バカンス取ろうと誘ったからにはハッピーエンドを目指すと(自称)姉は言った (haru970)
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Fate/Zero
第1話 お巡りさんアイツDEATH


この二人はもう一つの作品“俺と僕と私と儂”に出てくるキャラの外伝っぽいストーリーです。


“俺と僕と私と儂”を読んでいなくても楽しめますがオリジナルキャラ二人の
以下の情報を出しておきます(ネタバレはなるべく伏せておきたいと思います):


三月
見た目十代前半でゴス風ドレスの金髪碧眼、ハイテンションのお調子者。姓はない。



□□□・チエ
見た目十代前半で黒い着物の黒髪赤眼、低いテンションに無表情で姓を名乗りたがらない。 いつもマイソードを持ち歩いている。

尚この二人に血の繋がりは無い。



()()にいても気が滅入るだけだし一緒にバカンス取ろう?」

「“ばかんす”とは何だ?」

「は? マジ?」

 

 私の名は□□□・チエ。 姓は名乗らん。

 突然(自称)姉に“ばかんす”なるものを取ろうと誘われ共に()()()()に来たのは良いが────

 

「ハァ………」

 

「そ、そんな落ち込む事ないんじゃない? ほらコーヒーか何か奢るからさ?」

 

「何で僕が君のような子供に慰めらければならないんだ?」

 

 ────何故か(自称)姉に手を引っ張られながらこのジャージ姿の男性に付きまとい話しかけたら不審者と思われたのかこの世界の警官らしき者が“ちょっといいかいそこの君?”と声を掛けられた。

 

 ちなみに警官らしき者に声を掛けられた男性はかなり焦っていた感じがした。

(自称)姉の声が頭の中に響き“何とかして”と言ったから警官らしき二人の首を跳ねようかと返事を返した所すごく怒鳴られ“穏便に”と。

 

 解せぬ。

 

 なので男性と(自称)姉を担いでその場から近くのビルの屋根に飛び移り屋根伝いに飛翔して遠くに見えた公園に着地して下ろしたら男性は気絶していて(自称)姉にまた怒鳴られた。

 

 解せぬ。 穏便にしたつもりだったのだが。

 

 そして男性の意識が戻るまでに(自称)姉は私にこの世界の事を直に私の脳に備え付けられる(インスト-ルされる)

 その際にいろんな景色や記録が意識を通る。

 …………………成程この男性の名は()()()()。 冬木市という()()()()()から()()()()()今は放浪としていると。

 

『チエ、ここからは私に任せて?』

『承知した()()

『もう! “三月(ミツキ)”って呼びなさいって何度言えば分かるのよ?!』

 

(自称)姉、三月(ミツキ)の怒鳴り声が頭の中で響く。

 

 解せぬ。

 

「ん…」

 

「お、起きた?」

 

「君は…」

 

 どうやら男性、間桐雁夜の目が覚めたようだ。 意識がまだ朦朧としているのかどこか気が抜けた声だ。

 

「ねえ、取引しない?」

 

「取引?」

 

「そ。 貴方に“魔法”教えるから冬木市に戻る気はない?」

 

「…………………………………ハ?」

 

 

___________

 

 間桐雁夜 視点

___________

 

 

 

 俺の名は間桐雁夜、冬木市の御三家の元間桐家の者だ。 色々あって今は間桐家と縁を切っている状態でルポライター活動をしながら世界をトントンと旅している。 今日も街を歩いていると急に少女から声を掛けられた。

 

 金髪に碧眼、小柄な体と整った顔にフリルドレスはどこか幼さを感じつつ貴族の様な雰囲気を出す。 歳は十代前半と言ったところか?

 

 その子の後ろには護衛らしき黒髪と赤眼をした女性がどこかつまらなそうな顔で俺を見る。 この国では珍しい黒い着物に手に持っているのは長い棒に布をかぶせているような物、こっちは十代後半か?

 

 この二人を見るとどこか冬木市で別れた凛ちゃんと幼馴染の葵さんを思い出す(活発そうな態度と落ち着いた態度限定だが)。

 

「ねえおじさん、“魔法”の取引しない?」

 

「ハ?」

 

 魔法? 何を────そこで俺はハッとする。 そうか、こいつは恐らくどこかの魔術師。 だがなぜ俺に話しかけた?

 いや、そもそも魔術の世界が嫌気を差して抜け出したのだ。 今更係る気など毛頭ない。

 

「ごめんねお嬢ちゃん、でもそういうのは記事に出来ないかな?」

 

「む~、記事じゃなくて貴方に教えるの!」

 

「ごめん、冷やかしなら他を当たって────」

 

「────貴方じゃなきゃダメなの!」

 

 俺は彼女達を無視して歩くと金髪の少女がしつこく付き纏い、声の音量も下げず“取引、取引”と声を出しているとなぜか俺の方が不審者扱いされる羽目に。

 

 何故だ?! と言う間もなく、もう一人の黒髪の女性が俺と金髪の少女をいとも簡単に担ぎ文字通り飛翔して俺の意識そこで途絶えた。

 

 気が付くと黒髪の女性に膝枕をされている形で金髪少女が俺に声を掛ける。

 

「────貴方に“魔法”教えるから冬木市に戻る気はない?」

 

「…………………………………ハ?」

 

 

___________

 

 三月 視点

___________

 

 

 

「冬木市よ、私は帰って来たぞー!」

 

 そう言いながら私は()()冬木市の駅に着き、電車を降り感動のまま言葉を放った。

 だって()()冬木市? Fateだよ?!

 もう一度言うよ、Fateだよ?!

 聖杯戦争だよ?!

 

 いやー長かったよここまでの旅路。 まずはメンドクサイ────じゃなかった────“方針間違い”の間桐雁夜を冬木市に()()()()()()()帰って来てもらって私達から習った“魔法”を間桐臓硯に披露してもらって────

 え? まず“誰だよお前だって”? ご尤も。

 

 私は三月(ミツキ)! “ミッチー”でも“みっちゃん”でも良いよ! え? 姓? ()()()()()()()()

 好きなものは甘いものと可愛いもの! 嫌いなものは…………………強いて言うのなら“外道”ってことになるのかな? チーちゃん風に?

 

 あ、このチーちゃんっていうのはチエの事だよ! そうそうこの何か興味なさそうな着物を着ている私の()! 本人は認めたくないけどね~。

 

 彼女はぶっきら棒と言うか色々過去にあったからな~。 私もチーちゃんの事言えないけど。

 

 身長は秘密! スリーサイズは成長中! 特技は………今は秘密って事で!

 

「本当にこれで大丈夫なんだろうな三月?」

 

「んもう、心配性なんだからカーリーちゃん!♡」

 

「カーリーちゃん呼ぶな! 最後に♡付けるな!」

 

「カルシウム足りてる? カリカリしてるよ?」

 

「誰のせいだと思っているんだ! カリカリ言うな!」

 

「頭半分白髪になっちゃうよ~」

 

「ぬ、グッ…この────」

 

 雁夜がなんか言っているけどしーらない。

 

「チエさん」

 

「何?」

 

「三月は何時もこうなのか?」

 

「ああ」

 

「………苦労しているんだな」

 

「別に」

 

「そう…か?」

 

「うむ」

 

 雁夜とチーちゃんがブツブツとなんか言っているけどしーらない。

 

「でも……本当に桜ちゃんが僕の所為で────」

 

「────そうよ、間桐の家に養子として遠坂時臣が送ったってのは本当。しかも早く行動を取らないと()()()()()()

 

「!」

 

 私は未だに優柔不断な雁夜に真剣な顔をして釘をする。 全く、ここに来るまで()()と説明したのに。

 ま、無理もないか。 事実を見せれば否が応でも納得するしかないし────

 

「────あ!」

 

「?!」

 

「タコ焼きだー!」

 

 一瞬ギョッとした雁夜の肩がズレ落ちる気がしたけどお腹減ったもん! しょうがないじゃん!

 

 ハフハフ、ウッマー!

 

 

___________

 

 チエ 視点

___________

 

 

 

 冬木市、あと少しの時間がすれば遠坂桜(いや今は間桐桜か)が三月曰く“酷い仕打ちをされる”。

 その前にこの間桐雁夜に“魔法”を私が教え、現在間桐家を牛耳っている間桐臓硯に披露し間桐桜の身柄を正視の手続きにて確保、そして来るべき聖杯戦争に向けて準備をする。

 ………………これが“ばかんす”足る物なのか?

 

『違うに決まっているでしょ!』

『そうなのか?』

『そうよ、これはまだ序の口! まずは桜を魔の手から救うわよ!』

 

 ………………()()? 私達が? 冗談にしては質が悪すぎる。

 ()()()()()()からこそ私達だと言うのに。

 

『うっさい! バカンスの過程よ!』

 

 ……………解せぬ。

 

 しかしこの場所はかなり私に馴染む。 現代風の建物などではなく、土地自体から霊脈が走っている。

 気を引き締めなくては。

 

「雁夜くん?」

 

 そうこうしている内に我々三人に誰かが声を掛ける。

 

 振り向くと黒髪の女性が立っていて我々三人(主に雁夜)を見ていた。

 

「あ、あ、葵さん。お久しぶりです」

 

 この女性は確か……

 私は備え付けられた(インスト-ルされた)知識と記録を漁り目の前の対象を検索した。

 

 ………ああ、遠坂葵。今回の聖杯戦争の参加者にして遠坂時臣の妻であり、間桐雁夜の想い人、そして遠坂凛と間桐桜の母親。我が弱く、桜の事を間桐雁夜に頼み聖杯戦争に参加する事になる原因。

 

 そして最終的に間桐雁夜が暴走し、首を絞められて精神崩壊する。

 これを三月に教えられた時は暴走した間桐雁夜の首を跳ねるのかと聞いたが力強く全否定された。

 

「どうしたのその子達?」

 

「この子達? ………あ、ああ────」

 

「────お初にお目にかかります遠坂葵様、私の名はある事情にて伏せて置きなりませんが間桐雁夜様に間桐家までエスコートを頼みました。こちらは私の護衛を務めているチエと言います。お噂通り目麗しい方ですね。」

 

 三月がスカートの端を摘み一礼をする。 突然の貴族作法で間桐雁夜の目が丸くなるが遠坂葵は何かに気付いたかのように微笑む。

 

「あらあら、良い子ね。 凛にも見習わせたいわ」

 

「! そ、そうだ葵さん。ところで今日は一人?凛ちゃんと桜ちゃんは?」

 

「…」

 

 遠坂葵が目を伏せ、間桐雁夜が何か察したかのように拳に力が入った。 

 三月が彼に説明してように既に桜は遠坂家ではなく、間桐の娘になっているということがやっと実感したか。

 

「葵さん、何があったかは聞かない。でも…これから起こる事、俺がする事は許してほしい。それが貴女に俺が友人として出来る手助けだ」

 

 ほう。 今まではウジウジとした覚悟無き弱者の眼だったが、今更ながら覚悟を決めたか間桐雁夜。

 それ程までにこの遠坂葵の事を思っていたという事か?

 

「雁夜くん? 貴方一体何を────まさか、そこの二人と何か関係が────」

 

「────大丈夫、里帰りがてらうちの爺さんに会いたい人を案内するだけだから」

 

「では葵様、ごきげんよう」

 

 三月がまた一例をして我々三人は間桐家へと向かった。

 

 

___________

 

 間桐雁夜 視点

___________

 

 

 

「いやー!冷や冷やしたー!」

 

「それは俺のセリフだ。急に良い子ぶりやがって。何なんださっきのあれは?」

 

「心外ね、貴族の礼儀作法くらい私にかかったらチョチョイのチョイよ」

 

「君が言うのだから納得するけど」

 

「で? どうだった? 私が言った通りでしょ?」

 

「………ああ。 認めたくないが…………ありがとう」

 

「ん? 何を?」

 

「三月の事だから()()()あの道を通ったんだろ? 葵さんと話して覚悟を決められたよ」

 

「ん~、何言ってるかみっちゃんわっかんなーい」

 

 全く、言葉は見た目のままなのに行動は彼女の方が大人びているな。

 これは本当に言った様に“見た目より年上”って話は本当らしいな、爺の例もあるし。

 こいつ、魔術師の癖に思ったより……“普通”だな。

 

「そういう事にしておくよ」

 

「ツンデレ?」

 

「ツンデレ言うな!」

 

「ツンカリツンデレ?」

 

「それも違う!」

 

 前言撤回。こいつはやっぱり他の魔術師と同じでどこか好きになれない!

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ここが間桐邸ね」

 

「…そうだ」

 

「…」

 

 帰って来てしまった。

 

()()()から陰気臭いのね」

 

 三月が何かボソッと言った気がするが今の俺は聞いている余裕はない。 チエはと言うとさっきから何か威圧めいたモノを発している。 

 

 まさかルポライターやっていた時に裏社会の人物の面接とかの経験ここで発揮するとは。

 

 そのせいか体が震えているのが分かる。

 ……………いや、訂正しよう。 これはチエの所為ではなくここに戻ってきたからだ。

 

「邪を感じる」

 

「分かるのチーちゃん?」

 

「ああ」

 

「やばい?」

 

「全然」

 

「そ、お邪魔しま~す!」

 

 三月が門を開けて、間桐邸内に入り俺と知恵も後を追う。

 ってちょっと待て!

 

「おい! 場所分かっているのか?」

 

「………………ああ、そっか。 じゃあカーリーちゃんが案内して?」

 

「ちゃん付けはやめろ!」

 

「じゃあカーリーで」

 

「もう普通に“間桐さん”とか“間桐くん”とかあるだろ?」

 

「じゃあカリカリ君!」

 

「どこのアイスだよ! もう…………もう好きにしろ」

 

「うん、そうするよカーリー君!」

 

 こいつ(三月)の相手をすると疲れる。

 

「…………………」

 

 そしてこっち(チエ)は口数がなさ過ぎて何考えているのか分からない。顔も“無表情” としか言えないくらい変わらないし。

 

 俺達が暗い中へと進むと────

 

「うっわ、くっさ?!」

 

 ────三月が鼻を手で覆う。 無理もない、俺でさえ吐きたくなるような汚臭だ、よくこんな所に人が住んで生活できるな。 と言っても人の気配などしないが。そのまま進み、扉を開けると────

 

「雁夜か。二度と儂の前に晒すでないと確かに申しつけたはずだがなぁ。してその者共は?」

 

 奥の部屋にはかなりの年配の禿げた老人が椅子に座っていた。

 間桐臓硯。

 そして今回()()が説得しなければならない相手だ。

 

「お初にお目にかかります間桐臓硯様、私の名は三月・()()()()()。 雁夜の()()を務めております」

 

「ほう、師匠とな?」

 

「ハイ」

 

「ふん、所詮は落伍者。 こんな小娘が師匠だと? 笑わせる。 それに、そこのもう一人の者の眼が気に入らん────」

 

「────遠坂の次女を養子に迎えたそうだな?」

 

 横から話に入った俺を間桐臓硯が見て三月を見比べる。

 

「フフフ、耳の早い」

 

「そんなにまでして、こんな落ちぶれた魔導の血を残したいのか?」

 

「それをなじるか? 他でもない貴様が?一体誰のせいで、ここまで間桐が零落したと思っておる? 雁夜、お主が素直に家督を継ぎ、魔導の秘伝を継承しておれば、ここまで事情は切迫せなんだ。それを貴様という奴は────」

 

「────“聖杯を通じて不老不死を得る”。 誠に良い考えかと思います」

 

 三月の言葉で爺さん(間桐臓硯)の表情が変わった。

 

「お主、どこまで知っておる?」

 

「“六十年周期”、“聖杯戦争”、“サーヴァント”。 これを言えばご理解出来るかと。 雁夜は“間桐”として聖杯戦争に参加をしたいと私に仰られまして」

 

「……ク…カカカカッ! 何を言うかと思えば、今日の今日まで何の修行もしてこなかった落伍者が僅か一年でサーヴァントのマスターになろうだと?」

 

「彼にはそれを成し遂げる力がございます」

 

「何?」

 

「信じるには御見せすれば良いのでしょうか、間桐臓硯様?」

 

「………良いだろう。 その挑発乗るとしようではないか小娘」

 

「ありがとうございます、ここは些か狭いので場所を変えていただけないでしょうか?」

 

 俺達、臓硯、三月、と俺は蟲蔵に連れてこられた(チエは上で待つように言われ待機している)。

 

「さて、雁夜よ。主の力。どれほどの物か、儂に見せて貰おうではないか。 話にならんようだったら────」

 

 臓硯が気味の悪い笑顔を作り三月を見る。

 

「────そこの小娘に自らここにいる蟲共に身を投げさせるとしよう。 桜がいるとは言え、もしもの場合の為にな」

 

 俺は震える手を止めようと拳に力を入れる。 今更ながら本当にこれが通用するのかと不安になってくる。

 

『さ、ショータイムよ雁夜』

「なッ?!」

 

 三月の声が文字通り頭の中で突然響いた

 

「む? どうした雁夜? 今更怖気図いたか?」

 

『ちょちょちょ、落ち着いてカーちゃん! 心の中でも十分聞こえるから!』

『誰がカーちゃんか! てかこれは何だ?』

『うーん、貴方が分かりやすい様に言うと“念話”?』

『何故疑問形?』

『厳密には違うから。 落ち着いた? まだ震える様だったら手を繋ぐ?』

 

 そこで俺は気付く。 さっきまで震えていた手が止まったという事に。

 全く、こいつ(三月)は良い奴なのか悪いのか。

 俺は事前に話された通りにイメージを練り上げる。 想像するのは嵐、荒れ狂う風。

 その途端部屋の中にありもしないか暴風が俺の前に発生する。

 

「おおう?!」

 

 臓硯が何か騒いでいるが俺は無視する。 今のイメージの上に想像するのは火、どこまでも燃え盛る炎。この二つによって作られるのは────

 

「────こ、これは?!」

 

 俺の前にあった風は球状に変わり、あらゆる場所に炎の波が表面を疼く。

 太陽をした火災旋風の出来上がりだ。

 

「臓硯、俺は聖杯をお前に持ち帰る。その代わり遠坂桜を俺の養子にしろ。 そして俺が死ぬまでの間今後一切桜に手を出すな」

 

「貴様………まだ始まってもいない聖杯戦争に早くも勝ったつもりでいるのか?貴様は聖杯戦争を理解しておらん。確かに先程の魔術は魔導を捨てた身としては凄まじい。だがな、他の魔術師に追随を許さないというほどでもない。だというのに、“桜を寄越せ”じゃと? “手を出すな”じゃと? あれの調整は子が生まれるまで続ける────」

 

「────ならば致し方ありませんね間桐臓硯様。 その“桜”を殺し、聖杯を使い蘇生します」

 

「何?」

 

「その“桜”と言う名づけから女の子。 このような蟲に陵辱を受ける身とならば死を選ぶ方もいましょう」

 

「…………………」

 

 俺の気の所為かも知らないが三月の後ろには()()()()()()()火災旋風が唸っているように見えた。

 

 

___________

 

 三月 視点

___________

 

 

「────ならば致し方ありませんね間桐臓硯様。 その“桜”を殺し、聖杯を使い蘇生します」

 

「何?」

 

「その“桜”と言う名づけから女の子。 このような蟲に陵辱を受ける身とならば死を選ぶ方もいましょう」

 

 こォんのォ糞爺ぃぃぃぃぃぃ! 人が慣れない貴族風競っていりゃ言いたい放題言いやがってぇぇぇぇ! 

 今の間桐臓硯は屑の中の屑と“知識”と知っていたけど認識間違っていたわ。

 

 こいつは糞の中の○○○○で○○○○。 今すぐブッチKILL(キル)りたい!!!

 

 この糞爺には聖杯と桜(または桜の子)は必須の()()でしかない。 そこに雁夜という駒が来たから一応聖杯戦争に参加させて負ければ何も変わらない、勝てば聖杯が今すぐ手に入れる。

 けどもしこのまま桜ちゃんをこの糞爺の思い通りに預けていれば……………

 

 あ、アカンわこれ。 ワイブチギレそう。 殺気漏れそう。 捻り潰そう。

 

「────貴様ら、それは脅しのつもりか?」

 

 糞爺が何か言ったけどこいつもう殺していいヨネ? サーヴァントの媒体いらないヨネ? いい加減笑いの仮面外そうガネ? 蝋人形にして良いガネ?

 

「脅し? 違う、これは取引だよお父さん。 家ごと夢を潰えさせるかそれとも血の繋がった息子にかけるかの、な」

 

 ()()()()()()()がバスケットボール並みまで収縮して部屋の中で蠢く蟲の何割かを焼いた。

 おお、カーリーちゃんやるじゃん。

 

「…………良かろう。雁夜の意志、しかと受け取った。せいぜい、死なぬようにな」

 

 私は殺気と怒りが外に出る前に無理やり押し留めたみたい。

 セーフゥゥゥ!

 




“Fate/Zeroを最後に見たのは何年前だっけ?” と言う位うろ覚えなので原作キャラの口調とか設定大丈夫かな?

追記:
誤字報告ありがとうございます!

追記2:
少々読みづらかったので、多少修正いたしました


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第2話 あれは飛行機か?! 隕石か?! 大食いの星の戦士か?! いえただの幼女です

う~ん、ただの息抜きのつもりがかなりのめり込んでしまった。

キャラの口調とか型月の設定とか違っていたらすみませんッッ!!!


 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 俺が三月と言う少女と出会って間桐家に帰って来てから数か月、俺は来る聖杯戦争に向けて魔導の知識などを蓄えていた。

 三月のおかげで“魔法”に似たものは使える様になったがその日まではほとんど一般人。 知識はあって損はしない。 

 

 筈。

 

 最初三月達と会った時は最悪だったが今思えば普通に出会って会話などするよりあの会い方の方が良かった。 

 

 と思う。

 

 その上魔術の世界ではもう人の身では行使出来ない“魔法”の行使も教わってもらっている。 

 

 一応。

 

「イメージは固まったか?」

 

「ハイ、チエさん」

 

「ではもう一度“内なる理”に潜れ」

 

 この子はチエ。 三月の連れで妹…らしい(容姿は全然似ていないしその上この子の方が年上っぽい)。

 そして俺の“魔法”の先生となる(本人は先生や師匠と呼ばられるのを嫌っているので“チエさん”と呼んでいる。)

 俺は瞑想に戻り自分の中にある“魔法”の元となる“内なる理”に集中する。 真っ暗な視界のままだが()()()()()()()()()()のを確かに感じた。

 

「何が見える?」

 

「まだ暗闇です」

 

「そうか」

 

「ですが何かを感じます」

 

「そうか。触ってみろ」

 

 言われた通りに触るイメージをするが中々掴めない。 瞑想の中の俺の腕は鉛みたいに重く、思い通りに動いてくれない。 汗が頬を流れるの感じ、体が熱くなるのを感じる。

 

「グッ」

 

「まだ触れないか?」

 

「………ま……だ」

 

「そうか、補助無しではまだか」

 

「グハァ! ハァ、ハァ、ハァ」

 

 俺は瞑想をやめ、前のめりに倒れそうな体を手で支える。

 

「クソ!」

 

 このままでは駄目だ! 焦る気持ちが余計に苛立ちをくすぐる。

 

「焦るな、心を乱さればそれだけで魔法の行使に響く。 それにこれは元々()使()()()()()状態を無理やりしている」

 

 チエさんの言う“補助無し”とは“魔法”の行使の際自分のみで魔法を使う事だ。 俺が教わっている魔法は本来一人ではなく他の魔法使いとタンデムで行うものらしい。

 

 俺の場合一人が行使する魔法のイメージを練り上げ、もう一人が“内なる理”と言う動力源を提供する。 前回の場合は俺がイメージをしてチエさんが動力源だった。

 距離が離れていても三月と言う“通過点”がいればある程度カバーできるらしい。

 

 ちなみにこれの応用で“念話”をしているとか。

 “魔法”、それは遥か過去の神秘で魔術師達が目指す最終到達地点である「根源の渦」から引き出された力の発現。現代において魔術協会が魔法と認定している大儀礼は5つで使い手は僅かに少数と噂されている。

 

 だが俺は今()()()()()()()()()()を教えてもらっている。

 詳しい内容を省いて一般人の俺にも分かりやすいように三月の説明曰く“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()”。 

 

 これはかなりの負担をかけ現代の人間が同じようなことを自分一人でしようとすると良くて空気を入れすぎた風船のように爆散。

 最悪の状態で余波が起き、周りを巻き込むとも。

 

「休憩にするか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうか」

 

 最初にチエさんと三月にこの話を持ち掛けられた時は不安だったがこの魔法を見せられ俺が使えると聞いた時は恥ずかしながらも少年時代に戻ったかのように心が動いた。

 

 コンコンと誰かが扉をノックする。

 この家で部屋に入る前にノックするのは俺、チエさんの他にもう一人しかいない。

 

「どうぞ」

 

 俺が返事をすると扉がゆっくりと開かれひょっこりと二つの顔を出した。

 一人は金髪の三月。 そしてもう一人は幼い黒髪の女の子。

 

「カリヤ~ン、お腹減っていな~い?」

 

「まあまあだな」

 

「雁夜おじさん」

 

「何かな、桜ちゃん?」

 

 黒髪の女の子が部屋に入り俺のいるところまでトテトテと近づきお腹に手を当てて元気よく言った。

 

「お腹空いた!」

 

「そうか。 じゃあ今日はお外でご飯食べに行こうか?」

 

「うん!」

 

 ヒマワリの様な笑顔を浮かべる桜は普通の年相応の女の子だ、これだけで俺の苦労と努力と体の軋む痛みが報われる。

 

「何この扱いの差は?」

 

「日頃の行いと態度」

 

「カーリーちゃ~ん? 今のはどう言う意味なの?」

 

「先程雁夜は答えたと思ったが?」

 

「チエは一言多い」

 

「そうか?」

 

 チエさんは三月の言っている意味が分からないようで頭を傾げている。

 最初会った頃チエさんは無表情尚且つ無口と思ったがそうでもない。

 現に俺の修行などに付き合ってくれて助言などをしてくれている。 言葉は少ないが。

 

 あと桜ちゃんの遊び相手にもなってくれている。 三月とはすぐに打ち解けてそのあった初日に一日中話し込んでいた。 素直にコミュ力凄いと思ったのは口が裂けても本人には言えない。

 

 チエさんは必要最低限(もしくはそれ以下)しか喋らないから最初は怖がっていたな。 

 ただチエさんは口数が少なく、表情をしないって言うだけでそれさえ分かれば桜ちゃんの方から接している。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして何で此処にこいつがいるんだよ?!

 桜、チエさん、俺(ついでに三月)がまだ行った事もないレストランに入りテーブルに座ると寄りにもよって一番合いたくない人達がそこにいた。

 

 遠坂一家だ。

 

 葵さんと凛ちゃんだけならまだ良い。

 だが時臣! 貴様だけは────!

 

『────落ち着きなさい』

 

 俺の中で怒りが沸々とマグマの様に上がるのを三月の言葉で怒りが彼女(三月)へと向く。

 

『これが落ち着いていられるか三月! こいつの所為で桜は────!』

『────桜の面倒を見ているでしょ? ここで貴方が殴るなど暴力を振るってみなさい? 彼女は悲しがるわ』

『グゥゥ………だが! こいつは────!』

 

「間桐雁夜、話がある。付いてきたまえ」

 

 俺にそういう否や時臣は席を立ち店の外に出た。

 そして三月も席を立った。

 

「ほら、行きましょう雁夜()?」

 

 三月が何故か様付け────ああ、成程。 葵さん達の前だからか。

 

 だが桜はどうする? チエさんと一緒にいるとは言え………いや、だからこそか。 気まずいレベルなんかじゃない。 桜にとっては数か月前まで親子、姉妹の関係の人間がすぐ傍にいる。

 本当ならすぐ帰りたいだろうに………年の割に聡明で落ち着いているのが裏目に出たか。

 

「桜ちゃん、デザート何でも頼んでいいからいい子で待っていてくれる? おじさん達は話があるから」

 

「本当?! 何でも良いの?!」

 

 切り替え早?! じゃなくて以外………かな? この子の年頃なら甘いもの食べまくりたいだろうと思っていったが…………

 

「ジィー」

 

 そして何故そこで桜を見るチエさん?

 

「? どうしたのチー姉?」

 

「いや、その“でざーと”とは美味のかと思っていただけだ」

 

「えええ?! 美味しいよ! 食べた事ないの?」

 

「無い」

 

 そう言えばチエさんが食べているところ見た事ないな。 いつもは“もう食べた”とか“お腹が空いていない”または“用事がある”と言って出かけるしこうやってみんなと一緒に食べるのは初めてかも知れない(ちなみに三月は普通に食べる)。

 小さい子に(恐らく)小食、(財布的)に大丈夫だろ………………いざとなれば三月に払ってもらおう。

 

「うん、何でも良いよ。でも食べられる範囲内でね? 残したらデザートが可哀そうだから」

 

「うん! じゃあ桜が頼むから一緒に食べようチー姉!」

 

「承知」

 

 そう言うと桜ちゃんはさっそくメニュー表に目を通しチエさんに一つ一つのデザートを話し始めた。

 

 俺と三月が店を出ると時臣は少し離れたベンチに腰かけていた。

 

「ご機嫌よう遠坂時臣様、お初にお目にかかります。 私は三月・プレラーリと言います。 かの遠坂家の当主とお会い出来るとは光栄です」

 

「これはご丁寧に────」

 

「────で、話って何だ時臣?」

 

 俺は爆発しそうな怒りを止められている内に話を進める。

 

「フム…では言うがよくもおめおめと帰ってこられたものだな、雁夜。 優れた家系に生まれながら自らを凡俗に落とした君が何故聖杯を求める? そちらのマダムも無関係ではあるまい?」

 

「俺は………俺は聖杯自体に興味はない。 俺は桜を真っ当な…“人の子”として人生を歩ませたい。 その為に結果として聖杯を手に入れる」

 

「つまりは君が勝ち残った結果が欲しい、という事か?」

 

「……今回の聖杯戦争に参加したのはあの爺さんとの取引だからだ」

「間桐の翁か。落伍者を急造で仕立て上げ、参加させる程とは思わなかったが……だがいくら間桐の翁が関与していようとも急造の魔術師に遅れを取るほど聖杯戦争は甘くは無い。 此度こそ遠坂の悲願を成就させるために最強のサーヴァントを呼び寄せる手立ても付いている、故に勝利は決定したも同然だ」

 

 相も変わらず時臣は逆鱗を……他人を見下すのが上手いな。

 

『手を出しちゃ駄目よ雁夜』

 

 分かっている! 頭では分かっているが────!

 

「────本来なら一度は魔導の血筋から逃げた軟弱さ、そしてその事に何の負い目も感じない事に対して誅を下すが………仮にも聖杯戦争の参加者だ」

 

「遠坂時臣様のご配慮と器に感謝します」

 

「……君が彼を魔導の道に戻した理由は何だ? 先ほども言ったように彼は軟弱者だ。 プレラーリ家は失礼ながら聞いた事もないがメリットが余りにもデメリットに対して少なく思える。 メリットがあれば、との話だがね」

 

「ご忠告感謝いたします遠坂時臣様。 こちらからの発言の許可を貰えますでしょうか?」

 

「良いだろう」

 

「雁夜様は確かに一度魔導の道を外れました。 ですが彼はその後ご自身で世界を渡り、視野を広げました。 故に雁夜様は聖杯戦争に参加したかと」

 

「今死ぬか、それとも聖杯戦争にて打たれるか。ただそれだけの差でしかないのにか?」

 

「…………」

 

 流石の三月にもこれは返す言葉がないってか。

 

「そうだろうな時臣。 俺は一度は魔導から背いた落伍者、到底正視の魔術師には敵わない。 それでも一つ聞きたい。 お前は間桐の魔術の全容を……臓硯の思惑を知った上で桜を間桐家の養子に出したのか?」

 

「是非も無し、間桐の申し出は天啓と言っても過言ではない。 聖杯を知る一族ならそれだけ根源に至る可能性も高くなる」

 

「姉妹が…………姉と妹が争う事になるんだぞ? それは、悲劇以外何でも無い」

 

「仮にそう至るとしたならば我が末裔達は幸せだ。栄光は勝てばその手に。負けても先祖の家名に齎される。 これ程憂なき対決はあるまい」

 

「!!!」

 

 時臣の言葉で一気に辺りが怒りで赤くなったような感じがした。 時臣の顔面にキツイ一発をお見舞いしようと思ったら三月の手が俺の肩に置かれ────体が石像のように動かないように気が付いた。

 

 狂っている。 そう叫びたい。

 間違っている。 そう言い聞かせたい。

 姉妹が命を懸けて争う事を肯定する親など親ではないと言いたい。

 

「一つ聞きたい。 何故間桐の翁は桜を君に預けている? 最後に聞いた話ではすぐにでも魔導の鍛錬を始めると聞いていたが見たところその様子も見られていない。 これはどういう事かね?」

 

「遠坂時臣様、これは雁夜様と桜様二人の…俗に言う“気分転換”と言うものです。 双方時間の管理などもございますので私達はこれで失礼いたします」

 

 三月が俺の肩から手を放し一例をして店の方へと戻っていく、そして体が動くようになり俺も後を追いお店に戻ると立ち往生している三月にぶつかる。

 

「どうしたんだ三……月…………」

 

「おはへりなひゃい────」

 

「────まふのみほめ、はふら」

 

「んぐっ。 おかえりなさい!」

 

「貴方達………相当食べたわね。チエ、桜」

 

「えへへへ」

 

「………………」

 

 そこはテーブルいっぱいにかつてデザートが乗っていたであろう空になった皿が多量に置いてあった。

 勿論、十や二十位の皿があっても不思議じゃないと思った。

 でもこれは明らかにその何十倍もある。っと、いう事は────

 

「────チエさん、かなり食べられるのですね」

 

「チー姉とは仲良くはんぶんこだよ!」

 

「注文したのは桜だ」

 

「ファ?!」

 

「どうした三月?」

 

「う、ううん…何でもない…です」

 

 三月も真っ青になっている。

 

「じゃ、じゃあそろそろ帰────」

 

「「ジィー」」

 

 帰ろうかと言いかけて止めた。 別に他の客の目を気にしているとかじゃない。 ましてやこの惨状に少し引いている葵さんや凛でもない。

 

「「ジィーー」」

 

 桜は瞳を潤ませながら俺を見ていた(ちなみにチエさんも真似をしているのか何時もと変わらない顔で俺を見ていた)。

 

『ねえカーリーちゃん』

『何だ?』

『財布の貯蔵は十分かしら?』

『…………………ここってカード支払いできたっけ?』

『…………………………………覚えていない』

『『……………………………………………………………………………………………』』

『私ちょっとATM寄ってくるわ』

『三月様恩に着る! 感謝!』

『ウザッ?! 背中かゆ?! キモッ?!』

 

「…………じゃあもう少し食べよっか桜ちゃん」

 

「やったー!」

 

「…たー」

 

 俺はどんよりとした雰囲気を出す三月を無視して幸せそうな桜ちゃんとチエさん(?)が食べ終わるまでその姿を楽しんだ。

 

 結局それから一時間程居続けることになって想定していた金額は俺の財布を大きく上まっていたので負担はほぼ三月側に行った。

 女性に金を出させるのも何かと思ったがいつも俺を弄っている三月の事を考えれば………と思ったのだが泣きそうな三月の顔を見た時には流石に同情して謝った。

 三月のあの顔は新鮮だったのは言うまい。

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 

『三月、どういう事だ?』

『ん~? 何が?』

 

 三月が欠伸をしながらこっちを見る。 何故念話で話しているかは今の場所は音が響くからだ。

 

「あ、桜。 銭湯内じゃ走っちゃ駄目だよ~」

 

「は~い、桜子供じゃないも~ん」

 

 三月が間桐桜に声を掛けるので見るが時々湯気などで視界が遮られる。

 最もそれでも気配を捕らえるのは容易だが。

 

『どう? 体と服を浄化するのも良いけどやっぱりお風呂に浸かるのは違うでしょ?』

『別に? こんな場所で狙われたら────』

『────あーもう! そういうのから頭を外しなさい!』

『『…………………………………』』

 

 私は言われた通りに────

 

『その前に質問に答えろ』

『あ、ばれてーら』

『これはどういう事だ? これが“ばかんす”なのか?』

『これもバカンスの一環よ』

『ならばわざわざ聖杯戦争などに関わる事に意味は無い。 何の理由がある?』

『……………ごめんねチエ、今は言えないわ。 強いて言うなら私の我儘』

『そうか』

「ごめん」

「謝る必要などない」

「言いたかっただけ」

「そうか」

 

 ……………分からぬ、三月の行動に何の意味がある?

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

「フニ~」

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、湯が気持ちよかった~。

 前に桜に肩車しているチエを見ながら少し考え込む。

 先程のチエの“どうして”について。

 “我儘”。 案外そのまんま何だけどな~。

 

「三月」

 

 おっと噂をすれば何とやら。

 

「何カリカリ君?」

 

「だから……いや。 ありがとう」

 

「ふぇ? 何のこと?」

 

「感謝しているよ。 でももう一度聞いて良いかい? どうして君達はここまでしてくれている? 何が目的だ?」

 

 雁夜は桜とチエが私たち二人から離れて真剣な顔でそう問いかける。

 

「あの日君は俺にこう言ったね? “魔法を教えるから冬木市に戻る気はない?”そして“それなら取引しましょう”と」

 

「あー、うん。そう言ったね」

 

「君達からは桜に笑顔を、そして俺には魔術師どもを見返す機会を。 それを考えれば見返りが未だに追及してこないのが腑に落ちない」

 

「…ただの“我儘”よ」

 

「“言う気は無い”という事か。 まあいい。」

 

「そうそう、気にしたら負けよ? 聖杯戦争は全力でバックアップするから安心して!」

 

 雁夜は何も返事をせず桜とチエの方を歩き、私は歩みを止めた。

 ………うん、これは私の“我儘”。

 だからごめんね雁夜? ちょっと貴方の体を弄ったけどこれは必要な事なの。

 

 ()()()だけじゃなくて()()()に関わった皆に“ハッピーエンド” を。

 傲慢なのは知っている。

 でも私は()を返すだけ。

 

「………それにチエにお姉ちゃんっぽいところも見せたいしね!」

 




もし楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!


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第3話 私と契約しましょう。 もうした? よろしい。

うおおおおお! 思ったより投稿はかどるゥゥゥ!

と思いながらもキャラ崩壊あるか心配です。 何か雁夜が信二っぽくなっている様な気が…………

でもあながち間違ってないですよね? (汗


 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「駄目だ」

 

「えー?! 何で?!」

 

「駄目だ」

 

「何で?!」

 

「駄目だからだ」

 

「何で?!何で?!何で?!何で?!」

 

 ……………困った。

 今私の前には間桐桜がいる。 どれだけ拒否しようともねだってくる。

 

「困る」

 

「じゃあアレおしえて!」

 

 ちなみに“アレ”とは私がひび割れなど入っている窓や壁を“もっとも良い状態まで時を戻した”のを間桐桜に目撃された事から始まった。 そこからは間桐桜はことごとく私が一人になると寄って来る。

 しかも三月にどうすればいいのか問いをしたら────

 

『────ああ、うん。 それはチエの所為ね。 子供って未知のものに惹かれるから』

『どうすればいい?』

『貴方の所為で間桐桜は魔導の道に興味を示した。ならば()()()責任を取りなさい』

『それはどう言う────?』

『────自分で考えて、行動しなさいな』

 

 そして今に至る。

 

「ねえチー姉? 桜じゃ……ダメなの?」

 

「……………」

 

 “魔導の道に興味を示した”、か。

 なら私が取る行動は────

 

「────駄目では無い」

 

「ほんとう?!」

 

「だがいいか? これは危険を伴う上に少々時間がかかる」

 

「きけんって?」

 

()()()()()()()

 

「???」

 

 ム、この顔と仕草は分かっていない様だな………ならば省略するか。

 

()()()()()()()

 

「…え?」

 

 如何な子供でもこれは分かる筈。 見ている内に間桐桜の顔が変わっていく。

 

「ふぇ」

 

「ん?」

 

「ふぇ~~~~ん!」

 

 体に衝撃が生じる、間桐桜が私に泣きながら抱き着いて来た。

 何故だ?

 

「チー姉ちゃんしんじゃやだー! あーん!」

 

 解せぬ。 何故泣く?

 そこから間桐桜は顔を埋めて泣き続く。

 

「何故泣く桜?」

 

「グスッ……エクッ……だって………しぬってさっき…………」

 

「?????…………ああ、そういう事か」

 

 間桐桜は魔導の道は死に至る道と勘違いしているのか。

 

「そうだな。 説明不足だった。 間違えば死ぬという事だ」

 

「????」

 

 間桐桜はしゃくり上げながら私を見上げる。

 

「そうだな…………三月が例えたが風船に空気を入れすぎると破裂すると言っていたか」

 

「??????」

 

 まだ分かっていないようだな。

 

「自分に見合った能力より力を使うと死ぬという事だ。 つまり()()()()を見極めていれば問題無いという事だ」

 

「ほんとう? チー姉ちゃんしなない?」

 

「ああ」

 

「ほんとうにほんとう?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、やくそくして!」

 

 そう間桐桜は言い小指を差しだして来た。

 

「????」

 

「え、チー姉ちゃん指切り知らないの?」

 

 この小指と約束に何の因果があると言うのだ?

 

「知らぬ」

 

「こゆびをこうして────」

 

 間桐桜が私の手の小指を自分のと絡め────

 

「────ゆびき~りげんまん、嘘ついたらはりせんぼんの~ます! ゆびきった!」

 

「………………」

 

「えへへへ、これでやくそくやぶれないね!」

 

「………まずは顔を洗ってこい。 目が腫れている。」

 

「うん!」

 

 間桐桜がいなくなり、私はさっき絡めていた小指を見ると何とも言えない感情が胸の中で渦巻いていたのを感じた。

 

 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 俺は何時もの時間に部屋に来ていないチエさんを探しに家を出るとどこか嬉しそうな桜と入れ違いになり、庭の中でチエさんを見た。

 

「あ、チエさ────」

 

 ────チエさんと呼ぼうとしてやめた。 そこには何故か自分の小指を見ながら笑っていたチエさんに一瞬ドキッとしたからだ。

 笑っていたと言っても顔の変化はごく僅か、この数か月間毎日欠かさず俺の修行に付き合ってくれていたから分かるような違いだった。

 

「む、間桐雁夜か。 すまぬ、時間が無いのに待たせたな」

 

 俺に気付き顔を上げるチエさんは何時も通りの表情に戻っていた。

 

「いや、大丈夫だ。」

 

 そこから修業を始める前にチエさんが桜に魔法を教えてして欲しいと迫られて来た事を言い、自分は桜に時間とリスクがあるのを伝えた上でそれを承諾したと。

 

 俺は反対したかったがチエさんはこの事態なった事に自分に責任があると言ったので、俺からは極力桜にリスクが無い方針で頼んだ。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そしてその日は来た。

 太陽は沈み、桜や他の人が眠りについている時間俺と臓硯の()()で英霊召喚の魔方陣のある部屋に来ていた。

 

 この一年間、色々とあった。 あの日不審者扱いされて常識が塗り変えられる様な不可解な魔法を見せられ、あまつさえ自分をそれを使えるように鍛えると言われ、桜も()()()にならずに俺の養子になって………

 

「どうした雁夜よ。 まさか今になって怖じ気付いたのではあるまいて?」

 

「そんな事は無い。 色々と思い出していただけだ」

 

「そこまで自信があるのであれば、雁夜。主は暴れ馬も乗りこなす自信はあろう?主に相応しい聖遺物を用意したでな。父の親切に感謝せい」

 

「暴れ馬? ……狂戦士(バーサーカー)か。 良いだろう」

 

「フッフッフ」

 

 臓硯は聖遺物を魔法陣の中心に置き、離れると俺は血の痣みたいな模様がある右手を魔方陣へ向けてかざし詠唱を始める。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する

 ――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者。

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 

 詠唱し終えると同時に膨大な魔力が集結し、風が吹き荒れ、身体の中からごっそりと魔力が奪われていくのを感じた。

 

 魔方陣から発されている光が収まって魔方陣の中心に立っていたのは闇の炎を巻きあげて漆黒のフルプレートを装着した何かが姿を表す。

 

「フゥ……」

 

「儀式は成功したようだな」

 

 魔力の喪失感に溜め息を吐き、臓硯は満足したように声を掛ける。 まるで計画通りにと。

 

「何?! なんじゃ…これは?!」

 

 臓硯は苦しそうな声を出した。

 そう、()()()()に。

 

 振り返るとそこには苦しそうに股を付きそうな臓硯が俺を睨んでいた。

 

「貴様……何をした?!」

 

()()何もしていないよ、お父さん。 ただ取引をしただけさ。 俺が聖杯戦争に参加して貰う代わりに桜の安否と────」

 

 俺は未だに苦しむ臓硯にこの一年間ずっと我慢していた怒りをぶつけながら、久しぶりに心から笑ったような笑顔を向ける。

 

「────お前の抹殺だよ。 間桐臓硯」

 

「Guaaaaaaaaaaaa!」

 

 壁から、天井から、地面から。 あらゆる場所と言う場所から蟲が臓硯に集結している間後ろから召喚して間もない狂戦士(バーサーカー)から断末魔のような大声は発する。

 

 無数の蟲が集結して最初は人の形を維持していた臓硯も今は無視の蟲が球状の集合体と化した。

 

「夜遅くにごめんあそばせ臓硯様♡」

 

「グゥ………! キサマタチカ! ()()()()()()!」

 

 俺の隣に姿を現した三月に臓硯は畏怖と憎悪が混じった声を出す。 ()()()と言っているのはここには三月の他チエさんもいるからだ。

 

「うん、うん! 人の怨念を宿した人外程の苦し紛れの言葉はスカッとしないわね! カリヤン、最後にかける言葉はある?」

 

「マ、マテカリヤ────!」

 

「────ただ一つだけ。 死ね、糞爺」

 

「シニトウナイ! ワシハシニトウナイ! シニトウナイィィィィィ────!」

 

「バイバイ♪」

 

 三月の言葉を最後に蟲の集合体はさらに圧縮しテニスボール程のサイズになると破裂した音がして床に落ちた。

 

「………これで……爺さんは……臓硯は────」

 

「────死んだ。 たかが数百年生きていい気になった耄碌爺には勿体無いほどあっけなかった死、ね」

 

「そう…か」

 

 俺は妙な達成感に満たされ、足から力が抜けるのを────

 

「────グ……ア、アア────」

 

 ────後ろからチエさんの苦しそうな声がして俺は振り返ると股を付き、自分の身体を抱いて汗を出しているチエさんがいた。

 

「チエさん!」

 

「おっと、こっちもチャチャっと終わらせよう。 ──下がっていて雁夜」

 

 三月は何時ものおちゃらけたトーンではなく、真剣な顔と声を出してチエさんの方へと歩くと────

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 先程の狂戦士(バーサーカー)の出した断末魔にも引けを取らない声をチエさんは出しながら三月に襲い掛かった。

 

「うーん、流石英霊。 と言うか腐ってもランスロット卿ね」

 

 三月は襲い掛かって来るチエさんを躱し、足を払ってチエさんを地面に固定した。と思う。

 

 はっきり言おう、見えなかったと。

 

 ただ、今は未だに地面にねじ伏せられていながらも暴れようとするチエさんを三月が押さえ込んで────

 

「────あらよっと!」

 

 ────三月の右腕がチエさんの背中の中に埋まり、チエさんは気を失い暴れるのをやめた。

 

「三月!」

 

「あー、うるさいわねー。 これって必要な事だから────おお? あったあった♡」

 

 三月が右腕をチエさんの背中から取り出すとそこから血が吹き────

 

 

 ────出さなかった。

 

「…え?」

 

 傷があるどころか何も無かった様に服も傷付いていなかった。

 

「………すまなかった三月」

 

「良いって、良いって! 予想以内だったし、動きも鈍かった。 で、首尾はどう?」

 

「うむ、“すきる”とやらを感じる………あとこれは間桐雁夜か?」

 

「あー、うん。 そうなるわね」

 

「??? 何の事だ三月、チエさん?」

 

「貴方の右手」

 

「俺の?」

 

 俺は右手の甲を見るとそこには血のような痣────もとい令呪があった。

 

 そしてサーヴァントとの繋がりも感じ────

 

「────あれ? サーヴァントを感じる? 狂戦士(バーサーカー)はもういないのに?」

 

 変だな。 召喚した狂戦士(バーサーカー)がいないのに、まだサーヴァントの感じがするぞ?

 

「じゃじゃーん! おめでとう雁夜!」

 

「へ?」

 

 間の抜けた声を出す俺に対して三月はファンファーレの様な声をくれる。

 

「ちえ は かりや の さーばんと かっこかり に なった!」

 

「………………………………………………………ハ?」

 




三月:で? もう一つの作品のはかどりはどうなのよ?
作者:ボチボチでんな。
三月:実際は?
作者:すみません! 今プロットの省略しても分かるようにまとめている所ですぅぅぅ!! (土下座
三月:それで通るかいな!
作者:いやだって思ったよりこれ書くの面白いんだもん!
三月:じゃーかましい! “もん”最後に付けるな! キャラ被ってるじゃん!
作者:シクシクシク…………僕これでもカンバッテいるんですけど………
三月:………程々にね?
作者:心の友よぉぉぉぉぉ!
三月:ぎゃああああああ! 抱き着くな! 涙が! 鼻水がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


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第4話 ブチマジギレの巻

 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

「で? 説明しろ三月」

 

「あ、うん。 昨日臓硯に使ったのは最初に重力魔法でアイツをその場に固定して分身体やら予備の本体を呼び寄せてから次に次元魔で壁とか床とか地面とかの障害物を通り抜けてからの二重構造の上に最後はまた重力魔法でひたすら圧縮したって感じ。 “疑似ブラックホール”って所かな?」

 

「成程、それは凄いな」

 

「でしょ! エッヘン!」

 

「無い胸を張っても────ってそれで騙されると思うかぁぁぁぁ! そこに正座ぁぁぁぁぁ!」

 

「ハヒィィィィィィ?!」

 

「お前、俺にはこう言ったよな? “英霊召喚には自分とチエがこっそりと付いて来るから間桐臓硯には気取られない様に言われたとおりに儀式を行えと?”」

 

「はい」

 

「そして次はこうだったか? “英霊召喚したら直ぐにサーヴァントに動くなと念話を送れ”と?」

 

「はい」

 

「そして“その念話の合図で私が間桐臓硯を拘束及び抹殺の準備に入ってチエはサーヴァントを無力化すると”?」

 

「……………はい」

 

「だったら何でそのチエさんが俺のサーヴァントになるんだ?! えぇぇ?! 申し開きはあるか?!」

 

「一応ある────」

 

「────だったら前もって言えよ! ビックリを通り越して心臓止まるかと思ったぞゴラァ!」

 

「ぴえん……」

 

 起こっている俺の前に正座し笑いながら畏まる三月。

 当たり前だと思う。

 

 考えても見てくれ、()()()()()がサーヴァントという精霊化した英雄を自身に取り込みあまつさえその英霊のスキル等を()()()()()と言う。

 無茶苦茶を通り越して非常識とも思える(今に始まった事ではないが)。 極め付けは────

 

「マスター、怒りを維持するのはあまり身体に良くないかと」

 

「チエさん、今まで通りの呼び名で呼んでくれ」

 

「ですがサーヴァントは主の事を“マスター”、或いは“ご主人様”と呼ぶと三月が────」

 

「────頼むから前者はまだしも後者は絶対に呼ばない様にしてくれ」

 

「承知した、間桐雁夜」

 

 ────そう、何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「でも雁夜、これは必要な第一歩なのだよ」

 

 三月が真剣な声と顔で言葉を続けた(正座は崩さずに)。

 

「こうしなければ貴方は狂戦士(バーサーカー)を維持する為だけにバカスカと燃費が非常に悪いブガッティ ヴェイロン並みに魔力を消耗しつつ聖杯戦争をしなくてはならなかったのよ?

 今のチエは肉体があるから維持費は実質ゼロ、霊体化は出来ないけれどそれは魔法である程度カバー出来る。

 その上サーヴァントだから運営とか他のマスターに一騎消えたと言う事をごまかせるしこれから行う行動には理性のない狂戦士(バーサーカー)よりは幾分強くて頼りになる相棒が令呪で補助が出来るのよ?

 どこをどう見てもWin-win-winの状態じゃん?」

 

「…………」

 

「どう? 何かある?」

 

 悔しいが三月の言う通りだ。 冷静に考えれば彼女の言う通りだ。

 だが────

 

「────だが仮にもチエさんは俺の師匠だ。 その様な人をいきなり召使のように────」

 

「────ちなみに聖杯戦争風に言うとチエには通常のサーヴァントクラスのどれにも適正を持っているわ、実質の“エキストラクラス”ってヤツよ」

 

「だから俺の話を聞け」

 

「こんな優良物件余程の媒体と召喚者がいなければ探せないわよ? よ! 幸運(ラッキー)ボーイ!」

 

「………………………ハァァァァァァァァァァ」

 

「溜息ばかりすると幸せが逃げるよ雁夜」

 

「誰の所為だと思っている。それに不気味すぎるんだよ。 マスターと言えば自分や他のサーヴァントのステータスや名前が見える筈なのにチエさんの場合それが全部ぼやけていて全く見えない。 それにスキルや宝具が分からなければ作戦も立てられない」

 

「あ、それは大丈夫だと思うよ? チエに聞けば良いじゃん?」

 

「それで良いのか? …いやお前(三月)じゃあるまいしそれで良いか」

 

「オイ、今のは流石にこたえたぞ。 それに態度軽くなっていない?」

 

「お前たちの様な非常識な奴らに対して細かい事を気にしていたら気が持たない。それだけだ。 チエさんは名前のままで呼んで良いですか?」

 

「構わぬ。 或いはバーサーカーと呼んでもいい」

 

「カモフラージュにはなるか……よし、じゃあ聖杯戦争中はそう呼んでおく」

 

「承知した」

 

「因みに形式として聞くけど、チエさんは聖杯にかける願いはあるか?」

 

()()()()。 間桐雁夜は?」

 

「え? あ、ああ。 そういえば爺さんがいなくなったから聖杯を手に入れる必要はないのか」

 

 フゥ、これで一応安心した。 これで願いがあるとなると考えたくも無い。

 まあでも時臣を見返す事位は出来るか。

 

「よし、じゃあ次は────」

 

「────あのカリヤン、そろそろ足がヤバイのですが」

 

「そのまま正座だ」

 

「そんなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そこから俺はチエさんの能力、スキルや宝具などをある程度説明してもらい、三月から今後の行動方針などを説明させた(説明したら正座を崩せると言ったらすごい乗り気になった)。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『ん…………アサシンがやられたわ』

 

 英霊召喚から数日後三月が俺に念話でそう伝えてきた。

 

『もう脱落者が出たのか、ずいぶん早いな』

 

 俺は寝ぼけている頭を覚醒しながら欠伸を殺した。 今の間桐家はチエさんと三月の陣地作成スキル(の様なもの)で新築並みのリフォームと及び(目に見えないが)要塞化したのである程度は安らげる拠点として機能している。

 

『でも油断しないで。 恐らくだけどこれは芝居よ』

『どういう事だ?』

『アサシンが遠坂家に侵入してからの迎撃タイミングが余りにも早いし、何より派手過ぎた。 さながら見物の様に“これでもかッ!”って位にね』

『でもアサシンはやられたんだろ?』

『……そうね。 確かに()()やられたけどごく僅かな例外がある。 例えば日本風に言うと身代わりの術とか』

『成程、アサシンは隠密行動に長けているクラス、無い事も────』

「間桐雁夜、客人だ」

 

 俺は三月との念話を切り壁に寄りかかっているチエさんを見ると部屋に寝ぼけ目を擦りながら桜が訪れた。

 

「おじさん、まだねないの?」

 

「間桐桜、間桐雁夜はもうすぐ就寝する」

 

「あれ? チー姉もいる?」

 

「ああ桜ちゃん。 彼女とは少し話をしていてね、もうすぐ寝るから桜ちゃんもお休み」

 

 そう言って桜の頭を撫でるが────

 

「おじさんは………しんじゃうの?」

 

「え?」

 

「せいはいせんそうってたたかいにおじさんもするんでしょ?」

 

 な?!

 馬鹿な、桜には分からせまいと徹底していたのに……

 いや、桜はチエさんから魔法を片手間に習っていた、もしかしてその時に────?

 

「────桜ね、しっているよ? せんそうってたくさんのひとがいっぱいいてたたかってしんじゃうんでしょ? おじさんもたたかうの?」

 

「間桐雁夜だけでは無い。 私も戦う」

 

「それはおじさんやチー姉たちがまほうつかいだから?」

 

「そうだ」

 

「………………………やだ」

 

「「桜ちゃん?/間桐桜?」」

 

「いやだ! いやだよ! しんじゃやだよ! はなればなれになるのやだ!」

 

 気付けば桜の瞳から大粒の涙が零れて床が濡れていた。

 

「ヒグッ…………まほうつかえなくていい…………桜を………ひとりにしないで…………」

 

「桜……ちゃん……」

 

「うぅぅぅ………」

 

 ああ、何て事だ。

 桜には心配しないで欲しいと思って何も話さずにいた事が逆に心配に、不安にさせて泣かすなんて。

 血が繋がっていないとしても、養育者としては失格だ。

 

「心配するな、()

 

「……ふぇ?」

 

 壁に寄りかかっていたチエさんは何時の間にか桜の頭を撫でていた。

 

()()は私が護り、桜の元へと帰す」

 

「チエさん……」

 

「チー姉……」

 

「だから案ずるな、桜。 それに私とは約束した、()()()()と」

 

「うん…………」

 

「安心して、家の留守を頼む。 帰すべき場所が無いと雁夜は困るからな。 無論、家だけでなく家に桜がいる事の前提だ」

 

「……………………うん」

 

 本当に安心したかどうか分からないが、桜はチエさんに凭れかかる様にまた眠っていた

 

「ありがとう、チエさん」

 

「何の事だ?」

 

「その………色々だ。 桜も、この家も、俺も………本当に色々とだ」

 

「礼など要らぬ。 事実を告げただけだ」

 

「それでもだ。 ありがとう」

 

 俺は未だに表情変えないチエさんに対して頭を下げた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

『どうカリヤン? 歴史に刻まれた英雄の戦い?』

「す、すごいな」

「流石は英霊と言ったところか」

 

 アサシン撃破から数日。 倉庫街ではセイバーとランサーが凄まじい鍔迫り合いを行っていた。

 

 金属同士の打ち合う音に地面のコンクリートが抉れる音、そして空気を切る音が聞こえてくる。

 

 俺とチエさんは倉庫街にあるビルのうち一つの屋根の上から二人の戦いを見下ろし、三月はさらに高度のある()()から辺りを監視している。

 

『えー、こちらAWACS(早期警戒管制機)及び「空飛ぶトーチカ」。 Curly1(カーリーワン)聞こえますか?』

『三月か、聞こえる』

『は~い、連絡も良好本日は月が綺麗ですね~』

『三月、本当に漁夫の利を取らないのか?』

『う~ん、セイバーとランサーは騎士道精神の塊みたいなものだからそうすると多分二騎とも即座に斬りかかって来るわよ?』

『そうか、状況は? ここからは見え────』

「────雁夜。 大気にある水分をレンズ代わりに使え」

 

 あ。

 

「あれ程華麗な一騎打ちに見入るのは分からなくも無いがそれで自身の注意や集中が散漫になり隙に繋がる。」

 

「……そうだった、すまない」

 

 俺は集中して周りの空気に漂っている水分、温度差でビルや地面に残っている水滴を自分の前に集結させて簡易な望遠鏡を作る。

 

「その通りだ、かなりの進歩だぞ雁夜」

 

「ハハ、チエさんや桜には程遠いけどね」

 

「僅か一年でここまで上達するのは異例だぞ、誇って良い。 特に普通の人間でならば。 雁夜が一億のうち一人の才を持つとしたら桜は十億の一人の才を持つ。 だが才を生かすのも殺すのもその者次第だ」

 

「そっか、お世辞でもありがたい」

 

「世辞を言ったつもりは無いが────む?」

 

 俺はセイバーとランサーの方に視界を戻すと二人ともちょうどお互いの腕の健を切った。

 

Curly1(カーリーワン)気を付けて! ライダーが来る!』

 

 見上げた夜空から稲妻が迸りセイバーとランサーの間に落ちながら、一台のチャリオットが二人の間に降り立った。

 

「双方、剣を収めよ!王の前であるぞ!」

 

 ライダーは両手を大きく広げて、盛大に声を出した。 

 

『“我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!”って…………この人が征服王なの?』

 

 三月の呆れた声に俺とチエさんは心の中で同意し見るからにセイバーとランサー、そしてセイバーのマスターらしき女性も突然の出来事に戸惑っている。

 

『えーと、ライダーの略をすると“隠れている奴ら出て来い! 出て来ないなら俺はお前らを侮蔑するぞ”。 あ、もう少しでアーチャーが出てくるわ。 そこからはチエ、貴方にかかっているわ。 私は別件で動いているからすぐに反応出来ないかも知れない。ご武運を!』

 

「承知した。 雁夜、心構えは良いか?」

 

 緊張で喉が渇き、身体の震えが収まらない。

 聖杯戦争が始まって数日、下手したらここでゲームオーバーになるかも知れない。

 だが────

 

「俺には…………帰るべき場所と……………帰りを待っている子がいる!」

 

「………では行くぞ、雁夜! 私に続け!」

 

「ああ!」

 

 チエさんが屋根伝いでセイバー、ランサー、ライダー、そして今出てきたアーチャーの場所へと走り、俺も後を追う。

 屋根から屋根へと飛ぶ間に俺は自身の身を守る魔法を重ねて練っていった。

 

 ビルから飛び降りたり、空中へ回避した後の落下ダメージをゼロにする反重力。

 身を物理及び魔から固める殻の様な大気物資を利用した守護。

 任意で反応速度とそれに付いて行ける精神強化の第三観客。

 そして最後に自動発動式()()()()の魔法。

 

「ウ、グゥゥ!」

 

 今まで習得した防御魔法を重ねる度に身体の関節が悲鳴を上げ始める。 特に最後の二つは今の俺では使用数と時間、()()出来る攻撃の回数には限界がある。 回避と防御する見極めに気を付けないと致命傷に繋がる可能性が出る。

 

 三月達の補助があってもこれか。とは言え一年で使えると言うのはやはりこの魔法は侮れないし心強い。

 

 チエさんが速度を落とし、俺は一足先に英霊達が集う場所へと降り立ち、チエさんが続いて俺の後ろに降りる。

 

「初めましてとこんばんは、マスターと英霊の皆様。 俺の名は間桐雁夜。 今後ともよろしく」

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 間桐雁夜の挨拶にセイバーとランサー達は驚きに目を見開き、あの“うぇいばー”と言う童はさらに顎が外れそうな程口をあんぐりとした表情で間桐雁夜を見る。 ライダーと名乗った巨男は顎鬚を擦りながら感嘆の声を上げ、外灯の上に立つアーチャーは目を細め私と間桐雁夜を互いに見る。

 

 うむ、時々殺気を修業中や日常の中の彼に放った事は功を現している様だ。 最初の頃はその度に河原と自身の部屋へと何故か行っていたが、この頃は身体が咄嗟に反応し殺気が発する方向へと向くようになった。

 効果は上々だ。

 

 そこに間桐雁夜と私は頭を垂れて彼は言葉を続ける。

 

「お初にお目にかかる。騎士王、征服王……………そして王の中の王、英雄王ギルガメッシュよ」

 

 アーチャー以外の者達が驚愕の表情や声を出すのを感じた。

 

「ほう……我を知っているか、雑種共」

 

「その面貌に溢れんばかりのオーラ。 例え名が伏せられていようとも拝謁させていただければ直ぐにお分かりになりました」

 

 アーチャーの後ろに展開していた宝具、「王の財宝(ゲートオブバビロン)」が収まって行く。

 

「そこそこ口が達者のようだな。 面白いぞ。 許す。面を上げよ」

 

「はっ」

 

「マトウカリヤ、と言ったな。 貴様もだが、随分と面白いモノを連れているな。 そこな雑種共とは比較にならん代物だ」

 

 私の事か。 やはり地球で記録されている原初の英雄、即座に看破するとは………

 

 面白い、契約中でも是非とも戦いたくなる相手だ。

 

「勿体無きお言葉、感謝します」

 

「故に光栄に思え、カリヤ。 その者を我に捧げれば貴様を我の臣下となる機会を与えよう」

 

 やはりアーチャーとライダー、同じ絶対の“支配者” としての言葉。 だが重みが違う。

 ライダーは断っても良い“提案”が、アーチャーに関しては“命令”。

 断る事は即ち死を選ぶと言う事に等しい。

 “だが敢えて言おう────

 

「嬉しい申し出ですが、断らせてもらいます」

 

 ────断る!”っと三月が方針の説明中にそう言っていたな。

 

 間桐雁夜はその時震えていたが、あれは武者震いか?

 

 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 ハッキリ言おう。

 滅茶苦茶怖い!

 心臓が飛び出そうだ!

 

「初めましてとこんばんわ、マスターと英霊の皆様。 俺の名は間桐雁夜。 今後ともよろしく」

 

 俺は先程セイバーとランサーが衝突する前に三月から聞いた方針を思い出しながら言葉を慎重に選び、声に変える。

 

【まずは雁夜がチエと飛び出て皆の注意を引く。 他のマスターたちの取り寄こした媒体などから呼び出さられる英霊には既に目星が付いているわ。 だけどその中でも特に気を付けないといけないのは英雄王よ。 だから彼だけを真明で呼ぶ】

 

「お初にお目にかかる。騎士王、征服王……………そして王の中の王、英雄王ギルガメッシュよ」

 

「ほう……我を知っているか、雑種共」

 

「その面貌に溢れんばかりのオーラ。 例え名が伏せられていようとも拝謁させていただければ直ぐにお分かりになりました」

 

 あ、何か威圧が非常に、ごく僅かに和らいだ感じがする。

 

「そこそこ口が達者のようだな。 面白いぞ。 許す。面を上げよ」

 

「はっ」

 

 ホッ。

 

【英雄王ギルガメッシュは最大限の敬意を表していればすぐに斬りかかって来ない筈、そして貴方は魔法を使えるから彼は貴方に更に興味を持つ筈。 これが大事よ。 何せ他のマスターやサーヴァントがあの英雄王ギルガメッシュが特別扱いする貴方に注目しない訳が無い】

 

「マトウカリヤ、と言ったな。 貴様もだが、随分と面白いモノを連れているな。 そこな雑種共とは比較にならん代物だ」

 

 ん? それはチエさんの事か。

 若干三月と言っていた事と違うが問題は無い………筈…………

 

【そして英雄王ギルガメッシュの関心、そして他の運営の注目を逆手に取る。 恐らく貴方を“我の家臣になる名誉を与えよう”とか言って来る筈だからそれを突っぱねなさい】

 

 それを聞いた俺は(かなり)酷く動揺した。

 

【何ならファ〇クユージェスチャーをしながら断っても良いし、明らかに強い彼の方を睨んで“だが断る!”とかも良いし、狂っているパーフェクトソ〇ジャーモドキみたいに“NO(ノー)だ!NO(ノー)だ!NO(ノー)だ!!!”って雄叫びを上げても良いし】

 

 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。

 無理無理無理無理無理無理無理。

 

「勿体無きお言葉、感謝します」

 

 ここはルポライター時代の時のように、スムーズに。かつ冷静に────

 

「故に光栄に思え、カリヤ。 その者を我に捧げれば貴様を我の臣下となる機会を与えよう」

 

 ………………………………………何だって?

 この金髪野郎は今、何て言った?

 チエさんを“捧げろ”と言ったか?

 

「嬉しい申し出ですが、断らせてもらいます」

 

 三月に感化された訳ではないが。 この間桐雁夜、全力で断固否定しようではないか!

 

 あ、何か威圧が爆発的上昇したような…………

 だがもう、後戻りは出来ない。

 

「ほう? 王たる我の命令に背く事が何を意味するか……解せぬ訳ではあるまい?」

 

「ああ、理解している上で断る」

 

【まあとにかく、英雄王ギルガメッシュみたいな慢心の塊を代表するような奴は即座に貴方を切る捨てるでしょうね。 そこで私たちが教えている魔法の出番って訳】

 

「では死ね」

 

 アーチャーの背後から音速を超えた武具が俺目掛けて放たれ、着弾と同時に爆発する。

 

 各々のマスターは雁夜の死を確固たるものだとした。

 

 何せアーチャーの打つもの一つ一つが並みのサーヴァントならば致命傷を与えかねない武具、ましてや人間が避ける、防御する手立ては無い。

 

 各々のマスターやサーヴァントは彼を愚かだと決めつけていた。

 

 だが…

 

「………なに?」

 

 爆煙が晴れるとそこにはクレーターがあった。

 が、既にサーヴァントの視線はそこに向かれておらずアーチャーの向かい側にある外灯の上に間桐雁夜と彼のサーヴァントと思わしき黒い着物を着て、腰に布を巻いた棒を付けている長い黒髪に赤目の十代後半の女性の二人が立っていた。

 

 その場にいた全員が呆気にとられた。

 

「あれが、彼と彼のサーヴァントの力?」

 

「……坊主。 あの女、サーヴァントとしちゃあどれ程の者なんだ?」

 

「…………分からない」

 

「何?」

 

「だからぁ! 分からないんだってば! 情報に全部フィルターが掛かったように見えないんだよぉ!」

 

 最早悲鳴にも近いウェイバーの叫びにセイバーとランサー運営もギョっとした様子でウェイバーの方を見た。

 驚きに満ちた表情で見据えられたウェイバーは一瞬睨まれたのだと勘違いして萎縮するも、蚊のような小さな声で呟く。

 

「スキルやステータスはおろか……クラスさえも見えない……………」

 

 セイバーは歯噛みしながら剣を構え、既に頭の中ではいかに不可解なあれと敵対せず離脱するかのみを考えていた。 全快時ならともかく、今はあれと対峙し他のサーヴァントを退けるのは無理だと直感が告げている。

 

 ランサーは自身に勝ち目が無い事は分かってしまっていた。 彼は見た。 アーチャーの宝具の一発目を()()()()()()()()、二発目を彼と彼のサーヴァントが避けていた事を。 

 

 しかも一発目が迫る中、彼のサーヴァントの女性は全く反応出来なかった………

 ではなく、あれは圧倒的余裕からの無反応だとランサーは悟って彼はその一瞬の出来事で鍛え上げられた戦経験では埋めようのない圧倒的差に心の奥底で既に敗北を認めつつあった。

 

 対照的にライダーは不敵に笑い、目を光らせていた。強ければ強い程に征服する価値があると。サーヴァントに対しては倒してから誘いをかけた方が面白そうであるとそう思い、先程のように言いかけていた言葉を発さなかった。

 

 そして最後にアーチャー、英雄王ギルガメッシュは────

 

「痴れ者が……天に仰ぎ見るべきこの俺と同じ場に立つか! その不敬、万死に値する!」

 

 ────怒りを露わにしながらブチギレていた。

 王自ら同じ目線に立つ。

 かの王が同じ場に敢えて立つと言うのであればそれも良かったかも知れない。

 

 だが自らの意思ではなく、ましてや赦しを得た訳でもない者が自らと同じ目線に立つと言う事はアーチャーの逆鱗に触れるに足る十分な理由だった。

 

 そしてアーチャーの背後に現れた大量の宝具。 圧倒的物量に誰もが青ざめ、かの英雄王ギルガメッシュの敵意と殺気の矛先である雁夜とチエはと言うと────

 

「なあ()()()()()()、これって危険かな?」

 

「問題無い。 むしろ何故避けて欲しかったのが愚問に近い」

 

 ────全く意に介していなかった。 そしてそれがより一層アーチャーの激情という噴火しそうな火山の中に油を注ぐのだが、そこでアーチャーが何もない空間へ向けて吼えた。

 

「ッ! 貴様ごときの諌言で王たる我に退けと? 大きく出たな、時臣!」

 

 アーチャーは怒りに顔を歪めたまま、展開していた宝具を消す。

 

「雑種共、次までに有象無象を間引いておけ。俺と相見えるのは真の英雄のみで良い!」

 

 そう言い残すとアーチャーは金色の粒子となりながら、その場から姿を消した。

 

 残されたのはセイバー、ランサー、ライダー、そして間桐雁夜とチエ。

 

 背を見せればその時点で後ろから討たれる。 

 背後から討たれたともなれば、騎士であるセイバーやランサーにとってはこれ以上ない屈辱。 王であるライダーにとっても背を見せて討たれたともなれば、自らを決して許す事は無いだろう。

 

 故に視線を間桐雁夜とチエの二人組へと向けたまま、誰もが一歩も動けずにいた。

 それはこの場を離れた位置から見て、マスターを殺す機会を伺っている衛宮切嗣や隠蔽の魔術で肉眼視出来ないようにしているケイネス・エルメロイ・アーチボルトも同様であった。

 

 緒戦にして、令呪を使用しての逃走は今後の戦闘に支障をきたすと考える衛宮切嗣。

 

 武勲を上げる為、参加した聖杯戦争で真っ先に逃走するなどプライドが許さないケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 

 理由は違えど、両者共に行動に移せずにいた。

 そしてそれこそが彼等の運命を狂わせる事となる。

 

『あーこちら晴天なり、晴天なり。 こちらAWACS(早期警戒管制機)及び「空飛ぶトーチカ」。 Curly1(カーリーワン)Curly2(カーリーツー)の報告! お待たせ二人とも! 今から()()()()を開始する! 再度通告、今から()()()()を開始する!』

 

「了解、チエさん。 それっぽい動作頼みます」

 

「承知」

 

 チエは片手を上げ、人差し指を空へと差すとサーヴァント全員が身構える。

 

「『天蠍一射《()()()()()()()()()()》』」

 

 何も起こらない事に訝しんだ皆だがその瞬間、空から飛来物がコンテナや倉庫へ向けて降り注いだ。

 

「こりゃ不味い!」

 

「バカ! 言ってないで逃げるぞライダー!」

 

「今回ばかりはそれが良さそうだわい、はぁ!」

 

 ライダーは戦車を走らせ倉庫街から離脱し────

 

「主よ!」

 

 ランサーは我が身を省みずにケイネスのいる場へと一目散に向かうがその場にはすでに幾つもの飛来物が降り注いでおり、生存は絶望的に近いと見えた────

 

「アイリスフィール! キリツグは────!」

 

「────分からない! けれど貴方がここにいると言う事は自分で何とか出来ると判断したからの筈よ!」

 

「では捕まって下さい、離脱します!」

 

 セイバーは左腕でアイリスフィールを抱え、風王結界(インビジバルエア)の風を利用しその場から離脱した。




作者:う~ん、久しぶりにFate/Zeroアニメ見ると迫力あるな~

アーチャー:おい貴様、何だこのふざけた真似は?

作者:ギ、ギルガメッシュ王?!

アーチャー:様を付けぬか戯け! 何だこの如何にも“我、空振りしてます”表現は?!

作者:ひぃぃぃぃぃ! お許しを~~~!

アーチャー:大体なんだこの最後の空からの攻撃は?! 我とキャラ被りしているではないか!

作者:…………………え、そっち?

アーチャー:当たり前だ! 我よりカッコ付けようなどと万死に値する!

作者:………(コソコソ

アーチャー:おい貴様、今何を隠した?

作者: ギクッ。 いや、ナニモアリマセンヨ?

アーチャー:見せろ。

作者:あー、駄目です王よ! それは特殊なギアススクロールです! 見た者を瞬く間にギアスを掛ける代物です!

アーチャー:我にそんな物が通用すると思うか?  戯け。 どれどれ…

作者:(脱兎の様に場から逃げていく)

アーチャー:“これからのぷろっとまとめ”? 何だこれは……………………………………………………………………雑種ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!(ヴィマーナに乗り作者の後を追いかける)


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第5話 激おこぷんぷんドリーム、歯ぁ食いしばれぇ!

バーサーカーじゃないバーサーカーがバーサーカーやってバーサークします。


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

「フンフフンフフ~ン♪」

 

 私は()()()を終えて倉庫街に()()()()()()()戻るとちょうどセイバー、ランサー、ライダーと雁夜達が睨み合っていた状態だった。

 

「お、ちょうど良いタイミングに戻ってこられた。 さてさて“武力加入~”と行きますか────!」

 

『────あーこちら晴天なり、晴天なり。 こちらAWACS(早期警戒管制機)及び“空飛ぶトーチカ”。 Curly1(カーリーワン)とCurly2(カーリーツー)の報告! お待たせ二人とも! 今から援(・)護(・)射(・)撃(・)を開始する! 再度通告、今から援(・)護(・)射(・)撃(・)を開始する!』

 

 三月は一旦空の中を止まり星空が輝く空を見る。

 

「おー、ちょうど良い具合にデブリがうようよしてる~。 じゃあ君達と君、あと変な球にトゲトゲの君に決めた!」

 

『三月、こちらはそれっぽい動作をしたぞ』

 

「チーちゃんはや?! なんちゃって『王の財宝(ゲートオブバビロン)』!」

 

 三月は空へと上げた両手を下へと振りかざすと様々な飛来物が倉庫街を目掛けて落ちて行った。

 

「うんうん、これで他の運営も監視者も否が応でも警戒するでしょ………()()()()は…………うん、大丈夫ね。 帰ってお風呂入って桜ちゃんとゴロゴロし~よっと!!」

 

 ___________

 

 時臣運営 視点

 ___________

 

 アーチャーギルガメッシュ王のマスター、遠坂時臣は先日の倉庫街の事を考える。

 セイバーとランサーに釣られたライダーの挑発に応じた自らのサーヴァントアーチャー。 英雄王ギルガメッシュの行動は頂点に立つ王としてのプライドからああいったことになるのは理解出来た。

 ただ同じ目線に立つと言うだけで我を忘れる程激怒するまでは想定外だった。

 だが時臣はそれしきの事で頭を悩めている訳では無い、ましてこちらの手の内を晒す事は避けたかったが。

 

 けれどそれ以上に問題と見ているのは間桐雁夜の言動とそのサーヴァント、()()()()()()であった。

 

 まさか自分のサーヴァントの真明を他の運営が集まっている中で口にするとは……………それに雁夜自身が()()()()()()と呼んだ女性のサーヴァント。 

 

 本来狂戦士(バーサーカー)は基礎能力等を大幅に強化する代わりに様々な欠陥を伴うクラスだった筈。 だがあの落ち着き様と行動は何だ? 

 

 初めはマスター自身が姿を晒すなど愚行を犯した雁夜に対して侮蔑と嘲笑を隠し得なかった時臣だが、そこでアーチャーの真名をあっさりとバラしてしまった事に度肝を抜かれていた。

 

 何故ならバレる要素など皆無に等しい。 矛を交えていれば看破される可能性はある、だがほぼ初見から見抜かれ他のマスター達がいる中告げられ、ギルガメッシュ本人がそれを肯定した。

 マスターである時臣にとっては最悪の事態である。

 

 しかも信じがたい事にギルガメッシュの攻撃を雁夜は逸らし、人間には到底無理な速度で次の攻撃をサーヴァントと共に避けていた。

 その上雁夜のサーヴァントは自身のマスターが攻撃されているにも微動だにせず、まるで何もない関心を持っていない態度。 まるで“これがどうした”という圧倒的強者の余裕。

 

 間違いなく自分は最強のサーヴァントを呼び寄せたと確信していたに関わらず、その場にいたアサシンとの視覚、聴覚を共有していた綺礼からの報告時の時臣は優雅の欠片も無い驚きの声を上げ、報告していた綺礼も明らかに動揺が声に感じ取れていた。

 この連続の出来事を無策にもゴリ押しで闘うギルガメッシュに令呪を使用し撤退させた。 無論、令呪に強制的に撤退させられたギルガメッシュ本人は当時かなり頭に来ていて数日後の今になってようやく怒りを鎮め、ソファーの上でワインを飲みながら寛いでいた。

 

 時臣は自分の手の甲に残っている二画を見てこれを使えばあるいはあの場で雁夜と彼のサーヴァント共々倒す事は可能かも知れないと思ったが、そこまですれば確実に英雄王ギルガメッシュとの関係は維持出来なくなる。

 

 そして雁夜のサーヴァント。 緒戦だと言うのにまさしく流星群を降らせると言う並みの宝具を超える神秘を見せた女性はあの時確かに『天蠍一射(アンタレス・スナイプ)』と宝具の真明を言っていた事に書類や情報をかき集めてサーヴァントの正体を急遽突き止めようとした。

 『Antares』とは蠍座の事を意味し、『Snipe』は狙撃または弓矢での遠距離狩。

 

 ここまでくれば自ずとも射手座に由来するサーヴァントになる、そしてそれはギリシャ由来の英雄の可能性が高くなるが女性で狩り人と名高き有名なのはアトランテがすぐに出るがそれも違うような気が……………

 

 と思いアーチャーのクラスは自分が既に召喚していた。 バーサーカーなのにあの威力と落ち着いた行動。 頭を更に悩ませた時臣はハッと何かに気付いたかのように未だに寛いでいるギルガメッシュに目が行く。

 

「英雄王、一つお尋ねしたい事があります」

「くだらぬ問いを投げかけると言うのであれば即刻首を刎ねる」

 

 何の事でもない様に声を返すギルガメッシュだがそれ嘘偽りのない言葉、何せ彼の現界した理由は自らの財であろう聖杯を他の者に盗まれるのを阻止する異例の理由でありマスターに依存してまで現界を維持するなど考えてもいない。

 

「間桐雁夜と彼のサーヴァントの事です。 王はあの二人を見て、“面白い”とそう仰られました。それはどういった意味合いなのですか?」

 

 時臣が気になるのも仕方がない、何せ間桐家は雁夜を急造のマスターとして仕立て上げられた筈。 いかに優れた英雄の媒体を使ったとしてサーヴァントに興味を持つのはあるとしても、間桐雁夜のような存在は英雄王などからしてみれば醜悪だとして嫌悪を示される方が正しいとさえ思っていたからだ。

 

 その問いにギルガメッシュはグラスに入ったワインを眺めながら言葉を紡いだ。

 

「あの二人は“異常”、いや“異端”だ。 貴様ら()()()()()では到達する事の無い極地にいる」

 

「と言われますと?」

 

「天上天下において真の王は我のみであるように、カリヤが連れていた者のような存在は奴以外にあり得ない。

 そしてカリヤは影響を受けているのか人の身でありながら、奴は人の身では到達する事のできない境地にいる。矛盾しているが、それ故に“異端”なのだ」

 

 ワインを飲みながら愉快そうに嗤うギルガメッシュだが、時臣は心中穏やかではない。

 今の発言が正しければ間桐雁夜は急造の魔術師では無く、それ以上の存在と言う事になる。

 

 こと聖杯戦争においてサーヴァントが強力であればサーヴァントの魔力を補給し、サーヴァントの生命線とも言えるマスターを始末すれば良いが間桐雁夜にこの手は通用しないかも知れない。

 

 何れにせよ、遅かれ早かれ聖杯を求める者同士であれば間桐雁夜とは相見える事になりその時に正体が分かる筈。 と時臣は考えた。

 

 あのカリヤという奴のサーヴァント………久しく感じなかった神代を思い出す…………となれば神霊の類か。 中々どうして面白い。 あの者たちは我自ら裁きを下すとしようとその時ギルガメッシュは考えていた。

 

 この時思惑は違うと言えど、アーチャー運営の目的は一致していた。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 倉庫街での戦闘から数日経った日三月はとある森の中の城の上空へと来ていた。

 

「う~ん、何時見ても立派ね~」

 

 そう独り言を言い彼女は探している人影を城の外にいるのを見つけ、高度を下げ音も無く降り立った。

 彼女の前には黒髪黒目に黒のロングコートの男、魔術師殺しの衛宮切嗣が立っていた。

 

「……………」

 

 そこに新たに表れたのは銀髪で赤眼の美人、衛宮切嗣の妻アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 衛宮切嗣はアイリスフィールが来たタイミングからか、彼女に問いをかけ二人は三月が()()()()()()()()()()かの様に振舞っていた。

 

「もし…もし僕が……僕が今ここで何もかも投げ出して逃げ出すと決めたらアイリ、 君は一緒に来てくれるか?」

 

「イリヤは城にいる、あの子はどうするの?」

 

「戻って連れ出す。邪魔する奴は殺す!………それから先は、僕は僕の全てを君とイリヤのためだけに費やす」

 

「逃げられるの……私達?」

 

「逃げられる! 今ならば……まだ────!」

 

「────嘘」

 

「?!」

 

「それは嘘よ。あなたは決して逃げられない。聖杯を捨てた自分を……世界を救えなかった自分をあなたは決して赦せない。きっとあなた自身が最初で最後の断罪者として衛宮切嗣を殺してしまう」

 

 三月は切嗣とアイリスフィールのやり取りを見て、どこか懐かしい様な、そして悲しげな表情で見ていた。

 

「(ああ、やっぱり。 ()()()()はアイリスフィールとイリヤの事を────)」

 

「────切嗣」

 

「敵襲か。舞弥が発つ前で幸いだった。今なら総出で迎撃できる。アイリ、遠見の水晶球を用意してくれ」

 

『三月』

『チエ?』

『まだか?! まだなのか?!』

『ちょ、チエ落ち着いて────』

『貴様、この外道がいる事を知っておきながら────!』

『この作戦はタイミングが全てモノを言う。 外せばカリヤンと貴方だけではなく私も命が危ないわ』

『くッ…………分かった』

『ありがとう、チエ』

 

 ___________

 

 セイバー運営 視点

 ___________

 

 アインツベルン城には十数人の子を引き連れたキャスターの姿があった。

 魚のように飛び出た不気味な目をギョロつかせ、子供達を見渡す。

 

 子供達は暗示をかけられているのか、虚ろな表情と終点の合っていない目をしていたが、キャスターが指を鳴らすと同時に正気を取り戻したかのように辺りを見渡す。

 

『さぁさぁ、坊や達。鬼ごっこを始めますよ。ルールは簡単です。この私から逃げ切れば良いのです。さもなくば────』

 

 キャスターの手が一番近くにいた少年の頭に乗せられる。

 魔術師のクラスのキャスターで現界しているとはいえ、サーヴァントの身であるジル・ド・レェの腕は筋肉質で子どもの頭程度であれば容易に握り潰す事が容易である事が見て取れた。

 

 その瞬間、セイバーの未来予知にも等しい直感スキルが最悪の未来を想像させる。

 

 脳漿をぶち撒け、血飛沫を辺りに飛び散らせるその光景を。

 

 セイバーはマスターである切嗣の判断やアイリスフィールの言葉を待たずして、キャスターの元へと向かおうとしていた。

 

 “今からでも一人くらいは助けられるはずだ”と希望を持ちながら。

 

 キャスターに対する激情に心を燃やしながらも、聖杯戦争とは無縁の子供達に自身が到着するまで逃げ延びてくれと祈りながら。

 

 悠長にしている暇はないと扉に手をかけた時だった。水晶玉の向こうで咲く鮮血。それは哀れな少年の頭蓋骨…………ではなく────

 

『────グアァァァァァァァ?!』

 

 キャスターの腕だった。

 

『口を閉ざせ、外道』

 

『ぶべらっ?!』

 

 キャスターの腕を切り、そのままの勢いでキャスターの顔面に蹴りを入れ彼を木々へと吹き飛ばしたのは間桐雁夜のサーヴァントの()()()()()()であった。

 

『大丈夫か?』

 

『………』

 

『どこか傷んでいないか?』

 

『……う、うん』

 

『そうか』

 

 その光景に遠見の水晶越しで見ていた誰もが呆気に取られた。

 セイバーやアイリスフィールはそうだが、表情の変化の乏しい舞弥でさえ驚愕に染まっており、切嗣に至っては手に握っていたキャリコを危うく落としかけた。

 

「キリツグ。これは────?」

 

「────分からない。ただ一つ言えるのは、恐らくこの場にはマスターである間桐雁夜が来ている可能性が高い。と言う事だ」

 

 倉庫街での出来事を皆思い出す。

 

 途中で乱入してきて、あの場を強制的に終了させた()()()()()()のサーヴァントとそのマスター。

 

 あの場にいた全マスター、全サーヴァントが()()()()()()()()()に対して、逃げの一手を選んだ。

 

 見せつけるかの様に降らせた流星群による絨毯爆撃にも近い行いに切嗣は久しく忘れていた確固たる命の危機を感じながら、自身の体内時間を加減速する魔術、固有時制御を駆使し、文字通り、舞弥と共に命からがら切り抜けた。

 

 流星群を降らせる英霊なんて聞いた事も無い………が、どれだけサーヴァントが強くともマスターさえ倒してしまえば勝機はあると言うセオリーに切嗣は動くとしていた。

 

 ましてや、サーヴァントの能力が高いのなら魔力消費も尋常じゃないはず。マトモに闘える魔力すら残っているか怪しい所だ。何故なら雁夜は急造の魔術師であるとの情報だった。

 

 ケイネスや時臣の様な優れた魔術師であるならば、サーヴァント共々闘う事の出来る余力がある可能性もあったが、サーヴァントを闘わせるのがやっとで抵抗に費やせる魔力も体力も残っていない筈だ。

 

 それにサーヴァントの能力が高いのならば雁夜がアーチャーの攻撃に対して生き残れたのも恐らくはそのサーヴァントの何らかの恩恵を与えられていたに過ぎない。

 しかもそれは自動発動ではなく任意発動の類。でなければ雁夜の魔力が持たない筈。

 

 切嗣はその前提で考え、次の行動へと移った。

 

「セイバー。キャスターをあのサーヴァントと共に打倒した後、その場で足止めをしてくれ。その間に僕が奴のマスターを叩く」

 

「! わかりました、キリツグ。くれぐれもお気を付けて」

 

「ああ」

 

 セイバーはスーツ姿から鎧姿へと刹那のうちに服装を変化させるとすぐさまキャスターとサーヴァントのいる戦場へと向かい、その最中でふとある事に気付いた。

 

 “そう言えばキリツグは私と普通に話していましたね?”、と。

 

 それに気付いたセイバーは悟った。 

 切嗣は見た目こそ平静さを取り繕っていても、混乱を極める戦場にいてサーヴァントを無視するという行為を素で忘れてしまう程にテンパっていたという事に。

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 チエは怯えて寄って来る子供達に囲まれながら静かにキャスターが蹴り飛ばされた方向へと眺めていた。

 未だにキャスターに起き上がる気配は無かったが逃げた訳でも死んだ訳でも無く、辺りに漂う狂気がそれを物語っている。

 

 静かにしているチエだが、内心は荒れ狂う負の感情の怒りに満ちていた。

 “この腐れ外道をやっと滅する事が出来る”、と。

 

 時は少し前、今数時間ほど遡る。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「チー姉、桜といっしょにねてくれる?」

 

「激突だな桜、人肌が恋しくなったか?」

 

「?????」

 

「いや、何かあったのか桜?」

 

「うん。 さいきんね、テレビでわたしぐらいのこがいなくなるの」

 

 ……どういう事だ? 

 

「分かった、良いだろう」

 

「ありがとうチー姉! えへへへ」

 

 そこから一緒に桜の寝室へと向かい、チエの隣で横になっていた桜が寝息をするとチエは三月へと念話を飛ばした。

 

『三月、先程桜から聞いたのだが近頃子供が家からいなくなっていると。この事をお前は存じていたか?』

『あー、それね。恐らくだけどキャスターの仕業ね』

『何だと?』

『奴の所に向かう、今来られるチエ?』

『5秒待て』

 

 チエは素早く枕に自分の羽織っていた上着を乗せて桜の隣に置き三月と雁夜がいる居間へと移動した。

 

「あ、チエ。 早かっ────ブッ?!」

 

「チエさん?!」

 

 チエは三月の傍に来るなり三月の顔面をグーで殴り、三月はその勢いからソファーから吹き飛ばされその間にチエは簡易の防音結界を張り────

 

「────貴様! これはどう言う了見だ?!」

 

 普段表情や声のトーンを変えないチエが起こって床で転がりながら顔を隠した三月に怒鳴っていた。

 

「アグァァッ────」

 

「────え? え? え?────」

 

「────貴様、この事を知っていて尚私に隠していたな?! 雁夜! 貴様も共犯か?!」

 

「えええええ?! な、何の事だチエさん?!」

 

「ウッ…………それは………わらしがぜつめいする」

 

 三月は鼻を抑えながら体を起こし、説明をし始めた。

 

 曰くキャスター運営は聖杯戦争に()()()()()

 だが今まで尻尾を捕まえなかったのは彼らが慎重に慎重を重ねて痕跡の隠滅を徹底し鬼で出身であったからと。

 そしてマスター共々()()()()()()()()()()()()()()だと。

 

「何故私から隠していた? 申せ」

 

「…………私が伝えてなかったのは、そうすると貴方は感情に任せて怪しい場所を片っ端から()()から」

 

「当たり前だ! 貴様と言う者がこの事を知っていてッ! 何故隠した?!」

 

「……………ごめんなさい」

 

「申せ! 貴様などにかかればこの外道達の住処や行動を把握するのは容易い事だ!」

 

 怒りが未だに抑えられずにいたチエに三月頭を床に擦るように土下座をし、震えながらひたすら“ごめんなさい”と謝るだけだった。

 蚊帳の外になっていた雁夜は驚いていた。 初めてこれだけ感情を露わにしたチエに対しても、何時もお調子者の三月が苦しい声を出しながら土下座をし謝っていた事にも。

 

「…………さっき貴様は奴のいる場所に向かうと言っていたな、三月?」

 

「………ええ」

 

「ならば案内しろ」

 

「ええ、元からそのつもりよ。 移動がてら、作戦を説明するわ。 しくじったら、更に子供が死ぬ事になる」

 

「時間が無いな、行くぞ!」

 

 雁夜は何時になく怒りと闘志を出しているチエにビックリしながらも、チエと三月の後を追った。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ヲヲヲヲノレェェェェェ!!! 神聖な儀式を邪魔しおってェェェ!!! 異界の化け物達に全身を引き裂かれて狂い悶え死ぬが────!」

 

「────黙れ」

 

 チエは冷たい声を出し、キャスターのもう一つの腕が宙を舞う。 彼の傍には何時の間にか腰から抜刀し、刀を持っていたチエがいた。

 

「アアアアアアアァァァァァァァ! ワタ、ワタシのウデェェェェ?!」

 

「口を塞げ外道。 貴様は息をするに値しない」

 

 両腕を切り落とされたキャスターは何とかこの場から逃げようとするがチエが次々の部位を切り落としていく。

 

「カヒュ、ヒュー、ヒュー……オ…マエ………ハ」

 

 息が絶え絶えになっているキャスターをチエは汚物を見るような目で見降ろしていた。

 逆に見上げているキャスター、ジル・ド・レェーは自分の目を疑うような物が映っていた。

 

 目の前に立っている女性は恐ろしい。 髪の毛がザワ付いているかのように風も無いのに揺らんで、彼女の周りには人魂のような浮遊物が無数に彼女の周りを漂い彼女の頭には何かの獣の耳のような錯覚と彼女の腰の後ろ辺りからは幻覚の様に()()()()()()()()()()()()()()()があるように見えた。

 

 そして彼女の目は赤眼のままだが瞳孔の形が()()()()()()()()へ変わっていた。

 

「ケ…モノ………ノ……ブンザ…イ………デ────」

 

「────死ね」

 

 チエの言葉の最後にキャスター、ジル・ド・レェーの首が胴体から離れ、身体が金色の分子へと変わり消えた。

 

「…………フゥー」

 

 チエは息を吐きだし、子供達のいる場所へ戻った時には既に姿も表情も何時ものチエへと戻っていた。

 

「先日ぶりだな。 ()()()()()()のサーヴァントよ」

 

「………ランサーか」

 

 何故そこにランサーがいるかと言うとケイネスが手負いのセイバーを討ち取り、そしてそのマスターを打倒するためにこの場に訪れようとしたのが、原因だった。

 偶々、同じタイミングでアインツベルン城を襲撃してきたキャスターを屠り、セイバーとの決着を果たそうとしていたのだがそこへ乱入してきたのは先日のおおよそバーサーカーの枠組みから外れ切ったサーヴァント。

 

 マスターのケイネスと共にこの場に訪れた瞬間をこれまた偶々見かけたランサーはそれをケイネスに報告すると、ケイネスはランサーにセイバーと共闘してでも()()()()()()の足止めをし、()()()()()()のマスターを討ち取るまで持ち堪えろとそう命令した。

 

「……もう一騎も来たか」

 

 チエが別方向を向くと風と共に金髪の甲冑を纏った騎士王セイバーが駆けてきた。

 

「ランサー?」

 

「久しぶりだな、騎士王よ」

 

 セイバーはランサーの方を一瞬見て、ランサー同様、セイバーの視線は未だに抜き身になっているチエの刀とそれを握っている手を見た。

 

「「?!」」

 

 チエの武器が動きセイバーとランサーは身構える。




作者:…
チエ:…
作者:……
チエ:……
作者:………
チエ:………
作者:…………
チエ:…………
作者:……………
チエ:……………
作者:………………
チエ:………………
作者:(き、気まずい)


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第6話 “切断”と“結合”、“分離”と“修復”、そしてライデ〇ン

何時も誤字報告してくれる方、ありがとうございます!

沢山の方に読んでもらって嬉しいです!


 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 

 チエがキャスターの腕を切り落として蹴りをお見舞いしていた頃、雁夜はアインツベルン城へと向かっていた。

 

「しかしタイミング良すぎだろ、キャスター達が侵入すると同時に俺達も紛れ込むとか」

 

 何故彼が単独で城に向かっているかと言うとチエがキャスターの討伐と言う名の殲滅にあっている間に恐らくはセイバーとランサーが向かっていて、その間にセイバーとランサー二人のマスターとの接触を図る。

 そして特に重要なのは衛宮切嗣を狙っているであろう言峰綺礼を止める事。

 

 らしい。

 

 らしいと言うのは三月曰く“綺礼が綺麗に外道に墜ちたら怪物へと化す”と言っていたからだ。 そしてその時若干青ざめていた三月の顔は尋常ではなかった。

 

 彼女の説明では────

 

【────とにかく綺礼を()止めなければ彼は自由気ままな怪物になる。 何を考えているのか分からない。何を企んでいるのか分からない。敵なのか、味方なのか、それすらも状況と気分によっては左右する存在になる可能性がある。 

 今は時臣の駒として動いているだけだからある程度は予測できるし()()()()()()()()()は効くわ】

 

「………デカい扉だな」

 

 アインツベルン城正面に着いた雁夜は扉を見つけ、堂々とそこから入ろうとする。

 他の場所から入ればいいと思ったが、相手が“魔術師殺し”と異名高い衛宮切嗣相手には些かどころか、愚行にも等しい行為である。

 

 何せドッシリと構える拠点はハリネズミの様に罠や仕掛けがそこかしこに設置するタイプだと三月が説明していた。

 

「と言うか何だ? “流石現役”って? アイツ(三月)もしかして会った事があるんじゃ────」

 

 ここで雁夜の思考は強制的に止められた。

 

 背中に放たれた水銀の塊が雁夜を吹き飛ばし、アインツベルン城の門を突き破って中へと吹き飛ばした。

 

「ぐわ! イッッッッテー! 一昔前の俺だったら風穴空いているところだよ!」

 

 前もってかけた状態復元魔法が徐々に背中を襲う痛みを癒しつつ、雁夜は吹き飛んできた方を見やる。

 

「今ので葬ったと思ったのだが……悪運は強いようだな、間桐の魔術師よ」

 

 暗闇から姿を見せたのは巨大な水銀の塊を傍に歩いてきたランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。

 

 あれ? 今俺後ろから攻撃されなかった? 確かこいつは“正々堂々が好き”って三月が言ってなかったっけ?

 

「まあ、な。 それよりもロード・エルメロイともあろうお方が不意打ちとは随分なご挨拶だ。貴族の嗜みは何処に捨ててきたので?」

 

「挨拶? 安心したまえ、今のは挨拶などではない。 先日、君のサーヴァントによって浅からぬ傷を受けた礼だよ。 三流魔術師風情が事もあろうに自身の力ではなくサーヴァントの力を振るい、マスターを直接狙うなど不意打ちも甚だしい」

 

 あ、あー…あの時の絨毯爆撃か……………

 

 三月もしかしてこれワザと狙ってないよな?

 

 何だか有り得そうだ。 こう、ワザと俺に怒りをぶつけさせるとか。

 

 確か前にも桜のプリンを俺が食べたとか。 いや実際に食べたけどそれは三月が“私の奢りだから”って言ったからで────

 

 ────って俺は誰に言い訳をしているんだ?

 

 圧倒的な殺意と憎悪を身に宿しながら、ケイネスは虎視眈々と雁夜と相見える機会をうかがっていた。

 倉庫街での一件でケイネスは直撃されなかったまでも、二次災害によって軽くはない負傷をしてしまった。 もっとも彼ほどの魔術師ともなれば治療をするのにそれほどまでに時間はかからない。

 

 だが、ケイネス自身はこの聖杯戦争を『選ばれた魔術師による戦争』という一種の聖戦にも近い感覚で捉えている。 故にサーヴァントにはサーヴァント、マスターにはマスターという区切りを付けているのだが、それを在ろう事か雁夜はバーサーカー(チエ)でケイネスを攻撃したように見せかけた。

 

 つまりケイネスから見れば『三流魔術師が正面から闘うことを恐れ、サーヴァントによる攻撃で自分を排除しようとした』、と捉えていた。

 

 そして計らずも此度、セイバーのマスターを討ち取らんと向かったアインツベルン城で雁夜を見つけ、以前の礼とばかりにアインツベルン城の扉の門ごと魔術礼装月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)で叩き切った。

 

 雁夜が死んでいなかったのは想定外ではあるものの、それもサーヴァントによる何らかの補助を受けているものだと考え(そしてこれはあながち間違ってはいなく)、ケイネスは見下すように地に伏したままの雁夜を見た。

 

「立ちたまえ。いかに自分が愚かな行いをしたか、その身に刻んであげよう」

 

「いや俺は話をしに来ただけ────」

 

「────Scalp()!」

 

「って話は最後まで────どわぁ?!」

 

 攻撃してくる水銀の刃(鞭?)に対して雁夜は両腕を上げクロスガードで防御するが突然の事で踏ん張りが効かず、アインツベルン城内へとさらに押された。

 

 キリキリキリ、パチンッ。

 

「ん?」

 

 雁夜は足首辺りに何か引っかかったと思った頃には遅く、城内に仕掛けられていたクレイモア地雷が炸裂し数千にも及ぶ鉄の球が雁夜とケイネスに向けて放たれた。

 凄まじい轟音と共に城内に荒れ狂う鉄の球は様々な物を削り取り、美しい洋風の置物などを一瞬にして廃墟同然にまで変貌させた。

 

「ふん。 カラクリ仕掛け頼みとは……ここまで堕ちたか、アインツベルン?!」

 

 だが、その鉄の雨の中でケイネスは何事もないかのように立っていた。 それは彼の礼装による自動防御機能。

 そしてここでまたもや魔術師達の聖戦を汚したとする切嗣への怒りが切り替わり、雁夜への怒りはもうほとんど残って無かった。

 

 というのも、魔術師の魔術による戦いを侮辱しているアインツベルンが許せないというのもあるが、それ以前に雁夜は絶対に死んでいるのだ、と、そう思ったからだ。 何せあの超至近距離で爆発に巻き込まれた。

 

 如何に強い補助をサーヴァントからもらっていたとしても、近くにそのサーヴァントがいない以上補助の効果が表れるまでには時差があるだろう、そうケイネスは思った。 キャスターのクラスならいざ知らず、()()()()()()にそんな芸当は────

 

「────グッ、骨折れているな。これ絶対」

 

「何ッ?!」

 

 爆風の煙の中からは服が破れてはいるものの、何事もなかったかのように立ち上がっている雁夜の姿があった。

 

「…………貴様、何故生きている?」

 

「いや死ぬかと思ったよ実際? ()()が無ければ────」

 

「────戯言を!」

 

「おわ?! これでは話し合いは無理だな!」

 

 雁夜は青筋を浮かべているケイネスから即座に離れアインツベルン城内へと離脱した。

 

 ケイネスはそれを逃げ出したのだと勘違いし、すぐさま索敵にかかった。 姿を現さずに勝とうとする臆病なアインツベルンに防御と逃げ一手の間桐は自らが鉄槌を下す。 

 そうさながら勝者のように余裕のある笑みを浮かばせながら、ケイネスは歩みを進める。

 

 これこそ三月が計画した通りに事が運んでいると誰も気が付かずに。

 

 ___________

 

 衛宮切嗣 視点

 ___________

 

「…………何なんだ、あれは」

 

 切嗣はパソコンの画面から先の光景を見て密かな恐怖心を抱いていた。

 

 魔術師思考の人間達に戦争の常套手段など分かる筈も無いが、超至近距離からのクレイモアによる攻撃はケイネスのような高位の魔術礼装でもない限り、影も形も残らない筈だった。

 

 だと言うのに間桐雁夜は服が破れて下の皮膚には幾らかの打撃痕などが残っているのかもしれないが、その程度。 そう、普通の魔術師はおろか訓練され重装備された兵士でも即死になりえる攻撃がその程度で間桐雁夜に通用していた。

 

 先日の倉庫街で流星群を降らすと言う馬鹿げた行為を行う()()()()()()のマスター。

 

 寄せ集めた資料には一年前から聖杯戦争の為に急遽帰って来た落伍者とされている。 ならば大した障害にはなり得ない筈。

 サーヴァントが強力であればあるほど、間桐雁夜は戦闘を行う余裕が無くなる。 

 

 そう思っていた。

 

 さっきの映像に映ったのは常軌を逸した能力を見るまでは。

 あれで急造の魔術師とは質の悪い冗談以外何も無い。 まるで代行者か、それに準じる存在と相対しているのではないかと思ってしまう程だった。

 

 だが奴とケイネスは敵対している、これを利用すれば────

 

 そう思いながら切嗣が部屋から出ようと思った時ドアノブが吹き飛び、これに対して切嗣は咄嗟に身を横に転がし回避する。

 

「いつつつ、ケイネス滅茶苦茶だ。 質の悪いストーカーみた────あ、えみy────あだだだだだだだだだだだ?! ちょっと話をぉぉぉ────!」

 

 切嗣は入ってきた人物が雁夜とわかった瞬間にキャリコの引き金を引き、咄嗟の事の為()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけで雁夜は両腕を上げてガードするも、痛いものは痛い為、普通に悲鳴を上げていた。

 

 と言うか()()()()の魔法をここで発動などしたらすぐに効果が切れて無駄打ちに終わるからでもあったが。

 

「(これ(キャリコ)も効かないか)」

 

 やはりか、と先程の一撃の確認の様に切嗣は冷静に判断していた。 そもそもキャリコの攻撃は敵を倒す為ではなく牽制と隙を作らせる為に使っている。

 

 だがキャリコで痛みを感じるのならば“本命”は間違い無く効く筈。 そう思い切嗣が“本命”を抜こうとした時、パソコンが置いてあった長テ-ブルを中心に円状に床ごと下の階に落ちた。

 

「見つけたぞ、小虫ども」

 

 出来た穴から出てきたのはケイネスだった。

 

「魔導の面汚し共め、私自ら引導を渡してくれる。 Scalp!」

 

 先程のように月霊髄液がその形状を変化させ、その一部を槍のようにして切嗣と雁夜を貫かんと襲いかかる。

 

「((固有時制御(タイムアルター・)二倍速(ダブルアクセル)))!」

 

 その詠唱と共に切嗣の速度が加速し、月霊髄液の攻撃をいとも容易く躱し、ケイネスの作った穴を出てその場から逃げる。

 

 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 

 雁夜は反応速度と精神強化をOn(オン)にし、回避するが位置が悪く、切嗣みたいに離脱は出来ず彼は咄嗟に部屋に残っていたテーブルや椅子の残骸を短槍の様にケイネスへと飛ばした。

 

 だが、その程度の攻撃では月霊髄液の自動防御を打ち破ることは叶わず、ケイネスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「それだけか? やはりサーヴァント無しではこの程度か、出来損ないの魔術師が。 師の程度が知れるな」

 

 カチンッ。

 

「………………おいロード・エルメロイ。 その言葉には少しばかり語弊がある」

 

「ほう。 まさか、自分が純然たる魔術師だとでも宣うつもりか」

 

「違う。 俺は、()()使()()だ!」

 

「寝言を────!」

 

 ケイネスが月霊髄液に攻撃の指令を出そうとしたその時、雁夜はケイネスの礼装である月霊髄液の方へと手を突き出した。

 

 すまないチエさん、禁じられた()()をここで使わせてもらう!

 

「天の雷よ、裁きをここに!」

 

 雁夜の詠唱が終わると同時に凄まじい一筋の閃光がはるか上空からアインツベルン城を月霊髄液ごと貫いた。

 計り知れない一撃を予期せず受けた月霊髄液は四方に飛び散り、その端々を黒く染め、焦げた鉄の匂いが辺りに充満する。

 

 何が起きたのか、ケイネスには理解できなかった。

 否、理解したとしてもそれはありえん事なのだ。

 

 二節。

 

 たった二節程度の詠唱から生み出された圧倒的破壊力のある()()

 ケイネスは過去自身が目にしてきた魔術師は数多くいれど、その中にこんな事をやってのける人間はいなかった。

 

 そもそも不可能の筈なのだ。

 人間であれば。 魔術師であればある程度に今の芸当は出来るし、それは理解出来る。

 

 だが先程のはたった二節程度で放つ事の出来る威力を超えている。

 するにはサーヴァントの、その中でもキャスタークラスに至れる程の素質を持ち、それでいて大掛かりな下準備を施す必要がある。

 

 だが、ここはアインツベルンの本拠地。

 

 セイバーのマスターである切嗣にはその機会はあれど、雁夜にはその機会が全くないに等しい。

 ともすれば、雁夜はそれをどう行使しているのか。ケイネスが問いかけるよりも先に雁夜が口を開く。

 

「さてと、そのどこぞの変形自在の液体金属みたいに動く水銀は綺麗に吹き飛ばしたけど、これでも話し合いに応じないか? ロード・エルメロイ?」

 

 そう問かかれ、ケイネスの混乱していた思考回路はさらに混乱する。

 先程の一撃で月霊髄液は四方に飛び散り、使用不可能となった。

 

 では、他の魔術礼装はあるのか?

 

 答えは否だ。

 

 それはケイネスが決して準備を怠っていた訳では無く、切嗣によって本拠地としていたホテルを丸ごと爆破解体されその際に大量の魔術礼装を失ったからだ。

 その中で月霊髄液の礼装が残ったのは他でもない月霊髄液がホテルの爆破解体の窮地から救ってくれたからだ。

 

 そして今その唯一の魔術礼装を失い、サーヴァントもおらず、身一つで前線に放り出されている。

 当然ながら魔術を絶対とし、戦闘向きではないケイネスに肉弾戦の経験はなく、完全に詰んでいた。

 

 にもかかわらず雁夜は“対話”をしようと言う。 普通ならばこのような出来事に対し、交渉をするなどして時間を稼ぎ反撃のチャンスを待つが、ケイネスのプライドはそれを認めない。

 

 ケイネスが魔術を行使しようと雁夜は感じ、彼はケイネスの懐に入って拳がケイネスのボディを見事に捉え、その身体をくの字に曲げながらケイネスの意識を刈り取る。

 

「フゥー………やはり、実戦は違うな。 それにさっきの魔法を少し無理して行使したのがハッキリと身体に響くな………………さて、三月の言った様に動いたけど………本当にどこまであのゴスクロ悪魔は先読みしているんだ?」

 

「ふーん、その“ゴスクロ悪魔”って誰の事?」

 

「それはもちろん────って三月ィィィィ?!」

 

 雁夜は驚きながら声のする方、いつの間にか円状の穴から浮かび上がった三月を見る。

 

「ハ~イ! 呼ばれてじゃじゃじゃじゃ~ん!」

 

「いや、呼んでねえよ。 どこの誰の真似だよ」

 

「乗り悪いわね。 で? お…切嗣は?」

 

「離脱した。 お前がここに来たって事は────」

 

「うん、ここは私に任せて行って。 多分そろそろ切嗣目掛けて綺礼が来る筈よ」

 

「よし、今は綺礼だけ止めれば良いんだな?」

 

「うん、()()()()()()()()()()()

 

 雁夜はホッとした表情を上げ、部屋を出て着る嗣の追跡を開始する。

 その部屋に意識ある他の誰かがいれば三月が“計画通り”とボヤいているのを聞こえたかも知れない。

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

「ねえお姉ちゃん、もっと何か見せて!」

 

「いいぞ」

 

「「「「わーい!」」」」

 

「…………ランサー」

 

「何だ、セイバー?」

 

「…………()()は本当に()()()()()()なのか?」

 

「そう主は言っていたが………()()は…………どうも………」

 

 そこには信じがたいものを見るような目をしたセイバーとランサーの前に焚火を起こし、夜の森に残された子供たちに手品やジャグリング行為などを披露し子供達の世話や介抱をしているバーサーカー(チエ)がいた。

 

 先程キャスターを葬りセイバーとランサーが駆け付けるや否、チエは刀を腰にある鞘に納めた。

 

『何故剣を収める!』

 

『刃を抜くのは斬る為だけ。 争う気は無い』

 

『ほう? ではこちらから襲っても良いという事かな?』

 

『二人はさぞ名のある騎士と見受ける。 その様な者達が不意打ちをするとは思えん。 それに…………』

 

『『それに?』』

 

『この泣き喚く幼子達を慰めるのが先だ』

 

『『………………』』

 

 そして子供達を一か所に集め焚火を起こし、今に至る。

 

 ここで奴を討つ事が出来れば、我が主への忠義を果たす事は出来ると思うランサーだが、正面から挑めば先ず子供達を安全な距離まで引かせる必要がある。 

 

 だがそれでは一時的にとは言えチエかセイバーを見失う事になる。 

 

 あとは不本意だが背後に回り、必殺の一撃をもって一瞬にて命を刈り取るほかない。 ここで此度の聖杯戦争の異端とも思われる運営の片割れを討ち取る事が出来れば不仲であるケイネスにも忠義を示し信頼を得る事が出来る。

 

 だがランサーは騎士、その誇りがチエの言った様に不意打ち等の行為を許さない。

 悪魔でも敵を正々堂々、正面から打ち倒すのみ。

 主君であるケイネスがそれを命じればその限りでは無いものの、自らの意思でそんな事を行うのはランサーにはできなかった。

 

 そしてこれにはセイバーも当てはまる。

 ランサーと違いセイバー自身聖杯の入手を望み、聖杯戦争に参戦した。

 

 ランサーのマスターと違い、衛宮切嗣は手段を選ばず、常に結果だけを求めて非人道的な行為に手を染めている。 これにセイバーは自らの主を諌める事などしない、何故ならば騎士道を謳う自らもまた過去自らの統べる国を救う為に少数の人々を犠牲にした事があるからだ。

 

 だがそれは“王”としての選択、決して“騎士”としてではない。 そして今のセイバーは一人の騎士。 この葛藤がセイバーの意志を鈍らせていた。

 

 こうして微妙な空気と場面を目撃し自分達のマスターから聞いた目の前のサーヴァント(チエ)のクラスが“こいつ、本当にバーサーカーか?”と思える程の行動をしていた。

 

 その時、ランサーがハッとしてアインツベルン城のある方角を向いた。

 

「ランサー?」

 

「……我が主が危機に瀕している」

 

「……行くがいい、ランサー。 貴方も私も、ここで決着は望んでいない」

 

「感謝する。 セイバー」

 

「ああ、ランサー安心しろ。 ()()()()()()からそれは聞いてある」

 

「「?!」」

 

 セイバーとランサーは突然自分たちに声を掛けるチエを見て目を見開いていた。

 

「どういう事だ()()()()()()

 

「言った通りの意味だ、私のマスターは貴君の主の意識を失わせただけだ。 付き人もいるので命に別状はない」

 

 セイバーはキリツグの言葉を思い出す。 切嗣は自身が()()()()()()のマスターである雁夜の相手をするから、セイバーには()()()()()()の足止めを頼むと命を受けた。

 

 だが優秀な筈のランサーのマスターが殺されずに急造の魔術師と思われる雁夜に()()()()失わせた? という事は捕獲されたに違いない。

 

 ここでセイバーの中に疑問が生じた。

 

 切嗣は確かに優秀だ。 戦争を勝つ為の準備を怠らず、何より手段を選ばない以上、騎士として許せない行いこそあれ、聖杯を手に入れるのに最も近いというのは感じていた。

 だが、()()()()()()のマスターがそこまでともなれば、切嗣といえど雁夜を倒せる保証はない所か、ケイネス同様に捕獲されてしまう可能性も大いにあった。

 

 ここは何としてもマスターの所に向かい、この場から一刻も早く立ち去らねばと思う騎士達がチエの方を見る。

 

「私は別に構わぬが召集がかかればすぐにマスターの元へと跳ぶ。 その時に誰かが道を阻むと言うのならば────斬る」

 

 チエがセイバーとランサー方を見るとその場の温度がさらに下がった様な気がした。

 

 そしてその時にアインツベルン城のある方角で大きな爆発が起きた。

 

 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 雁夜はここからどうしたものかと考えていながらアインツベルン城内を奔走し三月の切嗣に対する注意点を思い返す。

 

【いい? 相手の通り名は“魔術師殺し”。 それは決して伊達では無いわ。 彼は現代の武器や装備と魔術を巧みに合わせる。 その中でも彼の持つトンプソン コンテンダーは脅威よ、他はどうにかなるとしてもこれだけには注意しなさい。 さもなくば命が吹き飛ばされるわよ? それでも…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんなことを思いだしながら、雁夜が曲がり角を曲がると通路の数メートル先に探し求めていた人物は身を隠すこともせず、佇んでいた。

 

「ハァ、やっと追いts────あいだだだだだ! だから話を聞けっつうのー!」

 

 足を止め対話を試みる雁夜に対し、切嗣は左手に握りしめたキャリコを雁夜へと向け、引き金を引く。

 案の定、キャリコの弾丸は雁夜に直撃すると音を立てて弾かれるが、それは先程確認済みであり、分かりきっている結果であった。

 

 だが先も言った様にキャリコは牽制役。

 キャリコをガードしている間、雁夜がこちらの動きを見えないことも牽制に入る。

 

 切嗣はキャリコの弾丸をばら撒きながら、懐から自身の“本命”のトンプソン コンテンダーを取り出す。

 トンプソン コンテンダーはアメリカ合衆国で開発された後装式シングルアクション拳銃であらゆる口径の弾丸を発射できることが特徴であるが、切嗣の礼装は銃本体ではなく装填される弾丸にある。

 

 起源弾。 “切断”と“結合”と言う対極的な魔術を撃ち込められた相手に強制的に発言される礼装。

 

 “切断”によって相手の魔術回路にダメージを。

 “結合”で傷と魔術回路のダメージを文字通り結合。だが結合≠修復では無い為魔術回路は実質滅茶苦茶なまま結合され使い物にならなくなる。

 

 起源弾の真骨頂は撃たれた後、相手が大きな魔術を行使さえしていれば魔術師としての機能を完全に失う事になる。

 

 トンプソン コンテンダーの引き金が引かれようとした時、ガードの中からトンプソン コンテンダーを見た雁夜は一瞬焦った。

 

「風よ!」

 

「ッ?!」

 

 ___________

 

 衛宮切嗣 視点

 ___________

 

 

「風よ!」

 

「ッ?!」

 

 突然激しい風が切嗣の身体を真正面から噴き出し、ほんの僅かの一瞬だけだが切嗣の体勢を崩せた。

 

「(これは、セイバーの風王鉄槌(ストライク・エア)?! いや、ダメージは無い。 疑似下位版と言ったところか────)────何?!」

 

 体勢を立て直し再度雁夜に向けて銃口を向けるが、その時雁夜は既に切嗣との距離を詰めていた。

 

「(速い!この速度………僕の固有時制御と同じ類の魔術か?!)」

 

 けれど、距離はまだ十分にあり、切嗣は混乱しながらもコンテンダーの狙いを再度合わせて引き金を引く。

 コンテンダーから放たれた弾丸は吸い込まれるように雁夜の額に直撃し────。

 

 ────否、()()()()

 

「(何だ、今のは?! 一体どんな魔術を行使したんだ?!)」

 

 次の弾を装填する為にコンテンダーを開き、空になった薬莢を捨てて新しい物を入れる。

 

 だが、その動作が終わった頃には雁夜は目と鼻の先まで接近していて、拳が鳩尾へと向けて放たれる。

 放たれた拳は凄まじい速さで切嗣へと襲いかかる。

 

「(固有時制御(タイムアルター・)三倍速(トリプルアクセル)!)」

 

 切嗣は体内の時間を三倍に加速させることでそれを回避し、そのままバック転する事で距離を取りつつ、追撃を防ぐ為に残されたキャリコの弾丸を再度ばら撒く。

 

「(どういう魔術かは見当もつかないが、起源弾を躱された……いや、()()()()()())」

 

 銃口を雁夜に向けながらも、切嗣は歯噛みする。

 起源弾は切嗣の肋骨を磨り潰して作られ、それ程数が多くない。

 合計にして六十六発。 今のものを除いて三十七発を聖杯戦争より以前に使用してきたが、一度たりとて仕留め損ねることなどなかった。

 

 それは切嗣が常に万全を期したタイミングで撃っていた事や、相手が魔術師としての常識に囚われていたという事もある。

 

 起源弾を()()()しつつ、キャリコを()()()しないのには意味がある筈だ。

 

 いや、()()()出来ないという方が正しいのかもしれない。

 

 どちらにしても、キャリコの残弾はゼロでカートリッジの交換が必要。 コンテンダーは再装填はしているが、また()()()される可能性が極めて高い。この状況で同じような手段に出るのは得策じゃない。

 

 実質切嗣の読みは当たらずとも遠からず的を射ていた。 雁夜は起源弾が当たる直前に自らの身体に起源弾が通れる“通過トンネル”モドキを開け、起源弾が身体を通り過ぎると自らつけた傷を治していた。

 

 “切断”と“結合”の起源弾。 そして雁夜の“分離”と“修復”。

 

 これは三月が雁夜に提案した起源弾対策の一つだった。

 切嗣はこの事を知り余地も無いが。

 

「(こちらが同じ速さで動くのは相手も理解している。 ならば────)」

 

 ────バリィンッ!

 

「「ッ?!」」

 

 切嗣が雁夜に仕掛けようとしたその時、切嗣の背後の窓ガラスが割れ、黒い影が城の中へと転がり込んできた。

 割れた窓ガラスから射し込む月明かりに照らされたのは神父服に身を包んだ一人の男の姿。

 

「「言峰……奇礼?!」」

 

「見つけたぞ、衛宮切嗣………そして、間桐雁夜」




作者:う~ん、何度月霊髄液を見ても銀色のぷよぷ〇かドラク〇のメタルスラ〇ムにしか見えないな~

月霊髄液:(。´・ω・) (プルプルプル 

作者:………かっわいいの~

月霊髄液:(・`ω・) (プルッ!

作者:もし楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!

月霊髄液:(。´・ω・) (プル~ 


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第7話 元代行者と暗殺者と愛

すこ~し長めです。 満足いただければ幸いです。


 

 ___________

 

 衛宮切嗣 視点

 ___________

 

 

「「言峰……奇礼?!」」

 

「見つけたぞ、衛宮切嗣………そして、間桐雁夜」

 

 神父服の言峰綺礼は切嗣と雁夜を見て、待ちわびたとばかりにそう口にした。

 

 何故この場に言峰綺礼がいるのか、切嗣は頭で一説の仮定を考えた。 

 

 キャスターと子供達の侵入を確認した時点では綺礼がこのアインツベルンの森に侵入したという事を確認していなかった。 どさくさに紛れてか、或いはその後か、どちらにしても切嗣にとっては最悪の状況である。

 

 前門の虎、間桐雁夜に後門の狼、言峰綺礼。

 前後共に代行者並みの能力を持つ者の間に挟まれた切嗣。

 

「(セイバーに()()()()()()の足止めを任せたのが裏目に出たか、余りにも想定外だ)」

 

 急造の魔術師の筈の間桐雁夜にそのサーヴァント、双方規格外の実力を示した片割れの一人とここに言峰綺礼の出現。

 

 暗殺稼業など行う衛宮切嗣は想定内で事態が収まる例は数少なく、常に想定外を基本に行動を起こしているがこうも想定外の更に上を行く出来事が連続で起き続けていた。

 

 そして綺礼が来た方向はキャスターからの逆方向、つまり自分の妻アイリスフィールと舞弥と遭遇した可能性が高い。 或いはもう衝突した後────

 

「(────いや、冷静になれ。 ここで僕が倒れたら元も子もない。 セイバーをこの場に呼んで離脱するか? 出来れば一人、ここで排除したいが……駄目だ、リスクが高すぎる)」

 

 仮にここにセイバーを強引に呼んだとしても一つでも打つ手を間違えればマスターとしての資格どころか命を落としかねない。

 

「(ならばセイバーを呼び、離脱────)────?!」

 

 切嗣が令呪で呼ぼうとした時、綺礼は黒鍵を数本取り出しそれらを投擲する。

 

 

 ___________

 

 言峰綺礼 視点

 ___________

 

 

 一瞬切嗣は躱す為に身構えるが黒鍵達は大きく切嗣から逸れ、向こう側にいた雁夜へと飛んでいく。

 

「なッ?!」

 

 突然投擲された黒鍵を雁夜は躱し、綺礼は何の感情もこもっていない声音で言う。

 

「成る程。 やはり“急造の魔術師”と呼ぶには些か以上に優秀なマスターのようだ」

 

 先程綺礼は“試す”ではなく“殺す”気で黒鍵を投擲したのでおおよそ一般人では反応できる速度ではなかったが、雁夜はそれを躱した。

 師であり、今尚協力関係である時臣の話に聞いていた間桐雁夜であれば、今の投擲で即死の筈。

 

 だが実際はどうだ?

 

 ともすれば、師の時臣の話は嘘か、はたまた時臣の勘違いのどちらかである。 が、味方であり、信頼を置く協力者の綺礼に嘘をつく道理はない以上、時臣の勘違いという可能性が一番高かった。

 

 それを裏付けるかの様に現に間桐雁夜は衛宮切嗣と対峙し、大した手傷を負っていない様に見える。

 

「(この男、どれ程の実力か見計らう必要がある。 少なくとも……)」

 

 綺礼は生まれてこの方、万人が美しいと感じるものを美しいと感じる事が出来ず、今日この時まで持って生まれた性に懊悩し続けてきた彼は苛烈な人生を送る切嗣を自身と同じ存在であると推測し、聖杯戦争が始まったその日から切嗣の事を調べ続け、もし切嗣の聖杯にかける願いをしれば、自身の答えを見つける事が出来るかもしれないと固執していた。

 

 それに時臣の障害になる以上、排除しなければならないが、そうでなくとも、自身の求める答えを持っているかもしれない切嗣と対等に渡り合える雁夜は綺礼にとって、邪魔な存在でしかなかった。

 ならば取る行動は一つ。

 

「衛宮切嗣」

 

「…………」

 

「無視をするのなら、それでいい。 聞き流すだけで構わない。 ()()は私にもお前にとっても邪魔な存在だ。 排除するのに手を貸そう」

 

「信用出来ないな」

 

 ___________

 

 衛宮切嗣、言峰綺礼、間桐雁夜 視点

 ___________

 

「信用出来ないな。(こいつ(綺礼)は何を考えている?)」

 

 切嗣の意見はもっともだ。 何せ綺礼と時臣が師弟関係であり、協力者である事は既に調べがついている。

 

 そして魔術師殺しという異名を持つ切嗣は時臣にとって、脅威である筈。

 

 その上綺礼が危険な存在であると睨んでいる切嗣からしてみれば、綺礼が雁夜を排除するとならそれは願っても無い提案ではあるものの、信用など出来るはずもない。

 

 今すぐにでも自然な動作で隣に立ち、雁夜へと戦闘態勢をとる綺礼の頭にコンテンダーを撃ち込みたい衝動に駆られている。

 

 だがそれは今の状況では悪手で綺礼に引き金を引けばコンテンダーを再装填する必要がある。 もし綺礼を葬ったとしても今度は再装填が必要なキャリコとコンテンダーで雁夜を退けねばならない。 少なくともセイバーを呼び、体勢を立て直すまでは。

 

 それに────

 

「(────今はこの男(綺礼)よりも間桐雁夜の排除が優先だ)」

 

 ────切嗣の感が告げていた。 今この瞬間綺礼よりも雁夜が脅威だと。

 

 深く息を吐いた後、切嗣の敵意の視線が自身から雁夜に向いたのを感じ取った綺礼は雁夜へと肉薄した。

 

「えっ?! ちょ! 待っ! (こんなのありか────?!)」

 

「────ふ!」

 

 綺礼一度の踏み込みで開いていた距離を詰め、そのまま掌打を雁夜の身体の中心点めがけて放つ。

 

「(早い! これが三月の言っていた八極────)────グォアァァ?!」

 

 雁夜は咄嗟に両腕でガードするが、腕はミシミシと骨が軋み、足は踏ん張る事も出来ずに雁夜は廊下の奥へと吹き飛ばされる。

 

 そしてそれを追撃するように切嗣は持っていた手榴弾を投げると数秒後に轟音とともに城の一角が吹き飛んだ。

 

 “流石魔術殺しと呼ばれるだけの事はある”と綺礼は考えるなか、切嗣は人影が立ち上がっていくのを確認する。

 

「……本格的に人かどうか疑いたくなる。死徒でも相手にしている気分だ」

 

「フ、同感だが並の死徒ならば先の一撃で消し飛んでいる。 まだ死徒の方が闘い様もある」

 

「いててて、酷い言われようだ。 ある意味お前たち二人よりはまともな人間のつもりなんだけどな」

 

 これを聞いた綺礼は神父らしく、最もな事を言い返す。

 

「お前を人間と定義するならば、我々は人以下の存在であると言わざるを得ないが、敢えて言わせてもらうとすれば、お前を人と認める訳にはいかない。

 (殺すつもりで打ち込んだが………あの感触。 私同様に肉体と服に多数の防護壁が張られていると見た。 であるならば、最も防御の薄い頭部を砕く他無いか)」

 

「癪にさわるが、僕も同じ意見だ。 お前の様な人間界の法則を無視した存在が人間でたまるか。

 (あの態勢からの踏み込みで、あの破壊力のある一撃を生み出す綺礼も驚異的だが、それを何食わぬ顔で受けきる雁夜はそれ以上に驚異的だ。 何故こんな化け物が今の今まで一般人として生活をしていたんだ?)」

 

「いやだから俺は人間だよ?

 (どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう痛みは引いたが八極拳ハッキリ言って怖いし骨がミシミシってどれだけ?)」

 

 冷や汗を流しながら雁夜は静かに敵意の眼差しを自身へと向ける本来ならば在りえない最凶最悪のタッグを見据える。

 

 三月から雁夜が聞いた話によると本来なら切嗣と綺礼は水と油。 何がどうあっても交わる事の無い存在同士であり、どう足掻こうとも、一時的にであれ、()()()()()()()()()()()()()()()()筈。

 

 だが雁夜と言う明らかに異端で巨大過ぎる共通の妨害となる存在によって水と油同士の存在は今この瞬間交じりあった。

 

 無論、本来水と油の存在同士の切嗣も綺礼もお互いの事を欠片も信用しておらず、合わせる気などはなっから無い。

 

 だが人体の破壊を極めた八極拳の使い手であり、死徒と呼ばれる存在を屠る事を生業としてきた綺礼と、魔術師を銃火器や爆破物などありとあらゆる手段を用いて殺し尽くしてきた切嗣。

 

 この二人の用いる攻撃手段は違えど、どのタイミングで何をすれば良いかがモノを言う行いをして来た二人。 タイミングに関して言えば、非常に近かった。

 故に信頼も信用もありもしないコンビは互いが思っている以上に相性が良かった。

 

 綺礼は雁夜へと接近しながら両手にある黒鍵に魔力を通し、刃を出現させる。

 

「ッ?!」

 

 綺礼は自身の身体に何かが圧し掛かった様な重さを感じ、僅かに態勢を崩すがさらに深く強く踏み込み、床を砕く勢いで突進するように雁夜へと黒鍵を振るう。

 

「チィ! (重力3倍でもこんなに早く動けるのか?!)」

 

 雁夜は綺礼の黒鍵を躱し、綺礼へ向けて更に魔法を行使しようとした時()()が頭部へと飛来していたのを何とか()()()

 

「(あっぶねー! 今のは切嗣か?!)」

 

 そこで雁夜は思う、綺礼は動きが鈍っている中強引に体勢を立て直し自分へと今また襲い掛かり、切嗣にしては自分が躱せる程起源弾の狙いが雑だった事を。

 

「(固有時制御(タイムアルター・)三倍速(トリプルアクセル)!)」

 

「(後ろ?!)」

 

 確かに雁夜の実力は僅か一年前まで一般人だったにしては立派なモノへと成りつつある。

 だが戦闘経験が圧倒的に欠落していた、特に多対一と言う今の状況に彼はほぼ経験が無い。

 

 更に元代行者と魔術師殺しという特殊な経歴から他の魔術師にはない経験があり、油断或いは意識の散漫などに対する変化に敏感だった。

 

「(この者は────!)」

 

「(────ここで仕留める!)」

 

「ッオオオオオオォォォォォォォ!!!」

 

「「何だと?!/何ッ?!」」

 

 綺礼の拳と切嗣の放った起源弾が同時に雁夜の身体に当た────

 

 

 

 ────らないどころか雁夜の身体を文字通り()()し、綺礼はそのまま攻撃の勢いで身体ごと雁夜を過ぎ通り、息が切れて苦しそうな距離を取った雁夜へと切嗣の隣で反転する。

 

「ハッハッハッ────」

 

「────馬鹿な、あり得ん」

 

「────悪夢か、これは?」

 

 何が起きたのか、切嗣と綺礼には到底理解出来なかった。

 今まで雁夜がしてきた事全てが理解の範疇を超えていたが、今回の出来事は無理矢理自身達を納得させようにも出来なかった。

 

 仕留めた。 そう思った瞬間、双方の攻撃は空振りに終わり、振出しへと戻った。

 何かどうなったのか、自分達は何故また雁夜と対峙しあっている状態に戻ったのか、思考を張り巡らせてもあるのは漠然とした矛盾だけだった。

 

「(起源弾が()()()()()()()()? 馬鹿な、如何な魔術でさえ効果がある筈の礼装が、何故そうなる?!)」

 

「(あり得ん。 奴の身体を通り抜けるなど。 過去にそれらしき能力を使徒などが模範した例は在ったがあの奇妙な感覚は何だ? 魔力はおろか、まるで空気そのものを駆け抜ける感覚だった。)」

 

「(クソ、俺とした事が………ここで奥の手を使ってしまうとは…………)」

 

「一つ……聞かせてもらおう」

 

「な、何だ? (言峰綺礼が俺に質問? どうでもいい、今は息を整えないと………)」

 

「間桐雁夜、お前は聖杯に何を求め、何を望む? 魔導から目を背け、ただの人間(ヒト)となったお前は?」

 

「何も………望むもの………など無い」

 

「ッ?!」

 

 “望むものなど無い”。

 雁夜の口から出た言葉に綺礼は目を見開いた。

 彼、言峰綺礼は間桐雁夜を魔導を捨てた落伍者として認識していた。 そして一度は捨てた魔導の道、間桐家とは絶縁状態にある家に戻ってきて、急造で魔術師になる程の何かを抱き、この聖杯戦争に参加したのだと綺礼は思っていた。

 

 だというのに雁夜から返ってきた答えは予想外のもの。

 “捨て去った血筋を利用してまで参加した万能の願望機の為に命を賭して闘う聖杯戦争に、何の願望も持たずに参加した”と綺礼は雁夜の答えをそう解釈していた。

 

「それは────」

 

 ────まるで自分の様だ。

 思わずそう綺礼は口にしそうになった。

 

 確かに二人は聖杯自体に願望は無い。

 だが決定的に違うのは雁夜は“初めから聖杯に求めるものなど存在しない”に対し、綺礼は“自身が何を求めているのかすらも分からない”。

 

 似ても似つかない圧倒的な差。

 

 綺礼は戸惑いながらも自身の問いを雁夜へと投げる、感じた事も無い感情の昂ぶりを持ちながら。

 

「ならば……ならば、お前は何故この聖杯戦争に参加した! 求める物があるからこそ……答えを持っているからこそ、参加したのではないのか?!」

 

 もしかしたら、切嗣ではなく、この男も自身の追い求める答えを持っているのかもしれない。

 雁夜の経歴を見れば、綺礼や切嗣とは違い、魔術師に言わせれば「凡俗」としての人生を歩んできた雁夜。

 それが自身と同じである筈などない。 と、綺礼心の底では理解していた。

 

 雁夜は自分のように空虚な男ではなく、一般的な美的感覚を持ち、道徳を尊び、悪を許さない。

 そんな当たり前の人間なのだと。

 だが、問わずにはいられなかった。

 それは目の前であり得ない事からの動揺か焦りからか、それとも答えを得られるのであれば誰でも良かったのかは綺礼本人にもわからない。

 

「それは…………」

 

 雁夜は考える。 “何故参加した”、か。

 初めは“押しかけ女房”ならず、“押しかけ小女”の所為で不審者扱いされた。

 先の少女から持たされた情報と取引で桜を間桐家の魔術と臓硯から守る為に帰って来て…………

 そこからの一年間で聖杯戦争への準備…………

 

「俺には答えられない」

 

「ッ?!」

 

「そもそもそれの答えは自分で見つけるものだと思う。 人は一人一人、自分で満足出来る答えを見つけている。 もし答えたとしてそれは“俺”の答えだ」

 

 前に三月に何でここまでしてくれるのか聞いた事があるが、帰って来た答えは“自分の我儘だから”。

 チエさんは“バカンスだから”。

 そして俺は桜に“人として幸せになって欲しいから”。

 

 綺礼は目を見開いたまま、ただ“信じられない”という様な顔で雁夜を見ていたが途端に近くの窓に身を投げてその場から離脱した。

 着地には一体のアサシンが待ち構え綺礼を受け止めるとそのまま抱きかかえその場から離れていった。

 

「君は…………」

 

「ん?」

 

「…………いや」

 

 そこに残された切嗣が雁夜に何か聞きそうになるが、気が変わったのか問いを止めるとほぼ同時にチエが割れた窓から雁夜をお姫様抱っこでまた出ようとする前に切嗣を見る。

 

「行くぞ、雁夜」

 

「え?! ち——バーサーカー! 俺はまだ────!」

 

「────衛宮切嗣、森の子供達を頼んだぞ────」

 

「────だから話を聞けぇぇぇぇ?!」

 

 雁夜が抗議するがチエは無視し窓から城外へと跳び出てそのまま森を駆け抜ける。

 

「キリツグ!大丈夫ですか?!」

 

 その数秒後チエが自身のマスターへと向かっているのに焦り、若干遅れて現れたセイバーは切嗣が無事でいる事に安堵しつつも切嗣の様子が何時もと違うのを感じ取った。

 

「……取り敢えず、生きているよ。 結果は完敗だけどね」

 

「それは…………私も同じ様なものです。 貴方の危機を知りながら、あのサーヴァントを警戒するあまりに足止めを強いられていました。 それに貴方も私も、まだ脱落はしていないのですから、まだ負けと決まったわけではありません」

 

「………そういう見方もある……か……」

 

 切嗣の視界が揺れ、彼はその場で倒れる。

 ケイネスから始まった固有時制御の連続使用の上に激戦の反動は二分に高かく、緊張の糸が切れた瞬間切嗣の意識は遠のき始め、次第には深い闇へと落ちた。

 

 

 ___________

 

 ランサー運営 視点

 ___________

 

「……………はッ?!」

 

 ケイネスは見た事もない景色、経験した事もない出来事の記憶から目を覚まし、意思が覚醒するにつれ先程の事を理解し始めた。

 

 サーヴァントと契約を交わしたマスターは、ごく稀に、夢という形で英霊の記憶を垣間見ることがある。 となると先の夢はランサー、“ディルムッドとグラニアの物語”の一場面の筈。

 

 ケイネスは深く息を吸い、廃墟ならではの埃じみた空気と冬の夜の冷気が寒さを感じさせる。

 彼が今いるのは街外れの廃工場、冬木ハイアットホテルが切嗣により爆破解体された後ここを仮の隠れ家として居を据えた。

 

 数時間前、ケイネスはキャスターを追跡し、ランサーと共にアインツベルンの森へと辿り着いた。 そして偶然にも雁夜と彼のサーヴァントを見つけランサーはサーヴァントの足止めを、自分は倉庫街での報復を。

 

 そして敗れた。

 

 顛末の全てを思い出したケイネスだったが、その頭の中にあったのは屈辱でも憤怒でもなく、純粋な疑問だった。

 

 自身の最高傑作である魔術礼装月霊髄液(ヴォールメン・ハイドログラム)を一撃の元に消し炭とした雷の()()

 

 二節。

 

 たったの二節で放たれた一撃にしてはあまりにも規格外な威力はサーヴァントにすら通用しえるものである事はケイネスも理解した。

 なのに何故あれは自分に向けてなかったのか? もし自分へ放たれていたら間違いなく即死であったのは明白だった。

 

 全力で防御に徹していたとしてもだ。

 

 ならば答えは一つ。

 間桐雁夜は殺意が無かった。 ()()()()()()()()

 

 通常のケイネスなら“情けをかけられた”、あるいは“生かすだけの理由があった”と考え激怒するが今はそれ以上に、あれだけの威力を持った魔術を使用するのに二節の詠唱のみであった事。

 

 時計塔で“神童”と謳われたケイネスならそれなりの準備、条件が全て合い始めてあの規模の魔術が使用可能となる。

 

 だが雁夜はそれを必要としていなかった所かたった二節でそれを行った。

 そして雁夜はそれを自分に使用せず、拳でねじ伏せた。

 

 故にケイネスは考える。

 

 “何故だ?”

 

 雁夜の行動も、魔術の専門分野も理解できなかった、天才である筈の自分が。

 ケイネスの頭の中でこのような思考がグルグルと回って数秒後、彼は口を開く。

 

「ランサー」

 

「ここに」

 

 ランサーはケイネスの呼びかけに実体化し、現れた。

 

「私をここに運んだのはお前か?」

「は、勝手ながら一刻を争う事態でしたので」

 

 確かに、あの場は一刻を争う事態だった。

 “サーヴァントによる足止め”。 確かにそう命じたが、()()()()()()()()()()()()らしくも無い行動に出てセイバーとランサーはどう対応すれば良いのか分からなくなっていた。

 

 離脱しようにもその素振りを見せただけで()()()()()()は反応していた。

 そして爆発がアインツベルン城内で起こりやっとランサーは身動きがとれるようになった。

 

 “ただ一つ、主への忠義を示す事。それこそが我が望み。聖杯など必要ありませぬ”。 

 

 そうランサーは言っていた。

 聖杯にではなく、聖杯戦争自体にランサー、ディルムッド・オディナがかけた願い。

 

「ランサーよ。 その行動、褒めて遣わそう。 お前がいなければ、私は敵のマスターの手に落ちていた」

 

「…………………」

 

「……?」

 

 ケイネスは顔をうつむくランサーを不思議に思った。 

 誰を討ち取ったわけでもない。何かを得たわけでもない。

 彼ならば今の言葉で感動を現すと思ったのだが…………

 

「どうしたのだランサー?」

 

「主よ! 申し訳ございません!」

 

「な、何だ? 何だと言うのかね?」

 

 何故だ? 何故ランサーは悔しそうに肩を震わせている? 何故?

 ………………待てよ、さっきからソラウの姿が────

 

 ────まさか?!

 

「ランサー! ソラウは! ソラウは何処だ?! 彼女はどうし────!!!」

 

「あー、目が覚めた?」

 

「?」

 

 ケイネスは聞いた事の無い、女性と呼ぶには幼さが残っている声のする方へと視線を移した。

 

 そこには十代前半の少女が立っていた。

 

 “ミーちゃん”、“みっちゃん”、“ゴスクロ悪魔”。

 またの名を────

 

「お初にお目にかかりますロード・エルメロイ、私の名は三月・()()()()()。そして────

 

 

 ────雁夜の()()を務めております」

 

「なッ?!」

 

 ケイネス突然の挨拶と情報に素早く立ち上がり戦闘態勢に入ろうとしたが身体がよろめき、ランサーが肩を貸す。

 

「貴様! 彼女を、ソラウをどうした?!」

 

「さあ? どうでしょうね~?」

 

 三月がクスクスと笑いながら笑顔を出し、ケイネスは色々な妄想や仮定を────

 

「────もし私が何かしたとして、貴方はどうするのかしら?」

 

「貴様ぁぁぁぁ!」

 

 ケイネスは怒りに身を任せ、未だに顔をうつむくランサーを強引に振り解き三月に拳を振るい、三月はそれを躱し続ける。

 本来なら魔術を行使する事も、最愛の婚約者の身に何かあり、この愉快そうな少女がそれに関係すると考えただけで戦術や策略は殺意に上書きされた。

 

「あらら、動きが素人同然ね」

 

「貴様! 貴様はぁぁぁ! 私の愛する人をぉぉぉ!」

 

「“愛する人”? じゃあ何でその思いを彼女にストレートに伝えなかったのかしら?」

 

「黙れぇぇ! そんな! そんな事! 恥ずかしくて直に言えるかぁぁぁぁぁ!!!」

 

 プライドも、誇りも、聖杯戦争への理念もグチャグチャにされつつあったケイネスはその身に辱めも受けた。

 

「本当に? 本当の本当に? 彼女が許嫁だったからじゃ無くて? 自分が優越感を感じる為に傍に置いた訳じゃなくて?」

 

「当たり前だ! 彼女は………」

 

 ケイネスは元々衛宮切嗣や言峰綺礼みたいに化け物並みの体力は無く、今の振りかぶる拳にはキレや勢いは既になくなっていた。

 

 そこには自分の拳が虚しく空回りしている事実に目から涙が流れていた人間、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという名の、ただ一人の男性がそこにいた。

 

「………彼女だけは私にとっての光輝く女神だったんだー!!! 来る日来る日も研究などで充実していた毎日は彼女が加わった途端、充実感が何倍にも増した! 彼女が傍にいるという事実だけで私の心は安らげたんだぁぁぁぁ!!!」

 

「だ、そうよ? ソフィアリ嬢?」

 

「……………………………………………………え?」

 

 三月が部屋へと通じる戸口へと声を掛けると耳まで真っ赤にしたケイネスの婚約者、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが立っていた。

 

「け、ケイネス………その………」

 

「ね? 言った通りでしたね、ソフィアリ嬢?」

 

「…………………………………………………………………へ?」

 

 ケイネスは何が起きているのか、何が起きたのか理解が追いついていなく、ただ自分の愛しい人のソラウを見ていた。

 

「誠に申し訳ありませんでしたロード・エルメロイ様。 魅了の呪いを外したソフィアリ嬢にロードの本心を聞かせる為に敢えてこう演じていました」

 

「……………………………………は?」

 

「ケイネス………さっきの事全部……本当なの?」

 

 ケイネスはソラウの真っ赤になった顔を見ると、彼女の目は熱意のこもった視線をケイネスへと送っていた。

 

「あ…………う…………」

 

「ねえ、ケイネス。 答えて頂戴。 お願い」

 

 理解がやっと追いつき始め、タジタジになり後ろへと後ずさるケイネスにソラウはズカズカと彼の前に接近して彼の顔を見上げた。

 

「………………………………」

 

「ケイネス?」

 

 戸惑いを隠せていなかったケイネスは次第に何時ものキリっとした表情に戻り、ソラウを真正面から見た。

 

「ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ」

 

「は、はい」

 

「いいか? よく聞け」

 

「はい」

 

「私はアーチボルト家、九代の当主にして時計塔鉱石科の君主(ロード)

 

「はい、それはもちろん存じ────」

 

「────話はまだ終わっていない。 そのような者が何故こんな極東まで来て聖杯戦争などに参加したと思う?」

 

「それは…………やはり自身に魔術師同士の決闘に勝利し、戦歴を────」

 

「────違う」

 

「では、聖杯戦争に勝ち、聖杯に願いを、或いは────」

 

「────違う。 違うのだよ、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。 私は………その………」

 

「????」

 

「君に………ソラウに…………いかに優れた、いやこれも違う…………良いか? 一度しか言わんぞ? 私は………愛するソラウに………………………良い所見せたかったのだ」

 

「へ? 今………何て?」

 

「き、聞こえなかったか? ならばそれ君の落ち度だ、私に────」

 

「もう、ケイネス。 そんな事しなくても、貴方が優秀なのは周知の事実」

 

「む? そ、そうか? 宜しい、では────」

 

 その場から動こうとするケイネスを、ソラウはケイネスの手を両手で取り、動きを止める。

 

「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。 私は……ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは………貴方の事が好きよ。 いえ、今は愛さえしているわ。 ケイネスは………どう思っているの?」

 

「ど、どうって………先程申し上げた通りに────」

 

「────私は貴方から聞きたいの、ケイネス」

 

「……………わ、私は……………ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは………………君の事を………あ………あ………あ………………………………好いている」

 

「どの位?」

 

「だ、だから………その………………世界で………………何より……もだ」

 

「!!! ケイネス!」

 

 ソラウは今までに見せた事の無い、心からの笑顔でケイネスの背中に腕を回し、身体全体を密着する勢いで抱擁し、頭をケイネスの胸に埋めていた。

 

「そそそそそそそソラウ?!」

 

「ごめんなさいケイネス! ランサーの黒子の呪いで魅了されていたとはいえ、貴方の事を不安にさせて、心を乱していた! でも、こんな形でも貴方の本心を聞けたのは嬉しい!」

 

「ソラウ…………」

 

 ケイネスは遠慮しながらも感動に泣き始めるソラウの背中に自分の腕も回し、抱擁し返した。

 

「謝るのはこちらも同じ、自分の世間体を気にするあまりに君に私の思っている事を伝えずに、ただ自分を押し付ける様な事を────」

 

「────ああ、ケイネス!!!」

 

「ソラウ!!!」

 

 この場を満足そうに見ている三月は未だに顔をうつむいているランサーの肩を叩いた。

 

「協力ありがとうランサー、ケイネスとソラウの為とは言え一芝居を打ってくれて」

 

「いや、礼を言うのはこちらだ少女よ。 最初は我が主を騙す様な行いに加担する自分が許せなかったが…………今こうして見るとこれで良かったと俺も思っている。 感謝する、三月よ」

 

「いえいえ、私も砂糖無しのブラックコーヒーもグイグイ行ける甘~~~~い場面を見る事が出来たからここに来た目的は半分達成したわ」

 

「半分? では俺の魅了の呪いの無効化と彼女にかかった魅了解除の他に何かあるのか?」

 

「あるけど、あの二人が落ち着いてから話に入るとするわ」

 

「そうか…そうだな」

 

 三月とランサーは満足そうに、それこそ心から祝福しているかの様に涙を流すケイネスとソラウ二人の仲睦ましい姿に優しく微笑んでいた。

 




作者:うお~~~~ん! ええ話がな~~~~!

三月:うわ?! また泣いている?! と言うかこの話、結構力入っているわね?

作者:だっでケイネスと切嗣の戦いカッコいいじゃん?! でもでもケイネスってかませ犬になっちゃうじゃん? そして婚約者が病んで酷い事するじゃん?! もう何か救いが無いじゃん?!

三月:うわ、こいつもう顔ボロボロ。ほら、ハンカチで鼻かみなさい

作者:あんがど。 (チィ~~~~~ン!!!) ……………では次回! 三月は何故ランサー運営に接触したのか?! お楽しみに! あ、これ返すわ────

三月:────ぎゃあああああ! 返す前に洗えよ! 汚い!

マイケル:あいつら何してんだ?

ラケール:確か“コント”ってヤツね。


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第8話 あれは何だ?! 影か?! 闇に潜む怪物か?! いえ、あれは少女と言う名の掃除屋です

 ___________

 

 ランサー運営 視点

 ___________

 

 

「「……………」」

 

 近くのベンチみたいな物に一緒に座るケイネスとソラウはあの後本人同士長くとも感じられる間抱き合いながら共に泣いていた。

 

 ソラウはケイネスが自分を心から思っていたが世間体を気にするあまりに正直になれなかった言葉を聞けた事の上に今まで府に落ちなかったケイネスの数々の行いが実は全てソラウを思っていたからこそやっていた事に。

 

 ケイネスはやはりソラウはランサーから何かの影響を受けて様子がおかしくなっていた事と、今まで自分の胸の奥に押し込めていた本心を、自分の愛する人に言え、それが受けられた事に。

 

 そして今気持ちが少し落ち着くと気まずそうに顔を互いから逸らしていた。

 

「心に整理は付いたかしら?」

 

 そして二人の向かいでニコニコと笑顔になっている三月はどこか肌もツヤツヤとしていた(三月の傍で監視と警戒をしているランサーもだが)。

 彼女のかけた声でケイネスは咳払いをし、表情を何時ものキリっとした余裕のある顔で三月を見た。

 

「ではもう一度最初からで宜しいでしょうか?」

 

「う、うむ。 そうだな」

 

「では、お初にお目にかかりますロード・エルメロイ、私の名は三月・()()()()()。 そして間桐雁夜の()()を務めております」

 

「…………やはり聞き間違いではなかったか。 貴様────いや、これは駄目だな。 プレラーリ家は聞いた事も無いが……んんッ、こちらこそ始めまして。 私はアーチボルト家、九代の当主にして時計塔鉱石科のロード・エルメロイである。 そしてこちらが私の婚約者のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。 彼女がかかっていた呪い解除とその原因である呪いの無効果、感謝する」

 

「いえ、こちらこそ()()()をご拝見出来たので♡」

 

 ケイネスはバツが悪そうな顔をし、ソラウは苦笑いをした。 だがそれも束の間で、今三月と向かい合っているのは聖杯戦争に参加したランサーのマスターと、そのサポートのケイネスとソラウだった。

 

「さて………良くここを突き止めたと褒めて置こう。 どうやったか知らないが、間桐の魔術師の師を名乗ったからにはさぞ腕の立つ者と受けるが……何用で私達に接触を直に図った?」

 

「単刀直入に言いますと取引を。 名高きロード・エルメロイの腕を貸して欲しいのです。 同盟を結んで」

 

「ほう、同盟とは。 続けろ」

 

「いくらロードとは言え、この様な即席の工房ではまともな防備は敷けないと思いまして」

 

「君は私が頷くと、本気で思っているのかね? 君の弟子はついさっき、私が敵マスターを始末する邪魔をしたばかりではないか? いや、それどころか私を捕獲しようとしたな?」

 

「あ、それはちょっと勘違いをしていると思う。 私は他のマスターやサーヴァントが貴方に危害を加えない様に見張っていただけです。 現に、私はランサーの邪魔をするどころか助けていますし」

 

「何だと?」

 

「我が主、その三月と言う少女が言っているのは真の事です。 私が駆け付けた頃、彼女はアサシンと思われるサーヴァントを退けていました」

 

「ふむ……その言葉、嘘では無い様だな。 だが礼は二度言わん。 話を続けろ」

 

「ええ、大丈夫です。 こちらもその件に関しては礼を言われるとしても困りますので。 では先にこちらを…あ。  私のバッグを持って来ても宜しいでしょうか?」

 

 ランサーはケイネスを見ると、ケイネスは頷く。 三月が立ち、部屋の隅置かれているボストンバッグを持ち上げ、元居た場所に戻り、バッグから出した書類をソラウに渡す。

 

「……こちらの書類に魔術は感じません」

 

「ふむ……これは……“魔術師殺し”、だと?」

 

「はい。 これは貴方がアインツベルン城で対峙していた、現代兵器を使っていた者の情報です」

 

 その資料は衛宮切嗣の情報の資料で、それによれば彼は力ある魔術師を複数名打倒しているらしいが……ケイネスの見た感じその魔術師達は“名前だけが大きくなった、痩せ犬ばかりだったのだろう”、と。 しかも、勝ちの全ては対象魔術師の魔術行使失敗による自爆だ。 話にならない、と。

 

 

 馬鹿馬鹿しいとケイネスが断ずる前に三月が話を再開する。

 

「もし話一割だとしても、実際に高位の魔術師はいた筈。 そうでなかったとしても、経験がとても多い魔術師ばかりが死んでいます。 ここでロードに問いますが、こう都合良く魔導に浸っていた者達が自爆などミスをするでしょうか?」

 

「ふむ…(その訳が無い。 時計塔の講師の中ではまだ若いとは言え、それでも数年の経験はあるのだ。 魔術行使の失敗にはパターンがあり、それを積み重ねて能力を上げていく。 大魔術を行使するのであれば、最大限に気を遣う筈だ。 そんなものは、未熟者の自爆だ、で済ませていい問題では無い………………つまり、考えられるのは────)────まさか?! 魔術に対するカウンターか?!」

 

「はい。 恐らくかの者はそれを可能とする手段を持っていて、それを敵対するマスターが大魔術を行う瞬間を虎視眈々と狙っていたでしょう」

 

「何と卑劣な!」

 

 くっ、と歯がみをして、資料を叩き付けた。彼、ケイネスには自負心がある。 魔術師の大家として積み上げ、時計塔で功績を重ね、若年にして一級講師になったというプライドが。

 

 そこに付け入れようとし、あざ笑われていたのだ。 あろう事か、魔術師の本懐を忘れたような輩にだ。

 

 今度こそ、油断はしない。 あらゆる対策を立てて、再び奴の前に立つ。 そして……今度こそ、絶対に殺す。 泥のようにうねる殺意を固め、しまい込む。

 

「待てよ………まさか………そうか、そういう事か! 君の弟子が私を生かしておいたのはそう言う事か! ハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 突然笑いだすケイネスにソラウはハテナマークを出すような、理解が付いていない様な顔を上げる。

 

「何の事、ケイネス?」

 

「つまり、間桐の者は()()()私の前に姿を現せ、()()()臆病風を偽装し、()()()私に傷はおろか意識を奪うだけにしたのだ! こうすれば私はアインツベルンの“魔術師殺し”と何も知らずに会う事は無い! いやはや、お若いのにこれは一本取られた!」

 

「さすがロード・エルメロイ。 最小限の言動で意図を見抜くとは」

 

「では、本題に戻るがここまでして私に同盟を申し込むとはどういう事だ?」

 

「私達は少なくとも、ここよりはマシな拠点と情報を提供します。 こちらのサーヴァントの真名を明かす訳にはございませんが」

 

「見返りは何だ? これ程そちらが譲歩するからには何かある筈だが?」

 

「まず拠点を提供しようとしているのは先程ランサーが言った様にアサシンがまだ脱落していないからです。 いくらランサーと言えど、位置の離れている二人を聖杯戦争中ずっと守る通せるという保証がありません」

 

「…………では何だ? 間桐の師と言うのならば彼の様な化け物と彼のサーヴァントを送り出せば聖杯戦争を終わらせる事も容易い筈」

 

「主よ! セイバーは私が必ずや御首級を────!」

 

「────貴様は黙っていろランサー!」

 

「んー、別にセイバーとランサーを決闘させても良いんだけど?」

 

「…………は?」

 

 本日何回目になるか分からない間の抜けた声をケイネスが発する。

 

「今のセイバーは呪いの傷を負って全力、即ち宝具を使えない状態。 なら、ランサーが負ける事はまずないのです。 実はこの二人に能力値の差はほとんどないのです」

 

「何だと?!」

 

「はい、確かにセイバークラスは三騎士の中でも強いです。 が、マスターとの相性や精神理論の違いが現状、枷になっています。 俗に言う“足を引っ張りあう”ですね。 あ! 紅茶の葉っぱなど御座いますが、お飲みになられますか?」

 

「あ、それじゃあ私がチェックをして淹れようかしら」

 

「ソラウ」

 

「大丈夫よケイネス。 少しは貴方の………つ、つ、妻を信じなさい」

 

「ソラウッ!」

 

「あ~、話を戻していいかしら? あ、これが紅茶の葉っぱの入れ物と、ティーセットと、お水の入ったボトルです……って、このままじゃ冷たいか────よッ!」

 

 三月は次々と物をバッグから取り出し、最後に出した水の入ったボトルを手で握り、グッと力を入れるとボトルからみるみると湯気が立ち始め、三月はそれにタオルを巻きソラウに渡す。

 

「(ほう、かなり変換率の良い魔術をボトルに組み込んでいるな)」

 

「はい、熱いから気を付けてね?」

 

「え、ええ。 ありがとう……こんなに短時間でお湯を沸かすとは随分と効率的な魔術式ね」

 

「え? これ市販で出回っているただのボトルよ? スーパーで買ったヤツ」

 

「「何?!/何ですって?!」」

 

「中のお水()()を沸騰させただけだから」

 

 三月は何事も無かった様に笑顔をケイネスとソラウに向ける。 

 実際彼女からすれば何もなかったのだろう。

 

 が、魔術師は基本的に現代の技術を忌み嫌う。 もちろん彼らも使わなくてはならない物を渋々使うが、お湯を沸かすのはやはりあらかじめ魔術を組み込んだポットなどを使う。

 今三月がした様な僅か数秒という短時間で、しかも詠唱も術式も無しに成し遂げた様な魔術は基本的に不可能である。

 

 術式が無いのはソラウが確認するとして、今問題は────

 

「────少し脱線したな。 君はランサーとセイバーが────」

 

「────ああ、うん。 先ずは魔力値。 これは宝具発動に関するけれどランサーの宝具が常時発動型なのと、セイバーが宝具を使えないから、この差はないも同然。 次は差の大きいと思われる耐久力だけど、これはあの赤い長槍の力で無いにも等しい。 多分その分をセイバーは筋力に振り分けると思うけど、これでセイバーとランサーの筋力は五分五分になると私は見ている」

 

 ケイネスはソラウが入れた紅茶を手に取り、啜りながら考える(既に紅茶やコップに魔術影響が無いのも、ボトルが本当に市販のままの状態なのも確認済み)。

 

 この三月・プレラーリと言う娘………見た目と言葉遣いは幼さが残っているものの、聡明さと魔術の腕は恐らくこの聖杯戦争で二位を争うところかと意識を改めている(勿論総合的に一位は自分だが)。

 

 それに今の説明は理に適っている。

 

 後ろで“もっと自分を良く言ってくれ!”という満足そうな顔をしているランサーに腹が立つのは別として。

 

「後この二人の差と言えば………戦い方ね。 見たところセイバーは瞬発型に対してランサーは常に自分の技量に頼っている。 後はあの見えない武器の長ささえ見極めば更にランサーに軍配は上がる」

 

「その通りですケイネス様! 必ずやセイバーを討ち取って見せます!」

 

「……………そうだな、今度こそ会う時は決着をつけ。 次は無い」

 

「!!! はっ! このディルムッドにお任せ下さい! 必ずや、勝利を我が主に捧げると誓います!」

 

 “やはり俺の主を見る目は間違っていなかった!”と思うディルムッド・オディナ。

 

 “やはりソラウは私に思いを寄せていたか”と思うケイネス。

 

 “やはり、ランサーは香車見たいに一直線を行くわね~” と思う三月。

 

 そして“あ、この紅茶美味しい”と和んでいるソラウ。

 

 今ここに廃墟には合わないほのぼのとした空気が────

 

 

「────君はまだこの同盟に私達から何を求めているか答えていないのだが?」

 

「(うん。 やっぱり優秀ね、この人。) これは失礼しましたロード・エルメロイ。 ですが先にそちらの拠点を選んでからの方が話しやすいと思いますのですが」

 

「ふむ、確かに一理ある……だがこのまま君達や他の運営が私達を襲撃するとも限らない」

 

「あ、それじゃあコレを先お渡しします。 お気に召せば良いのですが────」 

 

 三月はバッグの中を漁り、()()を取り出すと────

 

「なッ?!」

 

 ケイネスが突拍子もない声を上げ、思わず紅茶を落としそうになる。

 何故なら三月の手には良く見知った魔術礼装があったからだ。

 

「これは同じ魔術師としてお返しいたします」

 

 ソラウに三月が渡したのは()()()()()()()()()()()、即ち────

 

「月霊髄液だと?! 何故君が持っている?!」

 

「これはアインツベルン城で私が出来るだけサルベージした物に同じ様な術式を施した水銀を足しました………」

 

 ケイネスはそれをソラウから手渡され中身を確認する。

 

「…………(間違いない、これは私の魔術礼装月霊髄液………しかもアレンジなど加われた物ではなく、そのまま私の魔術礼装だ。) …………Fervor,(沸き立て、)mei(我が) sanguis(血潮)

 

 ケイネスが水銀を地面に落とし唱えると、そこには雁夜によって破壊されたと思われた魔術礼装が復活していた。

 

「……これはどういう事かね? 間桐の師……いや、プレラーリ嬢?」

 

「これで貴方には自身を守る術が戻りました。 もしご不満でしたら私自身、明日まで寝床を一緒にしますが?」

 

 三月は悪戯っぽく笑いながらケイネスにそう言うとソラウの視線がケイネスに突き刺さる様な気が彼にした。

 

「い、いや結構だ! ここまでしてある程度の信頼は築けたと思う!」

 

「ありがとうございます、ロード・エルメロイ。 ではまた明日。 ご機嫌用、ソラウ様」

 

「あ。 え、ええ。 貴方も」

 

 三月は立ち上がりペコリと一礼した後、ゆっくりと廃工場を後にする。

 

「………………ソラウ。 君は彼女をどう思う?」

 

「え? どうって……不思議な子としか…感謝していると言うか……(紅茶が美味しかったとは言えない)」

 

「率直に言おう。 私が感じたのは少女などではなく、人の皮を被った()()()だ」

 

「え?」

 

「やはり主もお気付きでしたか」

 

「え、ランサーも?」

 

「あの者と初めて会った時、不肖ながら俺が最期に感じた無力さを感じました。 アサシンとは言え、サーヴァントを退けるあの姿と態度………」

 

「……………どういう事、ケイネス?」

 

「誠に不愉快な事だが………奴は私の月霊髄液を()()()()()したと言う。 これは不可能な事だ。 何故なら間桐の魔術師は下準備も何も無く、たった二節程度の詠唱から生み出された()()で私の月霊髄液を一撃で消し飛ばしたからだ。 そして奴はその様な行いをする者の師。 あの時咄嗟に反射神経でもう一度魔術礼装に魔力を入れたが()()()()()()()()()

 

「それはつまり………月霊髄液は機能不能までダメージを負った? でも今貴方が使っているのはどこからどう見ても────」

 

「────そうだ。 私の魔術礼装そのものだ。 その上仮とは言え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()。 ここまで言えば君にもこれが何を意味するのか分かると思う」

 

 重い沈黙がランサー運営の間で続き、結局その夜睡眠どころか、仮眠も出来なかった。

 

 ケイネスとソラウは寝所を共に身を寄せあって半端ないリア充感を出していたが。

 

 そしてランサーは辺りを警戒しつつ二槍流のイメージトレーニングをしていた、来るべき闘いの為に。

 

 

 尚、日にちが変わろうとする時間に三月がクシャミをし続けながら帰って来て、心配していた桜に泣きつかられて困り、三月の気持ちが重くなるのは別の話である(この頃、間桐家では“皆で一緒にデザートを食べる”というのが桜の希望によって生まれた家の風習が出来上がっていた)。

 

 ___________

 

 遠坂凛 視点

 ___________

 

「みんな! こっちよ!」

 

 場所は冬木市の夜、入り込んだ裏道の中遠坂凛は同じ年の子供達が男に連れ去れているのを見て、そして父からもらった魔力計がその男を示しながら反応した事により凛はその男を尾行し、とある廃れた飲み屋みたいな所で自分が探していた友人のコトネと他数名の子供達が虚ろな目をしていたのを発見した。

 

 そこで男(キャスターのマスター、雨生龍之介)に凛は発見され捕まりそうになるが、龍之介の着けていたブレスレットが突然壊れ、子供達の全員の意識が覚醒し、凛は皆に逃げるよう誘導しながら殿を務め、龍之介相手に時間稼ぎをしていた。

 

 ここで凛と龍之介双方に幸いしたのが、凛は既に初歩魔術を行使できる事。 だが殺人者の狂気か本物の殺気に当てられたのか魔力の集中が上手くいかず、行使する魔術は不発に近いが目くらましとしては使えた事。

 

 もう一人の龍之介はほぼ一般人で、つい最近までは魔術の“ま”さえも知らず、キャスターを召喚出来たのは偶然にも実家で聖杯戦争について書かれた古書を発見し、それに基づいた“儀式殺人”を行っただけに過ぎない。

 

 なので魔術に関しては此度の聖杯戦争参加者内では下の下だった。 ただこちらは以前から殺人を行っている連続殺人者なのでいざ命に関わる(命の)取り合いとなると全身全霊を込めて相手を殺す事に躊躇しない。

 

「はやくはしって!」

 

「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」

 

 ビカッ!!!

 

「グワッ! また、こぉんの! 待ちやがれクソガキ共がぁぁぁぁぁ!」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ! (あと、もう少しで、おおどうろにでる! そこまでいけば────!)」

 

 凛は後ろから龍之介の足音がして、宝石魔術を振り向かず、また使うが────

 

「────きゃあ?! な、なんで?!」

 

 何故か龍之介が今回怯まず凛を後ろから地面に押さえつけられ、持っていた宝石が辺りにばら撒き、首から下げていた魔力計はガラスが割れずとも首から外れ地面に落ちる。 

 

 凛は暴れるが自分より体格が大きく、体重のある相手にそのバタつきが効く筈も無く、龍之介が強制的に凛を仰向けにして首を片手で絞め始める。

 

 その時、凛が見たのは大きく歪んだ笑顔をした龍之介がサングラスをもう一つの手を使って顔から外していた。

 

「(そうか、こいつサングラスで魔術のせんこうを────)────ガはッ! アッ! ガッ?!」

 

「ん~、一時的にサングラスを襟辺りからぶら下げるのをCOOLと思っていた過去の俺に感謝だぜ~~……このガキ、手こずらせやがって。 他の奴らは逃げちまうかも知れねえがテメェだけはゆっっっっっくりといたぶってやる」

 

「(やばい、にげなきゃ、ほうせきとどかない、うごけない!) アッ……アガッ………」 

 

「本当はお前を“芸術品”にしたかったけど、暴れそうだからな~~……そうだ! 手と足切り落とそう! そしたら気絶して少しは静かになるかも!」

 

「?! (な、何こいつ?! く、くるっている?!)」

 

 龍之介は右手で持っていたサングラスを捨ててナイフを取り出し、首を絞めていた左手を離し凛の右腕を抑え、すかさず足の肘を凛の胸辺りに乗せて体重をかける。

 

「んじゃ! 先ずは手癖の悪い右手から“バイバイ”いっちまおうか!」

 

「かッ…アッ……やめ……て────」

 

「────じゃあ気絶するなよ~? でないと楽しめない」

 

「お……………と……………………だ………れ………………か」

 

 ザシュッ。

 

 

 

 

 凛の視界が酸素不足から暗くなり始め、意思が朦朧とし始めた時、刃物が()()を差す音が狭い裏道に響く。

 

 

 

 

 

 

 カランッ、カランッ、コロン、カタッ。

 

「え? あれ? アレ俺の……ナイフ? お……………おあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!」

「カハッ! ゲホッケホッエホッ!」

 

 龍之介は凛の上から退き、自分の右腕に刺さったテレビアンテナの部品を信じられない様な目で見ながら左手で抜き取る。

 

 凛は急に酸素を取り込んだのか頭痛がし始めて立ち上がろうにも手足に力が上手く入らず横へ倒れそうになると誰かが自分を支えるのを体温で感じた。

 

「(あ。 ちょっとヒンヤリする……だれ? おかあさま?)」

 

 視界が霞む中、凛は地面に落ちた魔力計が異様な程赤くなっていたのを見えた様な気がした。

 

「(すごくあかい………てにおえないきけんがちかい? でも、もう…むり────)」

 

 とうとう限界が来たのか意識が深い闇の中へと落ちる中、女性の声がどこか遠くで響いた。

 

「逃げ足の早い外道め」

 

「(このこえ………どこかで………………あ……………桜といた………………)」

 

 ___________

 

 ライダー運営 視点

 ___________

 

 とある冬木市にある一際大きな水路の中、少年の悲鳴が響く。

 

 

 

 

 大男の笑い共に。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

「フハハハハハ! そう怖がるな坊主! 男ならもっとどっしりと構えんか! それに坊主も気になるだろ、先程から聞こえてきたあの音が」

 

「あ、ああ。 何か工事で“ガツンガツン”する奴みたいだな」

 

 三月がランサー運営と接触し、ソラウの魅了解除とランサーの黒子の呪い無効化を同時刻ごろ、ライダ-と彼のマスター、ウェイバー・ベルベットはキャスターの工房であったらしい場所へとと移動していた(キャスターが討伐された連絡は入れ違いでまだ伝わっていない)。

 

「む、これは……」

 

「え、何だよ…これ?」

 

 何故“らしい”になるかと言うとキャスターの魔力の残滓しか感じられなかったから。 魔力は淀んでおり、霊的にも不安定。 あまりそういった事の感知が得意で無いウェイバーでも、ここがろくでもない事に使われていた、というのは工房での惨状を直接見なくても分かる。

 

 ウェイバーにプレッシャーを与えているのは、それだけでは無い。 

 

 工房には先客がいた。

 

「お主は……確か()()()()()()だったか?」

 

 今聖杯戦争で、()()()()()()は最も謎が多いサーヴァントだった。

 確実な情報に繋がる手掛かりを調べ上げ、辿ってみても矛盾するか更に謎が深まるだけ。 

 

 そしてここぞという場面で致命的な一撃を披露する。

 

 僅かな時間で魔術師の工房など比較に出来ない陣地の要塞化。

 その上ステータスもクラスも読めなかった。 しかもクラスに至っては間桐雁夜が彼女を“バーサーカー”と呼んでいただけで確証は無い。

 

 会う事があれば多少無理をしてでも情報が欲しいと思ったところにキャスターの陣地らしき場所へと踏み込んだ際にこうやって偶然にも会った。

 ウェイバーが考えたのは進んだ先が、キャスターの工房らしき場所なのも、聖杯戦争のルール変更を考えれば予想の範疇内。

 

「……………ライダーか」

 

 ()()()()()()はライダーたちに振り向かうと、この離れた距離からでも分かるほど彼女が来ている黒い着物がどす黒い赤に染まっていたのが見えた。

 

「“これ”はお主がやったのか?」

 

 ライダーの目は()()()()()()の前にあった柱に人型の()()()が凄い腕力で何度も叩きつかれた痕跡があり、よく見ると辺りに新しい血の跡があった。

 

「少々手癖の悪い者がいた」

 

「そいつァ、キャスターのマスターか?」

 

「何をしに来た、ライダー?」

 

「うーん、余らはキャスターの陣地があろう場所に乗り込んで来ただけよ。 別に今おぬしと事を構えるつもりは無いわい」

 

「そうか」

 

「ヒッ」

 

 ()()()()()()の視線がウェイバーに移ると彼の肩はビクつく。

 彼女の赤い瞳は感情を表さず、ただウェイバーを見る。

 

「貴様は近づかない………いや、見ない方が良い。 明かりを付けるな」

 

「!!! ば、馬鹿にするな! ぼ、僕だってやれば────!」

 

「────坊主!」

 

 ウェイバーは馬鹿にされたと思い、怒りが込み上げ(あとライダーとの暮らしのストレス)、明かりをつける魔術を行使し、上にそれを投げると照明弾の様に明かりがつき、辺りの惨状を見せる。

 

 そこには子供がたくさん転がっていた。

 

 服は破れて、血が張りつている。眠っている顔は、恐怖と苦痛に引きつっていた。

 

 これらはまだマシな方で、中には原型を人型から変えられた者や恐らく生きたまま内臓を────

 

「────ウッ! ボエエェェェ?!」

 

「あー、だから言わんこっちゃない」

 

 ウェイバーは嘔吐し、胃の中が空っぽになり、口を袖で拭く。

 

「こ、この子供達は…………」

 

「おおかた、キャスターかそのマスターの奴らが連れ去ったのであろうよ。 ()()()()()()にああして保護されている子達がいるという事は、少なくとも生きておる者もいるようだ」

 

「御託は他所でやれ。 手伝わないのなら時間の無駄だ」

 

「何だ、手伝ってやってもよいぞ?」

 

「………感謝する」

 

「その代わりと言っては何だが、少し話をしようではないか!」

 

「……………道すがらで良いのなら」

 

 ()()()()()()とライダーが子供達を戦車の御者台に乗せる間、ウェイバーは彼女を観察した、どうにか真名などに辿り着ける仕草や言動があるかどうか。

 

「(今までじっと見た事ないけど、あれって日本の着物だよな? だったら彼女は日本の英霊? でも本とかで呼んだ限りは“聖杯”は西洋の概念だから可能性は低い………だったら日本出身で旅人をしていた方がしっくりくる。

 でも………僕から言っても昔の時代、女性の位置は社会的に低くてある一部の例外を除いて男装してたって────)」

 

 ウェイバーのまじまじと見る視線に気づいた()()()()()()が彼の方を向く。

 

「何だ?」

 

「えッ?! いや、その、僕は………」

 

「オウ、あらかた乗せ終わったぞ! ん~? どした()()()()()()? あまり坊主をイジメてくれるな、おぬしの様な目麗しく、高貴な者に見とれてもしょうがいではない!」

 

「………………」

 

「……乗るか?」

 

「ええええええ?! お、お前何言ってんだよ?!」

 

「???」

 

 ライダーがウェイバーにデコピンを食らわせ、黙らせる。

 

「いや何。 戻る道は長く、余としてはこの辛気くさい場所で長居はしたくない。 それに隣におぬしの様な者がいれば少しは華が咲くと言う者よ!」

 

「そうだな」

 

 そう言い、ライダーの御者台にはライダー、ウェイバーと()()()()()()が隣に立つという位置で来た道を戻り始めた。

 

「(う~、ライダーの奴何考えているんだ?! 奴が僕を狙っても守り通せる自信があるのか?!)」

 

「……して()()()()()()よ」

 

「何だ」

 

「おぬしからはどこかの王………いや、皇の様な者の雰囲気を感じる。 名は何と言う?」

 

「言う必要は無い」

 

「まあ、そう固い事を言うな! 見た所この極東の島国の出身っぽいが? それにさっき“高貴な者”と言ったのを不定しなかったしな!」

 

「……………………」

 

「高貴な者で流星を空から降らす様な者なぞ何も恐れる事は無い筈! それならば己が名乗りを憚るまい」

 

「……………………」

 

「だんまりか、むぅ……堅い奴め」

 

「何言っているんだ、こっちの方の振る舞いが当たり前だろう?!」

 

「坊主こそ何を言っているのだ? よいか、ただ座して手に入れられる情報など、たかが知れているものよ。 真に必要な情報は、自分で動かなければ手に入れられん。 特に()()()()()()について分かったのは、マスター共々戦闘でかなり腕が立つという事位だ。

 ()()()()()()としての本領すら見せていないのだぞ? 多少無茶でも、突っつかねば分からんのだ」

 

「確かに、一理はある」

 

「はぁぁぁ?!」

 

「おお! お主も分かる口か?」

 

「何でも試してみなければ、分かる事など何もない。 怯え、自重したところで、それで得られるのは“自分は常識的だった”という満足感だけ。 それこそ、本当に無意味だというのに」

 

 今までに無い位長い文章を喋った()()()()()()に対してウェイバーは目を見開き、ライダーは満足そうに笑った。

 

「気に入った! お主も誘うとしよう!」

 

「誘う?」

 

 ライダーがニカっと笑い────

 

「────それはもちろん、宴にだ!」

 

 頭を傾げるバーサーカー(チエ)、口をあんぐりと開けているウェイバー、そして豪快に笑うライダー。

 




作者:やっぱりライダーを考えるとスネークになる

ライダー:おう、余を呼んだか!

作者:呼んでない! 暑苦しい!

ライダー:何だ、貴様もモヤシみたいではないか?!

作者:誰だよこいつにここの場所を教えたの?!

ライダー:お! 茶と菓子があるではないか! (バリバリバリバリバリバリッ! ゴクゴクゴクゴクゴクッ!

作者:ああああ! お茶とおかきがぁぁぁぁぁぁ?!


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第9話 変態共の魅了、等価交換、同盟、そして夜の晩餐へ

 ___________

 

 ランサー運営 視点

 ___________

 

 次の日の朝、ランサー運営は三月を先頭に街を歩いていた。 ランサーは三月が用意した現代の服と、黒子から発生する呪いを無効化するファンデーションを渡され、今は具現化してケイネスとソラウを後方から警護していた。

 

 何故ランサーが具現化しているというと昨夜の出来事から三月はサーヴァントと同等の警戒をするべしとケイネスが言ったから(当初は“アサシンがまだ脱落していない”と言っていたが、遠回りに最後に“ああ、後あの少女も同じく警戒した方が良いかも知れんな”と言っていた)。

 

 そしてこうちゃっかりとランサーの分の服を三月が用意しているところを見る彼女もこれは想定していたらしい。

 

「プレラーリ嬢、何故こうして我々は町中を歩いている?」

 

「ま、私が拠点を提供すると言っても前もって“私が所有していた”となるとどんな仕掛けがされている建物は嫌と思って────あ、来た来た!」

 

 と言って話が打ち切られ、いつの間にか近くまで男が寄ってきていた。 中年くらいの、東洋人らしく背の低い男。 魔力の反応も無く、特に危険には見えないその男は三月と一言二言会話をすると、何かを差し出し、三月はにこりとしながら太った封筒をバッグから出してその男に渡す。

 

 そして男は離れ、三月はまた歩き出す。

 

 先程のやり取りが数回ほど行われ、ケイネス達は何が起きているのが分からないまま三月にさっきから受け取っていた()()を手渡す。

 

「これは何だね、プレラーリ嬢」

 

「ビルとその土地の権利書。 後警察の上層部とかにコネを持つ人たちの名刺と情報」

 

「は?」

 

 ケイネスはフリーズし、ソラウはこれを見たので彼を少し揺すり思考を戻させる。

 

「あ、その……権利書とはどういう事だね?」

 

「だからその中から好きなのを選んで。全部()買った物ばかりだから」

 

「えっと、そういう事ではなく。 その………入手手段をだね────」

 

「────ああ! ごめんごめん、言うのを忘れちゃった! ランサーの魅了をアレンジしたの」

 

「……は?」

 

「えーと、あの魅了って『黒子を見る』 『女性に』 『興味が』 『つけられる』っていう風に出来上がったのを私の着けているリボンに『リボンを見た者で』 『今すぐ売り出せる土地を』 『持っている者と』 『等価交換する』 を付けただけ。

 後はこのネックレスには 『ネックレスを見た者で』 『警察の偉い人と』 『コネを持っている者に』 『紹介される』 を。

 まあ、ネックレス辺りをガン見する変態はいるからネックレスにワザとしたんだけどね。

 と言っても両方とも急造だからあまり長く効果は続かないし壊れるけど。 あ、複数でもいいわよ、予備とか必要になるかも知れないし」

 

「そ、そうか」

 

 質の悪い冗談のような説明を聞き、その効果を目にしながらケイネスとソラウは三月が本格的に敵対しないでよかったと思うことにした。

 

 何せ()()()()()()という()()の呪いと言うものを極一部とはいえ一夜で解析して、それを別の用途に書き換え使うと言う事を短時間でして見せた。

 

「さて、と。 ちょっとその中で一番近いビルに行きましょうか? 着いたら私がこの同盟を結んだ意図も分かると思うわ」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ここはとある事務所、既に人がいつでも入れるように必要最低限の者が設置されている一つの部屋の中、ケイネスとソラウソファーに座り、三月の話を聞いていた(そしてテーブルには紅茶と菓子)。

 

「では、ロード・エルメロイは聖杯は何処にあると思われますか?」

 

「どこ、だと? ハッ、何を。 答えは、この世ならざる場所だ。どこと聞くのであれば、それはどこでもない」

 

「聖杯と言う“概念”ではそうかもしれません。 ですがこれは魔術儀式。 つまりは儀式によって“成った”ものを蓄積して、聖杯に至る為の道筋がある筈という事です」

 

「確かに、そう考えればこの世にある」

 

「そしてそれは()()()()()()()()()()()()()()。 そして幸か不幸か間桐雁夜、彼のサーヴァント、そして私がアインツベルン城にライダーによって()()()()()()()()。 そこにロード達を私達の同盟者として堂々とアインツベルン城に入れることが可能です」

 

「…………成程、こうすればアインツベルン城への侵入はあくまでライダーの主導。 警戒は当然される。 が、私達が直接侵入するのとでは比べものにならない。 そこで、聖杯の欠片なり術式の一部なり、手に入れれば────」

 

「────そしてここで一つの仮定が私の中で出来ているのです。 聖杯は自分に望みがある者を呼び込む。 そして足りなければ、近場で魔術回路がある者を数合わせにしている。

 ですが、その者達を選ぶ基準は? この広い街の中、魔術回路を持つ者が明らかに異常だったキャスターとそのマスターが選ばれた。

 それでも聖杯は、候補の中から狂人と殺人鬼を一緒にした。 まるで、その組み合わせが一番ふさわしい、と言っているかのように」

 

「確かに………キャスターの愚行は聖杯戦争とは無縁だった。 あるとすれば聖杯戦争を無視した行動を取っていた事だ……となれば………聖杯に何らかの異常が発生している?」

 

「ええ、アインツベルン城でその手掛かりを。 そして直接聖杯にたどり着けずとも、観測くらいは出来る筈。 そこから、異常を調べ、対抗手段を練ろうと思っています。 これも、ロード・エルメロイだからこそ取れる手段なのです」

 

「……面白い。 面白いぞプレラーリ嬢。 だが相手に警戒されないように、となれば派手には動けんぞ。 どうやって探しだし、一部を奪うつもりだ?」

 

「恐らくはアイリスフィール本人かと。 そして私には手段があります。 必要な物があればこちらから提供できるもの、または入手できるものならお渡しします」

 

「成程、感謝する」

 

「三月よ、私からも感謝を」

 

「んえ?」

 

 三月が話しかけてきたランサーにキョトンとする。

 

「貴方がいなければ私の涙黒子の所為でまた我が主を苦しめるところだった。 感謝を」

 

「あ、うん。 まあその………えっと」

 

 三月がたじろぎ、ケイネスの方をちらちらとする。

 

「ランサー」

 

「はッ」

 

「貴様は私に言ったな、“主への忠義を示す事。聖杯など必要ない”と。 過去の英霊が、人間風情の使い魔に身をやつすというのに、何の願いもない? 忠義を示す事が出来ればそれでいい? 馬鹿馬鹿しいにも程がある」

 

「ちょっとケイネス」

 

「黙っていろソラウ。 どうだランサー?」

 

「………返す言葉もございません」

 

「しかし、だ。 聖杯戦争は私情を挟んで勝てるほど甘くはない。 それを私も、お前も実感した。 私情を挟んだせいで敗北したなどと、魔術師の風上にも置けん」

 

「主………」

 

「故にランサーよ。 此度の聖杯戦争に限り、私はお前に関係する私情の一切を捨てよう。ただ、勝利するためだけに持てるだけの全てを振るう。 そしてランサー、お前にも誓ってもらう。 私情を挟まず、私()に勝利を捧げるためだけに、その二槍を振るい、共に戦場を駆けると」

 

 そこにはただ一人の魔術師としての、戦士としての面貌のケイネスがいた。

 

 マスター()は覚悟を決めた。 後はそれに応えるだけだ。

 

 ランサーもまた、感情の高ぶりを抑えつつ、戦士の貌で、ケイネスへと返した。

 

「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ。 必ずや貴方()に勝利を捧げましょう。 我が二槍は貴方()と共に」

 

「よろしい。 ソラウ、君はどうかね?」

 

「フゥー………今更ね、私は元々勝機のある勝負にしか出ないわ」

 

「よかろう、では今から我々は共に勝利を目指す同盟者同士! 我々に敗北は許されない!」

 

 そこには新たに覚悟を決めるケイネス、ソラウ、そしてランサー。

 初めは目的も思惑も信頼も無かった三人が新たに決意をした。

 

 ___________

 

 セイバー運営 視点

 ___________

 

「切嗣。もう身体の方はいいの?」

 

「ああ。アイリのお蔭で、殆ど万全の状態だよ」

 

 キャスター、ケイネス、そして雁夜達の襲来の後のアインツベルン城。 あれ程の激戦を言峰綺礼という同盟を結ぶ可能性が一番無かった者と共闘する事で辛くも生き延びた切嗣は固有時制御による副作用から受けたダメージをアイリスフィールに癒してもらいながらも、既に次の作戦への準備に入っていた。

 

 殆ど万全と口では言ったものの、あれからまだ一日程度しか経っておらず、状態としてはせいぜい六割、といった状態だがあの夜見せつけられた圧倒的で、暴力的なまでの強さの前に悠長に構えている暇などあるはずもなく、気を失い、目が覚めてから、ひたすら思考を巡らせているものの、未だ良い作戦は思い浮かばずにいた。

 

「(何という失態だ。 もっと注意深く見るべきだった。 あんな規格外のサーヴァントを連れているなら、マスター(間桐雁夜)も常識の範疇を超えている事くらいは想定すべきだった)」

 

 今も悔やまれる。 綺礼と組んだ時、倒す一歩手前まではいった。

 

 だが理解不能な現象によって、次の瞬間に振出しに戻ったとはいえ、間違いなくあと一歩あれば、雁夜は仕留めていた。

 

 しかし、次は違うだろう。 例え綺礼と再び組もうとも。

 今更だが他のマスターと組む事はない。 相棒という点でいえば、綺礼との相性は非常によく、他のマスターとでは最悪と思えた。

 

 ならば他の方法で勝機が出るか?

 例えば冬木ハイアットの時のように爆破解体するか?

 

 それも考えたものの、切嗣は止めた。

 

 間桐雁夜はあの超近距離でのクレイモアを目立った外傷もなく立ち上がった相手だ。爆破解体で死ぬようなビジョンが思い浮かばない。

 

 ではセイバーの宝具で吹き飛ばすか?

 

 左手を負傷している現状、セイバーには令呪を使用せねばならず、例え令呪を使用して宝具を放ったとしても、流星群を何事もなく降らせるようなサーヴァントがいれば、防がれる可能性すらもある。

 

「(あの時彼のサーヴァントが口にした宝具の真名らしき『アンタレス・スナイプ』は完全なレッドへリングだった。 未だに真名の糸口どころか、宝具すら分からない。 ここまで来ると、間桐雁夜の経歴は完全にダミーと捉える方が正しい)」

 

 魔導から逃げ出した落伍者、と経歴上なってはいるものの、ここまで来ればそれに信憑性などなかった。

 あれ程の実力の持ち主が、魔導から逃げ出した落伍者である筈がない。

 

 つまり此度の聖杯戦争の為に周囲の目を欺き、ただ静かに、己が牙を磨き続け、虎視眈々と聖杯を手に入れる為に、汚名を被りながらもこの時を待っていたのだろう。

 

 そう、切嗣は思った。

 

 そしてこの様な完全に的外れな思考に至ったのは仕方のない事である。

 何しろ魔法を、しかも()()()()には存在しない魔法を使っているのだから、他の魔術師が聞けば卒倒するレベルだ。

 

「……アイリ、セイバーを────」

 

 ────呼んでくれ、と頼もうとして、切嗣は言葉を紡ぐのをやめた。

 

 英霊の存在を嫌悪し、相入れることは無いと思っていた自らのサーヴァント。

 それは事実だ。そしてこの聖杯戦争で何があろうとも、互いの思想や理想が交わることは無い。

 

 だが今更それに固執して、勝利を落とすというのであればそれこそ本末転倒だ。

 

 ましてや、既にセイバーとは何度か言葉を交わしてしまっている。 最早、無視を決め込む道理すらそこにはなかった。

 

「(私情を挟んで勝てるほど聖杯戦争は甘くはない……か。頭では理解していたというのに、僕もまだまだだな。) …ハハッ」

 

 自嘲めいた苦笑いを浮かべる切嗣にアイリスフィールは首をかしげる。

 

「切嗣?どうしたの?」

 

「いや、何でも。 ただ、漸く気づいたよ。 この聖杯戦争を勝ち抜くには、今の僕達の関係ではダメだという事がね」

 

 そう言われて、アイリスフィールはただ頷いた。

 経緯はどうであれ、切嗣とセイバーの間にある関係が良い方向に向かっているという事を、アイリスフィールは悟った。

 

 そしてその発端は間違いなく間桐雁夜とのやり取りだ。

 

 アイリスフィールは敵である筈の雁夜と彼のサーヴァントに感謝していた、切嗣とセイバーの確執を取り除いた事に。

 

「僕はセイバーを探してくる。 念話で呼ぶのもいいけど、今のアインツベルン城の状態を自分の目で把握しておきたいからね」

 

「そう。 あまり無理を────ッ?!」

 

 その時、轟音がアインツベルン城のある森に響き渡り、目眩がしたかのようにアイリスフィールは一瞬ふらついた。

 

「大丈夫かい、アイリ?」

 

「え、ええ。大丈夫。 少し不意を打たれたわ。 まさか、ここまで無茶なお客様をもてなすと思ってなかったから」

 

「すぐにセイバーを向かわせる。アイリはここに」

 

「ええ。 切嗣も気をつけて。さっきの音、このやり方は恐らく……」

 

「ライダー……だろうね」

 

 轟音と共に響き渡った雷鳴は間違いなく、一昨日の倉庫街で見せつけられた宝具『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』によるものである。

 

 結界が万全な状態であるのならいざ知らず、先日キャスターやケイネスらによって術式が引っかき回されたばかりで、まだ再調整の出来ていないタイミングであるが故に術式は更に滅茶苦茶になっていた。

 

「おぉい、騎士王! わざわざ出向いてやったぞぉ! さっさと顔を出さぬかぁ?!」

 

 既に正門を踏み越えたのか、ホールから堂々と呼びかけてくる大声は案の定、征服王イスカンダルのそれに違いなかった。

 

 間延びして聞こえる声はおおよそこれより戦闘に臨む者の語調とは思えない。まるで、久しぶりに古い友人にでも尋ねるかのような気の抜けた声。

 

「(ルール無用の聖杯戦争で、他の英霊を真名をバラしてスカウトしようとする輩だ………常識で考えるだけ無駄か)」

 

 理解しようとするのを半ば諦めつつ、おそらく先に向かったであろうセイバーに合流するように切嗣もその場へと向かう。

 

 視線の先、自身よりも早くに到着したセイバーは白銀の甲冑を実体化させ、戦闘態勢に入っているというのに、その場で呆然と立ち尽くしていた。

 

 遅れて到着した切嗣が見たのは、確かに声の主であるライダーの姿。

 

「城を構えていると聞いて来てみたが…何ともシケたところだのぅ、ん?」

 

「ライダー、貴様はここに何をしに来た?」

 

 気色ばんで呼びかけるセイバーではあったが、あまりに理解しがたい光景に眉を顰める。

 

「おいこら騎士王。今夜は当世風の格好(スーツ)はしとらんのか? 何だ、のっけからその無粋な戦支度は?」

 

 セイバーの甲冑姿を無粋と称したライダーの服装はウォッシュジーンズにTシャツ一枚。おおよそ、今から戦を始めるものの格好ではなかった。

 

 ライダーの巨躯の後ろにいるウェイバーもまた、判然としない微妙な表情でセイバーと切嗣を見ていた。

 その顔に“自分は早く帰りたい”と書いてある。 無理矢理連れてこられたのは火を見るよりも明らかだった。

 

 切嗣は嘗てのイスカンダル王が、侵略先の異文化に並々ならぬ興味を示し、率先してアジア風の衣装を纏っては側近達を辟易させたという逸話については知っている。 

 

 その姿や言動を鑑みても、セイバー以上にライダーと自身の相性は最悪だとそう思った。マスターを強引に連れ回すところや、その豪快さは切嗣の聖杯戦争に臨むスタイルを徹底して叩き壊すものだ。 それでは“魔術師殺し”も形無しだ。

 

 いや、現実逃避はやめてライダーの携えているモノを見よう。

 

 木製の樽。

 

 何処からどう見ても何の変哲も無い、ごくありふれたオーク製のワイン樽。筋骨逞しい腕でそれを軽々と小脇に抱えている様子は、もはや配達に来た酒屋の若大将といった風情である。

 

「もう一度問うぞライダー。 ここに何をしに来た?」

 

「見てわからんか? 一献交わしに来たに決まっておろうが。 ほれ、そんな場所に突っ立ってないで案内せい! どこぞ宴にあつらえ向きの庭園でもないのか?」

 

 全くもって図太い神経の持ち主である。

 

 セイバーは心底うんざりした様子で切嗣を見た。 切嗣自身、ライダーのようなタイプは苦手だった。 

 英霊と称される人間の中でも特にだ。 興味を持たれる前に『さっさと案内をしてしまおう』とセイバーにアイコンタクトを投げかける。

 

 アイコンタクトを投げかけられたセイバーは目を瞬かせた後、こくりと頷く。

 

「来い、征服王。貴様の“挑戦”。 受けて立つ」

 

 切嗣から一任された以上、セイバーがそれを断る道理がなかった。

 

「ふふん、その反応…解っておるようだな、騎士王」

 

「私も王、そして貴様も王だ。 それを弁えた上で酒を酌み交わすというのなら、それは一つしかない」

 

 自身も王で、相手も王であるのだから、それを断るのは臆したと思われても仕方のない事だからだ。 勿論それだけでは無い。

 

「応とも。 今宵は貴様の『王の器』をとことん問い質してやるから覚悟しろ」

 

 宴の場所として選ばれたのは、城の中庭にある花壇であった。

 

 昨夜の戦闘の傷跡もここには及んでおらず、一応はもてなしの面目も立つ場所である。 他の相応しい場などは先の激戦で目も当てられないような事になっていたりする。

 

 ライダーが持ち込んだ酒樽を真ん中に挟んで、二人のサーヴァントは差し向かいにどっかりとあぐらをかき、悠然たる居住まいで対峙している。

 下手にはウェイバーと、そして切嗣が並んで座り、共に先の読めない展開に気を揉みながら、一先ずは成り行きを見守ることに徹していた(尚ウェイバーは遠くにいるサーヴァント達だけでなく近くにいる切嗣にも胃を痛くしていた)。

 

「聖杯は、相応しき者の手に渡る定めにあるという。それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だというが……なにも見極めをつけるだけならば、血を流すには及ばない。 英霊同士、お互いの『格』に納得がいったなら、それで自ずと答えが出る」

 

 竹製の柄杓で樽のワインを一杯、一息で飲み干したライダーは静かな声で口火を切る。

 

 セイバーもまた、差し出された柄杓を手に取ると樽の中身を掬い、ライダーに勝るとも劣らない剛胆な呷りようで、それを見届けたライダーが「ほう」と愉しげに微笑する。

 

「それで、まずは私と『格』を競おうというわけか?ライダー」

 

「その通り。お互いに『王』を名乗って譲らぬとあっては捨て置けまい。いわばこれは『聖杯戦争』ならぬ『聖杯問答』……はたして騎士王と征服王、どちらがより、聖杯の王に相応しき器か?酒杯に問えばつまびらかになるというものよ」

 

 そこまで厳しく語ってから、ライダーは悪戯っぽい笑いに口を歪めて、白々しく小馬鹿にした口調でどこへともなく言い捨てた。

 

「ああ、そういえば我らの他にも一人ばかり、王を名乗る輩がいたな」

 

「戯れはそこまでにしておけ、雑種」

 

 ライダーの放言に応じるように、眩い黄金の光が一同の眼前に湧き起こる。 そしてその声音と輝きに見覚えのあるセイバーと切嗣は、ともに身体を硬くした。

 

「アーチャー、何故ここに……」

 

「いや、な。街の方で暇そうにしているこいつの姿を見かけたんで、誘うだけ誘っておいたのさ。 遅かったではないか、金ピカ。 まぁ余と違って歩行(かち)なのだから無理もないか」

 

「よもやこんな鬱陶しい場所を『王の宴』に選ぶとはな。それだけでも底が知れるというものだ。 我にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる?」

 

「まぁ固い事を言うでない。 ほれ、駆けつけ一杯」

 

 アーチャーの怒気を磊落に笑い飛ばしながら、ライダーはワインを汲んだ柄杓をアーチャーに差し出した。

 

 アーチャーはライダーの態度に激怒するかと思いきや、あっさりと柄杓を受けとり、何の躊躇もなく中身を飲み干す。

 

 アーチャーもまた、王の格を量る為の聖杯問答に参加している身なのだ。認めていないとはいえ、王を名乗る輩が出してきた酒を飲まないわけにもいかない。

 

「……なんだこの安酒は? こんな物で本当に英雄の格が量れるとでも思ったのか?」

 

 かの英霊は最も古き王。

 

 神秘の溢れた時代に生きた英雄王なのだ。 例え現世において、素晴らしい物だとしても、かの英霊が生きた時代ではとても高級とは呼べない代物になる。

 

 最も現世においても、今ライダーが持っている物は最高級とまではいかないが。

 

「そうかぁ? この土地の市場で仕入れたうちじゃあ、こいつはなかなかの逸品だと聞いたぞ」

 

 とはいえ、ライダーとしては十分に美味かった上、自分の気に入っている人物からの薦めとあって、食い下がった。

 

 それをアーチャーは鼻で笑って一蹴する。

 

「そう思うのは、お前達が本当の酒を知らぬからだ。 そも、王の宴に用意する酒を、雑種に選ばせるなど論外だ」

 

「すみませ~~~~ん! お待たせしました~~~~~!」

 

 現れた者の姿を見て、ライダーは待ちくたびれたとばかりに声を上げ、セイバーとウェイバーと切嗣は目を剥き、ギルガメッシュは目を細めた。

 

 そこは三月、間桐雁夜、チエの間桐運営にケイネス、ソラウ、ランサーのランサー運営が歩いて来ていた。

 

 何やら大荷物を全員抱えて(ケイネスは自分とソラウの分をランサーと月霊髄液に持たせていた)。

 

「おおっ、漸く来たか! それにランサーもとは!」

 

「どういう了見だ? よもや、この場に“王”たる者ではないのを呼び寄せるなど」

 

 ライダーを睨みつけるようにギルガメッシュはその紅蓮の双眸を細める。

 

 確かにここにはライダーとセイバーのマスター達はいる。

 だがそれはあくまでも同席せざるを得ない事情があるからだ。

 

 単独行動スキルを持つアーチャーと違い、セイバーとライダーはある程度近くにマスターという魔力補給線がいなければならない。

 

 だが今来た者達は違う。

 サーヴァントと共にマスターとその他は現れ、そのサーヴァント達は王を名乗ってはいない。

 

「な~に、『聖杯問答』をするのは我ら王ではあるが、民の声を聞くのも悪くないと思ってな? 我らと対峙してなお、堂々と臆せずに意見を述べられる者は此奴ら位のものだろう? あの時余みたいにマスターと共に戦場に現れたその気概は気に入っておってな」

 

「うわ~、貴方褒めまくりじゃん!」

 

「…………………」

 

 チエ達は大荷物を下ろす前に、チエ自身雁夜に自分の荷物を渡し、その場の地面に何か鞘を使って刻み始める。

 

「ここの城主は誰か?」

 

「何だ雑種? 遅れてきて図々しいな」

 

「英雄王様、遅れて誠に申し訳ございません。 宴と言うからには酒だけでなく、席やつまみなどをお持ちし、私がおもてなしをしようかとする所存でございます。 という訳でちょっとした物をご用意したいのですが、城主は────?」

 

「────僕から話を付けている。 続けてくれ」

 

「ではお構いなく────」

 

 雁夜がチエの方を向くとチエは頷くとチエが地面に刻んだ魔方陣が光瞬く間にテーブルが二台に、椅子が十足ほど()()()()出てきた。 テーブルと椅子がセットでマスター達とサーヴァント達の方に現れた。

 

 しかも器用にサーヴァント達の椅子は恐らく装備などを参考にしたデザインだった。

 そこにテーブルの上にはいろんな、古今東西のつまみなどが並ばれる。

 

「グワッハッハッハッハ! 気が利くのう! 宴会らしくなってきたぞぉ!」

 

 朗らかに笑い、ライダーに渡された柄杓を呷った後、毅然とした様子で告げた。

 

「サーヴァント、ランサー。 至らぬ身ではあるが、此度の『聖杯問答』に参加させていただく」

 

「サーヴァント、()()()()()()。 そちらと同じく」

 

 セイバーはこれから始まる『武力を使わない戦争』に突入する前に横目に視線を飛ばした。 そこはマスター達の集う卓。

 切嗣は相変わらず隙あらば殺すような視線と必要最低限の言葉を。

 これに乗りロード・エルメロイに身体を寄せる彼の連れで怖がっている(?)女性。

 これに喜びつつも切嗣を視線で牽制するロード・エルメロイ。

 “何故こうなった?! 胃が痛い! 帰りたい!”と死にそうな顔をしているライダーのマスター。

 持って来たつまみや飲み物をその少年にお勧めしようとする三月と名乗った少女。

 そしてその少年を温かい目で見る間桐雁夜。

 

 セイバーは生前は王であり当然交渉などの経験もある。 故に、分ってしまった。 その戦が誰に一番有利に進んでいるかが。

 

 今一、二を争っているのは自分のマスターの切嗣とランサーのマスター。

 これを見たセイバーは自分のマスターが頼もしく感じた。




作者:ついにここまで来た!

チエ:………

作者:長かった………

チエ:………

作者:え~と…

チエ:………

作者:し、死んでる?!

チエ:勝手に殺すな

作者:ウオ?!

三月:チーちゃん! カンペ! カンペ!

チエ:む、そうだったな。 “もし楽しんで頂けたら、是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです! えへ!☆”………………これで良いか?

三月:バッチリデス! (ハァ、ハァ、ハァ

作者:ンンンン"ン"ン"ン"ン"!!! (両手サムズアップ

チエ:血が鼻から出ているぞ二人共。 どこで損傷した?


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第10話 晩餐の始まり、神代の美酒、抗議

ちょくちょく書いているので少し短めなのが続くかもしれません…

仕事がががががががががが

4/4/21追記:誤字報告ありがとうございますadachiさん!


 ___________

 

 アインツベルン城内サーヴァント(+マスター) 視点

 ___________

 

 ランサーとチエは一礼をした後、他のサーヴァント同じ様に席に座った(ちなみにアーチャーの椅子は他の椅子より若干高かった。)

 

「フン、何時までその安酒を飲むつもりだ。 王の宴を称するというのなら、用意すべきは『王の酒』であろう」

 

 嘲るように笑うアーチャーの傍ら、虚空の空間が渦を巻いて歪曲する。 一瞬マスターの何人かは身構えるがアーチャーが傍らに呼び出したのは、武具の類ではなく、黄金に光る一揃いの酒器。 重そうな黄金の瓶の中には、澄んだ色の液体が入っていた。

 

「見るがいい。そして思い知れ。これが『王の酒』というものだ」

 

「おお、これは重畳!」

 

 ライダーはアーチャーの憎まれ口を軽くスルーして、嬉々として新しい酒を人数分の杯に酌み分ける。

 

 セイバーとランサーも、アーチャーの事をライダー以上に警戒はしているものの、僅かばかりの躊躇いをもって、それでも差し出された杯を拒むこと無く、受け取る。

 チエはそのまま無表情に他の皆と一緒に受け取る。

 

「むほォ、美味いッ!」

 

 先に呷ったライダーが、目を丸くして喝采する。 それによって警戒心を薄め、好奇心が先立ったセイバーとランサーもそれを飲み干すとおそらく無意識であろう感嘆の声を上げていた。

 

 まぁ、どれだけ警戒しても、この場で王を名乗るセイバーに飲まない選択肢は存在しないわけだが。

 

「凄ぇな、オイ! こりゃあ人間の手になる醸造じゃあるまい。 神代の代物じゃないのか?」

 

「ああ。 俺の故郷でも、これ程のものはお目にかかったことなどない」

 

 惜しみなく賛辞するライダーとランサーに向けて、アーチャーもまた悠然と微笑を浮かべるが………チエの方を見て、不服そうな表情を浮かべた。

 

「何故飲まない?」

 

「いや、思いに浸っていただけだ」

 

 チエは酒を喉に流し込み、飲み終えた後満足気に息を吐く。

 

「………………()()()()()()()

 

「当然であろう。 酒も武具も、我が宝物庫には至高の財しかあり得ない。 これで王としての格付けは決まったようなものだろう」

 

「ふざけるな、アーチャー」

 

 喝破したのはセイバー。どうやら馴れ合いめいてきた場の空気に、そろそろ苛立ち始めていたのか声を上げる。

 

「酒蔵自慢で語る王道なぞ聞いて呆れる。 戯言は王でなく道化の役儀だ」

 

「さもしいな。 宴席に酒も供せぬような輩こそ、王には程遠いではないか」

 

「こらこら。 双方とも言い分がつまらんぞ」

 

 なおも言い返そうとするセイバーを、ライダーが苦笑いしながら遮って、アーチャーに向けて先を続ける。

 

「アーチャーよ、貴様の極上の酒はまさしく至宝の杯に注ぐに相応しい。 が、生憎聖杯と酒器は違う。 これは聖杯を摑む正当さを問うべき聖杯問答。

 まずは貴様がどれ程の大望わ聖杯に託すのか、それを聞かせてもらわなければ始まらん。

 さてアーチャー、貴様はひとかどの王として、ここにいる我らをもろともに魅せる程の大言が吐けるのか?」

 

「仕切るな雑種。 第一、聖杯を()()()()という前提からして理を外しているのだぞ」

 

「ん?」

 

「そもそもにおいて、アレは我の所有物だ。世界の宝物はひとつ残らず、その起源を我が蔵に遡る。いささか時が経ちすぎて散逸したきらいはあるが、それら全ての所有権は今もなお我にあるのだ」

 

「じゃあ貴様、昔聖杯を持っていたことがあるのか?どんなもんか正体も知っていると?」

 

「知らぬ」

 

 ライダーの追及を、アーチャーは平然と否定する。

 

「雑種の尺度で測るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だが、それが『宝』であるという時点で、我が財であるのは明白だ。それを勝手に持ち去ろうなど、盗人猛々しいにも程がある」

 

「おまえの言はキャスターの世迷い言と全く変わらない。 錯乱したサーヴァントというのは奴一人だけではなかったらしい」

 

「いやいや、わからんぞセイバー。この金ピカがかの英雄王というのなら、その見識は間違ってはおらんだろう。 じゃあ何か?アーチャー、聖杯が欲しければ貴様の承諾さえ得られればいいと?」

 

「然り。だが、お前らの如き雑種に、我が褒賞を賜わす理由は何処にもない………そこな者が我の物のなると言うならば話は別かもしれんが」

 

「………………」

 

 チエは黙って、ただアーチャーの視線を返す。

 

「ほーん、それはそれで興味深いが……………アーチャーお前さん…案外ケチなヤツだのぅ」

 

「戯け。 我の恩情に与えるべきは我の臣下と民だけだ」

 

「じゃあ、あの時俺が臣下になっていたら、聖杯はくれたのか?」

 

「それ相応の忠義を見せるというのであればな。 今からでも、以前我の言葉を否定した謝罪と、それ相応の態度を示せば、今一度臣下になる権利を与えてやろう。 誇るがいい、この我が二度も誘いをかけるなど、そうある事ではない」

 

「「「「…………………」」」」

 

 セイバー、ランサー、ライダー、チエの四人は何も言わずにただ黙り込む。 そして先に口を開けたライダーはアーチャーへ疑問をかける。

 

「でもなぁ、アーチャー。 貴様、別段聖杯が惜しいって訳でもないんだろう? 何ぞ叶えたい望みがあって聖杯戦争に出てきたわけじゃない、と」

 

「無論だ。 我の財を狙う賊には然るべき裁きを下さねばならぬ。 要は筋道の問題だ」

 

「つまり、何なんだアーチャー? そこにどんな義があり、どんな道理があると?」

 

「法だ。 我が王として敷いた、我の法だ」

 

「完璧だな。 自らの法を貫いてこそ、王。 だがなぁ、余は聖杯が欲しくて欲しくて仕方がないんだ。 で、欲した以上は略奪するのが余の流儀だ。 何せこのイスカンダルは────征服王であるが故」

 

「是非もあるまい。 お前が犯し、俺が裁く。 問答の余地などどこにもない」

 

「征服王よ。 お前は聖杯の正しい所有権が他人にあると認めた上で、なおかつそれを力で奪うのか?」

 

 憮然として押し黙っていたセイバーの問いかけには僅かながらに怒りが滲んでいた。 セイバーの王としての在り方を考えればライダーの王道は許容出来たものではない (もの凄く省略化はしているがブリテンを統一し、外来からの脅威から民を守り、国に繁栄をもたらそうとした。 詳しくはアーサ-王伝説を)。

 

「ん? 応よ。当然であろう? 余の王道は『征服』……即ち『奪い』、『侵す』に終始するのだからな」

 

「そうまでして、聖杯に何を求める?」

 

「受肉だ」

 

「「「はぁ?」」」

 

 疑問の声を上げたのはセイバー、ギルガメッシュ、ウェイバーの三人だった。 後声に出してはいないが切嗣も“こいつ何言ってんだ” とばかりと反応している。

 

「おおお、お前!望みは世界征服だったんじゃ────ぎゃわぶっ?!」

 

 ライダーに詰め寄ったウェイバーはデコピンによって宙を舞う。

 

「馬鹿者! たかが杯なんぞに世界を獲らせてどうする?! 征服は己自身に託す夢。 聖杯に託すのは、あくまでもその為の第一歩だ」

 

「雑種……よもやそのような瑣事のために、この我に挑むのか?」

 

「いくら魔力で現界していても、所詮我等()()はかりそめの姿のサーヴァント。 この世界においては奇跡に等しい………だがな。 それでは余は不足なのだ。

 余は転生したこの世界に、一個の命として根を下ろしたい。身体一つの我を張って、天と地に向かい合う。それが征服という『行い』の総て……そのように開始し、推し進め、成し遂げてこその我が覇道なのだ。だが今の余は、その身体一つすら事欠いておる。

 これでは、いかん。始めるべきモノも始められん。 誰にも憚ることもない。 このイスカンダルただ独りだけの肉体がなければならん!」

 

 ライダー、イスカンダルは良き堂々と自分が聖杯に託す思いを宣言し────

 

「決めたぞライダー。 貴様もこの我手ずから殺そう」

 

 ────アーチャーが笑いながら釘をさす。

 

「ふふん、今更念を押すような事ではあるまい。 余もな、聖杯のみならず、貴様の宝物庫とやらを奪い尽くす気でおるから覚悟しておけ。 これ程の名酒、征服王に教えたのは迂闊すぎであったなぁ」

 

「その夢に、騎士達を乗せていたか……」

 

「なんだランサー、余の配下に加わりたくなったか? いつでも歓迎するぞ、と言いたいが…貴様は来ないであろうな」

 

「当然だ。 俺は、至らなかった。 それを思い知ったのだ。 ここから真の忠誠を誓う。 そして、必ずや栄光を捧げるのだ」

 

「惜しいな。 貴様ほどの騎士を逃すとは、実に惜しいぞ。 しかし、今までよりも遙かに良い顔をしておるわい。 それでこそ、征服しがいがあるというものよ」

 

 互いに威圧し合いながら、その雰囲気は戦のそれとほど遠い。 もしかしたらこの時こそが、本当の意味でアーチャー、ライダー、ランサーは相手を認識しあった瞬間なのかもしれない。

 

「ところで征服王よ、先程お前は“我等()()はかりそめの姿のサーヴァント”と言ったが────」

 

「────おおそうだ! ()()()()()()よ、お前()()()()()()()()()()?」

 

「フン」

 

「…………」

 

「「「?!」」」

 

 ライダーの爆弾宣言にアーチャーは鼻で笑い、チエは反応せず、他の運営のサーヴァントとマスター達は目を見開く。

 




ラケール:えー、只今作者が仕事に追われているのでふしょう、私達が今回あとがきを仕切っています!

マイケル:いや、大丈夫か?これ?

三月:いいんじゃない? 別にこの時空帯は本編とは違うし

マイケル:いや、まあ……そうかも知れないが。 チエは何呼んでいるんだ?

チエ:作者が考えた他のプロット

ラケール:あ、なんか面白そう

マイケル:こっちにもくれ。

マイケル、ラケール、チエ:………………………………

三月:えー、という訳でこのサイドストーリー以外のプロットは一応あるので興味がある人たちは感想など遠慮なく言ってください! 作者は“本編頑張ります”と言っているので


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第11話 思いもよらぬ方からの援護、そして“お母様”

三月:追記~、誤字しゅう~せい~

切嗣:それと僕が席を座るんじゃなくて、立った事だね

三月:わわ! ほんとだ!


 ___________

 

 アインツベルン城内サーヴァント 視点

 ___________

 

「────おおそうだ! ()()()()()()よ、お前()()()()()()()()()()?」

 

「フン」

 

「…………」

 

「「「?!」」」

 

 ライダーの爆弾宣言にアーチャーは鼻で笑い、チエは反応せず、他の運営のサーヴァントとマスター達は目を見開く。

 

「な、な、なぁ?! ラ、ライダー! 何を根拠に言っているんだ?!」

 

 先程デコピンされたウェイバーがライダーに叫ぶ。

 

「いや何、こいつとキャスターらしき根城から帰って来る時、余が子供達を運ぶのに手伝った時匂いがしたのだ。 こう………坊主以外の生者のな」

 

「それはまだ生きていた子供達の匂いだろう?!」

 

「違うな。 生前、人は昂った時何時もと違う匂いがする。 テレビで聞いた“フェロモン”とやらが一番しっくりくるな。

 確証は無かったが今、奴はアーチャーの酒を飲んだ後僅かだが汗を掻いておる。 それにアーチャーの反応からしてこれは恐らく当たっておろう。 違うか?」

 

「………流石征服王、だな」

 

「おお! やはりか」

 

「その様な事が………」

 

「………」

 

 ライダは目を光らせ、ランサーは未だに信じられない声を上げ、セイバーは何か思ったのか黙っていた。

 

「して、その方法は?」

 

「………()()()()()()()()()()だ」

 

「であるか。 う~む、これは我が是非にも聞きたくなってきたぞぉ。 それにアーチャーも人が悪い、知っておったな?」

 

「戯け、それ位見抜けぬような目なぞ、そこらの野獣と変わらぬでは無いか」

 

 この爆弾台詞を聞いたマスターやサーヴァント達は思考を手繰り寄せ、今までの情報を照らすが………()()()()()()()()()()()()()()()したなど前代未聞。

 

 では何らかのスキルか宝具かともなるが聖杯戦争後ならばいざ知らず、受肉によって実体を持ち、マスターからの魔力補給無しで動けるメリットの反面、霊体化不可能と実体に応じる怪我や死が可能となるデメリット。

 そして他のサーヴァントからの離脱や偵察が困難になる。

 

「ところで、セイバーよ。 そういえば、まだ貴様の懐の内を聞かせてもらってないが?」

 

 “いや今のやり取り結構重要なんだけど?!”と考えているマスター達にお構いなくライダーは何時もの自由っぷりで話を進めた。

 

 ライダーがそう水を向けた時、決然と顔を上げ、セイバーは真っ向からライダー達を見据えた。

 

「私の願いは、私の故郷の救済です。 万能の願望機を持ってブリテンを、滅びの運命を変える」

 

 セイバーが毅然として放った宣言に、辺りは静まり返った。 その沈黙に驚いたのは、他でもないセイバー自身であり、ライダーとランサーの気配が、今までの鋭かったそれから考えられぬほど、乱れたのを感じる。

 

「……なんだと?」

 

 言ったのは、誰だったのであろうか。 だが困惑したのはセイバーも同じだった。 受け入れられる事を望んでいたわけではない。 が、この反応が予想外であったのも事実だった。

 

「………なぁ、騎士王。 もしかして余の聞き間違いかもしれないが……貴様は今『運命を変える』と言ったか? それは過去の歴史を覆すということか?」

 

「そうだ。 例え奇跡をもってしても叶わぬ願いであろうと、聖杯が真に万能であるならば、必ずや────」

 

「────え~と、セイバー? 確かめておくが……そのブリテンとかいう国が滅んだというのは、貴様の時代の話であろう? 貴様の治世であったのだろう?」

 

「そうだ。だからこそ、私は許せない。だからこそ悔やむのだ。あの結末を変えたいのだ。他でもない、私の責であるが故に……」

 

 不意に遠慮が無く、弾けるほどの哄笑がギルガメッシュから轟いた。

 

「……アーチャー、何がおかしい?」

 

 怒気に染まった表情で問いかけるセイバー。

 だが、そんなセイバーを意に介さず、ギルガメッシュは息切れしながらも言葉を漏らす。

 

「……自ら王を名乗り……皆から王と讃えられて……そんな輩が、『悔やむ』だと? ハッハッハ! これが笑わずにいられるか、ハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 

「セイバー、 貴様よりにもよって、自らが歴史に刻んだ行いを否定すると言うのか?」

 

「当然だ。 私は、国の為に死力を尽くした。しかし、届かなかった……ならば、国を滅ぼしてしまった私が、救済を望むのに何の問題が────?」

 

 ────ギルガメッシュの笑いは爆笑に代わり、ライダーとランサーは黙したまま、ますます憂いの面持ちを深めていく。 

 

「笑われる筋合いが何処にある? 王たるものならば、身を挺して、治める国の繁栄を願う筈! それが出来なかったからこそ悔やみ────!」

 

「────いいや違う。 王が捧げるのではない。 国が、民草が、その身命を王に捧げるのだ。 断じてその逆はあり得ない。 ましてや王が後悔だと?

 王とは振り向かず、ひた走るから王なのだ。 悔いて後ろを見るのはもはや王ではないのだ、セイバーよ」

 

「それでは暴君の治世ではないか! ライダー、アーチャー。 お前達は────!」

 

「────余は国に尽くしてなどいない。 国が余に尽くしたのだ。 それを集めたからこそ、余は王たれた。 言うなれば暴君よ。 しかし、暴君であるからこそ、王であるのだ。 貴様は、ただの小娘だ、セイバーよ。 哀れにも、そんな者が王になってしまったのだな……」

 

「然り。 我等は暴君であるが故に英雄だ。 だがなセイバー、自らの治世を、その結末を悔やむ王がいるとしたら、それはただの暗君だ。 暴君よりもなお始末が悪い」

 

 セイバーには理解できなかった。 祖国の滅びを目前にして、なぜ悔いぬというのか。国を想ったのは同じ筈だ。 だのに…………

 

「セイバーよ、おこがましいかも知れぬが、俺の騎士としての言葉を聞いてくれ────」

 

 そしてランサーの苦しげな声。 王ではない彼からも────

 

「────俺は確かに、生前裏切りを働いてしまった。 言い訳のしようもなく、無様に。 そして、確かに願ったのだ。

 もし機会が与えられるのならば、今度こそは最後まで忠誠を貫けるようにと。確かに、裏切りを働いてしまったのは苦しく、最悪の気分であった。

 幾度も悔いて、幾夜も己の身を呪った。 だが、それが無ければ良かったとは、最後まで想わなかったのだ」

 

 やめろ、やめてくれ。 何故そのように私を見る、ライダー、ランサー?

 何故憐れむように私を見る?

 

 セイバーは心の中で悲鳴を上げるがその願いがランサーに届く筈がなく、彼の言葉は続く。

 

「もし俺がそう思い、それを願ってしまったら……俺が過去に捧げた忠誠と栄光までもを、偽物にしてしまうからだ。 代用が、入れ替えが効いてしまうと、自分で認めてしまうからだ………頼む、セイバーよ。一騎士としてどうか……『アーサー王』という者を信じ、仕えた者達を………騎士達の忠誠を、どうか無かった事にしないでくれ」

 

「な……私は………そ……んな事────」

 

「────それは少し酷と言うものだ、英雄王、征服王、そして槍の騎士よ」

 

 セイバーは今まで黙っていたチエが、まさか自分を擁護するとは思わなかった。

 

 これは他のサーヴァント達も同じで皆バーサーカー(チエ)がに視線を変えた。

 

「王であっても、暴君であっても、騎士であっても、皆平等に“ヒト”。 故に滅びを受け入れ悼み、涙を流してもなお、悔やまない者もいる。 その逆も然り。 そして救える手段があるのなら、それを行いたいと願う者もいてもおかしくはない」

 

「バーサーカー………」

 

「確かに覆す事は、その時代、そして時代を共に築いた者達に対する屈辱ともとれる。 だが“皆を幸せにしたい”。 “皆に笑っていて欲しい”。 その思いや願い達は自身以外、他の誰でも不定出来るものではない」

 

 セイバー、ライダー、ランサー、そしてアーチャーでさえも笑うのをやめ今まで寡黙だったバーサーカー(チエ)が雄弁になり、語るのが珍しいのか、マスター側の何人かも聞き入り始めた。

 

「だ、だがそれは………間違いなのでは? 私は結局、国の皆を殺────」

 

「────違うな。 何か勘違いしている様だが“間違い”と“失敗”は違う。 何故ならセイバーは“失敗”しただけで“間違い”を犯していない。 自分の信念を貫き、それが“間違え”ではなく、“失敗”だったのなら胸は張れる筈。 だが貫くのをやめ、諦めてしまえばそれは“失敗”をした上“間違い”をしてしまった事になる」

 

「バー………サーカー……」

 

「フッ、何を言うと思えば。 やはり狂人の戯言か………」

 

「バーサーカーよ……貴様、それは人の生き方では無かろう」

 

「では言い方を変えよう。 確かに英雄王、征服王、槍の騎士の言う通りかもしれない。 だがどの存在にも過去に変えたいものはある筈だ。

 例えば“あの旅の後慢心していなければ”。

 “あの遠征を中断しなくなっていなければ”。

 “あの呪的誓約(ゲッシュ)がなければ”」

 

 他のサーヴァント達はバーサーカー(チエ)の言った事に心当たりがあるのかアーチャーは殺意を乗せた睨みを、ライダーは苦笑いしながら顎鬚を弄り、ランサーはバツが悪そうに顔を俯く。

 

「これらはすべて“ヒト”としての、生きる者が故の思いや願い。 そして騎士王の願いは“ヒト”としては貴い願いなのでは?

 征服王が肉体を得て、もう一度世界征服に乗り出す。

 英雄王は財を奪わんとする輩を裁く。

 槍の騎士はもう一度忠義を主に示し通すチャンスを。

 そして騎士王が理想に殉じ、故国の救済を願う。

 大いに結構。 正しくない願いなど存在しない、捉え方によって、左右されるだけだ」

 

 そうチエが言い切った後、待っていたのは静寂だった。  

 

 一人の英雄王を除いて。

 

「ならば貴様はどうなのだ、()()()()()()とやら? 『王』とは名乗ってはいないが稀有な存在ではある。 特別に赦す」

 

 “我々にも聞かせて欲しい”とセイバー、ライダー、ランサーが。 そしてマスター側はケイネスにソラウ、ウェイバー、間桐雁夜、そして切嗣(だが先程三月と共に席を立ったので二人の席は空)。

 

 その誰もが期待の籠った眼差しでチエを見ていた。

 

「何もない」

 

「「「「「「はぁ?」」」」」」

 

 今回ばかりは全員が間の抜けた声を上げた。 おまけに全員思った以上に驚いているらしく、ケイネスやギルガメッシュすらも表情が崩れていた。

 

「より正確に言えば、願いは達成中だ」

 

 チエはマスター達のいるテーブルを見てそれに釣られてサーヴァント達も視線を移す。

 

「雁夜、三月はどうした?」

 

「(え″、ここで俺に振るか普通?!) あ、ああ。 彼女なら…ええと、席を外したよ。 多分すぐ戻って来るんじゃないかな?」

 

「そうか」

 

「で? その願いとは何だ?」

 

「“ばかんす”」

 

「「「「「「………………………………………は?」」」」」」

 

「……私は“ばかんす”と言うものを知らぬ」

 

「……………………フ、グワッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

 いち早く、フリーズから回復したライダーが愉快に笑い始める。

 

「何ともまぁ、余も人の事は言えんが、願いが“バカンス”と来たか! ハッハッハッハッハッハッハッハ!!! では余は認めよう! この征服王イスカンダルが、その名において認めよう、貴様ら全員、聖杯を奪い合うに相応しい勇者であると!!!」

 

 “元より、貴様/お前に認められずともそうするつもりだが”とライダーに返すようにセイバー、アーチャー、ランサーは笑顔で返す。

 

 未だにチエの言った“願い”に思考がフリーズしているケイネス。

 

 思考がフリーズしている間抜け顔なケイネスが何時もとのギャップに悪戯心を動かされるソラウ。

 

 さっきの言葉の裏の意味を探ろうと深く考え、自分の思考のフリーズを何としてでも止めさせようと必死に現実逃避をし始める切嗣。

 

 こいつもしかしてライダー以上の馬鹿か、と頭を抱えるウェイバー。

 

 

 そして上記の者達のリアクションを見て必死に笑いを堪えようとする間桐雁夜。

 

 

 ___________

 

 三月、衛宮切嗣 視点

 ___________

 

 三月はと言えばセイバーがアーチャー、ライダー、ランサーの説教(?)で心をフルボッコにされる少し前にお手洗いを借りたいと切嗣に伝えていた(勿論別の言い方の“花を摘まむ”で伝えたが)。

 

 その際切嗣自身が城の案内を買って、今は三月とアインツベルン城内を歩き、ホムンクルスのメイドを探しながら近くのお手洗いへ向かった。

 

 何故切嗣本人がこの役を買って出たと言うのは何も彼が城主との知り合いなどではなく、

 彼の認識では三月は“聖杯戦争期間中、間桐家に居候している、道楽貴族の少女”。

 

 しかも恐らくはあの出鱈目なサーヴァントの媒体や間桐雁夜の経歴隠蔽などに関係している何処かの名家の魔術師関係、そして我儘を通して今間桐家にいる。

 

 勿論これは切嗣の中での可能性の一つの仮定としてあるのだが、セイバー運営自身、三月とは接点が無いし、表だった活動に注目もごく最近まで無かった。

 

 何せ今までの聖杯戦争中監視して見たのは間桐桜との遊び相手や見た目相応の言動、そしてつい最近になってランサー運営との接触と案内係を一人でするなど到底、仮にも戦争中の魔導に生きる者が正気でするような行動ではない。

 

 現に今、仮にも敵地の真っ只中にいると言うのに警戒信ゼロ、天真爛漫な振るい、そして自ら一人になるような行動を自分から言い出し、敵である筈の切嗣を疑いもせず、心構えの動作を一つせずに案内を頼む。

 

 こうも一人で行動するとならばこれはチャンスと切嗣は思った。

 “道楽貴族の少女”とは言え、集まった人達の中では一番()()間桐雁夜と彼のサーヴァントと長く一緒にいた上で()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何もドイツの城に残してきた自分の娘、イリヤスフィールと彼女の振舞いを連想した訳では無い。

 

 だがもし切嗣が思っている事が実は全て三月の思惑と知ればどうなるか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

「どうしたんだい? 僕の顔に何か?」

 

「へ? い、いや~…何か無精髭が気になって。(うわ、流石に見すぎちゃったか。 と言うかこの頃からもう無精髭だったんだ~、へぇ~)」

 

「そうか………最近は色々あって、ね。 間桐家でもそうなんじゃないか?」

 

「う~ん、そうですねえ……雁夜様達も最近は忙しくて相手をしてくれませんし……」

 

「へえ、どんな事をしているのかな?」

 

 切嗣は目を僅かに細め、“やはりどこかのお嬢様が厄介になっているだけか”と言う線で情報を繰り出す為の行動に移った。 

 相手は直接ではなくても間桐家に居座る者。 ならば情報は引き出せるだけ引き出し、今後の事を有利に運ぶ。

 

「……何か、()()()()()()()()()って言っていたかな?」

 

「ッ!! へ~、それは凄いね。 どんな違和感だい? (何だと? ()()間桐雁夜が違和感を抱くなんて…これはアイリに…)」

 

「雁夜様曰く、“何かおかしい”と仰っていましたね」

 

「そうか、大変だなそれは。(不味いな、これは大至急にアイリに────)」

 

「────切嗣?」

 

「アイッ?!」

 

 そこに角を曲がり現れたのは他でも無い切嗣の妻、アイリスフィールだった。

 

「何故ここに? (いや、そもそも僕がこうも気付かないなんて、余程冷静さを欠いていたのか僕は)」

 

「あ、ええ。 あの後何だか()()()()()()居ても立っても居られなくて」

 

「お初にお目にかかります、私の名は三月・()()()()()と言います」

 

 三月がスカートの裾をちょこんと持ち上げ、一例する。

 

「あら~、可愛い! 初めまして、私はアイリスフィール・フォン・アインツベルンよ。 切嗣、この子だ~れ?」

 

「この子は()()()()()()だよ」

 

「えッ」

 

 微笑ましい笑顔だったアイリスフィールは困惑し、笑顔を未だに自分に向ける三月を見る。

 

「この子が?」

 

「あ、ハイ!」

 

「アイリは部屋に戻────」

 

 部屋に戻ってくれ。 そう切嗣は言いたかった。

 何故アイリスフィールがここに来たのはともかく、こうも無警戒心で三月と喋れるのか理解出来なかった(“単にアイリスフィール自身も精神年齢は子供に近いからでは?”まで考えは至らなかった)。

 

 言いたかったが、三月がモジモジとし始めたので切嗣はなぜ自分達がここにいるのか思い出し、アイリスフィールも察した。

 

「あ、あのすみません今ちょっと────」

 

「────あらあら、じゃあ私が案内して────」

 

「────いやここは僕が────」

 

「────切嗣、ここは私に────」

 

 と少々のいざこざがあったものの、結局は同じ女性としてと説得された切嗣はアイリスフィールと共にお手洗いまで三月を案内し、近くの通路で二人が三月を待っていた。

 

「アイリ、()()()異変は無いか? さっきの子は間桐雁夜が“()()()()()()()()()”と聞いたらしい」

 

「……確かに異変があるか無いかと問われれば、あるわ」

 

「なッ?! 何故黙っていた?」

 

「それが…………ねえ、切嗣。 キャスターは本当に消滅したのよね?」

 

「ああ、それはセイバーが確認している。 君も感じただろ?」

 

「……それが私は()()()()()()()()のよ」

 

「何だって?」

 

 ここでご存じではないかも知れない方に少々説明をするとこのアイリスフィール、実は『人間』ではなく『ホムンクルス』、しかもアインツベルンが用意した『聖杯』の『器』なのだ。

 

 これは前回の第三次聖杯戦争に聖杯が破壊されたので『アイリスフィール』と言う『殻』が用意され、通常サーヴァントが消滅すると聖杯が本来の機能を取り戻していくと言う仕組みになっていた。

 

 そしてその段階が進むに釣れ、『殻』の生体機能や人格は塗り潰されていく。

 

 そうされて行く筈だったが、何故かキャスターが消滅してもアイリスフィールは自身の身に何の違和感も覚えていなかった。

 

「それはサーヴァントが一体だけ消滅したから…という訳でも無いか」

 

「ええ、一体だけとは言えサーヴァントという魔力源はとてつもない筈。 推測だけど既に身体が弱くなっていたり、視覚や聴覚に味覚が鈍くなると言ったような現象が起きている筈」

 

「だがそれは()()()()()()、と。 成程、これは異常だ。 アイリ、後で────戻って来たか」

 

 切嗣は気配が自分とアイリスフィールに近づくのを感じ取り、話を切った。 そして三月が二人に築き、笑顔を向け────

 

「────あ、待ってくれてありがとうございます!」

 

 ────礼を二人に言った。 切嗣は思わずそのまっすぐな目をしている彼女から顔を背けた。

 

「そうか。 では戻────」

 

「────わわ、わっ!」

 

「危ない!」

 

 切嗣が踵を返し歩き出すと、後ろから三月の慌てる様な声がして、アイリスフィールが声を上げた。 何事かと切嗣が振り変えると、三月は何処か躓いたのか、アイリスフィールに三月が落ちそうな身体を支えられる姿勢になっていて、二人が笑いあっていた。

 

「次からは気を付けないとね?」

 

「はい、()()()! ………あ、あぅぅぅ。 ご、ごめんなさい」

 

 三月はアイリスフィールを母と呼んだのが恥ずかしいのか、顔と耳までもが真っ赤になり顔を隠す。 

 急に「母」と呼ばれたアイリスフィールは一瞬呆気に取られたがすぐにニコリと笑った。

 

「良いのよ三月ちゃん、私は気にしていないわ。 信じられないかも知れないけど、私には貴方より少し年下の娘が」

 

「アイリ、行こう」

 

「あ。 そ、そうね。 ごめんなさい」

 

 そこからは本当に親子みたいにアイリスフィールが三月の手を握りながら三人は庭園へと戻りながら他愛のない話をしていた(主にアイリスフィールと三月が)。

 

 庭園の近くになる三月は通路の窓から他の皆が見えたのかアイリスフィールと切嗣に礼を言い、先に行くと伝えそのまま走っていった。

 

 全く、最初の淑女らしい振舞いは何処に行ったのかと切嗣が思っているとアイリスフィールが自分を見て笑っていたのに気付いた。

 

「………不思議な子ね、切嗣」

 

「そうだな」

 

「本当、貴方がイリヤ以外にあんな笑顔を向けたのは初めて見たかも」

 

「…………………え?」

 

「あら。切嗣、気が付いていなかったの? 私はちょっぴりびっくりしたけど嬉しかったわ。 冬木市に来てからはずっと()()()だったから」

 

 そうか、僕はそんなにも頬が緩んでいたのか。 気を引き締めないと。

 もう一度決心した切嗣はアイリスフィールに呼び止められる。

 

「切嗣。 絶対、絶対にイリヤの所へ戻って行ってね?」

 

「…………当然だ」

 

 そう言い残し、戦場へと戻る切嗣を見送るアイリスフィール。

 

「それにしても……本当に不思議な子。 イリヤと会ったら、すぐお友達になれる様な気がするわ────」

 

 ────だから切嗣、勝って。




作者:ゼェ、ゼェ、ゼェ、な…何とか間に合った

ラケール:おっつー

作者:ちょ、ちょっと………仕事とこれ同時にやるのは今はこたえる

ラケール:あ、じゃあマッサージしてあげるわよ

作者:え゛

ラケール:何よその明らかに嫌そうな顔は? ほら! こっちに来なさい!

作者:いや、ちょ、まッ! 

ゴキゴキゴキゴキッ。

作者:ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ?!

マイケル:あ~、ありゃ骨いったな。 という訳で少し投稿が遅れるかも知れないが、出来るだけ努力はするって感じだな


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第12話 腹ペコ王 VS フリーダム王

 ___________

 

 アインツベルン城内サーヴァント+マスター 視点

 ___________

 

「(何だ、この空気は?)」

 

 切嗣が戻ると先程自分が席を立ったピリピリとした雰囲気は消えていて、マスターの何人かは動揺しているか冷静を偽っていてサーヴァント組の方は何だか緩んでいた。

 

 だがそれも続かずサーヴァント達は皆立ち上がり、視線を周りに移すとそこら中には、白い髑髏の仮面を被った者達が周りを囲んでいた。 マスター達は各自サーヴァントの傍に駆け寄り、同じように警戒する。

 

 髑髏の仮面達の接近をここまで許したのは気配遮断と言うスキルのおかげ。 

 自身の気配を消す能力。

 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移ると発見されるのはほぼ必須。

 

 聖杯戦争にてアーチャーによって葬られたのは確かにアサシンで合っている。 だが当時三月は雁夜には“これは演出”と言ったがあながち間違いではない。 ではなぜ一つ、また一つと髑髏の仮面の漆黒のローブ異装の集団が続々と集結していたか?

 

 アサシンのマスターは今ここにはいないマスターとなり、時臣はアーチャー、ならば言峰綺礼となる。

 

 そして今の彼は実質時臣の忠実な部下、つまりこれは────

 

「────おい金ぴか、これはお前の差し金か?」

 

「時臣め……下種な真似を」

 

「む……無茶苦茶だっ! どういうことだよ?! なんでアサシンばっかり、次から次へと……だいたい、どんなサーヴァントでも一つのクラスに一体分しか枠はないはずだろ?!」

 

 続々と現れる敵影の数に圧倒されたウェイバーが、悲鳴に近い声で嘆き、獲物が狼狽する様を見届けて、群れなすアサシンは口々に忍び笑いを漏らす。

 

 そう、時臣は綺礼にアサシンをこの場で集結させて()()()()()()()()と言う命令を下した。 

 

 暗殺に長けているアサシンは確かに脅威、だがそれは相手が油断していたり、サーヴァントと離れていたりと特殊なケースの場合。

 決してこのように姿を現し、警戒された後に攻撃する場合ではない。

 

 ならば、今攻めてくる理由とは何なのか?

 

「酒宴に遅く来たのが悔やまれる。 しかし! まだ終わったという訳では無いぞ。 さあ、遠慮はいらぬ。共に語ろうという者はここに来て杯を取れ。この酒は貴様らの血と共にある────」

 

 ヒュッ!バシャッ!

 

 ────ライダーへの回答は短刀の投擲だった。  柄杓はライダーの手の中に柄だけを残し、残る頭の部分が寸断されて地に落ち、汲まれていたワインは無残に中庭の石畳に飛び散った。

 

「………余の言葉、聞き間違えたとは言わさんぞ? 『この酒は貴様らの血』と言ったはず。 そうか。 敢えて地べたにぶちまけたいと言うのならば、是非もない」

 

 嘲るように笑うアサシンの声の中、殊の外静かなライダーの口調が、響き渡り、旋風が吹き込んだ。

 

 それは熱く乾いた、焼け付くような風。

 夜の森の中の城壁に囲まれた中庭では決して起こりえない筈の、肌を焼き付ける様な灼熱の砂漠の熱風が吹き渡ってきた。

 

「セイバー、アーチャー達よ、これが宴の最後の問いだ………そも、王とは孤高たるや否や?」

 

 いつの間にかライダーの肩には荒れ狂うマント、そしてTシャツジーパン等ではなく征服王としての装束に転じていた。

 

 ギルガメッシュは口元を歪めて失笑する。 問われるまでもない、といった様子だ。

 

 セイバーも躊躇わない。 己が王道を疑わない今ならば、王として過ごした彼女の日々こそ、偽らざるその解答だ。

 

「我が王道は常に理解されない道であった。 だが、それを間違いだと思った事は一度たりとて無い! 余が今ここで、真の王たる者の姿を見せつける!」

 

 荒れ狂う熱風が静まり始め、そこのサーヴァントとマスター達が目にしたのは────

 

「────馬鹿な、固有結界……だと?!」

 

「ほう、これはなかなかどうして………」

 

 そこは照りつける灼熱の太陽。 晴れ渡る蒼穹の彼方。 吹き荒れる砂塵に霞む地平線まで、視野を遮るものは何一つない。

 

「…………心象風景の具現化か」

 

「応ともバーサーカーよ!」

 

「だがお前は魔術師ではない筈、ならばどうして────?」

 

「もちろん違う。余一人でできることではないさ」

 

 誇らしげな笑みを浮かべて、ライダーはバーサーカー(チエ)を否定する。

 

「ここはかつて我が軍勢が駆け抜けた大地。 余と苦楽を共にした勇者達が等しく心に焼き付けた景色だ」

 

 囲んでいたアサシン達は何時の間にか一群の塊となって、彼方に追いやられ、ライダーを挟んで反対側に他のサーヴァントやマスター達。

 

 そのライダーの後ろに蜃気楼みたいな揺らぎが生じてその中から影が現れる。

 

 その数は視界を端から端まで埋め尽くす。

 

「この世界、この景観を形にできるのはこれが我ら全員の心象であるからさ。 見よ、我が無双の軍勢を!

 肉体は滅びその魂は英霊として世界に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者達!

 彼らとの絆こそ我が至宝 我が王道、イスカンダルたる余が誇る最強宝具『王の(アイオニオン・)軍勢(・ヘタイロイ)』なり」

 

 誰もが驚愕の眼差しで見守る中、続々とライダーの周囲に実体化していく様々な人種と装備の兵士達。  その中でライダーのマスター、ウェイバーは更に追い打ちをかける。

 

「こいつら……一騎一騎がサーヴァントだ……」

 

 ウェイバーの呟きに、ギョッとしたのは魔術師達。 固有結界もさることながら、それによる一時的な多数の英霊召喚はまさしく切り札といっても遜色はない。

 

『な、なあ三月』

『何、カリヤン?』

『これって凄い事の筈なんだろ? 何か、違和感を持っているのは俺だけか?』

『ううん、これは凄い事よ。 普通ならね。 ただ今回の聖杯戦争に対軍、対城、対界宝具を持っているサーヴァントが参加しているのが相性的に最悪ね』

『…あ、あー。 成程ね』

『まあ、流石にあれ一人一人が宝具持っていたら不味いけど』

 

「久しいな、相棒」

 

 満面の笑みで、ライダーは巨馬の首を強く腕で抱く。

 

「立派な愛馬だ、征服王よ」

 

「おおさ! やはり貴様とは気が合うなバーサーカー! 今からでも────」

 

「────断る」

 

「そうか。 王とはッ! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!」

 

 馬の背に跨ったライダーは声高らかに謳いあげる。

 

「全ての勇者の羨望を束ね、その道標として立つものこそが、王。 故に、王は孤高に非ず!その偉志は、全ての臣民の志の総算たるが故に!」

 

「「「「「「「「「然り!然り!然り!」」」」」」」」」

 

 周りの兵士達が自らの王に応える。

 死を迎えても、時を超えても、そして、サーヴァントとしてこの世に仮初めの生を受けても。なお、切れることの無い強き絆。一体どれほどの繋がりがあれば、それを可能とするのか。

 

「さて、では始めるかアサシンよ。見ての通り、我らが具現化した戦場は平野。生憎だが、数で勝るこちらに地の利はある」

 

 ライダーの言葉にアサシンの何体かは逃げ出したり、吶喊したり、その場で立ち尽くしたり、そこにもはや統率された暗殺集団の面影は既になかった。

 

「蹂躙せよ! AAALaLaLaLaLaieeeeeeee!!!」

 

 ライダーの号令と共に軍勢の雄叫びが響き渡り、掃討というにはあまりにもあっけなく、そして簡単すぎる蹂躙が始まり、軍団から勝鬨の声が沸き起こり、誰もが王である征服王イスカンダルの威名を、勝利を讃えながら、一度役目を終えた英霊達は霊体へと還っていく。

 

 それに伴い、彼らの魔力総和によって維持されていた固有結界も解除され、全ては泡沫の夢であったかのように、元の様子に戻っていた。 夜の静けさ、僅かな寂しさが到来する。

 

「……幕切れは興醒めだったな」

 

「成る程な。いかに雑種ばかりでも、あれだけの数を束ねれば、王と息巻くようになるか。つくづく目障りな男よな、ライダー」

 

「言っておれ。 どのみち余と貴様、それにセイバーとは直々に決着をつける羽目になろうて…………そして、ランサーと、未だ名も知れぬ英霊よ。 お主達共な」

 

 そう言ってライダーは笑うと、残っていた酒を一息に飲み干し、ライダーが剣を、縦に振るった。何も無いはずのそこで、しかし空間を両断する。開かれた異空間をこじ開けるようにして、戦車が現れた。馬の嘶きとは別種の声を上げながら、想い音を立てて地を蹴る。

 

 具現した戦車に、己のマスターを押し込む様にして乗せて去ろうとするライダー。

 

 酒とつまみを持ちながら。

 

「待てライダー、貴様は何をしている?」

 

「うん? 何って、帰るところだが?」

 

 セイバーの問いにライダーが“何を?”と言っている様な顔しながら答えた。

 

「ならば何故酒とつまみを持っている?」

 

「何故って、そりゃあこんなにあるのだから取って良いだろう?」

 

「バカバカしい、我は帰る」

 

 アーチャーは呆れたように言い、霊体化した。

 

「では、我が主よ」

 

「うむ、我々も失礼させてもらおう」

 

 ランサー運営が出口の方へと歩き出す中、セイバーとライダーは残った酒とつまみのことで言い争いはじめ、ウェイばーはオロオロとし、切嗣は呆れたようにセイバーを見る。

 

「………(これが騎士王なのか?)」

 

「どうしたんですか、()()()()?」

 

「お、『おじさん』?」

 

「三月?」

 

 切嗣が『おじさん』と三月に呼ばれたのがショックだったのか言いよどみ、帰ろうとしたチエに釣られ雁夜が席を立つと三月が切嗣に声を掛けたのが予想外だった。

 

「…何だい?」

 

「あの女の人、生き生きとしていますね!」

 

「………………」

 

 三月が見た目の年相応の言動に切嗣は静かにセイバーを見る。 確かに未だにライダーと口論をしている彼女は切嗣が見た事も無い『王』としての仮面をつけているアルトリアではなく、ただの『ヒト』のアルトリアだった。

 

 酒とつまみはアインツベルンへと献納された物=セイバー運営の物と、普段の彼女からは考えられない低俗な内容だとしても。

 

 最終的に酒は5割ずつ、そしてつまみは持って来た雁夜達に所有権があるので決めて欲しいとセイバーとライダーに迫られた。

 その結果、ジャンケンで決める事となりつまみは6割セイバー達へ、4割がライダー達へ。

 

 

 尚ドヤ顔のセイバーとドンヨリとし落ち込みトボトボとしたライダーの姿は三月と雁夜たちがちゃっかりと携帯のカメラで写真を撮った。

 

「バーサーカー!」

 

 歩き続けるチエに気付いたセイバーが彼女を呼び止め、チエは振り返った。 三月達にアイコンタクトをとり、三月と雁夜は先に城を出ていく。

 

「………何だ、騎士王よ?」

 

「先日、子供達を救って下さり、ありがとうございました。 貴方が駆けつけなければ、多くの罪なき命が散らされていました。 後………私の願いを否定せずに……」

 

「気にするな、事実を言ったまでだ」

 

 そう言い残し、チエは踵を返し歩き出す。

 

「……セイバー」

 

「キリツグ?」

 

「この聖杯戦争、絶対に勝つぞ」

 

「ッ!!! ハイ!」

 

 そこには真にマスターとサーヴァントの関係が出来上がった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「────あ。えっと、先程ぶり……になるのか?」

 

「……………」

 

「「?????」」

 

 数時間後、間桐雁夜とチエがアインツベルン城へと戻って来ていて、これに困惑するセイバーと切嗣だった。




作者:セ、セ、セーフゥゥゥゥ!!!

三月:ちょっと短いけど、これはこれでいっか

作者:無茶言うな! いつ書いたプロットだと思うよ?! むしろここまで書けた自分が怖いわ!

三月:ん~、十年前くらい? その上私とチエは“俺と僕と私と儂”で────

作者:────ワー! ワー! ワー! ネタバレ困りますお客さん!

チエ:だがうろ覚えで書いた“ぷろっと”としては上々では?

作者:チエちゃんマジ天使!

三月:と言うかそろそろやばそうね? という訳で次回! カリカリ君とチーちゃんがセイバー運営と本格的に接触!

作者:と言うかマジで俺がやばい! 主に仕事と書く事を両方成立するのが!

チエ:がんばれ。 マッサージをして────

作者:────もう結構ですぅぅぅぅぅ!!!! という訳で次回の投稿が遅れたらすみませんッッッッッッ!!!


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第13話 『アーサー』と『アルトリア』

楽しんでいただけたら評価、感想をお願い致します!


 ___________

 

 セイバー、間桐雁夜、チエ 視点

 ___________

 

 間桐雁夜から話があると言われたセイバー運営は当初かなりの動揺があったもの、今はある一室で間桐雁夜と彼のサーヴァントをセイバーが案内していた。

 

 最初は何かの策略と思い警戒したが、この運営の中で切嗣が「警戒はしても対処は難題」という事から客人として迎える事に。

 

 セイバーを先頭に、間桐雁夜とチエはアインツベルン城内に招待されていて、もしもの時の為かセイバーが後ろで歩いている間桐雁夜とチエをちらちらと見てきていた。

 

「……(やはり後ろを歩かれるのは戦士として不安か。 さすが騎士王)」

 

 と考えるチエに対して間桐雁夜は────

 

「(────三月のヤツ何考えているんだー?!)」

 

 と心の中で叫んでいた。 気まずい(?)静寂の中を歩く音だけが支配して数分。

 着いたのはボロボロのアインツベルン城内で数少ない、全く無傷の綺麗な部屋だった。

 

「この中に私のマスターがいます。 入ってください」

 

「え? セイバーは良いのか? これってその…正式な訪問じゃないし、俺も言うのもなんだが、もし俺が君のマスターを襲うかもって思うと────」

 

「それならば心配はさほどしていません。 その気があるのなら既にそうしているでしょうし、何より狂戦士として有名なバーサーカーをその様に御しているところを見るとマスターである貴方の影響が大きいのでしょう。

 それにバーサーカーの振る舞いはどこかランサーのような騎士を思わせますので、敵意は無いと判断させていただきました」

 

「…………………(天使だ。 天使が目の前にいる)」

 

 そう言い雁夜を見る凛としたセイバーはチエとは別の魅力さに溢れていた。 雁夜は思わず頬が若干熱くなるのを感じ、目をそらす。

 

 この数か月間、(小)悪魔の三月に(ほぼ)無言のチエ。 天真爛漫で自分より魔法の素質のある(と思われる)桜ちゃん。 

 

 少し肩身の狭い思いをした雁夜にこうも他人、しかも英霊とはいえ少女に気を利かせられるのは心にぐっと来た(先ほどの『王』ではなく『ヒト』のセイバーを見たのも影響しているが)。

 

「じ、じゃあ俺もサーヴァントはここに置いていこう。その方が、普通に話し合いが出来そうだ」

 

「良いのですか? 私のマスターは…その…」

 

「この状況で流石に自分だけサーヴァントを連れて行くのはマズい。 変な緊張感が生まれるし」

 

「(確かにキリツグならそう取ってもおかしくは無い)………分かりました、では我がマスターと良い関係が築く事が出来るのを祈っています」

 

「雁夜、何かがあれば躊躇無く私を呼べ、さすれば首を────」

 

「────じゃあ行ってくるよ()()()()!」

 

 雁夜はチエの言葉を遮り、さっさと部屋の中へ入り、それを見届けて数分。 部屋の外で待機していたチエとセイバーだが言葉は交わされず、ただ沈黙が続いた中、チエが不意に口を開いた。

 

「騎士王は霊体化しないのか?」

 

「私はかなり特殊なサーヴァントですので、霊体化が出来ません。私は生きたまま、『世界』と契約をしました」

 

「そうか」

 

「バーサーカーも霊体化しないのですか?」

 

「霊体化は出来ん」

 

「あ………」

 

 先程の自分の事と、ライダーがチエは()()()()()()()()事に何か思い、チエを見た。 が、肝心のチエは何処吹く風のようにただ近くの窓から外を見ていた。

 

 セイバーは生前『王』であり、今までは様々な人間を見た。

 

 だがそこで見たチエの瞳はその誰とも違い、唯一近い例を挙げるとセイバーが『アーサー王』として暮らしていた時代の魔術師のマーリンだった。

 

『魔術師マーリン』。 多くの神話、伝承に現れる偉大な魔術師たちの頂点のひとり。 半夢魔であり、人間に手を貸し、王を作り、その『物語』を観察し楽しむ。

 

 その様な『第三の観察者』の『眼』をチエはしていた。 とセイバーは思う。

 

 “と思う”のはチエがセイバーの視線に気付いたのか彼女の方を見る時にはいつもの感じに戻っていた。

 

「何か????」

 

「あ、いえ」

 

「「………………………………………」」

 

「バーサーカー」

 

「?」

 

 そう言うと、セイバーは不可視の剣を取り出し、刀身を覆っていた風の結界を解く。 チエは敵意や害意が感じず、身構える事もなかった。

 

 見えたのは黄金の剣。 どこまでも美しく輝く希望の象徴。 

 

 聖剣エクスカリバー(勝利を約束された剣)

 

「バーサーカー。 貴方の目には、この剣がどう映りますか?」

 

 チエは聞かれた通りにエクスカリバーを()()

 

「……………人間の『願い』という想念が星の内部で結晶・精製された神造兵装。 最強の幻想(ラスト・ファンタズム)。 それが何か?」

 

「…私には、この剣には戦場に散る全ての兵達が今際のキワに懐く尊きユメ………『栄光』という名の祈りの結晶が宿っていると考えます。 そしてこの輝きを標として、我が臣民は理想を求め、私はそれを示しました…………

 結末は貴方も知るところですが、それに対して、私は間違いがあったとは思っていませんでした。救済したいと願う事はありましたが、後悔した事はありませんでした……ライダー達の言葉を聞くまでは」

 

 エクスカリバーを消して、セイバーはチエに向き直る。

 

「ですが、あの時、ライダーの………征服王の言葉、生き様を知った時、私の中には間違いなく後悔や絶望があった。 救う事しかしなかった国の末路、カムランの丘での光景が、私の脳裏をよぎりました。

 もし………もし他の者が選定の剣を抜いていれば変わっていたのかもしれない。 騎士王、アーサー・ペンドラゴンは『王』になるべきではなかったのかもしれないと……そう思いました」

 

「……………」

 

「ですがそれは可能性の話ですが………私はブリテンが滅ばない道があったのではないかと考えてしまうのです。 不毛だともわかっています。 例えどう足掻いたところで、私の生きたブリテンは滅び、そして今という世界が成り立つことは。

 しかし、騎士王として、ブリテンを統べたものとして、私は救済の可能性をごく僅かでも秘めた聖杯を諦めるわけにはいかないと……そう、思って………います」

 

 …………成程、なぜ三月が私にこ奴(セイバー)によっぽど引き合わせたかったのかわかるような気がする。

 

 まったく、あの蝙蝠め。

 

「………セイバー」

 

「…………何ですか、バーサーカー」

 

「私の事は『チエ』で良い。 その代わり、私も『()()()()()』と呼ぶ」

 

「…………え?」

 

「目の前の騎士王、()()()()()はブリテンという国が滅びたからこそ『ここ』にいる。 もし救済という願いを『聖杯』に託し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………それ………は」

 

「アーサーとして、アルトリアとして。 どちらでも『ヒト』としてあるべきで、捨てるべきではなかった」

 

「……私は、とある騎士に円卓を去る時に言われました『アーサーに“ヒト”の心はわからない』と。 私は王として、ヒトに理解される生き方であってはならないと、心の何処かで思っていたのかもしれません………………

 だからこそ、貴方が私の願いを『ヒトの願い』であると征服王に説いた時、とても嬉しかった。 『ヒト』としての在り方を捨てたと思っていた私が、未だ『ヒト』でいられたという事が」

 

「…………私は事実を言ったまでだが?」

 

「きっと、貴方のような人が円卓にいたのならば、私は……私は『()()()()()』のまま、騎士王として生きられたのかもしれません」

 

「………………それもまた、『今』の話ではなく、数多ある『可能性』の話だ」

 

「ええ、そして私はこれからどのような選択をし、どのような結末に至ろうとも、私はそれを後悔する事はしません。 チエ殿、本当にありがとうございます」

 

「それは受肉してこの世界で生きるという事か?」

 

「それは……正直まだ分かりません。 ですが今はそれもいいかと視野に入れ始めているのは確かです」

 

「そうか」

 

「…………フフ」

 

「????」

 

 不意にセイバーが笑い、チエが彼女を見る。

 

「いえ、()()()()()()()と思っただけです。 貴方は自らを『王』と名乗り出てはいないが物静かで何時如何なる時でも冷静、広い視野を持ち、博識。 そして以前の切嗣のように必要最低限に言葉を収める」

 

「…………………そうか」

 

「口癖も似ていますね」

 

「………………………」

 

 セイバーはチエと同じように窓の外を見て、二人の間にまた沈黙が続いた。

 




チエ:……………

作者:な、何とか投稿できた。 僕、疲れたよチエラッシュ………

チエ:なら寝ろ

作者:酷いよ! あ、でもこれはこれで悪くないかも♡

三月:うわー、とうとう変なテンションになっちゃったよ

ラケール:ま、あれだけ夜更かしと徹夜してたら誰でも変になるわ

作者:俺は最強の作者だー! コーヒー淹れて来るぞー! フヒヒャヒャヒャヒャヒャ!

マイケル:めっっっっっっっっっっちゃFate/Zeroの事書くの好きなんだな

三月:今更? だって見てよこの書いたプロット。 Fate/Zero, Fate stay/Night, Fate Apocrypha、etc.

マイケル:おー………これは………

ラケール:よっぽどここまで書いたことに酔っていたと思ったら…………

作者:…………………………………

チエ:おい、こいつ立ったまま気絶したぞ?

三月:ね、ねえチエ? その手に持っているのは何?

チエ:“俺と僕と私と儂”の書きまとめた“ぷろっと”を見せただけだが?

三月/マイケル/ラケール:……………………………鬼か?!

ケイコ:うー? 


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第14話 『僕、悪い魔法使いじゃないよ!』

作者:もし楽しんでいただけたら評価、感想をお願い致しますっっっっ!

マイケル:第一の声がソレか

チエ:彼の“もちべーしょん”に関わるからだろう


 ___________

 

 間桐雁夜、衛宮切嗣 視点

 ___________

 

 場所は部屋の中へと移り、雁夜と切嗣がテーブルを挟んで座っていた。

 

「久しぶり……と言える程は経ってないか、衛宮切嗣」

 

「…………何をしに来た、間桐雁夜」

 

「単刀直入に言おう。 調査の結果、今の()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 「(って確か三月は言っていたなー)」、と雁夜は思いながら彼女の方針説明の時の言葉などを思い出しながら話を進めた。

 

 ガタッ。

 

 切嗣が席を立ち、トンプソン コンテンダーを雁夜に向ける。

 

「(あ、やっぱり)」

 

「……最後に言い残す事はそれだけか?」

 

【恐らくだけど切嗣は怒り狂うでしょうね。 多分だけど貴方に威嚇で一発撃ってもおかしくないわ。 でも決して恐れた態度を出さず、冷静に説明を続けて】

 

「銃はそのまま向けて結構。 かいつまんで話そう。 (やっぱり怖いよ~! 三月、恨むぞ~!)」

 

 咳をして、雁夜はゆっくりとテーブルに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきて切嗣を見る。

 

「前回の第三次聖杯戦争にアインツベルンは禁句を犯し、聖杯は汚染された。 『この世に死と破滅を』という願いを、な。 だから今の聖杯に願いは全てその方向で願いを叶える様になっている」

 

「アインツベルン、だと?」

 

「ああ、アインツベルンがルール破って召喚したサーヴァントがいたんだ。そいつの名前は確か『この世全ての悪(アンリ・マユ)』」

 

「ゾロアストラ教の?! 馬鹿な! そんなもの、神霊レベルじゃないか!」

 

「そう、だが呼ばれたのは最弱のサーヴァントで、すぐに倒され、無色透明だった聖杯の中身を黒く染めた。 どんな願いであれ、どんな望みであれ、今の聖杯は破滅しかもたらさなくなった」 

 

 僅かにだが金属音がした。 そしてその音の出本は切嗣の持っているトンプソン コンテンダーが震えているからだ。

 

「………では何故未だに聖杯戦争が行われている?」

 

「こればかりは『この世全ての悪』を召喚したアインツベルンの方も想定外だったから。 ぶっちゃけた話、他の魔術師もそうだけど、御三家は寝耳に水も良いところだ。 出来レースも甚だしい。 御三家以外、誰が勝っても特はしない。

 何故なら御三家は根源の到達、または不死への足利り、または魔法へという旅路のゴールへ到着する為の『道具』でしかないのだから」

 

「……………では今のままでは聖杯は悪意を持ってしか叶えられないのか?」

 

「そういう事だ」

 

 雁夜が断言すると切嗣は後ろへと後ずさり、壁に背中を預ける。 月明かりが照らす室内で、影に同化するようにして立っていた。

 くたびれたコートと死んだ目はまるで亡霊のような容貌を連想させるが、それが今はなお一層拍車がかかり、本格的に切嗣の姿は亡霊に見えるだろう。

 

「聖杯が汚染されているって事にかなりこたえているな」

 

「求めるものが、この世の悪そのものであるなら、誰だって失望も、絶望もするさ………何の願いもないキミには関係のない話だろうね」

 

「関係なくは無い……かな。 俺は確かに聖杯はいらない。 だがその聖杯に俺の願いをぶち壊される訳にはいかない。 だからこうして来た」

 

「………聖杯を」

 

「ん?」

 

「聖杯を無色透明な状態に………戻す事は可能か?」

 

「………今それを調べている途中だ(ってこれも三月が言っていたな)」

 

「なら……聖杯がいらないのなら、僕に────」

 

「────ちなみに衛宮切嗣の願いは何だ?」

 

「何?」

 

「別に聖杯は俺はいらない。 だがお前の願いが俺の願いに反していないかの確認だ」

 

「…………………………………………………………」

 

「まあ、言いたくないのは分かる」

 

「……………ふざけるな、貴様に僕の何がわかる。 何が『魔導から逃げ出した落伍者』だ? あれだけの事をしておいて“人間”と称するお前に」

 

「あ、あははは………あれは………まあその………『魔術』とは違うんだ」

 

 歯切れ悪くそう告げながら頬をかく雁夜に切嗣は疑問を抱き、苛ついた心を落ち着かせる為に煙草を取り出した。

 

「魔術でないなら、何だと言うんだ? まさか、『魔法だ』、なんて虚言を吐くつもりかい?」

 

「あー、やっぱりわかっちゃうかー。 まあ、あれだけすれば流石に誰でも気付くわな」

 

「ウ゛ッ?! ごほっ! ごほっごほっげほっ?!」

 

【ちなみに切嗣の事だから魔法の事聞かれると思うけど……う~~~ん…………まあ、ぶっちゃげて良いんじゃない………かな? この段階だし。 え? 何の事かって? あー、こっちの話】

 

 煙草に火をつけ、冗談と嫌味交じりにそう呟いた切嗣は煙を肺に入れた瞬間に返ってきた言葉に噎せかえった。

 

「お、おい大丈夫か? 水とコップ、出そうか?」

 

「ごほっ!……も、問題ない。 それよりも、だ。 お前は『魔法』を使っている……というのか?」

 

「まあ、な。 信じられないかも知れないし、話すつもりも無かったが………これからは一時的にでも同盟を結ぼうとしているからな。 そういう相手に隠し事はなしにしたい」

 

 しかし、それを「はいそうですか」と信じられるほど、()()()()において、『魔法』という存在は軽いものではない。

 

 魔術師の誰もが文字通り喉から手が出るほどに欲している目的の一つであり、例え御三家であったとしても、手に入れるにはそれこそ聖杯を利用しなければ不可能であり、単体で魔法の領域に至るには、間桐雁夜という凡俗では不可能だった。

 

 例え、マトモに魔導の鍛錬を行っていたとしても。

 

 ただ、「そんな馬鹿な」と吐き捨てられるほど、切嗣は無知でもなかった。

 例として以前の綺礼との共闘時、雁夜を追い詰めた際に起きた不可解な現象。

 追い詰めたはずの対象に、振り出しに戻っていたというありえない状態。

 

 次に何の魔術礼装も無しに、()()()強化のみで現代兵器を平然と受け止める尋常ならざる防御力。

 その他もあげればキリがないのだが、ともかく切嗣は否定しようとして、言葉を飲み込んだ。

 

「仮にだ………仮に『魔法』を使えるとして、何故お前は聖杯戦争を終わらせていない?」

 

 代わりに放たれた言葉は素朴な疑問だった。

 

 間桐雁夜が、真に『魔法使い』であるというのなら、何故今も聖杯戦争は続いているのか?

 

 聖杯が欲しかったわけではない。 元に戻す為の方法を模索していたから、敢えて聖杯を降臨させないために、終わらせていないというのであればわかる。

 

 だが、そうだとしてもあの日、倉庫街でサーヴァントとマスター全員を皆殺しにしてしまえばよかった。 そうすれば自分の敵対者は大幅に減り、ゆっくりと時間をかけて、邪魔者無しで穢れた聖杯を解析出来る。

 

「『何故』……か」

 

 あ、やっぱりこれも来たかー、と思う雁夜。

 

 実は雁夜自身これを疑問に思っていた。

 チエだけならともかく、三月は自分から見てもかなりの悪戯っ子、もとい戦略家。 

 

『間桐雁夜』という駒がなくても簡単にチエを使い、聖杯戦争を終わらせ、聖杯を手に入れたりするのも簡単にイメージ出来た(本人にはぜっっっっっっったい言わないと誓っているが。)

 

 なのに何故か三月は雁夜から見てもかなりのアバウトな方法で物事を進めている。

 何故だ? 

 ……………………………………………………

 

「……………俺の()()に聞いてくれ」

 

「『師匠』? まさかとは思うが、バーサーカーか? (成程、これで辻褄は合う。 あんな規格外なサーヴァントを師に持つならありえなくは無い)」

 

 そう思い、切嗣は煙草を吸う。

 

【あ! 切嗣には(三月)の事を言わないように! いいね、雁夜?!】

 

「そんな所だ。 (『三月』と名前では言っていないぞ俺は。 だからこれはギリギリセーフの筈だ)」

 

 やはりか、と腑に落ちた切嗣の顔。 だがそうだとしたら────

 

「────そうだとしたらヤツが本当に『バーサーカー』なのかと疑うが?」

 

「……この際だから言うが、クラス的に彼女は『バーサーカー』に類されているらしいが、普通のクラスに当てはまらないエキストラクラスに属していると聞いているし真名は俺も知らない」

 

「………………………」

 

 思わずズッコケかけた切嗣は割と普通の反応だった。

 

 雁夜は魔術師とはあまりにもかけ離れた言動、明け透けに質問に答える。

 

 どこまでも一般人に近く、あまりにも『一般人』だった。

 

「強いて言えば、『大の為に小を切り捨てるのは悲しすぎる。 そういう事していたら、何れ助けた数よりも殺した数の方が上回る』って師匠(三月)は言っていた。 それに俺自身の推測だが…………もしかして師匠(三月)は『誰も死なせたくない』んじゃないか?」

 

「ッ?!」

 

 その前の言葉の全てが切嗣の胸に刺さっていた。

 

『誰も死なせたくない』。

 

 その言葉がかつての衛宮切嗣の掲げていた理想を僅かに思い出させた。

 

 世界の闇を知らない子供の純粋な願い。 真実を知るにつれて、歪んでいった望み。

 

『正義の味方になる』。

 

 それこそが、衛宮切嗣を衛宮切嗣たらしめ、そして苦しめる呪いでもあった。

 

 誰も苦しまない世界があれば、誰もが幸福である世界があればと、その為に衛宮切嗣は引き金を引き、大を救うために小を切り捨てた。そしてその度に精神は磨り減らし、その度に知った。

 

『ヒト』の身では叶えられない望みであると。

 

 故に、衛宮切嗣はアインツベルンの依頼を受け、聖杯戦争に参加した。

 

 悲しみの原因とも言える、世界からの争いを根絶し、恒久平和を実現するために。

 

「これは俺もギブアンドテイクで始まったんだが、平和は誰でも望む事だから俺も協力している」

 

「……お前も、『平和』を望んでいるのか?」

 

「うん? ……そりゃあな。 元はと言えば、聖杯戦争に参加しているのは、『この世全ての悪(アンリ・マユ)』が全部駄目にしないようにする為だし。(そんな事になったら桜ちゃんの未来の幸せが危ない)」

 

 雁夜の言葉を聞いて、一瞬切嗣は迷った。

 

 彼らの目指すところは同じだ(と思っている)。 けれど、その言葉を信頼してすぐに手を結ぼうと考えられるほどに信頼関係は構築できていない。

 寧ろ、一度は敵対した挙句、今こうして話し合いが成立していること事態、切嗣自身には考えられない事態だ。

 

 だが、雁夜の話した事全てが真実なら、相手側は絶対に秘匿すべきである『魔法』について話した。

 

 それならば、自身の聖杯にかける願いを言う程度の事は良いだろう。

 

「いいだろう、僕の願いは────」




作者:ちなみにアンケートを取りたいと思っていますのでご協力お願いします!

三月:え、ちょ、何これ?

マリケル:マジか

ケイコ:うー? あー?

ラケール:こ、これは

チエ: 解せぬ


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第15話 家族思いのゴルゴ(仮)

作者:アンケートご協力ありがとうございます! 自分が死なない/エタラない程度で最新する方針でこの作品の投稿を頑張ります!

三月:で、評価の設定は直したの?

作者:ハイ本日のジト目いただきました! すみませんでしたー!

三月:ハァー、これで評価がちゃんと反映されるならいいけど………

チエ:あとさっき“この作品”と指定したのは?

作者:では第15話“家族思いのゴルゴ(仮)”、楽しんでください! いつもありがとうございます!

三月:逃げた

チエ:逃げたな


 ___________

 

 間桐雁夜、衛宮切嗣 視点

 ___________

 

「いいだろう、僕の願いは────」

 

「────ああ、言っておくけど、『平和』は望んでいるが『恒久平和』とかは望んでないからな。 聖杯を介さなくても、破滅するような願いは持ってない」

 

 切嗣は息を飲んだ。

 

 自分の言葉に被せるようにして放たれた言葉は、あろう事か否定の言葉。

 

 まるで次の自分の言葉をわかっていたかのような、そんな口調であった。

 

「……な、何を言っている?」

 

 聖杯を介さなくても、破滅する願い。

 

 そんな筈はない。

 誰も争わないのなら、誰も不幸にならないのなら、人類が滅ぶ筈はない!

 

 思わず、そう叫びそうになるのをグッとこらえ、切嗣は先程の問いを投げかけた。

 

 こんな風に明らかに動揺している切嗣を見た雁夜はと言うと────

 

 「(────いや本当、三月は何手先を考えているんだ?! マジで切嗣の願いは『世界平和』関連だったよ、コンチクショウ!)」 と雁夜は心の中で吐いた。

 

【ちなみに推測だけど切嗣の願いは恐らく『世界平和』とか『恒久平和』……その辺りよ、今はね。 とにかく、その願いは無理よ。 だって────】

 

「────師匠(三月)の受け売りだが、『恒久平和は不変と同じ。 つまりは世界に存在する全ての生物から、闘争心、競争心などを刈り取る。 そうすれば誰も争わない。 平和は維持できる。 だけど“争う事”や“抗う事”を忘れた存在が果たして生きていけるか? 

 

 極端な答えはNO(ノー)だ。  “人間”という生き物は誰かに劣る事を良しとしない、常に自分の方が優れていると思いたい生物。 他者より先へ、他者より前へ、それこそが、進化や成長の糧となっている。 

 

 だがそれを奪うという事は、人から進化や成長を奪うのと同義。争う事を忘れた()()()()に未来はない』って言っていた。

 『()()()()に恒久平和は良くて衰退、悪くて破滅』ってな感じだ」

 

 ()()()()………だと? なら何時かは実現可能という事か……………

 ふざけるな!そんな馬鹿な事があるか! そんな、何時訪れる未来の事を僕は言っているんじゃない!

 それに師匠(バーサーカー)の受け売りだと?

 

「なら……………なら、お前自身の言う『平和』とはなんだ! 誰も争わない世界が破滅というなら、一体お前は何を『平和』だという気だ!」

 

 間桐雁夜は溜息を出し、「ああ、少し前の俺自身を見ているみたいだ」と思った。

 

 一年前、魔法の存在を知った雁夜は同じような問いを三月とチエにした。

 

 少年時代の憧れや夢等も関係あったかもしれないが、それまでルポライターとして世界を旅していた彼は世界の理不尽さや不毛な現実など実際に見て来ていた。

 

 それでも三月は言った、『()()()()に恒久平和は良くて衰退、悪くて破滅』と。 そして何故と聞いた雁夜に彼女が説明したのが先程の『受け売り』。

 

 魔法は誰にでも同じように使える訳ではない。

 魔法で差別概念は消せない。

 魔法で貧因は『治療』出来ても『直す』事は出来ない。

 

 最初に弓と矢、銃、核兵器等を発明した先人達の様に“これで戦争は終わる”と言ったように、ただ人が死ぬのが加速しただけのように。

 

 それから雁夜は考えた。 

 

 ()()()()でならという答えを。

 

「…………戦争があるから、それを無くそうとする人間がいる。 難民がいるから、それを救おうとする人間がいる。 『平等』にならないから、それに向けて努力する人間がいる現状は悪いのか?」

 

 それは一種の諦め……………というよりは『捉え方』だった。

 

「確かに今の世界は不毛だ。 でも、今はそれでいいんじゃないか? 皆が『平等』になれば、努力する人間はいなくなる。 或いは一種の冷戦状態が続いているなんて捉え方もある。 

 だがそれは下手をすれば世界大戦の勃発だ……まぁ、ここまでは俺の持論だけだから、これはお前には特に関係ない。 

 逆に俺が衛宮切嗣に疑問を投げかけるとしたら………そうだな、まず…………どうやって『恒久平和を実現する』かだ」

 

「……………そんな事は聖杯に望めばいいだろう?」

 

「…………あー、うん。 それは聖杯には無理だ」

 

「何だと?」

 

「(いやまったく、俺も同じような質問を三月にしたよ。)」

 

【え? なんで無理かって? そりゃあ勿論、元の聖杯は使用者の考えている経路で願いと言う到達点を叶えるから。 だから方法を本人が知らなければ、聖杯は叶えられない………叶えられたとしても必ず願いをした本人の描いたような結末とは限らない可能性の方が大きいわ】

 

「具体的な内容は? 方法は? まさか、『恒久平和の世界にしてください』って言っただけで聖杯がしてくれるだなんて、思ってないよな?」

 

 そう言われて、切嗣はすぐに答えようとしたものの、次の言葉が出なかった。

 

 確かに、具体的な内容は決めていない。

 恒久平和を聖杯に望めば、それで世界は平和になる……………

 と、本当に思っていたし疑いもしていなかった。

 

 聖杯は万能の願望機。 叶えられない願いは存在しないはず。 そこに何の疑念も抱かなかったし、それも事実だ。

 

「聖杯は願望機だがさっき言ったように無色透明。 言うなれば何でも出来る、生まれたての赤子同然だ。 だが、誰の願いでも叶えられるのなら、それは『抽象的なもの』であってはならない。

 仮に聖杯を元の状態に戻したところでお前の願いを言われても叶わないな。 まあ、その願いはわからない事もないけどさ」

 

 誰も犠牲にならず、誰も不幸にならず、恒久平和にする方法。

 

 そんな事は思いつく筈もない。

 

「(でもだからって……僕にどうしろというんだ?!)」

 

 気付いたところで後の祭りだ。

 既に後戻り出来るような状況ではない。

 

 例え、切嗣の願いはなくとも、アインツベルンとの契約上、聖杯は持ち帰らなくてはならない。それが七年前に結んだ契約だ。破れば娘であるイリヤスフィールにその重責を担わせてしまうだろう。

 

 願いはなくとも、目的はなくとも、勝たねばならない。 絶対に。

 勝ち残らなければ、愛する娘が次の聖杯戦争の犠牲になるだけなのだから。

 

 そして勝てば愛する妻が聖杯の器に完璧になってしまう、今は()()だけの魔力分だからか異常の兆候はまだ見られないが。

 

 切嗣は頭を抱え、悩む。 

 

 そして彼自身は気付いていないが、今の彼の表情は『絶望』と『悲しみ』と『悔しさ』で歪んでいた。

 

 これを見ていた雁夜は少なくはないダメージを心に受けていた。

 特に『イリヤスフィール』という、今の衛宮切嗣の背景情報を知っている自分としては桜ちゃんと事情などが被る。

 

 当初この事を知った雁夜は三月達に人質同然になっているイリヤスフィールの奪還を頼んだが、頑なに三月に断られた。

 

 そして逆に雁夜に提案し、彼は驚きつつも同意した。

 

「さて、ここからが俺()の提案なんだがな、衛宮切嗣」

 

 切嗣との交渉の際に『コレ』を使うと。

 

「この聖杯戦争が終わった後、『魔術師』を辞めて大切な者達と共に生きるか、それともまた『傭兵』を続けるかの二択だ。 前者だとそこに行くまでの過程に苦労するが、後はもう人殺しになる必要は無い。 後者は比較的楽だ。 今までの生活に戻るだけだ」

 

「……………………」

 

「前者を選ぶと言うのなら、俺()同伴でアインツベルンに殴り込みに行ってもいい」

 

 頭を抱えていた切嗣が顔を上げ、雁夜を見る。

 

 それは切嗣にとって、どれほどの甘い誘惑だったか。

 

 キャスター襲撃の直前、妻であるアイリスフィールに吐露した心中(そしてそれらを目撃していた三月)。

 

 妻と我が子を連れて、逃げ出したいという願望は、父として、夫としての衛宮切嗣の叶わぬ願いであった。

 

 そして、今目の前にいる雁夜はそれを実現させる手伝いをすると言った。

 十中八九達成すると同じ事だ。

 

 しかし、切嗣は首を縦には振らなかった。

 何故なら────

 

「────見返りは………何だ?」

 

 ────一般人だけではなく、魔術師の世界は常に雁夜がさっき言ったようにギブアンドテイクの社会。

 

 メリットとデメリット、損得が絡み合うドロドロの世界。

 

 これを無視した、明らかに片方にしかメリットのない取引に合意をするのは余程の馬鹿か間抜け、後は重度のお人好しだけだ。

 

「え?」

 

「そちらにメリットが全くない。 それどころか間桐雁夜が正規の魔術師じゃないと露見するようなものだ。 そうなれば確実に執行者が送られる事になる。 挙げられるデメリットはあるが、メリットが全くない」

 

「………執行者か。確かにそれだと危ないなぁ……………………………桜が」

 

「…………………………………は?」

 

「いや、桜ちゃん。 間桐桜、六歳。 遠坂から間桐に来た養子。 俺はまあ、『油断していなければ多分大丈夫』とお墨付きはもらっているけど…………()()()()()()()()だからなぁ……」

 

 ちなみに雁夜のお墨付きは三月が行っていた。

 

 雁夜にはお世辞としか聞こえていなかったが先日の活躍も見た通り、初見であった切嗣と綺礼の即席最強(最凶?)タッグを一人でやや強引にだが引き分けにまで勝負を持っていった。

 

 そして彼の言う()()とはこの一年間、三月とチエ(主にチエ)という規格外な二人が付き添っている毎日の修行や手合いとも呼べないレベルの差で彼女達(チエと三月)を基準に徐々に毒されていった。

 

 実際に()()()が魔法を全力で駆使するとなると、ケイネスにはどう間違っても勝てないが、逆に()()()()()()()()()()()()と言えばお分かりになられるだろうか? 

 

 更に追記になるが桜本人は基本的に直接害をなす魔法は嫌がり、本人の希望で基本的に強化や回復といった補助(ヒーラー/バッファー)寄りの魔法しか習っていない。

 

 現時点では。

 

 返事を聞いた切嗣はズッコケそうになった(本日二度目)。

 

 雁夜の心配する部分がズレていたからだ。

 

 今、切嗣が提示したのは雁夜に対するデメリットである筈なのだが、本人は自身にかかる負担を露ほどにも気にしていなかった(無理もないが)。

 

「………う~~~~~~ん………見返り(メリット)の話だったな。 見返りは………………そうだ! もし間桐桜が『()()』に興味を持ったら、師になってやってくれ」

 

「え? ………そんな事はお前が教えればいいだろう?」

 

「あー、一応師匠は俺達二人の世話を見てはいるんだが、知っての通り俺は魔術から逃げた落伍者だ。 それに間桐の魔術は駄目だ。 それに………」

 

「それに?」

 

「……………いや、桜が『()()』に興味を持ったらアンタが教えろ。 見返りなら、それでいい」

 

「???????」

 

 何故師に自分が選ばれたのか、切嗣は理解できなかったが、それはやはり雁夜が切嗣に近い思考をしているからであった。

 

 模範的な魔術師として育つのではなく、一般人の感性も失わず、そして魔術を教えられる存在というのは雁夜にとっては極めて稀な存在だった。 

 

「さて! 異論はあるか? ないなら、協定を結んでおきたいんだが────」

 

「────最後に確認したい……もし…………………もし、僕が家族を助ける為に、アインツベルンを裏切るとなったら………キミは手を貸してくれるんだな?」

 

「勿論だ。 これでも俺も子供の面倒を見ている。 『家族』というものがどれだけ大事なのかは多少理解しているつもりだ。 何なら契約でもしていい。(これで合法的に三月を巻き込める、ザマァないぜ!)」

 

 切嗣の問いに雁夜は一拍も置かずに返した。

 

 この一年間で、雁夜も娘を持つ親の気持ちを完全とは言わないまでも理解出来た。

 

 厳密に言うと娘二人(一人はお利口で聡明で素直な天使同然、もう一人は人をを引っ掻き回す我儘な悪ガキ)、と同居している文武両道系物静かJK(っぽい(?))人達だが………一緒にいて悪くない気分が本音だった。

 

 なら、我が子を助ける為に動こうとする人間(切嗣)の手助けをしない道理など雁夜には存在しなかった。

 

 雁夜は一応切嗣が取り出し、内容を整えたセルフギアススクロール全てに目を通し、そして迷うことなく契約し、二人はサーヴァント達の待っている通路へと出た。

 

「お、待たせたなバーサーカー」

 

「いや、待ってはいない」

 

「セイバー」

 

「どうしたのですか、キリツグ?」

 

「今から僕達と間桐雁夜運営と協定を結んだ」

 

「それは………」

 

「色々あって、ね」

 

 切嗣はそう言い、未だに鼓動が激しく脈を打っている心臓を大人しくさせようと煙草を取り出し、火をつける。

 




作者:う~ん、やっぱり一週間に一回はしたいし…………でも作品は二つあるけどそこまで器用じゃないし…………

三月:どったの?

作者:いや実は“俺と僕と私と儂”とこの作品なんだけど、自分はあまり器用じゃないし、仕事と書くのって大変だな~って

三月:今更?

作者:でもほかの人達は化け物だな、一話に8000文字以上を毎日ってやってる人達もいるし

切嗣:おい、貴様。 ゴルゴ(仮)とは何だ?

作者:うぎゃ?! きr────


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第16話 道化と魔改造の末

 ___________

 

 ランサー運営+三月 視点

 ___________

 

「それで、出向いただけの成果はあったのだろうか?」

 

「当然です、でなければ今まで使ったお時間が無駄になります」

 

 ここはケイネス達に三月が与えた拠点の一つの事務所。 そこにはケイネスとランサーが三月の向かいに椅子に座っていた。

 

 三月がケイネスの問いに答え、ポケットから取り出したのは何重にも分からないほどの結界の中で浮いていた、掌の上に乗る程度の()()()金属片だった。

 

 ()()はアインツベルン城でこけた()()をした際にアイリスフィールに抱き着いた時に抜き取った一部。

 

「おお!」

 

 ケイネスが()()を見た瞬間顔を輝かせて金属片達を手に取るケイネス

 

「こ、これが聖杯……!」

 

「欠片ですが」

 

 ケイネスは感極まって声を震わせながら、手袋越しに感触や見た目を確かめて、口元は形容しがたく歪んでいる。

 感激からかアインツベルンに対する屈辱か、今まであった常識が覆られる事からか。

 

「アインツベルンはこんなものを作ったと言うのか?! 素晴らしいッッッッ!!!」

 

「(うっわー、これは私もちょっと引くわー…じゃなくて!) その破片は生きていますので、扱いには気を付けた方がいいかと!」

 

「何だと?」

 

()()()()()()のですが、恐らくは生体部品の一部。 肉と金属が混ざり合ったのか、それとも金属自体が生物的な特徴を得たのか、そこまでは分かりませんが………生きています」

 

「馬鹿な……いや、しかし、そんな事があるのか? これは確かに純粋な金属やエーテルではないそうだが」

 

 それがあるんだよなー……実際()()()()()()もいるしー、っと心の中で静かに突っ込む三月。

 

 そしてそれを知らずに欠片を前に、さらに深く考え込むケイネス。どれ程と言うかと欠片を覗きに来たソラウに反応しない程だった。

 

「生きているのなら生体と融合していた筈だ。 それを君はどうやって抜き取ったのだ?」

 

「………………ごめんなさい、それは…………」

 

 ケイネスが三月から目を離さず、モジモジする三月を見てソラウが口を開ける。

 

「言いにくい事というのは、一族に関する秘匿の方法だからじゃないかしら?」

 

「ソ、ソフィアリ様…………」

 

「ソラウで良いわよ、貴方には感謝しているし」

 

「どういう事だソラウ? まさか……」

 

「ええ、恐らくは魔術刻印のように一族代々のみ伝わっているものではないのかしら?」

 

「なるほど、言いにくいのは分からなくもないが………これは私が貰っていいのだな?」

 

「え、ええ。 欠片が二つあるのは()()()汚染されていた破片と、そうでない破片があったからで────」

 

「────何ぃぃぃぃ?!」

 

 ケイネスが急に声を上げて、顔を急接近された三月は思わず顔を引きつらせて口の端がヒキつきながら身体ごと出来るだけ後ずらそうとする。

 

「(近い近い近い近い近い近い近い近い近い近いッ! あ、後忘れる前に────)────そ、その欠片にサーヴァントに触らせない方が良いですよ」

 

「む? あ、ああ。 元より、触れるつもりはないが、理由は何だ?」

 

「……サーヴァントも、欠片もエーテルで構築されている部分などがあるので『これ』といった理由は無いのですが………」

 

「そうか。 忠告感謝するぞ、三月」

 

「コホンッ…………余計な話はそこまでにしておけ。 もう用事はないな? ならば我々は本拠点へと帰らせて貰う」

 

 そう言い残しケイネスはさっさと出かける用意をする。  明らかに今すぐにでも調べたくてたまらない!っという空気を出している。

 

「では後程、ロード・エルメロイ、ソラウ様、ランサー」

 

 三月の言葉と同時に周りに展開していた結界が解除され、ケイネスは早足に去って行った。その後を追う手を三月に振っていたソラウに、霊体化するランサー。

 

「さて」

 

 三月は立ち上がり、ビルの階段を使い地上に降りてスキップしながら思考をチエへと飛ばす。

 

『ハロー、ハロー、チーちゃんそっちはどう~? 私の方は無事にケイネッスーに聖杯の解析を頼めたわー』

『三月か。 こちらは良好だ。 今雁夜達が聖杯に関して話し合おうと場所を城から移した』

『へー、どこどこ?』

『町の北寄りにある純和風建築の屋敷だ』

 

「『ファ?! ナンデ?!」』

 

 あ、ヤバイ。 声にも出しちゃった。

 周りの人達がビックリした顔で三月を見る。

 が、彼女は無視してそのまま北の方へと早歩きで進む。

 

『恐らくこちらの方が落ち着くからではないだろうか?』

『あ、そう』

『………何か悪いモノでも買い食いしたか?』

 

「『アハヘッ?!」』

 

 本日二度目の間抜けな声が思わず出た三月は走り始めた。 近道の為冬木中央公園を通ると何か感じているのか、首の後ろがピリピリとする。

 

「…………???(何この感じ、視線? 気配は………隠しているわね。 でも()()()()にこんな芸当を出来るのは宝具モリモリのアーチャーか、飛行機能付き宝具のライダーだった筈。 でも気配を隠すなんて────)────うわッ?!」

 

 風を切る音を三月が聞こえたと思うとほぼ同時に薄暗い月明かりの中で何かが彼女へと飛来する。 三月はこれを反射的に避けるが()()かは()()()()()()()()()()

 

「ウッ?!」

 

 ()()()()に三月は顔をしかめ、次々と飛来してくるものを何とか躱し続ける。

 

「(こ、これは短剣(ダーク)?! でも現段階でアサシンはライダーに一掃され────)────アガッ?!」

 

 焦る考えをまとめようとしていると視界からの別方向から急に現れた白い髑髏の仮面とマントを被った小柄の男に後ろから刺される。 これに続いて次々と同じような者達が瞬く間に三月の体に慈悲無く短剣(ダーク)を刺してゆく。

 

 

 

 と思う中それぞれの短剣(ダーク)が三月の体を通り抜け、混乱の中三月は早く死の輪から離脱し、髑髏マントの者たちは以前の間桐臓硯の様に体が圧縮した。 破裂音と共に金色の残滓が辺りにばらまかれ、息を切らせながら三月は周りを見る。

 

「グッ…………(流石にきつい、か………残存魔力もかなり心許無くなって来た)」

 

 彼女の服はボロボロになっているが、血や短剣(ダーク)によって切り裂かれた皮膚に傷が見当たらなかった。

 

 周りに気配も何もないのを感じる彼女は走るのを続行しながら冷汗が頬から零れ落ちる。

 

「(と言うか…………今のは()()()()()()だわ。 アサシンは確か『作通り』だと時臣がライダーの実力を見極めさせる為に綺礼に令呪まで使って貰ってアサシンに襲撃させていた筈…………少し計画を早めるか)」

 

 取り敢えず早々に雁夜とセイバー運営と合流して、事の一端と方針を話す必要が三月には優先順位が高く感じ、なぜまだ脱落していないアサシンが自分を排除しようとしたのかまでは考えが至らなかった。

 

 何故なら彼女にとって『今』が瀬戸際。 全てがタイミングと誘導、そして嘘誠の情報操作の切り分け時なのだから。

 

 さあ行こう、皆にハッピーエンド(役者達に幸せ)が訪れるのを目指して。

 

 それが()()として舞台(物語)自らの意思(我儘)で上がった自分(元観客者)なのだから。

 

 

 ___________

 

 間桐雁夜、セイバー運営 視点

 ___________

 

 

 場所は後に衛宮邸となる一つの屋敷。

 

 セイバー運営達と雁夜達が場所を変えたこと自体に深い意味はなかった。 単にこちらの方が落ち着くというそれだけの理由だった(というのもズタボロになった城では落ち着きようがないし、間桐家はリフォームされたとしてもセイバー運営からしたら何が仕掛けてあるのかわからない)。

 

 落ち着けないといえば、雁夜が自分は『魔法使いだ』と明かした時の切嗣以外のセイバー陣営の反応が凄かった。 特に何故かセイバーが最初に聞いてきたのが「花とかは関係ないですよね?」に対して雁夜は何がどうなれば『魔法使い』=『花』という流れなのか苦笑いしながら違うと断言した。

 

 そしてチエはバーサーカークラスではなく『エキストラクラス』で自分の師であるという時も。

 

 当然といえば当然か。 

 方や神秘の薄くなりつつある世界に『魔法使い』。 

 方や通常の聖杯戦争に召喚される筈のない『エキストラクラス』。

 

「(とはいえ、俺が『魔法使い』である事を考慮した途端に「それも今更か」という反応で納得したのはどうなのだろうか? それって俺が言うのもだが…軽すぎじゃないか?)」

 

 と畳の上でアインツベルンのホムンクルスが入れたお茶をすすりながら雁夜は思った。

 

「♪~」

「あ、三月ちゃんそれ取ってもらえるかしら?」

「は~い♪」

「いや、味噌汁に沢庵はさすがにないだろう? 大根を取ってくれ桜」

「はい、チー姉!」

「え? でもお茶に合うって聞いたからてっきり日本の汁物に合うって────」

「「────それは色々とズレている」」

 

 そして何故か上機嫌な三月とアイリスフィールとチエと桜がキッチンで料理をしている。

 主にチエが先導し、三月が桜とアイリスフィールのフォローを。 

 

「良いのか、あれで?」

 

 切嗣もキッチンの近くでオロオロとアイリスフィールの心配しているアインツベルンのホムンクルス達を見て不安だったのか雁夜に問いかけるが雁夜は心配してなさそうな返事をする。

 

「心配しても無駄だと思う。 それにチエさんの手料理は旨いんだ」

 

「そ、そうか?」

 

 切嗣はキッチンに立っている四人を見た。 皆エプロンをして、顔立ちこそ似てはいないが仲が悪いわけでは無く、聖杯戦争にあるまじき、ほのぼのとした空気が漂っていた。

 

「………そもそも何故バーサーカー…じゃない、『チエ』に料理なんかをさせている?」

 

「彼女が買って出たんだ。 『魔法を教えるから料理ぐらいさせろ』って」

 

「??????」

 

『魔法を教えるから料理ぐらいさせろ』。 

 

 一見教えられている側にしかメリットがないように聞こえるが、前にも触れた通り『魔法は誰にでも同じように使える訳ではない』。

 

 何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 元来、どんな人物にでも過ぎた力は悲劇などで物語は終わっている。

 どの英雄譚も悲劇や悲恋などに終わっているか、悲痛な思いをしながら物語の終わりを迎える。

 

 だが()()()()()()()()()()()()()()みればどうか?

 

 例えば『魔術回路』。 

 魔術師が持つ擬似神経で、生命力から魔力への変換、大魔術式への接続などを担う役割を果たし、魔術師達は自ら手を加えては回路を一本でも増やそうとする。

 何故ならこれは魔術師としては優秀とされていて、生まれながらに持ち得る数が決まっているからだ。

 

 ならば人の中に元からある神経に類するものを魔術回路として使えるようにと変え、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

 

 例えば『魔力』。

 ()()()()で言うと原初の生命力とも、命そのものとも言われる。マナ(外部)オド(内部)に分けられるが、マナは量が絶対的に多いというだけで、質に大した違いは無い。

 魔術師ならマナは自由に行使できるが、その量は魔術回路の数に依存する。

 

 なら先ほど言った疑似的に増やした上にマナ(外部)に劣るとも言えない常時発動型の魔力炉を搭載したら?

 

 例えば『詠唱』。

 魔術を起動させる為の動作。そして『詠唱』とは呼ぶが、発声に限らず身振りもこれに含まれる。

 

 ならば『声』や『動作』が繰り出される以前の脳からの『電気信号』…………いや、それより更に以前の『思考』で発生出来るようになったら?

 

 以上の通りに『魔術回路』、『魔力』、と『詠唱』の改造を施された『人間』は果たして『人間(ヒト)』であろうか? このようなモンスターマシン並みの改造されたのが?

 

 ではその前に『人間(ヒト)』とは何であろうか? 

 

 それは『人型』という形であるからか? 

 否、それだけでは駄目だろう。 そうであれば四肢欠損など生まれ持った者達は『人間(ヒト)』でなくなる。

 

 では『知性』や『記憶』を持っているからか? 

 否、それも駄目だ。 そうなれば精神病や記憶喪失者が『人間(ヒト)』でなくなる。

 

 では『人間(ヒト)』とは何ぞや? 少し哲学的に言えばそれは『自身の捉え方』。

 

 ただ最もシンプルに『我思う、故に我在り』と。

 

 自分を『人間(ヒト)』と定義すれば他人から不定はされよう。 断定もされよう。

 

 だが『我思う、故に我在り』。 

 

 極端な話『自分は人間だ』と()っている内は人間(ヒト)であり、『人型のナニカ(人外)』の領域へと踏み出す事はほぼ無い。

 

 そして()()()()の基準で魔改造レベル以上の事を施されたモノがここに。

 

 その罪悪感からかどうか知らないが、チエはそうやって間桐家では桜達となるべく一緒に居ようとした(本人達の強い希望と魔法の練習も兼ねて)。

 

「(────ってチエなら考えそうねー……真面目ねー……()()()()()()()…………まあゲーム的に言えば名前の入ったモブを疑似的に裏ボスに書き換える事になるか)」

 

 三月はそう思いながら黙々と料理をするチエを見る。

 

「(でも良かった。 彼女も良い思い出が出来て)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「桜ちゃんは何歳なの?」

 

「ろくさい!」

 

「あら~、イリヤとそんなに離れていないわね」

 

「えへへへへへ」

 

 軽い食事を終えた後、アイリスフィールと桜は気が合い本当の母子のように一つの座布団の上で互いに接し、それを微笑みながら見る三月と静かに表情を変えないチエとセイバー。 

 

 そこでチエは三月の方を見て彼女は桜を風呂に入れると言い、居間を出る。

 そこに切嗣、アイリスフィール、そしてセイバーの方を見た雁夜が口を開ける。

 

「さて、セイバー運営の方々。 聖杯の状態を戻すと言ったが、それは第一希望に過ぎない。 これは分かるな?」

 

 雁夜は一瞬アイリスフィールの方を見ると彼女は沈んだ顔になる。

 

「だからもしもの場合を考えなくてはならない。 今は比較的少量の魔力だけ聖杯に集まっていない。 だから何とかなっているが、問題は────」

 

「────遠坂時臣、か」

 

「ああ。 彼だけならまだしも、アーチャーは脅威だ。 二重の意味で」

 

「どういう事? 確かに遠坂時臣は優秀な魔術師で、あのアーチャーの実力は恐らくこの聖杯戦争で順位が高い方なのは分かるけれど」

 

「聖杯へ送られる魔力か」

 

「よくわかったな、衛宮切嗣」

 

 チエが切嗣へと肯定の声をかける、がアイリスフィールは分からずただ彼の方を見る。

 

「簡単な事だよアイリ。 ギルガメッシュは最古の英雄、つまり神代がまだ続く世の中」

 

「あ」

 

「そういう事、ちなみにチエさんの目安だとギルガメッシュの魂は英霊三騎分程に匹敵するらしい」

 

「「英霊三騎分だと?!/ですって?!」」

 

 アイリスフィールと切嗣の目が見開き、互いを見る。

 

 英霊三騎分。

 つまり英雄王ギルガメッシュを倒し、聖杯へと還すだけで願望機として機能するに必要な七騎分の半分弱が集まるという事だ。

 

 そしてその分アイリスフィールは『自分』を失う事となる。

 

「成程………迂闊にアーチャーが打ち取られるのは避けたい所だが………果たして奴と時臣がただ傍観するか………」

 

「何とか彼達を説得できないかしら? 聖杯に異常が出ているのなら────」

 

「────いや、それは僕も思ったがアーチャーはともかく、時臣は望みが薄い。 彼………『魔術師』にとって聖杯は『道具』だ、『根源』へ至るためのね」

 

「そんな…………」

 

「それに資料で見たところ、このトキオミは模範的な魔術師(メイガス)。 もし我々が英雄王を説得し、彼が行動すればトキオミは令呪を用いて我々を葬った後、英雄王に自害させる事は容易に想像できる」

 

「そうすれば後は聖杯を無理矢理にでも表現させて聖杯戦争を終わらせるって事だ」

 

「でも、そんな明らかなルール違反は聖堂教会からの監督者が────」

 

「────その言峰璃正には恐らく全て承知の上か良かれと思っているかも知れない、もしくは共犯者か。 どっちにしろグルだよ、アイリ」

 

「…………………」

 

 先程から現実を知らされ、落ち込むアイリスフィールと気まずそうなセイバー。

 

 聖杯戦争という儀式で器が必要なのは幼少からアイリスフィールは言い聞かされ、切嗣と会って一時的とはいえ迷っていたが夫の願いを聞いた後、決意を新たにし受け入れていた。

 

 だがいざ裏を返し、真実をこうも聞くのは未だに受け入れがたい。

 

 セイバーは願いを未だに決めかけているのを一旦保留にし、今は聖杯戦争で切嗣と生き残ることに専念していた。

 だが彼女もアイリスフィールの事情も知り、聖杯を求める者達の『試合』は己の実力の競い合いどころか出来レースもいいところ。良くて『茶番』でしかなかった。

 

「なら………私達は…………()はどうすればいいの?」

 

「………」

 

「この身体は最初から聖杯となるのは分かっていた。 でも切嗣の願いを聞いてそれでもいいと思っていた。 でも今のままでは聖杯は切嗣の願いはおろか、ちゃんと機能するのか分からない。 それにその異常が取り除かれたとしても切嗣の願いは叶わない………ねえ、(聖杯)はどうすればいいの?」

 

「アイリスフィール………………」

 

 アイリスフィールは今も泣きそうな、いや既に大粒の涙で泣き始めている瞳で周りを見る。 切嗣は申し訳なさそうな顔をしながら目を閉じる。 雁夜は呆気に取られ、どう声をかけたらいいのか迷っていた。

 そしてセイバーはチエを見る、もしかすると何か考えがあるのではないかと。

 

「…………セイバー、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』で聖杯の異常正常化は可能と思うか?」

 

「「「?!」」」

 

「…………」

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)』。 アーサー王伝説における常春の土地、妖精郷の名を冠した鞘、そして持ち主の傷を癒し、老化を停滞させるだけでなく、真名を以って開放すれば所有者をあらゆる干渉から守りきる、セイバーの守りの宝具。

 

 そして今はマスター囮役としてアイリスフィールに埋め込まれている。

 

 目を閉じ、考え込むセイバーは数秒後頭を横に振る。

 

「分かりません。 確かに『全て遠き理想郷(アヴァロン)』は所有者をあらゆる干渉から守りきります。 ですが聞くところによると聖杯は既に汚染されている状態なので………果たしてそれを正常化できるかどうか………」

 

 重い空気が場を支配する。

 

 今の切嗣に理想的な流れは、聖杯戦争を生き残り、雁夜と共にイリヤスフィールをドイツから奪還すること。 

 だが出来ればアイリスフィールを生かしたいという希望も出始めている。 ただ雁夜は聖杯が汚染していると言っている。 『この世全ての悪に』。

 

 雁夜としては今の膠着状態はかなり奇跡に近い事を実感している。 だがいつどこの魔術馬鹿(遠坂時臣)がしびれを切らして強硬手段に乗り出すかわからないし、もし三月達から聞いた話が本当なら()()()()()()()()()()()()()、冬木市は文字通り()()()()()()()

 

 だからこそのケイネス達、ランサー運営との同盟なのだが切嗣達はともかくアインツベルン本家はこの事を良しとしないだろう。 何せ手塩をかけた『聖杯』を一部とはいえ外部者に解析される事になるのだから。

 

「もし……」

 

「「「?」」」

 

「もし聖杯を…………()を正常にできなかったら、破壊して」

 

「「アイリ?!/アイリスフィール?!」」

 

「分かった」

 

「雁夜?!」

 

「これは次の手だ。 聖杯が悪用されない為の。 それに、()()()()()()()

 

 雁夜そう言いながら隣にいるチエを一瞬見るのを切嗣は見逃さなかった。

 

「(成程、本人(アイリ)が望んでいるからそう言っただけか)」

 

 そのように考えている中、チエは襖の開く音で横を見ると戻ってきたホクホク顔の桜がタックルをかます様に飛びついた。

 

「髪の毛をちゃんと乾かさないと痛むぞ、桜」

 

「えへへへ、じゃあチー姉がかわかして!」

 

「…………こっちに来い」

 

 チエがタオルを使い、桜の湿っている髪の毛を揉んでいる間三月が居間の中へと入り、皆の顔を見る。

 

「………どうしたの雁夜?」

 

「ああ、ちょっと聖杯の事でね」

 

「ふーん」

 

 三月は興味なさそうに切嗣、セイバー、アイリスフィールたちの顔を見ると。

 

「貴方達は聖杯に願いは無いの?」

 

「私は元から切嗣の願いを願っているわ」

 

「僕は…………家族と幸せに暮らせれば、それでいい」

 

「ふーん。 セイバーは?」

 

「私は………今後の事は分かりません。 ですが今はランサーと決着をつけたいと思っています」

 

「そっか。 ねえ雁夜、少しの間留守を頼めるかしら?」

 

「あ、ああ。 それは良いけど、お前は?」

 

「う~ん、チエちゃんと()()

 

「そうか、気を付けろよ」

 

 三月は返事をせずにただ笑い、チエと共に屋敷を出る。

 

 夜が朝へと変わるも二人は戻ってこず、再び夜になる。

 




作者:いよいよクライマックスじゃー!

マイケル:てか三月も無敵じゃないんだな

ラケール:ね? 私もびっくり

三月:貴方達は私を何と思っているのよ

マイケル:悪戯好きの悪ガキ

ラケール:マセたガキ

作者:色々と残念────ヘブァ?!

三月:最後のは余計よ!

マイケル:と言うかそのハリセンは何処から出た?


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第17話 人外同士

 ___________

 

 三月、チエ 視点

 ___________

 

 

「グッ………ごめんねチエ」

「気にするな」

 

 暗い夜道を二人の女性が歩く。 一人は苦しみながらもう一人に肩を貸してもらい、肩を貸しているものは何事もないようにただ返事をする。

 

 二人が付いたのはとあるビルの前。 そこで三月は大きく息を吸い、フラフラになりながらも気丈に立つ。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

「ああ」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「これはお二人とも、先日ぶりです」

 

「ん? おお! バーサーカーに小娘ではないか!」

 

 ビルの中に入り、あるフロアまで階段を上がりドアを開けると警護を務めているランサーとソファーに踏ん反り返っているライダーがチエと三月に挨拶をする。

 

「ロード・エルメロイは?」

 

「主()ならいまだに研究に籠っています」

 

 ランサーが閉まってあるドアを見ながら三月に返事をした。

 

「そうですか、少し具合を見てきm────」

 

 ガチャリとドアが開き、中からズカズカと出てきたソラウは近くにある紅茶の入っているポットにメープルシロップを乱暴に入れ、来た時と同じように部屋の中へとポットごと持って入りドアを閉めた。

 

「………………」

 

「あー、かなり根詰まっていますね」

 

「そうさのぉ、坊主達の姿も今日はほぼ見ていない。 時折ああいう風にランサーが用意したものを取るぐらいか?」

 

 今出てきたソラウは目の下にクマが、服はくたびれて、今の動きもどこか機械的だった。

 

 そして何故ライダーもここにいるかと言うとあの夜、三月達はウェイバー・ベルベットが拠点として使っているマッケンジー家に行き、現在の聖杯に異常がある事等を説明した。

 

 ならば今聖杯の為に戦っても意味がないというライダーに対して、では待っている間聖杯の解析の手伝いをウェイバーに三月が持ちかけた所、彼は心底嫌がっていたがそこにチエが「キャスターの根城を探し出せた才能は本物、それを生かすチャンス」と言われ、満更でもない気分にウェイバーはしぶしぶ申し出を受けた。

 

 ただケイネス達の工房に連れてこられた当初、彼とケイネスはギクシャクどころか、一触即発のような空気だった。

 

 三月の推薦もあり、ウェイバーには広い視野とそれを活躍できる『通常とは別のアプローチ』に長けている事とシンプルなアプローチでキャスターの捜索を成功させていたなどからケイネスは嫌がりながらも応じた。

 

 するとどうだろうか? 確かにウェイバーは浅すぎる出生や足りない技量、『魔術師』としては菲才もいいところだ。 だが彼の効率を重視、型に囚われない柔軟な考えはケイネスにとっては未知なものであり、聖杯の解析を大幅に加速させていた。

 

 その反面、胃に穴が開きそうな思いをしながらもウェイバーは『神童』と呼ばれたケイネスの才能を直に目にする。 自分にはない才能を大いに活用して研究に没頭するケイネスは時計塔で見たことがない側面に驚き、「ああ、やはりこの人はすごいや」と認めつつあった。

 

 最後にソラウはこの二人が最初はギスギスしていた関係から心配はしていたものの、ある時からまるで歯車がカチリとはめ合うかのように聖杯の解析に没頭する二人の姿は『敵対者』から『師弟』に代わっていたのに対して、自分も加わりたいとケイネスだけでなくウェイバーのサポートも全力で当たっていくようになった。

 

 一日程度だけとはいえ魔術師達にとって徹夜は当たり前。 特に食事などの時間以外何かに専念するのも珍しくはないが、効率重視のウェイバーと三月の説得もあって、今ケイネスの拠点には暖房が効いていて、温度は常に一定。

 

 暖炉の様子を確認する必要は無く、ポットはいつでもお湯が出る状態。 電話を(主にランサーが)使えば素早く連絡を取り、食事などを外から素早く取り寄せられる。

 

『科学を毛嫌いしているのが魔術師』。

 だが聖杯の解析を一刻も早くして欲しいと持ち掛けた三月は「時間を省けた分を魔術や研究に使えるようになる」と、今更ながら便利性をフル活用していた。

 

 以上の事のおかげで解析と研究のスピードはどんどん加速をつけ、今では数日間かかりそうな事を数時間かにまで圧縮出来た。

 

「う~ん、この分じゃあもうちょっとかかりそうかな?」

 

「お! ではこの“しょうぎ”とやらをしようではないか!」

 

 ライダーは目を光らせながら将棋の碁盤と駒を取り出しチエの方を見る。

 

「すまんな征服王、俺は騎士であって軍師ではない」

 

「謙遜するな! お前さんも中々やるぞ?」

 

「では征服王、一局お願いしよう」

 

 再びドアが開くまでの数時間、ライダーとチエは将棋をし、ランサーは見回りを。 そして三月はドアが開くと同時に中からケイネスが出てくるのを見た。

 

「おお、これはプレラーリ嬢。 待たせたかな?」

 

 中から出てきたケイネスはソラウ以上に見た目が酷かった、そして彼が出てきた部屋の惨状も『酷い』の一言では済まされないような景色が開かれたドアから垣間見えたが、三月は彼が手に持っているものを見た。

 

「それが………出来たのですか?」

 

「ああ、聖杯から汚物を分離する、私の渾身の対聖杯用魔術礼装だ」

 

 ケイネスの手には水銀でできた短槍より一回り小型なものが複数あり、ケイネスはさっきから達成感に歪んだ笑顔をしている。

 

「使い方は至極単純、これらを聖杯に当てればいいだけだ。 そうすれば術式が互い共鳴し合い始め影響を及ぼす」

 

「つまり………これを作動した状態にし、狙いをつけて聖杯に当てる」

 

「そうだ。 ただ射程距離は長くない、せいぜい十メートルと言ったところだが…………肝心なのは当てる数とタイミングだ。 少なくとも二本以上短期間内に当てなければこれらの効果を理解して対策してくるだろう」

 

 そういい、ケイネスは前に進もうとすると体がよろけ、現れたランサーが支える。

 

「我が主、少し休憩をされてはいかがか?」

 

「………そうだな、少し目を閉じるとしよう。 その前にソラウと………ウェイバー・ベルベットを」

 

「は」

 

「ではプレラーリ嬢、私は少しの間休む。 お前は聖杯を────」

 

「────はい。 次に目を覚ますまでには必ずや確保致します」

 

「うむ。 では」

 

「………チエ、行くわよ」

 

「ああ」

 

「おいおい! 勝負はまだ終わっておらんぞ?!」

 

「帰ってきてから再開しよう。 先にマスターを寝かしてきたらどうだ?」

 

「で、あるか。 ではな、バーサーカー!」

 

「ああ。()()

 

「ああ、ランサー。 これをロード達に渡してくれるかしら? 目が覚めた後で良いので」

 

 三月は封筒を三つ出して、戻ってきたランサーに渡す。

 

「何だ、これは?」

 

「本当は直接話したかったんだけど今はお疲れの様だから。 では」

 

 三月は一礼した後、チエと共にはビルを出て、()()()()へと向かいながら雁夜に思考を飛ばし、彼は眠っていたのかどこか心ここに在らずのような返事をしてきた。

 

『雁夜、起きている?』

 

『……ん~三月か……どうした?』

 

『夜分遅くに()()()ね。 ありがとう、楽しかったわ』

 

『………は???』

 

『それと、鍛錬を怠らずにしておきなさい』

 

『な、ちょっと待ってくれ────』

 

『────桜にもそう伝えて。 彼女の世話を見てね────』

 

『────だから人の話を────!』

 

『────()()()()()

 

 思考を切り、三月とチエは円蔵山の洞窟の入り口で止まった。

 

 円蔵山。

 冬木市最高の霊地であり、魔術師に対しては身体に害を及ぼして修行や研究に響きかねない程にマナが濃く、かつてここに本拠点を置こうとした御三家もあきらめている程の場所。

 

「さ~てと! 突入する前に、チエはこの“バカンス”はどうだった? 楽しかった?」

 

 準備体操をする三月はチエのそう問いかけると、チエは考え込みながらいつもの変わらない声で返事をする。

 

「………そうだな。 未だに“ばかんす”足るものは理解していないが………強いていうのなら『何もなかった』な」

 

「……うん! 貴方がそう言うのなら甲斐があったと言うものよ♪ さ~て、派手にやりますかね!」

 

 心の底から笑う三月に続き、チエは洞窟の中へと進む────

 

 

 

 

 

 

「ほう、意外だ。御三家以外の者にここが知られているとは」

 

 ────前に()から声がかけられ二人が見るとそこには船と言うにはあまりにも神々しい雰囲気を出していたものの上にアーチャーと後ろに控えている時臣と綺礼が見下ろしていた。

 

天翔る王の御座(ヴィマーナ)』。

 インド神話に登場する、水銀を燃料とする太陽水晶によって稼働し、思考によって操縦するという自在に空を飛ぶ乗り物。正確にはその原典をギルガメッシュは保持していた。

 

「アーチャーに遠坂時臣、それに言峰綺礼?! 何故────?!」

 

「何、戯れに我が観ていたら何やら地を這いずるものたちが何か面白そうな事をしていたのでな。 光栄に思うがいい」

 

『千里眼』。

 最高位の魔術師の資格であると同時にその気になればあらゆる平行世界の可能性や未来までをも見通せることができる遠見のチート級のスキル。 普段は敢えてこれを使わないギルガメッシュ。 

 

 そして自分の気に入らない可能性は「そんな世界線はありえんな」と一蹴していたが、気晴らしに使って見ると()()()()()()()()が何しでかそうと行動していたのが見えた。

 

 その上気にかけていない時臣が珍しく、自らが共に前線に出たいと申し、今に至るまで時臣は目的地を知り、「チエと三月が()()()手にいれようしている」と吹き込んだ。

 

『チエ』

『わかっている』

『ありがとう………ごめんね?』

『謝る必要などない』

 

「王よ、発言してもよろしいでしょうか?」

 

「良いだろう」

 

「ありがとうございます。 ではお二人方、何故ここに? それに────」

 

 時臣は三月が背負っているリュックを見る。

 

「────何やら()()()()()をお持ちの様で?」

 

「チエ!」

 

「ふんッッ!」

 

 三月の掛け声と同時にチエは足首近くの枝を蹴り上げて、アーチャー達の乗るヴィマーナ目掛けて投げる。

 

 普段なら木の枝など普通の人間にとっても余程の事がなければ脅威ではない、ましてやサーヴァントに。

 

 ただ、今のチエはかつて召喚されたバーサーカーのスキル等の使用が可能となっている。 そしてかの者は『湖の騎士』呼ばれた。 真名ランスロット卿、アーサー王伝説で登場する円卓の騎士最強とまで称された者。

 

 ランスロット卿の宝具の一つ、『騎士は(ナイト・)徒手に(オブ・)て死せず(オーナー)』。

 それは手にした兵器に「自分の宝具」として属性を与え扱う能力。 これによってただの木の枝も低ランクだが宝具として定義される。

 

「小癪な」

 

 それをあざ笑うかのようにアーチャーはその場から動かず、『王の財宝』を展開して様々な武器をチエ目掛けて飛ばしていた。

 

「では王よ、私達はもう一人の方を。 行くぞ、綺礼」

 

「は」

 

 そういい、時臣と綺礼はヴィマーナから飛び降り、洞窟内部へと走っていった三月の後を追おうとした。

 

 だが────

 

「────なに?」

 

 時臣と綺礼はチエがアーチャーの数々の宝具で吹き飛ばされたと思った中、彼女は健在どころかアーチャーの放った宝具を手にしていた。

 

「まさか、英雄王の武器を空中で掴んで迎撃した…だと? (奴め、本当にバーサーカーか?!)」

 

「……………」

 

「ほう? 手癖の悪い女だな。 本来なら我が宝物に触れる事は死を持って償わせるが……両手を切り落とし、我に供えよ」

 

「断る」

 

 チエの即答にアーチャーは不機嫌になるどころか嬉しそうに笑い、目を細める。 時臣と綺礼はこれを見て内心驚く。 二人はこんなにご機嫌なギルガメッシュは見た事がないからだ。

 

「クックック……そのように強情な女、欲しいな。 時臣に綺礼」

 

「は」

 

「手出し無用だ、こ奴は我の()()。 貴様達に法を破る者を捕らえる名誉を与えよう」

 

「はは、仰せのままに」

 

 時臣達は洞窟へとまた進もうとするとチエが道を阻むために動くがアーチャーが先回りして数々の武器を放ち、足止めをする。

 

「どこまで凌ぎきれるか見ものよな! それでこそ屈服しがいがあるというものよ!」

 

「くッ!」

 

 チエは先程と同じように飛来してくる武器を掴み取り、迎撃(あるいは地面に突き刺し)ながら時臣と綺礼を止めようとするが現れた複数のアサシンが投擲した短剣(ダーク)によって侵入を許してしまう。

 

「チィ!」

 

 そのアサシン達もアーチャーに加勢しようと動いた瞬間、『王の財宝』から放たれた武器に串刺しにされ、消滅する。

 

「雑種共め、我の言葉を聞いていなかったか? では続きをしようではないか、自称『バーサーカー』とやら。 いや、『原初の神』の一柱よ」

 

「?!」

 

 ここで初めてチエの表情が『驚愕』へと変わる。

 

「我が気付かないとでも思ったか? 我は英雄王ギルガメッシュ、最古の英雄にして人類を神から決別させた男だぞ? あの頃の嫌という程の()()からすぐに気付いておったわ」

 

「…………」

 

「だが解せぬ事がある、()()()()()()()()()()?」

 

 チエは何も言わず、ただギルガメッシュを睨む。

 

「ふ、まあ良い。 貴様を我のものにすれば済む事!!!」

 

 かくして第四次聖杯戦争で恐らく一、二位を争う個人での戦いが始まる。

 

 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 息を切らせながら円蔵山の地下にある鍾乳洞を目指し三月は()()

 

「ハァ! ハァ! ハァ! (やっぱり走るのしんどい! 疲れるし、めんどくさいし、汗も身体に纏わりつくこのザラザラ感! 鬱陶しいったらありゃし────!)────わッ?!」

 

 地震のように突然揺れる大地に三月は足をもたつかせ、壁に寄って倒れるのを防ぐ。

 

 恐らくはギルガメッシュとチエの戦いの余波なのだろうと思った三月は申し訳なさそうな顔を振り、また進む。

 

 ここで彼女が足を止め、聖杯がそのまま稼働しては今までの事が水の泡如く無駄に終わる。

 

「ここは…………」

 

 三月は開けた場所にたどり着き、前に()()()()を見る。

 

 円蔵山の『龍洞』。

 ここは六十年かけて冬木の魔力を吸い上げてきた聖杯が設置してある場所。 正確には『大聖杯』。 冬木の土地を聖杯降霊に適した霊地に整えていく機能を持つ、超抜級の魔術炉、そして聖杯戦争のシステムを管理するもの。

 

 もともとは神々しいものだった筈が今はとてつもなく禍々しいドス黒い気配と見た目をしている巨大な杯。

 

「これが…………大聖杯」

 

「その通りだ」

 

「え?!」

 

 三月は突然声がした事に目を見開いた…………のではなく声の発生源の方を見て見開いた。

 

「そう驚く事もないと思うが?」

 

「あ………あ………あ………」

 

「ふむ、そのような顔を見るのは初めての筈なのに()()()()()()()()()というのは聊か微妙な感覚だな」

 

 コツンコツンと歩く足音が洞窟内に響く。

 

 三月はこの声を()()()()()()()()()()()

 

「だが悪くない、むしろ心地良い」

 

「そ………そんな………な…………………何故ここに?」

 

「ありえない事はありえない、とでも言って置こうか?」

 

 そう、三月にとっても()()()()()()()()事だ。 何せ()()()()()()()()()()()()()()()()筈だからだ。

 

 チャリっとする音がする。 それはロザリオの鎖が軋む音。

 

「何で貴方がここに居る?! ()()()()!」

 

 三月が震えながらも睨んでいる先には神父服を着た男がいた。

 

 だが先ほど見た男と違い、髪は肩まで伸ばしており、顔も幾分か老けているように見えた。

 

「『何故』か………ふ」

 

 ()()()()が遠い目をしたと思った瞬間、彼は既に三月の眼前まで来ていて、掌打を三月の胸に食い込んでいた。

 

「かッ?!」

 

 三月の体は衝撃から吹き飛ばされた先の壁に当たると、()()()()の踏み込みから発生した爆音が洞窟内に響く。

 

「他愛ない」

 

 身体に力が入らず、ただ地面に崩れながら痙攣する三月を見ながら()()()()は言うが、その言葉は混乱している彼女に伝わっていない。

 

「な、なんだこれは?!」

 

「ッ?!」

 

 ()()()()は龍洞の入り口で大聖杯を見て驚いている時臣と自分を見て息を吸い込む言峰綺礼を見た。

 

「ふむ、これはこれで奇妙な………」

 

「な、馬鹿な?! お、お前は────?!」

 

「ん!」

 

 時臣が驚いている中、隣にいた言峰綺礼が踏み込み、三月を吹き飛ばした()()()()がそれに対応した。

 

 二人の攻防は鋭く、正確であり、格闘家ではない者にも芸術的に見えただろう。

 

 同じような型や構え、受け流しとカウンター。

 

 激しい音の中、言峰綺礼は後ろにいる時臣へと飛び、相対する。

 

「師よ、こいつは強い」

 

「成程、流石()()()()()だ」

 

「貴様が私など認めるものか」

 

「だが心の奥底では気付いてはいるのだろう?」

 

 言峰綺礼と()()()()の二人を時臣は見合わせる。

 一人は自分がよく見知っている、もう一人はその知っている男がもう少し年を取ったような雰囲気だった。

 だが紛れもなく二人から感じる()()()()()。 

 呼称をつけるなら言峰綺礼(若)と言峰綺礼(老)といったところか。

 

「師よ、ここから出て他の連中にもこの事を」

 

「何?」

 

「ほう?」

 

 時臣は珍しく自分から何かを言い出す綺礼(若)に驚き、綺礼(老)はニヤリと面白そうに笑いを浮かべる。

 

「何を言うのだ、綺礼?」

 

「この者は強い。 師をお守りしながら勝つのは不可能、そして師のさっきの反応から恐らく()()は通常の状態ではないかと」

 

「成程、では殿を任せた」

 

 綺礼(若)の言葉につられ時臣は少しずつ元来た道へと後ずさると、三月が突然彼に飛びつく。

 

「ッ! 師よ!」

 

 そのまま時臣の体はよろつき、さっきまでいた空間に()()()が通る。

 

 綺礼(若)はそのまま時臣と三月両方を引っ張りその場から三人は消えた。

 

「逃がしたか」

 

 声の発言者は先程の黒い刃の持ち主。 黒い甲冑を身に付け不健康そうな青白い肌。

 

「安心しろ()()()()奴らは戻ってくる」

 

 ()()()()と呼ばれた甲冑姿の者がバイザーらしきものを顔から取ると、そこにはかのアーサ-王と瓜二つの顔があった。

 




作者:……………………………ORZ

マイケル:何だこいつ? 部屋の端でず~っとだんまりで?

三月:あー、何か最近“コロナ”っていう病気が増大中の中、仕事が以前より倍に増えた上にやっとプレイ出来たサイバーパンクが思ったよりクソゲーだったのに精神的に参っていたみたい。

マイケル:病気の方はまあ……仕方ないとして、たかがゲームだろ?

三月:それがTRPG版を好きだっただけに滅茶苦茶落胆したんだって。今回も仕事に合間にちょこちょこと書いたから自信ないらしい

チエ:…………がんばれ

三月:チーちゃんが気休めを言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!

ラケール:という訳で読者の皆さん、作者の代わりに…カンペ、カンペっと……『投稿遅くなってすみません! 決して忘れた訳では無いのですが仕事がいつも以上に押し寄せて来たので息抜きにゲームをプレイしたらあまりにも落胆していました!』………ってこれただちょっとブルーになっただけじゃない?!

三月:これでノイローゼにならないと良いんだけど

マイケル/ラケール:怖い事言うな!/怖い事言わないで?!

チエ:雪も積もっているわね

マイケル/ラケール:空気読めよ?!/空気読みなさいよ?!

三月:え~、もう一つの作品の“俺と僕と私と儂”も
時間さえあれば書いているので次はそっちが投稿されると思いますので、どうか少しのご辛抱を!


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第18話 覚悟という名の勇気

遅くなって申し訳ありません。


 ___________

 

 アーチャー、チエ 視点

 ___________

 

 

 先程見た円蔵山の洞窟の入り口付近には数々のクレーターが出来ていて、木や林は無く、ほぼ更地と化していた地形の上は壊れた数々の武具で埋め尽くされていた。

 激しい金属音と爆音が続く音の発生源には二人の人影が衝突していた。

 

 一人は金髪赤目のアーチャーが金色の甲冑を纏い、笑いながらもう一人の黒髪赤目のチエに切りかかりながら武器をこれでもかと周りから放っていた。

 

「フハハハハハハハ! 何かして見せよ、女! 俺がこうも高ぶるのはそうそうない事だ、光栄に思え!」

 

 目立った傷を負っているアーチャーだがまだまだ余力を残しているのか、あるいは()()()()()()のか、お構いなしに猛攻を続ける。

 

「くッ!」

 

 これに相対するチエは苦しそうに、または悔しそうな顔をしながらアーチャーの攻撃を流す。

 

 こちらはアーチャーと違い、目立つ傷がそのまま影響を与えているのか動きが時々ぎごちなかった。

 

「(早くしろ三月、やはりギルガメッシュは()()()()程度の力では────)────グッ?!」

 

 突然チエが手に持っていた槍が崩れ去り、ギルガメッシュの振るう斧を避ける為に後ろへ飛ぶと彼女の背中が何かに衝突する。

 チエが横目で見るとそこにはアーチャーが先程放った大きめのハルバードが地中深く突き刺さっていて、アーチャーは『してやったり』と笑いながら斧をもう一度振るう。

 

「(さあ、俺に見せてみよ!)フハハハハ! さあどうする女?! 腰のモノを抜け!」

 

「(これは………不味いな)」

 

 チエは今までの攻防の中、腰の自身の刀は抜いていなかった。

 

 これに気付かない筈が無いギルガメッシュは彼女の()()が見たいが為にワザと今の状況を作り、延々とチエと敢えて『接近戦』という、アーチャーのクラスには不向きな筈な戦い方をしていた。

 

 単にアーチャーは今まで何も出来なかった事の鬱憤を晴らす為だけではない(七割程はそうだが)。

 

 チエは素早く周りを見たが辺りには壊れた武器ばかり、背中には自分より大きいハルバードが深く地面に刺さってとてもではないが、抜き取れる状態ではなかった。

 

 ガキィンッ!

 

「何?!」

 

「ヌグオオオオォォォ?!」

 

 金属がぶつかり合う音はアーチャーの斧の刃とチエが()()()()()()()()()を使い、攻撃を真正面から受け取った事にアーチャーは驚きと怒りを混ぜた疑問の声を出し、チエは両腕に走る痛みに踏ん張りの声を出した。

 

 弾き返した斧にはひびが入っているのを見るとそのまま横に飛び、斧をチエへと投げ、チエはこれを躱す。

 

「貴様…………どういうつもりだ! 初めの勢いはどうした?!」

 

「…………」

 

「まさかとは思うが貴様………俺を愚弄しているのではないな?」

 

 チエは答えず、ただ自分の腕に集中して取り敢えずは感覚だけでも取り戻そうとして────

 

「────AAALaLaLaLaLaieeeeeeee!!!」

 

 轟音と爆音と高らかな声と共にアーチャーとチエの間に()()が空から降ってくる。

 

「ライダー?!」

 

「雑種が────!」

 

「────双方待たれよ! 金ぴかにバーサーカーよ、()()を感じぬか?!」

 

「チエさん! 三月はどこだ?!」

 

「バーサーカー、ご無事ですか?!」

 

「な、雁夜にセイバー?! 何故ここに? それに────!」

 

「────切嗣、セイバー! あの洞窟の中からよ! 早くバーサーカー達を────」

 

「────貴様ら、我を無視────!」

 

 唖然とするチエの前にはライダーの戦車から下車するセイバー運営に雁夜がチエに駆け寄り、ライダーは戦車から降りると未だに邪魔をされて怒り増大中のアーチャーへ声をかける。

 

「あんな禍々しい空気、魔術師ではない余でもこう近寄っただけで気持ち悪くなるのに二人は何を呑気に痴話喧嘩などしている?!」

 

「痴話喧嘩ではない────」

 

「そうだ、これはしつk────」

 

「「────?!」」

 

 アーチャーとチエはハッとするように洞窟の方を見る。

 

 ___________

 

 セイバー、アーチャー、雁夜運営 視点

 ___________

 

 

 今まで相手に集中していた故感じていなかった異常にチエは寒気を感じ、アーチャーは不愉快な苛立った顔を作る。

 

「これは────」

 

「────チエさん、三月はまさか────」

 

 あの中か?と雁夜が言う前にぐったりとした三月と時臣を抱えた綺礼が洞窟から飛び出し────

 

「────綺礼!!!」

 

「────?!」

 

 ────チエは軋む体を無理やり動かし、綺礼達三人のそばまで跳躍して他二人を抱えている綺礼を横へと倒すとチエの胸にずぶりと手刀が撃ち込まれる。

 

「ウッ、ゴハッ」

 

 呑み込めなかった血を吐きながらチエは手刀がそれ以上めり込む前に片手でその腕を掴み、無理やり抜けさせ後ろへと他の皆がいる所に飛ぶ。

 

「フム、準備運動としてはまあまあだな」

 

「ごど…みね゛」

 

「「「え?!」」」

 

「ム、これはまた珍妙な」

 

「チッ」

 

 洞窟の影になっている場所から言峰綺礼(老)が出てそこにいるセイバー運営、雁夜が驚き、ライダーが興味深そうに見る半面、アーチャーは舌打ちをしながら汚物を見るような顔をした。

 

「貴様」

 

「油断大敵…では無く、生への密着が無いからだと言うべきか────ヌッ?!」

 

 綺礼(老)を睨む綺礼(若)に綺礼(老)が声をかける途中セイバーが斬り込み、綺礼(老)が素早く黒鍵でこれを受け取る。

 

「な、馬鹿な?!」

 

「これは嬉しい誤算だな。やれ、()()()()

 

「ッ!」

 

 セイバーは何かに気付いたかのように手に持っている剣の向きを変え、咄嗟に()()()の斬撃をガードし、後ろへと後ずさむ。

 

「「「な?!」」」

 

 この新しい乱入者にセイバーと切嗣と雁夜はまたも驚き────

 

「何と?!」

 

 ライダーは目を見開き────

 

「そんな?! セイバーが………()()?!」

 

 アイリスフィールが()()のセイバーを見比べる。

 

「……………」

 

 黒い甲冑姿の()()()()は何も言わず、ただ睨む。

 

「フン、成程な。 我らが『影法師』であれば、貴様らは『影』そのものと言ったところか」

 

「ほう。流石はアーチャー、いやギルガメッシュ王か」

 

 綺礼(老)が答え、先程までぐったりしていた三月が下ろされ、時臣も立ち綺礼(老)を見る。

 

『雁夜!』

『うわ?! いきなり大声────』

『────今すぐに一番きついのを撃ちなさい!』

『え? でm────』

『────撃・て!!!』

 

 三月のドスの効いた声に雁夜はすぐに行動を移す。

 

「皆下がれ! 唸れ! 轟音!」

 

 各人達がライダーの戦車とアーチャーのヴィマーナに乗り込むと同時に綺礼(老)と黒い甲冑姿の()()()()の周りの空気がところどころ圧縮し、爆ぜる。

 

 爆音が続く中、雁夜はライダーの戦車に乗り込むとヴィマーナの後を追い空へと飛び立つ。

 

「バーサーカー!」

 

「アイリ、治療を頼む────」

 

「ええ、バーサーカー傷を────」

 

「どうしたんだ? 具合が────」

 

「ッ! 皆しっかり掴まっておれい────!」

 

 ライダーの戦車は空中で回避をすると轟音と共に黒い魔力を纏う斬撃が空を切る。

 

「今のは『風王鉄槌』?!」

 

「いいえ、違いますキリツグ! あれは単なる()()です!」

 

「馬鹿な! 地上からここまで────」

 

「また来るわ! ライダー!」

 

「分かっておるわい! 振り落とされるなよ?!」

 

 迫り来る斬撃をライダーの戦車は右左、上下と躱し続ける中、三月の顔が青くなるのを雁夜が珍しく心配する。

 

「三月?!」

 

「雁夜…私────ゴハッ!」

 

 三月が咳をし始め、手で口を覆うが指と指の間から血が漏れる。

 

「こっちにも治療を────!」

 

 雁夜がチエの傷を塞いでいっているアイリスフィールに声をかけようとすると三月が彼の顔を自分の方へと戻す。

 

「────雁夜、よく聞いて。 私のリュックの中にある水銀の短槍が────」

 

「────今はそんなのは良い────」

 

「────いいから聞け! 水銀の短槍はケイネス特製の対聖杯用魔術礼装────」

 

「────何を言って────?」

 

 困惑する雁夜を無視し、三月は延々と説明を続ける。

 

「────射程距離は長くないわ、せいぜい十メートルと言っていた。 肝心なのは当てる数とタイミングで少なくとも二本以上短期間内に当てなければ()()()はこれらの効果を理解して対策をしてくるわ」

 

「な、何を言っているんだ? ()()()?」

 

()()()? どういう事だ?」

 

「大聖杯と小聖杯があって、小聖杯は敗れたサーヴァントを集めてできた魔力、またはそれを世界の外側へ放って、できた孔から引き出した魔力が、願いを叶えられる力へと変える。 そして大聖杯、これが────ゲホッ! ゴホッゴホッ!」

 

「もういい、喋るな三月!」

 

「時間が無いから単刀直入に言うわ。 汚れている小聖杯をいくら浄化しても意味は無い。 大元の大聖杯に対聖杯用魔術礼装を使って浄化しろ、雁夜!」

 

「お、俺が? だ、だが俺は────」

 

「私にはまだやるべき事がある! ここで()()()()にはなれない!」

 

「む、無理だ………俺は、半人前で────」

 

「────お前ならやれる、雁夜! このままだと冬木市は火の海にな────!」

 

「────セイバー!」

 

「ハアアアアァァァァァァ!」

 

 回避運動が疎かになりつつあるライダーの戦車に迫り来る斬撃をセイバーが叩き下ろし始める。 これを見たと思われるアーチャー運営のヴィマーナは戦車の隣について、アーチャーはライダーを笑う。

 

「は、所詮は地を這いずるのが似合う牛共よ────」

 

「────金ぴか、ぼさっとしてないでちょっとは────」

 

「────雁夜、やれるかやれないかじゃない。()()()()

 

 そう言い残すと三月の目は虚ろになり、身体から力が抜ける。

 

「どうした、雁夜?」

 

「………アイリスフィールさん、三月を頼む。 チエさん、セイバー。力を貸してくれ」

 

「え、ええ。いいけど貴方は?」

 

 雁夜はそう言い、アイリスフィールには声で答えず一瞬苦笑いを浮かべる。 三月からリュックを取って自分が背負い、隣まで来たヴィマーナに頭を下げる。

 

「「雁夜?!」」

 

「ギルガメッシュ王よ!」

 

「ん?」

 

「俺は………俺は聖杯を浄化しに行きます! どうか一時休戦を!」

 

「良い、許す」

 

「「「「?!?!」」」」

 

 アーチャーのほぼ即答にそこにいる者達はびっくりする。

 

「我も聖杯があんなに汚れていてはかなわんからな、少し我自ら汚れを落とそうと思っていたところだ。 行け、雁夜とやら」

 

「ありがとうございます! 時臣、邪魔をするんじゃねえぞ! セイバー、チエさん────!」

 

「────チエで良い、行くぞ!」

 

 傷が塞がったチエは立ち上がり、雁夜も立ち上がるとセイバーも立つ。 これに時臣と切嗣達は雁夜に叫ぶ。

 

「雁夜、正気か? 相手は少なくとも綺礼並みの体術の上にセイバー並みの戦力なのだぞ?」

 

「そうだ、それに情報が必要だ。 今は撤退して────」

 

「────そんな悠長に時間をかけていられない! ライダー、皆を安全なところまで連れて行ってくれ! ()()()、二人とも!」

 

 雁夜の掛け声と共に彼、チエ、そしてセイバーは戦車から躊躇なく飛び降りる。

 




作者:や、や、やっと投稿出来たどー!

マイケル:しかも最後の方はなんかロープなしのバンジージャンプになっているし

ラケール:いや、まあ………私達も本編で同じような事しているし

チエ:うむ、あの浮遊感は心地良いな

作者/マイケル/ラケール:え?

チエ:ん?

作者:…………………えー、と言う訳で大詰めっぽいところまで来ました! 次はどの世界にし・よ・う・か・な~?

マイケル:え? まだするのコレ?

作者:うるさいやい! これめちゃくちゃ楽しかったんだから勘弁しろよ!

マイケル:本音は?

作者:あまりにも三月とチエのコントが面白くてつい

ラケール:本編は?

作者:う゛…………頑張ります…………

チエ:両方の作品並行はよほど切羽詰まっているとみた

作者:まあ…………少なくとも週一はキープしたいです。ハイ

ラケール:というか、この次の世界って────

作者:────はいそこでストップ! アンケートを出す予定ですがそれは後で!


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第19話 光無き太陽

これ書いている時ずっとZeroのBGM聞いていて思ったより捗りました。

ちなみに聞いていたのはThis day, and never againとThe Battle is to the Strongでした。 ループとシャッフル可で。


 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 

 やあ、俺間桐雁夜。 しがない元ルポライターで、今は聖杯戦争に参加しています。

 

 ハッキリ言って今人生最大の恐怖感じています。

 

 何故かと言うと今、上空数百メートルぐらいから飛び降りて風が滅茶苦茶強くて────

 

「考えはあるのですね、間桐雁夜?!」

 

「無い!」

 

「なッ?!」

 

 セイバー(アーサー王)が目を見開く。

 

 当たり前か、俺を信じて飛び降りたからな。

 

「だが俺は死ぬ気はない!」

 

 チエさんは笑った(と思うが正直ジッと顔を見ている余裕はなかった)。 

 

 俺は目を閉じて集中し、今まで見えなかった巨大な渦のような()()を纏っている球状の皮のようなものを()()()()()

 

 その瞬間、何か熱のようなものが俺の胸の奥から湧いてくる来るような感覚が俺の体を覆い────

 

 

 

 

 ────ああ、()()が魔法を自分で行使する時の感覚か────

 

 

 

 と直感で理解した瞬間、どこを何すれば良いのかイメージとして脳に直接訴えてくる。

 

 先ずは重力操作で俺たち三人の体重を軽くして、いや()()()()にして減速を────

 

「な、これは…この光は何だ?」

 

「やっと()()()()か、雁夜」

 

 その次は風邪を、いや方向性を持たせた暴風を地面から………これも違う。 方向性を持たせた暴風を()()()()()から放出────

 

「────雁夜!」

 

 セイバーが横から叫び、俺が目を開けると黒い斬撃が前から来ていた。

 

 が、俺たち三人は同時に横へと体が動き斬撃を躱し、俺たちは無事に地面へと着陸する。

 

 そして目の前には黒い甲冑姿の()()()()……………

 

 いや、()()俺なら分かる。 

 

「こいつはセイバーであって、セイバーではない………『セイバーの別側面』って言ったところか?」

 

「………雁夜、ここは私に任せて先に行ってください」

 

 セイバーが前に出る。

 

「………分かった。()()()()()

 

「先に行っていくぞ、()()()()()

 

 チエがそう言うと黒い甲冑の()()()()が僅かにピクリと反応する。

 

 だが雁夜とチエが横を通る時には何もせず、セイバー達はただ静かに相手を睨み合う。

 

 すると────

 

「今の何だ? 貴様、本当に私か?」

 

 黒い甲冑の()()()()が不機嫌そうな、怒ったような声を静かに上げる。

 

「フ、私は確かに『アーサー王』とかつて()()()()()()が────()()()()()()()()()。 今の私は一介の……『アルトリア』だ!」

 

 最後の言葉が開戦の合図かのようにセイバーが()()()()へと突進する。

 

 雁夜は後ろから来る衝突の余波を肌で感じ、頭を────

 

「────心配するな雁夜。 早く浄化すれば済む事だ」

 

 雁夜の()()()()チエが安心させるかのように言うと雁夜が笑い始める。

 

「どうした?」

 

「いや、意外なだけ。 チエは無表情だけで、他人を思いやれるんだなって」

 

「………そのつもりは毛頭ないのだが………雁夜」

 

「ああ、頼んだ。()()

 

「では行け、()()よ」

 

 雁夜はチエとは別方向に走り、チエの前に綺礼(老)が黒鍵を持ちながら走ってきた。 チエは腰にある刀を抜刀してこれを受け、ガキィンと音が響く。

 

「ふむ、もう一人は別ルートで迂回したか」

 

「少しの間、相手をして貰おうか綺礼」

 

「これもまた、『面白い』な」

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「これが………大聖杯」

 

 雁夜はそのまま速度を落とす事無く、円蔵山の地下にある鍾乳洞の中にある大聖杯(巨大魔法陣)までたどり着き、()()()()()()雰囲気に身が震える。

 

「これは………こいつは駄目だ。 何かが生まれようとしている? ………猛烈に嫌な予感がする! 早く浄化を────!」

 

『あー、ちょっとそれは勘弁して欲しいかな?』

 

「な、誰だ?!」

 

 雁夜は洞窟内に響く聞いた事の無い声に辺りを見渡し、気配を探るが()()()()()()

 

『いや、俺だよ、俺。あ、ちなみに“オレオレ詐欺”じゃないからな、これ。 ん~、そうだ! ちょっと待っていてくれよ────』 

 

 ────呑気そうな声が言い終わると、ドロンと地面から黒い人影のような()が白い目で雁夜を見ていた。

 

「真っ黒で目だけって………ススワタ〇かよ」

 

「お宅もそれ知ってんのか………まあ、あの金髪チビ助が言っていた『まっくろくろす〇』よかマシだけどな。 あー、初めまして。 俺は()()()()()、ヨロシク!」

 

「ルポライター舐めんなよ……って『この世全ての悪』?! てか宜しくされたくねえよ! それにどうやって出てきた?! 魔力は留まっていない筈の上、外の連中はいったい何なんだ?!」

 

「ん~、一々説明するとめんどくさい部分とかあるんだが………まあ強いて言えばお宅らの『おかげ』だな。 『アラヤ』か『阿頼耶識(アラヤシキ)』って聞いた事ないか? …………流石にないか。 単純に説明すると、この世界自身の『生存意思』や『世界の抑止力』みたいなもんだな」

 

「………………は?」

 

「いや、オッサンの────」

 

「────オッサンじゃねえ! まだ27歳だ!」

 

 アンリマユがジト目で雁夜を見ながら溜息を吐く。

 

「ハァ、立派にオッサンじゃねえか………とにかくだ。その『アラヤ』ってが最近になってようやくクソ重い腰を上げて対処を打って来たっていうのが今の状況だ」

 

「最近、だと?」

 

「ああ。 あの金髪チビ助と黒髪神様が色々と裏で何かやっていたのが今更バレたらしい。 そこで俺とエセ神父と不健康暴君が呼ばれた」

 

「(裏で何かやっていた? 聖杯浄化と聖杯戦争の膠着状態の事か?)」

 

「ま、俺個人としては面白そうだからどっちでも良いんだけどな」

 

 アンリマユは肩をすくめ、まったくやる気のない彼に雁夜は問う。

 

「じゃあ、俺の邪魔をしないでくれるかな?」

 

「やなこった。 こちとら久しぶりに娑婆の空気を吸えたんだ。 人を殺して殺して殺しまくって、『世界の抑止力』に止まられるまで暴れたいんだ。 と言う訳でオッサン────グワッ?!」

 

 ────ヒュンッ!とする音がして鋭い、刃みたいな風が形のしたアンリマユに切りかかり、黒い靄が一瞬散らされるが別の場所に靄が集まり、アンリマユの怒った声がする。

 

「あっぶねえな、オッサン! こっちは礼儀で教えてあげてんのに!」

 

「ふざけるな、明らかにただ時間稼ぎしているだけじゃないか!」

 

「あ、バレた? いや~、頭切れるね~。 オッサン♪」

 

 雁夜は舌打ちをしながらアンリマユの存在が今の攻撃で全くブレていないのに若干の焦りを感じていた。

 

「(リュックの中の魔術礼装をこいつに当てて……………無駄だな。さっき再結成(?)した時に感じたが、こいつは大聖杯から魔力を常に補給されている状態。 礼装は効くと思うが、こいつもあくまで大聖杯の端末………隙を見て大元に────)」

 

「────ま、ゆっくりしとこうぜオッサン。 どうせ()()()()()()()()()()()()()()からな」

 

「じゃあ本気でそれを試さして貰おうか!」

 

 雁夜の殺気にアンリマユは愉快そうにニィっと笑い、両手に歪な形をした短剣を構える。

 

「いいね、いいね~。 そう来なくっちゃなー! ヒャーハハハハハ!」

 

 

 ___________

 

 セイバー 視点

 ___________

 

 

 ドゴォォォン!!! ズザザザザッ!

 

「くッ!」

 

「どうした貴様? その程度か、セイバー。 ちなみに私の事はそうだな、『セイバーオルタ』とでも呼べ」

 

 セイバーはセイバーオルタを見ながら不甲斐なさに歯を食いしばっていた。 腕力、技術に戦闘経験はほぼ互角と言っていい。

 

 だが攻防とバランス良く戦うセイバーに対してセイバーオルタは一方的な、一撃一撃にフルパワーマシマシの攻撃の『全力で相手の技量ごと粉砕する』スタイル。 自然とこのような相手に隙を作る為に防御に回るのは明白の上、セイバーの左手の腱はランサーと対峙した夜から切れたままで全力が入らない。

 

 この差がジリジリとセイバーを追い込んでいた。

 

「落胆も良いところだ。()()()と戦えるチャンスだと言うのに、情けない」

 

 セイバーオルタが溜息を出すと、セイバーはピクリと反応する。

 

「…………貴様など私ではない。断じて」

 

「ほう? 面白い事を言う。やはり『青い』な。 同じ技量、同じ腕力に戦闘経験。どうやら我々を分け離すのはやはり『信念』だな」

 

「そんな事をお前に言われたくないな、『腹黒』」

 

 セイバーはこれ見よがしの意趣返しとしてセイバーオルタの軽い挑発に言葉を返す。

 

「見たところお前は『王』から『アルトリア(ヒト)』に戻りつつある。それがそもそもの間違いだ。『王』は常に孤高。 国が王を支えるのではなく、王が先頭に立ち、国がそれを追う。 民や同胞など替えは効くが王はそうもいかん。 その信念を貫き続ける私に対し、お前は揺らいでいるな? そのような()()()が私に勝てると思うなよ」

 

 セイバーオルタが構えて、セイバーは身構える。

 

「半端者ほど目障りなものなどない、消えろ。 『卑王鉄槌(ひおうてっつい)────』」

 

「(これは、宝具?!)『束ねるは星の息吹(いぶき)────』────グッ!」

 

 セイバーオルタの真名宝具開放に対してセイバーも対抗しようとし、魔力を練るが激い痛みが左腕を襲い、顔をしかめ宝具開放が強制的に中断される。

 

「『極光は反転する────』」

 

 禍々しい黒い魔力がセイバーオルタの剣に集中し始め、暴風が辺りに荒れ狂う。

 

「(駄目か。ならばキリツグに令呪を? いや、間に合わない! ならば────!)」

 

 セイバーオルタの風に対して、セイバーから同じような風が若干だが相殺し始める。

 

「(────圧縮した風と魔力を解放し、少しでも奴の宝具からのダメージを軽減し、宝具解放直後の隙を一点突破するのみ!)」

 

『敵サーヴァントの宝具に対しては宝具をぶつける』。 

 このセオリーが取れないセイバーは自身が持ちうるスキル『風王鉄槌』を宝具にぶつけ、敵の宝具解放と直後の膠着に『魔力放出』で耐えた後一気に距離を詰めて討つと言うハイリスク、ハイリターンの『一か八か』に出る事を決め、『死』を覚悟した。

 

「『光を呑め!────』」

 

 ボォアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 

 

「(あ────)」

 

 だがここでセイバーは自分の浅はかな考えに気付いた。 セイバーオルタが真名宝具解放直前に自分を襲った単純な『力』があまりにも圧倒的なほどに膨れ上がったからだ。

 

 本来ならどのサーヴァントは真名宝具解放と言えど、ある例外などを除外すれば少なくともサーヴァント本体が戦闘続行、迎撃、またはその場を離脱を出来るほどの余力を残す。

 

 だが彼女(セイバーオルタ)()()()()()()()()。 

 厳密に言うと()()()()()()()からだ。

 

 確かに余力を残す事は()()()()()()()では必須。

 

 だがそれは()()()()()()()であって、敵を()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまりセイバーオルタは文字通り『圧倒的力で敵をねじ伏せ、反撃も許さない』力加減で真名宝具解放のモーションに入っていた。

 

「『約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』!!!」

 

 放たれた黒い壁(圧倒的パワー)が迫り来る中、セイバーは目元が熱くなり、雫が落ちるのを、唇を噛んで塞いでいた。

 

「(………(アルトリア)は………間違っていたのだろうか? アイリスフィール…………チエ殿……………)」

 

 

 ___________

 

 チエ 視点

 ___________

 

 

 激しい音が辺りに鼓動する。 

 時には肉と肉が衝突する音、鈍器が風を切る音、お腹に来る重い地鳴り、金属がぶつかり合う耳を劈く音など。

 

 そしてその源は二人の者の体術と獲物(武器)が衝突する際に出来る戦闘音だった。

 

「なかなかに面白いな、貴様」

 

「…………」

 

 綺礼(老)に対してチエは刀を静かに構える。

 

「師の套路(とうろ)の真似事をしながら()()()()が………『ヒト(人間)』であって『人間(ヒト)』ではなく、『信仰』が感じないも『神』である。 色々と矛盾しているな」

 

「それを言うのならば貴様こそ西洋神父で八極拳とは、な」

 

「フ、内に何も宿らぬ物だが………………貴様のようなモノには十分と見ていたが────」

 

 綺礼(老)は刃が溶け始めている黒鍵を捨てて、新たな黒鍵を準備する。

 

「────成程。 腐っても『神』と言う訳か。 だがそれでいい。 それでこそだ。 『(理屈の破綻者)』と『お前(迷う導く者)』の『戦い(討論)』はこうではなくては!」

 

 綺礼(老)の腰は沈み、投擲した黒鍵とほぼ同時に爆発的な急接近でチエとの距離を詰め、拳や蹴りの猛攻を繰り広げる。これにチエは一瞬で黒鍵を最小限の動きで払い、返しの刃(峰内)で綺礼(老)の蹴りの軌道をそらし、自らも足技と刀で対応する。

 

「もっと! もっと! もっと、もっと、もっと、もっとだ! 『生を感じる』とはこう言う事か!」

 

 チエの耳朶(じだ)に綺礼(老)の声は届いていない。

 

 響くのは心の像の鼓動と、言語にもならない()()

 

 だがチエは()()()()()、この()が。

 

 この世で一番聞き慣れていて、聴きたくない声が彼女を呼び招く。

 

『(□□□□□□□□。)』

 

「(………黙れ)」

 

『(□□□□□□□□?)』

 

「(黙れ)」

 

『(□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□────)』

 

「(黙れ(鎮まれ)!)────ッ?! ラァァァ?!?!?!」

 

 一瞬の気の逸らしがチエの動きをワンテンポ遅れさせ、綺礼(老)の掌底がチエの肘に叩きつけられ、バキバキと音がする。 

 チエはこの受けた攻撃の勢いを自身の蹴りに付け加えて綺礼(老)のガードした上から半場無理矢理自分から引き離した。

 

 引き離された綺礼(老)は不敵な微笑みをする。

 

「どうした。 敵と相対しているのに考え事か?」

 

「………………」

 

 チエは依然と何も言わず、通常とは逆に曲がっている自分の左腕の肘をチラッと見る。

 

「…………(肘が折れているか。 戻そうにも刀を一瞬手放しなくしてならない………か)」

 

「どうした、腕が一本やられただけだぞ? 早く戻して再開しようではないか」

 

 ニヤリと笑う綺礼(老)は黒鍵を再度両手に持つ。

 

「…………」

 

 左腕をぶら下げ、曲がったままチエは刀を構える。

 

 自分の背中半分を綺礼(老)に向け、刀を水平にした平刺突の構えと低くした腰。 一瞬綺礼(老)はこのような見え見えの構えに何の意味があるのだろうかと思うが────

 

「────成程、()()()()()()()か────」

 

 彼は瞬時に理解する、構えが見えようと見えまいと相手はこの次の技で終わらせるつもりだと。

 

「────御託は良い。 次で仕留め()る」

 

「役不足だが、受けて立とう」

 

 綺礼(老)も黒鍵と腰を低くしチエの行動を警戒する。 だが彼は微動だにしないチエを不思議に思った。

 

「(奴め、何を企んで────)────ガハァ?!」

 

 綺礼(老)は胸の痛みを感じると同時に吐血をする。

 

 そして彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「バカ…な…」

 

『20ミリ秒』。

 

 この時間単位は人の目が見た画像を脳が処理するのにおよそかかる『一瞬』と言われている。 勿論人によって差は出るが、綺礼のような『達人』に運動協調性は必須。 そんな彼がチエを見落とすだろうか?

 

「貴様……そうか………」

 

 否。

 

 ()()()()()のでは無く、単純に()()()()()()()()()()だけの事。

 

 先程の『20ミリ秒』より早く移動するとどうなるのだろうか? 答えはさらに簡単。

 

 残像効果が発生する。

 

 綺礼(老)の胸から血がボタボタと地面に落ち、溜まる。

 

 だが────

 

「────惜しかったな」

 

「?! グォァァァ!!!」

 

 綺礼(老)は痛みに苦しみながらも黒鍵をチエの足に突き刺しながら笑う。

 

「グッ……おま…えは……」

 

「そうだ、既に()()()()()

 

 綺礼(老)は更に黒鍵の用意をする。

 

「ではさらばだ、名も知らぬ『(迷う導く者)』よ」

 




作者:フゥー、音楽は良いな

綺礼(若):そうだな

作者:くぁwせdrftgyふじこlp?!?!?!?

綺礼(若):どうした?

作者:い、いや~アッハッハッハナンデモナイデスヨ

綺礼(若):そうか

マイケル:多分アンタがそうやってコタツで大人しく激辛大福食べながらお茶すすっているのに引いているんじゃねえか?

作者:ちょ! おま、お前ぇぇぇぇぇ! (この、空気読めよ!)

綺礼(若): ………そうなのか? 

作者: ……………… (おうっふ、このプレッシャー)

マイケル: ………………(何だこのクソ重い空気は?)

綺礼(若):後訂正したい事があるのだが黒鍵は霊的な存在との戦闘を前提にした武器であるため、黒鍵そのものの物理的な剣としての性能は低い、そして投擲に特化した形状なのだが?

作者:ウン。 ソウデスネ。

マイケル: けど『綺礼(老)』って書いてあるからそれが関係しているんじゃね?

綺礼(若):成程、そのような事もあるのだな。

作者:じゃ、じゃあ自分は続きを書きますのでイヤフォンを────

綺礼(若):激辛大福は食わんのか?

作者:あ、いや、ドウゾドウゾゴジユウニ

綺礼(若):フム……お前は? 食うか?

マイケル:食うかそんな見た目から明らかにラー油と唐辛子をふんだんに使ったような外道菓子! 

綺礼(若):これはこれでうまいのだが……………


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第20話 輝く月

二日目連続投稿ぅぅぅぅ!

作業BGMは前回と同じFate/ZeroのThe Battle is to the StrongとThis day, and never againでした。

ちなみに新たなアンケートを始めました、ご協力お願いします!


 ___________

 

 セイバー、セイバーオルタ 視点

 ___________

 

 醜い。 

 

 見るに耐えない。

 

 今セイバーオルタの目の前にいるのはかつての自分の未熟さを体現した『青い』セイバー。

 

 見ているだけで反吐が出るような『村娘』の頃の『理想』を未だに引きずっている『半端者』。 『コレにとどめを』とばかりに文字通りの全力で宝具を放つセイバーオルタは勝機を確信していた。

 

()()()!」

 

 だが己の浅はかな考えに悔しさを感じているセイバーに誰かが声をかけ、彼女に『約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』が衝突する前に()()()()()()()()

 

「何?!」

 

 セイバーオルタは過ぎ去った『約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』にセイバーの消滅する姿がない事に驚き、すぐに周りを見るとセイバーが別の場所で()()()()()()()()()()()()()()()

 

「馬鹿な!」

 

 一時的に混乱していたセイバーオルタは考える、『何が起こった?』と。

 

 そしてセイバーオルタは気付く、セイバーの近くで決して浅くは無い傷を負いながら膝をついていながらも笑うランサーの姿を。

 

「いけ、()()()よ!」

 

「『束ねるは星の息吹(いぶき)────』!」

 

 セイバーは好機と見、宝具を開放しながら横をちらりと見ると切嗣とフラフラのケイネスの姿が見え、これにより一つの仮説を脳裏で考える。

 

 ケイネスがランサーに令呪を使い、漁夫の利でセイバーを『倒す』のでは無く、『助ける』ように命じ、切嗣は令呪を使いセイバーに宝具開放を命じたのではないかと。

 

 本来なら『何故?』と思うセイバーかもしれない。 切嗣が躊躇なく正面きっての全力で力を振るえるような今の状況に自信と共に前線に立っている事にも誇りに満ちていたかもしれない。

 

 だが今のような切羽詰まった状況にそんな余裕は無く、ただ眼前の敵を倒す事に全身全霊を注ぎ込んでいた。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 これに対するセイバーオルタは憎悪を糧にほぼ無理矢理に宝具開放直後の膠着をねじ伏せて、急激に宝具開放へと至る。

 本来ならあり得ない所業。 だがセイバーオルタは今大聖杯と言う無限にも近い力を常に補給されている状態。 自身の体の負担など除外すれば宝具の連発は可能なのだ。

 

「見苦しいな、雑種! 『裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣(かいりけん)────』!」

 

 セイバーオルタがハッとし上を見ると上空で浮きながらアーチャーが鈍器のような、奇妙な杖(?)を構えていた。 

 

 この場違いな形をしたものは普通の人からしたら『何だアレ?』と思うかもしれないがこの場のサーヴァント全員に寒気が走る。

 

『アレは次元が違う』と。

 

 それもそう、その名は『エア』。

 本来は無銘であり、アーチャー(ギルガメッシュ)便()()()自ら名付けているだけのもの。

 あらゆる財宝の中で、ほとんど唯一贋作や派生した武器の存在しない、正真正銘アーチャー本人だけの宝具。

 

 これを()()()()()セイバーオルタは胸に氷の剣で刺されたような錯覚を感じ、獣のような荒げた声で瞬時に自分の宝具をアーチャーへと変えて放つ。

 

「────アアアアアァァァァァァ────!!!」

 

「『────受けよ! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!!」

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』と『約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』。 

 元が同じ神造兵装の部類とはいえ、一つは『対界宝具』に対して『対軍宝具』。 普通なら比べるもなくセイバーオルタの負けだろう。

 

 だがアーチャーは現在のマスターが時臣の為、()()やる気が無い上に本気ではないのに対して、セイバーオルタは全身全霊で魔力の反動で『自分の体が爆散しようが知った事か』という意気込み。

 

「『────輝ける命の奔流(ほんりゅう)! 受けるが良い────!』」

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』と『約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』が相殺している余波が周りに影響を及ばしている中、ケイネスは『月霊髄液』で自分と切嗣を守る。 

 そしてその間にもセイバーは宝具の真名解放を続けるのをセイバーオルタは気付く。

 

「グッ、ウゥゥゥゥゥ!!!(ふざけるな!)」

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』と『約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』の相殺が終わると同時にセイバーオルタはまたもや宝具開放の構えに入る。

 

 もともと黒い甲冑に幾度の赤いヒビが入り、それはセイバーオルタの青白い皮膚にも浸食を始め、『痛み』がセイバーオルタの体を包む。

 

「(ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな────!)」

 

「『────約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!!」

 

「『────約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』!!!」

 

 輝く光が飲み込む闇と衝突する。

 

 そして驚くことに威力はほぼ互角だった。

 

 これは魔力の源が原因となっている。 

 方や令呪の一時的なブーストを受けているセイバー。 

 方や満身創痍だが大聖杯と言うバックアップを受けているセイバーオルタ。

 

「グッ…………くぅぅぅ!」

 

「ふざ………けるな!」

 

 相対するセイバーとセイバーオルタはこの膠着状態が続かないを理解している。

 先程も並べたように令呪は一時的なブースト。

 

 だが一画で互角と言うのなら────

 

 

 

「セイバー! 二つ目の令呪を以て命ずる! ()()!」

 

 

 

 ────再度令呪を使い、ブーストされた状態の上に更にブーストをかければいい。

 

「!!! ハァァァァァァァァ!」

 

 令呪二画のブーストにより、セイバーの『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』がセイバーオルタの『約束された勝利(エクスカリバー)の剣(モルガン)』を押し返す。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 これを見たセイバーオルタが憎悪と嫌悪に満ちた声で叫び、彼女の体は『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』に包まれる。

 

 そして包まれる瞬間彼女(セイバーオルタ)は見て理解する。

 

 セイバーは彼女のそばで共に立っている『仲間達』と共に自分に打ち勝っていた。

 

 対する自分は『一人』。

 

 この違いがこの結末を────

 

「(────ああ………何と…………何と────

 

 

 

 

 

 温かい笑顔だろうか────)」

 

 ────セイバーオルタが消滅する前に最後に見たのは、助けに来てくれた意外な人達に向ける、自然とした笑顔を浮かべていた『アルトリア』だった。

 

 

 ___________

 

 綺礼(老)、チエ 視点

 ___________

 

 何ともあっけない。

 

 そう思う綺礼(老)は黒鍵で動きを封じられたチエにとどめを刺す────

 

 

 

 

 

「────グフッ────?!」

 

 ────前に横からの衝撃で吹き飛ばされる。

 

「待たせたな、小娘!」

 

「間に合ったか」

 

「あ、貴方達は────」

 

 チエが驚きで()()を見、綺礼(老)は全身に傷を負いながらも立ち上がる。

 

「ほう、これはまた意外な組み合わせだ」

 

 チエのそばに立っていたのはライダー(とゲッソリしているウェイバー)、そして綺礼(若)。

 

「やはり『面白い』」

 

 笑う綺礼(老)を見ている者達の目の前で綺礼(老)の傷口などが動画を巻き戻しているかのように、()()()()()に塞がれてゆく。

 

「ラ、ライダー…な、何なんだよあれは?」

 

「知らん。 坊主、余から絶対に離れるなよ」

 

 真剣な顔をしているライダーを見てウェイバーは息を呑む。

 

「私は『言峰綺礼』。 それ以外何者でも無い」

 

「ふざけるな。 貴様は私などでは無い。 断じて。 今のを見て更に貴様を『人』と認める訳にはいかない」

 

「心外だな。 貴様自身、自分を『人』と思っていない者にそんな事を言われるとはな」

 

 綺礼(老)は笑いながら綺礼(若)へと言葉をかけ続ける。

 

「『答え』が欲しいのではないか? ならば────ガハ!」

 

 綺礼(若)が初動作無しの踏み込みで綺礼(老)を吹き飛ばす。 だが攻撃が当たる瞬間後ろへと飛んでいた綺礼(老)は地面に着地し、胸を掴みながら綺礼(若)を睨む。

 

「貴様…何故────?」

 

「────『何故』だと?」

 

 言峰綺礼という人物は万人が感じるものをそうと感じる事が出来ず、その生まれ持った性に懊悩し続けて、本来ならば苛烈な人生を送る切嗣を自身と同じ存在であると推測し、自身の答えを見つける事が出来るかもしれないと切嗣に固執し、最後まで答えを得られず、代わりに他者の苦悩や絶望などに『快楽』を感じるようなサイコパスへと成り果てるはずだった。

 

 自分の直感の赴くまま行動し、その結果がどうなろうと、挙句は自身の破滅でさえも『また良し』としていた。

 

 それが通常の『言峰綺礼』という男の末路だった。

 

 だが────

 

「────理由は至極単純。 私は『私の答えを探す』。 それだけだ」

 

 綺礼(若)の言葉に綺礼(老)の目が見開く。

 

「馬鹿な! それこそ答えになっていないではないか?!」

 

「そうかもしれん」

 

 あり得ない反論に綺礼(老)の思考はフリーズしていた。 言葉自体の意味云々以前に理解が出来なかった。

 

 綺礼(老)は知る由も無いが、目の前の綺礼(若)は本来ある筈の無かった自分の問いを以前間桐雁夜に訊いていた、『聖杯に何を望む?』と。

 

 帰って来た答えは自分と同じ『望むものなど無い』。

 

 綺礼(若)は更に訊いた『何故聖杯戦争に参加した』と『求める物(答え)持っているからこそ、参加したのではないのか』と。

 

 間桐雁夜は『答えられない』、『答えは自分で見つけるものだ』と言った。

 

 その夜から言峰綺礼(若)は考えこんだ。 『では自分の答えは?』と。

 

 そして先日、ついに出した答えを出した。

 

 

『自分の答えを探し続ける』。

 

 間桐雁夜のような者が世界を旅し、そのように自分が納得出来る答えを得たのなら彼に習って自分も出来る筈、と言峰綺礼(若)の考えは至っていた。

 

 勿論当の本人の雁夜にしてみれば目を泳がせながら『アー、ウン。ソウダネ』と棒読みで答えていたか、または『そんな訳あるか! ただ間桐家から逃げていただけだ!』とツッコんでいただろう。

 

「だが私はそう決めたのだ。 それにやはりその言葉で狼狽えている『貴様』は『私』などでは無い────!!!」

 

「────では頼むぞ、坊主!」

 

「あ、ああ! 令呪を以て命ずる! 宝具を使え、ライダー!」

 

 綺礼(若)が綺礼(老)へと言い終わると、周りは夜の更地から真っ昼間の砂漠の景色へと変わる。 

 

「な、こ……これは?!」

 

「フム、これがアサシン達を葬ったライダーの宝具の正体か」

 

 綺礼(老)と綺礼(若)が周りを見る内にかつてライダーの家臣達が現れ戦闘への雄たけびを上げる。 これに反応し、綺礼(老)は黒鍵を構える。

 

「やはりこのゾクゾクとする感覚! 私は今、確かに『生きている』!」

 

 綺礼(老)のその言葉に綺礼(若)も黒鍵を構え、前へと歩き出す。

 

「そこな者よ、別に加わる必要はないぞ?」

 

 ライダーが綺礼(若)にそう言葉を投げる。

 

「フ。 奴は『私』ではない。 その証拠に私自らが打ち取る必要がある、手出し無用だ()()()よ」

 

「ガッハッハッハ! まさか征服王の余が『立会人』をするとは思わなんだ! よかろう! 存分にやってやれい、若いの!」

 

「えええええ?! ライダー! 何を言っているんだ! 今が好機、あんな奴一人に全員で畳みかければ────!」

 

「────ウェイバー・ベルベット」

 

「え?」

 

 ウェイバーは困惑するも初めて自分の名前を呼んだチエを見る。

 

「これは(綺礼)()()()自分から起こした行動。 そこに横槍を入れるのは無粋と言うものだ」

 

「その通り! まさかこの時代にあのような者達の決闘が見られるとはまたと無い機会だぞ、坊主! その目にしっかりと焼き付けておけい!」

 

『えー?』と更にウェイバーは困惑するが仕方なく綺礼(若)と綺礼(老)の試合を見、ライダーの家臣達も見守ることに徹している。

 

 そして『同じ存在』だが『違う理念』を持った二人の男達の激しい衝突に幕が上がる。

 

「(まさか三月はこうなる事を予想していたのか? …………いや、それはないだろう)」

 

 そしてこのような考えがチエの脳をよぎるが『さすがにそれは無いだろう』と考え捨てた。

 

 黒鍵、八極拳と体術の攻防。 どれを以ても一流で、代行者達の中でもオールラウンダーとはいえ実力が上から数えた方が早い言峰綺礼。

 

「わぁ………」

 

 綺礼達の以前の戦いを見ていなかったウェイバーはその洗礼された、芸術とも言えるその二人のぶつかり合いに魅入れられる。

 

 ウェイバーは一応魔術師として育てられた為、肉体労働など体を使った活動からはほど遠い生活をしていた所謂『インドア派』だった。

 

 だが聖杯戦争に自らの意思で参加し、自分のサーヴァント(使い魔)である筈のライダーに振り回され、『外』の世界へ興味を持ち始めた上に微妙だが自分の師であるケイネスからも認められ、評価を受け始めたウェイバーにとってこの新たな『体術』と言う刺激に彼の心は踊っていた。

 

「ほう………(うん、やはり坊主も『男』よな)」

 

 ウェイバーを見るライダーは内心笑っていた。 何故ならウェイバー自身気付いていなかったが彼の肩や首、腕などがピクピクと綺礼(若)の攻防に沿って無意識の内に動いていたからだ。

 

 まるで彼自身が動いて戦っているかのように。

 

 

 

 

 

 

 そしてその時は来た。

 

「あ────」

 

 綺礼(老)が綺礼(若)の攻撃でやっと倒れたのだ。 

 これに対してウェイバーはどこか名残惜しい声を上げる。

 

 まるでこの『物語で出てくるようなクライマックスシーン』に終わりが来てしまうのかと。

 

「まあまあ、そう気落ちするな坊主!」

 

 笑顔をしながらライダーはウェイバーの頭を乱暴に撫でる。

 

「うわ! ラ、ライダー? ぼ、僕は気落ちなんかしていないからな!」

 

「あのような闘いを見たければ自分がその場にいれば良いだけの事だ!」

 

「ハァ?! ぼ、僕が?! む、無理だよ! 今から鍛えても────」

 

「────誰がお主に前線に立てと言った? 坊主の才能は別にある」

 

「え? そ、そんな才能が……僕に?」

 

「『策士』などはどうだ?」

 

「えぇぇぇ?!」

 

 チエが急に割り込み、ウェイバーとライダーは驚く。

 

「おお、流石だな! 人を見る目がある!」

 

「で、でも僕は────」

 

「────自分に自信を持て、ウェイバー・ベルベット。 今までお前が行ってきた事に振り返ってみろ。 自分の師に認め始められるのはこの聖杯戦争前では考えられない事だろう?」

 

 そこでウェイバーはハッと、まるで大きなパズルのピースが急にがっちりとハメ合うかのように考えがまとめられる。

 

 そして今までの出来事から彼は慢心せず、ただ静かにその考えに浸かる。

 

「待たせたな、私の頼みに付き合わせてすまない」

 

 綺礼(老)が塵となって消えて行くのを見届けた綺礼(若)が戻り、ライダー達に謝罪の声を出す。

 

「なーに、余達に憑き物が落ちたような、こちらも気分が良くなるようなその清々しい顔が見られたのは重畳よ!」

 

「何?」

 

 綺礼(若)は気付いていないが、僅かにだが彼は笑っていた。

 それは別に死闘に勝った高揚感からなどでは無く、文字通り心が穏やかになったのが顔に出ただけだった。

 

「さーて。 皆の者、準備は良いか?!」

 




作者:フゥ~……コーヒー、コーヒーっと

セイバーオルタ:おい、貴様

作者:え?! オルタナンデ?!

セイバーオルタ:コーラとハンバーグを買ってこい

作者:…………何で?

セイバーオルタ:あのバトルシーンは何だ?

作者:いや、一度FSN綺礼がFZero綺礼と戦ったらどうなるのかなーって妄想が暴発した末────

アーチャー:────見つけたぞ、雑種

作者:いーーーーーーーやーーーーーーーーーーーーーーーーー?!?!?!?!?!?

三月:うっわ、まだ根に持っていたのね

チエ:最古の『ガキ大将』だからな


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第21話 人 VS  ヒト

三日連続投稿、ヒャッハー!

今回のイメソンはFate/ZeroのDog Fightです。

アンケートにご協力お願いします!


 ___________

 

 間桐雁夜 視点

 ___________

 

 

「チィ!」

 

「ヒャッハー! やるな、オッサン!」

 

「オッサンじゃねぇぇぇ!」

 

 胴体を真っ二つにされた筈のアンリマユが雁夜に上半身のみの状態で切りかかり、雁夜はこれを()()

 

「クソ!」

 

「へー…ここまで粘れるのは大した事だぜ、オッサン? つーか、さっきから『妙な事』をしているな」

 

 もう何度目かも分からないやり取り。

 

 普通の人には即死級の攻撃が何事も無かった様にアンリマユを襲い彼はこれを何とも思わず反撃し、即死だった筈の()()()()()()()()()()()

 

「ハァ…ハァ…ハァ…グッ」

 

 雁夜は苦しそうに自分の胸を掴みながら荒い息遣いをしながらもアンリマユを睨んでいた。

 

「けどそろそろヤバい感じだな? つかそのまま死んでくれたら俺としては助かるんだけどなー」

 

 アンリマユの言う通り今の雁夜に生気は無く、肌は青白く、髪の毛に至っては白く変化していた。

 それは、本来の体内に刻印虫を宿した影響の()()()()のような姿だった。

 

 違いがあると言えば体は十分に動く上に体は生体機能を失っていない事。

 

 だが明らかに度を越した力を酷使している事が火を見るよりも明らかであった。

 

 その上敵のアンリマユは余裕を持った声。

 

「(クソ! クソクソクソ! どうやればこいつを倒せる?!)」

 

 雁夜は考える。 目の前の『化け物』を倒し、大聖杯に自分が背負っている魔術礼装で浄化しなければ取り返しの付かない事が起きると感じていた。

 

 だが先程から彼はそれこそあらゆる手と思いつく限りの攻撃をアンリマユに放つ、幾度となくアンリマユは復活し反撃していた。

 

「んー、頭の切れるオッサンと言ったけど訂正するわ。 生半可に頭が切れるオッサンだ」

 

「……何だって?」

 

「だって俺がさっき言ったばかりの事を忘れてんじゃん」

 

「……………」

 

 さっきアンリマユが言った事、それは『人間では自分(アンリマユ)には勝てない』。

 

「(だったからどうすればいい? 何をすれば………クソ! こんな時にチエさんがいれば────)────グワァァ?!」

 

 考え事をしていた為雁夜はアンリマユから初のダメージを食らい、腕を深く切られた。

 

「お、やっと通ったか! さっきまでの『変な事』はどうしたオッサン?」

 

「クッ………(ヤバい。 これ以上『自分を消す』訳にはいかない………何とか…………しないと)」

 

『自分を消す』。

 これは別に光学迷彩などで科学的にも魔術的にも『姿を消す』という意味ではなくそのままの意味だった。

 

 今は深く追及はしないでくれると作者的に助かるとか何とか。

 ただその行為をする事は自らの死へと一歩一歩…………など生温い速度ではなく全力疾走に近い。

 

「さてと、そろそろ飽きてきたし…………俺もこれ終わらせるかね────!」

 

 走ってくるアンリマユに雁夜は思考を続ける、『どうすれば倒せる?』と。

 

 そこで彼は閃いた。 と言うよりは気付いてしまった。

 

「(ああ、何て単純な事だろう────)」

 

『アンリマユ』を倒す事とはつまるところ、『この世全ての悪(アンリマユ)』を倒す事に等しい。

 

 そのような事が一介の人間(ヒト)に出来るだろうか?

 

 答えは否。

 

 世界平和を実現するように()()人間(ヒト)では度台無理な所業。

 

 故に雁夜は諦めた、()()()()()()()

 

 目の前に迫って来たアンリマユをただ静かに、無気力に見ていた。

 

 そして体が弾かれていた。

 

 

 

 

 

 

 銃声と共にアンリマユの体が。

 

「え?」

 

「ガァァァァァァ?! いっっっっっっっってーな、コラ!」

 

「何をしているのです、間桐雁夜! 早く対聖杯魔術礼装を────!」

 

「こんのクソアマァァァァァ!!!」

 

 立ち上がったアンリマユは空洞の入り口でWA2000を捨ててSteyr-AUGに武器を変えて構えていた久宇舞弥に向かい、あと少しで接触するところで舞弥は武器を撃ちながら横へと飛び、インカムに叫ぶ。

 

「今です、マダム!」

 

 ブオォォォォォン! ドガァン!

 

「どわぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 舞弥がインカムに叫ぶと銀色のメルセデス・ベンツ300SLクーペが大きいエンジン音と共に空洞内へ突っ込み、アンリマユを弾き、彼を吹き飛ばし華麗なドリフトをしながら円を描き舞弥のところへと戻る。

 

「え? え? えぇぇぇぇぇ?!」

 

 突然舞弥の声を聞いた雁夜の思考は未だに状況を処理できず次々に起こる出来事に混乱していく。

 

「雁夜君! 早く!」

 

「マダム! もう行ってください、ここは私が────!」

 

「────何を言っているの舞弥?! 私だってこんなたのsh────コホン、面白い事を前に引ける訳ないじゃない!」

 

「本音が隠せていないですマダム!」

 

「あらヤダ、私ったら────」

 

「────ふっざけんなぁぁぁぁぁぁ!」

 

 楽しい殺し(キリング)タイムを邪魔されたアンリマユの怒り狂う声で舞弥とアイリスフィールはそれぞれの得意分野でアンリマユの注意を引く(轢く)(一人若干多少の他意有り)。 

 先日のキャスター襲撃時に乗り込んで来た言峰綺礼との対峙した時の傷は完全には癒えてはいないものの、舞弥は自分の持ちうる魔術と現代兵器の扱いを駆使し、陽動を行っていた。 アイリスフィールは絶妙なドライブテクと錬金術を容赦なく使いアンリマユを翻弄する。

 

 そして二人に幸いしたのは、アンリマユは『最弱』と言えるサーヴァントであった事。 これが正視のサーヴァント相手であればひとたまりもない。

 

 

 

 ここようやく雁夜は自分がここに来た理由を思い出したかのように走る。

 

 

 

 命を懸けてひたすらに走る。

 

 

 

 胸が、肺が欲する空気の補給が追い付かない為むせかえりそうになるのを更に息を深く吸って押し込む。

 

 

 

 そこにいたのは『魔法使いの雁夜』ではなく、『間桐家の雁夜』でもなく、『人間(ヒト)として足掻く間桐雁夜』だった。

 

 彼は汚染された大聖杯に近づけば近づく程に頭痛や吐き気や寒気に眩暈といった具合に体が反応し始める。

 それはまるで間桐雁夜を()()しているかのように。

 

 やがて────

 

「────ウオォォォォ!!!」

 

 間桐雁夜はリュックを強引に開けて中の水銀の短槍を作動し宙に浮かせて、大聖杯へと向けて射出する。

 

 何本かの水銀の短槍は力尽きたのか途中で地面に落ちるが最後に残った何本か刺さると────

 

「────!!!」

 

 ────大聖杯が激しく蠢き、禍々しかったその闇の中に球状の光が一点輝き始め、そこから次第に光が拡大する速度が増す。

 

「グァァァァァァ!!! テ、テメェラ……………や、やりあががガガガがガガガ────!!!」

 

 アンリマユが苦しみ、吐き捨てるように叫び、その場から消滅する。 

 

(人型の跡で)ボコボコになったベンツの中からアイリスフィールと横で息を切らす舞弥が浄化されていく大聖杯を見る。

 

 最後に残ったのはただ『聖杯』と呼ぶには控えめな表現な、正に『神の器』と呼ぶに相応しい光を放つナニカだった。

 

「これが……大聖杯?」

 

 

 

 

 

 

『美しい』。

 

 そこにいた雁夜、アイリスフィール、そしてあの舞弥でさえただその一言で済ますしかなく、ただ茫然と見ていた。

 

『そう、これが……本来の大聖杯』

 

「誰だ?!」

 

 突然洞窟内に響く声に驚き、Steyr-AUGを構えて警戒する舞弥に対して、雁夜とアイリスフィールはその声の持ち主の名前を叫んでいた。

 

「三月?!」

 

「三月ちゃん?! 貴方、無事だったの?!」

 

「え?」

 

 そう、声の主は未だに気を失うどころか目が虚ろになり、()()()()()()()()()()()三月の声だった。

 

 これは雁夜に頼まれ、三月を頼まれた後アイリスフィールが治療を行う事前に違和感を持ち、三月の状態を確認して分かった事だった。 

 故に雁夜はこの事を知らない。

 

『こんにちは、とでも言った方が良いのかしら? それと心配させてゴメンね?』

 

「ううん、良いのよ。 貴方が無事でいれば………でも、どうして急に?」

 

『あら、()()()()()()()の貴方は既に気が付いていると思ったけど?』

 

「やっぱり……貴方は……」

 

「アイリスフィールさん、どういう事?」

 

「マダム?」

 

 アイリスフィールに状況の説明を問う雁夜と舞弥、だが────

 

『────ゴメン、先に“こっち”を終わらせるわ()()()()()()()()

 

「ええ、『行ってらっしゃい』」

 

『“行ってきます”』

 

 三月の『行ってきます』で半透明に近い三月が雁夜と舞弥、そしてアイリスフィールの()()()()()出て大聖杯へと飛ぶ。

 

「な、なあああ?!」

 

「コレは?!」

 

 更に大聖杯の輝きは増して、目を開けられていけないほどに至ったと思うと光は突然消えて────

 

「────いや~、ヒヤヒヤしたー!」

 

「うん、ほんとほんと! ヒヤヒヤしていて誰かがカリカリ君を胸に突っ込んだと思ったよー」

 

「あー、甘いもん食べたいー」

 

「同感―」

 

「……どういう事だ、これは?」

 

「あらー、これは流石に私も予想外と言うか追い付けないわねー」

 

「…………………」

 

 光が収まったと思ったら急に()()の少女の声が聞こえ、目が慣れると三月が()()いてコントをしていて雁夜は説明を更に求め、アイリスフィールは若干ショートしながら何時ものマイペースさで冷静(?)になり、舞弥は完全に頭がショートし表情がポカーンとしていた。

 

「あ、ねえねえ()()

 

「うん、そうだね()()

 

 ()()の三月は雁夜、アイリスフィール、舞弥の三人に開き直り────

 

「「────説明はCMの後で!」」

 

「アホ言うな!」

 

 ゴチィン!

 

「「あいったぁぁぁぁぁぁぁい?!?!?!」」

 

 そして茶化す()()()にほぼ反射神経で雁夜は拳骨を両方に食らわせていた。

 




三月:あー、お茶美味しいー

作者:拙者は悪いもん食って体壊してたっす────

雁夜:────おい三月、ふざけるな! 何が『説明はCMの後で!』だ!

作者:ぎゃああああ! 今作の主人公までぇぇぇぇ?! アイエェェェェ?!

三月:病人の癖に元気マシマシね

作者:頭痛と吐き気は収まったからな。 後はお腹────

雁夜:説・明・し・ろ

三月:それは明日のお楽しみ

作者:ストックマジで書き上げいといて良かった


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第22話 三人知れば世界中

四話目のイメソンはFate UBWのOcean of Memoriesです。

アンケートにご協力お願いします!


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 時は少々遡り、セイバーとランサーが初めて倉庫街で戦っている間、三月は()()()()、冬木市の各霊脈に加工を施していた。

 

 それは単純な加工である『タイミング』で『活性化』し、『大聖杯』に更なる『魔力』を『枯渇寸前まで注ぎ込む』と言ったものだった。

 

「よし、じゃあ任せたわよ()()

 

「ほいほーい♪」

 

 加工と言っても()()である三月が自身から()()した()()をその場に居座せるだけだった。

 

 そして主な人達の現状把握と現在地の詳しい情報を得る為に更に()()を使い、各マスター、サーヴァント、そして親しい人や時には肉親や友人や知り合いらの側に居座せた。

 

 そして大聖杯が浄化すると同時に()()の三月と近くにいる()()が大聖杯に潜り込み、霊脈を活性化し、『アラヤ』こと『阿頼耶識』に干渉、そして掌握。

 

 

 

「────とまあ、大雑把に説明するこういう事。 だったわよね、()()?」

 

「うん、それで間違っていないわ」

 

「ほう、そんな説明で()()が納得するとでも?」

 

「「う゛」」

 

 

 ___________

 

 セイバー運営、ライダー、間桐雁夜、チエ、三月+三月(?) 視点

 ___________

 

 

 

 場所は間桐家へと変わり、雁夜の頼みでチエに正座を強入れられている()()()()()がセイバー運営、ライダーと間桐雁夜に大雑把な説明をし終わっていた。

 

 余談だが雁夜の兄、間桐鶴野と甥である間桐信二は聖杯戦争開始直前に三月による『説得』にて間桐家の別荘で『軟禁』………ゲフンゲフン、『避難』をさせられていた。

 

 ここにいないのはアーチャー運営(アーチャーは『興味が失せた』、時臣は体力と精神力的にダウン)、言峰綺礼(『功労者達を家に送り返す』と言いウェイバーとケイネスをランサーと共に拠点へ送り返し)、ウェイバーとケイネスは流石に限界だったのか緊張の糸が切れた途端死人のように青ざめて意識を失い、倒れた。

 

 だが三月(達?)の説明が大雑把過ぎて雁夜の怒りを買ったようで二人の三月は今雁夜の握力をマシマシに強化したアイアンクローにて必死に腕だけでもがいている。

 

「「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」」

 

 雁夜は多少落ち着いたのか、手を放す。

 

「最初にその『本体』とか『分体』を説明しろ!」

 

「や、だから企業秘密────アガガガガ?!?!?!」

 

「ホ~、イタホ~」

 

『企業秘密』と言いかけた三月に対して雁夜は両手で握り拳を作り、こめかみを両側から拳の先端を挟み込むように宛がって固定し、そのままネジ込みながら圧迫する。

 某アニメのグリ〇〇攻撃である。

 

 これを見たもう一人の三月は青ざめながら顔が引きついて観念したように溜息をする。

 

「全部は言えないけど…………良いかしら?」

 

 グ〇グ〇攻撃で白目になり、泡を吹き出しながら気を失う片方の三月を解放して雁夜もう一人の三月に開き直る。

 

「ああ言え、今すぐ言え」

 

 余談だがここにいるセイバー運営は間桐家の要塞化と物理的リフォームに驚いた上に先程『軽く』説明し、事を成したと説明した三月に『そんな事知るか!』と強くかつフランクに言う間桐雁夜の態度にビックリしていた。

 

 ライダーはと言うと出されたお茶をゴクゴクと飲み干し、菓子をバクバクと食いながら話に不気味な程言葉を出さずにただ静かに説明を聞いていた。

 

「えーと、『思念体』…………『疑念体』? これもちょっと…………う~~~~ん………………『精神体』って知っている? 私はある程度精神分割を出来て、それが別の『個』としての『精神体』として活動するの。 今そこで気を失っているのは『大聖杯』を経由して『阿頼耶識』を掌握した『分体』、『精神体』だった『一人』よ。(『コレ』なら違和感持たないかな?)」

 

 

「えーと、『クローン』って事か?」

 

「半分………いや2割程正解かな? ね、アイリスフィールさん?(ホッ)」

 

 そこで話を突然振られてきたアイリスフィールは先程聞いた説明を解析するのを一時中断してビックリする。

 

「あ、えっと……そうね、私が雁夜君に頼まれた後、彼女の体を治そうしたら違和感を持ったの。 まるで、()()()()をした()()()()()()を治すような感じだったわ」

 

「そういう事。 私が()使っている()()は人工物。 ま、『造られた』って時点ではホムンクルスと同じね」

 

 三月(本体)は肩をすくめながらそう言うとセイバー運営の空気は重くなる。 何故なら彼らは知っているからだ。

 ホムンクルスは誕生した瞬間から「完成された生命」であり、肉体的な成長や老化は無い代わりに、代償として寿命が短かったり、活動時間が制限されている。

 

 少なくともアインツベルンのホムンクルスはそう『造られている』。

 

 それをこの十代前半の子供が一度『()()()()をした』と言う事は、恐らく先は長くないと思った。 それにどこかと言うとドイツに残してきたイリヤと酷似して────

 

「────ああ、ごめんごめん! 説明不足! 私が活動停止しそうだったのは別の理由だから! 寿命とか活動時間じゃないから! 私これでも二十歳超えているし!」

 

「「「え?」」」

 

 セイバー、アイリスフィール、そして切嗣がポカンとする。

 

「ハァ、やっぱり…(これだから口で説明するのは面倒臭いのよ!) えっと、単純に………雁夜が『魔法使い』なのは知っているよね? それ、実はと言うとちょっとした()()なのよね」

 

「待ってくれ三月………さん?」

 

「『三月』で良いわよ、おじさん」

 

「お、おじさん…………僕はまだ24歳なんだが………」

 

「まあまあ、切嗣」

 

 気落ちする切嗣を慰めるアイリスフィールを微笑ましく見守るセイバーと舞弥。

 

「(だからあれだけ無精ヒゲ剃った方が良いって言ったのに…) それで何、おじさん?」

 

「あ、ああ。 君は確かさっき間桐雁夜は『()()』を使って『魔法使い』に成ったと言ったね? それはどんな()()なんだ? それは誰にでも出来るのか?」

 

 この問いにこの場にいた誰もが注目した。 何せもしその()()が誰にでも出来るのなら世界に『魔法使い』が更にいてもおかしくはない。 そしてその()()の方法が分かればその他の『魔法使い』が誰なのか特定できる材料となる────

 

「(────とは『表側』の理由よね恐らく。 本音は自分達もその()()を使い、あわよくば『魔法使い』に成る、または弱点を研究するって言った所かしら。 流石おじさん! エグイ♪) そうね、単純に言えば『()()』は────『死ぬ事』よ」

 

 三月(本体)の最後の言葉にその場の者は静まり返り、ライダーも次のせんべいを取る手を止めていた。

 

 その沈黙を壊したのは当の雁夜だった。

 

「ハァァァァァァァ?! おいちょっと待て三月! 俺は聞いてないぞ!」

 

「や、だってアンタ死んでたし」

 

「説明になっていねえぇぇぇぇぇ!!!」

 

 雁夜の心からの叫びと共に彼は三月(本体)にズカズカと近づく。

 

「わわわわ! 分かった! 分かったから!」

 

「と言う事は何だ?! 俺は『ゾンビ』って事か?! 『使徒』って言う事か?! ッハ?! ま、まさか『真祖』────?!」

 

「いやいやいや、貴方は正真正銘、人間(ヒト)の『間桐雁夜』よ?」

 

「だから『仮死状態』って奴よ」

 

「お! ナイスタイミングで起きたわね、分体!」

 

 そこで三月(分体)は起き上がりながらこめかみをマッサージする。

 

「じゃあ、代わりに追加のお茶とか頼める? 私がこのまま説明するから」

 

「まあ…………本体がそう言うなら………今回甘いもの多めにするわね?」

 

 ピクリ。

 

 反応したのは大の甘党の舞弥だった。 これを見逃す筈の無い三月(分体)はニヤリとするのを堪えて言葉を続ける。

 

「でもな~、夜遅いから甘い物はな~」

 

 ガクリと明らかに舞弥(の雰囲気)が陰気になり、肩が若干落ちる。

 耳と尻尾があれば力なく垂れているだろう。

 

「でもやっぱり疲れた時は甘い物よね~」

 

 パアァァァっと明らかに舞弥(の雰囲気)が明るくなり、身体がウズウズする。

 耳と尻尾があれば間違いなくはち切れるような勢いでピコピコブンブンと動いている事だろう。

 

「例えばチョコたっぷりのショートケーキとか、モンブランとか、シフォン、 ロールケーキ、 フルーツケーキ、 ブッシュ・ド・ノエル、 スフレ、 キルシュトルテ────」

 

 ────これらの種類を聞いていく程に舞弥は切嗣とアイリスフィールから見ても気分が良く、目から星が出ているような錯覚まで見えているかのようだった。 二人からの視線に気が付いた舞弥は顔をほんのり赤くしながら咳払いをした。

 

「いいから全部持ってきて分体! 舞弥さんも付いて行って手伝って!」

 

「はいは~い♪」

 

「ッッ!!!! 喜んでッッッ!!!」

 

「「「(いやどこの居酒屋なの/だ/だよ)」」」

 

 キッチンへと素早く三月(分体)を担いで走りに近い早歩きで急行する舞弥に内心ツッコむ何人か。

 

「……………あー、ちょっと脱線したわね? つまり仮死状態の雁夜に『色々』の事を施して、それが上手くいっただけの事」

 

「……ではもしそれらが上手くいかなかったら、間桐雁夜は死んでいたと言う事か?」

 

「うん♪ アガ?!」

 

「『うん♪』じゃ、ねえよ!」

 

 雁夜が某アニメの拷問技のモーションに入る。

 

「やめて! やめて! やめて! やめて! 私は取り敢えず『キッカケ』を()()()()に作っただけ!」

 

 三月(本体)の『()()()()』という単語から彼女はざっくりと説明を少し足していった。

 

 曰く、彼女とチエはこの世界とよく似た()()()()から来た。

 曰く、聖杯と大聖杯の事を知って、自分たちの世界には無いので加わりたくなった。

 曰く、このまま自分達のみで行動に出れば何れ『アラヤ』に『世界の異物』として排除される。

 曰く、間桐家の雁夜が外国で行動していて接触して『他の世界の魔法』の移植行為(?)に成功した。

 

「────と、こういう手順で『アラヤ』にこの『他の世界の魔法』をゆっくりと『自分のモノ』と『認知』させる必要があったのよ。 まあ、最後の方は流石に計画を前倒しにしすぎて『アラヤ』が排除行動に出たけど…………」

 

 つまり間桐雁夜が例外中の例外であって『他の世界の魔法』の移植行為に耐え、三月とチエの教えがあって初めて『魔法使い』になったとセイバー運営、ライダー、そして間桐雁夜本人は認識する。

 

 半分ほどは三月(本体)の真っ赤なウソだと理解しているチエだが『何かそうする必要性(理由)がある』と思い、黙っているのだが。

 

「じゃあ、もう一つ質問を。 君は………君達は『これからどうする?』」

 

 切嗣の質問に場がピリッとした緊張感に包まれる。

 

『大聖杯』に『アラヤ』と言う圧倒的で、巨大すぎる力を持つ者に対しての『これからどうする?』の問い。

 

 この質問の出方次第でこの場で敗北は必須だとしてもセイバー、ライダー、切嗣、アイリスフィール、そして雁夜までもが三月達とチエに何時でも襲い掛かれるように心の準備と覚悟をする。

 

 例え命を費やせても、全く敵わないとしても、自分達が力の限り大暴れをすれば少なくとも聖堂協会とアーチャー運営は騒動に気付き、対処をしてくれるだろうと。

 

 

 

 

 

「ん~、特に無いわね。 あ! 桜ちゃんに『三月お姉ちゃん』って呼んでもらう事かな?」

 

「「「「は?」」」」

 

「その他は…………う~ん、あまり考えた事ないな~……強いて言えば『皆が幸せになる事』かな? ああ、ちなみに『皆』とは言ったけど私の身の周りの人達の事よ?」

 

 三月(本体)の答えにズッコケそうになる人達を他所に彼女は他愛もなく、普通に『皆が幸せになる事』を願っていた。

 

「………お前にそれ以上期待していた俺が損した気分だよ」

 

「んもう! そんなに照れなくても良いじゃん、ツンカリなんだから!」

 

「誰がツンカリだ! いつまでそのネタ引っ張るんだ?! 密着しちまうだろうが?!」

 

「じゃあカリカリ君を後で買ってそれで手を打つ────」

 

「────いらねえよ!」

 

「じゃあカルシュウムで手を打つ」

 

「カルシュウムより染毛剤だよ! 見ろよ、俺の髪の毛の色!」

 

「だから前にも言ったようにそれは『ストレス』の所為であって時間が経てば元通りに戻るって。 それまでまあ……漂白剤がかかったワカメと思えば? あ、貴方の場合はもずくか」

 

「………………………………………………………………………………………プ」

 

 誰が最初に噴出したのか、誰にも分からない。

 だが一度始まった笑う者達は先程のリアル漫才(コント)で一人が笑い始めると他の者が釣られ、皆は心から笑い始める。

 

「ふぉれはほういうふぉとへうか?」←*これはどういう事ですか?*

 

 ただ一人、キッチンから口周りに生クリームを付け、何かを頬張ばりながら数々のケーキなどを乗せたトレイを持つ舞弥を除いて。

 

「いや、まあ……ちょっと『頭の中』失礼するわよ」

 

 三月(分体)がそう言い数秒後、舞弥は何とか口の中のケーキを呑み込んだ後、笑いに参加する。

 

 この場を大声で起きてしまった桜は階段から寝ぼけながら居間を見ていると────

 

 

『────みんな、えがお(しあわせ)になっている。 かりやおじさんも、ぶしょうひげでねぶそくのひとも、きれいなアイリさんも、すごくおおきくてこわそうなあかがみのひとも、みんなみーんなえがお…………たのしいな』

 

 そう桜は思いフラフラ~っとその場に参加し、三月(分体)と舞弥が持っていた数々のケーキを見て『大人の皆は桜に内緒でケーキパーティをしていた』と勘違いし、駄々をこねた。

 

 だが最後には皆笑顔のままで、平和なやり取りをしていた。

 

 そして後に参加したのにも関わらず、桜は舞弥とドッコイドッコイ程のケーキを完食していた。

 

 それもあってか、甘党の二人は割と簡単に意気投合し、舞弥は久しぶりに感じない温かさを胸の奥で感じていた。

 

 これを皆と笑いながら話す三月は心の奥で『すべて上手く行った』と言う達成感に浸っていた。

 『()()偽り有りだが皆が納得してくれたようでよかった』っと多少の罪悪感もあったが。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 時は更に遡り、半透明の()()()が『大聖杯』へと潜り込み、中で『()()』へと統合している間に『外』の待機状態だった『分体』達に合図を送っておく。

 

『霊脈を活性化し、魔力を送り続けろ』と。

 

 その間に『三月』と言う『外来種』の『存在』はようやく自分から切り離していた『外部からの補給』を繋げて、弱っていた自分の『存在定義』を補強し、強固なものへと変えていった。

 

 確かに間桐雁夜達に話した間桐雁夜に施した『裏技』は嘘では無い。

 嘘では無いが『全て』ではなかった。

 

 幾ら慎重になり、改造を施したとしても、三月やチエなどの『力』を持った者達が何らかの行動を起こせば瞬く間に『アラヤ』はもっと早く動いていただろう。

 

 そこで間桐雁夜が鍵となった。

 

 彼は『物語』()の中で一番『影が薄い』状態の存在だが、限りなく中心に近い上、彼の動機は他者と比べれば平凡だった。

 

『桜を幸せにしたい』。

 

 ならばこの願いを実現させられる力を授けて尚、『アラヤ』がその方法を『危険』と思わせなければ良い。

 

 故に三月は改造後の『間桐雁夜』の存在を『肩代わり』していた。 そしてその結果彼女の命綱(ライフライン)は『アラヤ』に絶たれた。

 

 そこから雁夜とチエの使う『魔法』の『魔力源』は全て三月が『魔力供給』していた。

 

 おさらいとして、この世界の『魔術』は大きく分けて二つある。 それは『外部(マナ)』からと『内部(オド)』からの魔力。 質に違いはほぼないが量は別の話である。 

 

 池より湖。

 湖より海然り。

 

 ましてや間桐雁夜に三月達が伝授したのは『認知創造魔法(イマジナリーマジック)』。 

 これは術者の『認知』をベースに『魔法』を『創造』する、()()()の『魔法』でも異例のモノ。

 

『アラヤ』にしてみれば『なんやこれ? ワレ、こんなもん許可した覚えはないで!』と言うようなものだ。

 

 なので三月は限定的に、かつ疑似的に『外部(マナ)』の役割を担っていた。 これを知っているチエはなるべく三月への負担を軽減しようと、己自身の能力のみでその場その場を切り抜けてきていた。

 

 だがそれも『アンリマユ』という呪いを『大聖杯』から浄化するまで。

 ここからは『アラヤ』との正面切っての対立となる。

 

 そこで三月は『大聖杯』を利用し、『アラヤ』がガードを上げる(対策をする)前に先手を打つことにした。

 

 例え『アラヤ』と言えど、巨大すぎる力の動きは若干遅れる上に、一度内部へと侵入すれば汚物の排除は難しい、体内へ侵入したウィルスのように。

『アンリマユ』と『大聖杯』のように。

 

 ただここでもう一つの問題が出る。

 

 果たして浄化した『大聖杯』が『アラヤ』を……………『世界の阻止力』の掌握に手を貸しくれるのか?

 それ以前にそのような『願い』を承諾してくれるのか?

 

 実はこれに三月は既に考えがあった。

 

 あったと言うか何というか……………………

 




アラヤ:勝手な事しとんなワレ

作者:ア、イエ、デスカラ『独自解釈』って

アラヤ:なめとんのかテメエ?! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!

作者:ヒィィィィ!!!

アラヤ:この落とし前、どう付けんねん?

マイケル:何このやり取り?

ラケール:もう『世界の抑止力』じゃなくてマフィアかブラック会社ね

三月:でも結局『必要の善悪』ってところで同じじゃない?


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第23話 常軌を逸し、時は流れる

今回のイメージソングははFate UBWのOcean of Memoriesでした。

アンケートにご協力お願いします!


 ___________

 

 三月 視点

 ___________

 

 

 

 三月は大聖杯の中へ潜り込むとすぐさま魔力の海の中にいる感じに包まれた。

 

「うわ、何か甘~い蜂蜜を足した水の中にいるみたい」

 

 そう呟きながら三月は大聖杯の中を進んでいく。 常人なら意思を保つどころか、発狂するような場所。 強固な精神を持ったとしても快楽に溺れるようなところを彼女は()()進んでいた。

 

 そして、三月は()()()()()()()()()()()()()へと出た。

 

「…………」

 

 その中で一人立っていたものがいた。

 

 白いドレスを纏ったアイリスフィール・フォン・アインツベルン……………

 

 

 

 ではなく、アイリスフィールが()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 冬の聖女。 またの名を────

 

 

 

 

 

 

「────おはよう、こんにちは、こんばんは、初めまして……そして久しぶり……()()()()()

 

 ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン。 およそ2()0()0()()()、遠坂とマキリ(後に『間桐』と改名する一家)と協力して『第三魔法』の成就を達成させようと聖杯降霊を行ったアインツベルンの当主だった者。

 

『第三魔法』、それは『魂』を別人の肉体に定着させたり、永久機関とすることで魂のエネルギーを魔力として無尽蔵に汲み出す事が出来るようになる。

 そして遠坂、間桐家、アインツベルン家がかつて目指していた目的。

 

 そのためだけにユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンは自らを柳洞寺地下に置かれる大聖杯の魔術式を構成する魔術回路に成り、大聖杯と同期した。

 

 200年。

 

 文字にすれば短く、実際の体現とすれば人生を少なくとも二回は経験するような時間をユスティーツァは『一人』でただただ『他者』の『願い』を『叶える器』として『機能』していた。

 

 もはや『生きて』はいなかった。

 

 元あった人格はとうの前に壊れ、ただ機械化していた。

 

 そのような者に三月は微笑みながら親しみを込めて挨拶をする。

 

 当然だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 今のユスティーツァは()()()()()()()()()なのだから。

 

「…………」

 

「うん、わかるわかる! すっごい退屈だよね!」

 

「…………」

 

「あー、うん。 食べ物って皆あんまり考えないけど『やる気』とか『士気』とかに直結するよね! うんうん! やっぱり食欲は大事ね!」

 

「…………」

 

 無言で無表情のままただ三月を見ているのか見ていないか良く分からないユスティーツァに対して三月は延々と一方的に回答(?)して行く。

 

「うん、あと一人だと寂しいよね。 ごめんね? もっと早く来れなくて? でも大丈夫────」

 

 トサッ。

 

 三月がユスティーツァを抱きしめて、顔を沈める。 これをユスティーツァは静かに、感情の無い顔をただ三月に向ける。

 

 

 

 

 

「────私が、()()()()あげるから。 だからもう、無理しなくていいよ?」

 

「…………」

 

 三月はただ静かに抱き待つと、ユスティーツァの『存在』が薄くなっていくのを感じる。

 

 

 

 

 

 そして不意に頭を撫でられ、上を見ると────

 

「────ッ」

 

 うっすらと自分に優しく笑い、消えて行くユスティーツァの顔に息を呑む。

 

「………うん、良かった。貴方は最後に()()()()()んだよね?」

 

 

 

 

 気付けば三月は泣いていた。 

 袖で涙を拭い、決心を改める。

 

『アラヤ』を…………『世界の存続を願う願望(必要悪)』の源を『掌握』するのだと。

 

 

 

 

 

 そこからはブーストのかかった『大聖杯の三月』と『アラヤ』の見えない、普通の人類の体現時間にしては一瞬の『戦争』が繰り広げられ、三月は新たな『アラヤ』と成った。

 

『人類の無意識下の集合体、かつ人間としての感情があるアラヤ』に。

 

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 時は『アラヤ』の掌握から二週間ほど経った後に戻り、三月(本体)はベッドの上で目を覚ます。

 

「……………ハァ~」

 

 少し憂鬱になりながらも起きて扉を開けると────

 

「────ヒィ?!」

 

 三月を見て腰を抜かせながら尻餅をつく『間桐信二』とばったり出会った。

 

「…………………………………………………ハァ~」

 

 更に憂鬱な気分になり、先程より長い溜息を出すと信二はイラっとしたのかムッとした顔を向ける。

 

「な、何だよお前?! 溜息ばかりして!」

 

「……………」

 

 三月(本体)は無言でただ信二を見る。 これを不愉快か不気味に思ったのか、更に叫ぶ。

 

「な、何だよ?! 何とか言ったらどうなんだよ?! ヒッ」

 

 何も言わず手を出す三月(本体)に信二は小さな悲鳴を上げて目を瞑る、『爺さんみたいに何かをされる!』と思いながら。

 

 

 だがやって来たのは痛みなどでは無く、優しく頭を撫でる感触だった。

 

「え────?」

 

 信二は呆気に取られ目を開けるとやはり三月(本体)が自分の頭を撫でていた。

 

「う~ん、見た目だけじゃなくて触り心地もワカメね~。 お風呂ちゃんと入っている? 桜と一緒に後で入ろうか?」

 

「なッ?!」

 

 これに信二は顔を赤くする。 恥ずかしいのか、その他の感情があるのかは不明だが。

 

「ば、馬鹿にするな! お風呂位一人で入れるさ! それに桜は関係ないだろ?!」

 

「あー、可愛いなー(『コレ』が『アレ』に成るのってやっぱりクソ爺(臓硯)の所為なのかなー?)」

 

 そのまま撫で続ける三月(本体)に満更でもないのか信二は顔を赤くしながらも撫でられれ続ける、が────

 

「────なあ、お前………()()()()()()()()()()?」

 

 信二は子供とは思えないような質問をしながら、まっすぐな眼差しで三月(本体)の目を見る。

 

 子供とは言え馬鹿では無く、自分の家系が歪だったのは多少なりとも周りの子供達を見れば明らかだった。

 

 そしてそれは全て間桐臓硯を見なくなった日からガラリと変わり、雁夜達が何かしたのは明白だった。

 

「(流石天才ワカメ、小さくてもズバッと本質を見抜くとは。)………別に? 私の『我儘』よ。 後は………『借り』を『返した』だけ、かな?」

 

「………ハァ?」

 

『何だそれ、訳わかんねえよ』とでも言いたいような顔を信二は作る。

 

 だが三月(本体)はそれ以上答える気が無いからか通路を歩き、朝の支度を済ませる。

 

 そして────

 

「────何これどういう事?」

 

 三月(本体)は様々な人達の溜まり場と化していた間桐家の居間を見ながらそう呟いた。

 

「ロード、そのようなアプローチでは────」

 

「────いやいや遠坂君、それこそが────」

 

「────あ、でも先生。それはそれで────」

 

「────ウェイバー君、ここは先生達の案を聞いて一段落するまで待った方が────」

 

「────おい坊主ちょっとこっちに来て次の手を────」

 

「────征服王、『待ったは無し』の筈だが────」

 

「────うわー! キンキンだー!────」

 

「────ん? 『キンキン』とは何だ? 綺礼、答えろ────」

 

「────ハ。恐らくは『黄金』の名称を子供なりにアレンジしたものかと────」

 

「────マダム、やはり包丁での作業では無く、他の担当に回って────」

 

「────あら舞弥、いくら私でも『味見担当』とかは無いと思うわ────」

 

「────アイリスフィール、ジャガイモの皮むきはいかように────?」

 

「────騎士王よ、この『ぴーらー』なるものが適切かと。以前ウェイバー殿がソラウ様にご教授────」

 

「────うきゃあああああ! ケイネスの前で言わないでランサー────!!!」

 

「────む、呼んだかねソラウ────?」

 

「────きゃああああ────?!?!?!」

 

「────ランサー、前にも言ったが私の事は『アーサー』と────」

 

「────そ、そうか。 いや、そうだったな────」

 

「────ヒィ~ン! 本体ぃぃぃ────!!!!!!!!」

 

 三月(本体)が呆然と見ている中、三月(分体)が涙目になりながらタックルをかます勢いで抱き着いてきた。

 

「────だじげで~~~~~!!! 『一人』じゃ無理~~~~!!!」

 

「…………………………………………………ハァァァァァァ~~~~~~~~」

 

 三月(本体)は長い、なが~~い溜息を出しながら────

 

 

 

 

 

 ────幸せそうに笑いながら、泣いていた。

 

 

 

 小聖杯と大聖杯。

 二つともに正常になり、結局残ったサーヴァント達は全員受肉を希望した。

 

 セイバーは『第二の生』を。

 ランサーは今度こそ自らが主と決めた者達に『忠義』を示し通す為に。

 アーチャーは新たなる『娯楽』を経験する為に。

 ライダーは『この新しい世界を再び征服する!』と息巻いていたが何故か『チエに一局勝つまでは動けん!』と目的が変わっていた(そして陰で密かにチエに感謝しているライダーのマスター)。

 

 第四次聖杯戦争は有耶無耶になってしまったが大体のマスター達はサーヴァント同様、それほど気にしていなかった。

 

 何せ聖杯抜きでそれぞれの願い事は何らかの形で叶っているのだから。

 

 少し『今』とこれから起こる『未来』を掻い摘んで話すと────

 

 

 アイリスフィールは『ホムンクルス』としてではなく、『人間』としての『幸せ』をちゃんと経験する為に今から花嫁修業を。

 

 舞弥はアイリスフィールと切嗣のサポートをこれからも担うつもりで、子守りの手伝いとアイリスフィールに一通りの家事を教える。

 

 ケイネスは聖杯戦争に勝ちこそしなかったものの、『聖杯の解析データ』の一部を時計塔で(全く隠す気もない、凄いドヤ顔で)公表し更に地位が上昇する。 そして正式に『ロード・エルメロイ二世』に後を頼んだとか。

 断じてケイネスが自業自得で忙しくなりすぎて、必死になったソラウが夜な夜な夜這いをかけようとしたり、ソラウが『何時私だけを見てくれるの?』と上目遣いで駄々をこねたり、『主殿、流石に全てを一人で担うのは如何なものかと』と自分の家臣に心配されたり、などなどと。

 決して、決して最後の引き金が『同期達や後輩達と意気投合と面白そうに笑い合うウェイバー・ベルベットを見て嫉妬した自分のお気に入りだった紅茶のコップを握り壊してしまった』などと低浴な理由からの『虐め心』でやった事ではない。

『正式に(ウェイバー)を『ロード・エルメロイ二世』に任命したのには訳がある! 聖杯関連だ! 部外者には口出し無用! 以上だ!』の啖呵を最後にケイネス夫婦とランサー達は『研究』と言う名目上の『保養』で冬木市の別荘で住んだとか。

 これにより生徒達や職員達からランサー宛のラブレターや贈り物(普通+魔術的な物)などが時計塔から殺到してほぼ毎週送られるのに冬木市の郵便局は頭を悩ませたとか。何せランサーが毎回丁重に返しの手紙を送り為に来るのだから。

 ちなみにソラウが妊娠したと発覚した暁には、最初は二児の父親である時臣を頼ったがあまりにも参考にはならず、雁夜を次に頼ったが彼に勧めれて物凄~~~~~~~~~~~~~~く渋々と衛宮切嗣を頼り、意外な程しっかりとした教えが返って来て彼の切嗣に対する偏見が変わったとか、最初の子供の名付け親は切嗣にしたかったが舞弥と三月(分体)に止められたとか。

 

 ソラウは実はそんなドヤ顔やケイネスの言動は全て自分に良い所を見せたい『子供っぽい仕草』に更に惹かれ、彼をもっと『伴侶』として意識し、冬木市滞在中にランサーと舞弥の下でアイリスフィールと共に花嫁修業をしていた。

 ちなみに未だに『妻』と言うのは躊躇がある模様。『あの夜』からのイチャイチャぶりを文字通り直に目にしている上、『分体』が『体験』してしまったので三月からすれば胸焼けどころか心臓から中心に体が溶ける勢いで二人とも『大人』なのに変なところで初々しいなと思っていた。

 え? 何を三月の『分体』が『体験』したかって? 

 だからケイネスとソラウは『あの夜』からイチャイチャしていた。

 ……………………ナニだよ、察しろ。 

 え? もっと詳しく? 

 そんなことしたらR-18指定になっちゃうでしょうが!

 書かないからな! ←絶対とは言っていない ←フラグ立たせるな! ←ハズイから…

 後にケイネスと初の子供ができ、『名付け親は衛宮切嗣にしたいのだが!』と言うケイネスをひっ叩いて三月にしたとか(実はその三月が『衛宮切嗣のネーミングセンスは安直すぎる』とソラウは言われたからどうとか)。

 無事に子供の名前は『ソフィア』と命名され、後にその子が時計塔で『神童の再来』と呼ばれ、『ロード・エルメロイ二世』の胃を更に痛める新たな理由の一つになったとか何とか。

 

 ウェイバー・ベルベットはと言うと、ケイネスとの対聖杯魔術礼装の共同協力から始まった師弟関係は更に強固になり(主にケイネスに振り回され)、ケイネスが『聖杯の解析データ』の一部の公表にも一枚噛んでいた。

 と言うのもちょっとした『出来心』でケイネスがウェイバーにも注目が行くように、『ウェイバー君は良い助手だったよ』と仕向けたのだが、ケイネスと言うある意味捻くれた人物を隣でよく観察していたウェイバーはこのハプニングを逆手に取り、その手腕で時計塔では『凡人の神童』とまで呼ばれ始めていた。

『凡人の神童』は『凡人にしては“神童っぽい”半端さがあるな』と言う意味合いがあった二つ名なのだが、ケイネスは自分と同じ『神童』の文字が入っていたのが気に入らなかったのか、正式にウェイバーを『エルメロイ家』の養子にしたいと発表。

 結果は……………まあ、あと十年もしたら当時の『凡人の神童』がまさか正式に『ロード・エルメロイ二世』となるのは一部の人間達(?)を除けば知る由もない。

 現在では立派に(他者達に無理矢理)引っ張りまわされ、ぐんぐんと『人間』としても『魔術師』としても成長している。

 余談かもしれないが、以前から『もやし』と呼ばれていた彼が何故か八極拳を会得していて、彼や他の生徒を虐めていた者達を説得して(物理的にしばき)、『変に正義感が増したな?』と聞かれると『ある人達の強さと力に憧れた、そしてある人達に自分の正義を持つのは大切な事だと学んだ』と言い、言峰綺礼と言峰套路の下に短期で時計塔からはるばる弟子入りする者達が増えたとか。

 そして後にウェイバーは髪を伸ばすのは冬木の聖杯戦争で出会った『ある人』の影響もあるのだとか(『彼女』と違いただの長髪にしているだけだが)。

 

 遠坂時臣はと言うと勿論、今回の聖杯戦争の結末に納得などしておらず、令呪でアーチャーを使おうとする直前に他の運営全員が必死に止めに入った。 最後に折れた理由は不思議とセイバー運営、ランサー運営、ライダー運営、間桐雁夜やアーチャー達の警告と脅しでもなかった。

 折れた理由はその場に駆けつけて自分の父を守ろうとする遠坂凛がチエを見るなりに「あ! あの時のお姉さんだよ、お父様!」と言ったからである。

 そこからの時臣の態度の豹変ぶりはあの間桐雁夜でさえ全員が不気味がっていた。 

 何しろプライドの塊と『如何なる時も優雅たれ』が口癖の時臣が大勢の前で突然チエに向かって涙を流しながら感謝の言葉をただ繰り返していたのだから。

 正に『鬼の目にも涙』のような場だった。

 今では三月(分体)が『大聖杯』に成り代わったのを知って、間桐家に居座っている彼女との関わり合いを深めようとしている。 遠坂葵と凛は桜に関して最初は複雑な思いばかりだったが、間桐家で心から笑っている桜を見る内に『従妹同士』のような感覚で付き合っていて関係は概ね良好である(現在は『親戚』として今夜の夕食の食材の買い出しをしていた)。

 もし時臣が実は三月(分体)が『大聖杯』どころか『世界の抑止力』に成り代わったのを知るとどうなるか……………

 冬木市どころか、日本が戦地と成り果てるかも知れない。

 もしくは日本を中心に第三次世界(聖杯)大戦か。

 後は時計塔で地位と権力を上げるケイネスとの『良き友人』か『良き知人』の座をアピールしているとかどうとか。 

 そして『凡人の神童』のウェイバーと自分の娘の凛をくっつけようと縁談など進めたが………あとにウェイバーが正式に『ロード・エルメロイ二世』となるのを知っていれば察せるだろう。

 何処かの赤い悪魔が『三月に言いつけるわよ、お父様! 彼女は怒ったらすっっっっっっっっごく怖いんだから!』と言い、一か月もの間時臣と口を聞かず、間桐家に居座ったのは関係が無い…………………………………………………筈。

 

 セイバー運営の更なる詳細はまた後で追記する予定だが……………

 

 最後に、衛宮切嗣は────




三月:えー、只今作者が自分の書いた文章に泣きながら続きを書いているのでコントは無く、かなり短くなります。 ここから少し駄文など含まれていますが読んでくれてありがとうございます。 アンケートのご協力もありがとうございます。 アンケートの期限は最終話まで続きます。 では、よい年越しを! これからもよろしくお願いします! 


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第24話 夏は日向を行け、冬は日陰を行け

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

え、イメソンですか? 今回はないです。


 ___________

 

 三月、雁夜 視点

 ___________

 

 

 ────不意に、間桐家の電話が鳴り三月(分体)が電話に出る。

 

「はいもしもし間桐家です! ただ今電話に出れませんので、『ピィー』と────」

 

『三月か? 切嗣だ。“準備” が整った』

 

 三月(分体)の悪ふざけを一刀両断した切嗣の声は低かった。

 

「………分かった」

 

 三月(分体)が電話を切ると、これを見ていた三月(本体)は舞弥とアイリスフィールと雁夜とチエに声をかけて五人は既に出かける用意をしていた。

 

「え? 本体?」

 

「いや、まあ……ここまで来たら最後まで面倒見るっきゃないでしょう、分体?」

 

「そう…………ね。 行ってらっしゃい!」

 

 三月(分体)が抜ける三人(主に舞弥の役割)をヒィコラ言いながら引き継ぎ、三月(本体)、舞弥、アイリスフィール、雁夜、チエは()()()へと向かった。

 

 イリヤを救いに。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「へっくち! さみーよー! 雪は綺麗だけどさー」

 

 三月(本体)はもこもこのコートと帽子を着ながら視界を覆うほど吹雪いている山の中の森を切嗣、アイリスフィール、チエ、そして舞弥と共に歩いていた。

 

「我慢しろ。 この吹雪は外側の結界同様、アインツベルンの人払いによるものだ。ただ外側の結界と違い、低レベルの魔術師なら凍死するまで彷徨い続ける事になっている」

 

 そう言いながら三月達は進む。

 

「でも、本当に大丈夫なのかしら? サーヴァントを連れて来た方が────」

 

「────それは悪手。 確かにサーヴァントは強い戦力になるけど『気配遮断』を持っていないサーヴァントは魔力やその存在が結構ダダ漏れ。特に一番戦力になるセイバーは魔力を登録されて遠見の魔術か何かで常に彼女経由でこちらを見ていた可能性が高い…………まあ、その代わりにチエを呼んで来たんだけど……不服?」

 

 切嗣はチラッとチエを片目で見るが何も言わずに進む。

 

「気にしないで三月()()、彼はイリヤの心配をしているだけだから。勿論、貴方達がどれほど強いか分かっているわ。 でも『彼女』は得体が知れなくて…………」

 

「あ、三月『ちゃん』か『三月』でお願いします。 後チエには『手加減無し』と言ってあるので、少々のストレス発散に成ると思いますので。 ただビックリしないで下さい」

 

「マダム、今はこの者達を信じてみたらどうでしょうか?」

 

「…………そうね。そうしようかしら」

 

「お喋りはそこまでにしておけ。着いたようだ」

 

 切嗣がサーモグラフィー機能付きスコープを通して城らしき建物の外を徘徊して様々な武器で武装したホムンクルス達の姿が見える。

 

 切嗣達がこれを確認し、大体の城の形状や見取り図を予め描いていた物に切嗣が情報を足す。

 

「良し、これだけの情報があれば────」

 

「────チエ、行けそう?」

 

「問題ない、行ってくる────」

 

 チエが急に立ち上がり、城の方へと歩き出すと切嗣達が焦る。

 

「お、おい待て────!」

 

「待って、あの中にはイリヤが────!」

 

 チエがそのまま歩くと思った三人は、彼女が居合の構えから空に向かって抜刀する途端、荒れ狂う吹雪は収まり、風と雪が収まるどころか温度までさっきからの零度以下から春のような温度まで急上昇していた。

 

 吹雪対策をしていた切嗣達は気温上昇により暑くなり、上着を外しながら周りを見た。

 

「これは?!」

 

「どうした、アイリ?!」

 

「結界内だけに変化を?! いえ、これは………()()()()()()?!」

 

()()()()()()』。

 

 これは決して容易い事ではなく、結界の上書きなどは無く先ずは先に張ってあった結界の破壊、または無効かをした後、新しく張るものか既にあったものの強化。

 

「………雁夜もだが、彼女は出鱈目すぎる。 彼女は一体何者なんだ?」

 

 切嗣が三月に問うが彼女は答えず、ただ城門を見ていた。 ホムンクルス達は急に真冬の吹雪から晴天の春に天候が変わったのが余程想定外だったのかオロオロと辺りを見渡していたとしていた。

 

 それを見た切嗣は城に向かって可能な限りの大声で叫ぶ。

 

「当主殿! 僕は娘を……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを迎えに来ただけだ! それ以外の目的は無い!」

 

 切嗣の答えの代わりは静寂と、急に声を出した者への臨戦態勢を取るホムンクルス達だった。

 

「駄目か」

 

「出来れば、彼らと彼女ら達は巻き込みたくなかったけど……」

 

「仕方のない事ですマダム。 貴方が気落ちする事は無い」

 

「お母様ー!!!」

 

 アイリスフィールを呼ぶ幼い声が、臨戦態勢を取ったホムンクルスの集団の間から走り出してきて────

 

「────あ、キリツグもいたんだ! おかえりなさい!」

 

「「イリヤ!」」

 

 切嗣とアイリスフィールは我先にとイリヤを抱きしめながら涙を流す。

 

「えへへ。キリツグの言っていた通り、イリヤずっと良い子で待っていたよ!」

 

「うん……うん……だから父さんも……母さんも早く迎えに来たよ」

 

「あれ? なんで二人とも泣いているの?」

 

「何でだろうね。 ハハハ…多分、走った時にゴミが目に入ったんだろうね」

 

「(うっわ、切嗣って素直じゃないなー)」

 

「イリヤの元気な姿があまりにも眩しすぎてお母さんは泣いているのよ」

 

「(それに対してアイリスフィールはやっぱりマイペース(アイリスフィールさん)だな~)」

 

 イリヤの抱きしめる二人は聖杯戦争で戦ってきた『兵士』や『道具』などでは無く、純粋に『我が子に会いたかった親』と言う、雁夜からしてみれば魔術師にしては『人間臭い』行動だった。

 

「………(成程、三月は『コレ』の事を言っていたのか………『魔術師殺し』は実は一般人の感性を持っていたからこそ行える所業………か………)あれ? そう言えばホムンクルス達何もしてこないよな?」

 

 アインツベルンの取った行動は明らかに部外者へ対する警戒態勢。 だがそれ以降何も行動を起こしてはいない。 せいぜい上着のチャックなどを開けるか、上着を脱ぐかのような些細なものだった。

 これを不思議に思った切嗣とアイリスフィールはイリヤに問いかける。

 

「ねえ、イリヤ? 大爺様はいるかしら?」

 

「うん、いるよ」

 

「彼は今どうしているの?」

 

「おねんねしている!」

 

「「は?/え?」」

 

「急にね! 天気が良くなったらねちゃったの! 『ひなたぼっこ』ってかな?」

 

「「…………………」」

 

「切嗣、マダム。 城門からチエが出てきます」

 

「よっし! ここからは私の出番ね!」

 

 双眼鏡を覗き、城から出てくるチエと交代するように、三月が城門前に集まってくるホムンクルス達と会い、何かを話しているかのように切嗣達には見えた。

 

 数分後、三月は切嗣達がいる場所へと戻る。

 

 何故か大勢のホムンクルスを連れて。

 

「────と言う訳でこの子達もアイリスフィール達と一緒に日本に行くことを決めたから!」

 

 ゴチィン!

 

「いっっっっっっったぁぁぁぁぁぁい!」

 

「何が『と言う訳で』だ! 何人いると思うんだよ?!」

 

「143人だけど」

 

 イラつく雁夜に対してさっきまで痛がっていた三月は冷静に、かつピンポイントで人数を答えると雁夜は切嗣を見る。

 

 同情たっぷりの目で。

 

「………と言う訳でバトンタッチだ、切嗣」

 

「は?」

 

「143人分の偽造パスポートと航路等の確保、俺も手伝うからさ」

 

「な?!」

 

「あら~、大きい家族になっちゃうわね~」

 

「アイリ?! ぼ、僕はまだ────!」

 

「────キリツグ! ガンバ!」

 

「イ、イリヤまで………」

 

「切嗣────」

 

 切嗣最後の希望の舞弥の声に期待の目を向ける。

 

「────私はこれからマダムとお嬢様を警護し、別ルートで日本へ帰還する準備をします。 後ほど合流しましょう」

 

 バッサリと期待を一刀両断した舞弥に切嗣は更に気落ちすると、雁夜は切嗣の肩を叩き、切嗣は雁夜を見てギョッとした。

 

 雁夜の目はいつの間にか狂言者のように、狂ったような眼をしていて、瞳孔は開きっぱなしの状態で笑っていた。

 

「大丈夫だよ、切嗣」

 

「か…か…か…雁夜…………君?」

 

「大丈夫。 俺もド素人だったけど二人分の偽造パスポートを入手した事がある。 一応養子としての登録もしたけどさ、後で調べて見たら『変質者』と指名手配されて────」

 

「────ひ」

 

 切嗣は短い悲鳴のような息を出して延々と愚痴る(?)雁夜の話(?)を聞いていた。

 

 話が終わったのは一時間後だが切嗣にしたら永遠とも思えるような長い、長ーい時間だった。

 

 救いはアイリスフィールが出来るだけ長くイリヤと切嗣を一緒にしたかったので全ての準備が整い終わるまでドイツに一緒に皆がいた事か。

 

 そして結局手伝わされる舞弥だった。

 彼女の目が赤く、涙を流した跡はその日の夕飯の為に玉ネギを切っていたからだそうだ。

 ちなみにその日の夕飯は簡単なマッシュポテトとグレービー、ステーキ、そして野菜スープ。

 玉ネギはどこにも見当たらなかった。

 

 全てが終わる頃には何故か大人しくなったアインツベルン現当主のアハト爺と、当時生産中だったホムンクルス達まで頭数に入っていた。

 

 三月曰く『アインツベルン次期当主は切嗣とアイリスフィールの二存で決める事に()()()()()。 後、アインツベルン家はドイツから冬木市に本拠点を移動するからね☆』。

 

 これを聞いた雁夜と切嗣と舞弥だけでなく()()アイリスフィールまでもが流石に頭を抱えて悩んでいた。

 

 ただ────

 

 

 

 

 

「────ああ、どうしよう! アハト爺の嫌いな物とか苦手な物って何だったかしら?! 機嫌を損ねて切嗣との結婚を破棄させられたらどうしよう?! と言うかそもそも彼って普通に人の前に出せるような人物だっけ────?!」

 

 ────彼女(アイリスフィール)の悩みの種は他の三人とはベクトルが違った意味でテンパっていた。

 

 後少しズレていたのは言わずもがな。

 既に切嗣とアイリスフィールにアインツベルン次期当主の選択を渡した時点で二人の婚約に文句を付けられない立場の上……………いや、これ以上は止そう。

 

 その間、イリヤは見事三月とチエ両方と意気投合し、毎日彼女のお供をするホムンクルスの中で名がある二つの個体のリーゼリットとセラと一緒にドイツの街へと出ていた。

 

 ちなみに最初この三人(イリヤ達)を見た瞬間、何故か三月が号泣した。

 

 困惑するチエとイリヤ、無表情のリーゼリットはどうしたら良いのか分からず、イリヤの教育係であるセラが仕方なく慰めようとしたところ、三月が余計に泣きながらリーゼリットとセラに抱きつき、結局は泣き止むまで待つこと30分。

 

 その間に三月は何かを言おうとしていたが涙に紛れて、要領を得ない言葉だった。

 

 泣き止んだ三月は耳まで赤くなりながらも、そして恥ずかしそうに二人に何度も謝り、イリヤが何故泣いたか聞いたところ、三月は『二人が私の世話係と非常に()()()()から』との事。

 

 その日からイリヤ、リーゼリット、セラ、三月は非常に仲良くなり、終いには三月とイリヤに二人に引っ張りまわされていたチエとリーゼリットが何故か日本に戻ったら『また』組手をする事に。

 

 そして教育係のセラは悩みどころが更に多くなり(主に何となく似ている者同士のリーゼリットとチエ絡み)に胃を痛めているところに三月が雁夜と切嗣達に勧めている胃薬を分けてあげたその次の日からセラは何かと三月に文句(もとい愚直)を言う為に三月の下をよく訪れるようになった。

 

 そのような日々が約一か月半の時が過ぎて、やっと全員日本へ帰国できる準備が整った。

 

 余談だがこの一か月半の間、三月(分体)と桜と凛からの国際電話はほぼ数時間おきに三月(本体)と雁夜とチエに掛かって来た為、チエにほとんど対応をお願いしていた(流石に悪いと思ったのか途中から三月(本体)も切嗣、雁夜、舞弥の手伝いをし始めてあまり眠らないチエにこの役割が回った)。




ラケール:明けましておめでとうございます! はい、と言う訳でまさかのアインツベルン絡みの話でした。 そしてまさかのテクスチャ変え。

チエ:物足りんな。

マイケル: え゛


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第25話 子供は風の子、大人は火の子。そして……

ではごゆっくりお楽しみください。


 そして冬木市……………

 

「冬木市よ! 私は帰って来たぞー!」

 

「「来たぞー!」」

 

「ぞー(棒読み)」

 

「………」

 

「ハァ……もう、この人達は………」

 

 三月が叫び、イリヤは最後の方を真似て、更にイリヤを真似るアイリスフィール。

 それに続く感情の籠っていないリーゼリットの声と無言のチエ、そして最後にセラが溜息を出し、それを見たアイリスフィールがクスリと笑う。

 

「あら、皆仲良しで私は嬉しいわよセラ」

 

「奥様……」

 

 そしてその日、約250人もの()()()()の目麗しい北欧系の美男美女達が冬木市に移住して来てかなりの大騒ぎになったのだとか。

 

 大半の家宅は復興作業が続いているアインツベルン城に、そして残りは衛宮邸へと移住した。

 

 追記として言峰套路と冬木市の政治家達にも胃薬を三月は持って行ったそうな(主にメディア放送や表沙汰になりそうだったのを阻止してくれたり融通を聞かせてくれたりと)。

 

 そして三か月ほど時は過ぎ去り────

 

 

 

「ねえカリヤおじさんは『けっこん』しないの?」

 

「「ブフー!!!」」

 

 ある日、周辺の住宅等を買って更に巨大化し、リフォームを遂げた間桐家での一か月に一回はある『第四次聖杯戦争参加者集会』の晩餐で夫婦仲が良い衛宮家とアーチボルト家を見た桜は雁夜にそう聞いた所、雁夜と三月が飲んでいたお茶を噴出した。

 

「あらー、どうしたの桜?」

 

「だってアイリおねーさんとブショウひげおじさん同士とおーるばっくおじさんとソラウおねーさん同士ってなかがよくて、カリヤおじさんと歳あまりかわらないから」

 

「「「「(無精ヒゲおじさん)」」」」

 

「「「「(オールバックおじさん)」」」」

 

 切嗣とケイネスを見た者達は聞かぬ振りをした二人に若干同情しながら「(桜は辛辣だなー)」と思った。

 

 ちなみに切嗣とケイネスのコップを持つ手は震えていた。

 かなり気になったらしく、切嗣はこの日からヒゲをこまめに剃り初め、ケイネスはヘアーサロンにて定期的にスタイルを変えたとか。

 

「そ、それがどうしたんだい? 桜ちゃん?」

 

 とにかくこの話題を無理矢理変えるより早く終わらせようと試みる雁夜はせっせと会話を進ませる。

 あとはその場にいた遠坂葵を見ないように必死だった。

 

「もしかしてカリヤおじさんってチー姉ちゃんと『けっこん』したいの?」

 

「「「「ブフー!」」」」

 

 これを聞いた雁夜と三月以外いた大人組は噴出した。あるいは何とか堪えたが目を見開いた。

 

 そして雁夜の笑顔はヒクつく。

 

「な、な、な、何でそう思うのかな桜ちゃん?」

 

「だってカリヤおじさんってチー姉ちゃんをよくみているもん」

 

「「「「「………………………」」」」」

 

 急な沈黙が辺りを埋め尽くす事30秒ほど。 痺れを切らしたのか、桜はチエを呼んできて、同じ質問をしている中、他の者達は見守るかまだビックリしている途中だった。

 

「『結婚』? 少し待て………………………ああ、『伴侶』の事か。 雁夜は私を『伴侶』として欲しているのか?」

 

「「「「(ド直球だ?!)」」」」

 

「え?! いや、その! 俺は!」

 

「「「「(しかもこの反応は…………)」」」」

 

「カリヤおじさんはひまがあったらよくチー姉ちゃんをみているよ?」

 

「さ、さ、さ、さ、さ、桜ちゃん?!」

 

「雁夜は性欲が留まっているのか?」

 

「え?!」

 

「(うわー、これは────)」

 

 ────これを見た三月は────

 

 

 

 

「(────面白そうだ。見守ろ。 グエヘヘヘヘヘ)」

 

 未だ赤くなってパニクッている雁夜にチエは更に言葉(追い打ち)をかけ、周りを巻き込み始める。

 

「いや、すまないな。 良く分からない。 私は繁殖行為を考えた事が無くてな。 どうなのだ、アイリスフィール?」

 

「エエエエエエェェェェ?! わ、わ、わ、私ぃ?!」

 

「??? 切嗣と繁殖行為を行ったからイリヤは生まれたと思っていたが?」

 

「え、あ、その、ち…………ちが………違わなくて……その…………」

 

 テンパるアイリスフィールに三月達が心の中で合掌する。

 

「で、どうなのだ?」

 

「ど、どうって………………………………」

 

 アイリスフィールは赤くなり、気まずそうにしながら同じように赤くなる切嗣を見ると二人の目は会い、更に赤くなりながら目を逸らす。

 

「「「「「(これが『リア充』ッ!!!)」」」」」

 

「ところで突然どうした、桜?」

 

「「「「「(場を荒らして放置かよ?!)」」」」」

 

「ううん。 カリヤおじさんがこのまま『けっこん』しなかったら、かわいそうだから桜がお嫁さんになってあげようとおもったの!」

 

「桜ちゃんッッッッッッ!!!」

 

 思わず泣きそうになる雁夜(実際に感動で目が潤んでいる)。 だが────

 

「────駄目よ桜!」

 

「待ちなさい、桜!」

 

「え? イリヤにお…お姉ちゃん?」

 

 先程桜の言ったことを偶然聞こえてきたイリヤと遠坂凛が待ったをかける。

 あと桜は最初の頃は遠坂凛に対して他人行儀であったが今ではちゃんと『姉妹』として接している。

 

「このような()()に桜はもったいなすぎるよ!」

 

「そうよ! 桜があまりにもかわいそうだわ!」

 

「え? え? え? そうかな?」

 

「「「「「「…………………」」」」」」

 

「そうよ! 桜はもっと自分を大切にしないと!」

 

「それに、今は『間桐』なのだからよりベストな人を見つけるべきだわ!」

 

「でも、カリヤおじさんは桜がいないとだめになるとおもうの」

 

「「「「「「……………………………………」」」」」」

 

『時として子供は残酷である』とは良く言ったものを痛感した大人達であった。

 更に追記となるがこれにより更に()()かを意識した者達が数名いたとか、いないとか。

 

 この後、子供達はどこ風吹くのようにチエとリーズリットと遊びに行き、桜とチエが『()()()()()()()()()()()()()()』をしていたのを皆が目撃してしまった為、この世界での『魔法使い』は『間桐雁夜』だけでなく『間桐桜』もそうだと発覚してしまう。

 これにより後で時臣と切嗣、そしてケイネスは教えを乞うが、間桐雁夜にはぐらかされる。

 

 最後には時臣と切嗣とケイネスはチエに文字通り頭を下げながら恥を忍んで教えを乞うが、『お前たちには()()()()』と言われ、桜と同じく片手目で良いのなら『遠坂凛とイリヤなら()()がまだあるから良い』と返事が来た瞬間、切嗣と時臣は喜びの余りから笑い、酒に酔ったとか(二人とも()()に妻達に酒の飲みすぎに説教されました)。

 

 この仕返しとばかりか、ケイネスは後に『聖杯の解析データ』の一部を時計塔で公表をするのだが………以前に書きあげた通り、これが間接的にウェイバー・ベルベットを『ロード・エルメロイ二世』に任命する事と冬木市で後に生まれる(ソフィア)を育てる事に繋がる。

 どんまいケイネス。

 合掌。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして更に月日が過ぎ去り、(聖杯戦争)から春。 更に春の終わり頃────

 

 

「どうしても………行くのか?」

 

「そうね、私たち実はと言うとかな~り無理をして長期滞在していたからね」

 

「そうだな」

 

 間桐雁夜と第四次聖杯戦争の参加者達(と関係者の何人か)全員が三月(本体)とチエを名残惜しい目で見送りにアインツベルン城に来ていた。

 

 そこには間桐家、遠坂家、衛宮家、ケイネスやウェイバーにサーヴァント達だけでなく、冬木市聖堂協会の言峰達と彼らが教会で経営する孤児院の孤児達もいた。

 

 驚く事に第四次聖杯戦争後、言峰綺礼が娘を持っていたと発覚した当時は大騒ぎだった(と言うかこの発覚した時のドライな言峰綺礼に対して子持ち組と三月(本体と分体両方)は騒いでいた。)

 

 実はと言うと血の繋がった娘では無く、少し前に代行者をしていた言峰綺礼が行動中に拾った孤児たちを自分の『仮の養子』として成人するまで聖堂協会に送っていた中の一人で、その子の母親に何かを感じたのか『仮』では無く、正式な『養子』として登録していた。

 それまでは『そのような些細な事』に関心を持っていなかった言峰綺礼は『すっかり忘れていた』らしい。

 

 これを知った言峰璃正は怒るどころか『儂に孫娘がいたのか?!』と感激していてその子を冬木に呼ぶと同時にこれまでの孤児たちも一緒に、と事を進めた。

 今では言峰璃正、綺礼、そして綺礼の娘の『花蓮(カレン)』は冬木の教会の孤児院で孤児たちの面倒を見ていて、三月とチエと()()アーチャーでさえも時々手伝いに来ていた事で孤児たちにも『凄いお姉さん達』として慕われていた。

 半面、アーチャーは『凄いお兄さん』などではなく、『威張る中二病のガキ大将だけど面白い話の数々を知っている金髪』と孤児たちに認識されていたが。 

 

 最初は義務的に延々と子供たちの世話をする綺礼だったが娘の花蓮(カレン)と父の璃正が孤児たちと笑いあう姿を見る度に自分も何故か笑っていき、本人はずっと無表情のつもりが今では無意識に感情が顔に出て良き『親』、または『神父』として孤児と冬木の人々に認識されつつあった。

 

「そうか。 少し………残念だな」

 

「綺礼…………」

 

『本来の彼』を知る者にはビックリどころか『中身が入れ代わったのではないか?』と思う者たちも少なくはない。

 

「そうか。 一応感謝をもう一度言っておくぞ、プレラーリ嬢にチエとやら」

 

「ええ、私からも言っておくわ。 ありがとう」

 

 ケイネスとソラウは時計塔からこの日の為だけにあらゆる者たちとのスケジュールを延期、またはキャンセルして文字通りすっ飛んできた。

 

「チエさん………」

 

「ん? どうしたウェイバー・ベルベット?」

 

「僕…………僕は強くなる! だから………何時かで良いから、見に帰って来てくれるか?」

 

「良いぞ」

 

 チエの返事にパァっと顔を明るくするウェイバーを各大人達は内心微笑ましく思った。

 

「三月、ありがとう」

 

「ん? いやいや、今世のお別れじゃないんだから良いって雁夜」

 

「僕達からも言わせてくれ、ありがとう」

 

「おい、貴様。 考え直さんか?」

 

「断る」

 

「残念だのぉ、余との決着は未だに『引き分け』ばかり」

 

 アーチャーの誘いを即答でチエが答え、ライダーは惜しむ。

 

「あ、時間よ本体」

 

 突然『ズゥン』と何かが唸るような、お腹にくる音と魔力の歪みと共に()が三月とチエの後ろの宙に現れる。

 

 ()の先は何も見えない真っ暗な『闇』で、これを見た者達は言いようの無い『不気味さ』を感じながら、三月(本体)とチエに『行ってらっしゃい』などの言葉をかけ、握手か抱き合う。

 これによりウェイバーはさらに赤くなり、ライダーにからかわれる。

 

「……………では私は先に行くぞ、三月」

 

 挨拶を終えたチエが先に()の中へと消え、三月は歩き出す。

 

 だが彼女は突然止まって、振り返りながら優しく笑う。

 

 

 

 

 

 

()()()はさ、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 何時もの口調ではない三月の言葉に、そこにいた者達は困惑しながら隣同士を見る。

 

()()()って誰だ?』と思いながら。

 

 約一名を除いて。

 

「あ…………………………」

 

 それはかつて『彼女』が聞いた問い。

 

 サワガニの由来から『アリマゴ島』という場所で出会った『彼』の『姉』。

『友』。

『初恋』。

 

 そして────

 

「────あ……ああ……────」

 

 

 

 

 

 ────『彼』が持つ『正義の味方』像を歪める原因となった『彼女』が、何時かの夜空の下で聞いた問いに()使()()()()()

 

 

 

 

 

「ぼ、僕は…………」

 

「「「「「「「「切嗣?」」」」」」」

 

 何故か泣きながら震え、笑っている切嗣に周りの人達が『彼』の名を呼ぶ。

 

「僕はね…………()()()()()()()()()()()()()

 

「うん。 素敵な夢だね、『()()()()()』…………………………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 じゃな、『()()』」

 

 それを聞いた三月(本体)はニコリと()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、チエ同様に()の中に消えると()事態も消えた。

 

「ありがとう…………ありがとう…ありがとう、あ゛りがどう゛、ありがどう、あ゛り゛がどう゛!!!」

 

 手と膝を地面に着きながら、死んだ魚のような濁った目にハイライトが戻り、()()は喜びや安心など、他に多数の良く分からない感情で顔がグチャグチャになり、声が崩れながらも『彼女』に感謝の言葉を叫ぶ。

 

「あ゛りがとう゛! ()()()()()ッ! 母さん(ナタリア)ッッ!! ウアァァァァァァァァァ!!!」

 

 その場に残されたアイリスフィールは彼を慰めようとしながらも、夫が今までに見せた事のない『人間性』にビックリしながら感動していた。

 

 舞弥や他の保護者達は貰い泣きをし始める子供たちをあやしながらも、彼ら自身何人かはも切嗣の見せている感情に感化され、今にも泣きそうな感じだった。

 

 そして冷や汗をかく三月(分体)の近くにいたケイネスは声をかける。

 

「これはどういう事なのだ、『大聖杯』?」

 

「……………………………………………………本体のバカー! バカァァァァァ! バァァァァァァァカァァァァァァァァァァァァァ!!! 『私』のほうの事も考えろー!!!」

 

 その場に残された『アラヤ(三月(分体))』の三月(本体)に向けた叫びが虚しく空に響き、後で質問攻めを全員にされる。

 

 

理想(少年)』の『希望(坊や)』へ。

 

希望(坊や)』から『絶望(青年)』へ。

 

絶望(青年)』に押しつぶされる前に『機械化(正当化した大人)』へ。

 

 そして『機械化(正当化した大人)』から『願望(アイリと会う)』。 そこから『理想(家族持ち)』へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どうだった? チエ」

 

「む? ああ、『ばかんす』の事か。 以前の言った通りに『何もなかった』な」

 

「………………そう」

 

「だが………」

 

「うん?」

 

「そうだな。 心拍数上昇は戦時と引けを取らなかった事から気分は『悪くなかった』とでも言えよう」

 

「……………うん……………うん! 良かった良かった♪」

 

「『姉』と自称するには些かどうかと思う所もあるが────」

 

「────相変わらずド直球────!」

 

「────()()も見ておくとしよう」

 

「……………うん♪ そこは『ありがとう』じゃないかな?」

 

「『感謝』はしている、『三月』」

 

「こちらこそ付き合ってくれてありがとう、『チエ』」

 




これにてこの作品の一区切りになります。 いかがでしたでしょうか?

まずはここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

感想やアンケートのご協力、ありがとうございます。

こちらも『俺と僕と私と儂』と似てほぼ処女作状態と、Fate/Zeroアニメと小説を見ながら脳内シミュレーションぶっ通し続けて原作にまた感動しました。

本当に何十年ぶりの事か………
特にFate/Zeroアニメの18話はもう………………ね。
涙が止まりませんでした。

以上にも書いた通り、この作品の一区切りとなりますが………『その後』の話などに興味がある方達はどうぞアンケートにアンケートにご協力ください。 
ただ『その後』の話が不定期更新になる可能性は『有り』ですが。

ただこの作品からのキャラが他の作品に登場するというかクロスーオーバーは可能性大というか有りです。


実を言うと、三月というキャラは『俺と僕と私と儂』の中でもかなり個人的に好きな方の一人です(まあ、基本的にどのキャラも私は好きなのですが。 え?嫌いなキャラ? もちろんいますよ)。

チエはチエで魅力的なのですがそれは『今』の彼女より、『後』の彼女が私は好きです(『今』のも良いのは不定しません)。

キャラと言えば、Fate/Zeroで私が好きなのはマスター達と彼らの周りの人達ですね。 確かにサーヴァント達も面白いんですが如何せん、『人間』の方達に共感しやすかったので。
と言うか色々と悲惨だった。 (そこで『まあ、型月だから』というのは禁止で。 その通りなので)。


後、時空間的にこの作品は『俺と僕と私と儂』の中間あたりです(現在12/28/2020で出ている第34話よりももっと更に後です)。


では『俺と僕と私と儂』、及び次の作品でお会いしましょう。

今後ともよろしくお願いいたします。



haru970より。





1/1/2021 追記:

次の作品の方針アンケートにご協力ありがとうございます! 今のところ『三月が何故Fate/Zeroの世界でこの作品の行動原理に至ったのか』と言う方針で書き始めたら三日足らずでストックが数話分出来上がったしまいました。
駄文とか自分の文才の無さが怖いのですが、無事に何話か投稿できると思います。

では次の作品、『"Stay, Heaven's Blade" Fate said.  “「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。”』でお会いしましょう!

リンクはこちらとなります https://syosetu.org/novel/246588/


haru970より。


追記2:

作者の不手際で『その後の話を見たいか否か』のアンケートが正しく表示されていませんでした、誠に申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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その後…
第26話 その後の三月(バカンス体)は…………


ハイ、長らくお待たせしました。

もう一つの作品の『天の刃、待たれよ』に一区切り出来ましたので『バカンス』の『その後』を休憩代わりに投稿したいと思います!

何時も読んでくれている方達に感謝を!

これからもよろしくお願いします!


 ___________

 

 三月(バカンス体)、雁夜 視点

 ___________

 

「────という訳なのです、ハイ……………」

 

 先程の三月(本体)の爆弾発言で問い詰められた三月(バカンス体)は間桐邸にて正座をさせられ説明をさせられていた。 と言うのも条件があったのだが、

 

 曰く、「自分は()()()()()に位置するモノの一部」。

 曰く、「他世界線でよく似た、所謂『並行世界』に既に何度も行き来してこの世界の様な一つを()()した」

 曰く────

 

「────成程、つまりは何だ? お前は『神様』って奴なのか?」

 

 雁夜が全く納得していない顔で見下ろす。

 

「一応、『この世界線』ではね♪────あが?!」

 

 「そんなの『ハイソウデスカ』って信じられる訳ねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 ギリギリと音がしながら雁夜が三月(バカンス体)の頭を片手で握りしめながら彼女を星座の姿勢のまま押さえつける。

 

イダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダイダ?!?!?!?」

 

 何時ものアイアンクローに痛がる三月(バカンス体)のそばには切嗣とアイリスフィールの姿があった。

 

 つまりは雁夜、切嗣、そしてアイリスフィールの三人にのみ三月(バカンス体)は説明をした。

 

「そういう事………………凄い話ね、キリツグ。 …………………………キリツグ?」

 

 アイリスフィールが未だに全てを呑み込んでいない頭で必死に夫の切嗣に話しかける。

 

 まあ、自分の夫が義理とは言え(しかも別の世界線での未来の)とんでもない存在(方便上の神)の義父とは色々考えさせられる。

 

 だが要人である切嗣は頭を抱えていた。

 

 別の意味で。

 

「何と言う事だまさか僕が二児処か三児の親になってしかも三人とも出鱈目な存在なんてどうしたらと言うかあっちの僕は何を考えて安直なネーミングを彼女にしてしまってこんな迷惑を────」

 

 ────等と言った事を早口でブツブツと言いながらせっかくハイライトが戻った目からハイライトがまた消えて行く様。

 

 さっきの三月(バカンス体)の掻い摘んだ話の中に『衛宮邸での生活』も少し出ていたので、切嗣には思う所があったようだ。

 

「キ、キリツグ?」

 

 「アイリ!」

 

 切嗣がアイリスフィールへと向き、彼女の両肩を掴む。

 

 尋常では無い、血走った眼をしながら。

 

「ハ、ハイ?!」

 

「イリヤ()を絶対に幸せにするぞ!」

 

「ハイ、勿ろ────『達』?」

 

 そこで「何故切嗣はイリヤ()』?」と一瞬思ったアイリスフィール。

 

「ハイ、切嗣がそう思うのなら私は全力で貴方をサポートするわ。妻として」

 

 だがこれは恐らく()()()()()()()()と言った『衛宮家』の事だろうと思い、自分はそれを肯定すると言った。

 

 あながちアイリスフィールは間違ってはいない。

 間違ってはいないのだが────

 

「────良し! 三月君!

 

「イダイダイダイ────あ。何、おじさん?」

 

 未だに雁夜に鷲掴みされている三月(バカンス体)が()()()()()()()()切嗣に答える。

 

 ()()()()()()()()()!」

 

「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」」

 

 切嗣の宣言に雁夜とアイリスフィールの両方がポカンとしながら驚いた。

 

「あ。うん、()()()

 

「ちょ、良いのかよ?! と言うか切嗣、お前は正気か?! ()()だぞ?! 重ねて言うが、()()()だぞ?!

 

 雁夜が三月(バカンス体)から手を離し、未だに切嗣のグルグルしている狂気の宿った目を見る。

 

「だ、だが違う世界とは言え僕の養子だったのは違いないし三月君────あ、呼び名はどうする? 君の言う『本体』と被るが?」

 

「私はどっちでも良いよおじさん♪ 私は『私』であると同時に『あっちの私』でもあるから」

 

「う、う~~~~~~~~~~~~~~ん」

 

「アイリさんも何か言ってくれ!」

 

 雁夜は切嗣の説得を諦めて、ウンウンと首絵を捻りながら唸るアイリスフィールに開き直る。

 

「私はイリヤを少し育てた経験しかないから、二児の面倒を見るのって大丈夫かしら?」

 

そっちの心配かよ?!

 

 見事雁夜の期待を外れるどころか、別の方向で心配をしたアイリスフィールだった。

 

「あ。どちらかと言うと、私はおじさん(切嗣)の世話をしていたから、()()()()の補佐を舞弥さんと共に出来るよ? 後絶対にイリヤにお姉ちゃんって呼ばせてやる

 

「あら~~~、頼もしいわ~♪ 通りで私の事を前に『お母様』って呼んだ訳ね~」*1

 

なんでだ?! ここに居る常人は俺か?! 俺だけなのか?!」

 

「いやいや、雁夜も大概じゃん。魔法使いなんだし」

 

「自称神様のお前(三月)に言われたくないッッッッ!!!!」

 

 そして雁夜達の悩みの種が増えた。

 

 何せ三月(本体)の爆弾宣言の説明をされたと思ったら突拍子もない、ファンタジーじみた、SFじみた、或いは哲学を根本から塗り変える様な内容ばかり。

 

 果たして彼、または彼らはどう他の者達に説明するのだろうか?

 特に切嗣の泣きじゃくる姿を見た後なので、他の者達は絶対に何かあると考え、訊いて来る筈。

 

 舞弥とセイバーは多分興味はあるモノの、切嗣とアイリスフィールが頼めば黙って正体の隠蔽の協力をしてくれるだろう。

 

 だがさっきの連中の中でも生粋の魔術師であるケイネスと、正に『根源』を最後の最後まで追い求めていた時臣の二人が厄介だ。

 

 アーチャー(ギルガメッシュ)は論外。と言うか恐らくは気付いていて「そんな世界線はあり得ん」と、サッパリ切り捨てている節がある。

 

 ウェイバーならば黙っていてくれるだろう(特にチエをダシにすれば)。

 ライダー(イスカンダル)もそうだろう。 と言うか興味はあっても言いふらすタイプではない。

 

 ランサーも断れば自らは深入りしないだろう。 

 だが主であるケイネスかソラウの命令があれば動く。

 

 綺礼達は泣く切嗣の姿にびっくりしたものの、雁夜達から話さなかったら聞いては来ない………筈。

 

「「「(でも、一体どうすれば良い?)」」」

 

 そう悩む三人に、三月(バカンス体)がとある提案をする。

 

「じゃあ、『“大聖杯”を経由して“根源”にアクセス(接続)して得たデータ(情報)」って言えば良いじゃない? それも()()嘘じゃないし」

 

「「「あ」」」

 

 こうして、日本の衛宮家に新たな家族が一人増える事となる。

 

「雁夜おじさん、むずかしいかおをしているよ?」

 

「あー、うん。 三月の事でね?」

 

「おじさん、もしかしてまたいじめられていたの?」

 

「ファ?! だ、誰がそんな事を桜ちゃんに言ったんだい?!」

 

「イリヤちゃん! 『カリヤはわたしのみたてでは()()だ』って────」

 

 「────子供がそう言うの知っていちゃ駄目でしょうが?! 切嗣達は何を教えているんだ?!」

 

 尚その夜、桜は見た。

 雁夜が電話を切嗣にして怒鳴っていたのを。

 

 切嗣もイリヤの言っていた言葉に酷く動揺し、注意はしたが…………

 

 果たして効果があったかどうか、曖昧な所である。

 

 流石別世界での『白い子悪魔』。*2

 

 ___________

 

 三月(バカンス体)、衛宮家 視点

 ___________

 

 イリヤとリーゼリットとアイリスフィールは勿論の事、切嗣も充実する日々を送る事となる。

 

 ただ────

 

「────(う、嬉しいけど────)────ぐ、ぐるじい(く、苦しい)!」

 

「────この子可愛い~~~~~!!! どうしちゃったの、切嗣さん?!」

 

 三月(バカンス体)が若い藤村大河に「ぎゅう~~」っと抱き締められていて、顔がブチュッと挟まれていた。

 

 何と何の間に挟まっていたかはご想像にお任せします。

 

 実はこの世界でも後に衛宮邸となる曰く付きの和風屋敷を正式に買い取る際に、不動産屋と元の所有者とのトラブルが起きて、切嗣達は藤村組の世話となった。

 

 勿論『原作』と違い、彼は聖杯に呪われてアインツベルンの後ろ盾を失った処か非公式に次期当主任命者となったので、魔術的な解決も出来たがこれに切嗣は断固反対。

 

 その際、『原作』の流れと同じで藤村組の皆と縁を結ぶ。

 違いがあるとすれば本来、独り身だった切嗣に初恋をする筈の藤村大河が『イリヤのお姉ちゃん役』を買って出た。

 

 そして三月(バカンス体)と会い、上記の通りの場となる。

 

「大河ちゃんにも紹介するよ。 妻の()()()()の────」

 

「────プハッ! 『マルテウス(Martius)・プレラーリ』と言います。 よr────むぎゅ」

 

「────もう可愛過ぎ! まるで()()()()()()()()!」

 

 何とか大河の腕から自身を開放した三月(バカンス体)────『マルテウス』はドレスのスカートの端をチョコンと持ち、お辞儀をしながら一礼をすると、顔がデレッデレになった大河にまたも力強く抱きしめられる。

 

 しかも直感で開口一番で『人形』と呼ぶのが恐ろしい。

 

「(流石が『冬木市の虎』────)」

 

 「────ア゛────?」

 

────ヒ────

 

 大河が突然ドスの効いた声を出しながら辺りをキョロキョロと睨む。

 

「ど、どうしたんだい大河ちゃん?」

 

「いや……………何か私の事を『虎』と呼んだような気が………」

 

「(怖い!この世界でも藤姉は怖いぃぃぃぃぃ!)」

 

 そう思いながらガクガクブルブル震えるマルテウスだった。

 

 10年間も刷り込まれれば、別の世界とは言え同一人物に何かを感じるのはもはや()()としては条件反射となる。

 

 ただまあ………………

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「へぇ~、これが穂群原学園の()()()()()か~」

 

「? みt────『マルテウス』君が経験した世界では違うのか?」

 

 穂群原学園のセーラー服を着て、物珍しそうに自分を見るマルテウスに切嗣が話しかける。

 

 余談だが長い髪の毛は二つ編みスタイルだった。

 

 ちなみにアイリスフィール、イリヤ、リーゼリット(そしてお守り役のセラと舞弥)は花嫁修業という名のお出かけに衛宮邸から出ていた。

 

「そうねぇ…………丁度藤姉────じゃなくて『大河』が卒業したちょっと後に制服が変わったの」

 

「へぇ~それは────」

 

『────ごめんくださーい!』

 

 玄関の方から少年の声が聞こえ、その後にセイバーの声が続く。

 

『これはベルベット君にライダーか』

 

『邪魔するぞ、セイバー! 坊主がどうしてもチエ殿と会いたいからと────』

 

『────ラ、ライダー! ち、違うからな! 誤解するなよ?!』

 

「やれやれ………」

 

 切嗣が笑いながら溜息を出す。

 

「その………『私』なりに考えた結末なんだけど、迷惑だった?」

 

「いや? 寧ろ感謝し切れないさ。 最後に()()()()()母さん(ナタリア)()()()()ありがとう」

 

 マルテウスに笑みを浮かべる切嗣は長年の腫れものが落ちたような、生き生きとし、純粋な子供の笑う姿だった。

 

「………………………」

 

 マルテウスは固まり、ただこの笑顔を脳内に焼き付けた。

 

「ん? どうかしたのかい?」

 

「ううん。 ただ再確認しただけ。 『()()()()()()()()()()』って」

 

「……それは……一体────?」

 

 玄関で騒いでいるウェイバー達に挨拶をしに、横を通るマルテウスに切嗣が聞き始め、彼女は彼に開き直った。

 

「『誰かを助けるという事は誰かを助けないという事』、だっけ?」

 

「ッ」

 

 切嗣は息を呑み込む。

 その言葉は、彼自身が()()()()()()()()()、歪んだ『正義の味方』像の語らいだったからだ。

 

 もし彼が未だに彼女の事を疑っていたのなら、今ので完全に疑いは晴れていただろう。

 

「確かにそうかもしれない。 ()()人間(ヒト)』では他社との意思疎通は難しいし、真意が分かるのも無理で、軋轢が生まれるのは必然。 でもね、『自分の手が届く人達を幸せにする』って()()()が言ったの」

 

「…………………」

 

 切嗣は一瞬呆気に取られ、思考が止まる。

 

『ただ多くの人々の幸せを願う無垢な思い』。

 それは過去の切嗣がナタリア(母親)と旅をし始めた頃の、自身の思いだった。

 

「…………そうか、凄い人だな。 誰だい、その人は?」

 

 マルテウスがクスリと悪戯っぽく唇に指をあてながら切嗣に笑顔を向ける。

 

「貴方の()()♪」

 

「…………………………………………………………………は?」

 

 ポカンとする切嗣を後に、ウェイバーとライダーに挨拶をしてくるマルテウス。

 学園へ通う為、戸籍上の住居は衛宮邸となっているが雁夜と桜(オマケ程度に慎二と鶴野)の様子が気になるのでこの二つの屋敷を交代制で通っていた。

 

 ウェイバーとライダーはマルテウスが今は衛宮邸と間桐邸を行き来しているのを聞いて様子を見に来た。

 

 と言うのは建前で、ウェイバーは「次は何時、チエさんが来るのかな?」とそれとなく聞いていた。

 

「フゥ~~~~~ン?」

 

「な、何だよその邪悪な笑いは?!」

 

「ううん、何でも………と言うか、貴方もしかして鍛えている? 肌もちょっと焼けてきているし」

 

「おお! マルタ殿も気付くか! 坊主はいっちょ前にあの神父共に弟子入りを申し込んでな────?」

 

「────ちょっと待て。 『マルタ』って私の事?」

 

「だって一々『マルテウス』と言うのは面倒臭いであろう?」

 

「………………スゥー」

 

 マルテウス(改名『マルタ』)は深く息を吸ってから()()()()()()のオープニングを歌い始める。

 

「────宇宙の彼方、イスカンダルへ♪────」

 

「ぬ? 余の名前か?」

 

 そのままマルタは歌い、興味津々に歌の歌詞を聞き始めるライダーだった。

 

「────()()()()()、イスカンダルへ♪────」

 

 「────な、何ィィィィィィィィィィィィィィィィィ?!」

 

 ライダーが突然立ち上がってマルタに迫る。

 

「お、教えてくれ! それは何の歌だ?!」

 

「ンフフ~、教えなーい♡」

 

 「頼む!この通りだ!」

 

「オホホホホホ~~~~」

 

 ウェイバーはただ「何この図?」と考えながら頭を華奢な少女に下げる必死な巨漢のライダーを見ていた。

 

 尚、このアニメは現時点から20年間程後にリメイク版が出て、CMにてこの曲を聞いたライダー食べていたラーメンを吹き出しては素っ頓狂な声を上げ、興奮しながらマルタに夜中に関わらず電話をしたそうな。

 

 その夜、料理を終えたアイリの料理は木炭に似た何かで、ウェイバーは無事に切嗣と共に(物理的に)涙を流しながら食した。

 

 その席ではマルタがイリヤに「お姉ちゃんと呼んで欲しい」が却下された。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして場は穂群原学園のとあるクラスでは新たな留学生が来ると聞いた男女達が大河と一緒に登校してきたその子を物珍しそうに見る。

 

 だが期待と反してパッとしない雰囲気を出す二つ編みの髪の毛に眼鏡と言った、所謂『地味な子』だった。

 

「(計画通り! これで()()()学校生活は安定だ!)」

 

 追記としてここに足すが、マルタ(三月)は既に学校を終えていた。

 だが『お義母様』経由の、切嗣の頼みで「危なっかしい大河の面倒を見て欲しい」と言うものだった。

 

 本当は衛宮邸と間桐邸でグウタラしたかったのだが毎日毎日飽きもせずに何かとマルタと関わりたがる遠坂時臣にケイネスにソラウにウェイバー(&ライダー)に(少しだけ)うんざりし始めていたので、これ幸いにと穂群原学園生活を()()体験する事に。

 

 ただし今回は以前の騒動や『月の女神/天使』の二つ名などは御免なので出来るだけ『地味な子』を演出していた。

 

 そして計画は順調()()()

 

 過去形である。

 

「(どうしてこうなったのさ?!)」

 

 マルタはワナワナと震える手で、非公式なクラブの作品を手に取っていた。

 

『虎x丸』と言う題名で、本の表紙は()()()()()の絵があった。

 

 これはマルタがあまりにも『地味な子』を完璧にトレース(投影)しまった事により、剣道部の華である大河としょっちゅう一緒になっていた事が原因だった。

 

 太陽の様な元気いっぱいの大河に対して少し暗く、内気な感じのマルタ。

 このペアがどこに行っても一緒なのが()()()()()()をさせていた。

 

 しかも本のイラストではマルタが『攻め』で(以下略)

 

 余談ではあるが、マルタは留学生とは言え、無事に(?)自分のクラスの委員長になり、注意していた男子が逃げる時に落とした同人誌だった。

 

「…………燃やそ」

 

 内容を見た瞬間、本を閉じて庭裏の焼却炉にその本を放り込んで火を点ける。

 

『剣道部のヒマワリ、そして月の様な女王陛下』といった、紹介人物のページだった。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「プレラーリ嬢、少し…………話したいことがある」

 

「へ?」

 

 間桐邸で桜の相手をしていたマルタにケイネスが珍しくソラウ抜きで訪ねて来た。

 

「ふ~ん、またおとなのはなし?」

 

「え゛。 さ、桜は何で────?」

 

「────雁夜おじさんにきいたー」

 

「(アンノもずく頭め~~~~~~!)」

 

「オールバックおじさん、ながくなる?」

 

「ウッ……………かも知れない」

 

「じゃあ桜、なかでまほうのしゅぎょうしてくるねー!」

 

 幼い桜がトテテテーと間桐邸の中に戻り、ケイネスがマルタ近くの庭の椅子に腰を掛ける。

 

「どうしたのですか、ロード? あまり、顔色が優れないようですが? それに、ソラウさんも────」

 

「────そのソラウが問題なのだ。()()()()()

 

え゛

 

 マルタが良く見るとケイネスは寝不足なのか、目の下にクマが出ていた。

 

「その…………君のおかげで彼女は以前より愛想がよいのだが────」

 

 そこからケイネスは3時間程、爛れた毎日の惚気話を聞く事に。

 

 次第にケイネスは寝不足なのが嘘のように振舞い、肌のツヤが潤っていった。

 

 逆にマルタはゲッソリしていったが。

 

「そ、それでロード? そろそろソラウさんの距離の事を話して欲しいんだけど?」

 

「ム? 何だ、これからが良いところなのに…………まあ良いだろう。 彼女が何かと私に引っ付きたりがるのだ」

 

「あら、中がよろしくて良いじゃない?」

 

「そうなのだが……………()()()()()()()()()()()のだ」

 

「(ハイここにもリア充イタァァァァァァァ!!!)」

 

 これは以前のチエが言った事で『ナニ』を意識したリア充第一号(切嗣とアイリ)達を配慮して間桐邸にイリヤと一緒にお泊り会をする理由の一つだった。*3

 

「それで、その……………私生活では構わないのだが、今では所構わず腕を組もうとしたり、私の視線を手で遮って『だ~れだ?』と言う彼女は確かに可愛いし────」

 

「────ッ!(ヤバイ、惚気話に入っちゃう!) そ、それはロードへの愛情表現と同時に、貴方の困った顔を見たいからではないですか?!」

 

「そ、そうかね? そうか…………ではワザとか」

 

「あ、あの………ソラウさんには私生活のみでして欲しいと伝えましたか?」

 

「無論だ。 そして最初こそは私生活だけだったが…………研究中にそうしてくると私は中断しざるを得ないのだ」

 

「…………………ちなみに、研究は何時間ほどの期間ですか?」

 

()()()()()()だが、何か?」

 

 「いやそれあかんやろ?! 幾らなんでも!」

 

「は?」

 

 いきなりの聞き慣れない方便でケイネスはポカンとしていた。

 

「あ、えっと…………では聞きますが、ロードはソラウ様が一人で一週間ほど貴方の元を離r────おわああぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 マルタはケイネスの急変ぶりに慌てた。

 

 目からハイライトは消え、顔は「この世の終わり」とでも言いたいような悲しさに歪み、いつも身に纏っている貴族特有の「優越感」がドンヨリとした空気に入れ変わっていた。

 

 マルタは待機場の水分を鏡の板の様なものを作り出してケイネスに自身の姿を見せる。

 

()()()()()()! これが数日間ほったらかされたソラウさんの内心です!」

 

 ケイネスが死んだ眼で自分を見ると、ギョッとする。

 

「そうか! そうなのか! ならば彼女との時間をもっと増やさねば!」

 

 マルタが嬉しそうにウンウンと頭を縦に動かす。

 

「彼女にも助手が出来る研究を────!!!」

 

 「────せやから研究時間を減らせや?!」

 

 この時の「ケイネスさん」が彼にとってあまりにも新鮮だったので「これからそのように」と頼まれたマルタであった。

 

 子供の頃から周りの期待をずっと背負ってきたケイネスに、気軽に話せる相手は今までいなかったので尚更である。

*1
第11話より

*2
作者の別作品、『天の刃』より

*3
第25話より




マルタ:はい、という事で私、三月(バカンス体)は「マルテウス」と改名しました! よろしくね~~~!!!

三月:うっわ、その名前無いわ~

作者:ちょ、待って! ここで争わないで?! カオスになっちゃうでしょ?! 是非お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!


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第27話 癖が嵐を呼ぶ?!

 ___________

 

 マルテウス 視点

 ___________

 

「「「「「おはようございます、お嬢!」」」」」

 

 タジタジになるマルタの前にはゴロツキの恰好やスーツ姿の男性が勢ぞろい彼女に頭を下げていた。

 

 「(やってしまった~~~!!!)」

 

 事は藤村雷画と共に猪狩りに出た切嗣達が猪の肉を持って帰り、マルタは()()()()()()肉を捌き、()()()()()()()()()()

 

 マルタ(三月)からすれば数年間やっていた事なので別に何とも無いのだが、藤村組の皆には大変良く受けていた。

 

 と言うのもこの世界での彼らからすればマルタはあくまでも「お嬢(大河)の学友」であって、それほど頻繁に会う訳でも無い。

 

 せいぜいが「地味な眼鏡の子」や「冴えない子」と言った認識。

 

 そんな子が藤村組()()の好みの味を()()で見抜ける程()()()()()()()()()事に全員が感動し、大河と並ぶ重要人物として認定されてしまった。

 

「では皆の衆、私について来い!」

 

「「「「「よろしくお願いします、アーサーの()()!」」」」」

 

「え~~~~~~(マジかこいつら? 私の為にそこまでする?)」

 

 マルタ(三月)は気付いては居なかったが、彼女の目立ちたくが無い為に「地味な子」の演出が更に彼らの庇護欲を誘い、衛宮邸でご厄介になっている「アーサー(セイバー)」の()()に武術の教えを乞う藤村組。

 

 流石カリスマBランクと英雄だけあって、藤村組の統一感は更に上昇し、腕も磨かれていった。

 

 余談だが、お代はちゃっかりとセイバーは藤村雷画から貰って、それで自分の好きな(主に食べ物の)お店を手当たり次第まわっていた。

 

 尚、セイバーが第二の生を生きる為に「オシャレ」、所謂化粧やドレスを着て冬木市を見まわり、「兄貴」が実は「姉御」と後に藤村組の者達に気付かれてかなりの大波乱が起きる。

 

 それは未来の藤村組の内戦状態間近まで発展するのだが…………それはまた別の機会で話すとしよう。

 

 とまあ、マルタはうっかりと()()()()()同様、もしくは年が更に前なので、それ以上に藤村組に良くされる事となった。

 

 ただ────

 

 「────こちらB班、異常無しですぜ」

 

 「────C班だ、お嬢の通る道にゴミをポイ捨てした野郎をポイントβに連行」

 

 「────A班だ! 喜べテメェら! 俺達の様な者にお嬢が手作り弁当を配給なされた!」

 

「「「「「ウオォォォォォ!!!」」」」」

 

 ────上記の通り、度を越えた過保護な者達も出て来てしまったが。

 

 それらが聞こえてしまうマルタは少々肩を落としつつも、隣で一緒に登校する大河が複雑な笑みを浮かべていた。

 

「ま、まあ……彼らも悪気はないんだから、良いんじゃない?」

 

「そう()()()()()は言うけどさぁ………」

 

 マルタは別のこれらを嫌がっている訳では無い。

 寧ろ微笑ましいと思う。

 

 ただ、彼らの行動はかつての「ファンクラブ」をマルタに連想させていた。*1

 

 しかも今回は学園で自分(マルタ)と大河を画いた『虎xマル同人誌』の発見事項もあり、()()の学園生活とは()()違った方向に目立ち始めていた。

 

「………………どうしようかフーちゃん?」

 

「ね~?」

 

 マルタの深刻な顔に、明るい大河(フーちゃん)が笑う。

 

 勿論この事が衛宮邸の他の皆に影響しない訳が無く、切嗣は組長である雷画の「良き友人」で何時の間にか「()()()()」。

 イリヤは「イリヤ嬢」(「お嬢」呼ばわりを猛反対したセラによって渋々命名。)

 アイリスフィールは「若候補の奥方」。

 舞弥は「舞の姉貴」。

 そしてセイバーは勿論「アーサーの()()」だった。

 

 後、大河はやはりこの時代でも自分の名前が気に入らず、悩んでいた所をマルタが思わず「藤姉」と言いそうなのを「ふj────『フーちゃん』なんてのはどう?」と言う所から即採用されていた。

 

 ___________

 

 雁夜 視点

 ___________

 

 雁夜はソワソワしていた。

 どの位と言うと桜を救う為、三月とチエ達の提案祈り、臓硯(クソ爺)相手に命を賭けた博打に出た時以来だった。

 

 手と体は震え、喉はカラカラになり、冷や汗が体中から噴き出していた。

 

 心臓の鼓動音が耳朶にうるさく、ドキドキとしてさらに緊張感を与えていた。

 

「(装備は十分、備えもある! イザとなった時の逃走経路も三重に練った! だが……………)」

 

 雁夜は万全過ぎる準備をしたとしても再度全ての道具を確認して、点検をして行く。

 

 不安なのは変わらない。

 

 失敗は許されないのだから。

 

「(……………………来た!)」

 

 雁夜の目的である人物が勢いよくビルから出るのを目視して、彼は様々な装備を構える。

 

「(よし! こいこいこいこいこい!)」

 

 標的が雁夜に気付き、急接近し始める。

 

「かりやおじさん?」

 

 「桜ちゃわ~~~~~~~ん」

 

 7台ほどの家庭用カメラに2台のテレビ番組用のカメラの内一つのビューファインダーでドロッドロの笑顔になる雁夜のカメラを小学校入学式を終えたばかりの桜が覗き込む。

 

 もう他所から見れば親馬鹿を通り越して『超』が付く程の馬鹿が付く様子である。

 

 何処からどう見ても最新のカメラ道具一式(家庭&業務用両方とも)。

 動いた金はくだらない程なのは火を見るより明らかだった。

「このお金は何処から?」と思う者がいるかも知れないが、実はと言うと雁夜は三月(本体)とチエがこの世界を後にした後イリヤと凛の『魔法』の指南役をしていた。

 

 錬金術の名家であるアインツベルンと冬木市の管理人(セカンドオーナー)である遠坂家。

 この二つの家がお金に困る事は…………………………………………………

 

 いや、訂正。

 遠坂家は5、6歩間違えばすぐさま経済難となるガラスの橋の上に成り立っている。

 だが遠坂時臣が安泰であれば大丈夫だろう。

 

 …………………多分。

 

「桜ちゃわ~~~~~~~~ん、こっち向いてちょ~~~~~~~~~~♪」

 

「お、おじさん…………恥ずかしいよ~」

 

 「ア゛ッ! マイハートがやばい! 良い! その照れ顔が良い! ディ・モールト! ディ・モールトベネッッッッ!!!!!

 

「ちょっと君、良いかね?」

 

「へ?」

 

 超超超ご機嫌な雁夜の肩に手が置かれ、彼が振り向くと青い制服(警官)の方達が他の親に呼ばれていた。

 

 尚、彼らの説得にかかった時間の間桜の小学生姿を堪能したマルタだった。

 

「もう桜ちゃんかわゆいよ~~~~~~!!!!♡♡♡」

 

「え、えへへへ~」

 

「勿論よ! 自慢の妹なんだから!」

 

 そこで「フフン!」とドヤ顔をする凛。

 

 これを見たイリヤはすぐさま不服なプックリお餅顔になり、母であるアイリスフィールに迫り、お願い事をする。

 

「お母様! 私も弟か妹が欲しい!」

 

「あらあら、これはキリツグにもうひと踏ん張りして貰わないと」

 

 イリヤは知らなかったかも知れないが、実はと言うと切嗣とアイリスフィールは既に()()()()()()中であった。

 

 だがイリヤの頼みもあり、アイリスフィールは躊躇していた魔術をその日から使った。

 

「………………おじさん? な、何かやつれていない?」

 

「だ、大丈夫だよマルテウス君。 ハ、ハハハハハ」

 

 その少し後の切嗣は『本来の物語』通り顔がやつれて行った。

 

 まあ、これもある意味一種の呪いではあるか?

「生物」である限りの誰もが持つ「繁殖欲」と言う呪いだが。

 

 もう一つのリア充バカップルのケイネスとソラウはウェイバー&ライダーと共にロンドンへと、桜の小学校入学式の一週間前に帰ったばかり。

 

 さて、何故突然この者達が話題に出るかと言うと────

 

「────邪魔しているぞ、カリヤ!」

 

「────お前、ロンドンに行ったんじゃねえのかよ?!」

 

「あ、あかひげおじさんだ! いらっしゃい!」

 

「え? 何で、ここに?」

 

 間桐邸に帰って来た雁夜と桜、そしてマルタを出迎えたのは間桐邸の居間で踏ん反り返りながら大型テレビに接続したゲーム機で『アドミラブル大戦略IV』をプレイしている場面だった。

 

 しかもテーブルの上には食い荒らされていたお菓子と飲み物の残骸達。

 

「いや、坊主が『ロンドンは良い!』と言っていたので付いて行ったら天候は辛気臭いし、陰気な魔術師共がウジャウジャいてのぅ? 最初は我慢していたのだが…………」

 

「「だが?」」

 

 始めてみる、神妙な顔になるライダーに異様な気配を感じて緊張する雁夜とマルタに彼はハッキリと答えた。

 

 「飯があまりにも不味過ぎる!」

 

「「そこかよ?!」」

 

 ライダーの言葉に思わずこけそうになる雁夜とマルタがツッコむ。

 

「何を言うか?! 生を生きる為の糧となる食物は大事だぞ?! なのにあれは何だ?! 世界を一時的にとは言え牛耳る大帝国の本国が、まさかの家畜の餌以下とはあんまりではないか?!」

 

「え? まさか征服王はそれで一人で帰って来たの?」

 

「応とも! やはりこの極東の島の飯が上手くてな! 余はやはりここに居た方が良いと思ったまでよ!」

 

「まあ…………ライダーの言い分も分かる」

 

「そうであろう、そうであろう!」

 

 ライダーがウンウンとマルタに同意すると間桐邸の電話が鳴り始めた。

 

「「……………………」」

 

 これを聞いた瞬間、雁夜とマルタは互いを見て────

 

「「────フン! フン、フン、フン、フン、フン!!!」」

 

 ────ジャンケンを始めた。

 

 そして何度目かのあいこの末に負けた雁夜が渋々鳴り続けていた電話の受話器を取りながら、恨めしそうに桜をチョコンと股に座らせながら彼女と共にライダーのゲームを見るマルタを睨んだ。

 

「ハイ、こちらまt────」

 

 『────そっちにライダーは居ないか雁夜?!

 

 雁夜が思わず受話器を耳からすかさず離すも、「キィーン」と耳鳴りはしていた。

 

「ウェ、ウェイバー君かい?」

 

『あのバカ、ただ“余は帰る”の置手紙一つで忽然と消えたんだ! で一応ギリシャ行きの便などに使い魔を出したんだけどアイツの姿がどこにも────』

 

「────こっちに居るよ。 何か『飯が不味い』という事で────」

 

 『────ハァァァァァァァ?!

 

 本日二度目の耳鳴りに耐える雁夜であった。

 

 結局ライダーの住居は取り敢えず広い間桐邸にライダー自身が決めた。

 

 それも「チエ殿が帰って来るとすれば此処であろう? ならば余がここで構えるのが通りである」という彼らしい無茶ぶりだった。

 

 雁夜は雁夜で頭痛の予感しかなかったが内心安心はした。

 

 何故ならライダーは自分が間桐邸のお世話になる限り、桜の護衛役を買って出てくれたのだから。

 

「未来ある子を守る事位、どうと言う事はない! という事でよろしくな?」

 

「ひげさわらせて~!」

 

「おお、良いぞ!」

 

「わ~、さらさらしてる~!」

 

「……………………………俺も生やすか」

 

「え゛」

 

 これを見た雁夜はその日から髭を生やし始め、髭用のグルーミングセットを買うのだった。

 

 そしてその日から桜の学園登校に付き合うライダーはその性格で学園の少年達の間で人気者となる。

 

 これには桜の兄の慎二も同じであり、前回の世界線の彼を知っているマルタは彼女なりに気を使って、彼と桜の世話を見ていった。*2

 

 ___________

 

 ウェイバー 視点

 ___________

 

 ウェイバーは毎日胃薬を服用しないといけない程、胃を痛めていた。

 

 原因は主に彼の師であるケイネスが冬木市で得た『聖杯に関する情報』の一部を公表した事である。

 

 無論、時計塔の魔術協会がこれに興味を示さない筈が無く、ケイネスの地位は更に上昇。

 そこで彼は────

 

「────私自身、助手であるウェイバー君の手を借りて得た情報。 彼の才能は魔術の外にあった事には意外だったよ」

 

 と言う、正に爆弾宣言にも似た一言が腫れもの扱いであったウェイバーの立場が一転し、注目を周りから浴びる事となる。

 

 ちなみに彼が腫れもの扱いとされたのは他でもないケイネスが彼の書いた論文の『新世紀に問う魔導の道』が関係する。

 

 これは構想三年、執筆一年といった、計四年の時を使った、『なぜ術師としての期待度が血筋だけで決まるのか?』や、『なぜ理論の信憑性が年の功だけで決まるのか?』などと言った、現在の魔術師社会を根底からひっくり返すような内容だった。

 

 少しウェイバーの背景のおさらいをするが、実は彼はベルベット家の三代目魔術師────

 

 

 

 

 

 

 

 ────ではなかった。

 実はと言うと、初代ベルベット家魔術師である彼の祖母は『興味本位のみ』で、しかも()()()()()()ついでに初歩的な魔術を習ったに過ぎない(しかもこれは祖母の当時の愛人の興味を引く為である。)

 そして二代目ベルベット家魔術師のウェイバーの母親は「ママ(祖母)の思い出を大事にしたい」という事から秘蹟を継承。

 

 つまり本気で魔術の追及に全力を出すのはウェイバーの代が初めてであり、現実的に言うと彼が初代ベルベット家『魔術師』となり、初代と二代目と共に厳密には『魔術師』ではなく『魔術使い』だった。

 

 そんな家系を持ったウェイバーは、魔術師社会の事を良く思っていない母親の猛反対を押し切り続けて、両親が病没した途端、家財一式を擲って入学資金を捻出し、裸一貫で時計塔へと乗り込む事に。

 

 だがロンドンの時計塔で彼を待っていたのは苦労と挫折であり、名だけの『三代目』。血統の古さばかりを鼻にかける優待生達と、そんな名門への阿諛追従(あゆついしょう)にばかり明け暮れる取り巻き。

 

 これは同じ生徒に限った事ではなく、講師達も名門出身の弟子ばかりに期待を託して、ウェイバー達のような『代が浅い』魔術師達には術の伝承どころか、魔導書の閲覧すら渋る有様。

 

 それが彼の憧れていた魔術師社会(魔術協会)であり、時計塔(ロンドン)だった。

 ある意味、ウェイバーの背景は間桐慎二に似ていたかも知れない。

 

 そんな環境で論文を書くのに4年も費やした覚悟を当時のケイネスは一通り流し読んだ後、大勢の前で彼を指摘して「君のこういう妄想癖は、魔導の探究には不向きだぞ。ウェイバー君」と共に破り捨てた。

 

 これがウェイバーを『聖杯戦争』という血みどろの殺し合いに参加した理由だった。

 

 人生の中での大博打。

 

 そこで彼は様々な人と存在に出会い、変わり、彼はその人達の強さと力に憧れた。

 

 無論彼だけではなく、参加者全員が変わったと言っても過言ではないが…………

 

 ウェイバーには特に()()に対して敬意と誇りを持っていた。

 彼は()()に『自分の正義を持つのは大切な事』だと学んだ。

 

 さて……………少しおさらいが長くはなったが、そんな彼が突然()()ロード・エルメロイのケイネスからの注目を浴びて、無事な訳が無い。

 

 まずロンドンに帰って来た初日にはライダーの居ない隙を狙って、『優等生』達にちょっかいを出され、講師達は見て見ぬフリどころか『余興』として面白がっていた。

 

 だがウェイバーには彼女(チエ)(綺礼)に鍛えられた事もあり、『優等生』達を見事返り討ちにした。

 

 この変わりようにウェイバーは良い意味での注目を更に浴び、彼の元に『代が浅い』魔術師達がこぞって集まり、彼を中心にした派閥を作って行った。

 

 ウェイバーは最初の頃こそ嫌がっていたがこれを良しとしない他の派閥の者達がこの新しいコミュニティの子達を再起不能寸前まで追いやる事などが起き、ウェイバーは激怒した。

 

 結果、彼は持ち前の抜きん出た観察力と洞察力、そして師である二人からの教えでメキメキと他の子達を鍛えて行った。

 そして彼は創ってしまったのだ、文武両道の(現時点での)最強集団を。

 

「………………ハァ~~~」

 

 ウェイバーが憂鬱の溜まった溜息を出しながら、自分に届いていた手紙や招待状などを流し読むながら、長くなり始めた髪の毛を()()のように束ねる。

 

「……………ンンンンンンンン?!?!?!?!」

 

 そのこんもりとした紙の束の中に、ケイネス自らが書いたウェイバー宛ての招待状があった。

 

 この事から「ウェイバー達が『ロード・エルメロイ』に認められた」と言う噂が飛び散り、彼の元には名門家の『優等生』達も集まる事となる。

 

*1
作者の別作品、『天の刃、待たれ』より

*2
別作品の『天の刃、待たれよ』より




お気に入りや感想、評価等あると嬉しいです!

さて……………そろそろ『天の刃』の方も書くか♠


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