【UT_AU】雲外蒼天【短編集】 (花影)
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01.お昼におはよう (Cross,Nightmare)

クロ「先輩」

 

声がする。いつもの、聞き慣れた声が。この声がする度に、俺はいつも思う。

ああ、また起こしに来たんだな、と。

 

クロ「先輩、起きてください」

「んー……」

 

寝ぼけ眼をこする。体を起こしてちらりと見ると、こちらに笑顔を向けているクロスがいた。……その笑顔から放たれているポジティブオーラをどうにかしてくれないものだろうか。起きたばかりなのに自然と顔が歪む。

 

クロ「おはようございます、先輩」

「ああ、おはよう。それはいいんだがそのポジティブオーラをどうにかしてくれないか? 正直言って嫌なんだよ」

クロ「えっ、また出てました?」

 

クロスは少し目を見開く。自覚なしかよ。大きなため息が口から漏れる。

 

「馬鹿みたいに出てるんだが」

クロ「すいません、ついつい……」

 

直す気は全くないのだろう。こいつのポジティブオーラは今に始まったことではない。いくら俺がやめろと言っても、クロスからはいつものようにポジティブオーラが出ている。本人はいいかもしれないがネガティブな感情を好む俺からしたら嫌なことこの上ない。

 

「今何時だ?」

クロ「もうお昼ですよ。にしても、よくそんなに寝れますね」

 

クロスがテーブルの上に置いてあったマグカップを手に取り、俺に差し出してきた。それを受け取り、口に流そうとした……が。

 

「あっつ!?」

 

熱かった。マグカップの中のココアがゆらゆらと揺れる。舌の先がひりひりと痛む。……ベッドにこぼすところだった。

 

クロ「先輩、大丈夫ですか? だから昨日も言ったじゃないですか、ちゃんとふーふーしてから飲んでくださいって」

「面倒なんだよ。クロス、氷は入れられないのか?」

ク「それは俺も考えましたよ。先輩、猫舌ですもんね……って、あっちょっと、真顔で触手出さなくたっていいじゃないですか……痛い痛い痛い!!」

 

カチッときたので触手で締めてやった。後悔はしていない、するわけない。

 

「……反省は?」

ク「……してます……。すみません……」

「よろしい」

 

俺は触手の力を弱めてクロスを床に落とす。ぽとっという軽い音がした。

 

クロ「さっきの話の続きしていいですか」

「ああ」

クロ「氷入れることは俺も考えましたよ。でも、氷って溶けるじゃないですか。それによって水の層が出来るイメージ、つきますか?」

 

水の層? 俺はココアの表面を見る。この中に氷が落ちて、それが溶けていく……。まるで希望が溶けて絶望に変わるように……。

 

クロ「……先輩」

「うわあ!? な、なんだよ!?」

クロ「いま別のこと考えてましたよね?」

 

そんなジト目で見なくてもいいじゃないか。最近ネガティブな感情を補給できてないのだから。

 

「あー……なんでもない。で、水の層か」

クロ「はい。ココアがあったら、その上に水があるっていう感じなんですけど」

 

さっきのことを気にしてはいないようだ。クロスは右腕に自身の左腕を重ねる。右腕はココアを、左腕は水の層を表しているのだろう。

 

「ふーむ、水の層か。……それってかき混ぜたりして水の層をなくすことは出来ないのか?」

 

ココアをすする。時間が経ったことで、冷えてきたようだ。

 

クロ「ああ……、その手がありましたね。今度試してみます」

「ああ」

?「クロスー」

クロ「はい、なんでしょう!」

 

近くから幼い子供のような声が聞こえてきた。おそらくはキラーだろう。キラーとクロスは家事のほとんどを担当しているのだ。

 

キラ「ホラーが飯作れってよ。今から作るし早く来てー」

クロ「すぐ行きます!」

 

クロスは扉に向かって声を張り上げると、俺の方を向いた。

 

クロ「そういうことなんで、行ってきます」

「ああ」

 

俺は手を上げる。クロスは扉に向かって歩き、ノブに手をかけて、もう一度俺の方を向く。

 

「なんだ? 下りてこいってか?」

クロ「はい」

「ちゃんと下りてくるよ。つか、下りて来ない日とかあったか?」

 

クロスは考える素振りを見せた。

 

クロ「どうでしょうね。じゃあ、また後で」

「おう」

 

クロスはノブを回し、部屋から出ていった。

俺はまだ残ったココアを見る。今日の昼御飯はなんだろうか。

 

「さて……」

 

俺も下りるとしよう。

ベッドから出て、ココアを飲み干した。



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02.真夏のアイス(インエライン)

「あっつ~……」

 

手に持ったうちわでパタパタと扇ぐが、涼しいというには程遠い。目の前……というか僕の周囲にはたくさんのAUたちが浮いている。

 

僕の仕事はAUを守ること。手助けをしたり遊びに行ってみたり等々、のんびりと過ごしている。なぜAUを守るのかって?

 

そりゃ……守護者にはちゃんと対立する存在がいるんだよ? 破壊者が、ね?

 

「……これで扇いでも涼しくないなあ。あっ、そうだ」

 

僕は背中に背負った筆を取り、すっと筆で色をつける。僕なりの、移動の仕方。塗料さえあれば僕はそれをポータルにしてどこにでもいける。これを使って他のAUに行くのも容易い。

 

破壊者は……元気にしてるかな? 僕は塗料の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

塗料からちょっとだけ顔を出す。灰色のクッションに背を預ける彼の姿が見えた。振り返っていないということは気づかれていないのかな。僕は塗料からそっと抜け出す。

 

エラ「……何しに来タ」

 

あっ、バレてた。

 

「遊びに来たよ?」

 

僕は彼の隣に座る。露骨に嫌な顔をされた。この世界には彼とクッション以外なにもない……はずだったのだが、エラーの近くに小型の扇風機が置かれていた。いつ買ったのだろうか。でも、ラッキーだ。

 

エラ「嘘つケ。今日ハ暑いカラな。どうセ、涼もウとして来たンだろ」

「いいじゃんかー。うちわで扇いでも暑いんだしさー」

 

僕は頬を膨らませる。エラーは青いマフラーに黒いコートを羽織ったいつもの姿だが、暑そうに見えない。

 

エラ「だいタイ、なンで扇風機を買わなカったンだ?」

 

エラーはざまあというような表情で僕を見る。分かってるくせに。

 

「……画材買いすぎた」

 

僕は体操座りをして膝に顔を埋める。

 

エラ「ソレガ原因ダな。ま、自業自得ッテやつダ」

 

きっと、エラーは薄笑いを浮かべながら言っているのだろう。出来るなら画材を買い漁ったあの日の僕に説教がしたい。

だいたい暑くなるとか聞いてないし。僕は気まぐれな気温に文句を言う。

 

「ねえ、エラー」

 

僕は顔を上げる。これは賭けだが、当たるだろうか?

 

エラ「ナンだ」

「アイスないの?」

 

僕はアイスに賭ける。エラーはチョコレートも好きだがアイスも好きだったはず。あればいいのだが。

 

エラ「あー…チョッと待ってロ」

 

そう言うと、エラーはグリッチを出して手を突っ込み始めた。僕はわくわくしながら待つ。

しばらくグリッチに手を突っ込んでいたエラーが何かを取り出した。その手には白色の棒アイスが握られている。よっしゃ。

 

「あっ、あったんだね! ありがとうエラー!」

 

僕はその棒アイスに飛び付こうとしたが_

 

「……えっ?」

 

すっとかわされた。

 

エラ「確かニアイスはあル。だがナ……お前ニあげるタメのアイスではナイ」

「えぇそんなー! ずるいよー!」

 

僕は棒アイスめがけて何度も飛び付くが、エラーは腕を動かして僕の手をかわしていく。指先に棒アイスの包装が当たっても、握れなかった。

終いには、

 

「……酷い」

 

ショートカット(近道)で距離を離されてしまった。

 

エラ「誰ガあげるッテ言ったんダよ」

「うぅ……エラーの馬鹿ぁ……。酷いよお……」

 

半分涙目になりながら訴える。すると。

 

エラ「ああア、もうウルセェな! あげレばいいンダロ、あげれば!」

 

痺れを切らしたのかは知らないが、エラーが戻ってきた。彼はクッションに背を預けると、包装を破り始める。

 

「え、いいの?」

エラ「あア。ただシ、一口ダケナ」

「やったー! エラー大好きー!」

エラ「ハァ!?」

 

大好きという言葉を口に出した瞬間、エラーは大きく体を震わせた。言い終えてからあることに気づく。これ、フリーズしちゃうのでは、と。

しかし、フリーズはしなかったようだ。エラーはため息をつくと、一口棒アイスをかじる。

そしてそのまましゃくしゃくと咀嚼し始めた。

 

「……ちょっと、まだー?」

 

もしかして、さっきのは嘘? そう思った瞬間_。

 

「んっ!?」

 

口を塞がれた。えっ、これって……。

突然のことで思考が回らず、僕は何をすればよいのか分からなかった。すると、

 

「んんんっ!?」

 

僕の口に何かがねじ込まれる。それはエラーの舌だと僕は理解する、してしまう。ないはずの心が跳ね上がり始める。

 

「んっ、んー!!」

 

舌と舌が交わる中で、冷たいものが僕の口に流れ込んできた。それを確認したのか、エラーは口を離す。銀色の糸が僕たちの口を繋いだ。

 

エラ「甘いカ?」

 

僕は咄嗟に俯く。さっきよりも体温が跳ね上がっている。熱でも出してしまいそうに。

エラーから渡されたアイスを僕はしゃくしゃくと咀嚼する。少しどろりとしているのはあまり気にしないことにする。

 

「……うん、甘いよ。でもさ……」

 

僕は顔を上げる。恥ずかしさよりも、怒りたかった。

 

「いきなり口移しする必要あったの!? 僕、すごくびっくりしたんだけど!!」

 

今思っていることを言葉にしてエラーにぶつける。エラーは腕を組みながら笑った。

 

エラ「お前がいきナリ大好きって言うノガ悪いんダよ。まあ……それを言わなクてもしてタと思うけドナ」

「……ばーか……」

 

そんなところも、僕は好きだよ。

なんて、とても言えない。

 

 

守護者のくせに俺のところにきて、笑って。

ちょっと悪戯をしてやれば、頬を膨らませて、怒って。

そんなところも、俺は好きだ。そして、お前は俺が好きだろ?

な、インク。



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03.眠れぬお前に(メアクロ)

鏡に映る、自分の顔。俯いた目の下にくまが出来ている。そんな顔が見たくなくて、俺はフードを深く被り鏡に布を被せた。

 

「う……」

 

頭痛がして、俺はフードの上から頭を押さえる。痛い、痛い、痛い。ここ数日、俺は寝ていなかった。その結果が回って回って俺に返ってきている。自業自得とでも言うべきか。俺は椅子に座り、机に突っ伏す。

 

ここ数日間、俺は寝ていない。考え事を、失った兄弟を思うたびに目が覚め、気づいたら朝。それの繰り返し。失った兄弟は、どんなに想っても返ってくるわけがない。分かってるはず、なんだけど。

 

「……兄弟……」

 

コンコン。

 

ノックの音がした。俺は顔を上げることが出来なかった。溜まりに溜まった疲労が、顔を上げるなと言っていたからだ。

 

メア「クロス」

「……せん、ぱい……?」

 

扉の向こうから聞こえてくる冷たい声で、俺は少しだけ顔を上げる。冷たいというべきかクールというべきか、今の俺には分からなかった。

 

メア「ちょっと用事がある。入ってもいいか?」

「……どうぞ、ご自由……に……」

 

掠れた声が俺の喉から出る。聞こえているのかは知らない。そこまで頭が回らない。

 

ガチャリと音がして、ナイトメアが部屋に入ってきた。

その目は鋭く細められている……ように見える。

 

メア「おい、クロス」

「……何しに……来たんですか」

 

俺は机に突っ伏したまま用件を聞く。いくら同じ環境に住んでいるとはいえ、今の顔を見られたくない。

 

メア「……お前さ、無茶してないか? 最近」

 

ぴたりと心の中を見透かされた。俺の体が無意識にびくりと跳ねる。

 

「なんで……それ……を」

メア「簡単だ、お前の様子がおかしかったからだよ。反応は鈍いしフードは深く被り出すし……」

 

俺は何も答えることが出来なかった。隠したつもりなのに、ナイトメアからしたらバレバレだったらしい。確かナイトメアって他人の思っていることが読めるんじゃなかったかな……。

 

メア「お前は何か……深く物事を考えているんじゃないか? 例えばそう……『兄弟』とかな」

「……そうです、よ……」

メア「だろうな、そんなところだと思ったよ。お前は兄弟を失ってここにいるからな」

 

そこまで言いますか。反論したかったが、またしても疲労が勝る。

 

メア「まあ、最近の来客は……スワップのパピルスとサンズだったからな。思い出すのも無理はない」

 

いきなり、体が軽くなった気がした。床から離れ、ぶらぶらと浮く足を、俺は見ていた。

少しして、ぼふっと柔らかい感覚がした。周りを見ると、それはベッドだった。……触手で掴まり、投げられたようだ。しかも壁側に。

 

メア「おお……。相当、深く考えていたんだな。くまが濃い」

「……!」

 

俺は深く深くフードを下げる。しかし、ナイトメアの触手によって、ぐいっとフードを上げられた。ナイトメアがベッドに乗ってきたかと思うと、俺の膝の上に乗ってくる。

至近距離で、目が合う。ナイトメアの水色の目に、虚ろな表情の俺が映っている……だろう。

 

「せんぱ……い……」

メア「口、開けてろよ?」

「え……? ん……!?」

 

すっと顔が近づき、口に柔らかいものが当たる。それはナイトメアのだった。軽くて、そして柔らかな口付け。

されるがままで、舌が強引に入ってくる。それすらも、俺は受け入れていた。反抗する力など、今の俺にはなかった。

 

「ん……はっ……んんっ!?」

 

とろりとろりと舌が交わる中、何かが俺の口に流れ込んできた。気づいた時には遅く、俺はそれを飲み込んでいた。それを確認したのか、ナイトメアは口を離す。

 

「せん、ぱい……なに、を……」

 

何をしたんですかと言いたかった。……普段の俺なら言えていただろう。

 

急に眠気が襲ってくる。それは俺の体の中で膨れ上がる。目が自然と下がっていく。その感覚が心地よかった。

 

メア「お前が眠れなかったようだからな。睡眠薬を口に入れてそれをお前に移したんだよ。けっこう良いやつを使ってるからかなり眠れるかもな」

「う……せん、ぱい……」

 

これで眠れそうです。と言う間もなく、俺は目を閉じた。ああ、気持ちいい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……ス、……ロス……ん!!

……誰かが、呼んでいる? 俺なのかな。まどろみの中で、俺は浮いているような感覚だった。

……ロスくん、おーい!!

 

「……ん?」

 

目が覚めた。視界にぼんやりと、丸くて白いものが映る。……顔?

 

?「……ようやく起きた……」

「キラー……先輩?」

 

ごしごしと目を擦る。ベッドの端に手をかけている骨がいた。両目から流れる黒い液体。間違いなく、キラーだった。俺は起こされたのか。

 

「あっ、えっと……おはようございま……っ!?」

 

おはようございますと言おうとした瞬間、俺はぎゅっと抱き締められ胸へと引き寄せられた。視界が赤く染まる。そういえば、キラーのソウルは的のような形になって浮いてたんだっけ。温もりを感じながら、俺はそう思う。

いや、こんなこと思ってる場合か。

 

「ちょっ……先輩!?」

キラ「もう……! 心配したんだからね……!」

 

キラーは俺をぎゅっと抱き締める。……首に手が回されている状態で抱き締められているため、首が締まりそうなのだが……。あ、ヤバい、苦しい。

 

「せんぱっ……い、首……締まっ……!!」

キラ「え? あ、ああ、ごめん…」

 

キラーは少し力を緩めたが、俺を離そうとはしない。こんな状況を見られたら……。

 

キラ「時間になっても起きてこないから、僕すごく心配したんだよ……? 部屋に入ってみたら寝てるし、あのタコは『ほっといてやれ』とか言うし……」

 

またナイトメアをタコ呼ばわりしてる……。指摘しようと思ったが、キラーは俺が起きたことに喜んでいるようだ。それに、指摘する気にはならなかった。

 

キラ「心配したんだからね……! とっても、とっても……!」

 

俺はキラーの背中に手を回す。心配をかけてしまったことを、謝らなければ。

 

「……ちょっと疲れていたもので。心配かけてすみませんでした。もう大丈夫ですよ」

 

俺は微笑みを浮かべながら囁くように言った。抱き締める力が少し強くなった。

 

キラ「……あ、ごめん。抱きついちゃった」

「いえ、俺は別に……」

 

キラーは我に返ったのか俺から手を離す。少し泣いているように見えたのは俺の気のせいなのだろうか?

 

キラ「……ご飯作ろ? 下で待ってるね」

 

キラーは俺に背中を向けてそう言うと、部屋から出ていった。部屋がまた暗くなる。俺は遮光カーテンを開く。

差し込んでくる光が眩しくて、俺は目を細めた。

 

「……んー……」

 

俺は腕を上に上げて体を伸ばす。とても気持ちいい。伸ばし終えて、ベッドへと戻った。寝るわけではない。むしろ目が冴えているので、もう寝れそうにはない。

 

「あれっ、スマホ……」

 

枕の下や布団の中を探すが、スマホが見つからない。今日が何日か知りたいのに……。ふと、机に目を向けたとき、俺は見つける。机の上に置いてあった。

俺はスマホの電源を入れる。画面に表示された数字を見て、俺は目を疑った。

 

「……一日?」

 

ナイトメアに睡眠薬を(口移しで)飲まされ、寝たのは確か……一昨日。しかし、画面の数字はその二日後を表している。俺は丸一日寝てたのか? そりゃ心配されるわけだ。

とりあえず着替えよう。俺はクローゼットからいつもの服を取り出し、パジャマを脱いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

キラ「もー、遅いよー」

「すみません……確認してたもので」

 

着替えて一階に降りてきた瞬間、キラーの声がした。待たせてしまったようだ。反省どころしかない……。

 

リビングにはキラーの他にホラー、マーダー、エラー、ナイトメア(要は全員)が座っていた。

 

メア「よう、クロス」

 

ナイトメアはすっと手を上げた。俺はぺこりと頭を下げる。

 

「おはようございます」

ホラ「……あ、おはよ。オレ並みに寝てたな……」

マダ「……ん、おはよう」

キラ「丸一日寝てたもんね」

 

やっぱり丸一日寝ていたのか……。

 

「ちゃんと寝たので大丈夫ですよ。心配かけてすみませんでした」

 

俺は頭を下げて謝る。たった一日だが、それは先輩を心配させるのにはあまりにも十分すぎたのだ。

 

メア「まっ、普段のお前に戻って安心したよ」

ホラ「あれ、ネガティブじゃない……」

メア「うるせえほっとけ」

 

ふふっと、俺は思わず笑う。ナイトメアはそれを見て、じろりと睨み付けたが、すぐに口角を上げた。

 

キラ「さて、ご飯作ろうか、クロスくん」

「そうですね」

 

今日も新しい1日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました、先輩」

「眠れなくなったら、また眠らせてやるよ」

「永眠はやめてくださいね……」




今回から最後らへんにおまけのセリフをつけることにしました。お楽しみ頂ければ幸いです。

2021年2月27日
思いっきりつなげました。


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04.あの子は誰のもの?(メアクロ、ドリクロ)

?「クーロースー!」

「うぉわっ!?」

 

背後から聞こえてきた幸せそうな声。俺が振り返る直前、それは俺の首に手を回した。金色の手袋……まさか。

 

「どうもこんにちは、ドリーム先輩」

 

そう、俺の背中に抱きついてきたサンズはドリーム。ポジティブな感情のガーディアンで、ネガティブな感情のガーディアンだったナイトメアの弟。ナイトメア曰く永く生きているらしいが、年齢は教えてもらっていない。

 

ドリ「うん、こんにちは。久しぶりだね、元気にしてた?」

「ええ、元気にしてましたよ。ナイトメア先輩も元気です」

ドリ「へぇ、元気だったんだ。今、ボクが来てるから元気じゃなくなるかもね。ふふっ…」

 

頭上から、妖しげな声が降ってくる。俺より身長が高いドリームは、兄のナイトメアと対立している。それは今に始まったことではないらしい。

 

今俺たちがいるのは闇AUの一部のサンズ(俺も含む)が住む世界。奇跡的にキラーたちはいないものの、これを見られたら少なくとも半年ぐらいはネタにされかねない。

……ここは俺の部屋だし、まあ、バレないか……。

 

ドリ「にしても、クロスって小さいから抱きやすいんだよね。落ち着くなあ……」

 

ドリームは優しく俺を後ろから抱き締める。小さいと言われ、俺はむすっとなった。

 

「小さいってなんですか。俺そこまで小さくないと思うんですけど」

ドリ「いーや、ボクからしたら小さいほうだよ。試してみる?」

 

俺の答えを待つ間もなく、ドリームは体を動かして俺のベッドに座る。それに引っ張られた俺もベッドに座る形になっ……てない。

気づけばドリームの体の中にすっぽりと収まっていた。

 

「え、ちょっ、先輩!?」

ドリ「うん、やっぱり小さいね」

 

トクントクンと、ドリームのソウルが脈打つ音が聞こえてくる。ああ、生きてるんだなと改めて思った。

いや、そんなことよりも。

 

「あのっ……先輩……離してもらっていいですか……?」

ドリ「え、嫌だけど」

 

速攻で切り捨てられた。

 

ドリ「クロスの部屋に来る前に見たけど、どうやら他のサンズたちはいないっぽいね。ただ、ネガティブな感じはしたからメアはいるようだけど……。まあ、そんなこと関係ないけどね、クロスはボクのものだし」

「はいっ!?」

 

体が大きく震え、体温が上がり始める。そりゃそうだ、いきなり前触れもなくボクのものと言われたのだ。しかもナイトメアの弟、ドリームに。

 

?「ほう、よく言うようになったな、ドリーム」

 

反論しようとしたその時、低く冷たい声が聞こえてきた。まさか……。俺は声のした方を見る。そこにはさっきまでなかった黒い水溜まりが出来ていた。

 

やがて、その水溜まりが、人の形をつくっていく。それは俺が見慣れた姿だった。彼特有(?)のねちゃねちゃとした音が聞こえてくる。

 

ドリ「あーあ、来ちゃったか……」

 

ドリームは俺の背中と足の下に手を差し込み持ち上げ、お姫様抱っこの体制にすると、ベッドから立ち上がった。

……待てよ、お姫様抱っこ!?

 

メア「ごきげんよう、ドリーム」

ドリ「ごきげんよう。で、何の用?」

 

ドリームは兄のナイトメアを冷たい目で見ている。が、ナイトメアも負けていない。触手が俺の腕に巻き付く。

 

メア「クロスを降ろして返せ。こいつは俺のものだ」

「ええっ!?」

 

またしてもか。体温がどんどん上がっていく。ソウルが馬鹿みたいに脈打つ。

 

ドリ「メアもよく言うよね……。クロスはボクのものだよ?」

メア「いつからお前のものになったんだ? こいつは俺に従ってるんだぞ」

ドリ「従ってるからって自分のものになったわけじゃないよ。それに、クロスにとってここは先輩しかいないし、従うのも無理はないよ」

 

 

 

 

 

 

しばらく言い合っていた二人だが、ふと急に。

 

メア「あっ、そうだクロス。お前に聞きたいことがあるんだが」

ドリ「あっ、ボクも」

「何でしょう……?」

「好きな人いるの?」「好きな奴いるのか?」

 

二人の声が重なる。唐突な質問、またしても前触れもない。俺は目を丸くすることしかできなかった。

 

「え? えっ……とー……」

ナイ「いるのか? なあ? いるのか?」

ドリ「すっごく気になってたんだよね、好きな人……。あっ、人だけとは限らないか」

「いません……けど」

 

沈黙で満たされる。ちょっと待って、苦しい。誰か喋ってくださいお願いします。というか降ろしてくださいドリーム先輩。

 

メア「……ほーう。いないのかぁ……」

 

ナイトメアは目を細めて俺を見た。その口角は上がっている。……嬉しそう。

 

ドリ「ふふっ、よかった。もしいたら殺してたところだったよ?」

 

ドリームはまだ俺をお姫様抱っこしたまま、にっこりと笑う。いや怖い、怖すぎる。

 

メア「奇遇だな。俺も殺してたところだ」

 

怖いんですけどこの兄弟!? 笑顔で物騒な言葉を口にしてますけど!? ナイトメアはまだしもドリームは言っちゃ駄目なのでは!?

俺が相手にしている先輩は全員物騒な気がする……。

 

「ところで……降ろしてもらっていいですか?」

ドリ「嫌だよ。降ろしたら可愛がれないし」

 

俺はペットか何かですか。

このあと結局、俺はドリームが帰るまでお姫様抱っこされたままであった。

 

 

 

 

 

「ようやくお姫様抱っこできたぞ」

「降ろしてくださいよ……ご飯作れなくなります……」

「クロスー、ご飯作る……」←ドアを開ける

「「あっ」」




個人的にドリームくんはラストくんみたいな口調だといいなあと思ってます。


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05.お泊まり(ドリクロ)

ノブを回して部屋に入る。部屋の奥、窓際に置かれた椅子に座る、もこもこのパジャマに身を包んだクロスの姿が目に入った。カーテンの隙間から外の景色が見える。

 

「あれ、起きてたんだ。寝てもよかったのに」

 

ボクは部屋の奥まで歩き、クロスの向かい側に座った。

 

クロ「ドリーム先輩が戻るまで起きておこうかと思ったので」

 

クロスはにっこりと笑いながらそう言った。ボクは「そっか」とだけ返して外を見る。白い雪が降っていた。

 

クロスは今、ボクの部屋(というか光AUの一部が暮らす世界)に泊まっている。それを提案したのはボクだが、クロスは快く受け入れてくれた。

 

窓の外を眺めるクロスを見ながらボクは思う。

クロスはこうやって泊まりに来ているが、そうなるまでに『先輩』とやらの許可が必要だったのだろうと。

彼は闇AUの一部が暮らす世界で、キラーと一緒に家事を担当している。そんな彼が快く受け入れたことに、驚いたのはボクだった。冗談半分で、このことを提案したからだ。

 

ふと、顔を歪めるナイトメアの姿が脳裏をよぎる。ナイトメアは今頃不機嫌になっているのだろう。何故なら彼はクロスのことを頼りにしているだろうし何より……。

そこまで考えたところでボクは顔を横に振る。渡さないよ、クロスはボクのだから。

 

クロ「……先輩は」

「ん?」

 

クロスが口を開けた。窓の外を眺めながら。

 

クロ「この時間まで起きているんですか?」

 

ああ、なんだそんなことか。ボクは時計を見た。壁にかけられた時計の針はまもなく十二時を指そうとしている。

 

「んー……普通ならもう寝てるかな。でも、今日はまだ起きていられるよ。……もしかして眠い?」

クロ「ええ……。ここまで夜更かししたことはあまりないですからね……」

 

クロスはごしごしと目を擦りながら小さく欠伸をする。その姿を見た瞬間、ソウルに痛みがはしり、ボクはセーターを掴んだ。なんて可愛いんだ。ナイトメアはこの姿を見たことがあるのだろうか。見たことがあるのだとしたらずるい。

 

「寝よっか?」

クロ「……そうします。すみません、先輩」

 

別に謝らなくていいのに。椅子から立ち上がるクロスを見て、ボクもそれに倣う。

 

「壁側と外側、どっちがいい?」

クロ「俺はどっちでもいいですけど……。先輩、どっちがいいですか?」

 

ボクは考える。もし仮にボクが壁側で寝たらどうする? 仮にクロスの寝相が悪かったとしたら、彼は高確率でベッドから落ち、床に叩きつけられるだろう。そんなことは絶対に避けたい。よし、ならば。

 

「じゃあ、外側でいいよ」

クロ「えっ、いいんですか? 仮に落ちても知りませんよ?」

「大丈夫だよ。ちゃんと対策はするからさ」

 

クロスは心配そうな眼差しをこちらに向けるが、「失礼します」と言って布団に入った。どうやら納得したらしい。ボクは部屋の入り口にあるボタンに触れる。

次の瞬間、部屋が暗闇に染められた。月明かりの青白い光が、ぼんやりと部屋を照らす。

 

クロ「うわっ、暗い!?」

「大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても」

 

ボクは布団に入り、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして。

 

クロ「……先輩、あの……」

 

背後から、囁くように小さい声が聞こえてきた。ボクは目を開いて体ごと動かして振り返る。青白い光が、クロスの顔を照らした。

 

「どうしたの?」

クロ「……なんだか、眠れなくって……」

 

慣れてないからなのだろうか。

 

「……おいで」

クロ「えっ?」

「おいで? ぎゅーってしてあげるからさ」

 

そう言うと、クロスの顔がほんのりと紫色に変わっていく。そういえば、クロスの血とかって確か紫色だったんだっけ。ボクは両手を広げるがクロスが来る気配がない。仕方ない。

 

ボクはクロスに近づき、ぎゅっと抱き締める。……やっぱり抱きやすい。

下から何かもごもごと聞こえるが、ボクは聞こえないふりをする。きっと『なにやってるんですか!?』とかそういうことを言っているのだろう。

 

「こうすれば温かくなるし、寝れるよね?」

 

ボクは胸に顔を埋めるクロスに話しかける。クロスは勢いよく顔をあげた。その顔は紫色に染まっている。

 

クロ「恥ずかしいです……!」

「この前、ボクにお姫様抱っこされたんだし慣れだよ、慣れ。じゃ、おやすみ」

クロ「え、ちょっと……」

 

何か文句を言われる前に寝てしまおう。ボクはまた目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

ぎゅーってしたかったのは、ボクが満足したかったからだよ?

……なんて、クロスには教えてあげないけどね、ふふっ……。



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06.HAPPYBIRTHDAY!!(メアクロ、ドリクロ)

「あの……まだですか?」

メア「……」

 

返ってきたのは沈黙。黙殺された。俺は小さくため息をつく。

今、俺はナイトメアの部屋にいる。壁側に座って、『その時』が来るのをじっと待っていた。呼び出した本人のナイトメアはベッドの上で腹這いになりながら文庫本を読んでいる。内容は知らないが恐らくろくでもないものだろう(彼が好きなものを考えれば)。

 

メア「今、何時だ?」

 

文庫本から目をそらすことなくナイトメアは質問した。聞くぐらいなら俺の質問に答えて欲しかったものだ。

俺は立ち上がり、時計を見る。

 

「三時前です。おやつの時間になりますけど……いりますか?」

 

基本的に食事やおやつは俺とキラーが担当しているが、ナイトメアは俺が作ったおやつが好きらしく、三時になると毎回呼び出される。

 

メア「何があるんだ?」

 

ナイトメアは文庫本から目を離し、俺に視線を向ける。

 

「プリンとクッキーですけど……プリンは恐らく食べられると思いますよ」

 

脳裏にプリンを口の中に掻き込むホラーの姿が映し出される。彼は八年間なにも食べていなかったらしく、彼がお腹を空かせるとろくなことがない。

 

この前なんか斧を持って、クッキーを頬張っていたマーダーに振り下ろそうとしていた(マーダーの重力操作で止められていたが)。

 

メア「じゃあチョコレート」

 

ナイトメアは片手をこちらに出した。俺もそうだが、どのSansもだいたいはチョコレートが好物だ。困ったときはチョコレートでもあげればどうにかなると俺は勝手に思っている。

 

「持ってきますね」

メア「ドリームの分はなくていいからな」

 

ナイトメアはニヤリと不吉な笑みを浮かべる。

いやそれは駄目でしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

ノックして扉を開けた瞬間。

 

ドリ「やっほー」

 

妖艶な笑みを浮かべたドリームがこちらに手を降っていた。その傍ら、ナイトメアは嫌そうな顔をしている。ドリームから溢れんばかりのポジティブを感じているのだろう。

 

「どうもこんにちは、ドリーム先輩」

ドリ「こんにちは。ごめんね、ちょっと遅れちゃった」

 

ドリームは自分の頭に手を当ててあざとく「えへっ」と言った。ナイトメアの顔がさらに歪む。

 

メア「……はっきり言って気持ち悪いぞ、ドリーム」

ドリ「えー。ひどーい」

 

仲がいいのか悪いのか。俺は苦笑を浮かべながらも内心、楽しそうだなと思った。ああ、ここに兄弟がいればどんなに_。考えただけで、苦しくなった。深く息を吸って自分を落ち着かせる。

 

メア「クロス、座ったらどうだ」

「あっ、はい。すみません」

 

俺は正座し、おやつを載せたお盆を自分の右側に置く。ベッドの上で腹這いになったままのナイトメアに対して、ドリームは壁際に背を預けている。

 

「ドリーム先輩も、座られたらどうですか」

ドリ「そうさせてもらおうかな。失礼するね」

 

ドリームは壁から離れ、俺の向かい側に座る。俺はお盆をテーブルの上に載せた。

 

「チョコレートです。よろしければどうぞ」

ドリ「美味しそう。ありがとね」

メア「お前にはやらんぞ。全部、俺のチョコレートだ」

ドリ「ケチだね……。せっかく来たんだから食べてもいいでしょ?」

「俺はいりませんから、お二人で分けてくださいね」

 

俺がそう言うと、ナイトメアは嫌そうな顔をした。全部あなたのものじゃないんですから。俺は心の中で呟く。

 

メア「……本題に入るか」

 

ナイトメアは身を起こしてお父さん座りをした。彼の背中から伸びる触手が、お盆のチョコレートを一つ取る。

 

「そうですね。ドリーム先輩にナイトメア先輩、お誕生日おめでとうございます。ささやかなものですが、俺からのプレゼントです」

 

俺は指を鳴らす。乾いた音が部屋に響く。

テーブルの上に、二つの小さなプレゼントボックスが現れた。その一つを手に取り、ドリームに差し出す。

 

「どうぞ」

ドリ「嬉しいな、ありがとね」

 

ドリームはにっこりと笑いながら受け取った。残ったもう一つの箱を手を取り、ナイトメアに差し出す。

 

「先輩も」

メア「……ありがとな」

 

顔を背けながら、彼は自身の触手でそれを受けとる。

 

ドリ「これって今開けていいの?」

「どちらでも構いませんよ」

 

俺がそう言うと、ドリームは「家に帰ったら開けようかな」と呟いて、テーブルの上に置いた。ナイトメアは自身の机の上にぽんと落とす。

 

ドリ「さてと……クロスからプレゼントは貰ったし、ボク『たち』もお礼しなきゃダメだよね?」

 

ドリームはいきなり話題を変えた。その笑み、何故か嫌な予感がする。妖艶な笑みを浮かべ、俺のことが好きというドリームと、同じく俺のことが好きだというナイトメア。ろくな『お礼』だと良いのだが……。

 

メア「お礼か……」

 

ナイトメアはぽつりと呟く。その顔が笑っているのを見て、俺は顔をひきつらせる。

 

「あの……お二人とも、何をなさるおつもりでしょうか?」

ドリ「せっかくプレゼント貰ったし、お礼しなきゃダメかなって。ほら、今日の主役はボクたちだし、いいよね?」

 

ドリームは机から身をのりだし俺の口に自身の細い指を当てた。言葉が溶けていく。

 

メア「お礼って言うけどな……。『願い事』だろ、それ」

ドリ「あれ、バレた?」

 

ドリームは自身の細い指を俺の口から離す。

 

「『願い事』……ですか?」

ドリ「うん、今日の主役はボクたちだし、願い事聞いてほしいなって」

「ちょっとだけ、考える時間をもらってもいいですか?」

ドリ「どうぞー」

 

俺は腕を組んで考える。ドリームが言う『願い事』。それはきっと俺にしか叶えられないものなのだろう。だとしてもそれがどんな願い事なのか、俺には分からない。

 

「……その願い事は聞き入れます。ただし、条件を二つ設けさせていただきます」

メア「条件……か」

「一つ目は、『願い事は一つだけ』。二つ目は『度を越えたものでないこと』です」

ドリ「……いいよ。だけど、願い事はボクたちで話し合っていいかな?」

「いいですよ」

 

契約(?)は成立した。あとは、『願い事』の内容を聞くだけだ。

 

ドリ「それじゃあボクたちで話すから、待っててね」

 

 

 

 

 

 

「……本気ですか?」

ドリ「本気だよ。それに、度を越えてないから大丈夫でしょ?」

「まあ……そうですね」

メア「ま、こいつのファーストが消えるな」

 

ドリームとナイトメアから出された『願い事』。それは、俺が両方にキスすることだった。確かに度を越えてはいないが、俺の心が持つかどうか……。あとはナイトメアの言う通り『ファースト』が消える。

 

メア「俺からでいいんだな?」

ドリ「いいよ。それを上書きするぐらいにしてあげるからね? クロス」

 

ナイトメアはこちらに手首を返す。『来い』と言っているようだ。俺は覚悟を決める。

 

メア「安心しろ。ちゃんと目は瞑っておくから。ドリームも、見たくないならそうしろ」

ドリ「してるよ」

 

ドリームはこの状況が気に入らないのか、少し不機嫌そうな声で言った。それに加え、耳元に手を当てている(骨である俺たちには耳がないはずなのだが)。

 

メア「来いよ、クロス」

「……失礼します」

 

俺は目を閉じたナイトメアの口に自らの口を重ねる。柔らかな感覚。それに反応した俺の体が離れようとする。しかし。

後頭部に感じた感触。離れかけた口と口が再び重なる。

 

「んっ!?」

 

俺の口に、何かがねじ込まれる。それは俺の舌に触れ、とろりと絡まる。体温が馬鹿みたいに上昇していく。

 

「はっ……んんっ……しぇん……ぱっ……」

 

とろりとろりと、それは絡まり続ける。足に力が入らなくなる。呼吸が出来なくなる。苦しい。

 

「はーっ……」

 

不意に口が離され、銀色の糸が俺の口とナイトメアの口を繋ぐ。

 

メア「油断大敵、だぜ?」

「……は、い……」

 

酸素を口で貪り、こくりと頷いた。

 

ドリ「終わった?」

 

ドリームは待ちくたびれたかのように言った。

 

メア「今、終わったところだ」

ドリ「そう。おいで、クロス」

 

自分の番になったことが嬉しいようだ。俺は自分の額に手を当て、火照っていることを理解してしまった。

このままドリームとするしかないのか……。俺はもう一度覚悟を決めてドリームの傍に座る。ドリームは耳から手を離し、挑発的な視線を俺に向けていた。

 

ドリ「ふふっ、照れてるよ?」

 

ドリームは俺の顎に手を当ててクイッと上げる。いわゆる『顎クイ』。

 

「分かって……ます……!」

ドリ「もっと紫色にしてあげる……。さ、ちょうだい?」

 

ドリームはそう言うと、俺の顎から手を離して目を閉じた。恐らく、ナイトメアもそうしているだろう。

さっきのようにならないようにしよう。口をつけようとした瞬間、ドリームが目を開いた。

 

ドリ「メアは目を閉じてたし、開けたままでしてみようか?」

「はっ……え?」

 

あまりにもハードルが高すぎる提案。俺のソウルが馬鹿みたいに脈を打つ。

 

ドリ「いいから、やってみようよ」

 

ドリームは目を開いたまま俺を見る。そんなに見られたら、出来ませんよ……。

 

「……失礼します」

 

もうやるしかない。俺は目を開いたままドリームの口に自らの口を重ねる。

 

ドリ「いい子……。舌、出してね?」

 

ドリームはそう言うと、俺の後頭部に手を回す。言われるがまま、俺は舌を出す。すぐに絡まった。

 

「……んっ! ……はっ……んんっ…」

 

呼吸がきつくなり、視界が徐々に歪み始める。それを気にすることもないのか、ドリームは俺の舌を弄び続ける。

 

「あふっ……しぇん……ぱっ……!」

 

口が離れる。またしても、銀色の糸が繋いだ。酸素を口でむさぼる。

 

ドリ「呼吸を止めたらダメだよ? ちゃんと鼻で息をしなきゃ……」

メア「終わったか。お疲れさん」

 

俺はゆっくりと頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロスが上手になったら、もっと出来るよね」

「お前にはさせんからな」

ちなみにプレゼントの中身はペンダントだったそうです。




2021年2月27日(土)
思いっきりつなげました。長くてすみません。
後書き載せておきます(一応)。


ドリームくん、ナイトメア様、誕生日おめでとう!!
年齢は……やめておこう((小声
そう、UAが150突破しました(*’ω’ノノ゙☆パチパチ
皆様、いつも見てくださりありがとうございますm(_ _)m
これからもこの作品をよろしくお願いします。


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07.君への愛情(インエラ):*

インクくんがヤンデレだったりエラーくんが叫んだり死んだりしてます。
大丈夫な方はどうぞ。


目が覚めた。そこは白い部屋だった。

何故かその部屋に、見覚えがある気がする。

 

それにしても、体が動かしづらい。俺は手を動かそうとするが、手どころか腕が言うことを聞かない。それに加えて、冷たい金属音が響く。俺は視線を落とした。

 

「ハ……? ナンだよ、コレっ……!」

 

俺の両手は、黒い手錠に繋がれていた。ぐっと引っ張るが、びくともしない。両足は、と思い自分の両足を見る。奇跡的というべきか、両足には何もついてなかった。自由なのは両足だけ、ということだろう。

 

しかし、どうしてこうなったのだろう。俺は記憶をさらう。確か、インクが遊びに来て、どうでもいい話をして、そこから……。何故かその先が思い出せなかった。

 

再び記憶をさらおうとした瞬間、俺は視界の端に何かを見つけた。それを見ると、紫色の太い線が一本引かれてあるだけだった。

この線と色、見覚えが……?やがてその一本の線が形を作っていく。…人の形へと。

 

それは、俺がこの目で散々見てきた奴だった。

 

イン「起きたんだ。おはよう、エラー。気分はどう?」

 

紫色の太い線から現れたのはインクだった。そうだった、あいつは背中に背負った筆でポータルを作ることが出来るんだった。

 

「……最悪ナ気分だ」

イン「そう」

 

インクは俺の前まで歩き、ひざまずいた。その顔面を蹴り飛ばしてやりたい。そう思ったところで、俺は気づいた。インクの声が、あまりにも平坦なことに。

 

「ナンのつもりだ?」

イン「君はまだ気づいていなかったの? 僕の愛情に」

 

俺を見つめる白い目。その目が現す、ひとつの答え。インクは今、ソウルレス状態だということ。

 

「コレが愛情ダト言うのカ?」

 

馬鹿馬鹿しい。俺が知っている『愛情』というのは、少なくとも拘束すること(こんなもの)ではない。

 

イン「そうだよ。それでしか、表現出来なかったんだ。『君への愛』をね」

 

インクは立ち上がる。その無感情な眼差しが、俺を真っ直ぐに射止める。

 

イン「君は気づかなかっただろうけど、僕は君のことがすごく、すごーく好きなんだよ。愛してる。だけど、これをどうやって伝えればいいか、僕には分からなかったんだ。だからね、こうしたんだよ」

 

溢れる愛情の先には、こんなことしか待っていないのか。馬鹿馬鹿しい。俺は鼻で笑う。

 

「愛してる奴ハ、コンナことはシネぇよ。言葉でハッキリ伝えルってモンだ」

イン「愛してる、だなんて言葉で伝えても分からないものでしょ? 言葉だけじゃなくて、行動でも示さなきゃダメなんだよ。そして、僕は今からそれを実行する。エラーに分かってもらえるように……ね」

 

インクはこちらに戻ってくると、俺の膝の上に乗ってきた。接触、俺が抱えた恐怖が悲鳴をあげる。

 

「乗ルな!!」

イン「全く、君は本当に触られるのが嫌なんだね。でも、体は正直なものだよ。例え本人が嫌がっていたとしても、体は喜んでいるっていうこともあり得るから」

 

俺の叫びに動揺の欠片も見せず、インクは片手で俺の両手を塞ぐ。手錠の上から、インクの手が当たる。恐怖が、芽生え始める。それは止まることを知らない。

 

インクはすっと顔を近づけ、俺の口に自らの口を重ねる。柔らかな感触に乗って、インクの舌が俺の口に当たる。

 

イン「はっ……。ダメだよ、エラー。ちゃんと口、開けなきゃ」

「誰がオ前ナンか……」

 

***

 

エラーの顔には警戒が浮かんでいた。その表情は、『お前の思うようになるか』と言っているように見える。

 

僕は顔を近づけ、エラーの口に自らの口を重ねた。冷たい金属音の後に、僕の胸に感じた感触。離してほしいだろうけど、僕は離したくない。

 

舌を出してみるが、エラーはのってくれないようだ。予想はしていた。僕はエラーのシャツの中に手を入れる。

肋骨の真ん中あたり。確かにその感触はあった。それが脈打つのが分かる。

 

エラーが何か言おうとして口を開けたその僅かな瞬間、僕は出しておいた舌を入れる。油断大敵とは、このことだろうか。

 

***

 

シャツの中にインクの手が入ってきて数秒後。すりすりと、ソウルが撫でられる。

 

「んッ……!?」

 

やめろと言おうとしたその瞬間、俺の舌が何かに触れる。それはインクの舌。完全に油断していた、どうしてこんなときに限って_。

 

「はっ……んッ…や、めろッ……!」

 

俺は手錠がかかった両手で、インクを突き飛ばす。接触の恐怖よりも、離したいという気持ちが勝った。インクは突き飛ばされたにもかかわらず、その顔には一切の表情を浮かべていない。ふと、何かがない気がして俺はシャツに手を当てた。

ない、ない。

 

 

俺のソウルが、ない。

 

 

イン「探し物はこれかな?」

 

インクの右手に、青いソウルがふわふわと浮かんでいる。それは、俺のソウルだった。あの間に取られていたのか……。俺は目を見開き、叫ぶ。

 

「何をする気ダ! 返セッ!!」

 

イン「やだね。さっきも言ったでしょ、『愛してる』なんて言葉で伝えても分からないものだって。今から実行してあげるよ。エラーに注ぐ、僕の愛情を……ね」

 

インクは平坦な声でそう言うと、俺のソウルを口へと運んでいく。その瞬間が、俺にはスローモーションに見えた。そのとき、記憶が弾ける。このあと、インクにされることが頭のなかで再生されていく。

 

あの痛みが、あの苦しみがまた__

 

やめろ、やめてくれッッッ!!!

 

あむっ。

 

「あ"あ"ア"ア"あ"あ"あ"ッッッ!!」

 

***

 

ソウルを口に運び、甘く噛みついた瞬間、エラーの悲痛な叫びが部屋に響いた。彼は身を捩らせ、のたうち回り始める。

 

ぐぷりと、口元で音がした。僕はそれを飲む。口に広がる鉄の味。血だった。

 

エラ「や"めろッ!! あ"あ"あ"ッッッ!!」

 

少し強く噛む。エラーの悲鳴がさらに大きくなった。

 

「痛い? 痛いだろうね。だって、君の心臓を噛んでるようなものだからね」

 

僕はソウルを口から取り出して、舐める。血の味が僕の舌に広がる。エラーの血をこうやって舐めるのは何回目だろうか。

君は気づいているの? この無限ループに。

 

***

 

イン「ごめんね、痛いでしょ? でも、僕は君のことをものすごく愛してるの。だからさ……全部、ちょうだい?」

 

インクは倒れた俺のそばにひざまずく。

 

イン「その声も、体も、このソウルも。全部全部、僕にちょうだい? 大丈夫だよ、ちゃんと壊れないように管理してあげるからさ…。それじゃあ……いただくね」

 

インクはまた俺のソウルを口に運ぶ。

この後の末路を、俺は知っていた。あのソウルは、インクの口によって、噛み砕かれる。

この無限ループはまだ続いたままだ。そして、抜け出すことは叶わない。

俺は叫んだ。

 

「やメろおおオオおおッッッ!!!」

 

***

 

「……エラー?」

 

僕はエラーの名前を呼ぶが、反応は返ってこない。最後の欠片を飲み込んで、僕は目を閉じたエラーの頬に触れる。氷のように冷たくて、彼はもう、反応することも、喋ることもなかった。

 

「……死んじゃったか。でも君は生き返ることができるよ」

 

頬を優しく撫でながら、僕は呟く。

 

「ごめんね、痛かったでしょ? 今度は優しくしてあげないとね」

 

僕はにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛してるよ、エラー」




2021年2月27日(土)
思いっきりつなげました。
とはいえ続きの後書きに書いてたことが気になるという方がいらっしゃるような気がするので一応載せておきます。


前回の更新から約一週間……どうも、はたまです。
続きの内容どうしようとか考えてたら約一週間経ってました(作者の事情も入っています)。

なんだろう…書いてて思ったのはヤンデレインクくんは怖いってことですね。そのうちヤンデレドリームくんとかヤンデレクロスくんとかメア様書くかもです。
いい加減マダキラとか書けよって言われそう((小声


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08.誰もいない世界で(ドリメア):*

ここのメア様は白の方です。
あと、ドリームくんがヤンデレ。
大丈夫なかたはどうぞ。


ぱたりと本を閉じた。僕は目を瞑り深く息を吐く。溜まった疲れが少しだけとれた気がした。目を開ける。

 

「わぁっ!?」

 

目の前に、黄色の星が二つ。しかし、それは僕の弟の目だ。それはぱちぱちと瞬きをして、僕から離れる。

いつの間にこんなに近くにいたんだ? 足音など聞こえなかったのだが。

体温がじわじわと上がっていくのを感じる。

 

ドリ「やっほー」

「なんだ、ドリームか……。いきなり目の前に来ないでよ、びっくりしたじゃんか」

ドリ「えへへ、ごめん。目を閉じてたからてっきりキスしてほしかったのかなって……」

「そんなわけないっ!!」

 

体温がまた上がり、ソウルが馬鹿みたいに脈を打つ。本を抱き、頬を膨らませるとドリームは笑った。その笑顔はポジティブだからこそ輝くのだろうか。

 

「……そ、そういえば、お友達はどうしたの?」

 

やや上ずった声になってしまったが、悪いのはドリームだ。僕は何も悪くない。きっとそうだ。視線がドリームから本に移る。

 

ドリ「それがさ、最近来てないんだよね。忙しいのか何なのかは知らないけどさ」

 

ドリームは僕の隣に座る。

 

ドリ「珍しいね、いきなり聞くなんて。何かあった?」

「別に何もないよ。いないから聞いただけ」

 

閉じた本を開く。読書が好きなので持ち歩いているが、持っていてよかったと実感する。

 

ドリ「そっか。ところで、それ読み終わったの?」

「ちょっと前にね」

ドリ「読み聞かせしてほしいなあ」

「えっ?」

 

僕の口から呆けた声が漏れる。それに対してドリームは太陽のように眩しい笑顔をこちらに向けていた。ついさっき読み終えたこの本だが、ページ数はこの一日で読みきれるものではない。

 

「えっ、でもこれ、何百ページもあるよ?」

ドリ「大丈夫だよ! ちゃんと聞いておくから!」

 

元気そうにそういうドリームを横目に、僕はため息をつく。そこまで言うなら仕方ない。何百ページもあるとはいえこれは童話をまとめた本だから、きっと飽きはしないだろう。

 

「途中で寝ても知らないからね。むかしむかし、あるところに……」

 

***

 

ナイトメアってば、何も分かってないんだね。ボクは心の中で笑う。でも、君は何も知らない方がいい。

 

ナイトメアの言う『お友達』は既にこの世界から、いやこの世にはいない。彼らはみんな、あの世で過ごしている。きっと、どこまでも深い地獄で。

 

今頃、地獄で泣き叫んでいるだろう。でも、ボクの大事なナイトメアを傷つけた罰。受けて当たり前でしょ?

ボクのナイトメアが虐められていたこと、ボクが気づかないとでも思っていたの?

 

分厚い本をすらすらと朗読していくナイトメアを、ボクは見つめる。

 

ボクの大好きなナイトメア。君は、何も知らない方がいい。君を虐めていた奴はもういない。そして、ボクたちは二人きり。

 

ずっと愛してるよ、ナイトメア。

 

これからも、一緒にいようね。ボクたち以外誰もいない世界で。

 

 

 

 

 

 

 

ボクのナイトメアは誰にも傷つけさせない。



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09.Another(メアメア):*

白メア様と黒メア様がいます。
そこまでグロくない。
後半メアメア(多分)


目が覚めた。

 

「……どこだ、ここ」

 

辺りは真っ暗で、一筋の光もない。死んだのかと一瞬思ったが、ソウルはちゃんと規則正しく脈を打っている。俺は正座をしていた。

 

?「起きたんだ」

 

近くから、声がした。見ると、そこに誰かが立っていた。ドリームのような金色の冠に、紫色の服を身に纏っている。何故か、その姿を見たことがある気がした。

 

?「ごきげんよう、ナイトメア」

「……なぜ俺の名前を知っている?」

 

冷たい眼差しが、俺をまっすぐに射止める。その紫色の目。やはり見覚えがある。

 

?「なぜ? あははっ、笑わせてくれるね。だって、僕も同じ名前だからだよ? 僕も『ナイトメア』だからね」

 

ナイトメアは胸に手を当てる。相手は自分と同じ名前だった。普通なら驚くだろう。しかし、俺はなんとも思わなかった。疑問が確信に変わっていく。

 

白メア「ナイトメアとは言っても、僕は君になる前の姿だよ。まあ、そんなのどうでもいいけどさ。本題に入るよ」

 

そういい終えた途端、ぐさりと何かが俺の腹に刺さる。白い骨だった。そこまでして、俺は両手が拘束されていることを知る。

 

白メア「返せよ、僕の体」

 

先程までの穏やかな口調とは一点、白いナイトメアは低く脅すようなトーンで言った。紫色の目は爛々と輝き、本気だということが分かる。

 

白メア「お前さえ生まれなければ僕は死ぬことなんてなかった。今まで通り生きてたはずだったんだよ。それなのにお前が生まれたから、僕は死ぬことになった。正直言って、意味がわからなかったよ。だからこの機会を窺っていたんだ。お前がここにくる機会を、ね」

 

白いナイトメアは語るように喋り始めた。俺の腹に刺さった白い骨は、この暗闇に染まることはなかった。じわりじわりと痛みが回り始める。

 

白メア「準備は整った。返してもらうよ、僕の体」

 

返す? この俺が、お前に? お前は何を言っているんだ?

そう思っただけで、笑いが込み上げてきた。俺は沸き上がる笑いを抑えきれず、狂ったかのように笑った。

 

「ふふ、ふははははははははっっっ!!」

白メア「なにが可笑しい?」

 

笑いがみるみると消えていく。一呼吸整えて、俺は口を開いた。

 

「なにが『返せよ』だ? 笑わせやがって。あのときに結んだ約束を忘れたのか?」

白メア「約束?」

 

白いナイトメアは意味が分からないのかおうむ返しをした。

 

「お前が結んだ約束は、敵対する全てのものから守られるかわりに身体の支配権を渡すこと。それはお前自身の死を意味する。つまり、その約束に同意していなければ俺はこの世界にいない」

白メア「だからなんだ!」

 

白いナイトメアから、焦りを感じた。俺は渇いた口を舌で舐める。

 

「約束の内容はちゃんと言われていたはずだ。それに同意したのは誰なんだ? 黒いリンゴを食べたお前しかいないんだよ。身体そのものを受け渡して自ら死んだというのに、返せだなんておかしい話だ。なんだ? それでもまだ食い付くのか?」

 

嘲笑するしかなかった。馬鹿馬鹿しい。

 

白メア「僕……は……」

 

両手の拘束が解けたと同時に、白いナイトメアは糸が切れた操り人形のように崩れ落ち、ぺたんと座り込んだ。俺は腹に刺さった骨を抜いて立ち上がり、彼のそばにひざまずく。

 

「解放されたかったんだろ。だからこそ、お前はあの黒いリンゴを食べたんじゃないのか。駄目だと分かっていても」

白メア「……だって、そうでもしなかったら……」

 

白いナイトメアはわなわなと口を震わせる。

 

「……残念ながら過去のことはもう変えられようがないんだよ。お前が死んだのは事実だし、俺がここにいるのも事実だ。そこだけは受け入れろ」

 

すすり泣く声が聞こえてきた。

 

「……もうお休みの時間だ。疲れただろ、ゆっくり休め」

 

俺は俯く白いナイトメアをそっと抱く。もう彼は死んでいるはずなのに、少し暖かった。

 

白メア「ごめん……もう一人の……僕……」

「別にいい。あとは俺に任せろ。お前の分まで生きてやるから」

 

白いナイトメアはそれを聞いて納得したのか穏やかな笑みを浮かべた。その目がだんだんと下がっていく。やがて、彼は俺に抱かれながら目を閉じた。

 

俺は静かに、白いナイトメアを下ろした。指をぱちんと鳴らし、紫色の毛布を出して彼の体にかける。

 

「お休み。よい夢を」

 

俺は身を翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せめて最後にドリームに会いたかった……




最近メアメアが尊いと思っております、はたまです。
白メア様の納得やら言葉を失うのが早すぎるなあという反省点……。
思い付きませんでした((ちゃんと考えて、どうぞ

ネタが尽きかけてきたので活動報告でリクエストを募集することにしました。
目次に載せてますのでリクエストがある方はどうぞ。
お待ちしております。


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10.構ってよ!(キラマダ)

キラ「マーダー!」

「……」

 

台所から、キラーの幼い声が聞こえてくる。オレは無視を決める。

 

キラ「マーダー?」

「……」

 

キラーの呼び掛けを、オレは無視する。読んでいた本を顔に近づけ、目の前の文章だけに集中する。パピルスは俺の様子を見て察しているのか、何も言ってこない。

 

キラ「ねぇちょっと」

 

ぼふっという音がして、キラーが隣に座ってきたことをオレは理解した。黙殺に耐えられないのか、キラーは貧乏揺すりをし始める。はっきり言って、揺れが邪魔である。

 

キラ「ねぇってばー」

「あああ、もううるせぇな! なんだよ」

 

耐えられなかったのはこっちだった。本を乱暴に閉じるオレの横で、キラーは「反応したー」と嬉しそうに言った。 

 

声や容姿は可愛く見えるが、彼がやっていることはオレと同じ。キラーという名前にふさわしく、EXPを得るためなら容赦なく殺す奴だ。

 

キラ「呼んでも全然反応しないから心配したよ?」

「うるさいから無視してただけだ」

キラ「えー、ひどいなあ」

 

キラーはむすっと頬を膨らませる。この前、「なんで僕って幼女って言われるんだろ?」とか言っていたが、原因はそれだろう。

 

「で、用件でもあるのか?」

 

オレは乱暴に閉じた本をまた開く。紙面が少しだけ折れていた。

 

キラ「特にないけど、構ってほしいなあって」

「……」

キラ「ちょっと! また黙殺する気!?」

「昨日かまってやっただろ」

キラ「確かにそうだけどさ……」

 

キラーは構い足りなかったのかばたばたと両足をばたつかせる。子供かよ、こいつ。しかし、そこが可愛いと思ってしまう俺は、こいつに毒されているのかもしれない。

 

「……仕方ねぇな。来いよ」

 

オレは自分の膝をぽんぽんと叩く。むすっとして頬を膨らませていたキラーだが、俺を見るなり喜んで立ち上がり、オレの膝に座る。視線が交わる。

 

奇跡というべきか、オレとキラー以外は出掛けているので、見つかることはないだろう。

 

キラ「やったー」

「明日はしてやらねぇからな。満喫しろよ」

キラ「とかいってどうせやってくれるんでしょ?」

「うるせぇ」

 

ふいっと顔をそらすと、キラーはクスクスと笑った。そんなキラーをオレは横目で睨む。いつの間にか、パピルスはいなくなっていた。

 

キラ「ねぇ、マーダー。こっち向いてよ」

「なんでだよ」

キラ「だって、フードが邪魔で顔見えないもん。今どんな顔してるか気になるなあ」

 

塵がかからないようにフードを深く被っているが、そうしておいてよかった。

 

キラ「こっち向いてってばー」

「はあ……分かったよ。向けばいいんだろ、向けば」

 

オレは外した視線をキラーに向ける。キラーは視線を合わせるなり、オレの首に両手を回した。さらに密着する。

 

「何してんだよお前……!」

キラ「キスしていい? ダメ?」

 

それが目的かよ。

 

「お前なあ……」

キラ「いいじゃん、別にこれが初めてじゃないんだからさ。それとも別のほうがいいの?」

 

キラーは妖しく目を細めながらオレを見下ろしてくる。ソウルが馬鹿みたいに脈打つのが分かってしまう。

 

「はあ……。したいならすればいいだろ……」

キラ「んじゃ、遠慮なく」

 

口に感じた柔らかい感触。オレとキラーの口が重なる。

永遠のようで、一瞬だった。

 

すっと口が離れる。オレは口を開いた。

 

「深くしないのか?」

キラ「今度、ね」

 

キラーはオレを抱き締めながら言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか練習しないとね、深い方




キラーくん妖艶説……。
我が家のキラーくんは幼女です。


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11.Hello,Brother...(シャタメア):*

グロテスクな描写がありますのでご注意。
あとシャタメアとか書いてますがそこまで絡んでません。


心臓から触手を抜く。眼下の人間はもう動かなくなっていた。沸き上がる赤い衝動が、物足りないと囁く。

 

人間「ご、めんなさい……。ゆる、して……」

 

一人の人間が俺に駆け寄り土下座してきた。この凄惨な光景に耐えられなかったのか、命乞いを求めている。しかし、許すという選択肢は今の俺にはなかった。

 

「許してほしいか」

 

冷ややかに見下しながらそう言うと、人間は恐る恐る顔をあげて頭をぶんぶんと縦に降った。その目から、涙が流れていくのが見える。体内に流れ込む負の感情が、力を増幅させる。

 

「そうか。許してほしいなら……」

 

俺は命乞いを求める人間の頭に足を乗せて、地面に叩きつける。人間の口から奇声が漏れる。

 

「死ぬことだな」

 

足に力を込めると、ぐちゃりと生々しい音がして、人間の頭が潰れる。あまりにもあっさりと潰れた。脆い、脆すぎる。ぶちまけられた中身を見て、俺は笑うしかなかった。

 

***

 

「……うっ」

 

目が覚めた。身体が、全身がひどく痛む。視界のなかに、兄弟がいた。しかし、その姿はかつてボクと一緒にいたはずの兄弟とは程遠かった。

 

紫色の衣装は消え失せ、全身が黒く、背中からは触手が生えていた。ボクが知っていた兄弟のはずなのに、まるで他人を見ているようだった。

 

「……メアは」

 

その背中に手を伸ばしても、届くことはない。鉄の匂いがあたりに充満している。彼の周りには、ニンゲンの亡骸が無数に転がっていた。

 

「……ナイトメアは……どうして、こうなっちゃったの?」

 

君の背中に問いかける。答えは返ってこなかった。伸ばした手がだらりと下がる。地面に這いつくばっているボクを、彼は見ようとしていない。

 

ふと、ボクの近くに黒いリンゴが一つ、落ちていることに気がついた。

ボクはそれを手に取る。そのリンゴが金色に染まることはなかった。そこから読み取れる、数々の黒い感情。

 

苦しかったよね。つらかったよね。ごめんね、ボクが何も知らなくて。気づくことが出来なくて。だから、だからメアはこのリンゴを食べたんでしょ? そうじゃなきゃそんな姿になっていない。

 

こんなに人を殺すわけない。全部、ボクのせいだ。

メアが受けた苦しみを、痛みを、ボクも分からないとダメだよね?

 

メア「……! おいっ、何して……!」

 

こちらに振り返ったナイトメアは、目を見開き叫んだ。触手が、ボクが手に持っている黒いリンゴに伸びる。ナイトメアの顔に浮かんだ、焦り。

 

「ごめんね、メア……」

 

触手がリンゴに伸びる寸前、ボクはリンゴを一口かじった。次の瞬間、黒いリンゴがボクの手から奪われる。

 

メア「お前……何してんだよ!」

 

ああ、泣いているの?

 

ぱき、ぱきと枝が折れるような音がした。見ると、手にひびが入り始めていた。痛みが上乗せされていく。割れゆくボクの手を見たナイトメアはボクのそばにひざまずいて手をとった。

意識が遠のいていく。

 

「今すぐ……そっちに、行く、から……」

 

ぶつりと、意識が遮断された。

『ボク』が消えていく音がする……。

 

***

 

「ドリーム? ドリーム!! おい、しっかりしろ!!」

 

弟の手をとり身体を揺さぶるが、反応はない。焦る俺を笑うように、ぱき、ぱきと枝が折れるような音がした。

ドリームの身体にひびが入り始める。それは手から、やがて頭蓋骨へと。加速するひびを前にして、俺は何も出来なかった。

 

やがて、ドリームの身体が黒く染まっていく。俺のように、真っ黒に。

 

その一部始終を呆然と眺めていた俺の前で、彼は目を覚ました。金色の目がまっすぐに俺を見つめる。

 

?「おはよう、兄弟」

 

その声は、ドリームそのものだった。だけれど、姿はまったく違っている。左目は潰れ、全身は黒く染まっていた。

 

「ドリー……ム」

?「何をそんなに泣いている? 弟ならここにいるじゃないか。ああ……それと、私はドリームではあるが、『昔の』ドリームではない。私はシャッタードリーム。お前の弟だ」

 

脳内に、太陽のように眩しい笑顔を見せるドリームの姿が映し出され、すぐに黒く塗りつぶされていく。お前がこうなる必要はなかったのに、なんで……。

シャッタードリームが俺の頬に手を伸ばした。

 

シャタ「泣かなくていい。『あの子』はお前の今までの痛みや苦しみをあの身で受け止めるためにリンゴを食べた。結果、私が生まれたんだ」

「ドリー……ム……」

 

言葉が溶けて消えていく。打ち寄せる波にさらわれていく砂の城のように。

 

シャタ「……メア」

 

ふと、シャッタードリームに俺の名前を呼ばれた。体制が変わり、俺は優しく抱き締められる。

 

シャタ「もう、泣かなくていいんだ」

 

俺はシャッターの背中に腕を伸ばす。華奢なことに、変わりはなかった。

 

シャタ「大好きだよ、ナイトメア。例えこの姿になってしまったとしても、ボクはメアのこと、愛してるから……」

「……ごめんな、ドリーム……」

 

血にまみれた小さな世界で、二人は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姿は変わってしまってもボクたちは兄弟、だよ……




シャッタードリームくん初登場。
どうしても登場させたかったので書きましたが……正直よくわかりません。
なるべくドリームくんとは被らないように口調を変えましたが、妖艶なままでもよかったかもしれませんね。
そう、最後のシャッターのセリフはドリームくんが干渉して喋ってるようにしました。だから「ボク」って言ってたわけです。

明日で2020年が終わりますね。
そういえば来年は丑年ですね((クロスくん逃げて超逃げて
大晦日も投稿する予定ですが、できなかったらすみません。


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おまけ:今年を振り返る(インエラ,メアクロ)

お話でもなんでもないおまけです。インエラとメアクロがお話してるだけだし地の文はないに等しいので無理というかたはブラウザバックを推奨します。
あとイチャイチャしてません。


今年を振り返る 【インエラver】

 

イン「はーい、どうもこんにちは! みんなの守護神、インクだよ」

 

エラ「『みんな』……? エラーだ」

 

イン「あと……八時間? ぐらいで今年も終わっちゃうね。エラー、今年もお世話になったね!」

 

エラ「どうイウ意味でお世話にナッタンダ?」

 

イン「えっと…………。あれ、なんの話をしてたっけ?」

 

エラ「チッ……なんデこいつノ新衣装とヤラはきて頭はアップデートされナカッタんダ?」

 

イン「うっ……。そこまで言わなくてもいいじゃんか……」

 

エラ「で、どうイウ意味でお世話にナッタんだ?」

 

イン「んーと……色んな意味で! 誕生日とかバレンタインとか……」

 

※誕生日やバレンタイン等でいちゃついてました。

 

エラ「ハイハイ、分かっタ」

 

イン「遮らないで!? とりあえず、お世話になったからお礼を言ってるんだよ?」

 

エラ「ハイハイ」

 

イン「適当すぎない!?」

 

エラ「面倒にナルとこうしタクなるのは当タり前だろ?」

 

イン「露骨に面倒くさいって言われた……」

 

末長くお幸せに。

 

 

 

 

 

 

 

来年もよろしくね、エラー。

ハイハイ。

 

今年を振り返る 【メアクロver】

 

クロ「えー、どうもこんにちは。クロスです」

 

メア「ナイトメアだ」

 

クロ「あと八時間ほとで今年も終わりますよ。先輩、今年を振り返ってどう思われますか?」

 

メア「おっ、いきなり振るか。そうだな、今年は……とくに何もなかったな。人間界ではコロナとやらが流行っていたらしいが」

 

現在も流行っています。

 

クロ「道理で人間界が静かだったわけですか」

 

メア「お前な……。地上に出向くときなんか腐るほどあっただろ。なんで気がつかなかったんだ?」

 

クロ「うっ……。確かに出向くときはありましたけど……」

 

完全なる図星。

 

メア「周りを見てない証拠だな。そうだ、来年の抱負は周りに敏感になることにしたらどうだ?」

 

クロ「自分で決めますよ……。先輩も、今のうちに抱負をお決めになられては?」

 

メア「特にねぇな。そういえばバースの撮影あったんだよな?」

 

クロ「ネタバレになるので話の内容は控えますけど……。来年もあると思いますよ。楽しみですね」

 

メア「おう、そうだな。そういえば、来年は丑年らしいな?」

 

メア様、暗黒微笑。

 

クロ「ひぇっ……。な、なんでしょうか?」

 

クロスくんは牛が苦手です(公式)。

 

メア「いーや? 特になんでもねぇよ?」

 

クロ「いやなんでもないって言える表情じゃないですよ!? 明らかに何か企んでますよね!?」

 

メア「さあな? なんのことだかさっぱりだ」

 

クロ「……来年は泣き叫びそうな未来しか見えません……」

 

 

末長くお幸せに。

 

 

 

 

 

 

 

来年は覚悟する必要があるかもな? クロス。

先輩、顔が怖いです……。




今年を振り返るとか言ってましたが雑談でしかなかった。
とりあえずインエラとメアクロは結婚しやがれください。エラインでもクロメアでもいいですけど。結婚しやがれください((二回目
あと、しおりが一つ来てて驚きました。ありがとうございます。そんだけです。
来年もよろしくお願いします。

追記
UAが300突破しました。
皆様、ありがとうございます。


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おまけ:新年のご挨拶(光AU)

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
新年のご挨拶を光AUの三人がするそうです。来年は…闇AUにするかもです。私が覚えていればいいんですけども。

表記(↓)
インク=イン
ドリーム=ドリ
ベリー=ベリ

ちょっとメタい話が入るのでご注意。というかおまけは作者がやりたい放題です。


イン「新年明けまして」

 

「「「おめでとうございます」」」

 

イン「今年もよろしく! みんなの守護神、インクだよ!」

 

ドリ「今年もよろしくね? ドリームだよ」

 

ベリ「今年もよろしくなんだぞ! ベリーだ!」

 

イン「さて、記念すべき新年の挨拶担当は僕たちだね」

 

ドリ「来年は闇の方なんでしょ? ボクたちより人数多いのに……。ちゃんと書けるのかな?」

 

ベリ「ドリーム、メタいぞ! そういうことは言わせたら駄目ってパップが言ってたんだからな!」

 

ドリ「パピルスったらいいこと教えるね。さすが、ベリーの保護者…」

 

保護者っていうかセコム……? 変わらないか。

 

イン「僕はエラーの保護者だよ?」

 

ドリ「誰も聞いてないよ、インク。それに、エラーにまた殺されかけるよ? 去年も同じこと言って怒らせたし」

 

イン「あれっ、そんなことあったっけ?」

 

インクくんは記憶力が乏しいけど、それがいい。

 

ベリ「また忘れてるんだぞ……。バグった俺様がぶつぶつ文句を言うのも分かる気がしなくもないな……」

 

バグった俺様=エラーくん。

 

ドリ「確か、『新衣装が来たならインクの頭もアップデートされろよ』とか言ってたんだっけ? そこまで言わなくてもいいと思うけどね」

 

イン「優しい……ドリーム」

 

ドリ「ふふ、当然だよ?」

 

ドリームくん、インクくんからものすごいポジティブなオーラを感じているそうです。

 

ベリ「そういえば、今年の抱負を言ってなかったぞ? せっかく集まっているんだから、言わなきゃな!」

 

イン「あっ、そうだね! えっと……僕は……なんだっけ?」

 

ドリ「何やってんの……。ボクから発表しようか?」

 

イン「お願い……。僕はちょっと考えておくね」

 

ベリ「俺様もそうするぞ……」

 

ドリ「ボクの抱負は……っていうか抱負じゃないけど、世界の夢と希望を守ること。それがボクが毎年掲げていることだよ」

 

ベリ「かっこいいぞ! ドリーム!」

 

ドリ「ありがと。で、思い出したの? インク」

 

イン「あとちょっと……」

 

ドリ「まったく……守護神ったら……。ベリー、先に発表したら?」

 

ベリ「分かったぞ! 俺様も抱負じゃないけど、みんなと幸せに暮らしたいんだぞ!」

 

その幸せを守るのがドリームくんです。

 

ドリ「守らないとね。さて、発表したよ? インク、思い出した?」

 

イン「うん! ちゃんと思い出したよ!」

 

ベリ「忘れないうちに言うんだぞ!」

 

守護神を見守るドリームくんとベリーくん。

 

イン「僕も、抱負じゃないけど。この世に存在するAUのサポートと守護をし続けるよ!」

 

ドリ「はい。これで抱負じゃないと思うけどはすべて発表したね。今年も頑張ろうね。インク、ベリー。さて、そろそろ時間だし、終わろうか」

 

ベリ「もう時間なのか……。悲しいぞ……」

 

イン「まあまあ、また会えるから……。じゃあ、終わるよ。せーの……」

 

「「「ありがとうございました」」」




はい。改めまして、新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

波乱の2020年でしたね。今年は平穏であることを祈ります。
ていうかこういうときに限って書くことないとか……。
作者はこの先、忙しくなるので更新は一旦途絶える可能性が大きいです。ふらーっと戻ってきます、それでこそ幽霊のよ((強制終了
(たまにこんなテンションになります)

これからもはたまとこの作品をよろしくお願いします。
以上、作者のはたまからでした。
HAPPY NEW YEAR!!


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12.触手繕い……?(クロメア)

新年最初はクロメアから。もしかしたらナイクロナイ。
あと、後書きがやりたい放題です。


「失礼……します」

 

ノブを回して部屋に入る。ベッドの上で足を組むナイトメアの姿が目に入った。機嫌がよさそうに見えるのは俺の気のせいなのだろうか。

 

メア「よく来たな。まあ、座れよ」

 

ナイトメアは床を指差した。闇の帝王と呼ばれているだけあるのか、ナイトメアは他者を自分より下に座らせることが多い。

 

それは俺に限ったことではなく、キラーやマーダー(もちろんナイトメアの命令を聞くわけがない)、果てには自分の弟であるドリームでさえ下に座らせている。

 

ただ単に他者を見下しているのかもしれない。彼に『平等』なんて言葉が似合うわけないのだ。俺はナイトメアの足元に正座をする。

 

「何のご用件でしょうか?」

 

朝ごはんを終えた直後のこと、ナイトメアは俺に「午後になったら部屋に来い。時間はお前に任せる」と半分適当に言って、自分の部屋に戻っていった。

 

先輩の命令(拒否権はもちろんない)に逆らえるわけもなく、俺はこうしてナイトメアの部屋に来ている。

 

メア「ちょっとしてほしいことがあるんだが」

 

そう言うと、ナイトメアの背中から四本の触手が出てきた。それは他者の拘束から、自分を大きく見せるためなど様々で、硬度も自由に変えることができるらしい。

 

「触手? あの、何をしろと?」

メア「毛繕い」

「はあ?」

 

俺の口から呆けた声が出る。毛繕いは猫とか犬に対して使う言葉なのでは?

 

メア「毛繕いならぬ触手繕いってやつだな」

「俺がやるんですか?」

 

そう言うと、ナイトメアはぽかんとした表情を浮かべる。触手がすーっと背中に仕舞われた。その表情は本来、俺が浮かべるもののはずだが?

 

メア「お前以外に誰がいるんだよ?」

「いやいやいや! 触手をどうやればいいんですか!?」

メア「普通に撫でればいいんだよ」

「いやでも、普通に先輩が撫でれば……」

 

撫でればいいじゃないですかと言おうとした俺の口が止まる。顎に当てられたナイトメアのスリッパが、俺の言葉を溶かしていく。

 

メア「今は機嫌がいいんだ。機嫌を損ねないうちに命令を聞いた方がいいぜ?」

 

ナイトメアを口角をあげながらそう言った。この人、機嫌を損ねると面倒くさかった記憶しかない。機嫌を直すために俺がいろいろしていた過去の記憶が脳裏をよぎる。

 

「……分かりました」

メア「分かればいいんだよ。ほれ、こっちに来い」

 

ナイトメアは自分のベッドの布団をぽんぽんと叩く。それを見て、俺のソウルがどくどくと脈打ち始めた。こんなこと、滅多にないのに。よほど機嫌がいいようだ。

 

俺は立ち上がり、ベッドにそっと乗る。ふかふかしていてとても柔らかい。

 

メア「足を伸ばせ」

「あっ、はい……」

 

言われるがまま、俺は足を伸ばす。すると、ナイトメアは俺の膝の上に腹這いになった。

 

体温が上がっていくのを、嫌でも感じた。体が震える。ナイトメアの背中から触手が出てきた。撫でろと言わんばかりに動く。

 

メア「ほれ」

「えっ……と、失礼しますね……」

 

俺はナイトメアの触手に手を伸ばし、触れる。何故だろう、猫とか犬の体毛を撫でている感じがする。普段はねちょねちょという液体の音がしていたはずなのだが。

 

メア「どうだ?」

「なんか……猫とか犬を撫でている気分なんですが……」

メア「なんだ、撫でたことがあるのか?」

「猫なら……」

 

地上に出向いたときに、野良猫がこっちにすり寄って来たので撫でたぐらいだ。

 

メア「そうか」

「撫でたとは言っても、あまり撫でていませんけどね」

 

部屋が沈黙で満たされる。しばらく撫でていた俺は、ナイトメアが嬉しそうにしていることに気づいた。自分のポジティブで気持ち悪いとか言わないでほしいものだが……。

 

ふと、触手の付け根に触れたとき。

 

メア「んっ……」

 

小さな声が聞こえた。その声を、俺は聞き逃さなかった。

 

「先輩、今……」

メア「なんだよ」

「いや、今ここ……」

 

俺はもう一回触手の付け根を触る。

 

メア「あっ……ん……」

 

もしかして気持ちいいのか……? ちょっといじってやりたいとは思うが、相手は先輩(上司とも言う)なので判断に迷う。というか、行動次第で殺されるよな、俺……。

分かってはいつつも、触りたくなる。いっそのこと聞いてしまうか。

 

「付け根って気持ちよかったりします?」

メア「んなわけ……こらっ、やめろっ」

 

やめろとは言っているが、嫌そうに見えない。このままいじってやろうかと考えてしまう。

 

メア「クロスっ……、止まれっ……あっ……!」

「気持ちいいんですか?」

メア「そんな、わけっ……」

 

とか言いつつ触手を引っ込めないじゃないか。

 

メア「ああもうっ、やめろっ!!」

「い"だっ!?」

 

いきなり触手が伸びて、俺はひっぱたかれる。頬に鈍い痛みがはしった。ナイトメアは素早く俺から距離をとる。

 

「痛いですよ! そこまでしますか!?」

メア「俺の触手で遊ぶからだろ!」

 

そう言ったあと、ナイトメアはハッとした表情になった。俺は痛む頬に手を当てる。

 

メア「でも……。案外、悪くなかった……かもな

「えっ? 案外、悪くなかった?」

メア「はあ!? なんで聞こえてんだよ!?」

 

ナイトメアは俺を指差しながら怒鳴る。しかし、顔は真っ赤ではっきり言って可愛い。

 

「いや、聞こえましたけど……」

 

そう言うと、ナイトメアの背中からまた触手が伸びてきた。それは俺の体に巻き付き、持ち上げて締め上げ始める。

 

「いだだだだ!? 先輩、首は駄目です……って痛い痛い痛い!!」

メア「今のはなかったことにしろ、いいな!?」

 

もはや殺気すら籠った目でナイトメアは俺を見た。触手は容赦なく首を閉め続け、俺の視界がぼやけていく。

 

「わか……り、まし……たっ」

 

ぼとっと投げ捨てられた。

 

メア「……次やったら命はないと思えよ」

「……はい」

 

とか言って、殺さないんでしょ。

そう思いながら、俺は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新年早々に可愛い先輩が見れました。




書いてて思ったのはクロメアも良きということですね。個人的にはメアクロが好きなんですけど、クロスくんが攻めでもいいかなと思いました。
さすがメア様の嫁((小声


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13.蜜柑(Nightmare,Shattereddream)

ここのメア様とシャッター様は同居してます。


テーブルの上のかごに伸ばされた手が、またひとつ蜜柑(みかん)を取る。

 

「おい」

 

俺は蜜柑を取った本人を見た。当の本人は不思議そうにこちらを見ている。

シャッタードリーム。本来生まれるはずのない存在。彼は俺の弟であるドリームではあるものの、彼とは別人らしい。体は黒く、俺とよく似ている。

 

シャタ「どうした?」

「それは何個目だ?」

 

呆れながらそう言うと、シャッターは自分の近くに置かれた蜜柑の皮を数え始める。

 

シャタ「七……八……九個目だが」

「食い過ぎだろ」

シャタ「そうか?」

 

シャッターは蜜柑の皮をめくり、千切って一つずつ口に運んでいく。テーブルの上のかごの蜜柑はもう片手で数えきれるほどに減っていた。

 

「そのうち黄色になって元に戻るかもな、お前」

 

俺は体を伸ばす。とても気持ちがいい。

 

シャタ「それはないだろうな」

 

蜜柑をもにゅもにゅと咀嚼しながら、シャッターは否定する。既に半分ほどが消えていた。炬燵(こたつ)に蜜柑は最高の組み合わせらしいが、いったい誰がそんなことを思い付いたのだろうか。

 

シャタ「たかが蜜柑ごときが、私を封じ込めることは出来ないだろう」

「そうだな」

 

俺も蜜柑を手に取り、皮をめくる。

 

シャッタードリームは黒いリンゴをドリームが食べた末路だ。彼にだけは俺のようになってほしくなかったのに、あいつは『分かち合い』と言って食べてしまった。

 

今頃、何をしているのだろう。

 

シャタ「それに、ドリームは『分かち合い』と言っていたからな。あいつは兄さんの痛みをよく知っていると思うよ」

 

兄さんと言われた瞬間、俺の顔が少し歪む。ドリームからは『メア』と呼ばれていたのに、シャッターは俺のことを『兄さん』と呼ぶ。

 

姿は変わっていても兄弟なのだから、ちゃんと名前で呼んで欲しいものだが、シャッターは恥ずかしいのか俺の名前で呼ぼうとしない。

 

「そうか……。ドリームは何をしているんだ?」

 

そう言うと、シャッターは服の上から自分の胸に手を当てた。

 

シャタ「……寝ている。私と意識を交換するまでは寝ていると決めたらしい」

 

二重人格みたいだ。シャッターは胸から手を離し、蜜柑をもにゅもにゅと咀嚼する。

 

シャタ「兄さんは?」

「俺か?」

 

俺も胸に手を当てた。眠る昔の俺の姿が脳裏をよぎる。

 

「俺も同じだ」

シャタ「そうか……。はあ、食べた食べた」

 

ようやく満足したのか、シャッターは静かに手を合わせた。

 

「何事も適度が十分だ。あまり食べ過ぎるんじゃないぞ」

シャタ「分かってる。少し寝るよ」

 

そう言うなり、シャッターはカーペットが敷かれた床に転がる。

 

「皮どうすんだよ」

シャタ「あとで捨てる。じゃ、おやすみ……」

 

すぐに微かな寝息が聞こえてくる。どんだけ寝つきいいんだよこいつ。俺が近くにいるからか?

 

「あとで捨てるってお前……」

 

どうせ忘れるだろ。この前、捨てるのを忘れて寝てたし。仕方ないので俺はシャッターが食べた蜜柑の皮をゴミ箱に捨てた。

 

眠るシャッターを見る。服装を見て、俺はハッとした。そういえば、ノースリーブだった。この真冬にノースリーブとは……。部屋が暖かいとはいえどうにかしている。

俺は指を鳴らしてタオルケットを出して、かけてやった。

 

「風邪引くだろ、馬鹿」

 

シャッターの頭を撫でながらそう言う。彼は穏やかに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また買いにいかないとな、蜜柑



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14.感謝(Cross,Nightmare)

台本書きをなくしました。


「失礼します」

 

一月下旬の昼下がり。ナイトメアの命令で呼ばれた俺は、彼の部屋に来ていた。

 

「よく来たな。座れよ」

 

ベッドの上で足を組んだナイトメアが、床を指差す。部屋の中は薄暗く、間接照明が道しるべとなる。遮光カーテンは一年中閉まっており、不気味な雰囲気を醸し出していた。仕方ないのだ、ナイトメアは光が弱点なのだから。

 

俺は言われた通りに床に正座をする。彼の部屋に行ってナイトメアの命令を聞くときや何気ない会話のときでも、これは変わらない。

 

「何の用ですか?」

 

まだおやつの時間ではないはずだが。

 

「ちょっとお前に用事があってな」

 

用事?俺は首をかしげる。またクッキーやらチョコレートやらを作れということなのだろうか?言われなくてもほぼ毎日作っているが……。

 

「用事……ですか?」

「別にあれしろこれしろって言うわけじゃない。感謝……ってやつだな」

 

ナイトメアの口から放たれた『感謝』というワードを聞いた瞬間、俺は思わず目を見開いた。悪夢の権化、そして数あるAUの中でも特に邪悪と言われているあのナイトメアが?

ポジティブな感情や言葉は苦手なはずなのになぜ……。

 

「おいおい、そんなに目を見開かなくてもいいだろ。こう見えてもちゃんとお前には感謝してるんだぞ?」

「あの……先輩」

「あ?」

 

ナイトメアは目を細めて俺を見下ろす。ズボンを握る力が無意識に強くなった。こういうことには慣れているはずなのだがやっぱり威圧感が刺さる。

 

「失礼なことを言いますが……変なものでも食べましたか?」

 

そういった瞬間、ナイトメアは一瞬硬直した。ぽかんとしていたその目が、やがて鋭い目付きへと変わっていく。

 

「はあ!? 変なもの食っただと? 俺は至って正常だぞ!?」

「いやだって……普段そう言うこと言わないじゃないですか……」

 

そう、普段のナイトメアは『感謝』というワードを口にするわけがない。闇の帝王という別名にふさわしく、希望を絶望へと変える発言が多いのだ。

 

「普段言えないから今こうやって言ってんだよ! ったく、感謝しろよな。この俺がわざわざお前に感謝してやってるってのによ」

 

大きく舌打ちが響く。俺は顔を俯けて「すみません」と謝ることしか出来なかった。下手に口に出さない方がいいかもしれない。

 

「あー……。脱線したから元に戻すぞ。まず結論から言わせてもらう。ありがとな」

「え……あ、はい……」

 

俺は顔を上げてナイトメアを見る。恥ずかしいのかナイトメアは顔を背けていた。

しかし、まさかナイトメアから感謝されるとは……。

 

「いつも我が儘聞いてくれるしおやつは上手いし命令は聞いてくれるし……。とにかく、お前には感謝してるんだ」

「……珍しいですね。俺が来たときはそんなこと言わなかったのに……」

 

俺が来てまもない頃のことを思い出す。理不尽で我が儘で……。あのときは理解が出来ず衝突したこともあったが、今となっては理解が出来る。

 

「あの頃は……。聞いて当たり前だと思っていたんだよ。でも、ドリームから『我が儘とか聞いてくれることは当たり前じゃないし、後輩を大事にしなよ?』って言われたから少し考えた。結果こうなったんだ」

 

ナイトメアは少し嫌そうな顔をした。対立する弟からの発言は、彼にとっては受け入れられないものだったのだろう。表情がそう言っている気がする。

 

「で、クロス。お前はどう思っているんだ?」

「どう……と言いますと?」

「俺のことだよ。どう思ってるんだ」

 

俺は顎に手を当てる。来てまもない頃はとても理不尽で、あまり関わりたくないと思っていた。でもそれは、過去のことだ。今は……。

 

一つの答えが見つかる。

 

「……俺は」

 

顎から手を離して、口を開いた。

 

「とてもありがたいです。必要とされてるなって、いつも思ってました。だから、俺からも言わせてください。先輩、いつもありがとうございます」

 

彼と過ごすなかで、学ぶこともあるのだ。

 

「……そうか。分かった」

 

しばらく口を開けてぽかんとしていたナイトメアだったが、いつものように薄笑いを浮かべて。

 

「これからもこき使ってやるから覚悟しとけよ」

 

と言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

たまには感謝の言葉を伝えるのも悪くないな。




お久しぶりです、花影です。
すみません、名前を変更させていただきました。花影と書いて「かえい」と読みます。よろしくお願いします。

とりあえず短編集の続きが書けたからいいかなと勝手に思ってます。まる。

あ、そうだ。UAが500を突破してました!
皆様ありがとうございます!これからもよろしくお願いします。


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15.やらかした……?(Cross,Nightmare)

どこか遠くから、平坦な機械音が聞こえてくる。ふわふわとしていた意識が少しずつ引き上げられていく。

 

「ん……」

 

寝ぼけ眼のまま、俺は手探りでスマホを探す。枕の下あたりに物体の感触があった。細長い。それを手に取る。

画面には『6:30』と表示されていた。停止をタップして、スマホを枕の横に落とす。

 

ぶるりと体が震えた。見ると、掛けたはずの毛布と布団が右側にずれていた。なぜ右側……?俺はつられるように自分の右側を見る。そして、自分の目を疑った。

 

黒い体。どろりと液体が垂れた右目。閉じられているのは、左目だけ。この暗闇に紛れ込めるその姿は、俺がこの目で何度も見てきた人だった。

 

「うわああぁぁああっ!?」

 

そう、ナイトメアだった。なんで自室に籠りっきりの彼がここに? 疑問が脳内を埋め尽くしていく。

 

何かやらかしたのか俺? 確かにナイトメアは可愛いと思うが、彼は俺の先輩で俺がどうこうできるわけでは……。

 

そういえば昨日は何をしたんだっけ? 俺は頬に手を当てるが、思い出そうにも思い出せない。まさか俺は先輩と……? 俺は眠るナイトメアを見て、激しく首を横に降った。

 

いやいやいや!! そんなわけない! 全力で否定したいのだが昨日の記憶がないだけに確信が持てない。自分の体に視線を落とす。ちゃんと服は身に纏っている。

 

じゃあナイトメアは……? 俺は布団をそっとめくる。

あっ、ちゃんと身に纏ってる。

 

俺は胸を撫で下ろす。しかし安心はできない。もしかしたら終わったあとに服を着て寝たかもしれないのだから……。

 

とりあえず逃げよう! そう思ったとき、俺の口から「あっ……」という呆けた声が漏れた。こっちは壁側だったことを、いま思い出したのだ。

 

前に降りれば何とかなるか……。前に移動しようとした俺の体が引き戻される。見ると、黒くて細いものが俺の体に巻き付いている。ナイトメアの触手だった。

 

俺はここから動くことを許されていないのか……。逃げたい、すごく逃げたい。もういっそのこと二度寝してしまおうか。

 

とはいえ起きてしまったので目が覚めてしまった。今寝たら朝ごはんを作るのに間に合わない。

 

「何してるんだ?」

「うわいっ!?」

 

隣から低く冷たい声が聞こえてきた。俺はゆっくりと声のした方を見る。そこには目を開けたナイトメアがいた。起きたらしい。

 

「あっ、え、えーと……おはようございます……」

 

ナイトメアはこくりと頷く。

 

「それはいいとして、何していたんだ?」

「いや、俺が聞きたいんですけど……」

 

ナイトメアは体を伸ばして腹這いになる。

 

「なんで先輩がここにいるんですか?」

「んー……。悪夢を見たからだな」

「悪夢?」

 

俺はその単語をおうむ返しにする。悪夢を見たからここに来たのか?

 

「俺が悪夢を見せることが出来るのはお前も知ってるだろ。俺は悪夢を見せることが出来るが、逆に自分が悪夢を見ることもある」

 

ナイトメアは喋り始める。いったいどんな悪夢を見たというのだろうか。

 

「……どんな夢を見たんですか」

「あまり思い出したくないからよしてくれ。とにかく、悪夢を見たからここに来たんだ」

 

悪夢の権化であるナイトメア。そんな彼が見た悪夢というのはいったい……。そういえば、俺が目覚めたとき、俺の部屋にいた。ということは彼の見た悪夢っていうのは……。考えるのはやめておこう。

 

「安心しろ。別にお前が何かやらかして俺がここにいるわけじゃないから」

 

その言葉が聞けてよかった。俺はほっと一息をつく。

 

「びっくりしたじゃないですか……」

「これからもたまにやると思うから」

 

よろしくな。と言ってナイトメアは目を閉じてしまった。俺はそのたびに驚かないといけないのか……? そう思うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

そう遠くないうちにまたしてみるか。




UAが600突破しました! この前まで500突破したとか書いてましたけどもう600って……。早くてびっくりです。
これからもよろしくお願いします!


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16.故郷の墓参り(Dream)

バレンタインデーにこんにちは! 花影です。
っていうかバレンタインならその話書けよとか言わないでくださいどうしてもこの話が書きたかったんです許して許して……。


久しぶりに、帰ってきた。

ボクたち兄弟の、故郷に。

 

 

 

 

 

花束を持ったボクを迎えたのは、白い大地と切り株だった。この世界は、あの惨劇以来、ずっと放置されたままだった。一つだけ変わったとするならば、鉄の香りと、血の海がなくなった、ぐらいだろう。

 

ボクは切り株のそばまで歩いて、ひざまずく。この切り株は、もとは感情を司る木だった。しかし、あの惨劇の最中に切り倒され、それからずっとそのままだ。

 

その切り株の上に、三日月の形にくり貫かれた冠か置いてあった。まるで、誰かの忘れ物のように。ボクはそっと花束を置く。

 

アンモビウム。五月から七月に開花時期を迎える、白と黄色の小さな花。その花言葉は、永遠の悲しみ

 

そっと両手を合わせ、ボクは目を閉じる。十年ごとに故郷(Dreamtale)に戻ってくるたびに、ボクはこうしてきた。十年ごとに戻るボクとは違って、今のナイトメアは、この場所に戻ることを嫌がっている。無理はなかった。

 

『俺が出向くより、お前が出向く方がマシだ』

 

ボクの目を真っ直ぐに見つめて言ったナイトメアの姿が脳裏をよぎる。あの日以来、彼はここに一度も戻ってきていないという。彼にとってここは最悪の場所なのだ。

 

目を開いて、白い大地に座る。

 

「……ただいま、お兄ちゃん」

 

ボクは冠に語りかけるように口を開いた。もちろん、そこには誰もいない。だが、この声が伝わってほしい。

あの頃のナイトメアに。

 

「十年ぶりだね。元気にしてた? こっちはいつも通り元気だよ」

 

あの頃の記憶が蘇ってくる。まだ幼かったボクを、お兄ちゃんが抱えて帰った日。沈んでいく夕日がとても綺麗だった。あの夕日のように、ボクは眩しかったと思う。

 

「あっちのメアは戻るのが嫌なんだってさ。ごめんね、会話したかったでしょ?」

 

雨の日。外に出れないからと言って人生ゲームを取り出して君の部屋に突っ込んだボクを、不思議そうな目で見ていた君。結果的に遊んでくれたお兄ちゃんが好きだった。

 

「そうそう、いつも置いていたワッフルだけど……。今年は買いにいけなかったんだ。だから代わりに、これ」

 

ボクは赤いリンゴを冠の横に置く。

 

「リンゴだけど……口に合えばいいな」

 

喧嘩したあの日。あの日初めて、ボクはお兄ちゃんのことが嫌いと言った。悲しそうに俯いたお兄ちゃんの顔は、ボクの心に罪悪感という槍を突き刺した。

 

そのあと、ボクは謝りに言った。嗚咽混じりに謝るボクを、そっと優しくハグしてくれたお兄ちゃんが好きだった。

 

「あっ、そうそう! これ新しい衣装なんだけど、似合うかな?」

 

ボクは立ち上がってその場でくるりとターンしてみる。ふわりとスカートが浮いた。ターンし終えたボクはその場に座り込む。

 

「前の衣装も好きだったけど、今の衣装も好きなんだよね! お兄ちゃんが着たら似合うと思うよ!」

 

あの惨劇が起きた日。その日初めて、お兄ちゃんがいじめられていたことを知った。黒いリンゴの影響で頭蓋骨が割れ、目から触手が出てきて泣き叫ぶ君を前にして、ボクは何も出来なかった。

 

あの日、お兄ちゃんという存在は、ボクの前から消えていった。波にさらわれて流されていった砂の城のように。

 

虚しくなった。気づけば、ぽたりぽたりと何かが落ちてきた。ボクは反射的にそれを手で拭う。涙だった。ボクは泣いていた。

 

「……ご、めん。……ボクは……君を……守れなかったんだ……」

 

偽善者。そんな言葉がボクにはお似合いだ。大事な兄弟を助けられなかった。あんなに近くにいたのに。

拭っても拭っても、涙は溢れてくる。十年前もこんなことをしたような気がした。

 

これは、ボクが背負った罪だ。何度謝ったとしても、完全には消えることのない、大きな罪。

 

あの頃のお兄ちゃんは、許しているのだろうか。ふと脳裏に、にっこりと笑うお兄ちゃんの姿が映し出される。

 

君は許しているの? もし許しているのなら、許さなくていいんだよ。ボクは君を救えなかった。だからボクはこうなったんだ。

君が許していたとしても、ボクは自分自身を許せない。

 

「……ごめんね……」

 

嗚咽は、白い大地に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣かなくてもいいんだよ、ドリーム……。

ドリームが幸せなら、僕はそれでいいんだ……




ドリームくんが何故、妖艶な性格になったのかがこれで分かったと思います。


解説
兄のナイトメアを守れなかったドリームは、そのショックを隠すために身近にいた子どもの性格を真似するようになる。そして、妖艶でいた方がショックを隠すことができるだろうという結論に至ったドリームは、もとの性格から一変した。
しかし、故郷に戻って墓参りをするとショックを隠しきれず泣いてしまうようである。


ちなみにメア様が墓参りしなかったのは、自分よりもドリームの方が白メア様が喜ぶだろうと思ったからです。

あ、そうそう。お気に入りが1つ来てました。ありがとうございます!


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17.雨の日のこと(クロメア・Dreamswap)

ついにDreamswapにも手を出しました。Dreamswapって何?って人は調べてください、私の語彙力(笑)で説明するのは難しすぎるんで。
あと内容は知ってますが設定がごちゃごちゃだと思います。

2021年2月27日(土)
読む前に必ずDreamswapの内容を調べることを推奨します。


二月のとある日のこと。

 

「はあー……」

 

俺はデスクに突っ伏していた。別に倦怠感があるとかそういうことではなく、単純なことだ。何も思い付かない、ただそれだけである。

 

俺は顔を上げて、文章がびっしりと書かれた紙を手に取る。万年筆は知らない、ついさっきぶん投げた記憶しかない。万年筆のペン先は鋭く尖っている、何か破っていないといいのだが。

 

そんなことはどうでもいい。俺は手に取った紙の内容を目で読んでいく。とある宇宙船の中で目覚めたニンゲンが、自分の故郷に帰ろうとするというなんとも一般的なお話。

 

ただ単に故郷に帰るだけではつまらないので、それなりに設定を加えてみた。宇宙船の中で目覚めたニンゲンは記憶を無くしており、さまざまな星を訪れながら自分の記憶を取り戻していく。そんな内容にしたのだ。

 

それまではいい。衝動的に思いついて、よっしゃやってやろうと執筆し始めたところまではいいのだ。問題はこの後から。

 

短編ならまだ簡単に続けられる。大きな1つの話よりも、小さな1つの話をメインとするからだ。しかし長編はどうか?

 

長編で取り上げるのは小さな1つの話ではなく、大きな1つの話。結論を言うと長編というのは小さな1つの話の集合体なのだが、これが何よりもきつい。モチベーションというものがもたないのだ。

 

今まで書いてきた小説がすべて短編だったことを思い出す。短編しか書いてなかった俺が、なぜいきなり長編なんぞ書こうとしたのか。衝動的に思い付いて書き始めた過去の自分に問いたいものだ。

 

文章がびっしり書かれた紙をデスクに放り投げる。紙がパラパラと宙に舞った。何枚かはフローリングの床へと落ちていく。面倒で、拾い上げる気にならなかった。そのとき、コンコンと扉がノックされ、俺の返事を待つことなく扉が開かれる。

 

「ナイトメア」

 

赤いシャツの上から黒色の半袖ジャケットを羽織った人物。エラーだった。彼は確かスワップから逃げてきたはず。スワップのことだが『あいつなんか友達じゃない!』と叫んでいた記憶がある。普段物静かなはずの彼が、唯一叫んだ瞬間だった。ちなみに俺の友人。

 

「どうした?」

「……クロスはどうしたの?」

 

エラーはデスク前の対になったソファーに腰掛けながら言った。クロスも俺の友人で、ちょっと荒っぽい気はするがいいやつだと勝手に思っている。

1つ言うなら、なぜ俺が車を運転してはいけないのかを聞きたい。

 

「おつまみ買ってくるとか言ってどっかに行ったぞ」

「……そう」

 

エラーは俯いた。俺は違和感を覚える。何かあったのか? エラーをじっと眺める。やがて、何を言いたいのかがはっきりしてきた。

 

「……午後から雨が降るって言ってたけど、大丈夫なの?」

 

そういや午後から雨が降るとか言っていたな。降水確率はかなり高かったはずだ。今の時刻は午後二時を過ぎている。

 

「何時から雨が降るって言ってたか?」

「……確か二時から」

 

マジかよ。俺は回転式の椅子を回して窓の外を見る。外は灰色の雲に覆われ、やがて細長いものが落ちていくのが見えた。

 

「……どしゃ降り?」

「いーや、そこまではないな」

 

小雨でも、どしゃ降りでもない。いたって普通の雨だが……。俺は椅子から降りる。

 

「……どこに行くの?」

 

後ろからエラーの心配そうな声が聞こえてきた。

 

「玄関。ちょっと気になることがあるんだ」

「……そう、分かった」

 

俺はドアノブを回して廊下に出た。

 

 

 

 

 

 

玄関。俺は扉の隅に置かれた傘立てを見て、頭を抱える。クロス用の黒と白の傘が、忘れ物のようにぽつんとかけられてあった。持っていってなかったのか。朝、ちゃんとテレビを見ていたはずなのに。

 

「あの馬鹿……」

 

今頃走って帰ってきているだろう。びしょ濡れだろうな、クロス。そんなことを思っていた途端、乱暴に玄関の扉が開かれる。

 

「はあ……はあ……」

 

クロスだった。膝に手をついて酸素を貪っている。片手にはビニール袋が提げられており、そこからはポテトチップスの袋が覗いていた。

 

「おかえり」

「あ、ああ……ただ、いま……」

 

クロスは絶え絶えに言葉を繋いでいく。よっぽど走ったらしい。そして予想通り、びしょ濡れだ。俺は軽くため息をつく。

 

「タオル持ってくる」

 

クロスは返事することなく頷いた。俺は洗面所からタオルを1つ持ってきてクロスの頭に被せてやった。クロスはタオルでわしゃわしゃと体を拭き始める。

 

「何買ってきたんだ?」

「つまみ」

 

いや、それぐらい知ってる。というか出掛ける前に言ってただろ。

 

「そうじゃなくて、中身だ中身」

「見りゃ分かるだろ。酒のお供だ」

 

道理でポテトチップスやらチータラがあるわけだ。ここのクロスは酒に強い。俺のオリジナルであるナイトメアも酒には強いらしいが、対して俺は飲めない。そしてそれは、Xtaleのクロスも同じらしい。

 

「飲むか?」

「つまみだけ貰う。酒はいらない」

「つまんねぇな……」

 

軽い舌打ちが響く。クロスの酒に付き合っていたらまともではいられなくなる。それを一回経験してしまったので、もう二度と酒に付き合わないようにしているのだ。酒は飲まず、つまみだけ貰う。

 

「……にしても、寒いな」

 

クロスは自分の体に両手を回す。タオルは頭から被っていた。

 

「そりゃ、傘も指さずに帰ってきたんだから当然だ」

「おい」

「なんだ?」

 

少し首をかしげる俺の前でクロスは自分の体に回していた両手を前に広げる。まるで俺を受け入れるかのように。

 

「ぎゅーしろ」

「……は?」

「寒くて仕方ねぇんだよ、早くしろ」

「はあ……分かった」

 

俺はそっとハグしてみる。思ったより冷たかった。こりゃクロスが『寒い寒い』と言っても仕方ない。クロスはぎゅーっと抱き締める。俺の口から「うぐぇっ」という奇声が漏れた。

 

しかしいつまでこうすればいいんだ? 嫌でも体温が上昇していくのが分かる。ああ、恥ずかしい……。

 

「……ん」

 

満足したのか、クロスは体を離した。俺は咄嗟にクロスに背中を見せる。恥ずかしいどころではなかった。

 

「何してんだ?」

「ほっ、ほっとけ! 早くしないと風邪引くぞ!」

 

走って部屋に戻る。それが、今の俺に出来ることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

可愛い奴……




とりあえず関係ないけどマーダーくん誕生日おめでとう!(13日遅れてますよ)
私のなかでのDSはこんな感じ……。上手く表現出来てたらいいな。
あ、そうそう。UAが700突破しました、ありがとうございます!


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18.Do You Have A Favorite Person?(Cross,Ink)

とあるの日のDoodle Sphere。

 

「クロスってさー」

「なんだ?」

 

白い地面に腹這いになり絵を描いていたとき、インクが声をかけてきた。

 

インクはAUの守護者だ。すべてのAUを守ることが彼の仕事で、生きがいでもある。

 

AUの破壊者であるエラーとは対立しているが、今は休戦条約とやらを結んで休戦状態らしい。俺以外誰もいなかった世界で出会ったのがきっかけで、友人となった。今となっては古い友人だ。

 

「好きな人いるの?」

 

インクの口から放たれた、あまりにも意外な言葉。俺は目を丸くすることしか出来なかった。そんな俺に対して、インクは好奇心をその目に宿している。

 

猪突猛進で好奇心旺盛。彼は気になることはすぐに質問してしまう。例えそれが、あまり知られたくないことであろうとも。

 

「あっ、え、えっと、何だって?」

 

我ながら情けない声で言葉をつむぐ。

 

「だから、クロスって好きな人いるの?」

 

インクは俺の隣に座る。絵を描いていた鉛筆が動きをやめ、俺の手からころころと転がっていくのが見えた。

 

「あー……」

 

好きな人。そう聞かれた瞬間、脳裏に一人の姿が映し出された。黒い体に水色の瞳。AUのなかでも邪悪な存在で闇の帝王と呼ばれている彼の姿が……。

 

そう、ナイトメアだった。彼は俺の先輩の一人で、ポジティブの守護者であるドリームの兄。

でもあの人に抱いているものは……どちらかというと憧れなのでは?

 

「で? いるの? いないの?」

 

インクは好奇心で飽和された目をこちらに向ける。その口からは黒いインクが垂れていた。思わず顔が歪む。インクは興奮すると黒いインクを口から吐き出す。それを知らなかったあの頃は酷かった記憶しかない。

 

「いるような、いないような……」

 

俺は起き上がって体操座りになる。

 

「えー!? どっちなの?」

 

こいつ、何がなんでも聞く気だ。なんでこいつに教えないといけないんだ。さっさと忘れてくれないものか。インクは記憶力が乏しい。ついさっきまでしていた話を忘れるほとだ。

 

「うーん……。いる……かな」

「誰!? まさか僕だったりする!?」

「しない」

 

即答すると、インクは捨てられた子犬のような表情になった。まさか自分だと思っていたのか?

 

「お前のことが好きなわけないだろ……。好きだとしても『友人』として、だぞ」

「だよねー。そんな気がした」

 

インクはだらーんと足を伸ばす。だったらなんでさっき捨てられた子犬のような目を向けていたんだ。

 

「で、好きな人って誰?」

「言うまでそれを聞くのか?」

「もちろん」

 

ふざけんな。

 

「はあ……。最初に言っておくが、これは多分……憧れだぞ」

「へ? そうなの?」

「多分な」

 

好きというより、どちらかというと憧れに近い。あの人は俺とは違う。ソウルの数も、魔力の多さも……。

 

「で、俺の好きな人が気になるんだろ。俺の好きな人はな……ナイトメアセンパイだ。……多分」

 

ちらりとインクを見る。インクは口に手を当てたまま、硬直していた。

 

「……インク?」

「ナイトメアなの!? えっ、でも、そんな気はしてたよ!」

 

インクは俺の手をがっしりと掴む。というかそんな気がしていたなら聞くな。

 

「ちょ、何してんだお前……」

「ところで、告白したの?!」

「は? したわけないだろ……」

 

脳裏に顔を歪めるナイトメアの姿が映し出される。あの人はポジティブな感情が嫌いだ。憧れという感情は、彼からしたらポジティブな感情なのかもしれない。そんな考えが俺の行動を縛っている気がして、告白などできるわけもなかった。

 

「なんでぇ!? 二人ともお似合いだと思うよ!? もういっそのこと無理やり押し倒して……」

「ばばばば馬鹿かよお前!?」

 

両手が塞がっているので、咄嗟に俺は頭突きを食らわせる。鈍い痛みが頭をはしった。頭突きを食らったインクは俺から手を離して自身の頭に手をやる。俺は悪くない。きっと。

 

「いった!? 痛いよクロス!!」

「お前が変なこと言うからだろ!?」

 

お互いにパニック状態だ。どうしてこうなってしまったんだ。

 

「と、とりあえず帰る! じゃあなインク!」

「え、ちょ、待って! まだ話は……」

 

これ以上話をしていたら絶対ひどくなる。そう確信した俺は逃げるようにDoodle Sphereを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「付き合ったら教えてね!」

「ざけんな」




お久しぶりです、花影です。
とりあえず、インクくんごめんよ。いろいろと。でもこんな旧友組が好き(ちゃんと反省しろ)
そういえばUAが800突破しました……ってマジ?
皆さまありがとうございます!

ちなみにタイトルの日本語訳は「好きな人はいますか」です。


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19.『好き』の回答(インエラ)

とある日のAnti-void。大きなクッションに背を預けた俺は黙々とマフラーを編んでいた。何に引っ掛かったのかは知らないがつい最近、俺が首に巻いていたマフラーが大きく破けていたからだ。

 

こういうときはインクに直してもらうのが一番早いのだが、あいつはいろいろと面倒なので自分でマフラーを編むことにした。あいつはいろいろと面倒くさい。主に性格とあいつの頭が。

 

そういえば今日はインクが来ていない。きっとこのまま何もなく平和に……。

 

「エラー!!」

 

だよな、そんな気はしていたよ。盛大に舌打ちが弾ける。噂をすればなんとやら、守護者のお出ましのようだ。

 

「んダようるせぇナ」

「えー!? せっかく遊びに来たのにひどくない!?」

「お呼びジャねぇョ」

 

俺はタワーのように積まれた本の一冊を取って、インクに投げる。どうか当たるようにと祈った。

 

「うわっ!? ちょっと、危ないよ!」

 

マフラーを編んでいるので見てはいなかったが、どうやら当たっていないらしい。くそっ、顔面に当たっていればよかったのに。またしても舌打ちが弾ける。

 

「知るカ。お呼びじゃネェから帰レ」

 

俺は虫を払うように手を振る。

 

「えぇ……。嫌だよ、言いたいことがあるもん」

「は? 言いタいこと?」

 

インクは俺がぶん投げた本を持って隣に座ってきた。お呼びじゃないと言っているのに帰らなかったのはそれかよ。俺は少し距離を取る。触ってほしくないからだ。

 

「どうせろクなことじゃナイだろ」

「いやいやいや! 僕を何だと思ってるの!?」

「うるせェ奴」

「ひどいっ!!」

 

インクは頬を膨らませて怒る。守護者のくせに子供みたいだ。

 

「もー……、ひどいよエラー……」

 

あっ、こいつ泣きそうな表情をしている。こいつ、俺が泣かれることが嫌いなのを知っていてこういうことを。腹が立ってくる。気づけばマフラーを編んでいた手が止まっていた。

 

「わかったワカった、俺が悪カッたから用件を話セ」

「本当に!? ありがとうエラー!!」

 

なんでこう毎回俺が謝らないといけないんだ。たまにはこいつに土下座してもらいたいものだ。さっきの泣きそうな表情とは一転、太陽のように眩しい笑顔を見せたインクは俺の体に抱きついてくる。

 

「アアあアあああアあああ!?」

 

案の定、体がビリビリと音を立てる。もしかしたらフリーズするかもしれない。そうなればラッキーだ。フリーズすれば早くても一時間は再起動するのに時間がかかる。

 

しかし、こういうときに限ってフリーズすることはなかった。くそが。

 

「あっ、ごめんつい」

「……覚えトケよ」

 

別に今攻撃してもよかったが面倒なのでやめた。こいつが忘れた頃に仕返しするとしよう。

 

「デ、用件はナンだ?」

「えっとね……。ソウルレスの僕が言うのもおかしいと思う……けど」

 

インクは俯いた。それから一呼吸置いて、俺の目をまっすぐ見る。

 

「僕は、エラーのことが好き!!」

 

インクの口から放たれた意外な言葉に、俺は呆然としていた。思考が回らなくなる。しばらくの沈黙のあと、思考がはたらき始める。

 

「……返事……は?」

 

インクは不安そうな眼差しで俺を見てくる。何と返そうか。少し考えた俺はひとつの答えに行き着く。

 

「コレだ」

 

俺は迷いもなく、右手の中指を立てたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!? せっかく人が告白したのに『○ね』はないでしょ!?」

「そレ以外返すことがネェよ」




なんかギャグ多くない? どうも花影です。
とりあえずインエラでギャグを。こんな会話してる姿が想像できる。

そういえばお気に入りが増えてました。あと、高評価もいただきました。謎の通行人δさん、ありがとうございます!


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20.嫁じゃありません!(メアクロ,ドリクロ)

嫁発言ばっかりしてます。あとメア様のキャラ崩壊がすごいことになってます。どうしてこうなった。
っていうかクロドリ書かんのか? って思ってる方は多いと思いますが我が家のドリームくんの妖艶っぷりを考えるとクロスくんが攻めになるのは無理です。ピュアの方の性格に変わればクロドリはありえますが。でもドリクロがいi(殴


三月のとある日のこと。

 

「よし、集まったな」

「本格的だね」

 

ナイトメアに呼び出されたドリームと俺は、彼の部屋にやって来ていた。内容は何も伝えられず、とりあえず部屋に来いという命令(拒否権はもちろんない)に従って。しかしいつも通り部屋の中は薄暗い。ここに入るたびに不安な気持ちになってしまうのは俺だけなのだろうか?

 

「あの、何の用でしょうか? というか暗すぎませんか?」

「それを今さら言うのか?」

 

暗い部屋の中でも、ナイトメアが目を細めて不機嫌そうに言ったのがはっきりわかる。来客(ドリーム)がいるんだから少しぐらい明るくすればいいのに、闇の帝王を名乗っているナイトメアはそれをしようとはしない。まあナイトメアの弱点は光だから仕方のないことか。

 

「うーん……、ボクからすれば暗すぎるんだよね。少しだけ明るくしたいんだけど」

「お前の『少し』は俺からしたら致命傷ってことぐらいわかるだろ」

「ちょっとだけでいいじゃんか、暗すぎてよく見えないんだけど」

「仕方ねぇなあ。おい、クロス」

「あっ、はいなんでしょう」

「カーテンを開けろ、少しだけな」

 

少しってどれくらいだろうか。俺は「分かりました」と言って窓際のカーテンに手をかけて少しだけ開く。闇に慣れた目に、眩しい日の光が突き刺さった。自然と目を細める。

 

「これぐらいでいいですか?」

 

俺は遮光カーテンを掴んだまま首だけ回して後ろを見た。嬉しそうに微笑むドリームと、その傍らで不機嫌そうな表情を隠そうともしないナイトメアの姿が目に入った。

 

「ああ、それぐらいで十分だろ」

 

ナイトメアはドリームに流し目をくれる。

 

「本当はもうちょっと開けてほしいところだけど……。まあ、いいかな」

 

俺は遮光カーテンから手を離して二人の近くまで移動する。

 

「本題に入るか。今日お前たちをここに呼んだのには理由がある」

 

ナイトメアの声が真剣になる。いったいどんな理由なのだろう。もしかして何か企んでいたりして……?

しかしナイトメアの企むことは毎回ろくなものではないし、そもそも何か企んでいるのだとしたらドリームを呼ぶ必要はないはずだが?

 

「報告させてもらうぞ。クロスは俺の嫁だ」

「…………は?」

 

ナイトメアの口から放たれたあまりにも突然すぎる発言に、俺は首をかしげることしかできなかった。

俺が嫁? ナイトメアは何を言っているんだ? 開いた口が塞がらない。

 

「……本当に言ってるの?」

 

ドリームは湿気の籠った目をナイトメアに向ける。

 

「そうだよな? クロス」

 

それに対してナイトメアはそんなの知らんがなと言わんばかりの顔でこちらを見てきた。汗が体を伝う。俺がナイトメアの嫁? いつからそうなったんだ? 思考がこんがらがり、わけがわからなくなってきた。

 

「いや、あの……いつから俺はセンパイの嫁になったんですか……?」

「いつからってそりゃあの夜の……」

「どの夜ですか! っていうかセンパイとそんな夜を過ごした記憶はありませんよ!?」

 

口に出すのを遠慮したくなることを話し出したナイトメアの言葉を遮る。あの夜ってどの夜なんだ? というかそもそもそんな夜を過ごした記憶など一切ない……はずだ。もし仮に記憶がないまま卒業していたとしたら最悪だ、しばらくは部屋に引きこもる自信がある。

 

「えー? メアとクロスってそこまでしてたの?」

 

嘘だと分かっているだろうに、ドリームは悪戯っぽく口に手を当てて笑う。

 

「してません! センパイが嘘を言ってるだけです!」

「そんな照れなくてもいいだろ? なんならどこまでしたか言ってやろうか?」

「だからしてませんって!」

 

俺は胸の前で両手を振る。どうしてあの真剣そうな雰囲気からこうなったんだ。わけがわからない。

 

「引っ掛からなかったか、つまんねぇ」

 

ナイトメアは大きく舌打ちをした。やっぱり嘘だったか。よかった……。俺は胸を撫で下ろす。

 

「あ、してなかったんだ。よかった。あ、そうそう。メアがクロスのことを嫁発言するならボクからも言わせてもらうけど」

 

ドリームはくすっと笑ってこう言った。

 

「クロスはボクの嫁、だよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら俺たちは分かり合えないみたいだな?」

「兄弟の運命、なのかもね」

「どうしてこうなった……」




「末永くお幸せに」って叫びたい。どうも花影です。
夢兄弟に取り合いされるクロスくんもいいですけど、いっそのこと三人で結婚すればいいんじゃないかな。
リクエスト……待ってます……。


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21.一つの結論(ドリメア):*

ボクの右手に握られた銀の(やいば)が、月光に(きら)めく。つられるように窓の外を見た。

 

雲一つない黒色の空に、満月が誰かの忘れ物のようにぽつんと浮いている。君は成功を教えてくれているのかな? 思わず笑みがこぼれる。

 

いきなりだが、ボクのお兄ちゃんはいじめられている。これはボクの考えなどではなく、あれこれと手段をとって得られた結果だ。

 

***

 

『最近元気ないね。どうしたの? お兄ちゃん』

『え? えっ……と……』

 

とある日のこと。晩御飯のウインナーを口に運びながら、ボクはいたって素朴な質問をしてみた。お兄ちゃんのことで、少し気になることがあったからだ。

 

お兄ちゃんは何か考えているのかボクから目を反らしている。何か隠そうとしているのだろう、予想がだんだんと形を得ていく。

 

『なんでも……ないよ?』

 

お兄ちゃんはきごちなくそう答えた。『なんでもないよ』。その言葉は嘘だと思った。なんでもないのならば、服に少し汚れの跡がつくわけがないし、顔に絆創膏を貼る必要もない。

 

おそらく、お兄ちゃんは……。

 

『ふーん……そっか。あっ、ごちそうさま』

 

考えるのはあとにしたほうがいいのかもしれない。ボクは胸の前で両手を合わせる。

 

『お皿、置いといてね』

 

お兄ちゃんは台所を指差して言った。その言葉を聞いて、表情が曇る。

 

『たまには洗わせてよー』

 

お兄ちゃんは皿洗いから洗濯まで、家の家事をすべて担っている。ボクも担いたいものだが、お兄ちゃんは『僕がやるから』と言ってボクにやらせようとはしない。まるで突き放されているようで、悲しかった。

 

『一番乗りのお風呂が嫌になったの?』

 

お兄ちゃんの手が止まる。お風呂はボクが一番乗り。それがいつものことになっていた。でも、物心つくようになってからはどうでもよくなった。

 

『んー……別に一番乗りじゃなくてもいいかなって。たまにはお兄ちゃんが先に入りなよ』

『ドリームが言うならそうするけど……いいの?』

『うん!』

 

笑顔を作ってみせる。作り笑い。

 

『そっか……じゃあ、お皿任せたよ。ごちそうさま』

 

お兄ちゃんは胸の前で両手を合わせた。それを見たボクは台所の細長いボックスに水を張って皿を入れる。スポンジを手に取って洗おうとしたとき、すっと手が伸びてきて皿がまた細長いボックスに沈んでいった。

 

『お願いね』

『任せてよ!』

 

お兄ちゃんはくすっと笑ってリビングと廊下を繋ぐ扉を開けていった。お兄ちゃんの姿が消える。それを見送ったボクはスポンジに洗剤をつけて皿を水から取り出した。

 

 

 

 

 

 

『あっつ……』

 

手を振って風を起こすが、これじゃたいしたものにはならない。ボクはベッドに沈む。熱気がボクの体にまとわりついてくる。水でも飲もうかな……。

 

ボクはベッドから降りて廊下に出た。その時__。

 

『ううっ……』

 

隣の部屋から弱々しい声が聞こえてきた。ボクは一瞬硬直する。隣はお兄ちゃんの部屋だ。お兄ちゃんに何かあったのだろうか。聞きに行こうかと考えたが、すぐにその考えを捨てる。

 

きっと誤魔化されてしまうだけだ。お兄ちゃんには悪いが、こっそり聞くとしよう。ボクはお兄ちゃんの部屋の前でしゃがみ、扉に頭をつける。

 

何かを剥がす音が聞こえてきた。一回しか聞こえてこなかったので、おそらく一枚剥がしたのだろう。何を剥がしたのかは言うまでもない気がする。

 

『……治って……ない』

 

扉の向こう側から、お兄ちゃんが何かを呟いている。治ってない? どういうこと……。この場から離れたい衝動に駆られる。なのに、ボクの頭は離れてはくれない。

 

『……が……悪いの? ……なんで、こんな……』

 

聞きたくない!! ボクはすぐに立ち上がって一階へと降りた。

 

***

 

あれから数日後。あれこれと情報を集めに集めた結果、ボクは一つの結論を出した。

 

この世界の住民を、消す。

 

いいよね。ボクは輝く銀の刃に問いかける。だって、お兄ちゃんはいじめられている。ナイトメアという不吉な名前と、ネガティブの守護者だからというあまりにも普通すぎる理由で。

 

ボクは知ってしまった。だからこうするしかないんだ。こうすることで、お兄ちゃんを守れるならそれでいいじゃないか……。

 

「行かなきゃね」

 

ボクはベッドから降りて扉を開けて廊下に出た。足音で起こさないようにそっと隣の部屋の扉を開ける。

 

その部屋は暗く、耳を澄ますと微かな寝息が聞こえてきた。もう時刻は日付が変わる頃だ、お兄ちゃんが寝ていてもおかしくはない。

 

足音を殺して、眠るナイトメアを見下ろす。その口角は上を向いていた。いい夢を見ているのかな。待っててね。その笑顔を、現実でも浮かべられるようにするから。

 

「愛してるよ、お兄ちゃん……。絶対に守るからね……」

 

ボクはお兄ちゃんの頬にそっとキスを落として、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

日付が変わった頃。赤い飛沫が飛んだ。何回も何回も。

 

ボクは沸き上がる衝動のまま、ナイフを何度も振り下ろす。そのたびに、返り血を浴びた。

 

喜んでくれるかな、なんて頭の端で考えながら、虚空に手を伸ばす馬鹿な住民に止めを刺す。その手は力を失って落ちていった。

 

動かなくなった何かを見下ろす。上半身を刺しすぎたせいか、ナイフの跡がいくつもできていた。

 

「まあ、これはお兄ちゃんが受けた痛みだから」

 

受けて当たり前だもんね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう安心していいよ、ボクのお兄ちゃん……」




お久しぶりです花影です。
何か書こうか考えてたり考えたのはいいけど全然続かなかったりで投稿が遅れましたすいません(まあ作者の事情とかもありましたが)。
にしても光AUの闇堕ち率高くないですかね……イラストでもインクやベリーのヤンデレ多いですし……(もちろんドリームも)。
闇AUのヤンデレはあまり見ない……そろそろ書こうかと検討してます。
そろそろ干からびるかもしれないのでリクエスト待ってます(意味不明)。


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22.君以外どうでもいい(インクロ):*

ちょっと強引です。ご注意。


「クーロースー!!」

 

俺以外が消えた白い世界。地面に腹這いになって絵を描いていた俺は、名前を呼ばれて顔を上げる。そこには紫色のポータルから上半身を出して手を振るインクの姿があった。

 

またあいつか。俺は見るだけで何もせず、無視することにした。

 

「ってちょっと!? せっかく遊びに来たのに!」

 

ずるりという音がした。おそらくポータルから出てきたのだろう。俺は無視を決めて絵を描くことにしたので彼を見ていないのだが。

 

全身を描き終えたそのとき、灰色が俺と紙を覆う。顔を上げると、腰に両手を当てたインクが見下ろしていた。その頬は膨らんでいる。

 

「なんだ?」

「『なんだ?』じゃないよ! せっかく遊びに来たのに!」

「『せっかく』ってお前な……」

 

俺はため息をつきながらお父さん座りをする。インクは頬を膨らませたまま体操座りをした。

 

「昨日も遊びに来ただろ」

 

頬を膨らませていたインクは、こてんと首をかしげた。

 

「そーだっけ?」

 

何回この流れを聞いたと思っているんだ。これに関しては大きなため息を隠せずにはいられなかった。

 

インクはAUの守護者だが記憶力が壊滅的に乏しく、つい先程まで話していたことを忘れるほどだ。会話をしていて、『あれ、なんだったっけー?』という言葉を聞くたびに俺は殴りたいという衝動に駆られる。

 

暴力は望んでいないので我慢しているのだが、そろそろ一回ぐらい殴ってもいいのかもしれない。

 

「忘れすぎなんだよ、お前」

「えへへ、ごめんごめん……」

 

インクは頭に手を当ててあざとらしく笑った。まあこれがこいつのいいところか。俺はため息をつきつつもこいつのいつも通りのペースに安心を感じていた。こいつはAUを守ることに全力を注いでいる。

 

かといって一つのAUをサポートするのではなく、すべてのAUを守護しているらしい。例えそれが、俺の世界のように孤独で真っ白な世界だったとしても。

 

「しかし……お前、毎日来てないか? 話のネタなんてないぞ」

 

インクは毎日俺の世界に来ている。1日、2日ならまだいいかと思っていたのだが、ここ最近は退屈で仕方ないのか1日も来ない日はなかった。

 

「話のネタなんかなくても、僕はクロスといるだけで楽しいよ!」

「ちゃんと他のAUを見て回っているんだろうな?」

「当たり前だってば!」

 

インクは太陽のように眩しい笑顔を見せた。壊れかけていた俺の心が少しずつ直っているような気がする。こいつの笑顔は、人を癒せる。そんな気がした。

 

***

 

君は何も知らないね。微笑むクロスを見て、僕は内心で呟く。

 

僕はAUの守護者だ。それは僕でも知っている。だけど、守護者だからって人の幸せまで守るなんて誰も言っていない。

 

僕が必死にサポートしたとしてもそのAUの人々が死んでいく結末を、今まで腐るほど見てきた。中にはサポートしてもそれに気づくことなく死んでいったAUだってある。

 

そのたびに僕は壊れていった。いや、すでに壊れていたのかもしれない。AUの中の人たちなんてどうでもよくなった。

 

彼らの幸せなんて知ったことではない。AUさえ守っていればそれでいいじゃないか。

 

『なんで俺たちは不幸な道を辿っていんだよ! AUを守るのが仕事じゃないのか!?』

 

僕に向かって怒鳴る男の人。僕はそのとき、何も思わなかった。悲しみも、ごめんなさいと謝る気持ちも。

 

『確かにAUを守るのは僕の仕事だよ。でも、AUに住む人たちの幸せを守るのは僕の仕事じゃない』

 

男の人はそれを聞いて、目を見開いた。僕は続ける。

 

『僕はAUの守護者だから。君たちの幸せなんてどうでもいいの

 

僕は身を翻した。すすり泣く声が後ろから聞こえてきた。それは悲しみ。それでも、どうでもよかった。

 

だからね、クロス。AUの中に住む人の幸せなんてどうでもいいんだ。AUさえ守っていれば僕はそれでいいの。

 

クロスの頬に手を添えて、そっとキスを落とす。嫌がる君を押さえて舌をねじ込み、あるものを飲ませる。

 

君は驚き、やがて瞼が下がっていく。目を閉じたクロスが、僕の体に身を預けた。僕はその体に手を回す。

 

飲ませたものは睡眠薬。最近疲れていそうだったからね、これでしばらくはお休みだ。ゆっくり寝ていてね。

 

ああ……君はどうでもいいかって? 安心してよ、君はとても大事な存在だ。どうでもよくないよ。

 

安心して……僕が守ってあげるよ。他のAUたちの幸せなんかどうでもいい。君は僕が幸せにしてあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好きだよ、クロス」




うーん、よく分かんないなこれ。というわけで本日2回目の投稿、花影です。
初めてインクロ書きました……そのうちエラクロとか書くかもです。クロスくん受けはいいぞ。
……インクくんって光AUらしいけど正直グレーゾーnおっと誰か来たようだ。


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23.プレゼント(Geno,Reaper)

地面に寝転がり、上を見上げる。真っ白な天井が目に入った。ああ、広い草原の下で太陽の光を浴びながら寝転がってみたかったものだ。もう叶うことはないであろう望みに、俺は小さなため息をつく。

 

この世界は退屈で仕方なかった。俺は、Gルートを完遂しようとするニンゲンを、両手の指で数えきれないほど殺してきた。殺してきたというよりも、返り討ち……の方が正しいのかもしれない。

 

とにかく、俺はニンゲンを何度も何度も返り討ちにしてきた。ニンゲンの決意とやらが折れて壊れるまで。しかし、あるGルートでのことだった。俺は負けた。あの頃は油断していたな、と思う。

 

攻撃を受けた体は塵となって消えてしまう。完全に消えて無くなってしまう前に、俺はこの場所へと飛び込んだ。

 

俺は自分の手を見る。真っ白な天井に負けず劣らずの白い手。この体は、このセーブ画面から抜け出した途端、消える。白い塵となって。

 

俺が生きるためにはここにいるしかない。しかし、セーブ画面というのは退屈で仕方なく、俺が避難したときは何もなかったので適当に家を作ってそれから家具を作って置いてみた。

 

……が、それは一時的に暇を潰せるだけであって、今となってはやることがない。やはりゲーム機器も作るべきだったかな。あのときに渋ったのはどう考えても家具を作ることしか眼中になかったからか。

 

「よう、ジェノ」

 

また何か作ろうかと考えていたそのとき、頭の方から声が聞こえてきた。少し低めの声、あいつか。

 

「……まーた来たのか? 死神というのは暇なものなのだな」

 

俺は身を起こして振り返る。そこには黒くて丈が長い衣装を身に纏い、大きな鎌を持ったSansこと、リーパーが浮いていた。

 

リーパーは少し前に会ったSansだ。ReapertaleというAUのSansで、彼に触れたり触れられたりしてしまうと命を落とすという。

 

それはニンゲンに限ったことではなく、植物でさえ命を奪ってしまうらしい。こんな物騒な死神が世の中にはいるものだな。まあその死神サマは暇のようだが。

 

「死神っていうのはいつも暇だぞ」

「適当に刈りに行けばいいじゃないか」

 

俺はソファーに座る。勢いよく座ったせいか、少しだけ体がバウンドした。

 

「行ったら行ったで怒られるんだよ」

 

リーパーは不機嫌そうに顔を歪めて向かいのソファーに座る。人のセーブ画面((俺にとっては)家)に入っているのだから『お邪魔する』とか『失礼』とか言えばいいものを。……死神に礼儀を強要させるのは意味ないか。言ったところでどうせ右から左に聞き流すだけだろうし。

 

「そりゃ退屈なことで」

「だろ? それにオレは友達と言える奴が少ないからな」

「なんだ、ぼっちか」

「ひでぇなあ……」

 

お前が自分から『友達と言える奴が少ない』って言ったからだろうが。ため息が漏れる。命の神様とかならまだしも人の命を刈る死神に友達がいるのはおかしいのでは?

 

「んで、何の用なんだ? 俺は呼んだ記憶はないぞ」

 

俺は足を組む。

 

「ああ、呼ばれた記憶なんてないさ。これをやろうと思ってな」

 

リーパーは自身のポケットに手を突っ込み、何かを取り出してテーブルの上に置いた。それは小さな袋だった。赤いリボンで結んであり、中にはお菓子らしきものが見える。

 

「……お菓子?」

「そっ。お前たしかクッキー好きだったろ?」

「まあそうだが……」

 

そういえばこの前、こいつに『好きなものはなんだ?』って質問されたな。あのときはよく分からなかったので『クッキー』と適当に回答したが、まさか持ってくるとは。

 

「兄弟が作りすぎたとか言っててな、オレにくれたんだよ」

「お前は食べないのか?」

「……どうにも甘いものは好きになれねぇんだよなあ」

 

リーパーの顔がまた歪む。こいつは甘いものは好きじゃないのか。また一つ、こいつのことを知ることができた。

 

「ま、そんなことだ。せっかくだし適当に食べといてくれよ、兄弟が悲しむからな」

「はいはい、あとで食べるよ」

「そうか、そりゃよかった」

 

リーパーはソファーから立ち上がる。

 

「そんじゃ、オレは帰るかな」

「はいよ。気をつけて」

 

見送る気はないので俺はひらひらと手を振る。リーパーはすっと片手だけを上げて姿を消した。一人だけになる。

 

「さあて……」

 

リーパーが帰るのを見送った俺は、袋を手に取って紐をほどく。チョコレートの香りが微かに匂ってきた。一枚取って口に運んだ。サクサクしていて、美味しい。リーパーの兄弟は料理が上手いんだなと確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お返しどうしようかな」




待ちました? ということで初ジェノくんと初リーパー様です、はい。
この二人の性格がよく分からなくてとりあえず私から見た二人の感じで書かせていただきました。
あと、UAが1000を突破しました! ……マジかよヤバイなあ。皆さん、いつも見ていただきありがとうございます。


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24.The Last...(Classic,Gaster)【☆】

謎の通行人δ様からのご提案により執筆させていただきました。調べてから書きましたが間違い等あれば指摘していただけますと幸いです(まあ一番は間違えないことですが)。


闇が覆う部屋のなか、私はモニターに映し出されたものを見ていた。それは、長く延びる回廊にて、ニンゲンに殺されるSansの姿。

 

疲れて眠った一瞬の隙を狙った赤い刃が、彼の腹に赤い傷を残す。彼は緩慢に立ち上がり、口を開いた。

 

「それじゃあ……オレは……グリルビーズにでも行くかな……」

 

血が滴る口を開き呟くようにそう言うと、ずるずると足を引きずってニンゲンの横を通りすぎていく。そして、倒れると同時に蒸発するような音がして、彼は塵となった。

 

それを見届けたニンゲンは導かれるように回廊をゆっくりと歩いていく。あの先は……アズゴア王がいるところ……。

 

この世界の住民はほぼ消えた。そろそろこの世界も終わりを迎えるようだ。私はモニターを消して自分の手を見る。この手も、体もいずれ消えるだろう。この世界と共に。ああ、最後に出来ることはないものかと部屋を見渡すが何もない。

 

黙って終末を迎えるとしよう。……何処からかナイフの振り下ろす音が聞こえてきた。数秒後、またしても蒸発するような音。終わったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。暗い部屋だった。私はいつもここにいるなと呟いた。どうやら完遂し終えたあとにまたリセットを行ったようだ。モニターを開くと、家の中でぐーたらと過ごすSansの姿が目に入った。ああ、彼はいつも変わらない。

 

続いて。フラウィーがいる花畑を映し出す。そこにはフラウィーに話しかけるニンゲンの姿があった。何かが足りない気がして私は首をかしげる。何か……そう、ニンゲンの……大事な……ソウル?

 

まさか、ソウルと引き換えにこの世界を作り直したのか? もう一度やり直すために? どうせ壊すだろうに、作り直してどうするんだ? 疑問で埋め尽くされ、はっとなる。私はこんなことをしている場合か?

 

再びモニターに目をやる。そこには遺跡のモンスターを殺すニンゲンの姿が映っていた。壊して直して壊して。まるで破壊と想像だ。

 

まだニンゲンはトリエルの家までたどり着いていない。間に合うはずだろう。私はモニターを消してとあるモンスターの場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日のスノーディン。部屋に置かれたベッドに寝転がっていたオレは、ただならぬ気配を感じて身を起こす。何かがこっちに向かってきているようだが……。ニンゲンではないことは確かだ。

 

「お邪魔するよ、Sansくん」

 

部屋中に視線を巡らせていたその時、エラー音と共に声が聞こえてきた。ああ、あいつか……。久々の再会のようだ。オレはパーカーを羽織りベッドから降りる。

 

ドアの前に、ふわりと現れた男。顔はひび割れ、何を身に纏っているのか分からない。時々現れるグリッチが彼の姿を歪ませている。

 

「よう、久しぶりじゃないか。研究者さんよ?」

「……君は相変わらずな生活のようで」

「Heh、元からさ。それで? 何か用があって来たんだろ?」

 

Gasterはよほどの事態がないと来ないはず。そのGasterが来るということは何かあるだろう。……まあ、なんとなーく分かるのだが。

 

「流石、分かっているようで何よりだ。さて、話に入ろう。君は前の時間軸で死んだのを理解しているかね?」

 

前の時間軸。顔が歪む。一つ前の時間軸はGenocide……。つまりは虐殺ルートなのだが、それでオレは死んでいる。

 

「ああ、理解しているさ。今でも鮮明に覚えているよ」

 

舌打ちが弾ける。本当はこんなクソみたいな記憶なんざいらねぇのに。

 

「まあそれはどうでもいい。Sans、君はこの世界の真実を知っているかい?」

「真実?」

「ああ、そうだ。この世界は何度もリセットされている。例え平和主義者のルートだろうと虐殺ルートであろうと……。ニンゲンは何度も何度もリセットを繰り返してこの世界を直している」

「ああ……そうみたいだな」

 

またしても舌打ちが弾けた。リセットがあるんだからあの回廊で諦めればいいものを、決意を悪い方面に使うニンゲンはそれをしようとはしなかった。

 

「今回もすでにリセットされている。そして今回進むであろうルートは……間違いなくGenocideルートだ。ニンゲンは遺跡のモンスターを殺してLOVEを得ている。いずれ、トリエルも殺されるだろう」

 

あのおばさんが住む遺跡の先はオレたちが住むスノーディンだ。遺跡のモンスターやトリエルを殺したことを知ったパピルスはまた止めに行くだろう。

 

「その先はスノーディン……HehHeh、最悪じゃないか。また警告しなきゃならないのか」

 

骨が折れる。審判を下すときよりかはマシだが……。

 

「ああ。それに、ニンゲンにはソウルがなかった。恐らく世界を作り直す代わりにソウルを失ったのだろう。ソウルレスというものだ。このままじゃ……お前はまた審判を下すことになる」

「止めろってか?」

「そうでもあるな。だが、一人で止めるのはきついことだろう?」

 

あのときの記憶がまた蘇ってくる。いくら殺しても、ガキは戻ってきた。何度も何度も……。オレがどんだけ諦めろと言っても、あのガキには届いていなかったようで。

 

「骨が折れるな」

「そこでだ。私も同行させてもらうよ」

 

は? オレは目を見開く。体を失ったGasterが? いやでも体を失ってるからダメージは通らない気がするがいくらなんでもいきなりすぎやしないか。

 

「……まさかそれを言い出すとは思わなかったよ」

「まあ。私もただただ黙って見ているのは面白くないのだよ。ニンゲンの力……気になって仕方ないのでね」

 

この科学者が。

 

「……もう時間はないようだよ。君の弟が殺された。次は……」

「言ってる時間はないらしいな。行くっきゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の回廊前。もうオレの友達は死んだ。あのおばさんも、パピルスも……。怒りを心に押し込み、息を吐いた。

 

最後の、息を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄に落としてやるよ、クソガキが。




出来た……(白目)。Gasterさんのキャラ付けがよく分からなかったのですが科学者っぽく書いてみた結果があれです。はい。

謎の通行人δ様、ご提案いただきありがとうございました。
3月25日(木)追記
Sans→Classicに変更しました。どうやらSansとClassicはどちらも同じようです。


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25.ボクじゃ愛せないから(ドリクロ)

とある日の昼下がり。俺はスマホを片手にソファーに座っていた。画面にはある人の電話番号が表示されていた。俺は電話マークにそっと触れて相手が出るのを待つ。

 

1……2……3回目のコールで電話が繋がる。俺はスマホを顔の横に当てた。

 

『もしもし?』

「もしもし……」

 

電話の相手はドリームだった。彼は、俺と同居(というより俺が居候)しているナイトメアの弟で、ポジティブの守護者。永く生きているというが、年齢は教えてもらっていない。

 

『クロスか、どうしたの? 元気ないね?』

「あの……お話したいことがあるんですが」

 

そう、電話をかけたのは話したいことがあるのだ。彼の兄、ナイトメアのことで。

 

『話したいこと?』

「ええ。ちょっと悩み事というか、相談があるんです」

『そっかあ、分かった。今からおいで、Dreamtaleで待ってるよ』

「ありがとうございます」

 

お礼を言った途端、ぷつりと電話が切られる。ツーツーという機械音が静寂のリビングに虚しく響いた。俺はスマホをポケットに入れてソファーから立ち上がる。

 

せめてセンパイの様子でも見ておこうかな。俺は廊下の突き当たりにあるノブをゆっくりと回す。部屋の中は暗く、ベッドに視線を移すと、人の形に盛り上がった布団が見えた。

 

「……ごめんなさい」

 

俺は呟いた。リビングにセンパイ……もといナイトメアが出てこないのは、少し前に喧嘩してしまったからだ。いま考えればとてもくだらなかったと思う。センパイから見ても、俺から見ても。

 

早朝ならまだしも、昼間の静寂は悲しくて、寂しい。きっとふて寝しているんだろうなあ。あの人、拗ねたらだいたい部屋に引きこもって寝るし。

 

そんな彼を起こしてドリームのところに行ってきますなんて言ったら叩きのめされる……最悪の場合、殺されるかもしれない。彼が起きないことだけを祈って、俺はそっと扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センパイのことを考えながら、俺がたどり着いたのはDreamtale。ドリームとナイトメアが、生まれ育った場所。

 

だいぶ前にインクから話を聞いたことがあるのだが、Dreamtaleは数あるAUの中でも悲惨な運命を辿ったという。

 

そんな場所に、今でも住んでいるのはドリームだった。まあ彼も育った場所だし、故郷にいたいのだろう。

 

「こんにちは」

 

Dreamtaleに着いた途端、ドリームが手を振って歓迎してくれた。相変わらず妖艶なことで……。

 

「こんにちは、今日はわざわざすみません」

 

相談があるとはいえ、急遽持ちかけてしまったことに、俺は頭を下げて謝罪する。

 

「いやいや、大丈夫だよ。ボクもここにいて暇だったからね、来てくれて嬉しいよ。さて、行こうか」

 

ドリームはこちらに背を向けてゆっくりと歩きだした。俺は小走りで彼の隣につく。

 

「……綺麗な森ですね。太陽も当たって神秘的というか」

 

俺はこの世界のことをあまり知らない。インクから聞いた話だけでしか、この世界で起きた悲惨な出来事を知らないのだ。

 

ドリームやナイトメアに聞く気にはならない。なぜなら彼らはこの世界のSans。この世界で起きたことを、一番知っている存在。そして、一番話したくないだろうし。

 

「ふふ、そうだね。ボクはこの森が好きだよ。クロスは、好き?」

「まあ……好き、ですね」

 

物騒なことを平然と行うセンパイと一緒にいたせいか、心が掻き乱されていくような感じはする。だが、嫌いと言えるほどではない。たまには穏やかな心に戻りなよ、と森が囁いている気がしてくる。

 

しばらく歩いていると、開けた場所に出た。周りは木々に囲まれていて、真ん中にぽつんとテーブル一つと椅子二つ。木々に囲まれていると思ったが、よく見ると抜け道のような跡がある。

 

「先に座っててくれるかな。お茶()れてくるね」

 

ドリームはそういって、抜け道らしき道を歩いていった。あの先に彼らの家があるのかもしれない。勝手にそう思った俺は椅子を引いて座る。目線の先には、洋風の家が建っていた。なんか童話に出てきそうな家だな。

 

「なんか……童話に出てきそうな家だね」

 

隣から声が聞こえてきた。俺は横を見る。キャラだった。というか俺が思ったことをピンポイントで当てるな。さとりかよこいつは。

 

「なんだ、起きてたのか」

「さすがにね。で、ここはどこなんだ?」

 

キャラはふわあと欠伸(あくび)をする。そういやこいつは最近寝ていないとか言ってたな。

 

「Dreamtale。センパイやドリーム先輩が育った場所だ」

「へえ、あのタコもここに住んでたんだね」

「……お前、今度またタコって言ったらぶちのめすからな」

 

湿度の高い目で見ると、キャラは「分かった分かった」と面倒くさそうに言った。絶対分かってないだろ、このガキ。俺とナイトメアが付き合ってることを知っているくせに。

 

そうこうしているうちに、ドリームがこちらに近づいてくるのが見えた。キャラは「僕はお邪魔っぽいね」と言って姿を消した。また寝るのだろうか。彼のことは俺には関係ないので考えることをやめた。

 

「お待たせ。ごめんね、ちょっと時間かかっちゃった」

「いえいえ大丈夫です」

 

ドリームは、俺の前に綺麗な模様が施されたティーカップを置いた。湯気がほくほくとたっている。

 

「さて、お話を聞こうか」

 

俺の反対側に座ったドリームは手を顎に当てる。兄と弟でここまで違うものなのか、と俺は感じた。

 

「メアのこと? それとも、別かな?」

「……センパイのことで、ちょっと悩み事があって」

 

俺はティーカップを持って中身を少し飲む。普通に麦茶だったが、乾いた喉には嬉しいものだ(まあここで紅茶を出されても俺はよく分からない。何故ならほとんど飲んだことがないからだ)。

 

「なんとなくそんな気はしてたよ。それで?」

「あの人……なんか、俺のことを玩具(おもちゃ)と思ってるのかなって思うようになったんです」

「玩具……」

「……はい。しょっちゅう悪戯してくるし、仕事の最中に邪魔してくることも多いんです。おまけに我が儘もたくさん言うし、もう……あんまりだなって……」

 

ナイトメアに対する不満が溜まりに溜まっていたのか、言葉がすらすらと出てきてしまう。ドリームは目をつぶって吟味するように話を聞いていた。

 

いくら対立しているからって、こんなに言われたら気分を悪くさせてしまう。そう思ったときにはすでに遅かった。口は禍の門ってこのことなのか……?

 

「……そっか」

 

しばらく目を閉じていたドリームはゆっくりと目を開けた。その口角は下がっている。ああ、悪いことを言い過ぎた……。今さら反省したって遅い。

 

「……クロス、よく頑張ったね。偉い偉い♪」

 

ついさきほどの暗い表情とは一変、ふわっとした笑顔を見せたドリームは俺のフード越しに頭を撫でる。じわりと体温が上がっていくのが嫌でも分かった。……っていうか、これじゃあ褒美をもらう犬じゃないか!?

 

「ド、ドリーム先輩? あの……褒めてもらいたくて相談しに来たんじゃ……」

 

止めようとするが、ドリームは聞こえていないのか「いい子だね~」と言って頭を撫で続ける。なんか、効果音つきそうな勢いだな。……じゃなくて!!

 

「先輩っ! 俺は相談しに来たんです!」

 

少し強く言うと、ドリームはぽかんとした表情になった。俺の頭を撫でていた手が止まる。少し名残惜しい気持ちになってしまったのは何故だろうか?

 

「あっ、そうだね。ごめんごめん、クロスがいい子だったからつい」

 

いや、俺たぶん貴方が思っているほどいい子じゃないですよ。クスッと笑うドリームに、俺は心の中で呟いた。

 

「それで、玩具と思われてるんじゃないかってことね? なるほどね……」

 

ドリームはお茶を啜る。柔らかい風が吹いた。

 

「……メアはね」

 

しばらくの沈黙が破られる。

 

「愛情が欲しいんじゃ、ないかな」

「……『愛情』?」

 

ドリームの口から放たれた意外な言葉に、俺は目を丸くしておうむ返しをする。

 

「そう。過去の話になるけど、メアはいじめられていたんだ、理由は省くけど。ある時、あの姿になった。そして、この世界の住民やモンスターすべてを殺してしまった」

「えっ!?」

 

インクの口から放たれることはなかった、この世界の悲惨な出来事の中身。まさかそれが虐殺だったなんて……。さきほど通ってきたあの道が、少し恐ろしく感じられた。いやそれ以前に、あの人は昔からあの姿じゃなかったのか……。

 

「そのときのメアは……完全に絶望そのものだった。ボクは止めようとしたけど、膨大な魔力の前には勝てなかったよ。……それから、メアはこの世界を出ていった。そこからボクは知らなかったけど、あとから分かったんだ。この世界を出ていったあと、数々のAUに絶望と悪夢を与え、『闇の帝王』と呼ばれて恐れられたってね」

 

ドリームは目を伏せて悲しそうに喋り始める。自分の兄が変わってしまった挙げ句、帝王として恐れられてしまった。ドリームにとってはさぞかしつらかったことだろう。今でも、それは変わらないのかもしれない。

 

「それから、誰も目につかない深い森の奥に家を建てて、ひっそりと暮らすようになった。森の奥だし、彼は帝王として恐れられていたから誰も近寄らない。……でも、彼は愛情に餓えていたと思うよ。そんなときに、クロス……君が現れた」

「……俺が?」

 

ぽつりと呟くと、ドリームは頷いた。

 

「君のネガティブな感情につられてメアはやってきた。そのあと、どうなったの?」

 

喋り過ぎて喉が一気に乾いたのか、ドリームはまたお茶を啜る。俺はナイトメアが現れてすぐのことを思い出した。

 

『お前が世界を直しても、いずれそれは消える』

『そんなバカなことをするより、俺と一緒に暮らさないか?』

 

そっと手を差しのべて、俺の答えを待つナイトメアの姿。最初はただ仲間にしたかっただけかと思っていたのだが……。

 

「あの人は、家に俺を連れていって……。家事やら何やらの説明を受けて……」

「そっか、メアはあまり料理しない方だからね。クロスがちょうどいいと思ったんじゃないかな」

 

連れてこられて間もない頃、ナイトメアに出したオムライス。彼はもぐもぐとそれを咀嚼して、こう言った。

 

『うん、上手い。料理が上手なんだな』

 

「……クロス」

 

ふと急に、名前を呼ばれる。俺はゆっくり顔を上げた。

 

「ボクはね、ポジティブの守護者だよ。だけど、メアはポジティブは好きじゃない。ボクは……メアが好きだったよ。だけど、今のメアは……クロスのことが好きなんだと思う」

「……玩具のように扱われてると思うのですが」

「あははっ、クロスってば本当にお子様なんだね?」

「なっ!?」

 

ドリームは妖艶な笑みを浮かべる。平熱に戻りかけていた体温がまた上がっていく。っていうか、俺はお子様じゃありません、働き盛りの29歳です。だからお子様じゃない……多分。

 

「好きな子ほど悪戯したくなる……ってことだよ?」

「は、はあ……?」

 

そんなものなのか? 俺にはよく分からない。

 

「悪戯にしろ我が儘にしろ、メアはクロスのことが好きだと思う。きっとクロスのことを信頼しているから、我が儘言いたくなるんじゃない?」

 

信頼……。あの人にはとても似合わない言葉だ。

 

「……そういうものなんですかね」

 

疑問を抱く一方で、何故だろうか。それであっているのかもしれないという気がしてきた。なんだか、心が軽くなった気がする。

 

「そういうものだよ、たまには構ってあげたら? きっと喜ぶんじゃないかな」

「……分かりました。それじゃ、俺は帰ろうと思います」

 

俺はティーカップのお茶をすべて飲み干す。時間が経っていたので、お茶は冷えていた。

 

「そっか。気を付けてね」

「はい、わざわざありがとうございました」

 

俺は椅子から立ち上がる。ポータルを開き、振り返る。

 

「それでは、また」

「うん、またね」

 

俺はポータルに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「末長くお幸せに、ね?」




くっっそ長文で申し訳ない……。どうも花影です。
そういえばまともにお気に入りや評価に対するお礼を書いてなかったのでここで書かせていただきます。

お気に入り→二人
謎の通行人δ様、もう一人の方、お気に入り登録していただきありがとうございます!(もう一人の方はお名前が分からないので上記のように表記させていただきます)

評価→二人
☆4評価お祈りメール様、☆9評価謎の通行人δ様、評価していただきありがとうございます!

特に謎の通行人δ様はお気に入りや高評価だけでなく活動報告にてご提案もしてくださった方です、本当に感謝しかない……!ありがとうございます!

またお気に入り登録されたり評価されたら書いていこうと思います(登録したり評価してくださった方のみ)。


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26.食べるときは無防備(マダホラ)

ようやく……ようやくホラーくん登場です((白目


とある日の昼下がり。オレは台所に立ってオムライスを作っていた。

 

「あれっ、マーダー先輩?」

 

チキンライスの上に卵を乗せようとしたその時、背後から声が投げられる。オレは首だけ回して振り返る。そこには白と黒の制服を着たSansが立っていた。右目は血のように赤く、その下にはZのような傷がついている。

 

「あー……誰だっけ。……白黒?」

「クロスです」

 

白黒……じゃなかった、クロスは湿度の高い目線をこちらに向ける。パピルスが「兄ちゃん! 仲間ぐらいは覚えなきゃダメだぞ!」と言ってきたのでオレは軽く返事を返しておいた。……クロスが首をかしげていたのは気にしないことにする。

 

「珍しいですね、何を作っているんですか?」

「オムライス。ホラー、何も食ってねぇし」

 

俺は二階のとある部屋の扉を見る。ホラーは基本的に食ったら寝るを繰り返しているが、あまりにも空腹になると部屋から出てきて冷蔵庫を漁ったりしている。

 

最近ではナイトメアの触手を食べ物と勘違いしているのか、斧を持って追いかけ回している。まあ、八年間も飢餓に耐えていたらしいし。

 

「そうなんですか」

「とりあえず、朝食も一緒に持っていく。ああ、それと……」

 

オレは棚から、ホラーの分のあんパンを取る。

 

「今度、料理の作り方を教えてくれないか? オレ、下手だからよく分からねぇし」

 

そう言うと、クロスは頭をぶんぶんと縦に振った。……首取れそうだな。そう簡単に取れるわけないけど。

 

「もちろんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二階に上がったオレはホラーの部屋の扉を開ける。そこには。

 

「おーなーかーすーいーたあー」

 

ベッドから身を起こして大声を上げるホラーの姿があった。……うるせぇ。フードで軽減はされているが、それでもかなりうるさい。ていうか起きてたなら出てこいや、わざわざ作ってやったんだぞ。料理下手なオレが。

 

「うるっせぇな。ほら、飯だぞ」

「……ほへ? あ、おふぁよ……」

 

部屋の電気をつける。ホラーは眩しいのか目を細めた。……口の端からよだれが垂れている。おまけに腹の音まで聞こえてくる。にしても寝すぎなんだよなあ。

オレは皿とスプーンをテーブルに(割れない程度に)叩きつける。

 

それを見たホラーはのそのそとベッドから降りてスリッパを履くと、導かれるように椅子に座る。

 

いただきますを言うこともなく、ホラーはスプーンを持ってもぐもぐとオムライスを食べ始める。我ながら形がぐちゃぐちゃだが、ホラーがもっとぐちゃぐちゃにしていくので実質問題ない。

 

「上手いか?」

「ふふぁい」

 

何を言っているのか分からない。見ると、ホラーはリスのように頬を膨らませている。そりゃまともに聞き取れるわけない。しかしなんだろう、ちょっと可愛い……?

 

オムライスを五分ほどで食べ終えたホラーはあんパンの袋に手を伸ばしてそのまま口へ__。

 

「って、おまっ!」

 

あんパンの袋を取り上げる。ホラーは不機嫌そうな表情を見せた。

 

「……お腹空いた」

「それは分かってる。だけどな、袋ごと食べるバカがどこにいんだよ」

 

袋は食べ物じゃないのに。オレはため息をつきつつもあんパンの袋を破って中身をホラーに差し出す。怪訝そうな表情を浮かべていたホラーだったが、あんパンを貰うなり、まるごと口に放り込んだ。オレはあんパンの袋をゴミ箱にぶちこむ。

 

しかしまあ、よくあんパンを丸ごと食べて平気だよな。少しずつ消えていくあんパンを眺めながらオレはそう思う。

 

「……ふう」

「満足したか?」

 

そう言うと、ホラーは自分の腹を擦り始めた。

 

「……まだ入る」

 

返事をしようとしたオレは、ホラーの口元に飯の粒がついていることに気づく。

 

「おい、ホラー」

「……んー?」

 

緩慢にこちらを見たホラーの頬に触れ、口元にキスを落とす。と同時に米粒も取ってやった。

 

「……ほえ?」

「米粒、ついてたぞ」

 

そう言うと、ホラーの顔がみるみると赤くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、可愛いところあるじゃねぇか。




個人的には天然(?)なホラーくんがいい。どうも花影です。
天然というか食べることだけに夢中でその他のことはあまり知らなさそうな感じです、我が家のホラーくんは。
そろそろ設定とか書いたほうがいいのかな……?


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27.なんだかんだ言って(Killer,Murder)

見る前にワンクッション。
とにかく口が悪いです。暴言吐きまくってます。まあこの二人仲悪い設定が多i((それ以上はいけない


ナイフを振り下ろす。ぐさりと確実に刺さる感触と共に、快感が体をはしる。ああ、これだよ。僕が求めていたのは。

 

昔は否定していたような気がするけど、今となっては何故否定していたのかさえ分からない。ただひたすら、快感に溺れていくのは悪くなかった。むしろ、殺してこその僕だと思う。

 

僕の存在意義はコレ(EXP狩り)。闇AUの家に住むのも悪くないけど、一番楽しいのはコレぐらいしかない。それ以外は、ほとんどどうでもよかった。

 

それにしても……。僕はナイフを抜きながらため息をつく。このモンスターしぶといな。普通なら一回刺しただけで塵になるはずなのだが、もしかして防御することしか能がないのかな?

 

だとしたらバカだね、この世界は殺るか殺られるかの世界だ。防御に振ったところで、生き延びれるとは思えない。

 

恨むなら僕じゃなくて、防御に振りすぎた過去の自分を恨んでね。目の前で膝をつくモンスターに、僕は心の中で呟いた。

 

さて、最後の一撃でも与えるか。ふらふらと歩いてくる僕を、モンスターが捉える。が、その目は怯えていた。

 

モンスターの目に、僕はどんな姿で映っているのだろうか。きっと殺人鬼か死神として映っているんだろうなあ。まあ、正しいのは前者だけども。

 

「怖いのかな? 大丈夫だよ、痛いのは最初だけだからね!」

 

笑ってみせる。モンスターの目に恐怖が浮かんでいくのがわかった。あのタコが大喜びするやつじゃん。今日の晩御飯はたこ焼きにでもしてやろうかな、と言ってもあいつに恨みなんかないけど。

 

でも、たこ焼きにしたらクロスくんに怒られそうだしやめとこ(クロスくんはあいつと主従関係を結んでいる。僕には理解しがたい)。

 

もう一度ナイフを振り下ろそうとしたその時。白い霧を裂くようにして、細長いものがモンスターめがけて飛んできた。気づいたころにはもう遅く、それはモンスターの心臓に刺さる。……白い骨。

 

血飛沫が飛び、モンスターは顔から倒れる。水が蒸発するような音がして、モンスターは塵になった。驚きよりも、獲物を取られたという絶望が勝る。

 

「おいおい、なーに棒立ちになってんだ?」

 

塵を眺めていた僕に、容赦なく言葉が突き刺さる。霧の中に浮かび上がるシルエット。やっぱりお前かよ、ああ腹立つ。

 

「……まーた取りに来たんだね、幻覚幻聴野郎が」

「お前が止めを刺さないのが悪いんだな」

 

霧の中から、一人の骨が現れた。青いパーカーには白い塵、深く被られたフード。マーダーだった。こいつは僕と同じでEXP狩りをしている。そこまではいいのだが、こいつは僕の獲物を横取りしてくるのだ。

 

EXPは殺した本人しか貰えない。瀕死にしても意味がないのだ。だから素早さが求められるのだが、僕はじっくり楽しみたい。だって素早く殺しても快感なんて感じないし。

 

「刺そうとしたよ。その前にお前が取るからあ」

「あのなあ、こういうのは素早さが求められんだよ。じっくり楽しんでちゃLOVEどころかEXPも手に入らないんだぞ、お子様ぁ?」

「うっざ。お前の分のご飯なしね」

「地味に困るな」

 

マーダーは嫌そうに顔を歪める。僕の獲物を取るからだろ、この幻覚幻聴野郎。僕は鼻を鳴らす。少しだけすっきりした。

 

「で、もう充分に取ったろ? 帰るぞ」

「充分に見える?」

 

僕の言葉を無視して、マーダーはそそくさと帰ろうとする。話聞けや、そろそろこいつは殺さなきゃなあ。僕の獲物横取りするし、うざいし。

 

でも、何だかんだ言って殺せないでいる。去年のいつ頃か忘れたが、こいつに『今年こそ殺すね』って言った気がする。が、未だに殺せていない。それは単純にこいつが強いからってこともある。……だろうけど。

 

多分、僕はこいつのことが好きなんだと思う。獲物は横取りしてくるし、発言はうざいし、中指立ててくるけども(ちなみに僕も立ててたり立ててなかったり)。それがあっても、僕はこいつに惹かれてしまったんだろうなあ。何故か殺したくないし。

 

「何ボケッとしてんだよ、殺されたいのか?」

「んなわけないでしょバーカ」

 

僕は走ってマーダーの先を行く。後ろから「あ、待て早いんだよてめぇは!」なんていう暴言が聞こえてくるが、無視してやった。(鈍足ではないが)遅いお前が悪い。

 

「僕が先に家に着いたらEXP全部ちょうだいねー!」

「ふっざけんなこの快楽殺人鬼!!」

 

後ろからマーダーが追いかけてくる。僕の口から笑い声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だかんだ言って、君は殺せないや。




果たしてキラーくんはお子様なのか?どうも花影です。
というかキラーくんやマーダーくんの年齢知らないんですけど……誰か分かる人いらっしゃいますかね?個人的には二人とも二十歳ぐらいだと思ってます。……待ってそうだとしたら全然お子様じゃない。
仲悪そうだけど何だかんだ言ってお互いを殺せないマーダーくんとキラーくんが好き。


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28.こういうこと(ドリクロ)

クロスくんがちょっと喘いでる(?)ので嫌な人はそっと閉じてください。
あとくっそ中途半端です。


「……ということで、俺は少しの間出掛ける」

 

俺の目の前にいる人物は腕を組ながらそう言った。黒い体、液体が垂れて機能を失った右目、シアン色に輝く、目。

 

そう、俺のセンパイであるナイトメアだった。……上司とも言う。

 

俺とナイトメアは同居している。居場所を無くした俺を、ナイトメアが引き取って(?)くれたのだ。最初はわけが分からなかったものの、今となってはここが俺の家だったのではないかと思うぐらい馴染んできている。

 

「お供しましょうか?」

「いや、別にいいさ。ちょっと友人に会いに行くだけだ」

 

「まあそいつが俺のことを友人と思っているのかは知らんがな」とナイトメアが呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

 

しかし珍しいものだ。彼が出掛けるときは決まって俺も巻き添えになるのだが。俺が必要ないくらい安全だと言うのだろうか? それとも、自分一人の力で平気とでも言うのだろうか……。

 

「平気に決まってるだろ。あと、俺が出掛ける場所は地上じゃない」

 

心で思っていたことをピッタリと当てられ、体が跳ねる。ナイトメアの方を見ると、彼は明らかに不機嫌そうな表情を見せている。そういえばこの人心が読めるんだった。

 

「そ、そうですか。いつぐらいに帰ってくる予定なんですか?」

 

とりあえず反らす。それを分かっていたのかナイトメアは湿度の高い目で俺を睨み付けると、目を閉じた。十数秒後、ナイトメアはゆっくりと目を開ける。

 

「晩飯までには帰ってくるよ。それまで頼んだ」

「……分かりました」

 

ナイトメアは満足そうに頷くと、俺に背を向けて歩き始める。ドアに手をかけたその時、なにかを思い出したのか、ナイトメアはこちらに振り返る。

 

「そうだ、言い忘れていたことがある」

「なんでしょうか?」

 

俺は首をかしげる。ナイトメアの顔が険しくなった。

 

「ドリームには気を付けろよ」

 

そういうと、ナイトメアはドアを開けて外へと出ていってしまった。ドアが閉まる音が空気を揺らし、やがて静寂へと還っていく。

 

「……ドリーム先輩?」

 

意味が分からず、かしげた首の角度が大きくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソファーに埋もれ、ぼうっと天井を眺めていたときだった。不意に風が吹いたような気がして、俺は身を起こす。誰もいない……気のせいか?

 

そう思ってもう一度ソファーに沈もうとしたその時だった。突然部屋が明るくなり、風が吹き始めた。気のせいじゃなかった! 俺は勢いよく身を起こす。

 

やがて、部屋全体が目も開けていられないほどに輝き始め、俺は両腕を顔の前で交差させながら目を閉じる。Crossだけにって? うっさい。

 

「やあ、こんにちは」

 

俺は交差させた腕を下ろして目を開ける。そこには黄色の衣装に身を包んだSans、ドリームが笑顔を浮かべて立っていた。彼の足元には黄色の魔方陣が。……なるほどポータルにして飛んできたのか。

 

「ああどうも。お久しぶりですね」

 

ナイトメアの弟であるドリームと会うのは、いつぶりだったか。頭の隅で考えるが、思い出せなかった。

 

「何かご用でしょうか? センパイなら出掛けてますが」

「んー、特にないけど遊びに来たよ」

 

ドリームはソファーに座る。来客が来たからにはもてなすのがマナー。俺はソファーから立ち上がり台所に行こうとした……のだが。

 

「だーめ」

 

ドリームの腕が俺の腰に回される。あっ、と思った頃には遅く、俺はドリームの膝の上に背を向けて座っていた。

 

「ちょっ……!?」

「やっぱり成長してないよね。なに? 成長期終わっちゃった?」

 

煽るようにそう言われる。というか29歳で成長期とかあり得るわけがない。顔が歪んだ。

 

「遠回しに小さいって言わないでくださいよ」

「本当のことじゃん」

 

ドリームの吐息が近づいてくる。夢だと思いたいが、はっきりと聞こえてくる。何されるんだ俺……?

彼に背を向けて座っているので後ろが見えない、怖い……。

 

「でもね、身長が低いっていうのはボクからすればラッキーな方なんだよね」

 

ふと、首に何かが当たった気がした。無意識に体がはねる。……これって、服に手をかけられてないか?

 

「どういうことですか……!」

「あれ? 分からない? 本当に君は純粋だよね」

 

嫌な予感がしてきたので身動ぎしてみる……が、状況は変わらない。

 

「こういうことだよ」

 

ぺろり。舐めるような音と共に、何かが体をはしる。俺の口から「ひゃいっ!?」という情けない声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もう一度だけ成長期来ないかな。




はい中途半端。
このあとはご想像にお任せします、夢が広がりますね(ニッコリ)


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29.言った言葉はお忘れなく(メアイン)

エラーくんの誕生日にメアイン書いた人は私だけであってほしい。
後半がR-15なので苦手な方はそっと閉じてください。


ほんのりと光る地面。頬を撫でる柔らかな風。暖かな日の香り。すべてが俺にとって最悪だ。敵の家兼作業場所はこんなに忌々しいものなのか、自然と顔が歪む。

 

Doodle Sphere。すべてのAUに繋がる空間。この空間を家として、また作業場所として使っているのは、AUの守護者と呼ばれるインク。あの気持ち悪いほどに溢れるポジティブは、ドリームと接触するだけでなくここからも得られているのだろうか。

 

本来なら敵である俺が出向くべき場所ではない。適当にクロスあたりを投げ出すべきだが、今回はそんなことはしたくなかった。

 

俺は不自然に浮いている扉にそっと触れる。抵抗もなく、それは力を受けてゆっくりと向こう側に開いていった。

 

八畳ほどの部屋だった。机や椅子、ベッドが目に入ると同時にまた顔が歪んだ。

 

この床もそうだが、至るところに筆やら鉛筆やらが散乱している。あの記憶力馬鹿はまともに片付けもできないのか、それでも守護者かよ。幸いにも足の踏み場はあるため、移動は出来る。

 

「あっ、ナイトメア!!」

 

大量に散乱した筆や鉛筆にうんざりしていたその時、部屋の奥から陽気(うるさいとも言う)な声が空気を揺らす。視線を上げてみると、部屋の奥の扉からインクが手を振っていた。あの扉の先は……確かアトリエだったはず。

 

「来てくれたの? 嬉しいなあ!」

「それはいいんだが、なんだこの散らかり具合は。俺でもこうはならんぞ」

 

足元にあった色鉛筆を蹴りながら歩く。そのたびに鉛筆同士が擦れ合う音が空気を揺らす。「あー! 蹴らないでよ!」と、インクが頬を膨らませながら言うが、俺は無視を決める。こんなに散らかしてるお前が悪いんだよ、バカ野郎。

 

「もー、せっかく片付けようとしてたのにぃ」

「そう言ってるわりには絵に夢中だったよなあ?」

 

図星だったらしく、インクの口から物を詰まらせたような声が漏れた。華奢な体の向こう側に見える、キャンバスや絵の具。間違いなく先程まで描いていたのだろう。

 

「そっ、それは……」

 

インクは顔を反らす。上手いことやり過ごすつもりなのかもしれないが誰がどう見てもバレるぞ、そんなものじゃ。

 

「休日だよ、休日! 僕だって休むんだからね!」

 

インクは顔を上げてそう言った。「汗かいてるぞ」と言ってやると、彼はまた顔を反らして「暑い、からね!」とわざとらしく言った。完全に忘れてたなこいつ。

 

「そ、それにしてもなんでナイトメアがここに?」

「あー……特に用はねぇよ。暇だったから来てやっただけだ」

 

嘘つき。俺は心の中で呟く。何が『特に用はねぇよ』だ。用があったから来たんだろうが。それ以外に行く理由なんてない。

 

「そっかあー。あっ、ならちょうどいいや」

 

インクはにぱぁと明るい笑顔を見せる。全身から放たれるポジティブ。ああ、欲しくない。例え、好きなお前だったとしても。

 

「笑うな。なんだ、ちょうどいいって」

 

インクの頭を軽くはたきつつ俺はその先を促す。まさか、ここに散らばっている筆や鉛筆を片付けてとか言わないだろうな。

 

「いやー、ちょうどナイトメアが来たからさ。ちょっとお願いごとがあっt」

「却下」

「なんで!? まだ何も言ってないよ!」

 

インクはまた頬を膨らませる。ここまできたならどうせ片付けろって言うだろう。人手は増えるし、俺の触手で一気に片付く。インクはきっとそう思っている。だが、素直に他人の要求を聞く俺ではない。

 

「どうせ片付けろとか言うんだろ。めんどくせぇよ」

「えぇ……僕としては一緒に片付けてほしかったのに……」

「面倒だ。それに、これは俺が散らかしたものではない。自分のことぐらい自分でやれよ」

「むぅ……。じゃあさ、片付けてもらう代わりに……僕が何でもするって言ったら?

 

翻そうとした体が止まる。今なんて? 微かに聞こえただけなので確信は得られないのだが、何でもするって言わなかったか?

 

「今……なんて?」

「えっ? だから、片付けてもらう代わりに僕が何でもするって言ったら? って……」

 

なるほど。

 

「で、どうなの?」

 

インクは不安そうに俺を見てくる。ほんのりと虹色に染まる頬。ああ、最高じゃないか。やっぱりお前は可愛くてしょうがないよ、小筆……。

 

「……手伝ってやるよ。ただし」

 

俺は一呼吸置いて、口を開いた。

 

「その言葉、忘れるなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったー!!」

 

インクは自分が勝利したかのように両腕を高く掲げる。相変わらずうるせぇなこいつ。しかし、これはある意味勝利したと言ってもおかしくない。

 

足の踏み場がほぼないほど散らかっていた床はフローリングが丸出しになり、机の上に無造作に放ってあった筆も今ではなくなっている。その違いは一目瞭然だった。

 

「まったく……」

「ありがとうナイトメア! おかげで綺麗になったよ」

「ああ、そうだな。ところで」

 

俺はインクにぐいっと顔を近づける。

 

「さっきの言葉……忘れたんじゃないだろうな」

「えっ、さっきって……」

 

やっぱり忘れてやがった。

 

「『片付けてもらう代わりに何でもするって言ったら?』」

「あっ……」

 

一時間ほど前のインクの台詞をそのまま言ってやると、思い出したらしく、彼はぽかんと口を開ける。

 

「一緒に片付けてやった。何でもしていいんだよな?」

「べ、別にいいけど……。何するつもり……? 痛いのはやめて、ね……?」

 

インクの目に怯えが浮かんでいく。こいつから負の感情をとるのは容易ではなかったが、こんなときにとれるとは。

 

「安心しろ」

 

俺は触手でインクの体を縛り、ベッドに放り投げる。彼の華奢な体が二回ほどバウンドした。俺はインクの上に乗って彼の両手首を押さえる。

 

「すぐに良くなるさ」

 

そのまま、俺は顔を近づけ、インクの口にキスを落とす。カツンという軽い音がした。押さえていた両手首から手を離し、インクの首と後頭部にそれぞれ回す。

 

「んっ、んん! はっ、う……なっ、いと、めあぁ……」

 

インクの口に強引に舌を滑らせ、舌と舌を絡ませる。最初は抵抗していた彼も、気持ちよくなってきたのかだんだん力が抜けていく。適当なところで離してやると、彼の両腕はベッドに縫い付けられるように沈んでいた。

 

「ははっ、最高じゃないかインク……。おねだりしてみろよ、出来るだろ? 守護者サマ?」

 

見下すようにそう言うと、インクの頬が虹色に強く染まる。最高だ、欲望が刺激されていく。

 

「……もっと」

「聞こえねぇな?」

「……もっと、して……欲しい……」

 

インクは顔を反らしながらもそう言った。待っていたよ、その言葉が聞けるのを。俺の中の枷が外れる音がした。

 

「……よく言えました。覚悟、出来てるよな?」

「……ん」

 

俺はインクの服に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高だよ、お前って奴は……




このあとはご想像にお任せします。夢が広がる。

前書きでも言いましたがエラーくんお誕生日おめでとう!! インクくんと末永くお幸せに←とかいいつつメアイン書くというアホ

アンケートは消しました。しばらくこのままでいこうと思ってます。

追記8/3(火)
pixivにも投稿しております。
リンク→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15733844


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30.お詫び(メアクロ)

4月のとある日のこと。机の下につけられた冷蔵庫から板チョコを取り出した俺はベッドでそれを貪っていた。最近地上に出向くことはなく、タコスが買えていない。

 

板チョコはあのミニ冷蔵庫の中に腐るほど入っているため糖分補給にはなるのだが、たまにはタコスが食べたい。しばらくは口にできないであろうタコスに思いを馳せていたときだった。

 

何の前触れもなくいきなり扉が開かれた。勢いよく体を起こして見ると、俺のセンパイ(上司)であるナイトメアが仁王立ちになっていた。

 

「あれっ、センパイ? どうしたんですか?」

 

板チョコの欠片を飲み込む。少しの甘さと苦みが、口の中へと消えていった。

 

「お前、いま何時か分からんのか?」

 

ナイトメアは腕を組んでずかずかと中に入ってくる。時間……? 俺は反射的に壁時計を見て、目を見開く。午後3時10分……。やっちまった。

 

「あっ……」

「そういうことだ。阿呆」

 

冷たい視線と、当然のように吐かれる罵倒。午後3時はおやつの時間ということで、ナイトメアはおやつを要求してくる。とある日はクッキー、とある日はプリンなど、内容は毎日異なる。俺はそれに応えて毎日のように持っていくはずだったのだが……。完全に忘れていた。

 

何を考えていたんだ俺は! ついさっきまでの自分をぶん殴りたくなって、俺は自分の頬を強くつねる。骨なのでもちもちしているわけではないが、かなり痛かった。

 

「まさか忘れていたとはな。いったい何を考えていたのやら」

 

呆然とする俺をそこら辺のゴミを見るかのような視線。痛い。物理的ではないのに、痛い。俺の手から食べかけの板チョコを奪い取ったナイトメアは、隣に座りもぐもぐと咀嚼し始める。こればかりは俺が悪い。

 

「……すみません」

「まあ、このひょこれーとがうまひからひひ」

 

いや、食べ終えてから言ってください。何言ってるか分かんないですから。リスのように頬を膨らませ、板チョコを食べるナイトメアに、俺は心の中で呟いた。

 

「しかし、俺に隠してこんなに旨いチョコレートを持っていたとはな?」

 

板チョコを食べ終えたナイトメアは薄笑いを浮かべて俺を見てくる。この人もチョコレートが好物だ。そこら辺の安いチョコレートじゃ満足するわけがない。

 

「……たまには奮発したくなるんですよ。貴方と同じです」

「俺はいつも奮発してるぞ」

 

そりゃ、理不尽で我が儘だし。なんなら帝王だし。

 

「ところで、お詫びした方がいいですか」

 

俺はベッドから降りて彼の足元に正座する。一応ここは俺の部屋だが、センパイがいるとなると話が変わる。

 

「逆にしないまま終わらせるつもりか? 逃げたって無駄だぞ。お前は俺のものってこと、分かってるよな?」

 

顎にスリッパの先が当たる。

 

「分かってます」

 

それぐらい分かっていた。あの日から、この人に会った日から、俺は逃げられなかった。逃げることを許されなかった。

 

俺はいつも、この人の手のひらで踊らされている。彼が飽きて捨てようとしない限り、俺はずっとこの人に従わなければならない。彼の部下として、手駒として。

 

「なら責任があるはずだ」

 

しゅるしゅると伸びてきた触手が、俺の体を持ち上げベッドへと落とす。流れるように、ナイトメアが俺の体の上に乗ってきた。

 

「……分かってるな?」

「そんなに何度も聞かなくていいでしょ。それぐらい分かってます」

 

何年あなたのそばにいると思ってるんですか。なんて言ってやると、ナイトメアはくすりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は貴方に従うしかないんでしょう?

ね、センパイ?



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31.Killing time(Ink,Killer)

漢字よりも英語の方がカッコいいのでは? ってなった結果、タイトルが英語になってます。飽きて日本語になるまで続けるつもり。

Killing time→暇潰し
翻訳を載せていますが、間違ってたらすみません。
あと今回はバトルシーンがメインです。


赤く染まったナイフを振り下ろす。確実に体の奥に刺さっていく感覚、痺れるような快楽が体をはしる。目の前のモンスターからナイフを抜くと、もうピクリとも動かなくなっていた。念のため、もう一度深く突き刺しておく。蒸発するような音とともに、モンスターは塵となった。

 

「こんなもんかな?」

 

ざっと辺りを見渡す。静まり返った白い大地。気配はなく、終ったなと確信した。座りたくなったので、そこら辺に散らばっていた塵をかき集め、山のように積み重ね、そこに座った。クッションじゃないのが残念だが、そこは目を瞑っておく。

 

「あーあ……」

 

塵の山に埋もれてナイフを回していたとき、どこからか声が聞こえてきた。何事かと辺りに視線を巡らせていた僕は、あるものを見つける。 

 

それは紫色の一本の線だった。太い。ついさっきまで無かったはずなのだが? やがてそれが、山から人の形に盛り上がっていく。あれっ、どっかで見たことあるな、この光景……。

 

「ごきげんよう」

 

頭の隅で記憶をさらっていたとき、紫色の線から盛り上がってきた何かが正体を現す。目に入ってきたそれを見て、僕は懐かしい気持ちになった。

 

まばたきするたびに変わる目。長いスカーフ。そして、いろんな色が入った瓶。間違いない、僕はこの人に会ったことがある。

 

「あっ、ペンキくん! こりゃ奇遇だね」

「……またEXP狩りしてたんだ」

 

笑顔で出迎える僕とは反対に、インクは冷たい声で言い放った。よく見るとインクの目はどちらも白。ソウルレス状態か、道理で突き放すような声なわけだ。

 

「君は本当に殺すことにしか興味ないんだね。自分の快楽のためなら他なんてどうでもいいんだ?」

「そりゃそうでしょ。僕は殺すために存在しているからね!」

 

彼の目は赤くなっていないのに、なんだこの威圧感は。インクは無言で大筆を取り出す。ナイフを握る力が無意識に強くなった。

 

ソウルレス状態のインクに会うのはこれで二回目だが、なんと言うか威圧がぐいぐいと刺さっているような気がする。

 

「君は分かってない。壊されたAUの痛みが」

「あっはは!! 殺人鬼にそれを言ったところで、さ?」

 

分かるわけないじゃん!!

 

僕は地面を蹴って一気に間合いを詰める。そのままナイフを横にはらった。感覚がない、避けられたか。インクは後ろに飛び下がって大筆を構えて振る。青色のインクが飛んで、地面に落ちる。

 

空に上がる水柱。あの青色のインクからそれが作れるなんて、面白い能力を持ってるなペンキくん! 水柱が目の前に迫ってくる。僕も後ろに飛ぶ__。

 

「いたっ!?」

 

背中に鈍い痛みがはしる。振り返った刹那、なぜ鈍い痛みがはしったのか理解する。インクが後ろに回って、大筆を振ったのだ。

 

空中に飛ばされた僕。そのまま水柱へと突っ込み、上へと上げられた。動こうにも、水柱が邪魔して動けない。それに、服が濡れていくのが分かる。まさか、これが本物だなんて! 彼の『描いたものを実体化する能力』は本物だった。

 

しゅっ、という風を切る音とともに、インクが大筆を大きく振りかざして迫ってくる。そのまま決着をつけるつもりか! 大筆が顔に当たる瞬間、僕は近道を使って距離を取る。と同時に、ナイフを振るって水柱を消しておいた。

 

「ちょうど退屈だったんだよね! こりゃ楽しみだ!」

 

びしょびしょがなんだ。楽しめれば問題ないさ。

 

「喋ってる暇があるのなら」

 

インクは目を細めた。

 

「避けることに専念してみたら?」

 

そうはいかない。

 

「避けてばっかじゃ面白くないよ? 今度は僕のターンだね!」

 

さあ始めようか。

 

暇潰しを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

「楽しかったよ!」




バトルシーンって……難しすぎませんか……?
ちなみに最後の「どうだった?」はメア様が言ってます。たまにはバトルシーンも書かないとですね。


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32.Please call(メアシャタ)

最近悩み事がある。

 

「兄さん」

 

シャッターが俺の名前を呼んでくれない。

 

「なんだ?」

「今日はおもしろいことがあったんだ。聞くか?」

 

シャッターはソファーに座って足を組んだ。俺はなぜか顔を反らしてしまう。

 

シャッターが俺の名前を呼んでくれないのは今に始まったことではない。彼が生まれて同居し始めた時から、『兄さん』呼びは始まった。それが何十年と続いて、今に至る。

 

彼と同居し始めて分かったのは、彼がどこかの破壊者並みにツンデレということ。理由もなしに抱きつくことが俺にはあるのだが、その度に冷たい発言を受けている。「やめろ」と言われることも珍しくない。だが、俺はやめない。可愛いから。

 

「……兄さん? 聞きたくないのか?」

「聞くぞ。すまん、少し考え事をしていた」

 

シャッターは不思議そうな表情を浮かべながら、「そうか」と言った。俺は他人の心が読めるが、彼は読めるのだろうか? 仮に読まれていたとすれば……。いや、ないか(ただしシャッターがポーカーフェイスだと面倒だ)。

 

「で、今日は何があった?」

 

本題に入るように促しながら、頭の隅で今日の晩飯を考えることにした。昨日はカレーだったな。

 

「いつも通りさ。堕としたよ」

「そうか、ご苦労さん」

 

オムライス? オムレツ? それとも、和食?

 

「そのなかに、一人の子供がいたんだ。そいつは、親と一緒にいた」

 

シャッターは俺の方を向くことなく口を開く。視線を追ってみると、ただの白い壁だった。顔が歪む。ソウルに黒い渦が巻き始める。晩飯を考えることはやめた。

 

「とても眩しかった。私は思った。それを引き離したらどうなるかと。そして、子供が離れた隙に親に手をかけた」

「どうやって?」

 

この質問は癖になってしまっている。結果よりも、どうやって殺したのかが気になってしまう。即死か、それともなぶり殺しか……。

 

「まずは周りの人間を殺して四人だけしかいないようにする。もちろん死体の後始末なんてしてないから、匂いで気づく。空は暗くなり、やがて光が見えなくなる。そこから、親を拘束して子供が帰ってくるのを待ったんだ」

 

ああ、彼らしい。仮に俺がそこに向かうとすればそうしていたかもしれない。

 

「おそらく異変に気づいたんだろうな。子供が帰ってきた。そこで目の当たりにした、親が拘束されていることに。子供は親の名前を呼ぶが、彼らは反応しない」

 

何故だと思う? シャッターに質問される。考えるまでもなかった。

 

「喉笛を潰したから」

 

そう言うと、シャッターは満足そうに頷いた。けれど、こっちを見ようとはしない。なんでだよ。見てくれたっていいだろ。俺は、お前に……。

 

「何度呼んでも反応してくれない、子供は泣いた。ああそう、喉笛を潰したのは事実だがそれに加えて……」

「シャッター」

 

もう我慢ならない。俺は話を遮って、名前を呼ぶ。「なんだ?」と言ってこちらを向くこ彼の姿が見えた瞬間__。

どさりと押し倒す。一瞬だった。

 

「え……あ、に、兄さん?」

 

流れるようにシャッターの両手首を押さえる。押されられた彼の頬が薄い黄色に染まっていくのを、見逃すはずがなかった。

 

「シャッター、お前は何かが足りないな?」

「何か……?」

 

こりゃ恥ずかしい思いをさせなきゃならないようだ。そうでもしないと俺が満足できない。すっ、と顔を近づけてキスを落とす。

 

シャッターの体がびくりとはねた。僅かに空いた口の隙間に舌をねじ込み、絡ませる。ぴちゃぴちゃという水音と、少しの甘い声が部屋に静かに響いた。

 

適当なところで口を離してやると、彼の頬は見事に黄色で色付けされていた。唇を舌で舐めとり、味を口の中に運ぶ。少し塩っぽかった。

 

「はっ……はあっ……にぃ、さっ……」

「これからお前に課題を与える。……俺の名前を呼んでみろ、そうしたら解放してやらんこともない」

 

自然と口角が上がっていた。シャッターは荒い呼吸を何度も繰り返す。優越感がソウルを満たしていく。彼の開いた両手に、自らの両手を重ねて指同士を交差させる。まるで、恋人みたいに。

 

「……メア……」

「違う。俺の名前、忘れたわけじゃないだろ?」

 

顔の横で低く囁いてやると、シャッターの体がまたはねた。甘い優越感、疼いていたソウルを満たすには充分すぎる。

 

「ないと、めあ……ナイトメア……」

 

くすりと、笑みが漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく呼んでくれた。




生 き て ま す 。
ということで二週間ぶりにどうも、花影です。リアルが多忙で更新がめっちゃ遅れました、すみません。
リクエスト箱は消しました。ノートに書き出したら以外とネタがありましたので。枯渇してきたらまた作ります。


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33.The full moon night(ドリメア)

疲れた……。僕はベッドに沈む。僕は疲れてしまった。肉体的にも、精神的にも。火照る体は冷えることを知らない。扇風機を付けて体を冷やしてからベッドに埋もれるべきだった、なんて頭の隅で考えながらようやく1日が終わりを迎えたのだと実感する。

 

「お兄ちゃーん!」

 

目を閉じようとしたその時、ドアの向こうから声が聞こえてきた。と同時に、ドタドタと廊下を走る音。何か用でもあるのだろうか。正直、今はまともに聞ける自信がない。

 

そんなことを思っていても仕方ない。愛する兄弟の前で『まともに聞けない』なんて言えるはずがないのだ。疲労が溜まった体を起こしてベッドの縁に座る。

 

「入るよ?」

 

僕の返事を待つことなく勢いよく扉が開かれた。

 

星を表すようなレモン色の瞳。太陽のマークが入った黄色のマントは、エメラルド色のシャツの上から軽く羽織っているように見える。その全身から放たれる、幸せのオーラ。

 

ドリームだった。彼は幸福や希望の感情(つまりポジティブ)のガーディアンで、僕の弟。この世界のモンスターやニンゲンと仲が深く、いつも会話している姿を見かける。

 

「どうしたの?」

「満月が出てるよ! 見に行かない?」

 

ドリームは息を切らしながらもそう言った。満月、か。最後に見たのはいつだったか。あの日もドリームに呼ばれて満月を見に行ったような気がする。

 

ドリームは何故か星や月に興味津々で、僕の部屋にある本棚から借りては読み耽る。晩ごはんの時間を忘れてしまうほどに。

 

「うん、見に行こうかな」

 

ドリームに誘われたし、久しぶりに見に行くとしよう。ドリームは「先に行ってるよ!」と言って走って行ってしまった。僕は立ち上がり、部屋の電気を消してふと振り返る。月明かりがぼんやりと部屋に差し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベランダを経由し、スライド式の窓を開けて庭へと出る。手すりに手をかけていたドリームがこちらに振り返った。その顔は少しむくれている。

 

「もうっ、お兄ちゃんったら遅いよ?」

「あれ、そうだった? ごめんね」

 

謝罪の言葉を口にすると、ドリームは太陽のように明るい表情に戻った。ソウルが少しだけぽかぽかした感じがする。これが幸福、なのかな。「早く早く」と急かされ、僕はドリームの隣に移動して空を見上げる。

 

黒い空に、忘れ物のようにぼんやりと光る月。その形は綺麗な丸型。その周りには小さく輝く粒たち。星だった。そういえば今日は雲ひとつなかったはずだ。そりゃ、綺麗な満月と星が見れるわけだ。

 

「綺麗だね」

 

同じように夜空を見上げているドリームが、呟くように口を開く。僕は「うん」と返事をしながらゆっくりと頷いた。こんなに綺麗な満月が見れたのは久しぶりのことだ。火照っていた体はいつの間にか冷えている。

 

「あーあ、ここに団子があればなあ」

「今から作ろうにも、もう遅いからね。食べるとしても、今度かな」

 

…………。会話が続かなくなった。まさか、寝てしまった? そう思った僕は、ドリームの方を見る。彼は何も言わず空を見上げ続けていた。しかし、その目は何だか悲しそうで。口角も、何故か下がっている。何かまずいことでも言ってしまったのかな、僕……。

 

妙な気まずさを感じ、僕は視線を自分の手に落とす。アザが増えている。ああ、見られたくない。僕は袖を伸ばして手を隠す。

 

「……ドリーム」

「っは! ど、どうしたの?」

 

一緒にいるのに、会話がないのは寂しくて。蚊の鳴くような声で呼んでみると、ドリームはびくりと体をはねさせながらこっちを見た。思わず僕も体がはねる。聞こえていたなんて思わなかったのだ。

 

「いや、何でもないよ。呼んでみただけ」

「……そっか」

 

出来るだけ笑顔を作ってみると、ドリームはまた悲しそうな表情を浮かべた。おかしい、今日はドリームが興味津々な満月と星が空に昇っているというのに。やっぱり、何かまずいことでも言ってしまったのかな……。ここにいてはいけない気がしてきた。部屋に戻った方がいいかもしれない。

 

「……ドリーム。僕、先に部屋に戻ってるね?」

「えっ……。うん、分かった……」

 

少し表情を変えたものの、やはり何だか悲しそうだ。こっちを向いたものの、視線は僕から外れている。スライド式の窓に手をかけたとき、背後から「お兄ちゃん」と、声をかけられた。振り返ったその時、暖かいものに僕は包まれていた。

 

……いや、違う。僕は……抱き締められている? ドリームに? そう理解した瞬間、波のように熱が押し寄せてきた。

 

「お兄ちゃん、ありがとう。大好きだよ」

 

僕に向けられる言葉。どこかの本で読んだことがある気がする。好きな人に愛の言葉を伝える、と。その本が正しければ、ドリームは僕のことが……。いや、それはきっと、兄弟として好きなだけなんじゃ。

 

「ドリーム……」

 

なんと答えればよかったのか、僕には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの表情の真相が知りたいような、知りたくないような……。




アンケート設置しました。ご協力していただければ幸いです。
なお、期間は6月1日までとします。

5月2日(日)19:46分 追記
UAが1400突破してました……。お礼書こうとしたら忘れかけてましたとさ。ちゃんと覚えておかないとダメですね。
改めまして、いつも見てくださってありがとうございます! 皆様のほんの僅かな癒し(?)になっていれば幸いです。これからもよろしくお願いします。


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34.酒は人を呑む(エライン)

後半R-15です。


5月のとある日。自分の家であるAnti-voidで、俺はクッションに埋もれながら電話をしていた。電話の主は、闇の帝王と呼ばれて恐れられているナイトメアだ。

 

『いやぁ、あのときのお前の顔と言ったらなあ』

 

スマートフォンの向こうから嘲笑うような笑い声が聞こえてくる。あのときの記憶が蘇ってきて、俺は顔をしかめた。

 

 

 

 

 

 

 

今から数ヶ月前のこと、俺はある人物に恋をしていた。自分とは正反対の立場なそいつに惹かれたからかもしれない。くだらないAUたちを守るそいつと何度も戦うたびに、心に咲いた恋の芽。

 

それは枯れることなく成長を続け、いつしか俺を困らせることとなった。思うたびに、考えるたびに苦しくなって、クッションを泣き濡らしたことだってあった。こんなことは人生で一度もなかったのだ。

 

そんな日々を送っていた俺は、何を思ったのかナイトメアに相談した。迷っていた俺に対して、奴は。

 

『募らせるのは苦しいだけだぞ。告白してみろよ。安心しろ、残骸はちゃんと拾ってやるから』

 

と、言ってきたのだ。そのあと、俺は心を寄せていた相手に告白した。まあこれが受け入れられて、晴れて結ばれたってことだ。

 

そのときの俺はナイトメアから見れば滑稽な表情だったらしく、相談した話が広まり、俺はしばらくの間いじられることとなったのだ。あの野郎、人の恋話を広げやがって。

 

 

 

 

 

 

 

 

『今でも記憶に残っているぞ。ぶっ……ふふっ……ハハッ!』

「ざけンナこのクソ野郎!! お前ガ広げタせいでコチとらいじらレルことになったンダぞ!」

『まあまあ、いいだろ? 晴れて守護者サマと結ばれたんだしな。そのまま末長くイチャイチャしてろよ、破壊者サマ』

 

くたばれやクソが。

 

「……てメェ、マジで覚えてロヨ」

『おー、怖い怖い。あー……そういえば、小筆に会ったか?』

 

小筆……。脳裏に、スカーフを巻いたとある守護者の姿が映し出される。インクサンズ、全AUの守護者。そして、俺の恋人。俺とあいつはいろいろ違う。価値観も、『設定』も……。

 

「いや……最近会っテねぇヨ」

 

最後に会話をしたのは確か……一週間前だったはずだ。最近は忙しいのか、インクはAnti-voidを訪れていない。まさか俺が出向けとか言うんじゃないだろうな。

 

『へぇ、恋人のくせに会ってねぇのか? 今頃どうなってるだろうな』

 

向こう側から伝わる不穏な空気。寒くもないのに背中がぶるりと震える。

 

「……んだヨそのいイ方。まさか、何カしたんじャないだろウナ!?」

『さあな? 気になるなら会いに行ってみればいいさ』

 

またしても嘲笑うような笑い声が聞こえてきたところで、俺は乱暴に電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「インク!!」

 

Doodle Sphere。すべてのAUに繋がる空間で、インクの作業場所兼家。彼はここからAUへと移動している。久しぶりにここを訪れたが、柔らかな風も、ほんのりと光る地面も、何も変わっていない。

 

Anti-voidからグリッチを使ってここに来た。インクの名前を呼ぶが、反応はない。そもそもここにいるという確信はないのだ。クソッ、ドリームに聞けばよかった。後悔が生まれる。しかし、後悔に浸っている時間はない。

 

ナイトメアのあの言い方は、とても意味深だった。まさか、倒れていたりなんか……。その考えを頭蓋骨からはね飛ばそうとするが、否定はできない。あいつはAUを守るという役目がある。自分の生き甲斐のためなら体なんて惜しまないのだ。まったく、不死身は不自由なものだ。

 

ふわふわと浮く扉を勢いよく押して部屋の中に入る。筆やらスケッチブックやら散乱していた。部屋中に漂う匂いに、俺は顔をしかめた。この匂い、酒か。

 

酒に弱いのを知ってるくせにまた飲んだのかあいつは。忘れっぽいにも程がありすぎる。インクの頭に拳骨でも食らわせれば少しマシになるだろうか? なんてことを考えていた俺は、ベッドの上に横たわる物体を見つけた。近寄ってみる、予想通りインクだった。

 

「ありぇ~、えりゃ?」

 

呂律が回ってない。苦笑せざるを得なかった。

 

「久しぶリ……っテ挨拶してル場合じゃネェナ。なにしタんだよお前」

「見りゃわかりゅよ~」

 

いや、分かるけどさ。至るところに酒の瓶が落ちているのはどうなんだよ。

 

「えへへ~えりゃあ~」

 

淡い虹色に染まった顔で、インクは俺の名前を呼ぶ。こりゃ一杯飲んだじゃ済まされない。そもそも至るところに酒の瓶が落ちているんだ、一杯なわけがない。

 

顔が近づいてきたので頬を軽くつまんでみる(接触に対する恐怖はあるが、インクに触れることは平気だ)。インクはふにゃあと笑った。骨のくせに餅のように柔らかいのは気にしないことにする。……酒臭い。

 

「ん~きしゅしたい~」

「いイぞ」

 

ベッドに上がり、インクを押し倒す体制になる。そこから彼の首と後頭部に両腕を回し、顔を近づけると、カツンという軽い音が響いた。一週間ほど会っていなかったんだ、堪能しなきゃもったいない。

 

無防備に空いた口の間に舌を滑らせてインクの舌を絡めとる。少しばかりの甘い声、ソウルが甘く締め付けられたような気がした。インクも、弱々しいが俺の体に腕を回して応えてくれている。

 

それが嬉しくて、インクの頭を優しく撫でてやる。もともと酒で力が抜けていたんだ、口を離したころにはふにゃふにゃになっているだろう。

 

「はぁっ……えりゃあ……気持ちいっ……もっとぉ……」

 

口を離してやると、物足りないのか体を揺らしながらインクはそう言う。その目は蕩けきっていて、瞳孔には桃色のハートが浮かんでいる。改めて見ると、かなり色っぽいな。スカーフは首を隠せてないし、サスペンダーは片方外れてるし。きっと酒で体温が上がっているから少し外したのだろう。完全に誘っているようにしか見えない。

 

「もっとしてよぉ……はやくぅ……」

「欲しイのカ?」

「うんっ……欲しいのぉ……」

 

それが聞けて満足だ。もう我慢する必要もないしな。俺はインクのスカーフを引っ張り、彼の目にそっとのせて頭の後ろで交差させる。

 

「えりゃあ……好きぃ、好きだよぉ……!」

「俺もダ……。愛してル、インク」

 

インクの頬にそっと、キスを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒なら小筆が『飲みたーい』とか言ってたから一緒に飲んでやっただけだぞ。まあ、あいつが先に潰れたけどな。byナイトメア




インクくん受けが美味しいですモグモグ
ということで一週間ぶりにどうもこんにちは、花影です。なんでですかね、エラインだとだいたいインクが誘ってるんですよねえ。メアインはメア様ががっつり攻めにいくんですけども。まあ美味しいから大歓迎なんですけどねモグモグ
※モグモグうるさくてすみません。

リクエスト(提案)箱つくったのであらすじに載せておきます。


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35.In the box(ブルエラ・Dreamswap)

微かな呼吸音がくすぐる。それは何回も何回も続いて、僕は目を覚ました。

 

「ん、んぅ……?」

 

目が覚めた__と同時に僕は目を疑う。目の前に大きな物体。そして何故か、唇に柔らかな感触。白い頭、視界の隅に映る見慣れてしまった服。まさか……。

 

「やあ、お目覚めかい?」

 

ああ、なんで、なんで__。なんで君なの? 緩慢と動いたそれに、僕は目で問う。当然、答えなど返ってくるわけもなく。

 

「なんで……君……?」

 

そう言った瞬間、がしっと首を掴まれる。嬉しそうに細められていたその目は、一瞬で鋭い刃物のような目付きに変わった。と同時に、空気も変わった。

 

「『なんで?』面白いことを言うのは相変わらずだね、エラー? そんなにボクのことが嫌かい?」

「嫌、にっ……ぎまっ、で……」

 

僕が一番嫌いな人物……ブルーは僕の首を片手で絞めながらそう言った。せめてもの抵抗、僕はブルーの手を両手で掴むが、びくともしない。反論の声が、掠れて消えていく。と同時に、息も、くる、し……い……。

 

「ふふっ、だろうねぇ」

 

意識が飛びかけたその時、いきなり手が離された。口の中に酸素が洪水のように流れ込んでくる。必死に酸素を貪る僕を、嘲笑うかのようにブルーは見下ろす。

 

「かはっ! げほっ、ごほっ……」

 

咳が止まらない。ソウルが爆発しそうなほど脈打っている。これがいつものこと、ブルーが僕に注ぐ『愛情』。こんなの、愛情なんて言わないのに__。そんなことは口が裂けても言えない。もし言えば、どんなことになるか……。

 

「酸素の補給は済んだかい?」

 

ブルーは僕の両手首を掴み、押さえつける。恐怖が、また生まれていく__。逆らっちゃダメだ。今はギリギリのところで離されたが、次はきっと瀕死か、それともなぶり殺しか……。

 

「ね、ねぇ……一つ、聞かせて?」

「ん? なーに?」

 

妖しい笑みを崩すことなく、ブルーは首をかしげる。ああ、中身を知らなければ、まだマトモと捉えられたのに。

 

「ここ、どこ、なの……?」

「さあね、ボクも知らないよ。ただ……狭いから、箱とかロッカーの中じゃないの? それはそうと……今、自分がどんな立場に置かれているか、分かる?」

 

耳元で囁かれる。恐怖心からか、体が跳ねた。顔のすぐ横で、クスクスと笑い声が聞こえる。視界に映るブルーの背中。ああ、押し倒されてるんだ、僕。

 

そうと理解した瞬間、息が切れていく。何をされるのか分からない恐怖が、ただただソウルの鼓動を早くしていく。

 

「ああ、ようやく分かったんだね。理解するのが早くて助かるよ」

「何する、つもり……なの」

 

僕の体を弄ぶことが大好きなブルーのことだ。きっと、あの境界線が消えていくまで__。

 

「言うまでもないでしょ?」

 

ゆっくりとシャツが捲られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狭い空間に二人きり。最高だと思わないかい?




短くてごめんなさいっっっ!!
ということでブルエラです。個人的にDSエラー様は受け派です。


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36.出会いは雨から(Error,Nightmare・Dreamswap)

寒い。ただひたすらに寒い。それでも足は止められない。雨の中、僕はただひたすら走っていた。頭蓋骨に反響するのは地面に落ちる雨の音と、水が重なる地面を走る音、そして、喘ぎにも近い自分の呼吸音だけ。

 

あの家から走って、今どれ程の時間が経っただろうか。逃げ出そうと決意してからどれ程走ってきただろうか。既に体力は限界を迎えている。自分の体力の無さに涙が出そうだ。

 

でもこればかりは仕方ないんじゃないのかと、頭の隅っこで思う。ブルーに手錠やら足枷やらつけられて閉じ込められていたんだ。さらには部屋から出ることも許されなかった。体力が皆無に等しくても仕方ない。

 

ブルーは今ごろ何をしているのだろうか。僕が逃げたことに気づいて、追いかけて来ているのかもしれない。そう思うと、容赦なく降る雨の音が彼の笑い声に聞こえてきて、僕は怖くなった。

 

もし見つかってしまったら? 僕はまたあの家に戻ることになる。きっと、手錠や足枷をつけるだけじゃ終わらないはずだ。きっと彼は僕を__。脳裏に広がる恐ろしい想像、僕は頭を大きく振ってその想像をはね飛ばした。

 

『大好きだよ、エラー』

 

そう言いながら首を絞めてきたブルーの表情は、とても黒かった。妖しい笑みを浮かべながら、ギリギリと絞め上げていくあの姿は、嫌でも脳にこびりついてしまっている。

 

怖い、怖い。早く逃げなきゃ。行く宛なんてない。とりあえず逃げれればそれでいい。そんな考えだった。

 

ふと__。

 

「あっ__」

 

どすん。

 

僕は地面に倒れていた。冷たい。寒い。水が服を浸していく。足が縺れたのだろう。一瞬、宙に浮いたようなあの感覚は、ほぼ間違いない。雨が容赦なく僕の体に降り続ける。

 

こんなことしている場合じゃないのに。ブルーが追いかけて来ているかもしれないのに。休憩を欲しがる僕の体は起き上がろうとしない。雨音が強くなっていく。どこか遠くで、ゴロゴロという不吉な音まで聞こえてきた。

 

ああ、このまま死ぬのかな、僕。周囲には誰もいないし、家という家もない場所だ。誰にも知られずに死んでいくのにはちょうどいい。だけど……生きたい。死にたくないよぉ……。誰か、誰か気づいて__。

 

凍えるほど寒い。体温が無くなっていくのが嫌でも分かる。さらに強まる雨は、止む気配を見せない。限界を迎えた僕の足は動くことをやめた。ぐうぅと、お腹が鳴る。そういえば食べてこないで走ってきたんだっけ、僕……。ああ、お腹空いた……寒い……。何か食べたいなあ……。こんな淡い願い事が受け入れられるものなのかも知らず、僕はただただ願いながら目を閉じた。

 

 

 

「大丈夫?」

 

大雨の中、誰かの声が聞こえた気がした。何故か、雨が当たる気がしない。僕はゆっくりと目を開く。そこには、誰かが立っていた。不思議そうな顔で僕を見ている。その目は鮮やかな藤色で、黒と紫のコートを羽織っていた。

 

「……さむ、い……」

「全然大丈夫じゃないね!? ほら、俺が送るから立てる?」

 

その人が伸ばしてきた手。僕も手を伸ばしたところで、引っ込めてしまった。その人は首をかしげる。

 

「……どうしたの?」

「あ、いや……その……」

 

心に巣食う恐怖が囁く。

 

「ごめん……ちょっといろいろあって……」

「……そっかあ。でも、風邪ひくよ?」

 

その人は、コートを脱いで僕に差し出してきた。古そうなケープがあらわになる。その下には黒い七分丈ぐらいのシャツがのぞいていた。

 

「……いいの?」

「放置する趣味なんかないからね。それに、困ってる人は見過ごせないから」

 

僕はゆっくりと身を起こして立ち上がる。……身長、僕より低いな、この人。そんなことを軽く思いながら僕はそっとコートをもらって羽織る。驚くほど温かい。これが人の温かさなのか。じわりと涙がこぼれる。

 

「わわっ!? ごめん、泣かせちゃった!」

「あっ、いや……そうじゃなくって……その、温かいなって……」

 

凍えるように冷たかった体温がじわりと温かくなっていくのを感じた。

 

「そっ、そっか! そういえば……君、家どこなの?」

「家……?」

 

周りの音が、いきなり消えた気がした。家? ブルーと過ごしたあの場所? あれは違う。だってあの場所は……家なんて呼ばない。

 

「……ね、ねえ? 大丈夫?」

 

ふっと我に返る。音が急に戻ってきた気がした。

 

「……家なんてないよ」

「……え? どういうこと?」

「僕にとっての家はないの。だから、帰る場所なんてない」

「……そう、なんだ。…………分かった」

 

しばらくの沈黙のあと、その人は胸の前で両手を合わせる。パンッという小気味よい音が響いた。

 

「よかったら僕の家に来ない? 酒好きな奴がいるけど、いい奴だし君にとっては楽しいと思うんだ。別に嫌なら嫌って言ってもいいよ」

「……地味につけこんでない? 確かに帰る場所なんてないって言ったけど……」

「あははっ、そんなわけないよ! で、どうする?」

 

選択が迫る。今ここで行くと言えば、僕はこの人の言う『家』に入ることになる。この人の言う家がどういうものか分からないが、会話を交わすなかで、彼はいい人だなと感じている。

 

今ここで行かないと言うのなら、僕はきっと__。考えるのはやめよう。あの場所に帰るぐらいならこの人についていったほうがマシかもしれない。少なくとも、ブルーのようにひどい扱いはされないだろう。……多分。

 

「……分かった、君について行くよ」

「おっ、待ってたよ! それじゃあ、行こっか」

 

明るい笑顔を浮かべたその人に、僕はついて行くことになった。いつの間にか、雨は止んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、その人の名前はナイトメアと言うらしい。  Errorの日記より抜粋



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37.Ture Happy End(ドリメア)

最初の部分は絵本の雰囲気を出すためにすべてひらがなにしています。読みづらいとは思いますがご理解いただけますと幸いです。


Dreamtale

 

むかしむかし、とあるせかいに、ふたりのきょうだいがいました。

 

かたほうはしあわせなかんじょうのガーディアン、もうかたほうはぜつぼうのかんじょうのガーディアンでした。

 

しあわせなかんじょうのガーディアンはドリーム、ぜつぼうのかんじょうのガーディアンはナイトメアというなまえでした。

 

ドリームはとてもかんだいで、ニンゲンやモンスターからこのまれ、あいされていました。

 

ナイトメアはとてもおとなしかったのですが、ニンゲンやモンスターからいじめられていました。

 

それはひにひにエスカレートし、ナイトメアのこころをむしばんでいきました。

 

それをしったドリームは、ニンゲンやモンスターにナイトメアをいじめるのをやめるようにいいました。

 

さいしょはきくみみをもたなかったかれらでしたが、しだいにみみをかたむけるようになりました。

 

そして、ナイトメアをいじめることをやめて、かれにあやまりました。

 

さんざんいじめられていたナイトメアでしたが、ドリームがやめるようにいったことをしり、かれらをゆるしました。

 

こうして、Dreamtaleにへいわがおとずれたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小鳥の鳴き声が聞こえてくる。ふわふわとした意識が少しずつ冴えていく。僕は目を覚ました。身を起こす。

 

「あっ、起きた! おはようお兄ちゃん!」

「ん……おはy」

 

おはようと言おうとした口が、柔らかいものによって塞がれる。ぼやけた冠、閉じられた目。僕の背中に回された手が、物欲しそうに撫でる。唇に当たる甘い感触。覚めて間もない意識がはっきりとした。と同時に体温が上がっていく。

 

「っは……驚いた?」

「……もう」

 

そう、ドリームにキスされていたのだ(本人はおはようのキスとか言っている)。起きるたびにされるので慣れてしまった。……正直、これが好きとは口が裂けても言えない。言えば多分、僕の体はベッドに沈められるだろう。ドリームの積極性はここにも現れている。

 

「かーわいい♪」

「……飽きないね」

「ん、なあに?」

 

部屋を出ようとしたドリームがこちらに振り返る。ベッドに乗り、僕の上に乗ると、その細い指で僕の顔に触れた。真正面から見つめられ、目を反らしたくなる。しかし、ドリームは僕の顔に指を這わせたまま離そうとはしない。

 

「もうちょっとしてもらいたかった? それとも……」

 

動いたかと思えば、僕の顔の横で。

 

「ボクの舌が欲しかったの?」

 

いつものドリームの声とは思えない、低くて、それでも甘い声。肩が跳ねる。背中をぞくりとしたものがはしった。

 

「……そこまで、じゃ、ない、から……」

「そっかあ」

 

普段の声に戻ったドリームは僕の顔から手を離して、ベッドから降りる。ぐうぅと、僕のお腹が鳴った。

 

「……お腹空いた」

「一緒に作ろっか。下で待ってるよ。ああ、あと……」

 

ドアノブに手をかけながら、ドリームが振り返る。その表情は妖しく、妖艶で。

 

「お兄ちゃんが望むならしていたよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を食べ終えた僕たちは外に出る。白い大地と大きな木は相変わらず存在していた。空は青く、雲が飾り付けのように浮いている。

 

「みんなおはよ~!!」

 

広場の周りにいる住民たちに向かって、ドリームは大きく手を振った。つい先程までの妖艶っぷりはどこへやらと思いながら、僕も小さく手を振る。

 

「おお、おはようさん!」

「あ、ナイトメアが手ぇ振ってるんだけど! かわいい~」

「かわいい言わないで!?」

「ね、お兄ちゃんかわいいでしょ?」

「もう、やめてってば!」

 

広場について早々、いじられる。でもこれはいじめとは違う。ぽかぽかしていてとても心地よい。あの頃とは大違いだ。まだ少し怖いけれど、謝ってくれたのなら。

 

「まあまあそんなに怒りなさんな、ナイトメア」

「……も~。分かったよ」

「今日はなにして遊ぶの?」

 

ドリームの目は好奇心に満ちていた。

 

「ん~、特に何も考えてないんだよねー。テキトーにふらふらする?」

「それいいね!」

 

空に向かって大きく手を掲げたドリームが、僕の手を引っ張る。思わずよろけてしまったけれど、立て直した。

 

「行こっか、お兄ちゃん!」

「……うん!」

 

今日もいい天気だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この幸せが、ずっと続きますように。




どうしてこうならなかったんだああああああ
どうも花影です。ずっと一週間ぶりにとか言ってますがこれから無くします。ずっとこれなので。
彼らにとってのハッピーエンドはこれだったかもしれませんね(特にメア様)。
ちなみにもう一つ投稿している小説があるのですが、あれは削除するかまた書き換えるかします。
衝動的に書くのはやめましょう(自分に対する発言)。


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38.Body Pillow(シャタイン)

Body pillow→抱き枕


ポータルから出た僕を迎えたのは、白い大地と切り株。Dreamtale。数あるAUの中でも悲惨な運命を辿ったAU。そして、ドリームとナイトメアの生まれ育った場所。

 

この世界に来るのはいつぶりだろうか。ドリームとどうでもいいような会話をしてから……んーと……思い出せないや。

 

何の用事があってここに来たんだっけ。僕はスカーフを手に取る。僕にとってのメモ帳。忘れないようにするための対策。僕は記憶力が壊滅的すぎる。そのせいでエラーに何回ぶん殴られたことか……。スカーフのはしっこには、『ドリームに会いに行く』としか書かれていなかった。

 

会いに行くだけじゃ分からないってば(というか日にちが書かれていないのは何故だ?)。少し前の自分に文句をつきながら、僕は白い大地を歩く。この世界は感情を司る世界のはずだが、静寂に包まれている。響くのは僕の足音だけ。切り株の上に、月の形が彫られた冠が置いてあった。僕はそれを手にとって眺めてみる。

 

見事な金色に、黒色で彫られた三日月。その色合いがなんとも言えず、僕は時間を忘れるほどそれを眺めていたが、用事を思い出して冠を切り株の上に置いて身を翻す。

 

「……ん?」

 

ふと、後ろから気配がして振り返る。目に入ったのは、切り株と先程の冠。誰かいたような気がしたのだが……。気のせいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dreamtaleに入ってから何時間経っただろうか。道が分からずただぶらぶらと歩いていた僕は、童話に出てきそうな家を見つけた。ここまで来るのに、どのくらい時間をかけたのか忘れた。森の中をひたすら歩いていた記憶ならあるが。

 

それにしても足が痛い。歩きすぎちゃったかな、この世界広すぎるよ……。そんなことを今さら思っても仕方ないので、僕は洋風な家のドアをノックする。

 

「ドリーム? いる~?」

 

何回かノックするが、反応はない。時間を間違えてしまったのだろうか? ためしにノブを引いてみると、ドアはゆっくりと開いていった。首をかしげる。なんで開いているんだろう? 鍵でもかけ忘れたのかな? とりあえずお邪魔するとしよう。

 

「お邪魔しまーす」

 

洋風なだけあってか、家の中は落ち着いていながらも高級な雰囲気が漂っている。玄関の棚の上には、写真立てが一つ。手にとってみる、写真の中には二人。一人は水色のシャツと青色のズボン、そして黄色のマントを羽織っている。もう片方は、紫色のシャツとズボンに身を包んでいる。

 

片方はドリーム、もう片方は……ナイトメア……。それも、豹変する前の姿……。この世界で起きた惨劇。僕が会って間もない頃のドリームは泣いていた気がする。思わず笑いがこぼれた。

 

仕方ないでしょ、クリエイターが決めたことなんだから。なんてかわいそうな兄弟。この世界も、結局は作られた世界。クリエイターには抗えないのだから、従うしかないのにね。写真立てを棚に戻す。

 

「ドリーム~? いないの~?」

 

いるのかと思って来たのだが、反応がない。もしかして寝ているとか? となれば寝室か。でも、僕はこの家の構造を知らないのでしらみつぶしに寝室を探すしかないようだ。

 

僕は玄関に入ってすぐの扉に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとは二階だけっと……」

 

玄関に戻ってきた僕は呟く。一階にはリビング、洗面所やお風呂場があるだけで、寝室はどこにもなかった。となれば、二階ぐらいしかない。僕は二階に続くであろう階段を上っていく。

 

廊下に出た。突き当たりにはいたって普通の扉が一つ。その途中にも扉が一つある。二分の一かあ。とりあえず一番近い扉から開けていこう。僕は一番近い扉のノブに触れて向こう側へと開く。ゆっくりと開かれた扉の向こうはぼんやりとした闇に包まれていた。

 

部屋の中に入る。暗いが、周りが完全に見えないほどではなかった。本棚に机にぬいぐるみ。まるで子供部屋みたいだ。動物のぬいぐるみが、棚の上にきれいに置いてある。

 

「ドリーム~?」

 

天井から宇宙をイメージしているであろうモビールが下がっている。なんか、ドリームっぽいな。もしかしたらナイトメアの部屋なのかもしれないけど。

 

部屋をうろうろしていた僕は、微かに聞こえてくる呼吸音で動きを止める。集中して聞くと、本当に微かにすーすーという呼吸音が聞こえた。この部屋に誰かが寝ているらしい。ドリームかな? 部屋のあちこちに視線をさまよわせていた僕は、ベッドの上に誰かがいることに気がつく。

 

頭の冠。肩が出た衣装。……ドリーム? と思ったのだが、一つ引っ掛かることがあった。……体の色だ。黄色で縁取られていながらも、その体は黒い。まるで今のナイトメアのように。

 

「ドリーム……なのかな?」

 

見た目はドリームっぽいけど……。どうなんだろう、起こしてみようかな? 僕はベッドまで近づき、肩に触れてみた。ドリームらしき骨は少し唸った。

 

やがて、その目がゆっくりと開かれた。今気づいたのだが、左目に液体らしきものが垂れている。

 

「ん……」

「あっ、おはよう!」

 

足が痛むが、出来るだけ元気そうに振る舞ってみる。

 

「……誰だ、お前」

 

……え? 誰だ、お前? この子はドリームじゃないの? ドリームの姿をしてはいるが、明らかに顔を歪めている。不機嫌なのだろうか。

 

「私の睡眠の邪魔をするとはいい度胸じゃないか。誰なんだ、お前」

 

ええええええ!? なんかいろいろと違うんだけど!?

 

「僕はインク! 君は、ドリーム……?」

「インク……ああ、なるほど、お前がインクか。兄さんからいろいろ聞いているよ」

 

兄さんって誰のこと……? いろいろと疑問がわくけど、とりあえず、この子は僕のことを知ってるらしい(彼の言う兄さん経由で)。

 

「私はシャッタードリーム。言っておくがドリームとは別人だ」

 

あれ、別人なんだ。にしては容姿がそっくりなんだけどなあ。液体らしきものが垂れた左目等を除けば。

 

「なんて呼べばいいのかな? シャッターとか?」

「他からはそう呼ばれてるからそう呼ぶなりしろ。私が分かればそれでいい」

 

シャッターは不機嫌な表情を隠そうともしない。僕は睡眠の邪魔をしてしまったらしい。これ、代償とか待ってるんじゃ……。何故か背筋が震えた。

 

「とりあえず自己紹介は済んだところで、だ。お前は私の睡眠の邪魔をした。それは分かるな?」

「うん、見てすぐに分かったよ……」

「なら埋め合わせが必要だよな?」

 

シャッターの口角が上がった。あー、これはダメみたい。馬鹿と言われてる僕でも分かる。これは確実に代償を払わないといけないパターンだ。何を要求されるんだろうなあ……。

 

「来い、私の抱き枕になれ」

 

シャッターは人差し指を自分の方に返すようにクイッと動かす。なんというか……ドリームに似てるけど、シャッターは別人って言っていた。お互い、似て非なる存在ってわけか。

 

「……ちなみに拒否権は?」

 

晴れた空から急にどしゃ降りの雨が降るかのように、シャッターの表情が変わる。

 

「あるわけないだろ。睡眠の邪魔をしておいて逃げるというのか?」

 

だよね、そんな気はしていたよ。諦めた僕はシャッターに近づく。

 

「来たのはいいけど、どうしたrうわっ!!??」

「軽いな」

 

体が宙に浮いたかと思えば、そのままベッドに叩きつけられる。加減なしか、シャッター……。どうやら触手に捕まってこうなったらしい。彼の背中に細長くてうねうねしたものが戻っていくのが見えた。

 

シャッターはベッドに横になる。僕も(強制的に)横になっているため、彼と向かい合う形になる。こうやって向かい合うのはいつぶりだろう……。

 

「……なんか、添い寝みたい、だね……?」

 

ああああなんで照れてるの僕!! めっちゃ声が上ずってるしなんならちょっと暑いし!

 

「……だな」

 

僕の背中に回された手。聞こえてくるのはソウルの脈打つ音。そうか、僕とは違ってソウルがあるんだ。そりゃそうか、ソウルレスなのは僕ぐらいしかいないし。……じゃなくてだよ。なんで冷静になってんのさ僕。ソウルがないからかな。

 

「ふむ、悪くない」

 

どうやらシャッターは気に入ったらしく、引き寄せたまま目を閉じた。……逃げないように地味に僕の体に触手が巻き付いているのは気にしない方がいいのかな。というか逃がす気微塵もないよねこれ。

 

「……しばらくこれかあ」

 

僕の呟きが、彼に届いたのかは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにこのことがナイトメアに知られていじられるのはちょっと別のお話。




シャタイン流行りませんか?(唐突)
ということでどうも花影です。もう一個投稿していた小説は消しました。やっぱり衝動的に書くのはダメですね、ちゃんと考えてから作るべきだった。
リクエストあれば活動報告に書いてくだされば(駄目なものじゃなければ)執筆します。
活動報告ではちょっと……という方はメッセージでどうぞ。


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39.望みを叶える(エライン)

追記 10月8日(金)
pixiv様にも投稿させていただきました。
リンク→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16181337


「エラー?」

 

また君の名前を呼ぶ。けれど、君は聞こえていないかのように黙々と手を動かし続ける。赤い丸渕メガネの下で鋭く光る目、どうやら集中しているらしい。いくら恋人とはいえ邪魔すると怒られそうなのを察した僕はクッションに埋もれた。

 

ErrorSans。AUの破壊者で、守護者の立場である僕とは対立関係にある。けれど、僕たちは付き合っている。端から見れば謎だろうけど、そんなことはどうだっていいのだ。

 

ツンデレだけど、優しくて可愛くて料理や裁縫も上手なエラー。正直文句なしと言いたいところだけど、僕は一つだけ言いたいことがある。

 

恋人なら恋人らしく、あれこれしたい。

 

例えば、手を繋いでみたりハグしてみたり、なんならキスもしてみたい。その先は……まだ早いだろうけど。でも、僕はエラーとイチャイチャしたいっ!! って思うのはいいことなんだろうけど、問題があって。

 

彼は接触恐怖症持ち。触られたり、近づかれることを極端に嫌っている。付き合いはじめて3ヶ月ほど経つが、未だに手を繋いだことがない。

 

僕が近づくことは大丈夫らしいけど、触れるとなるとすごく嫌がる。恐怖症ということだけあって、簡単には克服できない。

 

それでもだよ。僕はエラーとイチャイチャしたいの! 恋人らしいことしたいの! いっそのこと僕から仕掛けても悪くないと思うけど、それで嫌われるなんて真っ平ごめんだ。下手したら休戦条約を破られかねない(まあそんなことしないと思うけど)。

 

「エラー? 聞いてる~?」

 

ちょっと時間が経ったし気づいてくれるかな、なんてことを思いながら声をかけるが、やはり返事なしだ。にしてもすごい集中力。集中がすぐ切れる僕とは全然違うや。

 

……ん、待てよ。これ、頬にそっとキスできるんじゃ?

エラーの横顔を眺めながら僕は思った。彼は裁縫に集中している状態。キスしたせいで怒られるかもしれないけど、悪いのは恋人らしいことをしてくれないエラーなんだからね! 理由を頭に詰め込み、僕はエラーの頬にそっとキスを落とす。かつん、という軽い音が空気を揺らした。

 

その瞬間、エラーの手が止まる。まるで、時間が止まったかのように。もしかしてフリーズしちゃったのかな? でも、ERRORの文字は周囲に表示されていないし……。ためしに僕はエラーの前で手を振ってみる。

 

反応がない。本当にフリーズしちゃったのかな? もう少しだけ手を振ると決めて、振ったその時__。

がしりと手首を掴まれた。

 

「……あれ?」

「何をしテいる」

 

あっ、反応した。相変わらず、ノイズ混じりの声だが、僕はそんな声も好きだ。エラーは僕の手首を掴んだまま、離そうとしない。

 

「何って……反応してるか気になったから。それよりも、僕がキスしたの気づいてた?」

 

インクの目にクエスチョンマークが浮かぶ。ああ、そんな目もいとおしい。

 

「気づイてる二決まっテるだろ」

 

インクの手首を引き寄せる。彼の体は自然と、俺の方に傾く。裁縫道具を放り投げてインクの頭に手を置きながら、引き寄せられたその唇に食らいつく。ソウルがきゅんと締まったような気がする。

 

「ふ……んっ……」

「……舌ダせよ」

 

欲しいがままに言うと、インクは虹色の舌を出した。どうやら、欲しかったのは俺だけではなかったらしい。舌を掬うように弄び、口内で何度も絡める。

 

「んぅ、はっ……え、りゃ……」

 

くぐもったインクの声と、粘着性の水音が俺に満足感を与えていく。そのお返しと言うように、快楽を返す。頭から手を離し、スカーフの結び目に触れる。この体勢じゃしづらいことに気づいた俺は一旦口を離す。

 

「ふはっ……おわら、ないで、よぉ……」

「別二終わラせるタめじゃナイ」

 

スカーフの結び目に両手を添えて外すと、派手な音をたてた。白い脛椎が露になる。縛りや目隠しにしてやるのも面白いが、それは次のお楽しみにでもしておこう。そう決めた俺はスカーフを放り、インクをクッションに押し倒す。その目は桃色のハート。……期待しているらしい。ナニとは言わないが。

 

「……してくれるの?」

「恋人ノ望みは叶えルもんだロ?」

「……そうだね。いいよ、エラーの好きにして」

 

インクはふにゃあと笑いながらサスペンダーをはずしていく。そこまで言われちゃ我慢なんていらないよな。俺の欲望のままに、好きにさせてもらうとしよう。

 

インクが望むのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知ってタぞ、お前の望みグらい。




最近エラインが尊すぎる、花影です。
誰かエラインの漫画描いてくださらないですかねぇとか考えながら生きてます。デジタルは難しい、誰か画力を私にください。

そういえばしおりが3件になりました。と同時にUAが1700突破してました。わお、すごいことになった……。皆様ありがとうございます!


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40.ボクだけの(ドリクロ):*

ヤンデレです。ヤンデレドリクロってあんまないんですね……。

追記 2022/01/10
pixivにも投稿させていただきました。
リンク→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16778530


「センパイ? センパーイ?」

 

おかしい、どこにもいない。焦りが身を焦がす。

 

とある日を境に、ナイトメアはいなくなった。1日だけならまだしも、もう何週間も帰ってきていない。闇AUの家から飛び出した俺はナイトメアがいるであろうAUに飛んで探し回っていた。

 

Underfell、Helptaleなどなど……。思い付く限りのネガティブなAUに入り込み、聞き込みも行っているのだが、誰一人としてナイトメアの姿を見た者はいないという。

もちろん、キラーやインクにも聞いてみたのだが収穫はなく、俺は半分諦めながら彼を呼んでいた。

 

足が止まる。ずっと歩き続けたせいで、俺の足は限界を迎えかけているらしい。元ロイヤルガードが情けない。自分を嘲笑いたくなった。

 

ナイトメアは見つからない、誰も姿を見ていない、つまりは行方不明なのだ。もちろん、彼の部屋を見てみたが書き置きなどは一切なかった。俺の部屋にもそれらしきものはなかったし、なんなら電話すらもなかった。

 

『旅にでも出たんじゃないの~?』

 

首をかしげながらそう言うキラーの姿が脳裏をよぎる。以外とあり得そうだった。あの人は気まぐれだ。何も言わずに地上に出向くことがある。旅に出ていてもおかしくはなかった。

 

「どこにもいない……。……あっ」

 

もう帰ろうかと思っていたその時、俺はあるAUを思い出した。こんだけ探してもいないということは、あの人は『あの場所』にいるのかもしれない。……でも、あの人はあの場所に行くことを嫌っていたはずじゃ……。

 

いやいやいや! 分からないだろ! 俺は激しく首を振る。もしかしたら里帰りしているのかもしれないし、そこにいるのなら、連れて帰ることはできるはずだ。ここは懸けるしかない!

 

「……頼むからそこにいてくださいよ、センパイ……!」

 

細く息を吐いて、俺は指を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dreamtale、ドリームとナイトメアが生まれ育った場所。これだけ探してもいないということは彼はきっとここにいる。確証などないが、俺はそう思っている。

 

少し先に人影が見えた気がして、俺は目を凝らす。太陽がデザインされたマントが見えた。あの後ろ姿は……ドリームだ。

 

「ドリーム先輩!」

 

俺は悲鳴を上げ始めた足に鞭を打って走った。マントが翻り、俺に後ろ姿を見せていた人物がゆっくりと振り返る。レモン色の瞳、金色の冠、やっぱりドリームだった。

 

「あれっ、偶然だね。どうしたの?」

 

ドリームはニッコリと笑いながら手を振る。何故だろう、彼の笑顔が作り笑いのように感じられた。

 

「センパイをっ、見て、ません、か……?」

 

ああもう情けなさすぎるだろ俺。自分に対する愚痴を心に押し込み、俺はすがるように口を開いた。

 

「センパイ……? ああ、メアのことね。メアならここにいるよ?」

 

そう言って、ドリームは横にどける。現れた光景に、俺はごくりと唾を呑んだ。

 

地面に広がる黒い液体。墨でも溢したのかと一瞬思った。けれど、液体はゴポゴポという音をたてている。恐る恐るドリームの方を見る。彼の服に、黄緑色の染みがついていた。まるで、返り血を浴びたかのように広がっている……。

 

「あの……これっ、て……」

「君が大好きなご主人様だよ」

 

ドリームは満面の笑みを浮かべる。でも、それは純粋な笑いでも何でもなかった。だって、本当なら、彼の笑みは誰でも幸せになれそうなほどに暖かい笑みなのに……。今はとても、背筋が凍りそうな……。

 

「ねえクロス」

 

ドリームは、地面に広がった黒い液体の上から黄色い液体を落とす。蒸発するような音がして、黒い液体は消えてしまった。

 

「君は、ボクにとってとても欲しい存在なの」

 

ドリームは一歩詰めてくる。

 

「それなのに君には近づけない。何故だか分かる?」

 

俺は後退りながら、首を振った。

 

「わかっ、らない、です……」

「ふふ、そっか。教えてあげるよ、君はみんなから愛されてるんだよ」

 

一歩下がれば、彼は一歩詰めてくる。

 

「それはボクを嫉妬させるには十分だったの。だからね、君の周りのいらないモノはぜーんぶ、消しちゃったんだ♪」

 

ああ、そんな……。そのなかに、センパイも……。

 

「ああいいねその表情……。たまらないね、好きだよ……ふふふ……」

 

ポロポロと何かが溢れてくる。涙だった。いろんな感情がソウルの中で交差する。

頑張って探してきたのに、まさかこんなことになっていたなんて……。

 

「あ、ああ……」

「大丈夫だよ、安心して」

 

次の瞬間見えたのは、黄色い二つの星だった。

 

「クロスはずーっと、ボクのものだから♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰にも渡さない、ボクだけのクロスだから。




待たせたなぁ!!(大声)ということでお久しぶりです花影です……。前回の更新が6月6日でした、はい。
言い訳しますとこっちの事情です……。決してサボっていたわけではないのですよ。
はい、それはさておきまして。私、pixivでも活動開始しました!
UPL載せておきますのでよろしければ!
https://www.pixiv.net/users/69979292

あと、UAが1900突破しました! まさかそこまでいくとは思いませんでした……。これからもよろしくお願いします!
クロスくん受けを流行らせたい(小声)。


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41.ご主人様(メアクロ)

後半はR-15気味です。クロスくんがメイド服着てます、ご注意を。


「ちょっとセンパイ正気なんですか!?」

 

真っ昼間の部屋の中に、俺の絶叫(?)が響く。ぼんやりとしたその部屋の中で、ナイトメアが顔を歪めたのが見えた。

 

「うっせぇな、黙って従えって」

 

反論の声を上げる俺に対して、ナイトメアは手に持ったワンピースらしきものを押し付けてくる。いいや、それはワンピースらしきものとは言わない。彼が手にもっているのはメイド服で、これを着ろとさっきからせがまれているのだ。

 

「俺の言うことは絶対聞くってこの前の夜に誓ったのを忘れたのか?」

 

不機嫌そうだった表情が一変、いやらしい笑みへと変わっていく。

 

「この前の夜ってなんですか!? センパイとそんなことをした記憶はありませんよ!」

 

一瞬、言葉にするにはあまりにも恥ずかしすぎる光景が脳裏をよぎる。

 

「この前の夜はほっといて、俺の言うことは絶対聞く約束じゃなかったのか? 主従関係を結んだときのこと、忘れたのかよ」

 

いやらしい笑みを浮かべていたナイトメアの表情が一瞬にして不機嫌そうな表情へと戻る。(元)感情の守護者だけあってか、コロコロと変わるなこの人。

 

「あれを結んだのって確か……」

「お前が白い世界で叫んでいたときだったろ」

 

ナイトメアは面倒くさそうに手を片方の手を振った。

 

「それはどーでもいい。さっさとこれを着ろ」

 

そう言ってメイド服を押し付けてくる。俺は少しずつ後ろへと下がるがそれに合わせるように彼は少しずつ近づいてくる。

 

「嫌ですよ! いくらセンパイの命令だったとしても!」

「つまらねぇ男だな。そんなんだからモテないんだろ」

 

つまらないって言うな。あとモテないって言われてもよくわかりませんから俺。

 

「ったく……。そこまで拒むなら俺が脱がしてまで着せなきゃいけないな」

 

ナイトメアの口角が上がっていくのが見えてしまった。脳内に警鐘(けいしょう)が鳴り響く。

 

「いいのか? それ以上拒むなら無理やり脱がすぞ?」

 

寒気がして、俺は自分の体を守るように両腕を回した。

 

「冗談……ですよね?」

「ほーう、つまり脱がされたいと」

「すいませんなにも言ってませんっ!!」

 

ヤケクソだ、もうどうにでもなっちまえ。俺はメイド服をひったくる。

 

「着たくなったのか?」

「……勘違いしないでください。貴方に脱がされるよりかは自分で着替えた方がマシですから」

 

俺はメイド服を見る。白いフリルや短めのスカートは男である俺にはとても似合いそうにない。でも脱がされるよりかはマシだ。……多分。

 

「そうかそうか。その気になってくれて嬉しいよ」

 

……この悪魔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……着替えましたよ」

 

そう言うと、ベッドに腹這いになっていたナイトメアはこちらを見た。その目はとても嬉しそうで、俺は嫌な予感を感じるのだった。

 

「予想通り似合っているな」

 

ドリームに劣らないぐらいの妖しい笑みを浮かべたナイトメアは親指を自分の方に返してベッドを指差した。俺は渋々ベッドに座る。その瞬間、ナイトメアはスカートの中に手を滑り込ませた。

 

「ひっ……!? なにしてるんですか!?」

「……穿()いてんのか。ま、そこは指示してないしな。お前のことだし穿いたままだとは思ってたよ」

 

どうやら俺が穿いていたのかが気になったらしい。そうなら手を滑り込ませる前に言えばいいものを。下半身をはしる感触に体が震える。

 

「ん、どうしたんだ。体が震えているぞ」

 

少しだけ悪戯してやろう。そう決めた俺はクロスの大腿骨(ニンゲンでいうところの太もも)に触れて線をひくように掻く。

 

「ひぇっ……!? せっ、センパイっ……なにして、るん、ですかっ……」

 

クロスはびくりと体を震わせながらそう言った。俺がスカートに手を滑り込ませている状況が見たくないのであろう、目がぎゅっと閉じられている。頬は微かに紫色に染まっていて、俺の欲望を刺激した。

 

それにしても……この状況じゃ面白くない。今、クロスは俺から見ると横を向いていて、はっきり言うと物足りない。その表情を、声を、俺はちゃんと聞きたい。横からではなく、正面から。

 

俺はスカートから手を出すと同時に触手を出してクロスを横にさせ、その上から手首を掴んだ。簡単に言えば、俺がクロスを押し倒している。

 

「せ、せんぱ、んぅ……!」

 

なにかを言おうとしたクロスの口を塞ぐ。薄暗い部屋に粘着質な音と、くぐもったクロスの声が静かに響いた。欲望のままに、舌を絡めとり、彼が着ているメイド服のシャツのボタンを一つずつ外していく。ただ単に外していくのはつまらないので間隔をあけて外すことにした。

 

「はふっ……ちょっと、ダメ……ですよ……!」

「何がどうダメなんだ?」

 

クロスは荒い息を整えるのに必死らしく、答えない。俺はむき出しの脛椎に噛みつく。彼の体が大きく震え、甘い喘ぎが返ってきた。

 

「んぁ……せんぱ、い……」

「クク……ずいぶんいい声出すのな」

 

外せる範囲のボタンを外した俺はそのなかに手を滑り込ませて『あれ』を探す。十数秒ほどまさぐっていた俺はそれに触れることができた。小さな甘い声が聞こえる。

 

「みーつけた」

 

ナイトメアは黒い笑みを浮かべて手に持ったものを揉み始めた。体がびくびくと震える。

 

「んぅっ……揉んじゃ、ダメっ、です……!」

「そうなのか? そのわりには嬉しそうだけどな、お前」

 

それは嘘だと思いたい。……でも腰が少し揺れてしまったのはなぜだろうか。

 

「なあクロス。メイドの定番って知ってるか?」

「なん、ですか……それ」

 

ナイトメアがソウルを揉むのをやめてくれた。

 

「まあ簡単に説明すると、『客をなんて呼ぶか』だな。さてここで問題だ」

 

何の前触れもなくそう言ったナイトメアはまたしてもソウルを揉みはじめた。身体中を撫でられるような感覚に、体がびくんと跳ねる。

 

「俺のことはなんと呼べばいいだろうか?」

「んっ、はぅ……! わか、んない、ですっ……!」

 

足が震えはじめた。

 

「『ご主人様』。言ってみろよ」

 

答えを明かしたナイトメアはソウルを揉むのをまたやめて、俺の顔を覗きこむように見下ろしてきた。

 

「はぁっ……ご、主人様っ……」

 

息も絶え絶えにそう言った俺の目に水色の光が飛び込んできた。

 

「上出来だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ? クロスのメイド服見たかったんだけど?」

「誰が見せるか」




お久しぶりです花影です。すいませんpixivの方にいました。pixivでも小説書いてるのでよろしければどうぞ。
リンク→https://www.pixiv.net/users/69979292

ちなみに最後の会話はDreamtaleの夢兄弟の会話です。

追記
8月2日(月)
pixivにも同じ内容を投稿しました。最後の会話文はありません。
リンク→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15728284


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42.僕の方が兄弟よりも(ドリメア・Dreamswap)

pixivに投稿したお話です。
リンク→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15483992


「ドリームよりもさ」

 

ラベンダー色の瞳を輝かせながら、僕の兄は言う。

 

「俺の方が愛してると思うんだ」

 

そして笑う。これがネガティブな感情の守護者だといったい誰が思うのだろうか。正直、僕でも分からない。

 

ナイトメアが何も言わずに僕の部屋に入ってくるのはいつものことだ。昔は『ちゃんと正面から入ってこい』とか『手続きをしたのか』とか言っていた気がするが、今はそれを言うことすら面倒になっている。

 

口に出すのもバカらしくなるくらい、ナイトメアは部屋の窓から入ってくるのだ。

 

「その確証はどこからあるんだ?」

「んー……」

 

ナイトメアは目をつぶる。無視してもどうせ視界に入ってくるのは分かってしまっているので、僕は書類から目を反らす。

 

「まっ、いろいろあるよ」

「答えになってない」

「いーじゃんか」

「いろいろとはなんだ。具体的に言え、具体的に」

「えー、なんで」

 

ナイトメアはぷくーっと頬を膨らませる。なんだかハリセンボンみたいだな、針はないけども。そして何故かつつきたくなる。

 

「あやふやな言い方をしたところで何にもならない。いいから具体的に言え」

「もー……分かったよ、言えばいいんでしょ、言えば」

 

最初からそうすればいいものを。可愛らしい兄だ。

 

「んーと、まずはその目が好き。俺とは正反対だし、キラキラしててとても綺麗だもんね。次に甘いものが好きなところ。俺にはよくわかんないけど。あとは、なんだかんだいって優しいところとか」

 

その目はさておいて甘いものがわからないとは……さすが辛いものばっか食べているだけある。

 

「ドリームは?」

「何がだ」

「ドリームは、俺の好きなところないの……あっ、あるわけないか」

 

言おうとした口がゆっくりと閉じる。和解したはずなのに好きなところをないと決めつけるのはどうかと思うのだが?

 

「あるわけないと思うか」

「えっ、あるの?」

「あるに決まっているだろう」

 

バカみたいに戦って傷ついて笑ってきた。例え対立関係にあろうと、嫌いになるはずがない、むしろ好きだ。

 

「じゃあ言ってみてよ。俺に言わせたんだから」

 

ナイトメアは挑発的な視線を向ける。その姿がなんとも誘惑的で、思わず唾を呑んだ。

 

「いいだろう」

 

僕は手を伸ばし、ナイトメアのケープを掴んで引き寄せる。目を見開いた彼と目があった。ラベンダー色の瞳に、僕が映りこんでいる。

 

「えっ、なに、急に……」

「言うぐらいなら、こうした方がいいだろう」

「ちょっ、それは反則……」

 

言うが否や。僕はナイトメアの後頭部に手を回してまた引き寄せ、口をつける。かつんという軽い音がした。

 

触れるだけの軽いキス。すぐに離れる。自分で思うのもなんだが寂しかった。舌でもねじ込めばよかったと今さら後悔する。

 

「ド、ドリーム……?」

 

頬を紫色に染めながら、ナイトメアを口を開く。体にはしる衝動、好きなところを言うよりも、その表情がもっと見たくなってしまった。

 

「……すまない」

 

軽く謝りながら、ナイトメアの背中と膝の下に手を差し込んで一気に持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこというものだ。

 

「わわっ!! ちょっと、ドリーム、下ろせよ!」

「すまないな、兄弟が可愛くてな」

「理由になってないっ!」

 

ナイトメアはばたばたと足をばたつかせながらそう言う。その姿は子供を彷彿とさせた。可愛い兄がいてくれてよかった。そう思いながら、僕は寝室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兄弟が可愛くてよかった。




お久しぶりです……。この先は言い訳みたいなものなので見ても見なくてもいいです。あと長文なんで。



















すみません最近はネタがないもので……いえ、ネタはあるんですけどいざ書き始めると「なんか違うんだよな」とか「書いたのはいいけど思ってたやつじゃない……ああダメだやり直し!」みたいな日々が続いてました。まあ八割はモチベーションが続かなかったです、飽き性ってつらい。そんなこんなでリクエスト募集してます……。「こんなの書いたら?」っていう感じでいいので活動報告に書き込んでくださるととてもありがたいです……!
リンク→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=260417&uid=326461
ところでくっそどうでもいいんですけど最近実況者にはまってしまいました。沼が深いや……。原作がないのでpixivにぽーんする予定です((どうでもいい
それではここら辺で終わろうと思います。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。


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43.Language(インエラ)

今までのを見返して一言。
「堅苦しいなオイ」ということでちょっと書き方変えよう期間に入ろうと思います(謎)。

……ちなみに今回からエラー様の声はバグりません。読みやすさ重視。あとエラー様のお口が悪い。……いつものこと?


「エラー!!」

 

ああまた来やがった。歩く屍のご来訪に、俺は顔を歪める。口からこぼれる「Shit」の音はあのバカには聞こえていなかったらしい。インクは普通にクッションに座ってくる。俺は当たり前のように距離をとった。

 

「何の用だレインボーアスホール」

 

メガネを外してのびをする。固まっていた体がほぐされて、気持ちがいい。

 

「それまだ言ってたんだ……」

「死ぬまで言ってやるよ。で、何の用なんだ」

 

どうせ用事はないんだろうな。そんなことを分かっていつつも、俺は聞く。

 

「特にないよ。暇だから来ただけ」

「あっそ。仕事した前提で言ってんだろうな、それ」

 

これで仕事してないとか言ったら割りとマジで殺してやる。やることやってから来いって話だ。まあこのレインボーアスホールは忌々しいAUを守るのが日課みたいなものだから忘れるわけがないと思いたい。

 

「ちゃんとしたよ! なんで疑われなきゃならないのさあ~」

 

インクはハリセンボンのように頬を膨らませる。「ガキかよ」と笑いながら言ってやると、インクは頬を膨らませたまま首をぶんぶんと横に振った。

 

「ガキって言われるほどの年齢じゃないし! I'm still young!!」

「骨に年齢があるか。そもそもお前は不死身なんだから年齢なんざねぇだろ。あと日本語で喋れ」

 

言い終えてから『間違えたな』と軽く思った。何がって、『骨に年齢があるか』というこの発言。ご存知だとは思うがナイトメアは軽く五百歳を越えているし、クロスは二十九歳だ。ベリーは……確か十四歳だったか?

 

AUのキャラクターの中にはクリエイターサマによって年齢が決められている奴がいる。それを知っているにも関わらず『年齢があるか』と言ってしまった俺を殴りたい。……つかなんでインクは英語で喋ったんだ? I'm still young……まだ若い、か。

 

「確かにそうだけどさあ……。あっ! 用事思いだしt」

「……死刑」

 

指に巻き付いた糸でインクを縛り、放り投げた。空中で吊り下げられ、ミノムシのような状態になったインクは、じたばたともがいている。

 

「ちょっとぉ!? なんで縛るのさ!」

「思い出すタイミングが遅ぇんだよアホが!!」

 

今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすが如く、俺は叫んだ。なーんでこのタイミングで思い出すんだよ。

 

「それは謝るから! 用事思い出したから降ろして~!!」

「あ? 用事ならそこからでも言えるだろ?」

 

俺はインクを睨み付ける。用事なんざ、口から声が出せれば言えるだろ。降ろす理由が分からない。

 

「え~そんなぁ!! せっかくエラーの大好きなチョコレートあげようとしたのに!」

 

これは嘘ではない。ソウルはないけど堂々と言える。これは嘘じゃないよ。エラーはチョコレートが大好きだ。今回の用事は、下手したら殺されかねないので、お供え物(?)になるかとチョコレートを持参してきていた。

 

「……なに? チョコレート?」

 

それまでピリピリしていた空気が、少しだけやわらいだ……のかな? エラーの目が少し変わっているように見える。

 

「そうだよ! チョコレートあげるから降ろしてよ~!!」

 

懇願しながらそう言うと、エラーは無言で降ろしてくれた。白い地面に足がつく。

 

「……ちなみにブランドは?」

 

相変わらずブランドにはこだわる。さすが、毎日チョコレートを食べているだけあるなあ。

 

「ゴデ○バ」

 

僕は懐からあの有名ブランドのチョコレートを取り出す。エラーは無言でひったくって勢いよく開封するなり、食らい付いた。

 

「………………うめぇ」

「うんうん、よかった!」

「タイミングの悪さは異常だが……まあ許してやるか。それで? 用事はなんだよ」

 

有名ブランドのチョコレートをペロリと食べたエラーはゴミをくしゃくしゃと丸めた。その表情は普段のエラーとは違う。こんなの滅多に見れないのに、よっぽどチョコレートがもらえて嬉しかったんだね。

 

「今日はエラーに、愛の言葉を伝えようと思ってね!」

「……前言撤回。やっぱ死刑だ」

 

天使のような表情から一転、鬼のような表情を見せたエラーはまたしても僕を縛ろうとする。……が。

 

「甘いよ!」

 

それをひらりとかわした僕は筆を振るう。紫色のインクが染み込んだ筆を。それはエラーに見事にヒットし、鎖となって彼の体を拘束する。

 

「なっ!? インクてめぇ、何する気だ!」

「さっき言ったじゃん、愛の言葉を伝えるって」

 

背中に筆を直し、エラーを抱き抱えてクッションへ。じたばたと暴れている姿は、なんとなくニンゲンの子供を彷彿とさせる。

 

「クソッ、こんなんになるとか聞いてねぇっての……!」

 

こいつの鎖、厄介すぎる。もがいても外れない。クソッ、マジでこの能力めんどくせぇ!

 

「言ってないし。ほらほら、暴れないでね~」

 

インクが指を鳴らす。乾いた音が辺りに響いた。それに連動するかのように鎖がギリギリと体に食い込む。

 

「い"っ!? いってぇ……!」

 

そのあまりの痛さに、俺の口から言葉にならない声が漏れた。これ以上もがいても無駄な気がして、俺は暴れるのをやめた。……正確に言うと、これ以上締め上げられたら破裂してしまいそうだったからだ。

 

「よしよし、いいこいいこ」

 

こいつ、俺をバカにしてんのか。インクの発言に腹が立ってくる。

 

「で、なんなんだよ……。俺を拘束してまで済ませたいことなのか? 言っとくが『気持ちよくなりたい』とか言い出したら一生恨んでやるからな」

「そんなことはしないって! 愛の言葉を伝えるだけって言ったじゃん」

 

張り付けた笑みを浮かべたインクは俺の耳元(耳がないだろというツッコミはなしだ)に顔を近づける。吐息が聞こえてくる。

 

「Je t’aime de plus profond de mon coeur. 」

「……は?」

 

耳元で囁くかのように言われた言葉。しかし俺にはとても理解できない。なんだって? じゅ……?

 

「お前……今なんて?」

「あれ、フランス語で言ったけど、分からなかった?」

「わかるわけねぇだろ……」

 

最後に語学の本を読んだのはいつだったか……。英語ならまだしもフランス語など分かるわけがない。そういやインクのクリエイターはフランス国籍だったか? 

 

「ん~……エラーなら分かるかと思ったんだけどなあ、残念。じゃあ、英語で言ったら分かる?」

 

インクは俺の目をまっすぐ見ていた。普段の表情とは違う、真剣な顔で。

 

「たぶんな」

 

その真剣な顔は今まで見たことがなくて、少し恥ずかしくなった。頬が熱を持つ。

 

「そっか。わかったよ。じゃあ……」

 

インクはまた、俺の耳元に顔を近づける。

 

「I love you from the bottom of my heart.」

 

妙に艶かしく、そして澄んだような青年の声が、俺の頭蓋骨の中で反響する。I love you from the bottom of my heart……はあ? 冗談だろ?

 

「……分かってくれた?」

「………………」

 

思考がしばらくの間フリーズ。少しほどの時間が経って、ようやく理解することができた。

 

こいつは心から俺のことを愛しているらしい。そう思った瞬間、顔から火が出た。

 

「……エラー?」

「……ねやクソ」

「え? なんか言った?」

 

俺は体に力を込める。砕け散る音と共に、鎖が崩壊した。

 

「タヒねつってんだよクソがああっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「可愛いなあ、照れ隠しってやつ?」

「もう頼むから一生口を開くんじゃねぇよクソ野郎」




お久しぶりです花影です。
インクのクリエイター様がフランス国籍のお方ということを知って作りました。間違ってたらすみません。
そしてお口が悪いエラー様ですが(個人的に)日常茶飯事なので何も問題はありません。
ちなみに 『Je t’aime de tout mon coeur.』は『心から君を愛してる』。『I love you from the bottom of my heart』も同じです。

追記!
UAが2450行きました! pixivから見に来てくださっている方もいらっしゃると存じます。いつも見てくださりありがとうございますヽ(*´^`)ノこれからもよろしくお願いします!


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44.Touch challenge(Ink,Error)

自分の荒い息が、頭蓋骨の中で反響し続ける。冷や汗が体を伝い、顎からしたたり落ちる。彼に伸ばそうとした手が震えているのが嫌でも分かった。思考がバグって、まとまらなくなっていく。

 

「大丈夫。僕は待ってるよ」

 

あいつの声は、まるでお母さんみたいに、優しかった。

 

 

 

 

 

こうなったのは、一時間ほど前のこと。

 

「克服したいんだ」

 

エラーはいつになく真剣そうな目をして、僕にそう言った。今日は珍しく、僕がエラーに呼ばれたのだ。『話したいことがあるから今すぐ来い』と。ちょうどそのときはAUの見回りは終えた頃で、僕はすぐにエラーのいるAnti-voidへと向かった。

 

そこにはクッションに背を預けずに正座をするエラーの姿があって、僕は(ある程度距離をおいて)その前に正座した。そして、今に至る。

 

「克服するって……接触恐怖症(設定)のこと?」

 

そう言うと、エラーはためらいがちに頷いた。僕は驚かざるを得なかった。

 

エラーは接触恐怖症という設定を持っている。接触恐怖症っていうのは……うーん……。簡単に言うと触れられたり、近づかれたりすることに対する恐怖症だ。僕にはとても分からないけど、エラー曰く「すごく嫌悪感がして気持ち悪い」とのこと。

 

その設定はクリエイター様によって作られたもの。クリエイター様は世界を作った神様みたいなもので、神様の作った設定はキャラクターの個性として現れる。年齢とか、恐怖症とか、容姿とか。

 

クリエイター様の設定は絶対だ。キャラクターが変えることなどできるわけがない。僕どころかエラーだって、それを知っているはず、なのに。

 

「なんで? なんで克服したいと思ったの?」

 

心がない僕が抱いた純粋な質問。どっかのAUにあった本で読んだ気がするけれど、恐怖症というのは克服するのが難しい。それそのものに恐怖を抱いているからだ。エラーの握られた拳が、コートの裾をつかんでいた。

 

「……だって、お前に触れたい、から……」

 

エラーは俯きながらそう言った。ああ、いい忘れてた。僕とエラーは付き合っている。(はた)から見れば謎だろうね。守護者と破壊者が付き合っているなんざ。

 

「……そっか。それは、どうしても?」

 

そう言うと、エラーは俯いたまま頷いた。

 

「……エラー」

 

僕は彼の名前を優しく呼んだ。エラーはゆっくりと顔を上げる。黄色に染まっていて、可愛い。シリアスみたいな展開でこんなこと言ったら殺されそうだから、言わないけど。

 

「恐怖症っていうのは、克服するのにとても時間がかかる。それは、分かってる?」

「……当たり前だろ、んなこと」

 

エラーは強がるが、その声は震えていた。そりゃそうだ。今まで目を背けてきた恐怖に、向き合わなきゃいけないのだから。でも、彼が選んだことだ。僕は……。

 

「クリエイター様がつけた設定を、変えるんだよ。クリエイター様、悲しむかもね。君が克服するなんか言い出したら」

「……知るか、俺は自分が決めたことをやる。誰にも縛られたくねぇんだよ」

 

エラーの顔が険しくなった。ああ、本気なんだと、改めて感じる。ソウルなんかないはずなのにね。

 

「そっか……。うん、分かったよ。エラーが本気なら、僕は文句なんか言わない」

 

エラーの目は決意で満ちている。その姿がかっこよくて、僕は少しだけ目をそらした。かっこいいよ、エラー。なんて、言えない。

 

 

 

 

 

 

そして、今。

 

沈黙に満ちたAnti-voidの真ん中には、向かい合って正座をする二人の姿があった。インクは俺に手を差し伸べたまま、動かない。その目は、微かな期待を含んでいるように見える。

 

対して俺は、カタカタと震えながら、インクの手に触れようとしていた。でも、伸びない。伸ばせない。接触するという恐怖がソウルを蝕む。

 

気持ち悪い、寒い。背中を這う悪寒に、体が震える。呼吸が荒くなり、冷や汗をかきはじめた。離れたい、この気持ち悪さから、悪寒から逃げ出したい。そんなことを思っては、激しく頭を振った。

 

何を思っているんだ俺は! 克服するって言ったのは俺だろ!! 自分に渇を入れ、深呼吸をして落ち着かせる。ダメだ、焦るな俺!!

 

手が、だらりと下がる。ダメだ、下げちゃ、ダメなのに……! 顔が俯く。

 

「大丈夫だよ」

 

ごちゃ混ぜになった俺に。インクはそう言った。その声は、まるでお母さんみたいで。お母さんなんていないはずなのに、インクの声が、そう聞こえて。

 

ゆるゆると顔を上げると、そこには聖母みたいな微笑みを浮かべたインクがいた。

 

「大丈夫。僕はここにいるから、エラーが触れてくれるまで、いつまでも待ってるから」

 

エラーの好きなタイミングでいいんだよ。インクはそう言った。

 

「イ、ンク……」

「大丈夫。僕は待ってるよ」

 

お前は……俺の、お母さんかよ……。そんなことを思ってしまった。………………負けてられっかよ。俺は細く息をはいて拳を握りしめる。克服したいって言ったのは俺なんだ。有言実行しないでどーすんだよ!!

 

俺は手を動かし、インクの手に近づく。少しずつ、本当に少しずつだが、距離が縮まっていく。それにつれて、引いてきた嫌悪感や悪寒が再発し始めた。

 

気持ち悪い、寒いっ……。でもそんなことは思ってられない。ここまで来たんだ、やってやる!!

 

大丈夫、大丈夫だから。インクの声が反響する。そうだ、大丈夫。俺なら出来るだろ! インクの手まで、あと少し……。思考がバグり始め、視界がめちゃくちゃになる。それでも。

 

それでも、触れたいから。

 

手を伸ばして、かつん。触れた。

 

「あ、エラー……エラー……!」

 

流れていた沈黙が、インクの声によって破られる。

 

「エラー!!」

 

ひどく安心した。と同時に、意識が朦朧としてきた。

 

「は、ハはっ……、ヨかっ、タ……」

 

ひどくバグった声を発した。それを最後に、俺の意識は闇に溶けていった。

 

……インクの声は聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お疲れ様、エラー……。




スマホ買い換えたい。どうも花影です。
pixivに引きこもって(?)おりました……。
書くことはありませんが生きてますという報告だけさせていただきました。

すいません最後のおまけの文書き忘れてたんで更新しました……!


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45.未遂(ドリメア):*

■暗い。前半が暗い。
■メア様が死のうとしてます。
■もう意味わかんねぇ(やけくそ)。
■ドリメアとか書いてるけどそれ未満かもしれない。

以上が大丈夫な方のみどうぞ。嫌悪感を持たれた方は無理をせずブラウザバックを推奨します。


「……メア」

 

Dreamtale。ボクたち兄弟が、生まれ育った場所でもあり、惨劇が起こった場所。おずおずとボクが声をかけると、黒に覆われた物体がゆっくりと振り返る。

 

黒い体にシアン色の瞳。それはボクの兄であり、他人でもあった。もうそこには、昔の兄弟の姿はどこにもない。面影ひとつも。

 

「来たか。待っていたぞ」

 

約一時間前のことだった。寝ようとしていたボクに、一つの着信が来た。それはボクの目線の先にいるナイトメアからで内容は『Dreamtaleに来い。話したいことがある』というシンプルなものだった。かくしてボクは、あまり分からないまま故郷へとやってきていた。

 

「『待っていた』って……。どういうこと? それに、あのメッセージはなに?」

 

ボクはスマホを取り出してナイトメアに突きつける。『Dreamtaleに来い。話したいことがある』と書かれたメッセージの画面を。

 

「どういうこともなにも、すべてそのメッセージのままだ」

 

ナイトメアはプラスチックのような冷たさの声でそう言った。ボクはスマホをポケットにしまう。

 

「それは……メアだけじゃなくてボクも関わっているの?」

「ああ。お前がいないと成し遂げられないことなんだ」

 

何故か意味深な雰囲気を感じた。ボクがいないと成し遂げられないこと……? 彼はボクとは比べ物にならないほど、膨大な魔力を有している。ボクがいなくても、大抵のことはできるはずなのに……さっぱり理解できない。

 

「……もやもやするだろう? 早く核心に触れてほしそうな表情だな」

 

ナイトメアはその口の口角を上げた。

 

「そりゃ……そうに決まってるでしょ。本題に触れられずにここに来たんだから」

 

この感覚が嫌いだ。何も分からないまま、何も理解できないままのこの感覚が……。

 

「そうだな。でも、それは今すぐ分かるぞ。……本題に入ろうか」

 

ナイトメアの声のトーンが下がる。それだけで、周囲の空気の温度が一気に下がった気がした。ボクは思わず身構える。

 

「この世界……いや、物語というのは、大きく分けて二つに分かれる。『善』と『悪』だ。それはお前も理解しているな?」

「え……なに、急に?」

 

口を開けば、彼は何故か『善』と『悪』の話をし始めた。いったい何が言いたいのだろうか? 「理解しているな?」と言われ、ボクは分からないまましぶしぶ頷く。

 

「その二つは成り行きがほぼ決まっている。『悪』が勢いを盛んにしていても、いずれ『善』によって衰える。それは物語の常識とも言える。…………言いたいことは分かったか?」

 

ナイトメアはボクをじっと見つめる。確かに、物語というものは常に『善』と『悪』が存在している。そして、それは成り行きが決まっていると言っても過言ではない。『悪』が衰え、『善』が栄える。……まさか!?

 

ボクは思わず目を見開いた。嘘だ、ナイトメアの話していた通りなら、彼の言いたいことは……!

 

「……まさか、自分(メア)を殺せ、と……?」

 

言葉にするのも憚れることを口にする。お願い、嘘だと、嘘だと言って! お願いだよ……!

 

「正解」

 

そんなドリームの願いもむなしく、ナイトメアは悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべて口を開いた。体の力が抜け、ドリームはその場にへたれこむ。

 

「正解、いや大正解だ。流石だ。流石、俺の兄弟だけある」

 

ナイトメアは笑いながらそう言うものの、それはドリームには届かない。打ち砕かれた淡い願い、彼の周囲からネガティブなオーラが漂うものの、ナイトメアはそれを吸収しようとはしなかった。

 

「…………で」

「ん?」

 

ドリームが微かに呟き、ナイトメアは笑うのをやめて彼に近寄る。ドリームは勢いよく顔を上げた。その顔は怒りや悲しみに満ちている。

 

「なんで、なんでなの!? なんで兄弟を殺さなきゃいけないの!? おかしいでしょ、そんなの……。お願い、嘘って言ってよ……」

 

ドリームは拳を固く握りしめ、叫ぶようにそう言った。彼の頬を、透明な液体が伝う。

 

「……ドリーム」

 

ナイトメアは弟の肩にそっと手を置いた。痛みがナイトメアを襲う。それに顔を歪ませながら、彼は口を開いた。

 

「さっきも言っただろ。『悪』が勢いを盛んにしていても、いずれ『善』によって衰える、って。俺たちがまさにそれなんだよ。俺は『悪』で、お前は『善』。悪と善は一緒にはなれない」

 

ナイトメアは事実をオブラートに包むことなく、はっきりとドリームにぶつけていく。ドリームは受け入れられなかった。例え兄が敵だとしても、彼は、自分の兄弟。生まれてからずっと一緒に生きてきたのだ。

 

「だとしてもぉ……もっと他の方法あったでしょ……! なんで、こんなの違う……!」

 

ナイトメアはゆっくりと顔を横に振った。

 

「……違わねぇよ。俺はな、『善』には戻れない根っからの『悪』なんだよ。それは世界にも影響を与える。悪い方のな。俺は取り返しの出来ないことをたくさんやった。モンスターもニンゲンも殺した、立派な犯罪者だ。そんなヤツには、正義の鉄槌が下るべきなんだろ?」

 

ナイトメアの言うことに、間違いはなかった。確かに、彼は目覚めた瞬間からモンスターやニンゲンを殺した。それは立派な犯罪。正義の鉄槌が下されるのは当たり前。だとしても、だとしても。ドリームはまだ受け入れられずにいた。

 

「……もう俺を殺してくれよ、楽にしてくれ。そうしたら、ドリームだって少しは楽になるだろ。安心しろ、闇AUの連中の記憶は消したから、俺が死んでも誰もなんとも思わないs」

「そんなことない!!」

 

それまでずっと口を閉ざしていたドリームが大声を発する。ナイトメアは思わず弟の肩から手を離した。

 

「俺が死んでも誰もなんとも思わない? バカじゃないの、なんとも思わないわけないじゃん! ボクや仲間たちをなんだと思ってるの!?」

 

ドリームは荒い息をつきながら口を開く。その目は本気だった。本気で彼は怒っている。兄の発言に、兄の行動に。

 

「闇AUの記憶は消した。自分の記憶は残らないから平気、なんて思わないでよ! 自分の仲間を置いて先に逝くつもり!?」

 

ドリームは荒いままの息を整え。

 

「……それ、兄弟がすべき行動じゃないよ」

 

と、冷たくそう言い放った。ナイトメアは顔を歪める。

 

「なあドリーム。お前は……俺のこと、嫌いじゃなかったのかよ」

「……確かに嫌いだよ。大嫌いだ。だけど、嫌いだからって殺したいほどじゃない」

 

むしろ、嫌いでも、一緒にいたい。これ以上、失うなんて嫌だよ……。ドリームの心からの思いだった。

 

「……俺は、俺はお前の仲間を全員殺した悪者なんだぞ? 悪者は許されるべきじゃない、それがお前の考えのはずだ」

「……そうだよ。悪者は許されるべきじゃないと思ってる」

「なら、今すぐ俺を」

「思ってるけど!! ……ボクは改心できると思ってる。根っからの悪を直すのは難しいかもしれない。それは分かってるよ。でも、手を取り合って協力することぐらい、ボクたちでも出来るんじゃないの……?」

 

ドリームは祈るようにそう言った。こいつは、本当に理解できない。俺を殺せる機会を作ってやったのに、それを断ったし。なんだよ、なんか死ぬ気なくした。

 

「……たく、この平和主義野郎が」

 

俺はドリームに近寄り、その手に触れた。

 

「え、メア……?」

「気が変わったよ。死のうと思ってたが、お前に手を貸して、用済みと判断してからお前を殺した方がマシだ」

 

そう言って、俺はドリームの手から離れようとした……が。

 

「なにそれ。意味わかんない」

 

がっちりと手を掴まれてしまった。クソ、変わった途端にうぜぇ。

 

「たまにはお前と協力することも悪くないってことだよ

。何度も言わせんな」

「あっはは、メアってば照れてる~?」

「うっせぇ!!」

 

故郷に、兄弟の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安心したよ。




こいつ、一周年まであと2日らしいっすよ? どうも花影です。
もうなんかいろいろとおかしくてすみません。死ネタは書ける気がしなくなってきました。そのうち頑張ってかくつもりです。一番最初に記述したのですが、8月23日は私がこのサイトで活動し始めてからちょうど一年の日ということで……一周年のお話でも書こうかなと思ってます! ……おまけになる可能性大ですけどね。そんなんクソどーでもいいわと思われるかもしれませんが、よろしくお願いします。


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46.彼の好きな人(Dream,Cross) 【作者一周年】

現代風に仕上げました。後書きが長い長い。


夜の繁華街。外は暑苦しい空気に包まれるものの、人々が行き交う。そんな街に建つ駅のそばの公園で、クロスこと俺はベンチに座っていた。

 

あとどれほど時間がかかりますか?

 

もうすぐで着くよ。

 

スマホの中で行われる会話。相手は、ナイトメアの弟のドリーム。俺のセンパイにあたる人物だ。時刻は七時を回っている。ぐうぅと間抜けな音が鳴り、俺は腹をさすった。……お腹すいた。

 

今日はドリームと二人で出かけるという約束をしている。集合場所は俺がいるこの公園。スマホをポケットにしまって辺りを見渡した。夜というだけあってか、子どもを連れた親の姿はない。目に入るとしたら、手を繋いで仲良く歩くカップルぐらいだ。……なんか、幸せそう。ドリームが見たら喜びそうだな。

 

「お待たせ~」

 

後ろから涼しげな声がかけられ、俺は振り返る。そこには、ドリームが立っていた。シャツとオーバーオールという服装で。俺というと、シャツの上に制服のジャケット、カーゴパンツという緩い(?)格好だ。……センスないとか言わないでくれ。ファッションはわからんから。これでも一応ナイトメアには聞いたけどな……。

 

「待った?」

「今、来たところです」

 

言葉を選びながらそう言うと、ドリームはその口に笑みを浮かべながら、ゆっくりと首をかしげた。

 

「本当なのかな?」

 

その言葉は、俺の言葉を疑問に思っている言葉だった。その目は、俺に真実を聞いている。

 

「……嘘です。十五分前に来ました」

「あーらら、待たせたってことか。ごめんね、電車が遅延してたみたいでさ」

 

ドリームは両手を合わせた。怒る気など微塵もないので、「大丈夫ですよ」と笑う。

 

「そっか、それはよかった。じゃあ、行こっか?」

「そうですね」

 

俺たちは踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうでもいいようなことを駄弁りながら、俺たちがたどり着いたのはとあるレストランだった。受付を済ませ、俺たちは個室へと案内された。注文したものが来て、食事をしていたときのこと。

 

「クロスくんってさ」

 

カレーを食べていたドリームの手が止まり、彼はこちらを見た。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

俺はステーキを切っていた手を止める。

 

「好きな人いるの?」

「……えっ?」

 

意外だった。恋愛に興味なさそうなドリームが、いきなり恋愛話に踏み込んだことに。

 

「好きな人……ですか?」

「うん。クロスくん、結構モテモテみたいだしさ。気になる人ぐらいできたのかなって」

 

ドリームはカレーを上品に口に運ぶ。俺は切ったステーキの肉を口に運びながら考えていた。好きな人……。この人生を生きてきて、好きな人などできたことはなかった。告白されたことはあるけれど、『友達のままがいい』という返事しか返してきたことがなかった。

 

「……いませんよ」

「えっ、そうなんだ。てっきりできたかと思ってた」

「できてません」

「そうなんだあ」

「そういうセンパイはいるんですか? ……好きな人」

 

聞かれたならばこっちだって聞いてやる。ドリームは明るくて人当たりもいい。きっとできているんだろうなあ……。

 

「んー……まあ、いるかな」

 

カレーを飲み込みながら、ドリームはそういった。

 

「といっても、相手は気づいてないんだよねぇ」

「どんな人なんですか?」

「とても礼儀正しくて、年下なんだけどとてもかわいい人かな。タコスとかにかぶりついちゃったりとか。目が赤くてきれいで、ついつい見とれちゃう」

 

意外とこの人って、周りを見ているんだな……。

 

「そうなんですね……」

「うん。告白しようかなって思ってるけどその子、けっこう従順な子だからさ……。年上のボクが告白したら、平等な関係になれないんじゃないのかなって」

 

ドリームの目が悲しげに細められた。

 

「意外と難しいものなんだね、恋愛ってさ」

 

恋愛したことない俺に向かって言うことなのかそれは……。軽くドリームを睨んだ俺はあることに気づく。ドリームの言っていた『好きな人』。

 

『とても礼儀正しくて、年下なんだけどとてもかわいいところかな。タコスとかにかぶりついちゃったりとか。目が赤くてきれいで、ついつい見とれちゃう人』

 

目が赤くてきれい……? そういえば、ついこの前、ドリームに言われた気がする……。

 

『クロスくんの目って、片方だけ赤いんだね。とてもきれいだよ、まるで宝石みたい』

 

先ほどドリームが言っていた言葉と、過去に彼が言っていた言葉が一致している……? 目が赤くて、タコスとかにかぶりついちゃう……。……まさか?

 

「あの、センパイの好きな人って……」

 

俺は思わず椅子から立ち上がった。

 

「さあ、誰だろうね」

 

言葉が遮られる。そこには、妖艶な笑みを浮かべたドリームの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かっちゃったかな?




一周年迎えた奴の後書き。

どうも皆様おはこんばんにちわ! 花影です。私がこのサイトで活動を開始してからちょうど一年が経過しました。前の後書きでちょっと触れましたね。『おまけになるかも』みたいなことを言ってましたがそうなるとどうしてもラジオ風になってしまうので諦めてお話にしました。……ちなみに即興で書き上げたお話なんですよ?
間に合うか不安でしたが間に合ってよかったです。一年という短い間、たくさんのお話を書かせていただきました。私の事情を挟んで1ヶ月ほど更新しなかった日や、スランプ状態になって他のサイトに投稿していたこともありましたが、続けることができました! これもすべて皆様のおかげです。コメントしてくださった方、お気に入り登録してくださった方、評価してくださった方にも感謝しております。拙い文章だらけですが、これからもよろしくお願いします!
それでは~。


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47.誘い(Classic):*

Classic→UndertaleのSans
ちょこっとだけキラーくんがいます。


赤い刃が振り下ろされる。疲れきったオレの体は、それを避けることはできなかった。腹に、三日月のような赤い跡が刻まれる。

 

「はぁ……はぁ……どうやら、ここまでのよう、だな……」

 

口から赤い液体があふれる。それは光が差し込む床を赤く染める。目線の先には、かつての友人がいた。

 

「オレは……グリルビーズにでも、行こう、かな。……パピルス、お前も、腹が、減ってる、か……?」

 

目の前で、兄弟が笑っている。いつもの、屈託のない笑顔で。

 

ニンゲンに背を向け、足を引きずろうとしたそのときだった。

 

「待ってよ、サンズ」

 

後ろから、悪魔の声が聞こえてきた。この期に及んでなんなんだ。オレの足が止まる。

 

「僕はなんの理由もなしにここに来たわけじゃない。君に提案しに来たのさ」

 

口を開けばそんなことかよ。今さら提案なんざ遅いだろ。

 

「なにを、提案しに来たんだよ……この、クソ、ガキが……」

 

オレはゆっくりと振り返る。そこには、ナイフを持ったニンゲンの姿があった。

 

「まあまあ、少しぐらい聞いてくれたっていいじゃないか。君にとっても、僕にとっても悪くないと思うんだけど」

 

その顔が笑みを浮かべる。

 

「僕が君にしたい提案……簡単なことだよ。『僕と一緒に殺戮を楽しんでみない?』」

 

それを聞いて、俺は目を見開いた。

 

「Ha......なにを言い出すかと思えば……そんなのにノるわけねぇ、だろ……」

 

俺はまた背を向けて歩き出そうとする。

 

「それは本当なのかな?」

 

しかし、俺の足は、クソガキの発言によって止められた。

 

「本当に君は、そう思っているのかな?」

 

クソガキは笑う。オレの顔が歪む。

 

「ノるわけねぇ、だろ……。誰が、オマエと一緒に、殺戮を……楽しむってんだよ」

「あっはは、サンズ!」

 

クソガキは俺を指差した。悪魔のような笑みを浮かべながら。

 

「君はいつまでその仮面を被っているつもりなんだい?」

「か……めん?」

 

そう言われ、オレは自分の顔に手を当てた。寒い。

 

「そうだ! 昔のお前はそんなんじゃなかった。もっと純粋なヤツだった。なのに今となったらその顔に仮面を被せちゃってさ!」

 

キャラは俺の顔を指差しながら嘲笑うように笑う。オレのソウルの中で、何かが(うごめ)いた気がした。

 

「きっと気づいたんだよね? 自分がどれだけ祈っても、頑張っても、Resetでぜんぶ無駄になるってさ。そのうち、お前は壊れていった!」

 

ソウルの中で、黒い感情が渦巻く。

 

『兄ちゃん、大丈夫?』

『Hehe...平気、さ……』

 

口ではそんな嘘を何度も言える。けれど、本当は違った。大丈夫なんかじゃなかった。何度も何度も何度もResetを繰り返された。地上に出れたとしても、新しい王が誕生したとしても……。

 

どんなに幸せなことがあろうと、すべて、Resetされてしまった。

 

それからだ。オレが壊れていったのは。人前で作り笑顔しかできなくなったのは。

 

「僕が新しいことをすれば、お前はそれに反応した……。それと一緒さ、モンスターを皆殺しにしちゃおうよ!」

 

オレに手が差しのべられる。それは、悪魔の手。受け取ってはいけないもの。これを受け取れば、オレは……クソガキみたいな汚いヤツになってしまう。

 

「……断る。オマエみたいな、ヤツに……誰が、なるかってん、だよ……」

 

視界がぼやける。重力に従って、体が落ちていく。やがて、真っ黒がオレの視界を覆い尽くした。

 

「……今回もダメだったか。次の誘いかたを考えないとな……」

 

体が消える寸前、そんな言葉が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな記憶が、あった気がする。

 

そんな誘いかたを、された気がする。

 

それを、断った気がする。

 

でも今は、そんなことなんてどうだっていいんだ。

 

 

だって……

 

 

 

殺すことにしか興味がないから♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以上の楽しみなんてない。




一周年のお話書いて以来、なにも思い付かないでpixivにいた花影です。スランプってつらいですね。

9月7日(火)追記
明らかにおかしかった文章があったため修正しました!
恥ずかしすぎる……。


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48.看病(メアクロ)

「三十八度五分……か」

 

クロスの口から体温計を取り出し、そこに表示されたデジタル数字を見て顔をしかめる。明らかに平熱を越えている。

 

「うぇ……そんなにあるんですか俺……」

 

ベッドの上では荒い息をつきながら、クロスが横たわっていた。事の発端は今日の昼下がり。いきなりクロスが倒れたのだ。それを見かけた俺が部屋へと運び、熱を測った。そして、今に至る。

 

「まさかそんなにあるとは思わなかったです……」

「無茶した結果だな。ったく、倒れるまで我慢しやがって」

 

体温計の電源を落として、机に放り投げた。クロスは顔を背けて、「すみません」と謝っている。

 

「まあ幸いなのは、俺がいたことだな。俺がいなかったら危なかっただろうし」

 

そう。今この家にいるのは俺とクロスだけ。キラーたちはEXP狩りに外に出ていったし、エラーはAnti-voidで裁縫をしているだろう。もし仮に、俺がどこかに出掛けてクロス一人だけだったら、手遅れになっていたかもしれない。

 

「そうですね……。ありがとうございます」

 

クロスは咳き込む。咄嗟に彼の背中をさすった。

 

「何か食べたほうがよさそうだな。何がいい?」

「そんなに、食欲湧いてないですよ……いらないです」

 

クロスは自虐的な笑みを浮かべた。俺は首を振る。

 

「ダメだ。食欲が湧かなくても何か食べないと生きていけないだろ。お粥でも作るから、お前は寝てろ」

「すみません……本当にありがとうございます……」

 

ドアに手をかけた途端、感謝の言葉がかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、あーん」

 

お粥をのせたスプーンをクロスへと近づける。クロスは顔をしかめている。

 

「……センパイ」

「なんだよ。食わねぇのか? せっかく作ってやったのに」

「俺は子供じゃないんですけど」

 

子供じゃないって……。お前、俺より遥かに年下のくせになに言ってんだか。

 

「俺からしたらお前はガキなんだよ。いいから黙って食え」

「むぐっ!?」

 

僅かに開いたクロスの口に、俺はお粥をのせたスプーンを押し込む。食わないならこうするしかない。クロスは蒸せながらも、もにゅもにゅと咀嚼している。飲み込んで、ため息をついた。

 

「ひどいですよセンパイ。口に押し込むなんて」

 

風邪のせいか、文句の勢いがない。まあもとから勢いはないけど。なんて言ったら怒られそうなので黙っておいた。

 

「お前が食わないのが悪いんだよバーカ」

 

べー、と舌をだしながらそう言うと、クロスは唇を尖らせた。

 

「ほい二口目。あー……」

「いいです」

 

クロスが、スプーンと椀を俺の手から取った。

 

「あとは自分で食べますから。……センパイは戻っていいですよ」

「なんでだよ」

「センパイまで風邪ひいたら迷惑かけるでしょ。だから戻っていいです」

 

強く言われ、俺はしぶしぶ椅子から立ち上がる。

 

「わーったよ、お前がそこまで言うなら戻ってやる。ただし……」

 

俺はクロスのおでこにキスを落とした。クロスは何が起きたのか分かっていないらしく、こちらを見たまま固まっている。

 

「お大事にな、後輩クン」

 

俺はひらひらと手を振って部屋から出る。

 

「……センパイのバカ」

 

聞こえないフリをしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの表情をもう一度見てみたい……なんてな。




UAが3000突破しました。……いったい何があったんでしょうか?これからもよろしくお願いします。リクエストがあればどうぞ!
『こんなの書いてみたら?』っていう感じでもいいので……。
リンク→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=260417&uid=326461


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49.現実になった悪夢(メアクロ):*

■死ネタです
■こちらは前編に当たります
■○○しないと出られない部屋のお話です

以上が大丈夫な方のみどうぞ。


目が覚めた。周りは白く、殺風景な光景が広がっている。頭を振りながら身を起こした俺は、隣に黒い物体が横たわっていることに気づく。

 

「……センパイ?」

 

センパイ、もといナイトメアは俺の上司にあたる。俺は声をかけるが反応がない。まさか死んでる……なわけないよな。ナイトメアは俺よりも強いし、そう簡単に死ぬわけない。

 

「センパイ、起きてください」

 

パーカーに包まれた肩を揺さぶると、「うぅーん……」という唸り声が返ってきた。やがて、力をなくしていた手がピクリと動きだす。

 

うつぶせになっていた体がゆっくりと動いて、頭がこちらを向いた。シアン色の瞳が俺を映す。

 

「……クロス?」

「おはようございます」

 

ぺこりと頭を下げると、「あぁ、おはよう」という声が返ってきた。ナイトメアは立ち上がり、辺りに視線をさ迷わせている。俺も立ち上がった。

 

「ここはどこなんだ?」

「分かりません。気づいたらここに……」

 

四角い空間。もしかしたら部屋なのかもしれないが、部屋だったとしたらソファーや机ぐらい置かれていてもいいはずだ。視線をあちこちにさ迷わせていた俺は、扉があることに気づいた。そこに向かって歩く。

 

「何か見つけたのか?」

 

後ろから声がかけられる。部屋の白と同化していて分かりづらかったが、そこに確かに扉はあった。

 

「扉を見つけました。出られるかもしれm……」

 

ノブに手をかけて引く。しかし扉はガチャガチャと音をたてるだけで、開く気配がしない。首をかしげた俺は何度も引いてみるが、やはり開かない。

 

「……どうした?」

 

いつの間にか、ナイトメアが腕を組んで隣に立っていた。……びっくりした。

 

「いえ……開かないんです」

「力無さすぎだろお前」

 

ナイトメアは嘲笑するかのような笑みを浮かべて俺を見てくる。俺は顔をしかめた。

 

「力ぐらいあります! 本当に開かないんですよ!」

「そうなのか? ちょっと退いてろ」

 

言われた通りに退いてみると、ナイトメアは扉の前に立った。何をする気なんだろうか? そう思っていたとき、彼の背中から触手が飛び出し、扉に向かって放たれた。木製の扉が壊れていくかのような音がしばらく響く。俺はない耳を手でふさいだ。

 

「……ダメか」

 

扉から触手を引き抜いたナイトメアがそう呟いた。横に彼が退き、扉が目に飛び込んでくる。そこで俺は目を見開いた。扉には何一つ傷がついていない。彼の鋭い触手は傷をつけるに値しなかったらしい。耳をふさいでいた両手がだらりと下がる。

 

「これは本当に扉なのか? 材質を疑いたくなる」

 

ナイトメアは扉をまじまじと眺め始めた。

 

「俺のナイフでもダメですかね?」

「そう……だな。お前でも傷はつけられそうにない」

「いや、もしかしたらいけるかもしれません。センパイ、ちょっと退いてもらっていいですか」

 

そう言うと、ナイトメアは不思議そうな表情を晒しながらも退いてくれた。……キャラ、行くぞ。心の中でそう呟き、俺は指を鳴らした。自分の周りに、血のように赤いナイフが出現した。扉に向かって放つ。

 

………………!

 

弾かれた。ナイフは床で消える。じゃあ俺が……! そう思って扉に向かって走った俺はナイトメアの「ストップ」という言葉で止まる。

 

「なんですか」

「ガキの投げナイフでもダメなら、お前自身がやっても無理だろ」

「そう言えないかもないじゃないですか」

「いや、無理だな。触手でもナイフでもダメなら、どうしようもない。やるだけ体力の無駄使いだぞ」

 

そう言い放ったナイトメアは俺の横を通って行く。何か見つけたのだろうか? 彼の背中を眺める。

 

「それよりも、これを読んだ方がいいんじゃないか」

 

振り返ったナイトメアの手には、小さな紙が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手紙?」

 

俺はナイトメアの近くに行く。そこには小さな丸テーブルが置かれていた。いつの間に。

 

「ああ。お前がナイフ投げただろ。そのときに見つけたんだよ」

 

ナイトメアは綺麗に折り畳まれた手紙を開いた。しばらくして、ナイトメアの表情が険しくなった。辺りに漂っている空気が重たくなった気がする。

 

「あの、センパイ……。それに何が書いてあったんですか?」

 

おずおずと声をかけると、ナイトメアは無言で手紙を差し出してきた。俺は首をかしげる。

 

「読んでみろ」

「……は、はあ。分かりました」

 

ナイトメアは何も言わず、パーカーのポケットに手を入れた。何かよからぬ気配がする。俺は手紙を開いて、文章を目で追った。

 

どちらかを殺さないと出られない部屋

 

手紙にはそう書いてあった。ソウルが凍った気がした。いや、これは、嘘だ。きっと、何かの冗談で……。手紙を持ったまま、だらりと立ち尽くす。

 

「センパイ、これって……」

「その通りにしないと出られないんだろうな。あれを見ろ」

 

ナイトメアは斜め先を指差す。指の先には電光掲示板があった。

 

どちらかを殺さないと出られない部屋

 

手紙に書いてあった通りの文章が右から左に流れていく。ぐしゃりと、手から音がした。手紙がぐしゃぐしゃになっていた。

 

「こんなの、何かの冗談、ですよ……。きっとs」

「そうなのか? 少なくとも俺は冗談に思えない」

 

なんとか否定しようとする俺の言葉を、ナイトメアはあっさりと遮った。俺はゆっくりと、隣に立つナイトメアを見た。その目は、いつものように濁っていた。

 

「……どうしてそんなことが言えるんですか?」

「……俺、夢を見たんだよ。白い部屋の中で閉じ込められて、お前に殺される夢をな」

 

ナイトメアは泣きそうな、悲しそうな、そんな表情を俺に見せた。

 

「そのときも、手紙と電光掲示板を読んだんだ。扉が開くような音もした。何から何まで同じなんだよ、夢の内容と」

「そんな……! 現実になってしまったってことなんですか!」

「そういうことになる」

 

俺はその場にへたり込んでしまった。

 

「……なあ、クロス」

 

ナイトメアが顔を覗き込む。彼の瞳に、俺の顔が映った。そして彼は口を開く。いつもの変わらない声で。

 

「俺を、殺せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

すべての音が消え去った気がした。ナイトメアを殺せ? 俺が? そんなの…………できるわけがない。だって、彼は俺の上司でセンパイで……俺が大好きな人、なのに……。

 

「……です」

「ん?」

「嫌ですッ!!」

 

俺は勢いよく顔を上げた。ナイトメアは少しだけ目を見開いた……気がする。

 

「そんなの嫌です! 何があっても、そんなことできないッ……。そんなことになるぐらいなら、俺が死んだ方がm」

バカなのかお前は!!

 

怒号が空気を揺らす。ナイトメアの瞳に怒りが宿っていた。

 

「お前が死んだ方がいいだと? お前のソウルは一個しかないんだぞ? 俺ならまだしも、お前が死んだら帰ってこれないだろ!! そんなことも分からないのか!!」

「分かってますよそんなこと!! でもッ、センパイが死ぬのはおかしいじゃないですか! どうして俺が殺さなきゃならないんですか!!」

 

こんなのって、ない。

 

「こんなの、あんまりですよ……」

 

うつ向いた。もうなにも失いたくなかった。弱いと分かっていても、守りたかった。それなのに。また、失わないといけないのか……? 絶望がソウルを蝕む。

 

「……クロス」

 

さっきまでの怒号とはうってかわって、優しい声だった。視界に、ナイトメアの足が映る。次の瞬間、顔が上を向いた。

 

「俺は、お前のことが好きなんだ」

 

ナイトメアの口から放たれた意外な言葉に、俺は目を見開いた。言葉を発しようとした俺の口が、柔らかいものに触れる。近距離で、シアン色の瞳と目が合う。舌がぬるりと滑り込んできた。ああ、これは………。

 

舌と舌が絡み、その感覚に溺れていたとき、舌が引き抜かれる。と同時に、銀の糸がひかれた。

 

「酸っぱいな」

「俺の、ファーストキス……」

「奪ってやったんだよ」

 

ナイトメアはいつもの、黒い笑みを浮かべた。頬に何かが伝ったような気がして、俺はそれをぬぐう。薄紫色の液体。俺は泣いていた。

 

「……さっきも言ったが、俺はお前のことが好きなんだ。……お前はどうなんだ」

 

ナイトメアは探るようにそう言った。その目に、不安が宿っているように見える。

 

「俺も……好き、です」

「……そう、か」

 

ナイトメアは俺の体に手を回し、抱き締めてくれた。普段の彼とは、とても思えなくて。俺も答えるように体に手を回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、戻れない。好きとは言った。それでも。

 

また失ってしまったんだ。俺自身の手で。

 

すでに動かなくなってしまった彼を抱き締める。氷のように冷たい。涙が流れた。後ろで扉が開く音がした。

 

「ごめんなさい、センパイ……」

 

扉が開いてもなお、俺は泣き続けた。

 

 

 

 

 

ごめんなさい。好きです、愛しています……。




お久しぶりです、花影です。またしてもpixivに引きこもっていました。最近の推しが変わったことによりそちらをメインにして活動しているからです。待っててくださっていた皆様、すみません。次の更新もいつになるか分かりませんが、それまでゆっくり待っていただければ幸いです。「そういえばこんな奴いたな」程度で構いません。
それでは。


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50.再会の日(メアクロ)

このお話は前のお話の続きにあたります。
前回のお話をまだ読んでいないという方はそちらを先にご覧ください。
あとメアクロとかいってますがメアクロもどきになりました。


『あれ』から数日後。

 

俺は生きている気がしなかった。別に死んだわけじゃない。そう分かってはいるのだが、この体が腐り落ちたかのような気がしてならない。いつも通りに家事をこなして、あの人たちの前では笑顔を作って、部屋ではベッドに沈み天井を眺める。そんな日々が続いた。

 

あれが全部夢ならばよかったのに。あのあと、白い空間から出た俺は、自室のベッドを目を覚ました。センパイは、と思い彼の部屋に行ってみた。そこには遮光カーテンが閉じたいつも通りの空間が広がっているだけで、センパイの姿はどこにもなかった。

 

そう、あの空間で確かに俺はセンパイを殺した。でも、認めたくなかった。ソウルの片隅では理解していたのかもしれないけれど、そう簡単に認めたくなかったのだ。Dreamtaleに行ってみたり、インクやエラーに姿を見ていないか聞いたりしたのだが、案の定収穫はなかった。

あれは夢ではなかった、現実だったのだ。

 

思案に耽っていた俺の存在しない鼓膜を、ぐちょぐちょというなんとも言えない音が揺らした。重たい体を起こして、音のしたほうを見る。何の変哲もない床に、黒いインク溜まりができていた。

 

「やあクロス!」

 

そこから姿を現したのは、インクだった。

 

「なんだ」

「今すぐ来てほしいんだ」

 

インク溜まりから体を出した彼は、いつもの笑顔とは違う真剣な表情で俺に言った。

 

「……どういうことだ? Dreamtaleで何かあった、のか……?」

 

Dreamtaleは感情を司るAUらしく、片方が死ねばその感情が消える。ナイトメアが消えてしまったことによって、暗い感情が消えてしまったのだろうか。これは一見、問題ないように見えるが、問題大有りなのだ。

 

「まあ、そんなところだよ。……ここで駄弁ってる場合じゃない、今すぐ僕と一緒に来て」

 

そう言って、インクは俺の手首を掴む。体は傾き、俺の言葉も空しく、インク溜まりの中へと落ちていった。……てか俺の同意を得てからにしてくれよ。今さら、遅いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インク溜まりを経由してたどり着いたのは、俺がよく知っている場所だった。

 

「あっ、ドリーム先輩」

 

切り株の近くに、冠をつけた高身長の人物(骨というのが正しいが気にしないでほしい)が佇んでいた。ドリームは俺の姿を見るなり、駆け寄ってきた。インクは俺の手首から手を離す。

 

「来たんだね」

「……強制的に連れてこられた、ですけどね」

 

ため息をつきながらそう言ってやった。ドリームは苦笑した。

 

「ドリーム、もう話した方がいいんじゃ」

 

ドリームは頷いた。いったい何があるのだろうか? そこまで思った俺は、ドリームの足元にバケツが置かれていることに気がついた。

 

「クロス、今日は君に話があって呼んだ。同意を得ないで連れてきてしまったけど、どうか許してほしい」

「……分かった」

 

インクは凛とした表情でそう言った。いつもの笑顔はどこにもない。真剣なんだと感じた。頷かざるを得なかった。こんなに真剣に言われてしまっては。

 

「ありがとう。……それじゃあお願いね、ドリーム」

 

そう言ってインクは消えてしまった。これからAUの見回りにでも行くのだろう。

 

「急に呼んでごめんね、クロス」

 

ドリームは冠を被った頭をぺこりと下げる。

 

「……いえ、大丈夫です。それで、何のご用ですか」

 

そういうと、頭を上げたドリームは足元に置かれたバケツを渡してきた。その目が「受け取って」と言っている気がして、俺はそれを受けとる。バケツの中は黒い液体で満たされていた。そのせいか、重たい。

 

「これは……」

「クロスに渡したかったんだ。ここにいても仕方ないからね」

 

ドリームはその口に弧を描く。その意味ありげな言い方はなんなんだ。俺は首をかしげるが、ドリームはニコニコと笑うだけで何も教えてくれない。

 

「それを持って帰ってみて。クロスにとって最高のものだから」

「あの、説明が適当すぎませんか」

「いいから、帰ってからのお楽しみってことで」

 

そう言って、ドリームは指を鳴らす。俺の足元に黄色の魔方陣が現れた。あっ、これは……移動用のポータル……。

 

そう気づいた頃には、俺は自分の部屋に戻っていた。インクといい、ドリームの説明といい、いったい何があっているんだ……。頭痛を覚え、俺は顔をしかめる。バケツの中の黒い液体は、照明を受けてぬらぬらと光っている。

 

このバケツがどうしたのだろうか。ドリームは『ここにいても仕方ないからね』と言っていた。あの言い方は、引っ掛かる。バケツはどこにあってもおかしくはないと思うのだが……。そう思ったときだった。

 

光を受けていた黒い液体が動き出した。俺は思わず身構える。何が出てきてもいいように。…………しかし、これ、どこかで見たことがある、ような……?

 

「ったく、あの説明でわからないとはな」

「……えっ?」

 

すぐ近くから、声が聞こえた。温度を持ち合わせない、まるで氷のように冷たくて、低い声が。その声は、俺が聞いたことがあるものだった。不規則に動いていた黒い液体は人の形を作っていく。

 

「よう、クロス」

 

バケツの上で、センパイ……もといナイトメアがその口に弧を描きながら浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せん……ぱい……?」

 

俺の口から、掠れた声がこぼれた。なぜ死んだはずの彼がここに?

 

「おやおや、大好きな先輩が帰ってきたってのにハグはないのか? 悲しいなぁ、そんなんだったら死んだままの方がよかったのかもなぁ」

 

口笛を吹きながら目をそらす彼。俺はそんな彼のもとに駆け寄り、腕を伸ばした。彼の背中に回す。ぬめっとした感触が手に感じた。

 

「センパイっ……お帰りなさい……!」

「おう、ただいま」

 

ナイトメアも、俺の背中に腕を回してくれた。冷たいはずなのに、今だけは温かく感じられた。生きているんだ、改めてそう思った。

 

「あの……ところで」

 

ナイトメアの体から手を離し、いつの間にか頬を伝っていた涙を拭いながら口を開いた。ナイトメアは床に足をつける。

 

「あのあと……どうなったんですか」

「フツーに死んだぞ」

 

彼はあっさりと言い放つ。彼にとって、死ぬことは普通のことなのか。ソウルが1つしかない俺とは全く違う。

 

「でもそのあと、生き返ってDreamtaleに戻ってきたんだ。リスポーンってやつかな」

「それで、このバケツに?」

 

俺はバケツを指差す。ナイトメアは首を横に振った。

 

「いや、どうせならサプライズみたいな感じにしようと思ってな。ドリームに頼んでバケツに入ってたんだよ」

 

……この人にサプライズ精神はあったのか。

 

「そして今につながる、と……」

「そういうことだな」

 

ナイトメアはスリッパを鳴らしながら俺に近づき、抱き締める。それは優しい。残虐でサイコパスとはとても思えないほどに。

 

「俺がいなくてつらかっただろ?」

「そりゃ……そうでしょ。俺がどんだけ罪悪感に苛まれたと思ってたんですか……!」

「そうだよな。でも大丈夫だ。今生の別れじゃなかっただけマシだろ」

 

またしても頬を涙が伝う。ナイトメアはそれを舌でぬぐいとった。

 

「センパイ……大好きです……!」

「……俺も」

 

幸せが、また帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り」と言えば、「ただいま」と言う。ただいま、クロス。

 



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51.我らの後輩クンが言ってみたらしい(光AU,闇AU)【☆】

Sleeping Pill*様のリクエストです!


「可愛いね」と言ってみよう。

◼️光AU編

 

CASE1 Ink!Sans

「可愛いな」

「クロスがそんなこと言うなんて! 頭でも打ったの!?」

「はあ!?」

 

結論→頭でも打ったのかと思われた。

 

CASE2 Blue!Sans(Berry)

「可愛いな」

「俺様は『可愛い』じゃなくて『かっこいい』だぞ!!」

「うん……ごめん」

 

結論→ベリたやはかっこいいと言われたかったみたい。

 

CASE3 Dream!Sans

「可愛いですね」

「クロスの方が可愛いけど?」

「なっ!? 照れること言わないでくださいよ!」

 

結論→可愛いのはクロスくんの方だった。

 

◼️闇AU編

 

CASE1 Horror!Sans

「可愛いですね」

「お腹空いた」

「……おやつ持ってきます」

 

結論→言っても反応がない。

 

CASE2 Murder!Sans

「可愛いですね」

「……あ?」

「……なんでもないです」

 

結論→可愛いは必要なし。

 

CASE3 Killer!Sans

「可愛いですね」

「でしょー!? クロスったら分かってるぅ!」

「(なんか、ギャルみたい……?)」

 

結論→嬉しそう。

 

CASE4 Error!Sans

「可愛いですね」

「俺が可愛いのは宇宙の(ことわり)だろ」

「……そうですね」

 

結論→否定されなかった。

 

CASE5 Nightmare!Sans

「可愛いですね」

「クロスが、な」

「もう貴方って人は〜!!」

 

結論→クロスが可愛い。

 

 

「好きです」と言ってみよう。

◼️光AU編

CASE1 Ink!Sans

「……好き」

「僕も好きぃ〜!!」

「ちょっ、こっち来んな!!」

 

結論→抱きつかれる。

 

CASE2 Blue!Sans

「……好き」

「そうか! 俺様も好きだぞ!!」

「あ、えっと……ありがとう?」

 

結論→言った本人がたじたじ。

 

CASE3 Dream!Sans

「……好きです」

「ふふ、ボクもだよ?」

「あぁもう恥ずかしい!!」

 

結論→恥ずかしい。

 

◼️闇AU編

CASE1 Horror!Sans

「……好きです」

「……すしです?」

「……」

 

結論→聞き間違えられる。

 

CASE2 Murder!Sans

「……好きです」

「あっそ」

「(反応が薄い……)」

 

結論→反応はしてくれるけど薄い。というか辛辣。

 

CASE3 Killer!Sans

「……好きです」

「僕も好きだよ? 殺したいぐらい♪」

「ひえ……」

 

結論→好き(殺したいくらい)。

 

CASE4 Error!Sans

「……好きです」

「うるさい」

「……すみません」

 

結論→怒られた。

 

CASE5 Nightmare!Sans

「……好きです」

「ほーう?」

「ちょっ……なんですかその笑みは」

 

結論→ニヤニヤ。




大晦日にこんばんは!そしてお久しぶりです、花影です。
長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした!少しの期間を経て戻って参りました。未完の状態にさせていただいた間、活動報告に寄せられたコメントにはちゃんと目を通しておりました。もちろん、小説にも。とても暖かいコメントが多くて、とてもありがたいと感じました。今回はリハビリも兼ねて短めですが、次からはリクエストに沿って長めに執筆するつもりです。
今年は大晦日の会話はありません。去年はありましたけども……。近いうちにアンケートとると思います。
それではそれでは、残り少ない大晦日をお過ごしください!
今年もありがとうございました!来年もよろしくお願いします!!


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52.いつも喧嘩ばかり(マダキラ)【☆】

ぷは。様のリクエストです!

2022/01/30
誤字訂正しました。


何回言ったら分かるんだよこの野郎!!

 

暖かな空気が漂うリビングに、僕のライバル兼恋人のマーダーの怒声が響いた。この声に驚いて誰かが出てくるわけ……ではない。これは日常茶飯事のため、部屋から出てくる者は誰もいない。

 

「君こそ、何回言ったら分かるのさ? いい加減そのかたーい頭を柔らかくしたらどうなの?」

「硬いのはお前の頭だ!! いつもいつもEXPを横取りしやがって!!」

 

ここだけ聞くと、僕とマーダーが恋人だなんて思わないよね。喧嘩の内容は変わらず、EXPのことだった。この世界はモンスターを殺すとEXPというものが貯まり、一定まで貯まるとLOVEを得ることができる。EXPは簡単に言えば経験値。マーダーや僕はそれを集めている。

 

僕は快楽に浸りたいだけ、マーダーはニンゲンを殺すため。お互いに理由が違うから、衝突を避けることなんてできない。いや、しない。EXPはモンスターを殺した本人しか貰えないから、早く殺さなければどんどん得られる量が減っていく。これは奪い合いに等しい。陣取り合戦とか、そんな感じの。

 

「横取りされたくないなら早く取ればいいだけの話じゃん? そんなに怒らないでよねぇ」

「はあ……」

 

マーダーは俯いて大きくため息をついた。握られた拳はわなわなと震えていて、怒りを我慢しているのがはっきりとわかった。これで話はついたのかな。僕は鼻を鳴らした(骨だから鼻がないだろとか言わないでね)。

 

ナイフをくるくると回す。暇なときの、僕なりの時間の潰し方。さっきまでため息をつき、拳を震わせていたマーダーはソファーに沈んでいる。その姿とさっきの言葉から、とある疑問が脳裏を掠めた。

 

マーダーは、僕のことが好きなのか?と。

 

 

前々から思ってた。付き合ってまもないときにも、同じ内容で喧嘩したことあるけど、その時の言葉の勢いはあまりなかった。多分、気を遣ってくれたんだと思う。恋人だから傷つけたくなかったのかな、なんて。

 

今思えば、マーダーからあまり『好き』だとか『愛してる』だとか、そんな言葉を聞いてない。部屋の中でハグしてくれたりキスしてくれたりするけど、それは本当にまれな話。彼はいつも殺しにしか専念してない気がする。隣に何か見えるのか、それと会話してる時もある(それは、マーダー以外には見えてない。もちろん、僕にも)。

 

殺害にしか見出してないのかな。僕のことなんて所詮(しょせん)、他人でライバル程度なのかな。そんなことを思ってたら、悲しくなった。もう、おかしくなっちゃったな、僕。こんな感情、抱くはずもないのに。はあ、調子狂う。

 

もやもやした感情のまま、マーダーに目をやった。顔に腕をやっているのが見えた。ああ、これは寝ようとしてる。寝たらしばらくは起きないからここで聞いちゃおうかな。ナイフをしまい、僕はソファーの近くでかがむ。

 

「マーダー」

 

声をかけつつ、僕はマーダーの腕を上げる。不機嫌そうに細められた赤い目と、目があった。

 

「んだよ……寝ようとしてたのに……」

「ちょっと聞きたいことがあってさ。今じゃないと聞けないかなって思ったんだけど」

「はあ、だりぃ……話すなら手短にな」

 

文句を言いながらも、マーダーは耳を傾けている。こういうところは優しいよね、なんて。聞いてくれるだけでも嬉しい。

 

「僕たちさ……いつも喧嘩してるけど」

 

僕は視線をマーダーにやる。

 

「僕のこと、ちゃんと好きなの?」

 

よかった、言えた。マーダーは少し唸りながら目を瞑った。逃げる気なのか? 顔を掴もうとした瞬間、マーダーが目を開く。そして口を開いた。

 

「……お前、バカだよな」

「はあ!? ちょっとそれはどういうk」

「話を聞け。お前のことが嫌いなわけないだろ。嫌いだったら、付き合ったりなんかしない」

 

さも当たり前のように言い放ったマーダーは僕をじっとりとした目線で見る。なにちょっと、そんなにジロジロ見ないで欲しいんだけど。

 

「勘違いしてるようだから言うけどな、俺はキラーのことはちゃんと思ってる。簡単に言えば……愛してる」

 

ちゃんとした言葉で言われ、僕は思わず俯いた。ああ、ダメだ。今、顔上げられないや……。だって、顔が熱い。

 

「……なに照れてんだよ気色悪い」

「はあ!?!? 原因はマーダーじゃんか、こんのクソ陰キャ!!」

「あっ! こら、マフラーを引っ張るなバカ野郎!!」

 

また喧嘩が始まりそうだ。だけど、それが楽しくてしょうがない。

まあ、マーダーには口が裂けても言えない、かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕からの『好き』は言わせないよ。




というわけでリクエストでした。お望み通りに書けたかわかりませんが、楽しみながら書くことができました。ありがとうございます!
皆様が送るリクエストのおかげであれこれ迷わずに書くことができています。お礼を申し上げます。

追記 2022/01/07
ご挨拶忘れてました!なんてことを……。
あけましておめでとうございます、今年も宜しくお願いします!!


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53.銀百合の花弁は吐けず(メアクロ)【☆】:*

酸素オーツー様のリクエストです!(一部変更しています)
何故かお名前を間違えるとかいう痛恨のミス。焼き土下座してきます。

ワンクッション
■奇病の一つ、花吐き病です。
■花吐き病の性質上、嘔吐描写(言ってもそこまでないです)があります。描写注意。
■タイトルオチ。

大丈夫な方はお進みください。

花吐き病の説明はpixiv百科事典様より引用させていただきました。


「はーん……お前さんは花を吐いているのか?」

 

渡された紙袋の中身を見ながら、白衣を纏ったSansは興味津々そうに言う。その態度と言葉から滲み出る好奇心に顔を歪ませながら「そうだ」と返した。

 

諸事情で、俺は今サイエンスのところを訪れている。といってもサイエンスと俺は完全な初対面で、話すのは今日が初めてだった。あまり外に出向かない俺がなぜここいるのかというと。

 

花を吐き出しているから。それだけのことだ。

 

 

人間が嘔気に晒され吐瀉物を吐き出すのと一緒で、花を吐き出すことはあまり気持ちのよいことではない。吐き出すものが違うだけで、それ以外はすべて一緒だ。吐き気を催すのも、何かが喉奥から込み上げてくるのも、全部。

 

こうなったのは一ヶ月ほど前、自室ですることもなく寝転がっていたときのことだった。何かむず痒いものを覚え、口を押さえた次の瞬間、口内から手へと落ちてきた『それ』を見て、俺は目を疑った。

 

それは花だった。紛れもない、正真正銘の。

 

ネガティブの俺が触れても、その花は枯れることなく咲いていた。気持ち悪いと思えるほどに。思わずそれを握りつぶした感覚はまだ覚えていた。こんなの、誰にも言えるわけなかった。考えてみろよ、俺が「花を吐いた」って言って、まともに信じる奴がいるか? いるとしても、あの青二才(クロス)ぐらいだろうな。

 

そのあとも花の嘔吐は止まらず、いよいよまずいのではと思った俺は記憶の限りAUを渡し歩き、ここへとたどり着いた。そして今に至る。

 

「で、何か分かったのか?」

 

手にゴム手袋をつけて花をまじまじと眺めているサイエンスに向かって口を開く。俺が吐き出したなんて考えると気持ち悪くて仕方なかった。

 

「いんや、何もわからんな」

 

サイエンスは花を持ったまま首を横に振った。

 

「使えない奴だな」

「無茶言うなよ。花を吐き出す事例なんて見たことも聞いたこともないんだ。俺が何でもかんでも知っていると思わないでほしいな」

 

そんなに珍しいものなのか。下手したら花じゃなくて俺の体を検査されそうだな。

 

「……そういえばお前さん、最近『変なもの』を食べたとかないか?」

「お前の言う『変なもの』を食って、口から花が出てくるものなのか?」

「それも分からない。とにかく情報が足りないんだよ。変なものを食べて花が吐き出されたケースはあり得なくはない」

 

なんとも無茶苦茶だが、何か分かるならと俺は目を閉じる。昨日、一昨日、一週間前と遡ってみるが、原因らしきものを食べた日がない。目を開け、ため息をつく。

 

「変なものを食べた記憶もないし、飲んだ記憶もないな。おやつの中にもそれらしきものはなかった」

「なんだお前さん、おやつ食べるのか?」

 

サイエンスは目をぱちくりさせながら半分笑い気味に言う。それに対して顔が歪んだ。

 

「悪いかよ。で、変なものを食べたことで花を吐き出したと言う仮説はどうなったんだ」

「今ので否定されたよ。となれば病気かもな……確か珍しい病気の本があった気がする……」

 

サイエンスはぶつぶつと呟き始める。これは少し待たないといけないのか。そんなに暇を持て余しているわけじゃねぇのにな。体を上に伸ばし、進展を待った。

 

「ちょっと待っててくれよ。たしか棚にだな……」

 

そういうとサイエンスは紙袋を手にしたまま扉の向こうへ消えた。

 

 

 

手持ち無沙汰になって三分ほど経過したと思う。来客を待たせすぎやしないか、最初はなんともなかったがだんだんイライラしてきた。いま俺は研究室らしき部屋にいるのだが、机の上には高く積まれた書類やなんとも言えない色を晒した三角フラスコなどが置かれている。それを見るだけでも、全部床に落としてやりたくなる。

 

「よう、待たせたな」

 

背中から触手を生やそうとした瞬間、サイエンスの声が空気を揺らした。顔だけ動かしてその方を見ると、片手には分厚い本、もう片方の手には紙袋を提げたサイエンスが扉から姿を表していた。

 

「遅い。もう少し遅かったらコイツらが犠牲になっていたところだったぞ」

 

びしっと机の上を指さすと、サイエンスは眉間に皺を寄せた。

 

「それは悪かったな。謝るよ」

 

パタパタとスリッパを鳴らしながらサイエンスは俺の近くに来た。鼻を鳴らすと、サイエンスは手に持った分厚い本を渡してきた。

 

「なんだ、これは」

「さっき言ったはずだぜ。『珍しい病気の本があった気がする』ってな。探したらあったんだよ。お前さんが花を吐いた原因が分かった」

 

俺から本を取り上げ、紙袋を床に置くとサイエンスは本を開いてページをめくり始める。最初から該当するページを開けばいいものを。サイエンスはとあるページで止まり、満足げに頷くとまたしても本を渡してくる。

 

「これを読んでみろ」

 

そう言われ、俺はそのページに書かれている文章を目で追っていく。

 

花吐き病

別名『嘔吐中枢花被性疾患』

はるか昔から潜伏と流行を繰り返してきた。片思いを拗らせると口から花を吐き出すようになる。それ以外の症状は確認されていない。 吐き出された花に接触すると感染する。 根本的な治療法は未だ見つかっていない。ただし両思いになると白銀の百合を吐き出して完治する。

 

「これは……」

 

俺は言葉を失う。

 

「……口から花を吐き始めた。そして、花吐き病は花を吐く以外の症状は確認されていない。今のお前さんだ」

 

サイエンスは静かにそう言った。

 

「俺は……病気だったっていうのか?」

「ああ、そういうことになる。しかも、花吐き病はそれに書いてある通り治療法は見つかっていない。ただ、両思いになると完治するらしいから、俺が考えた治療法は一つ」

 

サイエンスは人差し指を立てる。

 

「片想いの相手に告白する。これしかないだろうな」

 

足元から鈍い音がした。本が滑り落ちたのだ。サイエンスは顔を歪め、「落とすなよ」と呟きながら本を拾い上げる。

 

絶句した。生まれてから約五百年、恋愛というものに微塵もかかわらなかった俺が経験することになるとは。今まで、ニンゲンに想いを伝えていたニンゲンをたくさん見てきた。でもそれは俺にとっては忌まわしいものだったのに……。

 

「マジかよ……ありえねぇ、まさかこんなことになるとは」

「この病気になった以上は、片想いの相手を突き止めて告白する必要がある。そうじゃなきゃ、死ぬまで花を吐き続けるだろうな」

「そりゃ勘弁だ」

「なら、片想いの相手を突き止める必要がある。お前さんの片想いの相手は誰だ?」

 

割と真剣に言われるが、いきなり片想いの相手と聞かれても分かるはずがない。

 

「相手って言ってもな……検討つかねぇよ」

「そうか? よく思い出してみろ。お前さんが今までかかわってきたなかで、何故か追いかけたくなる奴はいなかったか?」

 

俺は目を閉じてみる。生まれてから今までに出会ってきた奴らの顔を思い浮かべる。思い描いては消して、また思い描く。何度も繰り返すうちに、一人のSansに行き着いた。

 

血のように目が赤く、白と黒の制服を見に纏ったやつ。そいつを思い浮かべた瞬間、衝撃がはしった。まるで雷に体を貫かれた、そんな感じの衝撃が。

 

正直、嘘だと思いたい。あいつと俺は上下関係が存在していて、恋愛なんてそんなものは……。しかしソウルがなぜか暖かい。なぜだ、なぜなんだ? 飲み込もうとしない脳は否定を続ける。無駄だと知っていても、受け入れることを許さなかった。

 

あいつの笑顔はポジティブにあふれていて、気持ち悪いと言えばそうなのだが、嫌とは言えなかった。いつも従順で、おっちょこちょいな一面もあるにはある。けど、普段は真面目で、気づけば俺は……。諦めた俺は目を開く。

 

「辿り着いたか?」

 

サイエンスは俺の顔を覗き込むようにして言った。大きなため息をつき、口角を上げながら言ってやった。

 

「ああ、一人いた」

 

 

 

紙袋を提げ、『家』に帰ると、とっくに夜だった。外に出た時は昼だったというのに、今は暗い黒の色が空を覆い尽くしていた。それほどサイエンスのところにいたことになる。時間とは速いものだ。永く生きていて、嫌でも実感する。

 

紙袋をベッドの下に押し込み、ベッドに埋もれようとした瞬間、コンコンと扉がノックされた。不思議に思いながらも「入っていいぞ」と声をかけると勢いよく扉が開く。

 

「センパイ!」

 

そこにいたのはクロスだった。何故か肩で息をしている。

 

「クロス……?」

「もうっ、どこに行ってたんですか!? 急にいなくなったものだからあちこち探したんですよ!」

 

クロスは若干、頬を膨らませながら早口で喋る。肩で息をしているのは俺を探してあちこち走り回ったからなのだろう。ご苦労なことだ。

 

「はは、すまん。ちょっと用事があったんだよ」

「出かける時は声をかけてほしいものですよ。……まあ、いいです。ご飯置いてますから降りてきてくださいね」

 

そういうと、クロスは扉を閉めようとする。

 

「おい待てクロス」

 

伸ばした触手が、ドアと壁の間に挟まる。クロスは「はい?」と首をかしげた。……くそ、ちょっと可愛いって思っただろうがこの青二才。

 

「飯が終わったらお前を呼ぶ。……分かったか?」

「はあ……分かりました」

 

触手を引き抜くと、ぱたりと扉が閉まった。ベッドの下に視線をやる。これを長引かせても意味などない。こういうのは早い方がいいだろうしな。俺はパーカーのポケットに手を突っ込んで部屋を出た。

 

 

「失礼します」

 

扉が開き、クロスが姿を現した。これから起こることに予想もついていないらしく、彼の目には疑問が浮かんで見える。……正直、こういうのはグイグイいくものなのか、疑問に思えてきた。

 

「よく来たな。座れ」

 

クロスは扉を閉めて俺の足元に座った。ここまでは、いつもと変わらない。違うのは、この先のことだった。

 

「それで……いったい何の用なのですか」

 

彼が上目遣いで見てくる。ソウルが跳ねた。表面が平常を装っていても、ソウルは平常を装いきれない。

 

「……お前に、言わなければいけないことがある」

 

目線が思わずそれてしまう。それでも、クロスが息を呑んだことがはっきりと分かった。

 

「驚かないで聞いてほしい。クロス、俺は……病気を患っているんだ」

 

そういうと、クロスの目が大きく見開かれた。何か言おうとして開いたであろうその口を指で塞ぐ。

 

「別に、余命宣告なんかじゃないさ。その病気にはおそらく致死性はない。ただ、症状がかなり特殊なものでな。なんでも、口から花を吐き出す。吐き出す花はいつも違っていて、それにはなんの規則性もない」

 

もうここまで言ってしまったら隠すわけにもいかないよなぁ。ベッドの下から今までずっと隠していた紙袋を取り出す。

 

「そして、このなかに今まで吐き出した花が入っている。触れるなよ、感染するからな」

 

そういって、紙袋の中身を見せる。クロスの表情がだんだん曇っていく。唇を真一文字に結び、不安の表情を隠そうともしない。

 

「センパイ……」

「俺は花を吐くという病気を患ったんだ。花吐き病、嘔吐中枢花被性疾患ってやつだ。片想いをこじらせると発症するが、その根本的な治療法は見つかってない。ただ、両思いになると白銀の百合を吐き出して完治するらしい。……なあクロス」

 

紙袋をベッドに置き、深く息を吸っては吐くを繰り返した。そんな俺をクロスは心配そうな目で見てくる。そんな目をしないでほしいものだ。

 

「……俺は何百年も生きてきた。そのなかでたくさんのSansやらモンスターやらに出会ってきた。だけどな、全部どうでもよかった。ただのてごまでしかないからな。……でも、一人だけ違ったんだ」

 

クロスは何も言わない。それが怖かったし、嬉しかった。

 

「そいつはいつも俺に従順なんだ。赤い目や傷も綺麗で、気付いたら俺は其奴(そいつ)を追いかけるようになった」

 

ここまでくれば分かるよな。何かを悟ったのかクロスの目が大きく見開かれていく。

 

「それはお前なんだよ、クロス。俺はいつの間にかお前しか追いかけてなかった。こんだけ生きてきて、はじめてのことだったよ。だからクロス……俺と、付き合ってくれないか?」

 

言えた。謎の達成感に布団に篭りたくなる。クロスは視線を彷徨(さまよ)わせながら何か考えるような素振りを見せる。

 

たっぷり二分ほど静寂に包まれた。焦りが身を焦がす。早く答えが欲しかった。クロスは何かを決めたのか、口を開いた。

 

「……すみません、お断りします」

 

それを聞いた瞬間、部屋が凍りついた気がした。口をあんぐりとさせた俺を、クロスは今にも泣きそうな顔で見てくる。

 

「分かってます、『何言ってんだ』って思ってるのは痛いほど分かってますよ。……でも、俺じゃセンパイとは釣り合わない。そもそもの生まれもそうだし魔力にしろ体力の差にしろ、センパイがずっと上です。天秤にかけなくたって分かることです。……俺が今よりもずっと強くて、センパイと肩を並べられるくらいだったら、受け入れていたと思います。……ごめんなさい」

 

そういうと、クロスは力なく立ち上がり、扉に手をかけ、足早に廊下へと出て行く。

 

「おい、待て!!」

 

俺の言葉も虚しく。

 

***

 

足早に自分の部屋へと戻り、ベッドへと埋もれる。

 

まさかセンパイから告白されてしまうなんて……この人生のなかで予想にもしなかったことだった。脳裏にナイトメアの表情がよぎる。口をぽっかりと開け、言葉を失った彼の姿が。

 

ソウルが締め付けられるような気がした。彼からすれば俺は恋愛対象だった。でも俺は釣り合ってないのが怖くて断ってしまった。弱い恋人なんて必要ないんじゃないか。そんな思いがぐるぐると頭を回っては支配して……。あの人の制止も知らない顔して、逃げてしまった。

 

「ごめんなさい……」

 

届くわけもない謝罪の言葉が、静かに吐き出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今もなお、花は止まることを知らない。




というわけでリクエストでした。日を跨ぎながら書いたり書きたいところ書こうとしたら5500ほど書いていました。ちょっと長すぎた。
リクエストありがとうございました!

2022/01/24
誤字訂正しました。
2022/01/30
少し変えました。
2022/03/08
文章追加等しました。


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