絶対守護 ヒーロー嫌いのヒーローアカデミア (ひよっこ召喚士)
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01 入学試験

二次創作の投稿、そしてハーメルンでの小説の投稿は初めてです。
やり方で間違っている点や理解できていない点がありそうで怖いです。
気になる点があったらお教えいただけると嬉しいです。

別サイトでオリジナル小説を書いていたのですが、スランプと時間が取れない事が重なり、息抜きを兼ねてネタが思いつく限りやってみようと思い投稿しました。とりあえず書きあがってる部分まで投稿します。(現段階でUSJ前まで、マスコミの騒動までです)続きが書けるかどうかは分かりません。書きたいとは思ってますが打ち切る可能性も普通にあります。

以上の点を踏まえても読んでくれる方のみ進むことを推奨します。




 準備は十分と言えるだけの事はやって来た。それこ幼少期から訓練を怠ったことは無い。感慨深い気持ちで心が埋め尽くされる。不思議と緊張感は無く、落ち着いた心持で目の前の壁に立ち向かっている。

 

「雄英高校、ついに来ちゃったのか」

「何だ。嫌なら今から帰るか?」

「嫌な訳ないでしょ。心操(しんそう)

 

 我が相棒にして親以上に信頼している友人、心操人使(しんそうひとし)。全幅の信頼を置いていると言っても過言では無いが言って良い冗談と良くない冗談があるという事を理解しているのだろうか?この男はまったく。

 

「思う所はあるけど、思い切りやるよ。それこそ徹底的にね」

 

 心配性と言うかお節介と言うか、ヒーローらしい性格をしているとは思うが自分も試験を受けるのだから人に構っている場合では無いだろう。そっちはどうだと振ってみるが、聞くまでも無いだろうと力強い動作で返された。少し()()()()()()ようだが気合を入れるためだろう。お互い同じ目標へと目指す同志として心強い限りである。

 

 試験会場に居る人数はやはり多く、入試倍率300倍と言う情報のヤバさが伝わってくる。見ただけでも”個性”豊かな人物たちが多く、全員がライバルであると考えると私も楽しくなってくる。先ずは筆記試験だが雄英高校の偏差値は79と難関校である。この時点で落ちる人物もいるのだろう。

 

「アレ、お願いしても良いかな?」

「お互い筆記は平気だろ。それに個性の使用ってありか?」

「勉強して無いと意味ないんだし、問題ないと思うけど」

 

 関係ないだろうけど異形系の子は普段から個性使用状態だし、心操のこれは勉強していないと意味が無いのだからずるには当たらないだろう。私の能力でカンニングとかをするのは確実にアウトだろうが、心操のは補助でしかないし、証拠も残らないから別に良いだろう。そう言うと呆れたような顔をしてから二人にしか聞こえなぐらい小声で呟く。

 

「いくぞ」

「オーケー」

「『俺らは賢い、俺らは賢い、俺らは賢い、俺らは賢い、俺らは賢い』これで良いだろ」

 

 催眠術や自己暗示に近い形での個性の使用が練習により可能になった心操、だがあくまで暗示の域を出ず、知らない問題が解ける訳では無いが、学業が負担にならず、記憶能力や情報の引き出し速度が暗示を続けて行ってきたことにより向上している。要するに勉強に対する集中状態を個性によって引き出す事でうっかりミスやど忘れを防ぐことが出来、回答速度も上げることが出来る。しかし、先にも言った通り勉強をしていないと意味が無い。

 

 目標の為にこなして来た努力は無駄ではなく、筆記試験は問題なく終了と言うより時直しや確認をしたうえでまあまま時間を残して終えることが出来た。確かに難しい物も多く、入試特有の引っ掛けなどのいやらしい問題もあったが集中状態で引っ掛かることは無い。

 

「次は実技だな」

 

 

「さあ皆、実技試験の時間だ! 盛り上がれ-!! エヴィバディセイヘイ!」

 

 サングラスに逆立った金髪が特徴的なボイスヒーロー、プレゼント・マイクが説明を行うのか受験者の注目を集めるために全体に声を届けている。

 

「こいつはシヴィー!! それじゃあさっそく演習内容を説明していくぜ!! アーユーレディー!! イエー!!」

 

 思っていた反応が返って来なかったからかついには自分で返答までも担当し始めた。ラジオDJを務めておりエンターテイナーとしての色が強く、正直少し煩く感じるが説明はしっかり聞いておく必要があるので耳を傾ける。説明を終えると最後にと付け加えてから学校の校訓と受験生への言葉を送り始めた。

 

「それでは諸君、かのフランスの英雄ナポレオンボナパルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていくもの!」

 

更に向こうへ(プルスウルトラ)!」

「それでは皆、良い受難を!」

 

 ヒーローを目指している者達の気を引き締めさせるような言葉に私も多少は感じる所はあったが、周りの人たちと比べると感動の様な物は少ないだろう。だが、とっくの昔に決めた覚悟を再確認するのには十分だ。

 

更に向こうへ(プルスウルトラ)ねえ。何処までも行ってやろうじゃない」

「そうだな。それにしても実技の内容がロボット相手か。強化を入れれば戦えるが……少しきついか?」

 

 心操の様に直接的な戦闘に向いた個性では無い者達にとっては少し厳しい実技試験と成りそうだ。ロボットの性能にもよるが下手な個性だと何もできずに終わる可能性もあるからとれる手段がある心操はまだマシな方だろう。

 

「同じ学校で組まれない様に会場はバラバラになってるみたいだね」

「徒党を組んでいる状態では正確に実力を測れないだろうからな」

 

 身体能力や戦闘技術では問題が無いのでせめて武器があればなと呟く心操、ロボット相手に素手と言うのは適した個性が無ければ無謀とも言える。動き回って配線や関節部分を狙うか、他の奴が壊したロボットを利用するなど既に対策を考えているようだが、実技の内容のせいで心操が受からないというのはちょっと認められない。

 

「心操、手を出せ『プリズム』」

 

 私は心操の手を取って個性を使う、基本的に認識した場所にしか個性を発動できないが一度固定した個性は限界はあるがこちらが解除しない限りは解けることは無い。攻撃に転用する必要があるので衝撃吸収は付けず、純粋な硬度と掌の方に衝撃反射を付与したバリアグローブを取り付ける。

 

「それだけ硬ければ殴っても結構ダメージが入る。掌の方は衝撃反射がついてるけど倍の衝撃を支えないといけないから負荷が凄いから気を付けて」

 

「これは流石に無しだろ」

 

 自分の個性ではない力を利用して倒しても正当な評価を貰えるとは思えないという心操の言葉によりバリアグローブは却下された。よっぽどすごい者でない限り持ち込みは禁止されていないが何か適当な物はあっただろうかとポケットを探す。

 

「あ、これなら」

 

 取り出したのはナックルダスター、不良が使っているイメージがあるメリケンサックと言う呼び名の方が知っている人は多いかもしれない。それを取り出して差し出す、これならかさばらないし持っててもおかしくない。威力的にもまあまあ出せるだろう。

 

「助かるが、何故そんな物を仕舞いこんでるんだ?」

 

 個性の応用で出来るようになった持ち物の大量収納能力、実質無限に物を仕舞えるであろう能力はゲームの魔法や漫画のアイテムのようで結構気に入っており、ポケットの愛称で呼んでいるのだが、面白がって色々な物を仕舞っているので、何が仕舞ってあるかは把握しているが何で仕舞ったかまでは覚えてない物もある。取り出された武器もその一つだ。

 

「それじゃあ、お互い頑張ろうか」

「そうだな。また帰りに集合な」

 

 そう言って別れてそれぞれの実技試験の会場へと向かった。人数が多く移動にどうしても時間が掛かってしまうので多めに時間が用意されているが少々話しすぎた。急いで会場まで向かった方が良いだろう。同じ会場で試験を受ける面々は既に集まっていたようで戦った様子は無いから間に合ったようだ。

 

「それじゃあ、実技試験を開始するぜぇ!リスナー共、準備は良いか!!」

 

 少ししてから会場全体に響き渡る形でプレゼント・マイクの声が届いた。その声に全員が集中していく。

 

「スタート」

 

 言葉と共に全員がロボットを目掛けて駆け抜けていく、素早い者は既にロボットと相対している。負けてられないという思いと自身の目的のために自分の個性を振るう。自分の試験会場を包み込む大きさのバリアを展開し、バリアの内側の状況を把握、ロボットを捕捉する。

 

 どの様な形だろうと認識出来れば個性を展開できる。流石に既に誰かが戦っているロボットを奪うなんて行為はヒーロー高校の試験の意義に反しそうなので止めるが、まだ誰も触れていないロボット全てをバリアで覆いつくした。

 

 突然会場全体を覆ったバリアに気付いていた者も気づかなかった者も目の前の光景に目を持って行かれる。会場全体に配置されていたロボットの全てが捕捉され、手出しできない状態になっていた。既にロボットを行動不能にはしているがそれだけでは終わらない。

 

「『シュリンクラッシュ』」

 

 その呟きと共にロボットを囲んでいたバリアが次々に収縮し、最初はロボットの軋んで壊れていく様子が見られたが最終的には圧縮された金属の塊が捕捉したロボットの数だけ出来上がった。何が起こっているのか、もはや理解できないと言った様子で他の受験者たちから見られたが、私は別にルールは破っていないので見つめられる筋合いは無いのだが、それだけ衝撃的だったということだろう。

 

 その後、追加でロボットを会場に回すという連絡が流れたが、他の受験者のレベルが測れないのでこれ以上ロボットの破壊は辞めて欲しいと受験番号で名指しで注意を受けた。これで終わりというのも詰まらないので、ヒーローらしく危ないと思った者をバリアでサポートしたり、会場の破損を防いだり、怪我人の治療などをして過ごした。

 

 合格しているとは思うが結果は分からない。実力を見せることは出来たがヒーローらしさと言う観点からどのように採点されるのかが分からないので結果が届くのを待つしかないだろう。結果は後日家に届くという事で心操と合流して帰路に着いた。お互いやれるだけの事はやったようで結果が届く日を楽しみにする。



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02 試験結果と登校

「実技総合成績がようやく出ました」

「……これは1位と2位の差が酷いな」

「2位のヴィランポイントだけで77も凄い結果だが、1位と比べると少し霞んでしまうな。筆記も問題ない以上合格にしないという選択肢は無いがヒーローとしての適性を考えると問題児かもな」

「それにしても1位が凄すぎるよ。ヴィランポイント200、レスキューポイント50、合計250ポイント。確かめるまでも無く過去最高ポイントでの入学だろうね」

「それと1位の他に2位とは対照的にレスキューポイントだけで60ポイント取った子もあの0ポイントを倒しているわね。9位に入ってる子なんだけど個性の制御が出来ていないみたい。でも力はあるし、人格的には間違いなく合格でしょう」

「あと7位の奴の個性『洗脳』ってあるが物凄いスピードで動き回ってたぞ。力も凄くてメリケンサックで的確にロボットを破壊してるのを見て増強系の個性だと思ってたがあれ自力なのか?」

「ああそいつはヴィランポイント27でレスキューポイント36とバランスよく稼いでたな。個性を使わずにそれだけ取ったんだとすると戦闘能力としての評価は高くなる」

「1位の奴も戦闘禁止を言い渡された後で会場の保護や受験者の手助けをしていたから人格的な問題は無いだろうが、プロと言われても納得できるほどの能力は指導する側が困るしな」

「いやあ、今年は二つの意味で個性が強い奴らが多いな」

「クラス分けはどうするべきかしら。個性が強い子はまとめるのか分けるのか決めないといけないわね」

「とりあえず1位、2位、7位、9位は俺の所で預かる。それでいいですよね」

「話題に上がってた奴ばかりだな」

「確かにイレイザーくんなら何があっても対処は出来そうだね」

「イレイザーなら個性の対処は容易だし、個性以外の能力を伸ばすことも出来るし適任ではあるか」

「よし、とりあえずその子たちはA組として、他も決めていこう。調整は最後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校から荷物が届いた。たぶん合格通知に関するものだろうが心操と私の家に一つずつ届けられている。中に入っていたのは映像照射装置だった。メッセージがこれに入っているのだろうが、どちらのを先に流すかという話になるんだが先に投函されていた心操のを流す事にした。

 

『私が投影された!!』

 

 突然の宣言を伴った登場には驚いたが映し出されたのは筋骨隆々な逞しい身体、力強く跳ね上がった二つの前髪、威風堂々とした佇まい、アメコミヒーローのような画風。もちろん誰もが知っているNo.1ヒーローであるオールマイトだった。最もヒーローらしいヒーローであるオールマイトは私も好きなヒーローであり、何故?という疑問は残るが有名人の投影は少し嬉しいものがある。

 

『初めまして心操人使くん!私はオールマイトだ!何故、私が投影されたのかって?ハハハ!それは私が春から雄英に教師として勤めるからさ!さあ早速、君の合否を発表しよう!』

 

 オールマイトと言う大御所中の大御所ヒーローが教師として雄英に勤めるという情報には二人そろって驚いた。誰もが憧れるヒーローからヒーローとは何かという点を学べるというのはヒーローを志す者からしたら誉れでしかない。

 

『おめでとう!合格だ!筆記試験はほぼ満点、実技は63ポイント!合格者の中でもトップクラスの成績だ!』

 

 

『先の実技入試!受験生に与えられるポイントは、説明にあった仮想敵ポイントだけにあらず!実は審査制の救助活動ポイントも存在していた!心操人使くん!ヴィランポイント27点、レスキューポイント36点、合計63点!文句なしの合格だよ。心操人使!改めておめでとう!雄英で待っているぞ!』

 

 心操は合格の通知を受け取り、子供の頃からの夢に一歩近づいた様な感覚に包まれ、油断したら泣いてしまいそうなぐらいに感動していた。

 

「さて、これで名前や点数以外が同じだったら台本があるってことになるね」

「感動の余韻に浸らせろ。今だけでも空気を読めよ」

 

 そんな空気をものともせずぶち壊したら結構な勢いで怒られた。勢いは凄かったが本当に怒っている訳では無く私への呆れと照れ隠しだろう。自分の分の機会のボタンを押す。

 

『私が投影された!!』

 

 まあ、最初の宣言はオールマイトが普段から言っている『私が来た!!』のパロディネタだろうし、ここは一緒なのは当然とも言える。

 

『初めまして山稜(さんりょう)瞳空(みら)くん!私はオールマイトだ!何故、私が投影されたのかって?ハハハ!それは私が春から雄英に教師として勤めるからさ!さあ早速、君の合否を発表しよう!』

 

「台本在るな。これ」

 

 挨拶はまあ分かるが、名前以外の部分は全て、途中に挟まる笑い声までそっくりそのまま同じと言うのは流石に違和感がある。

 

『おめでとう!合格だ!筆記試験は満点、実技は歴代最高得点で250ポイント!えっ、これホント?コホン、文句なしの首席合格だ。入学式で新入生代表の挨拶をしてもらうので文面を考えて置く様にとのことだ』

 

「録画中に驚いちゃってるし、撮り直さずにそのまま使ってて良いのかな?」

「いやそれよりポイントとか主席合格って所に食いつけよ」

 

『先の実技入試!受験生に与えられるポイントは、説明にあった仮想敵ポイントだけにあらず!実は審査制の救助活動ポイントも存在していた!山稜瞳空くん!ヴィランポイント200点、レスキューポイント50点、合計250点!文句なしの合格だよ。山稜瞳空!改めておめでとう!雄英で待っているぞ!』

 

「2回目だと感動薄れるな。どうしてくれる」

「いや、お前が先にどうぞって言ったんだろ」

 

 冗談だと分かっているのにきちんと返してくれるあたり心操は真面目だ。とりあえず合格していたことは普通に嬉しく、私の家族と心操の家族で一緒に食事に行って祝うことになった。色々と考えなくちゃいけないも多いが今日だけは楽しい時間を噛み締めた。

 

 中学に合格したことを伝えたら学年の全員から祝われた。二人も合格しているが雄英は超難関校であり、そこに通う者にも憧れる者も多い。心操も色々とあったから複雑な顔をしているが祝われること自体は嫌がっていないようなので良かった。

 

 その後は雄英に通うために借りる予定の家を見に行ったり、合格通知と一緒に入っていた書類に目を通して、必要書類に記入をして提出したり、色々と準備はあったがそれらも含めて他の生徒たちと特に変わらずに卒業式まで過ごせた。

 

 そしていよいよ雄英高校の初登校日となった。家の中はまだ引っ越しの荷物がそのままになっている部分もあるが生活に必要な家具や荷物だけは取り出してある。緊張はしていないが朝は落ち着ける様にと珈琲を淹れる。パンと付け合わせを朝ご飯にする。

 

「まだ全然余裕はあるけど、起きろ!!無駄な抵抗を辞めて部屋から出てこい!!」

「俺は犯罪者(ヴィラン)か!?」

 

 既に起きてはいたようで朝から元気にツッコミを返してくれる。おはよう、と伝えた後に既に用意してあった珈琲とパンが置かれている椅子の方を示し、早く顔を洗ってくるように告げる。帰ってくるまでに卵とハムも焼いておこう。そう言えば牛乳や砂糖は要るか?牛乳は要らない砂糖は1個、オーダー承りましたっと。

 

「はいよ、私特製モーニングセットだ」

「ありがと、いただきます」

「ふっふーん。召し上がると良い」

 

 既に食べ終わっている私は荷物の準備と着替えを済ませる。雄英高校の制服はシンプルだがそこまでダサいデザインでは無いのでまあまあ気に入っている。しかし、私のサイズだとある意味コスプレの様な見た目になってしまうのが何とも言えない。まあ小さいほうが便利だから自分のサイズに関する事は気にしない。

 

「あ、バリアの皿はゴミ箱に入れといて後で解除するから」

「洗い物要らずで便利だけど、これで良いのか?」

 

 何がいけないというんだろうか、洗い物をしなくて良いというのは仕事が減るだけでなく、水道代の節約にもなる。個性を普段から使うのは訓練にもなって一石三鳥じゃないか。自分の個性だ自分の好きにして文句を言われる筋合いはない。ああ、捕まるから外ではやらないよ。うん、ヒーローに成る前にヴィランになる気は無いよ。

 

 初日に遅刻とかになったらと想像するだけでも恐ろしいので余裕をもって家を出ることにした。雄英高校から比較的近い場所にあるが、そこらの小中学校の様に近所って言えるほど近くは無い。まあ普通の身体能力はしていない私達なら自転車で楽に通学できる範囲ではある。30分ぐらいで着くことが出来、しみじみと雄英高校の全貌を眺めている。

 

「いやぁ、今日からここに通うんだねぇ。クラスどんなかね?」

「時間まで結構時間があるが初日だし教室に何人かもう来てるし顔合わせと行こう」

 

 ヒーローと言う職業は一部を除いて目立ってなんぼと言った部分がある。そんなヒーローの卵ばかりを集めた学校の人間が普通な者ではないのは予想はしていたのだが……

 

「ねぇ、ヴィラン学校だっけここ?」

「目の前の光景を見ると疑いたくなるのは分かるが、安心しろヒーロー学校だ」

 

「机に足を掛けるのはやめないか! 雄英の先輩たちや机の製作者の方々に失礼だろう!?」

「あ゛あ゛!? んだテメェ文句あんのか!? どこ中だこの端役!」

 

 ヒーローかヴィランかと聞かれればたぶん10人中10人がヴィランと答える形相で注意して来た人間に対して怒鳴りつける男……超難関校である雄英に受かってる以上学力も高いのだろうが見た目や言動からは考えられない。しばらく私たちは教室の入り口で固まってしまった。

 

「……あ、あの!」

 

 おっと、後ろから声が掛かった。入り口で立ち止まって居れば他の人の邪魔になるのは自明の理。圧倒的な反面教師と成りえる存在を見た後では人への対応の仕方を考えさせられる。とりあえず謝罪をしておこう。

 

「ごめん、邪魔だったね」

「立ち止まってて悪いな」

 

「あ、いえ。たぶんですけどかっちゃんを見て驚いてたんだと思うので、その、えっと、しょうがないと思います」

 

 かっちゃんと言う比較的可愛らしくも聞こえる呼び名が現在進行形で暴れているアレを指すのであればその通りだが、そっと視線を向けて目の前の少年(同い年、背も向こうの方が高い)に尋ねると苦笑いして頷いている。暴れているのは爆豪勝己と言う名前らしいが呼び方からして友人なのだろうが苦労していそうだな。

 

「てめぇ、デク!何勝手に人のこと話してんだぶっ殺すぞ!!」

 

「苦労していそうだね。デク君?」

 

「すみません。デクはかっちゃんが僕を馬鹿にして読んでて、緑谷(みどりや)出久(いずく)って言います」

 

 どうやらデクと言うのは蔑称らしい。結構呼びやすいし、名前とも被っているので意味さえ考えなければいいあだ名に成りそうだが本人が嫌がっている事をやろうとは思わないのでとりあえず緑谷と呼んでおこう。

 

「そうか、私は山稜瞳空と言う。これからよろしく。でこっちのが」

「心操人使だよろしく」

 

「こちらこそよろしく」

 

 うん、緑谷はまともな分類に入りそうだ。爆豪とやらは論外としてそれを叱っている眼鏡も規則だのルールだので凝り固まって居そうで悪い奴では無いが厄介な気配を感じる。他の面々はよくわからないが、教室に入った瞬間に胸や尻を見てきた私と同じくらいのチビには近づかないでおこう。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 

 一体いつからいたのか、バリアを展開していなかったので気づけなかったが教卓と黒板の間に寝袋に入りミノムシ状態のままこちらを眺めている不審者がいたが、言動から考えるに学校関連者だろうと推測し、110番に掛けようと伸ばしていた手を止める。

 

「ハイ。静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」

 

 迅速な判断と行動が現場では求められるとはいえ、入学したての生徒にそこまでの練度を期待するのは厳しいという言葉だけでは言い表せない。合理性に欠くという言葉から目の前の人物は合理的である事を尊んでいるのだろう。

 

「担任の相澤(あいざわ)消太(しょうた)だ」

 

 どうやらこの長髪に無精ヒゲのくたびれた外見をしたおっさんは私たちのクラスの担任だったようだ。まあ、いきなり現れて置いて実は関係ないんだよね。みたいな事は無いだろうから少し考えれば分かる事か。

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 寝袋から体操着を取り出し全員に見える様に掲げる。机の横に掛かっている袋を見るに同じものが入っているのだろう。用件を言うだけ言って相澤先生はさっさと教室から出て行ってしまった。たぶんグラウンドに向かったんだろうが、初日から大変な予感をひしひしと感じてしまう。



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03 個性把握テスト

「「「個性把握テスト!?」」」

 

 訳もわからず渡された体育着に着替えてグラウンドへ出たがそこで何でもないかのように聞かされたのは今から個性把握テストを行うという事。基本は青色で首から胸にかけてU、お腹から足にかけてAを彷彿とさせる白いラインが入っている。正直制服と比べても微妙なデザインだと私は思った。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

「あの~、新入生代表の挨拶考えてきたんですけど」

 

 いきなりの発言に集められた生徒たちはざわめく。麗日(うららか)お茶子がみんなのこころの内を代弁して疑問を投げかける。私も結構時間を掛けて考えていただけあって急な予定変更には物申したいので追従する。

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事なんて時間の無駄だよ」

 

 だがきっぱりとぶった切られてしまった。いや、確かにヒーローに特別必要ないのかもしれないけど、そこまで入学式に思い入れも無いけども、いきなりすぎるんじゃありませんかねぇ。

 

「雄英は自由な校風が売り文句だ。当然、それは先生側にも適用される。覚えておく事だな」

 

 それから話される個性把握テストの内容。ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横飛び、上体起こし、長座体前屈。この八種で個性ありきで測定していくという。中学校でも行って来た体力テストの個性使用版という訳だ。

 

「国は未だ画一的な記録をとって平均を作り続けている、合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だな。そんじゃ試しだ……首席入学の山稜。個性を使って円の中から投げてみろ」

 

「……はい」

 

 先ほど不満げな顔をしていたのを見られていたからか、それとも元々1位にやらせるつもりだったのかは定かでは無いがいきなり順位付きで名指し指名とか朝から精神的に疲れそうでいやだ。呼ばれてるのに出ない訳にもいかないので前で話している先生の隣まで進んでいく、心操を除いたクラスの全員からの視線を感じる。

 

「あの小さい子が首席!?」「女子に負けていたということか」

「山稜さんが首席!?」「あぁ!?あのチビ女が首席だぁ!!」

 

 視線だけじゃ無かったようであちこちで驚く声や私の考察をしようとする声が聞こえる。この個性社会で強さの前に性別など関係ないだろうに、男だ、女だと口に出すのは浅はかだろう。そして爆豪とやらのチビと言う発言は苛つくな。やり易いようにあえてこうしてるんだよ私は。

 

「細かいルールなどは?」

 

「円から出なければ何をしても良い。最悪投げる必要性も無い。遠くにそれを飛ばせ」

 

 そう言われるといくつかの方法を思いつく、ならばどの方法を使えば一番良い記録を安定して出すことが出来るのかに重点を置いて考えよう。手本として指名されたのに記録がしょぼいというのは恥ずかしいので無しだ。バリアに包んで運ぶのも考えたがそのためだけに広域認識用のバリアを展開するのは少し手間だし、どうせなら見栄えとかも気にしたい。

 

「『プリズム』」

 

 まずはボールを()()()のバリアで包む、このまま運ぶのはさっきも言ったが地味すぎる。これはボールの保護とエネルギーの保持を目的としてのバリアである。空中に同じ大きさのバリアを筒状に並べてセットするとそのバリアを一定方向、ボールを飛ばす方向に回転させる。ホイール加速型のピッチングマシーンの様な物を作り上げた訳だ。

 

 当たり前だが物理的に干渉できるタイプのバリアなので急速に回りだしたバリアに吸い込まれるように空気の流れが発生し、決して弱くない風が吹き始めた。このままボールを入れても下手なピッチングマシーンより飛ぶだろうがそれでもまだ速さが足りない。

 

 速さを上げようと思えば回転速度を上げるか加速距離を長くすれば良い。二つに割ったバリアをホイールの前と後ろにセットしてボールを放り投げる。吸い込まれたボールはバリアホイールの回転エネルギーから運動エネルギーを得て、物凄い速度で発射されるかと全員が思った。

 

「え!?」

「何あれ?」

「ボールが元の位置に戻ってる?」

 

 これによりバリアの回転速度と空気抵抗の問題もあるので限界はあるが加速距離を無視してボールを包んでいるバリアに運動エネルギーを加えられる。既に常人の目はもちろん、生半可なヒーローでは追うことが出来ない速度に達している。運動エネルギーは十分溜まった。私は準備は出来たとばかりに声を上げつつ、前方のバリアに反応があった瞬間にバリアを解除する。

 

「発射!!」

 

 その瞬間、空気を切り裂くような音と共に打ち出されたバリアが飛んでいき、あっという間に学校の敷地内を飛び越して私の認識外の位置になったことでボールを覆っていたバリアが解かれて、バリアによって抑えられていたボールへ掛かっていた運動エネルギーも解放される。バリアを基点としてもう一度射出されたそれは空の彼方へと消えていった。

 

「計測不能、記録無限だな」

 

「「「無限!!??」」」

 

 目の前で行われていた行動に全員が注目していただけあって相澤先生が手元の液晶に打ち込んだ∞という記録に対してクラスのほぼ全員が驚きの声を上げた。しばらくして落ち着くと生徒たちからは歓声と共に楽しげな声が聞こえる。皆、個性を使用しても良い体力テストなど経験が無かったので個性を思いっきり使える事に『面白そう!』と声を上げた。

 

「面白い、か……これからの三年間でそんな腹づもりでいく気なら、そうだな。こうしようか。トータル成績最下位の生徒は見込みなしと判断して除籍処分にしてやろうか」

『ッ!?』

 

 髪を掻き上げ、ニヤリと笑いながら相澤先生は凄む。生徒たちは慌てて反論するが、一切寄せ付けない。自然災害、大事故、身勝手な敵、いつどこからくるか分からない厄災、日本は理不尽にまみれている、と彼は言う。

 

「そういう理不尽を、覆していくのがヒーローだ。さあ、最初の試練だ。Plus Ultraの精神で全力で乗り越えて来い」

 

(心操、流石にまずそう?)

(いや、一芸に秀でた者も多いが全体を通せばビリにはならんだろう。一応リミットは全開で行く)

(酷使しすぎて体を壊さないでよ)

 

 相澤先生の感じからして余計なお喋りはよろしくないと考え、頭の向きや視線を変えずに小声で話す。強力な個性だがあまり派手とは言えない心操の個性では厳しいかとも思ったが、本当に全力でやるとの宣言を聞き、安心すると共に呆れと苦言を返しておく。

 

 

 

 そして生きるか死ぬか(除籍)を掛けた個性把握テストが始まった。

 

 

 

 第一種目 50m走

 

 

 出席番号順に二人ずつ走っていくことになったが私の番までで一番早かったのが飯田(いいだ)天哉(てんや)の記録で3秒04だ。ふむ、能力使ってゴールに行けばいいんだからこれはありか?位置に着いてよーい、の所でスタートとゴールにバリアを展開、どんの掛け声と共に位置を入れ替える。

 

「0秒63」

 

「「「0秒台!!?」」」

 

「山稜、50mはこれでいいが持久走の方はワープ系の技は使うな」

 

「はい」

 

 先生から言葉が掛けられた時はビクッとしたがこれで良かったらしい。飯田天哉以外には爆豪の4秒51、青山優雅の5秒51、蛙吹梅雨の5秒58とかが早い方で、心操は6秒台だったのがまあまあだろう。最初に話した緑谷は7秒02と無個性の平均よりは早い程度だった。

 

 

 

 第二種目 握力 

 

「『シュリンクラッシュ』」

 

 握力と言って良いのか分からないが握る手に合わせてバリアを展開し、縮小させる。仮想ヴィランであるロボットが壊れたのに握力計が壊れないわけがない。

 

「測定不能、無限だ」

 

「また無限だと!?」

「あれ握っては無いよな」

「握力では無いがありみたいだな」

 

 八百万《やおよろず》という女子生徒の万力の創造よりはましだと思うんだけどな。向こうは1.2tと数値での記録が出てるから私の方が上ではあるが少し納得いかない。他に高い記録だったのは障子(しょうじ)目蔵(めぞう)の540㎏だ。心操は100㎏で緑谷は56㎏だった。

 

 

 

 第三種目 立ち幅跳び

 

 要するに足が地面に付かなければ良い訳なのだから簡単な話だ。自分自身を中心にバリアを展開して飛ぶ。落ちることは無いが周囲にバリアを展開して無いので移動手段としては走った方が早いぐらいだがこの種目にはぴったりだ。蛙の個性の子がジャンプ力では群を抜いていた。心操もクラスの中では半分より上の記録だ。緑谷は普通に跳んでいたが、あいつの能力は何なんだろう。

 

「無限だ」

 

「あいつ何個、無限取る気だ」

「ここまでくるとレベルからして違う感じだな」

 

 

 

 第四種目 持久走

 

 先ほど相澤先生にワープは禁止と言われたので別の手段をとるしかない。というより元々ワープは持久力を測るという目的に合っていないのでやるつもりは無かった。まあ、どっちにしろ私の移動方法的には結局持久力は関係無いのだが、要は長距離を移動し続けられるかという事を測れればいいのだ。

 

 全員で臨む種目なので周りへの配慮などもした方が良いだろう。記録には関係なくともそう言ったところを評価に入れている可能性はある。入試でレスキューポイントなんかがある位だ普段の学校生活でも素行は重要視されるだろう。

 

 スタートと共に全員が走り出す、エンジンの個性を持つ飯田は瞬発力では負けることがあるが持久力と言う面では非常に強い、そしてさりげなくバイクを造って周回する気満々の八百万にはむしろ関心するばかりだ。私はローラースケートの様に靴の裏にバリアを固定して回転させる。

 

「速い!?」

「何であの速度で体勢が崩れないんだ?」

 

 もちろん自分の身体もバリアで固定してますからね。そうじゃなきゃ加速した瞬間に体が後ろに持って行かれるし、バランスが取れても風で目がやられちゃうよ。私の個性は疲労は溜まるがどちらかというと精神を使う物なので意識さえしっかりしてれば速度でも負けることは無い。限界はあるが体力とは直接的に関係が無いのがこの個性の強い所だ。スピードが落ちることは無くそのまま完走した。

 

 1位が私で2位が飯田3位が八百万だ。心操は全力疾走で走り切った結果5位であった。汗がだらだらで呼吸や鼓動は激しかったが倒れることなく平然と次の種目の準備をしている姿は何人かが不審に思っている様だった。

 

 

 

 第五種目 反復横跳び

 

 ローラでの横移動と超絶単距離ワープの合わせ技で1位をもぎ取ることが出来た。もぎ取ると言えば3位で悔しがっていたエロチビ、じゃなくて峰田(みねた)(みのる)が頭のボールみたい物をもぎ取って使ってたのが色々と興味深かった。

 

 

 

 第六種目 上体起こし

 

 バリアでサポートも考えたがあまり上手くいく気がしなかったので普通にやった。足を抑える役は心操に頼んで交替で記録を取った。昔から鍛えている分で二人ともクラス平均より上には行けた。

 

 

 

 第七種目 長座体前屈

 

 いやまあ。身体は柔らかいのよ結構。でもねえ身長とか腕の長さとかがあるせいで殆どぴったりガラケー並みに身体を折りたためているのに㎝に直すとどうしてもしょぼい。

 

「体格って評価の計算に入れてますか?」

 

「……考慮はしている」

 

 

 

 最終種目 ハンドボール投げ

 

 私は見本を見せた時の記録で良いとのことで他の人のチャレンジを見守る事にした。……八百万、大砲って、いやバイクも中々だったけど。兵器を簡単に作れるって考えるとテロリストに狙われそうだな。爆豪、死ねって、掛け声からして完全にアウトだよ。

 

 おっと心操も全部終わったか、身体強化やハンドボール投げに流用できる個性の人たち以外の普通に投げるしかない人たちの中では一番上の記録を取れていた。とりあえず体力回復用のバリアに突っ込んで休ませる。他の人たちが終わるまでの間だけでも休まないよりましなはずだ。

 

 

 

 次は……緑谷か、此処で記録を出せないと、いや出せたとしても厳しい事になっているはずだ。緑谷もそれを理解しているのか何やら覚悟を決めたような目でボールを持った腕を大きく振りかぶって投げた。だが記録は46mとなった。

 

「な、確かに使おうって。」

 

「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよお前のような奴も入学できてしまう。」

 

 相澤先生の方を向くとその髪は逆立ち首に巻いていた布は空中に浮いていた。普段は布に隠れていたのか首には黄色いゴーグルがかけられている。緑谷と相澤先生の話を聞く限り緑谷は個性を使おうとして先生に邪魔をされた様だ。

 

「個性を消した?あのゴーグル、そうか!を見ただけで人の個性を抹消する個性。抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!」

 

「イレイザー?俺知らない。」

「聞いたことあるわ、アングラ系ヒーローよ。」

 

 アングラ系と言うのは仕事に差し支えると言ってメディアへの露出を本人が嫌っているため世間にはあまり知られていない。アンダーグラウンド系ヒーローの事だ。見た感じ視界に収めることで個性の発動を抑えると言ったところだろう。この個性社会においては絶対的な強さを持つ強個性の一つだろう。

 

「見たとこ、個性が制御できないんだろ?また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」

 

「そ、そんなつもりは!」

 

 反論しようとした緑谷だったが布が勝手に伸びてきて相澤先生のすぐ前まで引き寄せられる。

 

「以前一人のヒーローが大災害の中千人を救った。同じ蛮勇でもお前のは一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久。お前の力じゃヒーローにはなれないよ」

 

「お前の個性は戻した。ボール投げは二回だ、とっとと済ませな。」 

 

 相澤先生の言葉が効いたのか緑谷は下を向いたまま再び円の中へと入った。なるほど緑谷は個性を使えなかったのか、代償が必要となる個性なら使いどころを考えるのは当然だ。となると緑谷が一番記録を取れると考えたのがハンドボール投げなのだろう。

 

 緑谷は遠目から見ても焦っているように見えた。しかし、相澤先生の言葉を受けどうすれば良いのかを必死に考えている。あれは、緑谷の眼は決して諦めていない。緑谷は一呼吸置くとボールを握りしめて思い切り放った。

 

「先生・・・まだ、動けます」

 

「こいつ……!」

 

 記録は705.3m。右手の人差し指が大きく腫れ上がって目に涙を溜めながらも気丈に宣言する緑谷。その言葉の通り、行動不能になるほどの怪我では無い。その姿を見た相澤先生は思わず声が漏れた様な見方によっては楽しそうな表情を一瞬見せていた。

 

「700mを超えた!?」

「やっとヒーローらしい記録出たよぉ!」

「指が腫れ上がっているぞ。入試の件と言い、おかしな個性だ。」

「スマートじゃないね。」

 

 各々が緑谷の記録について話している中、一人だけ違う視線を向ける奴がいた。

 

「どう言うことだ。こらぁ!訳を言え!デクてめぇ!」

 

 両手から個性による爆発を起こしながら緑谷へと突っ込んでいく爆豪。その姿は訳を聞く前に爆破されてしまいそうな勢いがあった。しかしどこからか飛んできた布が頭を体を締め付けて爆豪の動きを封じた。

 

「んだ、この布。硬ぇ・・・」

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器だ。ったく、何度も何度も個性使わすなよ。俺はドライアイなんだ!」

 

(((個性すごいのに勿体ない!)))

 

 見たものの個性を消すと言うのは目を開いてずっと見続けていなければならない。瞬きをすれば解除されてしまう。ドライアイである相澤だが本当にもったいないと言う言葉が的確だ。色々とあったがようやく個性把握テストは終了を迎えた。

 

「ちなみに、除籍はウソな」

 

 その言葉に殆どの生徒が固まった。相澤先生の言葉を飲み込めていない様だ。

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

 

 

「「「はああぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 

 

「虚偽ってつまり、嘘ってことですか!? メッチャ頑張ったのにぃ!」

「騙されたぁ……!」

 

 

「当たり前でしょう……初日に除籍なんてあり得ませんわ」

 

 

 どうだろうな、と。何人かは苦笑している。私も相澤先生が嘘を吐いている様には見えなかった。もちろんプロヒーローであり、人生の先輩でもある先生の技術が嘘だと気付かせなかったというのも考えられるが、本気を出させるなら本当に除籍者を出した方が今後のやる気も上がるだろう。そちらの方が合理的だと私は思った。

 

 表示された順位を見ると、私は1位で心操は5位だった。ちなみに除籍されてたかもしれないのは緑谷だ。私と心操はヒーロとしての適性を見ていたと予測しているのでお互い本気で取り組んだのには間違いは無いと考えている。

 

場所は変わって、A組教室。解散、と言われたもののもちろんそのまま解散するわけがなく、着替え終わった数人は現状でクラス一のイレギュラーである私を囲むように群がっていた。

 

 

「首席の話も聞きたいけど」

「それよりもひとつ聞きたい事があるんですけど」

「山稜さんって」

 

 

「「「一体どんな個性なんですか!?」」」

 

 

 いやまあ、あれだけハチャメチャな結果を出して入れば気になるのも当たり前かそれに首席入学者と言う先生によってばらされた肩書も相まって、周りに集まっているのは女子だが男女関係なく私の声に耳を傾けようとしている。

 

「どの種目においても半透明の物体、バリアの様な物を生成してから挑んでいたことから発動型の個性だと考えて良いと思うし、増強系の個性でないのは見れば分かる。あの物体の汎用性の高さに注目するべきだと思うけど、先に周辺に大きいバリアを展開していたことからバリアの展開するための条件や操作しやすい条件などがあると考えて良い。後は同じに見えるだけでその性質が微妙に違って見えたことからそれぞれ別々に展開して制御しているとすればかなりの頭を使わないといけないはず、それに消費エネルギーや移動距離が分からないけど瞬間的な移動、ワープが可能と言うのは現場に駆け付けないといけないヒーローにはかなり優位だし……」

 

「今日で一番イキイキしてないかい?」

 

 緑谷、餅つけ。じゃ無いや、落ち着け。流石にこちらに顔を向けてブツブツ呟いているのは怖いぞ。私の個性については教えてやっても良いからその不気味な行動は止めてくれ。何処を見ているのか分からない目でどうやってノートに書いてるんだ。飯田の言う通りイキイキしてはいるのだろうが周りの目を気にしようか。そしてどこからそのノートを取り出した。お前はまともな方だと思ってたんだぞ緑谷。

 

「教える分には全然良いよ。私の個性は『プリズム』って言うんだ」

 

「プリズム?」

「って何?」

「理科の実験で見たことがあるけど、アレの事?」

 

「それで合ってるよ。ほら光を通すと色が分かれる奴あるでしょ。私の能力はそれと全く一緒ってわけじゃないんだけど他に言い表せる言葉が無かったのと、語呂が気に入ったからってのもあるかな」

 

 その他にも個性の名称から能力の推測がしにくいというのは一つのアドヴァンテージになりえる。『プリズム』だけを聞いて詳しい能力が分かるやつがいるのならそれはもうそいつの個性だろう。まあ思惑通り誰も個性と能力が結びついていないようだ。

 

「聞き出すようで申し訳ないんですがそれでは一体どの様な個性なのですか?」

 

「母親の個性が『結界』で父親の個性が『エネルギー操作』だったんだけど、二つの個性が混ざって、少し変異したのが私の個性なんだけど」

 

 それから私の個性でできる事を一つずつ紙に書きだすように伝えていった。バリアの様な物を認識した場所に展開できる。今後それを『プリズム』と言い表して説明する。認識できる限りプリズムの操作は自由。プリズムを通して情報の入手が出来る。プリズムを通してエネルギーや対象物の操作も可能。エネルギーを別のエネルギーにしたり保存は出来る。普段から周囲の余分なエネルギーを収集して貯めている。体力も使うがどちらかというと精神エネルギーを消耗する。というより体力の消費は貯めたエネルギーで賄えるから考慮しなくていい。

 

「私の個性はエネルギーの吸収も反射も結構自由だからプリズムを展開さえしていれば負けることはない。完全防御を可能とした個性だよ。一番の天敵となると相澤先生になるんじゃないかな。あ、後エネルギーじゃない普通の物もプリズムに入れて保存出来るよ」

 

 プリズムに収納して、別の場所に置いておいて必要な時にプリズムを引き寄せたり、収納した物をそのまま収縮させて懐に仕舞いこんだりしている。食料や道具、衣服、本、ゲーム、筆記用具、教材、大抵のものは持っている。遭難してもしばらくは暮らせる。まあ、プリズムからプリズムへの移動が可能なので遭難しても一瞬で家に帰れるので遭難することはそもそも無いだろう。

 

「物騒な使い方となるとプリズムは普通の手段ではまず壊れないから、ぶつけて攻撃しても良いし、プリズムに入れて押しつぶすことも出来ちゃう。受けた攻撃をそのまま返すだけでも十分かもね」

 

「……いやぁ、それはチートや。ちょっとずるすぎない?」

「ケロ、攻撃が絶対通らないってのが本当なら勝ち目は無いわね」

「多彩な能力を使いこなすのには何より頭も使うでしょう。応用できる分だけ咄嗟に何をどう使うかの判断を要しますが、個性把握テストでは何れも種目にあった使い方をしてました。その技量は純粋に尊敬出来ます」

 

 実を言うとデメリットもかなり多いから完全防御は言い過ぎだし、失敗すれば負担や疲労も一気に返ってくるからそう簡単な話では無いが、大抵の攻撃が無効化できるのは本当だ。まあ、自分から弱点を教える訳も無いので信じてくれたのであればそのままでいいだろう。

 

「私の事だけじゃなくて、他の人たちの事も教えて欲しいな。後、個性だけじゃなくて自己紹介もちゃんとしよ」

 

 とりあえず心操はしんどそうにしていたので回復用プリズムに突っ込んだまま大人しくさせている。その後、残った面々の名前と、出身、個性などについて紹介し合う。これから一緒に過ごしていくのだから情報交換はしておくべきだ。そして自分の事を聞いた後だからか、殆どの人が能力に着いて色々と話してくれた。結果的に色々と知れて、その上で仲良くなれたのだから嬉しい事だ。

 

 私はもう少し話して親睦を深めようと思うが、自己紹介は終えてる。心操は家に帰した方が良いだろう。既に限界を超えて動いている。回復用プリズムのおかげでぶっ倒れない程度には回復しているが自身の個性を解いた瞬間に全身が痛みに襲われるだろう。話をしていた面々に「ちょっと、すまん」と断って心操の場所へ向かう。

 

「心操、私はもうちょい話してから帰るから先に帰って休め、荷物は預かる」

「あぁ、そうだな。そうしとく、悪いな。何かやっとく事はあるか?」

「休めと言ってんだよ。まったく、風呂にお湯だけ張っといてくれ」

 

 短いやり取りで心操を教室から追い出して、さて話を再開させようとすると物凄い笑顔なのだが何故か恐ろしく感じる表情で取り囲まれた。遠巻きに観察している男性陣も興味深そうにこちらの様子を見ている事から助けを求めることは出来ないと諦めた。

 

「今のやり取り、なんですか!!??」

 

 あっ、気になります?

 

「え、何付き合ってんの?って言うより結婚してるの?」

 

 してません。まだ学生なのに結婚してる奴はいないでしょう。

 

「同棲してるんですか?!」

 

 それに関しては、はいなんですが

 

「あの、答えるんで喋らせてください」

 

 物凄い勢いで捲くし立てられた。その結果私と心操の関係について洗いざらい吐かなければいけなかった。いや、話して困る事は無いけどさ、そんなに気になる。あ、はい。気になるんですね。分かりました。

 

「心操とは中学1年の2学期で出会ったんだけど、心操がヒーロー目指してる話を聞いて、お互い相談するようになって、私の家、両親がヒーロだから訓練とか一緒にやるようになって、2年の時には家族ぐるみの付き合いになってて、二人とも雄英に合格してお祝いしたり、これからについて両方の家族も交えて話し合ったんだけど、雄英に通うにあたって近くに家を借りた方が楽だろうって話が出た時に広めの家を借りて二人で住めばという話が出て、今に至ります。あと、別に付き合ってるわけでは無いです」

 

 嘘は付いてない。詳しく話していない部分はあるが大筋は本当に話したまんまなのでそれで納得してください。お願いします。

 

「あれで付き合ってないって嘘でしょ!?」

「夫婦に近いやり取りでしたよ」

「ケロ、正直信じられないわね」

 

 そんなことを言われましても、どうしようもないです。

 

「ちくしょう。女子と同棲とか勝ち組かよ、あの野郎」

「漫画かよ。在り得ねえぇ」

 

 在り得るんですよ。そして本音が駄々洩れすぎて女子からは冷たい視線が男子からも呆れの視線が飛んでいるのに気づいたほうが良いぞ峰田と上鳴(かみなり)

 

 最後にどっと疲れたな。えっ話し合いの続きはって?私の話題で吹っ飛んだよ。ちくしょう。



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04 戦闘訓練 1戦目

 個性把握テストから翌日の事、午前中は普通の授業だったものの、プレゼント・マイクの授業ということでテンションだけは非常に高い授業だった。昼は大食堂ならクックヒーローランチラッシュのおかげで一流の料理を安価でいただくことが出来るが節約のため弁当だ。声を掛けられたら食堂に付いて行くことはあるが何かを頼むことは基本ない。

 

「心操も弁当か」

「ああ、山稜がついでにと」

「女子の手作りだとぉ!!」

 

「作ってあげるとか絶対ラブラブじゃん」

「お弁当普通に美味しそうやね」

「一人分も二人分もそう変わらないから、一口要りますか?」

「あ、貰う。って美味しい。女子だけど心操が羨ましいかも」

 

 そして午後の授業、ヒーローを目指す者達として必ず必要となる科目、ヒーロー基礎学。

 

「わーたーしーがー!!! 普通にドアから来た!!!」

 

 No.1ヒーローの登場に、教室中が興奮と感動の渦に包まれる。オールマイトの話を聞くと場所はグラウンドβ、入学前に提出した『個性届』と『要望』に沿って業者に発注した『コスチューム』に着替えて集合、とのことだ。

 

 私は個性で必要とする装備はあまりないので丈夫さと伸縮性と後は見た目を重視したがそれ以外は普通の服とあまり変わらないので着替えるのに時間は掛からなかった。

 

 心操は自分に使うためのマイク付きのヘッドフォンとそれをついでに利用しようと考えた周辺探索用の収音装置。それぞれの機器を接続して使用したり、音を録音することも出来る。拡声器やマイク越しでは『洗脳』は出来ないので暗示目的の意味合いが強い。注目を集めるために一応拡声の機具もある。分かりやすい攻撃手段としてはナックルも用意されてる。派手さは無いが堅実なコスチュームと言える。

 

「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で見れば屋内の方が凶悪犯出現率は高いんだ……君らにはこれから、『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内戦闘訓練を行ってもらう!」

 

 設定は、テロリストが市街地のアジト内に核兵器を隠していて……ヒーローはそれを処理しようとしていると。設定が海外ドラマみたいだ……先生が考えたのかな?

 

 敵役が先にビルに入って準備を整え、5分後にヒーローが行動開始。ヒーロー側の勝利条件は敵2名の確保か、核兵器の確保。核兵器の方は、張りぼての爆弾にタッチするだけでいいそうだ。敵の確保については、気絶させるか行動不能にするか、あるいは事前に渡された『確保テープ』を体のどこかに巻き付けることで達成とする。

 

 一方、敵側の勝利条件は、同じくヒーロー2名の確保か、あるいは制限時間15分の経過。コンビ分け及び対戦相手はくじで決定されると……なるほど。

 

 

Aチーム 山稜、葉隠

Bチーム 轟、障子

Cチーム 峰田、瀬呂

Dチーム 緑谷、切島

Eチーム 蛙水、常闇

Fチーム 八百万、尾白

Gチーム 耳郎、心操

Hチーム 爆豪、飯田

Iチーム 麗日、芦戸

Jチーム 上鳴、青山

 

 

 

 麗日、芦戸  VS 山稜、葉隠

 轟、障子   VS 耳郎、心操

 峰田、瀬呂  VS 八百万、尾白

 蛙水、常闇  VS 上鳴、青山

 緑谷、切島  VS 爆豪、飯田

 

 ふむ、葉隠とのペアになったか。対戦相手も含めて女子が固まったな。雄英に来て、ヒーローを目指している面々だするつもりは無いが油断は禁物だ。

 

「よろしく、葉隠さん」

「山稜さん、私はそこにいないよー!?手袋とブーツ見えてるよねー!」

 

 知ってる。あえて空中に向けて挨拶をするというボケは何人かにヒットしたようだ。葉隠さんが割と本気で焦ったような怒ったような声で突っ込んで来たのが良い味を出してくれた。対戦相手の芦戸さんまでもが笑っている。これは勝ったな。

 

「お笑い勝負じゃないからね!?」

「君とならトップを目指せる!」

「目指さないよ!!ヒーローになるんでしょ?!」

「お笑いヒーロー?」

「お笑いは要らない!!」

 

「お、お願いだから。わ、笑かさないで、ひ、ひひ、お腹苦しい」

 

 もう一部を除いてほぼ全員が笑っていた。あえて真顔で淡々と反応を返したのは成功みたいだ。その中でも芦戸が笑いすぎて女子がしちゃいけない顔一歩手前に差し掛かっていたのと、いい加減真面目にやってやれという心操からのお叱りも受けたのでチームで別れて準備を行う。

 

 

「さて作戦考えようか。真面目に、真面目に!」

「強調するぐらいなら最初からふざけないでよー」

「ごめんなさい。で、どうしようか?」

 

 相手は麗日、芦戸の二人だ。個性把握テストでは11位、12位と微妙な順位だったと記憶しているが、あの二人はどちらも触られたらアウトに近いので戦い方に気を付けないといけない。

 

「私は完全に隠れれば見つからないと思うよ」

「なら私はプリズムでガードすればまずは安全ですかね」

 

 直接触れられないと麗日の個性は発動しないし、芦戸の酸も防げる。何なら葉隠も念のためプリズムの中に入れてしまえばやられてしまうことは無い。

 

「後、訓練の意味を考えると戦ってもおきたいですね」

「訓練の意味って?」

 

 これは授業だ。わざわざチームをヒーローとヴィランに分けたという事はそれに適した行動を取り、勝つ必要性がある。こちらはヴィランチームだから大抵の事はやっても良いだろうが、向こうはヒーローとして挑むわけだからやってはいけない事も多い。そして設定上、手元にあるのは核兵器なのだからあまり近くで戦ったり、巻き込むようなことがあれば本末転倒だろうと伝える。

 

「そっかー、訓練の意味か。戦うのはヴィランなら忍び込んだヒーローには襲い掛かるから?」

「知略的なヴィランも居るでしょうが、私たちは今はテロリストです。隠し持ってる兵器に何かがあったら困るので全力でヒーローを排除しなければいけません。ただし、ペアで協力して上手く個性を使いつつという条件付きです」

「なるほど」

「後はヴィランらしい、騙しや嘘なども織り交ぜていきたいです。最後は不意を突いて倒したり出来れば最高ですね」

 

 どこで戦うか、張りぼては何処に設置するか、どうやって倒すか、相手に伝える情報と伝えない情報、嘘の情報をしっかりと話し合う。お互いの出来ることを最大限に利用してヒーローには絶望してもらいましょう。

 

 

『それではスタート』

 

 合図と共に麗日と芦戸が勢いよくビルの中に突入してきた。色つきのプリズムを張った私と手袋とブーツを付けた葉隠が堂々と姿を見せる。

 

「いた、芦戸さん行くよ」

「うん」

 

 私たちに攻撃しようとしているのか、確保テープを巻こうとしているのかは分からないが一直線に向かって来たのは良くなかった。バンという大きい音と共に二人は見えない壁にぶつかって、痛そうに顔や体を触っている。

 

「はは、始まってすぐ自滅してるよ」

「本当に引っ掛かるとは思ってなかったんだけど。二人とも大丈夫?」

 

 予期せぬ痛みに打ち震えていた二人も仕掛けた側からの煽りとしか思えない言葉に憤慨し、起き上がる。山稜は確実に煽っているが葉隠は普通に心配している部分もあるが先に喋った山稜の発言の後なのと敵からの心配なのも相まってこちらも煽りにしか聞こえないだろう。

 

「逃げるよ」

「了解」

 

「「逃がさないよ!!」」

 

 ここからが問題だ。二人を見失っては作戦が成り立たないし、ずっと追っかけられていると最後の仕掛けが出来ない。時間を稼ぎながら、複数の罠を使って隠す時間だけは目を塞がせる。最初から最後まで決めてしまうと予想外への対応が難しいので最初と最後と大体の流れしか決めていない。ここから先は……

 

 

 

「私の腕の見せ所だ」

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、戦闘訓練をモニターで観察している面々は山稜の容赦のない罠や騙しに苦笑いを浮かべていた。何人かは苦笑いを通り越して震えている者もいた。

 

 

「転ばして、頭をぶつけさせて、触れたと思ったらバリア越し、何度も何度も」

「その度に醜悪なコメントが付いてくる」

「バリアも葉隠さんも見えないから対応がしにくい。芦戸さんは酸を飛ばしてバリアの有無を確かめたけど、確かめた後にバリアを設置されて、頭を抱えて唸ってたね」

「『プリズム』、色々なことが出来ると説明してもらいましたが、まだバリア一つでこれですもの。私でも叫んでいたかもしれません」

「そろそろ10分経つぞ」

「あ、二人がバリアで囲まれたって消えた!?」

「いや、入り口に戻されてる」

「ワープ、正確にはバリア同士の位置交換か」

 

 やっている事の一つ一つは小さいし、ダメージと言えるダメージは無いが、その積み重ねに精神が削られていった。いきなりスタート地点に戻された二人は一瞬呆然としていた。オールマイトを含めて全員が敵に回したくないと心の底から思っていた。

 

 

 

 

 

「ああもう。やだぁ」

「芦戸さん。落ち着いて、まだ何とかなるよ」

 

 あの二人を倒すのはこの10分で難しいという事が分かった。はっきり言って強がりである。出来ないとは言いたくないために難しいと言っているが同じ条件で戦う限り山稜1人にも勝てないだろう。

 

「爆弾さえ触れれば」

「何処にあるのか探させてくれないよ~」

「ワープさせられる前に山稜さんが『念のため爆弾の所に行ってくれ』って葉隠さんに伝えてたんよ。葉隠さんが上に向かってるのが見えたわ。あそこより上となると屋上しか無い。どうにか山稜さんの間を一人で良いから通り抜けるの、まだ終わってない。諦めるには早いよ!!」

「うん!!」

 

 麗日の諦めない意思、それは同じくヒーローを目指す芦戸には輝いて見え、勇気づけられた。既に残された時間は少ない。それでも二人は残っている気力を振り絞り全力で階段を登って行く、山稜さんのプリズムは認識した場所にしか置けないと言っていた。山稜さんが隠れる場所が無い階段は周囲に警戒さえしていればそこまで心配しないで上ることが出来る。

 

 

 

 

 

 

「ここは通さないよ」

 

 

 だからこそ屋上へ向かう階段の真ん中で二人の行く道を遮っていた。ここさえ守ればいいのだからそうすると考えていた。だけれど二人も考えが無かったわけでは無い。

 

「芦戸さん。行って!!」

 

 麗日が芦戸に個性を使い無重力状態にしたと思うと窓から飛び出して直接屋上を目指し始めた。山稜は慌てて窓を塞ごうとしたが間に合わなかったようだ。

 

「葉隠の援護に!?」

「絶対に行かせない」

 

 瓦礫などを思い切りぶつけて山稜の目の前の階段を下から崩した。ヒーローらしくない破壊的な行動だが足を踏み外しかけた山稜の動きを止めることが出来、開いた穴からの山稜のバリアを潜り抜けて上を取ることが出来た。

 

「勝てなくても芦戸さんがやってくれるまでの時間くらい私が稼ぐ」

 

 芦戸なら酸をばら撒くことで葉隠の行動を狭める事も出来る。直接触れなくても攻撃できるあしと芦戸であれば葉隠を押しぬけて爆弾を確保してくれる。その間だけ頑張れば良い、そう考えればいくらでも力を出せる。

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に勝『捕まえたわ』つ。え??」

 

「お疲れ様です。葉隠さん」

 

 私の方を見降ろして構えていて後ろへの注意が散漫になっていた所を手袋もブーツも脱いで、正真正銘全裸になって忍び寄っていた葉隠に確保テープを巻かれた。

 

「なんで?!えっ、芦戸さんは?」

 

 

 

 

 

 

 少し前に戻って芦戸が窓から飛び出して屋上へと向かった時のことだ。重さが無い体は操りにくいが、どうにか屋上へ跳んで、手すりに摑まる事で停止出来た。勢いがあるため見張りの葉隠には見つかっていると考えてすぐに、酸をばら撒き、体勢を整える。

 

「居た。そして在った!!」

 

 山稜のこれまでの行動から爆弾が屋上にあるというのも偽の情報、あえてそう見せた可能性も考えたが、爆弾は確かにそこに有った。そしてその爆弾の前に浮いている手袋とブーツ。既に全体的に酸は撒いた。ブーツがあるとはいえ迂闊には動けないはず。後はどうにかして葉隠を避けて爆弾に触るだけ。

 

「行け「捕まえた」る?!?!」

 

 腕に巻きつけられた確保テープにも驚いたがいきなり、何故隣から葉隠の声が聞こえてきたのか、理由が答えが分からずに思考が止まってしまった。だけど呆然とした中で一つ理解できたことがある。

 

「負け…ちゃった」

 

「さて、麗日さんも捕まえなくちゃ」

 

 呆然としてしまった芦戸はどうしようもないやるせなさと悔しさに襲われてその場で膝をついて頭を抱え込んだ。その後、こっそり上から近づいた葉隠が麗日を捕まえてゲームセットとなった。ヒーローチーム二人の捕獲により、オールマイトから終了の声が届けられた。

 

 

 

「はいお疲れ様!早速講評を始めよう。まずは今の試合について観戦組から意見を訊こうと思っていたんだが、今回は私が色々と説明をしよう」

 

 最初の試合だが、これは少々評価がしにくいものであった。何をしていたのかが分かりにくく、横から見ての感想を言ってしまえばどちらのチームにも良くない。

 

「今回の勝利はヴィランチームで、MVPは山稜少女になる。訓練の意味を読み取り、ヴィランとしての行動、ペアとの連携を抑えたうえで見事勝利を手にした。作戦を立てたのも山稜少女だったね」

 

「見えるバリアと見えないバリアを混ぜる事で罠へ引っ掛かりやすくしたり、表情の読み取れない葉隠少女はともかく君は純粋な演技で最初も過程も最後も全ての場面において相手を騙して見せた。そして葉隠少女が最後に確保しやすいように仕向けたね」

 

「葉隠少女は最後以外は常に手袋とブーツを付けていた。だからヒーローチームの二人は葉隠少女を探すときに手袋とブーツを探した。最後のはバリアの上に手袋を置き、足元にブーツを置いたんだね。そこに居ると思い込んだら人間はそこにだけ意識を向けてしまう。酸をばら撒く事も予想して葉隠少女を守るバリアも張っていた」

 

「芦戸少女が抜けた時は焦った表情と「援護に行かないと」とあえて口にすることで麗日少女に邪魔をさせて、自分に注目を向けさせた。結果としては、やり過ぎという意見も出たが、心を壊すというのはヴィランが良くとる手段である事に間違いはない。ヴィランチームとして正しい選択を取っていたと言える」

 

「葉隠少女も事前に大体の流れを決めていたとはいえ、山稜少女の仕草や指示を聞き、真意を読み取って動いており、姿が見えない事を生かした隠密行動も完璧だった。動くタイミングを見極めるというのはこういった緊張した現場では必要不可欠な技能だ」

 

「そしてヒーローチームだが、設定上一番の目標である爆弾を放置して約10分間、ヴィランに煽られて冷静さを失って追いかけてしまった点は減点だね。だが最後まで諦めず挑み続け、相手を出し抜く作戦を考えた事は評価できるし、作戦もお互いの個性だけでなく相手の個性にも合わせて役割を決めていた。後は思い込みや事前の情報だけで判断しないで動ければチャンスはあったかもしれないね」

 

 オールマイトからのフォローに近い評価で多少落ち着いたが、振り返ってみると単純に相手が強くて、自分たちが弱かったのだというのが分かる。精神的にも、能力的にも、色々な部分で終始掌の上で踊らされている気分だった。終わってから気付いたという点には失笑しか出てこないが、それでも何か掴めたことがあると思いたい。

 

「うん、失敗を通して学ぶのが学生だからね。更に向こうへ(プルスウルトラ)の精神だ。芦戸少女、麗日少女」

 

「「はい」」

 

 初戦から圧倒的な試合を見せられた面々は気を引き締めて訓練について考える。山稜が色々と行ってくれたおかげで訓練の意図と意義を知り、自分たちがどれだけやれるのかを何が出来るのかを考えだした。次の試合は動きから変わるだろう。

 



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05 戦闘訓練 2戦目 3戦目

「轟は個性把握テストでも3位だったし、障子も8位と上の方だ。それに加えて轟は攻撃、障子は索敵とバランスも良いし、勝てるのか?」

「いや、耳郎はテストと個性の相性が悪かっただけで、今回はどうなるか分からんでしょ」

「耳郎も索敵は出来るだろ?」

「それに心操は個性もよく分からないし、テストでも5位と二人に負けてないよ」

「接近戦になると流石にヴィランチームが不利じゃないか?」

「障子君の個性も目に見える分、分かりやすいが強力だ」

 

 

 皆が画面を見ながら試合の展開を情報を元に予測する。先ほどの1戦目を見て、次は自分たちだと息巻いており、学べるもの、活かせるものが無いかと必死なのだ。出来ることを全て知っている訳では無いので各々が訓練参加者の強みと弱みを上げて、どのような作戦で動いて行くのが良いか意見を言い合う場になっているが十分だろう。

 

 次に戦うのは轟、障子のペアと耳郎、心操のペアだ。轟は推薦入試組でその個性もかなり強力で、それを扱う技術も中々のものだった。障子も個性把握テストでは20人中8位とクラス内では上の方で油断はできない。耳郎は17位と下の方だがこの前聞いた個性ならこの訓練では非常に役に立つだろう。

 

「山稜さんは心操くんの個性って知ってるの?」

「山稜さんはどっちが勝つと思う?」

 

 山稜に話を聞きにくるのは当たり前だろう。同じ中学出身で同棲するだけの仲である山稜が心操の個性を知らないわけがなく、現状誰よりも強く、賢いのは彼女なのだから。

 

「あいつの個性は訓練が終わったらあいつが教えてくれるさ、勝敗に関しては」

 

 もったいぶる様に、全員の視線が集まったのを感じてから声に出す。

 

「心操達が勝つだろうね」

 

 一息で言い切り、断言した。首席であり、テストでも訓練でも圧勝して見せた山稜の言葉を誰も疑う事はしないがそう言わせるだけの何かを心操は持っていると考え全員がモニターに映る心操の様子を見始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「心操、作戦はどうする」

 

 心操と耳郎は今回、ヴィランチームとして轟、障子のふたりを迎え撃たなければならない立場である。準備が出来る分のアドヴァンテージを生かせるかで勝敗も変わる。

 

「核の場所は分かりやすいけど屋上で良い、耳郎は何が出来る?」

「ウチはこのプラグを指して攻撃や小さい音を聞いての索敵かな。伸ばせる距離は大体6メートルぐらい」

 

 そう言ってプラグになっている耳たぶを目の前で伸ばして実演して見せた。心操としてはどうやって向こうの動きを把握しようかと考えていたので耳郎の個性は嬉しい。

 

「なるほどね。このルールなら山稜ほどでは無いが俺の個性さえ使えれば勝てる、が確実に勝つために手を、いや耳を貸してくれ」

「へぇ、断言するって事はそれだけ自信のある個性なんだね。それで何をすればいい?」

「あいつらは忍び込むにはあまり向いてはいないから揃って戦いを挑んでくると予想してるが、確実に個性を使うために始まって少ししたら音を拾って相手の動きを探って欲しい」

「分かった」

 

 いよいよ始まろうとしているので別室で様子を確認している面々はヒーロ―チームが映し出されている画面を見ている。

 

 

「索敵は任された。必用なら捕縛も」

「向こうは個性をあまり見せてない気を引き締めよう」

 

 真面目で少し口調が硬い障子と感情をあまり表に出さない轟は作戦を決めてからは口数も少なく、訓練に集中している。

 

『ヒーローチーム、スタート』

 

 二人にオールマイトの合図が届き、決めておいた通りにまず轟が大きく仕掛けた。

 

「な、ビルが凍った」

「ケ、ケロ。この部屋まで冷気が」

「カメラもいくつか凍って見えないな」

 

 氷の力を用いて突入する前にビルを丸ごと氷で覆って見せた。ヴィランチームの様子を写すモニターを見て見るといきなりの氷に驚いてはいたが凍らされること無く、やり過ごしたようだ。ビル全体を襲う寒さには参っているようだが戦闘不能には程遠い。

 

 小さいビルとは言え少し探索に時間が掛かる。ヒーローチームはいつヴィランが仕掛けてくるか分からないので常に警戒しながらの行動となる。中々襲ってこない相手に気を張り続けていたせいかヒーローチームの二人には少し焦りも見えた。

 

 しかし、その後も何も起きることは無く、轟と障子は屋上にたどり着いた。屋上の扉を開けると目の前に張りぼての爆弾が置かれている。確実に罠だと分かり、二人は近づいて良いものかと悩んで動きが止まっている。そこを狙う様に心操が動いた。

 

「よう。ヒーロー?」

 

「「心操!?」」

 

 二人は扉の上に隠れていた心操に声を掛けられ、その名を呼んで戦闘態勢に入る。モニターの前の面々もようやく戦いが始まるとモニターを見つめるが、その期待は裏切られた。

 

 

「心操の勝ちだな」

『タイムアップ!!ヴィランチームの勝利だ』

 

 

「「え?」」

 

 轟と障子はオールマイトの終了の声が掛けられて唖然としていた。自分たちは心操と向かい合っていてその後は、と考えたところでその後の記憶ははっきりしない。だが、前後から考えて心操に何かされたのは確実だろう。その答えを知るためにも部屋に戻る事にした。

 

 

「はい、お疲れ様!早速講評を始めようと思うが、まず心操少年が何をしたのか分かるかな」

 

 予想なら何人かがしていたが確実にこれだろうと言った意見は出ていなかった。オールマイトも事前に生徒の個性を知らされてるからすぐに何をしたのか分かったが、あれも初見殺しな個性だろう。誰も率先して手を挙げないので先ほど意見を言った八百万が手をあげた。

 

「たぶんですが、精神操作系の個性では無いでしょうか?」

 

「正解だ。発動条件を知らなければ避けようがない強力な個性だ。心操少年、何をしたのか詳しい説明をしてもらっても良いかな?」

 

 その答えを聞いてオールマイトは正解だと答え、続きはその個性の持ち主である心操に詳細を話すように促した。

 

「俺の個性は『洗脳』だ。普通に会話する分には問題ないが個性を使おうとして話しかけ、それに相手が反応を返すと操れる。だから今回は絶対に反応を返す、二人が驚きそうな状況を作って待ってたわけだ。ちなみにマイクや拡声機を使うと操れないな」

 

「『洗脳』ですか……」

「それだけ聞くと、ねぇ」

 

 やはり『洗脳』というのはあまりヒーローらしくない響きだろう。どうしても悪用の仕方の方が先に思い浮かんでしまう。

 

「ああどちらかというとヴィラン向きの個性だな。昔から言われてるし、俺もそうだと思ってるから別にどうでも良いよ」

 

「ん、個性が『洗脳』だとするとテストで見せた動きや力はどうやってるの?」

「なあ、なあ、何処まで操れるんだ?何が出来る?」

 

 確かに心操は個性把握テストにおいて5位と言う記録を出せるだけの力があった。動き方は訓練でもどうにかなるが、あれだけの結果を出す力が引き締まってるとはいえ常識的な体つきにあるとは思えない。そして峰田の明らかに邪な質問は全員が無視をした。

 

「ああ、あれは自分を『洗脳』したんだ。『洗脳』と言うより『催眠術』に近い使い方だな。まあ『洗脳』も『催眠術』も基本は『暗示』と考えて個性を伸ばした結果だ」

 

「なるほど、自分を強いと思いこませたと言う訳か」

 

「簡単に言えばだな。本当に強くなった訳じゃなくて体のリミッターを外して無茶をしているだけだな。多少の強化はあるだろうが元の身体が増強系とは比べるまでも無く弱いからな。持久力の方も疲れていないと体に誤認識させてるわけだから。やり続けると限界をとっくに超えているはずだった体だからな……ぶっ倒れるだけで済めば良い方だ」

 

「個性把握テストの日、私が『プリズム』で心操を囲ってたの見た人いるでしょ。あれ回復エネルギーを貯めこんだ物なんだけど、それでもすぐには回復できないほどにあの日の心操は無理をしてた。たぶん軽い攻撃で死にかねないぐらいにね」

 

 だから早く帰って休むように追い立てたんだよと付け加える。心操はあの時は除籍が掛かってたからなと苦笑いで答える。ちぐはぐな姿に違和感を覚えている人もいたがそれほど無茶な事をやっていたとは思っていなかったようで驚いていた。

 

「『暗示』は色々と応用が利くし、味方の補助も出来る。ちゃんと使えばどんな個性でも役に立つって事だ」

「リミッター解除、五感の強化、疲労誤認、後は勉強でも役に立つよ」

 

 具体的な例を心操の次に『洗脳』の個性に詳しい山稜が付け加える。

 

「それって『頭が良い』って『暗示』したら頭が良くなるの?!」

 

 まさかとは思うが、もしそれが可能ならあやかりたいと学力がギリギリの連中の目が輝いた。

 

「頭が良くなるわけでは無い。簡単に言えば苦手意識を無くして集中できるようになる。覚えやすさにも多少影響が出てるはずだ。普通に勉強するより数倍効率は良いとは思うが、勉強しなくて良い訳じゃないからな」

 

 『暗示』の個性による勉強というのはスピードラーニングの上位互換に近い、確実に集中でき、苦手意識は無くなり、個性の特徴的に一度は必ず頭に入るのだから。テスト前日の一夜漬けとかにも効果を発揮するだろうがそれは言わないで置く。真面目に普段から勉強することに越したことは無い。

 

 否定されてすぐはそんな美味い話は無いかと落ち込みかけていたが、心操の話を聞く限りそれだけでも十分凄いんじゃねえか、と再び目を輝かせた。あまり勉強に苦労していない面々も確実な効率アップと言うのは興味深かった。

 

「入試の学力テストでも使ったね。緊張は無くなるし、ど忘れも予防できるからね」

 

「ずっりぃ、それありかよ」

「『暗示』付の勉強会開いて欲しいな」

 

 色々な使い方とそれによる利点などを話していくことで最初と比べて『洗脳』という個性に対する思想、凝り固まった印象はだいぶ薄れたと見て良いだろう。

 

「それで女子とか操れるのか?」

 

 約一名の色馬鹿を除いて、最初から最後まで自分の考えを通す姿には一周回って感心してしまいそうになるが、峰田の行動と質問には男女の殆どが呆れた目を向けている。

 

「峰田、お前なぁ」

「しょうがないだろ。俺の欲しかった個性ランキングで『透視』の次に欲しいのが『洗脳(それ)』だったんだよ。それでどうなんだ?」

 

 堂々としすぎているのも考え物だが、ここまで開き直られると無視し続けるのも面倒になってくるので、非常に嫌そうに答える。

 

「出来る出来ないで言えば、たぶん峰田が考えているであろう事も可能だろう。山稜との訓練で個性の威力や操作性はかなり上がったからな」

 

 意識レベルの調整や細かい命令の可否、洗脳度合いの強化に伴う洗脳の強度、様々な部分を山稜と出会ってからの3年間で鍛えた。『洗脳』という文字だけ見たら凶悪な個性を育てるのに協力する変わり者が居なければここまでの事は出来なかっただろう。

 

「おおーっ!!」

 

「が、ヒーローとして望まれない個性の使い方をするつもりは無い」

 

 峰田の眼を見つめて睨みつけて牽制する。というより、お前もヒーローを目指しているはずだよな?と言った懐疑的な視線も混ざっている。

 

「それ以上詰まらない話をしてくるなら、まずお前がそう言う事を考えられない様にしてやろうか?」

 

「ひっ!?ゆ、許してください」

 

 はっきりとした脅しだが、周囲(特に女子)に迷惑を掛けてばかりいる色欲モンスターがこの世から無くなるのであれば別に良いんじゃないかと思う者も一定数いた。しかし『洗脳』と『暗示』を組み合わせれば真面目に()()へ影響を与えられるだろうがそれは望まれたとしてもあまり使いたくはない。

 

 峰田も一時的ではあるだろうが落ち着き、怒りのこもった視線に怯えていたことから同じような事で心操を煩わせることは無いだろう。ようやく話が一段落着いたところでオールマイトが話を講評へと戻す。

 

「さて、今回のMVPは心操少年だな。自分の個性を確実に作用させるために核までも囮にするという危なげな作戦ではあったが、確かに効果的ではあった。核のすぐそばで見守り続けているとも言えるしね。それと轟少年と障子少年の動きを確認し続けた耳郎少女も仲間を信頼して自分の役割を落ち着いてこなしていた。とても素晴らしかったよ」

 

「「ありがとうございます」」

 

「轟少年はビルを巻き込んだ攻撃は避けにくく、寒さで相手の行動を阻害する事も可能だが長い捜索活動では相棒である障子少年はもちろん、自分にも多少影響は出てしまうからね。迎え撃つ側ならそれでもいいかもしれないけど、相手が見えていないのに全体へ攻撃したのは相手へ警戒させてしまうから気を付けようね。そして障子少年は常に周囲を警戒していたけど警戒しすぎで緊張していたのと、相手の動きや音に注意してたからこそ問いかけに反応しちゃったのもあるかな。後は罠を疑いすぎて動けなくなっちゃってたのも痛いね。見つけた瞬間に飛び込むというのも危機感が薄いと判断されるけど、疑心暗鬼に陥るのは良くないね」

 

「「はい」」

 

「両チームとも自分の個性を生かした立ち回りを意識できていたから、戦術はこれから学んでいくしか無いけど、全体的に個性を使いこなしてい行ける様に練習する事と工夫を増やしていく事でも選択肢は増えるからね。雄英(ここ)で存分に学ぶように」

 

 オールマイトからの評価はそれほど悪くは無かったがそれでも警戒していたのに、いや警戒していたからこそ相手の罠にまんまと嵌まってしまった轟と障子は悔しそうな表情を浮かべていた。そして山稜は心操の勝利は疑っていなかったがきちんと勝ったのを見て満足していた。

 

 

 

 続けて行われる3戦目は峰田、瀬呂のヒーローチームと八百万、尾白のヴィランチームの戦いになるのだが、これはヴィランチームの方が最初から優位な展開を取れるだろう。

 

「八百万の『創造』は規格外な個性だよね。罠でも武器でも限界はあるけど自由に作れるんだから」

「それに尾白君の『尻尾』も目立ちはしないけど器用に動かすことが出来て、攻撃にも防御にも転用できる。純粋な近接戦ならそうそう負けないんじゃないか」

「瀬呂のテープも準備が出来れば十分厄介なんだろうが、今回はヒーロー側だしな。テープを利用した高速移動は凄いが室内だと動きが制限されるだろ。元々対人戦も得意では無いし」

「峰田の個性もな。あれも対人戦向きではないし、もぎもぎって言ったっけ?あれをくっつけて動きを封じることが出来れば核を狙いやすくなるだろうけど、投げられたそれに当たってくれるような相手じゃないだろ」

「チームの役割が逆だったら丁度良いバランスだったかもね」

「峰田もやる気を出していた。二人の個性は工夫次第で出来ることも多いだろ」

「あの二人の動きはトリッキーだからね。作戦次第で可能性だけなら十分あるでしょ」

「しかし、瀬呂も峰田も個性の容量があるからな。その点は八百万も一緒だが尾白は体力の心配位だろ?」

「やっぱ、不利そうだね」

 

 八百万が何を作るのかにもよるが山稜もこの対戦カードはちょっと厳しい物があると感じている。個性把握テストの順位でもヒーローチームはヴィランチームに負けている。これを覆して結果を残せるのか、まもなく始まる。

 

 

 

 

『ヒーローチーム、スタート』

 

 

「突出せず、必ずツーマンセルで動くぞ」

「おう、俺だって出来る所を見せてやる!!」

 

 入り口に入ると、プチって音と共に何かが降ってくる気配がした。瀬呂は峰田を抱えるとテープを射出、巻き取りを瞬時に行いその場から離れた。

 

「確保テープの複製か!!」

「入り口にワイヤートラップって、八百万の奴本気で仕留めに来てねえか?!」

「そりゃ本気にもなるだろ」

 

 幸い瀬呂の活躍により二人に確保テープが張られることは無かったが、ビル全体が罠だらけに改造されているのは間違いないだろう。峰田も咄嗟に動けるようにもぎもぎを用意しておく。階段や角を曲がる時も周囲と足元、頭上と確認しつつ慎重に進む。

 

 ビル内の扉は全て閉じられており、いくつかダミーも混ぜられている。偽物の扉と言うのも探索としては面倒だが、本物の扉には殆ど罠が仕掛けられている。全部じゃないのは油断を誘うためか、『創造』に必用なエネルギーの節約なのかは分からない。

 

「やっぱり核は上か?」

「上に行くほど罠は増えてるけど、1戦目と2戦目が上に置いてたから裏をかいてくる可能性もあるが結局は探さないといけないことに変わりはないだろ」

「そうだな。それよりも八百万も尾白も姿が見えねぇのはおかしくねぇ?」

 

 峰田の素朴な疑問に上で待ち構えている可能性を考えたが、あれだけ罠を張っておいて最後が普通の防衛というのはいささか中途半端、工夫が足りない様に感じる。とは言えこれまでに見た部屋には二人は居なかった。違和感はあるが時間も限られている。先に一番上を確認しておきたいのもある。

 

「上の階は此処よりももっと罠があり、屋上にあいつらが隠れてるとすればこのまま突っ込むのは不味い。特にテープを巻かれればそれで終わりだ」

「俺はお前ほど早くは動けねえし、マジでギリギリだしな」

「もぎもぎ少し貸せ、くっつくからそのまま持ってて」

 

 複数のもぎもぎの周りに粘着面を外側にしてテープをグルグルと巻く、攻撃を防ぐようなことは出来ないがテープの罠であればこれで防ぐことも出来るだろう。もぎもぎの部分であれば攻撃を受けても大丈夫かもしれないが過信は出来ないし、尾白なら盾ごと吹き飛ばしかねない。

 

 それに加えて峰田の背中にテープをくっつけておく、テープは自身の移動にも必要なので切りはなした物を使っているので引っ張って救出するときは自力となるが、何もないよりは良いだろう。

 

「危ないと思ったらテープを引くが、出来る限り自力で何とかしてくれ」

「分かった。気づけなかったときは頼んだ」

 

 小細工でしか無いがしないよりはましと割り切って上に進む。盾を構えた峰田が前を進み、引いたほうが良いと判断したらテープを引いて峰田を回収、進んだ方が良い時は腕のテープを射出・巻き取りを素早く行い罠を切り抜ける。地面に置いたもぎもぎを使って撥ねる事で峰田が自力で罠を避けたり、いやらしいが単純な罠のためもぎもぎを使って誤作動させたりと疲れるが何とか進めている。

 

「この階にも居ないのか」

「やっぱ屋上か?」

 

 屋上よりも狭い室内の方が八百万も武器を使っての攻撃を当てやすいし、こちらの行動の阻害もしやすい。罠と合わせられれば攻略は不可能に近い。これまで邪魔がないから罠を切り抜けられてきた様な物だ。何もしかけてないのには何か理由があるはずだ。

 

「芦戸・麗日ペアがやったみたいに窓から出て上へ行くのもありか?」

「麗日の無重力はばれにくいが、テープが巻き付いたらすぐばれかねないだろ」

「正面から行くのとどっちが良いかだね」

 

 どちらも何とも言えないという事でいっそのこと二手に別れて屋上へ行くのもアリでは無いかという意見が出た。階段での罠の対処は峰田一人でも盾と合わせれば出来るので、峰田が階段で瀬呂が外からテープで外から上がる。通信機で合図をしたら同時に屋上へ入る。

 

「「3、2、1、GO」」

 

 屋上へ上がると、核は無いが尾白が堂々と中央に立っていた。核が無い事に悲観したが予想していなかったわけでは無い。八百万が個性で核を隠せる物を作ったんだろう。それが分かれば無駄に尾白の相手をしている訳にもいかないので帰ろうとするが……峰田の後ろが何かで塞がれ、階段は使えなくなった。

 

「うおっ!?八百万の仕業か?!」

「峰田、こい!!」

 

「素直に逃がすわけないだろ」

 

 峰田を抱えてビルの側面からテープで逃げようと思ったが尾白がそれを許してくれない。尾白の攻撃はもちろんだが周囲には少ないが罠らしきものがあり、不用意に動くわけにもいかない。

 

「じゃあ、倒してから行くだけだ」

「やってやらぁ」

 

 もぎもぎを投げ、テープを設置し、相手の動きを制限できる自分たちの戦いやすいフィールドを作ろうとするが元々ある罠や尾白の邪魔により上手くいかない。直接相手を狙ってもかわされるので個性の限界を考えると動くに動けない。

 

 尾白は無理に倒そうとする必要はなく、対峙し続けることで屋上に二人を足踏みさせておくだけでいいのだ。深追いして動きを封じられない様に一定の距離を保って二人の動きに注視している。

 

 峰田は尾白に目掛けてもう一度もぎもぎを投げつけるが、さらりと尾白はそれをかわす。そのかわした先にテープを伸ばす、それもかわして反撃に入ろうとした時、瀬呂がテープを回収するのではなく、巻き取りに合わせて急接近する。尾白はそれに合わせて咄嗟に尻尾で反撃を行うが瀬呂はそれを先ほどまで峰田が持っていた盾で受ける。

 

「ぐっ、痛いねぇ。けどこれで尻尾は動かせなくなったんじゃないかな」

 

 尻尾の先にはもぎもぎとテープで作られた盾が引っ付いており、攻撃を行うわけにはいかない状態になっている。瀬呂の方は攻撃が完璧でなかった事に加えてもぎもぎが意外と衝撃を吸収してくれたようで直撃を受けたが戦闘不能にはなっていない。

 

 普段から使っている尻尾が使えないというのは考えるよりは辛い物となるだろう。尾白にとっては尻尾は合って当たり前の物で、無意識に使いそうになるのを止めて行動しようとすると少しだが行動に遅れが出る。

 

 後は体勢を崩させることが出来ればその時点でアウトだ。素直に手を着いてもそこを捕捉され、うっかり尻尾を地面につければそこから動けなくなる。少しの戦闘の後で尾白に確保テープが巻かれた。

 

 

「よし、時間が無い急いで降りるぞ」

「大丈夫なのは分かってるが、怖えぇ」

 

 手すりにテープをくっつけてからビルの側面を急いで降りる。先ほど内側から開けた窓は閉じられており、屋上の階段が使えなくなっている以上はしょうがないと思い窓を破って入る。

 

 尾白が捕まったことは八百万にも伝わっている。となると疲れているとはいえ2対1の戦闘をするとは思えないので何処かに核と一緒に隠れているのだろう。

 

「ダミーが多すぎるし、罠が復活してるね」

 

 ダミーが多すぎる事に加えて、尾白と戦っている間に手が込んだものは無いがいくつか罠が追加されている。ビルに入る所と復活した罠に気を取られて残り時間は既に1分を切ったところだ。運よく核を見つける事が出来ない限り勝てそうにない。それでもあきらめずに二人で探索を続けたが核も八百万も見つからなかった。

 

 

 

 

 

「はい、という事でヴィランチームの勝利だったが、今回のMVPは誰か分かるかな?」

 

 誰も手をあげない様子なので仕方が無いと山稜が手をあげる。

 

「MVPは八百万さんですね。制限はあるようですが何でも作れる個性を最大限に活用して、ヒーローにプレッシャーを与えてました。罠があるというだけで神経を使いますし、偽物を混ぜる事で個性の節約と相手に頭を使わせてます。違和感を持たれない様に核を隠すスペースの張りぼてを全ての階に作った点も凄いですね」

 

 何かがおかしいと瀬呂も感じていたが、下の階と同じだったために気付けなかったのだ。今までの戦闘も見ていたがカメラ越しの情報と実際に見た情報だとやはり後者の方が頭に残りやすいのだろう。

 

「うんうん。八百万女子が居なければ成り立たない作戦だったからね。自身を活かすというのは何をするにしても重要となってくる。自分はこれが出来ますってはっきり言えるぐらいの能力があればヒーローとしての宣伝にもなる。自分は何が出来るのか、その中でも自分にしか出来ない事を探す事は大事だよ」

 

 

「「「「はい」」」」

 

 

「尾白少年も時間稼ぎに主軸を置いて、戦闘を長引かせるように動けていたね。尻尾と言う自分のアドバンテージを活かした戦い方も中々のものだった。最後の反撃で分かっていると思うけど、尻尾が使えなくなった時の事も想定して訓練していけば更によくなると思う。堅実な戦い方だからこそ崩された時の対策が大事になる。次の一手を常に考えることは作戦を考えるうえでも必要な力だからね」

 

 

「尻尾が無くても……個性に頼らない戦い方か」

 

 出来る所を伸ばすのも大事であるが、出来ない所のカバーが出来れば隙が無くなる。完璧な人間などいる訳も無いが出来ない事をそのままというのはかっこ悪いだろう?とオールマイトは続ける。

 

 

「次にヒーローチームだけど。お互いの個性を理解したうえで出来ることを模索し続ける姿勢が実に良いね。一人ではできない事は多いけど、二人だからこそ出来る事も多い。不利だと分かっているからこそどうにかしようと工夫を続けていた。峰田少年も瀬呂少年も個性の限界があるから、余計に考えて行動しないといけなかった。そんな状況で尾白少年を確保出来たのは二人の頑張りの証明だよ。仕方がないとはいえ窓を蹴り破ったのは減点だけれども現場では一二を争う事態と言うのは少なくない。今回の様に時間制限だったり、人命が危ぶまれる時も立ち止まってはいけない。判断力と言う点では高評価でもある」

 

 間に合わなかったの言葉で済ませられない職業である。ヒーローとして今何をしなくてはならないのか、優先順位を決めて行動できるのは強みとなる。

 

 直接的な戦闘が得意なのが少ないという少々珍しい組み合わせでの戦闘だったが、だからこそ考える事の重要性を知ることが出来ただろう。

 

 



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06 戦闘訓練 4戦目 5戦目

 4戦目は蛙水、常闇ペアVS上鳴、青山ペアである。上鳴は狙った場所への攻撃こそできないが、電撃は準備が無ければ防ぎようのない攻撃だ。青山のレーザーも断続的で直線にしか放てないがその威力は非常に強力である。だが、この二人の個性では素直に迎え撃つことしか出来ない。

 

 蛙水の個性は『蛙』、蛙っぽいことが出来るという割とアバウトな個性である。その中でも脚力と長い舌を用いた攻撃には目を見張るものがある。今回はヒーローとしてどの様に立ち回るのかに注目が集まる。

 

 常闇は黒影(ダークシャドウ)という伸縮自在の影の様なモンスターを操作しての戦闘で、特徴としてはモンスター自身に知性があり、会話することも可能な点だ。攻防一体で隙が出来にくい、強力な個性だ。

 

「特にビルの中だと上鳴は攻撃しにくいだろ」

「下手をしなくても青山を巻き込むからな」

「核の近くでの放電もアウトでしょう」

「かといって青山君は部屋の中で待ち構えるより、細長い廊下とかを利用した方が戦いやすいはず、レーザーを生かすのであれば、その速さと威力を最大限に発揮できる環境が必要だ。コスチュームの仕組みを見る限りレーザーを折り曲げる事は可能みたいだけど、直線的という弱点は直らない。となると弱点をカバーするならば攻撃の数を増やすのが手っ取り早い」

「でも青山は1秒以上射出できないから結局隙は生まれるんじゃねぇ」

 

 今回は連携が取りにくい組み合わせを考えるにヴィラン側が少し不利なのではという意見が多い。それでも3戦目の峰田・瀬呂ペアの様に何かを見せてくれることに期待しながら始まった試合を見守った。

 

 

『ヒーローチーム、スタート』

 

「頼むぞ、黒影」

〈はっ、任せとけ〉

 

 

 始まると同時に常闇は黒影をビルの中に放った。素早いスピードでビルの中を駆け巡る黒影は十数秒で探索を終わらせて見せた。これまでワンフロアの探索は数十秒、妨害があれば1分以上かから場合もあったが、観戦している面々も感心している者が多い。

 

 

「なるほど。意思を持った個性が直に見た情報を頼りに出来るというのは捜索系では強みになるな」

「その分、常闇自体が無防備になるがそこはチームである蛙水がカバーに入るか」

二つの意味(仲間と個性)で一人では無い事を上手く使っている」

 

 その後も入り口で立ち止まって入るものの、周囲を警戒しながら黒影が他の階の探索を終えるのを待つ。すると3階で核を見つけたという情報と共に黒影が帰って来た。

 

「敵は?」

〈核までの道を塞ぐように青山が立ってたぜ〉

「ケロ、上鳴ちゃんは居なかったのね」

〈ああ、一人しか見えなかったな。もう一度行くか?〉

「いや、探索の後に居場所を変えられたら無意味。二人は何処に居るか分からない前提で動く」

 

 核とその周辺に関して、変わることの無い確定した情報を元に作戦を詰めてから行動に移していく。

 

 

「常闇君が青山君と接敵したぞ」

「レーザーは速いが避けれてる。いや、ちょっと危ないな」

「黒影って奴、レーザーを避けてるな」

「影の特性から考えると光が苦手なのか?」

 

 黒影を身に纏う深淵闇駆(ブラックアンク)という技を用いて身体の駆動をサポートしているのだが、レーザーによって発生する光の影響を受けてしまっている。当たらなければ日光下と変わらない程度の動きは出来ているが、一度掠った時に大きく動きの勢いが削がれている。

 

 迂闊に近づけない状態の中でどうにか影を伸ばして攻撃を仕掛けるが、距離が空いていれば流石に避けられる。黒影は避けられ先に合った窓を破るだけで終わった。少しずつレーザーで削っていけば青山に勝ちが見えるかと思われたが、常闇はその場から離れる。

 

「なっ、逃げるとはヒーローらしくないねぇ」

「負けた訳でもないのに恥じる必要が何処にある。戦略的撤退だ」

 

 青山は追うか、見逃すかで悩んだが核から離れる訳にもいかないのでそのまま常闇を逃した。常闇は相性を再確認すると、やはり厳しいと感じる。となると出し抜いて核に触れるか蛙水に捕まえてもらうかをした方が良い。しかし、核の周辺を青山に任せるのは理解できるのだが

 

「上鳴が核より下の階に陣取っていなかったのが不穏だ」

 

 ビルと言うフィールドの関係上、基本的には下から上への探索が行われる。となると核にたどり着く前に邪魔をするのであれば2階の何処かに潜んでいると踏んでいたのだが、見つからなかった。

 

 準備が終わっていないのか、それとも奇襲を仕掛けるタイミングを計っているのか、蛙水の方を探している可能性もある。そんなことを考えていると別行動中の蛙水から通信が入った。

 

『上鳴ちゃん、屋上の瓦礫の中から金属を含んだ物を取り出してたみたい』

「金属……攻撃の仕掛けか」

 

 鉄骨や手すりなどは勿論、扉の手すりや蝶番などにも金属はある。電熱を用いれば金属部分を取り出す事も出来るだろう。金属は電気の通り道としては最適であり、完璧では無いだろうが攻撃に指向性を持たせられるのであれば十分使える。

 

「移動済みか?」

『核の上の階に今設置してるわ』

「すぐに向かう。準備をしておいて欲しい」

『けろ、分かったわ。常闇ちゃんも気を付けて』

 

 上の階に上がるとせっせと仕掛けの準備をしている上鳴と目が合い、あちらこちらに置かれた金属には目もくれず、黒影を身に纏ったまま突っ込む。

 

「無差別放電130万V」

「悪いがそもそも俺に電気は通らない」

「電気だけが目的じゃねえよ!!」

「な、ぐっ?!」

 

 上鳴によって周囲に設置された金属へ電気が迸る。そして大量の電気を帯びた一部の金属が磁力を持って、他の金属と引き合い、金属を含んだ瓦礫が宙を飛び交った。その隙に黒影を潜り抜けて直接電気を流し込むと常闇に掴みかかるが、大きく飛びのいて避ける。

 

「悪いが、負ける訳にはいかないんでな」

「ちっ、黒影って奴を纏ってる所為か?」

 

 黒影を纏っていた事でそれなりの加速度で瓦礫がぶつかったにも拘らず、それほどダメージは入っていなかった。元々ある程度当たれば良いなと言う大まかな配置で置かれていたのもあり、最初の瓦礫以外は綺麗に当たる事は無かった。

 

 一度限りの変わり手で、最初のチャンスを逃した時点で上鳴の勝つ道筋は途絶えた。上鳴は万が一の際を考えて核の付近でも電撃を扱うための避雷針の用意の他にも通信で常闇が一人で青山と戦っていると聞いたときから蛙水の捜索も行っていたのだがそれも見つけられることは無かった。

 

 既に負けは見えているが、少しでも時間を稼がなくてはならないと距離を取りながら何とか常闇の攻撃を避けるが、1分後に黒影に掴まって身動きが取れない状態にされた。確保テープを巻きつけられ、上鳴は脱落となった。

 

 

「負けたか、ちくしょう悔しい」

「横から瓦礫が叩きつけられたのには驚いた」

「へへ、電気が効かない相手にどうにか一撃いれようと俺にしては頭を使って頑張ったんだぜ」

 

 訓練の設定上からして不利だった上鳴がどうにか貢献しようと頑張った結果である。勝てこそしなかったがよく思考して訓練に望み、予測できない形で(新しい方法を生み出し)一撃を入れたというので訓練の成果としては十分だろう。常闇は蛙水に上鳴を倒した事を伝えると、また青山が守っている核の前に向かう

 

「上鳴君は倒されっちゃたんだってね」

「次はお前だ」

 

 青山は常闇を牽制し続ける。そうしなければ核まで一気に駆け抜けられてしまうので、断続的なレーダーを数打ちゃ当たるという風に狙いも考えずに通路を埋めるために繰り返す。

 

「蛙水ちゃんは何処に行ったのかな?」

「気になるのなら探しに行ったらどうだ?」

 

 この場に()()()()()()蛙水が何かしようとしている事は誰が考えても分かる。始めから一度も姿を確認できていないのだから警戒は強い。ちらりと常闇が攻撃で割った窓の方を見て見るが、侵入しようとしている姿は見えない。

 

「窓の外が気になるのか?」

「いや、僕の思い違いだったみたいだよ」

 

 戦闘の途中で核から大きく離れる訳にもいかなかったので本当にちらっと見るだけで済ませてしまった。そのせいで青山が違和感に気付くことは無かった。

 

「ケロ、核確保したわよ」

「えっ?!」

 

 

 いつの間にか核の傍に立っていた蛙水の姿に青山は驚いた。本当に何時近づかれたのかが分からなかったので困惑していたが、オールマイトの終了の合図が響いて我に返ると部屋へと戻る。

 

 

 

「さて、今回も見どころの多い一戦だったね。まずは勝ったヒーローチームの常闇少年と蛙水少女から講評をしていこうと思うが、青山少年は最後に蛙水少女が何をしたのか分かったかね」

 

「全然ですね」

 

「画面での確認だと更に分かりにくかっただろうが、分かった子はいるかな?」

 

 オールマイトの声掛けに八百万が手をあげた。

 

「予想ですが保護色ではないでしょうか?」

「ケロ、正解よ」

 

 蛙水は体ビルや風景と同じ色にすることで見つかりにくい状態を作り出していたのだ。最初から保護色を全開で使い、ビルの外側に張り付いて青山や上鳴の情報をリアルタイムで伝えていたのだ。青山が窓を覗いたときは焦ったが、一瞬だったため気づけなかったのだ。

 

「今回のMVPは蛙水少女かな。核を確保できた功績もそうだけど、全体的に索敵もこなして常闇少年が戦える状況を作っていたのもポイントだ。見つからない事で相手は緊張し、味方は戦いやすくなる」

 

「常闇少年は負けない立ち回りを意識して距離を取りがちだった点と個性に頼りがちだった点を考えると少し減点だね。もちろん、上鳴少年を倒したり、青山少年の意識を逸らした点は良かったよ。判断力に優れているようだから、自分の力をもっと上げられれば正面から戦っても苦戦することも無かったと思うよ」

 

「上鳴少年は核の周囲で攻撃できないという弱点が痛かったね。それを解消する準備もしていたけど、常闇少年の影には電気は通らないと全体的に相性が悪い試合だったね。そんな中で工夫を凝らして2段構えの仕掛けによる不意打ちを作り出したのは素晴らしいかった。電気は対策をされやすいから電気を利用した何かを考えるのは非常に有効だよ」

 

「青山少年は自分の個性を生かすための場所をしっかりと考えられていた。常闇少年の個性の特性をすぐに理解し、光を消さない様にレーザーを撃ち続けていた。威力が高いし通路が狭いから適当に撃っても問題は無かったけど狙いを素早く正確に定められるようになればもっと良くなるよ」

 

 勝利したヒーローチームはもちろん。工夫しにくい個性を発展させるか、活かせる場所を作るかとそれぞれ違う方法でカバーしたヴィランチームの評価もそれほど悪くは無かった。これで後は最後の二組となった。

 

「緑谷、切島ペアと爆豪、飯田ペアか」

「緑谷はあの0ポイントヴィランを倒したパワーがあるし、切島も純粋な防御力と攻撃力は高い」

「爆豪の爆発もやべえだろ。それに飯田のスピードも」

「だけどあの様子じゃあな」

 

 一同は、二つの画面に映る、言い争う二人を眺めていた。爆豪もこれまでの戦いを見て、思う所はあったようだがそれ以上に許せない何かがあるのか、作戦の相談もせず独断専行を宣言する。一方で緑谷と切島の方は何の問題も無く意見を交換し、作戦を練っている。

 

「爆豪相手に言い争い出来る飯田に俺尊敬するわ」

「怒りの所為か普段より酷い面だな」

 

 そのまま碌に準備も出来ないままにヒーローチームのスタートの時間はやって来た。それと同時に言い争いから逃れ、宣言通り飛び出していった。そうなると止めようにも間に合わないのは分かっているので、飯田は核を守るために部屋に残るしか選択肢がない。

 

「訓練の意味を理解したうえでああするって事は何かあるんだろうが」

「ケロ、飯田ちゃんからしたらたまったもんじゃないわね」

 

 緑谷は爆音を轟かせながら近づいてくる爆豪に直ぐに気づき、元々爆豪は一人で突っ込んでくるだろうと予測していたため、迎え撃つのに途惑うことは無かった。

 

「クソデク、テメェ避けんじゃねえ」

「今までずっと見てきたんだ。かっちゃんの動きは分かるよ」

 

 そう言って攻撃を避けると爆豪の腕を掴んで叩きつける様に投げる。綺麗に決まったかと思うがすぐに爆破の勢いを利用して起き上がって殴りかかってくる。

 

「無個性じゃなかったのか!?ゴラァア!!」

「!」

「今までずっと隠してやがったのか、テメェ!!」

「隠してたわけじゃない、けどこれが今の僕だ」

「ふざけんな!榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!」

「させるか、烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)!!」

 

 殴った反動で飛び上がるとそのまま空中で爆破を連続で発生させて錐揉み回転しながら突っ込んでくるが、そこに硬化した切島が割り込んで邪魔をする。そのせいで十分に勢いが出せない状態で技を出す事になる。

 

「クソガアァァ!!」

「スマッシュ」

 

 スロースターターなことを考えれば勢いが殺せれば爆発の威力は指一本のダメージだけでも吹き飛ばせるだろう。そう踏んで放った一撃は苦し紛れに放った爆発を飲み込んで爆豪を壁に叩きつけた。

 

「テープ巻いたぜ」

 

 切島が起き上がる前に素早く確保テープを巻いて爆豪は確保となった。納得がいかない顔で緑谷を睨みつけているが、ここで殴りかかろうとしない所を見るにまだ理性はあるようだ。緑谷と切島は飯田がいるであろう核の場所へ向かった。

 

「来たのかヒーロー。核には触れさせないぞ」

 

 爆豪の所為で一人で緑谷たちを相手しなければいけない飯田、しかし自分のヴィランとしての役回りを演じながら二人相手に全力で挑もうとしてくる。

 

「同情はするが、加減はしないぞ」

「元よりそんな必要はない。レシプロバースト!!」

 

 核のある部屋を守るために飯田は入り口を死守するしか方法は無く、二人がかりで向かわれれば長くは持たないと判断し、最初に1人を捕まえるつもりで超過速状態で突っ込む。

 

 いきなりの急加速に驚いたのに加え、飯田は切島が狭い入り口を通る瞬間、避けにくい状態を狙った。だが事前に硬化していたためダメージは最小限で済んだ。

 

烈怒交吽咤(レッドカウンター)!!」

 

 そのまま硬化した拳で殴って飯田を吹き飛ばしている間に緑谷が核に触れ5戦目も終了となった。飯田も受け身は取っていたようで衝撃はあったがダメージはそれほどでもないようだ。しかし、一泡吹かすことも出来ず、結果を残せなかった事には落ち込んでいるようだ。

 

 

「はい、じゃあ最後の講評に入ろうか」

 

「MVPは緑谷少年だね。事前に相手が取ってくるであろう行動に対して迎え撃つ手を事前に考えられていた。個性による反動や破壊を極力減らせるように立ち回れていたしね。切島少年も戦いに割って入る勇気とタイミングはばっちり。最後の飯田君へのカウンターも流れる様に動けていた」

 

「対してヴィランチームだけれども、爆豪少年は仲間相手に非協力的、独断専行が目立つのは大幅に減点になるだろうね。やる気や気合といった物は大切だが感情的になりすぎてはいけない。飯田少年は自分にできる事を精一杯やれていたよ」

 

「これは訓練だったけれど、実際にはもっと危険で悪質な事件も多い。今回の訓練に臨んだ事で何か掴めた、気付けたことがあるようなら嬉しいし、それが何であれより経験を積んで自分が目指すヒーローへ近づけられるよう頑張って欲しい」

 

 そう言って戦闘訓練は締められた。自分の個性の使い方と協力、戦略などについて学べたものが多い授業となった。全員がクラスで訓練の反省会を行う事になったが爆豪は舌打ちを一つすると一人で帰って行った。

 

「ん、緑谷どこに行くんだ。反省会お前は絶対来ると思ったけど」

「あっ、山稜さん。ちょっと行かないといけない所があって、遅れて行くよ」

 

 個性の使用で指を壊していたので保健室かとも山稜は思ったが向かっている先は爆豪が去って行った方向だと気付いてなるほどと心の中で納得して送り出す。

 

「色々と事情があるのかね」

 

 どこも大変なのに変わりないのかもな、と呟くとクラスメートが待っている教室へと戻った。



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07 委員長とマスコミ騒動の裏側

 戦闘訓練の翌日の朝。オールマイトが雄英高校の教師になった影響で校門の前にマスメディアのカメラやマイクが山のように集まっていた。捕まると面倒と思い、心操と共に少し離れた位置に隠れた。

 

「プリズムで中に入ろうか」

「個性の無断使用だが、しょうがないか」

 

「流石に許可なし(それ)はダメよ」 

 

 突然後ろから聞こえてきた声に驚き身構えるが、そこに立っていたのは私服姿のミッドナイト先生だった。普段の過激な衣装とは印象が全然違うので一瞬分からなかった。

 

「迷惑なマスコミには先生方が対応してるけど、生徒の邪魔になってるのは確かだから。私が使用許可を出すから何人か、困ってる生徒も連れて中に入ってちょうだい」

 

 ついでに私も送ってと付け足して個性の使用許可を貰った。既にマスコミと接触している生徒やマスコミをものともせずに登校している生徒は放っておくとして、遠目で見てどうしようかと悩んでいる生徒をプリズムで包み込んで転送していく。最後にミッドナイト先生を職員室前に飛ばして、自分と心操を教室に送る事で上手くマスコミは回避できた。

 

「昨日の戦闘訓練、お疲れ。Vと成績見させてもらった。全員初めてにしては上出来だ」 

 

 朝のHRの時間、門でマスコミの対処をしていた筈の相澤先生は遅れずに来た。流石は雄英職員、こういった騒動なんかにも慣れているのだろう。それにしてもまさか相澤先生が分かりやすく褒めるとは思ってもいなかったので全員驚いている。

 

「だが爆豪、お前もうガキみてえな真似するな。焦ってるのかは知らんが能力あるんだから」

「……分かってる」

 

 流石に爆豪の所業はきちんと伝わっているようでかなり厳しめに注意が成された。爆豪も思う所があるのかまあまあ素直な声色で返している。

 

「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに学級委員を決めてもらう」

「「「「学校っぽいの来たーー!!!」」」」

 

 全員が好き好きに自分がやりたいと手をあげているが、そう言った面倒事は避けたい私と心操は手をあげずに状況を見ているだけにとどめた。このまま騒ぎが収まらない様なら相澤先生から注意される前に止めるのはやぶさかでは無いがその必要は無かった。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

 この声は飯田君のものだろう。突然の大声に騒ぐ皆が一度静かになり、飯田の方に視線が集まる。

 

「"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……「やりたい者」がやれるモノではないだろう!!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!」

 

 自身が手を挙げていては、説得力があまりないと思うが、実際短時間で決めるなら投票も良い手段だろう。万が一にも票が集まる事の無いように自分への投票は控えたい、とは言え誰に入れようかと少し悩んだが、苦労が似合っている奴が居たなと失礼な事を考えつつ緑谷の名前を書いて入れた。

 

「僕に4票も!?」

 

 かなり驚いている様子を見ると悪い気もしてくるが辞退するつもりは無いようだ。どうやら心操も緑谷に入れていたらしい。私らを除いても2人から票を得ているのだから私たちが居れなくても八百万と同票だったのだからそこまで問題でもないだろう。

 

 緑谷はいざ自分が委員長となると自信が無いのか、少し狼狽えていたが周りからのしっかりしろという応援とも揶揄いともとれる声を聞き、壊れたロボットの様にみんなの前で意気込みを語ってくれた。

 

 午前の授業が終わり、いつも通り弁当の昼食を食べ終わり頭を休ませていると、何やら校内が騒がしくなり、話に耳を傾けると侵入者という事なので感知用プリズムを校内全体に広げる。その結果殆どがマスコミであるという事が分かった。

 

「心操、ちょっと来てくれ」

「ん、ああ。分かった」

 

 暗示の練習をしている心操の方を少し強めに叩きながら用件を伝えて、職員室の方へと二人で向かった。すると

感知した通りの人影が確認できた。

 

「あいつらが原因か?」

「たぶんね」

 

 あえて話をしながら姿を見せる様に人影に歩いて行く、向こうは向こうでこの場所に人が来るとは思っていなかったようで、驚き半分苛立ち半分といった表情で此方を見てくる。

 

「黒霧、なぜ今此処に生徒がやってくるんだ?」

「言動から考えて此処に我々が居ると知って居てきたようです。どちらかの個性が索敵や感知に特化していると考えるのが妥当でしょう。となると既に雄英の教員にも知られていると考えるべきでしょう」

「ちっ、カリキュラムは手に入れた。撤退だ」

 

 黒い靄の様な物が広がったかと思うと彼らがゆっくりと歩いて行く、これだけ油断してくれているのなら十分引っ掛かってくれそうだ。心操がその場で声を掛ける。

 

「生徒を前に逃げるとは、なんとも臆病なヴィランが居たもんだな」

 

「あぁ!?今すぐ殺してやろうか?」

「死柄木、やめなさい。今はこの場を離れるべきです。」

 

 反応を示した時点で失策なんだよ。

 

「威勢だけは良いみたいだな。まあ、忍び込んだのも勢いだけのくだらない目的だろう」

 

「はっ、俺達がやろうとしているのはNO1ヒーローであるオールマイトの抹殺だぞ。くだらなくなんてないそこらの陳腐なヴィランでは到底成し得ない大事件だ!!」

 

「へぇ、そんなことをするなんて凄いんだな。それならお前らの個性もさぞかし凄いんだろうな」

 

「当たり前だ俺の個性は『崩壊』五指で触れた対象を崩壊させる。黒霧は侵入した時にも見せたがワープゲートの役割をこなす、そして何より先生の個性は「死柄木!!??」」

 

「先生って言われるぐらいだ。凄いヴィラン何だろうな?」

 

「当たり前だ!!かつて裏社会を支配した伝説のヴィラン、『AF(オールフォー)……」

 

(やってくれましたね。対応が遅れました)

 

「馬鹿のお守りはそれなりに優秀のようだな」

 

 こちらの声に応えずにこちらを憎々し気に睨みつけてくる。そのまま黒い靄の中へと消えていった。

 

「マスコミを利用して騒動を起こしてからの侵入、組織だった行動、裏にいるらしい大物」

「とりあえずは報告だな」

 

 勝手に侵入したヴィランの下へ向かった事にはお叱りを受けたが、情報は職員会議の議題の内容として慎重に扱うと言われた。しかし、聞き取れなかった『AF』の事を話した際にオールマイトの驚きが気になった。もしかして本当に大物なヴィランなのだろうか?

 



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08 USJ襲撃①

投稿の仕方間違えました。今回は4話登校します。
これが一話目です。残りも急いで投稿します。


多機能入力フォーム?とやらを使い始めて見ました。
慣れないし、知れない単語ばかり。

USJはガラッと展開が違います。
理由は後書きにて書く予定です。
嫌だなと言う人は此処でリターン。


 昼休みに起こったマスコミ騒動の後、緑谷は自ら学級委員長の座を飯田に譲り渡した。なんでも、食堂での混乱をいち早く収めることが出来たんだとか、飯田も緑谷の言葉に心打たれた事もあってそれを素直に引き受けた。まあ、馬鹿が付くほど真面目な奴だし、やりたがっている奴がやるのが一番だろうしな。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に2列で並ぼう!」

 

 ヒーロー基礎学の授業で『人命救助(レスキュー)』の訓練を行うためにバスに乗るそうだ。早速委員長として、意気揚々と二列ずつにクラスメイトを並ばせたはいいが、バスの席配置は飯田の思っていたものとは違った座席であったことから結局自由に座る事となった。

 

「クソッ!!こういうタイプだったか!!」

 

「もうちょい柔らかく考えることが課題だな。委員長は」

 

 そんな経緯があって私たちは、レスキュー訓練を行う訓練場へと向かうバスに乗り込んだところだ。私は電車の様に一列に横並びに並んだ席ではなく、二席ずつ区切られた席に心操と腰かける。全員が腰を下したのを確認した運転手がバスを走らせたと同時に蛙水が緑谷に問いかけた。

 

「貴方の個性、オールマイトに似てる」

 

 突然、蛙水の口から飛び出た言葉に緑谷は言葉に詰まった。増強型である事と、出力の高さから考えても似てる個性と結びつけるのは何らおかしくはない。緑谷が何を言うかあたふたとしていると、見かねたのか切島が梅雨に声を掛けた。

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しないぜ?似て非なるアレだって」

 

 切島の言う通り緑谷の肉体が彼の持つ個性に追いついていないという事。思い切り個性を行使すれば行使した箇所の骨が折れたり、筋繊維がズタズタになって使い物にならなくなるのだ。これは余りにもデメリットが大きい。回復系の個性は少なく、サイドキックで探しても可能性はほぼ0である。制御できなければこの先はどんどん厳しくなることだろう。

 

「しっかし増強型のシンプルな個性はいいなぁ!派手で出来る事が多い!俺の硬化は、対人じゃ強ぇけどいかんせん地味なんだよなぁ」

「僕は凄いカッコいいと思うよ!プロでも十分通用する個性だよ!」

「プロなぁ、しかしヒーローも人気商売みたいなトコあるぜ?」

 

 ガチリ、と自分の腕を硬化させる切島。しかし、攻撃を防げるというのは結構な強みである。硬さはそのまま威力にもつながる。私の個性だって工夫しやすいがゆえに派手に見えるが、本質は防御よりでどちらかといえば切島と同じ分類である。

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並みさ」

「でもおなか壊しちゃうのは良くないね」

 

 待っていましたとばかりに会話に割り込んできた青山の個性のネビルレーザーも威力や精度はとても素晴らしい物があるが、芦戸の言う通りお腹を壊すと言うのが、そのままデメリットになってしまう。壊しても出ない様に絶食でもしてみたらどうだろうか。まあ、痛みで動きが落ちればどちらにせよ戦えなくなるだろうが。

 

「でもまぁ派手で強ぇって言ったら轟と爆豪、それに断トツで山稜だよな!」

 

 切島が後部座席の勝己と焦凍、そして私を見る。勝己はどうでもいいという具合に鼻を鳴らし、焦凍はそもそも寝ているようで話は聞いていないようだった。私としては手札をばらす気は無いので、我関せずとすまし顔で返す。

 

「余裕ですって顔だな。意外と勝気な性格なのか山稜?」

「まあ、良い性格してるとよく言われるかな」

「それ誉め言葉じゃねえぞ!?」

 

 主に言ってくる相手は隣で私以上に話に参加する気が無く、寝たふりを続けている心操なのだが、二人で訓練となると基本的には個性無しでの物が多くなるのだが、戦い方がうざったい、やらしいなどとよく言われる。女子に対してやらしいとはなんだ。私は純粋に嫌がりそうな手を打ち続けているだけだ。

 

「でも爆豪ちゃんはキレてばっかりだから人気出なさそう」

「んだとコラ出すわ!!」

「ほら」

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげぇよ」

「テメェのボキャブラリは何だコラ!!コロスぞ!!」

 

 勝己が蛙水の全くと言っていい程オブラートに包まない言葉に対して怒って身を乗り出したが、上鳴の煽りに反応して即座に矛先が変わった。そうこうしているうちに騒がしくなった車内に相澤先生の到着の合図がかかった。

 

「…そろそろ着くぞ。いい加減にしとけよ」

「「はいっ!」」

 

 担任の一言に全員すぐさま静まり返る。言葉通りに、ほどなくバスは停車し、順に降り立った。訓練場らしきドーム型の建物の前でバスから降りた私たちを迎えたのは、宇宙服と思わしきコスチュームを着込んだ初めて会う先生。

 

「皆さん、待ってましたよ」

 

「スペースヒーロー、"13号"だ! 災害救助でめざましい活躍をしてる、紳士的なヒーロー!」

 

 緑谷の言葉通り、救助活動を主とするヒーローで、そういった方面での活動をメインにと考える奴らは喜びを隠せない表情だ。中でも麗日の喜びようは一際激しい。たしかに麗日の個性は救助向きである。瓦礫などの撤去は勿論、必要な物資の運搬などでも彼女が居れば一気に効率が上がる。高い所からの脱出などにも持って来いである。まあ、本人は酔ってしまうのでその脱出は利用できないのだが。

 

「すっげー!USJかよ!」

 

 13号の案内で建物の中へと入ると、ウォータースライダーの様な物や、また別の小さなドームがいくつかあったりと、鋭児郎の言うUSJという例えもよくわかる程エリアごとに分割されたテーマパークのようだった。

 

「水難事故、土砂災害、火災、暴風、その他…ありとあらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名もウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)!略してUSJ!!」

 

 それで良いのか雄英高校。一応国立の学校のはずなんだが、好き勝手し過ぎでは無いだろうか。ホントにUSJだったと心の中で突っ込みを入れている者達が多くいる中、先生たちは生徒の反応を無視するかのように話を進めていく。

 

「じゃぁ始めるか」

「わかりました、それでは始める前に一つ…二つ…三つ…四つ…五つ…六つ…七つ…。ゴホン、皆さんご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

 成程、となるとその個性で瓦礫を除去したりできる訳か…とても便利な個性だ。吸い込むという事は引力、物理的な力になる訳だが、たぶん継続的に使用が可能だろう。となると私の『プリズム』では比較的防ぎにくい個性となる。

 

 一応、プリズムの固定化は出来るが、固定し続けようと思ったらどれくらいエネルギーのストックを使うだろう。物理エネルギーは貯めにくく、変換してある分しか使えない。殴る蹴るなどのその場での衝撃を吸収するのとは別で此方に向かってこない攻撃はどうしようもない。『引き寄せる』などの個性に対しては防げないのだ。対策としては範囲外にワープして外から削るなどしかないだろう。

 

「しかし、この個性は簡単に人を殺せてしまいます。皆の中にもそういう個性がいるでしょう。超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を個々が持っている事を忘れないでください。相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では、心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んで行きましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと、心得て帰ってくださいな。以上、ご清聴ありがとうございました!!」

 

 素晴らしい演説をしてくれた13号先生にほぼ全員が拍手と称賛を送った。そう言ったヒーローばかりであれば本当にいいのになと、悪態をつく様に私は形だけの拍手を送った。人の本質なんてそうそう変わらない。上っ面だけのヒーローも助けてもらえると高を括っている連中もそうだ。助けるためになんて殊勝な考え方で動いているヒーローがどれだけいるのか手をあげて訊いてみたいね。

 

「『落ち着け』」

「……分かってるよ」

 

 少しクラスの面々が落ち着いたのを見計らって相澤先生が生徒を誘導しようとしたとき、周囲の照明がバチリと明滅を繰り返して切れ、噴水の勢いが断続的に途切れた。何事かと周囲を見回した時、噴水の手前に黒い靄の様な物が現れたのが見える。靄は大きさを増し、靄の中から人の様な物が見えた瞬間相澤先生の表情が緊迫した物に変わった。

 

「一塊になって動くな!13号!!生徒を守れ!!」

 

 靄からゾロゾロと出て来る人間を見てクラスメイトが首を傾げる。同じく靄の中からゾロゾロと様々な人間が出て来るのを見ながら、何人かは手に凶器のような物を握っているのが見えた。

 

 

「何だありゃ、また入試の時みたいなもう始まってるパターンか?」

「止まれ鋭児郎。あれは恐らく――」

「ヴィランだ」

 

 一歩前に出ようとしていた切島を心操が慌てて肩を押さえて引き留めた。私は心操の言葉に続くよう、全員に聞こえる声でヴィランの襲撃を伝えた。相澤先生は生徒の様子を一度確認した後に改めて緊急事態である事を認識させるために叫んだ。

 

「ひとかたまりになって動くな! あれは、ヴィランだ!」

 

「例の連中かな」

「となると俺の対応はされてそうだな」

 

 考え無しの多数の手を付けていた男だけであれば怒りのままに向かってきてくれそうだが、黒い霧の男は戸惑いから対応が遅れたが瞬時に仲間の口を封じて、その場から逃げ出すだけの頭があった。危険と判断し、個性を調べられていてもおかしくない。

 

「ハァ!?ヴィラン!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホ過ぎるぞ!!」

「先生!侵入者用センサーは?」

「勿論ありますが…」

 

 八百万の言葉を聞き13号は周囲を見渡す。恐らくここにもセンサー自体は設置されているのだろう。しかしそれが反応しないとなると、故障かはたまた故意に妨害されているのか。まぁ間違いなく後者だろう。

 

「現れたのはUSJここだけか…学校全体か…。なんにせよセンサーが反応しねぇなら相手にそういうことが出来る奴がいるってこと。校舎と離れた隔離空間、そこにクラスが入る時間割……馬鹿だがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 落ち着いた様子で焦凍は相手の目的を推測していく。こういった場面で冷静な人間がいてくれるのは心強い。しかし、ヴィランの目的については幾つか引っかかる所があるが、元々の予定ではこの授業にオールマイトの参加予定があったはずだ。そう考えると足手まといな生徒が居る場で襲撃と言うのも納得がいく。

 

「どこだよ、オールマイト…。せっかくこんなに大勢引き連れてきたのにさ…」

 

 

子供を殺せば来るのかな?

 

 

「先生、あいつが死柄木です」

「情報通りの姿だな」

 

 死柄木と呼ばれていたリーダー格であろう男が物騒な事を言いながら現れた。先生方には個性を伝えてあるので心配は要らないだろうが、クラスメイトは知らないはずだ。

 

「あいつは死柄木、個性は『崩壊』発動条件は五指で触れる事だ。触られない様注意しろ」

 

 どうしようかと思っていると、相澤先生がいち早く情報を全員に伝えた。どうして知っているのだろうかと考える者もいたが、ほとんどは個性の危険性を感じ取り、体を震わせた。

 

「13号、避難開始。学校に電話してみろ。センサーの対策も頭にあるヴィランだ、電波系の奴が妨害している可能性がある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

「先生は一人で戦うんですか!?あの数相手じゃいくら個性を消すと言っても……。イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ、正面戦闘は…」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。任せた13号」

「さぁ!行きましょう!皆さんこっちへ!!」

 

 一気に階段を駆け下りてヴィラン達へと向かっていく相澤先生。相澤先生は応戦しようとした数人のヴィランを個性を用いて無力化し、首元の捕縛武器で捕縛すると地面に叩きつけて気絶させた。多対一の戦闘にも慣れているようだ。

 

 13号の指示にクラスメイトは大人しく従い、出口へと向かっていく。私も何もせずに13号先生にとりあえず付いて行くことにする。相澤先生も突然の事で思い出せていないのだろうが、私の個性を使えばこの場から逃げる事は簡単にできる。ヴィランの目的や動きを把握するまでは、このまま泳がせておくのが良いだろう。万が一にも先生やクラスメイトに危険がある場合は即発動できるよう準備はしておく。そう考えていると全員が走って向かっていた出口の前に黒い靄が現れた。

 

「させませんよ」

「お出ましか。ワープ男」

「黒霧って呼ばれてたっけ?」

 

「……」

 

「ダンマリか」

 

 黒霧は心操を確認するや否や口を閉ざした。その後、一息置いてから、心操の声掛けとは関係のない事を話し出した。

 

「初めまして、我々は敵連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは…。平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

 ()()()()とは言え、チート級の能力を誇るオールマイトを本当に殺しに来るとは、それだけ勝算があるのか、それとも夢を見る馬鹿なのか。私がヴィランなら寿命で死ぬのを待つ方がまだマシだと考えるが、それは今はどうでも良いだろう。

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈、ですが何か変更があったのでしょうか」

「シャラアァァァッ!」

「俺たちにやられる事は考えてなかったか!?」

 

 爆豪と切島が飛び出すが、効果は無い。どうやら靄で体をつかめないようだ。厄介な個性みたいだ。

 

「危ない危ない…そう、生徒といえど優秀な金の卵」

「ダメだ! どきなさい2人とも!」

 

 13号の言葉は、少しばかり遅かった。こちらにも十分すぎるくらいの馬鹿が居た様だ。あれでは13号の邪魔にしかならないだろうに、仲間の射線を潰して、攻撃は何の効果も無い。少しは後先と言う物を考えて行動してほしい所だ。

 

 

散らして、嫐り、殺す」 

 

 

 急激に広がったモヤが、集団を包み込むように動く。周囲を確認すると範囲外に逃れられた奴は居ないみたいだが、それで問題はない。私がどうやってお前らの前に訪れたのか忘れたのか、それともバラバラにしてしまえば大丈夫と思ったのか。すぐに戻ってやるから精々あざ笑ってろとでも言うように私はUSJ全体を覆うようなプリズムを張り終えた。

 




黒霧「散らして、嬲り、殺す」
山稜「いや、私もワープ使えるから。即集合ね」
黒霧「(´・ω・`)」

という事で、この作品において黒霧さんの個性で出来る事は殆ど主人公にも可能なわけでして、バラバラに分かれて戦うというのは出来ないんですよね。転生主人公じゃないから、原作沿いでいこうみたいな発想もある訳ないし、とは言え戦う機会が無いというのは他の面々の成長的に良くないので、無理くりピンチにはする予定。

それと、ようやく主人公の個性の弱点が一つ出てきましたね。主人公の個性はあくまで吸収や防御よりの為、向かってくる物には対応が可能ですが、逆に引き寄せたりする個性は防げませんし。無理に防ごうと思ったら無駄にエネルギーを消費します。

そして、ほんの少しだけ触れてますが、対処するエネルギーにはそれぞれ対応するエネルギーがあります。

今回出てきたのは物理エネルギーと称している物で、運動エネルギーなども含まれ、打撃などの衝撃、引力や重力、浮力など、『力』に対して全般という設定で使ってます。

おかしいなと思われる部分もあると思いますが、私は物理は苦手(他が得意と言う訳では無い)なので、それとなく伝える程度に抑えてくれると嬉しいです。



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09 USJ襲撃②

投降の仕方間違えた。まあ、良いや。
急いで残りも投稿します。

はい、という事で連続投稿の2話目です。
今日は比較的筆が進みました。
基本的に書けた物を投稿という方式なので出せる時は一気に出して、出せないときは全然でないので、そこんところ4649。




「で、ここは……どこかな?」

「た、多分だけど……火災現場を模したエリア、ってとこじゃないかな? USJはもともと、災害現場での救助訓練のための施設だから……」

 

 一緒に飛ばされたらしい尾白と、周囲の状況を確認しながら、他の仲間が何処に飛ばされたのか確認すると、どうやら全員USJの範囲内に居る様だった。所在と状況を確認していると13号先生が傷を負っているようだ。私は少し無理をしてプリズムの範囲をさらに広げるよう個性を使う。

 

「さて、お客さんが居るようだけど素直に戦うのも馬鹿らしいからね。とは言え逃げ帰るのもヒーローらしくは無いだろう」

 

「何かごちゃごちゃ喋ってるが、恐怖で気でも触れたか?」

「来た来た……こいつらを殺せばいいんだな?」

「おう、ボーナスだボーナス、へへへ……」

「ちっ、たった2人かよ……もっと送ってくれりゃいいのに、しけてやがる」

「冥土の土産に良い事を教えてやるよ。俺達はそれぞれが個性に合った場所に配置されてる。つまり俺たちの個性とここの火なんかは相性がいいって訳だ」

「嬲って弄んでから殺してやるよ。ぎゃはははは」

 

 周囲にぞろぞろと現れる、数人じゃ利かない数の不審者たち。恐らくは、いや間違いなく……全員『敵』だろう。だが本当にいい事を教えてくれた。なら有利ではない地形にご同行願うとしよう。のんびりと話している間に校舎の方にまで私の領域は広がった。私は先に襲撃があったことを伝えるメモ書きと飛ばされた後に攻撃をされたのか、治療しなければ死んでしまう怪我を負っている13号を保健室にワープさせる。

 

「『プリズム』」

「『広範囲探査(フルサーチ)』」

「『配置転換』」

 

 私はUSJ内に居る者全員、クラスメイトとヴィランを全て、相澤先生が残って戦っているセントラル広場へと転送した。分かりやすいようにプリズムには色を付けてやるサービス付きだ。というか色を付けてないとたぶん気付かずクラスメイトからも攻撃されかねない。因みに転送先はヴィランの方は空中、それも相澤先生が応戦しているヴィランの真上に落としてやった。戦闘不能になっているのは少ないが、まあまあの痛手を全体に与えられたと思う。

 

「あれ、ここは」「さっきの場所か」「良かった相澤先生無事みたい」

「ちっ、チビ女の仕業か」「た、助かったのか」

「ふむ、山稜君の個性か」「……訓練でも使ってたワープか」

 

 

「相澤先生、既に職員室に連絡は済んでいます。13号先生は負傷していたので保健室に、USJに潜んでいるヴィランは目の前に居るので全てです」

 

「ああ、なるほど。よくやったと言ってやりたいが、なぜだ?」

 

 ヴィランへの対応中で顔が強張ってるのもあるだろうが、ギロリと睨むのに近い視線で此方に訴えかけてくる。相澤先生の言葉は何故生徒であるお前らが逃げず、応援を直接此処に呼ばず、此処に集めたのかという点だろう。

 

「良い経験になるというのが一つ、必要以上に警戒をさせず、逃がさない為と言うのが一つ、……自分以外を飛ばそうと思うともうエネルギーが足りないのが一つ、ヴィランの個性がバラバラの為、私では倒しにくいというのも理由の一つです」

 

 ヴィランと直接かかわる経験というのはヒーローを目指す者として、非常に大きい物になるだろう。そして、ヒーローを目指すうえで危険は承知なはずである。この場である程度対応が出来ないのなら、ヒーローに成るべきではないと思うぐらいである。

 

 次は警戒されればヴィランがどの様な行動に出るのか分からないという点とこれだけの数のヴィランを野放しにはしておけないという点。全員がその場から姿を消した際に逃げ帰ってくれればいいのだが、先ほど生徒を殺そうという言葉とワープの個性を考えると、一か八かと雄英高校自体にあれだけの数のヴィランを送られたら、一気にパニックになるだろう。

 

 此処に応援を呼ばない理由も同じであるが、あまりエネルギーがなく呼び寄せ可能な人数が少ない状況でだれを呼んで良いのか分からないというのもある。狙いであるオールマイトを呼び寄せるのはどちらかと言えば餌を与えるような物だから控えたい。となると他の教員だが、まだ教員の個性を知らないので必用な人員の用意などは向こうに任せた方がトラブルが無いと考えた。

 

 殺さずに全員を無力化するのは私の個性では出来ない。各々の個性で抵抗された場合の話だが、把握しきれずに攻撃ごとに()()()()プリズムを張れなかった場合、そのまま反動が自分に反ってくる。反動を普段から貯めているエネルギーを消費することで軽減できるが、これだけのヴィラン相手にそれを行えばワープを使わずともすぐにエネルギーが底をつく。

 

 まとめると逃がさずに倒していくためには私だけでは出来ず、教員は私では呼びにくい。警戒させずにヴィランと戦える戦力となるとA組の人員が経験にもなるからちょうどいいだろうと考えた。

 

「危険を考えなければ理論的で、先生が言う合理にもかなっていると思いますが、どうしますか?」

「お前、聞く気が無いだろ。それでいい」

 

 その後、相澤先生の指示の下、A組の面々でヴィランとの戦闘が行われた。私は少し後ろから見ながら本当に危険だと思う攻撃を防いだりとサポートに徹した。心操は捕縛したヴィランを黙らせたり、一部のヴィランを混乱させて同士討ちするよう仕向けた。

 

「またあいつか、あのイレギュラーチートめ」

「どうしますか。既に応援を呼ばれているそうですが」

「このままで終われるか、黒霧あいつらの後ろ側にアレを出せ」

 

 順調にヴィランが減りだしたが、当たり前だがヴィラン側の連中は面白くないようで、荒々しく黒霧と呼ばれる男に命じると、ヴィランと挟み撃ちするような形で何やら筋骨隆々の肉体と黒い体表で大きい口が特徴的な化け物が黒い霧の中から現れた。

 

「はははは、これで終わりだ。それは対平和の象徴 改人 『脳無』だ!!お前らみたいな餓鬼にもどうにか出来るようなもんじゃない。先ずはさっきから個性の邪魔をする糞教師からだ。脳無、イレイザーヘッドをやれ!!」

 

 死柄木の声に反応を示すと、脳無は相澤先生の方をしっかりと見据える。危険性を察知した相澤先生がその巨体を睨みつけるが、勢いや力に変化は無い。

 

(くそっ! 俺の『個性』は身体の一部でも見れば消せる!つまり素の力でこれか!!)

 

「『個性を消せる個性』素敵だけどなんてことは無いね、圧倒的な力の前ではただの『無個性』だもの」

 

 そのままの勢いで脳無と呼ばれた存在は相澤先生を掴みあげると叩きつけた。私は目視で対応することは不可能だと感じ、元々無理をして広範囲に広げていた探知用のプリズムを広場周辺に範囲を縮小し、相手の動きを捉えることに集中する。だがすぐに動き出さないようなので急いで相澤先生を回収し、以前心操にも使っていた回復用プリズムに入れた。

 

「さて、想定外だが、どうにかするしかないね」

「山稜さん。さっきのワープで逃げれないの?」

 

 緑谷の言葉にその手があると喜色の表情を浮かべるが、残念ながら難しい。長距離のワープには全員分のエネルギーは無いし、私はしっかりと認識した場所にしかワープできない。つまり探知用のプリズムの範囲内にしかワープは出来ないが、現在は目の前の敵に対応するために範囲を狭めてしまっている。相澤先生だけでも逃したいが悠長にプリズムを広げている暇もなさそうだ。

 

「応援が来るまで持たせる。心操、轟はこっちを手伝ってくれ。他のみんなは残ったヴィランとの戦闘を、いちいち指示を仰ぐ必要は無いけど、お互いの邪魔にならない様に立ち位置に気を付けて、既に応援は呼んである。それまで持たせること、生き残る事を考えて」

 

 私の予想が当たっていればどうにかなるとは思うが、はっきり言って賭けに近い。あのパワーを完全に防げる回数は1回までだろう。だが、相澤先生が倒れている現状で、首謀者である死柄木と黒霧の妨害が出来そうなのは私である。となればやるべきことは決まってる。

 

「このデカブツ、とっとと倒しちゃおうか」

 

 すでに半分以上は虚勢でしかないのだが、先生がやられ士気が下がっている状況で、安心感を与え、勇気づけるためにはこれ位は言っておくべきだろう。さてさて……

 

 

 

守らせてもらうよ。私の為にも

 

 




という事でまた主人公の個性の弱点の一部が判明しました。


攻撃をエネルギーとして捉える際にも限界がある。
(設定的にエネルギーの変換速度、変換効率はトップクラスではある)
対応できないプリズムを使用した場合反動がある。
限界以上まで防ごうとした場合反動がある。


殺しても良いのなら、プリズムに負荷が加わる前に握りつぶす。
『シュリンクラッシュ』があるんですがね。入試参照。
因みに「シュリンク(収縮)」+「クラッシュ(破壊)」の造語です。


という事で、実際にはかなり使いにくい個性の設定ですね。
分かりやすく言うと

対応した属性に合わせたバリアを瞬時に選ばなければならない。バリアの強度に限界がある。間違えたり、限界を超えるとダメージを負う。

といった感じです。エネルギーの設定は、火や氷は熱エネルギーとして纏めるか、電機はそのまま電気エネルギーで良いかとか、後は光(闇)エネルギー、体力や回復に直結する生命エネルギーとかですかね。他にもいくつか考えてますが後々の展開で使う物が多いのでここには書きません。


何とかなると高を括って失敗する。まあ、子どもなら全然あることですね。個性とかある世界だから大事になってるけどね。山稜以外の戦闘の視点も出来る限り入れていきたいが、そこまで行けるか分からない。

まあ、バラバラに分かれるという不安は無くなりましたが、大量のヴィラン相手に生徒だけで立ち向かうというのは試練的には丁度良いのではないでしょうか。


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10 USJ襲撃③

これが連続投稿3話目になります。

基本的に対脳無チームしか出てきません。
書けたら他視点も書く予定です。

状況が状況だしな。
山稜、心操、轟を除いたメンバーで咄嗟に組んで戦うならどんな感じになるのかを考える所からなんですよね。まあ、爆豪は一人で突っ走るとして、16人なので分けるなら4人チームを4つでしょうか。良い組み合わせありますか?(人任せ)
(※この小説において口田・砂糖はいません)

まあ、上のは半分冗談なので気にしないでください。
まあ、とりあえず本編どうぞ。



 一瞬で教師、プロヒーローを倒して見せた脳無の登場に今まで士気の下がっていたヴィラン側が一気に持ち直し、生徒を襲いだした。しかし、すぐに先生の代わりに指示を出したおかげで、A組の士気も持ち直し、問題なく対応が出来ている。

 

「それで何をすればいいんだ?」

「わざわざ指定したという事は作戦があると思って良いんだろ?」

 

 対脳無として私が選んだ心操と轟の2人からの言葉に私は私の考察を話す事にした。しかし、それを敵が許してくれるわけがない。

 

「脳無、調子に乗った餓鬼どもを殺せ!!」

 

「転ばせるから凍らせて!!」

 

 真正面から防ぐことはまず出来ない。となれば周囲を確認したうえで問題ない方向へと脳無を勢いそのままで転ばせる。相当な勢いで突っ込んだようだが大きいダメージは無い。それどころかかすり傷が治っていくのを確認した。

 

「轟」

「ああ、分かってる」

 

 轟の氷の力は戦闘訓練でも見させてもらったが凄まじいの一言である。少しの間ではあるが動きを止めた脳無を封じる様に素早く発動する技術にも感嘆させられる。しかし、これだけで封じれたとは思っていない。

 

「なるべく氷を厚く、冷気を出し続けて、たぶんやめた途端。いえ、やめなくてもさっきのパワーを考えると飛び出してきてもおかしくない。私も冷気を留める手伝いはする」

「確信があるみたいだが、理由は」

「あいつ、あれだけの衝撃を受けて傷が全然ついていない。それに加えてその少しの傷もいつの間にか治ってた。そして、相澤先生が眼で捉えたのに速さと力は落ちていない。はっきり言って異常、普通の生物と同列に考えるのは楽観的でしょ」

 

 私の言葉に納得してくれたようだが、それ以上に改めて敵のスペックを考えると悲観的になりそうだ。だが、凍らせ続ける事でどうにか時間を稼いでいるうちに先ほど言っていた敵に対しての考察を伝える。

 

「まずおさらいから、衝撃を軽減している、傷を回復する、パワーは個性由来ではない、そしてあいつは指示が無いと動かない。分かっているのはこれ位」

「それで、どうするんだ」

「指示を聞いてから動くって事はこちらの声も届く、だけど知能の低い人形みたいだから返事は期待できないけど」

「指示を理解できる頭があるなら暗示が出来るって事か」

「このままではじり貧だから、一度あいつを開放して、私の個性で動きを封じて、心操の声を届ける。その後、相手が止まったのを確認してもう一度氷に封じる」

「分かった。なら準備をしてくれ、それと氷を解く時ともう一度凍らせるときに合図を」

 

 既に私たちを殺せと命じられている脳無は拘束の手を緩めた瞬間に飛び出す事だろう。暗示で指示を完遂したと思わせてから、次の指示の届かない氷に閉じ込める。これ以外に私は方法を思いつけなかった。だが、二人の協力があれば問題ないだろう。

 

 合図を出して、轟に下がってもらう。私も冷気を閉じ込めていたプリズムを解除する。1,2、3,4……カウントが5秒目に入った瞬間、ひび割れるような音と氷の破片を伴って脳無が飛び出してきた。どうやら冷気で体を冷やされたからか動きが少し鈍い。

 

 しかし、あれだけの動きを繰り返していればすぐに筋肉が熱を持ち、動きが元に戻ってしまうだろう。ならば、すぐに決めてしまうのが良い、首謀者2人は高みの見物を決め込んでいるようなので警戒しつつも、目の前に集中する。

 

「今日は物理エネルギーを使いすぎたけど、他にも貯めこんでるエネルギーはあるんだよ。とりあえず」

 

 

「痺れろ」

 

 どうやら貯めこんだ電気エネルギーは脳無にも有効なようだ。どれだけ身体が丈夫に作られていようとも筋肉自体が麻痺してしまえばすぐには動けない。電撃により焼き切れてしまえば筋肉自体が再生してしまうのだろうが、心臓麻痺や痙攣を起こしはするだろうが、傷つくことは無いような威力に調整した。エネルギーの吸収、変換などを訓練で繰り返してきた私にはどれくらいのエネルギーでどんなことが出来るのかを正確に把握している。

 

「心操」

「任せとけ」

 

 動きを止めているとはいえ、危険な事には変わりない。私は心操を守る様にプリズムを張って、支援する。脳無が完全に動きを停止したのを見て、焦りだしたのか首謀者2人が動き出そうとしているのが見えた。だが黒霧は爆豪が爆発で吹き飛ばし、行動を封じ込めている。それを見た私は、檻に死柄木を封じ込めた。死柄木の『崩壊』は私の力では防ぐことが出来ず、防ごうと思えば危険である。だが発動の条件が分かっていれば対策も容易である。五本の指で触られなければいけないのなら、ギリギリ指一本が触れるか触れないかという小さいプリズムを集めて檻にしてしまえばいい。

 

 黒霧のワープで簡単に助けられてしまうだろうが、現在は黒霧も生徒の対応に追われている。これで問題は無いと、思った瞬間にプリズムから衝撃が伝わった。相殺が少し遅れたがエネルギーを消費して、受け止める。骨が軋むような衝撃に倒れそうになるが、表情に出すことなく、脳無の方に顔を向ける。

 

「山稜!!プリズムに色を付けろ。目の前に俺らが見えることが暗示の邪魔をしてる」

「ごめん。すぐに」

 

 暗示と言うのは信じ込ませること、繰り返し行う事で深くかかって行くが、明らかに矛盾していることを信じさせるのは不可能なように、倒すべき対象が目の前にいるのに倒していると思い込ませるのは非常に難しくなる。分かり切ったことの様に思えるが、緊迫した現状で見逃してしまった小さなミスだ。全くかかっていない訳では無いが、今から暗示をかけ始める物だと考えた方が良いだろう。暗示をかけている間は衝撃を加える事は出来ないので、ただ耐え続けることしか出来ない。既に不意打ち気味に一発喰らっている状況でどれだけ耐えれるか……

 

 

 

 

 

2回目の衝撃がやって来た。一部の衝撃をそのまま衝撃の緩和させるために流用する。そして次の衝撃に備えるために吸収も行う。そして事前にプリズム自体の強度を上げるために可能な限り、プリズムを重ね掛けした。もちろん、暗示を仕掛ける心操の声の邪魔にならない様に気を付けたうえでだ。残っていた物理エネルギーと急いで変換しているエネルギーでどうにか、持ち堪えた。しかし、物理エネルギーは完全に底をついた。

 

 

 

 

3回目……骨が軋むのは当たり前で、体中の筋肉も悲鳴を上げている。立っていることが難しくなり、倒れこむような勢いで膝を着く。内側からの衝撃で内出血を起こし、体中に痣が浮かんでいるのが分かる。外から見て分かりにくいが、このまま放置すれば頭に血が回らずに気を失うかもしれない。様子がおかしい事に気付き、近づいてきた轟に身体を氷や冷気で包むように頼んだ。痛みで火照った身体にちょうど良く、眼も冴えわたる。

 

 

 

 

4…回……遂に……内臓も、ゴホっと噎せ返ると同時に血を吐いていた。轟の声が遠くに聞こえるが、それは大きくも聞こえる。ごめん……目、開けてられない……探知しているから、うん…プリズムには影響は出てない。ああ、息苦しい。次で落ちるかな?

 

 

 

……あ、ちょと、飛んで…たかな。pりzむはぶじか……ケ…ゴポ…アはは、アタマイタイ……血ガ、サン素が……足り……ああ、轟以外のこえ、先生も……はは…はははは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうねてもいいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どれくらいヤバいかというと

全身打撲、全身内出血(轟により止血中)、内臓、主に呼吸器がやられ、骨も殆どにひびが入っている。筋肉も切れてます。血管もボロボロかな。

うん、気絶できてよかったね。
体力、生命エネルギーを貯めてるけど、意識失ってるから個性は使えない。体力は残ってるわけもなく、リカバリーガールは頼れない。


【緊急入院】


個性に頼らなくても、技術レベル高そうだし、何とかなると思ってる。目が覚めたら、エネルギーを補給して、リカバリーガールに治してもらう事で、学校への復帰は遅れますが、体育祭には参加予定。


4回目の次の部分にもう一文、山稜のセリフがあります。演出を凝りたかったので消えたり現れたりしてます。見にくいんですが、見逃した人で時間がある人は少し待っててください。現れると思うので。


作者「えっ、オールマイト?知らない子ですね」
オールマイト「(´・ω・`)」


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11 USJ襲撃④

文字数稼ぎに思われてもしょうがない様な話です。
一話に数えるのも馬鹿馬鹿しいと思う人もいると思います。
それでも一応今日の投稿の4話目です。

一応弁明させて頂くと、焦りや恐怖を表現するための物です。


 プリズムが黒く塗られた。脳無と呼ばれた怪物は真っ暗闇に閉じ込められた事になる。これなら暗示も掛けやすいだろう。俺は声を死柄木と呼ばれた奴の声に似せて、ひたすら指示が終わったこと、動くのを止めることを伝える。

 

 

 

『指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した』

 

 

 

 目の前のプリズムが震えたように見えた。後ろから何かが倒れるような音がした。轟の慌てたような声が聞こえる。早くしなければ、早く、早く、早く、とにかく口を動かし続ける。

 

 

 

『指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した』

 

 

 どうやらザコヴィラン共との戦闘は殆ど終わったようだ。遠くの方で何やら首謀者の叫びが聞こえる。恨みや怒りが呪文の様に響いている。うるせえな、暗示の邪魔だ。黙れ。何かを吐き出すような音とうめき声が耳に入る。何やってんだよ。

 

 

 

 

 

『もっと早く、もっと早くだ。出来るだろ?』

 

 

 

 

 

 

『指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標は全員叩き潰した。指示は完了した。目標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

 

 

 プリズムが掻き消えた。脳無に動きは無い。間に合った。轟、こっちに……あれ、声が出てねぇ。いや、大丈夫か、流石に気付いたか。動きの無い脳無を傷つけない様に慎重に丁寧に時間をかけて凍らせていく、しばらくの間もつようにと念入りに凍らせる。ああ、これなら大丈夫か。終わったぞ。なあだからさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きろよ。瞳空

 

 





個性の使い過ぎで喉をやられました。心操君も血反吐を吐いております。
まあ、体力が回復すればリカバリーガールで治るから大丈夫。
山稜が倒れたすぐ後にオールマイトや他の教員が到着してます。

この後で原作主人公視点と教員たちの会話などを入れる予定。
他の人たちの戦いの様子は前にも言ったけど書けたら書く。
あ、あと、ヴィラン連合の方も少し入れようかな。
そんなわけで、また次回お会いしましょう。
読んでくれている貴方に多大なる感謝を。


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12 USJ襲撃⑤

緑谷視点です。主人公の山稜と心操と原作主人公の緑谷以外の視点はあまり書かないと思う。この後に入れる予定になってる先生方の会議などでオールマイトを使おうかなぐらい。

ちなみに、緑谷もかなり強化する予定です。
とりあえずは本編を見てくれ。


緑谷視点

 

 

 

 

 山稜さんの個性のおかげで、バラバラになった全員が集まれたのは良かったけど、そのまま相澤先生の指示の下で本物のヴィランとの戦闘が始まった。的確な状況判断の下で出される指示は動きやすく、先生の個性によってヴィランの方は自由に個性は使えない。順調にヴィランの数が減って行ったその時だった。

 

 

「このままで終われるか、黒霧あいつらの後ろ側にアレを出せ」

 

 

 様々な個性の応酬で騒々しいこの戦いの場で嫌によく聞き取れる声だった。敵のブラフであって、僕たちの意識を逸らせるためじゃないかとも思ったが、すぐに違うと思い知らされた。

 

「『個性を消せる個性』素敵だけどなんてことは無いね、圧倒的な力の前ではただの『無個性』だもの」

 

 嘘だと目の前の現実を否定しようにも、気付いたときには既に相澤先生は倒れていた。先生が、プロヒーローがやられたという事で、僕たちは動きを止めてしまった。しかし、ヴィラン達も新戦力の投入とその結果に目を見張っており、動きを止めていたのでやられる事は無かった。

 

(どうする。微かに聞こえたのは対オールマイト用という言葉から察するに、あれはオールマイトと殴り合う事を考えられている?そんな攻撃がこちらに向いたらどうすれば良いんだ。そもそも、速度が違いすぎる。かっちゃんや轟君が外から削る?いや、捕まってくれるとは思えないし、あの巨体だ。どれだけダメージが通るか分かってない状態でそれをやるべきじゃない。でも、救援がいつ来るかも分からない状態で、僕は……僕は)

 

 

「応援が来るまで持たせる。心操、轟はこっちを手伝ってくれ。他のみんなは残ったヴィランとの戦闘を、いちいち指示を仰ぐ必要は無いけど、お互いの邪魔にならない様に立ち位置に気を付けて、既に応援は呼んである。それまで持たせること、生き残る事を考えて」

 

 

 不安に包まれた戦場に全員に届けられた声はでいつもと変わらない調子で、それでいて的確な指示だった。なんでこんなに自信を持って行動が出来るのか、何故冷静でいられるのか、僕は不思議でたまらなかった。だけどそれ以上に安心出来た。

 

 

「このデカブツ、とっとと倒しちゃおうか」

 

 

 助けが来るまで持たせることを考えようと僕たちには伝えておきながら、怪物としか言いようのない敵に真正面から立ち向かう事を宣言する山稜さんの姿は間違いなく

 

『ヒーロー』だった。

 

 

「守らせてもらうよ。私の為にも」

 

 

 山稜さんの指示を聞き届けた僕らは少しずつ、戦闘を再開させていった。先ほどまで沈黙していたヴィラン達も、相澤先生がやられたのを見てか先ほどより勢いを増して向かってくる。相澤先生の指示がない事も不安だが、轟君と心操君が抜けてしまった事で一人当たりが対応するヴィランの数がグンと増えてしまった。山稜さんの言葉を思い返しながら、僕も戦闘の場に急ぐ。

 

「くっ、やはり数の差というのは大きいのか」

「飯田君、ごめん話して良い?」

「緑谷君か、なんだ?!」

 

 戦っている傍に入るのは、お互いに危険ではあるけど数が多い向こうの方が再び戦いに入るのに手間が掛かる。まだ、向こうの準備が完璧でない内にこちらも準備を整えるべきだと考えて、緊急時に指示を出す役割を任せられる飯田君の所へ来たのだ。

 

「山稜さんが言ってた立ち位置に気を付けてって指示、このままだとどうしても難しいから、チームを組んで協力しながら戦った方が良いと思うんだ」

「なるほど。敵が数で来るならこちらも連携を重視するべきか、だが組み合わせを考えている暇はないぞ」

「戦闘訓練に使ったチームを流用しようと思うんだけど、3人か抜けてるのと、かっちゃんが向こうで黒い霧のヴィランの相手をしてるから、その4人を除いた16人で4チーム作りたい」

 

 あのヴィラン自体に攻撃は通らないが、あの黒い霧をかっちゃんは爆発によって生じる爆風で吹き飛ばして対応している。やっぱり、かっちゃんは天才だと思う。すぐに敵の特性を見抜いて、的確に相手の邪魔をしているんだから。

 

 

 それはともかくオールマイトの授業で行われた戦闘訓練のチーム分けはこうだった。

 

Aチーム 山稜、葉隠

Bチーム 轟、障子

Cチーム 峰田、瀬呂

Dチーム 緑谷、切島

Eチーム 蛙水、常闇

Fチーム 八百万、尾白

Gチーム 耳郎、心操

Hチーム 爆豪、飯田

Iチーム 麗日、芦戸

Jチーム 上鳴、青山

 

 

 しかし、今は山稜さん、轟君、心操君が抜けてて、かっちゃんも除くと。

 

 

Aチーム 葉隠

Bチーム 障子

Cチーム 峰田、瀬呂

Dチーム 緑谷、切島

Eチーム 蛙水、常闇

Fチーム 八百万、尾白

Gチーム 耳郎

Hチーム 飯田

Iチーム 麗日、芦戸

Jチーム 上鳴、青山

 

 こうなる。初めは戦ったメンバー同士ならお互いの個性もより理解できるかと思ったけど、あの時の対戦表をそのまま流用すると。

 

 

麗日、芦戸、葉隠

障子、耳郎

峰田、瀬呂、八百万、尾白

蛙水、常闇、上鳴、青山

緑谷、切島、飯田

 

 4人揃っていない所同士を組み合わせてチームを作る必要があるが、元々チームとして出来上がっている所にも言えることなのだが、相性やバランスなどを考えている時間は無い。それに、バラバラに配置すると集まる際に混乱を生んでしまうので、とにかく順にチームを作っていく。

 

 

Aチーム 葉隠

Bチーム 障子

Cチーム 峰田、瀬呂

 

 

Dチーム 緑谷、切島

Eチーム 蛙水、常闇

 

 

Fチーム 八百万、尾白

Gチーム 耳郎

Hチーム 飯田

 

 

Iチーム 麗日、芦戸

Jチーム 上鳴、青山

 

 これならペアの抜けた所はしょうがないとして、一応分かりやすくチームを作ることが出来るんじゃないだろうか。

 

 

「此処に来るまでに考えておいたんだけど、どうかな?」

「ふむ、新しく考えてる余裕もない状況でそこまで考えてくれてるなら十分だろう。いまならそこまで混戦もしていないし、お互いの距離も離れていない。すぐに伝えよう」

 

 

「緑谷君の提案を受けヴィランの数に対抗するためにこちらも簡易チームを組む事にした。異論が無ければ、戦闘訓練の一番左からA、B、Cチーム、次がD、Eチーム、その次がF、G、Hチーム、反対側をI、Jチームで組んで対応に当たってくれ、それと爆豪君はそのままワープ個性のヴィランの対応を頼む」

 

 堂々とした声が広場に響いた。授業からそこまで時間が経っている訳では無いので全員が自分のチームを覚えているようで、お互い確認しながらチームを組んでいく。かっちゃんから「うるせぇ!!テメェに言われなくとも分かっとるわ!クソ眼鏡!!」と元気な返事が返ってきていた。

 

 とりあえず、僕も急いで自分の担当する場所に向かったのだが、個性を制御できていない僕ではなかなかヴィランの対応は難しく、既に指を何本か壊している。

 

(このままじゃ、足手まといになる。力を制御しないと)

 

 ようやく、腕を壊さないと駄目だった所を指にまで抑えられたところだというのに、これ以上の調整というのは今の僕には不可能に近い。

 

(あれ、よくよく考えるとおかしいぞ。腕全体を壊す力を指に押し込めたら、指が吹き飛んでてもおかしくない。それなのに、そうなってないって事は流す力を死なない様に、自分の知らない所で調整できてるんじゃないか?負担個所を抑えて、流す力を弱めて打っているのが今の状態なら、負担する場所を制限するのでなく体全体、腕だけじゃなくて全身にする。うん、これならいける!!)

 

 押さえつけるのではなくて、全身に力を満たすようにイメージして、後は動いてみればいい。

 

「うわぁ!?」

「けろっ!?」

「緑谷、大丈夫か?!」

[吹っ飛ばされたみたいに突っ込んだぜ!!]

「……負傷さえなければ、取り戻せるはずだ」

 

 力を調整する感覚がまだわかっていない事とイメージが足りていない影響だろう。思っていた以上に力が入り、体が結構、いやかなり痛む。しかし、骨もバキバキに折れてはいないし、筋肉もダメージはあるだろうがそれだけだ。それにしても力が全身を流れているのを感じ取れる。

 

(そうか、力をスイッチではなく水道みたいに流す物と考えて、流す量を調整していけば)

 

 多く流れている力を少しずつ細くするイメージで調整する。一度多すぎる力を経験したからか、思っていたよりも多い力も制御できるみたいだ。技名はどうしようかな。

 

「よし、『フルカウル』20%!!」

 

 初めは半分位の力が流れていた。それでも100%で使うよりは痛みも弱いので耐えることが出来たが、そのまま使い続ければ骨にひびが入り続けるのはまず間違いないだろう。そんな状態で体を動かしていたので、それと比べればこれ位なら制御できる気がした。先ほどは砲弾の様な勢いでヴィランを巻き込んで地面を転がってしまったが、今の僕なら。

 

「はっ、どれだけ威力があろうと制御できてなきゃ、過ぎた玩具だな。ガキ」

 

更に向こうへ(プルスウルトラ)、スマッシュ!!」

 

「な、グハッ、グオォ、ガッ」

 

 完璧に制御できた訳では無いし、体中が悲鳴を上げているが、まだまだ戦える。このまま20%でやっても良いけど、慣れてない状態で無理をすればどうなるか分からない。半分の10%ぐらいにまで落として、戦いに復帰する。

 

「ごめん、いきなり吹っ飛んで」

「無事なら、それでいいぜ。オラァ!!」

「けろ、緑谷ちゃん。なんか光ってない?」

「ふっ、戦場にて新たな力に目覚めるか、流石は我が仲間」

 

 力の制御が出来る事で何とか戦闘でも役に立てるようになったが、やはり戦闘技術だけをみれば僕は強くない。ごり押しに近い状態だ。それでも、この状況下では大きな助けとなり、次々とヴィランを倒していった。

 

「ああ、なんで未熟なガキ一人も殺せねぇんだ。役立たずが」

 

 怒りだけでなく、こちらを確実に殺そうとする視線が突き刺さってくる。情報によると五本の指で触られた場所が崩壊する個性だったはずだ。近づかれたら不味い、そう考えた瞬間に山稜さんのプリズムが彼を覆った。

 

「チートワープ女の個性か、どんな個性による物だろうと俺の個性の前には無力なんだよ」

 

 邪魔をされたことにより、苛立ちを強めて展開された個性に対して触れる。だが、一向に崩壊する様子はない。『崩壊』の個性が山稜さんの『プリズム』には効果が無かったのだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「あああああああ、何だよこれは。チマチマしたバリアを重ねやがったな。これじゃ五本で触れねぇ。ちくしょうがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 どうやら遠くからは一つのバリアに見えるあれは小さいバリアの集合体のようだ。五本で触られれば崩れてしまうのなら、五本で触れない様にすればいい。単純だけど、正確な個性の操作が出来なければ不可能な凄い技だ。それを片手間にやってしまうのだから、山稜さんも凄すぎる。

 

 どんどん倒されるヴィランの集団と抑えられている首謀者に僕たちは余裕を持って叩けるようになっていた。しかし、後ろの方の様子がおかしい事に梅雨ちゃんが気づいた。

 

「山稜ちゃん!?」

「山稜がどうしたって、倒れてんのかあれ?!」

 

 山稜さんが倒れこんでおり、それを轟君が支えている光景が見えた。轟君が何やら氷を作り出して山稜さんの近くを冷やしているのも確認できた。その更に奥で心操君が必死に何かを叫び続けている。たぶん、あの中に脳無と呼ばれた敵が居るのだろう。そして、遂に……

 

「檻が消えたなぁ……ははははは、お友達が1人倒れこんでるようだが、死んだのかな?だが、それよりも脳無をそのまま、抑えられる訳にはいかねえなぁ!?」

 

 山稜さんが倒れている近くに向かわせる訳にもいかない。心操君と轟君が何かしている。それの邪魔を指せるわけにはいかない。全身が壊れても構わない、向こうに活かせるわけにはいかないんだ!!

 

 

「行かせない。フルカウル()()()、スマッシュ!!」

 

 全く制御できてない状態で50%の力をそれも、スマッシュを放つ。そんなことをすればどうなるかは分かっていたが、死柄木と呼ばれている男を吹き飛ばせたのを確認できたから、それでいい。

 

(たぶん、全身の骨が折れた。それに筋肉もズタズタかな?)

 

「やってくれたな。人の邪魔しか出来ねぇのか、手前らは!!」

「死柄木!!脳無を確保されました。寄せ集めとは言え味方も全滅に近いです。撤退しますよ」

「ああ、だが動けないこいつを殺してからだ!!」

 

「「「「緑谷ッ!!」」」

 

 最悪な事に攻撃を放った衝撃で僕とみんなの距離は離れていた。この距離だと助けは期待できないかな。ああ、駄目だ。僕も……意識が……

 

 

 

ドォン!!

 

 

「ガァ、ああ、手が、ちくしょう。容赦なく撃ちやがったな」

 

「よく頑張った、少年少女」

「遅くなってしまったが……後の事は我々に任せてもらおうか」

 

 先ほど響いた音は救援に駆け付けた先生たちの中にいたスナイプ先生が死柄木の手を撃ち抜いた音のようだ。プロヒーローの先生方が何人もが取り囲んでいる。校長先生曰く、動ける先生を片っ端から集めたらしい。流石にもう分が悪い……どころじゃなく、逆転の目がないと悟ったのか、死柄木と黒霧の2名は退却を図り……しかし、続けざまにスナイプ先生が銃弾で両手両足を撃ち抜いた。

 

「緑谷少年。友を守ろうと、自分の限界を振り切った君の姿は間違いなく

『ヒーロー』だった。後は我々に任せて休みなさい」

 

 憧れであり、師匠でもあるオールマイトの言葉、既に意識も朦朧としている中で聞こえたそれは夢の様に思えたが、確かに僕の心に刻まれ、嬉しさと安心感の中、僕の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は先生方によってヴィランの確保が行われた。残念な事に負傷しながらも隙をついて首謀者の二人は逃げ出したそうだ。負傷した生徒と相澤先生はすぐにリカバリーガールに見てもらったようだが、意識が無く体力の切れていた山稜さんと僕はすぐさま病院に運ばれたそうだ。

 

 その後、不思議な夢を少し見た後で僕は目覚めた。そのことについてはお見舞いに来てくれたオールマイトにもう伝えた。体力が回復したらリカバリーガールの個性での治療が出来たので、どうにか学校再開までに復帰できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃から1週間がたった今でも山稜さんは目が覚めていないそうだ。

 

 




緑谷の決意から強化までの一連の流れ。

山稜の姿に『ヒーロー』を見る。
自分もどうにかしなくてはと考える。
頼れる相手が居ない状況下で覚醒。
(主人公だし、デク君は厳しい環境に置かれる事で進化するタイプだと作者は思っている)
覚醒した考察により『フルカウル』習得。
%というか、威力のインフレは一応理由がある。

まず最初にマスコミの襲撃からUSJの授業までの間に、心操の個性を利用した訓練をしないかという話になり、時間がある面々は例外(爆豪)を除き、全員参加する。それに緑谷も参加しており、限界上に力を出す下地が出来ていた。それに加えて授業や訓練を通して多少ではあるが自力も上がっている。

次に話の中にも書いたが、イメージが出来ていない状態で無理に使ったので、まだ耐えれないレベルの威力を体験した。そのことにより、圧倒的に難しいレベルを知っているので、これくらいなら出来るかもという思い込みが発生。(ゲームとかで先に『とても難しい』をやると『難しい』が簡単に思えてくる現象ありませんか?)既に指や腕を軽く壊しており、痛みで感覚が麻痺し始めていたので、気合で使えてしまった。

使った後になんとなく制御していた力のイメージの仕方を覚え、更に制御を着々と覚えていく。それにより、これ位なら死にはしないだろうと言った自己犠牲よりの調整の仕方をマスターする。死なないなら、助けられるならこれで良いと、50%使用。無事死亡。という流れでございます。


みんな、どんどん強くなるね。
これって、敵も強くしたり、増やしていって、調整するのとみんなが強くなって原作を突き放して、どんどん勝利していくのとどっちが良いのかな。

強さのインフレ化を敵にも適用するか。
それとも若干無双気味にするか。
どちらが良いんでしょうか。
やってみたかったのでアンケート設定してみよう。
良かったら投票してください。


この後は前書きにも書きましたが、先生方の会議とヴィラン連合側の様子。それとクラスメイトの様子を順々に書いて行き。山稜と心操のはなしを挟んで、山稜復活。USJ完璧に終了。


その後で、みんなの訓練、修行を書いてから、思いつきそうなら小話を入れて、ようやく体育祭かな。

うーん、先が長い。
チマチマやっていくんで待っててくれ。
というより、投稿してないだけで他にもネタがあるのでそっちも書きたいので、USJの部分完全に終わったら、一度他の話書くのに時間使うかも。まあ、あくまで予定だけど、場合によっては更新遅くなるぐらいに考えてください。

読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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13 終結と代償

とりあえずは、先生方の話とヴィラン連合側の話です。

タイトルを変えるの忘れてた。
誰も見てないよな。セーフ。

「13 終結と代償 書きかけ」→「13 終結と代償」
作成中の忘れない様のメモ状態で一度投稿してしまってました。
同じような事を今後もやらかしそうなんで、見かけたら教えてください。



オールマイト視点

 

 

 

「USJ自体への被害はほぼ0と言っても良いでしょう。修繕が必要なのはセンサーなどを含む警報装置の細工された場所だけですね」

「一番被害らしい被害を受けているのが生徒たちだというのは……」

「今回の一件で、雄英のセキュリティーなどについて疑問視する声が上がってる。マスコミも正式な発表が無いからと好き勝手に報道しているのが現状だ」

「A組の生徒が期待的な意味で注目されてるのがまだ救いね」

 

 USJの被害が出なかった事だけを喜ぶようなことは出来ず、学校としても一教員としても、生徒を危険にさらしたうえ、現場に間に合うことが出来なかったのだから、胸中は同じだろう。

 

「他に被害が広がる可能性を考えて迎え撃つことを山稜に提案され、その方が合理的と判断させてもらった。その結果が一番に脱落するという体たらく、処罰は俺が引き受ける」

「おいおい、待てよイレイザー?!相手は対オールマイト用の怪物だ。それの相手をいきなりさせられたら俺だって勝つのはシビィぜ!!」

 

 後から到着した教員たちは実際にその怪物の性能を確認したわけではないが、私に対抗しうる性能だというのが本当であれば、今の私も危ういかもしれない。その様な怪物相手に生き残れているだけでもすごいと言えるのは間違いないだろう。

 

「勝てる勝てない以前に、その状況を容認してしまった事に責任があると言ってる。それに何があろうと被害を出す前に止めなくてはいけないのが、俺達(教員)の役目だろう?」

 

 プレゼントマイクのフォローもその張本人につき返されてしまえばどうしようもない。それに相澤君の言っている事は至極正論であり、役割を果たせない、目の前で誰かを救うことが出来なかったと考えれば、自分を責めたくなるのも分かってしまう。それ故に誰も口を出せずにいた。

 

「まあまあ、ちょっと待ちなよ相澤君。君が受け持った生徒を守れなかったのを悔やむ気持ちは分かるけど、いつまたこのようなことが起きるか分からない状況で、人員を無駄に減らす余裕はうちには無いよ」

 

 根津校長が場の雰囲気を変えてくれた。どれだけ責任を取ろうとしても辞めないように言われている状態で強行する訳にはいかないだろうからね。しかし、これだけの事件が起きていて責任を取る者が居ないというのは問題では?と相澤君が尋ねる。

 

「事件に関する発表などは僕に任せておいてよ。どうにかするからさ。今は起きた出来事を悲観するのではなく、対策へと繋げていこうじゃないか」

 

 その後は、ヴィランの対策や今後のセキュリティーの強化方針、授業カリキュラムの変更など、A組だけでなく、学校全体で行っていくべき対策について話し合いが進んでいった。

 

「ふむ、先行して行える対策はこれで良いかな?大きな物も体育祭までには進めていくから、場合によっては協力してもらうからそのつもりで頼むよ」

 

 そのように、根津校長が締めくくって会議は終了した。私と相澤君は話す事があると根津校長から言われ会議室に残った。

 

「さて、まだ完全に怪我から回復してない13号君を除いて、現場にいた相澤君とヴィランの目的であったオールマイト君に残ってもらったわけだが、今回の件はどう思ったか率直な意見を教えて欲しい」

 

「その場の目的については、はっきりしてるが、根本的な思想や狙いというのが不明確に感じましたね。力を手にして、遊んでいるといった子供のような印象です。だがそれにしては計画や規模が釣り合わないレベルで、はっきりって不気味ですね」

 

 首謀者の姿はちらりとしか見ることが出来なかったが、同じように遊び感覚で事件を起こされるようであればたまったもんじゃないだろう。相澤君の答えを聞いた根津校長は次に私の方を見た。

 

「複数の個性を混ぜ合わせた怪人、そんな存在を生み出せる存在となれば”()()”しかいないでしょう」

「【AFO(オールフォーワン)】か……カリキュラムの盗んだ際にも心操君の力で訊きだしてはいたが、奴が生きている可能性が増してきた訳だね」

「何故このような回りくどい手段を取っているのかは分かりませんが、厳重な警戒が必要になるでしょう」

「それは、百も承知さ!だが、まずは君の弟子も含めた生徒たちのフォローが先決だろう。ヴィランの襲撃を凌いだことにより自信も付いただろうが、それ以上に目の前で倒れた仲間の姿に恐怖を覚えているはずだよ」

 

 確かに、プロヒーローであっても目の前で仲間を失う恐怖に遭遇すれば、恐怖に陥りそのまま戻れなくなる者もいる。今回の件がトラウマになれば、そのまま雄英を去る子も出るかもしれない。

 

 

「それほど、弱い奴らじゃないですよ」

 

 だが、相澤君はそんな暗い考えを真っ向から否定して来た。

 

 

 

「向こう見ずな奴や少し危ない奴も確かにいますが、あの状況下で立ち向かう事を選び、希望を捨てず、自力で敵を打ち破った。そんなことが出来る奴がプロの中にさえどれだけいる事か……」

 

 

「あいつらは危機的状況で自ら殻を破り成長して見せた!!」

 

 

「ヴィランも馬鹿な事をした!!このクラスは強いヒーローに成るぞ!!」

 

 

 心の底から自分の生徒を信じ、成長を喜ぶ彼の姿に私と校長も頷いた。

 

 

 

 

死柄木視点

 

 

「ってえ…」

 

 黒霧のワープゲートから現れると、撃たれた手と足を改めて認識し、痛みに顔が歪む。

 

「あの状況下で冷静に手足を撃ち抜いてくるとは、流石はプロという事か」

「“脳無”もやられた。手下どもも障害にはなってねぇ。ガキどもは予想以上に強かった…平和の象徴は姿すら見せなかった…話が違うぞ。先生…」

 

 激痛に顔を顰めながら、パソコンのモニターに視線を送る。すると―

 

『違わないよ』 

 

 モニターが勝手に作動し、先生の声が聞こえてきた。

 

『ただ、見通しが甘かったね』

『うむ…なめすぎたな。(ヴィラン)連合なんちうチープな団体名で良かったわい…ところで、ワシと先生の共作“脳無”は? 回収していないのかい?』

「申し訳ありません。死柄木弔を連れて撤退するのが精一杯で…脳無を回収するだけの余裕はありませんでした」

『せっかくオールマイト並のパワーにしたのに…』

『まぁ、仕方ないか…残念』

 

 先生とドクター、黒霧の話を聞いていると“脳無”を封じた3人のガキどもが頭に浮かんできた。あいつらさえ、あいつらさえいなければ…。

 

「“脳無”を倒した3人のガキ。あいつらは特に厄介だ…」

『………へぇ、どんな子ども達なんだい?』

 

 先生が興味を示したことに俺は少しいら立ちを覚えたが、先生の質問に答えるために感情を押さえ込んで口を開く。

 

「…氷と炎を操る奴、それと以前にも言った洗脳の奴とワープとバリアの奴、あいつらさえいなければ、“脳無”でオールマイトを殺せたかもしれない…ガキどもがっ…クソッ…」

 

『悔やんでも仕方ない! 今回だって、決して無駄ではなかった筈だ。精鋭を集めよう! じっくり時間をかけて!』

『我々は自由に動けない! だから君のような“シンボル”が必要なんだ。死柄木弔!! 次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!!』

 

 先生の激励に俺は頷きを返す。次こそ、あの3人のガキを、オールマイトを殺してやる!

 




はっきり言って僕のヒーローアカデミアに関する知識はにわかレベルです。そのため口調とかの把握が怪しいので、おかしい所あったら伝えてください。

あ、先生がたの口調分けるのは私の技量だと無理。
なので、それっぽい雰囲気だけにしてます。
会議だとしたら登場人数少なすぎるしね。

因みに何ですが、文を書く際には他の作品を参考にさせてもらってる事が多いです。(ヴィラン連合側の会話なんて、複数の作品から引用して少し言葉変えたり、付け足しただけです。ここは本当に思いつかなかったんです)

次でクラスの様子と山稜の目覚めを書いてと言った感じですね。
その次で山稜の過去を少しとクラスへの復帰かな?
その後の事は今のところは全く考えてない白紙ですね。

体育祭での山稜と心操の動きとかはネタレベルでなら考えてる部分もあるんだけど、話書けるほどの構想は練れてない。まあ、ぼちぼちやっていきます。


あ、それとアンケートに答えてくれた方はありがとうございます。まだもう少しありますが、先ほど言ってた区切りの良い所まででアンケートは締め切ります。1,2,3話ですかね?順調にいけばの話ですが。

まあ、何はともあれまた次のお話でお会いしましょう。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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14 挫けない心

少し執筆の方が遅れました。

コロナの所為で授業数が足りないとかで全授業数×2の課題が出やがりましてね。それとは別にスクーリングで土曜日も学校に行く羽目になりましてね。さらには就活もあるし、ああもうちくしょう(発狂)

と、一通り関係の無い愚痴を吐き出したところで、投稿です。
多少の変更はあるのですが、とりあえずは読んでください。
詳しくはいつも通り後書きに書きます。



緑谷視点

 

 

 久しぶりに目にする教室の大きな扉の前で僕は少し足が止まってしまっている。USJ襲撃により、一週間の休みを1-Aは与えられていた。予想だにしていない状況に陥った僕らは自分たちが思っている以上に肉体的にも精神的にも疲労が溜まっているはずだから、と言う雄英高校の配慮だ。

 

 僕は最後の攻撃で全身がボロボロになっていたのでそのまま入院だった。リカバリーガールに治してもらってはいたのだが、体力も残って無かったので治療も遅れて、ようやく昨日退院できたところなので、今日の登校にはギリギリ間に合ったと言える。

 

 クラスのみんなとは(一部を除き)連絡先を交換していたが休みの間に誰かと連絡を取る気にはなれなかった。たぶん、それは他のみんなも同じだったのだろう。普段はお喋りな人たちからも一切連絡が無かったくらいだ。入院中にはどうしても襲撃の事が思い浮かぶので、その際に使われていた個性について考える事で余計な事を考えない様にして暇を潰していた。

 

 この扉の向こうにはみんなが居ると思うと嬉しい気持ちもあるが、少し怖い気持ちがあった。あの事件をどう思ったのか、休みの間は如何していたのか、聞きたい事は色々とある。それに山稜さんがどうなったのか、知りたかった。勇気を出して扉を開こうと思って、手を伸ばす。

 

「さっきから何やってんだ。緑谷」

「うわぁぁ!?」

「うおぉ!!どうした?!」

「あ、いや、そのごめん。開けようとしたら開いたからびっくりして」

「ああ、なるほど。そりゃ悪かったな」

 

 とその前に扉が開いた。開けようとした瞬間に開いた扉と目の前にいた切島君に驚いて少し悲鳴を上げてしまい、その悲鳴を間近で聞いた切島君を驚かせてしまったようなので、すぐに謝った。そのやり取りが面白かったのかクラスの方を見ると笑ってる人が数人居た。

 

「おはよう、緑谷君。休みの間に身体は治ったみたいで良かった」

「おはよう、飯田君。すぐには治せなかったけど、一日休んでリカバリーガールに治してもらってを繰り返してどうにか昨日退院できたよ」

「うわぁ、ギリギリだね。まあ緑谷ボロボロだったししょうがないのかな?」

「という事は緑谷君、そこまで休めてないんじゃない?」

「まあ、耳郎さんの言う通り怪我が酷かった分だから、無理をした僕の自業自得かな。心配ありがとうね麗日さん」

 

 そのまま、何人かと会話をしながら自分の席まで向かう。既に僕と山稜さんを除いて全員が居たようで、かっちゃん以外の人とは一言ずつ話している。かっちゃんにもおはようとは言ったんだけど完全に無視をされている。というより物凄く機嫌が悪そう……え、あの、その、僕何かしたっけ??!!

 

「あ、あのかっちゃん」

「アアァッ!?」

「……何でも無いです」

 

 その後、何人かと話をしていると。襲撃の時の話になり、襲撃の話題になればどうしても山稜さんについての話題も出てくる。まだ、来ていない山稜さんについては物凄く気になるのだが、誰も聞けずにいる。その理由は一番事情を知ってそうな心操君の様子を見れば分かる。

 

 

「『臨兵闘者皆陣列前行、臨兵闘者皆陣烈在前、臨兵闘者皆陣裂在前、臨兵闘者皆陣裂在斬』

 

『仏説摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意、無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多呪即説呪曰羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶般若心経 』」

 

 

「ケロ、朝からずっとあの調子よ」

「個性使ってまで精神統一って」

「むしろ、不安定なのではありませんか?」

「それだけ心配なんだろう」

 

 僕は入院していた際にリカバリーガールから少しだけ話を聞いていたので、命に別状がない事は知っている。それと心操君が毎日お見舞いに行ってる事も聞いた。しかし、山稜さんは事件から昨日までの間は意識が戻っていないという話だった。僕はおずおずとみんなに山稜さんについて伝える。

 

「ケロ、死んでいないのは不幸中の幸いと言っても良いのかしら」

「どちらにせよ。俺達じゃどうしようも無いしな」

「重傷で意識不明、重症の所為で体力は足りず回復は出来ない。悪循環か」

 

 先ほどまでは少しではあったが笑う声が響いていたが、それが嘘であったかのように静まり返った。伝えたことで安心した以上に不安を煽ってしまった事に罪悪感を覚えていると、教室の扉が開いた。そこから入ってきたのは重傷を負っていた筈の相澤で、顔中に包帯を巻いてはいたが普段と変わらない様子である。

 

 

「相澤先生復帰早えええええ?!」

「相澤先生、無事だったんですね!!」

「無事言うんかなぁ、アレ……」

 

「リカバリーガールの処置が大袈裟なだけだ、大した傷でもない」

 

 生徒達の驚愕の叫びに対して相澤は気怠そうに返しながら教卓につくと、闘いはまだ終わっていないと不穏な事を口走る。その内容に生徒達はどよめき、峰田君などは頭を抱えてまだヴィランが?!などと騒ぎだす中。相澤は包帯の隙間から見える目に鋭い眼光を宿し、生徒達へと告げた。

 

「雄英体育祭が迫っている!」 

 

『クソ学校っぽいの来たあああ!!!』

 

 反射的に叫び声を上げたものの、即座に我に返った一部の生徒が、襲撃間もないというのに大丈夫なのかと問いかけるも。相澤は若干不本意そうな様子を滲ませながらも、大人の事情により警備を5倍に増やした上で決行する事、そして生徒達にとっての最大のチャンスである事を述べる。

 

  形骸化したオリンピックに代わり、現在日本のオリンピックの代わりともなっているのが、この雄英高校で開かれる雄英体育祭。数多くのプロがスカウト目的で訪れるこの体育祭は、生徒にとっても卒業後の相棒先を見つけるという意味で非常に有意義。一年に一度、卒業までに計三回しかないビッグチャンスにかける皆の想いは並大抵のものではない。しかし……

 

「あの、山稜さんはどうなるんですか?」

 

 ここに来ることも出来ていない山稜さんは雄英体育祭に参加できるのだろうか、出来ないとすればそれは非常に辛いハンデを背負うような物だ。誰よりも戦い、誰よりもヒーローらしい彼女が出られないというのは納得がいかない。

 

「迫っていると言ってもまだ時間はある。あいつの個性とリカバリーガールの個性はかなり相性が良い。それは俺が証明する。眠り続けている分のリハビリを考えると、2週間以内に目覚めさえすれば……と言ったところだ」

 

 2週間、長いとも考えられるが事件に巻き込まれて一ヶ月、二ヶ月と目を覚まさないことなど普通にあるこの個性社会。重傷で既に1週間寝込んでいる患者ともなれば楽観視は決して出来ない。

 

「一昨日くらいまでは熱が出たりと体調も安定していなかったそうだが、昨日からは落ち着いていると聞く。安心しろみたいな無責任な事は言えないが、余計な不安は抱えるなよ」

 

 その後は普通に授業を受けて、そのまま終わった。雄英体育祭について色々と話し合ったりもしたかったのだが、学校にいる間はどうしてもそう言う気分になれなかった。心操君は今日一日ずっと上の空に近かったが、それ以上に焦っているような必死さも見られた。その焦るような気持ちだけは全員が持っていると思ってる。

 

「強くならなきゃ」

 

 雄英体育祭の為と言うのもあるが、それ以上に誰かを守るためには強さが必要だという事を僕たちは理解している。僕は携帯を取り出して、クラスのみんなへと連絡を送る事にした。学校が終わり、帰ってからそれなりに時間が経っている。日は殆ど落ちているがまだ寝るような時間では無いのでそこまで迷惑にならないと信じて、短い分を書いて送信した。

 

 

[緑谷:みんなで特訓しない?体育祭の為だけじゃなくて、ヒーローに成る(誰かを守る)ために]

 

 自分から連絡を入れるような事はこれまであまり経験に無かったのと、断られたらどうしようかという思いから不安や恐怖で一杯だった。だけど、それ以上にこのままじゃいけないという思いがあった。少しの間、待ってると既読は少しずつついて行くが返信はなかなか来ないでいた。悲しかったが、無理をするべきでは無いと思い提案を下げようと考えたその矢先に……

 

[爆豪:クソデクが、一番個性で体をぶっ壊してる手前が調子に乗ってんじゃねえぞ!!]

[爆豪:言いだした手前が訓練場の許可責任とってぶんどってこい]

 

 

「……え?」

 

 

[切島:緑谷一人に押し付けるなよw素直じゃねえな爆豪ww]

[爆豪:殺すぞクソ髪]

[切島:特訓良いんじゃね?俺も強くなりたいと思ってたし、って爆豪怖えよ……]

[上鳴:よっしゃ、やってやろうぜ!そして切島、ざまぁww]

「耳郎:煽ってると飛び火するよ。それでいつやる予定?」

[芦戸:みんなで特訓て面白そう!!]

[常闇:好敵手と切磋琢磨する。これぞ強者への道]

[葉隠:うん、うん絶対楽しいよ]

[瀬呂:へへ、良いねぇ。ヒーロー科っぽいんじゃね]

[麗日:色々とやれること試してみたいね]

[飯田:素晴らしい提案だ緑谷君、準備などは委員長として手伝わせて欲しい]

[八百万:特訓ですか、家に遅くなると伝えないといけませんね。手続きなどは私もお手伝いいたしますね。順番で行いましょう]

[尾白:相手が居ると助かるから、特訓の誘いは嬉しいよ]

[峰田:俺もやるぞ、やってやる]

[青山:汗水流すのはスマートじゃないけど、弱いままなのはかっこ悪いね☆]

「蛙水:ケロ、楽しみしてるわ。耳郎ちゃん以外だれも日程を確認しないのね」

[轟:思う所があるので特訓には参加させてもらう]

[障子:どこまでやれるか。試す事は良い事だ。俺も参加させてもらう]

 

 

 画面に次々現れる文字に嬉しくなり、急いで返信を行おうと思ったが、手の震えが止まらず、何故か視界もぼやけている。画面に雫が落ちたことでようやく自分が泣いていることに気付いた。だけど、自分の顔が自分でもおかしいぐらい笑顔なのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心操視点

 

 

 

 俺は落ち着いている。そう信じ込ませることでどうにかその日を過ごしていた。……自分でも落ち着いていない事は分かっている。だが、どうしても不安に駆られると共にもっとフォローできたのではないかと、過ぎ去った時にばかり目を向けてしまう。

 

 クラスの奴らにはかなり心配させたと思う。それでも余計な事を考えないようにしないと自分が壊れてしまいそうになるのが分かった。『ヒーロー』を目指す、絶対あきらめないと語っておきながら、あいつ1人守れてないんだからな。

 

 襲撃では怪我と言えるほどの怪我は無く、個性の過剰使用による喉の痛みも2日後には完全に治っていた。むしろ、限界以上に酷使したからかその限界が上がった気がする。しかし、素直に喜ぶことは出来ていない。学校から帰り、掃除や洗濯などを済ませて、自分の分だけの食事を作って冷蔵庫に入れたら、そのまま最低限の荷物だけを持って病院へと向かった。

 

 襲撃の次の日は見舞いが出来るほど容体が安定していなかったのでその次の日からだったが、既に6日間通っているので受付の方も俺を覚えているようで手続きが早くなっている。許可証を貰い、山稜の部屋の前まで行くと、静かに扉を開ける。

 

「来たぞ。山稜……」

 

 当然呼びかけの返答が返ってくるわけでは無いが、それでも何かを話さなくてはと考えてしまう。家の様子や山稜や俺の家族からの伝言、中学の頃の話などをこれまでは話していたが、今日は久々に学校へ行ったので、その分の話題が追加されている。

 

「あいつらも心配してたよ……なあ、山稜……守れなくてごめんな」

 

 『ヒーロー』を目指して二人でした約束を思い出して、身勝手な懺悔が口から出る。そんなことを望んでいないと分かっているが、どうしようもない自分の弱さを、自分の不甲斐なさを許すことが出来ず、自分が忘れるためだけに発した言葉だ。

 

 俺と山稜が出会ったのは、中学一年の頃で、俺が根も葉もない噂で孤立していた時に出会った。あの頃の山稜は何処を見ているのか分からない瞳をして、目を離せば飛んで行ってしまいそうな、そんな危うさを持ち合わせていた。




かっちゃんはツンデレが良いと思うんですよね(真理)

かっちゃんの柔軟化工程、は~じま~るよ~

緑谷が嘘をついていた。騙されという怒りはある。
だが、戦闘訓練で負けて一度心が折れかける。多少ではあるが、山稜(女子)が首席である事も爆豪のプライドを折る所に貢献している。
緑谷からオールマイト関連の話を除き、事情を聞く。
折れかけだった為、目を逸らすことなく話を聞いていた。
納得できない部分はあるが、個性を貰ったばかりの奴に負けたことで、自分の悪い点を本の少しだが見つめ直す。さらに、USJでは山稜のおかげで全員無事ではあったが、自分が13号の邪魔になったことは理解しており、考え無しに突っ込むだけじゃダメだと改めて突きつけられる。
そのかいもあり爆豪はUSJの後半の戦いでは、相手(黒霧)を倒すのではなく、引き付けて邪魔をすることに実は徹していた。(驚愕の事実)
緑谷がヴィランの襲撃と言う場で個性の制御に成功して、ヴィランを次々に倒し始めた時点で少しずつ緑谷を認め始めており、山稜が倒れて、心操と轟が奮闘している所に向かおうとしている死柄木を緑谷が身を挺してでも止めたことに、昔2人で見ていたオールマイトの姿(憧れ)を幻視する。(先生たちが間に合ってなかったら、黒霧の相手を放って緑谷の所に駆け付けるぐらいの事はこの時にはしてたかな)
そう言った経緯があって緑谷の事は半分、いや7割くらい認め始めたが、それ以上に今までの接し方や自分の性格上それを認めることが出来ず、特に意味も無いのに切れていた。(要するに照れ隠し)
そのため、緑谷がどういった意図でこのような連絡を全体に送ったのか理解し、葛藤に葛藤を重ねたうえで一番に名乗り出た。
「切島の素直じゃねえな」と言う言葉に対して即座に反応を返したのは図星を突かれたというか、自分の心情を理解されて腹が立ったから。(切島自体にはそこまでの意図はなく、揶揄っただけのつもりであるww)


もう、かっちゃんがヒロインで良い気がするんだよね。(遠い目)
ていうか、結構そう言った作品、二次創作あるよね。
この作品のメインが山稜と心操なのでそれ以外の人間関係についてはほぼ白紙ですね。


少しだけBLタグ付けて、がちでそっち方面で話を進めようかと思ったけど、あくまで好敵手といった感じの方が良いので、書くとしても番外編の小話に書くだけにします。(書かないとは言ってない。というより少し考えちゃったから、形にしたい)


まあ、心情の変化により、人間性が少し向上。(人間性を捧げよ)
これにより、緑谷と歩み寄り、クラスとの仲も良くなる予定。
そして、爆豪も少しずつ強化されるかな。


麗日の意気込みなどの下りは後日にみんなで集まった際にやったことにします。というより、特訓の話が書けたらその時に入れられそうなら入れます。

そして前回の後書きでクラスの様子と山稜の目覚めを書くと言ったが、あれは嘘だ!!

まあ、冗談は控えめにして(やめる気はない、というより深夜テンションで止められそうにない)思ってたよりクラス側の展開が思いついて今後への繋げ方の部分を変更したので、それに合わせて山稜や心操側の話も変更することにしました。


次で過去話+目覚め、いけそうならクラスへの復帰も次に入れちゃう。
そしたら、特訓の話と小話を入れまして、一度お休みかな。

ふう、これほど順調に小説を投稿できているのは初めてかも知れない。
少し、創作意欲が強まりますね。ふふふふふ。
あ、アンケートは次で締め切る予定ですので、少しでも興味がある方はぽちっとしてください。

という訳でいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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15 心操人使:オリジン

小説を書いてる途中で何でか知らないが書いたものが一気に消えた。プレビューに表示されてる部分しか残らなくて半分以上書き直した。酷い事件だった。これが無ければ後、2時間は早く投稿出来ただろう。

心が挫けそうになりましたがプルスウルトラの精神で頑張りました。(絶対消える前の方が良かったけど、残ってないから諦めた。物凄く悔しい、こまめに保存が大事だと痛感しました)

という事で本編どうぞ。

名前の表記を普通に間違えました。
「そら」×→「みら」○
山稜鏡=プリズムのことで
「山稜」が名字となり。
「鏡」が「ミラー」で「みら」です。
打ち込むときに、ひとみ(瞳)、そら(空)の変換でやってるので、その際にまちがえて、そらで入れたのだと思います。今後は間違えないよう気を付けていきたいと思います。

感想でご指摘して頂きありがとうございました。


 あの日は夏休みが終わってから、そこまで時間が経っていなくてまだまだ暑い日だった。休み明けという事であちこちで話し声が聞こえてくるが、俺には一切関係の無い事で、それどころか俺が近くを通るだけでその声はピタリと止んでいた。ペチャクチャと煩いぐらいだったのが一瞬でヒソヒソと苛立つものに変わった。

 

「……チッ」

 

 苛立ちを隠す事もしないで、俺はその場を離れた。だが、学校と言う区切られた空間で人のいない場所など有って無い様な物で、逃げ出した先から更に逃げるを繰り返して結局はいつもの場所に行きついた。そこはよく俺が訪れる事から無人となった校舎裏の一角にある俺の定位置なのだが、その日はあいつが立っていた。

 

(……ここに人が居るのか) 

 

 俺の事を知らない奴か、俺の定位置だと知らない奴のどちらかだろうと思い、その場から離れようと思ったが、ふとそいつの姿が目に入ってきた。整った顔に透き通った結晶を思わせる綺麗な瞳、深みと光沢のある黒い長髪の少女と言えるぐらい背の小さい女。人を引き込む魅力があるが、その視線の先が何も存在しない空中であり、その瞳が虚ろであった。

 

 不思議な雰囲気に包まれているそいつはまるで微動だにせずに、その場に佇み続けていたのだが、ボーっとした表情のまま歩き出そうとすると、小さい体躯とは関係ないとばかりに鍛えられているのが分かる身体でありながら足取りもフラフラで、小さな段差に足を取られたのが見えた。

 

「危ない!!」

「ひゃっ!?」

 

 俺は咄嗟に手を伸ばしそいつの腕を掴んで転ばない様に支えてしまった。転びかけたことで意識がはっきりしたのか、先ほどまでとは違うしっかりとした意思で立って、こちらを見てきた。その瞳に色が入ると何でも見通しそうであり、何でも受け入れてくれそうな優しさを感じた。

 

「ごめん。ボーっとしてた。助けてくれてありがとう。えーっと……」

「……1年の心操(しんそう)だ」

「同じ1年の山稜(さんりょう)と言います。改めてありがとう、心操君」

 

 どうやら俺の事も俺の個性についても何一つ知らないようで、普通の人と接するように山稜は接してきた。それ故に俺も普通に返してしまった。名前を知られたのだから嫌でも俺については耳にするだろうし、次に会う事は無いだろうとその時は思っていた。

 

「居た居た心操君。これこの前のお礼に」 

 

 一週間も経っていないが俺の場所で何もせずに座っていると、再び訪れた山稜に袋に入った菓子らしき物を渡された。見た目から察することが出来たが手作りのようだ。

 

「……お前俺を知らないのか?」

「ん、心操君は有名人だったの?私は周りから避けられているから噂を含めて情報などは入って来ないんだ。個性を使えば別だけど公共の場で使えば犯罪だからね」

 

 個性云々よりも、学年に関わらず広まっている俺について知らないという事よりも、一番最初に俺が気になってしまったのは山稜の立ち位置だった。

 

「避けられてる?」

「心操君も見たと思うが私はすぐにボーっとしちゃうから。その時の姿が不気味だからと人が寄り付かなくなってね。まあ、関わり合いも煩わしいから丁度いいよ」

 

 それを聞いて、ある意味同類だと感じた俺はそいつのカテゴリーを変な奴から仲間へと変えていたのかもしれない。それぐらい、周りから避けられているという学校での立ち位置境遇に親近感を覚えてしまった。

 

「……心操」

「ん?」

「……心操でいい。同い年だろ」

「そう?なら私も山稜で良いよ」 

 

 それ以来、俺と山稜は何度も同じ場所で会うようになった。苗字とは言えお互いに呼び捨てで呼び合ううちに打ち解けていき、話し方もお互い素に近い物へと変化していった。勉強の話、家でのことなど他愛もない世間話ばかりであったが、退屈だとは思わなかった。だが、山稜の耳に最悪な形で俺の噂が入ってきた。

 

「心操が女を洗脳して好きにしているって噂が聞こえてきたんだけど」

 

 洗脳と言う個性について知れ渡っているのと、俺がそれを平気で使う奴だという噂は知っていたが、そんな噂は初めて聞いたし、最近になって流行り出したのだとしたらその女と言うのは山稜の事だろうと確信した。 

 

「すまん」 

 

 気づいたら俺は口から絞り出すように謝罪の言葉を出していた。このままこいつと関わって居たら俺の所為でこれまで以上にこいつも人から避けられたり、噂を聞いて馬鹿な事をする奴が出てくるかもしれない。それ以前にどうすれば良いのか分からなくなり、その場を離れようとしたのだが山稜の個性で止められた。

 

「いきなり謝られても何も分からないし、謝られる謂れが無いよ。それにいきなり去ろうとするから驚いて個性使っちゃったじゃないか。全く、落ち着いて説明してよ……友達でしょ?」

 

 その言葉に救われたような感覚と更に心が締め付けられるような感覚があった。たぶん、風評被害の弊害を受けた山稜への罪悪感だったのだろう。俺はポツリと個性の説明と根も葉もない噂が流れている事、今回の噂の女と言うのが山稜の事を指しているであろうことを伝えた。

 

「そう言う事、私が一緒にいるから迷惑かけちゃったかな」

「違う!?俺が、俺の個性がこんなだから」

 

 自分の個性がヴィラン向きだと言われることは昔からだし、自分でもそうだと思ってしまう。今では人との関わりは自分から避けていたというのに、長く関わってしまった自分の失敗だと伝える。

 

「じゃあ、何で私を助けてくれたの?」

「……ヒーローを目指してるのに目の前の奴助けない訳にはいかないだろ」

 

 散々笑われて、馬鹿にされて、否定されてきた夢、もう誰にも話す事は無いと思っていた夢を言ってしまった。隠したくなかったというより、嘘をつきたくなかったんだと思う。

 

「ふふふ、ヒーロー目指してるんだ」

「……悪いか」

 

 山稜も小さく笑い声をあげた。馬鹿にするような物では無かったが、ついイラッとしてしまって八つ当たり気味に言葉を返してしまった。そうすると慌てたように山稜は訂正してきた。 

 

「ううん、私も目指してたから」

 

 山稜の言葉は何故だか知らないが過去形であった。鍛えられている身体や素早い個性の発動などから見てヒーロー志望だと思っていたのだが、今は違うのだろうかと不思議に思った。そのことについて聞くと、どこか悲しそうな表情を浮かべた後に少しずつ話し始めた。

 

 その時は詳しくは言わなかったが昔あったことのあるヒーローが憧れとは到底かけ離れた存在だったこと、その時に言われた言葉がショックすぎて倒れて入院したこと、退院後も踏ん切りがつけられずに部屋に籠ったり、学校に行くようになってもボーっとしてばかりになったことを話してくれた。

 

「私はさ、ちょっとしたことで当にヒーローに成りたいのか分からなくなっちゃったからさ。私よりも色々と言われてるのに心操はヒーローを目指してるって断言出来て凄いね」

 

 そう言い切ると付け足すように「諦めきれずに今も訓練だけはやってるんだ」と自虐を含めて笑うように言った。まるで自分の境遇が軽いかのように言うが倒れて入院するほどショックな事をヒーローから言われるなんて、はっきり言って普通ではない。夢を他人に汚され、人を信じられなくなっても、外へ出ようとする山稜の方が強いと思った。

 

 話しに驚いていると、山稜の様子がいきなりおかしくなった。先ほどまでは乾いた笑みを浮かべていたその顔が少し青くなり、身体が震えて自然と頭が下を向いた。足が震えて今にも倒れそうになっている山稜に慌てて駆け寄った。

 

「大丈夫か?!おい!!……いや『返事をしろ山稜!!』」

 

 反応が返ってこず、眼がどんどん虚ろになって行く山稜に危機感を覚えた俺は山稜の意識を戻すために個性を使用して叫んだ。急に叫んだ俺に驚いた山稜は反射的に「ご、ごめん」と返・事・を・返・し・た・。返事をしたのならこっちのもんだ。

 

「『大丈夫だ。落ち着け、深呼吸をしろ』」

 

 俺の言葉に従い深呼吸をする山稜の表情は少しずつ良くなり、目に色が戻った。段々と震えも止まって行き、完全に止まった頃には問題なく立てるようになっていたが、大事を取って座らせたままにする。

 

「ありがとう、おかげで助かった」

 

 無断で『洗脳』などと言う個性をだまし討ちの様に使ったのだ。緊急事態であったとはいえ文句の一つや二つは言われてもしょうがないと思っていた所にお礼を言われて俺は目を点にした。

 

「結構危なかったから、個性まで使ってくれて」

「個性を使ったのにそれだけで良いのか?」

「え?あまり良い思い出の無い個性を私の為に迷わず使ってくれて、心操は『ヒーロー』に向いてるよ」

 

 初めて言われた言葉に動揺を隠すことが出来ず、溢れそうになる感情を押しとどめる事で精いっぱいだった。だが、何か言わなくてはと思い、先ほど聞いた話に対する思いを告げた。

 

「落ち着いたのに話を戻すべきでは無いだろうが、山稜の事情はちょっとした事じゃないし、今も修行を続けてるのは凄い事だと思う自分の事を卑下しなくても良い。それとヒーローって言っても人それぞれだろ?自分がやりたい事をやればいいんじゃないか?」

 

 少なくとも先ほどの山稜の言葉を聞いて、どんなヒーローが居ても良いじゃないかと思えた。山稜に俺は救われたんだ。そんな山稜を少しでも支えたいと思ったんだ。

 

「そうか。やりたいことか。私さ、親には憧れてた。でもヒーローはもう嫌いになってるんだ。事件を仕事としか思わないヒーローもそう、ヒーローに、いや誰かに助けられるのが当たり前と思ってる人たちもそう、この社会って奴が信用出来ないんだ、人の視線や言葉が気になっちゃうんだよ。それでも捨てきれなかったんだよ」

 

 俺は山稜のバラバラの想いをどうにか文にしようとしていると言った印象を受ける訴えを黙って聞いた。相槌だけは打っていたが、山稜の言葉を邪魔することなく、山稜の縋るような目を見つめ続けた。潤んだような瞳と掠れた声は勇気の証だ。

 

「安心して弱音を吐けたからか自分が何したいのか考えられたよ」

 

「ヒーローは嫌いだけどさ、親は好きなんだ。否定的な言葉が怖いなら否定できない位の結果を見せてやる。助けを求めるのが当たり前な社会は嫌いだ。だけど求められてるんなら助けて、いや全てを救ってやる。ヒーロー嫌いなヒーロー、面白いと思わないか?」

 

 先ほどまでとは打って変わって夢を語る子供の様な明るい表情で力強く告げてくる山稜。その瞳はしっかりとした光を受けて七色に光っている様を幻視した。自信の表れか女性らしい口調から少し変化していたが、それに対する指摘よりも「面白いと思わないか?」という山稜の問いに対してクツクツと笑いながら返す。

 

「斬新すぎて笑えるよ」

 

 そう俺が言うと山稜も笑い出した。その場の雰囲気に飲まれ俺も普段からは考えられないくらい笑った。お互いの姿を見てさらに笑った。一通り笑いつくしたところで山稜から提案をされた。

 

「一緒に修行してくれないか、心操、優しいし、頼りになるし、目的は違うが目標は一緒だから。ダメかな?」

 

 少し前に泣いていたため涙目で、笑いすぎで顔を赤くして、自分よりかなり背が小さいので顔を上げているとはいえ、かなり上目遣いになり、微笑みながら伝えてくる山稜。事情や仲間意識を除いても俺には断る事はたぶんできなかっただろう。……まあ断る気など一切なかったのだが。

 

「ああ、これからもよろしく頼む」

 

 この時から始まった山稜との『ヒーロー』を目指す者同士としての関係。お互いにアドバイスしながら身体能力の強化、個性の練習や応用などの練習を行い始めた。山稜の両親の協力もあり、身体能力、個性、共に順調に伸ばしていくことが出来た。……訓練とは関係ないが、二人きりかお互いの両親の前などでは名前で呼び合うようになった。外でうっかり呼ばない様に大抵は名字で呼んでいるが、大事な話をするときだけでなく。咄嗟に呼び掛ける時なども名前が出てくるので、かなり慣れてしまっている。

 

 雄英に入る少し前の二人で訓練している時には、自分の思い描く『ヒーロー』の姿がはっきりしていた。気恥ずかしい思いを押し殺して、すぐ近くにいる奴に宣言した。

 

「俺は何と言われようがなんて思われようが助けたい人を助けられるようになる」

人使(ひとし)らしい、優しさだな。それと周りを気にしない所は似てるな」

「その中助けたい人にはお前も入ってる。夢の為に無理する前に俺を頼ってくれ瞳空(みら)

 

 山稜が居なければ今の俺は居ない。多少重いと思われてもしょうがないと思えるくらいに山稜の事を想っていた。山稜も似たような事を俺に告げたことがあったが、それ以上に支えたいという俺の宣言だ。

 

「なら、お互いに助け合うとしようか。私が人使を人使が私を守れば良い」

「ああ、そりゃ最高だ」

 

 瞼を閉じればあの時の光景はいつでも思い浮かべられる。それぐらい強く刻まれた約束だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『起きてくれよ。瞳空』」

 

 こぼれた言葉は弱々しく、静かな病室の宙へと溶けて消えた。勝手に泣き出しそうに自分の目を止めることが出来ず、雫が落ちる。

 

 

 

 

「…ぁ……心………操?」

 

 返ってくるとは思っていなかった返事が病室に微かに響いた。その声を俺の耳は確かに拾った。驚きながらもそちらを向くと、薄っすらではあるがこちらを見つめて、不思議そうな表情の山稜がそこにいた。

 

「なに…泣いて……んの?」

「馬鹿野郎。1週間も寝てたんだぞ」

「はは……そう、そりゃ……ながい…な」

「今、医者呼ぶぞ。少し待ってろ」

 

 ナースコールを押してやってきた看護師に山稜が起きたことを伝えると、急いで医者が駆けつけてきた。今の診断結果を伝え、体に違和感が無いかを聞き、体中がボロボロだからくれぐれも安静にするようにと伝えていった。

 

「安静にか、動けないからそうするしかないな」

「動けたら、安静にしないのか?」

「じっと、してるのは、退屈だ。あれからどうなった」

「まったく、ヴィランは首謀者2人が逃げ出した。先生やクラスの奴らは無事だ」

「そうか。良かった」

 

 そう言って笑う山稜は心の底から良かったと考えているようだ。自分の被害を顧みない行動の仕方はあまり許容したくない。

 

「いやさ、私の判断が間違ってる所為で最後危険になっちゃったから。その分だよ」

「あれは、あんな怪物が用意されてるなんて誰も考えなかっただろ」

「あれは予想外だったけどさ。それ以上に大丈夫だと高を括ってたんだよ。その考え方がさ、自分の目指すべき目標と比べると駄目だなって感じてさ。ついつい焦っちゃったのかもね」

「もう少し自分を大切にしろ」

「肝に銘じとくよ」

 

 そんなことを話してると、リカバリーガールがやってきた。いつもの診察の時間より早いと思っていると目を覚ましたという連絡を受けて、予定も無かったので先に来てくれたそうだ。

 

「元気そうで何よりだよ。体中ボロボロだというのに」

「生命エネルギーは比較的貯めやすいので、意識さえあれば回復に回せます」

「まあ、体力があるなら問題なく治療が出来るよ。ほれ、チユー」

「うひゃあ」

 

 リカバリーガールの治療を受けたおかげで怪我は完全になくなった。折れに折れた骨も断裂した筋肉も元通りとはいかないが、問題は無いレベルである。後は寝ていた分のリハビリをしていくだけだ。

 

「個性の相性が良いから一気に治せたけど、普通はこんな大怪我は直ぐには治せないんだ。無茶を繰り返すような真似はするんじゃないよ」

「了解しました」

「治したばかりなんだ。安静にしときなよ」

 

 そう言うとリカバリーガールは還って行った。俺は病室の入り口まで見送り、頭を下げてきた。その間は1分あるか無いかぐらいだというのに、戻ってみると点滴を刺したまま飛んだり跳ねたりしている山稜の姿が見れた。

 

「『山稜?』」

「は、はい」

「『大人しく、横になってろ!!』」

 

 流石にそれは許すことが出来ないので怒鳴りつけると共に個性を使用して寝る様に促す、解除しようと思えば山稜なら解除できるだろうが流石に不味い事をしたと思ってるのか大人しく寝ている。

 

「学校ではどうだった?みんなの様子は?」

「お前以外は先生もクラスの奴らも問題なく登校してたよ」

「あ、1週間寝てたけどその間も授業ってあった?!」

「1週間休みがあって、ちょうど今日から再開だったから無い」

「それならよかった。1人で補修とかは嫌だからね」

「だろうな。クラスの連中もお前の事を心配してたから。()()()()()()とっとと来い」

「地味に矛盾の言葉をありがとう」

「はは、っと少し前からクラスの連絡が来てるみたいだな。まだ伝えてないからそっちとは別件だと思うが」

「おっ、何かあるのかな?」

「はは、面白い事になってるからみて見ろ」

 

 そう言って俺は山稜の方に自分の携帯の画面を見せた。

 

 

 

[緑谷:みんなで特訓しない?体育祭の為だけじゃなくて、ヒーローに成る(誰かを守る)ために]

[爆豪:クソデクが、一番個性で体をぶっ壊してる手前が調子に乗ってんじゃねえぞ!!]

[爆豪:言いだした手前が訓練場の許可責任とってぶんどってこい]

[切島:緑谷一人に押し付けるなよw素直じゃねえな爆豪ww]

[爆豪:殺すぞクソ髪]

[切島:特訓良いんじゃね?俺も強くなりたいと思ってたし、って爆豪怖えよ……]

[上鳴:よっしゃ、やってやろうぜ!そして切島、ざまぁww]

「耳郎:煽ってると飛び火するよ。それでいつやる予定?」

[芦戸:みんなで特訓て面白そう!!]

[常闇:好敵手と切磋琢磨する。これぞ強者への道]

[葉隠:うん、うん絶対楽しいよ]

[瀬呂:へへ、良いねぇ。ヒーロー科っぽいんじゃね]

[麗日:色々とやれること試してみたいね]

[飯田:素晴らしい提案だ緑谷君、準備などは委員長として手伝わせて欲しい]

[八百万:特訓ですか、家に遅くなると伝えないといけませんね。手続きなどは私もお手伝いいたしますね。順番で行いましょう]

[尾白:相手が居ると助かるから、特訓の誘いは嬉しいよ]

[峰田:俺もやるぞ、やってやる]

[青山:汗水流すのはスマートじゃないけど、弱いままなのはかっこ悪いね☆]

「蛙水:ケロ、楽しみしてるわ。耳郎ちゃん以外だれも日程を確認しないのね」

[轟:思う所があるので特訓には参加させてもらう]

[障子:どこまでやれるか。試す事は良い事だ。俺も参加させてもらう]

[緑谷:みんな、ありがとう]

[飯田:良い提案をしてくれたのだからお礼を言うのはこちらだ]

[切島:そうだぜ。緑谷のおかげで楽しくなりそうだ]

[麗日:うんうん、流石だよ]

[八百万:それで日程はどうしましょうか?]

[上鳴:基本的に放課後だろ]

[耳郎:人数居ないと借りれないんじゃない?]

[瀬呂:予定ある日もあるけど毎日誰かしら居るだろ?]

[葉隠:確かに、それなら少ない日は中止で、毎日で良いのかな?]

[飯田:強制では無いのだから、それで問題ないだろう]

[尾白:その方が有難いね]

[常闇:ならば決まりだろう]

[峰田:時間も残れる奴の時間か?]

[蛙水:けろ、最低限の人数が残って無いと駄目だからそこはその日の人次第でしょう]

[芦戸:それに、個性使うなら先生にも監督して貰わないとダメじゃない?]

[障子:それらを含めて一度確認を取るべきだろうな]

 

 

 

「はは、特訓だって、リハビリにちょうど良いかな?」

「はあ、最低でも明日一杯までは入院しとけ、お前の両親にも連絡入れるから」

「げっ……分かったよ」

「それで、俺らからも連絡入れるか?」

「そりゃ勿論」

 

 

[心操:俺も参加させてもらう。個性相手の立ち回りを強化したい]

[山稜:リハビリがてら参加するから。よろしく!]

[緑谷:山稜さん。起きたの!?]

[麗日:良かった。無事で良かった]

[切島:山稜のおかげで助かったからな、ありがとな]

[上鳴:というか、やばい奴任せっきりにしちまったからな]

[飯田:山稜君、回復おめでとう。君の復帰をみんな待ち望んでたよ]

[芦戸:ねえ、話したい事あるから会えるの楽しみにしてるよ]

[蛙水:無理はしないでね。山稜ちゃん]

[爆豪:チビ女、怪我人だろうが容赦しねえぞ。首席だか知らねえが今回の件で弱点もある程度予想は付く、勝たせてもらうぞ]

[切島:容赦しろ!?怪我人だぞ。馬鹿野郎]

[上鳴:爆豪、それは流石に止めるぞ]

[障子:回復具合次第だろうが、リハビリがてらと山稜本人が言っているんだ。無理をさせてやるなよ]

[八百万:意識が回復してないので遠慮していましたがお見舞いに伺ってもよろしいでしょうか?]

[耳郎:そういえば、お見舞いしてるの心操だけだね]

[峰田:そうだな。見まいに行こうぜ。なっ]

[常闇:隠しきれぬ雑念が溢れているな]

[青山:いっそ清々しいね☆]

[瀬呂:お前は見舞いの品だけ誰かに渡せ]

[轟:参加する気みたいだが体は大丈夫なのか?]

[尾白:そう言えば全身ボロボロだよね?]

[葉隠:リカバリーガールでもそこまで直ぐには治せないんじゃ]

[芦戸:山稜さんも回復できなかったっけ?]

[緑谷:個性把握テストの後で心操くんを回復してたね]

[耳郎:あれ、怪我にも効くの?]

 

 

 俺と山稜が送ってから更に話し合いが加速していった。その様子を見ているだけで賑やかで、少し煩いぐらいの教室を思い浮かべることが出来る。まるでクラスの全員とワイワイ話している様な気分を味わえたので自然と笑顔になる。

 

「ふふ、頑張って行こうか」

「そうだな」

 

 1のAの全員が揃った。これでようやく学校が再開したという空気になった。辛く苦しかったが貴重な体験であるヴィランとの戦いを糧に一致団結していけばこのクラスは何処までもいける気がしてくる。ふと、山稜の方を見ると向こうもこちらを見ており、顔を見合わせてお互いに笑いあった。




学校に来ては居ませんが一応これで過去話、目覚め、クラスへの復帰を書き切りました。パチパチパチパチ(セルフ拍手……虚しい)

まあ、後はもう一日入院するので山稜の両親とクラスメイトのお見舞い、担任や警察との会話などを入れましょう。

後は、特訓の話を書いたら、一気に雄英体育祭に突入のつもりでしたが、USJ襲撃のメインの所は書ききったから、次に入る前に少しこの作品はスローペースにして、他の作品を先に書こうかな。前回の投稿では特訓の話まで書き切るって言ったけど。特訓の描写は体育祭の途中に入れていく方が良い気がしてきた。


という事で山稜のお見舞いを書いたら体育祭の形式や勝敗、戦い方なども考えていく必要があるので、どっちにしろ直ぐには書けないですし。


クラスのメンバーに違いがあるし、障害物競走はそのままで、騎馬戦は別の競技に置き換えようと考えてます。心操の個性がバレてるのと本来居た人たちが普通科枠で入ってくるなども考えるとそのままだと進めにくいので。

最後はやっぱりトーナメント形式の方が良いよね。でも変更した競技次第では最後の種目に残るのがA組だけになってもおかしくないし、その場合、トーナメントだと物足りないもしくは力を見せきれないと考えられそう。ねずみや寝袋ならその場で変更しそうだし。(雄英の教師陣の考え方的に)


(誰と誰の戦いが見たいとか、こんな競技どうかな?みたいなのあったら全然感想で書いてください。採用するかは分かりませんが、参考にさせて頂きます。何ならレクリエーションの方に組み込んだりもできますし)


山稜の意気込みや決意なども含まれてますが、山稜のオリジンはまた別にあります。大半は同じですが、更に過去の出来事や山稜から見た心操などの描写に違いをつける予定です。


それとアンケートは締め切ります。
投票してくれた方々に多大なる感謝を。
若干無双が結構圧倒的でしたね。
その方がテンポよく進められるし、新しく敵を考える必要が無いので作者的には楽なので助かりますね(正直者)


という訳で少し次の投稿は送れると思います。
理由を簡単にまとめると

理由1 別の小説の作成
理由2 体育祭の設定作り

(細かい設定や変更を作ろうと思うと結構掛かると思います。先ほども書きましたが意見や感想、どしどしください。私の頭は基本的にポンコツですので)


小話の方は早めに書きたいですが、山稜の両親の設定の見直し、クラスメイトとの掛け合い、先生や警察との話し合いなどの人間関係部分はしっかり作りたいので。


まあ、こんな感じでしょうか。
USJ襲撃で完結してる作品とかもありますが、最低でも雄英体育祭まではいきたいよなと考えております


という訳でいつも通り長い長い後書きになってしまいましたが、また次の投稿で会えるまで、いつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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16 雄英体育祭①

投稿が予定よりも遅くなりました。

私は実家住まいなのですが引っ越しをすることになり、パソコンが使えなかったというちゃんとした理由がありますので何卒ご容赦を……

とりあえず本編をどうぞ。


 熱狂に包まれている会場、全ての科が入り混じって集まっているなか、A組のメンバーはそれぞれが自分に出来る事を見せつけるために今日この日を迎えようとしている。日本最難関のヒーロー科を抱える国立雄英高校にて行われる、個性ありの体育祭、TVでも放送され、高視聴率をキープ中な日本のビッグイベント。スポーツの祭典と呼ばれたかつてのオリンピックに代わり、全国を熱狂させている。

 

「ついに来たね」

 

 誰かが漏らした言葉に全員がそれぞれの目標を胸に気を引き締める。

 

 

『雄英体育祭』

 

 

 これは一大イベントであると同時に現役プロヒーローもスカウト目的で大勢観戦に来るため自分自身を売り込む場となっている。活躍した生徒・注目を集めた生徒は今後の進路で有利となるため、業界への個性アピールには最適の行事となっている。

 

 だが何もアピールしたいのはヒーロー科だけでは無い。雄英高校にはヒーロー科受験に落ちて普通科に入った生徒もおり、成績次第ではヒーロー科生徒の枠を取れる可能性もあり、密かに下克上を狙う者も多い。更にはサポート科の生徒が自分のアイテムを企業の目に留まらせるためアイテム持ち込みで意欲的に参加する事もある。

 

 誰もが自分なりの目的を持って臨むこの場、既にウォーミングアップは全員が終わらしており、体は温まっている。心を落ち着かせて、競技に備えるばかりである。

 

「全員であれだけ練習したんだ。第1種目突破は当たり前、第2種目以降はルールや通過人数がどうなるか分からないけど、上位独占するぐらいの気概で行けるよね?」

 

 最近に大けがして意識不明だったとは一切思わせないような強気な発言をあえて周囲に聞こえる様に言い放つ、主席入学者(現在の1位)の発言に全員が同意する。そしてついに出番がやってきた。

 

『一年ステージ!生徒の入場だ!』

 

「行くよ!!」

『おー!!』

 

 薄暗い廊下から会場へと足を踏み出し明るさに目を慣れさせる。見渡す限りの人、人、人。打ち上げられた花火、歓声、拍手、覚悟して来たはずだがあまりのスケールの違いに圧倒されている者もいる。

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが我こそはと鎬を削る年に一度の大バトル!!どうせお前らの目当てコイツらだろ!敵の襲撃を受けたにもかかわらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科!1年A組だろぉ!?』

 

「凄い人だね」

「向こうの観客席すげぇな。有名どころのヒーローばかりだ」

「けっ、喧しい奴らだ」

 

 他のクラス同様に、教師、18禁ヒーロー・ミッドナイトが待つお立ち台前に並ぶ。

 

「18禁なのに高校にいても良いものか」

「いい!」

 

 常闇のもっともな疑問に、声を出して答えたのは峰田であったが、上鳴と瀬呂も頷いていた。三人が響香から侮蔑の視線が送られていることには気付いていないようだった。

 

「緊張が解れてるみたいだし、大目に見てやっても良いんじゃない?」

「放っておけば調子に乗るよ。あいつら」

「そんときゃ、心操が二度とそう言う気が起きない様に洗脳するよ」

「「「普通に怖い事言ってるんだけど!?」」」

「俺にそんな事させるなよ。なあ、お前ら?」

「「「はいっ、分かりました!!」」」

 

『選手宣誓! 代表、1年A組、山稜瞳空!」

 

「行ってくる」

「そっか、首席がやるのか、あれ」

 

 A組のみんなに見送られて前へと出ていく、全員の注目が集まる中でおもむろに口を開く。

 

『宣誓! 我々選手一同はスポーツマンシップに則り、正々堂々と戦いぬくことを誓います!』

 

 ありきたりだが、場の雰囲気に合っており、気が引き締まる宣誓だなぁと考え、会場からまばらに拍手が送られ始めたあたりで、山稜はスタンドからマイクを取り外して持ち直した。その後で個性を用いて浮かび上がり、会場の中心で止まった。

 

 突然の行動に周囲の注目を一点に集めた。何をする気なのかと期待に胸を躍らせるミッドナイト先生は止めることなく見守る事を選んだ。

 

『と、そんな形だけの言葉じゃ伝えたい言葉も響かないでしょう?』

 

 問いかけるような、賛同を募るその言葉にノリのいい生徒や観客、一部のヒーローもそうだ!と声を上げる。それを確認し、会場の空気を自分に持って行った所でもう一度口を開く。

 

『ここは、全てを見せる場であり、誰かにとっては魅せるための場でもある。それはヒーロー科、普通科、サポート科、経営科、全ての科において差は無い』

 

『今日この日の為に準備をしてきた奴もいる。下克上を狙い、牙を研いできた侮れない奴もいる。だが実際に注目されているのはヒーロー科と言う枠組みの()()()()……それで良いと思う?』

 

 良い訳あるか!!ヒーロー科ばかり注目を受けやがって!!俺達だって!!と言った声が上がってくる。焚きつけることが出来たがこれだけでは足りない。

 

『そもそもスタートラインを決めつけちゃぁ駄目でしょう?この日の為にどれだけの時間を費やしてきたと思ってるんですか?』

 

 山稜の言葉を聞いて他の科の者たちから何を偉そうに、上から目線と言った意見も出てきているが半分以上、7割~8割くらいの賛同が得られている状況だった。だが、次の一言で全てが覆った。

 

『科で纏めちゃいけませんよ。ヒーロー科なんて言う名前を出さなくてもウチのA組が一番に決まってるんですから』

 

 ん?え?と言った困惑に近い感情が会場を包み込んだ。A組の面々からは何を言う気だ?という山稜のヤバさを感じ取った者達が嫌な冷や汗を掻き出した。

 

『ヴィランの襲撃を乗り切った奇跡のクラス?奇跡でヴィランを倒せるんならこの場にいる皆さんで神や仏に祈ればいいでしょう?私たちは持てる力を使い、文字通り命を懸けて戦ったからこそ、今この場に立っている』

 

 その言葉を聞き、確かにと頷く者も居れば、子どもが調子に乗っていると鼻で笑う者もいる。実況席で苦い顔で笑っている先生もいる。

 

『下克上を狙う普通科、自分を魅せ付けるサポート科、経営科、努力をしてきた人も多いでしょう。だけどそれはこちらも同じですよ。他の科を選んだ人達の中に個性を理由に諦めた人もいる事でしょう。ですがウチのクラスの1人は戦闘系の個性では無いのに入試を7位で合格してるぞ。入試のやり方が問題だった?お前らの努力不足を他に押し付けるな』

 

 その言葉にふざけるな!!と激情に駆られる者も居れば、思い当たる節があり居心地が悪そうにしている者もいる。だが、全体的に山稜への、いやA組への感情は良い物ではなくなっている。突き刺さる視線を山稜はまったく気にしていないが、A組のメンバーの中には委縮している者もいる。

 

『「襲撃を乗り越えたヒーロー科」ではなく「襲撃を乗り越えたA組」と紹介してほしかったですね。私はその時入院していたのですが、何でも話題に上がっているからという理由でイチャモン付けてくるクラスと一纏めにされたくはないですね。それと練習時間を削って宣戦布告やらこちらの活動の邪魔をしてきた普通科の一部の方達に関してはもうどうでも良いですね』

 

 入院していたという単語を混ぜる事でそれだけの危険があったことを暗に示す。そして事実ではあるが悪意をもって語られる内容にB組から、眼中にないと言外に告げる山稜の姿に普通科から、プチンと何かが切れるような音が聞こえた気がした。そしてそれは気の所為ではない様だ。怒り一色という訳では無いが確実にヘイトはA組に向かっている。

 

『スタートラインを決めつけちゃダメですよ。A組は皆さんが思っている以上に先を進んでいるんですから』

 

 そう言ってにっこりと笑って会場をぐるりと見渡して、さも「えっ、当たり前のことですよね」といった表情を浮かべて見せる。その後で見下ろすのではなく、見下すように下にいる生徒たちを見る。

 

『勝ちが決まった勝負なんてつまらないですからね~そうでしょう?「雄英体育祭」、それをつまらない物で終わらせないでくださいよ。そうでないと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全て貰いますよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い切ると、マイクをミッドナイトに投げ渡して、会場中に自身の声を届かせるために、自分の個性を魅せ付けるために、それを行った。

 

『これが本当の宣誓だ。この雄英体育祭A組が貰い受ける!!

 

 文句があるやつは行動で示せ!!己を魅せ付けてやれ!!』

 

 

『激闘の雄英体育祭のスタートだ!!』

 

 

 

 怒りが熱気が会場の全てを巻き込んで、まるで嵐の直撃の様な轟音を響き渡らせた。A組の面々は聞いてる途中は一部怖気づいている者もいたが、既に堂々とした立ち振る舞いを見せている。

 

 また、やり方に問題はあったが全ての生徒と観客を巻き込んで盛り上げさせたその様子を見たミッドナイト先生は「熱い…熱すぎる!!最高の展開よ!!」と蕩ける様な表情で余韻に浸っていた。

 

「熱気が冷めない内に行くわよ!!さっそく第一種目の発表!激闘の幕開けを飾る最初の競技は」

 

 

 

「障害物競争!!」




ちょっと読みにくいですよね。色とか付けたり、他にも特殊タグをやって工夫を入れたり、読みやすくして行きたいんですが、ちょっと時間が足りないので、そのうちやります。はい、きっと、たぶん……


とりあえず、基本的には爆豪以上にヘイトをかって、盛り上げていく方針で行いました。一応理由があって、山稜はとある過去から『考え無し』や『努力を怠る者』が嫌いです。そして、本質を見抜けずに、噂や他人の評価をあてにするヒーローなどはもっと嫌いです。

だからこそ、逆に自分たちは噂や評価以上に優れていると見せつける事でそう言った考えを否定しようとしています。まあ、まだ書いてませんがA組の特訓も踏まえて、不当な評価をするなと訴えているのもきちんとあります。個人的な感情だけで巻き込むことはしません。

文中に在りましたが、ちゃんと焚き付けるという意味合いもあります。これで本来居たメンバーやオリジナルの個性などを出来る限り入れていきたい。

B組はちょっと考え中、一部の常識的な者たちを特訓に加えていた事にするか、完全に敵対にするか、山稜の言葉に胸を打たれて真正面からぶつかりに行くか、等々次までに決めときます。

第1種目は変えません。これは障害物競走の方がやり易いので。
第3種目は基本的に1対1の戦闘であるという点は変えません。


第2種目は未だに悩んでます。
騎馬戦で流れを完全に自作にするか、新しい競技で自作にするか。
どっちも、どっちなんですよね。
まあ、まだ余裕はある。

まあ、こんな感じの滑り出しで雄英体育祭やっていく予定です。
温かい目で見守って下さるとありがたいです。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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17 雄英体育祭②

投降です。普段より長めです。
途中で区切るべきだったかと悩みながらの投稿です。
まあ、とりあえず読んでみてください。


 飛び上がって空中に居た私は、A組の居る場所へといつもの入れ替えで瞬間移動して降り立つ。先ほどまで会場の中心にいた私がいきなり現れたことで周囲はまだ騒がしくなった。

 

「瞬間移動か!?」「それなら浮き上がってたのは何だよ」「凄い注目度ですね。あの人と組めたら私のベイビーの宣伝効果アップ間違いなしです」「複数の個性か、それとも応用の利く個性なのか」「調子に乗ってる奴だな」「あれがヒーロー科、いやA組か」「他のクラス全部を敵に回すとか、馬鹿だとしか思えないね。首席とかもてはやされて頭おかしくなっちゃったのかなぁ?」「うるさい、黙ってな。このアホの味方する訳じゃないけど、あれはやりすぎでしょ」「売られた喧嘩は買うまでだ。挑戦させてもらうぜ、山稜」「暑苦しいノコ」「・・・・・・」「あれに勝てるのか」「努力か……強個性だから言えるんだろ」

 

 周囲に注目に対して耳を傾けはするがそれだけで、彼らに対して何かすることは無い。伝えたい事を伝えたのは私の勝手で、受け取った側が何を思うのかはそちらの勝手、挑むも挑まないも、決めるのは向こうなのだからこれ以上奴事は無い。

 

「山稜、何してくれてんだよ。俺達へのヘイトもメチャクチャ高くなってるぞ」

「テメェ、このチビ女。一人だけ目立ちやがって」

「山稜君、宣誓の場で他のクラスに喧嘩を売るというのは問題行動が過ぎると思うぞ」

「まままあ、やっちゃたものはどうしようもないんだしさ」

「周りからくる視線が凄いよ」

「ある意味お祭りっぽいのかなぁ?」

「バカ騒ぎって言う意味なら近いかもな」

 

 A組の面々からの言葉には良い笑顔で返すだけに留める。真面目な話をするにしても、あれだけ特訓したA組の評価としては適していなかったし、妙な評判で色眼鏡で評価されちゃあ溜まったもんじゃない。A組を舐めるなと言ってやったわけですよ。

 

「はは、さて全員準備は良いよね?」

「かき回すだけかき回して準備も良いも無いだろ……」

「準備は良いよね?」

「おい」

 

 心操のツッコミに関してはノーコメントで突き通すと全員から苦笑いが返ってきた。うんうん、一体感のある良いクラスとはこういうのを言うのだろう。

 

「あれだけの事を言っちゃったからねぇ。私は全力でやるつもりだよ。それにみんなも着いてきてよね?」

 

「ハッ、何でお前が先頭なんだ。お前をぶっ殺して俺が一番だって証明してやるよ」

「おいおい、A組内で争うなよ」

「切磋琢磨と言うには少し物騒ですが、良いのではないでしょうか」

「八百万がだんだん過激な思想に染まっていく」

「いえ、許容したわけでは無いですが、A組らしいのではと」

「これで負けたら俺らも笑い者だし、いっちょやるか」

 

 

『計11クラス全員参加のレースよ。コースはこのスタジアムの外周約4km!わが校は自由が売り文句、コースを守りさえすれば何をしたってかまわない!さぁ、位置に着きなさい!』

 

 スタートを知らせるランプの有るゲートの前に全員が集合する。経営科は後ろへ回り、サポート科はアイテムの調子を確かめる。普通科は作戦を練っているようで、B組の半数はこちらにガンを飛ばしている。ゲートで転倒しているランプが一つずつ消えて……

 

 

『スタート!!』

 

 

 ミッドナイト先生の合図と共に全員が限られたゲートから会場の外へ出ようと殺到した。科やクラスなど関係なしのごちゃ混ぜ状態でもみくちゃになっている。これではスタートしたくても出来ないというグダグダな状態になるが、そろそろ誰かしら仕掛ける頃かな?

 

「なるほど、団子状態の今なら一番効果的か」

 

 地面にラインを引くように氷の線が放射状に広がるのを見て、A組、B組の一部に加えて勘の良い者はその場からどうにかして逃れるために、範囲外か空中へと移動する。

 

氷線掌縛(ひょうせんしょうばく)

 

『おおっと!!ここで仕掛けたのはA組の(とどろき)焦凍(しょうと)だ。団子になってた奴らの腰位までを一気に氷で覆っちまったぜ』

 

『個性や持ち物次第では抜け出せるだろうが、時間が掛かる。そして打つ手が無い奴は体の半分近くが埋まっちまったとなればリタイアするしかない。状況的にも適している良い手だ』

 

「あの状況で炎を使う訳にもいかないだろうけど、やっぱり氷の方が練度が高いねぇ」」

 

 氷の線を作り出し、冷気の道を作り出す事で氷を作り出す範囲と威力を大幅に上げるという特訓で編み出した轟の新技である。状況次第では線を増やしたり、太くしたり、範囲を狭めたりと諸々の調整が出来る。今回は広範囲を素早く凍らすために使ったようだ。

 

 氷の線を作り出す分だけ技の発動に遅れが出るのではないかと思うだろうが、冷気が伝わりやすいので凍り付く速度は上がっており、氷の範囲が広がるのでむしろ捕まえられる人数は増えている。氷で冷やした身体はそのまま炎を用いて飛び上がり進んでいく過程で温まるだろう。

 

「危なかったわ。脇に逸れてて正解やったね」

「ふむ、駆け出すのが遅れていたらやられていた事だろう」

「酸の反応でどうにか溶かせたかな。腰まで来てたら流石に抜け出せなかったけど、セーフ」

 

「ひぃぃ、A組容赦がねえな」

「様子見していて正解か」

「ライバルが減ったんだ。むしろ感謝しよう」

 

「ふふふふ、私のベイビーに掛かればこれ位の氷、簡単に粉砕です」

「こっちの奴、溶けた水入り込んで変な音出してるよ」

「えっ?」

 

ドガァン

 

 

 後ろの方が勝手に自爆しているのが見えたが、爆発の原因であろう製作者が無事で周りの連中がダウンしていた。というかある程度氷が解けていたから良かったが、凍り付いたまま爆発してたら下手しなくとも身体も粉々になるぞ。

 

「無理に抜け出そうとしたら自分が傷つくだけだぞ」

 

 そう思っていたらこの状況を作り出した本人からの忠告が投げかけられた。その本人は既に結構先まで進んでいるようで、状況が落ち着いてきたところで実況が挟まる。

 

『いち早く察知できた奴が先頭を進んでいく、個性で抜け出した奴と様子見して離れた奴がその後を続いて行くぅ。そして後ろにいたおかげで難を逃れた連中もぞろぞろと出てくるぜぇ。さあて、このまま楽に進めると思うなよ。最初に待ち受けるのは入試にも使われたロボ軍団、第一関門ロボインフェルノだ!!ここを越えねぇと先には進めないぜぇぇぇぇ!!』

 

『氷に閉じ込められている奴ら、抜け出せない様ならそろそろリタイアすることを進める。凍傷になって足が腐り落ちても助ける事は出来ないからな』

 

『恐ろしい事を淡々と伝えてやるなよイレイザー!?氷に掴まってる奴らが必死の形相で助けを求めだしたぜ』

 

『事実命の危険が無い限り、リタイアを宣言するまでは手出しはしない規則だ。足が腐り落ちても死にはしない』

 

『正論だからこそシビィぜ。お前ら無理だと思ったらすぐにリタイアしとけ』

 

 漫才の様なやり取りをされると気が抜けそうになるかとも思うが全員が目の前の事に注目してるため関係ない会話は出場者の耳には届いていない様だ。それはさておき、襲い掛かるロボの群れとも言うべき者達は文字通り選手たちの壁となっているが、一部の者たちには障害と認識されていない。

 

「あれは入試の時の0ポイントか」

「小型のもいるが、大型があれだけいると圧巻だな」

「それにしてもあの数、下手すれば入試より多いぞ」

 

「あれを壊して進むのは僕には厳しいか、なら駆け抜ける『レジプロバースト』」

「戦ったら時間のロスだ。『フルカウル』30%」

 

 ロボと直接の戦闘を避ける様にロボとロボの隙間をロボの攻撃を掻い潜りながら、いやロボの認識さえも置き去るような速度で駆け抜ける。

 

 飯田はトルクオーバーを引き起こす事でトルクと回転数を無理やり底上げして、爆発的な超過速を生みだす事で一気に走り抜ける。元々は10秒ほどしか出来ず、使用後はしばらくエンストしていたが、今では5分程度であれば反動無しで使える。それ以上使ってしまうとやはりエンストするのだが、使って休んでを繰り返せば殆ど最高速で走り続けられる。

 

 緑谷は制御できるようになったフルカウルを用いて超スピードで走り抜ける。初速では全身が強化されている分のパワーがあるので飯田より緑谷の方が速い。そのうえでオールマイトの動きから学び、自分の動きに取り入れた『ニューハンプシャースマッシュ』、進行方向とは反対の空中にパンチを放つことで加速や方向転換を行っている。速さに幅はあるため直線なら最高速度で飯田に負けるが、障害物がある状況であれば緑谷の方が速い。

 

「上から行けば関係ない『炎翼(えんよく)』『氷熱炎迅(ひょうねつえんじん)』」

「はっ、障害にすらなんねぇよ『爆速ターボ』」

「ふっ『深淵闇躯(ブラックアンク)』そして『形態(モード)黒翼(ダークウィング)』」

〈ソラヲイケルノハオマエラダケジャネエゾ〉

 

 それぞれ個性を用いて空を飛び、ロボの上を取る事で安全に進むことが出来ている。

 

 轟は炎を推進力とし、氷と炎の温度差による気流の発生で制御している。

 

 爆豪は爆発による反動と爆風をそのまま推進力にして、小さい爆破を繰り返し制御している。

 

 常闇は黒影(ダークシャドウ)を身に纏う事でフィジカル面を上昇させる『深淵闇躯』を使い、そのうえで身体の闇を少し薄くする必要があるが翼を展開することで自由に飛ぶとまではいかないが、地面を蹴って飛び上がり、滑空することが出来る。大きく飛び上がる際は自身で飛び立つ必要があるが、少しであれば翼を動かす事で上下左右に動く事は出来るので、高度が落ちる事は無い。ちなみにマントなどの遮る物があろ、闇を自由に使えればもっと自由自在に飛ぶ事も出来るだろう。

 

「けろ、足場は十分ね」

「テープも引っ掛けやすい」

「おいらだって行けるぞ」

 

 空を飛ぶ事こそ出来ないが個性の使い方によってはロボを飛び越える事も可能である。

 

 蛙水は強力な脚力を活かしたジャンプと長い舌を用いたロープアクションのような動きでロボからロボへと飛び移って行く。それに合わせて足腰も丈夫にできているので着地の心配も無用である。

 

 瀬呂はテープの貼り付けて巻き取るという動作を繰り返す事でロボとロボの隙間を素早く移動している。ロボによる妨害の際には張りつけていないもう片肘のテープを即座に巻き付けてコース変更をしている。降りる際にはテープを一気に伸ばして降り立っている。

 

 峰田はモギモギ同士をくっつけてロープの様にしたり、モギモギをロボにくっつけてその部分にぶつかる事で撥ねるという動作を繰り返して跳ね回っている。ピンボールの様にロボの隙間を飛び交い、着地の際にもモギモギを地面に投げる事で衝撃を無くしている。

 

「浮かして飛ばす。浮かして飛ばす」

 

 麗日はロボに触れた傍から投げたり、殴ったり、蹴とばしたりして自分の道を確保している。余裕がある時は向かってくるロボに対してぶつかる角度で飛ばしている。

 

「『オクトフック』」

 

 障子は複製腕を全て手に変えてラッシュする『オクトブロー』と違い、体を捻りながら全ての複製腕を振りかぶり、勢いをつけて一点を連続して殴りつける。目の前のロボはそこまで硬いという訳では無いがそれなりに厚みがあるため実際に破壊しようと思えばそれなりの力が必要となるので、目の前の障害を破壊するのにこの技を選んだようだ。

 

「『キャントストップトゥインクイング スーパーノヴァ』まとめて貫かせてもらうよ」

 

 青山は打ち続けると腹痛になってしまうのでエネルギーを貯めて一気に射出することで目の前のロボを一掃した後で、観客席の方にウィンクをしてから、悠々と走り出した。

 

「ただ溶かすんじゃなくて、接合部分をくっつけちゃえ『アシッドスナイプショット』」

 

 芦戸は生成した酸を弾丸の様に飛ばして攻撃しているのだが、ピンポイントで狙いたい場所へ()()()酸をぶつける事で時間のロスを減らしている。行動不能にするのであれば一部を溶かして、固めてしまえばいいのだ。

 

「『俺は速い、疲れることも無い』」

 

 心操はいつも通り自身に暗示をかける事で限界以上の力を引き出し、ロボを掻い潜って走り続ける。個性以外、特に身体面は無個性と変わりないため、強化はされているがその方法は単純に避けて走るだけである。

 

「アイテム禁止だが関係ねぇ。『局所帯電』からの『ボルトショック』」

 

 上鳴は武器が無ければ自由に遠距離攻撃を繰り出す事は出来ないが、体の一部、今回の場合は両腕のみに電気を集中させることで普段以上の電力で攻撃することができ、そして脳のショートを防ぐ。直接触れなければ攻撃できないというのは難点ではあるがロボ相手であれば無双が出来る。

 

「個性も使いようって事だね。『尾閃跳打(びせんちょうだ)』」

 

 尾白は尻尾を思い切り地面に打ち付ける事で跳ね上がる勢いのまま前へ前へと進む。武術を学んできたことにより鍛え上げられた体幹により、姿勢を保って無駄に勢いを消費することなく、ロボの足元を飛び交う様に進んでいる。

 

「ロボが何だ。俺の方が硬いぜ『安無嶺過武瑠怒履瑠(アンブレイカブルドリル)』」

 

 切島は自身の持ち味である硬さを活かすために、体を硬化させたまま素早く動く事に力を入れていた。硬さをそのままに勢いをつけてロボにぶつかる事でロボを破壊しながら進み続ける。今は完全に突破するためには回転を加えなければならないが、目標とするのは走るだけで目の前の物を破壊するぐらいの硬さと速さである。

 

「サポート科に通った甲斐がありました『合体創造』」

 

 サポート科で作られるサポートアイテムの数々は実際に現場で使われる事を想定されて作られた物ととてもじゃないが使えない物とあるが、部分部分であれば使える物もある。それらの構造を理解することでアイテム同士を掛け合わせた状態で創造させた。現在は体の保護を目的とした補助スーツ、顔の保護を目的としたヘルメット、そして極めつけは強力なエンジンとドリル付きの見た目からしていかついバイクである。以前の個性把握テストで作った物は既存のバイクであったが、今回用いるのはリスクを度外視したオーバーパワーバイクである。颯爽とバイクにまたがると一気に加速してロボを粉砕しながら駆けていく。

 

「ふん、『ハートビートレゾナンス』」

 

 耳郎はロボにプラグとなった耳たぶを挿し、自分の心音を増幅してぶつける。それを左右のプラグで同時に行い、内部で反響、共鳴、共振させることで一気に破壊する。同時に挿さないといけない事と反響させるために挿す場所を調整する必要がある事、心音を一定に保たないといけない事などなどの難点の多い技ではあるが、その破壊力は巨大ロボを中心から粉砕するレベルである。

 

「『無音歩行(サイレントウォーク)』」

 

 葉隠は足音を一切立てない様な足運びで他の選手にロボが注目している内に死角を見抜いてするりと周囲の戦いに巻き込まれない様に突破する。

 

 

『ああ……あの程度じゃ障害にすらならねえか』

 

『第一種目の首位はって、殆ど大差がねえな。A組の面々が楽々とロボインフェルノを突破ァァ!!』

 

『少し遅れてだがB組と一部の普通科とサポート科も来てるぞ』

 

 

『双大拳・撃』

磔刑(クルセフィクション)終身(フィニッシュ)

『ガオンレイジ・メテオ』

『サンダーホーン・タワー』

『インパクトストック解放(ファイア)

 

 B組ではあるが途中から特訓に参加した面々である。初めに委員長である拳藤(けんどう)が加わり、塩崎(しおざき)宍田(ししだ)角取(つのとり)庄田(しょうだ)と段々と増えて行った。他のB組の中にも参加したがる者はいたのだが生憎と予定が合わなかったのだ。ちなみにその面々というは黒色(くろいろ)小大(こだい)小森(こもり)鉄哲(てつてつ)である。物間(ものま)は断固として反対し、一緒に特訓しようとしている面々について信じられないと吐き捨てていた。

 

 

『おおっと、A組以外にも侮れない奴らが多いぜぇ!!っとそんな事行ってる間に先頭は次の関門へと差し掛かってきたぜ。第二の関門はザ・フォール!!落ちれば即アウト、それが嫌なら這いずりな!!』

 

 いよいよ先頭の集団が第二の関門へと足を踏み入れた。そこへと姿を現したのは巨大な峡谷のように大口を開けている地の底へと向かっているような真っ黒い闇、下を見れば引きずり込まれそうなほどに深い深い谷。切り立った崖のような足場とそれらへと架けられているロープの橋渡し。つまり、ロープを綱渡りの要領ので渡っていく事で奥へと進んで行けという事になる。

 

『まあ、あいつらには関係の無い話だな』

 

 飛んで進んでいる3人はロープを使うことなくそのまま真っすぐ進んでいく、最高速度で走って戦闘争いをしている二人はロープの上をそのままの速度で走り抜ける。ロボを跳び越えていた面々も個性を用いて同じ要領で進む。

 

 問題は他のメンバーであるが、麗日は自分の身体を無重力にして一気に飛び越えた。障子は普通に走るより複製腕を使った方が速いと考え、複製腕でぶら下がって雲梯の様にして進んだ。尾白は落ちそうになったら尻尾をロープに巻き付けて命綱にする。八百万はバイクに飛行ユニットを取り付けて飛んで行ったが、地面を走るのと比べて結構遅くなっている。

 

 それ以外のメンバーは普通にロープを渡って行った。一応心操は絶対に落ちないと暗示をかけていたが、関門を乗り越える速度への貢献はあまりないので考えないものとする。

 

『さぁあて遂にやってきた来たマジで来た!!これが最後、即ちファイナル!!ラストの障害!その先は一面地雷原!!他にもトラップあるかもな!そこは正しく紛争地帯!!強いて言うならば怒りのアフガン!だけどeverybody もし踏んでも安心しな、競技用だから威力は控えめで殺傷力はマジ皆無!!だが音と爆発は派手だから失禁しねぇように精々気を付けやがれってんだYAAAAHAAAAA!!!!』

 

『誤差ではあるが先頭から緑谷、飯田、爆豪、轟、八百万、常闇、その後に続いているのが瀬呂、蛙水、塩崎、角取、麗日、峰田、その後がA組+B組数名、更に後ろにB組とサポート科1人に普通科が2人か、最初の関門に時間をかけてない分A組がリードしてる印象だが追い上げてきている奴も多い』

 

『まだまだこの先分からねえぜ。最後の関門を終えた後に誰が1位に輝くのか、こっから先の順位変動には注目しとけぇ!!』

 

『……』

 

 マイク先生のコメントに対して何か思う所があるのか相澤先生は何も言わずにマイク先生の方を見た後にそっと目を逸らした。マイク先生に対してどういう思いなのかは分からないが、後でどうなるのか楽しみである。

 

 地雷原に関してはよく見れば分かるため即時に判断が出来ればスピードを落とす必要性は無い。そのまま緑谷と飯田で戦闘争いかと思われたが、それをよく思わないのが爆豪である。

 

「テメェ、クソデク俺の前を走るんじゃねぇ。オラァ!!」

「かっちゃん!?デラウェアスマッシュ!!」

「くっ、爆風がこちらにまで」

「半分野郎、テメェもシレっと抜かそうとしてんじゃねぇ」

「ちっ、氷壁(ひょうへき)

「闇の翼が爆風で煽られるか」

〈ハシッタホウガヨサソウダゼ〉

 

『おおっと!!ここでA組の爆豪が仕掛けた!!』

『直接攻撃されてない奴らも余波で足止めか』

 

 爆豪が緑谷に攻撃している間に通り抜けようとしている轟、しかしそれをすぐに察知すると轟の飛行を邪魔するように爆発を喰らわせる。咄嗟に防御したは良いが下に降ろされる。飯田は緑谷と爆豪のぶつかり合いによる爆風に煽られ速度を落とし、常闇は爆豪と轟の衝突で降りざるを得ない状況となった。

 

「バイクを置いて居たら遅れましたわ」

「けろ、迂闊に舌を伸ばせないわね」

「テープをくっつける場所がねぇ」

「ここでモギモギは使えねぇ。ちくしょう」

「あそこにインするのはキケンデース」

「無重力だと爆風で吹き飛んじゃう」

「茨は防御だけに使うべきでしょうか」

 

 争っている内にまだ距離があるとはいえ後続の集団が追い上げてきている。既にあまり時間が無い状態、地雷原という事もあり、消極的な戦いで誰も大きく抜け出せずにいた所に緑谷が賭けに出た。

 

「『ニューハンプシャースマッシュ』『テキサススマッシュ』」

 

『A組の緑谷!?争いから飛び出したと思ったらまとめて地雷を発動させたぁぁぁぁぁ!!』

『誘爆の事を考えると一か八かの賭けに近いが自分より後ろの地雷を爆発させることで自分が前に進み、他への妨害を行う。まあ、悪くない手だな』

 

 飛び出してきた緑谷はそのまま『ニューハンプシャースマッシュ』を繰り出して姿勢を正すと、そのままの勢いでゴールまで走り抜けた。その後で、戦いを中断した戦闘集団が後を続く様にゴールへと駆け抜けていったが、爆発で止まっていた時間が長く、後続の集団も入り乱れてのデットヒートとなっている。

 

『思い切った手で他の奴らを出し抜いて今ゴールしたのはA組の緑谷だぁ!!決して大きくないその体からあふれ出る超パワーを駆使して見事1位を掴み取ったぁぁぁ!!』

『はぁ……あれを見ろ』

『ん、どうしたイレイザー?』

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「緑谷、お疲れ。水飲む?」

「うん、ありがとう、山稜さ…ん……!?!?!?!?!」

 

 声にならない叫びと言うのはこういうのを言うのだろうか、水を受け取ろうとして伸ばしたてが止まり、私の顔を二度見してから固まって、口をパクパクと開閉しているが漏れ出るのは声になってない空気だけである。

 

 2位以降の面々も続々とゴールして言っているが、会場の殆どの人間が私の方を見て疑問を浮かべている。それは他のゴールした者達も例外ではない。

 

『はあ!?山稜の奴、何でゴールに居るんだ!?っていうかあいつ競技にいたか!?開会式の後から見てなかったからすっかり忘れてたぜ!?』

『会場の奴らも含めて、全員がそれぞれの関門での戦いに夢中になっていたから気づけていなかったが、お前が先頭集団と呼んでた奴が第二関門に差し掛かったあたりでもうあいつはゴールしていた』

『はぁぁぁぁぁぁ!?そんな前に誰にも気づかれずにゴール何て出来るのかよ?長距離の瞬間移動は禁止だぜ』

『瞬間移動はしてない。俺もあいつがゴールする少し前に手を抜いてくれなければ気づけなかっただろうな。山稜お前がどうやってゴールしたのか見せてやれ』

 

「了解しました。『ステルス』解除」

 

 私が個性を解除すると、障害物競走のコースに沿う様に『プリズム』で作られたレーンとでもいうような物が現れた。そして、その終着地点であるゴールには小柄な私がぴったり収まりそうな『プリズム』製のボールも置かれている。

 

 実演して見せて上げるために私はボールに乗り込んだ。そうするとボールを勢いよく回転させるとレーンに沿って、かなりのスピードで走り出した。レーンの方も『プリズム』で作られているのでそちらも合わせる様に回転しているため、かなりのスピードが出ている。

 

『あいつはスタートした後に自分用のコースを作って、そこを誰にも邪魔されずに通ってゴールしたわけだ』

『そんなの、ありなのかイレイザー?』

『コースを外れていないし、瞬間移動もしていない、ルールの範囲内だ』

『実況としては盛り上げにかけるからこっそりゴールは認めたくねえが、まさかのどんでん返しという事で話題性としては十分だし、良しとしよう。誰にも気づかれずに美味しい所を頂いたまだまだ謎が多い首席ガールこと山稜瞳空(さんりょうみら)、宣言した本人なりの成果は見せ付けてくれたぜ!!』

 

 そう言うとまばらにだが私に向けて拍手が送られるが、先ほどまでの激闘を潜り抜けてゴールした緑谷と比べると盛り上がりに欠けるし、人気でも負けているのが目に見えて分かった。

 

「もうちょいちゃんとやるべきだったかなぁ?」

 

 

 

『さて!あとは疲れるからそのままゴール順に表示していくぜ!あとはパスだぜミッドナイト!』

 

 

 1位 山稜瞳空  21位 耳郎響香  41位 取蔭切奈

 2位 緑谷出久  22位 上鳴電気  42位 発目明

 3位 轟焦凍   23位 切島鋭児郎

 4位 爆豪勝己  24位 葉隠透

 5位 塩崎茨   25位 青山優雅

 6位 飯田天哉  26位 骨抜柔造

 7位 常闇踏影  27位 鉄哲徹鐵

 8位 瀬呂範太  28位 砂藤力道

 9位 麗日お茶子 29位 泡瀬洋雪

10位 蛙水梅雨  30位 口田甲司

11位 八百万百  31位 回原旋

12位 峰田実   32位 凡戸固次郎

13位 角取ポニー 33位 円場硬成

14位 障子目蔵  34位 柳レイ子

15位 芦戸三奈  35位 小大唯

16位 尾白猿夫  36位 黒色支配

17位 拳藤一佳  37位 鱗飛龍

18位 宍田獣郎太 38位 物間寧人

19位 心操人使  39位 小森希乃子

20位 庄田二連撃 40位 吹出漫我

 

 

『はいはーい!じゃぁそれぞれ順位を確認しなさい!予選を通過したのは上位の42名!残念ながら落ちちゃった人も安心なさい?まだ見せ場は用意されてるわ。そして次からは本選になるわ!気張りなさい!それじゃぁ第2種目の発表!』

 

 

 ミッドナイトの合図でモニターに表示される競技。その文字を見て観客も生徒達もざわついた。

 

 

『騎馬戦』

 

 

『説明するわ。参加者は2人から4人のチームになり自由に騎馬を作ってもらうわ。基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど…一つ違うのが…先ほどの結果に従い各自にポイントが振り当てられること!振り当てられるポイントは下から5ずつ増えていくわ。そして1位に与えられるポイントは―――』

 

 

 

 

『一千万!!』

 

 

「へぇー」

 

 面白くなってきたと言わんばかりに笑って見せると近くにいた奴らが一歩後ずさった。

 

「山稜、笑い方が悪役そのものだったぞ」

 

 

『この後すぐにチーム決めの時間を15分取るわ!決まり次第本部に報告しなさい?ハチマキをつくるからね!』

 

 さてさて、騎馬を作るのは良いが、私と組んでくれる人いるかねぇ。まあ、楽しくやろうか。

 




という事で、前回までずっと悩んでいたんですが、他の競技で良い物があまり思いつかなかったので騎馬戦にしました。

チーム戦の競技で色々と考えてみたんですが、自力じゃアイデアが出ないでない。これなら諦めて自分で騎馬戦の構成を練った方が早いと思いました。

誰が誰を狙うか、誰が誰と組むかを考えないといけないので次の投稿は遅れるか。それとも先に特訓の際の話を書くか。

今出てる部分までの描写を先に挟んでおこうかな……
どうなるかはとりあえず未定で。

A組は全体的にレベルアップ、B組は特訓に参加した何人だ、ひい、ふう、みい、よ、5人ですね。拳藤、塩崎、宍田、庄田、角取の5人は少し強化入ってます。

鉄哲とか誘われたら普通に参加しそうだったけど、切島との差を表現したかったので除外、物間は性格的に論外、他はあまり知らないという理由でこの5人が選ばれました。

ちなみに主人公である山稜が増えたので1人脱落者が出てしまうのですが、A組と原作A組の砂藤、口田、B組の5人と物間、小大、小森、取蔭、黒色、鱗、そしてサポート科の発目以外からランダムで選びました。A組(原作含む)を残すのは勿論として、物間と発目に関しては今後の構成上除けないという理由がありますが、小大~鱗までは作者の好みで保護しました。

結果、消えたのが、えっと誰だ。
鎌切尖と言う方が残念ながら第一種目で脱落です。
この方が好きな人が居たら申し訳ない。
多少優劣は付けたけどランダムなので許して下さい。

とまあ、いつも通り説明や言い訳だらけのグダグダな後書きももうおしまいです。年内中に投稿できるか微妙なので、一応挨拶を。

読んでくれている方々に多大なる感謝を。
そして、良いお年を。


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18 雄英体育祭③

明けましておめでとうございます。(遅い)
年開けて最初の投稿でございます。
今年から読んでくれている方も去年から読んでくれている方も今後ともよろしくお願い致します。

では本編をどうぞ。

一部、今後の展開の都合でチームを変更しました。
進ませたいキャラの調整をしているとポイントの調整が上手くいかなかったのでやむなく、戦いの流れを変更いたします。

山稜チームから八百万が移籍。
八百万が緑谷チーム所属に成りました。




 防御に回り続けていても鉢巻を守るだけなら問題は無い。襲撃の時と特訓の過程で何人かは私の個性の弱点に気付いているっぽいから注意が必要ではあるけどやりようはある。問題なのは誰と組むかになるのだが……

 

(必要なのは足だよな)

 

 競技と言う観点から考えて必要なのは「鉢巻を取る力」「妨害する術」「逃げる追いかける足」となる。一千万があるので無理に鉢巻は取らなくても良い、妨害はいくらでも出来る。しかし、足だけは競技に適しているものが無い。どうしようかと考えていると一人の生徒が近づいてきた。

 

「いやあ、見つけました。第一種目で奮闘の末に他の人を出し抜いてゴールした緑谷さんか宣誓で会場を盛り上げた山稜さんで悩んだんですが、初志貫徹という事で売り込みに来ました。私とチームを組んでくれませんか?」

 

 来たのはサポート科唯一の第一種目突破者である発目(はつめ)(めい)であった。彼女はサポート科であるため第二種目以降一人だけアイテムを持っているという強みがある。まあ、八百万の事を考えると強みになりえるか少し微妙だが、最低限の人数確保的にも入れる分には問題は無い。

 

「入れるのは良いけど、個性と持ち物教えてくれる?」

「私の個性は『ズーム』、大体5キロ先まで見えてどんなに動いていても照準を合わせられます。そしてこちらが私のドっ可愛いベイビーたちです」

「なるほどねぇ。使い方次第で面白く出来そう。いっそのこと派手にやってみようか」

 

 一応足に使えそうな物もあるのでそれを基軸に強みを生かすための人選をすぐに考えると他の人にとられる前に声を掛けに向かった。その結果臨んだ人物1人を見事に獲得できた。

 

「それじゃ、よろしく。取蔭(とかげ)さん」

「まさかA組のあんたからスカウトされるとは」

「拳藤が仲介してくれたおかげだけどね」

「主席に、推薦入学者1名、一人だけのサポート科、注目度としてはまずまずでは無いでしょうか。いやぁ、早くベイビーの雄姿を会場に届けなければ」

 

 B組の推薦入学者の一人で『トカゲのしっぽ切り』と言う面白い個性の持ち主である取蔭(とかげ)切奈(せつな)だ。取蔭はアイテムの使用と言う役割で、足は私の個性と発目のベイビーで応用していく。

 

 他のチームで気になるのは緑谷の所に爆豪、轟、飯田、心操、拳藤、塩崎、青山、芦戸も侮れない。他の2チームは知らない人ばかりで分からないが、不明瞭な相手と考えれば警戒はしておこう。

 

『騎馬は組み終わった様ね。出来たチームは全部で12チーム、それぞれのチームに鉢巻を配り次第、始められるわ』

 

 そう言ってチームメンバーの得点が足された鉢巻が配られる。私が騎手なので私の頭にそのハチマキが巻かれた。それぞれのチームの点数はこうなっている。

 

 

山稜 取蔭 発目      1千万15

一千万 10 5

緑谷 麗日 常闇 八百万    715 

205 180 170 160

爆豪 尾白 瀬呂        505

195 135 175

飯田 切島 蛙水        450

185 100 165

轟 上鳴 峰田         460

200 105 155

心操 耳郎 吹出 障子     390

120 110 15 145

拳藤 物間 角取 庄田     295

130 25 150 115

塩崎 宍田 泡瀬 骨抜     470

190 125 70 85

青山 葉隠 砂藤        260

90 95 75

芦戸 凡戸 小森 鉄哲     295

140 55 20 80

回原 黒色 鱗         115

60 30 25

円場 口田 小大 柳      185

45 65 35 40

 

 

 

 どのチームもどういった戦法をとってくるのか、誰を狙うのかなどなど色々と楽しみではあるが、私たちのチームは出来る限りの事を派手にやるだけだ。

 

『では、第二種目目騎馬戦。スタート!!』




いやぁ、投降が遅れてすみません。
騎馬戦の組み合わせを考えるのが結構時間が掛かりました。そして書く際にはポイントの計算と入力が非常に面倒だった。
まあ、遅れた理由は他のネタを形にしたくて、2、3話書いていたり、他の原作の2次創作を書いて居たりもありますけどね。

(余裕が出来たら、僕のヒーローアカデミアはもう2・3個、後はワールドトリガーとハガレン(漫画)、カービィ(アニメ)、ポケモン(アニメ)、デジモン(オリジナル)、フェアリーテイル、TOLOVEる、ハイスクールⅮ×Dとかも投稿したい。と言うかネタばかりで形にする時間が全然ない)

とりあえずこの小説を4月までに体育祭までは終わらせたい。それと書く、書く言ってて書いてない入院と家族の会話、特訓の話をいい加減入れないと。

次の騎馬戦から少しずつ特訓の内容を書けるようにしていきたいのですが、最終種目の形式が未だに決まって無い。ガチバトル系にはしたいけど、トーナメント方式だと出せる数に限りがあるし、16の次は32だしそれだと多すぎる。

第三種目をチーム戦にする気は無いんだよな。個人での戦いが見たいんだよな。だけど当たる相手が決まっていたり、個性の関係上、工夫のしようが無い人もいるから、サバイバルと言うか、広い会場に移動してバトルロワイヤルみたいな感じにしたいけど、ルールの方が思いつかない、特に勝敗の付け方。

広い場所で戦うとなると場外判定とかも無くなるんだよなぁ。とりあえずバトロワにする場合は更に人数を約半分にして騎馬戦の上位20名を選出、会場に移動したのちに索敵をしながら戦う。乱入や一時的な同盟もありみたいな感じを想定。

ステージ内にある物は何でも使って良いが、ヒーローからかけ離れている行為は禁止みたいな感じかな。後はゲームのバトロワ系みたいに段々活動範囲を絞る様にしていこうかな。そうすれば場外負けを狙うとかも出来るし。

最後の一人に成るまでみたいな感じだと殺伐としすぎる気がするので、順位別にポイントを振り直して倒した相手のポイントを奪う。禁止とまではいかないが危険な行為、エリア外での行動、その他にも罠などを配置して引っ掛かったらではなく、対処できなかったらポイントが減っていく感じで、0になった時点で終了。

たぶんまだ穴だらけだけど、とりあえずバトロワ方式で考えようと思います。そして誰を第三種目に入れるかなんだよな。誰を次に進めるかは決めてないんだよな。

山稜、緑谷、爆豪、轟、心操、葉隠、切島、飯田、拳藤、他にもいたら動かしやすい人や個人的にいて欲しい人もいるしな。ポイント計算と勝ち上がる人を決めないといけない。

次はまた少し時間かかるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。と言うか今回山稜のチーム決めと他のチームの組み合わせの公開だけで話自体は全然進んでいない?…………次、頑張ります。

読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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19 雄英体育祭④

『ついに始まった騎馬戦!!現在注目を集めてるのはプロの目さえも欺き1位を奪い取った首席ガールこと山稜瞳空!!10人以上が入り乱れる形で行われた怒りのアフガンでの大乱闘を制し、技名を叫ぶ姿からついたあだ名がリトルオールマイトこと緑谷出久!!氷と炎を自在に操り、多くの参加者をリタイアに追いやった氷炎使いこと轟焦凍!!口は悪いがその実力は確か、状況を把握し強力な爆発で場をかき乱す、目指すは下克上か!?爆弾野郎こと爆豪勝己!!先頭集団で起きた戦いを冷静に対処しきって、B組で唯一トップ5に入り込んだスーパーガールこと塩崎茨!!第一種目での1位から5位が全員別にチームを組んで争い合うぜ!!』

 

 歓声と実況が混ざり合い煩い競技場の中で堰を切って始まった騎馬戦、私は準備が整うまでの時間を稼ぐために瞬時に全てのチームを色つきのプリズムで囲んだ。防ぐつもりはない、判断を遅らせ、行動を遅らせ、私たちが先手を取れればいい。

 

「私のドっ可愛いベイビーの一つ、スペシャルジェットパックです!!安心安全の設計で、内部に組み込まれた小さい燃料タンクと発電機で長時間の飛行を可能とします。ジェット噴射を使えば空中でもアクロバットは勿論、バチバチの戦闘も可能ですよ!!」

「しかもプリズムの足場を使ってるから負担も少ないよ。取蔭さんは急いで体に発目さんのベイビーを身につけて」

 

 プリズムと発目さんのベイビーで空を飛び、安全圏から取蔭さんの個性で攻撃する。妨害はプリズムでいくらでもできる。鉢巻を取るだけなら取蔭さんの個性で手を飛ばせばいい。

 

「テメェ。このチビ女!!『十字砲火(クロスファイア)』」

「それは特訓で見たな。角度も時間差も私の防御に関係ない。堕ちろ、『強制ダウン(下スクロール)』」

「えっと、バズーカ発射!!」

「今回は非殺傷性ですが軽量化を重ね、片手で持てる上に高威力なベイビーです」

 

 爆発同士をぶつける事で相手へ向かう爆風と爆炎を()()()、角度を操作して多方向から放つ技、威力自体は直接ぶつけるよりワンクッション挿むせいで少し弱まっていたが、それをぶつけ方を工夫することで威力を収束してカバーするあたり才能マンと言うのは間違いではない。

 

 広範囲をカバーできない相手には多方向から連続で飛んでくる爆発は対処しにくいが私は全て捉えて、そのまま脆いバリアを留めなく上からぶつけて叩き落とそうとした。さらに追い打ちで取蔭さんが発目さんのベイビーで攻撃を仕掛ける。空中で一回転すると爆発を用いてこちらへと飛び込んでくる。

 

「はっ、てめえのバリアでこれを受けきれるか『貫通爆弾(ペネトレイトボム)』!!」

 

 度重なる特訓で私の個性に関しても考察されつくしている。まあ、主に考察をしていたのは緑谷だが、爆豪を始め他の奴も私のプリズムが本来とても()()ことに気付いているようだ。プリズム同士をハニカム構造や積層構造で重ねる事で威力を分散し、余分なエネルギーを地や空に逃がしてなお、私のプリズムは割れる。

 

 爆豪の狙いは一点への強力な攻撃でプリズムを破壊もしくは取っ払う事、先ほどの広範囲攻撃は私のプリズムを広げさせる作戦だったのか。無理に受けようとした場合には自信にダメージが襲う、競技を続けるためにはプリズムの陣形を崩す必要があった。ただし、それは今までならと言う言葉が文の前に足される。

 

「『効率低下』『エネルギー・バニッシュ』」

 

 私の目の前に現れたたった()()のプリズムの前に爆豪が放った攻撃は消え失せた。正確には多少はエネルギーとして蓄積されただろうが、雀の涙である。

 

「何しやがった!?」

「もう少し加減が出来る様になれば良いんだけどね。私は君の様に天才ではないからね」

 

 そう、この技ははっきり言って未完成なのである。今後の運用を考えるのであればまだまだ修行が必要だ。それもそのはず私が得たこの新しい力についてはUSJ襲撃後に両親が見舞いに来た時まで話は遡る。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 病室で出来る事は無く、正確に言えば出来る事をすれば心操に怒られるため出来ずにいるためそこそこ暇にしていると目覚めて二日目にして早くも世界一見知った顔が訪れた。

 

「お母さんにお父さん、久しぶり!」

「久しぶりじゃないでしょ。学校や心操君からの連絡でどれだけ私たちが肝を冷やしたことか」

「そうだぞ。倒れたと聞いた日から気が気じゃなくて母さんの実家に何度願掛けしたと思っている」

石凝姥命(いしこりどめのみこと)様は鐵鋼・金物業の守護、産業開発、後たしか延命長寿もご利益にあったっけ?」

 

 石凝姥命様は鏡づくり神で天岩戸神話において三種の神器の一つである八咫鏡を作り出し、天孫降臨神話においても五伴緒の1人として瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に随伴したとされている結構有名な神様だと私は思っている。

 

 会話から分かる様に私の母さんの実家は神社で、その石凝姥命様を祀っている。死にかけている私に着いて祈るのであればご利益的にはそこまで間違っては無いが、もう少し命や医療に関わる神様の方が良いのではとも思う。

 

「まったく、でも目が覚めて良かったわ」

「無事とは言えないが命があって何よりだ」

「まあ、心配をかけたことは…ごめんなさい」

 

 私の個性を鍛えるうえでも無理はしない様にと何度も言われて来たのに、いざヒーローを目指して入学した娘が無茶をして死にかけているのだから、悪い事をしたと感じている。

 

 

山稜ミコ 巫女ヒーロー「ミコミン」

個性、発動型「結界」

 

実家が神社でそこの巫女装束をイメージしたヒーロー衣装で戦う。

結界で敵を捕らえたり、攻撃を防いだり、味方の手助けを行う。

結界は自分を中心にするか、自分から札を飛ばして展開する。

直接的な攻撃手段に乏しい。

 

山稜力斗(リキト) 拡散ヒーロー「ディフュージョン」

個性、発動型「エネルギー操作」

 

エネルギーを操作して戦うヒーロー。

細かい操作は苦手で攻撃を拡散させることで防ぐ。

拡散したエネルギーを液状にして相手にぶつけて攻撃する。

物理攻撃には弱い。

 

 

 有名どころでは無いが防御主体で他のヒーローの援護や人質などの救出などにおいては一目置かれている。幼いころからヒーローを目指す理由であり、憧れである。それ故に今回の失態については私的には結構辛いところである。

 

「心操君に安静にするよう言われたそうだけど、退屈でしょう?本をいくつか持ってきたわ。それと食事はもう大丈夫と聞いたから」

「本は嬉しいけど、病院に重箱って……」

「回復にエネルギーは使いきってるでしょ?きちんと消化吸収が早くて日持ちする物を選んだわ」

「ありがたいけど、見た目のインパクトがね」

「はは、それだけ母さんも心配してたって事だ残さず食えよ」

「食べますよ。母さんの料理はおいしいし、ありがたく全部食べますよ」

 

 投げやり気味に言い切ったが、実家を離れて少しだというのにもう長い事合ってなかったかのような感覚である。それだけ濃密な時間を雄英で過ごしていたという事だろう。そう思うとクラスの仲間の顔が浮かび自然と顔が綻んだ。

 

「ちょうど良いや。二人に聞きたい事があったんだ」

「「何?」だい?」

 

 

 私の楽観的な判断も大きいがそれ以上に私の本当の意味での耐久力の低さ、それをどうにかする方法が無いかと、防御に関しては私なんかよりはるか先を行く二人に聞きたかった。

 

「お母さんの結界は私のより堅いし、素の結界でも大抵の攻撃は防げるけど、一応相手に合わせた結界を選んでるじゃん。それってどうやって瞬時にやってるの?それとお父さんは相手の攻撃全てをエネルギーに変換できてるじゃん。私は吸収しきれずにリバウンド喰らってる。そこいら辺は個性の違いなのかなぁ?それと工夫があったら教えて欲しい、お願い!!」

 

 私はヒーローに成るために訓練をして欲しいと頼み込んだことを思い出しながら二人に頭を下げた。技術と言うのは決して安いものではないと私は思っている。それは血縁関係とは別で、大事な事だと思っている。

 

「なるほどねぇ。貴方なりに考えがあって訊いてるのは分かったわ。それに今回の件で課題も見つけた様だし、アドバイスするのはやぶさかでも無いわ」

「ああ、それくらい娘の為なら話すくらい訳は無い」

「じゃあ……「「ただし」」」

「明日には退院すると聞いたけど、それは構わないけど」

「退院してすぐは休むんだ。家で身体だけじゃなく心の方も落ち着かせる方が良い」

 

 もちろん、訓練もその休息期間が過ぎてからだ。と言われて、今回の件は自分が悪い点が多く、両親の言葉は政論であるのではいと頷く。しかし、アドバイス自体は直ぐに貰えるという事になった。

 

「母さんが結界を瞬時に張る方法は……」

「方法は?」

「勘よ!!」

「へ?」

 

 あまりにも、アドバイスらしくない言葉に唖然としてしまったが、母さんは誤魔化そうとするような人では無いので正真正銘の事実なのだろうが……

 

「冗談でなく勘と言うのは大事よ。見てから判断するのではどうしても遅れる。後の先を取り続けるのは適性が無ければ難しい。ならば相手より先に行動する必要があるわ。それが勘に繋がるわけよ。要するに相手を観察し、相手を知り、相手の次を読み取る事で相手の先の先を取る。そうすることで私は他のヒーローほど攻撃力が無くても戦ってこれたのよ」

 

先の先、要するに予想する力……だからか。

 

「私は攻撃に()()()()事ばかりを考えていたから、プリズムで攻撃を読み取ることが出来たから、攻撃を確かめてから行動する癖が知らない間についてたのか」

 

 自分が個性に頼り過ぎていたという事を思い知らされた。攻撃を読み取る速度もかなり早いと自負しているが、明らかに見て分かる攻撃に対しても最適を求めようとして一拍行動が遅れてしまっていたのだ。その場の全てを読み取るだけの解析能力()を持っているからこそ、今まで決定的な隙にならなかったのだろう。

 

「読み取るのは分からない攻撃だけにして、受けきる威力の調整はそれこそ()()()()()でやった方がむしろ無駄は少ないか」

 

 適当を求めるよりもテキトーを求めた方が良かったというのだから、自分の行動の無駄加減に笑いが込み上げそうになる。

 

「ありがとう、お母さん」

「何か掴めたのならそれで良い」

「それじゃ、今度は僕かな?」

 

 肉弾戦向きでは無いがエネルギー系の攻撃を完璧無効化する父さんの個性は相性次第では無敵と成る。轟、爆豪、上鳴、耳郎あたりの攻撃は大体防げるだろう。

 

「父さんはエネルギーの操作ははっきり言って苦手なんだよ。相手の攻撃を利用する事もあるけど滅多にやらない。それにはちゃんとした理由がある。父さんはエネルギーの変換効率が悪いんだよ」

「変換効率?」

「ああ、敵の攻撃を100としたら父さんの利用できる力は10も無いんだよ。だからエネルギーを操ろうとする過程で大幅に()()()()。父さんは相手の力を全て変換してるんじゃない。()()()()()()()()から相手の攻撃を防げてるんだよ」

 

 父さんは少ないエネルギーを上手く工夫することでヴィラン相手に立ち向かっているんだよと最後につけたされた。父さんは相手の力を利用して戦っているが、利用することを主体に置いていない。そこが私との違いなんだろう。

 

「エネルギーの利用手段が多いから相手の攻撃を無駄なく吸収しようと考えすぎていた?そうか、当たり前じゃないか自分から攻撃を()()()()()いたんだからプリズムが耐えれる訳がない」

 

 よくよく考えれば昔のあまり理解せずに個性を使っていた頃の方が耐久性は高かったのかもしれない。父さんの戦いからを意識しすぎて自分の戦い方を考えていなかったんだ。そもそもの父さんの戦い方の本質も間違えて捉えていた始末である。

 

「ああー今すぐに試したいけど、数日後か」

「約束して無ければ直ぐに試していたわね」

「いや、入院中は心操との約束があるから、退院した瞬間に試してたと思う」

「はは、まあ掴めるものがあったのなら良かったよ」

 

 退院してから2,3日の間はリハビリとしての運動程度しか出来なかったが、二人から聞いたアドバイスを元に自分の弱点対策を()()行った。その結果まだ上手くいかない面もあるが、成果は確かに出ている。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

「そうそう、私は守れれば良いんだよ。エネルギーの利用何て二の次だ。お前らの攻撃を全て消し去ろう。私が目指す姿は絶対的な守護者だ!!『エネルギー・バニッシュ・フラグメント』」

 

 プリズムを細かくしたものを周囲に適当に置いて行く、これは殆ど耐久力が無いが在り得ないレベルで攻撃を消し去る。吸収できるエネルギーは無いも同然ではあるが、手のひらサイズのプリズム一枚で爆豪の爆発を完全に抑える事が出来る。それがフィールドのあちこちに漂う様に浮いている。

 

「そして、私たちの騎馬としての役割は戦う事じゃない。他の騎馬への妨害だ。上手い事、プリズムを避けていかなければ攻撃どころか、移動もままならないよ」

「その隙間をねって体を飛ばし」

「私のベイビーで攻撃です」

 

 そして狙う相手は決めてある。個性で様々な武器を作り出すことが出来、サポート科とも縁がある彼女のいるチーム。

 

「さて、1位から2位への宣戦布告だ緑谷。強制アップ(上スクロール)からのロスト・フロア(消える足場)

「わっ!!麗日さん僕らを軽くして、常闇くんは翼を、八百万さんは向こうのジェットパックみたいに空中の移動を助ける物を!」

 

 

 プリズムの板を作り出し、緑谷の騎馬を私たちがいる上空へと一気に持ち上げ、持ち上げた足場を瞬時に消し去る。飛ぶ手段が無ければ落下ダメージを狙えたのだが、流石に判断が早い。

 

 この方が戦いが見えやすいのでベイビーを見せ付けたい発目さん的には良いはずだ。他のチームはわざわざ邪魔が多く、戦いにくい上空の敵を相手にしようとは思わない。発目のベイビーと八百万の『創造』の対決を始めようか。

 

「僕たちは飛んでるというより浮いてると言った方が良い。だから僕が攻撃すると反動で場外に出ちゃう。咄嗟に避けるために弱めに打つのには使えるけど」

「私はまだ物を浮かせられるけど肝心の浮かせるものが無い」

「黒影は翼の展開で攻撃まで廻せない」

「現状は私の作り出したもので対処するしかないという訳ですね」

「不利な状況下で戦うべきじゃない。敵は多いけど地上に降りた方が安全だ。だからどうにか隙を着いて下に降りよう」

 

 降りようと思っても空中にも多くのプリズムが浮いている為、上手い事を移動することが出来ない。降りる事に集中すれば格好の的となる。狙ってやったが我ながらいやらしい戦法である。

 

「話し合いは終わりましたか?」

「ガトリング砲です。弾はゴム製ですがその速度と連射性は本物以上です!!」

「いっけー」

 

「勢いは僕が支える。とりあえず盾を!!フルカウル1%スマッシュ」

「はい!手を開けておきたいので常闇さんお願いできますか?」

「黒影!」

〈任せな。盾一つ支えるくらいならできらぁ〉

「空中じゃ変わらないから軽くするよ」 

 

 ガトリングから発射される弾を急いで作った盾で防ぎ、衝撃で飛ばされない様に反対方向に攻撃を放ちバランスを取っている。ならば全方位からくらわせてやろうと思い、空中のプリズムで弾をはじき、ゴム弾によるピンボールを空中に展開する。

 

「このまま防戦一方だ!!遠距離合戦になるとこっちの攻撃だと防がれる可能性が高いから不利だ。一度近付こう。、移動は僕と常闇くんで微調整する。八百万さんは相手からこっちを隠せる物を」

「近くで取り回しのきかないあの銃は使えんか」

「閃光弾に煙幕です」

「ウチが投げる」

 

 向こうから何か飛んできている。麗日が投げたのか、曲がることなく一直線に向かってくる。近くのプリズムを操作して防ぐと結構強い光が溢れた。眩しいと感じる前に目くらましの類と考えていたので防ぐためのプリズムを展開していた。しかし、続けて煙が辺りを包み込んだ。

 

「これは探知するしかないか」

「ふう、爆風特化の爆弾です」

 

 爆発すると同時に結構な風が吹き荒れる。煙が晴れると同時に結構近くまで近づいてきていた緑谷チームが目に入る。爆風でバランスが崩れかけているが黒影がお互いが離れない様に繋げている。押し戻されそうなのは緑谷の攻撃で耐えたのだろうが、咄嗟の力加減が上手くなっているな。

 

「麗日さん出来ました」

「任せて、浮かせて投げまくる」

 

 何か小さい玉が大量に飛んできた。プリズムで防いでみるとプリズムに色が付き向こう側が見にくくなった。エネルギーでは無いので消せないし、着いた色を落とそうと思うと一時的に防御が出来なくなる。ならばカラーボールが尽きるまではこのまま同じプリズムで防いだ方が良い。

 

「取蔭さん、プリズムを細かく操作するから体を戻して、防ぎ切った後でもう一度仕掛けるよ」

「「了解」」

 

 次々に作っては投げているのだろうが、八百万もエネルギーを残さないといけないだろうからいずれ止まるはずである。そう考えていると毛色の違う玉が飛んできた。何か起きるかもと告げてからあえてプリズムで止める。すると先ほどと同じ光と今度は音も大音量で鳴り響いた。よく見ると向こうは全員が耳栓をしている。私は音と光を消すためにプリズムを操作した。音が弱まり始めた所緑谷が動いた。

 

「麗日さん!!」

「無重力解除」

「フルカウル50%スマッシュ」

 

「うーん、やられたねぇ」

「逃げられましたね。でも」

 

 

『終了!!』

 

 

「終わりか」

「ベイビーもそこそこ使えましたし、空中戦という事で見栄えも良いのでは?」

「まあ、これで3種目目に進めるよ」

 

 

「逃げ切るので精一杯だったか」

「最後で一泡吹かせられたと言って良いのかどうか」

「浮かしてるだけだった」

「少し悔しいですね」

 

 作戦として発目さんのベイビーを使っていくというのが大前提だったので最初以外は私が正面切って立ち向かう事は無かったが、常に妨害はしていたのでまあ()()()()()は出来ただろう。




山稜が緑谷を狙った理由は発目に配慮しているという設定ですが、まあポイントの移動を考えると山稜チームと緑谷チームは鉢巻を取っても、取られても駄目なので、その2チームで戦って貰いました。

ようやく入院の際の話入れられた……両親からアドバイスを貰う予定は元々立てていたんですが話に付随して入れるのが難しかった。

次の話で地上側、他のチームの戦いと特訓の話を入れる予定ですが……全部入れると長くなりそうだし、もしかしたら区切るかも。

読んでくれている方々に多大なる感謝を


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20 雄英体育祭⑤

投稿です。


 場面は騎馬戦が始まり、爆豪が叩き落されて、山稜と緑谷が空中戦を開始した直後にまで戻る。山稜がばら撒いたプリズムを細かくした欠片が地上の戦闘を妨害し続けていた。

 

「ちくしょう!!こんなものぶっ壊してやる」

「これ、殴った感触がおかしい、なんか気持ち悪いぞ」

「的確に熱を奪われてる。一掃は難しいか?」

 

 爆豪が爆発を喰らわしてもその爆発を吸収しきってようやく一枚だけ割れる。切島が硬化して殴りかかったが、殴った衝撃を瞬時に散らしたため殴った感触がなく触れているのによく分からないそれに不快感を得た。轟が炎を広範囲にぶつけるが初めに触れた欠片が途切れるまで攻撃を吸いつくす。

 

 

『エネルギー・バニッシュ・フラグメント』

 

プリズムを細かくしたもので、殆ど耐久力が無いが在り得ないレベルで攻撃を消し去る。吸収できるエネルギーは無いも同然ではあるが、手のひらサイズのプリズム一枚で爆豪の爆発を完全に抑える事が出来る。それがフィールドのあちこちに漂う様に浮いている。

 

 

 どんな攻撃であっても一撃を必ず消し去る。連続しての攻撃や広範囲の攻撃を完全に無効化する見にくい盾である。移動しようとしてぶつかるとその力を吸収した後で消えるのでバランスを崩して転倒しかねない。限界はあるがまだ結構な数が浮いてることに嫌気がさしてくる。

 

 そして、段々と性質の理解が進んでいくと現状を破壊しようと行動に移す者が出てきた。これを一気に壊すためには、繋がっていない攻撃を連続で的確に放つ必要がある。それが可能だったのは轟、青山、葉隠の3名だった。

 

「『氷現(ひょうげん)』」

 

 轟は炎では無理だと判断すると氷を展開する。拳銃の形を作り出すとそれに合わせる様に氷の銃弾を生み出し欠片に向けて放った。放つ動力は冷気によって収縮した空気を炎で一気に膨張させ、その空気が押し出すという単純な仕掛けだ。冷気と熱気の操作の応用で空気も軽く操れるようになったので、膨張させる空気を詰め込むのも片手間で出来る。

 

 氷と言う物体なので一発ずつ攻撃は完結している。一発で一つの欠片しか壊す事は出来ないが、それを連続して次々と放って行く、確実に欠片へと飛んでいく銃弾の数々を見ると、まるで一流のガンマンのようでとても様になっていた。

 

 しかし、そのまま打ち続けてると多少冷気の方が多く使うため体が冷えてくる。そろそろ切り替えた方が良いだろうと頃異を消し去ると一気に炎を吹き出す。

 

「『炎劇(えんげき)』」

 

 生み出された炎はまるで生きているかのように動き、いくつもの動物の形をとるとそれぞれが別の欠片へと襲っていく。こちらもそれぞれの炎が分かたれているため問題は無い。

 

「氷も炎も使いようってやつだ」

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

SIDE:轟 

 

 

 クラスの仲間との特訓なんて初めての経験に成る。それどころか友人と何かをやるという事自体あまり経験してこなかった。それでも、参加しないといけないと感じた。あの時、もし俺の力だけで脳無を抑えられていればと何度も思った。

 

 炎を使っていれば何かが変わっただろうかと少しだけ思い悩みもした。それ以上に自分の全てを賭けてでも戦った山稜と自分を比べると、自分がとてもちっぽけな存在に思えてしょうがなかった。だからだろうか、くだらないと今までのプライドを捨て去る事が出来た。

 

「やっぱり、炎も綺麗だねぇ」

 

 目の前にいつも通り無数のプリズムと呼ばれるバリアを展開して、俺が放った炎を事も無げに防ぎきる同い年の少女の姿。氷よりも危険性の高い炎を全力で放てるように工夫してくれているのだが、病み上がりで無茶をさせていなければいいのだが。

 

「だが、駄目だ。ずっと避けてた所為で上手く扱えてない。熱の調整位なら出来るが、そこから先がないと何も意味が無い」

 

 氷でも炎でもそうだが、威力も速度もそれほど凄いとは俺は思っていない。むしろ大雑把な攻撃、全体への攻撃の方が多く、技術に欠けているのが現状だ。特に遅れている炎は氷とは比べるまでも無い。

 

「あのさ、轟は成りたい姿ってある?」

「どういう?」

 

 あまり意味が解らなかった。特訓とどういった関係があるのだろうと少し考えると目標という意味だろうか?

 

「緑谷が分かりやすいけど、ほらオールマイトの真似が多いでしょ。あれって目指すべき姿が定まってる」

「しっかりとして自分の姿を意識しろという事か」

「それもあるけど、個性も同じって事が言いたいんだよ」

「同じ?」

 

 個性も同じという言葉に今度こそ理解が及ばなかった。そもそも個性と言うのは研究されているが完全に解明されていない謎の一つである。自分の個性であったって大抵の人間はなんとなく使っている。

 

「そ、氷の方が意識しやすいかな?轟は氷で作りたい形を作ったりとか、明確な形を与えてあげた方が特訓には役に立つと思う。ゴールが決まればそこまでの道も作りやすいから、そして氷で出来れば炎でも一緒だよ」

 

 細かい操作の特異不得意とかの問題以前に個性を使う際に意識すらしていないという事に気付いた。炎が上手くいかないんじゃない。今まで使って来た氷でさえ俺は満足に扱えていなかったんだ。形を描き、与える、そうすることで望んだゴールへと届けることが出来る。

 

氷現(ひょうげん)

 

 俺はとりあえず精巧な剣を想像し氷で作り出した。それは想像と比べるといささかお粗末な出来ではあるが確かな手ごたえを感じた。

 

「後はその逆も試したりすればもっと良いと思うよ?」

「逆?」

 

 今までずっとアドバイスをしてくれていたと思うのだが、その逆を行うというのは意味があるのだろうかと頭を考えが埋め尽くす。

 

「細かく操作するために形を与えるのもそうだけど、決まった形が無い事が強みの場合もあるからね。炎とかは隙間に入り込むことが出来るでしょ。流れる様に動かす、滑らかな動きも無くしちゃいけないからね。あまり堅くなりすぎないようにってことだよ」

 

 その言い切ると適当なアドバイスだからほどほどにねと言い残して山稜は去って行った。形と流れ、氷と炎、組み合わせは色々と出来そうだ。形ある氷と流れる氷、流れる炎と形ある炎、まだまだ学ぶことは多いが、まずはやってみよう。

 

 そうして繰り返し練習することで氷と炎に形を与える事と炎と氷を流れる様に動かす事が出来るようになった。まあ、氷と炎でとれる形や動きに差はどうしても出てしまうが、そこそこ役に立つだろう。その副産物として操作できるようになった空気も工夫次第で役に立つだろう。後はこの力を持って俺も結果を出し切るだけだ。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 そして轟に後れを取ることなく次々に欠片の破壊を行っている二人組がおり、それは青山と葉隠のペアだった。青山は特訓により、多少は個性の制御が上がったがそれでも実戦に使えるかと言われると少し微妙だが、それをカバーできるのが葉隠だった。

 

 葉隠自身は攻撃力が無く、騎馬を組んでいる以上居場所は分かってしまうので個性を生かしようが無いが、二人の個性を合わせればそれなりに凶悪な攻撃が出来た。

 

「準備は良いかい?」

「いつでも良いよー」

「『キャントストップトゥインクイング スーパーノヴァ ネオ』」

「『集光チャージ・屈折拡散レーザー』」

 

 青山のレーザーを体を通して集光したのちに、屈折、拡散させて無数のレーザーを撃ち放つ。身体を利用しているため完全な操作は難しく、ある程度発射するタイミングや場所は限られるが、絶えず様々な方向へと撃てるのは非常に強力だった。

 

 青山は体調に影響が出ないように時間を置いて葉隠にレーザーを放ち、葉隠がそれを体の内側に溜めてから放つ。そのため今は必要ないが青山の最大威力よりも強力な一撃を放つことも可能である。

 

 次々と放たれる本来のネビルレーザーより弱い大量のレーザーが凄い勢いで欠片を壊していく。殆ど狙った場所に行くがまだ完璧に当てられず、何発か外しているがそれは量でカバーできた。

 

 

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「私って直接戦闘向きじゃないんだよねー」

「僕も個性は扱えてないからね」

「「と言う訳で何かアドバイスをください」ちょうだい」

 

 山稜の目の前にいるのはクラスメイトの葉隠と青山である。確かに葉隠は透明な事を除けば普通の人と変わりない。青山は結構強力ではあるが扱えきれない力に振り回されている。

 

「青山は訓練するか、道具でサポートするかに成るけど体育祭は基本的にアイテムは禁止だからねぇ」

「困っちゃうよねっ☆」

「葉隠は何か出来る事ある?」

「えっと、光を集めて目くらましとかが出来るよ『集光屈折ハイチーズ』」

 

 いきなり光られるため意表をつけるだろうが攻撃にはならない。

 

「青山は撃てる限界を伸ばすほかに、撃つタイミングとかリズムにも気を付けて見れば?」

「リズム?」

「緩急をつける事で相手を騙せたり、当てやすくなるから。不規則に撃てるのが一番だね。後は溜めれるんなら溜める限界も伸ばそう」

「とりあえずやってみるよ☆」

 

 青山はこれで良い、次は葉隠だが、体育祭は基本的には競技であるため葉隠の持ち味はなかなか活かしにくい。と言うか体育祭なら目立つ必要性があるが、目立たないのが葉隠の個性だ。

 

「意識を逸らしたりする手段は私より心操に聞いた方が良いね。後は武術とかの歩法などかな」

「歩法?」

「そう、気配を消すのに足音を消したり、足音の不自然さを消したり。そう言った技術を取り入れられれば強いかもね。後は見えないからこそ直接的な攻撃が読まれにくい。正面から戦うより、言い方が悪いけどせこい戦いの方が適してるんだよ。相手を騙すということに繋がるからやっぱり心操だね。武術に関しては尾白にでも聞くと良いよ。足運びを教えて貰うだけでもだいぶ違うだろうから」

「分かった。ありがとう」

 

「後はどうなるか分からないけど団体競技があったら二人で協力してみると面白いことが出来ると思うよ」

 

 そうして二人に伝えられたのが青山が動力と葉隠がレンズの役割をこなして放つ『集光チャージ・屈折拡散レーザー』だった。

 

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 別に自分だけで戦う必要は無いのだ。戦う個性(ちから)が無い透明少女と個性(ちから)を制御できない少年が手を組んだ事により残っていた欠片も殆ど取り除かれた。

 

「僕の力を魅せつけちゃったかな」

「けっこう、注目されてるねー」

 

 それにより、これから本格的に騎馬戦の戦いがスタートする。先に手札を見せてしまった轟と青山・葉隠ペアは少し不利になるかもしれないが、それでも一つの状況を打ち破ったとして、その三名は会場から注目された。さて、次はだれが動くのか会場の熱狂はまだまだ続く。




轟は炎の克服と氷と炎の捉え方の変化により、技のバリエーションの細かさがアップ。技名は漢字の方が合ってると思い必死に考えた。

氷の形は無機物を作るのが得意、炎の形は生物を作るのが得意。
氷の流と炎の流はまた今度。


葉隠と青山の特訓は1人称に出来ないので3人称で対処。二人の合体技での立ち回りを少し書くけど、そもそも騎馬戦向きではないよな。予定している3回戦のルール的には葉隠は上がれたら強いけど騎馬戦においてはこれ以上の活躍は難しい。強化の方法が他に思いつかなかった。

後は光を集めたり、屈折できるなら望遠鏡とか出来ないかなとも思ったけど、発目の『ズーム』の個性があるのであまり意味ないと感じた。

色々と考える事が多いし、特訓入れると長くなるし、騎馬戦だけで結構続きそう。と言うか以前に4月までに体育祭終わらせたいって言ったけど終わるか怪しくなってきた。

まあ、気にしないでおこう。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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21 雄英体育祭⑥

 山稜の置き土産が無くなってくると遅れた分を取り戻さんと全員が虎視眈々と鉢巻を狙い始めた。いち早くに狙うべき相手を定めてかかって行ったのは爆豪チームだった。

 

「喰らえ半分野郎、『貫通(ペネトレイト)』」

「ちっ『流動氷壁』」

 

 山稜に見せていた一撃の威力がとても強い大技を放とうと単身で宙を飛びながらやってきた爆豪相手に轟は作り出した氷壁の形を変化させて防御の姿勢を取る。

 

「はっ、いまだ合わせろしょうゆ顔『爆速ターボ』」

「なっ?!」

 

 しかし、急に技を変更し、鉢巻を狙う様に軌道を変化させて一気に詰め寄る。それに合わせて瀬呂が後ろから挟み撃ちする形で位置を取る。

 

「後ろががら空きだ『テープアクション』」

「鉢巻もらったぁ!!」

「『氷線浸縛(ひょうせんしんばく)』」

「『焼夷弾(インセンディアリー)』」

 

 轟がテープを避けた所で爆豪が鉢巻を奪い取り、爆豪は瀬呂たちと合流して騎馬に戻る。伸ばされたままのテープをつかみ取ると氷の線を作り、相手の体まで浸食するように冷気を一気に流す。爆豪がテープを焼き切るために爆発を放つ。

 

「俺が止める『局所帯電』『ボルトショック』峰田!!」

「『アーステイル』くっ、強い流しきれない」

「負けてたまるか『グレープハント』」

「よし、『炎上網(えんじょうもう)』」

 

 爆豪チームの騎馬が止まった所をすかさず上鳴が尾白に電気を流し足止めを試みる。尾白は尻尾を地面に突き刺し体に流れる電流を流そうとしたが流しきれず動きを止める。そして止まった所をテープの処理に手間取っている爆豪目掛けて峰田がモギモギを繋げて作ったアイテムで爆豪の鉢巻を奪う。そして奪ったところで折って来れないように炎で壁を作り出した。

 

「ポイント的には勝ってるが、また来られたら面倒だ」

「早く離れようぜ。あいつマジ怖えよ」

「まあ、容赦ねえからな。あいつ」

 

 そう言って爆豪から距離を取って今度は別のチームを自分たちが狙うために周囲の状況を確認し始めた。

 

「挑むならアソコだな」

「芦戸と後はB組か」

「人数は不利だぜ、大丈夫か?」

 

 峰田は不安の声を上げるが、勝算はあると言う轟の言葉を信じて勝負を仕掛ける。

 

「っ!?轟は氷と炎、上鳴は電気、峰田はくっつくボール、キノコで足止めして、後は作戦通りに」

「『キノコ』ノコ」

「これでいいかな『ボンドコーティング』」

「うん、いけ『アシッドボール』」

 

 キノコですぐに近づけないようにしてから、芦戸の出した酸を包み込む様にボンドでコーティングして投げ付けてきた。

 

 ボンドに守られていて焼き切るのは厳しいが凍らせれば問題はない。しかし、瞬時にどうにかなるわけではないが操っている氷が溶け始めた。酸の反応によって発生する熱か。

 

「今度はこっち『アシッドベール』本当に危ないから気を付けてね」

「おう。この酸は鉄は溶かさねぇがお前らは俺に触れねぇぞ」

 

「近づかせるか『モギモギ』」

「『アシッドスナイプショット』くっつく前に溶かしちゃえ」

 

 轟チームはやられることは無いが攻めあぐねている、誰もがそう思っていた。しかし、突然ニヤリと笑うと芦戸チームを丸ごと凍らせた。一応頭は出ているが何も出来ない。

 

「氷の溶けた水やお前の酸を通して少しずつ周囲を冷やしていた。動き回ってたのに加え、お前らの周囲にギリギリまで冷気は行かない様にしていた。酸で溶かすよりこちらが動く方が早い」

「あー、やられちゃた。て言うかめっちゃ寒いんだけど」

「これは詰ノコ」

「ボンドを飛ばしても無駄か」

「ちょっ、そろそろ鉄化が解けるんだけど?!俺も溶けるんだがこのままだと?!」

「鉢巻は貰っていくぞ。出たいならリタイアするんだな」

「どうせ動けないからそうしますよ。ちぇっ」

 

 芦戸チームの鉢巻を奪えたが、近寄らせまいとする戦法は厄介で意外と時間を取られた。次のチームを見つけて戦おうとしたがタイムアップとなった。

 

「まあ。どうにかなったな」

「この順位なら十分だ」

「オイラも頑張れたぜ」

 

轟チームの結果

自チームの鉢巻は爆豪チームに奪われる。

爆豪チームから鉢巻を奪い取る。

芦戸チームから鉢巻を奪い取る。

合計ポイント800

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 一方轟チームと戦った後の爆豪チームは奪い取るつもりが、カウンターで奪い取られポイントが減ってしまい怒りで溢れていた。

 

「あの半分野郎が!!」

「落ち着け爆豪、とりあえず今は追えないからとれる奴から奪うぞ」

「ごめん。俺が止められたばっかりに」

「いや、俺もテープ凍らされたから」

「ちっ、鉢巻奪われたのは俺だよ!!良いから行くぞ」

 

 お互いに失敗を謝りあっていると爆豪が問答無用で二人に進むように指示を出し、次のターゲットを探し始めた。そして目をつけたのはとりあえず近くにいたB組だけのチームだった。

 

「オラァ!!鉢巻よこせ!!」

 

 襲われたのは、回原、黒色、鱗の3人チームだった。爆豪の爆破で鱗は散らばされ、黒色は爆破の光で黒に紛れる事ができず、回原は巻き込まれてやられた。

 

「とりあえず鉢巻ゲットか」

「でもあまりポイントにはなりそうもないな」

「んなこと分かってんだよ。とっとと次に行くぞ!!」

 

 その後は他のチームに鉢巻を奪われたチームに何度か襲われて時間を取られてしまい、結局はタイムアップとなった。

 

「チクショウが、雑魚が群がるんじょねぇ!!」

「場所が悪かったな」

「うーん、次に進めるか怪しいね」

 

 爆豪チームは上手くポイントを稼ぐことは出来なかった。上がれる人数次第ではあるが、おそらく第三競技に進めない可能性が高く、爆豪の機嫌はかなり悪かった。

 

 

爆豪チームの結果

自チームの鉢巻は轟チームに奪われる。

轟チームから鉢巻を奪い取る。

回原チームから鉢巻を奪い取る。

合計ポイント575




少し久しぶりの投稿ですかね。
他の作品に少し時間を割いてました。
ワンピースの二次創作です。数日だけですが、総合日間に載り、今も週間には載ってます。よければみてください。

と少し爆豪の方が適当と思われるかもしれませんが、対戦相手が修行組ではないB組だけで構成されていたので、楽勝な様子を表現する為に短くしました。


修整

回原は巻き込まれて死んだ。
    ↓
回原は巻き込まれてやられた。

分かりにくいボケだったのでボツに。
どちらにせよ扱いからして不憫ですまんな。

後は轟チームの点数や順位が低い様な会話がありましたが、それは間違いでした。

読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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22 雄英体育祭⑦

お久しぶりです。この作品を投稿するのは3か月ぶりですね。

他の作品を書いてたり、就職して忙しくなったりで全然書けていませんでした。それと、やはりヒロアカはにわかな分、調べながら書くと時間が掛かるためどうしても後に回しがちなんですよね。

まあ、少しずつ書いて行きますが、他の作品より更に更新は遅いので覚悟してください。不甲斐ない作者で申し訳ありません。


 瞳空の奴、家族の手助けもあって一皮むけたのか中々に厄介な一手を残していきやがった。だが、他の奴らが積極的に壊してくれてるから動く必要はねぇ。

 

「下手に壊すと狙いがばれる。障子、指示を出すからそれに従ってくれ。耳郎と吹出は接敵したら個性で場を搔き乱してくれ」

「「「了解」」」

 

 狙いをつけているチームまでの道程は、真っ直ぐには迎えそうに無いが逆に分かり難くて良い。とにかく『集中しろ』場を見極めるんだ。自分に言い聞かせる事で集中力を高める。

 

「『普段と同じ速度で動け、右回りに欠片を避けて進め、その後直進全速で八歩、右前にジャンプ、着地と同時に地面に一撃』」

 

 個性を使っての指示なので俺が把握し間違えて無い限り、障子は想定通りの動きをしてくれるだろう。3人が背に乗っているが軽快な動きで進み、目的地へと辿り着いた。

 

「こっち来たぞ!?」

「……!?」

「ん!!」

「今の動き!?うらめしい」

 

 相手をするのはB組の円場、小大、柳、それと普通科の口田の四人編成のチームだ。選んだ理由はこちらの個性を防ぐ手段に乏しいからだ。訓練を一緒に行った者がおらず情報を詳しく知られていないと言う点も結構重要だ。

 

「『耳郎は音で吹出は擬音で相手を攪乱してくれ』」

「了解、『ハートビートレゾナンス』」

「ガツンとボクに任せてくれ『ズドーン』『ドッカアン』」

 

 耳郎は障子の背から少し体を乗り出すと狙いをつけてプラグとなってる耳たぶを地面に投げつけた。すると鼓動の音を地面の底でぶつけ合う事で敵の足元で爆発させた。吹出は顔を出して擬音語を具体化して攻撃を行うが、耳郎の攻撃を避けようとしている所に立て続けだったので綺麗に入った。

 

「ちくしょう、『エアプリズン』これに砂を入れて小大、柳!!」

「ん!『サイズ』」

「『ボルターガイスト』」

 

 エアプリズンの応用で小さな箱を作り出すとそこに砂を詰め込み即席のブロックを造ると、小大に柳が操れるギリギリまで大きくして貰い飛ばして攻撃を仕掛けてきた。しかし、この程度ならば問題は無い。

 

「『障子、殴って崩せ』」

「ああ、元がぼろいから簡単に崩れる」

「『耳郎、音を叩きつけろ』」

「了解『ハートビート・ハウリング』」

 

 耳のプラグ同士をぶつけた状態で増幅させた心臓音で相手の耳を攻撃する様な音を響かせた。近くに居るため多少は巻き込まれてしまうが一応指向性があるので大部分は敵チームにぶつけられている。耳を塞ぎたくなるが騎馬を組んでいる関係上それは出来ず悶えるばかりだ。

 

「『はは、音で苦しそうだね?』」

「うるせぇ!!」

「ん!!」

「うらめしい!!」

 

 心操は声を耳郎の物に変えて向こうをあざ笑うかのように話しかけた。先ほどからの戦いと音への苛つきでつい反応を返してしまった。全て終わった時には競技は終わっており、嵌められた事に気付いた円場チームは怒りもなく、呆然としてしまっていた。

 

「はぁ、思ってたより抵抗された所為で点が他に取れなかったな」

「まあ、微妙な点だね」

「ガツンと戦った結果だ。仕方ない」

「まあ、結果を待とう」

 

心操チームのポイント:575

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 周囲で戦闘が起こり始めた頃、ビームによる欠片の破壊で目立ってしまった青山チームは他のチームの中でも上位に入る実力者の集まったチームからの襲撃を受けていた。

 

「A組にはお世話になりましたが、戦いでは別です『磔刑(クルセフィクション)終身(フィニッシュ)』」

 

 塩崎、宍田、泡瀬、骨抜の4人で構成されたB組チームとでも言うようなチームで塩崎と宍田は特訓の参加者であるため青山と葉隠の技は知られている。

 

「ええっと、塩崎さんの蔓はビームで削り続ける。青山くんは可能な限りビームの補充を、砂藤くんは私たちを担いで相手チームに追いつかれないようにして『集光チャージ、屈折拡散ビーム』」

「了解ッ☆『キャントストップトゥインクイング スーパーノヴァ ネオ』」

「分かった。ここが踏ん張りどころか、砂糖を補給する」

 

 塩崎の茨を防ぎ続けてはいるが、葉隠の操作で無駄が減っていてもビームには限りがある。数が少なく、強化系の個性の砂藤がいるからどうにかなっているが、それももう終わる。

 

「なっ、足が取られ」

「地面が柔らかく、これは」

「骨抜さんの柔化の個性です。それと今です」

「おらよ、柔らかい地面を『溶接』」

「『ガオン・レイジ』鉢巻受け取れ」

 

 蔓で追いやられた先は既に塩崎チームが罠を仕掛けていた場所の様で、足を踏み入れた途端に地面がぐにゃぐにゃで身動きが取れず、溶接して固められた地面と補強する蔓によって完全に足止めされ、宍田が青山に飛びかかり鉢巻を掴んで投げ渡した。

 

「動けないし、リタイアかな」

「先だって目立ちすぎちゃったね☆」

「数的不利もあったが、無念だな」

 

 綺麗に罠に嵌められた青山チームはその場でリタイアを宣言して教員に助けられた。塩崎チームは残り時間と現在戦っているチームのポイントを比べてこれ以上戦闘は仕掛けずに防衛に力を注いで終了を待ち、無事に競技を乗り切った。

 

「結構B組も残れてますかね?」

「俺らで4人、主席の所に取蔭がいたしな」

「勝ちあがれて良かったですな」

「作戦考えた塩崎の手柄が大きいな」

 

 

塩崎チームのポイント:730

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 ふむ、山稜君も大きく動いてくれたものだ。騎馬戦という事で足役を僕が、そしてどっしりと構えて相手の攻撃を防いでくれる切島君と舌を用いた遠距離攻撃の出来る蛙水君を仲間にしたが、直接的な攻撃が多い僕等ではこの欠片の対処は難しいと言わざるを得ない。

 

「どうする飯田?」

「少しずつ他のチームが欠片を壊している。狙われる可能性が高いが下手に動かずにいた方が良いだろう。むしろ挑んで来た相手を返り討ちにするカウンターで行こう」

「ケロッ、それなら逆に周りの欠片を盾に利用したらどうかしら?」

 

 初めは走り回りながら鉢巻を掠め取って行くつもりだったが、話し合いを経て新しい作戦を詰めていった。あちらこちらで他のチーム同士が戦っているのが見える。漁夫の利を狙いたい気持ちも出てきたが、一つのチームが僕たちに近づいて来ている。

 

「飯田か、訓練でも同じ委員長としても世話になったね。それでも挑ませてもらうよ!!」

「体育祭の競技だ。遠慮は必要ない。こっちも正々堂々挑戦させてもらう!!」

 

 挑んできたのは拳藤君のチームだったか、他のメンバーは物間君、角取君、庄田君か……物間君以外は訓練にも参加していたのでどういった個性か知って居るが、逆にこちらの手札もバレている。作戦や連携を意識してしっかり当たって行くべきだろう。

 

「角取、欠片の隙間から攻撃」

「了解です。『サンダーホーン』!!」

「切島君、頼んだ」

「おうよ『安無嶺過武瑠』、効かねえな!!」

「反撃だ。蛙水君」

「ケロッ、『フロッピーウィップ』!!」

「『双大拳・防』」

 

 飛んできた角を難なく受け止めた切島君、山稜君のバリアには負けると言っているが、先生が言うには彼の防御力はプロ顔負けなレベルだ。そして反撃は長い舌を鞭のように扱い蛙水君が仕掛けた。しかし、拳藤君が大きくした手のひらを組んで前に出して防御の姿勢を取る。

 

「やっぱりお互いに知ってる技は対処されるか」

「であれば物間、やはり君が鍵だよ」

「はっ、ようやく僕の重要性を理解したか、A組の訓練に混ざって多少は強くなったみたいだけど結局は僕に頼らざるを得ないとは、やはり僕は間違っていな「煩いよ!!早く支度をしな!!」ひぃ、分かってるよ」

 

 向こうのチームは何かを話し合っているようだ。全ては聞こえないが物間君の個性を用いて逆転を図ろうとしている様だ。確かに彼の個性が判明していない以上、その場で対処する必要がある。僕たちは気を引き締め直した。

 

「喰らいな『風刃』!!」

「欠片が削れていってる。見えない攻撃、くっ!!」

「前に出るぜ『安無嶺過武瑠』!!当たり方からして斬撃だ!!」

 

 物間君の技名から考えるに風を操る個性なのだろうか、見えない攻撃と言うのは非常に厄介だが欠片の防御のおかげで気付くことが出来、切島君の防御が間に合った。物間君の挙動に気を付ける必要が出てくるが対処はどうにか出来そうだ。

 

「まだだ。庄田、角取、合わせ技を!!」

「『サンダーホーン・タワー』」

「『インパクト・チャージ』」

 

 自由自在に操る4本の角を一直線に並べて発射することで攻撃力と貫通性能を高めた技、それは訓練でも何度か見かけた。そこに何やら庄田君が攻撃を放っていた。庄田君の個性は『ツインインパクト』、打撃を仕込んでいるのか。

 

「「『インパクト・サンダーホーン』!!」」

 

 解放された衝撃で急加速した角と軌道をいきなり変えた角がある。急加速は衝撃を前に、起動を買えたのは横からの衝撃か……多面的な攻撃を切島君だけでは防ぎきれないか。

 

「横からのは任せてくれ『レジプロエクステンド』!!」

「ああ、『安無嶺過武瑠』!!」

 

 前方からのは威力が高く少し後ろに下がらせられたが切島君が防いでくれた。そして横からの刃はレジプロバーストの速度で放った僕の蹴り技で弾き飛ばした。厄介な攻撃だったが、どうにか凌ぐことが出来た。そう思っていたら突然猛スピードで飛んできた角に鉢巻を奪われた。

 

「『インパクト・ストック・解放(ファイア)』」

「『アッド・インパクト・サンダーホーン』」

「なっ!?庄田君の個性!?いや彼は既に個性を使った後では」

 

 衝撃を重ね掛けして貯める技を使えるようになったのは知っていたが、あの発射までの時間に溜めた衝撃は使い切っているはず。

 

「ハーハッハッハ、騙されたな。僕の個性は風を操るなんてものじゃない『コピー』、庄田の『ツインインパクト』を僕が使い、角に衝撃を貯めていたのさ!!」

「まったく、なに盛大にネタばらししてるんだ。さて鉢巻は貰ってくよ!!」

「作戦の勝利でーす」

 

 そう言うが早く彼らは鉢巻を持って逃げ去った。その際に目くらましに煙を発生させていたがあれも物間君がコピーした個性だろう。彼らに個性が風を操る物だと思いこまされ、綺麗に騙されてしまった。

 

「待ち時間が長かったから欠片を壊して追いかけていたら時間切れだろう。すまない、僕の作戦が駄目だったみたいだ」

「いや、あれには俺も騙された。しょうがねえよ」

「けろっ、向こうの強みを上手く活かされてしまった形ね。飯田君のせいじゃないわ」

 

 

拳藤チームのポイント:745

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

『終了!!』

『どこもかしこもスゲェ戦いばっかだったな』

『結果発表中だ。うるさいぞ山田』

『だから山田はダメー!!』

『では最終的なチームのポイントを発表します』

 

 

最終結果

 

山稜   一千万15ポイント

 

轟      800ポイント

 

拳藤     745ポイント

 

塩崎     730ポイント

 

緑谷     715ポイント

 

爆豪 心操  575ポイント

 

他のチーム    0ポイント

 

 

 表示されたポイントに全員が注目する。何人が、もしくは上位何チームが出場できるのかと全員がミッドナイトの声に耳を傾けている。

 

『第三種目出場者枠20名となっています。1位から5位までのチームで18名、本来であれば6位のチームから2名だけ進出なのですが、今回は6位のチームが2つあるため、両チームから1名ずつ出場してもらいます』

 

 どうやらポイントを保持しているチームはどこも参加することが出来そうだ。しかし、6位のチームである爆豪チームと心操チームは誰が行く事になるのかと他のチームもその様子を見守っている。

 

「爆豪、行って来いよ」

「ああ!?どういう意図だしょうゆ顔てめぇ!!」

「いや、意図なんてねぇよ。てか怖えからやめてくれ。俺らの中で一番強いのお前だろ」

「正直僕たちより、山稜さんに挑めるだけの力がある君が言った方が可能性は高いからね」

「けっ、礼は言わねえぞ」

 

 他2人の辞退により、爆豪チームより爆豪が第三種目出場が決定した。騎馬戦と言うルール上では万全に動けていたとは言えない爆豪、第三種目の内容次第では厄介な敵になるのは間違いないと周囲は思いつつ、順当な選出だと実況席の先生たちも納得している。

 

「どうする?」

「いや、普通にあんたがいけば?」

「作戦考えたのも、ずっと指示出してたのも、鉢巻取ったのも心操だしな」

「ガツンとその意見に賛同するぞ」

「俺は戦闘面ではあまり秀でてないぞ。第三種目は昔から戦闘系が多いと聞く、俺よりそうだな耳郎の方がどんな状況でも対応できるし、良いんじゃないか?」

「いいからあんたが居なけりゃ6位にも慣れてなかったんだから行きな!!」

「断り続けるのも失礼だぞ心操。俺達はお前ならと言ってるんだ。仮に直ぐに負けたとしても文句は無い」

「ドシンと構えるのが良いぞ」

「分かった。それなら頑張ってくるとしよう。それとありがとう」

 

 実績があるとはいえ基本的に搦手な個性の心操が他に譲ろうとしたがチーム全員からの推薦により心操チームから心操が第三種目出場が決定した。

 

『両チームからの出場者が決定したわ、第三種目出場者は以下の20名よ』

 

 

第三種目出場 

 

山稜 八百万 取蔭 発目

 

塩崎 宍田 泡瀬 骨抜

 

拳藤 物間 角取 庄田

 

緑谷 麗日 常闇

 

轟 上鳴 峰田

 

爆豪

 

心操

 

 

『そして気になる最終種目の内容を発表するわ』

 

 未だに分かって居なかった最後の種目の発表に会場にいる全員が耳を澄ませ、シンと静まった。

 

『最終種目それは『バトルロワイヤル』!!20名が特設エリアにて自由に戦って貰うわ。ルールは簡単、最後まで残ってた人が優勝よ!!』




後は第3種目と表彰式だな。第3種目はどうしようか、出場者同士で手を組むのは構わないと言う形でやっていく予定なので陣営をいくつか決めるか、基本的に山稜は1人の予定、と言うか山稜が人数減らしていき、危機感を覚えたメンバーが手を組んで挑むレイドバトル的な感じかな。

問題は山稜を勝たせるか、勝たせないか、勝たせない場合は誰を1位に持って行くかなんだよな。1対1なら負けないが、無敵と言う訳では無いからな。そして勝つとしたら候補はやっぱり緑谷、轟、爆豪かな。

次の更新ははっきり言っていつになるか分かりません。そして体育祭が終わったら一度更新止める予定です。

では久しぶりにこの挨拶でさようなら。
読んでくれいている方々に多大なる感謝を。


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23 雄英体育祭⑧

お久しぶりです。実に半年ぶりの投稿でしょうか?
待ってくださっていた方々に多大なる感謝とお詫びを申し上げます。


 今回の第一種目においてはヒーローになるための基礎、それも心構えなどよりも前の身体能力や知恵と言った物を見ている。苦難を乗り越える力か知恵はあるか、そして入試と同じロボを始めに使う事でそれぞれの成長をみる。入試で合格した者は勿論のこと、合格できなかった者もそれを糧に出来ていれば話は違ってくる。

 

 第二種目はこれも知恵も関係してくるが中でも戦略性や状況判断などに重きを置いている。そして個人戦ではないと言った点で協調性なども必要となる。一人で何でもできる者などまずいない。ヒーロー同士は商売敵ではあるが、互いに切磋琢磨する事や協力してヴィランと戦う事も考えれば必要な力である。

 

 そして第三種目の『バトルロワイヤル』、本来であれば戦闘能力を見るだけの単純な種目として1VS1のトーナメントなどが考えられていた。しかし、実力が予定していた以上に伸びている1年の生徒を見て戦うだけでなくその者の在り方を見れるように自由度が高い物が良いと変更された。

 

 優勝が1人であるという事実、全員が敵であるという状況、そんな中でどの様に動くのか、戦うステージは広く、様々な環境が用意されている。それぞれの得意不得意や相性なども重要となる。

 

『さあて、第三種目まで勝ち抜いた選手たちが無作為に選ばれたポイントに移動したぜ。スタート地点の条件は特別なく、不平等に感じるかもしれないが運も実力の内と言う事で理解して欲しい。さて、細かいルールのおさらいだ。1,ステージ外へでたら失格、2,戦闘続行が不可能な状態になったら失格、3,ステージ内の物は自由に使用してOK、サポート科は持ち込みも自由。様々な手段でここまで勝ち抜いた猛者たちだ。その中のナンバーワンを目指してプルスウルトラだぜ!!それじゃカウントダウンスタート』

 

『5』

 

『4』

 

『3』

 

『2』

 

『1』

 

『0、バトルロワイヤルスタート!!』

 

 湧き上がる会場、それぞれのモニターでは既に選手たちが動き出している。残っている生徒たちも出場している仲間の応援に夢中である。

 

「まっ、あいつらなら乗り切るだろう」

『なんか言ったかイレイザー!!』

「こっちに反応してないで仕事しろ、山田」

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

『始まったバトルロワイヤルの様子は各エリアに仕掛けられているカメラと生徒達からは見えない位置を飛んでいるドローンのからの映像で観戦してくれ。重要な戦局は中央に置いた巨大スクリーンに映されるが、気になる選手がいるなら専用サイトで追跡ドローンの映像を各自で見てくれ』

「その他にフィールドでの移動の軌跡や各選手のバイタルなど最低限の情報や一部教員からの解説やコメントなども表示される」

『それと各エリアのおさらいだ。巨大なビルの立ち並ぶ都市エリア、一般的な家屋の密集した住宅地エリア、木々が多く高低差の激しい山岳エリア、川や湖が大半を占める水エリア、災害発生地を再現したハザードエリアなどなどが存在する』

「主に人工物エリアと自然的なエリアに別れている。どんなエリアであれば自分の個性が活かせるのか、または苦手なエリアでどのように対応するか、エリアからエリアへの移動の動きも重要だ。さらに同じエリア内でも気温や風向き、明暗などの違いもある。自分の状況をもとにどう動いていくのかを見させてもらう」

『さぁて、選手達の動きを追って行こうか!!それぞれの選手の位置関係だけを表示するぜ!!』

 

 プレゼントマイクの言葉と共に観客たちが見つめていたモニターにエリアの全体図と選手の位置が簡易的に表示された。それを見て、ほぉっとプロヒーローが思わず声を漏らした。

 

「全体的にはばらけてるが、とりわけマークされやすい奴らが外側だな」

『さて、いつまでも広いエリアを維持していると選手同士が出会えねぇからな。ステージは一定時間で縮小させてもらう。次のステージ範囲は地面から伸びる色つきのライトで確認できるようになってる。そして、今イレイザーがいった外側に居る奴らは次のステージの範囲内に入らねえと即アウト!!必然的に移動せざるを得ないが、派手に動くと他の選手にばれやすいぜ』

 

 エリアは8×8の64エリアに分かれており、一定時間ごとに一番外側のエリア、外周が削られる。次は6×6、4×4、2×2と段々とステージ全体の範囲は小さくなっていく。

 

「光同士の距離を確認すれば自分がどの位置にいるか分かるからな。中心に近いと分かった奴らは体力温存もかねて待ちの姿勢に入るだろう。そして、中間ぐらいに位置する奴らは先の事を考えて中央を目指すか、それとも一番外側からやってくるであろう選手を待ち伏せにするか、近くの選手を探して回るか、選択肢が多く、他の選手に遭遇しやすい。一番初めに戦いが起こるとすればここだろうな」

『おっと、イレイザーの言うとおり選手同士の動きが激しい中間でさっそく出会うみたいだぜ!!あれはっとスクリーンdの3で頼むぜ!!さぁて、あそこは何エリアだイレイザー?』

「……実況なら覚えておけ、d3(あそこ)は住宅地エリアだ」

 

 8×8のエリアに別れてることからチェスと同じようにabcdefghと12315678の英字と数字で表されている。全体図を見てみるとどうやら互いにより中央へ向かおうとしていた所をかち合ってしまったようだ。その対戦することになる相手は……

 

「ありゃあ、上鳴と塩崎だな」

『おおっっと、第一競技では強力な電撃を纏った拳でロボを粉砕し、第二競技では敵を痺れて動きを止めさせるなど強力かつ多彩な動きを見せたサンダーボーイと冷静な判断と伸縮自在な蔓の個性でトップ集団との争いに食いついたスーパーガールの対決だぜ!!』

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 長期的な戦いになった事を考え、移動のリスクを取って内側を目指していた塩崎と中心に向かっていればだれかと戦えるだろうぐらいのテンションで進んでいた上鳴が住宅地の真ん中で出会った。互いに姿を確認すると静かに戦闘態勢に移った。

 

「へっ、一緒に訓練したとはいえ容赦しねえからな」

「承知しています。厳正な試合です、互いに悔いの無いよう勝負と致しましょう」

 

 それだけ言うともはや言葉は要らないとばかりに距離を詰める上鳴、それを阻止して拘束しようと蔓を伸ばす塩崎、互いの距離が離れていたため上鳴は近づき切る前に蔓に絡めとられた。しかし、次の瞬間に蔓は動きを止めた。

 

「『雷伝導(エレキ・リード)』『過負荷(オーバーロード)』『局所帯電』『スパークショック』」

「ッ切断、ぐッ!?『信仰の盾(フェイスズシールド)』『寵愛の剣(フェイヴァズソード)』」

 

 蔓の触れている部分に電気を集め、無理やり電撃を流し込む、塩崎は嫌な予感がした瞬間に蔓を根元から切断し、難を逃れた。上鳴は切断されたことを感じると電撃を強くし、流し込まれた蔓は耐え切れず炭化して拘束は外れた。

 

 拘束を解いた上鳴はすぐさま攻撃をする為に足に電撃を流し込み強化を促し、その速度のまま電撃を纏った蹴りを放った。塩崎は盾を作り出して攻撃を防ぐとそのまま反撃の為の剣を創り、蔓で操って攻撃するが剣が上鳴の居た位置に届く頃には既にそこに上鳴はいなかった。

 

「『キリストのゆりかご(シュトーレン)』『殉教(マァータァ)』」

「『局所帯電・過負荷(オーバーロード)』『雷光(ライトニング)』」

 

 攻撃をする為に近くまで来ていると考えた塩崎は自身事封じ込めようとあたり一帯を蔓で覆い、ドーム状にするとドームから蔓を伸ばし、埋め尽くすように攻撃する。上鳴は自身の腕に限界を少し超えたぐらいまで電撃を流し込むと最大威力で蔓を攻撃し丸ごと消し飛ばす。

 

「はぁ、『スパークショック』、住宅地で良かった。利用できる物が多い」

「『ヴィアドロローサ』、それはこちらも水道があり、日が出ている。この状況で蔓は付きませんよ」

 

 上鳴は消費した電気を外部から取り込む事で回復しようと電柱を蹴り倒し、斬れた電線から電気をもらい受ける。塩崎も蔓を伸ばし水を得る事で蔓の生育の準備を整え直す。長期戦になり、体力的にはまだ余裕があるが後に残す事を考えられなくなっている。互いに無駄な消耗を無くすために大技にかかる。

 

「『雷帝

     「ちょおっと待ってください!!」

「『神判

 

 互いに攻撃を繰り出そうとした瞬間に互いの射線の間に誰かが飛び込んで来た。それは騎馬戦にてあの山稜と手を組んでいた発目明であった。互いの攻撃がぶつかり合うのであれば威力がある程度削がれるが、どちらの攻撃も防御してない生身の相手に打てるような代物では無いので二人とも慌てて攻撃を止めた。

 

「あっぶねぇな!!??いきなり割り込んで何なんだお前は!!」

「戦いの邪魔をするつもりで?」

「邪魔なんてとんでもない!!私は素晴らしい戦闘が見えたのでぜひ提案をと思い声を掛けさせて頂いただけです」

「「提案??」」

 

 早口でまくし立てる発目の姿に不信感を抱きながらも続きを促すように二人は発目に視線で合図を送った。すると最初から変わらないニコニコとした笑顔で言い放った。

 

「ええ、優勝を目指すためにも、敗退することになってもプロの目に留まるには長く生き残る事が大切、中央までの道のりの間、手を組みませんか?」

「第三種目のルールはバトルロワイヤルですよ?」

「全員敵だってのに何を言ってんだ?」

「いえいえ、第三種目の説明は『20名が特設エリアにて自由に戦って貰うわ。ルールは簡単、最後まで残ってた人が優勝よ』です。戦わないといけないとも手を組んではいけないとも言われていません。ただ優勝が一人であるとの事で戦う物だと思い込まされてるんですね」

 

 失格に関する条件も1,ステージ外へでたら失格、2,戦闘続行が不可能な状態になったら失格だけであると付け足し、手を組む事はおかしなことではないと論じる。

 

「無駄な消耗を避けるためにも、後半になるにつれて裏切りの心配が増しますが、今の内、中央までの道のりと言う条件であれば組む事は不可能ではないはずですよ?それとこの提案を飲んでいただけるのであればお二人に私の発明したサポートアイテムをお譲りします」

「話が上手すぎます」

「裏がありそうだ」

「そりゃありますよ。私は私の発明品(ベイビー)が注目を浴びて欲しい、その為だけにこの場に居ます。優勝自体には興味はありません。少しでもベイビーを見せる場を用意し、その有用性を示すために、序盤で何も出来ずに終わる訳にはいかないんですよ。そして私のベイビーが注目されるのであればその使い手は私じゃなくても良いんです」

 

 そう言うと大量に持ち込まれた発明品の数々を取り出し、簡易的な説明をしながら次々に紹介していく。目的の為に出場しているが、それが優勝とは限らない。そんな考えがなかった二人は呆気に取られていた。

 

「ヒーローを目指すお二人であればチームアップを図るのはおかしい事では無いでしょうしねぇ。どうです?私の提案にのってくれませんか?」

「どうすんだ?」

「今更戦いの雰囲気に戻れそうにもありません。提案に乗るのもありではないでしょうか?」

「まぁ、1人よりも生き残れる確率は上がるか?」

「おお!!それじゃぁ」

「ただし、条件の方は詰めさせて頂きます」

「まぁ、細かく決めといたほうが後で困らねぇか」

 

 そうして急遽バトルロワイヤル中にではあったがチームアップを図り、発目のサポートアイテムの補助が付いた上鳴と塩崎、そして発明品を手に進む発目と言う少しデコボコとしたチームが完成した。3人となった事で数の有利を得たが中央までの道のりでそれが功を成すかどうかはまだ分からない。

 

 




前書きにも書きましたが、大変お待たせしました!!
第三種目を丸々改変したことにより、誰と誰が戦う、このエリアでは何が出来るとか考えれば考えるほどに悩んでいき、気付けばこの有り様でした。

前回の後書きでは山稜対他みたいな感じにしようかななどと考えていましたがそちらの案は変更しました。今回の話の通りチーム組む所もありますがバトルロワイヤルの良さを出すためにもう少しごちゃごちゃさせようと思ってます。

体育祭の終わりまでの設定は書き上げたので、連続で投稿とかは無理ですが、少しずつチマチマと投降していくので何卒お待ちください。

それではいつもの挨拶を少し変更しまして

長らくお待たせしても読んでくれている方々と新しくこの作品に目を向けてくれた方々に多大なる感謝を!!



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24 雄英体育祭⑨

少しずつちまちま投稿すると言ってましたが一ヶ月は空きましたね。自分の中ではもう少し早く投稿する予定だったですがねぇ……遅れてすみません。


 第3種目開始後、外側に自分がいると感じた生徒たちは決まって内側を目指した。そして、イレイザーヘッドが言うようにマークされやすい強者が外側に多くいた。

 

そんな彼らは移動することに重きを置き、隠れることはせずに堂々と進んでいった。それは自分は平気であるといった驕りではなく、競技に臨む上での覚悟であった。

 

 自分がここに居ると示す、変わった自分を示す、自分の考えを示す、自分が一番だと示す……それぞれ望む姿は違えど目指す所は同じであった。

 

そして、常に全力であり続ける男も中央を目指していた。共に夢を目指した友人の姿を見るために、その隣に立ち続けるために走り続ける者もいる。

 

 託された想いを抱き締め、期待に応えるためにも不甲斐ない姿は見せるわけにはいかない。そんな思いで個性を使って気を引き締め続けていると、前方から気配を感じ立ち止まった。

 

「待ち伏せか……」

 

「あれれ、バレちゃったのか。そのまま足を止めずに来てくれてたらお互いに楽に終わったのになぁ」

 

 心底残念そうな表情と嘲笑うかのような声の差に普通であれば少しは苛つきそうなものだが、心を落ち着かせる事は誰よりも得意であった。

 

「誰かと思えばおこぼれで出場できた人じゃん、偉そうに指示だけ出してそれで結局勝ち進めてないんだからチームを組んでた人たちもがっかりだろうねぇ?」

 

 悪意に満ちた声、拳藤から聞いていた頭が残念と言う情報がここまでだったかと認識を改めた。しかし、その挑発自体はどうでも良いと感じている。相手を揺さぶる方法は心操の方が熟知しており、心を落ち着かせることは誰よりも得意である。

 

「そうだなぁ……お前の言う通り騎馬戦の結果は俺の見通しが甘かった。どう思おうが何を言われようが受け入れる。だが、そんな俺を送り出してくれた奴らの為にも『勝たせてもらう』!!」

 

「ハッ、勝って当たり前な態度、腹立つねぇ。個人的にもB組としても負けるわけにはいかないんだよ!!」

 

 だが、受け答えをしてしまった時点で勝負は決していた。残念な事に心操の個性はロボ相手には効かず、第一種目では自分の強化にしか使っていない。そして第2種目では一度だけ鉢巻を奪うのに使ったが、混戦の中でその一度を正確に把握することは出来ていない。さらに言えばA組を毛嫌いしている彼は一緒に特訓していたメンバーの話を聞き流していた。

 

「はぁ、『俺が来た道、エリア外の光の先まで走って行け』」

 

 その命令に抗う方法は無かったようで感情的に動いていた彼は感情を支配し、常に冷静であろうとした彼に敗北した。決して下に見ていた訳では無く、余裕があったが故に成し得た順当な勝利を得た彼はそのまま中央を目指し、再び走り出した。

 

 


 

『おおっと最初の脱落者の誕生だ!!d7からd8に移動後、そのままエリア外まで出てしまいB組の物間ここで失格!!』

「心操もそれほど目立つ順位に居なかったからしょうがないとはいえ、個性を知らなかったのがそのまま敗因に繋がった形だな」

『勝ち残った心操はそのまま夜の森林エリアを踏破!!d6、ハザード山岳エリアに突入だ』

「あそこはたしか豪雨だな。冷たい雨と不安定な足場に体力を持ってかれやすい。適した個性が無ければ避けた方が得策だな」

『どうやら心操はイレイザーの言う通り迂回を選択したようだぜ。真っすぐ東に進路をとってe6を目指してるようだ』

「あそこは自然系統の川原エリアだな。隣の豪雨の影響で水の勢いが強くなってるが、山岳エリアより足場はましだろうな」

 

 一番最初の脱落者の誕生に会場は更にスクリーンに集中していく、誰がどんな作戦で動くのか、個性をどのように使うのかと多くの人が今も動き続けている選手に思いをはせる。

 

「あれだけ偉そうなこと言っておいてこれか」

「だから訓練参加した奴と話しておけば良かったのに」

「報告聞いてるだけでも個性は分かったはずなのにね」

 

 詰まらないプライドによってしょうもない負け方をする事になった物間に対して同じB組のクラスメイトからの評価も著しく下がる事となった。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 最中央エリアの一角であるE4エリア、そこは照明システムによって辺り一帯が薄暗く設定されていた。立ち並ぶビルによって他のエリアからの光も入ってき辛いために、ビルの内部などの室内照明が無い場所では完全な夜となっていた。

 

「おれは別に戦うのが得意なわけじゃないからな。普通に戦ったら負けるのは決まってんだ。立ち上る光からして位置はほぼ中心、余裕がある内にフィールドをつくってやる」

 

 もぎもぎという粘着性を持つ玉を操り、それぞれの種目で活躍を見せたA組の生徒峰田実は恵まれたスタート位置を利用して自分の活動しやすいフィールドを作り上げていた。暗い場所で自身の視界も遮られるが慣れれば少しずつ視界も広がっていき、自分の仕掛けが見つけられにくいのでむしろプラスに作用する。

 

「ビルにもくっつけてっと、後は拾ったロープとか使えそうな物を罠代わりにぶら下げて、逃げる場所や隠れる場所も用意しとけば大丈夫だろ。後は他のエリア、せめてとなりのエリアがどんな場所が調べた方が良いか?だけどここが最終エリアだし、ここからでなければ大丈夫だろ」

 

 幸い小柄なため、身を隠して動く事も出来そうだが、全身が真っ暗で個性もぴったりである常闇だったらもっと動きやすいんだろうなと自身の居るエリアの事を考える。仮に常闇が来たとするともぎもぎだけでは勝ち目は薄いだろう。常闇に限らず、光源を確保しもぎもぎを焼いたり凍らせて防げる轟、ビルごと吹き飛ばせる爆豪や緑谷、探知能力もある山稜など厄介な相手はたくさんいる。

 

「こんな感じで待ち構えてんだけどよ。訓練仲間には手の内バレてるし簡単に対応されそうなんだよ……って事で最後のエリア収縮まで協力をしてくれねぇか?」

 

 そう、最終エリアでスタートして最低限の罠を作り上げた峰田は既にその罠で同じ選手を捕まえていた。それはB組の泡瀬洋雪と言う男だった。

 

「捕まえてから言うセリフかッ!?」

「いや、敵だから捕まえるのは当たり前だろ?それに断られたらそのまま戦闘不能になって貰わないといけないだろ」

「くっ、いや仕方がないか……分かった手伝うから拘束を外してくれ」

「ああ、最後のエリア収縮が開始したら互いに離れる。最後で協力は無しだ。エリアにある罠は共有のままで構わない」

 

 つなぎ合わせる個性を用いればさらに罠のバリエーションは増える。エリア全体を見るにも限界はあり、一人で見て回る事は出来ない。休憩なども考えれば手を組むというのは、裏切りを考えなければメリットだらけである。そしてヒーロー志望が全国配信で裏切りをするとは思えない故の策略であった。

 

「なるほど、僕も混ぜてくれないかな?」

「「!?」」

「隣から来たんだけど平原だと利用できるものが少なくてね。罠なら僕も作れるよ」

 

 ビルとビルの隙間の小さな広間の様な空間、そこで小さな声で行っていた交渉を盗み聞きしていた存在がいた。彼は最終エリアの一つ外側、F4エリアから来たようだ。泡瀬と同じくB組であるが、一緒に特訓を行った仲間でもある庄田二連撃の姿がそこにあった。そして互いに手の内を知ってる者同士、今から潰し合うべきでは無いと分かっているため手を組む事に異論は無かった。

 

「もぎもぎに衝撃を込めれるか?」

「直接触るとくっつくからどうしても一か所塞がるけど、それでよければ」

「ビルの中を探すと以外と使えそうな物が落ちてるから泡瀬は扉を溶接したり、ロープやガレキとかで道を塞いだりだな。」

「やってくるが、大体で良いから既に張った罠を教えろ」

 

 飛んでくる奴の対策をしようと思えば模擬戦でも組んだ瀬呂か色々な物を作り出せる八百万が欲しかったが居ない者はしょうがない。瀬呂に関して言えば第3種目に参加していないしなと残念そうにつぶやくと更に罠を増やすためにビルからビルへと飛び去った。

 

 


 

『おいおいあのエリア人が集まりすぎじゃねえかイレイザー?』

「完全ランダムだが、同じエリアで開始することは無くはない。エリア内のどこからスタートかもランダムだからすぐに隣のエリアに移動して鉢合わせすることもあり得ることだ」

『さっきの雷・蔓・機械チームもそうだが、3人で固まって動かれると後から来た奴ら不利すぎるだろ。このゲームの元の人数全部で20人だぜ。20分の3って15%だぜ』

「ヒーロー同士でチームアップすることはおかしくもなんともないだろ。ルール違反もしていない、正しく頭を使った戦い方だ。普段はしょうもない所も多いが峰田は賢いぞ。戦闘能力だけで見れば弱いが競技的に動きを確実に封じることが出来るというのは強い。洋雪や庄田は触れる必要があるのに対してあいつは投げるという遠距離攻撃があるアドヴァンテージもでかい。まぁ庄田は騎馬戦で見せた衝撃のストックの解放を上手く使えばといったところだが、訓練に参加してる者同士で手札はある程度割れてる。あいつらの協定の内容までは拾えなかったが、それぞれがどう動くか注目していても面白いだろう」

『優勝者はたった一人と言う状況で手を取り合う奴らがこんなに出るとは予想外だぜ。ヒーローとしての姿が求められる競技、裏切りは許されないぜ。決められたルールの中での駆け引きに目を凝らせよ!!』

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 自然系統に分類され、多くの木々が立ち並び、自然にあふれた森林エリアとでも言うべき場所c5。広い会場の西側から中央を目指すべく進んでいた彼女は鬱蒼とした森を遠回りした際の時間のロスを避けてそのまま突っ切ろうとしていた。

 

「最初の相手は宍田さんですか、獣の力を使うあなたと森での戦いとは厄介ですね」

 

「八百万氏ですか……厳しい戦いに成りそうですな。その装備の数々、前のエリアで作ったんですかな?」

 

 そう、八百万は既にたくさんの武装で溢れていた。流石にバイクの様な移動手段をとれば居場所を教えて回るようなものなので、ヒーローのサポートアイテムやコスチュームを基に身体機能をサポートしているが個性を使う上で多少の露出が必要になるため防御を捨て機動力を上げた感じにはなっている。

 

 直接格闘をする事を想定してなのか籠手などを装着しており、肝心の武器はと言うと近接用に長物と遠距離様に銃の様な物が動きの邪魔にならない様に腰に括られている。さらに球状の何かがベルトに付けられているが閃光弾の類だと思われる。

 

「ええ、その場で素早く作る練習はしてきましたが準備時間があるのと無いのとでは大違いですからね。幸い私がいたエリアは住宅地のハザードエリアだったようでして、火に包まれていましたが無事な家の中で作業をすれば燃え上がる火の音で創造や準備の音を拾われる心配をしなくてすみましたの」

 

「なるほど火災ですか、そのようなエリアに飛ばされずに運が良かったですね。寒さには強い自信がありますが獣化して火の海に飛ばされるのはごめんですぞ」

 

 情報交換をしているかのような会話であるが互いに視線はそらさず気を伺っている。緊張した空気の中で動き出したのはほぼ同時と言っても良いが、瞬時に獣化して木々を利用して飛びかかってくる宍田の方が一手早かったようだ。

 

「『ガオンアロガンス』」

 

「『合体創造』」

 

 獣としての力を十全に振るい、目の前の敵をなぎ倒さんとする両腕から繰り出される薙ぎ払いは籠手から生える様に創造された盾によってどうにか防いで凌ぐ形になった。

 

「『ガオンアヴァリシャス』」

 

 盾で攻撃を受け止めるにしても衝撃は伝えることが出来るとそのまま盾ごと攻撃を喰らわそうと宍田は連続攻撃の構えに入った。八百万は最初の攻撃より一撃一撃は弱い事に気付くと盾を支える手を片手にし、外した手を腰に付けていた球体に伸ばした。それをすっと足元に落とすと衝撃に任せて飛びのいて目元にサングラスを創造した。

 

「くっ、閃光ですな」

 

「感覚の強化と言うのも厄介ですね。宍田さん相手に近接戦は不利ですので距離を取らせてもらいます『改創造』」

 

 もとからある物に追加するだけでなく、想像した物を生み出す際に多少であれば既に作った物の形をいじくる位は出来る様になった八百万。大きな盾はもういらないので左腕には小さな盾を残し、右腕には衝撃を防ぐ役割と追加で造った砲身を支える機構に変換する。そして現れたのは左を盾で防ぎ、右腕に大きな砲身とそれに沿う様に機関銃の様な物を括りつけた姿だった。足には体を支えるために地面に打ち込む刃がつけられていた。

 

「弾切れの心配は要りませんよ。弾倉は私の身体自身ですのでね『武器庫解放(ウェポンパーティ)』開催ですわ」

 

 大きな砲身からは先ほどの閃光弾の他に催涙弾や煙幕、粘着弾などの妨害を可能とした特殊弾が放たれ、周りの小さい砲身からは連続でゴム弾が発射されている。当たった場所から乱反射しているが八百万自身は砲身や盾で跳弾は防げており、宍田が必死に自身の強化された感覚を頼りに避け続ける時間が始まった。

 

「ちょっ!?これは酷いですぞ!?うがぁ!!……ここは戦略的撤退ですぞ!!」

 

 八百万のとんでもない攻撃に見舞われ対応に追われるしかない宍田はその場にとどまる事を諦め、撤退することを決めた。八百万は罠を警戒しながら武装を一部解除してその後を追いかけるとその姿を見失ってしまった。森の中という事も関係するがやはり移動能力では宍田の方が勝っているようだ。だが逃げたであろうエリアは特定できた。

 

「私の格好でこの中を進むのは不可能ですわね。厚着をすれば個性は使いにくくなりますし、私も諦めるしか無いですね。まぁ、もとより追いかけ続けるつもりはありませんがね」

 

 宍田は中央の方向である東に向かうのではなく北にあるエリアに向かった。迷うことなくこちらに進んだことを考えるとここが宍田の初期地点だったのだろう。雪が降り続ける山岳エリア、c6は入り口に居続けるだけでも体が震え、体力を奪われる極寒のエリアで会った。

 

「私は元の場所に戻ってから中央を目指した方が良さそうですね」

 

 そう言うと先ほどまで戦闘があった場所まで戻り、飛ばした弾などを出来る限り集め始めた。そして、それらを自身の身体に当てるとゆっくりと吸収していく。

 

「『還元』……ふう、時間が掛かるし、やはりエネルギーのロスが多いですね」

 

 作り出すためにカロリーを消費するので作りすぎると動けなくなるという欠点がこの個性には存在したが、作り出した物限定だが取り込みなおし、カロリーを回収することが特訓で出来る様になっていた。作り出した時よりエネルギー量は減るがそれでも継戦能力はかなり上がった。

 

「それでも連続して攻められるとエネルギー切れの心配が多いですからね。今のうちに補給しておきましょう」

 

 そう言うと八百万は前のエリアで手に入れておいた食料を口に入れて食べながら進んでいった。勝ち残るためには確実に勝てる状況でなければいけない。武装を整えながら中央を目指した。

 

 


 

『八百万の奴派手にぶっ放したなぁ』

「勝負を決めたかったにしては消極的に感じる。あれはたぶん威嚇に近いだろ。深追いせずに戻って自分の装備を整え直してる所を見ると長期戦になって序盤で消耗しすぎる事を嫌い、相手を撤退させたんだろう」

『なるほど、宍田は自身の得意とするフィールドへ逃げ込み一息ついてるようだな。八百万もエネルギーの補給と武装の補充をしながら中央に向かってるぜ』

「宍田も逃げ込む場所を決めていた当たり様子見だったんだろうな。相手の出方を見ようと思ったところで猛反撃を喰らって多少混乱したみたいだな。一緒に訓練をしてたなら八百万の個性の弱点も解ってたはずだが雪山から離れていないからな」

『戦うか戦わないかの判断、相手を動かすのも戦略ってわけだな。っと八百万はそうこうしてるうちにd5に入ったぜ』

「あそこは商業エリアだな。色々な店が立ち並んでいる場所だ。合体創造を駆使すればエネルギーの節約になるし、食料品を確保すればエネルギーの心配が減るだろうな」

『たどり着いたエリアにも恵まれたラッキーガール八百万、この後の動きに期待だな』

 

 




特訓の様子を書こうかとも思ったけど、ただでさえ視点が入り乱れてるのに回想まで入れたらわけわかんなくなりそうだからやめた。

物間は即退場、嫌ってる訳では無いですが、強化版心操と精神面の強さを比べた際にま簡単に挑発に乗りそうだなと言うのと個性を調べられなかった事にした結果こうなりました。

峰田は段々と綺麗になってる気がする。もちろん個性も強化されてるけど今の段階では描写されてません。協定解除後に戦闘になった際に真価を見せる……かもしれない。

八百万は武装して戦う方面と創造の応用、そしてエネルギー操作の観点で主人公との特訓で還元できるようになりました。サバイバルと言う長期戦、食料を確保したとしても咄嗟に確保することは出来ない。ならば作った物を戻せればと思い、自身が作った物限定でのエネルギー還元能力を作りました。もちろん弱点はありますがそれはまた後程。

特訓を共にした宍田については個性”ビースト”という純粋な強化系と獣としての力を活かす方向で戦闘方法を確立しました。まずは元からあった身体能力や五感の強化を心操との協力で研ぎ澄ませる事に成功、身体能力を活用に力とスピードを重視した攻撃を行う。更に強化された点はありますがそれも今後の展開でのお楽しみです。

予約投稿の設定してそろそろ結果が出てるかな仕事終わってサイトを開くと予約時間を間違えていた事が判明……朝の9時にしてた筈なんですけどね。慌てて投稿時間を変更しました。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。






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25 雄英体育祭⑩

新年あけましておめでとうございます。(遅いわ!!

去年から引き続きご覧になってくれている方々、今年になって見つけてくれた方も拙い作品でございますがどうぞ温かい目で見守っていただけると幸いです。


長期戦になる可能性を考慮し、最低限の個性の使用だけで移動を進める轟。もっとも外側のエリア、それも角に位置するh1エリアからとりあえず真っすぐ中央を目指し、草原であるg2エリアへと入った。

 

 

「平原か……さっきまでの岩肌の坂道じゃ無理だが『氷線刃靴』」

 

 真っすぐに氷の線を作り出すと靴にも氷の刃を生み出し、その上を滑るように進みだした。抵抗なくどんどんスピードを上げてエリアの半分を進んだ頃、氷の上に轟が載った瞬間に氷ごと地面が歪み、バランスを崩して氷から足を落とす。

 

「足をとられたな!!」

「敵か」

 

 現れたのはB組の骨抜柔造だった。柔化と言う触れた物を柔らかくする個性の彼は、内側へ早く向かう為、そして他の選手に見つからない様に柔らかくした地面の中を泳ぎ移動していたが、全身運動である泳ぎで体力の消耗が大きく、一つ内側のエリアに入ったので地上へ出て少し休んでいた。そこに氷の線が作られたのを発見し待ち伏せすることにした。

 

「喰らえ『マッドショット』」

 

 一時的とはいえ沼のようになった地面に足を捕らわれた轟に追い打ちの様に柔らかくした土を投げつける。そして足元に注意しながら轟の近くへ近づき地面に手を伸ばす。

 

「柔らかいのは一部だけか、なら『氷熱炎迅』『氷戦場』」

 

 もう一度触れる事で元の状態に戻せる事を利用し地面の中に轟を埋めようとした骨抜、しかし轟は相手の個性の範囲を把握すると柔らかくなっていた地面から炎の勢いを利用して飛び出すと周囲の地面を覆う様に氷のフィールドを作り上げた。

 

「閉じ込められなかったか、そう言えばあんんた飛べるんだったな。とりあえずその氷も柔らかくしてやるよ」

 

 相手が飛べるという事は地面を柔らかくしても逃げられる可能性が高い、だがとりあえずは氷を柔らかくして置けば相手は飛ばざるを得ないし、一度跳べば迂闊に降りてこれないだろうと足元の氷に触れる。だが少し先にいる轟は地面に沈む事も、飛ぶ事もしなかった。

 

「発動したはずなんだけどおかしいな」

「触って発動するタイプだろ?切り離せば関係ない」

 

 轟は自分の居る場所と相手の居る場所の氷を真ん中で割る事で個性の範囲から抜け出していた。そしてそのまま新しい足場を作りながら真っすぐに向かっていく。

 

「『氷現』」

「はあぁぁぁ!!」

 

 氷で形を作り出す技で武器を生み出す『氷現』、それを用いて攻撃範囲を伸ばすと思いきり腕を振るって最高速で攻撃を叩きこんだ。しかし、事前に足元を柔化していた骨抜は素早く体を沈ませ、地面を潜り泳ぐことで攻撃から逃れた。

 

「潜ったまま何処まで行けるか?『氷戦場』」

 

 広範囲に氷を広げて地面に蓋をする。氷の範囲外まで逃れるのであればそれはそれで追いかけるのを止めて進んでも良い。氷を柔らかくして出てくればそこを狙い撃つ。そう思っていたがそれなりに時間が経過している。逃げたのだろうかと思考を巡らせた瞬間、轟の足元がいきなり柔化し、骨抜が飛び出した。

 

「喰らえ!!っ!?」

「ぐっ!?『氷現』」

 

 柔らかくした地面や氷を飛び出した勢いで体に纏って一時的な鎧代わりにして骨抜が捨て身で殴りかかる。轟は思いがけない攻撃に動揺するが氷で盾を作り出してなんとか防ぐ。しかし、衝撃を完全に逃がせず少し後ろにとばされた。

 

 体勢を崩したのであれば攻めるチャンスだが長時間潜っていた骨抜は少し息が切れていた。どちらもすぐに動きだせる状態ではない。不安定な足場に飛ばされた轟と体力の消耗が激しい骨抜と状況は現状は互角だった。そこにもう一人の攻撃が轟に目掛けて振り下ろされた。

 

「喰らえ!!」

 

 気づかれない様に骨抜が柔らかくした地面の中を進んだ体の一部が飛び出して攻撃を仕掛けようとする。咄嗟に動く事のかなわない轟と完全な奇襲、観戦していた人々は思わずうおぉお!!と叫びをあげた。しかし、戦場では仲間の一人も大きく声を上げていた。

 

「ダメだ!!下がれ!!」

「えっ、きゃっ、熱い!!??」

 

 飛び出した手足が轟に触れようとした瞬間、その周囲を覆っていた熱にさらされダメージを負ってしまった。奇襲は失敗し、声の出所からもう一人が潜んでいる場所もばれてしまった。

 

「長い間潜ってたわけじゃなくて遠くで一度浮上してたのか、気付かなかったし危なかった」

「逃げた先で偶然出会って協力してくれたんだが、取蔭大丈夫か?」

「うん、手足が少し熱いけどまだ戦える」

 

 骨抜はずっと地面の下に居た訳じゃなく、大きく離れた場所まで逃げていたのだ。そこで偶然このエリアを横断しようとしていた同じクラスの取蔭に出会い、協力体制を得る事に成功した。2段階に分けた奇襲は轟の隙を完全についていたはずだった。

 

「そっちは緑谷と組んでた体を飛ばす奴か?生憎だが熱気で周囲は覆ってる。奇襲するなら熱気を払うか、熱いと感じる前に通り抜けるか、覚悟して飛び込むかだな」

「さっき俺が奇襲した時も一瞬熱を感じた。氷や地面を纏ってたから耐えれたけどな。それにしてもその割には周囲の氷が溶けてないが?」 

「足元から冷気を流しているからな。そう簡単にさとられることは無い」

 

 会話している間も骨抜は柔らかくした氷を取蔭に渡して応急処置をする。自身や取蔭の身体にも少し氷や土をつける事で攻撃の準備もした。その間に轟は柔化された地面から抜け出し、骨抜は呼吸を整えた。2対1と状況は変わったが互いにまた0からスタートになる。だが、轟は数的不利を覆すために大きく動いた。

 

「さっき少し飛んで分かったがここの隣はハザードエリアだった」

「それがどうかしたのか」

 

「この距離なら操作すれば呼び込む事も可能だ」

 

「っ!?取蔭潜るぞ」

「あっ、ちょっと!?」

 

「遅い!!堕ちろ『大炎塊(だいえんかい)』!!」

 

 氷と炎を操作し、大きな気流を作り出して隣のf2、ハザードエリアとなっている山火事の火を丸々持って来ると一気に地面に向けた撃ち下ろした。無論、相手が地面に潜る事も考慮の上で放ったそれは相手を炎や熱で傷つける事無く、衝撃で地面ごと吹き飛ばし2人を昏倒させた。

 

「大雑把だが威力は十分か……溜めれば地面を溶かす事も出来そうだ」

 

 


 

『あれヤバくねぇか?隣のエリアの炎を持って来たって事はあらかじめ燃やして置けばあの威力を遠くから連発も出来るんじゃねえか?』

「多少なら出来るだろうが、少し息が上がってる。さっきまでの戦闘と比べて炎と氷のバランスが取れていないようだ。連発したら熱で体が壊れて倒れる方が早い、基本的には一発限りの大技だろう」

『だとしてもあの威力と範囲はスゲェな。咄嗟のコンビで何度も轟へ攻撃を入れようと奮闘した骨抜と取蔭もナイスだぜ!!』

「骨抜は状況判断と咄嗟の動きが良く出来ていた。取蔭との咄嗟のコンビネーションも中々だった。轟については弱点がだいぶ減ったが乱戦になると個性の調整と相手への対処を同時にやって行かないといけないのが課題だな。まだ一部動きが悪い」

 

 すぐに脱落した物間と違い、奮闘して見せたB組の生徒への関心が高まり、観客たちも熱中した戦いだった。倒れた2人は直ぐに回収され、念のため保健室へ送られた。勝ちをもぎ取った轟は体を冷やしながらゆっくりと内側へと進みだした。

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 舞台はf7、都市エリア。時間設定が夕暮れになっており、場所によっては眩しかったり、暗かったりと光の下限に翻弄されやすい時間帯。立ち並んだビルの隙間を抜けていく2人の選手が出会い、咄嗟に拳をぶつけ合い距離を取った。夕焼けの光が妙に眩しく、咄嗟に開いてを認識できなかったが構えて向かい合うと互いに直ぐに気づいた。

 

「拳藤さんだよね?大きな拳の」

「うわっ、緑谷かっ!?あたしも運が無いな。最初からこんな強敵を引くとか」

 

 互いに共に訓練した者同士で手の内は大体知って居る。特に緑谷は個性の考察力が高いので話し合いなどの場によく参加していたため、個性の長所と短所をしっかりと把握していた。対する拳藤は緑谷のポテンシャルをよく知っており、自分の運の悪さに笑いながらも拳を構えた。

 

「出会わなかった事にして分かれたりとかはしないよね?」

「ごめん、僕もちょっと事情があって、『ここに来た!!』って示す必要があるんだ」

「だよねぇ。言ってみただけだし、私もまぁまどろっこしいのは嫌いだし、分かりやすい方が良いか……」

 

 オールマイトの弟子と言う立場である緑谷、恵まれた仲間と思いがけないヴィランとの遭遇を経て、その力の習熟具合は歴代でもかなりの速さとなっている。だからこそこの雄英体育祭で今の僕の力を見せつけたいと考えていた。

 

「「いざ勝負!!」」

 

 緑谷はスピードもパワーも優れているが、出しすぎると自身の身体を壊す事になる。そのためフルカウルを使い、全身を強化しての殴り合いから開始する。対する拳藤はあえて路地に入り込み、緑谷の動きを封じようと動いた。

 

「『スマッシュ』!!」

「『双大拳・守』!!」

 

 壊れない範囲でスマッシュを放つ緑谷、狭い路地であるため向かってくる方向が分かっている拳藤は巨大化させた拳を組むと防御の姿勢を取りその衝撃を受け止めてみせた。緑谷は正面からの攻撃は受け止められると判断するとビルの壁を蹴って後ろに回り込もうとする。

 

「『双大拳・打』!!」

「くっ、危ない!?」

 

 拳藤は手を一度小さくして素早く振り返ると拳を解き、掌で打ち付ける様に両腕を振るった。緑谷の軌道が分かりやすい様に狭い場所では拳藤の拳の軌道も読まれやすく、超スピードで緑谷は距離を取って避けた。緑谷は路地ではいたちごっこが続くだけだと判断し、攻撃をビルへと向ける。

 

「『スマッシュ』!!」

「うおっと、そう来たか……」

 

 周囲のビルを壊し戦場を広くした。それだけでなく落ちて来た瓦礫をとばし、他の路地に入れないようにもしている。生憎と拳藤には移動を助ける様な力はなく、瓦礫を乗り越えようとすれば格好の的になるだろう。そして瓦礫から逃れた拳藤を目掛けて緑谷が攻撃をしかける。

 

「『スマッシュ』」

「『双大拳・守』」

 

 最初と同じく緑谷が攻撃し、拳藤が守りの姿勢をとった。仕切り直しになるだろうと思われたその時、拳藤が拳の形を変えないまま、突進してくる緑谷に対して拳を振り抜き、カウンターを入れた。

 

「がっ!?ええ、あの手の組み方は防御だったよね?」

「そう、だから威力は弱いけど騙されてくれたから綺麗に一撃入れることが出来た。『双大拳・転』、違う形から攻撃に転じるだけの小細工だよ」

 

 状況に応じて拳の合わせ方や動かし方を変えて必要な力を伸ばした拳藤の新しい『双大拳』、その組み方をあえて無視しての攻撃、騙し討ちの様な攻撃は見事に緑谷に叩き込まれた。拳藤本人が言う通り適した形でない為に威力は弱いが、これで組み方だけでなく拳藤の動きに警戒する必要が出てくる。

 

「言うてダメージは無いでしょ?それにもっと本気出しなよ緑谷、そこまで甘くないよ私は」

「……うん、そうだよね。これは僕が悪い、ごめんね。一緒に特訓したんだ……僕も全力でいく」

 

 力を温存する気満々の緑谷の動き、それによって戦闘が成り立っている。そこを突いて行けば勝ちの芽もわずかだが存在していると拳藤は思っていたが、それ以上に緑谷にその気が無くても手を抜かれて戦っている事に少しイラつきもあった。緑谷も拳藤の言葉に気付き、自分の非を認めると限界を超えた力を巡らせる。

 

「『フルカウル・オーバードライブ5』」

 

 今の緑谷が負担なく出せる全力のフルカウルより5%多く出力を出した状態、たった5%と思うかもしれないがワン・フォー・オールの力の5%だ。一気に壊れることはなくともじわじわと緑谷が身体が軋んでいく様な間買うを覚える。

 

「バチバチ言ってるねぇ。一撃で決めようかその方が良い。私も全力で行く『対大拳・守破離』!!」

 

 2つの拳を合わせるのではなく、対を成すように左右に構える。どちらも片手で組める印を結んで力を込めている。守り、破り、突き離す、どの動きにも対応することが出来る。決められた形を習得し、新たな形に組み直した拳藤の新しいスタイルだ。

 

 互いに視線をぶつけると何の合図も無いのに同時に飛び出した。一点に集中させた緑谷の一撃、対を成す拳を連続で動かし、受け止め、受け流し、撃ち抜かんと拳藤も喰らい付く。

 

「「うおおおおおお!!」」

 

 ぶつかり合った両者の拳は凄まじい衝撃を生み、周囲のガレキが砂埃をまき散らし、観戦客たちが見ているカメラの映像からも隠れて見えなくなる。そして煙が晴れた際に両者が距離を保って立っていた。

 

「はぁ、はぁ、やっぱ敵わないねぇ。ナイスファイト緑谷!!」

「はぁ、僕もだいぶ疲れたよ。ナイスファイト、拳藤さん!!」

 

 そう言うと拳藤はゆっくりと身体を倒した。意識はまだあるが体力を使い切り、ダメージもだいぶ蓄積している。これ以上戦闘行為なんてのは出来そうにない。

 

「私の分も頑張ってくれると嬉しいけど、無茶はしないでよ」

「うん、それじゃ。行って来る」

 

 倒された拳藤が倒した緑谷に思いを渡して見送る。緑谷は疲労を回復させることを意識しつつエリアの奥へと走って行った。

 

「B組拳藤リタイアします!!」

 

 


 

「良い!!良いわ!!熱いぶつかり合い、特訓共にした者同士の友情、それも違うクラスの男女間での…………最高に良い物を見せてもらったわ!!」

『うおお、ミッドナイトの的にドンピシャだったみたいだな。それにしても二人のぶつかり合いは凄かったな。イレイザー』

「強化系である緑谷に喰らい付くだけの根性と技術、B組の生徒も粒ぞろいだな。A組もうかうかしてると抜かされるぞ。緑谷は何かを掴めたのは良いが考えすぎる癖をどうにかした方が良いな。拳藤が提案して無ければ全力を出さずに負けてた可能性も十分あった。拳藤に感謝するべきだなあいつは」

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 b7、そこは交通エリア称されたエリア。電車が走る線路、車やバスが走る道路、そう言ったものが集まっているエリアだ。普通の住宅地や都市エリアと比べて建物は少ないが高速道路なども入り乱れ、立体的なエリアだ。もちろん車やバスなども配置されている。

 

「意外と早く出会う羽目になったね」

「はっ、タイミングなんかどうでも良い、死ねぇぇぇ!!!!」

 

 プリズムによるエネルギー消失で爆発を防ぐ山稜、構わず連続で攻撃を放ち続ける爆豪、そのやり取りは道路の上を互いに走りながら行われている。かれこれ数分間、一切止むことなく爆発と消失が繰り返される。

 

「お前は万能に見せかけてるが完璧な個性なんてある訳がねぇ!!」

「いきなり、どうしたんだ?」

 

 爆発を続けながら話しかけてくる爆豪、山稜も爆豪が何を言いたいのか疑問に思い受け答えを返す。揺さぶるためなのか、それとも別の意味があるのか分からないが山稜は面白そうな表情だ。

 

「襲撃の時にプリズムが受けた攻撃がお前に返っていた。お前の守りには許容限界がある!!」

「なるほど、ねぇ。今の状態を見るに話は変わってくるんじゃないか?」

 

 現に君の攻撃の全てを防いでいるじゃないかと演技臭さを隠さず両手を広げて挑発して見せた。それに対して爆豪も鼻で笑って返した。

 

「吸収した場合と消した場合で前提が違うだけだろうが。消した攻撃はお前は利用できない。攻撃手段にも欠けてるんだよ手前の個性は」

「ならこうしたらどうかな」

 

 山稜は放たれた爆発をプリズムで囲うと爆豪の後ろにもプリズムを生み出して爆発を返した。爆豪はそれに気づくとすぐ後ろのプリズムに向けて爆発を放った。山稜は平静を保ちながらも内心慌ててプリズムを消去した。

 

「よく対処できたね」

「移動用のプリズムに防御力はねぇ。USJで色つきのプリズムで作った理由を聞いた時、攻撃されない様にって言ってたよな?それとまた別の大きなプリズムで一帯を囲んでたのは場所を把握するため、何もない今なら転移できるのは目に見える場所だけだろ。不意打ちなら後ろからが鉄板だボケ」

「簡単すぎたってわけか」

 

 頬をかいたりしてしまったなぁと形だけでも失敗した雰囲気を出す山稜、それは余裕ではなく大きな失敗を隠すための張りぼてだ。

 

「余裕ぶってるがプリズムを展開するには頭使ってんだろ。防御とは別に疲労は思いきり溜まってんだろ」

「個性を使って疲れるのは当たり前で、君も同じだろ。というよりいい加減私の弱点を喋りまくるのは止めてくれないかな。全国放送だよコレ」

「音まで拾えてるわけねえだろ」

「読唇術の個性持ちと技術持ってる人いたらどうするのさ?」

「そんなとこまで配慮できるか!!喰らえ」

「……よし、やっぱ光だったか」

 

 爆豪が放ったのは『閃光弾』だったが予測していた山稜は難なく光を吸収して見せた。その様子を見て爆豪はチッと舌打ちをして攻撃を再開した。

 

「欠片を消したって事は吸収と消失は同時に出来ねぇみたいだな。いや、自分のエリアを作って無いと出来ないって所か」

「単純に見えて本当に頭良いよねぇ。動きながら展開するのは難しいから一つずつ丁寧に対処するしかないんだよ。ケホッ、ごほっ、ああもう『プリズム』」

 

 足元に見えないプリズムを作って移動を妨害しようとしても爆発で出来た煙の流れで障害物を見抜いて避けたり、壊したりしている。山稜は煙の多さに参っており、酸素を確保するために別のプリズムを作って展開した。

 

「煙を吸い込んだり、酸欠になりかけるって事は吸収した物の副産物は防げねぇ。爆発の熱と火を吸い込んでも髪が風にあおられてるよな」

「視界を塞いでんのかと思ったらそう言う事か、絡めても使って面倒すぎるね」

「もっとやってやるよ『攻城砲』」

 

 足場であった高速道路の柱を爆破して共に落ちていく、爆豪は爆発を利用して飛び、山稜はプリズムを足場に降り立つ。その足場に爆発を当てて山稜のバランスを崩させた。山稜はすぐに体制を直し、下の地面まで降りた。

 

「プリズムに当てなければ防がれねぇし、瓦礫とかを落下を防ぐには別のプリズムが必要だろ。そしてそのプリズムは他の攻撃は防げない」

「特化させた方が消耗が少ないからね。複合型だと直ぐ疲れるし、限界も早いしね」

 

 降り立って向かい合う二人、一方的に攻め続けている爆豪に注目が集まっている。しかし、あれだけの猛攻を受けて未だに傷一つ付けていない山稜も負けずに注目を集めている。

 

「それで?」

「あ?」

「それがどうしたって言うんだ?私の個性の特徴を見抜いた。それは賞賛に値するし、拍手を上げても良い。だけどその程度で私は揺らがない。手を変え、技を変え、私を驚かせた。しかし、あくまでも君の攻撃手段は火と熱、光に物理、それぐらいでしかない。右手と左手で2つ同時に打てるとして組み合わせは6通りかな。細かい煙とかそう言った要素は走り続ければ無視できしね。それぐらいであれば何の問題も無い。私は全てを守る!その為に力を研ぎ澄ませた。種が割れた程度で勝った気になるなよ?」

「上等だぁチビ女!!手前の防御を貫く一撃でぶっ殺してやるよ!!」

 

  


 

『すげぇなあいつら。出会ってからずっと戦い続けてやがる。その間一度も立ち止まって無いし、ちゃんと中央へ移動してるぜ』

「互いに本気で戦ってるみたいだが全力では無いだろ。どちらも後のことを考えられる。山稜の個性の習熟度はプロヒーローと比べてもそん色ない。爆豪は戦闘のセンスで抜きんでている。集中力が切れるか横やりが入らねえ限り、続くだろうな」

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 G5、そのエリアは都市エリアではあるがハザードエリアでもあり、その都市の景観はだいぶ破壊されていた。地震による揺れが時々不規則に遅い、地割れやビルの転倒、あちこちでの小火災、更には時間帯は夜と厳しい環境であった。

 

 3方向からそれぞれ理由を抱えた選手が集まろうとしていた。1人はただ真っすぐ中央を目指すため、もう一人はg4、ハザード化したことにより砂漠と化した乾燥地帯を避けるため、もう一人はg6、遮蔽物の無い晴天の荒野を進むのを避けるため。

 

 それぞれに理由があったが3人の選手が同時に同じエリアで出会うと言うまさかの事態に全員が動き出せずにらみ合いが起こっていた。

 

「うわっ、まさか2人同時に出会うなんてなぁ……」

「ワァオ、こういう状況サンスクミって言うんでしタッケ?」

「これも試練か、となれば栄光の為、いざ尋常に!!」

 

 A組の麗日と常闇、そしてB組の角取、全員が特訓に参加している。そして全員が互いをしっかりと敵と認識している様で他のエリアの様な共闘や協力は見られそうにない。

 

「『深淵闇躯(ブラックアンク)』!!」

 

 それぞれが別方向でアドヴァンテージを持っている。まず第一に火災の光があるが夜の闇によって個性の強化されている常闇、ある程度の光源もあるためむしろ暴走の心配をしなくていい分、存分に力を振るう事が出来るだろう。空も少しは飛べるが上にあがると遮るものが亡くなり隣のエリアの明かりに照らされかねないので多用は出来ない。

 

「『彗星ホームラン』!!『流星群』!!『宇宙旅行(スペーストラベル)』!!」

 

 次に麗日、地震によってあちこちに瓦礫や倒壊した建物などの障害物があり、それらを浮かして利用すれば防御にも攻撃にも転用できる。自身を浮かせることで足場を多少は無視できると言った地形での利点は一番大きいだろう。

 

「『エレクトリカルホーン』!!」

 

 最後に角取、角をとばすと言う遠距離攻撃、麗日も物を投げつける事が出来るが無重力を利用している為に直線的で読みやすい。足場が悪く距離を縮めにくい中で遠距離攻撃を自由に操れると言うのはかなりのアドヴァンテージだと言える。

 

 力が強いが基本的には近距離から中距離の常闇、少し酔うが地形を無視でき、瓦礫で防御や単純な遠距離攻撃の麗日、遠距離攻撃で自由に攻撃できる角取、誰もが自分の強みを生かして攻勢に出るしかない。

 

 常闇が黒影を纏い身体能力を強化して地割れを跳び越えながら距離を詰めようと図った。麗日が邪魔をしようと瓦礫を進行方向に放つ、角取は角を次々に打ち出し、二人を同時に攻撃する。

 

 常闇は2人からの攻撃を対処に追われ中々近づくことが出来ない、麗日は角取の攻撃を防ぐために瓦礫を放ったり、振り回すと攻撃に回す分が減る。角取は攻撃に専念しているが決め手に欠けている。いたちごっこを繰り返しながら互いに出し抜くための方法を考え始めた。

 

 常闇は危険を覚悟で壊れかけているビルに入り込んで姿を隠す動きに切り替えた。角取は中まで追跡して攻撃は出来ず、目に見える範囲の麗日に攻撃を集中させる。

 

 麗日は攻撃から離れるために自身を一端無重力化させると大きく地面を蹴ってまだ無事な高いビルの屋上に着地する。角取は追いかけることが出来ず、目測で攻撃するのは厳しいと判断し、一度角を手元に戻した。

 

 全員が近づくのでなく一度距離を取る事を決断し、麗日、角取は姿を完全に見失った常闇の方に注意を払う。常闇は音を出さない様に静かに近づき攻撃を仕掛ける。攻撃を仕掛けられたのは麗日だった。踏み込む音に反応して目を向けると既に攻撃はすぐそこに迫っている。

 

 麗日は攻撃を避ける様に屋上から飛び降り、もう一度自身を無重力化させて別のビルへと転がり込んだ。角取もそのやり取りを見ており、追いかけようと飛行態勢で飛び降りた常闇に全ての角を飛ばした。常闇は連続で攻撃してくる角を破壊すると難なく麗日を追いかけた。

 

 常闇からしてみれば角の対処はそう難しくない。だが圧倒的な質量である瓦礫などを連続で飛ばされると流石に対処は難しい。なので先に麗日をどうにかすることに専念したようだ。麗日も何故こちらを攻撃してきたかは考えており、角取も角を脅威と見ていない様子から推測していた。

 

 三竦みの状態であるから成り立っているが正直この二人を相手に角取が戦うのは厳しい。角はどちらにも対処されてしまうのに対し、角取では防御の手段も乏しく、近寄られれば終わりである。特訓で扱える角の本数、操作性、貫通力、それぞれが大幅にアップしたがそれでも難しい。黒影の防御は硬く、隙が無い。麗日ならばまだ瓦礫の壁を避ければ可能性があるが、それで麗日が倒されれば次は自分である。

 

 常闇は少し焦りもあった。麗日はどちらに対しても有効な攻撃を持っている。黒影を纏っても麗日の攻撃は防ぎきれない。そして黒影が無ければ角取の攻撃を防ぎきれないので黒影を放つのは危険であるため出来ない。強制的に近距離戦を強いられている。

 

 麗日を先に狙わず角取を倒せば良いんじゃないかと思うが、その時を纏めて攻撃されればひとたまりもない。ならば黒影を纏い、角取を無視して麗日を目指した方が良い。角取も角の攻撃が効かないとなれば麗日を狙う可能性もあるので後回しで良い。

 

 麗日は逃げているだけではいずれ距離を詰められると判断し逆に攻勢に出る事を決断する。生半可な攻撃では避けられてしまうのは理解している。そのため『無重力』の限界を超えて巨大な物体を撃ちだした。

 

「『惑星ホームラン』!!」

 

 倒壊したビルやお店などを丸ごと撃ち放つ。それは大規模すぎる質量攻撃、追いかけている最中だった常闇は迫りくるビルを避け切れずに衝撃をそのままに別のビルに衝突した。黒影が大きな怪我は防いだが衝撃で気絶した常闇は戦闘不能となった。

 

 続いて遠くに見える角が浮いている場所に攻撃すると角を破壊し、人影にも攻撃が当たった。麗日は確認の為に降りるとそこに合ったのは壊れた角と洋服だけだった。角取は麗日の攻撃をみた段階で逃げる準備をし、角でお店で拾った洋服を浮かせて囮にして先に逃げていた。

 

「逃げるがかちデ~ス」

 

 


 

 

『なんとも激動といった感じの戦いだったな』

「常闇は少し精神面と戦略性をもう少し鍛えた方が良さそうだな。麗日は思い切りが良く、覚悟が決まってるが被災地とはいえ壊しすぎだな。角取も引き際をしっかり考えられているのは良いが訓練した割に決め手が少なすぎるな」

『とはいえ角取が先行する形でエリアを抜けたぜ。麗日は少し吐き気に悩まされてるが少し休めばまだ戦えそうだな』

「そろそろ時間だな」

『だな。第一エリア収縮だ。外側が削れたぜ。段々とエリア収縮までの時間は短くなっていくから、まだ安心できない奴もいるから急げよ!!』

 

 




訓練に参加していない組も善戦出来ていますが、2対1であしらう轟。氷と熱のバランス管理にまだ追われているが細かい操作も大技も自由自在です。

拳藤の戦い方と言うか技名はスマブラのキャラを参考にしています。

緑谷はスマッシュとしか叫んでないのは作者の手抜きではなく、緑谷が自然と体力を残そうも動いていた事と同じで特殊な技を使わないようにしただけです。

爆豪はやはり賢さでも優れてるイメージ、そして多少柔らかくなったとはいえ、負けていたと言う事を意識して山稜に対しては少し敵対的。

山稜は防ぐだけであればいくらでも防げるけど、攻撃手段は乏しい。どうなってもいいロボット相手であればいくらでもやりようはあるが対人用の技は少ない。貯めているエネルギーはこれまでの競技である程度消費してしまっている。

常闇はフィールドが適しているから問題ないが個性の制御はまだ完璧ではなく、纏って動く事ができるようになって強化はされてるが自分の動き、技術自体もまだ拙い。

麗日も大技となると物を利用しないと出来ない。自身を浮かせて動くなどが以前より出来るようになってるので取れる手段は増えている。

角取は他が強化されるとどうしても勝ちにくくなってしまった。角の大幅強化が軒並み潰されていて訓練参加してる割には不憫な扱い。だけどその場を見る力はある。

こんな感じですかね。さてさて、これで一通りの出場者が戦いを行いました。ステージも狭まり、次からはもっと入り乱れた戦いになるはずです。そのため視点を絞って書くことになると思います。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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26 雄英体育祭⑪

久しぶりの投稿です。年越してからの投稿頻度が落ちているのは少し問題ですね。待っててくれた方々に多大なるお詫びを申し上げます。

という事で本編どうぞ。



 あちらこちらで戦闘が巻き起こり、一秒ごとに繰り広げられる攻防の数々、それらは会場だけでなくテレビでそれを見ている者すべてを魅了していた。その戦いも次の局面へと移る時がやってきた。

 

『エリアがまた収縮したぜ。エリアで脱落した奴は居ないが、殆どの選手が中央に集まりつつあるぜ』

「単独で動いてる奴もいれば組んでる奴も居る…中央に来てどう動き出すか」

『さあて、ここいら辺でまだ残っている将来有望な選手たちを集まりつつあるエリアと共にもう一度紹介していくぜ』

 

 そう言ってプレゼントマイクが何やら手元のボタンを押すとモニターの映像が変わり、生徒の顔がアップで移り始めた。

 

『ミッドナイト好みのバトルを繰り広げ、見事に勝ち抜いたスーパーパワーボーイ緑谷出久!!全身からあふれ出るパワーは自らも傷つける諸刃の剣か!?熱い思いを胸に走り続けるぜ!!』

 

 出久の説明が終わるとそのまま直ぐに違う選手が映し出された。それは先ほど三つ巴の勝負をそっと抜け出したB組の生徒であったが何人かのプロヒーローと勘の鋭い観客は何かに気付いた。

 

『角で全てをデストロイ!!B組の所属、アメリカからの留学生ガール、角取ポニー!!障害を打ち砕くその角と戦局を見極めるその瞳で見事に中央までやってきた!!』

 

 またすぐに切り替わった画面、息継ぎもほどほどに次々と紹介していくプレゼントマイク。三人目となると気付いた者も多くなってきた。

 

『言葉巧みに敵を操るヒプノシスボーイ、心操人使!!他人だけでなく自分も高める言霊使いが第三種目を勝ち抜いてきたぜ!!』

 

 また画面が変わったかと思うと凄い音が鳴り響き、映し出されていた映像の場所で何やら土煙が舞っていた。それを見たプレゼントマイクは「あちゃぁ」と口に出しながらもすぐに画面を切り替えた。

 

『そして、その三人が中央エリアの一つ、e5、住宅地エリアに集合だ!!最終エリアまで生き残った猛者たちのバトルが今開始しだ!!さらにこのエリアにはもう一人近づいている選手もいるぜ!!』

 

 もう一度だけ切り替わった画面に表示されてるのは三つ巴の戦いで勝利を手にしたA組の選手だ。先に到着している角取を追いかける様なルートでe5に接近中。

 

『可愛いだけじゃない無重力ガール、麗日お茶子!!その足取りも軽やかに、攻撃方法は超物理!!一つの戦いを征したスーパーガールだぜ!!』

「他にもあちこちで選手が合流しそうになっている。e5が一番先に集まったが、次にc6も三人程集まりそうだな。他の所はチームが崩れでもしない限り直ぐに激突は無いだろう」

『ぶつかったらそっちの紹介もするか。とりあえずはe5に注目だ!!』

 

 


 

 最初に出会ったのは緑谷と心操だった。その姿を確認した瞬間に緑谷は口を閉じて攻撃を開始した。心操は内心で焦りながらも自身の強化を強めて大きく避ける。そして緑谷が反応しそうな言葉をいくつも考えながら緑谷との間合いを測り続ける。

 

『無言で攻撃とかヒーローらしくないんじゃないか?』

「………………………………あーあー、独り言だけど騙し討ちもヒーローらしくは無いでしょ」

「訓練中に伝えた効果時間の倍も空けて喋りやがって、訓練中に騙した意味がないだろうが」

 

 その個性が左右されるまでの時間と言うのは当然存在する。そうでないと誰かに意図的に質問し、その場で答えず後で答えて洗脳にかかるなんて言うおかしな事態になってしまう。その効果時間を偽って訓練していたが緑谷は伝えられた時間以上に間を開けて喋り、なおかつ心操ではなく他の人に伝えるつもりで虚空に向けて喋った。これでは個性が通りはしない。

 

「小手先の技通じないってのは厄介だな。ここで『負けれないんだ。俺は強いぞ』?」

「『フルオーバー・デラウェアスマッシュ』!!」

「ぐッ、おおおおお!!」

 

 ワンフォーオールの力の100%を指込めて放ったデコピン、それは強烈な衝撃波となって心操を襲う。咄嗟に身体を後ろに飛ばして威力を軽減しても意識が飛びそうになるが、流石の精神力で持ちこたえそのまま綺麗に着地を決めると離れた距離を急いで詰めて緑谷と殴り合える距離まで近づいた。

 

「くっ、『オクラホマスマッシュ』!!」

「近づけば腕を振りにくいだろ?オールマイトの技を模倣した物が多いから動きも読みやすい!!『イミテーション・マーシャルアーツ』!!」

「ゲホッ、この…!?『ニューハンプシャースマッシュ』!!」

「なっ!?」

 

 近接戦闘での殴り合いになると互いに攻撃を喰らうが緑谷は大きく振りかぶる事が出来ず的確に攻撃を入れにくくなり、戦況は拮抗していた。緑谷が反撃しようと一撃貰うのを覚悟してカウンターで入れようとした瞬間、二人を目掛けて飛来して来た角を避けようと咄嗟に移動技に切り替えた。心操も驚きながらも回避行動に移ったが二人はそれなりに傷を負ってしまった。

 

「流石にこれ以上エスケープする場所も無いですね。今がファイトの時です」

 

 その攻撃は中央エリアにやってきた直後に二人の姿を確認して仕掛けた角取によるものだった。建物などを利用して飛ばした角、空高くに飛ばしてから落とした角、そして地中を掘り進めた角、全方位からの攻撃は二人に対してそれなりのダメージを与える事に成功した。そしてバラバラな方向から攻撃したことでまだ居場所が割れていないと言うアドヴァンテージを活かして戦いを始めた。何処からの攻撃か分からない二人は戦いを一時的にやめて距離を取っている。心操が口を開くよりも先に緑谷が提案を持ちかけた。

 

「先に角の対処をするってのはどうかな?」

「共倒れするよりマシだろう」

 

 とは言っても先ほどまで戦っていた相手と隣り合って戦うのもおかしな話だろと言う思いから二人は自然と手分けして角の主である角取を探すために分かれた。その間にも角が襲い掛かってくるが、規則性は感じられず縦横無尽に飛び回る。

 

「操れるとは言ってもこれだけ正確に襲ってくるって事はどこかでこちらの様子を見てるはず、少し離れた心操君もまだ襲われてるみたいだし、となるとある程度高所に位置どっている可能性が高い。そうなると考えられるのはマンションのどれか……」

 


 

『戦いを一時中断して角取を探し出したぜ二人とも』

「現状で警戒しなくちゃいけないのはアイツだからな。緑谷は角の破壊も出来るが一方的に削られるのは避けたいはずだ。心操は避けたり弾いたりは出来るが体力を削られたら終わりだ。休戦の判断は悪くない」

『っと、そんな風に話してる内にc6でも動きがあったぜ』

 

 そう言って表示された画面には吹雪いている雪の映像が流れている。そんな極寒の山の中でも変わらずに攻撃を仕掛け合っている二人の選手。

 

『才能あふれる爆発ボーイ、爆豪勝己!!入試1位に対して一歩も引かずに戦い続け、多くの技を操るその姿は見ものだぜ!!第三種目で大きな花火を咲かせることが出来るのか!!』

 

『そして対するは入試1位にしてこれまでの競技でも観客を驚かせてきたバリアガール、山稜瞳空!!その守りの力と操るエネルギーは留まるところを知らねえ!!』

 

『そして、ここには一人の生徒が潜んでいた。自身の個性の特性を活かして戦い、野生をその身に宿す、宍田獣郎太。強化されるパワーと五感でどんな敵も吹き飛ばしてみせろ!!』

 

「雪山と言う環境に移れば嫌でも戦況に変化が起きる。宍田が加わる事でどうなるかも見ものだな」

 


 

 

「へぇ、これはなかなかいいフィールドだね。爆豪?」

「ちっ、分かって言ってるだろテメェ!!」

 

 爆発性のある汗を利用して戦う爆豪にとってこの極寒の地は個性が使いにくくてたまらないマイナスフィールドである。逆に山稜にとっては冷気もエネルギーとして回収できるため運動に支障はなく、吹雪に紛れて仕込みをし易いので戦いやすい場となっている。

 

 爆発を連発させ、体温を維持しようとするが周囲の空気が容赦なく熱を奪い、小さな爆発では到底難しい。大きな爆発を連発させれば疲労やダメージの方が大きくなる。走り続けているため、まだどうにかなっているが上手く機能しなくなるのも時間の問題である。

 

「……チッ、このままじゃアイツの良い的だ。だが逃げる?オレが?…………」

 

 自身の不利な状況をその頭で理解してしまっている。しかし、未だに持ち続けているプライドが逃げると言うその場だけとはいえ負けを認めるかのような行動をとる事を許せずにいた。

 

 そんな爆豪の心境を理解してかにやにやと意地の悪い笑みを浮かべていた山稜は爆豪の攻撃が弱まった事により色々と準備を進めていた。冷気の回収や体力の回復などの他に目の前で手がいっぱいで出来ていなかった索敵も範囲を広げ、敵を見つけた。

 

「爆豪、先に行くね」

「はぁ!?なに言ってんだ!!」

「それと、いつまで隠れてる気?『強制アトラクト』」

「なな!?バレてましたか」

「なっ、テメェはB組の!!」

 

 爆豪と山稜の戦いの様子を見守っており、可能であれば漁夫の利を得ようとしていた宍田。その存在に気付いた山稜は宍田を足止めに残して先に中央へと足を進める事にした。爆豪が負けを認める様な行為を嫌う事を考え敵を用意し、道を塞ぐおまけつきだ。

 

「チビ女!!逃げる気かぁ!!てめぇも邪魔だどけ『徹甲弾(A・Pショット)』」

「くっ、爆豪氏と戦うつもりはまだなかったんですがそうも言ってられませんね『ガオンアヴァリシャス』」

 


 

『山稜の奴、爆豪と宍田をぶつけて一人で最終エリアに突入だ!!』

「爆豪のプライドから逃走しないと踏み、爆豪の弱体化と宍田の地形からくるアドヴァンテージを即座に判断してやってるな」

『逃走と言っても敗走と違い、敵同士をぶつけるというしっかりとした戦略性のある撤退だ』

「逃げる道も一人だけが通れる様な場所を通るか作っている。自然にやってるが結構な技だ。あれでは追いかけようとすれば必ず相手とぶつかる。まだ始まって居ないが収縮されれば次で最終エリア、中央以外の方へ逃げるのはリスクが高い」

『おっと、最後にもうひとエリア選手が集まってる場所があるぜ。エリアe4、最初から中央エリアに集まっていた峰田、泡瀬、庄田のラッキーチームと凄いバトルを見せた上鳴、塩崎とそれを止めた発目を含めたチーム。それぞれ便宜上峰田チームと発目チームと言うか。発目チームもチームを組んでからは一度も戦闘することなく中央にきたある意味ラッキーチームだな』

「人数は一緒だが罠を仕掛け、地形も把握できている峰田のチームの方が有利だろうが、純粋な戦闘では上鳴と塩崎の方が上だろう。そして発目はアイテムの持ち込みがあるから何をするか分からないのが相手には怖いだろうな……それで紹介はもうしないのか?」

『せっかくのチームだからチームとして紹介しようと思ってんだよ。くっつく、合わせる、吹っ飛ばす!!罠にまみれた都市を構築、油断した奴から持ってくぜ峰田チーム!!対するは防御不可避の電撃に、攻防一体技ある蔓遣い、オリジナルぶっ壊れアイテム、何が起こるか分からないビックリ箱だぜ発目チーム!!さて、これだけの人数が集まるのもチーム戦と言うのも第三種目では初めてだぜ。どんなバトルになるのか期待が高まるぜ!!』

 


 

 e4、都市エリアの夜であり、照明システムにより明かりの無い場所では少し先も見えにくいこの場所。そこに足を踏み入れた発目チーム、中央までの道のりを共にした彼らは取り決めに従い別れようとしていた。

 

「では中央エリアまでたどり着きましたのでここで別れましょう」

「ああ、互いに感知できない範囲まで移動するまで不干渉、そこまで入り組んでる都市でもないから10分もあればいけるだろう」

「うーん、残念です。私のベイビーたちが協力して使われる所を見せたかったのですが」

「敵とは会わなかったからな」

「運が良かったのですから嘆く必要はないでしょう。最後まで残れば貴女のベイビーとやらも多くの目に触れるでしょう」

「運が良かったら最初にたどり着いた最終エリアがハザードだったりしないと思うけどな。発目のアイテムが無けりゃ辛かったぜアレ」

「ふっふっふ、そうでしょうとも!!私の可愛いベイビーであれば数メートルクラスの積雪であろうと楽々進めます。付属のヒートマシンを使えば使用者もぬくぬくです」

「暴走で私の蔓を焼きかけなければ手放しで褒めれたんですけどね」

「それ以前にいくらハザードとは言え数メートル規模の積雪を用意する学校も学校だよな。それに対応するアイテムを作ってる発目もやべーけどよ」

 

 初めのうちは互いに牽制する姿も見られたが発目のアイテムで互いに苦労する姿を見ている内に警戒する気が亡くなった上鳴と塩崎。暴走するが悪気は欠片も無い発目に対しても怒りより諦めが勝り、なんやかんやでいいチームだった。こっから先は真剣な勝負だと気持ちを引き締めてその場から歩き出したその瞬間、路地の方から車やガレキなどが山の様に吹っ飛んでくる姿が見えた。

 

「ぐっ、『局所帯電・反発(リペル)』」

「危ない『キリストのゆりかご(シュトーレン)』」

「上鳴さん電気借りますよ。『即席簡易電磁砲』!!」

 

 前方に大きく電撃を撃ち放ちどうにか車を弾こうとするが数が数で全てを裁き切れずにいると横から蔓が飛んできてドーム状に覆い、上からの落下物を防ぎ、それでもまだ向かってくる物を発目が電気を纏っている上鳴も両腕にコードを巻き付けると物凄い勢いで筒から弾が飛んでいき、車などを吹き飛ばした。

 

「何かがこのエリアに居るのは間違い無さそうだな。それと悪ぃな助けてもらって、干渉無しっていって別れた直後なのに」

「咄嗟に手が出ましたね。ここまで組んで来たから癖になったんでしょうか」

「それにしてもどういう仕組みで飛ばしたんでしょうか?路地の方にズームしましたが特別な機構は無さそうです。おそらく個性によるものだと思いますが」

「大きい瓦礫や車の塊にモギモギがくっついてる。これを用意したのは峰田だな。だがくっつけるだけで勢いよく弾いたりは出来ないはずだ」

「庄田さんではないでしょうか、衝撃の解除で吹き飛ばしたのかと」

「んん?この瓦礫、よく見ると接合部分がありますよ。ほらここ」

「接合って言うとたしかB組の」

「泡瀬さんも一枚かんでいる様ですね」

 

 これだけの規模の罠が仕掛けられていると言う点、そしてそれらが明らかに複数人の手によって仕掛けられていると言う情報からその場の三人は少し思案すると顔を見合わせ、ふと笑った。

 

「もういっちょチームアップと行くか?」

「そうですね。ではこの推定3人のチームを倒すまででどうでしょうか?」

「良いですねぇ!!ようやく私の可愛いベイビーたちが日の目を浴びますよ!!」

 

 


 

「誰かが罠に引っかかったみたいだが、どうだ?」

「ダメだ対処された。それに向こうもどうやら手を組んでるみたい。複数の影が薄っすら見える」

「罠で疲弊するのは待つが、相手が誰か分かんねぇと対策も出来ないからな。少ししたらオレが行ってくる。庄田、撤退の時は頼むぞ」

 

 


 

『バチバチの戦闘とはならないがスゲー攻防だったな』

「峰田チームの手によって早くから準備されていたフィールドと早くから組んでいて即席とは思えないコンビネーションで対処した発目チーム、待ち構える側と挑戦者と言うバトルロワイヤルとは思えない戦いになったがこれはこれでいい経験になりそうだ」

『だけどよイレイザー、あの罠のレベルおかしくねぇか?直撃してたらケガじゃ済まない気がするんだけど』

「あいつ等ならなんとか出来るだろ。飛んでくる物の大きさや重さで圧倒されてたが速度自体はそうでもない、全部まともに受け止める様な事でもしない限り重症にはならんだろ」

『そうか、それとこのエリアには魅せる氷炎使い、自然が遣わす力の化身、轟焦凍も来るぜ!!』

「どのタイミングで来るかだが、こっちも乱戦不可避だな」

 

 




次で戦いの場面を全部書いて、生き残った組で最後の戦い。誰が残るかは実は書いてる途中で何度か変更してるんですよね。みなさんも良ければ予想してみてください。

読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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27 雄英体育祭⑫

ちょっと短いけど投稿。


 一時的とはいえ心操と休戦の協定を結んだ緑谷は少ない情報から相手の位置を考え、相手を捉えるために目立ってしまうのを承知で高い位置を取るために一気に腕を振るって上空に飛び出した。

 

「…見つけた!」

 

 分かりやすい最上階に立つような真似はしないだろうと思い、屋上より少し下の階層を観察しているといくつか角が掠った後がある建物を見つけ、その周辺をよく目を凝らすと目的であった角取の姿がチラッとうつった。

 

「スマッシュ!!」

 

「ワァオ!?これは不味いですネ」

 

 緑谷が浮かび上がったのを警戒して姿を隠していたがその観察眼でみごと辿り着かれてしまった。しかし、角取もこのまま終わるつもりはないようで一撃を躱すと外から壁を突き破って飛んでくる角の攻撃を繰り出した。

 

「『typhoon horn』!! 」

「『拡散型 デトロイトスマッシュ』!!」

 

 緑谷は周囲から迫ってくる角を見て、力を抜いて、拳の力を収縮させずに放つことで攻撃によって生じる拳圧を拡散させて全ての角を弾いて見せた。建物を壊さない様に配慮したからか角を壊すには至らなかったが弾いた角は大きく離れていき、直ぐに攻撃には使えない。角を発射して操作しようにもすぐには難しいだろうと判断して緑谷が角取の懐に入ると、角取は姿勢を下げると迫って来た緑谷の方に頭を差し出した。

 

「私も必殺技自分でも考えたんですよ『headbutt horn shotgun』」

「ぐっ、おりゃぁあ!!」

 

 角取は緑谷の身体に頭を打ち付けると同時に角を発射して緑谷の服をさらって緑谷を吹き飛ばした。そのまま続けて発射した角で緑谷にも攻撃が通る。しかし、直ぐに緑谷は勢いよく体を捻り、服を犠牲にする事になったが角の拘束から逃れた。

 

「トッテオキ?でしたのに簡単に対処されてしました。緑谷クン、上脱げちゃいましたね。でもとってもcoolですよ?」

「ははっ、ありがとう。拳藤さんも見せてない技があったのに油断して綺麗に喰らっちゃったよ」

「でも、緑谷クンを倒せてないですからね。角に乗って逃げても分が悪いですし、降参でーす!」

 

 拘束時間がもう少し長ければ建物から飛び出してまたhideする予定だったんですけどね。と残念そうにつぶやく角取。その後でリタイアの宣言もしていたので本当に諦めたのだろう。

 

「目の前で緑谷クン、レベルの人と戦ってると外まで行っちゃった角を操作する暇が無かったです。見つかるのを前提にしてでも屋上に居るべきでしたね」

「それだと壁越しに攻撃とかも出来ないし、一長一短じゃない?」

「うう~ん、緑谷クンみたいに壁を壊した瞬間に気付いて対処されると一緒な気がします。空を飛ばして助走距離を用意した方が強い気もしまーす!まぁ、なんにせよ頑張ってくださいね!!」

 

 


 

 

『おおっと、ここで緑谷が角取を追い詰めて、角取はリタイアを宣言だ』

「遠距離主体の奴が近距離の権化のような奴に近づかれればああなるのも無理はない。一応脱出できるように後ろの扉や横の壁とかも見てたが追いつかれると判断したんだろうな」

『隠し技は上手く決まってただけに残念だぜ』

「どうしても近づかれると弱い個性ってのはある。それを逆に罠にして一撃を入れた角取は普通に上手かった。踏み込みを強くしたり、相手を逆に引き寄せたりする動作を入れればもっとあの技は強く出来るだろうな」

『緑谷が戦ってるのを見てる間に同じエリアで更に戦いが起こってるぜ』

「ん、あれは角取を追いかけてた麗日か、心操と出会って戦ってるようだが、やはり対策されると心操はやりにくいか」

 

 


 

 緑谷が角取を見つけた頃には既に麗日もエリア内に到着していた。e5に到着したことに少し安堵していたが、他にも選手がいるハズであると警戒し、進んでいく。すると何やら破壊音と足音が耳に入ると確認するためにサッと跳び上がり、その相手に姿を捉えた。

 

「心操くんか……あれは角取ちゃんの……」

 

 角を弾いたり避けながら進んでいる心操を見つけるが角に狙われてる所に突っ込めば自分まで狙われかねないと判断し、姿を見失わない様に追うだけにとどめていた。しかし、少し時間が経つと心操を追っていた角は制御を失い、その場に落ちた。

 

「……緑谷が角取を見つけたか」

 

(デクくんが居るんだ!)

 

「音的にあそこか、戦いが終わった瞬間に声を掛ければ、潰せるか?」

 

「……!」

 

 麗日もこれが競技であり、上を目指すうえで恨みっこなしの戦いであると理解しているが、関わりが深く、思う所がある麗日は黙って居られなかった。静かに瓦礫を浮かせると心操のもとへと投げ飛ばした。

 

「あぶない!?麗日か……」

 

「………………奇襲してごめんね。角に教われてたみたいだけど角取ちゃん知らない?前のエリアから折って来てたんだけど逃げられちゃって」

 

「知らないな。それで『やる気か?』」

 

 麗日は心操からの問いかけを聞くと口で答える事はせずに頷いて示した。明らかに疲弊している心操を狙うというのは悪くない選択である。これから先、戦いが続いていくであろう状況で集中させてくれない個性を持っている心操は誰にとっても厄介である。

 

「良い具合に投げやすい物が落ちてるね」

 

「おいおい、角取がいきなり操作し始めたらどうする気だ?」

 

「………………ん?デクくんが負けるわけないじゃん」

 

「俺の独り言きいてたな」

 

「まぁね」

 

『俺は早い、誰よりも』

 

 麗日は瓦礫よりも投げやすいと言いながら鋭い角を心操に向かって投げつける。だがそれだけでなく角をバット代わりにして岩を撃ちだしたりもしている。大ぶりな物だと振りにくいが、丈夫で短い武器は非常に役に立っているようだ。

 

「『ホーンホームラン』!!」

 

「即興技でやられるほど弱くはない!」

 

「……………距離を取れれば十分、近づかれると厄介なのは知ってるからね。『流星群』!!」

 

「ぐっ、はぁあ!うっ」

 

 弾いたり、避けたりしているが落ちてくる無数のガレキに対して集中すると横から飛んでくる攻撃を喰らい、そちらに対処してると上からの攻撃を捌ききれない。横道にそれて身を隠すのは悪手、機動力では負けており、時間を作れば相手はさらに飛ばす物を用意するだけなのだから。

 

「流石に相性が悪すぎる………俺はこれは嫌いなんだけどな」

 

 珍しく弱音をもらす心操を意外な目で見る麗日、しかし続けていった言葉とこちらをじっと見つめる視線に何か嫌な予感が走る。だが何をする鎌で分かる訳がなく、心操はそっと口を開いた。

 

『お前は弱い、麗日、お前じゃ俺に勝てない』

 

『金の為だっけ?そんな物で俺の夢に勝てると思ってるのか』

 

『騎馬戦だってお前が居なくても別に問題は無かっただろ』

 

『個性で一方的に攻撃して、近づかれたら負けるからだろ』

 

『麗日お茶子、お前は弱い、お前はオレには勝てない』

 

 遠いはずなのに近くで聞こえる様なふわふわとした感覚、唐突な分かりやすい声に呆然とし、まずいと思い耳を塞ぐがもう遅い。否定したいが否定する言葉は吐けない、そうなると声は相手に浸透するだけである。動きが鈍れば後は心操にはどうという事も無い。

 

『眠れ』

 

「あ、あぁ………………」

 

「これは嫌いなんだよ。否定を押し付けるなんてな」

 

 暗示と洗脳を同時にかける事で相手は言葉に反応することは出来ない。麗日は呆然として動きを止める前に、相手の言葉を否定する前に、その場を離れなくてはいけなかった。

 

「ん、あ、喉も体も限界だな。こりゃ」

 

 


 

『おおっと、クラスメイト対決である麗日VS心操、勝者はヒプノシスボーイ心操だ!!なんで麗日は眠ったんだ?』

「相手に暗示をかけたんだろうな。あいつの暗示は手助けや教科だけじゃなく相手への妨害やデバフも出来る。声を出して否定すれば洗脳にも掛かっちまう。何をする気なのか考える前に逃げるか、別の音でかき消すかするべきだったな。咄嗟に防ごうと耳を塞いだのは悪手だ」

『両手が塞がって戦えるわけがないからな。にしても選手の声が聞こえないのが残念だな。どんな言葉で惑わしたのか興味深いぜ』

「都市エリアはまだぶつからないか…雪山が面白い事になってるな」

 

 そう言って相澤が覗いた画面にはB組の宍田によって殴り飛ばされている爆豪の姿が大きく表示されていた。

 

 




次もたぶん短くなる。その次が長くなる。

次で爆豪、宍田とチーム対決+轟になる。

そして最後の戦いと表彰式で体育祭が終わる。

前回より予定している話数が増えてる事には突っ込まないでください。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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28 雄英体育祭⑬

実は活動報告でお知らせしているのですが、パソコンが壊れていて現在いつもどおりの執筆が出来ておりません。これも途中からはスマホで書きました。直るか、新しいのを買うかも決まってない状態なのでいつになるか分かりませんが、しばらくの間は投稿がこれまで以上に遅くなりそうです。


 

 雪と風によっていやでも体温が低下していくのを感じる爆豪。爆発させることで何とか維持しているがそれでもギリギリな状態で宍田と真正面からやりあうのは分が悪かった。

 

(コイツは此処に潜んでこの地形になれてんのも面倒くせぇ……ただでさえ無駄に消耗してんだ。アレは使えねぇな)

 

 殴り飛ばされながらこの場をどう対処するのかを考える。普段の爆発は使い物にならない、奥の手は此処では切れない、真正面からの殴り合いでは不利、となれば後は罠に嵌めるぐらいしかねぇかと自分の力の無さ苛立ちながら真っ白な雪に向けて口の中の血を吐き出した。

 

「『発煙弾(スモーク・グレネード)』」

「この吹雪の中で姿を隠せると思うのですか!!」

 

 爆発によって視界を遮るような薄暗い煙を生み出すが絶えずに拭き続ける雪を舞いあげる様な風で身体を隠すようなことはできるはずがなく、宍田は煙の隙間から見える爆豪につかみかかる様な形で更に迫った。

 

「はっ!燃えろ『蒼煙』!!」

「ぐっ!?煙の中で燃やし…ゲホッ、ゲホッ!?ゴホッ、ゲホッ!!??」

 

 燃焼反応を起こした後に残る煙の中では強い爆発を起こせるわけがないと考えていたが次の瞬間に煙の中に蒼い炎が走ってそのまま宍田の身体を燃やした。炎を喰らい驚いて開けていた口からいくらか煙を吸い込んでしまったようでむせ込み、身体を動かしにくくなる。

 

「はぁはぁ、これは毒?」

「一部だけ燃やしきって無かっただけだ。ああ、吸い込みすぎるなよ二酸化炭素だけでなく、極めて有毒な一酸化炭素も混じってるからな。一気に吸い込んで気絶しなかったのに驚いたくらいだ。頭も痛いし、気持ち悪いはずだぜ?」

「咄嗟に吐き出してみましたが正直辛いですな。でもこれ位で止まるほど弱くもないですぞ!!」

 

 そう言って見せるが先ほどまでと違い呼吸がし辛そうな様子が傍から見てとれる。ここは吹雪いている山という特殊な環境であり、寒さに強い宍田もやや低酸素な状態で有害な気体を吸い込んだダメージは大きい。

 

「それに爆豪しも何やら血を流しているようですからな」

「それこそどうした!!こんくれぇ受け入れ済みだ!!」

 

 爆豪も煙の中に居たために自分で繰り出した攻撃の余波を受けてしまっている。気体は吸い込んでおらず、耐性がある分宍田ほどではないが炎で少し焼けただれた場所から血がにじみ出ている。宍田の動きが悪くなってこれでイーブンとは決して言えそうにない。

 

「『ガオンレイジ』!!」

「近づかせるか!!『徹甲弾機関銃(A・P・ショット・オートカノン)』!!」

 

 近づいて更に攻撃を加えようとする宍田に対して近寄らせまいと爆発の威力を少しでも上げる様にしたうえで攻撃の数を増やす事で対応する。連続で爆発させている間にもぽたりぽたりと血が流れているのが見える。

 

「貧血になる前に終わらせましょう。『ガオンアヴァリシャス』!!」

 

 獣の力を込め、目の前の敵を倒さんと放たれる薙ぎ払う動作の攻撃。戦闘の影響で踏み固まった雪を見極めて一気に近づいて見せた。絶体絶命と思われた爆豪はニヤリと笑って見せた。

 

「動けないから来てくれて助かったぜ。歯ぁ食いしばれよ?『爆熱地雷』!!」

 

 諦めたかのように静かに量の腕を下げるとそのまま足元の雪に向かって爆破を放った。弱い爆発で宍田どころか雪さえも吹き飛ばせない様な小さな爆発であったが、その爆発の火と熱が雪に触れた瞬間に爆豪と宍田を巻き込んで大爆発を起こした。

 

「あー、クソッ!?耳がイカレやがったか…まぁいいコイツは倒せた。血も流しすぎたがまだ戦える!!」

 

 直近で思いがけない高威力の爆発を喰らった宍田は見事に目を回し、耳からは血を流しながら倒れていた。爆豪も耳を傷めたのと少しふらつくがまだ動ける様でとうに見えなくなった山稜を追いかけるべく、雪山を降りて行った。

 


 

『もうダメかと思われたが、まさかの大逆転!!スーパーデンジャラスボーイ、爆豪勝己が自らを巻き込んだ大爆発で見事勝利をもぎ取った!!』

 

「やり方が上手いな。爆豪は腕から流れる血に、手から出る爆発性の汗を混ぜ込んで下の雪に垂らして溜めてた。血をたらした雪を見て思いついたのか、自分を巻き込んだ攻撃をしたのもわざとでそこから全部が仕込みだったんだろう」

 

『なるほど、汗だけであれば自身もどれくらい溜まってるか分かりにくいうえに気付かれる可能性があるからな。汗入りの血を溜めて疑似的な爆弾を作って相手が来たところをドカンか!!』

 

「ああ、ある程度垂らした後は攻撃で暴発しない様に爆発の範囲を狭める様に手で押さえる攻撃を選んでたみたいだしな」

 

『罠にかかる前に自爆したら意味ねぇからな。にしても賢すぎるぜ』

 

「先に逃げていた山稜はd5に向かったようだがまだ八百万に仕掛けていないみだいだな。あいつは感知も出来るから居るのは分かってるはずだが、回復を優先させたのかそれとも爆豪を先にぶつけるつもりなのか、爆豪もあの状態ですぐに戦うようなことはしないだろう。動くとすれば八百万から仕掛けた時だろうな」

 

『おっ、e4も面白い事になってんな』

 

 


 

 都市エリアの夜、その闇に紛れる様に仕掛けられた罠の数々、それを避けたり壊しながら進んでいく発目チーム。だがエリアの中央に向かうにつれてその顔には余裕がなくなってきている。

 

「あいつら好き勝手やり過ぎだろ!?」

「喋ってないで電気をください!アレヤバいですよ!!」

「蔓で足止めします!!」

 

 闇雲に探すわけにはいかず、在り来たりではあったがエリアの中心部を目指して進んでいたが、中心に近づくほどに罠の数が増え、その規模も大きくなってきていた。最初に焦った瓦礫や車が吹っ飛んでくるのなんて可愛いものだった。

 

 規模が大きくなってくると罠同士が連動しており、四方八方から何かしらが飛んできたり、逃げ道を塞ぐように火が上がったり、爆発するなど当たり前。今となってはビルが丸ごと崩れてくるような仕掛けが平然と存在し、その対処に追われている。

 

「周りのビルもボロボロです。今のうちに破壊するか、逃げ道を確保してください!!」

「今やる!!発目!これを何処にぶっ放すんだ!?」

「そのままぶち抜ける威力のはずですので一気にど真ん中をいってください。通電後、30秒で爆破します!!」

「『局所帯電』、行っけぇ!!」

 

 上鳴は発目から受け取った機械仕掛けの砲筒に一気に電気を流すと仕掛けが稼働し、始めに電磁力の力で内部の弾が射出された。弾にも磁力が在る様で周囲の鉄を集め、肥大化しながら目標物に突き進み、着弾する。そしてその次の瞬間には周りにくっついていた鉄を飛散させながら大爆発を起こした。

 

「マグネティックボムとでも名付けましょうかね?誤作動して手元で爆発しなくてよかったです」

「安全性ぐらい確保しといてくれよ」

「いやぁ、万が一の場合は砲筒の方上鳴さんの『反発』で射出すれば行けるかなと思いまして、まぁ無事成功したから良いじゃないですか」

「そろそろ一度補給した方が良いと思うのですが、ここは暗いのでせめて水だけでも私は欲しいです。お二方はどうしますか?」

「俺も電気がヤバいかもな。自分で作る分だけじゃ賄えきれねぇな」

「私のベイビーも減ってきましたね。出来れば機材とかの置いてある場所を見つけたいです」

 

 そうは言っても罠が発動しているという事は連動している部分やワイヤーなどの簡易的な仕掛けもあるが遠隔で個性を操作しているのは間違いない。おそらくこちらの様子を見ている存在がいる。

 

「目ェ瞑っとけよ。その後ダッシュだ。3,2,1,『雷光』!!」

 

 残り少ない電気を腕ではなく、指先に集めると一気に解放し、周囲を照らすだけではなく、直視すれば目を焼き、一時的に動けなくさせるほどの暴力的な光が迸った。

 

 


 

 

「あー、ちくしょう。やられた見失った」

『こっちが仕掛けたカメラの方も完全に電気ショックで壊れてるな』

『個性無しで仕掛けた罠に引っかかってくれない限りは特定できそうにないか』

「ある程度消耗させては居るはずだし、あの短時間で遠くに行くのは無理だ。集合して準備が整う前に仕掛けた方が良いだろ。たしか詳しい地図に店とか載ってたか?」

『ああ、うん。商業ビルとかの内部までは分からないけど、だいたいの区分はあるよ』

「工具や電化製品とかを売ってそうな場所をピックアップしてくれ、きっとそこに居る」

 

 


 

 峰田が予想した通り、発目チームの三人はホームセンターの一角に隠れて休息をとっていた。軽く胃に物を入れたり、水分補給も行い。後は各自で戦いの準備を整えている。

 

「店を見つけたおかげで部品に困らなくはなりましたね。それにサポートアイテム作りの設備と比べると弱いですが手持ちの道具よりはマシですね。そっちはどうですか?」

 

「おかげさまで、この疑似太陽光でしたか?本物と比べると流石に劣りますがそれなりに回復できそうです」

 

 そう言いながら薄っすらと光を放ち、水を滴らせているスタンド型の器具と自身の蔓に視線を送る。そして状態を確認すると改めて発目の力に感嘆する。

 

「ふっふーん、少ない材料でLEDいじくるのは大変でしたよ。専用の機材があれば波長を調節して太陽光よりもその蔓に適した光をいつでも浴びれるようになるベイビーも作れるんですがね。長時間は無理ですが首輪型で光と水を補給できるアイテムももうすぐできますよ」

 

「いえ、夜の環境でどうしようかと思ってたので十分ありがたいです。それにしても首輪ですか…せめてチョーカー型と言って欲しいんですが」

 

 サポートアイテムだと分かっているし、同性からとは言え堂々と首輪をつけられるという状況はどう表現したらいいか分からないが複雑な心境である。

 

「いえ、ここだと小型化にも限界がありチョーカーと呼ぶには少々ごつ過ぎるので、難しいですね。他にも足りないものもありますし、細かい調節が出来ないので蔓には良いですが人体の方に悪影響が出かねないので出力を絞るしか無かったりするんですよねぇ」

 

 そんな風に愚痴をこぼしながらも楽しそうに発明をしていく発目の様子を見て感謝しながらも苦笑を隠せない塩崎、そして準備を進めている間に先にアイテムを渡していた上鳴が戻って来た。

 

「ああ、実際の太陽光だって紫外線とか危ないもんな。ところで一通り作って貰ったもんは試したが如何せん燃費が悪くないか?このヒートナックルはマシだけど冷却が弱い。排熱時も危なかったが何より連発すると俺の腕が焼けるかと思ったぞ」

 

 いくつか渡されたアイテムの中にはそれこそ一回放てればおしまいと言った燃費の悪い物もあり、これではこのサバイバル環境で必要となる継戦能力が足りない。他にも使えはするが弱かったり、逆に自身に被害が出かねなかったりとやはり細かい調整で難が出ていた。

 

「熱への変換は分かりやすいんですけどねぇ。電気ストーブや冷凍庫とかから流用しやすいですし、威力も出しやすいんですが……そうだ!A組にたしか炎と氷を扱う人が居ましたよね。それと同じで連結した機構を作って交互に使えば今だけ使うには良いですかね

 

「疑似的な轟か…威力の差がでかいしネタが割れたら対処されそうだけど使い捨てになるよりマシか」

 

 どう考えても轟の個性と比べたら出力で劣る。初見であれば予想外な攻撃として驚かせることが出来るかもしれないが、轟を相手に訓練だってしてきたのだから対策は簡単にされてしまう。だが、一発しか使えない重りとなるよりはいい考えだろうと割り切る。

 

「それと他の武器用に小型の発電機でも用意しますか?流石に大きくなりますけど、背負える程度に抑えますよ?」

 

「他のエリアに移動しないといけない場面もあるかもしれないし、電気を確保する手段は持っとくべきか……それに回復を待ってくれない状況も在り得るからなぁ。とは言っても流石に発電機は動くのに邪魔だぜ?」

 

 発目の提案は悪くはない、戦いにおいて補充と言うのはかなり重要である。しかし、どれだけ小型化できるかは上鳴には分からないがどれだけ小さくても荷物を詰め込んだリュックより重たくなるだろう。それを庇いながら戦うようなことは戦況が激しくなっていけば不可能である。

 

「それならバッテリーにしますか。回復回数に上限は出来ますが発電機より一瞬で電力を確保しやすいですし、腕や足につけるようにして、使用した物を落とすようにすれば回復後に動き方を変える事も出来るでしょう。内部に爆破機構でも取り付けますか?」

 

「いや、今は変に凝ったものはやめとく、回復優先で頼む。凝ってるのは貰った武器だけで今は精一杯だ」

 

 渡された武器の中には複数の効果を詰め込んだ物があり、それと併用して使っていくとなると碌に練習も出来ていない状況では頭をこんがらがせるだけである。

 

「了解しました。もう時間も無いですし、作れるだけ作っちゃいますよ!!」

 

 エリアの収縮は3人も確認している。最終エリアに到着し、直接ではないが他の選手と争っている現状からも分かるように、これより後で準備をする時間を取る事は出来ない。ある意味ここが発目の最後の見せ場とも言えるため、いつも以上に張り切っている。そうして、ある程度の準備が整ってきたところで、なにやら違和感を感じ、視線を自分たちがいる店の外へと向けた。

 

「ん、あれは?ちょっ!?みなさん敵襲です!!」

 

 個性”ズーム”を持つ発目は5キロ先の物でもくっきりと見る事が出来、照準を合わせられる。闇の中で何かが動いているのをその眼が捕らえた。自分用にこのエリアに合わせて作った暗視ゴーグルを慌てて装着するとこちらへ向かってきている姿までしっかり見抜いた。

 

「向こうも全員が武器を持ってる。一人が物凄いスピードで飛び跳ねて来てるから先に撃つよ」

 

 照準を簡単に合わせられる能力は遠距離攻撃武器との相性がとても良い、向こうが攻めてくる状況であれば当たる確率は格段にあがる。自身の眼で相手に銃身を合わせ上鳴の電撃を込めた弾丸を射出した。一発目は避けられた様で続けて二発目も撃つが個性を用いた移動でこれまたかわされる。

 

「エネルギー不足が痛いですが、貴方の移動方法は上鳴さんが教えてくれてます。三度目は無いです!!」

 

 複数のモギモギが投げられており、どこに飛ぶのか分からない様にしているがズームによってモギモギの投げられる先を正確に予想している発目は確実に使われないモギモギを除外し、これまでの軌道から跳べる飛距離を推測し、さらに峰田の移動先を絞る。そして最後は勘に任せて相手が跳ぶより先に銃身を向けて放った。

 

「当たったか!!」

「いえ、動きは止めれましたが直撃は防がれました。咄嗟に手元にあのモギモギでしたっけ?それで銃弾を受け止めた様です。おそらく衝撃は伝わってるので右手はしばらく使えないとは思いますが、厄介ですね」

「いやそれで十分だ。罠で誤魔化してるが、あいつらは近づかせると不味い。拘束系の個性は戦闘不能扱いにするのが簡単だからな」

 

 罠を仕掛けまくっているというのは陣地を守り、敵を近づかせない様にする行動に思えるかもしれないが今回の場合は違う。あれらは敵を疲弊させるのが目的であり、弱った所を個性で行動不能にするのが向こうのやり方だと上鳴は踏んでいた。

 

「庄田さんも強い事に変わりありませんが、この競技のルール上、泡瀬さんが厄介ですね。峰田さんが正面から来てるという事は庄田さんと一緒に奇襲狙いか」

「そう読ませて隙を作った所をあちらの方がと言った可能性もありますよ」

「どちらにせよ二人に捕まらないように気を付けるしかねぇな。崩す役が庄田だろうがな。」

 

 


 

「悪いまた止められた」

 

 さっきの見張りでも誤り逃走を許してしまった。今回も避け切れると踏んでいたのだが動きを止められてしまった。サポート科である事は分かっていたが個性まで把握していなかった。この状況で的確に狙えるとなるとそう言った個性を持ってるのだろうと峰田は痺れた右手を気にせずに目の前の状況に集中する。

 

『あれを防げてる時点で十分だと思うけどね』

 

『それにそこからなら届くだろ?』

 

 そう、不用意にただ近づこうと思ったわけではない。もちろん、そのまま近づけるのであれば一気に拘束まで持っていける自信はあったがこのような状況になった時の事を考えて準備はしてあった。

 

「ああ、念のため多めに準備して正解だったぜ。行くぜ合わせ技『ミネタビーズ5節(ミネタビーズファイブジョイント)インパクトロケット解放(ファイア)』!!」

 

解放(ファイア)!!』

 

 もぎもぎをくっつけただけのそれを懐から取り出すと動く左手で大きく振りかぶて投げる。距離が離れているのでそれだけで届くわけがないが連結したもぎもぎそれぞれの込められた衝撃が解放される事で急加速して発目チームに飛んでいく。先ほどまで発目が撃っていた銃の弾速に勝るほどの速度を出していたが如何せん距離が開いており、物が大きかったためにそれは簡単に避けられた。

 

「今だ!!」

 

解放(ファイア)!!』

 

 推進力とは別に仕掛けていた衝撃を解き放つと相手の足元に到着していたモギモギが周囲に飛び散るように壊れて発目チームを襲った。

 


 

「おい、発目!大丈夫か!?」

「幸い攻撃力は無いようです。足は封じられましたし、背中にもくっついてるので倒れたら終わりですね。ですがまだ手は使えるのでサポートは出来そうです」

 

 ズームで倒れた峰田の挙動を随時確認していた発目は何やら連絡を取り合っている事に気付き、攻撃が届いた後に合図を出してるのを見て咄嗟に二人を庇い、全滅を避ける事が出来た。それでも発目の片足をモギモギが覆われてその場から動けなくなっている。

 

「う~ん、これどうにか取り外せないですかね?」

「もぎもぎに触れるのは止めとけ、アイツが言うには調子が良ければ三日はくっつき続ける粘着力だ」

「えっ、体育祭終わっても私このままですか!?」

 

 流石に帰る事も出来ずにこの場に設置され続けるのは発目も答えるようで、少し動揺している。しかし、足元のモギモギへと向ける視線はそれがどういう物なのかとじっと解析するかのような目であった。

 

「いや、流石に調整してるだろうが2,3時間は覚悟しといた方が良いだろうよ。にしても厄介なもの準備してたな。だが追撃は無いし、不意打ちの為に身体に隠すために一発しか持ってなかったんだろ。アレは峰田以外には持てないから他に作っててもすぐには使えないだろう」

 

 モギモギは峰田以外にはかなり強制的にくっつく、それ故にモギモギで作られた武器となると峰田が持ち運びから何までやらないといけないので使用する状況は限られるだろうと仮説を伝える。

 

「布とかで覆って他の人が運ぶ可能性は?」

「それだと最後の爆破が意味なくなるんじゃねぇかな。アイツのモギモギも無限に使える訳じゃないから無駄遣いはしたくないだろ。まぁ今いったみたいに布一枚でも挿めれば防げるから適当な物を持って前に出るとするか。このまま押し込められればじり貧だ」

 

 モギモギの特徴を知っていたがこれほど遠距離から仕掛けるとは思っていなかったので警戒できていなかったが、このような攻撃方法があるのであれば視界を遮る事になっても咄嗟に防ぐ手段は持っていた方が良いだろう。

 

「そうですね。私は蔓で防げば逆に利用できるかもしれませんのでそれを狙ってみます。発目さんもお気をつけて」

「わざわざ動けないのを狙ってくるとは思えないけど、何かあっても時間稼ぎくらい任せてください!!なんなら相手を道連れにして負担を減らしてやりますよ。ですから気にせずにお二方は戦って下さい!!」

 

 上鳴と塩崎は動けなくなった発目がアイテムを取れる様に手を伸ばせば届く距離にアイテムを寄せてから戦闘に向かって行った。

 


 

 罠の攻略だけでなくようやく始まった派手な戦いに会場は湧いていた。緻密に建てられた作戦で戦いを有利に進める峰田チームとアイテムやサポートのもとで戦う発目チーム。

 

『電気を用いた武装をした上鳴と光と水を補給しながら戦える塩崎、クラスも科も超えた力で敵の策略を打ち破れるか!!』

「簡単に言えば生身の人間と武装した人間とどっちが強いかって話だ。発目もサポートは出来るが前面に出るタイプじゃない。峰田は上手くやってるが現状で得たのは数の優位だけだ。個性は割れてるがアイテムは中身が割れることはない。他がまだ距離を取ってるのはどんでん返しを喰らわない様にだな」

『だが、ドンパチが続くのはそれはそれで不味いぜ。A組の実力者が一人、轟焦凍がエリアの中にもう入ってるぜ』

()()()()()()()()()……最初の授業に状況は似ている。見つけたら今度は油断せずに対応するだろう」

 

 


 

「壊れた跡に、これは罠の類か……誰かが戦ったのか。それともまだ戦ってるのか?」

 

 中央エリアにやって来た轟は既に大技を出した際の疲労は回復しており万全な状態であった。しかし、ハザードエリアとはまた違った壊れ方をしている都市を見て状況を判断しようとしていた。

 

「凍らせて索敵するには広すぎるか……とりあえず壊れている方向に向かえば何かあるだろう」

 

 発目たちが一度通った比較的安全な道を進んでいく轟、残った罠も瞬時に焼き切るか凍らせて機能を停止させて、悠々と道を歩いて行く。戦いの音を拾える場所にたどり着くまでの時間はそう長くはかからないだろう。

 

 


 

「いつもと違う意味でいやらしい真似ばっかりしてくれるじゃないか峰田!!『迅雷』!!」

「それがおれのやり方だぁ!!『グレープラッシュ』からの『グレープピンボール』!!」

 

 電気を利用して素早く近づく上鳴とそれを遮るようにもぎもぎを展開する峰田。モギモギを展開した後に設置されたモギモギにモギモギをぶつけて弾いている。簡単に見えるが設置場所や角度などを考えなければ機能しない技である。視覚外から飛んでくるモギモギを避けるのに動くとその間に峰田が距離を取りいたちごっこが続いている。

 

(距離を取ってるのか?塩崎の方に二人向かってるのが見えた。タイマンに持ち込むにしても塩崎と俺を離すのは意味がないだろ?)

 

 上鳴の扱う電気というのは対処が難しい個性である。威力が高く、素早い、目でとらえることは出来ない攻撃。防ごうと思えば専用の道具が必要になる。こういった戦いの場であればむしろ味方への被害を考慮して動く必要がある位なのだ。

 

また罠か……だが逃げるのは違うし、乗っかってやる義理もねぇ!!一気に倒してやるよ『局所帯電』『前面放電(フロントディスチャージ)』!!」

「そうくるよなぁ!」

「っ!?なんで耐えれた?」

「おいおい、敵が教えてくれるわけないだろぉ?……少し痺れたがどうにか耐えれたぜ

 

 峰田が高威力の電気攻撃を耐えれたのには泡瀬が持つ触れた物同士を分子レベルでくっつける個性『溶接』が関わっていた。上鳴がいる事を知った峰田はその対策にそれなりに時間をかけた。まともに喰らえば一発でアウトになる力に対して真っ当な危機感を抱いていた。

 

 服や体の表面に絶縁体をくっつけたり、電気を身体に伝わらせない様に地面に流す道を用意していた。それでも至近距離での放電を喰らい余波で少し麻痺して感覚の薄い部分も出ているが無理やり動かし、回復するのを待って誤魔化した。

 

 上鳴は罠にはまっている間に対策を練られていたと考え、電気をそのまま用いても意味ないと直ぐに切り替えた。発目から渡された武装は4つ。先ほどの熱拳(ヒートナックル)と冷拳《フリーズナックル》がセットで1つ。

 

「(1つは電撃用の補助アイテムだから使えねぇ。もう1つは防御よりだし、ナックルは近づかねぇと意味が無い)こんなに早く使う事になるとはなぁ『雷鉄蛇』」

「うお!?なんだよソレ!?」

 

 意表を突く様に上鳴の右腕の袖から飛び出たソレは先ほどまで峰田が居た場所を貫く様に真っすぐに伸びていた。その名の通り鉄、機械仕掛けの蛇のようなソレは曲がったり、伸びたりと感触を確かめる様に宙を動いている。

 

【良いですか『雷鉄蛇』は小さなパーツを繋ぎ合わせて作られています。関節部分は球体にしてあるのである程度の角度までは曲げられるはずです。細かい電気の操作は出来ましたよね?出来る前提で進めますよ?まずここにスイッチ部分があります。此処を切り替える事で伸ばすか曲げるかを切り替えられます。電流を流す事で切り替え可能です。次に曲げる方向ですが、それぞれの指で対応します。正面から手前に加えて上下左右から中央に向けての5タイプです。速すぎても扱いにくいので抵抗を加えて0.1秒ごとに手前から奥に指示が出されます。リセットする時はスイッチを入れ直してください。もちろん同時に指示を出せば斜め方向にも可能ですが右と左、上と下などの相反する指示は出さないでくださいね。三方向も無理ですから注意してください。配線が焼き切れて壊れますからね】

 

(慣れてないアイテムにそこまで気は配れねぇよ!戦闘中じゃ大まかに指示出すので精一杯だぜ)

 

 素早く情報を入力することで貫いたり、薙ぎ払ったり、絡めて掴めたりと多芸な事が出来るだろうが、目の前の相手に集中しなくてはいけない状況ではそこまで複雑な指示は出せない。

 

「あのやおよろっぱいに匹敵するサポート科の発明品かよ。せっかくだけど封じさせてもらうぜ!!」

 

 騎馬戦の時に確認したプロポーションを思い出し、嫌らしい笑みを浮かべながらモギモギを正確に伸びた『雷鉄蛇』に投げつける峰田。上鳴は焦るでもなく、むしろ伸ばしたソレを用いてモギモギを弾いて見せた。

 

「はぁ!?なんでくっつかねーんだよ!!」

「そういう仕様なんだよ!!」

 

 その仕様というのは表面の特殊な塗装処理である。モギモギの粘着力は脅威であるがくっついた場所だけを剥がせれば問題は無い。塗装はそう厚くは出来ないので同じ場所にモギモギをくっつけ続ければいつかは封じられるだろうが、一瞬の攻防では流石に仕組みを理解できなかった峰田はモギモギでの対処を諦めた。

 

 適当に投げても武器で弾かれるので峰田は両腕を使ってタイミングをずらして投げて身体の方を狙い続ける。しかし、片方を弾き、もう片方を避ける事で上鳴は問題なく峰田との距離を詰めつつあった。あと一歩で峰田に攻撃が届くかと思った所で足元を揺する大きな揺れに襲われた。

 

 

「最初に俺が仕掛けにいってた時にあいつらに仕込んで貰ってたんだよ!!」

「なっ!?」

 

 建物の床に同時に入った大きな衝撃は戦っていた二人の周辺を陥没させ、そのまま下の階層へと落下を開始していた。崩れていく床に驚きつつも『雷鉄蛇』を落ちていく床に突き刺す事で何とか体のバランスを保っている。そこを狙う様に鋭いモギモギが飛んでくると上鳴はもう一つの武装を取り出して放った。

 

「『アシストバレット』!!」

 

 弾丸自体に様々な効果が含まれており、電気を貯めこんで刺さると同時に放出したり、弾丸が当たった場所を避雷針の原理で長距離まで電撃を届けたり、ため込んだ電撃をその場で放出し続けたり、他にも種類はあるがそう言ったギミック付きの弾丸が込められた銃がバッテリーへの特殊効果を断る理由にもなったもう一つの武装である。

 

 峰田自身に電撃は効きそうにないので使わずにいたが、衝撃を加えてモギモギの軌道を逸らすくらいは出来るだろうと空いている方の手で普通の弾丸より大きめの弾を撃ち出し、迎撃する。何個かは撃ち落とす事が出来たが動けない状況下で連続で投げられて何個かくっつき、銃も封じられてしまった。

 

 その隙を逃さなかった峰田はモギモギによって超加速するとそのままの勢いで上鳴に突っ込んでいった。電撃は防げる、相手はその場から動けない、武器は封じた。これで勝ったと確信していた。その次の瞬間、上鳴の左の腕から見慣れた機械が鋭く峰田に伸び、絡みついた。

 

「悪いな『雷鉄蛇』は両腕で1セットなんだよ。そして、何かで防いでたみたいだが、どっかしら流れる場所はあるよな?安心しろ強い電気は流さねぇ、身体が麻痺するまで直接流し込み続けるだけだ『雷伝導』!!」

「ぐぅ、はっ、効かないぜ……くっ」

 

 普通であれば喰らった時点で気絶してもおかしくない電撃で意識があり、しっかりと話せている。抜け出そうともがいて入るが鉄製の機械の力はかなりの物で峰田が全力で暴れてもびくりともしない。

 

「その割には痺れてるよな?さっきも動きが鈍かったし、完璧じゃねぇなら効くまでやるだけだ。電気切れは心配するな。発目がバッテリーまで用意してくれてるからよ」

「う、うぅうう、ちくしょおおおお!!ああああぁぁあっぁあ!!??」

 

 それから峰田は『雷鉄蛇』で動きを封じられたまま、無駄に耐性があるために長時間電流にさらされ、指の一本も動かせなくなってから解放された。

 

「フロアごと壊して攻撃なんておおがかりなことしやがって、どっか上がれる場所探して向かわねぇとな」

 

 一息つく暇もないと愚痴をこぼしながらも上鳴は指先一つ動かせなくなった峰田を放置して、その場から駆け出して行った。

 


 

 残された上階では戦闘不能に近い発目を倒しに向かわず、自由に動ける塩崎を警戒して数の有利を活かして戦いを展開していた。

 

「二人がかりですか?いささか臆病すぎるのではありませんか?」

 

「いやいや、塩崎が相手だからな」

「それに一応2対2には変わりはないみたいだし、な!!っと…あぶないあぶない」

 

 動けなくなっているとはいえ作ったアイテムを活用しての援護を発目は行っている。だが、ときおり飛んでくる攻撃も分かって居れば避ける事くらいは出来る。なんなら戦いに合わせて作った武器は峰田チームにもあり、衝撃が込められた武器を上手く振り回して攻撃と防御に上手く使っている。

 

「見た目は継ぎ接ぎですが厄介な武器ですね。泡瀬さんが溶接して作られたんでしょう。衝撃の解放を利用した振り回しに、攻撃の緩和……だけと思うのは危険ですかね」

 

油断はしてくれないか……俺が連続で仕掛けるから

わかってる。俺が蔓以外の部分を溶接する

 

 相手に聴こえない様に小さな声で作戦を告げると、タイミングを図り、相方とほぼ同じタイミングで塩崎に飛びかかった。

 

「『インパクトストック解放』『インパクト・カタパルト』!!」

「速いですが近付かせなければ良いだけです『キリストのゆりかご』!!」

 

 衝撃を利用しての急激な接近であるが自身を中心に展開したドームによって簡易的な防御の姿勢をとる。そしてドームの隙間から相手の姿を確認すると別の蔓を伸ばして逆に攻撃に転じる。

 

「『聖騎士(パラディン)』『信仰の盾(フェイスズシールド)』『寵愛の剣(フェイヴァズソード)』」

 

 蔓を操作して人形の様なものを作り上げるとそれらに切り離した蔓で出来た剣と盾を持たせ、そのまま近くに居る庄田に攻撃させた。蔓で出来ているために殺傷力こそ低いがその重量と編み込まれた蔓の強度はそれなりに脅威であり、庄田は避けたり、衝撃を加える事でどうにか攻撃をそらしていた。

 

「そう簡単に近づかせてくれないか」

「なら、これだ!!」

 

 泡瀬はなにやら小さな破片よ様な物を取り出すと、蔓に触れた瞬間にそれを中に埋め込むように溶接した。そして離れると「解放」という庄田の声と共に『聖騎士』やその他の襲いかかっていた蔓が弾けとんだ。

 

「今だ!!」

 

 空いた穴を逃さまいと駆け寄る泡瀬、近付いて触れることが出来ればそのまま拘束することが出来る。その考えは正しいが、彼の足よりも蔓の再生の方が早く、ドームに辿り着くことさえできず、『聖騎士』に捕らえられた。

 

「まずは一人…」

「がぁッ?!」

「泡瀬!!これでも喰らえ!!」

 

 庄田は何を思ったのか手に持っていた武器をただ真っ直ぐに投げた。捕らえられた泡瀬を助けるように投げつけられたそれを、蔓で防ごうと動かす。先程までの攻撃であれば当たったとしても『聖騎士』を壊される事は無いが念には念を入れての行動であった。

 

 そう、相手を一人捕らえたがそこに油断はなく、防御の姿勢までとっていた。だからこそ、その攻撃が前に出した蔓をすり抜け、『聖騎士』をすり抜け、自身を覆っていたドームまでもすり抜けるなんて想像はしていなかった。

 

「きゃあ!?」

 

 咄嗟に避けようと動こうともしたが、ぎちぎちに固められた陣地が逆に動きを阻害し、目の前に腕を出して衝撃に備える事しか出来なかった。

 

 泡瀬の個性である『溶接』は触れた物同士を分子レベルでくっつける。その特性を利用して、分子の隙間を通して、攻撃を透過させた。

 

 蔓には自身が捕まっており、確実に触れている。そして、武器とは細い線でしっかりと繋がっていたのだ。一時的とはいえ動揺し、操作を失った『聖騎士』から泡瀬も抜け出し、ドームを破壊して武器を手にして詰め寄った。

 

「流石に強かったけどこれでチェックメイトかな?」

 

 塩崎は衝撃で朦朧としている意識の中でどうにか蔓を切り離して迎撃しようとした。外側からも必死な援護なのか連続で銃弾が撃ち込まれているが切り離されたドームによって阻まれている。

 

「くっ!?」

「降参はしてくれないよな?悪いが地面と溶接して拘束させてもらう」

 

 動けずにいる塩崎に警戒はしたままゆっくりと近づいて行く泡瀬、これ以上は無理かと諦め、悔しそうに眼を瞑りながら苦悶の声をあげる塩崎。その首元に取りつけられていたアイテムにいきなりカキン!!という音が響くと近づいていた泡瀬や庄田を包み込む激しい光が周囲を照らした。

 

「『疑似・過負荷(オーバーロード)』油断大敵ですよ!!今です塩崎さん!!」

「ええ

 

 ここに居るはずがない声に驚きながら助けられたことを把握すると目の前の二人が動けない状況を逃すことなく、あふれ出ている光を吸収して蔓に力を集中させるとそのまま束ねて貫くかのような無数の攻撃を喰らわせ、そのまま拘束するように雁字搦めに蔓を巻き付ける。

 

「はぁ、はぁ、勝てました。初目さんありがとうございます」

「いえいえ、むしろ先ほどまで任せっきりになってしまい申し訳ありません。咄嗟に首輪の配線に電気弾を当てて首輪を暴走させましたが、上手くいって良かったです」

 

 見事にやられた二人は何故掴まっていたはずの発目がいたのかと不思議に思い、初目が居たはずの方向に目を向ける。すると薄っすらと人型の影は見えたが、しかしそれはよく目を凝らして見ると、それは発目が用意したなんてことない張りぼてに布を被せた物であった。

 

「さっきの床の崩落と一緒に照明もだいぶ落ちましたからね〜暗がりで戦闘中だと気付けないでしょう。ちなみに時折あった援護は私のベイビーによる自動装置ですよ。センサー式での判別システムまでは無理でしたが塩崎さんが拘束されてたので大丈夫と思いましてね。当たらなくてよかったす」

 

 後は気付かれないように移動して奇襲を仕掛けただけのことである。それによって一気に形勢は逆転した。しかし、ドームの中に現れた発目の姿を見た者は一様に見を見開き、発目のある一点を見つめていた。

 

「そこまでやるのか…?!」

「お、お前?!その足?!」

 

「発目さん、貴女!!」

 

 発目はモギモギによって拘束されていたはずである。しかし、ここまでこれている。その矛盾の答えは皮膚がなく、血に塗れた痛々しい足が物語っていた。

 

「いやぁ~麻痺させながらやりましたが、流石に皮膚を剥がすと痛いですね。空気に触れるだけでも激痛ですよ」

 

 ニコニコと笑っているがその頬は少しばかり引きつっております、痛みを堪えているせいか声も少し震えている。それでも、動けないだろうという認識を打ち破って勝利をもたらしたのだ。

 

「まったく、無茶をし過ぎですよ。治療したいところですが、お二人はまだ戦う気はありますか?」

 

 身動きを封じているがまだ意識はある。衝撃を込めたり、溶接を利用すれば時間をかけて拘束を外す可能性があるのであれば気を抜くことは出来ない。

 

「流石にそこまでやられて負けを認めないなんて言えないよ」

「峰田からの通信も途絶えたしな。降参だよ」

 

 その答えを聞きようやく緊張を解く事が出来た。辛勝であったが確かに手にした勝利に喜び、互いにボロボロすぎる姿であったが塩崎と発目は見つめ合うとおもむろに手を挙げてハイタッチをして笑いあった。

 

「はぁ、確実にリカバリーガールからのお説教がありますよ」

「それは怖いですが、私のベイビーを出来る限り輝かせるためですから」

 

 先ほどの二人と一緒にリタイアして回収されれば治療を受けれると伝えたがギリギリまでベイビーの調整をしてからリタイアしますという発目の意思を尊重しての行動である。そして治療をしていると少し経つと峰田を倒した上鳴もどうにかフロアを上がって来た。

 

「お前!?その足はどうしたんだ!!??」

「はは、動けなかったので剥がしました!!」

「バカか!?なにやってんの!?」

 

 発目の様子にとても驚いていたがお互いに勝利をしたことを報告して笑いあった。大会の運営側も考えていなかった即席チーム同士の戦いは発目チームの勝利という形で会場を盛り上がらせ、そして休ませること無く近づいている脅威に観客は同情した視線を送っていた。

 


 

 その時が訪れたのはあまりにも突然すぎた。戦いを終えて休息を取り、アイテム…発目の言うところのベイビーの調整が進められていた穏やかな時間を一瞬で壊したのは建物全体を覆う冷気と仲間の絶叫であった。

 

「…あぁああああああ!!??」

 

 建物全体が冷やされると同時にその場に居る全員を捕えようと氷が襲い掛かった。塩崎は蔓で跳び上がり、上鳴はヒートナックルで溶かして逃れた。しかし、足の皮膚の大部分が剥がれ落ちている発目は素早く動く事も出来ず捕まってしまった。短時間で皮膚が治る訳もなく、簡単な拘束のための氷でさえも彼女にとっては拷問に近い痛みとなってしまった。

 

「クッ…!?『ショックスパーク』!!」

 

 耐えきれない、もとよりこれ以上戦うことは出来ない。上鳴はこれ以上苦しまないようにと判断すると発目に電撃を流し、素早く気絶させることで守った。

 

「……足を怪我していたのか、それは悪いことをしたみたいだな。傷自体は冷やしておいた方が良さそうだが、密着していれば悪化する」

 

 そう言うと、上鳴達に少し待つように伝え、発目をみながらもう一度個性を使って怪我を保護するように氷を整え、巻き込まれないように端へと寄せた。元々リタイアする予定であったが受けるつもりの無かった攻撃でのダメージが酷くない事を二人は祈り、目の前の轟と相対する。

 

「……氷・炎なんて()と相性悪すぎだと思うがいけるか?」

「……たとえ瓦礫()をぶつけたとしてもびくともしなそうですが、やるしかないでしょう?」

 

 発目を巻き込むようなことは出来ないと場所を移す提案が自然と互いから出た。両者ともそれを拒否する理由は無かった。いや、上鳴たちは轟の個性の威力を考え、一瞬だが枷として使えるのではないかとも思ったが万が一を考えると自然にその案は掻き消えた。

 

「そう言えばこれって2対1で良いのか?」

「ああ、言われてみれば既にチームを組む理由は在りませんでしたね。でもまぁ、良いのではありませんか?」

「……そうだなぁ……こういうのも悪くないか」

 

 敵がチームであったから延長されたチームアップであった。敵チームを倒した今では二人が一緒に戦う理由は存在していなかった。だが、自然と共に戦う気であったことがなんとも可笑しかった。

 

「まぁ、発目をやってくれた仕返しで良いんじゃないか?」

「そうですね。では条件は発目さんに託された物を思い切り振るうで行きましょう」

 

 この場に居ないが発目の力は確かに上鳴と塩崎を助けている。なんともくさいセリフを吐いている互いに自然と笑みがこぼれて自身が湧いてきた。

 

「話し合いは終わったか?」

「ああ!!」「ええ!!」

 

 十分に先ほどまでいたビルから離れる事は出来た。むしろ隣のエリアに差し掛かるのではないかというくらいの距離は歩いただろう。これで互いに気兼ねなく個性(ちから)を振るう事が出来る。

 

 

「出し惜しみはしない『氷河時代(アイスエイジ)』!!」

「それは同じだよ『雷神の一撃(サンダーオブトール)』!!」

「負けてられません、『神判・天罰の輝き(ジャッジメントシャイン)』!!」」

 

 周囲を巻き込みかねない強力な攻撃同士のぶつかり合いは止むことはなく、都市中に響き渡っていく。新たな敵を呼び寄せるように、戦いの音は鳴りやまない。

 

 


 

 爆豪から上手く逃げ、d5商業エリアに潜んでいた山稜は別のエリアであっても響いてきた音を不思議に思い、目を閉じて集中するとそっと探索範囲を広げる。そして、誰がどこで戦っているのか確認した。

 

「向こうが始まってるのか……ならこっちもそろそろ動かないと不味いかな?」

 

 戦いを始めるにはタイミングというのがある。相手が不利な時に仕掛けるとか、他からのちょっかいが少ない時に始めるとかは特に大事である。今のタイミングであれば問題はないだろうというのと、今動かなければ先が辛くなると重かった腰を上げた。

 

「爆豪も追いかけてきてるしどうだろうな」

 

 八百万が潜んでいたことは知っていたし、個性の事を考えれば時間をかけて武装を強化されているはずである。

 

 外からの持ち込みがサポート科を除き、禁止の中で自由に作られた道具と言うのは有効的でもある。相手になくて自分にだけあるものというのはそのままアドヴァンテージに繋がる。

 

「出来れば貰いたいところだけど厳しいだろうな」

 

 本来の山稜の戦い方に個性を使って必要な物を取り寄せたりすることがある。この戦いの中でも自分の位置や瓦礫などを転送したりはしてきたが、持ち込みが禁止だとあまり使い勝手は良くない。

 

 ただの瓦礫を落とすのと、専用の武器を落とすのでは後者の方が強い。ちゃちな石ころではダメージにならないし、大きな岩を運べば気付かれやすく、また消耗も大きいなどの欠点も目立つ。

 

 その点、八百万が扱うアイテムは八百万でも扱えるサイズと重量であり、耐久性などにも優れている。これを獲得できれば一つの仕掛けとして十分に作用する。

 

 問題があるとすれば、そのアイテムを消耗させずに八百万を戦闘不能にしなければいけないという点だ。倒すだけなら手段は色々あるが戦わずに無力化できるほど相手も弱くない。

 

 それ以外にも融合してると貰えない可能性もある。戦闘終了時点で個性の使用などは原則禁止となる。八百万にくっついてる武装はその時点で使用不可になってしまう。

 

「ガスや電気でエネルギーの確保が出来ただけまだマシだけど、爆豪のせいでカツカツだからなぁ」

 

 下手に手を出せば逆にやられてしまう可能性も全然ある。あれで爆豪は切れやすいのと冷気に弱いのを除けば目立つ弱点はない。

 

 エネルギーを外からの補給でしか得られない山稜からしてみれば、ポンポン爆発を発生される爆豪や熱を自由に操れる轟、いつでも発電出来る上鳴などは羨ましく思える対象である。

 

 体力以外の消耗も考えないといけないという点では山稜と八百万は似ている部分があるとも言える。補給が安定しない現状の動き方としては互いに消耗をさけた短期決戦が望ましい。

 

 戦わないのであれば逆にどこまでも隠れて戦闘をしないと言う消極的な動き方が良い。だから八百万も山稜も潜み続けているのだ。

 

「今すぐに仕掛けて間に休憩を挟んで決戦に臨むか、ギリギリまで潜んで連戦に挑むか」

 

 最後の戦いを前にして山稜は訓練の際に学んだ自身の勘を信じることにした。

 


 

 

「なるほど…動かないか」

『何処も戦闘が激化していく中でこのエリアの選手は消極的だぜ』

「まぁ、爆豪は怪我も酷く、八百万と山稜は消耗の激しいタイプの個性だ。待ちに徹するのはこの状況ならありだ。機をうかがうのと諦めるのは別だ」

『e5の緑谷と心操も今は動きがないしな。絶賛戦闘中なのはe4の轟、塩崎、上鳴の所だけだな』

「まぁ、このまま潜み続けるわけにもいかないがな」

『動きがなきゃ出会う事も無いからな!!最後は一定時間ごとに指定されたエリアに移動してもらうぜ!!嫌でも動かなければいけないから新たに戦闘が起こるか、戦闘に動きが見られるだろうよ』

「狭くなれば場外に飛ばしたりする戦法も取れるようになる。他にも移動中の戦闘で間に合わずにアウトになる可能性もある。最後までどう転ぶかはわからないぞ」

『それでは肝心の移動先を決めるぜ。抽選の結果、選ばれたのはここだぁ!!エリアe5!緑谷と心操はラッキーだな』

 

 




間違えて自分用の設定集を投稿しかけた。危ない危ない、洒落にならないミスをやらかす所だった。ネタバレどころじゃ無いから本当に焦った。パソコンと操作が違うからやりにくい、前書きや後書きを書くにも時間を使うし、本当に面倒。

さて、覚悟決まりまくりのリーダー?の手によってチーム戦を勝利した発目チーム。一番始めに考えてたネタだと、もぎもぎを取るために体操服を脱いで戦うと言うR方面のネタだったんだけど、別の方向でR方面になりそうです。

勝利した発目チームを休ませないように現れた轟、不意打ちで負傷した発目の敵討ちをするかのように手を組んだまま立ち向かう上鳴と塩崎。エリア移動をせざるを得ないがその状況でどう動くか。

そして山稜、爆豪、八百万のエリア。本当は三つ巴の戦いにする予定だったんだけど。気づいたら変えてた。その場の気分で変更する癖が私の執筆の遅さを助長している気がする。

さて、次で最後に出来ると思いますが、キャラが入り乱れてるのでこれまた長くなりそう。というか予定だと今回は短めの筈なのに気づいたらこんなに書いてた。

もう後書きで次回の投稿について言及しない方が良いのでは無いだろうか?だけどこれ以上の変更をしないと言う最後の決意表明として、次で戦闘終わり、余裕があれば閉会式まで書くと言っておこう。…守れるからわかんないけどね。

と今回はこれぐらいでいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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29 雄英体育祭⑭

2ヶ月ちょっとぶりでしょうか?こんな拙い作品を待ってる方が居るとは思えませんが、お久しぶりです。未だにパソコンが壊れているので満足に書けませんが、ようやく戦いの終わりまで書けましたので、暇な人はどうぞ本編を見てください。


 

 エリアの移動が通告された選手達は会場の一部である町並みや建物の中に存在する時計を目にし、自分のいる位置と示されたエリアとの距離を確かめる。

 

 離れていてもエリア一つ分よりも移動距離は短い。よほどのんびりと進まない限りは脱落の心配は無いが、狙われるリスクを考えると動き出しは慎重になる。

 

「飯田さんのいない現状、地上における移動手段で脅威なのは緑谷さんぐらいですが、動きを封じるのは山稜さん、上鳴さん、峰田さんと出来そうな人が多い」

 

 創造物を用いて行う移動は音がどうしても出るために居場所がバレてしまうのは確実。地上を進むのであればギリギリまで隠れ続ける方が良い。

 

「明確に探知できるのは山稜さんだけですが、雪山に居たのは見えましたし、おそらく近いでしょうが動くなら今すぐ行動しなくてはいけませんね」

 

 雪山の方に宍田が逃げたので気にしていたら爆豪の爆発と山稜の姿までは捉えていた。それ故に周囲にはかなり警戒する必要がある。

 

 当然、隠れながら進もうと思えば時間はかかる。端から端まで動くわけではないので猶予はあるが、間に合わずに脱落は避けたい。

 

「行きましょう」

 

 

 


 

 

 Aと訓練に参加するBの生徒の多くから脅威的だと判断されている山稜。序盤からの激突で消耗は激しいが、周囲の探査を続けていたために面白い動きに気付いた。

 

「なるほど、地下を進むのか…確かに見つかりにくいがリスクもあるだろうに、大胆なことをするなあ」

 

 進み方こそ隠れてコソコソとしているが賭けとも言えるその行動に山稜は感嘆した。山稜にも気付かれず移動するならプリズムの透明化があると思うかもしれない。

 

 だが周囲に合わせて屈折率を変える必要があるあれは、探知範囲ではなく、視界の範囲でしか使えない上に、邪魔をするものが多い。

 

 エリアの光で目ざといやつは作った瞬間の光のゆらめきで見つけるだろうし、戦いの影響で舞っている砂埃や煙の影響で大きなものは形が見えやすい。

 

「つくづく種が割れると使いにくい」

 

 爆豪の剣幕からして諦めることはないだろうし、移動中に戦いになれば最後まで残れる可能性はかなり低くなる。

 

「便乗させてもらうのが一番だね」

 

 


 

 

「地下を創造の応用で掘り進めるてるのか…位置情報で予想は出来るが流石にカメラは入れん。観戦されてることを忘れてるんじゃないだろうな」

 

 流石に監視カメラもドローンも家の中から地下へと新たに掘り進められたトンネルの中までは追いかけることは出来ないようで、八百万を映す映像はなくなってしまった。

 

『いやいや、映りはなくなったが機転が利いててスゲーだろ?気づかれずに道を作れるなら、拠点制圧とかにも有用だしな!!』

 

「敵に気づかれる可能性と消耗を考えてだろうが、今回に限っては道を崩すべきだったな。敵にも利用されるのはまずい…あいつは山稜が後ろからついてきてるのに気付けていない」

 

 探知で地下を進んでいる事に気付いた山稜はちょうど良いと言わんばかりに八百万にバレない様に少し後ろをついて歩いている。

 

 相澤先生は厳しい意見を言うが山稜は地上と比べてバレにくいと考え、自身を覆って姿を消しているので見つかる可能性はかなり低いだろう。

 

『暗がりで音も姿も消えられたら無理も無いと思うけどなぁ。だが地上の爆豪からしたらラッキーだな!!』

 

「本人は気付いてないから警戒しながら進むことになるが、戦闘に巻き込まれないから必然的に消耗は少ない。ある程度回復して最終戦に臨めるだろうな」

 

 不必要な警戒と思うかもしれないが、戦場にいる本人からしたら当たり前な行動であり、油断することなく的確に動いている爆豪に感心する観戦者も多いくらいだ。

 

『逆にe4の選手たちはこの調子で戦えば移動に間に合うかも怪しいな』

 

「全員が戦闘も含めて動き続けていたから消耗具合で言えば一番厳しいか」

 

『エリア移動しなくても良い緑谷は場所は移したが動いてないな。だが、心操は不思議な動き方をしてるよな』

 

 他のエリアと接する境界線の近くまであえて移動している。迎え撃つために動いてるとも取れるが、真正面からの戦いには、向かないタイプの心操の動き方としてはおかしさの方が目立つ。

 

「考えがあるのか、それとも何か想いがあるのかはわからないが無駄にはならないだろ」

 

 年に1回、高校生活全部で3回しかないこの特別な行事、何をしようとその経験はきっと糧になるはずだと合理的ではない動きに合理性を見出して見守った。

 

 


 

 比較的高めの建物に登り、他の選手が来るであろう方向を確認する心操。

 

「遠くに見えるのは電気と氷に炎、それにここからは見えないが街なかに蔓の残骸、こっちじゃない。来るとしたら向こう側か……チッ、面倒な奴と目があったな」

 

 まだまだ遠いが、こちらのエリアへと周囲を警戒しながら進んでいるクラスメイトの姿を見つけてしまった。距離が離れているが互いに気付いてしまったのは確かだろう。

 

「飛んでこないのか?リスクは考えるが戦いを渋る奴じゃないだろうに……狙ってる奴がいるのか、緑谷はここにいたし、轟が向こうにいるなら……()()()と戦ったのか」

 

 想像でしかないが確率は高いだろうと考えを纏めながら建物を降りていく。

 

「こっちから来てたな」

 

 爆豪が来た方向を確認し、進んでいく。向こうが来ないのであればと言わんばかりに真っ直ぐと向かっていく。向こうがエリア内に入ろうとしている以上、進む道は限られております、必然的に出会うことになる。

 

「あぁ!?なに向かってきてんだ?やる気ならこっちもヤルぞ?」

 

「瞳空の奴と戦ったか?向こうに誰が居た?」

 

「……………ハッ、教えてやる必要はねぇだろ?」

 

 心操の個性の対策は殆ど全員がしており、爆豪ももちろん防いでいる。そして、心操の問いかけに対し、至極当然の返答を返した。

 

「緑谷と轟、ついでに上鳴と塩崎の場所を代わりに教えると言ったら?」

 

「……………取引になると思ってんのか?倒して聞き出せばいいだけだろう」

 

 他の選手に見つかることを警戒しているのかよく使う威嚇のような爆発は起こしていないが腕をこちらに向けている。

 

 口の動きに注意しているようで、心操は視線に気付くと口を開くフリをしながら適当に石を投げて注意をそらして爆豪との距離を詰め、そして爆豪の腕を掴み、それを自身の首に押し当てた。

 

「…………『俺相手に随分弱気だな?』『不安でもあるのか?』」

 

「何してんだテメェ!?」

 

「この距離で使えば俺は無事じゃすまないだろうな。閃光を起こしても手を放さないし、単純な体術で負ける気はない。お前の個性は上鳴の電気と違ってどんだけ弱くしても殺傷力はある。()()()()()()()()()()取引に応じろ」

 

「………………チッ、あのチビ女は見かけた。それと倒されてなければ八百万がいる。山の中であいつの弾薬を見つけた」

 

「そうか、緑谷はこのエリアの向こうのビルの上で少し前まで角取と戦っていた。轟、上鳴、塩崎は向こうの都市エリアで戦ってる最中だ」

 

「そうかよ…」

 

 爆豪は何をしたいのかわからない心操を睨みながらも教えられた情報の正誤を含めて考えながらその場で戦う事はなくエリア内に入っていった。

 

「バイクの音はしねぇからな。八百万は倒されたか、それとも隠れながら進んでるか……」

 

 隠して暗示をかけることが出来たからどうにか聞き出せたが冷静だったらどうなっていたかと思いを馳せながら目的地へと駆け出した。

 


 

 

 地下を進んでいく八百万、新しく作るものはそんなにないために消耗は少なめだが、移動距離を考えると馬鹿にできない。

 

 それに加えてどれ位進んでいるのかまではわからないのである程度進んだら確認するために上に行く必要がある。酸素を確保するためにも必要な行動だが場所やタイミングを間違えれば一気に不利になるために慎重に行動している。

 

「エリア内には入れたようですね。ここは住宅地でしょうか?塀で隠れた敷地内に出れて運が良かったみたいですね」

 

「『そう思うか?』」

 

「ッ!……くっ!?」

 

 顔を出して自身の位置を確認していると突然声をかけられ、混乱しつつも口を閉じることに成功したが、そのまま身動きを封じられ、首に腕を回された。

 

「悪いな…『眠れ、眠れ、眠れ、眠れ』」

 

 首を絞められ、酸素が減ってきて意識が薄れてきているところに流れてきた個性の載った催眠は問答無用で八百万を落とした。

 

「音をたてない乗り物を利用する可能性も考えたが、途中で攻撃を受けたらアウトだ。ならば隠れながら進むだろうが慎重な八百万ならばと当たりをつけれた……それで居るだろ?瞳空……」

 

 八百万が抜け出してきた穴の中をじっと見つめていると、降参と言わんばかりに手を上げて出てきた。

 

「へぇ、私が居ることまで予想してたんだ?」

 

「消耗を避けたいのは一緒だ。探知が出来る瞳空なら、誰かの()()()()を使う。誰が居るかは爆豪から訊き出した」

 

「形振り構わないで……そんなに会いたかった?」

 

 戦わせることもなく八百万を倒し、敵である爆豪を脅してでも情報を訊き出し、そして対面した。

 

「そうだな……お前とは一度ちゃんとした場で競い合いたかった」

 

「奇遇だね。私も心操なら残ってると思ってたよ」

 

 心操と山稜はお互いに笑みを浮かべ、同時に動き出した。自身の強化に全力を使う心操と残ったエネルギーを惜しまずに迎え撃つ山稜の戦いが始まった。

 

 


 

 

『謎の行動を繰り返していた心操!!八百万を素早く倒すと隠れていた山稜を見つけて戦闘を開始だぁ!!』

 

「爆豪から情報を訊き出したのか……おそらく元々山稜と戦う気だったんだろう」

 

 その理由まではわからないがそのために爆豪に対してあれだけの行動をした事から覚悟の強さは伝わるものだった。

 

『利用された爆豪だがあまり動いてないのな。心操が離れて、角取を倒した緑谷も綺麗に浮いてる』

 

「爆豪も何か聞いてたみたいだがどう動く気なのか。それと、エリア外で戦ってる3人がどうなるか次第なところもあるな」

 

 


 

 エリアの移動先が提示されてからも都市エリアで戦闘を繰り広げている三人に移動は見られない。そんな余裕がないというのが正しい所ではあるが、戦いを開始した場所から殆ど動いてないのは確かである。

 

 戦闘風景こそ轟が常に攻勢に出ているために有利に見えるが、互いにフォローしあって上手く攻撃を受け流し、小さな反撃を繰り返している。

 

 炎の攻撃はあえて燃えやすい蔓を敷くことで導線とすることで逸らすのに使ったり、氷の攻撃を発目の残した熱拳(ヒートナックル)で粉砕したりと、このエリアでの経験で咄嗟の対処がとてもうまくなっている。

 

 対する轟も合間をねって飛んでくる電撃や蔓、弾丸などのサポートアイテムも氷の壁を自由に作り出して問題なく防いでいる。雷鉄蛇の攻撃には驚いていたが、氷で取り込み、片方だけだが完全に封じる事にも成功している。

 

 互いに集中して隙をつくらないように動き続ける戦闘は消耗が激しいが、時間が過ぎていく程に焦りも増していき、さらに戦闘は激化されていった。

 

「『氷乱』」

 

 街が氷に包まれ、その氷から無数に棘や刃などが生成される。氷に侵食されていくかのような光景、これで決める気なのか自身への影響も気にせずに冷気の漂うフィールドを作り上げていく。

 

「とけたそばから凍っていく……くっ、『熱拳』!!駄目だとかした時に出る蒸気まで巻き込んでくるぜ」

 

「切り離した蔓で防いでも時間稼ぎにもなりませんね。冷気のせいでこれ以上、水の補給も出来そうに無いですし、私が満足に個性を使えるのはあと少しですね」

 

 上鳴と塩崎の事を逃さまいとこちらをじっと見据えて氷の操作を続ける轟。操作のために必要なのかその場から動いておらず、また火を出していないために服の端が自然と凍ってきている。

 

「上鳴さん、轟さんにも攻撃の影響がはっきり出てきてます。仕掛けましょう」

 

「一気に近づこうにも少し距離がある。あいつのフィールド内に入れば周囲から氷に襲われて固められるのが分かってるだろ?」

 

 強力な個性であるために轟にも影響は生じている。それでも熱系の個性をもたない者よりも耐性はある。同じ場に臨めば限界が来るのは二人の方が早い。

 

「私達のチームアップの理由は?」

 

「発目の仕返しと発目のアイテムを代わりに見せつける事だ」

 

「ならばどちらか一人でもエリアに向かうべきです。もう戦いを始めてかなりの時間が経ってます。移動するなら相手の意表を突くにも今がチャンスです」

 

 冷拳とバッテリーを一つお借りしても?と当たり前の様に問いかける塩崎。同じヒーロー志望とはいえ女性一人残して戦いから逃げる事は上鳴も認められないとごねる。

 

「私用のアイテムは内部の水が凍結して壊れています。継戦能力の低い私より、熱拳(ヒートナックル)と雷鉄蛇を持った上鳴さんが行く方が発目さんのためになります」

「…………作戦は?」

 

 不承不承と言った心情に変わりはないが、覚悟を決めた上鳴は気づかれないように静かに語る塩崎の声に耳を傾けた。

 

 

 


 

 

「……そろそろ距離を詰めるか」

 

 氷による探知があるとはいえ、直接目で見える範囲のほうが細かい操作が可能である。距離を離されすぎて、指定エリアに逃げ込まれても面倒になる。冷気の使いすぎで冷えた身体を暖めるためにも腕を地面から離そうとしたその時、急に動き方を変えたのを捉え、取りやめる。

 

 勝負を決めに来たのかと相手の動きに注視はするが、そもそも相手に動かせないのが一番だと相手の周囲を覆っていく様に氷を展開し直す。

 

 氷に覆われているために足を取られやすいので素早く動けない所を覆われたのは厳しそうに見えたが上鳴が氷で冷やされるのを考慮して熱拳で自身の拳が焼けるくらいまで高めた一撃で破った。

 

 壊された所から即座に氷を形成し直すがその間には隙間を通り抜けていく二人、その直後に二重目の氷の壁が飲み込んだ。

 

「…………」

 

 氷を壊す音が聞こえず、氷で何かを包み込んだのを確認する。拘束出来たのであれば氷を厚くすれば脱出は難しいだろうと氷の壁を塊に変えていく。

 

 数秒が経過しても動きが無いのを確認するとエリア移動を急ごうと踵を返すと光の位置を確認して走り出した。

 

「ッ!?」

 

 次の瞬間、地面から無数の蔓が飛び出して轟の周囲を覆った。氷を突き破ったソレを咄嗟に凍らせようと冷気を再び強めるが、その前に蔓が轟の周囲を囲い込んだ。

 

 水分を含む蔓は凍りやすく、強めた冷気によって轟は逆に閉じ込められる形となった。周りの氷を溶かすことになるが炎を出して脱出しようとした所で地面の下からさらに蔓が追加され、轟のものとは違う冷気が襲いかかった。

 

「火が保てねぇ……凍らせすぎたか……」

 

 轟は冷気が出始めたのと同時に片方が拘束から抜け出したのを確認した。だがもう一人はその場から動いている様に感じられない。

 

「時間稼ぎか?!」

 

 明らかに捨て身での行動に狙いはエリア移動を防ぐことによる脱落だと気付き、無理やり周囲の凍った蔓を排除しようと炎を灯す。

 

 炎を使うことで氷を使い続けていた身体を暖めることはできるが、凍った蔓はもやしにくく、気温のかなり低い場所で可燃物も少ない狭い空間で無理やり火をつけているので消耗は大きい。

 

 瞬間的に大火力で吹き飛ばせばとも思えるが冷えに冷えた空気を急激に熱した際の膨張を考えると危険になる。周りの蔓と氷の壁が壊れ、空気が流れ込めば自身を巻き込んで吹き飛ぶことになる。

 

「呼吸もこのままじゃきついか……少し体は暖まった。先に相手を潰す!!」

 

 轟は炎を消すと冷気や蔓が吹き出ている穴に逆に冷気を流し返し始めた。邪魔が大きくて外側の氷は操れないし、内側からでは勢いが足りない。

 

 それでも相手の邪魔がなくなれば脱出の目も見えてくる。個性を持ってる事で得ている耐性を考えて耐久戦に挑んだ。

 

 


 

 

『轟が蔓に囲まれたと思ったら氷に捕まった上鳴が飛び出したぁ!!そうして一気に氷の範囲から抜け出してエリアを目指し始めたぞ?!』

 

「装備がさっきまでと違うな……預けたんだとしたら行動からして塩崎が上鳴を逃がそうとしているのか?」

 

 上鳴は拳に着けていたナックルダスターの1つがなくなっている。鉄製の鞭のような武具は相手に取られていたのが確認できたが、あちらは壊れていなかったはずだと考察を述べる。

 

『何をしているのかわからないが塩崎と轟は動きがないぜ』

 

「どちらも数値を見ると呼吸が荒くなってるし、体温の低下も激しい」

 

 元から3人の戦闘が激しくなるにつれてバイタルを示す数値が乱れていたが、さらに体温が低下するとなると危険な状態になる。

 

『エリア移動の時間制限もどんどん近づいてるぜ!!上鳴はこのペースなら間に合うだろうが、残った二人はもう無理じゃねぇか?』

 

「移動手段がある轟が勝てば間に合うだろうが、塩崎は何かを見つけられない限りは無理だろうな」

 

 塩崎のアイテムは首に着けられたものだけだが、それも壊れており、消耗が激しい中で蔓を用いた移動すらも厳しい。

 

『あー、ボロボロだが都市エリアだからなぁ。車にバイクも私有地だから運転できるなら無免許でも使えるし、自転車でも急げば間に合うかもな』

 

「まぁ、どちらにせよ塩崎はここまでみたいだな。意識レベル規定まで低下、強制リタイアだ」

 

 その宣言と共に既にエリア外となった場所から救急部隊が戦っていた場所に向かいだした。残っていた最後のB組の脱落に落胆の声が少し響いていた。

 


 

 

 轟は相手からの冷気が収まり、蔓を壊すと自身の身体を暖めながら相手の姿を見ていた。ガチガチに冷え切った身体を支える様に持っているナックルダスターの類を手に取り、相手の身体を氷から離して保護する。

 

「こいつはサポート科の奴が作ったアイテムか……」

 

 バッテリーと無理やり繋いでかなりの冷気を生み出している。地面に伸ばした蔓とそれによって出来た穴から冷気を送り込んでいたようだが、アイテムと密接しての使用のせいで一部は凍傷を起こしている。

 

「急ぐか……」

 

 近くに少しでもマシになるようにと火を用意すると、逃した相手である上鳴の後を追うようにエリアへと移動を開始した。

 

 


 

 

『塩崎も中々に頑張ってたが流石に相性が悪いか〜』

 

「だが目標は達成している。上鳴がエリア移動するだけの時間は十分に稼いだ」

 

『まぁな!!第3種目での行動全てがパフォーマンスであり、評価対象!!仲間のために戦い抜いた有望な選手にClapHands!!』

 

「だが、つくづく運は悪いようだな。逃げた先でまた敵に会うとはな」

 

『おおっと?!エリア縮小時の移動で運を使い果たしたのか?ってくらいの不運だぜ!!上鳴と爆豪がここで衝突だ!!』

 

 


 

 

 それなりに広いとはいえ、1つのエリアに残った選手が集まるのだ。最後のエリアになるし、戦いも続くとは予想していたが、流石に笑えない状況に上鳴は悪態をつく。

 

「移動先でお前に会うって俺も運がねぇな」

 

「うるせぇ、ただでさえいらついてんだ。とっとと死ねや!!」

 

 疲労困憊な上鳴とイラつきからか多少本調子ではない爆豪。それでも、環境による悪影響がなく、身体の温まっている爆豪が優勢である。

 

 ハザードエリアではない住宅街、無駄な破壊行為は出来ないが、的確に上鳴の移動先を爆破して潰し、動きを制限する。

 

「冷拳だったら……いや、轟と違って周囲を冷やすまではならないか、爆発に晒されれば流石に壊れるだろうしな。っと!」

 

「ゴチャゴチャ喋って余裕だなぁ?!『焼夷弾(インセンディアリー)』!!『徹甲弾機関銃(A・P・ショット・オートカノン)』」

 

「家を燃やさずに囲うってお前のその器用さはなんなんだよ!!『雷鉄蛇』!!」

 

 火を起こして上鳴を逃さない様に囲い込む、そしてここぞとばかりに爆発を連続で撃ち込みダメージを与える。上鳴は焦りながらも熱に耐性のある熱拳を盾にして被害を少しでも防ぐ。

 

 そして炎で見えにくい中でなんとか雷鉄蛇を伸ばして家の屋根に引っ掛けると引き戻す勢いで飛び上がり、包囲網から抜け出す。

 

「逃がすかよ『爆速ターボ』!!」

「させるか!『前面放電(フロントディスチャージ)』!!」

 

 追い撃ちをかけるべく爆発で飛んでくる爆豪に対し、放電を行うことで接近を防ぐ。爆豪は素早く空中で爆発の方向を変えて対応するが、電撃も急に方向を変えたことにより被弾して爆破を撒き散らしながら地面に落ちた。

 

「チッ、何か仕込んでんな。『徹甲弾(A・P・ショット)』」

 

 食らった際に電撃が流れていた方向に爆破を放つと、崩れた壁から明らかに人工的な機構が組み込まれた銃弾がぽろりと落ち、そのまま音をたてて転がった。おそらく、爆破の音に紛れてこっそり撃ち込んでいたのだろうと当たりをつける。

 

「避雷針代わりか?小手先の技ばかりでひよってんのか?!」

 

「見抜くのが早えんだよ……誘爆してもあんなもんか、大技の時にでも狙ったほうが良かったな。プロテクターも爆破には意味なしか……」

 

 両腕の耐性は強いが身体全部が同じだけ強いというわけではないと踏んでの自爆を文字通り狙ったが効果は薄く。狙いこそ気付かれてはいないようだが、タネが割れた攻撃はもう喰らわないだろう。

 

 防御として服の下に貼り付けてあるプロテクター、電気を流して身体と反発させることで衝撃から身を守る構造になっているが、直接的な攻撃ではないのであまり意味をなしていない。現状での利点は吹っ飛んだ際に地面と擦れなくて済むくらいだ。

 

「せめてもう一泡吹かせねぇとな!!『過充電(オーバーチャージ)』『アシストバレット』!!」

 

 バッテリーに含まれる電気を全て取り込むとアシストバレットの避雷針弾と放電弾を爆豪のそばに撃ち込みながら突っ込む。

 

 見かけだけで何用の弾なのかまではわからないが仕掛けてきたものをそのまま見逃すわけがなく、爆破で効果の及ばない範囲まで弾く。

 

 それだけではないだろうと未だに距離を詰めてくる上鳴を見据えて爆破を繰り返す。いくつか被弾しながらも近づく上鳴を見据える。

 

「『局所帯電・反発(リペル)防御盾(プロテクター)』!!」

 

「チッ、『貫通弾(ペネトレイト)』!!」

 

 服の下に隠して纏っていたプロテクターに無理やり電流を流すと服を突き破って金属製の小さな板を爆豪へと飛ばす。上鳴に向かっていた爆破は壁に遮られ、そのまま爆豪へと迫る。

 

 爆豪はやはり何かを仕込んでいたかと舌打ちをしながらただの爆破では反らせないとすぐに判断して、板の角に向けて貫通性の高い、高威力の爆破を行い板の角度を変えて少しの移動でやり過ごす。

 

「『局所帯電・過負荷(オーバーロード)・雷神の剛腕』!!」

 

「『爆速ターボ・クラスターショット』!!」

 

 全ての電気を右腕に流し込んで放電しながら殴りかかる上鳴に対し、爆豪は直感的に上鳴に腕を向けながら爆破を行い後ろに下がりダメージを抑える。

 

 そして、そのまま後方で爆破を行い、再度上鳴に向けて飛ぶ勢いで接近すると衝撃をそのままに両腕での爆破を叩き込んだ。

 

「はぁ、はぁ、やっぱり強すぎるぜ……」

 

「当たり前だろうが…クソっ」

 

 相手の攻撃を全て防いだは良いが、その判断の速さが攻撃を喰らったら不味いと直感的に危機を感じたが故にである事に苛立ちがマシながらその場を離れた。

 

 


 

 

「勝負を急いだともとられかねないが、既にボロボロだった上鳴が勝てるとしたら速攻で仕掛けるしかなかった。判断は間違ってない」

 

 遠巻きにちまちまと攻撃していれば最初にやられた様に逃げ場を封じられて遠距離から完封される可能性が高かった。

 

「だがあの場面では何も考えずに放電する方が強かったかもしれないな。周りに仲間がもういないのだからあれだけ近づけば指向性を持たせなくてもそうそう逃げ切れん」

 

『んー、爆豪の急加速もあるが範囲次第ではあり得るか。考えて行動したのが裏目に出たか?』

 

「考えるのは悪くない。工夫を凝らして打つ手を増やすのは当然の努力でもある。だが新しい手が最善でなければ、今までのやり方が悪かった訳ではない。手が多くて考えすぎたのと、共闘が長くて咄嗟に全体攻撃を思い出せなかったんだろう」

 

 近くに仲間がいる状態でも戦える様になったのは成長だ。後は技を的確に選んでいけばもっと伸びる。

 

『まぁ、普段遣いしてるわけでもないアイテムまで上手く使って戦い抜いたが、判断力では爆豪の方が一枚上手だったってことだな』

 

「アイテムか……サポート科の発目、問題もよく起こすときくが技術力では他の生徒と比べて頭一個分飛び出ているな。正式に採用するには粗があるが、上鳴のアイテムは体育祭後にでも調整すれば職場体験には使えそうだな」

 

『外に依頼しても良いがあれだけ完成してるならその場で試しながら改良すりゃ十分使えるだろ!!今年の1年は本当にレベルが高ぇな!!』

 

 


 

 先にエリアへ移動した上鳴を追いかけていた轟、爆発音に気づいてはいたが、上鳴が倒されているかまでは分からず、エリア内でどこに向かおうか悩んでいると、衝撃に襲われてバランスを整えながら近くの建物に着地する。

 

「今のは……緑谷、お前か……」

 

 着地したのは住宅地のマンション群の一つであり、同じ様なマンションの屋上にクラスメイトの姿を見つけ、淡々と構える。

 

「轟くん、空から来るなんて大胆だね」

 

「時間が無かったからな。お前は自分から仕掛ける様なタイプには思わなかったけどな」

 

「ははは、僕も色々と思うところがあってね。ビクビクしてるだけで終わるわけにはいかないんだ。轟くんだって変わったんじゃない?」

 

「……そうかもな」

 

 教室での和やかな会話とは程遠く、両者ともに相手の一挙一動に注目し、目を細めている。それでもなんとなく楽しく思えてしまうのか互いに笑みを浮かべている。

 

「お前にも負けない」

 

「ここまで来たんだ。僕も負けない!!」

 

 仕掛けたのは殆ど同時だった。先程まで炎を使っていて身体が温まっていたのか、轟は氷を伸ばして攻撃する。

 

「『デラウェアスマッシュ』!!」

 

 力を込めたデコピンで伸びてくる氷を根本の方まで破壊し、そのまま連続で放って轟に逆に仕掛ける。

 

「『熱演』」

 

 氷で武器を形作る氷現と炎で動物を形を作る炎劇を同時に扱うと氷の武器と炎の動物で交互に攻撃していく。

 

「『ニューハンプシャースマッシュ』!!」

 

 身体を弱らせずに行える多角的な攻撃だが攻撃の勢いを利用した急加速で振り切り、難なく避ける緑谷。しっかりと形がある氷と違い、形を真似ているだけの炎はその際に生じた風圧でいくつかかき消されてしまっていた。

 

「知ってるやつ相手にはあまり意味がないか」

 

 細かい操作が出来る様になったが、炎を自由自在に操る個性という訳でもなく、形を作ってるのは意表を突くという意味が強く、炎で攻撃するだけなら纏めてぶつけたほうが威力も安定性も高い。

 

 氷はその点、形によっては強度が変わり、用途によって使う形を変えることで最適な答えを導くことを出来る。空気による減衰も少ないので単発の遠距離攻撃なら氷の方が適している。

 

「『炎翼』『抱擁』」

 

「うわぁ!?『デトロイトスマッシュ』!!」

 

 だが熱の広がりというのは馬鹿にできず、大きな炎をぶつけるのはそれだけで強力な攻撃となる。炎の翼の火力を高めると左右から挟み込むように動かす。

 

 生半可な攻撃では防げないと感じた緑谷は片方の翼を壊すことに集中し、拳圧で逃げ場を作る。しかし、火の粉が少し身体に飛び、ただでさえ動いて汗をかいてるところに全身が炙られるかのような熱が加わり苦い顔をする。

 

「『フルカウル』『ニューハンプシャースマッシュ』」

 

「すぐに近づいてくるか……『絶対零度(アブソリュートゼロ)』」

 

「ッ!?逃げっ、いや『フルカウル・オーバードライブ10』『デラウェアスマッシュ』!!」

 

「くっ、冷気が」

 

 弾かれた際に自身が喰らう可能性がある近くでは炎は使わないだろうと考え迫った緑屋に対し、炎を使って身体が暖まっていたので迫ってくる緑谷を自分ごと凍らせようとした轟。

 

 焦って逃げようとした緑谷であったが咄嗟に限界を超えた威力を指に込めて放つことで氷を壊し、冷気と衝撃によって生じた風を轟にぶつける事に成功する。しかし、使った指はもうこの後は使えないのが目に見えて分かるくらいボロボロに折れ曲がっていた。

 

 身体が冷え切って凍結能力が下がり、動きが鈍くなる轟。万全な状態に戻るために炎を使いたいが、ついてまわる緑谷が邪魔でそのままでは使えない。

 

「仕方ない『膨冷熱波』!!」

 

「くっ!?」

 

 緑谷への攻撃ではなく、周りの空気を暖める事で風を起こし距離を取りつつ、自身の身体を少しずつ暖める。

 

「『炎塊・渦流』!!」

 

 緑谷が大勢を崩している隙きに炎を貯めると熱を流すように緑谷に向けて放つ。

 

「もう一度指を犠牲にすれば……いや、それだと戦い続けても意味がない。なにか…なにか…あれだ!!」

 

 緑谷は炎の渦から猛スピードで逃げていくとマンションの屋上に設置されている設備を手に取って投げつけた。次の瞬間、設備は爆発し、物凄い勢いで蒸気を発生させ、炎と設備は跡形もなく消えてしまった。

 

「水蒸気爆発…なわけがないか……熱された水が膨張して破裂したのか」

 

 緑谷が投げたのは屋上に設置されていた水を溜め込むタンクで、一気に熱された事で内部の水が膨張、タンクを破壊して周囲に降り注いだのだ。

 

 蒸発した水で視界はかなり白く染まっており、互いに姿は見えなくなっている。蒸気ならばと凍らし直して炙り出そうと冷気を伝わらせていく。

 

 塊のまま凍るわけがなく、凍った部分から雹の様になって落ちていく。蒸気の全てが下へ落ちていき視界が晴れてもその場に緑谷の姿は見つからなかった。

 

「逃げたのか?いや、潜んでるだけか?」

 

 先程の出会った際の意気込みからして戦いから逃げるような真似をするのか?と疑問が湧く。優勝を狙うという意味なら分からなくはないが、別に緑谷が特別不利な状況でなかった故にそれも否定する。

 

「『フルカウル・オーバードライブ・スマッシュ』!!」

 

「『穿天氷壁』!!グッ…アァ!?」

 

 自身の立っている建物からピシリと音が聞こえ、咄嗟に氷壁で攻撃を防ごうとしたが、割られた氷と共に吹き飛ばされる轟。

 

 炎を出して姿勢を制御しようとするも、壁に叩きつけられる方が早く、そのまま意識をおとした。

 

「っとと、キャッチ?!」

 

 壁に軽く埋もれている轟であったが炎の噴出自体は間に合っていたようで受け身は取れており、気を失っているだけのようだ。

 

 落ちる前に緑谷がその身体を抱きとめて静かに地面に降ろした事で二人の戦いの決着は着いた。

 

 


 

 

「焦凍?!なにをやっているんだ!!」

 

 会場の中で倒された事による心配ではなく、負けたことを責める様な声が歓声にかき消されながら叫ぶ。

 

「そもそも、あの相手……スマッシュなどと叫んでオールマイトのファンか?なぜそんな奴に負ける」

 

 自分の息子がオールマイトのファンに負けたという事実が苛立たせる。しかし、そんな中でも力量は見ていたようだ。

 

「オールマイトと同質の個性か…自傷するなどと中途半端だが、あれは本当にそれだけか?まさか、アイツの隠し子……いや流石に立場を考えるだろう。となれば弟子などでも作っていたのか?急に教員などになったのもそのせいか」

 

 


 

 轟を倒して安心していたが体育祭は終わっておらず、まだ選手が残っている。気を抜くことはなく、立ち上がろうと手足に力を込めているとすぐ近くの地面が弾けた。

 

「かっちゃん……」

 

「クソデクが、んな呼び方すんじゃねえ!!」

 

 苛立ちを隠さずに両手から爆発を放ったかと思うと、緑谷と爆豪を追っていたであろうカメラ付きドローンが煙を上げながら落ちてきた。

 

「何してるの?!それ学校のだよ!?」

 

「んなことどうでも良いんだよ!!貰った個性だの何だの言い訳して、戦闘訓練に、USJ、ここでも結果を見せて、俺を馬鹿にしてんのか?」

 

「そんな、馬鹿になんて……」

 

「なら、なんで何も言わねぇ!!やり返す事もしねぇ!!俺なんて関係ねぇのか?眼中にないってのか?!クソデクが調子にのってんじゃねぇ!!」

 

 怒りをぶつける様に爆発を繰り返す爆豪、これまでの山稜との戦いでの苛つきはもちろん、入学してからの不安と焦燥感も合わせて、心操による揺さぶりによって表面化してしまっている。

 

 自然と見送ってしまった心操の事は忘れ、上鳴と戦い少しだけ自信を回復させたが最後の行動で自分の負けを認めてしまったかのようで精神が不安定に傾いた。

 

 それでもドローンを壊してから会話に入っている当たりの頭の回りは残っているようで、緑谷の話せない事情を本当だと思っているからの行動だろう。

 

「チビ女も倒す!!お前も倒す!!そうじゃねえと、オレは…オレは…認められねぇんだよ!!『貫通弾』!!」

 

「かっちゃん?!『デラウェアスマッシュ』!!」

 

 どこかいつもと違うようにも見える爆豪の様子に驚きながらも攻撃に反応する緑谷。そのまま、誰の目にも触れられナチ戦いが始まってしまった。

 

 


 

 

 観客には映している映像が途切れたのは戦闘に巻き込まれた事による影響だと伝えたが、一部のヒーローたちは疑問に思っているようだ。放送スイッチを一度オフにしてイレイザーとマイクの二人は素早く状況を確認している。

 

『おいおい、いきなりドローンを破壊しやがったぜ爆豪?!どういうことだ?!』

「一気に心拍やらが乱れた……おそらく心操に何か掛けられてたんだろう。精神状態が不安定になってる。無事なドローンを回せ、場合によっては強制リタイアだ。緑谷もそうだが爆豪自身も危険だ」

 

 精神状態が荒れたままにしていればどういう症状が残るかわかったものじゃない。傷にでもなれば、ヒーローを目指す以前の問題である。

 

『その心操も中々にえぐい状況だけどな』

「あぁ、同じ中学で家族ぐるみの付き合いがある。今は同棲中であり、仲は良好のはずだがな」

『それにしては容赦のない殴り合いだな。何度血を吐いてんだ心操?山稜もどうなってんのか分かんねぇがダメージを受けてる』

「心操は無茶のしすぎだ。個性を除けば身体は普通の人間と一緒だ。痛みや疲労という警告を無視して動いてんだ。勝っても負けても病院送りだ。山稜についてはUSJのときと同じで防げでない攻撃がそのまま流れてる。心操は共に訓練した時間が長い。山稜の個性に詳しいなら弱点や抜け道を知っててもおかしくない」

 

 全国で賑わいを見せるほどの大イベントである雄英体育祭、1年のレベルが高いのもそうだが、ここに来て問題も多くなってきた事にため息を吐くイレイザー。

 

「あいつら全員ら終わったら面談と反省文だ」

 

 


 

 どちらも身体を鍛えてはいるが、やはり女性である山稜よりは心操の方が筋肉がついており、力も強い。そこに個性によって限界を取っ払っているとなると普通の殴り合いではまず山稜が勝つことはない。

 

 それ故にタネが割れない限りは絶対の防御を誇る『プリズム』を山稜は展開する。それでも心操はダメージを入れるのだから山稜からしてみればたまったものじゃない。

 

 エネルギー消失に対しては二重三重に同じ所を攻撃することでプリズムを消し去り、対物理のプリズムに対しては攻撃先を増やすことで一点に必要な消費エネルギーを増やさせ、消耗させてり、必要なエネルギーを分散させたのを読んで一点突破に切り替える。

 

 

 消失のプリズムを生み出すにも消耗はある。生み出す数を渋って殴り負ければダメージを負う。

 

 

 吸収のプリズムは他のエネルギーが尽きると物理防御の性能も落ちる。周囲に流そうにも多方面に展開すると今のエネルギー量では流す前に個々のプリズムに限界がきて押し負ける。

 

 

 移動などに使うプリズムは防御性能がないので狙われると一気にダメージを負う可能性がある。

 

 

 透明化などの細かい操作はこの状況下では無駄でしかなく、ただただ疲労が増すだけである。

 

 

 後は読み合いと泥沼の殴り合いである。心操はどのプリズムにどれだけのエネルギーを割いているのか、展開したプリズムの種類はどっちなのかを読み取り。山稜はどこに攻撃を繰り出すのか、どのタイミングで力を込めるのかを読み取る。

 

 山稜が返ってくるダメージでやられるのが先か、心操がこれまでの無茶も含めて倒れるのが先か。

 

「俺は、『強い』!!」

 

「私は、負けない!!」

 

 最後は意地の張り合いのような叫びと共に動き出した。心操の最後の自己暗示に呼応する様にプリズムを張った。心操の振り上げた拳はプリズムに触れることは無かった。

 

「はっ!!」

 

 プリズムをすり抜けた事で、見せかけだけのプリズムだと判断し、即座に山稜本人を狙おうと切り替えたが次の瞬間には腕を取られてカウンターの一撃をくらって立ち上がれずに崩れた。

 

「探知か?」

 

「守りを捨てるとは思わなかった?」

 

「負けか……」

 

「うぅん、私ももう限界……」

 

 声も掠れながらも疑問を口に出す心操に答えながら山稜もダメージが大きかったようでその場に倒れ込んだ。互いに指一本動かす事も出来ずに救助を待つばかりとなった。

 

 


 

『心操と山稜、まさかの共にダウン!!』

 

「これで残ってるのは現在戦ってる緑谷と爆豪だな」

 

『雄英体育祭、1年の部、長引いたが後はこの戦いを見守るだけだ!!いったい勝利の女神はどちらに微笑むのか!』

 

 


 

 爆発と拳圧が吹き荒れ、エリアの一角は少しずつ崩れ落ち、ボロボロになっている。

 

「避けんじゃねぇ!!」

 

「無茶言わないでよ?!」

 

 本格的に鍛えた時間はヒーロー科の中では最も短いであろう緑谷はクラスメイトと比べると体つきは良くなってるとはいえ自身のパワーに負ける程度には貧弱である。爆発など正面から喰らえばすぐにアウトだ。

 

 爆発そのものも危険だが、それによって飛び散る瓦礫や視界を妨げる砂埃も動きを阻害する。逃げ場が少なくなっていく中でフルカウルの身体能力で飛び跳ねてどうにか足場を確保し、距離をとる。

 

「『爆速ターボ・クラスターショット』」

 

 崩れて中の通路が見えるようになってしまった建物を足場に上へ上へと逃げていると、粉塵を掻き分ける様に爆豪が迫ってくる。腕を伸ばせば届く距離に来ると腕の向きを反転させ、両手を用いて特大の爆発を放った。

 

「『ニューハンプシャースマッシュ』!!」

 

 力を込めて相殺するには間に合わないと直撃をさけるために拳圧と爆風を利用して大きく距離をとる。熱が全身を遅い、肌が焼けるような思いをしながらもどうにか逃げ切る緑谷。

 

「明らかに様子がおかしい……心操くんと戦ってなにか暗示を受けたのかな?」

 

 暗示の怖いところは洗脳と違って外からの刺激だけでは簡単に解けないという点だ。刺激も効果がないわけではないが、かけられた本人が気付くか、意識を失いでもしないと完全には解けない。

 

 その場にいない緑谷ではどのような暗示がかけられたのか分からない以上は不安定な爆豪と会話して気付かせるか、戦って倒すしかない。

 

「かっちゃんがなにか悩んでる?あのかっちゃんが……」

 

 緑谷の中では爆豪勝己の存在はとても大きい、ヒーローとしての印象ではオールマイトがそうだが、身近なすごい存在としては一番だろう。

 

 そんな爆豪でも敵わないものがいるという事は雄英高校に入ってから見てきた。それでも爆豪が悩んでいるなんて事は信じられなかった。

 

「でも僕がやるしかない!!」

 

 そう意気込んだ瞬間、物凄い轟音と共に足場も壁も天井も全てが崩れて吹き飛び、緑谷もそのまま落ちていった。

 


 

 

 イライラする。頭に血がのぼり、身体が熱くなっているが個性の回りが早いからそれは構わねぇ。爆発をぶつけたが手応えが薄い、煙に紛れて逃げたのは分かっている。

 

「『攻城砲』!!」

 

 建物ごと吹き飛ばせば確実に当たる。戦闘訓練と違って、渋る理由がねぇんだ。

 

「『デトロイトスマッシュ』!!」

 

 チビ女を倒すために用意していた技の1つが直撃じゃねぇとはいえ、なんでくらっといて堪えてねぇんだよ。

 

「お前がなんで立ち上がれるんだよ……お前は、弱くて、何もできねぇデクのはずだろ……そうじゃねえと俺は何だったんだよ……」

 

 こっちに向かってくるアイツを爆破する。避けるのは分かってる。それでも繰り返す、当たってもあいつはこちらに向かってくる。なんで笑ってんだよ……

 

「かっちゃんの爆破はすごいね。一気に吹き飛ばされちゃったよ」

 

 じゃあなんでヘラヘラ笑ってんだよ。遠回しに俺の爆破なんて大したことがねぇって言いたいのかよ。ふざけんじゃねぇ。

 

「俺の攻撃を受けて笑ってんじゃねえ。その余裕面を壊してやる!!」

 

「余裕なんてないよ!服もボロボロ、熱風で火傷も多いし、体中が痛いよ」

 

 痛いんなら、辛いんなら、なんでそんなに()()()()()笑ってんだよ。

 

「えっと、それは、楽しいからかな?」

 

 俺を馬鹿にして楽しいのか、そうかよ。それが仕返しか?そうだよな。いつも内心で俺を馬鹿にしてたんだろ。

 

「違うよ。かっちゃんと、あのかっちゃんと戦えるのが楽しいんだよ!!」

 

 アァ!?何を言ってんだこいつ。戦うのが楽しい?痛みつけられて楽しいってふざけてんのか。

 

 

「僕は昔からかっちゃんを見てた。かっちゃんはすごいよ。誰よりも強くて、かっこよくて、敵わないと思ってた。うぅん、今でも勝てないんじゃないかって思ってるんだ。そんなかっちゃんと僕なんかが戦える。同じ場所に立てるのが嬉しいんだよ!!」

 

「…………舐めた事、言ってんじゃねぇぞ!!クソナードがぁ!!」

 

 頭がガンガンしやがる。デクの言葉が頭の中で響いていた。分かってたことだろうが……クソっ、俺らしくもねぇ。声真似やろう後でぶっ殺す。

 

「そうだ。お前が俺に勝てる訳がねぇんだよ!!」

 

「かっちゃんはすごい!!だから…だから僕は今、ここで全力で戦ってるんだ!!」

 

 こいつの事情なんてどうでも良いんだよ。殺して殺してぶっ殺して、俺が勝つ!!

 

「『フルカウル・オーバードライブ』『デラウェア・デトロイト・スマッシュ』!!」

 

「んなもん当たってやるか!!『爆速ターボ・クラスター』!!」

 

 攻撃を見切って爆破を叩き込む。デクは空中に放り出されて、体勢を立て直そうとしてる。

 

「もういっちょ吹き飛びやがれ!!『爆破式カタパルト(エクスカタパルト)』」

 

「『デトロイトスマッシュ』!!」

 

 拳圧での移動もそこそこだが、地上と比べれば遅え。途中で攻勢に移ったが、爆破の推進力がある俺の方が速い。

 

「はっ、オールマイトのとは迫力が桁違いだ。出直してこい!!『榴弾砲着弾《ハウザーインパクト》』!!」

 

 地上から空に打ち上げ、立て直そうとしている所を投げ飛ばし、最後に胴体に一撃を決めた。

 

「はぁ、はぁ、クソっ。気絶してねぇのかよ」

 

「…は、はは、かっちゃんはやっぱりすごいね」

 

 そう言い残すとクソナードはエリア外に身体を倒した。気絶させてエリア外まで吹き飛ばす気だったが、ギリギリで耐えやがって。

 

「チッ、回収班はどこだ。手間かけさせやがって」

 

 

 

 

 雄英体育祭1年 優勝者 爆豪勝己

 

 

 

 




という事で勝者は爆豪でした。いゃあ〜初期の予定と全く違うな〜なんでこうなったんだろう?オリ主の山稜か、急成長した緑谷が勝つ予定の旧プロットが手元にあるぞ?

まぁ、元から書いてるうちに変更しまくって遅れた作品だったけど、書き始めの頃と比べると全体的にボロボロな気がします。

チート過ぎる的なコメントを見て、手直ししたのが始まりだけど、整合性がないんだよな山稜の個性。

最後の戦いもイレギュラー同士を潰させて省いて、原作にいるキャラで終わらせた感が強い。八百万は元から残った組と戦えばすぐやられそうと考えてたのであれは規定の路線です。

他の個性対決はまぁ、中二臭い技名は置いといてもそれなりに考えてたし、発目のサポートアイテムなんかもチートじみてたけどまだ許容範囲内だと思ってる。

正直手直ししたいと思う自分がいるけどスマホでそんな事やってたら終わる前に寿命がくるね。いつかの後書きで悪夢までは、書きたいとかほざいてたけど、現状だと難しいかな。

とりあえず、近いうちに表彰式は上げると思います。今後はなぁ。どうしようかなぁ。オリ主のオリジン的な話もまだかけてないけど、一旦終わらせようかな。

最初から作り直すか、今のを修正するかはわからないけど続きを書くにしても手直しは必須。となると時間と設備を用意するためにもいったん区切りにしようかな。

というわけで、中途半端な所で終わりになりますが、次でいったん終わりです。

といった唐突な打ち切り宣言。
そしていつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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30 雄英体育祭 終

更新ですが内容はほぼないです。


 

 

 

 波乱万丈と一言で纏めてしまうには惜しいくらいの戦いを繰り広げた一年の体育祭。例年とは大きく形を変えていたことなども相まって世間の注目度は元から高かったが一気に評価は鰻登りとなる。

 

 ヒーローについての情報は様々な場所では語られ、噂などもすぐに広がる。雄英体育祭が開催された後はしばらく学生の話も話題になるが今年は75日で掻き消える事はなさそうだ。

 

 そして長く、終わってみれば短くも思える時間も終わりを告げる。ボロボロではあったが意識は残っている優勝者が最低限の治療を終わらして会場へと現れた。

 

 その周囲には怪我の少なかった選手や治療が既に済んでいた選手の姿もあり、表彰される同じ一年の仲間を見守る様に立っている。視線をうっとおしく思いつつも結果を受け止めて黙っている彼の目の前に憧れが現れた。

 

「私がメダルを持ってきた!!」

 

 熱響が会場を包んでいたがヒーローのトップが未来のヒーローを称える為に現れるとピタリと静寂が広がり、黙ってその姿を見ていた。

 

「まずは長い第三競技みんなお疲れ様!!」

 

 オールマイトの労いの言葉と共に会場中から拍手がチラホラとなり始め、健闘を称えるソレは最終的には外にまで響く程になった。おそらく会場にいない、テレビなどのメディアを通して見ている人たちも今この瞬間は拍手をしているだろう。

 

「ヒーローを志す者として仲間として ライバルとして競い、高めあった君たちの姿に、未来は明るいと感じさせられた」

 

 トップヒーローからの暖かい言葉に喜ぶもの、悔やむもの、居心地の悪そうなもの、反応は十人十色と違っていたが皆が受け止めていた。

 

「そして、多くの戦いがあり、ドラマがある中で最後まで戦い抜き、君は勝利を勝ち取った。爆豪勝己少年、優勝おめでとう!!」

 

「……ああ」

 

 メダルを受け取り、嬉しそうな顔を浮かべたがそれは数秒も立たずに潜んでしまい。考え込むように少し視線が下に向かった。離れた観客席の人や周りにいる生徒は気付けないが目の前にいるオールマイトだけはソレに気づいた。

 

「不満そうだね?なにか思う事があるのかもしれないが、悩むことはいつでも出来る。こういう時は笑いなさい。その方がみんな安心する。周りをみてご覧」

 

「……ああ!!」

 

 爆豪は会場を埋め尽くす観客と見守っている仲間の姿を見渡すとオールマイトの言葉に頷いて、見せつける様にメダルを掲げた。歓声と拍手が圧を感じるまでに絶えず響き、ヒーローの重さの片鱗を感じ取った。

 

「今年は本当に誰が優勝しても、おかしくはなかった。皆が皆、全力で優勝を目指し切磋琢磨した!!この雄英体育祭を戦い抜いた者たちに再度拍手をそして、最後はこの言葉で締めましょう!!」

 

 

『プルスウルトラ!!』

 

 

 






ヒロアカは二次創作が多く参考になる作品も多い中で色々と中途半端になってしまった事は申し訳ないですが、いったんこれでおしまいです。

設定とかの矛盾とかもチラホラとあり、このまま進めるとどうしてもおかしな部分がこれまで以上に出てしまうので続きを書くことがあるとしたら先に修正をしてからになると思います。書き直すと決めた訳ではありませんが、やるとしたら修正版を別で上げる形になると思います

打ち切りに近い形ですが区切りまで小説を書ききったのはこれが初めてです。本当に未熟さを知らしめる結果となりましたが、私の中では勝手な満足感もあります。

誤字を指摘してくれた方々やアンケートに参加してくださった方々、評価、感想を送ってくださった皆様。読んでくれている方々に本当に多大なる感謝の念でいっぱいです。

こんなお別れの仕方ですみませんとしか言いようがありませんが、また何処かでお会い出来る事があればよろしくお願いします。

それではいつもと違った挨拶でさようなら。

この作品を知ってくれた方々に多大なる感謝を。


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