二度目の悪神は渇望す (オルフェイス)
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世紀末世界編
捕食


書きたくて書いた。

後悔はしていない。


いつからか、俺はそこにいた。

 

どこかの大地で生まれ、育った。何が何だかわからずに必死に足掻き、敵は喰らって糧にした。

 

本能的に自分が何をできるのかは知っていた。しかし、それに違和感を覚えながら俺は生き延びてきた。

 

なぜなのかは、わからない。敵を喰らって糧にしていくうちに余裕ができた今でも、その違和感の正体は掴めない。

 

だが、この違和感は俺に必要なものであると本能的に理解できた。

だから忘れずに、覚えておくことにした。この違和感を。

 

そうやって何度も敵を貪っていくうちに、いつしか敵は餌になった。

 

多少の余裕は大きな余裕になった。

 

自らに従う下僕も、いつのまにかいた。

 

それでも、やることは変わらなかった。敵は貪り喰らい、餌はいたぶり喰らい、殺して糧にする。

 

それを何度も何度も繰り返し─────いつしか俺は、『俺』という確かな人格を形成し、俺の抱える違和感の正体に気がついた。

 

これは、記憶だ。どこの誰かもわからない、しかし確実に存在していた、異世界人の記憶─────それが、違和感の正体だった。

 

その記憶の内容を吟味し、確認し、知恵を振り絞り────俺は結論付けた。

 

 

この記憶には、俺のいる世界の未来の断片が残されている、ということを。

 

それを知った俺は─────

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

『■1』

 

 

 

異世界の記憶と、こちらで過ごしてきた記憶を照らし合わせ、合致するものを探す。

 

そして知ったのは、俺のいる世界は人の作った創作────その過去の世界であるということ。

 

本来の舞台となる『ラムダ』ではなく、その『ラムダ』に侵攻する魔王軍のいた世界であるということが、わかった。

 

しかし、わかったところでどうしようもない。

 

だから、力をつける。細かい部分を考えるのは、その後でいい。

 

 

 

 

『■2』

 

 

 

 

まず必要なのは、神に至ることだ。神に至らなくては、そもそも話にならない。

 

この世界では、強さこそ正義。強さこそ絶対。故に、弱さは罪で、弱者は潰されるだけ。

 

ならば、力をつける。誰にも邪魔されない、絶対的な力がいる。

 

故に、今日も変わらず敵を貪る。それが、強くなるための最短に繋がると知っているから。

 

 

 

 

『■10』

 

 

 

まだ足りない。まだ、喰らう必要がある。

 

 

 

 

『■100』

 

 

 

先は長い。しかし、諦めることはしてはならない。その時に待つのは、死だけだ。

 

 

 

 

『■1000』

 

 

 

俺は、成し遂げた。

 

遂に至った。

 

 

俺の名は『貪喰の悪神』ラドゴーン

 

 

必要最低限の準備は整った。

 

さぁ、ここからが本番だ。

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

『GUOOOO!!』

 

 

『ギィィィィィ!』

 

 

 

激しいぶつかり合いと二体の口から放たれる叫声が、衝撃波となって大地を崩し破壊していく。

 

それを成すのは二体────否、二柱の邪悪神。

 

 

一柱は黒き雷を体に放電させるわ毛深い金色のゴリラ……に、蜘蛛の目のような複眼を合わせた『剛雷の邪神』ブブディガ。

 

もう一柱は、見た目は二足歩行の龍のようで、しかし首から腹までが大きく裂けた口と多数の牙となっている『貪喰の悪神』ラドゴーン。

 

 

そのニ柱の神の争いは、しかし今にも決着がつきそうであった。

 

 

『GUOOOOO!!』

 

 

『ギィィィィィ!!』

 

 

ブブディガは何度も自慢の雷を放ち、豪腕を振るい、ラドゴーンにダメージを与えていた。

ラドゴーンが避ける動作もしないために、着実にダメージは重なっているはずだ。

 

だがラドゴーンはそれを意に介した様子もなく突っ込み、その裂けた大きな口でブブディガに食らいつこうとする。

 

その度にブブディガはラドゴーンの突進を避け、回り込んで雷と豪腕を打ち付ける。

しかし何度それを繰り返そうと、ラドゴーンは一度も止まることなくブブディガを追跡し追いかけ続ける。

 

このまま続ければ、どれだけラドゴーンがタフであろうと倒れることはわかりきっていたが……しかし、ブブディガはいつ来るかもわからない決着を待つ気はなかった。

 

痺れを切らしたブブディガは自身の最大の一撃で、今まで狙ってこなかった弱点と思われるラドゴーンの大きな口ごと粉砕してやろうと、今度は避けることなく待ち構えた。

 

────それがラドゴーンの望んでいた展開とも知らずに。

 

 

『ギィィィィィ!』

 

 

今まで分散させていた雷を豪腕に集中させ、ワンパターンに突っ込んでくるラドゴーンの口めがけて豪腕を放つ。

 

そしてラドゴーンの大きな口は胴体ごと弾け飛ぶ─────ことはなかった。

 

 

『ギ、ィィィィィ!?』

 

 

なんとブブディガの豪腕はラドゴーンの口に飲み込まれ、そのままブブディガを口の中に引きずり込もうとしてきたのだ。

 

これにはブブディガはたまったものではないと雷を放電させ放ち、残った片方の豪腕でラドゴーンに叩きつける。しかしラドゴーンはこらえた様子もなく少しずつ、ブブディガを口の中に吸い込んでいく。

 

それでもまだ諦めるつもりはないのか、ブブディガは今度は残っている片方の豪腕に力を集中させ放とうとした時。

 

 

『ギ、ィィ?』

 

 

ラドゴーンの口から、巨大な黒い舌が出てきた。

 

その黒い舌はブブディガの体に一瞬の内に巻き付き─────そのまま、ラドゴーンの口の中に引きずり込んだ。

 

 

断末魔もなく、一瞬の内にブブディガはラドゴーンの胃の中に放り込まれた。

 

あとに残るのは、何事もなかったかのようにどこかに歩き去っていくラドゴーンと……ラドゴーンの体内から響く肉と骨を噛み砕き咀嚼する音のみであった。

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

『■■1』

 

 

 

金色のゴリラモドキを食べた。それなりに旨かったし、どうやら新しい力も手に入ったようだ。

 

それと、ゴリラの魂も胃袋に収めることになった。食べ残しのようなものだ。このままでは何に使えるわけでもないが……本当に使えなかったら、食べてしまおう。

 

 

 

 




『貪喰の悪神』ラドゴーン

見た目は完全にDARK SOULS1の『貪食ドラゴン』

実は空間属性に適正がある。

自慢は耐久力ととても長い舌。その舌はどちらかといえばカエルのそれに近い。




『剛雷の邪神』ブブディガ

自慢は体から発せられる雷と、太く大きな豪腕。しかし短気。

最終的にはラドゴーンの隠していた舌に巻き取られ、体内で貪り食われた。

あとで魂も食われるもよう。


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貪喰

続けます。どうぞ


『■■5』

 

 

あのゴリラの魂は食べることにした。ただ、消化するのに時間がかかった。

 

恐らく他に何か使えるわけでもない。あるとしてもその方法を俺は知らない。

 

食べてみたら雷を使えるようになり、心なしか体が大きくなった気がする。

 

神に至ってからは、今までのようにエサを食べても強くなれないことがわかったので、今度からは他の神が目標だ。

 

 

 

『■■10』

 

 

 

他の神を探して何年か。見つけられはするのだが、逃げられたり倒せないやつばかりだ。

 

そのせいでちまちまと弱いやつらを食べるしかない。多少は糧になるが……こんなのでは、強くなるのに何万、いや何十万年かかるかわからない。

 

ここは、待ち構えてみるのがいいか……?それとも、方針を変えるか……さて、どうしたものか。

 

 

 

『■■54』

 

 

 

肝心なことを忘れていた。

 

この世界……いや、俺の知ってる世界では、神の力となるのは信者の信仰だ。

 

力を手に入れたいのなら……信者を増やし、祈らせればいい。

 

幸いにも俺の神としての性質は、この世界に適している。

 

今後の方針は……信者を増やし、敵を喰らい、力をつける。

 

それだけだ。

 

 

 

『■■109』

 

 

 

やはり。

 

信者を増やし始めてから、着実と力が沸き上がってくるのを感じる。

 

俺の信者となり得るのは、食物を必要とする生物。それは、この世界ではあまりにありふれている。

 

だからこそ、信者を増やすのも簡単だ。

 

この調子で進めていこう。

 

 

 

『■■■1』

 

 

 

飛んで火に入る夏の虫、というのだったか。

 

まさか、わざわざやって来てくれるとは、好都合。

 

おかげで、また一段と強くなれた。今回はゴリラじゃなくて、こう……毛むくじゃら……ケセランパセラン、的なやつだった。

 

魂ごと咀嚼し、胃袋に放り込み、力とする。

 

正直飲み込みにくかったが、それでも手に入った力は有用。

 

ありがたく使わせてもらおう。

 

 

 

『■■■110』

 

 

 

昨日のケセランパセランを喰らい、ついでにその信者もまるごと手に入った。

 

庇護されていた信者たちは毛むくじゃらだが、食物が必要なことには変わりない。

 

こうして着実に信者を増やしていけば、いずれは……

 

 

 

『■■■246』

 

 

 

どうやら避けられているらしい。俺が神を喰って回っているのが知られたようだ。

 

わかりきっていたことだ。邪神悪神も生命体の一種。死にたくもないだろうさ。

 

だから今後は神を探すのは一旦置いておき、信者を増やすことを優先させるとしよう。

 

 

 

 

『■■■505』

 

 

 

信者の祈りは、信仰は、着実に俺の力となっている。

 

しかし……恐らくこの程度では駄目だ。

 

『ラムダ』の大神……せめてそのレベルには到達しておきたい。

 

今の俺では、まだ足りないのだ。

 

 

 

『■■■■1』

 

 

 

なんかめっちゃ増える邪神に遭遇した、のだが……毛を大量に出して、食べてしまえば簡単に決着はついた。

 

あぁ、ようは毛を口がわりにしたのだ。最初はやれるとは思ってなかったが、案外できるものだな。

 

俺の本質は食べることだと思っていたが……もしかしたら、俺の認識がズレていたのかもしれない。

 

要検証、だな。

 

 

 

『■■■■144』

 

 

 

前の増える悪神を食べたおかげで、分体を作れるようになった。

 

その分体を使って他の悪神邪神がいないか、捜索中だ。

 

できれば目当ての神……『強奪』『共食い』『悦命』『解放』『魔城』が欲しいところだが……まぁ、気長に探すとしよう。

 

すぐに見つかることもないだろうし……力が手に入ったからといって、使えるのかもわからないからな。

 

 

 

『■■■■3459』

 

 

 

ここしばらくの間、信者を増やす活動しかできていない。

 

神を探そうと捜索はしているのだが……ここら辺にいる神はあらかた食い尽くしてしまったのだろうか。一向に見つからない。

 

前にも似たようなことがあったが……さて、今度はどうしたものか。

 

 

 

『■■■■■1』

 

 

 

なんだろう、釈然としない。

 

今日は偶然にも神を見つけ、捕食したのだが……食べた感じはするが、なんだかこう……食べさせられた、という感じがするのだ。

 

初めてのことに、正直戸惑っている。今までになかっただけに、どうすればいいのかわからない。

 

それに、なんだか最近胃がおかしい。どうおかしいのかはわからないのだが……

 

……久しぶりに、胃を動かしてみるか?

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

『支配の悪神』プリュイエンは、自身のことを神々の中でも最弱の存在であると認識している。

 

強靭な肉体があるわけ、巨大な図体をしているわけでも、強大な力を有しているわけでもない。

 

そういった力のない神には、この世界はあまりにも危険すぎる。

 

だからこそプリュイエンは、神になった今でも巣の中に隠れている。

 

しかし、それにも限界がきていた。

 

 

(支配したい!我よりも巨大な神を!我よりも強大な神を!この世の全てを支配したい!)

 

 

プリュイエンの本質は他者の支配。だからこそ、支配もへったくれもない今の状況は、神に至ったプリュイエンにとっては苦痛でしかない。

 

神としての自我と知性を得てしまったからこそ、今の現状に我慢ならない。

 

プリュイエンは、自らの欲を満たすべく行動し────すぐ近くを通っていたラドゴーンに食われた。

 

しかし、それこそがプリュイエンの狙いだった。

 

 

(愚かなり!さぁ!我に支配されるがいい!)

 

 

プリュイエンの元の種族は、非常に貧弱な生物だった。生殖、食事、行動、睡眠……それら全てを宿主に頼りきりにならざるを得ない寄生生物だった。

 

しかしその支配力は強力で、神を支配するのは不可能でも、それ以外ならどのような生物であれ支配することができた。

 

今のプリュイエンは、神に至ったことで他の神に寄生し支配できるようになっていた。

 

だからこそ、プリュイエンは自身を飲み込んだラドゴーンを支配するべく、自ら体内に潜り込んだ。

 

 

─────そこまでは、よかった。

 

 

予想外だったのはそこからだ。

 

 

(な、なんだこれは?)

 

 

プリュイエンの予想では、まずは胃の中に放り込まれるはずだった。

 

しかし目の前にあるのは胃ではなく……いや、胃ではあるのだろう。

ただし、その広大さはラドゴーンの肉体よりも数倍大きい。しかもどういうわけか次に続く穴が複数箇所存在していた。

 

 

(胃の中の空間を拡張しているのか……?いや、そんなことよりも、まずは脳を目指さなくては)

 

 

プリュイエンは考えられる可能性を切り捨て、支配するために必要な場所を探し始めた。

 

しかし、見つからない。胃を突き破ってみても、複数ある道を通っても、見つからない。

 

道を通れば別の胃に繋がっているだけで、心臓に到達できない。ならばと胃を突き破っても、どういうわけかまた胃の中に出てくる。

 

プリュイエンは、無限ループに囚われていた。

 

 

(馬鹿な、なんなんだここはっ!?)

 

 

今までに経験したことのない相手。どれだけ脳を目指そうとしても、いつの間にか最初の場所に戻される。その繰り返しだった。

 

それでもプリュイエンは諦めなかった。自らの欲望を、他者の支配を辞めようとはしなかった。

 

いつかは脳に辿り着けるはずだと足掻きもがいて……そして、その時は来た。

 

 

(…なんだ?)

 

 

プリュイエンが察知したそれは、胃の脈動だった。プリュイエンが胃の中に潜入したときはろくに動いていなかった肉の壁が、蠢きだしていた。

 

その蠢きに危機感を覚えたプリュイエンはすぐさま胃の壁から逃れようと動き……それは起こった。

 

なんと胃の壁が中心に向かって迫りだしたのだ。

 

 

(ヌォォォォ!?)

 

 

プリュイエンはすぐにそれから逃れようと壁の付近か、逃げ出し……すぐさま反転して迫り来る肉の壁に突撃した。

 

 

(逃げたところで押し潰されるだけ!ならば、胃を突き破り、今度こそ脳に寄生する!)

 

 

そんな賭けに出たプリュイエンは迫り来る肉の壁に到達し、胃を突き破ろうとして────出来ない。

プリュイエンがいくら肉を突き破ろうとしても、一向に押し戻されるだけで肉を破れない。

 

 

(なっ、なぜだっ!?これまでは突き破ることはできた!なのに、なぜ今は出来ないっ!?)

 

 

プリュイエンは自身の出せる全力で肉を突き破ろうとするが、むしろ突き進むどころか押し戻されて左右からも肉の壁が迫り出す。

 

 

(死ぬっ?この我がっ?こんな、あっけなく……ふ、ふざけるなぁぁ!)

 

 

どうにも出来ない状況に死の予感と絶望を覚え、それを怒りで誤魔化そうとするが……それでこの場を打破できるのなら、プリュイエンは寄生に頼ってなどいない。

 

プリュイエンに迫ってきていた肉の壁が、ついにプリュイエンに到達し、押し潰そうとする。

 

プリュイエンは必死に体を動かし逃げ出そうとするが……

 

 

(ぎ、ィィァァァアァァァ!!)

 

 

プチンと小さな音が響き肉の壁がプリュイエンを押し潰して、小さな断末魔と共にプリュイエンは本当の意味でラドゴーンの胃に収まった。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

『●1』

 

 

なんだろう、だいぶスッキリした。

 

久しぶりに胃を動かしたからだろうか。もしかしたら胃の中には溶かしきれていなかったものが大量にあったのかもしれない。

 

今後は適度に胃を動かしてみるとするか。




『墮毛の邪神』アンギ

ケセランパセラン的なやつ。移動、戦闘、感知の全てを触覚である毛に頼っている。

手数も多ければ範囲も広い。地味に力も強いと結構な強敵……だったのだが、ラドゴーンに喰われた。

ラドゴーンはアンギを喰らって口のついた毛を生やす能力を得た。


『石増の悪神』パララヤ

体を硬化した皮膚で覆った象に似た悪神。他の石を媒体として自分を増やすことができる。

……のだが、ラドゴーンが毛を生やして一気に喰らい尽くす戦法を取ったせいで、無事胃袋に収まった。


『支配の悪神』プリュイエン

寄生虫の神。寄生さえできればどんな神であろうとも支配できる力を持っていた。

しかし、ラドゴーンの体内にある大量かつとてつもなく広い胃袋に翻弄され、最終的にプチっと潰された。

プリュイエンは寄生し支配することに特化しているので神の中でも最弱。ただ隠れるのは上手かった。


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万食

今回はざっくりといきます。

ところで原作を知らない人はぜひ原作を見てほしい


『●500』

 

 

前回食べた神の能力を試してみたのだが、これが中々良いものだった。

 

分体を寄生させ、操ることができる力。それが今回手に入った力だった。

 

神未満の存在に対しては、使ったところで何の意味もない力だが……これが神にも効くとしたら、どうだろうか。

 

とりあえず、これを上手く使いこなせるように努力するか。

 

……恐らく、時間もないだろうしな。

 

 

 

『●1074』

 

 

 

直感的に、というか。なんとなくではあるが、世界が脆くなっているのが感じられた。

 

近い内に……それこそ百年以内に、この世界は消滅するのだろう。

 

魔王軍による異世界侵攻まで、もう時間がない。

 

それまでにできるだけ多くの神を喰らい、力をつける必要がある。

 

現段階では、魔王に勝てないのは分かりきっている。いつかは勝てるくらい強くなろうと思っていたが、こんなに世界の崩壊が早いのでは間に合わない。

 

ならば、どうするか。

 

残念ながら、今の俺にやれることは変わらない。敵を喰らい、糧にして、力をつける。

 

それだけだ。

 

 

 

『●1330』

 

 

今更ながら思ったが、俺は一体何のために強くなろうとしているのだろうか。

 

美食……はまぁ、今現在の娯楽ではある。食べる相手によって味が違うので、楽しみながら食えるからだ。

 

しかしそれ自体が目的かというと、そんなわけがない。

 

今ではもう思い出せないが、俺は人間だったのだ。人間は欲の塊であり、1つの欲で満足できるほどできてはいない。

 

食欲だけじゃない。俺は、もっと楽しみたいのだ。

 

だから、力がいる。もっと、もっと。

 

 

 

『●4456』

 

 

 

喰らう。喰らう。喰らう。

 

こんなものでは足りない。もっと、喰わなくては。

 

 

 

『●7741』

 

 

 

少し落ち着こう。

 

これでは食欲に支配されたケダモノだ。しかし、俺は悪神だ。欲を満たすことは悪いことではない。

 

ただ、欲に呑まれれば取り返しのつかない失敗を仕出かすかもしれない、というだけで。

 

……よし、落ち着いた。

 

明日からまた頑張るか。

 

 

 

『●10079』

 

 

 

今日、魔王────グドゥラニスに遭遇した。

 

なるほど、あれが魔王か。一目みてわかった。あれは勝てない。

 

だてにラムダを蹂躙したわけではない、ということか。桁が違う。

 

まだその力を完全に見たわけではないが……本能的にグドゥラニスが今の俺よりも強いことは理解できた。

 

幸いにも今の魔王は異世界侵攻のための準備中であり、俺と遭遇したのも配下を増やすためだった。

 

当然ながら俺も魔王軍に勧誘された。いや、勧誘というよりは強制されたというのが正しいが。

 

まぁ断る理由もなかったのでその勧誘に乗り、グドゥラニスに従うことにした。

 

流石のグドゥラニスも、見たことも聞いたこともない異世界に行くのは難しいようなので、もう少しだけ時間がある。

 

せっかくだ、その時間で魔王軍に入った邪神悪神を確認しておこう。

 

どうやらグドゥラニスは邪神悪神を一ヶ所に集めているらしいからな。

 

 

 

『●10143』

 

 

 

確認ができた。

 

『悦命』『解放』『強奪』『共食い』『魔城』……あと『迷宮』のグファドガーン。

 

グファドガーンについては、今は食べるつもりはない。まだまだ育っていないのに食べても、大した力は得られないからだ。

 

それなら『魔城』を食べた方がいいが……それもまだ早い。

 

魔王軍に入る前ならともかく、今やるのはリスクが大きい。せめて、グドゥラニスが倒されるまで待つ方がいい。

 

それまでの、辛抱だ。

 

 

 

『●10406』

 

 

 

グドゥラニスの準備が整い、ついに異世界への侵攻が始まる。

 

ここから、恐らく俺の生きてきた中で最も激しい戦いが繰り広げられることだろう。

 

そして、俺は決めなくてはならない。魔王軍として戦うのか、それとも魔王軍を裏切りラムダに与するのか……

 

どちらもリスクは大きい。しかし、俺自身のためにここはリスクが大きいことがわかっていても、やらなくてはならない。

 

結局のところ、どちらかしか生き残れないのだ。魂を滅ぼすことができるのはグドゥラニスだけだが、そのグドゥラニスであっても神を滅ぼすのは簡単ではない。

 

それを知った上で、決めなくてはならない。俺は、一体どちらを選ぶのかを。

 

 

 



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神話大戦編
ラムダ《1》


お待たせしました。

新章、開幕です。


『●10703』

 

 

ラムダ世界に到着した。

 

自然に満ち溢れ、神と人間が良き隣人として存在している世界。それがラムダだった。

 

因みにラムダという世界について大雑把に語ると。

 

 

・とある世界で黒と白のニ柱の巨神が喧嘩をしていた

 

・そのニ柱は色々あって倒れ、その骸から十一柱の大神が誕生する

 

・八柱の大神は人間を作り、残りの三柱、龍皇神マルドゥーク、巨人神ゼーノ、獣神ガンパプリオはそれぞれ龍、巨人、鳥獣を創造した

 

・みんな平和に暮らしてました

 

 

……というのが、グドゥラニスが侵攻する前のラムダである。

 

当然ながら、ラムダの生命に戦う手段なんてものは持ち合わせていない。なにせ、必要なかったからだ。

自分達を害する敵がいないのならば、そうもなるだろう。

 

戦う手段を持たない人間ではなく、それ以外の種族と神がグドゥラニス率いる魔王軍と初戦を繰り広げていた。

 

しかし、瞬く間にグドゥラニスはラムダを侵略していく。

魔素によって世界を汚染し、巨人、龍、獣王*1、そしてこの世界を守る大神たちを蹴散らしていった。

 

もっとも、流石のグドゥラニスも複数の大神を相手にするのは一苦労なようだったが。

 

因みに俺は適当な巨人と龍と獣王、それに従属神*2を相手にした。弱くはないのだろうが、いかんせんパワーに頼りすぎている。戦術も何もあったもんじゃない。

 

まぁ俺もどちらかといえばパワータイプなのだが。

 

 

 

『●11457』

 

 

 

グドゥラニスがゼーノ、マルドゥーク、ガンパプリオを滅ぼし、ラムダの大陸の一つを支配した。

 

他の巨人や龍も悉くグドゥラニス率いる魔王軍に倒され、一部は魂ごとグドゥラニスに滅ぼされた。

中には魔王軍に寝返った龍や巨人、獣王もいるくらいだ。

 

俺?俺は迫り来る巨人や龍を相手に立ち回って、多くの神を押し留めて、その隙を他の邪神悪神に任せている。

 

喰えるのであれば喰いたいが、しかし手強い。喰おうとすれば他の神に止められるからだ。

 

ラムダ侵攻は、まだ始まったばかりだ。

 

それに……そろそろ大神たちも手段を選んでいられないだろう。

 

神の造り出したシステム*3に、異世界からの勇者。

 

それらが出始めてからが、本番だ。

 

……それはそれとして、砕け散ったゼーノたちの骨や肉片を探すか。

 

ぜひとも食べてみたい。

 

 

 

『●11990』

 

 

 

グドゥラニスが大陸に魔素を広げ、魔物を創造した。

 

魔物の……生命の創造など、得意分野でない限りは不可能に近い。少なくとも俺は出来ない。

 

グドゥラニスは本腰を入れて、下僕である魔物を揃えて侵略に始めるようだ。

 

それに対抗してか、ついにラムダにシステムが組み込まれたようだ。残念ながら神や亜神はシステムの適用外なので、専ら神以外の存在を育てるのに使われるだろう。

 

今のところ、グドゥラニスはシステムに気付いた様子はない。俺も、分体を派遣させてわかった事実だからな。

なお俺から教えるつもりはない。教えるまでもなく、いずれ気付くであろう、と思っているからだ。遅いか早いかの違いしかない。

 

あぁ、それとグドゥラニスは配下の邪神悪神に魔物の創造の力を与えていた。

 

グドゥラニスにとって、それくらいのことは大した労力でもないのだろう。

 

俺もその力を受け取ったので、早速魔物を創ってみたのだが……ドラゴンっぽいやつが創れた。

 

……鱗と口と牙しかない、外見だけはドラゴンだ。目も鼻も爪もないドラゴンモドキである。

 

最初はランクを調べようとも思ったのだが、今はグドゥラニスがシステムを改変していないので、そもそも魔物にステータスが存在しない。

 

なので、こいつらの種族と能力を知るのは別の機会となった。

 

迷宮が創られるのは……多分、グドゥラニスによるシステムの改変が終わってからだろう。

 

それまでは、こいつらを増やすことにしよう。

 

 

 

『●12110』

 

 

 

グドゥラニスがシステムに介入し、魔物にもシステムの恩恵を受けられるようにし、それに加えて魔物にランクというものを追加した。

 

それに気付いた大神、リクレントがシステムを三柱の従属神*4に任せ、何処かもわからない空間に放り出した。

 

グドゥラニスは配下の邪神悪神に迷宮創造の力を分け与えた。

 

 

以上の出来事が、短い期間の間に起こっていた。

 

 

魔物にもステータスシステムが適用されたおかげで、前に創った魔物の名前とランクがようやくわかる。

 

ちなみにそんな出来事がありつつも、1つの大陸を支配した魔王軍率いる魔物たちと邪神悪神、ラムダ側の神々と人間との争いは既に開戦してたりする。

 

人間にシステムが適用されたために魔物たちは劣勢気味だったが、魔物にも適用されたおかげでほぼ互角に傾いている。

 

こちらにはグドゥラニスという規格外の存在がいるとはいえ、連携も何もあったものじゃない邪神悪神たちは、ただ魔物を突撃させるだけしか能がない。

 

もちろんそれだけではない神もいるが……少数派であるのは事実だ。

 

中には配下の魔物に武器を持たせるという発想に至った神もいる。

俺も最初はそれをしようと思っていたが、いかんせん俺の創った魔物たちの体は、武器を持つのに適していない。

 

それに……もうそろそろだろう。

 

システムは完成された。ならば、次に来るのは……異世界からの勇者。

 

さて、備えるとしよう。

 

 

 

因みに俺の創った魔物は『ヴィーヴル』というランク6の竜*5であった。

なんでそんな名前なのかは知らない。文句があるのなら名付けたステータスの神に言ってくれ。

 

 

 

『●13331』

 

 

 

ラムダの大神たちが、勇者を異世界から招き入れた。

 

目には目を、歯には歯を、というやつか。異世界からの侵略者には、異世界の人間を使う、と。

……いや、使うというのは語弊だろう。正確には協力してもらう、か。

 

 

さて、今の俺にはいくつかの選択肢がある。

 

 

まず一つが、勇者からの勧誘が来るまで待つこと。

 

これを選ぶということは、グドゥラニスと戦うということだ。下手をすれば滅ぼされる可能性もあるだろう。

しかしこの世界を知っている俺からすれば、勇者につくことは悪い選択肢ではない。ただ、これからの行動に制限が掛かるだけだ。

 

二つ目はこのまま魔王軍に留まること。

 

これは、どちらを選んでもグドゥラニスが破れることに変わりない。少なくとも、俺が何か仕出かさない限りは。

 

魔王軍に留まることを選べば、色々と自由にできる。味方をするのも、敵対するのも自由だ。

ただ、下手をすれば何十万年と封印され続けることになるかもしれない、というリスクはある。

 

正直、俺はどちらを選んでも構わないと思っている。

 

やりたいこと、やれることは分かりきっている。しかし、それが実際に出来るかどうかは分からない。

 

だから考える。その選択でいいのかを。

 

……少なくとも。後悔は、しない。そのつもりだ。

 

 

 

『●14450』

 

 

 

魔王軍から勇者に寝返ることにした。

 

勇者の一人、ザッカートから誘いが来たのだ。

 

その時にはもうどうするのかを決めていたので、俺はザッカートの勧誘に乗ることにした。

 

とりあえず、配下の魔物が沢山いるのだが……一緒に連れていっても構わないだろうか?

 

 

 

*1
この三種のように肉体を持つ神は亜神と呼ばれる。ゼーノ、マルドゥーク、ガンパプリオも亜神に分類される

*2
大神によって神となった元人間。信者からの信仰によって大神と同じように力を得る

*3
神の造り出した、魔王に抗うためのシステム。ステータス、ジョブ、スキルの三種で構成されている

*4
後のスキルの神、ジョブの神、ステータスの神

*5
龍が神であり、竜は神の領域に到達していない魔物を指す




因みにここの選択次第で『ラムダ』√、『魔王軍』√に別れます。今回はラムダ√ですね。

後々のラドゴーンの選択次第で、さらに細かくルート分岐していきます。作者の都合と気分、あとコメントによっては別ルートを書くかもしれません。


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ラムダ《2》

『●15004』

 

 

 

ザッカートの勧誘によりラムダ側として戦うことにした、のはいいのだが、やはり歓迎はされていない。

敵だった神が味方となったのだから、当然であろう。

 

俺の他にも多数の邪神悪神がいるが、そのどれもが魔王軍の中では下から数えた方が早いものばかりだ。

 

しかし、ないよりはマシだ。

 

なにせ戦闘に関してはラムダの神々よりも場数を踏んでいる。力で劣るからといって、それ以外でも劣るわけではないからな。

 

とりあえず、今までやってこなかった迷宮の作成を試してみようか。

ヴィーヴルたちは創るだけ創って、あとは人間たちに突撃させるくらいしかやってこなかったし、この迷宮を使ってヴィーヴルの強化をしておきたい。

 

なにぶん、出来ることが少ないからな。せいぜい戦うか、分体で敵を探るか、その分体で敵に寄生するかくらいしか出来ない。

 

その寄生も、相手が弱ってなければすぐに分体を潰されるだけだしな。

 

 

 

『●15449』

 

 

 

ヴィーヴルはかなり奇抜な特徴を有していたようだ。

 

その特徴を知ったのは、ヴィーヴルのランクとレベルの上昇を目的とした、自作迷宮の攻略をやらせていたときのことだった。

 

攻略する中で途中でラムダの人間、というよりも人種*1が混ざっての攻略となったのだが、瀕死となった一体のヴィーヴルが人種……エルフの武器に取りつき、寄生したのだ。

 

いや、あれは寄生というよりも融合に近いが……とにかく、そのエルフの使っていた武器と融合して、まったく別のモノになったのだ。

 

最初にそれを知った時は驚いた。なにせそんな力を俺は持っていないからな。もしかしたら死んで死骸となったら、ヴィーヴルと同じようなことになるのかもしれない。

 

ヴィーヴルが融合した武器は、瀕死のヴィーヴルがなったことから『骸装』とザッカートに名付けられ、『骸装』を装備したエルフに異常は見られないとのこと。

 

『骸装』自体に意思はなく、地球でいうところの化石のようなものだととザッカートは言っていた。

 

そこで改めてヴィーヴルを調べてみたところ、ヴィーヴルには他者に寄生し、その寄生対象を強化するスキルが複数あることが判明した。

 

瀕死、もしくは死亡した場合では寄生ではなく融合という形で何かに取り付くようである。なんか【魔王の欠片】*2がマイルドになったようなやつだな、と内心思った。

 

武器に取り付いた際は元となる物質にもよるが、似て非なる別の物質に変質するらしい。流石に、神々の造り出した最高の金属、オリハルコン*3が変質することはなかったようだが。

 

それと、風属性と空間属性に高い適正を持っていることも判明した。

風は、前にゴリラを食べて手に入れた雷の影響だろうが……空間は、恐らく俺自身から来ているのだろう。

 

ふむ……この際だ、練習しておこう。

 

上手くいけば、迷宮をもう一度作る時に役立つかもしれないしな。

 

 

 

『●16601』

 

 

 

いつの間に、というべきか……ザッカートたち勇者が『導士』のジョブに就いていた。

 

導士というのは、他者に影響をもたらすジョブだ。自身の思想を広める導き手であり、導かれた者を強くするスキルを獲得できる。

 

この思想というのが中々の曲者で、導士の広める思想に共感、共存できなければ導きの効果を得られないのだ。

 

例えば、召喚された勇者の一人であるベルウッドは人種や神だけしか導くことができないが、ザッカートの導きスキルは魔物と神も含まれている。

 

……そう、神である。神も含まれているのだ。思想に共感できるのなら、神であろうとも関係ないのだ。

ザッカートの導きスキルは、ラムダの神々だけでなく邪神悪神も含まれている。

 

……うん、正直に言おう。

 

どうやら俺はザッカートに導かれた……ようだ。

 

なんで?とは自分でも思うが、その……ザッカートの思想には共感できたし、悪くないかな、とは思っていたから………うん。

 

導きって、すごい。

 

とりあえずザッカートには加護*4を与えておくことにする。

ヴィダだってザッカートに加護を与えてるし……良いだろう、多分。

 

 

 

『●17112』

 

 

 

とりあえずザッカートのことは置いといて、他の勇者や成長したヴィーヴルたちのことを話そうか。

 

 

光と法の神アルダが選んだ勇者、ベルウッド*5

 

炎と破壊の戦神ザンタークが選んだ勇者、ファーマウン・ゴルド*6

 

風と芸術の神シザリオンが選んだ勇者、ナインロード*7

 

 

この三人は戦闘系勇者として常に前線で仲間と共に戦っている。

 

 

時と術の魔神リクレントに選ばれた勇者、アーク*8

 

水と知識の女神ぺリアに選ばれた勇者、ソルダ*9

 

大地と匠の母神ボティンに選ばれた勇者、ヒルウィロウ*10

 

そして、生命と愛の女神ヴィダに選ばれた勇者、ザッカート*11

 

この四人は生産系勇者として、前線で戦う戦闘系勇者たちをサポートして支えている。

 

 

以上の七名がラムダに召喚された勇者だ。もう一柱、空間と創造の神ズルワーンが残っているが、この神は他の世界からザッカートたちを呼び出すのに力を使っていたので、勇者を選んではいない。

 

で、敵側であった邪神悪神をラムダ側に寝返らせたのがザッカートである。流石ザッカート。スゴい。

 

 

……ゴホン。

 

 

次に、ヴィーヴルだが……今では創ったヴィーヴルの半数近くが武器や人種の肉体と融合し、戦力の増強となっている。

 

それとどうやらヴィーヴルの融合はザッカートの導きを受けた者にしか起こらないらしく、ベルウッドやナインロード等の他の導きを受けた者には融合しなかった。

 

あと、他の邪神悪神が連れてきた魔物たちにも融合は出来るようなので、一部ヴィーヴルを貰いたいと言ってきた神もいた。もちろん断る理由もないのであげた。

 

残りの半数のヴィーヴルは、風属性を得意とするランク11のライジングヴィーヴルや、空間属性を得意とするディメンションヴィーヴルが主となっている。

 

ただ、一体だけ飛び抜けて強くなったランク14のアンリミテッドヴィーヴルという、神の最低ランクを越えた*12個体もいるので、このままいけば俺を越えてくるかもしれない。それも悪くはないだろう。

 

今の状況は勇者という戦力と、邪神悪神を寝返らせた分を含めてラムダ側と魔王軍との拮抗はこちら側に傾いている。しかし、戦力は多ければ多いほど良い。

 

あぁ、そう言えばザッカートが自身のいた世界に存在した武器、銃を再現しようとしていたな……他の生産系勇者であるアーク、ソルダ、ヒルウィロウと一緒に。

 

丁度いいし、食べなかったゼーノたちの骨と肉の欠片を渡しておこう。大きいのは食べたのだが、小さいものは胃の中に放置してたからな。

 

……そしたらザッカートは『そういうのはヴィダたちに聞いてからにする』と言った。

あと『それをもっと早く言ってくれ』とも言われてしまった。

 

なんか、ごめん。

 

 

 

『●17744』

 

 

 

とりあえず銃の試作品ができたようなので、試してみるようだ。試す場所は俺の迷宮────『呑喰穴』と名付けられた場所で行った。

 

結果は、予想通り失敗。銃自体に問題はなかったが、圧倒的に火力が足りないことが判明した。

ザッカートのいた世界『アース』にあった火薬を自作して使ったようだが、火薬の量を増やしてもさほど変わらなかった。それは、弾薬をオリハルコンに変えても同じことだった。

 

色々と試した結果、銃は火力不足という点でダメで色々な工夫をしても、せいぜいがランク6までが限界。それ以上となると実用的ではないらしい。

 

とりあえず思ったのは、銃を扱うにしても必要になるのは銃を扱うためのスキルと、銃を強化する魔術であろう、と。多分それらが揃えばもっと高いランクの魔物にも通じると思う。

 

そういったことを話すと『だよな』とため息をつかれた。

 

……いっそのこと、空間を抉る弾丸とかでも作れればどのような相手にも効くのではないだろうか。できるかどうかは、別とするけど。

 

そこまで考えたところで、ヒルウィロウにヴィーヴルを持ってきてほしいと頼まれたので、胃の中に待機させていたランク9のエアロヴィーヴルを取り出したところドン引きされた。解せぬ。

 

どうやらヒルウィロウは、ヴィーヴルを試作銃に寄生させようとしたらしいのだが、構造が複雑すぎて寄生できないという事実が発覚してしまった。どうやらヴィーヴルの脳が理解できなかったようだ。

 

その後も色々とグファドガーン*13やザッカートたちと共に試作してみたが、結局満足のいくものは作れなかった。無念。

 

ただ魔術を使っての弾丸の強化や、スキルを獲得して武器の威力を上昇させる案は後の実験で試してみるらしい。

その時は俺も混ぜてもらおう。今回と同じように。

 

 

……そういえば、ザッカートが酒の席で愚痴を呟いていたな。なんでもベルウッドを羨んで『俺もエルフの美少女と仲良くしたい』らしい。

丁度グファドガーンもいたので、グファドガーンを誘って美少女エルフを作ってみようか。

 

……まぁ、どうやってもエルフの形をした魔物にしかならないだろうが、やれるだけやってみよう。

 

 

 

 

『●21009』

 

 

 

グドゥラニス率いる魔王軍との戦争は、ラムダ側に戦況が傾いている。

 

魔王の居座る大陸────後の魔王大陸は魔素やらなんやらで汚染されてしまい、もう人の生きていける環境ではない。

それでもベルウッド率いる義勇軍は生まれ故郷を取り戻そうと足掻いている。

 

なぜ突然こんな話をしたのかというと、ザッカートたちとベルウッドの本格的な対立が始まってしまったからだ。

 

ベルウッドは『アース』に存在していた兵器、道具を忌み嫌っている。ラムダを壊す害悪であると認識しているのだ。

 

それに対してザッカートは、『アース』の兵器を使ってでもグドゥラニスを倒すことを優先している。遅れれば遅れるほど取り返しのつかないことになると思っているのだろう。

 

グドゥラニスの張る強力な対物理、対魔術の二つの結界。それらを現状破ることができないからこその対立だった。

 

……いや、ラムダ側が優勢になっているからこそなのかもしれない。余裕が出来てしまっているからこそ、手段を選ぶことができてしまっている。

その余裕は、事態を悪化させることにしかならないというのに。

 

ザッカートはヴィダたち大神と協力して、兵器を使うときに発生する汚染をどうにか出来ると思っている。

ベルウッドは、浄化できるかもわからないのに『アース』の兵器をこちらで使うわけにはいかないと断固反対。

 

これでは埒が明かないと察したザッカートは他の生産系勇者と共に工房に籠り、兵器開発に着手した。兵器の汚染を大神たちが浄化できるのかも確かめようとした。

 

……あぁ、そろそろだろう。

 

この時期、このタイミング……間違いない。

 

さて、俺も覚悟を決めようか。

 

保険は、用意してあるしな。

*1
人間、エルフ、ドワーフの総称

*2
魔王の肉体をバラバラにして封印した欠片たちが、封印された中でそれぞれ独自の部位となったもの。非常に危険で近くにいる生命体を宿主として寄生する。精神力が低いと寄生された瞬間に精神を乗っ取られ、自我は崩壊し肉体は欠片に侵食される

*3
神鉄ともいう。魔王の肉体に対抗できる唯一の金属

*4
神が与えることのできるもの。システムが実装されたことにより、神の加護は与えた者の成長を促す効果が発揮される

*5
『アース』では自然活動家であり、熱弁家な大学生だった

*6
『アース』にいたときは冒険家志望の大学生だった

*7
『アース』では大学生兼ペットショップのアルバイト店員だった

*8
『アース』では文系大学生な普通の女子

*9
『アース』では理系の女子学生で、眼鏡女子。マッチョが苦手だった

*10
『アース』では舞台俳優の卵で、忍者や侍などを好んでいた

*11
『アース』では町工場経営者だった。呼び出された勇者の中で最年長だったが、ヴィダによって若返った

*12
神は最低でもランク13並みに強いため、神と戦うなら越えておかねばならないライン

*13
常に24時間ザッカートの近くにいるザッカート信者。神ではあるが、信者である




『ヴィーヴル』

『貪喰の悪神』ラドゴーンによって創造された竜の魔物。見た目は竜の形をした鱗の化け物で、目、鼻に該当する部位がなく、あるのは鱗と口と牙、ついでに舌のみ。そして生殖器官を持っていないため、自力で自己繁殖する。

素のランクは6で、他の魔王軍によって創られた魔物と比べて比較的ランクが高い。しかしその能力値*1は同ランクの魔物と比べたら低い部類に入る。

しかし【寄生融合】【寄生融合時攻撃力強化】などといった、寄生及び融合によって他者を強化するスキルを保有する。その対象は生物だけに収まらず、無機物でさえも対象となる。

寄生融合された生物は【寄生融合時能力値強化】【自己強化:骸装】【骸装術】などといったスキルを獲得する。人種が寄生融合された場合、ジョブに【骸装使い】【骸装剣士】といったジョブが出ることが確認されている。

また、ヴィーヴルの寄生融合は失った肉体を補填する役割もあり、瀕死の状態から寄生融合によって生還した者も確認されている。

現在確認されている最高ランクは、ランク14のアンリミテッドヴィーヴルである。

*1
生命力、魔力、力、敏捷、体力、知力で構成される



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ラムダ《3》

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

(覚悟を、決めるときだな)

 

 

『貪喰の悪神』ラドゴーンは、心の中でそう呟く。

 

ザッカートとベルウッドの対立。それは避けられないことだった。

 

自然を愛し、ラムダの人々を守るために戦うベルウッドと。世界を壊すグドゥラニスをなんとしてでも倒そうとするザッカート。

 

双方がラムダを守ろうと必死だ。しかし、思想の違いが二人を対立させ、協力させない。

だから戦闘系勇者、生産系勇者などと分けられている。考え方が違うのだ。

 

その対立こそが、後の悲劇になる。

 

それを、止める。いや、未来の知識を知る自分にしか出来ないことだとラドゴーンは分かっていた。

 

 

(……まさか、ここまで肩入れするなんて思ってもみなかった)

 

 

【導士】というものを軽く見ていた。導かれるつもりはなかった。

しかし、不思議と後悔はない。なるべくしてなったのだとなぜか納得できた。

 

ザッカートとの邂逅は、間違いなくラドゴーンの心に大きな影響を与えていた。

ラドゴーンの忘れていた……悪神として過ごすうちに薄れていた心を、取り戻させた。

 

グファドガーンがザッカートに心酔することに深い理解と納得を覚えるくらいには、ザッカートに対して強い思いを抱いていたのだ。

 

 

(自分のことながら戸惑うけど……)

 

 

多分、ザッカートが死ねば自分は狂ってしまうだろう。敵も味方も関係なく暴れまわるかもしれない。

もしかしたら呆然自失となって眠りにつくかもしれない。永い時を、永遠に。

 

それだけ、ラドゴーンはザッカートに入れ込んでしまっている。

 

 

───だから。

 

 

ザッカートを魔王に殺させはしない。

 

グドゥラニスに、ザッカートを奪わせはしない。

 

滅ぼさせは、しない。

 

 

 

絶対に。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

襲撃は、確かに起こった。

 

グドゥラニス率いる魔王軍は、消耗を気にせず特攻に近い形で正面から攻め入った。

その裏では少数でザッカートたちのいる工房を目標に、ザッカートたちの命を狙った。

 

ベルウッドたちは前者の対応に出て、しばらく戻ってくることはないだろう。

彼ら自身の思いはどうだったのかは知らないが、客観的に見ればベルウッドたちはザッカートを見捨てた、ということになる。

 

何もしなければ、このままザッカートたち生産系勇者はグドゥラニスに魂ごと滅ぼされるのだから。

 

 

(させないけど)

 

 

こちらに向かってくる魔物の群れ。大した数でもなければ強い魔物でもない。

これだけ見ればただ戦力をこちらに割くために向かわせたと思えるだろう。

 

しかし、そうではないことをラドゴーンは知っている。あの群れには、ザッカートたちを恐れたグドゥラニスがいる。

ザッカートの作り出すものが、いつか自身の命に届くかもしれないと危惧してのことだ。

 

それは、ザッカートを正当に評価していると言える。しかし敵である以上、そんな評価はどうだっていい。

 

グドゥラニスが来るという情報は、分体を通して工房にいるザッカートに伝えてある。

グファドガーンもいるのだ、すぐにザッカートを遠くへ逃がすだろう。

 

問題となるのは、それを追ってグドゥラニスが向かってしまうこと。それを防ぐには、自身が時間を稼がなくてはならない。

少なくとも、前線に出たベルウッドたち戦闘系勇者と大神たちが戻ってくるまで。

 

 

(恐らく無理だ。せいぜいがザッカートを逃がすくらいか)

 

 

そんなに時間を稼げるとは、思っていない。良くも悪くも、ラドゴーンは自身の力というものを把握していた。

 

それを踏まえ、ラドゴーンの力でグドゥラニスと相対することを考えれば……間違いなく、滅ぼされるだろう。

もしかしたら時間を惜しんでラドゴーンを封印するかもしれないが……そんな甘い予想は捨てておく。

 

だが、保険は用意しておいた。今ここにいる『貪喰の悪神』ラドゴーンが滅びても良いように。

 

 

『GUOOOOO!!』

 

 

雄叫びをあげる。心に巣食う死の恐怖を打ち払う。ここで踏ん張れ。負けるとしても足掻き続けろ。

 

 

さぁ、負け戦だ。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

(……だいぶ壊されたな)

 

 

グドゥラニスへの時間稼ぎは、順調に行えた。

 

巨体を動かし暴れまわり、舌を伸ばしてあちらこちらに叩きつけ、はては胃の中から胃酸を吐き出したり、迷宮を体内で作り出してそこから魔物を排出したりと……まぁ色々やってた。

 

おかげでザッカートは逃げ切れたことが分体を通してわかった。

しかしそのせいでグドゥラニスの怒りを買ったらしく、粉々に肉体は破壊され、最後には魂を滅ぼされた。

 

そう、滅ぼされた。魂を、粉々に。

 

しかし、生きている。それは何故か?

 

 

(保険があって良かった。本当なら、こんなことに使うつもりはなかったが……)

 

 

魂というものに関して、ラドゴーンにさほど知識はない。だが魂がどういうものであるのかは、大雑把ながらも理解していた。

 

だからそれをやることができた。

 

ラドゴーンは御使い*1を信者に降臨させるのと同じ要領で、分体の一体に人格と記憶を入れたのだ。一部の魂と共に。

 

当然ながら分体に人格と記憶を入れたところで神としての力は備わっておらず、ラドゴーンの大部分を占めていた本体……いや、分体に神の力が残った。

 

ラドゴーンがしたのは、力の大部分を保有した分体をグドゥラニスにぶつけるということ。言うだけなら簡単だが、普通ならやろうとはしないことだった。

そんなことをすれば、力だけを持った分体に意志が宿り、その肉体を乗っ取る可能性ができる。

それがなかったとしても、その力の分体をぶつけたのはグドゥラニス。分体が滅ぼされれば、ラドゴーンは神としての力を失う───つまり、神ではなくなるということなのだ。

 

そのリスクを承知で、ラドゴーンはそれに踏み切った。

 

 

(分体は弱いし、せいぜいランク4程度。他の魔物に遭遇したら、面倒なことになる)

 

 

肉体は消え去り、魂の大部分を滅ばされ、神からただの魔物に堕ちて────しかしそれでもラドゴーンは冷静だった。

 

元からそうなるとわかっていたからだが……しかしそれ以上に─────

 

 

(まずは、ザッカートと合流しなくては)

 

 

ラドゴーンは、ザッカート信者なのである。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

『□0』

 

 

どうにかザッカートを逃がし、グドゥラニスを撃退することができた。

まぁ無茶をしたせいで『貪喰の悪神』ラドゴーンは滅び、残ったのはラドゴーンという悪神の人格と記憶を持った俺だけ。

 

つまり、一から再スタートする羽目になってしまったということだ。

まぁ最初に転生したときとは違い、神ではなくなったことでシステムの恩恵を受けられるようになったり、今までの経験は残ってたりするので、最初に比べたらだいぶましだろう。

 

それに……こんなことを想定していたわけではないが、依り代も作ってある。それに魂を移せば、それなりに戦えるようになるだろう。

 

システムの恩恵を受けられるようになるし、悪神時代の自分を越えることを目標に頑張ろう。

 

 

……あとになって合流したザッカートからは怒られたり心配されたりした。

元は敵だったとはいえ、今では仲間なんだから、と。

 

 

……………その。

 

 

恥ずかしすぎて、何も言えません。

 

 

 

 

『□1』

 

 

 

ザッカートに『呑喰穴』の最奥に連れていってもらい、そこで創っていた依り代に乗り移った。

 

本当ならもっと細かく、ザッカートの要望(願望)に答えられるように調整したかったのだが……生憎時間もなければ余裕もなかったため、不満が残る依り代となってしまった。

 

ただ、ザッカートからは『なんでこんな依り代にしたんだっ!?』と言われてしまったので『ザッカートの要望に答えようと調整したらこうなった。時間がなかったので完璧にはできなかった』と伝えた。

 

『違うそうじゃない』と言われたが、エルフの美少女を望んだのはザッカートである。例え愚痴であろうとも、仲良くなりたいと思っていたのは事実だ。

 

ならば神……ではなくなったが、ともかくその要望に出来る限り答えようとするのは、何ら不思議なことではないのだ。

 

もしも気に入らなければ後々に改造するので、今はこれで許してほしい、ザッカート。

 

因みに依り代に宿ったら、種族は『魂の依り代』というランク8の魔物になった。

 

姿形は十代前半のエルフの美少女だが、その中身はエルフに擬態した何かである。何であるのかは、創った本人である俺にもわからない。

 

とりあえず擬態は解かないようにしよう。

 

やるにしても、それはザッカートのいないところで、だ。

 

 

*1
神の魔力から生み出された、もしくは神に選ばれた神の使い。力としては英霊に劣るが、【御使い降臨】スキルで降臨させることでスキル使用者を強化する力がある。また上位スキルに【分霊降臨】や【英霊降臨】がある




・名前:ラドゴーン

・ランク:8

・種族:魂の依り代

・レベル:0

・二つ名:【貪喰の悪神】


・パッシブスキル
特殊五感
擬態:エルフの少女
高速再生:5Lv
物理耐性:10Lv
魔術耐性:5Lv
状態異常耐性:5Lv
全属性耐性:5Lv
能力値強化:ザッカート:1Lv
自己強化:導き:1Lv
魔力増大:1Lv
捕食時能力値増大:極大
自己超強化:捕食:10Lv
生命力増大:10Lv
体内空間拡張:10Lv
身体強化(牙舌毛胃):10Lv
身体伸縮(舌毛):3Lv
食い溜め:10Lv


・アクティブスキル
並列思考:10Lv
遠隔操作:10Lv
空間属性魔術:1Lv
風属性魔術:1Lv
寄生:1Lv



・ユニークスキル
全身口
異形精神:5Lv
魂の欠片
神喰らい:5Lv


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ラムダ《4》

今現在のルートは
ラムダ√→ザッカート√
となっております。


『□15』

 

 

今日はステータスの確認とレベル上げを目的としたダンジョン攻略をやっていく。

 

ステータスの能力値はランク通りであるが、スキルに関してはそれなりに多い。かつての経験と、今現在の状態がスキルとなっているようだ。

 

ただその内容がピーキーで、アクティブスキルが少なかったり、パッシブスキルは多かったり。

レベル10のスキルがあるかと思えば、レベル1のものもあるし。

 

当面の目標は、スキルの底上げとランク上げだ。

 

その間、ザッカートから離れることになるのは嫌だが……最低でもランク13にまでならないと、魔王軍との戦いでは足手まといになる。

 

しばらくダンジョンに篭る……のはやらずに、登り降りしながら攻略していこう。

ザッカートに会えなくなるのは嫌だからね。

 

 

 

『□50』

 

 

 

まず、格闘術と魔術を平行して練習しながらダンジョンを攻略していった。

 

格闘術に関しては、ここはこうした方がいいだろう、ということをやるという曖昧なやり方だが。

魔術に関しては、今現在保有している空間属性と風属性を、並列思考を駆使して常時発動している。

 

しかし初めての試みであるため、魔術の発動はできるが、その制御が覚束ない。それにずっと魔術を使い続けることも、魔力的に難しい。

 

生命力に関しては、高速再生スキルがあるので問題はないのだが……魔力増大があっても、素の魔力が少ないのでは意味がない。

 

だが、今はこれしかできない以上、こうするしかない。『呑喰穴』の上層ではランク8までの魔物しか出てこないため、レベル上げには丁度良い。この調子なら、ランク9まですぐだろう。

 

肝心なのはその先だが、少しずつ……いや贅沢を言えば大きく進んでいきたい。

 

がんばろう。

 

 

 

『□0』

 

 

 

ランク9に上がるのはすぐだった。その間に格闘術スキルの獲得、魔術スキルレベルの上昇など、成果は多い。

 

しかし、まだ9だ。こんなものでは足りない。もっと強くなる必要がある。

 

もしもザッカートに、あのときのような危機が迫ったら……今の俺では防げない。

 

だから、もっとだ。もっと、いる。

 

 

 

『□0』

 

 

 

勢い余ってランク10まで行ってしまった。いや悪いわけではないが。

 

途中からヴィーヴルの骸装を使い始め、レベル上げの効率が上がった。しかし、その分スキルの獲得やスキルレベルの上昇が滞ってしまっている。

並列思考を使いながら、ランクが上の魔物にも挑みながらレベルを上げているが、ランクが上がるのが速くてスキルの方が追い付いていない。

 

ここで分体でも使えれば、スキルごとに練習も出来たのだが……無い物ねだりをしても仕方ない。

 

ザッカートがいる地上とダンジョンを行ったり来たりしながら、進めていくとしよう。

 

あぁ、ザッカートからは『レベルが上がるのが早くないか?』なんて言われたな。

早く上がって困ることはないのだから、良いのではないだろうか。

 

というか、もし理由があるとしたらそれはザッカートの仕業……というかおかげだろう。なにせ導士なわけだし。

 

 

 

『□97』

 

 

 

今日は『呑喰穴』ではなく地上で魔王軍の魔物相手に戦うことになった。

 

似たような魔物ばかりを相手にしても成長できないから、というのもあるが、何よりこれを機に他の戦い方を見ておこうと思ったのだ。

 

ザッカートたちは戦闘、というよりも運動を苦手としているので魔術がメインだ。時々教えて貰うことがある。

 

対して戦闘系勇者たちは武術スキルも魔術スキルも両方兼ね備えているし、なにより戦い慣れている。他の仲間たちも勇者には及ばないまでも皆強い。参考にするには持ってこいだ。

 

ベルウッドに関しては、あまり当てにならないが。あれ完全にゴリ押しだからなぁ……

 

しかし、今回の戦いで得られるものはあった。

 

自身の戦闘スタイル。今までは魔術と格闘術がメインだったが……試しに鞭も使ってみよう。

 

……正確には自分の舌を、だが。

 

 

 

『□64』

 

 

 

魔王軍と戦いながらもダンジョン攻略は進めつつ、ザッカートとの交流も忘れない。

 

そんなことを繰り返していたら、いつの間にかユニークスキルに【継続強化】なんてものが出てきた。

 

恐らくだが、俺の今までの行動から考えると、このユニークスキルは継続して行動すれば能力値が上昇するとか、そういう効果があるのだろう。

 

それならば好都合。最近、一部のパッシブスキルが上位スキルとなってきたことで、俺も強くなれている。この調子で頑張っていこう。できればアクティブスキルも上位スキルにしておきたいな。

 

あ、因みに今日でランク11になった。神の最低ラインまで、あと2ランク。元の強さを取り戻すのは、まだ遠い。

 

 

 

『□5』

 

 

ランク12となり、神と戦える最低ランクまで残すところあと1ランクとなった。

 

しかし、同時に『呑喰穴』のダンジョン攻略も終わってしまった。レベル上げを行うのはこれからもできるが、最近レベルがまったく上がらない。

 

いつぶつかるのかと思っていたが、ようやくレベルの壁にぶつかったようだ。

壁にぶつかるとレベルが上がらなくなるので、レベルが上がるまで諦めずに魔物を倒すのが壁を越える方法である。

 

が、俺にそんな時間はないので、少し捻ったダンジョン攻略をしようと思う。

 

内容は『呑喰穴』攻略RTA────リアルタイムアタックである。

 

 

 

『□99』

 

 

 

RTAに挑んだところ、壁をあっさりと越えることが出来た。といっても何週か行ったが。

 

レベルが上がるようになったのはいいのだが、しかしスキルレベルを最近上げれてないのは問題だ。

 

獲得したスキルも、いくつかは最大レベル─────レベル10にまで到達しているのだが……そろそろ上位スキルも欲しいところだ。

 

しかし修練をするのはいいが、ザッカートとの時間を減らすつもりはない。そういうところは24時間一緒にいるグファドガーンが羨ましい。

 

今は俺のやったようにザッカートの好むエルフの美少女の依り代を創っているようだが……まぁエルフで被ろうが構うまい。中身は違うものなのだから。

 

 

 

『□56』

 

 

 

ランク13に到達した。これでようやくスタート地点だ。これからもレベルを上げて強くならなくては。

 

あぁ、そういえばザッカートが兵器開発に成功したらしい。その兵器によって発生する毒素も、ヴィダたち大神の力があれば浄化できることも確認された。

 

……のはいいのだが、しかしベルウッドは否定的だ。ザッカートが狙われた事件から、ザッカートの作る兵器がグドゥラニスに危機感を抱かせている、というのはベルウッドも理解していることだろう。

 

ザッカートの兵器を使えば、グドゥラニス倒すことができるかもしれない、とも思っているだろう。

しかし、今の状況ではラムダには余裕がある。それがベルウッドの踏ん切りをつかせない。

 

……いや、違うな。ベルウッドがベルウッドである限り、ザッカートの兵器など認めないだろう。

ベルウッドは理想の求道者だ。だから諦めることをしないし、妥協しない。

 

その理想は、確かに心地よいものだろう。誰もが付いていきたくなるような魅力があるだろう。

しかし、ベルウッドの理想は、その理想以外のものを弾き除外している。

 

ザッカートのそれとは、あまりに違いすぎる。

 

ベルウッドは、決して諦めはしないだろう。『アース』の兵器を使わずに、グドゥラニスを倒すまで。

ベルウッドは、自分の理想のために────あらゆるすべてを犠牲にするだろう。

 

そんなベルウッドを認めさせるのは、当然ながら骨が折れる。

 

だからベルウッドを認めさせるには、まったく別のアプローチ……例えば毒素を発生させない、魔術をメインとした兵器の開発とか……多分、それならベルウッドも文句は言わないだろう。

 

ベルウッドを説得したところで、次に来るのは大神たちの説得であろうが……ザッカートの兵器開発に賛同している大神もいるのは、幸いだろう。

 

 

 

『□90』

 

 

 

今更だが、今の俺は正確にはラドゴーンではない。

 

ラドゴーンという名前しか持っていないからそう名乗っているだけであり、悪神ラドゴーンはザッカートを逃がそうとしたあの時に、魔王に滅ぼされた。

今ここにいるラドゴーンは、ただランクが高いだけの魔物でしかないのである。

 

なぜ突然そんなことを言いだしたのかというと、それはザッカートと共に兵器の改良実験を行っていた時のことだ。

 

その時の実験は、高ランクのヴィーヴルであれば銃や兵器の構造を理解し、寄生融合できるのではないかというものだった。

 

当然ながら実験のためにはヴィーヴルが必要であり、誰かがヴィーヴルを連れてこなければならないのだが、俺は自分がヴィーヴル連れてくることを辞退したのだ。

グファドガーンが空間魔術で連れてくる方が早いというのが主な理由ではあったが、他にも理由があった。

 

それは、ヴィーヴルは俺の言うことを聞くわけではない、というものだった。

 

そう説明した時は『なんで?』と、とても驚かれたが、別に不思議なことではない。

ヴィーヴルを生み出したのは『貪喰の悪神』ラドゴーンだが、俺はラドゴーンではない。ラドゴーンの魂の欠片はあるが、ヴィーヴルに魂の気配を感じ取る能力などない。

 

そのため、ヴィーヴルは俺に従うわけではない。まぁ俺がいなくても基本的に仲間の言うことは聞くのだけども。ただヴィーヴルに命じることはできなくなった、とだけ思ってくれればいい。

 

そう伝えると『なんとか理解はできた』とザッカートは言ってくれた。

 

ただ『ならお前のことはなんて呼べばいいんだ?』と返されてしまった。これは困った。そんなことを聞かれても、今まで通りラドゴーンで良いのではないだろうか?

 

『自分のことをラドゴーンじゃないと思っているなら、名前も変えた方がいいんじゃないか?』とザッカートに言われたので、急遽名付け大会が始まった。

 

……因みに名付け大会と宣ったのはアークだった。案外ノリが良いらしい。

 

最終的に、あれでもないこれでもないとその場にいた全員で悩んだ結果、俺の名前も決まった。

 

明日から、この名前を名乗ることにする。

 

 




・名前:ライラック(ラドゴーン)

・ランク:13

・種族:暴食の化身

・レベル:90

・二つ名:【元貪喰の悪神】【ザッカート信者】【ダンジョン最速攻略者】


・パッシブスキル
特殊五感
擬態:エルフの少女
超速再生:1Lv(高速再生から覚醒&UP!)
物理耐性:10Lv
魔術耐性:9Lv(UP!)
状態異常耐性:10Lv(UP!)
全属性耐性:9Lv(UP!)
能力値強化:ザッカート:5Lv(UP!)
自己強化:導き:5Lv(UP!)
魔力増大:4Lv(UP!)
捕食時能力値増大:極大
自己極強化:捕食:1Lv(自己超強化から覚醒!)
生命力増大:10Lv
体内空間拡張:10Lv
身体超強化(牙舌毛胃):1Lv(身体強化から覚醒!)
身体伸縮(舌毛):5Lv(UP!)
大食い溜め:7Lv(食い溜めから覚醒&UP!)
骸装装備時防御力強化:中(NEW&UP!)
能力値強化:骸装:3Lv(NEW&UP!)
魔力自動回復:6Lv(NEW&UP!)


・アクティブスキル
格闘術:10Lv(NEW&UP!)
多重思考:2Lv(並列思考から覚醒&UP!)
遠隔精密操作:1Lv(遠隔操作から覚醒!)
空間属性魔術:7Lv(UP!)
風属性魔術:9Lv(UP!)
高速思考:10Lv(NEW&UP!)
鞭術:3Lv(NEW&UP!)
魔術制御:10Lv(NEW&UP!)
無属性魔術:6Lv(NEW&UP!)
寄生:1Lv
同時発動:10Lv(NEW&UP!)
鎧術:5Lv(NEW&UP!)
限界破棄:1Lv(NEW&限界突破から覚醒&限界超越から覚醒!)
詠唱破棄:7Lv(NEW&UP!)
骸装限界突破:1Lv(NEW!)
魔闘術:4Lv(NEW&UP!)

・ユニークスキル
全身口
異形精神:5Lv
魂の欠片
神喰らい:5Lv
継続強化:7Lv(NEW&UP!)


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ラムダ《5》

今回で神話大戦編は終了です


『□32』

 

 

レベルアップとランクアップを繰り返し、ランク14に到達した。

 

そして、ザッカートたちがグドゥラニスに効くかもしれない銃の開発に成功した。

ただラムダのシステム上、火力が足りないことから火薬ではなく魔術を使った銃となっている。また、その大きさと重さは通常の銃の約3倍となっている。少なくとも魔術師には持てない代物となっていた。

 

ザッカートの案では、まず改良型魔砲銃(ソルダ命名)でグドゥラニスの結界を攻撃。それで結界が破壊できればそれでよし。もしも出来なければ、兵器を放ち結界を破壊する。そしてベルウッドが自身の持つユニークスキルでザッカートの兵器を無効化し、結界を張り直される前に魔王を倒す。

 

それがザッカートの思い描く、大まかな魔王攻略の作戦だ。勿論その作戦には穴があるが、それを埋めるべく日夜改良と作成を繰り返している。

 

グドゥラニスが張る結界は、魔術と物理の結界が別れて展開されている。

どちらかを破壊できれば、片方の結界を無視してグドゥラニスに攻撃することが出来る。

 

だからこそザッカートは、物理な破壊をもたらす兵器を使っての結界破壊を考えた。魔術による破壊は自分達では無理だと判断して。

しかしグドゥラニスの結界の強度がわからない以上、失敗する可能性がある。が、それはもうどうしようもなく、今までのグドゥラニスとの交戦から推理するしかない。

 

ザッカートの作り出した改良型魔砲銃は、とにかく威力を重視して作られた。そのため、銃本体は勿論のこと放たれる弾も極端に大きくなっている。そして一発でも放たれれば壊れてしまう欠陥品だ。しかも素材にオリハルコンを使っている。

 

しかしそれだけあって威力は申し分なく、試作型の魔砲銃であってもランク14の肉体を、しかも鎧術の武技*1を使っての防御力を突破して腕を消し飛ばすという威力を発揮した。

 

試作型でもこの威力。改良型魔砲銃ならば、グドゥラニスの結界を破壊することも不可能ではないだろう。

 

因みに消し飛んだのは俺の腕である。なにせ近くに防御系武技が使え、なおかつランク13以上で、しかも腕の一つが消し飛んでも問題ない存在がいなかったのだから。

 

まぁ試作型魔砲銃はザッカートに隠れて実験したので怒られてしまった。多分ザッカートは人体実験とかしなさそうだし、俺なら腕の一つや二つ、再生できるし問題ない。

ただザッカートに怒られたことが意外にも心に響いたので、今後はしません。

 

 

 

『□89』

 

 

 

ザッカートの作り出した兵器は、使わずに済みそうである。銃でグドゥラニスの結界を破壊できるのであれば、それで済ませたい。

 

しかし、改良型魔砲銃であっても一発限りであるのは変わりない。そのため、確実に当てられる距離とタイミングが重要になる。

 

なので、ザッカートに量産型魔砲銃を作ってもらった。何故かといえば、銃術だとか砲術だとか、そういう武術スキルを獲得するためだ。

武技を使わず、弾の発射に魔術のみを用いて俺の腕を消し飛ばした試作型魔砲銃であるが、万全にしておきたい。

 

近々、魔王軍との戦いを終わらせるため、ラムダ勢力による大攻勢に打って出るらしい。

そのため、スキルの獲得に時間を掛けていられる余裕はなくなった。ラムダと魔王軍の均衡、それがラムダに傾いている今こそが好機なのだから。

 

ザッカートは、現状では魔砲銃の更なる改良は難しいと判断し、今は兵器の毒素を薄めなおかつ威力を上げる改良を行っている。

 

出来れば兵器の出番がないことを、ザッカートは望んでいた。前はこの兵器が自分の作れる最後の切り札だったが、今は違う、と。

 

もしも兵器を使えば、グドゥラニスは倒せるにしてもベルウッドとの関係は最悪になるだろう。それこそ、和解は不可能になるほどに。

 

グドゥラニスを倒したあとのことも考えるなら、ベルウッドとザッカートの関係悪化は避けたい。

 

そして、今の俺にできることなど一つしかない。他のことはグファドガーンに任せる。

 

とりあえず、短時間でスキルの獲得とレベルアップを目指そうか。

 

 

 

『□5』

 

 

砲術の獲得と、レベルアップ。砲術の武技の開発。ランクアップによってランク15に到達。そして、格闘術が上位スキル【貪王喰闘術】に覚醒。

 

そして、魔王軍との最後の交戦と────魔王の撃破。

 

それが今日、起きた出来事だ。

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

今、ラムダでの戦いは終盤に差し掛かろうとしていた。

 

 

『ウォォォォォォ!!』

 

『進めぇ!奴等を抑え込め!!』

 

『グドゥラニスゥゥゥ!』

 

 

多くの巨人が、龍が、神が、魔王軍へとなだれ込む。自分に出せる力の全てを、吐き出し尽くさんとするように。

 

拳を、息吹を、魔術を放ち攻撃する。ラムダ勢力の奇襲は、魔王軍に混乱と共に大打撃を与えていた。

魔王軍側の邪神悪神も、迫り来るラムダの神々に抵抗しようと攻勢に打って出る。

 

その内の一柱、『呪爪の邪神』マルヂビグが前方に出てラムダの神々を自慢の爪で切り裂かんとする。

 

 

『これ以上は────』

 

「邪魔だっ!【光輝一閃】!」

 

「鈴木、前に出過ぎるな!【邪砕焔拳】!」

 

「お前も出過ぎだ遠山!【乱嵐鞭】!」

 

 

『グォォォォォ!?』

 

 

しかし、マルヂビグの目の前に飛び出してきた人間───勇者であるベルウッド、フォーマウン・ゴルド、ナインロードの三名が連携してマルヂビグを叩きのめし、瞬殺した。

 

ベルウッドたちが通りすぎる一瞬で深い傷を負ったマルヂビグは、負った傷を癒すべく何万年と掛かる深い眠りに付こうとする。

姿は薄れ、存在感もなくなっていく────

 

 

「させるかぁ!」

 

『封じるっ!』

 

 

その前に、ベルウッドたちを追ってきた義勇軍が、神々が致命傷を負ったマルヂビグを封印する。

魔王軍が混乱している隙に、魔王のいる中心部へと進み何柱かの邪神悪神を封印していく。

 

しかし、その快進撃もここまでだった。

 

 

『勇者が、しかも神々を引き連れて態々乗り込んでくるとはな!』

 

 

ベルウッドたちの襲撃に気が付いた魔王グドゥラニスが、最前線に出てきたのだ。

ベルウッドたちの攻撃はグドゥラニスの張る結界に阻まれ、通らない。

 

逆にグドゥラニスはベルウッドたちを退ける───いや、滅ぼさんと攻撃を繰り出した。

毒を、病を撒き散らし、魔術で神を退け、肉体を変化させてベルウッドたちを追い詰めた。

 

ベルウッドたちも、途中から【英霊降臨】の上位スキル【大神降臨】を使用し、大神を降臨させてグドゥラニスに対抗するが、それでもグドゥラニスの結界を破ることが出来ない。

 

 

「っ、遠山!九道!時間を稼いでくれっ!」

 

「任せろ!」

 

「わかった!」

 

 

だからベルウッドたちは、事前の作戦会議で決めていた『最大威力の攻撃をグドゥラニスに叩き込む』作戦に出た。

ベルウッドたち戦闘系勇者が考えた作戦()、自分達の出せる唯一の手だ。

 

()()()()()()()()()()も同時進行で進んでいるが、ベルウッドはザッカートの作戦を行わせる気はなかった。

 

兵器はあくまで最終手段であると譲歩させたことで、ザッカートたちは兵器ではなく新たに造り出した武器、魔砲銃によって結界を破壊する方法を取った。

 

しかし、それに失敗すればザッカートが兵器を使うのは間違いない。その対策のため、ベルウッドは自分の出せる最大威力でグドゥラニスの結界を破壊する作戦を考えた。

 

つまり、ザッカートの作戦が失敗する、その前に自分達で魔王を倒そうとしたのだ。

 

当然ながら、この作戦の中にザッカートたち生産系勇者はいない。

参加している神々は大神であるアルダ、ザンターク、シザリオンとその従属神たち。そして、グドゥラニスへの復讐心から参加した亜神たちだ。

 

他の大神────ヴィダ、リクレント、ズルワーン、ボティン、ぺリアは参加していない。

 

ボティンとぺリアは後方で待機している。もしもザッカートとベルウッドの作戦、その両方が失敗した時のために。

ヴィダ、リクレント、ズルワーンはザッカートの作戦についているため、ここにはいない。

 

やることも出来ることも正反対であるザッカートとベルウッドの二人。しかし、二人の勇者に共通して抱いている強い思いがある。

 

それは、『これで終わらせる』というグドゥラニスとの決着を望むものだった。

 

 

「ぐ、ぅっ!まだ、なのかっ!?」

 

「もう少し、時間いるっ!」

 

「だがっ、これ以上はもう……!」

 

 

『この程度で終わりならば、さっさと死ね勇者ども!』

 

 

グドゥラニスを押さえ込んでいたファーマウンとナインロードの二名だが、【大神降臨】を使っての時間稼ぎには限界が来ていた。

他の神々は邪神悪神と交戦していて、援護は望めない。義勇軍も魔物と戦い、ベルウッドたちの方に行かないように凌いでいるため、こちらも駄目だ。

 

なにより、【大神降臨】は身体に負担が掛かりすぎる。力を貯めるだけならともかく、グドゥラニスと戦いながらでは長時間維持はできない。

 

もはやここまでか────そう思われた、次の瞬間。

 

 

「丁度良い位置ですね」

 

 

『なっ!?』

 

 

グドゥラニスの背後から【転移門】が現れると共に、女の声と、カコン、と何かを構える音が響く。

 

いつの間に、というグドゥラニスの驚愕を気にすることなく声は続く。

 

 

「【骸装限界突破】【魔砲限界突破】【雷砲付与】……」

 

 

『ま、まてっ』

 

 

グドゥラニスは自身の本能と理性が訴える危機感に突き動かされるように、後ろにいる敵に攻撃しようとする。が、間に合わない。

グドゥラニスの発した静止の声が届く前に、その一撃は放たれた。

 

 

「【二不砲(にのうちいらず)】」

 

 

武技を呟き、引き金を引いた。その瞬間、音は消えた。

 

──────轟音。それが鳴り響くと共に、音が一瞬消える。

 

全ての音が一瞬のうちに掻き消され、その場の空間が無音で支配される。

 

それが永遠に続くのではないかと、その轟音を聞いた者の誰もが錯覚した。そして─────

 

 

ガタン、という何かが落ちる音が、無音の空間に音を響かせた。

 

 

「一撃で駄目になってしまいました。ですが……十分でしょう」

 

 

『ば、かなっ……!?』

 

 

そこにいたのは、黒き髪を携えた麗しき美貌を持つエルフと─────物理結界を破られ、身体に大きな風穴が空いているグドゥラニスの姿だった。

 

 

『まさかっ!それは、ザッカートの作り出した異世界の武器かっ!?それが、我の結界と肉体を……!』

 

「魔砲銃を見るのは構いませんが……余所見厳禁ですよ。【抜き手・極み】」

 

 

エルフ────ライラックは自然にグドゥラニスに近付き、武技を放った。

 

 

『その程度の攻撃が効くものかぁ!』

 

 

しかしグドゥラニスは自身の傷をすぐさま再生させると、ライラックの攻撃を自身の肉体で防ぎ、逆にライラックの腕を粉砕し、ついでのように頭を消し飛ばした。

 

 

「でしょうね。知っています」

 

 

しかし、頭を失ったはずのライラックの肉体はグドゥラニスから離れると、すぐさま首から頭が再生していく。

彼女にとって、頭を消し飛ばされたぐらいでは致命傷とは言えないのだ。

 

 

「ですので、これは時間稼ぎです」

 

『なんだとっ?』

 

 

まさか、他に自身を傷つけうる武器を────グドゥラニスはそう考えた。しかし、そうではない。

 

結論からいうと、ライラックの────彼女を送り込んだザッカートの目的は、既に達成されている。

 

目的は二つ。一つは結界の破壊。これをしなければどのようにしても攻撃が通らない。

そして、もう一つは先ほど言ったように、時間稼ぎである。

 

──────()()時間稼ぎなのか。

 

答えは簡単だ。

 

 

「あとは任せましたよ、ベルウッド」

 

「ウォォォォォォォ!!!」

 

 

『なにっ!?』

 

 

ベルウッドが力を貯めきるまでの、である。

 

 

────ザッカートは、グドゥラニスを倒すための兵器を作る中で考えていたことがある。いや、それは他の生産系勇者も考えていたことだ。

 

それは、ザッカートの造り出す兵器だけではグドゥラニスを倒せないのではないか、という疑問だった。

 

ザッカート、アーク、ソルダ、ヒルウィロウの四人で話し合った結果、やはり兵器では火力不足だということが結論付けられた。

 

兵器をどれだけ改良したところで、限界がある。いや、例えグドゥラニスを倒せるだけの改良を施せるのだとしても、それをするだけの時間がない。その間に、戦いは終わるだろう。

 

なら、もうやることは決まっている。

 

結界は壊すが────あとはベルウッドたちに丸投げしよう、と。

 

 

「これで倒せなければ、もうラムダは終わりですが……」

 

 

その心配はなさそうだと、ライラックは心の中で呟く。

 

なにせ、彼女の目に映る光景は、魔王を倒す勇者の姿であったから。

 

 

「ザッカート。あなたの……勇者の勝利です」

 

 

ライラックは、勇者への称賛と……ザッカートへの深い愛情を込めて、そう呟いた。

 

 

 

『【格闘術】が【貪王喰闘術】に覚醒しました!』

 

『【魔王殺し】の二つ名を獲得しました!』

 

 

 

「それはいらない」

 

 

思わぬアナウンス*2にツッコミを入れると、後処理をベルウッドたちに任せ、ザッカートの元に帰るのであった。

 

 

 

 

*1
武術スキルのレベルに応じて使用できる技。独自にオリジナルの武技を開発可能

*2
システムに組み込まれた機能の一つ。アナウンスとしてレベルが上がった時やスキルを獲得した時、二つ名を獲得した時などに自動で知らせてくれる




最後は番外編を投稿して次の章に移ります


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ザッカートの日記《番外編》

遅れましたー!だいぶ長くなって一万字越えになってしまって……

因みに最後にラブコメ的展開?があります。


『◯月◯日』

 

 

 

俺の名前は坂戸(さかと)啓介(けいすけ)。しがない町工場元経営者で、『アース』育ちの三十代独身男性日本人だ。

 

そんな俺はただの一般人であり、何か不思議な力を持っているとか、まるでラノベのような特殊な事情はない。

むしろ、組織の裏切りから工場の経営が破綻して、人生に絶望して自殺しようとした……そんな、ありふれた終わりを迎えた男でしかない。

 

そんな俺だが、今日この日、一つ普通ではない事情が出来てしまった。

 

それは、異世界の女神様に出会ったこと。

 

……俺の気がおかしくなったとか、そういうわけじゃないぞ。いやまぁ、俺も最初は女神が現れたところを見て、女神の幻を錯覚したのだと思いそのまま自殺しようとしたのだが。

自殺しようとした直前に現れたものだから、俺を迎えに来た女神か何かと思い込んでいたのだ。今は正気に戻って女神様からの話を聞いている。

 

で、その時に女神様から聞いた話をざっくりとまとめると─────

 

 

『侵略者との戦争から異世界を守る勇者となってほしい』

 

 

というものだった。

 

正直、最初は何の力もない俺が、異世界を救えるのだろうか……と思ったものだが、世界を守るための(チート)はくれるらしい。それと勇者は俺一人ではなく、女神様────ヴィダの兄弟姉妹が、俺と同じように勇者を選んでくるらしい。

 

それならば……と、俺はヴィダの選んだ勇者となった。

 

その時に異世界で使えるチート能力をヴィダから貰ったのだが……生産チートな能力を望んだことに、ヴィダは戸惑っていた。

 

運動神経が良いならともかく、俺のように運動音痴が苦手な男が戦うための力を貰ったところで、役に立つとは思えない。なら、何かを作り出すことができる生産チートの方がいいだろう、と考えたのだ。

 

ヴィダは戦う力を持つ勇者の方が良かったようだが……戦いというのは、何も斬って叩いてが全てではない。

 

他の勇者は戦う力を望むはずだし、俺くらいはこんな力であってもいいだろう。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

まるでゲームが現実になったみたいだ────ラムダに来たとき、まずそう感じた。

 

就くことでスキルに補正を掛け、レベルを上げることで積み重ねるように強くなれるジョブ。経験と技能に応じて獲得とレベルアップができるスキル。

 

そんなもの、『アース』ならまずあり得ないことだった。しかし、今ここにはその『あり得ない』がある。

 

ヴィダの話を嘘だと思っていたわけではない。だが、ちゃんと理解できていなかったのだろう。

これから俺たちがやらなくちゃいけないのは、世界を救うための戦争なんだってことを。

 

世界を救うための力は、もう貰っている。

 

なら、やろう。それをやることを選んだのは、俺自身なんだから。

 

 

 

ただ、予想外だったことがある。

 

俺と同じ『アース』から来た勇者……俺を含めた七人の内、四人が俺と同じ生産系チートを望んだことだ。

戦闘チートを望んだ三人と、生産チートを望んだ俺たち四人。

 

バランスは悪いが……俺は、俺に出来ることをやろう。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

レベルアップ……そのアナウンスが頭に何度も響くのが、こんなにも辛いとは……

 

しかし、この世界の魔術やスキルはすごい。魔王軍の侵略に対抗するために作られたらしいが、これなら、才能さえあれば誰もが一定以上まで強くなることができる。

 

まぁ俺たち四人───阿久津(あくつ)春香(はるか)反田(はんだ)良子(りょうこ)丘柳(おかやなぎ)信二(しんじ)と名乗っていた───は戦闘系ではなく生産系のスキルと魔術の獲得とレベルアップが主になるだろう。

戦闘は鈴木、九道、遠山の三人に任せる。俺たちは、三人のサポートだ。

 

そのために……そうだな、武器はもうあるみたいだし……ポーションとか、回復できる道具を作ろうか。

 

あと、銃を作ることができれば役に立つだろう。理想としては鈴木たちが前衛、俺たちが銃と魔術で後衛を、という感じで。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

阿久津たちと一緒に様々な道具を作り実験し、効果の検証が終わったらラムダの人々に提供する。

 

その過程でポーションを作れたのは良いのだが……不味いんだ、味が。

現在作り出せる最高品質のポーションを飲むと気絶する。味が悪すぎて、あまりの不味さに、気絶する。

 

とんでもないポーションだが、効果は抜群なのだ。腕の欠損さえも治すことができる。けれど、不味い。味の不味さが全てを台無しにしていると言っても過言ではない。

 

味が悪すぎるので、ポーションは量産しても飲むのではなく掛けて使用することになった。皆、それがいいと賛同してたな……うん。

 

 

……ポーションの話はここまでにしておくとして。

 

 

あの日、ラムダに来た時からそろそろ何年が経つ。あれから俺たち生産系勇者は、俺たちの出せる知識とアイディアで様々なものを作り出した。

 

魔術を使わずに傷を治すポーションや、道具自体に特殊な力が宿っているマジックアイテムを作ったりした。

物だけでなく、『アース』の知識や文化も教えたりもしたな。

 

ラムダの技術力は『アース』と比べて劣っている。ラムダには『アース』とは違って魔術があるだろうが、それは破壊力はともかく、細かい部分は及ばない。

確かにラムダの魔術師は、高い威力を誇る魔術を使えるだろう。しかし、電子機器のように細かい操作を長時間維持することはできない。

 

それに、ラムダの人々には技術を共有するという考えがない。技術を秘伝のまま隠して、誰にも教えないのだ。

 

この戦争は誰もが手を取り合い、協力しなければ勝てない。

 

それは、魔王という規格外の存在がいることも理由の一つだ。だがそれ以上に、邪神悪神やそれから生み出された魔物の軍勢に人間が対抗するために、知識と技術の共有は必要だ。

 

ラムダの物理法則は『アース』とは違う。『アース』と同じように『アース』の道具を作ってしまえば、暴発するかそもそも不発するだろう。

俺たちにはラムダの知識が足りない。だから『アース』の良いところは全てラムダに吸収させる。そして、そこから『アース』の技術を再現する。

 

『アース』の技術の再現は、魔王を倒す助けとなるはずだ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

この世界では、物資の移動には時間が掛かる。素早く、大量に運ぶことができないのだ。

大量に運ぶなら空間魔術の達人が。素早く運ぶなら足が速いものが運ぶ。それではどちらかの条件しか満たせない。

 

そこで『アース』にあった列車……蒸気機関を再現して、物資の移動の手助けをしようといつもの四人で蒸気機関の作成に取り掛かろうとした。

 

したのだが……これは鈴木と彼を選んだ光の大神アルダに止められた。

 

曰く『蒸気機関』の汚染がどれだけラムダに悪影響を及ぼすかわからない、と。

 

阿久津、反田、丘柳は鈴木の意見に不満そうだった。魔王による犠牲を最小限にするためにも、手段を選んでいる状況ではないのに、と。

 

正直、どちらも正しいのだ。『アース』での環境汚染がラムダでどう影響するのかわからない。

しかし、かといってそれを恐れて何もしなければ魔王に全てを滅ぼされる。

 

協力し合わなければ勝てないこの状況で、互いに不和となるのは避けたかった。

 

今回は俺たちが妥協して、蒸気機関を作るのは中止となったが……仕方ないし、今度は他の案を考えよう。

 

人間だけで出来ることには、限界があるからな。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

あれも駄目これも駄目……正直、気が滅入るな。

 

鈴木……というより戦闘系勇者の三人は、よっぽど『アース』の道具が嫌いなのだろうか。嫌っているのは鈴木だけだろうが……他の二人も、鈴木に同調している。

 

そのせいで俺たち四人と鈴木たち三人との溝が出来始めている。今はまだ溝は深くないが……このままでは、勇者同士で対立してしまう可能性がある。

少なくとも魔王が倒されるまで表面化はしないだろうが……最悪、本当に分断してしまうかもしれない。

 

俺たちには、魔王を倒したあとのこともあるというのに……

 

ここで鈴木が多少なりとも妥協してくれれば、まだマシなんだが……まぁ無理か。あの熱血漢は、本当に間違うまで止まらないだろうから。

 

あぁ、ストレスで禿げそうだ。こんな時、大好物のカツカレーでも食いたいな……いや、本当にカツカレー食べたい。

 

ラムダの食文化は、明らかに『アース』に劣ってるからなぁ……今は食文化を育てる時間もないし……まさかこんな風に『アース』を恋しく思うとは………

 

早く魔王との戦争を終わらせて、カツカレーを食べれるようにしたい。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

蘇生装置が完成した!

 

ラムダの魔術というズルは使ったし、そもそも世界の法則が違うが、それでも『アース』でも実現できていなかった死者の蘇生に成功した。

 

生命魔術を主に組み込んだ装置で、魂さえ無事ならそこから肉体を再生させることができる。時間も掛かるが、これなら魔王に魂を砕かれない限り、決して滅びない戦士の完成だっ!

 

……ちょっと、自分でも倫理的にどうなのかと言いたくなるような装置だが……魔王軍との戦いには、どうあっても必要になる。

 

魔術であっても、完全な死者の蘇生は出来ないのだから。

 

 

【追記】

 

 

蘇生装置を使い始めてから幾年か。装置装置に、成仏できずにさまよっていた魂が入り込んで誤作動を起こしてしまった。

 

手順をまるごと無視したせいで装置は壊れてしまい、しかも誕生したのは肉塊だった。

このような事故が起こってしまったために、蘇生装置は封印されることになった。

 

流石にこれは言い訳のしようがない。さまよう魂のことを考えていなかった、俺の責任だ。

 

これで、やむを得ない場合を除いて、蘇生装置が使われることはないだろう。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

魔王軍に寝返る神々が、絶えず出ている。寝返っているのは龍や獣王や巨人ばかりで、従属神から裏切る神は今のところ出ていない。それは、他の神々とは違って彼らを生み出した大神が滅ぼされているからなのだろうか。

 

だが、その神々の裏切りのせいで、ラムダには結束力に綻びが出来てしまっている。

こういうところは、神も人も変わらず似てるのだと思う。

 

そして、だからこそ考え付いたことがある。

 

もしかしたら……魔王軍にも、こちらに寝返ってくれる神がいるかもしれない。いや、いるはずだ。

 

軍勢にというものには、必ず穴がある。求心力とか、カリスマとか……そういうもので纏められたのならともかく。それ以外のもので纏められた軍勢は、ちょっとしたヒビであっという間にバラバラになる。

 

例えば、武力や恐怖で支配している軍勢ならば。

 

いける。いけるはずだ。『アース』の戦争でも寝返りというものはあった。

ならば、ラムダでも同じことができるはずだ。

 

こちらの神が魔王軍に寝返ったように。こちらも、魔王軍から引き抜いてやればいい。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

鈴木にはもちろんのこと、数々の大神たちにも止められたが、無事魔王軍から神々を引き抜くことに成功した。

 

ヴィダたちはとても驚愕していたが、戦争なんてそんなものだ。寝返られるのなら、逆に寝返りがあって然るべきなのだから。

 

しかし、これで魔王軍の内情が分かった。魔王は配下の神々を恐怖と暴力で従えていること。そうとわかれば、あとは簡単だ。

 

烏合の衆、とは言えないが、鋼の結束力を誇った魔王軍もこれで崩れるはずだ。カリスマ性を持たずに支配してしまえば、最後に待つのは結束力の崩壊。

 

あとは、どうにかして魔王を倒すことができれば……けれど、一番の難関は魔王だ。

 

魔王の結界……その性質さえ解析できれば、まだやりようはある、はずだ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

魔王のいた世界の神々は、ラムダの神々と違うのは分かる。ラムダや『アース』には存在しない形をした透明な蠍の神────グファドガーンのような神が存在したのだとしても、理解はできる。

 

だが……だが……!

 

なんで俺は神に祈られなくちゃいけないんだ……!?

 

俺は神じゃない。女神に選ばれただけの、ただの人間でしかない。

だというのに、なんで俺は勧誘した神々の一柱であるグファドガーンに信仰されなくてはならないんだ……?

 

グファドガーンだけじゃない。ただこちらをじっと(目はなかったが)見つめてくるラドゴーンもそうだ。

 

あの日、魔王軍から引き抜いてから何ヵ月か経過しているが……ずっと24時間フルタイム朝から晩までおはようからおやすみまで……ずっと居られるのは、流石に怖い。

 

頼むから出来る限り圧が抑えられる姿でいてくれ。戦闘が得意なベルウッド───鈴木だが、名前をラムダ用に変えることにしたらしい。渋々俺も名前を考え、名字を弄くってザッカートにした───ならともかく、生産系勇者の俺じゃ神の圧力はキツイ。

 

ラドゴーン、お前もだぞ。遠目からだとはいえ、見られ続けるのはキツイんだからな?

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

ラドゴーンとグファドガーンは、それぞれの対策をして俺の側に居座るようになった。

 

グファドガーンは人型の依り代を。ラドゴーンは小さな分体を。

 

これでもまだ圧はあるが、前よりはましだ。でも当然のようにフルタイムで近くにいるのはやめてほしい。切実に。

 

……話を変えよう。

 

ラドゴーンの連れてきた魔物たちには、他の魔物とは違うある特徴があったらしい。

なんでも武器に融合する、生き物の肉体に寄生するとか、そんなことを聞いた。

 

調べてみたところ、寄生されたところで人体に影響はなく、むしろ融合対象の能力値を上げる効果があることが判明した。

 

他者を強化することが出来るスキルを持つ魔物……名前はヴィーヴルというらしい。

 

しばらくの間、ヴィーヴルたちは造り出した迷宮で育てるとラドゴーンは言っていた。

正確には融合、寄生をしなかったヴィーヴルを、のようだが。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

唐突に思ったのだが、ヴィーヴルと銃を融合させれば威力が上がるのではないだろうか?

 

銃の作成は、前々から考えてはいたし何度も試行錯誤を繰り返していた。今日だってラドゴーンとグファドガーン……は勝手に着いてきたが、阿久津、反田、丘柳を連れての威力実験を魔物相手に行った。

 

しかし、火薬を使ったラムダ製の火縄銃では魔物の強靭な肉体を突破することができない。どのような工夫を施しても、だ。

魔物でこれなのだから、敵の神々や魔王相手に効くはずもない。

 

だが、ヴィーヴルを融合させれば……と最初は思ったのだが、今回ラドゴーンが連れてきたランク9のヴィーヴルでは、火縄銃の構造を理解することができないため、融合も出来ないことが分かってしまった。

 

つまり、融合させて威力を上げたいのならもっと単純なものにする必要があるらしい。

もしくは、構造を理解できるほど賢いヴィーヴルを連れてくるか……そのどっちかになる。

 

しかし、今回の実験で火薬を使うのは現実的ではないことがわかった。

もし銃を作るとしても、火薬ではなく魔術をメインとしたものになるだろう。

 

後日、魔術による強化やらなんやらを色々と試してみるつもりだが……期待はできないだろうな。

 

 

 

『■Б#◯』

 

 

 

俺たちの造り出した兵器で魔王の結界を破り、ベルウッドが魔王を倒す。

 

今のところ、考えられる作戦はこれぐらいしかない。

 

しかし、いくら言ったところで鈴木は『アース』の兵器を認めはしない。

 

なら、使っても問題ないことを証明する。兵器使用時に飛び散る毒素を少量かつ薄めて作り、ヴィダたち大神に浄化してもらい、浄化できることを証明してもらう。

 

そうすれば、鈴木たちも俺たちの造り出した兵器を使うことを認めてくれるはずだ。

鈴木、俺たちは協力するべきなんだ。協力して戦わなければ、取り返しなつかないことになるんだぞ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

まさかグドゥラニスが攻め入ってくるなんて……!

 

鈴木たちが対応にしいった軍勢は囮。本命は、戦闘が得意じゃない俺たち生産系勇者を滅ぼすこと……それが、グドゥラニスの襲撃の目的なのだろう。

 

しかし、今回は各地に分体を派遣させていたラドゴーンの機転と決死の足止めのおかげで、俺たちはグファドガーンの転移門を通って逃げ出せた。

 

おかげで残してきた蘇生装置や銃は全て破壊されてしまったが……命に代えられるものはない。

それは、ラドゴーンも同じだ。あいつは、俺たちを逃がすために魔王と戦い、滅ぼされた。

 

……と思っていたのだが、分体に魂の一部───人格と記憶を移して生き延びていたらしく、当然のように現れてビックリした。

 

正直ほっとしたけど、頼むから今後はこんな危険なことはやめてくれ。例えかつては敵だったのだとしても、今は仲間なんだから。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

『アース』の近代兵器の作成自体が、間違っているとは思わない。しかし、危険性が高いのは事実だ。下手をすれば人の住めない大地が残ってしまうだろう。

 

でも、こんな手段でも取らなくてはグドゥラニスの結界は破れない。魔王本体は鈴木に任せるとしても、やはり一番の問題は結界か。

 

あの結界は『硬い壁』なのではなく『エネルギーを吸収する膜』のようなものであるのは解析済みだ。

そして、魔術を無効化する結界と物理を無効化する結界は、それぞれ独立して存在していることもわかっている。

つまり、どちらかを破壊できれば片方は無力になる。俺たちの攻撃も、通るようになるのだ。

 

そのための兵器だったが……鈴木が認めないのでは作戦に組み込めようがない。もっと別のアプローチをするしかないのか?

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

ラドゴーンがとんでもないものを持ってきた。

 

エルフの美少女である。いや、正確にはエルフに擬態した魔物なんだが……見た目は完全にエルフなのだ。

 

ラドゴーンは魂を移す依り代を、予め創っておいたのだとか。なぜそんなものを創ったのかと思ったが……俺のせいだった。

 

俺が呟いた愚痴を曲解して、エルフになってしまえばいいと考えてしまったようなのだ。違うんだ、俺はそんなことを望んで愚痴を言ったわけではなくて……というかエルフはともかく外見年齢に悪意を感じるのだがっ。

 

俺はっ、ロリコンじゃないぞっ!?

 

……まさかとは思うが、グファドガーンも同じことしようとしてないだろうな……?

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

ラドゴーンがものすごい速さでスキルレベルとランクをアップさせている。今ではランク13……神のレベルにまで到達している。

 

導士───仲間に強い影響を与えるジョブ───の効果があるとはいえ、これは早すぎる。依り代に宿ってからまだ三ヶ月も経ってないぞ?

 

自分の造り出したダンジョンを単独で攻略しているからか……それとも、単純にラドゴーン自身の才能か。どちらにせよ、良いことであるのは違いない。

 

そして、今日はラドゴーンの名付け大会が起こってしまった。

 

なぜそんなことになってしまったのかと言えば、ラドゴーンが『自分はラドゴーンの人格と知識がある欠片でしかなく、正確にはラドゴーンとは言えない』という言葉から始まった。

 

阿久津、反田、丘柳……それとヴィダ信者の人々も交えて『第一回!名付け親決定戦!』なるものが開催されて……あぁ、できれば思い出したくない。

 

その間に阿鼻叫喚の諸々が起こりつつも名前を皆で考えて……『アース』にあった花の名前から、ライラックという名前に決定した。

 

その時にラドゴーン……いや、ライラックが一瞬だけ浮かべた表情……どうやら俺にしか見えてなかったようだが、あれは……

 

まったく……見た目は美少女なだけに、心臓に悪いな……あれは。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

一旦は中止していた銃の改良を少しずつ進め、どうにか試作版と改良版が完成した。

 

試作版は威力はオリハルコンを貫くほど高いが、とにかく発射するときの反動がでかすぎて、筋力に自慢がある人が撃っても骨が外れて筋肉が断裂するほどの衝撃が出てしまった。少なくともこのままでは使えない。

 

改良版は反動はどうにかなったが、その分威力が落ちてしまい、試作版と比べたら約5割ほど低かった。

そして共通するのは、一度射てば銃本体がバラバラに壊れてしまうということ。

 

一度射てば壊れてしまうのは、もう仕方ないし諦めるしかない。だからその分、改良版の威力低下を最小限にしてどうにか反動を抑えないと。

 

そう思って、作っておいたもう1つの試作版をあとで倉庫に入れようと思っていたのだが……いつの間にかライラックが持ち出して性能実験をやっていた。

 

おかげでランク14相当の相手でも試作版は通じると分かったが……性能実験のために自分を使わないでくれ。この武器は、お前を傷つけるために造ったわけじゃないんだからな。

 

あぁそれと、新型銃は高い威力と火薬を一切使わないものであることから、暫定的に『魔砲銃』と名付けられた。音が完全に銃の音じゃなかったからなぁ、あれ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

数日後、ラマダが出せる全戦力で魔王を倒す。これは、魔王軍が未だに結束力を崩している今がチャンスだからだ。

 

魔王のもたらす被害、戦争によって生じる犠牲、魔王が現れてから今日に至るまでに起こった数々の悲劇を、ここで終わらせる。

 

幸いにもライラックのおかげで威力だけを重視した魔砲銃を作ることができるから、威力だけなら試作版よりも高いだろう。

 

……まさか、レールガンを再現できるとは思ってなかったが……

 

とにかく、数日後の戦いで、魔王を倒して全てを終わらせる。

 

あともう少しだ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

戦闘系勇者の作戦と生産系勇者の作戦を、同時進行で行う。

 

互いが互いの隙を埋め、確実に魔王を倒す。それは利にかなった作戦にも思えるが……これは単純に、俺たちと鈴木たちが連携を取れないからこうしているだけのことなんだ。

 

俺たちの間にある溝は、もう生半可なことでは埋められないレベルにまで至っている。思想が正反対ともなれば、こうなってしまうのは当然だろう。

 

 

……けれど。

 

 

俺たちの目的は、目的だけは同じなんだ。

 

魔王を倒す。そして、この世界を────ラムダを救う。

 

そこだけは、俺たちは同じなんだ。

 

……性格的に、どうしても相容れない部分はあるんだけどな。

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

「さて、と」

 

(ついに明日か)

 

 

坂戸啓介─────ザッカートの一日は、日記で締め括る。今日何が起きて、何をして、どう思ったのか。それをまとめる。

敢えて書かない部分はあれど、日記に書かれているのはザッカートが実際に思ったことだ。

 

これまでの人生で、ザッカートは数えきれないほどの後悔を重ねている。

何も間違わないことなんてあり得ない。その上で、後悔を胸に刻んで前に進む。次は後悔しないように。

 

失敗だらけの人生であったからこそ、ザッカートはこの結論に至っている。そして、一人だけでは出来ないことがあるのだと知っている。

 

だからザッカートは、【共導士】───共に生き、共存へと導くジョブに就くことができた。

 

その導きは、共存できるのであれば、互いに理解し合えるのであれば、どのような存在であろうとも対象内だ。故に、その導きは神にすら作用する。

 

例えばグファドガーンや……ライラックのように。

 

ガチャリ、と扉が開く。そこから黒髪のエルフ───ライラックが手に魔砲銃を携えてザッカートを訪ねてきた。

 

 

「ザッカート、魔砲銃の点検をお願いします」

 

「あぁ、ライラックか。わかった、貸してくれ」

 

 

ザッカートはライラックから量産型魔砲銃を受け取り、軽く問題がないか確認する。

今のところ魔砲銃に問題は発生してないが、もしもの場合がある。そのため、ライラックには使用後点検のために魔砲銃を預けてほしいと言ってある。

 

ザッカートは魔砲銃の点検を終わらせると、ライラックに返却する。

 

 

「今のところ、問題はないな」

 

「はい。使用中も、不備があるようには見えませんでした」

 

「そっか。ならいいんだけど……阿久津……じゃなかった、アーク、ソルダ、ヒルウィロウはどうしてる?」

 

 

ベルウッドの提案から名付けた勇者としての名前は、ザッカートからすれば慣れないものだった。ついつい『アース』での名前を口に出してしまう。

 

もう『アース』に戻る気がない以上、慣れなくてはいけないことなのは理解しているが……やはり、少し気恥ずかしかった。

 

 

「アーク、ソルダは就寝中です。どうやら御疲れの模様でしたから。ヒルウィロウは……恐らくご自身の趣味を語り明かしているのではないでしょうか」

 

「そうか。多分、リクレントかズルワーンあたりかな……じゃあ俺も、明日に備えて寝るとするよ」

 

 

明日の結末次第で、ラムダの行く末は決まるだろう。魔王を倒せれば世界は救われ、倒せなければラムダは魔王に蹂躙される。

 

後がないと思い込む勢いでやらなくては、勝てはしないだろう。後先考えるのは、魔王を倒してからでいい。

 

 

「……ザッカート」

 

「…どうした?」

 

 

ライラックは、部屋から出ようとはしない。それ自体は珍しいことでもない。グファドガーンだって常にザッカートに付いて回っているし、それはライラックも同じだ。ザッカートが寝ようとしたところで、何を言うでもなく、ザッカートの近くで佇むだろう。

 

グファドガーンのような威圧感はないが、正直ちょっとホラーである。

 

しかし、そんな普段とは違う雰囲気を纏わせるライラックに、思わず緊張するザッカート。

 

手元にある魔砲銃を強く掴み、ライラックは言葉を発した。

 

 

「……明日の戦い。勝てるでしょうか?」

 

「……そう、だな……」

 

 

ライラックの言葉にあるのは、不安だった。誰だって、それこそ神であっても死ぬのは怖い。しかし、それをライラックが言ったことにザッカートは戸惑った。ライラックがラドゴーンであった時なら、そんなことは言わなかったであろうから。

 

ライラックの変化に戸惑いを浮かべる心を落ち着かせ、ザッカートはライラックの言葉の内容について考えた。

 

そして結論付ける。

 

 

「わからない」

 

「……」

 

 

わからない、というとても不安定な言葉で、そう言った。

 

魔王について、知らないことは多い。何が効いて、何が使えて、何が弱点なのか……知らないことの方が多すぎて、わからないとしか言いようがなかった。

 

それでも、言葉を続ける。

 

 

「───でも勝つよ」

 

「……勝つ、ですか?」

 

「うん。俺たちの造り出したものだけじゃ、魔王の結界を破壊するだけに止まるかもしれない。ベルウッドの全力なら、結界ごと魔王を斬れるのかもしれない……けれど、それじゃあその間の時間稼ぎのためにどれだけ犠牲が出るかわからない」

 

 

より多くを救い、魔王を倒すのであれば。

 

ベルウッドだけでは駄目だ。そして、自分達だけでも駄目だ。引き入れた邪神悪神たちでも、ましてや大神たちでも駄目なのだ。

 

そう、結局のところ。

 

 

「『アース』でも、ラムダでも……人間は協力し合ってあらゆる困難を乗り越えてきたんだから。きっと勝てるはずだ……って言っても、明日実行するのはライラックだから、自信満々に言えることじゃないんだけどな……ははは」

 

 

皆が協力して頑張れば、どのような困難でも乗り越えられる。

 

ザッカートは、そう思っていた。

 

 

「そう、ですか」

 

 

それを聞いたライラックは……小さく笑みを浮かべる。まるで望んだ答えを得られたかのように。

 

 

「ありがとう、ザッカート」

 

「え、あ……ど、どういたしまして?」

 

「なんで疑問系なんです?もう……」

 

 

ザッカートはライラックの笑みに思わず声が膠着してしまい、若干片言になってしまう。

ライラックはそれを見つめてクスクスと、まるで本当に少女であるかのように笑うと、真剣な表情に変える。

 

 

「───あなたに出会えて、本当に良かった。ありがとう、愛しきザッカート」

 

 

そして、最大限の好意と感謝を、笑顔と共にザッカートにぶつけた。

 

 

「────」

 

「……そ、それでは……おやすみなさい、ザッカート」

 

 

思わぬ告白に思考が真っ白になっているザッカートを余所に、恥ずかしくなったのか肌を少し紅潮させて部屋から出ていくライラック。

 

本当なら、このまま部屋に残るつもりだったライラックだが……あんなに恥ずかしいことを言ってしまった手前、ザッカートの近くにいることは出来なかった。

 

 

(アーク、ソルダの助言を試してみましたが……今後、使うのは控えましょう、うん)

 

 

そんなことを考えるライラック。一方残されたザッカートは、ライラックに何を言われたのかをようやく認識し始めたところで……顔をふさいでしゃがみこんだ。

 

 

「っ……あれは反則だろう……!」

 

 

ザッカート、肉体年齢十代後半、精神年齢三十代の独身男。

 

当然ながら女性の免疫はなく……そのため、美少女の笑顔には、とても耐性がなかったのであった。

 

 

 




しばらく投降までの期間を開けて、ストックを貯める準備期間にしたいと思います。

今週が終わる頃には次の章を始める予定ですので、楽しみにしてください。



現在の√

ラムダ√→ザッカート√→■■√(NEW!)


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世界復興編
ザッカート《1》


今日から新章、開始です。




『□5』

 

 

魔王に勝利したことで、世界は救われた。

 

魔王軍────いや、元魔王軍は率いる魔王を失って烏合の衆となり散り散りとなって逃げ出した。しばらくは放っておいても問題ないだろう

 

しかし、魔王を倒すために払った犠牲は多い。かつては多く存命していたラムダの生命も、今では一万たらずしか生きていない。魔素で汚染された区域も多く、浄化には何万年と掛かるかわからない。

 

それに、魔王は未だに死んではいない。魂も、肉体も、欠片にしてバラバラに封印した。しかしグドゥラニスは欠片となった今でも、その恐ろしい生命力でもって復活を狙うだろう。

 

だがそれでも、希望は残った。ラムダには『これから』がある。問題だらけの『これから』ではあるが、今はただ、魔王に勝利したことを喜ぼう。

 

というわけで、宴である。

 

 

 

『□6』

 

 

 

散々飲めや歌えやと、宴は賑やかで皆はしゃぎまくっていた。普段は物静かなソルダも、酒に呑まれて結構やんちゃをしていたくらいである。

 

因みに俺は状態異常耐性スキルがあるので酔いません。

 

邪神悪神もこの宴に交ざっていたが、やはり元々が魔王軍であるためか、ラムダの人々や神々と交流したりはしていなかった。例外はアルダを除いた大神くらいだ。

 

ヴィダはザッカートが連れてきたためか邪神悪神たちとも仲が良いし、ボティンやぺリアはかつては敵だった邪神悪神を許している。ズルワーンやリクレントはかつてよりも今を見て交流していた。

そしてザンタークとシザリオンは……思うところはあるが、だからといって許せないほどではないという微妙な感じなのだろう。

 

そう思ってくれるだけならそれでいいが……この世界の原典を知っているだけに、後日起こるであろうことが予想できてしまう。

 

あのベルウッドが、仲間になったくらいで敵であった邪神悪神を許したりするのか。そしてするとしても、奴は一体何をするのか。

 

それによっては、ラムダは大きく割れることになるだろう。そうならないことを、祈る。

 

 

 

『□10』

 

 

 

わかってはいたが……どこまでいっても、ベルウッドは妥協をしない勇者だった。

 

ベルウッドはラムダに味方した邪神悪神を封印することを求めてきた。生き残った者たちでラムダ復興に取り掛かろうとしていた時に、である。

 

それに賛同するものは多く、敵の邪神悪神たちに親しい者を殺された者がいることもあって、憎しみを抱いている者は多数いることだろう。

しかし、それは敵の邪神悪神の話であって味方となった邪神悪神は関係ない。お門違いというやつだ。

 

だが、それに納得できない者たちがベルウッドとアルダに付いて邪神悪神の封印を提唱している。

それに対して我らがザッカートはそれに反対。そしてヴィダもザッカートに付いた。

 

そこではっきりとザッカートに賛同する者と、ベルウッドに賛同する者とで分断してしまった。

 

邪神悪神を認められないベルウッドはザッカートと衝突し、何度話し合っても終わりが見えないことについに痺れを切らしたザッカートは、宣言した。

 

『俺たちは別の場所移って、俺たちなりのやり方でラムダを復興させる!それでいいな!?』

 

そのように言って、ザッカートに賛同した者たちを連れて他の土地に移ることを決めた。

それにはヴィダはもちろんのこと、ズルワーン、リクレントも賛同した。

 

ベルウッドがどうあっても認められないのであれば、こうする他ない。

ザッカートの決断にベルウッドは静止の声を上げたが、決意は固く、話の決着がついてしまったためにそのまま解散となった。

 

……後にザッカートは『やってしまった…!』と頭を抱えていたが、何もやらかしてはいないと俺は思う。

 

だって、ザッカートは邪神悪神を切り捨てようとしなかった。そうである以上、ベルウッドとの対立は必然であったから。

 

だから俺は、どのようなことがあってもザッカートに着いていくのだ。

 

 

 

『□20』

 

 

 

新天地を探す大移動は、意外にも早く終わった。

 

ザッカートに着いていく選択をしたのは、ザッカートを選んだヴィダ、ズルワーン、リクレントの三柱。そして、その三柱の信者と従属神がザッカートと共に行くことを選んだ。もちろん中にはザッカートではなくベルウッドに付いた者もいたが、それもごく少数。

 

ザッカートと共に行くことを選んだ中には、ザッカートと同じ生産系勇者であるソルダ、アーク、ヒルウィロウもいた。

ソルダを選んだぺリア、ヒルウィロウを選んだボティンはベルウッド……というよりも、アルダたちの元に残ることを選んだ。

 

それはボティンやぺリアまで離れてしまっては、残る三柱の大神と勇者たちではラムダ復興は厳しいと考えてのことだろう。そうでなければ……自分の選んだ勇者と共にいたはずだ。

 

さて、ザッカートたちと共に新天地へと移動してきたわけだが……当然ながら、共に移動してきた者が多い。人間だけでも三千と少し。邪神悪神に従う魔物も含めれば四千はいく。

それだけの数が生きていける環境を作るのは、とてもではないが大変だ。なにせ、魔物を除いた約三千の内、戦えるのは数百程度なのだ。

幸いにも多くの神々がいるために弱い魔物は近づいてこないだろうが……それでも魔物は来る。早急に人の生きていける環境に整える必要があった。

 

なのでまず、戦える者は近くにいる魔物の殲滅を。そして戦えない者はザッカートを中心として環境の整備───というより、住める場所造りに取りかかった。

 

一朝一夕で終わることではないが……なに、すぐそこまで危険が迫っているわけではないのだ。時間が掛かっても良いだろう。ラムダの復興は、簡単なことではないのだから。

 

 

 

『□28』

 

 

 

それなりの時間が経過したが、なんとか外見は町みたいに出来上がった。中身はまだ完全には出来上がっていないが、すぐになんとかなるだろう。

 

新天地での復興は、苦労することが多かった。

 

魔物を倒すだけなら俺でもできるので難しくはないが、農業等の生産系はザッカートたちに頼りきりで、家の建築、魔物避けのマジックアイテムの開発、家畜の飼育など……数えればきりがない。

 

しかし、ザッカートたちが奮闘してくれたおかげで新天地での生活はだいぶ楽なものになってきた。

魔物たちが邪神悪神から加護を授かったおかげで高い知性と理性が宿ったのも良かった。おかげで意志疎通も簡単に出来るようになったし、復興でも役立ってくれている。

 

グファドガーンや他の神々が創ったダンジョンも、人間や魔物たちの役に立っている。ダンジョンの中で生成される物質は尽きることがないため、実力さえあればすぐに取ってこれるからだ。

 

ダンジョンの中で塩が取れた時は『これで料理にバリエーションができる……!』とザッカートたち四人はとても嬉しそうにしていた。

 

文化の成長も進み、新天地での復興は順調だ。かつては三千と少ししかいなかった人間たちも、今では八千に届きそうになっている。魔物も含めれば、一万を越しているだろう。

 

皆が手を取り合い、協力して困難に立ち向かう。それは、ザッカートの望んでいた光景だったのだろう。

魔王軍との戦争中、ラムダ軍は一枚岩であるとは言えず、ベルウッドを中心にした者たちとそれ以外という構図が成り立っていた。

 

だが、今ここには『調和』がある。ザッカートの望んだ光景がある。

 

ザッカートの作り上げたものを、居場所を守りたい。俺は……私は、そう思った。

 

 

 

 

 

 

……ところでこのまま新天地と呼ぶのもあれなので、大神や勇者、邪神悪神も含めた皆で名称を決めることになった。

 

ザッカートの造り上げた居場所……どのような名前になるのか、楽しみである。

 

 

 




・名前:ライラック(ラドゴーン)

・ランク:15

・種族:飽食の化身

・レベル:28

・二つ名:【元貪喰の悪神】【ザッカート信者】【ダンジョン最速攻略者】


・パッシブスキル
特殊五感
擬態:エルフの少女
超速再生:5Lv(UP!)
物理耐性:10Lv
魔術耐性:10Lv(UP!)
状態異常耐性:10Lv(UP!)
全属性耐性:10Lv(UP!)
能力値強化:ザッカート:8Lv(UP!)
自己強化:導き:8Lv(UP!)
魔力増大:7Lv(UP!)
捕食時能力値増大:極大
自己極強化:捕食:4Lv(UP!)
生命力増大:10Lv
体内空間超拡張:1Lv(体内空間拡張から覚醒!)
身体超強化(牙舌毛胃):5Lv(UP!)
身体伸縮(舌毛):7Lv(UP!)
大食い溜め:10Lv(UP!)
骸装装備時防御力強化:極大(UP!)
能力値強化:骸装:6Lv(UP!)
魔力自動回復:9Lv(UP!)
魔砲装備時攻撃力強化:小(NEW!)


・アクティブスキル
貪王喰闘術:3Lv(格闘術から覚醒&UP!)
多重思考:5Lv(UP!)
遠隔精密操作:3Lv(UP!)
空間属性魔術:10Lv(UP!)
貪風魔術:1Lv(風属性魔術から覚醒!)
高速思考:10Lv(NEW&UP!)
鞭術:5Lv(UP!)
魔術精密制御:1Lv(魔術制御から覚醒!)
無属性魔術:8Lv(UP!)
同時多発動:2Lv(同時発動から覚醒&UP!)
鎧術:8Lv(UP!)
限界破棄:5Lv(UP!)
詠唱破棄:10Lv(UP!)
骸装限界突破:3Lv(UP!)
魔闘術:7Lv(UP!)
砲術:4Lv(NEW&UP!)
魔砲限界突破:3Lv(NEW&UP!)


・ユニークスキル
全身口
調和魂魄:1Lv(魂の欠片、寄生を統合&異形精神から変異!)
神喰らい:7Lv(UP!)
継続強化:10Lv(UP!)


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ザッカート《2》

『□30』

 

 

神々、勇者、人間、この三者の意見から町……いや、国の名称は『バーンガイア共和国』に決まった。

 

奇しくも後に決まるの大陸の名前と同じなのは……いや、そこはいいだろう。

 

今日は喜ばしい日だ。魔王が倒されてから初めての建国……しかも、創始者は四人の勇者たち。共和国であるため、話し合いで国の方針を決めることになるが……魔物と人間が共存して生きていく世界なのだ、そういうことも必要だろう。

 

もしかしたら、このバーンガイア共和国から新しい国が生まれることもあるかもしれない。

今はまだザッカートたちがいるおかげで人間と魔物は共存してまとまれているが、それも存命中の間だけだろう。

 

寿命を迎え、ザッカートたちが死んでしまえば……国のトップは入れ替わり、国の方針は変わる。しかし、そこまで先のことを考えていられるほど今は余裕があるわけではない。

 

ラムダの復興。とりあえずは、それを目指すべきだ。

 

 

 

『□40』

 

 

 

ソルダに恋人ができた。

 

それ自体は喜ばしいことであり、ようやくかと言ったところなのだが……その相手が意外も意外だった。

 

勇者ソルダは、どうしてかは知らないがマッチョが苦手である。以前に『ゾルコドリオさんに人間の身体の仕組みを教えたら、マッチョになって帰ってきた』と涙目で言っていた。

 

そう、ソルダの相手はゾルコドリオ───マッチョだったのである。これにはザッカートたちも驚いていた。

 

ソルダ曰く『マッチョが苦手なのであって、マッチョに生理的嫌悪があるわけではない』とのこと。

 

ゾルコドリオは魔王軍との戦争でも最前線で戦い続けた、勇者に次ぐ実力を持つ者の一人。その耐久力は勇者を除けば一番であろう。

そしてヴィダ信者でもあったため、ザッカートたちと深く交流していた数少ない人物でもある。当然ながら、ザッカートと同じ生産系勇者であるソルダもゾルコドリオと交流を深めることが出来た。

 

それにゾルコドリオは、筋肉を自在に操る【筋術】という武術……武術?スキルを使って筋肉を縮小させることもできたので、元のマッチョな姿から細身な姿に変わることができた。

ソルダがゾルコドリオと恋人になることが出来た主な理由はそれだろう。そうでなければ、性格以前に異性として見ることもなかったはずだ。

 

ソルダとゾルコドリオが結ばれたことに、ザッカートはもちろん、アーク、ヒルウィロウ、そしてヴィダたち神も祝福していた。

 

ソルダは恥ずかしそうにしていたが、ゾルコドリオはとても嬉しそうであった。

 

その時に、ザッカートが小さく『俺も恋人が欲しいな』と呟いたことを私は聞き逃してはいない。もちろん、ザッカートと共にいるグファドガーンもそうだろう。

 

……後日、ザッカートにアタックしてみようか。今ならなし崩しに行けそうな気がする。

 

 

 

 

 

ダメでした。無念。

 

『お酒は飲んでも呑まれるな』と心に刻んでいたらしいザッカートは、お酒をあまり飲まない人だった。アークの案の一つ、『酒酔い』は失敗である。

 

ソルダの案の一つ、『直球告白』……は、まだ心の準備が出来ないので、後回しに。

 

急ぐ必要はないが……いっそザッカートへの想いを、全てぶつけてしまうべきか。

 

 

 

『□42』

 

 

 

グファドガーンが依り代に宿った。どうやらようやく納得のいく造形になったらしい。

 

『お前もかっ』と頭を抱えるザッカートであったが、しかし悪い気はしないらしい。それは、私とグファドガーンの肉体が見目麗しい少女の姿をしているからだろう。

 

……ザッカートが悩んでいるのは、その肉体年齢のようであるが。しかし、姿を変えることは……出来なくもないだろうが、難しい。ザッカートも、わざわざそれを求める気がないのは幸いである。

 

しかし、そろそろザッカートも二十代後半……『アース』の年齢に近付いてきている。それに問題はないが、遅れてしまってザッカートが気後れしてしまうのは困る。

 

なので、この機会だからザッカートに思いの丈の全てをぶつけてしまおうと思う。多分、こんな時でもなければ出来ないと思うから。

今までは恥ずかしかったりタイミングがなかったり心の準備が出来ていなかったりあーだのーだと理由をつけて避けていたが……考えてみたら人間みたいだな私。

 

……とにかく、いずれやるつもりではあったのだ。思いの全てをぶつけてしまうのが、一番効果的だとアークとソルダも言っていた。

 

今日、私は想いを伝える。

 

ザッカート、私はあなたを─────

 

 

 

『Б▼%@&#』

 

 

 

成功した。

 

しました。

 

…………やったっ

 

 

 

『□45』

 

 

 

昨晩は嬉しすぎて気絶してしまった模様。なんという無様……恥ずかしすぎて穴があったら入りたいレベル。

 

しかし、嬉しいことには変わりない。多分受け入れてくれると思っていたし、アークやソルダの力も借りた。成功するはずだとは、思っていた。

 

実際に成功してみて……嬉しすぎてキャパオーバーしてしまったようなのだ。幸いだったのは、ザッカートと離れた時に気絶したことか。こんな醜態、見せなくて良かった。

 

……しかし、成功したのは良いのだが……どうしよう、後のことをまったく考えてなかった。

ザッカートと何がしたい、というわけでもない……ただ側にいたい、共に生きていきたい、というだけで。

 

敢えていうなら、子作り?でもそれはちょっと気が早いように思うし……そもそも魔物と人で子は成せるのだろうか。

 

うーむ、悩ましい。

 

 

 

『□49』

 

 

 

かれこれ悩んでいたのだが、結局悩んでも仕方ないと開き直ることにした。

 

子を成せるのかどうかについては、後々に考えればいいし、ザッカートとの関係も前と大きく変わるわけでもない。なにせ常にザッカートの近くにいたのだから、距離感は変わりようがない。

 

だから、以前と何も変わらない。以前と同じ……では駄目だけれど、より近い距離感で接すればいい。それだけで私は満足だ。

 

……多分、恐らく、きっと……その、はずである。

 

……自分のことながら、自信がないな。

 

 

 

『□53』

 

 

 

魔物と人間のカップルが誕生しつつある。どうやらザッカートと私が結ばれたことがきっかけとなったようだ。ヴィダは無邪気に喜んでいたが、私としては素直に喜べない事情があった。

 

ザッカートはベルウッドとの関係を断ち、邪神悪神と魔物が共存できる場所を造り出した。

だが、それをベルウッドは今でも認めてはいないだろう。原典のベルウッドのことを考えれば、奴は自身の罪を認めない限り……それが人間の血を引いている子供であろうとも、魔物の血が入っていれば容赦なく殺すだろう。

 

いや、もしかしたら魔物との子が生まれたことを口実にバーンガイアに攻めてくる可能性もある。そんなこと、あってほしくはないが……それを否定できないほどにベルウッドは幼稚で愚かだ。

 

何をしてくるか、予想できない。

 

もしもの時は、ぺリアやボティン、それにザンタークとシザリオンが止めてくれるだろうが……それを押しきって攻めてくる可能性は、ある。

 

あってほしくはない。しかし、備えなければいけないだろう。ないに越したことは、ないだろうが。

 

 

 

『□57』

 

 

 

恥ずかしさと嬉しさとで、色々な感情がない交ぜになっているのが自覚できる。

 

最近になって、妊娠していることが発覚した。もちろん、妊娠しているのは私であり、相手はザッカートだ。

 

いや、最近になって珍しく不調だなとは思ってはいたのだ。身体はダルいし、気を抜けばぼーっとしていたりもしたし……けれど、その原因が何なのかわかっていなかった。

 

でも、まさか妊娠していたとは気付かなかったな……少し前からザッカートと……その……交わってはいたし、いつかは出来るだろうとは思っていたが……まさかこんなにも早く授かれるとは思っていなかった。

 

アークは『熱々ですね?』とか言われたし、ソルダは『どんな子が産まれるのかな』と興味津々だった。ソルダはちょっと気が早い……わけでも、ないのだろうか?

 

ただ、妊娠が発覚したときはみんな嬉しそうにしていたし、そして皆どのような子供が産まれるのか気にしていた。

 

魔物と人間のハーフ。生まれてくる子供は、一体どのような子なのか。初の例であるため、どのようにしていいのかわからない。

 

不安は、ある。けれど、それ以上に喜びがあるのだ。

 

ザッカートとの間に授かった子。今はまだ私の中で育っているが、いずれ私の腹の中から出て来て産声を上げることだろう。

 

それまでは、無茶はできそうにない。

 

お腹の中の子は妊娠してから約二週間ほどのようで、まだ外見に変化はない。お腹が少し膨らんだかな?という程度だ。

 

生まれるまでそれなりに時間が掛かることだろうし、気が早いかもしれないが……今のうちに名前を考えておくのも、悪くないかもしれない。

 

どのような子が生まれてくるのか……楽しみにしていよう。

 

 

 

『□57』

 

 

 

あぁ─────まったく。

 

 

やってくれたな、ベルウッドっ!

 

 

 

 




ここから長い長ーい世界規模の内乱が始まります。


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ザッカート《3》

なんだか私の思い描いていた主人公とはまったく別方向に進んでいる。
なぜだろうか。


『□57』

 

 

まさか、本当に攻めてくるなんて……

 

予想はしていた。考えてはいた、そうなるのではないかと思っていた。

だが、そうならないでほしいと思っていたのだ。もう、魔王は倒されたのだから。

 

けれど、奴は……ベルウッドは、それだけでは飽きたらないらしい。

 

唐突なことだった。突然、ベルウッド率いる軍勢がバーンガイアに攻めてきたのだ。住民である魔物は殺され、それを守ろうとした人間も殺された。ベルウッド軍の侵攻を防ごうとした神々は封印され、長い年月を掛けて造り上げたバーンガイアは、一夜にして崩壊した。

 

ザッカートたちも、造ったまま倉庫に眠っていた数々の武器やマジックアイテムを引き出して戦った。ヴィダも、リクレントも、ズルワーンも、そして邪神悪神もベルウッド軍に対抗した。

 

しかし、出来たのは戦えない人々の避難のための時間稼ぎのみ。しかも、そこに魔王軍残党の邪神悪神たちまで乱入してきたことで事態は悪化した。

 

一部のバーンガイアの魔物や人間は邪神悪神と合流することになり、より多くの犠牲が出ることになった。

 

幸いにも、途中でベルウッド軍にいなかったぺリアとボティンがベルウッド軍を止めに入ったことで、全滅は免れた。しかし被害は大きく、かつては一万を越える数の人々がいたバーンガイアも、今では魔物を含めて二千に満たない。

 

あの時、私も戦うことができたのなら……もっと被害を抑えることが出来たかもしれない。

ベルウッド軍が攻めてきたとき、私は身重の体で戦うことのできない状態だった。

 

それでも魔術は使えたので避難の援護に入ったが……焼け石に水でしかなかった。

 

それでもなんとかベルウッドの追えない遠い地に空間魔術で人々を逃がすと、リクレントとズルワーンは巨大な山脈を形成し、何者も通ることのできない結界を作り出したあと深い眠りについた。

 

おかげでベルウッドからの追撃の危険はなくなった。しかしこれではっきりしたことがある。

 

私たちはこれから、魔物や邪悪な神々だけでなく……アルダやベルウッドまでをも、相手にしなくてはいけないということだった。

 

 

 

『□58』

 

 

 

ベルウッドの侵攻は、多くの人々の命を奪った。ヴィダはなんとか無事で、ザッカートたち勇者も無事。神々も一部を除いて封印は免れた。

 

しかし、魔物は、人間は、大きく数を減らした。家族を失った者もいるだろう。恋人を失った者もいるだろう。

 

ベルウッドは、多くのものを我々から奪った。これは、到底許せることではない。

 

『あいつは……越えてはいけない一線を越えたっ!』

 

ザッカートは、怒りを乗せてそう口にした。ソルダも、アークも、ヒルウィロウも……勇者たちは、ベルウッドに怒りを───憎悪を抱いていた。

 

私も……奴等が許せない。

 

しかし、今は駄目だ。今はまだ、ベルウッドに怒りをぶつけることは出来ない。残った命が、守るべきものがある。

 

だが、いずれ奴等と戦う時が来るだろう。奴等が魔物を、邪神悪神を認めない限りは和平も望めない。

 

いずれ来るベルウッドとの戦い。それまでは、力を蓄えておくのだ。それが例え、何百、何千、何万年と掛かろうとも。

 

 

 

『□57』

 

 

 

出産は、痛かった。新たな新天地で人が住める環境を作らなければならないのに、私一人が何もしていないことに苦悩していたが……なるほど、確かにこれは大仕事だ。

 

体力はもちろん痛みを耐える精神力も必要で、傷を与えられた時の痛みとは違ったものであるために慣れない。おかげで出産が終わったあとはろくに動けなかった。

 

だけどその甲斐あって、元気な双子が生まれることとなった。

 

二人とも、女の子である。名前は、まだつけていない。

 

先の見えない前途多難な状況ではあるが、みんな出産を喜んでいた。ベルウッドの襲撃のせいで、また一から復興をやり直さなくてはいけなくなったが、それでもみんな生きている。

 

生まれてきたこの子達のためにも、頑張らなくては。

 

あぁそれと、出産は無事に終わったので私も復興に混ざりますねザッカート。『駄目』や『無理』は受け付けませんから。

 

 

 

『□74』

 

 

 

あの日から十年ほど経過して、新バーンガイア共和国は元の形に戻りつつあった。子供は生まれ、新しい世代が誕生しつつある。魔物も人間も増え、今では四千ほどになっていた。

 

ザッカートも今では三十代ほどで、『とうとう『アース』の年齢に並んだな』と苦笑いを浮かべていた。

 

生まれてきたあの子達も、すくすくと元気に育っている。白い肌をした姉はカミラ、褐色の肌をした妹はグラと名付けた。

 

あの子達も、今では野良の魔物をランク9までならを倒すことが出来るほどに成長している。

正直、生まれてから数年も立たないうちにランク9を倒すことができるなど、明らかに異常な強さだ。

 

しかし、それも当然なのかもしれない。あの子達は魔物でもなく、人間でもない。しかし、同時に魔物と人の性質を併せ持つ種族───新種族なのだから。

 

普通の人間なら持てないランクを持ち、普通の魔物なら就けないジョブに就くことができる。それがあの子達の特徴だった。

 

姉のカミラは病的なまでに白い肌と鋭い牙、爪、そして異常なまでの再生能力と膂力を持つ、生まれながらの亜神。しかもカミラは、他者を眷属にして自身と同じ存在にすることができた。

 

そのせいか、どうにも太陽……光属性に弱く、他にも銀に弱かったりするなどの弱点を抱えていた。それは、眷属にした者たちも同じだ。光や銀を浴びたり触れたりしてしまったら身体が焼かれ、とても痛いらしい。

 

それに、定期的に血の補給が必要になるなど、色々と弱点は多い。

 

……まぁ、カミラの眷属となったゾルコドリオは自身の打たれ強さと眷属になったことで得た再生能力でもって当然のように弱点の一つを克服していたが。しかも途中で日光耐性スキルを獲得して完全に太陽が効かなくなってたし。

 

一方妹のグラは姉のカミラほど尖った能力は持っていなかったが、全体的にバランスが良く魔術スキルや武術スキルにも優れていた。

カミラと比べても弱点といえるものはなく、カミラと同じく眷属にすることで他者を自身と同種の存在に変える力を持っていた。

 

その二人の誕生は、一時は崩壊したラムダを復興させる助けになるのではないかとヴィダは思ったらしい。そこでなにやら『いいことを思いついた!』と言わんばかりの顔をしていたが……まぁ今はいいだろう。

 

ザッカートたち勇者の知識から、カミラの種族は吸血鬼、グラの種族はグールと名付けられた。

 

カミラはともかく、グラはなぜグールと名付けたのか疑問に思ったが……なんでも『吸血鬼の妹なら、それっぽいグールでいいと思って』とのことらしい。

つまり、特に深い意味はないらしい。まぁそれに問題はないのだけど。

 

ザッカートはカミラに太陽を浴びても問題ないように自作のマジックアイテムを渡して、太陽の下でも出歩けるようにしてくれた。

 

『普段は父親として構ってあげられないし、これくらいはな』と苦笑しながら、嬉しそうに喜んでいたカミラを抱き上げていた。グラも姉に続くようにザッカートに抱きついて楽しそうにしていた。

 

普段は寡黙で礼儀正しいグラがこうやって楽しそうにしてくれるのは、母親として嬉しく思う。

カミラの方はすぐに感情を表に出すが、そのためちょっと我が儘に育ってしまった。そこらへんはちゃんと言っておかないと。

 

ベルウッドに攻められてきたのが嘘のように平穏な日々だ。

 

しかし、私はベルウッドを許したわけではない。今でも怒っている。

けれど……怒ってばかりでは子供たちを不安にさせてしまう。だから、今は頭の片隅に置いておく。

 

いずれ、戦わなくてはいけないときが来るのだから。

 

 

 

『□80』

 

 

 

つい先日、ぺリア、ボティン、そしてザンタークと勇者であるファーマウン・ゴルドと合流した。

 

ぺリアやボティンはともかく、ザンタークとファーマウンがこちらに合流するとは、思ってもみなかった。原典ではヴィダ側に属してはいたが……あれは色々な事情があったからで、今はないはずなのだ。

 

なのに、なぜ。そう思ったが、ザンタークはアルダがおかしくなったと考え、ファーマウンは『今まではベルウッドは正しいことをしていたと思っていた。けれど、今はどうなのかわからない』と口にしていた。だからザンタークについていく形で合流したのだ、と。

 

シザリオンはアルダに付くことを選んだらしい。というよりは、アルダやベルウッドの近くでストッパーを兼ねるのだとか。

最初はボティンやぺリア、ザンタークもシザリオンを誘ったが、自身の選んだ勇者であるナインロードのこともあって断ったらしい。

 

ヴィダは合流したぺリア、ボティン、ザンタークとその従属神と人種たちを受け入れ、ザッカートもそれに納得したし、ソルダやヒルウィロウはぺリアとボティンがこちらに合流してきたことに嬉しそうにしていた。

 

ファーマウンはザッカートたち四人の勇者たちと話すべく一旦個室に行ったが、そこで何を話したのかはわからない。

ただ、以前よりも距離感が縮まった……と、思われる。

 

……どうしてか、合流した神々は一様に私を見ると『本当にあのラドゴーンだったのか?』『以前見たときとはまるで違う』などという言葉を口に出していた。

しかも私がカミラやグラを出産したことも知ると、とても驚愕していたな。

 

ボティンは自身が母神であるためか『母親として頑張りなよ。まぁ、今のあんたは立派な母親みたいだし、余計なお世話かもしれないけどね』と声援を送ってくれた。その言葉、ありがたく頂戴しておく。

 

他の大神たちも合流したことで、新バーンガイア共和国の総人口は約七千ほどになった。これならあと数年以内にはかつてのバーンガイアを取り戻せるだろう。

 

ただ……ヴィダが何かしようとしているみたいなので、少し話を聞く必要があるようだ。

 

 

 

『□80』

 

 

 

ヴィダやその従属神、邪神悪神と亜神たちにぺリア、ボティン、ザンターク。それらの神々と話し合った結果、ヴィダは強い種族を生む出すことを決めたようだ。

 

原典ではヴィダの新種族と呼ばれた者たち。カミラやグラのような新種族であり、ランクとジョブの二つの力を持つ強い種族。ベルウッドに対抗するためにも、強い新種族は必要だ。

 

出来れば戦いなど、起こらないでほしいものだが……それに期待するだけ、無駄なのだろう。それが何千、何万年後であろうとも。

 

ヴィダは今日から一種ずつ生み出していくとのことで、最初に生まれたのはヴィダに付き従っていたエルフの青年との間に誕生した黒肌のエルフ───ダークエルフ。

 

もう後戻りは出来ない。ここまで来れば、アルダとベルウッドとの和解も絶たれた。

以前はベルウッドに敗れて逃げ出さなくてはならなくなったが、次はそうはいかない。

 

お前に勝ち、バーンガイアを守る。

 

ザッカートとみんなで、一緒に。




ライラック、母親になる。それと、新種族が増える順番が変わる


ラムダ√→ザッカート√→■母√


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ザッカート《4》

ふぅ。

急いで仕上げたのでちょっと雑かも。すみません


『□89』

 

 

あれからしばし経ち、色々な面で余裕ができたことから今まで放置気味だった事に関して進めることになった。

 

それは、封印した魔王の肉体───その欠片に関することだ。

 

今はまだ封印されたままになってはいるが、しかし何かの拍子で出てきてしまう可能性がある。

ベルウッドが攻めてきたときは余裕がなかったために、封印された魔王の欠片を投げつけるなどして撤退したため、こちらに残っている欠片の数はアルダ側と比べて少ない。

 

それはつまり、欠片の封印に割かれる力があちらの方が多いということでもある。しかしそれは、喜ばしいことではない。魔王というのは、ラムダの共通の敵であるからだ。もしも復活してしまったら、何がなんでも再封印する必要がある。

 

それこそ、もう一度ベルウッドと組むことも考えなくてはならないだろう。

 

保有している欠片のいくつかはグドゥラニスの魂の欠片であり、その中でグドゥラニスにとって重要な部分の魂は決して肉体と合流できないように、この世界の輪廻転生を運行しているロドコルテという神に任せている。

 

……まぁ正確には押し付けた、というのが正しいが。

 

どちらにしろ、魔王の欠片というものは危険である。下手をすれば災厄を引き起こしかねない。

流石のザッカートも、魔王の欠片を使った武器を作る度胸はなかったようであった。

 

ただ『もしも封印から出てきたときのために、再封印用のマジックアイテムを造っておく』と言っていた。他の勇者の力も借りた合同作であるようだ。

 

もしもグドゥラニスを滅ぼせる者がいたのなら、ここまで悩む必要はないのだが……流石に望みすぎだろうな。

 

 

あぁ、それと今日までにヴィダは様々な新種族を増やしていた。

 

 

『太陽の巨人』タロスとの間に生まれた巨人種。

 

ヴィダに従う獣王たちとの間に生まれた獣人種。

 

『魔塵の邪神』と『邪闇の悪神』が融合した『魔塵と邪闇の邪悪神』ビヒャルデコーポとの間に生まれた鬼人族と魔人族。

 

同じく甲殻と複眼が融合した『甲殻と複眼の邪悪神』ザナルパドナとの間に生まれたアラクネ、エンプーサ。

 

諸々の事情から邪神悪神と融合した獣王たちの間から生まれたハーピィーやケンタウロス。

 

『汚泥と触手の邪神』メレベベイルの間から生まれたスキュラ。

 

『毒鱗の邪神』ジュバディとの間に生まれたラミア。

 

『龍皇神』マルドゥークの配下、ティアマトとの間に生まれた竜人。

 

『海の神』トリスタンとの間に生まれた人魚。

 

 

などなど……今のところはこれぐらいで、その内の四種族は魔物にルーツを持たない……つまりランクを持たない純種である。

 

最初に誕生した始祖とでも言うべき者たちは、方法こそそれぞれ違うものの、他種族を同種族に生まれ変わらせることができた。場合によっては儀式が必要となる種もいるようだが、それは置いておこう。

 

あれからヴィダがどんどん新種族を生み出し、新種族に変えているため、人間の約七割近くが新種族に生まれ変わっている。

そのせいで元々人間用だった住居や衣服を作り直さなくてはならなくなったりと、多少の問題が発生してしまった。

 

だがまぁ、これくらいならば大した問題でもない。問題なのは……恐らく……いやきっと。

ヴィダはこれからさらに新種族が増やしていくのではないか、ということだ。

 

増やすのはいい。しかし……それにも限度というものがある。この調子でいけばバーンガイアから人間が消えてしまうのではなかろうか。

 

なので後日ザッカートと一緒にヴィダを諌めに行く。あとボティンやぺリアも着いてきてもらおう。

 

 

 

『□11』

 

 

 

久しぶりにランクが上がったようである。といっても、せいぜいステータスが向上しただけで大した変化はないのだけれど。

 

敢えていうなら種族名。それが変わっていた。しかし私にとってそんなことはどうでも良いので置いておく。

 

なんであんな名前になったのか、甚だ疑問だが……置いておくのだ。

 

さて。以前、ヴィダを諌めてもう新種族を増やしすぎないように言っておいたので、今のところ人間がいなくなるなんてことにはなっていない(なお人間とは人、エルフ、ドワーフのことである。しかし新種族も人であるのでこれからは人間と一括りにする)。

 

のだが、新種族の中には陸上ではろくに動けない、もしくは動きづらい種もいれば、高いところの方が住みやすい種、通常の住宅では狭すぎるほど大きな種など、種族間の形の違いが問題となっている。

 

海や水のあるところでしか生きれない人魚は急遽地下を掘って地中内にいる魔物を駆逐し、できた大穴に水属性魔術の達人や水属性の神々が水を入れ、ザッカートたちが一時的な仮住居を作った。掛かった時間は、急いでいたために一日足らずである。

 

他にもハーピィーやラミア、スキュラなど適した環境を急いで知り作らなくてはならない種が多かった。しかし、彼らが誕生したことでバーンガイアの復興に役立ってる部分もある。必要な仕事は増えたが、これから楽になるだろう。

 

まだまだ出来上がっていないものばかりではあるが、バーンガイアも以前と同じ程度にまで復興されている。しかし、そこで終わりではない。

 

目指すは、人口十万人。現在は、魔物を含めて約一万と少し。目標までは、まだまだ遠い。

 

 

 

 

『□19』

 

 

 

バーンガイアも元の形に戻ってきたこともあって、ヒルウィロウ主催『天下一武道大会』というものを開催するらしい。

 

ざっくりと言うと、バーンガイアで誰が一番強いのかを競う大会であるとか。今回は第一回目であるため武力を競うようだが、今後やることがあれば魔術限定や芸術を競う大会もやってみたいとのこと。

 

ルールは簡単、参ったと言わせた方の勝ち。殺しはご法度、それ以外はなんでもありである。

 

因みにこの大会にザッカートたち勇者は入らない。もちろんファーマウンもである。

ファーマウンは勇者であるため強いのはわかりきってるし、逆にザッカートたちは生産系勇者なので戦闘は不得意。

 

というわけで、勇者を抜かした大会を何週間後かにやるらしい。それまでには会場とか宣伝を済ましておくとのこと。

 

ヒルウィロウの発案は、意外なことに神々や人々に好感だったため、採用された。年齢は十歳以下は参加できないようだが、それ以上なら参加できるようにするらしい。

 

カミラとグラはどうや参加する気のようで、楽しみにしていた。

 

ザッカートは『親として、色々と心配だな……やりすぎたりしないかとか、逆にやられ過ぎたりしないかとか』と心配していた。正直、私も心配な部分はあるが……だからといって押さえつけるのも良くない。

 

あの子達も、そこまで子供でもない。成長してるし、強くなってる。

 

なら、好きなようにやらせてみるのが一番であろう。

 

もちろん、やりすぎたりすれば怒るけれど。

 

因みに私も参加する予定である。最近になって空間属性魔術や鎧術、鞭術が覚醒したので、試すのに良い機会である。

 

 

 

『□30』

 

 

 

『天下一武道大会』、開催の日。

 

人やエルフ、ドワーフをはじめ、巨人種や獣人種などを筆頭に新種族の腕自慢も多く参加しており、中にはカミラの眷属となったゾルコドリオもいた。

それにノーブルオークやリザードマン、ハイゴブリンやハイコボルトなど魔物も多く参加している。

 

異種混合どころではくらい混ざっているが、カミラやグラは楽しそうにしている。

 

私も、行けるところまでいってみるとしようか。ザッカートに良いところを見せたいし、子供たちに母の強さを見てもらおう。

 

 

 




天下一武道大会……一体なにボールなんだ……



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ザッカート《5》

今さらですが、この章、とても長くなりそうです。

あと二日に一度のペースで投稿してましたが、今回から三日に一度のペースに変更します。


『□34』

 

 

『天下一武道大会』は、無事に閉幕した。腕自慢の強者たちが参加したことで大盛り上がりを見せた、が……そのせいで、作り上げた会場はボロボロ。次に使うとしても、修理が必要だ。

 

選手として参加したカミラとグラも、良い経験をしたことだろう。強い敵との戦い、勝利、そして敗北。その経験は、あの子達をより強くさせることだろう。

 

まぁ、あの子達は負けて悔しそうにしていたけど。カミラにいたっては泣き出してしまったくらいだ。グラが頭を撫でたら泣き止んだけど、これではどちらが姉かわからないな、と思ったものだ。

 

今回はシンプルにトーナメント戦で優勝者を決めたが、次にやることがあればタッグ戦やチーム戦をやってみるのも良いだろう。

 

今日の大会は多くの人が参加して、みんな楽しんだ。強さを競い合い、友情を得て、愛を育み……もしかしたら恋を知った者もいるかもしれない。

 

みんな平等だ。みんな、自由だ。

 

こんな平穏が、平和が長く続けばいいと思える。ザッカートが築き上げてきたものであることも、理由の一つではあるけれど……もう私は、昔の私とは違う。身体は魔物だけれど……私は、人間なのだ。

 

私自身の意思で、みんなを、バーンガイアを守りたい。そう思える。

 

あぁ因みに、今回の優勝者はノーブルオークのブーゴンである。ノーブルオークの怪力を活かした棒術の打撃を巧みに操る優れた戦士だった。

 

私はゾルコドリオと当たったのだが……いかんせん、奴のタフさのせいで攻めきれなかった。次に当たることがあれば、勝ちたいものだ。

 

 

 

『□40』

 

 

 

復興も、区切りが良いところまでやりきって住居や農業も心配しなくても良くなったところで、ザッカートたちは食文化の向上を目指した。

 

具体的に言えば、食材の美味しい調理方法や調味料の作り方などである。

いつか自分の好物を作るのが、今の夢であるとザッカートは言っていた。

 

……農業はともかく、料理はまったくやったことがなかったな。試しにやってみようか……いや、やろう。ザッカートに美味しいものを食べてもらうのだ。

 

……ところでカミラ、グラ。なぜ頑張ろうと意気込む私を見てニコニコとしているのですか?下らない理由だったら怒りますよ。

 

 

 

『□42』

 

 

 

わかっていたことであるが、『アース』での作り方をそのまま取り入れる方法は良いものとは言えなかった。

 

調味料もそうだが、『アース』で出来たやり方で『アース』の料理を再現することは難しい。『アース』のやり方でなく、ラムダのやり方を見つける必要がある。

 

しかも『アース』の料理を知っているのはザッカートたち勇者のみであるため、他の人では目標がわからず、どのように試行錯誤するのかはザッカートたちにしか決められないことだった。

 

そのせいでろくに手伝うことも出来ないというのが現状である。ザッカートは苦笑いで『料理は俺たちの我が儘だし、優先順位は低いから大丈夫だ』と言っていたが。

 

それはそれとしても納得できないので、美味しいものを作れるよう頑張ろう。今のところ、作った料理は失敗ばかりなので。

 

……こういうときに分身することができれば、と思う。『アース』には忍者がいるし、何か自分を増やす術はないものだろうか。

 

 

 

『□50』

 

 

 

カミラとグラを連れ、グファドガーンの作ったダンジョンを攻略することになった。理由は色々とあるが、カミラとグラが同時期に壁にぶつかったため、それを越えさせるため、というのが理由の一つである。

 

他にもあるが、今はこれだけだ。

 

カミラとグラはレベル上げは順調だったがスキルレベルが未熟であるので、私と一緒にレベルが上がるまでタイムアタックをしようと思ったのである。

 

今回挑んだダンジョンはグファドガーン作の『毒蟲の果樹林』と呼ばれるもので、難易度はグファドガーンがバーンガイアに作った迷宮の中で中堅レベルのもので、ランク10から12までの魔物がごろごろといる。

 

因みに難易度が最高レベルになってくると最低ランクが13で最高15の魔物が出現する。そのため気軽に行けないのであまり人気はない。

 

カミラとグラと『毒蟲の果樹林』に最初に行ったときは、慣れない敵との戦いに疲れた様子だったカミラとグラだったが、今では慣れた様子で魔物を解体している。

 

結構な回数ダンジョンに行ったが、未だにカミラとグラのレベルは上がらない。このダンジョンの魔物のランクが低いからだろうか。

 

……ならそろそろ、攻略するダンジョンを別の所に変えるか?それで単独でダンジョンボスまで攻略させて……うん、そうしよう。

 

だがまぁ、やり過ぎは良くないだろうし、ダンジョンタイムアタックは週に一回としよう。

 

 

 

『□61』

 

 

 

ザッカートがダンジョンタイムアタックを止めてきた。どうやら頻度が多過ぎてカミラとグラに泣き付かれたようだ。

 

これでも頻度は少な目にしておいたのだが……それでも多いようである。反省しよう。

 

それではダンジョン攻略で得た戦利品を使って、何か美味しいものを作れないか試作してみよう。最近になってスキルも獲得したし、美味しいものが作れる……はずだ。

 

……多分。

 

焼く、煮る、蒸す、揚げる……これらができれば、最低限美味しいものは作れるはずだし、問題は……ない、はず。

 

とりあえず蟲も食べれるのか、試作してみよう。

 

 

 

『□70』

 

 

 

蟲は食べれなかった。多分、そもそもが食用に向いていない肉質だったのだろう。

 

カミラとグラは、ザッカートやアークたち勇者に魔術や生産系スキルについて教わっている。今まで私が教えてきたことといえば戦闘ばっかりなので、良いことだ。

 

けれど、こういうときに私に出来ることが少ないことを気にしてしまう。母親として、あの子達を愛してはやれてるはずだが……母親としてあの子達に教えられているのかは、微妙なところ。

 

ザッカートに任せきりになるのは駄目だし、頼ってばかりなのは嫌だ。頼っていたいし、頼られてたい。相互の関係が『(イコール)』でなくてはいけないのだ。

 

一応私自身は、ザッカートの妻であると自認しているのだし……でも、戦うことなら私以外でも出来る。支えることなんて、それこそ私でなくてもいい。

 

でも、あの子達を育てることができるのは私だ。母親としてのことを、あの子達に教えられてばかりではあるけれど……もう独り立ちできる歳になっていることも、わかってはいるけれど。

 

私は、あの子達を愛してる。多分、ザッカートに抱いた感情とも違う、この愛は……きっと親愛。

 

ザッカートに向ける愛が情愛、熱愛の類いだとすれば、あの子達に向けている愛は親愛、家族愛のそれ。なにせ自分の腹を痛めて産んだ子達だ。愛するのは当然だ。

 

だから、思う。

 

結果的に私がどうなろうとも、ザッカートには生きてほしいし、あの子達にも生きてほしい。そして、立派な大人になってほしい。

 

もしかしたら、あの子達が大人になる姿を見れずに死んでしまう可能性もあるから。

 

まぁ、あの子達が独り立ちできるまでは、死ぬつもりなんてない。もちろん独り立ちしても、である。

 

 

……しかし。

 

私も、随分と変わったものだ。あの頃と比べたら、雲泥の差だ。

 

それは良いことだと、私は思ってる。

 

 

 

 




・名前:ライラック(ラドゴーン)

・ランク:16

・種族:夜叉鬼母

・レベル:70

・二つ名:【元貪喰の悪神】【ザッカート信者】【ダンジョン最速攻略者】【始祖の母】


・パッシブスキル
特殊五感
擬態:エルフの少女
超速再生:7Lv(UP!)
物理耐性:10Lv
魔術耐性:10Lv
状態異常耐性:10Lv
全属性耐性:10Lv
能力値増強:ザッカート:2Lv(能力値強化から覚醒&UP!)
自己強化:導き:10Lv(UP!)
魔力増大:9Lv(UP!)
捕食時能力値増大:極大
自己極強化:捕食:7Lv(UP!)
生命力増大:10Lv
体内空間超拡張:3Lv(UP!)
身体超強化(牙舌毛胃):5Lv(UP!)
身体伸縮(舌毛):10Lv(UP!)
大食い溜め:10Lv
骸装装備時防御力増強:小(骸装装備時防御力強化から覚醒!)
能力値強化:骸装:8Lv(UP!)
魔力自動回復:10Lv(UP!)
魔砲装備時攻撃力強化:大(UP!)


・アクティブスキル
貪王喰闘術:7Lv(UP!)
多重思考:7Lv(UP!)
遠隔精密操作:6Lv(UP!)
貪空魔術:2Lv(空間属性魔術から覚醒&UP!)
貪風魔術:3Lv(UP!)
高速思考:10Lv
貪削鬼鞭術:2Lv(鞭術から覚醒&UP!)
魔術精密制御:5Lv(UP!)
無属性魔術:10Lv(UP!)
同時多発動:5Lv(UP!)
骸王鎧術:3Lv(鎧術から覚醒&UP!)
限界破棄:7Lv(UP!)
詠唱破棄:10Lv
骸装限界突破:5Lv(UP!)
魔闘術:10Lv(UP!)
砲術:6Lv(UP!)
魔砲限界突破:5Lv(UP!)
農業:3Lv(NEW&UP!)
料理:2Lv(NEW&UP!)


・ユニークスキル
全身口
調和魂魄:3Lv(UP!)
神喰らい:7Lv
継続強化:10Lv


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ザッカート《6》

ちょっと遅れました


『□100』

 

 

色々とあった、と思う。

 

この数十年……ラドゴーンであった時とは違い、早く時間が過ぎ去っていたと思う。

もちろんそれは体感の話であって、実際に時間が早くなったわけではないのだけど。

 

しかし、それでも早く過ぎ去っていくように感じられたのは、この日々が楽しかったからなのか……それはわからない。

 

だって悲しいことも、怒りを覚えるようなことだってあったから。それとは逆に喜ばしいこと、嬉しいこともあった。

 

ゾルコドリオとソルダの間に吸血鬼と人間のハーフ、ダンピールという種が生まれたり─────

ヒルウィロウが忍者と侍を流行らせるために専用のマジックアイテムを開発し、そのせいでバーンガイアに忍者や侍が溢れ返ったり────

第二回、第三回と様々なジャンルで大会を開催して皆と競ったり────

 

……本当に色々とあったし、心配事も増えた。

 

あの子達、カミラとグラは未だに伴侶を見つけておらず、独り立ちはしたのだけれど心配だ。伴侶がいるのといないのとでは、これからの人生に大きな差が出来てくるから。

 

私がザッカートと出会い、大きく変わったように。カミラとグラにも、家族以外の人を愛するということを知ってほしい。それはきっと、彼女達に良い変化をもたらすから。

 

ヒルウィロウとアークは伴侶を作らず、数年前に死んだ後にそれぞれの大神の従属神になった。ヒルウィロウはボティンの従属神に、アークは未だに眠るリクレントの代わりの神に。

 

ソルダはまだまだ元気そうではあるが、もうお婆さんだからどれだけ生きれるものだろうか。

ソルダにはカミラやグラなど、新種族の眷属となって生き長らえる選択肢もあったが、ヒルウィロウとアーク、そしてザッカートと同じようにそれを選ばなかった。

 

 

『この世界には人として来たし、ゾッドのように吸血鬼になる気はないよ。人として生きて、人として終わりたい』

 

『もう俺たちが出来てることはやり尽くしたし、次の世代も育ってる。なら俺は次に託して、今度は神として見守ろうと思うんだ』

 

 

それが彼らの意見だった。ザッカートたち四人の勇者が行った数々の偉業は、神になるに相応しいもの。ヴィダはザッカートを、ボティンはヒルウィロウを、ぺリアはソルダを、リクレント……は眠っているので大神代わりとなるアーク。

 

それぞれの従属神、英雄神として、バーンガイアを守護する神々となるのだろう。魂は消えず確かに残り続けるが、代わりに肉体が死ぬ。いや、肉体が死ななければ死後に神にはなれないか。

 

バーンガイアを繁栄させた四人の勇者が、全員新種族になることなく神になる。カミラとグラは、最後までザッカートに新種族になってほしいと説得していた。

 

神になったところで何が変わるわけでもないことは、あの子達もわかっているはずだ。せいぜい会いづらくなるくらいだ。

 

しかし、大切な人が死ぬ場面は見ていて気分が良くなることはない。むしろ、悲しいだけだ。

 

ゾッドも『悲しくはあります。ソルダの死を見届けなくてはならないことは……ですが、それで最後の別れというわけではありませんからな』と言っていた。

 

私も、同意見だ。

 

ザッカートに死んでほしくない。しかし、最後の別れではない。また会える。会うことができる。だから、一時の感情に流されてはいけない。

 

これは、ただの我が儘だ。

 

だから、ザッカートが死んだことを悲しむ必要は……ない、のだ。

 

カミラとグラは、ザッカートが死ぬその瞬間まで、彼の側にいた。私も、その場にいた。肉体は死んだが、魂が消え去ったわけではない……それはわかっているのだ。

 

しかし、それでも悲しい……大切な誰かが、死んでしまうのは。

 

 

カミラとグラと、皆で抱き締めあって泣き続けた。

 

 

また会えることを願って。

 

 

 

 

『□2』

 

 

 

ランクアップのようだ。久しぶりである。

 

ザッカートが死んで、その遺体は『アース』に習って火葬した。

 

しかしザッカートは……四人の勇者たちは神となって、このバーンガイアを見守っている。あとついでにファーマウンも。

そのせいか、バーンガイア全体は悲しみに包まれることはあっても悲観するようなことはなかった、これまで通り、とはいかないだろうが……すぐに崩れることはないだろう。

 

恐らくこれから、勇者のおかげで団結していたバーンガイアは少しずつ分散していき、いずれは多くの国々となるだろう。

 

しかし、それは今ではない。今のバーンガイアは団結している。過去に起きたことを未だに実感している。

いずれバーンガイアが崩壊するというのなら、いっそのこと今のうちに土台を作ってしまえばいいと思う。

 

国を作る土台。いずれ来る分散……そしてベルウッドとの戦い。

それに備えて、少しずつ準備を進めておくとしようか。

 

因みに、グファドガーンは依り代を自身のダンジョンに保管すると神となったザッカートに付き従っているらしい。相変わらずのようである。

 

それと、いつの間にか私のステータスに『ザッカートの加護』が付いていた。

 

なんだか、ザッカートがいつも見てくれているようで嬉しい。

 

 

 

『□10』

 

 

 

ザッカートが亡くなって十数年。ついにバーンガイアは分裂を始めた。

 

ノーブルオーク、人魚、巨人種、吸血鬼……は数が少ないのでそういったことはないが。

 

ともかく、新種族や高い知性を持った魔物の多くがバーンガイアから別の土地に移り新たに国を興し始めた。

といっても、内乱が起きたとかそういうわけではない。

 

単に、永住するには色々と問題があることが判明してしまっただけだ。

今まではザッカートたち勇者がいたから、問題があってもすぐに解決した。

 

しかし、今は勇者はいない。だから問題があっても解決に時間が掛かる。

巨人種やアラクネ、エンプーサ等の図体の大きな種の住まいは相応に大きくなくてはならないし、人魚は水があるところでないとダメでスキュラは泥のあるところの方が住みやすい。

 

そういった問題が今さらながら判明したことで、種族ごとに別れて国を作った方がいいと判断されたのだ。

 

人魚やスキュラは水が多くある土地へ。魔人族や鬼人族はランクの高い魔物が住む土地へ。巨人種はデコボコのない広く住める土地へ。ノーブルオークは、数々の国に救援などに向かえるように中心の土地に。

 

それぞれの種族が、それぞれの守護神と共にバーンガイアを離れ国を興した。

 

しかし、それは共存できないからではない。この方がいいと、皆で話し合って決めたことだ。ザッカートが残した言葉にも『ちゃんと話し合おう』というものがあるから。だから、誰もバーンガイアが嫌いだったわけではない。

 

いずれ来る戦いに備えているのだ。

 

やつは……ベルウッドは、アルダは。いずれここに攻めてくるだろうから。

 

あの時の怒りを、私は、私たち忘れていない。

 

もし攻めてこようものなら……今度こそ撃退してやるのだ。もう何も、奪わせはしない。

 

 

まぁそれはそれとして。私はカミラたち吸血鬼とグラたちグールで構成された三代目バーンガイアにいることにした。なお守護神はザッカートである。

 

もう大人ではあるけれど……やはり腹を痛めて産んだ子供だから、気にしてしまう。

 

そうしたら『もう子供じゃないよっ』とか『心配しすぎ』などと言われてしまった。

 

むぅ……否定できない。流石に気にしすぎだろうか。

 

 

 




●魔物解説:夜叉鬼母


ラムダで初めて誕生した……というか初めてだらけのランク16の魔物。初めてランク16に到達した魔物で、初めて依り代として作られた魔物で、初めてランクとジョブを持つ新種族を産んだ魔物で、初めて人間の妻となった魔物である。

初めてだらけであるためデータは少なく、名前からして鬼母ということしかわかってない。
しかし『アース』に存在する神に夜叉という存在がいるらしく、その神は元は鬼の神であったが、後に護法善神の神格へと変化しているらしい。

ライラック自身も、似たような経歴であるため、それが彼女を夜叉鬼母にしたのかもしれない。

どうやってこの魔物にランクアップするのかは不明だが、恐らく子を産むこと、そして高い戦闘能力を持つことが必要であると考えられる。


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ザッカート《7》

ラムダ√→ザッカート√→始母√→???


『□50』

 

 

私はいつまで生きることが出来るだろうか────そんなことをたまに考える。

 

ザッカートが死に、バーンガイアは分裂し、別れた種が新たな文明を国ごとに築き上げて……それなりの年数が経過した。

 

だいたい、二百年ほど。

 

その間の私は……なんというか、惰性で生きているような状態だった。ザッカートが死に、けれど二度と会えなくなったわけでもないというのに……私は、前ほどの熱を持たなくなっていた。

 

予想以上に、私はザッカートの導きに頼りすぎていたようだ。ザッカートが死んで、今更それを理解するなど遅すぎる。

 

カミラとグラ、見守らなくてはいけない子達がいても、それは同じだ。愛情はあっても、そこにザッカートほどの熱がない。だからといって思いがない、というわけではないのだけど。

 

いつまで生き続ければいいのだろうか、と考えてしまう。この身体は、どのような状況にも耐えられるように創っていたが故に、寿命も長い。

 

その長い寿命が尽きるのは、いつになるのかと……そんなことを考えてしまう。

 

死にたい、というわけではない。そんなことを望めるほど絶望などしていない。

しかし……今の私には、気力がない。目標も持ち合わせていない。

 

カミラとグラの治めるこの国も、ここ数十年は問題なく運行できている。それまでは大あれ小あれ問題が山積みだったが、今ではだいたいが解決している。

 

……いっそのこと、しばらくの間眠ってしまおうか。

 

一部の吸血鬼は守護神のいるダンジョンに行き、自らを石化させて眠りについたほどだ。

吸血鬼は血さえ吸えれば何年経とうと若さを保ったまま生き続けられる。それは魔人族も同じことだが、まだそこまで生きた魔人族自体が少ない。

 

しかし、眠りについてしまえばそれだけザッカートとの再開が長引くことになる。自決する気はなく、いつ寿命が来るかもわからないのでは、私の心の方が持たない。

 

……ザッカート依存症なのだろうか、私は。

 

多分そうなんだろうな、きっと。

 

ベルウッドとの戦いは、もっと先のことになる。それこそ数万年と掛かることだろう。

間違いなく、私はそこまで生き続けることはできない。もしかしたら、私の寿命はあと十数年もないかもしれない。

 

その時は……まぁその時だ。あの子達を悲しませてしまうかもしれないけど……寿命があるのは、良いことだ。それは、いつか死ぬことが出来るということだから。

 

流石に、私はあの子達より長く生きるつもりもないからね。

 

 

 

『□55』

 

 

 

────終わりか。

 

なんとなく、そう直感できた。

 

自分が終わるということを、感じられる。どうしてだとか、なぜだとか、そういった理由はわからないのだけれど。

 

私はもうすぐ終わる。というか、死ぬ。肉体の寿命が来たのだ。

 

ここまで、よく生きた方だと思う。ザッカートが死んで、私の殆んどを占めていたものが失われ……滅びたわけでもないのに、すぐに会えないことが無性に寂しかった。

 

自分のことながら……なんて女々しいのだろう。私は人間ではないというのに……心が、あまりに弱い。

それが、私としては悪いことではないと思っているのだが。

 

かつての『俺』ならば、このようなことは思わなかったことだろう。それは弱さであり、あってはならないことだから。

だが、今は違う。これは『私』になったことで得た……得てしまった弱さ。人間らしい心だ。

 

だから、ザッカート。

 

私はあなたに感謝している。私に、心を思い出させてくれたことを。失われていた人間性を取り戻させてくれたことを。

 

そしてカミラ、グラ。

 

貴女たちを産んだことは、私にとって二度目の転機でした。ザッカート以外のことを心に占めたのは、貴女たちが初めてです。

そして、貴女たちを産んだから、私はここまで生きようと思えた。

 

 

ありがとう。

 

 

……そろそろ、終わりのようです。ここまでなんとか力を振り絞っていたのですが……流石に限界です。

 

途中、塗り潰された部分もあるでしょうが……そこは気にしないでください。それは、誰にも言うつもりのない私の秘密ですから。

 

もし誰かがこの日記を見たときは……見たあと、出来れば処分してもらいたい。この日記には、私の恥もありますので……出来る限り、知る人は少なくしたい。

 

流石に死後に文句をつけるつもりは、ありませんが。

 

……眠くなってきましたね。ひどく落ち着いた気分です。これから死ぬというのに。

 

……そうですね。では、最後に一言だけ。

 

 

カミラ、グラ。

 

長生きするのですよ。

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

「……これで終わりみたい」

 

「そう」

 

 

パタン、と本を閉じる。

 

暗闇の夜の中、なんら支障なく本を読み進めていた二人の女は、遺されたライラックの日記を見て感想を溢した。

 

 

「あまり表情を変えてなかったけど……結構悩んでたんだね。正直、意外だった」

 

「うん」

 

「お母さん、喋るの苦手だったし」

 

「そうだね」

 

 

感想、にしては随分と辛辣な言葉を口にしていたようだが。

 

病的なまでに白い肌に鋭い牙、真っ赤な瞳を持つ吸血鬼の真祖でありライラックの娘、カミラは辛辣な言葉を口にしながらも自身の母に悪感情を持ってはいない。

 

それは双子の妹、グールの始祖であるグラも同じだ。

 

双子であるためか、彼女たちは言葉にするまでもなく互いの考えを理解していた。

 

尊敬する父、愛する母。その二人の間に生まれたカミラとグラは、非常に家族愛が強かった。それこそ、二度と会えないわけでもないのに、ザッカートの死を……ライラックの死を深く悲しむくらいには。

 

 

「会えないわけじゃないのは、わかってる。けれど……」

 

「それでも、悲しい。寂しい」

 

「うん。寂しいよ」

 

 

親との、暫しの別れ。会えないわけではないけれど……それでも、寂しいのだ。悲しいのだ。

 

会えないことを悲しいと、寂しいと感じられるのは、私たちが人間だからだ。

 

少なくとも、彼女たちはそう思っていた。

 

 

「……私たちは、化け物なんかじゃない」

 

「うん」

 

「どうして話し合おうとしなかったんだろう」

 

「うん」

 

「どうして……人を殺せるんだろう」

 

「……」

 

 

それは、ズルワーン、リクレントの残した巨大な山脈の向こう側……ベルウッドを含めたアルダ側へと向けられていた。

 

日記を見て……予め教えられていたことではあったけれど……どうしてなのか、疑問に思った。

 

なぜ話し合おうとしなかったんだろうと。なぜ、躊躇なく人を殺せるのだろうと。

 

そりゃあ、人は生きるために他の生き物を殺すけど……それとこれとは話が違うではないか。

 

貴女たちは……何のために、多くの人を殺したというのか。

 

 

「私たちは、実際に見た訳じゃない。体験したわけじゃない」

 

「けれど、いっぱい聞いた。どれだけ多くの人が死んで、どれだけ抗って……どれだけ、怒りを覚えたのか」

 

「うん」

 

 

もう和解など無理なのだろう。取り返しのつかないことを、あちらは仕出かした。してしまった。

 

今の世代だと、そのことに怒りを覚えているものは少ない。なにせ数百年も前のことで、カミラとグラの生まれる前に起こったことだ。

 

しかし、その数百年を生きてきた当事者はいる。彼らは実際に体験し、見聞きした。その怒りを、忘れていない。

 

 

「遠い未来……戦うことになる」

 

「母さんは、数万年は掛かると思ってたみたいだけど……」

 

「もっと早くなるかもしれないし、遅くなるかもしれない」

 

「もしかしたら、戦う前に勝手に自滅するかも」

 

「逆にこっちが自滅してしまうかも?」

 

 

カミラとグラは、交互に言い合う。自身の考えを。これから起こるかもしれない仮定を。

 

 

「どちらにしろ」

 

「うん、どっちにしろ」

 

 

しかし、その結論は同じだった。

 

 

「「私たちのすることは、変わらない」」

 

 

どのようなことがあろうとも決して諦めず、前に進み続ける。

 

どのような障害があろうとも、どのような敵がいようとも。そしてこの先、どのようなことがあろうとも……前に進む。それだけは変わらない。

 

 

「ここを守ろう」

 

 

守ろう、人を、魔物を……ここに生きる人々を。

 

 

「敵を倒そう」

 

 

襲い来る脅威は区別せず、敵ならば倒そう。

 

 

「何も奪わせないし、壊させない」

 

 

命も、居場所も、積み上げてきたものも、何もかも。奪わせはしない。壊させはしない。

 

全て、守ってみせる。

 

 

「とりあえず、まとめあげようか」

 

「バーンガイアは分裂したけど、結束が崩れたわけじゃない」

 

「敵を一つに絞る……ううん、創ろう」

 

「そうすれば共通の敵が現れて、争いは起きなくなる……はず」

 

「自信はないなぁ」

 

「でもやれるだけやってみよう」

 

「うん、そうしよっか」

 

 

彼女たちの策謀は続く。いずれ来る戦争に備えて……その準備期間中に、出来うる限りの戦力向上を。

 

カミラとグラの、大掛かりな策が始まった瞬間であった。

 

 

後に彼女たちの行った策によって、元バーンガイア共和国はグールを中心とする新生バーンガイア帝国へと生まれ変わり、山脈内の結束を強めることとなる。

 

それは双子の女王の片割れ───グラ・ザッカート・バーンガイアが寿命で亡くなったあとも変わりなく。

 

カミラとグラの行った策は、後世まで山脈内の国々の結束を強めたのだった。

 

 

 

 




・名前:カミラ・ライラック・バーンガイア
・年齢:数百歳
・ランク:17
・種族:オーヴァートゥルーヴァンパイア(超越真祖吸血鬼)
・レベル:45
・ジョブ:超越者
・ジョブレベル:21
・ジョブ履歴:見習い戦士 見習い魔術師 魔術師 戦士 拳士 爪使い 精霊使い 魔闘戦士 大魔術師 大精霊使い 吸血女帝 血闘士 魔血操士 血器使い 武術士
・二つ名:【始まりの吸血鬼】【双子の女帝】【バーンガイア帝国初代女帝】【マザコン&ファザコン】【血帝】


・パッシブスキル
闇視
自己超強化:吸血:10Lv
能力値増大:バーンガイア:10Lv
超速再生:Lv10
超血:5Lv
剛力:10Lv
状態異常無効
魔術耐性:10Lv
詠唱破棄:10Lv
魔力自動回復:10Lv
無手時攻撃力増大:極大
精霊超強化:10Lv
魔力回復速度上昇:10Lv
魔力使用量超減少:5Lv
全属性耐性:10Lv
血器使用時能力値増大:大


・アクティブスキル
無属性魔術:10
血命魔術:5Lv
血空魔術:5Lv
血時魔術:5Lv
魔術精密制御:10Lv
魔血精密制御:10Lv
精霊王魔術:10Lv
武術:10
超連携:10Lv
限界超越:5Lv
魔血闘術:10Lv
同時発動:10Lv
多重超速思考:10Lv
分霊降臨:10Lv


・ユニークスキル
吸血鬼の真祖
血操
血器限界超越:1Lv
共有存在:グラ
亜神
ヴィダの加護
ボティンの加護
ぺリアの加護
ザンタークの加護
邪神悪神の加護
生産系勇者の加護


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ライラック《1》

今年も最後、そろそろ明けましてですね。
来年も、よろしくおねがいしますっ

あと、今日は短めです。


『◯1』

 

 

死んだ。そして、生き返った。

 

というより、神になったと言うべきか。

 

あの日、あの場所で死んだことを私ははっきりと覚えている。暗い闇の中に沈んでいくような感覚も、あの子達に看取られたことも、全部。

 

そして次に見えたのが邪神悪神やヴィダなどの神々と、ザッカートであることからすぐに察せられた。あぁ、私は神の一員となったのだな、と。

 

他にも英霊となった可能性もあったが、それならすぐに見えるのは一柱だけだろう、と考えてすぐに除外された。

 

これからは魔物として生きるのではなく、神として人々を見守り、世界を維持していくことになるのだろう。

 

これからはザッカートがすぐ近くにいると考えれば、それも悪くないと私は思う。

 

さて、ところで私は一体何の神になったのだろうか。あと誰の従属神なのか教えてほしい。

 

 

 

『◯10』

 

 

 

私は英雄神ザッカートの従属神『調和の母神』ライラックになった。

 

順番に説明していくと───まずザッカートはヴィダによって神となり、その功績から英雄神となった。他の勇者……ソルダ、アーク、ヒルウィロウ、あとファーマウンも英雄神となっている。

 

そしてザッカートの従属神となった私は、『調和の母神』という名称を決め、ザッカートとは違う属性を管理することになった。具体的に言えば空間属性を。

 

私が生前、空間属性と風属性しか扱ったことがないために空間属性を管理する神の内の一柱となったが、今は眠っているズルワーン、リクレントの穴を埋めなくてはならないのが理由の一つだ。

 

アークはリクレントの代理として時属性を管理し、ヒルウィロウはボティンの土属性を、ソルダはぺリアの水属性を管理しているため、空間属性の代理となる神がいない。アルダ側でも属性の管理は行っているだろうが、あちらにも空間属性の神は少ない。

 

そのため、それを補う神が必要となるのだが……なぜか、今はいないズルワーンの代理として空間属性の管理を任されることになった。

 

ザッカートの従属神であっても、他の属性の管理を行うことは可能であるらしい。

 

いや、そもそもなぜ私が代理なのか聞きたい。なんならグファドガーンでも良いし、他にも神がいないわけでよないだろうに。

 

そうしたら『グファドガーンはやれと言えばやってくれるだろうが、それでもザッカートの側から離れはしないだろう。かといって他の神に代理は勤まらない。ならばザッカートの従属神であるライラックに任せたほうがいい』ということらしかった。

因みに言ったのは空間属性を管理する神の一柱であるが、他の神々の総意でもあるらしい。

 

そういうことならば、と仕方なく引き受けたが……属性の管理というものは難しいな。今の私では力の半分は割かなくてはいけないほどだ。

 

信者が増え、力も強まれば管理も楽になるだろうが……それまでの辛抱だ。

 

 

 

ところでなぜ私が『調和の母神』なのかと言うと……

 

私の持つユニークスキル調和魂魄から取ったのが一つ。吸血鬼とグールという新種族を産んだのが一つ。あと、私がザッカートの従属神であるから、というのが理由である。

 

大変名誉なことだ。

 

因みにグファドガーンもザッカートの従属神である。今後は、グファドガーンと一緒にザッカートにつくことになるだろうな。

 

 

 

『◯100』

 

 

 

私が死んでから、かれこれ数百年。神になったことで、時間の経過が早くなった気がする。

 

さて、この年月の間に色々なことが起きた。

 

まず私の娘───グラ・ザッカート・バーンガイアという名を持つ妹娘が死んで、グールの始祖神となった。

 

新種族の始祖というのは、この世に誕生した時点で神となることが確定している。そのため、グラが神となれたことに疑問はないし、再開できて嬉しく思う。

 

しかし、私はてっきりグラはカミラと同じく悠久の時を生き続けるのだとばかり思っていた。

そう思った理由は、カミラの持つユニークスキルに【亜神】というものがあったからだ。

 

カミラとグラは、ユニークスキル【共有存在】で互いのユニークスキルを共有することができる。一般的な【亜神】に寿命がないため、てっきり寿命で死ぬことはないのだとばかり思っていた。

 

悪いことだとは、思わない。だって、いつか死ぬということは、いつか終わることが出来るということだから。まぁそれはそれとして驚いたのだが。

 

さて、グラが死んだあと、カミラとグラの治めていたバーンガイアは……全体が悲しみに包まれはしたが、国としては問題ないようだった。

 

二人で治めていた国を一人で治めるようになった、という変化であるのもそうだが、それくらいのことでへこたれるほど弱いわけではないからだろう。

 

出会いと別れ、それは何度も経験してきたことだ。ザッカートや私が死んだように、いなくなったことを悲しんだくらいで歩みを止めるわけがない。

 

それはもう、何度も味わってきたことだ。言い方は悪いが、慣れというものだろう。

 

それに、これで一生の別れというわけでもない。また会える。また再開できる。いつか、必ず会うことができる。

 

それがカミラを、バーンガイアを支える一つの要因となっている。

 

私も、ザッカートにもう一度会うことが出来ると知っていたから、寿命で死ぬまで生き続けてきたのだ。

 

これで最後ではない。

 

だから、カミラ。貴女は、やり残したことがないように。

 

もしもやれることをやり尽くしたのなら……その時に、再開しましょう。

 

家族みんなで、一緒に。

 

 

 

 




【最終ステータス】


・名前:ライラック(ラドゴーン)
・ランク:17
・種族:修羅母
・レベル:55
・二つ名:【元貪喰の悪神】【ザッカート信者】【ダンジョン最速攻略者】【始祖の母】


・パッシブスキル
特殊五感
擬態:エルフの少女
超速再生:10Lv(UP!)
物理耐性:10Lv
魔術耐性:10Lv
状態異常耐性:10Lv
全属性耐性:10Lv
能力値増強:ザッカート:5Lv(UP!)
自己強化:導き:10Lv
魔力増大:10Lv(UP!)
捕食時能力値増大:極大
自己極強化:捕食:10Lv(UP!)
生命力増大:10Lv
体内空間超拡張:5Lv(UP!)
身体超強化(牙舌毛胃):5Lv(UP!)
身体伸縮(舌毛):10Lv
大食い溜め:10Lv
骸装装備時防御力増強:大(UP!)
能力値強化:骸装:10Lv(UP!)
魔力自動回復:10Lv
魔砲装備時攻撃力増大:極大(魔砲装備時攻撃力強化から覚醒&UP!)


・アクティブスキル
貪王喰闘術:10Lv(UP!)
多重思考:10Lv(UP!)
遠隔精密操作:10Lv(UP!)
貪空魔術:10Lv(UP!)
貪風魔術:10Lv(UP!)
高速思考:10Lv
貪削鬼鞭術:10Lv(UP!)
魔術精密制御:10Lv(UP!)
無属性魔術:10Lv
同時多発動:10Lv
骸王鎧術:10Lv(UP!)
限界破棄:10Lv(UP!)
詠唱破棄:10Lv
骸装限界超越:5Lv(骸装限界突破から覚醒&UP!)
魔闘術:10Lv
神喰砲術:10Lv(砲術から覚醒&UP!)
魔砲限界超越:5Lv(魔砲限界突破から覚醒&UP!)
農業:5Lv(UP!)
料理:5Lv(UP!)


・ユニークスキル
全身口
調和魂魄:10Lv(UP!)
神喰らい:7Lv
継続強化:10Lv



● 調和魂魄


異形精神から変異覚醒したユニークスキル。精神耐性も兼ねたスキルで、あらゆる魂と調和し修復させることができる。

そして、この世で唯一グドゥラニスによって砕かれた魂を修復させることのできるスキル。

しかし、その本領を発揮することはついぞなかった。


● 継続強化


継続する時間に応じてあらゆる面で補正を掛けるユニークスキル。

単純な能力強化もそうだが、このスキルの真の力は成長にすら補正を掛けることができる点にある。
そのため、通常なら時間の掛かるスキルレベルアップも、短い時間で成し遂げることができる。

もっとも、その所有者である彼女はその力に気付くことはなかったが。




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ライラック《2》

もうすぐこの物語も終わりが見えてきたところ。

ちょっとダイジェスト、いつものやつです。


『◯10074』

 

 

 

時が過ぎるのが早く感じる。これも、神となったことで起こった変化なのだろうか。

 

そういったことはわからないが、私が神となってから今日で千年を越えた。

 

属性を管理し、信者を見守り、時に加護を、時に神託を与え、人々を導く。

 

やってることはそれだけだが、『それだけ』の中には濃密なものがつまっている。

 

属性の管理は常に維持していなくてはならず、数多くいる信者を見守り続ける必要があり、必要となれば信者に神託を行い、気に入ったものには加護を与える。

 

そういったことを常に、かつ同時にやらなくてはならないため、普通の人間では処理できない。かくいう私も、生前の時であれば処理しきれない情報量だったろう。

 

しかし、神となったことで信者の信仰、畏怖などといった見えないものを力に変えることができる。その増えていく力のおかげで、これだけの処理を同時平行で行えていると言っても過言ではない。

 

ヴィダを含めた大神たちは、これを日常的にやっていたのだろう。魔王軍が攻めてくるまで、ずっと。

 

正直な感想を言うと、凄いと思う。

 

今でこそラムダが魔素に侵されたせいで通常通りに属性の管理ができなくなってしまっているが、それがなかったら大神たちは単独で世界の維持に力を注ぐことができたことだろう。

 

素直に尊敬する。私は初めて、ヴィダたち大神を尊敬したような気がする。

 

まぁどう思ってもザッカートより上にいくことはないのだけど。

 

 

 

『◯51559』

 

 

 

今日で何千年目か。流石に時間が過ぎ去りすぎてわからなくなってきた。

 

未だにバーンガイアは健在で、カミラの治める山脈内は平和を保っている。まぁ何千年と治めてきたからか『そろそろ後継者を作ろう』と思っているようだけど。

 

そして私のほうも、世界の維持に慣れてきた。今では加護を与える者を誰にしようかと悩めるくらいには時間の空きが出来てきた。

しかしその一方で未だにズルワーンやリクレントが目覚める様子はなく、他の大神の力は完全回復にまで近付いてきている。

 

この調子でいけば、あと数千年と掛からず大神たちも元の力を取り戻すことだろう。

 

ザッカートは……どうやら他の勇者たちの力も借りて、溜め込んできた神の力を使いダンジョンを作るつもりらしい。具体的に言うと、神や英霊となりうる者たちの試練用に。

 

……本当ならば、ザッカートはダンジョンなど作るつもりはなかったようだが、グファドガーンの『明確な目標は人々の心を奮い立たせる』という発言によって決断したらしい。

 

それと、平和になったはいいが近頃諸々のことが停滞してきていることも考え、ザッカートのダンジョンは山脈内全体に良い刺激になるだろうとも考えていたようである。

 

それに、ダンジョンの攻略に成功すれば最低でも英霊となることは確定するので、名を残したい者はこぞって挑戦することだろう。そしてそういった攻略者を選抜し、神にして山脈内の戦力を増強していく。

 

一石二鳥、というやつだ。

 

さて、これが上手い方向に進めばいいが……

 

 

 

『◯10007』

 

 

 

更に数千年が経過した。大した変化は……まぁ起こったか。

 

この数千年で御使いや英霊となった者、神となった者はかなりの数になる。だいたい十人ほどであろうか。

 

少ないように思えるが、決して少なくない。むしろ多いくらいだ。

これは数百年に一度は英雄が生まれているということで、寿命が長い新種族が多い山脈内ではかなりの数だ。

 

寿命の短い人間主体の社会であれば、入れ替わりが激しいため数千年もあれば数十人の英雄が生まれることだろう。実際、アルダ側の人間社会がそうなのは間違いない。

 

しかし、その質はどうであろうか。寿命が長い方がスキルレベルも高く出来るだろうし、敵を倒し続ければランクも、レベルも高くなっていることだろう。

 

寿命が長いということは、それだけ力を注ぎ込めることが出来るということなのだ。

 

断言できる。生まれてきた英雄の数で劣っていたとしても、その質ではアルダ側には負けていない。

 

それに、武器や道具の差もある。山脈内には勇者の残した技術もあってマジックアイテムの平均的な質が高い。流石に神の作り出したマジックアイテムに匹敵するものは少ないが、それでも存在はする。

 

そういったことも含めれば、現段階ではアルダ側よりもこちら側の方が優れていると言える。

 

表面上は。

 

しかし、積み重ねてきたものがたった一人の大英雄には敵わない、なんてことがラムダではあり得てしまう。例を上げれば、ベルウッドがそうだった。

 

やつ一人がいるだけで、こちらの勝率はぐっと下がる。例えザッカートが兵器を作り出したとしても、平然と乗り越えてくるだろう。

 

ベルウッドは魔王を直接倒した男だ。魔王に結界という絶対防御がなかったとしても、単独でグドゥラニスを倒せる者はベルウッドしかいない。

どれだけ時が過ぎようとも、この世で一番強いのはベルウッドであることは変えられないだろう。

 

ベルウッドと正面から戦ってはいけない。やつを倒すには、もっと別の方向から攻める必要がある。

 

……どうせなら何処かで封印されてしまえばいいのだが……流石に無理か。

 

 

 

『◯204589』

 

 

 

三万年ほど……だろうか?多分、それくらいは経過している……と思う。

 

時間感覚があまりはっきりとしない。ヴィダや他の神、それにザッカートも経過した時間をきちんと把握しているというのに……

 

ゴホン。

 

この三万年は、多くの人間が育ち生まれた。

 

ノーブルオーク、魔人族、鬼人族、グール、吸血鬼……かつては少なかった新種族や魔物たちも、今では数を増やし確かな文明を築き上げている。

 

ザッカートを含めた勇者たちの合同で作り上げたダンジョン『勇者の試練』は、多くの山脈内の英雄の壁となった。完全攻略を成し遂げた者は未だにいないほどだ。

 

階層の数は確か……百、いや百二十か。歴代最高到達階層は百階層までで、それ以上となるとナンイドガ高すぎて攻略できないのだとか。

ザッカートは『百までは攻略されるための階層。で、そこから先が絶対に攻略させないための階層にした。後悔はしていない』とのことで、つまり悪ふざけもあったらしい。

 

攻略難易度を上げるためにグファドガーンやダンジョンに詳しい神々の力も借りたそうだが……あまりに難易度を高くしすぎて『俺たち勇者がパーティを組んで揃っても攻略できないかも』とザッカートに言わしめたほど。

 

その完成度はヴィダを引かせ、リクレントを呆れさせ、ズルワーンを大爆笑させたほどである。

 

あぁ、ちなみにこの三万年の間にズルワーンとリクレントは封印から目覚め復活した。眠っている間も信者たちの祈りが届いてだいたいのことは把握しているらしく『我らが眠っている間、人の文明を築き上げ、守護してきたことに感謝する』とリクレントが。ズルワーンは『色々すまん。あ、空間属性の管理はこれからも任せるけどいい?』とかぬかして逃げようとしたズルワーンは捕まえて管理を預けた。属性を管理するのは構わないが逃げるのは許さん。

 

『あのラドゴーンが、今ではこんな母神になるとは……人生、何が起こるかわからんな。まぁ我は神だけど!』

 

ふざけてないで仕事をしなさい。そうじゃないと私もザッカートの近くにいれないのだから。

 

 

 

 

『◯354575』

 

 

 

どうやら決戦の時のようだ。

 

 

簡潔に言おう。

 

 

────アルダ側が、総力を上げて攻めてきた。

 

 

 

 




次回、決戦


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光命大戦編
決戦の時《1》


だーいぶ、遅くなりました。日をまたいでしまいましたが、投稿です。


戦いは唐突に始まった。

 

 

『さぁベルベット!僕たちの手で、彼らの行く道を切り開くんだ!』

 

「ウォォォォ!【神剣覇天斬】!」

 

 

ベルウッドの声を聞き、今持てる全力の一撃を邪悪な種族の居座っているという山脈へとぶつける、ベルウッドの育て上げた英雄。

 

邪悪な神々を、そしていつかは山脈内に潜むヴィダが生み出してしまった邪悪な存在のルーツを持つ種族を滅ぼしてくれることを願い、マジックアイテムや加護、試練を与えて育ててきた。

 

今回の英雄も、完全に育ちきる前に死んでしまうのではないかとハラハラしたが─────その英雄はベルウッドを降ろしても耐えうる肉体を得て、ここにいる。

 

彼を育て上げたのは間違いではなかった─────英雄の放った一撃が山脈を崩壊させたのを見て、そう確信した。

 

しかし山脈内へと入るためとはいえ、英雄の今持てる最大の一撃を放ってしまったが故に【英雄神降臨】を維持できないほどに消耗してしまった。しばらくの間、体を休ませる必要がある。

 

 

『あとは彼らに任せて、今は休むんだ、僕の英雄ベルベット』

 

「っは……っは……は、はいっ」

 

 

しかし、何の問題もない

 

何故ならベルベットには、彼を助けてくれる心強い仲間がいるのだから。

 

 

 

▲▼▲▼

 

 

 

山脈の崩壊による被害を最初に受けたのは、山脈にもっとも近い位置にあった巨人国だった。

 

 

「な、なんだこの地震は!?」

 

「いや、地震じゃないっ!こいつは……!」

 

 

突如引き起こされた大きな地震に戸惑い混乱する巨人種の人々。だが、そんなことに驚いていられない事態が立て続けに起こる。

 

 

「さ、山脈が、崩れていく……!?」

 

 

かつて先祖を殺し尽くさんとしたベルベットとアルダ、その軍勢の進行を止めるために二柱の大神……リクレントとズルワーンが作り出したとされる、巨大な山脈。

 

それが今、崩壊していく。

 

山脈の崩壊。それが意味することは────アルダ側とヴィダ側、両者による戦争である。

 

 

『やられたっ!まさか山脈を崩壊させるとは……!奴等に良心というものはないのかっ!?』

 

『兄者!怒るのは後にしろ!』

 

 

巨人国を守護していた二柱の亜神───巨人種の片親『太陽の巨人』タロスとその妹である『月の巨人』ディアナの亜神は、流れ込んでくる山脈のなだれを防ごうと動き出す。

 

山脈が崩壊したことによる被害は桁違いだ。近くに位置していた巨人国は、このままいくと崩壊した岩、砂、土のなだれに直撃し押し潰されてしまう。

 

亜神の中でも上位の力を持っているタロスとディアナだが、流石に自身よりも大きく重い質量を持つなだれを相手に巨人種全てを守りきることは不可能だ。

このままでは、多くの巨人種が死んでしまうことになるだろう。

 

────このまま、巨人種たちが何もしなければ、の話だが。

 

 

「全力を振り絞れぇ!【超高氷城】!」

 

「【大土壁】!」

 

「攻撃は最大の防御ってな!【魔焔鉄槌】!」

 

「【巨大魔兵】!自分を守れる自信のない人は早くこちらに!」

 

 

自らの国を、仲間を、友を、恋人を───守りたいものはそれぞれだが、巨人国にいる実力者は自身の持てる最大限を尽くしてなだれから人々を守ろうとする。

 

巨大な壁を魔術で作り出してなだれの進行を妨げ、巨大な氷の城を擬似的なシェルターとして生成し、炎で出来た巨大な拳を作りなだれへと叩き込み、巨大なゴーレムを生成してなだれから人々を守ろうとする。

 

他にも多くの魔術師が、突如押し寄せてきた災害から人々を守ろうと力を振るった。

 

そしてついに山脈が完全に崩壊し、なだれが巨人国へと押し寄せ全てを飲み込んだ。

なだれの中で残ったものは何もなく、巨人国に存在していたものは全てが埋もれ流され、土だらけの場へと変わってしまった。

 

しばし静寂が訪れ、しばらくすると大量の土の山から前触れもなく二ヶ所から巨大な拳が上がる。

 

 

『流石にこの量は無理があったかっ。無事か妹よ!』

 

『こちらは平気だ!しかし、子等は……』

 

 

そこから出てきたのはタロスとディアナであった。なだれから巨人種を守ろうとしたのだが、流石の質量に手も足も出せずに飲み込まれてしまったのだ。

 

土の中から這い出てきたディアナは辺り一面が土で覆われたことを確認すると、巨人種の安否を気にした。

 

 

『まぁ、大丈夫だろう。なにせ、儂とヴィダ様から生まれた子等なのだからな』

 

 

そう呟くタロスの近くで、土の中から氷で出来た突起物が飛び出してきた。

 

 

「我らが父タロスよ!無事なら氷城を引っ張ってくれないかっ!?これ以上は維持するので精一杯だ!」

 

『おお任せろ!』

 

「ディアナ様!こちらの下にシェルターを作ってあります!掘り出すのを手伝ってください!」

 

『わかった!この下だな!』

 

 

次々と土の中から飛び出してくる魔術で作られた擬似シェルターの数々。中には地面に穴を開け、そこを一時的な避難場所としたものもあった。

 

そうやって土の中にいる非戦闘民の巨人種たちを救出するべく動く巨人種、タロス、ディアナ。

 

なだれから多くの人々を救った彼らだが、しかしそれでも助けられなかったものも出てくる。

高いレベルと多くのジョブ経験を重ねていた巨人種はともかく、必要最低限しか備えていなかった巨人種はなだれに巻き込まれ死んでしまった。

 

そんな死んでしまった巨人種の死体も見つける必要があり、巨人国の完全な復興は相当な年数が掛かるだろうと予想できる。

 

────しかし、悲劇は終わらない。

 

 

「いたぞ!あれがヴィダの新種族だ!」

 

「見ろ、巨人もいるぞ!」

 

「邪悪に染まった神々……これ以上の蛮行は阻止せねば!」

 

「アルダに光あれ!皆のもの進めぇい!」

 

 

アルダ信者の人種たちが、山脈崩壊によって出来上がった土の上を進みこちらへと向かってくる。

 

明確な敵意を持って。

 

山脈の向こう側────山脈内の人間とは違う歴史を辿った人種がいる場所としか知らない巨人種からすれば、それは意味のわからない話だったろう。

 

いずれ戦いが起こるとは伝えられていた。しかし、まさか話し合いもできないとは思ってもいなかったはずだ。しかも山脈を崩壊させ、隙を作った上で、だ。

 

山脈の崩壊が意図的に起こされたものであると知った巨人種は───怒りで我を忘れかけた。

 

 

「てめぇらがこんなことを仕出かしやがったのかっ!?許せねぇ!ぶっ殺してやる!」

 

「死んだみんなの仇!」

 

「氷付けにしてやるよ!永久にな!」

 

 

『───落ち着け!怒りで我を忘れるなっ!』

 

『そうだ!ここは儂が先発を───』

 

『兄者もだ!今は落ち着けと言っている!』

 

 

だが、それをディアナは押し止めた。もちろん、ディアナだってこの怒りを攻め込んできた奴等にぶつけてしまいたい。巨人種は彼女自身が生んだわけではないが、彼女にとって巨人種は兄タロスとヴィダの間に生まれた、いわば甥と姪のようなものなのだ。死ぬ原因を作った奴等を許すことは出来そうもない。

 

しかし、ディアナには怒りのままに行動できない理由があった。それはタロスにも、戦意を昂らせている巨人種にも言える理由だ。

 

 

「なぜ止めるのですか!奴等は山脈を崩壊させて同胞を殺したのですよ!?」

 

『だが、このまま戦えば生き残った者も巻き込まれ、死んでしまう。戦える者はともかく、戦えない者は汝らよりも脆いのだぞ』

 

「っ、それは……」

 

 

そう、このまま戦えば非戦闘民の巨人種は戦闘に巻き込まれることになる。そして、戦いの余波で死んでしまう者も出てくるだろう。

 

見たところ、こちらへ攻め込んできているアルダ信者の軍勢にはランク13以上の猛者が多くいる。それらを相手に非戦闘民を守りながら戦うことは難しい。

 

それに、巨人国には巨人種だけでなく他の国から来訪した鬼人族やダークエルフ、それに人間といった別種の同胞もいるのだ。彼らは非戦闘民であり、守るべきものだ。

 

 

『その怒りは分かる。しかし堪えてほしい。我らには、守るべきものがいるのだから』

 

「っ……すみません、ディアナよ」

 

 

ディアナの言葉に、怒りを抑え込んだ巨人種たち。それを見計らってタロスは言い出した。

 

 

『よし、話は終わったな?では妹よ!儂はこっちに来る奴等を押さえとくから、お前は生き残った者たちを頼む!』

 

『……それはいいが、兄者。まさか一人で押さえるつもりか?』

 

『無論、そのつもりだ。なぁに、儂が暴れでもすれば奴等もお前たちを追ってはいかれんだろう』

 

 

無茶だ、とは誰も言わなかった。なぜなら、ここにいる誰もが知っていたからだ。

 

『太陽の巨人』タロス。彼が『巨人神』ゼーノの配下の中でも上位の力を持つ巨人であることを。

 

その実力を誰よりも知っているディアナは、タロスを止めるようなことは言わなかった。先程までは怒りで我を忘れていた状態だったが、今はまだ冷静であったからだ。

 

……だからといって、怒りが消えたわけではないのだろうが。

 

 

『ならば兄者、我も、』

 

『ダメだ。お前までここに残ったらどうやって皆を導いてやれるのだ。あぁお前が残るとかそういうのはなしだぞ。儂の方が強いし、足止めには向いてるからな』

 

 

ならばと自分も残ろうとするディアナを止めるタロス。その言葉は正論であるが故に、彼女はそれ以上の言葉を紡ぐのをやめた。

 

 

『……手早く戻る。それまで持ちこたえてくれ、兄者』

 

『任せろ』

 

 

言葉は短く、しかし信頼を込めて互いにそう言った。

 

 

『皆よ!急いでここを離れるぞ!』

 

「はい!」

 

「重傷者は……回復させる時間が惜しいっ!移動しながらやるぞ!」

 

「馬車があったが、使うか!?」

 

「引くやつがいないだろうが!」

 

「いや、ここにヴィーヴルがいる!」

 

「なんでいるんだよ!?いや、いるならいい!ヴィーヴルに馬車を引かせよう!重傷者を優先的に馬車に乗せろ!」

 

 

巨人種や人間、ダークエルフや鬼人族の協力もあって、素早く元巨人国から離れていく者たち。それに気付いたアルダ信者の軍勢はそれを追いかけようと方向を変えた。

 

 

「逃げたぞ!追い───」

 

『やらせん!』

 

「ぬぉぉ!?」

 

 

しかし、そこにタロスが割って入り軍勢の行く手を阻んだ。

 

 

『ここを通りたければ、儂を倒してからにするんだなっ!』

 

「くっ、あれが『太陽の巨人』タロスかっ!生半可な相手ではないな。皆のもの、まずは奴を倒すぞ!」

 

「「「ウォォォォ!」」」

 

 

タロスとアルダの軍勢がぶつかり合う。

 

アルダ陣営とヴィダ陣営、その最初の戦いが始まった瞬間であった。

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

タロスは長時間アルダの軍勢を押し止め、ディアナと巨人種たちの逃げ延びる時間を稼いだ。暴れまわり、敵を叩きのめし、熱で敵を近づけさせなかった。

 

そうした勇猛な戦いを見せたタロスは、しかし巨人に匹敵する力を持った人間に追い詰められ、弱ったところを封印されることとなる。

 

 

戦いは、まだ始まったばかりであった。




今回、主人公は出てません。そして、戦争している間は日記形式はしばらくなしになります。


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決戦の時《2》

遅くなりましたが、どうぞ。


『太陽の巨人』タロスが破れた───その情報が山脈内に広がり始めたのは、タロスが封印されディアナが巨人種たちを安全な場所に逃がし終えてからのことだった。

 

一対多の状況であったとはいえ、山脈内に存在する巨人の中でも上位の力を持っていたタロスが封印されたことは、山脈内の人間たちを驚愕させた。

 

その驚愕から素早く立ち直ったのは、意外なことに巨人種たちであった。

彼らは最後までタロスの戦いを見れたわけではない。しかし、巨人種の片親であるタロスは最後まで戦い抜き、逃げる子等を守りきったことを知っている。

 

ならばこんなことで立ち止まってはいられないと、近い内に攻めてくるであろうアルダ陣営に備え、巨人国に最も近かったハイコボルト国で準備を行っていた。

 

そして、アルダ陣営の襲撃に最も驚いていたのは魔王軍との戦いを経験した吸血鬼たちと神々であった。

 

 

『アルダは、そこまでして邪神悪神を、魔物を滅ぼしたいのか?自身の兄弟姉妹と、埋められない溝を作ってまで……』

 

『……我々はあの時、アルダと完全に決別した。いずれ、戦いは起きていただろうな』

 

『シザリオンは、ナインロードはアルダを……ベルウッドを止めなかったのかっ!?あの方たちならば、ベルウッドとアルダを止めることも出来たはずだ!なのに、なぜこんな……』

 

『……わからない。何か心変わりしたのか……それとも、アルダとベルウッドの独断なのか……』

 

『今はそんなことはどうでもいいだろう!今気にするべきなのは、いかにして奴等を撃退するかだ!』

 

 

アルダを古くから知っている神々はアルダの凶行に混乱した。こんなことを率先してするような神ではないと彼らは知っていたからだ。

 

それとも、そこまで邪神悪神や魔物が許せないというのだろうかと考えた。

 

 

『いつか仕出かすだろうなとは思ってた』

 

『奴等は山脈崩壊の被害を気にしてないのか?あちらにも、住んでいる人間はいるだろうに』

 

『我らも過去に色々やったりしたが、信者たちも巻き込みかねないことは滅多にしないというのにな』

 

『奴等が仕出かしたことは置いておくとして、だ。まずそれぞれの守護神は神託を行い備えさせろ。特に巨人国に近い国の非戦闘民の避難が最優先だ』

 

 

しかし大してアルダのことを知らない邪神悪神は気にした様子もなく、戦えない人間を守るべく戦いに備えさせるよう自身の加護を持つ者へと神託を行った。

 

神託を受け取った者は近い内に来る戦争に備えて準備をし始めた。

 

国を治める王族の一員が神託を受け取れば民に神託を伝え国全体で非戦闘民の避難、もしくは戦争になる国へと支援を開始した。

 

治める立場にない者は親しき者に神託の内容を伝え、すぐさま戦争となる国へと急行する。誰も彼もが、アルダ陣営との戦争に備えて行動を始めた。

 

そんな中、ザッカートとライラックの娘、カミラが治めるバーンガイア帝国はというと────

 

 

「行ってくる」

 

「「ダメです母上!」」

 

「なんで止めるの!」

 

 

彼女の生んだダンピールの双子───ベートとバートに止められていた。

 

 

「母上、行くにしても原種吸血鬼の皆さんは連れていってください」

 

「母上、急かされる気持ちもわかりますが準備をちゃんとしてからにしてください」

 

「あ、ごめん」

 

 

ただし引き留めるためではなく、むしろ行こうとする母を手助けするためだったが。

 

山脈内の新種族や魔物は元々の気性からか、戦いでは真っ先に前線に出てくる。特に国を治める王族などは付き従う部下や兵を引き連れ先頭へ行き戦うのだ。

そのため、戦いに行くことを止めるような者は山脈内には一人もいなかった。

 

それはかつてバーンガイア帝国を治めていたカミラも、そして今現在帝国を治める現皇帝であるベートとバートも同じことであった。

 

 

「出来ることなら、僕達も母上と共に行きたい」

 

「ですが、それでこの国から離れるのは愚かなこと。やってはならないこと」

 

「だから、原種吸血鬼の方たちと共に行って下さい」

 

「僕達も、この国の混乱を静め次第すぐに後を追います。ですから母上」

 

「「ご武運を」」

 

 

交互に意見を言い合うベートとバート。その様子は、かつてカミラと共にいた自身の半身である妹……グラのことを思い出させた。

 

懐かしい思い出に内心穏やかな気持ちになりながらも、心にある戦意が崩れることはない。なぜならいつか来ると予見されていた戦い……それが今、現実となって起きている。

 

かつては、なすすべもなく逃げるしかなかったと聞いている。突然の襲撃に多くの命が消え、数々の神々が封印された、と。

 

あの時はまだ、新種族は生まれていなかった。カミラとグラは生まれていなかった。だから、断言しよう。

 

かつてとは違う。もう、逃げる必要はない。

 

 

「うん、行ってくる」

 

 

アルダの軍勢よ。

 

この山脈内にいるのは、かつてお前たちに負けた敗者の子孫だ。しかし、何万年と過ぎようと常にお前たちへのリベンジのため力を磨いてきた者たちだ。

 

故に、ここに宣言しよう。

 

我が母『調和の母神』ライラックと、我が父『共和の英雄神』ザッカートに代わって。

 

 

「リベンジマッチだ」

 

 

先祖の屈辱、晴らしてやる。

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

 

「進ぶぎゅぼ」

 

「鈍いっ!」

 

「先祖の恨みだっ!」

 

「前はよくもやってくれたな貴様等ぁ!」

 

 

その戦場は、ハイコボルトやハイゴブリン、ノーブルオークを含めた魔物とグールに巨人種、獣人種などといった新種族が混ざった混成軍がアルダ陣営の軍勢と戦いを繰り広げていた。

 

士気は両軍とも高く、一進一退の攻防を繰り広げていた。だが総合的に見ると押されているのは混成軍の方であった。

 

 

「グルル!こいつら、一人一人がしぶとい上に、強い!」

 

「焦るなっ!少しずつ削っていくぞ!」

 

 

混成軍はアルダ軍の異様な強さに戸惑いを隠せないでいた。技量も、肉体も、決してこちらの方が劣っているわけではないというのに。

 

混成軍とアルダ軍、その平均的な強さは混成軍の方が高い。そのため、どれだけ士気が高かろうと有利になるのはジョブとランクの両方を持つ新種族のいる混成軍となる。そのはずだった。

 

しかし戦況はほぼ互角……いや、混成軍の方が押され気味だった。それは一体なぜなのか。

 

 

「我々には、ベルウッドに選ばれし英雄ベルベットの導きがついている!恐れず進めぃ!」

 

「「「「オォォォォォ!!!」」」」

 

 

その答えは、他ならぬアルダ軍が教えてくれた。

 

 

「っ、まさか、奴等の中に導士がっ!?」

 

「かつて勇者が就いていたというジョブか!まさか奴等に導士がいるとは……」

 

「不味いっ、押されてるぞ!」

 

 

かつて魔王を倒し封印した七人の勇者。その全員が就いたという導士ジョブは、導いた者を強く強化する。

 

そのため、例え技量や肉体が劣ろうとも導きの効果によって強い戦士が誕生する。アルダ軍の異様な強さの原因はそれだった。

 

アルダ軍の猛攻に守りに入らざるを得なくなった混成軍は、少しずつ押されていった。中には【御使い降臨】スキルを使って反撃に出ようとする者もいたが、同じく相手側も【御使い降臨】を使われ抑え込まれる。

 

混成軍は反撃に出れない状況に陥っていた。

 

 

「くっ!ここにハイデルがいたなら、敵を蹴散らしてくれるんだがなぁ…!」

 

「今は大物の敵に対処していることを忘れたかっ?」

 

「わかってるよ!強い奴等はみんなあっちに流れちまったもんなぁ!くそっ、せめて一人、こっちに来てくれたら……」

 

 

この状況を打開しうる者も、アルダ軍の強者と戦っていて混成軍と合流できない。このままでは少しずつすり潰される────そんな時だった。

 

 

 

「助太刀いたす!【高速抜刀】!」

 

「切り刻む!【刃手乱】!」

 

「我が筋術、喰らうがいい!【狂筋雷】!」

 

 

突如アルダ軍の横から、何処からともなく現れたアラクネが、エンプーサが、そして原種吸血鬼ゾルコドリオが攻撃を仕掛ける。

 

突然の攻撃に殆どのアルダ軍が無防備な状態で攻撃を喰らい、アルダ軍の統制が乱れる。

 

今こそチャンスだと混成軍もアラクネやエンプーサの攻勢に乗じて攻めだし、一気にアルダ軍を押し戻していく。

 

 

「助かった!しかし、一体ここまでどうやって……」

 

「我々は少数精鋭でマジックアイテムで姿を隠してこちらに来ました。ただそれだけでは足りないので風属性と光属性を得意とする方に手伝ってもらいましたが……」

 

「いや今はそんなことはいい!まだ戦いは終わってないからな」

 

「ええ、では話は戦いが終わってからにしましょうか!むぅん!【神鳴り】!」

 

 

ゾルコドリオが拳を振るい、突進し、膨張させた筋肉を敵にぶつけ、雷を発する度に相手の肉体は弾け飛び、粉砕される。ゾルコドリオの繰り出す攻撃に技術はないが、しかしその肉体だけで事足りる。

 

アラクネとエンプーサが参戦したこともそうだが、何よりゾルコドリオが混成軍に加わったことで戦況は大きく傾いた。

 

優勢は、混成軍にあった。それを悟った敵指揮官は素早く周りを見渡し決断する。

 

 

「今は無理か……撤退だ!撤退するぞ!」

 

 

アルダ軍は撤退を始め、混成軍はそれを……追わなかった。

 

負傷者多数、疲労困憊。混成軍の状況はまさにその二言で表せた。ゾルコドリオやアラクネ、エンプーサが加わったとはいえ、先程までは追い詰められ、無理をしていたのだ。

 

そのためすぐに追撃をかけられる状況ではなかった。しかし、一部の者はまだ動けたため場を動こうとする。

 

 

「っ、そうだ、まだ終わってない!あいつらがまだ戦って……」

 

「その心配はないでしょう」

 

 

しかし、その一部の者もゾルコドリオが止めてしまう。

 

 

「退いてくれ!足手まといにしかならないとわかっていても、俺は……!」

 

「あちらには、カミラ様が向かいました。ですので、大丈夫ですよ」

 

「え…?」

 

 

ゾルコドリオの言葉に驚き動きを止め……そのまま安心したように座り込んだ。

 

 

「なら、よかった。あの方が行ったのなら……」

 

「ええ、きっと無事ですよ」

 

 

ゾルコドリオは、いや山脈内にいる全ての人間は知っている。

 

この山脈内の中で、誰が一番強いのかを────

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

「はい、終わり」

 

「ご、ぶごほ!」

 

 

辺り一面に広がる血の海。そして各所に転がる肉の塊と、その中心に立つ白銀の乙女。

不思議なことに、彼女─────カミラは、血の海の中心にいるというのにまるで血に汚れた様子がない。

 

その手に大量の血を流す瀕死の人間がいたとしても、それは変わらない。なぜなら彼女にとって、血とは自身が支配するモノであるからだ。

 

故に血で汚れないし、ましてやその血に()が含まれていようとも死ぬことはない。

 

 

「ごふっ……ばけ、もの……が……」

 

「お前の感想なんて聞いてない」

 

 

瀕死の男が放った言葉に大して感情を動かされることもなく、トドメを刺す。次の瞬間には大量の血を流していた男は干からび、血の一滴も流さなくなった。

 

カミラは干からびた死体を明後日の方向に投げ捨てると、混成軍のいる方向へ歩き出した。

 

仲間のいる場所に戻るようにと、戦っていた者には伝えておいた。あとはその方向に進めばいい。そう思って急ぐことなく歩き始める。

 

敵はここにはおらず、もう引いたことを血の流れから知っていたから。カミラは焦ることなく向かう。

 

 

「一応、追いかけられるように逃がしておいたけど……さて、尾行はどのタイミングでバレるかな」

 

 

敢えて逃がしたアルダ軍の強者を、血で作り出した眷属で尾行させながら。まるで罠にかかった獲物を貪るように、ゆっくりと。

 

 

 

 




ちなみにアルダ軍の強者はランク13以上の猛者が揃っていました。カミラにとってはほぼ雑魚です。


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決戦の時《3》

アルダ陣営と山脈内の新種族たちの戦争は長期化していた。本来ならばもっと短期間で終わらせるつもりであったベルウッドにとって、意外な事実だった。

 

それは、仕掛けられた側である新種族たちにとっても同じことだった。いや、正確には新種族たちをまとめあげているカミラにとっては、というべきか。

 

今現在巨人国はアルダ陣営の侵攻によってなくなり、その周辺に位置していたハイコボルト国、ハイゴブリン国もアルダ陣営の軍勢との戦いを強いられている。しかし、その両国とも疲弊はしているが落ちてはいない。

 

例え相手に導士のジョブを持つものがいようと、戦争は軍勢が強ければいいというものではない。戦略、戦術は戦争の基本なのだから。

 

しかし、個人の武力は時にそういった戦略や戦術を台無しにしてしまう。それを可能とする者は、吸血鬼の女王カミラや、英雄神の加護を受けた英雄ベルベットであろう。

 

誰よりも強く、誰よりも勇敢で、誰よりも諦めない。そういう英雄の素質とでも言うべきモノを備えている者が、世界を変えるのだ。

 

そういう点でみれば、カミラとベルベットでは導士ジョブを持つベルベットの方が世界を変える力を持っていると言える。それだけは、両者の中で明らかな優劣がある。

 

────だが。

 

その優劣は、あくまでカミラが導士ジョブに就いた経験がない場合の話であり。

今の今まで()()()()()()()()()()から、就いていなかったのだとするなら───話は変わってくる。

 

ベルウッドの選んだ英雄ベルベットの導士は、光に当たる者を、そして闇にいる者を光ある場所へと導く【光導士】

 

そして、この戦争を切っ掛けに導士ジョブへと就いたカミラの導士は────

 

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

「血導士、か」

 

 

なんとなしに、自身の就いたジョブの名前を呟く。

 

このジョブに就いてから、普段よりも血の操作が楽になった気がする。これなら細かい操作も可能だろうとカミラは考える。

 

そんなことを考えながらもカミラは味方の協力によって作られた高い塔から周りを見渡して敵軍の接近がないかを視認し、広範囲に血の眷属をばらまくことで敵軍の内部を、そして進行状況を探る。

 

それによってわかったのは、敵は一枚岩ではないということ。

 

 

「戦争だっていうのに、態々手柄を欲しがるなんて……わかってはいたけど、中と外じゃ歴史が違うか」

 

 

今はアルダやベルウッドという絶対的な上位者がいるからこそ纏まれてはいるが、しかしあちらの人間は欲が強く、欲のためなら仲間すら蹴落とす。

 

敵が撤退した時も、仲間を置いて見捨てるような輩が何人もいた。正直見ていられない。そのような醜態を晒すくらいなら、いっそ殺してやるのが慈悲というものだ。

 

 

「とはいえ、強いことには変わりない。簡単に倒せるような奴等じゃないし……それに」

 

 

それに、まだ本命が出ていない、とカミラは呟いた。

 

あちらに導士がいるのは間違いない。では、その導士は一体誰で、今は何処にいるのか。それがわからない。

 

相手が男なのか女なのか、若いのか年老いているのか、武器は何を使うのか……全てわからない。

 

 

「だからそれらしい奴を探ってるけど……分からないな」

 

 

血の眷属を使っての探りは、あまり芳しくない。敵勢力がどの程度なのかは把握できるが、誰が強いのか正確に分からない。近付きすぎると血の眷属の場所がバレてしまうので近付けないが……出来れば近付き、確かめておきたい。

 

それに、まだ隠れていて見つけられていない奴等もいることだろう。いくら探ってもいないということは、既に行動を開始している、と見るべきか。

 

 

「これ以上探っても、得られるものはなさそうか……仕方ない」

 

 

パン、と手を叩く。血の眷属を元の血に戻したのだ。これ以上の探りは無意味であるなら、次にやることは決まっている。

 

 

「さて、次はどこを攻めてくるかな」

 

 

相当回り道しなければ、ぶつかるのはハイコボルト国とハイゴブリン国のどちらか。今は魔人族や鬼人族、ノーブルオークや吸血鬼などの高い戦闘力を誇る者たちが集まっている。それに災害を起こせるような環境も近くにはない。巨人国の二の舞にはならないだろう。

 

 

「そろそろ降りようか……っな?」

 

 

下には一時的な仮拠点が作られ、そこで戦えるものが準備を行っている。見張りもある程度終わったことだしと降りようと思ったその時、一応のため山脈内の国々に配置していた血の眷属から異常事態が伝えられた。

 

その異常事態は……

 

 

「っ、やられた!最初からそのつもりで……!」

 

 

看過できないことが起こった。それをすぐに理解したカミラは空間魔術を使い、異常事態の原因へと向かった。

 

どうか、手遅れにならないでくれと、そう願いながら。

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

アルダとベルウッド、その二柱の神が企てた計画は、大雑把に言えば山脈内の新種族を滅ぼすことだ。

 

より正確に言えば、新種族の創造のためにヴィダが模倣し造り上げた輪廻転生システムの破壊。それがアルダとベルウッドの目的であった。

 

システムを破壊するには魂を全て無くす、つまり輪廻転生が出来なくする必要がある。そうしなければ、システムの破壊は困難を極める。

 

しかし、そもそもそれを成すことは並大抵のことではない。新しく生まれ繁栄してきた新種族を─────一万以上はいる全てを滅ぼすなど、何万年と掛かるか分からない。

 

だから、これまで育ててきた英雄や英霊たち全てを投入する。神を降ろすことが出来る猛者も、全員。

 

ベルウッドは勿論のこと、ナインロード、アルダなどといった大神や準大神まで動員しての全戦力投下。このような博打は、何度も出来ることではない。故に、この一度で新種族を全て滅ぼす。

 

それが出来る者たちを育ててきたが、しかし撃ち漏らしは出てくることだろう。だから英雄たちが強力な新種族を殺し、逃げる新種族は兵士に追わせる。

 

結界は破られた以上、神の空間魔術は通用する。つまり、山脈内に直接転移させることが出来る。例えあちらにズルワーンや空間属性の神々がいようとも、数の暴力で無理矢理にでも通らせる。

 

そんな計画の元、アルダとベルウッドの企みは実行に移され、山脈内の神々が止める間もなくアルダ陣営の強者たちが新種族たちへと牙を向いた。

 

まず被害にあったのは、ちょうど多くの戦える者たちが前線へと赴いた後である鬼人国だった。

 

訳もわからずに英雄たちに殺され、逃げ惑う鬼人族。それをとめようとした者もいたが、しかし圧倒的な実力差に抗うことすら出来ず殺された。

 

カミラが空間魔術で鬼人国へと飛ぶまでに、鬼人国の総人口の内、約2割が殺された。

 

その、あまりに外道な行いに────彼女の堪忍袋の緒が切れた。

 

 

「───【呪血の人形】」

 

 

血を媒体に空間を飛ぶ上位スキル血空魔術によって鬼人国へと飛び、状況を速やかに理解したカミラは、まず撒き散らされた血を用いて多くの人形を作り出した。

 

それは、怨念が込められた血の人形。執念と怒りと憎悪で構成された人形は、敵対者に対して呪いを振りかざす。

 

 

「なんだこい───」

 

「っ!離れ───!」

 

 

呪血の人形の一体が近くにいた敵に近付き───破裂する。

 

破裂した血は敵の肉体を破壊、付着し敵の身体を蝕み崩壊させていく。

一度目で敵の肉体を壊し、二度目で敵の細胞を腐らせ崩壊させる。それが呪血の人形の効果であった。

 

この魔術は、はるか昔に作るだけ作ってしまった失敗作であり、あまりに殺傷能力が高すぎることから使用を躊躇っていたが────今のカミラに、その躊躇いはない。

 

ただ敵を殺し、今できる限りの人を救う。それだけだった。

 

故にそこに容赦はなく、痛みで転げ回る敵の頭を踏み潰す。

 

 

「次はどいつだ?」

 

「っ……」

 

 

異変を察知してこちらに近付いてきた幾人もの敵は、怖じけて動けない。あまりの威圧感に、身体が言うことを聞かない。

 

ここにいるのは、全員ランク13以上の実力を持つ者であると言うのに、動けない。

それだけカミラと敵には、圧倒的な埋められない差があった。

 

だから、カミラの次の動きに対応できない。

 

 

「【血刃】」

 

 

血の刃。それに気付けたのは、カミラが刃を振り抜いてからだった。

 

幾人もの敵の肉体が、ずるりとズレていく。首が、頭が、身体が───即死の斬撃を与えられ、崩れていく。

 

 

(速、過……ぎる……)

 

 

その光景をスローモーションで眺めていた一人の男は、そこでようやく自分が切られたことに気付き、そのまま死亡した。

 

あとに残るのは、刃を振った体制のカミラと、バラバラに切断された複数の死体のみだった。

 

 

「……さて、次」

 

 

敵をちゃんと殺したことを確認したカミラは、近くに生存者がいないことを確認してから敵のいる方向へ走り出す。

 

心を、怒りと憎悪で燃やしながら。

 

 

 

 




・名前:カミラ・ライラック・バーンガイア
・年齢:約三万歳
・ランク:19
・種族:オーヴァートゥルーヴァンパイアクイーン(超越種真祖吸血鬼女王)
・レベル:91
・ジョブ:血導士
・ジョブレベル:47
・ジョブ履歴:見習い戦士 見習い魔術師 魔術師 戦士 拳士 爪使い 精霊使い 魔闘戦士 大魔術師 大精霊使い 吸血女帝 血闘士 魔血操士 血器使い 武術士 超越者 真祖 血武術士 ヴァンパイアロード ヴラド 降霊士
・二つ名:【始まりの吸血鬼】【双子の女帝】【バーンガイア帝国初代女帝】【マザコン&ファザコン】【血帝】


・パッシブスキル
闇視
自己極強化:吸血:10Lv
能力値増大:バーンガイア:10Lv
神速再生:Lv5
超血:10Lv
超力:10Lv
状態異常無効
魔術耐性:10Lv
詠唱破棄:10Lv
魔力自動回復:10Lv
無手時攻撃力増大:極大
精霊極強化:10Lv
魔力回復速度超上昇:10Lv
魔力使用量超減少:10Lv
全属性耐性:10Lv
血器使用時能力値増大:極大
直感:5Lv
生命力増大:10Lv
魔力増大:1Lv
導き:血導:2Lv
血導誘引:2Lv
血操時操作力強化:小


・アクティブスキル
無属性魔術:10Lv
血命魔術:10Lv
血空魔術:10Lv
血時魔術:10Lv
魔術超精密制御:10Lv
魔血超精密制御:10Lv
精霊神魔術:10Lv
血武術:10Lv
極連携:5Lv
血化:10Lv
魔血王闘術:10Lv
同時多発動:10Lv
多重超速思考:10Lv
英雄神降臨:10Lv


・ユニークスキル
吸血鬼の真祖
血操
血器限界超越:10Lv
共有存在:グラ
亜神
ヴィダの加護
ボティンの加護
ぺリアの加護
ザンタークの加護
邪神悪神の加護
生産系勇者の加護
神降ろし:5Lv


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