転生したら魔法少女だった件 (TYPE-HAMELN)
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序章
死亡~そして転生~


 

「牡蠣フライソフトクリームを一つください」

 

ありがとうございました!という店員さんの元気な声を背に受けて、オレは路上を歩いていく。

牡蠣フライとソフトクリームの組み合わせたこれがオススメ!となっていてオレはつい買ってしまった。

美味しいのか?美味しくないのか?期待と不安を胸に秘めながら、まずはソフトクリームをヒト舐めする。

 

「うん、普通のソフトクリームだな」

 

周りの人に聞かれてないことを確認してそう呟いた。どうやらオレは普段とは違うこの食べ物を前にして、

子供のようにワクワクしているようだ。その興奮のせいか少し暑くなった体にソフトクリームの冷たさが心地よく染み渡る。

 

「う~ん、やっぱり牡蠣フライと一緒に食べるのは勇気がいるな」

 

そんなことを呟きながらもきっと、オレの眼がキラキラと輝いていることだろう。

やはり、未知への挑戦はいつだって楽しいものだ。いつ食べようか?と楽しみは最後まで取っておく派のオレはペロペロしながら考える。

牡蠣フライ。単品でも美味しいそれを、甘味と合わせて食べる。それはすこし緊張してしまうことだった。

 

そんなことを考えていたからだろうか?オレは背後から迫るトラックの群れに気づかなかった!

 

「グフッ!グワーッ!痛みがない。死ぬのか?オレは」

 

居眠り運転か、それとも別の理由があるのか。

突然の背後からの衝撃。空に浮かぶオレが見たのは路上に突っ込んでくる無数のトラックだった。

現実とは小説よりも奇なり。そんな現実逃避をしてしまうぐらいに現実感のない現実だった。

 

「牡蠣フライソフトクリームを最後に食べたかったな」

 

顔にへばり付いた牡蠣フライだったもの。きっとトラックにぶつかった時にこうなったのだろう。

これがオレの人生の最後になるのかと考えると無性に悲しくなった。

家族のことが心配だ。友達のこと、知り合いのこと、脳裏に浮かぶのは過去の出来事だ。

きっとこれが走馬灯と呼ばれるものなのだろう。そう思った。

そしてこれがオレの最後になるのだという実感が湧いてきた。

 

するととたんに不安になった。死ぬのが怖い。もっと生きていたい。

どうしてオレが死なないといけないんだ。こんな考えは無意味だ。

だってもうすぐオレは死ぬ。だったら最期は良くしよう。

 

「さてはて、どうしようか...たしかこうだったかな?我が生涯に一片の悔い無し」

 

そんなことはない。悔いが無いわけがなかった。それでも今のオレにできるのは満足のいく最期だけ。

無念な死に顔なんて面白くない。笑って死のう。痛みは感じない。今のオレにはそれこそが一番の救いだった。

だってこんなにも笑顔でいられるのだから。きっと痛みがあれば、そんなことはけしてできなかっただろう。

そう考えると、こんな風に終われるオレは幸せだなと、心から思った。

 

意識はどんどんなくなっていく。それはまるで眠るようで、きっと眼を閉じたら起きられない。

 

遠くに聞こえる人の声に、サイレンの音がする。それもまたおぼろげで、だからこれもきっとオレの都合の良い幻聴だろう。

 

 

――異世界に転生したいか?

 

 

「あぁ...」

 

 

オレの笑みが深くなる。当たり前だ。生きていたいさ。生きるために生まれたんだから。オレは生きたい。

最期のこんな声が聴こえるなんて、まあそれでも夢見る権利はオレにもあるか。

 

 

「いきたいなぁ......」

 

 

―――確かにその願い。叶えたぞ!



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地位向上編
01話 現状を確認しよう


「知らない天井だ」

 

オレは目を覚ます。もう二度と眼を開くことはないと思っていた。なぜならば死んだからだ。

死んだはずだった。それでもオレは生きている。どうしてもそれが信じられなかった。

 

「脈がある。心臓の鼓動が聴こえる。手の感触がある。音が聴こえる。目が見える。匂いがする。味もする。これは嘘をついている時の味?」

 

オレは突然の奇行にビックリ仰天している美少女に尋ねる。

 

「君はひょっとして天使?」

 

その美少女はそれぐらいに美しかった。きっとここは天国なんだろう。

時代は進んだ。天国にだって天井くらいあるさ。妙に現代ちっくであってもこれが現実のはずがない。

オレは生きているとするなら間違っても病室でもないこんな場所にいるわけがないだろうし、

家族や友達、ましてや知り合いですらない初対面の、それも医者でも看護師にも見えない少女がこんな側で、しかも明らかにオレに見ているなんてありえない。

だからこれはきっと死に際に見る夢。もしかしたら奇跡的に生きていて、それでも植物状態になっていて起きることもできない状態だとか、そういうあれだろう。

 

むしろ、そうでもなければオレが困る。死んだと思ってたのに、眼を開いたら絶世の美女ならぬ絶世の美少女がいて、

死んでるからいいよね!とばかりに、現状確認のフリをして女の子の体を触れたりなめたりしてしまった。

未成年の少女にそんなことをしてしまったのだ。いくらなんでも許されないだろう。なんでそんなことをしてしまったのか、まあいいか。

そんな現実逃避も一瞬で、現状は刻一刻と移り変わっていく。それを体で思い知ることになろうとはこの時のオレは考えてもいなかった。

 

「いきなりナニをするんですか!それにミコは天使じゃありません!ちゃんと神宮寺神子っていう由緒ある名前があるんですよっ!」

 

彼女、いや神宮寺神子さんはそういって起こっていた。プンプン!という擬音がつきそうなその態度は見ていてとても愛嬌のあるものだ。

しかし、これはまずいな。怒っていはいても可愛らしいその姿に和んでいる場合ではない。

オレは冗談ではすまないようなことをしてしまった!現実逃避をしている場合ではない。何とかしてごまかさなくてはッ!

 

「いやー、神宮寺さん。これはすまないことをしてしまったね。何分、突然のことで私も混乱しているんだ。何か事情を知っているのであれば教えてはくれないかい?」

 

そういって、申し訳無さそうな、困ったような苦笑をしてみせる。

美少女と話しているとこっちまで美人さんになったような気分になる。それになんだか若返るような感じがする。

なんだか声の調子も良い。いつもより高い声が出ていた。なんだか自分の体じゃないみたいだ。

それも仕方がないだろう。あんな事故にあったんだ。認識に齟齬が発生していてもおかしくはない。

そう思うと自分の体に欠陥が生じているんだろうなというショックがオレを襲う。健康ではないということは、普通ではないということはなかなかに堪えるものだ。

 

そんな深い悲しみのオーラが漏れ出ていたのだろうか。美少女がこちらを気遣う声色で話し出す。

 

「混乱されているというのはわかりました。お気持ちはお察しします。それでは私から結論だけお伝えします。」

 

 

―――あなたは魔法少女になりました

 

オレはその言葉に首をかしげることしかできなかった。

 



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