ワールドトリガー もう一人の家族 (ひよっこ召喚士)
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空閑悠菜①

二次創作の投稿、そしてハーメルンでの小説の投稿は初めてです。
やり方で間違っている点や理解できていない点がありそうで怖いです。
気になる点があったらお教えいただけると嬉しいです。

始めのうちは無駄にも思える設定や説明が多いので読みにくい点もあると思います(確信)ですがそのうち、というより原作が開始したらある程度マシになると思います。

別サイトでオリジナル小説を書いていたのですが、スランプと時間が取れない事が重なり、息抜きを兼ねてネタが思いつく限りやってみようと思い投稿しました。とりあえず書きあがってる部分まで投稿します。続きが書けるかどうかは分かりません。書きたいとは思ってますが打ち切る可能性も普通にあります。

以上の点を踏まえても読んでくれる方のみ進むことを推奨します。




 古臭い硝煙の匂いこそしないものの口を開くことの無い骸から漂うと血と破壊された都市の瓦礫から出る砂や煤で満ち溢れる。慣れ親しんだ景色と感覚に酔いしれるほど狂ってはいないが何も感じなくなりつつある自身に嫌気がさす。戦場であったかつての首都を堂々と歩き目指すは外観を失い、形だけを保っている城塞。既に戦う力などは残っていないが意地になり、自棄を起こした者達の後始末が残っている。

 

「どれだけ味方で良かったと思わせてくれるのかい、君は」

 

 この惨状としか言えない荒廃に感嘆の声を上げるのは契約関係(パートナー)の男だ。荒くれと言う訳では無いが変わり者の多い傭兵を取りまとめるリーダーだけあって豪胆である。同じ傭兵仲間の者達には配慮も隠すことも忘れて畏怖の視線を向けている者もいるのだが、そんなことは知らんとばかりに仕事に集中する。それと、今の発言は回りくどいがたぶん誉め言葉なのだろう。

 

「良い言葉を教えてあげましょう。私の故郷にですが金の切れ目が縁の切れ目と言うのですよ」

 

 仕事だけの関係であり、それ以上を望むことは無いようにと言う注意だけをして終わりにしておく、私にしては長い期間を共にしているので情が一切ないとは言えないが、集団に属する事はしない。むしろ情があるからこそ警告ですらなく言葉で済ませているのだから。

 

「それは私達傭兵も同じだな。だからこそ君との縁が切れたら全力で逃げさせてもらうよ」

 

 笑いながら冗談を言うような口調で告げるのは敵対することは無いと言う主張。利が無ければ動かないのは一緒であるがお互いを尊重して守り合う姿には思う所がある。全てを否定することは無いが、自分がその輪に入る事はあまり無いだろう。達観した心も荒んだ心も持ち合わせていないが独りが似合っていると自負している。

 

「ん?んんっ!やってくれたみたいですね」

 

 大きいトリオン反応が現れると同時に潰えた。喋りながら少しずつ目的地に近づいていたので既に肉眼での確認も可能な位置に居る。目を凝らすとやはり一名減っていた。籠城する事すら許さない無差別攻撃を絶え凌いだ猛者が残したブラックトリガーだ。貰って行かないと言う選択肢は無いだろう。

 

「契約通りここから先は一人でやらせてもらいます。そちらは船の方へ戻って撤収と次への準備を進めておいてください」

 

「ブラックトリガーか、分かった。撤収するぞ!!」

 

 契約でブラックトリガーは貰い受けることになっている。性能が分からない相手には意識して事に当たらなくてはならないので邪魔が入ることの無いよう事前の取り決め通り一人で向かわせてもらう。崩れてボロボロの砦に何かが残っているとも思わないが何処に何があって何処に敵がいるのか見える私なら安全に内側まで入り込むことが出来た。

 

「向こうも十分離れたかな?」

 

 協力関係にある相手を巻き込むようでは最低限必要とされる商売的信頼の獲得が難しくなってくる。このような生活を続けていくためにも守るべきルールは存在する。向こうからこちらを探られる事は出来ないのですぐそばに潜み続けて退却完了を待っても問題ない。どうせなら向こうの声を拾っておいても良いだろう。耳に集中してみれば床一枚などないも同然だ。

 

「……反応は消失したままか?」

 

 人が少なく、穴だらけでボロボロな部屋では声は響くことなく消えている。その情景を想像してみると寂しくもあり、儚くもある。引き起こした身としては侮辱にしかならない同情が湧くわけもなく、小さい声を聞きとることにしか意識を割いていない。

 

「憶測になりますが向こうは撤退しているように感じます」

 

 トリオンとそれ以外のあらゆる資源のラインを破壊したうえで軍事施設、生活施設問わず都市内外の機械、特に通信系は奇襲と共にスクラップに変えた。予備があったとしても中継地点が壊れているので連絡を取られることは無いだろうが、こちらの動向を探られていたのは少し面倒だったかもしれない。

 

「気づかれたとでもいうのか!?」

 

 焦りか、怒りか、その表情()こそ分からないが不安定な心は精神を疲弊させる。状況が分からない恐怖と相手に気付かれたかも知れないと言う恐怖に押しつぶされてくれれば万々歳である。

 

「ウェイン落ち着け、そうと決まったわけでは無い。悔しいがこちらが何も出来ずに壊滅した現状から考えれば向こうが追撃の必要性なしと判断し撤退してもおかしくはない。首都以外の基地にもまだ戦力は残っているからこちらの惨状に気付かれる前に各個撃破するよう作戦を立てていてもおかしくない」

 

「敵の都合なんかどうでも良いんだよ。あいつの、グシオンの覚悟はどうすればいいんだ」

 

 ウェイン、東部の前線を押し上げた装甲型トリガー使いか?東部司令の代理で会議に報告に来ていたのか。硬く耐久性に優れ、一撃の重い装備するトリガー、トリオン消費が半端では無いと言うのに前線で三日三晩戦ったとか、何でも莫大なトリオン量任せの滅茶苦茶な戦いをすると言う情報だったな。グシオンは……そうだ敵の作戦指令所に名前があって調べた。確かクトゥム参謀統括の子飼いだったか。作戦立案能力で取り立てられたと言うからトリオン能力は低いかと思っていたが本部のバッテリー要因でもあったのか?会話から考えるにブラックトリガーと成ったのはそいつだろう。それとこの声はガイル軍事総司令か、全員確認は出来ないが会議の出席者とその御供が生き残ったか。

 

 

(死んでほしい理由(能力)のある奴ほど生き残る)

 

 

「どちらにせよ各司令部はもちろん街々への連絡機関も壊され連絡は一切出来ない。いくら予想しようとも撤退を選んだ敵の行動、その真意が分からないのにこちらからの反撃は危険だろう」

 

「そもそも前線や司令部に人員を回しているとはいえ首都を落とされたのだ。まず再起は望めないと思って行動した方が良い。あれだけの被害を出す攻撃はノーマルトリガーとは思えん。そのブラックトリガーを確実に守り、首都から離れて情報を伝えるべきだ」

 

「そうですね。彼の思いを無駄にしない為にも今は保身に走るしかないでしょう。悔しい気持ちは全員同じなはずですよ」

 

「向こうは拠点と思われる位置に留まっています。東の山岳地帯の裏に遠征艇を置いてると思われるので北と南に分かれて抜けれれば、罠の可能性を考えなくは無いですが二手に分かれる事で生存確率も上がります。そしてウェインさんは時間をずらしてより南に位置する森に紛れて確実にブラックトリガーを持ち出してください」

 

「北と南の部隊はどちらも囮ですか、まあそれが無難でしょう。変に部隊を分けすぎても逆に疑われる原因になるでしょう。念のため北と南へ向かう部隊も時間差で出た方が良いでしょう。ウェイン殿もそれで良いですね?」

 

「......分かった」

 

 敗北を飲み込み、次につなげるための策を必死に考え、軍部の高官の者達が自信を捨て石にしてでも生かそうとするブラックトリガー(可能性)適合者(担い手)であるウェイン。その全てが無意味であったと言う事を伝える準備は整った。向こうの会話でも出ていたが既に退却は完了した。

 

「トリガー解除(オフ)

 

 上から忍び込むのに必要だった身体能力の補助に重きを置いたトリガーでは戦いに向かない。馬鹿みたいなトリオンと副作用(サイドエフェクト)を利用しての特殊なトリガーを普段から使用しているがその中でも取り分け融通の利かない()()()()の最悪な災害トリガーを取り出した。

 

「トリガー起動(オン)

 

 遅れている星では民間の家屋や軍事施設以外はトリオンを用いない純粋な建築が行われているが小さい国だが技術面ではそれなりに誇れるであろう面が多いようで城塞ももれなくトリオンで形作られているようだ。既に周囲の崩壊が始まった。

 

 効果範囲は先だって使った範囲殲滅用トリガーと比べれば狭いうえに起動者を中心に外に向かうほど威力が弱くなってしまう。それでも城塞と首都の真ん中くらいまでは崩れ去ってくれるだろうが十分な効果を発揮させるために今立っている崩れ始めている床を蹴り砕いて作戦立案に使われていた机らしき位置へと荒々しく降り立った。

 

「な、襲撃か!!」

 

 突如として崩れ始めた城塞の様子に驚き、対応に当たろうとしていた場所に姿を現したのだ。全員が手にかけていたトリガーをすかさず起動する。その瞬間に各々が攻撃を放ち、また身を守ろうとする。弾を撃つ者、剣を振り抜く者、シールドを張る者、この国の自慢である装甲を身にまとい殴りかかってくる者。その全てが形を成した瞬間に周囲の建物と同じように崩れ去った。覚悟を決めてブラックトリガーを起動したウェインもそれは例外では無かった。

 

「な!?武器が崩れただと」

 

「シールドも……いや違う!!トリオンで作られた物が全て崩れているぞ!!」

 

 これほど早く特性に気付くとは戦力差が劣勢でありながら技術と戦略で生き残り続けた計略国家の人間。その通りトリオン効率の悪さと自身も巻き込むと言う条件の下で作成されたブラックトリガーにも劣らない理不尽を売りにしたトリガー。

 

「ぐ、トリオン体までも分解されていっている」

 

「トリオンが漏れ出て、このままでは換装が」

 

 既にトリオン効率の悪い装甲トリガーとブラックトリガーを起動していた者はトリオン切れを起こして換装から解けて弱い肉体に戻っている。()()()()と言ったようにその効果は使用者である私に一番の効力を発している。だがこのトリガーは単純な力技の結果であるためトリオン効率は非常に食っているがトリガーの機能リソースは大いに余っている。そこに効率は悪いがトリオン体の回復効果を詰め込んである。トリオン効率の悪さを仕事量に直すとすれば飛行機を一人で引っ張ろうとするぐらいには無茶苦茶である。それを可能にするのは生まれ持った()()()()()()()()()ほどのトリオン量が成せる技だ。

 

 立ち向かおうとせずに一目散にバラバラに逃げるような事になれば別のトリガーを使用して撃破しなければいけなかったが一番効果の高い私へ自分たちで近づいてくれるのだから本当に有難い。まだギリギリでトリオン体を保っている者が逃げ出そうとするが近づいて触れるだけで今は攻撃以上に効果がある。狭い部屋の中での鬼ごっこから逃げきれる者はいなかった。別に逃げたとしても首都の中央一帯には多少の効果が広がっているのだからじり貧で倒れることになる。そのため一人二人なら逃しても別に良かったのだが徹底した行動が求められている今やる事ではない。

 

「ここから離れ『捕まえた』」

 

 何もすることなく、抵抗の一つさえ許されずに軍隊所属のエリートとブラックトリガー使いを戦闘不能に追い込んだ。全員の体内のトリオンが枯渇したことを確認してから別のトリガーを起動しなおす。

 

「契約の関係上あなた方は捕虜として扱わせて頂く、全てのトリガーを提出し私に着いてきて貰う」

 

「……分かった。従おう」

 

 苦悩の表情を一瞬見せたものの悩む時間も選択肢も存在しない事に思い至り無力感に打ち震えながら軍事総司令が投降することを宣言した。撤退を待っていた三十分の時間を含めても一時間も経っていない。あまりにも早い決着であった。

 

 この星にある国々の中でも技術の独自発展を遂げていたトリガーも収穫的には非常に美味しいが何よりブラックトリガーが良い。これで私のブラックトリガーの()()()()()()が一つ増えた事になる。攻撃と防御の双方を重視した近接格闘型のトリガー、初めて見る部類であったが身体制御能力は目を見張るものがあった。トリオン能力が高くなければその利点もあまり活かせないが解析次第で他に流用することが可能だろう。

 

 跡形もなく消え去った城塞と建物が全て崩れて平坦な地面が広がるだけの街並みとも言えない光景に苛立ちの感情すら湧かない捕虜となった者達。今回は比較的トリオンを消費したので移動の為だけに使うのもどうかとは思ったが捕虜のペースに合わせていたら日が暮れてしまうので自分の船を目印に(ゲート)を開いた。

 

「続いて入れ」

 

 先に捕虜に進ませた方が万が一にも逃亡される危険性が無いのだが既に抗う気力なく、護身用程度のトリガーさえも取り上げられている彼らがそのような行動に出るほど愚かだとは思っていない。生身の人間がどれだけ急いで逃げようと行き着く先は見えている。

 

 自身の船から少し歩けば傭兵団の拠点が展開されている場所に着く、捕虜を管理できるほどのスペースはこちらの船には無い。個人用の船としてはありえない大きさではあるがそもそも遠征用の船では無いのだからそう言った機能やスペースは考えられていない。向こうは大人数で負担し合う事を前提に作られた大型の船になっているので荷物を詰めれば十人ぐらいであれば載せて運ぶことも可能だろう。

 

 念のため船同士の通信システムを通して捕虜を連れてそちらの拠点へ向かう旨を伝えると準備は既に終わらせてあるので捕虜の受け取りにこちらから向かいを出すと提案された。こちらも船に戦利品を置けばすぐにでも飛ぶことが出来る状態なので余裕はあるのだが折角なのでお願いした。 

 

 軽く拘束して置くだけでも問題は無いとは思うが、外に放置する前にそれとなく監視が出来ている事を匂わして変な気を起こさない様に釘をさす。捕虜の回収が済んだら各司令部を依頼国(クライアント)と挟み撃ちする形で襲い、戦争を終わらせる。

 

 依頼国からの報酬としてのトリガーと一部技術、襲撃の際に手に入れたブラックトリガーを含む全トリガーの提出免除、金銭的報酬は一切無いが戦闘員としても技術者としても十分利がある話だった。戦争が収束するまでと言う少々曖昧で面倒な契約期間であったがここまでくれば収束まで一年も掛からないだろう。

 

[疲れてはいない様だがお疲れ様と言っておこう。それと重要な報告が一つ出来てしまった]

 

 トリオンとトリガーを組み合わせて作られたオリジナルの船、そのメインと言える一部機能を除いて殆どの操作ができるコントロールルームの中央に置かれた椅子に腰かけると聞きなれた声が部屋に響いた。

 

「レプリカ、ありがとう。それで報告って?」

 

 通信系統は勿論、航行システムや防衛システム、殆どのシステムと連動させる形で接続してある多目的型自立トリオン兵『レプリカ』の更に複製品、いや元である彼の子機を元に生み出し、自立及び独立させた存在だ。根本的な部分が同じであるため同期させることも可能であるがレプリカを元に私様に機能を調整しているので別の存在だと考えて良い。オリジナルと同じく『レプリカ』の呼称を使わせてもらっている。船の管理までこなしており、私が素で話せる数少ない大事な存在(家族)だ。

 

[固有トリオン記録装置の有吾の反応が途絶えた]

 

 息を飲み込んだ。そして止まった思考と一緒に呼吸と心臓さえも止まったのではないかと勘違いするぐらいに体が言う事を聞かない。落ち着こうと呼吸に集中しようと言う思考とは裏腹に冷や汗と動悸が止まろうとしない。確認することが沢山あると言うのに生きる事さえ難しく思えてしまう。

 

 トリオンやトリガーの技術者であり研究者でもある私が開発したトリオンの波長を捉える技術。作り出されたトリオンはトリガーを通して形を与えてもすぐに特性を失い個性を失う。そのトリオン生成者の波長を維持したままで固定化することによって生成者の状態をトリオン的観点から深く確認する医療技術の応用で生成者の位置の確認まで出来るようになった特殊装置。これは生成者とのリンクを強めたことにより生成者のトリオン器官が発する波長と常にリンクしているその反応が途絶えた。

 

()()()()が死んだ?」

 

[有吾が向かうと伝えた国『カルワリア』がある軌道とこの星の軌道から誤差を計算すると二年ほど前になるだろう]

 

 トリオンの波長はリンクしているとは言ったが距離が離れた場合はそれだけ誤差が生じる。星々の光が遥か昔の時代に発せられたものである様に、今こちらの機械に反応の消失が確認されたのなら死んでからそれなりの時間が経っている事になる。トリオンだからこそ誤差は少なく済んでいるのだが、もっと早く伝えてくれる技術があったのであればと無意味なたらればを考えてしまう。

 

[さて悠菜(ゆうな)、どうする?ここから向こうの星へ渡ろうと思えばこの船でも半年は掛かるぞ]

 

 暗黒の海を星の様に国々が巡る惑星国家が犇めく近界(ネイバーフッド)、それを移動しようと思えば今回の様に遠くの星へと移動しようとすると星から星へと乗り継ぐように船を進める必要性があるのだが惑星国家の軌道配置図のデータを有し、特別な船を持っている悠菜であれば無視して進むことも出来るが如何せん距離が離れすぎている。

 

 有吾は友人に恩を返すために戦争に肩入れしていたはずである。国と国の戦いなのだからどんなことが起きるかは分からないのはよくよく理解している。しかし有吾ほどの実力者が敗れたとは信じられなかった。近界(ネイバーフッド)の国、いや星の中では普通の侵攻を受ける形の戦争だったと記憶している。

 

 星一つが一つの国としてまとまって居る星もあれば珍しい部類に入るが内乱と言えばよいのか国が分断し複数の小国が集合したような形になっている星もある。それでも思想の違いはあるがどちらも同じ国であるため他の国々からは一つの国として扱われている事が多い。それとは別に侵略して来た国が堂々と拠点を設けて、街や砦を築き上げて全面的に戦い二つの国が存在しているように見える場合もある。私が居るこの星は後者であり植民地としての支配を目指すために浸食する形で戦線を繰り広げていた。

 

「仕事を放り投げて行くつもりは無いわ。彼ら(傭兵団)との話し合い次第だろうが司令部の襲撃を速めて貰えれば半年で後処理も終わると思うから、半年後の近界の配置予想図を展開して」

 

 表示された半年後の惑星国家同士の距離を見比べる。惑星国家の位置関係は常に変化している。全ての惑星国家の軌道を頭に入れているが念のためレプリカのデータを見て答え合わせを行う。

 

「半年後に出発した場合三か月で向こうに着けるわ。仕事を投げて六か月とやり遂げて九か月なら後者を取るわ」

 

[船へのトリオン供給は既に済んでいるが、立て続けに無理な戦闘を行えば()()()()に響くぞ]

 

「うっ……何とかするわ。それに無理をするつもりは無いから。それに手に入れたトリオン医療技術と私の研究の相性は良かった。まだ完璧では無いけど不可能ではないはずよ」

 

 病弱と言う訳では無い。特殊な体質である事は自分自身が一番分かっている。超過したトリオンの使用が悪影響である事は理解している。それでも無理とは思わない。

 

「無理な事は出来ないから大丈夫よ。仕事は絶対に投げ出せないけど、それ以上遅れる訳にはいかないでしょう?」

 

 義父さんがどうなったのかについて気にならない訳が無いが今やるべきことをはき違えてはいけない。それでも心配事が無いと言う訳では無いから多少の無茶はしょうがないだろう。

 

[はあ……既にアップデートも済んでいる。私も補助に入ろう]

 

 その言葉と共に操作パネルを映し出している機械の端からにゅうっと小さい炊飯器の様な物体が現れた。オリジナルと違い真っ白に塗られたボディのそれは出てきたかと思うと指輪状になり悠菜の指にはまった。

 

 その後、交渉と言うほどの物では無いが対価として一つのトリガーを贈り作戦の変更、その作戦への積極的な協力の要請を受け入れて貰った。本来であれば元首都に大規模な拠点を設立し、依頼国(クライアント)と挟み撃ちをする形で切り崩す予定であったが各司令部を先に落とす事が決定した。

 

 首都と比べて前線を支える司令部とその周辺の基地を敵に回す事を考えると少々危険もあると考え報酬とは別に特製のトリガーを貸し出して作戦は決行された。いきなりの襲撃と首都との連絡が付かなくなった事に動揺した司令部は比較的簡単に落とすことが出来、東部の前線の方の基地を切り崩し依頼国(クライアント)に連絡を入れ前線を破壊する。

 

 補給が断たれ、司令部の落ちた東部の基地は抗戦を続けるも結果は分かり切った物だった。東部司令部や各基地を足掛かりに北部と南部の司令部にも攻勢を掛ける。大規模な勝利を味わったこちら側の兵たちの士気は高く、基地を落としながら進軍し、約四か月で全司令部を落とすことが出来た。

 

 東部ではそのような暇を与える前に叩き潰したが北部と南部の司令部では新たなブラックトリガーを獲得することが出来た。小国ではあるが優れたトリオン能力を持った者が多いように感じた。残る仕事は基地や街だけで抵抗をつづける場所もあり、それらの後始末を終えれば晴れて戦争終了となる。残党としか言えない小さい集団ばかりであるが二回のブラックトリガーで傭兵団は被害を受けていないが依頼国の兵が被害を受けて少し慎重な姿勢を取っていた。

 

 それでも予定していたより少し早く出れそうである。今出ても一か月後に出ても惑星国家の軌道の関係で着くのは元々の予定と同じぐらいになりそうだが、すぐに出ることにした。傭兵団との関係性は同じ仕事を受けた協力関係と言うだけであったが終わるころには多少話すようにはなった。傭兵団への連絡手段を押し付ける形で渡されてお別れとなった。

 

[ようやくだな]

 

 大抵の設備はそろい、物資も多めに詰め込んであるので一切他の国家によらずに一直線に向かう。今回の航行では時間がかなり掛かるのでその間は研究や開発に当てれば十分時間は潰せる。父親の死についても知りたいがもう一人の家族である義弟の存在が頭に過る。

 

「待っててね、遊真」



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始まりの記憶①

 アルビノと言う訳でもないのに私の身体は一部は白く、普通では在り得ない造り物の様な光沢を放っていた。理由も分からず、時間が経つと共にゆっくり、ゆっくりとその白は身体を侵食していった。ただでさえ不気味な身体を持ち合わせていた私が他の人には見えない物が見えていると気付かれた時、周囲から化物として扱われるようになった。

 

 流石に赤ん坊の頃の記憶は()()だが小さいころから考えて行動することが出来た。それが一層人間的でないとみなされ親も気味悪がり、無視するようになった。しかし外に出ない様に言い聞かされ、私が外に出ないで済むように動いていた。()()()()()()()()()()()と言う簡潔で利己的な理由だ。

 

 流石に法律上で人と扱われる存在を勝手に処分するのは不味いと理解するだけの考えは持っていたようで、私の特殊な身体を理由に入院の必要は無いが介護が必要で家からは出れないと言う不幸な娘の親の顔を外にはしていたようだ。

 

 少しでも悲しんだり、彼らへの関心を持とうという努力をしていたら何かが変わっていたのだろうか、そんなもしもの話は考えるだけ無駄である。言われた通りに家から出ずに知識を求めて行動していた。自分の見える物の存在があの時の私にはただただ不思議に思えた。今思えば子供としての執着心、拘りの様な物もあったのかもしれない。その対象が世間からは未知の物で、私しか理解できていない物だったのが問題だった。

 

 自分の身体を含めて考察を纏めたり、色々と試したりと子供なりの実験の日々は彼らからしてみれば魔術師の儀式に感じられたのだろう。気持ち悪さが耐えられなくなった彼らは排除することがかなわない私に矛先を向け始めた。

 

 殴られたり、蹴られたりは段々と当たり前になり、自然と受け身の取り方を学んでいく段々とそれに慣れていった。食事や水が出されないことも屡々あったが当時の私はそれが普通だと思っていたが私は他の人よりそれらを必要としない身体になっていたようで苦しみは少なかった。暴力からくる痛みも白い部分で受ければダメージが少ない事に気付き、殴られそうになったら上手くそこに当たるよう自ら身体を動かして当たりに行った。

 

 彼らがそれを不振がることは無かった。なぜなら私は別の痛みに悶えて、夜中に呻き声を上げることが度々あったからだ。成長と共に白が広がっていく、それに合わせて痛みも襲ってくるのだと後から気づいた。この身体に現れる白はやはり普通ではなく、異常だと再認識できた。

 

 白から感じるエネルギーの様なものは私が見ている物と同じものだと気付いた。自分の中を見たり、彼らの事を見ているうちに人の中に宿るそれらを観測することも容易になった。どうやらこのエネルギーは誰でも持っていて胸辺りで作られているようだ。このエネルギーが原因であるのならそれを操ることが出来れば白の侵食も止まるのではないかと考え実行した。

 

 彼らの事を観察している私は無表情でじっと胸元を見上げ続けていたらしく、それが不快に感じられたのか追い払う様に目を合わせない様にとその日は部屋に押し込まれてしまった。暴力を受けなかったのは触りたくないほど不気味に思う様になったのだろう。

 

 エネルギーの事を完全に理解することは出来なかったがエネルギーをある程度抑えることは出来るようになった。しかし、成長と共に体内のエネルギーの量が増えていき、その際に少しずつ白が増えていった。やはり私はエネルギーの量が多すぎるようでそれに耐えれていないのだろう。どうすればいいのか分からず、確かめやすい外にあるエネルギーを調べてみることにした。

 

 よく見て見ようと思った時に自分の体内のエネルギーや彼らのエネルギーに気付くことが出来た。それならこれらをよく見ようと、よく聞こうと、よく触ろうと思いながら集中して調べていった。その際に自然と体内のエネルギーをそこに集めてしまったのだが、少しの痛みはあったが大きな収穫もあった。

 

 目が良く見える、耳がよく聞こえる、エネルギーを触る事、操る事が出来る。同じことが鼻や舌で出来るか試してみたら問題なく出来た。調べるのに便利ではあるが、その中で一番気になったのはエネルギーの操作だった。エネルギーの動きを理解すると更に動かす力が上達し、それは体内のエネルギーにも使えた。

 

 繰り返しエネルギーに触れ、操って行くうちにエネルギーの事がなんとなくで分かるようになっていた。気配と言う物に近く感じた。元々人の動きや生活の中で出る音にもすぐに気が付いていたがエネルギーを捉えることでより鋭敏な知覚を得た。

 

 エネルギーを通して知れるものが増えて私の興味は一層強まっていった。エネルギーの気配だけなら家の外まで軽々と探れるようになった。そうして分かったが私の持つエネルギーの量は他の人と比べられないぐらい多いと言う事を改めて実感した。

 

 ちらほらとエネルギーの多い人も感じられるがその人たちを百人集めても私のエネルギー量には届きはしないだろう。それが今も増え続けている途中なのだから私の異常性を自分のことながらようやく知ることが出来た。それでも止めようとは思わなかった。調べていくうちに分かる事より知らないままの方が私にとって怖かったのだろう。

 

 夜中に私はエネルギーの大きな揺れの様な物を感じて飛び起きた。便利であるが必要以上に敏感なのも考え物である。今は私に向けられていない様に感じるためまだ安心できたがその揺れを引き起こした存在に危機を覚えた。何かが迫っているような巨大な何かに押しつぶされるようなそんな逃れることが出来ない運命のような物を感じた。

 

 家からそれなりに離れた場所であったのだろう。だが確かな危険を感じさせるその正体を知る事に私は必死になった。耳に集中させて彼らが使っている「てれび」という情報を伝える機械の音を拾った。当たり前の事を知らない私には地理は勿論、自分の居る場所さえ分かりはしないが彼らの話し声も併せて拾うと同じ市内でそれも「ばす」と言う乗り物で一駅しか違わないぐらいの距離で行方不明者が発生したそうだ。

 

 以前から市内での行方不明者は出ていたそうだがこちらの方で被害が出始めたのに彼らは不安を表していた。しかし、それは表面上の言葉だけで実際に警戒こそしていないようだ。私とは違ってそれが自身に降りかかるかもしれないと考えない様だ。私が何故これほどまでに緊張して事に当たっているのか、それが警鐘を鳴らしたエネルギーの揺れと関係ない物だとは思えないからだ。

 

 私が六歳の時にそれは現れた。エネルギーが操られて空中に黒い穴が開いた。その向こうからそいつは姿を見せた。そいつは生物の様な見た目をしていたが生物らしさは感じられず、エネルギーで構成されていた。それを見てこいつの目的が私が持っているエネルギーなのでは無いかと推察した。

 

 エネルギーの操作技術は少しずつであるが上がっていた私はエネルギーを塊にして撒くことでそいつの認識を誤魔化すことが出来ないかと試してみた。エネルギーに攻撃をしているそいつを見るがそいつはそのエネルギーに害がない事に気付くと無視して向かって来た。

 

 床を蹴ってそいつの攻撃を避ける。こいつの様なものが現れているのだとしたら行方不明以外にも被害が出ていてもおかしくないと思ったがそんなことを考えている暇はなく。続いて足の様な部位を振り上げて薙ぎ払う様に斜めに下した。

 

 慌ててしゃがみ込んだ私はそいつの攻撃を喰らう事は無かったが、心臓が潰される様な痛みを疑似的に感じた。血流が急速に早まり、冷たい汗が流れる。どうしようかと考え込んでいた時、物音に気付き目を覚ました彼らが起きてこちらに向かっているのが分かった。戦闘をしている様に思えるかもしれないが敵はこちらを無力化して捕まえようと動いており、そこまで大きな物音は立てていない。攻撃が壁にぶつかったり、私が飛び跳ねた音は響いているがせいぜい隣の家までだ。この部屋や他の部屋とを行き来することは出来るが階段の扉は鍵が掛けられており、降りることは出来なかったが、彼らが来ると言うのなら都合が良かった。

 

 私は此処を出ることを決めた。今まではどうでも良いと思い彼らの言いつけを守り、やりたい事をやって来た。彼らに対して何も思う事はなく、ただ何となく面倒だと思ったからここに居続けただけだ。私はまだまだ知りたい事があって、死にたくは無かった。

 

 相手の攻撃に合わせて飛び跳ねて部屋を飛び出すとエネルギーの反応で彼らが扉を開けようとしている事が分かった私は攻撃を避け続ける事は厳しいと言う思いと彼らに外へ出ることを邪魔をされる可能性を考え、鍵が解かれた瞬間に扉を蹴り破る勢いで飛び降りた。

 

 彼らは突然の私の行動に驚き、怒鳴り声で何かを喚き散らしている。しかし、そんなことをしている場合では無かっただろう。彼らも近くで自分たちより大きい物が動いて居ればその存在に気付くことは出来る。しかし目の前に存在する何かに気付いたところで生身の人間には何も出来なかった。

 

 声にもなっていない叫びにもそれは反応を示さず私にやった時と同じ動きをして見せた。綺麗に決まった前足の攻撃に吹き飛んで壁に体をぶつけて口から何かを吐き出しながら倒れこんだ。あれはエネルギーに反応している様だった。彼らは周囲の人間たちと比べてみればエネルギーを持っている方だった。それがこの結果を呼び起こしたのだろう。

 

 何が私の足を止めたのかは分からないが横たわり呻き声を上げる彼らがあの存在に飲み込まれるのを階段の下で眺めていた。その光景に私も多少なりとも恐怖を感じたがそれ以上に胸が軽くなるようなスッとした思い出満たされた。その感情の正体を考え、ようやく気付いた。私は彼らが嫌いだったのだろう。

 

 確認を終えた私はこれまで過ごしてきた場所から抜け出して夜の街を駆け抜けた。周囲を確認で度々エネルギーの反応を見ていたのだがあれが追いかけてきた様子は見られなかった。彼らを捕まえたことで満足してくれたのか、それとも私の様に外に出ることは禁じられているのか、そんなどうでも良い考えを後にして私は静かに過ごせそうな場所を探した。

 

 家の周辺、建物の多い場所にはあまりいない方が良いだろう。私が普通の人と違うと言う事は嫌と言うほど理解している。第二第三の彼らの様な存在が現れる事は望ましくなかった。肌着もつけず、少し古くて端がほつれている寝間着代わりの服とズボン、靴は勿論靴下さえ身に付けてはいない。春とは言え風が吹けば体温を持って行かれる。身を隠せる場所は欲しい所だ。

 

「寒いけど、心地よい」

 

 そう呟くと夜の闇に紛れる様に走り出した。何もない空の下がどれだけ過ごしやすい場所だったか、それを知ることが出来ただけでも外へ飛び出した価値はあった。誰もいない、縛る物が無いと言うだけで晴れやかな気持ちになったのだ。自分は誰かと一緒にいるべきでは無いと感じた。それがたぶん私にとって幸せなのだ。



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空閑悠菜②

 懐かしくもあり、煩わしい記憶でもある昔をの記憶を久しぶりに夢に見た。荒んでいたと言う訳では無いが人間らしさの欠片もなく半野生と言う状態の自分は消したくても消せるわけもなく、疲れていたのかぐっすり眠った身体はすっかり良くなっている。

 

「レプリカ、コーヒーお願いしても良い?」

[別に構わないが、調子でも悪いのか?]

 

 文句を言わずトリオン製の機械でコーヒーを淹れるレプリカ。出来ることは自分でやるようにしている私が何でもないようなことを頼んだからか心配まで返してくれた。調子は悪くない、ただ夢見が悪くてふらふらするだけ、どちらかと言うと精神の問題だ。

 

「意外と堪えてるみたい……体調は問題ないけど、落ち着かない感じね」

[その精神状態が続くようならばどこかで降りるのも一つの手だ。過ごしやすいとはいえ既に二ケ月も同じ空間に居る。それだけの時間を代わり映えのしない場所で過ごせばダメージ以上に精神へ影響する]

 

 提案は有り難いが死に直結しない問題は後回しにするしかない。夢の影響もあり今は特に気持ち悪さが残っているだけでここまで酷い状態が続くとは思っていない。差し出されたコーヒーを飲んで、作業に集中し始めればすぐに忘れるだろう。

 

「ん、ありがとう。でも平気だから」

[ならそうすると良い、決めるのは]

「私、でしょ?」

 

 レプリカは義父さんが作っただけあって非常に優秀で彼の提案や考えは非常に参考になる。だがあくまで参考であってどうするかと言った決定権は私にある。保護者代わりであり、指導者の様な存在であり、数少ない安心できる存在だ。

 

 小言と言う訳では無いが呆れた様な視線には流石に申し訳ないと言う気持ちが湧いてくる。だが事実問題ない、気を紛らわす方法はいくらでもある。起きてる時間が普通の人より長いのに加えて元来の性格もあり、暇をつぶす物は多く運び込んでいる。どれくらいかと聞かれれば私は一般的な人と比べて非常に多趣味と言える。

 

 まず第一に様々な研究を独自に行い、検証や新たなトリガー技術の作成を目指している。研究はトリオンとサイドエフェクトの関連性、トリオンが与える影響を捉えた医療研究、文化の発展、技術の軍事利用と生活利用の割合や戦争の歴史を通しての社会研究、トリオンの指向性や変異などの事例を集めたトリオン自体の研究、そして手に入れたトリガーを解析することで新たなトリガーを生み出したり、発展させる技術研究。

 

 他には食も必要はあまり無いが取ろうと思えば全然取ることが出来るので昔では考えられないぐらい味や匂い、食感などに工夫している。グルメと言う訳では無いが舌に自信を持てる程度には色々な食事文化に出会い、体感して来た。料理の作成の方においてもプロ顔負けと言えるほどの自信は無いが多くのレシピを所有し、日々の糧としている。

 

 書物やデータの収集も行っており、故郷を出る際にデータ化されている小説などもダウンロードしたのでスランプと言う訳では無いが研究に飽きたら椅子に座って読んで居ることも多い。レプリカの構造を真似た朗読機能も着いており、読むのが億劫であれば寝っ転がって聞くだけでも良い。完全な娯楽の部類に入る物には一部ゲーム機器も組み込んでいる。その殆どが戦争などをモチーフにしたFPSや戦略ゲームなのは誰も突っ込む人間はいないがもう職業病に近いのかもしれない。

 

[調整の手伝いは必要か?]

 

 現在行っているのは手に入れたトリガーの解析と改造である。今までに手に入れたトリガーでまだ解析が済んでいなかったり、調整が終わっていない物もあるがこの前手に入れたばかりの装甲型と言う物珍しい形のトリガーに興味が沸き、優先して作業に当たっている。

 

「反応や実験起動を繰り返してるのに飽きたらお願いするわ。今のところは問題も起きてないしね」

 

 そう言って作業を再開する。見たことが無い技術の解析と言うのは容易ではなく、それが独自の物であるほど暗号化されている部分も多く困難を極める。解析が済んだところから既存のデータで置き換えられる部分は置き換え、置き換えられない部分は機能を確認し、そのまま保存する。読み解いていく途中で意図せずトリガーの機構を破損させてしまう可能性もあるので一工程ごとにトリガーの起動に問題が無いか確認する。

 

 地道な作業になってしまうが解析は一度済ませてしまえば余程機構が異ならない限りは行う必要がなくなるのに加え、どんな技術がいつ別の事で役立つか分からないので備えをしっかり作っておいて損は無い。トリガーと言うのは国を形作る技術であり、それを知ると言うのはそのまま力に繋がるのだから怠るのは馬鹿のすることだ。

 

 秘匿技術として扱われていた特有のトリガーは貴重なため、本来であれば完全に解析が完了し、自分の手で作り出す事が出来るようになってから改造などの作業は行うべきなのであるが、今回に限って言えば戦争の為に多数のトリガー使いが駆り出されていたため余分に確保できているので恐れることなく手を加えていける。壊さないに限るが最悪一個か二個は必要な犠牲だろう。

 

 とはいえ改造を効率よく行うためにはある程度の解析は必須となる。どのような改造を施す必要があるのか、大体の方向性の確認にもトリガーの原理を知っておく必要がある。装甲型のトリガーはトリオン消費が大きく、特殊な攻撃は少なく、遠距離の間合いも苦手とするが、近距離から中距離ではほぼ死角が無い。トリガーを纏う事でトリオン体そのものの損傷を防ぎ、大きく駆動能力を上げる。装甲から接触時に任意でトリオンを放出することで攻撃の威力を上げたり、瞬間的な加速を促すことが出来る。攻撃、防御、速度と非常にバランスが良いトリガーである事が分かる。

 

 改造する際には個人に合わせる前に全体的に性能のアップも出来る限り望むわけで、このトリガーの弱点とでも言えるような部分を上げていく。先ほど遠距離は苦手だとは言ったが、そもそも近距離専門のトリガーに砲台を載せたところであまり期待は出来ない。となると駆動能力を更に上げることが出来れば戦闘の幅が広がり遠距離相手にとれる手段も増える。その他に単純に思いつくのは攻撃力のアップや防御力のアップなどの基本的な部分、あとはトリオン効率を上げて、全体的な能力を落とした量産品なども視野には入れる。

 

 装甲型トリガーのトリオン効率を上げる方法として一つ別途で試してみたい形があったので個人用の分で試作した物は一応形にはなっている。元々装甲をトリオン体と一緒に構築した状態でトリガー内に保持させれば良いのだ。トリオン体が壊された際に再構築するのに掛かるトリオン量と時間が増えるが事前に充電して置けばその時に全力で使えると言う訳だ。

 

 このように個人的な調整であれば必要トリオン量は無視で能力の底上げをするだけなのだが、複数の技術を組み込んで効率化を図ると言うのは意外と難しい。まだ新しいギミックを組み込んでの魔改造の方が楽だし楽しいと言える。装甲を刃物にしたり、硬くして防ぐのではなく、壊れた部分を回復する形にしたり、事前に動きを組み込んでトリガー起動時に再生するなどパッと思いつくだけでもたくさんある。

 

「それでも基礎部分は出来てるし、今の状態でも元の六割の消費量かな」

[ブラックトリガーレベルの消費量から通常レベルまで押さえ込んだか]

 

 構築システムや能力発動システムのトリオン効率は限界とは言えないが合格点を貰えるだけの物にはなった。次に手を銜えるのだとしたら構築される装甲の機構自体を効率化できないかという所だろう。起動時の動きを変更しないと仮定しても、必要ない場所にトリオンを消費している節がある。

 

 トリオン伝達脳とトリオン供給器官を守ろうとしているのは理解できる。頭部と胸部の守りを固めて置く分には別に良いだろう。しかし、その二箇所を除いた他の個所は全体的にトリオン量を減らす事にした。防御重視と当たって上等と言うのは違う。静止した状態で攻撃を喰らいまくるか遠距離攻撃を喰らいまくるかを想定しない限りは二割削ってもトリオン体への被害は出ない。行動補助機能があって戦闘中に動きまくっているのが前提なのだからトリオンの密度を上げれば薄くても弾くことは出来る。

 

「これで全体的に今までの半分以下にトリオン消費を抑えられる。これを基本にして後は弄っていけばいい」

[動作値に異常なし、相変わらず手際が良いな]

「基礎技術の解読が出来てたから後は応用と照らし合わせに時間が掛かるだけで作業自体は単純だから。さて後は手に入れたデータに目を通そうかな」

 

 謙遜はするが実際に私レベルの技術者となると国に1人居るか居ないかレベルだというのは再三注意されて来たので理解はしている。だが、レプリカの様な自立型のトリオン兵が進化していけば技術者の要らない世界、SFのロボットの支配する世界も在り得ると思う。

 

 実際、私もぎりぎり……たぶん人間なのでレプリカに負けている部分は多い。AIの進化とは違うがトリオン兵の進化によって機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)ならぬトリオン仕掛けの神なら作れるかもしれない。実際にマザートリガーなんていう代物に取り込まれた()もあるのだし、トリガーが、いやトリオンが人を支配するのも十分あり得る未来だ。

 

 既にトリオンと言うエネルギーが無ければ存在できない文化、国は多い。というよりも玄界(ミデン)を除く国々はトリガーの上に成り立つ世界なのだから、トリオンが無くなればそもそも存在できないだろう。いや、そうかトリオンの消失による玄界の安全確保か……近界消失理論(ネイバーフッド・ロスト)とか言う論文をどこかのマッドサイエンティストが書いていたっけ。今度目を通すのも悪くないかも知れないが、今は医療技術データに目を通すとしよう。残り七カ月は何かを付き進めるのではなく、全体的に押し上げていく方向性で研究を進めよう。



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始まりの記憶②

 人を避けることは私には他愛もない事だった。視界に漂うエネルギーは誰もが少しは持っており、それを察知することで人と常に距離を空けて過ごせば良かった。とは言え建物の多い場所では人の数が多いため避け続けようとすれば忙しく、必然的にそもそも人がいない場所を縄張りとした。

 

 小さい林や山、川の近くを行き来して過ごす日々、水は多少必要だが食事は最悪無くても体は問題なく動かすことが出来た。だが栄養が人体に必用な理屈は理解していたので、草木や虫を口に入れていた。味や匂いに嫌悪感を抱くことは無く、必要だから行う。生きることは目的達成の為に必要な過程でしかなく、それらも作業でしかなかった。

 

 第一に多くの事を知りたいと言う知識欲、特にこのエネルギーについてもっと知ることが出来ればと言うのが私の主だった願いである。一番大きい願いはそれだが一番最初の願いは既に叶った。私は誰にも制限されない外へ出ることが出来た。今後の目標の為にもいつでも使える過ごしやすい場所を見つけるべきだろう。

 

 万が一を考えると拠点となる場所は複数個所用意して置くべきだろう。一か所が使えなくなってももう一か所でなんとかできた方が良いだろう。周辺に人が寄らず、雨風や視線を遮れるだけの十分な遮蔽物、使われていない建物、もっと言えば管理されていない建物があれば丁度いい。

 

 都合のいい建物を見つける力がある訳はなく、建物の老朽具合や人の出入りなどを確認して一ヶ月という時間を掛けて地道に調べた。潰れた会社の倉庫、工場、開発が止められている土地に残っている管理室と言う名の掘っ立て小屋、市や国が使っていた施設。後は住宅との距離、出入りする際や逃走時の経路、拠点候補同士の位置関係を踏まえて三か所に絞り込んだ。

 

 中途半端に切り開かれて荒れている土地に佇んでいる小屋。使われず、表面がさび付いている倉庫。そして川の上に建てられている調査施設。既に捨てられたも同然の建物ばかりで人の出入りはここ一ヶ月は一回も無かった。とは言え警戒して出入りしておくべきだろう。

 

 子供の小ささと幼い体に似合わない身体能力が合わせれば二階ぐらいの高さにある窓にも余裕で届いた。掴まる場所があればそこを基点に更に上に上がり、調べることも出来る。建物の一階は施錠されているが一か所か二か所は空いて居る場所が建物全体を見ればあるものだ。

 

 最悪の場合は人が付近にいないので窓ガラスを割ったり、脆くなっているであろう壁や天井を外すか壊すかすることも考えていたが必要が無い方が良い事に変わりない。明かりがつくかどうかは念のため確認したが明かりを点ければ否応なしに気付かれてしまうので夜は暗闇の中で過ごす事になる。

 

 家を飛び出た夜を思い出す暗闇は私は気に入っており、日の当たる昼間より夜の方が落ち着くくらいなのでそこは問題が無かった。それに加えてエネルギーを捉える目はそれだけで特別で暗闇の中でも行動が可能であり、エネルギーを目に集中すれば昼間と同じ、いやそれ以上に()()()()()出来る。それを処理するには頭にもエネルギーを割く必要がある。

 

 上手く扱えず練習しながらだったのが幸いして、いきなり倒れることは無かったがエネルギーを用いての五感の強化に対して情報の処理に頭が追いつけないとそれなりの痛みに襲われる。身体を侵食する白の痛みに比べると少しマシであるが、昔と比べて今は頭を保護せずにフルで強化したりでもすれば意識を失うのは確実だろう。

 

 しっかりと休める場所と言うのは私が思っていたより大事な物だったらしい。あの場所は自由こそないが気を配る必要性が無いと言う点だけは何処よりも優れていただろう。そんなことを考えながら比較的綺麗な場所を探し、使えそうな物は無いかと見て回る。三か所で同じことをしたが特徴も見つかる物も大きく違う。

 

 倉庫はパッと見て頑丈で広く、比較的住宅地に近いのが特徴である。万が一あのエネルギーを狙う存在に襲われたとしても逃げるだけなら楽にできそうである。ただし機械や棚などが多く、すぐにでも使えそうな物は段ボールや残されたテープや紐などの包装や梱包に使う物ばかりだ。錆びているがハサミやカッターも磨けば使えそうな物があったので持ち物に加える。地面も壁も硬くて冷たい、そして古くなっている所為か隙間風も多く此処は寝泊まりするにはあまり向いていない。隠れ場所や一時的な休憩場所としては一応使える様に段ボールや棚を利用して寝床は用意したが基本的には他の二か所を利用するだろう。

 

 小屋は小さい物で壊れた扉を外して出入りする形になっており、他に出入り口が無いのでここで何かあった場合を考えて壁の脆そうな場所に印を入れておいた。開発予定地だった場所であり他に何もないので人に見られる可能性は一番低い。その代わり何かあった際は遮蔽物も無く、身動きも取りにくいので危険である。見つかった物は少しの紙(書類やチラシ)とペンなどの筆記用具、一応繋がってるように見える固定電話、椅子や机と言った物だけだ。木製の小屋は昼間晴れていれば十分熱を溜めてくれるようで入り口や壁の隙間を塞げば十分過ごせる。

 

 最後の施設は元々の建物がしっかりしており、使われなくなった事による汚れは目立つが壊れている場所は全然なかった。部屋や家具なども使われていた物の一部がそのまま残されているようで、過ごしやすさと言う面では群を抜いている。周りが川であるため周りを囲まれるようなことがあれば逃げにくいが、そのような事態になれば川を泳げれば何とかなるだろう。目立つ場所には無いが川の上に建てられているという立地もあり、出入りの際には遮蔽物が無いので周囲を確認してからの方が良いだろう。

 

 それぞれの拠点で手に入れた物やゴミなどからも使えそうな物を集めてより過ごしやすいように拠点を改造していき夏の終わり位には最低限の設備は整った。過ごしやすいかと聞かれればそうでもないがあの場所よりも落ち着く感じはした。気を抜くことは出来ないがこれで色々と出来るようになるだろう。

 

 冬は勿論、秋に外で過ごすのは()()大変だと思ったので間に合ってよかった。寒さや暑さにも忌々しい白に侵されている身体は耐性があるらしく、冷暖房は必要とはしないが日光や風を遮ることが出来、服や布なども含めて温度調節が出来るだけの準備は出来ている。

 

 普通の子供は勿論だが下手な大人よりも力を出すことが出来る私は人目に付かない時間を見計らい捨てられた服や布、粗大ごみとして出された家具などをそれぞれの拠点に集めたのだ。その他にもペットボトルは川で洗い、公園で水をくむことも出来るし、ビニールやプラスチックといったゴミなども様々な用途に使えた。何に使えるかは分からないが無駄に広い倉庫には機械なども集めてはみたが今のところ使い道は無い。

 

 服などもボロボロな物も多いがよれていたり、ほつれているだけで比較的まともな物も集まった。夏は逆に不審に思われるので使えなかったが、寒くなってきて帽子やマフラーなどを付けている人々が増えてきたこともあり、それらを真似して体を隠せば目立ちたくは無いが堂々と歩くことも出来るかもしれない。

 

 エネルギーについての研究は自身の物を使って色々と考察を続けているが他にエネルギーを多く持っている人はいないか、エネルギーを扱える人はいないかと言ったことも調べたいし、人の動きの感知の精度の上昇や大人数を同時に感知する処理技術の獲得、感知できる範囲を広げられないかなどを試すためにも少し人の多い場所に行く必要があった。

 

 それ以前に情報や知識を身に着けると言うことにも私は興味を強く持っており、捨てられた本や新聞などを持ち帰り勉強するが常識的な事はあまり身についていない。人に近づきたいとは思わないが人を知ると言うことは悪くないと思っている。

 

 人通りの多い場所に設置されているベンチに何気ない顔をして座ると耳を強化することで人々の声を拾う、あらゆる音を拾おうとする耳は足音や風の音、乗り物の音までも拾ってしまい、処理に慣れるのにはかなり時間が掛かったが反復練習を行い二週間で雑踏の中でも拾いたい情報だけを拾えるようになった。

 

 多くは行ってくる情報の中には興味がない物やいらない物も多いがそれらを除いても様々な事が知れた。店や学校、お店などについてや地理的情報や行方不明事件に関する噂話。そう言った当たり前だったりする情報や確証の無い情報は集めれば役に立つ。

 

 一番気になったのは自身にも関わりがある行方不明事件についてだ。どうやら最近は近くでの事件発生が増えているようで他の地域と比べて危険と判断され警察が巡回を強化しているらしい。だが普通の人間にあれをどうにか出来るとは到底思えない。しかし警察が住宅地や人通りの少ない所を巡回していると言うのは少し面倒に感じた。

 

 しかし原因を除くことは難しいどころか不可能と言っても良い。謎の機械らしく存在を彼らが捉えることが出来たとしても対抗手段が無ければそこまでだろう。私の()()も手段とは言い切れず、ゲームオーバーを先延ばしにしているだけでしかない。

 

 エネルギーで形作られたあれをどうにかすることが出来るとすれば同じエネルギーしかないと考えるのが妥当である。エネルギー同士が干渉するのだとすれば私の身体の白はあいつに有効なのだろう。だがそれは逆にあいつの攻撃が私の身体の白に当たった場合も同じことが言えるだろう。

 

 物理的攻撃がこの白に効きにくい事を利用して生きてきたのに、この白を破られてもおかしくないと言う状況は危機感を覚えるには十分だ。と言うより向こうの攻撃は彼らを倒していたことから生身にも有効である事が分かる。こちらは危険覚悟で白い部分で攻撃するしかないのに対し、向こうはこちらを攻撃し放題なのだから真っ向から当たると言うのは有り得ない。

 

 エネルギー自体を操る事はとっくに出来ているのだ。あれや白がエネルギーの塊であると仮定したとき、エネルギーを集めて()()()ことが出来れば武器とまでは行かなくても盾にすることぐらいは出来るのではないだろうか。エネルギーの性質が分からないのに加え武器を作れたとしてもそれを的確に使うことが出来るのかと言う点と向こうの装甲を破ることが出来るのかが分からない。先ほど盾ぐらいはと言いはしたが足止めが出来れば御の字程度に考えている。

 

 エネルギーの固体化とでも言うのだろうか、それが出来た際にエネルギーは可視化されるのではないだろうか。あいつを彼らは認識し恐怖していた。あれは誰の目にでも映る存在だと言う証拠である。ならばあいつから逃げる際に撒いたエネルギーを塊にしたが、普通の人には見えない形であった。逆に見える様に出来たのであれば固体化に成功したと言うことである。

 

 私の眼はエネルギーを捉えることが出来るがエネルギーを捉えないで見ることも出来るようになっている。私の視界と他者の視界の違いは理解できるように努力をした。人と違うと言う事を知っていなければどのような時にボロが出てしまうか分からないからだ。基本的に人と関わるつもりは無いが人の近くによる機会が出来てからは使うようにしている。

 

 エネルギーを見なくても大丈夫なのかと言うと、気配とは違うが白を通して触覚の様にエネルギーを感じ取り、それを研ぎ澄ますと言えば良いのか広げる感覚をイメージすればエネルギーを別の形で捉えられることがあの場所に居た頃から分かっていた。目の補助が無くてもエネルギーを感じることで情報を得ることは出来るほどに技術は熟達した。

 

 エネルギーを固体に出来た際に何があるか分からないのでやる場所は考えているが、予想がつかないと言うのは悩ましい物で広く、頑丈な倉庫で行うか人に情報の届きにくい小屋で行うかで悩んだ。倉庫は先ほども言ったように広くて丈夫になっているが街の近くにある。小屋は衝撃などに対しての備えは無いが何かあった際に気付かれる可能性が低い。

 

 どちらの選択も安全を考えての事だが固体化が成功した際に起きるかもしれない事に戴する安全を重視するか人に気付かれないと言う安全さを重視するかと言う話だ。何が起きるか分からないことには対処の仕様も無いが人は確実に避けれる危険と言う事で小屋で行った。

 

 エネルギーを操作を続けた事で技術的には問題が無いレベルに至っていたのか思っていたよりもすんなりとエネルギーを固体にすることに成功してしまった。良い事なのだが簡単に出来てしまうと拍子抜けしてしまうのもしょうがない。

 

 力を掛け続けないと形になってもすぐに崩れるばかりだったがエネルギーを安定させる事に念を置く事でようやく固体化させたまま制御を話しても霧散しなくなった。エネルギーにその形が当たり前だと覚えさせる事で安定させることは出来た。自身の身体の白の事もあり個体のイメージがしっかりしていたのでエネルギーを操りやすかった。

 

 エネルギーを形にして操ると言うのを繰り返し続けることでそれが当たり前に出来る様になればあいつに怯える必要性は下がるかもしれない。盾をイメージするのは良いが自分で支えることが出来るかと言う不安があったので地面や壁で支える様に考えた。そうなってくると固体化する時に既に形を決めておいた方がやりやすいと気付いた。

 

 万が一の際を考えて成形してナイフの様な形を持ったエネルギーも所持しておく、切れ味はどうだろうかと試してみたところ普通の刃物より少し切れ味が良いぐらいだった。もっとも私が知っている刃物など殆どが錆びかけのハサミやカッターで一番いい物でも包丁が限度である。

 

 そうして準備をしたり、思いつきの修行まがいの事をしながら事件の情報を集めて過ごした。あいつがエネルギーを感知していた事に気付き、自分がエネルギーを感知しにくい状況をエネルギーによって作れれば向こうから感知されないのではないかと考え、自身を感知できない状況を作り出す事も出来るようになった。

 

 自分は気づかれず、向こうに気付けると言うのは大きなアドバンテージだと考え、今の自分なら少しは相手をすることが出来るかもしれないと淡い期待を持った。もし事件に出くわす事があればこちらから接触してみて危険具合を調べるべきだろうとも考え始めた。

 

 様々な準備が出来、一人での生活にも完全に慣れたのはあの場所を旅たち丁度一年が経った頃であった。そして私の運命を変える出会いを迎えたのはそれから少し先の五月の事だった。いつも通りフラフラと情報収集と銘打った暇つぶしに街を出歩いていた際に複数の大きいエネルギーを持った人の反応があった。

 

 人はグループを作って行動する。だがそれが偶然にもエネルギー量の多い人間ばかりであった。などといった楽観的な思考をするわけがなく、もしかしてと言う可能性を現実と仮定してエネルギーの隠蔽を強化した。そしてそのグループに見つかった際に面倒なので逆にそのグループを監視することが出来る位置に移動した。

 

 エネルギーで見失うことは無いが念のために外見の情報を覚えておく、眼を強化して見ると特徴もとらえやすく大体二十歳前後どちらかと言えば二十歳より少し下に見える眼鏡を掛けて少しぼさっとした頭髪で煙草を銜えている男、そして同じ年齢位に見える整った顔立ちでワックスか何かで髪を後ろにやっている男、そして前二人と比べると少し年が上に見える優しい顔つきの男、最後に同じく前二人と比べて年上に見える不思議な雰囲気を身に纏った男。

 

 何かを話し合っているように見える。その様子だけを見ると世間話に興じている一般人と何ら変わりないが彼らが人の目を避け、小声で話しているのにすぐに気づき、耳を強化して音を拾う。彼らが人のいない方向へ移動しながら話しているため聞き取りやすかった。

 

「でかいトリオンの反応は確かにあったんだがなぁ。ぱったりと消えたところを見ると向こうの世界から既に来ていると想定して動くべきですかねぇ。有吾(ゆうご)さんはどう思います?」

 

 銜えていた煙草を外して火を消すと既に道を一本ずらして人のいない所まで来ていたからか懐から堂々と機械らしき物を取り出して年上の二人に進言している。向こうの世界、来ていると言うのはよくわからないがでかいトリオンとぱったり消えたと言う事を考えると私がエネルギーを隠したことを感知したのではないだろうか。もしそうだとすると私がエネルギーと仮称している物はトリオンと言う名の物と言う事だ。

 

「反応を消すことが出来るのに向こうから侵略して来たって言う奴が反応を消さずにフラフラしていたとは思えないが、正宗(まさむね)はどう思う」

 

 侵略とはあまり穏やかではない言葉だ。彼らの言葉から推察するに彼らは私に気付き、接触しようとしていたようだが急に消えた私を別の何者かと誤解している。既にと煙草メガネが言った事を考えると侵略は必ず訪れる未来の様に語られ、それが共通の認識のようだ。

 

「どうと言ってもなぁ。実際に相手を確かめない事にはどうしようも無いだろう。消えた者を闇雲に追うのは悪手だろうし、予定通り行方不明事件の現場の確認と拠点予定地の下見を済ませる方が良いだろう。時間をかけていると宗一(そういち)の方が先に着いている可能性もある」

 

 困ったと言う訳では無いが微妙な表情で結論は出せないといった曖昧な返答をするが、今やるべきことでは無いと言う意見を出して元々の目的へ話を切り替えている。私としては探し出して問答無用で問いただすなどと言った選択を取らないでくれたので助かった。

 

最上(もがみ)さんは仕事が早いですから、ありえない話では無いですね。事件現場とされているのはこの先の住宅地を抜けた場所です。それとは別に家の住人全員が行方不明になっている家もあります。こちらは立て続けに事件が起きているので同一の事例として扱われいますが夜逃げの可能性もありますがどうしますか?」

 

 拠点と言うのには彼らが何をしているのか知り得ないので何の拠点か分からないので考えるだけ無駄だろう。事件の調査と言う言葉に私は大きく惹かれた。行方不明者が出ている事件の犯人はあのトリオンで作られた存在だと思っている。とすると家の住人が全員消えたと言うのはあの場所の事だろう。

 

「念のためそちらも見ておこう。先に住宅地を抜けた場所から回ろう。忍田(しのだ)、案内は任せた」

 

 事件を調査している彼らはあのトリオンで作られた存在の事も知っているような気がした。彼らの言う侵略者というのをあの存在の事では無いだろうか。私は彼らの話をもっと聞きたいと思った。私がどういう物なのか理解せずに使っていたエネルギーの名称を知り、拠点を構えてまで何かを成そうとしている彼らに惹かれていた。気づけば調査の為に目的地を目指し始めた彼らの事を気付かれない様に追いかけていた。



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空閑悠菜③

 航行は問題なく、既に航路の3分の2を過ぎた。研究や趣味の方も手に入れた情報の9割は頭に入れ終わったぐらいだろう。とりあえずは残りの1割を片付ける事を目標とするが、終えたら医療研究の方に専念するべきだろうか、それともトリガー作成を進めるべきか。

 

「いや、読み込み終わったら休憩するか」

[その方が良いだろうな]

 

 夢見が悪くなってから面倒なので全然寝ていないのもあってレプリカの声色が厳しい。出発から6か月経っているのだが寝た回数は4回だけで、時間に直すと1日にも満たないというのは自分でも問題だとは思っている。だが眠る気にはなれないのだ。

 

 研究で気を紛らわしてばかりいるのだがそれはそれで精神に良くないだろう。まあまだまだ余裕はあると思ってはいるが、レプリカの小言もあるからそのうち一度眠った方が良いのだろう。

 

「トリガーは私用のはあまり要らないしね」

 

 設備用の技術アップデートに使えそうな物はあまりなかったのでトリガーの解析を済ませた現状では緊急性のある作業とは言えない。となると自分自身にも関係のある医療研究に専念するのが優先順位だけを考えると正しい。

 

 サイドエフェクトの開花、トリオン器官の成長、トリオンの質と量、トリオンによる肉体への影響、様々な国で研究され続けている。その理由は福祉ではなく利益や軍事転用目的なのが目に見えている。過激な国では人体実験も繰り返されているくらいだ。

 

 私の様な完全に健康、福祉などを目的としての研究を行っている者など本当に一部だろう。義手に義足なども社会復帰ではなく戦場に復帰するための武器としか認識していないのだから救えない。がデータだけはしっかり利用させてもらおう。

 

 トリオン兵の様に行動をプログラミングさせて使用者の負荷を減らす、身体強化系統のサイドエフェクトを義肢に適用の有無、トリオン器官の再生、トリオン伝達系を流用した疑似神経系の作成、軍事目的だったが完全な人型トリオン兵の研究を行っていた国があるという噂もあった。

 

 トリオンによる肉体の代替は不可能ではないはず、そうでなければ現在私は生きていられないはずだから。私と言う例が特殊である可能性も高いが一つの事例である事に間違いはない。私の固有トリオン理論からしても適合するトリオンによる肉体の保護、修復は出来るはずなのだ。

 

「まあ、今は先に残りのデータか」

 

 トリガー技術や医療研究、軍事情報、優先度の高い物から確認していったが、残っているトリガー関連以外の文化的情報、具体的には人口、地形、食文化、宗教、流通などの情報はこれらも惑星国家を知る上で大きく役に立つことに間違いはない。

 

 人口は戦時中であったため詳しい調査は出来ていなかったようだが一般の住宅区の面積や食料の流通量から大体の推測は出来る。宗教は偶像崇拝ではなく、教主をトップに置いた生き方、考え方を守る事を善とすることによる人民の思想操作を目的としたものだった。

 

 唯一の宗教であり、古くから続いているので手間はかかるだろうが切り崩すことが出来れば国の団結力を削るなどの攻撃も可能だろう。戦争に負けた現在は解体されているか、教主がお飾りの傀儡になっている事だろう。

 

 食文化も何を主食としているのかという情報は非常に大切である。それを潰すことが出来れば国内を疲弊させることが出来る。農作物の種なども独自の物が多いので手に入れて置いて損は無い。家畜なども品種改良のデータを手に入れて置けば別の種に流用できる点もあるかもしれない。

 

 どんなデータであっても役に立たない物は無いというのにトリガーを用いた技術以外が軽視されがちなのはトリガー社会における弊害でしかないだろう。玄界の様にトリガー技術を外部に出さない。独占することはそれ以外の技術の停滞を防げるので間違いでないと私は考えている位だ。

 

 事実、支配階級と被支配階級に分かれている国の一つに支配階級にしかトリガー技術が整備されていない国があったが、トリガー技術の与えられていない階級は蒸気機関や電気エネルギーを独自に築く事でどうにか生活の向上を目指していた。

 

 トリガーによる技術と言うのは麻薬より甘美で危険な物だ。これ以上に効率の良いエネルギーを私は知らない。だからトリガーを知っている国々はそれ以外の技術に目を向けない。だが理論や原理の研究がなされているのはトリオンがそれらに干渉、適用される部分があるからだ。

 

 物理的、科学的な研究と言うのがトリガーによって、トリオンによって行われて来た。だがトリオンの無い状態でそれらを行って来た玄界は知識の位階、レベルでは負けている部分もあるが、知識の質では負けていないだろう。

 

 そしてトリオンが無くては生きていけない彼らとトリオンが無くても生きていける私達では視点が違うのもしょうがないだろう。そもそも世界の成り立ちからして玄界は特殊な立ち位置にいるのだ。そこいら辺の歴史研究なども行えれば面白い。

 

「っとデータの読み込み終了、ファイリングしといて」

[了解だ]

 

 今のところ問題がないが、もう少し機能の拡張、容量の拡大も行っていきたいところだ。それに加えてレプリカのアップデートの時にも思っていた事だが、レプリカ以外にデータの管理、保存を行うシステムを構築しておかないと少々危険かもしれない。

 

「っと休憩するって決めたんだった」 

 

 どうにも研究や仕事にばかり集中してしまうのが私の悪い癖なのかもしれない。昔から頭が固いと言われていたから直そうとしているのだけれどなかなかうまくいくようなものではない。

 

 とは言ってもいざ休憩しようと思っても手段は限られる。寝るか、食うか、遊ぶか、といった簡単なものばかりである。寝るのは最後の手段、と言うよりまだ眠りたくはない。後回しと言われてもしょうがないし、この年にもなってとも思うが寝るのは怖い。

 

 となると遊ぶというのも違う気がするので何かを食べるのがやはり無難になってくる。他に選択肢が思い浮かばない時点で仕事が趣味になっているのが理解できる。ワーカーホリックと言う奴だろうか、いや働かなければならないではなく働きたいと考えているのでワーク・エンゲージメントの方が正しいだろう。

 

 食料品は自分があまり必要としていないためエネルギー補給以外の物、嗜好品、娯楽としての食材はあまり載せていない。それに長期間の航行を予定していたのでトリガー技術の応用による食料保存、輸送システムは搭載されているとはいえ、あまり保存に適していない物は載せていない。

 

 小麦粉、米、水、缶詰、ドライ食品、フリーズドライ食品、加工肉、後は冷凍食品やカップ麺などしかない。あとは保存食や軍隊携帯食(レーション)しかない。飲み物に限定すればジュースや酒類もあるが、固形物はよくよく考えるとそんなに無い。

 

 物資としては十分なぐらいあるが娯楽として楽しむだけの物は用意していない。ある意味体にあまり良くないカップ麺などは嗜好品枠に入れても良いのではないだろうか?簡単に出来るしもうこれで言いだろうとお湯を沸かして注ぐ。

 

[食事をとる気になったのは良いが、たまには調理もしてみればどうだ?]

 

 調理、料理と呼ばれる行動は出来なくはない。むしろ様々なレシピのデータも頭に入っており、レシピ通りに作る分には問題なく出来る。だが気が向かないというか、面倒くさいというか、あまりやる気にならないのは確かだ。

 

 人間は無駄な事を嫌い、効率を求める生物だ。食事や睡眠が要らない身体である自分がそれを排除した生活を営んでいくというのは生物学、心理学的には逆に人間らしく、正しいのではないかと最近は思い始めている。

 

[そう決めたのであれば何も言うまい]

 

「私は楽しいよ。レプリカ」

 

 人間じゃない、自分の無い自分から人間らしくない、可笑しな自分にまで変われたのだ。自分なりに楽しんで生きているのだからそれでいいでしょう。さて腹ごしらえも済んだし、他に逃げ道も無いので今度こそ眠るとしよう。

 

「おやすみ、レプリカ」

[ああ、おやすみ]



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始まりの記憶③

 彼らは事件が起きた場所を回りながら機械で何かを計測している様だった。事件現場が家の中の場合は調べることが出来ていないかったが、現場周辺や少し離れた場所などを地道に回って、あいつの痕跡を探しているようだ。

 

 計測したデータをパソコンと言う機械に保存している。一件ずつ回って確認しているというのだからマメな事だ。会話や強化した視覚でパソコンを覗き見て文字に目を通して見てみたがやはり行方不明事件は全てトリオンで作られたあいつの仕業なのだろう。

 

 『ゲート』という言葉、英語で門を意味する言葉だったはずだ。たぶんトリオンによって開かれた黒い穴の事では無いだろうか?向こうからの侵略と言う言葉から考えるに「こちら」と「あちら」を行き来するのには『ゲート』が必要なのだろう。

 

 あいつは襲われた時の事から推測するにトリオンを目的としていると考えられる。さらに詳しく言えばトリオンと言うエネルギーを多く持っている人を集めているのだろう。その理由などは分かる訳も無いが迷惑でしかない。

 

 そして調査は進んでいくと最後はあの家に辿り着いた。ここで暮らしてはいたが決して私の家だとは思えない。出て行く際は清々しかったが改めて訪れるとここまで苛つくものなのだろうかと首を捻る。

 

「ここも反応が残ってますね」

「一家族丸々連れ去られたという事か?」

「これは!?」

「どうした林藤?これは……」

 

 比較的若い二人がこれまでと同じように機材を用いて計測しているが、計測を終えて映し出されたデータを見た途端にどちらの顔も驚きに染まった。

 

「おおっ!?でかいトリオン反応だな」

 

 二人の反応をみてデータを覗き込んで来た有吾という人物も驚いている様子は見られないが何かに感心するかの様に興味の声を上げている。それも仕方がない。その場に残って、残留しているトリオン反応だけでもその場にいる全員のトリオン量の合計を軽く超えているのだから。

 

「このトリオンの持ち主がこちらの住人であっても向こうの住人であっても、少し面倒な事に成りそうだな」

「家の様子から見て攫われた可能性の方が高いがな」

 

 攫われてなくて今も観察をしていることを知ったらどんな顔をしてくれるだろうか?中々新しい情報が手に入らないので退屈になっていた私はそんな詰まらない事を考えた。その後は噂程度の情報だが確認のためにと年長っぽい二人が近くの林に向かっていった。若手の二人は最上さんと言う人の所へ向かうそうだ。

 

 ここで帰っても良かったのだが、もう少し観察しようと私は林の方へ入って行った二人の後を追った。こちらの二人の方が話しぶりからトリオンなどに詳しいと思っての行動だったが、目の前の現状を見ると付いてくるべきでは無かったと思った。

 

 不要な物は分かれる際に預けたとはいえ、調査に必用な機材を持って林の中を探索するのは大変なようで、少々動きにくそうに見える。それでも木々の傷跡やパソコンの画面を照らし合わせて真剣な表情をしている。

 

「どうやら、ここで何度か出入りしてるようだ」

「薄暗くて、視界も悪い。注目するような場所でもないし、昼間に隠れてても見つからないかもな」

 

 データの方は詳しくは分からないが周囲に付けられた木々の傷や地面の跡はトリオン兵とやらの物で間違いないようだ。そして有吾とやらが言う様に林の中心近くまで来ていたが外からここを捉えるのはまず無理だろう。そんな話に耳を澄ましていると突然、見覚えのある黒が空中に現れた。

 

「「「!?」」」

 

 焦って声が出そうになるのを必死に抑え、ばれてしまう前に身体の震えを止める。ゲートからはその日に見たトリオン兵が3体まとめて降り立った。車より一回り小さく、2対の硬質な腕が備えられている。

 

「モールモッドか?いや、腕が3対じゃないな。それに基準より小さい」

「改造版だな。隠密行動用に弄ったタイプだろう」

 

 慌てて荷物を仕舞い、放り投げると二人とも懐から何かを取り出して構える。が一番近くにいたモールモッドが正宗と呼ばれていた男のそれを身体ごと吹き飛ばした叩き飛ばした。飛ばされた衝撃で体と腕を抑えつつもなんとか立ち上がろうとするがモールモッドの方が早い。

 

「トリガー起動(オン)

 

 慌ててフォローに入る形で間に入り、次の攻撃を受け止める。有吾と呼ばれた男の身体はトリオンで作られた別物へと変化し、彼の手元には武器の形を取ったトリオンが握られていた。

 

「こいつら小さいし手数は普通のモールモッドと比べりゃ少ないがその分硬くて速いな」

「す、すまないトリガーが」

「後で探せばいい、こんな事になるなら自前の物を持って来るべきだったな」

 

 三対一と言う状況だけでもその辛さは伝わるだろう。一撃が鋭いにもかかわらずそれを一人で打ち返しているという事実に驚くが、硬い身体と腕は生半可な攻撃ではびくともせず、厳しい戦いを強いられている。

 

 囲まれない様に相手の周りをまわりながら攻撃を受け止め続ける。もう一人が帰ってくるまでの時間稼ぎだろう。しかし、少し後ろから攻撃していたモールモッドとやらが3本の曲がった腕を伸ばした勢いで身体を押し出すように動かし、残った一本で流れる様に一撃を入れる。刃で受け止めても衝撃までは防げない。

 

「ぐっ、とおりゃぁ!!」

 

 弾き飛ばされはしないが、地面に後を残しながら大きく後ろに後退してしまう。体勢を崩されたが向こうの陣形も崩れた。一人突出してしまったモールモッドの関節部分に対して攻撃を入れ、胴体から切り離すと流れる様に相手の目を切り裂いた。

 

 到底あれが生物である訳がなく、目と言ってもそう見えるだけのパーツの事で、トリオン兵だからかもモールモッドだからかは分からないが目が弱点のようだ。これで2対1となり、余裕が出るかと言われればそうでもない。

 

 だが使い慣れない物を使っているかのように零していたにも関わらず、乱戦の中でチャンスを逃さずに敵を倒して見せたその動きには目を見張るものがあった。だがそれでも楽観視することは出来なかった。

 

 なんとなくではあったがあれは私を狙っていたかのように思えた。もちろん私のトリオンの隠蔽は彼らが私を見失ったという実績から問題ないと思える。ただ、今だってトリオン兵はこちらに気付いていない。だがそう感じれてしまったのだ。

 

 私がトリオンを表に出したところで攻撃のスピードから見て囮にすらなる事は出来ないだろう。だから私は目を凝らして初めに飛んで行った『トリガー』と言う物を探した。あれも間違いなくトリオンで作られており、私の視界ですぐに捉えることが出来た。

 

 隠れながら音を立てずにそれを拾って、いざ戦いの音へ振り返ると、体が止まってしまった。持って行って、彼らは助かるのかも分からない。だけど手の中の物があれば何かが変わるかもしれない。でも私の日常も変わってしまうだろう。

 

 それが恐ろしく思えた。結局は自分には関係のない事だ。向こうが狙って来ただけ、それに巻き込まれただけ、私はそれを見てただけ、それで終わりでいいじゃないか。だが震える身体は目の前の光景から離れようと行動することは無い。

 

 情報収集とは言え、興味を持ってしまった。無関心ではいられなかった。それだけで十分関係はあったのだ。画面の向こうの誰かであれば、放って置けたのかもしれないが、私は既に彼らの戦いの傍観者と言う役で入り込んでしまった。

 

 モールモッドとやらに気付かれるのは不味いと思い、静かな全速力で木に寄りかかる様に倒れている正宗と言う人物に近寄る。どれだけ動いても疲れる事はない煩わしいこの身体だが、今この時はあって良かったと思えた。

 

「君は!?ここは危ない。早く帰るんだ!!」

 

 いきなり目の前に子供が現れたとなれば驚くのもしょうがない。だが声を荒げると向こうの注意を引く可能性があるのでやめて欲しいなと冷たい反応を心の中で返した。私は持っていたトリガーを差し出すと、彼の眼はいよいよ見開かれた。それもしょうがないだろう。

 

「飛ばされたの、見つけてきた」

「ずっと、見ていたのか?!」

 

 ボロボロで裸足と言う姿にも驚かされたことだろうが子供()の口から零れた言葉で更に驚いている。ずっと見ていたという事はこんな場所まで彼らをつけていたという事に他ならない。そして、手の中にある物がどういった物なのか、更にはこの状況を理解しているという事の証明だ。

 

「これで、何とかなる?」

「……ああ、何とかする!!」

 

 私は黙って差し出し続けていたトリガーを押し付け、一人で戦っている有吾と言う人物の方へ促す。造り物の身体で戦っている様子から見て怪我は関係ないと信じたい。渡された物と私の顔をまじまじと見ると、力強い声で返事が返ってきた。

 

「トリガー起動(オン)

 

 受け取ったトリガーを起動するとそのまま素早い動きで戦いに混じる。やはり、トリオンで作られた身体に変わる際に肉体の怪我は反映されていない様だ。せっかく探し出して、顔を合わせる勇気を出して無理ですと言われなかった事を素直に喜んでおこう。

 

 2対1が2対2になったことと倒れていた仲間への配慮が要らなくなったことにより、戦況は一気に入れ変わった。受けるだけでなく、攻撃を仕掛ける余裕が生まれれば、どれだけ硬くとも少しずつダメージを与えていき、相手の身体はボロボロになり、トリオンが少し漏れ出ている。

 

 機械に近い物なのだろうがあれだけの損失が出来ていれば動きも鈍るようで、そこからは一方的に対処するだけで、戦闘と言うよりも手慣れた駆除を見ている様だった。戦闘が終わると、周囲の安全を確認してから二人は変身を解いた。

 

 投げ出した荷物の中から通信機器を取り出すとそれぞれが連絡を取っている。耳に集中して聞き取ると、片方は別れた仲間への報告でもう片方は倒したモールモッドの回収を依頼するものだった。そして一通りやり取りが終わると揃ってこちらへと向かって来た。

 

 いや、仲間への連絡をしていた正宗と言う男の通信機器はいまも繋がったままのようだ。詳しい説明は後ですると言っているようだが、向こうからの声がそれを許してくれない様だ。まあ、それは私には関係のない事だし、戦闘があった、負傷したが無事、子供に助けられた、その子供とこれから話す、という短い業務連絡で納得しろと言うのは厳しいだろう。

 

 戦闘を見届けて逃げてしまっても問題は無かっただろう。私の能力をもってすれば逃げるのは勿論、隠れ続ける頃だって可能だ。そうしなかった理由は自分でもよくわからなかった。目の前に来て、先ほどまで戦い続けていた有吾と言う男がこちらへ手を伸ばす。

 

「ありがとうな。おかげで助かった」

「????」

 

 どうなるんだろうと考え込んで不安を感じていた所にいきなり頭を豪快に撫でられと言うのはあまりにも予想だにしていない状況であって、私はされるがままに身体を揺らしていた。慌てて隣にいた男が止めてくれたから良かったが、反応を窺うために五感を鋭くしていた分、酔う事は無かったがふらついていたので助かった。

 

「それでよぉ。ちゃんとお礼もしたいし、色々と訊きたい事もあるんだ。何でかは分かるよな?」

「……」

 

 私は黙って頷いた。助けたという実績があるから何もされていないだけなのだ。ずっと後ろを着いてきて、危険に陥るまで姿さえ見せなかったという明らかに普通じゃない子供、下手をしなくても八百長の犯人と思われてしょうがない。

 

「って事で、俺達がこれから使う予定の建物の手続きが終わったらしいからそっちへ向かうぞ。何か食いたいものはあるか?忍田と林藤に買いに行かせるから遠慮しなくて良いぞ。聞こえてたかお前ら?」

『空閑さん。聞こえてはいましたがそちらの状況が理解できていません。詳しい説明をお願いできませんか?』

「いきなりひったくるな。それと勝手に使い走りさせてやるな。とは言え礼をするのに菓子と飲み物ぐらいは必要か」

「おい人数分の飲み物と菓子とプラスで子供向けの物も用意しといてくれ」

『……はあ、分かりました。用意はしますので合流したらお話を伺わせていただきますよ』

 

 何がどうしてこうなっているのかは分からないが、酷い扱いを受ける心配はなさそうだとだけ判断して流れに身を任せることにした。彼らの雰囲気に飲みこまれてしまったという自覚はあるが、それでも微かに自分の口角が上がっているの気が付き、誤魔化すようにため息を吐いて彼らの後ろを着いて行った。



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空閑悠菜④

続きを楽しみと言ってくれる方がいたので少しずつですが投稿していきます。

まあ、ちょっと今週来週は学校と就活で忙しいので投稿できない可能性が高いので、その分早めに投稿した感じですね。急いで書き上げたため矛盾や誤字などがあるかもしれません。明らかにおかしい物はご指摘ください。

時系列関係をネットで調べて見たりしたんですが、欲しい情報が無かったので一部は予想で書いてます。




 目的地としていた城塞国家『カルワリア』に到着した。強行軍で約9か月と言う長い時間を船内で過ごしてようやくたどり着いて、一息つけるかと思えば義父の友人から出てきた言葉に私は茫然とした。

 

「……すみません。ライモンドさん、もう一度言ってもらっても良いですか?」

「ああ、遊真君は3か月ほど前にここを出発したよ。有吾の故郷である玄界(ミデン)へ向かうと聞いた」

 

 遊真の行方について知れたのは良い事だが、一歩、いや数歩分は来るのが遅かったようだ。実際には義父である有吾が死んだのも推定では2年前だったが2年半前だったようだ。という事は3年ちょっとの間、遊真は一人で戦っていたという事だ。

 

 義父の死んだときの様子、遊真の状態、戦争の終結までの流れ、様々な情報が手に入ったのは良いが、これ以上ゆっくりしている時間は無さそうだ。ライモンドさんだけでなく、彼の娘であるイズカチャと息子のヴィダターノにも少し留まってはどうだと言われたが、気持ちだけ受け取って旅立つ準備を整えて玄界(故郷)を目指す事に決めた。

 

「ここからだとまた9か月近く掛かりそうだ。3か月前の座標はどうなってる?」

[変化はあるが、遊真の移動手段を考えると着く時期はほぼ同じになりそうだ。どうしても我々の方が遅くはなるだろうが、誤差は1,2週間程度だろう]

 

 はっきり言って私の移動手段は船の性能面でもトリオン量でもかなり上の方であるため、近界の配置の変化や3か月と言う時間的アドバンテージもどうにかなる。

 

「強行軍、前提だよね」

[ああ、どうせ安全な航路など選ばないだろう?]

 

 ニヤリと笑うと、「分かってるじゃん」とだけ返して、船へと乗り込んだ。関係の無い事だがライモンドさん()()お世話になっていたようなので、個人的なお土産を色々と渡しておいた。丁重に断ろうとしていたが無理やり置いて帰った。

 

 考えなかった訳では無いが、遊真が玄界(ミデン)に行っていると考えると感慨深いものがある。近界に旅に出てからしっかりと帰ったことは無かったので、実に8年ぶりの帰郷となる。5年前くらいに近くまで顔を出したこともあるが、その時は会いに行く余裕は()()()()無かっただろう。

 

「……感傷に浸る暇はない」

[感情を捨てるなよ。悠菜]

「大丈夫、もう十分悲しんだよ」

 

 家族の死が仲間の死に顔を思い浮かばせる。他人の死にいくらでも触れてきたし、消えてしまった命よりも自分が奪って来た命の方が多いくらいだ。だが慣れる事のないこの痛み、今この瞬間だけは何も感じていなかった子供時代に戻りたい気分だ。

 

 船の航路の計算を全て終わらせると、どうなっても良いと投げやりにベッドに身を預け、思考を止めていく。段階的に薄くなっていく意識をそのままに私は静寂(悪夢)を望んだ。既にトリガーの調整も研究も全て終わっている。着くまでの間寝ていたとしても、この船とレプリカが居るのであれば問題は無い。

 

「お休み」

[……ああ、お休み悠菜]

 

 不安定な精神状態で、眠りさえも安らぎとならない悠菜。それを見つめるレプリカはどうにもできないもどかしさを飲み込み、そっと返事を返すだけに努めた。それから悠菜は玄界へ向かうまでの9カ月の間ずっと眠って過ごした。懐かしい日々を繰り返す様に思い返しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最低限の整備がされているようだが、やはり主人の居なかった拠点はかなり薄汚くなっていた。まあ、元々子供時代の秘密基地を改築して作って貰った場所なので外からの見た目は備えられた設備に似合わない古臭さが感じられる。

 

「船の格納完了、拠点のメインコンピューターも問題なく動く、流石にトリオンの貯蓄は無かったけど」

[それはそうだろう]

 

 持ち主が居なくなった今も管理がされているのは技術が外に出ない様にと言う理由だろうが、設備が無事であるのならば後はそれほど問題は無い。ここは一応ボーダーの管轄となっているが、設備だけでなく土地も含めて私個人の持ち物である。

 

 そのため、ボーダー関連の設備もあるが、基本的には独立したシステムなので正式な手順を踏んで使用していれば、通報されることも無いので、私が帰って来たことに誰も気づいていないだろう。片付けを終えたらお土産を持って顔を出しに行こうと考えていた。しかし、こちらの世界の情報を調べていく間に違和感を感じ、ボーダーの情報へとアクセスしてその気は無くなった。

 

「ボーダー本部、各支部、開発されたトリガー、トリオン技術、現隊員数に各部隊、実現したランク戦システム、直近の事件は誘導できない(ゲート)とそれによって行われた襲撃、その原因の排除、そして人型近界人(ネイバー)ねぇ」

 

 

 

「何で城戸(きど)さんは遊真を敵認定してるのかなぁ?」 

[……]

 

 

 何があったのか、どうしてそうなったのか、詳しい事情は知りもしないが、何で貴方が義弟をそういう風に決めたのかは知らないが、黙って見ているという選択肢は絶対的に在り得ない。

 

 

 

「それを許す事は出来ないよ」

 

 貴方を、そして()()()()を敵としたいわけでは無いが、その一線を越えようとしている者達を懲らしめるためにお得意の仕込みを進めていくことを決めた。私は()()()()()()()の事を思い浮かべながら一定の波長で眼に()()()()()()()()()

 

「ああ、私達の意思はまだ生きているのか、ふふふ。()があの子と友達を守ってくれてるのか。玉狛支部、支部長は林藤(りんどう)さんだったか、小南(こなみ)木崎(きざき)も居るのか」

 

 浮かべた景色に嬉しく思い、懐かしい名前と顔を思い浮かべる。ああ、でもサプライズは大事にしなければ、彼が見る未来に私が()()()()()()()()事を進めて行こう。

 

 

「会うのが楽しみだよ」

 

 

 




遊真が3年間戦争で戦って、旅立って3か月後に悠菜到着。
9か月後に遊真が玄界に到着、三雲と出会う。
既に雨取とも出会っており、三輪隊とは戦闘済み。

本部が遠征部隊を待っている間に悠菜が遅れて玄界に到着。
過去話でチラッと出てきていた使われていない古い倉庫。
あれを買い取り、悠菜が改造、空閑一家が使用していた。
整備してくれていたのは玉狛のメンバー。

残っていた設備を用いて本部にこっそりアクセス。
本部の遊真への対応を知る。

少し年下の後輩と言うのは未来の見える人です。
旧ボーダーの写真に写っている人たちとは大体は面識があります。

写真は6年前の物だが、6年前に一気に加入したわけでは無いだろうと考えて、空閑親子が近界へと旅立った10年前と悠菜が旅立った8年前の2年間の間で大体の人間が加入していることにしました。(最低でも迅、小南、木崎との面識はあるという設定にするためと同盟国との戦争、仲間の死の悲しみを表現するため)

サイドエフェクトや体質に関しては原作へ突入して少ししたら説明が入ります。
かなりチートな設定です。スペック自体もかなり高め。

とある方法を用いて、迅とA級部隊の戦闘を感知。
介入する(驚かす)ために迅以上の暗躍(優菜いわく仕込み)を行う。


次は完全に戦いに割って入ります。
しかし、戦いません。あくまでサポートに回る予定です。
なのできちんと嵐山隊も出てきます。

空閑悠菜と始まりの記憶を交互に出してきましたが、次の始まりの記憶の④かな?それを出したら一度止まりますね。後は基本的には原作沿いで進みます。

始まりの記憶はある程度進んだら一部を出す、みたいな感じで回想の様に今後はなります。今までは、義父が死んだことによる精神的ショックで移動の間に見る夢と言う体でやってましたが、今後は誰かが悠菜に着いて説明するときや自分や誰かが思い出す時に入れていきます。


という訳で少し後書きが長くなりましたが、これでおしまいです。
ではまた次回までお別れを、いつもの挨拶で締めさせて頂きます。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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始まりの記憶④

すみません。投稿が予定より遅れました。
実家住まいなのですが引っ越しをしてまして、パソコンが使えずに小説の作成が出来ないでいました。

まあ、そんなことはさておきとりあえず本編どうぞ。


 テクテクと歩いて目の前の男2人について行く、外で話すような内容では無いのでトリオンに関する話は一切しないが、世間話などをずっと話続けている。

 

 有吾と呼ばれた男はまず自分に着いて話してからこちらの事を訊ねてきているので一応会話という形が成り立っているが、さりげない尋問の様にも感じられる。別に知られて困るような内容も無いので答える事にした。

 

「俺は空閑(くが)有吾(ゆうご)だ。嬢ちゃんは何て言うんだ」

 

 よくよく考えなくても()()()から名前を呼ばれた記憶は無く、私自身も人と関わらないで来たので区別するための記号は必要なかったので用意していない。

 

「名前は無い」

 

 そう答えると、冗談や嘘、誤魔化しの類だと思われると考えていたのだが、有吾と言う男は私の言葉を聞いた瞬間に身体を強張らせて、そうなのかと呟いた。

 

「何処に住んでんの?」

「決まった家は無い」

 

 どうせこの後向かった先で話をするうちに色々聞かれるだろう。先に答えようと、後で答えようと変わる事は無い。偽る必要性も感じられないので同じように応えると今度は有吾の表情も固まった。同行している正宗と呼ばれた男も足が完全に止まっていた。

 

 その後、私との会話は取りやめて向こうの話を一方的に話すだけになった。最初から分かっていた事だろうが、想定より訳アリだと判断したのか、外で話す内容では無いと考えたのだろう。相槌を打つことなく、ただ着いて行く事だけに私は徹した。

 

 その後も特に変わったことは無く、目的地を目指していった。歩いて行くうちにどうも見慣れた風景が多く、もうすぐ着くぞと声を掛けられた時には1つの予想が浮かんでいたのだが、その予想は見事に当たった。

 

「ここだ。ここ、元々川を調査する施設だったのを買い取ったんだ」

「…………」

 

 とりあえず自分の拠点の一つが使えなくなることが確定した。手続きや片づけを進めていると聞いたので私がため込んだ物も一部回収されているかもしれない。だが、元々不法侵入して勝手に使用していたのだから文句が言えるわけもないので黙っておくことにした。

 

「空閑さん、お早いお着きで、最上さんは荷物を取ってくると車で出ちゃいましたよ。頼まれた物はほらっ、忍田が」

「このビニールに入ってます。言われた通りに飲み物と菓子類は用意しましたが、順序だてて説明していただけるとありがたいのですが、それとそちらの子は?」

「それも含めて話すから言ったん中に入るぞ」

 

 有吾の言葉に一応頷いて、その場にいた面々は建物の中に入って行き、私もその後に続いた。勝手知ったると言っていいぐらいに入り浸っている場所なのだが、好き勝手に動くようなことはしないで置く。たどり着いた部屋には椅子や机が置かれた部屋があり、殺風景だが話し合いには十分な場所だ。

 

「それでは報告を始めましょう」

「そうだな、あっそうだ嬢ちゃんこれ好きに飲んで食っててくれ」

 

 そう言ってジュースとお菓子が私の座っている堰の目の前に置かれた。基本的には食事はせず、食べても草木や虫、比較的衛生的な残飯などだったのでまともな食料を口にするのはいつぶりだろうか。珍しい機会なので少し集中して味わう事にした。

 

 私がお菓子に夢中になっている間も向こう報告は進んでおり、この建物についてや運び込んだ物について、周辺の調査の結果に加えて先ほどの騒動と私に着いての報告も行われていた。一部専門用語と思われる物もあったが、話の流れは理解できた。

 

 向こうの大人組の情報交換が済んだらしく、議題が私へと移り、道中の会話と同じような雰囲気で色々と質問していきたいらしい。情報を整理するためにもう一度最初から質問していくので答えられる物には答えてくれとのことだ。

 

「名前は?」

「無い」

「家は?」

「無い」

 

 同じように答えると、こちらで会った二人は分かりやすく顔を顰めた。すぐに顔を戻したが態度が年上組と比べて隠せていない。

 

 

「道中でしっかりと訊いたのは今の2つだけだな」

「……」

 

 何も言わずに頷くだけで応える事にしたのだが特に不興を買う事は無いようでそのまま質問を続けていく様だ。何を聞かれるのか気にはなるが心配な事は無いので、心中は意外と気楽である。

 

「何処か住んでる場所はないのか?」

「使われてない建物に忍び込んでる。ここもその一つ」

「それは、まあ。なんとも言えない偶然だなぁ、おい」

 

 私の答えに有吾と呼ばれた音は何とも言えない顔で驚きを表した。比較的若い2人組の方は思い当たる事があるのか口を挟んで来た。

 

「中に置かれていた古い家具や道具はもしや君のかい?」

「家具はそのままだが、道具は捨ててないが纏めちまったな」

「別に良い」

 

 地道に集めて行ったとは言えそこまで大切なものではない。他の場所にも道具や家具はあるので最悪処分されていてもどうにかなっただろう。

 

「気を取り直して、何であの場にいたんだ?」

「途中からずっと着けてた」

 

 そう答えると全員が警戒と言う訳では無いが、私の行動の意味を測るために注目したようだ。興味本位で首を突っ込んだだけなので、警戒されてもしょうがないのだがそれをすんなりと伝えるだけの技量は私には無い。

 

「それはどうしてだ?」

「私が感知してるエネルギー、そっちがトリオンって呼んでるのが多かったから興味を持った」

 

「トリオンを感知ねぇ。サイドエフェクトか?」

「おそらくそうだろうな」

 

 サイドエフェクトと言う単語を始めて聞いたが、たぶん英語だろう。サイドは隣や副などエフェクトは効果だったか?文脈的に考えて副次的な効果と言う意味だろう。副次的という事はその原因となりえるのはトリオンだろう。

 

「感知ねぇ。出来るのはそれだけか?」

「トリオンを見れる、触れる、好きに動かせる、見たり聞いたりとか感覚を強化したり、自分のトリオンを隠したりもできる、後は見ればわかる」

 

 私はその場でまともな古着から見繕って着ていた服を脱ぎ捨てた。子供とは言え女がいきなり躊躇いもなく脱いだことに驚きはしたがそれ以上に私の身体の異常性を目の当たりにして全員が固まった。

 

「その身体は……一体?」

「多すぎるトリオンに浸食されてると考えてる。それが本当かは私も知らない。髪も皮膚も内臓も、段々と白くなっていってる。もう殆ど私の身体はトリオンで出来てると考えてもらっていい」

 

 恐る恐ると言った様子で全員から順々に質問が投げられた。浸食の際には痛みが走ること、食事や睡眠が殆ど必要ないこと、感覚の強化の度合いやトリオンを探知できる範囲、操作はどんなことが出来るのか、生まれてから少しずつ進行していること、分かる事と分からない事と出来る限り答えるようにした。

 

「……そうか。矢継ぎ早に聞いて悪かったな」

「別に」

 

 既に部屋の中の雰囲気はかなり悪くなっている。私が悪い訳では無いが原因は私だろう。ああいった彼らの表情や感情を言い表すならやるせないというのがしっくりきそうだ。一呼吸おいてからようやく別の質問に進むそうだ。

 

「答えたくなけりゃ答えなくて良いんだが、親はどうした?」

 

 改めて断わりを入れてから訊いてくるほどの事だと私は思わないが向こうからしたらかなり気を使う内容なのかもしれない。そう言った感情や感覚はまだあまり知ってても理解できない。

 

「私の人より多いトリオン?とやらに惹かれたのか分からないけど、やってきた先ほどの化け物みたいなやつに連れ去られていったよ」

「悪い事を訊いたな。すまない」

 

 悪い事か、私は一切そのようには思わない。あれらは私にとって百害あって一利なしな存在であった。その最後に喜びはすれど悲しむことは無かったのだから、きちんと私は訂正して置く。

 

「別にどうでも良い。むしろ自由に成れたから逆に嬉しかった」

「……そうか、そうなのか」

 

 何かを悲しむ様な雰囲気が感じられる。何を悲しんでいるのだろうか、私の境遇か、喰われたあいつらか、それとも私の答えに対してか、それは分からないし、どうでも良い。その後も色々と訊かれ、()()()()()()に対しては答えた。

 

「よし、お前ウチに来い。そして俺の養子に成れ」

「……?」

 

 どういうことなのか意味が理解できずに困惑することしか出来なかった。普通の子が通っているとみられる学習施設には行っていないが、それなりに理解力のある方だと自分を評価していたのだが、間違いだったかと思い悩むほどだった。

 

「有吾、お前は何をどう考えてそう言う結論に至った?」

「それで理解は流石に難しいかと」

「はは、何の脈略も無いですねぇ」

 

 良かった。どうやらお仲間の方も理解に及んでいないようなので私が悪いという訳ではなさそうだ。しかし、言葉の意味は知っているが、なぜそのような結論になったのだろう。

 

「俺らは()()()()()()()()()()()()()()()()を作ろうとしてるんだが、お前さんはこっちの事情に無関係じゃない。そしてお前の話を聞いて個人的にも放っておきたくない。それとぶっちゃけるとお前の力は有用だ。後一番はお前を気に入ったからだな」

 

 何から何まで理由をただ並べただけで、半分は理由、打算もあるようだが、もう半分はこの人物の感情が理由である。それに打算を叶えるためには養子ではなく、その組織に誘うべきだろう。本当に何を考えての提案なのかが分からず、不思議な人物と言うのがその時に感想だった。

 

 その後、組織についてや向こうについて、トリオンやトリガーと言った様々な情報を伝えられた上で考える時間を与えられた。私は後をつける事を選んだこと、助ける選択をしたこと、色々と理由を並べてみて、有吾と言う人物を前にして、提案に頷いた。

 

「それなら、色々と手続きしないとな。それと苗字は俺と同じで良いが名前が無いと駄目だな。つい最近子供が生まれたばかりだからな。どうしても似たような響きが思い浮かぶな」

 

 

「よし、お前の名前は空閑(くが)悠菜(ゆうな)だ」

 




ちょっと展開無理やりだったかな。

設立時のメンバーの様子って分からないからどう書けば良いのか分からないのと、やり取りを書こうと思うと設定をつらつら書かないといけなくなって、『無駄に』長くなりそうなのが嫌だったので少し無理やり纏めました。

有吾がかなり行動力のある変人と言った印象になってしまった。まあ、遊真が変な人だったって言ってたしとりあえずこんな感じで良いや。もうちょい、賢い、ミステリアスな感じにする予定だったんだけどな。私の表現力の問題ですね。

これで、最低限の過去話はおしまい。
後は前にも言ったように今後は回想の際に入れます。

次からようやく原作に混ざって行きます。
主に4巻のA級部隊との戦闘に介入します。

ではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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空閑悠菜⑤

どうにか今年最後の投稿が出来た。
とりあえず、読んでください。


SIDE:迅

 

 

 既に陽は落ちきっており、明かりの無い捨てられた家が立ち並ぶ辺りはだいぶ暗く感じられる。預けた可愛い後輩たちの為にも、これから対峙する油断ならない相手に集中する。あいつ等がこの道を通ってやってくることは見えている。ただ、その時を待つばかり、そしてレーダーに映る事は無いが静かに駆ける姿が目に映った。

 

「迅……!!」

「なるほどそう来るか」

 

 こちらの姿を確認して止まった彼ら、一人は心底嫌そうな顔と恨みのこもった視線で名前を呼び、No.1アタッカーであるもう一人はどこか納得したような表情でこちらの出方を理解したようだ。

 

太刀川(たちかわ)さん久しぶり、みんなお揃いでどちらまで?」

 

 薄っすらと人が見たらいやらしいと感じる笑みを浮かべると世間話をするかのように何でもないような表情で彼らの用件を尋ねた。

 

「うおっ、迅さんじゃん。なんで?」

 

 リーゼント頭のNo.1スナイパーは純粋な疑問、という訳では無くどういう意図で自分たちの前に立ちふさがったのかとあえて学校で友人と会話するかのように訊く。

 

「よう、当真(とうま)冬島(ふゆしま)さんはどうした?」

 

「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」

「余計なことをしゃべるな。当真」

 

 彼らの前に立っている事で自分の目的は分かっているだろうと考え、遠回しな質問には触れずに質問で返すと、意味が無いと分かっているのか世間話の様に軽く答えてくれた。しかし、それを小さいNo.2アタッカーが注意する。

 

「こんな所で待ち構えてたってことは、俺たちの目的もわかってるわけだな」

 

()()()()()にちょっかい出しに来たんだろ?」

 

「最近、玉狛(うち)の後輩たちはかなりいい感じだから、ジャマしないでほしいんだけど?」

 

「そりゃ無理だ……と言ったら?」

 

「その場合は仕方ない」

 

 

 

「実力派エリートとして、かわいい後輩を守んなきゃいけないな」

 

 

 お互いに分かり切っている事を最終確認と言う訳では無いが聞き、そして答える。こちらとしてはそれをされる訳にはいかないのだから。

 

「…………」

「なんだ迅いつになくやる気だな」

「おいおいどーなってんだ?」

「迅さんと戦う流れ?」

 

「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』

隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?迅」

 

「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろ風間(かざま)さん」

 

「……!」

 

 理詰めで此方に対して牽制を仕掛けてくるNo.2アタッカーこと風間隊の隊長に対して、そちらの方が問題だよと軽く言って見せる。

 

「『立派なボーダー隊員』だと……!ふざけるな!近界民(ネイバー)を匿ってるだけだろうが!!」

 

「近界民を入隊させちゃダメっていうルールはない。正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」

 

 近界民に対しての恨みが強い三輪()が感情任せに叫ぶが、間違った事はしていないという主張を変えずに貫く。しかし、素早く主張の穴を着いてくる人がいた。

 

「いや迅、おまえの後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ。玉狛で入隊手続きが済んでても、()()()()()を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認められない。俺達にとておまえの後輩は1月8日まではただの野良近界民だ。仕留めるのになんの問題もないな」

 

「へぇ……」

 

 太刀川さんの主張は正しく、仮に遊真を攻撃されたことを訴えても()()()認めていない隊員に関する主張など突っ返されるだけである。

 

「邪魔をするな迅、おまえと争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する。本部と支部のパワーバランスが崩れることを別としても、(ブラック)トリガーを持った近界民が野放しにされている状況はボーダーとして許すわけにはいかない。城戸司令はどんな手を使っても玉狛の黒トリガーを本部の管理下に置くだろう。玉狛が抵抗しても遅いか早いかの違いでしかない。おとなしく渡したほうがお互いのためだ。……それとも黒トリガーの力を使って本部と戦争でもするつもりか?」

 

 そちらの主張など関係無いと人蹴りにして、淡々と本部の意思と任務の続行を告げる風間さん。

 

「城戸さんの事情は色々あるだろうがこっちにだって事情がある。あんたたちにとっては単なる黒トリガーだとしても、持ち主本人にしてみれば命より大事な物だ。別に戦争するつもりはないが、おとなしく渡すわけにはいかないな」

 

「あくまで抵抗を選ぶか……おまえも当然知ってるだろうが遠征部隊に選ばれるのは()()()()()()()()()()()と判断された部隊だけだ。他の連中相手ならともかく俺達の部隊を相手に、お前一人で勝てるつもりか?」

 

「おれはそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さはよく知ってる。それに加えてA級の三輪隊、俺が黒トリガーを使ったとしてもいいとこ五分だろ」

 

 事実トップクラスの実力を誇るA級部隊4部隊を一度に相手をするとなれば黒トリガーとサイドエフェクトを含めても五分行けたらいい方である。

 

「『おれ一人だったら』の話だけど」

 

「……!?なに……!?」

 

 これまでの条件を覆すかのような発言に驚きを隠せずにいると、おれと4部隊以外の人影が屋根の上に現れた。気配にいち早く気付いた太刀川さんが目を向けた先には頼もしい援軍がいた。

 

「嵐山隊現着した。忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!」

 

「嵐山……!」

「嵐山隊……!?」

 

「忍田本部長派と手を組んだのか……!」

 

 突然の展開に状況判断が遅れたが、太刀川がいち早く、嵐山隊と言う援軍の意図の裏側を理解した。嵐山隊は名乗りを上げた後でおれのすぐ近くに降りた。

 

「遅くなったな迅」

「良いタイミングだ嵐山」

「三雲君の(チーム)のためと訊いたからな。彼には大きな恩がある」

木虎(きとら)もメガネくんのために?」

「命令だからです」

 

 お互いに意思を伝えた後で緊張をほぐすように冗談を挟んだのだが木虎には冷たく返された。嵐山たちの到着によってこの先は決まった。

 

「嵐山たちがいればはっきり言ってこっちが勝つよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる。おれだって別に本部とケンカしたいわけじゃない。退いてくれるとうれしいんだけどな。太刀川さん」

 

「なるほど、『未来視』のサイドエフェクトか。ここまで本気のおまえは久々に見るな。おもしろい」

 

 自信満々に告げるも目の前の戦闘狂は任務以上に本気のおれとの戦闘という事に興味を惹かれたようでゆっくりと腰にさした得物をゆっくりと引き抜く。

 

「おまえの予知を覆したくなった」

 

「やれやれ、そう言うだろうなと思ったよ」

 

 しょうがないと言わんばかりのテンションでこちらも得物を抜く、そうするとお互いの面々が距離を取って戦闘態勢に入った。

 

 

〈へぇ、忍田さんも味方してくれるのか。それは嬉しいね〉

 

 

『!?』

 

 敵味方関係なくいきなり頭に直接響いた独り言のような声に全員の動きが止まった。その中で1人、おれだけは聞き覚えのある声に固まった。

 

〈ってことは、こっちの嵐山隊の人たちは味方ね。それにしても結構簡単に通信に割り込めたし、全体的なシステム的にもセキュリティに問題があるんじゃないかな。そう思わない?迅〉

 

『・・・・・・!?』

 

 全員に届く謎の声ははっきりと迅という名前を告げたので全員の視線がおれに集中する。そしておれは()()()()()()()()()()()未来に驚き、冷や汗を流す。

 

「おいおい迅。まだ伏兵を用意してたのか」

「……いや太刀川さん。これはおれも想定外だ」

「……!?おまえが想定できないことがあるのか?」

「見えにくいとか以前に()()()()()()()()と言えば分かってもらえるか」

 

『!?』

 

 この場にいる者でおれの『未来視』を知らない者はいない。未来を好き勝手出来る様な物ではないと理解して貰っているが、超感覚(ランクS)のサイドエフェクトを何らかの形で無効化したという事だ。それを聞いた太刀川さんも驚きを隠せていない。

 

〈お話終わった?色々と理由はあるんだろうけどさ、たった一人の家族に手を出されるのを黙って見てるわけにはいかないんだけど…………そこんところ、どう思う?〉

 

「……!?待った待った。待って欲しいんだ悠菜(ゆうな)姉さん。こっちにも色々事情があるんだって、それに遊真(ゆうま)についてはおれが守るから」

 

『姉さん!?』

 

 突然見えた、いや()()()()()()()未来(可能性)に慌てて止まってもらえるよう願い出る。その際にうっかり昔の呼び方で呼んでしまったため、敵味方共に驚いている。というか、おれも含めてさっきから驚いてばかりである。

 

〈まっ、迅が言うんなら守れるんだろうけど、何かあったら本当に許さないよ。後、止めるのは直接的に手を出す事だけ、サポートと妨害は勝手にするから〉

 

「あ、ああ、もう好きにしてください。それで終ったらこっちに来るんですか?と言うかいつこっちに帰って来たんですか?」

 

〈ま、一度()()()顔出すよ。さてそれじゃあ、遮っちゃたけど始めようか〉

 

 そう言って、通信は途切れてその場を静寂が包み込んだ。そうなると全員が抱いた疑問の答えを知るためには何かを知って居るであろう者に訊くしかない訳で、また視線がおれに集中する。

 

「迅、今の声は誰だ?」

「おれも教えて欲しいな。迅お前に姉なんていたのか!?」

 

 すぐさま戦を闘再開できるような雰囲気ではなくなっており、風間さんと嵐山の二人からどういうことだと尋ねられる。こちらとしても状況の理解が追いついておらず、どう説明して良いのか分からないのだが、黙っている訳にもいかず口を開く。

 

「まずあの人が何者かと言うと旧ボーダー、それも創設期に近い時代のメンバーで忍田さんやうちのボスの直接の後輩にあたる。要するに最古参のメンバーの1人だ」

 

 冗談交じりに「おれら全員にとって先輩にあたる人物だ」と伝える。しかし、それだけではないだろうという視線が未だに突き刺さってくる。

 

「他にも、創設期のメンバーで関わりが深かったのが最上さんと空閑有吾さんと言う人だ」

「空閑だって!?」

 

 聞き覚えのある名前に嵐山が反応を示した。敵の面々はざっと概要を知って居るのか空閑の名前に対しての反応は無い。それがなんの関係があるんだという顔をしている。

 

「そう、嵐山も名前を知ってるみたいだが……有吾さんはお前たちが狙ってる近界民認定されちまった空閑遊真の父親にあたる。そして今の通信に割り込んで来たのは有吾さんの義理の娘で遊真の義姉にあたる空閑悠菜さんだ」

 

「ほぉー、ってことはその近界民っていうのはこっちの出身なんじゃないか」

「当真、近界出身だろうがこっちの出身だろうが任務に変わりはない」

 

「なんと、空閑くんにそう言う事情があったとは驚きだが、三雲君のためもそうだが、彼の為にも頑張るとしよう」

「まさか、伝達の際に言われた近界民があいつだったとは」

 

 既知の情報と新しい情報とでごちゃ混ぜになりそうだが、なんとか全員が状況の整理が終わったようで騒めいていた空間が静かになる。

 

「で色々と起こりすぎて変な空気になったけど、さっきも言った通り、おれと嵐山隊が組んでる以上負ける事は無いし、悠菜さんが補助してくれるとなると更に負ける可能性は減った。それでもやるか、太刀川さん」

 

「はっ、さっきも言ったがおまえの予知を覆してやるよ」

 

 改めて全員が武器を構えて、戦闘態勢を取る。少しの距離を開けて向かい合う両陣営だが、これから先の予定は少し変更する必要がある。

 

 

「負けなくなったってのもあるんだけど悠菜さんがいるから()()()()()()()()()()()()()()。だから……」

 

 おれは『風刃』を起動すると一気に二つの刃を飛ばして、残すと厄介になる風間隊の菊地原と同じく風間隊の歌川の首を飛ばした。太刀川さんと風間さんは素早く、胸と首(急所)を庇う様に動いたが二人は何の反応も出来ずにやられた。

 

 

 

「最初からプランB、いやプランCになるのかな」

 

 




迅は旧ボーダー時代に悠菜とあっており、かなり懐いていた設定です。

原作では二手に分かれて戦いになり、迅さんの方がプランA「トリオン切れで撤退させる」がばれてから「風刃で戦い、風刃の価値を高める」プランBに移行するはずでしたが、万が一があった際になりふり構わない存在の登場で少々焦ってます。

どちらにせよA級混合部隊は迅と嵐山隊を分断させる必要があるので三輪隊+弾馬鹿対嵐山隊の構図は変わらないでしょう。

迅対A級混合部隊の戦いは歌川が居ないこと、風刃を起動して2つ既に使った事、そしてその後すぐに乱戦から下がってリロードした事、あまり関係ないですがプランAでの戦いをしてないのでトリオンが全然消費されてない事ぐらいですかね。

そして乱入者によって通信関係やオペレーターによる補助が受けられなくなってるのが最大のポイントですね。

さてさて、ほぼほぼ勝ちが決まっており、悠菜と言うイレギュラーが登場していることで風刃の価値を認めさせることが出来るのかと言う点などもありますが、そこいら辺は次回の更新でいきましょう。

次で戦いの決着までいって、その次で本部の人たちとの会話と支部への合流かな。

ではいつもの挨拶と今年最後の挨拶で締めさせてもらいます。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。
そして良いお年を。


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A級合同部隊①

あけましておめでとうございます。(遅いわ)
年明け初の投稿でございます。

まあ、去年から読んでくれている方も今年から読む様になったよと言う人もどうかよろしくお願いいたします。



SIDE:オペレーター

 

「そっちの方はどうなってますか?」

 

「繋がりそうにないです」

 

「こっちも、向こうの声も届いてない」

 

「ピンポイントで此方と現場の繋がりだけ遮断してる」

 

 現在、任務で玉狛支部へと向かっているA級4部隊のオペレーターは、迅と悠菜の会話が終わった瞬間に繋がらなくなった通信を復旧させようと協力していた。本部全てのシステムが使えない訳では無く、隊員たちとの繋がりだけが遮断されているので、オペレーター同士での連携は出来るのだが、サポートどころか、映像や音声さえも届かない状態が続いている。

 

「すみません。そっちの方どうなってますか?」

 

「綾辻さん!?」

 

「まさかのお相手からの連絡?」

 

「どうなってるも、一切何も出来てないし状況が分からないのが現状よ」

 

()()()()()()って、そっちの方でも何か起きてるんですか?」

 

 同じボーダーの中までオペレーター同士でやり取りもしているが任務の関係性で現状敵対している相手に連絡して来た嵐山隊の綾辻(あやつじ)(はるか)からの連絡が来たことに驚いていると、含みのある問いかけに風間隊の三上(みかみ)歌歩(かほ)が気づき、その疑問に綾辻は答えた。

 

「こっちは情報は入ってくるし、連絡は取れるけど、操作が一切できてないです」

 

「え~、さっきの悠菜さんって言ったっけ?その人と敵対してるこっちならまだしも、何で嵐山隊の方まで?!」

 

「相手はボーダーの防御を超えて5か所同時にハッキングを仕掛けてきているってこと」

 

「はっきり言って、4人同時で妨害を何とかしようとして何も出来てない時点でお手上げですね」

 

「と言うより妨害されている事は伝えたのかしら?」

 

「今回は圧勝するために全力でサポートと妨害をしますのでどうかご了承下さいと言われて嵐山さんが許可しました」

 

 敵味方を巻き込んでオペレーターのシステムを乗っ取ったまだ見ぬ相手に5人は脅威と不安を感じたまま戦いの終わりを待つことになった。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 歌川と菊地原を斬り飛ばさて、そのまま一気に乱戦になれば向こうの思うつぼである。こちらは既に通信すらまともに機能してないようで太刀川が迅と、三輪隊の三輪と米屋に加えて太刀川隊の出水が嵐山隊と一時的に向かい合う形に成り、その間に一度離れた地点で合流を測る。

 

「風間、どうする?通信もレーダーもいかれてるぜ。これじゃ連携どころの話じゃないぞ」

 

 当真の言う通りで、周辺の情報の確認も出来ない。通信での会話が出来ないため距離が遠い相手と細かい連携は取れない。戦闘中に何かを伝えようとすれば相手にも伝わってしまうだろう。特に遠距離からの狙撃を行う狙撃手たちは最も動きにくいだろう。

 

「っ!?跳べ!!」

 

 見えない壁の裏を通ってきた一本の線にいち早く気付いた風間が声を上げて指示を出す。全員反射的に体を動かしたが、三輪隊の古寺(こでら)が遅れ、足を両方とも斬られた。そして飛び上がった面々を狙う2つの狙撃が飛んでくる。気付けた当真はシールドで防ぐが、奈良坂は咄嗟に防ぎきず緊急脱出(ベイルアウト)。そして機動力を完全に失った古寺も此処でリタイアだろう。

 

「落ち着いて話もさせねえってか」

「すみません。指示されたのに避け切れませんでした」

「今のは佐鳥(さとり)のツイン狙撃(スナイプ)か、当真」

「ここからじゃ、流石に厳しいな。撃ち返すの(カウンター)は無理だ。それに向こうはもう移動してるだろ。流石にポイント全部は把握してねえからな。探すのは現実的じゃねえな」

 

 遠距離からの斬撃は風刃の特徴だが、確実に見えない位置にまで飛ばして来るとは想定外だった。しかし、通信もレーダーも向こうに掌握されているのだから、こちらの位置情報が全て向こうに知られていてもおかしくは無い。古寺は謝罪を伝えるとそのまま緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

「捨て身で掛かったとしても迅をどうにか出来るか五分五分、サポートが無い状態では三輪隊も厳しいだろう。そのうえ玉狛に着いたとしてもあいつらとネイバーがいる……これ積んでんじゃねえか?」

「太刀川がそう簡単に落ちるとは考えられない。連携のしにくい現状で下手に割り込まない方が良いだろう。狙撃ポイントは逆に狙われる。スナイパーも地上で撃つ方がまだ安全だろう。三輪隊に合流して嵐山隊を撃破する。迅の風刃と佐鳥の狙撃への注意を怠るな当真」

「了解」

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

SIDE:迅

 

 

 声に出していた会話の裏で予定していた作戦と遊真の置かれている現状について詳しく説明してからどうにか穏便に協力してもらえるように納得してもらえた。

 

(パワーバランスなんて考える余裕を無くす、サポートと妨害を活かして圧倒しなさいか……悪い方向にはいかないと信じて働くとしますか)

 

「楽しいタイマンなのに考え事か迅?」

 

 弧月で斬りかかり笑顔で尋ねてくる太刀川さん。確かに久しぶりにやりあうこと自体は可能なら楽しみたいが、そうも言ってられないので全力で斬り合う。

 

「まあね、色々と想定外の事が起きてね。実力派エリートとしては大変でね。と言う訳で帰ってくれると本当に助かるんだけど、どう太刀川さん?」

 

「聴くわけないだろ」

 

 俺にリロードの隙を与えないために嵐山隊と分断させて来るのは分かっていたが、今となっては()()()()はどうとでもなる。俺は距離を取った瞬間に地面に斬撃を走らせる。その斬撃は見え見えの行動を不審に思いながらもすぐに防御できる体勢を取っていた太刀川さんを素通りしていった。

 

〈角度修正左方向5度、距離300メートル、反応を視界に表示、5秒後に方向を90度転換して起動……1本は避けられたけどスナイパー1名の足を奪った。もう一人は佐鳥さんが撃破。今のうちに刃を飛ばして〉

 

「了解」

 

 指示に従い、残っていた風刃の刃を全部流すと追加の指示が出る。

 

〈残数7本中2本は時間差で攻撃、2本は目くらまし、2本は罠として、最後の一本は……〉

 

「なるほど、そりゃいい手だ」

 

 急に風刃の残弾を使い切った事で更に不審をあおったようだが、そこを攻めないわけにはいかないので、距離を詰めて斬りかかってくる。だが後ろから飛び出る斬撃とタイミングをずらしてやってきた斬撃に対処するためにまっすぐ進まず、横に跳びながら斬撃を避けてくる。

 

 目の前に来た太刀川さんの足元から斬撃が飛び出すが、見え見えの斬撃に当たる事は無くそのまま斬り結ぶ、しかし、それで良かった。先ほどからの戦いで周辺は多少傷ついており、瓦礫と言うほどの物は無いが蹴り飛ばせる程度の石があった。

 

 表面をグルグル回る様に飛んでいる斬撃ごと石を太刀川さんの方向へと飛ばす、慌てて斬撃を防ぎ石を切り伏せた太刀川さんの足を目掛けてもう一本の斬撃が太刀川さんが切った石から放たれた。斬り飛ばすとはいかなかったが動きが遅くなるのは間違いないだろう。

 

「小さい石に2本も仕込んでたのか」

「悪いね……でもそれだけじゃない」

 

 その瞬間に俺の身体から飛び出した斬撃が太刀川さんの腕を斬り飛ばした。

 

「な!?」

「なに、トリオン体も物体だ。服の下の身体に斬撃を飛ばしていただけだよ」

 

 持っていた弧月と一緒に斬り飛ばされた右腕に一瞬呆気にとられるが、慌てて左手に弧月を出すが一手遅い。態勢が崩れ気味の太刀川さんに風刃を振るって体を横に一閃する。

 

「俺が考えていた作戦とはかけ離れているけど、こっちの参謀と俺の風刃は優秀なもんでね。悪いな」

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

SIDE嵐山隊

 

 相対する三輪、米屋、出水の三人。あの迅が想定できなかった事にこちらも面を喰らったが任された仕事はこなさなければならない。

 

「嵐山隊……なぜ玉狛と手を組んだ?玉狛は近界民を使って何を企んでいる?」

 

 三輪の事情は知っているので問いかけには納得がいったのでそのまま自身の考えを伝える。

 

「玉狛の狙いは正直よく知らないな。迅に聞いてくれ」

 

「なんだと……!?」

 

「近界民をボーダーに入れるなんて普通はありえない。よっぽどの理由があるんだろう。迅は意味のないことはしない男だ」

 

「そんなあいまいな理由で近界民を庇うのか!?近界民の排除がボーダーの責務だぞ!!」

 

 苛立ちを隠すことも無く叫び声を上げる三輪、だが恨みを否定するつもりは無いが、逆に恨み以外を否定させるわけにはいかない。

 

「おまえが近界民を憎む理由は知ってる。恨みを捨てろととか言う気はない。ただおまえとは()()()()()()で戦う人間もいるってことだ。納得がいかないなら迅に代わっておれたちが気が済むまで相手になるぞ」

 

「……」

 

 納得がいかない、何を言いたいのか分からないと言った表情で此方を見てくる。続くにらみ合いの空気は出水の発言で動いた。

 

()るならさっさと始めようぜ。早くこっちを片付けて太刀川さんに加勢しなきゃなんないからな」

 

〈このトリガーの反応、攻撃と見せかけた防御姿勢です。仕掛けるならその場にいる人が中距離攻撃を行ってください〉

 

 突然嵐山隊の全員に聞こえてきた声に驚きながらも、ちょうど攻撃を仕掛けようとしていた狙撃手は慌てて銃から指を離した。

 

〈さきほど迅から紹介されました空閑悠菜です。突然で申し訳ありませんが、迅と打ち合わせた結果、この戦いの後で上層部と話し合うために、皆さんには圧勝してもらう必要があります。そのため勝手ながら今回の戦いのサポートは私がやることをご了承ください〉

 

(分かった、サポートをお願いします)

 

 迅の反応からして凄い人なのだろうと思うが、悪い人でないのは分かる。そうでなければ迅があの様に慌てながらも楽しそうな表情を浮かべる訳がない。サポートを頼みながら銃を取り出し、メテオラの弾を出水に飛ばす。すると出水はあてが外れたといった顔をしたが焦った様子は無かった。

 

「まさか釣りがバレてたのか」

「位置が割れれば向かえたんだけどな。役に立たねぇな弾馬鹿」

「うるせぇ槍馬鹿」

 

 言い争う様子だが本当に喧嘩している訳でなく、いつものじゃれ合いだろう。お互いに距離を保ったまま抗戦を開始しようとしたら、迅がいた方向から少し離れた位置でベイルアウトの光が見えた。

 

「!誰か飛んだぞ」

「誰だ?」

 

「迅さんじゃないですよね」

「違うな。黒トリガーに緊急脱出機能(ベイルアウト)は付いてない」

 

〈今落ちたのは三輪隊の古寺、奈良坂です。しかし、風間、当真の2人がこちらへ向かってます。おそらくですが嵐山隊を撃破、迅を太刀川に抑えて貰っている間に捨て身で玉狛に攻め込む算段かと、現状連携が取れない状態で風刃とやらを相手にするよりは現実的な作戦かと〉

 

〈カメレオンやバッグワーム等の対策で位置情報は常に載せておきます。とりあえず、スナイパーは無視しても良いでしょう。佐鳥さんは落ち着いて風間を狙ってください。倒しきれなくても良いです警戒させて合流を遅らせてください一応カウンター狙撃のされにくいポイントを表示します〉

 

(了解、悠菜さん?ありがとうございます)

 

 通信で礼を言うと表示された地点と風間・当真コンビの移動方向を見てポイントを決めて向かって行った。

 

「今飛んだのは三輪隊の古寺と奈良坂だそうだ」

「あいつら……」

「あらら、やられちゃったのね」

 

〈当真は狙い撃ちにされるのを避けるためにあえて地上を進んでいる様です。遠距離から狙撃を避けるために直線的な位置取りにならない様に注意してください。後はとりあえず向こうは佐鳥さんが移動したことを知らないので、警戒を続けています。狙撃が来ない事に気付く前に一撃入れて起きたい所ですが……木虎さんは奇襲を狙ってください。嵐山さんと時枝さんはペアで被弾に気を付けながら一定の距離を保って戦ってください。戦況が変わったら随時連絡します〉

 

(((了解)))

 

 未だに数的有利は向こうにあるが既に4対5、さらに言えば当真の狙撃はほぼ封じられている。実際に気を付けるべきは三輪、米屋、出水、風間さんの4名。悠菜さんの狙う圧勝が出来るかは分からないが任された分の仕事を頑張るとしよう。




悠菜をぶっ込んだせいで凄い書きにくかった……

そして、オペレーターって基本的に出番少ないし、A級となるともっと少ないから口調が全然分からない。でもハッキングされた大変さは書きたいから適当に書いたけど……無くても良かったかな?微妙な書き出し。

太刀川が落ちたらその時点で完全につみますので、流石に作戦中止になるでしょう。

圧勝させるために太刀川が落ちきる前に向こうのチームの内、風間、出水、当真は最低でも倒したい。原作の様に体中斬られてはいないのでまだ、太刀川のトリオン量には余裕があるので、左手で迅と渡り合ってます。

そして、リロードした風刃と木虎の奇襲、佐鳥の狙撃、嵐山と時枝のテレポーターを上手く活用して彼らを倒す。

その後に控えた上層部とのやり取りや玉狛に顔を出した時にやり取りはもう考え付いてるんだけどなぁ。戦闘って書くのがむずい。まあ、ぼちぼち書いて行きますのでどうかよろしく。

では今年最初の挨拶を。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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嵐山隊

投稿です。


SIDE:嵐山隊

 

 慣れない部分は多いが、サポートと的確な指示のおかげで被弾することなく戦闘を続けていられる。それでも出水のトリオン量からくる攻撃と三輪の鉛弾(レッドバレット)、米屋の幻踊弧月とどれも油断ならない。しかし、均衡している状態はもう終わる。

 

(嵐山さん3秒後にメテオラ、時枝さんは同時にテレポート、その後メテオラ、木虎さんスコーピオンで一撃を入れたら即離脱してください。離脱時にはシールドを)

 

 戦いながら自然と移動をしているのだが、周囲に咄嗟に逃げ込めるような場所はなく、道路としては比較的狭くなっている。タイミングを揃えて、前後でまず挟み込む。

 

「メテオラ」

 

「くっ、視界を遮ったところで」

「っ!?違う!!後ろだ!!」

 

「メテオラ」

 

 いち早く時枝が消えたことに気付いた米屋が忠告するも少し遅く、慌ててトリオン量の多い出水がシールドを張ったが被弾して大きく削られた。

 

「後ろだけじゃないわよ」

「なっ!?」

 

 前後からの爆撃で視界の悪さが極まっている所に迷うことなく飛び込んだ木虎が上からスコーピオンで斬りかかり、米屋の首を跳ね飛ばし、咄嗟に三輪が放った鉛弾をスコーピオンで受けて防ぎ、その場から素早く離脱する。米屋は光となってその場から消えた。

 

 そして木虎が離脱した瞬間に嵐山と時枝が挟み込んだまま攻撃を開始する。それも嵐山はメテオラを時枝はアステロイドと放つ攻撃の種類を違う物にしている。メテオラを防ごうと思うとシールドを広げる必要があり、アステロイドを防ごうと思うとシールドを絞る必要がある。

 

 そもそも前後から襲ってくる弾を防ぐためにはどうしてもシールドを広げて展開する必要があるのだが、そこは三輪と出水とでカバーしている。その場から動かず、固定シールドでの両防御(フルガード)を行っているがその場からの離脱が図れない現状では時間の問題であった。

 

(攻撃中止して大丈夫ですが、警戒は怠らないでください)

 

 悠菜の指示を聞いて攻撃を中止してみると、頭と胸(急所)はどうにか防いだようだが、全身に攻撃を喰らい立っているのがやっとな状態の姿が見えた。

 

「あー、作戦失敗か。イレギュラーがいたとはいえこうも何も出来ずにやられると腹立つの通り越してやるせねぇな」

「嵐山さん、近界民(ネイバー)を庇った事をいずれ後悔するときが来るぞ。あんたたちは分かってないんだ。家族や友人を殺された人間でなければ近界民(ネイバー)の本当の危険さは理解できない。近界民を甘く見ている迅はいつか必ず痛い目を見る。そしてその時にはもう手遅れだ」

 

 既に満身創痍で戦う事は出来ないのが目に見えている状態で足掻くような真似はせず、こちらの行いが間違っていると、自分の主張を伝えてくる。しかし、三輪の主張を聞くのならば()()は違うだろう。

 

「甘く見ているってことはないだろう。迅だって近界民に母親を殺されているぞ?」

「……!?」

 

 心底驚いた顔をしているという事は一切聞いていなかったのだろう。

 

「5年前には師匠の最上さん亡くなっている。親しい人を失うつらさはよくわかっているはずだ。近界民(ネイバー)の危険さも大事な人を失うつらさもわかったうえで、迅には迅の考えがあるんだと俺は思うぞ」

 

 俺なりに迅についての考えを告げると、より一層表情を険しくする。そしてそのうえで、近しい人を失っておいて何故そのような考えなのか理解できないのか、やるせない気持ちを残したまま三輪は光となって跳んで行った。

 

「後、残ってるのは風間さんと当真か」

「向かいましょうか」

 

(いえ、直に終わります)

 

 悠菜さんの言葉のすぐ後に2つの光が空に放たれ、そして続けてもう1つ光が跳んで行った。数的に風間さん、当真、太刀川さんの3人だろう。

 

〈嵐山さん。俺のツインスナイプでやってやりましたよ〉

〈佐鳥先輩だけじゃなくて迅さんの風刃のおかげでしょう。私も一応当真先輩の撃破に貢献してきました〉

 

 通信で入ってきた情報は佐鳥と木虎の物だった。そう言えば最後に奇襲を仕掛けてから木虎が離れたが、その後でどうしていたのかは気にしていなかった。

 

(太刀川さんとの戦闘に余裕が少し出来ていたので、木虎さんにスパイダーを張ってもらい、其処に風刃を通しました。それだけで致命傷にはならないので木虎さんにスコーピオンで斬りかかってもらい、詰めに佐鳥さんに狙撃して貰いました。嵐山隊のみなさんお疲れさまでした)

 

「なるほど、時枝、木虎、賢、全員よくやった。悠菜さんもありがとう。おかげで戦いをスムーズに行えた」

 

 仲間に慰労の言葉をかけた後で、急な展開ではあったがお世話になった悠菜さんにお礼を告げた。

 

(いえ、みなさんのおかげで想定以上の結果を得ることが出来ました。後は私と迅に任せてください。そのうち本部に顔を出すと思いますので、その際に改めて挨拶させて頂きますね)

 

 そう言って悠菜さんからの通話は切れた。これで任務は終了だ。後は任せてくれと言っているのでこの後で何かするのだろうが、結果は後で訊けば良いだろう。

 

「改めて全員お疲れ。これで任務は終了だ。本部に帰還する」

「「「了解」」」

 




本当は迅の視点や風間さん側も書きたかったけど、技量が足りずごちゃごちゃになりそうなので、何が起きたかの説明だけに留めました。

少し短めですが、次から一気に進むし、原作主人公達も登場予定なので許してください。

ではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている貴方に多大なる感謝を。


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空閑悠菜⑥

書けたから寝る。書きあがり、午前3時40分……眠い。


 ギスギスした雰囲気が漂う会議室、入ってきた報告に遂に鬼怒田室長が怒りを露わにした。

 

「迅の妨害!精鋭部隊の潰走!そして謎の女!だが問題は何より……忍田本部長!!なぜ嵐山隊が玉狛側についた!?なぜ近界民を守ろうとする!?ボーダーを裏切るつもりか!?」

「『裏切る』……?論議を差し置いて強奪を強行したのはどちらだ?」

「……!」

 

 どういう考えなのか聞こうとしたが、冷静かに思えた忍田本部長も静かに怒りを覚えていた。

 

「もう一度はっきり言っておくが、私は黒トリガーの強奪には反対だ。ましてや相手は有吾さんの子……もう一人も向こうについたようだからな」

「もう一人?」

「これ以上刺客を差し向けるつもりなら次は嵐山隊ではなく、この私が相手になるぞ城戸派一党」

 

 A級一位の太刀川に剣を教えた師匠でボーダー本部においてノーマルトリガー最強の男、その気迫に会議室に緊張が走る。

 

「なるほど……ならば仕方ない」

「次の刺客には天羽を使う」

「!!?」

「なっ……」

「天羽くんを……!?」

 

 迅悠一と並ぶもう一人の黒トリガー使い、素行にいろいろと問題はあるが単純な戦闘力では迅悠一をも凌ぐという存在。徹底的に対抗する事を選ぶ城戸司令の発言に派閥関わらず驚きを示す。

 

「い……いやしかしですねぇ城戸司令……彼を表に出すとボーダーのイメージが……なんと言いますか天羽くんの戦う姿は少々()()()()しておりますからねぇ……万が一市民に目撃されると非常にまずい……」

「アイツの事を除いても、A級トップを一人で倒せる迅の『風刃』に忍田君が加わる時点でこちらも手段は選んでおれまい」

「城戸さん……街を破壊するつもりか……!!」

 

 城戸司令の答えは殆ど脅しに近いやり方である。街を守るという考えの強い忍田本部長派を押さえ込むためと言う意味合いもあるだろうが、彼はやると言った事は必ずやるだろう。その時、一触即発といった雰囲気の会議室に似合わないこれが響いた。

 

「失礼します」

「……!?」

「どうもみなさんお揃いで会議中にすみませんね」

「な……!?」

「迅……!!」

「きっさまぁ~~~!!よくものうのうと顔を出せたな!」

「まあまあ鬼怒田さん血圧上がっちゃうよ」

 

 鬼怒田の叫びは間違っている所は無いだろう。問題として議題に上がっていた当人が敵地だと分かっていながらのこのことやってきたのだから。

 

「それにおれだけじゃないよ」

「お久しぶりですね。城戸さん、忍田さん」

 

 そう虚空から声が聞こえたと思うと、迅の隣にいきなりその姿が現れ、会議室の人間は一様に驚いて見せた。その顔をよく知ってる2人も同じように驚いていた。

 

「悠菜くん!?」

「空閑悠菜か……」

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

SIDE:悠菜

 

 『虚無(ヴォイド)』を解除して、姿を現してみたが会議室の面々の顔は中々に面白い事になっている。驚いているが、気をつけながらこちらを観察してくる男は少し侮れないな。

 

「何の要件だ?2人そろって宣戦布告でもしに来たか」

「違うよ城戸さん交渉しに来たんだ。おれはね」

「私的には釘を刺しに来たと言った方が正しいかな」

「交渉だと……!?裏切っておきながら……」

「いや……本部の精鋭を撃破して本部長派とも手を組んだ。戦力で優位に立った今が交渉のタイミングでしょう」

 

 私たちの言葉に何を考えているんだと顔を歪める者もいたが、その理由を第三者の様に客観的に捉えている者がいる。冷静さを失わないのは中々だと感じる。交渉までの流れは迅に任せて私はとりあえず成り行きを見守ろう。

 

「こちらの要求はひとつ、うちの後輩の空閑遊真のボーダー入隊を認めて頂きたい」

「何ぃ?どういうことだ!?」

「太刀川さんが言うには本部が認めないと入隊したことにならないらしいんだよね」

「なるほど……『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』か」

「ボーダーの規則を盾にとって近界民をかばうきか……!?」

「私がそんな要求を飲むと思うか……?」

「もちろん、タダでとは言わないよ」

 

 そこまで迅が言ったところで、私は見えないように彼の腕を止めて前に出る。それが何かは分かるし、それは止めないといけない。家族では無いがそれに近い関係で、弟分だ。多少は守ってやっても良いだろう。

 

「黒トリガーと言うのは強力で、それ一つで起こされるバランスの崩壊を恐れているというのであれば、黒トリガーが()()()()()文句は無いでしょう?」

 

 そう言うと私は目の前に机の上に()()()()()の形をしたトリガーを置いた。これらはそこまで制限が強くないし、性能でも、これからの事を考えても交渉としては十分である。

 

「この2つは私の大事な()()()()()()である()()()()()だが、先ほどの迅の要求を飲むのであればこれをボーダーに渡しましょう。」

「姉さん!?」

「……!?」

「なっ!!?」

「……!?」

 

 迅のやり方はなんとなく分かっており『風刃』の価値を高めて無理やり交渉するつもりだったのだろう。しかし、使えるのか向こうには分からない点がネックだが、それは遊真のだって同じだろう。こちらの方が反論はされにくいし、私は実際にはそこまでこれらに執着していないというのもある。

 

「弟はまだ未成年だしね。保護者としてよろしくって事で許してくれませんか?ちなみに制限はかなり緩い物ですから使える人の1人や2人はいると断言できますよ。ボーダーとしての戦力が一気に増えて、パワーバランスは保たれる。悪くないと思うんですけど」

 

(悪くないどころの話じゃないねぇ……!元より奪おうとしていた黒トリガーだって使えるか分からなかった。相手の言葉を鵜呑みにする訳では無いが、ボーダーとしては一切損はしない……!)

(交換条件で入隊させた近界民が問題を起こした時が怖いが、黒トリガー2つを研究に回すことが出来ればかなりの成果が期待できる。リスクはあるがそれを余裕で上回る取引だ……!)

 

「取引か……?お前はボーダーの所属では無い。不法なトリガー所持としてお前から回収させても良いんだぞ。何食わぬ顔でいるが迅、お前の風刃だって規定外戦闘を理由に取り上げる事が可能だ」

「その場合は太刀川さんたちのトリガーも没収だよね。それはそれで好都合、正式入隊日を待ってるだけで済むんだからね。おれのだけを没収するとかは通るはずがないよ。規則を盾にしてるんだから、命令であれば規則を破って良いんだったら、規則の意味が無いよ城戸さん」

「私がそれに素直に応じるわけ無いでしょう。適当な隊員を送って、何も得られずに負け続けるってね……そんな顔をしないでよ。そしてボーダーじゃないからって言うなら、私もボーダーに入れてよ昔みたいにさ」

「……!?」

「私の能力はさっきので初めましての人にも知ってもらえただろうし、黒トリガー以外のトリガーも結構持ってるし、色々と貢献できると思うよ……それに、コレクションって言った通り私は他にも黒トリガーを所持しているんだよね。私をボーダーに入れてくれた貸してあげても良いんだけど、それとも善良な市民である私を相手にボーダーは攻撃を仕掛けるのかな?」

 

 その言葉を聞き、全員の顔に緊張が走る。黒トリガーと言うのは切り札に近い、常識はずれな性能のトリガーである。それを2つ交渉に差し出すだけでも驚きだったのに、まだ持っていると言った。交渉にポンと出したことから嘘では無いと感じられた。

 

(彼女自身も未知数の戦力でしたがそれがボーダーに入るとなれば危険は減ります。むしろここで敵対すれば、彼女は話を聞く限り、こちらの正式な戸籍が存在してるでしょう。組織がたった一人を敵に回している事が世間に漏れればボーダーの評判はがた落ちです……)

(2つだけでも凄まじいというのにそれ以上の黒トリガーを所持しているというのか!?それはこやつ一人でボーダーの戦力を上回っているといっても過言ではないぞ!?)

 

「城戸司令……」

「城戸司令……!」

 

「「さあどうする?城戸さん」」

「…………」

 

 険しい表情でこちらを睨んでくるが、城戸司令はこれを断るという選択肢は無くなった。チェックメイトと言う奴である。

 

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SIDE:迅

 

「ふんふんふふーん♪」

「結構美味しいですね。これ」

 

 上機嫌で鼻歌を響かせ、ぼんち揚げを食べながら、悠菜姉さんと廊下を進む。姉さんも一緒にぼんち揚げを口にしている。高評価なようで何よりだ。姉さん呼びに関してはどうせあいつらの前に漏らしてしまったんだ。すぐに広まるので先に開き直っておいた方がダメージも少ないだろう。

 

「ん?」

「あれは……」

 

 太刀川さんと風間さんの姿が見えた、2人ともというか、太刀川さんは似合わないシリアスな空気を身に纏って佇んでいる。おれが言えた立場では無いが黙って居ればそれっぽく見えるんだよな。さて、何から話す事になるだろうか、とりあえずは……

 

「ようお二人さん……ぼんち揚げ食う?」

 

 そう言って袋を差し出すと、二人とも素直にと言うか、言われるがままにぼんち揚げを持って行った。話しやすくするためだろうが、ボリボリと音が出る所為で一気に空気が緩んだ。

 

「……まったく、今回は意味不明な事ばかりだ。声から察するにそっちの人か?俺達に妨害を仕掛けてきてたが、俺とお前はタイマンでやってたからな。支援なんてあまり関係ない。任務は終わったが勝ち逃げは許さん、今すぐ風刃の使用許可とってもっかい勝負しろ」

「ムチャ言うね太刀川さん」

「黒トリガー奪取の指令は解除された……太刀川ではないが今回のお前の動きはよくわからん。何がしたかったんだ。そっちの悠菜さんといったか?彼女が黒トリガーを渡すというのであればわざわざ俺たちと戦う必要もなかっただろ」

「可能性は高いでしょうが、確実では無かったといったところですね。そして元々の迅の作戦であれば戦う必要性はありましたよ」

「へぇ?」

「どんな作戦だったんだ。教えて貰おうか、迅」

 

 悠菜姉さんがそんなことを言うもんだから説明しろと言う視線が突き刺さる。まあ、元々説明するつもりではあったんだが、作戦が姉さんのせいで壊されたから最初から話す必要があるな。

 

「まず、俺は姉さんが居たことは知らなかった。そして俺の本来の作戦は『風刃』を本部に提出する事で遊真の入隊を認めてもらうつもりだった」

「『風刃』を!?」

「あれはお前の師匠の形見だろう?」

 

 争奪戦でのおれはらしくないほど真面目に戦って、アレを奪い取った。それだけ執着している代物を手放すつもりだったと聞かされた2人は目を見開いて驚く。

 

「ああ、戦いだって最初はトリオン切れで撤退して貰って、本部との摩擦を減らしながら時間稼ぎをするつもりだった。もし、その作戦がバレたら、太刀川さんたちと戦う事で『風刃』に箔をつけて、交渉に移るつもりだった。」

「A級上位の俺たちを派手に蹴散らすことで『風刃』の価値を引き上げるつもりだったということか?」

「ご名答、それがプランB」

「まったくムカつくやつだ」

「そこまでして、『風刃』を手放そうとしてまで近界民をボーダーに入れる目的はなんだ?何を企んでる?」

「あはははは、いや面白いね」

 

 悠菜姉さんが太刀川さんの言葉を聞いて笑い、急に笑った事に2人は疑問を抱いてこちらに答えを求めて見てきた。

 

「……城戸さんも今の太刀川さんと同じことを訊いてきたんだよ」

 

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「何を企んでいる?のせられている部分はあるが、この取引は我々にとって()()()()()。何が狙いだ?」

「おれは別に何も企んでないよ」

「いや、私も別に企んでいませんよ」

 

 迅と悠菜はそろって企みなんてないと答えた。しかし、それだけで納得する訳も無いので、続けるように答えていく。

 

「おれはかわいい後輩を悠菜姉さんにとっては可愛い義弟を陰ながらかっこよく支援してるだけ、おれは別にあんたたちに勝ちたいわけじゃない。ボーダーの主導権争いをする気も無い。ただ、後輩たちの戦いを大人たちに邪魔されたくないだけだ」

「私としては遊真を狙った城戸さんへの嫌がらせ半分な所もあるけど、他意は無いよ。黒トリガーを渡して遊真を守ってくれるんであれば、十分。家族の大切さ位は覚えてるでしょ?」

 

 迅の発言には嘘は感じられないが、それだけの為に動くのかと言う疑問は少し残る。嫌がらせと言う所で苦虫を嚙み潰したような顔をしたが、悠菜の考えに他意が無さそうな事は伝わった。

 

「ただ、ひとつ付け加えるなら……城戸さん。うちの後輩たちは城戸さんの『真の目的』のためにもいつか必ず役に立つ」

「………!」

「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

「そっちの役に立つかは分からないけど、2つのトリガーは近い戦いには役に立つよ。もちろん、私も働くしね」

 

 迅の最後の言葉が引き金になったのか、城戸司令の顔に変化が現れ、何かを考えてから重たい口を開いた。

 

「…………いいだろう」

「……!」

「取引成立だ。黒トリガー2つと空閑悠菜のボーダーの所属と引き換えに玉狛支部空閑遊真のボーダー入隊を正式に認める。空閑悠菜は現時点を持ってS級隊員とする」

 

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SIDE:迅

 

「その、玉狛に新しく入った遊真ってのがけっこうハードな人生送っててさ」

「そこんところは私も詳しく聞きたいけど、まあ会ってからにしようか」

 

 悠菜姉さんと遊真は行動を共にはしてこなかったようで、遊真がどういう状況なのか正確には知らない様だ。知ったらどうなるのか少し怖いと思いつつ、太刀川さんたちへの説明を続ける。

 

「おれはあいつに『楽しい時間』を作ってやりたいんだ」

「『楽しい時間』……?それとボーダー入隊がどうつながる?何か関係があるのか?」

「もちろあるさ。おれは太刀川さんたちとバチバチ()り合ってた頃が最高に楽しかった」

「………!」

 

 そこまで言った所で2人も理解したようだ。太刀川さんならおれの考えもより理解できるだろう。この人も戦いが好きな人間だ。

 

「ボーダーにはいくらでも()()()()がいる。きっとあいつも毎日が楽しくなる。あいつは昔のおれに似てるからな」

「泣き虫の迅としっかりした遊真は似てないと思うけど」

「そんな昔じゃないから!?てか昔の事まあり暴露しないで姉さん!!」

「くっくっく、泣き虫?あの迅が?はははははは」

「幼少期の事を言ってるのであれば別におかしくは無いだろう?」

 

 風間さんのフォローが逆に辛い、しかし太刀川さんみたいに堂々と笑われるのも嫌だ。どうにか、空気を塗り替えようと無視して続きを話す事にする。

 

「そのうちあがってくると思う方そん時はよろしく」

「へえ……そんなに()()()やつなのか、ちょっと楽しみだな」

「結果的に手放す事に成らなかったが、そんな理由で形見である『風刃』を手放すつもりだったという事がよく分からない」

「形見を手放してたとしても最上さんなら怒らなかったと思うよ。むしろボーダー同士のケンカが収まるなら喜んでくれるだろ」

「…………」

「ちなみに『風刃』の所有権はおれにあるけど、一度本部に預けた。これは取引とは関係ないよ」

「それこそ何故だ?」

「取引の材料を肩代わりしてもらったというのに結局、手元から離したわけは」

 

 確かに、一番謎な行動とも言える。悠菜姉さんにも怪訝な顔をされてしまったぐらいで、城戸さんにも今度こそ何を企んでると訊かれたからな。

 

「2人なら良いか。もうすぐ次の戦いがありそうなんだよね。その時におれの手元にあるよりほかの奴に使ってもらった方が良さそうなんだ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

「既に見えてるのか?」

「いや、なんとなくその方が良いと思ったぐらいで、まだ少し先だよ。ああそれと」

 

 そこでいったん区切る。まだ何かあるのかとおれの事を睨むように見てくる2人。おれって信用が無さそうだなよ思いつつ、にやりと笑って口を開く。

 

「おれは一時的とはいえ黒トリガーじゃなくなったからランク戦に復帰するよ。とりあえず個人(ソロ)でアタッカー1位目指すからよろしく」

「……!?」

「……そうか預けたって事はもうS級じゃないのか!お前それを先に言えよ!何年ぶりだ!?3年ちょっとか!?」

 

 太刀川さんは心底嬉しそうに俺の肩を叩いてくるが、風間さんは普段の印象からは考えられないほどの顔で面倒くささを隠さずに見てくる。胡散臭い物を見る目は少し傷つくんだけどな。

 

「こりゃあおもしろくなってきた!なあ風間さん!」

「おもしろくない。全然おもしろくない」

 

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SIDE:悠菜

 

 懐かしいという言葉が正しいのだろう。元々は私の秘密基地であったここも、今では迅たちの大事な拠点となっている。中に入るようだが、私は少し後ろにたって隠れておく。迅も面白そうにしているのでばれる心配はなさそうだ。

 

「あ、迅さんおかえり~」

「おつかれさまです」

「ふぃ~す」

 

 片手を上げてぱっと見爽やかそうに見える顔でふわふわ浮きそうなぐらい軽い挨拶をする。室内の面々は遊真を含めて、迅の事を認めているようだ。

 

「最近いなかったけどどうしてたの?」

「あっちこっちで大人気なんだよ実力派エリートは」

 

 先ほど分け合ったとはいえぼんち揚げを一袋食べておきながら、迅は机の上に置かれたマカロンへと手を伸ばす。そしてそこまで人気では無いというより、確実に煙たがられてるでしょうに……

 

「遊真、ボーダーのトリガーには慣れてきたか?」

「しおりちゃんにいろいろ教えてもらったからな。こなみ先輩に勝ち越す日も近い」

「ほぉ、これは期待できるな」

 

 小南か、彼女は優しくて、努力家だったからな。きっと強くなっているのだろう。義父の教えを直接受けてきた遊真より強いのだから、一戦やるのも良いかもしれない。

 

「メガネくんは訓練進んでる?」

「えーと、そのぼちぼちです……」

 

 うーん、なんとも情けない返答。迅の話を聞く限り、遊真を認めて守ってくれた友人らしいけど、強さ的には微妙かな?しかし、叩けば伸びるだけの伸びしろはありそうだ。

 

「とりまるくんはバイトで忙しいからねー」

「いやでも特訓メニューは組んでもらってるんで……」

「まあ京介は教えるのが上手いから大丈夫だろ。鍛えろよ若者、あっという間に本番がくるぞ」

「そうそう、時間は有限。大事にしなさい」

「「おやすみ~~」」

「おつかれさまです?」

「おやすみなさーい」

 

 何気ない感じの雰囲気を出し、さりげなく私も迅のあとに続いて奥に進んでいこうと思ったが、呼び止める声が聞こえた。迅は少し疲れているのか私を置いて行ってしまった。

 

[さりげなく進もうとしてるが一度止まれ悠菜]

「ありゃ、レプリカにはばれるか」

[ばれるばれないではなく、その場の空気に合わせただけで皆気付いてはいる]

 

 そりゃそうだろうけど、迅と一緒に居たことで怪しまれずに行けそうだったんだけどな。まあ、元々冗談でやっていた事だから。諦めて挨拶といきましょう。

 

「遊真以外は初めしてだね。私は空閑悠菜、旧ボーダー時代の人間で、ここのボス世代の直接の後輩にあたり、そこにいる遊真の義姉でもある。よろしく」

「え?遊真くんのお姉さん?ええーそれに旧ボーダー時代って事は迅さんや小南たちの知り合いだよね。呼んでこなきゃって、違う先にお客さんにはお菓子はあるから、飲み物を!!」

「空閑、お前義姉が居たのか?」

「そう言えばレプリカや親父から聞いてたし、まだ小さい頃に何度か会った気が薄っすらと、というか嘘ではないから本当だよ」

 

 あまりにも一方的な自己紹介ではあったが、与えられた情報量に遊真とレプリカ以外は混乱している。特に酷いのがテンションが上がってるのか、騒ぎ立てながら歓迎の準備をしている。メガネくんと呼ばれていた彼は遊真に確認を取ってるようだが、遊真私のこと忘れてないだろうか?そんなことを考えていると更に騒がしいのがやってきた。

 

「ああー?!本当に悠菜姉さんがいる!?嘘じゃ無かったの!?」

「驚いたな。嘘と決めつけて悪かったな宇佐美。悠菜さん、いつ帰ってきてたんですか?」

「本当だよ。小南もレイジさんが嘘って言ったから嘘だと思っちゃったじゃない」

「相変わらずだね。帰って来たのは少し前だよ。さっき本部にも顔を出してきて、ボーダーに入り直してS級って事になった。住処はあるけど、こっちの部屋の方が落ち着くから、これからまたよろしく」

 

 再会はかなり騒がしくなったが、彼等らしいから良いだろう。後で林藤さんにも挨拶しに行くとしよう。それと遊真やその仲間にも話を聞いておきたいし、やる事が多いなまったく。だが、悪くは無いな。




ようやく、会合した姉弟。そして再会した旧ボーダーメンバー達。こっから先はやりやすいから嬉しい。ようやく、ようやく、しっかりと原作の方(主に原作主人公たち)に関われる。

更新が遅くなってすみません。他の作品をまた投稿するようになったんですが、一時的に人気で日間ランキングに載るほどだったので、ついそちらを優先してしまいました。(ちなみにワンピースと鋼錬です。良かったら覗いてください。という露骨な宣伝)

ちまちまとこちらも書いていたんですが、セリフの確認をしながらだとなかなか進まないので、それも時間が掛かった理由の一つです。

そしてランキングには載りませんがこの作品も評価に色が付く様になりましたね。評価や感想の方、ありがとうございます。もう、期待に応えるためにどうにかして書かないといけないと頑張りました。

そして悠菜が所持している黒トリガーが現時点で3つ出てきました。一つは名前も出てきている『虚無』とかいてヴォイドと読む、隠れていた事から分かるように隠密用トリガーです。あと二つは形状だけですが取引に使われた物です。

それらもいずれ詳しく説明することになると思います。きちんと設定は作ってあります。性能だけでなく、いつどうやって手に入れたのかとかも含めて練ってきました。

それらが今後にどのような影響を与えるのか、悠菜自身が原作組に与える影響などもお楽しみください。

ではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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空閑悠菜⑦

少し久しぶりの投稿です。
だいぶ遅れて申し訳ありません。


 とりあえず昨日は戦いの事もあって時間も遅かったので林藤さんに帰ってきたと報告だけしてお開きとなった。詳しい話は次の日と伝えたのだが小南が喚いて煩く、レイジがなだめてくれたおかげでどうにか解放された。私は寝なくても平気だけど君たちは違うでしょうに。

 

 と言う訳で、今日はこの玉狛支部のまだ、遊真とすらちゃんと話して無いし、遊真の友達兼仲間である子も全員集まってるから色々と話を聞きたい所だ。

 

「初めましての子も居るからちゃんと自己紹介しようかな。私は空閑悠菜、旧ボーダー時代の人間で、ここのボス世代の直接の後輩にあたり、そこにいる遊真の義姉でもある。改めてよろしくね」

「えっと、それじゃ先に玉狛のメンバーから行くね。オペレーターの宇佐美(うさみ)(しおり)です。お噂はかねがね、私とも色々話しましょうね」

烏丸(からすま)京介(きょうすけ)です。よろしくお願いします」

三雲(みくも)(おさむ)です。空閑、じゃダメか。遊真とは友達として仲良くさせてもらってます。よろしくお願いします」

「えっと、雨取(あまとり)千佳(ちか)です。遊真君には色々とお世話になってます。よろしくお願いします」

 

 なるほど、私にとっての新顔が宇佐美、烏丸で、玉狛にとっても新人なのが遊真、三雲、雨取の3人と言う事か。今いない人もいるみたいだけど、クローニンとゆりの2人らしいから問題は無い。そして、自己紹介を終えた面々は目の前の光景を観察するかのようにじっと見ている。

 

[久しいな。遊真のお守りはどうだ?]

[返すようで悪いが悠菜はどうだ?]

[相変わらず、無茶を通してばかりだ。まあ、好き勝手やってるがな]

[そうか、遊真は環境の変化が著しいが、楽しそうにしている]

 

「白いレプリカ!?」

「レプリカさんが2人!?」

「ふむ、レプリカにも兄弟がいたのか?」

「トリオン兵に兄弟なんてある訳ないでしょ」

「えっ、小南先輩知らないんですか?トリオン兵は同型の両親から生まれて増えるから、同じ形のトリオン兵は全部親戚同士なんですよ」

「うそ!?って事はあたしはトリオン兵の家族を殺しまくってるの!?」

「嘘に決まってんだろ。訓練で作ってるトリオン兵があるんだから気づけ」

 

 まあ、傍から見ると異様にシュールな光景だし、注目するのもしょうがない。遊真も流石にレプリカの事は覚えていなかったようで、冗談を言っている。それにしてもどっちもレプリカだとややこしいから黒レプリカ、白レプリカとそれぞれ呼ぶことに決めた。

 

「遊真も忘れてるみたいだから説明すると、レプリカを基にして私が作ったのよ。良い名前が思いつかなかったから、名前を同じにしちゃってるんだけど、黒い方とか白い方で伝わるし、何なら私や遊真の名前を前に出しても良いかな」

「白いレプリカ、黒いレプリカ」

「遊真くんのレプリカ、悠菜さんのレプリカって事かな」

「そんな感じで良いと思うよ。さて、本題に入ろうか、遊真」

「ん、何?」

「何があったのか教えてくれる?」

「了解」

 

 遊真の口から語られた内容には呆れる部分もあれば、叱りつけたい内容もあった。遊真の増長と慢心、遊真の身体についてと義父さんの黒トリガー化、こっちに来てからの騒動と友達である三雲君とチームメイトになる雨取ちゃんについてなど、全部を聞いた。

 

「こんな所かな」

「そう、色々と言いたい事もあるけど遊真、ちょっとこっちに来なさい」

「ん」

 

 私は近づいて来た遊真をそれが当たり前であるかのように抱きしめた。周りに他の皆が居る事を気にすることなく遊真を腕の中に閉じ込めた。

 

「大変なんて一言じゃ表せないだろうけど、よく頑張った。遊真が生きてて私は嬉しいよ」

「んん、なんか懐かしい気が」

「小さい頃にも抱きしめたことがあるからね」

 

 その場から動く事は無く全員が黙って見守ってくれていた。時間にして1分も経っていないだろうが、私は時が止まったかのように長く感じた。だが、離れてからが問題で、自己紹介も終わって、次はどうするのかと、誰が次の話題を切り出すのかと考えていると迅が口を開いた。

 

「まあ、そんな経緯があってメガネくん、千佳ちゃん、遊真の3人を鍛えて貰ってる最中ってわけ、それで悠菜姉さんにも色々と協力して欲しいんだけど」

「姉さん?」

「あー、小南や迅は昔からお前の姉さん、悠菜さんを慕っててな。2人は悠菜さんの事を姉さん呼びしているんだ。他にも悠菜さんを慕っている人はいたんだが、特に迅は悠菜さんに懐いてて、悠菜さんも弟の様に扱ってたからな。実質、初めて紹介してきた時の迅の嘘は間違ってないかもな」

「ほほー、義姉さんの弟分って事は確かにおれにとっては兄みたいなもんか」

 

 迅の呼び方が普通に姉さん呼びなのは玉狛で一緒にいるうちにどうせボロを出すし、旧ボーダーメンバーは全員知っているので伝わるのは時間の問題と開き直っただけだ。ちなみに、本部の方でも昨日会った太刀川って言う人が泣き虫って情報と一緒に広めているらしい。会う人会う人にからかわれる未来が見えたそうだ。

 

「可愛い義弟とその仲間のためだし、手伝いは構わないよ。それとは別に目的が敵わなかった遊真に朗報があるよ」

「なに?」

「まず1つ目は遊真の身体はどうにか出来るよ」

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:三雲

 

 

 改めて空閑の義姉さんとお話をして、最終的に訓練とかの手伝いをしてくれることになったのを喜んでいたのだが、驚くどころではない話が飛び込んで来た。

 

「おれの保存されてる身体、結構ボロボロだし、それに身体はトリガーの中だよ?」

「前提として、私は自分の事もあってトリガーやトリオンの医療研究を進めてるし、黒トリガーについても多く研究してるの。そのかいもあってそのままの状態でも身体の治療は出来ると確信してる。それと封じてるとはいえそれだけ考えて、動けてるなら元の身体の方もトリオンで補う事で全然延命が可能だよ」

「トリオンで失われた身体を取り戻す事が出来るんですか!?」

 

 家族2人の会話に割り込むのはどうかと思ったが、内容が内容なだけに聞かずにはいられなかった。それが本当なら遊真の時間の問題は解消される。

 

「可能だよ。そうじゃなきゃ、私は()()()()()からね」

「嘘は言ってないね」

「えっ!?」

 

 そこから先は悠菜さんの身体についての話をざっとではあるが語ってくれた。旧ボーダー時代からの人たちは知っていたようだが、僕と僕の他に初めて聞いた人は一様に驚いていた。トリオンによって身体自体が変質するなんて……

 

「そうおかしな話でもないよ。私の例はかなり特殊ではあるけどね。分かりやすいのがサイドエフェクトかな?あれだってトリオンが身体に与えている影響の1つだからね。トリオンって言うのはあらゆる国で研究されてるけど、まだまだ謎も多いし、それだけに危険も多い。サイドエフェクトが出るほどにトリオンがある人と言うのは、ええっと、怖がらせるつもりは無いけど医療上の観点から言えば()()()()()って考えた方が正しいぐらいだ。迅もそうだけど、遊真と千佳ちゃんも後で検査受けてね」

「了解」

「わ、分かりました」

「分かった」

 

 思いがけない話の広がり方と少し専門的な内容も含まれているためついて行くのがやっとだが、遊真が死ぬ事が無くなると言うのは凄く喜ばしい事だ。しかし、トリオンには良い点ばかりではないと言うのは少し恐ろしい。千佳に何も無いと良いんだが……

 

「と言う訳で遊真は時間がある今のうちに緊急手術です。とは言ってもその話が本当なら遊真の身体は取り出せないから、生活は今まで通りトリオン体だね」

「どうして?」

「遊真の身体はトリガー内部に封印されてるの。外から内部に干渉出来ても取り出そうとなると話は違ってくる。普通のトリガーはトリオン体と肉体を交替させてるけど、義父さんが作ったブラックトリガーは遊真の身体の保存に力を注いでる。取り出す事が考えられてないだろうって予測ね。まあ、詳しくは解析してみないと分からないけど、たぶんあってるはずよ」

 

 段々と理解できる内容が減ってきたが、悠菜さんが凄い技術を持っているという事は分かった。だけど、身体を直してトリオン体で過ごすって事は、トリガー内の身体はゆっくりと時が流れてると聞いたし、普通の人よりかなり長生きになってしまうんじゃないだろうか?疑問を口にするとすぐに答えが返ってきた。

 

「なるほどねぇ。内部の時間操作までなってると取り出すのは難しいね。それと三雲君の想像通り、直したら平気で数百年くらい生きれるだろうね。治療が万全なら実質的な不老不死かな。()()()()()

「そうですか、優菜さんと同じって、ええ!?」

「嘘じゃないけど、おれそんな長生きするつもりはないよ」

「私は満足するまで生きたら死ぬつもりだけど、遊真は大丈夫よ。時間はかかるけどそのうち身体を取り出すから、人よりそこそこ長い気だけど200年生きるかどうかよ」

「うーん、それなら良いか」

 

 非現実的な方向性でスケールの大きい話に目が回りそうになる。とりあえずは遊真が死ぬ事が無くなった事を素直に喜んでおこう。それ以上の事は悠菜さんに任せた方が良さそうだ。

 

「まあ、身体についてはこれ位で次は2つ目」

「うんうん」

 

 遊真はわざとらしく指をたてて伝える悠菜さんの話を真剣に聞いている。次はどんな話題が飛び込んでくるのかと考えていたら、メテオラを喰らったかのような衝撃の話だった。

 

「今はまだ出来ないけど、黒トリガーの人間化は理論上可能だよ」

 

 その話を聞いて遊真が驚くのは分かっていたが、迅さんもかなり食い気味に悠菜さんに確認していた。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:悠菜

 

「エルガテスやトロポイなどのトリオン兵を見るに、トリオン体で思考することは不可能じゃない。黒トリガー内に意識が存在するかどうかと言う点においてはアフトクラトルのトリガー(ホーン)って代物で確証を得た。トリオン体を作ってそこに黒トリガー内の意識と命、そしてトリオンを注ぎ込めば生き返るさ。まあ、肉体は無くなってるから人間化かと訊かれるとちょっと微妙だし、たぶん黒トリガーは使えなくなるだろうけどね」

「そっか、うん、ありがとう悠姉」

 

 どうやら遊真の私の呼び方は悠姉に決まったようだ。迅と小南が悠菜姉さん呼びで、他は悠菜さん呼びが基本かな。さて、これから遊真と黒トリガーの検査とサイドエフェクト持ちの検査も行わないといけない訳だけど、今すぐやらないといけない事では無いし、とりあえずはやりますか。

 

「さて、今日は時間もあるけど一戦やる?あ、千佳ちゃんはまだ練習中らしいから、基本的には観戦ね。まずは1対1で行こうと思うんだけど」

「はいはい、あたしが行くわ。強くなった所を悠菜姉さんに見てもらうんだから」

「それなら小南、迅、俺、最後が烏丸、その後で遊真と修で良いか?」

「そうっすね。噂に聞いてるので胸を借りるつもりで一戦やりたいですが、まずは昔なじみの皆さんからやってください」

「風刃なしのガチでどこまで行けるかねぇ、これ」

「おれは黒トリガー使って良いのかな?」

「なんか僕もやる流れになってる……」

「修くん、頑張って」

 

 修君だけは不安そうな雰囲気が出てるね。今のボーダーの枠組みにおけるB級に上がったのも最近だと聞くし、自信が無いのもしょうがないと思うけどね。ずっと戦ってた人たちと比べれば弱いのはしょうがないし、あまり動ける方にも見えないし、だけどまあ……それでも戦えるようになりたいんなら変わらないとね。

 

 訓練室に入りトリガーの準備を行う。周囲の環境は操作せず無機質な部屋の状態だが模擬戦なので構わないだろう。小南は既にトリオン体に換装して獲物を手にしていた。二刀流のあれは何だろうか、ブレードなのは分かるが形が普通の剣とはかけ離れているように見えるが、なんでも双月と言うトリガーらしい。

 

「それは斧?鉈?」

「武器の定義なんて知らないからあたしもわかんないけど、こうすると」

 

 両手に持っている武器を繋げると1つの大きな斧になった。なるほど、本部とは規格が違うと言う説明には納得がいく。見た目的に威力重視か、豪快な小南らしい戦い方だ。

 

「斧になるの。悠菜姉さんに小細工は通じないからね。最初っから全力で叩き切るまでよ」

「ブレードにはブレードで相手をしようか、トリガー起動(オン)

 

 私が起動したのはボーダーの弧月と同じく刀をイメージして作られたこれは見た目だけでなく、構造などからして日本刀を真似して作った。造形にとにかく拘り、刀身の美しさにまで力を入れた逸品で、特別な機能が無い分、切れ味、耐久、軽さ、全てが高水準。

 

 弧月と比べると少し長く、攻撃力、耐久力も高め、軽さにおいても少し長く、一回り大きいにも関わらずほぼ同じであるためこちらの方が優れていると言える。取り回しは利きにくいが慣れれば結構使い勝手が良く、気に入っている。

 

「私はこの『正宗』一本でいくよ。小南は他のトリガーも好きに使って良いよ」

「言われなくても使うわよ!そうじゃないと絶対勝てないもん。って『正宗』?」

「そっ、名刀正宗と城戸さんの名前をかけた遊びで作ったんだけど、出来上がると思ってたより性能が良くてね。愛用してるトリガーだよ。長いけれど慣れれば」

 

 私は地面を蹴ると一気に近づいて小南に正宗を振り落とした。小南は慌てて双月の刃を落ちてくる正宗に合わせて受け止めた。ギリギリと刃同士が音を上げているが、こちらが上から振り落としている関係上、どうしても向こうの方が辛いはずだ。

 

「これ位の動きは出来るしね」

「っく!?衝撃が重い!!」

「切れ味が良いからね。上手く振れば抵抗も無くして勢いをそのまま伝えられる。このトリガーの特徴で凄いのは無駄が無い洗練さだよ」

 

 このままだと不味いと感じたのか咄嗟に双月を薙ぎ払う様に動かして受け止めていた正宗を弾いて距離を取ってきた。離れたままだとどうしようもないので距離を詰めようとするが、何やら弾丸が飛んでくる。あのトリオン量、ただの弾丸じゃないな。

 

 ボーダーのトリガーについては軽く調べてるし、聴いてもいるので予想は出来た。軌道に変化が無くて特殊な玉となれば炸裂弾、メテオラだろう。ブレードしかない私は正しく対処するなら着弾点を見極めてその場から逃げるべきだろうが、今持ってるのは丈夫で小さめの人間の背丈位はある長物だ。全ての弾道を見極めて、切っ先でなぞるように振るい、届く前に一斉に起爆させた。

 

「嘘でしょ!?」

「含まれてるトリオン量を()()、この刀の分だけ距離が離れてれば害はないと判断しただけだよ」

 

 私との距離を離したいのであればもっとトリオンを込めるべきでしたね。放つ際に咄嗟に普段から使ってる量に設定してしまったんでしょう。爆発による煙で視界が塞がってますが、私の眼には関係ない。正宗を鞘に仕舞いこみ、煙の動きでこちらの居場所がバレないように大きく動きながらも一気に近づく。そして双月を構えて待ち構えている小南に狙いを絞り、抜き出す勢いのまま斬り伏せる。

 

「使用者の技量に左右されるけど使いこなせば、斬れない物は無い!!」

「あっ……」

 

 小南が構えていた双月ごと居合の要領でトリオン体を逆袈裟斬りにする事で勝負は着いた。小南と私の戦いは私の完勝と言う結果で幕を引いた。

 

「あーもう!!負けたー」

 

 悔しさを隠すことなく、ぐぬぬぬと唸っている。感情表現が激しいけど、裏表がないあたりが小南の長所ですね。

 

「シールドも無ければ、遮蔽物も無いからメテオラで一帯を爆破されれば私も危なかったかな」

「そんなので勝っても嬉しくないし、負けてたじゃなくて危ないって、防ぐ手段あるの悠菜姉さん?」

「トリオンを可視化出来る私だから出来ることですが、爆発を斬ってしまえばなんとかなったかと。それに放たれる前に正宗を投げる事で暴発させるとかも考えられますかね。小南も頑張れば両方出来ると思いますよ」

 

 そう伝えると小南には「出来るかー!!」と叫ばれましたが出来ない事を私は言わないんですけどね。文句を言いながらも戦い自体は楽しめたのか機嫌自体は良いみたいだった。さて次は迅が相手ですか普通なら厄介なサイドエフェクトですが私には問題無いですね。

 

()()()()()()()ってのは皆からしたら普通なんだろうけど慣れないな」

「そうでしょうね。私だってトリオンの見えない世界は考え付きませんし」

 

 そう、私には迅のサイドエフェクトである未来視は効きませんので普通に私が有利になります。なのでルールは先ほどと変わらず私は正宗一本で相手をします。迅のサイドエフェクトは『目の前の人間の未来が見える』と言う能力です。会ったことが無い人間の未来が見えなかったりすることなどから相手の何かを捉えてそこから数ある可能性を読み取ってる物だと考えられます。

 

 そして、その何かと言うのはサイドエフェクトがトリオン由来の物であると言う観点から考えるに相手のトリオンに関係するものだと考えられます。自身や周囲のトリオンを操作できる私はそれを迅に届かないようにする事で未来を視えなくしている。

 

「視えない中でどれだけ動けるようになったか、見せてもらいますよ」

「視えなくても読み合いで勝ってみせるよ」

 

 こちらが使うのは特別な機能は無いが、向こうのスコーピオンは自由自在に形状を変化させる。攻撃のバリエーションが多く、まだ慣れてない私では分からない攻撃手段も多い。しかし、トリオンの動きである程度は読み取れるのとかなり軽いからとにかく脆いので打ち合いになれば確実に勝てる。

 

 だがそんなことは小南との戦いを見ていた迅も分かっているのでとにかく近づかせないように手を変えつつ、手数を増やして対応してくる。そして、エスクードと言う身を守る障壁を作り出すトリガーを上手く使って少しずつ自分の戦いやすいフィールドを作り出している。私はエスクードごと纏めて斬ろうと振るうが、斬り終わった際にはそこに迅の姿は無い。

 

「逃げ足だけは上達したみたいって挑発しても良いけど、判断力と機動力は上がってるみたいだね」

「判断を間違える訳にはいかないし、早く動かないと何にも間に合わないからね」

 

 皮肉気味に笑う彼は昔と比べて強くなった。自分がどうすれば良いのか考えて自分の判断でちゃんと動いていけるこの子は強い。さて、このまま戦闘を続けて行けば集中力が乱れて詰められるか、トリオン切れで迅の負けが濃厚だ。

 

 しかし、そんな結果じゃ詰まらないだろうから戦場での戦い方を教えてあげよう。私はそこら中にあるエスクードを迅との攻防を繰り返しながら手ごろな大きさに斬って行く、そして足元に転がってる欠片を蹴り上げて迅に向けて飛ばした。

 

「うおっ!?」

 

 迅は避けたりスコーピオンで弾いたりしているが、防御用のトリガーの欠片のため脆いスコーピオンでは咄嗟に斬る事は叶わない。その隙を見て詰め寄ろうとすると慌てて迅は下がりながらエスクードを生成するがそれも作戦の内、私は生成されたばかりのエスクードを斬ると同時に蹴とばし、それが迅に命中したのを確認することも無く、一気に詰め寄った。

 

「がっ、嘘でしょ!?」

「目的を果たすために敵はどんな手でも使います。私はトリガーはこれ一本と言いましたが他の物を利用しないとは言ってませんよ?」

 

 飛んできたエスクードの破片にぶち当たって姿勢が崩れた所を真っ二つにされた迅のトリオン体が崩れた。迅の負けもこれで確定したわけだが、悔しそうな感じは無いようだ。

 

「ああ、やっぱり負けたか」

「負けるのが当たり前みたいな言い草ですね?読み合いで勝ってみせると言ってましたけど?」

「いや、嘘ってわけじゃないけど、自分を奮い立たせるための言葉としての意味合いが強いかな」

 

 こうなるのが分かってたらトリガーの構成を考えてたと言う迅。近接だからしょうがないとは思うがあまり攻撃範囲は広くないし、全体的に相性が悪かった気もするので、迅のいう事は間違っていない。しかし、サイドエフェクトの事もあり、受けに回りがちな姿勢をどうにかしていければとも感じた。

 

「それじゃ俺も胸を借りさせてもらいます」

「レイジは多彩かつ奇抜な戦い方だからね。だけど得意な分野に合わせて上げる『超人化(フルアップ)』」

「『超人化(フルアップ)』ですか?」

「そう、これは身体能力の強化に全てをつぎ込んだトリガー、攻撃や防御用にトリオン体も強化されてるけど、まあ普通に攻撃した方が強いわね」

 

 これは騙し討ちみたいな面もあるので、きちんとよーいドンで始める事にした。向こうで待ってるオペレーターの栞さんの開始の合図と共に私はレイジに接近し、貫手でトリオン供給器官を貫いた。

 

「なっ!?」

「簡単な機構だけどそれ故に使いこなせれば強力になる。相当体を動かすイメージが出来るか、機械を操作するかのように動くかのどちらかが出来ないと使いこなすのは無理だけどね」

 

 騙し討ちで申し訳ないと言い、もう一度だけ手合わせをする事にした。もちろん、今回は速攻は無しの方向である程度、攻防に応じるつもりだ。スタートの合図と共にレイジはメテオラとハウンドを放った。メテオラは動きの制限でハウンドが一応の攻撃だろう。

 

「だけど、甘い!!」

 

 私は追ってくるハウンドを拳と蹴りで弾く事で対処する。トリオン体の強化もされてると言った通り、下手なシールドよりは硬いのでこれ位なら問題なく防げる。レイガストを盾モードで広く展開し、もう片方でハウンドを撃ち続ける。

 

 素早く動く私の居場所を正確に把握するためと言う側面もあるのだろう。シールドを広く広げてるのは一瞬でも割れたと認識したところに攻撃を仕掛けるか、搦手で動きを封じるかと言ったところでしょう。では罠と分かった上で回り込んでシールドごと攻撃するつもりで拳撃を放つ。

 

「『スラスターON(オン)』」

 

 腕がシールドに触れた瞬間にそのまま私を吹き飛ばすつもりでスラスターを発動させた。割れた個所を塞ぎ、私を逃がさないように盾は動いている。力は強いが勢いもないのでこれを壊すのは難しいな。私はその勢いのまま壁際へと飛ばされた。

 

 そこに急所を目掛けてアステロイドの攻撃が飛んでくる。範囲攻撃が出来るメテオラで無いのは私を拘束しているレイガストを解除してしまわないようにだろう。だが、スラスターの勢いがなくなった以上はレイガスト事逃げれば良い、レイガストを引き抜き走り出そうとすると糸に足が取られた。引きちぎる事は出来たが少し遅れたためアステロイドが私の身体に迫る。

 

 私はそれを左手にくっついたままのレイガストを利用して捌き、殆ど無傷で受けきった。私がレイガストを引き抜いた時点でレイガストを消して、メテオラを放っていれば結果は変わってたかもしれないな。そう思いながら、次に放たれた攻撃が届く前に蹴りで頭を吹き飛ばし、ゲームセットです。

 

「わざと罠にかかって貰っておいてこのざまか」

「いえ、こちらも負けると思わされましたよ」

「そう言ってもらえると助かるが、やっぱりまだまだ精進が足らんか……」

 

 本当にあと一歩と思わせるほどの戦いを見せたレイジに賞賛の声が控室の面々からかけられていた。その間に準備してやってきたのは私にとっては新顔である烏丸京介君だ。京介君は尖った戦い方をするが、メインは弧月だろうからまた正宗を取り出す。

 

「最初から全力で行きます『ガイスト起動』」

「面白い機能ですね。トリオン体の方をいじりますか……」

 

 振りかぶられた弧月の一撃を正宗で受けましたが、はっきり言ってぎりぎりですね。太刀筋に合わせられてなければ折られていたかもしれない。それぐらいに強力で鋭い一撃を繰り出してきました。先ほどの私の『超人化』ほどでは無いですが、かなりの速さでこちらを攻めてくる。ここまで受けに回るのは初めてでしょうか、これはかなり近界民の思想に近いトリガーです。

 

「なるほど、敵を切り裂くための太刀筋をしっかり考えていますね」

「ええ、諸刃の剣である以上、戦いに時間をかけるわけにはいきませんから」

 

 それでいて喋る余裕も残している中々の逸材ですね。そしてこの未完成のトリガーを完成に持って行く事が出来ればそれは素晴らしい事でしょう。研究者としてはそちらにどうしても気が散ってしまいがちです。

 

「なるほど」

 

 効率的な動き、私を相手にする際に調整した動きの癖、仕留める事を意識してるためか、どうしても続けて闘っていると読みやすい部分はある。刃を受け止めると同時に、腕を蹴り上げて追撃を阻止し、今度はこちらから斬りかかるが、動きの速さでどうにかカバーしている。力の上昇により、弾き飛ばせなかったのが痛いですね。ですが……

 

「時間切れです」

「そうですね」

 

 『ガイスト』の時間制限が来てしまった。本来の戦いであればこの時点で緊急脱出機能が発動するので京介君も負けとなった。しかし、戦闘時間中ずっと攻め続けていたと言う点で彼も評価された。さて、次はようやく義弟の番である。

 

「本当に黒トリガーで良いの悠姉?」

「うん、その代わり私は『正宗』ともう一個使うからね『種子島』」

 

 正宗の安定性と比べてこちらは尖ったトリガーではあるが、この二つを使えば大抵の相手なら遠近どちらも対応できる。スタートの合図と共に、遊真は遠距離攻撃をまず仕掛けてくる。『(ボルト)』と言う印である。とりあえず最初の分はチャージが出来てるので『種子島』で迎え撃つ。

 

「うおっ!!」

「よく避けましたね」

 

 『種子島』はチャージしなければ打てない代わりに、威力、射程、弾速、軽さにおいては他の追随を許さない狙撃手用のトリガーだ。今も一面を覆うほどの極大の砲撃が放たれた。チャージ速度の改良は進められているが、20~30秒は最低でも必要、安定させようと思うともっと必要になるからまだまだ未完成とも言える。

 

「『(バウンド)』、『(チェイン)』」

 

 避けた所に近づき、正宗で斬りかかるがスッと避けられる。そのうえで鎖が真っすぐ飛んできたので切り落として様子を見る。すると今度は先ほどと違い『(ボルト)』に追加で『(アンカー)』と言う印が追加された。印は見たこと無いがボーダーのトリガーの見た目や性能は確認済みですぐに狙いが分かった。

 

 私は体に当てる訳にはいかないので全て正宗で受けきってから、正宗を一度決してもう一度起動することで重石を無効化した。その間に『(バウンド)』の多重印で一気に近寄り、『(ブースと)』で威力を強化して殴りかかってきた。

 

 来てくれるなら丁度良いと拳の来る位置に刺さる様に正宗を置くと慌てて軌道をずらした。すかさず斬りつけるが『(シールド)』に阻まれて薄皮一枚が斬れたと言ったところで逃げられた。だが、印の特徴を色々と見させてもらい作戦を思いついた。

 

 その後も攻防を繰り返していると、距離を取ろうと『(バウンド)』を起動させた。私はそこにすかさず正宗を投げ飛ばすと、弾かれた正宗が遊真に傷をつけた。だが、致命傷では無いので正宗を起動し直して手元に呼び出し、遊真に斬りかかる。そして『(シールド)』を展開させた瞬間に種子島を撃ち放った。足が削れ機動力の削がれた遊真をじわじわと削り私が勝利を収めた。

 

「うーん、攻撃手段はこっちが勝ってるし、あれは連続して撃てないのは見抜けていたが勝てなかった」

「素の能力が高めだからね。レプリカの補佐ありなら負けてたよ」

 

 そう、今回は遊真自身の力を見るためにレプリカの補佐が無かったので完全に力を出せていなかったのだ。それでもノーマルトリガー2つで完封されたと言う点は反省しているようだ。さて、それじゃあ、最後だ。

 

「よろしくね。修くん」

「本当にお手柔らかにお願いします!!」

 

 分かり切った結果ではあるが、私が勝った。光るものがあるかと言われれば微妙ではあったが、攻撃の素直さから考えるに人柄は良さそうである。うーん、こういったタイプは知識を蓄えて反復練習あるのみだろう。まあ、これで一通り戦ったし、今日はおしまいにして、次の時にでも検査とトリガーの話などをしていこう。

 




いやぁ、他の作品に時間を取られていたのと、私は新成人の新社会人でございまして、火曜から就職先の研修が始まり、その前にも健康診断やらなんやらで忙しくて執筆に時間が取れませんでした。まだ、仕事にも慣れていないので時間が取りずらいですが、少しずつ書いて行くので首を長くして、温かい目で見守ってください。

次で検査したり、トリガー関連の話をして、本部にもう一回ぐらい顔出ししたり、誰かしらと関わったりする話を書きたいね。その後で正式入隊日かな。

まあ、こんなところでさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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空閑悠菜⑧

少し時間が空きましたが生きております。一カ月と少しと時間が空いてしまい申し訳ありません。仕事が本格的に始まったのと他の作品の投稿で時間が取れませんでした。


 玉狛支部のトップである林藤さんの部屋に改めて訪れている。模擬戦の様子も見ていたようだがしっかりと話はまだ出来ていないので、正確な報告を行う予定だ。

 

「まあ昨日も言ったがよく帰ってきてくれた。おかえり悠菜」

「ただいま林藤さん。色々とあったからね。渡しておきたい物もあるんだけど、まずは報告かな?」

「ああ、お前さんの話を聞かせてくれ」

 

 向こうに行ってから年単位で会う事は無かった。ここ最近に至っては連絡の一つもしていなかったのもあり、林藤さんも真剣に私の話に耳を傾けてくれている。

 

「私の目的の1つの義父さんと遊真については向こうでも何回か顔を合わせることが出来てたし、義父さんから教えて貰った物もある程度引き継げてるわ。私のレプリカもその1つ、そっちの目的は旅立ってから1年も経たない内に達成できてたのは聞いてるのかな?」

 

 初めの2年間は同盟国経由や近づいた際に送ったりと連絡だけは出来ていたので知ってくれていると思うが、私の旅における目的の中には義父を追いかけると言う物もあった。8年も前の話なので私からしても思い出しながらの確認になるので、かなり懐かしい話題である。

 

「ああ、知ってるさ。昔に同盟国経由で情報が送られてきた時は驚いたがな。『アリステラ』の件で動き始めてからめっきり連絡が途絶えたから、こっちは全員が嫌な考えが浮かんだぐらいだ」

「かなり忙しかったけど、死にはしないから。いや、()()()()()()だけなんだけどね。みんなはあの戦場で死んでいったと言うのに……」

「気に病むなとは言わんが、お前さんの所為では無い。むしろ、お前さんが居なければあの場だけで済まなったし、()()()()も無事だったか、事実悠菜はよくやってくれたよ」

 

 5年前の戦いで旧ボーダーの仲間の多くが死ぬか黒トリガーに変わった。私はあの地で戦う事は出来なかったが、その代わりとして襲っている敵の国を襲い、徹底的に妨害した。当時はたった一人で国、それも玄界と違い神の居る国と戦えるだけの力は無かったが、それでも被害を減らせたのであれば良かった。だけど、どうしてもその場に居れば救えたのではないかと言う思いが頭の中を過るのはもうどうしようもない。

 

「クローニンと今の名前は瑠花だな。二人とは結構面識があるみたいだし、こっちに帰って来て時間はあるんだろ?顔を出してやれば喜ぶだろうよ。もう一人、瑠花の弟に関しては此処にいる。一応俺の親戚と言う事になって、陽太郎って名前だ。瑠花の方は忍田の親戚になってる」

 

 って事はフルネームだと忍田瑠花に林藤陽太郎か、こっちに馴染めているのであれば良いのだが……まあ言われた通り顔を出すとしよう。クローニンは此処を離れていると聞くし、陽太郎は覚えてるわけもないだろう。となると優先して会うべきなのは瑠花だけになるが、本部に行ったら忍田さんに話を通してもらうとしよう。

 

「それで、連絡が途絶えてからは何をしていたんだ?いや、それ以前になんで連絡をしなかったんだ?」

「敵国での妨害を成功させた後で逃げ出したんです。それから私も『アリステラ』に行って、そこで3人をボーダーの手引きがされてる場所まで護衛してました。途中で別れる形にはなりましたが、そこで追手を潰して、その途中で結構な痛手を喰らって、そこからは()()で戦ってましたね」

「お前っ!?いくらトリオンに浸食されてるとはいえ、不安定な身体で戦場に立ち続けてたのか!?」

 

 私の言葉を聞いた瞬間に血相を変えて詰め寄るように訊いてきた。確かに今考えても危険な事だったと思うがあの状況で引き下がる訳にもいかなかったのだからしょうがない。

 

「そう言わないでくださいな。当時は治療どころか対処もままならなかったんですから。まあ、無理をしただけあって症状は一気に進行しましたし、度重なる戦闘でボロボロにはなりましたけどね。どうにか相手に諦めさせることが出来ました。その時には私は傭兵家業をやっていたので、玄界(こっち)に被害が向かないように『アリステラ』に雇われた傭兵と言うていで自分の情報は流して連絡を絶ったんです」

 

 敵の言葉を素直に信じたかどうかは微妙だがその後も念のために接触を断っていたと言うのはある。報復もまったくないとは言えないし、相手国の軌道から外れて動き、一つの国に長く留まらないように意識していた。なので長く居座れないとやっぱりその場ごとに雇われる傭兵と言う立場が都合よくてだいぶ名前も売れてしまったけど。

 

「それで傭兵家業をしながら多くの国を廻ってトリガー技術やトリガーを集めて、ようやく治療紛いの物が出来、私の身体も一応は安定しました。そこからは純粋に研究者としての知識欲や義父さんの目的の達成、後はボーダーへのお土産感覚で色々と収集したりもしました。都合が良い傭兵家業も続けて、色々とコネクションも作って、強さの面でも満足いくレベルにはなったんじゃないでしょうかね?」

 

 船に関してやレプリカもかなり改造を繰り返している。私作のトリガーのレベルもそこいら辺の量産品には負けていないと感じている。そう言うと林藤さんは苦笑いではあったが、どこか嬉しそうな表情をしていた。

 

「まあ、話を聞いていると色々と心配になるが……お前さんも感情豊かになったな。昔から興味関心は人並み以上にあったが、そんなに自分を表に出してる姿は見たことが無かったよ。昔と比べて良い物だと俺は思うよ」

 

 そう言われるとどこか気恥ずかしい思いはある。昔の姿は自分で考えても無いなと思う部分はある。義父さんを除いた2番目に私を知ってる人の1人である林藤さんにそう言われるとより痛感する。

 

「生きるために必死なのも、周りに興味があるのも昔と変わってない。生きたがりなのに他人を優先しがちな所とかもな。まだやる事もあるんだろうが、危ない事は控えろよ。まっ、遊真の事を考えれば心配は要らねえぇだろうがな」

「可愛い義弟を残して死ねませんよ。それで旅と仕事の合間に研究を続けて、色々と技術も開発して、発展させてを繰り返す日々でしたね。その途中で運よく技術研究の進んでいる『乱星国家』に出会えて、しばらくはそこに滞在しました。後は有名な技術を持つ国や武力を持つ国にも出向きました。詳細は手に入れた技術と一緒にデータで纏めてます。その後は義父の死を知って、遊真に会いに行こうと最後に義父が居た国に向かえば、その情報が少し古かったらしく、遊真はこちらに向かったと聞き、追いかける形で帰ってきました」

 

 話をしながら手に入れたトリガーとその付随情報を纏めて渡す、8年分の成果だけあってその量はかなりの物に成っているので目を通すには時間が掛かりそうだが……林藤さんならなんとかするだろう。これでも選んで渡しているのだけどな。

 

「これまた凄いな。これだけあればボーダー全体の技術もかなり底上げできそうだ」

「本部にもこれは提出しますが、こっちでも好きに使ってください。さて、それじゃ私はこれから本部にも行ってきますね」

「ああ、データやトリガーは助かる。それと話が聞けて良かった……城戸さんともよく話してこい」

 

 どこか考える様な目で最後に言ったその言葉。昔のことを思い出しているのか、それとも私の知らない城戸さんの事を考えてか、もちろん私の事も思っているのだろう。林藤さんは必要な配慮をしてくれる人だ。その助言に刃従っておこうと笑って返事をして部屋を出た。

 

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SIDE:林藤

 

「あいつのことだから価値が分かった上で渡してるんだろうが、これは底上げどころじゃないぞ」

 

 提出されたデータとトリガーの量だけでも凄まじいと思っていたが、中身をみて見れば一つ一つのデータの質がかなり高く、これ一つでも技術の底上げが可能と言える。この量全てをボーダーに使えるようになったその時には今までとは比べ物にならない姿へと変貌するんじゃないかと思えるほどだ。

 

「自分を前面に出す事で遊真の正当性を高めた当たりも全部計算してるんだろうよ」

 

 戸籍が存在し、旧とはいえボーダーに元々所属していた人間が正式に義弟と認めている以上は下手な手を打つことが出来ず、遊真を近界民(ネイバー)として扱う事は出来なくなると言い切っても良い。取引の手札やこれらの技術の提出による貢献度を考えれば蔑ろには絶対に出来ない。それ以前に戦力としても失う事は出来ないだろう。

 

 本部が強硬手段に打って出たあの時に無理やりにでも介入してきたのは()()()()()を考えての事だろう。決して遊真に対して手を出させないように釘を打つためや遊真と敵対した事に対する怒りだけでは無い。それがあの場における最良だったのだ。

 

「まったく、今となっては成人してるが、もっと子供らしく、本の少しでも気楽に生きていける世界だったら良かったのにな」

 

 誰もが楽に生きていける世界などは無いが、彼女にとって辛すぎるこの世界に少しでも温情を願えないものかとお節介な考えを胸に本部での話し合いが無事に終わる事を願い、仕事に戻る。

 

「それにしても量がヤバいな。宇佐美にヘルプを頼むか、こりゃ」

 

 

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SIDE:悠菜

 

 

 林藤さんとの話を終えてから私の知ってる街並みとは少し変わった三門を感じながら昔の様に街を巡ってから本部までやってきた。見慣れない私の姿に多少の視線が送られているが気にすることなく、約束の部屋へと向かう。少し時間的には早いが、向こうはもう待っていてもおかしくない。

 

 本部についても情報は仕入れているので迷う事は無いが、私は旧時代のボーダー、要は今の玉狛支部しか知らないので実際に目でみて見ると新しい物だらけで色々と面白い。昔は秘匿して動いていたのに、今では堂々と組織だって行動している辺りも新鮮である。

 

 何のハプニングもなく、目的地まで淡々と歩いてきた為にもう着いてしまった。私は扉をノックして返事を待つと入室の許可が出たので失礼しますと声を出してから扉を開けて部屋に入った。そこには城戸さん、忍田さん、沢村さん、鬼怒田さん、根付さん、唐沢さんといった面々が既にそこにはいた。

 

「約束の時間までまだあると思ったが…?」

「念のため早めに着いておこうと思いまして、準備は出来ていますか?」

「ふん、セッティングは既に済んでいる。こっちも忙しい、特にお前さんの一件で色々と手も廻している。揃ったのであればとっとと始めるぞ」

 

 早めに着ておいたが忍田さんからすれば少し早く着きすぎなようだ。早すぎて迷惑では無いかと確認も含めて準備は出来ているかと訊くとエンジニアのトップである鬼怒田さんが答えてくれた。そしてもう話し合いは始まる様だ。私も忍田さんに言われて用意された席に座った。

 

「それでは会議を始める。まずはこの前の突発的な取引の書類とそれに付随してこちらで用意したものだ。さっとでいいからこの場で目を通してほしい」

 

 そう言って言われた通りにみて見ると、この前に迅と一緒に暴れて乗り込んだ時の内容についてだ。それと私の待遇と一応ちゃんとした家や銀行の口座などについても用意してくれたみたいだ。まあ、支部の住所を使うと面倒だし、役所関係にも手は廻してくれてるみたいだ。

 

 特に問題点は見当たらず、取引や今後の私や遊真の扱いに関しても抜け穴の無い、ちゃんとした扱いをされるみたいだ。ご丁寧に遊真の戸籍なども用意して、私の戸籍にもちゃんと情報が付けたされている。とりあえずはいう事は無さそうだ。

 

 目を通したことを伝えて問題は無いと返すと私が持ってる方はそのまま持ち帰っても良いとの事なので返さずに手元に置いておく。そして、次に話した内容は林藤さんに話した事とあまり変わりなく、私が何をしていたのか、特に連絡が無くなってからの事を一通り聞かれた。

 

 そして今回の本題であり、鬼怒田さんがいる理由でもあるトリガーとそのデータなどを渡す。林藤さんに渡したのと同じ物で、全てでは無いが多くのトリガーとデータに鬼怒田さんは感嘆の声を上げた。

 

「これは!?黒トリガーの際にも驚いたが、これほどのトリガーを本部の技術に組み込めばボーダーを大きく進化させられることは間違いない!!」

「買ったり、譲ってもらったり、奪ったり、報酬として渡されたり、色々と入手した経緯は違いますが、私の方でも長い間研究しているので、気になるデータや技術があれば聞いてください」

「ふん、環境や手に入る物に違いがある所為もあるが、技術力では負けを認めるしかなさそうだな」

 

 その言葉は嬉しいが、(マザー)トリガーがあるとはいえ、たった数年でこれだけの設備を整えた鬼怒田さんの技術は普通に感心している。その事を伝えると詰まらない顔でそっぽ向いたが、微妙に頬が赤くなったように見える。

 

「鬼怒田室長、本部でそれらを運用していくのにどれくらいかかる」

「研究データもある事を考えれば1つを試験的に運用していくのに1か月もあれば、正式に運用していく場合でも3か月もあれば可能です。しかし、量が量ですので一気にドンとはいかないでしょう」

 

 城戸さんの言葉にパッと気持ちを切り替えて答える鬼怒田さん。今までにない技術だと言うのに断言する姿は流石としか言えない。データがあってもそれをボーダーで使っていく形に整えるのに1か月と言うのは驚きだ。

 

「それとこれは悠菜くんが来るまでに話をして決めた事なのだが、遊真くんと悠菜くんについてはB級以上の隊員には周知させておきたいと考えている。特に悠菜くんはS級として改めてボーダーに所属したわけだが、経緯についても話しておかなければ何処でどの様な事態に転ずるか分からないからね」

 

 忍田さんのいう事は納得がいく、いきなり現れた人材をS級にしたとなれば話題になる前にクレームが来てもおかしくない。そちらに関してはこっちとしても余計なトラブル防止として頷いて答える。

 

「とりあえずは部隊の隊長が集まる場に顔を出して欲しいと考えている。その他にも悠菜くんには色々とボーダーで手伝って欲しい事もある。隊員としての仕事以外にもたとえば鬼怒田さんの所の研究とかになる。それと可能であれば、ランク戦の解説や()()()()()()()()()()なんかも検討して欲しい。」

 

 なるほど……そっち方面の話も入ってくるわけか、最初のコンタクトが色々と問題ある感じだったが、別に敵と言う訳では無い。面倒な部分もあるかもしれないが、問題は無いので予定が合えばと一応了承の意を返すと忍田さんは喜んでくれた。

 

 その後も色々と話し合いは続いたが、大きな話題は私が渡した黒トリガーや未だに持っているコレクションに対ぐらいだ。後は細かい部分を詰めていったり、今後の動き次第でまた話し合う事に成りそうだ。

 

「それでは今回はこれで終わりだ」

 

 城戸さんの終りの言葉でもって会議らしい空気は消え、鬼怒田さんはトリガーやデータの確認のために開発室の方へ直ぐに向かって行った。メディア担当の根付さんは問題だけは起こさないでくださいと言い仕事に戻って行った。唐沢さんは私のあれこれを用意するのに頑張ってくれたようなのでお礼を言っておいた。それと沢村さんとも仲良くなれたと思う。昔の忍田さんについて少し話すと喜んでもらえた。

 

「そうだ。悠菜くんこれを」

「これは携帯電話ですか?」

「トリガーでも良いが、街中でも使える通信機器を持っていてくれると助かる。これに今後の集まりなどについてのスケジュールも送る事になっているので確認して欲しい」

 

 用意された物は全部合わせると多くなった。書類、家(使う予定なし)、戸籍(遊真のも)、口座(通帳やカード)、携帯電話とそれぞれ帰ってから確認していこう。感謝を伝えた所でちょうどいいので例の件の話を伝える事にした。

 

「忍田さん、瑠花さんと会う事は可能ですか」

「っ!?いや、そうか君は前から面識があるし、あの時に君も動いていたのか。今はごたごたもあって場を用意する時間が無いけど、彼女に連絡は入れておくから、君ならそっちで会ってくれて構わないよ」

 

 彼女の連絡先も教えておこうと先ほど渡された携帯電話を操作して連絡先を追加してくれた。とりあえずは忍田さんが伝えたら教えて貰うか、向こうから連絡してもらう事になった。とりあえず今日のやる事はこれで終わったので玉狛支部に戻っても良いが、私は少し本部を見て回る事にした。

 

 




今回は話自体はあまり進まない。

次で誰か本部の面子と会う予定なんですが、誰が良いとかありますか?私としては米屋、風間、太刀川の誰かは確実に入れようと思ってます。後はサイドエフェクト持ちの誰かもありかなぁ。後はトリガーによる治療関係の話で那須もありよりのあり。三輪は除外、理由は遊真との絡みを優先するため。

後は遊真の治療と玉狛のサイドエフェクト持ちの検査も入れられたら入れる。後は一気に途中は飛ばして入隊日に跳んでも良い。

5巻で遊真がボーダーのルールで下から上がって行かないと納得しない人がいると言って、最後におれは近界民だからと付け加えてますが、この作品では玄界での立場がしっかりとあり、近界民扱いがされなくと言うか出来なくなるので、戦力確保や悠菜の功績を理由に入れれば遊真やなんなら千佳も直ぐにB級にする事も出来そうなんですが、それをした場合に大規模侵攻においての動きに変化を加えられそうなんですが、どっちが良いですかね。


上記に関してはアンケートを用意しますが、意見としてどちらが多いかの確認が目的で、多い方が必ず採用される訳では無いと言う点をご了承ください。


では久しぶりにいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を・


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空閑悠菜⑨

一カ月空いてしまうギリギリでした。まあ、どちらにせよ久しぶりの投稿に変わりはないですね。


 受け取った書類の情報によるとあの日あの場所のあの時間をもってボーダーに所属している事になっている。多少強引なやり方ではあったがこれで私も遊真も大手を振ってボーダー内を歩けるはずだ。

 

「……にしても(マザー)トリガーとは不可解なものだね」

 

 あれらは『星』を形作っているが、その星に住む命は何処から来たのか、そもそも『母トリガー』はどこから生まれていつから存在するのか、何故使える者が限られているのか、疑問を上げればその限りは無い。『神』が居なくとも生み出される力は膨大である。

 

「永久機関と変わらない代物…いや、そんな事を言えばトリオン自体の解明の話になるか」

 

 トリオンと言うエネルギーで文明を築くことが出来ることが論点だ。基本的には人から生み出されるそれを思えば人自体が永久機関とも言えてしまう。玄界以外の国々がトリオンに偏ってしまうのもしょうがないだろう。

 

「っと、ここがランク戦室か」

[有吾の構想通りか?]

「忘れられてないようで嬉しいかな」

 

 ボーダーを自由に歩けるようになったら直接ここは見ておきたいと思っていた。義父さんが考えていたランク戦システム、仲間同士で高め合っていくこのシステムは確かにボーダーに存在している。

 

「おや、初めて見る顔の子がいるぞ」

「ん…?あっ!あいつは、迅の姉貴じゃねえか!!」

「えっ、あの人がそうなのか!?」

「うそだろ、おいおい……」

 

 聞こえてきた声は人の多いこの場の喧噪によってよほど耳が良い人間以外には聞こえなかったようだが、私はその声とちらりと見たその顔で誰なのかがすぐに分かった。

 

「この前ぶりですね。太刀川さん。そして、出水さんに、米屋さんですね。対面では初めましてですね」

「あの妨害してくれたのがあんたなのか、あん時は何も出来なかったし、うちのオペレーターも悔しがってたよ」

「嵐山さんが言うには俺の釣りを読んだのあんたらしいな。おかげで完封されたよ」

 

 あれだけ勝手な事をしたと言うのに嫌悪感なくこうして友好的に接して来てくれる辺りが少し不思議ではあるが、そう言う人間なのだろうと思って私も口を開く。

 

「あの時は申し訳ありません。義弟を守るのに必要だったので」

「家族は大切だからな。あの時は敵同士だったんだからしょうがねえよ」

「まあ、槍馬鹿は単純すぎる気もするが、大体はその通りだな」

 

 そう言って私のやった事を許したとは少し違うが、そう言う物だと納得してくれたのは有り難いが、目の前で槍馬鹿、弾馬鹿と口喧嘩をされても困るんだけどな。

 

「あんたボーダーに入ったんだろ。戦えるって話だし、一戦やろうぜ」

「……ああ!あの時は言ってませんでしたか、私はS級隊員として入隊しましたのでランク戦に参加は出来ませんよ」

「ええー、良いから戦おうぜ。ポイントのやり取りの無いモードなら戦う分には誰とでも出来るからよ。トリガー持ってきてくれよ」

「そう言う事なら戦う分には良いですが、私個人のトリガーだと目立つのでボーダーのトリガーを用意してからにしましょう」

 

 そう伝えると絶対だからなと念押しをされ、他の2人にも俺もお願いしますと勝手に予約を追加された。まあ、別に問題は無いので了承し、彼らと別れてその場を離れた。

 

「妙に疲れたね」

[独特な感性の者ばかりだな]

「でも楽しそうな場ではある。迅が遊真に進めたのがなんとなく分かったかな?」

 

 全てがああいった人間と言う訳では決してないだろう。組織と言うのは得てして良い面と悪い面があるものだ。始めの内に出会った彼らが良い面だったと思っておいた方が良いだろう。色々とやるべきことも控えているから思考を隅にやりながらボーダーを後にしようと思ったが、一人の隊員が目に入って気になった。

 

「あのトリオン体、医療用かな?」

[構想的には近い物だろうな]

 

 トリオン体を医療目的、生活の補助に用いたりする研究はどうやらボーダー内でも行われているようで、その隊員のトリオン体は活動を助けるような機構が多少組み込まれている。物珍しさにじっと見ていると向こうに気付かれてしまったようでその隊員は近づいてきた。

 

「私に何か用ですか?初めてお会いしたと思いますが…」

「初めましてであってますよ。私が今のボーダーに入ったのはつい最近ですから。まずはぶしつけな視線を向けて、すみません」

「いえ、見かけたことの無い方がこちらを見ていて少し気になっただけですから、頭を下げて頂かなくても……それにしても()()?」

「ああ、私は旧ボーダー時代の人間だからそのような言い回しになったのよ」

 

 幸い見ていたことは責められる事無く、話をする良い機会を得られた。サイドエフェクト事を知ってるかと訊くと肯定の意が返って来たので私がトリオンを知覚出来ることを伝え、研究者として医療目的のトリオン体が珍しくつい視線を送ってしまったと伝える。 

 

「サイドエフェクトの事は分からないけど、見るだけで分かる物なの?」

「いや、私が特殊なだけね。さっきも言ったけど改めて謝罪するわ。私は空閑悠菜、よろしく」

「ええ、私は那須(なす)(れい)よ。こちらこそよろしく」

 

 それから話せない事は除いて私がどんなことをしていたのか、どういった研究をしているのか、自身がS級隊員である事などを話した。S級隊員であるという事を伝えると興味深そうな感情と微かな不安が感じられた。S級隊員ってどんな扱い何だろうか……誰かに聞くか、迅に問いただすのもありか。

 

「サイドエフェクト持ちは集めてもらうつもりだったけど、上層部には貴女の身体についても関わらせてもらうように伝えるつもりよ」

「色々と研究してるとはさっき聞いたけど、私の身体についても何か出来るの?」

「私の一番の研究はトリオンの医療研究だから、むしろ専門分野になる。」

「そうなのね。じゃあ、楽しみに待ってるわ」

 

 その後も些細な世間話を続けてから連絡先を交換して玲とも別れた。今日出会った人間は色々と個性の強い者が多かったが最終的には来て良かったと思えた。まあ、明日には遊真の治療、そしてサイドエフェクト持ちの検査をやってしまう予定なのだから今日はこれ位にして帰るとしよう。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 前々から玉狛支部の方には連絡して置いたし、ボロボロの遊真とサイドエフェクト持ちの迅、雨取、そして陽太郎の4人の検査を行う準備もだいぶ整っている。元々最低限の設備が整っている拠点と船を繋げることで十分な技術的な環境が用意できている。

 

「とりあえず、スキャンするからそこに立ってて」

 

 順番に異常が無いか確認していく、いや遊真に関しては異常がある前提ですがね。ふむふむ、トリガー内の身体の破損は酷いけど脳は大部分が残ってるようだからトリオンで十分補える。と言うかそうでなければ流石に黒トリガーとは言え延命は出来ない。

 

「簡易的な検査はこれで大丈夫。遊真の手術は最後の予定だから、黒トリガーの解析とトリオンで補うパーツの作成用に精密検査をするから、奥の検査室で待ってて、後は頼んだよレプリカ」

「分かった。それじゃ行って来る」

[了解だ。検査データはモニターに随時転送する]

 

 他の3人は迅はやはり目と脳に少し反応がある。酷使しすぎているからか、全体的にダメージも見られるが、それ以上に常人より機能が高くなっているようにも見える。しかし、このペースであればトリオンや身体の成長も打ち止めが近い迅では機能不全に陥る方が早い。

 

「目を使いすぎだね。トリオンに浸食される心配はなさそうだけど、この調子で使っていれば失明してもおかしくないよ。と言うかその未来も見えてるんでしょう、迅?」

 

 思ってたより深刻な内容に他の検査者や付き添いの人物が驚きと確認の視線を迅に送る。今までで一番へたくそな苦笑いを浮かべた迅は正直に答えた。

 

「姉さんの言う通りで、見えてるんだよね。まあ、無理をしなければそれなりに持つから大丈夫。それとトリオン体での視覚補助もあるしね」

「それでも生身の失明を防ぐにこしたことは無いでしょうに、まったく。機能回復と疲労回復には専用の目薬を用意しましょう。それとダメージを減らせないかそのサングラスに細工をします。それとトリオン体も少しいじった方が良さそうです」

 

 それだけでも数年単位で伸ばせるだろう。迅は私からの提案に素直に頷いたので話はおしまい、後は目と脳に絞って精密検査を行おう。ダメージを減らすパターンはいくつか考えているが、どれが合うのか試作で良いから今度試させる必要もあるな。

 

 さて次に陽太郎だ。サイドエフェクトは動物との意思疎通、情報を処理して暗号を解読するかのように理解しているのか、精神感応の様に相手とリンクするような物なのか、他にも色々と考えられるが、全体的に脳の、特に着目するならば感情を司る部分に発達が見られるぐらいで問題は無い。

 

 トリオンが高く、成長が著しいために問題になってないだけかもしれないけど特別な配慮は要らなそうだ。むしろしっかりと教育を施せば賢くなるし、多角的に物事を捉えることが出来るようになる。血筋の面もあるかもしれないが幼さを除けば結構優秀なようだ。

 

「陽太郎は特別問題は無いな。全体的に脳の発達が良いから、賢くなるかもね」

「ふふん、さすがおれの凄さが目立ってしまったようだ」

「そのためにはちゃんと勉強する必要はあるから頑張ろうね」

「うっ!?」

 

 最後が雨取だが、最初の迅が少し深刻だった為に緊張していたが陽太郎の結果を聴いて落ち着いているみたいだ。じっとこちらを見ており、見つめ返しても目を逸らさなかった。結構強い子の様だ。

 

 私ほどでは無いがトリオンが飛びぬけて高いな。サイドエフェクトが敵の感知に気配を消す……暗殺者にでも成れそうだな。比較的燃費が悪い『虚無(ヴォイド)』でも使えそうだし、スナイパーを目指すだけの根気があるなら適性は在りそうだけど、人間性的に厳しそうだ。

 

 トリオンの量的に何かしらあってもおかしくないと予想していたがこちらは何も無かった。敵感知の影響か微妙に感覚が鋭敏になっているようで、本人がのんびりした性格だから目立ってないが反射速度は悪くないみたいだ。

 

「特別いう事は無いかな。しいて言えば敵感知の影響で感覚が鋭敏になってるけど、誤差にギリギリ収まらない程度だね。それと自覚は無いかもしれないけど反射も悪くないみたいだね。スナイパーを目指すなら判断力や速射技術に役立つかもね」

「ありがとうございます!!」

 

 うーん、やはりトリオン自体の影響はある観たいだけど体と密接な物の方が表立って影響が出やすいのかもしれない。精神は測りにくいと言う点もあるので陽太郎に関しては第二次性徴まで定期健診を行っておこうかな。

 

「それじゃわざわざ来てもらってありがとうね。迅と遊真はそれぞれ精密検査と手術が終わったら玉狛に行くから、用事とかなければそこで待ってて」

「分かりました」

「うむ、帰るぞ。そろそろおやつの時間だ」

 

 片手間で見送る形になってしまい遊真のデータの方は……うん、予想の範囲内だね。肉体を直ぐに取り出すのは出来そうにないけど治療は直ぐに出来そうだ。脳も殆ど無事だから、神経の方を代用して繋げて、目の方はトリオン体の視覚情報伝達をそのまま利用できる。右手と左手も流用できる。腹の方は胃に大腸、それと腎臓が片方か……問題は無いな。検査を終えた遊真が待ってる部屋へ向かう。

 

「おっ、悠姉、みんなのは終わったの?」

「迅以外は問題無しって結果だったわ。さてそれじゃ今日の本題であるあなたの手術をするわ」

「分かった。けど俺ってどうするの?治療する身体はこれの中だけど」

「トリオン体とのリンクが変に影響しないようにトリオン体はそのままにリンクだけ切断する。身体の方はトリガー自体が封印しているからそのまますぐに手術に入れる感じね」

「ふうん、てっきり手術の様子をトリオン体で眺められるのかと思ってた」

 

 将来的には意識をトリオン体に移して肉体を手術するなんて言う技術も出来るかもしれないけど、今の段階と言うより遊真の場合は止めた方が良いだろう。遊真に機器の隣に寝てもらって黒トリガーを機械のセットする。

 

「それじゃ、目が覚めたら治ってるから、安心して眠りなさい」

「お願いするよ、悠姉」

 

 可愛い義弟の頼みとなればしっかりやらなければ、遊真の意識のリンクを切断、トリオン体の負荷が切れる。肉体に異常なし、遊真の固有トリオンの波長を設定、肉体の補助パーツ作成、再生手術開始。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

SIDE:遊真

 

 

 目を開けると手術前に見た部屋の中だった。指にはちゃんと黒トリガーが嵌められており、レプリカと悠姉の姿が見えた。

 

「ん?終わったのか?」

「無事にね。リンクを再接続した途端に目覚めるとは、普通の手術とはやっぱり違うのね。変な所は無い?」

「うん、動かした感じもおかしくは無いよ」

「そう、これが手術の結果のまとめ。一応目を通しておいて」

 

 渡されたデータは俺の身体に着いてと黒トリガーについて纏められていた。肉体の補修は完璧、外に取り出したら定期的に検査は必要、現段階では黒トリガーの保護によってそこまで心配は要らない。今は取り出せないけど、黒トリガーを解除、要するに親父を解放できれば俺の身体も外に出せる。

 

「事前の説明通りかな」

「そう言う事ね。それじゃ玉狛に帰りましょう。迅は検査とトリオン体の調整がさっき終わったばかりですぐ外で待ってるわ」

「ん、迅さんも結構掛かったんだ。平気なの?」

「未来視からの保護の特定に手間取っただけで問題は無いから心配無用よ」

 

 うむ、なら良かった。それなら修と千佳に報告したいし帰るとしよう。少し疲れた顔の迅さんと一緒に玉狛に戻った。修と千佳に顔を見せると手術の結果を訊かれ、成功したと伝えると俺以上に喜んでいた。お祝いとして支部長が夕飯をご馳走にするように言ってくれた。色々と美味い物が喰えたし、雰囲気も楽しかった。




チラッとしか書いてませんが、千佳ちゃんのサイドエフェクトを始めてみた時は本当に暗殺者みたいだなと思いましたね。冷酷な千佳ちゃんみたいな二次創作あれば面白そう。友達が攫われて、お兄さんも居なくなって壊れちゃった感じ……うわぁ、自分で言ってて書きたくなってきた。

(ちなみに、ワールドトリガーの二次創作のネタは今のも含めると後3つある。いつか全部書きたい)


次から本編に入りつつ、悠菜による影響を与えて行こう。

そしてアンケートの投票を終了しました。

(57) 遊真、千佳の2人ともB級になる。
(16) 遊真だけがB級になる。
(4) 千佳だけがB級になる。
(11) 遊真、千佳の2人ともB級にはならない。

正直予想とは違っていましたね。原作と変わるのを嫌がる人も中にはいるのでいってもトントンぐらいかと思ったんですけどね。アンケートやってみて良かったです。

B級にしちゃいましょうかね。うん、決定。

その方が部隊として仕事に出れるからランク戦前に他の部隊と関わりが持てるから話を膨らましやすそうです。

それではいつもの再撮でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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正式入隊①

久しぶりの投稿です。


SIDE:修

 

 

 月日が経つのは意外と早く、迅さんが言った通りその日はあっという間にやってきた。1月8日、ボーダー隊員の正式入隊日、千佳は少し緊張の色が見えるが、遊真は余裕そうな表情だ。むしろ、僕が緊張している節もある。

 

「なんだか緊張してきた……」

「なんでだよ。オサムはもう入隊してるじゃん」

 

 心配がないと言えればいいけど、これまでの事を思えばそうもいかないだろ。どうなるか少し考えるだけでもじんわりと汗が浮かぶぐらいだ。深呼吸をして緊張をほぐして、自分を落ち着かせる。

 

「よし……確認するぞ。C級隊員の遊真と千佳はB級を目指す」

「おれたちがB級に上がったら3人で隊を組んでA級を目指す」

「A級になったら遠征部隊の選抜試験を受けて……」

「近界民の世界にさらわれた兄さんと友達を探しに行く!」

「……よし!今日がその第一歩だ……!」

 

 忍田本部長の激励の言葉が集まった新人隊員に告げられてから、説明役として嵐山隊が出てきた。千佳は狙撃手なのでそちらに1人で向かって行った。何も無いと良いが、僕と遊真はそのまま残り、攻撃手と銃手の組に参加する。

 

「改めて攻撃手組と銃手組を担当する嵐山隊の嵐山准だ。まずは入隊おめでとう」

 

 担当するのは嵐山隊長本人で、説明の流れで自然に『入隊おめでとう』と視線を送りながら言ってくれた。僕は頭を下げ、遊真も手を振って返した。その後に正隊員になるまでの過程の説明を行い、その一つである訓練の体験に移るための移動中に木虎に話しかけられた。

 

「なんであなたがここにいるの?B級になったんでしょ?」

「転属の手続きと遊真の付き添いだよ」

「おっ、キトラひさしぶり、おれボーダーに入ったからよろしくな」

 

 なんとも渋い顔をしていたが、喧嘩などトラブルに発展する事は無く訓練場に着いた。そのまま成り行きで木虎と訓練の様子を見ているが時間切れだった自分と比べてどうしても暗くなってしまう。

 

 遊真なら問題は無いだろうが、むしろ簡単すぎるのが問題と言えるかもしれないな。予想通り、遊真が軽く出した記録、1秒切りと言う事実に周囲が湧き、注目を集めていた。騒ぎの中に入る訳にもいかず見守っていると師匠である烏丸先輩の声が聞こえてきた。

 

「修」

「あ」

「か……か、か、か、烏丸先輩!」

「おう、木虎久しぶりだな。悪い、バイトが長引いた。どんな感じだ」

 

 遊真が目立っていること以外は問題は無いと伝えると、目立つのはしょうがないだろうとのことだ。その後は木虎と烏丸先輩がしばらく話していたが、なにやら木虎からの視線が鋭い物に変わった気がする。少し恐怖しながらその場で遊真の様子を見続けていると、見知らぬ人が現れた。

 

「風間さん、来てたんですか」

「訓練室をひとつ貸せ嵐山。迅の後輩とやらの実力を確かめたい」

「ほう」

 

 どうやらあの人はA級3位、風間隊の隊長と言うボーダートップクラスの実力者らしい。いきなりの言葉に嵐山さんが止めようとしたが、話は思わぬ方向に向かった。

 

「俺が確かめたいのは……おまえだ、三雲修」

「……え!?」

 

 どうやらあの人の狙いは僕だったらしい。突然の申し出に困惑するが、言動から考えるに迅さんが何処かで関わっているのだろう。A級隊員なんて僕が戦えるような相手では無い。そもそも、正隊員になれたのも迅さんと遊真のおこぼれだ。

 

 だけどA級の人たちとも戦わなければ選抜部隊に選ばれるなんて夢のまた夢だ。経験を積むどころの話では無いだろう。時間の無駄かもしれないが、知ってるのと知らないのでは全然違う。恥をかくのは承知の上で話に乗るべきだろう。

 

「受けます。やらせてください模擬戦」

 

 僕の言葉に嵐山さん、烏丸先輩、遊真の3人が驚きを見せる。時枝先輩の機転で他のC級隊員たちがいなくなった。恥をかく覚悟はしていたが、ありがたいと頭を下げる。

 

「今のお前()()勝てないぞ」

「わかってます」

「無理はするなよ」

 

 この状況自体が無理に近とも思ったが、烏丸先輩に返事を返して訓練室に入った。風間先輩と向かい合って、観察を始める。両手にスコーピオンを出現させてる。スコーピオンという事はスピードタイプの攻撃手だろう。修行をつけて貰ってるとはいえ精鋭クラスの人の動きについていけるとは思えない。僕は盾モードでレイガストを自分と風間先輩を遮るように展開した。

 

「様子見か?棒立ちでは狙ってくれと言ってる様な物だぞ」

「カメレオン……くっ!?」

「なるほど、レイガストの盾モードで自身を完全に囲うか、確かにそれなら何処から攻撃されても対処する時間ができるし、スコーピオンの耐久力では斬りつけても効果は薄いが、一点を狙えば破壊も不可能ではない」

「スラスターON」

 

 僕は盾として広げたまま距離を取るためにスラスターを後ろ目掛けて発動した。何度も斬りつけられていた場所は既に破壊される直前だった。攻撃をするべく、盾モードを解除してアステロイドを放った。ある程度散らしていたので風間先輩はカメレオンを起動せずにスコーピオンで防ぎながら近づき、レイガストを広げようとした僕を潜り抜けて斬りつけた。

 

『伝達系切断、三雲ダウン』

 

「なるほどな。B級上がりたてとは思えないが、それでも中位クラスか……立て、三雲。まだ小手調べだぞ、もっと手札を見せろ、迅の後輩」

「……!?」

 

 風間さんは三雲修に用は無い、迅の後輩である三雲修だからこの場に立っている。その理由までは分からないが、それでもこのままで終われない。考えろ、考えるんだ……それが僕の武器だ。

 

 銃手になりたいと言った時に烏丸先輩が言ってくれた言葉、『お前は弱いけど馬鹿じゃない、発想と工夫を反映できる射手の方が合ってると思う』『銃手・射手は考えながら戦うポジションだ、自分が持ってるもの、相手が持ってるもの、お互いの狙い、戦場の条件、仲間の位置、あらゆる要素を使って相手をコントロールするんだ』

 

 相手の持ち物はスコーピオンとカメレオン、それとシールドも持ってるだろう。こっちはレイガスト、スラスター、アステロイド、シールドの4つだ。互いの狙いは相手を倒す事、戦場は訓練室、遮るものがなく平坦でトリオンの制限が無い。仲間はおらず自分一人だ。

 

「考えろ、それが武器だ」

 

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「なに、何であんなに動けてるのあいつ!?」

「瞬殺は無いとは思ったが、意外と粘れてるな」

「修は訓練とは別に、指導も受けてたからな。その成果です」

「ああ、悠菜さんかどうりでここ最近の動きが良くなってたわけだ……俺は何も聞いてないが、まあバイトで顔を見せれない分はしょうがないのか」

 

 最初で予想外の粘りを見せた後、風間がその動きを封じる様に動くがそれに何とか食らいついている。勝ててはいないが最低限の戦闘が成り立っていたのだ。そのことに個々に反応を示していた。

 

「とりまる先輩に言われた考えて戦うと言うのを意識したうえでとにかく反復練習してたけど、今の修はぶっちゃけどうなの?」

「まあ、始めと比べてかなり向上してるが、A級を目指すにはまだ足りないだろう。B級で戦う分には問題ないな。具体的にどんな指導を受けてたんだあいつは」

「そうですな。まず修から悠姉に声をかけてたよ」

 

 烏丸からアドバイスを貰い、訓練メニューをこなしつつも修は自分に不安を抱いていた。それ故に烏丸がおらず、他の二人はそれぞれの訓練に勤しんでるとなれば自然と悠菜に話を持って行く事になった。

 

「不安だから、京介君の訓練メニューの他にやるべきことはないかってことかな?」

「はい、そうです……」

「そうだねぇ…確かにただの攻撃手よりはいい選択かもね。不安は動きを邪魔するから取っ払うのには賛成するよ。不安を無くすにはそれを上回る自信を持てばいい」

「自信ですか?」

「そう、今回であれば、自分はこれだけやってきたんだと言う訓練の量かな。それとこれだけ自分は出来るんだと言った成功体験でも良いかもね。淡々とメニューをこなしてるだけじゃ、実感がわきにくいから不安になってるようだし、手伝うのは構わないよ」

「お願いします!!」

「よし、まず考えると言うのならその下地である知識を蓄えるのは大前提として、実際に体験するのが一番だね。最低でもボーダーのトリガーを効果と応用まで覚える所からかな。その次に色々なトリガーを私が使うから模擬戦をしていこう。事前にトリガーを教えて対策を練る訓練と相手の武器を見て瞬時に作戦を練る訓練だね。その次に余裕があれば私の個人所有のトリガーでも練習してみようか」

 

 訓練のメニューをこなしてはボーダーに存在するトリガーを学び、それを自分で使ってみたり、自分が挑んでみたり、個々のトリガーの長所と短所を把握していった。

 

「ま、そんな感じで修の特訓は進んでったよ。相手のトリガーの対策、その対策の対策までは修はある程度覚えてる。しおりちゃんに状況設定を頼んだり、過去の戦いのログをみたりと体験も十分、だけど動きは体に覚えさせてると言うより、頭で覚えてる節があるから少し遅いけどね」

「それは良いだろう。変な癖がつくよりも、じっくりと考えて動く方が修には合ってるだろ……っと、動きがありそうだぞ」

 

 向けられた視線の先では落ち着いた表情を作り、風間と向き合ってる修の姿があった。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:修

 

 

 実際の戦闘の経験では確実に負けてる以上、下手な手を打てば次は警戒されてしまう。だから最初からここまで大きく変化を見せずに風間先輩の動きを覚える様にしていた。方法はいくつか考えている、だけど自分一人で出来る手段となると僕の力だけでは難しい。だけど、負けるわけにはいかない。

 

「風間さん、いきます!!」

「……こい、三雲!!」

 

 まずはアステロイドを部屋を満たす勢いで撃ちだす、それもスローの散弾だ。この状態でカメレオンを使えば風間先輩も無事ではすまない。となればスコーピオンで防ぎながら近づく選択をとるはずだ。次の攻撃だと思わせるためにアステロイドを展開して置くが、これはブラフ。

 

「スラスターON!!」

「!?」

 

 盾モードのまま風間先輩を押し出すようにスラスターを起動、間合いに入らない為に僕は途中で手を放し、風間先輩だけを壁際に運んでもらう。そしてレイガストを解除して再び手元に作り出すと、アステロイドで牽制しながら今度は剣としてレイガストを投げつけた。

 

「シールド」

 

 風間先輩はレイガストをスコーピオンで弾き、アステロイドをシールドを集中させて防がれる。だがその横から飛んできたアステロイドが当たり、トリオン体が損傷した。

 

「置き弾か!?」

 

 そう、最初のシールドチャージの際にアステロイドも一緒に運んでもらったのだ。既に射出した弾は消える事が無いので出来た微妙な時間差攻撃だ。風間先輩が置き弾にやられた瞬間に近づくとスラスターを起動し、その体を斬りつけた。

 

『伝達系切断…風間ダウン!!』

 

「してやられたな……」

「いえ、訓練室だから出来た作戦です」

「互いに条件は同じだ。その勝利は素直に受け取っておけ」

 

 10回やってどうにか1勝を掴み取る……たった1勝だが自分の成長を訓練以上に実感できた。その相手である風間さんからの言葉で喜びが増し、賞賛の言葉を言いに来た遊真と手を合わせた。

 

「うちの弟子が世話になりました」

「烏丸……そうか……おまえの弟子か、あれはお前が教えた戦法か?」

「いえ、俺は基礎だけで、あとはあいつの努力とアイデアですよ。まあ、俺以外にも教えを乞うてたみたいですけどね。どうでした?うちの三雲は」

 

 嵐山さんからも褒められていると気になる話が聞こえてきたのでそちらに視線を送る。風間さんからみて、A級の隊長からみて自分はどうなのか、その評価に耳を傾けた。

 

「弱くはない、だが正直強いとは言えんな。トリオンや身体能力は迅が押すほどの素質は感じない……だが、自分の弱みをよく理解していて、それうゆえの発想と相手を読む頭があり、努力も怠っていない。知恵と工夫を使う戦い方は俺は嫌いじゃない。邪魔したな、三雲」

 

 そう言い残すと風間先輩は去って行った。遊真が自分から絡みにいったが風間先輩はそれをスルーした。遊真はそれを受けて楽しそうに笑っていた。それにしても、どっと疲れたな。少し落ち着こうと思ったら嵐山さんから千佳の方で問題があったと連絡があったので駆けつける事になった。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:千佳

 

 修くんと遊真くんと別れて佐鳥さんと言う嵐山隊の狙撃手の人について行って訓練場に来た。やっぱ本部の方が大きい分、訓練場もとても広かった。

 

「キミたちにはここでまず訓練の流れと狙撃用トリガーの種類をしってもらう。えーと今回の狙撃手志望は1、2、3……全部で7人か」

「あ、あの……すみません8人です」

「うおっと!女の子を見逃すとは!マジでゴメン!8人ね!」

 

 背が小さいせいで私の姿が隠れて見えていなかったみたいだ。少し恥ずかしいけど声を上げたら少し大げさなくらいに反応して謝って貰えた。その後で他の正隊員の方も来て、訓練が始まった。だけど、普段の訓練と違う所があって気になってしまった。

 

「あの……」

「ん?どうした?」

「撃ったあと……走らなくて良いんですか?」

「えーと、今は走らなくていいんだよ」

「そうなんですか、すみません……」

 

 どうやら走らなくていいみたいだ。そうだよね訓練の流れを確認するだけなんだからそんなことしてたら時間が掛かり過ぎちゃうよね。周りの新人さんからも不思議そうに見られちゃって恥ずかしい。

 

「んじゃ、次は狙撃用トリガーの紹介ね。狙撃用トリガーは全部で3つある。みんなが今使ってる『イーグレット』は射程距離を重視した万能タイプ、これ一本でだいたいOK、軽量級の『ライトニング』は威力は低いけど弾速が早くて当てやすいチクチク型、重量級の『アイビス』は対大型近界民用の威力を高めたドッカン型、でも弾速は下がってるから当てにくい。まあ、百聞は一見にしかず、女の子2人に試し撃ちしてもらおっか」

 

 私ともう一人の訓練生に子がそれぞれ一個ずつ撃つことになった。私はアイビスを渡されて大型近界民の的に狙いを定めた。

 

「よーし、構えて3……2……1……発射(ファイア)!」

 

 次の瞬間ズドンと訓練場一体に響き渡る物凄い音と共に大型近界民の的を貫いて、基地の壁も壊して砲撃が突き抜けて行った。私は顔を青くさせながらそっと後ろに振り返った。

 

「その……ご……ごめんなさい……」

 

 その後、私を含めて全員が落ち着くまで少し時間が掛かった。状況を理解し直した私は深く謝罪するためにその場で体を地面につける、いわゆる土下座の形で謝罪した。

 

「ほんとうにごめんなさい。壊した壁は一生かけてでも弁償しますので……」

「なっ、え!?こちらこそ!」

 

 私が頭を下げると何故か佐鳥さんも慌てた様子で土下座を返した。その状態が少し続くと近くで様子を見守っていた東さんと言う方が声をかけてきた。

 

「頭あげなよ。大丈夫訓練中の事故だ。責任は現場監督の佐鳥が取る」

「ひええ!?東さん!?」

「きみは本部の隊員じゃないな。トリオンの測定記録がない。その方のエンブレムは……」

「……玉狛支部の雨取千佳です……あの……わたしのせいで玉狛の先輩が怒られたりとかは」

「しないしない、責任は全て佐鳥にある」

「ですよね!やっぱり!」

 

 東さんの言葉を聞いて、先輩に迷惑が掛からない事に安心した。でもやっぱり自分が壊したのに責任を佐鳥さんだけに押し付ける様な事はしたくない。きちんと謝らないと……そう思っていたら訓練場に声が響いた。

 

「なんだこれは!一体どうなっとる!?なぜ穴が開いとるんだ!?誰がやった!?」

「……!」

 

 しおりさんに教えて貰ったけどあの人は本部の偉い人だったはず……震えながら名乗り出ようとしたら私の前に佐鳥さんが出てくれた。

 

「鬼怒田開発室長訓練中にちょっとした事故が起きました。責任は全て現場監督のボクにあります」

「その通りだ!!」

「痛っ……くない!」

「防衛隊員が基地を壊してどうする!?」

「あれぇ、これが正解じゃ無いの?」

 

 鬼怒田さんと言う人にチョップされて、思い切り掴まれて揺すられている佐鳥さんを見て、おろおろして少し困惑したが、すぐに私も名乗り出た。

 

「すみません!わたしがカベを壊しました!」

「何……?東くん本当かね!?」

「それは事実です。彼女がアイビスで開けました。玉狛支部の雨取隊員です」

「なんだと……!?玉狛の……!?」

 

 次の瞬間には私も怒られるもんだと思っていたが先ほどまで佐鳥さんに向けられていた様な表情ではなく、とても優しい表情を鬼怒田さんは向け、私の頭を優しくなでてくれた。

 

「そうか、そうか。千佳ちゃんと言うのか、凄いトリオンの才能だねえ。ご両親に感謝しなきゃいかんよ。壁の事は気にせんでいい、あの壁もトリオンで出来てるから簡単に直せる」

「?、?、は、はい」

 

 よく分からず困惑していたが、大きな問題にならないようで良かった。そう思っていると訓練室の入り口に修くんと遊真くんの姿が見えた。

 

「あっ、修くん、遊真くん」

「む……?三雲……?そうか玉狛に転属しおったのか、おいこらメガネ!ちゃんとこの子の面倒を見んか!」

「……!?はい、すみません」

 

 鬼怒田さんは修くんにそう告げると壁を直すために戻って行った。私はそのまま様子を遠巻きに見守っていた訓練生に囲まれてしまう。色々と大変だったけどなんとか入隊初日を無事に終わらして帰ることが出来て良かった。

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

大量のトリオン兵の残骸に腰かけて電話を掛けているのは玉狛の隊員が一人、自称エリートの迅だった。

 

「よしよし、みんな無事入隊したか」

 

通信機器を片手に後輩の情報を確認している。

 

「派手に目立っただろ。おれの後輩だからな。今頃きっとウワサになってるぞ。いや、メガネくんについては読めなかったな。悠菜姉さんの遊びだと思うけど、まあいい傾向だよ」

 

事実、迅の予想通りで

 

【戦闘訓練で1秒を切った新人】

【アイビスで本部に穴をあけた少女】

【B級上がって風間先輩を倒したメガネ】

 

これらの噂は本部中に広まっていた。

 

「……けどあの3人が注目されるのはまだまだこれからだ」

 

そう言うと迅はニヤリと笑って見せた。

 




会話とか描写をだいぶ端折った感はある。

でも、変化の無い所を丸写しにするだけなのもどうかと思ったので、読みづらく感じたら私の纏め方の技量不足です。

修を少し強化しました。
千佳は変化なし、遊真も変化なしかな。

正式入隊からの流れだと、後は緑川、会議、忍田さんの提案(B級昇格)、その後は直ぐに大規模進行になってたけど、間に原作に無い話を入れていく予定。


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正式入隊②

40日ぶりくらいですかね。久しぶりに投稿です。
今回はちょっと長めですね。6000文字くらい書いたところでパソコンがフリーズして書きかけのデータが消えた時は泣きたくなりました。


「あれが空閑の息子か」

「そう、空閑遊真。なかなかの腕だろ」

 

 C級ランク戦にて戦っている一人の隊員、この前の騒動の中心人物の一人でもある空閑遊真の姿を全員が観察していた。そして、その動きを見て城戸は風間に問いかけた。

 

「風間、おまえの目から見てやつはどうだ?」

「……まだC級なので確実なことは言えませんが明らかに戦い慣れた動きです。戦闘用トリガーを使えばおそらくマスターレベル……8000点以上の実力はあるでしょう」

 

 A級3位部隊の隊長にして個人総合3位、攻撃手2位の腕を持ち、他者の才能・才覚を見抜く目と優れた人材育成術を持つ風間の評価はきっと正しいのだろう。

 

「8000……!!それなら一般のC級と一緒にしたのはまずかったかもしれんな。初めから3000点くらいにして早めにB級に上げるべきだった。たしか木虎は3600点スタートだったろう?」

 

 忍田の疑問はもっともで、使える人材を放っておくのも、新人を異物と言ってもいいくらいの強者と共にいさせる事も非合理的である。

 

「そうしたかったけど、城戸さんに文句言われそうだったからなー」

「……やつはなぜ黒トリガーを使わない?昇格したければS級になるのが一番早いだろう」

「またまた~、悠菜の守りがあるけど難癖位はつける気でしょ?『入隊は許可したけど黒トリガーの使用は許可していない』とか言って」

「……」

 

 何も答えようとしない城戸の沈黙は果たして肯定なの否定なのか分からないがこれ以上話す気は無いと言わんばかりに話題は移った。

 

「……先日訓練場の壁に穴を開けたのも玉狛の新人だったそうだな『雨取千佳』」

「あの子はちょっとトリオンが強すぎてね。いずれ戦力になるから大目に見てやってよ」

「黒トリガーの近界民にトリオン怪獣……そいつらを組ませてどうするつもりだ?」

 

 何を企んでいると問いただすように林藤の方に鋭い視線を向けるが、あっけらかんとした表情でその視線を受け止める。

 

「別にどうもしやしないよ。城戸さんって俺や迅のこと常に何か企んでると思ってないか?チーム組むのも、A級目指すのも本人たちが自分で決めたことだ。千佳の兄さんと友達が近界民にさらわれて、あの子は二人を取り戻したくて遠征選抜部隊を目指してる。遊真ともう一人の隊員の修はそれに力を貸してるんだ」

 

 それを静かに聞いていた風間は納得がいったと自分で見た迅の後輩の姿を思い返した。最初に問いかけていた城戸は何を考えているんだと一蹴にした。

 

「近界民にさらわれた人間を近界民が奪還するか……馬鹿げた話だ……近界には無数の国がある。どの国にさらわれたか判別するのは非常に困難だ。そもそも被害者がまだ生存しているかどうか……残念だが救出はあまり現実的ではないな」

「だから助けに行くのはやめろと?可能性で論じる事ではないだろう!」

「子どもが想像するより世界は残酷だという話だ」

「でもまあ、何か目標はあったほうがやる気は出るでしょ。救出だろうが、復讐だろうが……なあ?蒼也」

 

 厳しく突き放す様な城戸の言葉に忍田は新たに入った隊員を庇った。しかし、現実的ではないという城戸の言葉は確かだろう。そして、話を摩り替えて振られた風間は感情を出さず答えを返す。

 

「……三輪あたりはそうでしょう……自分は別に兄の復讐をしようとは思っていません」

「お?遠征で少し価値観変わった?」

「自分は何も今までと変わりません。ボーダーの指令に従って近界民を排除するのみです。三輪は先月の小競り合い以降何やら考え込んでいるようですが……」

「ありゃまどしたの?」

「嵐山に何か言われたようです」

「へぇ……なんだろな?」

 

 だいぶ話はずれていったが、空気を破るように会議室に誰かが入ってきた。遅れていたようだが特別悪びれる様子のない、議題において重要な人物である。

 

「どもども遅くなりました。実力派エリートです」

「よし揃ったな。では本題に入ろう。今回の議題は近く起こされると予測される……近界民の大規模侵攻についてだ」

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:修

 

 久しぶりに本部をうろつき、少し休憩しようと椅子に座って飲み物を飲んでいる。ここまでは普通の事だが、周囲から聞こえてくる声が落ち着かない。

 

「ほらあのメガネがこないだの……」

「風間さんを倒したってやつか!」

「言われてみればなんか落ち着きがあるな……」

 

 ……ありません。落ち着きありません。間違ってはいないけど『倒した』って……9敗1勝なのに……だけど訊かれてもいないのに『9敗してますから!』とかいうのは変な気がする。誰かが訊いてくれれば……

 

「ねえねえ、ちょっと訊きたいんだけどさ」

「な、何かな」

 

 人付き合いは苦手と言う訳では無いが、話したこと無い人にいきなり話しかけられたせいか少し噛んでしまった。だけどA級隊員の彼が訊きたい事って何だろう。風間さんとの戦いについてだったら丁度良いんだけれど……そう思っていたら目の前の彼は僕の方を指さした。

 

「その肩のマーク、玉狛のやつだよね。玉狛支部の人?」

「え?ああ……そうだよ。最初は本部で入隊したんだけど玉狛に転属したんだ」

 

 予想してない質問に戸惑いはしたが、答えられないような質問では無かったので伝えた。すると彼は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「転属……?なんで?どうやって転属したの?」

「いろいろあったけど玉狛の迅さんていう人に誘われて……」

「迅さん……?ふーん……そうなんだ今日って非番?防衛任務は休み?」

「あ、うん。休みだけど……」

「じゃあさ、今からオレと個人のランク戦しようよ」

 

 ここ最近は玉狛で訓練ばかりしていたが、その訓練の過程でトリガーやボーダーについて色々と調べたので個人ランク戦については知っている。訓練ばかりでちゃんとしたランク戦なんてやっていないなと思いはしたが、相手が悪いだろう。

 

「A級4位部隊の人と戦えるほど僕は強くないよ?それでも良ければやるのは良いけど、どうする?」

「へぇ!知ってたんだ!別に良いよ、興味があっただけだからさ」

「うん、ならやろうか」

 

 僕がそう言って席を立つと周囲のざわめきが大きくなり、注目度が上がった気がする。事実、ひそひそと話す声や僕たちの後を着いてくる人が大勢いる。面倒な事になっちゃったかもしれないな。

 

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SIDE:遊真

 

 この国でのお金の仕組みやおつりと言う概念について頭を悩ましながら自動販売機と言う便利な機械で飲み物を買っていると、手から一枚の硬貨がこぼれて転がっていった。

 

「おっ……?」

「我が物顔でうろついているな……近界民……!」

 

 転がっていったお金はこの前戦った部隊の隊長の足元で止まった。たしか……

 

「あんたは……『重くなる弾の人』」

 

 重くなる弾の人は俺が落とした金を拾うと広げたままだった手のひらに落とした。

 

「どうも」

 

 礼を言うも何も答えず、静かに飲み物を買っている。

 

「どうした?元気ないね。前はいきなりドカドカ撃って来たのに」

「本部がおまえの入隊を認めた以上……おまえを殺すのは規則違反だ」

「ほう……?」 

 

 この前の戦いの時の印象を思い出すと少し意外に感じた。しかし、元気の無さについては何も触れていない。そう思っていると階段の上から声が掛かった。

 

「おっ!黒トリの白チビじゃん!そういやボーダー入ったんだっけか!」

「がんばっとるかね?しょくん」

「『ヤリの人』とようたろう……?なんで一緒にいんの?」

 

 声を掛けてきたのは『重くなる弾の人』のチームの人と玉狛のようたろうだったが、二人が一緒にいることは疑問に思える。

 

「クソガキ様のお守りしてんだよ」

「陽介はしおりちゃんのイトコなのだ」

「ほうしおりちゃんの……玉狛と本部は思ったより仲が悪くないのか……?」

 

 身内とは言え派閥争いがある中でこれだけ親しそうに関わっているのを見るとおれが思っていたほどギスギスしていないのか?

 

「しおりちゃんととりまるは1年ちょっとまえまで本部にいたからな」

「今もたまに本部に来てるし」

「へぇ、オサムと似た様な感じか」

 

 なるほど、元々本部の人間なら本部の人と関わりがあってもおかしくない。だが、中には本部から玉狛へ行ったとして余計に恨んでる人もいるんじゃないのかそれ?

 

「つーか秀次、おまえなんか会議に呼ばれてなかったっけ?」

「……風間さんに体調不良で欠席すると言ってある」

「ふむ体の調子が悪いのか」

「ちがうちがう、近界民ぶっ殺すのは当然だと思ってたのに、最近周りが逆のこと言い出したから混乱してんだよ」

 

 ふむ、体調は悪くなかったのか、どこか顔色が悪い様な気がしたが、気のせいだったか?それにしても混乱か……以前やりの人、よーすけ先輩が言ってったっけ、えっとたしか……

 

「あーそっか、お姉さんが近界民に殺されてるんだっけ」

「……!!なぜそれを……!?」

「仇討ちするなら力貸そうか」

「……!?なに……!?」

 

 知られたくなかったのか、知っていたことに驚いたのか分からないがこちらに顔を向ける。追い打ちを掛けたい訳では無いが協力を申し出ると怪訝な顔でこちらをじっと見つめてきた。

 

「おれの相棒が詳しく調べればお姉さんを殺したのがどこの国のトリオン兵かけっこう絞れるかもよ?どうせやるなら本気でやったほうがいいだろ」

「…………ふざけるな……!おまえの力は借りない……!近界民は全て敵だ……!」

 

 提案に対して悩んでいたのか、それとも想定していない状況に戸惑ったのか、真偽は分からないが数秒間固まってから、そう言うとわざと俺を押しのけてからゆっくりと歩いて行った。

 

「おい秀次どこ行くんだ?」

「……会議に出る」

「やれやれマジメなやつはつらいねぇ……あ!そういやオレおまえと勝負する約束だったよな!ヒマならいっちょバトろうぜ!」

「正隊員と訓練生って戦えるんだっけ?かざま先輩は戦ってくれなかったけど」

「ポイントが動くランク戦は無理だけど、フリーの練習試合ならできるぜ。風間さんはプライド高いからガチのランク戦で戦いたいんだろ。オレは楽しけりゃなんでもいーんだよ。ほれほれ対戦ブース行くぞ」

「ほう」

 

 なるほどそう言う事だったのか、なら風間先輩とは上に上がってから存分に戦わせてもらおう。それと提案に関してもボーダーのトリガーに慣れるのによーすけ先輩と戦うのは悪くないな。そう思ってブースに向かうとなにやら雰囲気がいつもと違う。

 

「なんだあ?妙に観客多いな」

「『三雲』……?」

 

 いつもと比べて人が多く、そして全員が見ている画面にはよく知っている名前が表示されていた。そして戦闘が終わり、勝者が告げられる。

 

[十本勝負修了]

[7対3]

[勝者 緑川]

 

「あっ、おさむ!?負けた!?」

「いつぞやのメガネボーイじゃん。緑川とランク戦か!あいつから3本取るとは……結構やるな。今度一戦やるのも悪くないかもな!」

「ミドリカワ……?」

 

 待ってると疲れたのかため息を吐きながらオサムが出てきたので陽太郎と一緒に近づいて行くするとオサムもこちらに気付いたようで驚いている。

 

「こらおさむ!負けてしまうとはなにごとか!」

「なんか目立ってんなー」

「陽太郎……!?遊真……!」

 

 どういった経緯でランク戦をやっていたのか聞こうと思ったら初めて聞く声が2階の方から聞こえてきた。

 

ちっ、何がA級4位部隊の人と戦えるほど僕は強くないよだ。これじゃあ無理か?……おつかれメガネくん。実力は大体わかったから帰って良いよ……風間さんに勝ったって聞いたけど、こんなもんか」

 

 

「いや十分凄いだろ」

「A級から3本も取っちゃったしね」

「B級上がりたてであれはヤバいな」

「勝ってるとはいえ変に上からだな緑川」

「風間さんに勝ったってのも信憑性出てきたな」

 

ちっ、やっぱりか

「おさむのカタキはおれがとる!いくぞ!らいじん丸!らいじん丸ーーッ!!」

「……なあこの見物人集めたのおまえか?」

「……ちがうよ風間さんに勝ったってウワサに寄って来たんだろ。オレは何もしてないよ」

「へぇ……おまえつまんない”ウソ”つくね」

「……!?」

 

 オサムは気づいてないみたいだし、上手くいってないみたいだけど、これは許せないな。

 

「おれとも勝負しようぜミドリカワ。もしおまえが勝てたら……おれの点を全部やる1508点」

「「な……!?」」

「あれ?オレとの勝負は?」

 

 おれの提案にミドリカワはもちろん、オサムも驚いている。それとよーすけ先輩には悪いけどこっちの方を優先させてもらう。

 

「1500ってC級じゃん。訓練用トリガーでオレと戦うつもり?」

「うん、おまえ相手なら十分だろ」

「……!!」

 

 おれはわざと挑発するような言い方で刺そうと、普通なら気付かない位少しだが口を歪ませて目の力が強くなった。ミドリカワはそのまま二階から飛び降りて目の前にやってきた。

 

「メガネくんが何本かとったから勘違いした?……いいよやろうよ。そっちが勝ったら何がほしいの?3000点?5000点?」

「点はいらない。そのかわりおれが勝ったら『先輩』と呼べ」

「……OK、万が一オレが負けたらいくらでもあんたを『先輩』って呼んであげるよ」

「いや、おれじゃない。ウチの隊長を『先輩』って読んでもらう」

「お……意外とゆうまおこってる!?」

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:修

 

「お、おい遊真……」

「こいつはおもしろくなってきたぜ」

「くっそー、白チビとはオレが先約だったのにー」

「あ……三輪隊の……米屋先輩ですよね?」

「おっ!知ってんのか。そう、米屋陽介だ。陽介でいーよ、メガネボーイ」

「メガ……!?」

「陽介はしおりちゃんのイトコなのだ」

「えっ……宇佐美先輩の!?」

「そしておれの『陽』なかまでもある」

「『陽』仲間……!?」

 

 勝手に進んでいく状況とどんどんと入ってくる情報に頭がパンクしそうだが、遊真を止める事はもうできそうにないので諦めて遊真が出てくるのを待つことにした。

 

「なあなあ、メガネボーイ。なんで緑川とランク戦やってたんだ?それにあいつから3本とるなんてやるじゃん。今度オレともバトろうぜ!!」

「えっ、あ、いや、なんかよく分からないんですけど飲み物飲んでいたら、玉狛の人だよね?どうやって入ったの?って聞かれたので迅さんに誘われたからと答えたら、なんか急にランク戦をする事になって」

「あー、なるほどね。そう言う事か、それであいつあんなことをやって、失敗してりゃせわねぇな」

 

 僕の拙い説明でどれだけ伝わるかなと不安に思ってると今話した情報だけでどうやら陽介先輩には分かったようだ。それに緑川が僕をランク戦に誘って来たのにも何か目的があったらしい。しかも失敗してるなんて言う結果まで分かってるみたいだ。僕には何も分からないけど……

 

「なあ陽介とどっちが強いんだ。あいつ」

「個人だろ、どーだろーなー。オレポイント覚えてねーし、勝ったり負けたりだなー。でもまあ緑川は中坊だし、才能ならあっちが上なんじゃねーの?それでそんな緑川から3本とったメガネボーイはどうやったんだ?」

「ぬ!?陽介、きさま玉狛の隊員であるおさむのてのうちをきいてどうするつもりだ!?」

「いやいや、別にスパイとかしたいわけじゃねーよ。なんかさ、前にあった時の印象だとメガネボーイは戦いがそれほど得意そうに見えなかったから、どうやって3本もとったのか純粋に気になったんだよ。陽太郎じゃねーが手の内を隠すのも大事な事だし、話したくなけりゃ話さなくてもいーぜ」

「あ、いえ、別にそこまで特別な事はしてないので」

 

 そう言うと、僕は陽介先輩と陽太郎に何があったのかを最初から順番に話した。緑川の誘いに乗ってランク戦ブースまでやって来てからはランク戦の内容をまず緑川と話し合った。

 

『こっちから誘ったし、そっちがルール決めて良いよ』

「えっと、それじゃあステージはランダム、天候は晴れで固定、転送位置は僕は射手なので高速攻撃手のそっちとよーいドンだと分が悪いのでそちらもランダムでいいですか?トリガーの制限は無し、本数は10本が慣れてるのでそれでいいですか?」

『いいよ、それじゃやろっか?』

 

 

[ランク戦10本勝負 開始]

 

 そう言って始まった1本目は市街地Aに決まった。ここは全体的に平地で背の低い民家が多く、開けた場所や狭い場所もある。今回は関係ないが所々にマンションもあるので狙撃ポイントも無い訳では無い。緑川がいる草壁隊のランク戦を思い出すと既に近くに来ててもおかしくはない。レイガストを構え、待ちの姿勢をとる。

 

「スラスター起動」

「あ、避けられた。思ってたより動ける?」

 

 屋根の上を飛んできたのか、移動補助が主な役割のオプショントリガー、グラスホッパーの勢いをそのままにスコーピオンで斬りかかってきた。彼が持ってるのはスコーピオン、シールド、グラスホッパーだけで他は何も持ってないはずだ。となると警戒するべきなのはスコーピオンの形状変化にグラスホッパーを用いた高速戦闘と立体的な動きだ。

 

「グラスホッパー」

「シールド!!」

 

 グラスホッパーでこちらにもう一度跳んできたのですり抜ける際に斬られない様にレイガストを相手の居る方向に置いて対応できるようにし、空中で飛ぶ方向を変える事を想定し、背中側を守る様にシールドを展開する。守る必要性の高い首と胸に集中して貼ると、スコーピオンを弾いた音が聞こえた。

 

「アステロイド」

「シールド」

 

 少し散らしたり、置き弾で時間差攻撃を行い追撃されない様に時間を稼ぎ、距離を取って振り返る。散らした事で一発一発の威力は低めなので僕のトリオン量ではシールドで簡単に防がれるが問題はない。

 

「面倒だね。乱反射(ピンボール)

「くっ、駄目か」

 

 僕の眼では追い切れず、何処からくるのか読めない。幾つかは防ぐことが出来ているが、身体をあちこち切り刻まれたあっという間にトリオン切れにさせられた。

 

[三雲 緊急脱出 1-0 緑川リード]

 

「重いレイガストはもちろん、シールドも攻撃に合わせて展開するのは難しいか……」

 

 気持ちを切り替えて2戦目、選ばれたのは市街地Cだった。坂道と高低差のある住宅地のMAPで、道路を挟んで階段上に宅地が続き、上下移動の際には道路を横切る必要がある。スナイパーに狙われやすいMAPになっている。多少の高低差はグラスホッパーでカバーされるが、上を取れたらアステロイドでチマチマ撃つのが良いかもしれない。

 

「場所は……微妙だな。相手が上に居る可能性もあるし、大きく移動すると危ないけど、上からの奇襲を避けるのに急ごう」

 

 転送位置は圧倒的に高所と言える程の場所ではなく、良くも悪くもないと言った場所になった。高低差があり、空中が見えやすいのでグラスホッパーで索敵していれば向こうの姿が目に映るはずだ。そう思って建物に身を隠しながら時折空中に目を向けていると緑川を見つけた。

 

「こっちの方が上だな。あっちの少し高めの建物の上を陣取ろう」

 

 気づかれない様にさっきよりも注意しながら家の裏を通って雑居ビルの屋上に身をひそめる。そして、下の方から上ってきている緑川を目掛けて少し威力に大きく振った弾を放った。

 

「アステロイド」

「上取られてたのか……おっと危ない」

 

 攻撃はグラスホッパーで左右にジグザグに跳ばれる事で簡単に避けられてしまう。散らして撃てば1戦目の様にシールドで防がれて終わりだろう。バイパーは僕では使えないが、ハウンドであれば使えるし、この状況下であればそちらの方が適していただろう。

 

「アステロイド」

「同じ攻撃ばっかだね」

 

 難なく避けて近づいてくるがそれでいい、撃った弾のおかげで避ける方向がなんとなく読みやすく、次に来る場所が分かる。僕がいる雑居ビルに跳び移る場合に着地地点はそこだ!

 

「スラスター起動!!」

「げっ……なーんてね。シールド」

 

[三雲 緊急脱出 2-0 緑川リード]

 

 シールドを集中させて攻撃を凌いでスコーピオンで胸を一突きにされた。誘導していたのがバレていたようだ。流石にA級で戦っているだけあり、経験の差が大きいな。それと攻撃の速さが段違いだ。僕の反応速度だと今以上に避けれない状況に嵌めるか、問題のスピードを出せない状況にするかしないとまともに攻撃は入りそうにない。

 

「ここは工業地区か、場所によっては入り組んでるし、MAP自体が狭い。上手く牽制すれば機動力は削れるか……」

 

 建物同士の間の方が開けていて射撃戦を行いやすいが広いという事は僕のまだ慣れていない空中戦をやられやすいという事だ。ここなら入り組んだ場所に逃げてもおかしくはないので罠に嵌めやすい……室内に呼び寄せれば、攻撃を入れられるかもしれない。

 

 そうと決まれば向かうとしよう。自分の位置は少し外側なので内側に向かいつつ、緑川と接敵したら多少は打ち合った方が良いだろう。その方が怪しまれないだろう。本当なら攻撃をレイガストで受けて吹き飛ばされる様な形で中にはいればさらに良いけど、スコーピオンの攻撃で弾かれる方が怪しいからそれは止めとこう。

 

「くっ、盾モード!」

「あれ?首いけたと思ったんだけどなぁ」

 

 普通に危なかった。初手でやられる事は無かったけど、彼はA級隊員だ。不意を突かれてやられるなんて当然あり得る事だ。だけど、これは丁度いい具合だ。

 

「アステロイド」

「これ位ならスコーピオンで防げる…いや撤退目的か」

 

 細かく散らしたアステロイドで足止めすると予定していた場所に逃げ込む形で入った。緑川は追ってくるので、続けてアステロイドを撃つ、だが殆どの弾がスコーピオンで斬り伏せられている。狭い通路内で床だけでなく壁や天井なども蹴って物凄い速度で追ってきている。

 

「今だ、盾モード!!」

「がっ、何を、うっ!?」

 

[緑川 緊急脱出 2-1 緑川リード]

 

「ふぅ、置き弾が上手くいって良かった」

 

 逃げ込んだ際使った入り口の壁に置き弾を設置し、レイガストの盾モードで動きを止めた所を後ろから撃ち抜いたわけだ。使える状況が限られてるし、同じ作戦は絶対に通じないだろうけどどうにか1勝することが出来た。気を抜かず少しでも自分の糧に出来る様に頑張ろう。

 

 今度はまた市街地Cか、今度は置き弾も使って多角的に弾を放ってみようかな。空中の移動の時はこちらの攻撃をシールドで防いでたから少し威力にトリオンを注いで。空中ならグラスホッパーを起動してるからフルガードは出来ないし、少しは削れるだろう。

 

「いた!アステロイド!」

 

 予想通り、空中に居る所を狙うと広い範囲を1枚のシールドで防ぎきれず攻撃を喰らっていた。しかし、こちらの姿を捕捉するとシールドを消して向かって来た。スピードで翻弄するならと広範囲に弾を放つと弾に当たる直前に緑川の身体が大きく上に跳んだ。

 

「なっ!?」

 

[三雲 緊急脱出 3-1 緑川リード]

 

「捨て身に見せかけての攻撃か……急に引いたせいで動揺したのが駄目だったな。上に跳んだ分、グラスホッパーを使っても少し時間があるし、落下速度を入れてもレイガストならスコーピオンの攻撃を防げたな」

 

 

 次は市街地Bか、開けた場所が少なく大き目の建物が多くて射線を切りやすい、攻撃手有利のMAPだ。中距離で戦っている僕には辛いMAPだ。一度身を隠してからどこで待ち構えるのか考えようと思っていたら胸元にスコーピオンが飛んできた。一つ目はどうにか弾いたが斜め後ろから飛んできたもう一本を止めきれず、トリオン供給器官からはどうにかそらしたが、初めから致命傷を喰らった。

 

「くっ、アステロイド!!……だめか」

 

[三雲 緊急脱出 4-1 緑川リード]

 

 ダメもとでアステロイドをスコーピオンが飛んできた方向に放ったがトリオン供給器官の近くに大きな傷を負った僕は直ぐにトリオン切れに成り、そのまま緊急脱出した。

 

「そっか、グラスホッパーを使った翻弄が目立ってて忘れてたけど、基本的な使い方ならマスターしてるに決まってるよな」

 

 次は河川敷か……名前から分かるようにMAPの中央に川があり、渡るための大きな橋が一本あるんだけどチーム戦ならまだしもここも個人戦ではあまり意味が無いな。障害物は民家が広がる他大通り付近にアパートやマンションなど背の高めの建物がある。とは言っても高さは5,6階ぐらいまでだ。そのため射線は通りやすいMAPだ。

 

「ここはMAPの東側で位置は北より、橋まで距離は近いか」

 

 遮蔽物のない橋の上で今度は仕掛けてみるとしよう。空中戦は確かに厄介だが、開けすぎてるので奇襲の心配はしなくても良い。近くで乱反射をしかけてきた場合は盾モードで覆って様子見しよう。

 

「来た、盾モード!!」

「閉じ篭ってるだけじゃ勝てないよ」

 

 乱反射を仕掛けてきたので盾モードでで全域をカバーする。そして、アステロイドをスピードと威力重視で周囲一帯に放つ、緑川はシールドを狭めて対応しているが、アステロイドが当たったグラスホッパーが壊れ、乱反射は崩れた。距離を取ろうと新しくグラスホッパーを起動した所にレイガストを当てる。

 

「スラスター起動!!」

「なっ!?」

 

 グラスホッパーは弾で壊れるが武器などは弾いてくれる。緑川が跳んだグラスホッパーはスラスターとグラスホッパーの勢いで緑川にレイガストを届けてくれた。

 

[緑川 緊急脱出 4-2 緑川リード]

 

 次は森か……コンクリートと比べて不安定な足場と密集した木で射撃は通りにくく、攻撃は振り回しが利きにくい、メテオラや閃空弧月などの地形ごと攻撃する手段が無ければ戦いにくい。

 

「スラスターを使えば木の2,3本、いや勢いをつける空間がないから1本が限界か……葉に隠れて上が見えないからグラスホッパーで跳ばれても見つけにくいのが厄介だな」

 

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると言うが僕のトリオン量では木やシールドで防がれている内にトリオン切れになるのが目に見えている。となれば決めるのはスラスターに絞って、アステロイドも牽制だけに留めよう。木で動きが制限されるのは向こうもだ。よほど懐に入らない限りは縦に振ってくるだろう。それに横に振り抜ける位置まで来るなら突きで供給器官を狙った方が早いだろうから横振りは警戒しない。頭よりも心臓を守るつもりで動こう。

 

「いや、先にアステロイド」

 

 相手に当てるつもりではなく邪魔な葉っぱを散らすためだけなので射程も威力も弾速もいらない。とにかく周囲一帯の空にアステロイドを放ってある程度は空が見える様にする。これで上からの奇襲は考えなくてもよくなった。

 

「来たか」

 

 木の隙間からスコーピオンが投げられた。これだけ木が多いと横に大きく移動は出来ないので多方面からの攻撃は警戒しなくても良さそうだ。レイガストを正面に構えてスコーピオンを弾く。

 

 近づいてきた緑川が両手で攻撃を仕掛けてきたので正面に広くレイガストを覆い、シールドも左右に展開して確実に負傷を避ける。後は向こうが下がろうとしたタイミングで仕掛ける。

 

「スラスター起動」

「うおっ!?」

 

 咄嗟に二本のスコーピオンで防御したのかあまり深く傷をつける事は出来なかった。しかし身体を大きく切り裂く事は出来たので逃げに徹しても勝てるかもしれない。ここからはアステロイドで牽制を意識するか、前方を盾モードで完全に多い、穴を開けてそこからアステロイドを放っていく。

 

 このまま追っても仕留められないと判断したのか緑川が距離を取った。奇襲を避けるために逃げた先の葉っぱを散らしておくのを忘れない。中々攻めてこない緑川に不思議に思っていると周囲の木が少しずつ倒れて言っているのが見えた。

 

「しまった!?これじゃ逃げれない」

 

 倒された木が行く手を阻んでいる。動きの改善の為に地形踏破の練習もやっているが向こうの機動力と比べたら段違いだ。逃げようと木を乗り越えている僕に追いつくのは簡単だろう。

 

 この倒れた木で囲まれた狭い空間でどれだけ耐えれるか、そして相手のトリオンを削れるかが勝負になってくる。同じ攻撃が効くかは微妙だが狙えそうだったらもう一度スラスターを使うのが一番だろう。

 

 相手が追ってくるからアステロイドが効果的だったが、こちらから狙っても防がれる。盾モードとシールドでとにかく耐えるのも考えたが、守るだけでは勝つことは出来ないし、逆にこちらがトリオン切れにさせられるか、隙間をねって攻撃を入れられる危険性もある。

 

 向こうは攻撃を喰らって焦っているのでこちらから行かなくても近寄って来てくれるだろう。なら、そこにスラスターを当てるしかない。相手もスラスターを警戒して下がる時は素早く、もしくは木が多い場所を通っている。アステロイドを併用して相手の攻めてくる場所を誘導し、仕掛ける。

 

「スラスター起動」

「グラスホッパー」

 

 スラスターで木ごと斬り伏せようとした瞬間、木を守る様にグラスホッパーが展開されレイガストが弾かれて大きく体勢が崩れた。咄嗟に心臓をシールドで覆ったが伸ばしたままの両腕を素早く斬られ、次には頭を斬られた。

 

[三雲 緊急脱出 5-2 緑川リード]

 

 

「攻撃自体は上手くいってた。木ごと攻撃できる強みを生かしてたけど、それに少し固執しすぎてたかな。ブレードを弾く……グラスホッパーで飛ばす以外にも何かできるか……」

 

 この時点で緑川の勝ちにリーチが掛かっている。残り3戦を連続で取る事が出来れば引き分けに持ち込めるけど、流石に出来る気はしない。

 

 次のMAPは市街地D、中央に大型のショッピングモールがあり、MAP自体は狭いけど縦に広いステージだ。屋内戦がメインになりやすく、比較的攻撃手有利になっている。外なら弾トリガーが有利になるけど、今の構成だと微妙だ。

 

「中なら壁も多いし、試してもいいかもな」

 

 さっきの戦いで一つのアイデアが浮かんだのでそれを試すのにちょうど良いと屋内に入る。ショッピングモールの中に入ると真ん中の吹き抜けを緑川が跳んで移動していた。下から彼を見上げる形で射程と弾速重視で弾を吹き抜けの中を走らせる。

 

「アステロイド」

「グラスホッパー」

 

 流石に避け切れないと判断したのか途中の階に入り込んで射撃を避けた緑川。入った階を確認して階段で向かう。不意打ちされる可能性を考えて警戒をしていると上った所をすかさず斬り込んで来た。

 

「盾モード、スラスター起動」

「なっ!?がっ!!」

 

 レイジさんがレイガストを拳に纏って殴ったりしているのを見せてもらい、それを真似して相手を押し出すために少し広くして攻撃を受けたレイガストを持ったまま緑川に横から当てて吹き飛ばした。逃がさない事を意識して盾モードを使ったので当たってもダメージは無いはずだ。

 

 店内にガラスを突き破って入った緑川、既に体勢は整えているようだけどこれで良い。アステロイドを放ちながらレイガストで斬りつける。緑川が棚を利用して撒こうとしたところで森でやったように棚ごと斬り伏せようとスラスターを起動する。 

 

「スラスター起動」

 

 棚を斬り伏せたが緑川に当たった手ごたえは無く、咄嗟にジャンプして避けた様だ。スコーピオンを構えてこちらを狙っている。よし、これならいける!!

 

「盾モード、解除、スラスター起動」

「はぁ!?」

 

 

[緑川 緊急脱出 5-3 緑川リード]

 

「はぁ、上手くいったけど体勢が崩れてるし、チーム戦じゃ隙を作るだけになりそうだ。落ちる事前提で点を取るなら良いけど、実用性は低いかな」

 

 さっきやったのはレイガストを盾モードにすることで切れ味を落とし、レイガストを壁で弾いてその反動で反対方向に勢いをつけてもう一度スラスターを起動して斬りつけたのだ。重たいレイガストを左右に素早く振るのは難しいので反動を利用したわけだけど、一歩間違えればレイガストを支えきれずすっぽ抜けたり、勢いを抑えられずに転ぶ可能性が高い。今回上手くいったのは運が良かっただけだ。

 

 後2戦、精神的に疲れてきたが気持ちを引き締めて向かう。転送されたのは市街地B、攻撃手有利のMAPで、1回目はスコーピオンの投擲でやられたが、あれは開始位置が近かったのも大きい。今度は建造物に入って戦いを展開していきたい。

 

「ここは学校か……盾モードを上手く使えば有利を取れるか?」

 

 工業地区でやったように狭い通路をレイガストで防いで弾を撃ち込んでみるか。教室や階段などで置き弾…後はさっきやった殴るのではなく風間さんにやった時みたいにシールドチャージを試しても良いかもしれない。そう考えていると勢いよく近づいてくる緑川が見えた。

 

「シールド!アステロイド!!」

 

 攻撃を防ぎながら弾を放つ、前方に向けて威力と射程に多めに振って弾速は遅めの弾を放つ、近寄りにくくして仕掛けをするだけの時間を稼ぐのが目的だ。隙間を潜りぬけて進んでくるがレイガストで受け止めて左右から置き弾で攻撃する。緑川はグラスホッパーで天井に着地して置き弾を避ける。降りてきた所をシールドチャージで先ほど放った弾に緑川をぶつけようとしたが緑川が天井にくっついたままだった。

 

「しまった!?シールド!?」

「遅いよ」

 

[三雲 緊急脱出 6-3 緑川リード]

 

 モグラ爪(モールクロウ)、壁や床などを潜るようにスコーピオンを通して刃を隠して攻撃する技だ。天井にくっついた時に足の裏からスコーピオンを伸ばし、レイガストを避けて頭に攻撃を入れられた。

 

「負けは確定か……最後まで頑張ろう」

 

 転送されたのは市街地A、ソロランク戦でよく使われるMAPで1戦目も市街地Aだったっけ、負けは決まってるし、最後は動きにどれだけ慣れたか確認するためにも正面から戦わせてもらおうかな。

 

「レイガスト、シールド」

「防げるようになってきたみたいだね」

 

 グラスホッパーで踏み込んでの攻撃、それと同時に足元からモグラ爪、足の裏限定してシールドを貼り、正面の攻撃はレイガストで受けきる。そして、連撃を喰らう前に距離を取る。僕は緑川を狙う様に構えてからスラスターを起動した。

 

「ブラフか!?」

「アステロイド」

 

 僕はスラスターを後ろ方向に使い、距離を稼いでアステロイド撃つ。緑川は素早くスコーピオンを解除してグラスホッパーで空中に逃げた。そして僕は一か八かでそこに攻撃を放つ。

 

「スラスター起動、アステロイド」

 

 緑川がいる位置にレイガストをスラスターで投げて、その周囲にアステロイドを放って逃げ道を無くした。いきなり武器を投げた行動に驚き止まった緑川の足を斬りつけ、アステロイドがチマチマと緑川のトリオンを削った。

 

 機動力を少し下げる事が出来たがグラスホッパーがあるからそこまで変わらないだろう。僕のトリオン量ではレイガストを作り直したらカツカツになってしまうので、レイガストを拾いに行くか、アステロイドとシールドで勝負する必要が出てくる。

 

 だが拾いにいく余裕などある訳がなく、緑川がグラスホッパーで一気にこちらに降りてきた。僕は全力でアステロイドを放ち続けるがフルガードで防がれている。

 

「レイガスト!!スラs…」

「また、遅かったね」

 

[十本勝負終了]

[7対3]

[勝者 緑川]

 

 最後はレイガストを先に生み出してたらトリオン切れを狙われただろうし、引き付けないとレイガストを出しても避けられると思って粘ったけど、攻撃に拘らないでシールドを展開した方が良かったか……いや、単体のシールドだと連撃で負けてたか。

 

「A級か……目指すところは高いな」

 

 戦って貰ったお礼を言う為にも外に出るとするか、それとポイント差が大きい相手に何本か取れたからかポイントがこれまでに見たこと無いくらい上がってる。これ良いのかな?そこいら辺も話してみるか。

 

 

 

 

「そう思って外にでたら遊真たちが居て今に至ります」

「なるほどねぇ。とにかく作戦を押し付けたり、相手の意表をついて隙を作って戦ったと……選ばれたMAPで即座に作戦立てるとは……メガネボーイもしかして頭良い?」

「さすがはおさむだ!!」

「いやぁ、特別良い訳ではないかと、あっ!」

「ああ~……!!」

 

 話すのに夢中になっていると遊真は素早く2本を取られてしまった。思わず驚きの声を上げたが、慣れてないトリガーでもあそこまであっさり遊真が負けるのかと疑問が湧いた。

 

「あー、けっこう経験の差があんなー」

「けいけんの差ってなんだ!?ゆうまもミドリカワに負けるっていうのか!?」

「いや、違うんじゃないかな」

「おっ!メガネボーイも気づいた?そう、逆だよ逆。見てなそろそろ勝つぞ」

 

 次の1戦で遊真は右腕を斬られながらも相手の胸を貫いて一撃で緊急脱出させた。やっぱり、手を抜いてたのか……だけどなんで…?

 

「捕まえた。もう負けはねーな」

「どういうことだ、陽介!!」

「ウチの隊の攻撃を4対1で凌いだやつが緑川一人を捌けないわけねーだろ。予想は付いてるが白チビのやつ、そーと―キレてるみたいだ。緑川の事をボッコボコにしたいらしーや」

 

 そこからはとても早く戦いは終わって行った。どちらもスピードタイプの攻撃手な事も関係してるだろうが、遊真が一方的に緑川を倒していった。

 

[十本勝負終了]

[2対8]

[勝者 空閑遊真]

 

 

「A級がC級に負けた……」

「緑川後半は手も足もでなかったな」

「ボロ負けだ」

 

 戦いが終わった遊真はポンポンと手を叩いて簡単な仕事を終わらしたかのような様子で出てきた。遊真と僕の差も大きい……少しでも足を引っ張らない様に頑張らないとな。

 

「よくやったゆうま!おれはしんじてたぞ!」

「よーし白チビ、今度こそオレと対戦……」

「遊真、メガネくん」

「迅さん……!?」

 

 陽介先輩が遊真に声を掛けてると聞きなれた声が僕と遊真に掛けられ、そちらを向くと迅さんが立っていた。何か用なのかと思っていると迅さんは要件を伝えた。

 

「ちょっと来てくれ城戸さんたちが呼んでる」

「城戸司令がぼくたちを……!?」

「ふむ?誰?」

 

「S級の迅さんだ……」

「玉狛支部の……」

「おっと悪いけどおれはもうS級じゃない。単なるA級の実力派エリートです」

 

 迅さんの知名度は高く、現れただけで周囲は騒めいた。それともう一人、迅さんが現れたことに反応した人がいた。

 

「あっ!迅さん!!迅さんS級辞めたの!?じゃあ対戦しよう!対戦!」

「おっ駿、相変わらず元気だな」

 

 緑川は迅に気付くと一目散に近寄り、迅さん迅さんと声を掛けている。その姿は先ほどまでと違い、印象がガラッと変わりそうなくらいはしゃいでいた。

 

「これは一体……」

「緑川は熱烈な迅さんファンなんだよ。近界民に食われそうなとこを迅さんに助けられてボーダーに入ったらしいからな」

「なるほど。だから玉狛に入ったオサムに嫉妬したのか」

 

 えっ!?僕嫉妬されてたの?なんかあたりが少し強いな。好戦的な性格の子なのかなと思ってたけどそうじゃ無かったんだ……

 

「……三雲先輩。すみませんでした」

「えっ!?何!?なんで!?」

「因縁着けて無理にランク戦に誘って、大勢の前で負けさせて、本気でやっていた先輩の事を大勢の前で馬鹿にするような発言をしました」

「メガネボーイが善戦したから発言は意味が無かったけどな」

「確かに少し勢いに驚いたけど気にしてないし、大勢の前なのはランク戦なら当たり前でしょ」

「ちがうんです。三雲先輩に恥をかかそうと思ってわざと観客を集めたんです。失敗しましたけど」

「あ、そうなの?まあ、それはそれでよかったよ。なんか見ていた人は粘った僕の事を認めてくれたみたいだけど、実力以上の評判が立ってたのは事実だしね。実際に風間先輩との戦いだって10本やってギリギリ1勝できただけだからね」

 

 

 

「あー確かに噂が一人歩きしてたみたいだけど……」

「風間さんから一本取れりゃ十分なんじゃ?」

「あのメガネ謙虚だな」

 

 

 わざと大声で9敗1勝だったことを言うと、それでも僕への注目は変わらなかった。だけど9敗した事実を伝えられたからもう良いや。

 

「なかなか素直でよろしい」

「……そういう約束だったからな白チビ先輩」

「空閑遊真、遊真で良いよ」

「大勢の前でボコボコにしてわるかったな」

「いいよ別に、自分で集めた観客だし、次はボコボコにし返すから」

「ほう、お待ちしています」

 

「うんうんライバルっていいね」

 

 遊真と緑川の仲も険悪になって無いようだし、むしろ遊真に僕と千佳以外の友達が出来たから良い事だな。

 

「迅さん!遊真先輩に勝ったら玉狛支部に入れてよ!」

「遊真で良いよ」

「いやおまえ草壁隊はどうすんの?」

「兼業する!どっちもやる!」

「無茶言うなあ……さてほんじゃ行こうか遊真、メガネくん」

「すまんねよーすけ先輩、勝負はまた今度な」

「すまんな陽介」

「ちぇー」

 

 話が終わるとすぐに迅さんは歩き出し、遊真となぜか陽太郎も続いて行った。僕も置いて行かれない様に慌てて着いて行った。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

「なあ今気づいたけど……あの白いのって戦闘訓練で0.4秒出したやつじゃないか?緑川の記録抜いたっていう……」

「がせじゃなかったのか……!」

「メガネの方は白チビに隊長って呼ばれてたぞ」

「あのメガネも緑川から3本取ってるし、風間さんからも1本とったみたいだしな」

「B級上がりたてには見えねぇな」

「城戸司令からも呼び出しされてるし、元S級とも知り合いっぽいし……」

「ヤバそうだなあのメガネ……」

 

 




書いててオサムを強くしてるとなんか楽しくなってきた。ちょっとやり過ぎたかなと思ったけど後悔はしてない。元々強化の予定はあったからね。

今回オリジナルキャラが一切登場していないというね。それでいてこの改変ぶり……悠菜に関しては次に書く予定の会議には参加してるので次の投稿をお待ちください。

オサムのトリオン量とかが改善された訳じゃないからいくつもトリガーは入れられないし、指導してもらってないのにワイヤー入れてんのもおかしいしでとりあえず持ってるトリガーだけで戦ったらこうなった。

強くなったけど上位だとまだ勝てないレベルに収まってるかな?挫折経験は大事、主人公の成長イベントは潰しちゃダメだからねぇ。

ではそろそろいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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正式入隊③

お久しぶりです。投稿が遅くなり申し訳ございません。
現在投稿作品をどうにか今年中に1話ずつ上げてる最中です。
どうにか書き上げることが出来ました。


SIDE:悠菜

 

 

 会議をする予定の部屋で準備を手伝っているとようやく迅が遊真と修くんを連れてきた。呼んでくるよと言って出た割には遅かったねぇ。鬼怒田さんなんて苛立ちがにじみ出てるよ。

 

「遅い!何をモタモタやっとる!」

「いやーどうもどうも」

「またせたなぽんきち」

「なぜおまえが居る!?」

「陽太郎!陽介はどこいったの?」

「かれはよくやってくれました」

 

 思いがけない存在に更に声を荒げている。それはさておき、陽太郎といったか……この子があの時の子供と言う訳だな。こちらで長く過ごしてるからか、らしさがないな。それにしても瑠花より先に会う事になったか、いや玉狛に出入りしてるんだからどうせすぐに会っていただろう。

 

「時間が惜しい。早く始めてもらおうか」

 

 城戸さんは全員が揃った事で会議の進行を促した。まぁ、ボーダーに置いて立場がある人がたくさんいるからね。それほど時間を取ってはいられないか。概要は忍田さんが話すらしい。

 

「我々の調査で近々近界民の大きな攻撃があるという予想が出た。先日は爆撃型の近界民1体の攻撃で多数の犠牲者が出ている。我々としては万全の備えで被害を最小限に食い止めたい。平たく言えば遊真くんや悠菜くんには向こうで長く過ごした者としての意見を聞きたいという事だ」

「近界にもいくつもの国がある事はわかっとる。いくつかの国には遠征もしとる。だがまだデータが足らん!」

 

 まぁそうだろうね。ボーダーが大きく動けるようになったのは母トリガーがあってこそだ。それに防衛に回す人手を減らす必要があるとなればしっかりと計画を立てて行う必要がある。母トリガーがボーダーに渡って機能し始めたのが5年前としても、準備期間を含めれば現ボーダーのこれまでの遠征の回数は20にも達していないのではないだろうか。

 

「知りたいのは攻めてくるのがどこの国でどんな攻撃をしてくるかということだ!お前が玉狛とはいえボーダーに入隊した以上は協力してもらう」

「なるほど。そういうことならおれの相棒に訊いたほうが早いな。よろしく」

[心得た。はじめまして私の名はレプリカ、ユーマのお目付け役だ」

「なんだこいつは……!?」

[私はユーマの父、ユーゴに造られた多目的型トリオン兵だ]

「トリオン兵だと……!?」

「空閑有吾……!」

[私の中にはユーゴとユーナ、ユーマが旅した近界の国々の記録がある。おそらくそちらの望む情報も提供できるだろう]

「!」

「おお……!」

[だがその前に……ボーダーには近界民に対して無差別に敵意を持つ者もいると聞く、私自身まだボーダー本部を信用していない。ボーダーの最高責任者殿は私の持つ情報と引き換えにユーマの身の安全を保障すると約束して頂こう]

 

 回りくどい事をすると思いつつもレプリカとユーマからすれば必要な手順か。味方の少ない状況で相手について知っておくことは重要だ。

 

「……よかろう。ボーダーの隊務規定に従う限りは空閑遊真隊員の安全と権利を保障しよう」

 

 その言葉にそれぞれの人物が思い思いの感情を表情に出す。まぁ、城戸さんならそう言うだろうし、そもそも私と迅が入隊させた以上、こんな約束せずとも隊員としての権利や安全なんて保障してくれただろうけどね。

 

[確かに承った。それでは近界民について教えよう。近界民の世界……すなわち近界に点在する「国」はこちらの世界のように国境で分けられているわけではない。近界のほとんどを占めるのは果てしない夜の暗黒であり、その中に近界民の国々が星のように浮かんでいる。それらの国々はそれぞれ決まった軌道で暗黒の海を巡っており、ユーマの父ユーゴはその在り方を「惑星国家」と呼んだ。太陽をまわる惑星の動きとは少々異なるが惑星国家の多くはこちらの世界をかすめて遠く近く周回している。そしてこちらの世界と近づいた時のみ、遠征船を放ち門を開いて進行することができる「攻めてくるのがどこの国か」その問いに対する答えは「今現在こちらの世界に接近している国のいずれか」だ]

 

「そこまではわかっとる!知りたいのは『それがどの国か』!その『戦力』!その『戦術』だ!」

 

[どの国がそうなのかを説明するにはここにある配置図では不十分だ。私の持つデータを追加しよう。リンドウ支部長]

「OKレプリカ先生、宇佐美よろしく」

「あいあいさー」

 

 レプリカは事前に打ち合わせをしていたのか宇佐美は手元の機会をいじくると部屋の中央に置かれていた配置図のデータが一気に増大した

 

[これがユーゴが自らの目と耳で調べ上げた惑星国家の軌道配置図だ]

「おお~!でかい!」

「これは……!」

「さすがは有吾さんだな……」

「これが近界民の世界の地図」

 

 誰もがその情報量に驚き、目を見開いている。そのデータの中には確かに私と義父さんが旅して得た記録であり、目を閉じれば今でもその時の光景が鮮明に浮かぶ、大事な宝だ。

 

[この配置図によれば現在()()()の世界に接近している惑星国家は4つ

 

広大で豊かな海を持つ水の世界『海洋国家”リーベリー”』

 

特殊なトリオン兵に騎乗して戦う『騎兵国家”レオフォリオ”』

 

激しい気候と地形が敵を阻む『雪原の大国”キオン”』

 

そして、近界最大級の軍事国家『神の国”アフトクラトル”』 ]

 

 

「その4つのうちのどれか……あるいはいくつかが大規模侵攻に絡んでくるというわけか?」

 

[断言はできない。未知の国が突然攻めてくる可能性もわずかだがある。また惑星国家のように決まった軌道を持たず、星ごと自由に飛び回る『乱星国家』が近界には存在する]

 

「……『乱星国家』……!」

「細かい可能性を考えていたらキリがないな」

 

 乱星国家と言うのは城戸さん達は知らなかったのかな?少し目を見開いて驚いているようだ。まぁだいぶ特殊だし、数も少ないから知ってるのは結構一部だけだったりするからね。でも、その可能性は捨てても良さそうだと伝えておこう。

 

「乱星国家の心配は必要ないですよ”レプリカ”頼んだよ」

[了解、私と直接つなぐ必要があるが可能か]

「それぐらいわけないよ~。それ!!」

 

 私のレプリカが室内に置いてある配置図を映し出す機会に接続されると先ほどまで存在していなかった国が軌道を描かずに点在していた。

 

「これは……!?」

「この配置図の表示はまさか!?」

「全部とは言えないけど、巡った国をマーキングしてきたんですよ。距離が離れるとどうしても精度は落ちるんですけどね。逆に近づいて居れば確実に気付けるんです。初めに言った通り全部では無いですが、今現在はこの国に接近している乱星国家はいないと思って良いですよ」

 

「おい、このデータを配置図に正式に加える事は出来ないのか?」

「これは私の船にある施設がリアルタイムで受信した信号をレプリカが連動させて映し出しているんです。私の船がここにある間は私の基地と本部を繋げれば写せます。ですがボーダーで設備を元から作ろうと思ったら1年から2年はかかりますし、信号の送受信に少し特殊な方法を使用しているので送受信機を分ける事はまだ出来ないんですよ」

 

 本来は観測が難しい乱星国家の情報が一時的ではあるが手に入った事に遊真を含め全員が驚いていた。鬼怒田さんには悪いがあれは完全に船と連動しているから私が居る間しか無理だ。

 

「心配が消えた所で話を戻しましょう。先日の爆撃型トリオン兵と偵察用小型トリオン兵、あれらを大規模侵攻の前触れとして対策を講じるという話だったはず」

「それだったら確率が高いのはアフトクラトルかキオンかな。イルガ―使う国ってあんまりないし、ていうかそういうの迅さんのサイドエフェクトで予知できないの?どこが来るかとか」

「おれはあったこともないやつの未来は見えないよ。『近々何かが攻めてくる』ってのはわかってもそいつらが何者かはわからない」

「ふむ……なるほど」

 

 まぁ、私も議題を聞いて配置図を見た時点である程度を予測がついていた。そして、移動中に聴いた噂や持ち掛けられた依頼などを考慮すると私の中では国は1つに絞られている。

 

「アフトクラトルでしょうね。攻めてくるのは」

「……それは根拠があってか?」

「あそこの神がもうすぐ死ぬって噂を聞きました。あの国の大きな家があちこちに遠征を仕掛けてるみたいだし、なりふり構わない所や自分たちが動いてるとバレたくない所は外の人を雇おうとしてる動いているので少しだけ話が外にも漏れていたんでしょう。それと私にもアフトクラトルからの()()が入ってました。狙いは此処じゃ無かったですし、急いでここに帰る予定だったので断りましたがね」

「狙いは此処では無かったのにアフトクラトルだと言うのか?」

「ええ、あそこは大きな家、領主が4人います。私へ依頼を出していた領主とここを責める領主が別だと考えればおかしくはありません」

「……ではそのアフトクラトルが相手と仮定して対策を進めよう。次に知りたいのは相手の戦力と戦術、特に重要なのは敵に黒トリガーがいるかどうかだ」

 

 突然の大きな情報に皆が静まり返り、私と城戸さんでの1対1の会話が続く、敵国はアフトクラトルと仮定するので良いらしい。そして黒トリガーか……遊真のレプリカに視線を送るとこちらに任せるとの合図が送られて来た。

 

「私の情報も少し古いですがアフトクラトルの黒トリガーは3年前で15本です」

「15本……!」

「はい、そのうち7本の性能は知って居ますので後程資料を提出します。ですがその殆どが関わりがあった依頼を出していた家の所持している黒トリガーですのであまり意味は無いでしょう。それと数があっても黒トリガーは稀少ですので通常は本国の守りに使われます。遠征に大量に投入されることは考えにくいです。遠征に使われる船はサイズが大きいほどトリオンの消費が大きいのはご存じでしょうが、そのため人員は出来る限り削減し、攻撃には卵にして持ち運び可能なトリオン兵を使うはずです」

 

 黒トリガーの量には驚愕を表していたがそれほど心配は必要ないと考えている。戦争ならまだしも、遠征に5個以上使われるような事はまずない。それに数だけであれば私のコレクションの方が多いぐらいだ。まぁ、性能がピーキーな物も多いけどね。

 

「つまりいずれにしろ敵の主力はトリオン兵で人型近界民は少数だという事だな」

「推察でしかありませんが、可能性は高いです」

「では人型近界民の参戦も一応考慮に入れつつ、トリオン兵団への対策を中心に防衛対策を詰めていこう。三雲君、きみは爆撃型と偵察型の両方の件を体験している。何か気付いたことがあったらいつでも言ってくれ」

「は、はい!」

 

 そう言う事で呼ばれたのか、三雲君も玉狛や遊真に関する事でなくてほっとしているようだ。まぁ、実際に現場で見た人の意見と言うのは参考になるだろう。最近は頭をよく使う様になってきているし、修行だと思って意見を出すと良いだろう。

 

「遊真くんと悠菜くんには我々の知らない情報の捕捉をお願いする」

「了解、了解」

「遊真、返事は1回にしなさい。了解しました」

 

 余裕があるの良い事だけど礼儀を軽んじるのはまた別だ。まぁ、学校にも通い出したという事だし、時間がある時に色々と教えていくとしよう。

 

 

「さあ、近界民を迎え撃つぞ」

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:三雲

 

 会議の雰囲気に潰されそうで内心ずっとひやひやした状態だった。何で呼ばれたのかも最後に忍田本部長が声を掛けてくれるまで分からなかったから余計に怖かった。遊真もざっと話してきたらしいが後は悠菜さんが細かい所は話してくれるらしく早めに帰れそうだ。

 

「三雲くん、遊真くん」

「忍田本部長……」

 

 廊下を歩いていると突然後ろから声を掛けられた。そこには先ほどまで会議に参加していた忍田本部長の姿があった。どうやら遊真と話したい事があるらしく、ここではなんだからと場所を移る事になった。僕は席を外しましょうか?と尋ねたが別に同席していても構わないという事なので一緒に席に座った。

 

「今日は協力してくれてありがとう。特に近界の情報はとても助かった」

「いやいや、ボーダーに入ったからにはこのくらい。あの丸いおっちゃんもそう言ってたし」

「鬼怒田さんも喜んでいたよ『あの軌道配置図には遠征30回分の価値がある』とね」

 

 鬼怒田開発室長の覚え方……関わる人が増えて特徴で覚えようとしているみたいだけど、もう少しやり方は無かったのか。忍田本部長は気にせずに会話を続けてるし、気にしなくても良いのか?

 

[近界のトリガーはそれぞれの国で独自の進化を続けている決して侮らずに対応に当たることだ]

「肝に銘じよう」

 

 ボーダーと近界の国々とではトリガーの在り方がだいぶ違うという話は僕も聞いた。玉狛の先輩たちのトリガーはどちらかと言うと近界民に近い性質だからよくみておけと資料を見せられた。独自の技術で形作られた未知のトリガー、実際に相対した時の動きを今から考えておかないとな。

 

「……私はきみのお父さんに昔とてもお世話になった。有吾さんが亡くなったのは残念だが……きみに会えてうれしく思っている。困ったことがあればなんでも言ってくれ。城戸さんも何も言わないが気にしているはずだ。きみのお父さんとは一番古い付き合いだった」

「ほう……」

「私はもしきみが望むならきみを正隊員に昇格させたいと思っている。きみにはそれだけの実力がある。どうだ?遊真くん」

 

 遊真が正隊員か……僕が正隊員になったのも特殊な形だった事を考えればおかしくは無いかもしれない。そもそも実力があるのに言い方は悪いがC級で遊ばせておくほど余裕も無いのかもしれない。どうするんだ遊真?

 

「正隊員か……う~ん……正隊員になったらすぐにオサムと隊を組めるんだよな」

「ああ、防衛任務にも出れるようになる。正直きみの力は大規模侵攻に対しても大きな戦力になる。理由が必要ならばきみや悠菜くんがもたらしてくれた情報の価値は先ほども言ったがあれらは功績に数えられても良い物だ」

 

 僕のB吸昇格も遊真のみつけた門を開いていたラッドの発見を功績を貰ったからだった。全体にそのまま伝える訳にはいかないだろうが、旧ボーダー関係者や情報提供者とすれば問題はないのか。

 

「それらを踏まえれば君を正隊員に上げるだけでもまだ足りない位さ……そう言えば君たちの隊のメンバーはもう一人いたね。雨取千佳くんといったね。彼女のトリオン量の話は私も耳にしたよ。彼女もC級にしておくにはもったいない隊員だよ……そうだ!彼女も君と一緒にB級に上げようじゃないか!そうすれば本格的に隊として動けるし、こちらとしては大規模侵攻前に大きな戦力が手に入る」

「千佳もですか!?」

「ほうほう……」

 

 流石に予想外過ぎて横から声を出してしまった。身を乗り出して忍田さんに尋ねるという失礼な形になってしまったが忍田さんは笑って落ち着く様に促してくれた。

 

「千佳いいけどおれは近界民だし納得しない人も出てくると思うんだよな」

「そこは心配しなくてもいいだろう。大規模侵攻の際に少なからず行政にもダメージがあり、一部のデータが失われて未だに修正されてない所があるのだが、悠菜くんが手続きを利用して君の正式な戸籍を作成している。自身と有吾さんの戸籍は残っていたみたいだからボーダーの口添えもあり、すんなりと作成できたよ」

「それって!?」

「遊真くんが近界民では無いという証明になる。事実を知ってるのは上層部とA級隊員の一部だ。そちらについても悠菜くんとの取引もあって箝口令が敷かれている」

 

 遊真も忍田さんの話を聞いて少しだけ目が開いていた。悠菜さんから聞いていなかったようだけど、レプリカも知らない様だ。悠菜さんが裏で色々とやる事があると言ってたのはこれなのかな。それと悠菜さんとの取引?なにか上層部と悠菜さんとの間であったんだろうか?それにしてもこの話が本当ならデメリットは無いに等しいぞ。

 

「チカがどうするかは勝手に決めれないけどおれは受けようかな」

「ならば手続きは私と林藤で進めていこう。雨取隊員の返事を受け取ってからになるがじきに連絡が届くはずだ」

 

 そう言うと忍田本部長は手続きの準備をさっそく進めようと分かれの挨拶を告げて去って行った。遊真の決定に口を挿むつもりはないが良かったのかと念のためきいておく。

 

「ん-、オサムの昇格も功績を考慮してって事だったからな。きちんと理由があればボーダーのルールに触れないだろう。それに近界民である事が問題にならないならオサム達に迷惑かける事もなさそうだからな」

「そうか……お前が決めたならそれでいい。だけど僕の迷惑とかは考えるな。同じ隊だし、何があっても誘った僕の責任だ」

「おっ、リーダーも様になってるな」

「からかうなよ」

 

 そのまま千佳に知らせるために連絡を入れて合流した。千佳にも忍田本部長の話を伝えると非常に申し訳なさそうと言うか重圧に潰されそうになっていた。提案のメリットやデメリットを話し、考える様に伝えると少ししてから頷いた。

 

「遠征に少しでも早く行けるなら」

 

 その理由が一番大きかったようでその後で玉狛支部に戻ると先輩たちにも話し、念のため許可をもらってから林藤支部長経由で連絡をお願いした。そして数日後には遊真と千佳のB級昇格が言い渡された。

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

SIDE:悠菜

 

 大規模侵攻に向けて会議があった次の日、以前から予定していた隊長たちへの顔通しを兼ねて隊長同士の会議に参加することになった。事前に情報では知っているが対面してどうなるかは分からないな。先に迅が参加していて、私の議題が出た所で入ればいいらしいが、その合図がようやく送られて来た。部屋の中に耳を集中させると何やら色々な意見が聞こえる。

 

「はぁ、新しいS級ねぇ」

「おい、迅!それってアイツだろ。一戦やる約束した件について訊いてもいいか?」

「ちょっ、太刀川さん。シー」

「これが資料か……ふむ」

「黒トリガーの複数所持ってヤバすぎんだろ」

「次の議題の黒トリガーに関しての通達ってのと関係してそうね」

「この名前どこかで見た気がするな」

「玉狛所属ってことは木崎も知ってんだな」

「ああ、昔からの知り合いだ」

「あっ、旧ボーダー所属ってあるね」

 

 騒々しいくらいに思えるが20人以上の人が集まればそれもしょうがないだろう。この空気の中に入って良いのかと少し躊躇してしまいそうになるが、立ち止まっていてもしょうがないので扉を開けて中にはいる。すると先ほどまでの声が一度止んで静まり返った。

 

「それじゃとりあえずおれから紹介させてもらうね。こちらが議題にあった新しいS級隊員で旧ボーダーにも所属していた。おれや小南たちの先輩でもある空閑悠菜さんだ」

「空閑悠菜と言います。ここに居る方々にはお話ししても良いと聞いてますのでお話しさせてもらうと8年間向こうの世界を旅してまわっていました。旧ボーダーとか関係なく、今のボーダーでは新参者ですので気兼ねなく話しかけてください。よろしくお願いします」

 

 私の自己紹介はおおむね問題なかったようでパチパチと拍手が鳴り、興味なさげな人たちを除いて歓迎される形で会議に加わることが出来た。そして進行は迅に任せているので席に座って視線を向けて促す。

 

「ざっと資料に目を通して貰ってると思うけど、まぁボーダーへの復帰方法が少し特殊だし、使ってる技術とかもうち(玉狛)に近いからね。勘違いとか伝達ミスで問題が起きない様にってのがこの場を用意した理由の一つだからそこんところ頭の隅っこにでも入れといてね。次にこの場にはいないけど悠菜さんの弟についても少し記載があるから目を通してくれるかな。そうこっちのページの左下ね」

 

 そこには私と遊真の関係、旧ボーダーの設立者として有吾お義父さんの名前も書かれていた。カバーストーリーとしてはお義父さんが死んだことで玄界、要するにこちらの世界に遊真は帰ろうとしていたが大規模侵攻の際に遊真の戸籍が失われていて、長い間近界で過ごしており、こちらの知識が不足していた事もあって近界民と間違われ本部から攻撃され、応戦してしまった。

 

 事情を先に理解した玉狛支部が匿ったが遊真が黒トリガーを持っていた事を重く見た本部と玉狛でのいざこざがあった。帰って来た遠征チームが黒トリガーの確保の為に動いていた際に悠菜(わたし)が遅れて帰還、仲裁に入る事で戦闘を避ける事が出来た。

 

 次の大規模侵攻の話が浮上して警戒を強めていた事により起きた事故として処理され、動いていた本部と玉狛の隊員にお咎めは無し。ボーダーと遊真、悠菜との間での話し合いは済んでいて、最近の出来事では情報やトリガーの提出などの功績により遊真とその隊仲間のB級昇格が決定している。

 

 悠菜に関して言えばその知識はもちろん、持ってるトリガーや実力なども考慮した結果S級隊員として扱う事に成った。といった感じだが少しおかしい部分も出てきてしまうだろうがまあある程度のつじつま合わせには使えるだろう。それにボーダーの上層部が決定した情報にあまり突っ込む様な事はされないだろう。

 

「にしても色白で綺麗な人やな」

「お前はそればっかりか生駒」

「そりゃ綺麗な女性が多い方がうれしいし、モチベーションもあがるやろ」

「確かに綺麗ね。それにKなのね。ふふふ」

「S級は誘えないぞ、加古」

「義弟くんがいるらしいじゃない。そっちに期待ね」

「迅さんや木崎さんの先輩って事はおいくつ」

「おいおい、女性に年の話ふるなよ」

 

「別に構いませんよ。レイジの一つ上で22ですよ」

 

「旧ボーダーに入ったのはいつか訊いても?」

 

「7歳の時でしたのでかれこれ15年前ですね」

 

「7歳!?」

「……やばくね?」

 

 質問に答えるだけでだいぶ盛り上がってきた。興味無さそうにしていた人も7歳の時に入ったという情報を聞くと少し驚いている様に見えた。

 

「質問はそれ位にしてとりあえず話を戻すよ。それで悠菜さんや遊真は注目をあびてる部分が少なからずあるから、玉狛所属って事で変に勘ぐる人も出てくるかもしれないしね。そこいら辺の話を隊の中で広めといてってのが二つ目ね。それで次なんだけど遊真は単純に新人として扱って良いけど、悠菜さんはS級なわけだけど、色々と仕事があるのでそのざっくりとした説明ね」

 

「S級の仕事ねぇ。お前は働かねえのか迅?」

「いや、おれこう見えてけっこう働いてるからね」

「どうせ暗躍だろ」

 

「もう次の話に進ませてよ。それで初めのはあまり周りには関係無いけど向こうの近界民の世界の情報や技術の提出があったって言ったけどそこいら辺をボーダーで使っていくうえでの話し合い、開発の手伝いとかね。技術者と、研究者としても悠菜さんは凄腕でね。みんなが使ってる射手や銃手用の弾のトリガーの基礎を組んだのは悠菜さんだよ」

 

「うお!?普通にすげーじゃねーか!!」

「銃手や射手は頭が上がらねーな」

「最初は無かったの?」

 

「昔にも一応遠距離用のトリガーは在りましたが今ほど高性能では無かったんです。威力や射程を伸ばしたり、使いやすさを向上させて、トリオン消費とかも調整してどうにか誰でも使える形にしたんですよ。懐かしいですね」

 

 その作り上げた基礎を基に今のアステロイドやそれを進化させた弾がある。そう考えると私の作った者が残り続ける様で嬉しい気持ちになる。そしてその事実を知った一部の人たちから尊敬の視線を感じる。

 

「次がみんなにも関係してくるんだけどオペレーターへの指導とランク戦の実況に出て貰う事になってるんだよね」

 

「オペレーター?」

「貴重な意見になるかもね」

「指導……なるほど道理で聞き覚えがあったわけだ。マニュアルに載ってた名前か」

「実況ね」

「長年戦ってた人に評価されるのか」

「指導って事は各隊のオペレーターにか?それとも隊に入ってないオペレーターもか?」

 

「全体と隊に入ってる人向けと両方あるみたいだよ。東さんは何か気付いた?」

 

「たしか以前ちらっと見たオペレーターのマニュアルに名前が載ってた気がしたんだが、あってるか?」

 

「正解です。悠菜さんは一番最初、旧ボーダー時代に全体の指揮とは別にチームごとに補佐する役目が必要と訴えた人で、東さんに習って言うなら『最初のオペレーター』とでも言うような人だよ。昔は設備とかもろくに無かった中で補助してたからオペレーターの仕事も今とは少し違うけど参考になる所はたくさんあるよ」

 

「オペレーターも出来るのか」

「属性盛り盛りやな」

「そう言う話では無いでしょう」

 

 マニュアルに私の名前が載っているという驚きの事実、内容は目を通したけど流石に作った人とか関係者の名前が書かれている所までは見ていなかった。後で確認しておこう。

 

「それじゃ大体は話し終えたし、個人的な質問は会議の後にして次の議題に行くよ。さっき色々な物がボーダーに渡されたと言ったけどその中に黒トリガーが2つある。近々その適正を調べる事になってるから隊のみんなに連絡よろしく」

「私がボーダーに渡したのはざっくりいうと罠を張る黒トリガーと狙撃用の黒トリガーです。罠を張るトリガーはその性質からか少し性格が悪い、敵の嫌がる事を出来る人の方が適性が高いです。狙撃用の方は少し特殊で多角的に物事見れる人とかが適性が高いです」

 

「性格悪い奴か……うちの敏志はどうや」

「いや仲間の扱い、それに黒トリガーになったら隊から抜けるぞ」

「あかんやん」

「狙撃用の黒トリガーか……」

「東さんはやっぱり気になる?」

「性格悪いねぇ……二宮くん試してみれば?」

「どうせ全員やる事だ。くだらない」

 

「それと最後はサイドエフェクト持ちに関してだ。この場だとおれと影浦くらいか」

「私は研究ではトリオンの医療研究などが主な分野になっているの。サイドエフェクトと言うのは医学的に見ればトリオンによって体に異常が起きている様な状態です。迅にもつい最近に検査を受けて貰いました。サイドエフェクト持ちは一度検査に参加してもらうよう通達が届きます。念のため周知をお願いします」

 

「検査ってことは結構やべえのか?」

「異常か、はっきり言うね」

「ケッ、どれくらいかかんだ?ああ!?」

 

「検査項目はサイドエフェクトによって変わりますので時間も変化します。もしかしたら長時間拘束することになるかもしれませんが必ず受けてください。強力な作用があるというのはそれだけ負荷も多いという事です。実際に迅は将来的に失明の恐れ、いえ濁してもしょうがないですね。失明する未来が見えています」

 

「おいおい!?」

「マジか!?」

「迅の未来視で失明……聴覚の場合は聾か?」

「鋼……」

「迅それマジなのか?」

 

「そこまで話しちゃう?……本当だよ。だけど検査で薬とか負担を抑える仕組みをトリオン体に入れて貰ったからだいぶ先の事だよ。それにトリオン体なら問題なく見えるからそこまで問題はないよ」

 

 私の未来が見えなくとも周囲の人の様子を見ればわかるでしょう。止めなかったってことはそこまで問題は無いという事でしょう。脅すようで申し訳ないとは思いますが軽くみられることだけは防ぎたいですからね。

 

 その後はざわざわとした空気を鎮静するのに時間が掛かりはしましたが問題なく会議は進み、無事終えることが出来た。早めに検査してくれとか、早く戦おうぜとか、向こうの事を教えてくださいなど個人的に話しかけられる事も多く、無事顔合わせは終えることが出来た。

 




悠菜の技術は高めにしているが、そろそろ制限要素をつけた方が良いかな。

次から大規模侵攻に入れそう。そうなればオリジナル黒トリガーとか書いてて楽しい要素も出てくる。それと遊真と千佳の正式参戦でどうなるやら。次回をお楽しみに。

次の投稿がいつになるか分からないのが申し訳ない所、今回の投稿も3か月以上空いてますからね。

それではいつものご挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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大規模侵攻①

あけましておめでとうございます(もう2月

投稿がかなり遅れましたが去年から引き続き読んでくれている方も今年になってから読んでくれている方も何卒宜しくお願い致します。


「「三雲君!」」

「B級昇格おめでとう!」

 

「え!?な、なんで!?」

 

 学校でトリオン兵が湧いた事で登校が再開されるのに時間がかかったな。ボーダーで色々と忙しかったのもあり、久しぶりの登校だなぁと感じているといきなりクラスメイト達からの祝いの言葉を投げられ、ただただ驚いてしまった。なんで知ってるんだろうと一瞬悩んだが、そうか広報サイトだなと思い、少し心を落ち着かせた。

 

「ボーダーの正隊員は全員広報サイトに名前が載るんだ!おれは全員暗記している!!」

三好(みよっしー)、ちょっとコワイ」

「にしても遊真、お前の名前もあったんだけど、それともう一人一つ学年下の雨取千佳ちゃんだっけ、B級の部隊として登録されてるよな!!」

「遊真くんもボーダーの人だったなんて、教えてくれれば良かったのに」

「いやいや、おれは転校した時はまだ所属していなかったから」

「遊真くんもB級への昇格おめでとう!」

「ありがとう」

「隊長は三雲なんだろ三雲隊って奴か?かっけーな」

「爆撃騒ぎのときテレビに出てたよね!?」

「基地の中ってどんな感じなの!?」

 

 何で知られているのか分かってもいきなりクラスメイトにどんどん詰め寄られて質問されると対応に困る。遊真の奴は上手く相手をしているがぼくは人に囲まれるような状況は慣れそうにない。

 

「はいはい、みんな。もうチャイムなってるわよー」

 

 そう思ってると先生が入って来た。おかげでみんなも席に着くために戻って行ったために散っていった。あ、そうだ今日は午後から任務があったな。

 

「あ……先生すみません。僕たち2時から防衛任務があって……」

「まぁ、そうなの?じゃあお昼が終わったら特別早退ね。お仕事がんばって」

「特別早退!プロっぽいなー!」

「そりゃプロだもん」

「いや……はは……」

 

 授業中は流石に囲まれることは無かったが休み時間になる度に人に囲まれる事になった。時間によっては他のクラスから人が来ることもあったけど、ぼくにそんな価値は無いと思うんだけど……

 

「防衛任務ってチームでやるんだよね?」

「遊真くんや千佳ちゃんって子といつもやってるんだよね。どんな感じか教えてよ」

「話せない事は話さなくて良いから、誰がどんな感じに戦ってるのかとか雰囲気だけでも」

 

 こんな感じの話がやっぱり多い。遊真の奴は「そう言うのは隊長であるオサムに」なんて言ってぼくの方に決定権が在る様に話してこちらに注目集めている。確かに話すかどうかはぼくが決めるべきだろうけども丸投げするなよ。

 

「概要だけで良いなら、少しだけ話すから質問攻めにするのは止めて欲しいかな……」

 

 そう伝えるとみんなわくわくした表情でぼくの机のまわりに集まって来た。もちろんボーダーの規定に関わる内容はぼかしたり、伝えかたを変えたが僕たちの隊が正式に稼働してからの話をいくつか話す事になった。

 


 

「これから隊としての初めての防衛任務だけど準備は良いか?」

「おう」

「大丈夫だよ」

 

 ぼく一人がB級にあがってから他のフリーの人や部隊の人と組んで行った事はあるが、僕が隊を率いる立場として参加するのは初めてになる。他に一緒に防衛任務に参加する部隊の人もいるし、そこまで心配はないだろうけどやっぱ不安だ。

 

『まぁ、安心して。私もしっかりサポートするからね』

「栞さん、ありがとうございます」

 

 オペレーターとして玉狛第一と兼任で栞さんが参加してくれてるのでサポート面では心配はないだろう。防衛任務の流れもしっかり覚えてるから一緒にやる人に迷惑はかけないと思いたい。

 

「あっ、居た居た。君たちが玉狛第二で良いのかな?」

「あ、はい。玉狛第二の隊長の三雲修と言います。今日はよろしくお願いします!!」

「空閑遊真です」

「雨取千佳です」

「こっちこそよろしく、チームで任務に参加するの初めてって話は聞いてるから、こっちもお節介にならない程度にサポートするから安心してくれ」

「隊長、こっちも挨拶しましょう」

「ああ、柿崎隊の隊長の柿崎国治だ。こっちが」

「照屋文香です」

「巴虎太郎です」

『どうも~オペレーターの宇井です。よろしく~』

 

 B級中位に居るグループ、隊員の情報では柿崎さんは初期の嵐山隊の一員、他の二人もその時期に入隊で新人王争いに参加するレベルだとデータがあった。実際に動きも堅実な物が多く、チームの動きとしてのまとまりもかなりのものだ。

 

「それじゃあ、時間まで警戒区域を回ろうか。まぁ、初めてだから緊張してるだろうけど落ち着けば君たちなら大丈夫だと思うから」

「それってどういう?」

「ボーダーで噂になってるからね。訓練で1秒切り、緑川を圧倒した新人、本部に風穴あけたトリオンモンスター、風間さんから1本、緑川から3本とった隊長ってね。しっかりと動けばトリオン兵相手に負けないだろうってね。まぁ、防衛任務での動き方や今回みたいに他の隊と組む時のやり方を覚えてくれれば良いよ」

「うっ、そこまで噂に……」

 

 ボーダー内での噂の廻り具合に驚き、少し胃が痛い思いだ。しかし、頼りになりそうな人が相手で助かった。それからレクチャーされながら巡回ルートを進んでいった。

 

「……という訳だから先に臨時のフォーメーションは決めといた方が良い訳だ。必要のないミスを減らせるし、隊同士でのいざこざを避ける面でも意識しといた方が良いよ。後は俺はそこまで気にしないけど年功序列とかマナーとか気にする人も中にはいるから、組む相手の事はざっとでも訊いておいた方が良いかな」

「なるほど、実際の例も聞けるとかなり勉強になります」

『オペレーター同士は慣れたもんだけどね~』

『まぁ、防衛任務だとそこまでやる事に差はないからね。連携もしやすいから、現場の隊員よりは楽かな。混線を避けて情報伝達を絞るべきか、伝達速度重視でどちらも口に出すかとかはあるけどね』

『そこいら辺は隊次第かな。口出さないで欲しい人とか、煩いのが苦手な人とか、コミュニケーションが苦手な娘とかもいるからね~っとそんなこと言ってたらゲートの反応だよ。ここから500メートル先に3つ』

『あれはバムスターとバンダーだね。バムスター2のバンダー1、レーダーに乗せたよ。追加が無いか警戒しとくね』

 

「出て来たね。雨取さんの狙撃はここだと使いにくいか…足が速いメンバーで先陣を切って貰って、残りはサポートでいこう。文香先行してくれ、虎太郎は俺らと行くぞ」

「「了解」」

「遊真、グラスホッパーで行ってくれ、千佳は付近で狙えるポイントに移動」

 

「了解っと、照屋先輩グラスホッパー使う?」

「ではお借りしますね」

 

「分かった。栞さん」

『任せて、そこの路地を少し進むと3階建ての建物があるからそこの屋根からなら問題なく狙えるよ』

 

 遊真が出したグラスホッパーを使い文香さんが跳び、遊真も跳んで行った。オペレーターの指示に従い、トリオン兵から目を離さずに道を進んでいく、千佳も既にポイントに到達している。

 

『うん、目標撃破……追加でゲートの反応あり、修君たちの方が近いかな。バムスター3、モールモッド2だよ』

『道一本挟んでかたまってるね。「バムスターが2、モールモッド1」と「バムスター1,モールモッド1」で別れてる』

「いつもより多いか……初任務なのにドタバタしてるな。まぁもうすぐで交代だし頑張ろう。それじゃ数が多いし、分担してやろうか、1,1の方は任せちゃっても大丈夫か?」

「はい!!行くぞ、千佳は顔を出してるバムスターを頼んだ。僕はモールモッドとやる」

 

 バムスターであれば千佳の狙撃で簡単に撃破できるだろう。そうなると僕がモールモッドとやる事になる。玉狛での訓練で何度も倒しているし、落ち着いて対処しよう。

 

 モールモッドは鋭い攻撃が危険だが不意打ちでも喰らわない限りは一撃でやられる様な相手ではない。いる場所が分かっていればレイガストの盾モードで全然防げる。

 

 レイガストを破ろうと攻撃してくるがそう簡単には壊れはしない。そしてモールモッドの攻撃は大きく払う、斬り捨てる様な動作だ。

 

 そのため、小さな穴を狙って刺すような動きは出来ない。僕は盾モードのレイガストを少し広げ、脚の一本を捕らえてモールモッドを捕まえると正面に穴を広げた。

 

「アステロイド!!」

 

 正面から弱点である目を狙い、アステロイドの攻撃を放った。装甲を貫く必要が無いので無理に逃げられる前に倒そうと弾速重視で放ったが問題なくモールモッドは沈黙した。

 

 辺りを見渡し、更に追加で開くゲートが無いのを確認してから少し警戒を緩める。そうしているとちょうど千佳から声がかかった。

 

『修くん、バムスター倒したよ』

「こっちもちょうど倒した」

『オサム、終わったか?』

『終わったなら合流しようか』

『ここならちょうど良いんじゃない』

 

 向こうのオペーレーターの宇井さんが場所を示してくれたのでそこに向かう。全員かすり傷なく無事終える事が出来た様だ。

 

「よし、時間になったし後は引き継ぎの確認をしたら、任務を終了した報告をする。その後で反省したり、隊長は報告書を書いたりしておしまいだ。まぁ、突出した行動もなく、急造の割に連携はしっかり出来てたからそこまで問題は無いな。しいて言えば報告をオペーレーターに任せっきりにせず、倒せたら報告するといいかもな。もちろん、集中しないといけない状況とかは別だ。状況判断はこれからこなしていけば分かってくるから、今日みたいな感じでやれば大丈夫だろう」

「はい、ありがとうございます」

『引き継ぎの連絡来たよ。ここからは諏訪隊とB級のフリーの人でやるみたい』

『よお、お疲れさん。出現数が多かったらしいな。こっちでも注意しとくが上がる時に一応連絡しといてくれ』

「了解です。まぁ、こんな感じで気になる事があったらそこも伝えたりしておくと良いかな。本部への連絡は俺がやっとくから上がっちゃって良いよ」

 

 そうして最初の防衛任務は終了した。玉狛支部に戻った僕達は隊の中での反省を行い。僕は先輩に教わりながら報告書の書いた。

 

 まだ数回ではあるがその後も防衛任務はこなし、他の隊の人と知り合う機会も出来た。まだ完璧とは言えないが隊として問題のない動きは出来ているつもりだ。

 


 

 個人名やトリガーなどについてはぼかしながら最初の防衛任務について話した。休み時間を潰してまで聴く価値があったのかなと思ったがみんなは満足している様だ。

 

「そんな感じなんだ。やっぱりすげーな三雲」

「事務的と言うか仕事っぽい感じが逆にプロっぽくて良いね」

「千佳ちゃんって子はスナイパーなんだ。スナイパーって響きがすでにかっこいいよな」

「遊真くんって力が凄いのは知ってたけど足も早いんだね」

「話してくれてありがとな」

「また聞かせてね」

 

 口々に感想とお礼を言ってみんなは席に戻っていった。たくさん話したせいで喉がカラカラだ。水分補給をしているとちょうどチャイムがなった。

 

「授業を始めるぞ」

 

 やけに疲れたけど先生も入ってきたので気持ちを切り替えて授業に専念しよう。この授業が終われば昼休みだし、昼食時くらいは人の波から離れて休めるだろう。

 


 

「人に囲まれるのは疲れる……」

「オサムしょっちゅう囲まれてるじゃん」

「疲れたのはお前が押し付けた所為でもあるんだぞ、まったく」

 

 ボーダーと言うのは良くも悪くも世間の注目を集めている。ボーダー隊員だと言うだけで少なからず人から視線を受けることは多くなるのは分っているが、毎日これだと一苦労だ。

 

「修くん」

「おーさぶさぶ」

 

 声が掛けられ、そちらを向くと千佳ともう一人女の子が立っていた。寒そうに少し震えながら首をすぼめている。たしか千佳がスナイパーの訓練を受けている際に見かけた気がする。千佳の同期でスナイパー仲間なのだろうがもう仲良くなったのか。

 

「おーチカ」

「そっちの子は……?」

 

「いっしょに狙撃手(スナイパー)になった出穂ちゃん」

「チカ子はとっととB級にあがっちまったけどね。っと、ども夏目(なつめ)出穂(いずほ)っす」

 

「チカのともだちか、オレはチカと同じ部隊の仲間の空閑遊真、どうぞよろしく」

「三雲修です。ええっと、千佳の部隊の隊長をやってる。よ、よろしく」

「よろしくっす」

 

 その後に千佳の事を少し聞いたり、部隊ってどんな感じですかと逆に訊かれたり、多少話しをさせてもらい。そのまま一緒に昼食を取る事になった。

 

「そう言えばB級って事は千佳や先輩たちも大規模侵攻ってので近界民相手に戦うんですよね?」

「んっ、C級にも通達されてるんだ」

「あっ、はいっす。戦っちゃダメですけど避難とか救助のサポートにトリガーも使用して良いって事になってます。なので避難経路とかちょっと覚えて何度も確認してます」

「ほほー、イルガ―の時のオサムの活躍がボーダーのルールを変えたのかね」

「持ち上げるのはやめろ」

「へー、なんすかその面白そうな話、教えてくださいよ」

 

 他愛も無い冗談を交えた話をしている時間が一番安らぐが、実際に侵攻の時が攻めっているのを感じるとどうしても落ち着かない気持ちもある。

 

「アフトクラトルがこっちの世界から離れるまであと10日ほどだ。それまでどうにか凌ごうぜ」

「10日か」

 


 

「うお、早いな」

 

 三門市全域を見渡せる一に佇み、その未来を見つめていた男は、数ある未来の中から選ばれた次の瞬間への感想を漏らした。

 


 

 侵攻についての話題を出していると、千佳が何かに気付いたように立ち上がり、警戒区域の方を向く。すると一拍遅れて警戒区域の空が暗く染まりだした。

 

「……!」

「……!?」

 

 警戒区域を包み込む暗雲から次々に吐き出される黒い雷。異なる世界からの侵略者たちの門が一斉に開いた。

 

「これは・・・・・!!緊急呼び出し……!」

「来たって事だな」

 

 


 

「門の数、38、39、40……依然増加中です!!」

 

「任務中の部隊はオペレーターの指示に従って展開!トリオン兵を撃滅せよ!!一匹たりとも警戒区域から出すな!!非番の正隊員に緊急招集を掛けろ!全戦力で迎撃に当たる!!」

 

「戦闘開始だ!!」

 

 


 

「システムとの連動はどうにか出来ました。各支部や街のカメラとも接続できてます。本当なら外付けでベイルアウト機能も付けたい所ですが、流石に間に合いそうにないですね。調整せずにつければエラーを起こすだけですね」

 

「ベイルアウト専用のトリガーなんてものそう簡単に思いつかれても対応できるか!!本部のシステムで黒トリガーの機能を拡張できただけ十分だろうが!!」

 

「本当にまぁ、これだけのものがあれば市街の被害は防げそうだが、悠菜さんが言うんなら次の機会にって事で」

 

「黒トリガーを奪われる可能性を考えればその保護としては的確なんですよ。まぁ『迷宮(ラビィ)』と『雷の裁き(ドンナー)』については任せました。私は先に出てトリオン兵を減らしてきます。指示があれば通信で伝えてください」

 

「おっ、おい!?勝手に出ていきおって、っとわしも急ぎ向かわんとな。冬島、『迷宮』はお前に任せるからな」

 

 本部の開発室にギリギリまで粘って調整に回っていたが、悠長に武器をいじくりまわしている時間はこれ以上無さそうだ。

 

「本部や警戒区域内の仕掛けがトリオン製だから『崩壊』は使えない。『迷宮』がある以上は『砲台(タレット)』を出す必要性もない。相手が誰か分かるまでは顔は出したくないし、これを使うか『レムレス』起動(オン)、レプリカ視覚支援を」

[了解した]

 

 これは雑魚退治にしか役に立たない、少数遠征の様な精鋭ばかりの奴では最初の数発が当たれば良い方だ。だが、相手が数で押そうとしている間は十分だろう。

 

「さてさて、家族と仲間、故郷の為に働くとしましょう」

 

 

 


 

【門発生、門発生】

 

【大規模な門の発生が確認されました】

 

【警戒区域付近の皆様は直ちに避難してください】

 

 

「なにあれ……!」

「基地の方が真っ暗だ……!!」

 

「先生!」

「三雲くん」

「呼び出しがあったので現場に向かいます!学校のみんなをなるべく基地から遠くに避難させてください!」

 

「三雲!」

「もしかしてヤバいのか!?これ……!」

 

 警報が鳴り響き、普通では在り得ない程暗くなった空にみんな不安になっている。変に安心させるより危険な事を伝えたうえで行動を示した方が良い。

 

「近界民が警戒ラインを超えるかもしれない。先生に協力してみんなを避難させてくれ頼んだぞ」

「わ……わかった!」

「気を付けてね……!」

 

 急いで外に出て基地の方を確認する。今日が任務の隊の人はもう先に向かっているだろう。僕たちもここからならそう時間を掛けずに向かうことが出来るだろう。

 

「夏目さん、C級はこれから避難に当たるんだよね。気を付けて、危ないと思ったら迷わずトリガーを使って、何か言われたら僕がそう言ったと言って良いから」

「了解っす、メガネ先輩!チカ子、気をつけろよ!!」

「うん、出穂ちゃんも気を付けて!!」

 

 C級である夏目さんに少しだけ言葉をかけてから改めて二人に向き直る。

 

「これから玉狛第二として動く、遊真は使うべきだと思ったらすぐにでも黒トリガーを使え、千佳も遅れないように気を付けて、【栞さん、オペレートお願いして良いですか?】」

【任せとき、今はまだ第一の先輩たちは小南を迎えに行ってるからしばらくは修君たちの方に専念するよ】

「それでは玉狛第二、行くぞ!!」

「「了解」」

 


 

 三門市全域を観測するモニター、その画面を埋め尽くす様に示されるトリオン兵の印。それらは着々と侵攻の動きを見せていた。

 

「トリオン兵はいくつかの集団に分かれてそれぞれの方角へ市街地を目指しています!本部基地から見て、西・北西・東・南・南西の5方向です!っとこれは!?」

 

「どうした?」

 

「トリオン兵の反応が本部を中心に次々に消えてます。増加数の方が多いですが、かなりの反応が減少中です」

 

「おそらく悠菜くんか、【悠菜くん、今トリオン兵を片付けているのは君か?】」

 

『はい、とにかく数を減らすべきと判断して動きました』

 

「そうか【北西から南にかけては無視していい、そのまま東側一帯を頼んだ】」

 

『了解です』

 

「現場の部隊を2つに分けて南と南西の敵にそれぞれ当たらせろ!」

 

「了解!」

 

「ちょちょっと待ってください本部長!西と北西はどうするんです!?」

 

「心配は要らない。西と北西にはすでに迅と天羽が向かっている。あの二人に任せておけば問題ない」

 

「おお……こういう時は頼もしいねェ……!」

 

「問題は他の2方だ。防衛部隊が追いつく前に市街に入られる訳にはいかない。鬼怒田開発室長」

 

「わかっとる。既に冬島と組んで対策済みだわい。それにアイツには『迷宮』を預けておる」

 

 鬼怒田室長がそういった瞬間に警戒区域内の従来の設備が作動した。トリオン兵に反応して作動する罠は市街地へ向かおうとするトリオン兵を押し留める様に倒し始めた。そして、新たにボーダーに与えられた力であり、『迷宮』の名が与えられた黑トリガーが起動した。

 

「こ、これが……」

 

「ふん、流石は黑トリガーか……シミュレーションよりも形成速度も規模も一段階上に見て良さそうだわい」

 

 『迷宮』と言う名に相応しく、それは陣地を作り上げる事が出来るトリガーだ。自分の戦いやすいフィールドを作れば敵国でも楽に戦える様になる。

 

 だが、このトリガーが真価を発揮するのは攻めるときよりも守る時だ。外敵から国を守る為の要塞を一瞬で築く事が出来ると言うのは防衛と言う点においては追随を許さないレベルだ。地を進むトリオン兵を進ませない大きな壁が警戒区域を封鎖するように形成され、その壁から生み出される砲台からの攻撃で警戒区域を出ようとしていたトリオン兵が次々に片付けられていく。

 

「モニターを増設し、監視カメラだけでなく、隊員の視覚情報からも現場を確認出来るようになっておる。その場その場で必要な支援が可能だ。守る壁を作っても良し、敵を牽制したり、邪魔なトリオン兵を倒したりも黑トリガーとアイツの技量なら簡単だ。わしが作った罠と比べてトリオンの効率が段違いに良い。トリオンもそうそうきれんだろうし、罠や砲撃を使わなくて良い分、本部のトリトンにも余裕が出来たわい」

 

「ふむ、この分なら十分間に合うな。部隊が追いついた」

 

『諏訪隊到着した!近界民を排除する!』

『鈴鳴第一現着!戦闘開始!』

『東隊現着、攻撃を開始する』

 

「風間隊、嵐山隊、荒船隊、柿崎隊、茶野隊もトリオン兵を排除しつつポイントへ向かっています!」

 

「よし、合流を急がせろ。各隊連携して防衛にあたるんだ」

 


 

[ボーダーとトリオン兵が交戦し始めたようだ]

「状況は!?」

[数ではトリオン兵が圧倒しているが敵はなぜか戦力を分散している。予知と備えで敵の初動を捉えられたのが大きかったな]

「……いや、勝ち目がないのに挑んでくるわけがない。まだ次があるはずだろ」

「そうだな。ラッド騒ぎを起こしたであろうアフトクラトルって国なら戦力を把握しているはずだ。どうする?グラスホッパーで跳んでくか?」

「僕と千佳は跳ぶのに慣れてない、失敗した場合のロスを考えるとこのまま進んだ方が良いだろ。それに途中でトリオン兵にも出会うはずだ。倒しながら少しずつでも良いから進むぞ」

「了解っとさっそく見えて来た。敵の狙いを考えるのは後にしてやろうか」

「遊真は好きに動いてくれ、千佳は後ろで警戒、硬いのや空を飛んでるのが居たら援護を頼む!!【玉狛第二、警戒区域内で戦闘を開始します】」

 

 捕獲用に砲撃用、戦闘用と雑多なトリオン兵が列を成すように向かってきている。はっきり言って数が多すぎる。遊真ならまだしも、僕が正面から戦えばトリオン切れを起こすだけだろう。

 

「遊真、足を崩してくれ、目を狙い撃つ!!」

「了解、グラスホッパー!!」

 

 向かってくるトリオン兵たちの足元を飛び交う様に進み、トリオン兵の足をスコーピオンで切り割いて行った。そのまま向かった先で遊真は別のトリオン兵を相手をしている。まだ経験が足りていない僕だが目の前の(動けない)トリオン兵は敵ではない。

 

「アステロイド!!」

 

 人よりトリオンが少ない分、工夫はしていかないとこれから先が無い。必用な分で必要な仕事をこなすべく、最低限必要な威力でそれぞれのトリオン兵に弾を飛ばす。

 

「目標沈黙、この調子で行くぞ。ん、通信?」

【忍田さんこちら東!諏訪隊と共に新型トリオン兵と遭遇した!サイズは3メートル強、人に近い形態(フォルム)で二足歩行、小さいが戦闘力は高い!特徴として隊員を捕えようとする動きがある。各隊警戒されたし、以上】

「新型トリオン兵……!!」

[なるほどそういうことか、【忍田本部長、その新型はおそらくかつてアフトクラトルで開発中だった捕獲用トリオン兵ラービットだ】]

【捕獲用……!?捕獲は大型の役目じゃないのか……!?】

[【役目は同じだが標的(ターゲット)は違う。ラービットはトリガー使いを捕獲するためのトリオン兵だ。他のトリオン兵とは別物の性能と思った方がいい。A級隊員であったとしても単独で挑めば食われるぞ】]

 

 


 

「仕掛けるか?」

「諏訪、まだ特徴が分かってない状況でこちらから動くと危険だ」

「つってもこのままこいつに足止めされてる訳にもいかんでしょ。ちょっと仕掛けるんで危なかったらさっきの小荒井みたいに吹き飛ばしてくれ。それ行くぞ、オラァ!!」

 

 下がりながら銃撃を始める諏訪隊、だが弾を受けてもラービットはびくともしていない様子だ。

 

「クッソ、アホみてーに堅ぇな!!」

「日佐人!抉じ開けろ!!」

「了解!!」

 

 諏訪隊のアタッカーが装甲を剥がしにラービットの上を陣取り、弧月を突き立てた。その次の瞬間、ラービットから電撃を彷彿させる攻撃が放たれ、日佐人の身体が崩れて落ちた。

 

「日佐人!!……野郎!!吹っ飛べ!!」

「おい、諏訪!!」

 

 日佐人がやられそうになったのを見て諏訪が前に出てフルアタックの銃撃をお見舞いした。その間に堤が日佐人を担いで撤退しようとしているが、逆にラービットに諏訪がつかまってしまった。

 

「落とすぞ。諏訪!!」

 

 東が諏訪を先ほどの小荒井の様にベイルアウトさせようと動いたが、小荒井の時と違い両腕で抱え込むように抱かれていた。諏訪を狙った攻撃は弾かれ、そのまま諏訪はラービットに格納された。そのまま残った堤と日佐人が狙われると思った瞬間、二人の姿は消えていた。

 

「風間か……」

「東さん、ここは俺たちでやります。他の部隊の援護に向かってください」

「ああ、助かる。あいつの装甲はアイビスの攻撃も弾く、しがみつけば電撃、まだ隠されてるてがあると思った方が良いぞ。【一見、戦闘のデータを風間隊に】」

【もう送ってるよ】

 

「うわ、たしかにこれは面倒だな」

「なめてかかるなと。見た目より手ごわいぞ」

「わかってますよ。もういきなり退場はこりごりだ」

 

「【本部、こちら風間隊、諏訪が新型に食われた。直ちに救出に入る】」

 


 

「基地南部、風間隊が新型と戦闘を開始!諏訪隊は一名捕獲された模様!東隊は1名が緊急脱出!そのまま東隊、諏訪隊は柿崎隊に合流、新型と交戦中!南西部では茶野隊、鈴鳴第一がそれぞれ新型と遭遇しています!新型の妨害でトリオン兵の群れを止められません!現在、南西部で戦闘中の玉狛第二が多くのトリオン兵を倒してくれているため保っていますがこのままでは壁に差し掛かります」

「【冬島、その黒トリガーでどれくらいもたせられる?】」

【ばらけてる奴や空を飛んでる奴を倒すのに正直手がいっぱいですね。全体をカバーするのは無理です】

「そうか、捕獲された諏訪の状態はどうだ?」

「トリオン体の反応は消えていません!緊急脱出はできないようですが……」

「よし、諏訪は風間隊が取り返す!部隊の合流を急げ、A級が合流後は新型の相手はA級が行え、B級は全部隊合同で確実にトリオン兵を殲滅せよ。警戒区域の外に一匹も出すな!!」

 

 


 

 

「おいおい……もうラービットとまともに戦えるヤツが出て来たぞ」

「いやはやこれは……玄界の進歩も目覚ましい……ということですかな」

「大したことねえよ。ラービットはまだプレーン体だろが」

「いやいや、分散の手にも掛からなかったし、なかなかに手強いぞ」

「我々も出撃致しますか?ハイレイン隊長」

「いや、お前たちが出るのは玄界の戦力の底を見てからだ。慌てることはない。卵はまだたくさんある。玄界はまだその戦力の全てを見せていない。前回ラッドを撒いた時は数百の兵が動いていた。その規模からしてこの隊以外にも腕の立つ使い手が数多く存在すると推測できる。それにこちらの方角のトリオン兵の消失も気になる。反対側は反応からして玄界の黒トリガーと腕利きの兵のようだだが、こちらは正体を探知できていない」

「玄界の猿相手にびびりすぎなんじゃねーの?隊長さんよ」

「口を慎めエネドラ、上官に対して無礼だぞ」

「あ?てめーこそ誰に口利いてんだ?雑魚が」

「ほっほ、いやはや。お二人にケンカされては船がもちませんな」

「…………チッ…………イライラするぜ!!このクソ狭めー船はもううんざりだ!なあオレを出せよハイレイン!玄界の兵なんざオレ一人で皆殺しにしてやる!」

「皆殺しはともかく、確かにそろそろ体を動かしたいものだな。兄…………いや隊長」

「もう少し我慢しろ。すぐにお前たちの出番は来る。ミラ」

「はい、次の段階に進みます」

 

 




オリジナル黒トリガーの登場です。以前に本部に提出した物ですね。どんな能力か気になると言ってくれた方も居ましたが、こちらは陣地形成を得意とする『迷宮』、これのおかげで警戒区域を出そうなトリオン兵が今のところはいません。まぁ、悠菜と言う戦力が一方向を担当したので余裕も大きいですね。もう一つの『雷の裁き』の方が狙撃手用の黒トリガーです。こちらの詳細は登場してからという事で。


うーん、三雲がなぁ。強化されてる感はあるけど、まだスパイダーを持っていないから誰かと組まないと複数相手にするのはまだ出来ないな。訓練で大抵の相手に対処できるようになったけど基本的に1体1専門だな。千佳なら相手を直線状に並べられればアイビスで一気にどーんと行けるだろうけど。まだ鉛弾は持ってないし、足止めは出来ない。それでも流れて来たトリオン兵に対処できるんだからまぁまぁ強化されてるか。

東側に戦力を割かなくてよくなったため、東隊と諏訪隊が一緒に居たり、この後の展開も所々変わる予定です。詳しくは次回をお待ち下さい。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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大規模侵攻②

投稿です。


 常に湧き出て市街地を目指して進行するトリオン兵たち、その数が段々と増していった。新型トリオン兵に対応するために戦力がかたまったんだろう。

 

[数が多すぎるな。ここは退いたほうがいい]

「いや、耐えれるだけ耐える。本部長の指示を考えるに危ないのは此処ともう一か所……遊真と言う戦力を考えればこれほど足止めに適した部隊は他に居ない。千佳の狙撃も上手く使えばもっと耐えれるはずだ」

「おれは良いけど、新型が来たらどうする。戦ってみないと分かんないけど危ないのは確かだぞ」

「新型が現れればA級の部隊も来てくれる。それまで持たせることが出来れば別にいい。今はとにかく数を減らす事を考えるぞ。遊真、黒トリガーを使ってくれ、千佳は少し下がって狙撃の準備を直線で倒せるだけ倒す」

「「了解」」

 

 指示を聞くと遊真は笑って黒トリガーを起動させた。千佳も栞さんのオペレートに従って直ぐに移動を開始した。面倒な地上の敵を一掃するのに千佳を使うので空を飛んでいるトリオン兵を打ち落とすのは僕が行う。狙撃の準備に入っている千佳を守りつつ、アステロイドを放ち市街地へ向かうのを阻止する。

 

 遊真は戦闘型のトリオン兵や遠くから砲撃をしてくる奴らを順調に片付けてくれている。『射』の印と『強』の印を複合させての攻撃で先ほどよりも素早くトリオン兵を倒せている。そして戦いながら自然とトリオン兵を誘導し並べると直ぐに『弾』で退避する。

 

【今よ千佳ちゃん】

「はい!!」

 

 千佳のアイビスによる狙撃で大きな道路一本に蔓延っていたトリオン兵が一掃された。まだ近くの建物に張り付いていたり、路地や一本隣の道路とかで動いている奴らは居るが視界内のトリオン兵の3割ほどが倒された。

 

「道を変えながらこれを繰り返す、遠くにいる生き残りや張り付いてる奴らを片付けながら路地を通って隣の道へ移動するぞ」

【凄いね流石千佳ちゃんの狙撃!!大型の中に新型が潜んでたみたいだけど反応が一緒に途絶えたよ。千佳ちゃんの撃破数4だね。っと近くに新型っぽい反応があるから気を付けて、右のマンションの中だよ!!ポイントを表示するよ】

「本部、こちら玉狛第二、新型と交戦する。遊真対処できるよな?」

「おう、任せとけ。あそこだな『強』印(ブースト)『射』印(ボルト)二重(ダブル)

 

 遊真が強化した射撃をマンションの表示されたポイントに放つと壁を撃ち抜いて中の新型トリオン兵に攻撃が当たった。黒トリガーの出力もあり、かなり削れているがまだ倒しきれていない様だ。

 

「あれならこれでいけるな。『弾』印(バウンド)、『強』印」

 

 弾く効果を持つ印で自身を一気に新型トリオン兵の前に飛ばすとそのまま新型トリオン兵を殴り倒した。完全に目が壊れているのが確認でき、他の新型の反応が無いのでこれで一安心だ。まだうじゃうじゃと存在するトリオン兵を引き続き倒そうと意識を戻す。すると何やら近くにレーダーの反応があるのに気づいた。そしてこれはトリオン兵ではなく味方のトリオン体の反応だ。

 

「そこに居るのは玉狛第二のメンバーか?」

「って白い新人そんなトリガーだったか、明らかにボーダーのトリガーじゃないだろ!?」

 

 反応の方に目を向けると銃手のトリガーを持ってこちらを目指している茶野隊の姿があった。以前の防衛任務で会った時と全く姿の違う遊真に驚いているようだ。

 

「これは遊真が所有している黒トリガーです。緊急時の為に隊長命令で使用を命じました」

 

「黒トリガーってS級のじゃないのか!?」

「驚いたけどS級と同じ戦力が居るって事だよな。こっちは他のB級部隊と合流するために移動してたんだがそっちはどうす」

【新型トリオン兵の反応あり、茶野隊の二人気を付けて!!】

「盾モード、スラスターON!!」

「『強』印二重」

 

 指示を聞いてから動くのでは逃げきれないと判断し茶野隊の死角から迫っていた新型の間に入りレイガストを盾モードに切り替えて攻撃を防ぐ、無論スラスターを使ったとはいえしっかりと踏ん張ってもいない状態で受けた攻撃は防ぎきれずダメージは無いが衝撃で茶野隊と一緒に吹き飛ぶ、だがその隙を狙って遊真が新型のボディに攻撃を入れて逆にふっとばし返した。

 

「オサムは無事だな。千佳撃てるか?」

「ごめんここからじゃ手前の家が邪魔で撃てない」

 

 ならそのまま追撃して仕舞おうと遊真が動く前に体勢を崩していた新型目掛けてメテオラが山の様に降り注いだ。爆撃にまみれてボロボロになった新型だがまだゆっくりと動いている。しかし、次の瞬間に目を目掛けて放たれたスコーピオンの一閃で新型は沈黙した。

 

「目標沈黙」

「あ……嵐山さん!」

「三雲くん!無事か!?」

 

 茶野隊を庇って吹き飛ばされて戻って来ると新型や近くのトリオン兵を倒している嵐山隊の姿が見えた。新型はここいら辺にも現れる。このまま一緒に行動できればこの方角の防衛も不可能ではない。状況報告と協力の要請の為にそのまま近づき、まずは感謝を述べる。

 

「援護ありがとうございます」

「どうも、助かったよときえだ先輩」

「あれ?そんな恰好だったっけ?」

「例の黒トリガーですよ先輩、というかあなたそれ城戸司令からの使用許可下りてるの?」

「下りてないけど非常時なもんで」

「遊真の黒トリガーの使用は僕が隊長命令を出しました。何かあった場合処罰を受けるのは僕です」

「そう言う問題じゃないでしょ。それに貴方になんの責任がとれるって言うの?」

「何が出来るかではなく責任の所在の話です。黒トリガーに関しては隊長として必要だと判断しただけです」

 

 そこまで言うと苦虫を潰したような表情をしているが何を言っても無駄だと判断したのか木虎はそのまま「それなら勝手にしなさい」とだけ言って近くの警戒に戻った。僕はそのまま嵐山さんにさっき考えた提案を話しに向かった。

 

「嵐山さん、遊真の黒トリガーと千佳の狙撃があれば新型にも多数のトリオン兵相手にも対処が可能です。このまま合同でこのエリアの殲滅をお願いできませんか?」

「なるほど、確かに遊真くんと千佳ちゃんの力があれば不可能ではないだろう。今の新型の報告も含めて本部にこちらから伝えてみよう。【本部!こちら嵐山隊!新型を一体排除した!現在、玉狛第二、茶野隊と合流、新型を倒しつつこのエリアのトリオン兵の対処を検討中……?……本部……!?】」

【……砲で……迎撃……近……】

「……!?」

 

 通信が乱れている事を不審に思い耳を澄ませると混戦しているのか薄っすらと何かを指示している声が聞こえ、嵐山さんは本部の方をバッと振り向いた。そこには本部へと迫っているこの前に街を破壊したトリオン兵の姿が映った。

 

「あれは……!?」

「爆撃型トリオン兵……イルガー!遊真!」

「今からじゃ間に合わないけど次の警戒をする」

 

 咄嗟に遊真に指示を出したが流石にこれだけ距離が離れていれば間に合わない。次の瞬間には本部にイルガーがぶつかり物凄い衝撃が響いた。

 

「基地が……」

「やられた……!?」

「……いや」

 

 茶野隊の二人があまりにも大きい爆発に基地が落ちたのではないかと不安を口に出したが、基地は健在で崩落している箇所は見られない。しかし、遠くに更に接近しているイルガーの姿が見えた。

 


 

「爆撃型トリオン兵接近!!」

「砲台全門撃ちまくれ!!」

「一体撃墜!!もう一体がきます!!」

「衝撃に備えろ!!」

 

 基地全体を揺するほどの衝撃が襲うが本部は無事であった。しかし、爆撃型トリオン兵は続いて出現し、また本部を目掛けてゆっくりと近づいて来ている。

 

「第二波来ます!!三体です!!」

「装甲の耐久度は!?」

「後一発まではなんとかもたせる!」

「一般職員はシェルター室に退避!迎撃砲台に限界までトリオンをまわせ!砲撃集中一体だけでいい、確実に撃墜しろ!!」

「!?いや……いったいだけでは……」

 

 一体しか耐えられないと言う鬼怒田開発室長の言葉を無視するかのような指示に根付メディア対策室長が同様の声をあげる。そのまま指示に従って一体のイルガーが落とされるが未だ二体のイルガーが本部を目指してきている。

 

「一体撃墜確認!!残り二体!!」

「忍田本部長!!二発は保証せんぞ!!」

()()()()()()()()()()

 

 忍田本部長がそう告げた瞬間に居合でイルガーがバラバラに切り裂かれた。モニターの映像を見ていた根付と鬼怒田は驚き、それを引き起こしたであろう人物に目を向けるとそこには1位の姿が見えた。

 

「太刀川!!」

「おお!!」

「もう一体が直撃します!!ショックに備え、え!?砲撃により撃墜を確認!!」

「砲撃?援護射撃のようだがどこから……いやそれより後続は!?」

「今のところありません!」

「よし……今のうちに外壁を修復、次を警戒しろ。【慶!お前の相手は新型だ。斬れるだけ斬って来い】」

「了解了解。さっさと片付けて昼飯の続きだ」

 


 

「基地は大丈夫だ。太刀川さんが爆撃型を堕とした!」

「タチカワさん……?迅さんとライバルだった弧月の人か、自爆モードのイルガーを斬って落したのか。しかも普通のトリガーで……すごいな」

「遊真から見てもすごいのか?」

「自爆モードはかなり頑丈になるからな。こないだみたく引きずり堕とすほうがまだ楽かもしれん」

 

 そうか、となると仮に相対した時に僕が対処する方法は難しくなりそうだ。最初から自爆モードであれば僕の少ないトリオンでは太刀打ちできないだろう。()()()()遊真に倒してもらうか射線が通れば千佳に狙撃を頼むしかなさそうだ。そんなことを考えていると通信が復活したのか本部から嵐山さんに先ほどの報告に対して返答が返って来た。

 

【嵐山隊、通信が乱れてすまなかった。新型を仕留めたと言うことだな?】

【さすが嵐山隊、新型討伐一番乗りですねぇ】

「【いえ、我々が到着した時にはすでに玉狛第二が交戦中でした。新型の体勢が崩された所に追撃しただけです。それに、どうやら玉狛第二が先に新型を何体も倒してるみたいですよ】」

【何体もだと……そうか!例の黒トリガーと千佳ちゃんか!】

【なるほど、先ほどの砲撃の支援は遊真くんの黒トリガーだね?おかげで本部の被害は非常に少なくて済んだ】

「【忍田本部長!玉狛第二の三雲です!城戸司令!現在、緊急事態と判断し黒トリガーの使用を空閑に命じました。事後承諾で申し訳ありませんが使用の許可を頂きたい。そして、避難が進んでいる地区の防衛は後に回されると聞きました。南西部の防衛ラインの突破を防ぐためにも玉狛第二と嵐山隊でこのエリアのトリオン兵の排除に当たりたいと考えています】」

【……新型に対抗できる黒トリガーはボーダーの貴重な戦力、独断での使用は非常時ゆえ特別に許そう】

【なるほど、確かに遊真くんと千佳ちゃんの能力を考えれば新型と戦ってもそう簡単にやられないだろう。よし玉狛第二は別行動でそのまま嵐山隊と共に行動してくれ】

 

 城戸司令と忍田本部長から許可をもらい、なんとかお咎めも無しで済みそうだ。責任をとると言ったがようやく部隊を組めたと言うのに即解散という訳にはいかなかったので正直助かった。

 

「【了解しました。ありがとうございます】……」

「ああ、頼りにしてるぞ三雲くん。茶野隊はB級部隊に合流しろ」

「「了解!」」

 

 


 

「なんで追い打ちしねーんだ!?あと2・3発で陥とせただろうが!」

「敵を無駄に追い詰めれば痛い目を見る。その程度のことも分からないのか?」

「雑魚の理屈なんか知らねーよ。敵は殺せるときに殺しゃいいんだ」

「爆撃は敵戦力のあぶり出しと混乱が狙いだ。我々の目的は玄界の占領や支配ではない……だがこのままでは不味いのも事実。ミラ、東の反応は掴めたか?」

「いえ、トリオン兵が次々と破壊されるばかりです。ラービッドのセンサーでも対応できないようでこれ以上は北西部、西部と同じく無駄になると思われます」

「三方向のトリオン兵の放出数を減らしていけ、零にはするな。警戒させて腕利きを足止めできればそれはそれで良い。それよりも市街地まで侵攻出来ていないのが問題だな。それに雛鳥の姿も未だに確認できていない」

「潜んだラッドが壁の付近までは進められていますが壁は下まで続いている様です。出現時の反応を観測できませんでしたがおそらくあれも黒トリガーでしょう」

「このままトリオン兵を消耗しては打てる手も無くなるか……雛鳥を確認できなかったのは失敗だが()()()()は確認できた……作戦変更だ。逃げられる可能性も高く、黒トリガーと腕利きも近くに居るが俺とミラが初めから出る。ランバネインとエネドラは玄界の兵を蹴散らしてラービットの仕事を援護しろ。だが無理をする必要はない。あくまで戦力の分断が目的だ。危険な場合はミラのトリガーで回収する」

「『危険』?オレが玄界の雑魚にやられるわけねーだろ!」

「ウィザとヒュースは俺について来い、新しい神を拾うぞ」

 


 

「おいおい、真っ平じゃんか天羽(あもう)

「迅さん……」

「おまえなーもうちょっと加減しろよ」

「やだよめんどくさい……どいつもこいつもつまんない色のザコばっか。全然やる気起きないよ」

「うんうん、余裕があっていいことだ。悪いんだけどさおまえおれの担当もやってくんない?基地の西っかわ」

「ええー……なんで…………?」

「敵さんがちょっと危険な動きをしそうでな。おれはちょっと行かないといけないんだ」

 


 

 見つからない様に隠れて黒トリガーで基地の東側のトリオン兵を逃がすことなく倒し続けている悠菜。その表情は厳しく、歪んでいた。

 

[トリオン量は大丈夫か]

「全然平気だよ。今のところは見つかって無いし、何か数は減って来てるね」

 

 『レムレス』と呼ばれる透明な弾丸を自由に操る黒トリガー、視覚的に見えないだけでなく、レーダーの反応もある程度防ぐそれは辺りをつけていない限り感知不可能な攻撃だ。風刃と同じくトリオン量で一度に作れる弾数に制限があるが悠菜には関係の無い話である。

 

「それよりも、遊真たちは大丈夫?」

[向こうの現状は問題はない。嵐山隊とも合流して順調に新型を含めたトリオン兵を削っていっている] 

「そう……でもまだ危ない事には変わりはないでしょ」

 

 普通は戦闘と言うのは攻め込む側が不利に思われるかもしれないが守りながら戦わないといけないと言うのは足かせの様にも感じられる。

 

「そろそろ移動する。焦って出てくるとしたらそろそろだからね。子機を広げておいて」

[これ以上の視界の拡大は危険だぞ]

「大丈夫、どうせ()()()()でしょ」

[遊真と違って()()()()()()()()だろう]

「関係ないでしょ。遊真と友達を守れれば後の事なんてね」

 

 私はそっと借りていた民家から飛び出すと見つからない様に静かに移動を開始した。細かい所は任せておけば大丈夫だ。きっとこれで良い、ただ家族の為に。



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大規模侵攻③

けっこう遅くなりましたね。待っていてくれた方々には申し訳ない。大規模侵攻3話目投稿です。


 嵐山隊と行動を共にしてからの玉狛第二の活躍は目を見張るものがあった。戦闘員4人の内3人が万能手で構成された嵐山隊は中距離戦を得意とし、牽制に援護と玉狛第二のフォローを惜しむことは無く、遊真と千佳の殲滅は簡単に推し進められた。

 

「【宇佐美先輩、トリオン兵の状況はどうですか?】」

【まだ湧いて来てるけど討伐数の方が上回ってるよ。ただ動き方がなんかおかしくなってる】

「【どういうことですか?】」

【トリオン兵全体の動きを見てると分かるんだけど、さっきまでは発生地点から真っすぐに市街地を目指していたんだけど周辺で発生した門から出て来たトリオン兵がみんなの所に向かい始めてる】

「此処に?合同部隊と比べて人数が少ないから崩せると考えたのか、それとも他に狙いが?」

「考え事は後だ三雲君、新手が来たぞ!!」

 

 急に動き方を変えたトリオン兵の事に思考が持っていかれるが嵐山が三雲に声を掛けて引き戻す。慌てて空閑と千佳に指示を出し、自分も相手の姿を確認する。新型トリオン兵であるラービットの姿が見えたが先ほどまでと姿が違う様に見えた。

 

「空閑、色が違うだけとは思わない方が良い。念のため遠距離から倒す、俺らで足止めだ。嵐山さん援護をお願いします。千佳は狙撃の準備を」

「了解っと」

「ああ、任せてくれ。俺と充も牽制に入る。木虎は賢と雨取ちゃんをフォローしてくれ」

「「「了解」」」

 

 射程内に新型が入ったと思うと一体が砲撃を繰り出してきた。警戒していたおかげで全員が避ける事は出来たが機動力も高いそいつは簡単に内側に入り込んでくる。もう一体も砲撃と比べて小さいが胸部から素早い弾を撃ちだしている。

 

「色や形が違うのは警戒した方が良さそうですね」

「ああ、報告が無いようならデータを共有した方が良いだろう。綾辻、とりあえず本部への連絡を頼む」

【了解しました】

「攪乱して足を止めさせようか、おれ達が敵の裏を取る。三雲君合わせられるな?」

「ええ、遊真射撃の準備だ」

「おう」

 

 嵐山さん達が三雲達より前に出て攻撃を放ち続けているとラービットは避けたり弾いたりしながら接近してくる。ラービット達の攻撃が当たる間合いまで近づいたところで嵐山と時枝が足元に目くらましのメテオラを放ち、ラービットの後方へとテレポートした。ラービットはセンサーの機能も高く、背後への出現に気付くが前方に三雲と空閑、後方に嵐山と時枝、周囲を綺麗に囲まれてしまい、銃撃の雨を受けた。硬い装甲で目を何とか守るラービットだが足が削れ、動きを鈍らせたところに3本の狙撃が入り、動きを停止させた。

 

「能力がある個体はこれまで以上に厄介だな。賢、よくやってくれた」

【必殺のツイン狙撃、同じ場所に撃ち込めばイーグレットでもギリギリいけました。まぁ、みんなが装甲を削ってくれてたからですけどね】

「千佳も良い狙撃だった」

【みんなが足止めしてくれたおかげだよ】

「ん、アレは……オサム、ヤバいぞラッドだ!!」

 

 新型の新種を倒して一息ついていると空閑が倒されて動かないラービットの中から這い出て来た厄介な偵察用トリオン兵を発見した。つい最近の問題で会ったイレギュラー門の原因であるそれの事はまだその場の全員が鮮明に覚えていた。その機能を停止させるべく攻撃を仕掛けるが一歩遅く、ラッドを破壊する前にその場には黒い門が扉を開けた。

 

「トリオン兵が倒されてると思えばこれだけの人数ですか」

「警戒を怠るなよ、ミラ。これだけであれほどのトリオン兵を倒したんだ。初撃で仕留める合わせろウィザ、ヒュース」

「了解しました」

「ほっほっほ、玄界の進歩も馬鹿にできませんな。本当に」

 

「黒い角が2人……それにあの老人が持ってる杖は!?」

【これはヤバいんじゃねぇか】

「【本部、イレギュラー門の発生により人型近界民4人と接敵、角が付いているのを確認、敵はアフトクラトルで間違いありません。そのうち2人が黒い角、もう一人が要事前に情報がある『星の杖』だと思われます】」

【なっ!?黒トリガーが一か所に3人だと!?】

【至急応援をその場に送る。それまでどうにか耐えてくれ、無理はするな捕らえられる危険を感じれば緊急脱出を優先しろ】

「【了解しました】」

 

 


 

 嵐山隊の報告を受けた本部ではその対応をどうするべきかと話し合いが猛スピードで行われていた。黒トリガーの貴重性から考えて遠征に多くは来ないと考えていた所に3人も使い手が確認されればそれも仕方がない事である。

 

「A級をその場に集めるしかないのではないか?」

「他の場所に現れている新型をどうする。冬島、お前の方でカバーは?」

【部隊の合流も進んでいるのでフォローに回っても大丈夫ですがまだ慣れてないトリガーですからね。あまり期待はしないでくださいよ】

「現在、迅隊員と悠菜隊員が救援に向かっています。迅隊員の持ち場は天羽隊員が悠菜隊員の持ち場は元A級部隊であった二宮隊がそれぞれ請け負っています。そして遅れていますが玉狛第一も小南隊員を連れて向かっている途中です」

「そうか、戦闘に参加しているB級の殆どが合流している。A級部隊を動かしても対処は可能だろう。【慶!!出水と合流しつつ急いで援護に迎え】」

【了解】

 

 これで後は嵐山隊と玉狛第二が耐えてくれれば戦況はマシになるだろう。冬島による黒トリガーでの援護とA級1位部隊とボーダー最強部隊、そこに元S級である迅と現S級である悠菜も加わればそう簡単に負ける事はないだろう。そう思い、引き続き全体の指揮に戻ろうとすると新たに報告が入る。

 

【こちら風間隊、人型近界民と接敵、黒トリガーです】

【報告!!B級合同部隊、人型近界民がと遭遇しました】

 

 


 

B級合同部隊の目の前に現れた近界民を報告すると嵐山隊や話題にあがっている玉狛第二の合同チームの目の前に4人の人型、さらに言えば内3人は黒トリガーであるという情報が上がった。

 

(おそらくこっちに送られたのは陽動、もしくは足止めだろう。玉狛第二にはあの子がいたはずだ。元からその予定だったのかは分からないが目をつけられたか……)

 

 以前にトリオン量が多い者は狙われる可能性が高いという通達を訊いていた東は敵の狙いがトリオンモンスターと呼ばれる話題の狙撃手少女であると考えた。一番近くで対峙している東は近くで緊張している太一に指示を出す。

 

(【距離をとれ太一。この間合いはまずいな……誘い込むから援護を頼む。何をしてくるか分からないから姿は見せないように気をつけろ】)

 

「あー、分かっていたが人数が多いな。これは俺も張り切らないとなぁ!!」

 

 相手が撃ち始めようとした瞬間に上空から敵を目掛けていくつかのハウンドが撃ち込まれた。直ぐにシールドで庇い傷こそつけられなかったがその隙に歩い程度の距離を取る事は出来た。そのまま二人で姿を隠そうと考えたがそれを許すはずがなく相手も追ってくる。だが、其処に更に三発の狙撃が入り、相手は足を止めそこに更にメテオラの爆発により視界も塞がったので二人はその場から逃げる事が出来た。

 

「火兵がいくつかに、狙撃手が居るのか長距離戦は大歓迎だ。俺のトリガー『ケリードーン』は撃ち合いには自信がある」

 

 しかし、次の瞬間には背中側から複数の銃弾がそれぞれ四方向に飛んでいった。メテオラの煙によって見えにくかったのか狙撃手を狙った攻撃は1人半崎を堕とし、もう一人爆撃でフォローをした柿崎を狙った狙撃は撃った直後には移動を開始していたために当たらずに終わった。

 

「ふむ、一度の攻防で1人しか仕留められないとはな。面白くなって来たじゃないか。数も多い、これなら退屈せずに済みそうだ」

 

 相手のトリガーの強さに驚かされたが人数が揃っていたために互いにフォローして被害は1人で済んだ。とは言っても上層部から聞かされていた強化トリガーを実際に目の当たりにするとその凄まじさに驚くしかない。迂闊に手が出せない状態で場は膠着していた。

 

 


 

「チッ、ガキばっかかよ。外れだな」

 

 目の前にいきなり人型近界民が出て来たことに驚くことなく、静かに相手を見据える風間隊。彼らは頭の上に付けられている角の色を確認する。

 

「うわぁ、人型がきましたよ風間さん」

「ああ、しかも黒い角。俺たちは当たりのようだ」

 

「どっからどうみても、クソガキ3匹だが……ラービットを殺す程度の腕はあるんだよなぁ?がんばってくれよ、オイ」

 

 近接戦をメインとする風間隊としては問題はないがすぐ目の前にいる近界民に全員が警戒を示す。偉そうに上からの物言いでこちらを見てくる相手に怒りを覚える事は無く、ただ観察する。

 

(【黒トリガーかどんなタイプかが問題だな。()()()()()()だと良いんだが】)

(【天羽みたいなパワータイプか、迅さんみたいな搦手からくるタイプか……】)

(【迅さんタイプでしょ性格悪そうだし】)「下です」

 

 未だにニヤニヤして余裕そうな表情を見せ続ける近界民。悟られないように攻撃を足元の下を通して3人に仕向けるが、音を感知した菊地原によってその奇襲は簡単に避けられた。

 

「この特徴は……」

「『泥の王(ボルボロス)』でしたっけ……うへぇ、相性わる」

 

 事前に聞かされていたトリガーの情報の中にあった事は嬉しい事であるがその特徴を考えると風間隊にとっては不利と言える黒トリガーであった。

 


 

「まぁ、遠距離戦に関して言えばこの家がかなり秀でてますね。黒トリガーもそれに関連する物が多いです」

「狙撃の距離もそうだが、おれ達で言う射手や銃手の射程もだいぶ違うな」

「トリガーの構造かぁ。トリガー改造とは根本的に違う考えだし、興味深いわね」

 

 大規模侵攻の相手がアフトクラトルであろうと予測されてからは敵の黒トリガーの情報の共有が行われた。その中でも実際に見聞きしたことのある悠菜によって詳しく説明され、その中に『泥の王(ボルボロス)』は存在していた。

 

「なるほど、その国の在り方と言うのも厄介ですね」

「軍事国家と言うだけあってトリガーの軍事技術でかなり秀でていますね」

「四大領主でしたっけ、この家の情報が他と比べて少ないですが」

「手札を全て見せるような奴はまず居ないけど、その中でもこの家のトリガーの情報はあまり出ていない。詳しく知っているのは国宝で有名だった『星の杖(オルガノン)』と使い手が暴走しがちな『泥の王(ボルボロス)』の二つだけなんです」

「なるほど、手札を隠していると言う事はそれだけ伏せておきたい札なのか、それとも見破られたくない札なのか………」

「なんにしてもわかっている情報だけでもしっかり入れておこう。『星の杖(オルガノン)』に対しては遠距離戦を徹底するとか『泥の王(ボルボロス)』には攻撃手より銃手や射手と当たるとか対策も含めてな」

 


 

「液体化と気体化……歌川、削り切れると思うか?」

「場所もわかってないですし、俺のメテオラだけじゃ難しいですね。流石にこの場で核は見つけられないでしょう?」

【ボーダーの設備がある場所であれば解析にかけれますがこの場で直ぐにとは】

「相手をするフリをして他の部隊と共に罠にかけるぞ。【三上、菊地原の耳をリンクさせろ。】それで液体化は防げる。屋内には入らず外で戦う。気体化は風上を取り続けるが念のため歌川のメテオラの爆風を使う事も考慮するぞ」

「ええ~」

【了解です。聴覚情報を共有します】

「頼むぞ。おまえの副作用が頼りだ」

「はぁ……これ疲れるからイヤなんだけど……」

 

 菊地原のサイドエフェクトは『強化聴覚』、一言で言えば『耳がいい』それだけの能力であるが、こういった奇襲などを得意とする相手に対処するには有効であった。次々と攻撃は行われるがそれを簡単に避けられて人型近界民はイライラを増していった。

 

(【このままだと消耗の方が大きいか、たしか堤の奴がスタアメーカーを持ってたか】)

(【あー、場所さえ分かれば攻撃も入れられるし、吹き飛ばせますね】)

(【えー、他の人に頼らなくてもいけますよ】)

(【お前は何を根拠に言ってるんだ】)

(【負けはしないだろうが決め手にかけるのは事実だ。向こうも人型が出たらしいが向こうには東さんがいる。向こうの戦闘が終わるまで時間稼ぎがバレない様に時折攻めながら凌ぐぞ】)

(【【了解】】)

 

 


 

 

「堂々と姿を現しやがって……撃って来いって誘ってやがんな」

「このままじゃトリオン兵をどうすることも出来ねーよ!」

【火力差が大きい無理に攻撃するなよ。焦って撃ち合いになれば火力差で一気にやられるぞ】

 

 とは言っても膠着状態が続けば柿崎の言う通りトリオン兵をフリーにすることになる。仕掛ける()はあるがこのまま使っても効果は薄いどころか危険であるために動けずにいる。すると一緒に戦っている部隊以外からの通信が入った。

 

(【東さん、今通信大丈夫ですか?】)

(【三上か、どうした?】)

(【こちらで例の『泥の王』の使い手と交戦中なんですが、うちの部隊だと時間稼ぎで精いっぱいでしてそちらの戦いが終わるまで持たせるのでその後で援護に射手か狙撃手、そして出来れば堤さんだけでもお借りしたいとのことです】)

(【分かった。安全な移動経路を確保次第にそっちに送る】)

 

 だが動きをみせればその途端に高火力の銃撃が雨の様に降り注ぐ状況では送り出そうにも送り出せない。そう思っているとまた別の人物から連絡が入った。

 

【東さん、東さん、米屋です。緑川も今一緒にいます。これから角付きと戦うんで一緒にやりましょ?】

「【……!分かった。相手の射撃トリガーは事前の情報通り段違いの性能だ。射程、威力、弾速、速射性も高い。やり合うなら足は止めるな】」

【敵はイーグレットを止めるレベルのシールドを持ってる。ブレードも防がれるかもしれない。単発で崩すのは厳しいぞ】

【荒船さん了解!でも大丈夫、オレと緑川が今回はフォロー側だからな】

 

 そう米屋が荒船に伝えるがその通信を聞いていた殆どの人間はその言葉に疑問を持った。先ほどまで米屋は東と話していたがアイビスがあるとはいえ先ほどの敵のトリガーを考えると狙撃手の攻撃が通るとは思えない。東は敵の動きをスコープで覗きながら利き手に籠手の形をしたトリガーを身に付けた。

 

【こちら東、預からせて頂いていたモノを起動します】

【…!分かった。システムとの連動は大丈夫だ】

「【ありがとうございます】トリガー解除…『雷の裁き(ドンナー)起動(ON)

 

 悠菜からボーダーに提供された黒トリガーの一つであるそれは最初の狙撃手である東に預けられていた。しかし、その姿は狙撃手の様には見えない。手の中にあるのは柄がかなり短いハンマーの様な武器であった。

 

「まずは観測弾『天の眼』『視覚共有』」

 

 武器を両手で構えて目のすぐ前に持って来ると相手にこちらの位置がバレない様にまずは横方向に撃ちだしてから上空へと眼となる弾を飛ばした。すると弾から見える視界の情報が東の頭の中に入って来た。

 

(周辺の地形や仲間や敵の反応、見える範囲の感知も問題なく働くようで良かった。他の奴らの視界も借りれるが、多すぎるとかえって邪魔だな。なるほど黒トリガーだと普通の支援がないのが不便だな)

 

「なんだあれは?とりあえず壊しておくとするか」

 

「『雷撃』」

 

 近界民が銃弾を放ってそれを壊そうとするがそれよりも速く、一度空へと舞い上がった銃弾が近界民に向けて真っすぐに堕ちていった。戦う者としての勘か、何かが来ると気付けはしたためにシールドを張り、身体をずらしどうにか直撃を避けはしたが敵の腕を片方奪う事に成功していた。

 

「この威力に速度、黒トリガーか!!オラッ!!」

 

「よし、これなら削れそうだが、『天の眼』を壊されたか」

 

 東の持つ『雷の裁き』は敵を直接狙うのではなく空からの一撃を放つ特殊なトリガーで、位置さえわかって居れば射線をあまり気にしなくても良いという狙撃用トリガーである。撃ち放った後に2度、方向を変える事が出来る他に、下に墜とすだけなら方向を変えた後でも可能であり、上から撃ち落とす姿と弾速の素早さなどから雷に関わる名がついた。

 

 上空に観測主の代わりとなる『天の眼』という高性能な観測用の弾を放つことで敵から姿の見えない遠くからでも攻撃を当てる事が可能になる。それだけでなくボーダーのシステムと一部連動させて他の隊員の眼も借りる事が出来る様になっている。

 

 威力はアイビスを軽く超えてあれほど硬かった敵のシールドを貫いて傷を与えている。だがそれよりも注目されるのは弾速である。雷の裁きは黒トリガーの中でも最速クラスであり、狙いをつけて撃った瞬間には相手に届いている事だろう。

 

 だが観測役の天の眼を壊されれば攻撃を当てる事は難しくなる。そしてハンマーの様な形をしている部分で戦う事も不可能ではないが基本的にこのトリガーは遠距離専門であり、近距離では普通の狙撃用トリガーよりも対処は厳しく、近づかれれば終わりと思って良い。

 

 弾は早く、曲げてから放つことで場所はバレにくいが、光を頼りに場所を探されるのは間違いがない。そのために必要なのが翻弄する役である。相手の動きを封じるために近距離では緑谷と米屋、中距離では射手や銃手、他の狙撃手たちでやってもらい削り切る。

 

「【俺の黒トリガーで相手を削る。だが向こうも警戒はしているし、俺を排除するように動くはずだ。狙いはするが俺の事は囮ぐらいに思っておけ】」

【了解っす、じゃちょっくら仕掛けてきますわ】

 

 そう言って米屋と緑川が負傷した近界民の前に出て行った。東が黒トリガーを使用するなどと言う驚きはあったが脅威であった敵を圧倒するそれに希望を持ち、全員の士気が向上している。

 

【他にも人型は現れてる。こっから巻き返すぞ】

【【【了解!!】】】

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル要素入れると確認作業をしながらの執筆になるから時間が掛かってしまいました。1月以上開けてしまったのは久々……でもないですね。いつもの事ですが更新はかなり遅めなので暖かい目で見守ってください。

人型達が襲撃してきました。嵐山隊+玉狛第二に対して黒トリガー3人とヒュースと言うガチメンバーです。時間を稼げば、太刀川隊、玉狛第一、迅、悠菜が到着予定ですが、まぁ厳しい戦いになりそうです。

もう一か所の風間隊とエネドラは事前情報があるという設定のため風間隊は相手を倒すふりをしつつ時間稼ぎにシフトチェンジ。泥の王に対抗できる銃手や射手を待っている状態です。

スタアメーカー持ちである堤が居れば外でも核を探す事が出来、攻撃手でも狙えると考えましたがB級合同部隊に加わっている設定のため、迂闊に動けないのでこちらもやはり膠着してますね。

そして東さん率いるB級合同部隊。という事で二つ目のオリジナル黒トリガー、『雷の裁き(ドンナー)』のお披露目です。これは狙撃用のトリガーですが銃身などはないという特殊なトリガーです。

弾速は一定ですがとにかく速く、作中で言った通り最速クラスを誇ります。威力もそこまで変化はなく、大きく変更可能なのは範囲、要するに大きさですかね。弾を撃ちだした瞬間は大きさは一緒ですが弾道を曲げたタイミングで展開することが出来ます。空にあがった弾が大きく広がって範囲内に降り注ぐ様なイメージですかね。降り注ぐといっても弾にばらつきは無いので完全な面の制圧攻撃になりますがね。展開後は弾道変更は出来ず、下に墜とす事も出来なくなるので注意が必要。展開せずに目標に着弾するとその場で弾が広がるので、範囲変更をせずに打ち合いをして、その後で範囲を大きく選択して敵に当てて爆散させると言った騙し討ちも出来るかもしれない。まぁ、範囲を大きくするとかなりトリオンが持ってかれるので素直に面攻撃した方が強いですけどね。

三バカの弾馬鹿が居ないのは太刀川隊に合流の指示が出ている為です。火力役は黒トリガー持ちの東さんが居るので足りているので陽動役じゃ槍馬鹿と迅馬鹿の二人とB級合同部隊で十分です。

とまぁ、こんな感じですかね。今の所は問題ないと思うんですがあれ?ここはどうなってるの?みたいな場所があれば小さい疑問でも訊いてください。答えるか、訂正するので。


追記:ウィザ翁には角が無い事を指摘されましたので一部変更、そして太刀川隊と言っても唯我は居ないのに太刀川隊と言う点も不自然なので一部変更しました。


ではそろそろいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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大規模侵攻④

感想をもらって嬉しかったからストック溶かして投稿しちゃった。テヘッ♪



 戦闘が開始してこれまで結構なトリオン兵を倒してきた。それ故にトリオンはそれなりの量を消費してしまっている。だがトリオン体に損傷が無いだけマシと言えるだろう。しかし、状況が黒トリガー3体と能力の分からないトリガー使い相手でなければの話だ。

 

「ほっほっほ、どうやらこの杖を知っているようですね?」

「どこで知ったのか気になるが、それより先にやる事があるのでな。ウィザ、ヒュース邪魔をさせるな!『卵の冠(アレクト―ル)』」

「「了解しました」」

 

 隊長らしき男が命じると彼らもトリガーを構えてこちらへ動き出した。それとほぼ同時に隊長らしき男はトリオンで造られた卵の様な光から多くの生き物の形をした弾を生み出した。強力な黒トリガー持つウィザと呼ばれた老人は斬りかかり、部下らしき青年も黒い欠片を操って攻撃を仕掛けてきている。

 

「ご老人の範囲に入ってはいけない。遠くから撃ち続けるんだ!」

「しかし、あの欠片に跳ね返されますよ」

「くっ、シールドではよほど強化しないと防げないか……」

 

 部下二人を嵐山隊が相手をして、残る二人はどちらに向かうかは簡単な事である。敵は静かに玉狛第二のメンバーに相対し攻撃を仕掛けていた。

 

【あれはどんな性質か分からない。出方を伺う】

「防げるか?アステロイド!」

 

 距離をとりつついくつかの弾を撃ち堕とすとそれらは新型に捕らわれた隊員が変えられたキューブと瓜二つの形になった。それを見た瞬間に弾に当たる事の危険度が跳ね上がった。下手をすれば一発当たるだけで戦えなくなってしまうだろう。

 

「新型と同じ能力!?」

「いや、たぶん新型が同じ能力を持ってんだろ。ほらあの鋭い弾飛ばしてた奴、あっちが使ってるトリガーとそっくりだ」

 

 遊真も『射』を放ったり『盾』を生み出して弾を確実に防いでいる。修も重いレイガストでは避けにくいと判断し弾を放ってはシールドを張ってを交互に行ってどうにか凌いでいる。いちいち切り替えないといけない手間に精神的に疲労が溜まるが、千佳の広い範囲に展開したフルガードや遊真のフォローで対処しながら時間を稼いでいた。

 

「『窓の影(スピラスキア)』」

「なんだ!?ゲートに似てる……?」

[まさか空間操作系か!?周囲を警戒するんだ!!]

「あ……」

「修!!跳べっ!!」

 

 開いたゲートに気付いた千佳は一番に弾に触れてしまいその体をキューブへと変形させていった。ベイルアウトも間に合わずキューブになる。そのまま遊真と修にも弾がぶつかろうとしたが咄嗟に『弾』を展開して撥ねる事で攻撃を避ける事が出来た。だが、その間に千佳のキューブは敵の手の中に回収されてしまった。

 

「あ、あぁ……千佳……千佳を返せ!!!アステロイド!!スラスター起動!!」

「おいっ修!!」

 

 修は千佳を取り戻すために千佳のキューブを手に持ったワープ使いの女とそれを遮ろうとする隊長に単身で突っ込んでいった。火事場の馬鹿力か、撃ち放ったアステロイドは修に当たりそうな弾を全て弾き、レイガストの攻撃範囲にまで近づく事が出来ていた。しかし、振るった刃は顔に掠り傷をつけるだけで、ブレードもキューブになって防がれてしまった。

 

「接近を許してしまい申し訳ありません」

「いや、不意を突かれたのは私も同じだ。突き抜けた才は無いと思っていたが油断は出来んな」

 

 敵を目前にして余裕を見せる男のマントの下には先ほどまで撃ち放っていた弾で出来た虫などがびっしりと身体を守るように展開されていた。もう一度と思い、ブレードを再生させようと思ったが流石にトリオンが足りない。怒りのままに睨んでいるが硬直した修に向けて先ほど放ったキューブ化の弾が戻ってくる。

 

「三雲君!?」

「あの馬鹿何を止まってるの!!シールドを張って下がりなさい!!」

 

 叫びはするが間に合う訳がない。むしろ、そちらに目が行ってしまい集中が途切れてしまった。射程範囲に入ってしまったのか黒い欠片が何発か撃ち込まれて身動きが取れなくなる嵐山と木虎、カバーに時枝が入り、反射されないようにとメテオラを地面に放つ。

 

 その瞬間に佐鳥が欠片の間をぬって狙撃を打ち込むが気付いた老人が杖で弾いた。だが隙を上手く利用して一か八かで嵐山はテレポートを発動させるとトリガーの効果範囲から離れられたのか動けるようになりそのまま素早く距離を取り、それを見て木虎は撃ち込まれた腕を斬り落としてその場を逃れた。

 

 そして少し落ち着いたところで修がどうなったのかちらりと確認の目線を向けるとそこに修の姿はなく、やられたのかと思ったがキューブもなく、ベイルアウトの光も知らせも届いていない事に気付く。

 

「悠姉!」

 

 遊真の声を聴き視線の先を見ると修を回収して敵を見据えている悠菜の姿があった。今使っているのは超人化のトリガーだ。一瞬で拾って飛び退くそのスピードを追えたのはおそらく老人だけだろう。

 

「修くん?私が戦闘訓練の時に言ってたこと覚えてる?」

「……勝てない戦いをしてはいけない、相手が何をしてくるか、自分が何を出来るかを考え、冷静に場を見て勝てる時を待て、自分が勝てないときは次に繋げる事を考えろです」

「冷静さにかけて突っ込むとか戦場では考えられないよ。落ち着かないと取り返せるものも取り返せない。トリオンもカツカツみたいだし、後は任せなさい」

「でも!!」

 

 縋るような思いで食い下がる修を悠菜は掴むと素早く後ろに投げ捨て、自分もその場から飛びのく。そこには無数の生物弾と切り刻まれた跡が刻まれた。そして、それをやったであろう敵と相対しながら修の方を見ずに伝える。

 

「戦場で甘えられても邪魔だよ。君の迂闊な行動で嵐山隊にも被害が出た。目ェ覚まして自分の出来る事を考えなさい!」

「ほっほっ、重みある言葉…流石は百戦錬磨の傭兵『白鬼』……仲間を庇ってなお軽々しく避けられると自信を無くしてしまそうですな」

「アイツの家に雇われてると思っていたが、こんな所で出会うか……もしやここが故郷か?」

 

 『白鬼』、比較的小柄でトリオンの浸食影響で白い体で有名だった悠菜に着いた傭兵としての二つ名のようなものだ。すぐさまに攻撃を仕掛けて潰しにかかる程度には警戒してくれているようだ。

 

「まぁ、隠す事ではありませんか。その通りあなた方が呼ぶ『玄界』が私の故郷です。私の義弟に弟子、そのチームメイトがお世話になったようで、返してもらいますよ」

「貴女の関係者であれば厄介な事にも頷けますな」

「だが手負いの者達を庇いながら俺たち全員を相手に勝てるとでも?お前が得意とする破壊を故郷で行うつもりか?」

 

 流石の悠菜であっても周囲に気を配り、仲間を庇いながら全員を相手どるのは厳しい。周囲の被害に目を瞑って、自爆覚悟であれば倒す事も出来るだろうがそれはできない。

 

「そうですねぇ。たしかに、私一人では無理でしょうね」

「なに?」

 

「バイパー+メテオラ、変化炸裂弾(トマホーク)!!」

「旋空弧月!!」

 

「くっ!『金の成鳥』を!?」

 

 既に近くまで来ていた太刀川隊の射手である出水は悠菜が時間を稼いでいる間に合成を行い、敵の身体を削り、足止めも兼ねたトマホークによる爆撃攻撃を行った。そして驚きによって隙が出来た所をグラスホッパーで跳びながら旋空弧月でキューブを持つワープ使いに斬りかかった太刀川。

 

「隊長!ウィザ翁!」

「エスクード、悪いけど足止めさせてもらうよ」

 

 戦況の変化に慌てつつも隊長たちの援護に向かおうとしたヒュースだが、それを拒むように壁に囲まれていく。そして、バリケードを発生させる防御用トリガー『エスクード』を起動させた迅がその行く手を阻んだ。

 

「よっと、黒トリガーだらけでテンション上がるなぁ」

「あれだけやって致命傷入ってないってマジか」

 

「太刀川さん、それに出水も!!」

「僕たちだけでは厳しかったので助かりました」

「ありがとうございます」

 

「ん、そこのメガネ、三雲って言ったか?これどうする?」

「えっ!?」

 

 そう言って太刀川が差し出すのは千佳のキューブだった。意図的に千佳を狙った事を聞いた太刀川は仕留めるのではなく千佳の回収を優先して攻撃をしかけ、確実に腕を斬り取る動きを見せた。

 

「向こうはコイツ狙いなんだろ?トリオン切れ間近のお前が持ってるより俺が持ってた方が取り返されるリスクをいれてもまだ安全だ。本部に入っちまえば安全だろうが、そこまでお前たちだけで守れるか?そっちの黒トリガー持ちは流石に連れていけねぇぞ」

 

 敵の隊長は爆撃を受けて多く展開していた弾は殆どがキューブ化して散らばり、更には五体満足ではあるものの体中から薄くトリオンが漏れ出ている。ワープ使いは片腕を完全に失い、こちらも少なくないトリオンを消失している。

 

 要注意人物である『星の杖』の使い手は隊長を庇ったのかトリオンの漏れが多いがこちらも五体満足、攻撃の範囲におらず、奇襲も受けなかったヒュース以外は軽く手負いの状態である。今向かってきている玉狛第一の戦力も含めれば優勢といっても良いだろう。

 

 とは言っても黒トリガー三体を相手にして太刀川隊だけではこの場を持たせるのは難しい。そもそも、戦力として優秀だから使用許可が下りたのにその遊真を戦場から離す事は本部が許さないだろう。それらを踏まえて悩みはしたが修は顔を上げると太刀川の顔を見て答えた。

 

「守れるかはやってみないと分かりませんが千佳は僕たちの仲間です。僕が今、出来る方法でやれるだけの事をやります」

「そうか、なら持ってけ。それと嵐山隊も三雲についてけよ。お前らもけっこう危ないだろ?」

 

「賢以外は結構被弾してるからお言葉に甘えて一緒に下がらせてもらいます」

【俺はこのまま援護ですかね。撤退に合わせてだとあまり役立てそうにないんで】

 

 黒トリガーとの戦いが繰り広げられている場所の近くを通って隠れて狙撃を行いながら撤退について行くというのはまぁ不可能とまではいかないが厳しいものである。

 

「それじゃぁ、行こうか三雲君!」

「はい。遊真!気をつけろよ!」

「おう!千佳は頼んだ!」

 

 

「逃がすか!」

 

「追わせるわけないだろ!」

 

 賢を除く嵐山隊と三雲はそのまま千佳のキューブを持って戦場を離れた。追撃しようとも思ったが、目の前でそれを許すような者ではなく、隊長は先に邪魔する者を倒すように切り替えた。

 

「やれやれ、困ったものですな」

 

「急いで排除して追うぞ。あれを逃しては痛い」

 

「了解しました」

 

 

「さて、あの爺さんは貰っても良いか?」

 

「では私はハイレイン、あの隊長を」

 

「俺がワープ使いね。了解」

 

 余裕とは決して言えないが黒トリガーに臆することなく向かい合う。この大規模侵攻におけるもっとも重要な戦いが始まろうとしていた。

 

「ん-、向こうの戦闘が始まったね。それにメガネくんも撤退したか、今の所順調に思えるんだけどなぁ。やっぱり、ここで足止めしてないとダメみたいだね」

 

「チッ、面倒な」

 

「それはこっちのセリフだよ。多彩で便利なトリガー、嵐山達から貰った情報を見るに『磁力』と『反射』かな。使い手のウデもいい。大事な戦力だろうになんで……なんでお前はここで見捨てられるんだ?」

 

「……?何を……き……貴様!!ふざけたことを……」

 

「はい、予測確定」

 

 迅の言葉に思う所でもあるのか、否定するように真っすぐに仕掛けて来たヒュース、そこに行く手を阻む壁であったエスクードから更にエスクードを発動して相手の動きを封じた。

 

「ふざけてなんかないよ。おれにはおまえの未来が見えるんだ」

 

「何……!?」

 


 

 B級合同部隊の戦況はだいぶ優勢に傾いていた。米屋と緑川という白兵戦で敵を押さえ込む事が出来る相手が出来たことで東の黒トリガーや他の隊員の援護も届く様になり、少しずつ相手にダメージを与えていた。そこに狙撃を警戒して屋内に引き込んだ緑川を倒そうとしたところで緑川が相手の足をすり抜け様に切り裂いて奪った。

 

 それによって移動を封じられた敵は空を飛んで移動を開始した。狙撃を警戒しているのか少し低高度ではあるがそのスピードはかなりのものであった。建物の射線を意識して隊員を探して狩る方式に切り替えた。そのせいで茶野隊の二人と風間隊の助っ人に送る予定であった堤がやられてしまった。

 

「またベイルアウト……?」

「茶野隊と堤さんです」

 

「警戒して隠れて正解でしたね」

「狙撃手以外殆どやられていってますね」

「とは言ってもこのままでもいられませんね」

 

【建物の上に陣取って援護を頼む、相手はとにかく射線が通る事を嫌っている。相手に気付かれたと思ったらすぐに避けろ。今の敵の位置からであれば到達までにわずかだが時間がある。避けれない攻撃ではない。このまま繰り返して更に相手の集中力を切らせるぞ】

 

 これ以上削られるのを嫌って下に居たが今度は上から撃たれるようになり、反撃をしても手ごたえが無く、またじわじわと削られる敵からしてみれば嫌な展開となっていった。

 

「ならば足元を削ってくれよう!!」

 

 射線は通らない様に気にしながら敵がいるであろう建物をお得意の射撃で崩すと落ちてくる隊員、来馬と目を合わせたランバネイン。

 

「……」

「何処を見ている」

 

 取ったと思った瞬間に眼の前の男がこちらだけでなく上空を確認しているのに気付く、そして嫌な予感を感じ取ると同時に上空からの狙撃を喰らい、飛行システムが完全にダウンして自身も落下していく、目の前の隊員だけでも仕留めようとし、体勢が崩れた状態で狙いは定まらなかったが数発の弾が真っすぐに向かって行ったが、それはシールドと盾にもなるブレードによって防がれた。

 

「来馬先輩、遅れました」

「鋼!!」

 

「スラスター起動!」

 

「なにっ!?」

 

 そのまま落下をなんとも思わずスラスターで空中の敵を斬りつけながら地面に叩き落した。そして、落下した場所には米屋と緑川が待ち構えていた。

 

「おらぁ!!」

「よっと!!」

 

 起き上がる前の一瞬の隙を逃がすことなく、相手の身体に攻撃を通すとそのまま敵のトリオン体は崩れて、生身の身体が現れた。

 

「……見事、よもやこの俺が5人足らずしか仕留められんとは……ウィザ翁の言うとおり玄界の進歩も目覚ましい」

 

「こっちは10人以上+黒トリガーがいたからね」

「むしろ勝てないとヤバいからな。悪りーな1対1で戦れなくて」

 

「謝る必要はあるまい。これは戦争だからな」

 

「ランバネイン、退却させるから急ぎなさい」

 

「ああ、分かってる。楽しかったぞ玄界の戦士たち。縁があったらまた戦おう」

 

 いきなり戦っていた男の後ろに黒いゲートが展開され、男はなにやら喋りながらそのゲートをくぐって撤退していった。脅威であった人型を仕留め一息付きたいところであるがまだまだトリオン兵は存在している。隊員たちは次の準備を始めた。

 

「来馬、咄嗟だったが視界の共有助かった」

「い、いえ、言われて上を見上げただけですから。それより鋼、お前いつ来たんだ?」

「着いたのはついさっきです。思ってたより速く三輪が来てくれたので変わって貰って追いかけてきたんです」

 

 A級や元A級たちが広範囲のトリオン兵を倒し、黒トリガーによる援護もあって全体的に回る範囲が小さくなっていたようで三輪が来るまでのダメージもだいぶ抑えられたそうだ。

 

「お前らはどうするつもりだ?」

「あー、狙われてる玉狛の助っ人に行こうと思ってます」

「ワープで回り込まれる可能性もあるし、嵐山さんたちだいぶ削られてるって話だからね」

「そうか。二人のおかげで動きやすかった。今度なんかメシ奢らせろ」

「ラッキー」

「じゃぁ、焼き肉で」

 

 ようやく敵の一人を仕留める事が出来、射手や銃手のトリガーを持つ者は風間隊の援護に向かい、他のものは先ほどまでと同じようにトリオン兵の排除に動き出した。

 

 


 

「うぅん、好転はしたけど微妙だなぁ。今回は面倒だ」

 

「何をごちゃごちゃ喋ってる真面目に戦え!!」

 

 いつまでも消えない不穏な結末を見据え、その先の未来までを考え、目の前の相手を抑え続ける。それしか出来ない自分の力の無さにため息を吐きながら迅は戦い続ける。

 

 

 


 

 

「厄介な黒トリガーにはこちらもそれなりの物で相手するしかないですね」

 

「この世界でならこれも使いやすいですからね。『融解(メルト)』起動」

 

 




後どれくらいで大規模侵攻終わらせられかなぁ?そしてその後をどうするか。書き始めた頃は原作がまだまだだったから大規模侵攻で終わりにする予定だったんだけど……ランク戦終わったし、選抜試験始まったしなぁ。でもおまけ程度のネタしかないから多分大規模侵攻で一旦終わりというか区切りになると思います。

とりあえずそれくらいかな。
それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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大規模侵攻⑤

丸々3ヶ月は空きましたね。結構前に活動報告には記載したのですが、パソコンが壊れまして執筆がかなり遅れています。これまで以上に更新が遅れると考えてください。


 

 強いやつと戦いたい太刀川がヴィザを、要注意な相手であるハイレインを悠菜が受け持ったのは悪くない。そのまま余っていたワープ使いであるミラと遊真が戦闘を開始したのは自然な流れだが、戦況は芳しくない。

 

[微弱だが門と似通った反応から攻撃の予測は出来るが、解析は出来そうにない]

 

「どうにもオレのトリガーだと普通に相性が悪いね」

 

 強化して直接殴る蹴るなどか、直線的な砲撃を行うかが基本の攻撃手段である遊真と自由自在に移動してみせるワープ使いとでは分が悪いのは事実である。展開までに多少の時間はかかるようだが、一気に距離を詰めようとして自分が飛ばされでもすればたまったものではない。

 

[こちらに玉狛第一も向かっている最中だ。無理に倒す必要はない。だが手負いの敵とはいえ油断も禁物だぞ]

 

「そうだな…一撃でもいれれば漏れ出たトリオン量的に倒せると思うけど無理はしない。ワープでオサムを追わせる暇を与えなきゃ勝ちだ」

 

[他の者への援護の隙もだな]

 

 眼の前の相手を倒せば勝ちというほど戦争というのは単純ではない。次に繋げるための一手となるようにと気を引き締め直し、遊真は敵を見つめた。

 

 


 

 

 多少無理やりに戦う権利を主張した太刀川は活き活きとした様子で戦闘を行っていた。

 

「ははっ、アンタ強いな。こんなに楽しいのは久々だぜ!!」

 

「ほっほっほっ、これは中々……『星の杖』相手に普通のトリガーで打ち合える方も早々居ませんよ?」

 

 対するヴィザは高速で動き、視認するのも難しいブレードを難なく防いでいる眼の前の戦士に驚きを示していた。

 

「たまには居るのか?それじゃあノーマルトリガーで打ち破った一人になってやろうじゃねえか!!」

 

「…!!それができれば貴方が一人目になりますね。自分の強さを疑わないその姿勢……これが若さというものですかな。いやはや……恐ろしい……」

 

 ブレードを捌いて近づき、直接斬り結び、軌道を変えたブレードを弾いてまた距離を詰める。繰り返しの中で動きを洗練させていく太刀川に脅威を感じながらもその挑戦をヴィザは真っ向から受け止めた。

 

 


 

 

 悠菜が起動したトリガーはこれまた黒トリガーに分類される代物である。なんなら範囲殲滅用として作った『崩壊』や『嵐』を作る上で多少は参考にしたトリガーである。

 

 悠菜のトリオン体の周囲に浮かぶように存在する真っ白な液体。無重力空間を思わせるその光景はすぐに崩れ、量を増やしながら津波や雪崩の様な災害の様に襲いかかる。

 

 警戒していたハイレインは距離をとり、攻撃を仕掛けやすい位置を取るという目的から、飛び退きながら家屋の屋根に着地する。

 

「不定形な攻撃……『泥の王』と似通ったトリガーか?」

 

「あれほど複雑じゃないですが、扱い難さはこっちが上だ!」

 

 地面を伝い、壁を伝いハイレインを追いかける白い液体。どうやらあれらを浮かせられるのは使用者の周囲だけのようだ。

 

 流動的な攻撃が宙を飛んで追いかけてくるようであれば面倒だと考えていたハイレインはそう思わせている可能性を頭の隅に置きながらも少し安堵し、足を動かしながらも『卵の冠』によって使用者である悠菜を狙う。

 

 これだけで討ち取れると考えるほど甘い思考はしていなかったが、キューブに変えることで液体を削る事はできるだろうと考えていたハイレインの予想は大きく裏切られ、液体に触れた瞬間に逆に液体がまるで弾を溶かしたかのようにかき消してみせた。

 

「『卵の冠』が効かんだと?!」

 

 容量を生み出すのにかなりのトリオンを消費するが触れたトリオンを問答無用で溶かす能力は敵からしてみればたまったものではないだろう。だがこの場合は相性の悪さも際立っていた。

 

 トリオンに対して干渉するという点は同じだが、変化と消去では後者の方が優先度は高い。変化させようにもそのトリオン同士を消滅させるのだから。

 

 大抵のものがトリオンで作られている近界では有用性も高いが、扱いにくさも比例する。そこら中にトリオン製のものが存在するので不用なタイミングで消費してしまうことがあるのだ。

 

 しかし、玄界であれば周囲にあるトリオン製のものなど本部か味方のトリオン体ぐらいのものだ。その扱いやすさは格段に上がると言える。

 

「様子見なんて真似してるなら、そのままあなたのトリオンを溶かし尽くしてあげますよ」

 

 


 

 

「さっきからわちゃわちゃ動きやがって!!何がしてぇんだ?クソ面倒くせぇなぁ!!」

 

 風間隊と戦いを続けていたエネドラは大技でも倒せず、小細工も何故か聴かない敵にイライラが溜まっていた。

 

「お前らの攻撃なんて効かねぇたんだよ!!それなのに同じ事を繰り返してこの猿がよぉ!!」

 

 自分の優秀さを疑わないエネドラにとって、自身が負けずとも勝てない相手というのは許せないものだった。段々と対処に慣れていく風間隊に対して動きを悪くさせていくエネドラは傍から見れば滑稽そのものだった。

 

「【風間さん、配置に着きました】」

 

 いつまでも挑んでくる敵に苛つく割には自分が一チームに対してどれだけ時間を掛けているのかを考えていないエネドラの周囲には既にランバネインとの戦いを生き残った隊員が潜んでいた。

 

「【やれ】」

 

「ッ!?なめるなぁ!!」

 

 次の瞬間、潜んでいた隊員たちによってトリオンの銃弾が嵐の様に降り注いだ。一瞬驚きはしたものの体を流動させ、体内で核を動かしなんとか攻撃を無傷で受け切るエネドラ。

 

 策を弄して来たことに驚きと苛立ち、そして猿の精一杯の努力に憐れみ、不用意に顔を出した連中を狩ってやろうと視線を動かすと足元に着弾した一つの弾が炸裂した。

 

「ハッ?!」

 

 流動した身体が形を保てずに吹き飛ばされる。範囲内に含まれていた核は無事だが、覆っている殻が少し損傷を受けていた。まずいと直感的に焦りながら身体を元に戻そうと急ぐがそれよりも早く一発の銃弾が核を目掛けて飛んでいった。見事に命中したそれは攻撃力が無い為にエネドラは外れたものだと思いこんでしまった。

 

「【スタアメーカー着弾しました!!】」

 

「【よし、警戒させながら少しずつ下がれ、後は俺たちでやる】」

 

 攻撃手のトリガーでどこにあるのか分からない小さな弱点を探して倒すのは難しいが場所さえわかればなんてことはない。

 

「【うわっ、反応見るとメチャクチャに動かさてますよ】」

 

「【さっきの砲撃を警戒してるんですかね】」

 

「【あまり目で追うな。感づかれるぞ】」

 

 スタアメーカーによるマーカーを視界に共有させると体内で縦横無尽に動く核を捉えた。後はアレを切り裂くだけだと最後の詰めにかかる。

 

 エネドラは銃弾を放ちながら少しずつ距離を取る隊員たちに注意を向けている。風間隊がブレードしか使わないと考えて風間隊よりも周囲の隊員の方が危険だと判断しているようだ。

 

 どうやら身体を吹き飛ばしたメテオラによる攻撃を警戒している様で弾が当たる場所かる必ず距離をとっている。これまで戦っていた風間隊が銃手用のトリガーを用いて無かったが故に特徴が割れていない、理解できない不安が後押している。

 

 そこへ距離を詰めながら歌川がこれまで使っていなかった銃手用のトリガーを発動させると、エネドラは驚きながら近距離で放たれたソレを避けようと大きく避ける。

 

「ハッタリかクソッ!」

 

 放たれたソレはアステロイドであり、必要以上に警戒させられたエネドラは怒りを露わにして一番近くにいる歌川に攻撃を仕掛けた。

 

「メテオラ」

 

 そこに今度こそメテオラを放つと間近で喰らったエネドラは再度核を守りながらどうにか距離を置こうとするがその前に爆発に身を隠していた風間による攻撃が核を切り裂いた。

 

「なっ?!」

 

 警戒してくれたおかげで動きは読みやすかったな。と淡々と攻撃しながら考えると本部へと通信をいれた。

 

「【こちら風間隊、黒トリガー使いを撃破しました】」

 

 


 

 

 戦いの場から離れた修は嵐山隊のサポートを受けながら懸命にボーダー本部を目指していた。負傷しているとはいえA級部隊、道中で襲ってくるトリオン兵は嵐山隊によってスムーズに片付けられている。

 

「新型を避けながらだとどうしても遅れがでますね」

「万全な状態ならまだしも、今の状態で当たるわけにもいきませんからね」

 

 レイガストの修復が困難なうえ、トリオン漏れの事も考えるとアステロイドさえも撃てない三雲はトリオン体で動くのがやっとな状況だ。

 

「……なるほど、それは朗報だ!人型ネイバーの撃破情報が入った。伏兵がいない限り、敵はトリオン兵と先程の場所にいた相手だけだ」

「風間隊ですか、流石ですね」

 

 散っていた人型が倒されたことで集中していた隊員が動き、トリオン兵の掃討もまた進みだした。これまで以上に動きやすくなるだろう。

 

「今のうちに少しでも近づこうか、ペースを上げるよ三雲くん?」

 

「はい!!」

 

 


 

 悠菜とハイレインの戦いは相性の悪さも相まって、ハイレインが対処に回り、それを追いかける形が続いていた。

 

「エネドラがやられたか、くっ!?」

 

 エネドラごと回収するのであれば船とエネドラのマーカーがあるために可能だが、始末するとなればミラを自由に摺る必要が出てくる。

 

「ヴィザ!!」

 

「了解しました…」

 

「なっ!?逃げる訳じゃねぇな。行かせてたまるか、ってこの!?旋空孤月!!」

 

 ミラを動かすために背を向けて空閑の方に向かうヴィザ、それをフォローするようにいくつかのキューブ化の弾が放たれるが難なく避けて旋空孤月を当てる。

 

「ここまで……ですが役目は果たせましょう」

 

「やばっ!?」

 

 トリオン体に大きく線が走り、多くのトリオンが漏れ出ている。それでも星の杖を起動させると遊真のトリオン体を破壊した。

 

「すみません。ヴィザ翁、泥の王回収、金の成鳥の確保に向かいます!」

 

 ミラが黒トリガーを用いてその場から姿を消した。ボロボロだがトリオン体を維持しているヴィザは星の杖を構え直して太刀川に向かい直る。

 

「相手を出来ずに申し訳ございませんでした。ですが隊長の命令がありましたので逃させていただきました」

 

「ちゃっかり攻撃をそらしておいてよく言うぜ」

 

 このまま戦い続ければいずれトリオン切れでヴィザは落ちるだろうがこの男を自由にすればこの場の状況は一気に傾くために休む事は出来ない。

 

「おや、ミラ殿ですか…ありがたい」

 

「新型か…んなもん全部斬り伏せてやるよ!!」

 

 少しでも時間をかせぐためかミラによってヴィザ翁の周りに10体の新型が送られてきた。フォローしながら戦えばそれなりに保つことだろう。

 

 対してトリオン体を破壊された遊真はしくじったとばかりに苦い顔を浮かべている。どうするかと考えていると悠菜から声がかかる。

 

「遊真!!修くんたちに伝えなさい!!【この場でトリガーを使わずに援護に向かって】」

 

「……了解!!」

 

 アフトクラトルの者たちも情報共有は出来ている。まだ戦える事を悟られない様に通信で本当の指示を出すと笑って遊真は駆け出した。

 

「ふむ……ミラ、壊れたトリオン兵の残骸を送れ!!」

 

 ヴィザの近くにトリオン兵が送られた事、自身のトリガーと悠菜のトリガーの違いを考え、1つの策をこうじた。

 

「そのトリガーはトリオンを問答無用で消し去る恐ろしい性能を持っている。だがお前であっても消費は激しいだろう?」

 

「トリオン兵の盾、しかも使えなくなったものを有効活用ですか」

 

 自身の卵の冠であればキューブからトリオンを回収出来るが、融解とやらは完全な消滅であるため不可能と判断した一手だ。

 

 その予想は当たっており、トリオンの消耗の激しい融解でトリオン兵の山を消し去れば悠菜といえど戦い続けるのは難しくなる。

 

 撃ち続けてくれればギリギリだがハイレインの方が先にトリオン切れになると考えていたが、あまり削れなかった事を悔やみつつトリガーを解除する。

 

 融解で作り、残った液の分だけトリオンが無駄になるが避け続け、壊れたトリオン兵を溶かすだけなら意味は無いので仕方がないと割り切る。

 

「今からでは他の黒トリガーは厳しいか……正宗起動」

 

「……白鬼のもう一つ由来、白兵戦の鬼の本領か?」

 

「さぁ、どうでしょうかね」

 

 長い刀を軽々と振り回していく、近くに置いてあるトリオン兵はもちろん、トリオン以外に干渉しない相手の弾を防ぐ手段は多い。

 

「斬るのが早いか、当たるのが早いかですかね」

 

 


 

 

「こいつ、どうしますか?」

 

「捕縛して捕虜にすることに決まってる。が別の人型ネイバーを倒した際には空間操作のトリガーで逃げられたらしい」

 

「周囲の警戒をしながらですか」

 

 倒したエネドラをどうするのか菊地原が訊ねると風間が淡々と答えを返す。面倒な作業に心底嫌そうな顔をしていると、空間に穴があいた。

 

「来たか、黒トリガー」

 

「回収にきたわ、エネドラ。派手にやられたようね。早くしなさい。あまりかまってる余裕はないわよ」

 

「チッ、おせえんだよ!」

 

 空間操作も黒トリガーであるために不用意な動きはできないと警戒しながらも手を出せずにいる風間隊。エネドラが穴の向こうのミラに手を伸ばすと、次の瞬間にその手が切り落とされた。

 

「なっ……!!?」

 

「悪いわね。急いでるの泥の王は回収させてもらうわ」

 

 それだけを言うと、黒トリガーを外した手をその場に雑に放り捨て、エネドラを刺し殺すと穴は消えてなくなった。

 

「………ハイ……レ……イン……!!!」

 

「【本部、敵が黒トリガーを回収、その後使い手を殺害して撤退しました】」

 

【なに!?……分かった。死体を見られる訳にはいかない。それに敵の角は未知のトリガー技術だ。分析できれば次への備えになる。回収前に所持品を調べておいてくれ、ワープの座標を決める発信機があるはずだ】

 

「【了解】」

 

 


 

「いい感じだけどもう一手かな。【一人メガネくんの所に先に向かってくれる?】」

 

 




エネドラは死にます。急いでいるから回収だけして、殺さないルートも考えたけど頭がおかしくなってるからそれだと逆に役に立たないと考えてですね。

遊真ダウン、ウィザの足が遅くなってないし、重りもついてないので見きれないのでやられました。

悠菜の戦いは数の暴力や多彩な黒トリガーの使用が多いですが、戦い続けてこれ以上の黒トリガーの起動は難しい。という事でオリジナル黒トリガーはここまで、後は純粋な戦闘での時間稼ぎですね。

ヴィザと太刀川の戦いはヴィザの攻撃を警戒しながら能力持ちの新型と戦うのであればそこそこ戦えると考えてます。こちらも玉狛第一待ちですかね。

大規模侵攻書ききったらいったん終わりって言っといて、次の更新が3ヶ月後というのは我ながら酷くてすみません。それにまだ続くし、後2.3話で終わらせられるとは思うけど、スマホだと遅いので気長にお待ちください。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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大規模侵攻⑥

 

 新型の群れと脱落寸前の猛者を相手取る太刀川、相手はすでに星の杖を起動するだけのトリオンはなく、ただの剣として使い、時間稼ぎに徹している。

 

 一方で太刀川は素早いブレードによる遠距離攻撃がなければ受け太刀になる回数も減り、時間はかかるが新型を着実に倒していった。

 

「これで終わりだ」

 

「そのようです……」

 

 トリオン体の動きも悪くなって、援護がなくなり、遂には受け止めることも許さずに斬り伏せられたヴィザ。その場に舞った煙が晴れると生身の身体が現れる。

 

「今の瞬間にでも回収されると思ったが、お仲間は忙しいのか?」

 

「はて、それはどうでしょうか、今も貴方の隙を窺っているかもしれませんよ?」

 

「それはおっかねぇが……もう遅い」

 

 ワープ使いがやってきた際にすぐに斬ることが出来る位置に陣取りながら話していると後方に二人の人影が現れた。

 

「こいつが人型の一人か?」

 

「せっかく来たのに終わってるの?3人居るって聞いたんだけど?」

 

「一人は向こうでまだ戦闘中、一人は逃げられた。俺はこのまま他のトリオン兵狩りに戻るから後は頼んだ」

 

「小南、お前が悠菜さんの援護に向かえ、俺はこの人を護送する」

 

 誰かしらがやらなくてはいけない作業であり、太刀川が元々任されていた仕事に戻るのであれば小南か木崎のどちらかがやる必要があるが、木崎は迷わずに請け負った。

 

「あたしはそれで別に問題ないけど、大丈夫?」

 

「トリオン体は破壊されてるし危険は少ない。ワープ使いへの対策をするなら遠距離攻撃が出来る俺の方が良いって話だ。【本部、人型近界民を一人確保、護送します】」

 

【こちらも把握している。木崎隊員なら安心だ】

 

 


 

 緻密な動きで襲ってくる弾を躱し、隙間に刃を通してトリオン体に突き刺し、トリオン体に穴をあける。少しではあるがトリオンが漏れ出ている。

 

 相手もただやられるだけではなく突きを放って来た箇所に弾を集中させて刃を削り、相手の動きを制限させる為に自分の周囲を囲う様に弾を展開する。

 

 だが地面を蹴り砕くと破片をぶちまけて目くらましにする。その破片で弾を少し退かさせて、残った弾を斬り伏せ、必要最低限の刃の損耗でその場を離脱する。

 

 放棄された地区であるために壊れてもお咎めはないので追いかけてくる弾をまくために自分一人が通れるだけの穴をあけるとそこを通り抜ける。

 

 ワープ使いは居ないので相手から死角になっている場所に穴を開ければ狙い撃ちされる心配はない。追ってきている弾は通った後に塞げばなにも問題はない。

 

 とは言ってもキューブ化の弾は複数の形がある。確認できているのは魚と虫のニ種類だがもっとあってもおかしくはないと思い警戒は怠っていない。

 

「やっぱりあるか……」

 

 飛び出た先には半透明で見えづらいことこの上ないクラゲ型の弾が足のふみ場がないくらい埋め尽くされていた。

 

 飛び出た勢いのままで長い刀を一つの弾に突き刺すと先端が少し削れたがまだ十分な長さがあり、勢いのまま棒高跳びの様に屋根へと跳び上がる。

 

 見晴らしの良い位置、しかも地面から高い場所だと四方八方から弾が向かってくる。戻ることなく一つの方向に進み、対処する必要数を減らし、抜けたところで屋根を切り崩し、飛ばして攻撃を行なう。

 

 屋根のかけらは相手の視界を塞ぐ役目も果たし、相手の死角をついて近づくと一気に刀を振り切り、大きな傷をつける。

 

 トリオン漏れに期待が出来る程の一撃だったが、ハイレインは仕方ないとばかりに立ち止まると周囲のキューブを回収し、トリオン体を修復した。

 

「トリオン体の修復技術は他の国にもありましたが、トリオンの再利用は反則ですね」

 

「戦争に反則もなにもあるまい」

 

「それはその通りです。なので文句は言いませんよね?」

 

「なに!?くっ!!」

 

 レーダーを見ていた悠菜は近くに小南が来ている事を知り、相手が気付かない様に場所を移していた。家の陰から飛び出すと、双月でその腕を切り飛ばした小南を危険と判断し、弾をぶつけにかかるが、その前に待機させていたメテオラが雨のように降ってきた。

 

 弾同士がぶつかり合うと効果が発揮されないが、メテオラの爆発が起これば、トリオンによる広範囲の攻撃となり自動的に相手の弾も消費される。盾の役割を果てしていた弾が一気に消え、挟み撃つ様な形で追撃にうつると、その刃が届く前にワープが開きハイレインは即座にワープ内に飛び込んだ。

 

「逃げたの?」

 

「そのようです。キューブ化した千佳を狙うか、国宝である星の杖の回収に向かうか……移動能力のある敵は厄介ですね」

 

【すまん、やられた!!お前らは修達の方に向かえ!!】

 

 木崎の申し訳なさそうな声が通信によって聞こえてきた。声に従い移動を開始し、動きながら何があったのか確認する。

 

【爺さんやトリガーをキューブ化して小さなワープで回収された!!こっちを狙った攻撃だと思い込んだ俺の失態だ】

 

「【修達が危ない】ってことね」

 

 


 

 本部までの道を進んでいるとワープによってトリオン兵が送られ始めた。

 

「ワープ使いが追ってきたのか……」

 

「味方がやられた報告はきてない。おそらく包囲を抜けて来たんだろう」

 

「数が多いのもまずいですが、新型が厄介ですね」

 

「……良し!!走り抜けるぞ。ルート共有を頼む。行くぞ!!」

 

 オペレーターによって視界に表示されているマップにルートが追加される。指導を受けてるとはいえ地形踏破の練度はまだ低い修が少し遅れるがフォローも入り、トリオン兵の襲撃をすり抜けていく。

 

「まずい色付きが追いついてきた!!」

 

 ジェット噴射のような機構で急加速が可能な個体が進行方向を立ちふさがる。避けていくのは難しく、戦っていれば後ろからやってくるトリオン兵に挟まれてしまう。どうしたものかと思案していると、目の前の新型に向けて一人の隊員が飛んできた。

 

「緑川!?」

 

「やっほー三雲先輩」

 

「俺もいるぜ!!」

 

「陽介先輩!!」

 

 緑川がグラスホッパーで奇襲を仕掛けたがレーダーで感知した新型が目を塞ぎ、傷をつけるが倒すには至らない。そこに槍を持った陽介が的確に追撃を加え、無理やり目をえぐり、新型を止めた。

 

「新型に連続で来られない限りはこのまま進んでいけるでしょ?」

 

「ああ、助かる!!」

 

 砲撃をしてくる新型も厄介ではあるが避けれないものではない。このまま近くによってきたトリオン兵だけを倒しながら進めばいける。そう、考えていたその時に嫌な連絡が入った。

 

【修くん、キューブ化の黒トリガー使いが逃げちゃった!!そっちに行くかもしれないから気を付けて】

 

「嵐山さん!!」

 

「こっちも連絡を受けた!!」

 

 向こうも戦い続けている筈だが相手は黒トリガー……油断は決して出来ない。むしろ問答無用で無力化すると言う一番厄介な敵だ。

 

【レイジさんからの連絡!!拘束していた星の杖の使用者を回収されてまた消えたって、今度こそそっちに行くかも……】

 

「三雲先輩、危ない!!」

 

 通信を聞いてる最中に素早く魚の形をした弾が飛んできたのか咄嗟に緑川がスコーピオンで切ることで対処したために三雲は無事だったがどうやら追いつかれてしまった様だ。

 

「腕を切り飛ばしたって聞いたが直したみたいだな」

 

「回復される前に倒し切る必要があるとかけっこう鬼畜ゲーだな。まぁ、トリオン自体は削れてるだろ?」

 


 

 磁力を用いて自由自在に操る敵のトリガーに未来予知で戦い続ける迅。互いに実力は拮抗しており、致命打は与えられていない。

 

「ふぅん、なるほどあの爺さんは回収されたか……まぁ、捕まる可能性は低かったからな。まぁでも、お前の仲間はけっこう倒したみたいだよ?残ってるのは隊長さんとワープ使いだけらしいよ。うちはまだ余力もあるしね」

 

「敵の言葉など誰が信じる?!お前を倒してこの目で確かめるだけだ!!」

 

「そう……でももう詰んでるよ?」

 

「なにっ!?」

 

 そういった瞬間に四方八方から弾が飛んでくるのに気付き、攻撃に回していた欠片を呼び戻しなんとか防御する。

 

 それでも全ては防ぎきれず身体からトリオンが漏れ出ているが、普通の剣とかを扱うのとは訳が違うので戦闘面で遅れを取ることはないだろう。

 

 射手による援護は厄介だが、来るとわかって入ればなんてことはないと目の前の敵に意識を戻したその瞬間、二本の銃弾が頭と胸を貫通し、トリオン体が解除された。

 

「だから言ったじゃん、もう詰んでるって?出水に賢、二人共助かった」

 

【いやいや、これぐらい訳ないですよ。場は迅さんが整えてましたし】

 

【俺のツインスナイプ見ました?まぁ、指示された場所でスタンバってただけですけどね俺も】

 

「万が一にもお前が向こうに行くと後輩が危険でね。もう大丈夫になったから倒させて貰ったよ。まぁ悪いようにはしないから大人しくついてきてくれると助かるんだけど……」

 

「貴様!!くっ……サイドエフェクトか……」

 

 未来が見えると言ってのけた男、何もかもそうなるように整えられていた戦場、信用できないが何らかの力があるのは確信し、それでも睨みつける。

 

「もうすぐ戦いは終わる。姉さんが動いてくれてるし、向こうはけっこう安心だ。お前は置いてかれるがお前はこっちに残った方が正解だとだけ言っておく」

 

 男は持っている発信機に目を向ける。回収の余裕さえないのか、それともこの男の言う通りなのか。ただどちらにせよこの状況下で出来ることはないに等しかった。

 

「そっちはトリオン兵倒しに向かっちゃって、こいつは俺が送ってくから」

 

【【了解!!】です!!】

 

「……被害がないのが一番だけど、やっぱキツイな」

 

 一番助けてくれている、信頼のできる姉さんの顔を思い浮かべながら迅は何処かやるせない顔である方角を見つめていた。

 


 

[門の解析、後3分といった所だ]

 

「プロテクトの解除も同じくらいで終わるよ。船にも防御機構はあるだろうし、私も入るから作業はお願いね。回収されたであろうキューブは最後で良い」

 

[ああ、直接アクセス出来れば情報のコピー転送にはそうかからないだろう]

 

「あまりいい顔はされないだろうけど、後は私の仕事だよ」

 

 




前からだいぶ時間が空いてる……そして、そろそろ終わり終わり詐欺になりそうだけど、本当にあと少しです。


読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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大規模侵攻⑦

 

 

「喰らったら一発でアウトってあたりがやっぱり黒トリガーはズルいよな」

 

 トリオン能力があまり優れていない米屋では槍の形をした弧月で弾を受け続けるだけでも相殺の為にトリオンを消費するので辛いところである。

 

 一緒に戦う緑川も同じで攻撃手として戦えるだけのトリオンしか持っていない。それでも的確に弾を斬り伏せ、削れた刃を修復しながら敵に迫る。

 

「ッ危な!?」

 

「突っ込むだけの考えなしではないか……」

 

 緑川のスコーピオンが届くかどうかというところでマントの下に隠していた多くの弾が飛んでくるが、咄嗟にシールドで守りながらグラスホッパーで距離をとる。

 

「やっぱこの間合いだときついな」

 

「特攻しても倒しきれるか微妙だしなぁ」

 

 相打ち覚悟で向かえば一太刀浴びせることは出来るが相手に回復手段があるのがネックである。だが面倒なのは敵にとっても同じであった。

 

「ヴィザ翁の回収に成功しました。ヒュースも同じ形で収容しますか?」

 

「……大窓は後どれだけ使える?」

 

「船への帰還を考えると多くは……」

 

 何処から間違えていたのか、雛鳥の回収は出来ず、金の成鳥も逃しかけているこの状況に少し苦い顔を浮かべる。

 

「ヴィザの回収で警戒されてるだろう。そちらは予定通りで問題はない。金の成鳥は?」

 

「ラービットで足止めはしていますが徐々に巣に近付いています」

 

「そのまま監視を続けておけ」

 

 どんな存在でも逃げ切ったと思った瞬間が油断を誘う。それまではと新たに弾を作り出し、敵と向き直る。

 

 付かず離れずの距離を保ち戦い続けているが緑川と米屋では弾を消費させるには及ばず、防戦一方になっていく。

 

「とりあえず時間を稼ぐぞ。緑川、グラスホッパー出せ」

 

「良いけど、なにすんの?」

 

「こうすんだよ!!」

 

 緑川にグラスホッパーを展開させると近くにある。瓦礫やトリオン兵の残骸を弾かせて敵に飛ばし始めた。即席ではあるが遠距離、それもトリオンと物質の両面からの攻撃だ。

 

 大きな塊を飛ばしている為に速度はそれほど出ないが対処の切り替えの手間と弾の消耗を考えたのか相手はそれを大きく避けて回避する。

 

「むっ、面倒な真似を……ッ!?」

 

 トリガーを用いた攻撃ではないため脅威ではないが明らかに時間を稼ごうとする相手の動きを煩わしく思っていると新たに黒い銃弾が身体に刺さり、重りが加わる。

 

「来たのか」

 

「おっ、三輪先輩!!」

 

「標的を確認、処理を開始する」

 

 米屋が所属する三輪隊の隊長である三輪秀次がその場に現れた。

 

 


 

 

「本部までもう少しだ!!」

 

 ワープによって新しく新型トリオン兵が送られてくる事はなかったが倒したという情報がない以上は警戒して損はないと慎重に足を進める。

 

【こちら嵐山、三雲隊員とキューブ化された雨取隊員を連れて本部へ帰還しました】

 

 侵攻時は厳戒態勢がしかれている。秘密経路と同じくトリガーを翳すことで開閉は出来るが連絡をいれたほうが手早く済む。

 

 敵の狙いが雨取であることは既に通達されており、本部職員も嵐山隊の姿を確認すると直ぐに扉を開き、その場の隊員が入ったのを確認するとトリオン兵が入り込まないように直ぐに閉められた。

 

「よし、開発室に雨取さんを連れて行こう。キューブ化の解き方は既に判明している」

 

「はい」

 

 無事に本部に辿り着き、開発室まで三雲を案内しようとしたその瞬間、嵐山につけられた『蝶の楯』による欠片を起点にワープが開かれた。

 

「ここまでご苦労さま」

 

「なっ!?」

 

 初めに一番近くにいた嵐山の周囲に小さな黒い穴が開くといくつもの棘が鋭く突き刺さりベイルアウトになる。

 

 動揺しつつも即座に攻撃態勢に移った木虎と時枝がアステロイドを放つが小窓で返される。狙われてる雨取を奪われるのも本部の奥へ入られるのも不味い。

 

【シールドを張りなさい!!】

 

 この状況をどう切り抜けようかと思考を巡らせている三人に通信が入る。そして急な指示に反射的に従ったその瞬間、入り口が切り刻まれ、敵の付近にメテオラによる爆撃が降り注いだ。

 

「ようやく追いついたわ。もう終わりよ」

 

 入り口を破壊する音に警戒し、敵も防御をしたが既にボロボロであった。何が起きたのか把握する前にそのトリオン体は真っ二つに斬り裂かれた。

 

「小南先輩!!」

 

 


 

 

「……ミラ!?」

 

「申し訳ありません。トリオン体を破壊されました。なんとか船に帰還しましたが……」

 

「目の前で話をするなどふざけてるのか?とっととくたばれ!!」

 

 シールドで弾を確実に防ぎ、鉛弾と弧月を用いて傷を与えていた三輪。ミラの作戦の失敗を聞き動揺したすきを逃さない。

 

「一度立て直すか……」

 

「逃がすか!!」

 

 まだ時間はあると船に戻り立て直そうと展開されたワープをくぐる。三輪は急に逃走を図った相手にあっけにとられとられつつも直ぐに怒りを再燃させ、追撃を仕掛けたが仕留めるには至らない。

  

「クソッ!!」

 

「落ち着けよ。とりあえずまだトリオン兵がいるんだそっちを処理しようぜ」

 

「……ちっ、わかってる。こちら三輪、対象の逃亡を確認、トリオン兵の掃討に戻る」

 

 


 

 

「予想外な事ばかり起きたが、いくつか座標を確認することはできた。後は『窓の影』で奇襲を仕掛ける。流石にこのままでは損失がでかすぎる」

 

 トリオン兵を送り込むゲートは敵に誘導され、市街地を襲うことすら出来なかったが、時間を掛ければ座標を計算して導き出すこともできる。

 

 残り少ないがトリオン兵自体も無いわけではない。それらを駆使すれば金の成鳥は無理でも多少のお土産程度は確保できるだろう。

 

「それを許すわけにはいきませんね」

 

「……白鬼!?」

「なぜ此処に!!」

 

「ゲートの座標を調べてたのはこちらも一緒ですよ」

 

 敵の船に乗り込むというのはまず想定のない行動である。ましてやトリオン体の破壊されたばかりの者ばかり、そして破壊されては困る船ではそもそも戦うという選択肢はとりづらい。そして、目的は聞くまでもなく直ぐに判明した。

 

「これは帰還命令か……」

 

「えぇ、ですが座標の方は少しいじらせて貰いました。確認してもらっても構いませんよ」

 

「なにッ!?」

 

「座標が書き換えられています!?命令の変更が出来ません!!」

 

 やってくれたなと相手を睨みつけるがそんな視線を全く気にせずに悠菜は笑っていた。

 

「玄界の情報を渡さない為、攻めてきた者がどうなったか知らしめる為、色々と理由はありますがこれでも故郷を攻撃されて怒ってるんですよ」

 

 話してる間に作業は終わったのか近くに浮遊していた悠菜のレプリカがゲートを開いている。

 

「貴方達と敵対してる国を選んでおきました。運良く生き残れば帰れるかもしれませんので頑張ってください。それでは」

 

 話すだけ話してゲートをくぐると、タイミングをはかっていたのか直後に彼らの遠征艇は進みだした。悠菜の発言がどこまで本当かも分からない中で死を待つ様な近界の旅路が始まったのだ。

 

 


 

 

「これでちょっかい掛けてくることはないかな。後は適当に報告して終わりだ」

 

[迅や林藤あたりは気付きそうだがな]

 

「城戸さんとかも分かっちゃいそうだけど、仕方ないでしょ」

 

 

 対近界民大規模侵攻三門市防衛戦は市民にもボーダーにも被害はないという奇跡的な勝利を飾って確かに終わった。

 

 





いやぁ、最後ちょっと駆け足過ぎたかな。それでもこれで一応、大規模侵攻までおしまいです。

追撃や報復を回避するために遠征艇をジャックして、敵国に島流し。待ち伏せて全員殺すというエンドを最初は考えてたんですが、どっちのがエグいですかねぇ。

実を言うと大規模侵攻を書いてて、途中でけっこう大きなミスがあってモチベとか以前に書き方に困ってて投稿が遅れたり、最後駆け足になりました。

書き始めた頃はランク戦も途中だったのでここでこの作品自体はおしまいです。エピローグ的なのや後日談は上げる予定ですが、一旦おしまいです。

最初の頃の悠菜の設定とか過去話とかあんまり活かせてないし、戦いも黒トリガーだよりに傾いたし、気が向いたら(狂ったら)リメイクしたいなぁ……まぁ時間がないので難しいですけどね。

なんかまぁ、こんな感じになりましたし、未練は多いですがとりあえず終わりです。こんな作品を読んでくれた方々には本当に感謝しかないです。ということでいつもの挨拶でさようなら。

読んでくれた方々に多大なる感謝を。


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