元モンド最強騎士はそろそろ彼女を作りたい (白琳)
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ACT.ORIGINAL
プロローグ


今、自分がハマっている原神の二次創作を勢いだけで執筆しました!最後まで読んでいただけると嬉しいです!


モンドが風魔龍の脅威に晒されるようになった頃から数年前、西風(セピュロス)騎士団には『モンド最強』、『モンドの守護者』、『英雄ヴァネッサの生まれ変わり』などと謳われる騎士がいた。

 

その名は雷鳴(らいめい)騎士・アレン。

 

彼は幼少時、モンドにとって忌み嫌われる名前を持つ事から貧しい生活を強いられていた。しかし偶然か必然か、彼はある人物との出会いによりその名前を捨て、現在代理団長を務めるジン、その妹であり、西風教会の牧師兼アイドルであるバーバラの義兄となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

グンヒルド家の一員となって数年後、彼は西風騎士団に入った。元の名前を知る騎士や住民から騎士団を辞めさせるよう反対されたり、罵声を浴びせられる事もあったがそれを彼は受け入れ、乗り越えた。

そして天性の強さと努力から生まれた実力、モンドの脅威を幾度も振り払った功績、モンド中から得た数多の信頼──────それらにより、彼はモンド最強の座へと辿り着いたのだ。

 

だが若くも最強へと登り詰めた彼に嫉妬の目を向ける者は少なからずいた。しかしそれをかき消す程に彼を信頼する者は多くいた。

 

西風騎士団に命を救われ、恩返しにと偵察騎士小隊を作り、自ら騎士達を訓練・引率した偵察騎士アンバーの祖父。

 

幾多の戦いを共に潜り抜け、西風騎士団に失望するまで彼を戦友と呼び、今尚も交流を続けているアカツキワイナリーのオーナー、ディルック・ラグヴィンド。

 

義兄でありながらも本当の兄のように慕い、アレンとヴァネッサに憧れを抱いて騎士となり、自分も兄達のようになりたいと彼らを目指し続けるジン・グンヒルド。

 

他にも大団長ファルカや冒険者協会からも信頼を得ている彼は次期副団長候補とされていた。しかしアレンはその申し出を迷いもせず断り、ただの西風騎士であり続けた。その理由をファルカに尋ねられた時、アレンは屈託のない笑顔で答えたと言う。

 

 

 

「俺も自由にやりてぇんだよ、大団長。だから地位なんていらねぇ。自由こそがモンドの象徴、そうだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが──────アレンがモンド最強の座に居続ける事はなかった。何故なら彼は……──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、リサが知ってる人で誰かいねぇか?俺と付き合いたいって人」

「……突然来たと思ったら何の話?それとそのクッキー、食べないでもらえるかしら」

 

西風騎士団本部の休憩部屋でアフタヌーンティーを楽しんでいた図書司書、リサは怒っていた。顔は微笑んでいるが、目が笑っていない。頬がぴくぴくと動き、怒りの爆発は程遠くないだろう。

ノックもせずにドアを開け、こちらに歩いてきたかと思えばもう一つ用意してあった椅子に座り、さらには許可無しにアフタヌーンティー用のクッキーを食べる始末。

 

ここまでやられて制裁を加えないのは、仮にも彼が元西風騎士にして元モンド最強、そして年齢は違えど自分の同期だったからである。でなければ、今頃彼……アレン・グンヒルドは黒焦げになっていたに違いない。

 

「えー、いいじゃねぇか。このクッキー、どうしたんだ?」

「……私が焼いたのよ」

「へぇ、お前が料理ねぇ!……うん、すげぇうめぇじゃん。初めて食ったな、こんなうめぇクッキー」

「そ、そう。それは……ありがとう」

 

目の前で自身が焼いたクッキーを本当に美味しそうに食べるアレンを見つめるリサ。先程まで抱いていた怒りの感情は、彼からの言葉により消え失せたのだった。

 

「あ、わりぃ。ほとんど食っちまった」

「はぁ……貴方に礼儀というものはないのかしら?突然入ってきて人様の物を食べるなんて非常識よ」

「だから悪かったって。今度、土産に何か持ってきてやるから許してくれよ」

 

つまり今回は持ってきてないのね、と心の中で呟くリサ。別に期待していなかったけれど、とも思っていた。

 

「もうそれでいいわ。それでさっきの話、どういう事よ?」

「どういう事って?」

「そのままの意味よ。急にどうしたのよ……私に貴方と付き合えそうな知り合いがいるとかいないとかって」

 

表面上は冷静を装っているリサだったが、実際は心の中で汗をダラダラと流していた。

 

──────アレンが誰かと付き合うですって?しかも私に紹介してもらいたい?……本当に、鈍感過ぎるんじゃないかしら。私も、()()()()も苦労するわね。

 

「俺ももう20過ぎただろ?彼女でも作って母親を安心させようと思ったんだよ。血筋は引いてないが、俺が長男だしな」

「まだいいんじゃないかしら?ディルック様やガイアだって独身よ」

「あの兄弟はどうだっていいんだろ、そういうの」

 

3年前。まだ騎士団に失望せず、ディルックが西風騎士として活躍していた頃、彼は完璧な紳士と周囲から思われ、自信と笑顔が溢れる姿に誰もが惹かれていた。特に女性には年齢関係なく絶賛人気だった。

 

まぁ、あの頃でも色事にはさっぱり興味なかったけどなー、と在りし日の戦友を思い出しながらアレンは呟いた。

 

「誰かいてくれたらいいんだけどな、俺の事好きな人。男は憧れるもんだぜ、そんな運命に」

「……意外と近くにいるんじゃないかしら?例えば貴方の──────きゃっ!?」

 

貴方の目の前にとか、と言おうとしたリサだったがアレンが突然立ち上がった事に驚いた彼女はその先を言えずに、可愛らしい小さな悲鳴を上げてしまった。

 

「マジか!?俺の近く……よっしゃ、片っ端から聞いてみるか!さんきゅっ、リサ!あとご馳走さま!」

 

そう言って駆け出し、部屋を出ていくアレン。数秒後、唖然とするリサの耳に「アンバー!俺の事好きだったりするか!?」「ぶふっ!?な、何言ってるんですかアレン先輩!?」「に、兄さん!?突然何を言い出してるんだっ!?」などという声が団長室から聞こえてきたとか。




誰をヒロインにするかはまだ決めてませんが、女性キャラは全員出したいです!(一人とは言ってない)


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第1話

元西風騎士である雷鳴騎士・アレンが()()()()()()()()()()()()()()()事はモンドの民にとって周知の事実であり、同時にモンド七不思議に入っている話の一つだ。

 

……何故その話が不思議なのか?

 

ディルックが騎士団を抜けてから約1年後。本人は嫌々ながらもアレンが次期副団長候補に選ばれた頃。

 

ある日の、大雨だった夜。大聖堂へ突然右腕を肩からまるで斬り落とされたかのように失い、気絶しているアレンが担ぎ込まれた。彼を運んできたのは義妹のジンであり、まだ副団長ではなかったとはいえ彼女もずぶ濡れで、相当取り乱していたとシスター・ヴィクトリアは語った。

 

今も、そして当時も既に親子関係はなく血も繋がってないが、大切な息子の危機に西風教会の主教、「払焼の枢機卿」サイモン・ペッチともう一人の義妹にして牧師バーバラも駆け付けた。彼らを中心とした治療者の懸命な努力により、アレンは一命を取り留めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジン……教えてくれないか?あの日、一体アレンに何があったんだ?」

「…………」

「……はぁ。今日も駄目か」

 

サイモンは閉じられた娘の部屋のドアに問いかけるが、中から答えは返ってこない。この日は三度目の問い掛けを最後に彼は諦め、元妻であるフレデリカに声を掛けて大聖堂へと帰っていった。

 

あの日からジンは自室に閉じ籠ってしまい、両親や妹からの問い掛けにすら答えなくなってしまった。食事はドアの前に置いておけばいつの間にか食べ終わった状態で戻ってきているのだが、姿を見せてくれない事には誰も安心できなかった。

 

 

 

 

「…………」

 

ベットの上でジンは体育座りをして膝に顔を埋めていた。かつて綺麗だった部屋は彼女が暴れた事によって散らかり放題であり、着ている服も変えてない事から少し臭い、ほどいた髪によって彼女の表情は周りからは見えない。

 

「何で……兄さんは……っ」

 

アレンを一番近くで見ていたのはジンだった。英雄ヴァネッサと兄アレンに憧れ、西風騎士見習いとなった彼女は早く兄の隣に並び立とうと、そして人々の為に強くなりたいと人一倍、いや、三倍は頑張った。

そして彼女はその頑張りと強さを大団長に認められ、短期間で西風騎士へと昇格できた。

 

騎士団を率いる大団長ファルカ、モンド最強を誇る雷鳴騎士アレン、最年少の騎兵隊長ディルック──────西風騎士となっても目指すべき目標は多く、ジンはもっと強くなりたい、兄さんやヴァネッサ様のようになりたいと願い、様々な任務へと赴いた。

もちろん優秀な兄と比べられなかった訳ではない。アビス教団によるモンド襲撃を阻止し、ヒルチャールの軍勢を討伐するなどを成し遂げてきた兄と比べ、妹はグンヒルド家の血を引いてるにも関わらず平凡な力量しか持ち合わせていない。

 

彼女は怖かった。いずれ兄からダメな妹と言われてしまうのではないかと。お前はヴァネッサにも俺みたいにもなれないと言われてしまうのではないかと。

そんな実際はありもしない事を考えている時だった──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

何故こんな事になってしまったんだろう?私はそう思わずにはいられなかった。

 

「Ya!Ya!」

「Geba!Sisiba!」

「Da!Da!!」

 

私と他の西風騎士達を取り囲む大勢のヒルチャール達はもう何十体と倒したのに減る様子が見られない。それどころか、最初よりも増えているようにも感じられた。

 

 

 

 

騎士団本部に偵察騎士からある報告が入った。モンド城から離れてはいるものの、規模が大きいヒルチャールの集落が発見されたと。それを聞いた大団長はすぐにディルック隊長に指示を出し、その集落を破壊する為の部隊が編成された。

ディルック隊長を始め、優秀な西風騎士数十名に加えて私や同期であるガイアもその部隊に選ばれた。兄さんも選ばれるはずだったが、タイミングが悪く他の任務へ出向いていた為に選ばれる事はなかった。

 

私はこの戦いでさらに強くなってみせると決意していた。周りに実力を認めさせ、兄さんに一歩でも近付きたいと思っていたのだ。

 

しかし──────

 

「何だ、この数は!?」

「ヒルチャールが何故こんなに……?」

 

私やディルック隊長、他の西風騎士達もヒルチャールの集落の異常な大きさに驚愕した。確かに偵察騎士からの報告通り、規模は大きいがおそらく過去最大と言ってもいいだろう。ただのヒルチャールだけでも50体以上、暴徒さえも約20体はいる。しかもシャーマン達により岩の柱や茨の壁が築かれ、侵入は困難を極めると思われる。

 

「アビス教団が何かを企んでるのか……?」

 

アビス教団……人類に対して悪意を持つ怪物達であり、ヒルチャール達を指揮している謎の集団。私はあまり遭遇した事がないものの、非常に厄介な敵と認識している。

 

「……エリック。すぐに騎士団本部に戻って大団長にこの状況を報告し、援軍を連れてくるんだ」

「た、隊長達はどうするのですか?」

「僕達はここで奴らの動きを見張っている。この規模だ、おそらくモンド城に総攻撃を仕掛けるつもりなんだろう。その前に何としてでも潰さないと」

 

……確かにディルック隊長の考え通りならモンド城に住む人々に被害が出る可能性は高い。西風騎士団が応戦してもこの数を相手にしながら人々を守るのは無理だろう。

 

「分かりました……必ずこの事を大団長に伝え、戻ってまいります!」

「ああ、頼むぞ。ヒルチャールに気付かれないようにな」

 

ディルック隊長の指示通り、ゆっくりとした動きでこの場を離れていくエリック。しかしここからモンド城まで全力で走っても40分はかかるはず。それまでの間、ヒルチャールに気付かれず、尚且つ奴らを見張らないといけないのか……。

 

「よし……僕らも一旦ここを離れるぞ。高台から見張れば、奴らから気付かれにくいはずだ」

「はっ」

「分かりました」

 

それぞれがゆっくりと動き出し、この場を離れようとする。私も他の騎士達と同様にヒルチャールに気付かれないよう移動を──────

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤパキ。

 

「っ!!?」

 

私……なのか、他の誰かなのかは分からない。しかし誰かの足が不幸にも枝を踏み、しかも折って音を立ててしまったのは紛れもない事実であった。

 

「まずいっ……」

「Ya!Ya!」

「Geba!Babasu!」

 

ディルック隊長がそう呟くのとあの大勢いたヒルチャール達が一斉に襲いかかってくるのは、ほぼ同時の事だった。

 

 

 

 

 

「あがぁっ!?」

「ごふっ……」

「ナルパ先輩!アテーム!くそっ……」

 

私と共に戦っていた西風騎士2人が大型ヒルチャール……通称暴徒の一撃により沈められ、地面を転がる。苦しそうにゲホゲホと咳をしてる事から命を落としていないのは確かだが、あのボロボロの状態で動けるとは思えない。これで残っている動ける騎士は私とディルック隊長、ガイア、そして他に二人の騎士だけだ。

 

「っ、がっ!?」

「ガイア!!」

 

ヒルチャールが放った矢による一斉攻撃を受け、血反吐を吐きながら膝をつくガイア。彼を守る為に二人の騎士が駆け付けるが、この状況で誰かを守りながら戦うのは危険だ。共倒れになりかねない。

 

「ディルック隊長、このままでは……!」

「分かってる……!」

 

本来なら指揮を出さないといけないディルック隊長は暴徒を6体も相手にしつつ、さらには倒れている騎士達を守っている。それに精一杯で私達に指揮を出す隙が作れないのだ。

 

「っ……!!」

 

私に……もっと力があれば。兄さんやヴァネッサ様のような強い力があれば敵を倒し、みんなを守れるというのに!

 

「Gaaaaaa!!」

「っ、しまっ──────」

 

暴徒が持つ炎の斧。それが自身の力の無さを責め、周りから意識を外してしまった私に迫ってくる。避けようにも時既に遅く、防ごうにもあんなのをまともに受け止められるはずがない。

 

ディルック隊長やガイアの私を呼ぶ声が聞こえてくる中、私は体を襲うであろう激痛に耐えようと反射的に目をつぶってしまい──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────相手が前にいるのに目をつぶってどうするんだよ?」

 

しかし痛みはいつまで経っても来ず。聞こえてきた声に目を開ければ、すぐ目の前で暴徒が振り降ろした斧が止まっていた。

 

「っ!?」

「危機一髪だったな、もうちょっとで頭かち割られてたぞ」

 

視線を横に向ければそこにいたのは西風騎士の一人。だがその強さはモンド最強と謳われ、私が目指すべき目標の一人でもある存在。

 

癖っ毛のある銀髪、騎士団の鎧を着ず動きやすさに特化した守りの薄い服、片手に持つ西風大剣、腰にぶら下がる紫色に輝く神の目──────

 

斧の棒部分をなんと片手で掴み、止めてしまってる兄さんの姿がそこにはあった。

 

「に、兄さん……何故ここに?」

「おう、お前の兄ちゃんだぞ~?まぁ、説明は後でな。にしてもよくこんなにヒルチャールが集まったもんだな!」

 

辺りを見渡しながらそう言う兄さんだが、その間も片手で掴んでいる斧は暴徒がいくら力を込めようとびくともしない。足に力を入れ、地面に微かな亀裂が入ろうとも、だ。

 

「……妹に怖い思いさせやがって。失せろ」

 

低く言う兄さんの神の目が輝き、媒介にした足に雷元素が纏わりつく。私が近くにいる為か放出を最小限にしているらしく、周囲をピリピリとした感覚だけが襲っていた。

 

そしてほんの瞬きの一瞬──────振り上げられた足が斧をへし折り、蹴りを受けた暴徒は稲妻の如き閃光と共に遠くの大木まで吹き飛んでいった。

 

「っ……!」

 

雷極術(らいごくじゅつ)雷脚(らいきゃく)──────兄さんが使う技にして基本技の一つ。兄さんとの任務同行がまだない為にまともに見た事はほとんどないが、噂によればあの技一つでも本気で放てば遺跡守衛や岩兜の王すらも圧倒できると聞く。

 

「ジン、お前は怪我人を集めて下がってな。あと、重傷者の手当ても頼むぜー」

「兄さんは何を……?」

「おいおい、何言ってんだ。お前の兄ちゃんはな──────モンド最強なんだぜ?」

 

西風大剣を構え、弾けるように消える兄さん。そして次の瞬間には遠くにいるヒルチャール達が訳も分からず吹き飛んでいた。

 

「…………」

 

多分、きっと……いや、絶対にそうだ。兄さんは任務を終えて本部に戻り、エリックからの伝言を聞いて駆け付けたんだろう。

 

4()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……分かってる。大団長やディルック隊長はともかく、兄さんは次元が違う。いくら強くなっても辿り着ける事のない、絶対的な存在。

 

それでも私は、兄さんに──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……んん……?」

 

ここは……?そうだ、確か昨日は色々な依頼が舞い込んできたんだ。24時までにモンド公共施設評議報告書を、1時までに来週の冒険者協会との報告会議で使う書類のまとめ作業を終わらせたはず。それから3時までに風魔龍による被害報告の書類を確認して、それから……?

 

「っ!!?」

 

しまった!自身の体調不良を言い訳にする気はないが、不覚にも眠ってしまったか!まずい、まだ確認する書類が残っている上に、早朝の内に終わらせるはずだった城外での依頼が──────

 

「……?」

 

そこでふと自身に掛けられてる謎の重さに気付き、それに触れる。それは普段、私が仮眠用にと使っている毛布だった。しかし今日、私がそれを使用した記憶はない。ならば一体誰が……?

 

「よっ、おはよーさん。ちゃんと寝れたか?」

「えっ、に、兄さん……?」

 

視線を声の主へと向けると、本棚の近くに置いてある椅子に座って本を読む兄さんの姿があった。私が起きた事を確認すると近くに置いてあったレストラン・鹿狩りの袋を持って近寄ってくる。

 

「ほい、朝飯。漁師トーストと満足サラダでよかったか?」

「あ、ああ。ありがとう……いや、それよりも!早く残ってる仕事を……!」

「ん」

 

慌てる私に兄さんは突然何かを突きつけてきた。それはモンドの民から寄せられた依頼書の束であり、受け取ってみればどれも城外でのものであった。

 

「それは全部片付けてきてやった」

「……えっ、ぜん……えっ?」

「だからお前はゆっくり書類の整理でもやってろ。つかそれ以前にちゃんと寝ろ、その生活リズムだとまた倒れるからな。あんま兄ちゃんに心配させんな」

 

そう言って兄さんは団長室を出ていく。……寝落ちしてしまうまでこの依頼書は私が管理していた。つまり私が寝てしまった後に兄さんはここを訪れ、この依頼を全て終わらせてきたという事だろう。

 

「どうやら……私はまだまだ兄さんに頼りっぱなしみたいだな」

 

実力を認められて蒲公英(ダンデライオン)騎士の称号を授かっても。小隊隊長から副団長、そして代理団長になっても。まだ兄さんには追いつけそうにない。

 

だがそれでいいんだ。私にとって兄さんは目指すべき目標であるが、越えるべき目標ではない。

そして何より……兄さんには誰よりも強く、尊敬できる唯一の兄でいてほしい。

 

「ありがとう、兄さん」

 

私はそう呟き、兄さんが掛けてくれた毛布をギュッと掴んだ。




原神やってて思ったこと。

テイワットにも曜日ってあるのかなーと思いました。もしあるなら、元素も7つありますから何か関係するんですかね。火曜日→炎元素、水曜日→水元素みたいな感じに。


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第2話

久し振りの原神、更新です!今回のメインは火花騎士、クレーです!


昔、俺はある出来事から利き腕を失い、その怪我を機に西風騎士団を抜けた。多くの騎士から残ってくれと呼び止められたが俺の決心は固く、顔を縦には振らなかった。

だが騎士団を抜けたのは怪我が()()()()()()()()()。それは表向きの理由であり、実際には色々と理由があったりする。

そしてその後、俺はモンドの象徴の言葉に因んで“自由の旅“と称し、この国を出た。2年間もの間、世界を回って七国を巡ってきたのだ。まぁ、その時の話はいずれ話すとして、だ。旅を終えてモンドに戻った俺は冒険者となった。やる事は騎士団と似てるがこっちの方が割と自由だし、騎士団にいた頃より快適かもしれない。……手に入るモラは大分少ないが。

 

「おはよーさん。なんか依頼あるか?」

 

早朝に冒険者協会モンド支部の受付係であるキャサリンに依頼を尋ねる。ここにはモンドの人々が困り事だったり、城外で発見したヒルチャールの集落の破壊などを始めとした様々なものが依頼として集まるのだ。

 

「おはようございます。そうですね……今はこのような感じでしょうか」

 

そう言って俺に依頼書を見せてくるキャサリン。ヒルチャールの巣の破壊に清泉町までの荷物の配達、宝盗団の捕縛、変わったヒルチャールの調査手伝い、武器屋からの鉱石集めの依頼……結構あるが、全部やっても頑張りゃ半日で終わるもんばっかだな……ん?

 

「何だこりゃ?」

 

数多くある依頼書の中から俺は気になった依頼者を一枚手に取った。依頼主はジョセ……ああ、酒場にいるあの吟遊詩人か。

 

『ここの所、突然湖が爆発したり草原が焼き払われたり奇妙な出来事をよく見る。火スライムでもあんな真似は出来ない!たまに見掛ける赤い服の少女が何か関係があるのかも……とにかくこのままじゃ気になって夜も眠れない!誰か真相を突き止めてくれ!』

 

「…………」

 

たぶん……クレーだろうなぁ。まったく、アルベドの教育が行き届いてないんじゃないか?まぁ、同じくあの女から頼まれてる俺が言える事じゃないが。もっと言えばちょっと前に一緒に悪ふざけしてジンやアルベドに飽きられた俺に言う権利などないが。

 

「どうしたんですか、アレンさん?」

「いやぁ……元職場にいる問題児が迷惑掛けてんなぁ、と」

「?」

 

主に本部にいる時はアルベドが、外にいる時は俺がクレーの面倒を見ている。つってもクレーの外出時に毎回傍にいられるわけじゃないし、そもそも俺が仕事で外にいる時に偶然会う事だってある。

 

……まぁ、あの母親と比べればクレーの起こしてる事なんてまだまだ幼稚レベルだ。実験の失敗で暴走させた遺跡守衛50体の討伐や、山をいくつか吹き飛ばそうとしたあの女を止める為に3日3晩追いかけっこをした事なんかと比べれば軽い、軽い。

 

「キャサリン。この依頼、全部受けるわ」

「はいっ……って、ええぇっ!?」

 

さてさてさーて……説教はジンがするだろうし、俺は依頼の通り真相を確かめに行くとするかねぇ。その後にジョセの所に行って()()()()を報告すればいいだろ。

 

さて、それじゃあまずは──────

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルベドー。クレーが今日、どこに行ったか知らねぇか?」

 

騎士団本部にある工房に入り、俺は不思議な機械で錬金術とやらで毎度お馴染みの実験をしているアルベドに尋ねた。

アルベド────騎士団の首席錬金術師兼調査小隊隊長にして、白亜(はくあ)の申し子と呼ばれる天才少年。まぁ、天才って肩書きについては本人が否定してるけど。

 

「アレン……扉に掛けておいた『実験中』の札が見えなかったのかな?」

「見えたぞ。って事はお前がいるって証拠だろ?」

「……実験中は入ってきてもらいたくないんだが」

「別に今更だろ」

 

そう、今更である。アルベドの実験中に俺が工房に入る事なんて日常茶飯事だ。西風騎士はおろかジンやガイア、リサ、それにクレーだって実験中は工房に入ろうとしない。俺は問答無用に入るが。

 

「そもそも危ないもんは全部城外の拠点だろ?」

「当然だろう。材料を集めた後、すぐに実験が始められる。それに城外なら万が一危険があっても被害を少なくできる」

「お前の危険ってのはアリスと同じレベルだろ。被害を少なくできるって言っても洒落にならねぇんだよ」

 

俺は忘れてねぇぞ。お前がモンドに来た頃、クレーの母親であるアリスがまだいた頃────お前ら2人の生命がどうとかの実験のせいでモンドが消し飛ぶかと思ったんだからな?誰かに気付かれる前に俺が沈めたから良かったものの。

 

「……ふむ、確かに。その節は助かった。まさかヒルチャールがあんな風に変わるとは思っていなくてね」

「まぁ、過ぎた事だからいいけどよ……つか、クレーはどこにいるんだよ?」

「ああ、クレーなら今日は星落としの湖に行くと言ってたよ」

 

ま~た湖に爆弾を投げ込む気か……前の『魚大量死亡事件』でジンにこってり叱られた癖に、よく諦めないな。まぁ、あの時は俺もふざけてクレーに加勢したから俺も叱られたんだが。

 

「……一応言っとくけど、また君の雷元素で魚を感電死させるのはよしたまえ」

「何も言ってねぇだろ」

「あの湖の魚は特殊な内臓を持ってるんだ。粉末にすると錬金術の材料になる。でも雷元素を浴びると使い物にならなくなってしまう珍しい代物だ」

 

へー……ん?

 

「ああ、だからあの時お前もちょっと怒ってたのか」

「火元素なら問題なかったんだが……君もアリスさんからクレーの事を頼まれているんだから、ふざけ過ぎるのも程々に頼むよ」

「分かってるよ。んじゃ、俺はクレーの様子見てくるわ」

 

そう言って俺は工房を出る。クレーの居場所を聞きたかっただけなのに長居しちまったな。まぁ、久々にアルベドと話も出来たし良しとするか。

 

 

 

 

「あれ……?アルベド先生、アレンさんは?」

 

ボクの助手であり、同じく錬金術師のスクロースが頼んだ実験材料を手に戻ってくるとそんな事を聞いてきた。

 

「彼ならたった今、出ていったよ。どうやらクレーを探してるらしい」

「そうですか……久し振りにまた、研究を手伝ってもらいたかったんですけど」

 

スクロースがボクの手伝い以外で個人的に行っている錬金術、『生物錬金』というのは動植物を錬金するものだ。彼女のそれに対する課題は主に彼女自身の好奇心から生まれてくる。少し前にはスイートフラワーで30種類の栽培方法を計画し、天気や気温なども変えてスイートフラワーのそれぞれで異なった成長を記録していたか。

 

(……アレン・グンヒルド)

 

キャッツテールのバーテンダーを観察していた事もあるスクロースだが、今の彼女の観察及び研究対象は彼である。曰く、アレンの類に見ない強さに興味が湧いたらしい。

 

(彼の強さにはボクも理解し難い要素がいくつもある。雷元素を用いて筋肉を活性化させてるとはいえ、それ抜きでも並び立つ者は少ないだろう)

 

一体何が彼をそこまで強くさせたんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと」

 

「Gaaaaaa!?」

「Hibu mia──────」

 

左手に握り締めた西風大剣を払い、放たれる雷元素の刃・雷刃(らいじん)が巣や高台を周囲にいるヒルチャールごと巻き込みながら破壊していく。

 

「Doma!」

 

高台の崩壊に巻き込まれた射手が起き上がり、矢を撃ってくるがそれを蹴り上げる。大剣を地面に突き刺し、矢をキャッチした後は一回転して勢いを乗せ、投げ返す。そうすれば頭部に突き刺さった射手は絶命した。

 

「今ので終わりか」

 

辺りを見渡し、ヒルチャールがいない事を確認した俺は地面から抜いた西風大剣を背後へと仕舞う。原理は分からないが、戦闘以外では勝手に現れては消えるのだ、武器というものは。

 

──────チュドーンッ!!!

 

「あ~……始まっちゃったか」

 

少し先の方向で大きな爆発音と水柱が立つのが見えた。クレーが星落としの湖に爆弾を投げたに違いない。

 

「やり過ぎて悪い噂が立ち始めたら問題だしな、とっとといくか」

 

 

 

 

「えいっ、えいっ!え~いっ!」

 

次々に湖へと投げ込まれていくクレー自作の爆弾、ボンボン爆弾。アリスから爆弾の作り方、爆発の楽しさを教わったクレーにとって新しい爆弾の開発、そしてそれを爆発させるのはクレーにとって楽しい遊びの一つなのだ。

 

……毎回思うがなんてもんを教えてんだ、あの女は。

 

「ボンボン爆弾!ドッカーン!」

 

一気に大量の爆弾が投げ込まれ、湖を泳いでいた魚たちが爆発で吹き飛び、地面に叩きつけられていく。中には焼いてもいないのに既に黒焦げ状態の魚だっていた。

 

「クレー」

「えっ?あっ、アレンお兄ちゃん!」

 

声を掛けられ、俺に気付いたクレーが魚も爆弾もそっちのけにしてこっちに走ってくる。

……放り投げた爆弾が地面を跳ねてる魚の真上に落ちてってるが、あまりにも悲しい光景なので見なかった事にしよう。

 

「アレンお兄ちゃん、どうしたの?クレーに何か用事?」

「まぁな。ところでクレーはここで何してたんだ?」

「クレーはお魚をドカーンしに来たんだよ!アレンお兄ちゃんも一緒にやる?あ、でもビリビリはやめてね……」

 

あー……そういえば魚に雷元素を当てた時、水面にプカーと浮かんでくる様子を見たクレーが不気味がって泣き付いてきたっけか。別にそうするつもりじゃなかったんだったが、トラウマになったのかしばらく湖を爆発させなかったからジンには感謝されたな。

 

「あの時はごめんな、俺もちょっとはしゃぎ過ぎたんだ。……まぁ、それよりこれを読んでみな」

「なぁに、これ?」

 

俺はクレーにジョセの依頼書を見せる。依頼文をクレーがたどたどしく読んでいると次第に顔が青ざめていき、依頼書が地面にパサリと落ちた。

 

「ア、ア、アレンお兄ちゃん……これ……!」

「間違いなくジンの目に通ったら怒られるだろうな」

 

というか早かれ遅かれジンの目に通るだろう。依頼書の発行・冒険者の受諾・達成報告の度に騎士団と冒険者協会との間で情報の入れ違いがないよう互いに依頼書を確認する事になっている。だからジョセが依頼を頼んだ時点で依頼書の写しが騎士団本部に届けられているはずだ。

 

「ど、どうしよう……またジン団長に怒られちゃうよ……」

「冒険者協会に依頼まで出されちゃったからな。誰かの手に渡る前に俺が受けたからいいものの、そうじゃなかったらもっと怒られてるかもな」

「う、うぅぅ……」

 

ジンに怒られる様子を想像したのか涙目になるクレー。ジンって真面目で優しくて、義兄である俺からすれば可愛い妹だが怒ると怖いんだよなぁ。まぁ、相手(ほぼクレー)を考えての事だから仕方ないんだけれども。

 

「怒られるよりも先に謝った方がいいと思うぞ。そうすりゃ反省室行きもちょっとは軽くなるはずだ」

「うん……クレー、そうする……」

 

怖い怖いと言いつつ、ずっと反省室に閉じ込められるのも嫌だろうにまったく懲りないんだよな。たぶん反省室から出てきても、また爆弾遊びやって即反省室行きだろうし。

 

「アリスの娘じゃ誰だってそうなるのか……?」

「アレンお兄ちゃん……」

「ん?」

 

少し考え事をしていると先に行ったと思っていたクレーが戻ってきており、俺の袖を摘まんでいた。何だ?と思っているとクレーが上目遣いに俺を見てくる。

 

「い、一緒に来て!」

「……まぁ、いいけどさ」

 

ただ俺が行っても何も変わらないと思うぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クレーッ!!」

「ご、ごめんなさぁ~い!」

 

案の定、俺は何の役にも立たなかった。ジンに怒られたクレーは走って団長室から去り、ドアから顔を出すと隣にある反省室へと直行していく姿が見えた。

 

「おー、言われる前に自分から反省室に行ったぞ」

「……そのまま本当に反省してくれればいいんだが」

 

確かに。クレーが反省室の中でしてる事と言えば反省ではなく、新たな爆弾の作り方の模索だしな。ジンにマジで怒られるから中で作ったり、爆発させたりはしないが。

 

「しかしクレーの事が書かれた依頼書、ジンならもう知ってたと思ったんだが」

 

クレーと一緒に団長室に入り、事務作業をしていたジンがこちらに気付いて「どうした2人共?」と優しく尋ねてきたまでは良かった。俺から依頼書を見せられたジンは最初こそよく分かってなかったが次第に顔を険しくさせ、最後にはクレーを怒鳴ったのである。つまり俺が依頼書を見せるまでジンはこの事を知らなかったのだ。

 

「……おそらく昨日依頼されたんだと思う。まだそっちの依頼書には目を通せてなかったから」

「なるほどな~」

「しかし兄さん?」

「あん?」

「どうしてこの事を私に早く伝えてくれなかったんだ?」

 

あの穏健なジンがこちらをジロリと見てくる。そう言われてもなぁ。そもそもクレーの存在は隠されてるわけではない。ただまだ子供だからと前線に出ない為、クレーが騎士団の人間だと知ってるモンドの住人は少ない。だからジョセはクレーの事を知らなかった。

仮に俺以外の奴がジョセの依頼を受け、爆発の犯人がクレーだと判断した場合、騎士であるにも関わらず危険な爆弾を遊び感覚で投げまくってるあの子を非難するかもしれないし、騎士団にも非難の声と目が向けられるかもしれない。

 

……まぁ、つまりはクレーも騎士団もモンドの住人も、ジンは守りたいのだ。だから危険な事をするクレーを叱るし、今回の依頼も俺が受けたとはいえ、自分に伝えてもらいたかったんだろう。騎士団団長代理として、自分で解決する為に。

 

「伝えたら他の仕事ほったらかしにして探しに行くだろ。クレーの事は俺やアルベドにも責任があるんだ。あんまり自分だけで背負い込むなって」

「で、でも……」

「でもじゃねーよ。んじゃ、俺はジョセに依頼の報告してくるわ。あ、クレーの名前は出さねぇから心配すんなよ?」

 

さーて、ジョセになんて言うか。火スライムじゃない事やクレーの姿もちょっとばかり書いてあったし……うん、ヒルチャール共がバカ騒ぎしたせいって言っておこう。クレーは見間違いという事にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────次の日。

 

「アレンお兄ちゃん!」

 

特訓の傍ら、冒険者協会からの依頼をこなしているとこちらにトコトコと走ってくるクレーに気付いた。その為、背後から迫ってくるヒルチャール・暴徒に振り向き様からの雷脚を決め、ついでに大型スライム達を一掃して周囲の安全をとっておく。

 

「よっ、クレー。反省室行きは終わったのか?」

「うん!ねぇねぇ、アレンお兄ちゃん!クレーと遊ぼ!」

「いいぞ。ただし、依頼が終わったらな?……おっ」

 

ヒルチャール達が遠くの巣からわんさか出てくる。ったく、今からそっち行くんだから待ってりゃいいのに。

 

「依頼?あっ、あのヒルチャール達を倒すんだね!?ならクレーも手伝うー!」

「あ、おい」

「いっけー!ドカーン!」

 

クレーのリュックから取り出された大量の爆弾がばらまかれ、いくつもの爆発がヒルチャール達を襲う。あ、吹き飛んだヒルチャールが1匹こっちに落ちてきた。

 

「クレー、あんまり危ない真似すんなって。怪我でもされたら俺がジンとアルベドに殺されんだぞ」

 

飛んできたヒルチャールを叩き落とし、クレーをつまみ上げて面向かって説教する。そういやベネット──冒険者協会所属の少年──もクレーと遊ぶ時は怪我させないよう気を付けてるっけ。西風騎士団を敵に回すからって。

 

「だってクレー、アレンお兄ちゃんと早く遊びたいだもん!」

「分かってるって。すぐに終わらせるから頭下げてろ」

 

クレーを降ろして周りを見渡す。ジリジリと迫ってくる通常のヒルチャールに暴徒、加えて厄介なシャーマンたち。左手に握る西風大剣を後ろに構え、刃から雷元素を解き放つ。

 

「雷極術 必殺撃(ひっさつげき)────雷閃刃(らいせんば)

 

本来なら両手剣に分類される西風大剣を片手で軽々と操り、周囲に無数の雷刃を放つ。近寄っていたヒルチャール達は瞬く間に倒され、肉体が塵となって消滅していく。暴徒の巨体も意味はなく、シャーマン達も生成した高台もろとも吹き飛ばれ、ヒルチャール達は一瞬の内に全滅した。

 

「すっごーい!流石アレンお兄ちゃん!」

「まっ、元モンド最強は伊達じゃないからな」

「でもアレンお兄ちゃんに敵う人なんてモンドにいないと思うけど?」

「だろうな」

 

それは断言できる。右腕を失い、隻腕になった今でもモンドに俺以上に強い奴はいない。2年間七国を巡っても、そうそういなかった。

 

代理団長であるジン。「闇夜(やみよ)の英雄」の正体であるディルック。遊撃小隊隊長であるエウルア……実力はモンドの中でトップクラスに入るが、手合わせで俺に勝てた相手は1人もいない。

大団長ファルカとは一度だけ手合わせをした事があるが、たぶんモンドで俺と実力が一番近いのはファルカ位だろう。

 

「さっ、依頼はこれで終わりだ。あとは報告するだけだし、何して遊ぶ?」

「えっとねー……あっ、そうだ!クレー、反省室ですっごいボンボン爆弾を考えたんだよ!」

「へ~……そっかそっか」

 

どうやら相変わらず反省はしてなかったらしい。ジン、お前の苦労はまだまだ終わらないみたいだぞ。




オリ主の実力は化け物染みてます。ゲームで言うと最大レベル90は余裕で越えてます。


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第3話

オリ主の設定作りや原神キャラとの関係、原神世界の考察、キャラのボイス・物語など色々読みながら書いてると中々執筆が進まなくてすみません!

今回はロサリアとバーバラメインです!最初はアンバーメインだったんですが、彼女の祖父をどうしようかと考えて一旦止めました。多分次かそのまた次くらいに投稿します。
今回の文字数は1万越えと中々に長いです!


「あーあ、彼女ほしいなぁ……絶対に俺くらいの年齢の男ってみんな彼女いるって」

 

ちなみにあの赤髪と青髪の兄弟を除く。女性からの人気あるくせに片方は全然興味ないし、もう片方は誘われても軽く遊ぶ程度だし。

 

「ええっと……そんな事ないと思うけど、お兄ちゃん?」

「あるって。バーバラだって1人や2人くらい彼氏いた事あるだろ」

「いないよ!?」

「え、いないのか?」

 

俺が今いるのはモンド城で最も高い場所に建てられた西風教会の大聖堂。騎士団本部がある区域よりも上に位置する巨大な風神像が建てられた広場を抜けた先にある建物だ。

大聖堂の運営自体は騎士団がしているが、管理は風神バルバトスの信者達により行われている。義父であったサイモン・ペッチや俺の義妹であった牧師兼アイドルのバーバラ、それからヴィクトリアやジリアンナなどのシスター達だ。まぁ、義父さん……サイモンはファルカに連れられて遠征に行ってるから現在管理をしているのは実質バーバラとシスター達だが。

 

まぁ、それは置いといて。

 

「マジでいないのか?お前、そんな可愛いのによく周りが放ってるな」

「か、可愛いなんて……そんな、お兄ちゃんから……コ、コホン。だって牧師の仕事もあるし、アイドル活動も忙しいからね」

 

確かにバーバラが忙しいのは分かる。でもこんな可愛いんだぜ?(元)身内贔屓ってのもあるけど、みんなを元気にさせる為に頑張ってるとてもいい子なんだぞ。

 

「ところでお兄ちゃん、どうして大聖堂に来たの?」

 

バーバラがそんな疑問を掛けてくる。どうしてと言われても用事があるから来たんだよ……普段まったく来ないからそう言われてもしょうがないが。というかバーバラもバーバラで、隣に座って俺と喋ってていいのか?俺ら以外に誰もいないから大丈夫だとは思うけど。

 

「俺に彼女をくださいって祈りに来たんだよ」

「お兄ちゃん……」

「いや冗談だから。冗談だから「えっ、そこまで?」って感じで哀れんだ目を俺に向けないでくれ」

 

彼女ほしいのは本当だけど、それをバルバトスに祈る気はない。祈った所であの自由気ままな奴が叶えてくれるとは到底思えないし。……直接祈ったら彼女作り手伝ってくれないかな?変な目で見られるだけか。

 

「知り合いを待ってるんだよ。集合場所にここを選んだってだけさ」

「えー……集合場所にここを選ぶのは場違いな気がするんだけど……」

 

 

「……だから言ったでしょ。ここを選ぶなんてどうかしてるって」

 

 

「お、やっと来たか」

「えっ……ロ、ロサリアさん……!?」

 

後ろを向くと、こちらに歩いてくる西風教会のシスターの姿が見えた。その名はロサリア。人と比べると肌の色が薄い為、体調が悪いと誤解されそうだが元からそういう色なのだ。あと、ピン留めである髪飾りがついたウィンプルの裾が長いせいで勘違いされがちだが、本人の髪はショートカットである。

 

「何言ってんだ、ここ大聖堂。お前シスター。一番職場に近いじゃんか」

「……私がいつもここにいない事、知ってるわよね?おかげでヴィクトリア達から何度も仕事をするよう呼び止められたわ」

「すりゃいいじゃんか、仕事」

「嫌よ」

 

そして流れるような動作でタバコを取り出したロサリアは先端にライターで火をつけ、吸い始める。いや、少しくらい躊躇えよ。一応ここ、神様の目の前だぞ?本人はどっかでリンゴでも食べながら昼寝してるかもしれないが。

 

「あ、あの!ロサリアさん……」

「なに?」

「大聖堂でタバコを吸うのはやめてくれないかな?」

 

お、バーバラが注意に出た。シスター……聖職者であるロサリアが聖職者らしいのは格好だけだ。式典にも合唱にも出ないどころか、大聖堂に顔を出さずに仕事もしない。仮にいてもタバコを吸ってたりと聖職者としてはあまりにも異質過ぎるだろう。……聖職者としては、な。

 

「どうして?ここにいるのは私と君、それと彼だけ……私がこういう人間だって知ってる人しかいないし、誰にも迷惑をかけてないわ」

「そ、それはそうだけど……」

「それに君以外のシスター達はほとんど私の説得を諦めたわよ。声は掛けてくるけど一言二言言っておしまい。君も仕事が大切なら私に構ってないで────」

「ほいっ、しゅーりょー」

 

俺はロサリアの手からタバコを取り上げ、微弱な雷元素で一瞬で灰に変える。その灰すらも空気の中に溶けて消え、その光景をただ唖然と見ていたロサリアは俺を睨み付けてきた。

 

「……どういうつもり?私からタバコを盗って消し炭にするなんて、死にたいのかしら?」

「俺は聖職者じゃねぇからな。お前の仕事に対する態度をどうこう言うつもりはないぜ。だけどバーバラをいじめないでくれるか?」

 

せっかく注意してくれてるんだ。直す気はないだろうけど、せめて本人に言われた時くらいは素直に従おうぜ?

 

「いじめてるつもりはないわ。ただ私みたいなつまらない人間に関わってもロクな目にしか遭わないって事を伝えただけよ」

「ロサリアさん、自分の事をそんな風に言ったらダメだよ!」

 

つまらない人間ねぇ……?

 

「……なによ。人をそんな気持ち悪い目で見ないでくれるかしら?」

「ひでぇな、ただつまらなくはないだろって思っただけだよ。俺、ロサリアと酒飲むの好きだし」

「……そう。……そろそろ時間ね、行きましょ」

 

そう言って大聖堂の入り口となる扉へと体を向けるロサリアだったが────

 

「ロ、ロサリアさん!おに……アレンさんとどこに行くのかな?」

 

────突然バーバラが彼女を呼び止めた。2人きりの時は「お兄ちゃん」だが、他人がいる時だと「アレンさん」と呼ぶのだ、バーバラは。曰く人前でもそう呼ぶとジンと姉妹である事を周りに気付かれるかもとのこと。

別にジンを嫌ってるわけではないんだけどな。ただ気持ちの整理がなかなかついてないだけで。

 

「彼とどこに行こうと君には関係ないわよね?」

「あ、あるよ!だってお……ア、アレンさんは……え、ええっと……」

「はぁ……話にならないわね」

 

バーバラが俺との関係を兄妹以外で説明しようとするが何も浮かばなかったらしく、ロサリアは呆れて大聖堂の扉に手をかけて出ていってしまった。彼女がここから出ていってしまった以上、俺も出ていかないと置いていかれてしまう。

 

「バーバラ。俺、ロサリアを追いかけないといけないから」

「……ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

「ロサリアさんとどこに行くの……?」

 

ロサリアから聞けなかったとなれば、同じく行き先を知ってる俺に聞くのは当然だろう。しかし変に首を突っ込まれるとロサリアが困るし、俺も心配する。だからバーバラには悪いが、ここは大人しく退いてもらいたい。

 

「そんな不安そうな顔すんなって。大丈夫、危ない所には行かねぇからよ」

「うん……」

 

……今は、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

アレンとジン、バーバラは義理の兄妹だった。しかし両親の離婚でアレンとジンは母親と共にグンヒルド家で、バーバラは父親と過ごす事になってしまった。離婚の原因は互いの思想の違いだが、子供達まで離れ離れにさせた事にも理由がある。

まずグンヒルド家は代々当主が女性と決まっている。故に現在はフレテリカが現当主であり、いずれジンかバーバラが継ぐはずだった。しかし当主に必要な剣術の才能がジンにはあったが、バーバラにはなかった。その時点で次期当主はジンと決まり、母親は彼女を引き取った。

そしてもしも何らかの理由でジンが当主になる前に命を落とした場合、養子ではあるがジンと同等以上に剣術に長けたアレンを当主にする為に彼も引き取った。その時は掟を強引にでも変える事を覚悟して。

 

2人の、正確にはジンの育成に集中する為にバーバラは不必要だった。故に父親であるサイモンは彼女を西風教会の一員にする事を決め、自らの元に引き取ったのだ。

サイモンの言葉通りバーバラは西風教会の一員となり、みんなから愛される牧師になった。しかし彼女の中では姉に対する劣等感と憧憬が、反対にジンには妹に対する罪悪感と慈愛の感情が生まれ、大きくなってからもお互いがすれ違う結果となってしまったのだ。

 

そんなジンへの複雑な感情を持つバーバラの前に立ったのが義兄であるアレンだ。血の繋がりがなく、家族としての繋がりもなくなったにも関わらずアレンはバーバラに妹として優しく接してきた。アイドルの在り方に迷いが生じた時や姉との接し方に悩んだ時、バーバラが無理をして体調を崩した時も一番に気付いて心配したのもアレンであった。

元々グンヒルド家の人間ではない上にジンの代わりの当主候補に選ばれたとはいえ、バーバラとは性別が異なる。加えてジンよりも強いにも関わらず掟によって次期当主にはなれなかったのだ。劣等感を抱く事もなく、昔から今までバーバラはアレンを血が繋がっていなくても兄として尊敬の眼差しだけを向けてきた──────()()()()()

 

 

 

 

 

(お兄ちゃんがロサリアさんと知り合いだなんて初めて知ったなぁ……ど、どういう関係なんだろう……?)

 

仕事を大聖堂にいるシスター達に任せ、いつもの牧師姿とは違った可愛らしい私服に着替えてバーバラはモンド城の町へと出た。「ロサリアさんに仕事をするよう言ってくる」と言えば彼女が諦めない事を知ってるシスター達は快く行かせてくれた。実際はアレンとロサリアの行き先、そして2人の関係を突き止める事が目的だが。

 

(もしも……つ、付き合ってたりしたら……ど、どど、どうしよう!?私の大好きなお兄ちゃんがとられちゃう!!)

 

バーバラはアレンの事が好きである。家族としてはジンの事も好きだが、アレンの場合は()()としても好きなのだ。バーバラ自身もいつからこのような気持ちが芽生えたかはよく分かっていない。気付けばアレンを兄としてだけではなく、異性としても見ていたのだ。

 

俗に言う、ブラコンである。

 

(2人共、どこに行ったんだろう?)

 

珍しく私服姿である為、牧師姿に慣れ親しんでいるモンドの人々から気付かれる事もなく──疑問を抱かれる事はあるが──アレンとロサリアを探しながら騎士団本部や冒険者協会本部がある区域を抜け、バーバラは雑貨屋「モンドショップ」や記念品ショップ「栄光の風」などが立ち並ぶ商業区域へと足を運んだ。

色々な人達とすれ違いながら歩いていると、バーバラは人の集まりを見つけた。不思議に思い、よく見てみると2人組の男達が装飾品を売ってるらしい。どちらも見た事のない顔や店の規模が小さい事から、彼らがモンド人ではなく、外から入ってきた商人だと彼女は気付いた。バーバラも立ち並ぶ人達と同様、商品が気になって近付こうとしたが──────

 

(あっ、いた!)

 

人々の中からアレンとロサリアを発見し、バーバラは壁の影に咄嗟に隠れて2人の様子をこっそり見つめ始めた。

 

 

 

 

 

「へぇ……色々なものがあるんだなぁ」

「ああ!俺達は色々な所を旅してきたからな、珍しいもんばかりだろ?」

 

商人のおっさんの言う通り、確かにいくつか珍しいものかある。七国各地でしか採れない貴重な宝石を使った首飾りや耳飾り、魔物の強固な鱗を利用した腕輪など様々だ。触ってみても、よく出来ている事が分かる。

 

「なぁ、何か欲しいもんとかあるか?」

「……別に。興味ないもの」

「ふーん……おっ、これとか似合いそうじゃん。試しに着けてみろよ」

「だから興味ないって言ってるでしょ……ちょっと」

 

ロサリアからの返事に関係なく、素早く首飾りを彼女に付けてみる。ロサリアの髪色と同じ色の宝石が使われた首飾りであり、太陽の光で輝いている様が彼女によく似合っている。

 

「……これ」

「どうだ?」

「ええ、そうね……気に入ったわ」

 

使われている宝石は特に珍しいものではないが、売っている中ではこれが一番彼女と似合っていると思ったのだ。ロサリアも気に入ってくれたようで何よりである。

 

「なぁ、商人さんはどう思うよ?」

「ええ、よく似合ってると思いますよ」

「なら購入で」

 

俺はロサリアが首飾りの宝石部分を手に取って見ている間に商人に必要な分のモラを手渡した。そして払い終わった時に彼女は身に付けている首飾りが俺に支払われている事に気付いたようだった。

 

「……私、買うなんて一言も言ってないんだけど」

「でも気に入ってるだろ?」

「まぁ、この中ではね……いえ、そういう事じゃなくて……」

「いいじゃないか、()()()()()()()()がせっかく買って──────」

「誰と誰が……何ですって?」

 

うおっ、寒っ!ロサリアの奴、おっさんに勘違いされたからって氷元素で本当にこの場を凍らせるつもりかよ?そこまで怒るとか悲しいんだが……見ろよ、地面と店の柱がちょっと凍り始めてんぞ。

 

「え……あ……?」

「私と彼はそういう関係じゃないわ。そういう風に見えるなら、まず貴方のその目をつぶ─────」

「すまねぇな、商人さん。俺とこいつはそういう関係じゃねぇんだわ。そんじゃ、別んとこでも頑張れよー」

 

ロサリアが聖職者としては言ってはいけない不穏な言葉を言う前に彼女の口を手で塞ぎ、おっさんに謝りつつ俺達はその場を離れていった。

 

 

 

 

 

「おい~……勘違いされたからって脅さなくてもいいだろ?おっさん怯えてたぞ」

「脅してないわ。間違いを正してあげただけよ」

「だからってあれはねぇだろ」

 

(…………)

 

通り過ぎたアレンとロサリアの後ろ姿を見ながらバーバラは考えていた。恋人である事をあそこまで否定するという事は、ロサリアは兄の事が嫌いなのかと。しかしそれならば一緒に出掛けるはずがない。

だが本当に嫌いならば1つだけ矛盾する場面をバーバラだけが見ていた。アレンが首飾りの支払いを勝手に済ましている時、ロサリアはアレンからも誰からも見えない方向を向いていたが、隠れていたバーバラには偶然にも彼女の顔が見えてしまったのだ。

 

(ロサリアさんの嬉しそうな顔……初めて見たなぁ)

 

正確には口角が僅かに上がっただけだが、バーバラにはそれがロサリアの「嬉しい」という感情が表れた表情であると気付いた。普段から誰に対しても気怠げだったり、暗い表情を見せているからこそロサリアのそのような姿が見れた事に衝撃を受けたのだ。

 

(……お兄ちゃんがくれた物だから?だったら────)

 

バーバラは2人を追いかけつつ考える。しかしその後は2人を見失ってしまい、バーバラの尾行はこれで終了となった。結果、アレンとロサリアの関係がどのようなものなのかをバーバラは知る事が出来なかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜──────誰もが眠りにつき、賑やかだった昼間とは反対に静かになったモンド城の裏門から荷車を引きながら出ていく怪しい2人組がいた。裏門から出ていったのは正門には西風騎士が常におり、逆に裏門は警備が薄いからである。

夜の外は危ない事やモンドの夜を駆ける「闇夜の英雄」という存在などに悩む2人であったが、何日も滞在して()()がバレる危険性を考え、深夜にこの国を発つ事に決めたのだ。

 

 

だが「闇夜の英雄」の他にもモンドを影から守る存在がいる事を彼らは知らなかった。それが自分達の運命を左右するとも知らず。

 

 

「……そこの2人組、止まりなさい」

「「!!」」

 

モンド城を離れ、野外で過ごしている西風騎士グッドウィンの目からも逃れた2人は清泉町に繋がる道を進んでいる途中で背後から声を掛けられた。荷車を止めて緊張と驚きの顔で振り返り、声の持ち主を見つけて2人は安堵した。恐れていた西風騎士ではなく、西風教会のシスターだったからである。

 

「な、何だよあの時のかの……じゃなくて姉ちゃんじゃねぇか。こんな真夜中に何してるんだよ?」

「それはもちろん捕まえる為よ。モンドの民からお金を巻き上げた詐欺商人をね」

 

そう言い、ロサリアは2人組の商人を睨んだ。昼間、彼女から絶対零度の目を向けられた1人はそれに怯えて小さく悲鳴を上げる。

2人組の商人──────言う必要はないと思うが昼間アレンとロサリアが立ち寄り、首飾りを購入した商人達である。ちなみに現在、ロサリアは首飾りを身に付けてはいない。

 

「詐欺って……おい、俺達は何も騙しちゃいないだろうが」

「────騙してるだろ。嘘吐くといい事ないぞー?」

「うわああっ!?」

 

商人達のすぐ背後から突然声を掛けられ、振り向き様に腕を振るうも相手には当たらなかった。その相手の正体は商人達の頭上を通った後にロサリアの横へと着地した。

 

「……ちょっと。あの2人組を挟み撃ちにする予定だったでしょ」

「んー……まぁ、それでも良かったんだけどな。こっちの方が楽かなーって」

「……?」

 

アレンからの答えにロサリアが困惑している一方で、商人達は驚いていた。()()()()()()()は何をしてるんだ!という怒りの思いを募らせつつ、相手にそれを悟られないよう表情に気を付ける。アレンには気付かれているが。

 

「よーっす、おっさん。また会ったな」

「(っ、あの時の男……!?)お、おい、どういう意味だ?俺達が何を騙したって言うんだよ?」

「まっ、全部じゃねぇけどさ。これだよ、これ」

 

アレンが左手に掴んでいる物を見せる。それは荷車から取ってきたいくつかの装飾品であった。

 

「そ、それが何だって言うんだ?というかそれはうちの商品だ!返せ!それ1つ1つが何万モラもするんだぞ!!」

「何万モラね……まっ、確かに本当よく出来てるよなぁ」

 

「よく出来ている」。その言葉を聞いて商人達の怒号も動きも止まり、体が一瞬震えた。

 

「だ、だろ?そりゃ珍しい宝石で有名な彫金家に作ってもら──────」

「よっ」

 

アレンが装飾品の宝石を軽く握ると簡単に砕け散った。手を広げ、粉々に砕けた宝石を地面に落としていく。その様子を見ていた商人達は一気に青ざめた。

 

「今砕いた装飾品に使われてた宝石は七色のダイヤ、真実のサファイア、夢幻のスピネル……これらの硬度は結構高いはずだ。なのに簡単に砕けた。つまり?」

「売っていた装飾品は偽物って事でしょ。早くしてくれないかしら、残業はしないわよ?」

「いやいや、説明は必要だろ」

 

アレンがいくつかの宝石が偽物だと気付いたのは昼間ロサリアに似合う装飾品を探しながら装飾品を触っていた時。七国を巡り、冒険の中で色々知識を得た中には宝石が本物か偽物か判断する方法もあったのだ。

 

「にしてもよく考えたよ、偽物の中に本物も混ぜて売るなんて。どれも誰でも買えそうな値段のやつばっかだったけど」

「……そこまでバレてんならダメだな。おい!全員出てこい!」

 

商人の一声で茂みの向こう側や木々の裏から現れる男達。彼ら全員が投げナイフやハンマーを持っており、服装も商人とは異なっている。その服装は璃月(リーユエ)で主に活動している宝盗団(ほうとうだん)と似ていなくもない。

 

「こいつらは宝盗団を辞めて俺達の傭兵になってくれた優秀な駒だ!たった2人殺すなんて造作もない!」

「聞いてもない事をよく喋るなぁ……自慢話か?」

「……手下は任せるわ、どうせすぐでしょ?私は商人達が逃げないよう見張っておくわ」

「おう、さっさとケリつけるぞー」

 

ロサリアはどこからともなく西風長槍を出現させ、アレンは西風大剣を出現────させる事なく、元宝盗団の傭兵達に急接近する。

 

「ぶっ飛べ」

 

神の目が紫色に輝き、左腕に電流が走る。左拳に雷元素を纏い、大きく振りかぶったアレンは一番初めに迫ってきた傭兵に狙いを定めた。

 

雷極術・雷砲(らいほう)

 

雷元素を纏った拳による強烈な一撃が傭兵の腹を貫き、一瞬で意識が吹き飛ぶ。しかしそれだけに留まらず、彼の体を通して背後に放たれた雷元素混じりの衝撃波が他の傭兵達を襲って吹き飛ばしていく。幸運にも残った傭兵達はいたが、次の瞬間には雷脚の一撃で一筋の光と化した仲間との衝突で散っていった。

 

「はぁっ……!?」

「ふっ、ふざけんなよ……!何だよあいつ!?」

 

商人達が瞑った目を開ければ傭兵全員が倒れ伏しており、中には顔から地面に突き刺さっている残念な者もいた。

西風騎士ばかりを注意していた詐欺商人達だがそんな生易しいレベルではない。怪物すら恐れる本物の怪物が商人達の目の前にいた。

 

「ん!?雷元素に隻腕、それにこの強さ……ちょ、ちょっと待て!お、お、お前っ!まさか元モンド最強の雷鳴騎士かっ!?」

「せ~いか~い。騎士団は抜けてるから雷鳴騎士ではないんだけどな。昼間名前言わなかったから分からなかっただろ?」

「そ、そんな奴に勝てるわけないだろ!おい、逃げるぞ!」

「逃がさないわよ」

 

慌てて逃げようとした商人の前にロサリアが立ち塞がり、西風長槍を構える。神の目が水色に輝き、ロサリア自身や槍の刃先から冷気が溢れていく。すると商人達の足は地面に固定されるように氷付けになってしまった。

 

「なっ……く、くそっ!」

「は、外れねぇ……!」

「私、残業はしない主義なの。だから早めに済ませてくれるかしら」

 

ロサリアが槍を振りかぶる。その高さの位置はちょうど商人達の首元と同じであり、これから起こるであろう自分達の残酷な死に方を察した商人が暴れ始めた。

 

「お、おい、やめろ!殺す事ねぇだろ!やめろ!やめてくれって!」

「……風神バルバトスの名において、死ね」

 

商人の救いの懇願はロサリアに無視された。ブォンッ!と振られた槍の刃が商人達の首を刎ね飛ばす──────寸前で止まり、2人は恐怖と緊張で意識を失って地面に倒れた。

 

「もうちょっと他に気絶させる方法ねぇのか?それ、絶対トラウマになるぞ」

「これが一番手っ取り早いのよ。それにトラウマになる位がこいつらには丁度いいわ」

 

ロサリアに商人達を殺すつもりは元々からない。もっとクズでどうしようもない相手ならば躊躇いなく殺す事もありえるが今回は命を奪う程の犯行をしたわけではないのだ。それでも西風騎士団の地下にある牢屋の中でしばらく暮らす事にはなるだろうが。

 

「モンドが好きなお前にとって、悪さされんのは許せねぇ事だもんな」

「……その事、絶対に誰にも言わないでよ」

「分かってるって。こいつら騎士団に連れてったらエンジェルズシェアで一杯飲もうぜー」

「……そうね」

 

人数が多い為、商人達が運んでいた荷車に気絶した男達を次々に放り込んでいくアレン。ロサリアはその様子を見ながら小さな声で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーバラ、この前はごめんな」

「ううん。大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

詐欺商人と元宝盗団の護衛共を騎士団の牢屋に叩き込んでから数日後、再び西風教会を訪れた俺はバーバラにその時置いてけぼりにしてしまった事を謝った。

 

「いや、それだけで済ますのはなぁ……なんか欲しいもんとかやってほしいもんとか、何かないか?」

「えっ?うーん、そうだなぁ……あっ、そうだ!前にお兄ちゃんが作ってくれたお料理が食べたいかな!」

「俺の料理?えーと……ああ、アレかぁ。うし、任せとけっ」

 

前にバーバラの「初公演記念日パーティ」で俺が作ってあげた激辛料理だろう。辛党なバーバラに気に入ってもらえたらしく、その時もまた食べたいって言われたっけ。璃月を回ってた時に香菱(シャンリン)から教えてもらった料理だけど、火スライムやトカゲなども使わない料理法も聞いておいて良かったぜ。

 

「ね、ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

「あのさ、お兄ちゃんってロサリアさんとどんな関係なの?」

 

出た。俺がここ最近モンドの人々から一番聞かれてる質問が。

 

「なんだ~?バーバラまで気になんのか?」

「だ、だって最近気になるっていう人が何人かいるし……」

 

別にこの前のがロサリアの「見定め」に初めて付き合ったってわけではないんだが。いや、人前で一緒に行動したのは久し振りだからみんなにとっちゃ珍しいか。

 

「まっ、バーバラが考えてるような如何わしい関係じゃねぇよ」

「い、如何わしいって……そんな事考えてないよ!お兄ちゃん、変な事言わないで!」

「へーいへい」

 

……つっても俺もロサリアとの関係をなんつー言えばいいのか分からないんだよな。彼女からすれば俺はファルカ達共々『居場所を奪った父親の仇』と言える。しかし逆に彼女を『酷い境遇から救った救世主』とも言えるかもしれない。もしかしたらそのどちらでもないかもしれないが。

ロサリアをモンドに連れ帰る事を最終的に決めたのはファルカだが、最初に言い出したのは俺だ。その時は彼女の境遇を可哀想だと思ったんだろうが、本人の気持ちなんてほとんど考えてなかったはずだし。今はロサリアの氷みたいに冷え切った心を少しでも溶かしてやりたいってのが理由だが。

 

まぁ、つまり……俺とロサリアの関係は一言で言える程簡単じゃないって話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

ロサリアは相変わらずの如く大聖堂から抜け出してエンジェルズシェアのカウンター席で1人蒲公英酒(ダンデライオンしゅ)を飲んでいた。コップを持つ手と反対の手には数日前にアレンに買ってもらった首飾りが乗せてあり、彼女はそれを身に付けようとはせずただ静かに見つめている。

そんな時、酒場のドアを開けて入ってきた人物は近寄りがたいロサリアに躊躇いなく近付いていった。

 

「やぁ、どうも。まさかモンドで今話題の人物に会えるなんてな」

 

その人物とは西風騎士団騎兵隊隊長のガイア・アルベリヒ。その姿を見た同じ西風騎士は顔を背け、休日に戻る事にした。例えモンド城の見回り中や任務中であっても仲間の目をすり抜け、酒場を訪れる彼には何を言っても無駄だと判断したのだ。

 

「……そんな話題、すぐに消えるわ」

「いやいや、なかなか消えないと思うぜ?何せあの雷鳴騎士と教会のシスターが付きあ──────」

「それ以上言うなら覚悟を持ちなさい……これは警告よ」

 

ピキリ、と空気が凍ったような感覚に流石のガイアも苦笑いを浮かべつつ口を閉じた。バーテンダーのチャールズや他の客も寒気を感じたが、ロサリアから放たれる他を圧倒する不機嫌なオーラには何も言う事が出来なかった。

 

「噂は嘘だろうが、お前のアレンへのアプローチはどれも弱い。あいつは微塵も気付いてないと思うぜ?」

「……そうね」

「その首飾りだって誰が相手でも平気で渡す奴だからな。なんだったら、俺が上手なやり方を────」

「いらないわ」

「……そうかい。ああ、俺にも蒲公英酒を頼む」

 

ガイアがチャールズに注文をし、隣に座ってもロサリアは首飾りを見続けていた。

 

 

 

ロサリアはアレンに特別な感情を抱いている。しかしそれが何かなのかは本人もよく分かっていない。アレンから首飾りを貰った時、彼女の心の奥で遠い昔に失った“喜び“という感情が再び芽生えた事もロサリアには不思議な感覚としか思われていなかった。




ロサリアの伝説任務、まだゲームでは出てませんが主人公がモンド人ではない為、彼女の暗部としての仕事に付き合われそうな気がします。


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第4話

ゲームのメインストーリーは稲妻編が終わり、次はスメール編ですね。スメール編でコナが出てきてくれたら嬉しいです!

今回はアンバーがメインですが、コナの現在が分かったらアンバーと一緒に登場させたいです。


(かぜ)(つばさ)────それはモンドに大昔から伝わる由緒ある道具だ。名前の通り翼の形をしており、背中に装着して広げることで風を受け止め空を自由自在に滑空できる。

だが誰でも使えるわけではない。飛行にはある程度の練習が必要だし、免許制だから無免許で飛んでたら西風騎士団に捕まって処罰を受けるハメになる。例を出すと自宅の2階から飛び降りて怪我して1年間飛行禁止になったり、危険な方法で飛行を繰り返して自宅謹慎になったりとかだ。

 

そして今、俺の目の前にも違反をして西風騎士の取り締まりにより1週間の飛行禁止を言い渡された少女がいる。

 

「……てか取り締まる西風騎士が捕まるとか、本末転倒だろうが」

「だって急いでたんだも~ん……」

 

モンドのレストラン・鹿狩りのテーブル席に向かい合って座り、「ニンジンとお肉のハニーソテー」を沈んだ表情でハムハムと食べるアンバー。ウサギを彷彿とさせる赤いリボンも心なしかしょげてるように見える。

曰く、任務の開始時間に遅れたのが原因らしい。急ぐあまり城内の飛行禁止区域を飛んでしまった所を他の西風騎士に目撃され、任務終了後に処罰を言い渡されたようだ。

アンバーは西風騎士団に所属する唯一の偵察騎士だ。偵察騎士は騎士の中で最も風の翼を使い、アンバーも既に10回は交換していると聞く。しかしその風の翼が使えなければ行動範囲は狭まり、偵察騎士としての任務に支障が出る。故にジンは免停が終わるまでアンバーに休息を与えたようで、俺は今日アンバーに誘われて昼飯を一緒に食べる事になったのだ。

 

「ていうかアンバー……お前、今年に入って免停受けたのこれで何回目だ?」

「2回……さ、3回目かなぁ……?」

「しっかりしてくれ、飛行チャンピオン」

 

飛行チャンピオンとはアンバーがモンドで開かれた飛行大会で優勝した時に付けられた別名だ。前回のも含めて3年連続で優勝しており、飛行技術の腕前だけならモンドでアンバーに勝てる相手はほぼいないだろう。

 

「…………」

「えーと……ど、どうしたの、アレンさん。わたしの顔に何かついてる?」

「いやぁ……まさか俺が初めて試験官をやったアンバーが飛行チャンピオンになるなんて、あの時は思ってもいなかったなーって」

 

ディルックが騎士団を抜けてから少し経った頃に騎士団に入ったアンバーだが、当時はまだ飛行免許を持っていなかった。偵察騎士は主に風の翼を使って行動する。その為、アンバーには至急飛行免許を発行してもらう必要があり、俺は彼女の試験官を担当したのだ。思えば試験は全て一発合格だったな。

 

「それはわたしも同じだよ。アレンさんが飛行大会に出たわたしを懸命に応援してくれたから、わたしは諦めずに優勝できたんだって今も思ってるんだから」

「そりゃするだろ、応援。お前は俺の最初で最後のたった1人の生徒なんだから」

「ふふっ……そっかぁ」

 

何だ、アンバーの奴?何でそんなに妙に嬉しそうなんだ?別に誉めるような事言ってねぇけど。

 

「今年も出るのか?飛行大会」

「もっちろん!アレンさんはわたしが初めて出た飛行大会しか見てないもんね……あの頃よりもさらに成長して速くなったわたしの姿を見せてあげる!」

「おう。その時を楽しみにしてるかんな」

 

その時にまた免停になってたら呆れるしかねぇけど。

 

「そういえば……アレンさんはもう風の翼を使ってないんだっけ?」

「免許は持ってるけどな。1回壊れてからは使ってないぞ」

「でもそれなら外で動く時、どうしてるんです?高い場所に行く必要がある時とか遠い場所に行く時とか」

「どうしてるってそりゃ()()()()んだよ」

 

飛ぶんじゃなくて、跳ぶ。その方がわざわざ風域(ふういき)を探す必要はないし、風の翼使ってのんびりと滑降する必要もないからな。

 

「えっっ、跳ぶって……ジャ、ジャンプしてるってこと!?」

「そっ、せいか~い」

「……いつも凄いとは思ってるけど、風の翼を使うような距離を跳んで移動できるのは凄すぎる……」

 

そうでもないんだけどなぁ。七国巡ってれば崖や谷を軽々とピョンピョン越えられる奴なんて結構いるぞ?ファデュイのデットエージェントとか執行官(ファトゥス)の奴らとか。

 

「まてーっ!ドロボーッ!!」

 

噴水広場がある地区から大声が響く。食べていた「お肉ツミツミ」から手を離し、上半身だけを後ろに向けると階段を駆け降りてくる男が見えた。その後ろを西風騎士のアートが追い掛けているが、大分距離が離れている。男が手に持ってるのは……財布か。

 

「アンバー、ちょっとだけ席外すぞー」

 

椅子から立ち上がり、アンバーに手を振ってその場を離れる。こちらに走ってくる泥棒をとっとと捕まえる為、俺は奴の元へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「ア、アレンさん!わたしも一緒に────」

 

泥棒を捕まえるのは西風騎士の仕事。休み中だろうと関係ない。先に席から立ち上がったアレンさんを手伝おうと声を掛けるが、わたしが喋り終わる前に姿が消えてしまった。咄嗟に泥棒へと視線を向ければ目の前に立つアレンさんの拳を受け、崩れ落ちる瞬間が見える。

 

……速い。速すぎるよ。目で追う事すら出来なかった。それでもアレンさんはきっと力をほとんど出していないだろうけど。軽く足を踏み出した程度かもしれない。

 

「凄いなぁ、もう」

 

アレンさんに遠く及ばないわたしにとってその実力はもはや「凄い」の一言に尽きる。強さが他の人とは別格すぎるんだもん。ジンさんだってアレンさんには一度も勝てた事がないみたいだし。

 

「強いしカッコいいし優しいし……そりゃみんなからモテるよね……」

 

そう言うわたしもアレンさんの事は好きだ。さっき、「最初で最後のたった1人の生徒」と言われた時はとても嬉しかった。わたしの事を特別に見てくれているみたいで。

しかしわたしも最初からアレンさんの事が好きだったわけじゃない。初めて会った頃はそういった気持ちよりも憧れや尊敬といった気持ちを抱いていたの。それが好意に変わっていたのがいつからかは分からないけど、気付いたのは初めて飛行大会に出た時。最後の最後で負けそうになった時、アレンさんは誰よりもわたしを応援してくれた。その応援を耳にした時からわたしはどうしてかいつも以上の全力を出して優勝を果たす事が出来たんだ。

モンド酒造組合長のエーザイさんからチャンピオンの証であるトロフィーを受け取った時、わたしはこの喜びを誰よりも早くアレンさんに伝えたかった。その時、わたしの心にどうしていつも以上の全力を出す事が出来たのかについて、1つの答えが出たんだ。

 

わたしはアレンさんに応援されたから優勝できたんじゃない。大好きなアレンさんに応援されたから優勝できたんだって!

 

アレンさんへの気持ちに気付いてからは恥ずかしくてしばらく顔を合わせられなかったんだけど……突然アレンさんが右腕を失う重症を負ったと聞いた時は驚いたし、ショックだった。そして気付けば七国を巡る旅へとアレンさんは旅立ってしまった。それから2年間アレンさんと会う事はなかったけど、わたしの気持ちが変わった事はない。今でもわたしはアレンさんの事が好きなの!

 

「たっだいまー」

「うひゃあっ!?」

「ん、どーした?」

 

び、びっくりしたぁ……!あの時の事を思い出しててアレンさんが戻ってきてた事に全然気付かなかったよ。うぅ、変な声が出ちゃった……。

 

「悪いな、いきなり抜けちゃって」

「ううん!アレンさんは泥棒を捕まえたんだから、むしろ凄いよ!あんな一瞬で捕まえられるなんて!」

「まっ、ただの泥棒だったしな」

 

ただの泥棒じゃなくてもアレンさんだったら一瞬で捕まえられると思うけど……前に「怪鳥(かいちょう)」っていう泥棒が城内に現れた時なんか、空中でシードル湖に叩き落として捕まえたって聞いてるし。

 

「ところで考え事でもしてたのか?なんかボーッとしてたけど」

「そ、そうかな?アレンさんの気のせいだと思うよ」

 

好きって気持ちに気付いた時の事を思い出していた、なんて本人に言えるわけないよ……。

 

「そっか。そういえばさっきの話で思い出したんだけどさ、アンバーって()()()まだ持ってるのか?」

「あの本……?」

「忘れたか?アンバーが俺に見せてきた絵本だよ」

 

アレンさんに見せた事がある絵本って……あっ。

 

「もしかして……「風、勇気と翼」って絵本?」

「それそれ。今思うとあの本がきっかけで、ようやく飛べるようになったんだよなぁ」

 

わたしは今でこそ飛行チャンピオンなんて呼ばれる程飛ぶ事を得意としているけど、飛行免許を取るまでは飛ぶ事なんて怖くて全然ダメだったの。アレンさんも試験官として色々と考えてくれたけど、あと一歩が踏み出せなかった。

────そんな時だった。わたしは小さい頃から好きだったその絵本を見つけ、落ち込む気持ちを少しでも明るくしようと読んだの。そこで気付いたんだ!飛ぶのに一番大事なのは勇気だって。勇気を振り絞ればきっと飛べるはずだって!

そしてわたしはあの鳥達のように風唸りの丘の風の強い高い場所で試験をしてもらったの。そこでわたしは飛べるんだって勇気を出して踏み出したら見事合格したってわけ。

 

「それもあるけど……あそこまで頑張れたのはアレンさんがわたしをずっと信じてくれてたからだよ」

「俺が?」

「うん。アレンさんが落ち込んだわたしをいつも励ましてくれたから。わたしなら絶対に飛べるって言ってくれたから。アレンさんがいなきゃ、今のわたしはいないかもね」

「よせって。アンバーが飛べたのはお前自身が頑張ったからだろ。俺は何もしてねぇよ」

 

『俺は何もしてねぇよ。アンバーが頑張ったからだろ』……あの時と変わらないなぁ、アレンさんは。違うって絶対言うだろうけど、わたしを空へと飛び立たせてくれたのは絵本よりもアレンさんだよ。

 

「……よし!」

「ん?」

「ねぇ、アレンさん!わたしの免停が終わったら一緒に空を飛ぼうよ!」

「いやいや……さっき言ったろー?風の翼は壊れてから使ってないって。それに飛び方も覚えてねぇし」

「それなら大丈夫!ジンさんに言えば新しい風の翼を用意してくれるよ!そ・れ・に、アレンさんの目の前にいるのは何のチャンピオンかな?」

 

かつて飛び方を教えてもらった人に今度はわたしが飛び方を教えるなんておかしな話だけど……またあの時みたいにアレンさんと飛びたいんだもん!

 

「しゃあねぇなぁ……飛行チャンピオン、ご指導お願いできるか?」

「うん!任せて!」

 

今度はわたしがアレンさんを空に飛び立たせてあげるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?また免停になったって聞いたんだが?」

「ううっ……」

「城内で「怪鳥」の模倣犯を捕まえたんだが……巡回中の騎士から飛び方が危険過ぎると報告があったんだ」

「ならご指導はまたの機会にお願いするかな」

「そんなーっ!!」

「……ご指導?兄さん、何の話だ?」




次は一旦キャラ紹介を出して、そのまた次から新しいお話を投稿する予定です!

とりあえず残ってるモンドの女性キャラとウェンティの話を出したら魔神任務の序章に入ろうかなと思ってます。


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キャラクタープロフィール+その他

オリ主のプロフィール紹介です!ネタバレは少なからずありますが、それでもいいという方はどうぞ~。
固有天武、命ノ星座はゲームの説明文みたいなのは苦手なので違ったものになっています。
登場したキャラの年齢を一番最後に書いてますが、公式設定から分かるキャラ以外は自分の考えや考察から年齢を決めてます。

物語が進む度に改稿していきます!

プロフィール



固有天武

命の星座

武器

ボイス

キャラの年齢


アレン・グンヒルド

 

プロフィール

名前:アレン・???→アレン・グンヒルド

性別:男性

年齢:22歳

誕生日:2月11日

所属:西風騎士団→無所属→冒険者協会

別名:雷鳴騎士 (元)モンド最強 モンドの守護者 ㅤㅤㅤㅤ英雄ヴァネッサの生まれ変わり 栄誉騎士

神の目:雷

星座:星頂(せいちょう)

使用武器:両手剣

利き腕:右(隻腕)

得意料理:最強チキンバーガー(カリカリチキンバㅤㅤㅤㅤㅤーガー)

家族構成:サイモン・ペッチ(元義父)

ㅤㅤㅤㅤㅤフレテリカ・グンヒルド(義母)

ㅤㅤㅤㅤㅤジン・グンヒルド(義妹)

ㅤㅤㅤㅤㅤバーバラ・ペッチ(元義妹)

ひとこと紹介

かつて西風騎士団に所属していた騎士であり、その実力は“モンド最強“とされていた。

紹介

アレン・グンヒルド。その名を一言で表すなら“最強“。代理団長ジンや遊撃小隊隊長エウルア、元騎士ディルックさえも彼には及ばず、正に“モンド最強“の名に相応しい人物だった。しかしある出来事で彼は利き腕を失い、戦力不足という理由で騎士団を抜け、最強の座からも降りた。だがそれでも彼がモンドの誰よりも強い事に変わりはなかった。自らの強さに疑問を感じた彼は七国を2年間巡り、再びモンドに戻ってきた。彼が自分の強さにどんな答えを見つけたのかは誰も知らない。

しかし強くなりたかった理由は誰もが知っている────“大切な人達を守る為に“だ。

 

通常攻撃:雷極術(らいごくじゅつ)

アレンが考案した戦闘術。雷元素を武器だけではなく全身に巡らせて戦う事が出来る。

雷脚(らいきゃく)

脚に雷元素を纏わせ、重い蹴りを相手に叩き込む。ジン曰く、噂では本気で放てば遺跡守衛や岩兜の王をたった一撃で追い込める程の威力になるとのこと。

飛雷脚(ひらいきゃく)

ㅤ雷脚の応用技。雷脚で地面を蹴って宙を舞う事ㅤで長距離を瞬く間に移動する事が出来る。

雷斧脚(らいぶきゃく)

ㅤ雷元素を纏った脚を真上に振り上げ、敵目掛けㅤて斧の如く振り降ろす踵による一撃。上から落ㅤとす事により爆発的な威力を生み出す。

雷砲(らいほう)

拳に雷元素を纏わせ、相手を殴り飛ばす。直撃した相手を貫通した衝撃波が雷元素と共に後方にも飛ぶ。軽く放つだけでも遺跡守衛の腕を吹き飛ばす上に中の回路をショートさせる事が可能。

紫弾(しだん)

ㅤ指先から微弱な雷元素の弾を打ち出す。雷砲のㅤ派生技に当たるが、威力は弱く精々一般人を気ㅤ絶させる程度。アレンは主に秘境内のギミックㅤを動かす時などに使用している。

雷刃(らいじん)

大剣から雷元素の刃を前方に放つ。見た目は蛍(風元素)の固有天武「空を裂く風」の雷元素版。しかし威力は桁違いに高く、一撃でヒルチャールの巣や高台を破壊する。

大雷刃(だいらいじん)

ㅤ強化された雷刃。溜めが必要だが、元素の扱いㅤに長けているアレンは数秒もあれば十分。通常ㅤよりも広範囲に展開すると同時に威力も高くなㅤっている。

雷連刃(らいれんば)

ㅤ雷刃を一度に複数放つ。一度に放てるのは最大ㅤで数十個と雷閃刃の下位互換だが、体力の消耗ㅤが少なく、コントロールの調整がしやすいといㅤう利点がある。

???()

???()

重撃:???()

空中攻撃:???()

 

元素スキル:雷閃刃(らいせんば)

雷極術の中では必殺撃に位置する。周囲に無数の雷刃を放ち、相手を攻撃する。一度放てば数十体の暴徒やシャーマンなどのヒルチャールを一瞬にして塵に変える。

 

元素爆発:???()

 

元素連携(げんそれんけい)

元素による攻撃を複数組み合わせて放つ事で威力・範囲を大きく増幅させられる技術。つまりは元素攻撃による合体技。同じく強大な威力を持つ元素爆発は広く知られてる一方で、こちらは組み合わせた力の扱いが難しい上に組み合わせ方が決まってない為、元素を操れる者でも知ってる人数は少ない。

狂嵐(きょうらん)(つばさ)(アレンの山嵐×蛍の激風の息)

“山嵐“は元素を宿してないものの、その範囲や風速は元素攻撃と同等以上という点から“激風の息“を組み合わせる事で威力・規模を格段に引き上げる事が出来る。その威力は爆炎樹を地面ごと上空へと吹き飛ばし、無数の風の刃で粉々に切り刻む程。

 

元素視覚(げんそしかく)

ゲーム中で使用する物と同じ技術。元素を操れる者なら使用する事ができ、元素の痕跡などを“視る“事が出来る。

 

元素を用いない攻撃

山嵐(やまあらし)

武器を大きく振り払い、大きな竜巻を生み出して相手や飛び道具を空高く舞い上がらせる。元素を用いていない為、威力は大してないものの遺跡守衛を軽々と吹き飛ばせる事が出来る。小規模で放った際には通常よりも力が弱いが、渦の中に入った物をゆっくりと降下させる事が出来る為、高所からの着地や救助に用いられる。

()(うず)

ㅤ元々発生してる竜巻に向かって山嵐を放ち、竜ㅤ巻を呑み込んで消失させる。トワリンの生み出ㅤす竜巻も容易く呑み込める。

(のぼ)(りゅう)

ㅤ山嵐の中に自ら突っ込み、上へと巻き上げる風ㅤに乗って上空へと飛び出し、回転を上乗せしたㅤ斬撃を放つ。

無双斬(むそうざん)

一瞬のすれ違いの間に無数とも言える斬撃を叩き込む技。モンド城上空でトワリンと戦う姿を見ていた蛍やパイモンはその動きをまったく視認できなかった。

 

固有天武

雷帝(らいてい)(つるぎ)

大剣で相手を倒す度に雷元素による攻撃の威力が僅かに上がる。その効果は永遠に消えず、威力はどんどん加算されていく。現在のアレンの最大威力は一体どの位だろうか?

鈍感(どんかん)

女性からの好意に気付きにくくなる。加えて女性との出会いが増え、関係が深くなりやすい。女性関係が複雑になった場合は背後に気を付けよう。

???()

 

命ノ星座

駆け巡る(いかずち)

雲の中を掛け巡る雷のように、 彼の者も様々な場所・時間を駆け巡る事になるだろう。それがその者の運命である。

 

モンドの英雄

英雄となる事はこの世に生まれ落ちてから既に運命として刻まれていた。英雄に相応しい絶対的力と共に。

 

雷神の加護

雷神から加護を授かった眷属は数多くいるが、この加護はそれとは別のもの。その加護を授かった者はもうこの世にはいない。しかし魂にまで宿る加護が消える事は決してないのだ。

 

超越する力

彼の者は力を得るだろう。それは他に憧れと畏れを抱かせる事になる。彼の者が得るのは全てを守る力か?それとも全てを破壊する力だろうか?

 

最強への頂

たった一握りの者しか辿り着けない頂に彼の者は現れるだろう。その頂で彼の者は待つ事となる。自分を越える者が現れる時を。

 

星を背負う者

彼の者は全ての運命を背負い、立ち上がる。それはこの世界の終わりか。それとも新たな始まりとなるのか。

 

武器

西風大剣(せいふうたいけん)

西風騎士団時代から使用している大剣。アレンの並外れた力に耐えられるようワーグナーにより特別に造られている。その製造方法は30種類以上の素材の配合と岩元素による補強を何重にも掛けるというもの。故にその重さは力持ちなノエルさえも持ち上げるのに苦労する程。

 

ボイス

《初めまして…》

「アレン・グンヒルドだ、よろしくな~。元モンド最強とか英雄ヴァネッサの生まれ変わりとか言われてるけど、畏まんなくていいかんな」

《世間話・七国》

「俺は2年間自分の力の事が知りたくて七国を旅したんだ。色んな人達と出会ったし、たくさんの事も経験した。きっとお前も色んな事を知るんだろうな」

《世間話・お酒》

「モンドの蒲公英酒も旨いけどさ、他の国の酒もかなり旨いんだ。まっ、一番旨い酒は誰かと一緒に飲む酒だけどな」

《世間話・仲間》

「俺は仲間や友達を絶対に守ってみせる。もちろんお前もな」

《神の目について…》

「神の目は願いや強い思いが神に認められた時に授けられるってのが一般的な考えだ。だけど……それだけで終わりじゃない気がする。神の目にはもっと何か秘密があるような気がするんだ」

《雨の日…》

「お、すっげー雨。濡れずに向こうまで走りきってみようかな」

《雷の日…》

「怖いか?俺はへっちゃらだな。なんだったらあの雷雲、ぶった斬ってやろうか?」

《雪の日…》

「雪かぁ~。スネージナヤでテウセル達と雪合戦したのが懐かしいな」

《晴れの日…》

「やっぱ晴れてんのが一番気持ちいいよな!」

《風の日》

「こういう日は草原に寝っ転がりたいぜ」

《おはよう…》

「おーっす。朝飯は食ったか?食わねぇと元気出ねぇぞ」

《こんにちは…》

「俺はこれから依頼を解決しに行くんだけど、一緒に行くか?」

《こんばんわ…》

「夜飯まだなら一緒に食べねぇか?奢ってやるよ」

《おやすみ…》

「俺はジンの手伝いをしてから寝るよ。お前は先に寝てな」

《アレン自身について・隻腕》

「ジンは俺が右腕を失った事をずっと自分のせいだと責めてる。だけどこれは俺が自分で決めた事なんだ。……後悔?してると思うか?」

《アレン自身について・雷鳴騎士》

「俺が騎士団にいた時、授けられたもんだな。騎士団は抜けたからそう呼ばれるのは間違いなんだけど結構広まっちゃってるんだよ。俺も名前自体は気に入ってるんだけどさ」

《アレン自身について・騎士団を抜けた理由》

「別に騎士団が嫌いになったとかが理由じゃない。俺が騎士団にいたらいつまで経っても騎士団は前に進めない……だから抜けたんだ。まっ、他にも理由はあるんだけどさ」

《ジンについて…》

「真面目なのはいいんだけど1人で頑張りすぎるんだよなぁ。もっと周りを頼れって言ってるのに。あ、そういや知ってるか?実はジンって小さい頃は泣きむ……あ、やべ。ジンが来た」

《バーバラについて…》

「バーバラがアイドルになるって言ってきた時はびっくりしたぜ。最初はアリスが変な事吹き込んだんじゃないかって心配したけど……バーバラが頑張るって言うなら俺は応援するだけさ」

《ディルックについて…》

「あいつの親父さんには昔、世話になってたんだ。だから亡くなったって聞いた時は……っ……、邪眼の犠牲者を俺は散々見てきた。もうあんな思いを誰にも負わせたくねぇよ」

《クレーについて…》

「アリスとクレーはエルフって種族なんだ。ん?じゃあ俺達よりも長生きかって?いや、エルフは途中までは人間と同じ成長速度だからな。クレーは正真正銘まだまだ子どもだよ」※注

《アンバーについて…》

「騎士団に入ってきた時、アンバーは誰かに手を借りなきゃ任務をこなせなかった。でも今じゃ1人で偵察騎士の任務をこなしてる。ほんと、成長したよあいつは」

《ガイアについて…》

「ガイアとはあいつが騎士団に入ってきてからの付き合いでな。今でもあいつとは酒を飲む仲だよ。任務中に飲むのはどうかと思うがな」

《アルベドについて…》

「アルベドは否定するが、あいつには天才って言葉が似合うよ。俺は錬金術に関しちゃ素人だが、スメールでもあいつの錬金術を解き明かした奴はいないみたいだし。流石あのレインドットの弟子だよなぁ」

《リサについて…》

「あの女を怒らす事だけはやめとけよ?本を傷付けたり、図書館で大声出したら絶対キレるから。こえーぞ、怒った時のリサは」

《ロサリアについて…》

「ロサリアはシスターの仕事をサボりがちだけど、モンドの事を大切に思ってくれてるんだぜ?あ、これ本人からは誰にも言うなって言われてるから秘密な?」

《ノエルについて…》

「ノエルは俺に憧れて騎士団を目指すようになったみたいなんだ。物分かりがいいし、真面目な優しい子だよ。だから西風騎士になれるよう推薦したかったけど、任務を自分の体考えずに遂行しようとすると考えるとな……ノエルには悪いけど、メイドのままの方がいいと思ったんだ」

《ベネットについて…》

「ベネットは優しいし、真面目な奴だよ。クレーの遊び相手をしてくれるし、冒険者協会のオヤジ達の世話も焼いてくれてる。……まぁ、あいつの不運は口に出して説明できるもんじゃねぇけど」

《ディオナについて…》

「ディオナって猫に似てるけど、イタズラでマタタビとか絶対に渡すんじゃねぇぞ?あとで自分が痛い目見る事になるし、ディオナも大分恥ずかしい思いする事になるんだからな」

《アレンの趣味…》

「楽しい事なら何でも好きだぞ?クレーの遊び相手とか、スクロースの研究の手伝いとかでも。七国回ってた時は辛炎のライブや宵宮の花火を観たりもしたなぁ。今度、七七に特製ココナッツミルク作るついでにライブ観にいくんだけど、一緒にどうだ?」

《アレンの悩み…》

「本気で戦える相手がなかなか見つからない事かなぁ。ただ本当に本気出したら地図業者に迷惑かけるしなぁ……難しい悩みだよ」

《好きな食べ物…》

「肉料理なら何でも好きかなぁ」

《嫌いな食べ物…》

「……キノコ。忘れもしねぇ、旅の途中で餓死しそうになって見つけて食べたのがマジでヤベェ毒キノコだったんだ。それ以来キノコは食べたくないんだよ」

《誕生日…》

「誕生日おめでとう。ほい、これ誕生日プレゼント。お前に似合うと思って選んだんだが、どうだ?……そっか、なら選んだ甲斐があるってもんだよ」

※注:初投稿時点ではエルフの設定についてはゲーム内では出ていない為、現在この設定は独自のものとする。

 

年齢(オリジナル)※18歳より成人

年齢の判断が難しいキャラは??歳とする。

公式設定:ディルック

8歳

クレー

15歳

フィッシュル

16歳

ベネット ディオナ

17歳

アンバー バーバラ スクロース ノエル

19歳

エウルア

21歳

ジン

22歳

アレン ディルック ガイア

24歳

リサ ロサリア

2600歳以上

ウェンティ

??歳

アルベド 蛍



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第5話

今回はノエルを中心にしつつ、ジンとエウルアも出てきます!


「ノエルがまた無茶をしたぁ~?」

 

騎士団本部の団長室で俺はジンからその話を聞いた。今日はジンがノエル同様また無茶をし続けているとリサから聞き、ちょっとでも楽をさせようと城外の依頼を片付け、その報告をしに来たのだ。ジンからは「兄さんに頼るわけには」と言われたがフラフラな体で言われた所で心配するだけだわ。それに騎士団も最近は人の手が足りないようで、あのガイアも真面目に働いてる。……まぁ、たまにサボってるが。

おそらくその隙を突かれ、ノエルに無茶をさせてしまったんだろう。

 

「ああ……ドラゴンスパインで遭難者が出たと報告があったんだ。それを聞くなりノエルが1人で飛び出してしまったらしい」

「誰もノエルを止められなかったのか?」

「恥ずかしい話だが……みんな、自分の仕事に手一杯でノエルの行動に気付けなかったみたいだ」

 

はぁ……西風騎士団唯一のメイド兼騎士見習いとしてノエルはよく頑張っているんだけどなぁ。時々その頑張りが行き過ぎてしまう話は騎士団では俺がいた頃からよく話題になっていた。名前を大声で呼ばれただけでその場に颯爽と現れたり、バーベキューの火の付け方を聞けば肉の焼き方から火の消し方まで教えたり。さらには会食の準備と後片付けを全て自分1人でこなしたりとその努力と手際の良さは評価されるべきだ。

だがそれらはまだまだ可愛いものだ。ノエルは誰かの為なら自分を犠牲にする事を躊躇わない。今回だってそうだ。遭難者を半日かけて見つけ、山を降りたノエルは誰が見ても凍え死にそうで見事に風邪を引いたらしい。しかも2日経つが高熱でなかなか熱が下がらないとのこと。

 

「ノエルまで遭難しなかっただけまだいいか……」

「私もそう思う。山を降りてきたノエルを見つけ、モンド城まで2人を運んでくれたアンバーには感謝しているよ」

「流石は偵察騎士。あのじーさんの孫ってだけはあるよなー」

 

偵察騎士としての本領発揮だろう。みんなで行方不明となったノエルを探したと聞いてるが、彼女の足跡や落ちていたバラから痕跡を見つけ、その跡を辿ってノエルを見つけたと言っていた。モンド周辺のヒルチャールの動きを把握できるアンバーの観察眼があったからこその発見と言えるだろう。

 

「兄さん。よければノエルに会っていってくれないか?兄さんが来たとなればノエルも喜ぶだろうから」

「いいぞ?というか元々寄っていくつもりだからな。部屋にいるのか?」

「ああ」

 

騎士団のメイドであるノエルは本部にある部屋で寝泊まりしており、そこが彼女の生活スペースになっている。

他にアルベドも研究室近くに自室(使ってるかどうかは別として)があるし、騎士団に預けられてるクレーも部屋を用意されている。他にも騎士団本部の空き部屋を利用している騎士はいるから、ノエルだけが一人ぼっちで過ごしてるわけではない。ジンもほぼ毎日団長室で寝泊まりしてるし。

 

「朝尋ねた時、まだ辛そうだったから寝てるとは思うんだ。だがもしも起きてたら」

「無理しないよう言っとくから心配すんなって」

「……助かるよ。ありがとう、兄さん」

 

無理をし過ぎてるのは自分もって事、理解してんのかねぇ?仕事のし過ぎて体調崩されたらたくさんの人から心配されんだぞ。姉妹揃って体調崩してめちゃくちゃ心配した俺の心をちょっとは察しろ。

 

ギィ……。

 

「ん?」

 

椅子から立ち上がり、さぁノエルの部屋に行こうとした所で団長室のドアが開いた。誰だろうか?ジン曰く西風騎士のほとんどは外に出払ってるらしく、今日は誰も団長室を訪れる者はいないだろうと言っていたのだ。図書館に引き籠ってるリサの可能性もなく、彼女も今日は「返却期限を過ぎてる本の回収」の為に外に出ている。アルベドとスクロースも研究の為にとドラゴンスパインにある研究拠点に行ってるし。

リサの怒りが誰に落ちるのか考えてると、僅かに開いたドアの隙間から顔を出してきたのは今までジンと話していた内容の中心人物である()()()だった。

 

「はぁっ……はっ……あっ、アレンさま。騎士団本部に、いらしてたのですね。何のおもてなしを出来ず、申し訳ありっ、ゴホッゴホッ!」

「いやいやいや!何してんだよっ?お前、体調悪いんだろ、寝てなきゃダメだろうが!」

 

外側のドアノブに手を掛けているノエルは今にも倒れそうな程体調が悪そうだった。頬が赤いが上半分は青ざめてるし汗も凄い。声も若干鼻水混じりだし。そんな状態でいつも身に付けてるメイド服型の鎧を着られるはずもなく、今着ているのはそういったものが一切使われてない普通のメイド服である。

 

「ノエル!?どうしてここに────」

「ジン団長……ケホッ、幾分か体調は良くなりましたので、わたくしに仕事を……」

「出来る状態じゃねぇだろ」

「だ、大丈夫です!この程度の風邪で寝込んでいては、正式な騎士には、っ!」

 

ドアから手を離し、団長室へと踏み入れたノエルだったがここまで壁を伝うかして来たんだろう。限界を迎えてる体は支えを無くし、前のめりに倒れる。しかしそうなるだろうなと予想していた俺はノエルに駆け寄り、体をクッション代わりにするように受け止め、左手で支える。

いつもの鎧がない事で女性特有の肌の柔らかさや胸の()()が服越しとはいえほぼ直に感じられるんですけど……いや、そんな事を気にしてる場合じゃないな。

 

「おーい。大丈夫か、ノエルー?」

「はぁっ、はぁっ……」

 

うーん、まともに喋る余裕もないか。そりゃそうだろう、体調の悪さを「さっきよりも良くなった」と誤魔化し(切れてないが)、1人で立つ事すらままならないのにそれを無理してここまで来たんだ。体調が悪化するのは当然だろう。

 

「に、兄さん!ノエルは……!?」

「治りきってない体でここまで来たのがトドメだったんだろ、あまり良くない。とりあえずノエルを部屋のベッドに寝かそう。ジン、手伝ってくれるか?」

「ああ、勿論だ!」

 

右腕が残ってれば1人で抱えるんだが、ない以上は仕方がない。とにかく今は早くノエルをベッドに寝かせようと、ジンと共に自室へと彼女を運び始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

ノエルの部屋は彼女の性格を表すかのように綺麗に整理整頓されている。壁には騎士団ガイドの第1条から第11条までの規則が書かれた紙が貼られ、机の上にはメイドとして必要な“口の堅さ“の意味を持つ薔薇が花瓶に入れられて飾られてる。そして机の部屋に置かれた本棚……そこには何十冊もの本が収められている。「モンド流メイド育成講座」や「メイドとしての在り方」、「騎士団ガイド」、「剣術の極意」。さらには人々の悩みに答える為にか様々な分野の本や専門書が並べられていた。図書館から借りて読んでる本を含めれば、ノエルはこれまでに軽く百冊以上の本を読んでるに違いない。

 

「よいしょっ……と」

「兄さん、これを」

「おう、あんがと」

 

ジンと共に運んだノエルをベッドに寝かせ、布団を掛ける。そして額には氷元素を研究して作られた「冷却シート」を貼り付けてあげた。移動中に眠ってしまったらしく、今は規則正しい静かな寝息を立てている。とりあえずは一息つけたって感じだな。

 

「ちゃんと薬は飲んでるんだよな?」

「ああ。騎士団の医師に診てもらって1日3回分の薬を処方してもらっているよ」

 

騎士団のかぁ……まぁ、悪いってわけじゃねぇけど本音を言えば白朮(びゃくじゅつ)の薬の方が効果覿面なんだよなぁ。苦いけど。凄まじく苦いけど。

 

「なら昼飯食べさせて薬飲ませちゃおうぜ。丁度よくそろそろ飯時だし」

「なら私が何か作って……」

「いいって。みんな忙しいだろうし、俺が何か作ってやるから」

 

ノエルみたいな豪勢な料理を作れる程の腕は元々からないが、簡単な物ならチャッチャと作れる。それに騎士団の厨房なら色んな食材があるはずだし。米は稲妻が鎖国してるせいで璃月からしか買い取れない分、量は減ったと聞いてるがノエル1人に使う事くらい訳ないだろう。

 

「しかし……」

「ノエルの面倒は俺が見とくから心配すんな。というかお前も仕事適当な所で切って少しは休め」

「う……でもまだ「新人騎士に配備する武器をワーグナーに頼む鍛造依頼書の作成」と「来月の夜の巡回ルートの配置表の作成」、あと「風魔龍の調査報告書のまとめの仕上げ」、それから……」

「ストップ」

 

忙しいのは知ってるけど、相変わらず凄い仕事量だなぁ。他に回せばいい仕事まで自分でやって、尚且つ困ってる人がいれば自分を後回しにして助けてるんだから当然と言えば当然だが。

 

「じゃあ、せめて鍛造依頼書を作ったら休め。いいか、絶対に休めよ?徹夜して倒れるのはマジで止めてくれ。お兄ちゃんの心がもたないから」

「だがそれでは「冒険者協会との連絡会議に使う資料のまとめ」が……」

「いいから、や・す・め」

「……はい」

 

渋々といった表情で部屋を出ていくジンを見て、小さな溜め息が出た。前にガイアがジンとノエルの仕事について「ジン団長は『疲れすぎ』、ノエルは『忙しすぎ』」と評していたが、まさしくその通りだろう。仕事を頑張るのはいいが、自分の体調をもっと考えてほしい。

 

「ん……んぅ……?ア……アレン、さま……?」

「おっ、起きたかノエル」

 

振り返り、ベッドを見ると瞼を少し持ち上げてこちらに顔を向けるノエルが視界に入った。頭上に?が浮かび上がってるような不思議そうな表情をしているが、どうしたんだろうか?

 

「どうして、アレンさまがわたくしの部屋にいらっしゃるのですか……?」

「あぁ……何だ、さっきまでの事覚えてないのか?」

「さっきまでの事……?」

 

どうやら団長室に来るまでと辿り着いてからの時はほとんど限界に近かったからか、俺やジンとのやり取りはほとんど記憶にないらしい。その為、ノエルが無理して団長室を尋ねてきた時の事を説明していると途中でノエルが「あっ」と声を小さく出した。どうしたんだと見れば、赤くなった顔を両手で覆っていた。

 

「あ、あの……わ、わたくしが倒れた時、アレンさまがわたくしを受け止められたんでしょうか……?」

「ああ、そうだぞ」

「うう……メイドにあるまじき失態です。お客様であるアレンさまにそんなご無礼を……」

 

まぁ、そのおかげで俺はいい思いが……こほん。

 

「そんな気にしなくていいって」

「で、ですけどっ」

「気にするんだったらあまり無理しないでくれ。俺も騎士団のみんなも心配するから」

「はい……」

 

これはジンにも言える事だが、自分の身を犠牲にしてまで働こうとする相手には周りから心配されてる事を伝えるのが一番効く。効くだけでまた無理をしないというわけではないが。

 

「あ、そうだ。ノエル、お腹空いてるか?」

「お腹ですか?少し、だけですが……」

「ならお粥作ってきてやるよ。それ食べて薬飲んで、今日はもう休んでな」

「!そ、そんなダメです!お客様であるアレンさまにご飯を作ってもらうなんてっ」

 

起き上がろうとするノエルをやんわりとベッドに押し戻す。自分に厳しく仕事に忠実なノエルの悪い癖だ。自分から他人には喜んで施しを与えんのに、自分が受ける側になるとすぐ拒否し始める。

 

「仕事熱心なのはいい事だけど、体調が悪い時くらい甘えろって。休める時にちゃんと休むのも騎士には必要な事なんだぞ?いざって時に疲れて動けないんじゃあ、騎士失格だからな」

「う……わ、分かりました」

「んじゃ、ちょっと待ってろ。……いいか?ぜ~ったい、待ってろよ?」

「は、はい」

 

一応念には念を入れてノエルに言っておく。「やっぱり私も……」なんて言って厨房に手伝いに入ってこられたらたまんねぇからな。

 

 

 

 

騎士団の厨房はここで寝泊まりしてる人達の食事の他、たまにある会食の料理を作る際にも使われる為、結構広い。初めて入った人ならどこに何があるかなんて探さないと分からないだろうが、かつて騎士団にいた俺は大体覚えてる。主に徹夜するジンの夜食を作っていたからな。

 

「トッピングは……まぁ、普通でいいよなぁ」

 

釜戸の中で弱めの雷を使って焚き火を起こし、その上に置いた土鍋でお粥を作りつつ添え物を考える。お腹少ししか空いてないって言ってたし、そんなに量はいらないだろう。卵は出したからあとはキンギョソウ入れて、味付けに塩を入れれば一般的なお粥の完成だ。

 

「あら?貴方がここで料理なんて久し振りね」

 

キンギョソウをまな板の上に用意し、一口大に切り分けようと包丁を持つと突然後ろから声を掛けられた。後ろに顔を向ければ厨房のドアを閉め、こちらに近付いてくるのは遊撃小隊隊長にして波花騎士のエウルア・ローレンス。透き通った水色の髪や動きの優雅さが特徴的であり、今もこちらにコツコツと歩いてくる姿は見ていて綺麗だと思う。ただ今は仕事中ではないのか服装はあの透けてそうな服ではないな。

 

「まぁな。つか珍しいな、エウルアが城内にいるなんて。休みか?」

「ええ。と言っても、しばらくしたらまた出発だけどね」

 

エウルアが率いる遊撃隊は普段城外で活動し、ヒルチャールやアビス教団の退治を行っている。範囲はかなり広く、滅多に城内に戻ってくる事はない。戻ってくる場合はそれは休みの時であり、少し滞在したらまたすぐ任務に出発するのだ。

 

「それで?お粥……って事はノエルのかしら?」

「おう」

「ふぅん……ねぇ、ちょっと。包丁貸しなさいよ。片手で切るとか危なくて見てられないわ」

「えっ、そうか?んー……じゃあ、頼むわ」

 

まぁ、押さえらんないからどうしても切り口が歪になったりとか、まな板が動いてうまく切れないとかあるけど。それでもどうするか悩んだが、心配そうにこちらを見てくるエウルアの申し出を断るのは無理そうだったから素直に頼んだが。

 

「もし貴方が指を切ったりとか怪我をしたら、私はノエルを恨んでやるわ」

「恨むな恨むな。というかそんなんで俺が怪我すると思うか?」

「……思わないわね。でも私に心配をさせたこの恨みは覚えておくから」

「優しいなぁ、エウルアは」

 

ザクッ!とエウルアがキンギョソウを突然力強く切る。何だ、どーした?気になって表情を窺ってみるとポカーンとしていたが、しばらくすると顔を赤くしながら俺を睨みつけてきた。

 

「やっ、優しくなんかないわ!ただ貴方が私の────」

「俺が怪我をしたらお前が手当てをするから、か?」

「っ……え、ええ、そうよ」

 

……?何だ、違ってたか?エウルアにしては随分と慌ててたけど。いつもならすぐに皮肉っぽく返してくるのに。

 

「……はい、切り終えたわよ。土鍋の中に入れていいのかしら?」

「ああ、頼む。あとは卵を割って……」

「貸してちょうだい。ここまで来たら私が作った方が早いでしょう?」

「そうか?ならお願いするよ」

 

エウルアに卵を渡すと片手で割って土鍋に入れ、コトコトと煮込みながら中身をかき回していく。そしてしばらくすると完成したらしく、エウルアの放った氷元素により焚き火の炎は一瞬にして消え去った。

 

「はい、完成よ。熱いから少し冷ましてから持っていく事をオススメするわ」

「ありがとな~。やっぱ両手が使えねぇと料理は難しいか。エウルアのおかげで助かったぜ」

 

旅してた頃はできるだけ店で食べ、野外では保存が長く効く料理を買って食べていたなぁ。買った料理が尽きた時には野生の猪や兎などを狩って丸焼きにしたり、食べられそうな木の実や植物を採取して食べたりもしていた。まぁ、作ったものは到底他人に見せられるもんではなかったが。今は左手でも細かい動きをする事に慣れてきたからちょっとは改善してるけど。

 

「……貴方はその腕を失う原因を作った代理団長に本当に恨みを覚えないの?」

「何だよ突然。どーした?」

「私は覚えてるわ。この恨みは何十年経とうと忘れられないし、返しても返しきれない恨みよ」

「そっか」

 

エウルアの頭の上にポンッと左手を置き、優しくワシャワシャと撫でる。サラサラしてて気持ちいいなぁ。一瞬エウルアの手が動き、弾かれるかなと思ったが……しばらくするとその手を降ろし、俺のなすがままに撫でられる事となった。

幼い頃からモンドの人々に恨まれてきたエウルアはどんなに恨まれてもそれらを必ず復讐として人々に返してきた。しかしそのエウルアが「返しても返しきれない」と断言する辺り、ジンへの『俺の腕の恨み』は本当の意味での恨みなんだろう。

まぁ、そこは恨まれる事に慣れてるエウルアだ、線引きは出来てるんだろう。じゃなきゃジンかエウルアか、または2人共今ここにいないだろうし。

 

「……この辱しめの恨みは忘れないわ」

「ちょっと嬉しそうにしてるけどな」

「しっ……してないわよ!!」

 

俺の指摘に顔を真っ赤にしたエウルアは今度こそ手を叩き落とし、後ろを向いてしまった。いってぇなぁもう。小さい頃は自分から撫でてもらいに来てたくせに。

 

「俺の事でジンを恨むのも程々にしてくれよ?あいつ、俺の妹なんだから」

「分かってるわよ。代理団長には他にも復讐しなくちゃいけない恨みがたくさんあるんだから!」

 

確かに。そういう事ならジンとエウルアの間で()()()()()は起きないだろう。エウルアがいくらジンに復讐しても、ジンは(本当の意味ではない)恨みを作り続けるだろうから。

 

「ふぅ……それじゃあ、私はそろそろ行くわね。ノエルにちゃんと休むよう伝えておいて頂戴」

「おう、伝えておくよ。それじゃあなー」

 

そう告げて手を振りながら立ち去るエウルアを見送り、視線を完成したお粥に向ける。さてさーて、これを持ってノエルの部屋に行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

「ノエル、入るぞ~」

 

部屋のドアを軽くノックした後に小さな台車に乗せて持ってきたお粥を中へと入れる。ベッドへ視線を向けると、ちゃんと大人しくしていたノエルが上半身のみ起き上がらせてこちらに顔を向けてきた。

よかった。ベッドがもしも脱け殻だったら探しにいかないといけなかった。

 

「ア、アレンさま。ありがとうございます……」

「いーのいーの。つーか作ったの半分くらいエウルアだし」

「えっ、エウルアさまが……?」

「休みで戻ってきててな。作ってたら厨房に顔を出してきて、片手じゃ危ないっつって、手伝ってくれたんだ」

「っ……も、申し訳ありません!わたくしのせいでアレンさまやエウルアさまにご迷惑をっ……!」

 

そう言って頭を下げようとするノエルの額に人差し指を当てて動きを止め、ピンッと弾く。「あぅっ」と声を出して仰け反った彼女だが痛みはほとんどないだろう。しかし反射的にか両手で額を覆う姿はなかなかに可愛い。

 

「別に俺もエウルアも迷惑だなんて思ってねぇって。ちゃんと休むようにって伝言も預かってきたしな。今も元気になった後も、ちゃんと休めよ?」

「は、はい」

 

エウルアからの伝言をノエルに伝えると、タイミングよく彼女のお腹から『くぅ』という音が聞こえてきた。咄嗟に両手でお腹を押さえ、顔を真っ赤にしたノエルが顔を伏せる。残念だがお腹の音はバッチリ聞こえてしまったぞ。

 

「腹減ってきたか?ならお粥は食べられそうだな」

 

台車をベッドに近付け、机とセットだった椅子も引っ張ってきてそこに座る。土鍋の蓋を開けると中から湯気が溢れ、一緒に持ってきたスプーンでお粥をかき回して熱を逃がしていく。そうしていると、不思議そうな顔をするノエルからの視線に気付いた。

 

「ん?どーした?」

「あっ、いえ……アレンさま、一体何を……?」

「何って冷ましてんだよ、火傷したら大変だろ」

「そ、それは分かります。その程度でしたらご自分でっ」

「いや、さっき倒れたばっかの病人に言われてもな」

 

まぁ、大分調子も良くなってきたとは思うがノエルが俺を心配させないようにそう見せてるだけって事もある。仮にそうだとしても今の様子なら食べる分くらいは問題ないだろうが、病人は看病してくれる人に甘えてくれていいと思う。バーバラなんかは言わなくても割と甘えてきてたけど。まぁ、つーわけで。

 

「ふーっ、ふーっ……ほれ、あーんっ」

「アッ、アレンさま!?あ、あのっ。わたくし、ご自分で食べられますのでっ……なので、そのっ」

「ほれほれ、早くしないとこぼれちゃうぞー?」

「うぅ……あ……あーん……」

 

めちゃくちゃ恥ずかしながら小さく開いたノエルの口にスプーンを差し込み、含んだ事を確認してからゆっくりと引く。あーんの恥ずかしさから伏し目がちになったノエルはそのまましばらくモグモグと口を動かし、ゴクンと喉を動かして飲み込んだ。

 

「どうだ?うまいか?」

「ぁ……えっと……その、も、申し訳ありません。あまり分からなくて……」

「んじゃ、もう1口。ほれ、あーんっ」

「あ、あーん……」

 

……とまぁ、ノエルに食べさせ続けて味が分かってきたのはほぼ完食した頃だったんだが、美味しいと言ってくれたので良かった良かった。一緒に作ってくれたエウルアには感謝だな。

 

「んじゃ、ちゃんと休めよ?治ってないのに仕事して無理しないようにな」

「だ、大丈夫ですよ。アレンさま達の心配はよく分かりましたから」

「ほんっと~にか?」

「本当ですって」

「ならいいんだけどな。じゃあ、俺はこれでおさらばするから。お大事にな~」

 

そう言って椅子を片付けようと立ち上がろうとしたが、突然服の裾を摘ままれた。相手は当然ノエルであり、本人も無意識の行動だったのか驚いた表情をしている。

 

「あ……その……ア、アレンさま」

「ん、どーした?」

「あの……じ、時間があるのでしたら、わたくしが眠るまでここにいてほしい、のですが……ダ、ダメでしょうか?」

 

今回の事でノエルが自分から甘えてきたのはこれが初めてだろう。そもそも他人への奉仕を喜びとするノエルが甘えるなど中々見れない光景だ。この部屋にずっとたった1人で心細かったのかもしれないし、もしくは風邪で不安なのかもしれない。何にせよ、俺からの返事は決まっている。

 

「いいぞ。ノエルが眠るまでここにいてやるから。ゆっくり休め」

「!……あ、ありがとうございますっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────それから数日後。

 

 

「アレンさま、おはようございます!本日の朝は紅茶と珈琲、どちらがいいでしょうか?あっ、他にリクエストがあればすぐに用意しますから!」

「おう、おはよ……じゃあ、珈琲で」

「はい!かしこまりました!」

 

ノエルの手にどこからともなくポットとカップが現れ、珈琲を注ぎ、鹿狩りで注文したモラミートや目玉焼きなどの朝食セットの横へと置かれた。

ノエルは風邪から復活した次の日、看病してくれたお礼として俺の専属メイドを言い出してきた。期間はちゃんとあるし、俺が依頼で城外に出る時は足手まといにならないようにその間は騎士団本部で仕事をしてるみたいだからジンも許可を出したんだろうけど……。

 

「えーっと、ノエル?」

「はい!何でしょうか?」

「別にもう俺の世話をしなくてもいいぞ?お礼がしてもらいたくてお前の看病をしたわけじゃないし。騎士団の仕事もしてるんだったら尚更やめるべきだ。また無理して倒れたらどーすんだよ」

 

ノエルの気持ちはとても嬉しいが、正直に言うとこのお礼はいらない。そもそもメイドさん達に身の回りを何でもかんでもされ、落ち着かないから家に帰らずに宿屋で生活してるくらいだし。ちょっとした事ならいいんだけど、ずーっと傍で命令を待ち構えられてんのは居づらくてしょうがないんだよ。

 

「も、申し訳ありません!わたくし、アレンさまにどうしてもお礼がしたくて……」

「ん~……」

 

どーすっかなぁ。ノエルも簡単には自分の意思を曲げないだろうし。何か別の方法でお礼をしてもらうのが一番手っ取り早いか……あっ。

 

「ならさ、今度ノエルの特製パンケーキ作ってくれよ。騎士団抜けてからはなかなか食べる機会なかったし」

 

騎士団のメンバーならアフタヌーンティーで口にするチャンスがあるんだが。まぁ、あるってだけで見回りの時間が被ったりして食べられない騎士もいるけど。

 

「そ、その程度でいいのですか?アレンさまが言ってくれればいつでも作って差し上げますよ?」

「いーんだよ、それで今回の事はチャラだ。お願いできるか?」

「はいっ!アレンさまの為に、一生懸命心を込めて作って差し上げます!」

 

うんうん。ノエルはお礼が出来て、俺はノエル特製パンケーキが食える。これならどっちにもちゃんと得が出るというものだ。

 

「ではわたくしはこれから騎士団の訓練に参加してきます!アレンさまも本日の依頼の解決頑張って下さい!」

「おー。ノエルも頑張れよー」

「はいっ!」

 

俺に一度頭を下げ、ノエルは騎士団がある区域へと走り去っていった。珈琲が入ったコップ置いていっちゃったけど……まっ、今度会った時に返せばいいか。




話書いてる時にキャラの情報を色々調べる事がありますが、次の舞台であるスメールは草の神の国なのに場所は砂漠という事でみんな色々考察してますね。元から砂漠なのか、草神が何かして砂漠になってしまったのか(民から愛称で呼ばれてるから違うと思うけど)……砂漠が普通で草が異常なんて考察もありますし、早くスメールの情報が知りたい!話書く為に!


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第6話

今回は短めで、久々に戦闘のシーンを書いてみました!


『アレン・グンヒルドは人間を超越している』と誰かが言った。これには誰もが頷くだろう。彼は西風騎士の一部からは“西風騎士数百人分“と評され、他国でも“本気で暴れさせたら国が1つ滅ぶかもしれない“、“天災そのもの“と噂された事がある。

しかし騎士団に入団した時から既に他を圧倒する強さを持っていた彼にとって、それは大きな枷にもなっていた。入団当初から『加減を誤り、訓練で本部の壁に穴を開けたり』、『大量発生した狂風のコアを倒そうとして手元が狂い、風立ちの地の神木を危うく斬り倒しそうになった』事もある。本気を出せば周囲への被害は想像も出来ない程酷いものになる故に、アレンは普段から力を抑えてきた。

本気を出さなければいけない相手がいるとすれば、それは彼と同じく“国1つの全戦力を相手に出来る怪物“くらいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、おー……よくまぁ、こんなにいたもんだなぁ」

「ど、どうするアレン!?この数は流石にお前でもまずいだろ!」

 

ベニー冒険団団長のベネットは俺達を囲む十数体の遺跡守衛を見て数の圧倒的差に後ずさる。まぁ、フツーこの数に囲まれれば死んだも同然だよな。

何故こんな状況になってるのかと説明すると、最近発見された未知の遺跡を2人で探索していたのだ。元々はキャサリン経由で冒険者協会が俺に依頼してきたんだが、最近冒険が出来ておらず、やり取りを羨ましそうに見ていたベネットを俺が誘ったのだ。不運体質を理由に最初は断られたが、「俺がいれば大丈夫だって」と言って一緒に来てもらったのだ。

 

元々がAランクの冒険依頼だけあって、ベネットの不運も重なりなかなかの難易度になったが邪魔な装置は壊したり、ベネットが落とし穴の罠に嵌まった時には彼を抱えて穴から戻ったりして遺跡の最奥の大部屋まで進んできたが……その不運も最高潮に至ったらしい。

前後の扉が閉まり、降ってきた十数体の遺跡守衛に囲まれる。それが今の状況だ。

 

「まっ、どうにかなるだろ。こいつら全部潰せば開くとかな」

「でもこの数は騎士団でも大掛かりな準備をして相手をするレベルだぞ!?……くっ、俺のせいでこんな事にっ……!!」

 

自分の不運体質を恨むベネット。その背後で動き出した遺跡守衛が狙いを定めて腕を振り上げているが、それに気付かないベネットの腕を咄嗟に掴んで引き寄せる。

 

「うわっ!?」

「まっ、責めるのは後回しにしとけって」

 

迫る遺跡守衛の攻撃を雷砲で迎え撃つ。ガキィンッ!と直撃した遺跡守衛の拳が砕け散り、腕を貫通していく衝撃波がその先にあった頭も吹き飛ばした。更には付随する雷元素が内部を駆け巡り、回路を破壊していく。

 

「まず1体」

 

機能停止し、頭が抉り取られた場所から火花を散らす遺跡守衛を雷脚で蹴り飛ばす。数体の遺跡守衛を巻き込んだ爆発が起こった辺りでベネットもようやく落ち着いてきたようだった。

 

「そ……そうだよな!なんたって、こっちにはモンド最強がいるんだ!」

「元だからな、元」

「でもアレン以上に強い人なんてモンドにいないだろ?最近じゃモンド城に近付こうとする風魔龍をたった1人で撃退してるって聞いたけど、普通無理だって」

 

まぁ、ベネットの言う通りだけど。ただモンド最強の名はファルカに返上したんだからずっと名乗ってるのも変だろ。

 

「おっ」

「うげっ、撃ってきた!」

 

遺跡守衛達が一斉にミサイルを撃ってくる。アレ、ある程度追尾してくるからめんどくさいんだよな。走って振り切ってもいいんだけどベネットがあの数に狙われるとヤバイだろうし。

 

「せいっ!」

 

背後に出現した西風大剣を握り、勢いよく横に振り切る。ゴウッと発生した強い風が渦を生み、大きな竜巻“山嵐(やまあらし)“となってミサイルを全て吸い寄せて舞い上がらせ、空中で爆発させていった。加えて前へと進んでいく竜巻に巻き込まれた哀れな遺跡守衛が天井へと叩きつけられ、多数の瓦礫と共に落下してくる。

 

「……えっ!?ア、アレンが持ってる神の目って雷元素だよな?」

「おう」

「なら何でそんな風元素みたいな事できんだっ!?」

「風くらい誰でも扇げば起こせんだろ?それとおんなじだ」

 

遺跡守衛と戦うベネットに簡単な説明をしつつ、遺跡守衛の弱点である目を西風大剣や雷脚、雷砲で貫いて次々に破壊していく。そして半分以上減った遺跡守衛が固まって一気に俺達に押し寄せてきた。

 

「チャンスだな。ベネット、ちょっと下がってろ」

「あ、ああ。何するんだ?」

「一気にぶった斬る」

 

西風大剣を大きく振りかぶり、刃に雷元素を纏わせて溜めていく。隙が生まれるが相手は動きの遅い遺跡守衛である為、心配はいらない。それに溜めが必要とはいえ元素の扱いに長けている俺にとっては数秒もあれば十分だ。

 

(だい) (らい) (じん)!」

 

西風大剣を振り払い、勢いよく放った雷の斬撃は名前の通り雷刃を強化したもの。この大部屋の幅一杯に広がった巨大な刃は、並んだ遺跡守衛達の体を上下に分け、それだけに留まらず奥にある扉をも壁ごと切断してずり落としていく。

雷刃とは比にならない範囲の広さと威力が特徴の技なのだ、これは。

 

「ジンに見つかったら怒られそうだな~ありゃ。歴史ある遺跡を壊すなって」

「は、ははっ……頑丈な遺跡の壁をあんな容易く斬るとか、相変わらず次元の違いを見せてくれるよなぁ、アレンは」

「だから言っただろ?大丈夫だって。さぁ~て、あの先に宝はあるかな?」

 

遺跡守衛の数と部屋に閉じ込められた事を考えるとここが最後の試練である可能性は高い。そう思いつつ、ベネットと共に扉だった物を飛び越える。入った小部屋には仕掛けはなく敵もおらず、奥の方にポツンと地面に突き刺さる物体が見えた。

 

「ん?」

「え、これって……」

 

たぶん()()がここの宝なんだろうけど……外れだな、ここ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────それでその大剣を持ち帰ってきたのね」

 

騎士団本部の広間で会ったリサに見せたのは遺跡から持ち帰った宝……と言っていいのか微妙な大剣。錆びていた為、ワーグナーに頼んで錆を取ってもらったが彼や報告したキャサリンにも『どこにでもあるようなちょっといい剣』と言われてしまった。宝ならもっといいものを隠せよ。しかもちょっと重たいし。俺はともかく、ベネットが両手で引きずってどうにか動いたって事は数人いなきゃ持ち運ぶ事すら困難だって事だ。

 

「ベネットから俺の好きなようにしていいって言われたし、レザーの特訓にでも使うか」

「あら、どう使うの?貴方が使ってもハンデになんてならないだろうし、あの子に使わせたら目標が更に遠くなるわよ?」

「いいじゃねぇか。この重さに耐えられればレザーはもっと強くなるだろ。そうすりゃ目標にだって結果的には近付けるし」

 

レザーとは、モンドの中央にある奔狼領(ほうろうりょう)という森で多くの狼と共に暮らしている銀髪の少年だ。レザーにとって狼は種族は違うものの家族(ルピカ)であり、彼らを守る力が欲しい彼の為に実戦練習に付き合っている。強くなる為に俺とレザーの間で決めた目標もあり、それは『俺に傷を1つでも付ける事』だ。今んとこ傷どころか俺の動きを目で捉える事すら難しそうだけど。

 

「指導すんのもいいけど、やっぱ誰かと特訓するなら相手が強くないと面白くないしな。張り合いがないんだよ、レザーじゃまだ」

「貴方と張り合える相手なんてテイワット中探してもなかなかいないと思うけど」

「そうなんだよなぁ~」

 

旅をしていた頃、他を凌駕する実力者と戦った事は何度もある。ファデュイのスカラマシュなどの執行官。稲妻の神である雷電将軍もとい雷電影(らいでんえい)。アビス教団の“怪物“共……他にも色々いるが戦いの結果は様々であり、程度の差こそあるが俺に本気を出させた相手達だ。

あいつらぐらい強くないとまずまともに戦えない辺り、俺もなかなかにヤバい奴だよなー。ただそういう奴に限って国の重要人物だったり、あちこちに行ったりするからなかなか会えないんだよなぁ。

 

「まっ、いなくてもいいさ。昔聞いた話によれば……もう少しすれば、そうも言ってられない相手がどんどん出てくるらしいからな」

「……どういう事よ、それ」

「そのまんまだよ、そのまんまの意味」

 

聞いた限りじゃ()()()がモンドに現れた時が始まりらしいが……さてさてさ~て、これから誰が現れて何が起こるのやら。




前に序章開始までにモンドの女性キャラ+ウェンティの話を書くと言いましたが、ちょっと変更で、次回ウェンティとの話を書いたらその次から序章に入りたいと思います。他の女性キャラとの話はその後に書いていく予定です。


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第7話

公式漫画の原神セレベンツ、璃月編や稲妻編とかは出ないのかな?出てくれたらすごい嬉しいんだけど。


風魔龍(ふうまりゅう)──────それは3年前、()()()()退()()()()魔龍ウルサ以来のモンドの脅威となっている存在である。かつてのモンドの旧都にして現在は風龍廃墟(ふうりゅうはいきょ)と呼ばれる場所を根城とし、モンドの各地で強大な力で人々を脅かし続けるその龍は、西風騎士団にとって一番の問題となっていた。

 

 

 

 

 

 

「おーい、ウェンティー。いるかぁ~?」

 

モンド城のすぐ目の前にそびえ立つ、かつてヴァネッサが天に上った場所に生えているオークの木。そんな伝説がある木に向かって声を掛けると、葉っぱと枝の隙間でヒラヒラと振られる手が見えた。

 

「んー?アレンだね、どうしたんだい?」

 

フワリとリンゴ酒を片手に飛び降りてくるウェンティ。見た目は緑色の服装が目立つ吟遊詩人の少年だが、その正体はモンドの民が崇拝する七神の風神バルバトス、その化身だ。旧モンドの神だったデカラビアンを暴政に耐えられなくなって滅ぼし、流浪の民となったモンド人の為に現在の新モンドを建国した七神の1柱である。……まぁ、自由を愛してやまない性格から暴君にならないようモンドから消えたり、民からの信仰を受け取らずにテイワットを巡ってるせいでモンドは「神が去った地」とも言われてるが。しかも神は人々の信仰心=強さみたいである為、自身を「七神最弱」と度々口にしてるし。

 

「トワリンの事についてだ。あいつの毒はまだ消えそうにないのか?」

「うん、そうだね……君が毒の塊をいくつか壊してくれたおかげでどうにか会話が出来る程度には正気に戻せたけど、完全に払うにはまだ無理そうだ。何かあったのかい?」

 

トワリン。風魔龍の本当の名前であり、かつて四風守護の「東風(とうふう)の龍」として人々から祀られていたバルバドスの眷属にして盟友。にも関わらずモンドを襲う理由は主に3つ。

1つ目は500年前にモンドを襲った毒龍ドゥリン退治の引き換えに奴の毒血を飲み込んでしまい、その毒がトワリンの体を蝕んでいる事。それにより正気でいられなくなってしまった。

2つ目はバルバトスが毒を払う方法を探る為に側を離れた事を「見捨てられた」と思い込み、加えてモンドの民が傷を癒す為に眠りについた自身を忘れ去ってしまった事への怒り。

そして3つ目が本当に迷惑な事をしてくれたなと言いたい事だが、アビス教団が毒で正気を失ったトワリンに“バルバドスとモンドにお前は見捨てられた“、“お前の味方は我々だけ“などと言って憎悪を深めさせ、モンドを襲うよう仕立て上げたらしい。

 

要は毒龍ドゥリンの毒を浄化できれば正気に戻して誤解も解けるんだが風神の力でもそれは難しいとのこと。長い年月で腐り、体外に出現した血の塊を砕いて体内を巡ってる毒血の速度を遅らせるのが今出来る手段だが、解決には程遠いのが現状だ。

 

トワリンのモンド襲撃の真実を知っているのは俺とウェンティのみ。騎士団にも話して情報を共有したい所だが間違いなくその情報の発信元を怪しまれ、最悪ウェンティの正体がバルバトスだとバレる可能性がある。人々の自由の為に信仰される事を嫌うウェンティからその可能性を無くす為に誰にも伝えないよう釘を刺されたのだ。

まぁ、風神でも解決策がまだ見つかってないのに「俺達はどうすればいいんだ!」なんて騒ぎになられても困るしな。伝えるにしても秘密が守れる少人数だ。

 

「ジンから聞いたんだが……ファデュイがトワリンの引き起こす龍災(りゅうさい)に介入しようとしてるみたいなんだよ」

「……トワリンの力を狙っているんだね?」

「だろうなぁ。『テイワットを守護してる』な~んて言ってるけどやってる事はほとんど口に出せない事ばっかだろ。絶対ろくでもねぇ事考えてるぜ?」

 

全員ではないが、人体実験を躊躇いなく行えるような狂人ばかりである以上トワリンを奴らに任せればどうなるかなんて目に見えている。まっ、そもそも奴らに任せる気なんて最初からないが。

 

「ただ奴らには作るはずだった借りがねぇ。悩みの種のトワリンを殺して恩を売る事も兼ねてるんだろうが、問題を起こせばモンドから叩き出されるって分かってるみたいだな。ジンがきっぱり断ったら逃げていったらしい」

「借りがあったとしてもあの信仰深い彼女がファデュイの力を借りるなんて想像出来ないけどね。でもそれならファデュイの介入は心配ないんじゃない?」

「でも時間は掛けらんないだろ。モンドのあちこちでみんな龍災に怯えてるし、騎士団も結果を出せてない。俺が被害を抑えてはいるけど、このままだとファデュイに頼ろうとする奴が出てこないとも限らない」

 

ファデュイのやり方はともかく、先遺隊やデッドエージェントなどは神の目所有者である原神(げんしん)にも十分通じる実力を持っている。その上の執行官は更に別次元の実力者達だ。戦う相手が風神の眷属だとしても引けを取らないだろう。

 

「これ以上の苦しみは彼にとって危険だよ。何かされれば憎しみと怒りに囚われて二度と元に戻れなくなってしまうかもしれない」

「トワリンにも時間はあまり時間は残されてないって事か」

「…………うん。僕に1つ、考えがあるんだ。その為にはもう一度トワリンと会って話をしてみる必要があるんだけど」

「ならまた風龍廃墟に向かうか?」

 

前に一度、俺とウェンティはトワリンが巣にしている風龍廃墟に正面から突入した事がある。しかしその頃はまだトワリンとろくに話も出来ず、撤退するしかなかった。しかもその後、アビスの魔術師共が暴風の障壁を張り巡らせ、中に入る事が出来なくなってしまった。山嵐で吹き飛ばしてもすぐに元通りに戻ってしまう辺り、力技では突破できない特殊な障壁だろうなぁ。

 

「それならまずアビスの魔術師を捕まえてあの障壁を突破する方法を聞き出さなきゃいけないか」

「いや、それじゃダメだ。トワリンに僕らには敵意がない事を示さなきゃならない。その為には準備が必要なんだ」

「準備って?」

天空(てんくう)のライアーだよ。あの弦で引いた歌はきっと彼にとって懐かしいもの……少なくとも僕達に無闇に襲い掛からず呼び掛けに応じてくれるはずだよ」

 

天空のライアー……あ~、風神バルバトスがトワリンを呼び出すのに使っていたモンドの至宝か。

現在は西風教会が管理しており、大聖堂の地下室にて西風騎士団が厳重警戒で保管してるはず。唯一バドルドー祭の期間中だけ外に持ち出されるが団長、主教、民衆の代表者の同意とサインされた書類が必要という徹底ぶりだ。

 

「つってもあれを持ち出すにはなかなか骨が折れるぞ?教会なんてトワリンを“東風を裏切った愚獣(ぐじゅう)“なんて言ってるから余計になぁ」

「その点は心配ないよ、僕に考えがあるからね!」

「考えってどうするつもりだよ」

 

風神バルバトスである事を隠している以上、ウェンティは風とリンゴと酒が好きでチーズパンケーキがクドイからって苦手、酒代を稼ぐのにライアーを引きながらコップで酒を飲むなんてパフォーマンスをするちょっと変わった猫アレルギー持ちの吟遊詩人でしかない。

 

「えへへっ、それはヒ・ミ・ツ、だよ!」

 

……正直不安しかねぇんだが。酔っぱらったら使い物にならないこいつを初め、七神はどいつもどこかポンコツな所がある。隣国の璃月にいる鍾離(ショウリ)はモラを全然持ち歩かないし、影は料理をすると火を使ってないのに何故か消し炭を作るし。

 

「じゃあ……ライアーは頼むぞ?俺はそろそろジンとディルックに龍災の真実を伝えてこようと思う。トワリンと決着を付けるんなら人手は多少あった方がいいだろ?」

 

モンドで実力があり、秘密を守り、なおかつ最悪な事態(トワリン退治)にも対処できる人物は限られてくる。2人の他にもロサリアやエウルア、ガイアなどいるが龍災の後始末で隙間が生まれた見回りルートを抜けてくる悪質な輩やヒルチャールがいるし、アビス教団も何か企んでるらしい動きを見せている。故に動かせる人数は限られているのだ。その上で行動や発言がモンドに大きく影響を与えるジンとディルックなら、結末を見届ける証人にもぴったりだ。

 

「よろしく頼むよ。でも僕の正体は伝えないでおくれよ?」

「おー、分かってる分かってる」

 

つっても勘の鋭いジン達にはすぐバレそうだけど。俺もウェンティと初めて会った時、感じられる気配が人々とまったく違うからって問い詰めたら風神バルバトスってすぐ白状したし。

 

「それじゃあお互いそれぞれで動くって事で話は終わりでいいかな?なら~……エンジェルズシェアに一緒にお酒を飲みに行こうよ!あっ、キャッツテールの特製カクテルもいいなぁ~」

「昼間っから飲むつもりかよ」

「いいじゃないか、僕はお酒が大好きなんだよ」

 

それは知ってるし、知りたくなかった。俺の奢りだからって48杯もアカツキワイナリーの酒を飲みやがったこいつの所業は絶対に許さない。1杯だけでもクソ高い酒を水のように飲みやがったんだぞ。

 

「ただ最近はパフォーマンスがあんまりウケなくてモラが少ないんだ。だからさぁ……」

「奢らねぇぞ」

「え~、アレンはケチだなぁ。前は飲み過ぎたって自分でも反省してるんだよ?」

 

……絶対してねぇな。ただ確かにウェンティのパフォーマンスが最近客にウケてないのは事実だ。というよりも大体酒絡みだから似たような感じになる事が多いんだよなぁ。つまりウェンティのネタ切れがウケない原因だろう。

 

「まっ、酒代はコツコツと稼ぐしかねぇな」

「うぅ~……なら君の冒険の話をまたしてよ!それを僕が詩にすれば酒代が稼げるからさ。君の冒険譚は評判がいいからきっとすぐだよ」

「それくらいならいいけどよ」

 

ウェンティの言う通り、俺の「自由の旅」は評判がいいらしい。前にエンジェルズシェアで詩を披露していた時、大量のモラを帽子に投げ込まれてるのを見た事があるからな。確か前に話したのはナタでの旅の事か。

 

「なら木に登って話そうよ!上は風が気持ち良くて、僕のお気に入りなんだ」

「へぇ~……んじゃ失礼するぜ、ヴァネッサ」

 

伝説が残る大木に登るとかヴァネッサ大好きなマージョリーに見つかったら怒られるかもだが、友人であるウェンティに誘われたんだから別にいいだろう。躊躇なく地面を蹴り、幹を蹴り、枝の間を縫うように進んでいった俺は大して時間も掛からず大木の頂上へと顔を出した。

……うん。ウェンティの言った通り、風が気持ちいい。こんなに大きな木、モンド中探してもなかなか見つからねぇからな。風で葉が揺れる音も心地よくて最高と言っても過言ではない。

 

「どうだい?ここは気持ちいいだろう?」

 

風元素を利用してフワリと浮かび上がってきたウェンティが俺の隣に降り立つ。尋ねてくる彼に「そうだなぁ」と返しつつ、遥か遠くに見える天空の島を見た。この大樹など足下にも及ばず、璃月の慶雲頂(けいうんちょう)よりもさらに高い雲の上に存在する島だ。

神の目を持つ原神はあの島に登る資格を持ち、辿り着いた者は神となって世界の守護を任される。実際モンドにはヴァネッサがあの島へと登っていったという伝説があるし、似たような言い伝えはテイワットのあちこちに残されている。

そういえば神になれる話が本当なのかどうかウェンティにも聞いた事があるが、うまくはぐらかされたな。まぁ、俺は神になる気はねぇから別にいいんだけど。

 

「それで?今回は君のどんな旅の話を聞かせてくれるんだい?」

「そうだなぁ、じゃあ今回は前話したナタでの続きを話すか。俺はあの国で──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤアレン・グンヒルド

 

 

ㅤㅤㅤㅤ彼の物語は一度終わりを告げた

 

 

ㅤ再び始動した物語もいずれは終止符が打たれる

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤそれが

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ彼の“全て“の物語の終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぇ~くしょんっ!!」

 

「えっと、大丈夫?」

「おう!ありがとな、助けてくれて!お前が溺れてるオイラを釣り上げてくれなかったら……ううっ、考えるだけでも怖いぞ……」

 

本来はご飯の為に魚を釣ろうとしたのだが、実際に釣れたのはまったく違うものだった。

 

「オイラはパイモン!なぁ、お前はなんて言うんだ?」

(ほたる)だよ。……ねぇ、パイモン。ちょっと聞きたい事があるんだ────」

 

「最高の仲間」との出会い。それはモンドで兄の手掛かりを知る彼と出会う数週間前の事だった。




この話にて一旦物語を区切ります!

次回からはゲームのモンド編に入ります。つまり蛍とパイモンが登場してきます!オリ主紹介を追加しながら執筆していくので投稿日が伸びるかもですが……なるべく早く投稿できるよう頑張ります!


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ACT.PROLOGUE 風を捕まえる異邦人
第8話


メリークリスマス!

みなさんはクリスマス・イブを誰と過ごしましたか?作者は家族と一緒にチキンとケーキを食べてました!

年内の投稿は今回で終わりです。また来年もよろしくお願いします!


『ファデュイが天空のライアーを狙っている』

 

その話を聞いたのは偶然だった。モンド城の噴水広場をよく彷徨いているファデュイの使節であるミハイルとリュドミラがコソコソと喋っている姿を見つけ、聞き耳を立てれば天空のライアーをバレずに盗めるのか話していたのだ。生憎この2人は実行部隊には加わっていないようだったので詳しくは分からなかったが。

 

“天空のライアーには風神バルバトスの力が少ないものの残っている“とウェンティが前に言っていた。それが目的なのは明白だろう。龍災への干渉が出来ない今、奴らが手に入れられる唯一の風神の力だからな。大方、最後の手段として強引に奪いに来るんだろう。

 

ただ天空のライアーを盗む為に計画を練るならば奴らがモンドにいる間、滞在しているゲーテホテル内はまずありえない。ファデュイには悪評が絶えず、故にオーナーであるゲーテやスタッフ達も注意は怠っていない。他の場所だとしてもモンド城内は騎士団が目を光らせてる以上1ヶ所に集まれば怪しまれるのは確実だ。

つまり……実行部隊が計画を練っている場所は『モンド城内にはない』と考えた方がいい。その考えに行き着けばやる事は決まっている。

 

 

奴らが隠れ家にしている場所を絞ればいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という事でだ、最近ファデュイの奴らが城外で彷徨いてるのを見た事はねぇか?」

「ファデュイの奴らか~。俺は見てねぇなぁ」

「えっと……囁きの森では見た事がないですね」

 

まず騎士団の巡回ルート近くに隠れ家は作ってねぇ。その逆を突くという可能性はあったが、ジンからモンド城外の巡回ルートの配置表を借り、その道を巡りながら周囲の気配を探った結果隠れ家は見つからなかった。誰かがいるならそこにモヤモヤ~とした感覚がするはずだからな。

そして巡回ルート以外の広範囲を探すとなればそこに足を伸ばす人々を頼ればいい。冒険者達は依頼でモンドの様々な場所に赴く。隠れ家があるならば、そこに食料や物資を運ぶなどの役割を持った使節がいるはず。その姿を誰か目撃していないか情報を得る為、俺は冒険者協会支部に十数人の冒険者達を集めたのだ。もちろん部長であるサイリュスから許可を貰い、ファデュイに気付かれないよう外にいるあいつには自然を装ってもらってる。

 

「私も食材探しで遠くに出掛ける事はあるけど、彼らを見た事はないわね」

「ここに来る前、ティミーに話を聞いてみたけど昼間城門から出ていくファデュイは見た事がないって言ってたよ」

「いや、そもそも城門には昼夜関係なく西風騎士がいるだろ。出入りしてるファデュイがいれば怪しまれるって」

 

……食料や物資などを手に入れるにはこの辺りではモンド城しかない。狩人達が暮らす清泉町(きよいずみちょう)もあるが肉など限られた物しか手に入らないし、アカツキワイナリーからは到底無理だ。スネージナヤから持ち込んできたんなら話は別だが、初めから狙っていた可能性は低い。狙ってたんなら既に盗みに入ってるはずだし、食料だって長期間はもたない。奴らがモンドに滞在するようになってから大分経つみたいだし。

にも関わらずモンド城を出入りしている使節がいないという事は……何かしら見つからないカラクリでもあるんだろうか?

 

「けどアレンさん。ファデュイが隠れ家を作ってるって証拠はないんだろ?もしかしたら裏をかいてくるかも……」

「ないな。城内で話して騎士団に勘づかれれば計画は一瞬でパーだ。奴らがそんなリスクを犯すとは考えづらい。絶対に隠れ家をどこかに作ってるはずだ」

 

ミハイルが口を滑らしたのは別として、だ。確かに“隠れ家を作ってない“という可能性はあるが、モンドのみんなから信用も信頼もされてない奴らだ。実行部隊が疑われないよう隠れながら動いている事は確実と言っていいだろう。

 

「でも誰もモンド城の外でファデュイを見てないんじゃあな」

「うん……」

「ああ、天空のライアーを狙うなんてあいつららしいけどよぉ」

 

 

 

 

「ふふふ……どうやらお困りのようね、共に世界の真実を追い求める同胞たちよ」

 

 

 

 

コツ、コツと床に足音を立てながらこちらへ歩いてくる女の子が見えた。冒険者達が左右に分かれて俺の方へ通すが、彼女も冒険者協会の一員だ。ただし肩書きは冒険者ではなく調査員。14歳で冒険者協会に入り、その後たった1年間で活躍の場を広げ、今では冒険者協会の新星として多くの人達にその名を知られている。

金色の髪をなびかせ、左目に「断罪の目」を持つ彼女は後ろを飛ぶ従者である鴉を引き連れて俺の前で立ち止まった。

 

「よぅ、フィッシュル。来てくれたか」

「光栄に思いなさい、我が断罪の騎士アレン。貴方の召喚に応じこの断罪の皇女が降臨を果たしたわ!」

 

フィッシュル・ヴォン・ルフシュロス・ナフィードット。幽夜浄土の主、千の宇宙を跨がってきた断罪の皇女────という設定を持つ“フィッシュル皇女物語“に出てくる登場人物と自身を同一視してる彼女の名はエミ。小さかった頃、冒険者の両親は忙しさのあまり彼女の相手をなかなか出来ず、気付けば大きくなった今もフィッシュルと名乗ってる。

だがここは自由の都、彼女が誰であろうと否定するつもりはない。昔も今もそれは俺達の間で変わらない事だ。

 

「お集まりの時間に間に合わず申し訳ありません、アレン様。グローリー様が荷物を無くしてしまったと困っていた為、お嬢様が一緒に探すお手伝いをしていたのです」

 

それとフィッシュルの眷属である喋る鴉、オズ。“フィッシュル皇女物語“に出てくる巨大な鴉の王・オズヴァルド・ラフナヴィネスから名前を取られ、主人の為に色々と尽くしてくれてる。フィッシュルの前に神の目と一緒に突然現れた理由は不明だが、彼女の願いが強く関係してるのは分かる。オズがいなければフィッシュルは今頃暗く沈んだ人生を歩んでいたと考えると、オズがいてくれて良かったと思うし。

 

「……ふん、未知なる世界で彷徨い続ける断罪の従者に手を差し伸べただけよ」

 

西風騎士団団長ファルカの遠征に同行していった西風騎士グッドウィンを恋人に持つグローリー。彼女は生まれつき盲目で目がまったく見えない。故に荷物を無くしても探すどころか場所さえ分からなかったのだろう。そこをフィッシュルが助けてあげたって事か。

 

「そっか。ならグローリーも喜んでただろ」

「わたくしの忠実なる眷属の千里をも見渡す瞳からは何物も逃れられないわ。断罪の皇女の祝福に感謝し、その身を幽夜浄土に捧げる密約を交わしたわ」

「お嬢様、わたくしにそのような力はございません!」

 

フィッシュルの調査員としての強み、それはオズの存在だ。鴉であるオズは空高くから偵察・観察が出来る他、喋らなければ見た目はただの鴉にしか見えない為、相手に警戒されにくい。それに加え、オズが“フィッシュルの目“と例えられるようにフィッシュルはオズと視界を共有できる上、力を発揮すればオズと同化する事も出来るなど多様性に優れている。

 

「うん、やっぱフィッシュルは優しいな」

 

フィッシュルの頭に手を置き、サワサワと優しく撫でる。小さい頃からフィッシュルが俺に自身の様々な物語を話す度に撫でていたから癖になってるのだ。他にもクレーはもちろん、幼い頃のアンバーなども褒める時によく撫でてたからうっかり他の奴にもしちゃうし。

 

「きゃふっ……わ、わたくしの頭に気安く触れるなど許される事ではないわ。でもわたくしに認められた騎士である貴方にはその権利を授けてる。だ、だからもっと撫でてもいいのよ?」

「お嬢様はアレン様に頭を撫でてもらう事がお好きと言ってましたものね」

「オ、オズ!?それは言わない約束でしょ!何で言っちゃうのよ!」

「おや、これは失敬」

 

おっ、久々にフィッシュルの素の声が聞けたな。まぁ、好きだって事は昔から知ってるが。だって撫でられると目を細めて気持ち良さそうにしてるし。

 

「あー……アレン?フィッシュルも呼んでたのか」

「ああ。フィッシュルにはお前らとは別に、ファデュイの使節が城外にいないか調べてもらってたんだ」

 

最初はアンバーに頼もうとしたが、最近龍災の影響でヒルチャールが城近くにまで迫ってきており、その対処に追われてるらしい。なら、とフィッシュルに頼んだわけだ。偵察騎士も調査員も肩書きは違うがやってる事は大体同じだからな。

 

「確かにフィッシュルは調査員として優秀だけど、探す場所も分からないのに見つけるなんて……」

「凍てつく国より舞い降りしモンドの平和を脅かす罪深き者達……彼の者達の巣窟は、既に突き止めたわ!」

「おっ、はえーな。流石はフィッシュル」

「ふふんっ♪」

 

よく見つけてくれたフィッシュルを褒め、また頭を撫でれば嬉しそうに笑った。

 

「……えっ?」

「ほ、本当にいたのか!?」

「フィッシュルちゃん、マジで嬉しそうだなぁ……」

「ああ……俺、あんな笑顔見た事ないよ」

 

冒険者達が戸惑う中、フィッシュルはいつもの眼帯に手を添えるようなポーズをとる。初めて見た時は左目を怪我したのか心配したが結局何もなく、「断罪の目」を隠す為って言ってたなぁ。曰く、隠さないと真実を見た負担と痛みに襲われるらしい。

 

「で、でも一体ファデュイの奴らいたんだ?俺達色々な所に行くけど、誰も見た事なかったんだぞ」

「いえ、正確に言えば初め見つけたのは()()()()()()()()()()()()()だったのです」

 

冒険者からの問いにオズが答える。その中の気になる言葉に俺はフィッシュルの頭を撫でる手を止めた。残念そうな顔を向けられたが、我慢してくれ。

 

「怪しげなフード……誰だったんだ?」

「あ、もう終わりなの……?っ、コ、コホン!」

「残念ながら正体は掴めませんでした。しかしその人物を私が追い掛けた所、僅かな食料と武器をファデュイの使節へと渡す姿を見たのです」

「その使節はどこに?」

「清泉町より南に進んだ先にある洞穴を隠れ家としているようです。お嬢様と共に調査を続けましたが、出入りをする様子は見られませんでしたね」

 

なるほどなぁ。その協力者が誰なのか、そもそもモンド人なのかはファデュイの奴らを捕らえて聞き出すか。そうとなれば行動あるのみだな。

 

「場所さえ分かれば後は俺に任せとけ。フィッシュル、オズ、みんなも集まってくれてありがとな」

「いや、それはいいんだが……アレンさん1人で行くのか?俺も最後まで協力するぞ?」

「私もお手伝いしたいです!」

「断罪の騎士アレン。この断罪の皇女もモンドの平和を取り戻す為なら、貴方への協力を惜しまないわよ」

 

ここに集まってくれた冒険者達全員がファデュイ捕縛の為の協力を申し出てくれた。だが全員で向かえば見つかるリスクは上がるし、ファデュイの連中が何をしでかすか分からない。それにこれはスネージナヤとの問題、冒険者よりも騎士団が解決するべきものだ。……まぁ、騎士団は龍災で手が離せないから俺がジンの許可を得て代わりに動いてるんだが。

 

「いや、冒険者協会も龍災の被害で人手不足だろ?そっちに足を運んでやってくれ。なぁ~に、心配すんなって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────というわけで、今この状況が起こってるわけだ。理解できたか?」

「ごふっ……なる、ほど……」

 

壁から瓦礫と共に崩れ落ちたファデュイのデッドエージェント……名前はザメンホフって言ってたか?何故ここが分かったのか、何故天空のライアーを狙ってる事がバレたのか問い掛けられた俺が答えてる間に戦いは終わりを告げた。

仮面は割れ、満身創痍になった体。折られて地面に突き刺さる自慢の刀。捕縛する事が目的の為、致命傷は与えなかったがしばらくはまともに動けないだろうな。

 

「わ、私の仲間は、どうしたっ……?」

「全員捕まえたに決まってるだろ」

 

洞穴の奥に辿り着くまではそんな時間は掛からなかった。守衛の殆どは背後からの奇襲で倒し、途中見つけた雷蛍術師(らいけいじゅつし)も気絶させて行動の術を奪った上で全員同じ檻に閉じ込めてる。あとで騎士団に連行してもらうのにどこかへ行かれると面倒だからな。

 

「まっ、この計画書さえ騎士団に届ければお前らファデュイをモンドから追い出す事は出来るけどな」

「ちっ……」

 

ザメンホフの懐から奪った計画書には天空のライアーを奪う為の経路や雷蛍術師が教会の地下へ侵入する事……その他にも警備が緩くなる時間帯や城外の巡回ルートなどが書かれている。

 

「だけど聞きたい事がある。お前らに食料や武器を運んできた協力者は誰だ?あとここに書かれてる警備の事や巡回ルートは誰から聞いた?」

「そこまで、知ってるか……ごほっ。……いや、知ってるからこそここがバレたんだったな。まったく、使えないモンド人だ……」

 

……協力者はモンド人、ね。大体予想はつくが間違いというのもある。協力者の正体については()()()にも探ってもらうか。

 

「城内にいる連中も、はぁ……そうだ……貴様には注意するようあれほど言ったのに……」

「お前らにとって俺は特級危険対象(とっきゅうきけんたいしょう)、だっけか。警戒されんのも無理はねぇけど、情報の漏れには気を付けた方がいいぜ?」

 

モンドだけじゃなく各地でファデュイの企みをぶち壊したり、執行官を叩きのめしたりしてりゃあ警戒されないはずがないからな。

 

「ふん……だがこれで……貴様もモンドも終わりだろうな」

「あん?」

「この事態がシニョーラ様に伝わればいくら貴様とて、敵わないだろう?貴様に制裁が下される時が楽しみだ……!」

 

シニョーラ……ファデュイの幹部、11人いる執行官の第8位。『淑女(しゅくじょ)』とも呼ばれる彼女は確かに強い……が、内に秘めてる炎を解き放たない限りは()()()()()()になるだけだろうな。

 

ただ──────

 

「……本気で俺を殺りてぇなら執行官全員引っ張ってくるんだな」

「は……?」

「たった1人の執行官だけで俺をどうにかできると思ってんなら甘い考えだぞ」

 

まぁ、あいつらが11人揃ったとして協力なんてしないと思うが。そもそも全員が強大な力を有してるせいで味方同士で邪魔し合いになるだろうな。

 

「っ……ならシニョーラ様の為にも……モンドからファデュイが追い出されない為にも、覚悟を決めねばな」

 

ザメンホフが壁を手で押すとその部分のみが凹み、代わりに鉄製のレバーが奥から出現してくる。そのレバーを掴んだ奴は深く息を吸い、そして吐いた。

 

「この洞穴は……我々によって改造がされている。この緊急事態の対策も……準備済みだ」

「何する気だぁ?そのレバーで」

「我々の作戦は失敗に終わるが……貴様の作戦も、消えて無くなるだろう……」

 

消えて無くなる?──────まさかっ!?

 

「おい、やめろっ!ここにはお前の仲間がいるだろうがっ!」

「本望だろう……皆、覚悟の上でファデュイのメンバーになったのだから」

 

くそっ、間に合え……!

 

「ファデュイに……栄光あれ」

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤガシャンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風の神をかたどった七天神像(しちてんしんぞう)で風の元素力を手に入れた後──────森で巨大な龍と話していた謎の少年を見失い、残された赤く黒い光が流れる水滴状の結晶を拾った私とパイモン。

龍と少年、それにこの不思議な結晶と分からない事ばかりの中歩いていると、西風騎士団というモンドを守る組織に所属する偵察騎士のアンバーに出会った。

彼女には怪しい人物と疑われたが、『騎士団ガイド』の規範により“見知らぬ尊敬できる旅人さん“としてモンド城に案内してもらえる事になったのだ。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤドオオォォォン……

 

 

「……えっ?」

「どうしたー?突然止まって」

 

今の音って……爆発?

 

「ねぇ、パイモン。アンバー。今何か、爆発みたいな音がしなかった?」

「そうか?オイラは聞こえなかったぞ」

「わたしも聞こえなかったかな」

「そう……」

 

パイモンとアンバーに尋ねるものの返ってきたのは真逆の答え。

私の聞き間違いだったのかな?……いや、確かにアレは何かが爆発した音だった。それに周囲では何も起こってない所を見るに、遠い場所で大きな爆発があったんだと思う。

 

「爆発……あっ、もしかしたらクレーかな?」

「誰だ?クレーって」

「わたしと同じ西風騎士なんだけど、まだ小さいんだ。だけどあの子、よく爆弾をおもちゃにしてて……いろんな場所を爆発させてるんだよ」

「爆弾をおもちゃ!?い、いいのかよそれ?危なくないか?」

「よくはないし、危ないけどクレーの爆弾が役立った時も多いからね。それにみんなクレーが大好きだから、取り上げたら泣かせちゃうって思うとね……」

 

つまりみんな甘い、と。でも他の世界でも爆弾を使う少年はいたし、爆発を操る少女だっていた事を考えるとそのクレーって子が爆弾をおもちゃにしてても、そこまでおかしくはない……かな?

 

「それじゃあ私が聞いたのはクレーって子が爆弾を爆発させた音ってこと?」

「たぶんそうだと思うんだけど……」

 

確証はないけれど、そういう事にしておこう。仮に別の原因があったとしても私達に確認する方法はないし、今はあまり気にせずモンド城を目指そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっ、一体何があったんだ!?」

 

清泉町はモンド城郊外にある町であり、猪などの獲物を狩る狩人が住んでいる。その狩人達のリーダーであるドゥラフは爆発が起きた場所へ急ぎ、既に集まっていた狩人達に事情を尋ねた。

 

「そ、それが突然ここの岩山が爆発したみたいで……詳しい事は何も分かってないんです」

 

狩人の1人であるエレンが説明すると、煙が漂う瓦礫の山に近付いたドゥラフは何かに気付いたのか顔を近付け、臭いを嗅いだ。その臭いは火薬。それが爆発の原因と判断しつつ、何故ここに火薬があったのか思案していると──────

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤピシッ……パキッ……

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤピシシッ……

 

「ん?何の音──────」

「っ、ドゥラフさん危ない!」

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤドンッ!!!!

 

 

瓦礫に小さなヒビが入り、その音にドゥラフが気付いた瞬間地面が勢いよく爆ぜた。狩人達が間一髪でドゥラフを後ろへと引っ張った事で彼が巻き込まれる事はなかったが、間に合わなければ瓦礫に潰されていただろう。

……ちなみにドゥラフを助ける事に集中していた為、誰も見ていなかったが瓦礫の中から大きな()()が飛び出て宙を舞い、それは地面へ鈍い音と共に叩きつけられた。

 

「な、何だこれ……お、檻……?」

「お、おい!中に閉じ込められてるのって、ファデュイじゃねぇか!?」

「何だと!?」

 

地面へと落ちたのはファデュイの使節入りの檻。全員が気を失っており、中には手足を縛られた者もいるなど状況が理解できないドゥラフ達は困惑するばかりである。

 

ひゃくっ(たくっ)……ふひゃなことしひゃかって(無茶な事しやがって)

 

状況を唯一知っている人物はただ1人。瓦礫の中から出てきたアレンは口に咥えていたデットエージェントのザメンホフを地面へと放り投げる。爆発のすぐ側にいた彼はボロボロだが、同じく側にいたアレンは服が少し焼き切れているだけで傷らしき物はない。頑丈さやタフさも普通とはまったく違うのだ、“元モンド最強“は。

 

「アレン!?どうしてお前がここに!?」

「お、ドゥラフじゃねぇか。実は──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。ここにファデュイの隠れ家があったとは……」

「この辺りは僕達の狩猟区域からは離れてますからね……誰も気付きませんでした」

 

瀕死状態のザメンホフを狩人達に手当てしてもらってる傍ら、俺はドゥラフとエレンにここであった事を話した。手に入れた計画書は焼かれてほんの一切れ残っただけでもはや使い物にならない。隠れ家も失くなってしまったし、明確な証拠がないんじゃファデュイをモンドから追い出す事は出来ないな。あいつらが何か吐いてくれれば監視を強く出来るかもだが。

 

「しかしよく生き埋めの中から脱出できたな……しかもファデュイまで連れて」

「あいつらを閉じ込めたのが運良く檻だったからな。おかげで一度に助ける事が出来たんだ」

「アレンさん、そこじゃないですよ……」

 

大丈夫だ、エレン。分かってるから。普通じゃ助けられない、だろ?だから俺は強くなる為に普通じゃなくなったんだよ。

 

 

ㅤㅤㅤ「ガァァアアアアアアアッ!!!」

 

 

「っ!?この声……」

「う、嘘だろ……ふ、ふふ……風魔りゅっ!?」

 

エレンの言葉は言い終わる前に突然の暴風によりかき消された。その暴風の切れ目の遥か先に見えたのは──────トワリン。

だが今までとは様子が違う。怒ってるのは目に見えてるが、体から突き出た腐食した血の塊である結晶の数が多い。頭、首筋、背中、翼、尾に巨大な結晶が生えているのだ。おそらくアビスの奴らに何か仕込まれたんだろう。

怒りと苦しみがトワリンを蝕み続ければ彼は死んでしまうとウェンティは言っていた。あのままじゃ……本当に死ぬぞ。

 

「おい……あいつ、モンド城に向かってないか!?」

「な、何だと!?」

 

狩人の言葉にドゥラフが人一倍声を荒げる。確かにモンド周囲を旋回したトワリンはモンド城へと進路を向けてる。このままだとモンド城に辿り着くのは時間の問題か。

 

「おい、アレン!モンド城に急ぐぞ!あの龍にディオナが襲われたら……!」

「ドゥ、ドゥラフさん!?ファデュイはどうするんですか!?」

「お前達に任せる!そいつらが逃げ出さないよう見張ってるんだ!」

 

ドゥラフの指示に不安を隠せない狩人達。だがドゥラフがモンド城に急ぎたい理由は分かる。彼の1人娘であるディオナはキャッツテールの看板娘だ。つまり城内におり、そこにトワリンが向かってるとなれば心配するのは親として当然だ。

 

「……ドゥラフ、お前はここに残れ」

「だが!」

「お前は清泉町のリーダーだろ?風魔龍が現れた今、不安なのはここにいる狩人達だけじゃない。清泉町にいるブロックさん達がお前の帰りを待ってるかもしれないんだぞ」

「ぐっ……」

 

ドゥラフが唇を噛み締める。頭では分かってるんだろう、自分が今何をするべきなのか。伊達に長年リーダーをやってるわけじゃないんだ。

そしてしばらくして俯いていた顔を上げたドゥラフは俺の肩を力強く叩いてきた。

 

「分かった……俺の代わりにディオナを……モンド城にいるみんなを守ってやってくれ……!」

「おう、任せとけ。ファデュイの奴らは城の方が落ち着いたら戻ってくるから、それまで逃げ出さないよう見張っといてくれ」

「はい!分かりました!」

 

清泉町やファデュイの見張りを狩人達に任せ、俺はモンド城へと走り出す。しかしいつまでも走ってるわけじゃない、これじゃ時間が掛かりすぎるからな……うん、ここまで来れば誰も巻き込まれる心配はないな。

 

飛雷脚(ひらいきゃく)っ」

 

地面を雷脚で踏み抜き、その反動で砕け散った地面と砂煙を背景に俺は空高く宙を舞った。瞬く間にモンド城までの距離を一気に詰め、もう一度飛雷脚で跳べばモンド城まであと少しという距離である。

 

「トワリン……本気でモンド城を襲うつもりなら容赦しねぇぞ?」




他の国でもそうですが、なるべくメインストーリーにはゲームでは出てなかったキャラも登場させたいです。


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第9話

あけましておめでとうございます!今年もこの作品をよろしくお願いします!


城の近くに巣を作っていたヒルチャール達を発見した私達。その巣を私はアンバーと協力して破壊した。

 

そしてようやく────

 

「改めて紹介させてもらうわ。風と蒲公英の牧歌の城、自由の都──────西風騎士団に守られてやって来た旅人さん達、モンドへようこそ!」

 

城を囲む美しいシードル湖に掛けられた橋を渡り、正門を潜った私とパイモン。辺りを見渡せば上の方には平原からもよく見えた風車や風神の像、その奥にある教会……その他にも大きな建物が確認できる。私達が今いる下の方はお店や民家がある事から、どうやら生活区域らしい。どの家も褐色の壁と赤瓦が特徴な2階建てばかりだ。

 

「オイラ達、やっと野宿しないで済むな!」

「そうだね……」

 

モンドに辿り着くまでは村や町が見つからず、パイモンと一緒に洞窟で夜を過ごしたり、動物を狩って料理したり、川で洗濯や入浴を済ましてきた。だがその苦労からようやく解放されると思うと……あっ。

 

「ね、ねぇ、アンバー。モンドの宿屋にお風呂って付いてるかな?」

「えっと……たぶんどこの宿屋でも簡易的な物なら付いてるはずだよ」

「よかったぁ」

 

冒険してる中ではなるべく意識しないようにしてるが、流石に何週間もまともに入ってないとなると臭いを気にしないというのは難しい。お兄ちゃんなら同じ状況でも気にしないだろうけど、私は女性なのだ。どうしても周囲の反応が気になってしまう。しかもここは人が多い場所だし……。

 

「それにしても……城内のみんなはあまり元気がなさそうだな」

 

パイモンに言われ、人々に目を向ければ確かにその通りだった。怯える様子の人もいれば、無理に笑顔を作ってる店の人達もいる。西風騎士と思われる鎧を着た人達もどこか緊張気味だった。

 

「最近、みんな風魔龍の件で頭を悩ませてるからね」

「風魔龍……」

 

アンバーから聞いた、最近モンドに出没し始めた巨大な龍。暴風で怪我人を出すだけでなく、キャラバンのルートに影響を与えて本来荒野にいるヒルチャールがモンド城近くに巣を作る原因を作ったりなど様々な被害を起こしるらしい。

もしかして……あの不思議な少年と一緒にいた龍が風魔龍?でも何故だろうか?あの時拾った赤い結晶……それが鞄に入ってるにも関わらず私に“悲しみ“や“苦しみ“といった感情をぶつけてきてる気がしてならないのだ。

 

「でも大丈夫、モンドにはアレンさんや頼れる人達がいるから!」

「アレンさん?」

 

突然出てきた名前に私とパイモンは首を傾げる。直接名前を出してる辺り、アンバーにとっては最も頼りになる人物なんだろうけど。

 

「モンドで一番強い人だよ!昔は西風騎士団にいて、雷鳴騎士って呼ばれてたんだ」

「一番強いって凄いな……ど、どんな奴なんだ?」

「とっても優しい人だよ。小さかった頃、わたしの遊びによく付き合ってくれたりもしたんだ」

 

そう言うアンバーは他にも、『困ってる人達の相談に乗ってあげたり、助けたりしてる』、『他国から事件の解決や凶暴な元素生物の退治などで感謝状が送られてきた』等々……とにかくアンバーの言うアレンさんとは、“強くて優しくて頼れる凄い人“らしい。それに様々な国を巡ってきたときた。もしかしたら……神の事について何か知ってるかもしれない。

 

「それにね!アレンさんは────」

「え~っと……アンバー?そろそろいいか?」

「へっ?……あぁっ!ご、ごめん!ずっと喋っちゃってて……」

 

えへへ、と笑うアンバー。だけどアレンさんの事を話してた時はとても楽しそうだった。きっと、それだけその人の事が好きなんだろう。

 

「そうだ!さっきヒルチャールの巣を一緒に片付けてくれたお礼に、蛍に渡したいものがあるんだ!」

「え~っ!オイラにはないのかよ!?」

 

オイラも何か欲しい!と頬を膨らませてアンバーにせがむパイモン。でも戦ってたのは私とアンバーだけで、パイモンは安全な高い場所から応援してただけだったような……。

 

「えっと……パイモンちゃんには使えない物だからね」

「だってさ、パイモン。諦めなよ」

「いーやーだー!オイラも欲しい!」

「あっ、でも今夜はモンド名物のニンジンとお肉のハニーソテーを2人にご馳走してあげるよ」

 

アンバーのその言葉にパイモンがキランッと目を輝かせ、ジュルリと口から涎を垂らす。行儀悪いって……でも確かに美味しそうだなぁ。

 

「ニンジンとお肉のハニーソテー!?おおっ……約束だぞ、アンバー!」

「うん!それじゃあまずは……高い場所に行こうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アレン、聞こえるかい?)

 

(トワリンが風龍廃墟から飛び立つ姿が見えたんだ。声を掛けると僕の元に来てくれたんだけど……)

 

(……酷い姿だったよ。アビス教団が呪いを増幅させたせいで彼は意識すらまともに保ててなかった。ボクに応えてくれたのも声に聞き覚えがあったからだろうね。……何にせよ、彼の為に少しでも毒を浄化できないか試していたんだけど、邪魔が入っちゃって)

 

(怒ったトワリンに僕も毒に蝕まれちゃったんだ。あ、でも大丈夫だよ。ボクは少し休めば良くなるはずだから……)

 

(それよりもトワリンだよ!彼は未だ“アビスの毒“による苦しみと“ボクとモンドへの怒り“だけで動いてる。君の話なんてまともに聞いてくれないだろうね)

 

「つまり、実力行使で、止めろって事だろ!」

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤガン!ギィンッ!!

 

(そうだけど……君、今何かしてるのかい?)

 

「ちょっと取り込み中でな!」

 

 

「死ね。アビスに仇なす異端者め」

 

 

ウェンティからの声に答えつつ、勢いよく振り降ろされる水の刃6()()を西風大剣で受け止め、間髪入れずに全部弾き飛ばす。次の瞬間こちらへ向かってくる雷を纏った衝撃波をかわせば突如正面に現れる人影。

 

「アビスの光を受けよ」

「嫌だよ」

 

雷元素を操るアビス教団の術師、その名はアビスの詠唱者(えいしょうしゃ)。普段各地で暗躍してる魔術師(まじゅつし)とは別格の力を誇り、相見えたと言う人物は少ない。出会ったほとんどが殺されているのだから当然だが。

 

手に持つ本をめくり、不可思議な呪文を唱えるそいつから放たれるのは3つの雷球(らいきゅう)。回し蹴りで放った雷脚で真横に吹き飛ばし、続けて西風大剣を振り攻撃の要となる本を切り裂く。

 

「っ!!」

「とっとと消えろ」

 

再び脚に雷元素を纏い、詠唱者を雷脚で蹴り飛ばす。交差した両腕を構え、踏ん張ろうとしてたもののそれらは無意味だった。一筋の光となって吹き飛んだ詠唱者は丘に直撃してそこを一瞬にして崩壊させる。

 

「っと」

 

後ろから迫るいくつもの水の刃に気付き、その数に合わせてこちらも雷刃を連発で複数放つ。その名も雷連刃(らいれんば)。とはいえ雷閃刃より圧倒的に数は少ない。同時に放てるのも一度に十数個が限界だが、雷閃刃より体力の消耗が少なく、コントロールの調整がしやすいという利点がある。

水の刃と雷刃が衝突するが雷刃は勢いを弱める事なく突き進み、その先にいる集団────アビスの使徒(しと)共に傷を負わせていく。

 

だが詠唱者と同じくアビス教団の実力者である奴らはその程度でやられはしない。雷刃の壁を掻い潜り、3人それぞれが『回転攻撃』、『十字に放つ水の刃』、『乱れ斬り』で襲い掛かってきたのだ。

 

「おいおい、そろそろ通してくれよ。俺はモンド城に急ぎてぇんだ」

 

水の刃を西風大剣で叩き斬り、残る2人の攻撃をいなしつつ声を掛ける。まぁ、通してくれるとは微塵も思ってないが。

 

「……あの龍を完全な手先にする為にはモンド城を壊滅させ、想いを断ち切る必要がある」

「貴様は我々アビスにとって危険極まりない存在だ。邪魔はさせない」

 

……なるほど。トワリンがモンド城への攻撃を本格的に始めたのはアビス教団が呪いの力を増幅させたからだけじゃない。数多くのモンド人をトワリンに殺させ、唯一の帰れる場所を完全に消すのが奴らの目的なんだろう。そうする事でトワリンの心を壊し、二度とこちら側に戻れなくするのが狙いか。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ「ふざけんなよ?」

 

一瞬のすれ違いざまに使徒2人を斬り捨てる。首から上が消え去った為に悲鳴を上げる事もなく消滅していき、残る使徒はあと1人。

 

「な……」

()()()()()()()()()()()()。だが誰かを傷つけるんだったら元が何だろうと許さねぇ」

 

驚きの表情で固まる使徒に迫り、攻撃も防御も許さず西風大剣による一刀両断で葬り去る。消滅していく様からモンド城へ視線を向け、すぐさま飛雷脚で向かう。

トワリンがモンド城上空を飛び回り、城内に黒い竜巻をいくつか発生させる姿が見えたのだ。それも一般人はおろか、訓練された西風騎士さえも巻き込まれれば只じゃ済まない大きさだ。場所的に一番大きいのは風神の像近く、次にエンジェルズシェア、一番小さいのは冒険者協会支部の方か。

 

「……よし」

「あっ!ア、アレ────」

 

城内を回るルートは決まった。モンド城の正門に着地し、門番の西風騎士達に何か言われる前に間を一気に駆け抜けて城内に入る。あとは……ルート上にある()()()()()()()()だけだ。



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第10話

ゲームでは主人公は「旅人」と呼ばれてますが、ここでは大体「蛍」と呼ばれます。


時間は少し遡る…………

 

 

 

「じゃーん!これが“風の翼“だよ!」

 

アンバーが背中に衣服の上から着けてくれた小さな装置を起動させれば、その装置からはどこに入ってたのかと言いたくなるような大きな翼が姿を現した。振り返っただけでは全貌は見えないものの、私の背丈と同じ位はあると思う。

 

「なぁなぁ、オイラにもよく見せてくれよ!」

「うん」

 

その場でクルッと回り、パイモンにも風の翼を見せてあげる。アンバーに案内されてやって来た風神の像がある広場は途中通った噴水広場より広く、誰かにぶつかる心配もない。

 

「偵察騎士はこれで空を駆け抜けるの!モンドに住む人達も、みんなこれを愛用してるんだよ」

「駆け抜ける……滑空するってこと?」

「そうだよ!空を駆け抜けるのって、とっても気持ちいいんだから!蛍にも、これの良さを知ってほしくてここまで連れてきたんだ」

 

風の翼、か……お兄ちゃんと旅してた頃が懐かしいなぁ。

 

「……ん?」

「パイモン、どうしたの?」

「気のせいか?風が強くなってきたような……」

 

……確かに。パイモンの気のせいなんかじゃなく、風車が勢いよく回り始めてる。それにモンド城の周囲が霧で覆われていっており、これが普通ではない事はすぐに察した。

 

「うそ……アレンさんが城内にいないのに……」

「お、おい!一体何が……うわっ!?」

 

突然吹き荒れる突風が私達を……いや、モンド城の人々を襲う。そして上空からゴウッ!という大きな音が鳴り響き、それと共に巨大な影が地面を動いていった。

顔を上げ、音を追いかけると目に入ったのは森で遭遇したあの龍。モンド城の周囲をその巨体で飛び回り、その姿を見た住民達が悲鳴を上げながら次々に逃げ出していく。

 

「そんなっ……風魔龍がモンド城に!」

 

アンバーの叫び声からあの龍がモンドに脅威をもたらしている風魔龍だと断定できた。しばらくして上空に留まった風魔龍が甲高い大声を上げる。その声に呼応するように、巨大な黒い竜巻が広場に出現し始めた。しかもここだけではなく、モンド城の様々な場所に竜巻が現れている。

 

「オ、オイラ達も早く逃げようぜ!」

「蛍っ!ここから逃げよう!」

「う、うん」

 

パイモンはすぐ傍で小さな星座を残して消え、私はアンバーに手を引かれて逃げ出す。だが後ろで猛威を振るう竜巻は、周囲の物を巻き上げながらこちらへと迫ってきている。このままじゃ追い付かれて──────

 

「……えっ?」

 

そこでふと気付いた。他の場所で発生していた竜巻が下から巻き上がってきた別の竜巻に呑み込まれ、抑え込まれるように消失していってるのだ。一体何が?と考えていると、足がフワリと勝手に地面から浮く感覚がした。

 

「────あっ」

「蛍!」

 

アンバーが手を伸ばすものの掴もうとした手は空振りに終わり…………私は竜巻に吸い込まれて空高くへと放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()(うず)!」

 

西風大剣を薙ぎ払い、生まれた竜巻“山嵐“はトワリンが生み出した黒い竜巻を下から上へと呑み込んでいく。()()に辿り着くまでの間に他の場所で発生した竜巻は全て山嵐で呑み込み、互いに打ち消すように消失させてきた。残る竜巻はここ、風神の像がある広場だけだ。

 

「アレンさん!!」

 

一気に駆け抜けてきた足を止め、地面に長い黒い跡を残してると突然声を掛けられる。声がした方を見れば、そこには今日“ヒルチャールの巣の偵察及び破壊“の任務で城外に出てるはずのアンバーがいた。

 

「大変なんです!蛍……旅人さんがあの竜巻に巻き込まれて!」

「なにっ?」

「風の翼を広げて空高く飛ばされたまでは見えたんですけど、そこから姿が見えなくなっちゃって……」

 

トワリンの生み出した竜巻……今はもう山嵐に呑まれて無いが、アレに巻き込まれればひとたまりもない。それに(何故持ってるかは置いといて)風の翼を広げたという事はあの強い風圧を受けたということ。空を見上げるが、人らしき姿は見えず今尚も飛んでるトワリンしかいない。雲の上まで飛ばされたか、それかあるいはトワリンに食われたか。

 

「分かった。俺は風魔龍を撃退させながらそいつを探してみる。アンバーはここで逃げ遅れた人や怪我した人がいないか探してみてくれ」

「はいっ!」

 

アンバーに指示を出し、俺はすぐさま()()()()()()()()。上へと巻き上げる風に乗り、俺の体は竜巻の中でどんどん上昇していく。その途中で上を見上げればトワリンが再びこちらへと近付いてきてる。

 

タイミングは……──────ここか。

 

「いくぜ」

 

一気に上昇し、竜巻を飛び出して尚飛び上がる俺の真上にトワリンの巨体が重なる。山嵐による回転の勢いを乗せ、西風大剣を構えた俺は翼と体の隙間を過ぎ去っていく。その僅かな間に。

 

「まず、1つ目」

 

回転を乗せた斬撃を横に薙ぎ払い、左翼の結晶を根元から切断する。その名も“(のぼ)(りゅう)“。空高くにいる相手を攻撃する為に生み出した山嵐から繋がる技だ。

結晶を斬られた痛みにトワリンが吠え、バランスを崩しながら離れていくが俺の仕業と気付いたんだろう。方向転換してこちらへと舞い戻ってきている。

 

「来いよ」

 

雷元素を脚に纏い、空中で真上へと振り上げる。バチバチと雲と俺の間に紫色の稲妻がいくつも走るが、それに臆する事はなくトワリンは迫ってくる。そして確実に俺を仕留めるつもりなのか、僅かに開いた口の中に風元素を溜め込みながら来ている。風のブレスを至近距離で放つつもりか。

 

「やれるもんなら、な」

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ雷脚 雷斧脚(らいぶきゃく)

 

 

すぐ目の前まで迫ってきたトワリンがブレスを放とうと口を開くが、その直前で斧の如く振り降ろされた脚が直撃する。その威力は、上から叩きつける事により爆発的な破壊力を生み出す。現にトワリンの口は凝縮された風元素を溜め込んでいたものの強引に閉じられた挙げ句、その巨体に体勢を崩す程のダメージを受けた。

 

「ガァッ……!」

 

加えて行き場を失い、口内で爆発したブレスによるダメージ。それらにより動きを止めたトワリンだったが、そこは毒龍を退ける力を持った風神の眷属。隙を見せるのは一瞬だろう。

 

「よっと」

 

雷斧脚の反動を利用してトワリンの体に飛び乗り、首に生えた結晶を狙う。西風大剣を構え、腐食した血を絶つ為には結晶を残さず根本から切断するしかない。

 

「うおっ……!?」

 

だがその瞬間、前触れもなく強い風が吹き荒れる。しかしトワリンが動き出した様子はない。なら……俺の動きを止める為にトワリンが風元素を操って突風を引き起こしたか。

 

「だけどそれだけじゃあな」

 

西風大剣を難なく振り払い、大雷刃を放つ。トワリンの体を掠めていった刃は首の結晶を切断し、遥か彼方の雲の中へと消えていった。これで残る結晶はあと3つ。

 

「おっ……と!」

 

突然トワリンが翼を勢いよくはためかせ、その場から飛び出す。おそらく……というか絶対に俺を振り落とそうとしたのだろう。だが俺も落ちるわけにはいかない。すぐさま西風大剣を消し、空いた左手でトワリンの麟を掴む事で落下を阻止する。

俺を落とそうと必死なトワリンは縦横無尽に空を飛び回るが、俺も落ちるわけにはいかない。だが……この状況は厄介だな。飛び回るトワリンの上でも結晶を攻撃する事は出来るが、果たしてうまく切断できるか。トワリンが動きを緩めてくれれば……。

 

「ん?」

 

背後からトワリン目掛けていくつもの風元素の弾が直撃していく。何かと思い、後ろを振り返れば上空に金髪の少女らしき姿を見つけた。モンドでは見ない服装、しかし風の翼を開いてる事からあの子がアンバーの言ってた旅人か?ただ……あの子、滑降っていうよりも飛んでるな。

 

「……ウェンティか」

 

力が弱まったなんて言ってるが、それでも七神である事に変わりはない。風元素を操って風の翼を飛ばす事くらいわけないか。

ただこれでトワリンの注意が少女に向き、動きが一瞬鈍った。その瞬間を見逃さず立ち上がった俺は再び西風大剣を手元に呼び出し、背中の結晶へと飛び出す。

 

無双斬(むそうざん)!」

 

一瞬のすれ違いの間、結晶に無数とも言える斬撃を叩き込む。細切れとなり、小さな欠片となって吹き飛ばされていく結晶。その痛みがトワリンに伝わり、大きく吠えた。そして同時に体を捻り、足場を失った俺は空中へと投げ出された。

 

「っ……!」

 

グルリと回り、またもや迫ってくるトワリンは俺を食らうつもりなのか、口を大きく開いてる。それも雷斧脚が届かない位置までにだ。

 

「いいぜ……来いよっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい!風魔龍の背中に、誰かいるぞ!」

 

“千年の龍風に助けてもらった“という謎の声に導かれるまま風魔龍を攻撃してると、背中に誰かがいるのを私に掴まるパイモンが見つけた。探してみると確かに風魔龍の体に掴まってる人がいる。その人は風魔龍の動きが僅かに止まった瞬間、その場から突然消えた。

 

「えっ?」

 

次の瞬間には風魔龍の体に生えてる濁った紫色のような結晶の1つが無数の欠片となって空中へ飛び散っていった。……今、何が起きた?あの人が左手に大剣を出現させた所まではどうにか見えたけど、それ以降は何も見えなかった。

 

「な、なぁ!あいつ今何かしたか!?」

「わ、分からない……あっ!」

 

風魔龍が体を大きく捻り、背中に乗っていた人が空中に投げ飛ばされた。さらには後ろを向いた風魔龍が空中で身動きのとれないあの人に迫り、口を大きく開けていく。あのままじゃ……!

 

「!!パイモンは離れてて!」

「へ?うわっ!?」

 

パイモンを危険に晒さないよう背後に投げ、私は風の翼を操って全速力で風魔龍の元へ飛んでいく。

 

間に合って──────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?おい──────」

 

トワリンの接近に注意しつつ、こちらに向かってくる少女の事も気にかけていたが、突然横から突進するように抱き着かれたと思えば2人揃って下へと落とされた。状況的にトワリンから助けてくれたんだろうけど、正直1人でどうにか出来た。というかもう一度トワリンに乗り込むチャンスを潰されてしまった。

 

「逃げたか……」

 

少女に抱き着かれたまま空中をゆっくり回転しつつ落ちていく中、見上げればトワリンが去っていく姿が見えた。5つあった腐食した血の結晶を3つも破壊された上に自身の攻撃は通じない。故にこのままでは勝ち目がないと見て逃げ出したんだろう。とりあえずこの体勢で追撃されるのは良くない為、助かったが。

 

「というか、ここから着地までどうするか考えあるのか?」

「っっ……!」

 

俺の腰に抱き着いてる少女に尋ねるものの、落下の風圧に耐えるのが精一杯で目すら開けておらず、俺の声も聞こえてないように見える。そもそも風の翼は1人用だ。俺を抱えて飛ぼうとしても無理だろうから彼女に出来る事はない。つまり俺がどうにかするしかないって事だ。

 

「しっかり掴まっててくれよ?」

 

右手があれば彼女を抱き締められるがない以上、仕方ない。モンド城が真下に迫りつつある中、俺は左手に握る西風大剣を振りかぶる。

 

「よっ」

 

真下に向かって小規模な山嵐を放ち、俺達はそれに包まれる。これに上空へと浮かべる力はないものの風の力で落下速度を弱められる。それにより俺達はゆっくりと俺達はモンド城へと降りていった。

 

「…─?あれ……う、浮いてる……?」

「おう、俺がやったんだ。助けてくれてありがとな、お嬢ちゃん」

 

さてさてさ~て……モンド城に戻ったらまずはこの子と話をしねぇとなぁ。あとまだ予想の域を出ないけど、この子が空の言ってた“妹“か?髪や瞳の色とか見た事ねぇ服装、それに“妹がモンドに現れた時から強大な敵が現れ始める“ならトワリンがいるし。

 

まっ、あとで確認してみればいいか。




動画を見返してて気付いたんですが、トワリン戦の空中シューティングで撃ってた弾って風元素なんですね。旅人の前に風元素の紋章が出てた事に今更気付きました。


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第11話

第9話の後書きに「ジンやディルックなどの実力はアビスの使徒、詠唱者と同等」と書いてましたが、少し前に削除させてもらいました。これを読んで感想をくれた方達には申し訳ないと思っています。
消した理由としてはゲームでもキャラクター達の明確な力量差がない事、そして今後の展開を考えての結果です。

ただそれぞれがどの位の実力を持ってるかは決めていきたいのでこれからは慎重に考えたいと思います。


「あ、ありがとう」

「いやいや、何で嬢ちゃんがお礼言うんだよ。助けてもらったのは俺の方だろぉ?」

「でもそれからは何も出来ないまま、逆に貴方に助けてもらったし……」

 

風神の像がある広場に着地し、アンバーには頼んだものの周りに怪我人等がいないか見渡してると少女からおずおずとお礼を言われた。確かにそうだが、彼女が俺を助けようと危険を冒してくれたのは事実だ。それを無下にする事は出来ない。

 

「そんじゃお互いに助けてもらった事で終いにしようぜ?助けてくれてありがとな」

「うん……分かったよ。えっと……?」

「あぁ、まだ名前名乗ってなかったな。アレン・グンヒルドだ、よろしくな」

「アレン……?もしかしてアンバーが言ってたモンドで一番強いっていう?」

 

アンバーの奴、ま~たそんな事言ってんのか。モンド最強の称号はファルカに返上したって言ってんのに。あいつが遠征でいないからって、俺がモンド最強って呼ばれてちゃダメだろ。

 

「“元モンド最強“な?利き腕があれば別だけど」

 

そう言って本来なら右腕がある場所に指を差す。左腕だけでも勿論戦えるが、全力を出すならやっぱり利き腕がねぇとなぁ。それに実際、実力は落ちてる。そのせいでまだ越えられてないとはいえ、昔は大きな差があったジンが実力を上げて段々とその差を詰めてきてる。

シスター・ゴテリンデも言ってたが、今は単独でトワリンを追い払える実力を持ってるからな。ただバルバトスを崇拝してるジンは眷属であるトワリンと戦う事を躊躇ってるけど。

 

「か、片腕だけで戦ってたんだ……」

「おう。慣れればどうにかなるもんだぜ。で?嬢ちゃんは誰なんだ?少なくとも旅人だろ」

「うん、私は蛍。モンドには生き別れた兄の手掛かりを探しに来たんだ」

 

なるほどなぁ。その生き別れた兄が空だとすれば蛍が空の妹なのは確定だが……ここから更に踏み込むのは後にしよう。あっちから駆け付けてきたアンバーと、この話を聞けば面白半分にかき乱しそうな()()()が来たからな。

 

「あっ、蛍!それにアレンさんも……2人共、無事だったんだね!よかった~」

「ごめん、アンバー。心配掛けて」

「ううん、怪我してなかったら安心だよ!」

 

蛍とアンバーが知り合った過程は分からないが、どうやら互いに気遣える程度の関係は築けてるらしい。その様子を見ていれば、蛍に近付くアンバーと共にやって来た青髪の男。

 

「────見事だったぜ。アレンの活躍に隠れがちだったが、巨龍に立ち向かったお前の勇気は称賛に値する」

 

そう言ってパンパンと手を叩き、蛍を褒めるのは西風騎士団の騎兵隊長のガイア・アルベリヒ。酒造名家「ラグヴィンド家」の養子であり、ディルックの義弟だが昔“お互いに本音を語り合った喧嘩“をしてからというものの、兄弟として接する姿は見ない。

ちなみに騎士ではあるが、事件を解決するやり方は決して『正しい方法』とは言えないものが多い。まぁ、本人はなんと言われようが全然気にしてないが。

 

「えっと……?」

「蛍、こちらはガイア先輩。騎士団の騎兵隊長なの」

「モンドへようこそ。アンバーから大体の話は聞いたぜ?血縁者を探してると聞いたが、訪れるタイミングが最悪だったな……」

 

“このような事態に巻き込んでしまって申し訳ない“と謝罪を告げるが、果たしてどこまでが本当なのか。モンドの客に対して『表』と『裏』を使い分けてるガイアは時には味方も平気で騙すから、嘘を見抜けなければ敵と一緒に痛い目を見る事になる。正直言って、敵味方共に厄介な存在だ。

 

「なぁ、ガイア。怪我人や被害はどうなってる?」

「軽傷者がいたが、ノエルと数名の騎士に手当ては任せてある。建物の被害報告はまだだが、大きな被害は見なかったな」

「大丈夫かぁ?ノエルにお願いしてよ」

 

ちょっとでも龍災に関わらせたら「困ってる人々の為に!」ってトワリン退治に向かいそうで心配なんだが。マジで。

 

「安心しときな。城外に出ないよう色々と任務を言い渡してきたからさ」

「そっか、ならしばらくはそっち優先で動いてくれるな」

 

事件が起きた時、騎士団が注意する1つがノエルの独断行動だ。あの子は誰かが困ってればその人の為に全身全霊を尽くす、正に奉仕の極みだ。故にこの前みたいな二次被害が起きないようノエルには大量の任務が言い渡され、事件から遠ざけられる。大聖堂に現れる不審人物(アルバート)の捜索や城内の掃除、落とし物探し等々……その役割はガイアに任されてる。悪く言えば雑用の押し付けだがノエルは不満1つ言わずにこなしてくれてる。優しく真面目な彼女だからこそちょっと心苦しいが、それが一番効果があるんだよなぁ。

 

「さて……蛍、でいいか?」

「うん。私もガイアさんでいいかな」

「ああ、構わないぜ。実は代理団長がアレンと一緒に風魔龍を撃退してくれたお前の姿を見ていてな。興味があるらしい。一緒に騎士団本部まで来てくれないか?」

 

ふむ……トワリンを前にしても動じず、かつ攻撃する度胸を見せた蛍に龍災を終結させる協力者になってくれる可能性でも感じたのか?ファルカに精鋭の騎士は連れて行かれてるとはいえ、俺とディルック、ジンがいれば戦力は足りてると思う。だが話を聞きたい蛍を近くに置いてくれるのはありがたい。

 

「いいよ。ここからは見てるだけ、というわけにはいかないからね」

「すまないな。では騎士団本部に案内しよう。アレンも一緒に来てくれるか?風魔龍に対抗するのにお前の力は欠かせないからな」

 

そう尋ねてくるガイアだが、俺は首を縦に振らない。騎士団本部に行く前に尋ねたい所があるからな。

 

「わりぃ、少し寄りたい所があるんだ。用事が終わったら向かうから、その間にジンにこれまでの経緯を説明しといてくれ」

「分かった。だが急げよ?()()()()()()じゃ誰もが不安を感じてるからな」

 

ガイアの言う通り……モンド城周辺を見渡せば、この風の都は現在暴風に囲まれてる。おそらくトワリンが残した手土産だろう。どうにかしないと、いずれはこの暴風に巻き込まれるかもしれない。ったく、面倒なものを置いていきやがって。

 

「ああ、分かってるって。「お~い」……ん?」

 

手早く用事を済ませてこようとガイア達と別れようとした所で、空から声が聞こえてくる。見上げれば遠くの方で白い物体がふよふよと浮き、こちらに近付いてきてる。

 

「あれってもしかして……パイモンちゃん?」

「パイモン?」

そういえば忘れてた……うん、私と一緒に旅をしてる大切な仲間(非常食)なんだ」

 

仲間という言葉に悪意があるような言い方だったが気にしないでおこう。そういえば上空で蛍がトワリンに攻撃してた時、彼女のすぐ傍になんかちっこいのが浮いてたような。それがパイモンだったか。

 

「ふぃ~、ようやく辿り着いたぞ……うん?何だかいつの間にか人が増えてるな。そいつら誰なんだ?」

 

小さな星座に似た軌跡を残しながら飛んできたパイモンが俺とガイアにそう問い掛ける。それにしても……パイモンみたいな種族は初めて見るな。容姿は子供だけど、空を飛ぶ事や頭上の冠など特徴が当てはまる種族がなかなか出てこない。

 

「ほぅ……不思議なマスコットを連れた旅人だったとは。ますます興味深い」

「誰がマスコットだ!?」

「マスコットっていうか……ペット?」

「おい!どんどんランクが下がってってるぞ!?」

 

……と考えてる内になんだかパイモンがガイアと蛍に弄られてる。何もなければ面白いが、状況を考えるとここで時間を掛けてる場合じゃないか。

 

「ガイア、とりあえずそっちは任せるぞー?俺の事はお前と一緒に簡単でいいから紹介しといてくれ」

「ああ、任されたぜ。お前もとっとと用事を済ませてこいよ?」

「おう。騎士団本部で待っててくれ」

 

蛍、パイモン、アンバーの事をガイアに任せて俺は広場から飛び降り、着地と同時に走り出す。ドゥラフとの約束はちゃんと守らねぇといけねぇからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャッツテール」の看板猫……じゃなくて看板バーテンダー、ディオナ。清泉町に住むドゥラフの娘であり、彼女は父親と同じくカッツェレイン一族の人間だ。その証拠に彼女には猫によく似た耳や尻尾が生えてる。

彼女がキャッツテールで働く目標、というか夢は『モンドの酒造業を破壊すること』だ。尊敬する父・ドゥラフが酒で酔っぱらって様々な醜態を見せた事により、ディオナは酒を目の敵にして“まずい酒の調合方法“を見つける為にバーテンダーをしているのだ。……まぁ、不思議な体質のせいで目標にはまだまだ程遠いが。

 

「んしょっ……よいしょっ……」

「お~い、ディオナ~」

 

倒れた掲示板を直すディオナを見つけ、声を掛ける。見た感じ、キャッツテールは被害をほとんど受けてないようだった。ディオナも怪我してる様子はなく、片付けを頑張っている。

 

「あ、アレン。……言っとくけど、今はお酒なんて提供できないからね」

「何だよ急に?んなこと分かってるって。いくら酒が好きだからって……」

「冗談よ、冗談。あんたがこんな状況でお酒を飲みに来るなんて思ってないにゃ」

 

冗談でよかった。確かに酒はエンジェルズシェアやキャッツテールでよく飲んでるが、そんな見境なしに飲むような奴だとは思われたくないからな。

 

「だけどならどうして来たの?風魔龍に襲われた対応であんたも忙しいんじゃないの?」

「今から騎士団本部に行くさ。ただその前にディオナが無事かどうか見に来たんだよ」

「……えっ?」

「まぁ、大丈夫そうで良かったぜ」

 

これで怪我なんてされてたら、約束したドゥラフに怒られちまう。……って、何でディオナは恥ずかしそうにモジモジしてんだ?

 

「えっと……それってあたしを心配して来てくれたってこと……?」

「ああ。ドゥラフが心配して……いでっ!?」

 

フシャーッ!と怒った猫のように俺の頬を鋭い爪で引っ掻いてくるディオナ。いやいや、怒るような事言ってねぇだろ俺は。

 

「ふんっ!やっぱりね、パパに心配されてたから来ただけなんだ!あんたはあたしの事、心配してないのね!」

「んな事は言ってねぇだろ。俺だってディオナの事は心配してたって。無事で良かったって思ってんだぞ?」

「うっさい!うっさい!」

 

シュッ、シュッと素早い動きで繰り出してくる爪をかわしつつディオナを宥めようとするが効果なし。猫のような気質を持つ彼女は気分屋だ。今はドゥラフよりも俺に心配してほしかったらしい。哀れドゥラフ、お前は俺の次だったようだ。

 

「ふぅ、ふぅ……あぁ、もう。いいわ、許してあげる」

 

しばらくディオナとのじゃれ合い……じゃなくて攻撃を避け続けてると息を切らした彼女が手を止めて溜め息をつく。どうやらいつまでもこんな事を続けてても意味がない事に気付いたようだ。

 

「おっ、ありがとさん。でもディオナの事は本当に心配してたんだからな?」

「わ、分かってる。あんたはそういう人だって知ってるし。その………あ、ありがとう」

 

恥ずかしそうにお礼を言うディオナの頭を優しく撫でた。髪の間から生えてる猫耳が手に触れる度に、ピクピクと反応してたまにディオナも震えてる。耳と尻尾は性感帯と聞いた事がある。特に尻尾は一番敏感で、前にディオナが酔っぱらいに触られた時は大暴れだったらしい。

 

「そんじゃ、俺はそろそろみんなと合流しなきゃなぁ。騒ぎが落ち着いたらまた飲みに来るからよ。ディオナの特製ドリンク、楽しみにしてるぜ?」

「うん、楽しみにしてるといいよ……“とってもまずいお酒“を提供してあげるから!」

 

う~ん、でもディオナがどんなにまずそうに作っても最終的にはうまい酒が生まれるんだよな。まっ、ディオナの特製ドリンクは後の楽しみにして、今は騎士団本部に急ぐかな。




ディオナはまた後でメインとして出したいな~。


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第12話

お待たせしました!!

最近悪い意味で忙しい事が多く、なかなか執筆する時間がありませんでしたが2月中にもう1本投稿する事が出来ました!

年度末という事で仕事も忙しいですが、なるべくテンポよく投稿したいです。


「アレンお兄ちゃん!」

 

入り口にいた兵士に顔パスで通してもらい、騎士団本部に入ると奥から走ってくる元気一杯な少女が見えた。勿論ここでそんな少女と言えばクレーしかおらず、俺の前で急ブレーキを掛けて止まった彼女は期待に満ちた表情を向けてきた。

 

「クレーを風魔龍の所まで連れてって!」

「ダメだ」

「えーっ!?」

 

いや、「えーっ!?」じゃないから。なんとなーく予想はしてたけどさぁ。ジンやアルベドに怒られる位にはクレーに甘い俺でも危ない場所には連れ出せないって。

 

「何で何で!?みんな、風魔龍のせいで困ってるって聞いたよ?ならクレーの爆弾の出番だよ!」

「……爆弾でどうすんだ?」

「ふふんっ!クレー特製巨大爆弾で風魔龍をドカーンするんだよ!」

 

まぁ、つまりはいつも通りと。通常の爆弾でもそこそこ威力が高いのに、それが巨大化したとなれば軽く地形は変えられるんじゃないか?前にだって、後先考えずにボンボン爆弾を大量に投げつけた結果、敵と共に山も半分崩したみたいだし。

 

「ク、クレー!急に飛び出していかないでよ……」

「あっ、スクロースお姉ちゃん!」

 

クレーを追い掛けてきたらしく、走ってくるスクロース。という事はさっきまでアルベドやスクロースと一緒にいたのか。おそらく風魔龍退治に出掛けようとするクレーに目を光らせてもらう為、ジンが2人に頼んだんだろうな。

 

「よっ、スクロース」

「アレンさん、ごめんなさい……クレーってば窓から貴方が見えたと思ったらすぐにアルベド先生の研究室から出ていっちゃって」

「あ~……うん、そんな事だろうなと思ってたからいいぜ。クレーのあの元気っぷりを止めるのは難しいからなぁ」

 

俺に迷惑がかかってると思ったのか、謝ってくるスクロースの頭をポンポンと撫でて顔を上げてもらう。クレーはアリスと似て自由だ。思い付いた遊びがあればすぐに実践し、それが爆弾絡みならジンにより反省室へと入れられる。そして『反省しました』という短い反省文と絵を描き、1日をそこで過ごした後はまた最初に戻るという繰り返しだ。“反省してない“というよりは、子供特有の好奇心がそれを上回るんだろう。ただアリスは反省してない。絶対にしてない。

 

「クレー、研究室に戻ろう?ジン団長から言われたでしょ、アレンさん達の邪魔をしないようにって」

「クレーだって火花騎士だもん!アレンお兄ちゃん達と一緒に戦えるよ!」

「でもジン団長からの指示だし……」

 

う~ん……クレーの騎士としてのその心意気は良いもんだがなぁ。しゃーない、俺が出るか。

 

「なぁ、クレー。お前のその気持ちは嬉しいぜ。でもな?人助けにも適材適所ってもんがあるって知ってるか?」

「てきざ……えっと、な、なに?」

「例えばだ。クレーが使おうとしてる巨大爆弾……確かに風魔龍に当たれば効くかもしれない。だけど相手は空中にいて、しかも自由に飛べる」

「うん!クレーも見てたよ!だから爆弾でドカーンして、下に落とすの!」

 

爆弾で撃ち落とすとか容赦ねぇなぁ。

 

「いい考えだな。だけどその爆弾、届かなかったり避けられたりして当たんなかったら?」

「へっ?……えーと…………落ちてくる?」

「んで爆発だな。しかも巨大なら被害はさらにでかくなる。そうなったらどうなるっけ?」

 

その後を考えたクレーの顔が青冷める。間違いなくジンによって反省室行きだろうな。もしかしたら更に罰が重なるかもしれない。

 

「待って。でもその爆弾なら道を塞ぐ岩や敵の根城を破壊したりできるんじゃないかな?」

「おっ、いいこと言うなぁスクロース。とまぁ、こんな風に誰だって自分の力を活かせる場所もあるし、活かせない場所もある。力を十分に活かせる場所にそいつを置くのが適材適所さ」

 

実際、クレーが武器にしてる“ボンボン爆弾“は火力は凄まじいが攻撃できる範囲や速度は、爆弾という重さがある事やクレーがまだ子供という理由から狭いし遅い。相手が空中を飛んでるならそもそも届くのかすら怪しい。

だが逆にその火力は邪魔となる障害物を容易く破壊する事が出来る。スクロースの言うように、ヒルチャールの巣を壊すにはクレーの爆弾が一番手っ取り早いしな。

 

「うぅ~……でもでもぉ……」

「……クレー。誰にだって出番はあるけど、ない時だってある。だからクレーの力が必要だって時にその爆弾で助けてくれよ」

「助ける……アレンお兄ちゃんを?」

「ああ。俺だって、何でもかんでも1人で出来るわけじゃねぇからな」

 

戦う事でならモンドで右に出る奴はいないが、それ以外となると誰かの助けが必要になってくる。誰の協力も得ずにあらゆる事が出来る奴なんていないだろう。

 

「うん……分かったよ!クレー、アレンお兄ちゃんが困ってたら助けてあげる!だから色んな爆弾をたくさん作って、待ってるからね!」

「おう。その時はよろしく頼むぜ」

 

そう言って騎士団本部の奥へと走っていくクレー。爆弾を作りすぎてジンに怒られないか心配だが。

 

「アレンさん、ありがとう。クレー、ダメだよって言ってもなかなか納得してくれなかったから」

「クレーなりに爆弾をどう使えばみんなの為になるか考えてくれてるからなぁ。そのやり方をちょっとずつ分かってくれればいいんだが」

 

何でもかんでもただ爆発させれば解決に導かれるなんて事はないからな。ちゃんと使い道を考えないと、人助けの為になんてなれない。

 

「……あっ、そうだ。アレンさん、ジン団長の所に行くんだよね?さっき、ガイアさんとアンバーが団長室に入っていくのを見たよ。それから金髪の女の子と……なんだか変わった生き物も一緒にいたような?」

「そりゃ蛍とパイモンだな。モンドに来た旅人だよ。落ち着いたら話してみたらどうだ?面白い話とか聞けるかもしんねぇぞ」

「えっと……た、旅の話は興味あるけど、遠慮しとこうかな。それじゃあこれで」

 

そう言ってクレーと同じ方へと走っていくスクロース。まだまだ人見知りを克服するには程遠いかぁ。人見知りが悪いわけじゃないけど、出来ればスクロースにはもっと……というか、普通程度には色々な人と関わってもらいたい。様々な疑問を実験や観察で答えを出してきたスクロースでも知らない事はある。それを人々は知ってるかもしれないし、逆にスクロースが知ってる事をみんなは知らないかもしれない。植物や動物の他にも興味を向けてほしいが……ま、スクロースがやる気を出してくれるのを気長に待つかぁ。

 

「よっ、待たせな」

 

団長室に入ると今回の中心となる人物が集まっていた。代理団長であるジンに図書館司書のリサ、騎兵隊長のガイアと偵察騎士のアンバー……それから今回の事件に巻き込まれた旅人、蛍とパイモン。

 

「兄さん、来てくれたか。その様子だと用事は済んだみたいだな」

「おう。で、どこまで話は進んだ?」

「ガイア達から城内での出来事は聞いた。風魔龍を撃退してくれた事、モンドの民全員に変わって感謝するよ。本来なら兄さんには栄誉騎士(えいよきし)の称号を授けるべきなんだが……」

「持ってるもんな、俺。ま、感謝の言葉だけで十分さ」

 

栄誉騎士──────モンドに多大なる貢献をした人物に与えられる称号であり、それはすなわち“モンドの英雄“と言っても過言ではない。ただ俺が魔龍ウルサを討伐して以来、誰も授かってない事から分かるように称号を得る為の貢献の度合いはとても大きいものだ。

 

「えっと、兄さんって……」

「そっか、蛍は知らないもんね。アレンさんとジンさんは兄妹なんだよ!」

「!……そうなんだ」

 

アンバーから俺とジンの関係を聞いた蛍がこちらを凝視してくる。行方を探している兄の空(仮)と自分を俺達に重ね合わせたか、それとも容姿が似てない事が気になったか?

 

「お前がアンバーが言ってたアレンなんだな!さっきは自己紹介できなかったけど、オイラはパイモン!よろしくなっ!」

「おう、よろしくな~ 」

 

さっきの場でお互いに自己紹介できなかった者同士で名前を言い合う。しかし、パイモンねぇ……本当に不思議な奴だよな。一体……どこから来たんだか?

 

「さて……兄さんも来て必要な人員は揃った。作戦を練るとしよう」




ゲームでは主人公が栄誉騎士の称号を受け取りましたが、ここでは活躍をオリ主に持ってかれてる為、蛍が栄誉騎士になる事はありません。

あと、本編以前の話(西風騎士団所属時代や2年間の旅など)を『元モンド最強騎士 ACT.PREQUEL』(仮タイトル)として別作品で準備・執筆をしています!楽しみにしててください!


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第13話

新しい技をたくさん出したいですが、今回も戦闘描写はなしです。早く書きたいとは思ってるんですけどね。


リサがモンド周辺の元素の流れを調べてくれた結果、彼女曰く『元素と流れと地脈の循環が子猫ちゃんが遊んだ後の毛糸玉みたいになってる』というのが今のモンドの現状らしい。そしてその乱れた元素の流れを生み出したのはトワリンであり、モンド城を囲む暴風はその影響が形となって現れたものだという。

だが今のトワリンにそこまでの力はない。何故ならあの龍はモンドへの憎しみと悲しみを糧にして既に力を使い果たしてるから。でなきゃ成れの果てである魔龍になんてなってない。

ならばそんな強大な力をどこから得たかと聞かれれば奴は放棄された(祀られなくなった)四風守護の神殿の内、自身以外の3つから僅かに残ってる力を奪っているとリサが突き止めてくれた。つまりトワリンに注がれる力をどうにかして遮断させればひとまず事態は解決というわけだ。

 

「なら……西風の鷹(セピュロス)の神殿はリサとアンバー、北風の狼(ボレアス)の神殿はガイアに任せていいか?俺と蛍で南風の獅子(ダンディライオン)の神殿を調べてくる」

「おいおい、神殿は龍の力に悪い影響を受けてるかもしれないんだろ。そんな場所に俺は1人で行かされるのか?」

「わざわざいらん芝居すんなって、お前なら大丈夫だろ。……それに」

 

(蛍が何者なのか気になるんなら聞くだけ無駄だ)

(……ほぅ?)

(あいつには確かめたい事があってなぁ。だから今回だけは俺に譲れ)

 

俺もあの兄妹の事を全部知ってるわけじゃない。だが少なくともあの2人がこの世界のルールに囚われない()()()()()()()()()だって事は知ってる。こっちのルールで測れない存在を理解するのはなかなかに難しい事だよ、ったく。

 

「アレン、わたくしが調べた限りだと神殿内には凶暴化した元素生物がいる可能性もあるわ。ガイアが強いとはいえ、状況が分からない神殿に1人で向かわせるのは危険が伴うわよ。単独なら貴方の方が適任じゃないかしら?」

「いや……北風の狼の神殿は俺に任せてくれ。モンドの危機を察した()()()もそろそろ動き出すだろうからな」

 

“そっちも巻き込めれば楽勝だ“という意図を察した俺とジン、リサは納得するがあんまり接点のないアンバーやそもそも会ってない蛍は何も分かってないようで首を傾げてる。ま、情報をわざと流すとかして屋敷から引っ張り出すんだろうな。

 

「みんな、済まない……私も協力したいが今ここを離れれば多くの者を不安にさせてしまう。申し訳ないが、神殿の調査をよろしく頼むぞ」

 

傍に立て掛けてある西風剣(せいふうけん)に手を添えながら謝るジン。だがこればかりは仕方ないだろう。事態を解決する為とはいえ、今のモンド城からジンが離れるのはまずいとしか言いようがない。

 

「はい!任せてください、ジンさん!」

「オイラ達に任せとけ!」

 

アンバーはともかく、パイモンまで自信一杯に応える必要はないと思うんだが。

 

「パイモンは戦えないでしょ」

「むっ!オイラだって戦えるぞ!例えば、え~っと……」

「……ま、蛍もパイモンもよろしく頼むぜ?活躍を期待してっからよ」

「おう!強いお前も驚くような活躍をしてやるぜ!」

「ハードルを上げないでよ、パイモン……」

 

 

 

 

 

 

 

「……それで兄さん。ファデュイの動きはどうだった?」

 

各々が神殿へと向かう準備をする為に散り、蛍にも戦える準備をするよう伝えて集合場所を門の近くにある鍛冶屋に決めた。今団長室に残ってるのは俺とジンだけだ。

 

「ファデュイの隠れ家は冒険者達との協力で見つけたが、生憎自爆で証拠は木っ端微塵だ。メンバーは全員捕まえて、今は清泉町のドゥラフ達に見張っててもらってるよ」

「そうか……なら暴風がなくなり次第清泉町に騎士を向かわせよう。何か計画を裏付ける証言を吐いてくれればいいんだが……」

 

証言……あぁ、そういえば。

 

「どうやらあいつらにはモンド人の協力者がいたみたいだぜ」

「っ!?な、なんだって!」

「だけど見当はついてるからな、まずはそいつに近い奴に探ってもらうさ。ジンも大体の予想はつくだろ?」

「……シューベルトか」

 

シューベルト・ローレンス。かつてモンドの頂点に君臨し、逆に今ではその横暴さが仇となって底辺にまで衰退した旧貴族ローレンス家。その末裔の1人であり、エウルアの伯父に当たる男だ。

あのおっさんは末裔の中でもローレンス家のやり方に囚われ過ぎてる。今でも“モンドは旧貴族である自分達が支配するべき“なんて古臭い考え方を信じてる位だ。しかもそれを実現する為に利用できるなら何にでも手を出すという厄介な性分を持ってる。

 

「分かった、騎士団でも彼の動向を調べてみるとしよう。と言っても、私達騎士団では彼を深くまで探るのは困難だろうが……」

「騎士団はファデュイの方に専念しとけ。シューベルトへの探りはエウルアに任せてみるからよ」

「……分かったよ、兄さん」

 

シューベルトに最も近い人物であり、尚且つこちら側の人物はエウルアしかいない。つってもシューベルトにとっては目障りな西風騎士団に入ってるエウルアも、あのおっさんからは悪く思われてるから探りを入れるのは簡単ではないが。エウルアの他にもかつてのローレンス家に否定的な末裔は少なからずいるが、信頼できるような関係じゃねぇし……どうにかエウルアに頑張ってもらうしかない。

 

「そうだ、ファデュイが狙っていた天空のライアーの件なんだが」

「あぁ、今んとこどうだ?教会は貸し出してくれそうか?」

 

ライアーの入手はウェンティが自信満々に引き受けていたが、“自身を風神バルバドスと偽った(本人なんだが)“せいでシスターに呆れられ、教会から追い出されたらしい。その日の夜には『ボクは本物の風神様なのに!』とやけ酒に付き合わされ、警備が手薄な夜中に泥棒に入ろうなんて言い出したからげんこつ落としてやった。

なのでライアーがトワリンを静める為に必要と教えてあるジンに協力を申し出たのだ。当然ライアーの使い道を話した所で教会側がすぐに納得するとは思えない為、“ファデュイがライアーを盗もうとしてるのでしばらくは騎士団本部で保管する“というのを表向きに代理団長であるジンに話を通してもらう事にしたのだ。

 

「ひとまずカルヴィン枢機卿と今年の民衆代表である酒造組合長のエーザイからサインを貰えた。明日にはライアーを騎士団の管理下に置く事が出来るはずだ」

「へぇ、よくカルヴィンがサインしたな」

「初めは断られたよ。でもバーバラとロサリアがカルヴィンを説得してくれたんだ」

「バーバラはいいとして……ロサリアが?」

 

珍しいな、あいつがそんな事するなんて。普段なら絶対にめんどくさいって言って関わってこないのに。

 

「兄さんが私の後ろにいると気付いていたな。それなら協力した方がよさそうね、と」

「ふ~ん」

 

ライアーを何に使うかは分かってないと思うが……本来は教会が保管するべき天空のライアーをファデュイの情報があったとはいえ、ジンが回収に動き出した事に違和感でも感じたんだろうか。それかモンドで事件が起こった時には大体俺が関わってるから予想でもされたか。

 

「とにかく天空のライアーが手元に来るならこの龍災を終結させんのも時間の問題だ。ディルックにも伝えて……そうだな、明日の夜中にでもエンジェルズシェアで作戦開始といこうぜ」

「酒場で話を?……いや、あそこはディルックがオーナーだったな。私達が集まったとしても怪しまれる可能性は低いか」

 

俺とディルックは小さい頃からの付き合いだし、ジンもあいつが騎士団にいた時から俺を繋がりにして交流がよくあった。ジンが副団長、代理団長になった事で顔を合わせる機会が減ったものの信頼関係が薄れたわけじゃない。

ま、俺達3人の他にウェンティもいるけどな。説明役のあいつがいないと話が進まないし。

 

「んじゃ、俺も蛍と合流して神殿に行ってくるよ。まずはあの暴風をどうにかしなきゃな」

「そうだな。よろしく頼む、兄さん」

「おう。兄ちゃんに任せとけ~」

 

 

 

 

 

 

「……あ、アレンさん」

「おっ!ようやく来たか!待ちくたびれたぞ!」

 

鍛冶屋に近付くとワーグナーと喋っていた蛍とパイモンが近付き、駆け寄ってくる。そんなに待たせたつもりはなかったんだけどなぁ。

 

「よぉ、アレン。武器の具合は大丈夫か?」

「おう、大丈夫だぜ。あんたの自信作だかんなぁ、壊れたりしたら一大事だろ?」

「……そもそもまともに振れる重さじゃねぇんだけどな」

 

確かに。何十種類もの素材の配合と何重にもよる岩元素の補強によりこの西風大剣は俺が振っても傷1つ付かないが、重さを度外視した事により普通は持ち上げる事すら不可能だ。力持ちなノエルでさえ持ち上がらず、鬼である一斗(いっと)も顔を赤くしてまで頑張ったが、最後には手が抜けてひっくり返ってたな。

 

「そうだ、この子アレンの知り合いか?珍しい剣を持ってるから見させてもらったが……一体どんな素材を使ってるのかさえ分からん」

「珍しい剣?」

「ん、これの事だよ」

 

どこからともなく蛍の手に現れる片手剣。それは水色をメインにしており、持ち手部分にはひし形を思わせるような結晶が埋め込まれている。確かにあまり見ない独特な形をしてるな。

 

降臨(こうりん)(けん)。私が唯一持ってる武器なんだ」

「へぇ。どこで見つけたんだ?」

「ここからずーっと遠い場所、かな」

 

ここから……というよりも、“この世界から“、か。

 

「なぁ、アレン!ガイア達はリサが魔法で風に開けた穴を通って行ったけど、オイラ達はどうするんだ?リサはアレンに任せれば大丈夫よって言ってたけど」

「ん?おう、任せとけって」

 

見た感じ、風龍廃墟を閉じ込めてる特殊な暴風に似てるがアレの劣化版ってとこか。ならここから出るのは簡単だ。

 

「よっ」

 

西風大剣を振り上げ、放った雷刃が暴風を大きく切り裂いて道を作り出す。しばらくの間はこれで無事に通れるだろう。

 

「さぁ、行こうぜ。着くまでの道すがら、お前の実力も知りたいしな~」

 

 

 

「えぇ……」

「な、なぁ。風って斬れるもんだっけ……?」

「斬れない……と思うけど」

「だ、だよな……」

 

((元モンド最強……ヤバすぎない……?))




ゲームではキャラクターには色々な武器を装備できますが、ここではそれぞれが自分の武器を持ってます。例としてはジンは西風剣、蛍は降臨の剣みたいに。

あと、西風剣は本来なら読みは「セピュロスソード」ですが、自分の中では世界観に合わないのでここでは「せいふうけん」と呼ぶ事にします。

追記(5/12)
“そっちも巻き込めれば楽勝だ“という意図を察した俺とジン、リサは納得するがあんまり接点のないアンバーやそもそも会ってない蛍は何も分かってないようで首を傾げてる。ま、情報をわざと流すとかしてアカツキワイナリーから引っ張り出すんだろうな。

↑この部分のアカツキワイナリーを屋敷に変更しました。


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第14話

遅くなりましたが、久々の投稿です!


ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ四風守護(しふうしゅご)

 

それは風神バルバトスが1000年前にモンドから姿を消す時に国の守護を託した眷属たち。かつてはバルバトスと共に信仰され、それぞれを祀る神殿も建設された。だがおよそ500年前の大変動で四風守護への信仰は廃れ、さらに長い年月が経った事でその存在は多くの人々の記憶から忘れ去られてしまった。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ東風の龍

初代にして現守護者は今では風魔龍として人々から恐れられてるトワリン。バルバトスとは旧知の仲であり、最も長い間信仰されてきた守護者だ。しかし長い眠りから目覚めた今では守るべき人々から忘れられ、再び「国を襲う龍」として恐れられた事から悲しみと憎しみに駆られ、その地位を自ら捨て去りモンドの脅威へと変わり果ててしまってる。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ西風の鷹

初代守護者は西風騎士団初代団長にして初代蒲公英(ダンディライオン)騎士であるヴァネッサ。現守護者は西風騎士団そのものである。しかし信仰心が高い信者の中には天空の島へと渡り、西風の鷹となったヴァネッサを今でも四風守護だと考えてる者もいる。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ南風の獅子

初代守護者は後に西風の鷹へと姿を変えるヴァネッサが兼任しており、現守護者は代理団長を務め、団長クラスの地位のみに授けられる獅牙騎士(しがきし)と蒲公英騎士の称号を持つジン。元々は雷鳴騎士のアレンがこの地位に就く筈であったが、彼が拒否した事で義妹であり、実力もある彼女がこの地位に推薦されたのだ。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ北風の狼

初代守護者はデカラビアンの支配する旧モンドに宣戦布告をした狼の魔神“北風の王“アンドリアスが自身の力が人々を苦しませる事しか出来ないと知り、自ら命を絶った後その魂が風神バルバトスとの契約により四風守護の一柱へと姿を変えた“奔狼の領主“ボレアス。今も尚その魂はモンドの地に宿り、奔狼領(ほんろうりょう)を護っている。

現守護者はボレアスを象徴する北風騎士(ほくふうきし)の称号を授かってる西風騎士団団長のファルカ。彼は奔狼領に住むレザーに名前と剣を授け、狼たちの住処に幾度か足を運ぶなど狼たちと関係を持っている。

 

 

 

 

因みに四風守護の存在はほとんどのモンド人から忘れ去られているが、西風教会や西風騎士団の一部ではその歴史は語り継がれている。故にジンやファルカに四風守護の称号が授けられているのだ。

 

 

 

 

「ここが南風の獅子(ダンディライオン)の神殿だぜ」

「ここが……」

 

道中襲い掛かってくる大型スライムやヒルチャール達を吹き飛ばしながら辿り着いた南風の獅子の神殿。リサが言ってた通り、見た目には変化がないものの中からは何やら不穏な空気が漂ってきてるな。俺からしてみれば可愛いもんだが。

 

「んじゃ、行くかぁ」

「も、もう行くのか?」

「当たり前だろ。とっととトワリンへの力の供給を止めねぇと面倒な事になりかねないしな」

 

それぞれの神殿に残ってる力が僅かとはいえ、それらが全て吸い付くされた結果トワリンがどれ程の強さを得るか分からない。どれだけ強くなっても叩きのめす自信はあるが、戦いの被害を増やしたくねぇし。

 

「蛍は準備いいか?」

「うん。私はいつでも大丈夫だよ」

「オイラはちょっと心配だけど……まぁ、アレンがいれば敵なしか!」

 

どうやらパイモンは俺の強さに信頼し切ってるみたいだが、蛍の実力も見定めないとなぁ。ここに来るまでの間、蛍と雑魚共との戦いを見させてもらったがやっぱりある程度の強さを持ってる奴じゃなきゃ実力の判断は難しいって。

 

「よしっ、じゃあ行くとするかぁ」

 

さてさてさ~て……一体何が出てくるのやら?

 

 

 

 

 

 

 

 

テイワット大陸各地に点在する神殿や遺跡などを総称する“秘境(ひきょう)“の中には遥か昔に存在した古代文明の時代から残ってる物もある。それらは500年前、カーンルイアが作り出した“耕運機(こううんき)“という今で言う遺跡守衛よりも歴史が古い。まぁ、四風守護の神殿は1000年前より後に建てられたもんだから他と比べればまだ新しい方だけど。

その四風守護の神殿の1つ、南風の獅子の神殿には雷元素を利用したギミックが色々な場所に仕組まれてる。これは他の神殿同様、中に侵入者や魔物などを入れない為だ。だが長年放棄された結果、それは意味を成さず元素生物の発生などを許しギミックは人々の出入りを困難にさせてしまってる。

 

紫弾(しだん)、っと」

 

指先から小さな雷の玉を放ち、扉を開けるギミックを動かす為の石碑に当てる。一応これは雷砲の派生技に当たるが、その威力は低い。精々一般人に当てれば気絶させる位である。だが逆に威力が大きい技だとギミックそのものを壊しかねない為、こういった小技もたまに必要になるんだよなぁ。

 

「アレンさんって、本当に色々な技を持ってるんだね」

「おう。テイワット中探しても俺以上に技を持ってる奴はきっといないぜ?」

 

もちろん技が多ければ強いというわけではないが、様々な状況で威力が大きい技を生み出してる内にいつの間にかその数が膨大になっていったのだ。しかしそれでもそれぞれにちゃんと用途があり、使わない技ってのはないけどな。

 

「あっ!おい、スライムが出てきたぞ!」

 

進んだ先にあった部屋に入ると、至る場所からスライムが現れ始めた。スライムとは自然界に存在する元素から生まれる元素生物の一種であり、その数は元素と同じく7種類である。小型スライムは一般人でも1匹ならどうにか退治できるレベルだが、大型スライムは平凡な神の目所有者が相手なら十分脅威になるレベルだ。

 

「スライムと戦った事はあんのか?」

「うん、モンドに着いてから何度かあるよ」

「なら1つアドバイスしとくぜ。スライムは自分と同じ元素は無効化するから攻撃には気を付けろよ?つっても威力が大きい攻撃には耐えきれねぇけど、なっ!」

 

振り抜かれた雷腕がスライムの一体に直撃し、雷元素を纏った衝撃波が他のスライム達を一瞬にして塵へと変える。その中には本来なら攻撃が通じない大型雷スライムもいたが、他と変わらずに散っていった。

 

「ん?……なぁ、蛍、パイモン。ちょっと急いだ方がいいかもしれねぇ」

「えっ?」

「神殿の奥に強い元素の塊がある。それがトワリンに力を与えてんだろうが……それとは別に強い元素があるんだよ」

 

少なくともスライムなどとは比べ物にならないな。この中は元素の流れが奥の一点に集中してるという異常事態だし、そもそも今のモンドは元素の流れが不安定だ。その崩れた元素のバランスが神殿内に凶暴な魔物を生み出してしまったのかもしれない。

 

「オ、オイラは何も感じないぞ?」

「蛍、“元素視覚(げんそしかく)“は使えるか?それ使えばここからでも分かるぞ」

「うん、使ってみるよ」

 

元素視覚とは元素の痕跡、元素の流れ、生き物や物体が影響を受けてる元素などを“視る“神の目の持ち主だけが使える能力だ。狭い範囲しか効果がないが、あの元素の塊は2つ共強い為かここからでもよく視える。

 

「……本当だね。何か強い元素が奥に視えるよ」

「ならそこ目指して行こうぜー。どっちにしても調べる必要があるからなぁ」

 

元素の塊は核を壊せば解決するが、もう1つの方はとっとと倒さないと、放置しといたら更に力を増すかもしれない。これ以上問題を出さない為にも頑張らないとなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なぁ、あそこに生えてるあの苗木って何だ?」

 

神殿のギミックを解きつつ、発生してる元素生物を吹き飛ばしながら辿り着いた大部屋の中心には赤い苗木が見えた。それにパイモンが興味を示すが、確かアレは。

 

「ありゃあ爆炎樹(ばくえんじゅ)だな。なるほど、強い元素の正体はあいつか」

「ばくえんじゅ……?」

「ああ。簡単に言えば植物の化け物だ」

 

爆炎樹、それは元素を取り込んだ植物が長い年月をかけて突然変異を起こした怪物の一種である。普通は元素を取り込んでもトリックフラワーという魔物や霧氷花(むひょうばな)烈焔花(れつえんばな)という特殊な植物で変化は止まるのだが稀にこのような成長を果たすのだ。

そして爆炎樹は名前の通り炎元素を操り、見た目を“怒りの炎“と表すように凶暴性・攻撃性が高い。放っておけば崩れた元素のバランスが更なる変異をもたらし、神殿内で暴れ出す可能性だってある。その前に今ここで倒しておくか。

 

「まずは爆炎樹を倒すとしようぜ。放っといたらめんどくさい事になりかねないからなぁ」

「あんな小さいのが……?」

「今は休眠状態だからな。近付けばこっちの気配を察して目覚めるが、その前にここから攻撃を……あ、待てよ?」

 

爆炎樹クラスの敵となればその強さは今まで出会ってきた雑魚とは比べ物にならない。つまり蛍の実力を測るには丁度いい相手なんじゃないか?ちょっと強すぎるかもしれないが、本当に危ない時は俺がぶっ飛ばせばいいし。

 

「蛍。お前、爆炎樹と戦ってみる気ねぇか?」

「えっ?」

「お前がどれだけ強いか見たいんだよ。危なくなったらすぐ俺が助けてやるからさ。な?」

「で、でもあいつ強いんじゃないか?名前を聞いただけでも凄そうだぞ!?」

 

パイモンが慌てて心配をする傍ら、蛍は聞いた時こそ驚いていたものの考え込んでいた。そして答えが決まったらしく俺に視線を向けてくる。

 

「うん……いいよ。あの魔物を倒して私の実力を見せてあげる」

「ほ、本当にやるのかよ~!?」

「大丈夫だよ、パイモン。危なくなったらアレンさんが助けてくれるって言うし……それに私も()()()()()()()を知りたいから丁度いいよ」

 

ん?何だ、今の実力を知りたいって事は蛍自身もよく分かってないのか?それは……いや、今はそこまで考える必要はないか。

 

「アレンさん、パイモンは頼んだよ」

「おう、任せとけ。一応言っとくが、助けに入るからって手は抜かないでくれよ?」

「うん、分かってる。それじゃ意味ないからね」

「が、頑張るんだぞ!!」

 

「それじゃ行ってくるよ」と言って俺達から離れ、まだ苗木状態の爆炎樹へと近付いてく。パイモンがどうしても心配なのか落ち着きがないが、殺される心配はないだろう。空の妹(仮)ならあいつと同じ力を持ってるはずだし、その力を失っていたとしてもある程度は戦えるはずだ。

それに……あいつが空と同じく“この世界の住人ではない“という確証が欲しい。元素を操る為に必要な神の目や邪眼(じゃがん)を持たず、だからと言ってアビス教団などの怪物でなければない人間、そいつはつまり“この世界のルールに縛られない異邦の旅人“である。

 

「──────ッ!!」

 

蛍が距離を詰め、目の前まで迫ると爆炎樹が生物が発したとは思えない耳障りな音を出しながら姿を変えていく。4枚の花弁が勢いよく開いた瞬間、炎が巻き散らかされる。そして爆炎樹の頭部が威嚇するように花弁を更に大きく広げ、2本の蔓が蛍に襲いかかった。

 

「っ……はっ!」

 

絡めるように向かってくる2本の蔓に蛍は飛び込み、宙返りでかわす。次の瞬間、着地と同時に地面を蹴って走り出した蛍は爆炎樹に向かって風元素を纏った左手を突き出した。

 

風刃(ふうじん)!」

 

風元素が凝縮された無数のかまいたちが渦となって放たれ、爆炎樹を切り裂く。しかしそれに怪物が堪える様子はなく、蛍を完全に敵と認識したみたいだった。

 

まさしく蛍のその一撃が爆炎樹との戦いを開始する合図となったのだ。




四風守護の現メンバーはゲーム内でも詳しくは明かされてませんが、とりあえずここでは、

・東風の龍→トワリン
・西風の鷹→西風騎士団/ヴァネッサ
・南風の獅子→ジン・グンヒルド
・北風の狼→ファルカ

となっています。


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第15話

5/16
今回終盤のアレンの動きについて、「責任感がないかな」と思った為、文章を一部変えました。
次回の動きが変わってくる為、一度読んだ事があるという方ももう一度読んでおく事をオススメします。


元素は戦闘で様々な使い方が出来る。ただの攻撃だけでも単体に、もしくは広範囲に展開できるし武器に付与する事で威力を上げる事も出来る。他にも元素を固形化した武器で手数を増やしたり、自身を強化したり、体力を回復したり。もしくはそれぞれを組み合わせて強大な一撃を生み出す事だって可能だ。

 

例として、蛍が使う風元素────あの元素は他の元素と組み合わせる事で威力が増す事が多いから補助系に近いが、使いこなせれば様々な事が出来る。

例えば爆炎樹を攻撃するのによく使ってるあの風の渦。ただ敵を攻撃するだけじゃなく風圧を高めれば緊急時にその場から自身を押し出して離脱したり、“3つ目の足場“として移動などに用いる事だって出来そうだ。まぁ、蛍はそんな芸当が出来る程使いこなせてないみたいだが。

 

「風と共に……去れっ!!」

 

爆炎樹の火炎弾を避け、隙を見つけた蛍が降臨の剣を振りかぶると同時に風元素を集中させて一気に竜巻として解き放った。その竜巻は周囲の物を巻き込みながら進んでいき、爆炎樹を呑み込む。俺の“山嵐“とは違って元素がある分威力は高いだろう。

 

しかし────────

 

「──────ッ!!」

「……っ、弾き飛ばした!?」

 

4つあった花弁の内、2枚が散ったものの耐えた爆炎樹は炎元素を衝撃波の如く放ち、竜巻を強引に消し去ってしまった。……あの竜巻は強力な技だろう。だがあの元素生物の親玉みてぇな奴はそれでも倒れないタフさがあるのだ。

 

「きゃあっ!?」

 

強力な一撃を放った直後の為に動きが鈍くなった蛍を振り回した頭部で殴り飛ばす爆炎樹。間一髪剣の腹で防いだものの、勢いは殺せずに後ろへと吹き飛んだ蛍は宙を飛び────後ろで構えていた俺に受け止められた。

 

「……えっ?えっ!?い、いつの間にあっちまで行ったんだ!?」

 

元いた場所でパイモンが驚いてるが、動いたのは今だよ。走れば壁にぶつかる前に余裕で受け止められる距離だったからな。

 

「つえーだろ、あいつ。まっ、元素が使えるようになって日が浅い奴が簡単に敵う相手じゃねぇからな」

「えーっと……」

「神の目を持ってねぇのに元素が操れる……この世界の住人じゃねぇだろ、蛍って」

 

今まで元素を操る時に神の目が輝くどころかどこにも神の目は見当たらなかった。元素視角も使ったが反応がなかった為、蛍が神の目を隠し持ってない事も確認済みだ。

 

「な、何を言って……」

「それに。お前の兄とも色々似た部分があるからなぁ。……空って名前だろ?」

「っ!?どうしてお兄ちゃんの名前を────」

 

自身の正体を濁そうとする蛍だったが、兄の名前を出したら食い気味に詰め寄ってきた。その瞬間、咄嗟に俺は彼女を抱いたまま上へと跳んだ。爆炎樹が勢いよく伸ばした蔓がさっきまでいた場所を貫いて壁へと突き刺さったからだ。まだまだあっちは元気みたいだが、そろそろいいか。

 

「よっと。さて、蛍の強さは大体分かったし……そろそろ倒すか」

「ま、待って!それよりどうしてアレンさんがお兄ちゃんの事を知ってるのか話して!それにいつから私が────」

「悪いが話は爆炎樹を倒したら、な」

 

自分から言ってなんだがこんな事言えば蛍が困惑するのは分かってた。ただこういう場面でもなきゃ言い逃れしそうな気がしたからなぁ。

 

「……なら力を貸して」

「おう。あ、ならよ、さっきの竜巻ってもう一度撃てるか?」

「撃てるけど……風元素を剣に集中させないとだから、すぐには無理だよ」

「なるほどなぁ」

 

だけどさっきの竜巻を見て俺と蛍とで試してみたい技を思い付いたんだよな。う~ん……よし。

 

「だったら俺が爆炎樹を相手するからよ、蛍は撃てるようになったら教えてくれ」

「いいけど……さっきの様子だと倒しきるのは無理だと思う」

「まーまー、俺に考えがあるからよ。んじゃ、よろしく頼むぜっ」

 

蛍が構える降臨の剣に風元素を集中させ始め、俺はその間の時間を稼ぐ為に爆炎樹へと走り出す。倒そうと思えば俺1人でも爆炎樹は楽勝な相手だが、やってみたい技がある以上倒してしまうのはもったいない。それに爆炎樹と戦ってるのは蛍で、俺は『力を貸す』だけだ。手助けの俺が1人で倒してしまったらダメだろう。

 

「──────ッ!!」

「そいっ」

 

爆炎樹が俺目掛けて複数の火炎弾を放つが、最初に放った火炎弾は雷砲で殴り付ければ一瞬にして消し飛んだ。更に雷元素を伴った衝撃波が一筋の線となって後ろを飛んでいた火炎弾を貫き、一番奥にいる爆炎樹の頭部を支える茎を抉った。

 

「────ッ!?」

「よっ」

 

自身の攻撃が効かず、逆に傷を負った爆炎樹は困惑したまま頭部を振り下ろし、俺を叩き潰そうとする。だがそれは回し蹴りの要領で放った雷脚に遮られた。横へと蹴り飛ばされた頭部に引っ張られ、根がミシミシと地面から抜けようしてるが、手加減したし耐えられるだろう。

 

「さてと……」

 

襲いかかってくる蔓を後退すると同時に西風大剣で斬り落とす。跳んで蛍の隣に着地すると降臨の剣には十分に集まった風元素が渦を巻き、今にも解き放たれる時を待ってるようだった。

 

「準備は整ったか?」

「うん……!」

「な、なぁ!一体どうするつもりなんだ?」

 

いつの間にか蛍の傍に来ていたパイモンが尋ねてくる。まっ、さっき撃って倒せなかった攻撃をもう一度やろうとしてれば疑問に思うか。

 

元素連携(げんそれんけい)をやってみたくてな」

「元素……連携?」

 

俺の指示通り元素を集め、技を撃とうと構えていた蛍もその言葉に首を傾げていた。だが知らなくて当たり前だ。異なる元素同士を反応し合わせる事で威力を上げたり、行動を封じたりする元素反応(げんそはんのう)は広く知られてる。しかし元素連携は力の扱いが難しい上に組み合わせが決まってるわけじゃないから神の目を持ってても知らない奴の方が多いのだ。

 

「簡単に言うと、元素による攻撃を同時に複数組み合わせて放つって事だ。俺の“山嵐“と蛍のさっきの竜巻……俺のは元素使ってねぇけど、それでも相性はいいと思うんだ」

 

元素を使ってない以上、俺の“山嵐“は相手を吹き飛ばす事は出来ても傷を負わせる事は出来ない。しかしその規模や風速は元素を宿した攻撃と同等か、それ以上だ。それを蛍が放つ風元素が宿った竜巻に合わせれば威力は格段に上がるはず。

 

「なるほど……いいよ。どうすればいいの?」

「俺と同時に竜巻を撃ってくれ。タイミングずれてても俺が合わせるから心配すんな。……そういやあの技って名前あるか?」

「“激風(げきふう)(いき)“って名前だけど?」

 

“激風の息“か……それと“山嵐“……ふむふむ、なるほどなるほど…………よしっ、決まった!

 

「いくぞっ?」

「うん……!」

 

俺は西風大剣を振り払って“山嵐“を、蛍は降臨の剣に集まった風元素を解放して“激風の息“を放った。タイミングはバッチリであり、2つの竜巻は重なるように合わさっていく。

そして完全に合わさった瞬間──────

 

「うわわっ!?」

「っ……す、凄い……」

 

一気に大きくなった竜巻はもはや災害の一種であり、パイモンは吹き飛ばされそうになって咄嗟に俺の服を掴み、蛍は踏ん張ってどうにか耐えてる。

この部屋全体に広がるまでに規模を大きくした竜巻は前へと動き、その中心が爆炎樹へと迫る。火炎弾を撃って食い止めようとしてるが、一瞬にして掻き消されて爆炎樹は自身より数倍大きな竜巻に呑み込まれようとしている。よく見れば地面に亀裂が入り、砕けた破片が次々と呑み込まれては粉砕されていってるなぁ。

 

ㅤㅤㅤㅤ「元素連携……狂嵐(きょうらん)(つばさ)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、巨大な竜巻に呑まれた爆炎樹は地面ごと掘り起こされ、空中で無数の風の刃にどんどん切り刻まれていった。結果、竜巻が過ぎ去った後に残ってたのは爆炎樹がいたはずの地面に出来た穴だけである。その上がった威力に蛍とパイモンは驚くどころか若干引いてたぜ。

ちなみにトワリンに力を送っていた元素の塊も“狂嵐の翼“が消し飛ばしてしまったらしく、元素視覚を使ってもどこにも反応はなかった。まっ、元々壊すもんだったからいいんだけどよ。

 

さぁ~て……次は、と。

 

「どこから喋るとすっかなぁ……?」

「どこからでもいいよ。お兄ちゃんの情報なら少しでも手に入れたいの!」

 

目的を達成してモンド城へと戻りながら、俺は蛍と約束した通り空の事について話そうとするがどこからどこまで話すか迷っていた。俺もあいつの全てを知ってるわけじゃないが、少なくとも蛍よりも現状について詳しいのは確かだ。だが教えれば蛍が間違いなくショックを受ける内容───アビス教団の王子である事など───もある。それはただ蛍を混乱させ、彼女を大きく悩ませる事にしかならないだろう。それを知るには蛍はまだ早すぎる。

 

「そもそも俺と空が会ったのはたったの2()()だけだぜ?1回目は結構昔に、2回目は半年前まで七国を旅してた間の時だ」

「私の事は……お兄ちゃんから聞いたの?」

「ああ。2回目の時にあいつに妹がいるって教えられたんだ」

 

確か────“俺の妹がモンドに現れた時。それがこの世界に未曾有の危機が訪れるカウントダウンの始まりだ“────だったか?そんな予言みじた話、あまり信じてなかったが実際に妹である蛍は現れた。それはつまりテイワット大陸の危機というのもあながち間違いじゃないのかもしれない。

それに……蛍が現れる前でも後でも、テイワットの各国で様々な事件が起こってるのは事実だ。

 

スネージナヤの執行官・“博士“による非人道的な実験の数々

 

“博士“の部下であるクソッタレな伝道師に実験の被験者にされたコレイが暴走の末に引き起こした黒焔(こくえん)騒動

 

雷電影が命じている稲妻の鎖国

 

目覚めたトワリンがドゥリンの毒とアビス教団の仕業により引き起こしてる龍災

 

かつてモラクスに封印された若陀龍王(じゃくだりゅうおう)が復活を果たす為に鉱夫を操り、璃月に再び牙を剥こうとした鉱夫失踪事件

 

他にもあるが、まっ、色々起きてるのは間違いないってわけだ。それも中には人命や国の未来に関わる大事件だってある。そんなのを“危機“と呼ばずに何て呼べって言うんだ。

 

「それじゃあ、アレンは蛍のお兄さんが今どこにいるかは知らないのか?」

「残念ながら、な。例え知っててもそこにはもういねぇかもしれねぇけど」

 

今から半年以上前だからな~。現在、アビス教団がモンドで暗躍してるとはいえ、空もこの国にいるって保証はないし。逆にもしかしたらどっかに隠れてんのかもしれねぇけど……言ってた通り自分の妹がモンド現れたんだし。

 

「……ねぇ、アレンさん。ならお兄ちゃんは……元気だった?どこか怪我したりしてなかった?」

「あぁ、元気だったぞ。蛍の事も今どこにいるのか心配してたしな」

「!……そっかぁ……」

 

兄が無事だった事に安堵したらしく、蛍はホッとため息をついた。……これで背後にアビス教団がいなかったら本当に良かったんだけどなぁ。兄の無事を伝えられた事を素直に喜べんだけど。

 

「お兄さんが今どうしてるかは分からないけど……無事って事が分かって良かったな!」

「うん。いつか会えると良いな……」

 

俺も……多分また空とは会うんだろうなぁ。アビス教団の面々はともかく、空自身は俺を仲間に迎えれば天理と戦える十分な戦力になると考えてるみたいだし。

 

「おっ、モンド城が見えてきたな」

 

辿り着いた丘の頂上からようやくモンド城が見えた。出発した時はトワリンの暴風に包まれていた場所だったが──────

 

「あっ!暴風が消えて元に戻ってるぞ!」

「どうやら他のみんなもうまくいったみたいだな」

 

これで強くなったトワリンの力を削れるし、今頃清泉町に西風騎士をジンが向かわせてくれてるはずだ。天空のライアーも明日にはこっちの手元に来る予定だし、あとするべき事は、と……あぁ、そうだ。今日の内にディルックに明日の夜に作戦会議をやる事を伝えておかねぇとな。

 

「んじゃ、モンド城に戻ってジンに報告しに行こうぜ~。きっと暴風が消えて安心してるだろうよ」

「おうっ!早く行こうぜ!」

 

まっ、まずは騎士団本部に戻って……ガイア達も戻ってれば各神殿で何かあったか情報共有もしておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃──────風龍廃墟にて。

 

 

「ッ……!?これは……」

「どうした?」

 

風魔龍……トワリンは根城にしてる風龍廃墟で傷付いた体を休めていた。しかし突如感じた違和感に驚き、その正体に気付いた。その様子を見ていたアビスの魔術師が近寄り声を掛ける。

 

「……四風守護の神殿から流れてきていた力が……途絶えたっ……!」

「なにっ……?」

 

トワリンの言葉をアビスの魔術師はすぐには信じられなかったが、アレン・グンヒルドがいる以上ありえない話ではないと判断した。

 

(それに先程から北風の狼の神殿に潜入してる仲間からの連絡も来てない……これはやはり……)

 

アビスの魔術師は唸った。神殿からの力の供給が途絶え、トワリンが弱体化した以上これまで返り討ちにされてきたアレンを倒すなど到底無理な話である。トワリンを完全に決別させる為にモンド城を破壊させようにも勝負にならずに倒される未来しか頭に浮かんでこないのだ。

 

「ふむ、どうやら手詰まりのようだな」

「っ……はい……」

 

近くで話を聞いていたアビスの使徒が動き、トワリンに近付く。魔術師の手が尽きた以上、ここから先は自分が出るべきと判断したのだ。

 

「風神と国に裏切られた哀れな龍よ。お前にチャンスをやろう」

「チャンスだと……?」

「そうだ。我が王子から授けられた()をお前に託そう。その力はお前を蝕む毒にさらなる力と痛みを与え────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤㅤ真の“風魔龍“へと変えてくれるだろう




原神には合体技がない為、自分で作りました!その名も元素連携!アレンの方は元素使ってませんけど気にしないでください。


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第16話

前回投稿後に感想欄に「璃月の鉱夫失踪事件(鍾離の伝説任務第2幕)が終わってる?」という疑問がありましたが、既に事件は本編前にアレンが解決してます。なのでその話は今後も過去の話として出てきますので、よろしくお願いします。


暴風が収まったモンド城では未だにトワリン襲撃の影響が残っていたものの、大きな建物の損傷や死者などが出たわけではない為、必要最低限の西風騎士を残して他は周囲の警備への増員などに回ってるらしい。

レストラン“鹿狩り“や雑貨屋“モンドショップ“などのお店もしばらくは閉めるものの、片付けが終わり次第再開するらしくあと数時間もすれば再び開けられる様子だった。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、よくこれだけで済んだよな~」

「うん、全部アレンさんのお陰だね」

「おいおい、褒めても何も出ねぇぞ?」

 

というか俺はあの巨大な竜巻に対処し、トワリンを撃退したが怪我人だけで済んだのは西風騎士団による避難誘導や救助などがあった事が大きい。流石はジンだな、指示が的確かつ素早い。

 

「ん?あそこにいるのってジン団長じゃないか?」

「あん?……おっ、本当だな」

 

噴水広場まで辿り着いた俺達はその隅っこにいるジンを見つけた。落ち着いてきた城内の様子を見て回ってるのかと思ったが……どうやら違うらしい。ジンの正面に立って話をしている人物がその証拠だ。

 

「……もう一度忠告しよう。モンドの防衛を我々ファデュイに渡した方が賢明な判断だとは思わないのか?」

「思わない。貴方達貴国の使節団の力を借りずとも、龍災を止める事は出来るからな」

 

その人物とはスネージナヤから来たファデュイの女外交官である。顔の上半分を隠してる仮面と特徴的な服装のお陰で凄い分かりやすい。どうやらまたトワリンを狙って交渉しに来たみたいだが……ホント諦めがわりーな。

 

「ほぅ?城内を襲われる事態になるまで風魔龍を滅ぼさずに放って置いたのにか?」

「っ……それは」

「それにかの有名なアレン・グンヒルドでさえ手こずってると聞いてるが……?」

 

痛い所を突くなぁ、あいつ。確かに手こずってはいるが、その手こずってる理由はファデュイが考えてるものとは全然別だ。滅ぼせないのではなく、滅ぼさないのだ。風魔龍として暴れ回ってるのは事実だが、それは毒龍ドゥリンの毒血とアビス教団が唆したからだ。かつてモンドを守ってくれた東風の龍を苦しめられた末に滅ぼすなんて酷いにも程があんだろ。

 

それに……ウェンティが“友達を助けたい“ってんならあいつの友達である俺も助けてやんなきゃな。

 

「おいお~い?誰が、いつ、手こずってるなんて言ったぁ?」

「?誰だ、我々の“誠実で建設的な意見の交わし合い“を邪魔するのは……っ!?ア……ア、アレン・グンヒルド!?」

 

おいおい、そんなびっくりしなくてもいいだろ。しかも見つけた瞬間からどんどん後ずさってるし。ま、ファデュイからすりゃ執行官や精鋭のデットエージェントでもなきゃ“特級危険対象“の俺と会うなんて状況によっちゃ地獄みてぇなもんか。ただの外交官が俺に敵うわけねぇし。

 

「兄さん!それに君達も帰ってきたか」

「おう、帰って来たぜ~。……んで?誠実で建設的な意見の交わし合いってのはどういう……」

「きょ!今日はこの辺りで終えるとしよう!代理団長殿!で、ではこれで!」

「あ、おい!」

 

そう言って走り去ってく女外交官を俺達は見送る。いやはや、思ってたよりも随分と怯えられたな。同じファデュイのアヤックスなら俺を見つけた瞬間、笑顔で勝負を挑んでくるってのに。アレはアレで戦闘好き過ぎるけど。

 

「……行ってしまったな」

「わりぃな、困ってたから助太刀のつもりだったんだが。いらなかったか?」

「いや、助かったよ。彼らにモンドの防衛を任せるつもりはないが……城内の人々を危機に晒してしまった事は事実だからな……」

 

人々への申し訳なさから耳が痛くなるような言葉を言うジン。しかも口に出した事でその現実が重くのし掛かってきたのか目線を下に落としてしまった。

 

「……ったく」

 

そんな落ち込む妹の頭をガシガシと撫で回してやれば「ひゃんっ!?」などとあまり聞き慣れない可愛らしい声が飛び出た。

 

「んな落ち込むなって、らしくねぇなぁ。何もジン、お前1人で背負い込む必要なんかねぇだろ。だからこそみんな、今頑張ってんだ。その結果、暴風は消えて元素循環は元に戻った。一先ずは安心させられただろ」

「そ、そうだな……うん。ありがとう、兄さん」

 

どうやら気持ちを持ち直せたらしい。しかしま、副団長もとい代理団長という肩書きは、それ相応の『覚悟』が必要となるが同時に大きな『責任』に苦しめられる立場でもある。

真面目過ぎる性格や騎士としての行動力や高潔な意思を人一倍に強く持つジンは間違いなく誰よりもその『責任』を強く受け止めているだろう。正解とも間違いとも言えないが、そのストレスをたまにはちゃんと発散してもらいたいもんだ。

 

「アレンさんとジンさんって本当に仲がいい兄妹(きょうだい)だね」

「だな!でもそろそろ話に入っても大丈夫か~?」

「あっ……す、すまない。に、兄さんもそろそろ手を離してくれ」

「へいへい」

 

蛍とパイモンに見られてる事を忘れてたのか、恥ずかしそうに頬を赤くしたジンからそう言われ、乱れてしまった髪を直しつつ頭から手をどかした。

 

「なぁ。あいつ、使節団って言ってたけど……あまりいい雰囲気じゃなかったな。どこから来た使節団なんだ?璃月港?それとも稲妻城か?」

 

パイモンが近隣の国の名前を出して尋ねてくるが、そのどれらとも違う。あいつらはもっと遠くから、しかも色々な国に手出してる使節団だからな~。

 

「いや……彼女達は氷神を祀る国家、スネージナヤから来た使節団だ。その使節団には名前があってだな、“ファデュイ“という言葉に聞き覚えはないか?」

「あっ、オイラ聞いた事あるぞ!悪いイメージばっかだけど、本当にそうなんだな……」

「えっと、そうなの?」

 

ファデュイと聞いてピンと来たパイモンに対して、蛍はどうやらファデュイ自体を知らないらしく首を傾げて俺に尋ねてくる。ま、あいつらの悪事を上げようと思えばいくらでも出てくるからな、悪いイメージばかりなのは仕方ない。

 

「ま、あいつら悪さばっかやってるからな。どの国にとっても頭痛の種でしかねぇんだよ」

「なるほど……」

 

国を混乱に陥れる他にも、例えばスネージナヤが運営し、主な従業員がファデュイのメンバーである北国銀行。各国に支店を構えてるアレは銀行としてちゃんと活動はしてるがバカ高い利息を支払わされるなど、黒い噂が絶えない事で有名だ。

他にも国民を誘拐したり、開発した邪眼をリスクは説明せずに力を求める人物に渡して人体実験の被験者にするなど決して許されない事だって平気で繰り返す奴らだっているし。人の命を何だと思ってんだあいつら。

 

「彼らは風魔龍退治という口実を作り、風神眷属の力を手に入れたいだけだ。それだけは絶対に防がなければならない……」

「あっ。力と言えば……」

 

蛍が何かを思い出したらしく、自身のポケットをまさぐり始める。しかし途中でその動きを止め、ポケットからは何も出さずに俺とジンに向き直った。

 

「騎士団に見てもらいたい物があるんだけど……ここだとちょっと目立つかも」

「見てもらいたい物……?」

「うしっ、なら団長室に行こうぜ。報告もあるし、丁度いいだろ」

 

彼女が何を見せたいのかは分からないが、ここだと確かに人目につく。今後の事を考える必要もあるし、一度騎士団本部に戻った方がいいだろうからな。




短いと思いつつも、区切りが良かったので投稿してしまいました。あとは生存確認の為にと……。


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第17話

ついに執行官全員が紹介されましたね!作者は今の所第3位の“少女“が気になってます!

※諸事情がありまして、後半のアレンとディルックの話を変更しました。その為、以前読んだ時とお話が異なっている為、もう一度読んでもらえると混乱がないと思います。申し訳ありません!


団長室に戻る道すがら聞いたが、リサとアンバー、ガイアは一足先に戻ってきたらしくアンバーとガイアはそれぞれ一旦、自分の持ち場に戻ったとのこと。リサは今後の対策を練る為にジンと共に話し合いをしていたようだ。

 

「(兄さんが言った通り、清泉町に騎士を数名派遣している。連行後は騎士団本部地下の独房に入れて1人ずつ話を聞かせてもらうつもりだ)」

「(ん、りょーかい)」

 

“こちらの件“とは無関係な蛍は巻き込まれないようジンと共に声を潜めて話をする。エウルアにシューベルトのおっさんを探ってもらうよう頼みはするが、あのデッドエージェントのザメンホフはまだ何か知ってるはずだ。それを騎士団に聞き出してもらうのだ。

 

「あら、帰ってきたのね。おかえりなさい」

「おう。そっちもお疲れさん」

 

団長室に入れば椅子に座ってるリサが手を振って出迎えてくれた。どうやらジンが途中で出ていって暇になってしまったからか、本を読んでいたようだ。膝の上に置かれてる厚い本がその証拠だ。

 

「ジンもお帰りなさい。……彼女に何か言われなかった?」

「前回と同じさ。風魔龍の対処を自分達に任せろと言われたよ」

「でも断ったんでしょ?」

「あぁ、当然だ」

 

リサは風魔龍の正体がトワリンである事、変貌した理由の1つである“風神バルバトスとモンドに裏切られたから“である事に俺を除けば初めて気付いた人物だ。ドゥリンの毒が要因になった事やアビス教団が関わっている事は書物にはない情報だからか知らないが、故に彼女も真実の一部を知り、他国の執行官であるファデュイの風魔龍退治には反対している。

 

「さっき言った通り、ガイアとアンバーは持ち場に戻ってもらったからこの場にはいないが……モンドの民に変わってお礼を言いたい。ありがとう、みんな」

「おう!これでひとまずは安全だな!」

 

俺達に頭を下げ、感謝の言葉を口にするジン。ここにはいない2人にも言ったであろう言葉を聞いて嬉しそうなパイモンだが、その隣では蛍が何か考え事をしてる様子だった。

 

「どうしたの、可愛い子ちゃん?何か悩んでるようだけど」

「か、可愛い子ちゃん?……えっと、実はみんなに見てもらいたい物があって」

「さっき言ってたやつか。何なんだ、見てもらいたい物って」

「うん、コレなんだけど……」

 

そう言ってさっきは躊躇っていたポケットから取り出したのは、“光を発する赤く濁った涙のような形状の結晶“だった。

これ……見覚えがあるぞ。確か前にウェンティが見せてくれたトワリンの──────

 

「これ……結晶の中に穢れた不純物があるわ。こんな物、一体どこで……?」

「実はモンド城に来る前に森で風魔龍と遭遇したんだ。その時に風魔龍が落としていった物だと思うんだけど」

「風魔龍と!?ぶ、無事だったのか?」

「うん、すぐに飛び立っていっちゃったから」

 

……今のトワリンじゃあ、例えモンド人じゃなくても他国の人間との区別は難しいはずだ。にも関わらず襲われなかったって事は運が良かったか。

 

「これが何なのかはすぐに結論は出せないわね……少し時間を頂戴、禁書エリアで資料を探してみるわ」

「分かった。リサ、この結晶の構造分析は君に任せた」

「ええ……ただ古代の文献にはあまり期待しないで。可愛い子ちゃん、その結晶を借りてもいいかしら?詳しく調べる為には実物が必要なの」

「いいよ。私が持っててもしょうがないし」

 

そう言って蛍は手の平の上で輝いてる結晶をリサの方へと持っていく。はい、と差し出される結晶にリサは手を伸ばしていき──────

 

「ほいっ、そこでスト~ップ」

「あ、ちょっと!?」

 

涙の形をした結晶にリサの手が届く事はなかった。俺が手首を掴み、すぐ後ろへと引いたからである。俺の突然の行動にリサはもちろん、蛍やジンも訳も分からず驚いた表情をしている。

 

「な、何よ急に?アレン、悪ふざけは……」

「やめとけ、()()に俺達は触れない方が身の為だぜ」

 

リサが言ってた不純物……それは俺達のように元素を操る者達とは決して相容れない“黒い血“だ。持ち主であるドゥリンの血を飲み込んだトワリンだからこそ、流した涙までにもその“黒い血“が蠢いているんだろう。もしもそれに俺達が触れれば間違いなく拒絶反応を引き起こす。

同じく元素を操る蛍には何故かまったく拒絶反応がないみたいだが……ま、異界からの旅人って時点で何が起こっても不思議じゃねぇか。

 

「兄さん、それはどういう……?」

「……貴方、もしかしてこの結晶が何なのか知ってるの?」

 

俺の手を振りほどいたリサは一転、落ち着いた声で尋ねてくる。ま、得体の知れない物を仲間が知ってれば気になるわな。

 

「こいつはトワリン……いや、風魔龍が流した涙の結晶だ。元素を操る者にとっては毒になる代物だよ」

「風魔龍が……?でも風魔龍は私達モンドの人々が眠ってる間にその存在を忘れた事に憎しみを抱き、牙を向いたのでしょう?涙を流すなんて……」

 

龍災の真実を伝えたのはジンとディルック、その2人だけだ。故にリサはトワリンがモンドを襲う重要な理由を知らない。だがここまで来ればリサやトワリンの撃退、神殿攻略に協力をしてきてくれた蛍とパイモンにも龍災の真実を伝えるべきか。本当はガイアやアンバーにも伝えたかったが……。

 

「風魔龍の涙……あっ、そういえば……」

「ん?どうしたんだ?」

「この結晶の事で不思議に思ってた事があるんだよ」

 

何か思い出したらしい蛍にパイモンが尋ねる。どうやらこの涙の結晶に関するものらしい。

 

「不思議ってのは?」

「この結晶を持ち歩いてた時……たまに悲しみや憎しみ、苦しみみたいな感情が結晶から感じられたんだ。アレンさんの言う通りなら、それって……」

「おそらく風魔龍が抱いてる気持ちがその結晶を通して蛍に流れ込んだんだろうな」

 

そんな事があるなんてウェンティは言ってなかったが、実際に感じ取った蛍がいる以上、本当なんだろう。ウェンティも知らなかった現象が起こったと考えるしかねぇか。

 

「憎しみだけじゃなく、悲しみや苦しみも?一体どうして……」

「なぁ、ジン。前にお前に渡した“森の風“、まだこの部屋に残ってるか?」

「あぁ、ここに置いてある」

 

悩むリサに真実を伝える為、ジンに龍災の真実を伝える時にも使った書物を本棚から抜いて持ってきてもらった。この本の最後の方に書かれた一節が龍災の真実を紐解く鍵になるのだ。

 

「何の本なんだ、それ?」

「数百年前の学者達がモンドの数多くの詩を集めて詩集にしたものだ。この本の一説に、風龍トワリンがあのような姿になった要因が書かれてる」

「っ、何ですって!?」

 

ジンの説明にリサが驚く。ま、図書館の司書ならこの本も読んでるだろうし、見落としてるわけじゃないとしてもこんな詩集に龍災の原因が書かれてるとは思わないよな。

 

「ま、この本にも書かれてるが一部の吟遊詩人は内容を誇張したり、捏造したりするから信憑性がねぇんだよな。それに書かれてるって言ってもトワリンに何が起こったかまでは分かってなかったからなぁ」

 

本をペラペラと捲り、目的のページを見つけるとそれを机の上に広げた。要因が書かれた一節を指差すとリサ、蛍、パイモンがその本を覗き込む。

 

「『風龍は勝利した。だが彼の牙が悪龍の喉を切り裂いた時、その毒血を呑み込んでしまっていた。悪龍の毒血は歪な黄金であり、山を崩し、大地を割るほどの力がある』……これって、もしかして……」

「あぁ、そうだ。これがトワリンが風魔龍に変貌した一番の原因。ドゥリンの毒血を呑み込んだせいであいつは苦しみだした。そして長い眠りにつき、目覚めたトワリンを待ってたのは人々から忘れ去られたという深い悲しみ。……そして痛み、苦しみ、悲しみで満たされた心にアビス教団がつけこんだんだ。“お前はモンドに裏切られた“、と」

「アビス教団が!?そんな……!」

 

ドゥリンの毒血、人々から消え去った記憶、アビス教団……様々な要因が重なった事で風魔龍が誕生した事にリサは驚きを隠せていなかった。モンドをただ憎み襲撃していたと思っていた風魔龍にそんな過去があったと知れば無理もないだろう。

 

「ねぇ、アレンさん。ドゥリンの事は少し書かれてるけど、アビス教団っていうのは?」

「テイワットの各地で暗躍してる集団だ。ヒルチャールを指揮して町などに襲撃をかけるなんて芸当も出来る迷惑な奴らさ」

 

おそらくアビス教団の奴らさえ関わってなきゃトワリンの誤解をもっと早くに解けたんだろうが……過ぎた事をとやかく言っててもしょうがないか。

 

「……ところで兄さん、その結晶は元素を操る者にとっては毒になると言ってたが……どうして蛍は平気なんだ?彼女も元素の力を操れるんだろう?」

「あん?ん~……蛍、何か心当たりってあるか?」

「ううん、私にはないかな」

 

どうやら蛍自身も知らないらしい。だがあの毒は元素というよりも神の目と反発し合ってる。蛍が元素を操れるにも関わらず神の目を持ってないという事を踏まえれば、何故彼女に毒が効果を発しないのか答えはすぐに出てくる。

 

「とりあえずこの結晶は蛍が持っといてくれ。俺達じゃあ、持ち余すからな」

「うん、分かった」

 

そう言って蛍は涙の結晶を再び自分のポケットにしまう。騎士団で預かってジン達が怪我するよりはひとまず蛍に預けておいた方がいいだろう。結晶を最終的にどうするかは、後でウェンティに聞いてみるか。

 

「では、これからどうするべきか話したい所だが……蛍、パイモン、いいかな?」

「?何かな、ジンさん」

「無理な願いではあるが……君達の力をもう少し貸してほしい。モンドに平和を戻す為、どうかよろしく頼む……」

 

そう言って頭を下げるジン。それを見ていた蛍とパイモンは驚いた様子で顔を見合わせ、再び正面に戻った時にはやる気に満ちた顔を俺達に見せ、

 

「うん、勿論だよ」

「おう!オイラ達も精一杯協力するぞっ!」

 

というジンにとって最も嬉しい言葉が返してきてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、これをエウルアによろしくな」

「はいっ、分かりました!必ずエウルア隊長にお渡ししておきます!」

 

騎士団本部に残っていた遊撃小隊の女性騎士に“シューベルト・ローレンスの動向を調べてほしい“と書いた手紙を渡し、俺はその場を離れる。外に出てる他の遊撃小隊の騎士達はドラゴンスパインにいるらしく、必然的に隊長であるエウルアもそこにいる。よって代わりに彼女に手紙を預け、渡してもらう事になったのだ。ちなみに手紙が入ってる封筒には細工がしており、氷元素のみに反応して開く為、万が一失くしても誰でも開けられるわけではない。

 

「あっ、アレンさん」

「あれ、蛍にパイモン。まだここにいたのか」

 

遊撃小隊が使用してる場所から出ると前を歩いていた蛍とパイモンに出くわした。確かジン達と話が終わった後、龍災を早く解決できるよう情報を集めに行くと言ってたはずだが。

 

「まずは図書館でリサと一緒に調べものをしてたんだ!でもめぼしい情報は見つからなかったな……」

「ま、リサも一緒で何もなかったんなら本から情報を得るのは無理かもなぁ」

 

リサのみが入れる禁書エリアならどうか分からねぇが、さっきあんまり期待はするなって言ってたし難しいか。

 

「……ねぇ、アレンさん」

「ん?」

「さっき話してくれた風魔龍が流した涙の結晶……本当はまだ話してない事があるよね」

「んー?何でそう思うんだぁ?」

「さっき気付いたんだけど、これ……」

 

そう言って再び取り出された涙の結晶。しかしさっき団長室で見せた時と違い、その結晶は水の如く澄んだ色をしていた。しかも結晶の中にあったはずの異物はまったく感じられず、まるで浄化されたかのような感覚だ。

 

「こいつは……蛍がやったのか?」

「ううん、それがこいつにも分からないみたいなんだ」

「うん……いつの間にかこうなってて」

 

近寄っても痛みは来ない……元素を操る神の目と相互反応を起こす“黒い血“は確かに無くなってるみたいだ。その結果がこの涙の結晶なんだろうが、トワリンを蝕む毒と同じこの“黒い血“が自然に消える事はないとウェンティは語っていた。つまり浄化された原因はこの結晶を手にしていた蛍にあるんだろうが……。

 

「……いや、考えててもしょうがねぇか」

「どうしたの?」

「わりぃが、俺から言える事はもうねぇよ。ただもしかしたら知ってるかもしれない奴を教えてやる」

「知ってそうな奴?そんな人がいるなら、何でさっき言わなかったんだよ?」

「色々と事情があんだよ、俺にも」

 

パイモンから最もな事を言われるが、細かい所にも気付くジンの事だ。あいつの前でウェンティの事を言えば、正体が風神バルバトスだと勘づかれるかもしれないからな。

 

「緑色の服を着た吟遊詩人を探してみろ、名前はウェンティだ。一応言っとくが、ジン達には教えるなよ~?」

「……うん、分かった。みんなには伝えないでおくよ」

「おう、そうしてくれると助かる。んじゃ、頑張れよー」

 

そう言って俺は歩き出し、2人に手を振りながら騎士団本部の玄関へと向かっていく。

 

「ん?アレンもどこかに行くのか?」

「あぁ、ちょっと用事があるんだ」

 

───────昔からの親友に、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤディルック・ラグヴィンド

 

ラグヴィンド家の現当主でガイアの義兄、そして俺の親友にして戦友。長い赤髪と夏でも着てる分厚い外套が特徴的な男だ。かつては西風騎士団の騎兵隊隊長として共に戦っていたが4年前に起きた事件をきっかけに騎士団を抜け、その後は色々あって現在は造酒業を継いでいる。

騎士団・造酒業共にその活躍とモンドへの貢献は亡くなった父親・クリプスをも上回るだろう。俺やジンと同じくあいつの一声がモンドに及ぼす影響は大きい。だからこそ今回の龍災解決の証人の1人になってもらうわけだが。

 

「……んで?ガイアがばらまいた情報を辿って北風の狼の神殿に向かい、そこで神殿を守っていたアビスの魔術師と対峙。そのあとガイアとは別行動で風魔龍の情報を集めていたってわけか」

「風魔龍は再び風龍廃墟に戻った様子だった。君から受けた傷、それから神殿からの力の供給が全て止められたとなれば、しばらくは大人しく力の回復を待つはずだと思うが……」

「ま、アビスの奴らが何もしなければな」

 

ディルックが所有する醸造所“アカツキワイナリー“から少し離れた土地に建てられたラグヴィンド家の屋敷。冷たく強い風が吹く星拾いの崖にしか咲かないセシリアの花で囲まれた庭園を始め、外装も内装も立派なものである。

その屋敷の応接室に通された俺はテーブルを挟んでディルックと龍災の終結に向けた話をしている。ここのメイドさんが用意してくれた紅茶を飲みながらな。うん、うめぇ。

 

「……以前、君から聞いた話では天空のライアーが今回の龍災を終わらせる手がかりになると言っていたな」

「あぁ、そうだな」

「本当にそんな事が可能なのか?アレは確かにモンドの至宝であり、風神バルバトスに連なる遺物だが、あの龍を静める程の力があるとは思えないが」

 

まぁ、元々天空のライアーはバルバドスがトワリンを召喚させる為に用いていた道具だからな。静めるのはウェンティであって、ライアーはその切っ掛けになるだけだし。

 

「まっ、俺の協力者を信じてくれよ」

「協力者……君にモンドの神話の一節を教え、天空のライアーが必要である事を示してくれたという人物か」

「あいつには明日の作戦会議に来てもらう事になってる。きっと俺達の力になってくれるはずさ」

 

もしかしたらウェンティの奴が酒場だからって酒を飲みたがるかもしれないが、その時は絶対に自分で払ってもらおう。……つってもディルックが見た目の問題から提供しないと思うが。七神って言っても今の姿は“成人前の少年“だからな、あいつ。




前に『コレイはコナのままで進めていく』と言いましたが、訂正します。やっぱり原作通りコレイの名前はコレイのままでいきたいと思います。


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第18話

職場やプライベートで色々と暗い事があり、モチベーションが下がってしまいなかなか書く意欲が出なかったのですが、約2か月ぶりに投稿できました!
まだバタバタしてますが、ちょっとずつ執筆はしてますのでこれからもよろしくお願いします。

今回はほぼ蛍回です。

※前回のアレンとディルックとの会話に変更があります(8/31日以降)。まだ読んでないという方は確認をオススメします!


ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ僕が話すは古の話

 

ㅤㅤㅤ神々がまだ大地を歩く時代の物語

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ天空の龍が空から降り立ち

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ世界の(よろず)に好意を抱く

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ龍は自ら答えを探し

ㅤㅤㅤㅤㅤ雑然とした世に目を回す

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ風の歌い手が琴をつま弾き

ㅤㅤㅤㅤ天空のライアーがそれに答えた

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ龍は好奇に駆られし幼子で

ㅤㅤ過去の苦悩を忘却せしと飛翔しただけ

 

ㅤㅤㅤそれは詩に耳を傾け、歌を諳んずる

ㅤㅤㅤ万物に己が心を理解させるために

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ歌い手と龍は伝説となり

 

ㅤㅤ暗黒の時代がやがて始まる────

 

 

 

 

 

「おや?君達は……」

 

アレンさんと別れた後、私達はアレンさんからの助言通りウェンティという吟遊詩人を探すべく行動に出ようとした。だがその時丁度、私達の傍を1人の少年が走っていったのである。

 

その少年とは、緑色の服装が特徴的な吟遊詩人。最初はパイモンと一緒に見過ごしてしまっていたが、よくよく考えればアレンさんが言っていた特徴と一致し、尚且つ私達がモンド城に辿り着く前に森で出会った少年と同一人物だという事に気が付いた。

私達は急いで彼を追い掛け、最終的に追い付いた広場で詩を歌っていた彼に話しかける事が出来たのである。

 

「あっ!森でトワリンを驚かせた人達だ!」

「トワリン?それって確か……」

「風魔龍の名前だよ、パイモン。アレンさん達がさっき言ってたじゃない」

「おおっ、そういえば言ってたな!」

 

教えてもらったわけではないが、あの本を読み進める中でアレンさん達は風魔龍を『トワリン』とも口にしていた。おそらくはそれがあの龍の本当の名前なんだろう。

 

「へぇ、アレンと知り合いなんだ。でも彼って今はトワリンが襲撃してきたせいで忙しいはずだけど」

「……そのアレンさんから言われたの。自分が知らない事を貴方なら知ってると思うって。貴方の名前はウェンティ……だよね?私は蛍、こっちはパイモン」

「そうだよ。僕が吟遊詩人、ウェンティさ。でも……ふ~ん。彼も七国を旅したり色々あって博識だけど、知らない事もあるんだね」

 

……確かに。アレンさんはトワリンが風魔龍になった理由やトワリンが流した涙、それに含まれる毒の事などジンさんやリサさんが知らない色々な事を知っていた。そのアレンさんでも答えられなかった事を知ってるかもしれない彼は、何者なんだろう?アレンさんは吟遊詩人としか言ってなかったけど……。

 

「いいよ。ボクに何を聞きたいのかな?」

「まずはこれを見てもらいたいんだけど……」

 

そう言って私は浄化された涙の結晶をウェンティに見せた。あの森で手に入れ、団長室で見せるまでは濁った色をしていたにも関わらずいつの間にか浄化されていた、トワリンが流した涙の結晶。

この結晶にウェンティは見覚えはあるようで、目を見開き驚いていた。

 

「これは……トワリンが苦しんで流した涙だ。でも……おかしい、本来ならこんな色は……っ、もしかして浄化されてる……?」

「あぁ、そうだぞ。こいつが持ってる間にいつの間にか浄化されてたんだ」

 

結晶に指先で触れ、信じられないという表情で見つめるウェンティだったが、何かを思い出したのか慌てて服を両手で探る。そして出てきたのは─────

 

「涙の結晶……」

「うん、僕も持ってるんだ。君の質問に答えたいけど、その前にこの結晶の浄化もお願いしたいんだ」

「いや、でもこいつもどうやったかは……」

「…………」

 

私はウェンティが差し出す涙の結晶に手を重ねた。どうすれば浄化できるのかは自分でもよく分からない。でも持っている間に浄化されていたという事は、もしかしたら……。

 

「あっ」

 

私が触れた涙の結晶はウェンティの手から浮かび上がり、涙の中で渦巻いていた濁りは消え、空中で綺麗な水色の光を放つ。それは私が持つ浄化された涙の結晶と同じ輝きだった。

 

「えっ!?じょ、浄化できたのか!?」

 

涙の結晶の変化にパイモンが驚いた。しかし驚いてるのは彼女だけでなく、浄化した本人である私も驚いている。出来ると予想して触れたとはいえ、実際にやるとでは違うのだ。

 

「へぇ……君、不思議な力を持ってるんだね」

「これで私の質問に答えてくれるかな?」

「うん、いいよ。ボクが答えられる内容なら何でも!」

 

私から浄化された涙の結晶を受け取ったウェンティは快く私の質問に答えてくれる様子だった。じゃあ、と浄化が成功したからか機嫌のいい彼に私は口を開いた。

 

「私がこの涙の結晶を浄化できた事について、ウェンティは何か分からないかな?」

「うん?それは君の力なんじゃないかい?」

「そうなのかもしれないけど、私には心当たりがなくて……」

 

私の質問を聞いたウェンティはう~ん、と悩み始めた。しかしなかなか返答はなく、しばらくするとウェンティは申し訳なさそうに答えてきた。

 

「すまないけど、ボクにも君がどうして涙の結晶を浄化できたのかは分からないかな……ごめんね、浄化をしてくれたのに力になれなくて」

「ううん、大丈夫。ありがとう」

 

アレンさんに紹介されたとはいえ、元々期待はしていなかった。涙の結晶はこの世界の物だけど、私が浄化できたこの力は外の世界由来のものだ。その力がどうして涙の結晶を浄化できたのかを解き明かすにはこの世界の住人では難しい話だ。

 

「……うん、君が浄化してくれたこの龍の涙を見ていると彼女の事を思い出すよ」

「ん?彼女って誰だ?」

「ふふっ、それは秘密かな。それじゃ、ボクはお先に失礼するよ」

 

そう言ってウェンティは歩き出すと、私とパイモンの隣を通り過ぎていってしまった。

 

「お、おい!どこに──────」

 

 

─────モンドの「英雄の象徴」

 

─────そこで待ってるよ

 

 

私達が振り返り、パイモンが声を掛けたその先にウェンティの姿はなく、ただ彼の声だけがまるで頭の中に響き渡るように残っていただけだった。

 

「あ、あれ?あいつどこに行ったんだ……?」

「…………」

 

ウェンティ……気になる事は色々あるけど、そういえば彼の声、どこかで聞いた事があるような……?

 

「うーん……蛍、どう思う?あいつのこと……」

「変わった人、だとは思うけど」

「あいつからしてみればお前も十分変わってると思うけどな!」

 

それはどういう意味かな、パイモン?まぁ、たぶん神の目がなくても元素が使える事や涙の結晶を浄化できた事だとは思うけど。

 

「……それと、もしかしたら声を聞いた事があるかもしれない」

「ウェンティのか?」

「うん。どこでかは思い出せないんだけど……とにかくもう一度彼と会って話がしたいな。もしかしたら風神の事も何か知ってるかもしれないし」

 

そう考えるとアレンさんも風神や他の七神について何か知ってるのかもしれない。さっき、七国を旅してたってウェンティが言ってたし、可能性はあるはず。

 

「でも……英雄の象徴って一体どこの事なんだろう?」

「あっ、それなら分かるぞ!モンド城の目の前に立つ、あのすごーく目立つ木の事だ!」

 

目立つ木……あっ、たぶんあのとても大きな木の事だ。そういえばモンド城に来る途中や南風の獅子(ダンデライオン)の神殿に向かう時とかに見かけていたっけ。

 

「じゃあ、そこに行ってみよっか」

「おうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ英雄ヴァネッサ

 

モンドに住む者なら誰もが知っている名前であり、風神バルバトスと同じく崇拝され続けているモンドの英雄。

約1000年前に暴君として君臨していたローレンス家を始めとする貴族達を打ち倒し、モンドに自由と平和を取り戻した彼女はその活躍を神に認められ、最期は天空の島“セレスティア“へと昇っていったとされる。

 

彼女が旅立ったとされる場所、それこそが風立ちの地に生える巨大なオークの木であり、モンドの「英雄の象徴」なのだ。

 

 

 

 

 

 

「────来たんだね。そろそろ来る頃だと思ってたよ」

 

モンド城を離れ、目の前に見える巨木を目指して歩いて行くとその幹の足元にウェンティはいた。どうやら私達が真っ直ぐここに来ると分かっていたらしい。

 

「それで?ボクにまだ何か質問でもあるのかい?」

「……風神について、聞きたい事があるの」

「えっ、風神バルバトス?あいつならもうモンドから消えたよ?」

 

ウェンティ曰く……隣の璃月や離れた稲妻にはまだ神がいるものの、モンドは風神が随分と前に立ち去っており、この国の人々は長い年月の間、風神とは会えていないらしい。

 

「どうして風神の事を聞きたいんだい?トワリンのせいで何か困ったことでも?」

「それは……!」

「あの龍の過去を教えてもらったの。私は神について調べてるんだけど、風魔龍はかつて四風守護だと聞いたから」

 

かつてお兄ちゃんを捕らえ、私を封印したあの謎の神……彼女の正体を突き止め、お兄ちゃんを助けて共にこの世界から次の世界へと旅立つ事が私の目的。アレンさんはお兄ちゃんから聞いたのか私達がこの世界出身でないと知っていたが、出会った人達全員に私達の事情を全て説明する必要はない。『貴方の国の神について知りたい』、ただそれだけを伝えればいい。

 

「ふ~ん、一体誰からトワリンの過去を?」

「大体はアレンから聞いたぞ!」

「うん。トワリンが風魔龍になったのはドゥリンの毒、それからアビス教団がモンドを憎むよう仕向けたからって……」

「へぇ、そこまでアレンは君達に話したんだ。ま、彼が言ったんなら問題ないかな」

 

うんうんと納得しているウェンティ。というか、トワリンの過去を聞いても特に驚いてないって事はアレンさんが言ってた事は知ってるみたい。

 

「ところで、何でお前はここに来たんだ?」

「ボクもさっきまでトワリンと同じ毒に蝕まれていたんだよ。でもここは「英雄の象徴」、モンドの全ての源だ」

 

風が吹き、ザアッと大木の葉が一斉に揺れる。その風と共に一緒に流れてくる葉の匂いが鼻をくすぐる。

 

「君と一緒に木陰にいると、龍の涙が浄化された時みたいにボクの中の毒が消えていくんだ」

「そうなのか?でも何でお前は毒を?」

「そりゃあ、前にトワリンと会話しようとした時、誰かさん達に邪魔をされてねー……呪いを払うどころかボクまで毒に蝕まれちゃったんだ」

 

えっと……それって、もしかして……?

 

「わ、私達のせいって事かな……?」

「そうだよ!」

 

だよね……知らなかったとはいえ、ウェンティとトワリンの邪魔をしてしまったのは本当の事だし。ただそのせいでウェンティまで毒に蝕まれてしまっていたなんて。

 

「「ご、ごめんなさい」」

「……ねぇ、ならお詫びにボクのお願いを聞いてくれないかな?」

 

謝る私達に、うーんと悩んだウェンティはそう提案してくる。彼に迷惑をかけてしまってる以上、断るというのは悪いし、聞いてあげたいけど……。

 

「君達が言う風神にもちょっとは近付けるかもよ?」

「……分かった」

「どんなお願いなんだ?」

「ありがとう!それはね──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディルックの屋敷を後にし、一旦俺はモンド城に戻ってきた。とりあえず今出来る事はこんなもんだろう。トワリンが再び動き出せば話は変わってくるが、そうじゃなきゃ明日の作戦会議までは特に何もないか。

 

グ~……ギュルルルッ……。

 

「あ~、腹減ったな。朝食べてから何も食べてなかったし」

 

ファデュイの隠れ家への襲撃、トワリンとの対峙、四風守護の神殿の解放……続けざまに色々あったからなかなか食べる余裕がなかったもんな。時計台を見れば既に昼は過ぎ、もうそろそろしたら夕方に差し掛かる時間であった。

 

「なんかちょっと腹に入れとくか」

 

トワリンの襲撃から時間が経ち、城内の店も少しずつ再開し始めてる。鹿狩りだとしっかりしたもんが殆どだし、他に何かねぇかな~?

 

「あっ!やっほ~、アレン」

「おっ、アレン!帰ってきたんだな!」

 

何かその辺に売ってないかなと探してると、突然声を掛けられた。その相手はアビスの使徒共と戦ってる時に頭ん中で話したっきりのウェンティ、それからどうやらウェンティを見つけたらしいパイモン。あと、その2人の後ろから蛍が駆け寄ってくるのが見える。

 

そしてその3人の手には何故か食べかけのアップルパイが握られていた。

 

「よっ、ウェンティ。体は大丈夫なのか?毒に蝕まれたって言ってたが」

「うん、もう大丈夫だよ。彼女にお詫びの1つとして買ってもらったこのアップルパイも美味しいしねー♪いやぁ、リンゴを加工してこんなにも美味しく出来るなんて、素晴らしいな~」

 

お詫び?蛍が何か迷惑でも掛けたんだろうか?俺からしてみれば、ウェンティの方が圧倒的に迷惑かけそうだけど。

 

「結局自分とパイモンの分も買う事になったけどね……」

「へぇ、旨そうだな。どこで買ってきたんだ?」

「城内のパン屋だぞ!あ、でも風魔龍が襲撃したせいで、これで終わりって言ってたっけ」

 

そりゃ残念。城内は被害が少なかったとはいえ、何も影響がないわけじゃないのは分かってる。他に何かないか探してもいいが、最悪夜飯まで我慢すっか。

 

「えっと……じゃあ、私のを半分食べる?」

「ん?いいのか?」

「うん。私、少食だから……はい、どうぞ」

「ありがとな、腹減ってたから助かる。んじゃ、遠慮なく貰うぜ」

 

蛍からアップルパイを半分(勿論まだ食べてない方)貰い、口に入れる。リンゴ大好き吟遊詩人が美味しいと評価してる通り、生地がサクサクしていて中のリンゴも甘くなかなか美味い。

 

「んで?蛍たちは涙の結晶のこと、ウェンティに聞いたんだろ?どうだったんだよ?」

「残念だけど、ボクにも何故彼女が浄化できたのかは分からなかったよ」

「お前でも分からねぇのか」

 

トワリン関連の事なら風神バルバトス本人に尋ねれば少しは何か分かるかもと思ったんだがな。

 

「でも成果はあったよ。彼女にボクが持っていた龍の涙を浄化してもらったんだ。理由は分からないけど、彼女はトワリンを蝕む毒に唯一対抗できる存在だよ」

「だろうなぁ~」

 

ま、分からないなら分からないでしょうがない。とりあえずウェンティに蛍の力なら“黒い血“を浄化できる事を確認してもらった。これで欠けていたトワリンを救う為のピースが揃った事になる。

 

「だから彼女……蛍にお願いしたんだ。トワリンを救う為にボク達に協力してもらいたいって。いいよね?」

「おう。というか、元々そのつもりだったしな」

「あ、やっぱり?君の事だからそうだとは思ってたけど」

 

残っていたアップルパイを口に放り込み、俺は蛍を見る。ウェンティから聞いてるんだったら、話が早い。

 

「蛍、トワリンを止める為にまた協力してもらえるか?」

「うん。ここまで来たら出来る所まで付き合うよ」

「おう!このままじゃ、トワリンが可哀想だからな!」

 

俺とウェンティ、ディルックにジン、そして蛍とパイモンが加わったこのメンバー6人でトワリンを救う。毒を浄化できる蛍がいれば最悪の事態(トワリンの討伐)は避けられるはずだし。

 

「そんじゃ明日の夜、エンジェルズシェアで作戦会議がある。それに蛍とパイモンも参加してくれ。時間は──────」



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第19話

風魔龍ことトワリンの襲撃があった翌日の夜────俺、ジン、ディルックは人払いされたアカツキワイナリーに集まった。そしてこの3人以外に俺が協力者として紹介していたウェンティ、それから唐突に参加が決まった蛍とパイモンも来てくれている。

 

「兄さん、どうして蛍やパイモンまでここに?それに彼は……」

「ま、色々あってな。みんな、トワリンを止める為に必要な奴らだよ」

 

特に蛍はトワリンを正気に戻す為に一番の要となる存在だ。彼女こそが龍災解決の鍵となるだろう。

 

「…………」

「ん~?どうしたんだい、ディルック」

「……いや、そういえば酒を飲めない年齢の吟遊詩人が詩でモラの代わりに酒を恵んでもらっている、という話を聞いた事があってな」

「えへへ~」

「誤魔化しながら店の酒に手を伸ばすな」

 

ウェンティはアカツキワイナリーの常連である。しかし自分でモラを稼いで買う事は見た目上できない為、殆どは詩の代わりに客から恵んでもらったり、事情を知ってる俺が買ってやったりと風神という肩書きの割にやってる事はそんなんである。

 

「アレン、そこにいる異邦人の活躍は僕も聞いている。ウェンティも、君に神話を話した吟遊詩人が彼とは思わなかったが……彼らを何の為にこの場に呼んだのか、まずはそれを説明してくれ」

 

ま、確かにそれぞれの役割は話しておかないといけないよな。俺はトワリンと戦い、ジンとディルックも共に戦ってくれるが本来の目的はモンドを代表する人物として龍災の結末を見届ける事。ならばウェンティと蛍にも呼ばれてる以上、役割があると考えるのが当然だろう。

 

「まず大前提として……まぁ、信じられるとは到底思えないが」

「内容によるな。何だ?」

 

ディルックが先を促す。俺は棚に陳列されてる酒の瓶に目移りしている中身はおっさんな少年……ウェンティを親指で指差す。

 

「この飲んだくれは、風神バルバトス本人だ」

 

「……えっ?」

「はぁーっ!!?」

「な、なんだって!?」

「…………」

 

小さな声と共に目を見開く蛍、店内に響く程の大声を上げたパイモン、珍しく困惑した表情を見せたジンと驚き方は様々である。唯一、ディルックだけは眉を少し動かしただけに留まっているが。

 

一応、ウェンティと相談して決めた事である。協力してもらう以上、いつまでも正体を隠してるのは味方に対して失礼だというのはある。ただそれ以上に仲間に正体を明かしておけば、今後の作戦を立てる上で理由や理屈を堂々と話し、トワリンを救う中で協力できる幅が広がるというのが一番の理由だ。ただし、モンドが掲げる『自由』を今後も守る為に今回協力してくれる仲間以外には教えるつもりはない。

 

「じょ、冗談だよな?そいつが風神だって!?」

「残念ながら本当だ。こいつの正体は風神バルバトス、このモンドの神だ」

「風神バルバトス様が……本当にこの少年だというのか?兄さん」

「ああ、そうだよ」

 

西風教会を筆頭に数少ない人々が信仰している風神バルバトス。それがこのモンドのどこにでもいる吟遊詩人で、見た目は少年の酒好きな飲んだくれとは誰も思わないだろう。言われても思わないだろうが。

 

「んー……今のボクってそんなに神としての威厳がないかな?まぁ、その方がありがたいんだけどさ」

「ねぇな~。酒神(しゅじん)としてならあるかもしれねぇけど」

 

べろんべろんに酔うまで飲みまくってエンジェルズシェア前に転がってるような奴だし。

 

「……その話が本当だという証拠は?」

「証明できるものはないな。ウェンティは?」

「う~ん……ボクも風神だっていう証拠は出せないかな。ボクは信仰を集めていないせいで七神の中で一番弱いんだ、だから大きな力も使えないしね」

 

……ウェンティが七神最弱、ねぇ。神の心を取り出せばそれが証明になるだろうが無闇やたらに取り出していいもんじゃねぇし、誰彼構わず見せていいもんでもないしなぁ。

 

「君が風神だとして……何故信仰を集めようとしない?」

「モンドを象徴する言葉は『自由』だろう?ボクは統治とか嫌なんだ。だから────」

「『君達が王のいない自由な城を作ればいい』……あっ」

「うん。だからボクはモンドから姿を消したんだ。神がいる国じゃ人々は結局、縛られた自由の中で生きていく事になるからね」

 

七神……その本質は『俗世の七執政』である。俗世を7つに分け、それぞれが治める。その神の責務を果たす事で神の力を蓄える事が出来るが……バルバトスは人々の自由を尊重し、思想を縛らない事も厭わなかった。モンドが本当の『自由』の国である為に、バルバトスは姿を消し去ったのである。

……まぁ、面倒くさがって仕事を放棄した、なんて可能性もなくはないが。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!それじゃオイラ達はずっと風神と、正体を知ってる奴といたって事か!?」

「……兄さんは彼がバルバトス様だと前から知っていたのか?ならどうしてその事を騎士団に教えてくれなかったんだ?」

「すまん。今回は特別だが、正体を誰にも言わないってのがウェンティとの約束だったんだよ」

 

正体がバレてしまえばモンドの『自由』に亀裂が入るからな。良くも悪くも自身が去ってから現代まで繁栄し続けてきたモンドに顔を突っ込み、人々を縛り付けるような事はしたくないだろう。

 

「蛍も黙っててごめんな。風神を探しにモンドに来たってのに」

「ううん、大丈夫だよ。話せない理由があったのならしょうがないし、こうして会えたからね」

 

ウェンティが風神バルバトスだという証拠を出せない事や、俺がウェンティの正体を黙っていた事に対して思う事もあるだろうが、とりあえずは俺の話を信じてくれるらしい。あとは……。

 

「ディルック」

「……別に君の話を信じないとは言ってないだろ。まだ整理できてない所はあるが……彼が風神だという事は信じてやる」

「おう。ありがとな」

「こんな神がいていいのかと思いはするがな」

 

それは俺も昔から思ってる。ま、とりあえずこれでウェンティが風神バルバトスだという事はこの中では共通の認識となった。次はウェンティと蛍の役割か。

 

「それじゃ2人をここに呼んだ理由を話すが、まずウェンティにはトワリンを風龍廃墟から外に呼び出してもらうんだ」

「トワリンが根城にしている風龍廃墟は今、暴風で囲まれてるからね。あれはアビスの魔術師が生み出した特殊な障壁だよ。ボクは魔力が織り成す韻律を読み解いて突破する方法を考えてるんだけど、まだもう少し時間がかかるんだ」

「ならどうやってトワリンを?バル……いや、ウェンティ殿」

 

ジンにとって、風神バルバトスはヴァネッサと同様に信仰する対象である。その相手が身分を隠し、名前を偽ってまでここにいる意味を考え、ジンは正体を知りながら敢えて風神の名でなく、今の名前を口に出したんだろう。

 

「ありがとう、ジン。ボクをその名前で呼んでくれて。……心配しなくても、トワリンを呼び出す為に必要な道具は揃ってるよ。まずはジンが持ってきてくれた天空のライアー」

 

ウェンティが指差す先にあるのは椅子の上に置かれた天空のライアー。ファデュイに密かに狙われていた事と、手順通りに貰えた3つのサイン、そして念の為に騎士団団長であるジンの担保も加えた事により数日間のみ騎士団に保管される事になったモンドの至宝。

かつて風神バルバトスが眷属であるトワリンを呼び出す為に使ったりしていたものであり、長い時を経てようやく本来の持ち主の手元に戻ってきたって所か。

 

「うん、風が流れるような紋様と薔薇の木の木材、少し冷たい星鉄の弦……懐かしいなぁ。でもボクが予想していた通りだ」

「予想していた通り……とは?」

 

天空のライアーを抱え、懐かしむように呟くウェンティだが、それに問題点がある事を俺は聞いている。だがその問題点を知らない4人の中からジンが尋ねた。

 

「千年の時を経てライアーの弦に宿っていた風元素が枯れ果ててしまってるんだ。トワリンを呼ぶどころか、この酒場で歌う位なら出来なくもないけど」

「……僕の酒場のステージに出演したい歌手はたくさんいる。残念だが、風神様の番は当分来ないだろう」

「いや、ツッコミそこじゃねぇだろ」

 

不完全な天空のライアーに自分の酒場のステージを引き合いに出されたからって機嫌損ねんなよ。まぁ、バーバラとかステージで歌いたい奴がたくさんいるのも確かだし、確かに今からウェンティがステージを予約した所で順番が来るのはずっと後だろうが。

 

「せっかくジン団長に持ってきてもらったのに、詩を聞かせる相手は酔っぱらい相手なのかよ?」

「……えへっ」

「『えへっ』て何だよ!?」

 

パイモン、気にすんな。こいつはこういう奴だから。

 

「大丈夫だよ、パイモンちゃん。直す方法はちゃんとあるからさ。君の出番だよ、蛍」

「えっと……楽器の修理は出来ないよ、私?」

「安心して、重要なのは君だけど直すのは君じゃないからさ。()()を出してくれるかい?」

 

そう言って促すウェンティに、蛍はある物を3つ取り出してテーブルの上へと置いた。

 

「これらは……」

「っ……これはもしかして全部、トワリンが流した涙の結晶か!?」

「うん、そうだよ。昼間、ボクとアレン達で集めておいたんだ」

 

蛍が取り出したのは今日の昼間にモンド中を駆け巡って集めてきた、“黒い血”により濁ってしまっている龍の涙の結晶である。

 

蛍とウェンティが拾った結晶は偶然見つけた物だ。トワリンが人気のない場所で悲しみ泣いている事は分かっていたが、モンドは広い。人気のない場所なんていくらでもある。

故に前にジンから教わった探し物を見つけるコツ?を使った。曰くコツは意図せず探し物を見つける点にあり、探す事を考えず適当に見渡す事で不意に見つかると言う。視線も集中させる事で逆に見つかりにくくなるが、目の端で見るような感覚で探せば見つかるはずだと。

コツというよりは感覚的な話だが、言ってる事は分かる為、それを利用して結晶を探させてもらった。パイモンには呆れられていたが、そう説明したのはジンであって俺じゃねぇし。

 

「蛍、結晶の浄化を頼めるかい?」

「うん、任せて」

 

蛍が結晶に手を添え、目を閉じる。ジンとディルックがその様子を怪訝そうに見つめる中、全ての結晶の色はあっという間に濁りが消えて透き通った水色へと変化していった。

 

「!これは一体……!?まるで結晶の中にあった不純物が取り除かれたような……」

「……不思議な現象だ。異邦人、今のは君の力か?」

「うん。どうして出来るかは分からないんだけど」

「ふむ……」

 

初めて見た結晶の浄化に驚きを隠せないジンとディルックは蛍に問い掛けるが、返ってくるのは答えとは言えないもの。それを聞き、思案を始めるディルックだが今はそれを考える時じゃない。

 

「それでこの涙の結晶をどうするんだ?」

「ふふっ、どうすると思う?」

「えっ?え~っと…………うぅ、分からない!ムカつく奴だな……お前のこと吟遊野郎(ぎんゆうやろう)って呼んでやるぞ!」

 

吟遊野郎……昔から付き合いがある俺は「お前」とか「こいつ」とか呼ぶ事もあるが、パイモンもだいぶウェンティに対してフランクだと思う。

 

「やる事は簡単だよ。蛍、この3つと君とボクが持ってる涙の結晶を弦に落としてみて」

 

ウェンティが渡した分と蛍が取り出した分、それと今浄化した分も含めて合計5つの涙の結晶を、蛍はウェンティが持つ天空のライアーの弦目掛けて落とした。

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤピチョン……

 

「あっ……!」

「うん、ボクが想像していた通りだ」

 

水滴が水溜まりの中に落ちたような音を酒場中に響かせながら、天空のライアーに変化が起きた。弦には風元素を彷彿とさせる緑色の光が宿り、ライアーにもかつての色が戻っていく。その周囲には活発化した風元素が渦巻いている様子がここからでも分かる。

 

トワリンは風神の眷属だが、元々の正体は龍の姿をした風元素の元素生物である。つまりトワリンが流した涙も風元素そのものだ。だから浄化させて不純物である“黒い血”を取り除けば、天空のライアーに足りない風元素を与える代物になったって事だな。

 

「さっきまでとはまったく違う……ウェンティ殿、これが本来の天空のライアーなのか?」

「そうだよ。これならトワリンを呼び出せるはずだ」

 

かつてトワリンがこの地に降り立ち、人々に理解されなかった時、そして500年前に毒龍ドゥリンを止める為に召喚の音色が奏でられた天空のライアー。風元素を宿し、当時の力を取り戻したのであればトワリンは必ずその音色に応えるはずである。

 

「じゃあ、オイラ達の出番はこれで終わりって事か?」

「いや、蛍達にはまだやってもらいたい事があるんだ。とても大事な役目だよ」

 

パイモンは涙の結晶を浄化させ、天空のライアーを復活させる所までが蛍の役割だと思ってたみたいだが、それは違う。何ならここからが蛍の役割だと言っても過言ではない。

 

「何をすればいいの?」

「話にすりゃあ簡単だが……涙の結晶に含まれていた不純物。そしてトワリンを苦しめてる毒は似たようなもんだ。つまり蛍なら浄化する事が可能だ。だから……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ兄さん!」

 

俺の説明をジンが大声で遮る。ここまで言えば蛍の役割なんて誰でも分かるだろう。話にすりゃ簡単、でも実際にやるとなると難しさは何倍にも跳ね上がる。

 

「それは彼女が危険すぎる!浄化できるとはいえ、相手は元は風神眷属のトワリンだ。一歩間違えれば……!」

「だから俺がいるんだろ。ウェンティがトワリンを呼び、俺が大人しくさせて蛍が毒を浄化する……それがトワリンを救える唯一の作戦だ」

 

既に正気を失っているトワリンだ、そう易々と浄化はさせてくれないだろう。一発ぶん殴るとかでもしないと、奴の動きは止められない。モンドでそれが出来るとしたら、俺しかいないだろ。

 

「……なるほど、面白い作戦だ」

「だ、大丈夫なのか?こいつがトワリンに食べられたりしないか?」

「大丈夫だよ。アレンさんの強さはパイモンも見てたでしょ?」

「何かあっても俺が絶対に全員守ってやるからよ、心配すんな」

 

ここまで一緒に旅をしてきた蛍が怪我してしまわないか心配なのは分かる。俺の言葉でどこまで安心させられるか分からないが、蛍からの信頼の言葉もあって少しは不安が取れたのか頷いてくれた。

 

「…………」

「ジンはアレンの作戦に納得がいかない?」

「あ……いや、そういうわけじゃないんだ。兄さんの強さならよく知ってる。きっとうまくいくだろう。ただ……」

 

俯いていたジンにウェンティが話しかけている。成功か失敗かではなく、作戦に伴う不安を口にする義妹に俺は近寄る。ジンが何を不安に思い、そして何を思い出してるのかは俺がよく知っている。

 

「ジン、大丈夫だから」

「……兄さん」

「もうお前を悲しませるような光景は見せねぇよ」

 

モンドに龍災を引き起こしているトワリン。その姿はジンにある存在を思い出させる。酷似しているわけではないが、同じ“龍”という名を冠するあの魔龍を思い出さずにはいられないんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その名は──────『魔龍ウルサ』。

 

 

 

 

 

 

俺が2年間テイワットを巡る旅に出るきっかけを作った相手であり、奴を討伐したあの日、()()()()()()()()()()()()()()()()()元凶である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では作戦の決行日は明日の正午にするとして、トワリンをどこに呼び寄せる?」

 

作戦に不安を抱える者もいるが、トワリンを苦しめる毒をどうにかするしかない以上、危険なのはもはや仕方ない。作戦の決行日を明日に決め、あと残すはトワリンをモンドのどこに呼ぶか。

 

「そうだね……詩人の歌声は海風、それか高い所を吹く風が遠くまで運んでくれるんだ」

「海風……もしくは高い所を吹く風かぁ~」

 

ディルックからの問い掛けに答えたウェンティの返答は『海風』と『高い所を吹く風』がある場所。トワリンを確実に呼ぶのであればどちらの条件にも当てはまる場所の方がいいだろう。さて、どこにするべきか。

 

「星拾いの崖……はどうだろうか?」

「おっ!そこなら確かに条件が合いそうだな」

 

クレーがよく遊びで爆弾を投げ込む星落としの湖。そこから東に進んだ先には砂浜があり、更にそこから南に向かうと山地が見えてくる。山の伸びる方向へ沿って進んだ先にある崖こそが星拾いの崖だ。

 

「星拾いの崖か……ふむふむ。確かにあそこなら海風も高い所を吹く風もある。ボクの歌声に相応しい場所だよ」

「では明日の正午、各自準備をして星拾いの崖に集合しよう。みんな、遅刻しないように」

 

代理団長として日頃から指揮を出す立場だからか、自ら指示を出すジン。俺と目が合うとハッとし、戸惑い始めた。作戦を考えた俺を差し置いて口を出した事を申し訳なく思ったのか?別にみんなをまとめてくれた事に何か言うつもりはないんだがなぁ。

 

とにかく明日でトワリンとの決着をつけよう。この龍災を終わらせ、後始末を片付ける。そしてモンドに落ち着きが戻った後は──────




次回からACT.PROLOGUEが終わりに近付きつつ、しばらくなかった戦闘シーンが加わっていきます!


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第20話

以前途中まで書いて続きを悩んでいましたが、久し振りに投稿してみました!続きを待っていた方は申し訳ありませんでした!


作戦会議を終えた次の日の正午──────俺達5人(とパイモン)は星拾いの崖に集まった。一番先を歩くウェンティの手にはジンから渡された天空のライアーが握られている。表向きには西風騎士団本部にて保管されてる事になってるライアーだが、バレずに持ち出せて良かった。“天空のライアーが盗まれた“となれば色々と問題が出てくるのは必然だからな。

 

「じゃあ、始めるよ」

「おう。みんなも準備はいいな?」

「ああ。始めてもらって構わない」

「き、緊張してきたぞ……」

 

崖の端へと移動したウェンティは天空のライアーの弦に指を掛け、ゆっくりと奏で始める。かつて人と龍、お互いを繋ぎ合わせる為、そしてモンドの脅威から人々を守る為に龍を召喚した詩を。

 

「~♪~~♪♪~♪~……」

 

ウェンティの詩はこの場を吹く海風と高台の風により遥か遠くまで届いてるはず。それはトワリンがいる風龍廃墟にも。その詩にトワリンは必ず応える。邪悪な龍に堕ちようともかつては風神の眷属だった龍だ、理解されずに苦しんだ自らを救った主の詩を忘れるとは思えない。

 

「…………」

「……こ、来ないな……?」

 

しかしウェンティの詩が奏でられるだけで、何も起きずにただ時間だけが刻々と過ぎていく。その事実に誰もが訝しみ、パイモンが疑問を口にした。

 

だが俺には分かる──────()()()()

 

「全員、そこで固まってろ。ディルック、ウェンティ投げるから受け取ってくれ」

「なに?」

「兄さん、何をっ!?」

 

ジンの驚いた声も気にせずに俺は一気に足を踏み抜いた。そして崖にいるウェンティの横を通り過ぎると同時に、あいつをディルックの方へとぶん投げた。

 

「えっ────」

「ここからは俺の番だ」

 

突然の事に唖然とした表情を見せるウェンティにそう告げ、俺は崖の端から上空を見上げた。厚い雲のせいで姿こそ見えないが、間違いなくいる。

そう思ってると雲が渦巻き始め、何かが迫ってくる音が聞こえる。そして──────

 

「っ、兄さん!!」

 

厚い雲を裂き、上空から強力な風元素のブレスが俺目掛けて向かってきた。このまままともに受ければ威力的に間違いなく丘は崩壊するだろうし、蛍やディルック達も無事では済まないだろう。だから落下地点からウェンティを遠ざけ、俺が代わりに来たんだが。

 

「雷極術 必殺撃────雷閃刃(らいせんば) 斬壁(ざんへき)!」

 

俺達がいる真上に無数の雷刃を放ち、それは半円形の壁となって風元素のブレスを受け止めた。刃である以上、防ぐのではなくブレスを雷刃が細切れにしてるわけだが、ブレスは雷刃の壁を貫く事は出来ずに次第に消滅していくのであった。

 

「みんな大丈夫か?」

「……ああ。ありがとう兄さん」

「相変わらずの強さだな……君は」

 

西風大剣を降ろし、後ろにいるみんなの無事を確認すればジンは西風剣を、ディルックは龍血剣(りゅうけつけん)を構えて他の3人を守るように立っていた。仮に俺が今のブレスを受け止めきれなくてもどうにかなっていただろう。ここにいるのはモンドでも屈指の実力者なのだから。

 

「な……なんだよ今の!?空から今、凄い風の塊が落っこちてきたぞ!?」

「パイモン、落ち着いて。ウェンティ、今のって」

「今に分かるよ」

 

慌てるパイモンを蛍が宥めながらウェンティに尋ねるが、あいつの言う通り今の攻撃の主はすぐに分かるはずだ。雲に空いた穴を中心に風が渦巻き、突風が吹き荒れる。しかもこの風……どことなくピリピリと痺れるな。ただしだからと言って雷元素なんかじゃない。これはまるで元素を拒絶するような……そう、トワリンが流した涙に含まれていた不純物……まるでドゥリンの“黒い血“のような穢れた力が。

 

「……おい、ウェンティ」

「なにかな、アレン?」

「トワリンがどんな龍になろうが、必ず戻すぞ。お前の大切な友達なんだろ」

「……うん。力を貸してくれるかい?」

「おう」

 

俺とウェンティの話が終わった頃を見計らったように、上空の雲から何かが飛び出す。それは崖の下に見える地面を掠めながら飛び────そして崖の前で舞い上がり、俺達の目の前へと姿を現したのだ。

 

「──────ッ!!」

「っ……トワリン」

 

青く彩られた巨体の半分近くが頭、右翼、尾に生える3つの紫色の結晶を中心に黒く染め上げられ、青い炎が灯るようだった目は赤く輝き、全てを拒絶するかのような雰囲気が醸し出されている。

モンド城を襲撃した時に腐敗した黒い血の塊を半分破壊したにも関わらず、明らかに以前よりもドゥリンの毒に呑まれつつある。それはあの言葉にもならない叫び声からも分かる。

 

「お、おい……なんかこの前よりもヤバそうになってる気がするぞ……」

「確かにヤバいな、こいつは」

 

パイモンの言う通りである。アビス教団の仕業に違いないだろうが、何らかの方法でドゥリンの黒い血の力を増幅させ、トワリンの体を侵食させたのだろう。しかし……これはいくらなんでもやり過ぎだろ。

 

「ぐっ……!」

「な、何だこの痛みは……?」

「ジン団長!?ディルックさん!?」

 

すると突然、後ろでジンとディルックが苦しみだした。そうだ、あの黒く染まった体が黒い血が増長した事によるものなら、この風に混じって飛んでくる穢れた力にも説明がつく。つまり今のトワリンはこちら側の人間にとって、大きな毒の発生源となりつつあるのだ。

 

「神の目の力とトワリンが放つ穢れた力が相殺し合ってるせいだ。ジン、ディルック、お前らは一旦離れてろ」

「な、なら……何故兄さんは平気なんだ……?」

「兄ちゃんはな、ちょーっと()()なんだよ」

 

本当は騎士団本部で蛍が出したトワリンの涙の結晶も触る事は出来たが、リサに突っ込まれて怪しまれるのも面倒だったしな。それに別に何もないわけではなく、穢れた力による影響力が少ないだけで痛みは多少あるのだ。

 

「くくくっ……どうだ?モンドに見捨てられた哀れな龍が成り果てた姿は?」

「ア……アビスの、魔術師か……!」

 

膝をつくジンが睨む先にいるのは、トワリンの背後から現れたアビスの魔術師。人類と敵対し、七国を混乱に陥れようとする教団の手先がそこにいた。

 

「この龍は、真の主に従う我らが傀儡となった。もう貴様らにこの龍を救う手立てはないと思え!」

 

かつてバルバトスの召喚に応じたトワリンはドゥリンと戦い、死闘の末に葬り去るも奴の毒血を口にしてしまい、500年もの間、苦しみ続けてきた。その苦しみから解放しようと方法を探しに出た風神バルバトスに見捨てられたと嘘を吹き込み、挙げ句の果てにはトワリンをドゥリンと似た毒龍へと変貌させたこの龍災の元凶。

 

「……蛍。最後は頼んだぜ」

「な、何をするの?アレンさん」

「決まってるだろ?」

 

このふざけた龍災をとっとと終わらせるぞ。

 

「ぎゃひっ!?」

「その為にはまず騒動の根元を潰しておかねぇとなぁ?」

 

跳躍した俺はアビスの魔術師の顔面を鷲掴みにし、トワリンの体を足場にして奴の背後へと飛び出す。とにかくここから早くトワリンを遠ざけないと、ジンとディルックが最悪命の危険に晒される事になるからな。

 

「たっ……助けろ、風魔龍!こいつを殺せ!」

「──────ッ!!」

 

アビスの魔術師に助けを求められ、憎むべきウェンティよりもこちらへと狙いを定めて動き出すトワリン。寧ろその方が好都合だ、わざわざトワリンをここから離す手間が省けるからな。

 

「じゃっ、お前はもういらねぇや」

 

左腕に雷元素が迸り、左手に力が込められていく。ひとまずこいつを叩き潰しておけば余計な事はされないだろう。

 

「まっ、待て待て!?やめろっ!私をどうするつもり──────」

「うっせ、とっとと消えろ」

 

体を捻り、勢いを付けてアビスの魔術師を下へとぶん投げる。雷元素を纏いながら一筋の光と化したアビスの魔術師は、そのまま轟音と共に砕け散った地面の中へと消えていった

 

「──────ッ!!」

「おっと」

 

消えたアビスの魔術師を気に掛ける事なく、トワリンは俺に向かってきた。その巨体を身を捩る事でかわし、背中へと降り立つ。まず狙うは頭に生える結晶からだ。最終的な毒血の浄化は蛍に頼むが、体外に出現したあの腐敗した血の塊をどうにかしなければ、完全な浄化も無理だろうしトワリンを大人しくさせるのも難しいだろう。

 

「っ……!」

 

全身に激痛が走る。おそらく俺が持つ元素の力とトワリンが放つ穢れた力が相殺されてる影響だが、なかなかに厳しいものである。ただの傷や怪我の方がまたマシだ。俺がこれだと元素の力を操る存在はトワリンに近付けばみんな揃って死ぬぞ。

 

「まぁ、させるつもりはねぇけど!」

 

出現させた西風大剣に雷元素を溜め、大雷刃を放つ。それはトワリンの背中を掠めながら飛び、奴の頭に生える結晶を根本から断ち切ったのである。

 

「──────ッ!?」

「うおっ!?」

 

モンド城を襲撃した時よりもより強い突風が吹き荒れ、俺の体は耐えられず宙へと舞った。トワリンはというと、俺を吹き飛ばしたまま、この場から離れようとしている。向かう方角は……っ、まさかモンド城!?……いや、それだとまるで迂回するような感じだ。もしかしてモンド城を迂回して、風龍廃墟に戻ろうとしてる?だが何故?トワリンにとって、モンドは憎むべき存在じゃなかったのか。

 

「くそっ……」

 

追い掛けたいが、ここは空中であり俺は空を飛ぶ手段を持たない。山嵐に乗って空へと飛び出す事は出来るが、あれで空中移動は流石に出来ないからな。なら飛雷脚と西風大剣を使えばどうにか……。

 

(────ボクが力を貸すよ)

 

「ウェンティか」

 

頭の中にあいつの声が響いてくる。力を貸すと言うが、何をするのか?そう思っていると、周囲に強い風元素が発生して俺を包み込んでいく。すると俺の落下は止まり、空中で自由に動く事も可能としていた。

 

(千年の龍風を君自身に掛けたんだ。限られた時間しか使えないけれど、君なら間に合うだろ?)

 

「ああ」

 

(それに()()にも力を貸した。たぶんそろそろそっちに……)

 

「アレンさん!」

 

ウェンティとの話の途中に名前を呼ばれ、真下を向けば星拾いの崖から飛んでくる蛍とパイモンが見えた。蛍が背後に展開する風の翼にもウェンティから千年の龍風の力が授けられてるようで、本来滑空する事しか出来ないその翼で上昇している。

だが……ウェンティの奴、大丈夫か?七神とはいえ、あいつはモンドの民から信仰を集めてないせいで昔と違い、本来の実力を出す事は出来ない。にも関わらず、俺や蛍に力を貸すという事はあいつの少ない力を削る事になってしまう。声を聞く限りは大丈夫そうに思えるが……。

 

(君達はトワリンを追いかけてくれ。ボクもジン達と一緒に追い掛けるから)

 

「……分かった」

 

ウェンティやジンとディルックの様子は気になるが、今はトワリンを止めなければならない。あの状態のままモンド城や隣国に向かえば、間違いなく悲惨な事態が起こる。それだけは絶対に阻止しなければならない。

 

「蛍、パイモン。トワリンを追うぞ!」

「うん!」

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……」

「だ、大丈夫かウェンティ殿!?」

 

後ろによろけるウェンティをジンが背後で受け止め、そのまま崩れるように座り込むウェンティ。その様子に慌てるジンだったが、当人は彼女を落ち着かせる為に手で制した。

 

「心配ないよ……ただ力を使い過ぎただけさ。自分で使うよりも……他人に力を貸す方がよっぽど疲れるんだ」

「な、なるほど」

 

ジンにそう説明したウェンティはこれからどうするべきか考え始めた。トワリンがあのような状態になっていたのはウェンティにとっても想定外であり、蛍の力だけで果たして浄化する事が出来るのか?と、そんな不安を抱えていた。しかし一旦それを振り払い、今自分が出来る事、やるべき事をウェンティは模索するのだった。

 

「ジン、僕はアレン達を追い掛ける。今のトワリンに僕が出来る事はないだろうが、アビス教団が動き出さないとも思えない」

「頼む、ディルック!」

 

そう言って星拾いの崖から立ち去っていくディルック。ジンもディルックと共に行くべきだとは思っていたが、ウェンティをここに残すわけにはいかなかった。西風騎士団の代理団長として、そして風神バルバトスの信者として。

 

「……ジン、君に頼みがあるんだ。ボクを……英雄の象徴の元へ連れてってほしい」

「英雄の……分かった、任せてくれ!」

 

立ち上がれそうにないウェンティをジンは背負い、英雄の象徴の元──────かつてヴァネッサが天空へと旅立ったあの場所へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

根城とする風龍廃墟へと飛んでいくトワリンを俺と蛍、それから彼女にしがみつくパイモンは追い掛けていた。トワリンは迫る俺達に気付き、前方から風元素を収束させた弾をいくつも撃ち出してきてる。それを俺達はかわしたり、それぞれの武器で叩き落としながらトワリンとの距離を縮めていっま。

 

「アレンさん!このままトワリンが風龍廃墟に辿り着いたらまずいんじゃ……!」

「そ、そうだぞ!確か暴風のせいでアレンも吟遊野郎も入れなかったって!」

 

蛍とパイモンが叫び、それを聞いた俺は思案する。2人の言う通り、風龍廃墟にはアビスの奴らが仕掛けた面倒な障壁が存在する。奴らとトワリンのみがその出入りを可能とし、俺達は障壁に阻まれて侵入できない。つまり障壁が存在する以上、俺達がトワリンに接触できるのは風龍廃墟に辿り着く前までという事だ。

 

「その前にあいつを撃ち落とす!」

「撃ち落とすって……あっ!?」

 

西風大剣を背後に放り投げた俺は剣身の平らな部分に片足を置き、それを足場に見立てる事で飛雷脚を使って一気に飛び出す。今までよりも凄まじい勢いで周りの風景が後ろへと飛んでいき、俺は瞬く間にトワリンへと追い付き頭上へ飛び上がった。

 

俺とトワリンが今飛ぶ場所は望風山地を越えた先にあるシードル湖の北側だ。南側、つまり左側にモンド城が見えるがトワリンがそちらに向かう様子は見られない。やはりモンド城を避けて通ってるのか。

 

「────……ワレを……コロ、せ……」

「トワリン!?」

 

真下から息も絶え絶えな様子でトワリンが俺に喋り掛けてきた。意識が戻ったのかと思ったが、飛行を止めず、苦しそうな様子からして一時的なものと考えるのが妥当か。どうして突然にと思ったが、アビスの魔術師が側からいなくなった事が関係してるんだろうか。

 

「ワレが、ゴカイしてたコトは……リカイ、してる。だがもうアトには……モドれ、ない……」

「心配すんな!俺やディルック、ジンがみんなに説明すれば──────」

「それに……ワレのイノチは……もう、ツきカけてる……ならばこれイジョウ……ダレかにキガイを、クワえるマエに……」

 

ただでさえドゥリンの黒い血により苦しんでいたのに、更に追い討ちが掛けられたとなればトワリンの体はもうもたない事は明白だ。トワリンを戻すチャンスは今しかない。これを逃せばトワリンを元に戻す事は出来ず、おそらく次会った時は殺すしかなくなる。

そんな事は絶対にさせない。ウェンティの友達を殺すなんて未来は、実現させちゃいけないんだ。

 

「トワリン、諦めるんじゃねぇ!お前が死んだら友達が悲しむだろうが!」

「トモダチ……バル……バト、ス……」

「お前は俺と蛍が救う!だから────っ!」

 

その瞬間、横から迫る気配に気付き俺は西風大剣を薙ぎ払った。刃にぶつかるのは強力な氷元素の斬擊。その一撃を放ったのは近くにいれば冷気を感じるような冷たい鎧を身に纏った怪物。魔術師よりも更に危険なアビス教団の一員であり、アビスの使徒である落霜がこの空中にどこからともなく現れたのだった。

 

「あの龍の事は諦めろ、モンドの守護者。貴様が我々にとってどれだけ異常な存在だろうと、ここまで堕ちた龍を救う術はないだろう?」

「それは……どうだろうな!?」

 

落霜が持つ双剣を弾き、その勢いを乗せた雷脚を回し蹴りの要領で放つ。しかし相手が頭を下げた事でその一撃は紙一重で避けられてしまい、その隙を狙った落霜が双剣を持つ腕を左右に大きく広げるように構えた。

 

「我が王子の妹君を使う気か」

 

俺を挟むように放たれた一撃を真上へ飛び出す事でかわす。なるほど、予想はしてたがあちらはモンド側に蛍がいる事を既に知ってるのか。まぁ、だからと言ってこの状況が好転するような感じはないが。

 

「はっ、人聞き悪い事言うんじゃねぇよ。そもそも悪いのは、全部お前らアビスの力のせいだろう……がっ!」

「ぐっ……!?」

 

足を振り上げ、稲妻の如く落とし雷斧脚をお見舞いする。交差させた双剣で直撃は防がれたもののその一撃の威力を弱める事は出来ず、一気に押し込まれて真下に見えるシードル湖の中へ水飛沫を上げながら消えていったのだった。

 

「アレンさん、大丈夫!?」

「い、今何か落ちていかなかったか?」

 

俺が落霜と戦ってる間に蛍とパイモンに追い付かれたようで、蛍から心配の声が上がる。西風大剣を消し、手を上げて大丈夫である事を伝えると蛍は安堵したような表情を見せた。

 

「ト、トワリンはどうしたんだ?」

「悪い、邪魔が入ったお陰で……な」

 

俺が見つめる先にある風龍廃墟に蛍達も視線を向ける。その場所を覆う暴風は依然健在だが、トワリンはその暴風をもろともせずに侵入していく。落霜の邪魔がなければ防げたかもしれないが……今となっては考えるだけ無駄か。

 

さて……ここからどうするかな。

 

 

 

 

 

 



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