?弓預けて来て」

 

「だって、調整残ってるて言ってたし私が持って帰っても調整できんよ?」

 

「いや、そうじゃなくて。真桜の事だから素材とか徹底的に探りいれて自分の技術を高めようとしますよ?要は曹操さんとこの軍が強くなるよって話」

 

「あー、それね。迷ったんだけど使うなら完璧な状態で使いたいじゃん。調整怠って死にましたとか笑えないしさ」

 

出来上がった弓の試射をしてみたけど、技師と素材が一級品だからか精度も威力も桁外れの物に仕上がっていた。弓としての性能を生かすために剣の仕込みは無くしたけれど見た目より遥かに軽く、取り回ししやすいので近い敵も難なく弓だけで対処できそうだった。

それに素材の頑強さはそのままなので、並の武器相手なら弓を盾にするだけで問題なく防御できる。

 

「あんだけスゴいんだからさ、真桜の言う調整が済んだ状態で使ってみたいんだよ。それにさ、あの眼に馴れてないから持ってるの怖くなった」

 

「あー、確かにギョロギョロ動きますもんね」

 

魔眼とか言う綺麗な宝玉だと思っていた素材はホントに眼だった。一番見えるところって事で真桜が弓の先に取り付けた途端、怪しく輝きを放つ石ころがギョロリと動き瞬きまでしたのだ。

 

「人生で1番デカい声出しましたね。真桜もビビって固まってましたし。陳紀さんは腰抜かしてましたけど」

 

「うっさい」

 

あの眼に見られるのが怖くて手元に置いておきたくなかったのもあるけれど、何故かあの眼に見られていると自分の奥底まで見透かされてる様な気がするし何かを撃ち抜きたくて仕方無くなる。

自分に隠されている狂暴性が無理やり引き出される気がしておかしくなりそうだった。

 

「にしても、帰ってこいって何かあったんすかね?」

 

「大量の賊が出たとか? …流石にそれは無いか。隅々まで探し出しては鏖殺してるもんね」

 

「また遠征だったりして」

 

「えぇ…。なら次は紀霊行ってね」

 

のんびりアホみたいな会話をしながら私と紀霊は南陽へと馬を進めていく。

 

 

「お疲れ様です。サッサと広間に来てくださいね~」

 

到着した矢先に広間へと呼び出された。え、休み無し?なんてボソボソ2人で呟きながら広間へ行くと袁術様と七乃は当然として、シャオちゃん含む孫家の人が全員揃っていた。

 

「あー、休んでる暇無いっすねコレ」

 

「…また賊かな?」

 

「今日の議題は先日届いた密書と檄文に関してですねぇ~。知らない人もいると思いますので読みますから聞いててくださいねぇ」

 

書簡を開いて七乃が読み始める。色々書いてあるようだけど洛陽荒れてるよー、董卓が悪いんだよー、読んだ人助けてーって話だ。ホントに悪いなら話が早いんだけど実際は逆だったらどうする?討伐した結果、洛陽が荒れるとか天下の笑い者だぞ。

 

「続けて檄文でーす」

 

内容は似たり寄ったりで皆で協力して董卓を倒すぞ!って話らしい。問題は参加しなかったらお前も逆賊な?という点と発信元である袁紹さんにしては妙に煽り立てるのが上手いのだ。

 

「ついでに言うと帝の印が捺されてますので、参加しないのはかなり危険ですねぇ。不参加を理由に董卓と繋がっているなんて言われたら私達も国賊です。これら2つの書簡から言えるのは、董卓さんは恐らく嵌められましたねぇ」

 

「で、軍師様は嵌められた可愛そうなヤツを囲んで叩くのかい?」

 

気に食わないと言った顔の炎蓮さんが七乃に食って掛かる。何だかんだで心根はイイ人なんだよなぁ。

 

「叩きますよ?逆賊董卓の次は逆賊袁術とか嫌に決まってるじゃないですか。響きも悪いですし美羽様を逆賊呼ばわりとか本格的に朝廷叩き潰しますよ?」

 

「良いねぇ。朝廷の軍に便乗してくる各地の軍、ソイツを相手に大戦か!血が滾るじゃねぇか」

 

撤回、コイツらヤベェヤツじゃねぇか。

袁術様を逆賊にしないんじゃなくて言葉の響きが悪いからしないってのがブッ飛んでる。響き良かったら官軍相手に戦っても良いのかよ…。

 

「とまぁ、冗談はこの辺りにして。気に入らない人もいるとは思いますけど、官軍側で参戦しますよ。ついでに炎蓮さん達のお披露目もしたいので留守は私が守りますね~」

 

「む?なれば妾の側仕えはどうするのじゃ?」

 

「陳紀さんと紀霊さんに任せますから大丈夫ですよ美羽様~。軍師は冥琳さんに要望含めてお願いしましたし、炎蓮さんの暴走は蓮華さんが頑張って止めてくれるらしいです」

 

…その話ちゃんと本人にした?蓮華さん青い顔してるんだけど?

 

「あと今回は孫家の皆さんが主体なので陳紀さんはくれぐれも、くれぐれも目立つことはしないようにしてください」

 

あ、2回言った。

 

「それじゃ冥琳さん、抱負でもなんでも良いので一言どうぞ」

 

「…なに?」

 

ねぇ、伝えてないよね?いつもの凛とした顔がポカンとしてるんだけど?七乃ニヤニヤしてるし楽しんでるよね?

 

「…これ程の大軍を動かすのは初の事だ。至らぬ点も多々あると思うが皆、よろしく頼む」

 

おー、流石は軍師。間はあったけど何とか言葉が出てきた。七乃は面白くなさそうに半眼になって口をへの字に曲げているけど。

 

「それでは召集の知らせが来るまで解散でーす。あ、すぐに出れるよう準備はしておいてくださいね」

 



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14

ゴールデンウィーク始まったと思ったらバクシンオーも驚きの早さで終わりました。
ツインターボみたいに逆噴射してくれて良いのよ?


今か今かと待ち続けていると、意識していないのに訓練に気合いが入る。紀霊も一応副官となっている雪蓮さんとバチバチに自称模擬戦を行っているし、蓮華さんも珍しく思春と一緒に鍛練をしている。そして私は

 

「な、なんじゃと!?」

 

「あれ?そうでしたっけ?」

 

袁術様と七乃と一緒にお茶を飲んでいた。そして明かされる衝撃の新事実!なんて事はなく適当な話をしていたら、皆は真名なのに私が未だに『袁術様』呼びなの何でなの?的な話に辿り着いた。

いや、何でも何も教えて貰ってないからなんですけどね。それを伝えれば袁術様も七乃も忘れてるっていうね。

 

「祝勝会で孫家の者達と交換したのじゃから陳紀とも交換していたと思っておった…」

 

「あー、私は厨房にいるか酔っ払いの介護してたんで袁術様のところに行けませんでしたね」

 

「ぬう…。場の雰囲気と言うか色々台無しじゃが、これからは美羽と呼んで欲しいのじゃ」

 

なんか話の流れで袁術様じゃなくて美羽様から真名を預けられた。呼び慣れないけど、預けて貰ったからにはちゃんと真名で呼ばないと失礼らしい(噂)し、何度か反芻しておこう。美羽様美羽様美羽様…。

 

「そういえば、今回は留守番なんだね。てっきり陣頭指揮とか周りに牽制したりするのかと思ってたよ」

 

「いえいえ~、お披露目するためには私達よりかは炎蓮さん達に出て欲しいじゃないですか。まぁ、他の理由もあるんですけど」

 

「別の理由とな?…分かったのじゃ!城の守りじゃな!」

 

バン!と勢い良く執務机を叩く美羽様。勢い良すぎて湯呑みが跳びはね、少しお茶が溢れてしまい慌てている。

えっと台拭き台拭きは~っと。

 

「それもありますが、将の人達は良いですけど兵の方が少し問題ありまして。どうも元南陽黄巾賊だった人達がいるみたいなんですよねぇ~」

 

「ソイツらが匂うの?」

 

「思い過ごしなら良いんですけどね~。嘘かホントか密会みたいな事をしてる姿が見られているとか報告挙がってるんですよ」

 

昔に比べたら大分余裕が出てきたとは言えど、まだまだ身内だからって安心することが出来ない現状。

冥琳や陸遜、呂蒙と言った優秀な軍師達もいるけれど、七乃と比べたら潜ってきた場数と経験が違いすぎるため、反乱分子に関しては七乃が一手に引き受けている。

 

「なので、兵とは言えど身内を殺されるなんて場面に合わせたら何を言われるか分かりませんから~、遠征されてる間にコッソリと探る予定ですよ。ちなみに陳紀さんと紀霊さんの兵にも怪しいのいますからね?」

 

「…そ奴らが妾を狙っておるのか?」

 

「そこはまだ調査中としか言えません。ただ、美羽様を害そうとする可能性を捨てきれませんから」

 

そう微笑む七乃の目には確かな決意の炎が燃えていた。

例え自分の身が犠牲になろうと美羽様を守り抜くと言う熱い決意が。少し前までは夜みたいな真っ黒い濁った眼をギラギラさせていた癖に、いつの間にか濁りの抜けた綺麗な眼になっていた。

 

「はいはい、んで七乃がそっちに取り掛かってる間は私と紀霊が護衛とか色々やる訳ね」

 

「そう言うことです。ついでに冥琳さんに経験を積ませて軍師として頑張って貰おうと思ってます。彼女、軍略に関しては私より上ですから」

 

「む?ならば七乃はどうするのじゃ?」

 

「私も軍師として頑張りますよ?ただ謀略張り巡らせる方が得意ですから、策を練って敵を倒すのではなく中から敵を潰したりする役目になりますかね~」

 

あー、そう言うことね。完全に理解した(分かっていない)

 

「あ、それとは別ですが既に冥琳さんには言ってますけど陳紀さんに頼み事があるんですよ」

 

「私に?」

 

「可能ならで良いので董卓さんとその軍師である賈詡さんの身を確保して欲しいんですよね~」

 

「董卓ぅ?賈詡ってのも知らないけどさ、良いように嵌められた所のヤツなんていらないでしょ。軍略は冥琳、謀略は七乃がいるんだから不必要じゃないの?」

 

私の頭が良くないのは分かっているけれど、この提案だけは本当に理解できない。美羽様を逆賊にしたくないと言っている七乃が、董卓とその軍師を引き込む危険性を1番理解しているハズなのに。

 

「確かに嵌められてはいますけど、治安改善・維持、賊討伐をしながら密偵の処理を同時に行っているんですよ。ちょうど密書が来る少し前から報告が無くなってますからね」

 

「…それなら七乃もやってるじゃん」

 

「…分かりました。では董卓さんだけお願いします。西涼と洛陽での評判から善政に長けているようですから、私達でも気付かない方法があるのかもしれません。可能なら美羽様の補佐役にしたいと思ってますしね」

 

渋りまくる私に妥協点を提示する七乃。董卓を補佐役にして美羽様をより良い君主にするねぇ。

…董卓の為政者としての腕をそんなに買ってるのか。七乃が言うんだから間違いはないんだろうけど、そこまでして囲う必要があるのだろうか。

 

「可能なら確保するってところは変わらないよね?」

 

「えぇ、可能ならで構いません。…無理を言ってごめんなさいね」

 

「ま、期待に応えられるよう努力はしてみるさ」

 

「ありがとうございます。でも、自分の身を最優先にしてください。危険なら董卓さんはいりませんから」

 

「あいあい。んじゃ私は部屋に戻るよ。美羽様、お茶とお菓子美味しかったです。また来て良いですか?」

 

「うむ、いつでも来るが良い!」

 

 

「…董卓の確保っすか?」

 

「だってさ」

 

部屋を出て日が高くなってるのを知った私は、その辺を歩いていた紀霊と共に飯屋へと繰り出していた。

人は増えたけど城内の食堂を利用しており、私みたいに外で食べようとするのは未だに少数派で内1人が紀霊なわけだ。…外食派は私と紀霊しかいないかもしれないが。

 

「でも風聞的に良くないっすよね。仮にも逆賊なんですし」

 

「それ言ったけど、美羽様の補佐にしたいんだって」

 

「へー。…ところで何食います?」

 

やっぱり私と紀霊じゃこう言う話は長続きしないな。腹が減ってるから考えるのが面倒ってのもあるけど、七乃風に言えば頭の中身が足りてないから小難しい話をしてもチンプンカンなんだよなぁ。

 

「なんか美味いとこ無いの?」

 

「美味いとこって言われてもなぁ…。あーし甘味系しか回ったこと無いんすよ。地元の時は凪っちが結構な食通なんで食う店は全部任せてましたわ」

 

「沙和ちゃんと真桜は?」

 

「沙和っちはあーしと雑誌に載ってた可愛い甘味屋巡りして、真桜はカラクリ弄りしてる片手間に食えれば何でも良いって感じでしたね」

 

なんか想像通りだった。

 

「凪っちは元から料理したりするのが好きだったみたいで、店の味を再現してたらしいんっすよね。んで、再現したら次の店~、再現したら次の店~って感じで食べ歩きしてたんだって」

 

「へー、なんか意外。人は外見じゃ無いんだねぇ」

 

「ねー。視線鋭かったり動き易さを優先した可愛くない服だったりで女子力低そうに見えて、うちらの中で女子力一番高いんじゃね?って思いましたわ」

 

結局、良い案も出なくて駄弁りながら辿り着いたのは前に美羽様と七乃と一緒に来た店だった。店主の腕は良いし、唐辛子ビタビタは頼めるしで私の中では間違いなく最高に良い店だ。

 

「いらっしゃい!お、将軍今日も来てくださったんですか!いつもの席にどうぞ!」

 

威勢の良い店主に窓際の席へと通され、品書きを開く。さてと、何にしよっかなぁ~。私も紀霊も大体決めるのが早いからか既に店員が注文を取りに来ている。

 

「あーしは青椒肉絲と回鍋肉に白飯かな。…青椒肉絲は大盛りで」

 

「はや…。う~んとビタビタの辣子鶏と白飯で。余裕あるし大盛りにしよっかな」

 

「ビ、ビタビタですね。注文承りやした!」

 

本気かみたいな顔した店員が厨房へと入っていくのを見送る。表情豊かなのは良いことかもしれないけど、客に対して見せて良いものじゃなかったなぁ。

 

「なーんか不満気な顔してますけどビタビタなんて言われたら、あんな顔しますって」

 

「だからって注文した本人の前でしちゃいかんでしょ」

 

紀霊の言葉にペシペシと机を叩いて抗議するも、そんな私の姿を紀霊は苦笑いしながら見詰める。

…私だって理解は出来るんだけど1度ビタビタに魅入られてしまったこの身は、唐辛子の刺激を熱さを求めて止まないのだ。

 

「お待たせしやした!青椒肉絲に回鍋肉、白飯です。ビタビタもすぐお持ちしやす」

 

「お、来た来た」

 

愚痴っては慰められてを延々と繰り返していたら料理が運ばれてきた。…たまには青椒肉絲とかも頼もうかなぁ。紀霊の見てたら妙に食べたくなったけどビタビタってあるのかな?

 

「辣子鶏ビタビタお待ちしやした!」

 

ムワッと実に刺激的で食欲をそそる香りと共に私の前に何時もの辣子鶏が置かれた。店主は馴れてるから平気なようだけど、白飯を持ってきた若い店員は唐辛子の香りでか噎せていた。

 

「うん、美味しい!」

 

「…1つ貰っても良いっすか。ここの揚げ物美味いんすよね」

 

「ん。なら青椒肉絲少し頂戴」

 

鶏の唐揚げ(唐辛子タップリ)を紀霊の皿に渡し、青椒肉絲を貰っていると唐揚げを見た紀霊が絶句している。あれ?辛いの苦手だっけ?

 

「あー、まぁ、チビチビ食えばいけるか。…オホッ!?」

 

唐辛子を皿の端へと避けてカプッと噛み付いた紀霊から変な声がしたかと思えば、そのまま俯いてプルプル震えている。

 

「あー、辛かった?でもジワーッとくる辛さが良いよね」

 

「フーッ、クゥ!?…ジワーと言うかドンッ!みたいな感じでしたよ」

 

額に汗を滲ませた紀霊は水を飲むと漸く落ち着いたようだった。

 

「うまうま。そう?ジワーと口の中に辛味と旨味が広がって最高じゃない?」

 

「分かんねぇすわ」

 

…あれぇ?私の味覚おかしくなったかな?たまにはビタビタ以外のも頼もうかな。



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15

「皆の者、出陣じゃー!」

 

『ハッ!』

 

城壁から見送ってくれる七乃に手を振り、集合地点を目指し進軍を開始する。

連合軍は洛陽へ向かうなかで汜水関、虎牢関の2つを通る道を進むらしい。勿論守りを固められているだろうから戦闘は確定で、七乃と冥琳としてはどちらかを私達で落としたいらしい。

 

『要所を落とせば戦果として上々』

 

だそうだ。後は七乃が裏で手を回しているので袁術軍は連合軍の兵糧管理を担当することになっているとか。

 

『主戦力になるだろう軍は目星を付けているが、他にもいれば随時報告をして欲しい』

 

冥琳曰く、戦力になる軍は優遇するが集りや有象無象には出し渋るらしい。物資は有限だから有効的に使おうって話なんだとか。どこの軍になるかは分からないけど御愁傷様としか言えないな。

 

「おー、こう見ると壮大ですね。それに金と赤でメッチャ豪華、メッチャ()える」

 

後方を見た紀霊の言葉に釣られて私も後ろを振り返る。

おおー、確かにコレは豪華だ。兵数が多くなったのもあるけれど、色合いがとても良い。赤地に金の刺繍が入った絨毯みたいだ。

 

「紀霊よ。水を貰えぬかの」

 

「ちょい待ってくださいね」

 

季節的に涼しくなってきているとは言えど、初遠征の美羽様には堪えるだろう。出来るだけ負担を掛けないように良さげな馬車を買ってはいるけど長時間揺すられたら疲労も溜まるわ。

 

「ちょい冥琳とこ行ってくるから美羽様の事、任せた」

 

「うーす。ついでに雪蓮さんかシャオちゃん見たら美羽様の話し相手になって貰うよう伝えて貰って良いっすか?多分、進軍中は暇だと思いますし」

 

「りょーかい」

 

冥琳は襲撃されても良いように地形の把握をしたいからって事で先頭辺りにいたハズ。護衛役で炎蓮さんか誰かいるだろうから雪蓮さんとシャオちゃんの居場所を尋ねれば良っか。つーことでテケテケ走りますかね。

 

「陳紀、何かあったのかしら?」

 

中陣から紀霊の肩経由でピョンと外側へと跳んだら辺りを警戒していた蓮華さんと思春がいた。私が飛び出してきたのを何か見つけたと思ったのか、より警戒を強めて辺りを見回している。

 

「あ、いえ。美羽様が疲れてるようなんで行軍速度を緩められないか冥琳に相談しに行こうと思ってたんです」

 

「…なるほど。確かに少し急ぎ足かもしれないわね。説得するにも冥琳は少し堅いところがあるから私も行くわ」

 

貴女も堅いじゃん。なんて言葉が喉まで出掛けたけれど飲み込む。蓮華さんは警戒の役目を思春に任せると、馬の後ろに私を乗せ先頭の方へと走り始めた。

 

「…最近ね、夢を見たの」

 

「夢、ですか?」

 

「えぇ。夢の中では母様が亡くなっていて、姉様を当主にしていたわ。変わらず貴女達と一緒にいたけど、姉様も冥琳も南陽を奪い取る機会を狙っていたの」

 

「夢だから仕方無いですけど、炎蓮さんが死ぬところとか思い浮かばないんですけど…」

 

「ふふ、そうよね」

 

そのまま蓮華さんが見た夢の話を聞いていたけれど、軍の縮小は現実通りに起きたけど、私と紀霊は七乃に信用して貰えず斬首されていたらしい。

小さくなって空いたところに孫家の人を置き、蓮華さんにシャオちゃんは隔離され、人質のような扱いになっていたんだとか。

 

「あー、確かに有り得る話ですね。紀霊は兎も角、私は生死の境をウロウロしてましたからね。それにシャオちゃんと蓮華さんの隔離する案は出てましたし。別の可能性を見たんですかね?」

 

「だとしたら最悪な可能性を見たわね…」

 

「私も死にたくないですからね、現実にならなくて良かったですよ」

 

2人で苦笑しながら先頭へ辿り着くと、地形の確認をしては地図を見る冥琳と、その護衛をしている祭さん。に絡み酒をしている炎蓮さんがいた。

 

「ええい!大殿、離しなされ!」

 

「んだぁ?オレの酒が飲めねぇってのかぁ?」

 

…あれは無視だな。

 

「お疲れさん冥琳。悪いんだけどさ、行軍速度少し緩めて貰えないかい?美羽様が結構疲れてるみたいなんだわ」

 

「…私はどこか焦っていたのかもしれないな。承知した。行軍速度もだが、予定よりも大分早いから休息を増やそうと思う」

 

「お、案外すんなり。ついでに雪蓮さんかシャオちゃん何処にいるか知ってる?」

 

「雪蓮なら先程、偵察に出ると飛び出して行ったな。小蓮様は少し後ろにいたハズだが…」

 

「飛び出して行ったのか…。ならシャオちゃんを探してみるか。ありがとう冥琳。集合地点まではまだまだ遠いんだ、アレみたいになれとは言わないけど力抜いていこう」

 

さすがに炎蓮さんみたいになられたら行軍どころの話じゃなくなるから勘弁して欲しい。でも、力入り過ぎてても無駄に疲れるだけだ。お目付け役の七乃もいないんだし、緩くやっても良いと思う。

 

「…意外だったわ。冥琳がすんなり聞き入れるなんて」

 

シャオちゃんを探して兵に聞いたりしていると、側にある林の中を熊猫に乗ったシャオちゃんが白い虎を引き連れて駆け回っている姿が見えた。

 

「孫家ってのはヤンチャなのしかいねぇのか?」

 

「…なんか、ごめんなさい」

 

 

「馬とは違って触り心地良いのよ?美羽も乗ってみない?」

 

「むう…。モフモフしてそうじゃの」

 

シャオちゃんを連れて美羽様の元へと戻ったら、キャーキャー楽しそうに遊び始めた。楽しそうな美羽様の顔は喜色に彩られ、さっきまで浮かんでいた疲労は感じられなくなった。

 

「やっぱりはしゃいでる美羽様が1番っすね」

 

「七乃が『守りたい、この笑顔』って言ってた意味、はっきり分かるわ」

 

炎蓮さんと祭さんの絡みと違って見ている私達も楽しくなると言うか、心が洗われると言うか。絡み酒やダル絡みみたいな面倒臭さ無しの純粋さだけっていうのは素晴らしいよ。

 

「ご報告!前方に展開する軍を確認!」

 

「は?」

 

「ご報告!展開する軍は青地に曹の文字!陳留の曹操孟徳殿の軍です!」

 

続けざまに伝令が来たけど曹操殿の軍?何企んでるのか分かんないけど、来たからには出迎えるべきかな?

 

「蓮華さん!シャオちゃんを乗せて冥琳に周囲の警戒を強化するよう頼んでください。紀霊、美羽様を乗せて上げて。そんで守り通せ」

 

「任せて下さいよ。美羽様には指一本触れさせませんから!」

 

護衛の確認、ヨシ!(現場武将)

ではイクゾー!デッデッデデデ、ジャーン!(銅鑼)

 

さぁ、蓮華さんの馬と紀霊の馬と私が一斉に飛び出した!

先頭を行くのは蓮華さん、すぐ後ろを追い掛けるように紀霊、少し出遅れたか私。

蓮華さん妹の攻撃で少し態勢が崩れたか?ソコを狙って紀霊が抜け出した!その後方を私がピッタリ捉えている!

さぁ最終直線、先に仕掛けたのは私!足を溜めていたのはここで仕掛けるためだった!早い早い!一気に追い抜き一馬身、二馬身グングン差を広げていく!

私ー!余裕を持っての勝利です!

 

「来たわね」

 

「やっぱり沙和達の言った通りなの~」「やなぁ」

 

「なっ!?本当に来るなんて…」

 

天高く両手を掲げて到着した私を待っていたのは、沙和ちゃんと真桜と猫耳の知らない人を引き連れた曹操殿だった。

 

「曹操殿、お久しぶりです。黄巾以来ですね。真桜と沙和ちゃんチーッス。そんでそこの猫耳さんはどなた?」

 

「チーッスなの」「うーい」

 

「…アンタねぇ!「良いのよ桂花」華琳様!?」

 

「久しぶりね陳紀。この娘は荀彧と言うのよ。それで貴女の後ろから来るのが紀霊かしら?」

 

荀彧さんね。確か七乃が荀家というのは名家でどうたらこうたら言っていたな。まぁ、私や紀霊とは違ってお嬢様ってことは分かった。

曹操殿に声を掛けられてガチガチに緊張して固まっている紀霊の腹と頭をブン殴って再起動させる。

 

「グッはひぃ!わ、わわわ私が紀霊でしゅ!」

 

「カッチカチやん」「カミカミなのー」

 

「あら?派手な見た目の割に可愛いところあるじゃない」

 

「うひぃ!?」

 

何時もと違う紀霊の姿が刺さったのか、曹操殿が全身を舐め回すように見ると紀霊は悲鳴を上げて私の後ろへと隠れた。お前より背が低い私を盾にするのか…。

いっちょ守ってやるか!しょうがねぇなぁ(悟空)

 

「お主らは何をしておるのじゃ」

 

紀霊を守るため威嚇の態勢に入ろうとしたら、今まで見守っていた美羽様が呆れを含んだ声を上げた。

 

「あら、戯れていただけよ。貴女が袁術かしら?初めましてね、私が曹操よ」

 

紀霊をチラリと舌舐めずりしながら見た曹操殿が美羽様の方へと向き直る。もう曹操殿が苦手になったらしい紀霊は視線から逃れるために私や沙和ちゃん、真桜を盾にして身を縮こませている。

 

「さて、私達が来たのは真桜の願いと孫堅を取り入れたっていう話の真偽を確認しに来たってところかしら。後は道中暇だから一緒に行きましょう?」

 

「良いだろう。後半が本音に美羽様の蜂蜜水(たましい)を賭けるぜ!」

 

「なぬ!?陳紀、勝手な事言うでない!」

 

「…華琳様何故このような連中を気に入ったのですか」

 

荀彧さんがポツリと呟いた言葉は喧しい私達の声に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。



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