異世界学園の不適合者~史上最強の魔王の始祖、ボタンを押して異世界の学校へ通う~ (瓢さん。)
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ノウスガリアの策略を打ち破り、魔王再臨の式典を行ってから数日が立った。
ある日、俺は配下達を家に招いた。家から不思議なものが見つかったからだ。
「突然呼び出して、どうしたのよ?」
金髪の少女、サーシャ・ネクロンが訊いてくる。
彼女は視界に映るすべてのものの破滅因子を呼び起こし、自壊させる<破滅の魔眼>という魔眼を持っている。
「くはは。サーシャ、お前は理由がなければここに来ないのか?」
そう問うと、
「べ、別にそういうわけじゃないわよ。ただ、アノスが私たちを呼ぶって何かあったのかと思っただけよ」
ふむ、最初に俺と会ったときには俺のことをオモチャなどと言っていたのに、なかなかどうして丸くなったものだ。
「サーシャは優しい」
そう微笑んだのは、銀色の髪の少女、ミーシャ・ネクロンだ。
彼女はサーシャの双子の妹で、<創造の魔眼>という頭に思い浮かべたものを見ただけでそれを創出する魔眼を持っている。その創造魔法の腕は今では我が魔王城デルゾゲードを創れるほどに達している。
「それで、私たちを呼びだした理由は何ですか?」
首を傾げたのは栗色の髪を持つ少女、ミサ・レグリアだ。
彼女は俺の右腕であるシン・レグリアと大精霊レノとの娘であり、俺の噂と伝承を持った大精霊だ。俺を倒す神の子アヴォス・ディルヘヴィアとしてノウスガリアによって生み出されたが、今では普通の精霊として生きている。
「僕たち全員が集まるなんてよっぽどのことじゃないかな?」
白髪の少年レイ・グランズドリィも同じく疑問に思っているようだ。
彼は「錬魔の剣聖」と呼ばれ、魔剣だけではなく、聖剣や霊剣、神剣をも扱うことができる男だ。
その正体は二千年前に俺と何度も死闘を繰り広げた勇者カノンが魔族に転生した姿だ。転生前と同じく七つの根源を持ち、人の名工が鍛え、剣の精霊が宿り、神々が祝福した聖剣「霊神人剣エヴァンスマナ」を操ることができる。ちなみにミサの恋人だ。
「実は、このようなものが見つかってな」
と言いながら俺の家で見つかった
それは赤い円形のものが出ている青く四角い箱。俗にいうボタンであった。
「んー、これがどうかしたのかな?見たところただのボタンみたいだぞ」
黒髪の少女エレオノール・ビアンカがそのボタンをじっと見る。
彼女は人間だが、ただの人間ではない。かつての人間界の王ジェルガによって生み出された人間魔法<
「このボタンは昨日の夜に母さんが見つけたものでな。母さんに聞いたところ見たことがないらしくてな。父さんに聞いても同じだった」
俺も見覚えがなかった。どこぞの誰かがいたずらで俺の家に置いたのか?いや、俺も父さんも母さんも家にいないのなら家は結界化している。そこらの魔族が入れる結界ではない。つまり、犯人は二千年前の魔族か?いや、それほどの実力のものならば家に入った時点で俺が気付いているはずだ。わからぬ。
しかも、それに加え、
「触った者にしかわからぬと思うが、このボタンからは何か異様な力を感じる。この世界のもののような、それでいてこの世界のものではないような力だ」
このような力は二千年前にも感じたことはなかった。
「……怪しい……です……」
そう目をときめかせたのは紫色の髪の小さな女の子、ゼシア・ビアンカだ。
彼女は<
「それで、どうするのよ?そんな力があるなら壊すとかすればいいんじゃないの?」
「すでに試した。だがな、<
まあ、それ以上の魔法をぶつければ壊れるかもしれぬがな。ここでやると周りにも被害が出る。
「じゃあどうすればいいのよ…。」
サーシャが考えていると、隣からミーシャが、
「押してみる?」
まあ、ここまで来たら押すしかないのかもしれぬな。
「それはまずいんじゃない?何が起こるかわからないんでしょ?」
ボタンを押すことはサーシャは心配しているようだ。
「僕は押すほうに賛成かな。何が起こるのか少し楽しみだしね」
とレイが答えたので、ミサも、
「レ、レイさんがいいなら私も賛成です」
「うーん、僕は反対かな。ゼシアに何かあるかもしれないかもだぞ」
「……ゼシアは……大丈夫……です……」
エレオノールは反対、ゼシアは賛成か。
「くはは。サーシャ、エレオノール、そのことなら大丈夫だ。心配する必要はなくなったのだからな。」
「「どういう事なの(だぞ)?」」
「もう押した」
「はぁ!?」「押しちゃったのっ!?」
彼女たちの視線の先にはボタンを押した俺の姿があった。
ピ~ンポ~ン
「な、なんか変な音したわよっ!?」「く、空間がなんか歪み始めたぞっ!?」
ふむ、確かに空間が歪み始めたな。この様子だとどこかに転移させるというのか妥当か。賛成派だったミーシャたちも予想外の出来事に多少慌てているようだ。
面白い。どこに転移させてくれるのやら。
「このボタンを押したのはどうやら正解だったようだな!」
「どこが正解なの!?馬鹿なのぉぉっっ!????」
視界が真っ白に染まる中、サーシャの叫び声だけが響いていた――――――――
ところでまだ俺の自己紹介をしていなかったな。
俺の名はアノス。暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴードだ。二千年前に人間と精霊、神々との戦いを終わらせるべく創造神ミリティア、大精霊レノ、勇者カノンの魔力と、俺の命と魔力すべてを使い千年間の間、人間界、魔界、精霊界、神界を隔てる壁<
壁を作るときに転生し二千年後の今、こうして生きているわけだ。
転生してからもいろいろあったが、ここで語る必要はないだろう。
この物語は、俺と俺の配下が見知らぬ世界で別の世界の者たちと学園生活を送る物語だ。
この物語の結末がどうなるかは、貴様たちに見届けてほしいものだ。
気が付くと見知らぬ場所に立っていた。見知らぬ建物が並び、目の前には白く大きな建物が鎮座している。周りは緑のひもで編まれた壁のようなものに囲まれ、足元には何やら白い線が長丸く引かれ、それが内側に何重にも引かれている。
ふむ、こんな光景は俺がいた世界のどこにもないな。ということは、ここは俺がいた世界ではない、という事か。
そのことを裏付ける証拠として、この世界で感じる力は、ボタンから感じる力と同一のものだ。間違いなく、別の世界だろう。
「ここはどこなのかな?」
声のするほうを向いてみると、そこにはレイがいた。周りを見ると、あの時家にいた俺の配下が全員立っていた。ミーシャたちもこの世界に送られてきていたか。
「アノスッ!!どうするのよこれ!ここがどこか全然わからないんだけどっ!!」
サーシャが怒鳴ってくる。エレオノールも、
「どうするんだぞ…」
少し途方に暮れていた。
とりあえず俺はミーシャたちにここが別の世界だということを告げた。
「別の世界って、これからどうすればいいんでしょうか…?」「一度、人を探してみる?」
ミサとミーシャが周りを見ている。確かに、ここにいてもこれ以上情報は得られそうにないな。人を探してみるか。
そう思い、周りに人がいないか確かめようとしたとき、
「お前達、一体何者だ?」
と後ろから声が聞こえてきた。振り向くと、そこには、見たことがない服を着た、豪快かつ活動的な風貌をした男が立っていた。
誰だこの男は?この世界の住人か?
「貴様こそ何者だ?名を聞きたいのなら先にそちらから名乗るのが礼儀というものだろう」
男は少し考えるそぶりを見せた後、自分の名を名乗った。
「クルト・フォン・ルーデルドルフだ。この学校の校長をやっている」
この学校?この白い建物のことか。なるほど、この建物は教育施設というわけか。
「アノス・ヴォルディゴードだ」
俺と配下たちは、ルーテルドルフにそれぞれ自己紹介をした。
「アノス、といったか。お前ら、どうしてここにいる?」
「妙なボタンがあったのでな。そのボタンを押したらここに転移させられた」
そう答えると、ルーテルドルフは少し考え、誰にも聞こえないようにか、こう小さくつぶやいた。
「どういうことだ…?新しい世界の者が来るとは、予想外の出来事だぞ…」
なるほど。どうやら俺たちは招かれざる客らしいな。まあ、関係ないが。
「ここはどこだ?貴様、何か知ってはいないか?」
ルーテルドルフにそう問うと、彼は少し考え、
「教えてやってもいいが、一つ条件がある」
と答えた。まあ、そうだろうな。こちらもタダで教えてもらえるとは思っていない。条件の一つぐらいは出してくるだろう。
「聞こう」
「この学校に入学し、最後まで過ごすことだ。それができたらこの世界のことを教えてもいいだろう」
なるほど。ルーテルドルフからしたら、俺たちは招かれざるものだ。ここに入らせて監視しようというのだろう。
その程度なら呑んでもいいか。
「いいだろう。その代わり、<
ルーテルドルフの前に魔方陣を展開する。
「これは…?」
ルーテルドルフが俺を見る。
「これは<
今回の<
「分かった。調印しよう」
ルーテルドルフは<
それにしても<
振り向くと、俺とルーテルドルフの話を聞いていたミーシャたちに、
「聞いていたと思うが、俺たちはこれからこの学校で過ごすことになった。まあ心配するな。アルクランイスカに比べればなんてことないだろう」
と告げると、
「まったくもう、しょうがないわね…。相変わらず私の魔王様はこうなんだから」
「私たちなら平気」
サーシャとミーシャはこういうことは日常茶飯事だとばかりに首を振り、
「異世界なんて言ったことないからワクワクするよ。ね、ミサ」「はい。どこの世界でも、私達は大丈夫ですよー」
レイとミサも笑顔で返す。
「アノス君がそう言うなら、仕方ないんだぞっ」「……頑張り……ます……」
エレオノールとゼシアはなんだか楽しそうだ。
この俺の配下なのだ。そのくらいの心構えでないとな。
「ところで、俺たちはどのクラスに入ればよいのだ?」
「実は一人しかいないクラスがあってな。お前たちにはそこに入ってもらう」
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友達
すぐ直しました。
今回はぼっちが出てきます!
「後のことは任せたぞ、ロズワール先生」「わーかりまぁーした」
すると、ルーテルドルフの後ろから、一人の男が現れた。
青と黄色の瞳を持ち、顔を白く塗り、道化のような恰好をした男だ。どことなくエールドメードに似た雰囲気を感じる。
「アノス君、だったかぁーな。今から君たぁーちを案内すぅーるよ」
奇妙なしゃべり方だな。まるで本当の自分を隠すために使っているような、そんな口調だ。
人間にしては、魔力も多いほうだ。まあ二千年前にはこの程度のやつなどゴロゴロいたのだが。
「わぁーたしの名前はロズワール・L・メイザースだぁーよ。ロズワール先生と呼んでもらってかぁーまわないよ」
「まあ、考えておこう。案内してくれるというのは本当か?」
「本当だぁーよ。ここで嘘を言ってもしょうがないじゃーあないの」
「すまぬな。あまりにも貴様が胡散臭いのでな」
「よく言われぇーるよ」
なかなか面白い男だな。
「ねっ、ねえ。あんな胡散臭いやつに本当に案内させる気なの?」
サーシャはロズワールを警戒してるようだ。
「なに、案内してくれるのならいいではないか。エールドメードと奴、どちらが胡散臭いと思う?」
「あははー。それはエールドメード先生ですねー……」
ミサが苦笑しながら俺について来る。
「それに、別に危害を与えるつもりもなさそうだしな」
まあ、もしも危害を与えようとしてきても、傷つけずに無力化する手段などいくらでもある。奴程度の実力なら容易だろう。
「まあ、エールドメード先生に比べたらね……」
とサーシャが納得したのか、俺について来る。
「では、出発すぅーるよ」
そうして俺たちは、3組と呼ばれるクラスの扉の前まで案内された。
案内される途中で学校の内装をいくつか見せてもらったが、やはり魔王学院のとはまるで違うものだった。
改めてここが異世界だということを認識させられる。
「君たちにぃーはこのクラスで過ごしてもぉーらうよ」
この教室で俺たちは授業を受けるわけか。
「今日はもうそろそろ下校だぁーからクラスメイトと顔合わせだけでもしたほぉーうがいいんじゃ―あないかな?」
確か、一人だけいると言っていたな。
「確か、一人だけクラスメイトがいるんだったよね」「一人だけって、大丈夫なんですかそれ……」
レイとミサは例の一人だけのクラスメイトに興味を寄せているようだ。
クラスに一人だけというなら、それはこの学校の問題だと思うがな。
俺たちが意図されずに転移されてきたので、ルーテルドルフはこれを好機と思ったのかもしれぬな。
「そぉーれでは、私はこぉーれで失礼すぅーるよ」
そう笑うと、ロズワールは廊下を歩いて行った。
「ミーシャ、何か見えたか?」
ミーシャは感情の機敏を読むのに長けている。ゆえに、案内中にミーシャにロズワールを
「深い後悔と無力感。それに、激しい怒りと強い願望が見えた」
なるほど。となると、やはりあの口調は偽りか。自らの素顔を隠し、口調すら変えて、道化のように生きる。そこまでして、奴は何を成し遂げようとしているのやら。
「奴に何があったのかは知らぬが、それは奴自身の問題だ。誰でも必ず一つや二つ、秘密や秘められた過去を持っているものだ。気にする必要はないだろう」
必要以上に踏み込むことはしないが賢明だろう。
そんなことより――――
「それよりもアノス君、1組と2組にとんでもない魔力を持った人がいるの、気付いてる?」
エレオノールも気づいていたか。確かに1組と2組から尋常ではない魔力を持った者の気配がすることには気付いていた。数人だけだが、かなりの手練れだろう。
「すごい魔力」
「これ、結構ヤバいんじゃないかしら……?」
「面白いね。お願いしたら戦ってくれるかな?」
ミーシャやサーシャ、レイも気付いているようだな。
それにしても、すさまじいな。二千年前でもこれほどの実力を持った魔族は百人もいなかっただろう。面白くなってきたものだ。
「まあ、敵対しないのなら今は別段気にする必要はないだろう。それよりも、クラスメイトにあいさつに行くのが先だ」
「……クラスメイト……ワクワク……します……」
ゼシアも待ちきれないようだしな。
「では……開けるぞ」
俺は扉に手をかけ、ガララッと引いた。
教室の中には、たくさんの机と、それと同じ数の椅子があった。
なるほど。魔王学院とは違って、一人につき一つ、机を持つ様式か。
そして、教室の中心には、一人の少女が帰り支度をしていた。
セミロングの黒髪をリボンで束ねている。燃えるような赤い瞳を持ち、芯が強そうながらどことなくおとなしめな顔立ちをしている。黒いマントと黒いローブを身に着け、腰には短剣を差していた。
少女は扉があいた音が聞こえたのかこちらをちらりと見たが、すぐにまた帰り支度をし始めた。
ボソッ「またいつもの幻覚ね…。今日はたくさん来たわね」
幻覚?何のことだ?そう思い、少女に声をかけようとしたのだが、声をかける前にサーシャが少女に向かってずんずんと歩み寄った。
「ちょっとあなた、アノスを無視するってどういうつもり!?」
いきなり至近距離で怒鳴られたからか、少女は
「うひえっ!??」
と驚いている。まあ、いきなり怒鳴られたら驚くかもしれぬな。それにしても珍妙な悲鳴だ。
「うひえ、じゃないわよっ!!アノスを無視するってどういうつもりか聞いてるのよっ!!」
「ごごご、ごめんなさい!あんまり人がこの教室に入ってくることがないから、てっきりいつもの幻覚かと思って!」
なるほど、俺のことを幻覚かと思ったわけか。しかし、いつも幻覚を見ているとは、どういう生活を送っているのだ?
「幻覚ってどういう事よっ!?アノスが幻覚に見えたっていうのっ!?」「ひいいっっっ!?」
なおもサーシャの少女への追及は止まらない。
少女がなんだか泣きそうになってきたことだし、サーシャを止めるとするか。
俺はサーシャをなだめるように彼女の頭を軽く押さえつけた。
「ちょ……ちょっと……アノス……手っ、いきなり、何よ?」
「そう怒るな、サーシャ。何か向こうにも事情があるのだろう」
そう言うと、若干ふてくされたように彼女はそっぽを向く。
「……だって、あなたが幻覚だなんて……」
小声で、俺にだけ聞こえるように、サーシャは呟いた。
「気持ちはうれしいがな。彼女には俺が幻覚に見える
「まぁ、そうかもしれないけど……。手……放してよ……」
前にもアルクラインスカでこのようなことがあったな。
言われた通り、すっと手を離すと、「あ」とサーシャが声を漏らす。
「どうかしたのか?」
「何でもないわ……」
と彼女は呟いた。
「……あの……」
声がしたほうを向くと、先ほどの少女が頭を下げていた。
「すみません。無視なんてしちゃって……。それに、幻覚なんて言って……」
「気にするな。過ちなど誰にでもあるものだ」
「はい……。ありがとうございます」
「こちらこそすまぬな。俺の配下が失礼をした」
「いえ……」
と再び少女は頭を下げた。
「ところで、先ほど言っていた、人がこの教室に入ってくることはないとは、どういうことだ?」
少女は何か言いにくそうにしていたが、決意したように顔を上げた。
「わ、私、友達があんまりいなくって……。それで、この教室に入ってくる人があんまりいないんです……」
なるほど。友がいないという事か。
「私……、元の世界でも友達がいなくって……それで……」
それで、教室に人が入ってこないので、俺のことを幻覚だと思ったわけか。
サーシャを見ると、申し訳ない顔をしていた。
「ごめんなさい……。あなたにそんな事情があったのに、あんなにどなって……」
すると、少女は慌てて、
「いっいえ、いいんですよ。大丈夫ですから。私、友達少なくてもやっていけてますから!一人でゲームとかして何時間も時間をつぶすことも、もう慣れてますから!」
全然大丈夫ではないがな。どれだけの間、友達がいなかったのだこいつは?
「それに、友達って言ってもまともな人はいませんし……。もう半分諦めてますし、一人でもやっていけますから!」
そういって、少女は笑った。しかし、その笑顔は、どこか作られている偽の笑顔だった。
俺には孤独がどれだけ寂しく、つらいものかをよく知っている。
母は死んだ。父は死んだのか、俺を捨てたのか、わからない。俺は、生まれたときから孤独だった。
二千年前にも戦いの最中に家族や友人、恋人を亡くし、孤独のまま死んでいったものをよく知っている。そのようなものをもう二度と生み出さぬよう俺は戦争を終わらせた。
俺は魔王再臨の式典で俺は悲劇を許さぬと誓った。だからこそ、この少女を捨て置くことはできぬ。
この少女はもうあきらめ、受け入れたのかもしれぬ。
しかし、見ているがいい。
俺は、アノス・ヴォルディゴードだ。
「ごめんなさい……。初対面の人に向かってこんなこと言っても仕方ないですよね……」
少女は申し訳なさそうに謝る。
その謝罪を、俺は鼻で笑い飛ばす。
「半分諦めた?一人でやっていける?何を言っている、お前は?」
俺の言ったことを理解できていないのか、少女はキョトンとしている。
「友ならここにいるだろう。七人も」
いつの間にかミーシャたちが俺と少女の周りに集まっていた。
「俺たちは今日からこのクラスに編入する。いわば、俺たちはお前のクラスメイトだ」
今はまだ、友ではないかもしれぬ。しかし、この教室で共に学び、少しずつお互いのことをわかっていけばいい。
「貴様は決して孤独などではない。俺が、いや俺たちがいるのだからな」
少女は、少しうかがうような顔で、
「ほ、本当にいいんですか?こ、こんな私と友達になって?」
「大丈夫」「全然いいわよ」「困っている人を助けるのも勇者の使命だしね」「あははー。もう友達出来ちゃいましたー」「お友達がまた増えたぞっゼシア」「……お友達……百人……です……」
少女の問いにミーシャたちはそう笑いかける。
「そういうわけだ。友になってくれるな?」
俺は、少女の前に手を差し出した。
「わ、私が変なこと言っても嫌いになったりしませんか……?じ、事前に知らせずに遊びに行っても、いいんですか……?」
やれやれ、まだそんなことを気にしているのか。
「くはは。そう心配するな。その程度で貴様を嫌ったりはせん。俺は、魔王アノス・ヴォルディゴードだ。貴様の前に立ちふさがるありとあらゆる理不尽は、この俺がすべて滅ぼしつくしてみせよう!」
と宣言した。
すると、少女はおもむろに俺の手を握り……
「こっこんな私ですが、よろしくお願いしますっ!!」
と、とびきりの笑顔を見せた。
それは、先ほどのような作り笑いではなく、今まで心を押し殺してきた少女の、心からの笑顔だった。
そして、その後にお互いに自己紹介をしたのだが……
「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操るもの。紅魔族随一の魔法の使い手にして、やがて紅魔族の長となる者!」
とローブをひるがえしながら名乗ったときは、俺たちは皆あっけにとられたものだ。
隣に座り、ゆんゆんの自己紹介を聞いていたサーシャは、小さな声で、
「友達出来ないのって、これが原因じゃないかしら……」
――――――俺もそう思うぞ。
ゆんゆんは友達出来てもおかしくないと思うんですけどねぇ……。
誤字などがあればご指摘お願いします。
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下校
アノスの口調って難しいですよね。配下の口調がみんな違うから助かっている面もあります。
自己紹介をしたあと、ゆんゆんからこの世界について教わった。
ゆんゆんによると、自分もこの世界とも俺の世界とも違う世界から転移し、この学校に通っているという。
ゆんゆんは彼女がいた世界のことを俺たちに教えてくれた。
レベルやスキル、ギルドに冒険者カードなど、興味深いものばかりだった。
ふむ。さすが異世界だな。世界の仕組みや理まで俺の世界とは全く違うというわけか。
行けるのだとしたら、行ってみたいものだ。異世界に行くことのできる魔法を作ってみてもよいかもしれぬ。
しかし、彼女の話の中に一点、気になることがあった。それは、
「魔王が、人間界を侵略していると……」
「はい……。そうなんです……」
そう、彼女の世界では魔王が人々を襲っているのだ。
平和を自分から壊し、ましてや人を殺したりするとはな。愚かなことをするものだ。
俺が今彼女の世界に行けたのならば、その魔王を滅ぼしただろうな。
「ね、ねぇ……こ、こんなこと言うのもなんだけど、私たちと友達になってよかったの……?確かにアノスは人間界を侵略しようとはしないけど、魔王なのよ?」
サーシャが恐る恐るゆんゆんに聞く。
「い、いえ大丈夫です。アノスさんは私の世界の魔王とは違うってことぐらいわかります」
ゆんゆんがニッコリと笑う。
「それに、昔友達が出来無さ過ぎて、悪魔とか召喚しようとしましたし。友達になってくれるならたとえ人外でも、言語が通じるなら大丈夫って決めてますから!」
「わーお、全然大丈夫じゃないぞそれ……」
エレオノールが苦笑する。
「まあゆんゆんがいいなら……。だけど、せめてあの名乗りだけはなんとかならないのかしら?」
サーシャは先ほどのゆんゆんの様子を思い出したのか、げんなりした様子だ。
自己紹介をしたあと、正気を取り戻したのか、ゆんゆんは顔を真っ赤にして、その場にうずくまったのだ。
あれほどまでに恥ずかしがるのなら、やらなければいいものを。
こちらもなにか事情があるのか?
ゆんゆんも先ほどの失態を思い出したのか、顔を少し赤くしながら、
「あ、あれは紅魔族がやる自己紹介の仕方で……。紅魔族は皆これをやらなきゃいけないんです……」
彼女曰く、紅魔族は彼女の世界に存在する「紅魔の里」という場所に住み着いている、高い知力と魔力を持つ種族だという。そして、ゆんゆんもその一人らしい。
しかし、先程のような名乗りを紅魔族は全員やるのか?とても高い知力を持つようには思えぬがな。
「あー、これ中二病ってやつだと思うぞ、アノス君」
といきなりエレオノールが聞いたことのない単語を口に出す。
ふむ、二千年前にはなかった単語だな。
「中二病?名前から察するに病気のようだが、どんな病気なのだ?」
エレオノールがえーっとね、と説明する。
「中二病っていうのは、14歳ぐらいの人間が、自分をかっこつけるために、自分に妙な設定を付け加えたり、よくわからない言葉を発することだぞ」
なるほどな。病気ではなく自分をよく見せるための背伸びのようなものか。
「妙な設定やよくわからない言葉とは?」
「えーとね、例えば、右手に包帯を巻いて、『くっ、神々に封印された俺の右腕が今、解放されようとしているっっ!』て言ったり、アルクランイスカでのクラス別対抗試合で、三手に分かれて攻めるだけの作戦を、『
「……眼帯……とかも……つけたりします……」
エレオノールがその時のことを思い出したのか、顔を暗くする。ゼシアも、若干嫌そうな顔をした。
ゼペスやリオルグのようなものか。奴らも魔侯爵とか魔大帝とかよくわからぬことを言っていたしな。
つまり、紅魔族は、知力が高く、魔力が強いが、全員中二病を患っている、と。
俺に言わせるなら、命知らずな真似だと言いたい。
二千年前は、大量の情報が四六時中錯綜していて、どの情報が真でどの情報が誤か判別するのが難しかった。
故に、魔界を脅かそうとするような敵の情報が入ったときは、真か誤か確認せず即座に現地に向かい潰したものだ。そんな確認をする暇など到底なかったからな。二千年前にあのような真似を居ていたら即座に滅びていただろう。
そう思うと、これも平和の産物なのかもしれぬな。
「そうなんです……。私はおかしいと思っているのに、ほかの紅魔族のみんなは、これを平気な顔でするんです……」
ゆんゆんも顔を暗くする。
彼女は中二病の集団の中でただ一人常識的な性格を持っていたというわけか。周りと自分の価値観が全くちがうのだ。その中で友を作れ、などと言われても、難しいだろう。
そう考えるとゆんゆんは、紅魔族としてみると、不適合者なのかもしれぬな。
「だから友達がいなかった」
「そうなんですぅ~」
泣き出してしまったゆんゆんをの頭を、ミーシャがよしよしと撫でる。
「いえ、だけどもう大丈夫です!今日、こんな素晴らしい友達が7人も出来たんですから!」
ゆんゆんは涙を拭き、そう宣言する。と、その時、
キーンコーンカーンコーン
とチャイムが鳴った。
「あっ、もう下校時刻ですね。私は家に帰るんですけど、アノスさんたちはどうするんですか?」
ゆんゆんが聞いてくる。今日この世界に来たと話したばかりだ。心配なのだろう。
「なに、心配いらぬ。ルーテルドルフから住む場所の情報くらいは聞いてある」
と、ポケットから白い紙を取り出した。
「ルーテルドルフから地図をもらってな。これに俺たちが住む場所が書いてあるとのことだ」
ゆんゆんが地図を覗き込む。
「へえー。ここにあるんですね……って……」
ゆんゆんが突如黙り込んだ。
「知っているのか?ゆんゆん」
そう問うと、ゆんゆんはこちらを向き、
「こ、ここ……私の隣の家なんです……」
ほう。ゆんゆんの隣とはな。とんだ偶然もあるものだ。
「でも……ここってただの空き地で、家なんて建っていませんよ?」
「はぁ!?」
ゆんゆんからの追加の情報に、サーシャが素っ頓狂な声を上げる。
「それ、家じゃないじゃない……」
「俺たちは意図されず転移してきたのだ。仕方ないだろう」
土地だけでも確保できたのだ。ありがたいと思うべきだろう。
「なに、心配することはない。土地さえあれば家などどうとでもできるからな」
<
「ゆんゆん。よかったら俺たちの家に、遊びに来ぬか?お泊り会というやつだ」
同じクラスになるのだ。親交を深めてもよいだろう。そう思い提案すると、
「行きますっっっ!!!!」
と即座に答えた。今のはなかなかの早さだったな。
「お、お泊り会……まさか本当にできるなんて……。夢みたい……」
ゆんゆんは今にも天に昇りそうなほど幸せな表情をしている。
「あははー。すぐ決まっちゃいましたねー……。でも、楽しみですねー」
「彼女の世界のことも、もっと知りたいしね。興味深いことがいっぱいあるよ」
ミサやレイだけでなく、全員乗り気のようだしな。
「じゃあ、すぐに帰りましょう!」
もう一秒でも待ちきれないといったようにゆんゆんが俺たちのことをせかす。よほど楽しみのようだな。
もうゆんゆんの帰り支度が済んでいるようだし、そろそろ帰るとするか。
「<
ミーシャが聞いて来るが、残念ながらそれはできない。
「<
そう言いながらドアを開ける。
すると、廊下には、下校時間からなのか、廊下にたくさんの生徒がいた。
少年少女だけでなく、幼女や明らかに人外の存在もいた。彼らも別世界の人間だとゆんゆんは説明してくれた。
一体いくつの世界から来ているのやら。
そう思いながらも帰ろうとしたとき、
「おや?ゆんゆんではないですか。そちらの人たちは誰なのです?」
珍妙なトンガリ帽子をかぶった、黒いマントに黒いローブ、黒いブーツを身に着けた、黒髪の少女が声をかけてきた。
ゆんゆんと同じく紅の瞳を持っている。こいつも紅魔族か?
少女は俺たちの視線に気が付いたのか、突然バサッとマントを翻し、
「我が名はめぐみん!紅魔族一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操るもの!」
間違いなくこいつは紅魔族だ。しかも、ゆんゆんとは違い、微塵と恥ずかしいと思っていないな。これが普通の紅魔族か。
「こ、この人たちは私の友達よ!今日友達になったの!」
そうゆんゆんがめぐみんと名乗った少女に胸を張る。
「とっ友達っ!?あ、あのゆんゆんに友達が!?あの、動物だけでなく植物にも逃げられ、誕生日会も毎年一人で行っていたあのゆんゆんが……!?」
「聞けば聞くほど可哀そうになってくるわね……。」
めぐみんのカミングアウトを聞き、サーシャが今日何回目ともわからない憐みの視線をゆんゆんに向ける。
ゆんゆんはサーシャのその視線に気づいていないのか、
「今日、みんなでお泊り会もする予定なの!もうめぐみんにぼっちなんて言わせないわ!」
と、めぐみんにマウントをとっている。
「おっ、お泊り会ぃぃぃぃ――――!?」
ゆんゆんのお泊り会宣言でめぐみんが完全に固まってしまった。驚きが彼女の情報処理能力の上限を上回ったのだろう。
「さて、帰るか」
「ちょ、ちょっとアノス、あの子あのままでいいの?」
帰ろうとする俺をサーシャがゆすってくる。
「心配は不要だ。今、彼女の知り合いが来た」
めぐみんの知り合いらしき少年が彼女を揺すっている。「めぐみん!?おいめぐみん大丈夫か!?」と聞こえるが、まあ大丈夫だろう。
「ならいいけど……」
「ところで、先ほどのめぐみんという少女は知り合いか?」
「あ、はい!めぐみんは紅魔の里でのライバルなんです」
聞くところによると、ゆんゆんとめぐみんは紅魔の里でトップを競い合う仲らしい。しかし、大抵めぐみんにトップをとられていたようだ。
あれがライバルとはな。世の中、見た目にもよらぬものだ。
「それにしても、ゆんゆんさんといいめぐみんさんと言い、珍しい名前だね。紅魔族はみんなそうなのかな?」
「はい。みんな私たちと似たような名前ですね。紅魔の里から出たときはびっくりしました……」
そのような話をしながら俺たちは帰路についた。
「ほんっとうに……何もないですね……」
ミサが唖然としていた。いや、ミサだけでなく、サーシャやエレオノールも似たような感じだった。
そこには、草すらない、見渡す限り一面茶色の空き地が広がっていた。広い空き地だ。城ぐらいなら建てられるぐらいには広い。
空き地の隣には、小さな家がポツンと建ってあった。あれがおそらくゆんゆんの家なのだろう。
俺は
「すごい……。一瞬でこんな大きな城を立てるなんて……」
ゆんゆんは魔王城を見上げ、唖然としている。
「この俺を誰だと思っている?魔王アノス・ヴォルディゴードだ。不可能など俺にはない」
クイっと指を曲げると、ガゴォォォンッと重々しい音が響き、ドアが開いた。
「さて、楽しい楽しいお泊り会の始まりだ」
ゆんゆん不適合者説。あながち間違っていないと思うんですよねぇ。
少し話の進みが遅いのかな?グダグダ感が否めない……。自分が思いついたこと詰め込んでいったらこうなっちゃうんです……。
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慌ただしい一日の終わり
「それじゃあ、またあとで!」
ゆんゆんは一度家に戻った。荷物を家に置いてから来るらしい。
その間に俺たちは部屋を選んだ。レイとミサ、サーシャとミーシャ、ゼシアとエレオノールの二人で泊まるらしい。
しかし、今日はお泊り会だ。ちゃんと別に寝室も用意してある。
部屋を決め終わったちょうどその時、コンコン、とノックの音が聞こえた。
門を開けると、ゆんゆんが立っていた。しかし、俺は一瞬立っている人物がゆんゆんなのかわからなかった。なぜなら、
「お…邪魔します……。重い……」
ゆんゆんの顔が隠れるほどの、大量の箱を抱えていたからだ。
「わーお……。箱がいっぱいだぞ」
「……崩れ……そうです……」
高く積み上げられた箱は、いまにも崩れ落ちそうだった。
「そんなに何を持ってきたのよ……」
サーシャの問いに箱を机に置いたゆんゆんが恥ずかしそうにしながら、
「お、お泊り会なので……。部屋に合った遊び道具全部持ってきちゃいました……」
よほど楽しみだったようだな。
「ダイレクトアタックだ」
「また負けた……。アノス、少しは手加減しなさいよっ!」
俺たちはいま、ゆんゆんが持ってきたゲームをやっている。
俺とサーシャがやっているのはカードゲームなのだが、これがなかなか面白い。
モンスターだけでなく、多彩な魔法や相手の行動を阻害する罠のカードなどがあり、組み合わせによっては無限に戦略を作れそうだ。
これはゆんゆんが作ったデッキなのだが、いつか自分で自分だけのデッキを作ってみたいものだ。
「そのデッキを完璧に使いこなせるようになったな、サーシャ」
ゆんゆんはなぜかデッキをたくさん持っていた。俺たちはそのデッキを借りているわけだ。
なぜそんなにデッキを持っているのか聞いてみると、
「ずっと一人だったので……二つのデッキを使って一人で対決をしていました……」
ゆんゆんはぼっちだったゆえに、一人でもオセロなどの対戦型ゲームを楽しむことを極めたらしい。
俺達が友達にならなければ、ゆんゆんは自分に気を引かせるために何か大変なことをやらかしただろう。
「そりゃ同じデッキで百回も対戦をすれば使いこなせるわよ……。アノスなんて二回目ぐらいでもう使いこなしてたじゃない……」
ちなみに百戦全勝だ。
向こうでは、ミーシャとゆんゆん、ゼシア、エレオノールが神経衰弱をしていた。
「ここと、これで」
「またそろいました!すごいですねミーシャさん!」
「わおっ、ミーシャちゃん神経衰弱すっごく強いぞ!」
「……ほとんど……取られました……」
ミーシャが圧勝していた。
彼女は見たものを瞬間的に記憶することができる。どのトランプがどこにあるかなど、彼女にとっては造作もないことだろう。
「うっ……うっ……」
ゆんゆんを見ると、涙を流していた。
「!?ゆ、ゆんゆんちゃんどうしたんだぞっ!?」
エレオノールが心配する。
「いえ、みんなと遊べるのって何か月ぶりかしら、って思って……」
「この子、本当に重症だぞっ!!!」
エレオノールが涙ぐむゆんゆんに突っ込む。ちなみに彼女は一回もそろっていない。
重症なのは理解できていたが、ここまでとはな。彼女の世界の住人は彼女に対して何もしなかったのか?そんな疑問がわいてきた。
「You win!」
「僕の勝ちだね」
「また負けちゃいました……」
後ろでは、レイとミサがテレビゲームというものをしている。
テレビというものが俺の世界にないので、彼女の記憶を読み取り、<
それにしても、なんだあれは?細かい部品が山のようにあり、それが複雑に配置されているので、俺が予想していた以上に魔力を使った。途中からは複雑な魔方陣を構成するのに似ているのに気づいたので、楽に作ることができたがな。この世界には俺の知らぬことがまだまだあるようだ。
テレビゲームも初めて知った。コントローラーの使い方が少々複雑だったが、テレビを創造することに比べたらなんてことはなかった。
二人がやっているのは格闘ゲームというらしく、様々な戦士の中から一人を選び、相手を画面外に吹き飛ばすゲームだ。ダメージを与えれば与えるほど相手が吹き飛びやすくなるらしい。
戦士にもいろいろあり、相手の技と姿を模倣するピンク色の丸い生物や赤い鉢巻をした武闘家、雷を操るネズミなど多種多様でそのすべてが興味深い戦士ばかりだった。
先ほどのカードゲームといい、面白いものばかりだ。元の世界に戻れたらこのゲームを作ってみるか。流行るかもしれぬ。
「そろそろご飯にする?」
ミーシャが聞いてくる。もうそんな時間か。時間がたつのは早いな。
「そうだな。そろそろ飯にするか」
夕食はキノコグラタンだ。食材は<
俺とレイは食材を切り、ミサとゆんゆんが切った野菜を洗い、サーシャとミーシャが調理をしている。エレオノールとゼシアはパンを焼く係だ。
サーシャは前は料理の腕は壊滅的だった。
あの時のサーシャの料理は食材と食材が魔力反応を起こし、破滅的な闇が産声を上げていた。どうしたらこのような闇を生み出すことができるのか、疑問に思ったほどだ。
しかし今はミーシャと母さんとの特訓のかいあってか、彼女の料理の腕はミーシャと同じレベルまで達していた。
こういった配下の成長は、喜ばしいものだな。
調理の過程で、レイとまた野菜の皮むきの対決をした。今回はレイもピーラーを使っている。今回の勝負は引き分けだった。レイも腕を上げたな。
「ピーラーで……野菜を切るなんて……」
ゆんゆんは目を丸くしていた。まさかピーラーで野菜を切るとは思いもしなかったのだろう。
「そう驚くな。道具を本来の用途にしか使えないようでは、始祖とは言えぬ」
まあ、この時代は平和だからな。いつでも包丁が手に入るのなら、ピーラーで野菜を切る必要もあるまい。しかし、二千年前は違ったからな。
他にも、ゆんゆんに彼女の世界の常識を教えてもらったりもした。
「ほう。貴様の世界では野菜が動くのか」
「そうなんですよー。たまに人が死んじゃったりします」
どんな生命力なのだ、その野菜は。
そんなこんなあったが、無事料理は完成した。
「これすっごくおいしいです!」
ゆんゆんがサーシャとミーシャが作ったキノコグラタンに舌鼓を打っていた。
「このグラタンの作り方って、教えてもらうことできますか?」
ゆんゆんがミーシャとサーシャにお願いしている。よほど気にいったようだな。まあ、特別な食材とかは何も使っていないので、彼女の世界でも作れるだろう。
「わかった」「別にいいわよ」
ミーシャとサーシャが了承する。やったぁ、とゆんゆんは喜んでいる。
夕食が終わったことだし、ゲームの続きでもするか。
そう思っていると、気持ちが落ち着いたのか、ゆんゆんがこんな提案をしていた。
「あの、皆さん、明日私のこの世界を案内させてくれませんか?」
この世界を案内?それはありがたいのだが、明日も学校があるのではないか?放課後だけでこの世界をすべて案内するのはさすがに無理がある。
そんな俺の思考を読み取ったのか、ゆんゆんが説明した。
「大丈夫です!今日は金曜日なので、明日と明後日は休日なんです」
「じゃあ、案内をお願いしようかな。いいよね、アノス?」
レイがこちらを向く。そうだな。明日が休日なら何の問題はないな。
「ああ。では案内させてもらうとするか、ゆんゆん。明日の案内、お前に任せたぞ」
そう告げると、ゆんゆんはいかにも任されました!といった顔で、
「はい、わかりました!」
と言った。
その後は、皆で先ほどレイとミサがやっていた格闘ゲームをした。
ドォォン
「きゃー!負けちゃいました……」
ドォォン
「あー、あとちょっとだったぞ」
ドォォン
「相変わらずアノスは強いね……」
「You win!」
これで俺の十五連勝だ。大抵最後は俺とレイの一騎打ちになるので、そうなるともう俺の勝ちは確定したものだ。完全にこの戦士の動きや特徴を把握した。俺が負けることはないだろう。
「全員でアノスを狙うのよ!あいつを一回でも負かしてやらないと気が済まないわ!」
サーシャの提案に皆乗ったのか、次のラウンドでは皆の戦士が俺の戦士に攻撃を仕掛けてきた。
俺は目の前にいた一人をつかみ投げ飛ばし、二人をスライディングでふきとばし、背後から襲ってくる矢を跳んでかわし、目の前の一人の頭をつかみ地面にたたきつける。間髪入れずに残りの三人が攻撃してくるが、先ほどのように冷静に対処する。
共闘しているとはいえ、一応は敵なのだ。同士討ちなども起こるので、楽に対処できた。結果、全員を一人で画面外に吹き飛ばした。十六連勝だ。
「全員で攻撃しても勝てないってどういうことなのよ……」
「……悔しい……です……」
サーシャが机に突っ伏し、ゼシアは悔しそうな表情を浮かべる。
「数に頼った戦術は個々の思考をおろそかにする。動きが先ほどよりも単純だ。全員で攻めてもいいが、もっと戦術を工夫しろ。でないと俺は倒せぬぞ」
それでも倒される気は微塵もないがな。
その後も連勝記録を伸ばし続け、三十連勝を達成した時、エレオノールが、
「もうこんな時間だぞ、ゼシア。よい子は寝る時間だぞっ」
と言った。時計を見ると、十時を過ぎようとしていた。見れば、ゼシアも少し眠そうだ。
「今日はもう寝るか。色々疲れもたまっているかもしれぬしな。ついてこい」
俺たちは一回に設けられた魔法陣の上に乗る。魔法陣に魔力を込めると、寝室に転移した。
寝室は女子用と男子用に分かれている。
俺とレイは男子用寝室に、ミーシャたちは女子用寝室に行った。
ベッドに横になる。すると、隣のベッドのレイが声をかけてきた。
「アノス、僕たちはなぜこの世界に転移させられたんだろうね?」
それは俺も思っていたことだ。なぜ俺たちはこの世界に転移された?何物の仕業だ?
世界間を超えて転移させるなど尋常な魔法ではない。神の仕業か?
「なぜ俺たちがこの世界に転移させられたのかはわからぬ。まあ、学校で暮らせばそのうちルーテルドルフが教えてくれるのだ。気を長くして待つとしよう」
「そうだね。そろそろ僕たちは寝ようか」
レイは布団に潜り込む。すぐに寝息が聞こえてきた。
俺も寝るとするか。女子用寝室のほうから何やら話し声が聞こえてくる。ガールズトークとやらをしているのだろう。
この様子だと、あと一時間は彼女らは寝ないな。
明日からどうなるかわからぬ。しかし、俺はアノス・ヴォルディゴードだ。どんな理不尽も、どんな困難も、滅ぼしつくしてみせる。
そう思いながら、俺は瞼を閉じた。
大体最初に吹っ飛ばされるのはゆんゆんです。みんな上達が早いんですよ。
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