セイバーオルタRPガチ勢が行く (サレナルード)
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プロローグ
かつてユグドラシルにて、全プレイヤーを震撼させ、畏怖の念を送られたプレイヤーがいた。
曰く、蝋人形のような可憐な少女。
曰く、単騎で圧倒的な制圧力と殲滅力を持つ。
曰く、人でありながら竜の因子を身に宿す異形種。
彼女が所属するギルドはあの悪名高いアインズ・ウール・ゴウン。
あのプレイヤー1500名がアインズ・ウール・ゴウンを攻略しようとした、ユグドラシルの歴史に残った大
正しくユグドラシルの頂点に君臨していた彼女は今、終わりの時をただ静かに待っていた。
◆
「····終焉か」
洞窟の中、黄金に輝きながらも禍々しいオーラを放つ杯のような器····“黒い聖杯”を背に言葉を漏らす。
何ヵ月も前から知らされていたユグドラシルのサービス終了。覚悟は出来ていたはずだが、いざ終わるとなると大きな喪失感と胸の痛みが押し寄せ、地面に突き立てた“黒い剣”に乗せた手に、意図せず力が籠る。
もしかしたら、この無機質なデジタル時計の数字が全て0になっても、変わらずにユグドラシルは続くのではないかと思ってしまうほど、私はサービス終了を受け入れきれていなかった。
そんな訳はあるはずがないのに。
「今ログインしているのは····」
今ではもう数少なくなったギルドメンバー。掛け替えのない愉快な仲間達。
辞めた理由は飽きや仕事の都合が大半だが、何も言わずに突然ログインしなくなった者もいる。
ギルドとしてはもう半壊。それはアインズ・ウール・ゴウンだけではなく、ユグドラシル全体でも珍しいことではない。
かつて争った、或いは共闘した戦友は皆、新しいゲームに移ってしまった。だが、それでも残ってくれたギルドメンバーは――いる。
「フッ、やはりギルマスはログインしているか」
我らが頼もしいギルドマスターモモンガは、今日も今日とてログインしていた。
私達アインズ・ウール・ゴウンは、全員が社会人で構成されているギルドだ。私もその例に漏れず、とある企業に勤めている。それでも私は少々特殊な立場故に毎日ログイン出来ているし、勤務に支障はない。
だが、モモンガは聞いたところによると中小企業勤務で、アーコロジー外に住んでいるらしい。
世界中に汚染が進み、格差が広がった現実世界では“外”に住んでいるだけで致命的だ。教育も満足に行き届かずモモンガは最終学歴が小卒だという。
それでも外ではいい方らしいが、小卒を雇って回している企業が相当な“
そんな彼がユグドラシルに毎日ログインできていたのは、ユグドラシルを、ひいてはアインズ・ウール・ゴウンをこよなく愛していたからだろう。
いつだったか····ユグドラシルの大半を冒険し尽くし、目標を無くした世界で、ギルメンが一人また一人と消えてゆき、ついには私とモモンガのみが毎日ログインするようになったあの日。
彼は私に、皆と同じように引退しないのかと聞いてきた。
たしかに世界から未知は無くなり、ギルドは形を維持しているだけで、防衛設備は最低限しか機能させず、維持費だけを稼ぐような日々になり、楽しさは減っていた。
あそこで引退していてもよかったのだろう。あそこで彼に全ての装備を渡し、不細工ながらも愛おしい手作りゴーレムが、皆と同じように並ぶのも良かったのだろう。
しかし、私は彼のその厳つく表情の読み取れない骸骨の顔に、言い表すことのできない哀しみと僅かな憤りを見てしまった。確かに私も皆が消えていくことに感じるものが無かったと言えば嘘になる。
だが、同情して残ったのではない。
それは彼にとっても私にとっても侮辱にあたる。
ゲームとは楽しむ物だ。そう、私は楽しんでいた。楽しんでいるからユグドラシルを続けていた。
彼と資金稼ぎにクエストを周回することも。
終わり間近になり、二束三文の値段で売られ始めた神話級装備やレアアイテムを見つけて大笑いしながら買い占めたことも。
二人でNPCを並べて魔王と暴君のロールプレイをすることも。
全部全部、楽しかった。
「····感傷か。私らしくもない」
そうだ。私はセイバーオルタ。
かつて一世を風靡したfateの看板アルトリア・ペンドラゴンが、聖杯の泥で
そしてそれを、図々しくも模倣した
憧れた姿を、信奉するあの王を再現している以上、このような弱気な姿勢は
まぁ、要するにセイバーオルタはかっこよく、そして美しいままで!というオタク特有のめんどくさいこだわりがこうさせているだけなのだが。
「····もう残り少ない時間ではあるが、会いに行くとしよう」
既にサービス終了まで残り僅か。最後は彼処で彼と終わりを迎えるのもいいだろう。
「聖杯は····いいか。今更わざわざここまで強奪しに来るアホもおるまい」
ワールドアイテム“黒い聖杯”
元々、超高難易度のダンジョンとしてあったこの洞窟の最深部にて、ワールドエネミーが守っていた物であるが、攻略後拠点にした際に入手することができた。
効果としては敵対プレイヤーを殺害した総数に応じて最大MPを増加させる効果を持ち、一人殺害につき通常のレベル100魔法特化ビルドキャラの最大MPの約一割ほどを増やすという破格の性能を持つ。
さらに、装備型アイテムであるにも関わらず、拠点に置いたままでも装備しているとみなして効果を発揮し、その際には、装備者以外が触れると状態異常を無効化していようと、ワールドアイテム所有者だろうと大量のバッドステータスが付与され、低レベルだと一秒もたたずに死亡する。
それでも強奪しにこようとするバカは何人もいたので、今までは自身がいるときだけ拠点に置いていたのだが、この最終日にわざわざ死にに来ることもないだろう。
尚、この“二十”にも匹敵する性能でありながら、消費アイテムではない故か、デメリットとしてこれを装備するとカルマ値が強制的に
これが厄介で、レベル1以下になるとアバターは完全消滅し、更には所有する全アイテムも含め、アカウントが消去されるため、一緒に攻略したギルドメンバーは誰も装備したがらなかった。
良くも悪くも、ユグドラシルには初見殺しと呼ばれるような、凶悪なモンスターやギミックが珍しくないので、所属メンバーのほとんどが100人以上プレイヤーを殺害しているPKギルド、アインズウールゴウンのメンバーはアカウント消滅のリスクと無尽蔵のMPとを天秤に掛けただけだ。
では、なぜ私の手元にあるか。それはひとえにセイバーオルタを再現する為である。
セイバーオルタは先ほど説明した通り、アルトリアペンドラゴンが聖杯の泥で汚染され、反転した姿だ。
そしてその聖杯とこの“黒の聖杯”は、カルマ値を極悪にしたり、莫大なMPを供給したりと、性質が似通っている。これを装備せずして何がセイバーオルタだ。
デメリットは大きいが、なに、一度も死ななければいいだけだ。たとえ死んでも、その時はその時。金にものを言わせてまた作り直す。
そう意気込んで使用していたが、手に入れてからサービス終了のこの日まで、ついぞ死ぬことはなかった。
それは多少慎重に行動していたこともあるが、初見殺しだろうが凶悪なギミックだろうが“1500人のプレイヤー”だろうが、この聖杯と“剣”が合わさった圧倒的な暴力の前には、何者も敵わなかっただけだ。
「懐かしいな····と、いかんな。転移先は····円卓でいいか」
過去の思い出に浸るのもいいが、今は彼の
ああ、そうだ。アイツにはここで最後の挨拶をしなければならないな。
洞窟の半ばまで歩いて行き、侵入者を迎撃するように設定しておいた白髪の青年に近づく。
「これでもう、別れだな」
こいつと最後を迎えることが出来ないのは、少々残念だ。せっかく作ったレベル100NPCなのに、ほとんど拠点の防衛にしか使用しなかったが、それなりの愛着はあった。だが、NPCは拠点の外に出せないのだ。仕方がない。
一抹の寂しさを背に、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンでナザリックへと転移した。彼へ最後の言葉と共に。
「では、恐らく悠久の時を留守にするだろうが、ここは頼んだぞ―――」
―――アーチャー
転移し消える瞬間、彼が呆れたように肩をすくめたような気がした。
特異点Fの時のオルタの方が書きやすかったので、桜ではなく彼で。
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第一話 アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ
「では、モモンガさん。またどこかでお会いしましょう」
その言葉を最後に、ヘロヘロさんはログアウトしていった。
誰も居なくなった円卓に、言いようもない静けさが訪れる。
かつて42人が座っていた円卓に残るのは、もはやギルド長たるモモンガ一人。
「····ッ!」
0
その変えようのない事実に、胸のなかで悲しみや寂しさ、怒りといった大きな感情が、ごちゃ混ぜになって思わず両腕を振り下ろしたが、その虚しさを表すかのように「0」という数字が、ダメージ計算の結果現れる。
「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!なんで皆そんなに簡単に捨てることができ―――」
激しい怒りに、思わず叫んでしまった瞬間。
「―――随分と荒れているな。ギルドマスター?」
背後から、声が聞こえた。
「貴女は!」
聞き慣れた冷徹な声に、すかさず振り返る。
「ヘロヘロとは入れ違いになったか」
「オルタさん!」
そこに居たのは、漆黒のドレスアーマーに、目元を隠す血に侵食されているような禍々しいバイザーを着けた、女性――プレイヤー名『セイバーオルタ』だった。
「すみません。情けないところを····」
「構わん。私も思うところが無いわけでは無いのだからな」
相変わらずロールプレイを重視した口調だが、言葉の節には彼女なりの気遣いが見える。
「それより、時間はいいのか?もう10分も無いだろう」
「ああっ!そうですね。せっかくですし、最後はあそこで終わりましょうか」
「そうだな。アレも持っていくといい」
彼女の目線の先にある、台座に掛けられた杖。
“スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”
ヘルメス神の杖をモチーフにした黄金のスタッフであり、七匹の蛇が絡み合い、それぞれの口に神器級アーティファクトの宝玉を咥えている。
「でも、これは····」
「なに、最後くらい貴様が持っていても誰も咎めはせん。元より、それは貴様が持って然るべきものなのだから」
ギルドの象徴であるギルド武器は、破壊されればギルドが消滅する。それを理由に今まで装備してこなかったが、今では、過去の輝かしい思い出の結晶であるコレを、今の情けない自分が持って泥を塗るのかという思いが少なからずあった。
「それとも、コレを一人にして終わりを迎えると?」
「それは····分かりました。持っていきましょう」
彼女の言う通りだ。たとえ、自分に持つ資格が無いのだとしても、AOGの栄光を象徴するコレを放置して終わるなど、現実に目を背けているだけだ。
「では行くか」
「ええ」
円卓の間の扉を開き、玉座まで歩く。あそこには
カツカツと、二人分の足音が静寂な廊下に響く。
隣を歩くオルタさんは、身体に一切のぶれもなく背筋を伸ばし、まるで王者のように不遜で堂々としていた。
思えば、ユグドラシル内で最も長い間を共に遊んでいる気がするが、相変わらず本当にどこかの王様か騎士のように感じさせる雰囲気を漂わせていて、彼女の方がギルドマスターに向いているのではないかと思うことがある。
本人はただのロールプレイと言っていたが、見ているもの、聞いているものが思わず従ってしまうようなカリスマ性は、しがないサラリーマンの自分にはないものだ。
リアルの執拗な詮索はマナー違反だと思い、詳しくは聞いていないが、リアルでも高い地位にいる人間だと思わざるを得ない。
「む?どうかしたか?」
「あ、いえ。相変わらず格好いいなーと」
「ふふん、そうだろう?何せ――」
ただし、欠点を上げるとするなら、彼女はその見た目····曰く、ロールプレイしている元にあたる、大昔に流行ったゲームのキャラクター『アルトリア・ペンドラゴン・オルタ』を誉めると、途端に長々と語り出すことだ。
見つめていることがバレて、咄嗟に誉めたのは失敗だったかも知れない。
「あーっ!あそこにNPCがいますよ!せっかくだから連れていきましょう!」
と、そこで廊下の壁側に並べられている七体のNPCを発見したので、これ幸いと長くなる話を強引に絶ちきった。
「む、NPCか····いいところだったのだが」
「たしかプレアデスですね。名前は····」
コンソールを開いて、それぞれの名前を見る。
セバス
ユリ・アルファ
ルプスレギナ・ベータ
ナーベラル・ガンマ
ソリュシャン・イプシロン
シズ・デルタ
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ
プレアデスと呼ばれる、執事長のセバスを筆頭にした戦闘メイド部隊だ。
セバスを除く六名は、今ここには居ないもう一人を加えた七姉妹という設定で、ナザリックの防衛を担当している。
「付き従え」
ボイスコマンドを入力すると、彼らは一列に並び、背後に控えた。
「これ、オルタさんの後ろにつけたら映えますね」
「そうか?付き従え」
彼女が言うと、自分の背後に並んでいたプレアデスが、彼女の背後に移動する。
「おー」
そのまま玉座の間に向けて歩き出すと、まるで王に付き従う家臣のようで、なかなかに圧巻だ。
「ついたぞ」
そんなことを考えながら進んでいると、玉座の間の入口たる大扉にたどり着いた。
相変わらず無駄に、とは言わないが非常に凝った造形をしている。左右の扉には女神と悪魔を模した彫像が施されており、今にも動き出しそうなほどリアルだ。
かつておふざけに、擬態したゴーレムを作ってメンバーに悪戯をしていた『るし☆ふぁー』が、なにか細工をしていない限り動くことは無いだろうが。
「では、開けますね」
「ああ」
一応、襲いかかってきてもいいように恐る恐る扉にふれるが、何も起きない。
さすがに杞憂だったようだ。
指先が扉につくと、扉は自動ドアのように独りでではあるが、ゆっくり重厚さを感じさせながら開いた。
瞬間、空気が変わった。
ここまでの廊下も、神殿か城のような静謐さと荘厳さを兼ね備えていたが、目の前の空間は魔の巣窟の最深部だというのに、息を呑むかのような神聖な雰囲気を醸し出していた。
「おおぉ····」
「ほぉ····」
思わず、感嘆のため息が漏れる。
彼女も永らくこの“玉座の間”を訪れなかったからか、呟いた言葉には美しい芸術を見た時と同じような感動が含まれていた。
「ん?アレは····」
最奥の玉座に向かって歩くと、玉座の横に立つ女性に気が付いた。
「アルベドか」
こちらが名を言うより早く、彼女が言った。
ナザリック地下大墳墓階層守護者統括『アルベド』
全七名で構成された階層守護者をまとめ上げている、という設定のNPC。
実質的なギルドメンバー以外の頂点であるということからここに控えていたのだろうが、彼女の持つアイテムに気付き、軽く不快感を抱いた。
「何故ここにワールドアイテムが?」
そう、彼女がギルドの宝であるワールドアイテムを所有していたからである。
ユグドラシルで最もワールドアイテムを保有していたAOGでも現在“13個”しかなく、ギルド武器に続く最重要アイテムだ。
自分は専用のワールドアイテムを一つ装備しており、オルタさんもまた専用のワールドアイテムを“二つ”装備しているが、本来ワールドアイテムは宝物庫にて厳重に守られているものだ。
たとえ最上位NPCであろうと、勝手に所有させることは許していなかった。
「大方、タブラが引退する時に渡していたのだろう。聞いていなかったのか?」
「はい。はぁー、タブラさんはもう····」
「まぁ許してやれ。タブラの最後の我が儘だったのだろう」
「····そう、ですね」
社会人ギルドだけあって、
「うわ、アルベドってこんな設定長かったんですね」
アルベドの装備を見たついでにフレーバーテキストを開くと、かなりスクロールしないと終わりが見えないほど、設定が細かく記されていた。
「なになに····ちなみにビッチである····って!なに書いてるんだあの人!」
あまりにも長いので最後の一文だけを読んだが、そこには見た目の清楚さとは裏腹に、“ビッチである”というギャップを感じさせる一文が綴られていた。
「タブラはギャップ萌えが好きだったからな」
「だからってですね····女性のメンバーだっているのに」
「それを言ったらペロロンチーノは、いつも私にメイド服を着ろだの、サンタ服を着ろだのと迫ってきていたぞ」
「えぇ····」
よくもまぁ“ユグドラシル最強にして冷徹なる暴君”と呼ばれた彼女に、そんなことを頼む勇気があったと思う。
―――モモンガさん、萌えの求道者は時に勇者になるんですよ―――
何故か、脳裏にペロロンチーノの幻影が現れて、そう宣った気がした。
―――黙れ、弟――
すぐさま姉に締め上げられているのも、目に浮かんだが。
「ビッチが気になるなら書き換えればよいではないか」
「いや、流石に人が作った設定を勝手に変えるのは」
「なに、タブラもワールドアイテムを勝手に持たせていたのだ。これくらい許されて然るべきだろう」
若干迷ったが、彼女の言う通りタブラさんが勝手をしたんだ。こちらも勝手をさせてもらおう。
なにより、ナザリックのNPCを纏める彼女が、このような設定なのは少し救えない気もする。
「····じゃあ“ギルメンを愛している”とかにしますか?」
「そんなものでいいのか?“モモンガを愛している”でもいいんだぞ?」
「流石に恥ずかしすぎますよ、それ」
とは言ったものの、自分一人だったらふざけてそう書き換えていたかもしれない。
「さて、もうあと3分もないか」
「そうですね」
気付いたら、サービス終了の時間である00:00:00まで、残り3分になっていた。
「最後くらい、王座に座ったらどうだ?そこは、貴様のために作った席だ」
「でも、オルタさんは」
「私は····そうだな。最後は騎士として終わるとしようか」
そういって、彼女はアルベドの反対側に立ち、アイテムボックスから漆黒の剣を取り出して床に立てた。
ただ正面を向き背を向けて立つ姿は、まるで王を守る騎士のようだった。
「どうした?座るといい」
「では、失礼します」
そして背を玉座に預けて深く座り、フロア全体を見渡すと、玉座の前でプレアデスがそのまま立っていたことに気付いた。
ここで閃いた。
どうせだから、彼女のように、ギルド長として威厳を見せるようなロールプレイをしよう。
「ひれ伏せ」
自分でも驚くほど低い声が出た。心なしか、出ていないはずの絶望のオーラが滲み出ている気がする。
すると、NPCたちはアルベドも含めボイスコマンドに沿って片膝をつき、頭を垂れた。
「フッ」
背を向ける彼女が笑った。どうやらお気に召したようだ。
こういうロールプレイはたまにしかしないし、こういった威圧的な態度は彼女のほうが断然似合うから、自信は無かったのだが。
「オルタさん」
「なんだ」
「楽しかったですか?」
「そうだな」
時計を見ると、残り1分ほどしか残されていなかった。
「オルタさん」
「なんだ」
「私も、オルタさんがずっと残ってくださって楽しかったですし、嬉しかったです」
「そうか」
「モモンガ」
「ッ、なんですか?」
彼女が振り返る。
そこに目元を隠していたバイザーは既になく、黄金に輝く双眼がこちらを見つめた。
アバターであり動かないはずの顔には、普段の冷徹な姿とは似ても似つかない、優しい笑みが浮かんでいる気がして思わずドキッとしてしまった。
「今までありがとうございました。私も、嬉しかったですよ」
「····は····い」
涙が出そうだった。
いや、現実の肉体はきっと泣いているだろう。
ギルド長として、これまで頑張ってきた。
仕事の都合や飽きや事故で居なくなったみんながいつ帰って来てもいいように、資金集めのための周回や、希にくる他のプレイヤーを撃退していた。
その隣にはいつも彼女が居た。
彼女に聞いたことがある。あなたは他のみんなのようにユグドラシルを去らないのかと。
帰ってきた言葉は―――
『―――ここを去るか、だと?貴様、次にその言葉を言った時はその頭蓋、叩き斬るぞ』
剣を構えて暴君のオーラを放ちながらそう言われ、正直身が身が竦んだが、彼女はその後何も言わずに周回に付き合ってくれた。
『見ろモモンガ!神話級装備がこんな値で売られているぞ!』
サービス終了間際彼女とプレイヤーの売店に行ったとき、神話級装備や希少アイテムが二束三文の値段で売られていて、大笑いしながら買い漁った。
『私の機嫌など取るな。ギルドメンバーが死のうと異形種が苦しんでいようと、何も感じない女だからな』
ギルドメンバーになって間もない頃、いつも不機嫌な彼女と仲良くなろうとすると、彼女はそっぽを向いていたが―――
『何をやっている、貴様は私達の王なのだろう?ならば膝を屈するな。立ち上がっている限り、私は貴様に力を貸そう』
複数のプレイヤーに襲われキルされそうになった時、彼女は颯爽と現れて薙ぎ払ってくれた。
『なに?バーガーだと?チッ、味が無いではないか。
電脳法で味覚が禁止されているため、ワールドアイテムを使って運営に要求しようとも承諾されないだろうし、そもそもバフ目的の料理にワールドアイテムを使おうとするという、意外に微笑ましい一面を見せる時もあった。
『今までありがとうございました。私も、嬉しかったですよ』
そして、今。
今まで一度も崩したことの無かった徹底したロールプレイをやめ、彼女らしからぬ丁寧な口調でそう返された。
この瞬間、自分の中で消え去りかけていたユグドラシルへの未練が、また出来てしまった。
彼女ともっと冒険したかった。
彼女ともっと話したかった。
彼女ともっと遊びたかった。
彼女ともっと―――
「モモンガ····もう、お別れです。最後にいつもの、お願いしますね」
「····はい」
彼女の連絡先は知らないし、どこに住んでいるかも分からない。ユグドラシルが終われば、彼女との繋がりは無くなる。
それでも、願わくば。
「アインズ・ウール・ゴウンに」
「アインズ・ウール・ゴウンに」
―――もっと一緒に過ごしたい。
『栄光あれ!』
星が流れた気がした。
◇◆◇◆◇
スレイン法国最高議会にて
「さて、次の議題だが、数ヵ月前に首都郊外に突然現れた洞窟についてだ」
「ああ、あれか。たしか未知のダンジョンの可能性を考慮して、例の作戦に支障のない数の陽光聖典を派遣したのだったか」
「で、その洞窟はどうだったのです?鉱山資源でもありましたか?」
「全滅だ」
「は?」
「全滅だと言っている」
「馬鹿な!アレは使い捨て部隊とはいえ、天使を連れていたのだぞ!」
「落ち着け、監視していた風花聖典によると、入り口に入った瞬間凄まじい威力の“矢”によって、盾にしていた天使ごと撃ち抜かれたらしい」
「天使を!?」
「なんてことだ····」
「これは異常なことだと私は判断した。場合によっては漆黒聖典の派遣も考えている」
「っ!それは」
「いや、妥当かもしれん。あの周期を忘れたのか?」
「そんな、まさか」
「ああ、事は思ったよりも重いものかもしれぬ」
「では、漆黒聖典の数名を派遣することで異議はあるか?」
「異議なし」
「異議なし」
「異議なし」
「では、決議とする。次の議題だが――」
会議は、続く。
おや?モモンガの様子が····
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第二話 転移
だ、大丈夫だ。私はナザリック勢にいるセイバーオルタを書いているからセーフのはず!
まぁそれよりもっと前からオバロにセイバーオルタ登場させてる人いるんですけど。
だがそれもナザリック勢じゃないからノーカウント!ノーカウントなんだ!
おい、まじかよ、夢なら覚め
「これは····どういうことだ」
声が聞こえた。先程まで聞こえていた声と同一人物によるものだったが、それはマイクを通したような声ではなくよりクリアでよく通る声だった。
「なん、で」
終わると同時に閉じた視界を開くと、そこには変わらず王座の間が広がっており目の前にはプレアデスとアルベドが跪き、隣には彼女がいた。
「モモンガ」
彼女が名前を呼ぶ。その声は終わり際に見せた優しいものではなく普段通り冷徹なものであったが、少なからず動揺を含んでいるようだった。
「は、はい」
「コンソールを開けるか」
彼女に言われ試してみるが、ダメ。
虚空をつつくだけで反応はない。それに今気付いたが、視界の端に表示されるはずの自身のHPやMP、時間などといったUIが軒並み表示されなくなっている。
まるで“現実世界の視界”のように。
「····ダメ、ですね」
「私もだ。GMコールやチャット、挙げ句に強制終了すら出来ない」
「サイバージャック····でしょうか」
「可能性としてはな。だが、よく見てみろ。これは最早、サイバージャックというレベルではない」
「え?なにを····ッ!」
原因不明の事態に動揺して目がいかなかったが、彼女をよく見ると、彼女が声を発する度に“口が合わせて動いている”ことに気が付いた。
「外部からゲームにハッキングして、機能を制限しているのならまだ分かる。だが、元々無かった機能を瞬時に搭載させることは不可能だ」
ユグドラシルはフルダイブ型のゲームではあるが、サービス開始から既に長い時を過ぎている。
それ故に最新型のゲームと比べて技術が劣る部分が多くあり、中でも表情や口の動きのリアルタイム反映は、多くのアップデートを重ねてきたユグドラシルでも不可能だった。
文字通り、唖然。
サイバージャックだろうとアップデートでの退去もなくそんな機能を実装するのは、今の現代技術では考えられない。
「それに、気付いているか?」
「····え?」
訳が分からない事態の連続に混乱している中に、彼女が更にぶちこんできたのは、もはや自分の脳では処理しきれないものだった。
「····面を上げろ、
「はい、セイバーオルタ様」
「―――ッ!」
「やはり、な」
どういうことだ。彼女がアルベドに命令すると、アルベドが顔を上げた。
だが問題はそこではない。ボイスコマンドによってそういう行動をするようにマクロを組むことは出来る。
だが表情を変え、口を動かし、命令した人間に返事をするなどNPCに出来るはずがない。
「アルベド、GMコールがきかないようだ。何故だか分かるか?」
「····お許しを。無知な私ではGMコール、というものに関してお答えすることが出来ません。ご期待にお応えできない私に、この失態を払拭する機会をいただけるのであれば、これに勝る喜びはございません。何とぞ、何なりとご命令を」
間違いない。“会話”している。
「ふむ····いい、下がれ」
「はっ」
彼女の命令にアルベドは一歩下がると、先程のように跪いた。『ひれ伏せ』などとは言っていないはずなのに。まるで、自分で考えて判断したようにも思える。
いや、まるで、ではない。これは····。
「モモンガ、私が考えていること····分かるな?」
「····はい、おそらく私も考えていることは同じでしょう」
『これは、ゲームではなく現実である』
◇◆◇◆◇
「――ではセバス、アルベド。頼んだぞ」
「はっ、承知いたしました。我らが主よ」
「畏まりました。全ては至高の御方々の御心のままに」
私とモモンガがそう判断してからは早かった。
まずはモモンガがナザリック周辺の調査及び防衛のため、セバスと一部プレアデスを動員。
次に現状確認のため、防衛に回す者以外の階層守護者を第六階層の
やはりモモンガは頭の回転が早い。私が助言するよりも早くNPCが動きだし我々に忠誠を誓っていることを察して、あえて支配者然とした威圧的な態度で命令した。
所々考えなしの時もあるが、それをもって有り余る機転の良さ。
企業で揉まれたお陰でもあるだろうが、小卒でこれなのだからまともな教育を受けていればどうなっていたことか。
そうだったら
「オルタさん。とりあえずはこれで大丈夫でしょう」
「そうだな。なかなか様になっていたではないか」
「はは、オルタさんほどじゃないですよ」
そう言ってモモンガは立ち上がり、手を伸ばしては握ったり振ったり、自分の身体を確かめるように見た。
「うわぁ····完全に骨になってますよ。これ、どうやって動いてるんでしょうね」
「大方魔力で動いているのではないのか」
どうやら現実になったことで骸骨のアバターから本物の骸骨になったことに、ショックを感じているらしい。どうやって動いているのかなどと好奇心はあるらしいが、それも遠い目をしながらでは現実逃避にしか見えない。目は無いが。
「なるほど····あ」
「む、どうかしたか?」
「あー、いや····何でもないです····」
「そ、そうか」
何でもないというわりには、なにか“とても大切にしていた相棒”を無くしたかのような落ち込み具合だった。
なんとなく触れてはいけない気がしたので、深くは追及しないことにした。
「····コロッセウムに行きましょうか。スキルとか魔法とか、どうなっているか気になりますし」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですけど大丈夫です····」
そう言ってモモンガは、後悔を断ち切るように転移したので、私も後を追うようにRoAOGで転移する。
ふむ、なんだったのだろうな?
◇◆◇◆◇
「戻れ、レメゲトンの悪魔たちよ」
コロッセウムについて早速、モモンガは防衛設備の数々を試していた。
先程元の持ち場に戻ったのは、超希少金属を用いて作り出されたゴーレムたち。いかにも屈強な体躯の割には、軽やかな動きでタックルやストレートを繰り出していた。
「ゴーレムも問題無いようだな」
「ええ。今のところ確認できたところで、アイテムボックス、スキル、魔法に加えて、ゴーレムも問題なく機能していますね」
コロッセウムで試せる範囲ではあるが、大体はゲームの頃と変わらず使用できた。
だが、変わっている所も少なくない。
「しかしスキルや魔法の発動がイメージとは。ちょっとワクワクしますね」
そう、今まではアイコンをクリックして発動していたスキルや魔法が、イメージひとつで使用出来るようになっていた。
もちろん習得しているものしか使用出来ないが、それでも今までクリックして発動させていたものが手放しで使えるというのは、もはや革命と言ってもいい。
それだけ隙が無くなるのだから。
「たしかモモンガは魔法を700以上習得していなかったか?」
「正確には718ですね。いやー、暗記しといてよかったです」
718。
これは一般的な魔法詠唱者の習得数の倍以上で、無駄に凝った名称や効果のせいで一般プレイヤーは50暗記するだけでも大変だというのに、モモンガは習得している魔法全てを暗記している。
私も暗記や学習することは得意な方だが、700以上の魔法を暗記しろと言われれば馬鹿を言うなとしか返せない。
こう言ってはなんだが異常だ。
「でも、
「むぅ····仕方あるまい」
良くなったところもあれば、悪くなったところもある。それが同士討ちが有効になったことだ。
今までは味方にはダメージが入らないことをいいことに、バカスカ『剣』を振るっていたが、これからはキチンと射線を確保しなければならない。
「っとー!遅れて申し訳ありません!モモンガ様!セイバーオルタ様!」
と、モモンガと話しているとコロッセウムの貴賓席から飛び降りてきた人影が。
誰だと思い振り返ると、そこには第六階層守護者、双子の姉の方『アウラ・ベラ・フィオーラ』が跪いていた。
「アウラか。マーレはどうした?」
「ああっ!申し訳ありません!ほらっ、マーレ!早く降りてきなさい!至高の御方々をお待たせする気!?」
モモンガがアウラに訪ねると、アウラは未だに貴賓席から降りられない第六階層守護者、双子の妹の方····ではない。“弟”の方『マーレ・ベロ・フィオーレ』に叫んだ。
「うぅ····無理だよお姉ちゃん····」
マーレは杖を手に、地面を見つめて青ざめていた。
貴賓席と地面の距離を見れば、それなりに高いため怖がるのも無理はない。
「すいません、あの子ちょっと臆病なので····決してわざとこのような失礼な態度をとってるわけじゃないんです」
「無論、了解しているともアウラ。私はお前たちの忠誠を――」
「ほう、ならばさっさと連れてくるがいい。それとも私が手を貸してやらねばならんか?」
「――ッ!いっ、いえ!すぐに連れてきます!」
私が『剣』を片手に威圧的に言うと、アウラはマーレの下へ脱兎の如く飛んでいった。
「ちょ、オルタさん。そんなに強く言わなくても····」
「甘いなモモンガ。たしかに貴様の接し方でもいいだろうが、まだNPCの忠誠が真実であるとは分からないのだ。表面上だけの可能性もある。多少、恐怖で縛るのも支配者というものだろう」
「それは····そうですが」
実際は、彼女らが裏切ることは無いだろうと思っている。王座でのアルベドやセバスたちプレアデス、そして先程までいたアウラなどのNPCの視線や表情から伝わるのは、嘘偽りない忠誠心だ。
裏切る者はすぐに分かる。リアルでそういった産業スパイや裏社会の人間を、
だが、万が一に備えて恐怖を与えるというのは悪くないだろう。もしかしたら、こちらへの忠誠心が“強さ”という所に依るところがあるかもしれないからだ。
下手な所を見せて忠誠を無くされては困る。
「なに、貴様はそのままでいいだろう。無理に演じる必要もあるまい」
演じようとしてボロを見せるよりは、モモンガには元来の性格通りにしていてもらった方がいい。
汚れ役、などと格好つける訳ではないが、そのほうが明確に役割が分かれてやりやすい。
それに、無駄に優しいセイバーオルタなど演じたくもない。
「そら、アウラとマーレが来るぞ。そんな顔をするな」
前方からアウラがマーレを担いで走ってきていた。
「モモンガ様ー!セイバーオルタ様ー!お待たせしましたぁー!!」
「う、うわぁ!降ろしてよお姉ちゃん~!」
姉に振り回される弟という光景に、少し『ぶくぶく茶釜』と『ペロロンチーノ』を幻視した―――
「オルタさん····」
―――モモンガの複雑な思いを込めた呟きに、聞こえなかったふりをして。
二人だったから検証は原作よりさくさく終わったということで。
まだまだ試すことはあるけど、それは次回以降。
あと書いてから気付く。
レメゲトンの悪魔(ゴーレム)は、コロッセウムにいたわけではないと。
どんどん投稿したいけど時間ががが
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第三話 約束された勝利の剣
次投稿するのが年明けなんてことにならないよう頑張ります····!
追記:2/24 かなり改変しました。
「それでモモンガ様、セイバーオルタ様。本日はどのようなご用件で?わざわざゴーレムまで動かしておられましたが」
こちらに走ってきた二人、ダークエルフと呼ばれる種族の姉弟で、最初に来た元気の良い方が姉、連れてこられた方が弟なのだが、二人を創造したメンバーの趣味或いは性癖か、何故か姉が男装して弟が女装していた。
「ああ、現在ナザリックは原因不明の事態に陥っている。そこで全階層守護者をここに集結させるようアルベドに指示したが、お前達には私から説明しようと思ってな」
「私達はそのついでに、少し身体を動かしていたというわけだ」
モモンガと私は示し合わせたかのように言うが、実際は逆で、アウラやマーレへの説明はここでの検証のついででしかない。
レベル100になり同じビルドで長年やってきて、これ以上成長の余地のない私達が、今更ここで訓練するために来るというのも不自然だろう、とモモンガと話し決めておいた。
「あ、あの、わ、わざわざご足労いただき、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
二人は揃ってそう言う。
その表情に反逆するような感情は見られない。
「それにしてもナザリックに原因不明の····あ、守護者全員ってことはシャルティアも来るんですか!?」
「そうだが····なにか問題でもあったか?」
「い、いえ!ただ、シャルティアとは····」
口ごもり、しょんぼりとエルフ特有の長い耳が垂れ下がるアウラ。
たしか、設定でアウラとシャルティアは不仲となっていたが····フレーバーテキストがそのまま性格や人物関係に反映されているのだろうか。
不仲という設定がなかったマーレは、シャルティアが来るということに何も反応していない。
これは、後で少し検証する必要があるか。
「モモンガ」
「どうしましたか?」
「まだ試したいこともある。付き合ってもらうぞ」
「分かりました。まだ集まるまで時間もかかるでしょうし、コレの機能も試してみたかったんです」
そう言ってモモンガはSoAOGを掲げる。
掲げられたSoAOGに飾られた七匹の蛇の瞳が、まるで意思を持つかのように輝いた気がした。
「あ、あの、そ、それがあの最高位武器、モモンガ様しか装備することを許されないという伝説の!?」
そして同様に、マーレも目を輝かせてスタッフを見つめている。伝説の、と言っていたが、NPCの中でギルド武器はどう見られているのだろうか。反応を見るに悪い意味で見ている訳では無いだろうが。
「その通り。これが、これこそが我々全員で作り上げた、最高位のギルド武器。スタッフ・オ――」
ギルドメンバー皆で作った思い出のあるものだからか、それを誉められたモモンガは嬉々として語りだした。同時にスタッフから禍々しい漆黒のオーラが放たれ、傍から見れば最早邪悪な魔法使いにしか見えなくなった。元々骸骨な上にコンセプト的にも間違っていないだろうが。
「おいモモンガ。いい加減にしろ」
「え?あっすみません。つい」
「ふん。それよりも試すならば早くしろ。こちらも試したいことがある」
先程までは、周囲に影響の少ないスキルや魔法の検証を中心に行っていたが、私が今からやろうとしていることは万が一を考えると周辺への被害が大きい。
一応このコロッセウムは外部のプレイヤー以外には破壊不能オブジェクト扱いだが、現実世界になり性質が変化している可能性は否定できない。
「わ、分かりました〈
モモンガがスタッフに念じて唱えると、スタッフを突きつけた先に巨大な光球が生じ、それを中心に桁外れな炎の渦が巻き起こった。
吹き荒れる紅蓮の煉獄。
辺り全てを焼き尽くすと思われるほどの烈火は竜巻となり、やがて中心からヒトガタと成って、正体を表した。
SoAOGに備えられた機能の一つ、"根源の精霊召喚"。
一日に召喚出来る数に制限はあるものの、レベル80代のモンスターをデメリット無しで召喚出来る。
元素精霊の、限りなく最上位に近い存在である炎の巨人のようなソレは、その場に存在するだけでも辺り一面を焼き尽くす熱量を撒き散らしている。
リアルに存在すれば、このモンスターだけでも一国が国が滅びてもおかしくないも思わせる程の迫力と威圧感。
けれどもユグドラシルではレベル差が10あれば基本的に勝ち目はないので、レベル100のプレイヤー相手では時間稼ぎに使うか肉盾にするかしか使い道がない。
「コレは私が使わせてもらうが、かまわんな?」
「え?ええ。いいですけど。何に?」
「言っただろう。試したいことがあると」
命令を待っているのかその場で佇む精霊に対して、外していたバイザーをもう一度装備し"剣"を右手に握りしめ、10メートルほど手前で対峙する
「そら、攻撃命令を出せモモンガ」
さて、どうなるか楽しみだ。
◇◆◇◆◇
「そら、攻撃命令を出せモモンガ」
そう言って彼女は“剣”を····〈
というのも、彼女は火精霊と対峙した時点でいつものバイザーを付け直していたので目元が見えない。
雰囲気的に睨んでいると思うが。
「もう····分かりましたよ。根源の火精霊よ!セイバーオルタを攻撃せよ!」
ヤケクソ気味に命令した瞬間、炎の巨人は火の粉を撒き散らしながら、セイバーオルタに何の遠慮もなくその灼熱の豪腕を振るった。
「ちょ、モモンガ様ぁ!?」
「そ、そんな、セイバーオルタ様にもしものことがあったら」
アウラとマーレが突然始まったバトルに叫ぶが、問題ない。
「ハハ、心配する必要はない」
そもそも彼女のレベルは100で、根源の火精霊はレベル87。どうあがいても勝ち目はない。
それこそ装備を全て外した状態で油断しきっている状態でもなければ。
だが、彼女に限って油断などするはずはない。
何故なら彼女は、ユグドラシルであの"聖杯"を手に入れてから常に他のプレイヤーに狙われていたにもかかわらず、サービス終了まで一度もデスしたことの無い化け物だ。
あらゆる初見の攻撃も直感で回避し、たとえ超長距離からの爆撃だろうと容易く見切り、膨大なMPとそれを抱えるリスクに一切恐怖せず、一人で軍を殲滅する。
そんな人物に心配?笑わせるな。
ギルド内でも最強クラスだったたっちみーと互角に戦い、何でもありなら掛け値無しでユグドラシル最強であった彼女に、それは最早侮辱というものだ。
「よく見ておけ。あれがアインズ・ウール・ゴウン、いや、ユグドラシル最強のプレイヤーだ」
ギィィィン!
激しい金属音がコロッセウムに鳴り響き、衝撃波が辺りに迸る。
それは、セイバーオルタの身長ほどあろうかという豪腕が、彼女の華奢な片手で受けられた音と衝突の結果だった。
「ッ!すごい!」
「うわわわわ!」
アウラとマーレがはしゃぐが、結果としては当然だ。
それは彼女と火精霊のようにレベルが10以上差があれば、それが戦士職ならばなおさら誰でも出来る芸当だ。
火精霊は叩きつけた腕をそのままセイバーオルタに捕まれ、強引に引き離そうとするがピクリとも動かない。
眩しいほどに燃え上がる巨腕を掴むセイバーオルタは、まるで熱さなど一切感じていないかのように涼しい顔だ。
「ふっ!」
彼女は掴んだ腕を思い切り投げ飛ばし、音速を越える速度で火精霊をコロッセウムの壁に叩き付けた。
「なるほど····」
彼女は投げ飛ばした手を確かめるように握りしめる。
「GYAAAAAッッッ!!」
そこに、壁まで吹き飛ばされていた炎の巨人が怒り狂ったように飛び出してきた。
だが、今度は闇雲に殴りかかるつもりは無いらしい。
何をするのかと見ていると、炎の巨人は自身を構成する炎を両手で圧縮し始めた。
あれは確か、根源の火精霊のスキル〈炎翼フレイム・ウィング〉だったはずだ。
攻撃範囲が広く、火ダメージや火傷などのデバフを撒き散らす地味に面倒な技。
だが様子がおかしい。
アレは攻撃までに時間のかかるスキルではあったが、それでも5秒程でチャージは終わるはず。
しかし根源の火精霊は、ソレを時間をかけることでさらに圧縮することで範囲を狭めて威力を高めようとしているように思える。
初めて見る行動パターン。
これはゲームの時には無かったものだ。
「ほう」
その想定外に対して彼女は口許を面白いものを見るように歪め、ただ眺めるだけ。
「根源の火精霊よ!攻撃を――」
「止めるな」
火精霊の攻撃を中止させるべく命令しようとするが、オルタさんはそれを拒否した。
「GYAGAAAA ッッッ!」
その瞬間、十分に準備が完了したのか炎の巨人が高らかに咆哮する。
それと共に、太陽と見紛うほどに煌めき集束された爆炎が彼女に向かって放たれた。
余りの熱量にコロッセウムの地面が融解し、硝子状になっている。
その余波はこちらにも飛び火し、ありえないと驚愕しながらも咄嗟にアウラとマーレを背後に庇った。
「・・・・ははっ」
それに対してセイバーオルタは僅かに笑ったかと思うと、おもむろに"剣"を構えた。
「オルタさん何を――」
◇◆◇◆◇
ユグドラシルに無かった想定外のスキル。ともすればレベル差すらも無視して焼き尽くすのではないかと思わせる程の爆炎。それが目の前に迫っているというのに、どうしょうもなく私の心は踊っていた。
これから行うことが成功すれば、それは私にとって大きな革命となる。
そう考えると、ふとこれまでの日々が走馬灯のように脳裏をよぎった。
セイバーオルタをロールプレイするためにキャラクリエイトに数十時間かけた。
セイバーオルタを再現するために、今まで令嬢然としていた口調を現実でも冷徹な暴君のように威圧的な口調に変えた。
セイバーオルタを模倣するために無茶な冒険はいくらでもした。
セイバーオルタの強さに近づくために
剣と聖杯を手に入れ、
姿、強さ、在り方。
ゲーム内で再現出来ることは全て行った。
だがまだだ。まだ足りない。
ゲーム故に現実ではあり得ないことが出来た。
だが、ゲーム故に限界があった。
システムという壁は完全なロールプレイに邪魔だった。いくら運営に直接要求できるようなワールドアイテムがあろうと、それは技術という壁と法には無力だ。
しかし、この世界はなんだ。
明らかにゲームではないリアル。
システムや技術を超越した現象。
五感の鈍い偽りの肉体が、あの瞬間現実と変わらない····いや、それよりも遥かに優れたものになり、自らが意識するだけで力を使うことが出来るようになった。
確信している。
私はこの世界で、更なる高みへと到達することが出来る。
別に、何かひどいトラウマや出来事があって彼女に憧れ、目指したわけじゃあない。
ただその姿、強さ、在り方を、どうしようも無いくらいに美しいと思っただけ。
そこに難しい理屈は存在しない。
いっそ一目惚れだと言ってもいいくらいだ。
だからこそ再現したかった。
偽物でもいい。紛い物でもいい。推しを愛して、推しになりたいと考えたことは誰しもがあるはずだ。
コスプレイヤーが存在するのも目立ちたがりな者を抜きにしても、そういった面があるからだろう。
少なくとも、私はなりたかった。
イメージしろ。
解放しろ。自らの底にある暴力を。
「〈
瞬間、自身の内側から漆黒の魔力の奔流が、蛇口を捻るどころか破壊したかのように溢れだした。
ユグドラシルではただのエフェクトであったそれは、もはや物理的破壊力すら伴い、プレッシャーとも言うような底知れない恐怖と圧力が周囲に満ちる。
〈
ユグドラシルで何千何万と使用してきた、最も使い慣れたスキル。
スキルではあるが回数制限が無く、MPを消費して発動することが出来る特殊なスキルで、私が
効果はHP、MP、魔法攻撃力、特殊を除く全ステータスの強化。スキル版〈
燃費は非常に悪いが、潤沢すぎるほどのMPをワールドアイテムによって確保した私には“剣”の性質とも合わせ、ロールプレイという面から見ても相性がよかった。
「な、にが・・・・」
「セイバーオルタ様!」
「せ、セイバーオルタ様ぁ!」
ピカピカと奇妙に発光しながら硬直している骸骨の後ろでアウラとマーレが叫ぶが、爆炎は止まらない。
ゲーム内とは比べ物にならない、おおよそ人類には反応できないほどの速度と迫力で迫るソレ。
「甘い」
だが、遅い。
すべてがスローモーションになった世界で私は右手に握った“剣”を両手で握りしめ、ばら蒔いていた魔力を遠慮加減なく詰め込み、フルスイングするように叩きつけた。
「Gaaッ!?」
瞬間、爆発。
限界まで圧縮された業火と剣が一瞬の抵抗を見せたかと思うと、剣に込められた魔力が爆発するように弾け、業火の全てを消し飛ばした。
これは“剣”の能力ではない。
これまでただ身体を強化するのみだった〈魔力放出〉が現実となり、エフェクトであったそれが純粋な魔力の爆発による攻撃を引き起こせるようになったのだ。
「は、は、ははは」
意図せず笑いが漏れる。
端からみれば、それはもう邪悪に、愉快に嗤っていることだろう。
ああ、私はたどり着ける。
偽りの肉体などではない。
中途半端な模倣などではない。
諦めていた真の到達点、私の憧れの根源へと。
「卑王鉄槌」
この世界がゲームと同様では無いのだと、可能性を私に見せてくれた根源の火精霊へ、実験に協力してくれた礼と共に、私の最大の技を送ろう。
それにモモンガは気付いていないようだが、シャルティアを始めとしてコキュートス、デミウルゴス、アルベドと、階層守護者が既にここに集結しこちらを見ている。
見世物にする気はないが、彼女らに力を示しておいて損はないだろう。たとえ私達に力がなくとも狂信者の如く信奉すると私の勘は言っているが、念のためだ。
「極光は反転する」
荒れ狂う魔力が剣から噴出され、無理やり剣という形に収められたそれは禍々しく煌めき、十字架のように溢れ集束する。
先程の魔力放出とはレベルが違う。
文字通り大地が軋み、空間は歪む。
こんな現象はゲームの頃には無かった。
私のイメージとシステムを越えた魔力の奔流が、セイバーオルタの暴力性を示そうと世界を塗り替えている。
「光を呑め」
これこそかつてナザリックを侵略しようとした1500人を、一方的に蹂躙した究極の一撃。
スキル〈破滅の極光〉
私が手にする二つのワールドアイテムが片割れ〈
その射程距離は4㎞を越え、逃げることはできない。
この超火力超射程が故に、遠距離からの襲撃や迎撃戦では無類の強さを誇る。相手がこちらを視認する前に、一方的に攻撃できるのだ。
しかもそれが
相手からしたら悪夢でしかない。
多くのユーザーが運営にチートだなんだと報告し、私のアンチスレも多く立ち上がったが、運営は仕様だと説明したし、私のこれはワールドアイテムと掛け合わせなければおおよそ出来ることではない。
「
光を飲み込む黒い矛盾の極光が、限界を超えて溢れだし、刀身の数倍にまで伸びて地面を削る。
スキルを発動させるのに叫ぶ必要はなく、詠唱もいらない。そもそもこの剣は性質と形こそ似ているが、かの聖剣ではない。
だがそれでも私は叫ぶのだ。たとえそれが意味がないものだとしても、自己満足だとしても。
これが、
「――
ここが、この世界が、私の魂の場所だ。
ここたま。
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第四話 ナザリックの剣
今回投稿2024年。
アーマードコアの新作も去年発売。
感想が来なければすっかり忘れきっていた・・・・
・・・・やっちゃったぜ
追記:2/24 加筆しました
ナザリック地下大墳墓守護者統括アルベドにとって、至高の御方であるセイバーオルタは崇拝し仕える偉大な上位者であると同時に、他のギルドメンバーと同様に全てを捨てでも愛する存在であった。
それはフレーバーテキストによって刻まれた設定であったが、彼女にとってそれは、そうあれかしと主より定められた至上命題であり存在意義でもある。
故にたとえ同姓であるセイバーオルタだろうと、彼女の愛は止まらないだろう。そもそも、この異形だらけのアインズ・ウール・ゴウンにおいて性別なんて些細な問題だ。
そんな彼女であるが、実際のところ彼女はセイバーオルタに数度しか会った事が無いため、彼女の事をよく知らなかった。
というのも、セイバーオルタはゲームプレイの殆どをナザリック外でPvPやPvE、ダンジョン探索などのバトルに費やしていたためである。
更に、別の拠点を“とある手段”を用いて手に入れてからは、サービス終了までそちらを本拠地として過ごしていたので、ナザリックでアルベドに会う機会がほとんど無かったのだ。1500人が襲撃してきた事件の際も、他のギルドメンバーと違って最奥で待つのではなく、入り口で迎撃していたので玉座の間にも居なかった。
だがセイバーオルタの強さや性格などは、
曰く、冷徹なる暴君
曰く、人間でありながら異形種の異端者
曰く、ユグドラシル最強
数多の称号の中には「ろーるぷれいがちぜい」なるものもあったが、アルベドには理解できなかった。
だがそれでも、セイバーオルタがナザリックひいてはユグドラシルでも最上位の強者であることは理解できた。たとえ階層守護者全員が束になって戦いを挑もうと勝負にならないだろうと。
それはアルベドだけではなく、ナザリック全てのシモベの総意だった。
そして今、その認識があまりに
「ナント、コレハ····!」
異常な程の魔力の波動を感じとり、アルベドが連絡するよりも早く第六階層へと駆けつけた階層守護者達。
そこで見たものを、彼らは一生忘れないだろう。
物理的重圧すら伴う、禍々しい魔力の奔流。
一切の抵抗をやめ、跪き頭を垂れるという選択を無意識に身体が行うほどのプレッシャー
世界を切り裂き、次元を破壊する死の極光。
ここにいる全ての存在が、その
(え?なにこの人。人類やめてない?いや、やめてたわ。怖すぎなんですけど····!)
それはセイバーオルタと同じく、至高の存在であるモモンガも同じだった。
(エフェクトだったのがダメージ追加されてるし、スキル効果が強化されてるし、自称《
あまりの衝撃に鎮静化が止まらないモモンガ。
ペカペカと光っているが、それが見えているのはプレイヤーであるセイバーオルタだけなのが不幸中の幸いだった。でなければイルミネーション骸骨として威厳も何もなかったことだろう。
「フン。あまりに脆い」
その言葉は、最初の投げ飛ばしと合わせて二撃で沈んだ憐れな精霊に対してか。それとも、巻き込まれる形で文字通り消し飛んだ直線上のコロッセウムか、或いは両方か。
ともかく、セイバーオルタはその文句と裏腹に、とても
「さて」
セイバーオルタが、固まっているモモンガおよび階層守護者に振り返る。剣は依然、握ったまま。
「いつまで固まっている。集まったなら始めろモモンガ」
「え?」
固まっていたモモンガはセイバーオルタに声をかけられ、後ろを振り返る。
するとそこには、モモンガに庇われていたアウラとマーレに加えて、シャルティア、コキュートス、デミウルゴス、アルベド、そして周囲の探索を終え帰還したのかセバスまでもが集結し、跪いていた。
「ん"、んんゴホン」
思わず素で驚いた声をモモンガは上げそうになったが、NPC達の手前なんとか口調を整える。
「では
震え跪き頭を垂れるNPC達の前に立ち、モモンガはセイバーオルタと共に話を始めた―――。
◇◆◇◆
「何?周囲が草原となっていた、だと?」
「はい、モモンガ様。また幾つかの小動物は確認できましたが、敵対存在や危険と思わしき物体は認められませんでした」
偵察としてナザリック外へ出ていたセバスが、モモンガへ報告する。
本来ナザリック大地下墳墓周辺は毒性を有した沼地だった。それが草原となっているということは、ナザリック外のマップが書き換えられたか、あるいはナザリックそのものが転移したと考えられる。
それがユグドラシルの世界なのか、それとも異世界なのかはまだ判断できないが、それでも一つ分かっている事がある。
「モモンガ」
「どうした。我が盟友よ」
どうやらNPC達の前では、私の事は盟友と呼ぶことにしたらしい。口調も威厳を出すためか変え《絶望のオーラ》まで出している。無理に演技する必要はないと言ったが、それでも何か思うところがあったのかもしれない。
「どこに転移したかは分からないが、少なくとも、転移したのはナザリックだけでは無いだろう」
「なに?」
コレは予想ではあるが確信だ。
「そうだな····モモンガ、貴様は魔法を使う時、自分のMPをどう把握した?」
「ふむ、自分の中のMPがどれだけあるかが、イメージとして頭に浮かんで来たな」
「それはどんなイメージだ?」
「大きな湖だな」
「そうか。私は海が浮かんだ。絶えることの無い、深く果てしない海だ」
私自身本物の海は見たことはないが、映像やゲーム内などで見たことがあるので知識はある。
そして、その海と私のMP····魔力は同じように果てしなく思えた。
私の元々のMPは純粋な戦士職よりも多いが、それでもモモンガと比べれば大きなバケツ程度。
だが、先ほど私は湯水のようにMPを使用した筈が、殆ど変わりの無いイメージが現れる。
つまりこれは、私がワールドアイテム"黒の聖杯"と繋がっていることを示しているだろう。それは同時に、黒の聖杯か或いはあの洞窟もまた転移しているということが分かる。
かなり離れた場所の拠点まで転移しているということは、他のギルドも転移している可能性がある。
周囲の地形も満足に把握できていない今の状況では、非常に危険であると言わざるを得ない。
早急に警戒度を上げるべきだとモモンガに相談する。
「それは不味いな····守護者各員」
『はい』
「各層の警戒を厳重にせよ。ただし、侵入者は殺さず捕らえろ。できれば怪我もさせずにというのが一番ありがたい。だが、相手が強者の場合優先するのは己の身だ。勝てないと分かれば即座に撤退せよ。情報を持ち帰ることも戦術だ」
『了解いたしました』
モモンガが各階層守護者へ情報収集、知的生命体を捕縛した場合用の収容所、各階層の警備などを指示したところでメッセージが届く。
『今のところ叛意などは見られませんが、一応彼らから見て我々がどういう存在なのかは確認しておきますか?』
『ふむ・・・・確かにそうだな』
NPCの忠誠はともかく、我々をどういう存在として認識しているかは気になる。我々を神だとでも思っているのか、それとも別の世界に脆弱な肉体を置くただのプレイヤーだと知っているのか。
「さて、最後にお前に聞かねばならぬ事がある。お前達にとって我々はどういう存在だ?シャルティア」
最初に名指しされたシャルティア。それに続きアウラ、マーレ、デミウルゴス、コキュートス、最後にアルベド。
それぞれが我々に対し深い忠誠と畏怖の念を抱いている旨の発言をした。それらは私から見ても嘘偽りなく、そして我々を神のごとく崇拝していることが伺えるものだった。
そしてそこに、我々がただのゲームプレイヤーである人間であるという認識は無かった。
『オルタさんヤバくないですかコレ!多分私達が死ねとか言ったら即座に自決するレベルですよ!マジですよあいつら!』
内心ドン引きのモモンガがメッセージで叫ぶが、私としては問題はない。
忠誠心が高いというのはいいことだ。昨日までニコニコ顔で一緒に仕事していた部下が、次の日には処分対象になっているなどという悲しいリアルより遥かにマシだ。
それに素を見せることが出来ないのはモモンガとしては窮屈だろうが、私はロールプレイガチ勢だ。
いつだろうとどこだろうとセイバーオルタになりきるのに苦はない。終わり間際に口調を変えモモンガに別れを告げたのも、オルタから士郎に対するものの単なるオマージュに過ぎない。
『私としては問題ない。叛意を持たれているより余程いいではないか』
『それはそうですけど・・・・』
『それにNPC達は今は居ないギルメン達の子供のようなものだろう?変に失望させるよりも期待に答えた方がいいだろう』
『子に憧れてほしい父親みたいなものですか・・・・たしかにそれはありますね・・・・よし、頑張ります!』
気合を入れたモモンガは、より一層絶望のオーラを振り撒きながら大げさに両腕を広げる。
それはさながら大魔王が、ダンジョン最奥にまで到達した勇者を迎え入れるかのようだ。
「各員の考えは十分理解した。そして確信した。お前達ならばこの未曾有の自体においても、十全に事をなす事が出来るということが!」
『おお・・・・!』
その言葉にNPC各員は感激するように息を漏らす。心酔しきっているその顔からはまさに恐悦至極とでも言い出しそうなほど。
『中々様になっているではないかモモンガ』
『ふふ、ありがとうございます!ちょっとカッコつけすぎた気もしますけど』
『私も負けていられないな』
『え?』
メッセージを打ち切り、自分の正面で地面に突き刺し手を組んでいた剣を構え一歩前に出る。
そしてモモンガを見習って《暴君のオーラV》を発動した。効果は恐怖や恐慌デバフを与えるという劣化《絶望のオーラ》だが、こちらはそれに加えて《
レベル100にはほぼ効かないスキルだが、威圧感や雰囲気を出す意味では使っておいて損はないだろう。更に僅かではあるが魔力放出も行う。
物理的重圧さえ伴うコレを発動するのはやや過剰気味かもしれないが、今からNPC達に放つ言葉にはそれだけの"重み"と私なりの"覚悟"がある。
「私はナザリックの王ではなく、アインズ・ウール・ゴウンの剣だ」
「故に私は、
「貴様らの忠誠心はよく分かった。だが、あえて言おう―――」
―――裏切り者には《この世全ての悪》ですら生易しい程の凄惨な死を、私自ら与えよう。
貴様らが死のうが私にはどうでもいい。
だが覚えておくといい。
貴様らがアインズ・ウール・ゴウンの元にいる限り、私は貴様らの剣となろう。
そう····貴様らが心折れぬ限り、な。
『やりすぎですってえ!!!』
『後悔も反省もしていない』
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第五話 月光
エルデンDLCで稼いでアーマードコア6続編作ってくれフロム(強欲)
それはそれとして第三話第四話加筆修正しました。なんか過去データ見てたら書きかけの三話が二つあったので勿体無くて・・・・。
あといつも誤字報告ありがとナス!
追記:なんか投稿時間間違ってたので一旦消して再投稿しました。ごめんなさい。
『・・・・・・・・』
至高の御方であるモモンガ、セイバーオルタ両名が去った第六階層
残された各階層守護者は未だその場にて頭を垂れ、その身を底知れない畏怖と敬愛に震わせていた。
理解しているはずだった。その力を、偉大さを。
しかし足りなかった。シモベ程度の寸尺で測れるモノではなかった。その場に集まっているのはユグドラシルにおいて限界まで鍛えられた証であるレベル100の強者のみ。
それがどうだ。
ただの威圧で、全員がみっともなく許しを請う童のように膝をつき、頭を上げることさえできない。
これが高み。
我々ナザリックの偉大なる死の王と、その剣。
「マサカ・・・・コレホドトハ・・・・」
ライトブルーの甲殻に四つ腕を持つ二足歩行の巨大な昆虫、コキュートスがその口から冷気を溢しながらつぶやいた。
「ボ、ボク失礼無かったかな?だ、大丈夫だよねお姉ちゃん」
「うん、大丈夫だと思うけど・・・・押しつぶされるかと思った・・・・」
続いて女性モノの衣装を身に纏うダークエルフの姉弟の弟の方マーレと、反対に男性モノの衣装を纏う姉の方アウラ両名が膝を震わせながら立ち上がる。
「いやはや・・・・我々の認識は不敬であったと言わざるを得ませんね」
ナザリックでも一二を争う頭脳を持つ、メガネの下に宝石の瞳を隠したスーツ姿の悪魔デミウルゴスは、主の力を理解していなかった不甲斐なさに自己嫌悪を抱く。
「ところで、そちらのお二人は?」
『・・・・・・・・ァ』
デミウルゴスの視線の先には、跪いたままプルプルと微振動を繰り返す二名の
よく見ると人前に出してはいけないような恍惚とした表情をしながら、ブツブツと何やら呟いている。
ユグドラシル終了間際にその設定を改変されギルメンを愛していると変更された、守護者統括にして慈悲深き純白の悪魔アルベド。
創造主の数多の性癖を詰め込まれ創造された
両者ともに間近でモモンガとオルタのオーラを浴び、設定と合わさって情緒がおかしくなっていた。
「・・・・二人はさておき、至高の御方々は我々に道を示してくださいました。そして恐れながらご期待くださっています。我々がすべき事は――」
「――より一層の絶対なる忠義を捧げ、失態を犯すことなく事態の早期解決をすることね」
膝を震わせつつも、口についたヨダレを拭い立ち上がったアルベド。流石に守護者統括、下着がおじゃんになって未だ震えている変態吸血鬼よりは立ち直りが早かったらしい。
「ソノトオリダ」
「そうだね。では早速行動しましょうか。全ては御方々のため」
モモンガとオルタが想定する以上に、彼らの士気は高まっていた。
――
「さて」
第六階層から転移し、現在第九階層"ロイヤルスイート"にある自室。
"あちらの拠点"を手に入れてからはあまり立ち寄ることがなかった自室ではあるが、普段使いしない装備の倉庫として使用していた。
とは言え自室としては使える。ベッドはあるし、ティーテーブルもある。ゲームだったからか、それともメイド達が掃除していたのかは知らないが埃なども一切落ちていない。
リアルと変わらない・・・・いや、それ以上に上等なベットに腰をおろし一息つく。
「・・・・今のうちに持ち物を整えておくか」
モモンガはもう少し試したいことがあると、ナーベラル・ガンマをお供に行ってしまった。なにやら魔法で鎧を作るだの何だの言っていたが、まあいい。それが終われば声を掛けると言っていたから暇つぶしも兼ねて、アイテムボックスに入れておいた物の確認をする。
「高レアリティのアイテムは自分のボックスに入れていて良かったな」
虚空に手を入れ、端末操作をするように脳裏にあるウィンドウをスクロールする。
ボックス内には予備の装備に希少素材、さらに
死亡すれば持っているアイテムをドロップするので、高レアリティの物は基本拠点などに保管しておいたほうがいいのだが、私の場合死亡すればアカウントが消滅するので今更アイテムドロップのリスクを気にする事はなかった。
そのおかげでナザリックや今何処にあるのかわからないあちらの拠点に置いているのも、せいぜいが倉庫の肥やしにもならないハズレアイテムだったのは不幸中の幸いか。
いや、今持っている物の何よりも重要なワールドアイテムが何処にあるのかわからない状態というのはマズイので、どっちにしろ早々に探さなければならないのだが。
一応最低限では防衛装置は動いている筈で、最奥ではアーチャーが待ち構えているので早々やられる事は無い、と思いたいが····そういえばアーチャーも普通に行動できるようになっているのか。
アレはモデルとなったキャラクターと同じ設定で創り出したNPC故に、ナザリックのNPC達と同じような忠誠心限界突破などという事にはなっていない筈だが····少々心配だな。本当に信奉者となっているなんて事が無ければいいが。
『オルタさん』
『む、モモンガか』
と、そんな事を考えているとモモンガからメッセージが届いた。
『今からちょっと外に出てみようと思いまして・・・・』
『二人でか?』
『いえそのつもりだったんですが、デミウルゴスに見つかりまして····』
『近衛をつけろとでも言われたか?』
『はい····』
当たり前といえば当たり前か。
現在ナザリックは原因不明の転移により周囲に何が存在するのか、そもそもこの世界に我々の力が通用するのかすら分からない状態だ。
セバスが偵察に出た限り敵対生物は存在しないようだったが、姿を完全に隠している可能性や超遠距離から観測されている可能性もある。
もしかしたら何の前触れもなく核攻撃を受けるかも知れない。
そんな中組織のトップである者が、肉壁すら用意せずに不用心に外に出ようとしているのならば止めて然るべきだろう。
もっとも、我々が抵抗もできずに殺られるような相手がこの世界の標準だというのなら遅かれ早かれではあるが。
『とりあえずデミウルゴスは連れて行くことにしましたが、良かったですか?』
『構わないだろう。少し待っていろ、すぐに行く』
外か····リアルでは大気汚染が深刻で草木は枯れ、アーコロジー内でなければ防護マスクを付けねば外も歩けない状態だったが、こちらはどうだろうな。セバスの報告によると草原が広がっているらしいが····期待したいところだな。
――
「モモンガ」
「!オルタさ・・・・我が盟友セイバーオルタ」
後ろから声をかけられ振り返ると、そこには別れた時と変わらずバイザーを付けたままのオルタさんが居た。
思わず素で返事しかけたが、デミウルゴスが居たことを思い出し咄嗟に支配者ロールプレイに移行した。
危ない危ない。
「セイバーオルタ様、御身のま――」
「構わん、面倒だ。面を上げろ」
「····失礼しました」
跪こうとしたデミウルゴスをオルタさんは有無を言わせず立たせる。やっぱりオルタさんを見てると支配者ってこういう人なんだろうなって雰囲気というかオーラがある。
中身底辺サラリーマンの俺は見様見真似のそれっぽい演技だが、オルタさんのそれはリアルでも常日頃からやっていたと言われても違和感のない程に洗練されているのだ。
『何を考えているのかは知らんが、お前はお前のままでいいだろう。前も言ったが無理をする必要は無い。私のコレは好きでやっているだけだからな』
と、そんな事を考えているとメッセージが届く。
『····顔に出てました?兜で見えない上に中身骨ですけど』
『勘だ』
····こういう所もオルタさんの凄いところだ。オルタさんはよく勘と言って人が考えてることを当てたりする。
もちろん外れることもあるけど、たまに超能力者か何かなのかと考えることもあるほどその精度は高い。
その上でこちらを気遣ってくれる所も人として良くできていると思う。
普段からしているロールプレイで少々言葉遣いが不遜だが、その中でも優しさが見えるからかギルメンの中で不仲という相手も居なかった。
るし☆ふぁーにはブチギレていたけど・・・・。
『・・・・とりあえず私もNPCの前では支配者としてやってみようと思います』
オルタさんは好きにやっているから気にしなくてもいいと言っていたが、それでも彼女一人に任せるというのも無責任だ。それに、演出で言ったのかもしれないけど彼女は王ではなく剣だと自らを評した。
なら俺はギルドマスターとして、ナザリックの王としてNPC達を導くべきだと決意した。
『ほう・・・・』
オルタさんの瞳がバイザー越しにこちらを見つめる。
ともすればまるで威圧するかのようなソレだが、その視線に悪感情は無いように思える。それどころかどこか機嫌が良さそうだ。
俺はオルタさんのように勘は良くないし、顔の隠れた人間の顔色なんて分からないけど。
『精々ボロを出さないことだな』
愉快そうに一言だけ返すと、オルタさんはそのまま地上へと続く階段を進んでいく。
良くわからないが・・・・とりあえず言われた通りボロを出さないよう気をつけよう。
「デミウルゴス。行くぞ」
「はっ」
そのためにもまず、出来る限りの威厳ある声を出してデミウルゴスに声を掛け、オルタさんの後を追う。
地上へと続く階段はそう長くはない。馴れない鎧をガチャガチャと鳴らしながら登っていくと、そこには一人佇み空を見上げているオルタさんが居た。
珍しく無防備にその背を晒しているオルタさんに、どうかしたのかと声をかけようと思いながらその視線の先に目をやると。
「これは・・・・凄いな・・・・」
本来ナザリック地下大墳墓があるワールドは、常闇と冷気の世界ヘルヘイム。天空を黒雲が覆い尽くす世界では、夜空など望めるはずななかった。
だが、いまここにあるのは異世界の空。無数の星と、大きな月が彩るイルミネーション。
「ああ、仮想世界でもここまでのモノは見たことがない」
オルタさんが空を見上げたまま感嘆の吐息を吐く。
VRを使えば星空は見られる。それは大気汚染が進んでおらず、空気がまだ透き通るようにキレイだった頃のデータを元に再現された物。
しかし、この光景はオルタさんの言う通りソレ以上の美しさだ。
「《
「《
どちらが言うまでもなく、俺とオルタさんは小さな鳥の翼を象ったマジックアイテムを装備し、込められた魔法を開放した。
オルタさんはもとより、鎧を装備している今現在、俺は5つの魔法しか使用することが出来ず、その5つの魔法に空を飛ぶ為の魔法は無かったためだ。
ゲームの時よりも鋭くなった感覚が、地上を這う人間が馴れない無重力に戸惑うが、そのまま速度を速めながら宙を舞う。
やがて雲より高く、星の全容さえ見えるほど高く上昇して、やがてゆっくりと停止した。
そしてそのまま視界を狭める兜を取り外し、ただただ、この美しい世界を眺めた。
「ブルー・プラネットが拘る訳だ」
隣に来たオルタさんが呟く。
ブルー・プラネットさん。自然を愛し過ぎるあまり、自然を語らせればいつまでも熱く語るロマンティスト。
第六階層を形作り、作り物とは思えないほどの夜空を仕上げた彼がこの光景を見たらどれだけ興奮していたことだろう。
「そうだ····なッ!?」
デミウルゴスがついてきている手前、演技しながら返そうとオルタさんの方を向くと、そこには。
「どうした?モモンガ」
バイザーを外し素顔を晒したオルタさんがいた。
月に照らされたその素顔は、月の光をそのまま反射するように美しく煌めいている。
力強いその金の瞳は妖しく光っていて、見つめているだけで吸い込まれるようだ。
この
「え、あ、いやなんでもない」
混乱した思考を漂白するように精神抑制が発動するが、収まらない。
オルタさんの素顔を見たのは初めてではない。
いつもバイザーをつけてはいるが、外すときは外すし、サービス終了間際にも見た。
だがそれでも、ゲームではなくなった異世界で初めて見る彼女の素顔は····。
「本当に大丈夫か?」
「ほあっ」
オルタさんが近づき、覗き込むようにこちらを見てくる。
その時に何やらいい香りがして、変な声が出てしまった。
し、心臓に悪い!心臓無いけど!
「ほ、ほらオルタさん、月が綺麗ですよ!?」
「····」
演技すら忘れ、誤魔化すように月っぽい大きな星を指差すがオルタさんは何故か呆れたように溜め息をつくだけだった。
(も、モモンガ様はセイバーオルタ様と····!?)
ちなみに後ろで黙って控えていたスーツ姿の悪魔は思いっきり勘違いしていたが、案外勘違いでもないのかもしれない。
主人公がやってるプレイを例えるなら、ギルド武器を持って最前線で初見だろうがなんだろうがバリバリバトルするって感じのキ◯ガイプレイなんですよね・・・・消えるのがギルドか自身のアカウントかの違いはありますが。
ちなみに主人公はRPするのに全力を注いでるバカなので(恋愛とかは)ないです。
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