始原の精霊は隠居していたい (アテナ(紀野感無))
しおりを挟む

地獄の始まり

ちと物は試し、ということで書いてみました。
もともと今回のオリキャラの原案自体はあったので、腐らせて死なせてしまうくらいならばいっそ、短い物語とはいえ息を与えようと思った次第です。

ただ、ほのぼのを書きたかった・・・(願望)




とあるディスコのグルにて
「即落ち」
「闇深い」
などなどと言われる始末


なんでこうなった(真顔)


目が覚めると、意味のわからない場所にいた。

 

なんだ、最後の死を迎えてやろうとかいう時に何で私はこんなところに。

 

あんなクソッタレな世界で生きるくらいならと、死の間際までゲームをしていただけだというのに。

 

 

 

何で私は森にいる。

 

 

 

夫も、子供も消え、後は私の命が消えるだけだったのに、日付が変わると同時に私の生命補助も切るという手筈だったというのに

 

 

何で私は生きている。

 

 

「ねえ、アテナ。大丈夫?」

 

「……」

 

私の真横には、よく見慣れたNPCが。

 

私の相方、人生の相方と共に作った子。

現実の子供は死なせてしまったが、この子だけはと、守り抜いた子だ。

 

パチュリー・ノーレッジ。あの人の趣味全開で作ったNPC。

 

てか待て。

 

 

()()()()()()()()

 

 

「どうしたの?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

 

「……ちょっと状況が把握できてない。今どういう状況。私もうすぐ人生を終わらせる手筈だったんだけど。病院の上で、もう死ぬしかないから、最後までパチェと過ごそうって、思って、ユグドラシルにインして、それから、最後まで……」

 

あまりに混乱しすぎて、直前までの記憶を口走ってしまった。

パチェが私の肩を持ち力強くグワングワンと揺らしてくる。

 

「ちょっ、どういうことよ!人生を終わらせるって⁉︎ちゃんと説明しなさいよ⁉︎」

 

「ちょ、ストップ、ストップ。ストッププリーズ。しゃべ、れない」

 

あまりに勢いがありすぎて頭がぐわんぐわんする。

それに気づいたのかパチェはようやく離してくれた。

 

まだ目が回る。

 

「どういう事も何も、私はそもそも病気を持っていたんだ。だから、最後の(とき)を、私とあの人の2人目の子である君と2人きりで過ごそうと、あの人の好きだった森をテーマにしたダンジョンを歩いて、残り数十秒って時に、空を見上げて寝転んだ、はずだった。けどどういう訳か、今私は生きて、君と話している」

 

「病気……?」

 

「そう、なんつったっけな。内臓の一つが全く機能しない病気。それに加えて、過労で色んなところがボロ雑巾より酷い状態になっていたらしいよ」

 

「待って、ちょっと待って色々と不可思議すぎる情報が多いわ」

 

「私からしたらパチェが喋って考えてることが不可思議なんだけど」

 

その理由は、もう薄々気づいてはいるけど。

 

まず、コンソールがそもそも開けない。

何回も何回も試しているけど、開く様子が一切ない。

 

つまり同じ境遇のフレンドとか、GMコールとかが使えない

 

 

 

完全な孤独だ。

 

 

 

「まずは2人の疑問に思ってるところ挙げていきましょう。はいまずはアテナから」

 

「まず此処は何処かという事。此処はどこなのか。おそらくユグドラシルの世界……というより、私が認識していた世界とは全くの別な世界だということはわかる。

二つ目は、君が本当に私達の作ったNPCであるのか、という事。精巧に似せて作った全くの別人なのか。そうでないのか。気を悪くしたなら謝るけど、仕方がないと思って欲しい。全く見知らぬ場所で、私の認識では本来君は喋れない筈なんだ。それがどういう訳か、喋り、意思疎通をしてる。

三つ目は、なんで私が生きているのかということ。これは一つ目の疑問に関わってきそうだけど。

四つ目、多分これが最後だけれど、パチェ、君が本当に私の子供だとして、君は私についてどこまで知ってる?」

 

今の疑問を全部吐き出して、しばらく経ってからパチェは話し始めた。

 

「まず一つ目の疑問については、私も知らない。ただ、最後に貴女といた場所とは違う森だというのはわかる。あの場所は、こんなに薄汚くなかった。もっと綺麗な場所だったから。

二つ目、本当に貴女が産んでくれた子である、としか言いようがないわ。アテナは、私が喋れない、考えれないものだと思っていたみたいだけどそれは違うわ。元々、考える事もしゃべる事もできたもの。

 

ただ、NPC(わたしたち)の中では暗黙の了解があったのよ。

『喋ったり、勝手に動いたりするのをNPC以外……プレイヤーに見られてはならない』

っていうね。

今喋ってるのは、私の中での謎……としか言いようがないけれど、もう喋ってもいい、っていう確信が得られたのよ。だから喋ってる。

三つ目、私からすれば貴女は生きていることの方が普通よ?貴女は状態異常なんて一切受け付けない筈だもの。

貴女の言い分からすると、まるで運命共同体の体がもう一つ、どこかにある、そんな風に聞こえるわ。

四つ目、アテナのことなら大概は答えれる自信はあるわ。スリーサイズとか、体の細かな情報とかだとちょっと、自信はないけれど。言いましょうか?」

 

「そうだね、スリーサイズ云々以外を答えてみて」

 

「分かったわ。

 

アテナ。異形種で精霊と天使の混合種。カルマ値は0の中立。

 

種族レベルは計40レベル。内訳は

 

始原の精霊 レベル5

根源の星霊レベル5

根源の精霊レベル5

混沌の精霊 レベル5

大精霊 レベル15

至高天の熾天使 レベル5 セラフに関しては、いべんと、だったかしら?それの最初の踏破を成功させることによって獲得してる。

 

 

職業(クラス)は計60レベル

 

剣聖 レベル5

ガーディアン レベル15

神官(クレリック) レベル10

将軍(ジェネラル)レベル5

バッファー・マジックキャスター レベル10

精霊守護者 レベル10

空間の支配者 レベル5

 

計60レベル

 

 

プレイヤーレベルは合計100レベル

 

 

戦闘スタイルは

まずそもそもの前提として戦闘自体好まないけれど、するとなると勝ち越すまでトコトンやるタイプ。

 

基本職はパーティプレイの場合はサポート、後衛で嫌がらせ&バッファー。

何処かに欠員が出ると復活までその枠を補う形で動く事もある

 

ワールドアイテムを使って、独自の戦法、転移門(ゲート)からさまざまな武具を射出する戦法を作ってる。けれど格上には通用しないし魔力の燃費がワールドディザスターより少し良い程度なので、基本やりたがらない。

 

名前や見た目、ビルドについては神話のアテネからもじりアテナ

見た目のモチーフは私のもう1人の親の好きな女帝ギルガメッシュおよび姫ギルから。

 

キャラの見た目、ビルドに関しては英雄王ギルガメッシュに似せようとしたのは見た目だけで強さをもコピーしようと作ったわけではなく、独自の戦法に関してはもう1人の親がそれを熱望したから。その為に神器級アイテムとかの惜しみない投入の末に作られてる。

貴女は強さにはあまり興味がなくて、完全見た目重視に作っているけど、求めすぎた余りそこそこ強いわ。

キャラのクリエイティブコンテストにおいて二位と圧倒的な差をつけて優勝しているわ。

コレクターとして、様々な武具、アイテムを揃えているわね。

 

他人のことに興味をほとんど持たない。

けれど、あの人と私だけは特別。

 

ゲームやライトノベルなどの娯楽には目がなく、神話系統の話にも詳しいわね。

確か……

見た目 is Justice

感じの良さ is Justice

って私を創ってくれた時には言ってたわね。

 

私の持つ始源の精霊は、貴女が持つものと同じで合計20レベルの根源の精霊種のレベルを贄にして獲得できるもの。

キャラクオリティコンテストにて最優秀賞をもらっていて、その時の商品がワールドアイテムの「アテネの盾」。けど完全名前負けしていて、盾としての強さは神器級。性能は確か、ありとあらゆる状態異常を受け付けない、だったかしら。

 

ギルドの所属は、一応アインズ・ウール・ゴウンということになってるわね。

貴女はあの人との集まりを第一にしていたからあの人達との集会?には基本出席しなかったみたいだけど。

ギルド長……モモンガ、だったかしら?その人に招集をかけられても、ギルド単位で動かなきゃいけない時以外……「来れたら来てください」の場合だと基本あの人を優先してたわね。

 

そして貴女は本をよく描いていたわ。神話をモチーフにしたり、亜人や異形種だったり。

それをあの人によく見せていたわね。何故か最終的に私のアイテムボックスにいれていたけれど」

 

「いやちょっと待て。あの野郎そんな事してたんかい」

 

思わずあの野郎呼ばわりしてしまったが、そこはご愛嬌だ。

アイツとはそういう仲だったわけだし。

 

いやにしても、何してんの。

別にいいけどさ。

 

「どう?これで貴女の子だって信用した?」

 

「オーケー、信用したよ。特に始原の精霊の取得方法なんて、私とあの人くらいしか知らない筈だし。

……てか、そういやアインズ・ウール・ゴウンなんてギルド入ってたな。

入ってた事自体忘れてた。あの人が別のギルドにいたからそっち入ろうと思ったけど拒否られたから私は私で誘われてた方に……だったかな。殆ど顔出してないから忘れてた」

 

段々と思い出してきた。

ユグドラシル随一のDQNギルド……だっけ。ペペロンチーノだかペロリンチーノだかに誘われて半強引に入った記憶がある。

 

「それじゃあ次は私の疑問ね。といっても一つだけよ。それ以外は殆ど貴女と同じだもの。

貴女が本当にアテナなのか、それを知りたいわ」

 

「どうやって?」

 

「私についてできる限り事細かく喋ってみて」

 

「わかった。

名前はパチュリー・ノーレッジ

私たちがギルド所属をしていない時に課金にて引き当てたNPC製作できるようになるアイテムを使い唯一作ったNPC。

扱いは傭兵NPCに近い。

 

異形種で精霊種。

カルマ値は0の中立

種族レベルは55レベル。

内訳は

始原の精霊 レベル5

根源の火精霊 レベル5

根源の水精霊 レベル5

根源の土精霊 レベル5

根源の風精霊 レベル5

根源の月精霊 レベル5

根源の金精霊 レベル5

根源の太陽精霊 レベル5

魔女 レベル15

 

職業(クラス)レベルは45レベル

内訳は

七曜の魔法使い レベル5

司書 レベル15

幻術師 レベル15

熟練者 レベル5

禁術師 レベル5

 

キャラ設定のコンセプトは東方Projectのパチュリー、というかそれをそのままトレースして創った。

 

私がサポート向きなのに対しパチュリーはかなりの魔法特化型。

魔法戦だけなら私を凌ぐ強さ。

 

フレーバーテキスト……ちょっと待ってね、思い出す。

 

『見た目は10代の少女、けれどその実は100歳を超える大魔女。体が少し弱く、あまり激しい運動はしたがらない。家族を何よりも大切に思っている。

【本の傍に在る者こそ自分】と考えていて、本を読む事以上に素晴らしい事は、アテナ達と過ごす事以外にはないと考えてる。なお口数が少ないのは、根暗なのではなく単に人見知りなだけ。

 

静かにひたすら本を読む事が好きで、本を読まれる事を邪魔するととても怒る。アテナ達と過ごすことを邪魔されるのも同様である。

放っておけば一人でいつまでも本を読んでいるが、孤独を好むと言うよりも孤独でも気にならないほど本に熱中すると言ったほうが近い。

 

今までに読んだ全ての本を記憶しているので知識は凄まじい。が、その殆どを本に頼っているため微妙にズレているところがある」

 

「え……そうなの?」

 

「能力は五行の火、水、木、土、金に日と月を加えた七つの属性を司る。

故に七曜の魔女と呼ばれてる。魔法の扱いは随一。その代わり体力面が弱い。魔法は、信仰系ではなく精霊系。魔力に頼る、というよりは周りに充満している自然の力を借りる、のほうが正しい。

 

後は……えーと、なんつったっけ……あいつ、最後に確か……アテナとあいつを心の底から慕っている、みたいなこと書いてた気がする」

 

子供は親を愛するもの!親は子を愛するもの!みたいなことをやたらめったら熱弁されてた記憶がある。

 

 

……その原因はおそらく私なんだろうけれど。

 

 

「こんなもんかな。これで信用してくれた?

 

「ええ、十分すぎるわ。……あ、もう一つあったわ。貴女、まるで体がもう一つ有るかのように言っていたけれど、それってどういう事?」

 

「どういう事も何も……私のこの体は、ゲームにおける……あー、なんというか、元の世界からこちらの世界に干渉するための仮初の体、と言えばいいのかな。肉体が二つ、されど魂は一つ。そして魂が宿っている、主となる体……とでもしておこうか。本体は元の世界の体なんだ。で、元の体はもう破滅へと向かっていった。いつかのあの人のようにね」

 

「え……ちょっと待って、まって待って。え?あの人は……私たちを、捨てたんじゃないの?え?」

 

パチェの顔があからさまに動揺している。

顔を掻きむしり、嘘よ、嘘よと小さく、且つ荒くつぶやいていた。

目にはうっすらと涙も浮かんでいた。

 

 

……子を泣かせるなんて、罪な男だなアイツは。

 

 

「捨てた?そんなわけ無い。あの人は私とパチェを、心の底から愛してた。第三者の私からみてそう感じ取れるほどね。

あの人が消えた……ユグドラシルに来なくなった理由は至極単純。死んだから。

 

私ももうすぐ後を追うつもりだった。

 

 

けどどういう因果が私は今、生きて君と対話している」

 

 

これがどれほどの事か。

生を諦めていた私にとっては、あの人と2度と会えない、墓参りもできない事を除けば、人生で一番と言っていいほどの幸運だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしボクにとっては最悪な、地獄の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソが、なんで死ねない。死にたかったのに。

 

ようやくあの野郎から解放されるところだったというのに。

 

ああ、ようやく、ようやくクソみたいな真似を、演技をやらなくて済むと、思っていたのに。

 

 

またやらなければならないのか。

 

他人(アテナ)の真似事を。

 

 

 

気づいたらアイツに作られていたボクという人格。

何のためかは知らないけど、この世はボクというものを生み出し、何の因果かアテナ(こいつ)に私を宿らせた。

 

 

なんだ、この世の神は私に死ぬまで試練を与えるつもりか。

 

 

「アテナ、どうしたの?」

 

アテナの子のパチュリーに言われる。アテナならばここは……

 

「うん、これからのことを考えてた。とにかく今自分のいる場所を確立させたい。だからちょっと上に行く。……使えるかはわからないけど、飛行(フライ)

 

記憶の中にある、空を飛ぶ魔法を唱えるとフワッと体が浮く。どうやら魔法は使えるらしい。特殊技術(スキル)やアイテムはまた要検証だ。

 

 

 

 

 

アテナのマネなんて生まれた時からやってきた。今更急に全くの他人に振られたところで何の支障もない。

 

 

記憶も感情も何もかもを、共有していたのだから。

 

 

 

あの人のいない世界に生きる価値なんて無い。

 




違うんです
最初はほのぼの森での暮らしを書こうとしてたんです

気づいたらオリ主に二重人格設定が継ぎ足され、死にたい願望持ちになり。


書き終わったあとには設定資料が1.5倍くらいになっていました


私にはほのぼの系は無理だったんだ…


さて、いつまで続くかはわかりませんがこんな物でも暇つぶしになれば幸いです

読んでくださりありがとうございました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

精霊の寿命?そんなものあるわけがない

簡易キャラ説明

アテナ(リアルの名前 ???)

金髪の煌びやかな髪を肩より下あたりまで伸ばしている。
紅い目が特徴。また上は黒いタンクトップ的なもの(その下の胸はサラシ)
下は黄金の鎧。
その全てが神器級の性能。
戦闘時には右腕に黄金の鎧(肩から先)を身につける。その手に持つのは剣だったり槍だったり、色々。
左手にはアテネの盾を装備する。なお使用回数は1桁である(戦闘をそもそもしない。する時も使わないことの方が多かったから)

RPをすることが好きで、その時の一人称は我(われ)
ギルガメッシュもどきの口調をよく好んで使っていた。

その場その場で変えていたらしいが。

アインズ・ウール・ゴウンの切り札、と勝手にギルド外のプレイヤーに呼ばれている。
1500人の侵攻の時にしかAOGとして表に出なかった為である。




パチュリー

東方Projectのパチュリーを思ってもらえれば一番わかりやすい。

長い紫髪の先をリボンでまとめ、紫と薄紫の縦じまが入った、ゆったりとした服を着用。さらにその上から薄紫の服を着、ドアキャップに似たZUN帽を被る。また服の各所に青と赤と黄のリボンがあり、帽子には三日月の飾りが付いている(wikiより)

尚、始原の精霊により、MPのステータスが100(通常行ける最大値)を超えている。アテナも同様である。

アテナの婚約者のいないこの世界ではアテナを一番愛していると言っても過言ではない(もちろん家族的な意味)

HPなどの耐久値は低め。

まあ本編で起こる戦闘などたかが知れているが……。






???

アテナの中にあるもう一つの人格
いつから生まれたのか、本人すら知らない。

悲劇にも、アテナと同じ人を好いて、亡くした時にアテナ以上の悲しみを背負っている。


あの人のいない世界に価値はない。
だから私はあの人のいるあの世へ、行きたい。


「……本当にどこだここ。わかってはいたけど、ユグドラシルじゃない。こんな地形のマップなんて記憶にないし、あんな街も知らない」

 

かなり、かなり上空に、雲に届かないギリギリまで上がり、あたりを確認する。

森を抜けると荒野、そのもう少し先にはそこそこ大きい街が、周囲に二つ。

 

念のため探知系の魔法も発動させているが脅威となり得る存在は未だ無し。

 

「(仮にここがユグドラシルと全く別の世界なら今見えている街は国の可能性もある……?とにかく情報が欲しいな。ボク……じゃなくてコイツと同じ境遇のやつもいるのかどうか、その辺りも探さないと。……最悪森で静かに暮らせばいいのかもね。我が子と死ぬまで共にいられるのならコイツも本望だろう)」

 

コイツは共に在る男も子供も失って生きる存在意義を失った。そこからもう何も気力がなくなっていた。

 

だからこそ、私が成り代わっているんだが。

 

 

……いや、だからこそ私が生み出されたのか?

 

 

ボクが生まれた時がいつなのか、それらボクも知らない。

気づいたらこの世に生を受けていたんだから。

 

「で、どうするの?私は貴女についていくわよ」

 

パチュリーのいう貴女は、きっとボクではなくアテナ(あいつ)

 

けどそんなことを口に出しても何もならないから精一杯の自然な笑顔でありがとうと返す

 

「情報収集……と言いたいけれど、ここから下手に動くのも危険だし……しばらくはここの森で過ごす。ここの森を完璧に把握して、生態系を荒らさない程度に、穏便に過ごしたい。もとより、実力行使だとかそういう系は嫌いだし。それにね、私はこういう自然に囲まれた生活を夢見てたから」

 

「そうなの?」

 

「ああ、ボ……私がいたもう一つの世界は、世界という一つの個体として死に瀕していたから、こんな森とか、星空とか、そんなものは一切なかったから。こういったものはすごい憧れてた。いくつかそれを題材に書いた事もあるし」

 

「なるほどね。……ねえ、そんな貴女に悲報かしら?向かってくる魔物が1匹」

 

「へぇ、どんな魔物?」

 

「何とも言えないわね、そこそこ大きい魔物よ」

 

「それは力が?それとも体のサイズが?」

 

「後者よ」

 

「ふーん……ま、いいよ。元々私たちのほうが侵入者なんだから。穏便に話を済ませれそうなら済ませて、無理そうなら森から出る」

 

「森から出る場合、行く当てはあるの?」

 

「二つある。だからそこは問題ない。

 

…さて、鬼が出るか蛇が出るか。はたまた……」

 

プレイヤーの遣いか、と言おうとすると地震のような揺れが近づいてくる。

パチェが後ろで魔法詠唱の準備をしながら私は適当な伝説級武器を装備する。

 

剣聖クラスらしく、剣でやるか。

 

そんなことを考えていると、どこからか鞭のような、緑色の何かが襲ってきた。

剣がどうのこうのとか考える前に思わず片腕で弾き今飛んできた方向を注視する。

 

(それがし)の初撃を拳一つで防ぐとは。いやはや見事でござる。」

 

「…喋った?」

 

追撃を警戒するも何も飛んでこなかった。魔法も特殊技術(スキル)も何もなく、声だけが響いてきた。

 

 

「さて、(それがし)の縄張りへの侵入者よ。先の見事な防御に免じて今なら見逃すでござるが、どうするでござるか?」

 

なるほど、つまりはこの辺の主か。

この辺一帯なのか森全域なのか、それによって話が変わってくるんだけど。

 

「質問いい?」

 

考えても仕方ないので声の主に向かって話しかけてみる

今聞いてる限りだと話はできそうだ。

 

「ふむ、良いでござる」

 

良かった。ダメって言われたらどうしようか考えてた。

 

「君はここの主なんだよね?それってこの森全域だと考えていい?それとも単にこの辺が縄張りってこと?」

 

「某の縄張りでござるか?なぜそんなことを?」

 

「実はというと、私たちは気づいたらここにいたわけなんだ。魔法の実験してて、失敗して気づいたらここにいた。だから、しばらくこの辺に留まる予定なんだけど。予定としては森で暫く過ごす予定。だから侵入者なのは否定しないし君の縄張りを荒らしてしまっていたのなら謝るし何かお詫びさせてもらう。

君の縄張りについて知りたい理由は、もし可能ならばここで過ごすことを赦してもらいたいから。私は住む場所が欲しいとはいえここの住人に対して何かをしてまで過ごそうとは考えてない。そして、もしできるのならば、君の庇護下に入れさせてもらいたい。

後最後に、君の知識をお借りしたい。私たちはこの周辺に対する知識がゼロに等しいから。

もちろんそれに見合う報酬も約束する。これでもそこそこ他の人が持っていないようなものを持っている自信はある。

 

長くなったから簡潔にまとめよう。

1に君の縄張りを把握して荒らしたくないから

2に君の庇護下に暫く入りたいから

3に君の知恵をお借りしたいから

 

もちろんそれ相応の報酬を約束する。なんでも、とは言わないが君の望むものをできる限り出そう

 

どうかな?駄目だというのならおとなしくこの森から去る」

 

声の主は迷っているのか、しばらく唸っていた。

そして再度声が響く。

 

「良いでござる。取引成立、でござるよ」

 

「ありがとう。ここの主に多大な感謝を。ところで……取引成立ならば姿を見せていただいても?間違って攻撃をしてしまわないためにもね」

 

「承知したでござる。某の威容に瞠目するでござるよ!」

 

そして出てきたのは私よりも二回りも三回り以上も大きい……

 

 

「「ハムスター……?」」

 

 

そう、あの例の小動物の哺乳類のハムスターだった。

 

大きさはそれこそかなり巨大だが。元のハムスターが3センチとかだっけ。

 

「ふふ、某の威容に言葉も出ぬのか。驚愕と恐れが伝わってくるでござるよ」

 

「そうだね、君みたいなのを見るのは初めてだ。とても驚いてる。……うん、そうだね。はい、まあ、うん。なにはともあれ、よろしくお願いする。えーと……」

 

この時、頭がフリーズしているアテナを見たのは最初で最後になるだろう、とパチェは後に語っている。

 

「名前をうかがっても?私はアテナ。こっちの紫のはパチュリー・ノーレッジ。私の付き人……とでもいえばいいかな」

 

「名前は某は持っていないでござる。しかし、人間の間では『森の賢王』と呼ばれているでござる」

 

「へえ……じゃあ賢王殿、でいいかな。まずは一つ目。君の縄張りの範囲について、大雑把でいいから教えてほしい」

 

「某の縄張りはこの森の南側、といえるでござるな。西側や東側にはいったことないだけでござるが」

 

「なるほど。じゃあ次の質問、というかお願い。庇護下に入るというのは承認してもらっているとみてかまわない?」

 

「良いでござるよ」

 

「じゃあ最後の質問。君の知るこの森およびこの周辺に関する知識を伝授してもらいたい。どんな細かなものでもいい」

 

「某は構わないでござるが……その前に某からも質問でござる。そちら、人間だと思うのでござるが……雰囲気が某の知る人間とは全く別物でござる。一体何者でござるか。もしや名のある高位な人間でござるか?」

 

「……私か。なんて説明すればいいと思う?パチェ」

「普通に精霊でいいじゃない。貴女の場合だと精霊と天使のハーフのほうがいいかもね。私は純精霊だけど」

 

「精霊でござるか?珍しいでござるね。にしても某の知る精霊種とも全く異質な気配でござるが……」

 

「始原の精霊と言ってね、精霊の中でも最上位。たぶんね。私たち以上の高位精霊を見たことがないだけなんだけど」

 

「なるほど。話を脱線させてしまい申し訳ないでござる。さて、それでは某の知識についてでござるが、もしかするとそなたらの欲しい情報は持っていない可能性もあるでござるが……」

 

「構わないよ。私たちが欲しいのはこの近隣の人間たちの知識だからね。強さに関しても知れたら最高だ」

 

 

 

(で、この魔物の強さはどんな感じ?)

 

(高く見積もっても30~40レベル、って言ったところかしら。中位の天使や精霊と大して差はないわね。)

 

(それでこの森一帯の主か。この魔物もだれかの命令で守っている可能性もあるね)

 

(そうね。どうする?隠密系特化の精霊とかを作れるならそれに周辺を探らせたら?)

 

 

(いいねその案採用。確かいたはずだからそうする。森の賢王にとっては人間はそんなに強くないって認識らしいし、もしかしたら高レベルの奴らはうまく存在を隠してるのかもね。もしくは人間じゃないか)

 

(恐らく後者ね。この森一帯も、それほど強い魔物も人間の気配も感じないもの。人間の中でも、もしかしたらうまく隠れてるだけかもしれないし)

 

(そうだね、これから対峙する奴は皆、格上だと考えておいた方が確かに安全だ。じゃあ、情報集めは精霊召喚してするとして、過ごす場所や過ごし方をちゃんと確立させようか)

 

 

出来る限り穏やかに過ごして、老衰して、誰の目に留まることなく、この世を去りたい。

 

いやそれは贅沢か、はやく、こいつから解放されたい。生まれてからずっと我慢をしてきた。もう解放してくれても構わないだろう?

 

何で解放してくれない。

 

 

そんなこと考えたところでしょうがないのも分かってる。

ここはとにかく穏便に、おとなしく目立たないように、過ごす。

そこから死に方を探せばいいのだから。

 

 

 

 

 

 

と、思っていたのに。

 

 

 

~数日後~

 

 

「……おい」

 

「っ!」

 

「何をそう怯える?貴様らから売った喧嘩であろう?互いの力の差もわからず愚かにも挑んできた貴様ら雑種に、我は慈悲をくれてやろうというのに。貴様が吐いた戯言を撤回するというなら命までは取らないとな」

 

「しますしますします!ですからお助けください!お願い致します!何卒!何卒!」

 

「……」

 

ここにいる人間は弱いと聞いていたがここまでとは。

精霊の威容(オーラ)という、まあ。簡単に言えば恐怖させて動けなくさせれる(レベル差によっては無効化される)スキル。それのレベル3を無造作に放つと『俺の女にしてやるよ!』とほざいていた目の前の自称世界一(笑)の剣の使い手は涙目で必死に謝り倒している。

 

ちなみにレベルは5まであって5の場合は、精霊種以外には基本効果がある。程度の差はあるけれど

 

「いや、森の賢王で扱える魔法が最高第四位階とかで崇められてる時点でこの展開は予想できたはずなのに、何してんだ私。

 

……で、パチェ、大丈夫?」

 

「ええ、服がちょっと汚れちゃったけど」

 

だろうね。こいつのレベルはあっても30くらいらしいし。

井の中の蛙は何とやら。

 

ちなみに本当にこいつから売ってきた喧嘩だ。

 

(お、いい体してんな。きめた、お前俺の……)

 

このあたりのセリフから正直意識はない。どうやら身内を馬鹿にされるのはアテナ(こいつ)にとってもボクにとってもかなり不快なようだ。

 

そしてパチェ曰く殺すことをためらったらしい。

 

……ボク自身としては殺すことは何ともないんだけど、アテナの体がいやがったか?無意識のうちに?

 

くだらない。

 

意識も、生きることも何もかもを放棄したお前が今更出てくるな。虫唾が走る。

 

 

「それで……森の賢王、どうする?お主がもし殺せというなら処分するが」

 

「なっ、は、話が違う!助けてくれるって……」

 

「口を閉じろ下郎。貴様が犯しているのは我の機嫌だけではない。我らと友好を築いた森の賢王のテリトリーをも犯している」

 

異変に気付いたのはこの辺りから。

いつもの『ござる』とか『某』と陽気に話す巨大ハムスターが全く喋ろうとしない。てか何ならボクを見てずっと震えている。

 

「どうした森の賢王。やけに静かだが。いつもの陽気な声はどうした」

 

「いっ、いえ、某は見逃してもいいと思うでござる!姫のお考えに従うでござるよ!」

 

「姫?」

 

「そ、某は姫に忠誠を尽くすでござる!だ、だからこれまでの某の不敬な態度を赦してほしいでござるよ!」

 

「……何言ってんのお前」

 

思わず素で話してしまった。パチェ以外の前ではできる限りロールプレイで行こうとか考えてたのに。

 

「コホン。失敬。何を申しておる。其方は我らを助けた。いわば恩人だ。恩にそれ相応の礼で報いるのは当然のことだ。故に我らとお主は対等。我に忠誠を誓う必要など皆無」

 

「そ、そうなんでござるか……?」

 

が、怯えているのは変わらない。

はぁ……面倒だな。

 

「森の賢王よ、お主が前に保留にしていた我からの礼だが。お主こう嘆いていたな。同じ種族がおらず種を存続できない、と」

 

「は、はい。そうでござる」

 

「我もお主と同じ種族のモンスターは知らぬがな。一つ、其方のその望みをかなえれる可能性に心当たりがある」

 

「そ、そうなのでござるか?」

 

「うむ。……その前にこの賊だが、見逃してもよいのか?」

 

「い、いいでござるよ。元より某は不要な殺生は好まない故」

 

「だ、そうだ。だが(ゆめ)忘れるな。我らのことを決して口外してはならん。我は自然と命が消えるのを待つだけだ。そこにイザコザなど求めておらん。静かに暮らしたいだけだ。……それをその身に刻んだのなら疾く我の前から失せろ」

 

言い切る前に人間は森の外側へ逃げていった。

 

「……この口調疲れるから()なんだよ。はー疲れた」

 

「アテナ、貴女何言ってるのよ。下位の精霊ならまだしも最上位の私たちに寿命なんて存在すると思ってるの?」

 

「…………」

 

訂正、これで二回目だったわ。と後にパチェは語る。




AOGから見たアテナの感想

キャラクリエイティブすげぇ……
何を、私のも負けてないぞ!
嫁に欲しい……
愚弟黙れ?
神話に興味があるらしいぞ、今度話したいな
あの人は戦闘が苦手というがとんでもない。
私たちの中でも遜色がないさ。
集会に来ないのはどうなのかって?いやお前さぁ、家族との生活が第一なのは当たり前だろ?俺らの集会は出席必須ってわけじゃねえんだぞ?
旦那と過ごしたいのは当たり前だろ。つか俺らもそれ承知の上で加入してもらってるし。
入ってもらってよかったこと?いい抑止力になりますね。何がとは言いませんが。
1500人侵攻の時は助かりましたよー。




〜作者の後書き〜

今後の予定はAOG転移前を3〜5話 その後アニメの1期を主軸に描いていく予定です
いやぁ、久々に見たけど面白かったですオバロ
またしっかり見返さなきゃ

読んでくださりありがとうございます
感想や評価などお待ちしてます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この世には神も仏もいないらしい

だれだホラーとか思った人。怒らないから出てきなさい。

ホラーじゃないです。


ほのぼの日常ってプロットに書いてあるんだもん!
マジです。

マジなんです。

そこから主人公の性格とか作ってったらこうなったんです。



信じて(小声)








「くふっ……くふふふ、ふふ、あはは。はーぁ……あー、我ながら滑稽だな。うふ、ふふふ……死にたいけど痛いのは嫌だ、けれど生きるのも嫌だ。うんうん、その気持ちすごいわかるよ。痛いのは嫌だものね。

 

自殺をしようにも周りがそんなことはさせてくれない。

 

 

どうしようもなくて、何をすればいいのかわからない。

 

 

だからこそ私を演じ続けるボク。

いつか静寂なる死を求めて。それが本当に来ると信じて。

 

 

 

これが笑わずにいられるだろうか。私にはとてもとても……。

 

 

 

にしてもそうかそうか。『ボク』は私の(つが)いを好いていたのか。なるほどね、だから死にたがっていたのか。

 

アイツがこの世からいなくなってから死にたいという欲望が何処からともなく出てきていたのはそういうことか」

 

 

いやはや、やっぱり人間は………

 

 

 

 

 

面白い生物だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……まあいいや。とりあえずその辺は後回しで。えーと……あったあった」

 

パチェの言葉に軽く思考放棄しながらアイテムボックスの中身を漁る。頭で考えながら手探りで探すとすぐに見つかった。

それは指輪で、宝石の中に三つの流れ星がデザインされている。

 

「あら、それは……」

 

「なんてったっけ……流れ星の指輪、だったかな。超位魔法の『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)……経験値消費する魔法を、経験値消費なしで3回まで、ノーリスクで発動できるアイテム。4個あるし、一つくらい消費してもいいでしょ。まあ、一つで狙いのものドンピシャで当てれる可能性ほとんどないけど」

 

とりあえず物は試し、ということで空いている指に指輪をはめる。

 

「……は?」

 

はめた瞬間に、私はこの世界に対しての認識を大きく変えた。変えざるを得なかった。

 

「どうしたの?」

 

「……魔法の効果が私の知ってるものじゃなくなってる」

 

「え?」

 

「パチェ、『星に願いを』の効果を言ってみて」

 

「え、ええ。確か「消費した経験値のパーセントに応じただけの数、10%毎に1個で最大数は10個が選択肢としてランダムに浮かぶ魔法ね。魔法詠唱者として95レベルに達しないと習得できないわ」

 

「そう、私の記憶とも一致してる。けど……パチェ、今つけて、理由は言えないけど、確信が持てた。この魔法……なんでも、とは言わないけど望むもの大体なんでもいけるようになってる。ランダムとか、そんな運ゲーとかじゃなく。レベルダウンのリスクを背負ってもいけるくらいの、効果に変わってる」

 

「……嘘でしょ?」

 

「マジだよ」

 

こんな大ボラ吹けるものならとっくのとうにやってる。

想像力豊かすぎるわ。

 

「……まあ、実験台は私たちじゃないし。森の賢王、多分君の望みは叶えれる。君の理想の相手……番いについて、できるだけ事細かく、教えて」

 

「ふぇっ⁉︎そ、そんな……恥ずかしいでござる……」

 

どの口が、と思ったのはやめておこう。

 

それからコイツの理想像(オス)を聞き出すのに数十分かかった。

 

 

「……I wish 。森の賢王と同種族のオスを、創り出して。できれば年齢100歳超えのを」

 

青白い魔法陣が、半径2〜3メートルくらいに、半球状に広がる。

詠唱時間もなしで、即発動させる。

すると、青白かった魔法陣がさらに発光し、何も見えなくなった。

 

 

 

「……いや成功するんかい」

「なんで残念そうなのよ」

 

目の前には、見た目は森の賢王と全く同じものが。

森の賢王よりも毛のツヤツヤが良くて、巨大蛇のような尻尾は、鱗がよりカチカチで強そう(に見える)

 

 

 

そして生み出した後の結果は、察してくれ

 

 

 

 

 

「…………」

 

今、非常に、とてつもなくヤバいことを考えている。

 

おそらく、この世界を壊しかねないことを。

 

「……私を……」

 

殺せる存在を、この世に喚び出してくれ。

 

なんて言えるわけもない。パチェもいる。

 

私が死ぬのを良しとしない人がいる。

 

「……それでも、私は、この世から早く消え去りたい」

 

結局、私の体を使っているのはボクとはいえ、ボクはパチェたちとは他人だ。だから、悲しもうが、何をしようが関係……ない、はず、だ。

 

 

 

 

「……そうだ、この世界はもともと私のいた世界じゃない、私のものじゃない。

 

 

だから、何がどうなろうが知ったことじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、思い切ったな」

 

ボクは、流れ星の指輪を再度使っていた。

誰にも知られずに、1人で、ひっそりと。

 

ああ。そういえば森の賢王は番いと仲良くしてたよ。

末長くお幸せに。

 

そしてボクが願ったことは……

 

「ボクを殺せる存在をこの世に喚んでくれ、か。けれど魔法発動した形跡はあれど誰も現れず。

 

さて、今すぐ喚びだされるわけではないのか、後から、数日後になるのか数年後になるのか、その時に喚びだされるのか。楽しみで仕方ない」

 

全力で、抵抗し、その末に殺される、それを望んでいるのだろうね。

 

さてさて。この先どうなることやら。

 

 

私は時が来るまでは大人しく鑑賞しているとしよう」

 

なあ、もう1人の私。思う存分、現世を楽しみな。生きるという絶望の中で。

感性はお前は私よりも人間だから、私よりも楽しめるだろ。

 

その楽しみを私も反芻したいから、せいぜい下らないことで死なないでくれ。

 

にしても相変わらず私は異常だ。意識だけの存在になってからよくわかる。

 

 

私は所詮人間の体を持ってるだけの生命体だ。

 

 

人間らしい感性?無い。

 

人間らしい人生?さらさら無い。

 

 

冷めてる?よく言われる。

 

 

人外?

 

はっはっは、言い得て妙だ。

私は人であり人じゃ無い。

 

普通の人間では無いという自覚もある。

 

私の意識が宿っていた体は人間そのものだ。

だが私という意識は人間ではない。

 

では何か、今の種族である精霊かと言われたらそうでもない。

 

故に私はこう考えている。

 

 

意識を持っているだけの欠陥品。

 

 

私は、周りの人間は私と同じ種族かと言われたらイェスとは口が裂けても言えない。

 

そもそも自分が何者なのかすら分からないのだから。

 

故にこう答えるしかない

 

 

『私』は『私』である、と。

 

そこに種族がどうとか全てがどうでもいい。私の前では虚無の事実でしかない。

 

私は、私であればそれでいいのだから。

 

 

しかし世間でそんなものを表に出して平穏に暮らせるわけがない。

 

 

だから偽った。

私の全てを。

 

私が私らしくいる時など、私1人でいるときだけでいい。

 

私の本来の人格など、この世には不要なのだから。

 

 

けれど幸か不幸か、私の中にいつからか居たもう一つのボク。

これが勝手に表に出たことで、偽らなくて済むようになった。

 

 

本人は活動したくなくなったから、とか言っていたが違う。

表に出なくても良くなっただけだ。

 

 

私は意識の中という孤独の檻の中に閉じこもれた。

しかも外の様子を見れるモニター付きで。

 

私はこの体の中で意識だけ、居座って表はボクに勝手に好き放題やって貰えばいい。

 

いつか意識の中だけがつまらなくなったら、再度表に出ればいいんだから。

 

 

 

それにしても面白い。文字通り一心同体なボクですら、

 

もう1人のボクですら、私の本来の性格など知らなかったのだから。

 

 

 

無論私すら、私がどういうものなのか知らない。

 

知る気もない。全てがどうでもいいんだから。

 

 

寿命はないらしいから、数百年は楽しめそうだ。

 

 

 

 

 

「……」

 

昨日は失敗だった。ただ貴重な一回分をドブに捨てただけだった。

しかも結局パチェに気づかれたし。

なんとか誤魔化しはしたが、この先はもっと注意しておかないと。

 

「んー、美味しいね。食事だけは何があろうと飽きないと断言ができるよ。うん」

「昨日も言ってたわね。そんなに美味しいの?」

「うん、そうだね。もう一つの世界での食事は……控えめに言って生ゴミ」

「……もう少しまともな例えはなかったの?」

「じゃあ、うーん、そうだな。………汚物?」

「なんで余計ひどくなったのよ⁉︎」

 

思った通りのことを言ったらパチェに頭を、それこそお笑いのようにスパコーン!と、なんなら何処から持ってきたのかハリセンで叩かれた。

 

おっかしいなこの子非力とかって言ってなかったっけ。

 

すんごい頭がグワングワン揺れてるんだけど。

 

「で、一つだけあなたに悲報よ」

「何?」

 

「森の賢王よりも強いのが、すぐそこまできてるわ」

 

「……は?」

 

どうやらこの世界は、平穏には過ごさせてはくれないらしい。

 

「種族は?」

 

「1人は人間ね。もう1人は……わからないわ。使い魔よりレベルが高いのは明らかだけれど。白銀の全身鎧に身を包んでるけれど、人間の気配じゃないらしいわ」

 

「使い魔のレベルは?」

 

「50よ」

 

「それは気を引き締めておかないとだ」

 

この森の一番強いのが森の賢王で、それより強い50レベルより上ということは、ユグドラシル基準で言うならば森の賢王と白銀の全身鎧は月とスッポンのようなものだ。

レベルが1違えば勝率が大きく下がる

10の差があれば手も足も出なくなる。

 

「強さの推定は?」

 

「わからないわ。言えるのはレベルが少なくとも50以上だということ。もう1人の人間は……森の賢王と同等くらいかしら」

 

「ふーん……」

 

まあそっちは放っておいても良さそうだ。ボクが一番懸念すべきは使い魔よりレベルが高い方だ。

 

「で、ソイツらとの距離は?」

 

「200メートルくらいかしら」

 

「わかった。ソイツらが真っ直ぐ私たちの方に来たら対応しよう。来ないのなら私たちも何もしない。無益な争いは嫌いだし」

 

「ええ」

 

 

けれど、それはとても甘かった。

希望的観測すぎた。

 

 

「そう警戒しないでくれ。別に殺そうってわけじゃないんだ」

 

木の枝に座り、まっすぐボクの前まで来た二人を、睨みつけ、威圧的な態度と口調でもって、二人に話す。

 

「ほう?ならば何故我の前に姿を現した?」

 

「君がこの世界にとって害であるのか、そうでないのかを見極めるためさ」

 

「我にはこう聞こえるぞ?害を成すのならば殺すとな」

 

「間違ってはないかな。でも僕だってできるだけ無用な殺しはしたくないんだ。別に僕たちに協力しろってわけじゃない。世界の為に働いてくれってわけでもない。ただこの世界にとって悪となり得ないのならそれでいいだけさ」

 

「何故我が貴様ら如きに従わねばならん。我はこの世界に興味などない。だがこの世界が我らに牙を向くというのなら、我らは総力をもって対抗する、それだけだ」

 

口と態度だけはデカくしているけど、正直早くお帰り願いたい。

心臓がずっとバクバクしてる。

 

この白銀の全新鎧のやつ、普通に強い。勝てるかわからん。

横の人間はどーにでもなるけど。

 

にしてもこの世に害を成す?する気ないわ。てか干渉する気もない。ただ平穏に過ごしたいだけなんだよボクは。

 

「ツアー、そう攻撃的になるでない。ワシ等は話し合いに来ただけなんじゃから」

「そうは言うけどリグリット。こうも殺気を向けられるんだから攻撃的にもなるよ」

「当たり前じゃろうが。我らは侵入者と同義なんじゃから。敵意を向けるのは当たり前じゃろう。すまんの、事前の連絡も無しに突然邪魔して。なんせ感じたこともない魔法の力を感じてな」

 

隣の老婆が白銀の鎧をぽかんと杖で殴り制していた。

……こっちのほうがまだ信頼できる、か?

 

「ワシの名はリグリット・ベルスー・カウラル。長いからリグリットと呼んでくれ。で、こっちの全身鎧はツアー。良ければそちらも名を教えてくれんかの?」

 

リグリットと名乗る老婆に警戒をしながら、慎重に言葉を選んで口を開く。

 

「良かろう。貴様のその姿勢に免じ我に名を訊く無礼を赦す。その身に刻め。我の名はアテナ。最上位精霊と最上位天使の血を引く我の姿、声、すべてをその身に刻め。そして次はないと思え。次狼藉を働いたときは死刑にしてくれる」

 

「その寛大な心に感謝するよアテナ。それで……」

「最上位精霊?最上位天使?どういうことだい?」

 

「そのままの意味だが?」

 

「精霊と天使の混合種など聞いたことないんだが。本当のことを言ってくれないか?」

「なんで貴様ら雑種ごときに我を偽らねばならん」

「ツアー、少し黙っといてくれ。なるほどな。道理で圧倒的な力をヒシヒシと感じるわけだ。ああ、そちらの嬢ちゃんも名前を聞いてもいいかな?」

 

「……」

「我と同じ最上位精霊だ。こやつは他人と、しかも侵入者と話すという無駄なことはしない。わかったなら疾く失せろ」

 

「そうさな。今日は邪魔して悪かった。また来るよ。その時は客人として。良ければお茶でもしながら語り合おうじゃないか。精霊の嬢ちゃん」

 

「……」

 

嬢ちゃん呼ばわりだけが気に食わない。本当、なんか、子ども扱いされてる感じがして、すっごい嫌だ。

 

「貴様らが我らに害を成さないと証明できるのならば、貴様からの招待を受けてもよいがな。だがそれは未来永劫叶わぬ」

 

「それはまたどうしてだい?」

 

「我らの望みは平穏のみ。此度の貴様らのぶしつけな訪問のおかげで貴様らはその平穏を害成す輩だと確認ができた。特に白銀の全身鎧。貴様が同席をしようとする限り貴様らと我らは友好を持ち得ない」

 

「それは君たちが……」

「黙っとれツアー。ああ、分かった。次邪魔するときワシだけで来ると約束しよう。こう見えて儂は甘いものに目がないからの。この世界の甘味をお主らに贈呈させてもらうよ」

 

「甘味……」

「パチェ、目を輝かせないで。断りづらくなるでしょうが」

 

「かかか!そちの嬢ちゃんは年齢通りの反応じゃな!うむ!最高級のものを持ってくるぞ。ではな精霊のお二方。また会おう。ほれ、ツアー何を落ち込んどるんじゃ!はよ帰るぞ!」

「わ、分かったってばリグリット」

 

と、リグリットに喝を入れられながらツアーと呼ばれている白銀の全身鎧は空を飛びながら帰っていった。

 

「……いつの時代も女の尻に男は敷かれるのね。さて、パチェ。早めに森の賢王に謝っとこう。面倒ごとが起こる前に」

「いいけど……一ついいかしら?」

「?」

 

パチェが、半目で、且つ真顔でボクを見つめる。

 

 

「昨日くらいから思っていたけど、貴女本当にその口調で行くの?かっこ悪いとは言わないけれど……かっこいいとも思うけれど。本当に、それで行くの?誰もあなたと話してくれなくなるわよ」

 

 

「うるさいなあ!私だってわかってるよそれくらい!孤立無援の生活になりそうだなーって思ってるよもう!」

 

 

うん、わかってる。威圧しか与えてないのは。でも、殺されないようにするには抗するしかないんだから仕方ない。





実はこの本来の体の持ち主の性格、もともとこれよりももう少し、丸い性格でした。

普通のはつまらないから人格破綻者にしよう、までは覚えてますね。


さて、AOG転移前はもうすぐ終わりです


一期分で終わる予定です。

要望あれば2期や3期もやるかも、です。


読んでくださりありがとうございます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私/ボクはこの世界で何を成す

決まっている

何も成さない

観測者に徹するのみ

本当に、本当に大変な時だけは関わりを持とう。
それ以外は基本、他人の人生を観測/謳歌する




決まっている

死に場所を。
誰一人として巻き込まない死に方を。

誰一人として悲しませないのはできない。

ならば、だれもが納得のする死に方を。




生きる意味を見出せないのだから、ボクの終着点は死のみだ


「……本当に来たのか」

「うむ、ツアーはもちろんおいてきた。それと使い魔に運ばせてきた甘味じゃ。どこか落ち着ける場所はあるかの?」

「はぁ……わかったよ。作る。召喚(サモン)・中位精霊。守護精霊」

 

レベル45の中位精霊、防御系特化……とはいってもたかが知れているが。似たような性能のモンスターでデス・ナイトがいる。

 

レベル80後半の上位精霊を出してもいいが、それだとこの世界にとっても私にとっても悪影響になりかねない。強すぎるから。

だから精々森の賢王よりちょい強い程度のこいつ。これならまあ、大丈夫だろう。

 

「命令、この周辺一帯を守れ。そうだな。私たちを中心に半径100メートルくらい。だが基本こちらから手を出すな。出す基準はこちらに悪意を持っている相手にのみ。それ以外は基本見逃すこと。不可視化かけておくからこっちに近づく輩は無視で大丈夫」

 

「……」

 

精霊は頷いてどこかへ消えた。

 

「驚いた。まさか()()()()()()を生み出すとは」

 

「「は?」」

 

ボクとパチェはリグリットの言った言葉に思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「伝説級?何言ってんの?」

 

「何も阿呆なことは言うとらん。文献でしか見たことはないがまさしく伝説級の精霊じゃ。ワシ等にとっては、じゃが」

 

「……似たような強さのモンスターは知ってる?」

 

「そうじゃな、ワシの知るところだとデス・ナイトとかかの」

 

「なるほど。ちなみに、その伝説級モンスターに勝てる人間はこの周辺には?」

 

「一握りじゃな。冒険者の最上位の者たちと儂含め極わずかといって良いの」

 

「なるほど。この世界の基準はそれで何となくわかった。……じゃあ、こっちに。パチェ、防壁魔法は任せた」

「任されたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何が聞きたい。私に何か聞きたいことがあるから来たんだろ?そこの隠れてる人間も」

 

「おや、気づいていたのか。だがそれでいてここまで入れてくれるということは容認しているんだろう?」

 

「私たちに害を成す存在ならば殺していたかもしれないが、そんな存在ではないことは分かっている」

 

「ありがたい。殺されてしまっては預けてくれた者に面目が立たんからの。ほれ、ユウよ。こやつが話した精霊じゃ。一目でいいから見たいといっておったが、感想はどうかの?」

「いやぁ、すごいの一言です。なんというか、気迫、っていうんですかね。それがもうヒシヒシと」

「嘘つけ。見惚れておったろうが」

「あ、バレました?それはそうと、こんな形で初対面になってしまい申し訳ありませんアテナ様。私はユウと申します。しがない、冒険者なり立てです。リグリット様には目をつけていただいており、ちょくちょく訓練をさせていただいております」

 

「ああ、そうか。だが私は……」

 

 

 

 

今後お前とかかわる気は一切ない、とか、会うのは今回限りだ、とかいろいろ考えていたはずなのに

 

すべてが吹き飛んだ。何回も、何回も見た、忘れるはずのない顔だったから

 

 

 

 

「…………」

「嘘……」

 

 

 

「どうしました?」

「どうかしたかの?」

 

 

 

心臓がうるさい。呼吸が苦しい。

 

頭が真っ白だ。

 

意味が分からない。

 

だって、アイツは……

 

 

 

何度も何度も瞬きをし頭が正常なのか確かめた。

想うあまりの幻覚を見ているのだと。

 

きっとそうだ、嘘に決まっている。

 

 

頭ではきっとわかっている。

ただ、奇跡的に、まったく姿形が同じだけだと。

 

 

それでも、思わずにはいられなかった。

 

きっと、これは、神からのほんの僅かな、この上なく素晴らしい慈悲だと。

 

 

「本当にどうしたんだい。何かこちらに不手際でもあったかい?」

 

「い、いや、そ、う、じゃな、い。違う、違う。あの人じゃない。わかっている。でも、あの人にしか……。いや、違う、違う。違う違う違う」

「アテナ、落ち着いて。気持ちは分かるわ。でもあの人はもう」

 

パチェの言葉すら、ボクには一切届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

かつて失った想い人が、急に目の前に現れた。瓜二つの姿で。

 

 

勿論困惑した。

 

 

だって、私の目の前で息を引き取ったのを他ならぬボク自身が看取ったのだから。

 

それでもあの人以外には見えなかった。

 

ゆっくりと、おぼつかない、けれど重い足取りで目の前の人間の子に近づく。

 

思わず引き寄せ、思い切り抱きしめた。

 

「え?え?ちょ」

 

勿論相手は困惑している。それが腕の中からよく伝わる。

 

それもそうだ。

 

この人からしたら私は初対面。どこの誰かもわからない。

 

たまたまついてきたこの森へ来たら出会っただけの存在。

それでも想わずにはいられなかった。

 

 

 

曽て伝えれなかったことを

 

 

 

曽て一度もできなかったことを

 

 

 

今でも鮮明に覚えている最後の、見ているしかできなかった刻を。

 

さまざまな思いが交錯し思わず涙した。

 

「……」

 

このとき彼が背中にやさしく回してくれた手の温もりを。

 

優しさを。

 

 

きっと一生忘れることはない

 

 

 

 

 

「すまない。取り乱した。もうこれからは無いようにする」

 

「ふむ。詳しい事情は聞かないでおこうかの。改めて紹介させてもらうぞ。こちらはユウ。ワシの弟子、といったところかの。出来は悪いがな」

 

名前こそ違うが、姿形、声から細かな仕草まであの人にそっくりだった。

あの人のクローンだといわれても信用すると思う。

 

「それで、何を聞きたい?今なら気分がいいから大概のことには答えてやる。……君も、気になった事は何でも聞いてくれ。全てを答えれるわけじゃないが、できる限り答えよう」

 

まずは昨日使った魔法について聞かれた。そこから神人なのか、とかぷれいやーとかギルドとか様々な言葉が出てきた。

 

どうやらこの世界は多少なりともユグドラシルの知識も通用しそうだ。

 

してきた質問のすべてに正直に答えた。だが一環として「この世界に敵対はしない」ということは念を込めて伝えた。よほどのことがない限り世界に影響を与えかねないものは使わないと。

 

「お主のその喋り方、実はそっちが素じゃろ?昨日会ったときはむりしておったじゃろ」

 

「当たり前だ。あんな喋り方する方が珍しい。お前達みたいな侵入者が来たときくらいだ。ただでさえ他人と会話するのは嫌いなんだ」

 

「ほうほう。ほれ、お前も何か質問などないのか?」

 

「そうですね。では、お姉さんには彼氏は……」

 

その瞬間に殴られていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

互いに聞きたいこともなくなって少し落ち着き、話をしようと言うと快く了承してくれた。

さまざまな事が聞けた。

 

中でも驚いたのが私をどこかで見た事があると言う。

 

「正確には似たような姿形が……確か先祖様の手記か何かに……」

 

また分かったら教えに来てくれると約束をしてくれ今日は別れた。強い孤独感を感じるが、それでも胸中は孤独感以上の強い想いで満たされた。

 

 

 

曽て何もできなかった、してあげられなかったことができるかもしれない。そんな喜びが。

 

 

 

たとえ今の命が人間と精霊で寿命の長さが天と地ほどあろうとも、末裔まであの人を守ろうと、密かに決めた。誰にも邪魔はさせない。

 

それくらいの勝手は、この世界は許してくれるだろう。

 

ボクが唯一抱いた恋心なのだから。

 

もしあの人を殺すと言うならボクはこの世界に牙を向く。

 

 

 

 

 

 

「精霊の血?」

 

「ええ、本に書いてあったのだけれど、効能とか知ってる?」

 

「さあ?」

 

私がとった始原の精霊も、興味はそんなにない。

アイテムコレクターとして集めてもいたけれど、集めていただけだ。

使い道とか大半は分からない。

 

「実はね、これ。摂取した別種族は精霊種を得るらしいのよ」

 

「ふうん、それで?」

 

「自分が精霊種の場合、自分の眷属にできるらしいわよ。でもそれはおまけ。どちらかというと『精霊種を得る』ほうが重要よ」

 

「……?」

 

いまいちパチェの言いたいことが理解できない。ボクが……というより私があいつを眷属にして従わせるなんてことは望まないことくらいわかるだろうに。

 

「パチェ、回りくどいことは無しだ。本題を言って」

 

「そう?じゃあ言うわね。寿()()()()()()()()()()()ってことよ」

 

「……それが?」

 

「貴女、この世界であの子と結ばれることができる、ってことよ鈍いわね。貴女もわかってるでしょう。あの子は、まさにあの人の生まれ変わりよ。もう一つの世界でできなかったことを、あの子にしてあげなさいよ」

 

パチェの言葉が心に刺さる。

できなかったこと。

 

そんなこと、腐るほどある。

 

あいつと違い、僕は見ている事しかできなかったのだから。

 

できることならばアテナなどではなくボクが、その人との人生を過ごしたかった。

 

「ああ、そうだね。でも、だ。あの子がそれを望むと思う?私は、望まないことを強要してまで、共に在りたいとは思わない。……できる限り、あの子の望むことをしてあげる、それだけ。もしあの子が精霊になることを望むなら喜んでするさ」

 

ありえないと、思うけれどね。

 

「あの子の命は保証はするさ。でも人生に過度にかかわる気はない。私は、会えればそれで、いいんだから」

 

「……嘘つき」

 

「ん?」

 

「なんでもないわ。ああ、もうすぐ周辺の地図ができるそうよ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、定期的にあの子とは会っていた。わざわざ来てくれた。

ボクは、他の全てを後回しにしあの子と会った。

 

法国とかいう、よくわからないところから使者が来たりしたが全て、無視した。

途中実力行使もされかけたが、適当にあしらった。

 

この世界はどうやらプレイヤーという存在は、ごくわずかな人間にだが認知されているらしい。

だが大半は神などと揶揄されているが。一番わかりやすいところだと六大神だとか八欲王だとか。

 

ギルド武器もこの世界にあるらしい。確認だけできなかったのは世界級アイテムと超位魔法の存在だけだが、神具だかなんだかの呼び方のものが怪しい、といったところか。

 

 

 

 

 

だがそのすべてが私にとってはどうでもいい。

 

生きる意味が、この世にできたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

~三日後~

 

「は?」

 

「貴様が法国の人間に手を出したという疑惑があるといっているんだ。来てもらおうか?」

 

「雑種が……。誰に口をきいているのか理解しているのか?」

 

「ああ理解しているとも。崇高な人間様へ手を出した無粋な精霊だ」

 

「なあパチェ。私か?私の頭がやばいのか?私はこいつがバカにしか見えないんだが」

「私も一緒よ。人間の中でも救えない部類の馬鹿ね。蛮勇と勇気の違いも分からない馬鹿よ」

 

確かに法国とやらを名乗る人間は20人くらい追い返して、小規模のパーティ組んできたやつらは適当に薙ぎ払ったが。そもそもが、その全てから喧嘩を売られたからだ。特に下衆な目を、下心しかない目を向けてきたから目を潰したくらいか。

法国とやらはバカしかいないらしい。なんだ?人間以外を見下さなきゃ死ぬのかお前ら。

 

「まあそこはどうでも良い。で?我に何をしろと?」

 

「決まっている。我が国の奴隷および実験体となってもらう」

 

「……これツッコミした方がいいかな?」

「しなくていいんじゃない?」

「そうする。でだ、貴様らに従わなかった場合我にどうすると?」

 

「ふん、その場合は実力行使をするだけよ」

 

「とのことです」

「わからせてやりなさいよ」

「やだよ。厄介ごとしか来ない」

「もうすでに来てるじゃないの」

「確かに?」

 

「何をぐちぐち言っているんだ?作戦会議か?よかろうよかろう。我らから逃げるための策を張り巡らせるといい。その全てを潰してやろう」

 

「だそうな」

「わかりやすい小物ね。三流小説のモブにも劣るわ」

「手厳しいお言葉だ」

「事実よ」

「それじゃあ……わからせますか。この国に、私たちに手を出すとどうなるか」

 

戦いは好きじゃないが……ボクたちの安寧を脅かすならば話は別だ。

 

「作戦会議は終了か?」

 

「口を閉じろ下郎。貴様の耳障りな音を響かせるな。不快だ。さて、うまくいくか不安だが、リハビリに付き合ってもらうとしよう。パチェは下がってて」

「ええ」

 

さて、法国のお偉いさんには武力でもっておかえり願おう。殺しはしない。殺したら面倒になるだけだし。

 

見た目だけ派手で同格以上にはそんなに効果なく、初見殺しにしかならない戦法。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)だっけか。

 

なんてことはない。ただただ武器を大量に投げつけるだけだ。コレクターとして集めた各人の神器級の武器を、性能の差はあれど、その辺の伝説級よりは段違いに強い……はず。

 

殺しはしないが、腕の一本や足の一本はご愛敬だ。

そこまで手加減できるほどボクは優しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「採点のほどは?」

「65点。相変わらず見事だけれど貴女、インチキしてたでしょ」

「げ」

「放った武具が着弾する直前に地面に再度空間魔法を配置して、射出先を空に固定まではいいわ。でもそのあとしれッと別の魔法使ってたでしょ。ちゃんとは見えなかったけど斬属性のものを」

「正解。第4位階のものをね。けど『王の財宝』だけで戦うとは一言も言ってないよ」

「それ含めてよ。やるならもう少し隠しなさいよ。武器が当たる直前に発動させるとか」

「んな精密機械みたいなことできるわけないでしょうが」

 

さてさて、それはそうとしてだ。

法国の自称お偉いさんは気絶しているし。転移させて放置かな。

他の部下の方々もかわいそうに。

 

私にかかわらなければもう少し平穏な人生を送れたかもしれないのに。

 

 

 

ちなみに、パチェにめちゃくちゃ念を押されたので森の被害はゼロですボク頑張った。

多分一番神経使った。あんな見た目だけくそド派手なもの使って被害をゼロにするとかもうやりたくない。

 

次やるときは平原でぶっ放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、いいことばかりこの世の中は続かないと、ボクは思い知った。

この世の人間は、もう、信用しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界は、私の敵だ




『日記をつけようと思う

これを読むものにとっては何を書いているのか意味が分からないかもしれない

でも、ボクはボクの存在を記しておきたくなった。




私はアテナでありアテナではない。
正確にいうと、アテナの体であり意識はアテナではない。

アテナの中に芽生えたもう一つの人格、といったところか。


日記をつけようと思ったのは、あのことであってからだ。確か、ユウ、といったか。

ボクの初恋の人に瓜二つな、まるで生き写しのような子。

そのこと出会って急に、己の存在が不安に思えた。

ボクという存在を皆は知らず、皆ボクのことを、本来のほうのアテナだと思っている。

ボクという人格を知っているのはボクだけだ。


だから、書き記そうと思う。

ボクがボクでなくなる前に。





ボクは、おそらく精霊という種族に、心が引っ張られているのだから。

感じたことを記し、ボクという()()()()()が居たことを、この世に証明するために、書いていこうと思う。

もちろんパチェ……私の付き人には内緒だ。だからこれが世界に広まるときは、ボクが死んだ時だ。

だから気楽に見てほしい。

これを見たからと言って殺される、なんてことはたぶん無いはずだから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

災厄の来訪

アレから、100年経った。

けど未だに私の景色は変わりはしない。

強引に出ようにも、超位魔法の力には抗えない。

さてはて、私を此処から出してくれる救世主は現れるのだろうか。

アイツは死んだ。多分。

だから、もう死ぬほどつまらないこの静止画をずっと見続けている。

苦痛でしかない。何も面白くない。


早く私を此処から出してくれ。




「あー!パチュリー様!こんにちは!」

「はいこんにちは」

「これこれ。申し訳ありませんパチュリー様」

「構わないわよ」

 

あれからもう何年経っただろうか。約100年ほどだと思う。正確な数字は数えてないけれど。今話しているのは、ひょんなことから助けた、私が住んでいる大森林の近くにある小さな村に住んでいる人間。

散歩をしている時に、たまたま見つけたのだけれど確か……ゴブリン?か何かの集団に襲われていたと思う。もう数十年前だから正確には覚えてないけれど。

 

それから何故かトブの大森林の守り女神だか守り神だかと言われる様になった。私が助けたのは本当に気まぐれなのに。

そんな事に思いを馳せながら見回っていると人間の年にして大体50歳くらいの女性に話しかけられる。

 

 

「パチュリー様。こちらをどうぞ。今日採れたての野菜達です。是非ともお召し上がりください」

「あらありがとう。アテナもきっと喜ぶわね」

「はい。今年できた物の中でも特に出来がいいんです。パチュリー様達のお口に合えばいいのですが……」

「大丈夫よ。アテナもここの野菜は美味しいって言っていたから」

「それはよかったです」

 

ちなみに余談だけれど、本当にここの野菜は美味しいのよね。本によると美味しい野菜は体にもいいらしい。

 

そんなこんなで、出会う村人全て(凡そ60人程度だろうか)に話しかけられながら村全体を見回り、異常がないと確認できた。

 

「それじゃ、私はそろそろ森へ戻るわね」

「いつも守ってくださりありがとうございますパチュリー様。お気をつけてお帰りください」

「ええ。それにお礼を言われるほどのことじゃないわ。私がしたいから勝手にしているだけだもの」

「それでも、村人一同、感謝しております。パチュリー様にアテナ様、森の賢王様達のおかげで私たちは安心して暮らせているのですから」

 

いつものヨイショしてくる物言いに妙に恥ずかしくなり、手を振りながら飛行(フライ)の魔法で飛び、森の最深部の方へ向かう。

 

「ご苦労様。今日はどう?」

『……』

「そう。それなら良かったわ。引き続きお願いね」

『……』

 

いつもの場所、私達の家(とはいっても森の中のほんのわずかに開けた場所だが)に戻ると辺りに潜ませていた智天使級の天使、根源の風精霊からいつも通りの報告をもらう。

 

今日も特に侵入者は無し、アテナの様子も変わりないとのこと。

 

 

 

つまりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ただいまアテナ」

 

話しかけるも返事はない。

それもそうだ。彼女は100年前から()()()()()()()()()()()()()

彼女の想い人と共に。

 

「それじゃ、起きたくなったらいつでも起きてよね。毎月野菜とかを貴女にもって貰ってるんだから。食べないと失礼でしょ?私は本読んでるから、何かあったら呼んでね」

 

植物で出来た椅子に座り、読みかけの本を手に取る。

 

ここ数十年はこれが日課。

 

やる事をやったら、アテナの側でずっと本を読み、語りかける。

いつでも、こっちに戻ってきたくなってもいい様に、私達の家を守り続ける。

 

法国とやらも、アテナがブチギレてからは殆ど手を出さなくなってきて、平和そのもの。たまーに頭の悪い人間が襲ってくる程度。けど、それらは基本天使や精霊、森の賢王があしらってくれるから、私のやる事の大半は、アテナのそばにいる事。

人間との交流は流石に私がやるが。

 

他のみんなも私の気持ちを汲み取ってくれているのか、皆もアテナのそばにいたいはずなのに私にその役目を任せてくれる。

 

寝るまで本を読み、寝る時間に近づいたら警護を精霊達に任せ眠りにつく。

 

今日もきっと変わりはない。

 

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

「……」

 

突然、何かを感じた。

明確な表現は思いつかないけど、何か悪い予感と言えばいいのだろうか。それを感じた。

 

「相当近いところに何か……転移かしら?とにかく何か現れたわね」

『……』

「そうね。でも無理はしない事。根源の風精霊に探知阻害をかけてもらった上で認識できるギリギリまで近づく事。何処かの組織なのがわかればそれでいいわ。気づかれたと感じた時は真っ先に私のところへ知らせる事。探知系魔法使われた時も同じね。それとこれ。ほんの少しでも危険を感じたら使って帰ってくる事。この森に侵入しようとした時も知らせて頂戴」

『……』

 

中位水精霊(レベル50程度)が偵察役を買って出てくれたのでそれに甘えてお願いする。

 

だけどあくまでも偵察。いざと言うときには私が出る。

 

「新しく仲間を生み出しておいた方が良さそうね。えーと……あった」

 

アイテムボックスの中から神器級アイテムを取り出して使う。

そして現れたのは根源の水精霊。その中でも防御に特化している。

 

「これからよろしくね。早速で悪いのだけれど、東の方角に何かが現れたの。だからアナタは森の東の出口を警備して欲しいの。追い返せると判断できたら追い返す。けど、相手が強いと悟ったら戦闘はしないこと。すぐに私に連絡を頂戴。念のため向かう前に根源の風精霊に探知阻害の魔法をかけてもらっておいてね」

『……』

 

水精霊は風精霊と少しやりとりをした後に東へ向かってくれた。

これで暫くは安全だと思いたいわね。

 

「……まあ、私たちに害を加えないなら放置でいいのだけれどね」

 

対立する時は、その時はその時だ。

どうにかするとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

「モモンガ様。御報告が」

「うむ」

 

とある執務室で、スケルトンとサキュバスが話す。

 

「近くの森で、挙動のおかしい上位の水精霊を確認したと報告がありました。森の中にいるモンスターとは強さが別格とのことです。そしてその精霊は、ナザリックの方向を見ていたと思われるそうです。また、森の探索に赴いたアウラから侵入不可の場所があると確認も取れました。恐らくは、上位精霊の使役者がいると思われます」

 

「なに?」

 

「つきましては、モモンガ様の指示であるナザリックのダミー建設に支障をきたすと考えられます。如何なさいますか?」

 

「……少し時間をくれ。また後ほど連絡する。アウラに伝えておけ。使役者と思われる存在と出会った場合、必ず敵対する行動を取るな、と。相手は私の欲する情報を持っている可能性もあると、そう伝えておいてくれ」

 

「はっ」

 

「それと、もし手に負えないと感じた場合は即時撤退も付け加えておいてくれ」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

〜トブの大森林〜

 

「そう。なら暫くは私の近くにいなさいな。アナタが死ぬところなんて見たくないもの。大丈夫。私に任せて」

 

予想通りだったけど、レベル50程度では手も足も出ないと感じたらしい。

それでもできうる限りの情報を持って帰ってくれた。

 

「森に入ろうとしたのはダークエルフか。レベルは?」

『……』

「レベル85の根源の水精霊(アナタ)で測定不能ってことは少なくともレベルは90台、もしかしたら100の可能性も考えた方が良さそうね。90台ならまだ私で対処できる可能性が高いけれど、100レベルなら少し面倒ね」

 

にしてもなんで突然現れたのかしら。

 

「ふむ……次そのダークエルフが現れた時はすぐに私に知らせて。次からは私が対応するわ」

『……』

「いい?間違っても戦おうとしない事。アナタ達は私たちにとって家族なのだから、死ぬことは許さないわ」

『……』

「それじゃ、引き続き警護よろしくね」

 

周辺警護を任せ、軽い運動をしようとふと思う。

 

「じゃあアテナ。少し出かけてくるから、何かあったら伝言(メッセージ)で伝えてね」

 

返事などあるわけがないが、それでも話しかけ続ける。いつか、返事をしてくれると信じて。

 

 

 

 

 

けどそんな事はないと言うのは、私が一番分かっているのだから、皮肉なものね。

 

 

 

 

 

でももしかしたら200年経ったら目覚めるかもしれない。

1000年後かもしれない。

 

その時にまた笑って過ごせることを夢見て、私はここを守り続ける。

 

平穏を壊す者は何人(なんびと)たりとも許しはしない。

 

「念のため、眷属を少し多めに増やしておくべきかしら。情報収集もやりやすいだろうし」

 

下位精霊と中位精霊をまた少しずつ召喚していくとしますか。

 

「……ダークエルフに地下墳墓、ねぇ。まさかとは思うけど。……そんなまさかね」

 

上位精霊からもらった情報を繋ぎ合わせて、一つ、一つだけ心当たりがある。最悪な心当たりが。。もしかしたら偶然かもしれない。でもその二つが繋がっていた場合、心当たりのものしか出てこないのも確か。

その相手だった場合は……逃げるか潔く降参するしかないわね。

 

逃げる先考えてべきかしらね。

 

 

「まさか、ね。そんな都合よく現れるわけ無いわよ。あんな化け物集団が」

 

 

 

 

 

 

 

「パチュリーじゃん。何してんのさこんな所で」

「はぁ……」

 

んなこた無かったわよコンチクショウ。

 

上位精霊から例のダークエルフと接触した連絡を受け、詳しく聞くと戦う意志は無いようで、『主人に会いたい』言われたらしい。それで精霊の元へ赴いたら見知った顔がいた。

 

金色の髪を肩口で切りそろえていて、瞳は緑と青のオッドアイ。

耳はエルフ特有の、長く尖ってやや上向きで、薄黒い肌

上下に革鎧を装備してて、さらに赤黒い竜王鱗を使ったぴっちりした軽装鎧をまとっている。その上から白地に金糸の入ったベストと長ズボン、その胸の部分にアインズ・ウール・ゴウンのギルドサイン。どんぐりの形の金色のネックレスを首から下げ、魔法金属のプレートが付けられた手袋をしている。腰と右肩に鞭を束ね、異様な装飾がある巨大な弓を背負っている。

 

うん、アテナとあの人から聞いていた通りのまんまの、アウラ・ベラ・フィオーラ……だったかしら?確か一度だけチラッと見かけたことだけどある様な。記憶が曖昧すぎて断言できないけど、ナザリック地下大墳墓の一員であるのは確か。

アテナの所属していた、DQNギルドの一員。

 

……正直あまり関わりたく無いのが本音だけど、前回嫌な予感を感じた時から、勘としか言えないが、いずれこうなるのは目に見えていた。

 

「ひっさしぶりー。相変わらずの仏頂面ね」

 

「元からよ。ほっといてちょうだい。貴女とは一回会った程度でしょうが。で、何の様よ。まさか自然観光とそんなわけ無いでしょう?大方、至高の御方とやらの差金かしら?」

 

「うん、正解!モモンガ様に上位精霊とコンタクトを取って使役者がいるなら対話を試みよ、って命令されてね。あの根源の風精霊(プライマル・ウィンド・エレメンタル)、パチュリーが呼び出したんだね」

 

「そうよ。まさかとは思うけどそんな事のためにわざわざ来たの?」

 

「まっさかー。モモンガ様には可能なら出来る限り情報を引き出せ、って言われたけどパチュリーなら大丈夫だね。ほら、パチュリー。モモンガ様のところに行こう!」

「断る」

 

まるで仲間を呼び戻すかの様に、勢いよく、景気の良い声で言われながら手を出されるが即答する。

 

途端に不貞腐れた様な顔になるが、それは予想済み。

あの連中は、良くも悪くも至高の御方を崇拝しすぎなのよ。

 

「なんでさ」

 

「私にとってナザリック地下大墳墓は帰るべき場所じゃないからよ。それに、アインズ・ウール・ゴウンの至高の御方とやらは、私の仕えるべき存在じゃ無い」

 

思った通りのことを告げると、怒りが徐々に表に出てきている。

 

「私が心の底から仕えて良いと思える存在は、後にも先にも私の創造主『アテナ』ただ一人。分かったら早く帰ってちょうだい。貴女のせいで森のみんなが怯えてんのよ」

 

「そうはいかないのよ。私も、モモンガ様からの命令で来てるんだから。なんの成果もなしに、はいそうですか、って帰るわけにはいかないのよ。何が何でも来てもらうわよパチュリー」

 

その返しも予想通り。さて、どうやってあしらうべきかしら。

 

「悪いけど、モモンガ様達のことを侮辱されて私も黙ってられないから。死なない様にはするけど、大怪我くらいは覚悟しといてよ」

 

「構わないわよ。ほら、さっさと来なさい。悪いけれど、私も貴女に手加減できるほどお人好しじゃ無いからね」

 

数十分耐えれば、上位精霊たちがアテナを安全な場所へ連れて行ってくれる手筈になっている。

 

だけれど、アウラは未だに私を攻撃するのを、何故か躊躇っている。

そんなアウラに右腕を向ける。

 

 

……何を躊躇うことがあるのよ。私は今、貴女の敵なのよ。

 

 

「何躊躇ってるのよ。来ないならこっちから行くわよ。魔法最強化(マキシマイズ・マジック)……」

「ハウンド・オブ・ワイルドハント!ハウンド・オブ・エレメント!」

 

 

「待て!」

 

 

私でもアウラでもない、別の誰かの低い声がした。援軍?チッ、面倒ね。私だけでどうにかできる可能性が低くなった。

 

 

「誰」

「モモンガ様!」

 

空いている左手を声の聞こえた方へ向ける。

 

モモンガ……モモンガって、確かギルドマスターだったかしら?

横目でチラッと声の主を確認し、それが間違いではなかったことを確認して内心ゲソっとなる。

 

いくらなんでも、展開が早すぎんのよ。アンタに対する策なんて何も用意してないわよ。

 

「……アテナ、貴女の選択を責めるつもりはないわ。でも……今だけは、貴女が此処にいてほしかったわ」

 

 

そんなことを思いながら同時に伝言(メッセージ)を精霊達に飛ばす。

 

 

『みんな、アテナを……お願いね』

 

 

ええそうよ。多分私死ぬわよコレ。あーもう。

 

「で?部下を助けに来たの?」

 

モモンガにそう問うも、何か困った様な仕草をして頭をかいていた。

 

「まあ、そうとも言えるな。だが、私の部下の暴走で流れてしまっていたが、私の本来の目的は君と話し合い、もとい情報交換をしないか、ということだった」

 

「情報交換?」

 

「ああ。……ところで、アテナさんはいないのか?君がいるということは彼女もいると踏んでいたのだが」

 

「その質問に答える前に、一つ、約束をしなさい」

 

上からの物言いにまたアウラが怒っていたが構わず進める。

モモンガも止めていたから言っていいと言うことでしょう。

 

「アテナに会いたいのならば、望み通り会わせてあげる。けれど、アナタ達は、今後2度と、私たちへ手を出さないと誓いなさい。具体的な内容は後から使い魔の精霊に送らせるわ」

 

「ふむ。承知した。では、アテナさんの元へ案内してくれ」

 

「ええ」

 

 

 

 




【日記 2日目】

結論から言おう。

ユウという少年は、あの人の末裔だった。
信じられるだろうか。

あの人は、私よりも200年ほど前に来ていたのだ。
人間達の英雄となった『十三英雄』と共に。

だけれど、彼は力で以って英雄になるのでは無く、知識を生かして民の役に立つことを選んでいた。

彼らしい選択だ。

そして断腸の思いで、結婚し、子を成したという。

その事実に最初こそ驚いたが、それでも彼がこの世界で家庭を築き、幸せに暮らせていたと知り、心の底から嬉しくなった。

それでもあの人が残した手記には、今でもアテナのことが忘れられないと記されていたらしい。

……本当に腹立たしいことこの上ないけれど、彼とアテナの想いには、嫉妬で身を焦がしそうになる。

それほど、アテナが羨ましい。

でもこの世界はボクが生きる。だから……

ボクは、ボク自身のエゴで、ユウを守る。

そう、決めた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仲間との邂逅

感想・評価ありがとうございます。おかげでモチベ⤴️⤴️です。
読んでくれている皆さんへ感謝を



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


やっほうモモンガ久しぶり。100年ちょいぶりかな?あ、声(心の声)聞こえないか。

ねえ私目が開いてるでしょちゃんと見えてんのよコレ。喋れないけど。

だから君が今色々困惑してんのも見えてるし君たちが話してることも全部聞こえてるZE☆黒歴史量産機さん!

おっと口が滑った。

さてはてどうやって気付いてもらおう。

でも超位魔法に勝てる術がないんだよなぁ。世界級(ワールド)アイテムも無いし。てか、この状況打破できるものじゃ無いし。アレ、ただの盾だし。

……モモンガやパチェが私をどうしても必要だと思うまでは無理じゃね?


あれ?
コレ詰んでます?


あ待ってモモンガさんモモンガ様!帰らないでそれとパチェも追い返さないで!頼むから!フリーーーーーズ!モモンガ!凍ってんの私だけどさ!


「アテナの元へ案内するのは構わないけれど、先にその物騒な装いをやめてちょうだい。それとその多すぎる魔力量とか諸々隠蔽しなさい」

 

「ちょっと!モモンガ様にそんな口……」

「よせアウラ。わかった。だが必要最低限の装備はさせてもらうが、いいかな?」

 

「ええ。とは言っても私がこの周辺には結界貼ってあるから、余程の事がない限りは心配無いわよ。何か起こるとすれば、あなた達が約束を破ってこっちに攻撃をしてくるくらいよ」

 

「それこそ心配無用だ。私はギルドの名にかけて、仲間とその子供達に嘘はつかないさ。危害も加えない」

 

「……信用してあげたいけれど、()()がある以上、信用しきれないのよね」

 

「前例?」

 

「何でも無いわ。ナザリック地下大墳墓……アインズ・ウール・ゴウンと付き合うかどうかは、これからの態度で決める」

 

「それはつまり、きみのお眼鏡に叶わなければ私たちは敵対すると言う事でいいのかな?」

 

「まさか。嫌よめんどくさい。負け戦をわざわざ仕掛けるような自殺願望マシマシな人じゃあるまいし。あなた達の仲間にならないってだけよ。協力もしないしあなた達の不利になるようなことをする気もない。

 

私達はね、この森で静かに暮らしたいだけなのよ」

 

「ふむ。なるほど。そちらの考えは理解した。……コレでいいかな?」

 

モモンガは茶色の質素なローブに装備を変え、指輪を幾つか変更していた。……両手の指全部に指輪あるって、何なの、反則すぎない?

 

「ええ、まあ、それでいいわ。それとアウラ。あなたの使い魔もこの森から退かせなさい」

 

「何でさ」

 

「森のみんなが怯えてるからよ」

 

「……」

「まあ待ってくれ。アウラのシモベ達は、いわば私達のボディーガードだ。君達からしたら私たちは侵入者とはいえ、私からしたら敵陣の中へ、何の対策もせずに入るようなものだ。それなのにボディーガードまで居ないとなると流石に、いくらあのアテナさんの子とは言え『はいわかりました』と君の要求を飲む事ができない」

 

「何、私達があなたに危害を加えるとでも?」

 

「念の為だよ。保険はあるに越した事はないからね」

 

「…………。まあ良いわ。どちらにしろ結界内に入れないのは変わりないからね。けれど、貴方達は魔法も特殊技術(スキル)も使えるわ。コレが今の私が、アテナの仲間だったあなた達へ出来る最大限の譲歩よ。それでも文句ある?」

 

「大丈夫だ。それで問題ない。アウラも、それで良いかな?」

「モモンガ様がそう仰るなら……」

「何、いざと言う時は私が守ってやるさ」

 

「じゃあこっちよ。周りにいる精霊や天使には手を出させないようにしてるから無視してちょうだい」

 

 

 

 

 

 

「……」

「アテ……ナ、様?なん……」

 

「そんな目で見なくても説明するわよ。第一、私がアテナに手を出すわけないでしょうが」

 

俺の目に映ったのは、かつての仲間が、氷漬けにされていたモノ。

一人の人間を抱きしめて、ピクリとも動かない。

 

抱きしめられている男にも、抱きしめている女にも、見覚えしかない。

厳密には、男はどこか違う気もしたが。

今の俺にはそんな冷静に分析は出来なかった。

 

アンデット特有の、精神の強制的な抑制が幾度となく起こるも、未だ溢れ出る怒りが収まりそうにない。

 

「先に言っておくわ。コレはアテナの選択した道。アテナが彼と共に、ある意味永遠に在ることを選んだの」

 

「…………」

「ねえ、パチュリー。このアテナ様が抱いている人間は?」

 

「それも踏まえて説明するわよ。ソイツが冷静になったらね」

 

そうか、アウラは知らないのか。

この人の事を。

 

 

この、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……大丈夫だ。落ち着いた。説明を、してもらえるか?」

 

「ええ。そうね、事の始まりは大体100年前かしら。正確に数えてないけれどね」

 

 

 

 

それから、俺は彼女たちがおよそ100年前に旅をしてここに辿り着いた事。

故郷には執着しないタイプで、この森に惚れ、住み着いた事。

 

たまたま森に探索に来た人間が、嘗てのアテナさんの夫の末裔だった事。

 

そして……

 

「この周辺の国家にね、人間以外許さない。人間が全ての種族の頂点、って考えてる国家があるのよ。その国の人間は亜人や魔物は全て敵。良くて奴隷程度にしか考えていない国家。そんな中、この森でとんでもない存在が現れたと、その国に知られたらどうなるか、想像はつくでしょう?」

 

「ああ。侵攻してきたわけか。君達を捕らえるために。上手くいけば戦力に。殺してしまっても実験台にできるように」

 

「ええ。当然なのだけどレベル50もないような人間が、世界級アイテムも神器級アイテムも何もない状態で、たとえ10,000人で攻めてこようがそんなもの敵じゃないわ。

 

……でも、でもね」

 

突然、パチュリーの声に、激しい怒りが籠ったのがわかった。握っている手は血が出そうなほど強く握りしめられている。

 

この先の展開は、嫌でもわかる。

 

でも、わかりたくはなかった。

 

 

「アイツラは!あの人を!囮にしたのよ!しかも!洗脳を施して!

 

あろうことか、あの人をアテナの前で自殺させた!」

 

 

でもそれは、俺の想像よりも上を行っていた。

囮に使われたのは予想の範囲内だった。

 

だけど、その程度の奴らが真正面から囮に使ったところでアテナさんやパチュリー、それにこの周囲にいる精霊達ならば無傷で取り返す事など出来たのではと思ったのも事実。

 

それをこんな胸糞の悪い方法を取られていたとは、思いもしなかった。

 

……いや、人間以外を軽視しているからこそ、こんな手が打てるのだろう。

 

「いや待ってくれ。ただ死んだだけならば……」

 

「ええ、そうよ。()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさかとは思うが、彼の死因は……」

 

「残念ながら世界級アイテムじゃないわよ。使われたのは神器級(ゴッズ)アイテム。しかも()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ⁉︎」

 

「アテナの使ってる戦術、見たことはあるんじゃないの?大量に武器を投げつける戦法」

 

「ああ。一度見たことある。本人は初見殺しの技と言っていたが」

 

「基本的にアテナが敵を追っ払うときにはソレを小規模展開させていたのよ。ソレで基本良かったから。

 

ただ、使っていた武器が問題だったのよ。アテナが射出していたのは、色んなところから集めていた無数の神器級(ゴッズ)アイテムの武器。

 

……基本回収していたけれど、それでも全部を確認していたわけじゃなかった。基本半殺しで返していたのも迂闊だったわ。まさかアテナの持っていた武器をくすねていたなんて、思ってもいなかったから。しかも、盗られた物が最悪だったのよ」

 

「治癒不可の効果がついた物、そうだな?」

 

「ええ。……それでも、どうにかする方法はあったのよ。全てが後の祭りだけど。貴方も知ってるでしょう。『流れ星の指輪(シューティングスター)』。アレを使えば、もしかしたら助けれたかも知れなかった。でもそんな事すら思い付かないほどアテナも私も、他の精霊達も焦っていたのよ。己の魔法もスキルも、何も彼を治すには至らなかった。

 

ここからは憶測でしかないけれど、最後に彼から言われた言葉が、アテナの心に刺さった、といったところかしら」

 

そこから続く言葉は、予想ができた。彼とは何度か交流を持っていた。少なからず、人格がどのようなものかも知っていたから。きっと彼は…。

 

「詳しい内容は省くわ。彼は『蘇生は望まない。貴女を殺しかけた罪な私を助ける必要はない』と言ったの。あの人は、アテナを殺すのを拒否すれば自分を殺すよう、洗脳されていたのよ。洗脳の力が強くて、アテナのそばへ行くまではアテナを殺そうとしていたらしいわ。でも最後に正気になって、アテナを殺すのを拒否した。そして、自ら心臓に剣を突き立てた」

 

彼女曰く、その後は見るに耐えない状態だったらしい。

喧嘩をふっかけた国へ復讐し、誰も止められなかったと。

 

そして彼女は『流れ星の指輪』を使い今に至る。

それが約90年前だという。

 

「アテナに関して言えることはコレで全てよ」

 

「……」

 

既にないはずの脳が痛む。

呼吸も荒くなってくる。

 

何とか鎮めたはずの怒りがまた溢れてくる。

 

「何か質問は?」

「アテナ様を襲った国って?私がそこ壊してくる」

「教えられないわね。一通り壊滅させた後、互いに関わらないっていう調書を結ばせたから。でも、この周辺を調べていればすぐにわかるわよ」

 

「ならば、パチュリー・ノーレッジ。それに付き従っている精霊達。改めて問おう。私達の元へ来る気はないか?」

 

順序は大幅に狂ってしまったが、本類の目的を口にする。

だが返事の予想はつく。

 

「言わなかったかしら?お断りよ。私は(ここ)で生きると決めたのよ。アテナを守りながら、ね」

 

「そうだろうな。全く、アテナさんと良く似ている。さすが親子だな」

 

「どういう事よ」

 

「そのままの意味さ。さてアウラ。今日のところはナザリックへ戻ろう」

「え⁉︎でもモモンガ様……」

「心配するな。ある意味予定通りだ。それに何度も言っているだろう?私は彼女と喧嘩をしにきたわけじゃないんだ。パチュリー・ノーレッジ殿。また会おう。その時は客として来させてもらう」

 

「ええ。できれば貴方一人で来てちょうだい。毎回、殺気立ってる貴方の配下を気にするなんて面倒だもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ。モモンガ様」

「……」

「どうかされたのですか?」

「至急、各階層守護者を玉座の間に召集せよ。それと……セバスにユリ・アルファ、ペストーニャもだ。伝えねばならぬ事がある」

「承知しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様。揃いました」

 

「うむ。(おもて)を上げよ」

 

俺の言葉で、みんなは一斉に顔を上げる。

第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。

第五階層守護者コキュートス。

第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ。マーレ・ベロ・フィオーレ。

第七階層守護者デミウルゴス。

執事長セバス・チャン。

守護者統括アルベド。

そしてメイドであるユリ・アルファにペストーニャ。

 

 

皆が跪き、忠誠を誓っている。

 

 

ちなみに言っとくが、俺にそんな趣味はない。みんなは俺にとっては『仲間』であって『部下、駒』じゃない。

この世界に転移したらナザリックのNPC(みんな)が意思を持ってて

『モモンガ様こそ至高』っていう考えのもと、忠誠の儀とやらをやってるんだ。俺は何も命令してないしお願いもしていない信じてくれ。

 

つかこれ2回目だぞ?え、なに。これみんな集めるたびにするの?みんなにとっては大事かもしれないけど俺からしたら息苦しいんだけど。

 

 

そんな思いを取り敢えず捨てて本題を切り出す。

 

「まずは今回の身勝手を詫びよう。だがそれ相応の収穫を得た。良い知らせもある。だが、悪い知らせもある。

まずは良い知らせからだ。我らの仲間であるアテナさんが見つかった」

 

事情を知っているアウラ以外の皆の顔が明るくなり、喜んでいるのがわかる。

 

……言い辛い。どうしよう。でももう引っ込めれないし。

 

「場所はすぐ近くのトブの大森林という場所の奥地。そこにはアテナさんの創造したNPC及び高位の精霊も多数確認できた」

 

「モモンガ様。御質問が」

 

アルベドからそう言われ、許可を出す。

 

「アテナ様はいつお戻りになられるのですか?それに合わせましてナザリックで盛大なる催しを行おうかと」

「良い案ですね。アテナ様もきっと御喜びになる」

「ではココは私が……」

「イヤ、ワタシガ演舞ヲスルノハドウダ」

「あ、えっと、その。楽しいものにすればアテナ様はそれで喜んでくれるのでは。ぶくぶく茶釜様と共に居られた時も……」

「その時は腕によりをかけてアテナ様のお好きなものを用意します……ワン」

「良いですね。私もお手伝いしましょう」

「……」

 

「……」

 

「モモンガ様?どうされましたか?」

 

俺の様子がおかしいことに気付いたアルベドに言われる。

 

心の中で何度か深呼吸し、再度口を開く。

 

「アルベドへの答えだが悪い報告と共にさせてもらう。

まずはアテナさんがナザリックに戻る可能性は、今のところは無い。0に等しい」

 

「「「「「「⁉︎」」」」」」

 

「落ち着け。何もアテナさんが我らを嫌いになった、というわけでは無い。確証はないがな。

その理由について話そう。アテナさんは今、死に近い状態だからだ」

 

それを伝えるとより一層、みんなの間にどよめきが広がる。

 

「詳しい説明は後からアウラへ聞いてくれ。アテナさんは現在、超位魔法……簡単に言えば第十位階魔法よりもさらに上の魔法だ。対抗する手段は同じ超位魔法、もしくは世界級(ワールド)アイテムのみだ。

それによりアテナさんは氷漬けにされている。

先に言っておくが、アテナさん本人がそうしたのだ。その原因は違うがな。

その原因は、どこかはわからないが、人間の国だ。そこにいたアテナさんのNPCによると人間を至上の存在としている国らしい。だがどこの国か判明したからと言ってすぐに滅ぼす真似はするな。その無礼者には私自ら、死なんぞ生ぬるい、地獄を見せてやる為だ。

 

皆を集めたのは今後の私の方針を伝える為だ。

まずは、アテナさんの救出。だがコレは私が単独で行わせてもらう。異論は認めん。NPCとの交渉もあるからな。コレが最優先事項だ。アテナさんに関することはアウラに聞いてくれ。

そして次に優先すべきはナザリックの隠蔽。これはマーレに任せていたが、首尾はどうだ?」

 

「は、はい!問題なく、順調に進んでおります!」

 

「うむ。次にアウラに任せていた大森林での伐採及び偽のナザリック建設についてだが、一旦中止だ。先も言った通り、アテナさんとその配下のNPC達は森にいる。それにそこのNPC達は、あくまでもアテナさんへ忠誠を誓っているわけであって私達ナザリックに誓っているわけではないからな。もし仮に機嫌を損ねるような事があってはならない為だ。

最後にナザリック周辺の情報集め。だがこれは警戒レベル最大で行え。もし仮に近づいてくる者がいたならば必ず確保しろ。手段は問わない。だが殺すなよ。もし例の国のモノならば私自ら拷問した後に殺す」

 

「「「「「「「はっ!」」」」」」」

 

「それでは後の細かいことはアルベドとデミウルゴスに一任する。以上だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つっ……………………かれたぁぁぁ!」

 

自分の部屋へ転移した瞬間叫んだけど誰にも聞かれてないよなコレ?

 




【日記 7日目】

期間が空いたのは許してくれ。だって特に書くことが無かったんだよ。
毎日同じことの繰り返しだったからね。
森を探索して、本を読んで、森の賢王達と戯れる。
それだけだったから。

最近、スレイン法国とやらに目をつけられているらしくて、ユウともあまり会えなくなった。
ちなみにたった1週間弱と思うかもしれないがボクからしたら100年くらいに感じられた。それくらい愛おしかった。

私から会いに行こうかとも思ったが、ボクが出てくと面倒になると言われて、なんとか踏みとどまったボクエライホメテ。

それにしても人間以外は低俗とかいう頭の狂った思想の奴らに王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を初めて浴びせた時は面白かった。ユウにもみせてあげたかったなぁ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死の支配者

「アテナさんようこそアインズ・ウール・ゴウンへ。俺はギルド長のモモンガです」

「どうも……」

名前だけ入っていたアインズ・ウール・ゴウン(以下AOG)。その本拠地に今日初めて足を踏み入れた。
その理由は、AOG vs 1500人の人間プレイヤーが勃発するので、そのために出陣してほしいとのこと。

……めんどくさ。なんで私がそんなものに。

でもアイツにお願いされたからなぁ。それに「今日は空いてる」って言っちゃった手前止めるわけにもいかないし。

「それで、私は何をすればいいの?」

「特別なことは何も無いですよ。俺たちの予定としては、初手で例の戦術を披露してくれればそれで終わりです」

「……例の?」

「ほら、あの武器を大量に」

「ああ。ロマンだ!の一言で作る事になった……ゲートバビロン?だっけ。そんだけでいいの?」

「ええ。元々アテナさんはこのいざこざには巻き込まないようにすると考えていたので」

「……ならなんで私呼んだの」

「元々この戦争は口実です。俺は立場上アテナさんと会ったことありますが、他の皆さんは誰も会ったことないので。特に女性の方々が会いたいってごねちゃって。それで無理を承知で頼んだわけです」

「……」

「ちなみに、戦争なので勝ったら相手から戦利品を根こそぎ奪うので、その中から好きなものを持っていってもらって結構です。勿論みんなと話し合いして決めますが」

「とは言っても、私別にこのゲームに思い入れがあるわけじゃ無いからね。ただ一つ続けるとずっと続けてしまう性質(タチ)なだけで。……いや、でも……確かAOGってプログラム得意なメンバーいなかったっけ?」

「はい。いますよ」

「なら私の報酬は無くていい。代わりに、そのメンバーに一つAIプログラムを組んでほしい。今アイツとNPCを作ってるんだけど、ガワと中身、装備は作れても私もアイツもプログラムは流石にできなくてね」

「わかりました。伝えておきます。皆さん優しいのできっと大丈夫ですよ」

この時のモモンガの印象は『お人好し』だった。というか、仲間に対しては異常に想い入れをしている。仲間にはとことん甘いけど敵となると話は別。

あと黒歴史の量がそこそこヤバい。

NPCお披露目会なるものでモモンガがトップクラスにやばかった。勿論設定が。中身はガチビルドだったけど。
よくあんなもの作ったな。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

モモンガ達と出会ってから1週間ほど経った頃。

やけに森が騒がしい。低位のモンスターや精霊達の動きが忙しない。

 

「……森が騒がしいわね。どうしたの?」

「わからないでござる。森の中というより、森の外が騒がしいと思うでござる」

「どうやら人間の村が襲われてるらしいでござるよ」

「どこの村?」

 

森の賢王夫婦と精霊たちの情報を繋ぎ合わせ、森の周辺にある村が悉く襲われているらしい。今現在は、私が唯一気にかけている村。はっきりいって、気分は良くない。助ける為に動きましょう。

 

ちなみに、流石に100年もいると瓜二つな森の賢王夫婦の見分けもできるようになった。

 

「一番近いのは……あの村ね。みんなはアテナのそばにいてあげて」

「承知したでござる!」

「姫は我が命に変えても!でござる!」

 

エモットのいる村だと分かり、飛行(フライ)向かう。念のため中位精霊も2体ほど連れて行く。

 

「もしもの時はお願いね」

「「……」」

 

もしもの時は盾にする。犠牲にする。という事を告げたのに嫌がる素振りなく間髪入れずに頷いてくれる。

 

無論そのような状況にするつもりはない。けれど万が一がある。

それに私さえ生きていれば復活させてあげられる。

だからこその盾のお願い。

 

「見えてきたわね。無事だといいけれ……どっ⁉︎」

 

そこで見えたものは信じられないものだった。

 

「なんで死の騎士(デス・ナイト)が発生してるのよ⁉︎止めないと!」

 

この世界では神話に語り継がれるほどのアンデットモンスターのデス・ナイトが暴れまわっていた。この世界では戦争の跡地が発生の条件だというのに。まさかここの村人が殺されたことで……?いやまさか。

 

自然発生するほど殺されてるっていうの?何が何だか分からないけど、とにかく止めないと。

急降下し魔法を撃つ準備をしたら中位精霊に肩を掴まれる。

疑問に思いながら精霊を見ると、デス・ナイトを指さされる。

 

「何?ちゃんと見ろって事?」

「……」

 

頷いたので、とりあえずは信じてもう一度デス・ナイト及びその周りを注意深く見る。

 

「……村人が襲われるわけじゃ無い?死んでるのは……全部兵士?まさか、自然発生したデス・ナイトがそんなピンポイントで殺す相手を選ぶわけが……」

 

そこまで考えようやく一つの答えに辿り着いた。

 

自然発生した単なるモンスターのデス・ナイトが起こす挙動じゃ無い。

ならば考えられることは一つ。

 

「誰かが召喚したってことかしら。……兵士を殺してるところを見ると、兵士が邪魔だと思って兵士を殺しているか、ここの村を助けようとして召喚して、殺してた兵士を殺させてる、の2択。……兵士が邪魔だというなら、村人を殺さない理由がない。目撃者を消すなら村人も殺すほうが都合がいいものね。つまり後者のほう。ここの村人を襲っていたのは兵士の方、それをみた誰かが助ける為に生み出した……ってあたりかしら」

「御名答。アレは私の生み出したものだ。パチュリー・ノーレッジ」

 

想像していない事というのは立て続けに起こるものらしい。

考え事をしていて後ろから近づいてくる気配に全く気づけなかった。

 

声からして、モモンガだということは分かった。

みんなが気づかなかったのも無理はない。私の探知に引っかかってないんだから。

 

2、3度深呼吸し、振り向かずに口を開く。

 

「そう。なら聞かせてくれない?何が目的よ」

 

「アインズ様。この無礼で愚かな下等生物は?精霊を従わせてるようですが。御許可さえ頂ければ私が処分致しますが」

「「……!」」

 

「やめろ。この人はパチュリー・ノーレッジ。人間ではなく精霊だ。アテナさんの作られた、な」

「やめなさいな。貴女達じゃとてもじゃないけど荷が重いわ。でもありがとう。私のために怒ってくれて」

 

「はっ。失礼しました」

「……」

 

「それで、そろそろ下の惨劇を終わらせてくれないかしら?私は村人を助けにきたのよ」

 

「ああ、そうするとしよう。君達はそこで待っていてくれ。アルベドは私と共にこい」

「はっ」

 

……いま、モモンガが降りる瞬間にチラッと顔見えたけど、なんか変な仮面つけてたわね。

何だったかしらアレ。

 

赤いお面…特に効果は感じない……。というか効果なんてものはない?そんなアイテム……

 

 

ああ。アレかしら。アテナが「人生の負け組の象徴。言い換えればクリボッチでユグドラシルで過ごした者の証。ユグドラシルの勝ち組と負け組はアレを持ってるかどうかで決まるのさ」って言ってたやつ。アレにそっくりね。

 

……つまりは、そういうことよね。

間違っても口走らないようにしないと。

 

 

 

「終わったようね。じゃあ行きましょう。貴女は念のため不可視化してここで待機しておいてね」

「……」

 

モモンガがデス・ナイトを止め、兵士達を脅し、あえて逃がしていた。

一人の精霊を上に残し、下に降りる途中でもう一人の精霊にお願いをする。

 

「ねえ、私の護衛はいいから、あの兵士を一人……いや、三人ほど捕らえておいて。バハルス帝国の兵士だとは思うけれど、一応、ね。こっちは任せて」

「……」

 

さて、と。村人達の元へいかないと。

 

「終わった?」

「ああ。この村の脅威はひとまずは去ったと言えるだろう」

「パチュリー……様」

 

村長は無事みたいね。

他は……無事とは言い難いわね。

前見た時は60人くらいだったけど今は……20人前後か。

 

「遅くなってしまってごめんなさい」

「いえ。アインズ様に助けていただいたので……」

「……アインズ?」

 

「それに関しては後ほど説明する。それで、この村が襲われることに心当たりは?」

 

「い、いえ。見ての通り辺境の村ですので、お金もありません。何故襲われたのか検討も……」

「少なくとも街に住んでいる人間達が襲う理由はないわ。襲うくらいなら働いた方がマシだもの。得られるものなんて、奴隷と土地くらいよ」

「ふむ……」

「それよりも、先に村人達の埋葬をさせて頂戴な。村長、手伝っても?」

「は、はい!もちろんでございます!森の守護神様に看取られるなんて、皆も喜びましょう…」

 

気丈に振る舞っているけど、無理をしているのは明らか。

……こう言う時、素直に責められた方が楽なのよね。本当に。

 

「無理しなくていいわよ。助けると言う約束を私は守れなかった。罵っていいのよ。これはせめてもの罪滅ぼしなんだから」

「い、いえ!そんな無礼なこと……」

「じゃあこれから私はもう少しこの周辺の守りを強化するわ。あなた達はこれから何かあったらすぐに森の誰かへ伝えること。いい?」

「……はい」

 

下位の精霊を3体ほど召喚し、死んだ村人達の埋葬を手伝わせる。その間にモモンガ……アインズ?どっちで呼べばいいのかわからないけど、ソイツは村長から情報をもらっていた

 

私は怪我人の治療。死んだ者に関しては蘇生はできるけれど、そこまで面倒を見るつもりはないし、かなりの面倒ごとになるのは分かりきっているからやらないと決めている。

そもそもこの世界自体、蘇生魔法が使える者自体殆どいないみたいで、そんな世の中で蘇生魔法が使えると言うのが広がるとかなーーり面倒なことになるのはバカでもわかる。

 

村人達の埋葬も終わり、時間が夕方の5時ごろになろうかというときに、村長達は家から出てきた。

 

「あら、もう終わり?」

「半分ほどは既に君から聞いていたことだからな。それで、パチュリー殿はこれからどうする?」

「森に帰るわ。目的は達成したもの。元凶は潰してくれたし。他の襲われた村は生き残りは居ないらしいから。ここの村のケアを今後続けるくらいね」

「そうか。なら提案があるのだが……」

 

「村長!」

 

どうやら休息はないらしい。

生き残った村人の一人が慌てた様子で駆け込んできた。それと同時期に、あたりを警戒してもらっていた精霊から、武装した集団が迫ってきていると情報をもらった。

 

今度は私の番ね。

 

「わかったわ。あなた達は隠れてて。私がどうにかするわ」

 

「パチュリー殿だけでは危険かもしれない。私たちも同行しよう。村長もお願いしたい。よろしいかな?」

 

「……」

 

「なにかね?」

 

「いえ、貴方って面倒事が好きなわけ?」

 

「まさか。貴女と同じだよ。乗りかかった船だから最後まで乗ってやる。それだけだ」

 

「……そう。今はそれを信用するわ。けれど、お願いだから面倒事を起こさないで頂戴。今からの対話は私がするわ」

 

「勿論だ」

 

この場に残ったのは私、モモンガ(アインズ?)、アルベド、デス・ナイト、村長。

……モモンガかアルベドだけならまだしも、二人同時は、無理ね。

そんな馬鹿げたことするやつじゃないとは分かっているけれど、それでも最悪の事態を考えずにはいられない。

 

「考えても無駄ね。今は目の前のことに集中しないと」

 

先に対監視系魔法を使い、その上で下位精霊を10体ほど纏めて召喚する。それらに指示を出して上空にいる中位精霊を軸に円形に展開してもらう。

 

「来たわね」

 

現れたのは20人ほどの武装した集団。けれど装備は統一されていない。各自でアレンジをしている。どう見ても正規の部隊には見えないけれど先頭を走っていた人間には見覚えがあった。

 

全員の中で最も屈強な男は、デス・ナイトを見て、アルベドを見て、私を見て、最後にアインズを見た。ちなみにだけれど、モモンガはギルドの名『アインズ・ウール・ゴウン』を名乗るとのこと。それでアインズと呼んでくれと言われたのでそうする事にした。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐する為に王の御命令を受け、村々をまわっているものである」

 

やっぱり。アインズは知らないようで村長にどんな人間かを尋ねていた。

 

「この村の村長だな。横にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」

 

「それには及びません。はじめまして王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が騎士に襲われておりましたので助けに来た魔法詠唱者(マジック・キャスター)です」

 

それに対してガゼフは馬から飛び降り、礼儀正しく直角な礼をしていた。

しばらく放っておいた方が良さそう。

 

「アインズ殿のことはわかった。それで、そちらの女性についても伺っても?」

 

十分くらいのアインズの説明を聞き終わると次は私の方へ聞いてきた。

 

「私は……そうね。トブの大森林の守り神、と言えばわかるかしら?」

 

「……!貴女が⁉︎」

 

「ええ。意外かしら?」

 

「大変失礼……なのですが、それを証明することは?」

 

「そうねぇ。そもそもが人間たちが勝手にそう呼んでいるだけだもの。自分で何かしらの証明となると無いわね。……これならいいかしら?召喚(サモン)・中位精霊。サラマンダー」

 

レベル45の炎の中位精霊を召喚する。二メートル弱の炎を纏ったトカゲのような精霊。危ないので炎纏だけは消してもらい、私の横に居てもらう。

この場のどの人間よりも強い精霊を呼び出したことで兵士たちは一気に緊張していた。

 

あ、こら。ほっぺた舐めないのくすぐったいでしょ。

今回の子甘えん坊らしい。もうわかったってばあとで遊んであげるから。

 

「どう?信用してくれた?」

 

「……はい。王に伺っていた通りの規格外のお方だ。無礼を詫びさせて欲しい」

 

「別に気にして無いからいいわよ。誰でも私が強いなんて思わないからね。それにしても、時が経つのも早いものね。もう……何歳かしら?」

 

「私のことを知っているので?」

 

「ええ。貴方が子供の頃からね。御前試合とやらも見てたわよ。これでもたまに息抜きで王国には行くもの」

 

「これはこれは。かの森の守り神様に知って頂けているとは光栄だ」

 

「オホン」

 

話が少し弾んでいるとわざとらしい咳払いが聞こえて中断する。

 

「楽しく話しているところ申し訳ないが、これからのことを話さないかね?」

 

「そうだな。申し訳ない」

「別にもう終わってるでしょう。この人間たちは帝国の騎士を討伐にきた。けれどアインズが全て倒した。それで終わりじゃない」

 

「私としては、助けた報酬とやらをまだ受け取っていないんだがね」

 

「望む額全てとは言わないが、できる限りの誠意を示すつもりだ。それと、できるだけ詳しく説明してもらいたい」

 

「承知しました。では村長の家で話させてもらいたいが、よろしいかな?」

「私は構いません」

 

 

「隊長!周囲に複数の人影!村を囲うように接近しつつあります!」

 

 

悪いことは立て続けに起こるものらしく、その叫び声を聞いて内心げっそりしてしまう。

外を見張っていた兵士の一人が慌てて来た。

 

……やっと帰れると思ったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「獲物は檻に入った。皆の者、信仰を神に捧げよ」

 

装備の統一された数十人の集団と数十体の天使を従えていた一個小隊がいた。

その隊長らしき男は、懐にある二つの水晶の存在を感じ、目標を達成する為、前進をしていた。

 

 

 

 

 

 

「確かにいますね」

「あらまぁ。何をもってあんなにマジック・キャスターを。帝国だか王国だか知らないけど、貴重な戦力をこんなところに大量に配置なんて何を考えているのかしら。戦士長、何か心当たりはあるかしら?森にしかいなかったから近隣の武力はあまり知らないのよ」

 

「あれだけのマジック・キャスターを集められるとなると『スレイン法国』で間違い無いでしょう。その中でも特殊部隊の六色聖典のどれかだろう」

 

「……スレイン法国?」

 

「ええ」

 

「……」

 

「どうかされたので?」

 

「いえ。なんでも、無いわ」

「ガゼフ殿。彼奴らの目的は予想できますか?」

 

「おそらく、俺だろうな」

 

「恨まれているのですね」

 

「全く困ったものだ」

 

アインズと戦士長の言葉はほとんど耳に入ってこなかった。

 

 

スレイン法国。

 

 

アテナの想い人を殺した、あの憎き国。

でも、互いに不可侵を結んだから、今私が手を出したら、アテナの苦悩を全て無に帰してしまうかもしれない。

 

……それでも。

 

 

「アインズ。戦士長」

 

「「?」」

 

「今回は、アイツらは私に譲りなさい」

 

「ほう?」

「いえ。そういうわけにはいきません。彼奴らの目的は私。貴女たちの手を煩わせるわけにはいきません。私が一点突破をし、奴らを一箇所へ集め、私たちが殲滅します。御二方は、もしもの時があったらこの村を守っていただきたいのです」

 

「……」

 

「よろしいですか?」

 

「私は構わないが、パチュリー殿。どうしたのだ?」

「……わかったわ。この村は必ず守るわ」

 

「感謝する」

 

「戦士長殿。これをお持ちください」

 

アインズは、木の彫り物らしきものを戦士長に渡していた。

 

 

 

 

「……アテナ。私、どうすればいいと思う?憎たらしいあの国を叩き潰してやりたい。けれど貴女の想いを無駄にしたく無い。……どうしたらいいのかしらね。何もわからないわ」




【日記 8日目】

どうやら、この精神は『人間○○』と始原の精霊が混じって来ているらしい。元々感じていたはずの嫌悪感、もとい他人を傷つけるという行為に何も思わなくなっていた。
人間○○というのは、私自身には名前がないから書けないだけだ。

それでも彼への想いは未来永劫変わらない。そう断言できる。


ああ。また逢いたい。

彼に会い、食事をし、他愛のない話をしたい。

私の願いは、それだけだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命の分かれ道

「やあ、もう一人の私。名もなき意識。……なんてね。けったいな名前で呼んでみたけど、君は単なる私の二重人格に過ぎない。でだ、君は百年前くらいに自らの意思で死んだ、と思い込んでいたけれで、単なる仮死状態だったわけだね。道理でいきなり意識が戻ってきたわけだ。で、私に何か言うことは?」

『……お前みたいなやつに言うことは、何もない。あの人が死んでから表に出なくなった、生を放棄したお前が、今更ボクに何の用だ。自分の体が惜しくなったか?」

「いやいやまさか。君が私の体をどう扱おうがどうでもいい。むしろ好きに使ってくれて結構」

『は?何言ってるんだお前』

「けれど、それは君が私に面白い景色を見せてくれたら、の話だ。今の君は何だい。一人で勝手に絶望して、何の策も講じず、氷の檻に閉じこもる。三流映画以下だよ。はーくだらない。三流主人公でももう少し、何か悪あがきするもんだよ」

『お前に何がわかる。同じ絶望を二度味わう事がどれほど苦痛なのか。私はそれよりも前に、お前という個体を演じることに心底嫌気がさしていたんだ』

「二度同じ苦痛?…………。ああ、そうか。君はアイツが死んだときにはもうすでに()()わけか」

『ああ、そうだ。あの頃はボクはお前の見る景色をずっと見ている事しかできなかった。けど、お前が意識を手放し、ボクは怪しまれないためにお前を演じる必要があった』

「知ってるさ。それを承知で私はお前に体の支配権を渡したんだから」

『……お前、頭おかしいのか?ていうか、ボクの知っている【紀野感無】の性格は、そんなものじゃなかったはず……』

「当たり前だ。そもそも現実世界での『紀野感無』という人間性は私が自ら作り偽ったモノにすぎない。偽物なんだから。私は自分のことを『意識を持ってしまったナニカ』としか思ってない。けれどそれだと日常で過ごすには余りにも面倒で、厄介な事この上ない。人間の、特に日本人という人種は、決まり事から外れたモノは徹底的に省く修正があるようだからね」

『……』

「それと、もう一つ。元々がかなり面倒臭い事この上ない、クソみたいな性格なのに加え、紀野感無が……いや、私自身が設定をした『アテナ』というプレイヤーの設定も、私と混合しつつある。いや、侵食と言ったほうがいいかな」

『は?』

「周りの事に基本無関心で、自分の好きなようにしか動きたがらない、己の身が第一の、傲慢で独りぼっちな始原の精霊そのものに成りかけてるのさ。君のおかげでね」

『ボクの……?』

「ああ。厄介な事になるだろうね。楽しみで仕方がないよ。ああでも心配はいらない。君はそこで大人しく、残りの人生を謳歌すればいいさ。退屈で死ぬほどつまらない、死んだほうがマシな人生を」

ああそうさ。私の読みが正しければ、ある手段でこの檻は壊せると考えてるからね」




それに、最後の、最終手段もあるし、ね。
ソイツは、仲間への想いだけは誰よりも強く、そして異常なのだから


「……」

 

「パチュリー殿。少しお話を聞きたい」

 

「何よ」

「お前っ!いくらアテナ様の創られた存在だとしても口の聞き方に……」

 

「やめろアルベド。口を出すな。単刀直入に聞く。アテナさんがあのような現状になってのは『スレイン法国』が原因。そうだな?」

 

「……」

 

「無言は肯定と捉えるが?」

 

「好きにしなさい」

 

「そうさせてもらう。……アテナさんの事だから、仮にそこから……」

 

アインズは横で何かぶつくさ言っているが、それを無視して他の精霊たちにさまざまな指示を出す。村の修理から数体は森へ行ってもらい、サラマンダーには戦士長達の先頭を見てもらっている。

 

視覚共有で見ているけれど、どうあがいても戦士長の負けは揺るぎない。

 

あの国の人間は見たくもないので視覚共有を切って森へ帰る準備をする

 

「どこへ行くのかね?」

 

「帰るだけよ。見届ける必要もないわ。森の外で国同士がどんないざこざを起こそうが、私には関係ないもの。それに……アテナの取り付けた約束を、私が破るわけにはいかない。私はもう何もできないわ」

 

「約束?」

 

「……これ以上は何もいう事は無いわ」

 

「まあ待ちたまえ。これからのショーを見ていく気はないのかね?」

 

「無いわ。拮抗した魔法戦ならまだしも一方的な殺戮ショーなんて興味ないもの」

 

「そうか。だが、後からになって森に被害が出ても文句は言わないでくれよ?」

 

「は?」

 

唐突に、ほんと唐突にアインズがそんなことを言った。

 

「何?喧嘩売ってるわけ?」

 

「森に被害が出ないようにするが、私たちは相手の強さなどわからないからな。万全な体制で臨むだけさ。それで森に被害が出る可能性もある、ということさ。最大限努力はするが、この世界のことについて何も私に教えておらず、君が私達のことを見ていないのが悪い、と思うのだがね」

 

「……回りくどいわね。拒否権はないって言いなさいよ。シモベにこんな真似させてるんだから」

 

アインズとの会話に気を取られていて、いつの間にかアルベドが私の背後に立っていて、首筋に武器を当てていた。

 

「いや何、私はワガママなんだ。それに、私達の力を君に見せつける事によって、君へのアピールにもなると思うのだよ。君から私たちにアクションを起こすきっかけになるかもしれない」

 

「……」

 

流石にこの二人相手に勝つビジョンは見えない。大人しくついていくしかなさそう。

 

「勘違いをしているみたいだが、私は君に危害を加えるつもりは一切ない。貴女だけならまだしも、アテナさんもいるのだからな。配下になれともいう気はない。信頼を得て協力関係に成れたらそれで良いのだよ。だから本当はこんな真似はしたくないのだよ」

 

「悪いけれど信用できないわ」

 

「ならば仕方ない。これは私が君に強要した、そういう事にさせてもらう。それなら君がアテナさんに怒ることはないだろう。君がいることで何かあっても、悪いのは私なのだからな」

 

……コイツは一体何を考えているの?意味が分からない。

 

 

 

私なんかの協力をなぜ欲しがるのかしら

 

 

「…………。わかったわよ。おとなしくついていけばいいんでしょう。その代わり、私について聞かれたとしても何も言わないこと。基本自分から言うわ。それと私はただ貴方達の行く末を見守るだけ。貴方がこの世界に敵対しようとも何も言わないし何も邪魔しないわ。だからあなたも今後、私の邪魔はしないと約束なさい」

 

「もちろんだ。約束は守ろう。アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて」

 

 

 

 

 

 

アインズとスレイン法国の対決は、予想通りアインズの一方的な蹂躙だった。

魔法もすべてが第三位階どまり。呼び出す天使は下位天使ばかり。

 

例えるなら、ライオンとネズミほどの力の差だろうか。

大して面白くもない

 

「貴様ら!生き残りたくば防げ!最高位天使と最高位精霊を召喚する!」

 

リーダーらしき男は、二つの水晶を取り出してそう宣言した。

記憶に違いがなければ『魔封じの水晶』かしら、あれ。超位魔法とか、特定の物以外は封じ込めれるっていう。

 

……最高位の天使と精霊ってことは、天使は熾天使(セラフ)で精霊は根源の精霊(プライマル・エレメンタル)あたりかしら?何属性が来るかは楽しみだけれど。

 

 

その好奇心が、抑えられなかったです、はい。

 

 

「アインズ、精霊の方は私に譲りなさい。熾天使が来たらそっちに全力にならなきゃいけないでしょう。精霊は私がなんとかするわ」

 

「ああ。そうだな。だがいいのか?見守るだけだったのでは?」

 

「今回は特別よ」

 

「承知した。アルベド、スキルを使って私を守れ。パチュリー殿は……」

 

「精霊相手ならどうにかなるわ。貴方たちは自分のことだけ考えていなさいな。私も自分のことしか考えてないし」

 

実際、私もアインズも、考えてることは同じだろう。

アインズは単に自分の全力を出せるかもとワクワクしており、私は新たな仲間が増えると思っていた。

 

精霊なら、こっちが上から支配してやればいいもの。

 

「見よ!威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!そして根源の精霊(プライマル・エレメンタル)!」

 

そうして出てきたのは、まさかの中位の天使とギリッッッッギリ高位精霊に入るモンスター。

つまり何が言いたいのかというと………

 

 

 

 

 

 

とんでもないクソ雑魚、もとい咬ませ犬が出てきた。

 

 

 

 

 

 

思わず、私もアインズも固まる。

 

出てきたのは、見た目はそこそこ壮大な天使と、牛の顔をした白い巨人のような精霊。

 

うん、ここ100年で私も耄碌してたわ。

中位のモンスターで伝説的なんだから、最高位って言ってもそこまで大したことないんだったわね。

 

いやでも、最高位とか言われると警戒するじゃない。100年以上前のプレイヤーのことなんて知らないし。その中でアテナたちレベルがどれだけいたのかも知らないし。

 

いやいいけど、わざわざ自分のスキル消費せずに仲間増やせるからいいけども。根源の精霊種はほとんどいないし戦力増加になるし、なんならこの子だけでもこの世の大半に勝てるだろうから、いいけども。

 

私のドキドキを返せ。

 

こう、根源の星霊とか、今はいない根源の土精霊(プライマル・アースエレメンタル)とか、その辺出して欲しかったわ。

根源の精霊は、各属性の根源の精霊の下に属する精霊。

上の下、ってあたりかしら。

ちなみに上の上にはさっき言った根源の星霊とかが当てはまるわね。

 

「……どうする?パチュリー殿。というか私もうやる気ないんだが。くだらない」

 

「精霊だけは私がもらっていくわ。アースエレメンタルあたりが欲しかったわ……。支配を上書きするだけだから、すぐ終わるわ。天使は……うん、残念ね」

 

「本当にな」

 

 

「どうした!怖気付いて声も出せないか!仕方あるまい。人類では勝てない存在なのだからなぁ!」

 

 

「……この地の人間の平均的なレベル、わかった?あれで国の一角を担う精鋭部隊」

 

「ああ、痛いほど理解したよ。たかだかデス・ナイト単体どころか、第五位階ですらこの世界では脅威なのだな」

 

 

「怖気付くのも無理はない。だが誇れ。アインズ・ウール・ゴウン!お前は……」

 

 

急に活気付いたら男の傲慢な物言いに我慢の限界だったのか、アインズが口を開いた。

 

 

「下らん」

 

「なにっ⁉︎」

 

「このような幼稚なお遊びに警戒していたとは」

 

「お遊び……?まさか……いやありえん!人類では勝てない存在を前に!ハッタリだぁ!」

 

男は叫び散らかす。そして天使たちへ向かって命令する。

 

威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)善なる極撃(ホーリースマイト)を放て!根源の精霊(プライマル・エレメンタル)大自然の極撃(ネイチャー・スマイト)だ!」

 

どちらも共に第七位階魔法。一応防護魔法はあるが……どちらもアインズへ向かって放たれたので何もせずに見守る。

 

アインズも特に何かをするわけでもなく魔法は直撃した。

 

けれどHPは……10%減ったかな?って感じね。

 

この事態にスレイン法国の人間は皆絶望していた。

 

けれど可哀想などの、慈悲の感情は全く湧かない。

コイツらが撒いた種なのだから。自業自得ね。

 

「では反撃といこう。絶望を知れ。暗黒孔(ブラックホール)

 

アインズの使用した第十位階魔法は、最高位天使とやらを一瞬で飲み込んだ。

 

「なっ……ありえるかぁ!最高位天使がたった一つの魔法で滅ぼされるわけがない!根源の精霊(プライマル・エレメンタル)!お前も攻撃を……」

 

「貴女の相手は私よ。特殊技術(スキル)・精霊の支配」

 

始原の精霊種のみが扱えるスキルを根源の精霊にかける。効果は自分のレベル−10以下の精霊種を支配できるもの。生み出せる精霊は、余程のことがない限りレベル90止まり。だから使えるという確信はあった。

失敗したら倒せばいいだけだったし。

 

結果は予想通り、支配権の強奪は成功した。

 

あの子たちの弟的な存在ね。彼なのか彼女かは知らないけど。

 

「なっ、何をしている!根源の精霊(プライマル・エレメンタル)!その女たちを攻撃しろ!」

 

「無駄よ。もうお前のモンスターじゃないわ。私の仲間よ。ね?」

『……』

「あら素直ね。いい子よ」

 

頷いてくれ、てか普通に可愛いので撫でると無性に嬉しそうにしていた。

 

「んなっ……」

 

そんな時、()()()()()。文字通り、空間の、何もないところが、ガラスが割れたかのように砕けた。その後すぐに正常に戻ったが、それが意味するのは一つ。

 

「ふむ、どうやらお前を監視していた不届き者がいるらしいな。私の防壁魔法が発動していたから対して覗かれてはいないだろうが」

 

「……本国が、俺を……?」

 

どうやら自分の国にすら信用されてないのね。

お気の毒。

 

それはそうとして……会話で一つだけ気になることがあった。

それを問い詰めましょう。

 

「貴方、一つ答えなさい」

 

「ひゃいっ⁉︎」

 

リーダーの男は、もう悲鳴と違わない声をあげ、固まった。

 

「貴方、国から聞いていないわけないでしょう。トブの大森林の守り神が、貴方の国と昔争ったことを。そして、何が交わされたのかを。先に答えだけ言っておくけれど、私はその守り神の配下。そして、今は大森林及びその周辺の管理を任されてる。

 

 

そしてお前達は、そこを荒らした。

 

 

どうなるか、わかってるわよね?アテナがお前の国との条約を破棄して、今すぐ滅ぼしに行っても、私は知らないわよ。お前の国も、お前の家族も、愛する者もすべて」

 

「しっ、しかし!あれは我が国と貴女様方との不可侵を結んだもの!今回はわたくしたちは……」

 

「言い訳は聞きたくないわ。近い内にそっちまで出向くことになるかもね。アテナの機嫌が悪ければ、明日にでも」

 

まあ、そんな日は来ないだろうけれど。脅しにはなるでしょう。

 

「もうよろしいかね?」

「ええ。あとはお好きになさな」

「では……お遊びはこれくらいにしようか」

 

その言葉は不気味なほど静かに、しかしはっきりとこの場に響き渡る。

言葉にいち早く反応したのはリーダーの男。

 

はっきり言って哀れすぎるのでこの先はほとんど見ていない。みなくてもわかる。慈悲を求め、拒絶され、死を迎える。

 

私としては家族を(物理的に)増やせたので万々歳。

もちろん、この後話し合って支配は解いた。この子自らの意思で私たちに仕えてくれるそう。

 

やったわね戦力ゲット。

 

この子には何を任せようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ……ケホッ……あはっ、はは。せいおーいた。かえにあった(成功した。賭けに勝った)」

 

流石に疲労回復とかbadステータス扱いだったもの対策は全くしていなかったからか、幾ばくかの能力ダウンやら声が上手く出ないとかあるが、この先どうにでもなる。

 

「(根源の水精霊。レベルは89か。少し強化されてるね。私の警護を担っている精霊。それと他高位精霊が複数と中位以下が20体前後。よくもまあ私だけの警護にここまで貴重な戦力を)

 

パチェが神器級アイテムやスキルを用いて召喚した精霊達が、急に解き放たれた私に驚き慌てて、しかし迅速に周りに集まってきた。

 

「すあないえ、みんあ。しんあいあえた。らいおうふ。もう、みんあにしんあいはあえない(すまないね皆。大丈夫。もうみんなに心配はかけない)」

 

伝わってるのか不明だが、とりあえず伝えれることを出来る限り伝える。

 

そんな中、根源の風精霊が恐る恐る近づいてきて、私が氷が溶けてからもずっと抱えていた人間の男を指さす。

 

……一瞬、モノのような扱いにイラッとしはしたが、人間の言葉で意思疎通ができないから仕方がない。

でも、何が言いたいのかはわかる。

 

「ん……レイは、もうそえいは、うり。だあら、はかを、つうるよ。そえで、きいあいのすうあいに、まおっえほいい(レイは、もう蘇生は無理。だから、墓を、作るよ。それで、君たちの数体に、守ってほしい)」

 

いや、こっちの世界のはユウだったか。まあどちらでもいい。

私が愛していた人間には変わりない。

 

「てうあって、くえう?(手伝って、くれる?)」

「「「「「……!」」」」

「あいあと(ありがと)」

 

百年氷漬けにされていたからレイの死体は言うほど腐食していない。人間の埋葬方法は……火葬が一般的、だったかな。遺骨を埋めて祈るんだっけ。

 

「……(なんだこれ)」

 

ポケットの中に、不自然なふくらみがあって、取り出すと一つの小さな箱が出てきた。掌よりも少し小さい、平たい箱。

 

レイの遺体を焼いている間は暇だったので開けてみると、入っていたのは2つの指輪。

 

それと一通の手紙。

 

 

 

「……ふふっ。ははは」

 

その内容を読んで、思わず笑みがこぼれる。それと別の何かが頬をつたう。

 

 

(ソレ)が何かは、今の私には、分かる由もなかった

 

 

(なんだ、結局『紀野感無』とアイツは結ばれる運命だとでもいうのか。……よかったじゃないか。たとえそれが偽りの自分だとしても、結ばれるのは本望だろ。これは大事にするとしよう)

 

アイテムボックスの中から錬金系の道具と、金属のマテリアルの中から数少ない鉱石である七色鋼を取り出す。

 

それを錬金し、ネックレスを一つ作る。経験値消費などを行えばバフなどいろいろ付与できるけど、それは錬金術師系統の職業をとってないと基本失敗するし、そんなたいそうなものをつける気もない。

 

付けたのはこれまたアイテムの……特定のバフをつけれる巻物、といえばいいのか。言い方はうまく説明できないけれど、まあ、そういうアイテムだ。それで【耐久性向上】を付けた。よほどのことがない限り壊れることはない、と思うモモンガとか……だれか忘れたけどあの黒いスライム。あいつとか相手だと怖いけれど。

 

まあいい。とにかくようやく忌々しい氷の檻から出れたことを喜ぶとしよう。

 

 

 

……パチェたちへの言い訳も考えないと。

 

 

 




【拝啓 アテナ様

今更このような手紙を書くのはいささか恥ずかしいのですが……師匠や仲間に背中を押されて書くことにしました。

私のご先祖様とアテナ様が結ばれていたのは重々承知しています。
ですが、私は初めて見たときから貴女に惹かれました。

ええ、もう、ゾッコン、ラヴです。

かつて結ばれていた者同士、必然なのかもしれませんが、これは先祖様の血の影響などではなく、正真正銘、私自身の気持ちであると胸を張って言えます。

ですので……こちらを受け取っていただけると嬉しいのです。

人間にはプロポーズをした相手に指輪を送るという習わしがあります。

プロポーズをし、指輪をささげた相手に、この場合だと私の一生を貴女に捧げることを誓ったものです。ご迷惑でなければ、受け取ってほしいのです。



……って!こんなの俺には似合いません!待っててくださいね!この手紙自体はお渡ししますが、すぐに貴女に直接プロポーズさせていただきますから!それまでこの指輪、持っておいてください!貴女に似合う男になってから来るので!約束ですよ!】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やりすぎはサプライズとは言わない

さてはて、私の現状を確認しよう

種族レベルダウン、それに伴うステータスの低下。
流れ星の指輪(シューティング・スター)』は一つ使い切ってしまってもう一つは使用回数残り1回。残り二つはフルで使える。

世界級アイテムの盾は未だ健在。

で、その他職業の熟練度もといレベルもダウン。
今の私はレベルが80と。
いくつか使えてたはずの特殊技術(スキル)も、名前はあるけれど使用不可と。

参った参った。

何がやばいって、根元の精霊種とトントンどころかなんなら低い。

レベル上げ正直めんどくさいんだよなぁ。

仲間はと言うと、パチェが生み出していた下位、中位、上位の精霊がそこそこ。6:3:1の割合で、総合計50体近く。よーやったねほんと。
日の使用回数に制限があるアイテムを惜しみなく、使ってた結果。

いやぁ良くやったよ。集めるだけ集めてた神器級アイテムの中から良くぞ使えるものを探し出した。

にしてもレベルダウンかぁ……
『流れ星の指輪』でどうにかなるかな?

パチェに聞いてから試してみるか。
最悪モモンガに頼めばなんとかしてくれる気はする。

パンドラを引き合いに出したら嫌でもやるだろアイツ。



「それじゃあ、私は森へ帰るわ。その捕虜たちは好きになさい。どうせ殺すでしょうけど」

 

「良いのか?」

 

「良いのよ。私としては『不可侵の相手が約束を破った』よりも『得体の知れない者により壊滅』の方がありがたいから」

 

「そうか、なら貸し1つ、だな」

 

そこまで言うと、パチュリーは「しまった」と言いながら俺の方を睨んでくる。

……冗談だったんだけど。

 

そいや、アテナさんにもあまり冗談は通じなかったな。

 

「冗談さ。私が仲間を助けるのに理由はないさ。ではナザリックへ帰るとしようアルベド」

「はっ」

「パチュリー殿も気が向いたら寄ってくれ。私たちが集めた貴重な本もある。悪いようにはしないさ」

 

「うぐ……」

 

どうやらパチュリーにとっては素晴らしい提案なようで、めちゃくちゃ頭を抱えていた。

……ほんとそっくりだな。

 

「はは。いつかのアテナさんと同じ反応をしているぞ?親子揃って本の虫なんだな」

 

「どう言う意味よ!」

 

「そのままの意味さ。では、さらばだ」

 

指輪を使いナザリックへ転移する。

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

シモベ達を玉座の間に集め、そこで起こった出来事、俺がモモンガではなくアインズ・ウール・ゴウンと名乗ることを伝えた後に、矢継ぎ早に自分の部屋へ戻り、ベッドへダイブする。

 

 

……あ゛あ゛あ゛つかれたぁぁぁぁ。

 

 

 

いや演技つらっ。

なんだよ死の支配者らしいって。ただのトーシロの演技だっつーの。

 

本来の俺はただの営業サラリーマンだっつーの。

 

 

「でもそんなこと言ってられないし……。マジでアテナさんをこの為だけに解放しに行こうかな」

 

あの人も曲がりなりにもRP勢だ。あの人もいれば俺の仕事ら心労も減る!

多分!きっと!メイビー!

 

 

そう思わなきゃやってられるかこんなの!

 

 

 

 

「とか言ってんだろーなあのガイコツ。1発、からかってみますか」

 

 

 

「そうと決まれば早速デミウルゴスたちに相談を……」

 

俺の中で改めてアテナさん救出作戦を決心し、動こうとした時。

 

誰かから伝言(メッセージ)が飛んできた。

 

それに思わず眉を(ないけど)潜めてしまうが、すぐに引っ込めて応答する。

 

「何の用だ?」

 

『モモンガ様。至急お伝えすべきことがあるのですが……』

 

「言ってみろ」

 

『はっ。実は……侵入者なのです』

 

「…………は?」

 

侵入者、その一言で固まっていたはずの俺の思考が、別の意味で固まる。

 

しかしそれも、アンデット特有の精神抑制ですぐに冷静になり、問いかける。

 

「どの程度入られた?」

 

『まだ地表です。現在はプレアデスが抑えています。ですが、高位のモンスターを使役しており、突破されるのも時間の問題のようです。至急、階層守護者様達などの増援が欲しい、と』

 

「わかった。一番近い守護者は……コキュートスだな。コキュートスへ協力を仰げ。私もすぐに向かう。それまで耐えろ」

 

『承知しました』

 

メッセージが切れ、俺は今まで以上の激しい怒りに囚われた。

 

 

「どこの誰かは知らんが……覚悟しろよ」

 

 

 

 

「……これでよかったのでしょうか?」

 

「ああ、ゴメンね。騙す真似をして。そうだね、コキュートスかぁ……今の私の力がどこまで通用するか、試してみますか」

 

「……本当に呼ぶのですか?」

 

「ああ。なんて言ったっけ、プレアデス?の他のメンバーもみんなも呼びなよ。ちゃんと報告を忠実に再現しなきゃ、ね」

 

「……承知しました」

 

「心配しなくても君らは死なないさ。多分。死ぬ可能性があるのは私だけだし」

 

「それを心配しているのです……」

 

「はっはっは。勝つのは無理だけど死なないだけならどうにかなるさ。それに……そろそろ、異変に気づいた我が子も駆けつけるだろうから。私の近くにいた子には、口止めもしていないしね」

 

 

 

 

 

「アルベド」

 

「はっ」

 

「至急階層守護者を全員集めろ。場所はナザリックの地表。侵入者だ。お前達の力が必要になるかも知れない全員完全武装で、だ。お前もだアルベド」

 

「承知しました」

 

考えうる限りの策を張り巡らせ、指輪を使い地表近くへ転移する。

そこでは、すでに激しい戦闘音が聞こえてきた。

 

……コキュートスと互角に戦える相手ということか。

気を引き締めなければ。

 

何人(なんびと)であろうと、俺の家を踏み荒らす不届者は、生きて返すものか。

 

情報を吐かせるだけ吐かせて、死なんぞ生温い地獄を味合わせてやる。

 

「アインズ様!」

 

「ユリか。戦況は?」

 

「現在コキュートス様が応戦しておられます。私たちでは……手も足も出ませんでした」

 

「プレアデス全員でか?」

 

「はい。セバス様はおられませんが……」

 

「……ちょっとまて、その割には全員無傷だが」

 

「手加減……だそうです。それに『君らに傷つけたらモモンガの本気見られるかもだけど、そんな自殺行為はゴメンだ』とも言っていました」

 

「……」

 

どういう事だ?俺の知り合いか?まさか……俺やアテナさん以外に、プレイヤーが?

 

「アインズ様。コキュートス、ヴィクティム、ガルガンチュアを除く全階層守護者、揃いました」

 

「ああ。では行くぞ」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 

 

 

「ねえ、コキュートス」

 

「ドウサレマシタ?」

 

「私の見間違いかな?モモンガの後ろに殺気ビンビンな方々が見えるんですけど」

 

「見間違イデハゴザイマセン」

 

「……ワーォ死刑宣告ゥ。とにかく、打ち合わせ通りにね」

 

「ハッ」

 

 

 

 

 

「コキュートス!」

 

「!アインズ様!申シ訳アリマセン。対処シ切レテオリマセン。デスガ、ワタシ一人デモ充分デゴザイマス。オサガリクダサイ」

 

「気にするな。全員で仕留めるぞ。相手が弱いからと思ってるかも知れんが、油断大敵だぞ?それに、ナザリックの命運をお前一人に背負わせる訳にはいかないからな。お前にもしものことがあっては困る」

 

「アリガトウゴザイマス」

 

コキュートスは切り結んでいた侵入者を大きく弾き飛ばし、俺と同じところまで下がってきた。

 

改めて侵入者の姿を見る。茶色いローブを着ており、顔はフードのせいで見えない。

ついでに掛けておいた生命の真髄(ライフ・エッセンス)魔力の真髄(マナ・エッセンス)で軽いステータスを推し測る……つもりだったんだが……

 

なんだ、これ。適当に組んだレベル100より弱い気がするんだが

 

「何、私のステータスの低さにでも驚いてる?偽造魔法とかあるの忘れたのかい?それとも耄碌した?」

 

「ふん。そうでかい口を叩いていられるのも今のうちだ。……アウラ、ステータスなどは見れるか?」

 

「はい。レベルは80。ステータス……も、普通……で………え?」

「シィーーー。乙女の中身を見るなんて、セクハラですよぉ。まあ見られたところで余り関係ないけどね」

 

次第にアウラの声が小さくなっていき、それを不思議に思いながらも、改めて侵入者から目を離さずに観察を続ける。

 

ゲーム時代にしていた、『情報を集めて再戦し勝つ』なんて戦法は出来ないのだから。

 

とにかく最悪の事態を予測し、対策を重ね続けるべきだ。

 

「どうした?こないのか?」

 

「いやぁねぇ、君だけならいくらでも行ったけど……この人数差じゃねぇ、そう易々と突っ込めないわ」

 

「ならばこちらから行こう。魔法最強化(マキシマイズ・マジック)現断(リアリティ・スラッシュ)!」

 

小手調べのつもりで放った第十位階の魔法。……のつもりだった。

 

魔法は、普通に、何事もなく

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「ちょぉっ⁉︎あんたマジかよ⁉︎ガチすぎん⁉︎そこは小手調で第七位階あたりから使うでしょーが!殺す気か!」

 

「当たり前だ。殺しても蘇生すればお前から情報は引き出せるからな。守護者達よ、行け。ナザリックの力を思い知らせてやれ」

 

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

「……調子乗りすぎたかぁ。しょーがない。自業自得かぁ。さーて……いっちょやりますか」

 

デミウルゴスが転移阻止の為に『次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)』を使用し、悪魔の諸相のスキルを用いて攻撃を仕掛け始めた。シャルティアはスポイトランスというスポイトと槍を組み合わせたような槍で前線へ、コキュートスも4本の腕全てに武器を装備しシャルティアと共に前線へ。アウラが獣を使い、奇襲を仕掛けようとしていた。

アルベドは私の近くでスキルを使用し守りを固めてくれ、そこで俺とマーレが魔法の準備を……

 

「……アイツ、中々やるな。全員を相手取って耐えるとは」

 

侵入者は盾を構え、更に魔法なのかスキルなのかはわからないが、レベル70程度のモンスターを召喚し、壁にしていた。

盾は、かなりの高性能のようで、コキュートスやシャルティア達の攻撃を難なく受けていた。

 

「キッツ……魔法最強化(マキシマイズ・マジック)……」

 

「させませんよ?悪魔の諸相・触腕の翼」

魔法最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)』!」

「風斬!」

 

3人が同時に攻撃を仕掛け、粉塵が舞うのを確認し、発動し掛けた魔法を一度止める。このままでは巻き込みかねない。

そして改めて遅延発動型にし詠唱し直す。

 

注意深く見ているとどうやら、3人同時の攻撃でも落とし切れなかったようで、粉塵の中には侵入者がまだ立っていた。

 

フードはどうやら破壊されたようで、ようやく姿が見える。

 

足から順に見え始め、その姿を絶対に許しはしないと、目に焼き付ける

 

 

 

つもりだった。とても見覚えのある姿で、思考が停止した。

金色の長髪。紅い目。下は黄金の鎧。上は黒いシャツのようなもので、右腕のみ黄金の鎧がつけてある。

 

 

 

「無理。降参。流石に勝てんわ」

 

「……………」

 

そこには、右腕だけを上にあげているアテナさんがいた。

 

 

 

 

「何やってんですかぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎あなっ、あなたねぇ!アルベド!至急治癒のできるものを呼べ!」

「は、はいっ!」

「慌てすぎでしょ。たかだかこの程度。いや確かにHP残り2割しかないけど」

「慌てるに決まってるでしょうがぁ!」

「いやぁ、いきなり第十位階の魔法で腕を切断された時はビビったよ」

「それは大変申し訳ございません!ですが貴女が100パー悪い!」

「確かに。あ、コキュートス、アウラ。手抜きありがとねぇ。アウラに関してはアドリブでしょ?流石ピンクスライムの娘」

「は?」

「実は、最初にモモンガに侵入者って伝えたアンデット、プレアデスのユリ、コキュートスには予め私の正体明かして、その上でこの盛大なドッキリに参加してもらってる。あ、怒っちゃダメよ。悪いの私なんだから」

「それを除いても、悪ふざけにも程があるだろうがぁぁぁぁ!!!!馬鹿なんですか貴女は⁉︎いや断言できるぜっっっっったい馬鹿!アホ!マヌケ!」

 

「誰が馬鹿だ。てか言いすぎだろ」

 

「貴女ですよ馬鹿!言い過ぎじゃねえよこれが妥当だよ馬鹿!」

 

「……流石に心にくるわぁー」

 

「どーでもいいわとりあえずこれ飲め!」

 

「お、サンキュー」

 

馬鹿に向かって本気で赤いポーションの小瓶を投げつける。それをいとも容易く掴み、グビグビと躊躇いなく飲んでいた。

 

「おー、消し飛んだ腕も生えるのな。これはまた新しい発見だ。それとえーと……なんてったっけ、ワーウルフ?じゃねえ、えーと……β、だっけ」

「ルプスレギナ・ベータですアテナ様!お会い出来て光栄です!」

「お、おう。君も治癒ありがと。さて……実はモモンガ。もう一つ多分、サプライズゲストも登場する」

 

「は?これ以上何をするつもりですか馬鹿」

 

()()何もしない。ほ なんせ私は、あの氷の檻から出た後、そばにいた精霊達に()()()()()()()()

 

「……本気で死霊系魔法片っ端からかけてあげましょうか?」

 

「断る。流石に死ぬ自信がある」

 

にしても、アテナさんってこんなに活発だったか?ギルド加入の時と人間との戦争の時にしか会ったことないが、こんな雰囲気じゃなかったと思うんだけど。

少なくともこんな悪ふざけする人では絶対なかった。

 

「お、噂をすればなんとやら」

「……守護者達よ、お前達は通常の業務へ戻れ。ここからは私一人で対処する。こちらが片付いたらまた連絡をアルベドへするので待っていてくれ。尚、アテナさんを傷つけたことに関しては、全てアテナさんが悪いので気にするな。特にデミウルゴスとシャルティア」

「そーそー。むしろ君らとは初対面なはずだから分かれって方が無理がある。だから気にしちゃダメだよ。寧ろここまで気づかなかったモモンガ(コイツ)も悪い」「いやアンタ、前に一回NPCお披露目会したでしょ」「んな百数十年前のことなんざ覚えてないわ」

 

「わかりました」「畏まりました」

「……とにかく、今は私たちだけにしてくれ。また連絡を飛ばす」

 

『『『『はっ!!』』』』

 

他の皆を仕事に戻し、アテナさんと二人きりになる。

その瞬間に頭を再度、杖でぶん殴っておいた。

 

「いったいなぁ!」

「自業自得です。さあ、色々と話してもらいましょうか?」

「その前に……多分もう一個盛大に怒られるイベントが待ってる」

「当たり前だ」

 

少し前から感じていた魔力は、すぐ近くの上空まで。

そこから急降下して降りてきた。

 

てかなんならアテナさんへ激突した。

その衝撃で吹っ飛ばされたかと思いきや、金の煌びやかな髪を乱雑に誰かに掴まれていた。

 

「さあ、帰るわよアテナ。色々と聞きたいことはあるけれど、まずは一発ぶん殴らせてもらったわ」

「殴るの意味をちゃんと辞書で調べてきてくれない?」

 

それはアテナさんの作ったNPCのパチュリー・ノーレッジだった。

うん、てか当たり前だ。パチュリーの創り出した精霊に何も口止めしてないんだから、行動は筒抜けだよ。

 

てかこうなるの絶対わかってただろ。

 

「パチェ、ひとまずステイ」

「ああ、貴女の心臓を無理やりステイさせましょうか?」

「物騒すぎない?私としても情報欲しいからひとまずここに顔出し兼ドッキリ仕掛けただけなのに何この仕打ち」

「貴女ねえ!100年も閉じこもってた癖にいきなり出てきて何にも言わずにこんなところに来てたのを知った私の気持ちわかってんの⁉︎」

 

そうだもっと言ってやれ。

 

「わかった上でやった」

 

「……」

「パチュリー殿。遠慮はいらない。このバカをふっ飛ばしてくれ」

「ええ、そうするわ。魔法最強化(マキシマイズ・マジック)……」

 

「ごめんなさいもうしません許してください」

 

マジで魔法を打ち込まれる寸前で、アテナさんは綺麗な土下座を繰り出したことで、ひとまずは、放たれることはなかった。

 

「おっかしいなぁ、予定としては私が起きたことでみんな少なからず祝福するものだと思ってたんだけど」

 

「とにかく、貴女の知ってることを洗いざらい吐いてもらいますよアテナさん」

 

「それはこっちのセリフ。なんでモモンガが転移したのかとか、他のギルメンについても聞きたい。てか聞きたいことは私も山ほどある。……パチェも、念のためついてて。私今、レベル80しかないから」

「「……は?」」

 

アテナさんの言葉に、俺とパチュリーが全く同じ反応をした。

え?は?アテナさんレベル100プレイヤーじゃなかったっけ?

 

「だから、レベル80しかないの。だからそばに居て。それについても詳しく話すから」

「はぁ……わかったわよ」

「よし。んじゃ落ち着ける場所は?」

 

「本来アテナさんにあてがう予定だった個室があります。そこでどうですか?」

 

「OK」

 




【日記 30日目】
転移してからどれほど経ったのか、もう覚えていない。
この日記の日にちは、ユウと出会ってからの日にちなのだから。
それまで、何日、何ヶ月立っているのか、数えてすらいなかった。

そして、わかったことがある。

ボクは、ボクの精神は、徐々に蝕まれつつある、という事だ。

パチェとユウ以外の全てに、興味を持てなくなった。
周りから魔力を貰えはするけれど、何の感情も湧かない。

今まで唯一楽しめていた読書にすら、何も感じなくなった。

おそらく、コイツが取っていた【始原の精霊】という種族の精神が、ボクの精神を蝕んでいるのだろう。


怖い、いつかユウにすら興味がなくなり、ボク自身の手で、ユウを傷つけてしまうのかと考えると、途端にボク自身が怖くなった。

この命ある限り、ユウとその家族は守るが、ボクという精神・意識が消えた時、何をしでかすのかわからない。

頼む、その時は誰かボクを、止めてくれ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死んでもAOGには戻らない

にしてもモモンガのやつやりすぎだっての。ステータス何も偽造してないから弱いのわかってたろうに。魔法戦に強い奴が偽造に気づかないとか馬鹿なのか?

つかほんとに世界級アイテムの盾なかったら死んでたわ

お茶目したらギルドのほぼ全戦力出てくるとか、普通思わないじゃん?
警戒しすぎだっつの。


アイツと違って私は死ぬ気はない。


思う存分、この世を面白おかしく過ごさせてもらう


「で、話してもらいますよ。知ってること全て」

 

「それはこっちのセリフだ。そも、私自身も100年くらい氷漬けになってたから知ってることはほとんどないけどね」

 

明らかに不機嫌な骨の前に座り、念のためほとんど知らないことを告げる。これは本当だし、氷漬けになってから主にこの世の情報収集していたのはパチェだ。

 

私のそばにはパチェが控え、モモンガの側には1人の60レベルくらいのメイドが控えた。プレアデスの1人、だっけ。

 

パチェが慣れた手つきで自分の私とメイドの分の紅茶を入れる。途中アインズにも淹れようとしていたがアンデッドなので飲めないと断られていた。

 

うん、100年と少しぶりの食事はうまい。食事と言っていいのかわからないけど。

 

「ほーん、お前以外のギルメンは誰1人残っていない、と。……あのピンクスライムとか教師とは今一度、真面目に話してみようとか思っていたんだけど」

 

「ああ、ぶくぶく茶釜さんとやまいこさんですか?」

 

「そうそう、そんな名前」

 

「……覚えて、ないんですか?」

 

「流石に100年以上も経つと一度会ったヤツの名前と顔が一致しないんだよ。でもアイツだけは覚えてるぞ?やったら神話に興味持ってた……タブラとかいったっけ?」

 

「ええ。しかし、本当にアテナさんなんだな」

 

「なに、疑ってた訳?」

 

「そういう訳ではないが、今現状、誰が敵で誰が味方か、俺たちを知っている人間プレイヤーが仲間の姿をしないとも限らない」

 

「確かに。人間にはとことん嫌われてたからなお前達は。だからこそ私はお前達と関わり合いたくなかったんだが」

 

「……」

 

「気を悪くしたか?だがそれ相応のことをお前達はしていた。世間から見てお前達が悪だろうが、人間種が善だろうが、そんなものどうでもいい。……アイツは、私が超希少な種族をとってしまったから、せめてもの保険として、頼み込んで来たから私はこのギルドに所属した。それだけなことを忘れるな」

 

「ええ、わかっています。……何より、あの人からのお願いもあったので」

 

「ああ、面識が元々あったんだっけ?どうよ、アイツ中々の馬鹿だったろ?」

 

「ええ、馬鹿でしたね。それこそ今のあなた以上に」

 

「ま、だからこそ私も惹かれたのかもな。だが、まさかゲーム内で愛の告白をしてきたかと思えば、私の会社にまで凸ってきて告られるとは夢にも思わなかったわ」

 

「うわ、何?惚気?喧嘩売ってます?」

 

「イェス。クリスマスの聖なる贈り物を貰っていない私から、貰っているお前への惚気さ」

 

「あれ?アテナさんあの赤仮面持ってませんでしたっけ?」

 

「商人が珍しい仮面とかいうからな。特に見ずに買ったらクリスマスの呪いの仮面だっただけだ」

 

「へぇ」

 

「で、話逸れたがお前以外のギルメンはいない。なら他のギルドは?」

 

「現時点では確認できていません。ですが現地人と交戦した際にユグドラシルの魔法、アイテムがあることを確認しています。ですので他のギルド、プレイヤーは少なからず存在すると考えています」

 

「それに関しては同意見だ。じゃあ次。スレイン法国に喧嘩売ったんだって?」

 

「ええ」

 

「よくもまあ、未知のものに下調べもせずに喧嘩売れたね。今回は相手が弱すぎたからいいものの。君そんなに馬鹿だっけ?」

 

「時間がなかったかもので。あれば入念に調べましたよ」

 

「ま、そうだろうね。けどスレインなら遠慮なく潰してもらってもいいんだよ?アイツの仇の国だし」

 

「仇?」

 

「パチェから聞いてたろ?私と共に氷漬けにされていた人間。あれを洗脳して命令して、殺したのはスレイン法国だよ」

 

それを伝えるとこの場の全員から殺気を感じた。

こーーわっ。

 

「で、我を失った私はスレイン法国へ自ら赴き、そこを大半壊滅させた後、森へ帰り『流れ星の指輪』を使って氷漬けになりました。

と、いう訳。で、パチェがスレイン法国への恨みを抑え込んだのは、私とスレイン法国が『2度と私とその周辺へ手を出さない。私へ今後心身ともに尽くす。代わりに私からスレインへは手を出さない』って約束を取り付けたから。でしょ?」

「ええ。けど杞憂見たいね。貴女目を離したらすぐ行きそうだもの」

「だね。殺し尽くしても殺したりないかもね。けどめんどくさい。だからそれはAOG(きみたち)に任せるさ。私は平穏に生きたいだけなんだから。なので君らの荒っぽいことの中で生きる気もないし君に使われてやる気もない」

 

「……ユリ、デミウルゴスに伝えておいてくれ。捕らえたスレイン法国の人間には、死は生ぬるい地獄を見せて、殺せ、と」

「はっ!」

 

やけに張り切りながらユリというメイドは部屋の外へ出た。

 

「それで、アテナさんからの質問は以上ですか?」

 

「ああ。私はもう無いさ。それじゃ次はモモンガの番だ。全てに答える、とは言わないができる限り答えよう」

 

「じゃあまずは一つ目」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ最後。私たちの元へ戻ってくる気はありますか?」

 

「無い。私はパチェと一緒にあの森で過ごし、死ぬまであの森に居たい。それだけだからね。お前たちの元で主として過ごすなんぞ死んでも嫌だね。私は上に立つべきじゃないし、立ちたくもない」

 

「……そう、ですか」

 

「まあそういうことだ。……パチェ、ちょっと席外してもらえる?これからモモンガ……じゃなくてアインズか。アインズにしかわからないし、伝えたく無いことがあるから」

「わかったわ。でも何かあったら、襲われそうになったらすぐ逃げなさいよ?」

「わかってる」

 

パチェを部屋の外に出てもらい、改めて()()()()()

 

「アインズ、今から話すことは私とお前との中に仕舞っておけよ?わざわざタイマンで勝てないお前と2人きりになってるんだ。お前も私を信用しろ」

 

「あ、ああ。でも、どうしたんですか?」

 

「……はーーーーーぁ、つっかれたぁぁぁ。何でわざわざこんな面倒なことを」

 

猫かぶる、とでもいうのだろうか。まじで疲れた。

 

「……」

 

「何?」

 

「いや、アテナさんも苦労してるんだな、と」

 

「苦労?真似事の事か?」

 

「真似事?」

 

「取り敢えずクソくだらない事は今からはナシだ。ここからは『アテナ』じゃなく『始原の精霊』として話させてもらうよ『死の支配者』」

 

「どういう事です?」

 

「そのままの意味だ。いまからお前と話すのは『人間』じゃない。かつてのお前の仲間だった『アテナ』じゃない。単なる最上位精霊『始原の精霊』なだけだ」

 

「……」

 

「何困惑してるんだ?お前自身にも覚えがあるんじゃないのか?己の創ったキャラクターに精神が引っ張られている、昔の自分では考えられない行動、感情、全部は無くとも一つくらい心当たりあるだろ?」

 

そこまで言って初めてアインズは深く考え出した。

 

「で、私はだな。この体をくれた人間の想いを受け継ぎ、愛娘を、私たちの家を、全てを守り通すつもりだ。無論、お前達が森を無断で侵略しようものなら全員を殺す」

 

「は?」

 

「何だ?私にはできないとでも思ったか?残念ながら、もうこの心は、精神は完全に『始原の精霊』になってる。お前達の仲間だったアテナの精神はもう僅かだ。だから……お前達を手にかけるのは造作もないぞ?」

 

「そんなことさせるとでも?」

 

しばらく睨み合いが続き、途中で耐えられなくなって吹き出してしまった。

アインズは何が何やら、と言う雰囲気でポカーンとしていた。

 

「まさか。やる気もない。私としては手を出してくるな、って事だけだ。手を出してくるなら、それ相応の報いをお前達に受けさせる。それだけだ。手を出さないでおくなら、ほれ。これやるよ」

 

私はアイテムボックスから取り出した一つの指輪をアインズに向かって投げた。慌ててキャッチしたのち、めちゃくちゃ慌てながら喋り出した。

 

「は、はぁっ⁉︎『流れ星の指輪』⁉︎正気ですか⁉︎超超超レアアイテムですよ⁉︎」

 

「正気だよ。とは言っても、残り使用回数1回?2回?だけど。でもあるのとないのではかなり違うだろ?私からお前達への最大限できる譲歩だとでも思ってくれたらいい」

 

「でもこんな貴重なアイテム……」

 

「心配するな。あと2つ、フルで使用できるやつがある」

 

「……は?」

 

「ゲームの時に私が言ってなかったか?私は元々『流れ星の指輪』を4つ持ってたんだよ。内二つは結婚指輪用にね。結局その後にちゃんとした鉱石で創ったから要らなくなったが。でも、それだけでもお前にとっては破格だろ?」

 

まあ、それ以外にもお前へこれだけ譲歩するのは理由があるが。

 

「幸いにも、私と『アテナ』の考えはほとんど一緒さ。でなけりゃ、こんな破格の条件、提示しないさ」

 

「一緒、とは?」

 

「君らに喧嘩は売りたくない、出来る限り平穏にのんびり暮らしたい、ってだけさ。私にとっても、アテナの子であるパチェは必要な存在だし、私が『始原の精霊』なこともあって、森の中は居心地が良いからね。何か争い事を表立って起こす気もなければ、どこかの下につく気もない。パチェがやりたいことは、出来る限りサポートはするけれど、それだけだ。私は本を読んで、寝て、食べて、を繰り返せたら、それでいい」

 

「……わかりました。俺たちもあなたへ危害は加えない事を約束します。出来る事なら、アテナさんにもギルド運営を手伝っていただきたかったのですが……」

 

「絶対ヤだね。何で自ら面倒事に首を突っ込まなきゃならん」

 

「デスヨネ……」

 

「そんなに人が欲しいなら、最終日とやらにもっと引き留めればよかったものを。孤独をとっぱらいたいと言う考えの割には行動が伴ってないぞ?人間というのは、基本、理性で動く生物のはずだろ?」

 

「それは……確かにそうですが、でも、彼らにも生活が……」

 

「君らの言う現実(リアル)の事か?聞いていた話によると世界の終焉と言っても差し支えない、あの世界での生活がそんなに大事か。私にはわからんな。それに……だ」

 

私は素直な疑問をぶつけてみることにした。

 

「君の身の上の話、という建前の愚痴を聞いていて思ったが、君は何でそれだけこのギルドに入れ込む?」

 

「そんなの、大事だからに決まってるじゃ無いですか」

 

「大事……ねぇ」

 

私からしたらタダの依存にしか見えないけど。

 

「ま、どーでもいいか。私個人としての話も終わり。例え私がどっちだっだとしても、『私達』の見解は変わらない。森で家族と共に静かに過ごす。それを邪魔するなら例え君たちが相手であろうとも容赦はしない」

 

「心配するな。私は君のことを仲間だと思っているし、仲間に手を出すほど落ちぶれてもいない」

 

「フフ……わたしにはこう聞こえるぞ?『仲間でなくなれば容赦なく殺す

』って」

 

「まさか。私にとって貴女は何があろうと仲間ですから」

 

「ふーん……。ま、君達が敵意を持って接するなら逃げればいいだけだし。けど君にとって私と言う存在を、蘇生できるかも怪しいのに殺すなんてリスキーな事はしない」

 

「あたりまえです。貴女は私にとって、本当に数少ない情報共有者なんです。私情抜きにしても殺すのは愚策です」

 

「だろうね。そう言うと思ってた。さてと……」

 

私は切り替えて、コレからのことを考えて思わず震えた。

 

「……パチェにしばかれにいくかぁ」

「唐突な現実の確認」

「知ってる?ぐーたらな母親ってしっかり者の子の尻に敷かれるもんだよ」

「……なんとなくわかる」

「おい待て変態鳥と一緒にするなよ?」

「なぜわかった」

 

後にしばかれるか早くしばかれるかなら後者を選ぶ。

何でずっと怯えてないといけない。怖いもんはさっさと終わらせるに限る。

 

「それじゃ、私はコレで失礼する。100年と少しぶりの他人との関わりは存外悪くなかったぞ。アインズ。コレから話すことがあるかはわからんが」

 

「アテナさんに話す気がなくても俺から誘いますから。いやなんなら毎日お誘いしますよ」

 

「え、何、告白?私の体目的?それならお断りだよ」

 

「何でそうなる⁉︎」

 

「大体毎日誘ってくる男はそんなのばっかだったからな。あ、今見せれば今後誘うのやめてくれたりする?」

 

「俺はそんな奴らと同じと⁉︎てかまでまじで脱ごうとするのやめい!」

 

「え?そんな魅力ない?ひどっ。ああそうか、そうだよね。こんな美人に囲まれた生活だと私の体なんて貧相だもんな。悲しっ。誰が貧相だ殺すぞ」

 

「脳内妄想してこっちに殺意向けんな!とばっちりが過ぎる!」

 

「ははは。女を敵に回すと怖いぞ〜。肝に銘じとけ〜」

 

アテナが部屋から出た後、アインズはポツリと呟いた。

 

 

「……んなもん、ぶくぶく茶釜さんとかやまいこさん見てたから嫌でもわかるっての」




ゴンッ!

「あだっ」
「で、どうやって出てきたのよ」
「その前に殴る必要あった?しかも硬度めっちゃある本で。つか何で出来てんのソレ」
「ええ。それとこの本の材料は私も知らない」
「知らんのかい。はぁ……パチェも横暴になったものだね」
「……」
「何でもありません。えーと、出た方法なんだけど、コレ」

私は指につけていた指輪をパチェに投げる。

「これ、『流れ星の指輪』?」
「もう使い切ったけどね」
「あ、そう。まさかコレで出てきたの?」
「使い切ったことに驚かないの?」
「貴女のものだからどうしようが勝手だもの」

驚きの表情がみれると思ったけど、残念だ。

「ふーん。100と数年前、私はコレを使って氷漬けになったのは覚えてる?」

「ええ」

「簡単な話さ。あの時私は、2度と出れないように、って思って残り回数1回の指輪を使った、つもりだった」

「でも間違って残り回数2回以上のものを使ったと?」

「正解」

「てことは氷の中にいたのに意識あったってこと?」

「正確に言うと意識を取り戻したのは数年前。パチェが話していた年から逆算して私が封印した年数を割り出した。でね、私の精神、結構な割合がもう『始原の精霊』になってるわけ。だから今更、外へ出ようとしたわけ」

「……あの人のことも、もうどうでもいいの?」

「まさか。アイツの事はずっとここにいるよ」

自分で作ったネックレスを見せながら言うとパチェは大きくため息をついた。

「貴女がいいならそれでいいわ。後スレイン法国についてだけど……」

「近いうちに私からお礼参りするさ。あの国の9割近くの人間を根絶やしにしてやったんだ。流石に2度目は嫌だろうからアイツら、何が何でも機嫌を取りに来るだろ。私はもう面倒な殺しをするつもりもないし。コレからはアイツの末裔を細々と守りながらずっとこの森でぐーたらするさ。

……私から質問なんだけど、森の賢王の一族増えてない?」

「まあ、そりゃ、ね。今は……3匹目かな?」

「そもそも100年ちょい経ってりゃ、そりゃ繁殖できてるか。子孫できならよかったよかった」

「あの子たち、『姫は我らが命にかけても守るでござる!』って言ってその為に力をつけたいからって私に修行もどきのこと頼んで来たからね」

「すごいねぇ、皆さんやる気旺盛で」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冒険者とはなんぞや 

「冒険者?それって、よくある物語に出てくる、魔物退治だとか、採集クエストだとかそんなのやる人たち?」
「大雑把だけど、そうね」
「それがどしたの。もしかして今の時代の冒険者って強い?」
「まさか。最上位のアダマンタイト級ってのですら中位の精霊とトントン。あってもそれより少し強いくらいよ。今のところはね」
「ふーん」
「ただ、帝国……西側にある国ね。こっちにはワーカーって言う、いわばゴロツキのような冒険者もどきがたくさんいるわ。注意すべきはこっちかもね」
「と、言うと?」
「そいつらは国とかの後ろ盾がない連中。でも金は稼ぎたい連中。だから……」
「ああ、言いたいことはわかった。『手段を選ばない奴ら』ってことだろ?」
「そういうこと。上位精霊を周辺に配置してるここで、中位精霊よりも格下の人間達がどうこうできるわけ無いと思うけれど」
「備えあればなんとやら、だ。警戒するに越したことはないよ」




「さて、それじゃあお手柔らかに」

「……」

 

アイテムで、半径100メートルくらいの魔法の空間の中に適当に装備をして仁王立ちする。対面には根源の精霊。いつ召喚したのか知らないけど、いい勝負になりそうな子はこの子くらいしかいなかった。

 

レベル上げ兼勘を取り戻すための模擬戦、さあいっちょやってみましょう。

 

 

 

 

 

「じゃあ、これからはみんなも近辺の防衛に回ってちょうだいな。それと高レベルな人間、もしくは弱くてもここまで入り込んでくる輩以外は基本無視で構わないわよ。アテナのそばには基本私が付くから」

 

アテナの模擬戦を観戦しながら精霊達に指示を出す。

さてと、やることは山積みね。

 

「あら、この紅茶の葉、栽培できたのね」

 

香りが、いつもの値段的にそんな高くない紅茶じゃなく、かなりの最高級なものになってて、少し驚いた。

ストックはあるにはあったけど使うのは基本、栽培できる目処が立ったものとお願いしていたから、もう少し時間がかかると思ってた。

 

「……」

「そう、土壌を開拓して水精霊達と協力したの。ありがとう。これユグドラシル産だから難しかったでしょうに」

 

いい紅茶は香りも味も格別ね。

……うん、おいしい。

 

「……」

 

アテナはレベルダウンしていたせいもあるのか、やっぱり火力面で大きく落ちてるわね。後はいくつかの魔法やらスキルが使えなくなってる、だったかしら。

現に前のレベル100の時なら敵じゃなかったはずのレベル80の根源の精霊相手にいい勝負をしている。

 

「始原の精霊関係のスキルは軒並み使えなくなってる、辺りかしら?ステータス見れるかしら」

 

ステータス偽造とか使ってなければいいけど、なんてことを思いながらステータス鑑定の巻物(スクロール)を使って見てみると、偽装とかは一切施しておらず何がどう下がったのかがわかった。

 

「えーと、種族レベルが

始原の精霊 レベル5から1に、

大精霊 レベル15から10に、

至高天の熾天使 レベル5から1。

種族レベルが計9レベルダウンと。

 

クラスレベルは

ガーディアン レベル15から9に。

精霊守護者 レベル10から5に。

クラスレベルは計11レベルダウンか。

 

レベルが総合計80か……だいぶ弱くなったわね」

 

紅茶飲みながら紙に記載していく。これからやること、即座にやること、後に回していいもの何かを、どーーせアテナはやらないだろうだから今のうちに整理しないと。

 

「1番の懸念材料は、ナザリックの奴ら相手だと大半に手も足も出ないってことかしら…。精霊たち総動員しても勝てないわね。……大人しくどこか遠いところ行こうかしら」

 

そんなことできっこないが。

 

「あ゛ーーー疲れた」

「お帰り」

 

一通り情報まとめ切ったところで、アテナは異空間から出てきた。

ライフエッセンスでHP量を見ると、アテナも根源の精霊もどちらも2割弱しかHPは残っていなかった。MPは互いにゼロ。この様子だとスキルも使い切ってるかしら。

 

「どう?レベル上がった?」

「大精霊がレベルカンストまで。ガーディアンもレベルカンスト、くらいかな。他の種族スキルとかも使い切ったけどレベル上がってないの見る限り、もっとやんないもいけないかもね。最悪流れ星の指輪で何とかするよ」

「それはもったいないからやめなさい。上がること証明できたんだから地道にレベル上げしましょう」

「そうだね。で、何書いてたの」

「やる事リスト」

「ふーん。まず真っ先にやる事は?」

 

「そうねぇ。1番にやる事は貴女のレベル上げ。次に防衛策の強化。その次は周りの村々にあなたのことを周知させることかしら」

 

「二つ目まではわかるけど、三つ目の利点は?」

 

「幾つかあるわ。中でも一番は、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国からのアクションがなくなる可能性が大きい、ってことかしら」

 

「……どこそれ」

「森を挟んで東西にある国」

「ふーん……」

「詳しい事はこれに書いてるから読んでちょうだいな」

「はいはい。で、他私やる事は?」

「特にないわ。好きに過ごしてちょうだいな」

「じゃあ、その冒険者とやらを少しやってみようか」

「は?」

 

好きに過ごせとは言ったけれどいきなりトンチンカンなことを言い出した。冒険者?大人しく森の中で過ごすとか言ってなかった?

 

「この世界の冒険者とやらにも興味があるからね。人間の生活を体験しておくのも、アイツの子孫を助ける為にも役立つだろうからね。何かを持っていくことがあって、持っていったはいいものの全く使えない、なんなら高価すぎて狙われる、とかなったら本末転倒だから」

「本音は?」

「たまには森以外もぶらぶら遊び歩きたい」

「……でしょうね。私としては構わないけれど……その格好でいくつもり?」

「え?だめ?」

 

予想以上に無計画すぎて頭が痛くなってきた。殴りすぎて頭のネジ数本飛んだかしら。

 

「貴女ねぇ、その格好で街に行ったらただの痴女よ」

「えー、胸とか、局部とか全部隠してるよ」

「……その黒くてうっすいシャツの下何」

「え、何もないけど」

「……」

 

本当にネジ飛んでるわね。

つい思わず、殴ってしまった。

 

「あだっ」

「せめてサラシでも巻きなさいよ。あとその下。局部隠れてるとは言っても太腿上部までしか隠れてないじゃない。それどうするの」

「別にいいでしょ太腿から下くらい」

「もう一発殴ろうか?」

「いや待って待って」

「あと、その顔、割と重要な人物たちに広まってんのよ。面倒なこと起こったらどうするわけ。ただでさえ貴女目立つ容姿してるんだから」

「……」

「それと……」

「わかったわかった、姿変えるから。それでオーケイ?」

「あとせめて一週間後にしなさい」

「分かった」

 

また悩みの種が一つ増えた。…この森の管理、結局私と森の賢王でやらなきゃいけないわけ?

 

「スレイン法国にはいついくのよ」

「明日にMPとスキル回数が回復したらいくよ。今日のうちに精霊に手紙持っていかせたから。明日には準備できてるでしょ。で、ついてくるんでしょ?」

「もちろんよ。他の選出は根源の星霊と根源の水精霊かしらね。他は全部、現地で召喚して頂戴」

「そうする」

「で、狙うのは?」

「さあねー、適当にやる。大元へ乗り込んでもいいけど、それだと腹の虫が収まらないから、スレインの民には悪いけど、半分くらい犠牲になってもらう」

「……そう」

 

その辺は割とどうでも良かったから適当に流すと、アテナはなんか驚いてた。

 

「どしたのよ」

「いやぁ、反対されるもんだと思ってたから」

「するわけないじゃない。貴女のやることには基本、否は唱えないわよ。ただ突発すぎると少し時期を遅らせてもらう案とか出すだけで。スレインに関しては私も少ーし、腹立ってる部分あるからね」

「ほう?」

「少し前に、私が懇意にしてる村を襲ったの、スレイン法国だったから、そのお礼参りを私もしなきゃ、ね」

「……ふふ」

「何がおかしいのよ」

「いや何、パチェも結局、私とアイツの子なんだな、と」

「当たり前のことを今更何を」

 

 

 

 

 

 

『やあ、モモンガ。あいや、アインズだっけ』

 

『はい、どうしました?あとどちらでも構いませんよ。公の場ではアインズと呼んでくれさえすれば』

 

『……』

 

『あれ?どうされたんですか?何かあったのですか?』

 

『いや、こないだあれだけやったから、警戒してるもんだと』

 

『警戒はしてますけどね。けれど、アテナさんは信用してるというか』

 

『こんな得体の知れない生物を信用、ねぇ。いつか寝首を狩られるよ?』

 

『アテナさんは……いえ、()()()はその様なことをしないと、はっきりとした理由はないんですが、あの時そう確信できたので』

 

『ふーん……。ま、いいや。それで頼んでおいたスレイン法国の……何だっけニゲンみたいな名前のやつ、なんか聞き出せた?』

 

『余計なことを喋ると魔法で殺される様にされていたので、あまり有益な情報はありませんでしたね。ああ、でも上からは『森の守り神はもうこの世を去った』みたいなことは言われていたらしいですよ。だからアテナさん達のいる森のすぐそばの集落であっても襲撃したとか。それに、魔封じの水晶もあったから、余計強気だったんでしょう』

 

『ほーん』

 

『それに、もうスレインではアテナさんの過去の行いは単なる伝説、噂としか継承されていないので、そもそも信用されていないらしいですが』

 

『なるほどねぇ……すこーしばかり、前よりももっと強く恐怖心植え付けるか』

 

『え?』

 

『何でもないよ。情報どーも、モモンガ』

 

『いえいえ。アテナさんも気をつけてくださいね』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「あら、おはよう。意外と早いわね」

「おは、よう……。水、浴びて、くる」

「いってらっしゃい」

 

 

「え?侵入者がいる?」

「……」

「どっちの方面?それと目的とかわかる?」

「……」

「それって、アテナが水浴びに行った方面じゃない。目的はわからない、でも何かを探してるのはわかる、と。……大体この森に来るのは、薬草採集か、モンスター狩りだけれど。他何か特徴はあった?」

「……」

「銀色の札を首にかけてるのね……まあ、それなら大丈夫でしょう。特に何もしなくていいと思うわ。迷い込んできてたなら、たとえ出会ったとしても、アテナも慈悲くらいはあげるでしょ。そこはアテナの判断に任せるわ。何かあれば私に連絡来ると思うから。知らせてくれてありがとね」

 

中位精霊の水精霊(ウンディーネ)からの報告を受けて、スレインに行く前の仕事が増えそうな予感はしたけど、まあ、うん、最悪アテナに丸投げしましょう。

 

……この間にも、スレインの人間は皆、警戒してると思うと、滑稽ね。

 

 

 

 

「……」

 

あ゛あ゛あ゛あ゛。気持ちいい…。綺麗な水での水浴びがこんなに気持ちいいとは。

始原の精霊に……自然と一体といってもいい存在となったのも相まってか、転移したての頃に感じていた気持ちよさを上回っている。

 

「……スレインまで行くの、めんどくさくなってきたな」

 

いやでも、わざわざ宣戦布告までしたから、行ってあげないといけないよな。うーん、どうしよう。…‥でも、それ以上に、寝過ぎて、眠い。

 

……このまま、寝ようかな。ほんとに、眠い。

 

「……ってくだ……これい…」

「でも……ないと……が……」

「……に……せい……このま……」

「もしも……を乞……かの森……」

 

 

「……」

 

なんか聞こえた気がするけど、眠気のせいで頭が回らない。……睡眠とか疲労無効をつけないでいるのは、疲れがある状態の方が寝たり食べたりした時の満足感がより向上するとか、アイツも言ってたっけ……。

 

「ん?おい、これ…」

「だよな。鎧……?かなり高そうだぞ」

「こんな森の奥深くに…冒険者?」

「いや、こんな豪華な鎧をつけていた冒険者には見覚えがないのである」

「まさか、他の国の……もしかしてワーカーとか?」

「ありえるな。最近、森の守り神だか何だかが復活したとかいう噂がある。帝国側がそれを調査するために派遣しててもおかしくない」

「それでも、ほんの少しでも食料を分けてもらえないか交渉してみる価値はある。黙秘することを条件に、出口を教えてもらえるかも。でももしかしたら、問答無用の殺し合いになる可能性はある。どうする、みんな」

「俺はリーダーに任せるぜ」

「同じく」

「右に同じ、である」

「……わかった。交渉してみよう。場所からして、この小川の先の湖のそばにいるだろう。……だよな?」

「ああ、この先に湖があるのは間違いない。少なくとも、交渉さえしくじらなければ飲水、運が良ければ食料も手に入るはずだ」

 

声がだんだん近くなってきて、同時に目が少しずつ冴えてきた。ようやくすぐそばまで誰か知らない奴が近づいてきているとわかった。

 

何でこんなところまで入り込まれて何も知らせがない?

パチェ達が見逃すとは思えない。でも知らせはない。……てことは、知らせるほどじゃないか、それか……

 

「(さては対応全部私にぶん投げたな?パチェ、仕事サボって紅茶でも飲んでるのかな。紅茶は後で淹れてもらうとして……めんどくさいな)」

 

水面にゆーっくりあがりながら近づいてきている奴の居場所をスキルを使って探る。探知系魔法は残念ながら無い。

 

どうやら私の鎧だとか服とかの装備品を置いていた方面にいるらしい。

 

盗られてたら問答無用で殺す。あの装備だけは盗られたら本当に許さん。

 

岸までたどり着いたあたりで、4人の人間がちょうど姿を見せた。

 

「あの……」

「何の用だ」

 

出てきた人間の方を向くと、全員が一斉に振り返った。……何でだよ。お前ら何かしにきたんじゃ無いのか。

 

「おい、なぜこっちを見ない。我を侮辱する気か?」

「いえそうではなく!服を!お、お願いですから着てください!」

「憔悴しすぎて忘れていました…そうです、水場なんですから水浴びしてる可能性もあったのに……」

「服が必要なら、外にそれらしきものがあったから、持ってくるのである!」

「あ、じゃあ俺持ってくるわ!」

 

こっちが何かを言う前に、弓矢を持っていた人間が颯爽とこの場から去っていった。

 

「我の身体を見ておきながらその態度とは、不敬だぞ?むしろ光栄と思わんか。宝とも言えるべき我の裸体をみられたのだぞ?」

 

そいや裸だったな私。それならこっちをみようとしないのも当然か。

 

「い、いえ、本当、申し訳ありません。私達、薬草採集の依頼を受けてこの森へ来たのですが、モンスターの大群に追われ、森の奥深くにきてしまって、食料が尽きてしまいまして……貴女が水浴びをしているかも、という事を考えていませんでした」

 

「薬草採集?」

 

「はい。私達、エ・ランテルで冒険者をしているんです」

 

「……冒険者が薬草採集?魔物退治じゃなくて?」

 

「え?」

 

「んんっ、失礼。この森から基本外出することが無い故の無知だ。許せ。

……で、話を聞いた限りだと、貴様らの願いは食料の確保、ついでに言うならば、森の出口を教えて欲しい、あたりか?」

 

「は、はい!そうです!無論、ただとは言いません!後日に、私たちの方で用意できるものなら何でも用意します!」

 

何でもて、切羽詰まってるのはわかるけど不用心すぎやしないか?

 

「何でも……か。生憎だが、我は今の生活に何一つ不自由は感じておらん。それに、貴様らの姿を見るに、我の望むものを貴様らが用意できるとは到底思えんな」

「う、それは……」

「後、もうこっちを見て良い」

 

裸がアウトなのだろうから、適当な布製の服を上から羽織る。水で体にへばりついているが、まあ、透けてもいないからいいだろ。

 

「持ってきましたぁ!ってなんか裸の時より際ど」

「ちょっと黙れ!」

「へヴっ⁉︎」

 

弓矢を持った奴が、私の鎧とか黒いシャツを纏めて持ってきて、口を滑らせかけて殴られていた。

 

うん、床にばら撒いてたらその目を潰してたぞ。

 

「どうも。で、何だっけ。君らの差し出せるものは何でも差し出すから、出口と、できれば食料を恵んでくれ、だっけ」

 

「はい」

 

「……まあ良いが、貴様、このパーティのリーダーか?」

 

「え?そうですが……」

 

「ならば、貴様へアドバイスだ。『何でも差し出す』なんて不用心な発言は避けることだ。パーティリーダーならば、貴様ら全員が助かる道を模索する努力を積め。たとえ正体不明の我との交渉にも、己の利益を考え行動せよ。でなければ……良いように利用されるだけだ」

 

「……はい。わかりました」

 

己のミスを認めたのか、重く受け止め深妙な顔になったいた。うん、いいリーダーだ。己の非を認めることのできる人間は大体が大成する。

 

「だが、森の外へ出たいなら運が良いな。これから我も森の外へ行く用事がある為、支度を済ませ次第出るつもりだ。そのついでに貴様も森の外へ連れ出してやろう」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

 

ここで無下に追い返して、何か騒がれるのも面倒だし、ここは大人しく森の外へ連れ出す方が得策、だと思う、うん。しらん、なんか面倒ごとになったら今度は私がパチェに投げる。

 

「だが、二つ程条件がある」

 

「何でしょうか」

 

「一つ目。我に関する一切の情報伝えることを禁ずる。我はこの森で大人しく過ごしたいだけだ。故に面倒事は好かん。我のことを知った金の亡者やブタどもが我目当てに侵略してくる、なんてことも昔あったからな」

 

「わかりました。貴女に助けて頂いたことは絶対に喋りません」

 

「では二つ目だ。貴様のもつこの近辺の情報を我に差し出せ。何を聞くかは我が決める。詮索は許さん」

 

「私の持つ情報程度でいいならいくらでも差し出します」

 

「よかろう。ならば交渉成立だ。では最初の取引だ。水はここにいくらでもある。食料は……持ってこさせる故、少し待て。で、怪我人は?」

 

「重症のメンバーはいません。少し怪我を負っている程度ですが…生憎、ポーションも尽きていて、回復魔法を使える彼も、魔力が尽きてしまっていて」

 

「ふむ……そうか。取引を交わした貴様らが死ぬのも困るな……精霊の癒し(エレメンタル・ヒール)。精霊召喚・下位水精霊。下位炎精霊」

 

全員に第2位階の回復魔法をかけ、続け様に下位精霊を2体呼び出し湖の中にいる魚と森の中の食料を持って来させるよう命じる。

 

「……」

「どうした間抜け面になりおって」

「い、いえ。精霊を召喚する方は初めて見たもので……。先程の魔法…?も初めて聞きました」

 

そう言ってくるのは杖を持った……女?だよねこいつ。マジックキャスターだからこそなのか、私の使った魔法にも興味を示していた。

 

「我は生まれつき精霊と心を通じることができてな。先の魔法も精霊に教えてもらったものだ」

 

「精霊に…?」

 

「ああ、今のところその精霊より強い輩は見たことがない。貴様らの国で言う、王国戦士長も敵ではないだろうな」

 

「それは……!すごいですね!」

 

「我からしたらそれが当たり前だったからな。そら、精霊達が食料を持ってきたぞ」

 

本当に、ほんっとうによほど腹が減っていたのか、水精霊が持ってきた魚や食べれる果実なんかを持ってきて、炎精霊が軽く調理したものを、もう私に目もくれずバクバクと食べ始めた。

てか、果実とかパチェが植えてたやつか。そりゃ食べれるかどうかわからないわな。魔力も尽きていたから、解毒魔法も使えないから一か八かもできない。だから食料が尽きたわけか。不運だね。

 

「……もう少し水浴びするか」

 

もちろん水着着用。2度も同じ過ちはしない。

 

あーー気持ちぃぃ。

 

……スレイン法国へは、もう今日いいかもなぁ……。




『付き合ってください!』

『……は?』

いつも通りの人間種プレイヤーとの狩りが終わったら、急にそんなことを言われた。
付きあう?もう狩りに付き合ってるが?

「俺の恋人になってください!」

「いや断る」

「何でですか!」

「リアルの顔も名前も知らんやつと付き合えるか」

「俺の名前は……」

「バカここで大声で言うな。せめて個人チャットでおくれ」

「てことは受け入れてもらえるんですか!」

「違うわ言葉のあやだ。送られたところで付き合う気はない」

「ではお友達からでも!」

「もうフレンドだろうが」

「とりあえず私の仕事先の連絡先と名前送りますんで、気が向いたら連絡ください!あとアテナさんの名前も教えてください!」

「あーわかったわかった名前程度なら教えてやるからちょっと黙れ」

「わかりました!」






二日後、まさか名前から職場を探し当てて職場に凸してくる奴とは思わなかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

精霊の狂宴(うたげ)

「なあ!生まれたって⁉︎」
「あーうるさい。ちょっと黙って。お腹に響く」
「ごめんごめん。感無も大丈夫かい?」
「中級国民ってこととお前が金をそこそこ出してくれたから割と良い方の出産にはなったさ。心配しなくてもすぐに会える」
「それは良かった!で、名前とかどうする?」
「考えてくるって約束だったろうが」
「ごめんごめん、冗談だよ。女の子だったら香恋(かれん)で、男の子だったら(ほむら)あたりかなぁ」
「珍しくまともに考えてきてんじゃん。私は……」

くだらない事で笑い合い、これからのことを思うと、楽しみで仕方がない。

こんな幸せが、些細な幸せがずっと続いてほしいと、心の底から願った瞬間だった。


「で、納得のいく説明をしてもらいますよ」

 

「はいはい。でもこっちも聞きたいことがある覗き魔。私が水浴びしてたあたり見てたろ」

 

「うぐっ……ち、ちがいます!あ、あそこだけです!断じて!一瞬見た程度ですぐに切りました!そのあとに報告貰って見てみたらスレイン法国へ殴り込み行ってるじゃないですか!空いた口が塞がりませんでしたよもう!」

 

「ほーん?見たんだ?で、どうだったよ。人様の裸は」

 

「大変申し訳ございませんでした」

 

「潔くてよろしい。てか裸程度見られたところでなんとも思ってないから安心しろ」

 

今はAOG本拠地にいるが、事の発端は朝に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹は満たされたか?」

「はい、それはもう!貴女様には感謝しかありません!」

「では、疾く出立するとしよう。着替えてくるから少しだけ待っておれ」

 

4人の冒険者の見張りを中位精霊に任せ、下半身の甲冑と黒いシャツ、腕輪など全力装備を装着する。念のため世界級アイテムもボックスの中に入れていつでも取り出せる状態にしておく。後は……

 

「姿は……まあいいか、別に」

 

緊急脱出用のアイテムと防護用のアイテム数種類で、魔法や魔法道具で見られたり、追跡されたりをできなくする、くらいかな。

 

魔力検知阻害、その他ステータス検知阻害の指輪、即転移の指輪、あとは総魔力量底上げの指輪、威力上昇の指輪、くらいか。

 

「終わったぞ。準備は済んでおるか」

「はい。いつでも出発できます」

「では少々手荒に行くぞ。舌を噛むなよ」

 

全員を魔法を使い浮かせ、そのまま私自身も飛行(フライ)で飛ぶ。

上へグングン上昇し森の上の、さらに上、雲に届かないギリギリまで飛ぶ。

 

「街が……1つとその先に国がひとつ、真反対に国がもう一つ。んで最後のアレがスレイン法国だから……お前ら、一番近場の街、だったな?」

「え?あ、は、はいっ!そうです!」

「いや待ってほんとに怖え。お姉さん本当に離さないでくださいよ⁉︎」

「すごい…なんて高度な魔法……」

「まさに、生殺与奪を握られてるであるな……」

 

ふーむ、弓持ってる人、それはフリなのか?

 

「……」

「おわっ⁉︎ちょまっ⁉︎」

「ルクルット⁉︎」

「あのっ!お姉さん!本当に死んだと思ったんですが!」

「いや何、許せ。ちょっと面白いかなーって」

「それで死んだらどうするんすか!」

「その時はその時。ほら、我の裸を見ただろ?それとおあいこだ」

「でもねえっ⁉︎」

 

喋らせる前に一気にスピードを出し、一番近場の街へ向かう。

 

 

「ここか」

 

一番近場の街の近くに降り立つ。

不可視化の魔法かけてるからバレてないとは思うけど。

 

「ここで合ってるか?」

「は、は、はい。ここです」

「もう一生分空飛んだ気がする」

「回復魔法かけようか?」

「これからはさらに入念な準備をすべきであるな。反省させられたのである」

 

ぱっと見、そこそこ栄えてそうな街だね。

うん、良いところなんじゃないかな。

 

お世話になるかどうかはわからん。

 

「早く冒険者ギルドに報告に行きましょう。依頼の予定日を過ぎてしまっています」

「そうだな。改めて、本当にありがとうございました!貴女のことは一生忘れません!」

 

「我からしたら忘れてくれて構わないんだが。……だが、そうさな。これも何かの縁だ。少しばかりの我からの恵みだ」

 

アイテムボックスから取り出した指輪を一人ずつ乱雑に投げる。

慌てて受け取り、受け取った後かなり困惑していたが。

 

「あの、これは……とても綺麗ですが」

 

「お主らの冒険者稼業の手助けにはなるだろうよ。簡単に言えば力を底上げしてくれる指輪だ。更におまけで成長しやすくなる」

「マジックアイテムなのですか⁉︎受け取れませんよ!」

「まあ聞け。この指輪はお主ら以外が使ったとてタダの金やプラチナ、ルビーエメラルドで出来た多少高価な指輪にすぎん。が、さっき渡す際に所有者をお主達に設定しておいた。つまりは、もう我が持っていても無意味なものというわけだ」

「ですが……」

「それをどう使おうが勝手だ。保管しておくもよし、捨てるもよし、騙されたと思って使ってみるもよし。そうさな、なんなら売却しても構わん。多少なり金策にはなるだろう」

「ですけれど!私たちはこれに見合うものをお渡しできません!」

 

うーん、リーダーの男がかなり強情だ。

さてはて……

 

「ならば取引、ということにしよう。またなにかしらの依頼で森に来ることがあると思うが、その時にそれまでに起こったお主らの冒険譚を我に聞かせよ。我は他人の物語を聞くのが好きでな。それをその指輪や今日お主らを助けたことへの対価としよう」

 

「……」

 

「この取引を破棄したいのなら、森に来なければ良い。心配せずともそれでお主らを殺すようなことはせん。その指輪も我にとっては大量にあるガラクタの一つに過ぎん。この通り、まだまだ大量にある。利点は他にもあるぞ?その指輪をつけておけば、森で我や我の家族に襲われることは無い」

 

黄金の波紋から数百の指輪をジャラジャラと下に落とすと、全員軽く引いていた。

 

「……わかりました。この指輪、ありがたく頂戴します」

 

「それで良い。ではな、我はこれから用事がある。……ああそうそう。その指輪にかけられている効果は他人には基本見えん。だから他人がお主らをみたときに指輪の見た目で言い寄ってくる人間が多いだろう。だが、ごく稀に指輪の見た目ではなく指輪の効果について言ってくる輩がいたらこう伝えろ。『神話の名前をもじった森の精霊に渡された』とな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アテナ」

「ん、いけるよ」

「私も準備できてるわ」

「じゃあさっさとやるとしましょうかね」

 

目の前に見えるのは、一つの国。スレイン法国。

今からここの人間をの半分を、殺し尽くす。

 

だというのに、情けとか慈悲といった思いは一切出てこない。

 

「それじゃ、手筈通りに、ね」

「ええ」

 

下に降り立ち、門番の前まで歩いて行く。

全員がこちらを見てくるが、ひとまずは無視をする。

 

「中に入りたいんだけど」

「し、失礼ですがどんな御用事で?」

「ただの観光。私の大切な人がここ出身でね。故郷を見てみたいというだけさ。この子は娘。その大切な人とのね。で、通してもらえるかい?」

「申し訳ありません。我が国は、今日は厳戒態勢を敷いており、誰も国に入れるなと命令を……」

「じゃあいいや。勝手に入るから。バイバイ」

 

門番の首を薙ぎ払い、胴体と頭をお別れさせる。

悲鳴が一瞬上がるが、その全ての元を絶つ。

 

「えーと……あったあった」

 

金色の砂が入った砂時計を右手に持ち、準備は終わり。

あとはできるだけ街の中央に、立ち向かってくる人間を悉く殺しながら向かう。

 

だいぶ見渡しが良いところでパチェに改めて伝える。

 

「パチェも好きに動いてもらって構わないよ。私を守るもよし。怒りを出鱈目にぶつけるもよし。私からの命令はひとつだけ。絶対に死なないこと」

「わかったわ」

「よーし、んじゃいくよぉ」

 

私の中で使える、最上位の魔法を唱える。

 

「超位魔法『始原精霊の宴』」

 

本当なら唱え切るまでのタイムラグがあり、狙われる隙になるけどそこはアイテムで解決させる。

即発動させ、周りにはレベル80〜90の上位精霊達が20体と中位以下の精霊がおよそ50体。

 

実は見た目ほどそんなに強く無い。ボス性能でもなければ普通のちょい高難易度ダンジョンにいたレベルのモンスター達だから、なんならレベル100が数人いれば対処できたりする。

 

 

まあ、この世界でこの子達を止められる存在なんてほとんどいないが。

 

 

「アテナの名のものに告げる。精霊達よ、私についてこい。そして目につく人間の半分を殺せ。ここの人間達は、私の敵だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストップ」

 

私の言葉でパチェと精霊達が一斉に止まる。

多分城っぽいところに向かっていたら、途中で5〜6人程度のレベル自体は高レベルな集団が立ちはだかってきた。

 

「……強いね。特にあのエルフ」

「そうね。でもなんとかなりそうだけれど」

「でも、だからと言って強行突破も難しそうだし、あんまりそうも言ってられない。なんせ、派手に宴をしすぎた」

 

突破はできるだろうけど、時間稼ぎだろうし、だいぶ気は晴れたしで正直長居する必要もない。

 

相手から何かしら色々と言われているが、まあ、うん、なんも聞いとらんからわからない。

 

「ねえねえ、お姉さん。無視してないで私と遊ぼう……よっ!」

 

エルフがじれったくなったのか、大鎌を振りかざしてくるので、後ろに跳んで避ける。

やだよ。君、私より強いじゃん。

 

「っと」

 

いつの間にか後ろから槍を持った奴が殴りかかって来ていた。

ふーむ、こいつとエルフが厄介だねぇ。これを強引に突破してまでこれ以上やる意味もあまりなさそうだし……。

 

「パチェ。撤退しよう」

「させると思いですか?カイレ様。使ってください」

 

カイレと呼ばれた見た目ババアが、何やら高級そうな服を来て出てくる。

なんだっけあれ……見たことあるような。

 

めちゃくちゃヤな感じがすることだけは確かだから、マジで撤退した方が良さそう。

 

「……他の精霊たちは先に森に避難させたのか。うん、上出来」

「当たり前じゃない。アテナの考えてることは大体わかるわよ」

「じゃあ今私に引っ付いてるのもわかった上で?」

「もちろん」

「はは、嬉しいことを言ってくれる」

 

「逃がす訳ないじゃない。やっと敗北を教えてくれそうなモノに出会えたのに」

 

「逃げるさ。君らから逃げるだけなら幾らでも手段はある。悪いけど死にたくないんでね。君らのところにはまた後日、遣いを送る。私と君らとの約束事を改めて決めようじゃ無いか。んじゃパチェ、目眩しは任せた」

「任されたわ」

 

パチェが爆発系の第十位階魔法を範囲拡大で撃ってくれたから、その隙に森へテレポートを試みる。

転移阻害の魔法とかスキルとかされてなければラッキー程度に考えていたけど、阻害はされていないらしくすんなり森に帰ることができた。

 

 

 

けど、予想外だったのはここからだった。

 

 

 

「……」

「アテナ様。アインズ様が至急来てくれ、との事です」

「……」

「あの…どうされました?」

 

帰ったらそこにいたのは森の賢王ふわふわクッションではなくてAOGのNPC。しかも階層守護者だかなんだかで100レベルの奴。確か……。

 

「えーと、マーレ、だっけか」

 

「は、はい!」

 

「アインズに伝えておいてくれ。絶対嫌だ、って」

 

「ええっ⁉︎いや、その……アインズ様には、絶対に連れてきてくれと言われていまして……」

 

「……どう思うパチェ」

「十中八九さっきのスレインでのことでしょ」

「だろうねぇ。水浴びの時一瞬覗き魔がいたのと、スレインにいる間ずっと見てたやつがいたのはわかってたけど、それ冒険者とスレインの人間じゃなかったのかね……。カマかけてみるか。

 

いいよマーレ。アインズの言う通りにしてやる。けどこう伝えておいて。パチェも連れて行く。3人の他に誰も部屋にいれるな。話すことは他言無用。それと私からも聞きたいことがある。この条件を飲むなら行ってやるってね。できるなる今すぐアインズに聞いてくれ」

 

「は、はいっ!わかりました!少々お待ちください!」

 

 

 

 

で、その後は受理されて最初の場面に戻る、と言うわけ。

 

 

 

 

「人様の裸を見て、私生活を覗いた挙句、それが気に入らないから呼び出すって、何アンタ、私のストーカー?」

「いや違うんです。元々アテナさんに用事があったんですけど急に行ったら悪いと思ってたんです。でもどうすればいいのか迷ってしまって」

「で、覗いた、と」

「うぐっ…」

「普通に使い魔でもなんでも送ればいいものを。馬鹿なのかお前?」

「しょうがないじゃないですか!女性経験皆無なんですから!」

「いやそう言う問題か?お前一応リアルでは営業マンだったんだろ?」

「うぅ…」

「どういった用件なのか知らんが、普通に来い。伝言でもなんでも良いからアポ取ってからな。……で、本題にさっと入ろうか覗き魔さん」

「いつまでいじる気で?」

「気の済むまで」

「俺が悪いから何も言い返せないのが悔しい……。オホン、じゃあ改めて本題に。なぜあんなことを?」

 

「あんなこと、とは?」

 

「とぼけないでください。スレイン法国の事です。貴女途中から阻害魔法使ってたから見れませんでしたが」

 

「ああ、そんな事か。お前が助けた村はパチェ(このこ)が懇意にしてた村だった。だから報復ついでに改めて不可侵条約を結ぼうじゃないか、と話し合いに行っただけだ」

 

「あれが話し合いと」

 

「まだ全国民を皆殺しにしてないだけマシだと思って欲しいな。あれでもかなり抑えた方だ。本当ならスレイン法国の全国民を皆殺しにしてもまだ過去の怒りは収まらないんだから」

 

「……っ!そうでした、申し訳ない。失言でした」

 

 

アテナの表情を見たアインズが深く頭を下げる。

目から出ていた一雫の液体を見て、パチュリーに言われたことを思い出したから。

 

 

「ああ、アイツのこと話したんだっけパチェ」

「悪いとは思ってるわ」

「構わないよ。それなら話が早いから。

 

……こんなことをしたところでアイツが喜ぶわけでも、生き返るわけでもないのはわかってる。でもどうしようもないんだよ。この憎悪を忘れてしまったら、もうそれは私ですらない。彼を好きな私ではない。

 

答えになった?そろそろ帰らせてもらうよ。行こうパチェ」

「はいはい」

 

「…………。あのっ!」

 

帰ろうと立ち上がると、アインズが引き止めてくる。何さ。もう話すことないんだけど。

 

「アテナさん、改めてご提案です。俺たちと共に行動しませんか?もちろん基本いる場所は森で構いません。それに守護者たちはアテナさんと会えないのを悲しんでいます。

貴女がどう思っていようとも、俺たちからしたら貴女は仲間で、守るべき存在なんです。ですから……」

 

「前も言ったろ。私はそっちに行く気はない。

 

なぁ、私からこれ以上奪おうとしないでくれないか?私は、もう何も奪われたくないんだよ」

 

アテナの言葉で、アインズの表情が固まる。

何を言われたのかよくわかっていない。わかりたくない。そんな雰囲気だった。

 

 

「そうやって、私以外の他人は、私から全てを奪おうとする。幸せも、家族の時間も、子も、私が抱いた僅かな願望も、何もかもを。

 

 

ある時期、私とアイツが同時期にゲームに来なかった時期、あったろ。アイツがよく催促のメールをAOGだとかいろんなフレから来てたって聞いたからあの時はよく覚えてる。

 

その時に私はアイツと子を成してた。

 

でもソレはあの世界のせいで奪われた。

 

私は、子を産みはしたが終ぞアイツに見せることは叶わなかった。

 

アイツはそれでも慰めてくれた。一番辛いのは私だろう、とね。

 

しばらく精神状態が不安定になって、普通の生活すらまともにできなかったさ。

 

次はそれを良い機会だと思ったのか、普段から快く思ってないクソ野郎に居場所を奪われた。

 

彼はそんな私を養ってくれた。

 

でも、次は彼が死んだ。

せっかく、私が精神的にも立ち直れた矢先に、癌で死刑宣告を、されていた。

 

でも彼はずっと気丈に振る舞って、なんとか、少しでも私との繋がりを残したいってことで、もう一度子を作ろうと思った。

 

でも私の体は元からボロボロだったのか2度と子を望めなかった。

それでも彼は諦めずに、ゲームで子を作ろうと、話になった。そうしてできたのが、パチェ(このこ)だ。

 

そのすぐ後に、リアルで彼を看取った。何も、何できなかった。医者は私達が上級国民とやらじゃないからと、碌な治療をしなかった。

 

次に発覚したのが私の心臓病だ。

手遅れの、ね。

 

ゲームの中でパチェと最期の時を過ごせたのに、何の因果かこの世界は、神は、私に2度目の人生を歩ませた。

 

吐き気しか覚えなかった。

 

なんで死なせてくれなかった。私はもう、嫌だったのに。生きるのが。

 

 

そう思ってた。

 

 

そんな矢先に出会ったのが、アイツの生まれ変わりだったんだよ。

 

生きるのが嫌だった私に、生きる意味を与えてくれた。

 

アイツの為なら私はなんでもした。教えれる限りのことを教えて、教えてもらって。アイツはリアルで死んだんじゃなくてこっちに転移したと知って、その子孫がこの世界で生き長らえてたとしって、心の底から嬉しかった。

 

 

それを踏みにじったのが、スレイン法国。

私を狩るために、アイツの子孫を、餌に使ったんだと。

私の目の前で滅多刺しにして、最後の言葉を言いかけてくれたけど、それを聞くことすら叶わず首を刎ねてくれたよ。

 

 

その時に悟った。

 

 

この世界は、私の敵だ、と。

 

元ギルメンでも、関係ない。

 

私に仇なす者は、何人(なんびと)であろうと、地の果てまで追い詰めて、殺してやる。

 

そう決めたんだよ。

 

なあ、アインズ・ウール・ゴウン。ここまで言えばわかるだろ?」

 

アインズはじっとアテナを見つめるも、口は開こうとしない。

開けないのか、信じたくないのか、わからなかったが、それでもアテナは続けていう。

 

 

「これ以上、私から何かを奪おうとしてみろ。その時はお前が大層大事にしているNPCを一人ずつ殺してやるよ」




「……疲れた」
「お疲れ様。紅茶飲む?」
「飲む」

パチェが紅茶を淹れてくれるのを待ちながら、指輪装備のほとんどを外しアイテムボックスの中にシュートする。ついでに鎧も外してシュート。ほぼ下着状態になったから鎧の代わりに巫女服を着る。
ただ一言言えるのは金髪×巫女服は合わん。異論は認めるが。というかアイツは『全然いける』と言ってたっけ。

「……大口叩きすぎなぁ。100レベNPCにはそもそも勝てねえってのに」
「後先考えて喋らないからよ」
「感情が爆発してたんだから許して。最悪、森の賢王達と一緒にどこかに 遠くに行こうよ。今はいいけど、AOGが近くにいるんじゃいつ平穏が崩されるかわかったものじゃない」
「いいわね。東の島国とか、いいんじゃない?」
「そうだねぇ。でもひとまずは、出来る限りの防衛策、張り巡らせましょうか。それから冒険者稼業する準備するよ」
「はいはい。気をつけなさいよ。はい紅茶。水精霊達が栽培してくれた高級なやつ」
「ありがと。パチェ。…………ねぇ」
「何よ」
「パチェは絶対に、私の元から消えないでよ?私を1人にしないでよ?」
「当たり前じゃない。私はいつまでも貴女と一緒よ」
「あ、でも結婚する時は遠慮なく言ってよ。応援してるから」
「ぶっ飛ばすわよ?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冒険者、やります


〜スレイン法国への侵攻前夜〜




「や」

『……何の用だ』

「そう冷たい事言うなよ。私と君の仲じゃないか」

『ならさっさと死んでくれないか。それかボクを殺してくれないか。何でまだボクを生かす』

「自殺なんてまっぴらゴメンだし、君みたいな面白い存在、そう簡単に殺すわけないだろ。なぁ、紀野感無。それにだ、君にはもっと他の役割を押し付けにきた。いつまでも精神世界に閉じこもらせるのはいささか勿体無い」

『役割?』

「ああ、主にアインズと話をする時は君にお願いするつもりだ」

『断る。何でそんなことを』

「君は断れない。なぜなら、アインズと話すときは私が強引にお前の意識を引っ張り出すからだ」

『ならその時にお前の体を乗っ取って自殺してやるよ』

「もちろんさせないつもりだけど、出来るもんならやってみなよ。ああでも一度死んでみるのも悪くないかもね。死ぬ感覚を私は知らないから。一度味わってみたいな」

『……イカれてんな』

「今更何を。私は生まれてこの方、自分が狂っていないと思ったことは一度たりともないよ。じゃ、多分明日いきなりアインズと話す機会あるだろうから、頑張ってくれ。どうせならスレインを攻める時もやるかい?」

『それこそ願い下げだ。死んでも断る』

「だろうね。じゃあ安全圏からずっと憎い憎い仇の子孫達が鏖殺されていくのを眺めてることだ」












〜アテナがスレインを攻めてから一週間後〜

 

「準備できたわよアテナ」

「んー?なんか頼んでたっけ?」

「冒険者してみたいって言ってたでしょう」

「あーそういえば」

 

スレインの一件以来、グータラしすぎて忘れてた。

 

「はい、これつけて。中に一通りセットしてあるから」

 

「あい」

 

パチェから渡された指輪を右手人差し指につけ、中にあるセットに着替える。

金髪はエメラルドグリーンになり、紅い瞳は変わらず。服装はプリーストだかなんだかの、それっぽい鮮やかな赤い着物に。申し訳程度に固定するために腰に飾りがついてたり、手に白い甲冑がついてる、くらいか。

 

「…‥なんだっけ、これ。どっかで見た事ある気がする」

「私も本で見た程度だから詳しくはないわ。ステータス偽造効果もあるから、その姿ならプレイヤーに一発で貴女と見破られることは滅多にないと思う。アインズとかだと話は別だと思うけれどね」

「バレにくいだけでも助かる」

「で、これか貴女の偽造プロフィール」

「名前がミネルヴァ……世間知らずのお嬢様……初心(ウブ)で決めた殿方に一筋、要は恋人バカ……おいまて」

「何よ」

「二つ目、いや三つ目までは許す。四つ目は何」

「ノリよ。それに半分事実でしょうが」

「それで片付けられるとでも?」

「私に丸投げした挙句に、これでいいかって聞いた時に貴女、いいって返事したじゃないの」

「そんな……こ……と」

 

いや待て確かにした記憶がある。寝ぼけてたような気がするけど、確かにパチェから何か言われて適当にオッケーって言った気がする。

 

「はぁ…まあいいや。んで、クラスが聖騎士。アンデットに強く、槍捌きも一流……。魔法は第四位階まで使用できる。これなんで第四位階?」

「貴女が寝てる間コツコツと情報は集めてたのよ。第三位階が使えたら天才、第四位階が使えたら選ばれし者、第五位階が使えたら人智を超えた者、みたいな認識らしいわ。あまり過度に目立ちたくないのなら第四位階が無難でしょう?」

「確かに……」

「第四位階でも十分目立つ可能性は高いけどね。それとお供も勝手だけど決めたわ」

「パチェが来るんじゃなくて?」

「貴女が抜けたら誰がこの森の管理をするのよ。ただでさえ貴女の無茶振りをどうしようか考えてるのに」

「その節は誠に申し訳ございません」

「分かればよろしい」

 

とりあえずパチェには後で高級食材ありったけ使ったスイーツでも作るとしよう。

 

「それでそのお供は?」

「この子よ」

 

パチェが読んできたのは、見た目は人間。けれど中位精霊の……炎精霊かな。それに人化の指輪か何かを装備させていた。

私の眼よりも少し鮮やかな紅い目と紅いショートカット、白シャツと黒いズボンの上から紅いローブを着ている。ぱっと見は、魔導士のそれ。

 

「パチュリー様からアテナ様の警護を任されました、中位炎精霊のイフリートです。パチュリー様にはイフという名前を授かりました」

 

「そう。よろしくイフ」

 

「その子の設定は貴女のお目付役。警護兼ストッパー。イフ、その人が私の母親だから、言うことをちゃんと聞くこと。なんかトラブりそうだったらアテナじゃなくて私に連絡すること。いいわね?」

「失敬な。至極普通に過ごすよ。人間関係のトラブルは基本起こさないよ。多分」

「ふーん?イフ、万が一アテナが人を殺そうとしたらこう言いなさい。『---------』って」

「了解です」

「待って何を吹き込まれたの」

「ちなみにイフは魔法詠唱者っていう設定ね。けど本当は肉弾戦の方が得意、らしいわ。本人曰く」

「そうですね。魔法より殴ったり蹴ったりのほうが性に合ってます」

「ならイフが前衛でいいじゃん私やだよ槍とかあんまりやらないし」

「設定変えるのめんどくさいんだから諦めなさい」

 

まあいいか。適当に冒険者というか人間の世界でのんびりできたらそれでいいし。めんどくさくなったら森に篭ればいいし。

 

「で、いつから行く?」

「そうだね。ちょっと準備兼ねて二日後かな」

「どこの冒険者協会に?」

「一番近場でいいよ。エリンテルだっけ」

「エ・ランテルね」

「そうそれだ。他王国とか帝国とやらに行って国に目をつけられるのはごめんだからね。エ・ランテルでも同じだよ。変に目をつけれれそうなら直ぐやめる」

「その辺は好きになさいな」

 

それじゃゆっくり準備しますか。

 

 

 

 

その実は、ただぐーたらしながら森の賢王をモフッたりスイーツ作りしてたりしただけである。

 

 

 

 

 

 

〜三日後〜

 

「それじゃ、行ってくるよ」

「せめて厄介ごとは持ち込まないでよ」

「わかってるって」

 

パチェのくれた指輪で見た目一式を変え、イフを連れて森の外に向かう。

森の賢王もついてきたがっていたが、目立ちたくないから丁重にお断りした。

 

「アテナ様、冒険者とは一体何をするんですか?」

 

「イフ、外では私はミネルヴァ。ネルって呼んでくれたらいいから。あと様もいらない。硬っ苦しいのは苦手だからほんっとうにやめて」

「わかりました。でも、様がだめならなんて呼べば……」

「ネルさんとかネルでいいよ」

「ではネルさんで。それでネルさん。この後はどうするので?」

「普通に街に行って冒険者組合とやらに登録して適当に冒険者やっていくよ。読み書きは一通り教わってるから文字読めなくて困る、とはならない思う」

 

念のために教わっといてよかったと今になって思う。

学んだの私じゃないけどな。

 

「でも、お金はどうするんですか?」

「森の適当な魔物の部位を換金してからやる。足りなさそうなら私のガラクタコレクションからも適当に売り捌く。クッソしょうもない効果ついた金の指輪とかですら高値で売れるから、余程のことがない限り大丈夫だと思う」

「なるほど」

「ま、郷に入ってはなんとやら、門前払いされたら次の手を考えよう」

 

 

 

 

 

 

「はいはい。承知しました。ではこちらを。臨時の通行証になります。できる限り早く冒険者プレートを発行してくださいね」

「わかりました」

「それにしても今日は不思議な日です。まさか一日に二度もこんな方に出会うとは」

「二度?お兄さん、その話ちょっと詳しく教えてくれないかい?」

「いいが……そんなに詳しくないぞ?」

「構わないさ。あ、これはお礼だよ」

「?これは……」

「私の国で採れたものだ。保存もよく聞くお茶っ葉。飲むもよし、香りを楽しむもよし。ついでに種も同封してある。育てやすいものだから気が向いたら栽培してみるといい」

「そうか。ありがとう。最近こういう嗜好品に凝っているからね。他の国のものはとてもありがたいよ。んでさっきの話だが、俺がみた時は漆黒の全身鎧とでっかい剣を2本背負っていたな。アレは一眼でわかるがめちゃくちゃ高級品だな」

「ふむふむ」

「それでもう一人の付き添いがな、これがめちゃくちゃ美人だったんだ。アンタらに引けを取らないほどのな」

「やだなぁ、褒めてもなにも出ないぜ?口説いても私は既婚者だ」

「そうなのか⁉︎なんで冒険者に……」

「残念ながら未亡人でね。彼のくれた指輪に世界の広さを見せてやりたくてね。んで、その超美人な付き添いは他にどんな感じで?」

「確か全身鎧の人曰く、魔法詠唱者、だそうだ。俺が分かったのはこれくらいだな。背丈の大きい漆黒の全身鎧だから、一眼ですぐわかると思うぜ?冒険者組合に行けば多分すぐ見つかるぞ」

「なるほど。情報感謝する。ああ情報のついでなのだが、この辺で貴金属やら指輪やらを買い取ってくれる店はないだろうか。それがマジックアイテムに詳しい人間ならさらに好ましい。ひとまずの資金を得なきゃ行けなくてね」

「ああそれなら俺の知ってる限りだと、バレアレ薬品店というところに行ってみるといい。そこの婆さんがとても詳しいぞ」

「ふむふむ、再度情報感謝するよ。では門番さん、縁が合えばまた会おう」

 

 

 

 

 

「それでネルさん、結構細かく聞いてましたが、どうするんですか?」

「いや、どうもしないさ。向こうからアクションがあれば多少コミュニケーションは取るかもしれないが、私からは基本なにもしない」

「後なんで名前を聞かなかったんですか?」

「関わる気がないからだね。男女のペアの冒険者なら、そういうことだろうし」

「そういうこととは?」

「多分恋人同時だろう、ってこと。目の前でイチャラブ見せつけられたくないし、下手すりゃあ伴侶の女から嫉妬かいかねない。そんなのは面倒だし間違っても私がアイツ以外の男に目移りしたと思われたくない」

 

適当なエ・ランテルの食事処で食べながらイフと話し合う。主にこれからの方針。

 

「ひとまずの冒険者ランクとやらはゴールド、あわよくばプラチナあたりをゆっくり目指そう。その途中で気さくのいい奴らを見つけれたらそいつらとチームを組んでみるのもいいかもね」

「でもネルさんの実力なら……」

「別に目立ちたいってわけでもないし、縛られるのはごめんだからね。間違ってもアダマンタイトは目指さないよ。それ目指すくらいならパチェや君、他の私とパチェの眷属の精霊や森の賢王達と森とのんびり暮らすさ」

 

アダマンタイトとやらの最上位冒険者には件の漆黒全身鎧にでも任せるとしよう。

 

「ひとまずこの後は冒険者組合に登録、その後適当な依頼を受けてこなしてく。外での約束事、覚えてる?」

「人間を殺さない、ですよね?」

「別に殺してもいいんだけどね。要は私らがやったってバレなければよし。喧嘩売られたら適当にあしらって、ダメならぶちかませばいい。殴る蹴るの方が好きなんでしょ?」

「大好きっす!」

「肉弾戦得意な魔法詠唱者は流石に設定過剰だよパチェ…」

 

キラッキラした目のイフをよそ眼に召喚者のパチェは何してんだろと思う。あのスイーツで割と機嫌戻ってたと思うけど。

 

「ん、ごちそうさま。イフは食べなくて大丈夫だったの?」

「はい!大丈夫です!」

「それじゃいこうか。まずは先にバレアレ薬品店とやらで資金調達。その次に冒険者組合。今日の目標は登録と簡単な依頼を受ける。出来たら仲間も集めれたら最高」

「了解っす!」

 

 

 

 

 

〜バレアレ店〜

 

「どうも、失礼するよ」

 

教えられた場所は、昔で言う老舗のようなものだった。本でしか見たことないけど、本当にそんな感じ。

置いてあるものから見て、道具屋というよりは、ポーションのようなものを取り扱っているぽい。青いポーションとか見たことないけどその辺の価値を知りたいところではある。

 

「はいいらっしゃい。バレアレ店へようこそ。おや、見ない顔だね」

「今日来たばかりだからね。マジックアイテムに詳しい人でこちらを紹介されたんだけれど、見たところポーション屋なのかな?」

「ああそうさ。ワシ以上のポーションに詳しいやつはンフィーレアくらいさね。だがワシは鑑定魔法もあるから多少のマジックアイテムの価値はわかる。場合によっては買い取るのもやぶさかではないぞ」

「それはよかった。ちょっと資金調達するために売りたいものがあるんだが、構わないかな?」

「ええぞい、見せてみな」

 

パチェと予め決めておいた売る予定の指輪をいくつか婆さんに見せる。

中身は神聖属性の微強化だったり、第二位階の回復魔法を使えたりとか、第三位階以下の効力のものばかり。

 

「どうかな?」

 

「これはこれは!久々にお目にかかれたわい!この街の武具屋でもこんなものは中々買えんぞ!」

 

「そう。じゃあ買い取ってくれるってことでいいのかな?」

 

「もちろんじゃ!そうじゃな金貨100枚……いや150でどうじゃ?」

 

「それで構わないよ。仮におばあさんが本来の相場よりだいぶ安く買い叩いていても気にしないからそこは安心してくれ。ああ忘れてた。この店で一番いいポーションを3つほど買いたい。もしマジックアイテムの買取額を上回るならもう少し在庫があるから出せるけど」

 

「充分足りるわい。そうさな、相殺してそっちに渡す金貨は60枚ってとこかの。ついでに他のポーションもいくつかサービスしてやる」

 

「おっ、気前がいい人は好きだよ」

 

お婆さんが色々と準備している間に棚に置いてあるポーションらしき液体を順に眺めていく。

青のポーションが主流なのかな。てことは、ユグドラシルの赤ポーションは出すとめんどくさくなりそうね。

 

「そいや、パチェは今頃何してんだろうね」

「パチュリー様ですか?……多分、本読んでると思います。それか紅茶飲みながら本読んでるか」

「読書は変わらないんかい。こっちの食べ物で何か美味しいのあったら持って帰ろうか」

「了解っす!」

 

「ほら用意できたよ。これがポーション3つ。で、その値段と相殺したあまりのマジックアイテムの買取額じゃ」

「ああ。助かるよ。じゃあ、冒険者組合に行きますか。イフ、これ持っといて」

「わかりましたっ!」

「じゃあねお婆さん。安定して稼げるようになったらここの店を贔屓にさせてもらうよ」

「おお、その時はまた是非ともマジックアイテムを売ってくれてもええんじゃぞ?」

「気が向いたらねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜冒険者組合〜

 

「ま、新参者で豪華な物を身につけてたら絡まれるわな。んでこうなるのも予想通りっちゃ予想通りだ」

「ネルさん、ぶっ飛ばしてもいいっすか?」

「ステイステイ。あんた一応魔法詠唱者でしょうが」

 

冒険者組合で登録はした。が、そのあとはお約束の展開すぎて笑えてくる。

 

柄の悪い数人の男に侵攻方向に足を投げ出されたので避けて通ったら何避けてんだと言われた。

だからその後に堂々と通ったイフが投げ出してた男の足を蹴ってへし折ったんだよ。

 

で、仲間がやられたと言いながら今五人くらいに囲まれてる。

治療はしてあげたんだけど余計にうるさくなっただけでした。

周りをチラリと一瞥してみたけど、誰も助ける気はなさそうだし、どうしたもんか。

 

「何に苛立ってるのか知らないけど、やめときなよ。私は気にしてないけど、イフが何するかわかったもんじゃないから。それにイフが蹴り砕いた足直してやったろ」

「あん!舐めてんのかお前!新参者のガキのくせしてよぉ!」

「話通じないなぁ…」

 

周りの音をよーく拾って聞いてみると、また絡んでるだの女だからいったなだの、懲りてねぇのかねぇなど色々聞こえてきた。

つまりは1回目失敗したから私らにイライラブッパするついでに身ぐるみ剥ごうって魂胆かね?きゃーやだー

 

「何すれば解放してくれるわけ?あんまり騒ぎ大きくして目立ちたくないんだけど。あとそろそろツレがキレるから早くして」

「決まってんだろ。俺らの相手すればいいんだよ」

「相手って何よ。酒飲めないよ私」

「はっは!女って言えば一つしかないだろうが!」

「ああ、体の関係を求めてるのかい?悪いが、私は決めた相手としかやらないと決めてるからね。その希望には添いかねる」

「ごちゃごちゃうるせえよ!」

 

もう半分何言ってるかわからんキレ方で胸ぐら掴もうとしてきたからちょっと一歩引いて避けたら、男の手が何かに引っかかって首がガクンと引っ張られた。

 

「あん?なんだこれ」

 

「……離せ」

 

それを確認した瞬間に発した声は、我ながら結構ドスが効いていたと思う。けれど男は掴んだものを汚い手で触り続ける。

 

「なんだよこれ指輪か?ダッセェ指輪だな。けど売ったらいい金に……」

 

 

その後、床の一部がちょびっとだけ陥没……じゃなくて貫かれたとか。

 







「まあ、なんとなーく予想はしてたわ。目立っても自業自得ってことで。殺してないだけマシだわ」

森の中で魔法を使ってアテナの様子を見ながら紅茶を飲む。うん、イフが止めたからいいけど。

「いつまで見てるの?そろそろ良いかしら」

「そろそろ良いも何も、アポ無しで来たの貴女でしょうが。何度も言ってるけど、私たちはナザリックにつく気はないわよ。もちろん人間側にもね」

「そうじゃ無いの。私は……」

急に訪れてきたアルベドが何を言いたいのか全くわからない。
アインズから引き込むように言われてるのかと思ってたけど違うみたいだし。

「もう良いわ。この際腹を割って話しましょう。で、そこまでして私たちに固執する意味って何よ」

「アインズ様は至高の御方々をとても大事になさっているわ。だからこそ、アテナ様にもいつか戻ってきて欲しいと願っているわ。私は悲しむアインズ様は見たく無いのよ。だから例え命令違反だとしても貴女達を説得しにきたの」

「アテナはともかく、私を大事にしようとする意味がわからないわ」

「貴女はアテナ様が創造された。だからアインズ様にとって貴女もナザリックの仲間よ」

その後しばらく話をしたけれど、頭がいいのかボロを出す気配はない。
もうこうなったら……。

「じゃあ最後に二つだけ質問に答えなさい」

「ええ」

「ナザリックの最終目標って何。それが仮に世界滅亡させるとかってなるとかなり話し変わってくるんだけど」

「そんな野蛮なことをするとでも?私たちの最終目標は世界征服よ」

「……それは貴女達が考えたの?それともアインズが?」

「アインズ様がおっしゃったのよ」

「あっそう。じゃあ最後の質問。----------」







「じゃあ、いい返事を待っているわ。パチュリー・ノーレッジ」
「二度と来ないで欲しいわ。いい返事は期待しないことね」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

祝ー冒険者引退でございます(活動期間0日)

「ねえ?ねえねえねえ?その汚い手で何触ってんのさ。おい、なんか喋れよゴミ。おいこら何か言ったらどうだ?あ?」
「ネルさん、死んじゃうっす」
「知るか死んでも良いよこんなゴミ。力量の差もわからず挙句の果てにこの指輪を売り払うだ?好き勝手言ってくれやがって。死すら生温い地獄見せてやろうか?あ?」

アテナは何度も何度も頭を持って床に打ち付ける。
もう相手は既に気絶しているがそれでも構わず続ける。

イフはそんなアテナが怖くてなかなか止めに入れなかった。

と、そこでとあることを思い出したのかアテナに向かって囁く。

「アテナ様アテナ様。パチュリー様からです。アテナ様の描いた小説、大衆の前で朗読する、と」

「(ピク)」

それを言った瞬間アテナは綺麗に止まった。そして我に戻ったかのように自分の掴んでいるものとイフを交互に見ていた。

その数瞬後に掴んでいたものをパッと離した。人間の顔がまた地面に落とされたが、イフはそれには目もくれずアテナをじっと見ていた。

「……大変申し訳ありませんでした」

そして周りに聞こえるように、しかしできる限り小さな声で謝罪をした。


「しまった。死んで……は無いみたいだね。うん、よしっ。んでだ、まだ私に文句あるやつは?」

 

床にめり込んだ男を放置して周りを見渡すと全員引いていた。

 

当たり前っちゃ当たり前か。

 

「そんじゃイフ、依頼受けてみようよ」

「わかったっす!」

 

私が通ろうとするとモーセの海割りの如く人が避けていく。

こりゃパーティを組むと言うのは期待できなさそうね。

 

「……私たちのランクって一番下、だっけか。えーと……薬草採集、集めれば集めるだけ報酬を、か。これにしようかな。イフは?」

「ネルさんと同じものを!」

「はいよ。受付は……」

 

「あ」

「あ」

 

 

 

受付に行こうとしたら、すっごい見覚えのある人?を側に控えさせてる全身甲冑の大剣を2本担いでる奴と目が合った。

 

 

 

「……イフ」

「はい?」

「撤退準備」

「え?」

 

「あの、申し訳ない。少しだけ時間をいただきたい!」

「え?あ、は、はい」

「ナーベ、ついて来い!」

「ハッ!」

 

 

転移(テレポーテーション)……は目立つからアウト。とりあえず街の外にいってから考えよう」

「わかりましたっ!」

「あの付き人の相手をもしかしたら頼むかもしれないから、それだけ頭に置いてて」

「承知したっす!」

 

「あの!ちょ、待っ……」

「モモ……ンさん、私がライトニングであのゴミムシを撃ち落としましょうか」

「ダメだ!今はとにかく追いかけるぞ!」

 

 

街の外に出て辺りを見渡す。幸いにも今は冒険者達はいない。

 

 

「アテナさん!」

 

「……外でその名前で呼ばないでくれる?」

 

「えっ、あっ、すいません」

 

これ逃げれないな。さてはてどうしたものか。

 

「モモンガ……じゃなくて今はアインズだっけ」

 

「外では俺はモモンです。アテナさん……じゃなくて、えーと……」

 

「……まあいいか。君とは行動をする気はないし。私は外では『ミネルヴァ』。こっちの子がイフ。まさか入口で聞いていた漆黒の全身鎧が君とは」

 

「俺も騒がしかった理由がまさかネルさんだとは」

 

「って世間話をしたいんじゃない。モモン、私に何の用?反射的に逃げてしまった私も私だが、お前もお前で反射的に追った、とか言うなよ?」

 

「……」

 

「図星なのか」

 

「いえ、その。そりゃアテナさんいたからアテナさんと共に冒険者業やれたら、とは思いましたが」

 

「だろうとは思った。悪いけど私はまったりライフをしたいだけなんでね。君と共に動くといやでも目立ちそうだからお断り」

 

「目立つに関しては人のこと言えないでしょう⁉︎」

 

そりゃそうか。何はともあれこいつらと動く気にはなれん。

 

ピピッ

 

メッセージ?誰からだ。

 

「モモン、ちょっと連絡が来たから少しだけ時間くれ」

「ええ」

 

メッセージに出るとパチェなことがわかった。

 

『アテナ、今いい?』

「……?まあいいっちゃいいけど。緊急?」

『ええ』

「OK。ちょっと待ってて。すぐにメッセージし直す」

 

パチェとの通話が終わり、モモンに向き直る。

 

「モモン、少し事情が変わった」

 

「と言うと?」

 

「パチェが緊急事態らしくてね。いまから戻る」

 

「それなら俺も」

 

「ややこしくなるから却下。そら、お前仕事受けてたろ。さっさと戻ってやれ」

 

「‥‥わかりました。ただその前に一つだけ。最後にお聞きしたいことが」

 

「?」

 

「今日俺たちに話しかけてきた冒険者がつけていた指輪が明らかに魔法の効力のかかった指輪でした。マジックアイテムを持っている事自体が珍しいはずの銀級の冒険者が、です」

 

「ほーん。その辺は勉強してんのな。で、何が言いたいよ」

 

「詳しく話を聞いてみると『神話の名前をもじった森の精霊に渡された』。そうれだけ言われました」

 

「で?」

 

「それに関してはどういう意図があるのかお聞きしたいんです」

 

「意図も何も、始原の精霊による気まぐれ。それじゃダメなのかい?君だって気まぐれに殺し気まぐれに生かし気まぐれに協力する、そんな時だってあるだろう。それに、あの人間たちに渡した指輪は精々第2位階だか第3位階のバフ系統の魔法しか込められてない。そんな大事になるとは思えないけど?」

 

「……では、私がその冒険者たちを利用しても?」

 

「お好きにどうぞ。できれば生かして欲しいけれど絶対じゃない。私は外での君の活動に異を唱える気もなければ関わる気もないからね。所詮私は息抜き程度のお遊びなんだから。……それよりも、イフと君んとこの付き人がすごい喧嘩しそうなんだけど」

 

横を見ると今にも殺し合いしそう。

イフのレベルって60とかじゃなかったっけか。

 

相手も同じレベルくらいぽいし、いい勝負しそうだから眺めてみたいけど事後処理の方がめんどそうだ。

 

「ああ、うん。そうですね。ナーベ、その辺にしておけ」

「はいはいイフもステイステイ」

 

「ですがモモンさ……ん。このゴミムシが……」

「でもネルさん!こいつが……」

 

「私のために怒ろうとしてくれるのは嬉しいが、これ以上私の顔に泥を塗ろうとするんじゃない」

「何言われたか知らないけどステイ。それよりもイフ。パチェが何か緊急の用事があるぽいから先に帰ってて」

 

ここまでしてようやく2人が渋々喧嘩をやめた。

 

「……もしかしてだけど、ナザリックのNPCみんなあんな感じ?」

 

「……」

 

「了解わかった。私の子達にも注意喚起しとく。君らと争いになっても面倒だし。そっちも注意喚起しといてよ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜トブの大森林〜

 

「ただまー」

「おかえり。早速だけど」

 

植物でできた椅子に座り、イフは見回りに向かった。

 

「用件っていうのは接触して来られたから」

 

「誰が?」

 

「まず1人はナザリックの守護者統括・アルベド」

 

「守護者統括……ああ、一回だけ見たことあるような。それで?」

 

「詳しい事は分からないけどね。アインズが悲しむから戻ってきてほしいと。他の守護者達もアテナ様と話したいと思ってるから帰ってきてほしいだって」

 

「うん待って。パチェ、今後間違っても私を様付けしないで。なんか、うまくいえないけどすっごい悪寒する」

 

「ぶっ飛ばすわよ?」

 

「よし戻った」

 

「はぁ……。まあ表向きの理由はそれらよ」

 

「表向き?」

 

「どっちかというと接触してきたのはこっちが主な理由、だと思う」

 

「というと?」

 

「確証はないけど、アイツ相当なメンヘラ女よ。しかも立場が相当上だから余計タチが悪いタイプの」

 

「うわぉ言い切った」

 

「アイツにとって大事なのはアインズとナザリックシモベ達であって、それ以外はどうでもいい。むしろアインズの元仲間達に関しては嫌悪すら抱いてる。そんな印象だったわ」

 

「じゃあ余計行きたくないわ」

 

「接触してきたのはアインズがあなたを娶る、もしくはあなたがアインズを奪うんじゃないかって気が気でならなかった、だから確認したかった。そんなところかしらね。直接聞き出せたわけじゃないから確証はないけど」

 

「んじゃあ次来たら言っといて。んな骸骨には微塵も興味ない。私の(ツガイ)は後にも先にも1人だけ、って」

 

「それを言ったら言ったで『アインズ様になんてことを!』って言いそうねぇ」

 

「それしてきたら私とアインズの仲が決裂する可能性あるからそんなことはしないでしょ。で、その守護者統括に関して他には?」

 

「これくらいね。で、2人目の接触者に関してだけど。リグリットって覚えてる?」

 

「ああ、レイ……じゃなくてユウを連れてきていた」

 

「リグリットがスレインのことで私たちに聞きにきたのよ」

 

「あっそう。で、なんて返したの?」

 

「詳しいことはアテナが帰ってきてから話すとだけ伝えたわ。で、場合によっては私たちとやり合わなきゃいけないかも、だってさ」

 

「ふーん……そりゃ御大層なことを。来たもんはしょーがない。次来た時は私が対処するよ。それ以外は?」

 

「特に無し。他侵入者もいないわよ」

 

「そりゃよかった。……あ、そうそう。冒険者になりに行くのしばらくやめる」

 

「全部見てたから知ってるわよ。とんだ偶然もあったものね」

 

「全くだよ」

 

「それはそれとして、目立つまで早かったわね」

 

「うぐっ……。そ、それはそうと他何かある?ないなら私はゆっくりするよ」

 

「そうねぇ。最近新しい茶葉を育て始めたから出来たらまたお茶会しましょう」

 

「いいねぇ。じゃあ期待して待ってるよ」

 

 

 

 

 

〜数日後〜

 

「ふぁあ……おはよう」

「おはよう。先に水浴び?それともご飯食べる?」

「水浴び……」

「そう。じゃあタオルとかまた運ばせておくわね」

「まかせた……」

 

日が昇ってはや5時間ほど経った頃、ようやくアテナが起きてきた。

そのまま綺麗な金色の煌びやかな髪がかわいそうなくらいボッサボサの髪をかきながらアテナは水辺へ向かった。

これは炎精霊も行ってもらうべきかしら。

 

それが終わった頃に根源の風精霊が近づいてきた。

 

「……」

「え?また誰か来たの?」

「……」

「ナザリックの?誰が来たの?」

「……」

「ダークエルフ。となるとアウラかマーレのどっちか。要件は聞いてる?」

「……」

「森の賢王に用事?何のために」

「……」

「そう。なら直接聞くまでよ。そのダークエルフにここまでくるよう伝えて」

 

風精霊が来た方へ戻っていく。さて……と。

 

「森の賢王家族の誰か、できれば親のどっちかを呼んできてちょうだい。できる限り急いでね」

 

中位精霊達にお願いし森の賢王を呼びに行ってもらう。

さてどうなることやら……。

 

 

 

「パチュリー殿!お待たせしたでござる!」

「パチュリー、きたよー」

 

ちょうど森の賢王家族の母親(初めから森にいた方)とダークエルフ……アウラが来た。

 

「で、何の用?くだらないことだったらすぐ帰ってもらうわよ。ナザリックにも私はいかない」

 

「違うっての。今日はちゃんとしたお仕事。森の賢王っていうのに用事があってね」

「わ、我輩でござるか⁉︎」

 

「だからその用件を聞いてんのよ」

 

「アインズ様が冒険者として名声を得るために森の賢王に喧嘩売りたいってこと。でも森の管理ってアテナ様やパチュリーがしてるじゃん?それにもし仮にこれでアテナ様を怒らせたらって思ってのことだと思うよ」

 

「わ、我輩と喧嘩でござるか⁉︎」

「……」

 

んなこと死ぬほどどうでもいいんだけど。

 

「ただい……なんでナザリックが来てんの」

「アテナ様!」

 

そこへちょうどよくアテナが水精霊と炎精霊を連れて帰ってきた。

 

てか上半身シャツ一枚はやめなさいよ。はしたない。

アウラを見るや否や嫌そーな顔を浮かべていた。

 

「たっく、最近訪問者が多いことで。で、何事?」

「アインズが冒険者として名を馳せたいから手始めに森の賢王とドンパチしたいって」

「ふーん……で、賢王さんはどする?」

「わ、我輩は姫達を守り共に在ると決めてる故……。あ、でも我輩の(ツガイ)は戦いたがるとは思うでござる。ああ見えて結構ヤンチャで怖いもの見たさでござるから」

「……。それって負けたらどうすんの」

「我輩達は負けたら相手に従うと決めてる故。今もやることがないからと我輩のやることに付き合ってもらってるんでござるよ。それに、パチュリー殿には家族一同とても良くしてくれた故……」

「だそうです」

「森の賢王がいいなら好きにさせたら?」

 

森の賢王のツガイに好きにさせると決まり、アテナ共々アウラへ向き直る。

 

「と、いうわけで。やるならこいつのツガイになる。前パッと見たけど強さ的には遜色はないはず。いつどうするのかアインズに聞いてそれからまた戻ってきて」

 

「わかりました!……あ、あの、それとアテナ様」

 

「なに」

 

「そ、その……マーレや他の守護者やメイド達もアテナ様に会いたがってて……」

 

「一回でいいからナザリックに来てくれって?」

 

「は、はい……」

 

「じゃあ伝えといて。暑っ苦しいから嫌だ。会いたいなら一人で来いって」

 

「……っ!はい!」

 

会いに来る分は良いのね。それをアウラも感じ取ったのか嬉しそうな顔をして勢いの良い返事をしていた。

 

「それではアインズ様へ御報告をするので失礼します!」

 

アウルが消えた後にアテナが大きなあくびをする。

 

「ふぁぁ……それじゃあ私は、寝るよ。何かあれば起こして」

「ニートじゃないの。冒険者業はどうしたのよ」

「引退」

「早すぎるわよバカ」

 

そりゃ外だとアインズと会う可能性高いからわからなくもないけども。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。