ウルトラマンアバドン season2 (りゅーど)
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第一章 シンシャ編
悪魔再臨


地底怪獣 サック
登場


「またなのだ、慎太郎」

「またなー!」

「おうよ! 達者でな、えーちゃん! 達者でな、シン!」

 カツコツと革靴の音をアスファルトに響かせ、ジーンズを履き紫の(ダサT)の上にこれまた紫のパーカーを着、飛行帽を被って街を歩く青年がいる。

 皆様ご存知、諸星慎太郎───────またの名を、ウルトラマンアバドン! 

 

 ウルトラマンアバドン

 

 SEASON 2

 

 

 

「なんだこれ」

 慎太郎の目に飛び込んできたのは街頭モニター。そして無駄に流れているテレビにはあるニュースが流れている。

「昨夜未明。東京都内に建てられている国際美術館での展示会されていた宝石が数個盗まれるという事件が起きました。この事件は昨夜の夕方から警視庁が予告状を渡されていたらしく、警備を強化したものの、ダイヤモンド、ルビー、サファイアなどの宝石が盗まれました」

 映像には悔しがる警視庁の刑事やら警官が映されていて1人の警官は例の予告状を握りしめていた。

「物騒だなぁ」

「またあの怪盗らしいわよ」

「こわいなーとづまりストIV(フォー)

 口々に喚く住民たち。

 だが一部にはファンがいるもみたいだ……。

「カッコイイ!」

「華麗なる動きで宝石を盗むのはいけないことだけどカッコイイよね!」

「彼女が現れてから興奮が止まらねぇ! 俺あの子に惚れそうだー!」

「やりますねぇ! いいゾ^~」

 ニュースは続いて政治やスポーツなどより怪盗の話で続いていた。

「……怪盗、ねぇ」

 脳裏によぎるはあの忌まわしき過去。

「アイツ、次会ったら殺す」

 未だに過去の清算はできていないようだ、と自嘲し、慎太郎は路地裏に入る。

 路地裏には人気が少ないが、街では怪盗の噂話が広がり続けていた。

「ねぇ、あの怪盗って年若そうだよね〜」

「案外未成年だったりして」

「ウッソ〜!?」

「あの怪盗少女、俺の好みでファンになっちゃったぜ」

「お前ロリコンかよw」

 人気のない路地裏でもこんな噂話は響き渡る。鬱陶しいくらいに……聞こえ続ける。

 慎太郎はそれをイライラしながら聞いている。

「ったく……なんてったってあんなゴミを持て囃すんだか……」

 鬱陶しいくらいに響く怪盗の噂話。批判する人もいれば応援する人もいた。帰国していつの間にか街は怪盗話で広まってしまっていたのだ。どこの誰なのか正体不明の少女に……

 その噂は慎太郎にとって懐かしきあの場所でも噂話をする人がいた。

 

 CET───────

 来てしまった。つい癖で。

 そしてまだ慎太郎の籍があった。

「うーっす」

 まるで友人宅に来たかのように、のそのそと入る慎太郎。

「久しぶりじゃねーか慎太郎!」

 肇と熱烈な抱擁をしてから、慎太郎は壁にもたれかかった。

「巷じゃ美少女怪盗で持ち切りだよ」

「あの筆跡どっかで見たんだよなぁ」

「そーか? ただあのウルトラのメスガキ(紗和)の奴は見るに堪えない金釘流のクソみてぇな字だったからな……」

 肇はそれを聞いてコーヒーを啜った。

 ニュースで少しだけ見えたあの文章は誰しもが見覚えがある……はず。

 案の定、CETの技術班も例の怪盗話が仕事をしながらしていた。

「あの怪盗少女ってどう思う?」

「いやぁ〜すっげえと思うぜ!」

「あんな奴がここにいたらすっげえ人助けしてくれそうだよな!」

 マジで鬱陶しい。

「……チッ」

 慎太郎はひとつ舌打ちをした。

「なぁなぁ、あの怪盗少女ってもしかして例のフツヌシチームのあの女じゃ?」

「そりゃねーだろ。アイツ、ウルトラマンだぞ?」

「ウルトラマンが悪人なんてあり得ないだろ〜?」

「でもあの女……数ヶ月前から消息不明らしいぞ?」

 この件に関しては慎太郎も初耳だ。慎太郎が今いるチームには……何故か知っている人影が2人ぐらい見当たらないのだ。

「……古橋は?」

「消息不明」

「……あの売女(紗和)もか?」

「ああ」

 慎太郎の問いに肇はそう答えると、ひとつため息をついた。

 宝生(ほうせい)紗和(さわ)。彼女はCETの隊員の1人であり、あのウルトラウーマンラピス張本人である。ここでは医療担当をしており、どんな負傷でもパートナーである古橋(ふるはし)重吉(じゅうきち)と一緒に治療をしていた。

 だが数ヶ月前、何故か2人は姿を消した。警察と協力して探し回ったが見つからず、そのまま捜査難航のまま終わってしまった。

 噂では『どこかで殺されて死んだ』『裏切りやがった』『ここでの活動に嫌気をさして逃げてしまった』などの噂が広まっていたが……そのまま2人は消息不明のままとなった。だが一部では『意図的に消えたのでは?』という話もあったが……

「……という事なんだ」

「マジであのクソガキ殺すわ死ねクソ女死ねゴミ殺す」

「どうどう」

「俺は馬か」

 紗和は恐らく遠くで『誰だよボクのこと馬鹿にした奴……』と笑いながら怒っているだろうが……本人は今この場にはいないので問題はない。

「どっちにしろ殺す」

 それが慎太郎の答えだった。

 あまりにも理不尽過ぎるのでは……? 

 紗和と古橋が今どこで何をしているのかは誰にも分からない……いつか会えることを願うのは……いや、誰もいないな。絶対にいない。

 そんな現状を他所に、慎太郎は食堂に向かう。

 久々に基地の飯が喰いたくなった。天下御免の空きっ腹がぐうぐうと愚痴啼きして参った、と心の中で呟いた。

 食堂は変わらずいつも通りだった。メニュー表も特に変わらずの外見だがメニュー内容は慎太郎にとって嬉しいものが書かれていた。

「っしゃ、タラの煮付けの定食じゃねぇか」

 この煮付けのタレを米にかけて食うのがうめぇんだ、と心の中で呟きつつ、食券を購入。

 しばらく待つ事になる。

 厨房で働いてる人も怪盗噂をしていた。どこにいても噂は絶えないようだ。

 めんどっちぃな。

 そう思いながら待機してる途中、呼び出しのブザーがなる。

 定食を取りに来いと言う合図だ。

 タラの煮付け定食を貰ったはずだが、はて。真っ黒だ。

 まるで黒い山だ。しかし軽く箸でつつき白い身を食うと、味は完全に銀ダラだ。巨大な岩山を採掘している錯覚すら覚える。

 何よりもタレが美味い。米によく合う。

 美味い煮付けを白米に乗せてかっ食らう、それこそ至高、そう慎太郎は思った。なんせこんなに美味いタレなのだ。このレシピをもらって自宅で作りたいほど、美味い。

 銀ダラ、銀シャリ。銀ダラ、銀シャリ……。銀のラリーは止まることを知らない。

 あっという間に皿がカラになる。

 ちょうどいいペース配分で、綺麗に食べ終えたのだ。

「ご馳走様でした」

 至福。白米と煮付け、そして赤味噌の味噌汁。圧倒的至福!! 

 慎太郎の顔が綻んだ。

 

 ふと、慎太郎の耳は後ろ側に座り何かを話している二人の技術班の話を捉えた。

「なぁ、知ってるか? あの未来の総理大臣になりそうなあの政治家。自首したそうだぞ?」

「は? マジで……?」

 これは日本好き(信者)の慎太郎にとっても驚愕なことだった。

 未来の総理大臣だと? 

 そう言えば最近共産党(ゴミ)が蠢いているという噂は聞いたが……。またカチコミに行くべきか……?

 そんな思考を脳内に描き上げ、さらに話を聞く。

「てかその政治家の名前なんだっけ?」

「あ──……忘れた」

「馬鹿だろお前」

「まぁ、とにかく……ソイツが何故か自首をして警察が今調査しているんだとよ。なんでも……国の金で好き放題してたり、国民に暴力を振るったのに権利を利用して冤罪にさせたりしたらしいぜ?」

「うげぇ〜……最悪な野郎だな。で、なんで自分から自首なんか?」

「なんでも……“シンシャ”が予告状を出したあと突然自首したとかなんとかって……」

「は? なんだそれ……?」

 会話はしばらく続いた。

「つーか……シンシャってなに?」

「え? お前知らないの? 例の怪盗少女の名前だ」

「あ〜……そういえばそういう名前だったな。で、そのシンシャがその政治家に何をしたの?」

「なんか……『お前の悪心の宝石を盗む』って書いてあったらしいぜ?」

「『悪心の宝石?』……なんだそれ?」

「俺も知らん。だがそれでなんやかんや一時的に平和になったもんだよな〜。悪人の政治家が総理大臣になったらこの国は終わりだな。ハッハッハッハッ」

 下手にこの国は終わりと言ったら背後にいる人がブチ切れるのでは……? 

 

 案の定、キレた。

 例の男は見事に地面とキスさせられている。

「ヒェッ……」

 もう1人の男はその場で震えながら逃げた。この人に関しては無実なので見逃してくれたようだ。

 男の事はそのまま放置し、肇のところへ戻っていった。

 

 現在の慎太郎は私服ではあるが、一応隊員である。

「おっ、蹴り重たくなったな」

「押忍! ありがとうございます!」

 劇場版に登場していたカグラ・ゲンタロウ。彼は慎太郎との組手を待ちわびていたようだった。

 街は平和で例の噂話は絶えないが、何も事件が起きない日々だった。

 その時だった。

『東京都瑞浪区に怪獣出現!』

 エマージェンシーコールが鳴り響いた。

 組手は一旦止まり、慎太郎は慌てて肇のところへ向かった。街で暴れて破壊する怪獣がモニターに映っていた。瓦礫が落ちてきて、慌てて逃げ出す住民の姿も見えた。

「地底怪獣サック、か……」

 重々しい顔をして、肇はこう命じた。

「総員、出撃用意!!」

 

 その怪獣はまるで恐竜であった。

 雄叫びを上げ、街の破壊をし続ける。それは、とても楽しそうに破壊し、街をズタズタに蹂躙しているように見える。

「攻撃開始!」

 合図と共に攻撃を始めた。

 ミサイルが直撃し、呻き声を上げた。

「アバディウム弾頭弾、ファイア!」

 アバディウム弾頭弾がサックの体にぶち当たり、爆発を生じさせた。

 サックは呻き声を上げ続けながら攻撃をする。

 だが機体は上空にいるため物理的に攻撃は不可能だった。ただその場で暴れているだけだ。

「よぉっし! 上から攻めてきゃなんとかなる!!」

 慢心─────圧倒的慢心。

 怒り心頭のサックは叫びながら慎太郎が乗ってる機体に攻撃を仕掛けた。

 サックが近くにあったビルを破壊して慎太郎が乗ってる機体に向かい、まさかのビルを投擲した。

 なんとか機体を動かし回避したはいいものの、慎太郎の表情(かお)に憔悴が浮かんだ。

 サックは投擲をやめなかった。周りのものを投げ続けて当てようとしていた。あまりにも殴ると投擲しか分からない脳筋のようにも見えるが……

 しかしそのコントロールは正確である。人間だったなら、是非とも阪神タイガースに入れたい逸材だ。

 そのうちの一つが、慎太郎の機体に直撃した。

「うわぁああああああああああ!!」

 慎太郎は、胸元からアバドスティックを取りだし、空に掲げた。

「うぉおおおお!! アバドン!!」

 アバドンはまずそれを喰らう前に前蹴りを放つ。

 それから、仰け反ったサックを掴んで一本背負いを放った。

 サックは地面に叩き落とされながらも叫び、諦めずにアバドンに攻撃をし続ける。何故か攻撃最中、ずっと叫び続けていた。

 アバドンは鬱陶しそうにそれを受け流し、海老蹴りでサックの腹を抉った。

 大股で3歩下がって体制を整えたサックは腹立つくらいに挑発しているのかなんなのか分からないが、鳴き声を上げ続け、叫び続けていた。

 まるで……何かを求めているかのように。

 アバドンはイライラしながらサックの顔面にエルボーを噛まし、首を絞めようとした。その時だ! 

「ガッギャァアアアアアア!!」

 ツガイの雄が、アバドン目掛けて地底から突進したのだ!! 

 ずっと相手にしていたのは雌のようだった。雌のサックは嬉しそうに鳴き声を上げているように見えた。

 だがアバドンにとっては最大のピンチだった。2対1という卑怯にも見える戦いとなってしまい、苦戦するのが分かるかのようにマズい状況だからだ。

「畜生共め……死に晒せこの野郎!!」

 そう叫び、アバドンは弾丸タックルで一匹をぶっ飛ばす。

 雌のサックが呻き声を上げながらその場に倒れた。

 それを見て雄のサックが反逆の攻撃を始めた。

 その巨体から放たれた軽快な蹴り技の数々が、アバドンの体を打ち砕こうとしている。

 即座に立ち上がった雌のサックがそのまま攻撃を始めた。2体の連携攻撃には止める方法はあるが隙があまり見えなかった。

「でぇらぁっ!」

 アバドンのヘッドバットで一匹が仰け反り、そのアバドンを背後からもう一匹が羽交い締め。なんとかエスケープしてもまたダメージ。

 その時である。

 CETの誇る汎用型空中戦艦 ジェットホエールが、主砲からある物を放った。

 ツガイ同士で攻撃を続けるが、呻き声を上げ始めた。

 そう、それこそがCETの秘策、『ウルティメイトストライザー』である。

 慎太郎が居なくなった間、肇がウルトラの力を徹底解析、原理を人類に教えた上で開発した擬似スペシウム光線である。

 サックは負けずにアバドンに攻撃をし続けた。

 だがウルティメイトストライザーが当たるたびに背後によろけて呻くが、2体いるだけで状況は変わらない。1体に攻撃をしてももう1体がアバドンに攻撃をする。まさに悪戦苦闘という状況だった。

 ウルティメイトストライザーが放たれる。その時に、アバドンはふと気がついた。

『ウルティメイトストライザーはウルトラマンの力なので、自身にもその力を使えるのでは?』

 そう思い、アバドンは自らのカラータイマーに浴びせるよう念を送った。

 ─────ズドン。

 そしてそれは、案の定アバドンの力に変わる。

「よォっしゃァ!!」

 バガァアアアアン!! と大きな音を立て、雌のサックを殴り飛ばした! 

 雌のサックはその場に倒れて苦しそうな声を上げた。

 案の定、雄のサックがキレだし、アバドンに向かって車や瓦礫などを投擲し始めた。

 そんな戦いの中、遠くでは市民の人たちが悲鳴を上げながら避難していた。だがその中に——その戦いを傍観する者がいた。

 口々に喚き逃げ出す群衆。

 それを見て、無事なビルの上でひとりの男がこう呟いた。

「やはり来たか、ウルトラマンアバドン」

 その男はまるで烏天狗で、漆黒をそのまま具現化したかのように黒く、その嘴は全てを抉るかのように鋭かった。

「そうだね……君は何もしなくて良いよ。ボクがやる……ちょっとだけ、手助けするよ……」

 隣にいた外套を羽織り、外套に付いてるフードでしっかりと顔を隠した少女が笑わずに手袋をそっと外した。

 雄のサックが怒りに任せてアバドンに投擲を続けた。その隙を観て雌も近づきながら攻撃を再開していた。

 アバドンは雄のサックの左腕を千切り、雌に向けて投げ飛ばした。

「雄はアバドンに任せよう。ボクは……雌だ」

 そう言った少女は左手を前へ向けて指先から銀色の液体が浮き出てきた。

 雌のサックは別の気配に気づいたかのように立ち上がり、アバドンのことなんか見ずにそこに近づいた。

 雄のサックは左腕が切られたことに呻き声を上げ続けた。痛みに苦しんでいるように見えた。

 アバドンは雄のサックの顔面を引っ掴み、おもむろに首を絞めた。

 雄は苦しみなんとかエスケープするために腹部を攻撃をし、腕に噛みついた。

 一方、雌のサックは顔を隠した謎の少女に気づいてないが、その少女の《何かの気配》に気づいて近づき続けた。

「……水銀……」

 少女はそう呟いた瞬間、左手から浮き出てきた銀色の液体が手のひらから溢れ出し、雌のサックの顔を濡らした。その瞬間、雌のサックは今までにないくらいの絶叫を上げた。

 これには流石のアバドンにも何が起きたのか予測不可のことが起きたのだ。

 しかし、アバドンは一瞬にして冷静さを取り戻し、地面に叩きつける。

 そして、必殺のアバディウム光線でその命を奪った。

 もう一匹に関してはウルティメイトストライザーが腐食部位に直撃。

 無事に、奴らを倒す事は出来たのだ! 

 ツガイのサックは爆散した。

 少女は銀色の液体を左手から吸収したかのように握りしめて消した。そして少しため息を吐きながら左手に手袋を付け直した。

 その直後、アバドンと目が合う。

 アバドンは何かを察し、アバドスポットレイを目から照射した。まるで()()()()()()()()()()()()

 風に揺られて外套が揺れる。被っているフードも揺れていた。顔は少ししか見えなかったが、見覚えのある細すぎの身体と赤いメッシュが見えた。

 そしてその少女には……水銀色をした仮面が取り付けられていた。まるで素顔が見られたくないように……

 そしてそれは、黒い影により掻き消された。

 そのコンマ数秒後、アバドスポットレイが二人のいた所を貫いた。

 ……当然、二人は避難できていた。

「クソッ!」

 アバドンのカラータイマーが鳴っている。アバドンは一旦身体を休める為、巨大化を解除した。

 CET基地──────

 慎太郎はトレーニングルームのサンドバッグを蹴った。

 この憔悴はなんだ! この湧き上がる憎悪はなんなんだ!! このままでは、あの愛憎戦士(佐久間 優作)と同じじゃあないか!! 

 そう思っていても、本能はこう叫ぶのだ。

 殺せ! 絶対に奴を!! 全てを以て、奴を殺せ!! 

 悶々としながら、サンドバッグと皮膚が勢いよくぶつかる音をさせて、押忍と叫んだ。

 

 所は変わり─────────

「やっぱり……彼は……ボクのことを……」

 路地裏で少女は哀しみに満ちた瞳となりながら呟いた。

「……仕方がないだろう。やつは最早ただの復讐鬼────獣だ」

 チィ、と舌打ちをし、烏天狗は頭を抱えた。

「でも……彼のことで怒らないでくれない? ボクは彼のことで怒ってもないし、憎んでもないよ」

 そう言いながらクスッと笑みを見せた。

「……優しいな、お前は」

 そう言って、烏天狗はにこりと笑う。

「……ありがとう。さて……今日のターゲットを手に入れるために今回もお願いね……」

「分かってるよ────」

 二人は、コーヒーに砂糖が溶けるように、漆黒の夜に消えていった。



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暗黒怪盗

暗黒怪盗 アルセーヌ
登場


 まるで黒いアクリル絵の具で乱雑に塗りつぶしたかのような黒い夜の中、青年と少女がなにやら話をしているようだった。

 静かな夜に、二人の声が響く。

「……SHOWTIMEにはピッタリの夜……お目当てはあそこで……警官はこのように警備してるみたい」

 指を指しながら地図を開き、何か状況を確認していた。

「わかった。ならばここから侵入した方が良さそうだぞ」

「うん……ターゲットはここに展示されているから。ボクが手に入れた瞬間……援護を頼むために無線で合図するから……お願い」

 少女はその場で闇のように黒い外套を羽織り外套に付いたフードを被る。

「了解した」

 そう言って、青年は烏天狗に変化した。

「……ッ……」

 何か言いたそうに声を殺した。

「……どうした」

「……ごめんね。ボクのせいで……」

「大丈夫だぞ」

「……ボクが……あの時……君を巻き込まなければ……ボクの、こ、この……ボクと同じ悪党にならなければ良かったのに……」

「大丈夫だって。オレはそれを覚悟でいるんだからさ」

「ッ……ありがとう……」

 不安がな眼差しで見つめながら指先から水銀の液体が少しずつ溢れ出し、形を作り始める。

「……でも……CETに戻りたかったら……いつでも良いよ」

「ハハッ、その時は一緒に始末書だ」

「——!! ……後、長時間説教と……独房行き、かな……?」

 何故かニヤリと笑いながらそう言った。まるでこれから始まる状況を楽しみたいと想いがあるからか……

「……さて、SHOWTIMEだ。サツのエテ公どもに目に物見せてやろうぜ」

 烏天狗はそう言って笑った。全てを呪うかのような笑い声だった。

「今日も、お願いね……()()君」

 そう言いながらビルの屋上から勢いよく飛び降りた。

「あいよ───()()

 予告時間となった。その瞬間、宝石が展示されてる中央から煙幕が巻かれた。

 警官は咽せり始め、その中央に——怪盗は現れた。

「……ふふっ♪」

 微笑みを浮かべながら、宝石の瞬時に手にしていた。

 周りからは市民の歓声が聞こえ、警備隊が増援などを呼ぶ声が聞こえた。

「(警官はボクの目の前に約10人……警備隊は約……よし)」

 一瞬にして状況を確認している。その場から動かず、警官に銃を向けられながらも何も微動だにしなかった。

「警察だ! (インパルス板倉)」

「もう抵抗しても無駄だぞ」

「10人に勝てるわけないだろ!」

 口々に喚く警察官、そこに一つ凛とした声がした。

「馬鹿野郎、俺達は勝つぞお前ら」

 その瞬間、拳銃が急に砕け散る。

「ハハッ」

 黒い影が、警察官に忍び寄る。

「ふふっ……♪ この宝石はボクの手だよ。ボク、《シンシャ》の手の中に——確かに頂戴したよ♪」

 勝利の笑みを浮かべた瞬間、再び煙幕が撒かれ、シンシャは姿を消した。

 シンシャは瞬時にビルの屋上を飛び越えながら逃げ回っていた。無論、警官は追いかけ始める。

 しかし、警察官の意識はそこでとだえた。

祥鳳(しょうほう)流軍学小出しにして進ぜよう────クハハハハ!!」

 其の声を聞いた途端、首筋に走るは鋭い衝撃。

 痛いと考える暇もなく、バタバタと警察官が倒れた。

「程々にね……下手したら殺人罪も追加されるから……」

 無線でそう告げながら逃げ回り続けた。

「(合流するところまでもう少しだ……!)」

 そう思いながらビルの屋上を飛び越え続けた。

 その瞬間、光線銃の発砲音がした。

「——ッ!!?」

 シンシャはその場で足を止め、下を見下ろした。

「見つけたぜクソガキャァアアア!! 牧原の仇ィ!!」

 そう、我らが諸星慎太郎である。

「はぁっ!!? なんでっ!?」

 流石のシンシャもこれには予想外。慌ててビルを飛び越えながら逃げ足を速めた。

「逃げんなオイ!!」

 慎太郎はビルを飛び越えつつ、拳銃を放つ。

「っおぉ……!? (まさか……正体バレた……!?)ふ、古橋君……緊急事態……!」

 無線を繋げて飛び越え、逃げながら応答を待った。

「……やはり来るか」

 烏天狗は、いや古橋は慎太郎を索敵。そして背後からけりぬいた! 

「そのままなんとか動きを止めておいて……ここから姿を消すことを優先するから……ッ」

 焦りという表情が表しながらシンシャは逃げ回り続けた。

「逃げんな!!」

 そう言って慎太郎は紗和の頭を狙い、撃つ! 

「クッ……!」

 なんとか回避成功したが……右肩を擦り、動きが鈍くなってしまった。

「(し……しまった。でも、このまま……どうかこのまま逃げ切れッ)」

 慎太郎は古橋に妨害され、一進一退の攻防を繰り広げている。

「見えた……ッ」

 シンシャ(紗和)は呟いた。右肩から血を多少流しても足を止めずに逃げ切り続けた。

 このまま逃げ切りたい、という気持ちで走り続け、飛び越え続けた。

「シャァッ!!」

 古橋の放った前蹴りが慎太郎の肋骨を折った。

「カッ……ハ」

 本来ならばドサッと膝を着く、しかし今は空中。力が抜けて高層ビルの屋上から急に落ちていくのである。

「あ」

 そう思って、衝撃を和らげようと慎太郎は必死になった。

 グシャリ。

 そんな音がした。

「……え?」

 足を止めてもう一度下を見下ろした。

 何かが潰れた痕跡がある。

 そして、熱を帯びぬ灰色のコンクリートには、赤い水溜まりがねっとりとこびり付いていた。

 劈く悲鳴とサイレンの音がビルの隙間をぬけ空回りし、わざとらしくどこかから「夢ではないぞ」と罵る声がしたのだった。

 上空からは潰れたもののシルエットが見えない。だがしかしふたりは悟る。

 

 諸星慎太郎を、殺したのだと。

 

「やっちまったぜ」

 烏天狗はそう言ってため息を着く。

 だがシンシャはその場で膝をついて震え出していた。目が泳ぎ、ブツブツと何かを言いながら震えていた。

 真下から見える光景が目から抜けなかった。

 無線から連絡が入っても応答をしなかった。

 その時である。

「その首貰ったァ!!」

 聞き慣れた宿敵(かつての仲間)の声とともに、シンシャの背中に衝撃が走ったのだ! 

「しまっ———」

 咄嗟に振り返り、水銀を出そうとしたが間に合わない。

 次の瞬間、シンシャが持っていたスマホが自動的に起動された。そして、画面から現れたのだ。

「フゥゥンッ!」

 スマホから出てきた怪獣が慎太郎の腹を蹴り、吹き飛ばした。

「ッ……アルセーヌ……ッ」

「主よ……怪我はないか?」

「チィ、殺したかったのに」

 慎太郎の光の無い目がいよいよ真っ黒になる。

「……汝よ。何か勘違いをしていないか?」

 アルセーヌは首を傾げながら慎太郎の顔を見ていた。特に感情を抱かず、普通の顔で。

「ヘッ、知るかよ。人殺しのくせに」

「誠に申し訳ないが……それはただの勘違いだ。主は殺してなんかないぞ? 汝、あの日の戦いちゃんと見てたのかい? お前が今主に付けているのは冤罪だ。やめろ」

「……アルセーヌ……」

 しゃがんだままその場から動かないシンシャは呟いた。アルセーヌはただ慎太郎を見つめ続けていた。

「ハッ、やかましいぜ悪党め。地獄におちやが───レッ!!」

 慎太郎は紗和の頭部目掛け銃弾を放った。

「ッ……!」

「主ッ」

 アルセーヌが紗和を守るように前に立ち、銃弾をマントの羽で防いだ。

「主……我がここを止める。我に命令を」

「ッ……はぁー……死なせない程度に……倒しなさい」

「御意ッ」

「一時撤退だよ……」

 無線で烏天狗(古橋)にそう告げた後、紗和はビルの屋上から飛び降りてワイヤーを使いながら夜の街の中へ消えて行った。

「さて……主の代わりに我がお前と戦おう。お初にかかるな……レイオニクスバトルとは……」

「ハッ、知るかよ。罪人の手下はこそ泥ってか? 気持ち悪い、死ね」

 そう言って、慎太郎は残像を残し背後に回る。

「……汝よ。お前は誤解しているぞ。主はお前のかつての恋人を()()()()()()()

「嘘をつくんじゃねぇよ」

 そういった次の瞬間、慎太郎は鎖で首を絞めた。

「グッ……主は……殺してなどない! お前はあの日の戦いをちゃんと見てないのか!? あの時のあの攻撃は……ッ」

 アルセーヌはもがきながらも説得をしようとした。

「うるせぇ、黙れ!!」

「汝が分からないからだ我は叫ぶんだ!! 汝は誤解しているのだぞ!!」

 アルセーヌは鎖を自力で弾き解き、《夢見針》を放った。

 慎太郎はそれを避け、アバドスティックを起動させた。

「……ウルトラマンアバドン……(主よ……すまない。今回は厳しくなりそうだ……)」

 アルセーヌは宙に羽ばたき、空中を飛び回りだした。

 身長65mの巨体が軽やかに飛び上がり、アルセーヌとアバドンは戦闘に入る。

「汝よ……やめてくれ。我は主に言われたのだ。お前を傷つけないように、と……いい加減に気づいてくれ……あの日の戦いは……()()()()()()()()()()()()()()()()

 アルセーヌは戦いながらも何度も説得をした。聞いてくれないことは分かっているが、それでも大切なパートナーが冤罪にかけられているのは見たくなかった。

「ああそうさ、見えるね!!」

 そう言ってアバドンは赤い光剣を生じさせる。紅八潮朱剣(クレナイヤシオノアカツルギ)である。

 狙うはアルセーヌの首。

「ッ……何故だ! お前はあの時の毒の動きをよく見てないのか!? アレは……アレは()()()()()()()()()()()()()()()()

 本人はこう伝えたかったのだ。

「主はやっていない」と。

 避けて、至近距離で《スラッシュ》を放ち、腹部に傷をつけた。

「へっ、やってない行為ではないときたか。その言葉は二重否定。って事はよォ────、つまり()()()()()()()()()ッ!!」

 しかし、二重否定を使用した事により、アバドンの中で何かがねじれ、そして殺人スイッチが入ったのだ。

 アドレナリンかはたまた痛覚障害のおかげか。どちらにせよその程度の傷では止まるようなアバドンではないのだ。

 アルセーヌに紅八潮朱剣を放つ。

「ッ……だが事実だ! 主はお前の恋人を殺してなんかいない! 確かにあの時、主が毒を出さなければ無事で済んだ! だがあの時の毒の動きを見てなかったのか!? ()()()()が!!」

 避けながら攻撃をするアルセーヌもついにキレて罵倒をした。罵倒の嵐が始まりそうだ。

「やかましいわ、こちとら右眼が見えねぇんだよ!!」

 チッ、チッ! 

 無数の舌打ち────それはエコーロケーション。クジラやイルカのように反響定位で様々なものを見る。

 それにより、アルセーヌの動きを捉えたのである。

 アバドンはアルセーヌの頭を掴んだ。

「グッ……! なら、その右目を恨め……その右目に見えなかったあの時の光景をな!! 何度も言うぞ!!」

 アルセーヌは大きく息を吸い、叫んだ。

()()()!!!!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()ぁぁぁ!!!!!!」

 まるで鼓膜が破れてしまいそうな叫び声だった。この声は街中に反響しただろう。ビルの窓が振動し、ビル自体も大きく震えたり中には崩れたものもあった。

「うるっせぇなこのゴミが!!」

 しかしアバドンはアルセーヌを掴んだまま上空114514kmまで上昇し、時速810kmで急降下する。

 アバドンが体内質量を調整し、双方合わせて約10万t。

 つまり少なくとも40G以上の衝撃がかかり、そしてその巨体が硬い硬いコンクリート目掛けて堕ちるわけだ。

「マズい……!」

 アルセーヌはそう呟いた瞬間、死を覚悟した。

 それでも何か策はないかと地面が近づくにつれ、脳内の思考を回し続けた。

 アバドンはさらに速度を上げ、地面へと落ちていく。

 もはや時間はない! 

「……ッ」

 アルセーヌは突然、アバドンの胴体を勢いよく掴んだ。

「チッ!」

 アバドンはさらに掴む力を強めた。まさしく万力である。

「フフッ……受け入れてくれるよな? 我の……《逆境の覚悟》をな……♪」

 アルセーヌはニヤリと笑いながらそう言った。

「ハッ、やってみろよ」

 不意にアバドンの身体が軽くなる。まるで綿毛のように。

「なら……我の苦労を受け入れろ。我は主のためなら……なんだってやってやるからな———悪魔が」

「なんだってやると申したか、じゃあ死ね!」

 不意に超高速振動を起こすアバドン。気が狂ったのだろうか。

「……っはは」

 何故かアルセーヌの笑みは勝利の笑みのように見えた。確定ではないが、アルセーヌは笑っていた。

「そらよっ!」

 刹那、アバドンが消えた。

「フフ……我の負けは認めよう。だが……我は言ったぞ? 《逆境の覚悟》をな……」

 そう告げた瞬間、アバドンの目蓋が重くなる。アバドンは抗えない眠気に襲われ始めたのだ。

「……はぁ、これだからチートは」

 中指を突き立てながら、意識を失う──────

 ───────訳ねぇんだよなぁ!! 

 

 どろりとアバドンの体が溶けだした。

「……やはり……厳しいか……」

 アルセーヌから笑みが消えた。アルセーヌ自身、アバドンを殺そうとは思ってない。ただ単に眠って休ませてあげたかっただけだったのだ。自分が《ピンチ》の時に放つことができる《逆境の覚悟》を言った直後、《クリティカルの確率》を上げ、指先から《夢見針》を背に当てていたのだ。

 無論、失敗したからもう説明する意味もないが……

「悪いなぁ!! こちとらさっき魔剤ガンギメした上でさらに根っから不眠なんだわぁ!!」

 背後を取り、両足で踏んづけ急降下! 

「グゥ……! 主と同じだな」

 アルセーヌはまたニヤリと笑いながら地面へ到達した。残り数センチで地面に落ちればアルセーヌは負ける。いや、負けていたのは分かっていながらも紗和のために戦ったアルセーヌは目を閉じた。

「……ご苦労様」

 その声が聞こえた瞬間、アルセーヌは光の粒子となり、どこかへ吸い込まれたかのように消えていった。

 アバドンはそのまま地に堕ちる……事は無い。

 間一髪空に舞い上がり、シンシャを追いかける。

「アルセーヌ……ありがとう」

 スマホを見つめながらそう告げた後、スマホを自分の外套の中にしまい、即座に逃走を開始した。人気のない、暗闇の中へと走り続けた。

 それを音速で追いかけるアバドン……とは行かないわけで。

 古橋と小競り合いをしている内にアバドンはシンシャを見失った。

「はぁ……はぁ……はぁ…………よし……」

 シンシャは暗闇の中、怪盗からいつもの自分に戻った。だが最初の頃とは面影が変わっていた。髪が伸び、長くなったので一つに結びながら自分の私服を着たのだ。

「古橋君……今日のshowは終わったよ。帰ろう……」

 無線でそう告げ、暗闇から都会の光に包まれた街の中心で孤独に待ち続けた。

 周りからすれば髪色が特徴的なだけの、ただの一般人にしか見えない。

 よっと、そんな声をさせながら宵闇に包まれつつ降りてくる。

 あの長いボサボサの髪はバッサリ切られ、見るからに好青年となった古橋がそこにいた。

「ご苦労様……ありがとう」

 紗和は笑みを見せながらそう言った。だが瞳は少し哀しみに満ちていた。

「……まぁ、こりゃダメかもな」

「……そう、だね。でも……ボクは、あの日……奏さんを()()()()()

 都会の中心で紗和は死んだ目をしながら呟いた。

 瞳は闇のように黒く、希望のような光がない。

「……だろーな、お前のやった事じゃねえさ」

 古橋はそう言うと、悲しげに笑う。

「何とかして誤解をとかないと」

「ッ……あの時、やった、の、は……ボクじゃない。アイツ、が……アイツのせいで、アイツが、ボクじゃない。ボクは悪くない……」

 自分で胸を押さえながらブツブツと独り言を言い始めた。それはまるで愚痴にも聞こえ、自分の何かを抑えているように見えた。

「……落ち着きな」

 2人はまた、宵闇へと溶けていくのだった。



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悪党さんの物語

 世間を騒がしている美少女怪盗の噂は毎日広まり続けていた。正体は不明、何故宝石を盗むのか、それは一切途絶えない噂や調査だった。

 そしてその不明や盗む理由は———彼女()()しか知らない。

 

 誰にも知られることのない、森の中にある、古めの洋館。

 そこに、二人がいる。

 紗和は1人静かにテレビを観ていた。退屈そうにしているように見えるが、少し哀しげな瞳をしながら観ていた。

「……そろそろ途絶えてほしいんだけど……」

 独り言のように小声で呟いた。

「おーい、お茶淹れてきたぞ」

 そう言って、古橋はふたつの湯呑みに茶を注いだ。

 見るからに体に優しそうな、そんな深い緑だ。

「! ……ありがとう」

 紗和は笑いながらソッと湯呑みを手にして一口飲んだ。

「……緑茶?」

「ああ。いい茶葉が入ったんだ」

「そうなんだ。(濃い……でも温まる……)」

 紗和は静かにお茶を飲み続けていた。ろくに食事をとらない割には飲みことに関しては良くしている。

 まるで体の芯が溶けていくような、もしくは張り詰めた魂を緩めるかのような。どちらにせよ、体にいいことには変わりない。

「ふぅ……」

 ふと、壁にかけてあるカレンダーをチラリと見つめた。

 昨日だ。

 昨日、慎太郎からの襲撃を受けたのだった。

「……あ〜〜……もうっ」

 紗和は頭を掻きながらテーブルの上に頭を乗せる。

「落ち着け」

 古橋はふぅとため息をついた。

「ごめん……昨日ことで頭がいっぱいでさ……」

「まぁな……。あそこまでイカれるとは俺も想定外だ」

「それほど……あの人を愛していたってことだよ。彼の愛は今も変わってないよ。本当の真実を知っているのはボクだけだ。なら……どうするべきか、今を考えないと……ボクは死ぬ」

「……なんとかしてアイツと話をするか? それとも───────駆除してしまおうか」

「駆除はダメだ! 彼は殺してはならない!!」

 勢いよく立ち上がり、紗和の額から青筋が出るほど勢いよく叫んだ。まるで、怒りを表しているかのように……

「……冗談さ。アイツを殺すのはまずい」

「…………はぁー……ごめん。分かってくれれば良いよ。選択肢は1つ……話すしかない」

 紗和はドサッと椅子に再び座り、深くため息を吐いた。そしてもう一度、カレンダーを見つめた。

 前の宝石は盗み終えた。

 次のターゲットを探し、日程を模索中なのだ。

「……うーん……」

 紗和は立ち上がってどこかへ向かい始めた。考え込みながら家中の奥へ向かった。

「一応、確認しないと……」

 独り言を呟きながら家の奥にある壁掛けの鏡の前に着き、鏡を押すと、さらに奥へ進んだ。鏡で隠した隠し部屋には、紗和と古橋しか分からない極秘の部屋へ辿り着く。

 ピッ、ピッ。

 手馴れた手つきでパスコードを入力し、二人は入室した。

「……今日も今日で眩しい部屋……」

 その部屋は盗んだ宝石が厳重なガラスケースに置かれた宝石の保管庫であった。盗んだ宝石が電気の光で太陽のように輝き、傷や汚れが1つもなかった。

 紗和は宝石の展示会を観にきたかのように歩き回り始めた。歩きながら、少しだけ古橋の手に触れた。

「……ん、どうした?」

「……うんうん……なんでもない……」

 ただ紗和の手は少し震えていた。瞳も闇に落ちたかのように漆黒のようになっていた。

「……落ち着けって。大丈夫だからな」

「ッ……ごめん。ありがとう……」

 深く深呼吸をしながら息を整え、ゆっくりと歩き続けた。

「ここにあるすべての宝石はボクのためにでもあり……他人のために盗む。だけど……結局は盗みだから悪人。ボクは光の悪党になった。それでも……古橋君はどうしてボクのそばにいてくれるの?」

 ゆっくりと歩み続けながら、問いかけた。

「んー……まぁ、お前さんの望んだことだからな。俺は、お前の望むことをやるだけで幸せなのさ」

 古橋はそう言って笑った。

 ただ紗和は、不安や申し訳なさのような表情をしていた。

「あの日も……同じことを言っていたね」

「……ん、あの日?」

「あの日だよ。ボクと一緒に……《CETから逃げた日》」

 

 時は遡り、数ヶ月前———紗和と古橋がまだCETにいた頃の話に遡る。

「ぬわああああああああんつかれたもおおおおおおん」

「うるせぇ」

 肇にシメられる古橋。

 いつもの光景である。

「フフ……ッ」

 紗和は楽しそうに笑みを浮かべながら2人のことを見ていた。だが、瞳は……闇のように黒く染まり、光が消えていた。

 静かである。

 慎太郎の声はもうしない。

 紗和はふと、周りを見渡し始めた。昔の面影はもうなく、彼女にとってはとても胸苦しく感じていた。

 脳裏には『あの日に戻りたい……』『人間は……変わって行くんだ』と、思いながら胸元をギュッと抑えつけるように握っていた。

 心が痛む。

 体が蝕まれる。

 ────────消えたい。

 紗和の心は完全に壊れ始めていた。さらに、あの日の戦いが脳裏に何度も蘇り、紗和の胸を何度も苦しめた。

 泣き叫ぶ慎太郎、殺された仲間、死んでしまった恩人……紗和の心を抉るように蘇り、思い出すだけで吐き気が増してきた。

「……うっ……」

 今にも吐きそうだった。思い出したくないことが勝手に脳内リピートされて、気持ち悪かった。

「ギブギブギブギブ!!!!」

 今の心の拠り所は、古橋しかいないのだった。

「あ……」

 その言葉に我に帰り、慌てて松本を止めた。

「やり過ぎやり過ぎやり過ぎッ!! ストップストップストップストップッ!!」

 もっとも、残ったメンバーでツッコミ担当でもあった。

 さて。

 時は経ち、「その日」はやってきた。

「あ……パトロールの時間……」

 紗和は呟き、椅子から立ち上がって部屋を出て、外へ出た。

「あっ、俺もそうだったな」

 古橋も紗和を追いかけて向かった。

「! ……うん、行こうか」

 紗和はいつもの笑みを見せてそう言った。だが瞳の色は相変わらず漆黒に染まったままだった。

「……だな」

 そして古橋もまた、何も映さぬ黒であった。

 2人で街中をパトロールし始めた。その日は平和な日々だった。

 快晴で、風もなく、静かな日であった。

「今日も異常はないみたいだね」

「ああ、そうだな……」

「しばらく有給休暇とってなかったから……今度取って1人でお出かけしようかな?」

 何故か紗和の口調は少し早口だった。

「ああ、それいいかもな」

 ニコリと笑う古橋。

「休暇とってなかったから……ボクどんだけ徹夜したんだろう?」

 少なくとも、15徹夜はしていた。仕事真面目なのは相変わらず変わらなかった。

「とりあえずお前は寝ような」

 バッサリ。

「ごめん……」

 紗和は苦笑しながらそう言った。ふと、紗和は空を見上げ、時計を見始めた。

「……ん、どうした」

「……ん、なんでもない。それより……ちょっとお手洗いに行っていい?」

「ん、いいぞ」

「ありがとう……」

 紗和はそう告げた瞬間、無意識にも瞳が黄色になった。紗和の心の中で《叛逆》の意志が何故か芽生えたのだ。

 紗和は駆け足で近くの公園のトイレに向かった。

 古橋は木陰に座り込む。そして目を閉じ─────直ぐに眠りについた。

 どれくらいの時間が経ったのだろうか……いつの間にかパトロールの勤務時間は終わっていた。

 ────────どれほど経ったろうか。

 待ちぼうけ、とはよく言ったもので。まるで2時間近く待っていたのにも関わらず(Syamu )オフ会に誰も来なかった大物YouTuber(games)のように古橋は律儀に待っていた。しかし、紗和が一向に戻って来る気配がないのだ。行ってかなりの時間が経っているが、いまだに帰って来ないのだ。

「おっせぇなぁ……」

 なんとかはせっかち、とはよく言うもので。

 気づけば辺りは夕焼けに包まれていた。それでもなお、戻って来ない。

 胸騒ぎがするようになる……

「……」

 古橋は探しに向かった。

 胸騒ぎがさらに増した。お手洗いに、紗和の気配が無いのだ。まるで神隠しにあったかのようにいなくなっていた。

 肝心の紗和は、呼吸を荒くしながら街から離れたところまで走り続けていた。まるで、あの場から逃げたかのように……

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ごめん……ごめんね、古橋君……!」

 涙を流し、謝りながら夕焼けの光が当たらない木々の奥まで逃げていたのだ。

「畜生……!」

 古橋はどこかからか、おそらくワープバッグだろうが、そこからバイクを取り出し跨って、紗和を追跡した。

 走りに限界が来たのか、その場で転んだが即座に立ち上がった。だが、身体にはもう体力がなかった。呼吸を整えるために、誰もいない木々の中で姿を隠しながらその場に座った。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……これで、いいんだ……これ、で……」

 汗をかき、呼吸を整えながら小声で呟いた。今の紗和の中には決意が固まっていた。

「おぉおおおい!!」

 バイクのエンジン音と共にドリフトで減速、そしてなんとか到着。

「ッ……! (人……? いや、でもバイク音……それとあの声……マズい!!)」

 紗和は慌てて立ち上がり、木々の奥へ走り去った。気がつけば街外れの森林の中へ逃げ込み続けていた。

 オフロードバイクは踏破性が高い。さらに古橋の第六感(シックス・センス)が紗和のいる場所を教えてくれている。

 すぐに追いつくことだろう。

 

「はぁ……っ……はぁ……走れ、よ……!」

 紗和にはもう体力がなかった。走れば走るほど体力を持っていかれる。運動神経は人間以上で自信はあるが、限度というものはちゃんと存在する。自分に向けて、走れ! と、言っても身体は反対していた。

 逃げなければ、紗和の心の中ではずっとこの言葉だけが響いていた。

 そして文明の利器というものは凄まじく、幾万の努力を上回る。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 紗和は少しずつ前へ進んだ。呼吸を整え、呼吸するだけで苦しい胸を抑えながら奥へ歩み続けた。ここに何か目的のものがあるのだろうか。それはもう目の前に見えていた。幸いにも背後からの気配は薄く、紗和は慌てて目に入ったモノのために小早く歩み続けた。

 その気配が急に大きくなった。

「紗和ぁああああ!!」

「っあ……!」

 紗和は目を泳がせながら背後を振り向いた。

「はぁー……!」

 紗和は何も言わずに疲れ切った身体の限界を超えてもなお、再び走りだした。まるで気づかれたくないから逃げるかのように……

「見え、た……!」

 紗和はそう呟いた。そう、紗和自身の家に。

 ここで軽く説明すると、紗和の家は誰も知らない。それは光の国の監視圏外の場所にあり、紗和は自分の家を知られたくないからと……CETに入ってもなお、住所だけは不明にしていた。無論、フツヌシチームの生存しているメンバーと死亡したメンバーも知らなかった。無論、慎太郎でさえも知らなかった。というか、おそらく慎太郎にバレていたなら、今頃この森は洋館ごと焦土だったろう。

「お、おい待ってくれよ!!」

 後ろから放たれるノイズももはやどうでもいい、早く帰りたい。

「はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」

 

 自宅の扉までようやく着いた。慌ててドアノブに手を握り開け、玄関に転がり込む。次の瞬間、扉は即座に閉まった。

「はぁー……はぁー……はぁー……ごめんなさいッ」

 紗和はそう呟き、鍵をかけて扉から少しずつ離れた。

 諦めたのか、音はしない。

 紗和はほっとしたかのように溜息を吐いて確認せず、部屋の中へ入っていった。部屋は広いが、誰もいなく、寒さや無音だけが紗和を迎え入れた。

 ふと、紗和は1つの窓に鍵が開いたままなのに気づいた。紗和は慌てて駆け寄って鍵を閉めようとしたが……遅かった。

「すまん後で罰金とかは払うッ!!」

 古橋は、変なところで無駄に律儀な男であった。

「うわぁぁぁぁ!!?」

 窓が半分程壊されて、叫びながら家中で逃げ回った。

「待てっての……!!」

 がしっ! と音が鳴るくらい強く肩をつかむ。

「あ……ッ」

 掴む力が強い。逃げようとするだけで力は強まり、足を止めることしか出来なかった。紗和の顔には焦りと恐怖の表情が浮かんでいた。冷や汗が止まらない。瞳も怯えてるかのように動いていた。

「……なんで逃げた」

 紗和は何も言わなかった。瞳は震え続けていたが、何も言わず、口を閉じ続けていた。

「答えろ」

 詰問されてもなお、紗和は何も言わない。冷や汗が出続けてる。

「答えろ!」

「ッ……! 離、して!!」

 紗和は肩をビクリと動かしながら、肩に乗せた手を離してほしいかのようにもがき始めた。

「答えろって言ってんだよ!!」

 その声で、空気全体がビリビリと震えた。

「ヒッ……!」

 紗和の身に恐怖が増した。涙目となりながらも、もがくことはやめなかった。

「……いいか。答えろ」

 その目は真剣であり、そしてその声には凄味があった。

 紗和はもがくことをやめた。諦めたかのように瞳はさらに闇のどん底のように黒くなった。

「…………悪党……」

「……悪党?」

「ボクは……悪党なんだよ……ッ」

 そう言った瞬間、勢いよく頭突きをした。頭蓋骨が割れそうな勢いでとてつもなく、痛い。

 しかし、古橋は倒れない。

「……何が悪党だ」

「ボクは、悪党になったんだよ。古橋君……」

 紗和の身体に異変が起きる。これ以上、肩を握らない方が良いと思うくらい。

「……なに、俺だって悪党じゃないか」

「ダメだよ。ボクは君以上の悪党になったんだ。光の悪党……だから、お願い……ボクからもう離れてよ」

 その瞬間、紗和の身体は毒液となってどこかへ消えた。

「くそっ」

 そう言って、古橋は体をベムラー人の姿に変えた。

「はぁー……はぁー……はぁー……」

 紗和は呼吸や状況に落ち着くようにゆっくりと息をしていた。今いる部屋は古橋でさえ見つけることが出来ない秘密の部屋で身を守っていた。例え、大切な愛人だとしても、自分のした行為は知られたくないからだ。

 人間、いやウルトラマンにも聞き取れぬような超音波が辺りに響き渡る。

 それは感じれるのか、それとも……。

「……まさ、か……」

 紗和は声を震わせながら後ろを振り返った。背後には今いる部屋の扉があるのだ。その扉は特徴的なパスコード式の厳重な扉だった。光線でさえ跳ね返す特殊結界も張ってあった。

 だがその結界も感じない……

「……ベムリアス・ソナー。ベムラー人の使う超音波で、少し機械を狂わせた─────────さぁ、話してもらおうか」

「ヒッ……」

 紗和は少しずつ後ろに下がった。部屋は薄暗いが、何か輝くものが周りにあるのが分かる。

「……お前が悪党ならば、今は取調べと洒落こもう。───話せ」

 まるで刑事のように、古橋は─────ベムラー人ジュウキチは言った。

 

 一時間後。

 紗和はようやく白状をしてくれたかのように部屋の電気をつけた。周りには、神々しく輝き、色とりどりの宝石がガラスケースの中に飾られていた。これには流石のジュウキチも息を呑むような驚きだった。

 そして、ジュウキチは興奮していた。

「お前……お前、ようここまで盗んだなおい!! やるなぁ!!!」

 心の底からの賞賛。

「…………は?」

 これには紗和も困惑。光の戦士が盗みをしているのだよ? 

「お前……日本の警察といえば超敏腕やないけ! よう騙しきれたな!」

 いや敏腕なのは一部で殆どは無nゲフンゲフン。

 兎にも角にも、盗む事に関してはお咎めなしである。なにせ昔は盗みをしていた男だ、通ずる何かがあったんだろう。

 ただ紗和は何も言わず、困惑した顔で見つめ続けていた。瞬きを何度も繰り返しながら

「ほんとすげえなお前」

「……悪人になった光の戦士なのに……?」

「そんなこと言うならアンタ、ベリアルはどうなんねん。アバドンはどうなんねん」

 闇というものは誰しもある訳だ。

「……アバドンは……アバドンは確かにベリアルの弟。だけど、彼にも悪人という概念はどこにもない。やり方は残酷だけど……」

「……いや、アイツ普通に殺人してんだろ」

「確かにしてるけど……」

「まだ殺してはないんやろ?」

「……殺すもんか。盗むだけで充分だから……」

「ならよし」

 どの基準だ貴様。

 それでも紗和はずっと困惑顔をしたままだった。

 予想外の流れ、予想外の返答で状況がよく分からなくなった。

「……大丈夫やぞ」

「……え?」

「俺だって盗っ人だ」

「……そう……」

「そうだよ」

「……それでも……巻き込みたくなかったなぁ」

「別にいいんだよ、俺は」

「……ここにある宝石は……ボクを取り戻すために盗んだもの。ボクは取り戻すためにやり続ける。それでも……いいの?」

「それでもいい」

 紗和は突然抱きついた。強く、少し苦しめるように……

「おわっ!?」

「ありがとう……ありがとう、古橋君」

「良いってことよ」

「……うん……」

 紗和はそのまま胸元で泣き出した。そして2人はそのまま———悪人と、なったのだ。

 そして今に至る。

「……こんなに集めてもボクはボクを取り戻せない。長い日々が経ってもなお……取り戻せない」

 紗和は衣装を身につけながら呟いた。

「仕方ねぇさ。自分ってのを見付けるのは難しいもんよ」

「そうだよね……ボクもそう思う。自分の記憶を取り戻したいがために怪盗になるのはやっぱ、バカ気ているのと思う?」

「いや、馬鹿げてるわけじゃねーよ」

 窓から外を見れば、森の入口あたりで襟のないジラースのそっくりさんの親戚とゾアムルチが戦闘を繰り広げている。

「アレの方がよっぽど馬鹿げてるぜ」

「……そうだね」

 紗和は目を閉じながらクスッと笑った。顔には水銀色の仮面を身につけていた。

「月が綺麗だね……」

「……その言葉は、是と受け取らせてもらうよ」

「……ありがとう。さて———今日も始めようか」

 月の光に照らされた紗和の姿は神出鬼没で大胆不敵な怪盗の姿だった。

 そしてその瞳は、月と同じような黄色の瞳になっていた。紗和の、いや、シンシャの中には———叛逆の意志が満たされているからだ。

 そしてそれは古橋も同じである。叛逆、そして─────復讐。

「俺達のショーを見せる時だ」

 黒い闇夜に、三日月がひときわ輝いていた。



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lovers

タイラント
ゼットン
バードン
ゴモラ
フラカン
ババルウ星人
アリブンタ

登場


「デァアアッ!?」

 大きく揺らぎ吹き飛ぶ巨体。あれも我等がウルトラマンアバドンである。

「ジャァッ……」

 地面を踏み締め、間合いを詰める。

 そしてそのまま片脚が大地を蹴り! 次の瞬間にはもう既に()()()()()()()()()()()

 膝蹴り一閃。

 それだけで、呆気なくガルキメスがぶっ倒れた。

「……フゥ」

 変身を解除、というか人間体に変身するアバドン。しゅるしゅると体が縮み、身長187cmの青年へと変貌する。

 アバドンもとい慎太郎は、作戦完了を報告した。

 その時だった。

 風に揺らされる漆黒の外套、顔は外套に付いたフードで隠されていてよく見えないが髪色が赤いメッシュで彩られていた。そんな人物が空を見上げながらスッとスマホを取り出した。

 そして、こう呟いた。

「行きなさい。タイラント……」

「ギュシィイイイグォアア!!」

「チィッ! こちら諸星! ガルキメス消失地点にてタイラント出現! 近くにウルトラウーマンラピスが潜んでいる恐れあり、至急増援されたし!!」

 だがしかし、ラピスもとい紗和は何も命令せずタイラントを召喚した。

 通常ならばアルセーヌのほかに約8体の怪獣をバトルナイザーにいるが、必ずしも命令をしてから召喚をする。そして指示通りに動き回るが……今回に至っては何も言わず……ただタイラントが超絶久々な出番に喜びながら街を破壊していた。

 いや、出番の嬉しさに破壊衝動はどうかしていると思うが……

 流石は暴君怪獣である……。

「ギュシィイイイグォアア!!」

「くそがぁっ!! アバドン!!」

 ガルキメス戦のダメージがかなり響いている。タイラントにどこまで食らいつけるか。アバドンはそう考え、そして吼えた。

「ウォアアアアアアアアアア!!!」

 タイラントはアバドンに向かってムチをのばして、腕に絡めて動きを止めた。

 そのまま尾を利用して強力なキックを直撃させた。

「ガッハ」

 タイラントは動きを止めずに近づきながら口から炎を吐き、アバドンへ攻撃を続けた。寧ろ、めっちゃ楽しそうに攻撃をしている。子供かよ。

 アバドンはそれを何とかして避け、しかし倒れる。

「いっ……」

 タイラントは一撃を与えようと尾で吹き飛ばそうとした。

 その時だった。

「キュイーッ!」

 どこかから、蟻酸が飛んできた。

 タイラントの皮膚に直撃し、尾が直撃寸前で止まった。

「……! この鳴き声はッ」

 そうアバドンが察した瞬間、タイラントに槍が突き刺さる。

「ババルウスティック……まっ……まさか……!」

 タイラントは呻き声を上げながらなんとか槍を抜こうとする。

 しかし、さらに体を抉るのである。そしてそこに放たれるは蟻酸、さらにアバディウム。

 タイラントは予想外の出来事に怯えていたが、なんとか攻めようと勢いよく蹴り技を放った。

 だが無意味だ。

 渾身のアバディウム光線が、渾身の蟻酸そして光線が、そしてババルウスティックが──────全てが、タイラントを襲った。

 アバドンのタイマーは既に高速点滅を繰り返している。

 タイラントは苦しみ声を上げながらその場でもがいて暴れ出した。

 アバドンは闇に包まれ、そしてその意識を手放した。

 深い虚無へと堕ちていく──────

 

 目覚めたのは病室だった。

 周りを見渡せば、乱立する機械。相当の重傷らしい。

「タイラントは」

 そこまでしか言えなかった。体が痺れ痛む。

「……タイラントは倒したぜ」

 金髪の青年が、慎太郎に話しかけた。

「……あんたはっ、痛ッ」

 痛む体に鞭を打ち、慎太郎は起き上がった。

「おいおい、やめとけ! 傷が開くぞ!?」

「今は休みなんし」

 ちぃ、と舌打ちをし、また横になる。どうやら相当深い傷のようだ。

 それもそうだ。身体はボロボロ、しかも対して休みもとってない。

「……誰だよ」

「俺はババルウ星人だ! 宜しくな!」

「ババルウ星人だとっ……!? 暗黒宇宙の存在がなぜ……!」

「そんなこまけぇ事は気にすんなって! んで、こっちが俺の妻の」

「至高なるヤプール様によってお創りいただいた、大蟻超獣アリブンタでありんす」

 おうふ。慎太郎の口からはそんな言葉が漏れた。

 なぜ超獣と宇宙人が……。そんなことは今はどうでもいい訳だが。

「……目的はなんだ。俺を殺すことか?」

「違うって。たまたま通り掛かったら苦戦してたからさ」

「見てられんせん。あんなボロボロで闘うとかただの大馬鹿者でありんす」

「面目ない」

 事実である。全く反論出来ぬ事実である。

「……何であんたら、ここに来れたんだよ」

「俺が許可した」

 肇が入室してきたのだ。

「ヴェラっち……!」

 慎太郎は驚愕した。何故奴らに! そんな思いが慎太郎を包む。

「いいだろ、減るもんじゃねーし。昨日の敵は今日の友、今は仲良くしておいた方が後々得になりそうだ」

 なかなか打算的である。

「……そうか」

 慎太郎はため息をついた。

 

 例の家。

 その地下室で、古橋と紗和が話している。

「……タイラントがやられたか」

「う、うん……」

「……チッ。チャートのガバが来たか……」

 ゴキゴキと音を鳴らし首を回す。

「ッ……まだ……やるの?」

「当たり前だ……」

「……わ、わかった……」

「……」

 スタスタと廊下を歩く。

 正気か? と思わざるを得ない歩き方だ。

「……ッ……」

 その背後をついて行きながら歩いていく。

「……検証実験に入る」

 その声はエコーがかかり、異常であった。

「う、うん……」

 古橋のその手には、模造品ではあるがウルトラゼットライザーが握られていた。

「……今度は……何する気?」

 紗和の口調は少し震えていた。だが言われたことは絶対なので逆らうことはしなかった。

「……」

 何も言わない。

 ヒーローズゲートから何かを取りだした……。

 ……ギルバリスの銃だ。

「……古橋君……? なに、する気?」

 何も言わず、銃口から何かを放つ。それは紗和の思考回路を止め、傀儡へと変貌させた。

「──────ウルトラマンアバドンを殺害しろ」

「ッ………………御意」

「……キエテ・カレカレータ」

 古橋はニヤリと不敵に笑った。

 

『D-79-5地区にゴモラ、バードン、フラカンが出現! ウルトラウーマンラピスも近くにいる恐れあり!』

 無機質な電子音が鳴り響く。

「CET、出撃!」

「了解!!」

 マッハストライカーが風を切る。

 ババルウ星人とアリブンタを連れて、平和のために奔走するのだ。

 

 そこにはゴモラやバードン、それにフラカンまでいた。

「……やっぱりな!」

 慎太郎の愚痴とともに、彼らが動き出した……! 

「よぉアバドンさんよぉ! 久しぶりだな」

 フラカンはニヤリと笑いながら目の前に一直線で前進し、拳を腹にめり込ませた。

 ゴモラも雄叫びを上げながら突撃をし、ゼットンも鳴き声を上げながら光線を放った。

 もっともこの3体も超絶久々の出番なので出れたからには正々堂々と戦う気のようだ。

「てっめぇ!! 変身中と名乗りと必殺技時の攻撃はルール違反って知らねぇのかよ!! つーかバードンどこいった!?」

「バードンはヴェラムさんと闘ってますよー!!」

「サンキュー!!」

 ……どうやらゼットンの登場は完全にイレギュラーらしい。

「やってやろうか……! ハァッ!」

「わちきもやりんすぇ!」

 本来の姿に戻る二人。

 あの恐ろしい姿が、今はどうも頼もしい。百戦錬磨の戦士を味方につけたのである。まるで手力男命(タヂカラオノミコト)日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が仲間になったかのようだ。

「しばらく出てなかった分、派手に楽しませてくれよ……! だからルールなんか知るか! (ゼットンが背後で哀しんでるのに罪悪感があるが……な……)」

 フラカン、お前は子供か。だがフラカンはただ召喚されただけであり、どうするべきかは内心困惑をしているようにも見えた。無論、バードンとゴモラもだ。

「キィイイイッ!」

 叫ぶアリブンタ、構えるババルウ星人。

 アバドンはフラカンの元に走り、アリブンタはゼットンに、ババルウ星人はゴモラに挑んだ。

 

「キュイーッ!」

 アリブンタは火炎を放った。ゴモラは着火こそしたが、それでもなお健全な状態で反撃として突進をした。

「キュイーッ!?」

 何とか回避するも、少し爪が掠る。

「このぉーっ!!」

 アリブンタは蟻酸を噴霧した。

 ゴモラはそれに負けず、諦めずに尾で攻撃をして吹き飛ばした。

 MAP兵器とも言えるその蟻酸は、辺りをドロドロに溶かす。

「ぐぁっ……!」

 尾の攻撃で溶けた地面に身体が埋まる。しかし直ぐに起き上がり、アリブンタ渾身のドロップキックがゴモラの頚椎を折った。

 メシメシメシ……。

 嫌な音が鳴り響いた。

 ゴモラの苦しみの雄叫びが街中に響く。それでもなお、諦めずに勢いよく突撃をした直後、胴体を掴んで投げ飛ばした。

 アリブンタは受身を取ると、ゴモラの目玉を蟻酸で溶かし、そして今度こそ命を奪った。光と共に、ゴモラはバトルナイザーに帰っていった。

 

 ゼットンは溶けた道を避けながら奇妙な鳴き声を上げながらウルトラマンを倒した時のあの技を放った。波状光線がババルウ星人を襲うその時だ。

「ヘェァッ!!」

 ババルウ星人の体が急に揺らぎ、そこにはだれもいなかった。

 いや、ひとり居る。彼は───────

 ────────武器の達人、ウルトラマンジャック! 

 しかし様子がおかしい。

「……ヘッ」

 ジャックの飛び蹴りがゼットンの腹を抉り抜く。しかも()()()()()()()

「ゼ、ゼットン……!!」

 ゼットンは驚きながら鼓膜が破れそうなくらいの呻き声を上げた。マンを倒したゼットンとはいえ、殺した張本人が突然どこからともなく現れたので流石に動こうともしなかった。

 しかし目の前にいるのはウルトラマンジャックだ。

 ジャックの声はババルウ星人、そして弱点属性。ここからわかることはただ一つ。

 ババルウ星人の固有スキル、『ニセモノの輝き』だ。

 速属性であるゼットンに対し特効を持つウルトラマンジャックへの変身。ウルトラ怪獣バトルブリーダーズを置き換えるとこうなるのだ! 

 ゼットンは多少震えながらも光線を放った。だが本当は、バトルナイザーに戻りたいところだが、主である本人が何もしてくれないのでどうするべきか分からず、苦戦していた。

「俺の妻に手ぇ出すなっ!」

 怒り、そして決意。

 ババルウ星人の、文字通りの『ニセモノの輝き』。心做しか、ブルースも流れているように感じる。

「ゼッ……ゼット〜ン!」

 ゼットンは情けない声を上げた。ちょっと可愛いが、ゼットンはもう体力の限界だった。もう、終わりにしても良いくらいに……

 ババルウ星人は変身を解除し、ババルウスティックを突き刺す。

「あばよ」

 ゼットンは、バトルナイザーに帰っていった。

 

 そしてメインイベント、ウルトラマンアバドンvs疾風魔人フラカンである。

「チッ……俺しかいない、か……」

 フラカンもこの状況がピンチなのに薄々予想はしていたようだが、アバドンの攻撃についていけているのでゴモラとゼットンより長期戦が続いていた。

「そろそろ死ねよこの野郎がァっ!!」

 アバドンの蹴り技が空を切る。

「うぉ……!」

 フラカンは擦りはしたがなんとか避けることが出来た。だが体力に限界が近づいているのには自分でも分かっていた。

「何故だ……何故だアバドン。何故、姉貴を狙うんだ……!? 姉貴である、俺の主を……!」

 息が少しずつ切れ始めていた。それでもなお、諦めずに疾風のような動きで攻撃を当て続けた。

「アイツが!! アイツが俺の恋人を殺したんだ!! だから敵を討つ!! 殺すんだよ!!」

「ッ……姉貴が今までそんなことをするような奴だったか!? 確かに今の姉貴がおかしいのは俺だって認めるが……ッ」

 そう言った直後、フラカンはそのまま息を詰めるように何も言わなくなり、アバドンの腹に拳をめり込ませた。

 しかしそれはわざとなのだ。

 腹筋を収縮させ、抜けなくしたのだ。

「キャッハハハハハ! 作戦大成功……死ねぇぇぇぇ!!」

 頭を掴み、90度回す。

「さらに横向くんだよ、90度ォ!!!」

 首の骨を折る気なのだ。

「しま……姉……貴……も、う……ッ」

 フラカンは何も抵抗できず、助けを求めた。

「……クカカ」

 ぱっと手を離した。

「ッ……ゲホッ! ガハッ…………は?」

 流石のフラカンもこれには予想外だった。呼吸を整えながらアバドンのことを見ていた。

 アバドンはフラカンを掴む。そして、アバドニックマジックで分身をすると、それぞれが武器を持った。

「え、なんだ……? 何する気だ……?」

 一人はメリケンサック。一人は棍棒。一人は鎌と分銅のついた三節棍。そして一人は──────

紅八塩朱剣(クレナイヤシオノアカツルギ)

 殺す気なのだ。

「テメェそれは流石にやり過ぎじゃねーのか!?」

 フラカンは危機を感じて思わずそう叫んでしまった。

 しかしアバドンはにじり寄る。そして、武器を掲げて。

「お前を殺す」

 こう宣言した。

 

 トキハスペーサーのアバドンが、アバドスペースを起動した。

 外では一分の間だ。

 外の1秒が内部の1年。つまり───────

 ─────────フラカンは、60年近く殴られ続けた計算になる。

 もはや面影はない。

 体はボロボロで、死の寸前なのだ。

「ッ……なん、て……やり方だよ……ッ(姉貴、頼む……!)」

 フラカンは紗和からの助けを求めながらこの場から逃げようとしていた。

 アバドンはフラカンを蹴り飛ばした。そして体をひとつに戻すと、アバディウム光線を放った。

「ッ……! グァァァァァァァッ!!!」

 フラカンは逃げることが出来ず、光線が直撃した。その直後に光粒子となって消えながらバトルナイザーへと戻って行った。

 そしてバトルナイザーの持ち主は、ただ何も言わずに、アバドンのことを地面から見上げていた。

 アバドンはその持ち主に気づく。しかし、そこで意識は途切れたのだ。

 怪我を押してでた結果である。

 クスッと笑みを溢したが、無言で後ろを向き、歩み出した。『報告……』ただそれだけを呟いただけで、その後は何も言わずに闇のように消え去った。

 まるで、操り人形のように……

 目を覚ましたのはまた病室だった。

「また倒れてんじゃねぇか!」

 面目ない。慎太郎はそう言って、見上げた。

 まっさらな部屋に、自身の体が寝かせられているのがわかる。

「……ありがとうな、ババルウ夫妻……」

「良いってことよ!」

 屈託のない笑顔に、慎太郎はホッとした。

「ババルウちゃん、時間近くなりんした!」

「んじゃ、俺たちはそろそろ行くわ」

「……グッドラック」

 慎太郎は口角を上げた。

 

 例の家。

「報告……フラカン、アバドンと対立するにも敗北。ゼットンとゴモラもです……」

 背を向けている彼に向かってそう言った。何故か少しだけ怯えてるようにも見える……

「……コシ・カレカレータ。ずんと休養召されよ」

 古橋は何かを読んでいる。おそらく時代劇小説だろう。

「…………コシ(お前は)バグリーサ(殺してやる)……アバドン……」

 エコーのかかった声が、部屋に響いた。



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決戦

 闇のように暗い部屋に誰かが1人パソコンを起動させて何かを記入していた。

 部屋はキーボードを押す音だけが響き、窓からは月の光が照らされていた。

 そして何かを記入しているその人間の目は死んでいながらも無心でキーボードを叩き続けていた。

 カタカタカタ……。

 無機質な音が部屋に響く。

「予告状…………お前の……歪んだ…………盗む……」

 突然、独り言を言い始めながら画面に映された画像に記入していたものを読み始めた。誰もいないが、万が一の場合に備えて小声で呟いた。

 そしてそれが確認出来た時、()()は微笑みながら画像を保存した。保存したファイルの名は———

 

 宣戦布告(予告状)

 

 ウルトラマンアバドン

 Season2 第5話

『決戦』

 

 そんな事もつゆ知らず。

 我らが諸星慎太郎は、いつも通り組手に勤しんでいた。

「チェストォオオオオオ!!」

「おっ、いい蹴りだな!」

「押忍……! チェストー!」

「けど突きはイマイチだ。蹴り技を伸ばすといいぞ」

 そう言って、一人の後輩の顎を蹴る。脳髄を揺らし、脳震盪を起こすのだ。

 なんやかんや優しいところある(?)慎太郎にこれからとんでもないことが起きることは彼も分かっていない。

 CETの屋上は無人で見張りとかも誰もいない。だがその屋上に1人風に服と髪を揺らされながら立ちすくんでいた。片手には、1枚の紙を手にしていた。

「…………侵入……しました。次のご命令を……」

 声と目がまるで死んでいるかのように微かな声でそう言った。

『……送り付けろ』

「……御意」

 そう告げた直後、手にしていた紙を便箋にしまい慎太郎がいる部屋に向かって投げた。

 あまりにも一瞬だったからか、慎太郎の背後に何か鋭いモノが通り、髪が1〜2本切られた。そしてそれは壁に刺さった。ただの紙のはずが、丈夫すぎる。

「……なんだこりゃ」

 便箋を開くと、それは慎太郎宛の———宣戦布告だった。

 予告状 諸星慎太郎殿

 お前のその捻くれ、光もないもない闇のように歪んだ心の宝石を我が盗み、頂戴する。覚悟しろ、悪魔よ。

 怪盗 シンシャ

「……チッ。ゴミムシめ」

 慎太郎のストレスは既に臨界である。

 いやはやウルトラマンとは()くも脆いものか、いや違うこれは特段アバドンがきちがいなだけだ。

 それはそうと、まさかまさかの大物である。

「絶対に殺す」

 慎太郎の目が爛々と輝く。

 慎太郎は各種伝達をし、上の判断を仰いだ。

「……上からの許可が降りた。さぁ出撃準備だ。さらに許可が降りた。核爆弾並びに自走式陸上爆雷(パンジャンドラム)の使用も許可する。裏切り者、ウルトラウーマンラピスを──────────宝星(ほうせい)紗和(さわ)を、確実に殺すんだ!」

『了解!!』

 

 シンシャは無言でただまだ明るい青空を見上げながら風に吹かれていた。以前の面影が、どことなく消されているように見える。

 その背後に、慎太郎が居た。紗和を地面に突き落とし、地面で様々な重火器を使い果ては爆弾を使い、紗和を─────そして、怨敵ウルトラマンゼロとウルトラセブンを喰い殺そう。そう考えているのだ。

 そして、慎太郎は紗和の背中を強く押した。

「……お前は……ここまでしてまで……ボクを憎んでいるんだな……」

 慎太郎でさえ違和感を感じる。慎太郎が知ってる紗和の口調が違う。だがそんな状況ではないと我に帰る。

「死ね」

 辛辣かつ、()()()怨嗟の二文字。

 ウルトラウーマンラピスを殺すため、慎太郎はどんな手でも使う。例え近隣住民に被害が行こうとも。

 住民の記憶は改竄すればいい。地面に残った放射線はハッキングでなかったことにすればいい。住民の死も世界線丸ごと書き換えてしまえ。

 そんな、どす黒い感情。漆黒の意思。

 だが紗和は慎太郎にナイフを見えない左目に向けて投げ、なんとか身を解放した。

「……あまり、君のことは攻撃したくないのだがな。これも命令である……許してくれ」

「畜生、殺したと思ったのに! 死ね!」

 慎太郎の右目は全盲であり、お世辞にも左眼も良くはない。

 確かに見えない左目だ。しかし。

()()()()()()()()()()

「あまり乗り気ではないんだ慎太郎。ボクは命令だから殺すだけだ。それだけは理解してほしい。それに……お前はボクのことを勘違いしている。アルセーヌとフラカンが言っていただろ?」

「知るか。日本国に仇なすならばどっちにしろ敵だ。天皇陛下の御為に───────死ね!」

 慎太郎は九四式拳銃────()()()()()()()()()()()()()()()()───────を抜き、紗和の脳髄を狙った。

 紗和は溜息を吐いて自分の能力である猛毒を操り壁を作って弾を回避し、こう言った。

「ボクは、誰も何も、殺してはない。そう……()()()もだ。いい加減気づいてほしいものだ……悪魔が」

 冷酷な口調で冷たい視線で見つめながらそう呟いた。

 毒の壁から顔を半分出しながら……

 慎太郎の耳には聞こえない。

 狙っているのだ。ただ真っ直ぐに。

「ッ……!」

 銀色の毒で銃弾を弾きながら少しずつ前へと進んだ。顔から冷や汗が一つだけ滴り落ちてきたのが自分でも分かった。

 銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。再装填。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。再装填。

 かつて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の血が騒いでいる。

「(撃つ速度が速い……流石だ。だが動きに関してはだいぶ慣れてきた。彼の方の為に……さっさと、殺し……)……ウッ!!」

 突然、動きを止めて頭と胸を抑えながら呻き始めた。罠でもなんでもない、突然、何かに抗うように呻き始めたのだ。

「(殺すなら今ッ)」

 慎太郎は再装填し、紗和の頭を撃った。

「ッ……グッ!」

 紗和はしゃがんで回避した。すっかり伸びてしまった髪に当たり何本か抜けてしまった髪の毛が目の前でゆっくりと落ちていく。

「はぁー……はぁー……忌々しい……はぁー……少しは人の話を聞くことを……学べないの、か? はぁー……」

 呼吸を整えながら紗和は慎太郎を睨んだ。

 慎太郎は何も言わずに分身した。

 アバドニック・マジック。

 六人ほどに分身した上で、首を、絞める。

「ッ……!」

 動きの判断を誤り、首を絞められたまま紗和は地面に叩き落とされた。

 紗和と慎太郎の力には差があるのは確実。どんなに抗おうとしても首を掴まれた腕から逃れることができなかった。ただ単に苦しく息が出来ないことに対して呻き、苦しがるだけだった。

 追撃に向かう分身たち。

「さぁ行くぜ『俺』たち。紺碧感情(ブルウウウウウフィイイイリイイイイング)

 長く吼え、そして一斉に頭部を撃ち抜く。

 血の代わりにガラスが舞い、ブルー・フィーリングが紗和を襲った。

 1秒間に20発。その痛みは想像を絶するだろう。

 紗和はあまりの痛感に言葉が何も出てこなかった。自分は死ぬ、そう思ったからだ。だが一瞬の出来事だった。紗和の口角が何故か上がり……笑っていた。

「うぉっ!?」「なぜここで笑ってんだ!?」「まさか古橋に調教を……!?」「変態趣味……!!」「ちくわ大明神」「誰だ今の」

 口々に言う『慎太郎』たち。一人ちくわ大明神と呟いた者がいたが気にしてはいけない。

「誰が変態だ悪魔が」

 真顔になって数秒でツッコミを入れる。ツッコミ速度が速い。ここら辺に関しては変わってないようだ。

 ふと、足元に滴り落ちていた水銀の毒が不可思議に動いていた。

「でも…………ボクを憎んでいる、の、は……分かる……殺せよ……」

 笑みと瞳の輝きが戻る。そこには、殴られてもなお、いつもの紗和がいた。汗をかき、声が震えていた。紗和の中にいる何かと格闘しているのだろうか……

「それじゃあ」「お望み通り」「今すぐお前の」「頭をぶち抜いて」「とっとと殺して」「差し上げます──わッ!!」

 カチャリ。

 そして。

 

 無慈悲な、銃撃音。

 

 しゅうう……。

 硝煙の匂いが立ち込めている。

 紗和の頭から血が大量に溢れ出ていた。だが紗和は死ぬ直前に毒が全ての慎太郎の動きを固定。下手に動けば毒死寸前である。

 そして本物の慎太郎の顔面を精一杯握りしめていた。

「……古橋、く、ん……が……き、寄生……され、て……る……ボクは死ぬ。それ、は……良い。だけ、ど……最後に、これ、だ、けは……見て、聞い、て……ほしい。慎太郎……君、は……()()されてるの」

 大量出血で視界がグラつき、力が上手く出せないがそれでもなお、慎太郎の顔面を掴んだ腕は決して力を抜かずに掴み続けていた。その腕から、自分の中にある光エネルギーを流して慎太郎に送っていた。

「……ッ!」

 モヤが晴れる。そして、慎太郎は思い出した。

 

 あれは今から8ヶ月13日前か。

 いつも通り、大柄な友人(エピナール)小柄な友人(真司)、そして自分とで旅に出ていた頃だ。

 丁度エジプトで、慎太郎はある男に出会った。

「悪ぃ、えーちゃん、しぃくん。なんか向こうから嫌な匂いがしてな……」

 そう言って、二人の静止を振り切って路地裏へと向かったのだ。

 そこで出会ったのが───元凶だ。

 彼の動きはグネグネしていた。まるで爬虫類のようだった。

 そして、目が死んでいた。左眼だけが爛々と輝いていた。

「……何者だ、キサ───────」

 そう言って、慎太郎は何かで撃たれた。

 その時、慎太郎は直感した。

 あの銃こそが、()()()()()の銃だと。

「お前の恋人を殺した者は『ウルトラウーマンラピス』……」

 その瞬間、慎太郎の中で何かが書き換わっていた。

 

「……ッ……っうぅ……」

 紗和の脳に何か反響が通る。紗和の中で何かに争っているのだろう……慎太郎と同じように洗脳され、絡繰人形のように動かされ、命令されながら動いていた身体に抗っていた。

 慎太郎に首を絞められながらも、()()()()()()の記憶が光エネルギーと共に見せた。

()()()を殺した、真犯人の。

 そう。嘘偽りない《本当の記憶》が慎太郎の脳内に入ってくる。

 

 そして、慎太郎の脳裏に蘇ったは、凄惨な記憶。

 目の前で消え失せる牧原。紗和の猛毒。けど「その前」に「何か」が猛毒を「弾いた」ような。

 

 しかし【規制済み】はそれを空中向けて打ち上げた。

 その先に居るのは……。

 

 牧原だ。

 空挺降下中の牧原に毒が襲いかかる。

 慎太郎はそれを確認して飛ぼうとし、その瞬間凪の蹴りで大きく吹き飛んだ。

 

 そうか。

 そうだったか。

「……しぃくん……えーちゃん……すまなかった……」

 慎太郎の左眼から、液体が流れ出た。

「ガハッ……! ガァ……!」

 紗和は口から大量に吐血をしながら慎太郎に記憶を見せ続けた。それでもなお、紗和は今から死ぬことに関しては()()()思っていた。だが今はそれどころではないと、慎太郎に記憶を見せ続けた。

「しん、た、ろ……う……」

「……きさ、ま」

「…………抗、え……君、の記憶、を……偽った、ヤツ、を……殺、せ。ヤツ、は……()()の中、に、いる」

 呼吸が出来ず、苦しい……しかし、紗和は喋り続けた。

 慎太郎は何も言わなかった。そして、紗和を蹴り飛ばした。

「連行しろ」

 ザッ。

 一糸乱れぬ隊列が紗和を連行する。

 ただ紗和は何も言わず、笑いながら目を閉じていた。口からは血が滴り落ちていた。口からではなく、身体全体からだ。

 連行されても死ぬ、紗和はそう思ったからだ。それでもなお、紗和は幸せそうな笑みを浮かべながら連行されて行った。

 ただ1つ、心残りがあった。

 もう一度———尊敬する人に会いたい、と……

 そうして、紗和は意識を手放した。

 

 自室に戻った慎太郎は、その怒りを壁にぶつけた。

「Damn!!!!」

 大声だ。

 テレビからは『怪盗シンシャが逮捕され、少年院に送られる』『何故か重症を負っていたので少年院に送られる前に都立病院で検査や治療をし、回復後送られる』と、言われた。

 紗和自身も意識が戻らず、未だに病院の病室で眠っていた。万が一、起きた時に備え、警察が見張りをしていた。

 ブツン。

 テレビの電源を切った。

 そして、慎太郎は真なる敵を確定させた。

「古橋……いや、寄生生物……」

 

 その頃。

『やはりアイツではダメか……ウルトラウーマンラピス。使えんヤツめ』

 くぐもった声が古橋から聞こえてきた。

 からから、ころん。

 メダル製造機をまわし、出て来たはゴモラ、レッドキング……そして。

『……キエテ・カレカレータ』

 ウルトラマンベリアルのメダルだった。



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其々は

「ただいまぁー」

 慎太郎は自宅の扉を開け、靴を脱ぎ居間に向かった。

「あ、慎太郎はん! おかえりやぁ♪」

 とてとて、そんな擬音が似合うであろう歩き方で、とある少女が歩いてきた。

「ただいまだー……あー疲れた」

 疲労困憊の慎太郎を労うように、少女は慎太郎に抱き着いた。

「どんな敵と戦ったん?」

「とにかくでかかったなぁ……だいたい400m近くあるかもだ」

「でか、なんやそれ……」

「ナースの後継機だろうな」

 そんな会話をしながら、慎太郎は彼女の淹れた茶を飲んだ。

「ふぅー……落ち着くよ。ありがとうな()()

 そういって慎太郎は虞狐の頭を撫でた。

 ふさふさでもふもふの黒いしっぽが嬉しそうに揺れた。

「えへへ♪ 慎太郎はん♪」

「どした?」

「好きやよ♪」

 慎太郎は何も言わずに虞狐に抱きついた。

「ほんと不意討ちはやめてくれ……」

 そう言いながら、慎太郎は笑った。

 今まで愛された覚えがなかった。親は死に、兄は悪に染まり、自分自身も殺人鬼へと変貌した。

 そんな自分のことを愛してくれる人ができた。

 慎太郎は久しぶりに心安らぐ時間を得たのだった。

 慎太郎は窓の外を見た。美しい日本晴れであった。

「今日は素敵な日だ。小鳥はさえずり、花は咲き誇る……」

 どこかで聞いたような、そんな一節を慎太郎は呟くと、ごろりと横になった。

「ハハ、どこでなにやってんのかなぁ〜……先生は」

 

 都内の病院の病室で眠っている紗和は未だに目を覚さなかった。警察が見張りとして一名いるが、警察も逮捕させる意味が無くなりそうだと考え始めていた。

 紗和が慎太郎と戦い、洗脳から解放させることが出来たが、あの戦いのせいで昏睡状態がかれこれ数週間は続いた。顔と身体が痩せ続け、心拍数が少しずつ下がっていった。

 もはやこのまま死ぬのではないかと噂も広がった。

「……」

 医師ももはや匙を投げる寸前だった。

 呼吸はしているようでしてないように見える小さく命の火が蝋燭のように少しずつ溶けて消えていく……

 そのような状況だった。

 ただ未だに眠る紗和自身は、何を思い、目を覚まさないのだろう? 

 

 周りは闇のように暗く、道が見えないそんな暗闇に紗和は1人、目を瞑って立っていた。

 聴こえるのは風の音だけ。

 風の音と共に、紗和はゆっくりと目を開ける。

「………………ここは?」

 周りの状況に理解が出来ず、困惑しながら辺りを見渡しているが、答えはすぐに分かった。

「…………あ、ボク……死んだんだ」

 自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

 本当に何も無い空間に一人ぽつりと立っている。

「……どっち?」

 困惑状態が解けないまま紗和は一人で語り続けた。

「どっちが天国? どっちが地獄? 暗過ぎてよく分からない……」

 そんな気が抜けたような言葉とは裏腹に、胸奥底から虚しさと孤独が湧いてきた。

 それでもなお、この場にいても何も起きないと思い、今向いている方向へ歩み出した。紗和が今行きたがっているのは……《地獄》だった。

 しかし、そこには何も無かった。

 紗和の眼前には虚無ばかり。

「……ここ……本当にあの世? なんか……ブラックホールに落ちてしまった気分……(でも、この先に地獄があると良いなぁ)」

 歩くのに疲れたものの、足は止めずに先へ進み続けた。自分の今までの行為、洗脳されていたとはいえやらかしてしまった過ち、そして自分が今背負っている大罪……《傲慢》を思いながら地獄へ向かって歩み続けた。

「…………地獄、だと良いなぁ」

「……」

 ヒソヒソ声。

 笑っているようにも聞こえた。

「誰か……いるの? 誰?」

 足を止めて周りを見渡した。だが誰もいなかった。気のせいかと思い、再び歩み出した。

 その時であった。

「歩くの……疲れてきた」

 そう言いながら足を止めて休もうとした瞬間、自分の目に何かが止まった。見覚えのある、何かが……

「……やあ、久しぶり」

 死んだはずの二人が、目の前にいた。

「…………迫水、隊長? 奏、さ、ん……」

 目があった瞬間、紗和の中に多くの不安が溜まり、言葉が出ず、自責を心の中でしていた。

「……久しぶりですね」

 紗和は驚愕した表情を変えないまま言葉が出ず、震え続けていた。

 少しずつ冷静を取り戻して声が出るようになった。二人に言いたいことが……やっと言えるからだ。

 気づけば、周りは暗雲がたちこめていて、ざぁっと本降りの雨が降り注いでいた。

「ご……ごめんなさい! 全部、全部ボクのせいで二人を死なせてしまった! ボクがあの時、判断を間違えなければ奏さんは死なずに済んで慎太郎と幸せを築くことが出来たのに! ボクはあの時、自分の毒で、奏さんを殺してしまった! あの日、あの瞬間……奏さんを殺してしまったのはボク自身だ! 迫水隊長も、ボクがいなければこんなことにならなかった! 二人がボクに恨みや憎悪を持っているならそれで構いません! ですが……ボクはずっと謝りたかった! ボクのせいで、二人を死なせてしまった! それは……殺したのも同然! ボクはここ(天国)にいる人じゃないです!」

 紗和は泣きながら二人に謝り、ずっと言いたかったことを叫んだ。何度も謝罪の言葉を叫びながら、少しずつ足を後ろ側に向けていた。反対側に行けば、地獄へ行けると思っているからだ。

「……紗和。キミは大丈夫さ」

 迫水は変わらぬ笑顔でそう言った。

 目尻に涙を溜めながら見開いて紗和は迫水を見つめた。

「…………怒ってないのですか? ボクのせいで……隊長を……」

「ああ……怒ってないさ。私が死んだ理由も、持病の悪化からだからね」

「……病、気?」

「ああ……それより奏?」

「……お久しぶりです、紗和さん」

「奏、さ、ん……ぜ、全部ボクのせいです。ボクのせいで奏さんを……奏さんは……慎太郎と幸せになるはずだった。それを……ボクが……汚してしまった。ボクは……ボ……ク、は……ッ」

 声が震えて、涙が止まらずにいた。あの頃が恋しく、自分のせいでそのあの頃の日々を汚してしまったことに対して自責をし続けていた。

「ボクのせいです……ッボクが……ボクが奏さんを殺したのと同じです……ッ! ボク奏さんを殺したんです……ッ」

 少しずつ雨足が強くなっていく。

「奏、さん……は……ボクのこと……恨んで……ますよね?」

 震える声で恐れながらそう言った。顔も見せる勇気が湧かず、涙を流しながら。

「……恨んでるわけないでしょ」

「…………え?」

 涙を流しながら顔を上げ、涙で視界がぼやけているがようやく顔を見つめることができた。

 雨足が弱まった。

「もう、大丈夫。私には未練なんかない。だから……進んで」

「私達を気に病んでいたんだね。……進め、ウルトラマン。隊長命令だ!」

「ッ……ッッ……っあぁ! あぁあぁっ!!!」

 そして遂に、暗雲は晴れた。

 見渡す限りの快晴となり、二人には後光が差して見えた。

 紗和の中の闇が晴れたかのように言葉が出ず、その場で号泣をしてしまった。

 それでもまたあの時のように抱きしめてほしいと願い、一歩ずつ前へ歩み始めた。

 紗和の心に────光がみちる。

 

 所変わって、セレブロのラボ。

 紗和の家の近所に、セレブロはハッチを作った。そこは地下へと向かうエレベーター。そして、そこにあるのは。

『おかえりなさいませ、マスター』

 地下810m地点、報告管理人工頭脳システム『バルド』によって管理されている、セレブロの秘密基地。タイムトラベル能力を持つクロノームを悪用し、旧日本軍が開発しようとしていた超大和型の設計図をコピーそして再現した宇宙戦艦、その名も『マッドネス号』。

 セレブロはそのマッドネス号のラボラトリールームに引きこもることが多い。

 セレブロは体細胞や重元素を取り出し、機械の中に放り込んだ。

 取っ手をクルクルと廻せば、ゴウンゴウンとやけに凝った駆動音がし、スチームパンクな雰囲気を漂わせながら出来上がったのは。

 チャリン────────────────

 ウルトラメダルであった。

『キエテ・カレカレータ……』

 セレブロは二枚のウルトラメダルを見て、ただにやにやと笑ったのだった。

 

 その頃、闇の世界にて。

「ねぇダーリン、なんだか嫌な予感がする」

「ああ、わかるぜヴェサ……。イライラしてくる波動だ」

 黒い巨人は怒りを顕にしていた。ヴェサと呼ばれた赤紫の巨人は、黒い巨人の隣に座った。

「久しぶりにやっちゃう?」

「ああ、ついでに()()()の実験もしたい」

 黒い巨人はにやりと笑ったのだった。

 

 地響きと雄叫びと共に街の破壊が突然起きた。

「ギシャアアアアッ!!」

 ゴモラが現れたのだ。ゴモラは暴れ回って街を破壊していく。

「撃て! 撃てぇええ!!」

 陸空両方からの攻撃によりゴモラは多数の傷を負う。

 しかし……。

「ゼットォォォン……!」

 どこからともなく現れたゼットンがバリアを張り、ゴモラを守った。その直後に光線が放たれた。機体が破壊されていく。

「チィッ! ()()を実戦投入しろ!!」

「了解! ()()()()()()()発射ァ!!」

 ごろごろ、と変な音がした。

「ギシャアアアッ!」

 ゴモラは破壊しようと近づき始めた。それはゼットンも同様で近づいたが何かが目に入ったようだ。

 怪獣たちの鼻に劈くは爆薬の香り。

 巨大な車輪からだった。

 そしてその巨大な車輪は、ゴモラとゼットンを轢いて爆散した。

 破片がゴモラの目を潰す。

「ギシャアア!? ギシャアアアアッ!!!??」

 ゴモラは短い手で目を触って破片を取り除こうとしている。怪獣でも繊細である目が痛みを感じてフラつきながら目を触り続けていた。

 さらにその破片はゼットンの視覚機関にも当たっていた。

「ゼットォォォ……!?」

 ゼットンがその場で暴れながら取り除こうとしていた。だが二体同時にその場で暴れまわっているせいか街の一部が破壊されているわけで。

 そんなメクラと化したゼットンは目(というか視覚器)が見えないまま怒りに任せて光線を放っていた。

 地響きと雄叫びと共に街の破壊が突然起きた。

「ギシャアアアアッ!!」

 ゴモラが現れたのだ。ゴモラは暴れ回って街を破壊していく。

「よぉっし! 英国さんありがとナス!」

 ゴモラとゼットンは目の痛覚を感じながらも破壊活動をしていた。

 ゼットンに至っては目が見えないまま機体に向かって光線を放ち続けていた。

「無駄無駄無駄無駄ァ!! そんな攻撃貧弱貧弱ゥ!! ノミと同類よォ────ッ!!」

 慎太郎はそう吠えながら回避していく。

 目が見えなくなったせいかゴモラとゼットンは攻撃が不安定だった。

 ゴモラの尻尾はビルや誤ってゼットンに当たったり、ゼットンに至っては攻撃がいつ来るのか分からない状態なのでバリアが張ることが出来ず、光線を打ちまくるだけだった。

 だが未だに2体がその場にいるのも問題である。街の一部が地図から消されてしまいそうなくらい暴れて破壊しているからだ。

 そんなとき、ゴモラとゼットンの視界が甦った。

『ダブったこれらを棄てるか……』

 そんな声とともに、二体はある物を取り込んだのだ。

『コシ・カレカレータ……スカルゴモラ、ペダニウムゼットン』

 それはレッドキングのメダルとキングジョーのメダルであった。

 ゼットンとゴモラが発狂し始めた。

 痛みとともに身体が変質化していったのだ。

 ペダニウムゼットンとスカルゴモラと変化し、スカルゴモラが突進して兵器という兵器を破壊した。

 ペダニウムゼットンは不可思議な声を上げながら光線を放っていた。

「チッ! なんてこったペダゼにスカルゴモラ……!! 怯むな撃て殺せ!!!!!!」

 肇は吼えた。

 機銃掃射やミサイル、そしてパンジャンドラムが融合獣共を一掃し……しかし、それ(融合獣)は今だ健在である。

 スカルゴモラが叫びながら突進しにくる。前へと前進しながらペダニウムゼットンが光線を放ち、機銃などを破壊した。武器が減れば融合獣の勝利の確率が上がる。ピンチも訪れてしまう……

 慎太郎と肇はウルトラマンに変身し、次の瞬間地面に叩きつけられた。

『コシ・カレカレータ……フェイク・ベリアル』

「兄貴のパチモンだとぉおおおお!? 上等だ死ねゴミカスコラァアアアアアア!!」

「バカ乗るな!!」

 にせウルトラマンベリアルの登場である。

「ジャァアアアアッ!!」

 アバドンはにせウルトラマンベリアルに飛び掛る。

 しかし、ニセモノとはいえ力はホンモノと互角でありにせウルトラマンベリアルはアバドンの足を掴んでヴェラムに向かって投げ飛ばした。

「おああああああ!?」

「うぷ゛」

 まるで轢かれたカエルのようなこえであった。

「フッハハハハハハハハッ!!! アハハハッ!!」

 ニセウルトラマンベリアルは滑稽に笑っていた。笑い方が不気味である。

「チッ、忌々しい……!」

 にせウルトラマンベリアルは2人の無様な姿を見て笑い続けていた。そして何故か甲高い笑い声を上げながらアバドンをブン殴り始めた。

 アバドンはそれを掴まえるとおもむろに投げ飛ばす。ヴェラムはその意を察し、にせウルトラマンベリアルにイマージュベムラーのペイル熱線を照射した! 

 にせウルトラマンベリアルは投げ飛ばされた際にビルに直撃して倒れたものの即座に立ち上がり、破壊したビルを盾にしペイル熱線をガードした。

 その時であった。

 スカルゴモラとペダニウムゼットンが待ってましたと言わんばかりにそれぞれを羽交い締めにしていたのだ。

 にせウルトラマンベリアルは全速力で突進し、勢いよく蹴り上げた。

「ガハッ」

「うぐ」

 にせウルトラマンベリアルは滑稽に笑いながら2人を笑い続けていた。そして笑いながら2人を殴り続けていた。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!! フハハハハハハハッ!!!」

 気がつけばカラータイマーが鳴り出し、悪戦苦闘の状況に陥っていた。

「あぁん? 最近だらしねぇな?」

 そんな声がした。

 そして、にせウルトラマンベリアルが大きく吹っ飛んで、地面に刺さって犬神家状態になった。

「ぐぉ……!?」

 スカルゴモラとペダニウムゼットンがアバドンとヴェラムから離れて慌ててにせウルトラマンベリアルを助けに向かい、引き抜こうとしていた。

「っ、アンタは」

「だらしねーぞバーロ」

 青い頭にスターマーク、腕に光る『KAN』の文字……。

 間違いない。

「ウルトラマン、ビータ……!」

 にせウルトラマンベリアルはようやくスカルゴモラとペダニウムゼットンのおかげで抜け出せたようだ。

 にせウルトラマンベリアルは怒りに任せてビータに殴りかかった。

 さすがはウルトラマンビータ、軽やかなステップで全て避け、そして的確な技を放つ。

「グァ……ッ」

 ニセウルトラマンベリアルは怒りのあまりに自分の爪で顔を掻いていた。

 スカルゴモラとペダニウムゼットンがにせウルトラマンベリアルの怒りに察して援護をするようにビータに近づいた。

 しかしそこは歴戦の勇士アバドンとヴェラム、的確に弱点を狙い弱体化を図る。

「ギシャアアアッ!?」

「ゼットォォ……」

 2体同時に呻き声を上げながら同時にアバドンとヴェラムに突撃した。

 にせウルトラマンベリアルは憤怒の状態でビータに攻撃を当て続けた。

 しかしビータは笑っていた。

「弱い、弱いぞニセベリアル」

 膝蹴り一閃。

 それだけでニセベリアルは何キロも吹き飛んだ。

「ぐぉぉ……!?」

 にせベリアルが建物に激突し、破壊しながら倒れて行ったが、やはりホンモノのベリアルと互角の力なのか、立ち上がりビータに鋭い爪を向けた。

「見てらんねぇぞウルトラマン共」

 その声とともに黒いイカヅチが舞い降りる。

 そこに居たのは怪物だった。人型の怪物。ビータはすぐに察した。ウルティノイドだと。

「……排除、開始」

 そのウルティノイドは、ニセベリアルの首の骨を簡単に折った。

 めしめし……っ

 頚椎の折れる音と共に、にせウルトラマンベリアルの首は90度倒れ、一瞬痙攣してそのまま死んだ。

 スカルゴモラとペダニウムゼットンは戦っている最中だというのに死んだことに驚いて戦闘する動きを失った。隙が多すぎる、ということだ。

 アバドンはスカルゴモラに飛びかかり、マウントポジションを取るや否や小型の紅八塩(くれないやしおの)赤剣(あかつるぎ)を取り出してメッタ刺しにした。

 それでもなお起き上がるスカルゴモラ、そこにそのウルティノイドは両腕のクローを使いさらにメッタ刺しにしていく。

「刺突……」

 そんな声がした。

「さすがだ……デリーター。もっとやっちまいなぁ」

 デリーターと呼ばれたそのウルティノイドは、両腕でのダークファランクスもどきを放ち、スカルゴモラに風穴を開けた。

「ギ……ギシャアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!」

 スカルゴモラは甲高い呻き声を上げながら爆散した。

 残るはペダニウムゼットンだけだった。攻撃がくればバリアを張り、光線を放ち続けた。

「ちっ、コイツめちゃくちゃ強化されてやがるな」

「……抹殺」

 ダークファランクスを放つデリーター、だがそれはバリアに弾かれ……。

「それ、ヴェサ、少し手助けしてやりな」

「はーい! でもダーリンと一緒がいいー!」

「っ……わかったよ……。おいビータ、合わせろよしっかりとな」

 虚空より降りてきたその影は、確かに見るものの心を動かした。

『勝った』

 そんな思いを浮かばせる程、()()は強すぎた。

 ダークザギ、そしてダークフェレスである。

「よし……やるか」

 ダークザギとダークフェレスは同時に『グラビティ・ザギ』を照射。そしてペダニウムゼットンの正面からビータがガレリオン光線を放つ。

 ガラ空きの背中にアバドンのアバディウム光線、さらに右からパンジャンドラム、左からはヴェラミックキックラッシュ。

「ゼット……!? ゼットォ……!?」

 ペダニウムゼットンは全ての攻撃をバリアで避けようにも予測不可能な攻撃のせいでバリアを張ろうにも次の動きが分からず直撃し続けていた。

「……ハァッ!!」

 デリーターは、そんなペダニウムゼットンに対して必殺のデリートパニッシャーを放った。

「ゼッ……!?」

 バリアを張り受け止めて身を守ろうとしたのだろう。だが、それは間に合わず、ペダニウムゼットンはそのまま爆発四散したのだった。

「よし、帰還するか」

 

「まさかアンタらが居るとは思わなんだ」

 とあるラーメン屋にて、変な四人がいた。

 慎太郎と橘シュン、そして白い髪の少女に……やや慎太郎に似た姿の青年がいる。

「ザg……いや、クロサキ夫妻が来ているとは……」

「来ちゃいました~♪」

「リサに着いてきただけだ」

 ダークザギもとい『クロサキ・ミツル』、ダークフェレスもとい『クロサキ・リサ』。この名前は地球での戸籍だそうだ。

 慎太郎は、ふぅん、と変な息をして、眼前の肉そばに視線をやった。

 肉そば肉ダブル。美味いに決まってる。薄切りの豚肉が、コシのありそうな麺が、いい香りを漂わせるスープが言っている。俺らは美味いぞと。

「いただきます」

 皆揃っての挨拶。

 慎太郎はまず真っ先にスープを飲んだ。

 旨みと香り。それらが渾然一体となって鼻腔と味覚を刺激する。

 ほうと一息。

「うめぇな、このラーメン」

 ミツルはそういって、麺をすする。

 肉と麺を絡めて食うと、脂と身のバランスがいいこの肉が麺の風味によって強調され、また麺の味も感じられるのだ。

 またほうと一息。

「美味しいー!」

 リサが行った味変は『柚子胡椒おろし』。

 スープに爽やかな香りが追加される。さらに麺によく絡むお陰か食べる度に香りが増える、そして味が引き立つのなんの。

 さらにほうと一息。

Hold up! (待ってくれ!)なんだこの美味さは!」

 そしてシュンはどろだれラー油をスープに混ぜていた。

 癖になりそうな深みと辛みがスープに生じ、止まらない。箸が、レンゲが、両方がずっと止まらないのだ。

 またもやほうと一息。

 さてさて、時間は経ち。

 一同が食べ終えた時、慎太郎はおもむろに口を開けてこう言った。

「さて……この世界線にセレブロが発生した訳だ」

「ちっ、ツマンネェ奴が現れやがったか」

「……ダークザギ夫妻がいるのは凄く有難いんだが……」

「だがー?」

「問題はどうやって宿主からひっぺがすかだよなァ」

「強い力でボコるしかないんじゃないかなー?」

Good grief at the assault thinking(突撃思考たまげたなぁ)

 シュンの言葉で途端にしゅんとするリサ。冷笑する目つきの慎太郎とミツル。シュンよ、言葉を選びたまえ。

「と、とにかくだ……ほかにやり方はあるんじゃあないかい!?」

「そうだな」

「……そうだ!」

 リサは何かを閃いたようだ。

 ………………。

「……それならいけそうだな」

「いい案だリサ、さすがは俺の嫁」

「二日後のヒトヒト(十一時)サンマル(三十分)。セレブロを倒そう」

 術はもう、固まった───────!!



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セレブロ

『……キエテ・カレカレータ』

 操られし青年は、今日もまた新しいメダルを集めていた。

『……ゴルザ。メルバ。スーパーコッヴ。ガンQ。レイキュバス。ゼットン。パンドン。マガオロチ。……キエテ・カレカレータ!』

 ギャハハハハハ! 

 哄笑。

 そして、青年は───────古橋は、静かにゼットライザーを起動させた。

 

 所変わって、病院にて。

 とある病室に向かう青年がいた。文一であった。

「…………715室……個人部屋、なぁ〜……そこにアイツが……」

 文一は自分でメモした紙を見ながら小声で色々と呟きながら病室へと向かっていた。

「…………ここか」

 目的の病室に着いた文一は顔がすぐにめんどくさいという顔になった。

 見張りの警官が2人が扉の前にいた。目があった瞬間、色々と詰問されたのも無理はない。

「何をしに来た」

「……部屋にいるアイツと話がしたい。俺はアイツの友人です」

 文一に《めんどくせぇ》という顔をしているのは警官も気づいていなかった。

「一応、CETの隊員でもある……仮に何かあっても対策はしてある。入れてくれないか?」

「……解った。許可しよう」

「……ありがとうございます」

 文一は軽く一礼をし、静かに病室に入った。病室にいた《彼女》はまだ弱々しく、静かに窓の外を見つめていた。ボムヘアーだった髪がすっかりと伸びてしまい、いつの間にかロングヘアーとなっていた。赤いメッシュがかかったロングヘアーとなっていた。

「…………随分と痩せてたな、紗和」

 文一はそう言った瞬間、紗和は静かに顔を振り向かせた。

「…………ろくにご飯食べてないし、まだまともに動けないからね……」

 聞こえないくらいの小さい声で紗和はそう言った。

 ……静かである。

「…………お前、変わったな……」

 文一は冷酷にそう言う。紗和はただ闇のように暗くなった瞳で文一を見たが、紗和は何も言わなかった。

 静かな空気が場を包む。

「……紗和、俺はお前の先輩でもあるが……お前に頼みがある」

 文一はこれ以上何も言わないなら即本題に入ろうと、めんどくさがり屋な性格をしているため、即座にそう言った。

「…………なに?」

 紗和はゆっくりと声をあげてそう言った。

「…………セレブロの居場所は分かるか?」

 文一は直球でそう言ったが、紗和は驚いた表情を見せて言葉を出すことが出来なかった。言えばこの戦いも終わるはずが、紗和は声を出さなかった。

「…………なんで言わねぇんだ?」

 文一は問いかける。だが紗和は何も言わなかった。よく見れば、冷や汗をかき、口元が震えていた。動揺しているのだ。

 言えないと。言ったら殺されてしまいそうだと。

 目がそう訴えた。

 文一はその目を見て察した。だが言わなければセレブロはこれまで以上の被害を拡大し、セレブロに勝つための勝利への道も閉ざされてしまう。どうするべきかと、文一は考えた。脳裏には慎太郎が苛ついてるのが想像ついた。文一は小声で「自分勝手な野郎だよなぁ……めんどくせぇ」と、呟いた。地獄耳だったら慎太郎は今頃怒っているだろう……

「…………取引、どう?」

 紗和は突然そう言った。文一は驚いたが取引条件を聞いた。その取引は文一と紗和だけの取引であり、慎太郎達には言えないことであった。しばらく取引の話が続き、そして……

「…………取引成立?」

「おう……取引だ」

 取引は成立したようだ。紗和はいつもの笑みを浮かべて決めたようだ。怪盗という叛逆の意志は消えてなかったようだ。

「……なら、教えてくれ。古橋……セレブロはどこだ?」

 文一は真剣な眼差しでもそう言う。紗和はゆっくりと口を開いて言う。

「——————ボクの家だ」

「デトロ! 開けろイト市警だ!」

 彼はそう言った。

 イマイチ影の薄い隊員、カグラ ゲンタロウである。

「……紗和本人から聞いた住所はここだ。怪盗のアジトらしい場所だよなぁ……」

 その後ろで文一は紗和から教えてもらった住所をメモを見ながらそう言った。

「ちなみに……家の中を勝手に細工されているらしく……なんか隠し扉が見つかればそこにいるらしいぞ? 後ゼットライザーを手にしてるらしいぞ」

 色々と聞き過ぎ……だがこれは事実である。

「しちめんどくせぇな、あのエビモドキ」

 食ってやろうかと慎太郎は怒った。

「……だがその扉を見つけても……パスコードが必要らしい……それは紗和でも知らなかったらしい。破壊するか自力でパスコードを見つけろだって……あと、これ……」

 文一は慎太郎に鍵を見せた。

「なんだこれ」

「この家の鍵」

 即答した。何故か紗和は特殊方法で隠し持っていたようだ。流石怪盗である。

「すげえもんだな」

「アイツも鍵は持っているが常に鍵をかけているから怪しまれずに侵入するなら鍵開けるしかねぇってよ……ここあんまり人気が無いけどな……」

「まぁそうだろうなぁ……めんどくせぇな」

「それな。俺はめんどくせぇことは回避して寝たい……」

 ここに来る前に約5時間も寝たのにまた寝ようとしている文一である。だが今は任務中ということで文一は静かに鍵を刺して開けた。何も命令されてないのに自分勝手に……

 しかしそれはいい判断だった。

「お邪魔しま〜す」

 真面目か。だが部屋の中からは音何も一つしなかった。留守なのだろうか、文一は疑いもせずに部屋の中に入った。

 その後を追う慎太郎。

 ふぁさ、と右の長い髪が揺れる。

「……手分けして扉を探すか?」

「そうするか」

「賛成です!」

「……給料分は仕事すっか……」

 文一は軽く欠伸をしながら通路の奥へ向かった。《取引》したモノを確認するために……

 慎太郎は超音波を放つ。そして聴覚を鋭くし、嗅覚を頼りに辺りを探し出した。

 カグラは目を細めた。オーラを見ている。死相をなるだけ避けているのだ。

 文一は奥へ奥へと進んだ。人の気配は無く、ただ眠そうな顔をしながら進み続けた。ふと、別目的で見つけた扉の前に止まった。

「…………これか……」

 文一は小声で呟き、静かな瞳で見つめたまま確認していた。

「…………取引だ。そして……お前は仲間だ。この取引は……壊したりなんかしない……」

 文一はそう言いながら慎太郎達の元へ戻った。

「……慎太郎、カグラ……こっちは何もなかった。そっちはどうだ?」

「俺の視覚ではこっち側にトラップが多く感じられます」

「……宝石とは違う固有振動数をコチラから確認。近いな」

「……こっちは特に何もなかった。隠しているだけあって……複雑な構造をしているみたいだな。近いところを中心に探してみるのはどうだ?」

 文一は少しずつカグラの近くまで寄った。

「……そこ、あぶない」

「お、っと……」

 一歩下り、足元をゆっくり踏んで確認した。

「……ここら辺か?」

「そうです」

「……さて、どう出るか……」

「……おい、俺のいる方面から邪気を感じた」

「…………これか?」

 文一は邪気を感じるその方向に顔を向けた。

「……こりゃまずいな」

「……何が?」

「……チャリンという音がした、ウルトラメダル製造中だなこれは」

「……おい、そのメタルが超獣とかもしくは……お前の兄だったらどうするんだ?」

「……知るか。その時はそのときでこ、す」

 慎太郎にノイズがかかる。

「……おい、慎太郎……大丈夫か?」

「ちぃっ、何だこのき〇がい野郎! 【ピー】付いてんのか、規制しやがってこの【ウニョウニョウニョ……】め!!」

 ……どうやらコンプライアンス対策の模様。

「…………ワロス」

 文一は眠い目をしたまま笑っていた。

「……はァ」

 慎太郎は頭をガシガシとかいた。

「……見つけたが、どうする? 待ち伏せ? それとも正面突破? もしくは……ワザとトラップにかかるか?」

「ここは僕が行きますよセンパイ! 僕の命なんて安いもんです!!」

 そう言って飛び出そうとするカグラの首根っこを掴む慎太郎。

「お前って案外優しいんだな、慎太郎」

 ニヤニヤ顔をしながら文一はそう言った。

「うっせ、部下失ってたまるかってんだ蛮族」

「誰が蛮族だ。俺だって考えて行動するさ」

 眠そうな顔をしながら言うと説得力が無い。

「お前に言われたかねぇ」

 そう言いつつ慎太郎は踏み込んだ。

「ほーう、凡そ10mA(ミリアンペア)の電流か」

「電流なら……いけるな」

「ただ電圧は……500Vねえ」

「ふむ…………なら、金属で誘導させて道を開くのはどうだ?」

 いつの間にか義腕を外してレイピアの腕になっていた。

「お、それいいな。焼死体になっても知らんが」

「なるわけないだろ……ちゃんと対策はあるからな……」

 文一はそう言うと、金属で出来ている義腕を取り外し、電流回路を変えるために特殊セラミックス─────主に絶縁性能に優れている─────製のエレクトロアームを取り付け、再装着。すると、道を阻んだ電流が無くなり、進めるようになった。

「レイピアも良かったんだがこれ金属製じゃねぇんだよな……義腕が鉄製で金属製で良かった……」

「どっちだよ、金属製じゃねぇならセラミックスだろこの能無し」

「……材料技術基礎、勉強します? センパイw」

 シンプルな罵倒と煽り。

「……俺、それ専門外だからよく分からん。寧ろ興味なくてよ……だからよく分からん」

 素直に答える文一。だが文一はこれでも頭脳派であり、なんやかんや頭が良いので仕事とかはちゃんとこなす人である。

 セラミックスと金属を間違える様なやつではあるが頭脳派なのだ。

「ま、行くとしますかねえ」

「……あ、ちょっとした頼みがあるんだが……良いか?」

 文一は2人を止めるかのように言い出した。

「んァ? どした?」

 慎太郎はそう言って歩を止めた。

「出来れば……古橋は殺さないでくれないか? 頼む……」

「ああ、いいぞ。半殺しにはするがな」

「……ま、罰与える程度にな」

 そう言いながら文一は2人より先に前に進む。

「ちなみにこれ……取引でもあるんだからな? お前は今俺と取引した。交渉成立。拒否権なし……行くぞ」

 眠そうな顔とは裏腹に、文一の気配がいつもとは違う。重く、何かを思うような黒い気配を感じた。

「チッ、めんどくせー。クーリングオフで契約破棄したろ」

 慎太郎はきらくなきもちでいるようだ。

「おい書き手、IQ低下してんぞ」

 いやはや申し訳ない。

 

 閑話休題。

 文一は何も言わずに進み続けた。ふと、脳裏に紗和が思い浮かんだ。

「…………ぐあっ」

 よそ見で頭を激突。

「アホかお前」

 無慈悲。

「すまん」

 鼻元を抑えながら文一は謝った。

「…………ちょっとした考えて事をしていた。すまない、これから本当の戦いが始まるというのに……」

 珍しく文一は真面目な眼差しとなり、慎太郎に向けて謝った。

「……へっ」

「とりあえず、この話はこれが終わってから詳しく話すさ。……あ、そうだ。慎太郎、お前年齢いくつだ?」

 何故か年齢を聞く謎が発生した。

「143024歳、軍人です」

 受け答えがきたねぇ。なんてきたねぇ年齢と答え方だ。

「…………あ。やっぱそうか」

 そう告げただけで文一は一人で奥まで進んだ。何がしたんだかコイツは……

「……何が言いたい」

「……いや、こっちの話さ。俺は強くなってもお前みたいにはなれないんだなって……」

「ああそうかい……それにしても、瘴気がすげぇよ」

「死相が濃すぎる……一体何体の怪獣が犠牲になったんだ……」

「そうだな。だが、その分近づいているってことだ。運悪く鉢合わせが無ければ良いけどな……」

「……よし、突入だ! デトロ! 開けろイト市警だ!」

 バァン! (大破)

 ドアくん迫真の大破により開け放たれたその部屋には、地下へ向かう為のエレベーターがあった。

「行くか」

「押忍!」

「アイツとの取引を……無駄にさせねぇ」

 無機質な音を立て、地下へと進んでいく。

 

 地下のマッドネス号に足を踏み入れた三人は目を疑った。

 怪獣の肉片が転がっている。

「…………食うなよ?」

 何故か慎太郎を見て言った。

「たりめーだろ……ゴルザにメルバにスーパーコッヴ、あとこれはレイキュバスに……これは魔頭鬼十朗の木乃伊(ミイラ)か? いやガンQか。それにこれはゼットン、パンドン……あ、マガオロチの破片もある」

「エースキラーの破片もある、エレキングも! これは……ゴモラにレッドキングの破片……! ペダニウム合金も落ちてる!」

「……で、こりゃ俺が献血した時の血液かい」

「あ、だからベリアルのメダルが出来たのか……? ベリアルの遺伝子がついた肉の一部だと上手く出来ないから……的な?」

「つか、俺がデビルスプリンター爆食いしたからだろーな」

 戦犯。

「お前が悪いんじゃねーかよ」

「先輩……」

「仕方ないね、うん」

「何が仕方ねーだよ……(だから悪魔なんだよ……)」

 心の中で慎太郎の地雷を踏んだ文一である。奥に見える扉を見ながら。

「……行くか」

 慎太郎は扉を蹴り飛ばした。

「…………いない?」

 物静かである。用心するために武器を構えるが、静かにである。

『俺のラボに何の用だ』

「……お?」

 文一はゆっくりと振り返りながら武器を構え続けた。

「コイツが古橋か慎太郎……?」

「……変わったな、てめー」

「あ、変わったんだ……めんどくせぇ……つーかお前……勝手に他人の家を改造するとか…………お前、彼氏失格じゃね?」

『俺は古橋であって古橋ではない』

「セレブロか」

 慎太郎は古橋の頭を掴み、おもむろにカド目掛けてぶつけた。

 何度も何度も。殺す気でやった。

「取引……忘れてねぇよな?」

 文一はそう言いながらも義腕を取り外してレイピアを取り出し、足を斬りつけた。

「あの取引さえなければ後ろにゴキャッとやって殺してたところだ」

「…………まぁ、セレブロなら唐揚げにするなりして食べたり斬り殺したりして良いさ。古橋が重傷状態までなら許すぜ」

 文一は話し続けながら古橋に向かいレイピアを突き続けた。

「よっしゃ」

 慎太郎は勢い良く蹴りを放つ。カグラも便乗して頚椎狙いの蹴りを放つ。

 古橋はそれを静かに見た。そして、一言。

『カレカレータ』

 その言葉を聞いていなかったのか、文一は胸元をめがけて突こうとした。

 古橋は消えた。

「なっ……!? 幻影か?」

「ゼットライザー使いやがったな」

「チッ……めんどくせぇ〜なぁ〜…………アイツ、またメダル作って怪獣を召喚する気じゃねぇよな?」

「畜生……!」

 

『Furuhashi Access granted』

 古橋はゼットライザーを起動させた。

『宇宙恐竜』

 かしゃん。

『双頭怪獣』

 かしゃん。

『大魔王獣』

 かしゃん。

『Zet-ton. Pandon. Maga-orochi』

『キエテ・カレカレータ』

 そして、古橋は……セレブロは、ゼッパンドンへと変身した。

 

「……チッ!」

 慎太郎もゼットライザー、いやアバドライザーを起動させる。

「しばらく任せるぞ!」

「……あ、おい……この写真、渡す。もし古橋を元に戻したければの……一応、対策なんだが……」

 手渡す写真には、かつてのフツヌシメンバーが揃った集合写真であった。迫水と奏もいた。

 文一は紗和の作業机に置いてあったのを見つけ、隠し持っていたのだ。

「セレブロから引き抜くために……少しでも自分の記憶を取り戻せば抜けるはず……頼めるか?」

「おう、解った。……やってやる」

 

 ヒーローズゲートをくぐる、その瞬間時間の流れが変化した。

『Shintaro:access granted』

 バッ、と勢いよく手を開けば、アボラス、キングザウルス三世、ヒッポリト星人のメダルがあった。

「未来本当、期待感正論!」

 そう言って、慎太郎はメダルをセットした。

「アボラス! キングザウルス三世! ヒッポリト星人!」

『Abolas』

『King zaurus the third』

『Alien hipporit』

 スライドし、三枚のウルトラメダルをアバドライザーにリードする。

「高鳴れ、ただ生き抜け! この最上行動!!」

 そして慎太郎はアバドライザーのトリガーを押した。

「うぉああああああ!! アバドン!!」

 ウルトラメダルが慎太郎に同化し、慎太郎の体を怪獣に変化させる。

『Bronzolution the third』

 ブロンゾリューション三世のお出ましである! 

 

「ピポポポポポ……ガッガァッ、ギッギィッ……」

「ギシャァアアアッ!」

 大怪獣バトルの始まりである。

「カグラ! 俺たちは市民の非難をさせるぞ……! めんどくせぇけど、俺だってやる時はやるからな」

 そう言いながら文一は市民の非難誘導を始めた。

「了解!」

 カグラの声色は真剣であった。

「頼むぞ……ウルトラマンアバドン……」

 文一はアバドンを見上げながら呟き、約束を守るために息を整えた。

 一瞬だけ、右手をポケットの中に突っ込んだがすぐに出して市民避難を続けた。

「(アバドンが本当にヤバかったら……俺も……《変身》してやる……ッ)」

「ギシャァアアアッ!」

「ピポポポポポ……ガッガァッ、ギッギィッ……」

 蹴り技を放つ両雄。

 ブロンゾリューション三世はドロップキック、対しゼッパンドンは片脚。

 簡単に吹き飛ぶゼッパンドン。

「うぉ……!? 危ねぇなぁ〜……あ、こっちだ……! この方向で走り続けて逃げろ……!」

 真横から吹き飛んだ拍子に建物の一部が瓦礫として落ちてきたがなんとか回避させ、避難を続けた。

「カグラ……そっちの市民避難はどうだ?」

「近隣住民避難完了です」

「なら避難所まで行ってくれないか? アイツがもし避難所に目が入って市民に襲ってきたら危ないからな……俺はここで避難指示をするから頼めるか?」

「了解!」

「……それと……もし俺が姿を見せなかったら……あとは頼む」

 その言葉を最後に文一は避難指示をしながらアバドンの元へ歩み出した。

「……了解」

 文一はアバドンの戦いを見上げていた。あるものを右手に握り締めながら……

「あ、こっちじゃなくてあっちの道を走り続けろ……!」

 避難指示を止めることもなく、見上げ続けていた。

「ピポポポポポ……ガッガァッ、ギッギィッ……!」

「うぉぁっ!? チィ、しちめんどくせぇヤローだな!」

『ゼッパンドン撃炎弾!!』

「ブロンゾリューションストライク!!」

 互いの必殺技がぶち当たる。

『うぉあああああああああ』

「くたばれ死ねさっさと死ねゴミカス地獄堕ちろゴミィイイイイイイイ!!!」

 その鍔迫り合いに勝ったのは。

『ピポポポポポ……ガッガァッ、ギッギィッ……!!』

 ゼッパンドンだった。

 ゼッパンドンは、即座にファイブキングに変身した。

「アバドン……ッ! (クッソ……俺は、どうすれば……ッ)」

 いつもの文一とは正反対に焦る顔が浮かんだ。

 ふと、脳裏に紗和との会話を思い出す。

 

「これで取引は成立した。お願い」

「……あぁ、俺とお前の仲だからな……」

「……最後に、お願いがあるんだ」

「なんだ……?」

「…………セレブロは古橋君の中にいる限り、強さはさらに上回る……だから、古橋君から取り除かない限り……状況は厳しくなる。だから、これは取引ではなくお願いだ。ボクの代わりに戦ってほしい……お願い」

 

 ———ウルトラマンノゾム

 

 文一はカァッと目を見開き、右手に持っていたものを取り出した。炎の形をした指輪であった。その指輪を左手の人差し指に嵌め込み、覚悟を決めた。

「俺の炎とマグマは……決して消えないッ!!」

 そう叫んだ瞬間、文一は炎のような赤い光に包まれた。

「……こりゃキツイな」

 そこにはウルトラマンアバドン ロストワンズウィーピングが倒れていた。

 ゼッパンドンにやられたようだ。

「おっさんウルトラマンはそこで倒れるのか? めんど情けねぇよなぁ……俺の身になってくれよ? めんどくせぇ……」

 どこからかそんな声がした。

「……ほう、よく抜かすなクソガキ」

「俺……これでも9万6000歳だ、アバドンさんよぉ……!」

 そう言った瞬間、ゼッパンドンの背後を誰かが突き刺した。

 その正体は、身体が炎のように赤く染まったレッド族であり、猫耳のような尖った顔、そして右腕は武器となっているレイピア。

 彼の名はウルトラマンノゾム。ウルトラウーマンラピスの仲間であり、彼女の代理としてアバドンに助太刀をしに来たのだ。

「アバドンのおっさん、いつまでやられている気になるんだ? そろそろ立てよ……俺だって本当は正体バラしたくなかったんだよな……めんどくせぇ」

「ヘッ、戯言を……」

 ファイブキングはガンQの目から光線を放った。

 アバドンはそれを弾き飛ばし、首を絞める。

「あ、まだまだ動けんじゃん。さっきまで倒れかけていたのになぁ……」

 そう言いながらもノゾムは腕になっているレイピアで胴体を斬り倒し続けた。レイピアの刃は軽く、すぐに体制を整えることができた。

「……あ、古橋がどこにいるのか分からない限り、下手に攻撃は出来ねぇな……」

「古橋なら……ここだな!」

 ガンQの目玉に手をぶち込むアバドン。それを抑えているのは……ああ、彼か。

 ウルトラマンビータ、そしてウルトラマンヴェラム。

 ビータ曰く、ザギとフェレスは同時に復活した邪神をボコリに行っている模様。

 アバドンは古橋を引っこ抜く。それと同時に、セレブロはファイブキングに寄生した。

「ファイブキングかよぉ……ったく、めんどくせぇからこのまま寝たい気分だ。アバドン……古橋を頼む……写真、見せて……そして……《彼女》に頼む」

 ノゾムはそう言いながらファイブキングに向かってレイピアを向けた。

「……へっ、任せとけ」

 地盤が僅かに浮かび上がる。

「はぁああああああああああ……! アバディウムバ────────────スト!!!!」

「よっ……おっと……え?」

 ファイブキングを相手にしているノゾムはアバドンの方へ顔を向けた。

 ファイブキングのガンQの目は潰れている。遠方より放たれた光線(ダブル・グラビティザギ)の余波でレイキュバスも死んだ。

 実質トライキングと化したファイブキングの関節は既にビータとヴェラムが砕いていて、もはやグロッキーであった。

「…………グロ注意じゃねぇかよこれ……」

 画像とかは無いのでセーフではある。

「あ……おい……アイツが倒れて破壊されたところ……少年院じゃね?」

「いや、違うな。まだ壊れてはいない……流石だぜクロイツェル」

 ギリギリのところで力自慢のクロイツェル(アルファ個体)が抑えているのである。

「……シュァアアッ」

 野太い声がして、思わずファイブキングは揺らいだ。

 そして倒れた先は、ああなんという事だ。某国の領事館だ! 

 なんという不幸な事故なのだろう、とアバドンは嗤うのだった。

「……国際問題にならないよな?」

 ノゾムが謎の不安に満ちていた。

「ならねぇだろーな」

「ふーん……」

 不安になった割には無関心に返答した。

「あ、古橋のヤツ……大丈夫か?」

 ノゾムはチラ見で病院に目を向けていた。

「大丈夫だろ」

 アバドンはファイブキングに馬乗りになった。

『……邪神が今頃街を壊しているはずだ、お前はもう終わりだ!』

「……ヘェ? あれが邪神か? 雑魚にも程があったぜ」

「お、ようザギ」

「ようアバドン」

『なんで破壊神とラフな会話してんだお前は!?』

「決まってんだろ」

 二人は拳を握りしめる。

「「嫁が可愛い同盟だからだよ」」

 無論、出任せである。

「……なんだこの茶番……?」

 ノゾムは空気が読めないウルトラ族である。

「ホラッ! お前もさっさとやってくれや!! 刺せ! 刺せェ──ッ!!」

「へいへい……」

 怠そうにノゾムはそう言ったが、レイピアは普通の剣より軽いからか俊敏良く振り回し続けた。振り回しているがノゾムが狙っているのは胸元であった。

「チッ……ちょこまか動くから刺せねぇ……」

「えいっ!」

 グサッ、という擬音と共に槍が刺さる。

「うぉ……!? ……多少楽になった……♪」

 喜ぶな怠惰マン。

「今だよダーリン! それからそこの二人組!」

 ダークフェレスがフェレスボルグで刺し貫いたのだ! 

「よし、いい子だヴェサ」

「ナイスー!」

『ヤ、ヤメロォ────ッ!!』

 ……最早、何も言うことはあるまい。

「…………お〜らよっ、とな!」

 突く勢いを上げ、胸を大きく貫通させた。

「アバドニックブレイク!」

「はぁあああ……ジャァッ!」

「えいやぁ────っ!!」

『ばかな……ッ!! うぉああああああああああああ!!!!!!』

 壮大な爆発音と共に悲鳴は消え失せた。

「……はぁー……終わったか?」

「……終わったようだぜ」

「……はぁ……古橋はどこだ?」

「んぁ? ふぁふんほっひは(多分こっちだ)

 こいつ、セレブロ食ってやがる。

「お前マジで食うのかよ……」

 ノゾムは本気でドン引きしていた。

「うめえ」

「マジかよ……(それで洗脳されなきゃ良いが……)」

 ノゾムは文一に戻り、古橋の元へ駆け出した。

「……うぅ」

「いた……おい、初対面だが古橋……」

 文一は胸ぐらを掴み強引に立たせた。

「……俺は、なんでここに?」

「セレブロに寄生されていた。そしてお前はお前の恋人を傷つけた……」

 文一の瞳は何故か怒りに満ちていた。

「え、え??? どういうことなんだよ、え??????」

 セレブロに寄生された者は殆ど記憶処理されるのである。

「チッ……お前、紗和に何したのか知ってるか?」

「覚えてないんだ。二ヶ月間くらいの記憶が……ないんだ」

「はぁ〜……気が抜ける……めんどくせぇ〜な〜……」

「おい、しばらくは独房だぞ」

 慎太郎は古橋を持ち上げ、そのまま連行させた。

「安心しろ。紗和も一緒だからな……まぁ、今は病院で寝t」

「古橋君……ッ!!」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

「は?」

「ゲホッゲホッ……! ゲホッ……古橋く、ん……」

 いまだに重傷状態の紗和が現れた。吐血しながらも古橋に駆け寄り続けた。

「…………お前……病院からここまで距離あるぞ……?」

「ゲホッ……ゲホッゲホッ……知ってる……ゲホッ……警察の目を盗んで抜け出すの苦労したんだからね……? ゲホッゲホッ……ッ!」

 地面に血が垂れ落ちていた。それでもなお、古橋に向かって駆け寄り続けた。

「紗和……! ごめんな、紗和……!」

 古橋は紗和に近寄り、抱き締めた。

「ガフッ……お帰り、なさ、い……古橋く、ん……」

 身体中の傷が悪化し吐血をし続けていた。

「…………治ったら……すぐに向か、う……ね……」

 そう言って紗和は地面に倒れた。

「あーあー……気を失ったな。一応言うぞ……お前が紗和を《傷つけた》」

 文一は冷酷にそう言いながら紗和を担いで病院に送り戻しに向かった。

「……そうか、おれが……」

 古橋の目から光が消える。

「あ、でも……紗和からの伝言を貰ったぞ『お帰りなさい。ずっと待ってたよ』……ってな」

「……そう、か」

 古橋は倒れた。

 

 一ヶ月経った。

 もう既に古橋は事情聴取に写っている。また、セレブロは鹵獲されたようである。

 そして紗和は自ら怪盗だと言うことを自白し、治療を全て終え、少年院に送られた。街中のメディアは『怪盗少女逮捕』『怪盗少女は少年院に送られた』などの報道騒ぎが続いていた。

 紗和本人は、少年院で古橋のことを待ち続けていた。だが古橋は成人済みではあるので少年院には来ない、そう思い、会えないことを受け入れられず、死んだように独房で常に静かだった。

「……よう」

 紗和の耳によく聞きなれた声が届いた。

「……え?」

 その声に静かに後ろを振り向いた。

「久しぶりッ」

 痩せこけ、髪の毛からも元気がない古橋がいたのだ。

「……古橋君……?」

 すっかり伸びてしまいロングヘアとなった髪を揺らしながら駆け寄った。

「……ここじゃなくて……普通に刑務所のはずじゃ……」

「ん? ムショなら刑罰無しよ。俺達はどうやら──」

 ばん、と紙を見せてきた。

「精神崩壊みたいな感じで責任能力なしと判断されたそうだ」

「……え? それって無罪ってこと?」

「お前は洗脳状態、俺は寄生済み……だとよ」

「…………そんなこと、警察は信じたの? 普通なら信じられないよね? (というかそもそもボクには窃盗罪があるような……)」

「CETがやってくれたよ」

「———!」

 紗和は声に出さないくらいに驚いた。だが一瞬で笑顔になった。

「……ん?」

「なんでもないよ……♪」

 紗和はそう言ったその背後で少年院の警備員が紗和に荷物を用意しろと命令された。

「……さ、行こか」

 二人は進む。自身の正義のために。

 

 ウルトラマン アバドン Season2

 第一部『シンシャ』~完~

 第二部につづく……。




充電期間に入ります。


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Omnibus
【グロ注意】焼き付く景色は無い目に浮かぶ


【CAUTION】
今回はかなりショッキングな内容となっております。
少しでも不快になった場合、速やかにブラウザバックする事を推奨します。


 バキリ。

 虚空にゲートが浮かぶ。

 日本から3045km離れた国家、中華人民共和国。復興しかけているデカくてアカいガキ共の国だ。

 その上空にある男がいた。

 ウルトラマンアバドンである。

「……」

 アバドンはゲートを開く。

「行ってこい」

 そこから降りてくるのは無数のゼットン軍団。

 アバドンは宇宙恐魔人 ゼットを呼び出したのだ。

「ゼットンたちなら殲滅してくれるだろうよ」

 アバドンは、右目のあった場所がむず痒くなってきた。義眼を外した。すると、そこからどす黒く粘性の高い液体がボトボトと流れてきた。

 それはゼットン達に降り掛かる。

 ゼットン達はどんどん強化され、その力を最大限発揮する。

救救我、是的!! (助けてくれぇえええ!)

我还不想死!!!! (まだ死にたくないよォーッ!!)

我恨它! (嫌だ!)我还不想死! (まだ死にたくない!) 别杀了我! (殺さないでくれ!) 请! (お願いだ!) 别杀了我!! (殺さないでくれ!!)

只有你应该活着.(君だけは生きていてくれ……)

为总书记杀了他! (総書記様の為に奴を殺せ!)

 エトセトラ、エトセトラ。

 口々に喚く中国人を見て、アバドンはゲラゲラ笑った。

 俺の目を抉ったアイツらが悶え苦しんでいる! 

 アバドンは笑いながら思い出していた。

 嫌韓・嫌中へと傾いたあの時の事を。

 自身がここまで歪んだ原因の一つを。

 

 あれは何年前だったか。

 そうだ、あれは約70年近く前だ。

 第二次世界大戦に参加した彼は、確かに戦果を上げていた。

 ジリ貧ではあった。しかし、アバドンは、いや慎太郎は着実に敵兵を殺し続けていた。

 ……そして待っていたのは、終戦。

 互いの痛み分けで終わったが、両者の中にはある懸念が残っていた。

()()()()()()

 その数ヶ月後、アメリカ合衆国は実験出来なかった核兵器を何とかして実験しようと、結局は沖の方で爆発させてしまう。

 そこに巻き込まれた日本人は皆死んでしまった。

 慎太郎は悲しんだ。

 両眼から涙を流した。

 

 慎太郎は、失意のまま町をフラフラと歩いていた。

「……美味しいものが食べたい」

 数ヶ月くらい前までは焼け野原であった日本国は、だがしかし人々の熱意をもって蘇りだしていた。闇市はまだあるが、しかし人々には活気があった。それはまるで不死鳥のようだった。

 慎太郎はそれを見て、感心していた。

 日本人にここまで根性があるとは思っていなかった。

 戦争の終結で消えたはずだったろうに、そう思っていた。

 そうして、慎太郎はひとつ曲がり角を間違えた。

 道を考えていればよかったのやもしれない。いや、そういう運命だったのだろう。

 かくして、慎太郎の不運が始まるのだった。

 

「……うげ」

 酸っぱい匂いがした。漬け込まれたキムチの匂いだ。中国と韓国の匂いだ。溜まりに溜まったストレスの匂いだ。

 慎太郎は足早に抜け出そうとした。

 慎太郎は飛ぼうとした。

 その時、慎太郎は後頭部を何かで殴られた。

 ゴキャッ。

 そんな音がして、慎太郎の意識は刈り取られたのだった。

 

이놈이 일본군 최강의 병사 하나.(コイツが日本軍最強の兵士か)

 うう。

 慎太郎は目を覚ました。

 チョェ……なんだ? ぷももえんぐえげぎおんもえちょっちょっちゃっさっ? 

 韓国語には疎いのだ。

「……! おい、何をする気だ貴様! このっ、外せ!!」

 慎太郎は身をよじらせて逃げようとした。

 力を使えばいいと言うのに。だけれども、何故か慎太郎は動けない。

 慎太郎は気付いた。

 両腕が折れたことに。

「っぐ、ぅ、!! てめぇ──ッ……アガァッ!?」

저항은 무의미하다고 생각 울트라 맨! (抵抗は無駄だと思え、ウルトラマン!)

「何が目的だ!」

我们的目标是杀了你。(お前を殺す事が我々の目標なのだ。) 让我们死吧,奥特曼!(死んでもらおう、ウルトラマン!)

 その手にはスプーンのようなものが握られていた。

 勢いよく突き出される。

 慎太郎は何とかして回避した。

 そのうち、慎太郎の頭はしっかりと掴まれた。

 慎太郎は抵抗しようにもできなかった。念力を組み、何とか吹き飛ばそうとした。しかし。

「ウルトラ念力が使えないっ」

 特殊な結界でも張られているのか、慎太郎はウルトラ念力を使えなかった。

 スプーンのようなものが慎太郎の眼窩に侵入する。

「い゛ぃっ!!!」

 慎太郎の目はカッと開かれた。

 グリグリと視神経をえぐる感覚がして、慎太郎は吐きそうになった。

 何分も苦しめられ、慎太郎は抵抗の意を失った。

 ぐぼっ。

 そんな音と大量の血液とともに、慎太郎の右目は抜き取られた。

 慎太郎は思った。

 まだはめ込めば行けると、そして取り返せると思った。

 それは無駄な思考であった。

 目の前で慎太郎の目玉が喰われた。

 慎太郎は思い出した。

 中国人は『四本足の物は椅子と机以外、二本足なら人間であろうとも食う生命』ということを。

 そして、大日本帝国海軍時代の慎太郎の戦友の娘が、韓国人に嫐られ、殺されてしまったことを。

「あっ……」

 慎太郎は、右の眼窩から血液をどばどばと流しながら折れた腕を伸ばそうとした。

 ふつふつと湧き上がる怒り。

 そして慎太郎の中で、ある等号が成立した。

 

 中国人=忌むべき悪=殺していい

 

 朝鮮人=忌むべき悪=殺していい

 

 日本人=守るべき光=殺してはいけない=保護対象

 

 慎太郎の頭の中に黒が侵食していく。

 身体が熱い。燃えるようだ。

 それは自身に課せられた鎖を容易く引きちぎった。ウルトラ族の王(ウルトラマンキング)がかけた鎖を簡単に引きちぎったのだ。

「う……お……!」

「??」

「殺してやら゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!! このド腐れキチガイ下衆土人共゛め゛がぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!」

 そこに居たのはウルトラマンなんかじゃあない。

 復讐鬼だ。

 友の娘を殺した種族への復讐。

 許せない。

 これは、本人からしたら正当なる反撃である。

 ウルトラマンによく似た悪魔は、まず真っ先に中国人の左腕を引きちぎった。

 ぐちゃぐちゃと音を立て、その悪魔は腕を食った。そして、不味いと言わんばかりに顔に肉塊をぶちまけた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 その悪魔は、次に男の目玉を手で抉ろうとした。

 ぐぢゅっ、という嫌な音が鳴り響く。

 果たして男は目玉を抉られ、首の骨を折られて死んだ。

 逃げ出そうとした女の背中に何度もナイフを突き立てた。

 更に悪魔は空間を歪めた。

 逃げようとした男のまたぐらを噛みちぎって吐き捨てた。

 奇跡的に男性の象徴は無事だった。代わりに、韓国人の脚から先は消えた。

 そしてその脳髄めがけ、鋭くなった舌を刺した。

 こっそりと逃げようとした男の身体をぶん殴る。

 そしてバランスを崩したところに、悪魔は九四式拳銃を放った。

 殺人鬼だ。

 あとには、血の匂いが立ちこめる部屋でしかなかった。

 

 悪魔の右目は無くなった。

 仕方が無いので、平行世界へと飛んだ。

 科学の発展した世界線で、その悪魔は義眼を注文した。

 その義眼はその悪魔専用の物となった。

 

 そうしていく内に、その悪魔は人らしい意識を取り戻した。

 その悪魔(慎太郎)は、静かに佇んでいた。

 義眼を隠すために髪を長く伸ばした。

 そうして、慎太郎は日本贔屓へと変貌した。

 

「キャッハハハハハ!! ゲッハハハハハハハハハハハ!! ああぁ──────懐かしいなぁ──────!!!! ざまあねえぜ劣等民族がよォ──────ッ!!!!」

 アバドンは笑った。

 復興しかけていたハズの国は焼き払われた。

 周りからはアバドンは漆黒の闇の塊にしか見えていない。例え長年連れ添った親友にもだ。

「ゲッハハハハハハハハハハハ!!!!」

 悪魔の哄笑が響き渡った。



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ノベル・コミック・シリアルキラー

 Bloody Heelsについて語ろう

 

1:名もないさっくんファン

 スレ立て失礼致します。佐久間優作先生が新しく手がけた新作にして佐久間優作先生初のライトノベル、Bloody Heelsについて語るスレです。

 

2:名もないさっくんファン

 スレ立て乙

 

3:名もないさっくんファン

 スレ立て乙です~

 

4:名もないさっくんファン

 とりあえず主人公の闇が深すぎるのは佐久間先生の作風よね

 

5:名もないさっくんファン

 なっちゃいなよ系では珍しく王 道 を 征 く作品ですよね

 

6:名もないさっくんファン

 てっきりそういった文学しか書かないと思ってたからぶっくらこいたゾ

 

7:名もないさっくんファン

 >>6 ぶっくらってなんだよ(困惑)

 

8:名もないさっくんファン

 >>6 ぶっくらはぶっくらだゾ

 

9:名もないさっくんファン

 池沼かな? 

 

10:名もないさっくんファン

 やはりヤバい(高評価の嵐)

(書籍化の可能性)濃いすか? 

 

11:名もないさっくんファン

(確率は100%中)110弱……ですかねぇ

 

12:名もないさっくんファン

 ちゃんと%表記にしろ

 

13:名もないさっくんファン

 漫才かな? 

 

14:名もないさっくんファン

 肉体派でしょ

 

15:名もないさっくんファン

 主人公も肉体派なの草

 

16:名もないさっくんファン

 まるで太陽を擬人化したかのようだぁ……(直喩)

 

17:名もないさっくんファン

 ウルトラマンタロウかな? 

 

18:名もないさっくんファン

 ラーでしょ

 

19:名もないさっくんファン

 ラー油? (難視)

 

20:名もないさっくんファン

 ラー油は草

 

21:名もないさっくんファン

 草

 

22:名もないさっくんファン

 草

 

23:名もないさっくんファン

 ラー油なら桃屋の食べるラー油が好きです

 

24:名もないさっくんファン

 油少なめの食べるラー油ダルルォ!? 

 

25:名もないさっくんファン

 油の無い食べるラー油は邪道ってそれ

 

26:名もないさっくんファン

 このやり取りほんけにもあるの笑っちゃうんすよね

 

27:名もないさっくんファン

 サスガダァ……(更新速度)

 

28:名もないさっくんファン

 プリケツダァ……(宇ツ木先生によるキャラデザ)

 

29:名もないさっくんファン

 新作DAAAAAAAAAAAAA!!!! (最新話投下)

 

30:名もないさっくんファン

 >>27-29

 お前らはVA↑KA↓だ

 

31:名もないさっくんファン

 どうしてイレギュラーは発生するんだろう

 

32:名もないさっくんファン

 三段活用で褒めるのやめろ

 

33:名もないさっくんファン

 最新話の戦闘描写細かすぎて草

 

34:名もないさっくんファン

 なんだあの描写!? (驚愕)

 

35:名もないさっくんファン

 読んでる途中で引き込まれた挙句自分が飛んでるような錯覚まで覚えたので自分でも驚いた

 あまりにも細かい上に分かりやすいの天才では? 

 

36:名もないさっくんファン

 現役航空自衛隊パイロットワイ、航空描写のリアルさに目を見開く

 ガチで空を飛んでる感覚になったしマッハで飛ぶ気持ちよさすら感じました(小並感)

 

37:名もないさっくんファン

 特撮ヒーロー見てる感覚だったのが一気に軍事物に変わっ多様に感じた

 ねぇ(高揚)感じちゃう……

 

38:名もないさっくんファン

 多様に感じるのか……(困惑)

 

39:名もないさっくんファン

 多様性でしょ

 

40:名もないさっくんファン

 多様に感じるのは草を禁じ得ない

 

41:名もないさっくんファン

 高揚を多様に感じるな

 

42:名もないさっくんファン

 今まで陸戦で足引っ張っていたカイスくんが空中戦のプロフェッショナルという才能炸裂で凄いなって思った(小並感)

 

43:名もないさっくんファン

 設定上マッハで飛ぶ『空を駆ける龍』を追いかけるためだけに単体かつ生身でマッハ超えてるの草

 ウルトラマンかな? 

 

44:名もないさっくんファン

 ウルトラマンなんでしょ

 

45:名もないさっくんファン

 ウルトラマンフーマなんでしょ

 

46:名もないさっくんファン

 フーマは一年前に降臨した挙句マスコミの取材も二つ返事で受けただろ! いい加減にしろ! 

 

47:名もないさっくんファン

 無愛想な宇宙人かと思ってたXさんがめちゃくちゃ気さくなウルトラマンで草生えた

 あとあの目つきの悪い青い眼のウルトラマンは聖人すぎる、なおガチオタ具合

 

48:名もないさっくんファン

 ウルトラマンフィフティでしょ

 

49:名もないさっくんファン

 名前通りウルトラマンカイスでしょ

 カイスくんは男の娘かわいい(確信)

 

50:名もないさっくんファン

 オーブはクッソ自由でしたね……

 

51:名もないさっくんファン

 なおアバッカス

 

52:名もないさっくんファン

 充分括約してるだろ! いい加減にしろ! 

 

53:名もないさっくんファン

 ラピカスの方が無能なんだよなぁ

 

54:名もないさっくんファン

 ウルトラマン談義で盛り上がるな

 

55:名もないさっくんファン

 相変わらず宇ツ木先生のキャラデザはいいね……

 

 

「……はあ」

 佐久間はパソコンを閉じた。

 スランプなのだ。最近小説投稿サイト『You 小説家になっちゃいなよ』で始めた畑違いのライトノベルが。

 人気ではあるのだが、まだキャラクターたちが自分の思うように動いてくれないのだ。

 見ず知らずの青年からDMで勧められた自己肯定感を上げる方法、ファンスレの覗き。

 それをしてもなお自己肯定感は上がらない。なんせ本スレ民たちは自分の作品の話そっちのけで二転三転脱線する。これならアンチスレ見てた方がマシだ。なんせ自分の事だけ話してるんだから。もっともほとんどが殺人予告まがいだがとまた鬱になる。

 結局のところ彼に泣きつくしかないのだ。

「びりじぃ……」

 

「……スランプか」

 ビリジはジュースを飲みつつそう言った。

 ビリジの前には、まるでキノコでも生えているかのように陰鬱なオーラを放つ佐久間がいる。

「そうなんだよなぁ……」

「……すこし休載宣言したらどうだ?」

 ビリジはそう提案したが、

「まだ13話しか書いてねえよ……」

 そう答えて落ち込む佐久間に、

「充分書いているじゃないか」

 ビリジの言葉が優しく響く。

「えっ」

「俺も執務は忙しいが……休む時は休んでいるぞ。無理はしてなんかない。……その目の下のクマ」

 ……バレた。

「どうせ寝ていないんだろう? バレバレなのだ。エナジードリンクの亡骸が床に転がっていることくらい……」

 迂闊だった。

「け、けどそうしないと」

「佐久間」

 ビリジは佐久間の反論を遮った。

「……楽しむために書いたのだろう? それなのにノルマにしてどうするのだ」

「……ッ!」

「佐久間はよく頑張ってるのだ。この俺が保証する」

 佐久間の目から涙がこぼれ落ちる。

 独りだったから、無理ができた。けれど。

「う……ッ、びりじ……っ……」

 今だけは、無理をやめよう。信じられる友の前なのだから。

 ……しばらくの間、佐久間は泣き続けた。

 ビリジは優しく寄り添っていたという。

 

 一方、イラストレーター兼漫画家の宇ツ木優作はといえば。

「………………………………」

 カラン、と音を立ててまたMONSTER ENERGYと『感情ドリンク』の缶が床に落ちた。

 ここは宇ツ木邸の一室、通称作業部屋だ。

 何人たりとも入れることは無いこの部屋に、宇ツ木は一人缶詰になっている。それは何故か。

「(あまりにも筆が進みすぎている……!)」

 佐久間とは真逆に、筆が進みすぎているのだ。

「(もっとだ、もっと書こう……キリがいいところで終わらせよう……!)」

 宇ツ木は目を血走らせながら筆を滑らせる。さらさらと進むペン。するすると浮かぶ台詞回し。消え失せゆく感情。そして。

「……宇ツ木?」

 ノックの音が、響いた。

 

「いやぁ、ごめんねガロちゃん」

 てへ、と申し訳なさそうに笑う宇ツ木。眼前には呆れたようにため息をつく少女がいる。彼女の名はブラックガロン。円盤生物の一人……正確に言えば円盤生物たちが得た人間体である。

「また魔剤使って……ん? なんだあの原稿の山は」

「今後12話分の書き溜めだよ。一週間に一話ずつ編集部に提出するんだ」

 宇ツ木はそう言って背中を伸ばした。ガチガチに固まりきった筋肉達がゴキゴキと鳴る。

「週刊連載はつらいよ……」

「アシスタントは雇わないのか?」

「公にはしてないけど僕の並行同位体を一人ね……」

 宇ツ木は遠い目をしていた。

「……まあ、女じゃないならいいんだ」

「そっか……あ、そうだ」

「ん?」

「作業終わらせてから本気で描いたんだよ、見てもらいたいな」

 そう言って宇ツ木は作業部屋に消えた。

 数分後、宇ツ木はあるものを取り出した。

「さ、ご覧あれ」

 それを見てブラックガロンは絶句した。

「う、宇ツ……これって……」

「……ガロちゃんだよ。今日は記念日じゃあないか」

「~~~~~~~~っ!!」

 ブラックガロンは宇ツ木に抱きついた。

 宇ツ木は静かに抱き締める。

 ────────その絵画には、ウエディングドレス姿のブラックガロンの人間体の姿が描かれていたのだった。

 

 さて、そのアシスタントとして雇われている睦月にフォーカスを当てるとしようか。

 暗い夜の中を睦月は歩いている。

 己に課したミッションを果たすには、或る金色の生命体に与えられた罪のカウンターが必要不可欠である。それこそが彼の両の(まなこ)なのだ。

 両眼に力を込めると、漆黒の濁りきった瞳がまるでルビーのように赤く染まる。目が熱くなり、相手の罪を見ることが出来るのだ。

 睦月が最近ハマった作品群を借りるならば、『目を光らせる能力(ちから)』と言えばいいだろうか。相手の寿命を見るのは死神の役目。彼は相手の罪を見抜くことができるのだ。

「さぁて……罪人はどこだ……」

 ────────見える。犯した罪の数が見える。

 重罪には厳罰を! 

 そんなスタンスには彼の力はよく合っている。

 そして彼は四次元空間を繋げるブレスレットを右手に填めている。その四次元空間には彼の武器が入っているのだ。

 地の文が長々と説明していたが彼の活躍は見た方が早いだろう。

「(人間に化けようともバレバレなんだよ……! 見つけたぜ大罪人!)」

 犯罪指数で許せるものは49.999。50以上は悪人だと金色の生命体に教えられた。

「(あの特徴からしてドルズ星人かァ? ……多分そうだろな。ドルズ星人ときたら存在自体が最低最悪の宇宙人────────殺しがいがあるな。市井の人々の平穏を乱すような悪の芽は摘み取らねえと)」

 ニヤリと笑った。

 このドルズ星人の犯罪指数は114.514。ブッチギリで重罪人である。

「……」

 辺りを見渡し、睦月はターゲットをロックオンする。

 いかにも善良そうな人間──────ここでは宇ツ木優作(睦月にとってのオリジナル)の事を指す─────を演じるのだ。殺したがる本能を抑える為に。

「……あのう、この辺りの地理に詳しくないんですけど……裏道とか知ってますか……?」

「おお、それなら着いてくるといいぜ」

 睦月は、わざと弱そうな演技をしているだけなのだ。殺すなら裏道で、と決めている。

 ──────裏道に入った。ここなら誰も見ない、と睦月は四次元空間を繋げる。

「……!? 貴様ッ」

「作戦成功ォ……お前は犯罪指数114.514なのさ。死んでもらうぜ!」

「はん! ガキがほざくな! この私の力を思い知るがいい!! 来いメモール!」

 しぃ──────……ん。

「何っ!? こ、来いメモール!!」

 ──────────静寂。

「なぜだぁっ!!」

「そりゃお前──────」

 睦月は歪んだ空間の中、大鎌を取り出した。

 まるでその姿は死神である。

「─────────テメェが罪人だからだよ」

 鎌をふりかざす。

「ひっ、やめ」

「死ねよ」

 まずは左足をザックリとやった。

 吹き飛ぶ左足。緑色の血が鮮やかに流れる。

「いぎぁあああああっ!!!!」

「基地を教えやがれ」

「い、嫌だ!!」

「ほぉン」

 今度はドルズ星人の右足を吹っ飛ばす。

「きいぎぃあああああああっがぁああああああああ」

「これでも?」

「だ、誰が口を割るか!」

 左腕をミンチ肉に変えた。

「ぎぁうああああああいあがぁああああああああああああっ」

「まだか!! サッサと口を割れ!!」

「いぎぁああああっ」

 そして、睦月はドルズ星人の右腕を消し飛ばした。

「───────────────────ッ!!!!!!!!!!!」

 どばどばと血が流れる。

「さっさと口を割りやがれ……」

「──────県──────市────────!!!」

「よし、用済みだ。死ね」

 最後に、ドルズ星人の首をスパンと跳ね飛ばした。

 その死体は苦悶に満ちていた。

「キヒッ」

 睦月は愉悦を覚えた。

「キヒッ、キヒヒ……ギャッハハハハハハハハハハハ!!!!! ザマを見ろ! 僕……あいや、俺の勝ちだァ!!!!! ギャ───────ッハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 四次元空間に哄笑がひびきわたる。

 それは、正義を遂行したという事実からか、それとも殺人で溢れ出た脳内麻薬か。

 どちらにせよ、彼は正義を執行したと思った。



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激ファイト!超人大戦

妄想ウルトラウーマンラピス
妄想ウルトラマンゼロ
妄想ウルトラセブン登場


「お互いに礼!」

『ありがとうございました!!』

 純白の道着に帯を締めた、若き空手キッズたちが立ち上がる。後ろで待機しているおっさん連中も立ち上がった。

「ありがとうございましたー!」

 その中で、一際元気な挨拶をしてくれる少年がいた。名前を成田(なりた)泰心(たいしん)といい、非常に聡い子であった。とてもいい子であり、そして賢かった。彼は、慎太郎を「兄さん」と呼ぶくらいに慕っていた。その一方で、試合では気性が荒くなり、カミソリのような鋭さの蹴り技や、慎太郎から「末脚」と称して教えられたラッシュや720度キックなどの大技も使用する強者でもあった。

「とっとと帰れ、轢かれないようにしろよー」

『はーい!』

 元気だなァ、と慎太郎は苦笑した。

 

 その日も、変な声が上がっていた。キチガイの声であった。

「クァッハハハハ!!」

「キャカカカカカ!!」

「オォン! アォン!!」

 街の中を荒らしながら走る暴走族────いや、()()()。近隣住民からは蛇蝎のごとく嫌われる彼らである。なお、本作では暴走族の事を珍走団若しくは気狂(きちが)いと称する。予め把握頂きたい。

「俺の身体が轟音と風で()い交ぜになって気持ちがいい」

「エンジンをふかした時の爆音がたまらねぇぜ。もう気が狂うほど気持ちええんじゃ」

「あぁ^~はよう風まみれになろうぜ。仲間たちもエンジン啼かせてギアを入れて居る(勧誘)」

「Foo↑↑↑気持ちいぃ~~」

「ちょっと速すぎんよ~(恐慌状態)」

「もっと速度出して速度出してホラ」

「狂うぅ^〜〜(スピード狂)」

 まあ、こんな具合にピーチクパーチクと喚きながら道路を爆走するのが珍走団である。

 前を見ている上でルールを守らず走行するようなクソである。そんな矢先、事故が起きた。

 ────────────────バァン! (大破)

「いってぇ!? おいニャンニャンニャン! (猫かの確認)」

 猫でも踏んだのかと珍走団の一人は確認した。……そこに倒れていたのは猫ではなかった。

「やべぇよ……やべぇよ……人轢いちまった……」

 ────────一人の子供であった。

「うせやろ?」

「逃げなきゃ(使命感)」

「失礼しまーす(強行突破)」

「あっ、おい待てい(出遅れ)……そうだ! じゃあぶち込んでやるぜ(トドメ)」

 ついでと言わんばかりに珍走団の一人は少年を再度撥ねた。

 その後、その子供は近隣住民の通報を受け救急車で搬送。全身打撲、そして左足骨折。意識は昏睡状態のまま戻ってこなかった。

 

 その子供は慎太郎の関係者だった。というのも、その子供は慎太郎の通う道場の道場生だからだ。

泰心(たいしん)くん!!」

 慎太郎は急いで病室に駆けつけた。心電図はまだ動いている。死んではいない……が、轢かれた少年はまだ眠ったままだった。

「なんて事をしやがったあの珍走団……!」

 慎太郎は拳を握りしめた。大切な弟分のような存在なのだ。

 そんな慎太郎の右肩に、誰かが手を置いた。

「……落ち着いておくれ、慎太郎」

「……! 東雲(しののめ)先輩!!」

 東雲(しののめ)(すぐる)。空手歴は慎太郎の二年先輩で、ウルトラマンでもある慎太郎を簡単に叩き臥せる事のできる実力者だ。その人間離れした力と分け隔てなく優しさと勇気を与える姿から、非常に人気のある選手でもある。

「慎太郎、後輩が轢かれて怒るのはわかる。けれど、まだ戦う必要は無い」

「しかしッ」

 東雲は、やんわりと慎太郎を制した。

「泰心くんを信じろ、慎太郎。彼はきっと戻ってきてくれるさ」

 慎太郎は怪訝な顔をしたが、泰心のことを信じようと思ったようだ。

「……押忍、そう言えば朝日先生は?」

「今来てるみたいだね」

 そう言ったそばから現れたのはどこか冴えない青年である。

「「押忍」」

「……泰心くんの容態は?」

 その青年は心配そうに訊いた。

「全身打撲、それから左足骨折みたいです」

 慎太郎はそう答えるとその左目を静かに向けた。

 泰心は目を開けていない。夢の中でも殺されているのではないか、とすら思えてくる。

「……辛いだろうけれど、我慢してくれ慎太郎。今は泰心くんの復帰を祈るんだ」

「……朝日先生」

「祈るんだ慎太郎。祈りの力は強く作用するんだから」

 そう言うと、朝日は慎太郎の方を向いて静かに笑う。

「……彼は、きっと蘇るよ」

 病室には、ウルトラマンゼロとウルトラセブン、そしてウルトラウーマンラピスのソフビ人形が置いてあった。

 

「泰心くんの病室はここであってるよね」

「あ、泰心くんの担任の……矢的先生でしたか」

 泰心のために祈り続けていた慎太郎に、ある男が声をかけた。

 矢的(やまと)(たけし)。既に65歳を迎えているにも関わらず、未だ若々しく、熱心に教鞭を執る男性である。泰心の通う桜ヶ丘中学校の教諭であり、また慎太郎の通う道場の師範のひとりでもある。

「泰心くんの容態は?」

「まだ起きませんね。さっきからうなされてます。朝日先生と一緒に祈っていたんですが……」

「朝日……朝日ってことは、朝日(あさひ)勝人(かつと)くんのことかな」

「……そうですね」

 慎太郎は目を伏せる。

「俺に力があれば」

「そんなに悲観する必要は無い」

 慎太郎は顔を上げた。

「彼を守れなかったのは私も辛い。だけど、君は祈ることができる。私も祈るよ、彼の為に。それが教師に、そして師範としてできる事だ」

「……アンタは」

「ン?」

「……いや、何でもねぇっす。良い人だなって」

「……失敗してきたからね、何度も」

「…………そッスか」

 二人は、静かに祈った。

 慎太郎は心を燃やした。

 

 翌日。

「暴走族の調査ァ?」

 開口一番がそれだ。

 肇は怪訝そうに慎太郎を見た。

「慎太郎お前、何言ってんだよ。そこは警察のお仕事だろう?」

「違ぇんだよ話が! オレの後輩が轢かれたんだ!!」

「ああ、そういう事ね……OK、わかった。独自任務だ、慎太郎! 警察と協力し、暴走族を調査せよ!!」

「了解!!」

 流石は肇である。竹馬の友、とはこの事だ。

 慎太郎は急いで走り─────

「あいてっ」

 ──────勢いよく壁に激突した。

「はやりすぎんなよー」

 

「手がかりを掴んで、そして珍走団を血祭りにあげてやる」

 慎太郎は恨み言を吐いた。

 いくらウルトラマンであっても、こういった捜査は苦手なのだ。

 故にできるのは聞き込みくらいだ。

 警察には聞き込みは任せてくれと言ったがどうなるやら、と思ったのは杞憂らしく。

 出るわ出るわ目撃情報、出るわ出るわ罵詈雑言。

 情報は以下の通りだ。

 

 ・あの暴走族もとい珍走団は『羅臂雛羅叢嚟(ラピスラズリ)』と名乗っている

 ・普段から爆音で暴走していた

 ・轢かれかけた住民多数、死にかけた住民多数

 ・違法改造したバイクが特徴

 ・全員『瑁屨』と書かれた面頰を付けているらしい

 ・ほとんど語録でしか話していないクッソ汚い集団

 

「人間の屑がこの野郎……」

 慎太郎は拳を握りしめた。必ず、絶対に、何があっても、弟分を撥ねた極悪非道の珍走団を殺さねばと思った。

「……ご協力感謝致します」

 慎太郎は深々と頭を下げた。警察には聞き込みを任されていたため、そういった事を伝える必要もある。

「あー、悪いね。最後にもひとついいかい?」

 腰の曲がった老人が慎太郎に声をかけた。

「はい」

「……彼らは、恨みを買っている。災難が降りかかるのは、多分近いと思うぞよ……」

「……ありがとうございます。警察に連絡をしておきます」

 警察の方に聞き込みの情報を渡し、慎太郎は捜査に戻った。

 有力な情報は、今度は得られなかった。

 

 その晩のことだった。

 泰心はうなされていた。夢の中ですら殺されていた。あまりにも殺されていたので、泰心はどんどん恨みを膨らませていた。

 それは巨大なマイナスエネルギーであった。宇宙に届くくらい、巨大で純粋で、そしてどす黒いマイナスエネルギーだった。

『苦しい……苦しいよ……』

 泰心はそう思っていた。それは少しずつ歪んでいった。いい子である事へのフラストレーションと、暴走族、否! あの気狂いどもへの恨み!! それこそがマイナスエネルギーの根源である! 

 夢の中ではウルトラマンゼロとウルトラセブン、ウルトラウーマンラピス、ウルトラマンヴェラムそしてウルトラマンアバドンが一緒に闘っていた。泰心を守る為に。だけど、どこかで歪みが生まれて、泰心は殺される。その度に、夢の中のアバドンも苦しみと悲しみに暮れてしまう。

 自身が兄と慕っている青年、慎太郎は自分の事を思って捜査に走っている。泰心はそれが嫌だった。少しでも慎太郎を助けたかった。無力だった自分を呪った。泰心は思った。奴らが憎い、憎い憎い憎い憎い憎い……!! 

 泰心は恨みを抱く。憎悪を抱く。彼の脳内に、とあるワードが現れ、変換されていくのだ。

 

 korositeyaru

 変換

 ころしてやる

 変換

 頃し手遣る

 変換、コレジャナイ

 頃してやる

 変換、コレジャナイ

 殺してやる

 あった

 あったたたたあったあたたあたたああああああattaaaatttttttttttttaaaaaaaaa

 

 あった

 

 殺す

 

 絶対に

 

『殺してやる』

 

 その時、不思議なことが起こった。

 泰心が放つマイナスエネルギーが3つに分かれ、ウルトラウーマンラピス、ウルトラセブン、そしてウルトラマンゼロの人形に乗り移ったのだ! 

『お願い、ウルトラセブン! ウルトラマンゼロ! ウルトラウーマンラピス! あの悪い暴走族を、やっつけてよ!!』

 それらは闇に包まれ、街の中で巨大化する。

「ヤァー!」

「デュワッ!」

「デェリャッ!」

 ────────────闇に染まった、三人のウルトラ戦士が現れた。

 

 その頃、マイナスエネルギーを察知した者が三人いた。

「……()()()に似ている」

 矢的猛は空を見上げ、

「嫌な予感がするッ」

 朝日勝人は拳を握り、

「───────まさか、やっちまったのか泰心!!」

 慎太郎は基地から飛び出そうとして、

「あいてっ」

「お前どうした慎太郎」

 ごぉん。

 壁にぶつかった。本日二度目。

 

 妄想ウルトラセブンたちは、暴走族たちを目敏く探していたりその時、目の前で自身の仇とも言えるかの気狂いに轢かれそうになっている子供を見つけた。妄想ウルトラセブンは、子供を屋上に置くと、サイズを変えて珍走団の気狂いを蹴り殺した。妄想ウルトラマンゼロは、親父同様同じサイズになり追いかけ回し、フェイクゼロスラッガーで首を撥ねた。妄想ウルトラウーマンラピスも親父と兄同様人のサイズになり、虚空から日本刀にも似た剣を生成して斬り殺す。辺り一面は血の海だった。

「お兄さんゆるして! お兄さんゆるして!」

「壊れちゃぁ^~う(絶命)」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! 待って! 助けて! 待って下さい! お願いします! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!! (発狂)」

「やべぇよ……やべぇよ……朝飯食ったから……(恐慌)」

「ああ逃れられない!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! (発狂)」

 死にかけていた子供を助けただけで、あとは恨みばかり。泰心の持っていた優しさはとうに失せ、今は紅き死刑執行人、蒼き粛清者、朱と碧の悪魔へと変貌している。

 妄想セブンたちは飛び上がり、奴らの家族を殺しに行った。

 泰心は思っていた。暴走族の家族も悪人だと。心の底から、そう信じていた。

 

 そこに、三人は集まった。

「匂いからしてウルトラ戦士じゃあない。軟質ポリ塩化ビニルと血の匂い……嫌な匂いだ」

 慎太郎は鼻をつまんだ。

「人一倍鼻が効くからな、お前は」

 矢的は苦笑した。

「……まあ、いい。行きましょう、朝日先生、矢的先生!」

 諸星慎太郎はそう叫び、アバドスティックを取り出した。

「よぉーしやるぞ……! 泰心くん、僕たちが助けるから!」

 朝日勝人はピカリブラッシャーを取り出した。

「往くぞッ」

 矢的猛はブライトスティックを取り出した。

「ウォオオオアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!! アバドンッ!!!!!!」

「ゼァーッス!」

「エイッティ!」

 三つの光が、巨大なる戦士に変貌する。

 

 ウルトラマン80、ウルトラマンゼアス、そして、ウルトラマンアバドン。

 3人の戦士が現れた。

 

「……!!」

 ウルトラマンアバドンたちの登場に、街の人々は驚いた。CETは急行中である。

「驚いたな、こんなにもマイナスエネルギーが強いとは……」

 ウルトラマン80は妄想ウルトラセブン達を見た。拳を握りしめ、構えた。

「……やるしかねえんだよなぁ!!」

 アバドンは構えた。

「…………助けるから! 待っててくれ!!」

 ゼアスは、意を決して構えた。

「デュアァアアアアアッ!!」

「デェエエエエリャァッ!!」

「シャァァアアアアアッ!!」

 妄想セブンたちは、アバドンたちに襲いかかった。

 

 ウルトラマン80は、妄想ウルトラセブンと闘った。

「(昔闘った個体よりも、格段に強化されている!)」

 80は悟った。この妄想ウルトラセブンは、顕現させた泰心の怨念だけではなく、泰心の戦闘センスをもコピーしているのだと。

 妄想セブンは、かつては使えなかったアイスラッガーを使用した。頭部から外されたアイスラッガーは、80の首を狙わんとしていた。

 ひゅう、と風を斬り、アイスラッガーが唸る。80はアクロバティックに回避すると、それを蹴りで叩き落とした。

 妄想セブンの頭部にアイスラッガーが装着され、再度構える。

 妄想セブンは飛び上がる。ウルトラマン80も飛び上がる。そして、

「タァッ!!」

「デュワッ!」

 互いの飛び蹴りが交差した。

 爆発が起こった。

 

 その爆発の中を突っ切る者がいた。

 妄想ウルトラウーマンラピスとウルトラマンゼアスだ。

 まるでウルトラマンシャドーとの初戦のように組みあい、しかしゼアスはその時よりも強くなっているため近距離での膝蹴りで対応する。

 妄想ラピスは腹を抑えた。ゼアスは距離を置き、構える。

 蹴り技を放つと、妄想ラピスはそれに対応した。

 前蹴り。火花。イーブン。

 下段回し蹴り。火花。イーブン。

 横蹴り。火花。イーブン。

 後ろ回し蹴り。火花。イーブン。

 膝蹴り。火花。イーブン。

 中段回し蹴り。火花。イーブン。

 下段回し蹴り。火花。手応えアリ。

 中段回し蹴り。火花。イーブン。

 前蹴り。火花。

 ──────当たった。

 前蹴りが妄想ラピスを大きく吹き飛ばす。

 妄想ラピスは立ち上がり、フェイクスターライト光線を放った。

 ゼアスはそれを回避した。煙が轟々と立ち込めた。

 

 その煙を突っ切るように、妄想ゼロが吹き飛んできた。

 その先にはウルトラマンアバドンがいた。

 アバドンは拳を握りしめ、妄想ゼロの顔面をぶっ叩いた。さらに、目にも止まらぬ速度で貫手を浴びせる。

 妄想ゼロは、泰心が最も得意とする大技、720度キックを放った。

 何度も組手で見ていたそれは、しかしアバドンの怒りを買うには充分であった。

 アバドンはそれを受け流し、そして足を掴んで一本背負い。そのまま、馬乗りになってマウントパンチである。

 その時、80は叫んだ。

「妄想セブンたちは泰心くんの怨念で強くなる! その為にも病院に近づかせないようにしてくれ、アバドン!!」

「……チィ! めんどっちぃな!!」

 アバドンは妄想ゼロを空に投げ飛ばすと、イマージュメルバを召喚する。

「イマァアアアアアアジュ!!」

 イマージュメルバの風が、妄想ゼロの体を痛めつける。

「アバドン! 地上を見てくれ!!」

 ゼアスが叫ぶ。アバドンは地上を見た。

 そこには、マイナスエネルギーで生まれた『カゲ』たちがあった。ハゲじゃない、カゲだ。

「なんってこったい!!」

 カゲたちは見境なく通行人を襲う。

「やめろ泰心!! お前は空手家としての心を忘れちまったのか!!」

 アバドンは叫んだ。

 妄想ゼロは、いや泰心はこう言った。

「憎い、憎い! 悪を倒す力がいるんだよ兄さん! 僕は、悪を打ちのめしたい!」

「なら善行で悪を倒せ!!」

「それよりも手っ取り早いじゃないか! 力こそ正義だ! 弱さなんて……!!」

 がっぷり四つに組む二人。

 精神世界では、目が赤くなった泰心と、同じく目を赤く光らせた慎太郎が組み合っていた。

「お前は全国のウルトラマンを信じる少年少女の気持ちを踏みにじる気かァーッ」

「兄さんはわかってない!! ウルトラマンは平和の守り神、暴走族みたいな悪を殺してくれるんだよ!!」

「可哀想な奴だ! ウルトラマンは決して神じゃあないし、俺はそのために教えたんじゃない!!」

 急に土砂降りの雨が降り注いだ。互いの精神がぶつかり合うことで、悲しみの雨が降り注いできたのだ! 

「……兄さんは馬鹿だ。僕は、悪を打ちのめすためにヒーローになってやる!!」

「バカはお前じゃぁああああ!!」

 妄想ゼロの顔面に、アバドンは720度キックをぶちかました。

 カゲを潰しながら、妄想ゼロは地に倒れ伏す。

「目を覚ませ!!」

 アバドンは近づいた。その首を、

「デェリャッ!!」

 ──────────フェイクゼロスラッガーが斬り裂いた。

 

 アバドンの首はころりと落ちた。

 

 そしてその首は、

「おっと危ない」

()()()()()()()()()()()()()()ばかりか、

「よいしょっと」

()()()()()()()()()()()()()ではないか。

 

 とんでもないスプラッタである。首がごろりと落ちる、それをキャッチしてまたくっつける。

 やはり化け物である。ウルトラマンの皮を被った化け物だ。

「ふぅ────────……俺はこの程度じゃあ死なないぜ泰心、覚えておきなぁ!!」

 妄想ウルトラマンゼロはぞっとして後ずさった。もちろん、病院で眠っているはずの泰心もゾッとしていたと思われる。

「地上の方が気になんだよなぁ……」

 アバドンは視線を地上にやって、その後思考を妄想ゼロたちに向けた。

 地上には、東雲優がスタンバイしていたのだ。

 アバドンは悟った。東雲ならカゲを殺せると。

「……ジュアッ」

 アバドンは構えた。80とゼアスも構える。妄想セブンたちも構える。そして、六つの巨体が再度鍔迫り合うっ!! 

 

 その頃、地上では。

「シュッ、じゃぁ!」

 東雲によって、カゲの群れを倒す殺戮ショー、東雲無双が開催されていた。それはまさしく武人であり、そして武神であった。

 カゲの腹部を拳が貫いたと思えば、頭部に蹴りを放つや否や首から上が霧散する。蹴った点は常に爆発を起こし、さらに蹴りの風圧で辺りのカゲが斬られる始末。

 人の身でありながら、人智を超えた戦士。

 その実力があるからこそ、本気になったウルトラマンすら下すことが出来るのである。

「シュッ!」

 またひとつ、カゲが死んだ。

 

「デェリャッ!!」

 互いの蹴りが交錯する。

「チィッ! こいつを外せッ!」

「これも修行のうちだ! 我慢しろ!」

 アバドンと妄想ウルトラマンゼロの闘い……の、ハズなのだが。

 どっからどう見ても、K76星での組手にしか見えない。

 なんせアバドン謹製のテクターギアにより妄想ゼロは動きを制限されている。また、先程のアバドンの攻撃により泰心の本音が外に出やすくなったためか、妄想ゼロは先程よりも饒舌に喋っているのだ。

「クッソォ!」

 投げられて悶えていた妄想ゼロは、すぐに立ち上がると、アバドンを睨んだ。

「デェリャッ!」

「シュッ」

 前蹴り一閃。

 妄想ゼロが吹き飛ばされた。

 

 妄想ウルトラウーマンラピスは先程よりも強い力を振るい、ウルトラマンゼアスを襲撃する。眼突き、金的、裸絞(チョーク・スリーパー・ホールド)。どれもこれも高練度の素晴らしい技だ。しかし。

「ゼアッ!」

()()()()()()()()()()()()()()()()

 妄想ラピスは狼狽した。ゼアスの懐に入ろうと、その小さな体を縮ませるように近付いた。その速度はまるでロケットのようで、しかしゼアスにとっては児戯にも劣る速度であった。

「ゼアッ」

 軽く飛んで、そして後頭部目掛けてキック一閃。

 妄想ラピスが大きく吹き飛んだ。

 

 妄想セブンは80と死闘を繰り広げていた。

 80は妄想セブンの攻撃を回避し、的確に鋭い技を当てていく。一方妄想セブンは、一撃必殺を狙う為かそれとも狼狽か、大振りになっていた。

 こんな妄想セブンは80の敵ではない。

 80は、ウルトラ400文キックを放ち、直後にダイナマイトボールを放つ。全ての技がクリーンヒットし、妄想セブンは吹き飛ばされた。

 その先には───────

「ぐっ」

「シュゥ」

「デュゥッ!?」

 ───────妄想ゼロと妄想ラピスがいた。

「おイタが過ぎたようだな泰心。反省しろ──────!!」

「……もう一度、やり直そう。優しさを忘れぬようにね」

「誰だって、何度でもやり直せるんだよ泰心くん。優しい君になら、わかるはずさ」

 一同は光線をチャージした。

 妄想ゼロは慌ててフェイクワイドゼロショットを、妄想ラピスはフェイクスターライト光線を、妄想セブンはフェイクワイドショットをチャージした。

「アァアアアアアアアアアバディウム光線!!!!!!!」

「─────ぜぁっ!!」

「ショワッ!!」

 互いの光線がぶち当たる。それらは暫く撃ち合いになり、しかし年の功か、それとも思いの強さなのか定かではないが、アバドン達の光線が打ち勝った。

 妄想セブンたちは苦しんだ。

「泰心よく聞けェ!!」

 アバドンは光線を打ちながらこう言い放った。

「お前は良い奴だ! 俺が保証する!! だから─────ッ!!」

 息を吸った。

「もう二度と、心配かけさせんじゃねぇ───────────────ッ!!!!!」

「────兄、さ」

 妄想セブンたちは、消失した。

 

 一週間が経過した。

 泰心は超人的な回復力を発揮し、今はリハビリに励んでいる。少し歩き方が覚束無いが、あと一週間もすれば元通りだろう。

 慎太郎は二日に一度面会することにしていた。しかし、泰心は明らかにアタリがきつくなっている。取り繕ってはいるが、慎太郎も凹んでいるわけで。

「あああああああ泰心に嫌われちまったあああ……」

「ははっ、本当に信頼した人にはああいう態度とるらしいね泰心くん」

「いや、だとしても……」

「どこか吹っ切れたんじゃあないかな、泰心くんは……」

 朝日はそう言って笑った。

 その後、暴走族の家族は()()()()()()()()()()という。

 それがまた別の騒動を引き起こすのだが、それは別の機会に。

 

 その頃、泰心が放った強力すぎるマイナスエネルギーは宇宙を漂っていた。

 虚無の宇宙空間が割れる。

 そこに現れたのは、金と銀の巨人。

「ここがマイナスエネルギーが大量に発見された時空かァ?」

 銀色の巨人は、スラッガーを手で撫でた。

「ああ! 間違いねぇ、ここにめっっっちゃつえぇ奴が居る!」

 そして金色の巨人は、まだ見ぬ強者に目を輝かせていた。

 ─────新たな事件の始まりであった。



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アブソリュート・メメントス&不死身のダークキラー編
戦士降臨


アブソリュートメメントス
ダークキラー・ザ・アンダイング(不死身のダークキラー)
愛憎戦士ケィアン(ナミダ/ベノム)
結合の怪物
登場


「がっは!?」

 高さが約6kmほどある岩盤に、何かが打ち付けられる音がした。

 赤と青、そして銀のライン。ニュージェネレーション・ウルトラマンたちを率いる我らの兄貴分、ウルトラマンゼロだ。

 そんなゼロは、最初からピンチである。

 無理もない。

 目の前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。まるでゴールドシップがトーセンジョーダンを見つけた瞬間に蹴りに行くように、そのウルトラマンはゼロを見つけた瞬間に殺しにかかる。ありとあらゆる手段で。

 そのウルトラマンの名は、ウルトラマンアバドン。ウルトラマンベリアルの実弟であり、ウルトラマンゼロひいてはその家族を毛嫌いしているきちがいである。

 今回は撲殺を選択したらしい。

 アバドンは右眼が見えない。代わりに、嗅覚と聴覚、そして味覚が優れている。

 喉も強い。かつて人間に化け、コロシアイ学園生活(ダンガンロンパの世界の生活)をしていた時は『超高校級の歌い手』として一世を風靡したくらいには。

 そんな彼は、格闘能力だけでゼロを圧倒している。ありとあらゆる平行世界に飛び、ありとあらゆる格闘技や武道、そして特徴的な『戦いの術』を白帯(素人)から始め、黒帯(達人)になるまでやり込む。故に彼は強い。

 ステゴロだけでいくのならば、ウルトラマンレオすらも倒すことは出来るだろう。

 彼の動きには無駄がない。

 空手道をベースに、様々な武道や格闘技を織り交ぜた、いわば一枚の流麗なる織物のような戦闘スタイルと言ってもいい────いや、しかしだ。それでもなお彼は残虐なる悪魔だ。タガが外れると───────

「ぐっ、がはっ」

「ヒャァアッハハハハハハハハハハハ!!」

 ───────────こうなる。

 秒間6000発。まるでマシンガンが如く、炎を纏った重い拳が打ち込まれる。鍛え上げた腹筋に全ての拳が吸い込まれ、ゼロは苦悶の表情を浮かべた。

 ゼロは、脚にエネルギーを貯めてアバドンの顔面を蹴り抜いた。その足は燃えていた。ウルトラマンレオ直伝、名付けて「ウルトラゼロキック」! 

 アバドンの怒涛のラッシュが、ほんの1秒にも満たない間だが止まった。

 ゼロはさっとエスケープすると、アバドンの背後に周り、殴り掛かる。形勢逆転。

 何とか回転し、背後からの攻撃を受けずに済んだアバドン。しかし先程とは逆に、無数の拳が打ち込まれてしまう。

 だがアバドンの顔色は変わらない。むしろ笑っているようにも見える。マゾヒストではない。ただ痛覚がないだけである。

「この程度、痛くも痒くもない」

 そう言い放つと、アバドンは拳を手で止めた。ゼロは驚いた。あの速度を止めるなど、普通なら出来ないと。

 だが、アバドンは()()だ。本来ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という制限が着くはずである。()()()()()()()()()()()ともいえる。それのなっていない製作者は叩かれる、というか叩かれて当然である。

 しかし、だ。

 アバドンはそれらを真っ向から打ち破る。正当な努力の賜物として、そのチートじみた力を行使する。さも当然のように、アバドンは血のにじむような努力をして得た戦闘術(作者の気まぐれで出来たメアリー・スー)を行使するのだ。

 カラータイマーが鳴り響くゼロ。腹の音が鳴り響くアバドン。互いに限界は近い。

「フゥーッ、フゥーッ、……!」

 息を荒らげるゼロ。

「コォオオオオオオオオオッ……()ッッ」

 空手道特有の呼吸法、息吹(いぶき)で再度精神を練り上げるアバドン。

 巨体同士が交錯する。そして、勝ったのは……。

「……テメーが勝とうなんざ、1145141919810年早いんだよ」

 アバドンだった。

 

 地面に足だけ出して、ゼロは埋まっている。

「よう、まーた犬神家になってんぜゼロちゃんよォ」

 軽率そうな声がした。その男は頭を掻き上げ、ぼうと炎を揺らめかせた。

「〜〜〜〜……」

「あぁ? なんて??」

 炎の男はゼロの足を掴んで引っ張りあげた。

「…………ぁい!」

「あんだってー?」

 腰の辺りが見えた。

「……じゃぁい!!」

「あんだーてー?」

 腹の辺りまで見えてきた。

「……んじゃあい!!!」

Undertale(アンダーテール)??」

 そろそろだな、と炎の男はスパートをかけた。

 

「───────今度こそ俺が勝つんじゃぁあい!!!!」

 

「うおっうるせぇな!?」

 半べそをかきながら、ゼロが収穫できた。まるで根菜のようにすぽっと抜けたと、酒の席で炎の男はアバドンの人間体こと慎太郎に語ったという。

「チッッックショォ────!! なんなんだよあのオッサンはよォ!! 本気で殺しに来てるかと思えば中途半端に生かしてるし!! なんなんだよあのオッサン!!!!」

「そらゼロちゃんの可能性に期待してんだろーよ」

「ンだとグレンもう一回言ってみろ!! ァ゛あ゛!?」

「おぉっと怖い怖い」

 炎の男、あらためグレンファイヤーはわざとらしく肩をすくめた。

「だいいちッッ!!! なんなんだよ畜生!! ガキの相手するみてぇにしやがって!!」

 それはゼロちゃんがガキだからじゃないのー? とは言わなかった。グレンファイヤーは察しのいい男なのだ。いい男は、場をわきまえるものだ。そう言って、酒の席でグレンは笑っていた。なお慎太郎は大爆笑していた模様。

『そろそろ帰るぞグレン、ゼロの回収は済ませたか?』

 堅物そうな機械音がした。

「うるせぇぞ焼き鳥、もう回収済だっつの」

『焼き鳥ではない! ジャンボットだ!』

「喧嘩なんておふたりとも、カルシウム足りてます?」

『……理解不能。仲はいいのになんでこんな犬猿の仲に見えるのだろうか』

「『仲良くなんか(ない/ねぇよ)!!』」

『ツンデレ乙、とでも言っておくよ兄さん、あとグレン』

「俺はついでかぁ? なあナインの坊主よぉ、俺はついでかぁ??」

『しつこい』

「ハハハッ、執拗い男は嫌われますよグレン」

「やかましーぞミラちゃん!」

 コントを繰り広げる五バカ……いや、失敬、ウルティメイトフォースゼロ。こんな男子高校生のような奴らではあるが、一応彼らも防衛隊なのである。

 その中で、真っ先にグレンファイヤーがなにかに気づいた。

「っておい! なんか来るぞ!」

 マグマ溜りを刺激し、まるで間欠泉のようにマグマを噴射させる。

「へっへーっ! マグマで足止め大作戦だ! 時間稼ぎたのむぜ!」

 グレンの合図に合わせ、ミラーナイトが動く。

「分かりましたよ! ディフェンスミラーッ!」

 マグマ溜りを突き破り、グレンの気づいた何かから放たれたエネルギー弾がディフェンスミラーに衝突する。それは光のような性質であった。鏡に当たれば反射する。

「合わせろナイン!」

「ああ、わかったよ兄さん!」

 そして鋼鉄の兄弟が放つは、

「「ダブル・ジャンナックル!!」」

 絆の鉄拳であった。

 圧倒的速度で目標を捉え、まるで追尾式のミサイルのように追い続ける。やがて目標は腹と背中をプレスされ、ジャンナックルが戻ってきた瞬間、青と赤の残像が走る。

「エメリウムスラッシュ! ワイドゼロショットォ!」

 ゼロは、二体の目標を補足していた。牽制とはいえ、幾度となく怪獣たちを葬った技である。初登場から何年も経過し、洗練されたそれは目標を補足し撃ち抜いた。

「ほぉう、流石だウルトラマンゼロ」

 直後、ゼロが消えた。

 何キロメートルも先の岩盤に蹴り飛ばされていたのだ。

「がはっ」

「しかし不意討ちには弱いか……やはり、まだ甘いのだな」

 その鈍い銀色の閃光はゼロの首を締め、落とす。

 最後にゼロが見たのは、自分によく似た銀色の闇の顔とそして、

「……っ、アブソ、リュー……」

 金色の巨人であった。

 

「……貴様。そこまではやるなと何度言えば」

 ゼロは意識を取り戻した。そこにはなにやら弄られ顔を赤くしながら正座をする銀色の巨人が。

「てめ……!」

「安静にしろ……先程のアバドン戦を見ていたが、やはりダメージが深い。戦闘は別の場所で行うといい……」

「その間に、破壊……ッ! いてぇ……」

「早く治す為に私の拠点に連れていくんじゃあないか。ほら、私に任せたまえ。ベストコンディションにまでしてやる」

 金色の巨人は、なにかの空間を生成し、有無を言わさずに隔離した。

 

 所変わって、地球。

『救済完了……』

 愛憎戦士 ケィアンが丁度怪獣を退治した時であった。

「あおおおおおっ!!! すげえ!!」「やりますねぇ!」「かっこいいなぁ」「ヒンッッ顔がいいかっこいいむりしゅき」

 地上からは、その熱い戦いに惚れ込んだファン達の歓声が上がっていた。ケィアンはそれの方に向くと、

『なんで逃げなかった』

 そう言った。

「ケィアンさんの戦いを間近で……!」

『馬鹿もん!!』

 一喝。

『逃げればよかったんだよお前らは』

 途端に静まりかえる。そのとき、一人の民衆があるものを見つけた。

「ッ! 空! 空を!!」

 ケィアンは空を見た。

 一瞬見えるは金色のなにか、そして───────────────もうもうと立ち込める土煙の中を突っ切って、巨体が二つ飛んできた。

 

 金色の巨人が、ケィアンを吹き飛ばしていたのだった。

「……ほう、まだ生きているな? さすがは愛憎戦士! そう来なくては面白くない……しかし、君に心はあるかい?」

『てめぇ、何しやがる!』

 見れば、金色の巨人の手にはなにかのエネルギー光球が生成されている。

「君に心があるかのテストだ。……ディストラクション」

『やめろぉっ!!』

 その光球を体で受け止め、一同を守るように立ち塞がるケィアン。しかし、守り切れるはずもない。光球が民衆に近付く。

『しまっ……!』

 刹那、翡翠色の障壁が生み出され、光球は弾かれた。

「……鉱石戦闘術・堅牢の障壁。守りは任せろ、佐久間」

 さらに遅れてきた光球が近付く、その瞬間。

 一陣の風が吹き、光球を破壊した。

「避難はさせておくのだ。存分に暴れて来い、佐久間!」

『ジェード、ビリジ……!!』

 ケィアンはジェードの姿を見て立ち上がり、金色の巨人を見る。

 

「う゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!! か゛ん゛ど゛う゛し゛た゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!! ぼ゛か゛ぁ゛ア゛ツ゛い゛友゛情゛が゛大゛好゛き゛な゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!! 身゛を゛呈゛し゛て゛守゛る゛姿゛も゛か゛っ゛こ゛い゛い゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!!」

 

 ガッッッツリ号泣していた。

 それは、まるで熱い格闘技を見た観客のようだった。

『……は?』

「ふぅー……感情が熱くなりすぎた。しかしいいアツさだ、君達は……! こっちも本気で行かせてもらおうか!」

 金色の巨人は前蹴りを放つ。ケィアンはそれを捌くと、下段回し蹴りを放った。

『名前くらい名乗れ!!』

「名前か……私は究極生命体 アブソリューティアンの拳士! アブソリュート・メメントスだ」

『メントス?』

「メメントスだ」

『……OK、メメントス。再開と行こうぜ!』

 ケィアンが走り出した瞬間、ケィアンの意識は暗転する。

 そこに居たのは、二人の人間が合わさったような、どことなく嫌悪感を抱くような──────

「……妖怪?」

『ッ、シオ……り……』

 

 佐久間優作は夢を見た。

 奪い取られた彼女、シオリと添い遂げる夢だった。

 笑顔で話しながら、ゆっくり暮らす。

 子供に囲まれながら、慎ましく暮らす。

 そんな、幸せな夢。

 それを、あの女が壊した。

 ふつふつと怒りが込み上がる。

 胸中に湧くはどす黒く熱いコールタール。

 呪いの力が、復讐の力が、佐久間の中に溜まる。

 瞬間、なにか()が外れた気がした。

 

 ケィアンは倒れる寸前で地面を踏み、妖怪を睨みつけた。

「アハ「なんで殺し「助「苦しみたくない」けて」たの?」ハハハハ「シオリは私の「ごめんなさい優作くん」なのよ」ハ「奪い返さなかった君が悪い」ハハ「ねえ」ハ」

 妖怪の腹を、ケィアンは殴り抜く。その時にメメントスは気付いた。

「その足……いや、その姿。新たな境地に達したか」

『……力が溢れてくる』

 ケィアンはその妖怪を、結合の怪物を睨みつけた。

 結合の怪物は果敢に立ち向かう。しかし、前蹴りを受け流された直後に勢いよくはっ倒された。

『……』

 かつて奪った側の女を想起させる左側を、ケィアンは踏みにじる。げしげし、という軽い音ではない。ぐちゃぐちゃという生々しい音だ。

「いやぁああ「痛い痛「うげぁあ」い痛い痛い痛い」ああああああああ「やめろ「たすけて」たすけろ」ああああああ」

 ケィアンは空に放り投げる。

『スクラップにしてやる』

 瞬間、ケィアンが消えた。

 メメントスは察し、何かをチャージする。

「アツいいいものを見せてくれたお礼だ……!」

 結合の怪物がようやくケィアンを探した時には、もう遅かった。

復讐刀(ふくしゅうとう)八大地獄斬(はちだいじごくぎり)!!』

「アブソリュートディストラクション!!」

 斬撃を受けた体に、無数の光球がぶち当たる。

 二人の巨人が並びたち、放つは最強かつ最凶の合わせ技。

粛清式(しゅくせいしき)勧讐懲悪砲(百合を滅ぼすビーム)!!』

『アブソリュート・マス・ディストラクション!!』

 どす黒い光線と電撃光線が混じり合い、結合の怪物は爆散する。

 瞬間、死体から『核』が抜け出した! 

『……任せた!』

 逃げようとした『核』が地表に降りようとし、その瞬間。

「鉱石戦闘術・翡翠のカゴ」

 ジェードの生成したカゴに囚われ、『核』は行き場を失う。

「……死んでしまえ」

 そして、ビリジの放った()()()()()()()()()により、『核』は崩壊した。一陣の風が巨人の頬を撫でた。

 

「いやぁ、申し訳ない! 怪獣退治の後とは!」

 豪快に笑うメメントス。人間サイズとはいえ、どことなく雰囲気が違う。

「本当なのだ……」

 ビリジは、はぁとため息をついた。

「まあ、いいじゃないの。こうして三馬鹿できるんだし」

 ジェードが笑う。

「全くだ。ほら、コーヒー出来たぞ。龍治(りゅうじ)の奴はカフェ・オ・レにしといたからな」

 苦笑しながら佐久間は、コーヒーとカフェ・オ・レ、そしてちょっとしたお菓子を用意した。

「……これは?」

「ケーキだよ。僕が作った」

「佐久間の作るケーキは絶品なのだ」

 ビリジは既に食べている。

「……うまい」

 メメントスの目が輝いた。

 その日、佐久間の運営するマンションの一室からは、笑い声が途絶えなかったという。

 

 その頃、金ピカ空間の中では。

「……また、テメェかよ……!」

「会いたかったぜ? ゼェロォ……」

 因縁が、蘇っていた。




正直寝不足


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じゃあ君の思想が死ねばいい

不死身のダークキラー
闇の巨人
登場


 岐阜県、金華山。

 

 その地下深くに鎮座する、超古代文明の遺跡。

 

『ウジア……ケレ……アギモイ……』

 

 そこに居たのは、銀色の異星人であった。

 

 まるでクロス・カウンターを受けた後のような体勢で封じられた石像の前で、異星人は念を送る。

 

『三万年前ニ封ジラレタ大イナル戦士ヨ、今此処ニ顕現セヨ』

 

 ぴき、ぴき。

 

 石像に小さなヒビが入る。

 

『ソノ破壊衝動ノママ、全テヲ破壊セヨ。ソレガ貴様ノ任務。聖ナル任務、果タサナクテハナラナイ任務─────!!』

 

 その小さなヒビから、闇が注入される。

 

()ァアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

 

 内側は五割充ちた。あとは五割以上をウルトラの者が充たすのみだ───────そう、銀色の男は笑った。

 

 

 

 その頃、CETの格技場では。

 

「うおぉおおっ!!」

 

「かかってこい」

 

 慎太郎と別チームの若手が組手をしていた。若手から頼まれたらしく、どことなくイキイキしている。

 

「す、すげぇ……」

 

「何年かのブランクがあるのにも関わらずあの戦闘能力ッ」

 

 前蹴りの一撃のもとに敵を伏す。諸星慎太郎、未だ衰えず。

 

「もう一度……お願いしますッ」

 

「おう、打ってこい打ってこい」

 

 慎太郎の声に、若手が反応する。

 

「チェストぉーっ!!」

 

 あまりにも直線的で、そして速い拳。

 

「よっと」

 

 内受けで正中線をガラ空きにさせ、前蹴り一閃。

 

「もう少しフェイントも使うといいだろうよ」

 

 慎太郎はそう言うと、軽く腕を振った。

 

「しかし一発一発の破壊力は抜群だ。あのまま食らってたら、俺でもどうだったか……」

 

 そう言って、うずくまる若手に手を差し伸べる。若手はその手を掴み、立ち上がった。

 

 

 

 慎太郎は隊の部屋に戻った。

 

 フツヌシ隊。慎太郎が所属する部隊である。

 

「諸星慎太郎、只今戻りました」

 

「おう、お疲れ。新人育成の為に組手しまくるのは骨が折れるだろ?」

 

「いやあ、折れるねぇヴェラっち」

 

 けらけらと笑う慎太郎。しかし、彼は急に顔を険しくし、

 

「ま、んなこたどーでもいいのよ。どうでい、あの波動は」

 

 そう言った。

 

「ああ。岐阜県内であの波動が多数発生している」

 

「やっぱりかぁ……」

 

「よって慎太郎。お前を調査に向かわせることにする。俺はストライカーで待機するから、基地での待機勢の指示はミソギ、お前に任せた」

 

「承知致しました」

 

 くい、とメガネを上げる青年。

 

 基町元隊長が上層部に移籍した為、フツヌシチームに入って早々副隊長になった青年である。名を黒山(くろやま)ミソギという。

 

「よし……行くぞ」

 

 

 

 てなわけでして。

 

「はるばる来たぜ岐阜県~っと! 久しぶりだなぁ……」

 

 諸星慎太郎、無事に岐阜に到着。

 

「こちら諸星! 岐阜に着きましたよー!」

 

『諸星隊員、浮かれないように』

 

「えぇー? 丸デブ総本店さんくらい寄らせてくださいよー」

 

『ダメです』

 

「けち」

 

 慎太郎はそう言って通信を切ろうとする。その時だ。

 

『……諸星隊員、くれぐれも暴走なさらないように。あなたを止められる人は少ないのですから』

 

「へいへい」

 

 釘を刺され、慎太郎は大人しく金華山に向かった……はずもなく。

 

 丸デブ総本店でラーメンを一杯食べてから、金華山に向かった。岐阜県は日ノ出町にあるので機会があったらご賞味ください(ステマ)

 

 

 

 金華山の地下、隠されていた通路を越えると、そこには石像があった。

 

 巨人だ。慎太郎は悟った、ウルトラマンのそれであると。

 

「……で、何あれ」

 

 ……そこにいたのは、一人の青年であった。

 

 ボサボサの黒髪、黒縁のメガネ。薄めのリュックサックに登山用のシューズ。どこか慎太郎に顔立ちの似たその姿。

 

 そして何より、『報道部』の腕章をつけて石像を熱心に撮っている。

 

 まさしく変人奇人……。

 

「ここは禁足地みたいなもんだが?」

 

 慎太郎はそう言って、青年に近づく。すると青年は深々とお辞儀をして、こう言った。

 

「ああすみません! しかし趣味と実益を兼ねたこの職業に就いた身としては絶対に真実を報道しなくては……と思いましてここにいる所存です。CETの方ですよね? それもフツヌシ隊だ。その肩の日本刀の刻印はフツヌシ隊のそれですからねぇ……」

 

 熱弁する青年。

 

 慎太郎は悟った。

 

 こいつオタクだ、と。

 

 

 

「申し遅れました。ワタクシこういう者です」

 

 差し出された名刺には、普通の情報が書かれている。

 

「CET報道部の澤田(さわだ)カイトさんね……ん?」

 

 名刺をしまおうとした慎太郎は、やけに名刺が伸びるなと思った。許可をとって名刺をうにょっと伸ばしてみたら、慎太郎にとって見覚えのあるIDが記載されていた。それは慎太郎の使うツブヤイターの相互さんであり、常に馬鹿騒ぎしているユーザーのID。

 

「@Rahmen_kaito……え、もしかして『ラーメン好きのカイト兄やん』さん?!」

 

「……えっまさか『ザ★美食ボーイ』さんですかぁ!?」

 

 せーの、どん……。

 

 同時に出したスマートフォンには、確かに『相互フォロー』の文字が。

 

 沈黙。

 

「……」

 

「……」

 

「「YEAHHHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 巨人の像の前で、偶然オフ会が成立した。

 

 

 

「まさかCETにフォロワッサンが居たとは」

 

「いつも通りのノリで安心しましたよ美食さん、デュフヒヒwww」

 

 カイトは毎日この巨人像を撮っては変化をしたためているらしい。

 

 慎太郎と一緒にヒビが広がっていることを上層部に報告したことも相まってか、少しずつ人は増していく。

 

 上層部は、おそらく巨人像が壊れると思っているのだ。

 

「あれ壊れると思いますかね?」

 

「壊れねえだろ……むしろ、内部に何があるかがよく分からん」

 

「それもそうですねぇ。ああそうだ、時に美食さん。拙者の布教したアレは見ましたかな?」

 

「最ッッッ高だったよ! 勢いでアプリ版もDLしちまった!」

 

「でしょうでしょう!?」

 

 ……哀しいかな、慎太郎もアニメオタクである。幻滅しただろうか。

 

「兄弟モノのBL作品ではありますがそれがまたオイシイでしょう!?」

 

「弟側のクソデカ感情たまらん…………はあ…………弟君くんくっっそかわいいすき…………むりだめ……」

 

 限界オタクここに極まれり。

 

 

 

 もちろん調査も進めている。近くの図書館で伝承を探したり、聞き込みに回ったり、石像のサンプルをとったりとなかなか大忙しだった。

 

 その間にも、カイトと慎太郎は親睦を深めた。ラーメン屋に行き、焼肉屋に行き、時には互いに議論したりして。まるで竹馬の友のように、二人のオタクは親交を深め続けた。

 

 そんな中である。

 

 

 

 どこの世界にも、バカは居るもので。

 

 

 

 それは慎太郎達以外が撤収した時だった。

 

 ざふっ、と踏みしめる音がする。ガヤガヤとした声を慎太郎の超人的な聴覚は捉えた。

 

「何者だ貴様ら!」

 

「こちら朝飛新聞ですけれども」「私舞日新聞の丸々です」「駐日新聞です」「NHKです」「朝飛テレビの者ですが」

 

 ───────マスゴミがやってきてしまった。

 

 

 

「マスコミの皆さん、現在はこの石像についてはほぼ何も分かっていません。3万年の時間が経っている以外は、何も分かっていないのです。どうかご静粛にお願いします」

 

「すみません、お帰りください……」

 

 慎太郎とカイトはマスコミを抑えようとする。

 

「CETは秘匿するのですか!?」

 

「違います、まだ真相がわからないのです」

 

「秘密主義は本当ですか!?」

 

「いや違う」

 

「なぜ石像を隠匿するのですか!?」

 

「おまっ」

 

「政府に対して一言!!」

 

「やめ」

 

「諸星隊員の好物はなんですか!?」

 

「日本食全般」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ……とまあ、変な方面に話が進む中。

 

「あの石像を見せてもらいたい」

 

 低い声がした。

 

 慎太郎は何かを悟り、銃を抜いた。

 

「動くな」

 

「そうはいかんよ。奴を蘇らせねばならないからね……。マスコミ諸君、銃を抜け」

 

 その声に操られるようにマスコミが銃を抜く。対怪獣用小型機関銃である。その射線は、慎太郎であった。

 

「……!! 美食さん、いや慎太郎さん!! 危ない!!」

 

 カイトは駆け出した。慎太郎は念力を練り止めようとした。

 

「おい、カイト……!?」

 

 だが慎太郎の念力も届かず、

 

撃て(ファイア)

 

「しんたろ」

 

 慎太郎の目の前で、カイトは撃ち殺された。

 

 

 

「カイト!! カイトっ!!!!」

 

 慎太郎はカイトを揺さぶる。しかしカイトは目を覚まさない。……もう、死んでいた。

 

「見ろ、犯罪者が死んだぞ。アニメオタクという犯罪者がだ!!」

 

「やったぜ!!!」

 

 朝飛新聞の記者は飛び上がって喜んだ。オタクは怪獣扱いである。

 

 慎太郎は涙を流しながらマスコミに向けて指を指した。

 

「なあマスコミ諸君よォ────────……。お前らが……『アニメオタクは犯罪者』だって言うならよォッ、お前ら『マスゴミ』も『大衆を洗脳する大犯罪者』って言えるよなァ───ッ!? エェッ!? なんとか言ってみろよゴミカスがよォ─────ッ!! 今日日この日本に三日三晩腐らせた腐りかけのニシンで作った黒焦げのスターゲイジーパイみたいに腐りに腐ったマスコミなんかいらねえんだよォッ!! このドグサレモンキーヒトモドキがァ──────ッッツ!!」

 

 カイトの亡骸を抱え、慎太郎はそう叫び、マスコミの一人に九四式拳銃を放った。鳴り響く銃撃音。さながら戦場のようにマスコミの頭部を撃ち抜き、ふうと硝煙を吹き散らす。

 

 一人死んだ。

 

 銃撃音。

 

 二人死んだ。

 

 銃撃音。

 

 三人死んだ。

 

 銃撃音。

 

 四人。

 

 銃撃音。

 

 五人。

 

 銃撃音。

 

 六人。

 

 再装填。

 

「ふぅ─────────────ッ」

 

 銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。再装填。

 

 死者総勢十二名─────!! 

 

 残ったマスコミは逃げようとしたが、慎太郎は冷徹にその脚を撃ち抜く。半狂乱になり蹲るマスコミ関係者に対し、かつて日露戦争の際()()()()()と共にロシア兵を蹂躙した隻眼の日本兵(諸星慎太郎)は斯く語る。

 

「これは殺戮ではない。これは救濟だ。イメージしてみろ。貴樣らの下劣な魂をここで救濟し日夲國の爲に再生させる。それの何が惡いと言うんだ? お前たちのやっているオタク差別もそういう物だ。何故アニメが好きなだけで排斥されるのだろうか、と俺は考えていた。そして思い浮かんだ。全て貴樣らマスコミが惡いと」

 

 頭から血が抜け、静かに冷たく怒る慎太郎は、さらに言葉を続ける。

 

「全ては宮崎勤の犯罪から始まった亊は否めはしない、だがそれだけだ。その後のオタク差別を助長し未だに日夲國を愛する亊を惡だと斷ずるのは誰だ?」

 

「そ、それはお前の思想だろう」

 

「默れ。貴樣らが全て惡いのだマスコミ諸君。詭辨(きべん)? 詭辨で結構。俺は殺したいだけだという亊も理觧(りかい)している。だが未だに俺の大東亞戰爭は終わらない。終わってくれないんだよ!! なあ朝飛新聞!! 貴樣らが戰爭感情を煽った所爲だろう!! そして敗戰───というか、未曾有の恠獸災害により休戰した直後に貴樣らはなんと言った!! 「日夲國軍の暴赱」「今直ぐ日夲國軍を觧躰すべし」「日夲國軍を許すな」と……。全ては日夲國を非難する内容に過ぎん!! 戰爭感情を高めた貴樣らがのうのうと生きる時點(じてん)で可笑しいのだ!!」

 

「ヒッ……!」

 

「ならどうする? じゃあ君の思想が死ねばいい」

 

 そう言い終わると、彼の目は完全に日本兵のそれになった。バンザイ突撃をして殺しにくる狂った目だった。

 

「こ、このぉ!!」

 

 対小型怪獣用携帯機関銃をマスコミが撃つ。これは怪獣災害の箇所に取材する際の必需品だ。

 

 普通ならば一溜りもない、だが。

 

「溫いわ」

 

 その銃弾は、慎太郎に届くことは無かった。

 

 気づけば、辺りは死体で満ちていた。

 

 

 

 地下に流れる血液。全てマスコミの物だ。

 

 慎太郎はカイトの死体を抱きしめながら、一人泣いていた。

 

「取り逃した……!! カイト、ごめん……!! 俺、ダメだった……!! カイト、ぁ、ああああああああああああっ……!!!!」

 

 慎太郎の中に渦巻く闇のエネルギー。遂にそれは、巨人の封印を解くための鍵となった。

 

 びし、びし。

 

 そんな音を出しながら、巨人像にヒビが入る。

 

 ゆっくり、しかし着実に。

 

 慎太郎は気づき、闇のエネルギーに光のエネルギーを混入させた。

 

 それはさながらパンドラの箱のようなもので、絶望の内側に希望が隠されたかのような構図になってしまっている。

 

 びしびしと大きなヒビが入り、その石の表皮が剥がれ落ちる。

 

「……う、あああああああああっ……。よく寝たぁ……」

 

 ごきごきと、巨人の関節が鳴り響いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 岐阜県岐阜市、市役所付近。

 

 街が瓦礫に変わっていた。

 

「く、ああぁ……! セァッ!」

 

「シャアオラッ」

 

 二人の巨人の戦闘が繰り広げられていたからだ。

 

 アバドンの下段回し蹴りが黒い巨人の太ももを打つ。その直後カウンターの左の拳がアバドンの腹に当たる。

 

 刹那アバドンは身を固め膝蹴り、その蹴りの威力を腕で殺してヘッドバット。アバドンは拳に炎をまとい秒間6000発の炎のラッシュ『バクネツラッシュ』を闇の巨人に放つが、闇の巨人は対抗するように「クロクロクロクロ……」と叫びながら超速のラッシュを放った。

 

 二つの拳がぶつかり合い、衝撃波でビルが倒壊する。

 

「っ、畜生強ぇ……!!」

 

『攻撃開始!』

 

 アバドンを援護するようにマッハストライカーが飛んできた。

 

 バルカン砲が闇の巨人に命中する。

 

 その直後、闇の巨人の頭部にかかとが激突した。

 

「遅くなった」

 

「サンキューヴェラっち!」

 

 ウルトラマンヴェラムである。

 

 闇の巨人はもがき苦しみ、きっとヴェラムを睨み付けると、

 

「う、う……あ、ああぁ……!! ウルトラマン、ヴェラ、ム……!! 裏切っ、たな……!?」

 

 と言った。ヴェラムは身に覚えがないので、

 

「裏切った……? 何の話だ!?」

 

 そう叫ぶと、闇の巨人はまた怒りを爆発させた。

 

「裏切り、ものぉおあああああ!!!」

 

「来るぞッ」

 

 闇の巨人が襲いかかる。

 

 アバドンはまずサイドステップで避けると、頭にがっしりヘッドロックし、そのまま力一杯締め上げた。

 

「はぁああああああああ……!!」

 

「がぁああああああ」

 

 締める力を徐々に高めるアバドン。ヴェラムはその闇の巨人に攻撃しようとしていた。

 

 その時である。

 

「アジャラカモクレン テケレッツのパー 《縛り付けろ》!!」

 

 そんな声がして、アバドンとヴェラムは縛り付けられた。もちろん瓦礫でだ。

 

「『カプリスキャスト』ォオオオオオオオ!!!」

 

 無軌道のレーザーがアバドンたちに襲いかかる。アバドンたちは拘束を引きちぎり、二人で闇の巨人を殴り付ける。

 

 その瞬間、闇の巨人は霧散した。

 

「……はっ!?」

 

 こうして、闇の巨人との戦闘は終わった。

 

 

 

 慎太郎は、金華山の地下にいた。

 

 そこで慎太郎は自分の目を疑った。

 

 

 

「……死体が、消えた?」

 

 

 

 

 

 

 

 新たな闇が、蠢き始めた。



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巻き起こるは地獄

「シャァアアアアオラ!!!」

 

 野太い雄叫びと重低音が響き渡る。

 

 直後、赤い閃光とともに、(スーパー)コッヴが吹き飛んだ。その超コッヴの目は赤く、体には機械のようなものが付着していた。

 

「デュウワッ!」

 

 まるで超コッヴを護るかのようにウルトラマンガイアが立ち向かう。多彩な蹴り技がアバドンに直撃したが、しかしアバドンは拳を握りしめるやいなや。

 

「死ねオラァっ!!」

 

 アバドンは燃え上がった拳でウルトラマンガイアを吹き飛ばす。直後、アバドンは分身し、鎖でガイアの首を絞めた。

 

「ウォアアッ……!」

 

「苦しめ……苦しむがいい……!! 新世代(ニュージェネレーション)ファンの怒りを知れ……!! もっと強く締め上げてやる……!! お前らが円谷の予算を使い果たし、一時期の衰退を誘ったツケが廻ってきたのだ!!」

 

 ぎりぎりと音が鳴り響き、ガイアは口元から泡を吹き始める。さらにアバドンの分身体は秒間6000発の速度で『燃え上がる拳』を打ち込み、ガイアはその正体を表した。

 

 金属生命体ミーモスである。

 

 こうなればもうこっちのものだ。アバドンはそう呟くとさらに分身し、思い思いの武器を手に持つ。

 

 超コッヴはアバドニック・ノヴァで焼き殺した。

 

「さぁ────、ニセウルトラマン虐待ショーの始まりだ……!」

 

 そうアバドンの本体が言うと、ミーモスを囲み思い思いの武器で攻撃し始める。

 

 まずは鈍器で殴り付け、続いて重火器を撃ち込み、刃物で切り裂き圧かけ首絞め腕折り目潰し引きちぎり────────。

 

 もはやミーモスだった何かと化した破片群に対し、アバドンは分身を解き、バクサツダンサーというMAP兵器を放った。

 

 燃え上がる大地。金属生命体はその生命活動を止めた。

 

「ん──────……。まーだ足りないなぁ……」

 

 仕方がない、とアバドンは呟き、ふとある事に気づいた。

 

「……そういえばあの超コッヴに付いていた機械はなんだ……?」

 

 ◇◆◇◆◇

 

 翌日────────。ところ変わって、宇宙人のテロ組織のアジト。

 

「動くな、CETだ! 神妙にお縄につけ。もし抵抗するなら一族郎党皆殺しだ」

 

 慎太郎とゲンタロウは、テロ組織の鎮圧に来ていた。

 

 ────────それは、遡ること二日前。

 

「テロ組織の尾を掴んだ」

 

 フツヌシチームお抱えの超天才ハッカー、本田(ほんだ)(たすく)の言葉から、全てが始まった。

 

「隊長、マップをモニターに出してくれ」

 

「ああ」

 

 肇はマップを展開する。祐はそこに次々とデータを放り込んでいった。

 

「結論から言うと、テロ組織のアジトは東京都文京区湯島にある」

 

 文京区か、と慎太郎は呟いた。

 

「……30分も歩けば靖國(やすくに)神社がある立地でよくもまあ悪事を働こうとするもんだ、根絶やしにするために空爆でもするか?」

 

無辜(むこ)の市民を殺す気か、慎太郎隊員」

 

「じゃあ強制収容所に入れて毒ガスで殺そう。人類の医学の発展のためだ」

 

「ナチス・ドイツと同じことをするんじゃない、たわけ。とにかく、今僕がマップにマークしたところを見てほしい。ここにテロリストのアジトがある」

 

 すると、一同の持つ端末にテロリストのアジトの位置情報が送られた。

 

「二日後にここに総攻撃を加える。抵抗するなら殺していいだろうけど、なるべく生け捕りにして欲しい」

 

 祐はそう言った。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 そして、決行日。

 

「開けろ、CETだ」

 

 そう言いながら慎太郎はテロ組織のアジトのドアを蹴り破る。鉄製のドアが引きちぎられ、銃弾とほぼ変わらない速度でテロリストに直撃。まずはナックル星人の頭がザクロのようにパックリ割れた。

 

「なっ、ななな……!!」

 

「どうしてここが分かった!?」

 

 テロリストたちは警戒を強める。それぞれの武器を取り出し、威嚇した。

 

 その中でも血気盛んなババルウ星人が慎太郎に襲いかかる。

 

 慎太郎はその攻撃を見て、瞬間消えた。その直後、ババルウ星人の首は曲がってはいけない方向に曲がり────────哀れ、ババルウ星人は死んでしまった。

 

 ごきりという鈍音の残滓と、死体の倒れる音。そして慎太郎が息を吐く音が部屋に響いた。

 

「うちの優秀なハッカーのお陰だ。さぁどうする売国奴ども。降伏するか、このババルウ星人のように抵抗して俺たちに殺されるか。選択肢は二択だ、さっさと選べ」

 

 慎太郎の言葉に、テロリストたちは叫んだ。

 

「こんな所で俺たちの計画がおじゃんになってたまるか!!」

 

「どうせ戦争で一人になった身だ! お前ら!! やるぞぉっ!!」

 

 おおおおっ!! と叫び、慎太郎たちを殺しにかかるテロリストたち。

 

「やっぱそう来るよなぁ!! おいゲンタロウ、殺戮タイムだ!!」

 

「了解っス慎太郎センパイ! 一人一人相手してやるッスよ!」

 

 ゲンタロウは銃火器を展開し、慎太郎はトンファーを手に持った。

 

「俺は(カイ)って空手家とは違って、殺しが大好きなんだ……! まだ人の心があるあのヒーローと闘った方が良かったかもなぁ、この薄ら汚い売国奴どもォ!!」

 

 慎太郎はさらに叫ぶ。

 

「どっからでもかかって来やがれ!! 俺が無双の諸星(モロボシ)だァッ!!」

 

 あの()()()に寄せた叫び声とともに、大日本帝国の軍人だった己を呼び覚ます。

 

 さながらその雰囲気は日露戦争でロシア兵を虐殺した時のそれであり、ゲンタロウはそんな慎太郎を見てどこか安心したような表情を作る。

 

「さぁ来い! オレと慎太郎センパイのタッグに勝てる自信があるやつからな!」

 

 ゲンタロウはレーザーガンを持ち、照準を敵の頭部に定めて放った。舞い散る血飛沫、激昂するテロリスト。そして狂ったように笑う二人の軍人。

 

 戦争(ゲーム)開始(スタート)────!! 

 

 ◇◆◇◆◇

 

「シャアッオラァ!」

 

 慎太郎は体をかがめ、まるで弾丸のようなタックルを浴びせた。

 

 一人を吹き飛ばした直後、慎太郎は突如として消え失せる。次の瞬間、四人のテロリストの首は180度廻っていた。────既に死んでいる。

 

「うごっ」

 

「ギャァッ」

 

「うわぁっ」

 

「ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリーバッドエンド(サイコーの悪夢だ)ォアアアアアアッ!!!」

 

 挙句、慎太郎単体のラッシュに吹き飛ばされる始末。イマージュも使わないただのラッシュだ。

 

 ではゲンタロウに攻撃したらどうなるか、というとだ。

 

 ゲンタロウの手に持った銃から放たれたレーザーが、テロリストたちの脳髄を的確に撃ち抜いていく。まるで決められていた台本のように、ぱたりぱたりと死んでいく。

 

 彩り豊かで個性豊かな宇宙人たちだった。しかしそこにあるのはただのタンパク質の塊だ。

 

 普通の人は死体の山と称するだろうし、OFFの世界ならシュガー(麻薬)の材料と称するだろう。

 

 そうこうしている間に、慎太郎の持つトンファーが頭蓋を砕く。脳漿が勢いよく吹き出てきて、また一人死んだ。

 

「メインはフック星人……。ボーダ星人やラムダ星人もいたな……。ゴドラ星人も数こそ少ないがいたし……。っと、邪魔だ」

 

 トンファー一閃、トドメの前蹴り。肋骨は折れて肺に突き刺さり、胸骨は割れて破片が心臓に達しただろう、と慎太郎は長年の経験から悟った。

 

 ゲンタロウも苦戦しながらもガン=カタで応戦していた。レーザーが縦横無尽に飛び回り、その度にテロリストが死んでいく。上手く近寄ったとしても、超絶技巧の脚技が炸裂し意識を刈り取る。

 

 なるほど確かにこのふたりは最凶のペアである。なんせ方やありとあらゆる格闘技の達人にして元帝国軍人、方や銃撃と格闘技を上手く搦めた慎太郎式戦闘術の三番弟子だ。

 

 気付けばテロリストも残るは五十人。慎太郎とゲンタロウは再度構え直すと、残党狩りのために走り出した。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 一方、都内某所────。

 

 上機嫌そうに鼻歌を歌いながら、右目を隠した少女が歩いている。

 

 赤のメッシュと、これまた黒から赤に変わるグラデーション。柔らかい雰囲気の中には棘があり、まるで毒でできた砂糖細工である。

 

 宝星(ほうせい) 紗和(さわ)。かつてCETの隊員だったが、現在は諸事情で復帰していない。寧ろ顔を出そうにも出せない。何せ紗和の正体は今まで巷を騒がせた人物────────怪盗シンシャなのだ。だが、国民はシンシャのその正体を知らない。知っているのは国家公安委員会や警視庁など、司法に関わる者と、CETのチームフツヌシだけだ。

 

「平和なんだろうけど……どうも平和には見えない空気だなぁ……」

 

 誰もいないことを良いことに、独り言を呟き空を見上げながら歩く。

 

 ふと、彼女は思い出した。

 

 今左手にある路地。この裏路地を通ればショートカットできると。

 

 警戒心をすっかり吹き飛ばし、紗和は路地裏を歩く。呑気にも「ついでに本屋にも寄りたいからそこに寄って家に帰ろう」と考えながら人気がない路地裏を1人で歩き続けた。周りは薄暗く、しかし微かに太陽の光が上から照らしていた。

 

 その時である。

 

 殺伐とした雰囲気が彼女の頬を裂く。直後、鋭利な何かが吹き飛んできた。

 

 足を止め、周りを見渡しながら、静かに黒い手袋を少しずつ外す。

 

 瞬間、彼女は大きく吹き飛んだ。壁に体がしたたかに打ち付けられ、肺から強制的に空気を吐き出される。

 

「がっ……は!? み……見えない……!? どこから!?」

 

 呼吸を整えながら立ち上がる。だが衝撃が強すぎたのか、目眩を起こしてしまい足元がふらついてしまう。

 

 その無防備な腹部に、重たい蹴りが一閃。

 

「アガァ……ッ!」

 

 蹴りの威力に耐え切れず、紗和は両膝を地面につき、腹部を抑えながら周りを見渡す。

 

 紗和の両手に身につけていた手袋はいつの間にか取り外されていた。

 

「……チッ」

 

 それはひとつ舌打ちをした直後、鋭利な黒色の何かが飛来する。

 

「……見えた」

 

 そう呟いた瞬間、地面に両手を置き銀色の液体の壁を生成。飛来物を包み込むように防御した。それは液体に突き刺さり、即座に腐食し速度を落とす。

 

 ぎゃりん、と鈍い音がした。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 地面に落ちた飛来物の正体はクナイであった。

 

「……ウルトラ忍者部隊かな? …………君は、何者?」

 

 液体の正体は硫化水銀。紗和は猛毒を操る特異体質である。紗和はその毒の壁から顔を出し、その視線の先にあるモノを見つめた。

 

 それは一人の人間であった。フードを目深に被り、手に暗器を握っている。顔が見えないように狐の仮面を被り、その下の真意は一ミリも分からない。

 

 紗和は何も言わずに立ち上がり、その姿を凝視し続けた。

 

 左手を口元に置いてなにかを考えている仕草をしながら。すると、何か思いついたような顔になり、少しだけ笑みを見せた。

 

「もしや東海から関東に流れてきた闇の正体は君かな?」

 

 指を指しながら紗和はそう言う。それでもなお、胸騒ぎと警戒心が消されることはない。消すことさえできない。

 

「……」

 

 その者は何も言わず、クナイと手裏剣を投げつけてきた。

 

 両手の指先から溢れ出る水銀で壁を作りながら回避し続ける。

 

「せめてYESかNOで答えてよ……」

 

 しかし攻撃は熾烈になり、いよいよそれは猛毒の壁を易々と飛び越え、顔面に蹴りを炸裂させる。

 

「ぐぁ……! ッ……マイナスエネルギー……やっぱ君は……ッ」

 

 鼻血と口からの出血を気にせずに話し続け、自分から殴りにかかった。

 

 それは紗和の拳を掴み、勢いよく地面に投げ飛ばす。

 

「がっ、は……! げっほ、っげほ……。なるほど、普通にはいけない、か」

 

 仰向けに倒れた状態から後転し、両足で腹部を深く蹴り飛ばした。

 

「……fxxk」

 

 そう静かに呟くと、彼は指をひとつ鳴らす。

 

「…………The world revolving(世界ハ廻ル 廻ルヨ世界)

 

「ッ……」

 

 紗和は拳を構えながら体勢を整え、周りに集中する。鼓動と警戒心が更に高まり、どこからでもかかって来いと言わんばかりのオーラを纏った。

 

 瞬間、紗和は一瞬にして吹き飛ばされた。気付けなかった。まるで()()()()()()()()()()()かのように。

 

「…………えっ」

 

 気がつけば地面に倒れていた。全く以て状況が掴めず、伏せった状態から動こうにも動けなかった。

 

『さあ、始めましょう! 始めるよ! 楽しいゲームの幕開けサ!! CHAOS(ケイオス)!! CHAOS(ケイオス)!! アッハハハハハハ!!』

 

 そんな下卑た笑い声が辛うじて聞こえた次の瞬間、再度紗和は吹き飛ばされ、気付けば瓦礫の山の中に埋められていた。

 

「……え?」

 

 ◇◆◇◆◇

 

 状況が掴めぬまま、紗和は困惑しつつも瓦礫から出てくる。気がつけば、頭部からの出血はさらに酷くなり、裂傷や擦過傷、打撲などの外傷により上手く身体が動かない。それでもなお、精神力だけで立ち上がり、今の状況に思考を廻らせる。

 

「(廻る…………廻る……? 試す価値はあるな……)」

 

 紗和は左手の指先から硫化水銀を垂れ流しながら構え─────また紗和は吹っ飛んだ。攻撃された事実すら分からないまま。

 

 またしても壁に激突し、瓦礫に埋もれる。それでもなお、すぐに立ち上がり、距離を詰めようとする。

 

「(動きが同じなら……この場が……)」

 

 その次の瞬間、()()()()()()()()()()()()

 

 紗和は驚きはしたものの、一瞬にして冷静さを取り戻して周りに水銀の壁を作り出した。

 

 それを見て、男はにやりと笑う。指の音がして、直後()()()()()()()()()()

 

「……うん、予想してたよ」

 

 その言葉が周りに反響し、いつの間にか男の背後に紗和がいた。そして仕返しと言わんばかりにその背中を蹴り飛ばし、男は瓦礫の中に埋まる。

 

「……」

 

 男は何も言わずに─────消失した。

 

 次の瞬間。

 

 みしり、という音がして、紗和の腕が完全にへし折られた。

 

 見れば男の怪我はキレイさっぱり消えている。

 

 曲がってはいけない方向に曲がった腕を一瞥し、蓄積する痛みに耐えながらもなお立つ。腕が無ければ足や他のところを使えば良い、紗和はそう思いながら戦いを続ける。

 

「この際言うけど、ボクは慎太郎と違うの。ボクは慎太郎とは違って脳筋じゃないからちゃんと考えて行動するんだ」

 

 この場にいないことを良いことにさりげなく慎太郎の事をバカにしたが、戦いはやめないようで。

 

 瞬間、紗和は瓦礫に囲まれる。

 

『廻レ廻レ! メリーゴーランドダヨォ!』

 

 瓦礫の中でぐわんぐわんと回されて、体が一気にシェイクされ。

 

「ッ……逆!」

 

 紗和はガレキを破壊しながら毒液と共に飛び上がり、隠し持っていた銃を乱射する。

 

「……面倒くさ」

 

 また指パッチンをする。

 

 瞬間、()()()()()()()()()()()向かった。

 

 紗和は何も言わず何もせずにに降下しながら銃弾を見ていた。

 

 更にそれは()()()()

 

「……()()()()にはまだ時間がかかるなぁ……」

 

 小声で独り言を呟きながら、銃弾が身体に直撃する。その瞬間、撃たれた身体が溶け始めた。上空にいた紗和は硫化水銀で造られた偽物だったのだ。

 

「…………チッ。やはりあらゆる手を尽くしてでも殺すしかないか……」

 

 男は消えた。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 本物の紗和は身を潜めていた。ガレキでシェイクされた際には既に身代わりに任せていたようだ。

 

「………………まだ時間がかかるなコレ……」

 

 ボロボロになった路地裏、静かに佇む紗和。戦闘音を聞きつけた野次馬たちは口々に叫んだ。

 

「あれシンシャじゃねえか……?」

 

 ざわつく一同、その中でメガネをかけた青年が叫ぶ。

 

「あの瓦礫を見ろ! きっとアイツがやったんだ! 絶対に侵略宇宙人だ、殺せ!!」

 

「……おっと……」

 

 紗和は慌てて両手を上げる。どろどろと滴り落ちる硫化水銀を手袋で覆うが、時すでに遅し。

 

『ウルトラ族……め。殺すしかあるまいて』

 

 そんな声と共に紗和は吹き飛ばされ、正義感に駆られた地元住民に体を押さえつけられる。

 

 そんな時であった。

 

「デュワッ!」

 

「ゥオルァアッ!!」

 

 ウルトラマンが二人現れたのは。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 そこに居るのは、確かにウルトラマンガイア(V1)とウルトラマンアグル(V1)であった。

 

 しかし怪獣はいない。

 

 さて、なぜ彼らが現れたか。それは紗和が死闘を繰り広げていた時に遡る。

 

「ウオラァッ!!」

 

 諸星慎太郎の右ストレートにより、テロリストは壊滅したかに思えた。

 

「先輩、生命反応はもう無さそうっすよ」

 

「おう、ご苦労だっ─────」

 

 慎太郎はなにかに気づく。それはどろりとした流体金属だ。普通なら何かが溶けたと思うだろうが、しかし慎太郎はこれでもウルトラマン。そしてこれは何度か戦った事のある相手でもあった。

 

「ゲンタロウ、死体は放置して逃げよう!」

 

「えっ!? でも……」

 

「いいから! 奴から逃げるぞ!!」

 

 そうして二人は逃げ出した。

 

 アジトの中で流体金属は死体を取り込み成長し、パソコンに侵入してウルトラ戦士に関わるデータを読み込みはじめる。

 

 そうして読み込んだデータを体に移し変え、何かしらのロックを解除した上で、流体金属はウルトラマンへと変身したのだった。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 まあ、そんなこんなで二人のニセウルトラマンが現れていたのだ。

 

「あれは……?」

 

『あの青いウルトラマンは目が赤紫色だ、殺して構わん! …………ただし、プロテクターの赤いウルトラマンは様子見だ』

 

「了解」

 

 そうしてCETは二体のウルトラマンと闘うことになった。先手はCETの保有する飛行機、マッハストライカーから放たれるミサイルだ。

 

「スペシウムミサイル、てぇーっ!」

 

 ピッ、とスイッチを押せば、機体下部から無数のミサイルが放たれる。

 

 ニセアグルはバリアを生成し、ニセガイアは光弾でミサイルを打ち落とす。

 

 その直後、別のマッハストライカーからバルカン砲が放たれた。鉛玉の雨を全身に浴びたニセガイアは、その姿を変貌させる。

 

「あれはッ」

 

「……ヴァージョンアップ!?」

 

 ニセガイアとニセアグルはV2へと変貌する。

 

 ニセガイアは地面を叩き、ニセアグルは空を蹴り上げた。そしてそれは虚空と地面へと伝わり、封じられていた怪獣兵器達を叩き起す呼び水になった────! 

 

 ◇◆◇◆◇

 

「ゴョァアアアアッン!!」

 

「グゥェァアゥッ」

 

 地面から飛び上がる怪物がひとつ、そして虚空からゲートがうまれる。

 

 そこから現れたのは、怪獣たちであった。ギールとゾーリムである。ギールとゾーリムは、ニセガイアとニセアグルに並んだ。

 

「デュワッ」

 

 ニセガイアとニセアグルは、マッハストライカーに光弾を放った。マッハストライカーはローリングで回避し、再度バルカンを放つ。まさしく鉛玉の雨である。

 

 しかしそれをゾーリムが遮った。哀れな鉛玉は巨大な頭に直撃し、ぱらぱらと落ちていった。

 

 ギールは突進し、空中で()()()()()()()()()()()()()()から()()()()()()()()、マッハストライカーを撃墜した。

 

「あーあー、見てらんねーな」

 

 慎太郎はそう呟くと、アバドスティックを掲げてウルトラマンアバドンに変身した! 

 

 ◇◆◇◆◇

 

「ゥオアッ」

 

 アバドンはマッハストライカーをその手の中に収め、着陸させた。

 

「ウルトラマン……!」

 

 一般兵はそう叫んだ。アバドンは、静かに頷いた。そして、四対一という敵側有利な状況の中、走り出した。

 

「デェアラッ!」

 

 先ずは前蹴りである。それだけでニセアグルは3km先の地面に背中から落ちていった。

 

 その勢いを殺さずに、アバドンはニセガイアの金的と顎に二段蹴りを放った。綺麗なまでに吹き飛んでいった。

 

 さらに突進してきたギールをゾーリムに投げ飛ばし、ふうと一息。アバドンは怪獣たちを睨みつけ、ふと上空から何かが来ていることに気付く。

 

 瞬間、毒を纏った炎がゾーリムを焼き殺した。

 

「バードンか、こんな真似をするのはあのカスしかいない」

 

 そこに居たのは火山怪鳥バードン、そしてウルトラウーマンラピスだった。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 アバドンの目付きが変わる。ウルトラウーマンラピスは、絶対に赦されない。

 

「お前を殺す」

 

 アバドンはそう呟くと、バードンをギールたちに押し付け、ラピスを殺しに走った。

 

「デェアラッ!!」

 

 最早、贋作共には目もくれなかった。

 

 嘗ての恋人の、そして間接的に嘗ての上司を殺した殺人鬼への復讐を果たすために駆けていた。

 

 ビルの壁面を伝い、超音速でラピスの顔面に蹴りを放つ。

 

「ッ……!」

 

 手足が出ずに吹き飛ばされてビルに激突する。

 

「ッ……ふぅ…………まだ、怒ってるの? ボクは……奏さんを……」

 

 そこまで言いながらゆっくりと立ち上がり、拳を構えた。

 

「默れ、お前は生きる價値のない下衆だ。忌むべき外道だ。この忌み子め!」

 

 アバドンはそう叫ぶと、ラピスの腹に重たい拳を打ち込んだ。

 

 その拳は腹に当たってなかった。両手で抑えてそのまま腹に蹴りを直撃させた。

 

 僅かにバランスを崩し、()()()()()()()()()()()()()()

 

「殺す」

 

 瞬間、アバドンは消えた。

 

 拳を構えながら周りの景色に息を殺しながら集中するラピス。

 

 その反応は─────地下から、やってきた。

 

「死ねオラァッ!!」

 

 アバドンは、ただ無為な時間を過ごしていたわけではない。

 

 イマージュ能力を練り上げ、新たな力を手に入れたのだ! 

 

 その名もイマージュグビラ! それは水属性の()()()()と土属性の()()()()!! 

 

 アバドンは、地面をえぐり抜きラピスの真下から急襲することに成功したのである! 

 

「ドワァァァァァ!?」

 

 と叫びながら吹き飛び、背面から地面に倒れるラピス。見たこともないイマージュに驚きながら立ち上がった。

 

『グギァアアッ!!』

 

 そんな獣の声と共に、アバドンは地底に潜む。

 

「ッ……」

 

 再び息を殺しながら拳を構えて周りに集中するラピス。

 

 何かを考え込みながら地面を見つめ続ける。

 

 その直後、ラピスの顔に水がかかる。イマージュグビラのもう一つの力、潮である。

 

 目に直撃したせいか視界を自ら塞いでしまい、ラピスはバランスを崩してしまった。

 

 瞬間背中に走る重い衝撃。

 

 アバドンの蹴り技であった。

 

「ガハッ」

 

 そのまま地面に倒れる。しかし即座に起き上がった。

 

「水と土……イマージュ……ならボクは、こうするしかない、か」

 

 独り言のように言った。だがその口ぶりは、アバドンに聞かせるように言ったようにも思える。

 

 しかしアバドンは意に介さず、その右手に九四式拳銃を生成し実弾を放つ。

 

 そのことを予想したのかラピスは身に付けている手袋を外して水銀の壁で銃弾を防いだ。

 

 そのまま勢いよく水銀の波を作り、アバドンに向けて襲った。

 

「兒戲にも劣る猿眞似を……。馬鹿は一つの事しか行えないというのは、斯くして本當のことであったか。實に、實に哀れなり」

 

 その水銀は途中で掻き消える。偶然近寄ってきたニセガイアを盾にしたのだ。

 

 ニセガイアは水銀により腐食し、醜きミーモスの本性を表す。

 

「うわっ!? ミーモス!?」

 

 いきなり目の前に現れたことに声を出して多少驚いていたが、アバドンとの戦いは止めなかった。水銀を抑えために再び手袋を嵌めながらアバドンの動きを確認した。

 

 ────眼前に、いない。

 

「よう」

 

 直後、乾いた発砲音と共に、ラピスは自分の肩の肉がえぐれた感覚がした。

 

「ガフッ……い、いつの間に……ッ」

 

 肩を抑えながらアバドンの方へ顔を向けた。

 

 無慈悲な発砲音が響く。

 

 後ろ蹴りでニセアグルを吹き飛ばしつつ、片腕だけで発砲しラピスの肉を抉りとる。

 

「グッ……ッ……」

 

 なんとか立ち上がりながらアバドンを見つめ続けるラピス。

 

 アバドンにとっては憎い存在だが、知ってるラピスが目の前にいるのは分かる。だが所詮は敵として判断するのはもう変わらない。

 

 もう、後戻りはしない。絶対にしない。

 

「赦さない」

 

 アバドンは撃ち抜く、ラピスの体を。

 

紅八潮赫剱(クレナイヤシオノアカツルギ)

 

 アバドンは切り裂く、嘗ての仲間を。

 

「死ね、死ね死ね死ね、死に晒せ売国奴めが!!」

 

 最早、彼は止まらなかった。

 

 そこにいるのはウルトラマンなんかではなかった。

 

 ─────ただの、帝国軍人だった。

 

 だがラピスは何もせずにただ攻撃を受けていた。手が出せないのだ。隙もどこもない。

 

 一瞬の希望を信じて、アバドンに向けて手を伸ばすが……それも無意味だ。

 

 伸びた手を、アバドンは「俺を(くび)ろうとしている」と判断したのだ。

 

 僅かにあったであろう希望が、一瞬にして粉々に砕かれる。その表情に、アバドンは愉悦を覚えていた。

 

 かつて前線でロシア兵を殺していた時のように。

 

 かつて前線で中国人を殺していた時のように。

 

 かつて米兵を殺した時のように。

 

 僅かな希望を完膚なきまでに打ち砕き、絶望の中に追いやってから苦しめて殺すのが、アバドンの好きな殺し方だった。

 

 奇しくも、今行っている殺戮はそれと同じであった。

 

 ラピスは驚いた顔をしたが、それでも気にしてなかった。

 

 あの日セレブロの洗脳から解放してくれたこと、自分自身が知るアバドンが目の前にいたことに……あの時と同様、ラピスは()()()()()

 

「ああああああイライラするゥ! 絕望しろ! 跪け!! 地を舐めろ額を擦り付けて許しを請え!!! お前は忌み子なんだよ存在しちゃあいけない粗大ゴミなんだよさっさと死ねよォ!!!」

 

 これはアバドンにとって最も嫌な事であった。

 

 敵が最後まで希望を捨てずにアバドンに殺されるのが、一番嫌なのだ。

 

 だからアバドンはこう告げた。

 

「まるで紙のように薄っぺらい人格でェ!! 生まれすらクズの血統だ!! 駄馬のくせによくのうのうと生きてこられたなぁこのドブス!! 考えのないド阿呆め!! 薄ら汚い淫賣め!! 少しはその無い頭で考えてみたらどうだァ? 自分がどれほど嫌われてんのかをよォ!!」

 

 これは自分へと向けた罵倒でもあった。アバドンは無意識のうちに、重ねていたのだろうか。

 

 否、これはただの罵りだ。心のない叫び声だ。

 

 だがラピスは、笑みを浮かべ続けた。だけどその瞳は……悲しげで、諦めた瞳だった。

 

「アバドン……君の言いたいことわかるよ。とても……でもね、ボク……君に勝てないの分かってるから……希望なんか持ってない。ボクは……迫水隊長と奏さんに言われた。『前へ進め』って……でも、信じてくれないからいいや」

 

 長く話すが、肩を抑えていた片手を離し、拳を構えた。

 

 戦いを終わるのはまだ早い。ラピスはそのことに気づいてはいた。

 

「死ねぇッ!!」

 

 そうアバドンが蹴りを入れようとした、次の瞬間────

 

 ヴァシュッ─────────! 

 

 ────ラピスは、そして怪獣達は、何者かに頭部を撃ち抜かれた。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 ラピスの頭部からどくどくと流れる光の血液からは、生々しくも神々しい香がする。そして光の粒子となり消え失せた。

 

 金属生命体たちはその肉体を留めておらず、最早生命活動を止めていて。

 

 怪獣に至っては、脳漿をまき散らして死んでいた。なおバードンはバトルナイザーに消えた模様。

 

 十字架を象った巨大な銃を担いでいる闇の巨人がそこに居た。

 

「……! この前の!」

 

「また会ったなウルトラマン」

 

 やけにエコーとケロケロ加工のかかった声であった。脳髄が、正体を理解する事を拒否するような声であった。

 

「貴様は何者だ」

 

「ワタシの名はサエラマ。ブラッドガンナー サエラマだ」

 

「ブラッドガンナーだかブラッキーエールだかなんだか知らんが、なんだその中二病みたいな二つ名!」

 

「いいだろう? ワタシの趣味だ」

 

「ああそうかい、こちとら共感性羞恥で心臓が張り裂けそうだわぁっ!!」

 

 アバドンは闇の巨人、もといサエラマに前蹴りを放った。サエラマはそれに対応するように前蹴りを放った。

 

 互いの顔の前で止まる足。

 

 先に動いたのはアバドンだ。カラータイマー目掛けて、前蹴りをカカト落としへと変える。次いでサエラマは腰を入れ、アバドンの顔を潰そうとした。

 

 先にクリーンヒットさせたのはサエラマであった。アバドンは大きく蹴りの余波で吹き飛ぶと、しかしギャルンという音を鳴らしながら立ち上がる。

 

 直後即座に距離を詰め顔を思い切り殴り抜けば、サエラマは軽くよろけ、しかし一瞬のカウンターで蹴りを放った。

 

「……!」

 

 サエラマはアバドンから距離を外す。

 

「……さすがはアバドン」

 

 そう言ってサエラマは消えた。

 

 残ったのは死体と、そしてラピスの水銀で汚染された土地だけであった。



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