医者が死んで千年。拾った子の養育費の為に鬼殺隊始めました (宮崎 葵)
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そうだ。収入が欲しいから鬼殺隊に入ろう

 暗い夜に相対的な白い雪が降る街の中、白色に淡い散り桜模様の着物を着た少女が一人。今日は新月で月も無く涼しい。やはり冬は良い。あの憎たらしい太陽について考えずに済む。

 何だろう。月彦とか言う貴族が医者を殺しちゃったから病気が治らず千年が過ぎた。でも、僕はこの事に今はとても感謝している。

 手の中には遊郭の最下層の母屋に一人居た握れば潰れそうで、雪の様に白い冷たそうなのに暖かい、髪はまるで砂糖のように白い。とても甘そうな少女。僕はこの七歳から八歳位の少女を見る度に頬が紅潮する。見ていなくても考えるだけで、触れているだけで心臓が激しく脈を打つ。

 本当に危ないところだった。さっき、遊郭帰りの柄の悪い酒臭い服の無い男の鬼に殺されそうになっていた。

 全く、理解出来ないよ!何でこんなに美しくてとても可愛い少女を殺そうと思っちゃうの?!だから、僕が殺した。当然だよね?!だって彼はこの少女を殺そうとしたんだ。一回は止めてあげたのになー。

 そう言えば、昨日鬼殺隊に面白そうなのが居たな。僕を殺そうと必死に何度も立ち上がって来る少年。結局、傷一つ付けられない様子だったから「五年後に僕を狩りにおいで」と言った。あの少年は五年あれば良く育つだろう。

 僕は夢を膨らませる。この少女は僕にどんな世界を見せてくれるのだろう。僕はきっと生まれて初めての恋をした。今までは興味を持っても精々、「可愛いな」と思う程度でこんなに甘い気持ちになる事は無かった。でも、今は身体中が甘く感じる。

 次に待つであろう未来を想像する度に僕の心臓は加速する。

 「初めました。恋心」

 そう言って少女は遊郭から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は最近住んでいる山奥の家の布団を敷いた縁側の手前の部屋に少女を寝かせて、台所や倉を整理していた。

 どうしようか。とにかく、起きないから身体は僕が洗った。ゴミの匂いが取れた分、彼女の甘い匂いが強まった。こうしている間にも酔って倒れてしまいそうだ。

 僕は昨日、血鬼術で家に帰って来た。僕の血鬼術は空間に作用する物が多い。今回はあまりにも遠いので紅血霧散(こうけつむさん)を使おうかとも思ったが、それでは僕しか移動出来ない。だが、たまには歩いてみるのも良いかもしれない。彼女は人間だ。ならば移動手段は基本的に足だ。ならば、僕も普段から慣れておいた方が良い。

 一先ず、先週に暇で搗いた餅が大量に出て来た。見た感じ腐っては居ないがどうしようか。万が一、彼女が腹を壊せば僕は悲しさで自殺しようとするだろう。勿論、自力では死ねないから自殺にならないが。

 そう考えていた瞬間だった。甘い匂いが強まった。後ろを振り返ると少女が目覚めてこちらを見ていた。目は林檎の様に赤い色をしていた。その双眸は僕が持っている餅に向けられていた。

 「……」

 「これ、欲しいの?」

 少女はこくりと頷いた。見た限りこの餅は僕が年中行事の一つに搗いた餅だろう。恐らく食べても大丈夫だよね?

 「分かった。ちょっと待ってね」

 僕は鉄網と七輪を持って外に出た。日光を半ば克服して早百年。少々痛いのは我慢しよう。何年も前に鬱陶しい鬼殺隊とか言う奴らの折った日輪刀を材料にしたんだけどこれで焼いた餅が美味しかったんだよな〜。

 僕は家の周りに生い茂っている木から適当に一番近い木を素手で切り倒して、腕の半分の長さに分けて、四等分して薪にした。

 薪に火打石で火を点けた。七八分程立ってから火はパチパチと音を立てて、赤い炎を揺らした。

 僕はその上に拳と同じ大きさの餅を三つ乗せた鉄網を置いた。後はこまめに引っ繰り返し、適当に膨らんで来たのを見て網を外して家の中にあった皿を水洗いし山田膳に箸と共に置き、布団に戻っていた少女の前に置いた。

 「食べて良いよ」

 少女は右手を静かにゆっくりと震えながら餅に伸ばした。いけない、このままでは火傷してしまう。僕は少女の右手を掴み、右手で箸を取り餅を摘み少女の口に運んだ。一瞬熱いから食べられないのでは無いか?とも思ったがその辺は問題無いらしく、半分噛み切り飲み込んだ。

 「おいしい?」

 「……おいしい」

 その声はどんな甘露より甘く耳に響いた。この少女は何もかもが甘い。きっと、この世に彼女以上に甘い者は存在しないだろう。

 「良かった〜。不安だったよ。所で、家族は居るの?」

 「……知らない」

 えっ?いや、確かにあそこは遊郭の最下層の母屋。親が子供を捨てていてもおかしくない。でも、捨てたのなら拾っても問題無いからある意味良かったのか?

 「そっか。じゃあ僕と暮らしてみる?」

少女にはこのボロ布さえ悲壮感を漂わせ似合う様に見えてしまうが、僕がそれを許さない。

 「一緒に街に出よっか」

 「……」

 彼女はまた黙って頷いた。口数が少ないな、あまり人と話す事が無かったのか?だとしたら困った。僕には知識は山程あるが、教えると言う点においては酷く下手だ。

 「良いかい?今から街に出るけど君は森で両親を熊に喰われて宛ても無くさ迷っていた所を僕に拾われた。その設定で行こうね?」

 「……」

 彼女はまた黙って頷いた。そもしも、この子が流暢に喋る事が出来るとは思えないが、念には念をだ。昔亡き父に言われた「慢心は我を滅ぼすぞ」と。故に、僕は慢心しない。相手が蟻の一匹でも確実に殺す手段を模索し確実に殺す。

 「所で名前は?」

 「……」

 頷く事も無く無反応。まさかこれは……。

 「名前が無いの?」

 「……」

 捨て子と分かった時点で察しはついていたがまさか名無しとは。

 「名前付けていい?」

 「……」

 無言で頷いた。そうだね、甘い匂い、幻想的な見た目。そう言えば昨日は雪が降っていたな。あとは私の特徴から霞を取って。

 「雪霞(せっか)でいい?」

 「……うん」

 首を縦に降り頷いた。これで名前も決まった。

 「じゃあ行こっか」

 木が生い茂り、雪の積もったこの森を歩かせるのは酷だろう。僕は彼女を背負い街へと繰り出した。

 とにかく、収入が欲しいし鬼殺隊にでも入ろうかな?と思ったけど二つ鈴は何時でも血鬼術で呼び出せるから良いや。必要になったら呼び出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 服も調達したのは良かったけれど、如何せん鬼殺隊が見つからない。どうにか私でも入りやすそうな仕事をと思ったが隊士が居なければどうしようも無い。

 一先ず水色の雪の模様が散りばめられた着物と藍色の袴を買った。子供用に丈を合わせたが良く似合う。これは将来が楽しみだ。

 目の前には黒髪の長い蝶の髪飾りをした血に濡れた女性。そして、その白と淡い桃色の外套の下にある服は探していた鬼殺隊の服。

 「君誰なの?可哀想に、親が居ないんだね。二人とも俺の中で幸せにならない?」

 これは雪霞の教育に悪そうだね。あとよくよく見ればこの男鬼では無いか。これを殺せば鬼殺隊に入れるのでは?

 「雪霞、そこから少し離れていなさい。僕は今から少し暴れるからね。五分後に戻った来て」

 そう言うと雪霞は反対側へと走って行った。これで良い。巻き添えの心配はこれで無い。

 「そこの人早く逃げて!」

 僕は耳を抑える。うるさいなぁ、雪霞が不快に感じたらどうするの?この距離なら充分に聞こえるじゃないか?

 「ねぇ?そこの可愛らしいお嬢さん?貴方は鬼殺隊?」

 僕は適当にお世辞の様な臭いセリフで薄い笑顔を貼り付けながら問い掛ける。

 「良いから早く逃げて!」

 お嬢さんは再び大声で叫んでいる。その所為で口から血を吐きながら咳をしている。大方、肺になんらかのダメージを受けているのだろう。質問が理解出来ないのかな?鬼殺隊って結構頭が硬い人が多いから困る。

 「そうなの?そうじゃないの?早く質問に答えて」

 呆れ気味に再び問い掛ける。そうじゃないなら僕としては無闇矢鱈に鬼を狩る気は無いので少女を救出して鬼殺隊の入隊法を探るつもりではあるのだけど。

 「私は鬼殺隊の花柱。胡蝶カナエ!早く逃げて!」

 その言葉が止めになったのか遂にカナエは地面に倒れた。そろそろ限界だろうに。正直これが普通の人間ならもう治療しても助かりはしないだろう。

 「分かった。じゃあ質問するけどそこの軽薄そうな男は鬼だよね?これを倒せたら鬼殺隊に入れる?」

 僕は鬼に指を指す。鬼は余裕綽々としているがそこまで強くなさそうだ。それに何となくの所謂勘という奴だがこの鬼はこれ以上進化の見込みが薄い。生かしていても楽しみが無い。

 「無理よ!そいつは上弦の弐!それに日輪刀は───」

 地に這いながらも声を張り上げて僕に注意をする辺り生粋の善人らしい。優しい人間にはこの仕事向かないから早く退職した方が良いよ?こう言う仕事は優しい人から死んでいく。

 「そっかぁ、じゃあ早く───」

 そして、右足の下駄が砕ける程に踏み込んで瞬間的にその軽薄そうな男に近づいた。

 「おやすみだね?」

 拳で男の頭を殴ると男は突然の事に対応出来なかったらしく、勢い良く火縄銃から放たれた鉄砲玉の様に三回跳ねて転がって行く。この位か、無惨なら今のは回避出来ていた筈だ。あの日の呼吸の剣士なら拳を切り落とせる筈だ。昔やりあった無惨や日の呼吸の剣士の方が強いなぁ。

 無惨は逃げるから血鬼術で閉じ込めて何度も何度も殺してあげたなぁ。隠れんぼが上手だから見つけたらすぐに閉じ込めなきゃ。縁壱とは本気の斬り合いは「人を襲わないなら良い」って一回しか戦えなかった……。残念。あの人なら僕を新しい境地に導いてくれそうだったのに。

 手応えからして恐らく相手は上弦の弐である事は確かだろう。普通の鬼なら今ので頭はおろか上半身が消し飛ぶから少なくとも上弦ではある。

 「奇妙な呼吸だね。……鬼なのに呼吸って黒死牟殿と同じじゃないか……」

 鬼は余裕気な貼り付けた気色の悪い笑みは剥がれ焦りを感じていた。さっきまでの余裕は何処に行ったのかな若造君?

 顔を伺いに後ろ見ればカナエは驚いている。確かに鬼が鬼を殴るとは想定外だろう。

 「───貴方鬼なの?」

 「さぁね?話はこれの首を取ってからにしよう?」

 僕の右手には一瞬黒い棒状の霧が出来ていた。そして、霧が晴れて中からは白い刀───白鳴(じゃくめい)が出てきていた。今回は片方だけで良いと思ったから鎬造りの二尺程の長さの直刀の石英の様な白い日輪刀。鍔は雪の結晶を模した白色の鍔をしていた。昔、刀作りに凝っていた時に自分で陽光山で猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石から作ったんだよね〜。色が変わった時は失敗したかと思ったよ。

 「とにかく、粉凍(こなごお)りも効かないみたいだし、俺としては君みたいなのは面倒だから倒させてもらうよ」

 「血鬼術・結晶(けっしょう)御子(みこ)

 上弦の弐は扇の上に息を吹きかけ、小さな氷の人形を作り出した。何をしているんだ?今は戦闘中だぞ?いや、血鬼術の類か。恐らく先程から肺が僅かに痛いのも血鬼術を使用しているのだろう。周りの気温が低く感じる当たり、あの扇を利用して冷気を振りまいているのか?

 「早く片付けさせてね?」

 僕は走って上弦の弐に詰め寄る。だが、間にある人形が邪魔をする。この人形から始末しよう。人形は白い霧を作り出した。眼球に違和感を感じる。恐らく、眼球が凍りついたのだろう。だが、私の身体には関係無い。

 私は力を込めて白鳴を大きく上から振り下ろした。

 「フンッ」

 霧は暴風に乗せられてたちまち消え失せた。

 人形が氷の蓮を作っていた。そこからは冷気が発されている。この冷気はこれが仕掛けか。蓮の花の蔓が僕の首を目掛けてやってくるが白鳴で叩いて砕いた。氷が飛散し僕の身体に当たり凍り付く。だが、全身を凍らせなければ意味が無い。

 身体の凍った部分は代わりの細胞が構成されて落ちるから意味が無いのだ。

 「虚式(きょしき)色失一閃(しきしついっせん)

 刹那の間に白鳴は氷像の後ろに立っていた。そして、後ろには首を斬られた氷像があった。いつの間にやら動いていた二尺先に上弦の弐が見えた。倒すのは嘘で逃亡狙いか?

 「逃げられても面倒だね。血鬼術・隔空絶世(かっくうぜっせい)

 黒い霧が上弦の弐と僕の間を覆い、黒い現世と隔離された空間が完成した。そこには一切の光が無く、月明かりさえないここは普通の人間には何も見えないだろう。

 僕は白鳴を血鬼術で仕舞い、棒状の霧が晴れると代わりに黒い刀───黒鳴(こくめい)が出てきた。同様に鎬造りの二尺程の長さの直刀の黒曜石の様な黒い日輪刀。鍔は雪の結晶を模した黒色の鍔をしていた。隔空絶世の中では黒色は鬼の目でも視認は不可能だ。

 ついでに、自分自身を黒い霧が膜を張り包んだ。

 上弦の弐は大量に蓮の花を作っているが、僕は音を立てずに詰め寄る。

 そして刀が届く所まで来て漸く気付いたらしい。後ろに跳ねつつ、大量の蔓を伸ばしてきたが手遅れだ。僕は地面を蹴って僕の頭と彼の頭が同じ所まで跳ねた。

 「虚式(きょしき)斬光(ざんこう)横打(よこう)ち」

 僕は黒鳴を左から右へと弧を描く様に空中を滑らし鬼の首に到達するも特に手応えは無くそのまま切り抜けた。

 首を落としたが灰にならない。やはり無惨同様に首を落としても死なないか。昔鬱陶しいこれとは別の上弦に首を落としても死なないのが居た。なので、次の日まで隔空絶世を小さくして閉じ込めた。そして、日が昇ってから日光に晒した。

 再生されても面倒だ。僕は刀を持ち直し右から左に二十回、上から下に十回切り刻み胴体を微塵切りにした。流石に、無惨よりかは再生速度も遅く放置していれば互いにくっつく前に日が当たり死滅するだろう。

 「うわぁ。まさか、俺が首を斬られるなんて。君強いんだね。なんかね俺君を見てるとドキドキしてきた」

 気持ち悪いなぁ。今すぐ殺したいけれどこれはこれで好都合だ。このまま鬼殺隊の本拠地に首級として持って行こう。僕は再び血鬼術で蔵から昔挑んで来た隊士の日輪刀を折った物から作った金庫を取り出した。これに入れておこう。一先ず殺した事に証拠を出せと言われたら日光の前でこれを晒そう。

 僕が手を叩くと隔空絶世と僕を覆っている黒い霧が解けて僕の体は夜の闇に解け始めた。

 「これで良い?僕はしっかりと鬼を殺せるよ?」

 丁度に日が明けた。日光は眩しく、僕をその光で照らした。やはり少々痛いが特に気にする程の事でも無い。

 「姉さん!」

 後ろを見ていると曲がり角から人の影があり、そこにはカナエと良く似た少女が居た。髪には同じ蝶の髪飾り。姉妹かな?

 「しのぶ。どうしてここが?」

 顔は良く見えないが若干困惑気味の声でカナエはしのぶと言う少女に尋ねていた。

 「そこの雪霞さんに案内して貰いました。それより姉さん、そこに居るのは?」

 しのぶは僕を見て首を傾げる。確かに、知らない女が黒い刀を持っていたら不審だよね。

 「そう言えば自己紹介していなかったね。僕は多趣味な人間。そうだなぁ、白夜で良いよ?」

 僕は無気力に貼り付けた笑顔で自己紹介をする。ここで真面目にやり過ぎて鬼狩りに熱心と思われては困る。

 正直、本名は別にあるが時代遅れ感が酷いので使わない。何なら、陶芸師やら刀鍛冶とかもやってた分色んな名前がある。

 「それより姉さん。鬼はもう倒したの?」

 若干取り乱しながら問い掛けるしのぶ。

 「無理よ。相手は上弦の弐、私一人で敵う相手じゃなかった」

 カナエは首を振って否定する。正直、そのボロボロの身体で生死の狭間を渡って辛うじて倒したと言ったら信用して貰えそうなのに。

 「白夜さんが一人で、それも無傷で……」

 しのぶがこちらに振り向く。聞いた感じ上弦の弐と言うのはかなり強力な部類に入るらしい。確か柱は鬼殺隊の最高位の階級。となると、私は柱と同等又はそれ以上だろう。

 「で、鬼殺隊に僕を入れて貰えますか?僕は雪霞の生活費を稼ぐ当てを探してる途中なんで」

 「所でその刀何処から取り出したのですか?鞘が無いように見えますけど」

 しのぶが訝しげな目で問い掛けてくる。なので、それの答えを用意するとしよう。

 「こうだよ?」

 僕は右手には再び黒い霧を発生させ刀を蔵に仕舞った。カナエは酷く驚いていた。僕は人間とは言っているが一応、体自体は鬼よりなのかな?

 「貴方やっぱり鬼なの?ならなんで日光に当たって平気なの?」

 「知らない。人間の僕がなんで日光で死ななきゃいけないのさ。で、鬼殺隊には入れるの?入れないの?入れないなら入り方を教えてくれない?あと、カナエは出血もあるからあまり喋らない方が良い」

 僕は笑って言葉を投げた。鬼殺隊って入隊条件どんな感じなんだろう。鬼殺隊って言うからには鬼を殺すって事だし、その辺で鬼の首でも狩って持っていけば良いのかな?でも鬼の首って日光に当たると消えるし、日輪刀で斬ると灰になるし。

 「分かった。とにかく私達の家に来て、話はそこからにしましょう」

 しのぶは僕を警戒しているのか顔を強張らせてこちらに言った。

 「分かった。雪霞、もう眠いでしょ?おぶるからこっちにおいで」

 僕は雪霞に手招きした。雪霞は歩いてこちらにやって来る。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と言う言葉があるが雪霞の立つ姿、座る姿、歩く姿はどれもそれらを超えて余りある美しさだ。幼児には珍しく静かな所が気になるが、捨て子だから言葉を余り知らないのだろう。きっと、言葉を覚えていけばどうにかなるだろう。

 雪霞は僕が背中に背負うと静かに寝息を立てた。寝息はとても甘い匂いがした。

 「じゃあ、君達の家にさぁ出発だ〜」




お疲れ様でした。また次回のお話を楽しみにお待ち頂けると幸いです


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僕の正体ですか?千年生きた恋する乙女です

 そこは古き良き日本庭園のある屋敷であり、藤の花や低木に松が砂利の上に生えており、非常に静かな雰囲気が漂っている。代々受け継がれたこの家は、子供達の本拠地とも言えるだろう。
 「鬼を狩る鬼か……」
 私はカナエの鎹鴉からの通達を聞き私は宙を仰ぎ見た。確かに、有り得ない話では無い。上弦の弐を狩ったと言う鬼の少女。本人は人間と言い張っているが、血鬼術らしき物を使っている辺り鬼だろう。
 彼女は驚く事に鬼殺隊の入隊を望んでいる。正直、内側からの撹乱を狙っていると言われれば無いとは言えない。だとしたら、何故上弦の弐を狩るのか分からない。
 「これは面白い事が起こるかもしれないね」


 昼の蝶屋敷のとある一室にて鬼殺の隊士の目には当たらない隠し部屋に僕と甘い寝息を立てて寝ている雪霞しのぶの三人が居た。カナエは命に別条こそ無いが傷が多いので暫くは鍛錬も全面的に禁止、安静が命じられた。部屋は隊士達の居る所から離れていて、僕達を知る者は誰も居ない。

 「で、貴方は何者なんですか?」

 僕はしのぶの問いに顔を歪める。確かに鬼ではあるが、日光は効かないし人を食べずとも生きていける。首を刎ねられた事は無いから分からないが死ぬか分からない。この能力で人間ですと言うのは些か所か余りにも無理があると言う物だ。

 「一般人じゃ駄目かな?」

 「駄目です。それにその刀は何なのですか?鬼を狩れる辺り、日輪刀ですよね?日輪刀は鬼殺隊の関係者しか持ちえません。貴方は鬼殺隊に入りたいと言っていますが元鬼殺隊の隊士ですか?」

 「まさか、元鬼殺隊の隊士なら入り方を知っているじゃないか。なんで君達に聞く必要があったんだい?」

 僕は首と手を振り否定する。私は兄達の子が大人になる前に家を出ている。それ以降は人の世に深入りはしていない。

 「例えば、元鬼殺隊の隊士で鬼になったから入り方を知っていたら不審と思われるから隊士に聞いたとか?」

 「そうだね。確かに鬼殺隊の隊士が鬼になる。無いとは言いきれない事象ではある。けれど、それなら何で僕が日光で死なないのか説明出来るかな?」

 しのぶは押し黙った。そこなのだ。僕を行動から鬼と答えを仮定してもその証明過程において僕が日光を受けても平気と言うのがおかしな話だ。

 「先ずはそこから証明しなければいけないよね?僕を鬼と言うのであれば日光に当たって死なない理由を考えて欲しい。他の鬼は日光に当たれば死ぬ。あの鬼舞辻無惨でさえ、日光に当たれば灰になり死ぬ。あれは所謂手品とでも思ってくれれば良い」

 しのぶはニヤリと笑った。まるで仕掛けた罠に掛かった獲物を見るように。

 「何で貴方が鬼舞辻無惨が日光に当たれば死ぬことを知っているんですか?それも、()()()()なんて詳しい所まで?」

 「だって他の鬼は日光に当たれば灰になるだろう?そして、鬼舞辻無惨が何で配下の鬼を作る必要性がある?この世界を征服したいから?否、それならもうとっくにやっている。人間じゃあ彼等を全滅させるのはほぼ無理だろう。文明様の鉄砲なんて役に立ちやしない。一人ぼっちは寂しいから?否、それなら鬼を作って囲えばいい。何も誰かを殺させるようにする必要は無い。鬼殺隊を滅ぼす為?否、ならば上弦が毎日誘い出して殺せば良い」

 あれに生き残ると言う以外の事象は頭に無い。精々あってもあの剣士や私に対してのトラウマだろう。

 「だとしたら、答えは単純だ。生き残る為さ。ただ生き残る為なら仲間は要らない。だけど、何かを探しているなら話は別だ。一人で物を探すより多数に捜索させた方が効率が良い。それに実験が必要な物の類なら実験台の確保にもなる。これが僕の考えた結果だ。勿論、灰になると言うのは他の鬼を見ての結果からの憶測に過ぎない。だけど、君の反応からして間違い無いようだね」

 しのぶは再び押し黙る。仮にも僕は千年生きた人間だ。そう簡単に言い負ける事は無い。

 「しのぶ。僕は最悪鬼殺隊に入らなくても良いんだよ。雪霞の養育費を稼ぐ事さえ出来れば良い。出来れば二人暮らし分の生活費もね」

 僕は甘い寝息を立てて寝ている雪霞の頭を撫でる。昨日かなり無理させたのもあり、寝息を立ててぐっすりと寝ている。

 「鬼が何故人間と居るのか全く分かりません。貴方達にとって私達は食料でしか無い筈です」

 「僕は人間だよ。だから、僕が雪霞に恋している事は何の不思議も無い」

 「えっ……」

 しのぶが狐にでもつままれた顔をして、意表をつかれて抜けた様な声が出た。

 「白夜さんは女性ですよね?」

 「まぁ、女だね」

 「雪霞さんも女の子ですよね?」

 「そうだね」

 「そして、女性の白夜さんは女の子の雪霞さんに恋をしていると?」

 しのぶが何かを確認する様に問い掛けて来るが何を言っているんだろう。愛という原始的な生物の生殖に関する点として見れば異常だが、何も珍しい話では無い。

 「そうだね」

 それを何故こうも問うてくるのだろうか?

 しのぶは頭を抱えて「姉さん。やっぱり無理だよ」と言っていた。何が無理なんだ。おい、言ってみろ。

 「所で、僕としては一日でも早く安定した収入源を得たい。僕は何も食べなくても良いが、雪霞は違う。雪霞は僕の様な稀有な不死擬きの病人では無く極めて普通の人間。栄養不足になれば死ぬ」

 最悪、僕は何も食べなくとも血鬼術が使えなくなるのみだ。だが、雪霞は違う。物を食べなければ死んでしまう。

 「貴女の様な元気な病人が居るものですか」

 「とにかく、僕は雪霞を安全に育てる為に鬼殺隊で収入を入れる必要があるんです」

 「一応確認しますけど両親は?」

 「千年前に二人とも当時の流行病で死んだし、三人居た兄も病死した。その後はほぼ隠居してたから子孫の有無は知らない」

 僕は人の理から外れた化け物だ。そんな物が人の世に長く居ては必ず歪みを生む。故に、僕は兄の死と同時に家から姿を消した。長兄の息子は止めたが、流石に僕の足には敵わなかった。

 襖の開く音がした方角に僕は目を向けた。そこには包帯ぐるぐるで止血されたカナエが居た。

 「白夜さん。御館様に報告したよ」

 「で、返事はどうだったの?」

 「お待ちしてます、だって」

 「じゃあ行こうか。しのぶ、雪霞の面倒を見ててね」

 「姉さんまさか!」

 しのぶは驚いていた。まさかと言っている辺り、もう想像がついているのだろう。

 「今から白夜さんと御館様の所に行ってくる」

 僕達はしのぶの静止を無視して、包帯ぐるぐるのカナエを抱えて走り出した。途中で見覚えのある隊士の顔を見たが、彼は私に気付いていただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「君かな?上弦の弐を倒したと言うのは」

 そこは古き良き日本庭園であり、藤の花や低木に松が砂利の上に生えており、非常に静かな雰囲気が漂っている。僕が全力で走り跳ねた事もあり昼だった。そして、目の前の屋敷の縁側には袴を着た男が居た。男の声は頭に良い意味で響きやすく、三分もあれば洗脳が行えそうな声をしていた。あまり、好きにはなれないがこれも才能と言う奴なのだろう。

 「はい、僕ですね。僕がやりました」

 「証拠は何かあるかな?」

 「あるので出しますね」

 僕は黒い霧を作り、そこから三錠付いた金庫と白鳴を取り出す。錠を外し、下に向けるとそこには上弦の弐の首が落ちていた。

 鬼の生首ならぬ生き首だ。日に当たった事もあり徐々に灰になり始めている。

 「痛いなぁ。漸く終わりか。鬼が鬼を狩るなんて酷い話だよ」

 そう言い残し、上弦の弐は消えた。上弦の弐、もし、また会うことがあったら今度は少しお話でもしましょう。貴方の過去に少し興味があります。

 「今のでお分かり頂けると思いますが、少なくとも上弦の弐以降は首を刎ねても死にません。なので、日が出るまで日向に拘束する必要があります」

 「良い情報だけど難しい事だね。鬼に長期戦は子供達にとって不利だ」

 呼吸を使っているとは言え所詮、隊士は人間だ。結局の所身体の性能は鬼が有利なままである。有限の人と無限の鬼、どちらが長期戦に強いかは木と鉄、どちらが硬いのかと言う事程に明白だ。

 「白夜君。君の望みは何かな?」

 「鬼殺隊の入隊ですかね。何分、僕は戦闘以外の事は差程得意ではありません。それほど優れているわけで無ければ、家事は人並みで精一杯です。そんな僕に出来る事は精々、絹織物の工場勤め位でしょう。ですが、戦闘ならこの現在の日の本においては五本の指に入る程には出来ると確信しております」

 「良いよ。君の鬼殺隊入隊を認めよう。少し、特例ではあるが上弦の弐と言う大物を狩ったんだ。誰も反対しないだろう」

 「ありがとうございます。では僕は───」

 「所で、君は何の呼吸を使っているのかな?」

 「呼吸の名前ですか……」

 確かにこの呼吸には名前を付けるべきなのだろう。鬼殺隊の使う呼吸は何らかの名前を持っている。僕の呼吸も一応は日の呼吸を自分の形に落とし込んだ物。僕の剣技の名前は虚式。ならば、呼吸の名前はこれが良いだろう。

 「(うつろ)の呼吸ですね」

 「そうか。なら、君は柱になる気はあるかい?」

 「特にこれと言って柱を目指す気はありません。僕は純粋に雪霞の養育費さえ稼ぐ事が出来れば構いません」

 正直、もしも鬼の中に月彦とか言うのが居れば即刻頸を刎ねるのも吝かでは無い。けれど、人の理から外れた僕が余り鬼を過度に狩るのは良くない。鬼の滅殺は人間が力を振り絞り行うべき事だ。

 「そうか。柱になりたいのなら何時でも十二鬼月を狩っくると良い」

 「分かりました。必要となれば十二鬼月を狩ってきます。後、今度からはお面を被って来ます」

 「何故だい?」

 「僕の顔は一部の方に刺激が強すぎるかも知れないので。如何せん、戦国時代には武士をやっていたのでその仇として伝えられている可能性がありますし」

 記憶が定かでは無いが少なくとも百人はやっている。その中に武将が居る可能性は充分にある。武将ともなれば後継ぎに仇として僕を伝えるのは造作ないだろう。

 「分かったよ。好きにお面を付けると良い」

 「僕は一先ず、帰って帰り道に鬼が居たら狩ってきます。また会いましょう」

 そして僕は屋敷から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「上弦の弐が殺られた。上弦の弐だ」

 私は目の前に集まる百三年ぶりに集められた上弦の弐以外の上弦。ただ、今回は訳が違う。よりにもよってあの異常者が動き出した。

 「ただ、今回は叱責が目的では無い。今回の目的は情報整理だ」

 「と言いますと……あれが動いたのですか」

 「黒死牟、何だそれは」

 「猗窩座……あれは私や無惨様を殺せる存在だ」

 その瞬間空気が揺れる。当然だ。私を殺せる存在ともなれば皆が警戒するのは当然の事だ。寧ろ、警戒して貰わねば困る。

 「無惨様を殺せる存在。そんな者がこの世に居るとは!恐ろしい、恐ろしい……」

 「桃の上が動いた。各自これに遭遇した場合即刻逃亡せよ。あれはお前らの手に余る」

 仮に、私と欠けた上弦の弐を含めた上弦の全てが掛かっても一体一体始末される。あれの血鬼術はそんな事が容易く行える。

 「特徴は白い髪と白い肌。そして、目は青色だ。奴は空間を切り離す奇妙な血鬼術を使う。これを喰らう前に逃げろ」

 「無惨様、鬼と言いますとかつての珠世と同様に逃れ者ですか?」

 「違う。あれは私と同じ始祖だ。到底敵う訳が無い。恐らく、自害でもしない限り死なない。万が一にもあれにとって命に変えても救いたい者を人質に取ればあるいは殺せる可能性もある」

 だが、あの異常者に人の理は通用しない。恋は有り得ない。又、友情の芽生えも無い。それでも、もし僅かに雀の涙程度にそんな存在になり得るなら人では無く鬼だろう。

 「万が一、桃の上から好意を持たれた者は私に報告しろ、又桃の上が好意を持つ者が分かった場合もだ。有効利用出来れば利用する。危険なら処分だ。以上だ。鳴女、送還しろ」

 各々が鳴女の襖から退場する。先ず私は論外だ。アレは恐らく私を幾ら殴っても壊れない布袋程度にしか思っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は下駄を脱ぎ蝶屋敷の甘い匂いの中心へと駆ける。早く会いたい。彼女に会いたい。いけないこれでは万が一寝ていては僕の足音で起きてしまう。僕は足音を消して歩く。そして、襖を静かに開ける。おかしいな?匂いがするのに?

 部屋に入ると下から僕の桜模様の着物を引っ張る感覚。下を見るとそこにはちょこんと雪霞が立って僕の着物の帯の下位を引っ張っていた。

 可愛い。え、やだ。何この仕草。たまに人里に降りている時に小さな子供が親や上の兄姉の服を引っ張る姿を見る事はあったがこれ程惹かれる事は無い。

 「やだ。可愛いぃ」

 もう溶けてしまいそう。火に当たられた鼈甲飴の様に脳から神経の至る所が熱くなり、溶けてしまいそう

 「……びゃく……や」

 甘い声が耳を揺らす。その衝撃が鼓膜を超えてが脳へと伝い刺激する。いけない、いけない。

 「何。雪霞?眠いの?お腹空いた?」

 「……しの……ぶ……どこぉ」

 残念ながら僕をお求めでは無いらしい。でも、今僕は雪霞に頼られている。そう考えると俄然やる気が湧いてくる。

 「じゃあ、しのぶを探しに行こうか!」

 僕は雪霞を背中に背負い込み、蝶屋敷を歩き始めた。




私です。一週間に一回が身の程と分かったので今後は一週間に一回程度の間隔で投稿していこうかと考えております。それでは、お疲れ様でした。次のお話を楽しみに待って頂けると幸いです

原作設定との相違についての補足
入隊試験は流石に上弦狩ったからやらなくても実力が把握出来ているからと御館様の独断で省略しました。実弥と違い殺した相手が上弦ですので。柱になりないならに関しては御館様としては手っ取り早く白夜さんを柱にして動かしたいので単騎で十二鬼月を狩ると甲で無かろうと職権乱用で柱にするつもりです。


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その少女は予想も付かぬ場所に居て

 「母上、父上。私に詩なんて詠めません!そんな事より剣を振りましょう!」
 私は貴族の子でありながら恥ずかしいかな詩が苦手だ。その上に身体も弱く、持病の所為で余り運動出来ない。兄上達に剣の才では勝るが、女の身の私に剣の才等意味は無い。
 「待て待て、桃。詩は良い物だぞ?詩は人の心に残り長く響き続ける。貴族なら少しは覚えなさい」
 父上は笑いながら言った。父上は都でも名の知れた詩人で本当に私はこの父の子かと信じられない位だ。
 「あんまりですぅぅぅ」
 「桃。十にもなって騒がないの。端ないでしょう?」
 「分かりました……母上」
 私は家族を愛している。この日々が何時までも続けば良いと思う程に。


 何故こんな所にこの女が居る?彼女は五年待つと言っていたが、あれは嘘だったのか?不味い、ここは怪我人も居る。どうにか時間を稼が無ければ。それに、彼女の背負っている女の子も助けたい。

 「やぁ?どうしたんだい?まるでかつて自分の同胞を傷付けられて、全員の刀を折った相手に遭遇した様な顔をして?」

 彼女は他人事の様に語る。あの日の悲劇を。あれは戦闘にすらならなかった。向かっては骨を砕かれ、刀を折り奪われる。全員生きてはいるがあんなのは公開処刑と差して変わらない。こいつはそれを「つまらない」と言いながら潰したんだ。

 「全くだよ。俺もまさかあんたがここに来ているとは思っていなかったよ。あんたの目的は何だ?」

 こいつは何故こんな場所に居る。そもそも此処をどうやって知った?まさか、俺を尾けていた?畜生、俺の所為で……。

 「しのぶを探しているが如何せん見つからなくてね。雪霞が用があるから探しているんだけど見つからなくてね。知らないかい?」

 何でカナエさんでは無くしのぶさんを?そうか!しのぶさんはカナエさんの妹。人質に考えているのか。この外道、それに責任を後ろの女の子に擦り付けようとしている。鬼は何処まで腐っているんだ!

 どうすればいい?全身から嫌な汗が出る。俺は今刀も無ければ、両腕の骨は砕けていて動かない。蹴りを入れるか?いや、避けられて殺される。殴りに掛かる?これもさっきと同じだ。なら、答えは一つ───

 「それならさっき見たんだ。こっちに来てくれないか?」

 こいつを騙して日光に当てる。今は幸い昼間だ。今なら日光でこいつを殺せる。幾らこの鬼でも日光には敵うまい。最悪、日光に当てられなくても時間稼ぎだ。

 「知ってるのかい?なら、早く案内してくれ。雪霞の望みは僕にとっては最優先事項だ」

 「分かったよ。じゃあ尾いてきてくれ」

 俺はそう言って、さっきしのぶさんとすれ違った所の逆方向へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で?どうしたんだい?僕に日光を当てる事に成功したが灰に成らないのに驚いているのかい?」

 全く、途中から気付いてはいたがそんなに驚くとは。ここまで来ると一周回って面白いと言う奴だ。

 「何でだよ……。お前……鬼なんだろ?何で死なないんだよ?」

 彼は尻餅をつき全身を弾いた琴の糸の様に震わせている。懐かしいなぁ。昔はあんなに弾くのが面倒臭かったのに今ではあの日母と弾いた琴が今ではとても楽しかった物とも感じる。今は終わった遠い日々に耽る。

 「で?次はどうするんだい?僕としてはしのぶを探しに戻りたいかな」

 「……てくれ……」

 「ん?何だい良く聞こえないなぁ?」

 「お願いだ……俺はどうなっても構わねぇ。頼むから、誰にも手を出さないでくれ」

 彼は額を頭に擦り付けていた。あぁ、そういう事か僕がしのぶを人質に取り、全員を殺す算段だと踏んだのか。全く、僕を何だと思っているんだい?この若造は。僕は確かに人を殺した事があるが君の前で一人でも殺したかい?

 「知らないよ。僕は単にしのぶに用があるだけだ、じゃあ僕は行くから早く寝て傷を治すと良い」

 そんな体では僕を殺すのは到底叶いやしない。僕としては君が五年あればそれなりに成れると踏んではいるんだけどね。流石にこんな短期間で成長する訳無いか。

 「と言ったら本人が来たらしいね。しのぶ、僕の事を伝えないとこんなにも面倒な事になるらしいね」

 しのぶは呆れたと言わんばかりに溜息を吐いた。

 「元はと言えば白夜さんが勝手にあの部屋以外で行動したからでしゃないですか?今すぐ部屋に帰って下さい」

 「雪霞が用があるんだ。少し来てくれないか?」

 「分かりました。私はこの人を帰すので早く帰って下さい」

 「分かったよ。じゃあ僕は大人しく帰るね」

 そして僕は踵を返して帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しのぶさん、あれは一体?何故こんな場所に鬼が居るんです?!」

 俺は問いかける。しのぶさんはアレを容認していた。つまりは予め知っていたと言う事だ。

 「雪霞さんの養育費欲しさに鬼殺隊に入ったそうです。鬼殺隊に入る為に上弦の弐を狩りました」

 「演技では無いのですか?」

 「いえ、演技の可能性は低いでしょう。上弦の弐を潰すのは余りにも手痛い」

 あれは上弦の弐よりも強いのか?なら、俺達が挑んだのは実質上弦の鬼だったのか。

 「あと、彼女は自称人間らしいので余り鬼と言わない様にして下さい。下手に機嫌を損ねられて彼女が戦力から離れるのは鬼殺隊としても痛いので」

 確かに、上弦の弐を狩れるとなると生かしておくメリットは高い事も理解出来る。だが、養育費稼ぎで入ったと言うのがどうにも引っかかる。それも何故あの少女にそんな事をするのかだ。

 「分かりました。この話を知ってるのは俺としのぶさんとカナエさんだけですか?」

 「はい。他の人は知りません」

 その時だった、突然お下げの女の子が向こうから走って来た。確か、すみさんだっけ?

 「急いで下さい!炎柱候補の急患です!他にも複数の重傷者が!」

 「分かりました。今行きます」

 そしてしのぶさんは走って行った。この屋敷はどうやら安全とは言い切れないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結局夜まで来なかったか……」

 僕は雪霞が寝たのを確認してから月を見ていた。蝶屋敷のとある池のある縁側の前で月を見ている。やっぱり月の美しさは何時の世も変わらない。年々小さくなって見える気がするのは気の所為だろか?

 涼しい夜風が肌を撫でる中、淡い紫色の濃淡が下に着いただけの着物を着て僕は雪霞の為に少し台所をお借りした自宅の蔵の餅から団子擬きの余りを食べている。

 五段ほどにも積まれた串刺しの素団子。こうしていると思い出すなぁ、かつて父母や兄と過ごしたあの日々を。彼等は人として死ぬ事を望んでいた。だから、血を分け与える事はしていない。でも、今でも偶に思うのだ。「あの人達が生きていればどれ程楽しかっただろうか」と。でもそれは叶わぬ夢で有り得ぬ理想の果て。

 

 「玉の緒よ何故絶えざるや

   ながらへば想ふことの深みもぞする」

 

 父上、母上、兄上達、私は今では歌も読めます。かつては非才な私ではありましたが、今ではあなた方には並ばずとも、貴族の末席に恥じぬ程には読めるでしょう。

 「よもや、よもやだ。まさか俺以外にも起きている人間が居ようとは!」

 私は───僕は振り返る。そこには包帯を巻かれた男が居た。髪は炎を思わせる黄色に近い白や赤が混じった熱そうな男だった。

 「そういう君はここの患者かな?早く寝た方が良いんじゃないかな?僕は良いとしても君の身体は傷だらけじゃないか。鬼の首を狩りたいのなら早く寝て傷を治すと良いよ。と言うか君は何をしているんだい?」

 「厠に出て少し餅の匂いに惹かれて出てきて見れば君が居た。君こそ寝なくていいのか?」

 確かに、餅を砕いて捏ねて焼いたから匂いは漂っているのか。それならこれは僕の落ち度だな。

 「そうだね。確かに、僕も寝るべきかもしれないね」

 「少し、貰っても良いか?」

 「どうぞ?酒も無ければ、中は何も無い素団子で良ければね?」

 「構わない。喜んで頂こう!」

 男は皿を挟み横に座った。

 「下駄は履かないのかい?」

 「それは君もだろう?」

 男が僕の問いに答えを返す。この間に団子の上二段が無くなった。

 「確かにね」

 「やっと、笑ったな」

 「えっ?」

 僕は一瞬分からなかった。僕が最後に笑ったのは確か雪霞と風呂に入った後に一緒に布団に入りしのぶを待っていた時だった。

 「さっきから何処か遠くを見つめている様な目をしていたからどうしたのかと思ったが───、特に心配無さそうで何よりだ」

 「そうかい。僕はそんな顔をしていたのか」

 恐らく、家族の事を考えていたのが顔にも出ていたのだろう。雪霞と出会った所為か少しあの頃に戻ってきている気がする。

 「気付いていなかったのか?」

 「どうやらそうらしい」

 僕は自嘲気味に答える。そして、団子は残り一段になった。残り一段と言っても三本程しか残っていないが。

 「エラく美味いがこの団子は誰が作ったのだ?」

 「僕だよ?」

 「よもや、よもやだ。詩だけで無く料理の才もあるとは」

 歌の才と言う事はあの詩を聞かれていたのか。少し恥ずかしいな。あれは家族に向けての詩と言うのもあり、少し感情的な詩である為に感じる物がある。

 「お褒めに預かり恐縮だよ。今夜の礼にでもあと二本は君にあげよう。また会った時に可能な限りで君が好きな物でも作るよ」

 「そうか!それは楽しみだな」

 そして、僕はあの部屋へと戻って行った。その後夜中に皿を回収する為に再び起きたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この胸の高鳴りは何だろうか?

 俺は布団に入ってからこの事ばかり考えている。否、正確にはあの少女と出会ってからだ。あの月の様に美しい髪をした少女。肌は雪の様に白く、目は硝子玉の様に美しかった。

 「また会いたい」

 思わず口から零れ落ちる言葉。今でもさっきの会話を明瞭に思い出せる。あの声が何処か俺を狂わせる。夜風にやられて風邪でも引いたか?と考えたが俺に限ってそんな事は無い。

 俺はきっと何時までも忘れない。あの御伽噺から出てきた様な美しい少女の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「白夜さん?また勝手に行動しましたね?」

 「しのぶ……こわい」

 しのぶが笑いながら怒りつつ問い詰めて来る。いや、顔は笑っているのだが声が笑っていない。雪霞が若干怯えている。あとその話、今回は心当たりがあるな。

 「噂ですよ、何でも『杏寿郎さんが昨日の夜に厠に起きると月の様な美しい少女と一晩を過ごした』とね?朝から『その女は何処だ?』とずっと騒がしいんですよ?その上、貴方の髪が白色だから誤魔化し様がありませんしね?」

 かなり騒ぎになっているらしい。なんか屋敷がやけに騒がしいと思ったらそういう事か。となると不味いな、この部屋に来るのも時間の問題か?

 「それに関しては謝罪するよ。少し昔を思い出していてね」

 「昔ですか?と言うと」

 「家族の事さ。もう千年も経ったと言うのに今でもあの日々を忘れられずにいる」

 しのぶがの勢いが水面に落ちる投石の様に沈没した。家族の事と言われれば少々響く物があるのだろう。恐らく、僕の見立ててでは二人の両親はもう居ない。大人を見たがどれも実の親と言う感じでは無かった。恐らく、鬼に殺されたのだろう。

 「あと、昨日雪霞がしのぶに用があったのはお腹が空いたかららしいから僕が団子を作って食べさせた」

 「そういう事ですか。なら良かったです」

 「所で、この事態の収集どう付けようか?僕を知っている隊士が今この屋敷に居るのだろう?」

 一番の問題はここなのだ。知っている者が居ないなら本人の登場で話は収集が付くが今回の場合、まだ断片的にしか伝わってないから鬼と判明していないだけで鬼と分かれば自体は更に悪化するだろう。

 「九作郎さんは大丈夫でしょうけど、他の方々が騒ぐかどうかですね」

 九作郎?ああ、五年待ちのアイツか。あの日に僕が覚えている限りでも日輪刀を折ったのは十人以上。この人数全員が箝口令に賛成するとは思えない。

 「カナエみたいに話せば分かる隊士なら良かったのにぁ」

 「姉さんみたいな人は稀です。基本的には鬼殺隊の隊士は鬼は全員狩ります」

 しのぶは溜息を吐く。確かにご最もだ。親兄弟の仇の一味ともなれば問答無用で叩き切りたくもなるだろう。

 「そうだなぁ、でも暗かったからある程度は分からないんじゃないかな?ね、九作郎君?」

 僕の視線の先にある襖の隙間から覗いていた黒髪の少年の身体が揺れる。少年は観念したと言わんばかりに襖を開けて部屋に入って来た。

 「……少なくとも、あの日は暗かったからアンタの顔を覚えているのは俺だけだ。他の連中は夜目が俺程効かないからな」

 「だとの事だ。お面を被れば気付かないんじゃないかな?最悪聞かれても家の仕来りで通せばどうにでもなるさ」

 一応、御館様にはお面を被ると言う話をしてはいる。これで特に問題は無いはずだ。

 「分かりました。でも、いざとなれば見捨てますからね?」

 「是非ともそうしてくれると良いよ」

 僕は全力で笑って返した。最も、君たちでは僕の頸を切る以前に刃が届かないと思うがね。

 僕は黒い霧を作る。そこに手を入れて随分前に作った錆びにくさを理由に銀で作った白く塗装された狐のお面を取り出した。丁度中央の両端に赤い紐があり、それを後ろの左手で髪を上げて右手で紐を髪の下で結ぶ。そして、髪を下ろした。

 「雪霞はどうする?」

 「……一緒に……行く」

 「じゃあ一緒に行こうか」

 そして、僕は立ち上がった。「あの女まさか……」「……そういう事です」と言っていた二人の会話を僕は聞き逃していないから後で覚悟したまえ?




 はい。私です。辛うじて週一投稿を守っています。ここでお知らせなのですが、近い内に少し執筆活動が困難になる恐れがあります。仮に週一投稿が出来なくなった場合は帰ってくるまで待って頂けると幸いです。では、次のお話でまた会いましょう。
 閲覧、お気に入り登録、評価等ありがとうございます。感想をお待ちしています

玉の緒よ何故絶えざるや
   ながらへば想ふことの深みもぞする
因みにこの詩はオリジナルですので少々文がおかしい可能性があります


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人を見掛けで判断するのは不敬極まりなく

 薄暗い森の中、俺達は漆餅山に来ていた。ここは昔、漆の産地として近場では有名だったらしい。何でも、飢餓に苦しむ住人達の中で一人行方不明になっていた子供が何処からか漆の苗木を持ってきてその結果漆で下にある村を建て直したのだとか。その村も今では人が居なくなり、この森には今も人の手から離れた漆が生い茂っている。
 「隊長?」
 「なんだ?」
 右に居る茂橋が肩を叩いた。彼から見て右に、指をさしている方をそこには切れた切り株の上に座っている女の子が居た。服は漆の葉の様な少し黒みがある萌葱色と色褪せた様な赤の一松模様の小袖を黒色の帯で締めていた。髪は夜闇に溶ける様に黒く、顔は下を向いていて分からない。
 「隊長、どうしました?」
 後ろの二列に分けた隊士四人の内俺の真後ろが問いを投げる。眼鏡を掛けた黒いお河童頭に年相応の身長を持った男がだった名は島津と言うらしい。歳は十七、八と俺の同年代だ。
 「誰か居るらしい。俺が先行するからお前らは後ろから少しづつ詰めろ。相手は子供だ。人間なら一度連れて山を降りる。人間じゃ無いなら鬼と俺が言うから準備しろ」
 「分かりました」
 俺は右手で刀を抜いて、赤一色の羽織に腕毎隠した。俺の刀は黒いから恐らく少々見えても気付かないだろう。俺は少女に近寄る。
 「君?家族は?」
 「……んぬぅ?」
 少女は下を向いたまま欠伸をした。
 「桃の上って知ってる?」
 「知らない、何それ?」
 「そっかぁ、じゃあ───」
 次の瞬間少女は消えていた。鬼か!何処に消えた。
 「───要らない」
 後ろから聞こえる声、後ろに振り返った瞬間俺は背中に強烈な痛みと何かに吹き飛ばされる衝撃をを感じると同時に木にぶつかった。
 思わず血を吐いた。隊服の腹部は吐血に染まっていた。前を見るが鬼は何処にも居ない。逃げたか?
 『か〜ごめ、かご〜め』
 何処からかも分からない声がした。その瞬間周囲の木の形が変わった。木はしなり、歪み、本来有り得ない変化を始めた。木自体も動き出し、徐々に籠の様に互いに結びあう。逃げようと試みるも既に木の前に立った時には木は俺を閉じ込めた。鬼は見当たらない。
 「うァァァァァ」
 「やめろ!来るな来るなァァァ!」
 「腕がァァァ俺の腕がァァァ」
 響く断末魔。しまった、これは罠だ。早く助けに行かなければ。俺らは癸。異能の鬼に勝てる保証は無い。俺は刀で必死に木を切り付けるが傷一つつかない。この木も血鬼術によるものか?
 『いつ〜いつ〜出やる〜』
 また何処からか分からない声がした。すると木は元の姿へと戻り始めた。その代わりにそこにはさっきまで生きていた物だった肉塊が無惨に転がっていた。ある者は腕を口に入れられ、ある者は手を足に足を手にと繋がれ、ある者は木に串刺しにされていた。
 「後ろの正面だ〜れ〜」
 次はくっきりと聞こえた。そして、次に見たものは視界が何故が地面に落ちていく所だった。


 僕は腰に白鳴と黒鳴を腰の帯に挟む形で今蝶屋敷を巡って件の一件の収集を付けている。表向きの設定としては持病持ちで少し薬を取りに来ていた新人隊士で任務待ち。

 案の定、「何故お面を?」と言う質問が毎度毎度寄せられる度に「お家の仕来りで基本的にお面を外せない」と説明した。

 中には、「雪霞は何故お面を付けていないのか」と言う質問をして来た者も居たが「血縁者じゃないから」と答えた。やはり、見てくれに似通う所があるからしょうが無いとは思うが僕と雪霞は顔が掛け離れていると思うのに何でそんな質問をするのだろうか?

 目元、口元、唇の形、耳の形、睫毛の曲がり方、匂い、他にも色々と血縁には離れ過ぎている程に違うと思うのだけどね?

 全く、君達の所為で雪霞が人間恐怖症になったらどうするんだい?一人ずつ首を刎ねるよ?

 僕は今稽古場に来ていた。ここは機能回復訓練以外にも普通の稽古を行う人間も居て、その中に僕にある質問を投げて来た者が居た。

 「所で、白夜さんは何れ位強いんですか?」

 目の前の回復済みの先程まで機能回復訓練として打ち合いをしていた隊服を着た少年が問い掛ける。少年は少し焼けた肌に髪も無く細目と然るべき服さえ着れば寺に居ても何の不思議も無い様子だった。

 この少年は見た限りでは周りの隊士が疲れても励ましたりと少なくともそれなりには出来た少年だ。

 本人曰く、もう直にこの屋敷から離れてまた鬼狩りに戻るらしい。正直、この少年は余り期待出来ない。本人が気付いているかいないかは知らないがこの少年はどう頑張っても柱にはなれない。彼は熱心に鬼を狩っているらしく、柱を目指しているらしい。良い心意気だ。

 だが、足りない。否、足りないと言うよりは硬すぎる、又は堅すぎると言った方が正しい。

 「君、偶に全集中が急に強制的に切れたり脈の乱れ、後は吐き気や冷や汗を催す事は無いかい?」

 「えっ?確かにありますよ。どうにもこれが昔からで困ってて……」

 「君は恐らく心臓に何か病を抱えているだろうね。これは現代の医学ではとても治せそうに無い」

 その時、彼以外の他にも居た複数名が驚愕した。それは突然だろう。急に「お前は治らない病を抱えている」と言われたのだ。当然の事である。

 「何故そんな事が分かるんです?!」

 「いや、君の血の巡りの音に違和感があってね。君、鬼に肉が不味そうと言われたりした事はあるかい?」

 少年は目を見開く。当たり前だ、何処の誰が硬い肉や鮮度の悪い肉を好んで食べるだろうか。僕は普段肉を食べる訳じゃないが、やはり鮮度の高い肉を優先する。その方が美味しいし、栄養に変換し易い。

 「……確かにあります」

 少年は拳に力を入れて、汗を流している。自分の欠点と言える所を突かれて苦しいか?

 「雪霞、少し部屋に戻ってくれないかい?」

 雪霞は頷き扉へと駆けて行く。これから僕は少々嫌な奴になるからね。流石に好きな人にそういう姿は見られたくない。

 「君は単独での行動は控えた方が良い。常に、誰かを隣に置いておくと良い。苦しくなった時は誰かを代わりに立てて戦わせろ」

 「そんな事───」

 少年は声を荒らげる。聞き方によっては誰かに負担を掛けろと言っている様なものだ。出来た人間なら怒ってもしょうが無い。

 「これは君を思って言ってるんじゃない。君が餌になると言う事は鬼が強くなると言う事だ。君だけに迷惑が掛かるんじゃない。他の者の事も考え給え」

 「ッ───」

 少年は押し黙った。彼が僕の見解通り出来た人間ならこの指摘は自らの落ち度を言われているのだから苦しみが積もるだろう。

 「おい!女、お前柴本(しばもと)さんに何て事を言うんだ!」

 散切り頭の七尺程ありそうな隆々とした筋肉が溢れ、血管が浮いて見える大男が僕へとズカズカと詰め寄って来る。

 隊服の肩から腕に掛けての袖が無い男は目の前の柴本と言う僕が指摘した少年より長身で、僕は散切り頭を見上げる形になる。男は長身で全身に所々傷が見られる。この切り方は岩等の硬い物で切ったと見える。大方、転んだか事故にあった類の傷だ。

 「事実だ。仮に彼が喰われれば、その分鬼は強くなる。もしもの話だ、仮に鬼が十二鬼月の実力になる目安として百人喰う必要があるとしよう。そして、彼がその百人目の餌となったらどうする?彼は責任を取れるのか?死んだその身で何が出来る?」

 僕は事実を言ったまでだ。確かに、好感を持たれている柴本にこの様な指摘をすれば周囲の反感を買うのは分かっていた。だが、僕は積極的には関わらないが雪霞の安全の確保の為に鬼殺隊を応援したい。ならば、先ずは内部を整えるべきだろう。

 「さっきから抜け抜けと!貴様の階級は何だ!」

 「さぁ?如何せん昨日入ったばかりでね。僕は階級を知らないんだよ」

 一応、僕の身体は再生能力の事もあり藤花彫りが出来ない。なので、階級の証明が不可能なのである。

 「貴様、(みずのと)の分際で(きのと)の柴本さんに口を聞いたのか!」

 男は僕の胸倉を左手で掴みあげる。僕は無抵抗に宙へと持ち上げられる。後で折檻かな?これは。

 「やめろ!笠部(かさべ)!」

 男の拳は僕の顔を目掛けて飛んで来る。隆々とした筋肉を持つ腕をしている。これは止める訳だ。こんなのを一般人が喰らえば重傷だ。最悪死に至る。

 その直後、轟音が鳴り響く。

 「───何だこの女!腕が動かない?!」

 笠部の拳は僕に届く事は無かった。僕は笠部の手首を掴んで止めた。ミシミシと音を立てる笠部の腕を矮躯と言う程では無いが華奢な細腕で止めると言う光景は周囲を驚かせていた。

 僕は笠部を殺意を込めて睨み付ける。お面越しでも僕の殺意は伝わったらしく笠部は「ヒッ」とみっともない声を上げて身体を震わせる。

 「笠部、もう止めろ!白夜さん、何でも言う事を聞く!だから笠部を離してやってくれ!」

 僕は笠部が力を抜くのを確認し、僕も腕の力を抜いた。

 「柴本さんは悪くない!悪いのは俺だ!だから柴本さんには手を出さないでくれ!」

 笠部は必死に謝罪する。この男やけに柴本に執着しているな。そう言えば、さっき柴本は乙と言っていた。となると、昔助けられた事があるのか?

 「はぁ、良いよ。気にして無いし。早く頭を上げてくれ」

 僕は溜息を一つ吐く。

 「僕は単にこのままでは柴本が危ない、誰かを隣に付けて一緒に戦わせろと言いたかっただけだからね」

 場の空気が「は?」とでも言った空気になる。こうなるのは分かりきっていたことだがこの静寂なんとも言えないなぁ。その静寂を破る問いが投げ掛けられた。

 「少し確認していいか?白夜さん」

 「ああ、構わないよ?」

 「さっきの『行動は控えた方が良い』って言うのは?」

 何か神妙か顔で問い掛けて来る。まるで「何か」を答え合わせしている様に。

 「そりゃ、君は身体に病を抱えているんだ。下手に動き過ぎては身体を壊してしまうだろう?」

 僕は確かに行動を控えろとは言ったが一言も行動するなとは言っていない。

 「じゃあ、『常に、誰かを隣に置いておくと良い。苦しくなった時は誰かを代わりに立てて戦わせろ』と言うのは一体?」

 「それは当然、君が動けなくなると格好の餌になってしまうだろう?なら、誰か君の代わりに戦える人間に守って貰ってその間に逃げるなり助けを呼んだ方が良いに決まっているでは無いか。勿論、餌に成られては困ると言うのもあるがね?」

 柴本は宙を見上げ、手で顔を抑えて溜息を吐いた。周りも「え?」や「は?」や「喋るのが……」等と口々に揺れる。おい貴様等、今「喋るのが……」の後に何を言おうとした。言ってみろ。柴本は顔を再び下ろし指の隙間からこちらを見る。

 「白夜さん、少し人と話す時は気を付けた方が良い。アンタの喋り方は誤解を招き易い」

 「誤解?」

 「周りは白夜さんが俺に喧嘩を売っている様に見えたんだよ 」

 「何故、僕が君達に喧嘩を売らねばならない?」

 「良し。分かった、もうアンタは出来る限り喋るな。アンタの口は文字通り災いの元だ」

 「酷くないか?僕はか弱い乙女だぞ?心の一つや二つ傷付いたりも───」

 周囲が再び絶句する。一応、僕は身体的には十七歳で止まっている訳でか弱い乙女のままだ。

 「アンタみたいに笠部の拳を止める女がか弱い訳あるかァァァ!」

 稽古場全体が笑いに溢れた。確かに僕はそこら辺の乙女よりは強いが恋する乙女であるから一般人だ。単に他の人間より千年多めに生きただけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で?本当に僕とやるのかい?柴本」

 僕は訓練用の木刀を持ち、目の前の柴本に問い掛ける。柴本は半ば高揚気味にこちらを見ている。

 周囲には僕と柴本を囲う形で隊士達が立っている。これは下手に武器破壊をすると危ないな。

 「白夜さんこそ良いのかい?下手したら怪我するかも知れませんよ?それに一本だけで」

 「良いとも。君相手に二本は君に荷が重すぎるだろうからね。所で武器破壊しても構わないかい?」

 僕は右手に持つ木刀を構える。それに合わせて柴本を構えた。とにかく、怪我をさせない程度にしよう。

 「出来るならどうぞ」

 「先手はどうぞ?」

 「では、遠慮無く───」

 その瞬間、彼が駆け出す。大方、接近系の剣技となれば間合いに入られなければどうと言う事は無い。だが、今回は敢えて受けよう。

 僕は彼が僕の間合いに入ったのを確認し木刀を彼の頭のあった位置に真横に振る。その左から右へと振ると言う単調な動作はその一撃では終わらない。彼の木刀が僕の胸まで迫っていた木刀は横振りの後、僅かに弧を描き彼の木刀を吹き飛ばす。木刀は天井に突き刺さりに回収不可能だ。

 「で、どうだい?」

 雪霞見てたかい?僕はかっこいいかい?

 「……こりゃ、参ったわ」

 柴本は両手を上げて首を横に振る。流石にその辺の若造に負ける程弱く無い。仮にも十二鬼月を殺せる僕だ。単純な力押しで充分なのだ。

 周囲は騒めきを見せる。

 「凄いですね、白夜さん」

 後ろから聞き覚えがある声。そこには蝶の髪留めをした女と昨日の炎髪の男。あれ?可笑しいな。二人とも見覚えがあるぞ?

 「でもね、白夜さん?何故、木刀を天井に吹き飛ばす必要性があるんですか?貴方なら簡単に対処出来ますよね?」

 「……」

 顔は笑っているが声は冷たい。駄目だこれ、怒っている時の顔だ。

 「よもや、よもやだ!まさか、甘露寺以外にもこれ程の筋力を持つ者が居ようとは!」

 甘露寺?知らない名だなぁ、まあ筋力があるのならそれなりに戦えるだろうしいつか会う機会もあるかも知れない。

 「それほどじゃ無いよ?何も鬼は力だけ有れば殺せる訳じゃないだろう?血鬼術を持つ鬼は力だけでは押し切れないからね。少しは頭を使わなれば勝てないよ」

 最悪の場合僕には血鬼術があるから剣術が効かない相手には隔空絶世からの嵌め殺しをすれば大方勝てるだろう。勿論、上弦は日光に当てないといけないらしいから暫く閉じ込めて日の出と同時に解放して灰にしてあげよう。勿論、上弦を斬る機会は無いと思うがね。

 「さて、白夜さん?少しお話ししましょうね?」

 「悪いが僕は逃げ───」

 「白夜さん、柴本さん、笠部さん。任務ですよ?」

 何処かから聞こえる声。可笑しいなぁ?確か任務を伝えに来るのって鎹鴉だよね?何で人が喋っているんだい?

 「漆餅山で行方不明者多数。既に先行した癸の隊士六名が消息を絶っています。用心して下さい」

 それから言葉が続く事は無かった。帰ったか?

 そう言えば漆餅山は僕の家がある所じゃないのか?不味い事になった。下手をすると僕が鬼と言う事が発覚してしまう。発覚すると僕に関わる雪霞にまで危害が及びかねない以上は

 「しのぶ、お説教は後で聞こう。今は鬼狩りだ」

 「分かりました。一先ずは任務に向かって下さい。但し、帰ってきたらお説教です」

 あー怖い怖い。さて、どうするか?一応、二人とも見た感じ治っているらしいし問題無いか?

 「二人は大丈夫なのかい?」

 「俺は大丈夫です。笠部も問題無いか?」

 「俺も大丈夫です、柴本さん」

 「そうか、なら支度すると良い。僕は門に出て待っているよ」

 と言うか正直に言えば僕としては一人で始末したい。あそこには僕の住居がある。下手をしてあの家に到達されてはたまったものじゃない。

 この後、家が発覚しない為にも今回は大人しくしないと駄目らしい。全く持って面倒な物だ。




以下昨日の活動報告より
皆様、何の前触れも無く失踪する形になり申し訳ありません。何があったのか簡潔に説明しますと諸事情で少々両手と右腕に怪我をしてしまい、一時的に字が打てない状態になっています。決して今後に関わる様な重傷では無いので今後字が打てないと言う訳ではありませんが、以前程のペースでの投稿は難しくなります。徐々に回復して来たので出来る限りの執筆は行います。どうかご了承ください。
目を通して頂きありがとうございました。今後も作品を読んで頂けると幸いです。

以上

前書きの敵に中々に鬼畜なのが来ましたね。忠告しておきますとこの鬼と柴本&笠部はオリジナルです。流石に原作の時間外で原作のキャラと接触しすぎるのは余り良くないのでオリキャラは所々出ます。原作のキャラが頻繁に出るのは原作開始時前後と思って下さい。
それではありがとうございました。また読んで頂けると幸いです


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案外、罪の自覚と言うのは難しい物らしい

 私は走った。さっき病床で寝ていた時だった。紫のスカーフを首に巻いた鎹鴉が見えた。恐らく、私への何らかの通達だろう。しのぶが居る訓練場に私は向かった。
 「しのぶ、さっき御館様の鎹鴉が!」
 「姉さん?まだ寝てなきゃ───」
 その時、空気が騒めき始めた。
 「あの鎹鴉は御館様のなのか?」
 「そう言えば、あの白夜って人、隊服じゃ無かったな」
 「御館様直々に命令?一体」
 その騒めきは感染症の様に広がる。
 「白夜さんって何者何だ?」
 その疑問に訓練場は埋め尽くされた。
 ……これは私の失言かしら?



 柴本を中心に左に僕、右に笠部の横一列で今は深い夕暮れ時の漆等の木々が入り乱れる森の中、僕等はあるものを見ていた。

 一日掛けて漆餅山に帰ってきて思った事を言おう。結論から言うと僕以外の鬼がここに居たのは知っていた。流石に、何時しかの脳筋の様な上弦の様に僕を認知し攻め込み、危害を加えるのなら即座に始末していた。けれど、彼女は特に僕に危害を加える様子も無く、何なら動きからして認知してすらいなかった。彼女がこの森に流れてきたのは雪霞と会う一週間程前。その時は、特に活発に人を殺す様子も無かったが───

 「なんと言うかアレだね。これは恨みの類か何だね」

 僕は目の前の芸術的とも言える異物を目で検めている。

 目の前には右から腕を口に入れられた死体、手を足に足を手にとあべこべに蔦の様な植物性の何かで縫い付ける様に括られた死体、最後の一人は木に肛門辺りから口へと一直線に串刺しにされていた。

 今の時点で三人の死亡は確定した。正直、残りの三人も望みは薄いと考えて良いだろう。こんな殺し方を出来るのは余裕を持って戦う事が出来たからに他ならない。

 仮に相手が血鬼術持ちだとしても、左端の殺し方に関しては確実に余裕を持って殺している。特に目立った傷は無く、あるのは綺麗に肛門から頭を上に向けられて空を見ている口への貫通のみ。

 残りの二つは死んでからでも作れる死体だ。だが、この死体だけはこの殺害法で絶命させなければ他の傷が必要になる。

 「……白夜さん。俺はこの生業だからってのはありますが今まで同胞の死体を山程見てきました。遺体が原型留めて無い事なんて日常茶飯事、身元が分かれば万々歳々。そんな酷いモンでしたよ」

 右に居る柴本の拳からミシッ、と言う音がした。これは人が拳に力を込める時の音だ。

 「───でも、こんな殺し方って無いだろ?!確かに、こいつらは鬼を狩ろうとしたよ!鬼殺隊なんだ当然だ。俺等もアイツ等を狩る以上、死ぬのも覚悟の上だ。けどこんな死に方はあんまりだ!まるで人の死体を玩具みたいにしやがって!」

 右に首を曲げるとそこには黒目が見えない程に細い両目を黒目が見える程に開眼させ、鬼気迫る顔をした柴本の顔があった。

 「しょうが無い事さ。恐らく、かなりの格上と戦ったんだろうね。この余裕のある殺し方からして人間時代に余程武芸に覚えのある鬼か、異能持ちの鬼だろう」

 「分かってるさ、こんな遊んだ様な殺し方幾ら鬼でもそう易々とは出来ないだろうしな」

 冷静淡々と喋る口調とは裏腹に、柴本からは肌に感じる程の殺気が溢れている。この殺気に釣られて出て来てくれれば良かったがそれは駄目らしい。

 「柴本さん、これは増援を呼んだ方が良い。流石に幾ら貴方でもこれは厳しい」

 「笠部、それは反対だね。今からでは間に合わない。蝶屋敷からここまで片道一日、それに今から山を降りても夜には間に合わない。それなら、鬼に隙を見せる逃亡では無く、相手を狩る方が良いだろう」

 とにかく、最低でも僕がこの山を離れる訳にはいかない。離れられない理由が増えた。

 「そうだな。笠部、白夜さん。互いに離れない様にしよう相手の手の内が分からない以上一人で戦うのは危険だ」

 「分かったよ。所で、少し離れて良いかい?」

 「どうしたんだ、白夜さん?」

 「少し、お花を摘みにね?」

 柴本は右手の親指の爪を噛み、少し考え込む様な所作をして言葉の意を察したらしく。顔を少し赤くして苦笑した。

 「分かった。けど、鬼を見掛けたら直ぐに帰ってきてくれ。一人で戦おうとするなよ?」

 「柴本さん?!」

 笠部が驚愕する。この顔は意味を知らないと見た。この肉達磨絶対に女性との関わりが無いな。

 「笠部、少し耳を貸せ」

 笠部は少し腰を落として頭を柴本の高さに近づける。柴本が少々口を動かすと「あー、御不浄ですか」と言って腹部に拳を入れられていた。

 「馬鹿野郎!態々小声で言った意味が無いだろ!」

 「まぁ、僕は行くとするよ」

 そして僕は二人から離れ川へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は石ころで構成された河原のある川に着いてから十分程日が沈んだのを確認し、僕から四丈程後ろの木に問い掛ける。

 「出て来たらどうだい?さっきから僕を見張っていたのは君達だろう?」

 「お前が教祖様の仇か?」

 木の後ろから聞こえる男の声。さっきから尾けていた人達が出て来る。後ろを見たれば老若男女合わせて二十人。どうやら、親玉の方は出てくる気が無いらしい。

 「教祖様?はてさて誰の事やら」

 最近殺したのは上弦の弐だけだ。何ならこいつに関しては鬼だから殺意を向けられる意味が分からない。

 「桃の上と言うのは貴様の名か?」

 「……その名前で呼ぶのは頂けないな」

 僕の感情に呼応する様に風が止み、辺りの空気が凍り付く。その名前で僕を呼んで良いのは家族だけだ。貴様の様な若造の口でその名を呼ぶな。

 僕は腰から二つの刀を抜いた。お前は口にしてはいけない言葉を口にした。仮に人であったとしても容赦しない。その肉を百に切り刻み、燃やし尽くしてやろう。

 それに怯まずに、木の後ろから二人の白い簡素な服をきた痩せ細った三十路の男が二人、その間には上弦の弐に似た服を着た黒い髪を短く撥ねるように切られた少女が居た。背丈は五尺あるが僕よりは小さい。

 少女はこちらに目を向けた。

 「ねぇねぇ?桃の上、今ここで大人しく罪を認めるのなら君を極楽に送ってあげる」

 「お断りするよ、僕はまだ死ぬ気は無いからね」

 すると見た目の年相応に笑っていた少女は顔を歪ませる。その目は殺意に濁り、今にも僕を噛み殺さんと言う目をしていた。

 「……貴方は私達から教祖様を奪った!私達の希望を消し去った!その罪を知れ!」

 その怒鳴りに呼応する如く、石が背後から僕の頭へと飛んで来た。僕はそれを体の軸を右にズラし回避する。

 さっきの死体からして木等の植物を操る類と想定していたが違うらしい。この場合、物を動かす力と考えた方が妥当だろう。勿論、二つの別々の血鬼術と言う可能性も考えられる。

 だが、仮定するにしても根拠が足りない。そもそも、複数の血鬼術を持つ鬼は大量に居れど、全く方向性の異なる血鬼術を一匹の鬼が開花させることは非常に少ない。僕は今まで二匹しかその鬼を見ていない。調べて無いから断言はしないが、上弦の弐でさえ全てが氷と言う物に関連付けられた血鬼術だった。

 「全く八つ当たりにも程があるよ。僕は君達の教祖様なんて言うのは知らない。それをどうやって殺すのさ?」

 「……もう良い、喋らないで。貴方の声はもう聞きたくない」

 その時、大量の木が地面から生えて来た。その木は確実に僕の心臓や肺、肝臓、至る所の関節に狙いを定めていた。僕は地面を蹴り、前のめりに森の上空へと跳ぶ。後ろを見ると木が追跡して来ていた。どうやら追尾能力があるのか、それとも操作出来るのか。何方にせよ距離の制限の有無が分からないが一方向に進むだけで無いと言うのはかなり面倒だ。

 僕は重力に囚われ自由落下に移行する。木は徐々に僕へと詰め寄る。死にはしないが流石に痛いのは出来る限り避けたい。故に、これを使う。

 「血鬼術・空歪(からまわ)り」

 その時、静かな水面に水滴が落ちる際に広がる波紋の様に空間が揺れた。そして、次の瞬間には木は僕の前で木目を出して周りの空には先程の木の先端が散らばり伸び続けている。僕は白鳴を軸に断面に着地した。

空歪(からまわ)り。空間同士を強引に捻じ曲げ出口と入口が異なる歪な空間を作る血鬼術。これを初見で完全に理解したのは縁壱ただ一人。仕組み自体は差程難しく無いのだが、大体の場合は初見でこれを使う為に軌道操作の類と読む者が多く、仮に空間操作と読んでも物の周りの空間を操る等と受け取り、正当が出る者は少ない。

 足場が揺れた事に気が付き下を見るとボロボロと水を与えられた乾燥した土塊の様に崩れていた。

 どうやら向こうもこれが通用しないと踏んだらしい。ここまでの血鬼術を使えるのなら下弦の陸にはなれると思うが、相手は下弦なのだろうか?だとしたらこれは僕が止めを刺すと不味いのでは無いか?

 既に上弦の弐を狩ると言う鬼殺隊の中でも余り無い戦果を立てている以上、何かの口実に柱にされては困る。あの後他の隊士に聞いた所、柱になるには先ず階級を(きのえ)にして十二鬼月を一匹、又は鬼を五十匹狩る事。

 僕の推測に間違いが無ければあの時の御館様の「君は柱になる気はあるかい?」と言う発言は暗に「君は柱になる資格を持っている」とも取れる。この功績にもう一匹十二鬼月を狩ったりすれば柱としては充分だろう。

 だが、それでは不味いのだ。僕は人の道から外れた化け物である以上、出来る限り人の世に影響を与えてはならない。それが鬼殺隊の柱になればどうなる?柱は命令を受ければ否応無しに出動する義務がある。これが不味いのだ。

 何も自らの力に奢る訳では無いが、僕を殺せるのは縁壱ただ一人。仮に鬼舞辻無惨があれから強くなり縁壱を超えていたのならば彼もその一人に入る。つまりは、出先で確実に鬼を殺す事になる。鬼を殺さなければ隊律違反で解雇、下手すれば鬼として追われる身になる。僕は問題無いが、それで雪霞を育てられるかと問われれば顔を歪める。

 正直海外に逃げれば流石に追っては来ないだろう。だが、僕が海外の言葉を理解出来ても雪霞が海外の言葉を理解出来るか怪しい。鬼は脳の構造を変化させたりしている分個体差はあるが、外部からの干渉が無ければ一度深く頭に刻まれた事を忘れることは無い。だが、人は忘れる。言語とは常に使うから特に考えずとも正しい意味の言葉を扱える。だが、仮に英吉利(えいぎりす)独逸(どいつ)帝国に行ったとして雪霞が言語を学習出来なければ詰みだ。

 さっき見た時に刻印があったか?否、無かった筈だ。だが、確証が持てない。実は幻を見せる血鬼術の類で隠しているのでは無いか?実はあれは分身体で本体は何処か別に居るのでは無いか?

 まぁ良い。最悪、相手が十二鬼月でも証拠が無ければただの鬼だ。早く片付けよう。

 考えている間に僕の立っていた所は地面にぶつかる寸前。僕は周りを確認し、人が居なくなり十間先の正面にただ一人居る鬼を視認してから、地面を横に蹴り飛ばして鬼の居る所へと火縄銃から打ち出された鉛玉の様に飛び込む。刀を交差させる。あとは内側に振ればアレの首が落ちる。だが、今度は周囲の木々が鬼を庇う様に地面を移動し壁になった。

 虚式・虚双閃(きょそうせん)内輪交差(ないりんこうさ)

 木々が切り倒された先には先程の鬼は居なかった。逃げたか?僕はそこを見て気付いた。そこに赤い液体が落ちている事を。その水溜まりは一つの疑問を僕に投げ掛けた。

 ───あの老若男女の集団は何処へ消えた?

 あの二十人程の集団は何処が居ない。それが指し示すのは僕が考えたくない物だった。

 僕は右手の人差し指を立ててその水溜まりに人差し指を当てた。そして、それを口へと運んだ。

 この感覚を僕は知っている。雪霞には遠く及ばないが甘みのある血───稀血だ。

 やられた。あの二十人は恐らく全員稀血の人間だ。この血はその中でも希少な百人に値する程の稀血だ。仮に、これが一人分だけだったのならまだ良い。だが、この味の仕方は最低でも三人は混じっている。

 つまり、今のあの鬼は元の人数に三百人分の人間を食べた状態だ。下弦になる目安が約五百人。仮にあの場に居たのが全員これと同等の稀血ならあの鬼は手元に二千人分の力を得られる食料を手元に置いている。

 これがまだ千年生きた中で一度だけ見た五百人単位の力を付ける稀血で無い事を不幸中の幸いと喜ぶべきか、それとも相手に二千人分の力を付けられた悔やむべきか。

 だとしたら、あの二人が危ない。直ぐに帰ろう。

 血鬼術・紅血霧散(こうけつむさん)

 僕の身体は赤く爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は一体何と戦っているんだ?目の前の折れた刀を見る。笠部と満身創痍になり首に届いた刃の接触部分は砕け散り、俺の手元には元の半分の長さも残っていない。

 「柴本さん!もう良い逃げろ!これは前に花柱と共闘した時の下弦の鬼とは比にならない!上弦の鬼だ!」

 何故だ?あの鬼の目には刻印が無い。なのにこの強さは一体何なのだ?どれだけの人間を殺せばこれ程強くなる?

 俺には今も切り株に座り足を振っている鬼が理解不能の超常現象に見える。この鬼は他の鬼とは何かが違う。今まで狩ってきた鬼達とは何かが違う。

 「ふわぁ〜、君達弱いね?桃の上に付いていたからそれなりに強いのかと思ったんだけど、弱過ぎない?」

 鬼は欠伸をしながら嘲笑を込めて語り掛ける。さっきから白夜さんの事を桃の上と言っているが何なんだ?

 「知らねーよ。てか、桃の上って何だよ。あの人は白夜さんって名前があるだろう?まるで平安の貴族みたいな名前しやがって」

 「?」

 鬼は小首を傾げる。

 「知らないの?あれは人じゃなくて───鬼だよ?」

 その時、空気が静かなに沈んだのを感じた。




 お久しぶりです。怪我が治らずに投稿が遅くて申し訳ありません。書いては出血、安静。書いては出血、安静。の繰り返しの中「これ鬼滅の世界で稀血なら鬼に狙われて不味いのでは?」と思いながら執筆していた私です。
 恐らく、今回の投稿が今年最後の投稿になると思われます。皆様は今年一年、どうでしたか?私は皆様にこの「医者が死んで千年。拾った子の養育費の為に鬼殺隊始めました」を読んで頂き嬉しい日々を送っています。評価が入ったりお気に入り登録されるのを見て喜んではUAが伸びない事に「何か粗相をしたのか?」と不安となったり一喜一憂して楽しんでいます。
コメントや指摘が来ないのが寂しい点ではありますが……。皆様も本作で少しでも楽しんで頂いているのであれば幸いです。
では、また来年位にでもお会いしましょう。


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人トハ何ゾト問ワレレバ

 私は孤児だ。親は死に、残された私には財力も無く、親族は無く。最早この路上で飢えるしか残されていないのだろう。
 昼は焼けるように熱いのに、夜は体が凍る様に寒い。私は死ぬのだろうか?指先には最早感覚が無い。視界はとっくに黒く染まり何も見えない。
 「俺は優しいから放っておけないぜ。まもなく、君死ぬだろう?」
 知らない声。これが死ぬ前に聞く仏の声と言う奴か。そう言えば死ぬ時って願い事が叶うって聞いたっけ?
 「……生きたいなぁ」
 そこから私の人生は始まった。


 その鬼は言った。彼女は人間では無く鬼であると。その言葉に空気が沈んだのを感じた。それは俺と笠部が半ば納得してしまったからだ。

 あの細身の矮躯に合わない異常な腕力。鬼と言われれば説明が付く。

 だが、鬼であると言うなら不可解な点が一つある。

 「白夜さんが鬼?笑わせないでくれよ、あの人は日光の前で平気だったぞ?何なら俺らは歩いてここまで来てんだ。それも昼の間にな!」

 「彼女は鬼だよ?それも君達の最大の敵と同じ、鬼の始祖」

 「鬼の始祖だ?アレか?鬼同士には派閥争いか何かあるのか?」

 冗談交じりに返事を返す。とにかくは白夜さんが来るまでの時間稼ぎだ。とてもじゃないが俺と笠部の生死を考慮に入れなくても勝てる様な相手では無い。だが、白夜さんなら勝てるかも知れない。

 こいつがこんな事を言う辺り、こいつは白夜さんと何ら相性が悪いなりの不利を抱えているのだろう。三人の隊士を弄びながら殺した実力者ならさっさと俺らに止めを刺せば良い。そうしなくても嬲れば良い。なのに、一切攻撃を仕掛ける気配が無い。なら、それをしないのは何故だ?

 今までの経験からして導き出されるのは手負いの隊士を利用した人質。鬼は比較的に生き残る事に執着する傾向が高い。強い鬼程知性が高く、その傾向が高い。

 血鬼術を使える鬼ともなるとその傾向は最高位と言っても良い程に優先される。

 そして、今回の場合その手段として俺らを人質に取ることを選んだと言う訳だ。

 つまり、俺らは生き餌であり盾だ。ならば、死ぬのが最適解かも知れない。今すぐにでもこの手に握る刀で自らの首を刎ねるのが誇り高き隊士としての最適解かも知れない。

 だが、それをすれば鬼は恐らくここから離れる。この鬼を野に放つ事になる。それだけは避けなければならない。この鬼を野に放つと言う事は今後出る犠牲を容認すると言う事だ。それは許されない事だ。

 「知らないよ。上弦の壱の叔父さん曰く、『アレに眷属は居ない。アレは私達と同じ武の極みを目指す天才に届かぬ者だ』と言っていたけど、他の派閥何て聞いた事無いし始祖はあの方と桃の上だけじゃない?」

 こいつ上弦の壱と繋がりがあるのか?否、浅慮だ。そもそもこの話は嘘だ。なら、説得力を出す為に上弦の壱と言う虎の威を借りているのかも知れない。いや、むしろその可能性が高い。

 こいつの目には数字が無い。十二鬼月には目に数字が刻まれていると聞く。ならばこいつは十二鬼月では無い。そうなれば、上弦の壱と関わりがある可能性は低い。

 この強さは大方、最近稀血の人間を大量に食べたのだろう。これで全てに取り敢えずの説明が付く。

 「そりゃ恐ろしい相手じゃねーか。所でアンタ何でそんなに強いのに十二鬼月じゃ無いんだ?」

 その時背筋が凍り付いた。何も寒いからと言う訳では無い。今初めてこの鬼から明確な殺意と言う物を感じたからだ。それは今まで受けた事が無い程に冷たく、心臓を掴まれている気さえした。

 「───簡単だよ。あの女に復讐するって皆で決めたから。私は三千の同胞を今背負っている」

 さっきまでの温和で無邪気に語る様子は無く、その声は幼子と言うには余りに冷淡で、無邪気と言うには余りに邪気に塗れていた。

 「おいおい、同族喰らいか?」

 肌を伝う不快感を伴う水。これが演技で出来るものか?これ程の底の見えない暗闇の様な殺意を演技で持てるものか?この殺意が俺の頭にアレは事実なのか?と言う思考を早まらせる。

 「違うよ。あの女は私達の教祖様を殺したの。だから皆で決めたの、皆で力を合わせてあの巨悪を討とうって」

 鬼は胸に手を当てた。まるで何かを懐かしむ様な様で。殺意こそあるがそれは人間の誰か大切な人へと思いを向ける時の姿だった。

 「菅野さんはいつも聖殿の掃除の後におやつを皆にくれた。水川さんはいつも外に出れない私の為に外の話を沢山教えてくれた。真木さんは少し無愛想だけど困っている人を見つけたら自分の身も顧みずに人を助けに行くとても良い人だった。鴨橋さんも困っていたら『誰か暇な人は居ないか』と声を掛けて手伝ってくれた 」

 その時だった。その鬼の目から何か光る物が流れた。それは目から頬へと弧を描き、顎に落ち着く。

 「八重さんは頭が良いから学の無い私達に色んな学問を教えてくれた。八葉さんはいつも山から山菜を取ってきて皆食事を支えてくれた。志賀さんと佐倉さんはいつも壊れた聖殿の修理をしてくれた」

 その鬼は嗚咽を漏らしていた。淡々とまるで当然の様に喋りながらも、嗚咽も漏らしていた。そして、遂にその瞳は決壊し、号泣した。

 「何だよ?まるでもう居ないみたいに 」

 すると鬼は泣き止み、静かに喋りだした。

 「皆、私が食べたの。皆が『一番強いのはお前だ。だから俺達を食って戦ってくれ』って……」

 「何だよ。結局───」

 俺の紡ごうとしたこの先の言葉は次の轟音で消し飛ばされた。

 「私が好きで皆を食べたと思う!?私がいつも一緒に居た人達を!家族の様に暮らして来た皆を!」

 その鬼は叫ぶ。その叫び声が孕んでいるのは自らに対しての敵対者に向ける様な怒りでは無く、友を侮辱された時の様な義を重んじた様な怒りだった。

 「私だって嫌だった!私だって皆を食べたく無かった!でも、皆が『俺達はお前の中に居る。だから一緒に戦わせてくれ』って!だから私は毎日家族を食べたの!吐きそうになっても、苦しくなっても!上弦の弐である教祖様を超えるアレを殺すにはそれしか無かった!」

 その叫びは余りにも悲痛で、まるでその鬼自らにさえ怒りが向けられている様だった。

 俺は思わず下を向いた。止めろよ。もう止めてくれ。これ以上聞いたら俺は何か大事な事が出来なくなっちまう。

 「貴方達に分かる?!大切な人を殺された悲しみが!家族を自分の手で殺さなきゃいけない悲しみが!あまつさえ、その殺した家族を食べなきゃいけない悲しみが!」

 その声と怒りは余りにも人間らしく、もうこの時に俺は無意識の内に刀を手放していた。

 「柴本さん?!」

 顔を見ずとも分かる。笠部が驚いていた。そりゃそうだ。俺は鬼を目の前にしながら刀を手放したんだ。それはこの鬼を殺す事を止める事を表していて、驚いて当然だ。

 「無理だ。俺にはこの鬼を殺せない。こんな可哀想な鬼を殺せやしない」

 何でこの鬼は人間らしいんだ。人間より人間らしいんだ。この鬼を見ていると俺は今までの行いを否定される気さえした。

 今まで自らがしてきた行いは正しい物だったのだろうか?本当に全てが殺すべき相手だったのだろうか?生かすことは出来なかったのだろうか?償いの機会を与える事は出来なかったのだろうか?

 頭が大量の問いを過去に投げ掛ける。

 「だから、私はあの女を殺す。例えそれで私が死ぬ事になったとしても!」

 少女の叫びが俺を震わせる。この鬼を果たして悪と断じて良いのだろうか。愛する人の為に罪を犯す覚悟をし、皆の為に罪と苦痛の請負人となった彼女を悪として断じて良いのか。

 最早俺には分からなかった。もう何も分からない。

 「そうかそうか。その覚悟は敬意を表するに値する」

 突然、前から聞こえる声。声に突っ張られる様に顔を上げれば。そこには白い一筋の線が見えた。その一筋の後ろには雪の模様が散りばめられた黒い着物を灰の帯で締め、白い狐のお面をした死神が立っていた。

 「やっと来た。遅かったね」

 「悪いが君達程に身体能力が高い訳じゃないんだ。全く、あの高さ普通の人間なら死んでるよ」

 次の瞬間、大量の地面から生え出た木が白夜さんの方へと向かった。それを全て刀で白夜さんは捌く。不思議な事に、白い線が見える所だけでなくその反対側の木を切り刻まれていた。

 「か〜ご〜め〜、か〜ご〜め〜」

 その声に呼応する様に地面から生えでた木が互いに絡み合い四つ目網を作り、隙間は枝と葉が防ぐ半球体の籠が出来ていた。

 「白夜さん!」

 だが、その後返事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「専用の闘技場の用意とはありがたい」

 今僕達は木々に囲まれている。その大きさはだいたいあの中心に居る鬼から半径三丈弱。そして、高さも三丈弱。酸素は所々見える葉が供給してくれるだろう。

 「良いよ。私達だけで貴方を殺さないと意味が無い。それに誰にも邪魔されたく無い」

 「随分と僕にご執心な様で。所で教祖様と言うのはもしかして上弦の弐の事かな?」

 さっき紅血霧散であの死体の前に飛んでから来る途中で考えた。鬼だからと言って人と関わりが無いとは限らない。なら、『あの鬼が教祖として人の世界に存在する可能性があるのでは無いか?』と。勿論最初は『鬼がそんな社会的に固定された地位を望むか?』とも考えたが。定期的に顔を変えれば可能な話でもあるし、宗教的な恩恵と言って老化を誤魔化す事が出来るかも知れない。

 「やっと分かったんだ。大人しく死ぬ気は?」

 「無いね。悪いけど僕には帰りを待つ人が居るからね」

 「そっか。じゃあ全力で殺すね」

 大量の木が地面から生えてくる。僕は再び前のめりに跳ぶ。だが、彼女の背後から大量の木が出て来る。僕は白鳴と黒鳴で捌くが無限に出て来るそれらはキリが無い。背後にはまた別の木々。しょうがない。

 僕は右足で地面を強く蹴り、宙に上がり天井へと足を着ける。

 虚式・色失一閃(しきしついっせん)地墜(じつい)

 僕は雨粒の様に下斜めに彼女の首へと向かう。当然、彼女は木々を使い防御する。木々は僕の目の前に地面から生え出てきた。僕はここで、色失一閃(しきしついっせん)地墜(じつい)を振り構え直す。すると、ここぞと八本程の木々が僕に向かって伸びてくる。

 それらを単純な名前も無い振りで捌く。そして、木々の障壁を刀を水平に横に振り切り落としてから手首を翻し外側へと刀を振る虚式・虚双閃(きょそうせん)内輪交差(ないりんこうさ)(つらなり)で切り刻む。そして、五層ほど刻んだ時に彼女の姿が見える。その瞬間頭を狙い大量の木が来た。目測で大体七本。これは面倒だな。血鬼術・空歪(からまわ)りで何処かへと飛ばした。だが、前方がこれで塞がれてしまった。僕は天井を蹴り、刀を地面に刺して軸に足を上から下へと遠心力が掛かる様に回し着地する。

 即座に地面を両足で蹴り込み、彼女の首元へと迫った

 虚式・一閃千斬(いっせんちざん)

 白鳴による白い一筋が彼女の首を斬ろうとする。その一閃を彼女は回避した。けれど、この技の本質はそれでは無い。

 「ッア゙ァァ゙ァ゙ァア゙ァ゙ァ゙ァ」

 響く叫び声。刹那の一瞬で左手から繰り出される十数度の太刀筋。これは白鳴の目引きとしての役割と黒鳴の認知の行い難い夜にのみ真価を発揮する剣技。

 どちらもが致命傷の一撃でありながら、双方の回避はほぼ不可能に近い。縁壱ですらこの技には手傷を負った。

 最早彼女の上弦の弐へのリスペクトとも言える服はズタズタに切り裂かれて原型を留めていない。彼女の前面には露出した幼く白い柔肌とは対照的な赤い血と大量の斬撃の跡。切れていない事を不思議に思い体をよく見て見ると背中の方で一寸繋がっている。どうやら全身の破壊は回避はしたらしい。

 だが、再生に掛かる時間は莫大だ。私の虚の呼吸は縁壱の日の呼吸程では無いにせよ再生能力に支障をきたす。上弦の弐でさえ再生には大量の時間を割いた結果先に体が日光に焼かれた。

 彼女の戦闘経験の無さ故にこの様な結果となったが恐らく、木の手応えからしてこの少女は上弦の陸と同じ程度の力を付けている。更に、この技を不完全ではあるが避けられた技術。

 本当にそれが惜しいのだ。本来ならばもう少し楽しい斬り合いが出来たかも知れないと考えると残念で堪らない。ここで首を刎ねるのが堪らなく惜しく思えた。

 だが、ここで首を刎ねなければ隊律違反だ。この鬼はここで始末しなければならない。なら、ここでせめてこの鬼の覚悟と、この鬼の強さに敬意を表しても罰は当たるまい。

 「何か言い残すことは?」

 「……そのお面を外して欲しいな」

 「良いよ。君には特に顔を隠す理由も無いし」

 僕は髪を上げて赤い紐を解いた。お面は地面に音を立てて落ちた。

 「他には?後、死ぬのならどうやって死にたい?教祖様同様に僕に首を斬られて死ぬか。日光に焼かれて死ぬか。選んで良いよ」

 僕の手に掛かり死ぬのが嫌だと言うのなら、日光に焼かれて死ぬと良い。

 「……君に首を斬られるのは……癪だから日光で焼け死ぬ方がマシかな」

 やはり痛みの所為のもあり言葉が途切れ途切れだ。この痛みに耐える姿に敬意を表したい。彼女は鬼ではあれどただの一般人だ。戦士ではない。だが、この少女はその痛みに耐えている。

 「分かった。他には?」

 「……もう少し生きたかったなぁ」

 正直、もう桃の上呼びされた事何ぞどうでも良くなっていた。この少女が浅ましく居てくれたなら何の躊躇いも無く切れただろう。

 僕はこの時思ってしまった。「この少女に僕の血を入れるとどうなるのだろう」と。僕の血は即死級の毒だ。順応出来なければ死ぬ。それはつまり彼女の望む死に反すると言う事だ。僕はどうすれば良いのだろか?




 今回は少しアンケートを取って今後の分岐を決めようかな?と思います。正直、このアンケートはどちらを取ってもこの物語の最終的な結末は変わりません。選択次第で鬱要素が増えるか減るかなので。これはあくまでも血を与えるか与えないかのアンケートです!
 期日は年末から年始(2020年12月30日〜2021年01月03日)迄です。多数決です。
 また、本編終了後にもう片方のルートの物語も書きます。
 以上業務連絡でした。


 昨日が今年最後の投稿と言いましたね?アレは嘘だ。
 はいどうも、最早自分の腕の事等気にせず書いてる私です。正直手がもう赤色塗れですが今回は書きたい所まで書けたのでOKです。元から何処かの分岐点でアンケートを取ろうかと思っていたのですが、今回丁度頃合が良かったのでアンケートを取ります。
 年末年始の忙しい時期に連稿して申し訳無いです。今回も読んで下さりありがとございました。

今年☆9評価して下さった
syu9673 むいんたゃん 
各位ありがとございます。
こんなにも楽しんだ頂けると幸いです!来年もよろしくお願いします!


今年☆5評価して下さった
white river ぽん吉 きゆう 
各位ありがとございます。
こんなにも楽しんだ頂けると幸いです!来年もよろしくお願いします!


今年お気に入り登録して頂いた
天月照詠 DD altair Quasar ぼるてっかー sugi グラシェ 河童丸 腹黒タヌキ ユーウ 遁走者 ムー民 11p024 コタロー あめんぼうず 馬鹿ドラ LAICA@読み専 イルイル とんとろ丼 deryu Noah氏 黒5656 始まりの勇者 結城刹那 fullmonty ノロノロ Orthus1014 QB114514810 Syroh りょう2222 今から転生する(確信) 化蛇 みつ味パンツ クロ0805 ポンポコ 魔夜@@ 赤薔薇の魔神 さやみゆ 16色のレイン・コーラス 高鳴り マッチ一本 kansi ムー173 しいたけ狩り あかさたなはまやらわいきしちにひみゆ Mr.Ryusan テイテル ドアラのマーチ 雪の進軍 大橋一麻 Sallow そうたそう syu9673 touyou C_10. t_5 黒海ななし リープ Fate story のり58N
各位ありがとございます
こんなにも多くの方に読んで頂けると思ってませんでした!来年もよろしくお願いします!


今年誤字報告して下さった
syu9673 アカギ
日本語ヨワヨワの私を助けて下さりありがとございました!今後も気を付けますが間違ったいたら指摘して頂けたら幸いです!来年もよろしくお願いします!


それでは皆様!良いお年を!バイバイ〜!


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中身と言うのは案外想像付かない物らしく

 所詮人間と言うのは多くは利己主義者だ。それは仏門を歩む者も変わらないらしい。
 俺の親父は正直言って屑野郎だった。朝は寝て、夜は酒を飲んでろくにお経を読んでいる所なんて見た事は無い。金が無くなれば俺を蹴っては鬱憤晴らしを行うどうしようも無い屑だ。
 だから、俺は思ってしまった。目の前に広がるかつて親父だった肉塊を見て「良かった」と「これでもう苦しまずに済む」と。
 そして、俺はこの罪を贖う為に鬼殺隊に入った。行場も無ければ、鬼殺隊が来なければどの道死んでいた命。特に迷う事は無かった。
 それからは鬼殺隊の中に利己主義の外道が居た事もあったが、そういう奴は上手く誘導して始末した。
 俺は周りが思ってる程綺麗な人間じゃない。俺が直接やってないとしても、彼等は俺が殺した物だ。俺の手は既に真っ赤に濡れていてまともに人間やってる資格は無いだろう。
 鬼を殺すのも戸惑う事は無かった。俺と同じ外道同士だ。そして、いつか死ぬと思っていれば俺はいつの間にかここまで来ていた。
 俺はなのに何を思っているのだろう。あの鬼に負けないで欲しいと思ってしまっている。俺は壊れてしまったのだろうか。


 「生きたいなら僕の血を飲め」

 少女は驚いていた。それはそうだ。殺そうとしていた相手に生存の道を示したのだから。

 「但し、僕の血を受けた鬼は全員死んでる。理由としては僕の血に耐えきれていないからだ。仮に君が僕の血に適合出来たのなら君は今より高い再生能力を得られるだろうね」

 人に与えれば細胞が徐々に腐りながら死に、鬼に与えれば鬼舞辻無惨の血と相慣れないのか再生速度が異様に向上した後に死ぬ。今まで適合出来た者など誰一人として居ない。

 「君を殺せるなら私はどんな屈辱でも耐えてみせる」

 僕は左腕の前腕を白鳴で刺した。そこからは刀と相対的な赤色の液体がドクドクと出て来ていた。僕は腕を横に振った。そして放たれた赤い水玉は目の前の少女の傷口に混じる。

 すると少女は傷口から赤い煙が吹き出てくる。どうやら始まったらしい。顔や全身に力を入れているのが分かる。さて、これをどう持ち帰ろうか?鬼舞辻無惨の情報を知っているとして持ち帰るか?否、それならば早く情報を吐かせろと言ってくるだろうな。正直、歴代の上弦の陸の平均に当たるこの鬼を一般隊士が相手に取って勝てる見込みは薄い。

 僕同様に日光を克服して人を食べずに居てくれれば誤魔化しが効くが流石に日光の克服は厳しいだろう。僕でも最初は日光の克服が出来ていなかった。

 僕が日光を克服したのは少なくとも縁壱と会う前で最後の三番目の兄人が死んだ後から数えていた百年程度以降。と考えれば最低でも百年以上から五百年以下は掛かっている。と言うのも僕は日光に定期的に身体を当てては日陰に戻しての繰り返しで克服出来ているかを試していた。実はこれが原因では?とも思っているがこれが原因ならこの少女が日光を克服するのは現実的では無い。少なくとも雪霞が死ねば僕はまたこの世から隠れる。

 さて、どうしたものか。上手くこれを持ち帰る方法を考えたいのだが。とにかく、僕を殺しに来るのは別に何ら問題無い。復讐を行うのは正当な権利だ。国でさえ人道の為等とあの手この手と理由を探しては復讐を行っている。

 「姿を消す血鬼術はあるかい?」

 「……」

 返事が無いので試しに肩を揺すってみた所そのまま倒れた。顔を見ると寝ていた。勿論、顔が少し歪んでいるのは変わらない訳だが。

 不味くないか?僕の家に放置した所であれは空歪りの亜種を張っているから僕以外には誰も出入り出来ない。否、出来ない訳では無いが道がかなりややこしい。僕も出入りする際は部分的に解除している程だ。

 そもそも、僕の家に放置するとなれば定期的に殺されに行く必要がある分、偽装工作が必要となる。その上にいつ来るか分からない任務。これはかなり不味い。流石に僕の様な例外も居るが鬼を匿うのを鬼殺隊が許可するとは思えない。

 僕がカナエに書かせた手紙の内容は手短にまとめれば

一、僕は鬼舞辻無惨とは起源が異なる為に人を食べる必要が無い事。

一、僕は雪霞の養育費を稼ぐ為に鬼殺隊に入った事。

一、僕は雪霞が死ねば鬼殺隊から離れる事。また、こちらからは不干渉を貫くが僕に危害を加えた場合はその隊士に対しては攻撃を行う事。

 この三つだ。最初の一つに関しては半ば嘘ではあるが鬼舞辻無惨と僕は互いに鬼の始祖である以上、別の系統ではある。現に僕は日光を克服したがまだ鬼を動かしている辺り日光を克服していない。

 勿論、彼の目的が「日光を克服し完全な存在に成る」からズレていれば知らないがあの生存しか頭に無いような肉塊が他の事に頭を回すとは考えにくい。

 とにかく、時間が無い。さっきから木が崩れてきている辺り徐々に血鬼術の崩壊が発生している。一度埋めることも考えたが、後日回収に来る必要がある上にこの山は今でも山菜を取りに来る人間が一応居るには居るからそれと遭遇された時が不味い。僕の血を分け与えたからと言って食人衝動が無いとは言いきれない。

 僕は急いでお面を拾い上げて着け直した。

 しょうがない。こうすることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は一体何を見せられているんだ?目の前の籠が崩れて中から白夜さんが出て来た。月明かりに照らされたその地面には大量の血やら服が飛び散っていたが、白夜さんは服に返り血こそあるが無傷だった。特に服に破損は見られない。

 「白夜さん。無事か?てか無傷って化け物かよ、アンタ」

 あの鬼と戦って無傷とは本当に何者だ?それにどういう訳か鬼殺隊の隊服を着ていない。実はこの人階級を隠して内部の調査を任された(きのえ)とか(はしら)じゃないのか?

 「残念ながら無傷だね。どうだい?僕の初任務の首尾は」

 「上等だよ。てかアンタ本当に何者だよ?一応、(きのと)の隊士だぞ?それが苦戦した相手をこうも簡単に……」

 「何、少しばかり戦闘経験が人より多いだけさ」

 「人より戦闘経験が多いっ、ねぇ」

 「白夜さんは元警官か何かで───」

 俺は笠部の口に指を置いた。笠部も察したらしくそれ以上は何も言わなかった。

 これはあんまり掘り下げない方が良さそうだな。闇が深そうだ。何だろう、詳しい事は分からない。けれど、カンが告げている。これは触れるなと。触れたら後戻り出来ないと。

 「所で、白夜さん。鬼ってのは全員殺すしか無いもんなんですかね?」

 「柴本さん?!」

 笠部が驚愕の声を上げる。自分が言っていることはおかしいって言うのは分かっている。鬼殺隊に属する者が鬼の殺害の否定等、三流作家の喜劇にも劣る笑い話だ。

 だが、思わずには居られない。今日のあの鬼は本当に殺すしか無かったのだろうか?今までの絵に描いた様な人の心が無い悪鬼羅刹とは違い、確かな人の心が有った鬼だった。その辺の人間より人間らしい少女だった。

 「何を言っているんだ?君は」

 白夜さんはキョトンと首を傾ける。顔はお面で見えないが、お面の下は訝し気な目をしているだろう。そりゃそうだ。こんな質問、完全に鬼殺隊としては異端だ。

 「さっきの鬼、とても人間らしかったんですよ。何か人情に溢れてるって言うやつですかね」

 「そうか。彼女はそんな鬼だったのか」

 「分かってる。俺は今自分がおかしい事を言ってるのは分かってるんだ。けど、思わずには居られないすよ───どうにか救えなかったのかなって」

 きっと俺は何処かで助けたいと思ってしまった。人間であって欲しいと何処かで願ってしまった。

 「残念だが、あの少女は人を殺していた。どれ程幼く見えても人殺しである以上、鬼である以上は殺すしか無い。それが僕達の仕事だからね」

 突き付けられた現実。そうだ、あの少女は人を殺していた。その時点でもう救えはしなかったんだ。If(もしも)の話何てありはしない。

 「じゃあ早い所残りの隊士を探して帰ろうか、蝶屋敷に」

 「柴本さんは優しすぎるんですよ。ですから、今回の事は気にしないようにしている下さい」

 俺は、どうしたら良いんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……これは酷いね」

 あれから隠の人も呼んで一時間掛けて探したが、死体を見つけた訳だが結構えげつない事になっている。発見したのは僕で今の所現場である洞窟に居るのは僕一人だ。

 一つは全ての爪を剥がされて、その上に傷口に塩を塗られている。更には目の中に石を詰めている。恐らく、情報を吐かせる為の拷問に使われたのだろう。

 もう一つは身体の所々から木が生えてきている。あの少女まさか条件付きで生物の身体からも木を生やせるのか?爪の隙間と目の瞳孔を突き破る様に生えた木以外にも、鼻や耳、眉間の隙間に左右の腋、更にはへそ。身体の皮膚の下にも蔦の様な木が生えている。これは拷問にしてもえげつないな。

 そして、最後の死体は元の形が分からない。分からないと言うのもあったのは粉々になった骨と肉の塊だけである。所々、繊維片やら髪が混じっているから辛うじて死体と判断出来たがこれは身元の特定に困りそうだ。

 何より、洞窟に大量の血痕やらが残っている分後処理に困るだろうな。こんな挽肉の様な遺体をどうやって持ち出すか。仮に持ち出せても洞窟に残ってる血痕をどうする事やら。今は冬だから冬眠中の熊と喧嘩したとでも処理するのか?

 「隠の人、全員見つけましたー」

 僕は大声で叫んだ。すると、ぞろぞろと集まって来た。彼等は死体を見て悲鳴を上げていた。まぁ、こんな死体中々見る機会は無いだろう。精々、物語の中でしか有り得ない。

 「じゃあ、白夜さんは帰っといて下さい。後は俺ら隠がやるんで」

 「君も大変だね。こんな死体を仕事の度に見てるのかい?」

 「いや、本当にマシなもんですよ。形留めてるのが二人も居るだけ」

 隠の目から光が消える。どうやら冗談抜きであるらしい。確かに、異能の鬼なら変死体の作成は楽々だろう。上弦の弐の氷に関しても、傷口が凍った刺殺遺体やら、斬殺遺体の作成が容易く出来る。何なら、肺が急速冷凍されて壊死した遺体も作れる。レパートリーの広い事だ。

 「所で、下の三人の方はどうなったんだい?」

 「下の三人なら回収して、今運んでる所ですね。本当に木の刺さり方がえげつなくて抜けないので木を抜くのは少し時間が掛かりそうです」

 確かにアレを抜くのは大変だろう。誰かが抑えていないと杭が抜けないと言う仕様の上に、抜き方を間違えれば死体はぐちゃぐちゃ。こんなに面倒臭い死体は中々無いだろう。

 「てか、白夜さん。柴本さんが傷一つ付けられなかった鬼単独で狩ったの本当ですか?」

 「そうらしいね」

 「本当何者何ですか。本当に(みずのと)の新人隊士ですか?」

 何者って言われても僕は一応、鬼殺隊の(みずのと)の新人隊士だからね。単に千年の時を生きている多趣味な一般人だ。それ以外の何者でも無い。

 「そうだよ」

 「後藤さんも早くこっちに来て!これ、木の奴切るの大変なんですから」

 誰かがそう言うと目の前の隠は「すいません。呼ばれたんで行ってきます」と言って一礼してから走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古き良き日本庭園には藤の花や低木、松が月夜に照らせれている中、一匹の鎹鴉が私の座っている縁側にやって来た。

 「御館様、例の少女が鬼を討伐した様です」

 紫のスカーフを巻いた鎹鴉が成果を報告する。彼女には急な事で鎹鴉を付けていなかった。その為、急遽私の鎹鴉に伝令を任せた。

 「そうか。鬼は何れ位の強さだったんだい?」

 「(きのと)(つちのえ)の隊士が二人がかりで傷一つ付けられない強さでした。途中から鬼は白夜さんと自らを閉じ込め一対一を行いましたが敗北した模様です」

 「そうか、分かったよ。ご苦労」

 やはり、彼女をどうにか柱に持ち上げたい。そうすれば、彼女に任務を与える事が出来る。流石に(みずのと)の隊士に強力な鬼が相手となる任務を任せるとなると少なからず(きのえ)(きのと)等の子供達からの反感を買い士気の乱れに繋がる可能性がある。

 どうにかして、彼女には実力相応の階級に着いて欲しい。正直に言うと現鬼殺隊の最高戦力と言ってもいい。

 カナエ曰く、「現鬼殺隊内で彼女に及ぶ者は居ない。恐らく、柱が総掛かりで戦っても勝ち目が無い」との事だ。

 カナエが戦力として引き込む為の口実に強さを盛った可能性は充分にあるが、彼女が傷一つ付けられなかったと言う上弦の弐を討伐している以上否定は出来ない。

 彼女の上弦の弐の討伐の功績で柱にするのも考えたが、これに関しては「カナエとの攻撃でかなり消耗していて紙一重だった」と言われれば周囲も怪しいとは思わない。

 何より避けたいのは彼女からの悪感情を買う事だ。彼女は相手と自らを閉じ込める血鬼術を使うと報告を受けている。それで上弦の弐を討伐した、と。これをされてはこちらの数の優位が効かない。

 万が一、敵に回られればその時が鬼殺隊の終わりの時だろう。

 彼女は薬であり毒だ。扱いを間違えた瞬間、彼女は希望を運ぶ天使から絶望を運ぶ悪魔へと変わる。

 どうすれば彼女の階級を上げる事が出来るだろう。彼女は拾った少女の養育費を稼ぐ為に鬼殺隊に入隊したのであれば給金が増えると言うのは利益になる筈だ。柱になれば給金に制限は無い。これで彼女を釣るか?

 今回の一件で最低でも一階級は上げられるはずだ。何せ、(きのと)(つちのえ)が敵わなかった鬼を単独で狩ったと言う戦勲がある以上これで階級を上げないのこそ不平等の筈だ。

 彼女は藤花彫りが出来ていない。故に、階級を上げると言うのを直接通達しなければならない。普段は藤の花の家に寄った際に藤花掘りの形を変える薬を投与して貰っている。

 さて、次はどうしたら良いのやら。




 はい。どうもこんにちは?私です。今年最初の初投稿です。今年も本作をお願いします。アンケートの結果、血を与える事になりました。鬼は眠りに着きましたね。さて、次目覚めるのはいつの日か。
 では皆様お疲れ様でした。また次の作品で会いましょう。皆様に本作で少しでも楽しんで頂いているのであれば幸いです。


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攻撃こそ最大の防御と言うけれど

 「夜分遅くに悪いね」
 突然の訪問者に僕は驚いていた。そこに居たのは白い単を着た少女だった。その顔は白い狐のお面により隠されていて見えない。
 「どうしたのかな?鎹鴉の件に関しての話だろうか?それなら日を追って───」
 「結構ですよ、新手の追手を付けなくて」
 放たれる陽気なのに何処か無機質な声。その無機質さが静かな怒りを暗に表していた。
 「……気付いていたのかい?」
 見誤った。鎹鴉ならば気付かれないと考えていたがそうでも無いらしい。これは流石に死んだか?
 「流石に、最初は気付かなかったけどね。流石に鴉に監視させているとはね」
 「要件はその話かな?」
 「否々、僕は今日は取引に来たんですよ。上弦の壱と鬼舞辻無惨についての情報を対価にね」
 思わず動揺に肩が揺れる。やはり持っているか。その情報は鬼殺隊にとっては一字千金。だが、今彼女は取引と言った。それはつまり何かをこちらから得たいと言う事になる。
 「何を求めるのかな?」
 「僕が求めるのは───、───、───、───、───、です」
 思いの外それらは安い物だった。これで彼等の情報が貰えるのなら寧ろ儲け話である。
 「分かったよ。じゃあ、情報を貰おうか」




 現在僕は隊服を着たカナエとしのぶ、更に杏寿郎に包囲されている。確か、昨日は帰ってきてから風呂に入っていつもの奥の部屋に帰ったら既に雪霞が寝ていたから御館様の家に血鬼術で突入し、戸籍なりの事を詳細に頼み行ってから一緒に布団に入って雪霞の甘い匂いを全身で感じながら寝た筈だ。で、起きたらこのザマであると。

 「で、カナエ。僕は何で君達に囲まれているのかな?」

 「少し、来てもらう所があってだから今日は早く起こそうと思ったんだけど……」

 あぁ、何となく察しが付いた。この面子なのは恐らく、上弦の弐の討伐関係の話と杏寿郎の柱云々の話だろう。確か、杏寿郎の父は柱だと他の隊士が話しているのを聞いた。その内容は余りいい物では無かったが。

 僕に至っては他にも僕と雪霞の戸籍関係の話等のその後に巌勝と鬼舞辻無惨の情報を引き換えに色々と向こうに話を呑ませたからそれ関係も有るかもしれない。

 僕は上体を起こし右目を右手の人差し指で擦る。僕は朝は弱いんだぞ?

 「僕に着替える時間は無いのかい?後、人が態々普段からお面を着けているのだから、勝手に入るのは止してくれないかい?」

 一応、仕来りでお面を着けていると言っているので余り人前に顔を出すのは良くないと思うのだが実際の所どうなのだろうか?

 「良いじゃないですか、白夜さん。どうせここに居るのは全員貴女の顔を見た事がある面子ですよ?」

 いや、しのぶ。一応、僕は過去に決闘で殺した武将とかの替え玉なり、穴埋めなりでかなりの人間を殺しているからね?なんなら、将軍の首も取ったことあるし。

 「分かったよ。今から着替えるから待ってくれ。少しこの部屋から出てくれないか?まさか、人の着替えを見る趣味は無いだろうね?」

 「所で、白夜!君は何処に着替えが有るのだ?見た限りこの部屋には無い様に見えるのだが……」

 周りをキョロキョロと見る杏寿郎。

 そう言えばこの部屋に有るのは僕が随分前に作った刀やらが入る大きな収納と下に小さな収納がある黒い漆が塗られた箪笥が一つと今敷いている布団。ヨーロッパ製の金の細工がある白く塗られた一面式の鏡台(ドレッサー)

 ……しまった。正直な話をすれば単や着物等の着替えは毎回、自宅や倉から取り出して訳だし。そして、着た服は蝶屋敷の子に洗濯して貰っているのだが、その度に倉に仕舞い直している。

 そもそも、本来この部屋は立ち入り禁止の状態で着物に関しても部屋側の襖の前に置かれている状態である。

 一名を除いた全員が凍り付く。本人は「ん?」と言った良く分からなそうな顔をしているがこちらからすれば溜まった物では無い。こんな所で収入源を潰してなるものか。

 「後、少し悪いが今布団の下で単の形が崩れているからどの道君にはご退場願いたいのだがね」

 「そうか!それは失礼した!」

 そう言って杏寿郎は部屋から出て行った。本当に危なかった。今の内に箪笥に服を入れておこう。と思ったが今は規模にもよるが名前を付けている様な血鬼術が一回しか使えない程度のエネルギーしか無い。仮に一回使った所で死にはしないが、血鬼術が使えなくなればいざと言う時に困る。

 「本当に焦ったよ。と言うか、何で彼をこの部屋に入れたんだい?僕は一応、か弱い乙女なんだぞ?」

 「いや、だって流石にずっと部屋の前で居たから……」

 戦犯は貴様かカナエ。

 「居たからじゃないよ?!言っておくけど箪笥には自律型の血鬼術を仕組んでいるんだよ?!アレが見つかったらお終いだよ……」

 あの箪笥には自律型の血鬼術・空渡(くうと)と言う空間と空間を繋げる血鬼術を僕の血で書き込んでいる。能力としては同じ字やら記号が書き込まれた二つの門が互いに一対の門としての役割を持つ。

 この箪笥は僕の倉に直通で繋がっている。

 「あの箪笥に何をしているんですか?」

 「僕の倉と此処を繋げる為の門を書いてる。霧状の陣が壊れるまでは永遠と機能し続ける。勿論、あんまり幾つも作ると錯綜するから精々、機能させるのは三つまでかな」

 今機能させているのはこれ以外には倉と倉の地下を繋げる為の物だけだ。

 「それかなり便利な血鬼術ですね」

 「そうだろ?仕掛ける時にそれなりに消耗するが、それ以降は使っても消耗しないからかなり便利な物だよ」

 消耗が他に比べてかなり多いから蓄えが余程無いと連発出来ないと言う欠点がある。尤も連発する機会は無いと思うが。

 「で?君達もこの部屋に居るつもりなのかな?」

 「そうですよ、姉さん。早く部屋から出ましょう。白夜さんに迷惑です」

 「えっ?そんなぁ〜」

 「そんなぁ〜じゃあありません。早く行きますよ」

 そして、カナエはしのぶに腕を捕まれ連行されて行った。これではどっちが姉だが分かりやしない。

 今日こそは雪霞と二人でゆっくりと過ごそうとしていたのに。昨日の仕事の後に呼び出しとか激務過ぎると思うぞ?

 僕は単の帯を解き、左側を左手で掴み脱ぎ出した。脱いだ物は後で襖の前に置いておけば回収して貰える筈だ。

 今日は何を着ようか?そう考えながら箪笥から薄紫の錠剤を取り出し飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは古き良き日本庭園のある屋敷であり、藤の花や低木に松が砂利の上に生えており、非常に静かな雰囲気が漂っている。

 懐かしい。我が家にもこんな風な日本庭園があった物だ。我が家の庭園には大きな人工の堀池があり、兄人達が池に船を浮かべて歌を詠んだりしていた。

 そこには三人の男。一人はさっきからずっと南無阿弥陀仏と捉えている隆々とした筋肉をした黄土色の羽織を着た男。

 もう一人は無造作な黒髪の静かな男。特徴的な右半分が葡萄色の一色、左半分が緑や薄い橙の亀甲柄の独特な羽織を着ているのがとても目立つ。かなり独特の着方をしている。最近の流行なのか?特に見た覚えは無いが。

 最後の一人は派手の一言に限る。輝石で彩られた額当てを着け、左目に蒲公英でも模した風の化粧。体格は大男程では無いにしろ六尺越えと恵まれた筋骨隆々とした体格だ。

 柱と言うのはやはり何時の時代も個性が強いらしい。昔の柱達の個性もこの場の人間達とどっこいどっこいの傾奇者達だった。

 帰りたい。正直な所早く帰りたいのだ。今日はゆっくりと雪霞と過ごす予定だったのにあんまりだ……。これが上弦の弐討伐者に対しての仕打ちか鬼殺隊。

 「そこの白い小袖を着た女、何故此処に居る?」

 個性的な羽織の少年が尋ねる。何故も何もそこの花柱様に連れて来られたんですよね。と言うか初対面にこの口振りとは、少し最高位の階級とは言え失礼では無いか?

 「知らないよ。僕は呼ばれたから来ただけさ。質問があるならカナエかしのぶ、御館様にしてくれないかい?如何せん、僕は余り現状を把握出来ていない」

 「そうだぞ、義勇。そこの地味な女では無くそこの花柱に聞け」

 おい、そこの派手男。何だ?地味と言ったのは良いが何か軽蔑に近い何かを感じたぞ?

 「私も知らないよ?だって御館様が連れて来いって。何か上弦の───」

 「上弦だと?カナエ今上弦って言ったか!?」

 派手男が大声を上げる。僕は思わず耳を塞いだ。悪い意味でその大声は頭に響く。本当に煩い。少しは静かにしろ。見た目通り派手な事しか出来ないのか君は?

 「上弦を狩ったのか?

 義勇。多分、君の声小さ過ぎて聞こえてないぞ。主に派手男の所為で。今あたふたするカナエを「答えろ!」と数回揺さぶって思い切っり背後からしのぶにふぐりを蹴られているそこの派手男の所為で。

 そして、目を回したカナエが言ってはならない事を言ってしまった。

 「───だって、狩ったの白夜さんだし」

 ……言いやがったなカナエ?!不味いんだよ?それ僕としてはかなり不味いんだよ?

 僕の鬼殺隊での行動範囲はあくまでも、「雪霞の養育費を稼げる程度に抑えて出来る限り強い鬼は人間に任せる」だから!かなり不味いから!この後、前線に頻繁に出されても困るから!

 「そこの刀二つ差した地味女、やけに覇気がねぇが本当に上弦を狩ったのか?どうやって狩った?」

 派手男、貴様少し黙れ。そして距離を詰めて来るな!僕は声が大きい人間は嫌いなんだ!近寄るな!

 「少し、静かにしてくれないかい?さっきの君の大声で僕の頭はカランコロンと混乱状態だ。とてもまともな会話は出来そうに無い」

 「どうやら、そんなに地味では無いらしいな」

 こいつの頭の中は地味と派手の二極端かと思っていたがそうでも無いらしい。頭が残念な事には代わり無いけれど。

 「お褒めに預かり光栄ですよ、何柱か知らないけどね」

 「フンッ、この派手な音柱・宇髄天元を知らないとは地味な奴だ」

独活助(うどすけ)が少し顔を上に上げる。まさかそれで伊達を気取っているのか?自分の姿を鏡で見てみろ。

 「自己紹介預かり光栄です、音柱殿。本格的に貴方様の所為で頭痛が酷いのでそろそろ会話を切り上げたいのですが宜しいでしょうかねぇ?!」

 さっきの大声による頭痛が酷い。僕は昔から大きな音を聞くと頭が綺麗に動かなくなる。音が響き、物事を考え難くなる。支彦(ささひこ)兄の趣味の大太鼓の際に何度寝込んだ事やら。

 「仮面越しでもそんなに派手に威勢があるのなら問題無いだろう?ほら、早く派手に話せ」

 殴りたい。正直な話をすれば殺したいと言う程では無いが殴りたい。人の話を聞かなかったのかこの独活助(うどすけ)は。僕は君の大声で頭が痛いと言っているのだ。少しはその辺を拾って頭を動かせこの独活助(うどすけ)が。

 「宇髄さん。そろそろ止めた方が良いですよ。この人を一々無駄に怒らせないで下さい。本気で怒らせるとこの場に居る全員でも止められませんよ?」

 しのぶ、君は仏か?良かったこれで一旦頭痛の原因から解放されそうだ。正直な所、縁壱以外なら時間が掛かる事はあっても血鬼術を使わずとも殺せる。

 縁壱相手ならそもそも、血鬼術を発動させるのに意識を割いている間に頸に一撃を入れられて負ける。良くて暗い場所では千日手には持ち込めるかもしれないが。日光の元では流石に少し動きが鈍るから無理だ。

 「ほぉ?それは派手に気になるがだとしたら面倒だな」

 そうだ、そうだ。早く帰り給えこの独活助(うどすけ)が。少しはそこの岩の様に静かな剃髪してない仏僧と物静かな義勇を見習え。

 「前回から半年も経ってないが良く集まってくれたね。私の可愛い剣士達、皆息災だったかな?槇寿郎は病気で休み、実弥は残念ながら任務が重なってしまった」

 その瞬間全員が整列し右の膝を着いた。僕も少し出遅れたが膝を着く。一応、僕は今は働いている側の人間であるからこれは当然の事だろう。

 「急な呼び出しで悪いね。今日は少しとある人物を紹介したくてね。他にも色々あるが、先ずは紹介しよう。上弦の弐を狩った白夜君だ」

 「御館様、一つ確認したい事があります」

 独活柱が突然理性的に喋り出す。どうした?遂に頭の中が独活で埋まり切ったのか?ご愁傷様なのか?

 「そこの白い小袖の女が上弦の弐を狩ったのは誠でしょうか?俺は信じられません」

 そうだ、そうだ。僕の様な十四歳の乙女に上弦の弐何て狩れるか。だから、その功績を今すぐ胡蝶姉妹にでも押し付けて下さいお願いします。僕は不必要に階級を上げたくないんだよ。

 「確かな事だよ。白夜君は上弦の弐を首だけにして生け捕りでここまで運んで来たんだ」

 空気が揺れる。御館様?少し世の中には言い方と言う物が御座いましてですね。それを間違えると意味が違う様に捉えられる可能性があってですね。

 ほら、音柱と水柱から凄く凝視されてるじゃないですか。だから嫌なんですよこう言うの。

 「今日は白夜君の階級に関しての話があってね。私としては白夜君をそれ相応の階級にしたい。だけど、流石にまだ日が浅い隊士が(みずのと)から他の階級を飛ばして(はしら)と言うのは他の子達から反感を買う。そこで、白夜君には独自の階級を与えるのが最適だと思うんだ」

 不味い。独自の階級と言う事は職務内容を柱並の激務にされる可能性がある。それだけは回避しなければならない。そんな事をされては雪霞との時間が激減してしまう。只ですら昨日の鬼の一件で雪霞との時間がかなり少ないと言うのに。

 「御館様、僕自身から一つ宜しいでしょうか?」

 「何かな、白夜君?」

 「僕はあくまでも柱を目指す気は無いと言いました。その理由は愛する人との時間を大事にする為です。ですので、激務になるのは出来る限り避けたいです」

 正直な話、雪霞との時間が無くなるのはかなり痛い。僕はあくまでも雪霞の家族として恥じない様、人の世に居場所を、と。ならば、激務になるのは余り良い話では無い。

 「そうだ。確かに、白夜君としては出来る限り激務は避けたい。その意志を尊重しよう」

 「御館様?!」

独活助(うどすけ)と仏僧とカナエの三人の同様の声。それは驚くだろう。上手く使えば鬼舞辻無惨との戦いの終局を早くに持って来る事が出来る文字通りの最善手。それに自由を尊重すると言ったのだ。

 「君には独自の階級(ささえ)を与える。鬼殺隊の(はしら)を直に(ささえ)る隊士と言う意味での君だけの階級だ。これでどうかな?」

 「そうですね。僕としては仕事の中身が知りたいですね。流石に中身も知らずに『はい』とは言えませんし」

 中身を知らずに「はい」と言ってはただの大馬鹿者である。こう言う仕事の時はしっかりと相手の出す仕事やそれで発生する損得を見定めなければならない。

 「他の一般隊士同様の任務以外に(ささえ)は相手が十二鬼月の時のみに柱の援護として参加する義務、また付近で他の隊士が十二鬼月と対面した場合の救助の義務。この際に、鬼を君自身が率先して狩らなくて良い。援護の時は補助をするだけで良い、救助の時は時間稼ぎや退治だけで良い。給金も甲と同額、これでどうかな?」

 やられた。上手く僕が昨日戸籍関係の際に提示したルールに触れない程度の範囲での義務労働が付けられてしまった。確かに、僕は昨日原則十二鬼月を僕が狩るのは避けたいと言った。

 だが、一言も狩らないとは言っていない。万が一狩る必要性が出た時の事を考えたのが裏目に出たか。

 「分かりました。受けましょう」

 「そして、カナエは先の上弦の弐の攻撃で肺を破壊されている。よって、今後の柱としての行動は難しい、鬼殺隊の前線からは離れる事になった」

 残念ながら、カナエの肺は生きている分には問題無いが既に長時間の激しい運動は不可能な程に損傷している。もしも彼女に鬼と戦えと言おう物なら下弦相手でも血反吐を吐きながら戦う事になる上に、勝率が低い。

 「……御意」

 カナエとしては複雑な物だろう。妹を残して前線から離れるのは。これは僕が仕組んだ事ではあるが、カナエは既に鬼舞辻無惨に目を付けられている可能性がある。

 鬼舞辻無惨が僕が上弦の弐を討伐したと認識しているとは限らない。僕と胡蝶姉妹、又は胡蝶姉妹が討伐した所に僕が偶然通りかかったと認識されている可能性がある。だとしたら、鬼達に「花柱を殺害しろ」と言う旨の命令を出していてもおかしくは無い。あの臆病者は少しでも危険性があれば即座に部下を使い消しに掛かる。

 故に、カナエからは前線から降りて貰う。僕が想定し得る最悪のシナリオは、鬼舞辻無惨がカナエを鬼にして産屋敷の所在地等の機密や雪霞の情報を知られる事。

 詳しくは無いが、人間の頃の巌勝曰く「鬼舞辻無惨は配下の鬼の記憶を認知出来る能力があるかもしれない」と言っていた。だとしたら、カナエが鬼側に捕えられる事だけは避けなければならない。

 万が一、彼女の身柄と引き換えに人質を助けると言われれば優しい彼女は敵わないと察した相手に自らの身柄を引き渡しかねない。

 そこからは各柱のこの半年に満たない期間で得た情報、現在の警備地区等での鬼の動き等が報告された。どうやら、今の所誰も十二鬼月の所在を掴むには至っていないらしい。

 「では、又次にこの場に居る者が誰一人欠けずに会える事を願うよ」

 そうして会議は解散となった。

 




 はい。私です。今回はかなり短い期間で投稿しました。と言うのも私はよく怪我をするんですよね。結構治ってますが前回の腕の件と言い身の上柄、暫く書けなくなる程の怪我が結構あるので書ける内に書くと言う奴です。今後も書ける時に極力書いて一週間に一回の壁だけは出来る限り死守するつもりです。
 閲覧、お気に入り登録、評価等ありがとうございます。感想をお待ちしています。
 因みに最初の私のコメントはタグ関係のお話でした。感想とか質問、規約に触れない程度の考察が欲しかったなぁ……と思う私です。
 お疲れ様でした。また次回のお話を楽しみにお待ち頂けると幸いです。


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束の間の休日と言うのは実に愉快な物で

 俺は一体何の為に生まれて来たんだろう。
 腐った外道の親を鬼を使い殺し、その際に垣間見えた自らの歪を贖わんと鬼を殺す為に鬼殺隊に入ったのにそこでも人を殺した。
 新人に負け、鬼に迷いを抱き、その新人に助けられて。
 俺に生きる意味何てあるのだろうか?否、そんな物端から無かった。俺はあの屑から生まれた時から何も変わってはいない。
 相手が自らの「悪」に値する人の死に対して何の悲しみも抱かない、寧ろ喜ぶあの屑の同類。本物の鬼だ。
 「柴本、少し助けてくれないか?」
 同僚の樫橋が後ろから尋ねてくる。そうだ。俺は「周りが見る柴本克弥(しばもとかつや)」と言う役を演じなければならない。それが鬼殺隊での「俺」なのだから。
 今日も虚しく道化は演じ続ける。粗悪品の貼り付けた笑顔と気持ち悪い声でそこには無い偶像(柴本)を。
 いっそ、死んでしまえば楽になれるのかも知れない。そう思いながら。


 暗い部屋、そこには蠢く白色の塊が二人。片方は四尺程の白色の小袖を着た澄んだ蒼眼を煌めかせ、全てを白く染め上げる様な白髪の少女。片方は三尺程の白色のワンピースを着た紅玉(ルビー)の様に赤い何処かまだ定まらない目をした柔らかそうな白髪の童女。

 「雪霞、何かしたい事ある?」

 「……お手玉」

 僅かに聞こえる鈴の様な小さな甘い声。お手玉?誰から教えられたのだろうか?恐らく、僕の居ない間に此処から出て蝶屋敷の面々から教わったのだろう。だが、残念な事にお手玉が無い。

 「ごめんね。私、お手玉は持ってないんだ……」

 確か、今倉にあるのは確か昔暇で作った貝覆いと、独楽、蹴鞠、チェス、歌留多。二人で出来る物が独楽位しか無いと言う最悪の事態である。何をしていたんだ昔の私。今すぐ悔い改めて遊具を作りなさい。後、蝶屋敷で騒ぎ回っている隊士達は静かにしろ。

 「……剣」

 「剣?剣なら確か───えっ?」

 待て待て、少し整理しよう。私は確か今お手玉が無いって言ったよね?そしたら剣と言われて、全く理解が出来ない。会話の脈絡が無い。

 「……皆言ってた。白夜……剣上手」

 へぇー、後で全員絞めてあげよ。私の母上はどんな気持ちで私に剣を許可したのだろうか?私は今、正直な事を言えば剣を雪霞に握って欲しくない。

 剣は力では有るが同時に危険だ。世は女の武を歓迎しない。私がかつてそうであった様に。

 それだけでは無い。これでもしも雪霞が剣に才があったら?彼女が鬼殺隊に入る様に勧められたら?考えるだけで身体が恐怖に震える。歯はガタガタと音を立てて震えて、さっきまで寒く無かったのに急に全身が氷水に入れられた様に冷たい。

 「……大丈夫?」

 「ごめん。ごめんね。大丈夫だから」

 私が恐れてはいけない。私はこの子を凡百恐怖から守るのだから。私が恐れてどうする。私は常に勇猛果敢に恐怖を打ち砕かなければならない。

 「ねぇ、百人一首覚えない?」

 「……百人一首?」

 雪霞は首を傾ける。どうやら百人一首は聞いていないらしい。百人一首なら私でも出来る。家を出てからもずっと詩だけは勉強していた。

 「そう!百人一首!色んな詩があるんだよ!」

 「……やる」

 雪霞が僅かに力強く首を縦に振る。その揺れる髪は春の終わりに見る散り桜の様に美しく儚げだ。良し、私は箪笥に走り、開けてそこにあった足袋を履いて門に飛び込む。倉には刀やら陶器、大量の日誌、着物に単、チェスと色んな物が並んでいる。

 確か百人一首はあそこにあったはず。私は倉の扉を開けて家の茶の間へと行く。足袋越しに感じる畳の感触を感じる事も無く、茶の間の地袋の右側から百人一首と彫られた反射して自分の顔が見える程黒い漆塗りの箱を取り出した。そこからは来た道に従い箪笥へと入った。

 「ただいま!」

 「……おかえり」

 足袋を箪笥の前に脱ぎ捨てて私は雪霞の前まで走る。そして黒い漆塗りの木箱の蓋を開けて、厚めの詩が書かれた白い和紙を薄く切った木の板に貼り付け、裏面に青漆の和紙が貼り付けられた百枚の下の句の札と、下の句の札と作りが同様な紅檜皮色の裏紙の上の句を札それぞれ百枚を取り出した。

 その中から次の解説の事も考えて札を吟味して「め」と「くもか」を取り出す。他にも「つく」と「こいそ」、「きみがため は」と「わかころもてに」を取り出す。最初だしこの辺りで良いだろう。

 「この紅檜皮色の札が上の句、この青漆色の札が下の句。それぞれ決まった札と組み合わせて一つ詩になるの。これを利用した歌留多があるんだよ」

 「……うん」

 雪霞が首を縦に振る。これはこれで髪が余り揺れないが、これにも明鏡止水の様な静かな美しさと言う物があり良い。

 私は「め」と「くもか」を大体胸の下の辺りの高さに置いて、右目の方には「め」を、左目の方には「くもか」を、雪霞の目の前に近付ける。

 「『めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半の月かな』って言う詩は一枚札って言ってこの上の句の『めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に』の最初の『め』でこの詩って分かるから覚えていると有利になれる」

 「……他には……何があるの?」

 良い質問だ。知識欲は人間を人間たらしめる物と言っても良い。知識欲が無ければ人類はここまで発展しなかっただろう。

 私はとても嬉しい、雪霞が知識欲のある人間で居てくれて。停滞は滅びへの明確な道だ。進歩にこそ繁栄の道が用意されている。だから、私は停滞はしない。

 「他にも一枚札が六首あるよ。後、詩の数え方は一首、二首だから」

 話に集中しているのか無言で首をコクリ、コクリと二回縦に振る雪霞。こうも集中して話を聞いて貰えるのは何か嬉しい物がある。

 「『 筑波嶺の峰より落つる男女川 恋ぞつもりて淵となりぬる』この詩は二枚札って言う詩で『つく』でこの詩って分かるの。他にも二枚札は九首あるから後で言うね」

 「……他には」

 「後は『君がため惜しからざりし命さへ ながくもがなと思ひけるかな』って言うのが三枚札って言って『きみが』の時点でこれと後もう一つの詩に限定出来て、『ため』の後の音によってどちらか分かるの。三枚札はこれ以外にも十一首あるよ。他にも四枚札とか、色々有るけど一気に全部詰めても混乱するだけかも知れないし、一旦ここで止めよっか」

 「……貸して」

 そう言ったので上の句下の句全ての札を貸し与えた。札には番号を振ってあるから勝手に合わせて覚えるだろう。すると全部一回目を通したらすぐに返した。

 「……覚えた」

 あれ?おかしいな確か私一ヶ月位掛けて覚えたのに今この子一瞬しか見てないよね?何で?今ので覚えるのは流石に無理があるんじゃ……。かと言って試さないのも失礼な物だし試すだけ試そう。

 「じゃあ、試しに言うよ。秋の───」

 「仮庵の庵の苫をあらみ わが衣手は露に濡れつつ」

 ……流石にこれは偶然かな?まさか一回見ただけで何もかも覚えるなんてまさか血鬼術とか末比呂(すえひろ)兄さんじゃあるまいしそんな事ある訳が……。

 「(みち)───」

 「(のく)のしのぶもぢずり誰故に 亂れそめにしわれならなくに」

 「まさか、一回見たら全部覚えてたりする?」

 「……うん。記憶力は……自信ある」

 凛とした言葉通り日光の様に眩しい瞳で首を縦に振る。どうやら雪霞はかなり記憶力が良いらしい。つまりは百人一首の競技歌留多においては最強と言えるだろう。

 競技歌留多において重要なのは如何に多くの詩の決まり字を覚えているか。他にも反射神経やら集中力に視野の広さもあるがこれは基本中の基本である。私の場合は記憶力が人並みの程度。つまりは詩を忘れる事もある。この場合、いくら私がその気になれば音速の手があっても詩が分からないので何も出来ない。

 分かり易い形で才能を突き付けられる事は時に人に絶望を与える事もある。まさに私の今の状況がそれである。まさか雪霞にこんな事で負けたりするとは、嬉しくもあるが複雑だ。

 「でも、読み手が居ないから歌留多は無理か……。やる事が無いなぁ」

 天井を仰ぎ見る。どうしようか、散歩したら鬼舞辻の間抜けに雪霞の存在を知られては危険に晒す事になりかねない。正直な話をすれば僕が四十六時中雪霞に着いていればあの臆病者が来た所で何の問題も無い訳だが、鬼殺隊と言う仕事に就いた以上それは余りにも非現実的だろう。

 「……本はある?」

 本か、趣味で作った写本が大量にある。私呼吸の所為で存在感が薄いから直接見られない限りは気付かれないから夜に忍び込めば写本が大量に作れたんだよね。

 本当に人間の警備って限界があるんだよね。それも破れない鬼舞辻って本当に生きてて恥ずかしく無いの?生き恥って言葉知らない?

 「そうだね。源氏物語でも読む?」

 「……読む」

 私は再び走って箪笥へと駆ける。足袋を履いてから箪笥の門に入り、倉の中の日誌の横に積み上げられた茶色の和紙の表紙をした一番上に積み上げられた源氏物語の一冊を手に取る。表紙には「源氏物語・宇治壱」と書かれている。どうやら一巻目を取れたらしい。そのまま僕は帰る為に門へと駆ける。門を出た先で足袋を再び脱ぎ捨てて雪霞の前へと駆けて雪霞の前に座り込む。

 そして開けてある事に気付いた。

 「……読める?」

 「……無理」

 写本、それも原典である紫式部直筆の源氏物語を書き写した為に行書体の平安の字と楷書の現代の字とあまりにも違いが有り過ぎる。私は何方も読めるが普通に考えてこんな字が読める子供なんて居る訳が無い。

 「私が読むよ。しっかり聞いててね」

 「…分かった」

 「いづれの御時にか、───」

 そして私は語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トントンと二回襖を叩いても返事が無い。襖に耳を当てるも物音が無い。この部屋は私と姉さん以外は基本的に出入り禁止となっている。流石に、秘密の知らない人間をこの部屋に入れる訳にはいかない。

 故に、ここには基本的に私と姉さん、たまに伝令役の九作郎君と後何処からか情報を聞き付けた煉獄さん。最後の一名に至っては即座にお帰りして貰っているが何処から情報を得たのだろうか?

(ささえ)と言う前代未聞の新たな階級に混乱した者や、それに異を唱える隊士達が居るのだ。

 柴本さんの様に人望の厚い隊士複数人と姉さんの手によって辛うじて静寂が保たれているが現在蝶屋敷は大混乱。先程からも「その女と打ち合いさせろ」と言う隊士が殺到している。

 正直な所、隊士との打ち合い自体は何も問題無い。白夜さんなら恐らく数人纏めても余裕で捻じ伏せられる。仮に隊士らに日輪刀を持たせ、白夜さんに稽古用の木刀を持たせても余裕だろう。

 だが、不味いのは白夜さんの機嫌だ。今日の柱合会議の際に少々既に不満げな気配を感じた。そして、一人で走って帰る際に理由を訪ねた際には「雪霞と離れて何時間経ったと思っているんだい?」と言っていた。

 隊士との相手をする様に頼んで「それは僕がやるべき事では無い」と言われるのは良いが、万が一隊士が乗り込んで白夜さんの堪忍袋の緒が切れるのは避けたい。

 「白夜さん?」

 襖を開けて近付き確認してみるとそこには一冊の本を抱えて眠る白夜さんと白夜さんに寄り掛かって眠る雪霞さんの姿が見えた。二人はそれは「人」の字の様な形をしていた。

 こうして見れば何処にでも居るただの見た目相応の少女に見えるのが不思議な物だ。時には上弦を屠り、時には愛する者の為に働き、時に柱と口喧嘩をし、時に愛する者と寝る。二つを除けば「人」と差して変わらない。その二つが余りにも常人離れし過ぎているのだけれど。

 「何か用かな?しのぶ」

 目は閉じているが私に問い掛ける白夜さん。恐らく、今さっきまで寝ていたのだろうが起きたのだろう。起きて直ぐに目を閉じたまま喋るとは器用な事だ。

 「晩御飯、どうするんですか?」

 「あぁ、そうか。もうそんな時間か。悪いね、少し源氏物語を読み聞かせていてね」

 となるとこの白夜さんが持っている茶色い表紙をした冊子は源氏物語と言うことになる。

 「まさかそれって原本ですか?」

 白夜さんは僅かに嘲笑と驚きを込めた様に笑いながら腹部を抑えて答える。

 「まさか、そんな訳ないよ。原本を底本とした写本さ、勿論贋作だけどね」

 「それでも充分に凄いですよ。原本から直接写した写本なんて余りないでしょうに」

 原本は遥か昔に失われている。今ある写本も全てが正しいとは断言出来る訳では無い。つまりは、今彼女の手にある写本には人類から失われた「本来の源氏物語」が収められている。

 「そうだね。僕が知る限り、今残る写本は誤字脱字の修正や書き換え、一部の話の削除が行われて完全な『原本』と同じ『源氏物語の写本』は無いね」

 「それは少し読んでみたいですね」

 「やめとき給え。この字が読めるかい?」

 そう言って白夜さんは適当に頁を広げて上を鷲掴みにして私の顔の前に突き出した。

 「そもそも、この部屋は暗いので誰にも字なんて読めませんよ」

 この部屋は灯りが無い。本来ここは花柱が「夜の鬼との戦いの為には暗い中で戦い続けるのが一番だ」と作った稽古用の部屋。それ以降の代は剣のブレ等の分かり難さからほぼ使っていない。最初に白夜さんから「日本の当たらない部屋」と言われて丁度にここしか無かったからここにした。だが分からない。何故、日光に耐性のある白夜さんがこの暗い部屋を望むのか。

 「雪霞と僕は読めるけどね」

 「まさか、そんな話が───」

 「あるんだよ。さっき百人一首の札を渡したら一回目を通したら全部覚えていた」

 その目は私を突き刺す様な視線を向けていた。どうやら本当らしい。

 「あと、箪笥にある薄紫の錠剤には触らない様に。アレは人が飲んでいい物でも触れていい物でも無いからね。何なら蓋も開けない方が良い」

 「何ですか?それ」

 「僕の為の薬さ。普通の鬼には劇薬になるし、普通の人には麻薬の様な物だ。鬼なら身体が腐り落ちて、人なら重度の幻覚、妄想、悪寒、思考能力の停止、失明、中毒依存等と他にも色々あるがとても僕以外の者が服用していい物では無い」

 完全に危険な薬だ。寧ろ、ただの毒薬では無いか?それを飲んで平然としていられる白夜さんは一体何者だろうか?

 そう言えば前に白夜さんは「不死擬きの病人」と言っていた。それが関係しているのだろうか?

 この「不死擬きの病人」と言う言葉の意味が分からない。鬼が「不死擬き」なのは分かりきっているが「病人」の意味が分からない。

 「で、晩御飯はどうするんだい?僕としては雪霞の事もあるから今日も運んでくれるとありがたいんだけど、外の騒ぎ方からして一旦僕が全員捩じ伏せ無いと駄目みたいだしね」

 「気付いていたのですか?」

 騒いではいたが、この部屋からはかなり遠い。まさかそんな事まで分かるとは。五感に関する血鬼術?それとも鬼の単純な優れた五感?

 「それはもう熱烈に『(ささえ)を我等の手で切り伏せる』等と騒いで下さるとね。騒いでいるのは主に(きのえ)(きのと)の隊士だね。次点で(つちのえ)(みずのえ)(みずのと)と上下の方々だね。いやー、人気者は辛いよ」

 そう言いながら、箪笥に入り二本の普段とは違う黒色を基調とした芒を模した金の蒔絵の鞘と対象的な金の部分が銀になったの鞘に入った刀を取り出した白夜さん。

 これは本格的に一旦絞める気らしい。恐らく、日輪刀を取り出さなかったのは本気を出して怪我をさせない為だろう。

 「やり過ぎない様にして下さいよ?大体の場合相手は怪我人ですから」

 「分かっているとも。怪我はさせないさ、ただ身の程を知ってもらうだけだからね。それにこの『静夜(せいや)』と『寂夜(じゃくや)』は刃を潰してある練習用の日本刀だよ?」

 何故そんな物を持っているのか疑問ではあるがこういう事に関しては余り話を聞かない方が良いだろう。

 「雪霞が起きるまでにカタをつけて邪魔されない様にしないとね」

 そう言って私達は部屋からは出た。




はい。私です。近々、なろうにてオリジナルを書くことにしました。「まだ鬼滅の刃が終わって無いのに?」と思うかも知れませんが、両方とも更新ペースは出来る限り守るつもりなので御安心を。因みに、pixivに居るのは私本人ですので御安心を。
↓なろうのアカウントです↓
https://mypage.syosetu.com/1329618/
 閲覧、お気に入り登録、評価等ありがとうございます。感想をお待ちしています。
 私はコメントに飢えている。
 お疲れ様でした。また次回のお話を楽しみにお待ち頂けると幸いです。


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身の回りの危機には鈍感で

 目の前には二つのお人形さん。ガタガタガタガタ震えるお人形さん。白い洋服なんて言うんだろ。この洋館もなんて言うんだろ。僕には分からないや。
 「助けて!誰か───フゴァ」
 うるさいお人形さんだなぁ。僕に大人しく遊ばれていれば良いのに。間違えてお腹を蹴り飛ばしちゃったじゃないか。お人形さんは喋らなくて良いんだ。僕のお母さんみたいにあんなに子煩くなくて良いんだよ。
 そうだ。悪い子にはお仕置しなくちゃ。僕って優しいな。駄目なお人形さんでも直ぐには捨てないでちゃんと教育してあげるんだから。
 僕は右側のお人形さんの目の前に千本通しを出した。僕とお揃いにしてあげるんだ。
 「やだ!やめて!お願───イヤァアァァ。私の!私の目が痛いィィ!痛いよォ!」
 うるさい。うるさい。うるさい。なんでそんなにうるさいの?お人形さんなら静かにしてよ!
 「小百合ちゃん!小百合ちゃん!」
 もう片方のお人形さんは右側のお人形さんの身体を揺らす。
 「なんでこんな事するの!私達が何をしたの!」
 お下げのお人形さんは僕を睨み付けてきた。許せないなぁ。僕は優しいけど怒ると怖いんだよ?
 僕はお人形さんの首根っこを掴んだ。どうやってお仕置してあげようか?


 「で?どうだい?実際に四尺程度の矮躯の(ささえ)と戦ってみての感想は?」

 機能回復訓練所の道場で息を上げる隊士達。ある者は気絶し、ある者は殺気に気負い剣を落とし、ある者は逃亡した。アレ?白髪の包帯を巻いた男が見つからない。おかしいな?さっきまで居たのだが。

 何か吟味する様な目で見ていたから少し気になっていたのに残念だ。それなりに動ける人間なのかと期待したが違うらしい。

 「あんた……本当に人間か?」

 気絶した隊士の一人が意識を取り戻したらしい。確か、真っ先に切り込んで来た八人の内の一人。気絶の原因は記憶通りなら腹部に当たった静夜の突き。僕からすれば全員鈍いので突きで倒させて貰った。

 確か彼は(きのえ)だったよな?本当に弱すぎる。まだ昔の入隊して直ぐの痣無し隊士の方が数倍強い。これでは鬼の殲滅なんて夢のまた夢だ。

 縁壱、本当にあの時に無惨を殺しておいて欲しかったぞ。あの臆病三下肉塊が大人しく切られてくれれば良かったのに。

 「いやー、酷い事を聞くね?僕は正真正銘人間さ。歳も取るし食事もする。人が行う行為は全て行っている。それにね?僕が今蝶屋敷に居るのは持病の薬の都合上、ここに居るのが都合が良いからだよ?」

 「……鬼に拳とか……通用するのかよ」

 他の隊士も徐々に意識を取り戻し始めた。正直一部は「死んだか?」と思ったのでヒヤヒヤしていた。心音はしていたが下手に神経とかに傷を入れていないかと焦った物だ。

 君達は素手で雑魚鬼を殺せない程の雑魚なのかい?本当に取り柄が無い。良くそんなので僕に挑もうと思ったな。恥を知れ。

 「あぁ、雑魚鬼なら拳だけで充分さ。拳で頭を破壊すればその辺の雑魚なら再生に手間取って何も出来ないからね」

 「これで分かったでしょう?白夜さんが(ささえ)と言う特殊な階級を振られたのか」

 しのぶが横から口を挟む。一応、僕は病弱な隊士と言う設定ではある。今回はかなり暴れはしたが正直毎日これと言われたら流石に獣肉でも食べない限り先に血鬼術の弾数が尽きかねない。

 僕の体力が減ると先ずは血鬼術の精度が落ち、次は使えなくなる。そして動きが鈍くなる。

 「この人は強力ですが、身体が弱いからあまり任務を熟す事が出来ない。(はしら)と同じ様に無休で働くと先に身体を壊してしまう。だから、(ささえ)と言う独自階級を御館様が用意したんです」

 そうだ。僕は本来病弱だ。人間時代にこんなに動き回ったらとっくに死んでいる。ここはある意味鬼になって良かった点かも知れない。

 「そう言うことか」

 「それなら確かに」

 よし、良い流れだ。隊士達の間で納得が伝染する。僕は強力だが余り打てない手として認識されている筈だ。このまま行けば今後は面倒な事を吹っかけられる事は無くなる筈だ。

 カナエも訓練所に入って来た。頼む、流石にここで問題発言なんては事はしないでくれ。

 「白夜さんは十二鬼月の、それも上弦の弐を討ったのよ?私では到底敵わなかったのに無傷で」

 言いやがったなカナエ?!一度ならず二度までも。わざとか?僕に対しての嫌がらせか何かか?そんなだから鬼と仲良くすると言う夢が叶わないんだよ!

 「まぁ、僕は知っての通り病弱だ。余り動き回るとその辺に血を撒き散らして死ぬ。今後は部屋に尋ねて来ない様に」

 そして僕は雪霞の部屋へと帰った。勿論、全速で走り抜けてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あー、これは酷い事になった。まさか俺も巻き添えを喰らうことになるとは。

 てか、本当に俺らあの時こんな化け物に喧嘩売ったのかよ。本当に生きてて良かった。これが普通の鬼なら間違いなく死んでいた。白夜さんが白夜さんであってくれて良かった。

 にしても、「一応僕の正体に感づいてそうな人間は居ないか調べてくれないかい?」と人使いの荒い。断ろうとした瞬間「ん?」と目を閉じて笑って首を傾げてたよ。アレは断った瞬間首が飛ぶ類の笑いだ。実質拒否権なんて存在しない。本当に笑えない。

 「九作郎、思ったんだがあの白月は確か十二鬼月じゃないんだよな?」

 横で倒れている顔を覆う白髪を垂らした眼鏡の張峰(はりみね)が顔を真っ青にして言う。白月(はくげつ)、そう刀折りの白夜さんである。流石に白い髪は目立ったので記憶されていてその日が新月だったからまるで月の様な白い髪からそう呼ばれている。

 安心しろ。張峰(はりみね)、白夜さんは上弦の鬼より強い。勝ち目なんてそもそも無かった。

 「らしいな。けど、あの鬼の目が綺麗に見えなかったから実は十二鬼月なのかもな」

 まぁ、正体は十二鬼月所かそれの元締め、鬼の始祖な訳だが。鬼舞辻無惨と同等の鬼を十二鬼月と同列に並べるのもおかしな話かもしれない。

 あの夜、幸いにも俺以外は目の色は分からないと言っていた。恐らく、全員白夜さんと白月(はくげつ)が同一人物とは思わないだろう。何より白夜さんには日光に当たっても生きていられると言う鬼とは思わせない絶対的な点がある。

 「思ったんだけど九作郎。白月(はくげつ)と白夜さん、何か関係性がありそうじゃないか?」

 「どうした?急に藪から棒に。確かにどっちも強いがそれだけで関係性があるってのは流石に───」

 不味い。これは放っておくと面倒な事になりそうだ。下手したら白夜さんが感づいて張峰(はりみね)を始末しかねない。

張峰(はりみね)はかなり頭が切れる。それこそ血鬼術の正体を初見で理解する程に

 「先ずは身長だな。目測だから正確な数字は分からんが髪の位置からして130cmから140cm。白夜さんもその位だ。そして、あの雰囲気。殺意は無いのにまるで殺意を込めたかの様な確実な攻撃。どうにも似過ぎている」

張峰(はりみね)が顎を抑えてブツブツと何か考えている。

 「だが、何故白夜さんが生きている?身内が鬼になったら最初に食われるのはその身内。ここが釣り合わない」

 似ているも何も本人な訳だがこれは不味くないか?下手をしたらバレそうだ。「鬼は日光で死ぬ」と言う絶対的な先入観があるから気付かれて無いだけでそれ抜きにすれば白月(はくげつ)が白夜さんと判断する材料は充分に揃っている。

 「確か鬼は身体の変化が無い。そう考えると白月(はくげつ)が何世代も前の人間でも問題は無い。となると、白月(はくげつ)は白夜さんの先祖に当たる人物、又はその親族と考えるのが妥当だ。」

 よし。一先ず最悪の事態は回避出来た。こいつが感づいては俺も「危険だし死んでくれ」と言った具合に殺されかねない。

 あの目は覚悟を決めた人間の目だ。あの目をした人間は目標の為ならなんだってやる。それが如何なる残忍な事であったとしても。

 「おい張峰(はりみね)それを白夜さんに言うのか?俺はあまりあの人からヘイトを買う様な事をしたく無いぞ?」

 「九作郎、お前確か白夜さんから信用されてるよな?」

 は?何を言っているんだお前。信用されてるんじゃないんだ。コキ使われてるだけだ。幾ら見た目が元気そうでも何処か儚げな美しさがあるからと言って油断してはいけない。その正体は千年もの時を生きる鬼。

 その気になれば何時でも俺等を殺せる死の運び屋。

 「やめとけ。俺なんかが白夜さんと居たら一般隊士から下手な誤解を受けかねん」

 「誤解?あぁ、恋仲か。確かに男女が行動を共にすればそう言う誤解を受ける可能性はあるな」

 頼むからやめてくれ。あの人は既に春見つけてるから万が一俺と白夜さんが付き合ってる噂なんか流れた日には死ぬ。確実に死ねる。

 「まぁ良い。適当に探る方法を考える」

 ……よし。これは後で本人に相談しよう。出来る限り明るい方向に進む様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だあの化け物は。(ささえ)とか言うから何者かと思って見に言ったら地獄を見た。(ささえ)は隊士全員に日輪刀を持たせながら、全部刃の潰れた普通の刀で全部捌きやがった。それにアイツの腕が速すぎて見えない。

 刀がぶつかり合う金属音で辛うじて刀で捌いていると分かったがアレは異常だ。幾ら有象無象の隊士が大半とは言え一歩も動かずに捌いていた。

 あの細腕の何処からあれ程の力が出る?

 あの矮躯で何故反動を受けずに立っていられる?

 それにあの呼吸は何だ?そこにあってそこに無い様なまるでそこの空間だけ抜け落ちた様な感覚だった。

 それに殺意を感じない動き。幾ら訓練とは言え流石に僅かばかりの殺意位も込めずに刀を捌けるのか?

 きっと俺が挑んでも他の隊士と同じ様に一歩も動かずに捌かれて終わりだ。

 アレが(ささえ)。何が(はしら)と同等だ。それを容易く上回っている。恐らく、彼女は本当に一人で上弦の弐を狩ったのだ。

 何が柱だ。あんな餓鬼に負けて恥を知れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近の隊士弱くないか?それに痣が出てる隊士が誰一人居ないでは無いか。流石に全員服の下に有るなんて事は無いだろう。柱達が誰も痣を持ってない時点で嫌な予感はしていたが本当にこんな事になっているとは。

 当たり前だ。何故、磨かれてない刃で宿敵が切れようか?

 想定はしていたが最悪の事態過ぎる。上弦の鬼が本気で鬼殺隊の壊滅を狙えば一ヶ月で崩壊するぞ。いや、巌勝と僕が始末した上弦の弐、あと上弦の参で充分に殲滅出来るんじゃないのか?

 「縁壱、君は何を思って未来に安心したんだ。教えてくれ」

 雪霞の頭を撫でる。本当にもう嫌だ。就職先として使えるのはここしか無いが確実に呼ばれる。十二鬼月と遭遇したら確実に呼び出しをくらう。本当に嫌だ。

 僕が十二鬼月を狩ってどうする?アレは人間が頑張って成し遂げるべきだろう?人の理から外れた化け物が成し遂げるべきでは無い。

 痣の情報が価値を持つ事になるとは……。正直余り考えたく無かった。痣無しで上弦の鬼に勝てるなら苦労しない。

 そう言えば、アレの様子を見ていなかったな。僕はこっそりと集めた血液瓶が服に入っているのを確認した。

 僕は雪霞から離れる。そのまま箪笥へと行き倉に行った。そして、倉の壁にある陣へと入る。

 そこは暗い地下牢。そこの一室に寝転がる一人の少女。手足は壁に金具で拘束されている。ここは本来拷問する為の部屋だ。私に喧嘩を売った鬼を一人づつ閉じ込めては地獄を見せて反省して貰ってから始末している。

 「どうだ?気分は」

 そこには全裸で岩壁に張り付けられている幼女が居た。ここだけ見るとまるで官能小説だ。

 「最悪だよ。ずっと同じ空間に放置されるし」

 「さて、解放の時間だ」

 僕は金具を外すと彼女は手首を圧迫されていた為血管に負荷が掛かっていたのか手首を左右に振る。

 「君の名前を教えてくれないかね?外で呼ぶ時に困る」

 「世救(せきゅう)だよ。で、何処に私を連れて行くの?」

 僕は胸元から血液の入った瓶を彼女の鼻の前に出す。そうすると少し涎を垂らすが特に飢餓状態は見受けられない。

 「平伏せ」

 そうすると彼女は言葉通り平伏した。

 「何……これ……身体が勝手に……?」

 これが眷属への強制命令か。かなり強力だと見える。これを使えば特に人を殺さずに済むだろう。血液だけならしのぶから強請ればどうにかなるだろう。

 「人を食べる事を禁ず、人を殺す事を禁ず、正体を喋る事を禁ず」

 これで蝶屋敷に連れ込める。取引で予め持ち掛けてはある「使い勝手の良い鬼を見つけた。僕に明確な殺意を持っているから訓練に使う。彼女は基本的に人を殺す気は無い」と。その代わりににかなり高価な情報を売ったが構わない。

 彼女は僕を殺す事を目指している。僕は強者を好む。彼女は何処まで僕を追い込める?縁壱程とは言わない。せめて、三日は持ってくれよ?縁壱は一週間持ってくれたぞ。

 「それを鬼の私に言うのかい?」

 「そうだな。適当にその辺の人間を殺そうと考えろ」

 そうすると世救(せきゅう)は一瞬間を置いて胸を抑えて岩床に倒れる。顔が赤く染まり呼吸を荒らげている。何かに目覚めそうだな。これは。

 「ッン、何これ。……心臓が痛い。頭が割れる!?」

 「やめろ」

 そうすると世救(せきゅう)は徐々に呼吸を戻し、顔から赤みが引いていく。

 「これは……少し面倒過ぎないか?」

 「さぁ?僕はただ少し便利な自害用の道具の性能を確かめただけさ」

 そう言って僕は世救(せきゅう)を連れて適当な白い小袖を用意し蝶屋敷に帰った。

 「……白夜さん?少し説明出来るか?この状況」

 ……柴本何でお前がこの部屋に居る?




はい。私です。近々、なろうにてオリジナルを書き始めました。
最近の失踪はですね、お恥ずかしい事にメールアドレスがどれか分からなくなってログイン出来なくなると言うかなり恥ずかしい理由です。その後、IDでログイン出来る事を知り再開しました。
皆様本当に申し訳ありませんでした。
今後はこの様な事が無い様に精進します。

↓なろうのアカウントです↓
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 閲覧、お気に入り登録、評価等ありがとうございます。感想をお待ちしています。
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 お疲れ様でした。また次回のお話を楽しみにお待ち頂けると幸いです。


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大丈夫大丈夫!

○がつ○にち

にっきもらった。さゆりちゃんとわたしはよくわからないおにんぎょうさんだらけのへやにとじこめた。あのぶきみなおとこにさゆりちゃんはめをつぶされた。わたしはくすりゆびをきられてとてもいたい。

○がつ○にち

さゆりちゃんがこんどはかみをきられた。わたしはきられなかった。おとこはいうことをきいていたらなにもしないとわかった

○がつ○にち

さゆりちゃんのひとさしゆびがおれた。わたしがすーぷをこぼした。ごめんなさい。

○がつ○にち

さゆりちゃんがちをはいた。とてもいたそうにみえるけどおとこはおにんぎょうのわたしたちにちりょうしない

○がつ○にち

あさおきたらさゆりちゃんがつめたい。おとこがさゆりちゃんをつれていってからさゆりちゃんとはあってない。

○がつ○にち

かわりにしまながきた。しまなはとてもちいさいからいつもないてる。わたしにまでひがいがおよんでとてもうっとうしい。

○がつ○にち

またしまながおこらえた。しまなはしゃべらない

○がつ○にち

しまながふくをよごしておこらえている。かおがあおとくろ。

○がつ○にち

しまながくすりゆびをなくした。わたしといっしょ

○がつ○にち

しまながにほんうでがなくなった。とてもいたそう。

○がつ○にち

しまながつめたくなっていた。なぜかおとこはわたしをなんどもなぐった。いたい。

○がつ○にち

おとこはわたしのあしたべた。いたい


 今の僕の状況を端的に言うのならば、小袖を着た前回微塵切り寸前にした鬼を連れている所を謎に部屋に居合わせた柴本が見ていると言った所である。

 ……雪霞は寝ているから最悪殺すとか言う手が無いわけでも無い。ついでに笠部の始末も必要になるので面倒ではあるが。

 「あっ、優男のお兄さん久しぶり〜」

 後ろを見ると絶対僕には見せない様な純粋な笑顔。

 何を呑気に笑顔で君は手を振っているんだ?阿呆なのか?君はさては阿呆なのか世救?上弦の弐同様に頭の中がお花畑か何かなのか?

 「世救、君はこいつに殺されると言う危機感は無いのかい?君は鬼で彼は鬼殺の隊士。敵対関係だよ?」

 「だって、このお兄さん弱いし、私殺そうとしたした時に途中で刀落としたからそこまで怖くないかな?正直、三秒有れば縛れる!」

 右手を握って目を輝かせる世救。柴本、君嘗められ過ぎじゃないか?幾ら、火力が低い手数で押し切るだけの水の呼吸とは言え嘗められ過ぎじゃないか?

 「で、白夜さん。なんでこんな場所に漆餅山の鬼が居るんですか?あの時、大量の血が飛び散ってましたけどアレは一体どういう事で?」

 「この鬼畜、私を十数回も切り刻んで身ぐるみを全部剥いでから地下牢に縛り付けたんだよ?酷く無い?」

 「白夜さん。……アンタ!」

 若干後退りして引きながら刀を構えるな。やめろ、僕だって傷付く事位あるんだぞ。

 「待て世救。その言い方には語弊がある。確かに僕はこの馬鹿鬼を切り刻んだ。確かにやりましたよ、はい。けど、仕事だからしょうが無いだろ?僕は鬼を殺す。その対価としてお金を貰う。これを僕が破る訳にはいかない」

 「そして、私をあんなにも服が無くなるまで切り刻んでけっ───」

 急に倒れる世救。ああ、血鬼術と言おうとしたから呪いが発動したのか。やっぱり、阿呆だね君は。素質だけは上弦の陸並にあっても頭が残念だよ、君は。

 「どうしんだ?!世救、アンタ大丈夫か?!」

 「さぁ?発作か何かじゃないかな?僕も発作でたまに血を吐いたり倒れたりするし」

 昔は一日半刻運動しただけで庭に赤い花を咲かせる事になっていた。昔の事だがアレは本当に痛かった。我ながらそれなのによくも懲りずに刀を振ろうと考えたものだ。僕も余程の馬鹿らしい。

 「てか、なんで箪笥から出てきたんですか?それにその後ろにある霧は……」

 やっぱり殺そうか?一応、腰には二つ鈴を何方も差してある。それに柴本は幸い僕の間合いの中。殺そうと思えば一撃の元に葬りさる事は可能だ。

 「これは世救の血鬼術さ。彼女は樹木を操る以外にも少々なら空間に干渉出来る。使い慣れていないから大まかな位置にしか飛べないと言う欠点もあるがね?」

 とにかく、僕が鬼とバレるのだけは避けたい。最悪、世救は見捨てれば終わりだが僕が鬼とバレると鬼殺隊に居るのが難しい。どれ程御館様が庇おうと隊士が納得するとは思えない。

 流石に表立った隊士殺しをすると鬼殺隊に居るのが難しくなるので出ていくしかあるまい。

 「けど、世救は鬼だ。生かしておく訳には……」

 柴本は手を震わせながら腰の刀に右手を掛ける。これは恐怖と言うより迷いかな。

 すると世救は僕の後ろから出て柴本の前に立ち、彼の右手に手を置いた。

 「ごめんね?殺したいかもしれないけど、私は桃の上を殺すまでは死ねない」

 世救はそして、柴本の刀を抜かせて両手で優しく指を解いて刀を握らせて、刀身の中心辺りに手を添えて青い刀を首に当てる。

 「それでお兄さんが救われるならその後は私を殺して良いよ?」

 「……やめろ。お願いだやめてくれ。そんな事!」

 刀を咄嗟に離して焦りながら悲鳴にも似た叫びを上げる柴本。このハゲ仮にも鬼殺隊士なのにこんなに取り乱し始めたぞ。実戦で大丈夫なのか?これ。

 「何で俺みたいなクズ野郎が呑気に生きて、アンタの様な綺礼な心をした人間が死ななきゃいけないんだ!」

 顔を抑えて座り込んみ意味の分からない事を叫び始めたぞ?頭の薇でも外れたか?少しは抑えろ。

 すると、世救は柴本の右肩と左脇下に手を回して抱いた。その様はまるで泣きじゃくる子どもを慰める聖母の絵でも見ているかの様に神々しい絵となっていた。

 「大丈夫。大丈夫だよ。お兄さんは優しい人だから生きてて良いんだよ」

 僕は邪魔者だな。大人しく雪霞でも連れて部屋の外にでも出るか?どのみちこの後風呂には行かねばならない訳だから、一旦退散しよう。

 僕は雪霞を回収して部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前らに問う。アレの狙いは何なのか」

 目の前に集まる十二鬼月達に問う。一人席が空いたから十一体しかいない。正直に言えば黒死牟以外が昇格して零余子が陸の席に座って上弦を満席に出来なくも無いが下弦は弱過ぎる。使い物にならない。かと言って今は桃の上が動いている。迂闊に頭数を減らすのも悪手となり得る。充てる筈の桃の上の傍系も消えたどうしたものか。

 誤算は童磨の手元に居た桃の上の傍系が見つからない事だ。童磨の拠点にも居ない上に稀血が見つからない辺り、稀血を食べた結果身体が力に追い付かず死んだか?所詮傍系、桃の上程の適性は無かったと言う事だ。

 「玉壺、貴様は確か千秋と言う陶芸家を一介の陶芸家として慕っていたな?」

 私から見て右側で最近高値を叩いて買ったと言う千秋(せんしゅう)の壺の入った木箱を見つめている。何でも千秋(せんしゅう)の作品「四季彩」の内の一つを手に入れたと言う。

千秋(せんしゅう)は瀬戸焼の作品で名を馳せた名工だ。本来の名は百島(ももじま)吉左衛門(きちざえもん)となっている。何でも、秋の晩にしか作品を売りに出さない事から「千秋(せんしゅう)」と言う呼び名が付いたらしい。

 「はい。千秋(せんしゅう)殿の壺は古今東西敵う者はおりません」

 「それは桃の上の偽名だ」

 「……ギョ」

 凍てつく黒死牟以外の十二鬼月達。その顔はまるで今から死ぬ囚人とでも言う程に青ざめている。

 何故そう固まる?私は単にその際に面識が無かったか聞こうと思っただけだ。

 「何も千秋(せんしゅう)の壺を愛でる事を責める訳では無い。私も陶芸に心得がある訳では無いがアレの作品は実際素晴らしい。貴様が千秋(せんしゅう)の作品を愛でるのは自明の理だ。私は買った事が無いが貴様は千秋(せんしゅう)の作品を手に入れる際にどの様にして手に入れている?」

 「まだ人間の頃は千秋(せんしゅう)殿の作品は一度しか触れておりません。商人の家で見ただけであります。初めて手に入れたのはその際に意気投合した陶芸家が今際の際に譲った物が初めてです」

 桃の上は基本的に人前に姿を出さない。

千秋(せんしゅう)が素性不明の陶芸家とされた理由は繋がりのある大阪の大商人が直に招かれ数人の使者と共に作品を大阪へと持ち帰り、初めて千秋(せんしゅう)の作品が出回ったとなっていたからだ。故に、千秋(せんしゅう)の素顔を知るのはその繋がりのある商人のみだ。

 一説では千秋(せんしゅう)は他の陶芸家と違い女子を弟子や使いに取っていたと言う。そこで思ったのだ。その弟子や使いの容貌からアレの趣味が把握出来る可能性がある。千秋(せんしゅう)以外にも卯川(うかわ)霜葉(しもば)と言ったアレの偽名の芸術家にはその様な噂が山程ある。

 そこから考えられるのはアレが同性愛者の可能性だ。それなら女を弟子や使いに取ったのも納得出来る。鬼にしか興味が無いのか?と思っていたがその線は考えていなかった。

 「私は思ったのだ。何でも、アレは他の陶芸家と違い女子を弟子や使いに取っていたと言う。他にも何かに造詣のある者はそれを言え。アレは多くの名で芸術家として名を馳せている。それの使いやら弟子の容貌からアレの趣味を把握する」

 前に黒死牟に聞いた所「桃の上は基本的に人前に出る事はあっても記録に残る出方はしません」と言っていた。現に記録として今も残っている物の多くは素性不明の物が多い。

 「堕姫。最近、お前が潜伏している遊郭に出掛けた筈だ。その時にアレが気にしていた女は居るか?」

 「いえ、どの女にも興味を示していません。単に近くの店の砂糖菓子を食べに来ていただけです。後はいつも通り、血鬼術で帰りました」

 やはり収穫は無しか。アレが同性愛者だと言う可能性は充分にある。とにかく、少しでもいい手掛かりが欲しい。

 「良いか?桃の上は基本的に好戦的だ。質が悪い事にアレは強ければ楽しんでから殺し、弱ければ無価値として即殺す。強くなる見込みが有れば少しは見逃すかもしれないが基本的に殺す。また、命乞いをすれば基本的に腑抜けとして殺される」

 前、アレに喧嘩を売った十二鬼月が最期に命乞いをした瞬間怒って首を刎ねた。「待て、俺を殺すと他の鬼達が来るぞ」と言った瞬間だ。

 それまでは楽しんでる節があったが一瞬でその気配が無くなった。つまりはアレに命乞いを毛嫌う。

 「遭遇しないのが一番だが、捕まった場合は命乞いをするな。最後まで殺意を見せろ。そうすれば生き残れる可能性がある。鳴女、全員帰せ」

 その後は全員が別れを言って帰って行った。とにかく、アレが同性愛と仮定した場合は上弦には期待が出来ない。

 精々零余子辺りかと思ったが女は自分より身長の高い男を好むと言う。アレの趣味によるが期待出来そうに無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練所ってこんな場所だったか?

 「死ねェ鬼!」

 「駄目駄目。そんなんじゃ、上弦になんか勝てやしないってば。お兄さん少しは考えながら戦った方が良いよ?」

 ……何だこれは?朝起きて騒々しいと思い訓練所に出れば僕の予備の黒い狐のお面をした見覚えのある白い小袖の少女が一人。少女が白い髪の古傷塗れの隊士と戦ってるじゃありませんか。どうした?僕は幻覚でも見てるのか?

 だとしたらこの無駄に鼻に着く稀血の匂いはなんだと言う事になるから余り考えたくないけど現実なんだろうな。本当にやだ頭が痛い。

 辺りには大量の木の枝やら蔦。見た感じどれも外から生やして来たらしい。器用な事だ。

 「白夜さん。貴方の眷属でしょ?何とかしてください」

 後ろから話しかけて来るしのぶ。どうした?そんなに窶れた顔をして。目に隈があるぞ?

 「何があったんだい?僕はあの後風呂に入ってそのまま寝たから詳しい事が分からない」

 「詳しい事が分からないってあの鬼連れて来たの白夜さんですよね?!」

 「それはそうだが、如何せんアレは柴本と一緒に寝てたから知らないよ。人を食うなと呪ってはおいたけどその後は放置しておいたからね」

 流石に僕も疲れた人間を無意味に叩き起す程無慈悲では無い。なので、軽く部屋からご退場してもらっただけだ。軽く部屋の外で放っておいた。

 「(ささえ)の餓鬼ィ。早くこの野郎を始末しやがれェ!」

 「落ち着きなよ白髪。そいつは訓練用に僕が運んで来ただけで人を食えないよ?」

 「知るかァ!鬼は全員ぶっ殺す!」

 うわぁ。気持ち悪いなぁ。話を聞かないのは流石に無い無い。見た目通り頭の薇外れてるんじゃないか?それを殺せていない時点で貧弱過ぎて笑ってしまいそうだよ。

 「落ち着きなよ浅短白髪。一応言っておくがそれは十二鬼月じゃないし、僕でも無傷で仕留められる程度の鬼なのにさ、それにそんなに苦戦するって……失礼、笑ってはいけないんだろうけど笑っちゃたよ」

 おっといけない。苦笑してしまった。顔が見えていないから分からないから言う必要性も無かったか?

 「身の程に合わない大願を抱えているのを見ると笑ってしまうよ。少しは鍛えてから夢を語りなよ?貧弱」

 「糞がァこいつを殺した後でお前もぶっ殺してやる!」

 怒ってる、怒ってる。少しはマシになるかと思って煽って見たけど元が弱いのに煽っても無意味か。

 「世救、やめてやりな。稀血で鬼を酔わせて弱体化させなければ勝ち目の無い様な奴じゃあ君とやり合った所で意味が無い」

 僕は余裕げに笑う。少し君が強くなるのを手伝ってあげようじゃないか。柱なら()()()()()鬼を狩る位の勢いであってくれなくては困る。それに元が弱いのなら尚の事だ。

 友の交で君の後継を少しばかり育ててあげようじゃないか。

 「白夜さん?!煽らないで下さい、彼は風柱です。仮にも最強の一席を怪我でもさせたら───」

 「大丈夫大丈夫」

 僕は後ろで焦るしのぶの顔の前に手を出して「いやいや」としのぶから見て横向きの手を振る。とにかく、怒って貰った方が色々と都合が良いんだ。その方がやり易いからね。

 「あんなのが任務一つ熟す間に僕なら五つ位余裕で熟せるから!怪我させたら僕が一時的に代理になれば良い!」

 正直、今まで見た痣無しの柱の中では恐らく剣の腕は中の下位だろう。本当にどういう経緯でこれが柱になれたんだ?何かの間違いじゃないのか?

 「ぜってェぶち殺してやるこの餓鬼ガァ……!」




はい。設定資料集の三分の二がバイバイした私です。何故退職したのだ同期達よ。
読者諸君、土日が休みなんて学生しか保証されないぞ(現在)?
執筆時間が無い今日この頃。恐らく次の投稿は早くて二週間がです。仕事が死にそうな位詰まってるからですね。
 閲覧、お気に入り登録、評価等ありがとうございます。感想をお待ちしています。



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 お疲れ様でした。また次回のお話を楽しみにお待ち頂けると幸いです。


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皮の下の私

 僕の人形は何故か思い通りに動かない。そう思っていたのだ。
 「黒は偉いなぁ」
 目の前の小さな腰まで垂れる黒い髪をした白いワンピースの少女に言う。最近、近くで拾った人形だけど他の人形達と違ってしっかりと言う事は聞いてくれるし僕に抵抗しない。正に僕が欲しかった人形そのものだ。
 綺麗で思い通りに動く存在。漸く手に入れた。お母さん!貴方の言葉はやはり戯言だ!
 やっぱり、一人一人育てるのが良いんだ。何人も一緒に置いておくから面倒になる。
 「操人(あやひと)。今日は何するの?」
 「今日はね───」


 「ぜってェぶち殺してやるこの餓鬼ガァ……!」

 訓練所の端で血気盛んに僕を睨み付ける少年。いやはや、目付きが悪いから面白い絵面だ。さて、縁壱。確か君は「適当に鬼を相手にしていたら皆痣が出た」ど言っていたな。アレは私の持論だが君達を観察していた限り「脈拍を一分間に二百を超える」と「体温を異常な程にまで上げる」だと考えられる。

 「下がって、世救。この浅短に剣の使い方を教えるから」

 そう言うと世救は手足の様に自在に素早く尚且つ繊細に動く木の様な蔦で浅短の攻撃を捌きながら僕の後ろに回った。

 「(ささえ)の餓鬼ィ……お前それは隊律違反だろうがよォ!」

 そう言って若柳色の剣を向ける浅短。いや、隊律違反とか言うけど君かなりの数の隊士にちょっかい出してるって聞いたぞ?君の様な人間には言われたくないな。

 「ん〜?分かった、分かった。じゃあ、今から僕は君に白鳴で挑む。それで僕に一太刀でも入れたら僕を殺すなり、そこら辺の隊士虐めるなり、世救を殺すなり好きにすると良いさ」

 僕は左に掛けている白鳴に右手を掛けて鞘から抜いた。正直に言うとこれでも有り余る位貧弱なんだよね……この浅短。かと言って、流石に今から訓練用の刀取りに帰るのもダルいし。

 「良いのか?糞餓鬼、そんな白い腐った刀一本で俺に勝てんのかァ?もう一本出すまでの間待ってやってもいいぜ?」

 「あー、大丈夫大丈夫。君の様な貧弱には片方だけで充分だよ」

 次の瞬間距離を詰めて来る浅短。剣を下に構えている辺り、陸ノ型 黒風烟嵐(こくふうえんらん)辺りか?それとも騙し手で他の手か?少し使うか?いや、これに使うのは勿体無い。態々、読むまでも無い。

 下から迫って来る刃、そうかそう来るのか。正直に言うとこれを使うのは気乗りしないが君は見てて正直に言うと不愉快だ。本物の刃を見せてあげるよ。

 少し借りるよ、縁壱。

 今から放つ一振は呼吸の違う型。だが、何の問題も無い。僕の呼吸は虚。何も無いから何にもなれる。

(ならい)炎舞(えんぶ)

 虎と龍の対比の様に上と下からぶつかる刃。一瞬飛び散った火花。一見均等に競り合う刃。本物には及ばずともそれに迫る程の威力。

 僕の身長が小さいから一瞬で離れる。この身体での上下での鍔迫り合いは僕が下になる必要があるのが欠点だ。

 だが、今ので分かった筈だ。君の剣技は遥かに僕より下にある。技の速さを見たか?君の刀は僕の刀より遅かった。技の重さを知ったか?

 大方今ので僕に不用意に詰めるのは危険と分かった筈ならば出来る限り早く終わらせたい筈だ。次の手は高さから来る優位を利用した伍の型 木枯らし(おろし)か強引に押し切る為の壱の型 塵旋風(じんせんぷう)()ぎ辺り。いや、それも違う。それならもう仕掛けて来ている。

 彼の顔を見ると何かを探している目。大方、弱点を探っているのか、隙を狙っているのか。

虚駆一閃(きょくいっせん)で詰めるか?いや、今回は全て日の呼吸の(ならい)で行くと決めた以上最後まで日の呼吸の(ならい)だけで彼を叩きのめす。型無しも使わない。全ての行動を日の呼吸の(ならい)だけで完結させる。

 僕は刀を握り刀を地面と水平に構え右足を踏み込み火縄銃から放たれた鉛玉の如く速さで浅短の丹田の少し上を狙う。力加減はするから死んでくれるなよ?

(ならい)陽華突(ようかとつ)

 「相変わらずお元気ですね。そんなに元気ならもう少し、鬼を狩って貰いたい所です」

 左足を踏み込み二歩後ろに下がると床には火山の落石の様な跡が出来た。……僕は何も悪くない。

 浅短の刃が虚空を切ったのを確認してから後ろに首を傾ける。

 「世救?これ直せる?」

 「……無理かな」

 「訓練所が……」

 しのぶが顔を真っ青にして頭を抱えている。不味い、これカナエにバレたら本格的に不味くないか?ただですら飯代はカナエから御館様からの給料を貰い受ける形にしてに天引きしているがほぼほぼ居候と言う形なのにその居候先にこの様な大損害。

 「一先ず、白夜さんと実弥は接触禁止ですね。暫くしたら追って正式な接触禁止が出されると思います」

 「おい鎹鴉!あの鬼ぶっ殺さなくていいのか!」

 鎹鴉に刀を向ける浅短。一応、それ君の目上の分身みたいな物だからそれに刃を向けるのは目上に逆らう様な物だからな?

 「その鬼は御館様からの許可を貰っていますよ、尤も人を襲えば大丈夫ですが君を襲っていない以上大丈夫じゃないですか?」

 「クソがッ!けどこいつは何でも上弦の鬼に匹敵する様な野郎らしいじゃねぇか!」

 そこまで情報流れているのか。世救本当にやめろ。もうお前は喋るな。

 「それに勝てない君は上弦以下だね。何なら下弦にすら勝てないんじゃないか?」

 「テメェ調子に乗りやがってェ……!」

 僕は左手の人差し指を首に立てる。

 「やるかい?尤も君のそよ風の様な脆弱な刃が僕の首に届くとは思えないけどね」

 「上等じゃねぇか糞餓鬼ィ、跡形も無く切り刻んでやらァ……!」

 ぶつかり合う鋼鉄片と火打ち石の様に煽り、睨めつける二人。だが、そこから火花が溢れる事は無かった。

 「あらー?この騒ぎは何かしら、何でも鬼が出たと言うから来てみたら悪い子が二人も居るじゃない」

 ……カナエが来た。アレ?不味くないか?確か、僕はさっき床を富士の大噴火の跡の様な激しい凹凸を付けた気が。

 「話をしよう。これはあくまでもそこの浅短を鍛え上げる為であって何も悪意が───」

 「座ろう?」

 「……はい」

 必死の弁解も意味を為さず塵灰の様に散って行く。今回ばかりは此方に非があるので強く出る訳にはいかない。

 「不死川くんも?少しお話しようか?」

 「俺はッ───!」

 「お話、ね?」

 不死川の顔が急激に青ざめる。カナエそんなに怖い人間だったけ君?上弦の弐に負けてた時一切の圧も何も無かったのに何でこんなに恐ろしいのさ?!(たれ)か教えなむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にな竹刀を持って立つ元花柱様。そして、それに全力で震える正座を崩さない鬼の始祖と現風柱。後、無口の女の子が連行して来た柴本と笠部。そして、何故か居る最近炎柱になった杏寿郎。柴本お前後で覚えていたまえ。

 任務を鎹鴉から受けては屋敷内に潜みアレからカナエから二月まで屋敷内を逃亡し続けたが流石に空腹で体力が切れた。杏寿郎やらの男性隊士やらが定期的に飯を運んで来てくれたからと言って雪霞に会いに行く際に血鬼術を使ったのが間違いだったか。

 そして世救、お前は何故カナエの横に居るんだい?しかも呑気に飴を舐めるのをやめないか。

 「さて、冬のアレは結論から言えば柴本くんの病床の下から女の子の声がしてそれに釣られた笠部くんが世救ちゃんを見つけて他の隊士が騒いだ結果、訓練所で世救ちゃんが稽古付けがてら隊士と戦っている所に不死川くんが来てそれを白夜さんが止めた結果床に大穴を作る事になった、と」

 「そうだよ、だから僕は悪くない。悪いのはそこの浅短白髪と柴本だ。確かに床に大穴空けたのは僕の責任だけどそれ以外は僕の知り得ぬ所で起きた話。どうしようも無いのさ」

 「あらー?おかしいわね?確か世救ちゃんって白夜さんの眷属(お友達)でしょ?」

 「いや?!知らないよ!前に何か訳の分からない鬼を始末した帰りに拾っただけ!隊士の訓練用に良い具合に連れて来ただけ!」

 確かに眷属だ。何なら推定でも人を三千人近く食べてるがそれは知らない。僕の知り得ぬ所で起きた話だからそれに関しては勘弁して欲しい。

 「その割にはあの鬼に(n)───」

 「あー!すいません!どうやら笠部が体調悪いみたいなんで、しのぶさん病床何処でしたっけ?」

 横を見れば不自然に白目を向いて床に倒れている笠部。やったな?君さては何かしたな?柴本貴様逃げるな戦うんだ。僕は逃げていないぞ。

 「そうですね!あー、でも笠部さんって重いからとても私一人では運べませんから柴本さん助けて貰えますかー?」

 「あー、大丈夫ですよ!自分、腐っても男なんで力ありますし!」

 「俺も肩を貸そう!」

 「私も着いて行く〜!」

 無事に杏寿郎と柴本、笠部としのぶ、おまけで世救が退席した。畜生君ら覚えていろよ?!

 「カナエ、後一つ言いたいのだがそこの浅短と僕は接触禁止だ。これは君としては立場的に如何な───」

 「それなら私が許可したから問題無い」

 ……おかしいなぁ、僕が大ッ嫌いな雇用主の声が聞こえた気がする。前回二ヶ月前の柱合会議の呼ばれたから聞く機会はもう当分無い筈なのにな〜。

 「どうも、御館様?何故にこの様な形になったのかご説明を頂けませんか?」

 訓練所の戸を開けて出てきたのは僕の雇用主。娘二人の介護付きで漸く歩けている様子からして直に立つのも出来なくなりそうだ。

 雇用主はカナエの横に座り、正座してこちらを見る。

 「少しお互いを理解する機会が必要だと思ってね」

 「御館様、そこの(ささえ)とは一切意志の疎通が出来ません。どうか、御容赦を」

 珍しく気が合うじゃないか浅短。僕も君の様な脳筋とは話が合わなくて困るよ。

 「風柱と同じく。あの独活助同様に意志の疎通が出来ません」

 僕を舐めないでくれよ?いざとなれば「お前の素顔を見せろ」と言って来た音柱から逃げる為だけに軽く海外逃亡した事もある。話が通じん奴とは話すだけ無駄と満徳(みちのり)兄も言っていた。よって僕に関わるな。

 「実弥、白夜さん。どうにかそこを割り切って欲しい。君達二人は何方も強力だ。その二人に亀裂が入っていては組織として心細い」

 それを言われると何とも言えない。組織の結束と言うのは確かに大事だ。全体としての結束が強ければ基本的には謀反も起きないし動きが速い。けどね?僕だって絡繰じゃないから自我と言う物が御座いましてね?

 「と言われましたもね?御館様、風柱は僕を認めていないから此方もそれを認めるのは難しい物です。あらかじめ補足しておきますが僕は生来人間が好きではありません。僕は強者以外には興味が無い」

 後は家族と家に仕えてくれていた人達位だ。他の人間には興味が無い。縁壱や巌勝が弱者ならきっと僕は出会う事も茶を飲みながら桜に心を預ける事も無かっただろう。

 「なら、雪霞さんには何故興味を持ったのかな?彼女は君からすれば弱者の部類に入る筈だよ。それでは言っている事が矛盾していないか?」

 「僕にも分かりません。ただ、僕はあの日彼女と出会った時に今までに他人に感じた事が無い様な物を感じました。ならば、これは恋では無いでしょうか?」

 あの雪の様に白い肌。砂糖のように白い髪。林檎の様に赤い瞳。そのどれもが今も脳裏に焼き付いて僕を離さない。

 「そうか。所で藤原と言う家名は知っているかい?」

 その瞬間、僕は無意識の内に二本の刀を抜刀し雇用主の首元の皮を僅かに掠めていた。そこからは僅かに赤い液体が走り、腐った血の匂いがした。

 何故貴様がその名前を知っている?知っていたとしても何故その家名を今出した?

 「御館様───」

 「このヤロ──」

 二人も僕の首にに刀を向ける。誰かが動けば次の瞬間誰かの首が飛ぶ。正に一触即発。空気は凍えていた。

 「良いんだ。こうなるのは想定の内だ」

 二人に立ち上がり掌を向ける産屋敷。二人は剣幕を放ちはしているが斬り掛かってこない辺り、まだ殺す気は無いのだろう。

 「産屋敷。これ以上その話をしたら私は容赦無く貴方の首を切る。一族郎党皆殺す」

 その家の名前を出すな。本家の名前を出すな。お前に分家の苦労が分かるのか?

 私の頭はドロドロとしたら黒い大蛇の様な感情が静かに蠢いていた。この様な感情を抱くのは久しぶりだ。

 「白夜さん。流石に命の恩人である貴方でも今回ばかりは見逃せない!」

 「今から物切りにしてやろうか糞餓鬼がァ!」

 「……死にたい?なら、今すぐ殺してあげようか?君達なら一人辺り刹那で充分だ」

 私は本気だ。今ならこの二人の首を斬る事に何の躊躇いも無い。カナエなら躊躇したかも知れないが今は無い。私には今この二人が「敵の護衛」にしか見えない。

 「どうか、二人は見逃してくれないか?僕の代わりは居るが子供達の代わりは居ないからね」

 「元はと言えばそちらだぞ。産屋敷。過度に人の心に踏み込むのはやめろ?」

 藤原と言う苗字の人間がこの国に何人居るかは知らない。だが、産屋敷は明らかに私達の藤原家を指した。藤原家の分家の、歴史から抹消された私達にとっての謗りか?分家はどう足掻いても分家。本家には及ばない。

 「彼女は藤原家、それも導満(みちみつ)の系譜の家だろうね」

 「そうか。ならば、私は恋していないらしい」




 これが地雷に触れた結果ですね。そう言えば、不死川くんが貧弱呼ばわりされているのでこの世界線での痣無しの鬼狩りの実力一覧(原作キャラは主に那田蜘蛛山からの初戦闘時)みたいなのを作るとですね(縁壱さんは元から痣があるので論外)、(オリキャラ'sは※です。)

痣無しお労しやお兄様(人間時代)←悲鳴嶼←不死川(稀血使用)←時透←煉獄←甘露寺・カナエ(独断と偏見)←不死川(稀血不使用)←宇隨←伊黒←しのぶ←※柴本※←竈門・獪岳(人間時代)・※笠部※・※九作郎※←善逸・嘴平・カナヲ←村田

 <判断が遅い!!は考えるのが面倒なので省きましたが大体伊黒としのぶの中間辺りです。
 つまりは別に不死川くんが貧弱な訳では無いですね。それこそ柴本とか九作郎君が凸しても即オチです。
 カナエに至っては完全な独断と偏見ですが柱内では弱いとしても一応童磨がお遊びでもそれなりに耐えれていたので一応しのぶよりは強い、と言う点から甘露寺さんと同率です。
 しかし誰も白夜さんに勝てない模様……。そもそも公式チート縁壱と千日手とか言ってる時点で頭おかしい奴ですね。
 劇中にもある通り白夜さん人間時代は貧弱なので人間時代なら持久戦すれば勝てるので数の暴力で二十分も連戦させれば殺せます。逆にこれ以外は劇中で明確にある限りでは鬼化した後なら日光克服前に日光当てる位しか殺し方がありません。
 本当に化け物が過ぎる。
 閲覧、お気に入り登録、評価等ありがとうございます。感想をお待ちしています。
 お疲れ様でした。また次回のお話を楽しみにお待ち頂けると幸いです。


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狂った世界

 山奥の家の縁側には死なない少女と死に逝く天才。葉は枯れ落ちて風が二人の隙間を寂しげな木々の一本の様に静かに通り過ぎていた。
 「そうか。巌勝が.......」
 私は湧き水の入った湯呑みをおいた。以前から彼にはその兆候があり僕はそれを知っていた。僅かに夢であってくれとは願ったが現実となってしまった。
 縁壱曰く、自分は鬼舞辻無惨を討ち損ねた責と兄が鬼となった責から鬼殺隊を追放になったと言う。
 矮小な凡百達は愚かだ。縁壱が居なくなれば鬼殺隊は弱るのは目に見えている。何処の庭師が一番太い根を切るだろうか?
 「縁壱。ここに居る気は無いか?衣食住なら保証するよ」
 「悪いがそれは出来ない。私は兄上を討たねばならない」
 そうか、それは残念だ。その言葉は口に出す前に塵になって消えた。きっと彼はこの先何百年もの時を生きるのだろう。弟の亡霊に囚われて何者にもなれず自らさえも失う地獄へと道を踏み入れたのだ。
 私は化け物だ。人の行く道に僕が居ることはあってはならない。鬼舞辻無惨が暴れようとも私は本来死人。この世に存在してはならない。
 「なぁ、縁壱」
 私は縁壱を強引に押し倒した。縁壱は特にこれと言って動じる素振りは見せない。ただそこに佇んでいた。
 あぁ、端ない。私は端ない娘だ。女が男を押し倒す等有り得ない話だろう。
 「お願いだ。僕を置いて行かないでくれ───」
 一人ぼっちは嫌なんだ。そう言おうとしたが縁壱は僕の口を抑える。そうして私の言葉を無理矢理殺してから縁壱は僕の口から手を離して言った。
 「お前は一人では無い。良いか、桃」
 縁壱の赤みが混じった瞳が僕を捉える。その目はいつもと同じ様に物静かに佇んでいた。何かに急かせれる事も無く、何かに燃え上がる事も無く、今までの強者の誰とも違った目をしていた。
 「道を極めた者が辿り着く場所はいつも同じだ。幾百幾千の時が流れようとも、そこに至るまでの道のりが如何なる物であっても必ず同じ場所に行きつく」
 そして縁壱は珍しく笑った。それは子供を諭す様に静かで優しげな顔だった。
 「いつの日か、私と同じ様な存在にお前は出会える。何も悲しむ事は無い。お前や私の様な天才はいつ世にも現れる」
 その時何かが僕の中で崩れる様な気がした。繊細なガラス細工が壊れる様に儚く、逞しい山が崩れる様に大きな音を立てて。きっと私はこの感情の正体を生涯知る事は無い。でも、それでも構わない。私は縁壱と共に居たい。
 私は縁壱を抑える手を離して縁側に座り直した。なんだ?この頬から流れ落ちる雫は?化け物に似つかわしく無いこの透明な液体は?
 「.......悪い取り乱した」
 それからは何気無い日々が過ぎて行った。幾つかの約束を交わして。


 僕はただ無心で歩いていた。枯葉の匂いが鼻を刺す森の中は蛇やら虫が蠢いていた。

 「どうしたんですか?」

 「いや、何でも無いさ。気にしなくて良い」

 柴本の問いに無気力に返す。お面を着けているからこういう時に顔を見られないのは良かった。きっと、今の僕は酷い顔をしている。

 まさか雪霞が藤原の人間だったとは。僕の他に白い髪が若くから出る人間は藤原に居なかったと思うが、アレから何代も世代を挟んでいるから外から何らかの遺伝を受けた可能性がある。

師尹(もろただ)の家系となるとそれなりに僕と近い。となると持っている可能性は充分にある。いや、藤原の血を引いていると言う時点で疑って掛かった方が良い。僕と同じ体質なら雪霞は危険だ。

 歩き続けて着いた大きめの塀に囲まれた瓦葺の木造の家。窓が有ったと思わしき所に釘で打ち付けられた木の板と「非人間」やら「人殺シ」と彫られた壁。どれ程の恨みを買えばこうなるのやら。

 「地主ってのはこうも恨まれるのかい?僕としては人間の醜さって奴を見せられた気分だ」

 「しょうがないんじゃないすかね。皆生きるのに必死だった訳ですから、金持ちが大層憎たらしく映ったんじゃないすか?」

 ここの家は数年前は地主の一家が住んでいたと言う。だが、ある日を境に行方が分からなくなったらしい。何でも娘と夫婦共々消息が分からなくなり、部屋には血だけが飛び散っていたと言う。警察が探すも無念、遺体は愚か犯人像すら掴めない。警察も警察側で行方不明者が出た事から捜索は打ち切り。

 ここだけ聞けばただの怪事件で終わりだ。だが、問題はこの先である。その数年前、警察の撤退の直後。五歳から十二歳位の子供、主に女子が夜に突然居なくなると言う。他にも両親の遺体は見つかるも子供の遺体は見つからない事件が十軒近く。隣の県境付近にも発生していると言う。

 最初に鬼殺隊は試しに三十人の隊士を捜索隊として派遣するも全員何も見つけられ無かったらしい。が、最近事件が再び動き出した。

 何でも夜に背丈が大きな男と小さな女が夜な夜な街を徘徊していると言う。何でも、昼には現れず見た者は死んで居るとか。

 試しに夜に捜索を行うように出した隊士の十三名の内八名が血痕すら出さずに失踪。ある隊士の日誌に「我、明日森ノ廃墟ニ向カワン」とあったらしい。内訳には(きのえ)一名、(きのと)二名が居たと言うがどちらも何も見つけられ無かったと言う。

 そして、前回と違い今回は女が居た点と日誌の隊士を除くその周囲に居た隊士とその女隊士が見つからない点から「鬼は女が狙い」であると絞られた。

 その結果、廃館に潜むとされる鬼が向こうから来る様に僕が派遣される運びとなった。本当、僕が基本的に不死身だからとこんな場所に配置するとは。首を切ってやろうか産屋敷。

 最近の失踪は計二十八名。今回の鬼は推定で千人近くを食べている鬼だ。それなりに力も付けている。笠部に関しては起きそうに無かったので僕と柴本の二人で逃げる様に来る始末。

 正直な話、今回の鬼は面倒な鬼で間違い無い。世救は本人曰く、襲って来た鬼殺隊や背信者を含めれば四千は()っているらしい。所詮は四分の一。正直な話、世救に関しては本当に強さの上がり方が異常な辺り純粋に鬼舞辻無惨の血が濃いのか、本人の鬼の適性がかなり高いのだろうが鬼舞辻無惨の醜悪な腐った獣の脂の様な血の臭いが差程強く無かった辺り本人の適性がかなり高い方だろう。

 「本人、人間の愚かさには(つくづく)呆れる物さ。人間と言うのは千年と言う長い時間を掛けても本質は髪の太さ程も変わらない」

 僕は思わず溜め息を吐く。やれ戦争だの、やれ略奪だの、やれ暗殺だの。差別に奴隷制度に汚職。本当に人間と言う生物の大半はいつまで愚かで居る気なんだ?いい加減、少し程度は進歩でもすれば良いのに。

 「.......そうっすね。人間ってのは本当に醜い生き物ですよ。自分さえ良ければそれで良い。他人の事は二の次。自分の為なら幾らでも残酷になれる」

 その声は何処か遠くて近い所を思い返す様な声だった。きっと、彼も彼なりに何らかの不幸やら不遇なり人間の醜さを知る機会があったのだろう。

 「或る意味、僕ら鬼殺隊はその最たる例と言えるだろうね。鬼を殺して日銭を得て自分を繋ぐ」

 「確かにそう言う奴も居ますね」

 柴本は苦笑いしていた。多くは覚悟を決めた人の世の英霊に成らんと言う者だ。だが、大量に稲が有れば中には出来の悪い米が混じる様に覚悟を決めていない者もまた居るのだ。

 勿論、本心から徹頭徹尾人の世の為と言う隊士は少ない。然れど、曲がりなりにもそれなりに人の世の為の理由と言う奴を持ち合わせているのが大半だ。

 「とにかく、入ろうか。僕としては早く日の出ている内に鬼の首を刎ねて帰りたいからね」

 そう言って僕は右側の深緑の苔やら茶に赤と色の鮮やかな茸の住処と化した引き戸をに手を掛ける。が開かないのだ。内側から固く閉ざされている。間違い無く誰かしら居るのだろう。なので、肩の高さで右腕を少し引いてから殴り引き戸を壊した。木は人の手から離れて長かったのか朽ち掛けていて案外容易く砕け散った。

 「.......白夜さん。あんた本当にそのちっさい身体の何処にそんな力があるんですか」

 横を見ると柴本が顔を引き攣らせて驚きと呆れの様な物が混じった表情をしていた。

 「いや、今回に関しては木が脆すぎただけさ。少々穴が空くことはあっても普通はこんなにも粉々にならない物さ」

 人間時代の私でも出来たが普通の人間には出来ないだろうな。ここはやんわりと流しておこう。

 そして僕と柴本は白い大きな家の中に入った。玄関の入口に屏風が残っているが鉈やら金槌で傷付けられた痕が山ほどあり、他にも赤黒い匂いからして血らしき物やら泥が屏風を塗り固めてあり何が描かれているのか分からない。

 「.......気味が悪いっすね」

 「確かにこれは少し独創的と言う奴で済むレベルでは無さそうだ。流石に過激過ぎる」

 更に追い打ちと言わんばかりに壁には「カエレ」や「クルナ」等の文字が赤黒い何かで書かれているこれは.......。

 柴本が赤い文字に近寄り指で触れた。

 「乾燥してますけど.......血ですね。となると、ここにはやっぱり鬼が」

 「居るだろうね。恐らく、窓に板を打ち付けていたのはこの血に関する行為を見られない様にする為の意味合いもあったのだろう」

 その後も家を捜索した。台所や御不浄には湿気のある皿や使用したと思わしき痕跡があり最近まで使用していた生活感があった。

 家の造りは玄関が引き戸になっていて左側にT字型の下が向いた玄関側に敷居から推測するに部屋としては三畳と奥側と左側に別れる所に六畳あり、左側も手前に四畳と奥に八畳の部屋。奥は主人の部屋なのか棚や押し入れに布団以外にも本が大量に置かれていた。

 主人の部屋の押し入れの反対方向には廊下があり打ち付けられた板を蹴った

 ここの鬼は大層頭が悪いらしい。こんな事をすらば間違い無く人が集まり警察が来てしまう。そうなれば忽ち人間が集まって───

 「ねぇ、柴本。一つ思ったが何故鬼は僕達に攻撃しないんだ?」

 僕は静かに言った。妙に生活感のある一部の位置、死体の痕跡が無い家。僕の読みが当たっているのならここの鬼は厄介な鬼だ。正直、相手の血鬼術の効果によれば殺す事さえ出来ないかも知れない。

 「それは俺達に気付いてないのか単純に寝てるのかどっちかじゃないんですか?」

 柴本は顎に手を当てて考えるが出た結論は単純な物だった。だが、そんな生易しい物では無いぞ。これは。

 「いや、おかしいんだよ柴本。その二つの点から」

 「どういうことですか、白夜さん?」

 柴本は「訳が分からない」と言った片目を細め額に皺を作った顔で首を傾げる。

 「先ず、鬼があんな簡単に破られる引き戸の家を拠点にするかい?いいや、普通に考えてありえないね。僕には到底理解出来ないさ。こんな小さな家だ。それこそ適当に(きのえ)から(つちのえ)辺りの隊士十人位で包囲すれば簡単に追い込める」

 なのに、八名の隊士は()()()。それも、鬼だけ相手に負けたのだ。そして、気付くべきだった。「その隊士達は遺体はおろか、日輪刀すら見付からず血痕も無い」この事から血鬼術に予想が付く。つまりは、この鬼の能力は───

 「今すぐこの家を出るんだ!今回の鬼の血鬼術は───」

 僕は後ろを向いたがそこには柴本の影は無かった。周囲は上下に血痕を細かい範囲に圧縮し散りばめた黒カビの様な物がある壁になっていて、ただ長い廊下と絵画が飾られていた。

 「まんまと嵌められたと言う事らしいな。これは」

 僕は自嘲気味に苦笑いしながら一人ボヤいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界はいつの間にか窓がついた白く所々に腐った跡がある俺が両手を左右に広げても左右どちらも二から三寸程余る床が腐りかけの木で出来た廊下に入れ替わっていた。天井には赤いランプが付いている。さっきまでの家はどうした?周囲を見渡して見たが白夜さんの人影は無い。空間転移の血鬼術の類だろうか?この手の血鬼術は有効範囲が狭い筈だ。近くに間違い無く鬼が居る。

 「しまった!刀が詰まって抜けない!」

 大声で焦った様に叫ぶ。だがそれに対しての物音は無い。となると、浅慮な鬼では無いと見た。それとも単に遠くに飛ばすだけの血鬼術なのか?試しに窓を覗いて見れば遠近感の分からないヘドロの様なぐちゃぐちゃな黒いナニカが広がっている。

 これは間違い無く血鬼術が関係しているな。俺の経験則ならこれは幻術辺りだろう。幻術なら何処かに解くための手口がある筈だ。俺が知る限りこの様な特殊な空間の幻術使いの鬼は本人が血鬼術を使用している間は本人も動けない。つまりは、幻術でこちらが先に先手を打てば向こうが幻術が解けて直ぐの隙を狙える。

 今まで知る幻術を使った、それも夢の様な世界に入れる幻術を使う鬼の突破法は幻術の中に居る鬼を殺す事。どうやらこの手の血鬼術は諸刃の剣らしく今までの鬼はこの幻術で殺した後に目が覚めると意識の無い抜け殻の様になっていた。

 きっと、幻術で負けた場合は幻術の使用者も意識が破壊されるのだろう。実際その時に俺に同行した(みずのと)の隊士は意識が無くなり今も目覚める様子は無いと言う。恐らく、彼は夢の中で鬼に負けたのだろう。その結果意識が死んでしまったのだ。

 そう考えながら廊下を進んでいると突然何の前触れも無く景色が入れ替わった。さっきまでの白い廊下は消えて堀抜いた様な不自然な岩の中にある土と灰を混ぜた様な黄褐色の空洞へと入れ替わっていた。松明が等間隔に置かれておりその様はまるで炭坑とでも言った所だろうか。後ろを振り返っても景色は変わらない。

 試しに後ろ歩きで一歩下がるとさっきの白い不気味な黒いナニカが映る窓の廊下に変わっていた。

 つまりは景色が違うが全く同じ空間であると言うことか。ドアを開ければ別の景色と言う鬼は居たがこの様な幻術は知らない。

 そこから恐らく二時間ほどしての事だろうか。俺はこの不可思議な夢の中に囚われた様な幻術の中を歩き回った。

 大体十数回目の部屋が変わった頃合だろうか。その部屋は白く照明が無いのに明るかった。さっきまでの部屋は照明と廊下以外何も無かったがその部屋だけは違った。

 丸い部屋の中央には天蓋付きの白い掛け布団のベットがあり、壁には四角の四隅から円を置いて削った様な黄色い十字架の様な模様。何処からか分からないオルゴールの金属の優しい音色がただ優しくも不気味に響いていた。壁には白い箪笥が等間隔に四方に一つづつ置かれていた。それとベットの右側、俺から見て直線方向にドアがあるのが見える。だが、それより気になる物があった。

 あのベットに鬼が居るのだろうか?俺は腰から刀を抜いた。新しく打ち直された俺の日輪刀は前回と同じく鎬造りの二尺程の長さの直刀の湖の様な青い標準的な日本刀と同じ規格の日輪刀。

 寝台には小さな盛り上がりがあり黒い髪が僅かに頭の端辺りとして見えた。小さな盛り上がりは大体三十五寸。白夜さんよりは少し小さい程度だ。

 「.......誰か居るの?」

 静かな声。掛け布団の下から聞こえた声は特に感情の起伏が無く寝起きにしては余りにも明確過ぎた。少なくとも白夜さんの声では無い。

 「君は鬼か?えらく見事な血鬼術だ。どれだけの人間を食べた?」

 俺は刀をベットの上の空間に置いて問い掛ける。この量はかなり食べてる筈だ。正直道中不気味さすら感じた。これだけの複雑な幻術を俺は知らない。

 「......月美(つくよ)

 「質問に答えてくれ」

 俺は刀をベットの上に付ける。油断させるつもりか?ここは幻術の中。仮に殺してもそこに居るのは鬼であり、鬼で無かったとしても鬼が作った影法師。

 「.......月光。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作った」

 何を言っているんだこいつは?今流れているオルゴールの曲名か?そんな事はどうでもいいのだ。

 それはベットから出てきた。髪は床に触れる手前まで伸びていた。鬼特有の変異した点や姿は見受けられない。露出している肌は首から下へと全身が包帯に巻かれた上に着ている白い灰色が混じった様なワンピースは染み一つ無く白い白夜さんのとは違い所々に黒い染みが付いていた。

 俺は目を見張った。女児の両手両足には鎖がついているのだ。鉄の輪が両足首の上にあり間には黒い鉄の鎖。手には五つ程繋がって途中で切れた鎖。手には白い箱を抱えていてそこから音が聞こえている。

 「えらく悪趣味だな。これは」

 女児は何も答えない。顔を覗きこんだが目に光は無くそこには闇が佇んでいた。次の瞬間俺は彼女が鬼では無い事を確信した。瞬きだ。今この女児は瞬きをした。

 鬼は瞬きをしない。つまりはこの女児は少なくとも鬼では無い。まさか人間か?以前に慢心した鬼が「貴様らは今から全員私の幻術の中で死ぬのだ。仲間同士殺しあってなぁ」と言って手口を明かした鬼が居た。複数人を同じ幻術に入れる鬼と戦った際に仲間を見分けるのに瞬きの有無を利用した。

 だとしたら彼女は巻き込まれた被害者だ。そう考えた途端罪悪感が俺の首を絞める。俺はやっぱり外道のクズ野郎だ。外道の子は所詮何処まで行っても外道の子。穢れ血には抗えなかったのだ。

 「.......お坊さんは何をしに来たの?」

 俺は女児からの声で暗澹の旅路から呼び戻される。今の俺は『鬼殺隊の人徳者・柴本克弥』でなければならない。その為に今行うべきは鬼を斬り人を救う事。

 「お嬢ちゃん、今からお坊さんの言う事を良く聞いて欲しい。ここには悪い鬼さんが居るんだ。今からお坊さんは鬼さんを斬らなければならない。でもお嬢ちゃんを放っていると多分食われちまう。だからお嬢ちゃんには俺の近くから離れないで欲しいんだ」

 最悪、俺が見つけられなくとも恐らく白夜さんが倒すのだろうが流石に職務を怠る訳にはいかない。なので俺はこの女児を守りながら鬼を探す事にする。

 鬼は高が一匹だけ。世救の様な大物ならいざ知れず、そこら辺の鬼なら見つけてから逃がす位の事は出来る。

 「.......分かった」

 「じゃあ行こうか。絶対、お坊さんから離れない様にしてくれよ?」

 そう言うと女児は一回だけうなづいた。その後は部屋を調べたが特にこれと言った物は無く包帯や変えの服がある位だった。俺等は別の空間に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かな和室には三人の人影。その内の一人は白い小袖を着ていて白い狐のお面をつけた少女でもう一人はペイズリー柄の袴を着た少年。こちらは特にこれと言ったお面は無く赤い目と黒い髪と言う物珍しい容貌をしている。

 もう一人は背高は190cm前後の男で紫の生地に黒い四角の染めをした袴を着た目が6つもある異貌の痣を持つ元鬼殺隊士。

 鬼の始祖二人と上弦の鬼と言う恐らく今この世で実現しうる限り最も物騒なお茶会の始まりである。

 「さて?久しいね。まさか君から僕を招待するとは思っていなかったよ。最後にあったのは四百五十年位前かな?確かアレは黒死牟も居た時だったかな?」

 僕が黒死牟に視線を送ると黒死牟は他所を向いた。僕はそれに「冷たいねぇ君は」と流して黒死牟の入れた黒い茶器に入った抹茶を飲む。何故茶器が僕の最近の趣味の紅茶の茶器なのかは聞かないでおこう。

 「久しぶりです。今回は少しお話をと思いまして貴女様のお仕事中にも関わらずお呼びさせて頂きました」

 普段なら恐らく彼はこの様な謙った喋り方はしないだろうね。本当にどれだけ僕が恐怖になっているのやら?

 ほら、黒死牟も六つある目玉を見開いて硬直しているじゃないか?

 「にしても、君この少し見ない間には肝が座ったんじゃないか?部下を殺した相手を前で平静を保って居られるんだからね」

 何とも思って無いだろうが試しに聞いてみる。少しは変化が有れば面白いと言う物だがこれは特に変化は無さそうだ。

 「滅相もございません。私等貴女に比べれば非常に脆弱で今も傷が消えずに苦しむ日々です」

 ついに理解不能が過ぎたのか放心状態の黒死牟を余所に僕はその空気を壊す事にした。黒死牟が居るならまだ茶会を続けようとも思ったがアレは駄目だ。当分は目を覚ましそうに無い。

 「で?本題は何かな?僕としては仕事の都合もあるから早い所ここの鬼の首を刎ねて帰りたいんだけど?」

 「鬼殺隊では無く私達について頂けませんか?鬼殺隊と違い私達鬼は永遠の命を持っています。つまりは頭が変わらないのです」

 「悪いが僕も鬼殺隊に着いたのは訳ありで基本的に積極的には───」

 僕はそう言って立ち上がり茶室から出ようとした時だった。

 「それに貴女様には娘もいらっしゃる」

 無惨は僕の幕切れを無理に押し潰す。何故それを貴様が知っている?いつから知っていた?何処から見ている?

 「まぁ聞くだけ聞こうじゃないか?僕に見合う条件なんかはそう易々と見つからないと思うがね?」

 僕は冷や汗混じりに座り直して答えた。




 リアルが多忙なのに裏で色々書いて出して無かった私です。
 某サーバーにて矛盾点に関して言われたので説明してもネタバレにならない範囲での矛盾についての解説を今後を入れる予定です。
 閲覧、お気に入り登録、評価等ありがとうございます。感想をお待ちしています。
 お疲れ様でした。また次回のお話を楽しみにお待ち頂けると幸いです。


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